転生先はファンタジーではなく、宇宙最強でした! (リーグロード)
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プロローグ

小説家になろうでも投稿しています。
是非とも続きが見たいという方達は、このサイトとなろうで過大評価をしてくれることを願います。


 俺は何ということのないただの一般人である。特徴を一つ上げるとするならば、普通の人よりもオタクだということだ。

 少年が飛び上がる週間雑誌は毎週欠かさず買っている。好きなアニメのキャラのフィギュアは買って部屋に飾りつけているし、本棚には入りきらない程の小説と漫画が詰まっている。

 

 そんな俺は、今日も今日とてコンビニでお気に入りの雑誌を買って、家へと帰宅を急ぐのであった。

 先週の漫画の続きが気になって、帰り道の途中で見ようとカバンの中に入れた雑誌に手を伸ばしかけるも、雑誌を読む際の最高のアイテムであるポテチ&コーラが家で待っていると思うと、伸ばした手を引っ込めて早足で家へと帰るのだった。

 

 そして、その伸ばした手を引っ込めた事に後悔することになるとは、この時は夢にも思わなかった。

 

「あれ?なんかおかしいな?」

 

 俺は今現在一軒家の一人暮らしをしている。それなのに家の中から人の気配を感じる気がするのだ。

 玄関の鍵は掛かっている。家の中から物音もしていない。だが、何故か誰かいるという気配を感じてしまうのだ。

 

「はぁ、まいったなこりゃ、仕事疲れでおかしくなっちまったか?」

 

「やばいなぁ」っと1人ごちりながら我が家の玄関の鍵を開け、薄暗い廊下の電気をつけてリビングの部屋の扉を開ける。

 当然部屋の中も真っ暗でよく見えないが、長年住んでいた我が家なのだ。どこに電気をつけるスイッチがあるのかは熟知している。

 手慣れた動作で、壁に設置されているスイッチをONにする。

 

「さてさて、一日の終わりのご褒美タイムに…、ってなんじゃこりゃ!!!」

 

 電気をつけてまさかのビックリ!リビングの部屋に飾られていたフィギュアの棚が滅茶苦茶に荒らされていた。具体的には部屋の端に備え付けられていた棚に置かれていた埃一つついていなかった数多くのフィギュアが、今や床の上に乱雑なまでに落とされているのだ。

 他にも荒らされている場所もあるが、そんな所よりも、俺の宝を飾られている棚が無茶苦茶になっていることの方が重大だ。

 

 まさに、天国から地獄と言えるだろう。ウキウキ気分で家に帰ると、部屋の中が泥棒に荒らされていたのだ。

 許せるか?否である。我が人生の大半をアニメやゲームに捧げ、俺の心を射止めたキャラのフィギュアを見つけては、金に糸目を付けず週一の細かな手入れすら怠らなかった我が宝が、ここまで無惨な姿に貶められたのだ。

 必ずや、必ずやこの大罪を犯せし悪徳犯罪者を警察に突き出す前に、我が正義の鉄拳を5~6発は喰らわせなければ気が済まない。

 怒りに震えるこの拳と脳が、今の俺から冷静さを失わせ、代わりに人間が元々持っている本能と呼べるものが、二階で僅かに起きた音を拾い上げた。

 本来ならば、すぐさま警察に連絡をして、お巡りさんを連れてくるべきなのだろうが、怒りによって冷静さを失った俺は憎き怨敵に正義と怒りの鉄拳を喰らわすべく、何の躊躇もなく二階への階段に足を踏み出した。

 

「冷静さを欠いてここまで来たことに後悔はないが、せめて武器のひとつも持ってくるべきだったか?」

 

 しかし、もう後には引けない。ここの先に俺の宝である秘蔵のフィギュアを滅茶苦茶にした薄汚い犯罪者が潜伏しているのだ。

 覚悟を決めて二階の階段を登り切った瞬間に、コトッと寝室の方から小さな音が聞こえた。

 

 さっき確かに聞こえた寝室からの物音に日常からかけ離れた緊張が全身を駆け巡る。

 喉が異常なほどに渇くのが分かる。これから行う行為に心の底で恐怖しているからなのだろう。

 

「迷うな!許すな!怖じ気づくな!俺は絶対に犯人を叩きのめす!」

 

 自分に言い聞かせるように、寝室のドアを勢い良く開ける。

 それと同時に、暗闇から人影が突如として襲いかかってきた。

 

「「うおおおぉぉぉぉ!!!」」

 

 俺は襲われたことに悲鳴を上げ、泥棒は威嚇するように雄たけびを上げた。

 当然、俺はこの事態をある程度予測できていたため、右手に持っていたカバンで泥棒からの攻撃をガードすることができた。

 

「そらやっぱり、ドア開けた瞬間に襲いかかってくるとかテンプレすぎるんだよ!」

 

「グエェッ!」

 

 そのまま胴がガラ空きになった所に回し蹴りを叩き込む。うまく鳩尾部分に当たったのだろう。泥棒野郎は息を思いっきり吐き出す。

 床に大量の唾液を落としながら、数歩後ろに下がる。その際に、こちらを悪鬼のような目でにらみつけてくる。

 

「くそが!大して価値のある物もないくせに、この俺が何でこんな目に合わなきゃならないんだよ」

 

 忌々しげに呟いたその一言に、俺は頭の血管が吹き飛びそうな感覚に陥りながら、目の前のクソ野郎に飛び掛かった。

 俺のいきなりの行動に驚いて対処できなかった泥棒は、そのまま床に押し倒され馬乗りにされる。

 

「何でこんな目に合わなきゃならないだ?そんなら教えてやるよ!それはお前が俺の宝をぶっ壊したからなんだよ!!!」

 

「ウゲェ!」

 

 声を荒げながら、俺が馬乗りにしている野郎の右頬を握りしめた拳で思いっきりぶん殴る。肉と骨の感触がとても強く感じた。

 こうやって本気で人を殴りつけたのは、小学生の頃にマジギレして同級生を殴り合った時以来だ。

 

「このクソオタクが!気持ち悪いもん集めやがって、趣味が悪いんだよ」

 

 殴られたことにキレたのだろう。手足をバタつかせながら必死に抜け出そうと俺を罵りながら暴れる。

 当然、俺もそんなことはさせまいと全体重をかけて抑え込む。

 それにしても、こいつはどれだけ俺を怒らせば気が済むのだろうか?もう、今のコイツに可哀想なんて一般的な道徳は湧きはしない。

 

 必死に暴れるコイツの顔にさらに数発拳を叩き込む。殴りつけた拳が痛む。恐らく拳の皮がめくれたのだろう。

 けれど、それよりもこの泥棒の顔の方がもっとダメージが酷いだろう。殴るたびに口から血が飛び出す。

 

「オラ!オラ!オラ!お前が、趣味が悪いと言ったアレは、俺の大切な宝だったんだ!」

 

「この!調子に乗りやがって!!!」

 

 怒り任せの拳が何発も泥棒の顔に叩き込んでいると、脇腹辺りに異様な違和感が沸き起こる。

 恐る恐る脇腹の方に目を向けると、暗闇でも鈍く光るナイフが深く俺の体に刺さり込んでいた。

 その光景を目にした瞬間に、違和感が痛みへと変わっていった。

 

「う…、ぐああああ!!!い、痛い、痛い、痛い!!!」

 

 転げまわりそうな痛みが遅れて全身を駆け巡る。それでも、体は泥棒の上から動かないように、必死に歯を食いしばって耐え抜いてみせる。

 

「こいつで終わりだよ!このクソオタク野郎が!」

 

 俺の脇腹に刺さったナイフを掴み取り、抜くのではなく傷口を広げるために横に切り払った。

 更に強烈な痛みと傷口から火傷でもしたのではないかと思えるほどの熱さが襲い掛かる。

 これは不味いな。傷口からドクドクと溢れ流れるように、真っ赤な血液が床を染め上げていく。

 

 痛みと熱さが傷口の辺りを絶え間なく襲い続ける。その反面に、体から血液が流れ過ぎたのせいなのか、それ以外の部分が吹雪に当てられたように、途轍もない寒さが襲う。

 

「はっはっ…、あ~あ~やっちまったな。これで窃盗罪に加えて殺人罪もやっちまったな」

 

 ヘラヘラと笑いながら、いや、開き直ったこの男に鼬の最後っ屁にと、もう余り力の入らない腕を無理矢理に持ち上げて、拳を振り上げる。

 

「へ?」

 

 もう終わったと油断した男は、俺の行動に素っ頓狂な声を上げる。

 そして、俺はそのままアホ面晒した顔に本気の下段突き打ち込んでやった。俺の拳は奴の顔面をぶっ壊した。

 歯は折れて吹き飛び、鼻は恐らく折れ曲がったのだろう。ほんの一瞬遅れて、口と鼻から俺と同じ真っ赤な血が吹き出し、俺の拳と顔に降り注ぐ。

 

 拳をどかして男の顔を見ると、白目を向いて気絶していた。それを確認した俺は安心したと同時に、眠るように目を閉じて倒れ込む。

 ぼんやりとした意識が混濁して薄れていく。俺の怒りを全てぶつけられたからなのだろうか?これから死ぬかもしれないというのに、ひどく満足した気分だった。

 怖い筈なのに、恐ろしい筈なのに、こんなつまらないことで死んでしまうことに後悔すべきはずなのに、俺は何か偉業を成し遂げた英雄のように、誇らしい気分に浸っている。

 

 もう体からは痛みも熱さも寒さも感じることはなかった。透明な水の中に沈み込んだように、不思議な感覚だけが支配していた。

 手も足も口すらも動きはしない。考える思考はまだ存在するが、それがいつ途切れるか分からない。

 後悔は何もない…、ああ!!!しまった!?まだあの漫画の続きを見ていない。

 さっそく思い出してみると、後悔することはあった。あの漫画は行儀が悪くても帰りながら読めば良かったな。

 後悔の念を吐き出しながら、いつまでも続くこの奇妙な感覚に浸り込んでいる。

 

 もうどれだけこの奇妙な感覚に浸り込んでいたのだろうか?このままずっとというのならば、本当に死ぬよりも先に精神が逝ってしまうだろう。

 あがくように手足を動かそうと試みるも、感覚がないのだ。まるで変わらない現状に嫌気がさしてきた。

 口も動かすこともできないから叫ぶことすらできない。

 もしかして、俺はもう完全に死んでしまったのだろうか?他の死んだ人もこんな奇妙な感覚を味わい続けているのかもしれない。

 

 何もできずに、考えることしかできないのならば、せめて面白いことを考えよう。

 そうだ、俺は死んだのならばラノベみたいに転生することを考えよう。いや、二次創作みたいに俺が読めなかった漫画の世界に転生したいな。

 そんでもって、完結まで主人公の隣に立って戦い続けていたいな。

 

 俺の願望をひたすらに垂れ流しながら、ずっと主人公となって無双する自分をイメージしながら暇をつぶしていると、少しだが、ほんの少し程度だが、手足の感覚が戻ったような気がした。

 試しに動かしてみようと意識を向けると、やはり先ほどまでと変わらず手足が動く気配は全く無かった。

 

 それからも、ず~っと長い間考え事をし続けていた。主人公となった自分や、俺が続きが読めなったあの漫画の主人公と敵対した自分など、様々な自分を考え続けた。

 途中で飽きて何も考えなかった時間もあったが、それでも静寂の寂しさに耐え切れず考えつくした最強の自分をイメージし続けた。

 

 目の前には敵と呼べる者は存在せず、あらゆる不条理も己の理不尽とも呼べる強さではじき返していく。

 そんな強さばかりを持った自分の姿ばかりを想像していると、気のせいだと思っていた手足の感覚が戻ってきた。動かそうと思えば、ほんの僅かに動かせるようになった。

 もしかしたら、俺はまだ死んでいなくてずっと長い夢を見続けていたのだろうか?

 実は、今俺の体は病院のベッドで眠っていて、少しづつ回復に向かっているのだろう。ということで、そのまま意識がはっきりと回復して目覚めるまでもう少しこのまま待とうという結論に達した。

 

 

 そして、俺がこの奇妙な感覚から抜け出し、目が覚めて驚くことになるだろう。自分が一体どうなってしまったのか?これからの人生が今までのものとまるで違うものになりかわってしまうことに。

 これが、宇宙最強の種族の頂点に君臨するガルド・マルク・ギルストファーの前世の話であった。

 



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宇宙最強の誕生

 ずっと暗い世界で暇をつぶすために、いくつもの作品を頭の中で作り上げた。その作品は全て自分を主人公にした最強系の物ばかりだ。

 そんな生活?と呼ばれるものをずっと続けていると、少ししか動かなかった手足がようやく動いたと実感できるほど動かすことができた。

 それで分かった事がある。俺はどうやら何かの容器?かな、それも液体の入った楕円形の何かにだ。その中に俺は入れられているんだと思う。

 

 恐らくだが、俺はもう刺されたあの瞬間に死んだんだと思う。多分これが輪廻転生というものだろう。

 自分の身体なのだ、どうなっているのかは自分が一番よくわかっている。俺の体は回復していっているんではない。成長していっているんだ。それも、赤子のように凄まじいスピードでだ。

 手足が動かなかったのではない。満足に手足が作られていなかっただけなんだ。そう理解した瞬間に、俺は死んだと自覚することができた。

 っていうか、よく考えると分かることだった。あれだけ血が出ていたのだ。すぐにでも救急車に運ばれて病院に搬送されなければ助からないだろう。

 では、誰が救急車を呼ぶ?俺は今一人暮らしだぞ。近くにいるのは俺を殺した犯人だ。

 まあ、万が一あいつが目を覚まして改心して俺を助けたという可能性も無きにしも非ずだが、もしあいつに俺が助けられたというのならば、俺は目が覚めて満足に体が動けるようになったら迷わず舌を噛み切って自殺するね。

 

 さて、くだらない事を考えた。俺はこのまま体が満足に成長しきるまで、今まで通りの生活?を続けることにしよう。

 それにしても、眠れないことは辛い。どれだけ経とうと、睡眠欲といった眠気が訪れないのだから。これじゃあ、少し前に流行った10億年ボタンみたいなものだな。

 これはマジで笑えないぞ!死んでからかなり経つが、もうそろそろ精神がガチでやばくなってきている。具体的には独り言が多くなってきたし、頭の中で作り続けていた作品がなんか単調すぎるものばかりになってきた。

 いや、これはただ単に文才がないだけなのか?

 とにかく、早く成長して外に出なければ完全に俺の精神に異常が起きる。

 

 そう強く思っても、時間の流れる速度は変わらない。眠ることもないから心が死なないように、常に他のことを考える隙間ができないくらい脳内妄想に励んでいた。

 来る日も来る日も?そんな変わらない生活?を続けていても、やがて限界は訪れる。

 

 もう精神崩壊に至りそうだ。この暗闇の世界はいつまで続くんだ?成長を感じることはできるが、その終わりが見えてこない。

 

(何故この俺様がこのような不条理を受け入れ続けていかねばならない?)

 

 少しずつ、ほんの少しずつだが、体と共に精神も変化が起き始めていた。

 

(俺は世界最強の男だ。その俺が苦しんでいる?ふざけるな!)

 

 摩耗した精神は、その擦り切れた部分を他の物で埋めようとした。

 

(どんな奴が相手でも、どんな事態が起ころうとも、俺はこの身一つで全て切り抜けられる)

 

 今まで考え続けてきた最強の自分の姿。それが、崩壊寸前の精神をずっと支え続けていた根源だ。その姿は己の憧れ、目標、理想、願望ともいえるだろう。

 ならば、俺の精神がその姿と同一になっていくのは自然の事と言えよう。

 

 そうやって、俺の精神は完全に元の俺から小説の主人公である俺へと変化していた。もはや、慎み深い日本人の精神や道徳は消え失せたと言っていいだろう。

 ただ強さのみを追い求める戦闘狂であり、強者と闘うことを喜びとする武人となっている。他者から見ればただの痛い中二病患者だろうが、俺のこれはそんな心の病ではないと断言できる。

 恐らくだが、俺の精神が転生した肉体に引っ張られているのだろう。俺の精神が変化したのも、転生した肉体に前世の精神が適合していなかったというのも大きな理由だろうな。

 

 この暗闇の世界で、気の遠くなる時間をかけて肉体と精神のズレが無くなり、完全に成長しきったからだろう。何の音もなかった世界に一つの音が鳴り響いた。

 

 ドクン…

 

 何かが動いた…、

 

 ドクン!ドクン!

 

 心臓の音だ。心臓の動く勢いが次第に強く大きくなっていく。心音が響くたびに、体のあちこちが動き出したいと訴えてきているように感じる。

 試しに右腕を前に動かしてみる。すると、ずっと動かなかった腕が前に動き、ブヨッっとした感触が伝わってきた。

 この感触を例えるなら、巨大な解体した肉を触っているって感じだな。今度は腕をもっと強く前に押してみると、今度は固い物にぶつかった。

 これも、例えるなら卵の殻に似た感触だな。結果、どうやら俺は胎生動物ではなく、卵生動物というのが確定した。

 この時点でもう人間ではないのがはっきりしたな。転生して卵となればモンスターで決まりだな。その上で、この俺にふさわしいモンスターともなれば、史上最強の生物として認識されているドラゴンしかないだろう。

 

 そう考えると、一刻も早くこの卵の殻をたたき割って外へ出たくなってきた。

 その思いに応えるように、俺の心臓が更に大きく激しい音を立てて体を熱くしていく。

 

 その事実に、長い間閉じて動かなかった口がゆっくりと笑みを浮かべて開きだす。ゴポポポッ!っと口の中にあった空気が俺の全身を包んでいる液体を押しのけ、上に浮いていく音が耳に入る。

 同じように、瞼が開き目に液体が入り込んできた。腕が動き出し、肉と殻を叩き壊そうと力が入る。

 長い間動いていなかったはずの腕だが、力を籠めれば何でも壊せそうだと思えるほどのパワーが感じられる。

 それは間違えではなく、肉は押しのけられ、殻は音を立てて壊れ始める予兆を見せ始める。

 

「ゴポポポッ!(砕けろ!)」

 

 液体の中なので上手く言葉を喋れなかったが、その言葉に従うように卵の殻は一気に崩壊し、その穴から中に詰まっていた液体が外へ流れ出てゆき、眩しい光が差し込んで俺を照らし出した。

 そこから見える景色は、辺り一帯を生い茂る森…ではなく、何やら複雑な機械が置かれた部屋であり、どこからどう見てもファンタジー成分が感じられない。

 

 俺は、破壊してできた穴から差し込んだ光から、俺の右腕をじっと見つめる。その腕は俺が想像するドラゴンのものではなく、さりとて人間の腕とも違った色と形をしていた。

 

 色は赤色で、白い骨?と言えるような固いものが腕を覆うように生えており、指先は紫がかっており、指の関節部分には宝石のような丸っこいものが付いていた。

 体の方も見てみると、胸のあたりには正五角形の形をした透明な紫がかった宝石のようなものがはめ込まれており、その正五角形の5つの角から腕や足や背中に絡みあうように、同じ色合いの管のようなものが伸びている。

 顔は分からないが、体全体を見た感じだと姿形は人間にそっくりで、所々に宝石のようなものがはめ込まれており、その中には恐らく血の変わりであろう液体が入っている。

 完全に普通の生き物ではない。何というかあまりにも人の手が加わったと思える体だった。

 

 このことを踏まえるに、俺はもしかして謎の組織から改造手術でも施されたのではないだろうか?

 まあ、だとしてもそいつらが俺を利用しようとしているのならば、容赦なく叩き潰す気ではいるのだがな。

 

 自分の今世での姿を確認し終わると、さっさとこの卵のような訳の分からないものから出るとしよう。その際に気づいたのだが、どうやら俺のお尻の上辺りに細長い尻尾みたいなのが生えているのだ。

 

 ウィィーン

 

 俺が卵から出た瞬間に、この部屋唯一のドアがタイミングを見計らったように開かれた。その開かれたドアの先にいたのは、人間ではなく、さりとて俺のような姿をしているわけでもなかった。

 例えるなら、ナメクジが無理矢理人間の姿になったような生き物がいる。そう答えるのがよさそうな謎の生命体がそこには立っていた。

 

「おお!計器に異常な反応が示していたから、まさかとは思いましたが!?」

 

 何やら目の前の謎の生命体は、俺が生まれたことに驚愕しているようだ。これは本来俺が産まれる事がないからだろうか?それとも、想定よりも早く産まれたからなのか?考えても予想の範疇を出ない。

 とりあえず、こいつの言葉が分かるということは、俺の言葉も通じるということだろう。

 

「おい!そこのお前、ここはどこだ?」

 

「なあ!?産まれてそうそうでもう言語を理解できるとは!?」

 

 俺が言葉を発した事に驚愕しているが、そんなことは関係ない。こいつは今この俺の質問を無視した。そのことを俺がいつ許したんだ?

 

 俺は一人ブツブツと何かつぶやいているカタツムリ野郎が着ている藍色の服を掴んで、持ち上げる。

 

「うわぁ!?い、一体何をなさるのですか!!!」

 

「おい貴様!何故この俺の質問を無視しやがった。それをこの俺が許可したか?」

 

 バタバタと手足をバタつかせて必死に逃れようとしているが、俺の腕はそんなちっぽけな抵抗を一切許さぬと言わんばかりに、まったく微動だにしなかった。

 

 これほどの力が以前というか前世では有り得ない。やはり何らかの改造手術もとい遺伝子改造でもされていたか?

 

「お、お許しください!あまりの事態に少々取り乱しました!」

 

「そうか、次はないぞ。では答えてもらおうか。ここはどこだ?それともう一つ、俺は一体何者だ?」

 

「は、はい。ここは貴方様の父上であらせられるゲイル・マルク・ギルストファー様の所有する惑星の一つであらせられる惑星ビレーテでございます。そして、貴方様はこの宇宙の支配者であられるギルストファー一族の頂点に君臨されているゲイル・マルク・ギルストファー様の次男であらせられます」

 

 俺の質問に最後まで答えたことで、俺はようやく掴んでいた手を離すことにした。

 

「そうか、よく答えた。ご苦労だったな」

 

 ゴホゴホと絞められた首をさすりながらせき込んでいる目の前の…こいつの話が本当だとするならば、こいつは宇宙人となるのだろう。

 

 それにしても、えらく壮大な話だな。俺の父親は宇宙を支配しているギルストファー一族とやらの頂点に君臨していて、俺はその男の次男ということだ。

 まるでどこぞの宇宙の帝王様みたいだな。そう思うが、詳細を口に出して言うと何か得体の知れない強力な力に消し去られそうなので口にはしない。

 

 さっきまでせき込んでいた宇宙人は、ようやく息が落ち着いたのか、のどをさすりながら立ち上がる。それと同時に、廊下の奥から複数人の急ぐ足音が聞こえてきた。

 やってきたのは、目の前のコイツと同じ藍色の服を着た集団だった。

 

「カーマン様!一体どうなっているんですか!?」

 

 走ってきた集団の中で頭一つ分デカイ宇宙人が、大声で叫んでいる。

 コイツが先ほど叫んでいたカーマンとやらは目の前にいるコイツの事だろう。

 

「落ち着けお前たち!王子が既にお目覚めであるぞ!」

 

 カーマンの言葉に、先程まで慌てて走ってきた奴らが、多少狼狽えながらも表面上は冷静さを取り戻したかのような振る舞いをする。

 

「申し訳ございません。王子様にカーマン様。少々取り乱しました」

 

 綺麗に90度のお辞儀で謝罪をするデカイ宇宙をチラリと横目で見て、どうでもいいと流す。

 

「ふん、どうでもいいが、随分と俺が産まれた事に驚いているようだが、何か困ったことでもあるのか?」

 

 そう質問すると、ギクッ!と分かりやすいくらい体を跳ね上がらせる。こうなるとよほどの都合の悪いことが起きているのだとバカでも容易く気付く事ができる。

 

「お前たちの態度でよく分かった。どうやらよほどの事態が起こっているようだな」

 

 俺が少しの苛立ちをぶつけると、顔を青くしたカーマンが恐るおそる事情を説明しだした。

 

「え~、実は…、本来であれば王子が生まれるのは後15年後の先のことだったのです。しかし、最近では王子の成長速度がコンピューターのはじき出した予想を大きく上回り、我々の予想をはるかに裏切って産まれたのです!!!!」

 

 全て語ったという雰囲気を出し、カーマンは一気に喋ったために深呼吸を繰り返して行う。

 だが、たかだか成長が早まっただけでここまで大袈裟に驚くだろうか?まあ、俺が王子だというのならばそういう不測の事態は確かに一大事なのだろうが、こいつらの慌てようはまだ何かあると俺の直感が囁いている。

 

「それだけではないだろう?お前たちはまだ俺に何か隠し事をしていることがるはずだ」

 

 先程の慌てた行動はフェイクだったのか、今度の動揺はほんの少しだけ目が泳ぐ程度だった。

 それでも、前世よりも性能が飛躍的アップした俺の目はその動きを見逃さなかった。

 

「お前中々の策士だな。先程の分かり安すぎる動揺で喋っても問題の無い部分を提示し、俺に全て話したと思わせながら、隠したいことをそのまま秘密にする。俺の直感とお前の目がほんの少しでも泳がなかったなら、俺もまんまと騙されていたところだ」

 

「うぐぅっ!」

 

 痛い所を突かれたと言わんばかりの声を出し、すぐさま頭を地面にこすり付けた。

 

「も、も、申し訳ございません。王子を謀るつもりは毛頭ございませんが、この件は極めて繊細かつ重大な案件でして、一研究者程度である私どもめがゲイル・マルク・ギルストファー様の許しも得ずにこの事を話すわけにはいかべぇっ!!!」

 

 カーマンが最後まで言い訳を言い終わる前に、俺は少々頭が潰れないように適度に手加減をして踏み潰す。

 

「黙れ!お前の言い訳など聞く耳を持ちはしない。お前が今生かされているのは、この俺が必要と思える情報をお前が持っているからだ。まあ別に、お前でなくても後ろにいる奴らから聞いても構わんのだがな。この意味がどういう意味かは理解できるよな?」

 

「は…はい、理解できます」

 

「ならば答えろ!もうはぐらかす事は許さんぞ!」

 

 コレが最後の慈悲だと分からせるために、頭が床にめり込む一歩手前まで足に力を入れる。

 

「ぐえぇ!我々が話さずともいずれゲイル・マルク・ギルストファー様から知らされていたでしょうが、お話致します。実はゲイル・マルク・ギルストファー様は近々今の地位を息子であらせられる王子の兄上である長男のデイル・マルク・ギルストファー様に譲り渡す予定だったのです。しかし、先程申し上げたとおり王子はここ最近になって急に成長速度が早くなったのです。その事に興味を抱いたゲイル・マルク・ギルストファー様が、兄上であらせられるデイル・マルク・ギルストファー様への地位の譲り渡しをつい先日ほど前に一時中止にしたのです」

 

 これで全て吐き出したようだな。俺の中の直感を信じてよかった。それにしても、中々にめんどくさい問題が起きているようだな。

 言ってみれば、今の俺は王位継承権を賭けた戦いに放り込まれた状況だ。俺の誕生が予想外だとカーマンが言っていた。ならば、今の俺の勢力と呼べる仲間はいないだろう。

 当然、俺の兄上とやらには大勢の仲間…勢力が大勢いるのだろう。目の前のこいつらも兄上の勢力に組しているかもしれない。

 生身ならば到底問題はないが、宇宙を支配しているということは少なくとも宇宙へ行く科学力はあるということだ。

 決して油断はできないが、いきなり殺されるということはないだろう。だが、色々と覚悟を決めていたほうが良さそうだな。

 

 また廊下の奥から足音が聞こえてきた。今度来たのは研究者共と違って、ジャケットのような戦闘服か?を着ている宇宙人だった。

 察するにコイツは城の兵士の役割だろうか?腰の辺りによくわからん機械を携帯させているあたりこれが武器なのだろう。

 

「やはり、もうお目覚めでしたか王子様!ゲイル・マルク・ギルストファー様がお呼びでございます。至急王室までご同行をお願いします」

 

 ビシッ!と敬礼を決めて挨拶代わりにご同行をとは、随分と礼儀がなっていないな。だが、いきなり父親との面会とは、人間と違って宇宙人は産まれてすぐ自我を持つのは当たり前なのか?

 

「分かった。すぐに行く、早々に案内せよ」

 

「はっ!かしこまりました。では、ご案内致しますのでついてきてくだされ」

 

 床で倒れ伏しているカーマンやそのそばで大丈夫ですか?と声をかけている研究者達を放置して、俺は兵士の後についていった。

 

 

 

 ここまで歩いてきた正直な感想を言おう。凄い!凄すぎる!何が凄いんだって?そんなもん全部に決まっている。

 宙を浮くエレベーターに、空を飛ぶ飛ぶ装置で移動する研究者達に、立体映像装置の数々があった。

 もし、俺が一人ならば子供のように凄いと言いながら駆け出していただろう。これぞまさにSFだな。てっきり転生と言えばファンタジー物だと思っていたのだが、俺はSFの世界に転生したのだ。

 

「王子様、あともう少しすれば王室への直通惑星移動装置に辿り着きます」

 

「そうか、ならばさっさとしろ。俺はあまり気が長くはないんだ」

 

 興奮を隠すように、急かす言葉を投げつけるが、この程度のことで怯んでいたら兵士は務まらんのだろう。少し困ったような顔をしながら、王室へ向かう足を速める。

 

 俺が少し上に視線を向けると、かなり巨大な装置が鎮座していた。おそらく、あれが直通惑星移動装置なんだろう。

 後は目の前に見える階段を上がれば、装置の前に辿り着くはずだった。

 

「おい少し待て!」

 

 その階段の前に、俺とよく似た姿の宇宙人が複数人の宇宙人を従えて立ちふさがっていた。

 

「こ、これはどういうことですかデイル様!?今の我々はゲイル様にお呼び出しを受けている最中でございます。いくら次期王位継承者であらせられるデイル様と言えど、あまり過ぎた行為は父上であらせられるゲイル様にお叱りを受けますぞ!」

 

「なにを言うかバージスト!それが我らが王となられるデイル様に対しての態度なのか!」

 

「よせ!あまり出過ぎた真似はするなハーマンよ」

 

「も、申し訳ございませんでした」

 

 どうやら俺達の目の前に立ちふさがってきたのは俺の兄上のデイル・マルク・ギルストファーのようだ。まあ、俺と姿が似ている時点でおおよその察しはついていたのだがな。

 というか、こいつも俺の兄上というだけあってやはりどこぞの漫画の映画のみに出演するキャラのようだな。

 

 さて、コイツが俺の前に現れたのは何故か?考えられる理由としては、今のところ3つだな。一番可能性の高いのは俺を早めに自らの手で始末しに来たというところか。2番目に考えられるのは俺を何らかの形で買収して味方につけるつもりか。最後に争うつもりはなく、ただの挨拶ということも考えられるが、父親に会う前に来たということはおそらく違うのだろうな。

 

 俺は前に立つバージストの肩を掴んで、強引に後ろに下げさせる。

 

「初めましてだな。兄上と呼んだ方がよいか?」

 

「ああ、初めましてだ我が弟よ。別に呼び方などは好きにしてくれてかまわない。なにせ我々は同じ偉大なる父上の血を引く者だからな」

 

「そうか、なら兄上と呼ばせて貰おう。それで?まさかただ挨拶をするためだけに俺を引き留めたのではないのだろ?」

 

 俺がそう聞くと、なんとも悪そうに小さくニンマリと笑みを浮かべた。

 

「ほう、どうやらどこの誰に聞いたかは知らんが、もう既に自分の立ち位置を聞いたようだな。で、もしただ挨拶するだけとしたらどうする?」

 

「それならこれで話は終わりとなるな」

 

「ふ、ふふふ、ふはははははは!!!そうか、そうくるか!」

 

 どうやら、俺の答えに満足したようで、まさかの大爆笑だ。俺の予想を遥かに上回る反応に少しだけ引きもするが、悪くはない展開だろう。

 

「ふう、ああ久しぶりに大笑いした。そうだな、俺の目的は確かに挨拶だけではない。長くなる前置きなどしてすまなかったな。俺が貴様に会いに来たのはただ一つ、この俺様が確実に父上の後を引き継ぐために貴様を消しに来たのだ」

 

 やはり、一番可能性の高かったのが目的だったようだ。それにしても、コイツはバカなのか?こんな道の前で堂々と、それ以前に俺を父親の前に案内する兵士の前で暴露するなぞ、正気の者がすることとは思えんな。

 

「お待ち下さいませ。そんなことをすればゲイル様がお許しにはなりませぬ!」

 

「いいや、父上は完全なる実力主義者だ。如何に生まれたばかりの弟だろうと、俺に殺されるような者は気にも留めないだろう。だからこそ、余計な関心を持たれる前にこうして俺様自らが殺しに来たのだ」

 

 なるほど。どうやら完全なバカではないようだ。父親の性格を完全に理解して、こうして行動を起こしている。

 ここで全力で逃げて父親に会いに行くという手もあるが、そんな手を使うなど王者ではない。

 

「いいだろう。兄上の目的は分かった。ならばその目的を真っ向から完膚なきまでに叩きのめしてやろう!」

 

「なっ、お待ち下さい王子様!貴方はこれから父上であらせられるゲイル様との面会があるのです。如何に兄上であらせられるデイル様の、それも殺すと宣言した誘いを受けるなど…正気の沙汰ではございません!」

 

 後ろに下げさせたバージストが、俺の前にしゃしゃり出てくるが関係ない。

 俺は少し強めに拳を握り込み、バージストの腹に一撃を喰らわす。

 

「ぐはぁ!!!」

 

「顔も知らない父上のことよりも、目の前にいる兄上を優先するのは当たり前のことだろ?それに、例え無視しても、簡単に見逃してはくれそうにない相手みたいだしな」

 

 俺は膝から崩れ落ちるバージストに優しく諭すように告げる。

 

「さて、どうする?まさかとは思うが、ここで殺り合おうってわけじゃないよな?」

 

「いや、そのつもりだったが、少々予定を変更しよう。まさか、ここまで好意的な返事を貰えるとは思ってもみなかったからな」

 

 兄上は後ろに控えさせていた宇宙人の一人に、クイッと顎で合図を送る。それで察したのか、腕につけている装置を使い何処かに何やら指示を送っている。

 

「デイル様!無事に特殊訓練所の貸切を済ませました。既にゲートは繋げてありますので、どうぞご安心くださいませ!」

 

「そうか、ではついてこい弟よ。貴様に相応しい墓場を用意してやった。そこで存分に殺り合おうとしようか」

 

 俺が兄上の言葉に笑みで返すと、兄上も同じように笑みで返す。だが、この両者が浮かべる笑みは決して微笑ましいものなんぞではない。

 そうそれは、アニメや漫画でよくある悪者同士が浮かべる悪魔のような笑みである。

 

 そして笑みを浮かべたまま、両者は互いに相手を殺す為の死地へと足を進める。それをただ茫然と見ているだけしか出来なかったバージストは、殴られた痛みとはまた違った痛みを腹から感じていた。

 

「クソッ!ええい!すぐさまゲイル様に報告しなければ!おい!ハーマン貴様も一緒に来い!」

 

「はあ!?何で俺も一緒に行かなきゃなんねぇんだ!これはお前が受けた任務だろうが!?」

 

「何を言うか!この問題を起こしたのはお前の主であるデイル様だろう!ならば、付き人であるお前も一緒に報告するのは当たり前だ!!!」

 

 有無を言わせる前に、絶対に逃さんぞ!とあらん限りの力をもって、ハーマンの腕を引っ掴み階段を登って直通惑星移動装置に向かっていく。

 

「そ、それじゃあ俺達はデイル様の護衛があるからハーマンにバージスト頑張れよ!」

 

 此処にとどまっていたら自分たちも巻き添えを喰らうかもしれないと思ったデイルの付き人である名もなき宇宙人達は、自分たち任務を盾にすぐさま離れていった主の後を追っていく。

 

「なあ!?お前ら裏切る気か、戻ってこいこの薄情者どもがぁぁぁ!!!」

 

 哀れハーマンよ。恨むのならば、ネーム持ちキャラとなった自分の運命を憎むのだ。



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