魔法の勇者も成り上がり (新日地 祐西)
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召喚 4+1勇者

ボク、朝倉歩夢(あゆむ)はただの高校一年生だ。

今日は日曜日、ということで図書館へ行っている。

そして今、面白そうな本を探している最中で…

 

「ん?四聖武器書?」

 

そこで見つけた本は四聖武器書というやけに古ぼけた物であった。

パラパラとページをめくっていくと、なんともまあ…ひねりのないストーリー。

 

簡単に説明すると、異世界から召喚された勇者がただ『波』っていうものから守って世界を救う物語だって。

しかも剣、槍、弓は武器として認識はされるよ。でも、盾が武器書に書かれてるってどういうこと?

 

ボクは苦笑して『四聖武器書』を棚に戻して他の本を借りた。

ん?さっきの借りないのかって?

借りないよ。あまり興味引かれなかったし。

 

思っていたよりも時間が過ぎていたみたいですっかり外は暗くなっている。

で、家に帰るのだが、流石に遅くなってるからちょっと近道でもして帰ることにしようと裏道から通って帰っているけど、何かさっきからものすごくイヤな予感がするな…

 

…気のせいだといいんだけど。

 

と、そんな気がしたけど、無事に家の前に着いた。

 

「ボクのイヤなよく予感はあたるけど、まさか帰ってから母さんの説教が待っているだなんてやだよ?」

 

そんなことを呟き玄関へと足を進めたそのとき、ガラッとヤな音が聞こえた。

 

何となくまたあのイヤな予感がして振り向くと、後ろには夜の今はやっていない建築中の家があり、その前には鉄骨を積んだトラック。少し上を見るとその鉄骨を束ねていた紐が切れてこちらに向かって崩れ落ちて来ていた。

 

「…は?」

 

何とも間抜けな声を出す間にも鉄骨は自分に向かってどんどん落ちてくる。

 

そして頭に一瞬鈍い痛みを感じ、ボクの視界は暗転した…

 

今日借りた本、まだ読んでないのに…

そんな落胆した思いを抱きながら…

 

 

 

「おお…」

 

感極まった声に目を開いた。

そこにはローブを纏った人たちがこちらを見ている。

 

「ここは?」

 

ん?何か他にもいるな。男が4人。

しかも皆何か持ってる。

えーと…剣と槍と弓と盾…

ってあのときの本と同じ設定じゃん!

 

「おお、勇者様方、どうかこの世界をお救い下さい!」

「「「「「はい?」」」」」

 

うん…これは夢だね。

ボクは思いっきり太ももをつねる。

訂正。夢じゃない。すっごく痛かった。

 

これって俗にいう『異世界召喚』って王道なやつだ。

ちょっとワクワクするかも!

 

 

この人たちは、世界の存亡の危機にあるからって古の儀式で勇者を呼んだらしいんだけど…

 

「「まあ…話だけなら──」」

「嫌だな」

「そうですね」

「元の世界に戻れるんだよな?話はそれからだ。」

 

ボクと息が合ったジャージの男が話を聞こうとしたのに他の3人が遮る。

彼らを見ると、皆笑ってる。…異世界だからかな?何か嬉しそう…

 

「ま、まずは王様と謁見して頂きたい。報奨の相談はその場でお願い致します。」

 

そう言ってローブの一人が重そうな扉を開く。

それにボクたち5人は付いていく。

 

そーいえば、ボクいつの間にか棒を持ってるんだけど…これがボクの武器なんていわないよね?

 

 

 

 

「こやつ等がが古の勇者達か…」

 

そしてボクたちは王様のいる謁見の間についた。

 

「ワシがこの国の王、オルトクレイ=メルロマルク32世だ。勇者共よ顔を上げい!」

 

…下げてないんだけどな。

うーん、何かあの王様やな目だな。すごいジロジロ見てくる。…特にボクと隣にいるジャージの人。

 

「む、1人多くないか?確か呼ばれる勇者は4人ではなかったか?」

 

すると、謁見の間にざわめきが起こる。

周りにいる人々はボクたちを見て、やがて視線が1人に集中する。

 

「……ボクですか?」

 

思ってた通り、ボクだった。

だって、あのときの本の通りだったとしたら、武器って剣、槍、弓、盾のはずだもん。棒なんてないよ。

 

…異世界来て早々ピンチかも。

偽勇者の烙印押されてここから放り出されたらヤバイよ?

 

「まあよい、偽物かはすぐにわかるだろう。さて、まずは事情を説明せねばなるまい。この国、更にはこの世界は滅びへと向かいつつある。」

 

そう言って話始めた王様の話はすごい長いから簡潔に説明するね。

 

 

この世界には終末の予言が存在し、世界の破滅を導く『波』が何度もくる。それを退かせないと世界が滅びるらしい。

波がくる1ヶ月前に『龍刻の砂時計』の砂が落ち始める。全ての砂が落ちきると波が始まる。

 

波を退かせるとその1ヶ月にまた波がやってくる。

つい最近1回目の波が起きたらしい。

そのときはなんとかなったらしいけれど、次はもっと強力になるみたい。

 

「だから勇者を呼んだ…と。」

「話は分かった。で、召喚された俺たちにタダ働きをしろと?」

「都合のいい話ですね。」

「……そうだな。自分勝手としか言いようがない。滅ぶのなら勝手に滅ぶがいい。俺達にとってどうでもいい話だ。」

「確かに、助ける義理も無いよな。タダ働きした挙げ句、平和になったら『さようなら』とかされたらたまったもんじゃないし。というか帰れる手段あるのか聞きたいし、その辺りどうなの?」

 

おっ、皆同じ気持ちか。しかも聞きたかったこと、言いたかったこと皆言ってくれた。

 

「ぐぬ……」

 

王様が唸って臣下を見る。

視線を受けた臣下が話す。

 

「もちろん、勇者様方には存分な報酬は与える予定です。」

 

皆ぐっと拳を握る。もちろんボクも。

タダ働きなんてボクだってやだからね。

 

「では勇者達よ。それぞれの名を聞こう。」

 

まずは剣を持ったボクと同じくらいの人が立った。

 

「俺の名前は天木錬だ。年齢は16歳、高校生だ。」

 

同じくらいどころか同い年だ。

クールな印象だね。カッコいいし。

 

「じゃあ、次は俺だな。俺の名前は北村元康、年齢は21歳、大学生だ。」

 

元康は面倒見のいいお兄さんな印象だね。

何か二股、三股してそうな感じがするけど…

 

「次は僕ですね。僕の名前は川澄樹。年齢は17歳、高校生です。」

 

ザ優等生な雰囲気がする。

大人しい印象を受けるね。

 

「俺だな。俺の名前は岩谷尚文。20歳、大学生だ。」

 

何か少しだらしない感じがするな。

でも、雰囲気的に優しそう。

 

王様が尚文を睨んでいるような感じだな。

 

「最後はボクだね。ボクの名前は朝倉歩。年齢は16歳、高校生。」

 

次はボクを睨んでいるような…確かにボクだけ余分だったみたいだけど…

 

「では皆の者、己がステータスを確認し、自らを客観視して貰いたい。」

「はっ?」

 

いきなり何の話!?

ステータスってゲームでよくいうアレだよね?

 

「えっと、どのようにして見るのでしょうか?」

 

樹が聞く。

当たり前だよ。ゲーム世界じゃあるまいし。

 

「なんだお前ら、この世界に来て真っ先に気が付かなかったのか?」

 

錬が呆れながら言う。言い方が腹立つな。

 

「視界の端にアイコンがないか?」

 

視界の端を見てみると…ホントだ。なんかあった。

アイコンに意識して見ると、ピコーンと音がしてゲームみたいなステータスの画面が目の前に現れた。

 

朝倉歩

職業 魔法の勇者 Lv1

装備 魔筒

異世界の服

スキル なし

魔法 なし

など、その他諸諸

 

ゲームっぽいな。

魔法の勇者、ねえ…

装備が筒ってこれ…戦えるの?

棒ならまだわかる。筒って…筒って!?

 

「で、これ見てどうするの?」

「勇者様方にはこれから冒険の旅に出て、自らを磨き、伝説の武器を強化して頂きたい。」

「強化?最初から強い武器じゃないのか?」

「はい、伝承によりますと召喚された勇者自らが所持する伝説の武器を育て、強くしていくそうです。」

 

へえー剣とか槍とか弓なら戦えるけど、尚文の盾とボクの筒ってどうするんだ?

パーティー組んで協力して戦えばいいのかな?

 

「伝説の武器は互いに反発し、成長を妨げる性質を持っていますので、勇者様方には我々が用意する者達を仲間として頂きたい。」

 

ホントだ。ヘルプがついてた。

 

「今日はもう日が傾いておる。勇者殿、今日はゆっくり休み、明日旅立つがよかろう。明日までに仲間となりそうな逸材を集めておく。」

「ありがとうございます」

「サンキュ」

 

こうしてボクらは謁見の間を後にして今日休む部屋へ案内された。




以後不定期で更新していきます。


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勇者たちの話し合い

謁見の間から来客部屋にきたのはいいのだが…

 

「…えーと、5人で一部屋なの?」

「ええ、そうですが…?」

 

どうしようまさか全員が一部屋で一泊するとは思わなかった…

 

「どうした?入らないのか?」

 

後ろから尚文が声を掛けてきた。

 

「この部屋、広いんだから遠慮すんなって。」

「ほれ。早くは入れ」

「うわっ!ぶへっ」

 

ボクは尚文に思いっきり押され、その拍子にそのまま顔から倒れた。

あ、絨毯柔らかい…じゃなくて!

 

「なあ、これってゲームみたいだな。」

 

ひどい。ボクには目もくれずに話しだした。

ごめんっていう言葉くらいないの?

尚文を睨むが全く気づかない。

 

…後ででいいか

 

いつの間にか話が進んでいって何か皆の話がおかしいことに気づいた。

 

彼らの言うこの世界に似た有名ゲームの名前を皆知らないどころかVRってゲーム機の種類が全然ちがうよ?

 

「じゃあ、一般常識の問題だ。今の首相の名前は言えるよな?」

 

当たり前だ。これ知らなかったら相当ヤバイやつ。

 

「一斉に言うぞ…せーのっ」

 

結果、全員の首相の名前は一致しなかった。

他にも色々なことについて質問したが、どれも誰も知らないことばかりだった。

 

極論をいうと、全員が違う世界の日本から来たということになった。

 

「このパターンだとみんな色々な理由で来てしまったような気がするのだが」

「確かに…」

 

こうして各々、ここにくる直前のことを話始めた。

 

まず、錬は学校の帰り道で殺人事件に遭遇し、幼なじみを助けて犯人を取り押さえた後、自分がやられたらしい。

何だか信用し難いなあ

 

「幼なじみを助けるなんてかっこいいシチュエーションだな。」

 

尚文のお世辞にクールを装って笑ってる。

 

「じゃあ次は俺だな。」

 

元康はというと、ボクの予想通り彼女を二股三股して刺されたらしい。

 

「いやあ、女の子って怖いね」

「ガッテム!」

「それは元康も悪い…」

 

尚文が怒り、ボクは呆れる。

 

「次は僕ですね。」

 

樹は塾帰りに車に引かれたらしい。哀れすぎる最期。

 

「あー………この世界に来た時のエピソードって絶対話さなきゃ駄目か?」

 

何を今さら、尚文はごめんな、といって話した。

 

尚文は本を読んでたら来ていたらしい。

うん、確かにそんな内容だったら躊躇うのもわかる。他の人と比べて浮いてるもんね。

3人の視線が冷たい。

 

「最後はボクだね。ボクは家に入る直前にトラックに積まれた鉄骨の束が頭に降ってきたんだよね。あれはビックリした。」

「「「「……」」」」

 

…もしかして哀れんでる?

 

「ところでさ、皆このこの世界ゲームでやったこと、あるんだよね?」

 

とっさに話題を変えていく。

 

「ああ」

「やりこんでいたぜ」

「それなりには」

「…いや、やったことないな」

 

やったことないのは尚文とボクかあー

仲間がいて良かったー

 

「なあ、これからこの世界で戦うために色々教えてくれないか?俺の世界には似たゲーム無かったんだよ。」

「ボクも同じく」

「よし、元康お兄さんがある程度、常識の範囲を教えてあげよう。」

 

元康が教えてくれるらしい。

 

「まず、俺の知るゲームでは、シールダー…盾がメインの職業は、高Lvは全然いない負け組の職業だ。」

「ノオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

びっくりして、思わず耳を押さえる。

し、心臓止まるかと思った…

 

「ボクは?ステータスを見ると職業が魔法の勇者だったんだけど…」

「ん?ああ、魔法使いは…魔法の威力はかなり高いけど防御力が相当低いからどの職業に比べてもあっという間にやられるからなあ…シールダー程ではないけどほとんどいないな。」

 

えぇぇ…

ほぼ負け組のようなもんじゃん。

 

「地形とかどうよ」

「名前こそ違うがほとんど変わらない。これなら効率の良い魔物の分布も同じである可能性も高いな」

「武器ごとの狩場が多少異なるので同じ場所には行かないようにしましょう。」

 

すごい。効率の良い狩場ってのがあるんだ。

この世界凄く熟知してる。

 

「よーし!頑張るぞ!」

 

お、尚文が立ち直った。

ボクもいつまでもショック受けてる場合じゃないな。

 

「この世界のことはこれから知っていけばいい。頑張るぞー!」

 

「勇者様、お食事の用意が出来ました。」

 

食事かあ、そういえばお腹すいたな。

この世界の食べ物ってどんなものなんだろう。

あっ…そういえば…

 

「すみません!ボクだけちっちゃくても良いんで個室にできますか?あと、お風呂、入れますか?」

「え、ええ。できますが…この部屋に何かご不満でもありましたでしょうか…?」

「いや…部屋自体に不満はないんだけど…」

 

チラリと4人の勇者に目を向ける。

 

「「「「????」」」」

 

4人は疑問に思い、互いを見る。

 

突然の質問に戸惑いながら頷くとメイドさん。

ごめんなさい、4人が悪いわけではないけど…

これだけは譲れなくって…

 

「僕達がなにか…?」

「なんだ?俺達と同じ部屋は駄目なのか?」

「多人数で寝るのは初めてじゃないだろ?修学旅行行ったときとか」

 

騙していた訳じゃないけどそろそろ正直に言わないと…

 

「えーと…」

「なんだ?言いづらいことでもあるのか?」

 

うん、ホントに言いづらい。

言いそびれたとはいえ自分から言うことしなかったボクの方が悪かったかも…

 

「ボクは男じゃなくって女なんだ」

「「「「……え?」」」」

 

この告白にメイドを含める6人の間に暫くの静寂が流れる。

 

「だから個室の方がいいんだけど…」

 

元の世界でも話した人家族以外だったら誰1人一発で自分が女だってこと見破った人いなかったけどその程度ならいい。

ボクは女なんだから流石に4人の男に囲まれてやったことないのは寝るのはかなりの抵抗あるよ!

 

「し、失礼致しました!至急個室を用意します。それから、ご入浴されるならばお食事が終わり次第ご案内致します」

「ありがとうございます」

 

よし、個室確保。

 

「…知らなかったとは言え、すまない…」

「いいよいいよ。」

 

結果として個室オッケーだったしお風呂も入れるみたいだし

 

「…まさかその容姿で女だったとは」

「今思えば引っかかるところがあったのに何故気付かなかったんだ!」

「見た目に騙されてしまいました」

「…騙していたつもりはなかったけどね」

 

なんか皆気まずそうに目を逸らしてるなあ。元康、何であんたは悔やんでる?

怒ってないよ?よくあることだし。

 

「で、では食堂へご案内致します」

 

メイドさんに促され冒険らは食堂で食事をした。

元の世界とは違って味が薄いけれど食べられない程ではなかった。

オムレツに似た物はあったけど…味がオレンジ?っぽい感じだった。

 

食事が終わって次は入浴。

通された浴場はものとても広く、泳げそうだった。

泳いでないからね?泳げそうだったけどそんな行儀悪いことしないからね?

 

 

「魔法の勇者様のお部屋はこちらになります」

「ありがとうございます。ごめんなさい、こんないきなり色々と要求してしまって…」

「いえ、勇者様のお役に立てるのならば何よりです」

 

勇者…か。

小さい頃憧れてたな。世界を救う人っていうのに。

 

「うわあ~」

 

部屋は思ったより広かった

ホテルのベッドより大きいのでは?

と思いながらメイドさんがいなくなったのを確認してベッドにダイブした

フワフワしてて気持ちいい

 

大きな窓からは城下町が見えている。そこは自分が今まで見ていた景色とは全く違うものだった。

明日は王様たちが用意した仲間と冒険に出るんだ!

ああ、明日が待ち遠しい。

 

きっと大部屋にいる4人も口には出さないものの同じ気持ちだろうな。

 

お腹いっぱい食べてお風呂に入ったら段々眠くなってきたのでボクはベッドに入って寝ることにした。




四聖武器の中で好きな武器は槍です。


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偽物の烙印

今回はあの女性が登場です。


この日、ボクにとってとても危機的な事件が起きた。

 

 

「王様のお呼びです。今すぐ同行願いたい」

「はあ…」

 

まだ夜の大体3時くらい?

ドアをノックされてメイドさんかと思って出てきたら何故か3人の騎士が立っていた。

訳がわからないまま騎士に連れられて謁見の間に行くことになった。

 

「魔法の勇者を名乗る者よ…貴様は一体何者だ?」

「はあ…?」

 

王様の元に着いた途端、意味のわからない質問をされた。どこか怒っているような…

というか『貴様』…?

困っていると隣にいた大臣が口を開いた。

 

「今までの書物を見たところ、少なくとも我が城の書物には歴代の勇者の中に魔法の勇者という者は存在しなかったのです。」

「そうなんですかじゃあ、ボクが初代魔法の勇者ってことになるのかな」

 

初代になるってなんか嬉しいような心細いような…

え?何で心細いかって?

だって、先代がいないってことはどんなことができるか自分で手探りで探していくんだよね?

 

今なら何をやるにも先にやった人がいるし、例えば、ゲームとかだったら初めてのものでわからないとこがあったら友達に聞くことできる…とか?

それが無いからね…

 

「いえ、そうではなく…」

 

え?そうじゃないの?

 

「貴女は存在しない魔法の勇者を名乗る偽物の勇者、ということになりますわ」

 

後ろを見てみると開かれた扉に1人の女性が立っていた。

見たところあの服は城の人じゃない…呼ばれた冒険者かな?

…いやいや!そうじゃなくって!

偽物ってどういうこと!?

 

「過去に1度も存在したことのなかったものが突然現れる…そこで怪しむのは正解かもしれないけど…それだけで偽物と決めるのはちょっと…」

「それだけではありませんわ」

 

なに!何があるんだ!

 

「これを見なさい!」

 

そう言って彼女が取り出したのは1つの黄金の首飾りだった。

 

「…それがどうしたんだ?」

「しらばっくれるな!気付かなかったとでも思ったのか!」

「だからなんの話…」

「これが、どこからでてきたのか…貴女の部屋を調べたそこの兵が答えてくれるわ」

 

兵士が彼女の隣に立った。

…って勝手に女子の部屋漁ったんかい!

いや、別にタンスに自分の服が入ってたとかは無いけど

 

「…この他にも袋のなかに詰め込まれて勇者様の部屋のタンスの中に入っておりました…」

「………」

 

絶句した。

 

「つまり、貴方はこう言いたいわけ?『魔法の勇者は存在しない、偽物で城内で盗みを働いた』と…」

「ええ、私は貴方が何かが入った袋を持って部屋に入ったのを見たのです。魔法の勇者を名乗るほどです。この城の宝物庫の鍵くらい魔法でどうにか出来るのでしょう。ほら、見なさい」

 

彼女は水晶を取り出す。そこには袋を抱えて部屋に入るボクの姿があった。

 

「そ、そんな!ボクは…あれから1度も部屋から出ていない!」

「いいえ、決定的な証拠ですわ。」

 

彼女は玉座へと歩いて行く。

そのとき一瞬目を合わせ…それだけで背筋が凍った。

なんだこれ…人を平気で、躊躇なく奈落へ蹴落としそうな目をしてる…

 

まさか…これは…彼女がボクを嵌めようと…!

 

「流石は我が娘マルティ。お前が気付かなかったら多大な被害を被るところであった」

 

いやいや王様、さっき貴方が気づいたみたいな言い方していましたけど…?

 

「待ってください!ボクは盗みなんて働いていません!大体宝物庫の場所なんて知りませんし、まだ魔法なんて使えないですよ!」

「黙りなさい!コソ泥が!そこの兵、そこの者は勇者でなどない、偽物ですわ!牢へ連れていきなさい」

 

マルティの突然の一喝に怯む。

そこへ周りに立っていた兵士がボクの腕を取る。

 

ちょっ!ボクの話くらい聞かないのか!?

まだ連れていかれないように必死に抵抗する。

っというか!

 

「おいっ!そこは触るな!」

「罪人の言葉は聞かなくて良い。『自称』魔法の勇者よ、貴様の処分は次の波が来る1ヶ月前に決める。それまでは牢で待っているが良い」

「待て!話は終わっていない!だからそこは…!」

 

扉が閉まる直前、マルティの口が僅かに上がるのが見えた。

それを見たボクは思わず叫んだ。

 

「くっそおおおおおおおおお!!」

 

今までこんなに大きな声を出したことはなかった。

今までこんなに誰かを絶望を感じたことはなかった。

今までこんなに悔しく思ったことはなかった。

 

今までこんなに誰かを強く憎んだことはなかった。

 

 

 

「さあ、こっちだ!入れ!」

 

ボクが連れていかれたのは地下牢だった。

 

「じきに処分がか決まるだろう。それまではおとなしくここで待っていろ!」

 

そして牢の扉が閉ざされ、上へ続く扉も閉ざされた。

扉の閉まる音が響くなか、ボクは1人残された。

牢がこんなにも暗いなんて思っても見なかった。

 

「なんでこんなことになったんだろ…」

 

暗い牢の中で1人、ボクは膝を抱えてうずくまった。

 

 

かなりの時間が経って上の扉が開く音がした。

恐らく兵士だろうか。罪人への尋問ってところ…かな?

 

「……様…勇者様!」

「…誰だ?」

「私です。昨日あの部屋へ案内したメイドです。」

 

降りてきたのは何故か兵士の格好をしたメイドさんだった。手には鍵を持っている。

 

「勇者様をここから出すためです。今開けますね…申し訳ありません…マルティ様が…」

「知ってる。そのマルティって人はこの国の王女様…なんだよね?」

「ええ…他人を陥れることがお好きな方なのです。今日、勇者様と共に冒険に出るらしく城内の一部の者はマルティ様が城からいなくなると喜んでいる者が…あら?この鍵じゃない…」

 

城の人に嫌がられてるってどんだけ…

やっぱりそうか……ん?

嫌な予感がまたする……

他人を陥れることが好き…

冒険者として勇者と共に行く…

本物か疑わしいとは言え勇者として召喚されたボクを…

流石にないかもしれないけど…

 

「ねえ、今何時?」

「勇者様がここに入られてから6時間経っておりますので…9時ですね。あっ、これです!」

「勇者が旅立つのは?」

「さあ、開きましたよ。勇者様方が旅立つのはもうそろそろですかね?」

 

不味いな…

知らせないと誰かがマルティの犠牲になる…

 

「メイドさん、誰かにこう伝えられる?『マルティをに気を付けろ』って間に合わなかったら間に合わなかったでしょうがないけど、出来るだけ早急に伝えて」

「はい、承知しました。勇者様は秘密の通路からお逃げください。」

「わかった。」

「こちらです。」

 

牢を出るとメイドさんが奥へ進む。

ここでボクは一番気になっていたことを聞く。

 

「…メイドさんはなんでボクを助けてくれたの?王と王女を敵にまわすようなことを…」

「貴女様は盗みを働いてなんていないことを知っているからです。」

 

聞けば彼女はボクが連れていかれた後、マルティが何かを持って部屋にこっそり入って行くのを廊下の曲がり角から見えていたらしい。

 

出てきたときには何も持っていなかったことから部屋に置いてきたことがわかり、マルティが何を考えているのかが想像がついてとりに行こうとした。

 

けれど、そのタイミングで兵士がやって来て取りに行けず、罪は確定し、せめてボクを逃がそうと兵士の着ている服を借りてここへきたらしい。

 

兵士は恐らく何も知らなく、マルティに頼まれたのだろう。

 

「…本当に借りたの?」

「……」

 

まあ、そこは追及しないでおこう。

と…話している内に秘密の通路とやらに着いたらしい。

この国で何かあった時に素早く逃げられるようにつくった幾つもの通路の内の1つがここらしい。

 

床にあるマンホールみたいな蓋を開け、そこから顔を覗かせると確かに通路があった。

 

「この通路の先は城下町の外の森に繋がっております。そこからは城を背にゆけば、私の出身地のリユートという村があります。」

 

とにかくボクはいいとして、このメイドさんはどうするのか…

聞くとメイドさんは悲しそうな笑みをボクに見せた。

 

「私は本当に罪人でないとはいえ、牢にいる者を逃がしてしまったのでその分の罪を負うことになるでしょうね…」

「っ!そ、そんなことはダメだ!」

「!!しっ!」

「…!」

 

ハッとして息を潜めて辺りを見回す。

あぶない、あぶない…つい大声をだしちゃった…

深呼吸、深呼吸…

 

「…とにかく、ボクのために罪を背負う必要なんてないんだ。ボクに脅されたとか言えばいい。」

「で、でも…そんなこと言えないですし、このような事をしていつも通り城で働くことなんて出来ないですよ…」

「ならば、一緒にここから抜け出せばいい。」

「え?そしたら貴女様の伝言は…」

「それはもう諦めるしかない。今後ボクがうまく他の勇者たちに接触出来ればいいけど…それは難しいかもね…でも、考えがある。」

 

ボクの案を言うとメイドさんは成る程と頷く。

 

「ボクが何もやっていないことを、偽物の勇者でないことを証明することが出来れば貴女の行動は間違っていないことが証明される。だから、行こう。」

 

ボクがそういい終え、手を伸ばすとメイドさんは目を潤ませた。

えっ?ボク、なんか泣かせちゃった?

 

「ありがとうございます、ありがとうございます…」

 

そう言ってボクの手をとった。

泣きながら感謝されるって、照れ臭いな…

 

「ところで、貴女の名前は?」

「はい…ぐすっ…ヴェネラと申します。ぐすっ…」

「じゃあ、いくよ。ヴェネラ」

「はい、勇者様!」

「あー…その勇者様って言うのは外に出たら無しね。ボクのことは歩夢って呼んでくれる?」

「わかりました、アユム様。」

「…様付けも無しで…」

 

こうしてボクとヴェネラは城からの脱出と他の勇者たちへのメッセージを伝えるミッションを開始した。

 

ちなみに、少々長い口論の末ヴェネラのボクの呼び方は『アユムさん』ということになった。








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ミッション──そして脱出

先に謝っておきます。


スミマセン!スミマセン!
感想欄で『筒の使い方は次回か次次回で!』って堂々と言ったのに次回になっちゃいました!
作者が嘘つきでごめんなさい!
本当にスミマセンでしたぁ!m(__)m



ボクは今、兵士の服を借りて昨日4人の勇者が一晩過ごしたあの大部屋へと向かっている。

勇者たちにマルティのやることを阻止出来るように

 

 

10分前──

 

「ボクは今から他の勇者たちの部屋に行く。」

「え?それって危険では…私がいきますよ!」

「いや、ヴェネラがその格好だと見ただけでバレちゃうと…ここって女性の兵士、ほとんどいないでしょ?顔を覚えられる可能性がある。」

「成る程!アユム様…でなくアユム、さんのその見た目なら特に怪しまれず行動できますね!」

 

ボクの役に立てないと残念がっていたけどとりあえず納得してもらった。

 

「まず、ボクとヴェネラの服を交換するんだ。」

「ふぁ!?ぬ、脱ぐんですか!?」

「そりゃ…ボクにこの格好で上に出ろと…?」

 

ごめん、人前で脱げみたいなこと言っちゃったけど…

とにかく、ボクとヴェネラの服をそれぞれ交換した。

 

「アユムさん、それは…?」

 

そしてボクはポケットからとメモ帳ペンを取り出して文字を書き出した。

 

ここに召喚されたとき、カバンが無くなっていたからてっきりないと思ってたんだけどさっきお風呂に入るときポケットに入ってたことに気付いたんだよね。

 

ちょっとだけここで用意された部屋着だったけど落ち着かなくって結局この服に着替え直したんだけど、着替えてよかったあ

 

…にしても持っていたカバン、無くなったけど元の世界元の世界(向こう)に置いていかれたのかな?

 

「へえー、アユムさんの世界にはそんなものがあるのですね。常に持てていいですね。…その文字はアユムさんの世界の文字ですか?私には読めないです」

「うん、これならこの世界の人にはよめないから彼らへの伝言にはもってこいだ。」

 

…別世界の日本の他の勇者たちが同じ文字を使っていればいいんだけどね

 

 

「よし、じゃあ、行ってくるよ。戻ってくるまでバレないように上手くやり過ごしてね!」

「はい、お気をつけて」

 

 

そして現在──

 

「確か…ここだったかな…っ!」

 

メイドさんがやって来た。

咄嗟に通路の角に身を潜めた。

…この格好だからバレないと思うけど念のため

 

「勇者様、出発の準備が整いましたので謁見の間へお越しください」

「遂に冒険に出発だな」

「どんな仲間なのか楽しみです」

「どんなカワイコちゃんがいるのかなあ」

「元康お前、世界救う気あるのか…?」

 

そう言って尚文たちはメイドさんについて行って謁見の間へと向かっていった。

 

「……よし」

 

ボクは周囲を見て誰もいないことを確認して客室の扉へ近づいた。

 

「…ちっ!鍵が…!」

 

見えなかったけれどいつの間にか鍵を掛けられていたらしい。

他の勇者たちに確実に見てもらえるように中に置いておこうかと思ったけど入れないと意味がない…

なら、他の人に見つかる可能性は高いけど…

 

「……よし」

 

しゃがみ込んで床と扉の間に滑り込………みにくいな

…っし!入った。

 

「っと、後は戻るだけか…」

「おい、お前、そこでなにをしている?」

「!」

 

いつの間にか兵士がやって来ていた。

 

ヤバい…ボクが牢を抜け出したのがバレたらこの紙没収される可能性あるし、何よりヴェネラが危険だ…

 

「あ、ああ、ちょっと落とし物を…」

「見つけたのか?」

「ああ、見つかったよ…」

「良かったな。次は気を付けろよ」

「…ああ」

 

何とか乗り越えた…とホッとしていると…

 

「ああ、そういえば…お前、ここで見ない顔だか新入りか?」

「…まあ、ね」

「そっかじゃあ、頑張れよ。わからないことがあったら俺に聞けよ。1年の差だが先輩だからよ」

「あ、ありがとうございます」

 

ここの見廻りは広くて本当、大変だよ…

と呟きながら去って行った。

 

「後輩思いの良い人、だったな。こういう人を騙すって…心痛むな…」

 

しばらく立ち尽くしていたが、ハッとして慌てて歩き出す。

 

いけない、いけない…ここでぼうっとしてる暇なんて無かったんだった。

 

伝言のミッションは一応クリアした。

後は牢に戻ってこの城を抜け出すだけだ…

 

 

「アユムさん!大丈夫でした…か?」

 

ボクに気付いてヴェネラが心配そうに聞いてくる。

ボクはそんなヴェネラに親指を立てて言う。

 

「大丈夫だ!彼らならきっと気付いてくれる。さあ、ここからでるよ!」

「はい!」

 

ヴェネラを牢から出して即座に奥の通路へ行く。

 

通路は暗かった。でも通路の脇にランプがあったため、明るさには困ることは無かった。

 

「ところでアユムさん、この服、今まで来てきたなかでとても動きやすくて可愛いですね。」

「そうか?」

「はい。こんな服がこの世界にもあればいいのに…」

 

どうやらヴェネラはボクの服が気に入ったらしい。

確かに動きやすいけど…可愛い?

タータンチェックのシャツの方かな?

 

 

他にも城でのことやボクの世界でのことなど、そうした他愛ない話をしている内に

 

「もうそろそろ出口です。」

「確か出るのは森…だったけ?モンスターはどうしよう…魔法の勇者なのにまだ魔法使えないけど」

「ご心配なく。この辺のモンスターは好戦的ですがそこまで強くはないです。…多少は痛いでしょうが…」

 

なら、大丈夫……なのかな?

聞けば村までは歩きで半日か1日はかかるらしい。

なら、モンスターとの戦闘は免れるかな…戦闘になったら最悪、走って逃げるしか無いかも

 

 

そして出口の真下に来た。

 

「私が先に様子を見ます。村への道はよく知っています。このくらいは私にやらせて下さい。」

「…わかった。案内、頼んだよ」

 

ヴェネラは梯子を登っていった。

 

…ヴェネラがいて良かった。

ヴェネラがいなかったらあのまま始まったばかりの勇者人生終了してたよ…

…今は城から逃亡で勇者っぽくないけど…

 

「登っても大丈夫です。」

 

少しするとヴェネラが上から顔を出して安全を告げた。

ボクは梯子を登って、この世界に来て初めてのフィールドに立った。

 

「さあ、こちらです」

 

 

森の中を走って行くと突然、ヴェネラが立ち止まった。

 

「どうした?」

「モンスター、オレンジバルーンです。弱いですが、とても好戦的です。見つからないようにいきましょう」

 

今ここで戦う暇なんて無いもんね。

しかも弱いとはいえ、元康が言うには魔法使いは防御力が低い。下手に戦ってダメージを受けたら危険だ。

 

 

こうしてモンスターに見つからないように慎重に歩いていき、遂に森から抜けた。

 

「うわぁ」

 

そこは、見渡す限り平原、少し向こうには山がそびえていた。

見渡す限り建物しかなかった元の世界とは全く逆。

壮大な景色にボクは暫く見渡していた。

 

「右手に見えるのが私の故郷、リユートです。」

 

ヴェネラに促されて見ると、近くに小さな村が確かにあった。

 

「ここまで結構休憩したり慎重に進んだりしたのに、思ったより早く着いたね。丸1日は掛かるかと思ったけど。」

「そうですね。モンスターとの戦いが無かったからでしょうか」

 

そして、ボクとヴェネラは村へと足を動かした。

 

 

「誰だ!…ってヴェネラ!?お前、仕事はどうしたんだよ!まだ休暇じゃないだろ!」

「ケビンじゃない、門番ご苦労様。」

「だから…ん?そこの奴って男か!?まさかお前、男が…」

「違う違う!」

 

ヴェネラの友人らしいケビンとヴェネラのやり取りを苦笑しながら見ていると、

 

「お前、魔法使いか…?」

 

驚いて振り向くと後ろにはボクより少し年上の男の人がいた。

てっきり城からもう追手がやって来たのかと…

 

「まあ、合っているのかな…どうしてわかった?」

「ずいぶん大きなな魔力を持っているから何となくそうかなあ…と」

「魔力感じるんだ…」

「お前はわからないのか?魔法使いなのに?」

 

思ったけれど…

 

「あっ!メルガさん!久しぶり」

 

どうやら彼とヴェネラは知り合いらしい。

 

「どうしたの?急に戻って来て…」

「立ち寄っただけだ。途中であんたの姿が見えたから。…ところで、ヴェネラ、あんたのその姿はなんだい?」

「ああ、これね。この服、あの人のものなんだけど…あの…聞いてくれる?」

 

 

「へー、魔法の勇者なんて初めて聞いたな!異世界なら来たなら感じてないのも頷ける」

「その女許せん!そこの奴も、ヴェネラを巻添えにしやがって!」

「私は自分の判断で、自分から巻き込まれたの!アユムさんは関係ないの!」

 

ここにはいないマルティだけかと思ったら、突然ボクにもケビンは敵意を向けてきた。

メルガはというとここまでのことよりもボクが勇者だったことに興味を持ったみたいだ。

 

「2人とも!今はそんなことよりもアユムさんを匿って欲しいの、お願いできる?」

「こいつなんかどうでも…いや、ヴェネラのお願い……兄さん、僕はどうすれば…?」

「この村に住んでいない俺に聞くな、お前が決めろ」

 

ケビンはどうもヴェネラを巻添えにしたボクを嫌っているのだがヴェネラからの頼みを受けるか悩んでいる。

メルガはどうでもいいという風にメルガに向けられたケビンの疑問を即座に一蹴する。

 

「…お願い…できる?」

「……ああ!もう!わかった、協力してやる!」

「ありがとう!」

 

顔を真っ赤にさせながらケビンはやけくそのように叫ぶ。

 

「…ボクとしてはありがたいけど、いいの?」

「…本当は癪だがヴェネラの頼みであれば……」

 

成る程、ケビンはヴェネラのことが……ね。

 

「な、なんだお前、しかも兄さん!そんな目で見るな!」

 

ふと横を見るとメルガが優しげな目でケビンを見ていた。恐らくボクも同じ顔をしていたのかも

 

 

「では、村に入りましょう。」

「ああ、そうだ。この村に魔法を使える人っている?魔法を使うコツとかを教えて貰いたいんだけど…」

「いますよ。でも、今日はもう遅いので明日にしましょう。私の家はこっちです。」

 

 

ヴェネラの家に来た時、ヴェネラの両親とのひと悶着があったけれどヴェネラが無理矢理納得…してないけどとりあえずここに匿ってもらえることになった。

 

彼らの視線が痛いけど匿って貰えるだけ感謝だ。

 

 

「見てろよマルティ、必ず無罪だと、偽物の勇者でないと証明してやる…!」

 

そう言ってこの決意を胸に刻み付け、夜を明かす。




今日から令和!令和初投稿!
投稿とその他諸々頑張ります。
今のところ長い間投稿無し、ということはないですが、元々サボりやすい性格なので、なかなか投稿がないことがこれから在るかもしれません。(というか、確実にやるかも…)
気長に投稿を待ってて下さい。


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魔法使い ルーシー

気づいたらお気に入りが30越えてました。( ´∀`)

読んでくれている皆さん、ありがとうございます!
(*^-゜)vThanks!



「おはよー」

「おはようございます。アユムさん…って朝食は私が作りますよ!」

「良いって。匿ってもらうんだからこのくらいはしなくっちゃ」

 

朝、ボクはヴェネラの家で朝食を作っている。

 

勝手にじゃないよ?ヴェネラには言ってないけど叔母さ…じゃなくて、ティラさん(ヴェネラの母)には許可は貰ったよ。

 

「でーきたっと。はい」

「あ、ありがとうございます」

 

作ったのはオムレツとサラダ。

自分でもオムレツは上出来だと思っている。

 

 

「な、何ですかこれ…」

 

え、その反応なに?…不味かった?

 

「すっごく美味しいです!今までこんな美味しいもの食べたこと無かったです!使ってる卵って城で使ってる物よりランクが下のものですよね!?凄すぎます!」

 

心配は杞憂だったみたいだけどこれもこれで反応が大げさ過ぎない?

 

「何を騒いでいるの?」

「あ、お母さん!これ、食べてみて。すごく美味しいから!」

 

ティラさんは眉を寄せながらボクの作ったオムレツを食べる。

するとたちまち目を輝かせて言う。

 

「…まぁ!美味しいじゃない!あそこの卵がここまで美味しくなるなんて」

「でしょ!」

 

 

次は叔父さん(ヴェネラの父)がやって来て全く同じ反応をする。

 

「ほう、男のくせにようやるな」

「…お父さん?昨日の話し聞いてた?あの子は女の子よ」

 

とにかく、ボクの料理は好評だった。

 

 

 

 

 

「さて、ヴェネラ、魔法使いの家に案内してくれる?」

「そうですが、その前に…」

 

ヴェネラに部屋へと連れていかれる。

何だろうと思ったら目の前に色々な服を出し、

 

「さあ、着替えて下さい。昨日からその格好のままですから。」

 

ああ、そういえば服を元に戻した後そのままだったことを完全に忘れてた。

 

「えーと…わがままで悪いけどズボンってあったりするかな?」

「うーん、ズボンは私は持っていないので買うしかないですね…アユムさんはズボンのほうがいいのですか?」

「まあ、でも無いならこれでも大丈夫」

 

そう言って着替える。

ワンピースなんて久しぶりに着たな。

 

 

「では、魔法を使える者の所へ案内します」

 

遂に魔法を教えて貰えるっ!

期待を胸に嬉々としてついていく。

 

 

「ここです」

 

ボクたちは目的の人物がいる家の前に着いた。

 

ノックをして、5分程すると出てきた。

 

「はいはい。あ…ヴェネラ。久しぶりね」

「久しぶりです。ルーシーさん」

「あたしが起きるのは昼なのは知っているでしょ?…ところでその人は?」

 

 

ヴェネラがルーシーさんというなんともだらしない人に話す。

しっかりとボクが女であることも。

まあ、この格好で間違える人は皆無だろうけど…

 

しかし…この人に魔法を教わるのか?

 

「ふーん、魔法の勇者…ねぇ」

「あ、あの~?」

 

目が一瞬光ったように見えたのは気のせいだと信じたい…

 

「あたしの好みじゃない。いい顔してるわ。それにこの魔力の質…いいわ、この魔法使いルーシー、貴女を一人前どころか最強の魔法使いにしてあげる!」

「え、え!?ちょっ!」

 

突然腕を組んだかと思いきや家の中へ連れていかれた。

 

取り残されたヴェネラは呆然と呟く

 

「そういえばあの人……男女関係ないイケメン好きだったっけ…アユムさん、結構……」

 

ヴェネラの呟きは誰の耳にも届くことは無かった。

 

 

 

「さて、アユムちゃん、といったかしら?」

「あ…はい!」

「フフっ緊張しなくていいわ。リラックス、リラックス。貴女はまず、魔力というものを感じてもらうわ。魔力を知らなければ魔法なんて使えない。」

 

ボクと手を繋ぐすると彼女が何をしたかはわからないが自分の中で何かが何かに触れている感じがした。

 

「…感じられたかしら?」

「何かに触れている感じです。何か…不思議な感じがします」

「あら、わかったみたいね。これだけでここまでわかるなんて素質があるわ」

 

少し驚くルーシーさん。

素質があると聞いて顔を輝かせるボク。

 

「じゃあ、予定より少し早いけど、実践しましょ」

 

ルーシーさんはそう言うと外に出る。

ボクも続いて出ると、

 

「手に魔力を集めて、実体化して出してみて」

「はい…」

 

ボクは自分の中にある何かを手の方へ動かしてみようとした。

しかし、上手くいかない。

 

「最初は難しいけど、コツを掴めばそのうち造作なく扱うことが出来るわ」

 

うーん、魔力を手まで集めることはできたのだが…

実体にするのが難しいなあ…

 

 

ただ出すんじゃなくて集めた上でそれを押し出せば…いけるかな?

 

「せいっ!」

 

するとボクの考え通り、魔力が出てきたのだが、

 

ドォォン

 

と凄い音を立てて目の前を見ると…

 

「えっ…」

「…わお」

 

目の前にあったはずの森は綺麗に真っ直ぐ道が出来ていた。

 

 

「ルーシーさん!またやったの!?」

 

先程の音を聞き付けてヴェネラが飛んできた。

 

ルーシーさん?

『また』って何ですか?

 

「いやいや、今回はあたしじゃないわ!」

「えっ、じゃあアユムさんが…?」

「…。ボクがやりました。すみません…」

「怒ってません!頭下げないで下さい!」

 

謝るとヴェネラは慌てたように手を振る。

 

ルーシーさんは

 

「あたしには怒るくせに…この差ってなんなの?」

 

とぶつぶつと独り言を言っているのが聞こえてきたが、すぐさまヴェネラが

 

「毎度毎度、魔法の実験と称して迷惑掛けていることに怒るなっていう方が無理があると…」

 

迷惑掛けてるの!?そりゃぁ怒るよね…

 

「あたしの家か庭は壊しちゃうことはあるけど、貴女たちには迷惑かけてないわ。それに実験に失敗は付き物よ」

「幾らなんでもやりすぎですし、迷惑かかってます。壊した時にこちらに飛ぶ家の残骸や砂ぼこりが大変迷惑だと。というより、轟音の時点で十分迷惑です」

 

ヴェネラはルーシーさんの弁解をバッサリと斬り捨て追い討ちをかけていく。

 

「と、ところで凄いわね。初めてにしては結構魔力を出すのが早かったわ。…魔力量もすごいし」

 

あ、話題変えた。

ヴェネラは話題を変えられたことに少し怒ったみたいだけど諦めたらしい…

 

「そうですか?」

「そうよ。流石、魔法の勇者様、ね」

 

 

 

 

 

その夜、ボクは装備に魔筒というものがあったことを思いだし、手に取った。

 

これをじっくり見ると、宝石?みたいなものが真ん中にくっついている、というか埋め込まれてる。

 

 

『魔』が付くくらいだからもしかして…

 

そう思って大分扱うことの慣れてきた魔力を次は手ではなく魔筒に集めていく。

 

すると、筒が光った。

 

「おぉ、光った………………………けど、これだけ?」

 

筒がずっと光るだけで何も起きない。

 

てっきりあの有名映画に出てきたあの剣を想像してたんだけど…

 

すると…

 

「え、伸び…た?」

 

そう、伸びたのだ。筒の先が光り、伸びたのだ。ちょうどボクが想像した通りの形になって。

 

伸びた光は恐らく魔力を実体化したものだろう。

あ、何か目の前に文字が出てきた。

 

「何々…えーと、『スキル・マジックソードを獲得』…」

 

もしかしてと思い、他のものを思い浮かべる。

 

 

試してみて、出来るものと出来ないものがあった。

 

出来るものは、

剣(マジックソード)、槍(マジックスピア)、弓(マジックボウ)、鞭(マジックウィップ)、斧(マジックアレックス)

等々の武器

 

出来ないものは

傘、マイク、布団叩き、モップ

等々

 

武器であれば良いみたい。

 

そういえば、四聖武器の中に盾もはいってたっけ。

 

やってみたら出来た。

 

剣とかの持ち手が短い場合は筒の長さは変わらないけど、槍の場合は持てるように持ち手が長くなるらしい。

 

実体化した魔力は触れることは出来たが、手に怪我をした。

 

後からヘルプで『魔力部分に触れると魔力の種類によっては怪我をします。』と忠告された。

 

もう遅い!それ、早く言ってよ!

 

魔力の種類って属性のことかな?

 

ちなみにチャクラムのような持ち手がよくわからないものはできなかった。

 

多分剣のような持つ部分がある武器なら何でもいいのかも。

 

等、試してみて、

何だろう…何かボク、反則的なものを手にいれてしまったような気がする…

 

とりあえず、明日試しにモンスターと戦ってみよう。

 

 

 

 

 

 

「ええっ?昨日魔力出せるようになったのにもう戦うの?魔法まだ何も使行出来ないでしょ?」

「魔法はまだですが、昨日ボクの武器で面白そうなものが出てきたんです」

「…それが魔法の勇者の武器?確かに普通の筒とは違うけど…」

 

ルーシーさんに魔筒を見せるとやっぱり怪訝な顔をした。

 

「まあ、百聞は一見に如かず。見てみるのが一番ね」

 

百聞は…ってそれ日本のことわざでは?

ここ異世界だよね…?

 

とにかく、ルーシーさんはボクの試したいことに付き合ってくれて、一緒にフィールドに出た。




武器なら何でもっていうチート的な使い方でした!


感想を見たんですけど、
砲かぁ…そのアイデアはありませんでした。いつか出してみたいと思います。
アイデアをくれた甘口さん!ありがとうございます!
(*- -)(*_ _)ペコリ


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魔法

「さて、見せて貰うわね。貴女の面白そうなことってものを」

「わかりました。とは言っても、昨晩初めて知ったことなので上手く出来るか判りませんよ?」

 

ボクはルーシーさんと村を出てフィールド内の森の中にいた。

 

昨日の魔筒を実践で使うためだ。

 

「いたわ。レッドバルーンよ。この辺のモンスターはメルロマルクの所より強いから気をつけてね」

 

フィールドに出る前にモンスターについて少しヴェネラに教えて貰った。確かバルーン系は弱いけど好戦的だったっけ。

 

レッドバルーンはボクらを見つけるとこっちに向かって距離を詰めてきた。

 

ボクは魔筒を手に取り魔力を筒に集中させ、1つの武器を思い浮かべる。

 

すると魔筒から魔力が実体化し、武器の形になる。

 

「魔力の…剣?」

「はい。この魔筒というのは恐らく魔力を使って武器を形作るものだと思います」

 

そう言って目の前まできたレッドバルーンを両断する。

 

テニスやってたからこのくらいの速度なら感覚で当てられる。

 

ん?なんか数字が出てきた。

何々…これは経験値だな。

 

「それってどんな武器でも再現出来るの?」

「はい、恐らくは。あ、でも一部の武器や投擲系の武器は出来なさそうです。」

 

昨日思い出せる限りの武器を再現してみたが、出来なかったのはチャクラムだけでなく、手裏剣やブーメランなどの投擲系だった。

 

「それでも……それってある意味反則じゃないの」

「まあ、そうなりますよね…。これを知ったときボクも同じこと考えました」

「魔法戦士みたいね。…まだ魔法使えないけど」

 

あーそういえばボク魔法の勇者なのに魔法使ってないな。

すっかり忘れてた。

 

「じゃあ、1度家に帰りましょうか。魔法習得のためにね」

 

 

 

 

 

 

 

森から戻り、ルーシーさんの家に帰るとすぐにルーシーさんは棚から傷どころか埃1つ付いていない大切に置かれた水晶玉をだし、何か呪文を唱えた。

 

「これ、何ですか?」

「この水晶玉を覗いてみて」

 

なんだかよくわからないまま言われた通りに覗く。

 

…何も見えない、いや、なにか光ってるけどそれだけ、みたい。

 

「……貴女、色々反則じゃない…いや、魔法の勇者だからこそ、なのかも…」

「?」

 

ルーシーは彼女は苦笑してボクを見た。

 

「全ての属性を使うことが出来るみたいよ。1人が持つ属性は1つか2つが普通なのにね」

「そうなんですか?」

「ええ、ちなみにあたしは風よ」

 

確かに反則…。勇者ってそういうものなのかな?

 

「さて、どうしましょ。貴女の適性を調べて習得させるつもりだったのに」

 

うーん…どうしよ。

魔法の勇者が属性1つだけってのも悩むけど、属性が全部ってのも悩みものだ。

 

「うーん…とりあえず、回復魔法からでいいですか?攻撃は魔筒でも今のところ大丈夫そうですし」

「あー…それがね…」

 

うん?この反応はまさかあのパターンじゃ…

 

「正直に言ってください。この先生きていくために自分のことを把握しないといけないんです」

 

例えあのパターンであったとしてもいいように覚悟する。

 

「えーっとね?貴女は回復魔法は一切使えないみたいなのよ……ああ!そんな顔しないで!」

 

やっぱそのパターンでした。

ボクが前にやっていたあのRPGの魔法使い、魔法は強力だけど回復魔法できなかったから予想はしてたんだよ。

 

「ううっ…予想はしていたけどホントに使えないのか…。回復魔法使えないのはこの先痛いかも…」

「で、でも安心して!支援魔法は使えるみたいだから!」

 

未だにショックから立ち直れないボク。

でもいつまでもここで立ち止まってはいられない。

 

「じゃあ、支援からでお願いします!」

「立ちなおり早いわね。突然顔上げるから驚いたわ」

「諦める時の潔さと切り替えの早さがボクの長所ですから!」

 

 

 

 

「そういえば、貴女はこの世界の文字って読めないわよね?」

「そ、そういえば読めないです…」

 

ボクがそう言うとルーシーさんは怪しい笑みを浮かべたように見えたのだが……きっと気のせいだろう。

 

「じゃあ、読むことから始めないとダメね。魔法を覚えるための水晶玉って言うものがあるんだけどあれって1つしか覚えられないし──」

 

この後、10分程の水晶玉の愚痴が続いた。

聞いてるボクとしては水晶玉と魔法書の長所短所を知ることができて良かったと思っているけどね…

できれば愚痴という形で知ることはしたくなかったなあ

 

 

ようやくルーシーさんの愚痴が終了して、文字を覚えることから始めた。

 

「……案外難しい…英語を勉強した以来だ」

「ん?エーゴって?」

「え?……ああ、ボクの世界の言語の1つ」

 

というか、この世界でも勉強が待ってるとは思いもしなかったなあ。

好きなことに関しての記憶力は良いけど勉強に関してはちょっとなあ…

 

とか考えながら頑張ってこの世界の文字を頭に詰め込んでいった。

この感じ、テスト直前を思い出す…

 

 

 

「大分いい感じじゃない。これで簡単な単語は覚えたわね。じゃ、次は……」

 

あれから3時間、ルーシーさんについてわかったことがある。

 

この人結構スパルタ教師。

だって文字の書きを間違えたらその文字を100回書かされたし、3時間ぶっ通しで続けてるしでかなりキツイ…

 

「この本を読んで感想を聞かせてね。あ、勿論感想は文字でこの紙に書いてね」

 

マジですか!?

感想用紙多くない!?

本を読むことは好きだけど流石に覚えたてで読むのは…

 

「…というか、表紙に『ルーシー=ベスタント』って書いてあるんですけどまさか…」

「ええ、あたしが執筆した本よ。あたし、本を誰かに読んでもらうのが夢だったのよ」

 

まさかルーシーさん、ボクに本を読んでもらうために文字を覚えさせたのでは…?

 

「まあ、直ぐに本を読んでもらう口実だったのは否定しないけど…」

 

本気で思っていたみたい。

 

「文字を覚えていた方が先々楽よ」

「そうですが、村の人たちに読んでもらうのはダメなんですか?」

「丁度昨日書き終えたばかりの出来立てホヤホヤよ。まだ誰にも読ませていないわ」

 

えーっと…『モンスターでもわかる魔法の使い方』っておいっ!

これとよく似たフレーズ、元の世界にもあったぞ!

 

「と、とりあえず読ませていただきます」

「ええ、感想は明日までね」

 

それはキツイ課題!

そこまで分厚い訳じゃないけど明日までに読み終わるのこれ…?

 

 

 

 

 

それからヴェネラの家に帰って読み始めたんだけど…

 

「…ここはこの言葉がいいのでは?」

「ここの説明は長いな」

「語尾がバラバラ…」

 

等々1ページ読む度に訂正すべきところが5つ以上見つかっていく。

 

最初はいいかな、と見逃していたけれど読む内にあまりにも間違えすぎだったので貰った紙に訂正部分を片っ端から書いていく。

この時紙を多く貰っていて良かったと感じた。

 

感想?ああ、書いたよ。

文章はダメだったけど内容は良かったって書いておいた。

…残りは全部ダメ出しだけどね。

 

あ、でも、魔法出すコツがわかったからそこは良かったかな?

魔法の属性によって実体化したときの魔力の流れが違っていくみたいだからその操作のコツとか。

 

見せたら文句言われそうだなぁ…

 

というか…終わるのこれ?

 

 

 

 

 

「あらぁ、感想が一言しかないわよ?残り全部ダメ出しじゃない」

 

結局徹夜で読んで訂正してで一睡もしなかった。

そして、予想通り文句言ってきた。

まあ、普通こんなにダメ出しで感想一言だけだったらこうなるよな

 

「でも、文章がグダグダだったので…」

「わかっているわよ。でもまあ…貴方の訂正した文とあたしの文、えらい差だわ。文字も文も完璧。凄いわ」

 

こんなに褒められるのは初めてでなんだかむず痒くなった。

 

「ああ、それから魔法のコツ、良かったです。まだ実践してはいませんがあれなら出来そうです」

「そう言われると嬉しいわ。早速実践してみましょ」

 

そう言われ、家を出た。

 

 

 

 

「…広場が騒がしいですね」

「そうね。ちょっと待ってて。見てくるから」

 

ルーシーさんは広場へ行き、約3分後、慌てた様子で走って戻ってきた。

 

「今すぐ村を出るわよ!」

「え…?」

「早く!」

 

そう言うとボクの返事を待たずに手を取って駆け出した。

 

「な、何があったんですか?」

「貴女、国で指名手配になったのよ。『偽物の勇者』として」

 

遂に指名手配か。

逃げ出したからには予想はついていたけどこれ以上ここに留まるのは危険だな。

ボクにとっても、リユートの人たちにとっても。

 

「あたしたちは貴女があんなことをする人ではないって知っているけど──」

「ここにボクがいることがわかったらこの村が国の敵に回ることになってしまう。だから身を隠さなければならない、ということですか?」

「……正解よ」

 

 

こうしてボクらは村の外へ出て森へ身を隠すことになった。

 

また嫌な予感がする。

…行った先にボクを探す人がいませんように。




『キャラクターズ(+作者)トーク』を2話目と3話目の間に入れておきます。
是非読んでみて下さい


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逃走中

「もしかしたらここに隠れているかも知れない!徹底的に探せ!」

 

あーあ、また当たっちゃった…

さっき行った先にボクを探す人がいませんようにって祈ったのに無効に終わったよ

 

「さて、どうしよっか…蹴散らそうと思えばできるけど後々面倒になりそうだし」

 

と、茂みに隠れて悶々と悩んでいると

 

 

「どうですか、見つかりそうですか?」

 

「こ、この声は…」

 

「彼女は強盗未遂に脱獄、挙げ句の果てに1人のメイドを拐った誘拐犯、まさに悪そのものです。女性とはいえ、僕達の正義の前には容赦は無用です。必ず捕まえて見せましょう!」

「はい、イツキ様!我らの正義のために必ずやあの悪を捕らえてみせます!」

 

うわぁ……面倒くさそうな集団がやって来たな。

よりにもよって勇者が探しに来るなんて。

 

彼ら、正義を連呼してて凄く執念深そう。

見つかったら地の果てまで追いかけてきそうな感じ。

 

あの感じから見て、大分連携とかできそうだし、レベルも結構上がってそうだ。

ボクじゃきっと対処出来ない、ホントどうしよ。

 

ってか、脱獄は認めるけど強盗と──何か誘拐まで加わってる!?それはやってないからね?

 

 

「どうしよっか、魔法の勇者さん?このままじゃ、見つかるわよ」

 

うーん、わかってはいるんだけどね。

そうしてる間も確実に彼ら、近づいて来てる、ヤバいヤバい!

 

考えろ、考えろ…この状況を抜け出せる策を。

 

「…ねぇ、ルーシーさん、姿を隠す魔法ってある?」

「あるわ。でも通じないかもしれないわね。どれだけの強さかわからないけど、もし向こうが魔力の感知に優れていたらバレるわよ」

 

なら──

 

「なら、相手の視界を奪う魔法は?」

「貴女、逃げること前提なのね」

 

そう、逃げる前提だ。

勇者だからって何でもかんでも戦いに挑む訳ではない。ダメなの?

 

「だって、こっちは魔法使いと魔法をまだちゃんと使ったことが魔法使い。加えて連携もレベルも向こうより劣っている。戦う前から負ける確率が高いってわかってるのにわざわざ挑む気なんてないよ」

 

 

「わかっているじゃないか」

 

思わず叫んでしまうところだった。

だって、いつの間にか後ろにメルガがいたのだから。

 

「…何時からいたの?」

「お前が悶々と悩んでいるときから」

 

そんな前からいたの!?

本当、心臓に悪い…見つかったかと思った。

 

「というより、何しにきたのよ」

「ヴェネラに頼まれて。お前の逃走を手助けに来た」

 

ここでボクは気になっていたことを、今一番心配していることを聞いた。

 

「村は、ヴェネラは大丈夫なの?」

 

メルガは何も答えずほんの僅か─しっかり見ていないと気づかないくらい─に目を逸らした。

その無言とその目が意味することは…

 

「捕まったの!?」

「! その声…歩夢さん…ですか?」

「流石イツキ様!もう見つけたのですか!」

 

しまった、つい大声を出してしまった。

樹達はその声に気づいてこちらに歩みを進めてきた。

しかもボクだって気づかれた。

 

…一応さん付けなんだね。

と、ちょっと場違いな考えをしてしまった。

 

「…ごめん、ボクの逃走を助けてくれるかな?」

「俺はお前を助ける訳じゃない、手助けだ。そこを間違えるな」

 

無言で頷くのを見たメルガはすぐに詠唱を始める。

 

『力の根元たる我が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者を水の刃で切り伏せよ』

「ファスト・ウォーターカッター」

 

「樹様!」

「っ!!」

 

すると水の玉が樹へ向かう。

樹に飛んでいった水の刃は樹に避けられ近くの木に当たり、木はスパッという音が聞こえそうなほどよく切れた。

成る程、そうやって魔法を発動させるのか。

 

というか、いきなり攻撃しちゃうんだ…。

今の当たったら結構危ないよ。

 

「イツキ様に何て卑劣な真似を…。その愚行、赦せぬ…姿を現せ!」

 

鎧の男が叫ぶ。声デカイ。

樹達は次の攻撃を警戒しているのか一ヶ所に固まっている。

 

今なら相手の視界を奪えば逃げられるかもしれない。

そう思ったらボクの脳裏に詠唱の言葉が浮かび上がってきた。

 

『力の根元たる魔法の勇者が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者達を深き闇で惑え』

「…ごめん、樹。ここで捕まる訳にはいかないんだ…ファスト・ダークネスプリズン!」

 

「この声、やはり…あゆ…!」

「うわっ!」

「なんだ!?」

「お、おそらく敵の魔法です!」

 

樹達のいた所だけ暗くなった。

どうやらプリズンというだけあって対象者は出ることは出来ないらしい。

 

「…まさかとは思ったが、見ただけで出来るとは」

「凄いわ、アユムちゃん、天才じゃない」

「……」

「アユムちゃん?どうしたの?」

 

突然無言になったボクを心配したのかルーシーさんが顔を覗き込んできた。

 

「…何でもない。さて、逃げるけど…何処に逃げればいい?」

「恐らくこれ以上はリユートにはいられないだろうな」

「うん、今バレたし」

 

あゆ、までしか聞こえなかったけど、絶対気づかれた。

 

「これだけでまだリユートの関連性はわからないだろうが、留まれば危険だろうな」

「だからって外に出ても人相が割れてるから…」

「とりあえず俺に付いてこい。一時的にだが身を隠せる所がある」

 

 

 

 

足止めした樹達から逃げ、メルガに付いていくとその先には洞窟があった。

 

そこは鉱石がよく採れる鉱山の洞窟だが、人はいない。

何でも、最近魔物が凶暴化したために人があまり来なくなったという。

 

「ここなら暫くは見つからないだろう」

「今更だけど、何もいきなり攻撃することなかったんじゃないの?相手は勇者一行で反撃でもされたら─」

「避けられる位で放ったがな。しかし、あんなのが勇者だったのか?」

「─どうなるか…え?『あんなの』?」

 

メルガ、今何て言った?

ボクの耳には『あんなの』って聞こえた気がするんだけど…

 

「ああ、あんなのだろ。その勇者とやらは正義悪を連呼しててうるさいし、その仲間たちはどう見てもあのイツキって奴の信者の集まりだろ」

 

確かに…正義っていうよりはとにかく樹を奉ってるような感じがしてたな。

 

「と、とにかく!顔を見られてなかったから良かったけど、勇者を下手に敵に回したら危険なんだから」

「そうよ。あのイツキっていう勇者…というよりお仲間さん達は根に持つタイプよきっと」

「それ、お前達に言われたくないのだか…」

 

イラッ

確かにボクは既に四聖勇者含めるメルロマルクと敵対というか逃走しているけどそれとこれとは別!

 

旅人とはいえ、一般人が一国を敵に回すのはかなり不味いよ!?危険だよ!?

 

「旅に危険はいつでも付き物だ」

 

いやいや!そんな一言で済むような軽いものじゃないから!

 

「まあ一回この話は置いておいて、この村にはこれ以上留まれないとしたらこのあと、どうするのかしら?」

「そこなんだけど…旅に出るしかないよねー…出ないといけないって思ってるし」

 

この世界は1ヶ月ごとに波が来るみたいだから強くならないといけない。

そのためにもここにどちらにしろ留まることは出来ないと思っている。

 

「ボクはこの世界を全く知らない。この世界を守るためにもこの世界を知らないといけない。そして知るためには旅に出ないと」

 

「覚悟はあるのか?」

 

突然聞かれる

 

「あるかと言われたら無いかもしれないし、無いかと言われたらあるかもしれない。中途半端な覚悟じゃこの先生きていけないかもしれない。」

 

そう、自分でも覚悟があるのかよくわかっていない。

 

「でも、ボクを信じてくれている人がいる。だからこの世界を守りたいんだ」

 

ここまで言うとメルガはフッと顔を綻ばせた。

 

「なんだ、覚悟、できているじゃないか」

「アユムちゃん、カッコいいわぁ」

 

これが覚悟っていうのかな?

 

「お前は暫くはここにいろ。村にいた騎士達がいなくなったのを確認したら後で迎えに来る」

「あたしも戻ってアユムちゃんの旅の用意しておくわ」

「え、ルーシーさん、それは自分でやりますよ」

 

この事にルーシーさんは譲らなかった。

何でも渡したい物があるらしい。

それを兼ねて用意をしておきたいとのこと。

 

そして2人は村へ戻り、洞窟は静かになった。




初魔法出しました!
ダークネスプリズン
闇魔法
対象を暗闇の檻に閉じ込める
中はめっちゃ真っ暗

攻撃魔法にするか迷ったんですけど、今回は逃げることであって戦う訳ではないので拘束魔法っていうのかな?それにしました。


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影でごじゃる

影の登場でごじゃる!


2人が村へ戻ると途端に静かになった。

 

「ヴェネラ大丈夫かな……?」

 

メルガの様子からヴェネラが見つかったということを思い出し、ボクが呟くと、

 

「彼女なら無事でごじゃるよ」

「ふぉわぁ!」

 

人生(一度死んだ?けど)で一番驚いた、心臓一瞬止まった。

いや本気で。本気と書いてマジで。

メルガの時より驚いた。

まさか後ろか、気配なしで喋りかけて来るとか本当ビビる。

自分でも不思議な声が出てきたのがわかる。

 

ってか今更だけど誰!?

 

「魔法の勇者殿でごじゃるな。安心して欲しい。拙者は女王の影、そなたの敵ではないでごじゃるよ」

「ご…ごじゃる?」

 

ごじゃるってあの歴史関係の漫画で出てきそうな『麿は〇〇でごじゃる』っていうやつの?

この世界で使う人がいるとは思ってもいなかった。

 

「いつからいたの?」

「つい先程、数刻前に洞窟に着いたでごじゃる」

 

ついさっきだったのか。

 

「というかヴェネラは本当に大丈夫なの!?」

「拙者達が保護しておいたのでごじゃる」

 

信用できるのかな…?

とボクの考えを読んだのか

 

「一応彼女から言伝を託されているでごじゃる」

「なんて?」

「『メルガに貴女のことを頼んでおきました。私のことは気にせずにお願いします』とのことでごじゃる。彼女は女王の権限で拙者達が引き取ったのでごじゃる。ちなみにこれを…」

 

そう言って取り出したのは1つのブレスレットだった。

紫の宝石があしらわれた綺麗なもので、

見るとステータスみたいな表示が出てきた。

 

魔石のブレスレット

守備 5

魔法耐性 10

付与効果 攻撃魔力UP・闇耐性 +8

 

「…これは?」

「彼女の両親からでごじゃる。正確にはヴェネラ殿からで、会えたら渡して、お守りとして付けていてほしいとのことでごじゃる」

 

ヴェネラの両親からも?

 

「ヴェネラ殿の母殿からは『あのオムレツの作り方を教えて欲しい』、父殿に関しては『ヴェネラの婿にしてやってもいい』と言っていたでごじゃるが…魔法の勇者殿は女性と聞いていたでごじゃるよ?」

 

叔父さんのことは放っておくとして、オムレツのことも知っているのか…

言伝だけじゃ信用できないと思ったけど、ここまで知っているのなら信用してもいいかもしれない。

 

「うん、女で合ってる。おじさんは本気で言ってはいない…………と信じてる」

 

何度も訂正したからね。さすがに…

そういえばなんか気になることを言ってたような…

 

「ねえ、女王ってどこの国の女王?」

「メルロマルクの女王でごじゃるが?」

 

えっ!?メルロマルクに女王が…というか后じゃなくて女王?

 

詳しい話を影に聞くと、メルロマルクは女王が統治する国であり、エリミア女王が実権を握っている。

現在のメルロマルクはその女王が国に不在のため、オルトクレイが仮初めの統治者であるという。

 

「その女王がなんでボクの味方をしてるの?一応メルロマルクのおたずね者だけど」

「拙者達影は気配を隠したり変装したりして対象者を追尾しているでごじゃる。マルティ王女を見張っていた影はマルティ王女の行動をしっかり見て記録していたでごじゃるよ」

 

マルティも監視してたんだ。全然知らなかった。

つまりボクの危機を見過ごしたということだ。

 

「そうであるなら罪を被せられる前に何でやらなかったの!」

 

思った途端、ボクの口から思ったことが飛び出してしまった。

 

「…あのオルトクレイ王が影と娘のマルティ、どちらを信用すると思うでごじゃるか?」

 

そう言われたら…娘なんだろうな……でも女王の方が立場的に上だし…

 

「オルトクレイ王は基本的に親バカであるために娘であるマルティ王女はやりたい放題。そのため女王は監視をつけているのでごじゃる」

 

仮にも王である人物にずいぶんはっきりと親バカといったね。

 

手を出さずに監視だけということにはなっているが、と付け加えた。

どうせだったら止めて欲しかったと思ったが、影がまた喋り始めたので黙っていた。

 

「しかし、そろそろ女王も限界かもしれないでごじゃるな…」

「さすがに仮にも勇者のボクにいわれのない罪を被せて指名手配犯はやり過ぎたんだろうな」

「それだけでないでごじゃるよ」

 

え、まだあるの?

 

そして次に聞いた言葉はボクにかなりの衝撃をもたらした。

 

「盾の勇者がマルティ王女に陥れられたのでごじゃる」

「あのときの伝言は伝わってなかったの!?」

 

確かにあのとき『マルティに気を付けろ』というメモ帳をドアの隙間に挟んだはずだ。

それに誰も気づかなかったはあり得ない。

4人ではない誰かに気づかれたのか…

 

「いや、入ったときに弓の勇者殿がまず気づいていたでごじゃる。しかし誰もマルティという名には心当たりがなかった様子。マルティ王女は冒険者としての偽名を名乗っていたでごじゃる」

 

そうか、偽名という手段があったか。

それじゃあ、あんなことやったとしても防げないか。

 

「魔法の勇者殿に伝える事項はこれで以上でごじゃる。拙者はここで失礼するでごじゃる」

 

そう言った途端、ボクが止める間も無く消えてしまった。

魔力感知も多少出来るようになったけど影の魔力が感じられない。

 

だから意識せず、思わずこう呟いていた。

 

「…まるで忍者だ」

 

 

 

 

影が消えてから2時間、村を見に行ったメルガがようやく戻ってきた。

 

こんなに時間が掛かったのは何でもあの闇の檻からどうにか抜け出したらしい樹がリユートにいるのではないかと仲間と共に時間をかけて一件一件調べ回ったかららしい。

 

村の方々、本当にご迷惑をお掛けしました!

 

メルガに影からの話を伝えると、もっと警戒しろ、と叱ったものの、どこか安心した風な顔をしていた。

 

やっぱりあんなこと言ってても心配だったんだね。

 

 

村に帰るときにモンスター(バルーン系、卵系)と何回か遭遇したからそれらをメルガの協力も得て倒し、レベルアップした。

そしてバルーンシリーズとエッグシリーズを解放した。

 

ちなみに、モンスターの残骸って伝説の武器の宝石の部分で吸えるってことをこの時初めて知った。

シリーズがあることも。

 

伝説の武器を成長させるって多分この事なんだろうな。




キャラクターランキングでいうと影は僕の中では第4位くらいかなぁ

喋りが好きでごじゃる 


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出発──冒険

冒険レッツゴー!


「え…」

「旅に必要そうな物を詰め込んで置いたわよ」

 

ボクがルーシーさんの家に来たとき、荷物の多さに絶句するしかなかった。

 

回復ポーションは回復魔法がないボクには必須、魔法使いとして魔力は大事だから魔力ポーションも必須、だから量の多さには目を瞑るとして、この山積みになった本は流石にないとボクは思う。

 

「これはあたしからの餞別、魔法書よ。魔法使う上で結構大事なのよ」

「いや、そうですが流石にこの量は持てないですよ!」

 

ルーシーさんはこれも譲らない。

これは譲歩して欲しい所なんだけどな…

 

と思っているところに助け船が現れた。

 

「…ルーシー、その量は多すぎるだろ。せめて2、3冊程度にしとけ」

「えー、でも…」

「それにお前も見ただろ。俺が目の前で見せただけで詠唱を完全に覚え、それだけでなく、自力で俺とは全く別の詠唱をし、魔法を発動させたんだ」

 

そこまで言われてルーシーさんは納得し、魔法書を2、3冊残して残りを棚に戻した。

 

荷物減った!ありがとう、メルガ!

 

ボクは残った魔法書をパラパラとめくってみると、読める読める。

ルーシーさんのスパルタ特訓のお陰で何て書いてあるのかがよくわかる。

ルーシーさん、感謝!

 

ルーシーさんが書いた本を読ませるための口実でなかったらもっと感謝してたけどね。

 

「それに、アユムちゃんには他にも武器に変身する『魔筒』があるもの。確かに要らないかもね」

「その腰に差してあるやつか?」

 

それを知らないメルガがボクを…正確にはボクの腰に差してある魔筒を見た。

旅をしてるから何か知っていてもおかしくない。

 

「コレ、どんな物か知ってる?」

 

メルガは考え込み、首を横に振る。

 

「…いや、知らないな。聞いたことも無い」

 

この武器(?)についても手がかり無し。

本当に魔法の勇者って未知の存在なんだな。

 

「それから、これ着てみて。あたしからの餞別よ」

 

そう言って袋の中から取り出したのは男っぽい服とマントだった。

見ると装備品としてのステータスが目の前に表示された。

 

旅人の服

守備 10

魔法耐性 3

付与効果 なし

 

魔法のマント

守備 7

魔法耐性 15

付与効果 攻撃魔力UP

 

「手配書があったんだけど、そこにはしっかり女って書いてあったから男っぽい感じだったらバレにくいんじゃないかしら?」

「それからこれも身に付けておけ」

 

メルガからは胸当てを投げ渡された。

 

鋼の胸当て

守備 25

魔法耐性 なし

付与効果 なし

 

「えっ、これ高くなかった?」

「まあ、そこそこしたが問題無いくらいだ」

「いくらくらい?」

「餞別だと思って受け取れ。金は要らない」

「そうよ。餞別なんだから遠慮しない。貴女のために用意したんだから」

 

2人ともここまで言われるとボクが物凄く断りずらい。

完全に強制してる気がする

…ここは引いてありがたく受け取った方がいいかも?

 

「では、ありがたくいただきます」

 

 

 

 

受け取って着替えてみたんだけど、この服、着心地いい。

マントの刺繍も綺麗だし。

確か元康が魔法使いは守備力が低いって言ってたけど胸当てがあるから心強い。

 

初見は無愛想な人だと思ったけど結構いい人かも。

 

「準備はいいか?」

「いいよ」

「…お前、本当に女か?本当は男だったんじゃ…」

 

次の瞬間、気づいたら目の前にいたメルガが消え、拳を握ったてが出ていた。

 

「メルガ?いくらアユムちゃんが男の子と間違われることに慣れてるといっても流石に怒るわよ」

 

ああ、ボクはメルガを殴ったのか。

それにしてもボクの手に殴った感覚が無かったような…

 

「ったく…危ないだろ」

「あ、そこにいたんだ」

 

メルガはしゃがんでボクの突きを回避していた。

 

「今の発言は悪かったが、何も顔面目掛けて殴ることないだろ」

 

ごめんなさいね?

何か無意識に突きを放ったみたい。

 

「アユムちゃんも、今度から手が先に出ないようにしてね?」

「…はぁい」

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、行くぞ」

「あれ、メルガも行くの?」

「見てわからないか?」

 

ルーシーさんの家を出ると、メルガが武器と袋を背負って立っていた。

どう見てもメルガも外に出るようにしか見えない。

 

「帰るときにどのくらい戦えるかは見た。大体大丈夫だとは思うが一応は付いていくつもりだ。俺は他にも用事があるから精々数日位しか付いていくことは出来ないがな」

 

そこまで言うとボクに背を向けて歩き出してしまい、ボクは慌てて追いかけた。

メルガの一歩が大きく早いため、付いていくのが大変だった。

どっちがどっちの旅に付いていくのかというのが逆転しているように感じるけど…

 

 

 

 

「さて、お前はどちらに進む?」

「え?」

 

リユートを出ていきなり進路を聞かれボクは戸惑った。

 

「言っただろう、付いていくと。これはお前の旅だ。お前が進路を決めろ」

 

あ、そっか、メルガは付いてくるだけだった。

何かボクの前をずんずんと歩いて、ボクは付いていくだけだったからこれが自分の旅で在ったことをすっかり忘れてた。

 

「んー…。とりあえずあっちの方に行きたいかな」

 

ボクが指差したのはボクが脱走してきたメルロマルクとは反対方向だった。

その先には森、遠くには小さな山が見えている。

 

「…お前は地図を見たのか?」

「へ?なんで」

「旅で欠かせないのは武器、食料、そして水だ。最低限これがあれば生きていける」

 

成る程、旅の必要な最低限のものか。

で?この三つが地図とどう関係が?

 

「お前、頭いいのか悪いのかわからないな…」

 

メルガにため息を吐かれた。

はっきり悪いって言われると腹立つけど、あんな感じに曖昧に言われても腹立つな。

さっきから思ってたけど何気に失礼なことを言うな。

 

「武器が無くとも食料があれば生きられる。食料が無くとも水があれば生きられる。旅に一番大切なものは水なんだ」

「あっ、そっか!」

 

聞いたことある。

食べ物だけで生きることと水だけで生きることで比べると水だけの方が長く生きられるって。

 

つまり、水を確保するために川沿いに進む方がいい。

 

そして地図を取り出して川を見つけ、その方向を指差した。

その方向は先程指差した方向から約45度左で、やはりその先には森があり、山があった。

 

「そうだ、ようやくわかったか」

 

そしてその方向へとまた歩き出す。

…ってちょっと!歩くの本当、速いって!

 

 

 

 

それから村を出て一時間、ボク達は森の中にいる。

ちなみに猛ダッシュして。

 

「どーしてこうなったのぉ!」

「お前が警戒せずに歩いてモンスターの群れに遭遇したからだろう…」

 

そう、ボクが歩いて森の中の開けた場所に出たらレッドバルーンの群れに鉢合わせしてしまったのだ。

バルーン系は好戦的、さらに何十匹もいるということもあって、2人では捌ききれないということで撤退の真っ最中なのだ。

 

しかしこれらを巻ける気配はない。

 

「ああ、もう!」

「何する気だ?」

 

やけになって立ち止まり、詠唱を始める。

たった今脳裏に浮かんだ魔法詠唱を。

 

『力の根源たる魔法の勇者が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者達を風と木葉で散らせ』

「ファスト・リーフハリケーン!」

 

するとどこからともなくそよ風が吹き、徐々に強くなってくる。

風はやがて強風となり、更には暴風となる。

レッドバルーンが吹き飛ばされ、木に当たって割れ、木葉が舞い、刃となってレッドバルーンに当たってまた割れる。

 

暴風が止んだときにはもうレッドバルーンの姿は1つもなく、あったのは赤い割れた風船と散らばった木葉、そして葉が減った木だけであった。

 

「…この難は逃れたが、次はこうならないようにな」

「わかってる…」

 

メルガが言うことの意味は2つある。

1つ目はもっと周りを警戒する事。

そもそもこれがなかったらレッドバルーンに追いかけられる羽目にはならなかったからだ。

 

2つ目は広範囲に及ぶ魔法を自重する事。

大分慣れたとは言え、まだやり始めた魔法なのだからコントロールが全て利くわけではない。

今回は運が良かったが、少し間違えると味方であるメルガにまで被害が及ぶ。

 

その事をメルガは言ったのだろうとボクは頷く。

 

「しかし、お前の魔法はファストなのに威力がありすぎだな。ルーシーに聞いた威力より大きいぞ?ドライファ並みではないか?」

 

そもそもどのくらいの基準でファストなのかわからないボクは頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。

 

とりあえず聞いてみると、個人差はあるらしいが、さっきの魔法で言うとファストは精々突風程度、ツヴァイトだと強力となるらしい。

 

魔法の強さはまだ上があるらしく、ドライファだとさっきのように暴風となるらしい。

 

「やはり、魔法の勇者とだけあって魔法は強力なんだろうな」

 

そしてボクらはまた森の中、足を動かし始めた。




やっと出発しました!
次回、戦闘シーンが出てくると思いますが、は今までちゃんとしたのは書いたことがないのでいろいろ説明が足りなくなるかもです。

ちなみに魔法の規模は作者の想像です。


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お忍び

活動報告を見た方もいると思うのですが、もう一度、

『申し訳ありませんでしたァ!』( ノ;_ _)ノ

それでは、半年(七ヶ月)ぶりの投稿、どうぞ。


「ここがアード村だ」

「へぇー」

 

ボク等は今、アード村という村へ来ている。

ん?指名手配の件はどうしたって?

もちろんあの時のままだよ。

今はお忍び……というべきなのかな…?

まあ、フード被って歩いてるからまじまじと見られない限り大丈夫だろうね。……大丈夫だよね?

逆に怪しまれたりとかありそうなんだけど。

 

ずっとやな予感がするんだけどな…

 

 

…と思ったけどそんな心配は杞憂だったらしく、皆気づかず素通りしていく。

 

まあ、そんな通る人いちいち見ることなんて普通はしないからね。

ボクを躍起になって探している国の兵士以外は。

 

幸運だったのはその兵士たちが割りとサボり気味であることだ。

 

追われる立場のボクが言うのも何だけどさ、国の安全のために巡回ちゃんとやれ!とは思う。

 

別にここで暴れようとは思ってないけどさ。

一応犯罪者が国から脱走したんだよ?それって不味いと思わない?

住民、不安になるよね?

 

ああだとちょっと国が心配になるよ。

国のトップがあんなんだから行く末まで心配なんだけど。

 

まあ、お陰で簡単に村に入れたからいいよね。

 

 

 

そんなことより、ちなみになんでこんな所に来ているのかというと、

 

「ここでモンスターの素材を売るんだ」

 

これからこの世界で生きる上で町や村などに行く機会があるだろう。

しかし、ボクは冒険者としての町の利用の仕方を知らない。

 

この世界の常識を知っていないと逃亡生活などをする以前にこの世界で生きて行けない。

 

だからメルガに教えてもらっているのだ。

 

「へい、いらっしゃい!」

「これを売ってくれ」

 

そう言って出したのはつい昨日倒したバルーン系とかウサピルとかその他諸々の残骸だ。

 

「あいよ。このくらいなら銅貨80位だな」

「そうか」

 

メルガは売ったお金を受けとるとそのままボクに渡してきた。

 

「お前の金だ」

「メルガの分は?」

「俺はいい。これはお前が倒した魔物を売って手にいれた金だ。お前が受け取れ」

「はあ……」

 

半ばメルガに押し付けられるように銅貨の入った袋を受け取った。

 

……ま、いっか。

多分これ以上言っても無駄だと感じたため、銅貨入りの袋を受け取り 腰のポーチにしまった。

 

このポーチ凄いよ。

あんなパンパンな銅貨入り袋の他にも色々(薬草とか魔物の素材とか)入れてるのにまだまだ入りそう。

 

「ところでそこの坊っちゃん、どっかで見たことねえか?」

「へっ?き、気のせいですよ」

 

あれっ、勘づかれたッ!?

フード被って見られないようにしてたのに?

 

「…かもな」

 

ふー。

ビックリしたぁ。

案外あっさり引き下がってくれたから良かったけど、そうじゃなかったらどうしようかと思ったよ。

 

まさかこんなところで気絶させるわけにもいかないし。

 

姿変える魔法でもあったら便利だけどきっとないだろうなぁ…。

 

「バレる前にさっさといくぞ」

「うん」

 

考えていても仕方ない、要はバレなきゃいいんだ。

バレる前に消える、バレそうだったらうまく誤魔化す。

 

今晩誤魔化し方、考えとかないと。

逃亡生活、想像してたより大変だ。

 

にしても、『坊っちゃん』ってちょっと複雑。

確かに目を欺くために男の格好してるけど…一応ボク、女だよ?

 

 

 

さてお次は必要な物資を買いそろえる。

まずは回復ポーション。

回復の魔法でも使えれば良かったんだけど一切使えないらしいからね。

 

…なんでだろ。

あれかな、魔法使いは攻撃魔法だけ、僧侶が回復魔法のみって言うやつ?

賢者なら両方とも使えるからあれいいよね。

 

って今はそんなことじゃなくって回復ポーションだ。

そういえば昨日倒した中に目利きのスキルがあったから試してみよ。

 

…思ったより質は良いわけではないみたい。

ほとんどの品質が『少し悪い』くらい。

良くても『少し良い』くらいで…ビミョー。

 

でもまあ店で売るならこんなものなのかな。

と思っていると…

 

「何だこれは」

 

メルガが顔を歪めて店主に詰め寄った。

 

「何のことでしょう?」

「こんな品質でよくその値段で売ろうと思うな。どう見ても正当な値段より高いじゃないか」

 

あ、メルガも鑑定出来るんだ…ってあれ正当じゃなかったの!?

 

「…お客様、値下げも冷やかしもお断りしております。お引き取り下さい」

「上手く色で品質を誤魔化しているみたいだがこんなもの、精々軽い擦り傷までしか治せん」

 

品質って色でわかるものなんだ。

良いものだと濃いとか?

 

因みに『良い』ポーションはどのくらいの効果があるのかと後に聞いたところ、『少し深い傷ならすぐに治る』とのこと。

 

「ですから、お引き取り下さいと言っていますよね?」

「…こんな見た目を詐称したものなどいらん。行くぞ」

 

あれ、出てっちゃった…そしたらポーションどうすればいいの?

 

「話は聞きました。詐称した商品を売るとは見過ごせない悪です!」

 

 

脳裏に弓を持った癖毛の少年が浮かぶ。

……この声って、あの人だよね?

何でここいるの?

 

もう振り向いたらアウトだよ、というか逃げるとこないから詰んでない?

 

「そこの貴方、まだその商品を買っていませんよね?先程の方が言った通り確かに詐称されたものです。ああよかった、もう少しで騙されるところでしたがもう大丈夫ですよ」

 

いやいやいや、大丈夫じゃないから!

確かに買いそうになったけどね?

詐欺も危なかったけどそれよりボクのこの後のことがすごく危ないからっ!

 

「おい貴様、イツキ様が危ないところを助けてくださったのだ。この御方に感謝しろ!」

 

いや、メルガが言ってくれたから買わなかっただけで助けてもらったなんて思ってないよ。

 

取り敢えず言わないと解放させてくれないよね?

でも言ったら言ったでバレて袋叩きじゃない、これ?

 

「何やっているんだ?」

 

やっときたあ!

 

「早く来い。ここには用はない。別のところで買うぞ」

「ええ、そうした方が賢明ですね」

 

何故か樹が話に乗ってくる。

とここで、

 

「あああ!」

 

今度は何だ!?

 

と思っているとさっきのモンスターの残骸を売ってくれた人がボクを指差して…この反応、どう見てもバレてるよね!?

 

「コイツ、手配書の奴じゃねえか!」

 

そうだよね!そりゃバレるよね!フードで隠してるだけだもん!

 

「…ちょっと失礼します」

「あっ…」

 

顔が露になる。

そして樹たちは顔を険しくする。

 

そのうち騒ぎが大きくなり、兵士も大慌てでやって来る。

 

「…歩夢さん、あの時はまんまと逃げられてしまいましたが今度こそは!お縄についてもらいますよ!」

「遠慮します!」

 

はい、村来た時に言ったあのフラグ、回収しました!

最悪だ!



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