進化の光 フラスコの世界へ (混沌の魔法使い)
しおりを挟む

OG1編
プロローグ


それとGWなのでゲッターロボのOVAを見て衝動的にゲッターロボの作品を書いてみました
正直ロボット物は初めてなので、稚拙認識不足などありますが、広い心で見ていただけると嬉しいです
そして更に感想やアドバイスを貰えるとなお嬉しいです


プロローグ 進化の光 フラスコの世界へ

 

薄暗い靄に包まれた摩天楼の中を我が物顔で闊歩する異様な影。手足が機械の装甲で覆われ、胴体と頭部は恐竜を思わせる強固な鱗と牙を持つ異形の怪物……それはメカザウルスと呼ばれる生物であり、機械と言う異形の兵器の姿だった。ビルを砕き、車を踏み潰し闊歩するメカザウルスの背後から蛇のように伸びる触手のような腕。それは蛇の様にメカザウルスの巨体に巻きつき、尋常ではない力でその巨体を持ち上げる。

 

「大雪山おろしいいいいいいいッ!!!!」

 

生命の気配のない摩天楼に響き渡る青年の叫び。それと共にメカザウルスを締め上げていた腕は高速で回転し、凄まじい嵐を巻き起こす。腕に捕らえられていたメカザウルスは、嵐に巻き込まれ上空へ、上空へと跳ね上げられながら、嵐の中で渦巻く真空の刃で、その手足を引き裂さかれ絶命する。その直後キャタピラの音を響かせ、巨大なロボが摩天楼の間から姿を見せる。戦車のような白い下半身に、赤い胴体、そして黄色の頭部を落ち、触手のような黄色い腕を持つロボ……ゲッター3は即座に機体を反転させ頭部からミサイルを放つ。

 

「ゲッターミサイルッ!!!」

 

「ギギャアアアアア!!!」

 

そのロボから放たれたミサイルは、ビルの屋上から自身を狙っていたメカザウルスを捕らえ爆散させる。その爆風でビルは砕け、横転していた車を吹き飛ばし別のビルへと追突させる。

 

「ギギャアアアアア!!!」

 

だが敵の数はゲッター3に対して圧倒的に多かった。今2体のメカザウルスを屠ったゲッター3だが、即座に上空から降下して来た2体のメカザウルスのミサイルの雨に飲み込まれ爆風の中に消える。

 

「ギャアアア」

 

「グオオオオ」

 

爆発の中に消えたゲッター3の残骸を確認しようとメカザウルスが煙を突っ切り、ゲッター3がいた場所に向かうがそこには巨大な穴が1つ空いているだけだった。ゲッター3の姿がないことに困惑するメカザウルスの足元から何かを砕く音が響き、次の瞬間地面から突き出したドリルがメカザウルスの身体を貫く。アスファルトに穴を空けながら姿を見せたのはゲッター3とは異なる細身の姿。右腕は万力のようなマニュピレーター、左腕はドリルと言う異形の姿をしたロボット……ゲッター3とは似ても似つかない姿だが、このロボットもまたゲッターロボだった。ゲッターロボとは3つの戦闘機によって構成されたスーパーロボットであり、変形・合体によってその姿と能力を変える。ゲッター線の権威である早乙女博士が作り上げたスーパーロボット……それがゲッターロボだ。

 

「長かった……」

 

たった1体で大勢のメカザウルスと互角以上に戦うゲッターロボを見つめる異形の3つの人影……恐竜帝国の支配者である地底魔王ゴール、メカザウルスを作り上げたガリレイ、そしてメカザウルスの指揮官であるバット将軍の姿が4つの首を持つメカザウルスの頭部の上にあった。

 

「太古の昔、天から降り注ぐゲッター線によって地の底に追いやられ幾世紀……叫び、吼え、呪い、のたうち、過去の栄光と地上の生活を夢見て死んでいった同胞達……愚かなる人類に変わり、今こそ我ら爬虫人類が地上に楽園を築くのだ!」

 

「行け!メカザウルス!」

 

「我ら恐竜帝国の輝かしい未来を創造するのだ!!!」

 

ゴール、ガリレイ、バットの3人の叫びに呼応するかのように大量のメカザウルス達が空を舞う。

 

「黙れええええええッ!!!」

 

ゲッター2……いや、本来は3人で操縦するゲッターロボ。それを1人で操縦していた巴武蔵は叫びながらゲッター2を走らせ、ドリルアームを突き出しメカザウルスの群れの中へと突っ込んでいく。

 

「ギャア!?」

 

「グガアアア!!」

 

本来空を飛ぶことに適応していないゲッター2だが、背部、そして脚部のブースターを全開にすることで擬似的な飛行を可能にしていた。その爆発的な推進力によってロケットのような勢いでメカザウルスを貫き、粉砕していく……

 

「「「キシャアア!!!」」」

 

だがゲッター2が飛行に適さないのは武蔵だけではなく、恐竜帝国も把握していた。バットが指を鳴らすと地面から胴体に無数の羽根を持つ3体のメカザウルスが姿を現し、暴風を放ちながらゲッター2へと向かっていく。

 

「くっ、ぬおおおおおおッ!?!?」

 

その突進攻撃に気付き、両腕をクロスさせ防御態勢に入る。だがメカザウルスの狙いは攻撃ではなく、その暴風にあった。本来飛行に適していないゲッター2はその暴風にあおられ、姿勢を崩し、頭から真っ逆さまに地面に向かって落下する……地響きを上げて地面に落下したゲッター2の姿が瓦礫と共に地下へと消える。

 

「うおおおおおッ!!!ゲッタァァッ!!!ミサイルッ!!!」

 

メカザウルス、そしてゲッターロボの戦いであちこちに穴が空いていたアスファルトから赤、白、黄色の戦闘機がミサイルを発射しながら瓦礫の中から姿を見せる。この戦闘機「ゲットマシン」イーグル号、ジャガー号、ベアー号が合体しゲットマシンは無敵のスーパーロボット「ゲッターロボ」へと合体するのだ。

 

「チェーンジッ!!ゲッターワンッ!!」

 

ジャガー号から骨組みの両腕が姿を現し、装甲版が装甲を作り上げていく……そして加速してきたベアー号がジャガー号と合体し脚部へと変形する。人型のシルエットとなったジャガー号とベアー号の前をイーグル号が追い抜いて行き、バレルロールをしながら胴体と合体する。鬼を思わせる2本の角を持ち、ゲッター2、ゲッター3と異なり完全な人型であるゲッター1が合体を完了させアスファルトの上に降り立つ。メカザウルスとの戦いにより、あちこち破損していたがその姿は覇気に満ちていた。

 

「ゲッターウィングッ!!!」

 

武蔵の力強い叫びと共にゲッター1の背中にマントが現れ、ゲッター1はマントを翻し上空へと飛び上がり、向かってくるメカザウルスへと突進していく。

 

「うおおおおおおッ!!!」

 

武蔵の雄叫びが響き、両腕についている刃……ゲッターレザーで向かってきたメカザウルスの頭を引き裂く。凄まじい勢いの体当たりも合わさり7体ものメカザウルスを粉砕するが、上空に飛翔することでその体当たりを回避していたメカザウルスが胴体から鉄球を打ち出す。

 

「ぐうっ!?」

 

胴体に命中し、姿勢を崩したゲッター1に追撃の鉄球が放たれる。2発連続で命中し、姿勢を大きく崩すゲッター1だが空中で何とか姿勢を持ち直し、腹部のレンズをメカザウルスへと向ける。だがそれよりも早く、再び放たれた鉄球がゲッターの左角を砕く。

 

「……ゲッタァアアア、ビィイイイイムッ!!!!」

 

腹部から放たれたゲッタービームはさらに追撃にと放たれていた鉄球を融解させ、そのままメカザウルスを破壊した。だが前方の敵に注意を向けていたゲッターの背後から放たれた巨大な槍が、ゲッター1を背後から貫く。

 

「うぐああっ!?」

 

奇襲による攻撃、そして武蔵が操縦するベアー号のコックピットに近い部分が破壊されたこともあり、一時的にコントロールを失ったゲッターロボはその衝撃で地面へと叩きつけられる。自らの仇敵の満身創痍の姿にゴールは嘲笑しながら倒れているゲッターロボに言葉を投げかける。

 

「降伏しろ。この帝王ゴールに頭を下げ、許しを請うのだッ!!」

 

だが武蔵はその言葉に返事を返すことはなく、ゲッター1の腹を貫いている槍に手を伸ばし、その槍を強引に引き抜く。引き抜かれた破壊跡からオイルが鮮血のように溢れ出す。左腕で破壊跡を押さえるがその手の隙間からオイルはとめどなく溢れ続ける。

 

「ガアアアッ!!!」

 

空を舞うメカザウルスが放った巨大な針が満身創痍のゲッターを襲い、その左腕を肩から破壊する。

 

「うぐああッ!?」

 

地響きを立てて左腕が落下する。片腕になったゲッターにトドメを刺そうと2体のメカザウルスが急降下してくる。

 

「ゲッタートマホークッ!!!」

 

肩の突起から飛び出した巨大な戦斧を残された右腕で掴むゲッター1はそのまま右腕を振るい、メカザウルスを両断する。だがメカザウルスが近くで爆発した事で一瞬視界を失ったゲッターに全方位からメカザウルスが襲い掛かり、その身体を拘束する。

 

「ガーハハハッハ!トドメはこの帝王ゴール自らが刺してくれるわ」

 

ゴールがマントを翻しメカザウルスの上から降りようとしたその時。

 

「お待ちくださいゴール様。様子が変です」

 

「なんだと!?」

 

バットに呼び止められたゴールが目にしたのは、悲鳴を上げながら溶け出しているメカザウルスの姿。

 

「なんだあれは!?」

 

「ゲッターが高熱を発しています。完全にオーバーヒートですッ!」

 

「馬鹿な!マグマの高熱にも耐えるメカザウルスが溶ける筈が無い」

 

そのありえない光景にゴールが悲鳴にも似た声で叫ぶ中、冷静に状況を見極めていたガリレイは絶句した。

 

「ゲッター線だ……」

 

「なにぃ!?」

 

「御覧なさい、機械だけ残して溶けている!」

 

満身創痍のゲッターロボを恐れるように叫ぶガリレイ。その視線の先では、空を舞うメカザウルスが突如苦しみ、機械だけを残して落下していき、ゲッター線コーティングを施されているはずのメカザウルスは壊滅的な打撃を受けていた。そんな中ゲッター1は、腹に開いている穴に自ら右腕を突っ込み、その傷跡を大きく開く。

 

「熱い血潮も涙も流さねえ冷血野郎の蜥蜴共ッ!!!てめえらなんぞにこの地球は渡さんッ!!!」

 

本来単独操縦ではフルパワーを発揮出来ないゲッターロボ。それがこれだけのメカザウルスを倒す事が出来たのには理由があった……武蔵は死を覚悟し、ゲッターロボの炉心のリミッターを解除していた。炉心から溢れるパワーは単独操縦と言う不利を覆し、数多のメカザウルスを撃破させた。だがその余りに強大なパワーは操縦者である武蔵自身をも蝕んでいた……全身は熱で焼け爛れ、骨すらも見えている。だが武蔵の顔に恐怖も苦痛の色も無かった。自分は死ぬが、早乙女博士が、リョウが、隼人が跡を継いでくれる。命を捨てる覚悟で稼いだ時間は決して無駄じゃない、ゲッターも自分も決して無駄死にではないと思っていたから……激しい破壊音を立てて己の腹から抉り出された炉心を高く掲げるゲッター1。

 

「貴様らの祖先を滅亡させたエネルギーの源だ!こいつでもう1度滅びやがれッ!!!」

 

その叫びと共に握り潰された炉心。そこから放たれたゲッター線の光が全てを飲み込む中……武蔵の意識は光の中へと飲み込まれるように消えていくのだった……

 

 

 

第1話へ続く

 

 

 




ゲッターロボが好きなのでノリで書いてみました。ベースは「真ゲッターVSネオゲッター」の冒頭シーンより考えて見ました、ゲッターのファンの人に叩かれるのは怖いですが、助言やアドバイスなどを貰えると嬉しいです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話 来訪者

ゲッターが大好きなので続けて書いてみましたが、ロボット物は初の試みなので、上手くかけているのか不安で一杯です。アドバイスや助言、感想なんて貰えると嬉しいです




第1話 来訪者

 

ゲッターロボの権威である早乙女博士ですら、理解していない……いやあやふやながらも理解しかけている事だが、ゲッター線には意思がある。人類の進化を促すエネルギーであり、人類を滅ぼそうとする存在を許さない存在でもあった。エネルギーであり、生命でもある。それがゲッター線……恐竜帝国を滅ぼす為に自爆したはずの巴武蔵はゲッター線の緑の光の中にいた。

 

『……良く来た。巴武蔵、私はお前を迎えに来た』

 

ゲッター線の光の中から現れたのは巨大なイーグル号……いや、ゲッターの究極の進化の1つ、ゲッターエンペラーの姿であった……ゲッターエンペラーのコックピットに1つの影が見える。ボロボロのコートを身に纏い、赤いマフラーを翻す青年の姿、懐かしむように、慈しむようにゲッター線の海へ浮かぶ巴武蔵を見つめる青年だが、突如何かに気付いたように微笑む。

 

『……そうか、まだお前はここに来る時では無いのか……ならば私は待とう。武蔵、お前がゲッターの本当の意味を悟るその時まで』

 

眩いゲッター線の光に包まれた武蔵の姿はエンペラーの前から消える。そして青年は今までの優しい表情が嘘だったような獰猛な笑みを浮かべる。その視線の先には昆虫のような戦艦の姿が無数にあった。

 

『ゲッターエンペラー!サードムーンから敵が進撃してきます!』

 

『任せろ!ゲッタービームで月ごとぶっ飛ばしてやるッ!!!』

 

ゲッター線の光は消え、エンペラーは無数のゲットマシンの中にいた。女性の声が響き、エンペラーのパイロットである青年がそう叫ぶ。重々しい音を立ててエンペラーの口元が変形し巨大なビームの発射口が姿を見せる。

 

『ゲッタァアアア、ビィイイイイムッ!!!!』

 

その雄叫びは……紛れもなく流竜馬の物だ。

 

(待っているぞ、武蔵。再びお前と共に戦うその時をッ!!!)

 

 

新西暦と呼ばれる時代。

 

人類が宇宙に本格的に進出してから約2世紀が経過していたが、人々の生活は21世紀の初頭とさほど変化が無かった。

 

それは旧西暦時代に地球に落下した2つの隕石による被害と混乱のため、人類の進化が一時的に停滞したためだった。

 

そして新西暦179年。アイドネウス島に3つ目の隕石である「メテオ3」が落下した。

 

メテオ3の調査を行った「ビアン・ゾルダーク博士」はそれが人工物であり、何者かの意志によって地球に落とされた物であると確信した。

 

何故ならメテオ3は、L5宙域に突如出現した後。地球へと落下……しかも落下前に減速していた事が判明したからである。また、メテオ3の内部には他者によって閲覧されることを前提とした状態で、人類にとって未知の物質と技術情報が封入されていた。

 

それらはエクストラ・オーバー・テクノロジー……「EOT」と呼称され、地球連邦政府上層部の面々で構成された「EOT特別審議会」とビアンが責任者を務める「EOTI機関」の厳重な情報管理の下、更なる調査が進められた。

 

そして、何者か……すなわち地球外知的生命体が使用していると思われる全長10メートル以上の有間接機動兵器のデータが発見された時点で、ビアンは彼らに強い警戒心を抱いた。

 

ビアンは、地球外知的生命体がEOTを人類へ提供した目的を推測し、それが達成されるまでの過程に侵略行動が組み込まれている可能性が高いと判断した。

 

また、彼は地球外知的生命体……コードネーム「エアロゲイター」による侵略の危機を連邦政府や連邦軍に訴えた。事態を重く見たノーマン・スレイ少将は、地球圏防衛計画を提唱。エアロゲイターに対抗しえる人型起動兵器「パーソナルトルーパー」の開発が開始されることになった……

 

 

 

アイドネウス島……EOTI機関研究施設内に佇む青年の姿があった。紫の制服に身を包み、その美しい黄金のような金髪を肩へと流した美しさと強さを兼ね備えた青年は憂いを帯びた瞳で窓の外を見つめる。その視線の先にはメテオ3の姿があった。メテオ3を見つめている時間はさほど長くなかったが、青年は自嘲するように笑う。

 

「決起の前と言うのにナイーブになるとは、私もまだまだか」

 

肩を竦めて笑う青年の名は「エルザム・V・ブランシュタイン」……元特殊戦技教導隊であり、軍人の名門「ブランシュタイン家」の長兄でもある。エルザムは、統合軍総司令官である父「マイヤー・V・ブランシュタイン」と、その友人関係にあるEOTI機関総帥である「ビアン・ゾルダーク」の要請によってアイドネウス島に駐在していた。

 

「ん?流れ星か?」

 

自室に戻り身体を休めようとした時。夜空を駆ける光を見つけ、足を止める。

 

「星に願い……ふっ、叶うはずも無いか」

 

己の父が、ビアンが、そして自分がこれから何をしようとしているか?それを知っているエルザムはそう苦笑し、再び空を見上げ、

 

「……流れ星……ではないッ!?」

 

自分が流れ星だと思っていた物が全く別物だと言う事に気付いた時には格納庫へ走り出していた。徐々に巨大になりつつ真っ直ぐに降下して来る2つの流れ星……いや、宇宙からの落下物の姿に脳裏を過ぎった「メテオ3」の言葉。そしてパイロットとして初めてエアロゲイターに接触したと言うエルザムの経歴がその対処を可能としていた。さらに言うと、地球の珍しい食材を使って料理をしたいというエルザムの希望によって、予定よりも早くアイドネウス島に到着していた偶然もあった。それが幸か不幸かと言えば、エルザムにとっても、EOTI機関の職員にとっても間違いなく幸運だった。エルザムは格納庫に向かう道中で非常警報のレバーを引く。非常警報が鳴り響く中、エルザムは1つの疑問を抱いた。

 

(なぜ警報が鳴らない)

 

EOTI機関はこれから世界に対して戦争を起こそうとしている。故に警備体制は非常に厳重だ、なのに何故警報が鳴らないという疑問を抱きながらも格納庫へと走る。同時にエルザムの脳裏にあったのは自分が始めて遭遇した虫型の機動兵器「バグス」の姿だった、もしもあの落下物がエアロゲイターの兵器ならばと言う考えが疑問を隅に追いやり、エルザムを格納庫へと急がせる。

 

「エルザム少佐!これは何事ですか!?」

 

警報を聞いて格納庫に来ていた整備兵にわからないとエルザムは叫ぶ。その直後アイドネウス島に凄まじい衝撃が走る、宇宙から落下してきた物が地表に到達したと言うのは明らかだった。

 

「私のプロト・ガーリオンの整備は完了しているか!?」

 

ヘルメットを脇に抱え、ハンガーに鎮座している鋭利なフォルムを持つ漆黒の機体「プロト・ガーリオン」へと走る。だが整備兵はそんなエルザムを止めるべく叫ぶ。

 

「まだ試運転もしてないんですよ!?それに火気管制システムも、それにガーリオンの最大の武器のソニックブレイカーだって調整段階です!!」

 

「プロト・ガーリオン」・・・・・・パーソナルトルーパーとは異なる規格で作られた機動兵器であり「アーマード・モジュール」AMと呼称される最新の機動兵器群である。リオン、バレリオンなどの機種がありそれら全てが単独飛行を可能としていた。その中でもガーリオンは指揮官機として製造された機体だ。メテオ3の技術を分析し作られたテスラ・ドライブによって単独での飛行を可能にし、テスラドライブの応用であるT・ドットアレイにより攻撃・防御にも優れた能力を持つ優れた機体ではあるが、プロトの名の通りまだ試作機の域を出ない。

 

「腕は使えるんだろう!ならアサルトブレードとバーストレールガンを用意してくれ!手動で照準を合わせる!」

 

ガーリオンの最大の武器はなくても戦える。それに防御に不安の残るリオンよりは戦えると判断し、エルザムはその身体をガーリオンのコックピットに滑り込ませる。

 

「――不味いな……ッ!?」

 

地響きが格納庫に近づいている。それに合わせて不気味な唸り声が聞こえて来る事にエルザムは焦りながらも、的確にガーリオンの制御プログラムを立ち上げ、OSを起動していく。炉に火が入りガーリオンの全身に力が満ちていく。

 

『エルザム少佐!カタパルトは使えないのでリフトでお願いします!』

 

一番最初に入ってきた整備兵がPCを操作し、火の入ったリフトの周辺を明るく照らす。その周囲にはエルザムが用意しろと言ったアサルトブレード、そしてバーストレールガンの姿がある。ガーリオンを操作し、ブレードとバーストレールガンを装備する。

 

「離れていろッ!エルザム・V・ブランシュタイン!プロト・ガーリオン!出るぞッ!!!」

 

電磁力を利用したリフトによって地表へと打ち出されるガーリオン。射出時の凄まじい重力に耐え、アイドネウス島の地表に出たエルザムが目にした物は想像にもしない存在だった。

 

「なんだ……あれはッ!?」

 

ガーリオンの外部センサーを通じてエルザムが見たのは身体がドロドロに解けた、機械の四肢を持つ恐竜の姿だった。どす黒い体液を撒き散らし、苦痛に暴れる恐竜は目に付くもの全てを破壊すると言わんばかりにその溶解した手足と尾を振るう。

 

「いかんッ!?」

 

予想にもしない存在に一瞬我を失ったエルザムだが、即座にペダルを踏み込みガーリオンを飛翔させる。ガーリオンが空に逃れると同時に叩きつけられた尾がリフトを粉々に破壊する。

 

「凄まじい攻撃力だ……」

 

ガーリオンの全長が約18m。それに対してあの恐竜は30m近い、最新の機体であるガーリオンであれど、倍近い巨体の異形の怪物に対してはそのパワーと装甲も役に立たない事を直感で理解していた。だがそれで引くほどエルザムは経験の浅いパイロットではなかった……

 

「悪いが、これ以上は好きにはさせん!!」

 

一撃貰えばその瞬間に自分は死ぬとエルザムは理解していたが、それならば直撃を食らわなければいい。そしてエルザムはそれを可能とするだけの卓越した操縦技術を持っていた。ガーリオンのOSを停止させ、全てをマニュアル操作に切り替える。OSの中途半端なサポートではかえって邪魔になると判断したからだ。

 

「時間を稼ぐくらいはやり遂げるさ」

 

どう見てもあの化け物は死にかけだ。ドロドロに解けた身体、流れ続ける血液は確実にあの化け物の命を削っていた。手持ちの火力で倒す事が出来ないのならば、向こうが死ぬまで時間を稼げば良い。エルザムはそう考えていた。質量の差でただのデッドウェイトになると判断されたアサルトブレードを即座に投げ捨てる。ほんの一秒が生死を分けると言う事を理解していたから、不要な武器を捨て即座に機体の軽量化を図る。

 

「トロンベよ!今が駆け抜ける時ッ!!」

 

上空から反転しその手にしたバーストレールガンを恐竜の頭部目掛けて打ち込む。ドロドロに溶けた頭部に電磁によって加速された銃弾がめり込む。

 

「ギギャアアアアアア!!!!!」

 

耳障りな叫び声を上げて絶叫する化け物。だがそれも当然だ、皮膚が解けている部分に攻撃を受けたのだ。その痛みは間違いなく大きい、時間を稼ぐという目的ではこの上なく正しい行動だが、それは怒りに身を任せ暴れていた化け物の敵意を自身に引き寄せることとなった。

 

「……!」

 

横薙ぎに振るわれた腕を背部のブースターを全開にし地表に向かって突進することで回避する。だが攻撃を避けたエルザムに顔に余裕の色は無い。

 

(速い……ッ!?)

 

あの巨体からは想像も出来ない俊敏な動きだった。身構えてなければ今の一撃で自身が死んでいたと理解したエルザムの額には冷や汗が浮かび、レバーを握る手には嫌な汗が滲む。

 

「だが反応出来ない速度では無い」

 

相手の脅威は今の一瞬のやり取りで理解した。だが距離を取ればあの化け物は再びEOTIの設備を狙う、ならば危険だとしても化け物の近くで戦う事しかエルザムには許されなかった。常人ならそんな自殺行為は出来ないが、超人的な腕前を持つエルザムであれば可能だった……唯一エルザムの誤算があるとすれば……それはメカザウルスという存在を知らない事にあった。見た目は獣の姿をしているが、メカザウルスには明確な知性があり、そのことをエルザムは知らなかったのだ。バーストレールガンの弾倉を交換しようとその一瞬、その一瞬の隙をメカザウルスは突いた。

 

「なっ!?なんだ!?何が起きている!」

 

コックピットのエルザムは突如ガーリオンを襲った衝撃に何がを起きているか咄嗟に理解できなかったが、エルザムが時間を稼いでいる間に出撃しようとしていたパイロット、そして整備兵はガーリオンに何が起きたのかを見ていた……メカザウルスが地面に尾を突き刺し、地中からガーリオンの右足を捉えたのだ。メカザウルスの異常な膂力により足の装甲が軋み、コンソールにはレッドアラートが灯る。

 

「ゴアアアアア」

 

ガーリオンを捉えたメカザウルスが大きく口を開く。その口の中に灼熱の火球が生成される……その熱量は凄まじくモニター越しですら、陽炎のように周囲が揺らめいていた……だが運はまだエルザムを見捨ててはいなかった。最初に投げ捨てたアサルトブレードが格納庫の上に落ちており、ガーリオンの左腕の届く範囲に存在していたのだ。この状況で使える武器は胸部のマシンキャノンのみ、その火力では相手にダメージを与える事が出来ない。そう判断したエルザムの行動は早かった。

 

(ぐっ!致し方あるまい!)

 

火球から逃れるためにガーリオンの右足をアサルトブレードで切り落とそうとしたその時ッ!

 

「ゲッタアアア!!トマホオオオォォクッ!!!!」

 

「ギッシャアアアアアッ!!!!」

 

力強い雄叫びと共に空気を裂く音が響き、高速で飛来した巨大な戦斧がメカザウルスの胴体に突き刺さる。その戦斧の大きさは異常だった、7mはある巨大な戦斧などリオンやガーリオンに扱える武器では無い。一体何処からと全員の視線が斧の飛んできた方向に向けられ、そして次の瞬間に息を呑んだ。

 

「……ぐっ、ぐうううう……」

 

見た全員の脳裏に過ぎったのは「鬼」の一文字。鬼を連想させる2本の角、だがその左角は砕け左腕は肩から存在していない。そして何よりも腹に開いた大きな穴……そこから血液のようにオイルを撒き散らしながら突如現れたロボットは、メカザウルスに向け歩き出す。機体の各所から火花を散らし、操縦者の呻き声を周囲に響かせながらも進むロボット。壊れたブリキの玩具のように緩慢な動きだが、決して歩みは止めない。

 

「まだ……生きてやがったかああ!!この腐れ蜥蜴共がぁぁッ!!!」

 

地から響くようなその叫び、歴戦の戦士であるエルザムでさえも足を止める裂帛の気迫。それが己に向けられたものでは無い、そう判っていても身体を縛る強烈な怒気。

 

「うおおおおおおおッ!!!」

 

「ギガアアアアッ!?」

 

40m近い巨体が滑走路を踏み砕きながら走り出す。そしてガーリオンに向かって右腕を振るう。尾で拘束され、逃げることの出来ないエルザムは一瞬死を覚悟したが、ロボットの腕はガーリオンではなくガーリオンを拘束している尾を切り裂いていた。

 

「キシャアアアアッ!?」

 

自らの尾を断ち切られ、苦悶の雄叫びを上げるメカザウルス。その叫びに一瞬硬直したエルザムだったが、直後アイドネウス島に響き渡る叫びに我に返る。

 

「何してるッ! とっとと離れろッ! 死にてえのかーッ!?」

 

振るわれた右腕はガーリオンを捉えていたメカザウルスの尾を引き裂き、操縦者はエルザムに逃げろと叫ぶ。その叫びに咄嗟にペダルを踏みしめガーリオンは凄まじいスピードで上空へと逃れる。

 

「うおおおおおッ!!!」

 

操縦者の雄叫びが響き、今にも爆発しそうなロボットはメカザウルスに向かっていく。残された右腕をメカザウルスの顔面に叩きつけ、膝蹴りを叩き込みメカザウルスを蹴り飛ばす。

 

「くたばりやがれええええッ!!!」

 

「ギ、ギシャアアアアアア!?」

 

そしてトドメと言わんばかりにメカザウルスに突き刺さっていた斧の柄を掴み、力任せに振るう。その一閃でメカザウルスの下半身と上半身は別れ、そして今にも動きを止めそうな緩慢な動作で振り上げられた左足がメカザウルスの頭を踏み砕く。だがそれが最後のちからだったのか鬼のようなロボットの目から光が消え、その場に膝をついて動かなくなる。

 

「これは……一体……いや、今はそれ所では無いッ!」

 

突如現れた異形とそれを苦もなく撃破したロボットに始めは困惑したエルザムだったが、これだけボロボロになっているロボだ。操縦者も重症に違いないとガーリオンとそのロボの側に着地させ、腕を伸ばすと同時にコックピットから飛び出す。

 

「コックピットは何処だ!?」

 

近くで見ればそのロボットの異常さが良く判った。鉄を丸めるだけの技術しかないのか、ずんぐりとしたフォルム。自分が今まで騎乗してきたどんな機動兵器にも該当しないそのシルエットにコックピットがわからず困惑するエルザム。だが今にも爆発しそうな姿を見て、一刻も早く操縦者を助けなればと手当たり次第に搭乗口を探る。しかし焦れば焦るほどにコックピットの位置から遠ざかってしまうエルザムの前に突如緑の光が現れた。

 

「なんだ?光?」

 

戸惑うそんなエルザムを導くかのように……蛍のような緑の光がエルザムの顔の前を飛ぶ。その光に導かれるように、エルザムが向かったのはロボットの下腹部、ベルトの様な部位だった。その一箇所で光が消える。

 

「ここかッ!?」

 

慌てて駆け寄ったエルザムが光が止った場所を調べると、外側から開くハッチのような物が見える。そのハッチを開き、現れたレバーを下ろすと大きな音を立ててベルトのような部位が左右に開く。そこがコックピットだと判断したエルザムがその隙間に体を捻じ込み、そして息を呑んだ。操縦席の背凭れに背中を預けるように意識を失っている少年……そのふくよかな全身を真紅に染め上げ、工事現場のヘルメットに、剣道の胴。そしてマントと太刀を背負うという一種異様な姿に困惑したがすぐに我に帰る。

 

「大丈夫かッ!しっかりしろッ!!」

 

肩を掴んで揺すりながら、少年の負傷度合いを観察したエルザムは更に困惑した。全身が真紅に染まっているがそれに対して傷が明らかに少ないのだ……何故と言う困惑が脳裏を埋め尽くすが、明らかな衰弱具合をみて、このままにしていては少年が危険だと判断する。自身の制服が血に汚れるにも関わらず少年に肩を貸し、コックピットから連れ出す。

 

「エルザム少佐!ご無事ですか……その少年は!?」

 

「早く医療班の元へ運べ!このままでは危険だ!私の命の恩人だ。急げッ!!」

 

エルザムの指示に敬礼をしたEOTIの職員は自分達が乗ってきたジープにエルザムと意識のない少年を乗せ、その場を後にする。誰も乗っていないはずのロボ……ゲッターロボはその目を光らせ、ゆっくりとその顔を走り去るジープに向け、そして機能が停止したのかその目から光が消えるのだった……

 

 

第2話 平行世界

 

 




と言う訳で第1話でした。なんでメカザウルスがいるのかとかあんまり突っ込まないでくださいね。なんでいるかと言うと作者の都合ですからね。そこの所は広い心で受け入れてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 平行世界

第2話 平行世界

 

アイドネウス島の地下の隔離施設の中に上半身と下半身を切断されたメカザウルスとゲッターロボは格納されていた……地下特殊研究室のモニターの前に腰掛ける赤いコートに立派なひげ姿の壮年の男性……「ビアン・ゾルダーク」は深く溜息を吐いた。

 

「ありえない。こんな物はありえない……生物と無機物の融合で拒絶反応が起こらんなど、既存の技術では不可能だ」

 

研究者であり、優秀な学者であるビアンは冷凍保存されているメカザウルスを見て、信じられない。いや信じたくないと言う口調で告げるが、彼の優秀な頭脳は理解してしまっていた。このメカザウルスは後天的に生物と機械が融合したのではなく、最初から機械と生物として誕生しているのだと……それが1週間に及ぶビアンの調査結果から導き出された事実だった。

 

「……新たなる異星人の襲来とでも言うのか……」

 

EOTI機関の総帥にして、今地球圏で最も異星人の技術に精通していると言っても過言では無いビアンは困惑していた。EOTI機関が決起し、地球連邦に戦争を挑もうとしているその時に突如現れた機械と生物が融合した異形の怪物の襲来は優秀な頭脳を持つ、ビアンを持ってしても予想だにしない存在だった。

 

「だがありえないのはそれだけではない」

 

メカザウルスを倒したロボットを分析していたビアンはその顔を驚愕に歪めた。そのロボに使われている螺子やナット、電子基盤などは数百年も前の規格の物であり。既に新西暦186年の現代には存在しない物だったからだ……当然ビアンもその螺子やナット等が使われている年代の資料を調べたが、その年代にこんな巨大なロボットが存在したと言う記録は存在せず。更に言えば、このロボットは謎の放射線を動力源にして駆動する事と、一度起動してしまえば動力源を自ら増幅させて活動できる永久機関を内蔵していることまで判明した。だが彼を驚愕させたのはそこではない。この巨大なロボットは、今の技術でも到底実現し得ない幾つものオーバーテクノロジーが使用されていたのだ。例を挙げれば動力源を応用したであろうテスラ・ドライブとは異なる飛行技術。変形・合体能力を持ち3つの戦闘機により構成されている事や、装甲板は自動的に展開されるなど……例を挙げれば切がないほどに、それこそビアンですら理解出来ない幾つものオーバーテクノロジーが組み込まれていたのだ。ビアンもかつて夢見、そして実現しえなかった、合体ロボット。それが目の前に存在する事にビアンはその胸を高鳴らせるのと同時に、これはどこから来たのかと言う事ばかりを考えていた。そして当初の新しい異星人の襲来から、馬鹿らしいと言わざるを得なかった可能性の一つが、その脳裏に浮かんでいた……

 

「ありえない時代、謎の動力源を持つ巨大メカか……操縦者の彼に話を聞きたい物だ」

 

エルザムが救助した少年は、検査の結果日本人である事が判明した。だがその結果、いくつもの謎が新たに生まれていた、自身の鮮血に塗れていたのに、その傷は鮮血の量に対して明らかに軽症。身分証明書らしいものを所持しており、「早乙女研究所所属 巴武蔵」と言う情報から調査を行うも、早乙女研究所なる研究所は存在しなかった。また巴武蔵と言う名前から戸籍も調べた。巴と言う名字の家系は北海道に存在していたが、巴武蔵なる戸籍は存在しなかった。存在しないロボット、存在しない技術、存在しない人間……最初はエアロゲイターかと思っていた。だが調べれば調べるほどに彼が人間であると言う事が判明した。如何にビアンが天才だったとしても最早彼から話を聞かなければ何もわからないという状況になっていたのだ。

 

「私だ。どうした?」

 

考えに没頭するビアンの元に救急連絡が入る、受話器を手にしたビアンは即座に座っていた椅子から立ち上がる。電話先は医療室であり、1週間眠り続けていた少年が目を覚ましたと言う連絡が入った。ならばこれ以上1人で考えても仕方ないと判断し、話を聞く為に医療室へと足を向けるのだった。

 

「ここは何処なんだッ!?いや、それよりも恐竜帝国はッ!?日本はどうなったッ!?」

 

「お、落ち着くんだ!今ここの責任者が来る!だから落ち着くんだッ!?」

 

医療室から響く声は混乱しきっており、それを嗜める医者の声も困惑しきっていた。

 

(恐竜帝国……日本……やはりか)

 

僅かに聞こえてきた言葉にビアンは自らの考えが正しいことを理解した。彼とあのロボはあの機械と生物が融合した謎の生物と戦っていた。そしてあのロボットはその生物と戦う為に製造されたロボットであると言う考えは正しかったのだと確信した。

 

「責任者だとッ!?そんなのはどうでもいいッ!!日本はどうなったんだッ!?早乙女研究所はッ!?日本はどうなったんだッ!?」

 

「落ち着きたまえ。巴武蔵君」

 

混乱しきっている武蔵にビアンがそう声を掛ける。武蔵はその声に振り返り、襟首を掴んで前後に揺すっていた医者から手を放した。

 

「あんたがここの責任者かッ!?教えてくれッ!日本はどうなったッ!?恐竜帝国はッ!?俺を助けてくれたのはあんたなのかッ!?」

 

「君の疑問も困惑も最もだ。答えれる範囲で答えよう、すまないが。私と彼2人にして欲しい」

 

「し、しかし」

 

医者の顔を見れば、武蔵の事を狂っているといわんばかりであり、そんな狂人とビアンを2人きりにするべきではないと訴えていたが、ビアンの強い口調に逆らう事が出来ず医療室を出て行く。

 

「さてと、改めて名乗ろう。EOTI機関総帥「ビアン・ゾルダーク」だ。君は早乙女研究所のムサシ・トモエ君で良いのかな?」

 

「いや、俺は巴武蔵で、ムサシ・トモエなんて……ああ。でもあんたは外国人そうだし……それに話を聞いてくれそうだ」

 

今までヒートアップしていた武蔵だが、ビアンの瞳を見て安堵した。先程の医者は武蔵の話を聴いても狂っているとしか認識せず、それに合わせた対応しかしなかった。そんな態度を見れば嫌でも人は警戒心を抱き、声を荒げる。だがビアンの柔らかい口調と優しい瞳に武蔵は冷静さを取り戻す事が出来た。

 

「いくつか話を聞きたいのだが、恐竜帝国とは何かね?」

 

「……あんた大丈夫か?地球全体に宣戦布告した恐竜帝国を知らないなんて……どんな生活をしてたんだ?」

 

心配そうな武蔵にビアンは笑う。その言葉でビアンは武蔵の性質を理解していた……基本的に優しく、自分が困っていても人を心配出来る青年なのだと理解したのだ。

 

「ふむ。私は世捨て人のように研究をしていたのでな、今の情勢には詳しくない。もし宜しければ教えてくれないか?」

 

「早乙女博士もそう言えば、TVとか、今のニュースとか知らなかったな。判った、それなら答えるよ。恐竜帝国って言うのは、ゴールって言う爬虫人類とか言う奴らの親玉が治める国だ」

 

 

怪訝そうな顔をしながらも、早乙女博士と言う研究者を知るからか、研究に没頭していて地下にでもいたのかな? と思う武蔵。すこし不審には思ったが、武蔵は己の知る限りの事を口にする。

 

「爬虫人類とは?」

 

ビアンは武蔵の口から飛び出した信じられない言葉を尋ね返す。その言葉のニュアンスから爬虫類が人類と似た進化をしたと言う荒唐無稽な想像が脳裏を過ぎる。

 

「あーそれはオイラは良く判らんけど、早乙女博士が言うには恐竜の時代にいた人類とは別の進化をした……えーっとなんだっけ……そう。

そう!先住民族とかなんだとか。でも恐竜を滅ぼしたゲッター線に耐性がなくて地中に逃げたとか何とか……」

 

「ふむふむ、では爬虫人類と言うだけあり、姿は人間なのかな?」

 

「でっかい蜥蜴の化け物みたいだな。でも人っぽくも見えるし、喋るし、中々死なないしとんでもない化け物って思ってくれて良いぜ」

 

「なるほど。では君が倒してくれたあの恐竜は?」

 

「あれはメカザウルスって言う、恐竜帝国の兵器だ。倒しても頭をぶっ飛ばさないと中々死なない厄介な相手でなあ……と言うか、おっさん大丈夫か?恐竜帝国もメカザウルスも知らないってあんた何処の国……ってそうだそうだ!?オイラ今どこにいるんだ!?」

 

喜怒哀楽の激しい武蔵にビアンは穏やかに笑いながら、ベッドに座るように促す。

 

「では今度は私から答えよう。ここは南太平洋のマーケサズ諸島、南アメリカ付近に位置する島「アイドネウス島」だ」

 

「アイドネウス島? オイラがいたのはニューヨークの筈ッ!?」

 

「まぁ落ち着きたまえ、武蔵君。君の疑問はちゃんと答えるから」

 

ニューヨークにいた筈の武蔵が、全く知りもしない場所にいると言う事実に叫びながら立ち上がるが、ビアンは穏やかに笑いながら話を続ける。

 

「そしてここがどこかだが、君はメテオ3を知ってるかね?」

 

「メテオスリー?」

 

舌足らずの言葉にビアンは苦笑し、そして自分の考えが当たっていると言う確信を深める。子供でも知っているメテオ3を知らないなんてありえないからだ。そして武蔵からすれば恐竜帝国を知らないビアンがおかしい、2人の認識の違いを知れば知るほどにビアンは信じられないと思いつつも、自分の考えが正しいと言う確信を得る。

 

「アイドネウス島に落ちた隕石の事だ。そしてEOTI機関はその隕石を監視し、そして隕石に封じ込められていた技術を分析する組織だ」

 

「……嘘ついちゃ居なさそうだな。でもおかしいなあ、オイラあんまりTVとかニュースは見ないけど、流石に隕石が落ちたなんて話は聞いていると思うけど……それにリョウも隼人もそんな話はしてないし……」

 

腕を組みうんうん唸る姿にはどことなく愛嬌があり、思わずビアンは笑ってしまった。武蔵からすれば笑いごとでは無い自体なのだが……

 

「ってそうだ!?オイラゲッターを自爆させたんだ。なんでオイラは生きてるんだ、それに身体も全身焼け爛れてたはずなのに……」

 

混乱していた思考が落ち着いてくると武蔵は自分が覚えている最後の記憶を思い出していた。それは自分が炉心をオーバーヒートさせゲッターを自爆させたという記憶だ。自分はゲッターと共に死んだはずなのにどうして生きているのだと……

 

「うむ、もう少し落ち着いてから聞こうと思っていたが、ここまでしっかりと判断ができるなら問題あるまい。1週間前このアイドネウス島に二つの落下物があった。1つは君が倒したメカザウルス、そしてもう1つは君と・・・・・・ゲッターと言ったか?それだ。メカザウルスはドロドロに融解していたが、まだ生存していて、そしてゲッターは満身創痍と言う状況だったがメカザウルスを撃破し、機能を停止した。覚えているかね?」

 

「……確かやたら刺々しいロボットを助けたのはぼんやりと覚えてる」

 

武蔵の言葉にビアンは頷き、そして自身の通信端末を見せながら。

 

「今は新西暦186年。君の生きていた時代の数百年後の未来だと言ったら……どうする?」

 

「……冗談……じゃないよな?ビアンさん……」

 

反射的に冗談と口にした武蔵だが、ビアンの真剣な顔に段々と不安になる。

 

「辛いことだと思うが、付いて来たまえ。今君がどこにいるのか、そして君が乗ってきたゲッターの場所に案内しよう」

 

「……よろしくお願いします」

 

話だけでは信じられないだろうから、証拠を見せようと言うビアンと共に武蔵は医療室を後にするのだった……

 

 

 

 

最初は冗談、もしくは自分を騙していると考えていた武蔵だが、ビアンに地下研究室に案内される間に見たアイドネウス島の設備などを見て、嫌でもビアンが言っている事が真実だと悟った。

 

「ビアンさんよ。あの青いロボットはなんだ?」

 

「DCAM-004リオン。我々……EOTI機関が開発したロボットだよ。何か気になる事でも?」

 

窓の外を見ていた武蔵はううーむと唸りながら

 

「ロボットって言うか、戦闘機に手足をつけたみたいだなって……」

 

武蔵の言葉にビアンは目を丸くして、次の瞬間には大声で笑い始めた。

 

「えっと……変な事を言っちまったか?」

 

おどおどしている武蔵になおの事ビアンは笑い出す。EOTI機関も、部下も内心思っていた事であろうが、誰も言わなかったことを指摘され、それが面白くて仕方なかったのだ。

 

「くっくっく……いやいや、正しくその通りだよ。リオンは飛行型のロボットの試作と言っても良くてね。データ取りや、開発機の雛形とも言えるんだ」

 

「試作機って奴かぁ、そういやあ、早乙女研究所にもプロトゲッターとか沢山あったなあ」

 

懐かしむようにつぶやく武蔵。その発言を聞いて、ビアンは武蔵が所属していたのはEOTI機関に匹敵する技術力を持った研究機関だと予想をつける、だが勿論100~200年前にそんな研究所があったと言う記録は無い。抹消された記録と言う事も考えたが、ここまで痕跡を隠す事は可能かと問われれば、実質不可能だと答えるだろう。人の口に戸は立てられぬ、どれだけ厳重な情報規制を強いても、情報はどこかから漏れる物なのだから。

 

「あっ」

 

「どうかしたかね?」

 

突如声を上げた武蔵。武蔵は窓の外を指差す、その指の先にはテスト飛行を終えたガーリオンが降下して来る姿があった。

 

「あれってオイラがメカザウルスを倒した時。近くにいたロボットですよね?パイロットの人は大丈夫だったんですか?」

 

自分の方が大変だというのに、他人を心配する。その武蔵の性格にビアンは笑みを浮かべる、未知の動力で動くゲッターロボにも興味はあったが、好ましい性格の彼に、自分の思想に共感して欲しいとも思えたのだ。

 

「勿論無事だったとも、彼も君に感謝していた。ゲッターロボが保管されている格納庫に向かう途中にガーリオンの格納庫を通る、彼と話をして見るかね?」

 

「ご迷惑じゃないならお願いします。今更だけど、大丈夫だったかなって心配になってしまって」

 

あははっ、と誤魔化すように笑う武蔵を伴ってビアンはガーリオンの格納庫へと向かう。

 

「エルザム少佐。ガーリオンの調子はどうかね?」

 

「これはビアン総帥……君は……」

 

整備兵と話をしていたエルザムが振り返り、ビアンへと敬礼する。ビアンの隣にいた武蔵を見て穏やかに笑いながら

 

「あの時は助かったよ。私は、エルザム・V・ブランシュタインだ。よろしく」

 

「巴武蔵です。無事で良かった……あ、それとあの時は怒鳴ってしまってすいません、年上とは思ってなくて」

 

差し出された手を握り返しながら謝る武蔵にエルザムは気にしなくて良いよと笑う。それに安堵した武蔵はハンガーに立つガーリオンを見上げ

 

「いやあ。こんな小さいロボットで良くメカザウルスに勝負を挑んだなあ……」

 

「私もまさかあんな化け物が居るとは思って無かったよ。しかしガーリオンを小さいと言うか」

 

武蔵が操縦していたゲッターロボは約40m。それからすればAMの中では大型だが、18m弱のガーリオンは小さく見えるだろう。苦笑しているエルザムとビアンを見て、武蔵は困ったように笑いながら

 

「すんません。オイラおもったことを口にしちゃうタイプで、気を悪くしました?」

 

それだったらすいませんと謝る武蔵だが、ビアンにしろ、エルザムにしろ、ここまで素直な青年は久しぶりで2人して笑い声を上げる。

 

「武蔵君。ゲッターロボの格納庫にだが、エルザム少佐も同行させたいのだが良いかね?」

 

「へ?いやあ、ビアンさんに任せますよ。だってオイラ、ここじゃあ余所者みたいですし……」

 

自分に向けられる好奇の視線に気付いたのか武蔵はその巨体を縮ませながら呟く、ビアンもエルザムもこのままでは良くないと判断し、武蔵を連れてゲッターロボが格納されている地下の研究施設へ向かう。

 

「ああっ……ゲッター……お、オイラのげったーろぼがぁ……」

 

ボロボロのゲッターロボを見てへたり込む武蔵。ハンガーに吊るされ修理こそ施されているが、まだ腹部の風穴はそのままとなっているし、頭部の角も折れたままだ。だが千切れていた筈の左腕は骨組みだけとはいえ、胴体と合体寸前にまで修理されていた。

 

「すまないね、私も努力しているのだが……既に存在しない部品が多く使われているから思うように修理が進まないんだ」

 

ビアンは間違いなく天才だが、ロストテクノロジーの集大成とも言えるゲッターロボの修理は相当厳しい物があったようだ。

 

「いやいや、修理して貰えるだけでも嬉しいですよ……それでその……未来って本当なんですかね?」

 

自分を医療室から連れ出した時にビアンが言った言葉……自分が未来にいると言う言葉が本当なんですか?と改めて尋ねる武蔵。未来?と聞いて怪訝そうにするエルザムにビアンは軽く咳払いをしてから。

 

「便宜上未来と口にしたが、正確には君の知っている未来とは言いがたい。ここにいるエルザムは統合軍と言う宇宙の軍隊のエースなのだが、統合軍は知っているかな?」

 

「う、宇宙っ!?いやぁ……早乙女博士は宇宙開発は始まったばっかりって言ってたし」

 

「ふむ、ではこれを見てくれるかな?」

 

端末を操作し、浮かんでいるコロニーを見せると武蔵は目を見開き絶句する。予想を超える存在に脳がオーバーヒートしてしまったのだろう。

 

「え、これ……え?……宇宙船?」

 

「いや、これはコロニーと言って、宇宙に浮かぶ街の様な物だよ」

 

エルザムの簡単な説明に武蔵はマジかと呟く。武蔵の知識の中では宇宙開発は始まったばかりでこんな物は存在しないのだから無理も無いだろう。

 

「そして君の言う、恐竜帝国もメカザウルスも存在した記録は無い。だが君が言うには、恐竜帝国もメカザウルスも存在し、地球全体に宣戦布告をしたと言うのだから、歴史に記録が無いのもまたありえない話だ」

 

「お、オイラは嘘なんて言ってないぞ!?」

 

先ほどの医者の目を思い出したのか、嘘なんて言ってないと叫ぶ武蔵。

 

「大丈夫だよ。私は君の話を信じている、それにメカザウルスと言う動かぬ証拠があるんだ。信じるしかあるまい」

 

ゲッターロボ、そしてメカザウルスと言う証拠があるのだから武蔵の言っている事が嘘では無い、だから武蔵は嘘は言っていない。だがビアンたちも嘘は言っていない。そこから導き出される結論は1つ。

 

「武蔵君。君は平行世界へと迷い込んでしまったのだよ」

 

その結論にエルザムが目を見開く。武蔵は理解出来ない様子で一瞬動きを止めた後、ビアンへと尋ね返す。

 

「へ、へいこー世界?」

 

訳が判らないという顔をする武蔵にビアンは机の上のマグネットを3つとり、それを紙の上へと並べる。

 

「君がいたのが恐竜帝国と言う敵対存在が存在した世界……これをA世界とする。そして私達の知るメテオ3が落ちてきた世界をB世界、そして恐竜帝国も、メテオ3も存在しない世界をC世界と仮定しよう」

 

ここまでは良いかね?と尋ねるビアンだが、武蔵は良く判ってないような表情で頷く。

 

「A・B・C世界も途中までは同じ歴史を歩んでいたが、何かの出来事によって歴史が分岐した」

 

マジックで途中までラインを引くが、途中で枝分かれしそれぞれのマグネットへと向けられる。

 

「つまり武蔵君の世界では恐竜帝国が歴史の分岐点となり、私達の世界ではメテオ1がその分岐点と言う事ですね?ビアン総帥」

 

「え?判る……んですか?エルザムさん」

 

自分と違い素早く理解するエルザムに驚く武蔵だが、まだ17歳の学生だった武蔵と、現在29歳であり、幼い頃から名家としての英才教育を受け、更にはIQも高いエルザムでは理解度が違って当然だ。

 

「私とて完全に把握しているわけでは無いがね。大きな転換期があり、歴史が分裂したと言うのは分かる。信じがたい話だが……」

 

「うむ。私とて研究者としてありえないと考えるが、ここまで証拠があれば信じるしかない。武蔵君……君は恐らく、ゲッターを自爆させた時に、世界の枠組みを超えてしまったのだよ」

 

「……ビアンさん、エルザムさん……お、オイラ……これからどうすれば良いんですか?」

 

泣きそうな武蔵の肩に手をおいてエルザムは穏やかに笑う。

 

「君も急にこんな話を聞けば混乱するのは無理も無い、私達だって混乱しているのだからね」

 

「うむ、私達も平行世界からの住人との遭遇なんて予想にもしていなかった。だからどうすれば良いかなんて言えないし、帰る場所を失った君に道を示すことも出来ない、だが……君に何かしろと命令することもしない、君が何をしたいか決めてくれればいい。それまではここで過ごしてくれれば良い、望むのならばEOTI機関に所属することも出来るし、日本に送り届ける事も出来る。今は体を休め、そして時間を見てこの世界の歴史を学び、そしてどうするか決めてくれればいい。無理強いはしない」

 

柔らかいビアンの言葉とエルザムの言葉に武蔵はほっとしたような表情を浮かべる。だがそれと同時に部屋の中に響くような大きな腹の音がする。

 

「あ、あはは……すんません、真剣な話をしてるのに」

 

「は、ははは。いやいや、1週間も眠っていたんだ。空腹なのも当然だよ、そうだ。助けてくれたお礼に食事をご馳走しよう。武蔵君、君は何が好きなのかな?」

 

「え、えーっとじゃあ……カツ丼、カツ丼を食べたいです」

 

「良し判った。ビアン総帥、彼がどうするか決めるまで彼は私の部隊で預かります」

 

「ああ。そうしてくれると助かる」

 

EOTI機関も一枚岩ではない、だがビアンの思想を理解し、共感しているエルザムになら預けられると判断したビアンは、武蔵をエルザムに預けることに決めた。エルザムと共に出て行く武蔵を見送ったビアンは小さく溜息を吐く。

 

「決起の2週間前に異世界からの来訪者か……さて、どうした物か……」

 

武蔵とゲッターが現れたのは、ゲストと地球連邦による会談の2週間前……ビアンの語った大きな歴史の分岐点はもうすぐそこまで迫っているのだった……

 

 

第3話 巴武蔵へ続く

 

 




第三者視点で頑張ってきましたが、厳しくなって来た様な気がします。もしかすると1者視点になるかもしれません、元々1者視点で書いているので、3者視点は難しいですね。でも頑張ってみようと思います、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 巴武蔵

 

第3話 巴武蔵

 

ガーリオンの格納庫へと向かうエルザム。本来ならこの時間は執務を行っている時間だが、部下からの緊急連絡で書類仕事を切り上げ、早足で格納庫へと向かっていたのだ

 

「なんじゃと!このEOTIの副総帥である。アードラー=コッホに従えぬと言うのか!」

 

格納庫に入るなり聞こえてきた怒声にエルザムは眉を顰める。怒鳴り声を上げているのは小柄な老人であり、怒鳴られているのはツナギ姿の武蔵だ。小柄なアードラーは武蔵を見上げながら、頭の線が切れるのでは無いかと言う勢いで怒鳴り続ける

 

「いやあ。そんなことを言われても、オイラ居候だし、あんたの命令に従う義務は無いんだよ。爺さん」

 

首から下げていたタオルで汗を拭いながら、冷静に自分は従う理由が無いと説明する武蔵。だがその言葉にアードラーは顔を真っ赤にさせ、唾を撒き散らしながら更に怒鳴り始める

 

「爺さんじゃと!貴様誰に向かって「アードラー副総帥。貴方こそ何故この場にいるのですか?ビアン総帥から武蔵君に接触される事は禁止されているはずでしょう?」……っち」

 

だが流石にそれ以上は見てられないとエルザムが止めに入ると、アードラーは舌打ちをし、ガーリオンの格納庫を後にする。武蔵はほっとした表情で笑う

 

「いやあ、すんません。エルザムさん」

 

「いや、構わないよ。大丈夫だったかね?」

 

武蔵がアイドネウス島に来て1週間。エルザムの部隊の預かりの客賓と言う扱いの武蔵だが、働かざる者食うべからずと整備兵の手伝いなどをして過ごしていた。馬鹿と言っていたが記憶力は案外優れていて、手先も器用と言うことで客賓でありながら整備兵の見習いと言う扱いになっていた

 

「あの爺さん。なんか苦手だなぁ、敷島博士に似てるから」

 

武蔵から出てきた新しい人物の名前。武蔵はあっと呟いてから敷島博士の話をする

 

「原爆とか水爆の研究をしてた人で、自分の作った武器で惨たらしく死ぬってのが夢って言う危ない人ですね」

 

「……君の知り合いも中々個性的だな」

 

引き攣った顔で笑うエルザム。武蔵の知り合いとして話の中に出てくるのは、空手道場を荒らしていた実戦空手の達人である「流竜馬」。IQ300にして学生革命家だった「神隼人」と非常に癖の強い人物が多かったが、今回の人物も癖が強いと言うよりかは危険人物と言う感じだった。前者2人に関しては特殊戦技教導隊の面子と比べればさほどとエルザムは感じていた。腕は良いが癖の強い面子が多かったので、そう言う人間にはある種耐性のあるエルザムだからこその感想だろう、なおエルザム自身も癖のある人間と言う側に入っていると言う事も忘れてはいけない

 

「エルザム少佐、すみません。私の責任です」

 

「いやあ、あんたは悪くねえよ。オイラも興味を持ったのが悪かったんだ」

 

自分の部隊の人間が駆け寄ってきて謝るが、武蔵がそれを庇う。エルザムはどう言う事か事情を問いただす

 

「シミュレーターに乗ったのか」

 

話を聞くと昨日整備班の荷物の運搬を手伝い、そのついでにAMのシミュレーターを見つけたので、勧められた事もあり武蔵がシミュレーターを使ったのことだった

 

「いやあ、はは。興味があったもんでつい」

 

頭を掻きながら笑う武蔵。規格はまったく異なるが、武蔵も機動兵器のパイロットだったから、どんな物かと好奇心を抑える事が出来なかったようだ。その結果がアードラーの目に止ってしまった言うのは明らかに武蔵の落ち度だったが……

 

「そんなに素晴らしい結果だったのか?」

 

アードラーの性格から酷い結果に興味を持つとは思えない。エルザムがそう尋ねると武蔵は恥ずかしそうに笑いながら

 

「いやあ、まともに操縦出来なくて、ずーっと飛んでるだけでしたよ」

 

操縦も複雑でしたし、飛ばすのがやっとと苦笑する武蔵。エルザムはその言葉に首をかしげた、飛ばすことしか出来ないパイロットにアードラーが興味を持つように思えなかったからだ。だが即座に部下の修正が入り、アードラーが武蔵に興味を持った理由に納得した

 

「武蔵君は常人なら気絶してもおかしくない加速に平然と耐えてました。しかも欠伸までする始末です」

 

常人なら死んでもおかしくない重力に耐えていた。その強靭な肉体にアードラーは興味を持ったのだろう、アードラーの研究はマンマシンインターフェイスの作成に重点を置いているが、データを集める為に強靭なパイロットも求めていた。操縦技術は稚拙でも、身体が頑丈なら実験台として相応しいと思ったのだろう

 

「いやあ、全然平気だけどなあ。ゲッターに乗ってることを考えれば全然余裕」

 

エルザムはビアンから話として聞いていたが、ゲッターには重力抑制装置やパイロットの安全装置などは組み込まれておらず。更に武蔵の話から聞いた合体機構によると正面衝突や、突き刺さると言う合体と言うよりかは事故と言うレベルの衝撃がパイロットを襲うらしい。更にビアンがシミュレーターで再現したが並みのパイロットならば合体した瞬間に脳が焼ききれても仕方ない負担を受けるそうだ

 

「……とりあえず武蔵君。君はあんまり格納庫には顔を出さない方が良さそうだ。いらないトラブルを引き起こす事になりそうだ」

 

「……そう、みたいだな……折角皆さんと仲良くなれたのに残念だ」

 

アードラーに目をつけられたとなるとエルザムクラスでなければ、その命令を拒否出来ない。武蔵の身を守る為には格納庫に余り近づかない方が良いとエルザムは判断したのだ、武蔵は残念そうにしていたが、敷島と言う博士に似ていると感じただけに、あんまり関わらない方が良いと思ったのか、エルザムの言葉に素直に頷いた

 

「とりあえず部屋まで付き添おう。こっちだ」

 

「ご迷惑を掛けます」

 

エルザムは武蔵を連れて格納庫を後にする。今回は守る事が出来たが、次もこう上手く行くとは限らない。今後はより注意する必要があるとエルザムは感じていた

 

「大分慣れてきたかな?」

 

武蔵の部屋に案内する間にそう問いかける。最初は浮いていた武蔵だが、その性格から受け入れられているとエルザムは感じていた。だが本人がどう思っているのかと問いかけると武蔵は嬉しそうに笑う

 

「はい、皆よくしてくれますし、大分状況も理解できたと思いますよ」

 

通信端末の使い方を教えて貰い、PCの使い方を覚えたと笑う武蔵。だが情報収集の技術を得たと言う事は武蔵が世界の情報を集め、自分なりの解釈を持つと言う事を示していて、エルザムは少し顔を歪めた。今アイドネウス島にいるテンザンと言う余りに酷い青年と比べ、余りに武蔵が好青年と言う事もあり、難しいと思っていたが自分達に協力して欲しいと言う思いがあったからだ

 

「宇宙人が攻めてくるかもしれないから、それに備えてるって事ですよね」

 

だがエルザムもビアンもまだ、EOTI……いや、ディバイン・クルセイダーズの目的を武蔵に話してはいなかった。自らの保身に走る政府高官とそれに付き従う腐った軍人、地球の危機だと言うのに利権を持ち込む政府の役人達。このままでは地球が駄目になってしまう……そう考え、地球連邦に戦争を挑むと言う話はまだ武蔵にはしていなかった

 

「ありがとうございました。ご迷惑を掛けてしまってすいません」

 

「いや、気にしなくて良い。もしなにか困った事があれば連絡してくれ、すぐに部下を寄越そう」

 

エルザムは武蔵にそう笑いかけ武蔵の部屋の前を後にする。だがそのまま自分の執務室へとは向かわずビアンがいる地下研究室へと足を向ける

 

「……そうか、アードラーの奴め。私の命令すら聞かぬか」

 

エルザムからアードラーが武蔵に接触していると聞いてビアンはその顔を歪める

 

「正式にお前つきの部隊に配属してしまうという手もあるが……エルザム。お前から見て武蔵君はどう見える?」

 

「とても気持ちの良い好青年です。気は優しく、困っていれば手を貸してくれると部下からの評判も非常に良いです」

 

エルザムの報告にビアンはそうかと呟き、背凭れに深く背中を預ける。武蔵が平行世界から来ていると言う事を知るのはビアンとエルザムの2人だけだった。平行世界の住人で戸籍が無いとしればアードラーが暴走するのは判り切っているからだ

 

「武蔵君を呼んでくれないか。予定より早いが、ゲッターロボの試運転をしてもらう」

 

今現在武蔵のアイドネウス島での立ち位置と言うのは、表向きにはビアンの古い友人の研究者から試作のロボットとそのパイロットを預かっているという扱いとなっている。メカザウルスとゲッターが墜落してきたのは深夜であり、そしてアードラーがアイドネウス島に向かってくる前日だったと言う事もあり、ゲッターとメカザウルスの戦いを目撃した者はごく少数しかいないのだ。そして目撃者にもビアン自ら緘口令が敷かれている、もしアードラーが目撃していればそれこそ武蔵もゲッターロボも酷い扱いを受けていただろう

 

「修復は完了したのですか?」

 

「見た目だけは完璧と言っても良い。だが動力であるゲッター線のチャージが十分では無いし、腹部の破壊も完璧に修復出来ているとは言い難い、だが武蔵君をこのままにしておくわけにもいかない。テンペスト少佐やテンザンにも見せることになるが、それも仕方あるまい」

 

武蔵の存在に懐疑的な者も多い以上、アードラーの暴走を引き起こす可能性が極めて高い。故にゲッターの能力、そして武蔵のパイロットとしての腕前を認めさせる必要があるとビアンは考えた。袂を分かつとしても、武蔵を気に入っていたビアンはあと少しの間だったとしても、快適に過ごさせてやりたいと言う気持ちがあった

 

「……ですがゲッターを使わせると言う事は武蔵君がアイドネウス島を飛び出すと言う事にも繋がりますよ」

 

今はまだDCとして活動していないが、テンザンがリオンのテストに向かう日も近づき、南極での会議も近づいている以上。DCの目的を武蔵が知る日はそう遠くは無い、もしそうなれば武蔵はゲッターを奪いアイドネウス島を飛び出すだろうと忠告するエルザムだが、ビアンは嬉しそうに笑い

 

「判っている。彼はDCの思想には共感してくれないだろう……」

 

地球を守ると言う事ならば武蔵は協力してくれるだろうが、その為に戦争を起こそうとするビアンとエルザムの考えには決して同意しないだろう……エルザムから見ても武蔵は正義感に溢れる青年だ。例え大義があるとしても、決して同意しないとビアンもエルザムも感じていた

 

「だが彼のような人材は地球連邦……いや、ハガネにこそ相応しい」

 

伊豆基地の地下に準備されているスペースノア級万能戦闘母艦の弐番艦「ハガネ」ビアン達の動きが怪しいと感じた、レイカー・ランドルフの手によって、極秘裏に用意されている戦艦だ。ビアンは自らが決起すれば必ずハガネが立ち塞がると感じていた。

 

「強大な敵となりますよ」

 

「ふっ、それでも構わない。武蔵君とゲッターが現れたのにもきっと意味があると思うからな。勿論賛同してくれればなお良いが……」

 

敵になると言うのならばそれを乗り越えるとビアンは言い切って、再びエルザムに武蔵を呼んでくる様に頼むのだった

 

「おおーッ!ゲッターロボが完全に直ってる!!!」

 

エルザムに連れて来られた武蔵はゲッターが完全に修復されている事に歓喜の叫びを上げる。相棒であるのと同時に、自分が確かに早乙女研究所にいたという証だ。ゲッターの存在は自分を知る者が誰もいない世界の中で武蔵にとって大きな心の支えとなっていた

 

「喜んで貰えて何よりだよ。私の方からいくつか改修をさせて貰っている、コックピットに向かってくれるか?」

 

「判りましたぁッ!」

 

元気良く叫んでコックピットに乗り込む武蔵を確認してから、ビアンは研究室のスピーカーを使い武蔵に声を掛ける

 

「武蔵君。ナビゲーターを搭載してあるが、判るかね?」

 

修理のついでにある程度の改良を施したビアンは武蔵に新しく設置した機械の説明を始める

 

『この新しいモニターですね。大丈夫です、あ、地図が出ました』

 

ゲッターのスピーカーから聞こえてくる武蔵の声にビアンは笑みを浮かべる。ゲッターの動力はゲッター線なのでもしかしたらこの世界の機械と相性が悪いかもしれないと不安に思っていたのだが、無事に起動してくれた事に安堵したのだ。これならば武蔵1人でも日本に辿り着けると安心もした

 

「武蔵君。ゲッターの調子はどうかな?」

 

ビアンの問いかけに武蔵は格納庫の中をゆっくりと歩かせ、拳を閉じたり開いたりさせながら稼動範囲の確認をする

 

『うーん……正直出力が上がりませんね。元々3人乗りを無理矢理1人で動かしている訳ですし……あ、文句を言ってるわけじゃないですよッ!?直してくれて本当に感謝してます』

 

慌てて言う武蔵にビアンは気にしてないと笑う。だがそれと同時にやはりかと心の中で呟く、ゲッター線と言う放射線はアイドネウス島でも確認する事が出来たが、それはとても微量でゲッターを動かすには余りにも少ないエネルギーだった

 

(先日まで確認すらされなかったのにな……)

 

だが確認されたゲッター線は、ゲッターが出現してから突如確認された。いままで存在しなかった物が突如現れた……ゲッターの力が必要だからゲッター線が現れたのか、ゲッター線が現れたからゲッターと武蔵が呼ばれたのか?それがビアンの中の疑問であり、そして腑に落ちない事だった。

 

「一応サブシステムでプラズマジェネレーターを補助として搭載しているが、それでもパワーは上がらないかね?」

 

ゲッター線を吸収するシステムが炉心には組み込まれていると把握していた為、ゲッター線を十分に貯蔵するまでのサブ動力として搭載したプラズマジェネレーターの事を尋ねるビアン

 

『実際に飛ばしてみたり、分離してみないと何とも……』

 

格納庫で動かすだけでは判らないという武蔵の言葉。ビアンはその言葉を待っていたと言わんばかりにある提案をする

 

「それだったら武蔵君。明日ゲッターの飛行テストをしてみないか?EOTI機関の職員も見ると思うが、ある程度の試運転が出来るように手筈を整えよう」

 

『良いんですか?』

 

「勿論だとも、今地球圏は未知の宇宙人の脅威に晒されている。武蔵君、君とゲッターの力を借りることが出来るのならば、これほど心強いことは無い」

 

ビアンの言葉に武蔵は嬉しそうに笑う。勿論武蔵がDCに協力してくれれば心強いというのはビアンも思っていた、だがそれは限りなく低い可能性と言う事もまたビアンは感じていた

 

『判りました。じゃあ明日、よろしくお願いします』

 

元気良く返事を返す武蔵。それはビアンを善人と信じて疑わない響があり、ビアンはその事に胸を痛めながら武蔵にゲッターから下りるように告げた。

 

そして翌日。平行世界でゲッターロボがその強さをビアン達にと見せ付けるのだった……

 

 

 

第4話 ゲッターロボへ続く

 

 




今回はやや短めの話となりました。ゲッターとまで続けて書くと話が長くなるので、切が良い所で切らせてもらいます。とりあえず時間軸は南極事件の前でもう少しでDC決起となる段階です、ルートはPS2のOGのリュウセイルートで考えているのでハガネ発進の辺りで主人公側と絡めて行きたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 ゲッターロボ

 

第4話 ゲッターロボ

 

ゲッターの運転テスト当日。武蔵は自分にとってのパイロットスーツでビアンの研究室を訪れていた。

 

「……それで良いのかね?パイロットスーツならこちらでも用意しているのだが……」

 

思わずビアンが困惑したのも無理は無い。長靴に膝丈の半ズボンに剣道の胴、マントを羽織り頭には黄色のヘルメットに水中ゴーグル。そしてしまいには日本刀を背中から背負うと言う個性的……と言う言葉では片付けられない服装をしていた。

 

「オイラはこれが一番落ち着くんですよ」

 

笑いながら言われてはビアンも何も言えず、そうかと言う事しか出来なかった。本人が良いのなら黙っておくことも大事だからだ

 

「私のほうで分析してみたのだが、ゲッターは戦闘機に分離できると考えているのだがどうかね?」

 

ビアンが分析した結果なのだが、ゲッターには3つのコックピットがあり、戦闘機の姿とゲッターロボの姿があるのだろうと尋ねる

 

「戦闘機にはなりますけど、ゲッターは空戦の1、地上戦の2、水中戦の3に合体しますよ?」

 

「何ッ!?そうなのかッ!?」

 

まさかのビアンも3形態に変形合体するとは想像しておらず声を荒げる。それと同時にゲッターを作成したと言う早乙女博士の頭脳にも驚かされた

 

「とりあえずゲットマシンで出撃して、ゲッター1にチェンジして様子を見たいと思うんですけど、良いですか?」

 

「ああ、それで構わない。データ取りも難しいので今回は空戦使用のゲッターにだけ合体して貰えるとありがたいね」

 

未知のテクノロジーであるのでそれを分析すると言う目的もあるが、余り多くの情報を出されても困るので空戦のみに制限してくれとビアンは武蔵へと頼むのと同時に今のゲッターの状態を説明する

 

「ジャガー号と言うマシンの炉心だが、ゲッターロボが落ちてきた場所に破片が落ちていたのでそれを回収した。イーグル号、ベアー号の炉心の構造を分析して修理した物を搭載している。ただ材質などの問題もあり、プラズマジェネレーターを炉心と機体の接合部に増設している、炉心のパワーが一定状になれば取り外す必要があるが、補助動力としては十分だろう」

 

ゲッターの腕と炉心。それはゲッターが落下してきた部分に破損こそしているが殆ど原型を残していた。ビアンはそれを細心の注意を払って回収し、修理し改良した。そうでなければビアンであったとしても1週間でゲッターを元の姿に戻すのは不可能だっただろう。ただ1つ気がかりなのが、腕も炉心もまるでビアンに回収させるのが目的だったとでも言うのだろうか、ゲッターの損傷と比べて軽すぎる破損に違和感を覚えていたが、ビアンはそれを口にする事は無かった。

 

「あーそっか、あ、でもそれだと腹部のレンズは?」

 

敵の攻撃で腹に風穴が開いていた。それはゲッター1の生命線であり、最大の武器であるゲッタービームの発射口に近かった。レンズは大丈夫ですか?と武蔵が尋ねる

 

「レンズは奇跡的に無事だった。だが発射装置などは破損していてね、できる限りの修復は施したが……本来の威力を引き出せているかは判らない」

 

ビアンの頭脳を持ってしても、ゲッターの中枢を理解することは出来なかった。ビアンに出来たのは、千切れている配線を繋ぎなおし、スキャンを行い。部品の複製をし、それを元の場所にはめ込むだけだった。不安要素はあるとビアンは告げる、だが武蔵はありがとうございますと笑う

 

「自分でも判ってます。ゲッターはボロボロでしたから、それをここまで修理してくれたことには感謝しかありません。でも出来れば武装の確認とかもしたいんですけど、大丈夫ですか?」

 

「ああ。それに関してはターゲットドローンを射出する。それを相手にテストしてくれれば良い」

 

「判りました、じゃあえっとゲッターを分離させますね。飛行機の発射台とかありますか?」

 

その言葉にビアンは笑みを浮かべる。地下の格納庫に収納する為特殊なエレベーターを使用したが、極秘機密もあるためそのエレベーターを使いたくなかった。だがゲッターが戦闘機に分離出来るなら通常の発射基地から射出出来るし、運搬用のトラックも使える。むしろ、其方の方がビアンにとっても都合が良かった

 

「勿論発射用のカタパルトもあるから心配することは無い」

 

ビアンの言葉に頷き格納庫に下りていく武蔵。その姿を見送りながらビアンはゲッターを見上げる……この無骨な姿にどれだけの科学技術が結集されているのか、同じ研究者として早乙女博士を恐れるのと同時に、その頭脳にビアンは敬意すら払い始めていた。

 

 

 

 

アイドネウス島。軍事演習場には沢山の軍人の姿があった、それもそのはず。ここ数週間軍人でも無いのに、基地施設をうろついていた武蔵がパイロットを務める機体の試験を聞けば、味方の能力を確かめようと集まるのは当然の事だったが……

 

「ふああああ……あー眠ぃ。あんでこんな朝っぱらから呼び出されないといけねえんだ」

 

黒髪で肥満系の青年が不機嫌そうに呟く、青年の名は「テンザン・ナカジマ」。民間人で、バーニングPTと言うゲームのプレイヤーだった。だがバーニングPTの規格はPTと全く同じであり、ゲームと称してPTを操縦できる人間を集めると言う、軍事計画の下優秀な成績を収めていた男だ

 

「テンザン。文句があるのなら失せろ、目障りだ」

 

「ほっ、言ってくれるねぇ。ロートルが」

 

「戦争をゲームと思っている小僧が」

 

そんなテンザンを睨みつける男性の名は「テンペスト・ホーカー」エルザムと同じく、元特殊戦技教導隊の一員であり。今はEOTI機関に所属する軍人だった。2人の間に険悪な空気が満ちようとしたその時

 

「テンペスト少佐もテンザンも止めるんだ。もうじき試作機のテストが始まるんだぞ」

 

エルザムが仲介に入り、テンペストはすまなかったと頭を下げ、テンザンは白けるぜと言って椅子に深く腰掛ける。そんな2人の姿にエルザムは苦笑しながら2人の間に腰掛ける

 

「それでエルザム。試作機と聞いているが、どんな機体なのだ?連邦軍との戦争で役立つのか?」

 

軍人であるが故にパイロットよりも機体性能が気になるテンペストの質問。だがエルザムもそこまで把握している訳ではなく、機体性能に関しては殆ど判らないという状況だった

 

「機体名はゲッターロボ。40m級の特機です」

 

40m級の言葉にテンペストもテンザンも驚きの声を上げる。主流となっているPTやAMのサイズが20m前後なので40m級と言えば倍近いサイズの差があるからだ

 

「40m級か……となると超闘士と名高いグルンガストと同等のサイズとなるか」

 

グルンガスト……テスラ・ライヒ研究所が開発したスーパーロボット。それがグルンガストである、ありとあらゆる状況に対応するため3つの形態を持ち、更に当時で最高の技術を用いられた文字通りのスーパーロボットである。

 

「へへ、良いねえ。正にスーパーロボットってやつじゃねえか……なぁエルザム少佐。そのテストパイロットが駄目なら俺にも乗せてくれよ」

 

「それを決めるのは私では無い、ビアン総帥と武蔵君だ」

 

テンザンの言葉を両断しエルザムが視線を前方に向ける。そんな姿にテンザンは気取っちゃってと悪態を打つが、ビアンが姿を見せた事で試験が始まると理解し黙り込む

 

「朝早くから集まってくれて感謝する。これより、我が友人が作り上げた特機の試運転を始める。武蔵君、始めてくれ」

 

ビアンの始めてくれと言う言葉と同時に空に3つの戦闘機が舞い上がる、赤、白、黄色のカラフルな機体だ。だが空を飛んでいるから辛うじて戦闘機として認識出来たが、その姿はとても戦闘機とは程遠い姿をしていた。主翼は無く、申し訳ない程度の尾翼、それを高出力のエンジンで無理矢理飛ばす姿は戦闘機ではなく、ロケットやミサイルにしか見えない

 

「おいおい、エルザム少佐。40m級の特機じゃないのか?あれはどう見てもロケットかなんかだぞ?」

 

「黙っていろテンザン。エルザム、あれはコックピットブロックか何かなのか?」

 

テンペストにそう質問されるが、エルザムが知っているのはゲッター1の姿であり。戦闘機が姿を見せるなんて思っても無かったので困惑するしかない

 

「いや、私が見た時は40m級の特機だったのだが……」

 

流石のエルザムも普段のはっきりとした口調をどもらせる。まさかゲッターが戦闘機に分離するなんてエルザムの眼力を持ってしても見抜ける訳が無かった

 

「武蔵君。飛行の感じはどうかな?」

 

『今の所問題ないです、ではそろそろ次の段階に入ります』

 

次の段階の言葉に全員の視線が空を舞うゲットマシンに向けられたその時。ゲットマシンは急に機首を空に向け上昇していく

 

『チェーンジッ!!!ゲッター1ッ!!!』

 

力強い武蔵の叫びがアイドネウス島の上空に響き渡る。全員が見ている中でジャガー号とベアー号が追突する。空中衝突を想像したエルザム達だが、ジャガー号もベアー号も爆発は愚か、破壊されることも無く全員の見ている中で変形していく

 

「なんと……」

 

「まじかッ!?すげえッ!!!」

 

テンペストの驚愕の声とテンザンの興奮した声、そして目を見開くエルザム達の目の前でジャガー号から腕の骨組みが姿を見せ、自動で展開される装甲版によって瞬く間に骨組みは巨大な腕へと変形し、ベアー号のミサイル発射部が伸びるように足へと変形する。そして頭部へと変形したイーグル号が胴体と合体し、3つの戦闘機はエルザム達の見ている前で巨大な特機へと合体し、地響きを立ててアイドネウス島に着地する

 

「合体は成功したようだな。武蔵君、調子はどうだ?……武蔵君?」

 

何度か呼びかけるが武蔵からの返答は無い、ビアンが4回目の問いかけで

 

『あ、すいません。ちょっとゲッターのパワーの確認をしてました』

 

「パワーに何か問題でも?」

 

『いえ、大した問題じゃないですから、このまま試験を続行します』

 

ゲッターウィングと武蔵が叫ぶと、ゲッターの背中にはボロボロの赤いマントが現れる。そしてゲッターの40m近い巨体はマントを翻し天空へと舞い上がった

 

「あれだけの巨体が飛ぶのかッ……よほど高性能のテスラドライブを搭載しているのですか?ビアン総帥」

 

「いや、ゲッターロボはゲッター線と言う放射線で稼動している。その放射線によって重力を操作しての飛行だ。更にはまだ安定していないが、エネルギーが安定すれば無限動力になる可能性を秘めている」

 

無限動力……エネルギーが尽きないという言葉に試験場にざわめきが満ちる。エネルギーと機動兵器は切っても切れない関係だからだ。機体を動かすにも、武器を使うにもエネルギーは必須だが、無限動力となればその課題は一気に解決する。しかし、エルザムはエネルギーよりもゲッターの機動力に目を奪われていた。急旋回にバレルロール、重力に囚われないその自由な機動はリオンやガーリオンよりも遥かに自由度が高い物だった

 

『ビアンさん。ターゲットをお願いします』

 

「ああ。そうだな、今ターゲットドローンを射出する」

 

音を立ててゲッターに向かって射出されるターゲットドローン。合体、無限動力と言う言葉に引かれるが重要なのはゲッターの戦闘力だ。全員が見つめる中、ゲッターの肩から棒が射出される

 

『ゲッタートマホークッ!!!』

 

ゲッターが掴むとそれ刃が展開され巨大な戦斧となる。それを恐ろしい速度で振るいドローンを両断し、拳で打ち落とし、蹴りを叩き込み海へと蹴り飛ばす

 

「格闘戦と言うが、恐ろしいな」

 

機動兵器での格闘戦……だが良く考えて欲しい。機動兵器の腕部には手持ちの武器などを扱うための高度な制御装置が密集している、そんな部位を叩きつければ普通に考えればマニュピレーターがひしゃげてしまう。つまりPTやAMにとっての白兵戦の武器と言うのは極限まで相手に接近しての超精密射撃と同意儀だ。だがゲッターと呼ばれたロボは拳で相手を文字通り叩き潰している、それは従来の機動兵器から見ても異様な光景だった

 

「すっげえ!やっぱりロボットはあれだよなァ!でかくて、強い!やっぱり男なら1度はスーパーロボットに憧れるぜ!!」

 

だがテンザンはそんな専門的な知識などどうでも良く、目の前で暴れるゲッターに興奮していた

 

「武蔵君ドローンのパターンを変える。可能な範囲で良い、反応してみてくれるか?」

 

『了解です。どうぞ』

 

ビアンの言葉と同時に打ち出されているドローンのパターンが変わる。空中で曲がり、機動も不規則だ。あれに反応するのは高度な火器慣性システムが必要だと全員が思ったが、ゲッターの取った行動は予想にもしない光景だった

 

『トマホォォクッ!ブゥゥゥメランッ!!!!』

 

手にした斧を力任せに投げつけるという原始的な攻撃に絶句する。だが高速で迫る斧はドローンを引き裂き、ブーメランの叫びの通り弧を描いて戻って来て、それを掴んだゲッターはドローンを頭から両断する

 

「凄まじいな……あれだけの機動力に攻撃力……従来の特機を超えている」

 

テンペストが驚いたという様子で呟く、その自由度も反応速度も攻撃力も従来の物とは比べ物にならない。だが、エルザムの考えは違っていた

 

(あれで弱体化しているというのだから、フルパワーが想像できないな)

 

武蔵によればあれでもゲッターは弱体化しているらしいのだ。ゲッターは3人のパイロットが揃ってこそと、今単独操縦のゲッターは本来の能力の半分以下だと言う。しかもエネルギーも安定せず、予備として搭載していたプラズマジェネレーターとゲッター線で稼動している。つまり武蔵の知るゲッターとは比べるまでも無く弱体化しているのに、この力……敵に回る可能性が高いと知るエルザムは、1人冷や汗を流す

 

「武蔵君。ドローンの射出速度を上げても大丈夫かね?」

 

『全然大丈夫です。どうぞ!』

 

返答を受けてドローンが今までの倍以上の速度でゲッターに迫るが、空中で反転し降下しながらドローンの突撃をかわす。その姿は無骨で巨大なロボットとは思えないほど優雅な動きだった

 

『へっ!遅い遅いッ!!』

 

空中で更に反転したゲッターが両腕を突き出すと、腕部の装甲が展開し、そこからマシンガンが姿を見せる

 

「腕部内蔵兵器だと!?それであの耐久力……信じられん」

 

腕部の中にまさか武器が仕込まれているとは思っていなかったのか、見ていた全員が叫ぶ。中に武器を仕込めば当然耐久力は落ちる、だが今までの暴れようを見て、まさか腕に武器を仕込んでいるなんて誰も想像しなかったのだ

 

『オラオラオラオラアッ!!!』

 

そこから雨霰のように打ち出される銃弾はPTやAMでさえも一瞬で蜂の巣にするような弾幕の嵐。あれだけ撃てば狙いは中途半端でも、1発でも当たればそこから畳み込まれるのは明白だった。

1発でも当たればそこから畳み込まれるのは明白だった

 

『これでしまいだ!ゲッタァアアア、ビィイイイイムッ!!!!』

 

腹部が開き、そこから姿を見せたレンズからビームが打ち出される。飛行能力も高く、機動力もあり、攻撃力も高く、トドメの一撃まで使える。ゲッターが見せた動きはどれもテンペストやエルザムから見ても素晴らしい物だったが、ビームの撃ち終わりと同時にゲッターの目から光が消え、頭から落下する

 

『や、やべえええ!!オープンゲーットッ!!!』

 

地面に叩きつけられる前に、ゲッターの巨体は3つの戦闘機に分かれ不時着する

 

「武蔵君!なにがあった!?」

 

『いやあすいません。炉心のパワーが急に落ちてしまって……ゲッタービームをフルパワーで撃つと多分、エネルギー切れを起こしますよ。もし使うならもっと威力を絞らないと』

 

「機体の不備なのだね、すぐに迎えを寄越す。そのままゲッターのコックピットで待っていて欲しい」

 

ビアンは早口で試運転は終わりだと言って演習場を後にする。ビアンが退出したことで見ていた軍人達は興奮した様子で喋りだす

 

「凄いな、武蔵君がテストパイロットと聞いていたが、あれだけのロボットならばビアン総帥もエルザム少佐も気に掛けるのも納得だ」

 

「しかしエネルギーに問題があるようだ。まぁビームが無くても、あれだけの戦闘能力を持つなら問題は無いと思うが」

 

テンペストとテンザンもゲッターの事を見て興奮した面持ちだった

 

「素晴らしい特機だ。もし叶うのならば私もパイロットにして欲しい物だ」

 

「戦闘機が3つなら、俺だって乗れるだろッ!ビアン総帥もちゃんと実力を見てパイロットを選んで欲しいぜ」

 

3つの戦闘機が合体し、そしてゲッターになったのは全員が見ていた。パイロットは武蔵1人ならば、あと2機のパイロットは自分達から選ばれるかもしれないと話している軍人の中、エルザムは席を立ち演習場を後にした。

 

 

 

 

 

地下格納庫に向かったエルザムを待っていたのは困り果てた表情の武蔵とビアンの姿だった

 

「ビアン総帥。武蔵君、何か問題があったのですか?」

 

エルザムの声に振り返った武蔵は頭をかきながら

 

「炉心のパワーが全然安定しないんですよ。分離して合体した時もかなり不安定で……普通に動く分なら問題ないと思うんですけど、エネルギーを使う武器を使うとガス欠を起こすと思うんです」

 

「プラズマジェネレーターのエネルギー供給ではまともに稼動しない。ゲッターは高性能だが、その分かなりのエネルギーを使うようだ」

 

サブ動力として組み込んだプラズマジェネレーターでは、焼け石に水程度の効果しかないと聞いてエルザムは驚く。プラズマジェネレーターはPTを起動させる上では十分な出力を持っているからだ。

 

「ではゲッターは今のままでは戦力として安定しないと言う事ですか?」

 

「そうなるな。少なくとも全力戦闘は不可能だ、武蔵君どうする?君さえ良ければ私の方でリミッターを設置も出来るが」

 

敵に回るからリミッターをつけようとしているのでは無い。武蔵が知っているゲッターの感覚で操縦するとガス欠を起こす可能性が高い、だからこそリミッターを取り付けるか?とビアンは提案する

 

「……お願い出来ますか?いままでの感覚で使いそうなので」

 

武蔵の話ならば武蔵はゲッターのパイロットとして、メカザウルスと戦い続けていた。だからエネルギー配分などは上手いはずだが、それを加味しても今のゲッターはエネルギーが不足しているのだ

 

「とりあえずゲッタービームは封印するしかあるまい」

 

「トホホ……さっき操縦した時もエネルギーが不足してたけど、まさかビーム一発でガス欠するなんてなあ……」

 

ゲッターにリミッターが掛けられる。それを聞いてエルザムは内心で喜んでいた。武蔵が敵に回った時、殺さないで済むかもしれないという可能性が浮上したからだ

 

「そう気に病む事は無いさ。今回の試験でもゲッターは十分な性能を見せてくれた、これならば君の安全も確保される」

 

「そうですかね……はぁ」

 

ゲッターが思うように動かないと言う事に深い溜息を吐く武蔵の肩を叩き、エルザムは笑う

 

「大丈夫だ。それに朝が早くて食事もしてないだろう?まずは食事でもして気分転換をするといい」

 

「そうですねーそう言われるとオイラ、腹ペコだ。食堂に行っても良いですか?」

 

ビアンに了承を求める武蔵。ビアンは穏やかに笑いながら

 

「勿論だ。朝早くから悪かったね、お疲れ様」

 

ビアンの了承を得て格納庫を出て行く武蔵とエルザム。2人の姿が見えなくなるとビアンの表情は鋭い物になる

 

「……エネルギーは十分とは言えないが、しっかりと蓄えられていたはず」

 

武蔵には言っていないが、ビアンは既にビームの出力にリミッターを掛けていた。これでビームを撃ってもガス欠するはずが無かったのにも関わらず、現にゲッターはエネルギーを枯渇……いや、エネルギーが十分だったのにその機能を停止させた

 

「ゲッター線……か」

 

ビアンの頭脳を持ってしても理解出来ない未知のエネルギー。何か、自分でも理解出来ない……ゲッターの意志と言うべき物が今回の結果を齎していたのではとビアンは考えていた

 

「……ふっ、エネルギーに意志があるなどと――私も疲れているな」

 

ビアンはそう苦笑し踵を返した。南極での会談を2日後に控えたビアンは様々な準備もあるため地下格納庫を後にしたのだ……だがビアンは知る由も無かった。誰もいないはずの格納庫に突如翡翠色の輝きに満ちたことを……――ビアンも、武蔵も、知るよしはない事が地下格納庫で起きているのだった……

 

『ふっ、武蔵か。こんな可能性もあるとはな……このワシを持ってしても予想にもしなかったぞ』

 

そして突如浮かび上がるように下駄を履き白衣を纏った老人の姿が現れた事を……

 

『ゲッターよ、死者であるワシと武蔵に何をさせるつもりだ?』

 

ここに武蔵がいたのならば叫んだであろう。早乙女博士と……だがここに早乙女博士を知る者はいない、そして早乙女博士の問いかけに答える者もまた居ない。周囲に満ちた翡翠色の輝き……ゲッター線を取り込むゲッターの輝きだけが、地下の格納庫を照らす

 

『ああ、判っている。判っているとも、治せと言うのだろう? やれやれ、年寄りをこき使いおって』

 

老人はそうぼやくがその表情は楽しそうで、ゲッターの中に吸収されるように消えていくのだった……

 

 

ゲッターロボ ゲッター線 早乙女博士 巴武蔵……そして恐竜帝国……

 

 全ては――――の為にこの時代へと導かれたのであった

 

 

 

第5話 決断の時へ続く

 

 




はい、ここで早乙女博士(亡霊)の出現です。ゲッターは炉心が安定せず弱体化、エネルギーを使う武器が使用できないなどのハンデを背負っていますが、無敵のスーパーロボットであるゲッターならばビームなどが無くてもゲシュペンストやリオンには負けないと思います。次回は南極事件の後から初めて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 決断の時

第5話 決断の時

 

飛行場にはイーグル号、ジャガー号、ベアー号の3機が並べられていた。今希望者によるイーグル、ジャガー号のパイロット適正試験を行ったのだが、結果は勿論散々な結果だった。武蔵は普段通りの剣道の胴、ヘルメットと姿と言うとてもパイロットとは思えない服装だが、けろっとしていた。だが今イーグル、ジャガーから下りた両名は酷い有様だった

 

「うげえ……げぼお……な、なんだよ……これ……パイロットを殺す気かよ……ありえねえ……」

 

リーダーは赤と言って乗り込んだテンザンはヘルメットを投げ捨て、蹲り戻し続け。ジャガーから下りたテンペストもまた青い顔で尻餅をつき

 

「……恐ろしいな。腕には自身があったが……飛ばす事すらままならんか」

 

今回は2人とも操縦桿を握らず、ベアー号の武蔵の遠隔操作で飛行していた。まずは速度に慣れなければ操縦所では無いと言う事でまずは速度に慣れようとの事だった。だが、テンザンは飛行してすぐゲッターの殺人的な加速にノックアウトされ、ベアーの通信装置で様子を見ていた武蔵の判断で着陸させられ、テンペストは操縦桿を握り締め必死にゲッターの加速に耐えていたが、それも数分の事で白目を向いて気絶した。飛ばすだけでこの有様では到底合体までは漕ぎ付けられないと判断し武蔵はジャガー号も着陸させ、それに続くようにベアー号も着陸させたのだ

 

「えーっと、まだ乗りたいって人います?」

 

武蔵の言葉にパイロットになりたいと返事を返すものは居なかった。性格は悪いがパイロットとしての腕前は一流のテンザンが今も戻し続け、連邦軍のエースでもあったテンペストが立つことも出来ないと言う姿を見て、立候補するパイロットは居なかった

 

「ふむ。では私が乗ろう」

 

「エルザムさん。イーグルでも、ジャガーでもお好きな方にどうぞ」

 

既にヘルメットを被っているエルザムを見て、武蔵も止める事はせず好きなマシンにどうぞと声を掛ける

 

「ではジャガー号にしよう。発進まで内部を見たいが良いか?」

 

「大丈夫ですよ。準備が出来たら声を掛けてください」

 

慣れた感じでベアーに乗り込む武蔵を見て、エルザムもジャガーに乗り込み計器などの確認をする。操縦桿に加速と減速をするペダルが2つ、そして上下左右から飛び出したレバーとモニターなんて物じゃない、ただ周囲を映し出すのみのスクリーン……ビアンから話を聞いていたエルザムは心の中で中身自身は旧世紀の骨董品かと呟く

 

『準備は良いですか?』

 

「ああ、構わない。発進してくれ」

 

『了解です、あ、勝手にあっちこっち触らないでくださいね。自動操縦が解除されると危ないんで』

 

操縦桿のモニターから心配そうに声を掛けて来る武蔵に判ったとエルザムが返事を返すとイーグル号から上空に飛び立っていく、まずはゆっくりと飛び出すと思っていたエルザムだったが、座席にめり込むような強烈な加速に思わず呻き声を上げる

 

(ぐっ、なんと言う加速だ)

 

ゲットマシンは構造上翼などを持ち合わせていない。だからバーニアとゲッター線による反重力で飛翔しているが、当然パイロットへの負担は度外視だ。新西暦のショックアブゾーバーに慣れているパイロットは間違いなく、飛び出したときの衝撃で気絶するとエルザムは確信した。だが1度飛翔し、スピードが安定してしまえば元々超高機動戦闘に特化しているエルザムはそのスピードに適応していた

 

『いやあ、凄いですね。初めてでここまで乗りこなすなんて。どうですか?1度自動操縦をこっちで切って操縦してみますか?』

 

武蔵の問いかけにエルザムは少し考えてから頼むと返事を返す。今まで見ていたが、ペダルの動き、操縦桿の動き、レバーの動きで大体の操作を理解していた。武蔵の合図で自動操縦が解除されたエルザムは加速のペダルを踏み込む。身体に掛かる重力が強くなるが、その殺人的な加速に笑みを浮かべる

 

(とんだじゃじゃ馬だ)

 

全力で操縦桿を握り締めなければ機首が安定せず、加速すれば操縦者など知ったことかと言わんばかりの急加速……戦闘力のみを追求したマシンと言うのはこうも面白い物かと微笑む

 

『エルザムさん、どうしますか?合体してみますか?』

 

合体……ゲッターロボの最大の特徴。飛ばすことで満足しては意味が無い、だが飛ばすだけでこの負担。合体に耐えれるかと言う不安はあったが……エルザムは決断した

 

「頼む」

 

『了解です。じゃあまた自動操縦にしますね』

 

操縦桿から手を放すと同時に自動操縦のランプが点滅する。そこまで確認した瞬間エルザムは歯を噛み締めた、ジャガーが急に機首を上げて垂直に加速する。水平に飛ぶのとは違う途方も無い重力が牙をむく

 

『チェーンジッ!ゲッター1ッ!!!』

 

エルザムが意識を失う前に覚えているのは背骨が折れるかと思うほどの強烈な衝撃に続き、炎の壁が自分に迫ってくる光景なのだった……

 

 

 

 

 

「こ、ここは……」

 

目を覚ましたエルザムの視界に飛び込んできたのは白い天井……自分がどこにいるのか一瞬理解出来ないでいた。だが意識がハッキリしてくると自分がゲッターの合体の衝撃に耐え切れず意識を失ったと言うのを思い出す。それと同時に肋骨が軋んだように痛み、うっと呻く

 

「じゃじゃ馬所では無いな」

 

騎手を振り落とし、その蹄で騎手すらも蹴り殺す暴れ馬だったかとエルザムは呟く。打撲と打ち身、骨折こそしていないが全身ボロボロになっているようで、意識はハッキリしているが身体を起こすことは愚か、ナースコールすら押す事が出来ないでいると医療室の扉が音を立てて開く

 

「おや、目を覚ましましたか。大丈夫ですか、エルザム少佐?ほら、入ってきなさい。エルザム少佐が起きてるようですよ」

 

医務室の扉が開き姿を見せた白衣姿で紫の髪をした青年……「シュウ・シラカワ博士」と申し訳無さそうに入ってくる武蔵の姿。その姿を見てエルザムは顔を歪めながらベッドから身体を起こす。自分の好奇心が原因で怪我をしたのに、年下にそれを悟らせるわけにはいかないと言うエルザムの意地だった

 

「いやあ、すいません。全然平気そうだから大丈夫だと思って調子に乗ってました」

 

「いや、こっちも悪いのだよ。まさかあれほどの衝撃とは思っても見なかった」

 

操縦性が劣悪なのは把握していたが、まさかあそこまでは思って無かったと苦笑するエルザム

 

「ふふふ、だから言ったでしょう?少佐はそんなことで腹を立てる人物では無いとね、さ、貴方も休みなさい。エルザム少佐が起きるまで医務室の外で座って待っていたのだから」

医務室の外で座って待っていたのだから」

 

「あ、はい。それじゃあ、そのエルザムさん、すいませんでした」

 

もう1度頭を下げて医務室を出て行く武蔵をシュウとエルザムは見送り、武蔵の気配が遠ざかってからシュウは話を切り出した

 

「彼が平行世界からの来訪者ですか、正直半信半疑でしたが……地下のメカザウルスと、ゲッターロボを見て納得しましたよ」

 

AM「グランゾン」のパイロットであり、数多の博士号を持ち合わせる天才でもあるシュウは、ビアンからの要請でゲッターを分析した。そしてゲッターに使われている数多のロストテクノロジーとシュウの知性を持ってしても理解出来ないオーバーテクノロジーにゲッター、そして武蔵が平行世界の住人であると言うことを認めた

 

「ああ、私も体感したよ。あれほどの出力は今の技術力ではありえないとね」

 

どんな機体でも乗りこなしてきたエルザムが気絶した。並行世界のスーパーロボットとその技術力を体感すると言うエルザムの目的は、想像とは違う形だが奇しくも達成されることになった

 

「シラカワ博士は南極入りは良いのですか?」

 

「ええ。大丈夫ですよ、今から戦闘機で送って貰う事になっています。南極に行く前に貴方と話がしたかった」

 

南極での地球連邦とゲストの会談と言う名の降伏。それをビアンを受け入れるつもりは無く、この日がEOTI機関がDCと名を改め世界に対して宣戦布告を行う日でもあった

 

「巴武蔵君。彼は間違いなく敵に回るでしょう、説得をなさるつもりですか?」

 

「……可能ならば説得するつもりだ」

 

武蔵の性格もゲッターの能力も認められている。可能ならば説得し、仲間に迎え入れたいと考えているエルザムとビアンだが、シュウは苦笑し

 

「説得に応じるタイプではありませんよ。彼は」

 

「……それも判っている」

 

短い間だが、武蔵と共に居たエルザムもビアンもその性格は十分に理解していた。説得を決して武蔵が受け入れない事を

 

「ふふふ、それならば結構。エルザム少佐、1度道を違ったとしても、地球を守ると言う目的の元ならば彼は協力してくれるでしょう。そしてゲッターロボ、武蔵の存在は間違いなく地球の切り札となるでしょう」

 

「シラカワ博士?何を言っているのですか」

 

シュウが何を言っているのか判らないという様子のエルザムにシュウは笑いながら背を向けて

 

「この世界に来て彼が一番最初に出会ったのがビアン博士と貴方だった。それが何を意味するかと言う事です、ゲッター線が何故彼をこの

世界へと導いたのか……ふふふふ、実に興味深いですよ」

 

そう笑い出て行ったシュウ。1人医務室に残されたエルザムはシュウが何を言いたかったのか、それをエルザムが読む事は出来なかった

 

「ゼンガー……お前ならばどうしていた?」

 

武蔵が現れる前に宇宙へと登った親友であるゼンガー・ゾンボルト……出来る事ならば、ゼンガーと武蔵を会わせたかったと思いながら、エルザムはベッドに再び横になる。医務室にまで響き渡る戦闘機のエンジン音……アイドネウス島から飛び立つ音を聞きながら、短い間だったが楽しい時間を過ごしたとエルザムは小さく呟くのだった……

 

 

 

 

そして翌朝……南極コーツランド基地で行われた政府と異星人の交渉、だがそれはグランゾンによって妨害され、スペースノア級万能戦闘母艦1番艦シロガネの破壊及び政府高官の死亡……それは南極の惨劇としてTVに大々的に報道され、その直後にアイドネウス島から発信された宣戦布告は地球に大きな波紋を呼んだ……そしてそれはアイドネウス島にいる武蔵もまた同様だった

 

「……今後の地球圏に必要な物は、強大な軍事力を即時且つ的確に行使出来る政権である。だが、それは決して人民を恐怖や独裁で支配する為の物では無いッ!我々は守るべき人民に対して刃を向けるような事は決してしない」

 

ビアンの演説にはパワーがあった。聞いている全ての人間を引きこむ力があった、ビアンには類稀なるカリスマ性があったのだ

 

「ディバイン・クルセイダーズの意志を理解し、地球圏と人類の存続を望む者は、沈黙を以ってその意を示せ、異議ある者は力を以ってその意を示し、我等に立ち向かうが良い」

 

ビアンの演説を聞きながら兵士の制止を振り切り、ビアンの部屋へと走る武蔵。途中で警備兵の静止が入るが、それすらも振り切って息を切らしながらビアンの部屋へと走る

 

「ビアンさんッ!」

 

扉を蹴り開けビアンの部屋に飛び込む武蔵。その後を追って兵士が銃を手にビアンの部屋へ入る、だがビアンは手で制し

 

「彼は私達の目的を知らなかった。こうして来るのも想定内だ、下がるんだ。彼に危害を加えることは許さん」

 

その強い口調に警備兵は敬礼し、部屋の外へと出る。今ビアンの部屋は武蔵とビアンの2人きりだった

 

「……来ると思っていたよ。武蔵君」

 

「ビアンさん……TVを見た、どういう事だよ。なんで戦争なんて始めるんだ! オイラに判るように説明してくれッ!」

 

目に涙を浮かべながら叫ぶ武蔵にビアンは沈鬱そうに頷く

 

「私は長年地球連邦に軍備を整えるようにと、宇宙人からの侵略に備えるようにと訴え続けていた。いずれ地球に侵略者が現れる事が判っていたからな。だが政府が出した決断は無条件降伏であり、地球を明け渡すという決断だった。故に私はその会談を潰すことを考えた」

 

「もしそうだったとしても、ほかの道があったかもしれないだろう! なんで人を殺す必要があったッ!」

 

武蔵の言葉にビアンは小さく南極の戦いを見たのかと呟く。あれは会談を潰すという目的もあったが、DCの戦力を見せ付けるという目的があった。その為に決して小さくない被害が出たのはビアンも勿論承知だ

 

「痛みを伴わない教訓には意味が無い、優しい言葉では何も変わりはしないのだ。私は何年も何年も待った……だが結果は変わらない、ならば我らが立ち上がるしかない。地球連邦では地球を守る事は出来ないのだ、武蔵君。今必要なのは盾では無い、敵を打ち倒す剣なのだ」

 

「だけど戦争なんてしたら沢山の人が死ぬ。それが正しいと思っているのかよッ!!」

 

「大義の前の犠牲だ……仕方あるまい」

 

「仕方ない!? 仕方ないだって!! ふざけるなッ!!! 死んで良い命なんて無いッ! ビアンさん。考え直してくれよ、こんな事をしても何にもならないって、地球を守るって言うのならきっとほかの道だってある! 今ならまだ引き返せるッ!」

 

武蔵の言う事は間違いでは無い。だがビアンは首を左右に振る

 

「もう駄目なのだよ、武蔵君。もしも、もしも君の世界のように強大な敵が現れ、それに立ち向かう為に人類が一致団結するのならばその道もあっただろう。だが一部の人間が自分達が生き残る為だけに国民や地球を生贄に捧げるような事を私は断じて認めはしないッ!」

 

机を叩きながら叫ぶビアンの気迫に武蔵は息を呑んだ。今まで武蔵が見ていた優しいビアンの姿は無く、指導者としての気迫に満ちたビアンに完全に飲まれてしまったのだ

 

「武蔵君。もう対話で済む段階は過ぎてしまったのだ」

 

「……エルザムさんもなのか……」

 

アイドネウス島で一番自分に良くしてくれた2人の硬い表情に武蔵はその場に膝をつく

 

「武蔵君。私は君にも協力して欲しいと願っている、いや私だけでは無い。ビアン総帥も同じ気持ちだ……ゲッターと君の力をどうか私達に貸してはくれないか、地球を守る為に」

 

エルザムの優しい言葉と共に差し出された手を武蔵は弾く、そして涙を拭いながら叫ぶ

 

「地球を守るって言うなら協力出来る、だけどオイラは戦争なんてしない! ゲッターは人を殺す道具じゃないッ! 人を守り、地球を守る正義のスーパーロボットなんだッ!!」

 

だから協力なんか出来ないと叫ぶ武蔵。判っていた事だったが、ビアンもエルザムも悲しみの色を隠す事が出来ないでいた。そしてそれを見た武蔵もまた悟ってしまった、2人にとっても今回の決断は苦渋の決断だったのだと……

 

「ならば仕方あるまい。武蔵君、君の考えが変わるまで牢屋に入って貰う。君の賢明な判断を私達は待とう」

 

「……すまないな武蔵君。拘束させて貰うよ」

 

エルザムに拘束され地下へと連れて行かれる武蔵の目から涙が溢れ続けていたのだった……

 

「……ちくしょう、ちくしょう……本当にそれしかないのかよ。ビアンさん、エルザムさん」

 

地球を守りたいという思いには武蔵も共感できた。だが、その為に戦争を、何もしていない人達を巻き込むと言う事が如何しても武蔵には許容出来なかった。牢屋に入れられて2日……時間を見てエルザムが説得に訪れたが、それが余計に武蔵を悲しませていた。ビアンもエルザムも優しい男だ。そんな2人がどうして戦争なんて決断をしたのか、それを考えれば考えるほどに武蔵の目からは涙が溢れた

 

「……武蔵さん。夕食ですよ」

 

牢の前に座る茶髪の気の弱そうな青年の声に武蔵は振り返りながら涙を拭う

 

「あんた初めて見る顔だな」

 

「……初めまして、リョウト・ヒカワと言います」

 

普段はエルザムか、エルザムの部下が届けに来ていたので初めて見る顔であるリョウトに思わず武蔵はそう声を掛け、リョウトは軽く微笑みながら自己紹介をする。運んで来てくれた夕食を受け取りながら武蔵は問いかける

 

「なぁリョウトも軍人なのか?本当にDCが正しいと思ってるのか?」

 

その優しい笑みと線の細い姿に軍人なのか?と問いかける武蔵。

 

「僕は最近スカウトされてDCに来たんです」

 

「じゃあ民間人なのか、怖くないのか? 戦うことになるのに」

 

自分と似た経歴のリョウトに対して共感が生まれ、先ほどと異なり柔らかい口調で武蔵はリョウトに尋ねる

 

「そうですね……怖いです。でも僕は家族を守りたかったんです。だからDCに入ることを決めました、武蔵さんは知らないと思うんですけど……虫型の機動兵器の攻撃であちこちに被害が出たんですよ」

 

初めて知る情報に武蔵の目が大きく開かれる。大丈夫だったのかとリョウトに叫ぶ

 

「はい、僕の実家の方は大丈夫でしたけど、ただやっぱり被害の出てる所もあって……でも政府や軍はその事を隠蔽しようとしていて、だからビアン総帥もエルザム少佐も決起したんだと思います」

 

 

リョウトの話を聞いて武蔵は思う。本来国民を守る立場の軍や政府が動かないのならば、自らが動くしかないと思うのは当然の事だと……だがそれと同時に恐竜帝国と戦っていた自分達にはそんな事は無かったのにとも……

 

「今日はエルザム少佐が腕を振るってくれたそうですよ。じゃあ後でまた食器を取りに来ますから」

 

そう笑ってリョウトが立ち去り、また静寂が戻ってくる。今日用意されたのはカツ丼と味噌汁……

 

「……ああ、クソッ! オイラ馬鹿だから……なんて言えば良いのかわかんねえ」

 

カツ丼をかき込みながら武蔵は呟く、ビアンもエルザムも決して私利私欲で動く人物では無い。これが悪人となれば武蔵だって悩まずに済んだ、だが優しい姿と地球を守りたいと言う思いを感じるからこそ武蔵は悩んだ

 

「んん?」

 

丼を食べ終え、蓋を被せようとした時に気づいた。蓋の裏側にある袋の存在に、慌ててそれを剥がし、中身を確認すると電子カードキーと印の打たれた地図が封入されていた。それを慌てて服の中に突っ込み、武蔵は布団の中にもぐりこむ。何のために、何故こんな物がと武蔵は悩み……そして考えた結果印の元に向かうしかないと決断するのだった……

 

「待っていたよ。武蔵君」

 

「……ビアンさん。わざとだったんですね」

 

電子カードキーは牢の鍵であり、そして地図にはまるで用意されたかのように無人の通路となっていた。その全てが武蔵を逃がそうとしていた、現に武蔵は誰にも止められる事無く、誰に姿を見られることも無く地下の格納庫に来る事が出来た。そしてそこで待ち構えていたビアンにそう問いかける

 

「その通りだ、出来れば君にも協力してくれると言うまで待つつもりだったが、アードラー達がうるさいのでな」

 

ナビゲーターはセットしてあると言って背を向けるビアン。もうこれ以上話す事は無いと言っているのは武蔵も判っていたが、それでも話しかけずに入られなかった

 

「……ビアンさん、俺はエルザムさんにも貴方にも感謝しているんです」

 

「エルザム少佐にも伝えておこう。だがこれから君と私達は敵同士だ」

 

突き放すような言葉だったが、この不器用な態度もビアンの優しさだと武蔵には判っていた。こうして逃げるための準備を整え、身を寄せる場所の手筈まで整えてくれる。そんな相手が敵とは武蔵には思えなかっただから

 

「ビアンさん。俺は馬鹿だから2人を説得出来るような事は言えない、でも1つだけビアンさんもエルザムさんも正しいけど間違っている。オイラはそう思います」

 

地球を守りたいと言う思いは正しいが、その為に戦争を起こすという2人を間違っていると言い切った武蔵。その顔には既に迷いは無く、決意の色が浮かんでいた

 

「だからオイラはまた戻ってきます、エルザムさんとビアンさんを止める為に……本当に今までお世話になりました」

 

深く頭を下げベアー号に向かって駆け出す武蔵。警報が鳴り響く中ビアンは夜空に飛び立つゲットマシンを見送る、ゲットマシンにセットしたナビゲーターの進路は日本。再び武蔵と合間見える時……それはハガネと共にゲッターが自分達の前に立ち塞がる。ビアンはその光景を思い浮かべ、楽しそうに笑いその場を後にした。年の離れた友人ともいえる武蔵の覚悟と決意に満ちた言葉、それこそが自分達が待っている相手だと笑い、ゲットマシンを追って飛び立つシュヴェールトの姿を見ながらその場を後にするのだった……

 

 

第6話 ハガネ発進

 

 




ちょっと駆け足でしたが、アイドネウス島編は終了。次回はハガネ発進の話に入っていこうと思います、ここでやっと主人公サイドとの合流ですね。次回からは本格的なロボットの戦闘が入ってくる予定で不安はありますが、頑張っていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 ハガネ発進(前編)

第6話 ハガネ発進(前編)

 

深夜にアイドネウス島を飛び立ったゲットマシンは追っ手を振り切ることを考え海中に身を潜めていた。追っ手として放たれたシュヴェールトやリオンはまさか海中に逃げるとは予想だにせず、その周辺を暫く捜索していたがゲットマシンが浮上して来る事は勿論無く、海中を高速で移動したゲットマシンは一気に追っ手を振り切り、無事に日本近海にまで逃げ延びていた

 

「んごおおお……んごおおおお……んがああッ!? あいてて……」

 

追っ手から逃れ海中のゲットマシンの中で眠っていた武蔵は操縦席から落ちて目を覚ます。あいたったと呻きながら身体を起こした武蔵の目の前には無数の魚が泳いでおり、それを見た武蔵は腹減ったなあと呟く。とは言えこの状況で食料を確保する事など出来るわけも無く、悲しそうに目の前を泳ぐ魚の群れを見つめていた

 

「っととと、今はそんなことを考えてる場合じゃねぇか……」

 

エルザムとビアンを止めるという目的でアイドネウス島と脱出した武蔵。だが、短い時間とは言えアイドネウス島で過ごしていた武蔵はDCの戦力を近くで見ていた。そしてその上でどうするべきか考えていた。

 

「いくらゲッターでもあの数は無理だ」

 

もしもリョウや隼人が一緒に居て、そしてゲッターが本調子であれば単独でのアイドネウス島へと襲撃も可能だ。だが今のゲッターは炉心の出力が安定せず、しかもゲッタービーム1発でガス欠を起こす有様では到底単独でアイドネウス島に再度向かう事は不可能だった。間違いなく多勢に無勢であり、ビアンとエルザムを説得する・しないの以前の問題だった

 

「どうすっかなあ……」

 

自分では頭が悪いという武蔵だが、むしろその頭の回転は悪くなく、今自分が置かれている状況などを正確に把握していた

 

「うーん……あ、そうだそうだ。えーっと」

 

ビアンが設定してくれていたナビゲーターの目的地が何処なのかと思いモニターを覗き込む武蔵。態々自分を逃がしてくれたのだ、まさか無意味な所では無いだろうと考えたのだ

 

「伊豆基地……うーん、とりあえずここを目指すか」

 

ゲットマシンは海中を走る、目指すは一路連邦軍極東の「伊豆基地」だ……

 

 

 

武蔵が伊豆基地に向かってゲットマシンを走らせている頃。伊豆基地では……

 

「……ダイテツ、久しぶりだな。南極で受けた傷のほうはどうだ?」

 

温和な顔つきの男性が立派な髭を生やしパイプを咥えたいかにも歴戦の軍人と言う風貌の男へ声を掛ける。先に声を掛けたのは、ここ伊豆基地の司令官「レイカー・ランドルフ」、そして声を掛けられた男の名は「ダイテツ・ミナセ」。かつて外宇宙へと向かった人類初の外宇宙航行船「ヒリュウ」の艦長を務め、そして南極ではスペースノア級1番艦「シロガネ」の艦長を務めていたが、シュウ・シラカワの駆るグランゾンによりシロガネは撃沈した。更にはクルーまでも失い、自らも重症を負っていたが、今こうして立つ姿にはとても怪我を負っているようには見えない気迫に満ちていた

 

「……問題は無い。それに、まだワシは死ぬわけにはいかん」

 

レイカーの身を案ずる言葉にダイテツはしっかりとした言葉で返事を返す。ならばそれ以上の言葉は不要とレイカーは黙り込む、沈黙したレイカーを見てダイテツからレイカーに話を切り出す

 

「それよりも、お前がワシをここに呼んだ理由とは……「ハガネ」の件だろう?」

 

「そうだ。スペースノア級万能戦闘母艦2番艦……「ハガネ」は現在、この基地の地下ドックで出撃準備が進められている。そこでダイテツ。お前にはハガネの艦長を務めてもらいたい」

 

レイカーの要請にダイテツは言葉短く頷く。今まで黙って話を聞いていた茶髪の軍人が敬礼してからレイカーに声を掛ける。青年の名はテツヤ・オノデラ、ダイテツと同じく南極事件の生存者であり、そしてダイテツ自らが見出した副艦長でもあった

 

「我々の攻撃目標は?」

 

「DCの本拠地、アイドネウス島だ」

 

その言葉に執務室にいた全員の顔に緊張が走る。誰もが口を開こうとして黙り込む中、ダイテツがレイカーに問いかける

 

「……それはハガネだけでか?」

 

1艦だけによる敵本拠地への奇襲。それは従来ならばありえない事であり、特攻しろと言うのに等しい命令だった。だがそれは従来での戦艦の話だ

 

「そうだ。テスラ・ドライブを搭載し、宇宙航行、大気圏内飛行、水中潜行を可能とするISA構想の万能戦闘母艦……更に、高性能のステルスシェードと、トロニウム・バスターキャノンを使用し、アイドネウス島を直接叩いて貰いたい」

 

「……敵の目をかいくぐり、その喉元まで肉薄しろと言うのか?」

 

口で言うのは容易い、そして理論上は可能であったとしてもその難易度は恐ろしいほどに高い。だがそれがわからないレイカーでもダイテツでも無かった

 

「DCとコロニー統合軍が連邦政府の中枢。ジュネーブの制圧を目論んでいるように我々も向こうの中枢を叩く」

 

DCの決起と共に立ち上がったコロニー統合軍。政府にとって反乱軍に等しいDCと統合軍の目的はジュネーブを陥落させる事にある。故に今現在のDCと統合軍の進軍先はヨーロッパ、そして北米の制圧に専念されていた。だからその隙を突いてアイドネウス島を狙うというのは決して無謀な策略では無い……だがそれは本来ならの話である

 

「統合軍に制宙圏を完全に制圧されている今、統合軍の準備が整えば宇宙からの重要拠点への降下を許すことになる。ダイテツ、お前とハガネにはその前に目的を達成して貰わなければならん」

 

「そんな無謀な……」

 

話を聞いていたテツヤが呟いてしまったのは仕方ないことだ。敵の本拠地にたった戦艦一隻で、しかも時間制限までもつけられて向かう。それは特攻に等しい行為だった……

 

「だが無謀ゆえに、敵もこちらの手を読みにくい。状況が不利ならば相手が予想もしない戦略を用いなければ劣勢を跳ね返すことなど出来ない」

 

そこで言葉を切ったダイテツは一度目を閉じた。そして開かれた時には凄まじい意志の光が宿っていた

 

「レイカー。お前の作戦は判る、だが1つ気になる事がある……3番艦はどうなっている」

 

1番艦シロガネ、2番艦ハガネ、そして3番艦のクロガネ……今地球圏に存在する3隻のスペースノア級。その3番艦はどうなっていると問いかけるダイテツ

 

「……テスト艦のスペースノア級同様、3番艦の「クロガネ」はEOTI機関の管轄化で試験航海を行っていた……恐らくは今頃……」

 

そこで言葉を切ったレイカー。何を言おうとしているかは全員が理解していた、DCにもスペースノア級の母艦がある。厳しい戦いになると言うのは全員が理解していた

 

「……判った。ではハガネと今回の作戦を引き受けよう」

 

言葉短くダイテツはレイカーの要請を引き受けた。レイカーは自分が命じたことだが、悲しそうに顔を歪める

 

「……ダイテツ。すまないな、またお前に貧乏くじを引かせることになってしまう」

 

「気にする必要は無い、ヒリュウに引き続き失ってしまったシロガネの乗組員達の無念をこれで晴らすことが出来る」

 

ダイテツの言葉にレイカーはこれ以上の言葉は無粋と敬礼を行う。ダイテツは敬礼しかえし座っていた椅子から立ち上がる

 

「行くぞ大尉。我らの新しい艦へと」

 

「了解です。艦長」

 

そしてダイテツとテツヤは新しい戦場へと向かう為、地下のハガネのドックへと足を向けるのだった

 

 

 

 

伊豆基地の地下スペースノア級のドック内

 

 

「へー、これが私達の乗るハガネかぁ……結構格好良いと思わない?」

 

ハガネを見上げながらその美しい黒髪を三つ編みにした活発そうな少女が自身の隣に立つ少女に声を掛ける、少女の名はリオ・メイロン。このスペースノア級2番艦ハガネのオペレーターだ

 

「リオはこういうのに興味あるの?」

 

声を掛けられた少女は衛生兵の服装に身を包んだ、優しそうな青髪の少女だった……ただ少し着ている制服が小さいのか胸元がやや苦しそうだったが……

 

「父様の仕事の影響かもね」

 

「そうなんだ」

 

少女達が楽しそうに話をしていると軍服に身を包んだ青年がエレベーターで下りてくる。その視線は直ぐにハガネへと向けられた

 

「これがハガネかぁ……艦首部分がシロガネと違ってるなあ」

 

聞こえてきた声に少女が振り返り、青年と目が合う。そして2人はその顔を驚愕に染める

 

「り、リュウセイ君……!」

 

「ク、クスハ……! 何でここに!?」

 

リュウセイ・ダテとクスハ・ミズハ。2人は高校の同級生であり、そしてリュウセイが連邦にスカウトされた日に離れ離れになっていた幼馴染がハガネの前で出合った。これが街中の再会ならば感動的だっただろう、だが軍事基地での再会は嫌がおうにも最悪の考えを2人に与える。それは幼馴染が軍に入隊していると言う事に……

 

「な、何? 貴女の知り合いなの?クスハ」

 

ただならぬ気配を感じたリオが心配そうにクスハに声を掛ける。クスハはリオの問いかけに笑みを浮かべながら、自身とリュウセイの関係を告げる

 

「う、うん。幼馴染で同じ高校に通ってたの」

 

「へえ、私、リオ・メイロン。ハガネのオペレーターなの、よろしくね」

 

リオが笑顔を浮かべながらリュウセイに自己紹介をするが、リュウセイはそれ所ではなかった

 

「あ、ああ……よろしく。それよりもクスハ!お前……どうしてこんな所に……!?」

 

「リュウセイ君こそ、突然連絡が取れなくなってどうしたの?」

 

「そ、それは……」

 

2人が幼馴染と聞いて知り合いが居てよかったじゃないと思っていたリオだが、2人の気配が余りに険悪でリオが心配して、今にも掴みかかりそうなリュウセイの前に立ち、クスハをその背に庇う

 

「……どう言う事なの?」

 

どうして幼馴染なのにそんなに険悪な空気なの?と問いかける

 

「こ、これには色々と訳があって」

 

「い、いや、それよりもクスハ。ハガネのドックにいるって事は、お前もハガネに乗るのか!?」

 

どうして軍事基地で出会った。しかも連絡のつかない幼馴染が軍服を着ている。それにリュウセイもクスハも混乱しきっていた、だが事態はそれではすまなかった。ハガネのドックに警報が鳴り響く……DCの伊豆基地の襲撃が始まろうとしていたのだ……防衛ラインを超えて進軍してくるDCの機体に伊豆基地は混乱に陥っていた頃、司令室では

 

『こちらはDC第19機動部隊隊長。エルザム・V・ブランシュタインだ」

 

DCからの宣戦布告が行われていた。統合軍のエースの名前に司令室に緊張が走る、だがエルザムから告げられた言葉に更なる緊張が走る

 

『通達する。直ちに武装を解除し、ハガネとSRX計画の試作機を渡せ』

 

重要機密であるハガネ、そしてSRX計画の機体の事を口にしたエルザム。だが基地司令官はレイカーは即座に断ると返事を返す

 

『……では降伏か、死か……好きな方を選べ』

 

「そのどちらも選ぶつもりは無い」

 

『了解した。これより攻撃を開始する』

 

エルザムはそう言うと通信を切る。DCからの宣戦布告、指令本部の中が一気に騒がしくなる

 

「上げれる機体は全部出撃させろ!なんとしても伊豆基地とハガネを守るのだ!」

 

なんとしてもハガネを守れと指示が飛ぶ中、オペレーターの女性が叫ぶ

 

「レイカー司令。ハガネ第一艦橋のダイテツ艦長より、通信が入っています!」

 

「ダイテツが……?」

 

この状況を知らないわけでは無いダイテツからの通信が司令基地内に響く

 

「こちらダイテツだ。これよりハガネを発進させる」

 

敵が攻め込んでくる中。戦艦を発進させるというダイテツの言葉にサカエが止めに入る。だがダイテツは冷静のこの状況を見極めていた

 

『敵の目的は伊豆基地の制圧だ。ワシらを倒すつもりなら、とっくの昔に巡航ミサイルを撃ち込んでいる』

 

DCとしてもスペースノア級は稀少だ。故に巡航ミサイルによる攻撃ではなく、基地の制圧を目的にしているとダイテツは叫ぶ。ハガネを無傷で手に入れたいからミサイルが使われることは無い

 

「……敵の目的を逆手に取ると言う事か……だがまだハガネは」

 

万全では無いとレイカーが止めに入るがダイテツは強い意思を宿した瞳でレイカーを見つめながら告げる

 

『ここで沈むようならば、ワシらはDCには勝てん!レイカー!ハガネの発進許可をッ!』

 

この程度の劣勢を跳ね返せないようでは連邦はDCに勝てない。その言葉にレイカーは敬礼と共に告げた

 

「……貴艦の幸運を祈る」

 

『感謝する。ハガネの発進準備を急げッ!!』

 

 

 

 

伊豆基地で開戦したDCとの戦いは伊豆基地側の劣勢からの開戦となった。DCの基本戦力はAMリオンとシュヴェールトによる航空戦力である。戦闘機同士の戦いならば伊豆基地にはエリートと呼べる人員が揃っていたが、そこにリオンが加われば戦況は一気に劣勢となる。連邦軍の主戦力となる戦闘機「メッサー」の攻撃力ではリオンに有効打を与えるのが難しく、リオンの攻撃は容易くメッサーを破壊する。リオンを主戦力として編成されたDCの部隊は一瞬で伊豆基地の防衛ラインを突破し、伊豆基地の最終防衛ラインに食い込んでいた。だがDCもそこまでだった。伊豆基地の防衛を任されている「カイ・キタムラ少佐」そしてSRXチームとそれを統率する「イングラム・プリスケン少佐」、元PTXチームの「イルムガルド・カザハラ中尉」とエースパイロット級が揃っていた事もあり、劣勢には追い込まれていたが、徐々に、徐々にだがその戦況を巻き返し始めていた

 

「ジャーダ、ガーネット!無茶をせずにPT部隊の支援に回れッ!最大の目的は発進口の防衛だ!」

 

伊豆基地の面子の目的はハガネの発進準備が整うまでの発進口の防衛にある。緑色のゲシュペンストを駆るカイはM950マシンガンを放ちリオンを近づけないようにさせながら指示を飛ばす。ジャーダ・べネルディ、ガーネット・サンディ、ラトゥーニ・スゥボータの3人が駆るのはメッサーであり、直接戦闘になれば不利と言う事もあり支援に徹しろと指示を飛ばす

 

「了解です!フォーメーションを崩さず、突っ込んでくるシュヴェールトに警戒しろ」

 

「了解っと、ラトゥーニも無茶をしちゃ駄目よ」

 

「……うん」

 

3機のメッサーはフォーメーションを崩さず、カイの指示を守り。リオン達の合間を抜いて向かってくるシュヴェールトへの警戒を緩めない

 

「アヤ、ライ、俺達はリオンを狙う。だが撃破する事は考えなくて良い、基地の防衛システムと少尉達との連携を忘れるな」

 

蒼いPT ビルトシュバインを駆るイングラム少佐が自分の部下であるアヤ・コバヤシ大尉とライディース・F・ブランシュタイン少尉へと指示を飛ばす。

 

「了解です!」

 

「こちらも了解しました」

 

アヤの駆る灰色のゲシュペンストMK-Ⅱ・タイプTTが基地の滑走路を滑りながらその手に持ったビームライフルでリオンを狙う。ライディースの駆るシュッツバルトが続く、スマートなフォルムのゲシュペンストと異なり、重厚な装甲と両肩に背負っているビームキャノンが最大の特徴であり、汎用性の優れているゲシュペンストMK-Ⅱ・タイプTTと異なり、射撃戦に特化した機体となっている

 

「ライ!スプリットミサイルに合わせてッ!」

 

「了解です!大尉ッ!!」

 

機体を反転させ、背中に背負っているコンテナから射出された多弾頭ミサイル「スプリットミサイル」がリオンの動きを狭め、動きが制限された所にシュッツバルトのツインビームカノンがリオンに向かって発射される

 

「う、うわああああッ!!!!」

 

リオンのパイロットは回避する事も防御する事も叶わず、ツインビームカノンの直撃を受けて脱出装置で脱出する

 

「続けていくわ、T-LINKリッパー射出ッ!!!」

 

量産型ゲシュペンストMKーⅡ・タイプTTとは、SRXチームの機密である「念動力」と言う超能力を持つパイロット用に調整されたゲシュペンストであり、通常のゲシュペンストMK-Ⅱとは違いT-LINKシステムが搭載されている。このT-LINKシステムによって操作された3つの刃を持つT-LINKリッパーがリオンの主翼を引き裂き、その高度を下げる

 

「良い距離だ。コバヤシ大尉ッ!!! 受けて見ろッ! ジェット・マグナムッ!!」

 

高度を下げたリオンに向かって緑のパーソナルカラーに塗られた量産型ゲシュペンストMK-Ⅱが地面を蹴りリオンへと肉薄する。アヤの駆るタイプTTとは異なり、ゲシュペンストMK-Ⅱは左腕にプラズマステークと呼ばれる3本の特殊武装が搭載されており、ステークから放たれる高電力のプラズマによって貫通力を高めた拳でリオンを完全に破壊する

 

「カイ少佐もやるなあ。なら俺も少しは見せ場を作っておかないとなッ!受けてみなッ!必殺ゲシュペンストパンチッ!!!」

 

格納庫の影から飛び出した青のゲシュペンストによる奇襲に硬直したリオンにジェットマグナムが叩き込まれる。その一撃でリオンは破壊されたが、着地するまでの間にリオンのレールガンによる射撃を受け、イルムガルドのゲシュペンストは地面へと叩き落される

 

「くうー上手くは決まらんなッ!」

 

「ふざけている場合か、イルムガルド」

 

態勢を崩しているゲシュペンストにリオンが殺到するが、イングラムのビルトシュバインのM-13ショットガンによる援護射撃によりリオンは空中へと逃れ、その間にゲシュペンストは姿勢を立て直す

 

「すいません。イングラム少佐」

 

「構わん。だが油断するな、敵の増援が来たぞ」

 

ビルトシュバインが顔を上げると上空からリオンとは異なる黒いAM……「ガーリオン」とリオンの部隊が降下してくる

 

「な、なんだあの黒い機体は!? 見たこと無いタイプだぞ」

 

「……四肢がついている、近接、格闘戦もこなせるアーマードモジュールなのね」

 

今現れた機体はいままでイングラム達が対峙していたリオンとはまったく異なり、完全な手足を持っていた。それはリオンの発展機と言う事に他ならなかった……今までのリオンは白兵戦に弱いと言う弱点があったが、改修された今度の機体は腕の可動域と言い脚部によるバランスの安定感と共に――それはリオンの欠点を完全に無くし強化された機体と言う証だった……

 

「雰囲気的には指揮官機って所だな、胸に紋章見たいのもついている」

 

只者では無い気配を感じ取り、警戒心を高める面子だが、カイとライはその機体を見つめて、何かに気付いたような素振りを見せる。黒い機体で胸の紋章……それはあるエースパイロットの機体の特徴でもあった。全員が油断無く警戒している中、黒い機体……ガーリオンは信じられないスピードでシュッツバルトへと肉薄する。その圧倒的なスピードに驚愕の声が上がる

 

「そのマーキングは……ブランシュタイン家の紋章ッ!」

 

「久しぶりだな、ライディース」

 

ガーリオンを駆る男はエルザムであり、ライディースの兄であった

 

「その声……エルザム兄さんか!?」

 

接触回線によって繋げられた通信。そこから響く声にライディースも同じく通信を返す

 

「弟よ。我が父の大義を理解せぬのならば……私はここでお前を討つッ!!」

 

ガーリオンが反転し、その手に持ったレールガンをシュッツバルトへと向け照準を合わせる

 

「お前に我がトロンベの一撃をかわせるかッ!!」

 

高速で迫りながら放たれるレールガンの一撃。それは並大抵のパイロットでは防ぐことも交わすことも出来ない一撃だった

 

「ああ。かわして見せるさ!」

 

ライはシュッツバルトを素早く反転させ、それと同時にバーニアに点火し、敢えて弾頭に突っ込むと言う形で回避する

 

「ほう……少しはやるようになったな」

 

「何が大義だッ! そうやってまた罪の無い人間を犠牲にするのかッ!?義姉上のようにッ!」

 

ライから告げられた言葉に僅かにエルザムの表情が曇る。だがそれに気付かないライは更に言葉を投げかける

 

「そして、全世界を戦争に巻き込むやり方が正しいと言うのか!?」

 

「……ふっ、その言葉は彼にも言われたよ。だが私には私の信じた道がある。だがライディース、お前に自分の信じる道はあるのか?」

 

彼?何を言っているとライディースが問いかけるが、エルザムはその問いには答えない

 

「我が家名の重みと、あの事故に耐えられなかった。お前に出来ればの話だがな」

 

その言葉に普段冷静なライディースは声を荒げさせる

 

「言ったな! 俺は必ずお前を超えてみせるッ!!」

 

「そうだ、それでこそ我が弟だ!」

 

ライディースの言葉にエルザムが満足そうに頷き、後退しようとしたその時。海面が爆発し3色の戦闘機が飛び出してくる

 

「!」

 

海中から飛び出してきた3色の戦闘機の姿を見て、エルザムは後退せずにその手に持ったバーストレールガンの銃口を向ける

 

「な、何なんだ……あいつらは!?」

 

「DCの増援か!?」

 

完全な四肢を持つ黒いアーマードモジュール「ガーリオン」に加え、突如伊豆基地の海中から飛び出した戦闘機に混乱が巻き起こる。

 

「思ったよりも早い再会だな。武蔵君」

 

オープンチャンネルで告げられたエルザムの言葉。DCの増援かと言う考えが伊豆基地の面子の脳裏を過ぎる中。イングラムだけは上空を飛ぶ戦闘機を見て頭痛を感じていた……どこかで見たような奇妙な懐かしさを感じていた。

 

「そうですね。オイラもこんなに早く再会するとは思ってませんでしたが……ここであんたを叩きのめして、戦争なんて止めさせてやるッ!」

 

その会話からあの戦闘機のパイロットが味方であると判断したカイ達だが、とても飛行するように適しているとは思えない戦闘機に味方と思うよりも不安の文字が脳裏を過ぎる

 

「ふっ、ならばやってみるが良い! 私を止めれる物ならばな!」

 

「あんただけじゃねえ! ビアンさんだって止めてやるさ! オイラがな!!」

 

ゲットマシンに向かってガーリオンがレールガンを放ち、4機のリオンがミサイルを放つ。だがとても飛行に適したと思えない戦闘機ゲットマシンは軽やかなバレルロールで回避し、反撃にとマシンガンを放つ。だがゲッターのマシンガンはガーリオンの装甲に弾かれ、とてもダメージになっているとは思えない有様だった

 

「おいおい、マジか。あんなのでよくあんな飛行が出来るな」

 

「信じられん」

 

尾翼も主翼も無い戦闘機とは思えない機動にイルムガルドとカイの驚愕の声が上がるが、次の瞬間には更なる驚愕がDC、伊豆基地の両方に広がる

 

「へっ、やっぱり効かないか、なら……行くぜぇッ!! チェーンジッ!!ゲッター3ッ!!!」

 

伊豆基地の滑走路に向かって白い戦闘機が降下し、その上に赤の戦闘機が突き刺さるように急降下する。爆発する、そう思った瞬間白い戦闘機の両側面からキャタピラが出現し地響きを立てて着地する。そしてその上に黄色の戦闘機が重なるように合体し、まるで触手のような黄色い腕が赤い戦闘機……いや胴体から伸ばされる、黄色の戦闘機の側面がスライドし、カメラアイが出現する。

 

「はぁ!? な、なんだあれ!?」

 

「が、合体したッ!?」

 

エルザムを含め全員が困惑した。カイ達は戦闘機が特機へと合体したことに、エルザム達はゲットマシンがゲッター1とは異なる姿に変形した事に驚愕した。

 

「そこのアンノウン。こちらは地球連邦軍極東支部・SRXチーム イングラム・プリスケン少佐だ。今直ぐ所属と名前を告げろ」

 

だが1人だけ……イングラムだけが武蔵にそう問いかけた。知らないはずなのに知っている、合体すると判っていたイングラムは誰よりも早く混乱から脱して声を掛ける。だが武蔵はその問いかけには答えず……いや、答えることには答えたのだが、イングラムの問いに答えた訳ではなかった

 

「この巴武蔵様と正義のスーパーロボット! ゲッターロボが相手になってやるぜ!!! かかって来やがれぇッ!!!」

 

力強い武蔵の雄叫びが伊豆基地中に響き渡るのだった……誰も知らないはずのゲッターロボ。だがイングラムだけは激しい頭痛の中

 

(お、俺は知っている……ゲッターロボを……)

 

脳裏の中に浮かんでは消える映像に困惑しながらも、その姿に何故か懐かしさを感じているのだった……

 

 

第7話 ハガネ発進(後編)へと続く

 

 




長くなってきたのでここで1度話を切りたいと思います。戦闘シーンがかなり難しいですね、でも頑張って書いて行こうと思います。
そしてゲッター1ではなく、ゲッター3なのは武蔵なのにゲッター1は違うよなあっと思いまして、それに伊豆基地は海面のステージですし、ゲッター3の方が活躍しやすいと思ったのもあります。次回はゲッター3の戦闘シーンを頑張ってみたいと思います、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 ハガネ発進(後編)

 

第7話 ハガネ発進(後編)

 

アニメや漫画におけるロボットの定番と言えばまず「変形」そして「合体」だがそれはフィクションの世界だから出来る話なのである。まず人間が中に乗り込み操縦出来るようなサイズのロボットを例に挙げるが、それらの巨体を動かすには細かい電子制御や数多の細かい部品が胴体や四肢にこれでもかと詰め込まれている。そんな超がつく精密機器が機体を変形などすればどうなるか?それは極めて簡単な話で変形は=自殺行為と同意儀である。機体の変形により各部に掛かる負担、重力などの負担の変化はそれこそ自爆に等しいと言える。更に合体は機械同士が衝突すると言っても過言ではなく、合体時に接触面に掛かる負担。合体し全長が増えることで脚部に掛かる負担、部品の磨耗など例を挙げれば切りが無いほどのチェック項目や、1mmの誤差すらも許されない精密な操作、もしくはそれを補えるAIが必要になる。更に言えば小説やアニメではないのだから、無限動力なんていう都合の良いエネルギーは存在しない為エネルギーの問題と言うのが存在する。また仮に合体が可能だったとしよう、そうなると更なる問題が浮上する。先も話したがまずはエネルギーの問題。機体を動かす、武器を使うなどの動きによってエネルギーは常に減少し続ける。稼働時間が1時間しかないとすればそれは兵器として成立するだろうか?答えは否である。合体して1時間しか動かない欠陥品と、分離状態ならば5時間いや8時間稼動出来るとしよう。そうなればどちらが有効的か?などと考えるまでも無いつまり今の科学力では変形は可能であっても、合体は不可能。エネルギーや機体の消耗度などの問題に加え、合体する前提で作るよりも最初から1つの機体として作成するほうが現実的である。つまり優秀なロボット工学の権威が出した結論であったが、それは今目の前で覆されたのだ

 

「な、なんだあのロボットは……あんなのありえない」

 

ハガネの格納庫で外の状況を見ていた、SRX計画に携わる研究者「ロバート・H・オオミヤ」は目を大きく見開きそう呟いた。戦場に突如現れた飛行に適さないと一目で判る形状の戦闘機。それが目の前で重なっただけとも言えるが合体した。それはテスラ研で「グルンガスト」の開発に携わり、こうしてSRX計画にも呼ばれるほどに技術も知識もあるが故にありえない。優秀な頭脳を持つが故にありえないと否定し、だが目の前で起きている光景は紛れも無い現実で混乱しきって動けないロバートに向かって指示を求める

 

「オオミヤ博士! R-1の運搬はどうすれば良いですか!」

 

整備兵の叫びに我に返り、ハガネに運搬するPTなどの指揮を取る為に走り出すのだった

 

「艦長。あの特機はどうしますか、エルザム・V・ブランシュタインとの会話から脱走兵でしょうか?」

 

「……その判断は余りに軽率だ大尉。仮にあの特機がEOTI機関の物としよう。あのような姿の兵器が開発されたと言う話は聞かんし、なによりもあの会話は軍人と言うよりも民間人に近い。脱走兵と言うよりも独自で開発された機械をDCが押収しようとし、パイロットが持ち出したと考える方がつじつまが合う、それにあの特機はDCと敵対している。今はあの特機をどうにかするよりもハガネの発進準備を急げッ!」

 

敵か味方も判らない相手に警戒するよりも、今やるべき事を優先せよと叫ぶダイテツの言葉にテツヤは敬礼し行動に出る。それから数分後クルーからも、伊豆基地のオペレーターからも資材の搬入と人員乗り込みが完了したと言う報告が上がる

 

「エイタ!発進の艦内放送を流せ」

 

「了解です!総員に告ぐ、総員に告ぐ。ハガネ発進90秒前!」

 

ハガネのもう1人のオペレーター。エイタの注意喚起の放送がブリッジから流される

 

「補助エンジン始動開始」

 

「了解。補助エンジン、始動! 出力、100……200……300」

 

急ピッチでハガネが発進準備を整え、もうじき発進準備が完了する。そのタイミングでリオの悲鳴にも似た叫びがブリッジに響き渡る

 

「し、司令部より伝達! 敵戦闘原潜より発射されたと思われる大型ミサイルが本艦へと接近中! 基地側からの迎撃は不可能との事です!」

 

今まではハガネを奪取する事を目的としていたDCだが、発進時の膨大なエネルギーを探知し鹵獲するのが不可能と判断したらしく、原潜からの戦略ミサイルの発射へと踏み切った

 

「DCめ……! 本艦の奪取を諦めたのか!?」

 

今回の作戦の前提はDCがハガネを奪取する為に思い切った手を打ってこないと言う事を前提にした強攻策だった。その前提が崩れたことでハガネのブリッジに緊張が走るのだった……

 

 

 

ロバートが合体したゲッターに凄まじい衝撃を受けていたのと同じく、伊豆基地の防衛をしていたイングラム達も戦闘中でありながら困惑していた。これが初見であればDC側も困惑していただろうが、DC側で1度ゲッターの合体を見ていたのでイングラム達よりも早く回復し、ゲッター3に向かって行った。だが今回の場合、それは完全に悪手だった。だがそれを責める事は出来ない、アイドネウス島でゲッター1の力を見ていたからこそ、動き出す前に止めると思ったのは決して間違いでは無い。だがゲッターに向かった2体のリオンのパイロットは今だかつて無い衝撃をうける事となる

 

「ゲッターアームッ!!!」

 

向かってくるリオンよりも早く伸びたゲッター3の両腕、その距離なんと40m。完全な射程外から、しかも腕が伸びると言う予想もしない攻撃に完全に混乱した。そして次の攻撃に敵、味方両方の陣営から悲鳴が上がる。特殊人型機動兵器の略称である、開発コンセプトは対抗出来ない敵が現れた場合を想定して、圧倒的なパワーで力押しする大型の機体を開発すると言う特機構想の元開発されている。だが仮にその特機だとしても、両手にリオンの胴体を握り締め地面に引き摺り下ろすなんて真似は不可能だ。だが20m強のゲッターと名乗るロボットはそれを易々とやってのけたのだ

 

「そーりゃあああああッ!!!」

 

そして更にゲッター3はその場で回転をはじめ、ハンマー投げの要領でリオンを2体遠くの沖へと投げ飛ばす。捕まえて投げ飛ばす、原始的な攻撃だが、原始的な攻撃ゆえに反応しきれなかったのだ。悲鳴を上げて飛んでいくリオンをちらりと見たゲッター3はそのまま腕を振り回し、指を鳴らすような仕草をとりながらそのカメラアイを上空のリオンへと向ける

 

「さー! 次に海水浴してえのは……どいつだ!!」

 

武蔵のその雄叫びに我に帰ったリオンが急上昇して、腕の届かない距離へと逃れる。だがそれすらもゲッターの前には無意味だった

 

「ゲッターミサイルッ!!!」

 

頭部から放たれたミサイルが凄まじい勢いでリオンへと接近し、パイロットが脱出すると同時にミサイルが着弾しリオンを吹き飛ばす。現れて直ぐ4機ものリオンを屠ったゲッター3に緑のゲシュペンストが接近する

 

「ムサシ・トモエと言ったな。お前は俺達の味方か?」

 

「おうよ! オイラはDCを止めに来たからな!」

 

武蔵の大声がオープンチャンネルで響き渡る。その叫びを聞いてカイは苦笑しながら指示を飛ばす

 

「各機へ告ぐ! この場はトモエと協力し乗り切るぞ!」

 

あえてその指示を出したのには理由がある。ゲッターの戦力は未だ未知数であり、そしてゲッターを相手を下手に威圧し敵に回すことを恐れたのだ。無論敵であることを演じているスパイの可能性も考えたカイだが、何故か信用できるという確信があった

 

「という訳だ、俺達はお前を攻撃しない。お前も俺達を攻撃しないでくれるか?」

 

「判ってる! あのリオンとか言う奴を攻撃すれば良いだろう! オラオラ! 死にたくなかったら脱出しなあ!!」

 

キャタピラを駆使し、滑走路を走り出すゲッター。その重量で穴の空く滑走路に苦笑しながら、カイもゲッターの後を追ってリオンへと走らせる。たった1機の準特機によって連邦軍の劣勢は覆されようとしていた

 

「トモエ、リオンを引き摺りおろせるか!」

 

カイの問いかけに武蔵は返事を返すのではなく、ゲッターアームを伸ばし、リオンを引き摺り下ろし、行動で返事を返す

 

「イングラム! 一気に決めるぞッ!」

 

「了解した!」

 

射程距離にリオンが落ちてきた。それを見ていたカイとイングラムは同時に駆け出し、ジェットマグナムとビームソードでリオンの足と翼を粉砕し戦闘能力を奪う

 

「おっとあぶねえぞ」

 

リオンのレールガンがアヤのゲシュペンストに当たる瞬間。ゲッター3はその右手を伸ばし、手の平でレールガンの弾頭を受け止め握り潰す

 

「あ、ありがとう」

 

「良いって事よ、でもぼんやりしてるとあぶねえぞ?」

 

オープンチャンネルと言うよりかはスピーカーで外に向かって喋っている武蔵。アヤも感謝の言葉を告げる為オープンチャンネルで返事を返す。普通ならば通信のチャンネルを合わし、コックピット内で会話をするのが当然だ。だがそれをしない、もしくはそれが出来ないのであろうゲッターに鋭い視線を向けるイルムガルドとライの2人

 

(試作機……だったとしても通信機位は積んでるだろうし、あれは到底試作機には見えねえな)

 

姿こそ戦車に上半身をくっつけたような不恰好な物だが、その前に戦闘機に分離し合体していると言う姿を見ている以上。試作機と言う線は消える。何故ならば試作機と言うには余りに動きが滑らかで、そしてパイロットの腕が操縦しなれているように見えた

 

「ったく、お前は何処から来て、何がしたいんだよ」

 

コックピットの中でイルムは誰に聞かせるわけでもなく、疲れたように呟く。確かにゲッターの登場で戦場の流れは大きく変わった

 

「おりゃああああ!!」

 

今も視界の隅ではゲッターが両腕を伸ばしリオンを捕らえ。そのまま握り潰すかのようなリアクションを取ると、パイロットは即座に脱出装置を起動させる。握り潰されて圧壊されると判断したからの行動だろうが、そのおかげでコックピットだけが無い無傷のリオンがあちこちに転がっている

 

(……どうしろって言うんだよ)

 

ほぼ無傷で鹵獲出来ているのはありがたいが、それでどうしろって言うんだとイルムが呟く

 

『イルム。ハガネの発進口まで後退だ、司令部はゲッターを囮にすることを決定した』

 

またとんでもねえ作戦を平然と口にしてくれるぜとイル厶は心の中で呟きながらも了解しましたと返事を返し、ハガネの発進口まで後退していく。その際にゲッターが破壊されている瓦礫を持ち上げ、リオンへと投げつける姿を見て化け物めと呟いたのは無理も無い姿だった

 

『ライディース。お前も後退しろ、これは命令だ』

 

「……了解しました」

 

そして兄を止めるのは自分しかいないと思っていたライは、無骨で近代戦とは程遠い戦い方だが自分よりも遥かに強いゲッターを睨みながら、しかし軍人として上官の命令には逆らえないとイングラムの指示に従い発進口へと後退するのだった……リオンこそゲッターに集中しているが、シュヴェールトなどの飛行機部隊は今もなお執拗にハガネを狙っていたのだから……

 

 

 

 

カイと武蔵を残し後退したイングラム達。その考えの根底には今まで見たゲッターの力を見ての判断だった。だが実際の武蔵にはそこまでの余裕は無かった

 

(くそっ! 炉心のパワーがあがらねえッ!!)

 

今のゲッターのパワーは3人乗ったゲッターは愚か、昔竜馬が1人で操縦した時よりも遥かに低い物だった。それこそ何とか稼動していると言うレベルであり、ゲッター3の必殺技であり、自らの得意技である大雪山おろしも使えない。コンディションは悪いを通り越して最悪に近かった。本来ならば飛行する相手ならばゲッター1だが、元々ベアー号およびゲッター3のパイロットの武蔵はゲッター1の操縦に慣れていない、ゲッター2なんて更に悲惨でマッハ2の速度は武蔵には当然扱いきれない。炉心のパワーが上がらないのならばエネルギーをもっとも使わないゲッター3を選択した武蔵だが、そのゲッター3でさえも本調子とは程遠い状態で伸縮自在のゲッターアームとゲッターミサイルを使いこなし、相手を自分の間合いに入れないことを徹底していたのだ。本来のゲッター3ならば装甲に物を言わせて突っ込んでいく、得意な戦術を封じられていた武蔵は必然的に受身の戦いに追い込まれている

 

「武蔵君、何時までも好き勝手に出来ると思わないことだ!」

 

そして更に傍観に徹していたエルザムが突撃してくれば状況は更に悪い方向へと流れていく

 

「っとと!」

 

ペダルを踏み、レバーを操作して後退する武蔵だが後退すればリオンが待ち構えていてミサイルの雨が降り注ぐ

 

「ぬっぐっ!」

 

両腕をクロスさせ爆発を防ぎ、反撃にとゲッターアームを伸ばす。今までならそれでリオンを捕らえる事が出来ていた

 

「それはもう何度も見た」

 

エルザムの駆るガーリオンのバーストレールガンが腕を弾き、伸ばしていた腕はそのままの勢いで滑走路へと突き刺さる。エルザムは今まで傍観していたのでは無い、腕の伸びる速度、腕自身の強度、そして射程距離を冷静に見極めていたのだ。その為に何体ものリオンを犠牲にした、だがエルザムの慧眼はゲッター3の弱点を見抜いていた

 

「そのゲッター3は飛行能力が無いな」

 

「……どうだろうな。飛ばないだけかもしれないぜ」

 

エルザムの言葉に冷や汗を流しながら武蔵は努めて冷静に返事を返す。だがその武蔵の様子を見てエルザムはならば飛んでみるがいいと言い放ち3体のリオンと合わせてレールガンを放つ

 

「ちいっ!!」

 

それに対して武蔵の行動は舌打ちと共にゲッターを後退させる事だったが、後退して数メートル。急にゲッターに衝撃が走る

 

「な、なんだッ!?」

 

武蔵は気付いていなかったが、リオンの攻撃も、エルザムの攻撃もゲッターを1箇所に誘い込む為の攻撃だった。レールガン、ミサイルにより破壊された滑走路に誘い込まれてしまったのだ

 

「それを見て確信したよ。やはりそのゲッターは空を飛べない」

 

エルザムが慎重になっていたのはアイドネウス島で見たゲッター1の飛行能力と殲滅能力を警戒しての事だった。形状こそ違えど、ゲッター3にも飛行能力があるのでは? ビーム兵器があるのでは? と慎重に事を運びゲッター3の能力を完全に見抜いていた

 

「さて、武蔵君。降伏したまえ、私もビアン総帥も君の事は買っている。地球圏に平和を齎したいと言うのならば私達に協力するんだ……

今ならば私とビアン総帥で君を守る事も出来る」

 

そしてエルザムの次の行動は武蔵の説得だった。今回の件でもゲッターの有能さは証明された、それを考えればここでゲッターを破壊するのは勿体無いと思わせるだけの能力をDC、連邦に見せ付けていた

 

「エルザムお前ッ! 待て今支援に……ぐっ!」

 

カイがゲッターの支援に入ろうとするが、それはエルザムとチームを組んでいたリオンに妨害され、ゲシュペンストやメッサーのミサイルやシュッツバルトのツインビームカノンによる狙撃もガーリオンとリオンの行動を阻害出来ずにいた

 

「私としても君を殺したくは無いが……返答はいかに?」

 

レールガンの銃口を向けるガーリオン。その照準は狙ったわけでは無いが、ベアー号のコックピットへと向けられていた

 

「ビアンさんやエルザムさんの言いたい事は判る。だけど、オイラはッ! 罪の無い人を巻き込む戦争なんて真っ平ごめんだッ!!」

 

「……そうか。残念だよ、武蔵君。君なら私達の思想に共感してくれると思ったんだがな」

 

ガーリオンの指がレールガンの引き金に掛かった瞬間。コンクリートの亀裂に囚われたゲッターが爆ぜる

 

「「「なっ!?」」」

 

その驚愕はDC、連邦の両方に広がった。レールガンが放たれるよりも先にゲッターが爆発……いや自ら分離し、信じられない速度で上空に向かって飛翔する。ゲットマシンは飛行には適さないが、直線的な加速に限ればその速度は誰にも捉えることの出来ない飛行艇と化す。その加速は追って飛翔してきたリオンの追撃を躱し、上空へ、上空へと加速していく

 

「チェーンジッ!!! ゲッタアアアッ!!! スリーッ!!!!!」

 

「馬鹿なッ!?」

 

武蔵の出したこの状況を乗り越える1手は賭けに等しい物だった。キャタピラが空回り移動は出来ない、敵に囲まれている。この状況ならばオープンゲットしか脱出方法は無いと判断し、そしてエネルギーが足りない今、ゲッター1は勿論。飛行能力の無いゲッター2にチェンジするのは自爆に等しい、それならば空を飛べないのは同じだがゲッター3にチェンジし、重力による自然落下による押し潰し攻撃を敢行した。それは通常ならばエルザムには決して当たらない攻撃だった、だが予想外の攻撃に加え、ガーリオンの視界を埋め尽くすジャガー号の車体に流石のエルザムも硬直し、足を止めた。その時間は僅か数秒だったが、その数秒は致命的な隙となった

 

「おーらあああああああッ!!!」

 

雄叫びと共に落下してくるゲッター3。重力と加速を利用したその一撃は防御も回避も出来ないタイミングだった……だからこそエルザムは敢えて前へ出た

 

「トロンベよ! 今が駆け抜けるときッ!!!」

 

リオンの発展系であるガーリオンには、リオンには搭載していない……いや理論上は可能だが、機体の耐久などの問題で実行できない攻撃があった。テスラドライブの出力を最大にし、それによって生まれた力場を機体前面へと展開、更にガーリオンの両肩に金属粒子を力場に散布することで巨大な盾として扱いガーリオンの速度を持って突撃する。ソニックブレイカー……それがガーリオンの最大の武器であり、盾であり、矛であった。その盾を用いてゲッター3の直撃を防ぐ……一歩間違えば自爆になりかねない行動にエルザムは打って出た

 

「シュツルムアングリフ……突撃ィィィッ!!!!」

 

「おおおおおーッ!!!」

 

ゲッター3の押し潰しにソニックブレイカーが追突し、周囲に凄まじい衝撃を撒き散らす……永遠とも思える数秒の後

 

「うわああッ!?」

 

「くっ! やはり無理があったかッ!?」

 

武蔵とエルザムの苦しそうな声が響く、ソニックブレイカーはゲッターの攻撃を防いだが、ゲッターの本体を貫く事は出来ず、またゲッターの攻撃はソニックブレイカーの力場を貫く事は出来たが、ガーリオンに損傷を与えることは出来なかった。両者完全に痛み分けである

 

「……どうやら、ここまでのようだな。全軍へ帰投せよ」

 

エルザムの視界の先ではハガネが浮上していた。発進前の鹵獲及び破壊が失敗し、ガーリオンも両腕を潰された。これ以上の追撃行動は不可能とエルザムは判断した、更に言えばDCの原潜から放たれてたMAPWも伊豆基地に迫っている今、早急に離脱しなければ自分達も爆発に巻き込まれると判断したのだ。

 

(また会おう、武蔵君)

 

空中で分離したゲットマシンをしばし見つめたエルザムは機体を反転させ、生き残った僅かなリオン達を引き連れ、伊豆基地の空域から離脱していくのだった……

 

 

 

 

エルザム達が撤退していく中。武蔵はと言うと頭を抑えて呻いていた……ソニックブレイカーの衝撃で吹き飛ばされた武蔵はコックピットの天井に思いっきり頭をぶつけていたのだ

 

「あいたた……あーくそ、駄目だったか……」

 

驕っていたわけでもなければ、油断していた訳でもない。武蔵は可能ならばこの場でエルザムの無力化、もしくは捕獲を企んでいた。だが今まで40m級のメカザウルスと戦っていた武蔵にはPTとの戦闘経験は無く、更にエルザムはこの時代でも最高のパイロットとして数えられる1人だ。PTとの戦闘経験がなく、更に言えば本調子では無いゲッターで相打ちにまで持ち込めた武蔵の方がよっぽど異常だった

 

「ん!? ミサイルだとッ!!」

 

ゲッターの計器に突っ込んでくるミサイルの反応がありチェンジしようとした武蔵。だがそれは完全な杞憂に終った、ハガネから出撃したトリコロールのPT……「R-1」がライフルでミサイルを迎撃したのだ。

 

「わっととーッ!?」

 

ミサイルの爆風でゲットマシンを煽られた武蔵は必死で機体を制御する。姿勢を取り戻した頃にはハガネと伊豆基地のPTの姿は無く、飛び去っていくハガネの姿

 

「や、やばいやばい!!」

 

あの戦艦がDCと戦っていると言う事が判っていた武蔵は慌てて、ハガネの後を追ってゲットマシンを飛ばせる。だが追いついたら追い付いたで更なる問題が生まれる、それは今回は協力出来た。だがそれが何時までも続くかと言う問題である

 

「どうしよう……」

 

ハガネの艦首の回りをうろうろと飛ぶ事しか出来ない武蔵。離脱したとしても他に行くところも無い……武蔵が操縦桿を握り締めて困惑している頃。ハガネのブリッジもまた困惑していた

 

「艦長。あの特機がついてきていますが、どうしますか?」

 

ハガネの損傷及び、PT部隊の着艦を確認した後。テツヤはうろうろと飛んでいるゲットマシンを見つめ、ダイテツに指示を求める

 

「伊豆基地の事もある、1度話を聞きたい。整備兵達に着艦させると通達の後、オープンチャンネルで着艦するように促してみてくれ。それで離脱するのならばそれでも良い、また着艦に備えてイングラム少佐達に格納庫へ向かうようにと」

 

「了解です。エイタ、格納庫に通達、戦闘機が3機着艦出来るように準備するようにと、後イングラム少佐達に格納庫で待機するように発令してくれ」

 

「ブリッジより格納庫へ、ブリッジより格納庫へ、これより戦闘機が着艦する。着艦準備を整えてください、繰り返します。戦闘機が着艦します、着艦準備を整えてください。イングラム少佐、イルムガルド中尉へ通達します。至急格納庫へと向かってください、繰り返します、イングラム少佐、イルムガルド中尉へと通達します。格納庫へと向かってください」

 

エイタのハガネのクルーへの通達から数分後。ゲットマシンは開放された格納庫へとゆっくりと着艦していくのだった……

 

 

第8話 武蔵ハガネへと乗艦する

 

 




強くはあったゲッターですが、やはり弱体しているのでパワー不足と言う事になり。ガーリオン・トロンベと相打ちとなりました。ここから登場人物が一気に増えますが、頑張って書いて行こうと思います。あ、あと海溝からの刺客は話の都合上飛ばす事になりますのでご理解よろしくお願いします。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 武蔵ハガネへと乗艦する

 

第8話 武蔵ハガネへと乗艦する

 

艦内放送で伊豆基地で共闘したアンノウンが着艦すると判り、イングラムとイルムのほかにもパイロットを一目見ようとリュウセイやアヤ達の姿も格納庫にあった

 

「あれか、メッサーとかとは全然違うんだな。アヤ」

 

リュウセイが待機所で整備兵の誘導で着艦する戦闘機……ゲットマシンをみて呟く、その呟きにイルムが苦笑を浮かべる

 

「航空力学に真正面から喧嘩を売ってるようなマシンだぞ? 正直あんなのでなんで飛べるのか理解出来ん」

 

「いいえ、イルムガルド中尉。メカニックからすれば何で飛べるのか?と言うよりも、何で合体出来るのかの方が不思議で仕方ないですよ」

 

ロバートが信じられない物を見るような目でゲットマシンを見つめる。

 

「これよりパイロットとアプローチを取る。リュウセイ、アヤ見ているのは構わないが邪魔をするなよ。いくぞイルムガルト」

 

「了解です。さーて、どんなパイロットが出てくるかな」

 

ゲットマシンが着艦し、完全にエンジンを停止する。それと同時にイングラムとイルムがゲットマシンの方へと向かう……当然ながら所属不明であり、その戦闘力も脅威だった為。勿論厳戒態勢が格納庫に敷かれた……だがコックピットから出てきたパイロットを見て嫌な意味での沈黙が広がった

 

「どっこいしょっと、わたたたーッ!? ぐえっ!」

 

足を滑らせてゲットマシンの下に落ちて呻く、剣道の胴、マント姿に日本刀を背負うと言う独創的過ぎるファッションの少年にイルムガルド達は絶句したが、イングラムだけは違っていた

 

(……どこかで見たような……ぐっ、頭痛が……)

 

どこかで見たと言う懐かしさを覚えていると、突如激しい頭痛が走る。だがそれをいつものポーカーフェイスで誤魔化したイングラムは立ち上がり、埃を払っている少年に声を掛ける

 

「地球連邦軍極東支部SRXチームのイングラム・プリスケン少佐だ。君の名前は?」

 

「え、あ……どうも。オイラ巴武蔵です」

 

素朴と言う様子の武蔵。勿論その姿は軍人にも脱走者にも思えない

 

「この艦の艦長が君に会いたいと言っている。同行して貰えるか?」

 

「はい、大丈夫です。でも、出来ればゲットマシンには触らないで貰えると嬉しいんですけど」

 

ゲットマシンを見て心配そうにする武蔵。イングラムは少し考えた後

 

「判った。ゲットマシンと言うマシンには触らせない、それで良いか?」

 

確認と言う意味を込めて武蔵に問いかける。武蔵はそれなら大丈夫ですと返事を返した

 

「巴武蔵。武器の類はこのイルムガルトに預けて欲しい」

 

「あ、はいはい、すいません」

 

背負っていた刀と胴の中に入れていた拳銃をイルムに手渡す武蔵。イングラムもイルムも差し出された拳銃を見て眉を顰める、それはもう型が古すぎて使用されることの無いリボルバーだったからだ。もう武器としての価値は無く、骨董品に近いそれを後生大事そうに持っている武蔵が不思議に思えたのだ

 

「どうかしましたか?」

 

「いや、なんでもない。ずいぶんと珍しい物を持っているなと思っただけだ、イングラム少佐。行きましょう」

 

「ああ。オオミヤ博士。ゲットマシンに決して触れないように、では行こうか」

 

イングラムは武蔵を連れ出す前に、格納庫にいたロバートにそう告げた。そして武蔵はイルムとイングラムによってハガネの艦長室へと案内されるのだった……

 

 

 

イングラムとイルムの2人に監視されながら案内されたハガネの艦長室。武蔵は物珍しいのか、艦長室に入るまでの間あちこちをきょろきょろと見回していた

 

「よく来てくれた。ワシがこの艦……ハガネの艦長のダイテツ・ミナセ中佐だ」

 

「巴武蔵です」

 

巴武蔵と名乗った事にダイテツは少し眉を上げるが、武蔵に座るように促す

 

「さてと、君には色々聞きたい事がある。あの特機はどこで手に入れたのか、そして君はどこに所属しているのかだ」

 

ダイテツの鋭い眼光に武蔵は早乙女博士に似てるなと内心思いながら、胴の中に入れている財布からカードを取り出して机の上に置く

 

「早乙女研究所? 聞いた事の無い研究施設だな」

 

それはビアンにも見せた武蔵の身分証明だった。武蔵と共に入室したイングラムに目配せするダイテツだが、イングラムは首を左右に振る

 

「大尉。この研究所について「え、えっと! 待ってください。その……そこの生年月日を見てもらえますか?」

 

調べろという前にダイテツを止め、生年月日を見てくれと言う武蔵。ダイテツは怪訝そうにしながら、生年月日に視線を向け

 

「何?旧西暦?」

 

身分証に刻まれていた生年月日は今から数百年も昔の旧西暦だった。そんな馬鹿な年代で身分証を偽造する馬鹿はいない……だが旧西暦の人間が生きている訳が無い。それならタイムスリップと言う可能性もあるが、タイムマシンなんて物もありえない。ダイテツの眉が大きくつりあがる

 

「タイムスリップをしたとでも言うのか? 馬鹿馬鹿しい」

 

テツヤは話を聞く前に馬鹿馬鹿しいと断言する。だがダイテツとイングラムは違っていた

 

「ふむ。トモエ君「あのすいません、武蔵でお願いします」……んん!武蔵君。どう言う事だ?」

 

何があったのか? それを説明してくれと促すダイテツ。そこから武蔵は自分が早乙女研究所の所属でゲッターロボの3人のパイロットの1人であり、メカザウルスと言う巨大な敵と戦っていた事。恐竜帝国という脅威が日本だけではなく、地球全体を滅亡の危機へと追いやっていたことを説明した

 

「それでゲッターのエネルギーをオーバーロードさせて、戦っていたら何時の間にかアイドネウス島と言う所に落下していて、ビアンさんとエルザムさんに保護されたんです」

 

自爆したとは武蔵は言わなかった。あくまでゲッターの動力を暴走させ戦闘中にと言う話にしたのだ、アイドネウス島の時とは違う。メカザウルスと言う証拠が無いのに加え死人かもしれないと言う話をする訳には行かない

 

「荒唐無稽だな。子供でももっと面白い話を作るぞ」

 

「大尉。ワシは真実であると思うが?」

 

若く頭の固いテツヤがくだらないと断言する。だがダイテツは武蔵の話が真実であると言う事を認めた

 

「しかし艦長。爬虫類から進化した爬虫人類や、巨大な恐竜の化け物なんて話は旧西暦にありませんでしたよ」

 

「逆に考えてみてはどうだ?政府にとって都合の悪い話であるが故に、ゲッターロボも早乙女研究所も歴史の中に埋もれて消えたとな」

 

ダイテツの言葉にテツヤは口を紡ぐ。確かにありえない話では無い、だが信じることも出来ない

 

「あの、オイラの話を信じてくれるんですか?」

 

「真っ直ぐな良い眼をしている。それにゲッターロボと言う証拠もあるんだ、信じる要素は十分にある」

 

信じてくれたと言う事に笑みを浮かべる武蔵だったが、ダイテツが目を閉じて開いた時の眼力に息を呑んだ

 

「ハガネは軍艦であり、アイドネウス島に奇襲攻撃を仕掛け、そしてDCを殲滅する事が目的となっている。君に良くしてくれたと言うビアン・ゾルダークと、エルザム・V・ブランシュタインと戦う事にもなるだろう。伊豆基地でエルザムと戦ったのは見ているが、敢えて問おう。君は恩人と戦えるか?」

 

「オイラは……出来れば説得したいと思ってます。地球を守りたいって言う思いはオイラも共感できるし、正しい事だと思います……でもその為に戦争をするって言うのは間違っているとオイラは思います。だからDCを止める為なら、オイラは戦えます」

 

鋭い目で睨まれながらも武蔵は自分の思いを口にした。ダイテツはそうかと呟き

 

「艦長……まさか彼を戦力として迎え入れるつもりですか?」

 

黙り込んだダイテツにテツヤが武蔵を戦力として数えるつもりですか?と問いかける

 

「ワシ達には戦力が足りない。そしてDCに地球を制圧されるわけにもいかん、ワシ達には手段を選んでいる余裕は無い、協力してくれるというのならばこちらも君とゲッターロボを戦力として迎え入れたいと思っている」

 

「……ダイテツさんが良いなら、オイラはハガネに乗せて欲しいです」

 

黙って話を聞いていたイングラムが話が纏まりかけたタイミングでに割り込む

 

「確かにゲッターロボと言う証拠もあるし、君の話もまるで見て来たかのようにリアリティがある。だが余りにも我々の常識とは異なる話です」

 

真実味はある。だがそれを素直に信用することは出来ないと断言したイングラムはダイテツにある提案をする

 

「艦長。オオミヤ博士に一切事前情報を伝えず、ゲットマシンの解析をして貰いましょう。もし武蔵の話が本当ならば使われている基盤や螺子は旧西暦の型の物である筈、それに加えゲッター線と言う放射線で稼動していると言うのならば、それも分析で確かになるはずです。テツヤ大尉も明確な証拠が無ければスパイ疑惑を払拭することも出来ないでしょう。それならばお互いが納得出来るラインを見つけると言うのはどうでしょうか?」

 

物的証拠としてゲットマシンの詳しい分析をさせて貰うべきだと提案するイングラム。ダイテツはパイプを吹かしながら

 

「武蔵君。という訳なのだが、それで良いか?」

 

「は、はい、それで信用して貰えるならオイラは大丈夫です」

 

「では武蔵。俺と共に格納庫へと来て貰おうか、では艦長。失礼します」

 

そして武蔵はイングラムと共に艦長室を後にした

 

「艦長。本当に彼をハガネに乗せるつもりですか?」

 

「大尉。確かに彼の話は信じられない話だった……だが彼の目には嘘をついている人間の疚しさなどは無かった。だからワシは信じてみようと思ったのだ、大尉ももう少しすれば判る様になる」

 

「はぁ……そういう物でしょうか……」

 

年を取っているから判ると誤魔化したダイテツだが、ダイテツはゲッターロボの事を知っていた。地球連邦の中でもSSSの機密、それは旧西暦に起きた地球滅亡の危機……そしてそれを救ったスーパーロボットの存在を、当時の政府が隠蔽した、失われた歴史……ダイテツほどの軍人が中佐で留まっているのは、軍上層部に媚び諂う事をしないと言う事ともう1つ。ダイテツがまだ入隊した当時にゲッターロボの事を記した資料を運悪く見つけてしまったから……そして忘れかけた今現れたゲッターロボ、そして武蔵の手にしていた証明書……それは紛れも無く政府が隠蔽した失われた時代と同じ年代の物なのであった……だが1つだけダイテツの心に引っ掛かったものがあった……それは名称の違いだった……

 

(ゲッターロボGと呼ばれている筈なのだが……)

 

ダイテツが見てしまった資料に刻まれていたのは「ゲッターロボG」の名前なのだったから……

 

 

 

 

イングラム少佐によって人払いされたハガネの格納庫。今この場にいるのはロバート、イングラム、そして武蔵の3人だけだった

 

「ふう……終わりました」

 

ロバートが降りて来るまでの2時間の間……無口なイングラムと並んで座っていると言う苦行に挑んでいた武蔵は早くロバートにこっちに来て欲しいと願っていた

 

「イングラム少佐。分析の結果ですが……」

 

「ああ、彼も当事者だ。話してくれて構わない」

 

武蔵をちらりと見たロバートだが、イングラムの続きを促す言葉に頷き

 

「……信じられない事ですが、使用されている基盤、螺子やボルトと言う基本的な部品を始め、電子部品からモニターまで全て旧世紀の物

と言う分析結果でした。更に動力源は未知の放射線……君、これどこから持って来たんだい?」

 

ロバートの問いかけになんと答えれば良いのかと迷っている武蔵。幾らなんでも会った人全員に過去から現れたとも説明出来ない

 

「オオミヤ博士、今回の分析結果は他言無用だ。民間人が未知の試作兵器を持ち出して、DCと戦おうとしている。事実はそれだけだ」

 

「……余計な詮索はするなってことですか、判りました」

 

イングラムの威圧的な言葉にロバートは顔を顰めながらも頷く、彼も軍に関わる人間だ。話して良い事と悪い事の分別くらいはつく

 

「すまないな。それと分析の資料はこちらで預かる」

 

「そこまで徹底しますか……判りましたよ」

 

ロバートは若干不満そうに端末をイングラムへと手渡す。武蔵は2人のやり取りを見ながら

 

「あのオイラのゲッター。どこか壊れてませんでした?」

 

「あ、ああ。今の所は大丈夫だよ、よっぽど頑丈な機体だね。ただ戦闘が重なればどうなるかは判らない」

 

武蔵の不安を煽るような言葉。武蔵の顔色が面白いように変わる。今自分が早乙女研究所にいたという証拠はゲッターしかない、だからそのゲッターが壊れるような事態は避けたいのは当然の事だ

 

「艦長に今回の分析結果を見せたら、このデータは返却する。正し、他人に見せるのは禁止だ、そして可能な限りで良い。ゲッターの修理に必要な部品の複製を始めてくれ」

 

「了解です、ではデータの返却お待ちしています」

 

ロバートは敬礼しながら告げるとゲッターの分析で中断していたゲシュペンストなどの点検に向かう

 

「では武蔵、着いて来い」

 

「は、はい!」

 

威圧的なイングラムに武蔵はおっかなびっくりと言う様子でついていき、格納庫を後にした。1人残されたロバートはゲットマシンを見上げ

 

「3人乗りの機体を1人で動かすか……」

 

分析するまでも無く、ゲットマシンは3機あるのでパイロットは3人となる。しかし他のパイロットは居らず、武蔵は1人でゲットマシンを操縦していたことになる。武蔵に卓越した操縦技術があるのか、それとも高度なOSを搭載しているのか……いや、分析したがゲットマシンのOSはゲシュペンストと比べても稚拙な物で、設定されている行動を取る程度のOSしか搭載していなかった。ロバートはゲットマシンへの考察を続ける

 

「なんにせよ。普通の研究者が作ったマシンじゃないな」

 

パイロットの安全を一切考慮していないと言う事は分析を開始して直ぐ判った。対重力装備は愚か、パイロットが腰掛けるシートでさえも簡易的な物となっている。それは近代の兵器としてはありえないほどの杜撰な物だった……

 

「だが天才だ。間違いなく、このマシンを作った研究者は天才だ」

 

パイロットの安全を度外視しているが、それは逆を言えばそうしなければ対応出来ない脅威があったと考えれば腑に落ちる。そして明らかに後付けのプラズマジェネレーターはゲットマシンのエネルギー不足を補うための物で、恐らくビアン・ゾルダークが搭載した物だろう

 

「未知のエネルギーで稼動していて、旧世紀の遺産とも言えて、機体には細かい傷か」

 

未知の試作機といいつつ、その機体には細かい傷があった。とても試作機とは思えず、それこそ何年も戦いを繰り広げてきたかのような有様だ。更に無理矢理補修されている部分もあり、それらが余計にロバートに馬鹿らしいと言える仮説を考えさせる

 

「まるで過去からタイムスリップして来たみたいだな」

 

馬鹿らしいと言う口調だが、まさかそれが当たっているとは夢にも思わないロバートなのだった……

 

 

 

 

イングラムが武蔵を連れ出した場所は士官用の部屋が並んでいるエリアだった。監視と言う事も兼ねてイングラムの隣の部屋を与えられたのだ

 

「悪いが暫くの間はこの部屋にて待機してもらう。クルーに紹介するにも発進したばかりだ、落ち着くまでは姿を見せないで欲しい。制服は一応支給するからそちらに着替えるように」

 

声を荒げることも無く淡々と指示を出すイングラムの話を聞きながら武蔵は部屋の中を確認する。ベッドもあるし、備え付けのトイレと風呂場もある。更に家電も揃っている部屋に随分といたせりつくせりだなあと笑う武蔵に、イングラムから何か要求はあるか?との問いかけに武蔵は待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべる

 

「判りました。でも1個だけお願い出来ますか?」

 

「何だ?」

 

イングラムがそう尋ねると部屋中に響き渡るようなお腹の音が響く、イングラムが冷めた目で見つめる中。武蔵は恥ずかしそうに腹をさすり

 

「腹ペコなんです。なにか食べる物をお願い出来ませんか?」

 

「……良いだろう。食堂で何か持ってきてやる、何か要望は?」

 

「何でもいいですけど特盛りでお願いします!朝も昼も何も食べてなくて」

 

恥ずかしそうに笑う武蔵にイングラムは疲れたように頷き部屋を出て行く。武蔵は着替えるように言われていた制服に袖を通していたのだが……

 

「やべ、きつすぎる」

 

武蔵の巨体ゆえに制服の前を閉める事は不可能で、武蔵は仕方ねえと呟き上着を椅子の背に掛け自身も椅子に腰掛ける

 

「あー腹減った……まだかなあ」

 

ルンルン気分で待つ武蔵。待ち始めて10分ほどで扉が開きイングラムが姿を見せる

 

「食事はこれでいいか?」

 

「完璧です!ありがとうございます」

 

大盛りのカレーライスにラーメン、それに唐揚げと言うラインナップに武蔵は満面の笑みを浮かべ、イングラムに感謝を告げる

 

「俺が呼びに来るまで部屋で待機していろ。良いな」

 

武蔵は食事に夢中で話を聞いているようには思えなかったイングラムだが、まだ出航したばかりでやることがあるイングラムは武蔵に背を向けて部屋を後にする

 

「ぷっはーッ! あー食った食った」

 

かなりの量だったが、武蔵は5分ほどで食事を終え空の食器を積み重ねてベッドに寝転がると、凄まじい鼾を立てて眠り始めた。流石の武蔵もゲッターの狭いコックピットでの睡眠は無理があるのは当然で、満腹になりベッドに寝転がった武蔵はハガネの中に警報が鳴り響いても、ハガネが激しく揺れても目を覚ますことは無く。武蔵が目を覚ますのはハガネが海溝でのキラーホエールの戦いを終え、オーバーブーストで海溝を脱出し、それから更に2時間後の事なのであった……

 

 

第9話 復讐鬼へと続く

 

 




今回はやや短めの話となりました。キラーホエールのステージは書くことが無いので、ゲッターの中で昼寝が出来る武蔵さんなら大丈夫だと思い。寝ていてもらうこととなりました、なお細かい時間などは突っ込まないでくださいね?私も知りませんから。なおOGのシナリオはPCの隣に配置しているPS2でOGをプレイしているので、アニメの展開やシナリオ希望は無理ですのでご了承願いします。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 復讐鬼 その1

第9話 復讐鬼 その1

 

「んぐはああーーーよーく寝たなあ。ん?なんでオイラ。ベッドから落ちてるんだ?」

 

胡坐をかいて背伸びをする武蔵。だが自分がベッドから落ちている事に気付き、不思議そうに首を傾げる。だが自分の寝相の悪さを知っていたので、寝相で落ちたんだなと解釈し立ち上がる。

 

「良しッ! 絶好調♪」

 

食事と睡眠で体調が回復し、凝り固まった筋肉を解していると音を立てて扉が開き、イングラムが姿を見せる。

 

「すまないな。巴武蔵、知っての通り戦闘があった。なんの連絡も無く不安に思っていたと思うが問題は無事解決した」

 

「……え? 戦闘? オイラ、今まで寝てたんですけど?」

 

イングラムから戦闘があったと聞いた武蔵は目を丸くする。だが考えてみても欲しい、武蔵は操縦性が劣悪なゲットマシンで飛行中に爆睡出来るような男だ。つまり1度寝ると決めたらそう簡単に起きるような性格ではない、それは仮に戦闘によって地震のように揺れる戦艦の中であっても変わりは無いのだ。

 

「寝ていたのか? かなり振動とかがあったはずだが?」

 

戦闘があったと言う事が信じられない武蔵と戦闘があったのに寝ていたと言う事が信じられないイングラムの間に嫌な沈黙が満ちる。

 

「ま、まぁ良い。怪我などをしていなければそれに越したことは無い。ハガネの中を出歩く許可が出た、クルーに紹介するからついて来い」

 

その沈黙に耐え切れなかったのはイングラムのほうだった。話を切り上げ、本来の目的だったクルーに武蔵を紹介すると言って部屋を出る。

 

「わ、判りました。今行きます」

 

武蔵は慌てて上着を肩に掛け、イングラムの後を追って与えられた部屋を後にした。

 

「それで戦闘があったそうですけど、大丈夫なんですか?怪我をしている人とかは?」

 

戦闘があったと聞いて何があったのかを知りたい武蔵が矢継ぎ早にイングラムに質問する。

 

「それに関しては問題は無い、潜水艦による強襲で出撃出来なかったからな。その代わりハガネが損傷し、現在南鳥島へと向かっている」

 

「南鳥島……そこに何かあるんですか?」

 

「いや、何も無い。だがハガネのエンジンの修復が必要でな、そこで一時的に停泊する予定だ。その間にお前の紹介を済ませておくべきと判断した」

 

状況を聞いてなるほどと頷いた武蔵。動き出せば否が応でも戦闘になる、一時的とは言え停泊するのならばそれを利用して顔合わせを済ませるのは理に叶っている。

 

「呼んだら入って来い、軽くお前の事は紹介しておく。だが早乙女研究所と言う名前は出すな、その研究所は存在していない。お前は試作兵器を持ち出し、DCと戦おうとしている民間人として紹介する。余計なことを言うんじゃない、分かったな」

 

イングラムの強い口調に武蔵はやや怯えながら、判りましたと返事を返す。イングラムがブリーフィングルームに入るのを見て疲れたように溜息を吐き窓の外を見る。

 

「ん? なんだあれは」

 

美しい海と青い空を見つめ、気を落ち着けていた武蔵だが遠くに見えた黒い影に目を凝らす。だが一瞬過ぎった黒い影は雲の中へと消えた。

 

「カモメにしちゃあ……でかかったな。なんだありゃあ」

 

普段ならば大して気にすることでもない事なのだが、今姿を見せた鳥が気になって仕方ない武蔵が窓の外に目を凝らす。直感とでも言うべき何かが今姿を見せた何かを確認しろと訴えていた……だが間が悪いことに扉が開き。

 

「武蔵。入って来い」

 

「え、あ。すいません、今行きます」

 

イングラムに呼ばれた武蔵。自分を紹介するために時間を割いてくれているのに、たかが鳥かもしれない物が気になるとは言える訳が無く。イングラムに返事を返しブリーフィングルームへと足を踏み入れる。だがこの時、もう少し窓の外を見ていればと後に武蔵は後悔する事になる。武蔵がブリーフィングルームに入ると同時に窓の外からハガネを覗き込む何者かの姿があったのだから……

 

「やっと見つけたぞぉ……巴……武蔵ぃぃ……我らが怨敵……」

 

そしてその黒い影は憤怒の表情を浮かべ、ブリーフィングルームの扉を睨みつける。暫くそうしていたかと思うと黒い影はマントを翻し、海へと飛び込んでその姿を消すのだった……

 

 

 

ブリーフィングルームは騒がしかったが、イングラムと武蔵が入室したことで一気に静まり返る。全員の視線が自分に集まり、武蔵は思わず小さく呻いた。

 

「これからハガネに同乗してもらい、アイドネウス島に向かう「ムサシ・トモエ」だ。彼の持ち出した特機「ゲッターロボ」は今回の作戦で非常に有力な戦力となるが、彼は軍属ではなく、善意の協力者と言う事だ。こちらから出撃を強制することは無く、要請と言う事になる。更に彼に命令することも許されない、あくまで彼は善意の協力者だ」

 

イングラムの言葉はかなり無理があった。あれほどの戦力を持つ特機のパイロットを善意の協力者として押し通すのは明らかに無理だ。

 

「あー、えっと、ムサシ・トモエです。武蔵って呼んでくれると嬉しいです」

 

ぎこちない表情で頭を下げる武蔵。その姿は確かに民間人だ、確かに筋肉などは付いている。だがそれは軍人の物ではなく、あくまでスポーツ選手のような、何かの競技にあわせた筋肉の付き方だ。

 

「俺、リュウセイ! リュウセイ・ダテッ! なぁ! お前の乗ってる特機について教えてくれよッ!」

 

「お、おうッ! ゲッターロボのことなら何でも答えるぜ」

 

「よっしゃッ! 俺さ、スーパーロボットとか大好きなんだよ!」

 

だがリュウセイの楽しそうな声でブリーフィングルームの嫌な空気は吹き飛ぶ。イングラムはその姿を見て小さく笑う、その笑みは計算通りという感じの笑みだ

 

「これから共にDCと戦うんだ。少しは会話などをすると良い」

 

イングラムが出て行った事で席に座っていたハガネのクルーも席を立ち、武蔵に近寄る。

 

「俺はイルムガルド、イルムガルド・カザハラだ。イルムで良いぜ」

 

「あ、イルムさんですね。よろしくお願いします」

 

イングラムに次ぐ地位であるイルムがフレンドリーに話しかけた事で次々と自己紹介をしていく、武蔵は頑張って名前を覚えようとしていたが、目を白黒させて両手を突き出す

 

「いやいや、待って、待って、えっとだれが誰? えっとぉ?」

 

一気に何十人に挨拶され、目を白黒させている武蔵……その姿にブリーフィングルームに笑い声が満ちる。

 

「別に無理して一気に覚える必要は無いから、これからよろしくね」

 

赤毛にそばかすの活発そうな女性が武蔵の肩に手を置いて笑う、武蔵はうーんうーんっと暫く唸ってから

 

「はい、えっと……アヤさん?」

 

「あはは、違うわよ、私はガーネットよ。アヤはこっち」

 

ガーネットはそう笑い、肩をむき出しにしたセクシーな女性の手を引いて武蔵の前に立たせる。

 

「私がアヤよ」

 

「え、あ……すんません。オイラあんまり記憶力とか良くなくて」

 

すいませんと言いながら謝る武蔵の首に腕を回す、黒人男性。武蔵は少し驚いた表情をするが、元は体育系の武蔵だ。こういうスキンシップには慣れており、むしろその黒人男性の行動に慌てていた気分が落ち着いた様子だ。

 

「俺はジャーダ、ジャーダ・べネルディだ。ジャーダでいいぜ、で、武蔵お前は音楽とか聞くのか?」

 

「へ? お、音楽ですか? いやあ……そういうのは全然」

 

「なにぃ、それは良くないな。よっし、後で音楽CD貸してやるから聞いてみな」

 

フレンドリーなジャーダの対応で武蔵の顔に浮かんでいた緊張の色は消える。こういう時に明るいジャーダの対応は、緊張している相手には非常に効果的だったのだ。

 

「あ、ラトゥーニ、挨拶くらいしてあげて」

 

「……ラトゥーニ・スゥボータ」

 

その明るい雰囲気を崩すように、暗い声で告げて眼鏡を掛けた少女がブリーフィングルームを出て行く。

 

「あ、おい。ライ!」

 

「大尉が紹介してくれればいいです。では失礼します」

 

ラトゥーニに続いて、ライディースまでブリーフィングルームを出て行く、その姿に武蔵は困惑した表情を浮かべる。

 

「オイラ、嫌われてます?」

 

「いやいや、ライはちょっと堅物だからよ。大丈夫、俺も最初あんな感じだったから、それよりゲッターロボだっけ? そいつの話を……」

 

「駄目よ、リュウ。ビルドラプターの調整が残ってるでしょ? まずはそっちからよ」

 

「ええーそんなぁーッ! む、武蔵! 後で! 後で話を聞かせてくれよ! じゃあなッ!!」

 

アヤに制服の襟を掴まれ、ブリーフィングルームを出て行くリュウセイ。その姿に武蔵は噴出してしまうのと同時に、アヤの姿にリョウや隼人、そして自分が喧嘩しているときに仲裁に入ったミチルの事を思い出し、楽しそうに笑うのだった……

 

 

 

 

 

 

武蔵がハガネのクルーへと自己紹介しようとしている頃。ウェーク島のDCの基地ではキラーホエールによって損傷したハガネへと追撃に向かう為急ピッチで出撃準備がされていた。

 

「テンペスト少佐」

 

ダークブルーのガーリオン・カスタムへと向かうテンペストをエルザムが呼び止める。

 

「エルザムか、どうした?」

 

パイロットスーツに身を包み出撃間近の兵士に通常声を掛ける馬鹿はいない。これから戦場に出ると言う事で集中力を高めているパイロットの集中を削ぐような真似は普通はしない、勿論エースパイロットと呼ばれるエルザムがそれを知らないわけが無い。だがそれでも声を掛けてきたと言う事でテンペストはその足を止める。

 

「私は伊豆基地で武蔵君……そしてゲッターロボと戦った。その時のことを伝えておこうと思ってね」

 

「……武蔵か、彼の事は残念だ」

 

連邦への復讐の念だけでDCに参加したテンペストからしても、武蔵、そしてゲッターロボの事は惜しいと残念だと思っていた。

 

(彼は礼儀正しかったしな)

 

テンペストは心の中でそう呟いた。テンザンとは異なり、礼儀正しく、そして年上を敬うという姿勢も見せていた。同年代なのにこうも違うかと思い、そして少し抜けているところはあるが真面目な性格はテンペストから見ても好意的に見る事が出来た。だからこそ、武蔵がアイドネウス島を脱走したと聞いた時は少なからず動揺してしまっていた。

 

「彼は連邦という訳ではありません。例えハガネに乗っていたとしてもです」

 

「……確かに彼は裏切り者と言うわけでは無い」

 

元々はビアン総帥の知人の孫と言う設定を信じているテンペストはエルザムの言葉に頷く。裏切り者、スパイと言う者は確かにいる、だが彼は民間人であり、軍人でもDCの兵士でも無い。だから裏切り者と言う言葉は武蔵には当て嵌まらない、テンペストが頷いたことに安堵したエルザムだが、脇腹を押さえて呻く。

 

「大丈夫か?」

 

アイドネウス島に帰還する筈のエルザムがウェーク島にいるのは、ゲッター3のパワーと正面からぶつかった事が原因である。ゲッター1への変形で負傷していた肋骨を更に痛めた事もあり、長距離航行には耐え切れないと判断したキラーホエールの船医の判断で1度ウェーク島の基地で痛み止めとコルセットによる肋骨の固定をする為だ。エルザムは冷や汗を流し、青い顔でゲッターの事をテンペストへと伝える。

 

「え、ええ……大丈夫です。伊豆基地の事ですが、まるで戦車のような姿をした状態をゲッター3と武蔵君は呼んでいました。私達が見たのはゲッター1、恐らくゲッター2と言われる形態があるはず」

 

アイドネウス島でテンペスト達が見た鬼のような姿のゲッター1、そしてエルザムが見た戦車のようなゲッター3。その命名の法則からゲッター2と呼ばれる形態があるのは明白だ。つまりゲッターロボとは3機のゲットマシンの組み合わせによって、能力を変える万能型の特機である。それがエルザムの出したゲッターの分析結果だった。

 

「ゲッター3の特徴は?」

 

ゲッター1はテンペストも見ていたので、その特徴は理解している。リオンやガーリオンよりも遥かに高い機動力、高い攻撃力と防御を兼ね備え、近~中距離に特化しつつも、戦艦の主砲並のビームを搭載している。テンペストの分析をもってしても、危険と言える能力を兼ね備えている。だがそれとは違う形態があるのならば、その情報を得ようと思うのは当然の事だ。

 

「重装甲と凄まじいパワーです。飛行能力は持ち合わせていないようで、飛び道具はミサイルだけ、戦闘は格闘戦のみなのですが、ソニックブレイカーで漸く相打ちになるほどの防御力と重量を持っています。近接は不利ですが、距離を取れば伸縮自在の腕で捕まえてきます、そのパワーはリオンを簡単に握り潰すほどです。恐らくガーリオンでも危険かと」

 

DCの最新鋭の機体でも危険である。その言葉にテンペストの顔が険しくなる、だが緊急発進していくリオンを見てこれ以上話し込んでいる時間は無いと判断して話を切り上げる。

 

「なるほど、話を聞いて、ますます武蔵が敵になったのが惜しいよ。だが情報感謝する、可能ならば説得しアイドネウス島に連れ帰ろう」

 

テンペストはエルザムにそう笑いかけ、ヘルメット被りガーリオンのコックピットへと潜り込み、リオンとシューベルトの部隊を引き連れウェーク島の基地から飛び立って行くのだった……

 

 

 

 

ハガネのクルーとの自己紹介をすませた武蔵はハガネの格納庫へと足を向けていた。その理由はゲッターの事が心配と言う事もあったが、もう1つ、回りの視線に耐えられないという理由があった。

 

「いやあ。オイラああいう目で見られるのはどうも苦手だなあ」

 

イングラムがとある科学者の孫で、試作機だったゲッターを持ち出してDCと戦おうとしている民間人と紹介した。だがそんな苦しい言い訳が通用するわけも無く疑いの目で見られていた武蔵はブリーフィングの後に逃げるようにブリーフィングルームを後にしたのだ。頭が良くないと言う自分でも苦しいと思うくらい厳しい内容だったのだから、賢い人にはイングラムの嘘も自分の嘘もバレているんだろうと思い。ベアー号のコックピットに逃げ込もうとしていた。

 

「男の癖に受身なんて! 自分から行きなさいよッ!!!」

 

「うおっ!?」

 

格納庫に入るなり聞こえてきた怒声に思わず身を竦める武蔵。声の聞こえたほうを見ると美しい黒髪を3つ編みにした少女に茶髪の少年が怒られていた。武蔵はうーんと唸りながら、2人の名前を思い出す。ブリーフィングルームで顔を見ているが、名前と顔が一致せず。暫く唸って思い出せた。

 

「まぁまぁ、リオもそんなに頭ごなしに怒ったら駄目だぜ。話くらいは聞いてやろう」

 

喧嘩を見過ごすと言う事は武蔵には出来なかった。竜馬と隼人が喧嘩した時の仲裁に入るのは武蔵の役目だった事もある。それに何よりも武蔵は基本的に揉め事が好きでは無い、降りかかる火の粉は払うが、決して暴力を振るうタイプでは無い。

 

「え、あ、武蔵君だっけ」

 

「おうともさ、それで何があったんだ? 格納庫中に声が響いているぜ」

 

周りを見ろよと身振りで示すと整備兵がリオとリュウセイを見つめていて、リオがその視線に気付き顔を赤く染める。

 

「ぜ、全然気付かなかった」

 

「ははは、そう言う事もあるさ。で?どうしたんだ?」

 

改めて何があったのか?と武蔵が問いかけるとリオが事情を武蔵に説明する。

 

「なるほど、リュウセイよ。そりゃあおめえが悪いぜ。幼馴染が心配って言うのは判るさ、でもな人の気持ちを真っ向から否定しちゃあいけねえ。まずは話し合ってみな……っと言ってもオイラみたいな新参者に言われてもうるせえだけかも知れねえけどなあ」

 

朗らかに笑う武蔵。確かに武蔵は新参者だが、その言葉にはリュウセイの事を思いやる気持ちがあり、リュウセイも素直に頷きかけたが背後から誰かがぶつかってきて姿勢を大きく崩す。

 

「あっと……ご、ごめんよ。大丈夫かい?」

 

リュウセイにぶつかってきたのは白いゴスロリ服を纏った少女で、リュウセイが謝るが少女は顔色を変えて走り去ってしまう。

 

「んーなぁ、リュウセイにリオ。あんな子いたかあ?オイラブリーフィングルームで紹介された時、あんな子見なかったんだけどなあ」

 

武蔵が能天気な様子で2人に問いかけた時。ハガネに警報が鳴り響き、凄まじい衝撃が襲ってくる。

 

「きゃあっ!」

 

「うおっ!」

 

「おっとお! 大丈夫か?」

 

倒れかけた2人を受け止めた武蔵は2人をしっかりと立ち上がらせる。

 

「どうも敵襲みたいだな。リオは確かオペレーターだったよな! オイラも出るって伝えてくれッ!」

 

武蔵はそう叫んでゲットマシンへと走り出す。リュウセイも弾かれたように動き出しロバートの元へと走り出す。

 

「3機だけだと……!? どういう事だッ!?」

 

スクランブルの警報の後出撃したのは3機のPTのみ。ブリッジでそれをみたテツヤが格納庫に通信を繋いで何故3機しか出撃しないのかと問い詰める。

 

「すまない、大尉! 他の機体は発進までもう少し時間が掛かる! 後6分……いや! 4分で何とかしてみせる!!」

 

ロバートからの報告にダイテツが顔を歪めながらも指示を飛ばそうとした時、格納庫から走ってきたリオが息を切らしながらブリッジに飛び込んでくる。

 

「む、武蔵君がゲッターで出ると伝えてくれと……はぁ……はぁ……」

 

ゲッターの出撃。その言葉にブリッジに緊張が走る……伊豆基地でのゲッターの力も見ている。だがそれと同時にアイドネウス島から脱出してきたと言う事もあり、どうしてもスパイ疑惑が付き纏っているからだ。

 

「……武蔵。聞こえるか」

 

『その声はダイテツさんか! 早く整備員になんとか言ってくれ! 出撃は認められないって言うんだ!』

 

『降りろ! 勝手な出撃など許されないッ!』

 

通信機から聞こえてくる声には武蔵だけではなく、武蔵をベアー号から引き摺り下ろそうとしている整備兵の怒声も響いている。ダイテツは目を閉じ少し考える素振りを見せてから通信機に手を伸ばす。

 

「艦長命令だ。武蔵君の出撃を許可する、早急に出撃準備を整えさせるんだ。武蔵君、他の機体は出撃まで時間が掛かる、3機のPTと協力してハガネの防衛を任せても良いか?」

力してハガネの防衛を任せても良いか?」

 

『おうさ! オイラに任せてくれよ!!! しゃあッ!!行くぜええええええッ!!!』

 

ハガネの格納庫が開き3色のゲットマシンが飛び出していく。

 

「艦長宜しいのですか?」

 

「ハガネは落ちるわけにはいかんのだ、大尉。力を貸してくれると言うのならば、それを拒んでいる余裕など無い。それよりも早く他の機体の発進準備を急げッ!」

 

テツヤの疑いの視線と言葉を一喝し、ダイテツはモニターに視線を向ける。その視線の先では空中でゲッター3に合体したゲットマシンが地響きを立てて着地する姿があるのだった……

 

 

 

 

ハガネから出撃した3機のPT。だがその中でゲシュペンストは1機であり、残りの2機は伊豆基地で搬入された新しい機体だった。初の可変式PT「ビルドラプター」に乗るのはリュウセイであり、もう1機の機体はバニシング・トルーパーと言う忌み名を持つヒュッケバインの後継機である「ヒュッケバイン009」の2機の間に地響きを立ててゲッター3が着地する。

 

「……伊豆基地でも見たが、どうなってんだあれ……どう見ても機械の変形じゃねえぞ」

 

ヒュッケバイン009を駆るイルムが信じられんと呟く。だがそれは決して間違いではなく、ゲッター合金と言う特殊な金属で形成されているゲットマシンは鉄でありながら、驚異的な柔軟性を持つ。その柔軟性があるからこそのゲットマシンはゲッターロボへの合体を可能としていた。

 

「でも今は味方ってことで信用するかね。それじゃあ、頑張ろうぜ、ラトゥー二ちゃん」

 

今までの思案顔から一転し、軽い感じでゲシュペンストへと通信を繋ぐイルム。この時彼の脳裏にあったのは野暮ったい眼鏡姿の少女の姿だったのだが、通信機に映し出されたのはゴスロリ姿の美少女の姿

 

「だ、誰!?」

 

女好きを公言するイルムは見たことも無い美少女の姿に動揺しそう叫ぶ。

 

「え?」

 

ゲシュペンストのパイロットが困惑する中。イルムは流れるような口調で問いかけた。

 

「……お嬢さん、前にどこかでお会いしましたっけ?」

 

「……い、いつも会ってる」

 

ゴスロリ服の少女はイルムのそのトーンに動揺しながらもそう返事を返す。

 

「うーむ……美人の顔は忘れないようにしているんだがな……名前は?」

 

「ラトゥー二・スゥボータ」

 

「な、何だってぇーッ!?」

 

イルムがそう絶叫する。敵が攻めて来る中、棒立ちするヒュッケバイン009にリオンの放ったミサイルが迫る。

 

「おい、今はそんなことをしてる場合じゃないんじゃないか?」

 

ゲッター3が腕を伸ばしミサイルを握り潰し、イルムを庇う。更に降下してきたリオン目掛けてミサイルを放ち、リオンの接近を防ぐ。

 

「す、すまん」

 

イルムも武蔵を疑っていた1人だが、こうして庇われてしまえば素直に礼を言うしかない。ゲッター3は腕を動かしキャタピラで森林を薙ぎ払いながら前に進む。

 

「リオンとか言う奴は引き受けた、戦闘機は頼むぜぇッ!!!」

 

砂煙を上げて走り出すゲッター3。その鈍重な外見からは想像できない俊敏な動き、それは完全にリオンのパイロットの虚を突いていた。まるで蛇のような動きで伸びた腕はリオンの足を掴み、凄まじい力で自身へと引き寄せる。リオンはブースターを噴かして逃れようとしているが、ゲッター3はそんな事はお構いなしでリオンを空中から地面へと引き摺り下ろす。

 

「死にたくなかったら脱出しなぁッ!!!」

 

腕を大きく振り上げるとそう叫びながらリオンを海面に叩きつける。伊豆基地での暴れっぷりを見ていたのか叩きつけられる前にリオンのパイロットは脱出装置を起動させ、飛び出していく。武蔵はベアー号のコックピットで満足そうに頷き、両腕を自在に伸ばす、その姿はまるで準備運動をしているかのような姿だった。

 

「リュウセイ! ビルトラプターを変形させてシュヴェールトを頼む! ラトゥー二ちゃんは俺と一緒に武蔵の支援だ!」

 

イルムは武蔵の思惑を理解して即座にそう指示を飛ばす。DCにとっても武蔵とゲッターロボの存在は脅威であり、何時機体を掴まれ引き摺り下ろされるかと警戒し、攻め込みたいが思うように攻め込む事が出来ない。それはリオンの最大の武器である、機動力と飛行能力を最大限に生かす事が出来ないと言う事だ。そしてゲッター3はその巨体と伸縮自在の腕を駆使し、リオンの動きを阻害する。その動きを見れば馬鹿でも判る、武蔵は先陣を切る振りをして支援をしている事に、ならばその隙を突かない理由は無い。

 

「そうそう好きにはさせないぜッ!!!」

 

ゲッター3の腕を避けたばかりのリオンにヒュッケバイン009の構えたライフルの弾が放たれる。放たれた銃弾はリオンの胴体を貫き爆発させる。

 

「ターゲットロック……そこッ!」

 

「舐めるなッ!!!」

 

ラトゥー二の駆るゲシュペンストが放ったメガビームライフルはリオンを捉える事は無かった。だがそれは彼女にとっては計算の範囲の事だった。

 

「おらあッ!!!」

 

「う、うわあああああッ!?」

 

避けた先に伸びてきたゲッターアームがリオンの脚部を掴んで、地面に引き摺り下ろし突き出された右拳がリオンの頭部を殴り飛ばす。ゲッターロボ、武蔵にも確かに疑惑はある。だがこうして肩を並べて戦うことを考えればこの上ない味方となる。

 

「ゲッターミサイルッ!!!」

 

武蔵は冷静に戦況を見極め、1人でシュヴェールトと戦っているリュウセイの支援も忘れない

 

「そこだ!」

 

ゲッター3の巨大なミサイルを回避すれば、ビルドラプターの射撃が襲う。特機であるゲッター3を主軸にした戦闘は数の不利を覆し始めていた……

 

「すげえ、これがゲッターロボか」

 

伊豆基地では出撃する事が出来ず、見ていただけのリュウセイは戦闘中ではあるが、興奮を隠し切れなかった。アニメや漫画の中から飛び出て来たかのようなゲッターロボ。無骨で、決してスマートな戦い方では無い。だがその無骨な戦いには見るものを引き寄せるパワーがあった……リュウセイは純粋に凄まじいスーパーロボットと戦えることを喜び……

 

「……あのロボットは異常」

 

ラトゥー二はリオンの放ったレールガンをゲシュペンストを後退させることでかわし、その直後に伸びてきた腕がゲシュペンストの頭部モニターの横を通っていく姿に冷や汗を流しながらゲッター3を観察していた。

 

(あの腕の動きは明らかにおかしい)

 

ブースターを全開にして逃れようとしているリオンをお構い無しに引き摺り下ろすパワーも異常だ。だがそれは特機だからと言う理由でギリギリ納得することが出来る、だがあの伸縮自在の腕……ブースターが付いているわけでも無いのに、恐ろしいスピードで伸びる。だがそれだけではなく蛇のような柔軟性もある

 

(あれは本当に試作型の兵器なの?)

 

ブリーフィングで告げられた試作兵器とそれを持ち出した民間人と説明を受けた。だが試作機、そして民間人と言うには武蔵の能力は高すぎた……元々怪しいと思っていたが、今回の戦闘で共に戦いその疑惑はますます強くなってしまう。だがそれと同時に辛い過去を持つラトゥー二はもしかして自分の同類なのではと言う考えが脳裏に浮かぶのだった。

 

「まじであれ何処で作られた特機だ」

 

見た目は出来の悪いブリキ人形と言っても良いのに、変形し、合体する。そしてそれでいて凄まじい攻撃力と防御力を有している。こんな特機を民間人が作れるか?100歩譲って作れるとしよう、だがそうなると更なる問題が浮上する。それはあれだけの特機を作る予算は何処で用意されたのかと言う疑問。そしてこれだけの特機を作れる科学者が無名と言うのがイルムには信じられなかった。あまり好きな親では無いが、自らの父にしてテスラ研の所長である「ジョナサン・カザハラ」も夢見て挫折した、可変式の特機……それが目の前で暴れている姿は信じられないと言う気持ちに繋がり、更に武蔵が何者かと言う疑惑へと繋がる。

 

(イングラム少佐も相変わらず何を考えているのかわからねえし)

 

少し探れば粗が出る。それを堂々と説明したイングラム、そこに何か目的があるのか?自分達に探らせる事が目的なのか?

 

「チッ、少しは真面目にやるか」

 

スパイの疑惑も捨てきれない、だがDCとも思えない。祖父の遺産を持ち出し、DCと戦おうとした民間人……それらを到底受け入れることの出来ないイルムは舌打ちと共にゲッターに視線を向ける。戦いの中で武蔵の真意を探ろうとしていた。

 

そして三者三様の思惑が入り混じる中。ハガネのブリッジから警報が鳴り響くのだった……

 

 

 

第9話 復讐鬼 その2へ続く

 

 




今回は導入回なのでやや短めの話となりました。それと話を切るのに丁度良いタイミングでしたしね、次回はテンペストとの戦闘を頑張って書いてみようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 復讐鬼 その2

第9話 復讐鬼 その2

 

戦況は徐々にだが、ハガネの優勢へと傾いていた。だがそれはゲッター3の存在が大きい、圧倒的な攻撃力、そして防御力を兼ね備え、加えて遠距離にも対応する。1機で戦況を引っくり返す、特機の開発コンセプトとしての役割を完全に果たしているゲッター3。だがコックピットの武蔵にはまるで余裕が無かった……

 

(なんだ、何が起こってやがる!)

 

アイドネウス島、伊豆基地では炉心のパワーが上がらず苦戦した。だが今回は炉心のパワーが上昇しすぎて武蔵は焦っていた。元々は宇宙開発用であるゲッターロボは荒廃した土地を改良する為に凄まじいパワーを有して開発された。だが途中で恐竜帝国の出現に伴い、宇宙開発から戦闘用に急遽改造されたと言う経歴を持つ。端的に言って、ゲッターロボはリオン等と戦うには強力すぎたのだ。

 

(ちいっ! てかげんしないと握り潰しちまうッ!)

 

リオンの装甲などゲッターからすれば紙くずにも等しい。だがそれは当然とも言える、ゲッターよりも巨大で強力な力を持つメカザウルスを相手に戦う為に改造されたのだ。そのパワーは凄まじい、だがその力の代償に早乙女博士は操縦者の安全を全て度外視する必要があった。ゲッターの操縦者探しで早乙女博士が苦戦していたのも、急遽戦闘用に改造した弊害とも言える。単独操縦で弱体化している、だが理由は判らないが炉心のパワーが急上昇している今。細心の注意を払わなければリオンをコックピットごと粉砕しかねない……武蔵は冷や汗を流しながら、慎重にゲッターを操っていた。ペダルの踏み込み、レバーの操作、機体を反転させる、そんな動きでさえ相手を殺めかねない可能性があったからだ。だが今回はそれが功を奏していたのは武蔵は知る良しも無い、ゆっくりと動くゲッターは威圧的でDCの兵士に途方も無いプレッシャーを与えていた。ゲッターに意識を向ければ、ヒュッケバインとゲシュペンストが襲ってくる、数の優位性は既に無く。DCは確実に追い詰められていた

 

「敵増援来ますッ!!!」

 

ハガネからの通信とほぼ同時に雲を引き裂き、ダークブルーのガーリオンが9体のリオンを引き連れて戦場へと現れた

 

「あのAMは伊豆基地にも現れた新型か……ッ!?」

 

ハガネのブリッジでその姿を確認したテツヤが忌々しそうに呟く、その姿は出撃準備をしている格納庫のモニターにも映し出されていた。シュッツバルトに乗り込もうとしていたライはその姿を見て一瞬エルザムかと思ったが、そのカラーリングはダークブルー。エルザムの乗る機体は黒一色に染め上げられている事が特徴である

 

(機体色が違う……だが並のパイロットでは無い)

 

エルザムでは無いが、エルザムに匹敵するエースパイロットだと判断し、ヘルメットを素早く被ると、コックピットに潜り込み機体を起動させる。ゲッターロボがいかに強大だとしても、数の暴力に押されればその動きは必然的に制限される。その中で各個撃破される可能性が高い、それはライだけではなくイングラムも感じ取っていた。

 

「オオミヤ博士、出撃準備が出来た物から随時出撃だ。急げッ!」

 

「判ってます! 後少し……後少しなんです」

 

必死の形相でキーボードを叩くロバート。原因不明のカタパルトの不調、リュウセイ達が外で戦っているのと同様。ハガネのクルーもまた必死の戦いを続けていた。

 

(……あれか)

 

一方テンペストは連邦軍に激しい憎悪を抱いていた。だが出撃前にエルムザムと話をし、そしてゲッターの脅威を知るからこそ激情せず冷静に戦況を見る事が出来ていた

 

「重装甲の戦車に上半身を取り付けたような姿……あれがゲッター3か」

 

自分の知るゲッター1とは大分違うなと観察する。その重厚なフォルムは見た目通り絶大なパワーを秘めている事だろう……エルザムが真っ向から戦うのは危険と言った訳をテンペストはパイロットの勘で感じ取っていた

 

「あのPTは……まさかッ!?ヒュッケバインの同型機かッ!?」

 

バニシングトルーパーの忌み名を持つヒュッケバインシリーズ。その特徴的なフェイスと2本の角は熟年のパイロットならば誰もが知っている。初のEOTIを組み込んだその機体が齎した莫大な被害はテンペストの記憶にも刻まれていた。

 

「チッ、こっちを見てやがるな。当然って言えば当然か」

 

ヒュッケバインの暴走事故はPTに関わる者ならば誰もが知っている。そして乗っている機体から相手がエースパイロットと言うのは明白

 

「敵さんも厄介な敵を次から次にへと送り込んでくれるなッ!!」

 

マウントしていたビームライフルを即座に構えガーリオン目掛けて放つ。だがガーリオンは空中で旋回し、ビームライフルを交すと反撃にとレールガンを構える

 

「連邦軍に組する者には死をッ!!」

 

テンペストがラトゥー二を狙ったのは偶然ではなく必然だった。自身が連邦軍……教導隊の時の愛機、それは自身が連邦であった時の事を連想させ、一気にテンペストから冷静さを奪い取った。加速からの射撃は一直線にラトゥー二のゲシュペンストへと向かったが、ゲシュペンストは鮮やかな動きでそれをかわす。ラトゥー二のセンスもあったが、かわす事が出来たのは理由があった

 

「その機体の動き、データで見た記憶があるわ」

 

「! あの機体……子供が乗っているのかッ!?」

 

ゲシュペンストから発せられた声に追撃にと反転したテンペストの動きが僅かに止る

 

「……貴方はエルザム少佐と同じ、元教導隊のメンバー……」

 

「あいつも教導隊だってッ!?」

 

ラトゥー二の言葉にイルムは自身の予想が当たっていたと言う事に気付く、教導隊のメンバーは初期のゲシュペンストからPTに乗り続けた生粋のエースパイロット達。そしてゲシュペンストのコンバットパターンの多くを作成している……その機体操作の癖などは今なお連邦軍のデータベースに残されている

 

(……あの声……アンナが生きていれば……)

 

追撃にと動き出そうとしたテンペストだが、ラトゥーニの声に動きが止ったままだった。自身が失った娘と同年代の少女……その声に如何しても亡き娘を思い出してしまったから。まだ完全に復讐鬼と成り果てていないテンペストの中に迷いが生まれた

 

「今だッ!!」

 

距離は確かに離れていた、だがそれはゲッター3のリーチの前には意味を為さず。ゲッターアームがガーリオンを捕らえんと伸ばされる。

 

「っちいッ!!!」

 

ガーリオンの内部のアラートに反射的にテンペストはガーリオンを上昇させ、ゲーターアームをかわす、だが即座に再び伸びて来る左のゲッターアームを蹴りつけ、宙返りのような動きで後退し、あえて1度エンジンを停止させ、自然落下で左右から迫ってくるゲッターアームを素通りさせ再びエンジンを点火させて上空へと逃れる。それは長年PTに関わってきたパイロットだけが持つ超人的な反射速度と、危機回避能力によって齎された曲芸のような動きの回避だった

 

「武蔵。このような形での再会は俺としても残念だ」

 

「テンペストさんかッ!?」

 

オープンチャンネルで投げかけられた言葉に武蔵の動揺した声が響く、エルザムに続いてアイドネウス島での知り合いの襲撃は少なくない衝撃を武蔵に与える

 

「悪いことは言わない。連邦軍からは離れろ、君の力を振るうのに相応しい場所は連邦では無い、DCだッ!」

 

リオン達にイルム達の足止めをさせている間にテンペストはエルザムとの約束通り、武蔵の説得を始める

 

「なんで、そんな事が言えるんだッ! 大体戦争を仕掛けたのはDCで」

 

「ああそうだ! それに関してはDCに非があろうッ! だがな俺は連邦が憎いッ! 俺の妻と娘を殺した連邦が憎いッ!!!」

 

その血を吐くような叫びに武蔵の動きが止る。テンペストの姿に恐竜帝国に家族を殺された遺族の姿が重なって見えたから……

 

「だから俺は連邦軍の人間を1人でも多く血祭りに上げる為に……DCへ入った! 俺は16年目の復讐を果たす為に鬼となったッ!! 連邦軍……いや、政府にとって民間人などなんとも思っていないッ! 武蔵! お前も……ッ!!」

 

テンペストの連邦への批判が最高潮になろうとした時。ハガネから出撃したシュッツシバルトのツインビームカノンとビルトシュバインのショットガンが自身に迫っている事に気付き、距離を取る

 

「これ以上お前の話を聞いているつもりも、喋らせるつもりも無い」

 

「そういう事だ。各機出撃せよ」

 

ハガネから出撃するPTを見てテンペストもまたリオン各機に指示を飛ばす、完全な臨戦態勢に入っていくハガネとテンペスト達の姿……だが武蔵の中には1つ迷いが生まれるのだった。

 

 

 

 

テンペストの叫びはハガネのクルーにも少なからず影響を与えていた。特に民間出身であるリュウセイは目に見えてビルドラプターの操縦から精彩が消えていた。イングラムやイルムがいなければ、間違いなく撃墜されていただろう。だが軍人として、例え迷いがあっても出された命令に従うという意志を持つライは冷静に手持ちのM950マシンガンとツインビームカノンを併用し、リオンの追撃を防ぐ

 

「リュウセイ! 何をしている! 迷っていれば殺されるのはお前だぞッ!!」

 

「うっ……判ってる! 判ってはいるんだッ!」

 

ライの叱責の言葉に判っていると返事を返すリュウセイ。だが妻子を連邦に殺されたと叫んだテンペストの言葉に迷いが生まれる、自らも母の入院代を軍が見ると言う契約の元で軍属になる事となった。それは人質と同意儀だ、故にテンペストの言葉が真実であると言う事であった。

 

「チッ、厄介なことをしてくれるッ! ライ! リュウセイの支援を頼むッ! 俺は前に出る!」

 

イルムは舌打ちと共にヒュッケバイン009に搭載されているビームソード……ロシュセイバーを手にリオンへと突進する。通常ならば飛行する相手に近接武器で挑むのは無謀だ。搭載しているブーステッドライフルによる狙撃を挑むのがセオリーだ、だがリュウセイ同様民間人であるはずの武蔵はテンペストの言葉に迷いこそ抱いたが、イルムやアヤの支援を行っていた。リオンを動きを制限し、味方を戦いやすくする事を徹底していた。決して冷静なわけでは無い、しかしこの場を切り抜ける事が出来なければ話を聞くことも出来ない。テンペストの話が真実なのか、それを問い質す為に戦っていた。

 

「武蔵、リュウセイ。この戦いが終れば話す時間を取ろう、今はこの場を切り抜けることだけ考えろ」

 

イングラムからの通信に武蔵は逃げるなよと叫び、リオンへと手を伸ばす。

 

「そうはいかん」

 

「っとおッ! やっぱりか」

 

だがリオンへと伸ばされたゲッターアームにレールガンの弾頭が突き刺さり、その軌道を大きく逸らす。ゲッター3の前に立ち塞がるのがダークブルーのガーリオン

 

「空を飛べぬPTはリオンにとって敵では無い、だが武蔵。お前とゲッターの存在は脅威となるッ! 共にこないと言うのならばここで沈んで貰うッ!!」

 

アサルトブレードを抜き放つガーリオン。その姿は裂帛の気迫に満ちており、武蔵であっても思わず飲み込まれそうになる気迫を放っていた

 

「……テンペストさん。オイラ馬鹿だからさ、どっちが正しいとか、間違ってるとか偉そうなことは言えんけど……戦争なんて道を選んだDC……いや、ビアンさんとエルザムさんは止めないといけないと思うんだ。そしてその上で俺は改めて2人と話をしたい」

 

拳を握るゲッター3にテンペストは残念だともう1度呟き、エルザムとは異なりゲッター3に近接戦闘を挑む。最初にハガネを襲撃したリオンは決して捨て駒ではなかった。テンペストがゲッター3の動きを見極める為の偵察部隊だった……そして上空でゲッター3の動きを観察していたテンペストの出した結論は近接戦闘だった

 

(ゲッター3の装甲は重厚だ、さらにパワーもある)

 

テンペストが部下に出した指示はハガネのPTの足止めだった。連邦軍に対する憎悪は確かにある、だがそれと同時に冷静に今のこの戦力では勝てないと言う事も把握していた。本来ならば勝機はDCにあった……だが、それを覆したのはゲッター3の存在……説得に失敗したのならこれから何度でも戦う機会はある。まだ形態が隠されているのなら、少しでも情報を得るべきだとテンペストは考えていた。

 

「くっ! 速いッ!?」

 

ゲッター3の最大の特徴は重厚な装甲とパワー。だがその反面機動力に欠けるという欠点を持っている。懐に飛び込みアサルトブレードを振るうガーリオン。距離を取るのではなく近接戦闘……それは本来ならば武蔵のそしてゲッター3の力を最大に行かせる環境だ。だがテンペストは速く……そして巧かった。ガーリオンを完全にマニュアル操作に切り替え、細かいテスラドライブの出力調整、ブースターによる姿勢制御を駆使し戦っていた。それは自分と同等のサイズ、もしくは巨大な相手と戦いなれている武蔵にとって対応しきれない速度だった

 

「このおっ!!」

 

機体を抱きしめるように両腕を動かす。プロレスで言うベアハッグの姿勢だが、テンペストは脚部のブースターを駆使し、仰け反るようにしてそれをかわして距離を取るのと同時にマシンキャノンを頭部めがけて放つ

 

「くっッ!」

 

咄嗟に腕をクロスして機銃を防ぐゲッター3。アイドネウス島で武蔵が乗り込むところを見ていた、だからゲッター3の頭部……いや、ベアー号が弱点であることは判っていた。

 

「ふんっ!!!」

 

「がぁッ!?」

 

マシンキャノンの掃射から頭部を庇ったゲッター3の背後に回り、蹴りを叩き込むガーリオン。その衝撃で武蔵の苦悶の声が上がる

 

「ちっ! あいつ特機相手に戦いなれてやがるッ! ライ! ツインビームカノンで狙えないか!?」

 

「無理です中尉! こうもリオンの妨害が激しくてはッ!!」

 

リオン達は上空を飛び交いながら、スプリットミサイルで徹底的にイルム達の足を止める。しとめるつもりの無い、足止めが目的の攻撃だ。更にテンペストが常にゲッターを盾にするように飛行する為、ビームライフルやミサイルでの支援も出来ない

 

「アヤ、俺が行く。タイミングを合わせてT-LINKリッパーを放て」

 

イングラムがアヤにそう指示を出し、ビルトシュバインを突貫させようとしたその時。ゲッター3のカメラアイが一際強く光を放つと同時に、翡翠色の光を放つ。その異様な雰囲気に戦場に緊張感が広がる

 

「うおおおおおおッ!!!」

 

武蔵の雄叫びと共にゲッター3の両腕が天を突くように伸びていく……そして伸ばされた両腕は高速で回転し、周囲の空気を巻き込み擬似的な竜巻と化した。

 

「いかんッ!! 全機後退しろ! 巻き込まれるぞッ!!!」

 

シュヴェールトが暴風に巻き込まれ爆発する姿を見てハガネのPT隊もDCの部隊も後退する。

 

「ぐっ! 不味いッ! 全機撤退だ! 撤退できない者は脱出しろッ!」

 

テンペストは僅かに指示を出すのが遅れた。だが辛うじて暴風域に飲まれ始めているリオンのパイロットは脱出装置を起動出来た。友軍に回収されるパイロット達。だが暴風域に放置されたリオンは竜巻に巻き込まれ、機体同士がぶつかり火花を散らす。テンペストのガーリオンも僅かに反応が遅れ、右足を引きちぎられるが何とか暴風域から脱する事が出来た

 

「なんと恐ろしいパワー……これがゲッターロボッ!」

 

南鳥島に突如現れた竜巻……それが1体の特機が巻きこした現象だと言って誰が信じるだろう?だがそれが今テンペスト、そしてリュウセイ達の目の前で引き起こされていた

 

「す、すげえ……なんだよあれ」

 

「おいおいおい、まじで竜巻じゃねえか」

 

海を巻き上げ、南鳥島の木々を薙ぎ払う、それは竜巻の直撃と言っても過言では無い被害を齎していた。その破壊力は特機と言う言葉では片付けることの出来ない凄まじい破壊力を有していた

 

「必殺ッ! 大! 雪! 山ッ!!! おろぉぉぉーーーしッ!!!!」

 

その叫びと共に海面に向かって振り下ろされる両腕、その動きに沿うように暴風は海面に向かって炸裂する。海面を割り、凄まじい津波が巻き起こる、正に天変地異としか言いようの無い被害が南鳥島周辺を襲うのだった……

 

 

 

 

ハガネのブリッジから全てを見ていたダイテツ達は声も無かった。擬似的に竜巻を作り出す特機……大雪山おろしは南鳥島を完全に破壊していた。島の半分の樹木は吹き飛び、今もなお荒れ狂う海……そして手足を完全に引き裂かれ、砂浜に埋まるリオン。これらの膨大な被害が全て1機の特機によって齎された

 

「……大尉。今は武蔵君とゲッターロボが味方であることを感謝しよう」

 

ダイテツが搾り出すように告げる。あれはエネルギー兵器でも、実弾兵器でも無い。ただ腕を伸ばし、そしてそれを高速で回転させることで真空状態を作り出しただけである。あれの前ではエネルギー障壁など何の意味も無い、直撃を食らえばハガネと言えど轟沈してもおかしくない。

 

「そう……ですね。エイタ、全機に帰還命令を」

 

テツヤがエイタに帰還命令を出し、PT隊がハガネと着艦していく中。突如ハガネの警報が鳴り響く

 

「突如熱源反応が現れましたッ! は、速いッ!? 30秒後にこの海域に侵入して来ますッ!!」

 

リオの悲鳴にも似た叫びが響く、突如水平線の彼方から飛来した熱源は今正にハガネに着艦しようとしていたゲシュペンストMK-Ⅱに迫る

 

「え?」

 

突然のレッドアラート、そして自分目掛けて飛んで来た火炎弾にラトゥーニは完全に思考が停止した

 

「「ラトゥーニッ!!」」

 

ジャーダとガーネットの避けろという叫びが聞こえる。だがラトゥーニの腕は動かなかった、ミサイルでもビーム兵器でもない。燃え盛る火炎が迫ってくると言う異常な光景に身体が硬直してしまった。ラトゥーニに出来たのはゲシュペンストの腕をクロスさせて防御の姿勢を整えることだけだった

 

「ぐ、ごおおおおおおッ!!!」

 

「「「武蔵ッ!?」」」

 

ゲシュペンストに命中する。そう思った瞬間、周囲に響いたのは武蔵の苦悶の叫び声だった、ゲッター3が火球とゲシュペンストの間に割って入りラトゥーニを庇ったのだ

 

「ぐっ……ゲッタアアアッ……ミサイルッ!!!!」

 

爆炎に飲まれながらも武蔵はゲッター3の頭部ミサイルを火球が飛んできた方に放つ、遠くでミサイルが爆発し水柱を上げる。だが武蔵は周囲の警戒を緩める事はくスピーカーでハガネに向かって叫ぶ

 

「ダイテツさんッ!! この近くに巨大な影は無いかッ!! 海の中だッ!」

 

炎に焼かれながらも叫ぶ武蔵。その姿はDCと戦っている時とは違う、殺気とも言える気配を全身から放っていた

 

「……巨大な反応が急速に遠ざかって……早いッ!? 96ノットで急速離脱していきますッ!」

 

96ノットと言う異様な速度。それは最新鋭の戦艦でも不可能な速度だった……だが確かに何者かの襲撃はあったのだ。焼け焦げた装甲を持つゲッター3がゲシュペンストを守るように立ち塞がっていた。その周囲は砂が溶解し、マグマと化し、酷い部分など結晶化していた。直撃していたら間違いなくラトゥー二はゲシュペンストごと焼死していた……

 

「何か思い当たる事があるのならば着艦後に聞く。今はこの場を離れるぞ」

 

謎の敵が海中に潜んでいる。しかもその火力はゲシュペンストを容易く葬り去る、この場に留まっているのは危険だ。武蔵はイングラムの言葉に頷き、ゲッター3をハガネへと着艦させる。

 

「今のはまさか……」

 

だがコックピットの中の武蔵の表情は険しかった。何故ならば、今の攻撃は間違いなくメカザウルスの物……武蔵にはその確信があった

 

(どういう事だ……まさかあいつらも生きてこの時代に……)

 

今まで考えないようにしていた……だが今の攻撃で武蔵の中に1つの疑念が生まれた。ゲッターを自爆させていた自分が生きていた……そしてアイドネウス島では溶解していたがメカザウルスも確認された……

 

(お前らも生きてるのか……恐竜帝国ッ!)

 

自分が生きているのだから、生きている可能性は確かにあった。自分とゲッターと同じく、恐竜帝国……ゴール、ガリレイ、バットの3人もまたこの時代に存在しているかもしれないと言う可能性が生まれたのだった……

 

 

第10話 疑惑へ続く

 

 




テンペスト戦はあっさり風味でしたが、メカザウルスの生存フラグなどを用意してみました。ゲッターなのだから、メカザウルスだって出すべきですからね。次回はオリジナルで会話フェイズとなります、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 疑惑

 

第10話 疑惑

 

南鳥島でのDC、そしてメカザウルスと思わしき攻撃を受けその海域を離脱したハガネは、ウェーク島へと進路を取っていた。

 

「はい、武蔵君。これでおしまいです」

 

「いやあ、すまないなあ。ありがとう、クスハ」

 

メカザウルスと思わしき攻撃の直撃を受けたと言う事で医務室で治療を受けていた武蔵。自分の手当てをしてくれたクスハに頭をかきながらお礼を口にする

 

「駄目ですよ。怪我してるときはちゃんと医務室に来てくださいね」

 

「はいはい、すんません」

 

ゲッターの防御力を過信しているわけでは無い。だが遠距離攻撃の上に防御姿勢をとっていた事もあり平気と言って食堂に向かおうとした武蔵だが、そうはいかないと拘束され医務室に緊急搬送となったのだ。大怪我をしているがアドレナリンで身体の痛みに気付いていないと思われての行動だった、ここでもメカザウルスと戦っていた武蔵と新西暦の人間との認識の差が出たと言うべきだろう。武蔵にとってすれば死んでいないのだから大丈夫と思い、新西暦の人間はあれだけの業火を人間が耐えれる訳が無いと心配したのだ。最初は煩わしいと思った武蔵だが、美少女ともいえるクスハに心配されて手当てもされれば大人しくもなると言うものだ

 

「あんまり調子が悪かったら言ってくださいね。特製ドリンクを作りますから」

 

「へー、そりゃあ楽しみだ。じゃあ今度お願いしようかな」

 

武蔵はクスハの言葉を社交辞令と受け取り、そう返事を返した。だがそれがとある悲劇を後に巻き起こす事となる事を今の武蔵は知る由も無いのだった……

 

「おお? あーっと……ジャーダさんとガーネットさんでしたっけ?」

 

医務室を出た武蔵の前に黒人の男性と赤毛の女性が待っていた。武蔵は少し唸ってから名前を思い出す事が出来てそう尋ねる

 

「ああ、武蔵だったな。礼を言いたくて待っていた」

 

「ありがとう。ラトゥーニを助けてくれて、ほら。ラトゥーニ」

 

「……そ、その……ありがとう」

 

2人の影に隠れるようにして声を掛けてくるラトゥーニ。性別も年齢も違うが、武蔵には早乙女元気の姿が脳裏を過ぎった。忙しい早乙女博士とミチルさん。何時も寂しそうにしている元気を武蔵は気に掛けていたのだから

 

「おおう。怪我は無いようだな、良かった良かった。また危なかったらゲッターを盾にしても良いからな?」

 

武蔵にはこんな少女が戦っている。その事に新西暦は自分のいた時代よりも物騒なのかと思うのと同時に、守ってやらないと思わずにはいられなかった。

 

「そんなこと言うと、俺まで盾にしちまうぜ?」

 

「ははは、大丈夫、大丈夫。丈夫で長持ちの武蔵さんとゲッターは全然平気だ」

 

武蔵の言葉にジャーダは目を丸くしてから笑い出し、その肩に手を回す

 

「良いな、お前。良い男だ」

 

「いやいや、そんな事はないっすよ」

 

短いやり取りだが意気投合したジャーダと武蔵。その気質がよく似ているからか、馴染むまでは恐ろしいほどに速かった

 

「ガーネット、ラトゥーニ。武蔵と一緒に飯にしよう」

 

「そうね。ラトゥーニも良いわよね?」

 

「……う、うん。大丈夫……」

 

良し決まりとジャーダが言いかけたその時

 

「悪いが武蔵は連れて行く、聞く事があるからな」

 

イングラムがその話の中に割り込んでくる。流石に上官が関わってくればジャーダ達も引く事しか出来ず

 

「じゃあ次の飯にな。武蔵、本当にありがとな」

 

「じゃあね」

 

ジャーダとガーネットは武蔵にそう声を掛け、ラトゥーニはぺこりと頭を下げて去って行く。武蔵は3人を見送ってからイングラムの方に向き直る、だがその全身から放たれる怒気はイングラムでさえ、思わず気圧されるような凄まじい物だった……

 

「ついていくのは良いさ、でもテンペストさんの言っていた事が本当なのか、オイラにちゃんと話して貰うぞ」

 

「……逃げはしないと言った筈だ。ついて来い」

 

そして武蔵はイングラムに連れられて、ハガネの通路を歩き出すのだった……

 

 

 

 

ウェーク島に帰還したテンペストは南鳥島で見たゲッター3の脅威を思い返していた。擬似的とは言え竜巻を作り出すその能力、伸縮自在のその両腕に強固な防御力……サイズは20M強とガーリオンやゲシュペンストと大差ないが、40m級のゲッターの力が20mに圧縮されていると考えるとそれは凄まじい脅威となると認識していた。正直、あの竜巻の事を思い出すと今でもその手足は小刻みに震えていた。

 

(……ゲッター1が空戦、ゲッター3が陸戦となると……ゲッター2にはどんな能力が……)

 

アイドネウス島で見たゲッター1は明らかに空戦型。そして南鳥島で見たゲッター3は強固な防御力と攻撃力を持つ陸戦型……残されたゲッター2は恐らく射撃をメインとする中距離戦闘型とテンペストは予測を立てる。なんにせよ、補給を済ませて再度ハガネに攻撃を仕掛けるべきと判断し司令室に向かったテンペストに通信兵が声を掛けてくる。

 

「テンペスト少佐。総司令部のアードラー副総帥から通信が入っています」

 

「……メインモニターに回せ」

 

舌打ちしてからメインモニターに映像を回すように命令する。その顔は忌々しいと言わんばかりに歪んでいた

 

「テンペスト・ホーカー少佐、さしものお前もハガネには手を焼いておるようじゃな?」

 

「……申し訳ありません」

 

馬鹿にするようなアードラーの言葉にテンペストは苦虫を噛み潰したかの表情で謝罪の言葉と共に頭を下げる。だが、その拳は難く握り締められておりアードラーへの敵意を如実にあらわしていた

 

「まあ良い、至急お前はキラーホエール23番艦でアイドネウス島に帰還せよ」

 

アードラーはそんなテンペストを見て鼻を鳴らし、即座に命令を下す

 

「総司令部に帰還? このウェーク島基地で、ハガネ迎撃任務を続行するのではないのですか?」

 

アードラーの指示に解せぬと顔を歪めるテンペスト。だがアードラーはそんなテンペストの姿を見て、再び挑発するかのように笑う

 

「いや、お前には別の命令が与えられる。それにお前が南鳥島で見たと言うゲッター3の戦闘記録データ……それを全て持ち帰ってくるのじゃ」

 

アードラーの言葉にテンペストは舌打ちしながら、顔を上げる

 

「……武蔵には説得の余地があると思いますが?」

 

「ふん、機体さえあれば構わぬわ。良いか、我が軍は今中欧地区制圧の為に戦力を再編成中じゃ、お前にはそれに伴い総司令部で指揮を取ってもらう必要がある」

 

「……ハガネは着実に包囲網を突破し、ウェーク島に接近しております。たった1隻とは言え、その戦力を侮るのは危険です。特にゲッターロボを侮ればこの島は落とされます」

 

基地を離れることを拒絶するテンペストだが、その様子を見てアードラーは更に嘲笑みを深める

 

「心配は無用じゃ、以降の任務はテンザンに引き継がせる」

 

「あの男に? パイロットとしての腕はとにかく、指揮が取れるとは思えませんが?」

 

「お前の帰還命令は総帥が直々に出された物じゃ、早急に帰還せよ。良いな?」

 

アードラーは嘲笑うかのように帰還せよともう1度命令し、通信を終る。テンペストは屈辱に身を震わせながらもビアンの命令では逆らう事が出来ないので司令室を後にしようとするが……その前に司令室の扉が開きテンザンが姿を見せる

 

「さーて、今日から俺がここの指揮官だからな。ちゃんと命令を聞けよ、モブ共がッ!」

 

入ってきていきなりの言葉に司令室にいる全員が顔を歪める。テンペストもまたその1人でテンザンを睨みつける

 

「な、なんだよ! 少佐……まだいたのかよ。早く帰還しないと不味いんじゃねえの?」

 

焦ったように言葉を続けるテンザンにテンペストは無言でテンザンへと足を向ける

 

「総帥があんたを呼んでんだろ? さっさといかなきゃ不味いんじゃないの?」

 

「言われるまでも無い」

 

ふんっと鼻を鳴らし、テンザンに背を向けて司令室を後にする。テンザンは馬鹿にするようにその背中に言葉を投げかける

 

「ま、後の事は任せてくれや、ハガネは俺が手に入れてやるからよ」

 

自分が負けるわけが無いと言う慢心。そして自分が死ぬわけが無いと言う思い込み、戦争をゲームと思っているテンザンにテンペストは怒りを露にさせる

 

「戦争をゲームと思っているお前に出来るとは思えないがな」

 

「へ、いつまでも家族の敵討ちに拘っているあんたに言われたくないぜ」

 

テンペストの逆鱗に触れたテンザンはそれに気付かず、へらへらと笑いながら言葉を続ける

 

「戦争って言うのはなぁ……明るく、派手に殺してこそさ。そうじゃなきゃ面白くねえっての」

 

「ここで死にたくなければ、今直ぐその口を閉じろ」

 

テンペストの殺気を受けてもなおテンザンはへらへらと笑いながら、テンペストへの挑発を続ける

 

「おー。怖い、怖いねえ……復讐鬼って言うのは恐ろしいねえ……それが元教導隊って言うならなおさらだ」

 

テンザンには何を言っても無駄だと判断したテンペストは司令室を今度こそ後にした。

 

「テンペスト少佐」

 

「エルザムか、悪いが俺は先にアイドネウス島へと帰還する」

 

通路で待っていたエルザムの前を通りながら、その手の中にデータディスクを握らせる

 

「……ゲッター3の戦闘データのコピーだ。見たら処分してくれ」

 

「テンペスト少佐。戦場であった武蔵君はどうでしたか?」

 

通り過ぎようとしたテンペストにエルザムはそう声を掛ける。テンペストは格納庫に向けた足を止めて

 

「敵同士になった事が残念だよ……俺の説得は失敗したからな」

 

そう笑って格納庫に足を向けるテンペストをエルザムは無言で見送り、押し付けられたディスクを手にしてその場を後にするのだった……

 

 

 

 

イングラムと共に艦長室を訪れていた武蔵はテンペストが言っていた事が真実だったのか?それをまずイングラム、そしてダイテツに尋ねた

 

「……テンペスト・ホーカー少佐が妻子を失った事件に関しては事実だ。ホープ事件と言われるコロニーの独立運動時に起きた痛ましいテロ事件だ。連邦軍の兵器「ジガンスクード」をテロリストが奪取し、その当時の連邦軍はコロニーの隔壁ごとジガンスクードを破壊することを決定し、スペースコロニーホープの住民はその全てが犠牲者となった」

 

ダイテツの口から淡々と語られる言葉に武蔵は眉を吊り上げる。その目と表情を見れば武蔵の中に激しい怒りが渦巻いているのは明らかだった。

 

「どうしてそんな道をとったんだ。他の道だってあったんじゃないのか?」

 

ダイテツを咎めるような言葉にテツヤが止めに入るが、それはダイテツ自身によって制された

 

「あの当時の連邦軍と言うのはスペースコロニーの独立を認めておらず、またテロリストに制圧されたという事実もまた揉み消したい物であった、だが決してそれが地球と連邦軍の総意では無かったと言う事は信じて欲しい」

 

ダイテツの言葉に武蔵は縛り黙り込むと、すまねえと謝罪の言葉を口にする

 

「感情的になった事は謝るよ。すまない……でも、オイラはあんまり連邦は信用できねえ。DCを……ビアンさんを、エルザムさんを止めたいから協力する。でも、それが終ったらオイラはハガネを出る」

 

「……良いだろう。元々民間人だ、私達には君を縛る権利も権限も無い」

 

利害の一致による一時的な共闘。それをダイテツは認めた、認めざるを得なかった。テンペストの言葉、そしてホープ事件の真相を知り、不信感と疑惑が生まれた武蔵を無理に戦力として取り入れたとしても、それは反発を呼び、そして元々DCに知り合いが多い以上脱走へと繋がり兼ねない。

 

「だが信じて欲しい、全ての軍人がそうではないと言う事を」

 

「……判ってるよ。ハガネの人には世話になっているし、信じたいって気持ちもある。でも……やっぱり、それだけじゃ片付けられないんだ」

 

武蔵にとってこの時代は自分の生きた時代とは全く異なる未来、連邦もDCもどちらにも言い分があり、その言い分を聞くだけではなく、見て判断する。それしか武蔵にはどちらが正しいか判断する術を持たなかった……そうなると世話をしてくれたビアンとエルザムの言い分を信じたいという気持ちはあるが、戦争を起こしている。その一点が武蔵の中で如何しても許容できず、アイドネウス島を脱走することへと繋がっている。だがハガネのクルーもまた武蔵にとって優しい人間が多く、それらが武蔵の中で迷いを生んでいた

 

「それで武蔵。DC撤退後の突然の攻撃についてだが……思い当たる節があるのか? 正直に言おう。俺達にはあの攻撃を見て困惑することしか出来なかった」

 

ゲシュペンストを飲み込むサイズの火球。そんなありえない攻撃に誰もが反応出来ない中、武蔵だけが反応出来た。その理由をテツヤが問いかける、武蔵は暫く黙り込んだ後意を決した表情で喋りだす

 

「……メカザウルスだとオイラは思いました」

 

メカザウルス……それは武蔵の話の中で出てきた恐竜帝国の使う兵器の名前だ。艦長室にいやな沈黙が満ちる

 

「……そう思った理由はあるのか?」

 

「はい、考えないようにしていたんですけど……オイラはニューヨークで何百って言うメカザウルスと戦いました。オーバーヒートさせたゲッターで戦って……全部倒したって思っていたかった。でも、オイラが生きてて、ゲッターも無事。それなら恐竜帝国も同じように、オイラとゲッターと同じく……新西暦の今この地球のどこかにいるんじゃないかって……」

 

武蔵の話は憶測だ。自分が生きているから恐竜帝国が生きているかもしれない、今の段階での証拠と言えば、火球、そして凄まじい速度で海の中へと消えた巨大な影。その2つだけしか証拠らしい物は無い

 

「可能性はゼロでは無い……ですが、こうもあやふやな情報ではリュウセイ達に伝えることも出来ないでしょう」

 

「うむ、恐竜帝国、メカザウルスと言ってもな……」

 

こんな話をすれば気がふれたと思われる可能性がある。異星人の攻撃に晒されているとは言え、巨大な恐竜の化け物と言っても、はいそうですかと言って信用出来ないのが心情だ

 

「……本当にメカザウルスが現れれば、その時に説明を求める。そうして貰えるか?」

 

「はい、オイラも……気のせいであって欲しいってそう思っていますから」

 

重苦しい空気の中、艦長室での話し合いは終わりを告げるのだった……

 

 

 

 

 

艦長室での話を終えた武蔵はその足で食堂に足を向け、大量の料理を注文しそれを机の上に広げていた

 

「あぐあぐ……んぐんぐっ!!」

 

カツ丼をかき込み、ハンバーグを口に運ぶ。凄まじい勢いで消えていく料理の数々を遠巻きに見ている人間は何人もいたが、正体不明の特機を操る青年と言う事で声を掛けてくる人間は誰もいなかった

 

「ぷはあ……ふーふー!」

 

カツ丼を食べ終えて、今度はラーメンの丼に手を伸ばし、嬉しそうに笑いながら息を吹きかけてラーメンを冷ましていた武蔵の前にトレーが置かれる

 

「よっ! 武蔵、一緒に飯にしても良いか?」

 

トレーを置いたのはリュウセイとアヤの2人で武蔵はラーメンを啜り込みながら、OKサインを作る。それを見てリュウセイとアヤも席につき夕食を口に運ぶ

 

「……まだ食うのか?」

 

「んお? んぐう、と言うかリュウセイよ。それだけで足りるのか?」

 

リュウセイとアヤが食べ終わってもまだ食べている武蔵にリュウセイがそう問いかける。リュウセイからすれば、武蔵の食べる量が異常だが、武蔵からすればリュウセイの食べる量が少ないように思えていた

 

「いや、俺腹いっぱいだぞ?」

 

「小食だなあ、イーグル号のパイロットのリョウ……ああ、流竜馬って言うんだけどな。そいつもオイラと同じくらい飯食うぞ? あとなインテリで格好付けが好きな優男もいるけどよ、そいつもめちゃくちゃ飯を食うぜ」

 

マジかよと絶句するリュウセイだったが、次の瞬間には目を輝かせる

 

「あの大雪山おろしだっけ!? あれがゲッター3の必殺技なのか!?」

 

「おうともよ、ゲッター3の最強武器さ、まぁ……あの使い方は本当の使い方じゃないんだけどな」

 

本来の大雪山おろしは相手を捕まえて、その上でゲッターアームを伸ばし回転させる事で生み出した真空状態で相手を引き裂きながら投げ飛ばす。しかし当然ながらリオンやガーリオン相手に使えば完全にオーバーキルだ。だから武蔵は真空状態を作り出し、それを投げると言う試みに挑戦したのだ。そしてそれは大成功し、擬似的な竜巻を作り出した。

 

「あれで本当の使い方じゃないってとんでもないわね」

 

呆れたという感じのアヤだが、武蔵からすれば本来の威力には程遠い上に、子供騙しと言う感じだ。メカザウルス相手に使ってもダメージは期待出来ない、あくまでPTやAMと言うメカザウルスと比べれば小さい相手にのみ有効な技と言うことだ。

 

「まぁ、でもゲッターは今オイラ1人だし、本来の能力と比べれば全然低いんだぜ?」

 

ゲッターは3人乗りだからと告げると、リュウセイが身を乗り出し武蔵の両手を掴む。

 

「そうそう! あのゲッターロボって奴は3人乗りなんだろ!? 俺も乗れたりしないか! もし乗れるなら乗せて欲しいんだけど!」

 

「リュウ! 何を言ってるのかしら?」

 

「あだだだぁッ!!!」

 

ゲッターに乗りたいと興奮した様子のリュウセイの耳を抓るアヤ。そのやり取りを見て武蔵はリュウセイとアヤの関係性を大まかだが把握した、お調子者とそれを窘める先輩って感じと

 

「おいおい、リュウセイ。何を怒られてるんだ? 俺も邪魔するぜ」

 

「ひょおうじょー」

 

イルムがトレーを机の上に置いて、もう椅子に座りながら尋ねる。武蔵は口一杯に唐揚げを詰め込みながら返事を返す

 

「中尉。リュウがゲッターロボに乗りたいと言う物で」

 

「おお、それか。正直俺も興味があるな、で、どうだ? 後2人乗れるなら試しに俺とリュウセイが乗るのは無理か?」

 

リュウセイに続いてイルムまでが便乗した。アヤはそれを止めようとしたが、イルムの目が鋭い光を放っているので、何か目的があると悟り開きかけた口を閉じる。謎の特機を操ると言う事でハガネの中でも武蔵の存在は異質だ、今回のこの質問で武蔵がどういう返事をするかと言うのを確かめようとしたのだ。

 

「乗れるならオイラは全然構わないけど?」

 

武蔵から告げられた余りに軽い言葉に拍子抜けと言う感じのイルムと目を輝かせるリュウセイだが、次の言葉で2人の表情が凍りついた

 

「テンザンとか言うむかつく奴が気絶して、テンペストさんも2分くらいで白目むいて、泡噴いて気絶して、エルザムさんも肋骨に罅入って、鞭打ちになった上に気絶したけど、それでも良いなら」

 

エースパイロットと呼べる2人が気絶し、重症と聞いて絶句するリュウセイとイルムだが、その話を聞いて黙っていられない男がいた

 

「エルザム兄さんはそんな酷い有様だったのか?」

 

ライである。自分の兄がそんな重症と聞いて心配するのと同時に、何故そんな状態で出撃したのか、自分を侮っていたのかと、心配と怒りがない交ぜになった複雑な表情でそう尋ねる。

 

「エルザム兄さん? なんだ! エルザムさんの弟なのか! へーよく見ると似てるなあ」

 

だが武蔵はその表情に気付かず、能天気な表情でそう尋ねる。だがライは複雑な表情で武蔵に答えるように促す

 

「ゲッターには衝撃とかそういうのを紛らわせる機能はついてないんだよ。だから旋回とか、合体とかの衝撃でまぁ……なんだ、普通は気絶とかするらしいんだわ」

 

そう言ってもオイラはゲットマシンの中で昼寝出来るから、全然気にしたこと無いんだけどさと付け加えられた言葉にリュウセイ達が絶句する。

 

「んで、どうする? 乗るか? オイラ的には3人揃った方がありがたいんだけど」

 

リュウセイ、イルム、ライにそう尋ねる。だが3人は目を逸らすので武蔵は残念そうにそうかと呟き、デザートのプリンを飲み込んで手を合わせる。

 

「ごちそうさんでした。いやあ、美味かった」

 

爪楊枝を咥え席を立とうとする武蔵にアヤが手を伸ばす。武蔵はん? と呟き手を差し出された意味を理解していない様子だが、アヤが柔らかく微笑み。

 

「これからよろしく」

 

握手をしようと言っていると理解し、武蔵はその手を握り返す。その瞬間アヤがまるで雷にでも打たれたかのように硬直する

 

「どうかしたかい? アヤさん」

 

「あ、ううん。なんでもないの、随分と大きい手だなあって思ってね」

 

「ああ、そいつはオイラが柔道部だからだろうな。急に硬直したからびっくりしたぜ」

 

武蔵はそう笑うと自分が食べた大量の食器を抱えて、歩いていく。アヤはその背中を見つめ武蔵に差し出した左手を見る……握手した瞬間アヤの視界には凄まじい緑の閃光が映し出されていたのだった……

 

第11話 もう1人の来訪者へと続く

 

 




今回は武蔵の交流会のような話になりました。現状ではDCも連邦も同じくらいに思っている武蔵です、戦争を始めたDCは間違っていると思う物の、ビアンとエルザムにはよくして貰った。テンペストから告げられた連邦の闇を聞いて連邦に不信は抱きつつも、リュウセイ達は良い人と思っているので悩むという感じですね。今後武蔵がどうなって行くのか、そこを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 もう1人の来訪者

第11話 もう1人の来訪者

 

ハガネのブリーフィングルームにはリュウセイ達「SRX」チームの姿とジャーダ、ガーネット、ラトゥーニ、そしてイルムガルドに加え武蔵の姿があった。それはハガネの進路にあるウェーク島の連邦軍基地の存在だ、元々は連邦軍の基地だが現在はDCに制圧されDCの拠点となっている。DCはウェーク島基地を拠点にして、ハガネへと部隊を送り出している為。ここを制圧しておく必要性があった

 

「我々が目指すウェーク島の基地には、多数の対艦砲台が配備されている」

 

ウェーク島基地自体は旧西暦から存在する基地で、設備は旧式、新式が多数取り揃えられた海上の基地になる。それが丸々乗っ取られていると聞いてブリーフィングルームに緊張が広がる

 

「やれやれ、そいつがそっくり敵の手に落ちているなんて……冗談きついぜ、それでどうやって基地を攻めるんです? ハガネで射撃ですか?」

 

だがイルムの軽い雰囲気と質問にその雰囲気は変わる。良くも悪くもイルムガルドと言う男はムードメーカーであり、そして場の空気を読むことに長けていた。イングラムはそんなイルムの言葉に小さく笑みを浮かべると説明を再開する

 

「基地の迎撃システム自体は旧式だが、有効射程距離はハガネの主砲以上だ。だから迂闊には接近出来ん」

 

戦艦であるハガネの射程距離もある。それは今回の作戦でハガネを主力とする事が出来ないと言う事でもあった

 

「じゃあ、そいつをぶっ壊さない限り、ハガネは島には近づけないってことか」

 

「そうだ、よってPTと戦闘機、そしてゲッターで先行し、基地の迎撃システムを破壊する。その後、基地を制圧すれば作戦は成功だ」

 

軽い感じで告げられるが、その作戦の難易度の高さにブリーフィングルームに嫌な沈黙が広がる

 

「し、島へ突入って……その前に迎撃システムでやられちまうんじゃないのか!?」

 

リュウセイの質問は最もだ。戦艦であるハガネが撃墜される可能性があるほどの迎撃システムを持つ、基地にPTで突入する。それがどれほどの危険を伴うかは言うまでも無いだろう。

 

「ヒュッケバイン、ビルトシュバイン、ビルドラプターとF-28の性能ならば敵の攻撃を潜り抜けられる。後は、AMや戦闘機、SAM・MLPSにどうやって対処するか、だ」

 

自信に満ちたイングラムの言葉にリュウセイは黙り込むことしか出来ない。その後も作戦会議は進む中、イングラムの作戦を聞いていた武蔵が挙手をする

 

「なんだ。武蔵?」

 

「いやあ、基地に海中を進んで突撃するんだろ? それならオイラとゲッター3に任せて欲しいと思ってな」

 

武蔵の言葉に全員の脳裏に過ぎったのは、南鳥島でゲッター3が放った大雪山おろしによる破壊の跡……

 

「武蔵、悪いんだけど、基地もある程度の機能は残しておきたいのよ。完全に破壊されたら困るわ」

 

アヤが諭すように言うと武蔵は違う違うと笑いながら首を振る

 

「いやいや、オイラもそこまで馬鹿じゃねえよ。オイラが言いたいのは、ゲッター3は水中戦に特化しているんだ。確か、水中ではゲッター3は28ノットまで出せるし、ゲッター3のサイズなら頑張れば前と後にPTを乗せることも出来る」

 

武蔵の言いたい事はシンプルな内容だ。ゲッター3の速度で一気に基地に突入、その際にPTを2体もしくは1体を乗せて運搬する事で、2機による強襲と殲滅……地道に海中を進むより遥かに成功率と奇襲率が高い。

 

「少佐、俺はありな作戦だと思う。AMとかの対策と考えればゲッター3の攻撃力と防御力は頼りになる、ヒュッケバインの運動性能なら、基地に乗り込んで一気に防衛システムを潰せると思う」

 

イルムも武蔵の提案を聞き、その作戦に乗る。イングラムは少し考え込む素振りを見せてから頷く

 

「2体乗せても大丈夫なのか?」

 

「安全なのは1体までだな。後からゲッター3にしがみ付いてもらう必要があるし、前はゲッター3が抱き抱える形になる」

 

「ならばイルムガルド、お前がゲッター3と共に基地に先行しろ」

 

「了解、武蔵。運転速度はお手柔らかに頼むぜ?」

 

「出来る限り配慮するよ」

 

武蔵とイルムの2人でウェーク島に突入。その後を追って他のPT部隊も基地に乗り込み、迎撃システムを無力化し、その後をハガネの部隊が更に制圧すると言う作戦に変更されることになるのだった。

 

「作戦開始は1130。各自、持ち場につき出撃準備を取るように。では以上だ」

 

ブリーフィングはイングラムはそう締めくくり、イルム達は出撃準備の為にハガネの格納庫へと向かうのだった

 

「イルムさん、大丈夫か?」

 

ウェーク島の基地のセンサー外で1度、ハガネは停止していた。それはゲットマシン形態で格納されているため1度出撃させ、合体する必要性があったからだ。ゲッター3に合体し、海中に沈んだ武蔵がイルムにそう問いかける

 

「OKだ。さっきも言ったがお手柔らかに頼むぜ?」

 

イルムの言葉に武蔵は気をつけるよと返事を返す。今ヒュッケバイン009はゲッター3の後部に乗り込み、その両肩を掴むことで姿勢を固定していた

 

「武蔵、イルム。ハガネが先行する、相手がハガネを探知し、防衛体制を引いたら突撃しろ」

 

「了解です。うっし、じゃあ、イルムさん。行くぜ」

 

「おおっ! っと! 結構振動あるな。こりゃ相当気をつけないとやばそうだ」

 

そしてハガネは武蔵とゲッター3を加え、ウェーク島基地の攻略作戦を始めるのだった……

 

 

 

 

ウェーク島の基地の司令を任されたテンザンには2つの不幸があった。1つはアイドネウス島でゲッター1を見ていたので、ハガネに武蔵が乗っていると聞いて空中戦を仕掛けてくると思い込んでいた事、そしてもう1つはテンペストからゲッター3の事を聞いていなかった事だ。だがこれはテンペストが悪いのではなく、アードラーがゲッター3の情報を全て持ち帰れと命令したので、それに従っただけだ。

 

「さーて、ハガネが来たな。まずは敵のPTをギリギリまで引きつけろ」

 

ハガネから出撃してきたゲシュペンスト達を見てにやにや笑いを浮かべるテンザン。ゲッターは空を飛ぶが、この基地の防衛システムならば飛行してくれば迎撃出来るという確信があったからだ。そしてある程度ひきつけたらキラーホエールを浮上させ、リオンを出撃させ挟撃する。それがテンザンの立てた計画だった。

 

(へ、俺の完璧な作戦でハガネはいただきだ)

 

テンザンは自分の才能に酔いしれていたが、それは敵の妨害や敵の戦力などを計算に入れていない、自分にとって都合の良い計画であったと言う事だ。自分は死なない、自分は上手くやると思い込んでいたテンザンを襲ったのは基地を揺らす凄まじい衝撃だった。

 

「な、何だ!? 何が起きて「ゲッタアア……ミサイルッ!!!」 武蔵か!? どこから出て来やがった!!」

 

テンザンに一般兵が報告を出すよりも早く、武蔵の雄叫びが基地へと響き渡る。外の情報をモニターに出せと叫んだテンザンの目の前に広がったのは戦車の上に上半身が取り付いたような特機がミサイルを乱射し、両拳で迎撃システムを粉砕する姿と、ヒュッケバインがその手にしたショットガンで迎撃システムの砲塔を破壊していく姿だった

 

「……ッ! くそっ! 早くキラーホエールを浮上させろ! 急げッ!!!」

 

ゲットマシンは3つ。そして特機に変形合体するのは判っていた、だがまさか別の形態と持つとは思って見なかった。それはアードラーに合体する特機を作って欲しいと頼みこみ、無理だと言う事を説明されたから他の形態は無いと思い込んでいたのだ。だがテンザンの不幸はそれでは収まらない

 

「9時の方角よりアンノウンが高速で接近してきます!」

 

「これ以上まだ来るって言うのかよッ! どうなってやがるッ!」

 

通信兵の報告を聞いてテンザンが怒鳴り声を上げる

 

「……データ照合……該当データあります!AGX-05です!」

 

「南極で出た奴かッ! はッ! それなら流れはこっちだッ!」

 

エアロゲイターの機体の乱入。これで戦局は判らなくなったと笑うテンザンだが、流れは劇的に変わっていく。それもテンザンにとって最悪の方向性へ……恐ろしいスピードで空を舞い、ウェーク島基地上空まで移動した白銀の機体。そのスピードにハガネとDCに凄まじい衝撃が走る

 

「しょ、正体不明機が基地の防衛網を突破しました!」

 

「お、おいおい! なんでこっちにくるんだよッ! ハガネだっているだろうがッ!?」

 

テンザンが動揺して叫ぶ中。白銀の機体はウェーク島基地の上空に滞空する

 

「そこの機体ッ! 所属と官性名を名乗れッ! でなければDCの機体と認識し、攻撃する!」

 

オープンチャンネルでテツヤが白銀の機体に向かって叫ぶ

 

「おっと、早合点するな。ちょいと力を貸してやろうって言っているのさ!」

 

テツヤの問いかけにパイロットである青年が笑みを浮かべながら、そう返事を返すと同時に白銀の機体は緑の光に包まれていく

 

「行くぜッ!サイフラァァァシュッ!!!!」

 

白銀の機体の放った閃光はウェーク島の防衛システムを全て破壊し尽くし、そのまま基地内部へと消えて行くのだった……ゲッターそして謎の機体によって壊滅的な打撃を受けた。テンザンは自分の計画通りに行かないことに唇を噛み締め格納庫へと走るのだった

 

 

 

 

ゲッター3とヒュッケバインの強襲、それに加えてAGX-05の強襲によってウェーク島基地のDCは完全に浮き足だっていた。まさか戦艦を囮にして突っ込んでくる特機なんて想像もしてなかった上に、不可思議な武器で砲台だけを破壊したAGX-05は完全にDCの常識を超えていた

 

「各機へ告ぐ、DCは完全に浮き足立っている。相手が立て直す前にウェーク島を制圧する」

 

今パニックになっている間に制圧するとイングラムからの通達と同時に、ハガネが浮上し主砲と副砲で攻撃を開始する

 

「リュウ! 判っていると思うけど、水中だとビーム兵器は威力が半減するわ。ビルドラプターで上空から支援して!」

 

ビルドラプターFMとジャーダとガーネットの駆るメッサーは上空からシーリオンをミサイルで狙い撃ちにし、シーリオンが反撃にミサイルを放とうとすれば接近してきたゲシュペンストのジェットマグナムで機体を粉砕される。イングラムが浮き足立っていると判断したのは間違いではなく、更に司令系統も混乱しているのか連携もまともに取れていない

 

「……テンペスト・ホーカーでは無いのか?」

 

南鳥島で襲撃してきた元教導隊のテンペストが指揮を取っているとライは考えていた。だが蓋を開けてみれば、基地の防衛網こそはしっかりしていたが、その戦術は待ちの一手。とても教導隊の考えた作戦とは思えなかった

 

「だがやる事は変わらない」

 

今回の作戦では機動力を重視し、ヒュッケバイン009はMー13ショットガンを2丁とビームソードのみを装備している。余剰の手持ち火器はシュッツシバルトへと搭載され、ライはシュッツシバルトの両手にM950マシンガンを持たせ、海中を突き進みながらマシンガンの掃射でシーリオンの機動力を削いでいく、シーリオンはリオンのカスタムでその名の通り海中に特化した機体だが、武装はミサイルポッドのみであり接近してしまえば何も出来ずに撃破される運命にあった

 

「そらよッ!!」

 

イルムはウェーク島にゲッターと共に上陸していたので、滑走路の上を自在に走り回り、ショットガンとビームソードで出撃する前のリオンを撃墜して回っていた。海中からの強襲に加え、AGX-05の攻撃でリオンもその大多数が打撃を受けており、高度が上昇しない。それはヒュッケバイン009にとってはただの獲物に過ぎす、ショットガンで牽制し、接近しビームソードで飛行能力を奪えばそれでリオンは行動不能になっていた

 

(いや、しかし本当にゲッターが味方でよかったな)

 

同じく基地の上を暴れまわっているゲッター3。先ほどキラーホエールがMAPWを発射したが、それは即座にゲッターミサイルで迎撃され、その鉄の拳でキラーホエールの強固な装甲はぼこぼこに凹まされている。それで済めばまだ救いはある、だが武蔵とゲッター3の攻撃に容赦は無かった。

 

「そーりゃあああーッ!!!」

 

その両腕を海中に突っ込み、キラーホエールを海から引きずり出す。それで済めば良いが、滑走路に跡をつけながら高速回転したゲッター3はジャイアントスイングの要領でキラーホエールを投げ飛ばす

 

(うわあ……)

 

あれ絶対中酷いことになっている。イルムは心の中で手を合わせ、ショットガンの照準をリオンに合わせ引き金を引くのだった

 

「……ターゲットロック……ファイヤ」

 

シーリオンを撃破し、海上に設置された足場に陣取ったラトゥーニはヒュッケバイン009に搭載されていたブーステッドライフルによる狙撃で、確実にリオンを無力化していた。今もゲッター3の上空からミサイルを落とそうとしていたリオンを破壊したところだ

 

「……変なの」

 

自分に気付いて腕を振るゲッター3に変なのと呟きながらも、ラトゥーニの口は緩く弧を描いていて、知ってか知らずかラトゥーニは柔らかく微笑んでいるのだった

 

「こうなってしまうと、DCが哀れに思えてくるわね」

 

基地の近くの足場を確保し、メガビームライフルによる狙撃を行っていたアヤが小さく呟く。勿論戦争をしているので本当に哀れと思っているわけでは無い、だがPTとAMを超える能力を持つゲッターと正体不明機の広範囲攻撃で完全に出鼻を挫かれ、そして今各個撃破されているリオン。完全に流れはハガネに傾いており、ここからDCが巻き返すのは不可能に近かった。今は目の前でビルトシュバインとシュッツシバルトが上陸し、制圧を始めたのを見てアヤは勝利を確信した。もはやここまで攻め込まれてしまえばDCに勝機が無いのは目に見えていた。それはDC側も理解していたのか、黄色にカラーリングされたガーリオンと4機のリオンが基地から出撃する。だがハガネに向かうことは無く、離脱の為の航路を取っている

 

(基地を捨てる……訳じゃないわね)

 

まだリオンは戦っているし、防衛装置も稼動している。今基地に残っている兵士は切り捨てられたと言う事だろう、ガーリオンが飛び立つのを見て、戦っていたリオンの動きが目に見えて緩慢な物になった。最初は援軍と思ったのに、そのガーリオンが自分達を見もしなければ、何のために出撃したかは明白だったから……

 

「待ちやがれッ!」

 

今正に逃走しようとしていたガーリオンを追って、基地から白銀の機体が飛び立つ

 

「チッ! てめえとゲッターさえいなければハガネを沈められたのによ! おかげで俺のゲームが台無しだ」

 

オープンチャンネルで告げられたテンザンの言葉。それはリュウセイ達にも届けられ、テンザンへの敵意が強くなる。それは白銀のパイロットも同じでオープンチャンネルで怒りに満ちた叫びが木霊する

 

「何がゲームだ!ふざけるな! それよりもシュウの野郎はどこにいる!」

 

「お前もしつけえな! ここにはいないって言ってるだろうが!」

 

その会話で基地内部でテンザンと、AGX-05のパイロットが口論していたのは明らかだった。今出撃したガーリオンが何の武装も装備していないのも、武装を装備している時間がなかったという様子だ

 

「なら奴の行き先を教えろ!!」

 

AGX-05が剣を向ける。ガーリオンは肩を竦めるような仕草をし、AGXー05のパイロットに返答する

 

「アイドネウス島にいるんじゃねえか? 俺は知らんけどさ、腹も減ってきたし、ここで基地を死守するなんて面倒だしな、さっさとズラかるとすっか」

 

テンザンは自分が悪いとは欠片も思っていない態度でそう告げ、離脱の為に機体を反転させる。その姿を見て兵士達が大尉と叫ぶ、だがテンザンは馬鹿にするように笑いながら

 

「お前らも死にたくなければさっさと逃げるんだな、じゃないとゲームオーバーだぜ?」

 

そう告げるとテンザンはゲッター、そしてAGX-05を一瞥すると機体を反転させ、この空域から離脱していくのだった……

 

 

 

 

離脱していくガーリオンとリオンの姿を見ながらリオが報告を始める

 

「ウェーク島基地、沈黙しました。残存部隊はこの海域から撤退していきます」

 

「あのアンノウンは?」

 

「こちらへ攻撃を仕掛けてくる素振りは見せていませんが……」

 

ウェーク島基地上空で滞空している白銀の機体。DCは沈黙したが、まだあの機体が残っている。ハガネのPT部隊は警戒を緩める事無く、白銀の機体を見つめる

 

「……答えろ。お前は何者だ」

 

PT部隊を代表してイングラムがそう問いかける。白銀の機体は機首を反転させ、ビルトシュバインに視線を向ける。

 

「俺はマサキ、マサキ・アンドーって名前だ、お前じゃねえ」

 

「ではその機体は何だ、見たところパーソナルトルーパーでは無いようだが?」

 

その口調から軍人では無いと判断したイングラムは更に質問を投げかける

 

「こいつはそんな物じゃねえ、こいつは風の魔装機神……サイバスターって言うんだ」

 

魔装機神と自身満々に告げるマサキ。それは彼にとってはPTやAMよりも馴染み深いものである言う証だった

 

「魔装機神……? 聞いたことの無い名前だ」

 

「なら、これからは忘れずに……覚えておくんだな……」

 

今まで平然と喋っていたマサキだが、突如その声から力が消えていく。そして翼から放出されていたエネルギーが止り落下してくるサイバスターをゲッター3が受け止める。

 

「イングラムさんよ。どうする?」

 

受け止めはしたがどうすれば良い?と指示を求める武蔵。武蔵に返答したのはイングラムではなく、ハガネのテツヤだった

 

「これからハガネが着港する。そのままサイバスターを確保したまま帰還してくれ」

 

「了解、じゃあこのまま抱き抱えておく」

 

ハガネがウェーク島基地に降伏勧告をし、基地がそれを受け入れたのを確認してからハガネは着港し、ゲッター3はサイバスターを確保したままハガネの格納庫に乗り込み、ウェーク島基地で短い休息を取ることになり、イングラム、イルム、ロバート、テツヤは艦長室に集まり、ウェーク島基地での情報と今後の打ち合わせの為のミーティングを始めていた

 

「艦長、補給物資の搬入は終了しました」

 

ウェーク島基地はDCの基地となっていただけあり、食料を初め、AMの武装や弾薬もあり、それらの物資はその大半がハガネへと積み込まれることになった。テツヤからの報告を聞いてダイテツは気になっていた事を武装の報告に来ていたロバートへと問いかける。

 

「敵のAMは手に入れられたのか?」

 

DCの主力であるAMを鹵獲する事が出来たか?ともし手に入れる事が出来れば戦力を確保できる。そう考えていたのだがロバートの表情は芳しくない

 

「データは入手しましたが、流石に機体その物は……しかしAM用の武装を入手できましたので、PT用に調整しておきます」

 

機体は無理だったが、武器を入手できた。それで最低限の戦力強化は可能だろう

 

「艦長。データを調べて不審な点が1つありました。基地司令部との通信履歴の中に極東司令部との交信記録らしき物を発見しました」

 

テツヤの報告にダイテツはその顔を険しくさせ、通信記録の内容を尋ねる

 

「司令部との記録日と内容は?」

 

「流石にそれは削除されていましたが、通信が入っていたのは事実です」

 

テツヤもその顔を険しい物とする。極東支部との通信、それは連邦の中にスパイがいると言う疑惑となる。ダイテツもテツヤもロバートもその顔を険しくさせる

 

「グレードと回数は?」

 

通信装置を使う場合記録が残る。使用されたコードの種類は?ダイテツがそう問いかける

 

「グレードはAAA……回数は1回です、他にもあったかもしれないですが、調査は不可能です」

 

「AAAのコードを使用できるのは、指揮官クラスのみだ、となれば……」

 

「レイカー・ランドルフ司令や、サカエ・タカナカ参謀……あるいはハンス・ヴィーパー中佐でしょうか」

 

イングラムの問いかけにテツヤがAAAのコードを持つ人間の名前を挙げる。

 

「それと関係あるかどうかは判りませんが、1つ気になる事があります」

 

「何だ?」

 

イルムが挙手をし、テツヤが続きを促したことでイルムは報告を始める

 

「我々に何度か攻撃を仕掛けてきている。DCのパイロット……テンザンと言う奴の事ですが……リュウセイによれば民間人でバーニングPTの優秀なプレイヤーだったとか……」

 

バーニングPTの名前にイングラムやロバートの表情が強張る。

 

「バーニングPT? それが何か関係しているのか?」

 

「我々が適格者を見つけるために使用したシュミレーターだ。リュウセイ曹長はその結果によってSRX計画のパイロットに選ばれた」

 

「ふむ、ではDCもそのシュミレーターを使用して、何らかの選抜を行っていたという事か?」

 

「その可能性はあります。ただし、バーニングPTがそういう装置だと知る人間は、限られていますが」

 

イングラムの言葉で更に極東支部にスパイがいるかもしれないという疑惑が強まる

 

「まさか何者かが秘密裏に優秀なプレイヤーの情報をEOTI機関へ引き渡したと?」

 

テツヤの問い掛けにイングラムが頷く、あくまで可能性の話だがその可能性はゼロでは無いと告げる

 

「それでは極東支部にDCへの内通者がいる事に……」

 

ハガネの艦長室に緊迫感が満ちる。味方の中に敵がいる、それは強襲作戦を実行しているハガネにとっては最悪の事態となる

 

「駄目だって! 勝手に入ったら!」

 

「うるせえ! 俺はこの連中に聞きたい事があるんだよ」

 

だがその緊迫感は勝手に開かれた艦長室の扉と共に霧散する

 

「何だ? ミーティング中だぞ!」

 

テツヤが艦長室に入ってきたリオとマサキに怒声を発する。リオは申し訳ありませんと謝罪するが、マサキはそんな事は関係ないといわんばかりにダイテツに声を掛ける

 

「あんたがここの艦長か? ビアンって奴の居場所を知ってるか?」

 

マサキから告げられた言葉にダイテツは眉を少し上げ、マサキに質問を投げ返す

 

「何故そんなことを聞く?」

 

「ビアンの所にシュウが居るからだよ、俺は奴を追って地上へ来たんだ」

 

ダイテツの問いかけにマサキは少しだけ気分を害したようだが、ダイテツの問いかけに答えた。

 

「シュウだと? もしやグランゾンのテストパイロット……シュウ・シラカワの事か?」

 

「おっさん! あいつを知ってんのか!?」

 

ダイテツの口からもシュウの言葉を聞いて、マサキは艦長室の机を叩きながらダイテツに尋ねる。

 

「知ってるも何も、我々が乗っていたシロガネはシュウのグランゾンによって破壊されたんだ」

 

「じゃあ、あの時……南極で……」

 

テツヤの言葉にマサキは何かを思い出したように呟く。AGX-05……いやサイバスターが目撃されたのは南極で、そこでダイテツ達もサイバスターを目撃しているのだから

 

「お前こそ何故、シュウ・シラカワを知っているんだ?お前は一体何者なんだ?」

 

今度はテツヤがそう尋ねるが、マサキの返答は沈黙。暫く待っていたが、マサキが口を開かないと見るやイングラムが行動に出る

 

「マサキ・アンドー……だったな? 我々に協力する気は無いか?」

 

「イングラム少佐!?」

 

まさかの言葉にテツヤが大声を上げる、だがイングラムはそれを気にした素振りを見せず、マサキの説得を始める

 

「今この艦はビアン博士がいるアイドネウス島に向かっている」

 

「アイドネウス島……DCの本拠地だと!?」

 

「そうだ。総帥ビアン・ゾルダークとシュウ・シラカワをはじめとする、協力者達を倒すためにな」

 

その言葉にマサキは思案顔になる。そしてイングラムはダイテツに視線を向ける

 

「どうでしょう、艦長。少なくとも、現時点での我々と彼の目的は共通しています。武蔵とゲッターロボの事もありますし、彼も協力者と

して迎え入れるというのは? 我々は少しでも戦力を必要としています。マサキ・アンドーとサイバスターは大きな利益になると判断しますが……」

 

イングラムの説得によって、ダイテツはマサキ、そしてサイバスターを迎え入れることを決定し、ミーティングに割り込んでしまったと緊張しているリオにマサキを案内するように告げ、再びミーティングを再開するのだった……

 

 

 

第12話 敗北へ続く

 

 




ウェーク島基地はゲッター3がいればイージーモードだと思うんですよ、ゲッターの速度をシーリオンは追いきれないですし、装甲も厚いから有効打撃が入らない。水中戦使用がいるだけでこのシナリオはイージーモードになると思うので今回の形となりました。次回はグルンガストの話に入ろうと思いますが、ここも大胆にアレンジして行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 敗北

第12話 敗北

 

巴武蔵とゲッターロボと言うイレギュラーの存在。それは最初は小さな波紋だったが、時が経つほどにその波紋を大きくしていく……それは今ハガネと合流しようとしていたとある特機を輸送している輸送機……タウゼント・フェスラーの内部にも起きていた。

 

「くっ! 大丈夫か!」

 

DCの警戒網に引っ掛かり、リオン、そしてシュヴェールトの追走を受け、激しく揺れるコックピットの内部で白衣を来た男性……「ジョナサン・カザハラ」がパイロットに問いかける。北米のラングレーから逃走を続け、タウゼント・フェスラーの燃料の消費もパイロットの疲弊も凄まじい物だった。それでも希望はある、この空域の近くにまで来ているハガネの存在……それがタウゼント・フェスラーに乗り込んでいる5人の希望だった。

 

「大丈夫ですッ! ですがこの空域を離脱するのは難しいかとッ!」

 

コックピットの連邦軍兵士がモニターに写る反応を見て、唇を噛み締める。良くここまで逃げてきた……だがそれも限界に近いのが明白だった

 

「……すまない、通信装置を使わせてくれ。ハガネに緊急通信を送る」

 

敵に傍受され、攻撃が激しくなる可能性がある。それでもこれ以上は耐え切れないと判断したカザハラが通信機に手を伸ばす、だがその手を掴む青年の姿があった。

 

「カザハラ博士。私が時間を稼ぎます、その間になんとかこの空域を離脱をッ!」

 

黒髪で鋭い目付きの青年が自ら囮になると告げる。だがジョナサンは首を左右に振り、青年の肩を掴んで引きとめる。

 

「コウキ。君は私から見ても優れた科学者であり、パイロットだ。だが海のど真ん中でしかも敵の方が遥かに多い……そんな場所に私は弟子を送り込めない」

 

「し、しかしッ!」

 

「大丈夫だ。ここまで執拗に追ってくると言う事は、このタウゼント・フェスラーに何が積まれているかDCはそれを知っている。最悪あれを差し出しても私達は生き残る必要があるんだ。これからの為に……」

 

師であるジョナサンの言葉にコウキ……コウキ・クロガネは唇を噛み締める。それを見て、ジョナサンが励ますように笑う。

 

「大丈夫さ、もう近くまで来ている。それにハガネには私の息子が乗っている……希望はある」

 

諦めでも絶望でもない、強い意思の光をその目に宿し、カザハラは覚悟を決めた表情で連邦軍の緊急事態通信を飛ばすのだった……

 

 

 

 

その頃ハガネの通路では……

 

「おう? なんだ、どうした? 何をきょろきょろしとるんだ?」

 

「お? すまねえが、格納庫はどこか知らないか?」

 

武蔵とマサキがハガネの通路で鉢合わせていた。武蔵は格納庫? と首を傾げ、それよりもと呟く

 

「お前さん、リオに案内されてたんじゃないのか?」

 

「案内して貰っていたけど逸れたニャ」

 

マサキの足元の2匹の猫の白猫が喋りだす。武蔵は一瞬目を細めたが次には大声で笑いながら

 

「オイラが案内してやるよ。どうせ格納庫に用事があったからな」

 

ゲットマシンの定期メンテナンスでロバートに呼ばれていた事もあり、マサキの頼みを快く引き受ける。

 

「驚かないのかニャ? 猫が喋ってるのに?」

 

マサキの足元にいた黒猫がそう尋ねる。普通ならば猫が喋れば動揺もするし、恐怖もするだろう。だが良いも悪いも武蔵は普通ではなかった。

 

「蜥蜴が喋るんだ、猫だって喋るだろ?」

 

蜥蜴? マサキとシロとクロが不思議そうに首を傾げ、回りに誰もいないのを確認してからマサキが小声で尋ねる。

 

「お前ももしかしてラ・ギアスの人間か?」

 

「……ラ・ギアス? そりゃどこだ?」

 

一瞬自分と同じ地底世界ラ・ギアスから来たのかと思い尋ねるマサキだが、その表情を見て違うのだと悟り、勘違いだと謝る。だが武蔵も武蔵でニッと笑う。

 

「俺も色々とわけありで、この船に乗っててな。ある意味ではお仲間さ、それよりも格納庫に行こうぜ」

 

その表情に自分とはまた違うが、何か訳ありなのが明白だった。だからマサキはよろしくなと笑い、武蔵と共に歩き出した……のだが。

 

「おーい、どっち行くんだ? 格納庫はこっちだぞ?」

 

「……おう」

 

並んで歩き出して数秒で明後日の方向に向かって歩き出すマサキ。その絶望的な方向感覚に、前途多難な始まりだった

 

「ん? メッサーが……偵察か?」

 

最終的に武蔵が後ろにつき、誘導するという形で格納庫に到着したマサキと武蔵だが、メッサーが1機で飛び出していくのを見て不思議そうに首を傾げる。リュウセイとジャーダ、それにライの姿を見て何があったのかと尋ねる。すると近くまで連邦軍の輸送機が来ていて、その機体に呼ばれてイルムが飛び出して行ったと言う事だった

 

「DCの追撃を受けていると言う事は、AMとの戦いになる。メッサーは空いているが、メッサーだけでは戦力不足だ」

 

「そう言う事なら、俺が行くぜ」

 

話を聞いていたマサキがニッと笑い俺が追いかけると告げる。だがジャーダとリュウセイはマサキを見て

 

「お前どこにいたんだ? クスハとリオが探してたけど」

 

「艦内放送するかって話になってたぞ?」

 

物凄く大事になっていると気付いたマサキは逃げるようにサイバスターへと走り、シロとクロと共に乗り込んで発進していく

 

「ったく、方向音痴にも程があるぜ。並んで歩いていても、気がついたら逆走してるんだぞ?」

 

武蔵の疲れたような言葉にご苦労さんとジャーダが笑う。武蔵は疲れたように溜息を吐きながらも、今正にサイバスターが出撃し、慌しい格納庫を見ながら、ロバートに声を掛ける。

 

「なんかその輸送機って奴、DCに追われてるんだろ? マサキとイルムさんだけで大丈夫なのか?」

 

「……正直敵の数が判らないから不安ではある。だからハガネも全速力で急行している」

 

サイバスターの力は判るが、それも1機だけだ。数の暴力で押されればイルムともども撃墜される可能性は十分にある。

 

「オイラもゲットマシンで出るッ!」

 

「しかし、武蔵ッ! ゲットマシンのメンテナンスはどうするんだ!?」

 

ゲットマシンに走る武蔵を見てロバートが慌てて叫ぶ、南鳥島での大暴れ……いや、火球の直撃とウェーク島でのヒュッケバインの運搬とゲッター3にはかなりの負担が掛かり、メンテナンスをする予定だったのだ。ビアンに修理こそされているが、ゲッターは満身創痍の状態に応急処置を施されているに過ぎず。無茶が効く状態では無い

 

「心配ない! ゲッターは無敵のスーパーロボットさッ! それにゲッター3だけじゃねえッ!!」

 

武蔵はそう叫び返すとベアー号ではなく、イーグル号に乗り込みエンジンを点火する。それを見てロバート達は慌てて撤退し、格納庫の緊急放送用のマイクを掴む

 

「ゲットマシンが出撃するッ!! 総員退避ッ!!」

 

スマートな出撃をしたサイバスターとは異なり、ブースターで強引に飛ばすゲットマシンの出撃は大変荒っぽい。それこそ出撃の度に格納庫が煤塗れになるほどだ、巻き込まれたら死ぬと判断した整備員は放送が入る前に既に逃走を始めている。

 

「ゲットマシン出るぞッ!!!」

 

そしてゲットマシンは勢い良く飛び出して行くのだった……

 

 

 

 

武蔵がサイバスターを追ってハガネを出撃した頃……イルムはリオンとシューヴェルトに囲まれ、行動不能になっていたタウゼント・フェスラーを発見していた

 

「ちっ、あの黒いガーリオン……ライの兄貴か」

 

だがその部隊の指揮を取っている黒いガーリオンを見て舌打ちする。イルムもエースパイロットと呼ばれる凄腕のパイロットだ、これがただのリオンやシューヴェルトならばタウゼント・フェスラーに接近することは容易い。だがエルザムがいれば話は変わる、機体性能と腕に差がありすぎるのだ。

 

「これだから奴に関わると面倒事になるんだ! おい! T3応答しろッ!!」

 

怒り任せで応答しろと通信を入れる。そして通信に出たのはイルムの予想通りの人物だった

 

「おお、イルム。待っていたぞ」

 

「やっぱり……俺を呼びつけたのはあんたか」

 

敵に追われているのに自分1人を呼びつける人物……そんな無茶をするのは1人しかいなかった。それは自身の父親であるジョナサン1人だけだ、平然と挨拶をするジョナサンに何をしてると怒鳴るが、ジョナサンはそんな言葉を完全に無視して、T3に接触しろと告げる。

 

「渡したい物……?」

 

「そう、とっておきのプレゼントだ。この不利な状況を引っくり返すとっておきだぞ」

 

ジョナサンの言葉に今までプレゼントとして送られた数多の危険な発明を思い出し、何かの試作機を運んでいると予想したイルムは舌打ちと共に

 

「この状況を何とかできる代物なんだろうな?」

 

キラーホエールにリオン、そしてシューヴェルトにエルザムが駆るガーリオン。この絶望的な状況を引っくり返せる物なんだろうな?と睨みながら問いかける。だが運が悪いのか、それとも意図的なのか、そこでT3との通信が途絶える。接触するしかないが、これだけの敵を単独で突破する方法をイルムが考えているとサイバスターが姿を見せメッサーに並ぶ、その姿にイルムは勝機を見出し、通信を繋げる

 

「マサキだったな、悪いが暫くの間敵機を引きつけておいてくれ」

 

「はぁ!? いきなり何を言ってる!?」

 

マサキが怒鳴るのも当然だ。追いかけてきて、いきなり囮になれと言われてはい、そうですかと言えるわけが無い。

 

「悪いが文句はあの輸送機に乗ってる俺のクソ親父に言ってくれ! 頼んだぞッ!!」

 

マサキに返事を待っている時間は無いと判断し、イルムはメッサーを敵のど真ん中に飛び込ませる。

 

「ったく! 人使いが荒いぜッ! 行くぞッ! シロ、クロ!」

 

敵の陣営のど真ん中に戦闘機で突っ込んでいくのを見れば、マサキもただ見ているわけには行かない。イルムの後を追って敵の陣営に突入していく、だがただ闇雲に突っ込むわけでは無い。前に進むのと同時にサイバスターの射撃兵装であるカロリックミサイルでシューヴェルトの翼を砕き、その手にしたディスカッターでリオンのレールガンを破壊する

 

「シロッ! クロッ! 頼んだぜッ!!」

 

「全く、ファミリア使いが荒いニャ」

 

「行くよッ!!」

 

マサキは激情型だが決して頭が悪いわけでは無い。方向音痴なのは……仕方ないとして、冷静に戦況を見る能力も持ち合わせていた。まず優先するべきなのは、イルムをあの奇妙な形の輸送機と合流させる事。カロリックミサイルとハイ・ファミリアで進行方向のシューヴェルトへと攻撃を仕掛ける、戦闘機であるシューヴェルトはサイバスターの攻撃に耐えれる訳が無く翼をあっけなく砕かれ落下していく。

 

「良し、これで良いだろう」

 

パイロットが脱出装置で脱出したのを確認し、リオンへと向き直る。進行方向にまだシューヴェルトはいる、だがある程度撃墜し、進路を空ければ後は自分で何とかするだろう。故に戦闘機を撃墜する能力をあるリオンの足止めをすれば良い、あの輸送機に何があるかは知らない。だがここまで必死になると言う事は何か特別な武器があるとマサキは考えていた。

 

「ッ! こいつ動きが全然違うッ!!」

 

リオン達の間を縫って突撃してきた黒い機体の剣をディスカッターで反射的に受け止めながらマサキはそう呟く。脚部と肩部にバーニアを増設し、両腰に銃を携帯したガーリオンのカスタム機。その速度はサイバスターに迫る物であった、だがそれだけでは終らず接触通信がマサキへと届けられる。

 

「風の魔装機神……サイバスターの力。確かめさせて貰うぞッ!」

 

「お、お前サイバスターを知ってるのかッ!?」

 

地上では知る者がいない筈のサイバスターの名前を知っている……その事にマサキに僅かな動揺が走る。そしてその隙を見逃すエルザムではなく、ディバインアームでサイバスターへと斬りかかり、ディスカッターとディバインアームによる鍔迫り合いに持ち込む。

 

「てめえ!何でサイバスターの事を知っているんだッ!?」

 

「シュウ・シラカワから話を聞いていたのでな」

 

鍔迫り合いをしながらエルザムに怒鳴るマサキ。だがエルザムは涼しい顔でサイバスターの膨大な推進力から放たれた横薙ぎの一撃をかわす、ガーリオンのコックピットで冷静にサイバスターの戦力分析を行うエルザムに接触回線によるマサキの怒声が響く

 

「シュウだと! あいつの事を知ってるのかッ!」

 

「いずれ自分を追って、サイバスターと言う機体に乗った少年が現れる。彼はそう言っていたよ」

 

エルザムから告げられた言葉に一瞬驚いた表情をするマサキだが、次の瞬間にはその怒りを爆発させる

 

「あの野郎、よくもぬけぬけとッ! ふざけやがって!」

 

「その怒りよう。どうも並々ならぬ憎悪が渦巻いているようだな」

 

「黙れッ! 知った風な口を利くんじゃねえッ! それよりもシュウの居場所を教えやがれッ!」

 

怒りに身を任せ、ディスカッターを振るうサイバスター。だが怒りに我を失っているマサキの攻撃はエルザムには届かない

 

「若いな、怒りは力を生み出す源となるが、同時に己を見失う原因ともなる、だからこそ、その己の精神は常に氷のごとくあらねばならぬ……これは我が家訓でもある。だが……お前も我が弟も、その境地に至るには程遠いようだ」

 

ブースターの勢いを乗せた回し蹴りがサイバスターの胴を捉え吹き飛ばす。距離が開いたことで腰にマウントされた。改造を施されたレールガンを取ろうとしたエルザムだが、センサー内に入ってきた3つの熱源反応に笑みを零し、サイバスターへの追撃ではなく距離を取り熱源反応へと機体を反転させる。

 

「……その機体! エルザムさんかッ!?」

 

予想通り反応が現れた方向からゲットマシンが現れ、エルザムはコックピットの中で笑みを浮かべる。

 

「ふっ、武蔵君も来てしまったか……少年よ。シュウ・シラカワと相見えたくば、ハガネと行動を共にするが良い、各機はサイバスターへ攻撃を集中せよッ! 私は武蔵君を止めるッ!!」

 

そしてエルザムはサイバスターから背を向ける。この場での最大の脅威……それはサイバスターではなく、巴武蔵とそしてゲッターロボの存在なのだから。

 

(天はハガネに味方したか)

 

被弾しつつも、輸送機に着艦したメッサーを見てエルザムは苦笑する。戦況はハガネに良い方向に向かっていると、撤退準備を文章通信で送りながらガーリオンをゲットマシンに向かって走らせる。合体してしまえばゲッターを止めることは難しい、だが合体する前ならばやや頑丈な戦闘機と変わりは無い。ここでゲットマシンを確保してしまえば、武蔵を無力化出来る。それがエルザムの考えたゲッターを無力化させる方法だった。だがそんな事は武蔵は100も承知であり、そして恐竜帝国と戦い続けた武蔵にとってエルザムの取った作戦はもっとも対処しやすい1つの事なのだった……

 

 

 

ゲットマシンの姿はDCの兵士ならば誰もが知っている。その姿を見て動揺が走った瞬間にイルムは強引にタウゼント・フェスラーに着艦し、ヘルメットを投げ捨てながらコックピットを飛び出す

 

「待っていたぞイルム」

 

「ったく、態々俺を呼びつけやがって、それで何を運んできたんだ? ATX計画の試作機か何かか?」

 

イルムの問いかけにジョナサンは返事を返さず、モニターでこの空域に登場したゲットマシンに視線を向ける。

 

「おい、この戦闘機はなんだ? と言うか、良く飛んでいるって思うんだが?」

 

「あーそれは後にしてくれ、俺も良く判ってねえ。それよりも早くしろよッ!」

 

何を運んできたんだと怒鳴るイルムにジョナサンは肩を竦めて、格納庫の中の扉の前に立つ

 

「これがお前へのとっておきのプレゼントだ」

 

レバーが下ろされ、開かれた扉の奥には1機の特機の姿があった。重厚なフォルム、大きく張り出した肩パーツ……

 

「グルンガストッ! こいつはラングレー基地にあったやつかッ!?」

 

超闘士グルンガスト……テスラ研の開発した特機の1体であり、その当時の技術を結集し可変機能を搭載したスーパーロボットだ。

 

「お前がカザハラ博士の息子だな? 今グルンガストの最終調整をしている所だ。早く機体へ乗り込め」

 

グルンガストの足元のコンピューターを操作している青年がイルムガルトにそう促す。

 

「親父、こいつは?」

 

「コウキ・クロガネ。私の弟子だ、かなり若いが優秀なメカニックであり、機体開発の専門家だ。私と一緒にラングレーを脱出した1人で、ATX計画にも関わっていた」

 

「話は後で、残念な事に脳波制御装置に不備があり、FCSの制御に回してる」

 

コウキの言葉にイルムがおいっと叫ぶ。グルンガストの最大の特徴は脳波を読み取り、機体制御を手伝う機能にある。それが無いと聞けば誰しも叫びたくもなるだろう。

 

 

「設備が無いのでそこまでの調整は無理だった。だがそれ以外の整備は完了している、まずは乗り込んでから文句を言って欲しい物だ」

 

「あー、いや、あんたを責めた訳じゃねえよ。マニュアル制御でもこいつはありがたい」

 

仮にマニュアル制御でもあっても、超闘士の名は伊達では無い。その操作性は十分に理解している、そしてジョナサンが呼んだのも脳波制御無しでグルンガストを操れるのは2人しかない。そして今地球にいるのは息子のイルムしかいないと判断したからだった

 

「さぁいけ! グルンガストでDCを叩きのめしてくるんだッ!」

 

変わりない自身の父親に苦笑しながらイルムはグルンガストへと乗り込む。

 

「良しッ! コウキ! コックピットブロックに行くぞ! グルンガストを発進させる!」

 

「はい!」

 

そしてジョナサンとコウキが格納庫を後にする。そしてコックピットブロックでジョナサンとコウキが見たのは信じられない光景だった

 

『チェーンジッ! ゲッタアアアーッ! ワンッ!!!』

 

3機の戦闘機が正面衝突したと思った瞬間に1体の特機へと合体した姿にジョナサンは驚愕し、そしてコウキは目を大きく見開き、そしてその顔を青くさせ、恐怖に身体を震わせながらゲッターロボと呟く……1人にはありえないという驚愕を、もう1人には恐怖を与えゲッター1がこの空域に現れたのだった……

 

 

 

 

「マジかよ……」

 

グルンガストのコックピットにいたイルムは信じられんと言う様子でそう呟いた。ゲッター3の戦闘能力は見ていた、そしてその名称から3タイプ作られた特機の1体ではと考えていたイルムの目の前で別形態に変形合体したのだ。その驚愕は言うまでも無いだろう

 

(3って言うのは形態の事だったのか……)

 

ゲッター1と叫んでいた特機はマントを翻し、上空を舞っている。20m強のゲッター3と違い、今自分が駆るグルンガストと同等のサイズの特機へと合体している姿に驚く。だが今は味方であり、飛行能力を持つのでこの場では非常にありがたい味方の存在であった。

 

「武蔵。聞こえるか?」

 

「イルムさんか? 青いのに乗ってるのか?」

 

武蔵の問いかけにそうだと返事を返すイルムの視界には、明らかにゲッター1を警戒する素振りを見せているリオンとガーリオンの姿がある。恐らくだが、アイドネウス島でその姿を1度見ているのだろう。その警戒のしようは厳重を通り越して恐れているようにも見えたから……

 

「ハガネがもうじき合流してくる。それまで耐えるぞ」

 

「了解っと! じゃあ行くぜぇッ! ゲッタートマホークッ!!」

 

両肩から飛び出した戦斧を手に吼えるゲッター1。その特徴的な頭部と相まって鬼と言う印象を受ける、40mクラスの特機が空を飛び、そして斧を手に襲ってくる。敵でありながらイルムはDCの兵士に同情した

 

「マサキ、ゲッターには近づくなよ。同士打ちになる」

 

「……みたいだな」

 

雄叫びを上げゲッターを駆る武蔵、戦場を縦横無尽に駆けめぐり斧を振るう姿は下手をすれば自分が撃墜されると思わせるほどの暴れっぷりだった。

 

「しゃ、こっちも行くぜッ! ブーストナックルッ!!」

 

脳波制御は使えないが、音声入力式武器選択装置は生きている。突き出したレバーと共に発射されたグルンガストの右拳はゲッターを警戒していたリオンを一撃で粉砕する、ゲッターロボに加え、サイバスター、グルンガストの3機の特機を相手にするDCの兵士の士気はガタ落ちであり、明らかに精彩を欠いていた。

 

「行くぜッ! アカシック……バスターッ!!!」

 

空中で魔法陣を描き、その姿を鳥に変形させたサイバスターが魔法陣の中から溢れ出した炎を纏い海中のキラーホエールを貫く。

 

(これは変形の出番は無いな)

 

グルンガストは飛行形態のウィングガスト、そして戦車形態のガストランダーへの変形機構を持つ。最初はゲッター3が海中のキラーホエールを相手にし、自分がウィングガストで支援する形でDCを撤退させることを考えていた。だがゲッター1へと変形した今、その姿は実に生き生きとしていた。

 

「トマホークッ! ブゥゥゥメランッ!!!!」

 

手にしていた斧を全力でリオンに向かって投げつけるゲッター1。それは近代の機動兵器の戦闘とは思えない荒々しい物であり、しかも投げ付けた斧は信じられないことに逃げるリオンを追い抜き、戻ってくる勢いで両足を引き裂くと言う出鱈目ぶりだ。

 

「行くぜッ! ファイナルビームッ!!」

 

ゲッターの出鱈目な攻撃に、浮き足立っているリオン。そこを狙ってグルンガストの胸部が変形し、現れたビーム砲の掃射が襲う。ゲッターを警戒すればグルンガストとサイバスターが、サイバスターとグルンガストを警戒すればゲッターが、1機でも戦況を左右するという特機が3機。しかもそれ1体1体が桁違いのスペックを誇る事もあるが、元々ウェーク島からアイドネウス島に撤退する最中であった事もあり、DCの戦力は面白いように削られていく。

 

「早々好きにはさせんぞッ!」

 

「くるかッ!!」

 

エルザムのガーリオンがディバインアームではなく、両腰に下げていた小型のバーストレールガンを手にゲッターへと肉薄する。こうなってしまえばDCは追走戦ではなく、撤退戦になる。エルザムも馬鹿では無い、ハガネが近づいて来ている上に3機の特機が相手だ。ハガネが現れる前に撤退する事それを行う為にはこの場で最も火力のあるゲッターを押さえる殿を自ら務める事にしたのだ。

 

「マサキ! 撤退するリオンは無視しておけッ! それよりもタウゼント・フェスラーの護衛に回ってくれッ!!」

 

エルザムの指揮はシンプルな物で、しかしそれゆえに悪辣な一手でもあった、サイバスターの機動力を前にすればリオンの機動力は役には立たない。しかしリオンはいかに安価で作ることが出来る機動兵器とは言え、軒並み破壊されては生産も追いつかない。それ故に可能な限り無事に帰還する為にサイバスターとグルンガストではなく、タウザント・フェスラーを狙うように命じていた。更に今回はハガネが近辺に存在することも把握していたので、通常のリオンとしての出撃ではなく、ミサイルコンテナを搭載しているリオンが数機部隊に編成されていた。通常のミサイルと比べて威力は低いが、防御力の低いタウザント・フェスラーには最悪の相性を持つ武器である。更にグルンガストを受け取る為に乗り込んだ際に支援物資を積んでいる事も確認しているイルムからすれば、可能な限り無事で回収したい為に追撃ではなく、防衛に入る必要があった。ミサイルを乱射しながら後退していくリオン、先ほどまで姿を確認していたキラーホエールは既に沖合いに離脱しており、完全に撤退戦を挑んでいるのは明らかだ。それは消極的な戦いだが、これ以上に無いほどに効果的な戦いだった。

 

「くっ……早いッ!」

 

「その程度では私を捉える事は出来んぞ、武蔵君ッ!」

 

そして武蔵は武蔵で完全にエルザムに翻弄されていた。テンペストから渡された戦闘記録と、アイドネウス島で見たゲッター1の戦闘能力、それらを分析しウェーク島でエルザムのガーリオンは急造の域は出ないが更なる改造が施されていた。一回りサイズダウンし、砲身を強化したバーストレールガン。肩部のソニックブレイカーの為の金属粒子生成装置を試作段階のブレード型に展開するパーツに交換し、両腕・両足も可変式のバーニア付きの装甲に変更し、今まで以上のスピードが出る代わりにマニュアル操作性が濃くなったが、機体制御に関しては段違いにパワーアップした。その対価に操作性が劣悪になったがその分細かい機動と精密な操作を獲得したのだ。

 

「ゲッタートマホークッ!!」

 

「ふっ!!!」

 

バーストレールガンの強化された砲身で受け止め、そのまま受け流すと同時に距離を少しだけ取り、両手のレールガンを乱射する。

 

「ぐうっ!」

 

両腕をクロスさせそのレールガンを防ぐ武蔵だが、その一瞬でガーリオンの姿を見失う。

 

「シュツルムアングリフ……突撃ィィィッ!!!!」

 

「ぐはっ!?」

 

背後からの全推進力を生かしたソニックブレイカーの直撃を叩き込まれ、海面に向かって落下するがギリギリで態勢を立て直しゲッターマシンガンによる射撃を行う。その弾幕の嵐は並みのパイロットならば防ぐことも、避ける事も不可能だが、相手はエルザム。あえて弾幕の中に身を投じることで最小限の被害と回避でマシンガンを全て防ぎきる。

 

「その程度では私は勿論ビアン総帥を止める等不可能だ!」

 

完全に懐に入られた武蔵は慌ててマシンガンで殴りかかる。だがガーリオンは舞うような高速機動で前に突っ込みながらそれを回避すると同時に、レールガンを放つ。ゲッターの弱点、それは自分と同等のサイズと戦ってきた事による、小型の敵との戦闘経験の少なさ……そしてモニターやセンサーが旧式の事による敵の察知能力の低さだった。完全にイニシアチブを取られ、ゲッターの強大なパワーも完全に空回りしていた。

 

「ふっ、ハガネが来たか……ならばここまで、ではな武蔵君。また会おう、その程度の強さでは私達を止める事等不可能だ」

 

エルザムの目的である部下の離脱は既に成し遂げられ、これ以上この空域にいる必要は無い。ハガネが合流したこともあり、エルザムは即座に撤退していくのだった……ハガネへの直接的な被害は無く、グルンガストを始めとした支援物資は手に入れた。それはハガネにとってはこの上ない勝利であったが、今回は武蔵にとってはただの一度の有効打も入らず、終始翻弄されていた完膚なきまでの敗北となるのだった……

 

 

 

第13話 思惑へと続く

 

 




今回のガーリオンは漫画版のOGでよく出てくるカスタムタイプのガーリオンと思ってください。ゲッター相手にノーマルのガーリオンはありえないと思ったので改造してみました。ゲームではハガネと共に戦闘になりますが、グルンガストと登場と共に撤退指令を出していたので、ハガネのPT部隊との戦闘はなしとなりました。次回はジョナサンやオリキャラのコウキとの話とアイドネウス島での話になります、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 思惑

 

第13話 思惑

 

タウゼント・フェスラーと共に着艦したサイバスター、グルンガスト、ゲッター1。ハガネはDCの追撃の可能性を考え、即座に移動を再開していた……

 

「良くぞご無事で、ジョナサン・カザハラ博士、それにコウキも無事でよかった」

 

タウゼント・フェスラーから出てきたジョナサンとコウキにロバートが駆け寄り、テスラ研での師であるジョナサンの無事と、同僚のコウキの無事を喜ぶ。

 

「久しぶりだな、ロバート。私もさすがに死を覚悟したよ」

 

ロバートと仲良さげに話すジョナサン。だが軍人と言う雰囲気でもないのに連邦軍の輸送機であるタウザント・フェスラーから姿を見せたジョナサンにあちこちから誰?と言う声が聞こえてくる

 

「テスラ・ライヒの研究所の人で……グルンガストの開発者、それにイルム中尉のお父さんだそうです」

 

ダイテツから話を聞いていたリオがジョナサンについての説明をする。その名前は連邦でも有名だったが、顔と名前が一致している兵士は少なく、その話を聞いてなるほどと納得する。ハガネがリスクを背負ってでも救出に向かう理由には十分だと

 

「カザハラ博士、それに皆さんお怪我は大丈夫ですか?」

 

「ああ。これぐらい君の笑顔があればなんともないよ。可愛いお嬢さん」

 

今までの真剣な表情を一転させ、軽い笑みを浮かべてクスハをナンパするジョナサン。その姿に間違いなくイルムの父親だと格納庫にいた全員が確信した。

 

「カザハラ博士? 今はそんなことをしている場合でありません」

 

だがジョナサンがクスハの手を取ろうとすると、その手をコウキが掴み鋭い視線で睨み告げながら告げる

 

「い、いやあ、コウキ。少しくらいはだな?」

 

「駄目です。奥さんにまたメールされたいのですか?」

 

コウキの鋭い視線にジョナサンはうっと呻いて言葉に詰まる、この短いやり取りでコウキとジョナサンの関係性が良く判る一幕だった。

 

「……コウキも相変わらずだな」

 

「当然だ。俺はユーナさんには恩がある、むしろあの人のような素晴らしい妻がいるのに、浮気をするカザハラ博士の神経が理解出来ん、ちなみに後1回ナンパしたら即メールですので」

 

ゴミを見るような視線にジョナサンが身体を小さくさせる、そんなジョナサンにコウキは話を進めるように促す。

 

「待て、待ってくれッ! 美しい女性を見たら声を掛けるのは男の嗜みだろう!?」

 

「……それならば離婚してからにするべきでしょう。メカニック、技師としては尊敬します。ですが、私生活がだらしなさすぎる」

 

見も蓋も無い正論にジョナサンは呻く事しか出来ず。手を合わせてメールだけは勘弁してくれと深く頭を下げる。そのやりとりに格納庫に笑が満ちる、堅物の秘書とだらしない上司と言う感じだ。

 

「全く、親父も何をしているんだか「ああ、あの時は言わなかったが、イルムガルト・カザハラ。リン・マオと言う女性がユーナさんにメールを送り、それについての弁明を送るようにと言っていたぞ。今日から2週間以内、1万文字以上で送信しろ」

 

ガッデムッ! と叫ぶイルムにコウキはふんっと鼻を鳴らす。どうも年上には敬意を払い敬語のようだが、このやや乱暴な口調と言うのがコウキの素の口調のようだ。女性陣の冷ややかな視線に晒されながらイルムが咳払いをして強引に話を真剣な方向へと持っていく

 

「グルンガストを持って来たなら、最初からそう連絡しろよ」

 

超闘士グルンガストを運んで来たと最初から聞いていれば、ハガネの対応も変わっていただろう。イルムが睨みながら告げると、ジョナサンはにやりと笑う。

 

「そんなことをして、スーパーロボットの登場シーンを盛り下げるつもりは無いッ! だがまぁ……今回の主役はあの特機のようだがな」

 

ジョナサンの視線の先にはゲットマシンに分離し、格納されているゲットマシンの姿。その目は鋭く、なんなんだ?と尋ねているのが良く判る

 

「まぁあの特機については構わないが、イルム。お前はグルンガストの性能を完全に引き出しているとは言えんな」

 

「その通りだな。イルムガルト、想定稼動範囲の40%。もう少し乗りこなしてくれなければ、ラングレー基地の皆の思いが無駄になる」

 

ラングレー基地の名前にイルムの顔が険しくなる、T3はラングレーから離脱してきた機体だから。だが整備不良だったのも事実で流石に唇を尖らせて文句を言う

 

「いや、俺は十分に努力したぜ? 整備不良の機体で良くやったと思う」

 

「リンなら、そんな泣き言は言わんぞ」

 

その余りに耳が痛い言葉に黙るしかない

 

「あの、話には聞いてましたけど、リンさんって社長さんじゃなくて、パイロットしても凄い人だったんですね!」

 

リオが興奮した様子で尋ねイルムが遠い目をする

 

「そうか、お前はアイツを知っているんだっけ?」

 

「はい! 私の憧れの人で、とても尊敬しています」

 

リン・マオ。月のマオ・インダストリーの社長にして、イルムと同じくPTXチームの一員。才色兼備の女社長としてその名前は非常に有名だ。正し、その気性の荒さも同じくらい有名だが……

 

「所で博士、北米のラングレー基地が制圧されたと聞いていますが……何があったのですか?」

 

「うむ。DCの機動部隊と寝返った連邦の猛攻を受けてな。私とコウキはラングレーが落ちる前に、脱出する事が出来たが……正直逃げるだけで精一杯だった」

 

顔を暗くさせて搾り出すような言葉にロバートは顔を歪める

 

「ま、待ってください、あの基地には教導隊出身のゼンガー・ゾンボルト少佐や。ATXチームがいたはずですッ! それなのに制圧されてしまったのですかッ!?」

 

極東支部のSRXとラングレー基地のATXチーム。開発コンセプトは異なるが、同じく異星人の脅威に対抗するためのPT開発計画の機体であり、さらに元教導隊ゼンガー・ゾンボルトがいて、なぜそうも簡単に制圧されたのですかとロバートが怒鳴る。

 

「落ち着けロバート。言っただろう? DCに寝返った連邦の猛攻撃を受けたと」

 

その言葉に全員が理解した。今まで遭遇した元教導隊は1人を除き、全てDCに所属していたからだ。

 

「……ゼンガー・ゾンボルト少佐とグルンガスト零式がDC側についてしまったからだ」

 

グルンガスト零式。その名前の通りグルンガストのプロトタイプだが、ゼンガー少佐の剣戟モーションを組み込み、ラングレー基地の守護者としてその名を馳せていた機体だ。それが敵に回ったと聞けば、ロバートもイルムも顔色を変えるのは当然だった……

 

「な、なんだって……!?」

 

「あ、あのゼンガー少佐がッ!?」

 

元連邦のエースチームである教導隊。そのメンバーがDC側についている……それはハガネのクルーに少なくない衝撃を与える。

 

「ちょ、ちょっと待って! これでカイ少佐を除いて教導隊のメンバーは全員DCに付いたってことじゃないのッ!?」

 

ガーネットが思わず声を荒げる。元連邦のエース達が全て敵に回っているかもしれない、それは絶望的な状況であると言うことを改めて思い知らせることになる

 

「エルザムも、こないだの奴もそうだったし……案外そうかも知れないな」

 

「ではカザハラ博士ッ! キョウスケやエクセレン、それにリシュウ先生はッ!?」

 

ラングレー基地にいた顔見知りの名前を挙げるが、ジョナサンは表情を暗くする、それが何を意味するのか全員が理解していた。

 

「彼らは私達の脱出を手伝ってくれたが、その後の消息は不明だ……だが心配は要らないさ、ATX計画の機体を乗りこなす彼らの事だ。きっと生きている、君達ハガネのクルーがこうして無事でいるのと同じようにな」

 

その表情には強い信頼の色が浮かんでいた。その顔を見て声を荒げたガーネットがすいませんと小声で謝罪を口にした時、ゲットマシンから降りてきた武蔵が近づいて来た。

 

「どうしたんだ? 何かあったのか?」

 

「おお、君があの特機のパイロットか! 後で話を聞きたいんだが良いかな?」

 

ジョナサンの高いテンションに引きながらも武蔵はおうと返事を返す。ジョナサンはその言葉を聞いて笑みを浮かべながら背後に控えていたコウキに声を掛ける

 

「ではコウキ、そろそろダイテツ艦長に挨拶に行こうか?」

 

「……了解です。リオだったな、すまないが、私とカザハラ博士を艦橋に案内してくれないだろうか? なに心配は要らない、この人が君に手を出すのならば、私が制圧しよう」

 

まるで自分が危険人物とでも言うような言葉にジョナサンはガックリと肩を落とし、コウキと共にリオに案内され格納庫を後にしたのだった

 

「んーなぁ、武蔵。お前コウキと知り合いか?」

 

「いや、初見だと思うけど……何か気になる事でもあるのか?」

 

武蔵はロバートの問いかけに首を傾げる。するとロバートも首を傾げながら自身の感じた違和感を口にする。

 

「いや、コウキって基本的にはポーカーフェイスなんだけど、ゲッターを見て顔を歪めてたからさ」

 

それは長い付き合いのあるロバートだけが感じ取れるコウキに関する違和感なのだった……

 

 

 

 

リオに案内されたジョナサンとコウキはハガネの艦橋にいた。タウザント・フェスラーで運搬してきた支援物資の引渡しの報告のためだ

 

「では、ダイテツ中佐。グルンガスト壱式の1号機とラングレー基地から持って来た量産型ゲシュペンストMK-Ⅱを2機お預けします」

 

「ご協力を感謝する。所で博士はこのあと極東支部へと向かわれるのか?」

 

連邦にとって苦しい戦いに追い込まれ、PTの補充が難しい今。量産型ゲシュペンストの2機の搬入はありがたい物でダイテツは深く頭を下げ、今後の予定を尋ねる。

 

「ええ、その予定です。極東支部ではグルンガスト弐式の開発も進んでいますし、ロバートがこの艦に乗っている間はそちらのお手伝いをしようと思っています。コウキはハガネに……「いえ、カザハラ博士。私も極東支部に向かいたいと思います」

 

本来の予定ではこのままコウキはハガネのメカニックとして登場する予定だった、だがそれを突如翻したコウキにジョナサンの顔色が変わる。

 

「何か気になる事でも? 私のナンパは心配しなくても」

 

「違います」

 

自分のナンパを心配してついて来るのでは? と予想したジョナサンがそう言うが、コウキは違いますと一刀両断にする。

 

「あのゲッターと言う特機について分析するのでしょう? 1人でやるよりも2人の方が効率的です。それにここの整備兵は良く連携が取れているので、そこに余計な者が入るのは良くないと思ったのです」

 

コウキの言う事は間違いでは無い、ただ2人にとっての計算外はダイテツの言葉だった。

 

「サイバスターもゲッターもマサキと武蔵君の個人的な所有物だ。それに関してはワシは関与しない、自らで交渉してくれ」

 

その言葉に判りましたと返事をする事が出来ない2人はそのままハガネの艦橋を後にする。

 

「さてとコウキ。何をイラついているんだ?」

 

「なんの事でしょうか?」

 

ジョナサンの切り出しにコウキは誤魔化すように言う。ジョナサンは指を左右に振りながら

 

「10年の付き合いだぞ? それくらいは判る。教えてくれ、何をそんなにイラついている?」

 

テスラ・ライヒに神童として迎え入れられたコウキ。ロバートやフィリオと共に研究し、自らが指導した青年の機微が判らないジョナサンではなかった。コウキは深い溜息を共に、右手で顔を覆い通路に背中を預ける

 

「似ているのです、私の記憶の中にある特機に……」

 

「……何か思い出したのかな?」

 

神童として迎え入れられたコウキだが、その経歴は非常に複雑な物となっている。雪の日にボロボロの状態で保護され、警察官を5人叩きのめし、留置所にいれられたが、出生記録もない浮浪児だった上に記憶喪失と言う事で施設に入れられたのだが、そこで優秀な頭脳を持っている事が判明した為。軍の育成施設に預けられ、パイロットとしても素晴らしい才覚を発揮。11歳の時に軍属か、研究員になるかと言う選択を出され、研究員を選び。保護観察の意味も兼ねて、ジョナサンの家に預けられたと言う非常に複雑な経歴の持ち主だ。

 

「いえ、ぼんやりとしているだけです。ただゲッターを見ると手が震えるのです」

 

「無理ならば部屋で休むか?」

 

手が小刻みに震えているので部屋で休むか? と尋ねるジョナサンだが、コウキは首を振る。

 

「何かを思い出せるかもしれないですから、私も同行します」

 

記憶を取り戻せるかもしれないと言われれば、無理に休めとは言えず。ジョナサンはコウキと武蔵を探し、武蔵の許可を得てからゲッターの分析を始める為に格納庫へと足を向けた。だからジョナサンはコウキの様子に気付かなかった、鋭い目をその目に宿すその姿に

 

「竜馬……お前も居るのか、いや……それなら何故旧ゲッターロボなんだ……それに何でゲッターGではない……」

 

「コウキ、何か言ったかね?」

 

ぶつぶつと呟いているコウキにジョナサンが振り返りそう問いかける。ジョナサンが振り返るとコウキの瞳に宿っていた鋭い光は一瞬で霧散した

 

「いえ、ゲッターロボと言う機体に興味があるだけですよ」

 

「ああ、それは私も同じだ。どんな機体なのか、どんな構造なのか楽しみで仕方ないよ」

 

ジョナサンが再び前を向いて歩き出す、コウキはジョナサンの後ろを歩きだすが……その目は触れたら切れる、そんな剣呑な光を宿していた……

 

「なるほど。3つの戦闘機とそれらの組み合わせで3パターンの特機に変形するのか」

 

「そうなりますね。ただ今は動力が不安定で自由に合体出来る訳では無いですけど……」

 

サイバスターの分析は断られたが、ゲッターの分析は武蔵が快く了承してくれたのでジョナサンとコウキはゲッターの分析を始めていた

 

「……出力に波があるようだな。補助動力として積んでいるジェネレーターの調整をしようか?」

 

「それで調子がよくなるなら頼んます」

 

武蔵がゲッターの分析と修理を頼んだのには理由があった。いかに自分がゲッター1の操作に慣れてないと言っても、今回の結果は余りにひどすぎた。リミッターで能力に制限が掛かっているとしても低すぎる能力には、武蔵も不満を感じていた。別に人を殺したいわけでは無い、だが止める為には、自分の想いを貫く為の力は必要だと武蔵は思っていたから……

 

「失礼だが、お前の名前は武蔵で良いのか?」

 

「お、おう……オイラは確かに武蔵だけど……なんでそんなにオイラを睨むんだい?」

 

「……悪いな、俺は元々こういう目つきだ」

 

鋭い視線を向けられ、肩を竦める武蔵。その姿を見てコウキは思案顔になるのだが……

 

「コウキ! 見てくれ! このコックピットは凄まじい骨董品だッ!」

 

骨董品といわれ渋い顔をしている武蔵に謝罪して、コックピットに足を向けるコウキ。武蔵から背を向けた、コウキは小さく呟いた

 

「お前もまた……迷い人か……」

 

その言葉は誰にも届くことは無く、分析用の端末を手にコウキはイーグル号のコックピットに向かって走り出すのだった……

 

「うーん……なんだろうな、この感じ」

 

ジョナサンとコウキがゲッターの分析と修理を行っている姿を見つめながら、武蔵は言いようの無い胸騒ぎを感じているのだった。

 

 

 

 

ハガネがマーシャル諸島近郊を進んでいる頃。アイドネウス島のビアンの執務室ではハガネへと追撃を仕掛けたいテンペストが直談判に訪れていた

 

「総帥、どうか私を再び前線へとお送りください」

 

「ならぬ。今の私が必要としているのは、連邦軍やエアロゲイターとの戦いで、精鋭部隊を率いることが出来る優秀な指揮官だ」

 

前線に出たいと言うテンペストを窘めるビアン。だがテンペストは首を左右に振り、不満を口にする。

 

「……今の自分は、連邦軍への復讐を遂げる為に生きているのです、それが……今回のような後方へ送られては……」

 

「お前が「ホープ事件」で妻子を失い、連邦を激しく憎悪しているのは知っている。だが死に急ぐような真似をするな」

 

席を立ち、テンペストの肩に手を置いて、落ち着くように告げるビアン。テンペストの痛ましい過去は知っている、それと同時に復讐と口にするが、自ら死を望んでいる事も知っている。だから死を求めて前線に出るなと告げる

 

「……総帥。私の過去を知っているのならば、せめてハガネの迎撃任務をお与えください。あの艦はこのアイドネウス島を目指していると思われます。放置しておくべきではありません、それに……」

 

そこで言葉を切ったテンペストはビアンの目を見つめ、自らの考えを口にする。

 

「今はまだ武蔵にも迷いがあります。説得を試みるチャンスを私に」

 

武蔵……その名前にビアンは笑い出す。それはテンペストを馬鹿にしたわけでは無い、メッセージの連絡ではあるがエルザムもまた武蔵の説得を望んでいたからだ。

 

「ふふふ、お前とエルザムがそこまで言うのだ。ならば、今度は私自身が説得に出るとしよう」

 

「総帥ッ!? 何を言っているのですかッ!?」

 

総帥自らが説得に出ると言う言葉にテンペストが止めに入る。何処の世界に自ら敵の前に自ら立つ司令官がいる、これは戦争であり、ビアンはキングだ。キングが自らポーンの前に出るなどあってはならないことだ

 

「心配は無い。それに……ゲッター炉心を組み込んだヴァルシオンのテストも行いたいのだ」

 

「は?」

 

ビアンの言葉にテンペストらしからぬ間抜けな顔を晒す、だがビアンはそんなテンペストに目もくれず、執務室を後にする。目的地はゲッターを格納していた地下格納庫だ、今そこにビアンの機体であり、DCの象徴機であるオレンジ色の禍々しいデザインの特機……ヴァルシオンが鎮座している。

 

「武蔵君……か」

 

テンペストは純粋に戦力として、そしてその年上を敬う性格に好感を抱き、そしてエルザムはその明るい人柄と胸に宿す正義感を見て、味方になってほしいと感じたという。

 

「ふふふ。武蔵君、君はこれを見ても私を説得しようと言うのかな?」

 

宇宙からトロイア隊が降下して来る事もあり、それの合流地点に向かうのも悪くない。ビアンはそう呟いてヴァルシオンに乗り込み、機体を起動させていく……モニターに明かりが止り、ヴァルシオンのエンジンが稼動する振動に笑みを浮かべる。

 

「私は楽しもうとしているのか……ふふふ、まだまだ私も若い」

 

自分の持てる技術を全てつぎ込んだヴァルシオン、そして旧西暦から現れたスーパーロボット。そのどちらが強いのか、それを知りたいと思っている事に笑みを零す。自分も歳だと思っていたが、まだこんな子供のような感情が残っていたのだとビアンは笑い、通信でおやめくださいと叫ぶ部下達の声を無視して、アイドネウス島から出撃するのだった。

 

 

だがビアンも武蔵も、そしてハガネも知る良しも無かった。DCと連邦の戦争の影に隠れて強大な悪意が動き出そうとしている事を……

 

 

 

第14話 強襲へと続く

 

 




次回はヴァルシオンの登場回をベースにオリジナル要素を加えて行こうと思います。具体的には、今回のラストの悪意の存在ですね

一体何が出てくるのか?そこを楽しみにしていただければ幸いです。そして今回登場した「クロガネ・コウキ」ですが、完全なオリキャラではないとだけ言っておきたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話 強襲 その1

 

第14話 強襲

 

マーシャル諸島近海を進むハガネのブリッジには普段見ない組み合わせがあった。ラトゥー二とシロとクロと武蔵と言う、異質すぎる組み合わせである

 

「……DCは、AMのほかに連邦軍の機体を使っている事があるから、気をつけて」

 

ラトゥー二が武蔵達に説明しているのは、識別信号の話だった。コウキとカザハラの改造で更にアップデートされた

 

「大体は所属基地で部隊コードで判別すればいいニャ?」

 

「いや、でもよ、クロ。奪われた機体だと、そのままだろ? そこの所はどうすれば良い?」

 

「……そこは対処が難しいけど、通信コードは判ってないと思うから、通信コードで確認を取るって言う方法もある」

 

なるほどなるほどと頷く武蔵とシロとクロ。そんな4人(内2匹は猫)をブリッジのメンバーは微笑ましそうとでも言うような表情で見つめていた

 

(……ラトゥー二が、ジャーダ少尉や、ガーネット曹長以外の人とこんなに喋るなんて珍しいわね)

 

特にオペレーターのリオは微笑ましそうに、その光景を見つめていた。ただし猫もいるので、やや複雑と言う感じだが

 

「いや、すまねえな。ゲッターにはこういうの全然入って無くてなあ」

 

「……大丈夫、これを組み込めば、判るよ」

 

南鳥島で助けられた事もあるラトゥー二は武蔵と話す事も多い、ジャーダやガーネット共武蔵が仲が良いのが理由だと思うが、武蔵の雰囲気と言うのは妙に親しみを持てる……そんな空気を纏っている

 

「……お前達何をしているんだ?」

 

休憩から帰ってきたテツヤがそう問いかけた瞬間。ラトゥー二は黙り込んでしまう、武蔵はそんなラトゥー二を見て苦笑する。

 

「オイラとクロとシロに敵機のデータを用意してくれてたんだ。ゲッターにそういうの付いてないから、目で見て判断してるだけだし」

 

武蔵の説明になるほどと納得した様子を見せ、テツヤは自分の席に腰掛ける。いずれ、ハガネを出るとしても共に戦う間の連携は必要不可欠だからだ。

 

「このデータをサイバスターのコンピューターに組み込めば戦闘がやりやすくなるニャ」

 

「お? じゃあオイラのゲッターにも入れてくれるか?」

 

OKにゃと返事を返すシロとクロ。そして猫にPC操作を頼む武蔵……その異様な光景にテツヤは顔を歪める。

 

「ふふん、私達は使い魔だからニャ。ただの猫と違うのニャ!」

 

「……西洋の魔女が使役する下級悪魔の事……」

 

ラトゥー二の補足にテツヤはますます顔を引き攣らせる、堅物なテツヤにはシロとクロの存在は中々許容できない物のようだ。

 

「ふふふ……テツヤ大尉って、そっちの方面の話は苦手みたいですね」

 

「あ、ああ……そう言う事は士官学校では習わないしな」

 

リオにからかう様に笑われ、テツヤは気まずそうに笑う。そんな様子を見ながら武蔵は座っていた椅子から立ち上がる。

 

「じゃあ、シロクロ、オイラのも頼むよ」

 

「……私が見てあげようか?」

 

「おお、良いのか、そりゃ助かる。早速行こうぜ」

 

混乱しているテツヤに背を向け、シロとクロを肩に乗せて武蔵とラトゥー二はハガネのブリッジを後にする。だが新たな脅威はハガネの直ぐ側まで迫っているのだった……

 

 

 

 

ラトゥー二とシロとクロに敵機のデータをゲッターにインストールしてもらった武蔵は、ベアー号のコックピットに背中を預け考え事をしていた。

 

「うーむ……どうしたものか」

 

テンペストやエルザムと言ったエースパイロットと呼ばれる相手と対峙し、武蔵は自分とそしてゲッターロボの弱点を感じていた。武蔵が戦ってきたのメカザウルスは良くも悪くも、力押しでありそこに駆け引きと言う物は余り存在しなかった。だがこの時代で武蔵が得意としてきた力押しの戦法は通用しないと言う事を嫌と言うほど思い知らされていた。緩急の付いた動き、正確無比な射撃、それらはゲッターに乗って戦っている時に体験した事の無い未知の戦闘だった。野性的な勘を持つリョウならば、直感で戦う。それは武蔵も同様だが、直感では対処しきれない相手が多すぎる。

 

「……隼人がいてくれたらな」

 

脳裏に過ぎるのはいけ好かないが、それでも友人としてやってきた隼人の姿。隼人ならば、ゲッター2を乗りこなし、そしてサイズが違ったとしてもPTと戦う事が出来ただろうと武蔵は思わずには居られなかった……

 

「いけねえ、いけねえ」

 

今は隼人も居ない、リョウもいない……いや2人からすれば自分が居なくなったのだ。自分で望んで、リョウと隼人に未来を託したのだ……それなのに何を弱気になっているのだ。

 

「なんとかする方法はあるはずだ」

 

アイドネウス島を脱出した時よりもゲッターの調子は良くなっている。確かにPTとの戦いは自分には辛い物だが、何とかなる。そう自らを鼓舞した武蔵はゲットマシンを降りようとして、ふと気付く。

 

「あれ?」

 

ジョナサンとコウキにメンテナンスと修理、そして改良を施されたゲットマシン。時間的な問題でパイロット保護装置を搭載する事は出来なかった(武蔵本人が必要ないと言ったのもある)沢山の計器の中の1つのゲージに武蔵の視線が止った。

 

(増えてる……?)

 

それはゲッター線の貯蔵量を示すゲージ。今まではゲージのメモリの4分の1部分を行ったり来たりしていたのだが、何故か今はメモリの半分までゲッター線が増えていたのだ。

 

「どうしたんだろうな?」

 

何で急にと思いながらも、改良で調子が良くなったのだと前向きで受け取ることにした武蔵の耳に男女の声が飛び込んでくる。

 

「俺に何か用か?」

 

声の聞こえたほうに視線を向けるとクスハとマサキがいた。何の話をしているのか? と興味を持った武蔵は食堂に向かう前にそちらに足を向ける

 

「おう、クスハ、マサキ。どうかしたのか?」

 

「あ、武蔵君。丁度良かった、武蔵君も探してたの」

 

クスハの弾ける笑顔に武蔵は思わず自分の顔を指差して、オイラも? と呟く。クスハは満面の笑みで武蔵君もだよと告げる。

 

「こないだの診断結果で2人とも体調が良くなかったから、特製ドリンクを作って来たの」

 

「お、おーそう言えば頼んでたな。ありがとう」

 

社交辞令じゃなかったんだと笑った武蔵とマサキにクスハがグラスを差し出してくる

 

「へー、独創的な色をしてるな」

 

「見た目は悪いですけど、効き目はありますから」

 

「いやー良薬は口苦しって言うしなッ! 早速頂くよ」

 

武蔵は満面の笑みで受け取る、だがマサキはどうしてもそのグラスを受け取る事が出来なかった。独創的な色と告げたが、どどめ色で見ただけでやばいと一目で判る。顔が引き攣っているのを見て、クスハがそうフォローをする

 

(いやいや、見た目が問題なんだけど……怪しげな粒粒が入ってるし……)

 

見た目が悪いってレベルじゃねえよと心の中で呟きながら、隣の武蔵を見ると腰に手を当ててそのグラスを一気飲みしている

 

「ぐっぐっ……ぷはあーッ! おー案外行けるなッ! お代わりあるかい?」

 

「は、はい! 勿論! どうぞどうぞ」

 

武蔵のグラスにクスハが嬉々として注ぐのを見て、見た目ほど味は悪くない? と警戒しながらマサキはグラスを手にする。だがその色と怪しい見た目にどうしても飲むと言う勇気が沸かない。

 

「マサキ、人の好意を無にするのはよくニャいニャ」

 

「武蔵は平気そうに飲んでるよ」

 

物凄く美味そうに飲んでいるので、見た目ほど悪くないのかもしれない。マサキはそう思い、グラスを口につける

 

「……うっ……」

 

「ん? マサキ。どうした?」

 

クスハと武蔵が見つめる中。マサキは急に苦しみ出し、格納庫の上に倒れる。

 

「な、なんなのッ!?」

 

そしてそれと同時にハガネの緊急警報が鳴り響くのだった……

 

 

 

 

降下カプセルによって降下したAM部隊がハガネの前面に展開する。コロニー統合軍……「トロイエ隊」が操る、宇宙戦特化型のコスモリオンによる部隊だ。

 

「よろしいのですか、隊長? 我々の任務は、降下部隊の護衛と新型AMの受け取りです」

 

トロイエ隊に所属する「レオナ・ガーシュタイン」は隊長である「ユーリア・ハインケル」に確認を取るが、ユーリアは返事を返さず、ハガネの包囲網を狭めるように指示を出す。

 

「任務が終り次第、直ぐに宇宙に帰還せねばなりません。ここで時間を無駄にする訳には……」

 

「私はエルザム様から報告があったハガネとゲッターロボに興味がある。彼らがどれだけの力を持っているのか、この目で確かめたい」

 

レオナの言葉を遮るようにユーリアが告げる、だがレオナはその言葉を聞いて僅かな焦りの色を見せる。

 

「しかし、早くDC部隊と接触しなければ……」

 

「融通の利かない所は相変わらずだな、レオナ・ガーシュタイン。やはり血筋は争えんか?」

 

ユーリアの言葉に一瞬言葉に詰まったあと、レオナは自分の考えを口にする

 

「私は総司令から与えられた任務を確実に遂行したいのです」

 

「良いか、レオナ。我がトロイエ隊は、マイヤー総司令をお守りするためにいかなる敵とも戦わねばならない、だから新たな敵との戦闘は

我等の力を向上させるまたとない機会だと思え。特に、ハガネにいるゲッターロボはあのエルザム様が強敵であり、なんとしても説得したい相手と言っていた。ならばその力を見て見たいとは思わないか?」

 

ユーリアの言葉にレオナは少し考え込む素振りを見せたあと、判りましたと返事を返すのだった。

 

「……出てきたか、あれがゲッターロボか」

 

ハガネから出撃したPTの中に浮かぶ3色の戦闘機。変形合体すると聞いていたが、本当に戦闘機なのだなと呟く

 

「試作機や試験機を前線に投入するなんて、それほどまでに彼らの戦力は困窮しているのでしょうか?」

 

浮遊しているとも取れるゲッターロボではなく、ハガネから出撃したPTを見てユーリアに問いかけるレオナ。ユーリアはその言葉を聞いて笑みを漏らす

 

「宇宙戦闘仕様で出撃している我等に言えた事では無いぞ? ゲットマシンのデータ取りを忘れるなよ」

 

「隊長。それほどまでにあのゲットマシンと言う物は警戒するべきなのですか?」

 

とても戦闘に耐えるようには思えないと告げるレオナ。ユーリアはその言葉を聞いて笑う、確かに見た目はとても戦闘に耐える物ではない。更に言えば何故飛べるのかと思わずにはいられない作りだ

 

「レオナ、油断はするな。あのエルザム様があそこまで注目しているのだ、何か秘密があると思え」

 

ユーリアはレオナをそう叱責し、PT1体に付き2機による攻撃を徹底せよと命令を下すが、ゲットマシンだけには4体で包囲せよと命令を下す。勿論自身もその中に含んでだ、レオナはユーリアの指示に腑に落ちない点を感じながらも指示に頷き、ハガネへとコスモリオンを走らせるのだった。

 

 

 

 

ラングレー基地から運ばれてきた2機のゲシュペンストMK-Ⅱは今までメッサーに乗っていたジャーダとガーネットの機体になり、イルムがグルンガストに乗り換えた事で空いたヒュッケバイン009はラトゥー二が乗ることになった。戦力的には格段に上昇している筈だったのだが、ハガネは劣勢へと追い込まれていた。

 

「ちいっ! ここまで分断してくるかッ! 大丈夫か! ガーネットッ!」

 

「な、何とかッ! っと!」

 

コロニー統合軍のエリート部隊でありトロイエ隊の錬度は想定以上に高く、そして連携をさせない事を重視し、ハガネのPT部隊は完全に分断されていた

 

「各員。冷静に対応せよ、良いか勝機はある。僅かなチャンスを見逃すな」

 

イングラムからの通信がハガネの部隊全員に伝えられる。2機による連携攻撃はミサイルにより足を止め、レールガンによる狙撃。それを素早くスイッチする事で足止めと破壊を同時に行っていた。イングラムの言うチャンスは役割が交代する瞬間……それも殆ど一瞬に等しい。

 

「でも教官。武蔵は……」

 

「ふっ、ほっておけ。あいつは自分で何とかする。それよりもビルドラプターの攻撃で戦線を崩せ、合流する機会を作るのを忘れるな」

 

4機のコスモリオンの猛攻撃に晒されているゲットマシンを見て、リュウセイが心配そうに告げるが、イングラムはほっておけとリュウセイに指示を飛ばす。2機による攻撃は弾幕に呼ぶに相応しい猛攻撃だ、だが相手に好き勝手されて撃墜されるわけには行かない

 

「そこだ! ファイナルビームッ!!!」

 

グルンガストの胸部から放たれた熱線が僅かにコスモリオン同士の連携を分断する。その一瞬の隙を突いて、ジャーダとガーネットのゲシュペンストが合流し、M950マシンガンの弾幕を張る。

 

「見たな、リュウセイ。ゲットマシンの他に飛行できるビルドラプターで合流する機会を作れ、相手は確かにエース部隊だ。だが相手は宇

宙戦仕様だ、大気圏での戦闘は前提にされていない。その面ではお前が有利だ、やってみせろ」

 

「りょ、了解ッ!」

 

了解と返事を返すリュウセイだが、味方と敵を瞬時に見極め、合流の経路を作る。その難易度の高さに冷や汗を流す、だがチャンスはある。イングラムに言われたとおり良く観察すると確かにコスモリオンの動きは鈍い所がある、後はセンサーを確認しながら攻撃を放つタイミングを見計らうだけだ

 

「へっ! 行くぜええッ!!!」

 

視界の隅でゲットマシンが海中へと突っ込んでいく、今まで上昇したり旋回したりしたのに、急な急降下は完全にコスモリオン達の包囲網を突破していた。

 

「ッ! そこだッ!!!」

 

その突然の急降下によって発生した気流の変化でコスモリオンの動きが一瞬乱れた。その一瞬を見逃さず、アンダーキャノンを放つ

 

「リュウ! ありがとう! ライッ!」

 

「了解です! 大尉ッ!」

 

アヤのゲシュペンストとシュッツシバルトが合流したのを確認するのと同時に、リュウセイはビルドラプターを変形させる

 

「ッ!?」

 

「貰ったッ! 行けッ!!」

 

左右から挟撃を放とうとしていたコスモリオンの目の前でPT形態に変形する。飛行能力を失い降下していくビルドラプターにコスモリオンは一瞬硬直する。降下していく衝撃に顔を歪めながらリュウセイはビルドラプターを操作し、M-13ショットガンの引き金を引いた。狙ったわけでは無い、弾幕でコスモリオンの追撃を防ぎ一箇所に留める。それがリュウセイの狙いだった

 

「ライ! 頼んだッ!」

 

「ふっ、任せろッ!」

 

ツインビームキャノンの掃射でコスモリオンが2機姿勢を崩す、それを確認しながら機体を反転させ、何とか足から着地させるリュウセイ。そして姿勢を崩しているビルドラプターにシュッツシバルトとゲシュペンストが支援に入る、こうなるとコスモリオンも追撃を仕掛ける事が出来ず、一時上空へと離脱する。

 

「随分と無茶をしたな」

 

「いや、何度か武蔵が同じような動きをしてるのを見てるからな」

 

「……全く、でも良い判断よ」

 

ライの問いかけにリュウセイは苦笑しながら返事を返す。ゲッターの変形パターン、そして合体パターンを見ていた。ゲッターが出来るなら自分も出来ると思い挑戦し、そしてそれを成功させた……それはリュウセイのパイロットとしての腕が確実に成長していると言う証だった。

 

 

 

 

 

 

ユーリアは自らのミスを感じていた。ゲットマシンはゲッターに合体させなければ脅威では無い、分離形態のうちに確保する事が出来れば無力化させるのにもっとも効率の良い方法として聞いていた。そしてそれを実行していたのだが、コックピットの中でユーリアは笑みを浮かべたのだ。

 

(良い腕をしている)

 

あんな戦闘機で4機のコスモリオンによる攻撃をかわし続ける武蔵の腕にエルザムが認めたのも納得だ。だがユーリアはまだゲッターと言うのを理解していなかった、まさか自ら海中に突っ込んでいくそんな行動に出るとは思っておらず反応が遅れたのだ。

 

「追えッ!!」

 

自らも追いかけながら叫ぶ。だが急降下していくゲットマシンのスピードには追いつけない

 

「ブーストナックルッ!」

 

「T-LINKリッパーッ!!」

 

合流しつつあるハガネのPT部隊による援護射撃も入り、ゲットマシンに追いつけない。いや、追うことに恐怖したのだ。この勢いで海中に突っ込むと言う事は鉄の壁に自ら飛び込むのと同意儀であり、その事に恐怖したユーリアは機首を上昇させ追撃を中断させたのだ。

 

「チェーンジッ! ゲッタアアアーッ!!! ワンッ!!!」

 

水柱を上げながらゲットマシンが海中へと消える。そして海中から弾幕が放たれる

 

「くっ! 合体を許したかッ!!」

 

海面を割って現れたゲッター1が両手にしたマシンガンによる弾幕。特機サイズの攻撃にユーリア達は回避することしか出来ない

 

「トマホークブゥゥメランッ!!!」

 

しかしゲッターの攻撃はそれでは終らない、マシンガンを収納すると同時に飛翔し、両手の斧を投げつけてくる。リオンと同等のサイズの斧が突っ込んでくるのは恐怖であった。エルザムが危険と告げた理由をユーリアは今理解した

 

(恐ろしい機体だ)

 

あの運動性能に加えて、一発でもかすればリオンを粉砕する攻撃力。それはいかにエースパイロットと呼ばれるユーリアにとっても、動きを硬直させるだけの威圧感を持っていた。

 

「……流石エルザム様が脅威と言っただけの理由はある。総員撤退だ」

 

これ以上は危険と判断し、部隊に撤退指令を出す。今回はあくまで様子見だ、これで深追いし、負傷するのはユーリアにとっても本位では無い。機体を反転させ即座に戦闘空域から離脱していく、あくまで本来の任務はDCと合流し、新型AM「ガーリオン」を受け取ることにある。これが命じられた戦闘ならば、最後の1機になるまで戦ったが、偵察目的で深追いはしない。

 

「隊長。ライディースがハガネに乗っていました」

 

「……そうか……」

 

自らの総司令であるマイヤーの息子がハガネに乗っている。自分は交戦しなかったが、このような場所で再会した事にレオナは少なくないショックを受けている様子だった。

 

「レオナ、私達は総司令に与えられた指令を全うするのだ」

 

「……はい」

 

トロイエ隊は数少ないビアンとマイヤーの真意を知る部隊だ。自分達が為すべきことを忘れるなとレオナに命じ、ユーリアは合流地点に向かってコスモリオンを向かわせていたのだが……

 

「「「ギシャアアアアアッ!!!」」」

 

「な、何ッ!?……くっ! 総員反転! この空域から離脱するッ!」

 

「隊長しかし! 離脱する先にはハガネがッ!」

 

「仕方ない! 我等は全滅するわけにはいかんのだッ!!!」

 

突如海中を割って現れた異形によって、撤退を妨害されハガネのいる空域へと追い込まれることになるのだった……

 

 

 

 

トロイエ隊が離脱し、ブリッジが着艦命令を出そうとした時。ハガネのレーダーに反応があり警報を鳴らす

 

「今度は何だッ!」

 

「この空域に急接近してくる物体を感知しましたッ! 先ほどの部隊ではありませんッ!」

 

エイタの報告にブリッジに緊張感が走り、PT部隊に警戒指令を出す。

 

「識別信号はどうなっている?」

 

ダイテツが険しい顔でエイタに尋ねる。このタイミングでの増援、トロイエ隊と言うエリート部隊を囮にした。次に現れる敵に警戒するのは当然の事だった

 

「……識別信号は不明ッ! 熱源反応は特機クラスですッ!」

 

「何が現れるというんだ……ッ!?」

 

そしてハガネが警戒する中。海面の上を滑りながら禍々しいオレンジ色の特機がハガネの直ぐ側に現れる。その威圧感は凄まじく、ブリッジだけではなく、リュウセイ達にも緊張が走る。

 

「な、なんだよ。あの巨大ロボットは……」

 

「な……なんだ、あいつはッ!?」

 

ゲッターも40M級の特機でかなり巨大だが、今現れた特機は60m近い。その巨大さに戦場に緊張感が走る。赤とオレンジの威圧感を与えるカラーリングに、不気味さを与える4つの複眼……機体の巨大も相まって凄まじい存在感を持つ特機だった。

 

「グランゾンでも、エアロゲイターの機体でもない……DCの新型か、警戒を緩めるな」

 

イングラムからの通信に続き、オープンチャンネルで特機からの通信が入る。

 

「初めまして、諸君。私がDC総帥ビアン・ゾルダークだ」

 

機体から入った通信と映像は紛れも無くビアンの姿でハガネそしてPT部隊に驚愕が広がる。

 

「び、ビアンっていったわね。本物ッ!?」

 

「さ、さあな……ホログラフィかもしれないぞ」

 

ガーネットの叫びにジャーダが軽口を叩くが、それはそうあって欲しいと言う願いの表れであるのは明らかだった。

 

「あの機体は実体ッ! 本物のビアン・ゾルダークッ!」

 

「ど、どうしてDCの総帥がこんな所に……」

 

直ぐにラトゥー二の分析結果が伝えられる。何故、どうしてと言う疑問が全員の脳裏を過ぎる

 

「……久しぶりだな、ビアン・ゾルダーク」

 

「まったくだな、ダイテツ・ミナセ。ヒリュウの進宙式以来か?」

 

同じくオープンチャンネルで通信を入れるダイテツに、ビアンは笑みを浮かべながら返事を返す。

 

「ここに現れた目的は何だ?」

 

「決まっているだろう?この私が直々に赴いた意味が判らないわけではあるまい。最後のチャンスを与えに来たのだよ」

 

「チャンス……だとッ?」

 

「そうだ。己の運命を選ぶ最後のチャンスだ。我が軍門に降りるか、それともここで死を選ぶか……選択は2つに1つだ」

 

静かに告げるビアン。機体の威圧感もあり、誰もが動く事が出来ない中。ただ1人だけが動き出すッ!!!

 

「うおおおおおおッ!!!」

 

「ふっふふふ、来るか。武蔵君」

 

ゲッタートマホークを手にヴァルシオンに切りかかる。ビアンはそれを見て、ヴァルシオンが手にしてたディバインアームで受け止める。

 

「ビアンさん、こんな形で残念だよ」

 

「ふふふ、残念と思うことは無いぞ武蔵君? 私がここに来たのは君を迎えに来たと言うのもある」

 

ビアンの言葉にハガネのPTがゲッターの方を見る。スパイと言うのを疑っているわけでは無い、テンペスト、エルザム、そしてビアン……DCの関係者全員が武蔵を説得に来ている。それだけDCでも重要視される立場に武蔵がいたと言う事に驚いていたのだ

 

「迎えか……そうだな。ビアンさんが戦争なんてしなければ……オイラはついていったかもしれないな。あんたには本当に感謝しているし。でもな……戦争をしているあんたにはついて行けない」

 

「ふ、ふふふ……ハーッハハハハハッ! そうだ。君ならそういうと思っていたッ!!!」

 

高笑いをしたビアンはディバインアームを振るい、鍔迫り合いをしているゲッターを吹き飛ばす

 

「来るが良い。ハガネ、そしてゲッターロボ。ここで私を倒せばこの戦争は終るぞ? 平和を取り戻したいのだろう? ただし、お前達にこの究極ロボ「ヴァルシオン」を倒す事が出来ればの話だがな」

 

ビアンの挑発するような言葉にダイテツが指示を飛ばす。

 

「全機ヴァルシオンへの攻撃を開始せよッ!!」

 

その指令を合図にPT部隊、そしてゲッターロボがヴァルシオンへと向かっていくのだった……

 

 

第15話 強襲その2へ続く

 

 




今回はここで区切りがいいので、ここできりたいと思います。次回からオリジナル要素をかなり入れていく予定です、ユーリア達トロイエ隊が遭遇した物はなんなのか、そしてゲッターが加わっているハガネの部隊とのヴァルシオンの対決がどうなるのか、そこらへんも楽しみにしていただければ幸いです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話 強襲その2

 

第15話 強襲その2

 

究極ロボ「ヴァルシオン」の強襲。それは確かにピンチでもあるが、それであると同時にチャンスでもあった。ここでDCの総帥であるビアンを倒す事が出来ればその地点で連邦の勝利は決まる。

 

「各員ヴァルシオンへの攻撃を開始しろッ!」

 

特機ではあるがヴァルシオンは1機。究極ロボだとしてもハガネのPT7機に加えてゲッターロボとグルンガストと言う特機もいる、勝機は十分にあると思うのは当然の事だ。

 

「行けッ!!!」

 

先陣を切ったのはリュウセイだ。ヴァルシオンの威圧感は確かに凄まじい物だった、だがその機体のサイズもあり狙わなくても当たると考えM-13ショットガンの引き金を引く。

 

「グルンガストとゲッターを攻撃の基点とする。各員援護を忘れるな」

 

イングラムは指示と共にM-950マシンガンの引き金を引く、数はハガネの方が圧倒的に有利だ。だが20m級のPTに対して、ヴァルシオンは60m近い、有効な打撃をPTで与えるのは難しい。それならば弾幕による支援を行いつつ、グルンガストとゲッターを主力にすえるのは当然の事だ。だがイングラムには1つ計算外の事があった……

 

「ふふふ……どうした?お前達の力はその程度か?」

 

ヴァルシオンにPT隊の射撃が命中する寸前、なんらかの干渉があり弾幕はその威力を削がれ、ほんの数発が被弾しただけであった

 

「んなッ!」

 

「マジかッ!?」

 

その弾幕と同時に突っ込む予定だったグルンガストとゲッターがその足を止める。ヴァルシオンは一切のダメージを受けておらず、その手にしているディバインアームの切っ先をグルンガストとゲッターに向けていたからだ。これが装甲に阻まれたならば判る、だが明らかに装甲では無い何かに阻まれた。その現象を前にイルムと武蔵もヴァルシオンに踏み込む事が出来なかった

 

「い、今の……見た!?」

 

「あ、ああ……!!」

 

マシンガン、ショットガンの弾頭は何かに衝突したように潰れ、ヴァルシオンに届かなかった。その異様な光景に先ほどまでの雰囲気は一気に霧散した、究極ロボとビアンが自信を持って告げた。それだけ誇る事が出来る能力をヴァルシオンは目の前で見せたのだ、警戒度が跳ね上がるのは当然の事だった。

 

「ヴァルシオンは何かのフィールドで守られている……?」

 

「ラトゥー二、何か判る!?」

 

ヴァルシオンの間近にいたアヤは一瞬だけ、奇妙な力場が発生したのを見ており。その言葉を聞いたガーネットがラトゥー二に何が起きたのかと問いかける。

 

「ヴァルシオンの機体周辺に、均質化力場が発生している。そのためにこちらの攻撃の運動エネルギーは湾曲されて、境界面に沿って張力拡散してしまう……ッ!」

 

ラトゥー二の言葉を理解出来たメンバーが息を呑む中、通信を聞いていた馬鹿2名が叫ぶ。

 

「悪い、オイラ馬鹿だから何言ってるかわからねえッ! もう少し判りやすく教えてくれッ!」

 

「俺にも判りやすいように言ってくれッ! 均質化力場と運動エネルギーってなんだッ!?」

 

武蔵とリュウセイだけがラトゥー二の説明を理解できないでいた。だがそれも無理は無い、2人は民間人であり、専門的な知識など持ち合わせていないのだから。

 

「つまりだ。こちらの攻撃はエネルギーフィールドのような物で、威力が落ちてしまうって事だ」

 

溜息交じりでライが武蔵とリュウセイに簡単に説明する

 

「なるほど、要はバリアで身を守ってるって訳か……」

 

「バリアか、ならぶっ飛ばせばいいなッ!」

 

脳筋の武蔵がゲッタートマホークを装備し、ヴァルシオンに突貫して行こうとする。竜馬と一緒に考えなしと良く隼人に怒鳴られていたのだ、難しい事を言わずに単純に言うと突貫する性質の竜馬と武蔵に隼人がフォローするのにどれだけ苦労したか想像するのは容易い。

 

「待て武蔵、バリアと言ったがそのバリアはハガネの物と比べられないほどに強力だ。単機で出撃した理由がこれか」

 

生半可な攻撃を跳ね返すバリア、60m近い特機による攻撃力。これならば確かに単機で出撃してくるのも納得だとライが呟く

 

「んじゃあどうすればいいんだ、難しい話とかしないで簡単に教えてくれ」

 

「単純な話だ、力場に負荷を与えつつ、張力拡散をさせつつ攻撃を続けろ」

 

イングラムが2人にも判りやすいかはどうかは別に説明を続ける。だが馬鹿2人は内容を全く理解出来ないでいた

 

「「ど、どう言う事!?」」

 

「気合を入れて集中攻撃して、相手のバリアをぶち破れってこった」

 

イルムが疲れたように言うと、武蔵とリュウセイは漸く理解した様子だ。イルムの話を聞いた武蔵はゲッターにゲッタートマホークを両手に持ち走らせる。

 

「うおおおおおッ!!!」

 

雄叫びと共にヴァルシオンに向かって行き、あいつ話聞いてたかッ!? と言うイルムの叫びが木霊するのだった……

 

 

 

 

ヴァルシオンのコックピットでビアンは薄く微笑んでいた。自らを打倒せんと隊列を組むPT部隊、テスラライヒのスーパーロボット「グルンガスト」そして異世界からの来訪者である「ゲッターロボ」壮大とも取れるその光景はビアンの心を熱くした。

 

「ゲッタートマホークッ!!!」

 

「ふっふふふ、甘いな」

 

両手に斧を持ち突っ込んできたゲッターロボの一撃を敢えて湾曲フィールドで受け止める。ゲッターほどの出力ともなると、湾曲フィールドは突破されるが、それでも致命傷には程遠い。

 

(……同調は上手く行っているか)

 

シュウ・シラカワによって齎された技術により、元々研究していた湾曲フィールドの技術は大きく飛躍した。そして更にゲッターロボの修理で得た技術で複製したゲッター炉心も組み込んだヴァルシオンは比喩でもなんでもなく究極ロボの名に相応しい性能となった。ただし炉心のサイズダウンは出来ず、60M級のヴァルシオンで漸く組み込めるレベルであったが……ゲッターに組み込めるほどサイズダウンさせた早乙女博士の頭脳にビアンは既に敬意すら払っていた、旧西暦の技術でよくこれほどまでに素晴らしい特機を作り上げたと心の底から思ったのだ

 

「今度はこちらから行くぞッ!」

 

「こいやあッ!!」

 

ハガネのPT部隊からのおいっと言う叫びが響くが、ゲッターロボは両手に斧を構えビアンの攻撃を受け止める気満々だ。

 

「この一撃で死んでくれるなよッ!!」

 

ディバインアームを大上段から振り下ろす。ゲッタートマホークとぶつかり火花が散り、ゲッターの巨体が地面に沈む……だがそれだけだった。PTならそのまま両断しかねない一撃を完全にゲッターは受け止めていた

 

「ぬ、ぬうううううッ!!!」

 

「おおおおーッ!!!」

 

ビアンと武蔵の唸り声が重なる。出力を上げて断ち切ろうとするヴァルシオンとそれを耐えるゲッターロボ、サイズの差は明らかだったが信じられない事にゲッターは完全にその攻撃を防いでいた。

 

「今だッ!撃てッ!!!」

 

ゲシュペンストや、そのマイナーチェンジのシュッツシバルト、バニシング・トルーパーと悪名高いヒュッケバインがビルトシュバインに乗るパイロットの指示で弾幕を放つ。

 

「ふふふふ、無駄だ」

 

防ぐ素振りも必要ない、ゲッター線によって強化された湾曲フィールドの防御力は今までの非では無い。実弾もエネルギー弾もその全てが湾曲フィールドの前に弾かれる

 

「これでも駄目なのかッ!?」

 

「化け物かッ!」

 

恐れ戦くハガネのPT部隊のパイロットの叫びに笑みを浮かべる。元よりDCのフラグシップとして建造し、そして地球圏の盾であり、矛として作成したヴァルシオン。その強さはビアンにしても満足できる物であった……だがビアンにとっての計算外が1つあった。それはゲッター線のエネルギーの特徴を十分に理解していなかった事にある、放射能による無限動力。僅かであれど莫大なエネルギーに変化する魔法の光……もっと研究していればゲッター線の特徴を把握する事も出来ただろう。だがビアンには研究をしている時間も、理論を纏めている時間も無く、また炉心を完成させたと言う事を喜びそのままヴァルシオンに搭載してしまったのだ。

 

「ゲッタアアア……ビィィームッ!!!!」

 

トマホークでディバインアームを受け止めたまま、腹部が展開しゲッタービームが発射される。だがそれを見てビアンは笑う、ゲッターロボの炉心には現段階でリミッターが3つ設置されており、そのビームの破壊力は本来の半分以下にまで落ち込んでいる。そんな攻撃で湾曲フィールドを貫くことは出来ないと確信していた。

 

「ふん、無駄……何ッ!?」

 

無駄と言おうとした瞬間ゲッタービームと湾曲フィールドが眩い翡翠の光に包まれ対消滅する。ゲッター線とゲッター線はぶつかり合えば対消滅する、無論エネルギー量に差があればその通りでは無い。だが湾曲フィールドに含まれるゲッター線とゲッタービームではゲッタービームの方が僅かに上であった、その結果が湾曲フィールドの消滅だ。

 

「計都羅喉剣ッ!!!」

 

その隙を見逃さずグルンガストがヴァルシオンに肉薄し、計都羅喉剣を振るう。その横薙ぎの一撃はヴァルシオンの装甲に傷をつけることは無かったが、その巨体を僅かに吹き飛ばす。

 

「むっむう……まさかこんな弱点があろうとはッ……」

 

ゲッター線同士の対消滅……ビアンの頭脳を持ってしても計算出来なかった現象だ。だがビアンはその程度ではうろたえない、再び湾曲フィールドを展開する。その直後に弾幕が湾曲フィールドにぶつかり軌道が逸れていく、僅かに命中した弾丸に気勢が上がる

 

「よっしゃあ! 武蔵! またそのビームを撃ってくれれば俺達の攻撃も通るッ!」

 

「うっし! 武蔵! ジャンジャンビームを撃ってくれッ!」

 

リュウセイとジャーダがそういうのは無理も無い。相手の無敵のバリアを貫いた、これで僅かながら勝機が見えたのだから……だが武蔵の返事は無理と言う言葉だった。

 

「……いや、悪い。無理だ……炉心が安定しない、ゲッタービームは後撃てて2発が限界だ」

 

ゲッターロボには通信機能は付いておらず、武蔵の言葉はスピーカーで外にも響く。初めて有効打撃を与えたが、後2発が限界……僅かに見えかけた光明だが、それは余りに分が悪すぎる。

 

「武蔵、無闇にビームを使うな。各員、ゲッターロボを支援しチャンスを作るまで耐えろ」

 

この戦いゲッターロボが落ちればハガネの敗北は決まる。故に支援しろと言う命令が下されるが、ビアンもそれを大人しくさせるつもりは無かった。ヴァルシオンの身体から放たれた光が周囲を黒く染め上げていく……

 

「なんだ……何が起きて」

 

「ちょっと! 機体が動かないわよッ!? どうなってるのッ!?」

 

パニックになった声があちこちから響く。それはヴァルシオンに搭載されている重力制御装置による行動阻害……ヴァルシオンが究極ロボと言うのはその防御力では無い、重力操作による超広範囲における攻撃性能にあるのだ。

 

「う……うおおおおおッ!?!?」

 

「む、武蔵ッ!」

 

だがゲッターロボだけは違った……重力を遮断され上空へと舞い上がり、空中で固定される。

 

「武蔵君、そしてゲッターロボ。君達はこれに耐えられるか?」

 

ヴァルシオンが手首についた砲身をゲッターロボへ向ける。発射口にエネルギーが溜まるのを見て武蔵もリュウセイ達も動き出そうとする……だが機体は動かない

 

「ぐっぐくうう……マジかッ!? どうなってるんだ! 畜生ッ!!」

 

「無理に動かすなリュウセイ! モーターが焼ききれるぞッ!!」

 

重力で固定されている以上無理に動けば、機体の駆動装置が壊れる。だがそれが判っていてもジッとなど出来る訳が無い

 

「ツイン……ビームカノン……発射ッ!!」

 

「ファイナルビームッ!!!」

 

「ゲッターロボの救助を行う! 主砲の照準あわせッ! てえッ!!」

 

機体が動かなくてもその位置で狙う事が出来れば動けなくても攻撃出来る。シュッツバルト、グルンガスト、そしてハガネの主砲がヴァルシオンを襲う。普通のPTや特機、戦艦ならば撃墜が可能な一撃もヴァルシオンの湾曲フィールドに弾かれる

 

「クロスマッシャー……発射ッ!!!」

 

そして赤と青……そして翡翠色のエネルギーが螺旋回転し、巨大なエネルギー波となり、空中で縫い止められたゲッターロボへ向かって放たれた……

 

「む、武蔵ぃーーーッ!!!」

 

リュウセイの悲痛な叫びが響く、ゲッターロボは螺旋状のエネルギーに飲み込まれ光の中へと消えてしまったから……1人を除いて武蔵とゲッターロボが光の中へと消えたと思った

 

(爆発はしていない……紙一重で交わしたか……だがどこにいる)

 

ヴァルシオンの力で動揺しているが、直ぐに気づくだろう。爆発もなく、そして破片も落ちてこない。それはゲッターの生存を意味していた……だがどこから出てくるとイングラムが鋭い視線で周囲を見回す。だがセンサーでも肉眼でもゲッターの姿は確認出来ない、一体何処へ消えたのか……

 

「……さて、次は君達だ」

 

ビアンもまた周囲を観察しながらも、PT隊に視線を向ける。爆発もしていなければ、破片も落ちてこない。更に言えばあれは威嚇のつもりで、ゲッターの足元を狙ったのであってゲッター本体は狙っていない。余波でダメージは受けているかもしれないが、撃墜する目的の攻撃では無かったのだ。だからゲッターは生存している、ビアンはそれを確信していた。だからゲッターを、武蔵を誘き出すために一歩踏み出した瞬間

 

「ドリルアターックッ!!!」

 

「ぬおっ!!!」

 

地面が突如爆発し、そこから現れた新たなゲッターの一撃が背部を貫く。咄嗟にディバインアームを振るうがゲッターは残像を残し、その一撃をかわす

 

「なるほど、それが最後のゲッターの形態か」

 

「ふふふふ……ゲッター2の登場よッ!!!」

 

ゲッター1のような人型では無い、そしてゲッター3のような重厚な姿でもない。細身のスラリとした脚部、白銀に輝く胴体と鋭い目……だが一際目を引いたのはその両腕だった……右腕は万力の様な異形の姿をしていたが、左腕は更に異常な姿をしていた

 

「おい、あれって……」

 

「ドリルだな、どっからどう見てもドリルだな」

 

「ドリルだぁッ! すげえっ!!!」

 

「ドリルって武器なの?」

 

「わ、判らない……でも効果的なの……かな?」

 

太陽の光を浴びて煌くその左腕は見間違う事も無くドリルなのだった……

 

 

 

 

ハガネのブリッジから戦況を見つめていたダイテツは小さく舌打ちをする。状況は悪いを通り越して最悪だ、ヴァルシオンのバリアを貫く事が出来ず、そしてハガネのPTは弾薬とエネルギーが心許ない

 

「おおおおおーーーーッ!」

 

「ふっ! 来い!武蔵君ッ! ゲッターロボッ!!!」

 

唯一ヴァルシオンと戦闘が出来ているのはゲッターロボのみと言う状況だ。攻撃力ではグルンガストもゲッターに匹敵するが、その分エネルギーの効率が悪い。だがそれも当然である、元々は短期決戦用の特機だ。長時間の戦闘に耐えるように計算されていない……数は有利であっても戦闘に参戦出来るだけの弾薬もエネルギーも無ければ、もうハガネかゲッターの盾になる事しか出来ない。

 

「リオ、PT各機の状態は!?」

 

「苦戦しています! 戦闘がこれ以上長引けば……いずれは……!」

 

リオがそこで言葉に詰まる。だがブリッジにいる全員が理解していた、撤退も補給をする余裕も無い。完全なジリ貧に追い込まれていた

 

「ドリルアタックッ!!!」

 

「ぬっ! ぐうううッ!!!」

 

だがハガネもPT隊の誰も撃墜されていないのは武蔵の奮闘のおかげであった。ゲッター2と言う細身のゲッターが高速機動でヴァルシオンを撹乱し、ドリルで攻撃を繰り返している。ドリルの回転でフィールドの一点に衝撃を与え続け突破してくる以上ヴァルシオンもそちらに対応しなければならず、他の機体を攻撃している余裕は無かった。完全に後手に追い込まれていたが、それでもハガネの方が圧倒的に不利な状況だ。

 

「このままではヴァルシオン1機に全滅させられてしまうッ!」

 

テツヤが唇を噛み締め、絞る出すように告げる。

 

「……こうなったら、やむを得ん。 テツヤ大尉、艦首トロニウムバスターキャノンの充填を始めろ」

 

「……! し、しかし、あれはまだ調整中で……しかも今回の作戦では1回しか使用出来ませんッ!」

 

トロニウム・バスターキャノン。ハガネが単独でアイドネウス島の攻略に送り出されたのはこの艦首の超大型のキャノン砲にある。だがメテオ3で発見されたトロニウムの制御は難しく、下手をすれば周囲を巻き込み自爆となりかねない。テツヤはそれを知って止めに入る

 

「それは承知しておる。だが今こそがビアン・ゾルダークを倒す好機なのだ」

 

「で、ですが……「命令を復唱せんか大尉ッ!!我々の最大の敵は眼前にいるのだぞッ!!」

 

どうしても躊躇うテツヤにダイテツの一喝が入る。もはや止める事は出来ない、テツヤは顔を引き攣らせながら命令を復唱する

 

「……りょ、了解しました! バスターキャノンのエネルギー充填開始しますッ! リオ、ゲッターを主軸にして各機に発射までの時間を稼がせるんだ!」

 

テツヤがそう指示を飛ばすがリオは返事を返さない。テツヤはリオを睨みつけながら怒鳴り声を上げる

 

「何故命令を復唱しないッ!」

 

「ね、熱源多数接近中ッ! 数……20……30……そんな! まだ増えていますッ!!」

 

リオの悲鳴にも似た叫びがブリッジに響く、いや実際悲鳴だったのかもしれない。疲弊しきったこの状況で敵の増援……

 

「識別確認ッ! さきほど撤退した統合軍ですッ!」

 

エイタの報告にダイテツは唇を噛み締める。刺し違える覚悟でトロニウム・バスターキャノンの使用を決めた……それなのにこのままでは刺し違える所か、バスターキャノンを発射する前に轟沈する

 

「……大尉、各機に……「ま、待ってください! これは……統合軍が追われているッ!」

 

撤退指示を出そうとしたダイテツだったが、その言葉をエイタが遮る。

 

「どういう事だ!? まさか連邦軍の応援か!?」

 

「ち、違います。識別反応はありません、ですが……速い、75秒後にこの空域に侵入して来ますッ!」

 

そしてハガネのモニターに映し出されたのは傷だらけで逃げる統合軍のリオンと巨大な翼竜の姿なのだった……

 

 

 

 

ユーリアとレオナ、そして僅かに生き残ったトロイエ隊のメンバーは死を覚悟していた。突如海中から現れた4つ首の化け物、それから飛び立った翼竜に追われ再びこの空域に戻って来たトロイエ隊。だが無事にこの空域に到達出来たのはユーリアとレオナを含めて僅か8機……残りの12機は翼竜にコックピットブロックを噛み砕かれ、押し潰されながらも助けてくれと叫ぶ隊員の声は生き残った全員の耳に焼き付いて離れない。生きたまま噛み砕かれる、逃げる事も出来ず、しかも恐怖を与えるかのようにゆっくりと噛み締めていく翼竜に恐怖と憎悪を抱くのと同時に、これが自分達の罪なのかと呟く。

 

「隊長ッ! もうエネルギーが……」

 

「くっ……投降するしかないのか……」

 

このままでは翼竜に追いつかれて死ぬしかない、だが投降するという選択肢はユーリアの中には無かった。自分達はマイヤー司令の為に果たすべき使命がある、助かる為には投降するしかないと判っていてもその判断を下す事が出来なかった。

 

「キシャアアアアッ!」

 

「しまっ! ぐうううッ!!!」

 

隊長として部下を犠牲にする訳には行かない、だが投降するわけにも行かない。その迷いがユーリアの駆るリオンの動きを鈍らせた……その一瞬で翼竜は加速し、ユーリアのリオンの胴体をその鋭い牙で咥え込む。ゆっくりと、ゆっくりと圧力が掛けられ狭まってくるコックピットブロックに反射的に両腕で押さえに掛かるが、人間の力で抗える訳が無くゆっくりと着実に自身の体へと迫ってくる。

 

「ぐっ……自爆するッ! レオナ! 部下を連れてハガネへと投降しろッ!!!」

 

「そんな、隊長ッ!」

 

最初から投降すれば良かったと後悔する。人智を超えた相手……最初から投降すれば良かった。そうすれば化け物に噛み砕かれるなんて言う惨たらしい死は無かった。自爆する事でせめて部下だけはと思いコードを入力する為のコンソールを開こうとしたその瞬間

 

「ドリルハリケェェェンッ!!!!!」

 

地上から放たれた竜巻が自身を噛み砕こうとしていた翼竜を穿ち、風の刃で切り裂く。

 

「「「隊長ッ!」」」

 

翼竜が離れたその一瞬でレオナ達のリオンがユーリアのリオンに牽引用のロープを射出する。だがユーリアは直ぐに自分を見捨てろと叫ぶ、今の一撃でリオンの動力は破損し飛行する事が出来ない。こんな足手纏いを捨てて逃げろと叫ぶが、レオナ達も叫び返す。

 

「「「その命令は承服できませんッ!」」」

 

自分はこれほどまでに部下に慕われていたのかと嬉しくなるユーリアだが、今はそんなことを言っている場合ではない。何とか説得しようとするが、レオナ達は断固としてユーリアの命令を聞かない。

 

「キシャアアアアッ!!!」

 

翼竜が再び牙を向きリオンに喰らいつこうとした瞬間。男の雄叫びと共に白銀の風が駆け抜けていく

 

「止めろおオオオオオッ!!!」

 

それは自分達が先ほど対峙したゲッターロボの姿だった。ドリルを翳し、翼竜の群れへと突っ込んでいく。すれ違いの一瞬でユーリアの目はその背中に鋭い傷跡がついているのを見た、それは明らかに軽く見て良い筈では無いダメージ。

 

「早く! 早く逃げろッ! 死にたいのかッ!!!」

 

それでも翼竜からユーリア達を庇いながら逃げろと叫ぶゲッターにユーリアもそしてトロイエ隊のメンバーも思わずその背中を見つめた

 

「「「キシャアアアアーーーッ!!!」」」

 

明らかに空中戦に対応しているとは思えない機体で翼竜の攻撃を防ぎ、そしてドリルで撃墜していくゲッターロボ。

 

「隊長! 近くにエルザム様のキラーホエールが来ているそうです」

 

「判った、総員撤退だ」

 

レオナ達のリオンに牽引されていくユーリアのリオン。半壊したコックピットブロックの中でユーリアは自分達を庇い戦っているドリルを手にしたゲッターロボを見つめ続けていたのだ……

 

 

 

 

突如現れた翼竜の群れ……ビアンもリュウセイ達も困惑した。PTよりもでかい翼竜……しかも全滅したと思われていたプテラノドンの群れ。そんなありえない光景に全員が絶句した。

 

「うっ、ううあわあああーーッ!!」

 

武蔵が絶叫と共に落ちてくる。その叫びで一番最初に我に返ったのは皮肉にもゲッターと対峙していたヴァルシオンだった

 

「大丈夫かッ!?」

 

「うっぐぐ……な、何とか……」

 

空中でゲッターを受け止めたヴァルシオンはゆっくりと降下し、オープンチャンネルで叫ぶ

 

「見たか! ハガネよ! これが私が危惧した物だッ! 人類を脅かす外敵! 判るか! 連邦は! 政府はッ! 戦う事を諦めて降参する道を選んだのだッ!」

 

ビアンが訴えていた外敵。エアロゲイターは無人機であったが、意思を持つ恐竜による襲撃。それはリュウセイ達に少なくないショックを与えていた

 

「ぐ……ぐぐっ! イングラムさん! 1回ハガネにもどれッ! 敵が来るッ!」

 

「敵だと? 武蔵お前は何を言っている!」

 

「オイラじゃないッ! ゲッターだ! ゲッターが言っているんだ! 敵が来るって!!」

 

ヴァルシオンの腕から降りたゲッター2はドリルの切っ先を海面に向けて叫ぶ。だが武蔵の言う事は要領を得ず、イングラムもダイテツも撤退命令を出せないでいた。自分達の理解を超える現象に思考が停止していたとも言える……そして武蔵の言う敵は海面から現れた

 

「はーははははははッ! 流石! 流石だッ! ゲッターロボッ! いや巴武蔵ッ!! 我ら爬虫人類の怨敵よッ!!!」

 

4つ首の異形の恐竜とそしてその4つ首の1つの上に立つ鎧を纏った異形の男の姿。その姿を見たダイテツとイングラムはここで初めて撤退命令を出した、だがそれは逃げるためでは無い。戦う為の補給指示だった

 

「各員ハガネへと後退しろ、どうやら逃げる事は出来なさそうだ」

 

海から上陸してくる機械化された恐竜の群れ……ハガネは完全に包囲されていた。逃げる為にはこの場を何とかしなければならない

 

「教官、でもこれなんなんだよ!」

 

「リュウセイ! 質問している暇があればハガネに戻るぞッ! 死にたいのかッ!!」

 

上陸した恐竜達は口を開き、火炎弾を無作為に吐き出している。それはラトゥー二を襲ったものよりは小さいが、それでも直撃を食らえば致命傷になりかねない威力を秘めていた

 

「ビアン・ゾルダーク、一時休戦と言う事で良いか」

 

「賢明な判断だ。ダイテツ・ミナセ。今DCからの増援もこちらに来ている、この場を切り抜ける為な。武蔵君、大丈夫か? まだ戦えるか?」

 

「……エネルギーは十分にあります! オイラもゲッターも戦えますッ!」

 

ハガネへと撤退するPT隊をヴァルシオンとゲッターが守る。そして海面から完全に島に上陸した4つ首の異様な恐竜の頭上で男……バット将軍が叫ぶ

 

「ふーッはははははははッ!!! 我ら恐竜帝国は今再び復活したのだッ!! 愚かなる人類よッ! 我らの力の元にひれ伏すが良いッ!!!」

 

 

第16話 強襲その3へ続く

 

 




トロイエ隊→ビアン→恐竜帝国と連続強襲。はい、普通に無理ゲーですね。ゲームならプロペラントとか、リペアキットとか精神で回復しますけど、そんなの無いですからね。戦闘は難しいですが、次回も戦闘メインで頑張っていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話 強襲その3

第16話 強襲その3

 

今まで敵対していたヴァルシオンとゲッター2が殿を務めることでハガネに帰還したPT部隊は即座に再出撃の準備に入っていた

 

「ちっ! マシンガンの弾がねえ! ガーリオン用のバーストレールガンあったな!? シュッツバルトに搭載するぞ! シュッツバルトのマシンガンはそのままゲシュペンストに回せ! 今8丁あっても4つ分しか弾薬を補充できないなら、ハガネの護衛隊に回せ! 遊撃隊にはそれ以外の武器を搭載するぞッ!」

 

「グルンガストのエネルギーの充填完了までは!?」

 

「780秒ですッ!!でも最低限の数値です! ファイナルビームなどの使用は出来ません」

 

「それでも構わんッ! 動けるだけのエネルギーを充填出来れば良いッ! その間に大尉のゲシュペンストタイプTTにチョバムアーマーをつけるぞ! 装甲を直してる暇が無い!」

 

「マシンガンの弾ありましたッ! ただコンテナの下です」

 

「くそがあッ! 誰だぁ! でて来い! スパナでぶん殴ってやるッ!!!」

 

「整備長! 落ち着いて! 落ち着いてくださいッ!!! おい! 誰でも良い! 早くクレーンでコンテナを移動させろッ!!!」

 

外で戦っている以上に整備兵は修羅場となっていた。だが無理も無い、統合軍エース部隊のトロイエ隊、そしてヴァルシオンに続いて恐竜帝国と名乗る異形の集団。トロトロしていてはハガネが撃墜される、それはなんとしても防がなければならないからだ。

 

「部隊の編成を変更する。ジャーダ、ガーネットそしてアヤはハガネの直衛だ」

 

ダメージの深刻さで言えばゲシュペンストMK-Ⅱ2機とアヤのタイプTTが深刻な状態だった。いまは応急処置として増設のチョバムアーマーを搭載しているが、そのダメージは深刻で足回りや背部もブースターは焼き切れる寸前だ。だから動くことの少ない、ハガネの護衛として配置する

 

「リュウセイ、イルムガルドは俺と一緒に前衛に出る。リュウセイは俺とツーマンセルだ、独断専行をするな」

 

「りょ、了解! でも教官、あんな化け物とどう戦えば……」

 

モニターの中では50m級の恐竜が暴れ回り、ハガネも何度も何度もその船体を揺らしている。直撃すれば、PTなど一たまりも無いだろう

 

「巨体だからどうしたと言うんだ? 当たらなければどうと言う事は無い。ライとラトゥー二は中間距離でハガネと俺達の支援だ」

 

射撃能力に秀でた2人をハガネと自分達の支援に回すように指示を出す。それは最悪の場合を想定した保守的なフォーメーションだった

 

「少佐、武装の変更はどうなりますか?」

 

「……シーリオンから回収したマルチミサイルポッドをPT用に調整してある、それをバックパックとして装備する。ただし使い捨てだ、

弾数を使い切ればただのデッドウェイトになる点だけ気をつけろ。調整不足で切り離しまでは出来ないからな」

 

「……了解です。射撃の補助システムはどうなりますか?」

 

「そちらも調整はしてあるが、ある程度は自分達で調整してくれ、他に質問のある者は? 無ければ全員機体に乗り込め」

 

そう言ってブリーフィングを終ろうとしたイングラムだが、イルムが背を向けたイングラムに言葉を投げかける。

 

「少佐。あの恐竜帝国ってやつらは武蔵とゲッターを怨敵と呼んだ。なぁ、武蔵は民間人なんだろ? なんであんな化け物に怨敵って言われてるんだ?」

 

イルムが鋭い目付きでイングラムに問いかける。元々民間人と言うのを信じたわけでは無い、見極めようとしている所での化け物の襲撃。イングラムが何か知っているのでは無いかと尋ねるイルム、睨みあうイルムとイングラムにアヤが制止に入ろうとした時イングラムが口を開いた

 

「特級機密事項だ。この戦闘終了後に教える、知りたければ生き残るんだな」

 

「……ったく、わぁーたよ。終ったら全部説明して貰うからな」

 

にやりと笑うイングラムにイルムは溜息を吐きながら頷く、イングラムもまた笑みを浮かべながら戦況を写しているモニターに視線を向ける

 

「再出撃までゲッターとヴァルシオンの戦闘を見ておけ、相手の行動パターンの把握になる。良いか、全員で生き残る事を考えろ」

 

モニターには全方位からの攻撃で思うように動けないゲッターとヴァルシオンの姿が映し出されているのだった……

 

 

 

 

ヴァルシオンとゲッターの即席タッグでメカザウルスの進撃を防いでいた。だが状況は時が経てば経つほどに不利になっていた……全てが特機もしくは準特機サイズの敵が隊列を組んで襲ってくるのだ。いかにヴァルシオン、ゲッターロボだとしてもそれは倒しきれる量ではなかった

 

「ぬっぐうッ……こいつまだ動くのかッ!?」

 

ディバインアームでメカザウルスを両断したヴァルシオンだが、両断されたメカザウルスの頭部から伸びた鞭がその腕に絡みつく

 

「ゲッタービームッ!!!」

 

それを見た武蔵はゲッター2の眼部に搭載されたビームで、鞭の根元……肩から顔を出しているトカゲの頭部を焼くと同時にドリルアタックで突っ込んできたサイのようなメカザウルスと正面からぶつかり、ドリルとマッハの速度による突撃でメカザウルスの一瞬で破壊する。だがその残骸にドリルが突き刺さり身動きが取れないゲッター2に四方から火炎弾が迫る

 

「オープンゲットッ!!」

 

ゲッター2は命中する寸前に合体を解除し、上空から降下してきたメカザウルスにミサイルを放つ。それは空中を舞うメカザウルスの怒りを買い、メカザウルスはゲットマシンを追いかけて行く。メカザウルスがゲッターを最優先にして戦うと言う性質を理解した、武蔵の作戦だった。

 

「ビアンさんッ!」

 

「ああ、クロスマッシャー……発射ぁッ!!!」

 

螺旋状のエネルギー波が放たれると同時にゲットマシンは急降下し、クロスマッシャーの射線から逃れる。そして地面にぶつかるという瞬間にゲッター1へとチェンジし反転すると同時にヴァルシオンの隣に立つ。

 

「ビアンさん、メカザウルスを攻撃する時は機械の部分よりも生身の部分、それも頭部を狙ってください」

 

「……そのようだな。全く、恐ろしい生命力だよ」

 

今のクロスマッシャーの掃射を受けてもメカザウルスはまだ生きていた。もう兵器としての能力は失っているが、それでも生物としては生きている。それがメカザウルスの脅威である点なのだ……爬虫類の異様な膂力と生命力と機械の融合、それがメカザウルスがメカザウルスたる由縁だった。

 

「足とか腕に絡み付かれると一気に不利になりますよ。だからちゃんと踏み潰してください」

 

ゲッターが足を振り上げメカザウルスの頭を踏み砕く、脳が撒き散らされ血液が吹き出る。凄惨ともいえる光景だが、そうしなければ自分達が追い込まれると判っているからの徹底振りだった。

 

「ハガネの部隊も再出撃してきたか……」

 

モニターに再び姿を見せるPT部隊。応援ではあるが、この状況でPTがどこまで役に立つかと言う不安がビアンの脳裏を過ぎる。それに武蔵は平気そうにしているが、ゲッターの動きは明らかに鈍い。

 

(……やはりあの一撃のせいか……)

 

ユーリア達がメカザウルスに追われていると気付いた武蔵はヴァルシオンからの攻撃に背を向け、ドリルハリケーンを放った。だがそれはヴァルシオンの攻撃を受けると言う事を意味していて、ジャガー号に深刻な打撃を与えていた。エネルギーが不安だと言うのにゲッター3ではなく、ゲッター1にチェンジしたのもビアンの予想を確信へと変えていた。恐らくジャガー号は不調なのだ、3では脚部になるジャガーが壊れていればゲッター3の機動力は失われる。それならばとゲッター1にチェンジをしたのは良いが両腕の反応が明らかに鈍い

 

「早く来い、エルザムッ!」

 

近くまで来ている事は判っている。だがこの状況でいつまでも耐えれるとは思えない、ビアンはヴァルシオンのコックピットの中でそう怒鳴らずにはいられなかった。だがそれはこの戦況を見ていたバットの怒声で掻き消された

 

「貴様ッ! 弱い、弱すぎるぞゲッターロボッ!!! いや、巴武蔵ッ!!! あの時ニューヨークで3万のメカザウルス大隊と戦った時の力はどうしたッ!! 何故そんなにも弱くなっているッ! 答えろぉッ! 巴武蔵ぃッ!!!!!」

 

激しい殺意と怒気を伴ったバットの怒声が響き渡る。それは失望とも取れる響を伴ったバットの懇願とも取れる嘆きの叫びなのだった……

 

 

 

 

ハガネから再出撃したリュウセイ達は改めてこれから自分達が戦おうとしている相手を見た。体の半分以上が機械化されたメカザウルスの血走った瞳が向けられる、それは純粋な殺意でありリュウセイ達の足を止める。

 

「各員冷静に対処せよ。攻撃対象は頭部に絞れ、胴体に攻撃を加えても効果は薄いようだ」

 

イングラムが浮き足立ち掛けたリュウセイ達に素早く指示を飛ばし、冷静になれと告げる。

 

「うおおおおおおッ!!!」

 

「ギ、ギシャアアアアッ!!!」

 

ゲッター1は噛み砕こうとしたメカザウルスの上顎と下顎を掴んで、稼動域を超えて広げ頭部を粉砕する。血飛沫が舞い、ゲッターの身体を真紅に染め上げていく

 

「ふん、その程度でこのヴァルシオンを止められるなどと思わない事だ」

 

そしてヴァルシオンもメカザウルスの頭部を掴み握り潰す。閉じられた拳から鮮血が滴り落ち、それを見た女性陣の顔色が青くなる。PTやAM同士の戦いではない、生物との戦い。痛みに叫び声を上げ、鮮血を上げる姿は兵士とは言えど、そう簡単に受け入れられる光景ではなかった。

 

「リュウセイ、判っているな?無理に突っ込むな。俺とお前はイルムの支援だ」

 

「りょ、了解! わ、判ってるぜッ!」

 

恐怖に声を震わせながらもそれでも戦意を失わないリュウセイにイングラムは笑みを浮かべる。恐怖を感じているが、これなら戦えると確信したようだ。

 

「グルアアアアアッ!!!」

 

「くっ! 思ったよりも圧力があるなッ!!」

 

大口を開けて突っ込んできたメカザウルスをグルンガストの両腕が食い止める。だがメカザウルスの突進の勢いは凄まじく、グルンガストはそのまま後方へと押し込まれていく。

 

「いいぞ、イルムそのまま押さえておけッ!」

 

固定されたメカザウルスの口の中にビルトシュバインの放ったミサイルが飛び込む。それは少しずれればグルンガストへの直撃コースで、流石のイルムも怒鳴り声を上げる。

 

「どわっ!? あ、当たる所だったぞッ!?」

 

「当たらなければ問題は無い。リュウセイ、PTの攻撃でもメカザウルスには有効打となる。だが攻撃箇所を見誤るな」

 

いかに強力であっても生物である、口の中に攻撃を当てられればひとたまりも無いだろう。それは生き物だからこその弱点でもあった……

 

「少佐、グルンガストが血塗れに関しては何か言う事は無いのか?」

 

イルムの恨めしそうな言葉にイングラムが返事を返すことは無く、突進してくるメカザウルス・ザイの一撃をかわす。それにザイは怒りを覚え何度も突進してくる、それこそがイングラムの狙いだった。

 

「……そこだっ!」

 

「!?」

 

そして何度目の突進でビルトシュバインが跳躍し、かわしたと同時にビルトラプターのハイパービームライフルがザイの頭を貫く。鮮血を撒き散らし倒れるザイの姿にリュウセイが息を呑む……生き物を殺したという罪悪感がリュウセイの肩に伸し掛かる。

 

「良くやったリュウセイ。良いか、殺さなければ殺されるのは俺達だ。躊躇うな」

 

「うっぷ……りょ、了解ッ!」

 

込み上げてくる吐き気を堪えリュウセイは正面を睨む、メカザウルスの大半はゲッターとヴァルシオンに向かっている。それでもメカザウルスの群れはハガネやPTを狙っている……ここで立ち止まっている余裕なんてリュウセイ達には無かった

 

「計都羅喉剣ッ!!」

 

「キシャアッ!」

 

計都羅喉剣とその鉤爪を打ち合う2頭のメカザウルス……リュウセイ達は知らないが、メカザウルス・サキにビルトシュバインと共にビルドラプターは向かっていく。

 

「ジャーダ、ガーネット。そっちは大丈夫!?」

 

「な、何とか……でも結構やばいッ!」

 

「ほ、本当よね!? なによ! こいつらッ!」

 

ハガネに襲い掛かってくるメカザウルス・バドはトロイエ隊も追いかけていたプテラノドン型のメカザウルスだ、他のメカザウルスと比べれば小さいがそれでも28mとゲシュペンストよりもはるかに大きい。しかも翼に備え付けられた6連のミサイルが絶え間なく降り注ぎ続け、ハガネの船体を揺らしている。

 

「ハガネの対空砲で支援します。なんとか撃墜してください」

 

M-13ショットガンを装備しているゲシュペンストMK-ⅡとタイプTT。相手は素早く、損傷により機動力が低下しているゲシュペンストには追いきれない相手だ。ショットガンで弾幕を張り、広範囲に攻撃を仕掛けるが嘲笑うかのようにバドは攻撃をかわし、急降下からの爪攻撃でゲシュペンストのコックピットを狙う。近づかせまいとハガネの対空砲とショットガンの弾幕が放たれるが、バドは急降下の勢いを利用してその攻撃を防ぐ。

 

「ギシャアッ!?」

 

「キイッ!?」

 

あとわずかでコックピットを貫かれるという瞬間。突如後方から放たれたミサイルによってバドは撃墜される、そのミサイルが向かってきた方向に視線を向け、そして唇を噛み締めるアヤ。視線の先には黒のガーリオン・カスタムに率いられたリオン部隊の姿があるのだった……

 

「随分と苦戦しているようだな。ライディース」

 

「くっ、兄さん何をしにきた!」

 

対抗心を剥き出しにするライディースにエルザムは笑みを浮かべる。以前の従順だった弟よりも今のライの方が好ましいと思ったからだ。

 

「何を? 応援に来たのだが? それともお前は今の状況を理解せずに、私怨で戦うと言うのか?」

 

「……少尉。ここは協力しなければ……」

 

ラトゥー二の言葉にライは舌打ちしつつも判っていると返事を返す、口惜しいがエルザムの腕を知っているのはライ自身なのだから

 

「今この場は頼りにさせて貰う、だが決着はいずれつける」

 

「ふっ、それで良い。今この一時の共闘だ」

 

シュッツシバルトとヒュッケバイン009の間に浮遊するガーリオン・トロンベ。試作機だったガーリオンを更に改良し、エルザム専用機としてカスタムされた機体だった

 

「中々の速さだ。だが私とトロンベを舐めないでもらおうッ!!」

 

「ギッ!」

 

戦場を縦横無尽に駆け回る鋭利な頭部と両肩にミサイル発射口を持つ、メカザウルス・ギロ。そのミサイル攻撃と火炎弾によりシュッツバルトとヒュッケバイン009の援護攻撃は潰され、リュウセイ達の支援が出来ていなかった。だがエルザムの参入によってやっと支援が届く

 

(口惜しいが、やはりエルザムの腕は俺よりも遥かに上だ)

 

ミサイルを発射するタイミングを計りながらライは唇を噛み締める。自分とラトゥー二を翻弄していたメカザウルスがエルザムが相手をすれば、あっと言う間にその自由な機動を奪われているからだ。自分との腕の違いをこれでもかと思い知らされる

 

「ギギッ!」

 

「速ければ良いと言うものでは無い」

 

「ギギャアッ!?」

 

ブレードがつけられたレールガンでメカザウルスの頭を貫き、そのまま引き金を引いた。鮮血と共に脳が飛び散る、瞬殺と言って良かった。速さはメカザウルスの方が上なのに、緩急をつける事でメカザウルスを誘導していたのだ。攻撃一辺倒では無い、戦場すらもコントロールするエルザム。自分の方を見向きもしないその姿に自分等見る価値も無いと言われてる様で、ライはその拳をコンソールに叩きつけるのだった……

 

 

 

 

ダイテツは人知れず唇を噛み締めていた。武蔵と言う存在が居るのだ、武蔵が戦ったと言うメカザウルスが襲撃を仕掛けて来る事も考慮しなければならなかったのに、それを怠った。己を恥じていた

 

「艦長。トロニウム・バスターキャノンのエネルギー充填70%を超えました」

 

テツヤの言葉にダイテツは判断を迫られた。ここでヴァルシオンを倒すという目的でチャージを始めた、だがここで仮に倒したとしてもメカザウルスは残る……ビアンを倒しても、敵は残るのだ

 

「……大尉。エネルギーの充填を中止する」

 

「……了解です」

 

ここで仮にビアンと相打ちになったとしよう、それでもあのメカザウルスは残るのだ。DCよりも遥か強敵が残るかもしれない、そう判断した以上ダイテツはバスターキャノンの使用に踏み切れなかった。

 

「貴様ッ! 弱い、弱すぎるぞゲッターロボッ!!! いや、巴武蔵ッ!!! あの時ニューヨークで3万のメカザウルス大隊と戦った時の力はどうしたッ!! 何故そんなにも弱くなっているッ! 答えろぉッ! 巴武蔵ぃッ!!!!!」

 

その時だった。4つ首の恐竜が雄叫びを上げて、自分達の同類であるメカザウルスを踏み潰しながらゲッター1へと襲い掛かる。

 

「弱いッ! 弱すぎるぞッ!! ゲッターロボォッ!!!」

 

「がっ! ぐっ! うおっ!?」

 

4つ首のうちの1本がゲッターの胴体に噛みつき何度も、何度も地面に叩きつける。

 

「武蔵君ッ!」

 

「邪魔をするなッ! 人間ッ!!!」

 

ヴァルシオンが救助に向かうが3本の首の猛攻で近づくことは愚か、完全にその場に足止めされる

 

「貴様らもだッ! 邪魔をするなあああッ!!!」

 

バットの狂ったような叫びが木霊し、胴体から放たれたミサイルの豪雨がハガネ、PT、メカザウルスもお構いなしで打ち込まれる

 

「PT部隊はハガネ周辺まで後退ッ! エネルギーフィールド内に入れッ!! DCのAM隊もだッ! 急げッ!」

 

テツヤが即座に指示を飛ばす。あれだけのミサイルの弾幕を防ぐ事も避ける事も不可能、敵同士ではあるがそれでも今は共闘関係にあるからテツヤはAM隊にもハガネのエネルギーフィールド内に入れと叫ぶ

 

「大尉ッ! ゲッターの救出を忘れるな! 主砲、副砲照準合わせ!」

 

今この場でゲッターを失う訳には行かない。ハガネの主砲と副砲によるメカザウルスへの攻撃が行われる、だがそれは発射し続けられるミサイルに妨害され本体まで届かない

 

「答えろ巴武蔵ッ! 何故そこまで弱くなった!! 答えろッ! それでも我が怨敵かッ! こんな弱い貴様に我らは滅ぼされかけたというのかッ!!!」

 

バットの叫びがゲッターとハガネにまで響く、怒りに満ちた叫び、だがその声には悲壮さも混じっていた

 

「少佐! ゲッターの救出は無理かッ!」

 

このままではゲッターがやられる。それだけは防がなければならない。PT隊に救助は無理かとダイテツが叫ぶ、だがその返答はエネルギー不足により、そこまで向かえないという非情な返答だった。だがそれも無理は無い、連戦が続きまともに補給も修理も施されず戦ったPTとグルンガストはモーターは既に限界を超えていた。ハガネのフィールド内に退避こそ出来たが、再び動く事は出来ない

 

「くっ!」

 

黒いガーリオンが救助に向かおうとする。だがミサイルの雨に押され前に進む事が出来ないでいる……

 

「エネルギーフィールドを艦首前方に限定展開ッ! ハガネを微速前進ッ! 突撃する!」

 

「艦長!? 本気ですか!」

 

「本気だッ! ここでゲッターを失うわけにはいかんッ!!」

 

ダイテツの気迫にテツヤが本気だと悟り、命令を復唱しようとした時。ハガネの格納庫が開く

 

「発進準備だと!? リオ誰だ!」

 

「マサキ君ですッ!」

 

ブリッジが確認している間にサイバスターがハガネから飛び出し、即座に通信を繋げて来る。

 

「話は聞いてたぜ! 出遅れた分俺が助ける! 行くぜッ!!」

 

サイバスターが粒子を撒き散らしながらメカザウルスへと向かう、だがその途中でサイバスターは人型から鳥型へと変形し、自らミサイルに向かっていく事で最小限の動きで回避して行き、メカザウルスの頭上に陣取る。

 

「行くぜえッ! サイフラァァッシュッ!!!」

 

サイバスターが変形したサイバードから放たれた閃光がメカザウルスではなく、その頭上にいるバット将軍に向かって降り注ぐ

 

「ぐうっ! ちょこざいなッ!「ゲッタアアア……ビィィィッムッ!!!!」ぬうおおおおおッ!?」

 

バットの視線が自分からずれた瞬間。今までぐったりとしていたゲッター1のカメラアイに光が灯り、腹部から凄まじい威力のゲッタービームが放たれる。直撃を受けた事で、メカザウルスの巨体が揺らぎゲッター1が地響きと共に地面に落下する

 

「ちいっ! 余計な横槍が入ったわッ! 巴武蔵ッ! 再び合間見える時を楽しみにしているぞッ!!! さらばだッ!!!」

 

バットがマントを振り上げると4つ首のメカザウルスの首2本が変形し翼となる。そしてハガネよりも遥かに大きい巨体が天高く舞い上がり、生き残っていたメカザウルスもまたバドと合体し天空へと姿を消すのだった……

 

 

 

 

メカザウルスの残した爪痕と破壊された残骸。それが今までの戦いが夢でも、幻でもなく現実だと訴えていた。ヴァルシオンの背後にガーリオンとリオン達が移動する、それは共闘は終わりだと言う証だった。ヴァルシオンは倒れているゲッター1を抱え上げ、ハガネのPT隊の前に横にし、地響きを立てながらガーリオンの前に立つと再びオープンチャンネルで言葉を投げかける。

 

「見ただろうハガネ、そして連邦の兵士よ。これが人類を滅ぼさんとする外敵だ」

 

炎が上がり、抉られた地面。そして鮮血に濡れた大地にヴァルシオンが両手を向ける、その仕草に思わず目が動き荒れ果てた大地に視線が向く。無人島だから被害は最小だったが、これが街ならばと考え背筋が凍る物を感じた者が何人いただろうか?

 

「政府や連邦の一部の上官は南極で異星人に降伏することを選び、今も尚自らだけが生き残る事を計画している。地球を捨て、そこに住まう人類を見捨て己らだけが生き残るを事を考えている。そんなことを私は断じて認めはしないッ! その為に我らディバイン・クルセイダーズは立ち上がったのだ。人類をそしてこの美しい地球を守る為に」

 

その言葉には力があった。そして真実を語っているという説得力もあった……

 

「だがお前は戦争と言う道を選んだんだろうッ! 何を言っても説得力は無いぜッ!」

 

一番参戦が遅かったマサキがビアンにそう怒鳴る。だがビアンはその怒声に怒る事は無く、悲しげな声で言葉を続けた

 

「私は何度も何度も政府と軍の上層部に危機を訴えたが、私の言葉は届く事は無かった。ならば力で思いを……平和を願う意志を貫く道しかなかった! 私とて戦争など本意では無い! だが我らには時間が無いのだッ! 強大な敵に立ち向かう為には武力で地球を征服するしか道は無かったのだッ!!! 少しでも被害を小さくするにはこの道しかなかったのだッ!」

 

メカザウルスと言う脅威……それは異星人よりも明確な敵としてハガネのクルー全員に焼きついた

 

「ハガネ……いや、ダイテツ・ミナセ。そしてハガネのクルー達よ。貴君らの賢明な判断を願う。これだけ話しても尚私が間違っていると言うのならば私の前に立つが良い」

 

ビアンは己の行動が間違いであると認め、そしてその上でその道を貫こうとしていた。地球を、そして地球に住む人々を守る為に……

 

「だがもし、私に協力するというのならば私は喜んで君達を迎え入れよう。では失礼する、再び合間見えた時。君達の答えを聞こう」

 

ガーリオンとリオンを伴ってアイドネウス島へと飛び去っていくヴァルシオンをダイテツ達は見送る事しか出来なかった。

 

「……各員ハガネへと帰還せよ、ゲッターロボはハガネが着水後回収し、本艦は応急処置を施し、この海域から離脱する」

 

疲れた声でダイテツはそう命令を下すのがやっとなのだった……

 

 

 

第17話 武蔵の真実へと続く

 

 




次回は武蔵の話を書いて行こうと思います。メカザウルスも出しましたから、もう民間人と言うわけにもいかないですしね。ここら辺からオリジナルの要素を加えていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話 武蔵の真実

第17話 武蔵の真実

 

ハガネのブリッジは痛いほどの沈黙に満ちていた。それはメカザウルスとの戦いを終えたと言う疲弊感だけではない、たった今連邦政府から送り届けられた返信にあった。この戦闘記録及び破壊されたメカザウルスの記録……ハガネからではない、DCから地球政府及び極東支部へと送られ、ジャマーが一時的に解除され極東支部とハガネの通信が回復していた。それは明らかにビアンの思惑通りだった……

 

「……遺体を全て焼却し、恐竜帝国との交戦記録の一切を消去せよとはどういう事だ?」

 

『ダイテツ、すまないが命令通りにして欲しい。これは上層部だけではない、政府の決定だ。メカザウルスも恐竜帝国も存在しなかった……とな』

 

「しかしレイカー司令ッ! これは紛れも無い事実であり、大々的に公表するべき事件ですッ!」

 

『テツヤ・オノデラ大尉。私もそれは重々承知している、だが我らは軍人だ。上層部の決定には逆らえない』

 

レイカーが苦しそうに告げた言葉にテツヤもダイテツも言葉に詰まる。何故ならばモニターの外から重火器を構えるような音が響いたからだ……それはレイカー自身も今現在も脅迫され、真実を告げる事が出来ないと言う証だった。

 

『アイドネウス島攻略後、ムサシ・トモエ及び彼が騎乗する特機もまた軍によって徴収する事も決定している』

 

更に告げられた言葉にダイテツの眉が上がる。だがレイカーが監視されている以上この命令に逆らうことは出来ない、ダイテツそしてハガネのクルーとレイカーは互いに人質として扱われているからだ。

 

「……了解した。ハガネ及びPT隊の戦闘データの破棄及びメカザウルスの残骸の焼却処理を行う」

 

『うむ、頼んだぞダイテツ。引き続きアイドネウス島攻略任務に当たれ』

 

その言葉を最後に極東支部とハガネの通信は再びジャマーによって繋がらなくなった。恐らく今の話は極東支部にいるスパイによってDC側にも政府の決定として流れるだろう……

 

「艦長……本当に命令に従うのですか?」

 

「ああ、それが軍人と言う物だ。だがな大尉、命令はハガネ及びPT隊のみだ。それ以外はワシの管轄ではない」

 

ダイテツの言葉にテツヤは驚いた顔をする。今現在ハガネにはゲッターロボ及びサイバスターと言う軍属ではない機体がある、それらに戦闘データを集めろと言う指示だ。

 

「了解しました、では1時間後にナパーム弾による焼却処理とデータの破棄を行います」

 

「うむ。頼んだぞ、大尉。指揮はお前に任せる」

 

ダイテツの意図を汲んだテツヤが敬礼する。命令には従う、だが民間であるサイバスターとゲッターには関与しない。ダイテツの出した命令は極めてグレーゾーンの指示だった

 

「艦長。しかし今回の戦闘データはDCから発信されるのではないでしょうか?」

 

「だろうな、だが伍長。目の前で繰り広げたあの戦いを信じられるか?」

 

目の前で繰り広げられた戦いではある、だがどうしても信じられないという気持ちが無いわけでは無い。夢であって欲しいと言う気持ちが無いわけでは無い、だが目の前の破壊の跡と残骸がそれが真実であると言うことを告げていた。

 

「艦長! 大尉ッ! 武蔵君が暴れてゲッターで出撃しようとしていますッ!」

 

だがそこに息を切らし駆け込んできたリオの報告で、テツヤとダイテツもブリッジを後にした。今ここで武蔵を出撃させてしまえば、メカザウルス、そして恐竜帝国の情報を得る事が出来ない。それはこれから何度も交戦する可能性がある以上避けたい事であり、ハガネの最高責任者であるダイテツが説得に向かうのは当然の事であった。格納庫に続く通路には人だかりが出来ていた。だがそのほとんどは遠巻きに見ているのがやっとだった、野次馬根性と言うわけでは無い。武蔵はメカザウルスに噛み付かれ、何度も叩き付けられたことで全身打撲であり、今も頭に巻いた包帯からは血が滲んでいた。どう見ても重症患者と言うのに、その怒気と殺気は軍人であるハガネのクルーでさえも威圧していた。

 

「オイラの邪魔をするなッ! 恐竜帝国を今叩かないと大変な事になるんだッ!!」

 

「私は落ち着けと言っているんだ巴武蔵」

 

武蔵を止めに入っていたのはイングラムの姿だった。リュウセイ達も説得に来ていたのだが、その殺気に押され近づく事が出来ないでいた。今の武蔵は手負いの獣と言っても良かった、足元がふらつき、鮮血が滴り落ちているのにそれを全く意に介した素振りを見せず邪魔をするなと叫ぶ。

 

「お前こそ判ってるのかッ! 恐竜帝国をほっておいたら大変な事になるッ! 今ッ! ここで叩くしかないんだッ! あいつらを滅ぼさないと人類が滅ぶのが判らないのかッ!!!」

 

「だからこそ待てと言っている。今のその有様で戦えると思っているのか? ゲッターロボだって修理中。そんな状態で追いかけていけると思うのか」

 

イングラムの正論に武蔵は言葉に詰まる。だがそれでも武蔵はイングラムを押しのけて格納庫に向かおうとして、膝を付いた

 

「そらみろ、今のお前は極度の興奮状態で身体の痛みを忘れているに過ぎない。その状態でゲットマシンを操れると思っているのか?」

 

「……ぐっ、それでもオイラは……行かないと……リョウや隼人……早乙女博士も居ない……オイラが……オイラが何とかしないと……」

 

もう既に意識が朦朧としているのだろう、頭を振り何度も何度も立ち上がろうとする。だが武蔵は立ち上がる事が出来ないでいた

 

「武蔵君。止めるんだ」

 

「……ダイ……テツさん」

 

そこにダイテツとテツヤが来て武蔵の説得に加わる。焦点の合っていない目で、動かない身体でそれでも格納庫に向かおうとする武蔵。その必死な様子はどれだけ恐竜帝国を脅威と思っているのを如実に現していた。

 

「1人であれだけの大軍を相手に出来ると思っているのか? ワシ達にとっても恐竜帝国は倒すべき相手だ」

 

ダイテツが武蔵に諭すように言葉を投げかける。武蔵はダイテツに顔を向け、その話に耳を傾ける。

 

「1人で何もかも背負う必要は無い。ワシ達を頼ってくれれば良い、それともワシ達は信用出来ないか?」

 

「……すい……ません……でした」

 

武蔵はダイテツにそう返事を返すと、意識を保っていられなかったのかその場に完全に崩れ落ちた

 

「……少佐。武蔵君を医務室へ、目を覚まし容態が安定していたらブリーフィングルームへと連れて来て欲しい。監視としてコバヤシ大尉

と医療班とクスハ医療兵を医務室へ、総員警戒態勢を続けよ。敵はDCだけでは無いのだぞ」

 

ダイテツの言葉に敬礼し動き出すクルー。ダイテツはその姿を見ながらテツヤと共にブリッジへと足を向ける

 

「艦長。武蔵の話は……真実だったのですね」

 

「事実は小説よりも奇なり、だ。大尉、常識だけに囚われては大局を見失うぞ」

 

ダイテツの言葉にテツヤは神妙な顔付きで頷く、この短い時間でテツヤは様々な経験をした。それは紛れも無くテツヤを大きく成長させた、ダイテツはそう確信し笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

眩いゲッター線の輝きに包まれながら武蔵は様々な物を見ていた。武蔵が知る由も無い様々な光景が浮かんでは消えて、浮かんでは消えていく……そして武蔵が最後に見たのは凄まじく大きなゲットマシンの姿

 

【ならば私は待とう。武蔵、お前がゲッターの本当の意味を悟るその時まで】

 

「リョウ、リョウなのかッ!!! あっ……つつう……」

 

そのコックピットであろう部分から自分を見つめる人影と親しみを持った言葉に一気に意識が覚醒し、手を伸ばした。だがその手は届かず、そして武蔵の手は医務室の天井に向かって伸ばされていた

 

「だ、大丈夫!? 武蔵君!」

 

「……あいたた。クスハ……か、ここは……オイラは? そうだッ! 恐竜帝国ッ! あいつらは……うっくう……」

 

目覚めたばかりだったから意識がぼんやりしていたが、恐竜帝国の事を思い出しベッドから跳ね起きた武蔵。だが立っている事が出来ず、そのままその場に膝をつく

 

「武蔵。無理をしちゃ駄目よ、それとも艦長の言葉は覚えてないの?」

 

アヤに声を掛けられた武蔵は一瞬何のことは判らなかったが、直ぐに思い出した。自分が焦って出撃しようとしてダイテツに窘められたこと、そしてイングラムや自分を心配していたリュウセイに怒鳴り散らした事を……

 

「すいませんでした」

 

自分らしくない、今ならばそう言える。だが恐竜帝国を……バットを見た武蔵は頭に血が上っていた。それは竜馬もいない、隼人もいない、そして早乙女博士やミチルも居ない。自分が全て何とかしなければならないと言う焦りからだった……

 

「冷静になったみたいで良かったわ。それで良かったら武蔵の知ってることを教えて欲しいの」

 

「……判ってます。ふっ!!」

 

武蔵はアヤの言葉に返事を返し、気合を入れて立ち上がる。それを見てクスハが慌てて車椅子をと叫ぶ、だが武蔵はクスハの肩を掴んで笑う。

 

「大丈夫だ。丈夫で長持ちの武蔵さんだからな、行きましょう」

 

「本当に大丈夫? 無理しないほうが……」

 

「大丈夫です。この程度でどうこうなる軟な鍛え方はしてないですから」

 

だから行きましょうと言う武蔵をアヤとクスハは止める事が出来ず、早足で歩き出す武蔵の後を追って行こうとして、その足を止めた。何故ならば早足で医務室を出た武蔵が通路の真ん中で立ち止まっていたからだ。

 

「……オイラ。どこに行けば良いんですか?」

 

今思い出したと言わんばかりに振り返った武蔵に、2人揃って苦笑いを浮かべるのだった……

 

「どうも、ご迷惑を掛けました。本当にすいません」

 

アヤに案内されブリーフィングルームを訪れた武蔵は入室と同時に深く頭を下げる。倒れるまでの事は覚えていないが、それでも自分が怒鳴ったり突き飛ばしたことは覚えている、だから武蔵が一番最初に行ったのは謝罪だった。

 

「こうして来てくれたと言う事はワシ達を信用してくれると受け取って構わないのかな?」

 

ダイテツの言葉に武蔵が頷く、こうして冷静になれば武蔵にだって判る。今のゲッターでは、自分1人では恐竜帝国と戦い勝つ事など不可能な事は判りきっていた。ならば協力するしかないのだ、DCと戦う事にはまだ迷いはある。だが恐竜帝国と戦うことになれば武蔵に迷いは無いのだから……

 

「では武蔵、お前の素性とそしてお前が知っている事を全て話して欲しい」

 

イングラムに促され、武蔵はゆっくりと口を開き、ブリーフィングルームにいるリュウセイ達は武蔵の言葉に耳を傾ける。謎の襲撃者、恐竜帝国について知る為に……

 

 

 

 

 

一番最初に武蔵が言った言葉がブリーフィングルームにざわめきを起こした。武蔵が一番最初に口にしたのは自分が旧西暦の人間であると言う事だったからだ。

 

「静かにしろ、聞きたい事があれば武蔵の話が終ってからだ」

 

イングラムの静かだが、良く通る声にそのざわめきは一旦は収まるが、それでも僅かなざわめきは残る

 

「オイラは早乙女研究所にいて、ゲッターロボは早乙女博士が恐竜帝国と戦う為に作ったスーパーロボットなんだ。オイラはよく知らないけど、日本政府や海外の政府とも早乙女博士は仲良くしてたのは知ってる」

 

武蔵から告げられる言葉はそのどれもが信じられないことであり、そして自分達の常識を覆す物だった。旧西暦に既に人が乗り込める大型の機動兵器が存在し、そして地球の先住民族だと言う爬虫人類との戦いを繰り広げていた。そんなのは今まで聞いたことも無かったからだ

 

「恐竜帝国によって地球の海は恐竜や古代の海洋生物に溢れ、人が入れば一瞬で食われるか、毒気で死ぬかって言う状況になった。もっとも大きな被害を受けたのはアメリカだった。恐竜帝国の拠点である「マシーンランド」によって大気が汚染され、生き残ったアメリカ人はアメリカを捨てて逃げるしかなかった」

 

ゴールは決して無能な指揮官ではなかった。彼が一番最初に打った手は拠点となる場所の確保である、メカザウルス……恐竜をベースにした兵器であり、翼竜や海洋生物も多数いた。だが彼らがもっとも力を発揮するのは陸地だ。膨大な陸地と開発拠点としてゴールが選んだのはアメリカ大陸だった。恐竜の化石が多数発掘されているアメリカは恐竜の復元技術を持つ恐竜帝国にとって最適な土地だった。更にアメリカを押さえる事で食料の供給や医薬品の供給も妨げることが出来る、核兵器さえも徴収できるアメリカは恐竜帝国の拠点として最も相応しい場所であった。

 

「次にゴール……恐竜帝国の指導者で、地底魔王って名乗ってた爬虫人類の親玉は日本をターゲットにした。爬虫人類が地底に逃げたのはゲッター線に極めて弱い性質で、恐竜を全滅させたのもゲッター線だと早乙女博士は言っていた」

 

恐竜は隕石の落下で滅んだと思っていたのが、ゲッター線による死滅と言う情報。思わずその話を聞いていたライが呟いた。

 

「世界中の考古学が根底から引っくり返るな」

 

今まで討論されていた物はなんなのだと世界中の学者が叫ぶだろう。人類の前に爬虫類から進化した人型の生物がいたなんてそう信じられるものでは無い。

 

「恐竜帝国にとっての脅威はゲッターロボだった。だから恐竜帝国はゲッターロボとゲッター線を研究している早乙女博士を狙って、日本にも侵略を繰り返していた」

 

武蔵が語る恐竜帝国による日本襲撃事件。北海道が地熱を利用した人口太陽生成で滅び、ありとあらゆる物を吸収し、巨大化するクラゲによって東京が壊滅寸前になった事件、そのどれもが凄まじい物であると言うのは容易に想像出来た。

 

「その当時の軍は駄目だったのか? ゲッターロボのような特機があるんだ。日本を護る事だって出来たのではないのか?」

 

ライの言葉に武蔵は首を振った。確かにゲッターロボが量産出来ればそれも不可能ではなかっただろう……だが量産できない理由があった

 

「まずだけど、ゲッターロボみたいなのはそんなに何体もいた訳じゃない。あくまで当時の武器の基準は戦車や戦艦だったし、ロボットは確かに開発していたけど、メカザウルスには勝てなかった」

 

数は少ないが、確かに新西暦で言うPTやAMに当たる機体は存在していた。だが、メカザウルスに勝てるようなレベルの機体ではなかった

 

「それに、ゲッターロボの量産計画もでたけどそれは頓挫した。根本的かつ大きな問題があった」

 

「「「根本的な大きな問題?」」」

 

ゲッターが恐竜帝国に有効ならば量産すれば良い、新西暦ならばそうするだろうし、仮に旧西暦だったとしても同じだろう。

 

「えーっと、もしかしてゲッターの材質がめちゃくちゃ稀少だったとか?」

 

「ゲッター合金はゲッター線を照射すれば生成できる。確かに、それほど量産は出来ないけど、ゲッターを複数体作るのは可能だった」

 

機体を形成してる金属が稀少と考えたジャーダだが、それは武蔵によって違うと断言された。

 

「あ、じゃあ! ゲッター炉心って奴が準備出来なかったんじゃない?」

 

「いや、炉心は合金を作るよりも簡単に量産が効いた。問題はそんな事じゃあない……ゲッターを操れる人間がいなかったんだ」

 

ゲッターを操れる人間がいないと聞いても、リュウセイ達はぴんと来ない。新西暦ではこのパイロットしか乗れないという機体はあまり存在しない、だが旧西暦で考えればその限りではない

 

「まず日本の自衛隊のエースといわれるパイロットが100人、二度と戦闘機に乗れない身体になった。次に海外のパイロットだけど……

合体に失敗して……ミンチになった」

 

ミンチになった。その言葉を一瞬理解出来なかったが、その言葉を理解した瞬間ブリーフィングルームにいた全員の顔が青くなった

 

「何人もの犠牲者、何体もの試作ゲッターの失敗の中で、オイラが乗ってるゲッターがやっと出来た。だけどパイロットがいなかった……だから早乙女博士は民間人の中からパイロットの選別を始めたらしい」

 

「正気じゃねえな」

 

民間人からパイロットを集めたという武蔵の言葉にイルムはそう呟いた。言ったら悪いが、パイロットを使い捨てしかねない機体のパイロットを民間人から探す……それはとても正気とは思えない行動だ。だがそれはそれだけ人類が恐竜帝国に追詰められていたという証拠でもあったのだ

 

「イーグル号には「流竜馬」、ジャガー号には「神隼人」、そしてベアー号のオイラ。3人とも学生だったけど、日本を……地球を守る為に戦った。だけど……ある日竜馬が恐竜帝国との戦いでオイラと隼人を助ける為に行方不明になった……敵の前線基地の爆発に飲み込まれて、皆死んだって思ってたよ」

 

「……そんなに凄い爆発だったのか?」

 

「日本の地形が変わるレベルの大爆発だったよ」

 

日本の地形が変わるレベルと聞いて、リュウセイは息を呑んだ。そしてその話を聞いていたイルムが武蔵にへと問いかける

 

「じゃあ、その竜馬って奴は?」

 

「奇跡的に竜馬は生きていた。だけど記憶喪失になり、恐竜帝国とは違う組織によって回収されていた。オイラは遠目に見ただけど、隼人は言っていた「鬼」だったと……」

 

爬虫人類の次は鬼……新西暦に伝わっていない、旧西暦はどれだけ恐ろしい世界だったのか……それを想像する事しか出来ないリュウセイ達は何も言えなかった

 

「その鬼と言うのはどうなったんだ?」

 

「すいません、鬼に関してはオイラは全然知りません。ただ早乙女博士は新しい敵と言ってました。それよりも話を戻しますね、リョウは記憶喪失になってある病院の地下に幽閉されていて、オイラと隼人で救出しました。でもそこに恐竜帝国の襲撃があって、院長になりすましていた鬼が人間を操り……」

 

武蔵はそこで思い出すのも辛いのか、唇を噛み締めて黙り込んだ。拳を強く握り締める姿にそれだけ酷い事があったのかと尋ねたいが、それを尋ねることも出来ない。暫く沈黙していた武蔵だが、搾り出すようにして告げた

 

「鬼に改造された人間が恐竜帝国に挑み、メカザウルスによって死者400人。改造されたことで発狂死した事で600人……合計1000人近い人間が鬼によって殺された」

 

「この時代に伝わっていないのも納得だ」

 

1000人と言うとんでもない数の死人、しかしそれはあくまで1つの事件に過ぎない。北海道の消滅や、恐竜帝国によって齎された被害は甚大で、軍は何も出来ず民間人である武蔵達によって恐竜帝国は退けられていた。当時の日本の政府を初め、各国の政府だってそんな事件は隠蔽したいだろう。だからこそ、新西暦にはゲッターロボや恐竜帝国の事が何一つ伝わっていなかったのだろう。

 

「ゲッターロボは3人揃う事で初めてフルパワーを発揮できる……リョウはゲットマシンに乗ると激しく錯乱して、とてもゲッターに乗せれる状況じゃなかった。だけど恐竜帝国は進撃を止めない、アメリカから無限に送り込まれてくるメカザウルス。日本が壊滅するのも時間の問題だった……」

 

武蔵が目を閉じて顔を上げる、閉じられたその瞼には恐竜帝国との戦いが思い返されていたのだろう。その姿に誰も口を開くことは出来なかった。

 

「早乙女博士は戦闘用の改良されたゲッターの開発をしていた。完成すれば新ゲッターロボで恐竜帝国を倒す事が出来ると早乙女博士は言った。だが時間が無かった……だからオイラは1人でゲッターロボに乗ってアメリカに向かった。恐竜帝国の本拠地を攻撃すれば日本への攻撃は一時的でも弱まると思ってな」

 

それは武蔵がたった1人で恐竜帝国に特攻を仕掛けたという事を意味していた。

 

「オイラは元々無理矢理ゲッターに乗り込んだ学生だった、早乙女博士に選ばれたリョウや隼人とは違う。2人が生きていればゲッターは動く、世界は救われる。だからオイラはゲッターの炉心のリミッターを解除して、恐竜帝国との戦いに向かった……いや違うな……やつらを巻き込んで自爆するつもりだった……いや、自爆したんだ。炉心を握り潰して、溢れ出たエネルギーに飲み込まれたと思ったらオイラはアイドネウス島にいた」

 

これが自分の話せる全てだと武蔵は告げ、何か聞きたいことはあるか?と尋ねたが、誰も武蔵に声を掛けることは出来なかった。その余りに悲惨と言えるたった17年の人生……それは華々しい訳では無い、そして漫画やアニメのような都合の良い展開はなく、友の為、日本を守る為……ただ1人で散ることを選んだのだ

 

「武蔵君。恐竜帝国は健在だと言うのか?」

 

「判らないです、でもバットはいる。恐竜帝国将軍のあいつが生きていると言うことは……メカザウルスを開発しているガレリィも生きているかもしれない、いや、もしかすると恐竜帝国の支配者のゴールだって生きてるかもしれない……オイラにはそれしか言えないです」

 

武蔵の言葉が静まり返ったブリーフィングルームに響く、DCとは違う。地球全体を相手取り戦争を起こした恐竜帝国の復活、それはハガネのクルーに重く伸し掛かるのだった……

 

 

 

 

ハガネで武蔵が自分の境遇を語っている頃。ビアンもまたアイドネウス島で演説を行っていた……

 

「ついに私が危惧していた人類への外敵が動き出した」

 

モニターに映し出されるのはメカザウルスの群れと戦うヴァルシオンとゲッターロボの姿。腕を切り裂かれても、右半身を失ってもなおヴァルシオンとゲッターに向かう歩みを止めないメカザウルスにテンペスト達も息を呑む。

 

「そして今私は武蔵君の真実を語ろう。彼は私の知人の孫などでは無い、旧西暦……そう、一切の歴史的資料が残されていない失われた時代を生き、メカザウルスと戦い地球を守る為に戦った勇敢な青年だ。戦いの中でこの時代へと飛ばされて来たのだ、これは彼の所持していた物やゲッターロボに使われている技術から真実であると言うことは明らかである」

 

過去からの使者。その言葉に司令部にざわめきが満ちる、信じられないと言うものも大勢いた。だがメカザウルスとゲッターと言う証拠があればそれを信じるしかない。

 

「総帥。では武蔵君がアイドネウス島を脱出したのは……今の情勢を知らないからだったのですか?」

 

「そうだ、彼は今の情勢を知らず。戦争と聞いて袂を別ったが、こうしてメカザウルスの脅威が現実となった今。再び道が重なることもあるだろう」

 

武蔵は裏切り者では無いと繰り返し説明するビアンだったが、今までの穏やかな表情を一転させる。

 

「だが政府はハガネにメカザウルスの焼却処分と、戦闘記録の公表を禁じ、消し去る事を命じた。これは断じて許されることでは無い! そして

私は確信した、今の政府と地球連邦では異星人にも恐竜帝国にも勝つ事は出来ないとッ! 栄えあるDCの兵達よッ! 地球を守る為、そして人々を守る為! 今まで以上の奮起を願う! 地球を守るのは我らディバインクルセイダーズだッ!!」

 

「調子はどうだ? ユーリア」

 

ビアンが演説を行っている頃。エルザムはアイドネウス島の医務室を訪れていた、その理由は勿論ユーリアだ。コックピットブロックごとメカザウルスに噛み砕かれそうになった所をゲッターに救われたユーリアだが、両足の骨折、そして脇腹に砕けたモニターの破片が刺さるなどの重傷を負っていた。少なくとも数ヶ月はAMに搭乗する事は出来ないと医者に診断された。それはユーリアにとって何よりも辛い言葉だった、大事なこの時期に戦えない、エルザムが訪ねてて来たのも叱責だと判断し、ベッドから身体を起こして深く頭を下げる。

 

「エルザム様……申し訳ありません。この大事な時に、このような無様な姿をお見せして」

 

「いや、構わない。よく生きていてくれた、父もきっと生きていた事を喜んでくれるだろう」

 

優しく微笑むエルザムだが、ユーリアは今にも泣きそうな顔をしていた。それは使命も果たす事が出来ず、指令すらも全うできない己を恥じての事だった。

 

「……しかし私達はマイヤー総司令の命令を果たす事が出来ませんでした」

 

「いや、お前達は良くやってくれた。恐ろしいメカザウルスとの交戦記録を無事に持ち帰ってくれたではないか、ガーリオンや支援物資はこちらからシャトルを用意する手筈になっている。君は指令を果たしたんだ」

 

ユーリア達のリオンにはメカザウルス・バドや海中を割って現れた4つ首のメカザウルスとの戦闘記録が収められていた。それは未知の敵と戦わなければならないDCと統合軍にとって何よりも必要な情報だ。

 

「……ありがとうございます。そう言って貰えればほんの少しは気が軽くなります」

 

「フッ、ユーリア。お前は優秀な兵士だが、その石頭は少し柔らかくした方がいいな」

 

エルザムに笑われ、ユーリアはこれは性分ですのでと頭を下げる。だがその前には僅かだが微笑が浮かんでいた

 

「エルザム様。あのゲッターロボのパイロットと言うのはどんな人物なのですか?」

 

「巴武蔵君か、気持ちの良い青年だよ。気は優しくて力持ち、やや肥満気味だが、そのおかげか妙に気を許してしまう。そんな青年だ」

 

エルザムが先ほど浮かべた微笑とは異なり、本当に笑っているのを見てユーリアは少し驚いた。

 

「……敵同士ではありますが、再びまみえる事があれば礼を言いたいのです」

 

「そうか、武蔵君はハガネに乗っているが、連邦と言うわけでは無い。私とビアン総帥を止める為にハガネに乗っている、だから敵同士とは言えないな」

 

「そうですか……DCと統合軍に協力してくれればいいですね」

 

「そうだな。私は再び彼と道が重なることを願っているよ」

 

エルザムはそう笑うと無理をさせたと謝罪し、医務室を後にする。1人残されたユーリアは痛み止めの効果で眠りに落ちる中、殆ど無意識に武蔵の名を呟いているのだった……

 

 

 

 

「ぐぉおおおお!! 熱い! 熱い!! オノレェエエエエエエエ!! ニンゲンがァ!!」

 

覚えているのは凄まじいゲッター線の光に焼かれた痛みと熱さ、そして顔の半分が吹き飛んだ事による気が狂いそうになる痛み……それだけが、彼に認知できる全てだった。それから何があったかは、判らない……だが、気が付けば船と飛行機の墓場の様なところに居た。焼かれた痛みが、憎しみが身を焦がす。正気を失いかけたその時……彼の目の前に何かが過ぎる

 

「は……はははは……ハハハハハハハハッ!!」

 

 巨大過ぎる影がおのが身を覆う。振り返ったそこに見えたものは……かつての戦いで失われた筈の物の一部……それを見た男は狂ったように……いや、事実狂っていたのだろう。発狂したかのように笑い続け、そして力尽きるまで笑い倒れこんでもなお嗤い続ける。

 

「……れ、……だ、……これダ! コレだ!! こレだ!!!」

 

影を見た博士の顔に知性の色が滲み出る……だがその声は狂気に満ちていた。

 

「――ミテイロ、ニンゲン共、オモイシラセテヤル、必ズ…………ゲッタァあア!!!!! 貴様をコロス! ころす!! 殺してやるぞオオオオッ!!!!」

 

身を焦がす憎悪、そして全身を焼かれた痛み血反吐を吐く。そして……半分吹き飛んだ頭部から紫の血液が流れ出していても、彼は……ガレリィは嗤い続ける。これがある、そして己がいる。ならばいるはずだ……いや、居ない筈が無いのだと嗤い続ける……

 

「戻ったぞ、ガレリィ」

 

狂ったように笑っていたガレリィだが、背後から声を掛けられその瞳に知性の色が宿る。

 

「おオ! 戻ったか! どうだ! どうだった! ギガザウルスの力は!」

 

「素晴らしい物だった。だがやはりまだまだだな……やや暴走気味だ」

 

「しかたあるまいて、ここ元第4ブロックはにっくきゲッターに破壊されたメカザウルス製造工場じゃ。電子頭脳などの制御に問題が出るのも当然だ」

 

いままでの狂ったような笑い声とは異なり、理知的な口調で暴走の理由を話すガレリィだったが、その目が黒く濁りと再び口調が怪しいものとなる

 

「な、何をしておるかぁ! 我らの偉大なる帝王ゴール様への報告が済んでおらぬぞオああ!?」

 

「……ああ。判っている、今報告に向かうところだ」

 

「ならば! ならばよいぞあおあ!! 我らの偉大なる帝王ゴールは今も健在なりいいッ!!」

 

狂ったように叫ぶガレリィ、その視線の先に鎮座する巨大なメカザウルス……それをゴールと呼ぶ姿にバットは僅かに目を伏せてから

 

「帝王ゴール、バット将軍。ただいまもどりました」

 

「……」

 

物言わぬメカザウルスに臣下の礼をとる。そしてその姿を見て嗤うガレリィの声だけが、マシーンランドの中に響き続けるのだった……

 

第18話 ゲッターロボ 出撃不能 へ続く

 

 




連邦がややアンチとなりました。どうしてもこういう話になってしまいました、でもゲームの中を見ていると連邦政府も汚職とか、そいうのが酷いのでこんな感じかなって、なおユーリアヒロインルートと言うわけでは無いですが、生存ルートのフラグとなります。ヒロインとかは全然考えていませんしね。オーバー・ザ・ラインと、トーマスの罠ではゲッターロボは出撃不能で書いて行こうと思います、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話 ゲッターロボ 出撃不能

第18話 ゲッターロボ 出撃不能

 

自分の身の上を話した武蔵。嘘偽りのない事実を伝えたのだが、やはり旧西暦、恐竜帝国、メカザウルスと言う話は信じられないと考えていた武蔵だったが、ゲッターロボ、メカザウルスと言う証拠があり武蔵の話は信じられる事となった。それ以上に武蔵の人となりと言うのもあるが、素朴で、そして人の為に怒れ、困っていれば積極的に人助けをする。武蔵の姿は紛れも無く好青年であり、ハガネのクルーに受け入れられる事となった。そして武蔵は今、格納庫にいた……

 

「やっぱ無理? ロブさん」

 

「……無理だなあ……いや修理はするよ。修理はするけど……この有様だしなぁ」

 

ヴァルシオンとの戦いで損傷したジャガー号だけがクレーンで吊るされているが、その背部には鋭い剣の後が残されている。ヴァルシオンのディバインアームの傷跡だ、斬られた場所から配線が剥き出しになり今も火花を散らしている。

 

「……どれくらいで直ります?」

 

「……うーん、図面をスキャンして、部品を探して……少なくともアイドネウス島に突入前後までは無理だろうな」

 

予想よりも遥かに深い傷跡に武蔵も溜息を吐かざるをえない。だがあの場合バドに襲われている人を見捨てる事は出来なかったのだから、仕方が無い。

 

「うーん、オイラもある程度修理は出来ると思うけど、完全にスキャンしないと駄目ですか?」

 

「こっちとしても早くゲッターロボは戦闘可能にしておきたいからなあ……武蔵が手伝ってくれるなら、もう少し短く出来るかもしれないな」

 

恐竜帝国が健在な以上。メカザウルスと戦う事が出来るゲッターの修理は必要不可欠だ。ロブも多少厳しいけど、頑張ってみると笑う。

 

「しかしまさか本当に過去の人間だったとはなぁ……正直もしかしてって思ってたけど、直接聞くと本当に驚きだ」

 

「……なんで判ったの?」

 

「そりゃ、俺もメカニックだしな……細かい傷とか見るとある程度は予想がつくよ」

 

まぁ、まさか過去から来てるとか馬鹿らしいって自分でも思ったけどロブは笑う。武蔵はその言葉に苦笑する、そんな所で怪しまれるなんて夢にも思ってなかったからだ。

 

「まぁ俺としては正真正銘スーパーロボットの整備に携われるんだから不満は無いさ」

 

「……ご迷惑を掛けますけどよろしくお願いします」

 

深く頭を下げる武蔵にロブはこちらこそよろしくと頭を下げ、2人でジャガー号の修理を始める。

 

「えっーっと……こっちの配線がこれで……こっちがこれっと」

 

「へえ、中々やるじゃないか。メンテナンスはしてたのか?」

 

ロブから見ても武蔵の手際は良かった。武蔵は鼻の頭にオイルをつけながら照れくさそうに笑う。

 

「いやあ、オイラはゲットマシンもゲッターも大好きなんで、よくメンテを見てたんですよ」

 

「なるほど、それなら予定より早く……ん? あれはリュウセイとラトゥー二か?」

 

ロブがジャガー号の上に乗りながらそう呟く、武蔵も振り返ると確かにラトゥー二とリュウセイが話をしている。だけど微妙に険悪な空気だ

 

「ロブさん、オイラちょっと見てきます」

 

「あ、ああ。判ったよ、じゃあこっちはこっちで調べさせて貰うよ」

 

ロブの了承を得た武蔵はジャガー号の上から滑り降りて、リュウセイ達の元へと向かう。

 

「……っていう訳なんだ。すまないけど、お前のマニューバーデータを貸してくれるか?」

 

「……」

 

リュウセイが声を掛けているのだが、ラトゥー二はリュウセイの言葉に返事を返さない。それ所かそわそわとし、リュウセイの前から逃げたいという雰囲気さえ出ている

 

「ラトゥーニ? リュウセイどうかしたのか?」

 

武蔵の言葉にラトゥーニはぱっと顔を上げ、武蔵の背後に隠れる。その様子を見て武蔵が眉を吊り上げ、拳を鳴らす。

 

「まさか苛めてたのか?」

 

「いやいや! 違う! 違うから! 今度の作戦でビルドラプターの変形が必要だから、それのデータが欲しかっただけで……」

 

自分の勘違いでリュウセイを威圧していたと気付いた武蔵は悪かったと謝る。

 

「と言うわけらしいけど……無理なのか?」

 

ラトゥーニの目線に合わせて尋ねる武蔵。ラトゥーニはぼそぼそと武蔵に呟き、背を向けて格納庫から出て行ってしまう。

 

「なんだって?」

 

「今はヒュッケバインに乗ってるから直ぐデータは出せないとさ」

 

「あ、そう言う事……それなら言ってくれたら良いのに」

 

武蔵が仲介役になってくれた事でラトゥーニの返事を聞けたリュウセイはそう呟く、武蔵もそう思ったが内向的で人見知りが激しいのは判っていた。

 

「ジャーダさんかガーネットさんが一緒にいると案外話しやすいぞ?」

 

リュウセイにそう助言し、武蔵はロブと共にジャガー号の修理を再開するのだった……

 

 

 

 

武蔵の了承を得てゲットマシンの解析を始めているロブ。今までは自分で推測しないといけない部分もあった。だが今は違う、パイロットである武蔵に細かい質問が出来る。それはなによりもロブの心を滾らせていた。旧西暦の時代に人類を守り戦った正真正銘のスーパーロボット。それを整備出来ると言うのはメカニックとしても、ロボットオタクとしても素晴らしい経験だった。

 

「このジャガー号だけ調子が悪いように見えるけど、何かあったのかな?」

 

イーグル、ベアーと比べると損傷度が大きい。それに修理した痕跡も見えるので武蔵にそう尋ねるロブ、武蔵は苦笑しながらジャガー号の真ん中を指差す。

 

「敵の攻撃で風穴開いていたんですよ」

 

「……そうか、3万対1で戦っていたんだったな」

 

「そんなに戦力差あると思ってませんでしたけどね」

 

味方もいない、増援も無い。1人で絶望的な状況で未来を親友に託し、1人で戦いに出た……それがどれだけ過酷な事かロブには……いや、他の誰にも武蔵の気持ちなんて理解出来ないだろう。

 

(……辛いんだろうな)

 

「よう、兄弟。悪いな、こんなにボロボロにしちまってよ」

 

ゲットマシンを撫で、親しみを込めた言葉を投げかける。汚れている部分を丁寧に磨き、傷ついている部分を見て悲しそうな顔をする。今の武蔵は自分が生きた時代とは遠い時代に居て、そして仲間もいない。自分が命を賭けて救おうとした世界は人間同士で争っている……それを口にすることは無いが、武蔵はきっと傷ついているのだろう。ビアン・ゾルダークを止める為にハガネに乗り込んでいると言う目的も、一番最初に出会い、そして自分に良くしてくれたビアンを殺させたくないという思いの現れだろう。

 

(俺達に何が出来るんだろうな)

 

武蔵の孤独も悲しみも、誰も理解出来る訳が無い。理解していると言うのは簡単だし、そして同情する事も出来るだろう。本当なら荒れていてもおかしくない、それなのに人を思いやれる優しいその性格

 

「……武蔵は強いな」

 

「何か言いましたー?」

 

身体も勿論だが、何よりもその精神が強い。ロブは聞こえないだろうと思い、そう呟いたのだが武蔵には聞えていたようだ。ロブは慌てて手を振りながら

 

「いや、そろそろ作戦海域だからな。細かい作業は中断しようかってね」

 

今ハガネはアイドネウス島に向かう為に赤道付近を通過している。本当ならばこのまま修理を進めたいが、戦闘の衝撃で修理に失敗しても困るというと武蔵はなるほどと手を叩く。

 

「じゃあ、コックピットですね。イーグルからで良いですか?」

 

「ああ、どの機体からは武蔵に任せるよ」

 

ロブは笑みを浮かべてそう告げる。自分達に出来る事はそう多くない、でも武蔵がハガネにいる間は居場所を作ってやりたい。ロブは心からそう思うのだった……

 

 

 

 

 

イーグル号のコックピットに武蔵が座り、搭乗口にロブが腰掛ける形でゲットマシンの分析を行っていた。

 

「よし、じゃあ武蔵。可能な限りで良い、イーグル号の出力を上げてくれるかい?」

 

「うっす、了解」

 

今現在イーグル号は戦闘機出撃用のカタパルトの上に置かれていた。それは実際に稼動させる事でゲットマシン、そしてゲッターロボ用のシュミレーターを作る為だ。ゲットマシンの背部から炎が噴出す、ロブはその振動に顔を歪めながらも膝の上に乗せているコンピューターに視線を向ける。

 

「マッハ0.4……凄いパワーだな」

 

「いや、これで半分位」

 

武蔵の言葉にロブは絶句するしかない、対重力装備もなくマッハの速度で飛行。しかもこれで合体となると更なるGがコックピットを襲うだろう……正直研究者の視点から言うと良く耐えれるなと言わざるを得ない。

 

(……これはハガネのクルーで乗れるパイロットを見つけるのは無理かもしれないな)

 

ゲッターは3人乗りでフルパワー、2人で半分、そして1人では更に半分。そのスペックでも十分に脅威なのだが、恐竜帝国、メカザウルスを相手にするには全く持って足りない。せめて後1人パイロットが欲しいと言う武蔵の要望に答えてやりたい所だが……コッククピット回りを改造しない事にはそれすらも難しいかもしれない

 

「っと!」

 

「危ないッ!!」

 

突如ハガネを襲った振動にロブが姿勢を崩し、コックピットから上半身を出した武蔵がロブの制服を掴む。

 

「た、助かったよ。武蔵……大分戦闘が激しくなってるみたいだな」

 

今ハガネは赤道を突破中だ。敵も新型を出してきていると言う報告はさっき出て、整備班から何人かが解析に向かった。

 

「……オイラ、こんな事してて良いのかな」

 

戦力的にハガネの方が不利である。敵の防衛網を突破して赤道を抜ける、本来ならば武蔵が出撃できれば更に万全となるだろう……だがジャガー号が自力で飛ぶ事が出来ない今、出撃してもただの的になる。

 

「……それなら状況だけでも見てみるか?」

 

本当はイングラムからもダイテツからも禁止されているが、その余りに落ち込んだ表情にロブはそう声を掛ける。武蔵の性格は良いも悪いも真っ直ぐだ、ゲッターロボで出撃できない以上。下手な暴走をさせないためにも戦闘を見るのは禁止と命令されていた、それでもロブはその武蔵の表情を見てモニターに外の状況を映す。そこには頭部が巨大な砲塔になっているDCの新型AMの姿がある

 

「これか……そう言えば、ロブさん。気になっていたんですけど良いですか?」

 

「俺で判る事なら答えれるけど、なんだ?」

 

モニターを見るなり気になる事があると尋ねてくる武蔵。ロブはゲットマシンを飛ばす際にかかる重力や、パイロットの負担などを計算しながら返事を返す。

 

「ハガネのえーっとゲシュペンストとかは何で飛ばないんですか? あんなにでかいのが飛んでるのに」

 

武蔵の質問にロブは苦笑する。確かに普通ならAMが飛んでるのに、PTが飛ばないのは気になるよなと笑う。

 

「AMはテスラ・ドライブって言う飛行装置と重力遮断装置を兼ねた装置で飛行しているんだ。それはEOTI機関……つまりDCの前身の組織が開発していた物なんだ」

 

「つまりどう言う事?」

 

「……連邦にはPTに搭載できるような小型化されたテスラ・ドライブの技術が無いって事さ」

 

「じゃあDCの機体が飛べるのって」

 

「そ、ビアン・ゾルダークの技術力の賜物って訳さ。俺も研究してるけど、どうすれば、PTサイズにまでダウン・サイジング出来るのか皆目見当もつかないよ。武蔵が確保してくれたリオンも分析はしてるんだけどね」

 

なるほどと頷く武蔵。武蔵の攻撃で無傷で回収で来たリオンは相当数あるが、脱出時にプログラムが破壊されているため使用出来ないでいる。もしプログラムが破壊されておらず無事に回収出来ていれば、リオンから取り出して搭載するんだけどなあとロブは残念そうに呟く

 

「ゲッターの飛行技術を組み込めれば良いんだけどな。ゲッター線を溜め込む炉心が理解出来ん」

 

「……まぁゲッターの生命線ですしね。オイラもよく判ってないし……って! あいつらミサイルを撃って来やがったッ!?」

 

モニターにはキラーホエールから発射された対艦ミサイルが5つ映し出されていた。

 

「馬鹿なッ!? この距離で撃てば友軍すら巻き込むぞッ!? あいつらの指揮官は何を考えているッ!」

 

ロブもさすがにそれには怒鳴り声を上げた。対艦ミサイルはその名の通り戦艦を相手にするために開発されたミサイルだ。その破壊力は言うまでもなく、爆発の余波ですらPTやAMを破壊するには十分の火力を秘めている

 

「総員! 対衝撃防御を取って下さいッ! 格納庫及び、通路にいるクルーは至急避難場所への移動を開始してください!」

 

リオの艦内放送で格納庫にいた整備兵達が一部を除いて、格納庫から退避していくロブも武蔵を連れて退避しようとしたが、武蔵は動かない。

 

「武蔵聞えなかったのか……!?」

 

だがロブは武蔵を連れ出す事が出来なかった。その理由は武蔵の全身から溢れ出す怒気、その怒気が自分に向けられた物では無いと判っていても、ロブは恐怖した。

 

『なんだ、てめえ……知らねえのか。そのガキはな、人形なんだよ。ゲームのアイテムみたいなもんさ』

 

スピーカーから聞えてくるテンザンのラトゥーニを蔑むような言葉。それが武蔵の逆鱗に触れていたのだ

 

『アイテムだとッ!? お前何言ってやがるッ!!!』

 

『はは、何まじになってんだよ馬鹿見てぇ、アイテムで不服なら、強化パーツでもいいぜ? 最も欠陥品だがな』

 

リュウセイの怒声にテンザンは笑いながら告げる。だがそれがこの場で最も怒らせてはいけない相手にも聞えているとは思っていなかったのがテンザンの不幸であった。

 

『ちょっと、あんた! ラトゥーニの気持ちも知らないで……適当な事を言ってんじゃないわよ!」

 

『おお、こわっ!けどな、スクール出身のガキの殆どは実験が原因でな』

 

ガーネットの怒声がオープンチャンネルで響く、武蔵にはそのスクールが何かは判らない。だがそれが原因でラトゥーニの顔から笑顔が消え、そして対人恐怖症とも言える、人見知りを発症したと言うのが判った

 

『それ以上言うなッ! 言えばただですまさねぇぞ!』

 

『へっ、脇役が気分出すなよ。やれるもんならやってみろっての、この雑魚がッ!』

 

機械が砕ける音がした、ロブが恐る恐る振り返ると武蔵が手にしていた端末がその桁並外れた握力で握り潰されていた

 

『テンザン! てめえッ!!』

 

テンザンの言葉で怒りを爆発させたのは武蔵だけでは無い、リュウセイもだった。バレリオンの包囲網を一瞬で突破し、バレリオンへと肉薄する。その動きは先ほどの物と異なり、熟練の戦闘機パイロットと比べても遜色ない物だった……

 

「ロブさん。黙ってオイラを行かせてくれ」

 

「だ、だが! ゲッターロボに合体できない出撃するのは危険だッ!」

 

武蔵がテンザンに対して激しい怒りを抱いているのはロブにも理解出来た。ゲッターロボに合体出来ないのに出撃するのは危険だと止める、だが武蔵は首を左右に振る。

 

「人間には土足で踏み入っちゃあいけねえ部分がある。あいつはそれを踏み躙った、オイラはそれを許せないんだ。止めるって言うなら……無理にでも出撃するぜ」

 

武蔵が握り締めた拳が音を立てる。それを見てロブは溜息を吐く、もう止める事が出来ないと判ってしまったから……

 

「……後で謝るのを手伝えよ」

 

「すまねえ……迷惑を掛ける」

 

敬語ではなくタメ口。ロブはその言葉を聞きながら、そっちの方が武蔵らしいと笑い。ゲットマシンの出撃準備を始めるのだった……

 

 

 

 

武蔵がイーグル号の出撃準備をしている頃。リュウセイと対峙しているテンザンは自分を追い詰めているビルドラプターに顔色を変えていた。

 

「こいつ、さっきと動きが違うッ!?」

 

ミサイルランチャーとビームキャノンで近づけまいと射撃を放つが、ビルドラプターはその弾幕を潜り抜け、バレリオンVへと接近していく

 

「ああ、ラトゥーニが送ってくれたデータのおかげでなッ!」

 

リュウセイは怒りに満ちた声でテンザンに向かって叫ぶ。ラトゥーニの気持ちを考えず、非道な言葉を投げかけたテンザンにリュウセイは完全に切れていた。

 

「ほ! あの短時間で新しいパターンを作ったって言うのか? やっぱ、お前は俺と同じ人種だぜ」

 

だがテンザンが動揺したのは僅かな時間で、即座に気持ちを切り替え頭部の2門のレールガンでビルドラプターを狙う

 

「テンザン! 人の心を踏みにじるてめえだけは許せねぇッ!!!」

 

「ほ~お、いつになくかっこをつけてくれるじゃないの、でもな! 所詮お前も俺と同類だってことを忘れるんじゃねえッ!!」

 

お互いにロックオンの警告音を交互に鳴らしながら空中戦を繰り広げるテンザンとリュウセイ。それでもテンザンはリュウセイを挑発するのを止めない、それは余裕の表れではない。リュウセイの動きが予想を超えて上昇した為、怒りによるコントロールミスを狙った物であった。

 

「うるせえ! 俺はお前とはッ!」

 

「はっ! だから甘いんだよッ!!」

 

反論しようとしたその瞬間。僅かにだがビルドラプターの動きが鈍る、それを見逃すテンザンではなく、頭部のレールガンの砲塔を向けた瞬間。ロックオンの警告音が響く

 

「なっ!? どこからだッ!?」

 

ハガネはグレーストークと撃ち合いになっており、バレリオンVを狙う余裕は無い。PT隊もまだ自分とリュウセイの側まで来ていない、どこからロックオンされているのか判らず困惑し、急旋回したビルドラプターのホーミングミサイルがバレリオンに向かって放たれる

 

「ちいっ!!」

 

舌打ちしながら回避し、直撃は交わすがその代わりに左側のミサイルポッドが被弾した。それなのにまだロックオンの警告は途絶えない

 

「どこだ、どこから「うおりゃあああああッ!!!」 っ! 上かッ!!!」

 

太陽を背にして急降下してくる赤い戦闘機……イーグル号だ。太陽を背にしているからか照準を合わせる事が出来ず、すれ違い様にビーム砲がバレリオンVの2門のレールガンの砲塔のうち1つの砲口を貫き爆発させる。

 

「てめえッ! よくもやりやがったなッ!」

 

「遅せえッ!!!」

 

バレルロールからの再びのミサイル。ロックオンの警告音もならず放たれたそれは正確にバレリオンVの脚部を捉える。それは射撃管制システムも使わないパイロットの腕によって狙われた神業的な射撃技術……武蔵の力がゲッターロボ頼りではなく、戦闘機パイロットとしても優秀な腕を持っていると判明した瞬間だった。

 

「オイラはてめえみたいな、人の痛みを判らねえ野郎が大ッ嫌いだっ!! 覚悟しやがれッ! てめえに味わわせてやる……ゲットマシンの恐ろしさをなぁッ!!!」

 

 

 

 

 

赤道付近に展開していたバレリオン部隊。強力なレールガンによる砲撃と密集形態による強固な防御、それはハガネのPT隊の攻撃を防ぎ、強固な防衛網として働いていた。更に後方にテンザンのバレリオンV型による連射が可能なレールガンとビームキャノンとミサイルによる攻撃はテンザンには援護しようと言う意図が無いとしても、援護に近い形になっていた。

 

「くそっ! うざってえなぁッ!」

 

「オラオラオラッ!!!」

 

「くそがッ!!!」

 

だがそのテンザンが今はリュウセイと武蔵にとって完全に足を止められた今。それはこの赤道の防衛網を突破する最大のチャンスとなった。

 

「そこだッ!!!」

 

錐揉み回転しながらイーグル号が放ったレーザー砲はキラーホエールから放たれた、2つの対艦ミサイルをも撃墜する。それに続けてビルトシュバインとヒュッケバイン009の放ったレールガンとショットガンが対艦ミサイルを撃墜し、ハガネへの脅威は完全に無力化される。

 

「各員に告ぐ、防衛網に穴が空いた。今のうちにハガネの突破するラインを確保する」

 

ゲットマシンの登場はDC側のパイロットに動揺を与えていた、仮に合体していないとしてもゲットマシンは脅威としてDCに認識されていたからだ。

 

「しゃッ! 行くぜッ!!」

 

イングラムの指示が出るよりも先に勿論動き出した者もいた。イルムだ、グルンガストの飛行形態であるウィングガスト。その攻撃力と防御力を持って突破口を探していたが、テンザンがリュウセイと武蔵を相手にしているこれが最大の好機と判断したからだ。ウィングガストの全身がエネルギーフィールドによって守られると同時にバレルロールをしながらバレリオンの密集地帯へと向かっていく、ウィングガストの最大の攻撃である「スパイラル・アタック」だ。速度と質量による必殺攻撃だが、その反面十分な速度を得る必要がある為今まで出す機会が無かったが、テンザンが押さえられている今が最大のチャンスとイルムは判断したのだ。

 

「近づけさせるな! 撃てッ! 撃てッ!!!」

 

ゲットマシンの登場で動揺していた兵士達が我に返り、射撃態勢に入るが、それは僅かに遅かった

 

「ターゲットインサイト……ツインビームカノン発射ッ!」

 

「TーLINKリッパー射出ッ!!!」

 

シュッツバルトのツインビームカノンがレールガンを放とうとしていたバレリオンの下部から放たれ、バレリオンの密集防御を崩し、更にそこにTーLINKリッパーの追撃が放たれバレリオン同士の間隔を大きく開く。

 

「ジャーダ、ガーネット、一気に防衛網を貫く、続けッ!」

 

ビルトシュバインの左腕の盾からビーム刃が展開され、海面を滑りながらバレリオンへと接近していく。その後を続くようにプラズマステークを起動させ、左腕を放電させたゲシュペンストが続く。

 

「くっ! 固まれ! 防御姿勢をとれッ!」

 

バレリオン部隊の隊長の出した判断は迎撃ではなく、防御だった。ウィングガストが接近している今迎撃に出るのは危険と判断し、防御することを選んだのは決して間違いでは無い。だがそれは余りにも遅すぎた

 

「……リープ・スラッシャー……シュートッ!!」

 

ヒュッケバイン009から放たれたビーム刃を放つ遠隔操作ユニット「リープスラッシャー」が防御姿勢に入ろうとしていたバレリオンの頭部の砲身を切り裂いていく、それは威力自体はバレリオンが撃墜されるほどの威力ではなかった。だが姿勢を崩すには十分すぎる威力だ

 

「スパイラルアタァックッ!!!」

 

「アカシックバスタァァーッ!!!」

 

魔法陣から召喚した火の鳥と一体になったサイバスターとウィングガストの一撃がバレリオン部隊に風穴を開ける

 

「落ちろッ!!!」

 

「「ジェットマグナムッ!!!」」

 

完全に包囲網が崩れた一瞬ビルトシュバインのサークルザンバーとジェットマグナムが僅かに生き残っていたバレリオンの胴体を貫き破壊する。

 

「今だ! 全速前進ッ! この海域を突破するッ!! 各機着艦せよッ!」

 

バレリオン部隊の包囲網が崩壊した隙にハガネにPT隊が着艦し、一気に赤道の突破を図る。

 

「照準セットッ! アンダーキャノン発射ぁッ!!!」

 

「こいつも喰らっとけッ!!!」

 

イーグル号のミサイルとビルドラプターのアンダーキャノンがバレリオンVのレールガンの発射口と動力を同時に貫く

 

「ぐ、ぐううううッ! お、覚えてやがれえええええッ!!!!」

 

テンザンはそう叫ぶと脱出装置で脱出する。そして赤道を突破ハガネの後を追ってイーグル号とビルドラプターもその空域を離脱していくのだった……

 

 

 

 

 

「ラトゥーニ、マニューバーデータを転送してくれてありがとよ。おかげで助かったぜッ!」

 

リュウセイはビルドラプターから降りるなり、ラトゥーニの元へと走り感謝の言葉を告げる。

 

「ううん……リュウセイが無事でよかった。それに……お礼を言うのはこっち」

 

「え? なんだって?」

 

「あ……う、うん。な、なんでもないッ!」

 

ラトゥーニの言葉が上手く聞き取れず聞き返すリュウセイだが、ラトゥーニは少しだけ声を荒げ、なんでもないと言うとリュウセイから背を向けて走り去ってしまう

 

「あらら……また行っちまったぜ。嫌われてんのかな、俺」

 

逃げてしまったラトゥーニを見てリュウセイは肩を落としながら呟くとガーネットが違うわと笑う

 

「違うわ、照れてるのよ。あの子……それにあんたの事が頼もしかったのよ」

 

「何言ってんだよ。俺はあいつのデータと武蔵に協力してもらって、何とかテンザンと戦えたんだぜ?」

 

リュウセイは自分だけじゃ勝てなかったとガーネットに言う。だけどガーネットはそうじゃないわと笑ってリュウセイの肩を叩く。

 

「……そうじゃないわよ。テンザンがスクールの話を持ち出した時、あんたと武蔵が本気で怒ったでしょ? それが自分の意思を上手く伝えれないあの子にとって頼もしかったって思うんだ」

 

「……ただ無口って事じゃないのか?」

 

「あいつはな。スクールって言うパイロット養成機関の出身でな……そこでの訓練や精神操作が原因で重度の対人恐怖症になっちまったんだ。今でこそ大分マシになってきたがな」

 

リュウセイの質問に近くに来ていたジャーダが答える。

 

「そうだったのか……」

 

ただ無口という訳ではなく、他人が恐ろしくて仕方ない。それがラトゥー二の無口な理由だと知り、リュウセイはラトゥーニを傷つけたテンザンへの怒りを更に強くさせる。

 

「だから、皆と打ち解ける切っ掛けを作ってあげたくて……こないだみたいな事をやったのよ」

 

「俺は正直あれはどうかと思うけどな」

 

あのゴスロリ服の事を思い出し、ジャーダと共に苦笑する。確かに可愛い服装だったが、流石に軍艦には似合わない光景だろう。

 

「それはともかく、これからもあのこと仲良くしてやってね」

 

ガーネットの言葉に勿論と返事を返し、リュウセイは1度格納庫を振り返る

 

「武蔵。お前のおかげで助かりはしたが、勝手な出撃が許されると思っているのか?」

 

「すいませんすいません……本当すいません」

 

「出撃するのなら艦長かオノデラ大尉の出撃許可を取ってからにして、後始末も大変なのよ」

 

「はい、はい。判ってます、本当すいませんでした」

 

ぺこぺこ何度も頭を下げる武蔵にアヤは溜息を吐きながら、止める立場にあるロブにも注意をする。

 

「はぁ……オオミヤ博士も止めてくださいよ」

 

「すまん。あの時は下手にとめたら、俺まで殴られそうだったからな」

 

イングラムとアヤの2人に説教されている武蔵に南無と手を合わせ、リュウセイも格納庫を後にするのだった……

 

 

 

 

第19話 シミュレーター へ続く

 

 




戦闘シーンとかむっちゃ難しいですね……今回は割りと頑張ってみたつもりですが、不安は消えません。次回はトーマスの罠の話ですが、これは本当に戦闘無しで書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話 シミュレーター

第19話 シミュレーター

 

「バレリオン部隊がハガネに敗れたようだな。アードラー」

 

「も、申し訳ございません。しかし、実戦での問題点をいくつか発見しましたので、改善を行います」

 

身体を小さくさせて謝るアードラー。だがビアンはアードラーではハガネを沈める事は出来ないと確信していた。だからこそ、アードラーのこの報告は予想の範囲を出る事は無い。

 

「ふふふふ。あの艦はまだまだ強くなる。生半可な方法で沈める事は出来んぞ、旧西暦の人類の守護者までいるのだからな」

 

ビアンの言葉にアードラーは一瞬憎悪を剥き出しの表情で睨みつけるが、ビアンが自分の顔を見ていることを気付きすぐに表情を変える。

 

「で、では! ハガネへの再攻撃命令を出してくれるのでしょうか?」

 

「よかろう。次の作戦が始まるまではお前の好きにさせよう」

 

どうせ無理だろうがなと心の中で呟き、ビアンは司令室を後にする。自動ドアが閉まるとアードラーの怒声が聞こえてきて、やはりアードラーには無理だなと確信した。

 

「少しばかり趣味が悪いと思いますよ。ビアン総帥」

 

「ふっ、仕方あるまい。流石の私も興奮しているからな」

 

シュウはビアンの言葉に笑みを浮かべる。ビアンが興奮していると言うのは地球征服が近いからでも、連邦の本拠地のジュネーブの制圧が近いからでも無い。ハガネが赤道を超え、アイドネウス島に近づいている事が嬉しくて仕方なかったのだ。

 

「連邦に送りつけた恐竜帝国とやらの話はどうなりました?」

 

「……ありもしない物として握り潰された。やはり今の連邦は駄目だ」

 

恐竜帝国とメカザウルスの戦闘データを送りつけたが、国民への発表は無い。もみ消す事は判っていたが、やはり今の政府への失望は隠しきれない。今はまだ日本国土を襲撃していないが、それも時間の問題だ。早い段階で防衛を固めるべきだと言うのに、政府はそれをまるで理解していない。

 

「ビアン博士。これは頼まれていた物です」

 

「……早かったな。助かる」

 

シュウが差し出した紙を受け取るビアン。そこには複数のパスワードがメモされていた……しかしその数と複雑さは凄まじいと言わざるを得ない。

 

「いきなり政府のデータベースに浸入したいと言うから何事かと思いましたよ」

 

「……少し気になる事があってな」

 

メカザウルス、恐竜帝国の事を政府に告げたビアン。しかし政府高官は発表するつもりは無いと口にした後。無意識だろうが、早乙女と呟いたのだ。勿論直ぐに映像は途絶えたが、ビアンの考えていたゲッターロボと武蔵が平行世界から訪れたというのは間違いだった可能性が浮上した。ならばそれについて知る必要があるがパスワードを調べている時間が無いので、シュウに依頼したのだ。

 

「ゲッターロボですか、私も少し見てみるとしましょうか。顔見知りもいることですし」

 

「……好きにするが良い。だがやりすぎるなよ」

 

ビアンの言葉にシュウは判っていますよと返事を返すが、その笑みは邪悪とも言える物でビアンは本当に判っているのか? と不安になったが、それを口にすることは無く私室へと引き返した。

 

「さてと……蛇が出るか……それとも鬼が出るか」

 

DCのコンピューターとも繋がりの無い、本当にビアン専用のPC。今設計段階のダイナミック・ゼネラル・ガーディアン……などの数多の極秘研究のデータだけが収められたPCを操作し、シュウが調べてきたパスワードで厳重なセキリュティを突破していく……EOTI機関の総帥としても、テスラ・ライヒの所長としても知る事が出来なかった政府のデーターベースの奥の奥……そこに収められている。最後のセキュリテイを解除する

 

「……これは……」

 

モニターに浮かんだのはハザードマーク。そして画面が切り替わり、旧西暦のデータベースが表示される。そこに確かに早乙女研究所、そしてゲッターロボの名前は刻まれていた……

 

「どういう……事だ!?」

 

ビアンは混乱した。何故なら、そこに記されていたのは早乙女の乱、量産型ゲッターロボGによる宣戦布告を初めとした武蔵の話とは余りにも異なる早乙女博士の像。そしてゲッター1とは似ても似つかない数多のゲッターロボの姿……

 

「不確定の宇宙生命体の来襲……地球全体の8割の生命の死滅……ゲッター線による地球全土の汚染……馬鹿な……これはどういう事なんだ……」

 

読み進めれば進めるほどに新しい情報が出てくる。それは自分の常識が覆された瞬間であった、メテオ1事件の時に既にゲッターはこの世界に現れていたのだ。

 

「メテオ1落下時にこんな物が現れていたのか……ッ!?」

 

浅間山に現れた朽ち果てた研究所の一部。その中に早乙女研究所、そして過去で起きた事件の資料が眠っていたらしい、そして最も信じられなかった物……それはジュネーブの地下深くに封印されている存在……

 

「早乙女研究所の研究データのバックアップと回収されたゲッターロボ……」

 

地球政府が隠し続けていたゲッター線。それを地球政府が把握していると言う事実……だが武蔵の話とは余りにも食い違う記録……

 

「平行世界であることはあっていたが、まさか更にそこが分裂していると言うのか……」

 

平行世界であるのか、それとも過去が間違って記録されているのか……ビアンの優秀な頭脳でも判断がつかなかった。それを知る為にはジュネーブの地下深くに封印されている研究データ……それを手にする必要があるのだった。

 

 

 

ビアンが政府によって隠されていたゲッターの真実にその手を伸ばしている頃。武蔵はと言うとハガネのデータ解析室にいた

 

「どうだろうか? 大分良い感じだと思うが?」

 

「いや、全然駄目」

 

ロブの言葉に武蔵は即座に首を振る。ロブのゲッターの分析データによって作成されたゲッターのシミュレーター……これによりゲッターに乗れるパイロットを見つけようと言う物だった。だが武蔵は被っていたデータ取りのヘルメットを外して座席から立つ。

 

「最低でもこの20倍は必要かな」

 

「……に、20倍か……そんなに駄目か?」

 

ロブが引き攣った表情を見て武蔵は慌てて、でもでもと口にする。

 

「身体に掛かる感じとかは全然駄目だけど、合体の所は凄く良い感じだった。身体に掛かる衝撃さえ完璧なら本当言う事なしッ!」

 

慌ててそうフォローする武蔵にロブは小さく笑い、勢いよく手を叩く

 

「よし! 分かったッ! どうせシミュレーターだッ! 武蔵の言う通りにしてみるよッ!」

 

生半可なシミュレーターでは駄目と分かったロブは気合を入れた表情で再びPCの操作を始める。武蔵はその様子を隣に座って見つめながら、さっきの光景の事を尋ねてみる事にした。

 

「アヤさんがなんか苦しそうにしていたけど、大丈夫なのか?」

 

自分の前にデータ解析室にいたアヤの様子が気になり、ロブなら知っていると思いそう問いかける武蔵。

 

「……あれか、アヤは念動力って言う超能力を使える人間なんだ」

 

ロブの言葉に武蔵は超能力? と尋ね返す。恐竜帝国という人智を越えた存在と戦っていても、超能力は未知数だったのかと思いロブは笑う。

 

「大尉の機体にはその超能力を受けて作用する部品が搭載されているんだが、大尉にも負担を掛けるんだよ」

 

「……調子悪くなるなら使わなければ良いのに」

 

「そうも言ってられないんだよ。よし、出来た。行こう、武蔵」

 

設定を終えた所で武蔵に声を掛けるロブ。武蔵は今自分が座っていたシミュレーターを指差して

 

「あれじゃないんですか?」

 

「ああ、あれは試作用に作っただけだからな、ハガネのシミュレーションルームで最終調整したいんだ」

 

ロブの言葉に武蔵はそういう物かと呟く、だが早乙女研究所にもシミュレーターはあった。自分が知らないだけで、早乙女博士もそう言う調整をしていたのかと納得する事にした。

 

「それでだ。悪いんだが、俺はやる事があるからそれを済ませてからシミュレーションルームに向かう。中尉がいるから、それを設定して

貰って試していて欲しい」

 

「……中尉って誰ですか?」

 

武蔵の言葉にロブはすまないと謝る。武蔵は軍人では無いので階級で言われてもわからないのは当然だ

 

「イルムガルト中尉だ。判るだろ?」

 

「イルムさんか、それなら判ります。じゃあ預かりますね」

 

ロブの差し出したデータディスクを受け取り、武蔵はシミュレーションルームに走る。ロブはその姿を見つめ、微笑んでいたが武蔵の姿が見えなくなると険しい顔付きで仕官用の部屋に足を向けた。

 

「イングラム少佐。話があります」

 

ゆっくりと扉が開き、イングラムはロブを部屋の中へと招きいれた

 

「調整作業を中止しろと?」

 

「そうだ。今のアヤにとって、ハイレベルでのT-LINKコンタクトは負担となっている、伊豆ならともかく、ハガネの艦内でテストを続けるのは止めた方がいい」

 

武蔵にはそうも言ってられないと言っていたロブだが、やはり納得できない物があるようでイングラムへと直談判へと訪れたのだが……イングラムはロブの話を聞いた上できっぱりとした口調で告げた。

 

「その申し出は却下する」

 

「何故だ? 本格的な調整は今回の作戦が終わってからでもいいだろう?」

 

「そういう訳にも行かんのだ、今は出航前とは状況が違う」

 

その言葉にロブは眉を顰める。その理由はDCだけではなく、メカザウルスと恐竜帝国という脅威が現れたのが理由だろう。

 

「だが、このままでは彼女は……」

 

「それは本人も覚悟の上だ」

 

情に訴えても駄目、しかも本人が望んでいると言われればロブもそれ以上は言えない。以前のロブならばそれで引いていたが、今回は違っていた。

 

「少しでもいい、アヤの調子を考えて欲しい。でなければ、俺にも考えがある」

 

懐からディスクを取り出しながら告げる。イングラムはそのディスクに視線を向ける、それがなんなのかは言わなくても判っているのだろう

 

「……ゲッターロボの更なる分析結果か……」

 

「これが必要なのは判っています、分析結果はここにしかありません、返答によっては俺にも考えがある」

 

ゲッターの分析結果を盾にした脅し……イングラムは少し考える素振りを見せた後に頷く

 

「判った。だがDCだけではなく、メカザウルス、恐竜帝国の事もある。無理なスケジュールでの調整はやめることだけは約束しよう」

 

イングラムの言葉を聞いたロブは机の上にディスクを置き、イングラムに背を向ける

 

「失礼な事を口にしたことは謝罪いたします。申し訳ありませんでした、シミュレーションルームにゲットマシンのシミュレーターの配置も行いますので少佐も1度お越しください」

 

敬礼し出て行くロブをイングラムは鋭い視線で見つめているのだった……

 

 

 

 

ハガネのシミュレーションルームに配置されたやけに古めかしいシミュレーターが3つ。PTのシミュレーターが主流となった今では珍しい戦闘機用のシミュレーターだ。その周りにはリュウセイやイルム、更にはジャーダと武蔵の姿があった……見ていて心配になるほどあれ回っているシミュレーターにジャーダが顔を引きつらせながら武蔵に尋ねる。

 

「これマジでこんなに揺れるのか?」

 

「いや、まだ優しい方だと思いますよ? リョウだと遅いと急制動かけて突っ込んでくるし、エンジン全開で突っ込まれるのもざらだし、隼人のやつはインテリだけど、思考回路自体はオイラとかリョウと大差無いから、むちゃくちゃしますし」

 

話を聞いてイルムやリュウセイの脳裏にはむちゃくちゃ凶暴な大男と、イングラムを強暴にしたような男の姿が浮かび、温厚な武蔵で良かったと思ったのは無理もないだろう。そんな話をしているとシミュレーターが停止し、ライが姿を見せる。だがその顔は青を通り越して、真っ白で心配そうにしているリュウセイ達を無視して、早足でシミュレータールームを出て行く。間違いなくその行き先はトイレだろう……

 

「ライも駄目か。じゃあ次はリュウセイ乗ってみるか?」

 

イルムの問いかけにリュウセイは顔を引き攣らせながらも、目を輝かせシミュレーターに乗り込む。外から見るモニターにはハガネの発進口から飛び出すゲットマシンの姿がある。しかし飛行して10秒後にシミュレーターは緊急停止して、リュウセイが這い出てくる

 

「……武蔵、良くこんなの乗れるな」

 

それが遺言となりリュウセイは白目を向いてシミュレータールームに倒れこむ。ライは何とか1分耐えたが、リュウセイは10秒でKOされた

 

「……おっそろしいマシンだな。お前も相当訓練したのか?」

 

「いや、オイラは乗ってすぐ昼寝出来たからなあ……むしろ何で乗れないのかが不思議だ。初めて乗った時も1人乗りの所を3人で乗り込んで3対1でむちゃくちゃ大変でしたし」

 

武蔵のイルムとジャーダは黙り込むことしか出来ず、小声で旧西暦の人間って皆化け物と呟くのがやっとだった。

 

「……うし、じゃあ今度は俺だ。もし乗りこなせたらジャガーでも、イーグルでも良いから頼むぜ」

 

「わかってますよ。オイラだって3人揃って欲しいって思ってますから」

 

AMやPT相手ならば単独操縦でも問題は無いが、メカザウルスを相手に取るにはあまりに戦力が足りない。乗りこなせるならば、ゲッターに乗り込んで欲しいと思っているのは誰でもない武蔵本人なのだから。

 

「流石はジャーダって所か」

 

ジャーダは元々戦闘機乗りである、流石に発進時の重力には顔を歪め、歯を食いしばり耐える素振りを見せていた。だがそれさえ超えてしまえば機首を安定させ、旋回やバレルロールなどを連続でやって見せる。

 

「ジャーダさん。次の段階に入りますけど大丈夫ですか?」

 

『……合体だな。やってくれ』

 

ジャーダの了承を得てからシミュレーターが次の段階。つまりゲッター1への合体に移行する……これさえ乗り越えることが出来ればと武蔵は思っていたがジャーダが悲鳴を上げて意識を失ったのでシミュレーターを緊急停止させる

 

「……やっぱり今の人には無理なんですかね?」

 

ジャーダをシミュレーターから引き摺り下ろしながら武蔵がイルムに尋ねる。ライ、リュウセイ、ジャーダと続けてシュミレーションを見ていたイルム。観察していて思いついた事を試してみてはどうかと尋ねる、武蔵は驚いた表情をし、イルムの提案を鸚鵡返しで尋ねる

 

「合体した段階からですか?」

 

「ああ。飛ばすのはきついが、多分俺も大丈夫だ。となると問題は合体と戦闘になるはず」

 

仮に飛ばす、合体するを重点的に訓練したとしても、いざ戦闘になれば勝手は違う。まず戦闘に耐えれるかどうか、そこが重要だとイルムは考えたのだ。

 

「最悪合体した状態で出撃って事も出来るだろ? そうなると分離とか、再合体は難しくなると思うが……物は試しだ。やってみないか」

 

どうせこのまま続けても良い結果は出ない。それならば別のアプローチと言うのは良いアイデアかもしれない、武蔵はイルムの提案を受けシミュレーターに乗り込む。

 

「じゃあ、オイラの得意なゲッター3で始めます」

 

『おう、お手柔らかにな』

 

イルムの返事を聞いてからシミュレーターを起動させる。そしてゲッター3に合体した状態でシュミレーターが始まる。まずは前進、後退、右旋回、左旋回という基本的な動作。だがイルムは操縦桿を握り締めて、歯を食いしばっている。新西暦の対重力装備になれているイルム達に牙を向くのがゲッターの殺人的な加速と重力だ。ゲッターに重力装備をつけるのは合体や変形の構造上非常に厳しく、現段階では素で耐えるしかない。それが新西暦のパイロットがゲッターを操る上で最大の壁となっている。

 

「じゃあ、今度は少し動きますよ」

 

『……ああ』

 

イルムに許可を得てから武蔵はシミュレーションのゲッター3を攻撃させる。武蔵がゲッター3を選んだのは自身が一番操作に慣れていることに加えて、ゲッター1のようにトマホークを手に暴れ回るわけでもなく、その飛行で上下左右から恐ろしい重力が掛かる訳でもない。そしてゲッター2のようにマッハで暴れ回るわけでもない、変な話だがゲッター1とゲッター2と比べればゲッター3は大雪山おろしを使わなければ比較的穏やかな性能だ。だからゲッター3なら大丈夫かもしれないと思っての選択だったのだが……

 

『……ギブアップ。降ろしてくれ』

 

移動は何とか耐えれたイルムだが、それも数分の事でギブアップ宣言をする。それを聞いて、武蔵はシミュレーターを停止させる。

 

「……悪いが、多分ハガネのクルーにゲッターを操れるパイロットはいないな」

 

「……そう……ですか、付き合ってくれてありがとうございました」

 

悪いなと言ってふらつきながらシミュレータールームを出て行くイルムを見送り、武蔵は再びシミュレーターに乗り込むのだった……

 

 

 

 

戦闘機のシュミレーターを改造したゲッターのシミュレーター。ロブに良く出来ていると言っていた武蔵だが、その言葉に嘘は無い。

 

「ゲッター1やゲッター2にも慣れておかないとな」

 

本来武蔵はベアー号およびゲッター3のメインパイロットである。ニューヨークでの恐竜大隊との戦闘を終始有利に進める事が出来たのは、3つの炉心のリミッターを解除したことによるゴリ押しだ。だが今はジャガー号の炉心はほぼ空、イーグル号とベアー号も最大量の半分以下と出力はニューヨークの時と比べて劣悪となっている。

 

「せめて3人揃えば……いや、無理……か」

 

エースパイロットと呼べる人間がゲッターのシミュレーターを試した。だがその結果は悲惨な物であり、その結果を見て武蔵は後2人のパイロットを見つける事を諦めたのだ。

 

「ぐっ……くそッ!」

 

ロブが何度も何度も分析を繰り返し、作り上げられたゲッターシミュレーターは短時間で作られた物とは思えないほどにゲッターに迫っていた。それだからこそ判る、自分にはやはりゲッターを操る才能がないと……

 

(リョウや隼人みたいには行かないよな……)

 

運動神経に反射神経、更に言えば知能指数も劣っている……これはリョウや早乙女博士にも言われた事だ。やる気だけでは、ゲッターのパイロットは務まらないとリョウに言われ、そして腕力ならばリョウや隼人にも負けないと言った。その時の事を思い出し思わず苦笑する……

 

「腕力でゲッターのパイロットが出来れば全員相撲取りだったよな……隼人」

 

今ならば判る、アレは隼人なりに自分を心配しての言葉だったのだと……リョウと隼人は早乙女博士に見出されゲッターのパイロットになった。

 

「オイラは無理やりなったもんだしな……」

 

あのエネルギーを無限に取り込み巨大化していくメカザウルス。あの時に早乙女博士の代わりにベアー号に乗り込み、敵の体内に飛び込みエネルギーを全て放出しそのメカザウルスを倒した。だがリョウと隼人が気絶しても自分は意識を失わなかった、その身体の頑丈さでベアー号のパイロットとなった。

 

「無理なのは百も承知なんだ」

 

リョウの野生的な反射神経も、運動神経も自分には無いし、隼人のような自分を戒める冷静さも的確な判断力も自分には無い。自分にあるのはどこまでも愚直に前に進む事と少しばかり身体が頑丈と言う事だけだ

 

「少しでもいい、ゲッターを乗りこなすんだ」

 

この世界には武蔵だけではない、恐竜帝国もいる。PTやAMで対応するのは不可能だ、ならば自分が何とかするしかない。自分には才能がないなんて甘えは許されない……ダイテツやリュウセイ達も協力してくれる。それでも矢面にはゲッターが立つ必要がある。少しでもいい、今まで以上にゲッターを使いこなす必要がある。武蔵は長時間シミュレーターを降りることなく、ひたすらにゲッターの訓練を続けた

 

「……ふう」

 

腹が鳴ったのでシミュレーターを出て、首から下げたタオルで汗を拭う。時計を見ると実に4時間訓練していた訳だが、その訓練の時間に応じて手応えでもあれば武蔵の顔も明るいが、成果が出なかった事で武蔵の顔は暗い。

 

「飯でも食うか」

 

これ以上続けていても成果は出ない、適度な休憩も必要だと思いシミュレータールームを出る。するとイルムに連行されている少年と鉢合わせした。それは、自分がアイドネウス島を脱走する前に食事を運んできてくれたリョウトの姿だった……

 

「リョウト! リョウトじゃないかッ!」

 

まさかこんな所で会うと思ってもいなかったので、リョウトへと駆け寄る。リョウトは両腕に手錠こそ嵌められているが元気そうな様子で武蔵も安堵する、

 

「武蔵さん……そうですよね。ハガネに乗っているって言ってましたよね、お久しぶりです」

 

頭を下げるリョウト。DCの兵士であるリョウトがなぜと混乱する武蔵にイルムが問いかける

 

「武蔵、このDCの兵士と知り合いなのか?」

 

「知り合いって言いますか……脱走前に飯を持って来てくれたやつで……なんでハガネにいるんですか?」

 

「お前気付かなかったのか? DCの襲撃があって、それにリョウトも参加してたんだよ」

 

イルムの言葉にリョウトの顔を見る武蔵。リョウトは気まずそうな表情をして

 

「命令には逆らえませんから……」

 

「リョウト……」

 

その悲しそうな顔に思わず手を伸ばしかける武蔵。だがそれはイルムによって制された

 

「武蔵、悪いがこれは規則だ。彼は捕虜としてハガネに収容されたんだ、だから彼には牢に入って貰う」

 

「……そ、そうですか……話をしたりするのは……駄目ですよね?」

 

武蔵の質問にイルムは渋い顔をする。これが軍人なら何を言っていると一喝して終わりだが、相手は旧西暦の人間ではあるが民間人である。その対応を間違えば、武蔵のハガネの脱走にも繋がりかねない。

 

「……一応聞いて見るくらいはしてやるよ。ほら、行くぞ」

 

「は、はい……では、武蔵さん。また」

 

イルムに連れられ独房に足を向けるリョウトの背中を武蔵は見つめる事しか出来なかった。自分はDCを止める、恐竜帝国を倒すという目的でハガネに乗っていた。周りの人間も優しいが、今のリョウトへの対応で今戦争中と言う事を思い知らされたのだった……

 

 

第20話 スターバク島の死闘 その1へ続く

 

 




今回はシュミレーターの話となりました。次回はスターバク島波高しの話を大胆にアレンジして行こうと思います、その3までくらいまでで書いていけたらと思いますね。どんな話になるのか、楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話 スターバク島の死闘 その1

第20話 スターバク島の死闘 その1

 

リョウトと知り合いである武蔵の事を考慮したのか、武蔵はリョウトとの面会を許可された。ただし、独房越しであり手ぶらと言う条件で牢の入り口の所に兵士が監視しているが、こうして顔を見合わせる事が出来ることを武蔵は喜んでいた。

 

「よう、リョウト」

 

「武蔵さん。どうも」

 

パイロットスーツのまま独房の中にいるリョウトの前に座り込んだ武蔵。アイドネウス島でも思った事だが、やはり機動兵器のパイロットに向いてるようには思えない風貌だ。

 

「自分で志願したのか? ハガネへの攻撃を」

 

だからリョウトがハガネに捕虜として捕まったということが信じられず、武蔵はリョウトにそう問いかける。

 

「……いえ、僕の部隊の隊長のトーマス・プラット少佐って人に命じられてですね。やっぱり僕は戦争をしたいわけじゃないですから」

 

その言葉を聞いて武蔵は安堵した。これでリョウトの意思で攻撃を仕掛けられていたら、フォローのしようがないからだ。

 

「イングラムさんやダイテツさんに声を掛けておくよ。リョウトは味方になってくれるって、っと言っても戦えって言う訳じゃないぜ?」

 

自分の言い方では戦争しろと強要していると思われているかもしれないと思い、慌ててそう付け加える。リョウトはそんな武蔵を見て楽しそうに笑い出す、暫く笑っていたリョウトは笑い終えると吹っ切れたような表情になる。

 

「……やっぱり僕は日本を守りたい。それだけなんですよね……どこで間違えたのかなあ……」

 

「自分で望んだ訳じゃないのか?」

 

その後悔するような口ぶりに武蔵がそう尋ねる。するとリョウトは苦笑しながら、自分がどうしてDCに居たのかを話し始めた。幕張でのバーニングPTの決勝大会の後に半分拉致に近い形でアイドネウス島に連れて行かれた事……虫型機動兵器の襲撃で被害の出ている日本を見て、DCに入って日本を護る事を決めたのに……

 

「僕……騙されたんですかね?」

 

「どうだろうな……少なくともビアンさんや、エルザムさんは地球を守ろうとしていると思うぞ? ただアードラーって言う爺はどうだろうな」

 

「……僕をスカウトしたのその人です」

 

リョウトの言葉を聞いて、武蔵の脳裏にアードラーの姿が浮かぶ。武蔵は少し黙り込んでからきっぱりとした口調で告げた。

 

「……騙されたな。確実に……でも良かったじゃねえか。捨て駒や実験台にされる前に逃げて来れたんだから」

 

武蔵から見てアードラーは敷島の同類……どう見ても世界平和とか言うタイプじゃないなと苦笑する。

 

「あの……武蔵さんの知り合いにそんな人居たんですか?」

 

「居たぞ、人体実験大好きで兵器作るのが趣味。しまいには自分の作った武器で惨たらしく死にたいって言うとんでも博士がな」

 

武蔵の言葉にリョウトは暫く絶句し、少しだけ泣きそうな顔をして武蔵に問いかける。

 

「僕は利用されていたんでしょうか?」

 

武蔵は言葉に詰まった。なんと返事を返せばいいのか判らず、口を閉じたり開いたりし、そして自分の考えを口にした。

 

「オイラはそうだと思う」

 

武蔵の返答に判っていたがリョウトは黙り込む、だが武蔵の言葉はそこで終わらなかった。

 

「過ぎた事を悔いても仕方ねえ、リョウト、お前が何をしたいのか、これから何がしたいのかが大事だと思う」

 

武蔵の言葉にリョウトは何かを考え込むように黙り込み、意を決して言葉を発しようとした時凄まじい爆発音が響き渡った。

 

「どわったたあッ!?」

 

「うわッ!?」

 

ハガネが激しく振動し、警報が鳴り響いた。リョウトと武蔵の話の監視をしていた兵士も牢の中に入って来る

 

「武蔵、悪いが面会はここまでだ」

 

「あ、はい。リョウト! オイラは馬鹿だから上手く言えないけど……後悔しないようにだけするべきだと思うぞッ! 少なくともオイラはそうして来たッ!! それでどんな道を選んでもオイラは応援するッ!」

 

兵士に牢から連れ出されながら、武蔵はリョウトに向かってそう叫ぶのだった……

 

 

 

 

 

リョウトの乗っていたリオンに爆発物が組み込まれていた。ブリーフィングルームに来た武蔵達にイングラムからそう告げられた、すぐには理解出来なかったが、話を理解するとリョウトに同情する言葉が上がる。

 

「何だって? じゃ、あのリョウトって奴……爆弾代わりにされてたのかよッ!?」

 

「ああ。しかも、本人はそれを知らなかったっていうんだから酷い話だぜ」

 

マサキとリュウセイの会話を聞いて、リオがその表情を暗くさせる。自分が撃墜したと言う事もあるが、まさか本人も知らない内に爆弾代わりにハガネに送り込まれたと聞けば誰だって同情するし、DCに対する怒りの言葉も零れるというものだが……リュウセイ達よりも激しい怒りを露にしている者がいた。

 

「気に食わないな、そういう奴は……ぶっ飛ばしたくなる」

 

武蔵の小さな呟き、だがその呟きは不思議とブリーフィングルームに響き渡った。

 

「む、武蔵……大丈夫か?」

 

「何が? オイラは大丈夫だぜ?」

 

へんな事を聞くなと武蔵は笑うが、その額にはくっきりと青筋が浮かんでいる……武蔵がぶち切れる寸前だとわかる。リュウセイが何とかフォローをしようとした時、それよりも先にライが口を開いた。

 

「お前はずいぶんと感情が表に出るんだな」

 

「オイラは単純だからなあ……ポーカーフェイスとか出来ないんだよ。お前と違って」

 

武蔵の言葉にライが口を紡ぐ、その表情は余計な事を言ったと言わんばかりに歪んでいる。そんな様子を見て武蔵は懐かしそうに笑う

 

「ライは隼人に似てるなぁ、冷静になれ、俺はお前らと違うって言っておきながら、誰よりも感情的になる隼人に良く似てるよ。だから言えるけど、そんな風に1人で冷めていると、怒り方が判らなくなるぜ? 人間なんだから、感情的になっても良いじゃないか」

 

「……失礼する」

 

武蔵の懐かしむような言葉にライは更にへそを曲げたようで、ブリーフィングルームから出て行ってしまった。

 

「オイラ。余計な事を言ったかな?」

 

「いや、気にする事はない。ライには必要な言葉だった」

 

イングラムが余計な事を言ったかな? と首を傾げる武蔵をフォローする。

 

「さてと、武蔵。オオミヤ博士からジャガー号の修理は終わったと連絡が入っている」

 

イングラムの言葉に武蔵が喜びの声を上げようとした時。先ほどの爆発とは比べられない衝撃がハガネを襲う

 

「っととッ! な、なんだ!? また爆弾かッ!」

 

「すまねえ、武蔵」

 

「ご、ごめんなさい。武蔵君」

 

「何、良いって事よ」

 

マサキは何とか踏み止まったが、リュウセイとリオは再びバランスを崩して倒れかけ、武蔵に受け止められていた。武蔵はにこやかに笑いながら2人を立たせる

 

「この威力……対艦砲撃だな。各員格納庫へ向かえ、出撃になる」

 

イングラムが話をしている間にも2撃、3撃目の砲撃が放たれる。そしてブリッジから出撃準備をせよと言う通達が入り、リュウセイ達はブリーフィングルームを後にして格納庫へと走る。

 

「武蔵! ジャガー号の調整は済んでいる。だけどまだ本調子じゃない、ゲッター1は使えないと思っててくれッ!」

 

ゲシュペンストや、サイバスターの発進音に負けない大声で叫ぶロブにありがとうと叫び返し、ベアー号に乗り込む武蔵。乗り込んだベアー号のゲッター線の貯蔵ゲージは半分を大きく上回り、前回の8割にまで回復していた

 

(まさか、また恐竜帝国がッ!?)

 

海に囲まれた小さな無人島の密集地帯。それは恐竜帝国のホームグランドとも言える、出撃する前に言うべきかと悩んだのだが、エイタの発進どうぞと言う通信に武蔵は発進してからで良いかと思い遠隔操作でイーグル、ジャガーを出撃させる。

 

「ベアー号ッ! 巴武蔵出るぞッ!!」

 

ブリッジに向かってそう叫び、ベアー号はハガネから飛び立つ。ハガネから飛び出した武蔵が見たのは、僅かに残る無人島と、その上で砲塔を上げている巨大な戦艦の姿。そしてその砲塔がゲットマシンを狙っているのに気付き、武蔵は発進したままの勢いで海中へ機首を向ける

 

「チェーンジッ! ゲッタースリーッ!!!」

 

紙一重でライノセラスの砲撃を交わし、海中でゲッター3へと合体した武蔵の雄たけびがスターバク島に響き渡るのだった……

 

 

 

 

ガーリオン・カスタムのコックピットでトーマスが口笛を吹く。今まで存在していたPTや特機に喧嘩を売っている変形と合体をしたゲッターに対しての物だ

 

「それでテンザン。戦った感想としてはどうよ?」

 

「……むかつくほどに強い」

 

不機嫌そうなテンザンの言葉にトーマスは更に笑み浮かべる。あの傍若無人なテンザンでさえも素直に強いと認めるゲッターとの初戦闘だというのに、トーマスの顔には緊張も恐怖の色は浮かんでいなかった。

 

「はは、そうか。なら意地でもここで黒星をつけてやるか」

 

ゲッターには勝てない、そんな認識がDCの兵士の中に生まれている。それを崩さない事には直接関係のないハガネにすら不敗神話が出来てしまう、そうなれば勝てる勝負も負けるとトーマスは感じていた。

 

「その為にここに誘き寄せたのか? 少佐」

 

「相手のホームグラウンドで完膚なきまでに叩き潰す。それが俺の今回の作戦さ」

 

今までのゲッターの戦闘データで判明しているのは、ゲッター1は空戦、ゲッター2は高速戦闘、そしてゲッター3は地上および海中戦に特化している。それがDCの研究班の解析結果だった、そしてトーマスは出撃前にその分析結果を見て今回の作戦を考えたのだ。

 

「ハガネを誘き寄せる為に最新兵器を使う、そうすれば相手は罠だと判っていても近寄ってくる」

 

たった1隻でアイドネウス島に突撃すると言う無謀な作戦を遂行しているハガネだ。脅威となる新兵器の可能性があれば相手はその情報を得る為にスターバク島に来る。

 

「ふんふん、だけどよ、ゲッターに勝てるのか?」

 

「なーに、勝つ必要は正直言ってないんだよ」

 

「は? 意地でも黒星をつけるって言ってたのにそりゃなんだよ」

 

自分の作戦を理解できないテンザンにトーマスは笑いながら、より詳しい説明をする。

 

「まずだがな、お前さんもだが、今のDCの兵士はゲッターに関して苦手意識がありすぎる。あんなの旧世紀の骨董品だろ?」

 

ブリキ人形と言ってもいい杜撰なスタイル。あんなオンボロにここまで警戒するほうがおかしいとトーマスは笑う。勿論本気で言っている訳ではない。これはあくまでパフォーマンス、この作戦の指揮官であるトーマスがゲッターを脅威に思っていないと思わせるための大口だ。

 

「見て見ろよ、下半身は戦車、飛び道具はミサイルと伸びる腕、それのどこが怖いよ?」

 

確かに捕まれば怖いが、捕まらなければどうって事は無いだろ? トーマスはあえてそう告げる。

 

「これだけのリオンとガーリオン、それとライノセラスとストーク。どう考えたら負けるって思う?」

 

戦力的にはこっちが勝っているんだ。恐れる事はないとトーマスは繰り返し告げる、これで少しでも部下が勝てると思えば御の字なのだ。

 

「だから落ち着いてフォーメーションを組んで対応すればいい、そうすれば俺達の勝ちだ」

 

トーマスがやったのは扇動だ。だが繰り返し告げられる事で部下達の気迫があがる……その時点でトーマスの作戦は成功なのだ。

 

「さてと派手に行こうぜ少佐」

 

「ああ、パーティのくす球もそろそろ上がる頃合だからな」

 

ハガネに回収させたリョウトのリオンの起爆装置を押す、戦力不足のハガネはそれを回収している事を確認している。そのリオンを格納庫で爆発させ、ハガネの出鼻をくじくつもりだったのだが……

 

「あん?」

 

「おいおい、少佐。爆発しねえじゃねえか」

 

ハガネのPT隊が出撃し陣形を組む。出撃のタイミングで爆発させて、ハガネとPTにダメージを与えるつもりだったのだが、爆発した様子はない。リオンのプラズマジェネレーターと直結しているから、起爆すればハガネの格納庫の辺りは吹っ飛ぶはずだったトーマスの計画はここで狂い始めてた。

 

「あ?」

 

テンザンの声にモニターを確認するとハガネの格納庫から出撃するリオンの姿を確認する

 

「何だよ、お前……生きてたのか、意外に悪運の強い奴だな」

 

パイロットであるリョウトは死ぬ前提だったのに、良く生きていたなとトーマスはわるびれることもなく告げる。それはハガネに対する挑発だったのだが、トーマスは完全に喧嘩を売る相手を間違えていた。

 

「で? そんな物に乗って何をするつもりなんだ? 俺達の所に戻ってくるか? また爆弾くらいには使ってやるぜ? それとも裏切るか? ん? お前にその度胸があるか?」

 

「ははははッ! この腑抜けにそんな勇気なんてねえぜッ!」

 

トーマスに続いて、テンザンまでもがリョウトに悪辣な言葉を投げかける。それは今までのリョウトなら何も言い返さないと判っていたからの言葉だった。

 

「判ってるよ「黙れッ!! 僕はDCには戻らないッ!! 僕は戦争をする為にDCに入ったんじゃないッ!!! 僕は日本を護る為にパイロットになると決めたんだッ!」

 

リョウトの一喝にテンザンは黙り込む。傍若無人なテンザンさえも黙らせる凄まじい気迫が今のリョウトにはあった……

 

「自分の私利私欲で戦争をするお前達はここで倒すッ!」

 

弱弱しいリョウトの外見からは信じられない強い言葉。それにリュウセイ達もトーマス達も黙り込む中武蔵が大声で笑う

 

「よく言ったッ! それでこそ男だぜッ! 心配すんな、オイラも手伝ってやるからよッ!!」

 

武蔵が力強く吼えると、ゲッター3の目が凄まじい光を放ち、両腕が天を突かんばかりに伸びる。

 

「それにお前らみたいな奴は大嫌いでなあッ!!」

 

天に向かった両腕が凄まじい勢いで回転する。リュウセイ達の脳裏によぎったのは南鳥島での惨劇……だが違うのはあの時はただの竜巻だったのが、今は所所に翡翠色の輝きが混じっている点だ。

 

「必殺ッ! 大ッ! 雪ッ!! 山ッ!!!!」

 

武蔵の雄たけびに合わせて、竜巻は倍々に巨大化していく、それはまさに自然災害。どんな相手だろうと逆らう事の出来ない自然の猛威

 

「おろぉぉぉーーーしッ!!!!」

 

振り下ろされた両腕と共にスターバク島に突き進む嵐、それはリオンやバレリオンは勿論キラーホエールやライノセラスも捕らえることはなく、スターバク島を通過していく。嵐が消えた時、スターバク島に展開されていたリオンやバレリオンの陣形は全て崩され、キラーホエールやライノセラスの辺りへと集まっていたのだった……

 

 

 

 

 

ゲッター3の放った大雪山おろしの一撃。元より武蔵はガーリオンやリオンを狙わず、スターバク島を通過するルートで大雪山おろしを放った。それは威嚇と言うにはあまりに過激な一撃だった……

 

「武蔵……行き成りとんでもないことをしてくれたな」

 

イングラムの声も僅かに引き攣っている。今もスターバク島の周囲は波が逆巻き、凄まじい暴風を残している。イングラムの苦言も当然だ。

 

「……それに関してはすまないと思っています。でも、この戦いに時間を掛けている場合じゃなかったんだ」

 

この戦い? 武蔵の妙な言い回しにイングラムがそう尋ね返す。スターバク島を半壊させ、DCの戦線を完全に乱した武蔵。それは他の人との連携を考えず、輪を乱す行動だった……だがそうする必要があったのだ。

 

「ほ、北北西から熱源多数ッ! 真っ直ぐにこの海域に近づいてきます!」

 

「識別反応は!」

 

「し、識別反応はありませんッ! 上空、海中から凄まじい勢いで来ますッ!」

 

「各員に告げる! 北北西から熱源多数! 各員警戒を緩めるなッ!」

 

ハガネの緊急通信が入る。そしてそれから数秒後雲の間から巨大な影が幾つも降下してくる

 

「「「「キシャアアアアアッ!!!」」」」

 

それはトロイエ隊を壊滅寸前に追い込んだメカザウルス・バドの群れ。だがそれだけでは終わらない、ハガネとスターバク島の中間が渦を巻き、海を割って巨大な影が幾つも姿を見せる

 

「「「「グオオオオンッ!!!」」」」

 

2本の首を持つ巨大な首長竜までもが海から姿を見せた。前回は現れなかった機械化された首と生身の首の2本を持つメカザルス・ズーの姿にハガネ、DCの両方に衝撃が走る。

 

「メカザウルスッ!?」

 

「これが来ると言っていたのか……」

 

武蔵らしからぬ浅慮な行動。それはメカザウルスが来ることを察知したからこその行動だった。これがビアンやエルザムならば協力できると考えていた武蔵だが、テンザンやトーマスとは決して連携が組めないと判った上での行動であった。キラーホエールやライノセラスの方向に追いやり、少しでも被害を小さくする為の武蔵の思いやりでもあったのだ。現にメカザウルスの姿を見ても、テンザンやトーマスは口笛を吹き、メカザウルスにマシンキャノンや、チャフグレネードを打ち込み始める。

 

「これは流れが変わったなあ……おい! てめえら! メカザウルスを十分に利用しなッ! 俺達も攻撃されるが、ハガネに誘導してやれ」

 

自分達にも襲い掛かってくるメカザウルスに悲鳴を上げているリオンやバレリオンのパイロットにトーマスがそう叫ぶ。

 

「な、何を言っているのですか!? メカザウルス出現の際は連邦との戦闘行為の即時中断のはずッ!」

 

「うっせえなあ! 雑魚がよッ! ハガネを撃墜すればいいんだよッ! その後メカザウルスがどうしようが知ったことじゃねえッ! さっさと俺らの命令に従いなッ!」

 

「そういうこと、命令違反は重罪だぜ? それが嫌ならさっさとメカザウルスを攻撃しな。この木偶の坊が」

 

反論したキラーホエールの艦長を罵倒するテンザンとトーマス。だが艦長は命令を復唱せず、通信を切断する。その姿にテンザンとトーマスは舌打ちし、自分達だけでメカザウルスに攻撃を仕掛ける。

 

「ほらほら、こっちだぜ、間抜けな恐竜さんよ」

 

「キシャアアアアッ!

 

「ははははッ!! いいねえッ! ゲームに乱入者は盛り上がるよなあッ!! はははッ!」

 

テンザンやトーマスはメカザウルスの顔に弱い攻撃を当て、怒りで自分達を追いかけてくるメカザウルスを引き連れてハガネの方向に向かってくる。

 

「あいつら正気かッ!?」

 

「大尉! 動揺している場合ではないッ! 弾幕を張れ、本艦に近づけさせるなッ!!」

 

ハガネの弾幕がメカザウルス達に向かって放たれる。だが機械とは異なり、生物特有の動きでメカザウルスは弾幕を回避しハガネへと迫る

 

「そらそら、メカザウルスを何とかしねえと死んじまうぞー?」

 

「テンザンッ! てめえッ!!!」

 

「ははははーッ!! そらそら、行けよッ!」

 

チャフグレネードを喰らい、DC側から反転しテンザン達に向かうメカザウルス。バドに組み付かれ爆発するリオンや、ズーの放った火炎弾を受けるライノセラス……助けを求めるDCの兵士の叫び。ほんの一瞬で地獄と姿を変えたスターバク島……連邦、DC、メカザウルスの三つ巴……そしてスターバク島での大きな乱戦が幕を開けるのだった……

 

 

 

第21話 スターバク島の死闘 その2へ続く

 

 




今回は導入なので短めで戦闘も無しでした。次回は三つ巴で話を進めて行こうと思いますが、この話は敵の増援が来ますよね。
最終的にどんな展開になるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話 スターバク島の死闘 その2

第21話 スターバク島の死闘 その2

 

メカザウルスの強襲、更に加えてテンザンとトーマスの妨害。それはハガネのPT隊を窮地に追い込んでいた……

 

「キシャアアアッ!!!」

 

戦闘機とは比べようも無い自由な機動で襲い掛かってくるバドはゲシュペンストやシュッツバルトの攻撃を嘲笑うように回避し、ハガネのブリッジに真っ直ぐに向かう。

 

「ちいっ! ならこれでも喰らえッ!!」

 

ツインビームカノンを回避したバドにライが舌打ちと共に搭載しているミサイルコンテナからスプリットミサイルを放つ。弾頭が分裂した事により回避させることなく、いくつか被弾した。だがバドはダメージを受けている素振りを見せる所か、反転し一直線にシュッツバルトに向かって降下してくる。

 

「ライッ! 防御してッ!」

 

「そこ……ッ!!」

 

アヤのゲシュペンストTTと、ラトゥー二のヒュッケバイン009の放ったショットガンの弾雨。それは僅かにバドの機動をずらす事に成功したが、完全に逸らすことは出来ず。コックピットから、右肩へバドの嘴が突き刺さる

 

「うぐああああッ!! な、舐めるなッ!!!」

 

嘴に右肩を抉られながら、コールドメタルナイフでバドの目を貫く

 

「ギシャアアアアッ!!!」

 

苦悶に暴れるバドを押さえ込み何度も何度もナイフを突き立てるシュッツバルト。何度目かの刺突でバドの脳を破壊したのか、ぐったりとしたバドを離すとシュッツバルトの機体を鮮血に染めながら、その死骸が海へと沈んでいく

 

「はー……はーッ……」

 

荒い呼吸を整えるライ。だがライ以上に搭乗しているシュッツバルトのダメージが大きい、右腕は完全に破損。更に全身にも細かい傷が走っている。

 

「ライ。お前は下がれ」

 

「し、しかし!」

 

イングラムの下がれという指示を不服として、ライが反論する。だが誰から見てもシュッツバルトは戦闘に耐えられる状況ではないのは明白だった

 

「ハガネに退避しろと言うわけではない、ハガネの艦首に移動しろ」

 

「……ッ了解しました」

 

直接戦闘に参加できないのなら母艦を守れと言われていると理解したライは唇を噛み締め、ハガネへと後退していく。

 

「ちいっ! 化け物めッ!」

 

「マサキ! 右から来てるニャッ!!」

 

シロの言葉に判ってると返事を返すマサキ。空を飛翔するサイバスターには4体のバドが纏わりついている、だが流石のバドもサイバスターの攻撃力を知ってか、牽制程度のミサイルと火球を繰り返しサイバスターの動きを阻害している。その動きは明らかにサイフラッシュを警戒しての動きだ。

 

「そらよッ!!」

 

「てめえ! テンザン! 状況がわかってんのかッ!」

 

ハガネにメカザウルスを誘導し、更にガーリオンの機動力を生かし、PT隊の動きを妨害しているテンザンにリュウセイが怒鳴り声を上げる。だがテンザンはそんなリュウセイを見て更に楽しそうに笑う

 

「はははッ! 判ってるに決まってるだろ? この化けもんを利用してお前達を倒すんだよッ!」

 

そう笑うと再び旋回し、DC陣営に向かおうとしていたバドの背後からマシンキャノンを当て、バドの注意を引き付ける

 

「はっはーッ! こりゃ楽だ。なんせ俺達が手を下さなくてもいいんだからよッ!!」

 

「貴方って人はッ!」

 

自分は安全な所で、メカザウルスの誘導を続けるトーマスにリョウトが激昂するが、トーマスは飄々と告げる。

 

「おいおい、何を怒ってるんだ? 俺達DCが地球を護るって言っているんだぜ? それに逆らうお前達が悪いのさッ!!」

 

レールガンの一撃がリオンの右肩を捉え、海面に向かって弾き飛ばす。なんとか体勢を立て直したリョウトの目の前には大口を開けて、リオンを噛み砕こうとするズーの姿が飛び込んでくる

 

「おらああッ!!」

 

「グオオオオンッ!?」

 

グルンガストが割り込み、ズーの横っ面に拳を叩きつける。

 

「す、すみません!」

 

「礼はいいッ! それより戦線を崩すなッ! お前はリオ……あの、青いゲシュペンストとチームで動けッ!」

 

ズーと対峙しているイルムはリョウトにそう怒鳴りつける。飛行する能力を持つ者が少ない以上、飛行能力を持つリオンはバドとの戦いに必要になる。

 

「お前の事は信用してやるッ! ここを乗り切るのに協力しろッ!」

 

「は、はいッ! 判りましたッ!」

 

リオと合流するリョウトを見ながらイルムはコックピットの中で大きく舌打ちする。ただでさえ強力なメカザウルス、それに加えてテンザンとトーマスの妨害もある。戦線を維持する事すら難しい情況だ……武蔵の大雪山おろしでキラーホエールの方向に追いやられたリオンとバレリオンも再び行動に出るが、テンザンとトーマスとは異なり、メカザウルスを撃墜しようとする。

 

「くっ、うわああああッ!?」

 

「来るな来るな来るな……あああああーッ!!!」

 

バドに組み付かれたリオンとバレリオンはコックピットを直接攻撃され、脱出する隙も与えられず搭乗機体と共に爆発する。メカザウルスの攻撃は終始コックピットを狙った必殺の攻撃だ、それに対してPTの攻撃は何発も当ててやっと有効打になるほどに攻撃力と防御力に差があった。

 

「あーあ、世界を救うとか言うから死んじまうんだよ。馬鹿見てぇ」

 

「全くだな、これだから馬鹿は御しにくいぜ。ほらお前らも死にたくなければ、俺達の命令に従いな」

 

死んだ同僚に弔いの言葉を投げかけるでもなく、罵倒するテンザンとトーマス。だが2人の指示をリオン達は聞くことは無く、編成を組んでメカザウルスへと向かっていく。今ハガネとハガネのPT隊を攻撃しようとしているのはテンザンとトーマスの2人だけだった。メカザウルスと言う脅威の前に、馬鹿のようにハガネの撃墜に拘る指揮官にDCの兵士と言えど従うつもりは無かったのだ。

 

「うおらあああああッ!!!」

 

せめてもの救いは10体近く出現したメカザウルスをゲッター3が1体で押さえ込んでいる事だ。

 

「掛かって来いッ! この腐れ蜥蜴共ッ! オイラとゲッターは逃げも隠れもしねえッ!!」

 

暴れ回るゲッター3。グルンガストは1体を相手取るのがやっとだが、ゲッターは複数を相手に戦っている。改めてゲッターの強さを知るイルムだが……だがグルンガストとて特機だ。ここで先陣を切るのは己の役目と自らを鼓舞してズーへと立ち向かう

 

「行くぜッ! ブーストナックルッ!!!」

 

放たれた鉄拳がズーの生身の頭部を吹き飛ばし、そのままテンザンの駆るガーリオンへと迫る。

 

「ちっ! うっとうしいってのッ!」

 

舌打ちしながら回避するガーリオン。だが、イルムの目的はガーリオンを攻撃することではなく、テンザンとリュウセイを引き離すことにあった。

 

「リュウセイ! いつまでもあいつに足止めを喰らってるんじゃねえッ! 早く支援に回れッ!」

 

PT形態のビルドラプターを駆るリュウセイを怒鳴りつける。今脅威なのはズーでもガーリオンでもない、ハガネを撃墜しようとしているバドだ。仮にテンザンを撃墜したとしても、ハガネが落ちればその時点でイルム達の負けとなる。だからハガネを護れと指示を出す

 

「その通りだ。リュウセイ、今お前の成すべきことに集中しろ、テンザンの相手は俺がする」

 

「教官……わかったッ!!」

 

グルンガストとビルトシュバインが並び立つ姿を見て、ビルドラプターを変形させるリュウセイ。飛び立ったビルドラプターを見つめながらイルムがイングラムに声を掛ける。

 

「少佐……そうは言ったが、これはかなりキツイぜ」

 

「判っている……これは撤退戦になる。問題はタイミングだ」

 

DCとメカザウルスとの三つ巴。このまま戦っていれば、補給をする余裕も無い以上、アイドネウス島に辿り着けたとしてもとてもではないが戦うことは出来ない。この絶望的な状況をどうやって切り抜けるか? イングラムとイルムは顔を歪めながらメカザウルスを睨みつけるのだった……

 

 

 

 

ハガネのブリッジに座るダイテツの表情は険しい。何度も危機と呼ばれる物は乗り越えてきた、だが今回の状況は余りに酷すぎる。歴戦の艦長であるダイテツといえど、この状況で勝利するのは無理だと判る。口に咥えていたパイプを握る

 

「伍長。PTの消耗具合はどうなっている」

 

「は、はい! ライディース少尉のシュッツバルト、メイロン曹長の量産型ゲシュペンストの損傷率が7割を越えています。更にべネルデイ、サンディ少尉の量産型ゲシュペンストの損傷率も5割を越えようとしています!」

 

悲鳴と言ってもいいだろう、エイタの報告にダイテツの顔は険しさを増す。最も脅威であろう首長竜のメカザウルスは武蔵が奮闘し、その数を4頭まで減らしている。だがその反面ハガネを狙い続けている翼竜のメカザウルスはまだその殆どが健在だ

 

「無理をしないでッ! 深追いをしたら駄目だッ!」

 

「判ってるッ! 判ってはいるのよッ!」

 

ハガネのブリッジに聞こえてくるパイロット同士の会話。その会話に余裕は無く、追い込まれているのが判る。

 

「スゥボータ少尉とコバヤシ大尉が弾薬補充の為一時帰還の許可を求めていますッ!」

 

その言葉に思わず顔を歪める。損傷率が危険域を超えようとしている少尉達の機体……可能ならばそちらから収容したいのだが、メカザウルスの攻撃は周到で撤退する機会すら与えない

 

「くっ、本艦の損傷率はどうなっているッ!」

 

「5番から8番の対空砲座、10~14の副砲が使用不能ですッ!!」

 

テツヤからの報告も、エイタからの報告も自分達が窮地に追い込まれているという報告だった。なんとかこの場を切り抜ける策略を考えるダイテツだが、どう足掻いても撤退戦か消耗戦になるという判断しか思いつかない。

 

「くそっ! シロ! クロ! 頼んだぜッ! 少しでもいいから数を減らしてくれッ!!」

 

「任せるニャッ!」

 

「いっくぞーッ!」

 

サイバスターから射出された小型の射撃兵器がメカザウルスを追い回し、サイバスターの前に誘導する。間合いに入ると同時にサイバスターが手にした剣でメカザウルスを両断するが、それでもその数は減らない。

 

「ひゃはははッ! 良いぜ良いぜッ! そら行けッ! メカザウルス共ッ!!」

 

「アンフェアって言うんじゃないぜ? 狙われるお前達の運が悪いのさッ!」

 

DCの指揮官である2人は弱い攻撃でメカザウルスの注意を引き付けるだけ、引き付け、自分達は安全な所に退避する。このままではハガネの轟沈も時間の問題だ……だがリオン達だけはテンザン達と異なり、メカザウルスと戦闘している。それがハガネが轟沈されず、PT隊も健在の理由だった。

 

「大尉。DCの戦艦に通信を送るぞ」

 

「艦長!?」

 

ダイテツの言葉にテツヤが信じられないと言う表情をする。それはダイテツが投降すると思ったからだろう、だがその名前を叫んでテツヤは違うと悟った。その目に諦めの色は無いからだ……何か目的があるとその目を見れば判る。

 

「待ってくださいッ! キラーホエールより通信入りました。今メインモニターに回しますッ!」

 

エイタからの報告にダイテツは開きかけた口を閉じ、映し出された壮年の男性に視線を向ける

 

「何の用だ? 本艦は決して投降などせんぞ」

 

『判っています。本艦もこうして連絡したのは投降通達ではありません』

 

きっぱりとした口調で告げるキラーホエールの艦長。その目は力強い光に満ちている

 

『これよりキラーホエール27番艦とライノセラス3~5番艦および両艦におけるAM隊全機でハガネおよび、ハガネのPT隊の支援に入ります。これはビアン・ゾルダーク総帥の直々の命令であり、本時刻14・15時より、このスターバク島におけるDC部隊はハガネへの攻撃行動を中止する物とします。ダイテツ・ミナセ中佐もまた我が艦隊への攻撃の中断を要請します』

 

その言葉にハガネのブリッジに沈黙が満ちる、その言葉が罠か、否かと判断する時間が必要だった。

 

「お前達の指揮官は攻撃を繰り返しているのはどういう事だ」

 

テツヤの問いかけにキラーホエールの艦長は被っていた帽子を取り、モニター越しに深く頭を下げる

 

『緊急通達は送りましたが、お2人は無視しているので、現段階を持ってこの部隊の指揮権の剥奪をビアン総帥が決定致しました。本島と連絡がつくまで時間が掛かった事は謝罪いたします。申し訳ありませんでした』

 

その誠実な対応にダイテツも険しい顔を僅かに緩める。判っていたことだが、DCとて一枚岩ではない。それが判った瞬間でもある

 

『メカザウルスと言う人類の脅威を前にして、人類は争っている場合ではない。私も総帥もそう考えております、ダイテツ・ミナセ中佐返答を、返答の結果によっては本部隊はこの戦域を放棄し撤退致します』

 

判断を急げと言うキラーホエールの艦長。メカザウルスは脅威であり、PTとAMで単機で戦うのは自殺行為に等しい。それに敵味方お構いなしで襲ってくることを考えれば、人類の脅威と言うのも納得だ。この状況でも執拗にハガネを撃墜しようとするトーマスとテンザンの行動が異常すぎるのだ、戦争をゲームという男がまともな訳が無いのは当然の事ではあるが……

 

「……了承した。今この時より本艦およびハガネのPT部隊はリオン及びバレリオンとの戦闘行為を一切行わない。ただし、指揮官については攻撃行動を続行する」

 

『英断感謝いたします。リオンの7~12番発進急げッ! ハガネ及び、ハガネPT隊の支援を急ぐんだッ!』

 

即座に行動に出るキラーホエールの艦長。その姿を見てテツヤが小さく呟く

 

「DCにも話の判る男が居るのですね」

 

テンザン達の様に戦争を楽しむ男だけではなく、心から人類の存続を願う男もいる。このような形で無ければ、僚友として肩を並べる機会もあっただろう……ダイテツだけではなく、ハガネのブリッジのクルー全員がそう思うのだった……

 

 

 

 

 

ガーリオンのコックピットの中でテンザンは違和感を感じた。今までと戦場の流れが変わって来ている事に気付いた、それまでメカザウルスに追われていたリオンやバレリオンが自分達が追い詰めているハガネとハガネのPT部隊に協力してメカザウルスと戦っている事に気付いたのだ。

 

「てめえら! 何やってやがるッ! なんでハガネを援護しているんだ! ああんッ!! てめえらも裏切り者かッ!!」

 

キラーホエールの艦長に通信を入れ、怒鳴り声を上げるテンザン。キラーホエールの艦長は怒り狂っているテンザンを冷ややかな視線を向ける。

 

『命令コード334に従ったまでですよ』

 

「はぁ!? 334? んなもんしらねえよッ!!!」

 

テンザンの言葉にますます艦長は冷ややかな視線を向ける。それは明らかに自分を見下した視線で、モブキャラがしていい眼じゃないとテンザンは怒鳴り散らす。

 

「おいおい、待てよ艦長。俺達はアードラー副総帥の指令で動いているんだぜ?」

 

『お言葉ですが、トーマス・プラット少佐。アードラー副総帥と、ビアン総帥どっちの命令を優先するべきだと思うのですか?』

 

自分にまで冷ややかな視線を向けられ、トーマスは流れが完全に変わった事に気付いた。だがそれは余りに遅かった、AM隊の支援によって1度帰還したハガネのPT隊が再出撃する。それを見てトーマスはゲームオーバーだなと気付いた。

 

「OK、じゃあ俺の帰還を認めてくれ。この海域を離脱する」

 

そう言ってキラーホエール、ライノセラスの方角に向かおうとする。だがキラーホエールやライノセラスの行動は威嚇射撃だった、いやそれだけではなく、リオンやガーリオンもその砲口を2人のガーリオンに向けている……それは明らかに友軍への対応ではない。

 

『命令コード334に従い、トーマス・プラット少佐、テンザン・ナカジマ少佐の我が艦隊への指揮権の剥奪及び、着艦を拒否いたします。撤退したければ、ご自分らでご勝手にどうぞ。この海域から3000m先の海域でアードラー副総帥管轄のキラーホエールが哨戒しているのでそちらに乗り込めばよろしいのでは?』

 

その言葉にテンザンもトーマスも絶句する。今まで戦闘していて推進剤なども限界が近い、それなのに自力で帰れる訳がない。

 

「てめえふざけ「ふざけているのは貴様らだッ! テンザン・ナカジマッ! トーマス・プラットッ!!!」

 

ふざけるなと叫ぼうとしたテンザンの言葉を艦長が怒声で遮る、その圧倒的な気迫にテンザンは息を呑んだ。

 

「大局すら見えず、戦争をゲームと言う餓鬼がッ! そんなに戦争がしたいのなら1人で紛争地帯にでも行けッ! 我らはビアン総帥の地球を守ると言う理想に集いここまで来たッ! 地球を脅かす敵が居るにも拘らず、やれゲームだの、やれビジネスだの! 貴様らこそふざけるなッ!! ビアン総帥の命令で全員が集められた上で新たに発令された334すら知らぬとほざく馬鹿共は知らん! 勝手にしろ! 本艦も我が艦のAM隊も貴様らの支援など行わんッ!」

 

そう怒鳴り散らした艦長は通信を切り、リオンとバレリオンを伴い。ハガネへと接近していく、モブキャラと見下していた艦長に怒鳴られたテンザンは暫く呆然としていたが、すぐに怒りに身を震わす。

 

「このモブがぁッ!!」

 

「馬鹿! 止めろテンザンッ!!」

 

ガーリオンをキラーホエールに向かって突撃させた。それに気付いてトーマスがテンザンを止めるが、だがその警告は余りに遅すぎた。

 

「がはあッ!?」

 

雲の間から奇襲してきたバドが背後からガーリオンに喰らいつく。その衝撃と振動でテンザンの口から鮮血が零れる。

 

「お、おいおいおいッ! 嘘だろッ!?」

 

破砕音を立ててガーリオンのコックピットが押しつぶされていく、その光景にテンザンはトーマスに助けを求める。

 

「うるせえ! 今やってるッ!!」

 

だがテンザンの叫びにトーマスもまた怒鳴り返す。トーマスはテンザンに助けを求められる前にバドに攻撃を加えていたが、予想以上にバドが硬く思うように攻撃が通らない。

 

「くそっ! くるなッ! があッ! 止めろよッ! ふざけんなッ!!」

 

バドの噛み付きによって押しつぶされ行くコックピット、砕けたコンソールや、モニターが爆発しテンザンの身体を傷つける。必死に両手を伸ばし、自身に迫ってくるコックピットの壁を押し返そうとする。だが当然人間の力で押し返せるわけも無い。

 

「お、おい! 助けろ! 俺様を助けろよッ!!」

 

パニックになったテンザンがオープンチャンネルで助けを求めるが、同じDCの兵士は勿論、ハガネも救出には動かない。ノイズ交じりのモニターにはゲシュペンストとリオンが助け合いながら、メカザウルスと対峙しているのに自分を助けようと動く者は誰もいない。

 

「くそっ! ふざ……うおおおおおッ!?」

 

ついにバドの牙がコックピットの3重の装甲を突破し、テンザンに迫る。バドの牙で配線が切られたコックピットは小さい爆発を繰り返しており、その度にテンザンを傷つける。

 

「くそっ! くそっ! くそくそッ!! 俺様は主役だぞッ!? こ、こんな……こんな所で……がああああああッ!!! 痛いッ! いてええええッ!!! だ、誰でもいい! 俺を助けろよおッ!!」

 

爆発したコックピットの破片がわき腹に突き刺さり、更に爆発でヘルメットも破壊され、目の前が真紅に染まる。その痛みと恐怖に助けを求める、自分を噛み砕こうとしていた牙が顔の目の前で止まる。だが狭いコックピットの中にアンモニア臭と酷い悪臭が広がる、自分が漏らしたと気付いたテンザンはその顔を羞恥で染め再び吼えようとするが、バドの最後の攻撃かほんの僅か食い込んだ牙の先端が肩に突き刺さった。

 

「が、ガアアアアアアアッ!?」

 

その信じられない激痛に喉が枯れるんじゃないかと言わんばかりに絶叫する。その痛みに意識が闇に沈む寸前テンザンの耳にトーマスの叫び声が響く。

 

「テンザン! 脱出装置を使えッ! 俺が回収するッ! 聞こえたか!? 生きているなら脱出装置を使えッ!」

 

トーマスの言葉にテンザンは無意識の内に緊急脱出装置のレバーを引くのだった……

 

 

 

 

テンザンのガーリオンがメカザウルスに噛み付かれ、牙が食い込む度に痙攣するかのように動く手足。零れ落ちるオイルも伴って、武蔵には人間が食われている姿を幻視した。少しだが顔見知りであり、今までの言動もあるから助けたいとは思わなかったが、それでも僅か、本当に僅かだが、助けてやってもいいかと思った。これがリョウや隼人なら因果応報だと笑い、見捨てる。だがそれが出来ないのが武蔵の良さであり、甘さだった。だが武蔵が助ける前に、トーマスのガーリオンによって救助されていく姿を見て、僅かに安堵の溜め息を吐いた。これでメカザウルスと戦うのに集中出来ると……

 

「おらおらッ! くたばりやがれええッ!!!」

 

最後のズーの頭部に拳を叩き込み、頭蓋を砕く。最後のズーが血しぶきを上げて海中に沈んでいく、これで終わったと思ったのだが、ゲッター3のゲッター線メーターが更に上昇する。

 

「まだだ! まだ敵が来るぞッ!!」

 

ゲッターの警告に従い、そう叫ぶ。すると雲を切り裂き新たなメカザウルスが姿を見せる。バドと異なり、ティラノザウルスの上半身が機械化され、翼を持ったメカザウルス……メカザウルス・ゼンが4体雲を裂き姿を見せた。

 

「おいおい、まだ来るのかよ。しかも明らかに上位個体じゃねえか」

 

グルンガストを駆っていたイルムが溜め息を吐きながら呟く、ズーとバドで苦戦していたのに明らかに更に強い固体の登場……連戦続きでぼやきたくなるのは当然だが、ゼンにはそんなことはお構いなしであり、頭部のミサイルを乱射しながら、バドよりも素早くPT隊に接近していく。

 

「今オイラも合流するッ!」

 

ズーを足止めする為に先行していた武蔵がゲッター3を反転させた瞬間。太陽の中に隠れていたメカザウルスが急降下してくる、その姿を見た武蔵は思わず硬直した。メカザウルスの中でも更に巨大な姿、機械で出来た翼とプテラノドンの頭部を思わせる兜を装着したメカザウルスの姿。

 

「てめえはッ!!」

 

「グゴオオオオオンッ!!!」

 

武蔵の叫びに呼応するかのように吼えたメカザウルスがゲッター3に組み付く。今現れたメカザウルスは武蔵がゲッターのパイロットになった当日に襲ってきた恐竜帝国の特殊部隊「地リュウ」の長であると言うニオンが乗り込んでいた因縁深いメカザウルス・ラドの姿だった。

 

「うおおおおッ!!!」

 

「ガオオオッ!!!」

 

ベアー号のコックピットを噛み砕こうとするメカザウルスの牙を両手で受け止めるが、その圧倒的なパワーに引きずり回される。3人乗っているゲッターでも苦戦したのに、単独操縦、更にジャガー号が不調というハンデがあるのでゲッター3は得意の海中なのに劣勢に追い込まれていた。

 

「敵増援来ますッ!」

 

更にハガネのブリッジからエイタの叫び声が木霊する。空中からはバドの群れ、海中からは数こそは少ないがズーが再び姿を見せる、DCが協力してくれたおかげで1度目の襲撃はかわしたが、2度目の襲撃。しかも今度は頼みの綱のゲッター3は巨大なメカザウルスに組み付かれ動く事が出来ない上に、明らかに上位のメカザウルスであるゼンまでも参戦した。テンザンとトーマスは撤退したが、状況は以前悪いままだ。いや、武蔵とゲッター3が動けない今、状況は更に悪い物となっていた。

 

「ま、待ってください! 南西の方角から、接近してくる機体を感知ッ!」

 

「まだ増援が来るというのッ!?」

 

「あの恐竜帝国っていうのはどれだけ戦力を保有してやがるんだッ!?」

 

これだけ撃墜しているのに、まだ敵の増援が現れる事にアヤとジャーダが叫び声を上げる。

 

「また敵の増援か!? 数はどうなっているッ!」

 

テツヤがエイタに尋ねるが、エイタはモニターを見て顔を青くさせている。

 

「ち、違う! め、メカザウルスじゃない……あ、あいつだッ!」

 

小刻みに震えながら、モニターを凝視するエイタ。

 

「ちゃんと報告をせんかッ!」

 

テツヤの一喝で我に返ったエイタが顔を青ざめさせ、震えながら報告を続ける。

 

「た、大尉! し、シロガネを沈めたあいつが……来ますッ!?」

 

「な、何ィッ!?」

 

そして海面を引き裂き、濃紺の機体がこの海域に姿を現した。大きな肩パーツ、胸部の展開装甲。そしてその機体が現れただけで、圧倒的な重圧がハガネとハガネのPT隊に襲い掛かる。

 

「あ、あの青いロボットは、南極の時のッ!?」

 

リュウセイが思わずそう叫ぶ、南極事件で基地およびシロガネを撃墜し、DCの宣戦布告の切っ掛けとなった忌まわしき特機……「グランゾン」の姿だった。

 

「グランゾンかッ!?」

 

その姿を見たダイテツも艦長席から勢いよく立ち上がり、グランゾンを睨みつける

 

「シュウ! 貴様、こんな所にッ!!」

 

メカザウルス・ゼンを相手にしていたサイバスターが鍔迫り合いをしていたゼンを蹴り飛ばし、グランゾンに敵意を見せる。

 

「ほう、マサキですか。これは奇遇ですね、貴方はいつから群れるようになったのですか?」

 

マサキの言葉に挑発するような言葉を投げ返すシュウ。マサキはその言葉に怒りを露にする

 

「貴様こそ、何を考えている!? DCに協力するなんてッ!」

 

マサキの言葉にシュウは小さく笑い声を上げる

 

「ふふふ、そんなことも判らないのですか? 貴方達を助けに来たんですよ。ビアン総帥の頼みでね」

 

虚空から剣を取り出しグランゾンの手に握らせるシュウ。だがその切っ先はメカザウルスではなく、ハガネへと向けられる。

 

「ですがまぁ……貴方達が私と戦うと言うのならば……貴方達はこのグランゾンとメカザウルスを相手に戦うことになりますが……」

 

貴方達はどうしますか? シュウは余裕を感じさせる声でダイテツ達にそう告げるのだった……

 

 

第22話 スターバク島の死闘 その3へ続く

 

 




これがアンチになるのかは不明ですが、テンザンは酷い目に合ってもらいました。少なくともアイドネウスで出てくることは無いでしょうね。そしてメカザウルスの追加とグランゾンの出現、まだまだスターバク島の戦いは続く予定です。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話 スターバク島の死闘 その3

第22話 スターバク島の死闘 その3

 

グランワームソードをハガネのブリッジに突きつけるグランゾン。メカザウルス達の攻撃はグランゾンが展開しているフィールドで弾かれ、こうして話をしている余裕がある。だが、ハガネの返答によってはメカザウルスだけじゃなく、グランゾンまでもを相手にする必要がある。しかしグランゾンによって破壊された南極の基地、そしてシロガネの轟沈、そして死んでしまったシロガネのクルーの事もあり、冷静な判断が出来るダイテツは勿論、その場に居合わせたリュウセイ達ですらグランゾンを睨みつけている。

 

「くくくく……さて、返答はいかに? 私はどちらでも構いませんよ? ハガネの皆さん」

 

だがシュウはその殺気を受け流し、余裕を持った態度を貫いている。その態度がまた、ハガネのクルー達の神経を逆撫でする。

 

「……艦長」

 

「……判っている」

 

グランゾンはヴァルシオンと並ぶDCの最大戦力の1つだ。今の疲弊した状況、しかもメカザウルスとも戦いながらグランゾンと戦う。それは逃れられない死を意味していた。DCとも共闘している以上、ここはシュウの申し出を受け入れるのが生存する道と言う事は判っていた。だがそれでも、南極で死んだシロガネのクルーの事、そして南極基地の隊員の事を考えるとダイテツは共闘を受け入れる。その一言を発する事が出来なかった……

 

「私も暇ではないのですよ? それとも……くくくッ……武蔵は見殺しですか?」

 

早く返答しろと促すシュウ。グランゾンのフィールドで攻撃を防がれているメカザウルスはハガネへの攻撃が出来ないと判ると、1人で巨大なメカザウルスと対峙しているゲッター3の方に首を向ける、もう悩んでいる時間が残されていないのは明白だった。

 

「ぐっ……シュウ! てめえッ! 本当に何を考えてやがるッ!!」

 

「マサキ。さっきも言ったでしょう? 私は助けに来たと……まさか、ほんの数分前の言葉も忘れてしまったのですか?」

 

シュウは挑発を繰り返す、マサキでなくてもその言葉には怒りを覚える。助けに来た……その言葉を信じ、背後から撃たれる可能性を考えればどうしても返事を返すことが出来ない。

 

『ダイテツ・ミナセ中佐。我が艦は本島に支援を要請しました、ビアン総帥からの応援という事であることは間違いがありません』

 

どうしても判断を仕切れないダイテツにキラーホエールの艦長が告げる。シュウが勝手に来たのではなく、応援である。ダイテツが悩み、返答をしようとした時

 

「助けてくれるなら早く助けてくれッ!! 今は人間同士でいがみ合ってる場合じゃねえだろッ! ダイテツさんもだッ! 何があったのかは知らないけど! 今はいがみ合ってる場合じゃないだろうッ!?」

 

メカザウルスの牙を防いでいた武蔵がグランゾンとハガネに向かって叫ぶ。その言葉を聞いてシュウはブリッジからグランワームソードを退けさせる

 

「くくっ! 彼の方がよほど状況を理解している。私怨で行動を躊躇う等愚の骨頂ですよ」

 

ハガネとハガネのクルーにそう告げたシュウはグランゾンを反転させ、ゲッター3を襲っているメカザウルスに突撃していく。ダイテツは艦長席の肘掛けを殴りつける、頭ではそれが正しいと判っていた。だがどうしても感情で納得する事が出来ず、武蔵を見殺しにし掛けた自分が腹ただしかった……

 

「総員、DCのAM隊及びグランゾンと共闘し、この場を切り抜けるッ! 各員奮起せよッ!!」

 

そしてその怒りを吐き出すかのように、ダイテツは叫ぶのだった……

 

 

 

 

メカザウルスの弱点は頭部である、それが武蔵から告げられたメカザウルスとの戦闘に置いて最も重要なポイントだ。爬虫類は総じて生命力が高い、仮に尻尾や腕を切り落とした所で怒りを買うだけだ。更に言えば機械化されている部分もあると言えど、その身体の6~7割は生身だ。つまりその性質は生物に近い、自分の生命の危機により凶暴化する。それをさせない為には頭部を狙え、それが武蔵の助言だった……のだが

 

「生身でも弾き返すのかッ!?」

 

「本当に化け物なんだからッ!」

 

ジャーダとガーネットの絶叫が響く、降下してきたバドの頭部を狙いM950マシンガンで頭部を狙い引き金を引く。だがバドの強固な皮膚に弾かれ、有効打撃にならない。

 

「シャアッ!!」

 

大きく口を開いたバドの火炎弾が2人に向かって放たれ、慌ててゲシュペンストを後退させるジャーダとガーネット。火炎弾が命中した海が蒸発し、周囲に蒸気の幕を作り出す。

 

「くそっ! あいつら思ったよりも賢い……うぐうっ!?」

 

「ジャーダッ!? きゃあッ!!! な、何が起きてるのッ!?」

 

蒸気の幕を突き破ってきたミサイルに被弾し、ジャーダのゲシュペンストの右腕が肩から吹き飛ぶ。ガーネットが支援に入ろうとするが、ガーネットのゲシュペンストはありとあらゆる計器が異常を起こし、その場から動く事が出来ず。ジャーダ同様ミサイルに被弾して吹き飛ばされる、だが幸いなのはチョバムアーマーに被弾し、本体にダメージが入らなかった事だ。

 

「くっッ!!! おおおおおおーーッ! サイフラァァァァッシュッ!!!!!」

 

このままではやられると判断したマサキがサイバスターの広域攻撃である、サイフラッシュを放つ。だが、もっとも撃墜したいバドは即座に空中に逃れ、装甲の厚いゼンとズーを巻き込むだけに留まる。しかもそれもダメージとは言いがたく、体表に僅かな焦げ痕をつけるのがやっとだった……

 

「くそっ……は……はっ……くそッ! こうなったらサイバードであいつらの群れに突っ込んでサイフラッシュをぶち込んでやるッ!!」

 

「マサキ、無茶しすぎニャッ!」

 

「これ以上プラーナを消費したら危ないニャッ!」

 

シロとクロが無茶だと叫ぶ、だがバドを撃墜しない事にはゼンとズーを相手にする余裕がない。

 

「ぐおっ……!? なんて力だッ!」

 

「ガオオオンッ!!!」

 

サイフラッシュの攻撃によってゼンは飛行能力を失ったが、着水した事でティラノザウルスの強大な膂力を用いてグルンガストに襲い掛かる。

 

「リオン隊は翼竜を狙えッ!! バレリオン隊は首長竜だッ! 対空ミサイル、1番から11番てぇーッ!!!!」

 

「主砲照準合わせッ! てぇーッ!!!」

 

キラーホエールの対空ミサイルの雨がバドに向かって降り注ぎ、ハガネの主砲がズーとゼンをその光の中に飲み込む

 

「リュウセイ、リオ、ラトゥー二、実弾系の武器は効果が薄い。ビーム兵器を主体にしろッ!」

 

ビームソードを抜き放ったビルトシュバインが対空ミサイルで高度が落ちたバドの首を根元から両断する。鮮血が噴出し、ビルトシュバインの機体を真紅に染め上げていくがイングラムはそれを気にしたそぶりを見せず、メガビームライフルをゼンに向かって放つ。

 

「キシャアアアッ!」

 

「ちっ、当たり所が悪いとダメージは通らんか」

 

だがメガビームライフルの光はゼンの胴体の機械装甲に命中し霧散する。実弾、実体系、更にビーム兵器にまで高い耐性を持つメカザウルスはPTやAMで相手にするにはあまりにも厄介すぎる相手だ。

 

「計都羅喉剣ッ! 暗剣殺ッ!!!」

 

イルムの雄叫びが戦場に響き渡り、少し間を置いてからグルンガストに両断されたメカザウルス・ゼンが断末魔の雄叫びを上げて爆発する。

 

「はッ! はっ……くそ、こんなに強いのかッ! メカザウルスって奴はッ!」

 

イルムがいらついた素振りで叫ぶ、グルンガストの強固なはずの装甲にはあちこち鋭い引っかき傷があり、更には噛み付かれたのであろう跡もあり、そこから火花が散っている……まだ稼動することは可能だが、機能停止に追い込まれるのも時間の問題だ。

 

「リョウト君! 援護してッ!」

 

「え、あ。わ、判ったッ!!!」

 

リョウトの乗るリオンの放ったチャフグレネードがズーの目の前で炸裂し、一時的にズーの視界を奪い、その後にズーに向かって撃ち込まれたスプリットミサイルがズーの機械の頭部を吹き飛ばす

 

「いっけええええッ!!!」

 

背部と脚部のブースターを全開にしたゲシュペンストがズーに向かって突っ込んで行く、その左腕のプラズマステークは放電しており、ジェットマグナムでの撃墜を狙っているのが判る。だがズーも愚かではない、チャフグレネードで視界を失いながらも口を開く

 

「ジェット……マグナムッ!!!」

 

「ガオオオンッ!!!」

 

放たれた火炎弾はリオのゲシュペンストを素通りし、ジェットマグナムは大きく開いたズーの口の中に突きこまれ、その強力な電圧でズーの脳を焼き尽くす

 

「はぁ……はぁ……な、なんとかなったわねッ!」

 

「なんて無茶をするんだ! 君はッ!」

 

推進剤を限界寸前まで消費し、動けなくなったリオのゲシュペンストにバドが迫り、リョウトが怒鳴りながらゲシュペンストの支援に入る。

 

「支援するッ! 今の内に後退しろッ!」

 

「ハイパービームライフル……シュートッ!!」

 

シュッツバルトとビルドラプラターのビームが降下しようとしてきたバドに向かって放たれる。その隙にリョウトとリオはハガネの付近まで離脱する事が出来た

 

「……そこッ!!!」

 

「スプリットミサイル射出ッ!!」

 

DCのリオンとガーリオンとも連携が取れ始め、弾薬の消費も機体の損傷も甚大だが、徐々に徐々にだが戦線を押し返していく

 

「アカシック……バスターッ!!!」

 

魔法陣から召喚した火の鳥と共にゼンとズーに突撃するサイバスター、加速のついた一撃はゼンとズーを撃破する。シュウの参戦のおかげと言うのは癪だが、シュウとグランゾンの参戦によって戦況は大きく変わろうとしているのだった……

 

 

 

 

グランゾンの巨体がメカザウルスの一撃で大きく揺らぐ、巨大な質量と膂力を伴った一撃はグランゾンの湾曲フィールドを貫きその濃紺の身体に傷をつける。

 

「そいつは尻尾でぶん殴ってくるから気をつけろ!」

 

「そういう警告は……もう少し早くして欲しい物ですねッ!!」

 

唸り声を上げて振るわれた尾の一撃をグランワームソードで受け止めながらシュウがぼやく、正直シュウの予想よりもこのメカザウルスの攻撃力は高かった。

 

「ゲッターミサイルッ!!」

 

「シャアアアーッ!!」

 

ゲッター3から放たれたミサイル。だが上半身を覆っていた鎧が分離し、機械のプテラノドンにへと変形すると目から放ったビームでミサイルを撃墜する。

 

「なるほど、このメカザウルスは3体で1体と言う事ですか」

 

戦況を観察していたシュウが感心したように呟く。今この場に居るメカザウルスよりも2回りは巨大な体躯、しかもその両腕は進化しており人間の手のように実に器用に動く。そしてその身体の割りに大きな尻尾だと思ったが、それも独立したメカザウルスであり、射撃武器と打撃兵器としての役割を両立している。最後にあの翼は完全に機械だが、電子頭脳で制御しているのか本物の翼竜と比べても引けを取らない自由な機動を描き、メカザウルスを支援している。普通のPTや特機ならば、警戒すべき強大な敵。だがシュウとグランゾンにとって仕掛けさえ判ってしまえば、ただの的に過ぎなかった。

 

「言ったでしょう? 私も暇ではないのですよ」

 

グランゾンの胸部が怪しく輝き、グランゾンの前方の漆黒の穴が開いた。その異様な雰囲気に翼竜型のメカザウルスは距離を取るが、本当に助かりたいのならば、グランゾンが現れた瞬間にメカザウルスは撤退するべきだったのだ。

 

「受けなさい、ワームスマッシャーッ!!!」

 

グランゾンの胸部の球体が光り、そこから光の矢が漆黒の穴に向かって放たれる。1発や、2発ではない、何十発と光が撃ち込まれていく。

 

「ギィッ!?」

 

「うげッ……なんて攻撃だ」

 

メカザウルスと武蔵の嫌そうな声が重なる。漆黒の穴へと消えた光の矢は翼竜型の機械の背後から、同じような漆黒の穴を展開すると、そこから無数に飛び出してくる。背後から命中した光の矢に顔を上げると今度は顔面、その次は左右、更にその次は前後から、メカザウルスを嬲るように漆黒の穴から飛び出してくる光の矢。それは的確にメカザウルスの身体を削っていく。グランゾンの強さは、この時代の機動兵器ではメカザウルスに勝つ事は難しいと言う武蔵の考えを改める結果となった。

 

「しゃあッ! あの鬱陶しいのさえいなければッ!!」

 

武蔵にとっては因縁のあるメカザウルスだった。正直ゲッターが大破寸前にまで追い込まれたのだから苦手意識はあったし、事実万全な状態でこうして対峙すると確かに強くはあった。だがそれは3体のメカザウルスの連携ありきの強さであり、その内の1体が既にその機能を失っていれば、その強さは半減する。

 

「うおおおおおーーーッ!!!」

 

雄叫びと共にメカザウルスに向かってゲッター3を走らせる。ゲッター3を近づけさせまいとメカザウルスは丸まってハンマーのようになった尾を大上段から振り下ろしてくる、それは直撃すればゲッターですら一撃で破壊しかねない必殺の一撃だった。

 

「オープンゲーットッ!!!」

 

だが命中する寸前でゲッター3の身体は爆ぜ、ジャガーは海中にもぐり、メカザウルスの足元を通り背後に回りこむ、そして旋回し回りこんだイーグル号と上昇した事でハンマーの一撃を回避したベアー号がそのまま頭上を飛び越えて背後に回りこんだ。

 

「チェンジッ! ゲッタァーッ! スリィーッ!!!」

 

メカザウルスの背後でゲッター3へとチェンジし、その両腕が伸びながらメカザウルスの身体を締め付けていく。

 

「ぐ、グギャアアアアアッ!!!」

 

「ギ、ギイイイイイッ!!!」

 

90万馬力のゲッター3の力で締め上げられ、メカザウルスが苦悶の叫びを上げる。

 

「必殺ッ! 大ッ! 雪ッ!! 山ッ!!!」

 

南鳥島、そしてこのスターバク島で使った大雪山おろしではない、本来の大雪山おろしが初めてハガネのクルーの前で使われた。メカザウルスの身体を締め付けていた腕が高速で伸びながら螺旋回転を描く、ゲッター3の両腕に締め付けられたメカザウルスはまるで独楽のように回転させられながら、巻き起こされた竜巻に飲み込まれ全身を切り刻まれながら上空へ、上空へと舞い上げられていく……

 

「あんなの喰らったらPT……いや、戦艦だって一撃だぞ……」

 

「信じられねえ……」

 

メカザウルスとの戦闘中ではあったが、リュウセイ達は初めて見る本当の大雪山おろしに絶句する。今までの暴風を相手に叩きつけるのではなく、その暴風によって相手を引き裂く大雪山おろしの威力に息を呑む

 

「おろぉぉぉーーーしッ!!!!」

 

武蔵の雄叫びと共に台風に巻き上げられたメカザウルスは螺旋回転をしながら上空に向かって弾き飛ばされ、そしてそのまま高速で回転しながら海中に向かって突き刺さり断末魔の雄叫びを上げて爆発四散するのだった……

 

 

 

 

武蔵はゲッター3のコックピットで爆発したメカザウルスの残骸を見つめていた。

 

「あの時より強いって思わなかったな……」

 

武蔵にとっての悪夢であった巨大メカザウルス・ラド……グランゾンの支援があったが、それでも自分の記憶の中より強いとは思わなかった。だが実際早乙女研究所を破壊し、ゲッターをも追い詰めたメカザウルスとは同一固体だが、電子制御されているメカザウルスと、ニオンが乗り込んだ武蔵の記憶の中のメカザウルスでは雲泥の差があった。これがもしニオンが操縦していたのならば、武蔵はもっと苦戦していただろう。

 

「本艦への支援感謝する」

 

『いえ、こちらこそ』

 

メカザウルスの波状攻撃も、この巨大メカザウルスを出撃させる為の足止めだったのだろう。あのメカザウルスが大雪山おろしで撃破されると蜘蛛の子を散らすように撤退して行った。本来なら追撃するべきなのだが、損傷度や消耗度からメカザウルスを追撃することは出来なかった。

 

「ふふふ……では私もここで失礼するとしましょうか」

 

グランゾンが浮かび上がり、キラーホエールと撤退しようとするリオンの先頭に着く。

 

「シュウ! お前は何を考えている!」

 

「私の話を信じるとは思えない貴方に話すだけ時間の無駄ですよ、マサキ」

 

最後まで嫌味っぽいシュウの言葉にマサキは更に噛み付こうとするが、プラーナを限界まで消耗していることもありそれ以上シュウを怒鳴りつけることは無かった。

 

「では御機嫌よう、今度はアイドネウス島でお待ちしています」

 

ブースターを吹かし信じられない速度で離脱するグランゾン。キラーホエールも海中に沈んで行き、生き残ったリオンとバレリオンはそんなキラーホエールを守るかのように上空を編隊を組んで離脱していく

 

「……艦長。あの陸上戦艦も帰還していきますが……そのあれは……」

 

テツヤが口ごもる。スターバク島のDCの基地に引き返していく、3隻のライノセラス。だが明らかに回収させる目的のコンテナが4つハガネの進路の無人島に放置されている。

 

「……PT部隊及び、ゲッターロボの回収後。あのコンテナを回収し、本艦は海中へと潜航する」

 

ダイテツの下した決断はあのコンテナが罠ではなく、こちらの支援物資だという判断だった。テツヤは命令を復唱し、PT隊への帰還命令を出す。ダイテツはその命令を聞きながら艦長席に背中を預ける、今回のメカザウルスの攻撃は前回よりも激しく、送り込まれるメカザウルスもより強力になっていた。ゲッターロボ、DCとの共闘、そしてグランゾンが現れなければハガネは轟沈し、そしてPT隊は壊滅していただろう……

 

(なぜそこまで意地になるのだ、上層部は)

 

メカザウルスが脅威と言うのは上層部も把握しているだろう。だが執拗にメカザウルスの存在を認めず、そしてDCの壊滅を命令する上層部。レイカーを人質にしてまで、メカザウルスをナパーム弾で燃やせと言った命令も腑に落ちない。今の情勢ならば、DCを無理に制圧せず、停戦要請をし、更にメカザウルスという脅威に一丸になって立ち向かうべきだ。ビアンは決して話の判らない男ではない、だが今の上層部はそれを認めない……それはダイテツを初めとしたハガネのクルーに連邦への不信感を与えていた。

 

(何か……ワシ達では想像もつかない思惑が動いているような……嫌な感じだ)

 

伊豆基地を出航した時は感じなかった、粘りつくような重い重圧を感じダイテツは深く溜め息を吐くのだった……

 

 

 

 

ハガネがメカザウルスとの戦いの傷を癒す為深海に身を潜めている頃。連邦の本拠地であるジュネーブの地下深くではあるプロジェクトが開始されていた……

 

「なぁ、これ本当に修復できるのか?」

 

「言うな、俺達は与えられた仕事を全うすることだけを考えろ」

 

地下深くに作られた格納庫で作業する整備兵がそう呟く、その整備兵の視線の先には60M近い非常に大型の特機がハンガーに保管されていた。燃え上がるような真紅のボディ、髭のようなフェイスパーツ、それに鋭利な肩パーツ。それら全てが整備兵としてPTの整備に関わってきた彼らの常識を覆す代物だった。

 

「でもさ、これ修理って言うけど……殆ど駄目じゃないのか?」

 

「ぼやくな、仕事だぞ」

 

先輩の整備兵に睨まれ若い整備兵は黙り込む、だがハンガーに吊るされている特機はその全体を三分割にされており、とても修理できるようには見えない。修理出来るのか?と疑問を抱くのは当然だ

 

「良いか、こいつは3体合体の特機なんだ。これは壊れているんじゃなくて、メンテ用に分割してあるんだ」

 

「ええ!? ほ、本当ですかッ!?」

 

合体する特機と聞いて若い整備兵のテンションが一気に上がる。その姿に壮年の整備兵は溜め息を吐きながら作業を始めろと促す。

 

「判ったらさっさとコックピット周りの改装を始めるぞ」

 

「了解です」

 

凄い特機の修理に関われると若い男が走り回る姿を見ながら、壮年の整備兵はハンガーに掛けられた特機に視線を向ける。

 

「『G』ねぇ。なんで正式名称を教えてくれないんだか……」

 

コードネームだけを教えられた特機……それも今までの特機ともPTとも明らかに構造が違う、異様な特機の姿を見て眉を顰めるのだった。試作機でもない、かと言って正規にロールアウトした特機でもない。突然現れた謎の特機の修理、改修命令に違和感を覚えずにはいられない。更に自分達を監視するように配置されている兵士の姿にきな臭い物を感じながら、整備兵は分割された特機……『ドラゴン号』と呼ばれる戦闘機のコックピットに己の身体を滑り込ませるのだった……

 

「全く、あのような遺物で大丈夫なのかね?」

 

ジュネーブの応接間に神経質そうな男の声が響く、カール・シュトレーゼマン……ビアンの警告を再三無視し、そしてメカザウルスの存在を隠蔽することを決定したEOTI審議会の議長である男だ

 

「ふふふ、勿論ですよ、議長。Gが修繕されシロガネに搭載されていれば、南極で轟沈されることなど無かったのですから」

 

「ふん! メテオ1の落下時に突如浅間山に現れた格納庫から回収された兵器など、信用出来るかッ!」

 

シュトレーゼマンの一喝に2人の男は僅かに眉を顰める。メテオ1の落下で地球が大騒ぎになっている間に隠蔽されたのだが、メテオ1の落下時に浅間山に崩壊した格納庫と特機と工業用と思える破壊された兵器の残骸が現れたのだ。当時の政府はその情報を隠蔽、そして回収した特機と工業用機械の中で死亡していた男が所持していたPCを回収し、格納庫を焼き払ったのだ。

 

「そ、それは良くない! 実に良くないですよッ! ジ、Gは最強の兵器! BT-23に記録されていた情報を貴方も見たでしょう? 議長」

 

男が慌てた口調で告げる。それはこのままでは「G」の修理も修復も出来ないと言う事に気付いたから、いかにGが素晴らしいかと語る。それと共に回収されたデータの事も出し、「G」を修理、修復、改修しないなんて勿体無いと言うことを繰り返し説得する。

 

「ああ。あの早乙女の乱とか、ゲッター線とか言ういけ好かない放射線か、ふん、旧西暦の記録などあてになる物か」

 

シュトレーゼマンと話をしていたのはアメフト選手のような大柄な黒人とその男に対して小さすぎる白人の男だった。

 

「いやいや、議長。Gが動く姿を見れば貴方の意見も変わりますとも」

 

「そう! まずはGを動かせるようにする事! それが何よりも大事な事なのですよッ!」

 

2人の男の説得にシュトレーゼマンはもう1度鼻を鳴らし、ソファーから立ち上がる

 

「ならばGの修復計画はお前達に任せるぞ」

 

「おお! お任せください議長ッ! 必ずやGを実用段階にし、シロガネの護衛機として活躍させて見せましょうッ!」

 

「わ、我らにお任せください!」

 

もう興味はないと言わんばかりに部屋を出て行くシュトレーゼマン。だがこの時シュトレーゼマンは振り返らなかった、それがシュトレーゼマンの命を救っていた。何故ならば、小柄な男の皮膚の下からは、奇妙な音が鳴り響き、その顔の皮膚を突き破り、『何か』が顔を見せようとしていたから、だがそれは隣に立った黒人の男が小柄な男の腕を掴む事で納まった。

 

「落ち着くんだ。今はあの男には利用価値がある。それまでは我らを侮っていても良いじゃないか」

 

「こ、これだから人間は嫌いなんだ」

 

「判る、判るさ、だけど今の私達には人間の力が必要なんだよ」

 

「わ、判っている! 判っているさッ! 全てはぼ、僕達の宿願の為」

 

「そう、全ては」

 

「「ゲッター線のためにッ!!」」

 

 

第23話 休養 へ続く

 

 




はい、最後に誰か出てきましたが、お口にチャックですよ~? 混沌の魔法使いと読者の皆様との約束ですからね? 彼らの出番はOG1ではあんまりありませんからね? ちょいちょいって出て暗躍してる感じです。次回はインターバル、そしてアイドネウス島もシナリオ大幅変更です。メカザウルス、大好きです。それが全てですかね、では次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話 休養

第23話 休養

 

メカザウルスの波状攻撃により轟沈一歩手前のダメージを受けたハガネとそのPT隊。今彼らは海中……ではなく、放棄された基地の中にいた。

 

「まさか、こんなところに基地があるなんて知りませんでした」

 

「ワシもだよ。大尉」

 

ライノセラスが置いて行った4つのコンテナ。その内の3つはPTとも互換性のあるパーツと燃料弾薬、残りの1つは食料や水、そしてこの基地への地図であった。

 

「EOTI機関が放棄した製造基地か……」

 

スペースノア級を収容出来るドックがあることから、アイドネウス島でクロガネの最終調整が行われる段階になるまで、この基地でクロガネが製造されていたのだろう……本来ならば消耗した装備を修理出来る環境と言う事で喜ぶべきなのだが……

 

「イングラム少佐達の調査では廃棄されたという割には、設備が整っているそうです」

 

エイタからの報告にダイテツの予想は確信に変わった……無人の基地なのに、整備する設備や、PTを修理する機材が充実している。それはビアンが人類の敵に対して備えていた物だろう……少なからず今の連邦の上層部に疑惑があるのはダイテツも感じていた。本来ビアンの遺産となるべき物を使う事には少なからず罪悪感はある、自分が勝っても、負けても、人類全体の事を考えているビアン。戦争と言う道を選んだのは間違いだが、その思想と願い自体は悪ではないのだから……

 

「ハガネのステルスシェードを展開、この基地のレーダーとハガネのレーダーを同調後。各員休息に入る」

 

「了解しました」

 

本来なら休息をとっている場合ではない、DCの本隊がジュネーブに攻撃を仕掛けようとしている今は一刻でも早く、アイドネウス島に強襲を仕掛けるべきなのだろう……だが、損傷率が7割を越えたPTと主砲、副砲の殆どを失ったハガネでは任務を遂行することも出来ない。今は受けた傷を癒すしかない……

 

「艦長、もし上層部がメカザウルスの存在を認めればどうなるでしょうか? DCと和平になるでしょうか?」

 

「……そうなれば良いとワシも思っているよ、大尉」

 

だがそれはありえないのだ。なぜか必要以上に上層部はメカザウルスを認めない、それさえ認めてしまえばDCと和平を結ぶことは可能だ。今は人類同士が争っている場合ではないのだから……だがダイテツの懸念はそこではなかった

 

(武蔵が心配だな)

 

上層部は『G』と呼ばれるゲッターの存在を知っている、それとは全く異なる姿をしているがゲッターを操る武蔵。もしこの戦いの後、武蔵が上層部によって囚われたら武蔵がどんな扱いを受けるかが心配でしょうがない、やはりDCとの戦いが終われば、すぐにでも離脱させるべきなのかもしれない

 

「武蔵はどうしている?」

 

「彼ならば、やることが無いと言う事で、基地の中にあった釣竿を持ってマサキと一緒に岩場に出かけていきましたが……」

 

善意の協力者であることから、基地に居る事を強制する事も出来ない。むしろ軍属ではないからこそ、気分転換も大事だ。

 

「それならば良い。大尉、伍長から休息に入れ」

 

「は、し、しかし艦長」

 

「構わん、行け」

 

艦長が先に休むべきと言う大尉に行けと命令する。申し訳ありませんと頭を下げて出て行く、大尉と伍長を追い出した事で1人になったハガネのブリッジ。基地の防衛設備と同調しているハガネのセンサーの音を聞きながら、艦長席に背中を預ける。極東基地を出発してから、めまぐるしく戦況は変わっている。それにハガネがここに停泊している事もDCは把握しているだろう、それなのに、襲撃を仕掛けてこない。今ならば戦力はゲッターロボ、そしてサイバスターしかない、物量で押されれば降伏するしかない。だがそれをして来ない、その事に疑問を覚えるのと同時に、まさかと言う考えが脳裏をよぎる。いまだ上層部がメカザウルスが存在しないと断言できる理由としては、それしか思い当たらない。

 

「……DCがメカザウルスの日本上陸を防いでいると言うのか……?」

 

思い当たる節はある、共闘を受け入れてから出撃したリオンやバレリオンの弾頭はメカザウルスにも有効打を与えていた、それは明らかにPTの武装よりも大きなダメージを与えていた。ビアンはもしかすると、対メカザウルス用の装備を既に開発し、海中や空中から進撃してくるメカザウルスを水際で食い止めているのではないだろうか? それは連邦では日本を護る事が出来ないという判断であるのと同時に、本艦に追撃がこない理由と考えれば実につじつまの合う内容だった。

 

「ワシだ。ダイテツだ、オオミヤ博士に繋いでくれ」

 

『どうしましたか? 中佐』

 

コンテナ2つ分も用意されていたPTとも互換性のある銃弾……それの分析をオオミヤ博士に頼む必要がある。

 

「PTの整備で忙しいと思うが、至急DCから提供された銃弾の分析を頼みたい」

 

『了解ですが、普通の銃弾のように思えるのですが?』

 

「……もしかすると対メカザウルス用の弾頭の可能性がある。それだけでも良いから調べて欲しい」

 

『!わ、判りました。すぐに分析を始めます』

 

慌てた様子で返事を返すオオミヤ博士に頼むと告げ、目を閉じる。生まれてしまった迷い、そして疑惑……それらを抱えた今、どうしてもDC……いや、ビアンと戦う事に疑問を覚えずにはいられない、だがレイカーや極東支部の人間が人質に近い以上ワシ達は進むしかないのだ……

 

 

 

 

 

「戻ったのか、シュウ・シラカワ」

 

「ええ。今戻りました」

 

司令部で指揮を取るビアンが振り返る。そこにはいつも通りの笑みを浮かべたシュウの姿があった……ビアンは1度指揮を頼むと副官に告げ、椅子に腰掛ける

 

「アードラー副総帥で無くていいのですか?」

 

「……冗談はやめてくれ、あの男が本当に私の思想を理解していると思うか?」

 

アードラーは技術者としては優秀だが、その考え方は根本的な所でビアンとは乖離している。それはテンザンやトーマスに出したと言う指示を聞けば一目瞭然だ、あの2人同様メカザウルスを日本に送り込む作戦を前提で組む。そんな男に指揮は取らせられないとビアンは断言した、現にアードラーはコード334……すなわち、メカザウルス出現による、連邦との一時停戦を無視した2人への監督不行き届きと言う事でアードラー派の兵士は全員が独房に入っている、勿論その中にはテンザンとトーマスの姿もある。

 

「それで戦況はどうなのですか?」

 

「……全体的な消耗度は4割。ゲッター線コーティングをした特殊弾頭が効果を出している」

 

メカザウルスの日本侵攻は行われているが、それはダイテツの予想通りDCによって水際で食い止められていた。だがその代償として、ハガネのアイドネウス島へのルートに割く防衛部隊は解散となっている為ハガネはDCからの妨害は無く、アイドネウス島へと辿り着くだろう。

 

「計算は狂いそうですね、ビアン博士」

 

「……そうなるだろうな」

 

数十回に及ぶメカザウルスとの戦いで、メカザウルスからDCは完全に敵として判断されている。そのおかげか、キラーホエールやリオンを索敵に出せばメカザウルスは航路を変更してリオンを襲撃するようになった。だがそれは日本は守れているが、DCが連邦とメカザウルスの両方から襲われると言うことであり、DCの疲弊度は爆発的に上昇している。

 

「貴方の思惑通りには行かない様子ですね……」

 

「それも仕方あるまい」

 

再三地球連邦政府及び、連邦に停戦を申し入れている。だが地球連邦はそれを受け入れることは無い上にビアンが流したメカザウルスとの戦闘記録もビアンの改変した物と云うことになってしまっている。

 

「アイドネウス島でメカザウルスとも戦いになるのではないですか?」

 

「……そうなるだろうな。だがハガネのクルーは話が判る、三つ巴とはならんだろう」

 

アイドネウス島に巨大な影が近づいている。恐らくそれがメカザウルス……いや、恐竜帝国の拠点なのだろう。海中や海上から出現するメカザウルスが多いのも、海上拠点で動き回っているとなれば説明がつく

 

「ビアン総帥、エルザム少佐が帰還許可を求めています、弾薬の消耗度及び、AMの消耗度が危険域に到達しているそうです」

 

オペレーターからの報告にビアンは顔を歪める。エルザムほどの腕であっても、危険域まで消耗している。メカザウルスは新西暦の常識を遥かに超える強敵であった、生物でありながらその力は特機に値する。敵の戦力は全て特機で編成された大部隊となれば、その脅威度は明白だ。

 

「エルザム少佐の帰還要請を了承する。エルザム少佐が帰還後、キラーホエール31~33番及びLBの1~2番隊を出撃させろ」

 

蓄えていた資材も兵力も確実に消耗している、だが人類を、地球を護ると言う思想に集い集まったDCの兵士の士気は高い。その士気の高さとAMの性能、そして対メカザウルス弾頭が性能に劣るAMでのメカザウルスとの同等な戦いを可能にしていた。

 

「ビアン博士、貴方も休むべきですね」

 

「……む、大丈夫だ」

 

立ち上がろうとしてふらついたビアンを支えるシュウ。ビアンは大丈夫だと頭を振り、再び立とうとするが、目の下の深い隈はビアンの疲労度を如実に表していた。

 

「その有様では恐竜帝国だけではなく、ハガネを見極めると言う事すら達成出来ないですよ? ご心配なく、私が暫くの間グランゾンで出ましょう。少しでいいので休むべきですよ」

 

「……しかし」

 

シュウに言われても渋るビアン。だが司令部にいる兵士の殆どに言われれば、それを拒否する事も出来ない。

 

「判った、3時間だけ休ませてもらう」

 

しばし仮眠を取らせてもらうと言ったビアンはふらふらの足取りで司令室を後にした。

 

「では暫くの間よろしくお願いします。交戦している場所で部隊が押されている場所はどこですか?」

 

ビアンが休んでいる間に戦うと言ったシュウの言葉に、オペレーターは上ずった声で返事を返しながら救援要請が出ている部隊の捜索を始めるのだった……

 

「ふう……」

 

汗を流し、ベッドに横になったビアンは天井に向かって深く溜め息を吐いた。人間同士がこのまま争っていれば人類は恐竜帝国によって蹂躙されるだろう。本来ならば、ビアンが敗れたとしても自分を破った部隊が地球の守護者になる。人類に危機感と、地球を護る刃を見出すための戦争……だが今の情勢はビアンの思惑から遠く離れ始めている。

 

「どうするべきか……」

 

考えていたプランを修復するべきか……しかし、もう修正が効かない所に来てしまっている。せめて、地球連邦政府がビアンの話を聞いて、そして和平を認めれば話が変わるがそれすらも難しいだろう。ビアンは頭を悩ませながらも疲労には勝てず、その意識は深い闇の中に落ちて行った……

 

『ほう、随分と早くこの場所に来たな』

 

夢の中でビアンは翡翠の光に包まれ、そしてそこで白衣を着た老人と出会った。だがその眼光は鋭く、そして老人とは思えない力強さに満ちていた

 

『ふふふ、そう身構えるな。ビアン・ゾルダーク……ワシはちょっと、そう少しだけお前に助言をしてやろうと思ったのだ。ゲッター線の声に耳を傾けろ、そうすれば真理が判る。ワシよりも早く、ゲッター線の真実に辿り着こうとしているお前ならば判るだろう』

 

白衣の老人が両手を広げると、巨大な戦艦のようなゲッターが姿を見せる。そしてそのゲッターから放たれた光がビアンを飲み込むのだった……

 

「はっ!」

 

強烈な閃光を前に両手で顔を庇ったビアン。目を開くと真っ白い天井が見える……ゆっくりと身体を起こし時計を見ると部屋に入ってから2時間ほど経過していた……

 

「メモ……メモをしなければ」

 

奇妙な夢の中で見た何か、それをメモしなければならない。ビアンは奇妙な使命感に突き動かされ何かの図面を描き出す……それはメモと言うにあまりに緻密、そして完成しきった図面だった。それを書ききったビアンは電源が切れたように机に突っ伏し、眠りに落ちた。

 

『ははは……さすが新西暦最高の科学者……あの一瞬でこれだけを感じ取ったか』

 

翡翠の光が満ち、ビアンの私室に早乙女博士が現れる。ビアンの腕の下から抜き出した図面を見て笑い出す、そこには早乙女の目から見ても、完璧と言えるゲッター炉心の図面があるのだった……

 

 

 

 

 

武蔵とマサキが並んで釣竿を振るう。武蔵の足元のバケツには魚がひしめき合い、マサキのバケツは空っぽだ。

 

「なんでこの距離で俺は1匹も釣れないんだ?」

 

「さぁなぁ? お、また来た」

 

投げ込んだウキが沈み、武蔵が竿をあおると穂先が海面に突き刺さる。武蔵はなれた素振りで竿を操作し、魚を釣り上げる。

 

「昼飯か、夕食か……どっちにせよ今日は新鮮な魚になりそうだな」

 

鼻歌交じりでバケツの中に魚をほり込む武蔵。再び餌をつけて、海に仕掛けを投げ入れようとした武蔵にマサキが意を決した表情で声を掛ける。

 

「お前の話を聞いたけどよ、後悔とかないのか?」

 

「あん?」

 

予想外の言葉に武蔵は振り返る。マサキの顔の顔は苦しそうに歪んでいた、聞いてはいけない事を聞いたという罪悪感を感じているのは確実だった。

 

「ないな、オイラは何十回、何百回だって同じ選択をする。同じ道を選ぶよ」

 

あの時はそうするしかなかったと武蔵は考えている。リョウがゲッターを操縦出来ず、恐竜帝国の大襲撃が迫っている。だが時間を稼げば、早乙女博士が、リョウが、隼人が何とかしてくれる……

 

「確かにオイラのやったのは無責任なことだったかもな」

 

皆ならなんとかしてくれる、そう思って何もかも押し付けた上に死んだ。意識が途絶える瞬間、通信機越しに聞こえたリョウの自分を呼ぶ声、隼人の慟哭の叫び……それは一瞬だったが武蔵の耳にこびり付いていた。

 

「それでも、それでもだ。大事な仲間には死んで欲しくなかったんだよ、オイラは」

 

大事だから、大切だから死んで欲しくなかった。それが武蔵の偽りのない気持ちだった、勿論、恐竜帝国が憎かったと言うのも無い訳ではないが……ゲッターで特攻する時はそれよりもリョウや隼人、それにミチルさんや元気、早乙女博士に死んで欲しくないという気持ちが何よりも強かった

 

「……恐竜帝国は強い。オイラが全部倒したと思ったのに、まだしつこく生きてやがった」

 

3人乗りのゲッターならまだしも、今の単独操縦のゲッターでどこまで行けるかと言う不安は少なからず残っている。

 

「恐竜帝国を倒すのはオイラの使命さ、オイラがやらなきゃいけない」

 

「おいおい、1人で全部何もかも背負う必要はないだろ?」

 

聞こえてきた声に振り返ると、イルムやリュウセイが同じように竿を担いで岩場にやって来ていた

 

「なんだよ。聞いてたなら、早く合流してくれよ」

 

「いやいや、気分転換に来てそんな重い話をしてたら隠れるだろうが」

 

イルムの言葉はごもっともである。マサキがそんな話を切り出すことが無ければ、イルムもリュウセイもすぐ合流していただろう。

 

「話は聞いてたけど、何もかも1人で全部背負うことはないと思うぜ?」

 

リュウセイの言葉に武蔵は笑いながら仕掛けを海の中に投げ入れる。

 

「判ってるよ、だいたいオイラなんておっちょこちょいでドジで間抜けってよーっく皆に怒られてたんだぜ?」

 

口ではそう言いながらも楽しそう武蔵、その笑顔はとても幸せそうであり、そして楽しそうな様子だ。

 

「まぁ、オイラが言いたいのは後悔なんてしてないから、そんなに腫れ物を扱うような態度じゃなくて良いって事だ」

 

武蔵の話を聞いて距離感を掴めないでいたリュウセイ達に武蔵はそう笑いかける。正直な話過ぎた話なので、それを気にして距離を取られるのは武蔵にとっても本意ではなかった。それがあったからこそ、武蔵はマサキの問いかけに答えた。近くに誰かが近づいてきているのを感じ取っていたから

 

「そりゃ悪いな、どう接すればいいか判らなかった」

 

「仲間でいいだろ? メカザウルスと一緒に戦うさ」

 

武蔵にとってはもう既にDCは敵ではない、恐竜帝国が現れた以上。人間同士の争いなんてくだらないと武蔵はそう思っていた、だけど武蔵のように割り切れないのが軍属であるイルム達だ。

 

「まぁそれも難しそうだなあ」

 

渋い顔をしているイルム達に武蔵はそう笑い、ウキが再び沈み込んだタイミングで竿を大きくあおるのだった……

 

 

 

 

 

 

恐竜帝国は武蔵の特攻によってニューヨークで一度は滅びた。だが何の因果か何百年も先の未来でバット将軍は目覚めた……それもバミューダトライアングルと呼ばれる地で、そしてマシーンランドに1度ゲッターの進入を許した事で放棄した筈の元第4ブロック……そう、メカザウルス製造工場で目を覚ましたのだ。

 

「おおう、おおおお……バットォ、見るが良いッ! 我らが帝王「ゴール様」はいまだ健在なりぃぃッ!!」

 

「ああ……そうだな。ガレリィ」

 

メカザウルス製造工場の奥に眠る巨大メカザウルスを前にバット将軍は臣下の礼をとる。それを見てガレリィは唾を飛ばしながら叫ぶ、バットよりも遥か過去で目覚めたガレリィは既に発狂していた。そう自らが作り上げたメカザウルスを「ゴール」と思い込み、臣下として仕えながらも、その身体を作り続けるという矛盾。その知性の何処かで既にゴールが死んでいると認めながらも、それを受け入れることが出来ず発狂した。

 

「壊すのだ! ゲッターロボを! 我らが怨敵をッ!!」

 

「判っている、判っているともガレリィ」

 

そして未来にゲッターロボが現れた事で更にその症状は進んだ。2重人格とも言える状態に陥っていた、絶対的君主であるゴールを殺したゲッターを許すことが出来ず、自らが作り上げたギガザウルス・ゴールを君主とあがめ、正常な時にメカザウルスを製造し、ゴールを強化する。そんな日々を永遠と繰り返していたのだ、だがそれも終わる。元第4ブロックに備蓄されていたメカザウルスを製造する化石も使い果たした、反マグマ原子炉も経年劣化でその役割を終えた。つまりもうこれ以上メカザウルスを製造する余力は恐竜帝国には無い、今アイドネウス島に航路を取っているがそれは最後の戦いを挑む為の移動だ。

 

「ガレリィ……お前も疲れただろう。もう休め……」

 

バットは腰のベルトに差したナイフを抜き放ち、ガレリィの首を引き裂く、噴水の様に溢れ出る鮮血を浴びながらバットの目から涙が溢れていた。

 

「くっははは……すまんのう……介錯……感謝するぞ」

 

「構わんさ。先に逝っていろ、私もすぐに逝く、ゲッターと共にな」

 

「ふ、ふ……ふはは……そ、そうともよ……我らの死は憎むべき……ゲッター……に……」

 

事切れたガレリィの亡骸を抱き上げるバット。既にガレリィの肉体は死に、マグマ原子炉のエネルギーで延命していたに過ぎない。そのマグマ原子炉が機能を停止すれば、ガレリィもまた死ぬ。だからこそマグマ原子炉の機能不全で苦しみながら死ぬ前に、バットの手によってガレリィの命は潰えた……その僅かな間に本来の性格を取り戻して。バットはガレリィの亡骸を抱え、メカザウルス・ゴール。そして最後に製造された100体近いメカザウルスの群れを見る。マシーンランドはもう幾ばくも無く沈む……即ち其れは恐竜帝国の滅亡を意味している。だが何の意味も無く死ぬことなど許されない、勝っても負けても恐竜帝国は滅ぶ。ならば怨敵に勝利し滅ぶか、それとも怨敵に破れ滅ぶか。それだけが恐竜帝国最後の生き残りバットに残された選択だった。

 

 

アイドネウス島での最大の決戦はもうすぐ傍まで迫っているのだった……

 

 

第24話 アイドネウス島の決戦 その1へ続く

 

 




今回はインターバルとなりました、恐竜帝国は滅ぶギリギリと言う状況でした……次回はもう少しだけインターバルの話を続けて、アイドネウス島は原型がないくらいオリジナル要素を入れて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話 アイドネウス島の決戦 その1

第24話 アイドネウス島の決戦 その1

 

EOTI機関のドッグでその傷を癒していたのだが、アイドネウス島の方角から巨大な建造物の浮上及び戦闘反応が感知された。

 

「艦長。どうしますか?」」

 

ハガネの修復度は6割ほど、主砲、副砲の修理は半分ほどしか完了していないが、それは艦首トロニウム・バスターキャノンの調整を優先したからだ。

 

「PT隊はどうなっている」

 

この島に滞在したのは2日、機体の修復が万全でなければ出撃したとしても足手纏いになる。

 

「問題はありません、中佐。リョウトのアイデアで改良されたリオン……「アーマリオン」更に「R-1」の調整も完了しております」

 

イングラムの返答を聞き、ダイテツは決断した。メカザウルスと恐竜帝国と言う人智を越えた敵の存在、それらと戦うにはDCが……ビアン・ゾルダークの頭脳が必要だ。

 

「30分後に本艦はDCの支援の為アイドネウス島に向かって出航する! 各員発進準備を急げッ!!」

 

ダイテツの下した決断はDC及びビアンを倒せと命じられた軍人では無く、この時代に生きる一個人として恐竜帝国と戦う事だった。

 

「「「了解ッ!!」」」

 

そしてその決断を下したのはダイテツだけではなく、ブリッジにいた全員が同じ事を考えていたのだった……

 

「……やっぱりか」

 

武蔵はアイドネウス島へ向かうと聞いてゲットマシンのコックピットにいた。イーグル、ジャガー、ベアーの3つのゲットマシンを確認した。そしてその結果は3機ともゲッター線の貯蔵量が最大値寸前になっていた。昨日寝る前に確認した時は半分を切っていたのに……今は最大値寸前である。強いて言えば、炉心が不安定なジャガー号だけは7割で留まっているが、それでも十分な貯蔵量と言える。

 

「……オイラに教えてくれているんだな。兄弟」

 

今思えば炉心の調子が上がっていた時、その影には恐竜帝国がいた。そして今回は恐竜帝国との直接対決と言う事を自分に伝えているのだと武蔵は受け取っていた。

 

「武蔵、気持ちは判るがブリーフィングルームで待っていたらどうだ?」

 

「悪いけど、それは無理だな」

 

ロブの言葉にそう返事を返す武蔵。武蔵の格好は彼にとっての戦闘服である、剣道の胴にマントにヘルメット姿。いつでも出撃出来るように準備を整えていた、ロブは武蔵の姿を見て苦笑する。

 

「あの時とは大分状況が違う、アーマリオンもR-1もPTだが、特機にも負けない馬力があるんだぞ」

 

ロブの視線の先を武蔵も見る。そこにはリオンとよく似た姿をしているが一回り重厚になり、レールガンではなくゲシュペンストの物に類似した両腕、そして巨大になった肩パーツを持った機体と、ハガネが出航した時も見たトリコロールのPTの姿があった。昨日のブリーフィングで機体名は聞いていたし、整備班の自慢の機体と言うことも理解した。そしてその上で武蔵は否定の言葉を口にした

 

「それは聞いた。でもな、ロブさん。あんた達はメカザウルスの脅威ってもんを理解してない」

 

この基地で組み上げられたアーマリオンと、やっと調整が済んだR-1。確かにカタログスペック的には破格の性能なのだろう、だがそれはあくまで新西暦での話だ。こう言ったら悪いが、武蔵はまだロブ達はメカザウルスの危険性を理解していないと判断した。

 

「確かにビアンさんが開発した対メカザウルス弾頭は有効かもしれないし、調整したビームもメカザウルスには効果的かもしれないだけど、あいつらだって馬鹿じゃない」

 

対策を練って来ている可能性だってある。普段の人のいい武蔵の顔ではない、恐竜帝国と戦ってきた戦士としての顔を見せる武蔵にロブは息を呑む。その気迫は科学者であるロブにはあまりにも強すぎた

 

「……そうかもしれないな。すまない、俺は少し慢心していたようだ」

 

「オイラがそんなに気負うことは無いって言いたかったのは判るよ、でもそこまで心配しなくて良いですよ」

 

ゲッターと武蔵の力は大きい、だがそれに甘えておんぶに抱っこでは武蔵の負担が大きくなる。ロブが自分を心配してくれている事が判った武蔵は嬉しそうに笑ってロブに退避するように促す。

 

「退避? それはどう……うわあッ!?」

 

「奴さん達がおいでなすったのさッ!」

 

激しく揺れるハガネ、それはアイドネウス島に近づいた事でメカザウルスがこちらに攻撃を仕掛けてきたのだろう。

 

『パイロット各員及びクルーは対衝撃防御を取れ! 本艦はエネルギーフィールドを展開後、最大船速でアイドネウス島へ突入するッ!』

 

テツヤの言葉を聞いた武蔵は真剣な顔をして、ロブの方を見る

 

「ロブさん、1個頼みがある」

 

その顔を見てロブはまた貧乏くじを引きそうだと苦笑しながらも、武蔵の言葉に耳を傾けるのだった……

 

 

 

 

アイドネウス島を早朝から襲ったのはメカザウルスによる空爆だった。エルザムがパイロットスーツに着替え、総司令部に向かうとそこのスクリーンには恐竜帝国の本拠地らしき、巨大建造物がアイドネウス島から沖合い10キロの地点への浮上している光景だった。

 

「総員! 緊急出撃ッ!! 最悪の場合に備え技術者達はキラーホエールでアイドネウス島から離脱せよッ!」

 

ビアンの指示が怒声とも取れる大声で響き渡る、今までの散発的な襲撃ではない。恐竜帝国はアイドネウス島を巻き込み、ハガネ、そしてゲッターロボと戦う算段を取っていた。

 

「総帥! 日本にもメカザウルスが進行中ですがどうしますか!」

 

「そちらに回している余力は無い! 私の警告を聞かなかった連邦政府の落ち度だ!」

 

本拠地を攻められている以上アイドネウス島から日本に送れる部隊はいない、確保した連邦軍の拠点に駐在していた部隊もアイドネウス島に帰還していた為、即座に連邦軍に送れる支援部隊は存在しない。

 

「LB隊の4番、及び私の部隊の一部に手空きの者がいますが」

 

「エルザムか……その言葉の意味を判っているのか?」

 

ビアンの目が細そまる、エルザムの部隊もギリギリまで消耗している。手空きの者等存在しない、エルザムは自分の部隊の人員を割いてまで日本に応援を送るべきだと進言したのだ。

 

「……ハガネもこちらに向かっております。目的は同じ、共闘出来ると具申致します」

 

エルザムの言葉を聞いたビアンは溜め息を吐き、オペレーターに指示を出す

 

「LB4番隊のガーリオンを3機、エルザムの部隊からリオンを5機。高速型キラーホエール3番艦へと移送後、日本へ向かわせろ。エルザム、そこまで言い切ったんだ。轟沈などしてくれるなよ」

 

ビアンの指示に頷きエルザムは総司令部から駆け出していく、今こうしている間もメカザウルスの進軍は続いている。今までは空中からの襲撃だったが、海中を通ってティラノザウルスの様なメカザウルスも姿を見せて来ている。一刻も早く防衛に就いているテンペストとの合流をしなければとエルザムは格納庫へと走る

 

「少佐! ガーリオンの準備は出来ています! それと頼まれていたゲッター線コーティングのアサルトブレードの準備も出来ました!」

 

整備兵の言葉にエルザムは片手を上げ、そのままタラップを駆け上りガーリオントロンベ・カスタムに乗り込み、出撃していくのだった。

 

「遅いぞ。エルザム」

 

「すいません、ですが、頼りになる武器をもって来ましたよ」

 

ゲッター線コーティングを施された2本のアサルトブレードの内、一振りをテンペストのガーリオンに手渡す

 

「そうか、間に合ったか。遠距離から削っているのでは間に合わん、俺が突貫する。支援を頼むぞ」

 

「了解です」

 

翼竜型のメカザウルスならばゲッター線コーティングの弾頭で撃墜出来る。だが今上陸して来ている大型のメカザウルス相手には焼け石に水程度の効果しか期待出来ない、ならば接近して相手の頭を破壊する事で動きを止めるしかない

 

「新兵では俺の動きにはついて来れないからな」

 

テンペストのガーリオンもまたテンペスト用にカスタマイズされている、高速のマニュアル制御を前提にした各所のハードポイントに増設されたブースター、そして両肩は更に大型化され機動力と小回りが利く様に改造されている。

 

「行くぞッ! エルザムッ!!」

 

「了解ッ!!」

 

ブースターを全開にして突っ込んでいくテンペストのガーリオンを追って、エルザムもガーリオンを走らせる。両手にはアサルトブレードではなく、メカザウルス用の弾頭を搭載した小型ブレードレールガンを装備している。それはエルザムもまた大型のメカザウルスには射撃よりも近接戦闘の方が効果的と判断したからの行動だった。

 

「リオン部隊は私と少佐が弱らせたメカザウルスを狙え! ランドリオン隊、バレリオン隊は上空から降下してくるメカザウルスに注意しながら支援を怠るなッ!」

 

突貫していくテンペストの背後でエルザムが矢継ぎ早に指示を飛ばす、メカザウルスにAMで挑むのは自殺行為に等しい。その牙も爪も容易に装甲を破りパイロットを殺す、そしてそれでいて機動力はAMを超える個体までいる。決して無理をせず、連携を重視しろと指示を出す。

 

「邪魔だああああッ!!」

 

加速しながらアサルトブレードを振るうテンペストのガーリオン、その加速による一撃とゲッター線コーティングで動きが鈍ったメカザウルスの頭部に擦れ違い様にブレードレールガンの刃を突きたて、引き金を引く。頭部が吹き飛び、地響きを立てて倒れるメカザウルス。だが海上のあの拠点から次々と出撃してくるメカザウルスの姿を見て、エルザムは背筋に冷たい汗が流れるのを感じるのだった……だがエルザムもビアンも気付くことはなかった、この騒動に紛れとある2人組みがアイドネウス島に侵入している事に……

 

 

 

 

アイドネウス島のDC本拠地の一室から扉を叩く音と老人の叫び声が響く、テンザンとトーマスの件で2人と同じく謹慎処分となっているアードラーは狂ったように扉を叩きながら叫び続ける。

 

「くそお! 誰か! 誰かおらんのかッ! ワシを誰だと思っている! DC副総帥じゃぞッ!!」

 

メカザウルスの叫び声と爆発音、それはまだ遠いがアードラーを狂乱させるには十分だった。必死に扉を叩いて叫ぶが、誰の反応も無い。

 

「ええい! あの疫病神がッ! 何もかもあの武蔵と言う男のせいじゃッ!!」

 

机を蹴り上げ、肩を上下させてアードラーは何度も深呼吸を繰り返す。最初は何もかも順当に進んでいた、それなのに武蔵とゲッターロボが現れてから旗色が怪しくなった。

 

「ビアンもビアンじゃ! まだ青臭い理想論を捨ててないとは! なんと愚かな男じゃ!」

 

アードラーがDCに下ったのはビアンについていれば甘い汁を吸える。自らの権力欲を満たすことが出来、なおかつ、自分の研究の実験材料を集めることが出来ると言う旨みがあったからだ。だが武蔵が脱走してからは実験体を手にすることも出来ない上に、司令部から外される事も多くなった。最終的にはテンザンとトーマスの命令違反で軟禁処分、しかもこの処分が終われば副総帥の地位からも下ろされると聞いてアードラーは荒れに荒れていた。

 

「何故ワシらが正しい事をしたと理解出来ないんじゃ!」

 

ハガネとゲッターロボを沈めることが最優先。それなのに連邦やハガネとの協力を意味する特殊命令コード334の発令、更に部隊の再編成でアイドネウス島の防御を薄くするビアンにアードラーは不満を持っていた。なによりも重要なのは地球を支配すること、その為に日本が大きな被害を受けようが、人が何人死のうがハガネと危険因子であるゲッターと武蔵を殺す事を最優先にして何が悪い

 

「ええい、ワシはこんな所で死ぬ器ではないわ! 見ていろッ!」

 

服の中に隠しておいた小型端末で電子ロックを解除しようとするアードラー。既にアードラーの中でDCは終わった物、もしくは副総帥である自分が生き延びればまたいつでも復興できる。どうせメカザウルスと戦って生き残れるとは思えない、それならば自分についてくる兵士とテンザン、トーマスを連れて逃げ延びる。ドロ船に乗って沈むつもりの無いアードラーは即座に行動に出ていた。そしてそんなアードラーを見つめる異形。蟲のような姿をした何かはその黄色の瞳をアードラーに向け、暫く観察すると通気口の中へと消えていった

 

「あーあっがああ……ふう」

 

その奇妙な蟲は大口を開けた黒人の男の口の中へと消えていく。ジュネーブでシュトレーゼマンと対談に訪れていた2人組み博士はアイドネウス島に侵入していたのだ。周囲を鮮血に染め上げ、壁に叩きつけられ肉片となった兵士達の遺体の真ん中にいるにも関わらず、2人の顔には笑みが浮かんでいる。

 

「ど、どうだった?こ、コーウェン君」

 

「スティンガー君、なかなか使えそうな男だったよ」

 

口の中から不気味な音を立てながら、通気口を通ってアイドネウス島を調べていた蟲達が男の口の中に吸い込まれていく

 

「な、何者だ!?」

 

「見つかってしまったようだね、スティンガー君」

 

「そ、そうだね、こ、コーウェン君。僕に任せておくれよッ!」

 

そう言うとスティンガーと呼ばれた男の身体はコーウェンと呼ばれた男の口の中に消えていった蟲と同じ姿になり、通路を疾走していく。

 

「ば、化け物ッ! う、うわあああああッ!!!」

 

半狂乱になりマシンガンの引き金を引くが、その銃弾はスティンガーを捉える事は無く、走る途中で姿を見せたまるでクワガタのような牙がマシンガンごと男を両断し、鮮血を撒き散らす男を液体状になったスティガーが飲み込む。

 

「応援を呼ばれる前に処理出来てよかったね」

 

「う、うん、そ、そうだね。さ、早くこの島を調べようか?」

 

2人がこの島に訪れたのは、アイドネウス島に何故かゲッター線の反応があったからだ。そしてそれを調べる為に2人はこの島へ潜入していた、笑みを浮かべながら地下に向かおうとしていた2人だが、まるで金縛りにあったかのように動きが止まった。

 

『いや、その必要はない。この薄汚い亡者共が』

 

2人の耳に届いたのはとある男の声。基地の通路を緑の光が満たし、その中から下駄を履き白衣を纏った男が姿を見せる

 

「早乙女博士……おお! やはり貴方もこの世界にいたのですねッ!」

 

両手を広げ、嬉々とした表情で駆け寄ろうとしたコーウェンだが、老人から向けられる敵意の視線に足を止めた。

 

「いや……貴方は私達とは違う世界の早乙女か」

 

身体から不気味な音を立てながら立ち止まった……立ち止まらずにはいられなかったコーウェンの足元には、小さなゲッタートマホークが突き刺さっていた。そのまま進んでいれば、今の弱りきった身体では消滅を間逃れないと判断したのだ

 

『いかにも、だがお前達の事は知っているぞ、薄汚い寄生虫が』

 

「貴様! ゲッター線の使者である我らを侮辱するかッ!!」

 

「止めるんだッ! スティンガー君ッ!!」

 

早乙女の言葉に兵士を咀嚼していたスティンガーが飛び掛るが、ゲッター線の凄まじい光がスティンガーを弾き飛ばす。

 

「ぐああ、い、痛い! ば、馬鹿な!? 何故ゲッター線が我等を拒むッ!?」

 

『当たり前だ、より洗練され、本来の姿に近づいているゲッター線が貴様らを受け入れると思っているか? それならばよほど目出度い頭をしているな』

 

早乙女の挑発にスティンガーは異形の姿から人型へと戻る。だが、その額には大粒の汗が浮かんでおり疲弊しているのが良く判る。スティンガーを庇う様にコーウェンが前に出る

 

「なるほど、ゲッター線が随分と濃いと思っていたが、なるほどなるほど、ここには世界の門があるのですな? そして貴方もまた死んだ、私とスティンガー君があの忌々しい乱暴者と真ドラゴンに殺された後に月で目覚めたように」

 

答えを求めるように早乙女に言葉を投げかけるコーウェンだが、早乙女はくだらないと言いたげに鼻を鳴らす。その姿は2人が知る早乙女ならば絶対にしない仕草だった。

 

『そんな物は知らん、お前達にも興味は無い……だがここはお前達のいた世界とは違う。これ以上進むというのならば……』

 

早乙女が両手を広げるとゲッター線の光の中からゲッターが姿を見せる、その姿はゲッター1に似ている。だがその姿はより洗練されていて、凄まじい威圧感に満ちていた

 

「素晴らしい、それが貴方達の世界のゲッターか、素晴らしいとは思わないかい? スティンガー君」

 

「も、勿論だよ、コーウェン君! この素晴らしい力の脈動ッ! なんとも素晴らしいッ!」

 

『不愉快なおべっかは良い、私の機嫌を損ねないうちにこの場から去れ、そうすれば今回だけは見逃そう』

 

「おお! 流石世界は違えど早乙女! その慈悲の心に感謝するよ。ではいずれ! また我らが本来の姿と力を取り戻した時にお会いしましょう!」

 

2人はまるで泥水のような姿に変化し、逃げるように通気口の中に消えていく、暫く周囲をうかがっていた早乙女だ。2人の気配は完全に無い事を確認すると現れた時と同じ様に光の中へと消えて行くのだった……恐竜帝国、メカザウルスだけではない、武蔵のいた世界とは異なる歴史を歩んだ世界からの滅びの使者もまた、フラスコの世界で暗躍を始めているのだった……

 

 

 

 

徐々に海面に沈んでいくマシーンランドの中。バットはいらつきを隠せない素振りで、己以外いない司令部でメカザウルスの指揮を取っていた。だがそれも限界が近い、司令部のモニターがレッドアラートを始め、脱出を促してくるからだ。

 

「まだか、まだ来ないのかッ!!」

 

これだけ派手に動いているのに何故ゲッターが現れないとバットは叫ぶ、今アイドネウスに進撃しているメカザウルスは先遣隊であり本陣はまだ動かしていない。だがそれもいつまでも続けれるわけではない、沈んでいくマシーンランドの中で早く来いと苛立つバットの視界にオレンジの戦艦が姿を見せる。それはこの時代でゲッターロボが母艦としている戦艦の姿だった

 

「やっと来たかぁッ!!」

 

バットの目が爛々と輝き、即座に攻撃対象の変化の指示が飛ぶ。それに従いDCの兵器を襲っていたメカザウルス達が反転し、ハガネへと向かう。

 

『どけどけッ! 邪魔だッ!』

 

エネルギーフィールドで護られたハガネの艦首からゲットマシンが飛び立ち、エネルギーフィールドを内部から突き破り大空へと飛び立つ

 

『チェーンジッ!! ゲッタァァァーッ!!!』

 

メカザウルス・バド、ゼンⅠがゲッターチェンジを阻止しようと迫る。だがその程度の動きではゲットマシンに追いつくことは出来ない。これがキャプテンが乗り込んでいれば別だが、所詮は電子頭脳制御と言う所だ。バド3体とゼンを振り切り、遥か上空でゲッターチェンジするゲットマシン。

 

「お前達では力不足ッ! ゲッターロボを倒すのはこの私だッ!!!」

 

マントを翻し格納庫へ走るバット。恐竜帝国最後のメカザウルス……いや、ギガザウルス・ゴールを駆ってゲッターロボと戦う。それだけがバットの最後の願いであり、そして恐竜帝国の幕引きはゲッターによって与えられるべき物であると言うバットの偽りの無い気持ちだった。

 

「帝王ゴール様、そしてガレリィ、死んで行った我が同胞達よッ!! このバットに力を貸してくれッ!!!」

 

ギガザウルス・ゴールに乗り込んだバットの背中に、何本ものコードが突き刺さり、食いしばった口から紫の血が零れる。

 

「うっぐう……この程度の痛みが何だというのだッ!!」

 

ギガザウルス・ゴールを稼動させるには、爬虫人類の生体電気が必要であった。それは本来ならば1人では到底賄うことの出来ない膨大なエネルギーだが、バットは執念とも言える意地でギガザウルス・ゴールの起動に成功した。バットの命を燃料として消費するかのように……

 

「はっはぁ……待っていろぉッ! ゲッタァ……ロボォッ!!!」

 

血涙を流すバットの視線の先にはゲッター1が、空を舞う姿を見て獰猛な笑みを浮かべるのだった……

 

 

 

 

 

 

アイドネウス島でDC、ハガネ、そしてゲッターロボと恐竜帝国との戦いが始まろうとしていた時。日本近海にも僅かながらメカザウルスが出現していた

 

「ちいっ! ここは俺に任せてお前達は離脱しろッ!」

 

緑のゲシュペンストMK-Ⅱを駆るカイが、部下達に逃げろと叫ぶが、それは余りに遅すぎた

 

「貴様らぁッ!!!」

 

上空から飛来したメカザウルス・バドの放つ火炎弾、それにより離脱しようとしたメッサーが全て撃墜され、火の玉となって墜落していく。その姿を見てカイは操縦桿を握り締め、メカザウルスへと駆け出そうとした。だがそれは自身の目の前に打ち込まれた銃弾によって止められた。

 

「何者だ!」

 

銃弾の放たれた方にゲシュペンストを反転させる。そこには太陽を背にしたメタリックパープルのカラーリングが施された異形のゲシュペンストの姿があった。

 

「その紫のカラーリングッ! まさか! ラドラ! ラドラなのか!?」

 

カイの言葉に呼応するように、紫のゲシュペンストのカメラアイが輝き、背中のバーニアで飛翔し、両手に構えたM-13ショットガンでバドを撃ち落す

 

「使え、カイ。この銃弾ならばメカザウルスにも効果が出る」

 

手にしていたM-13ショットガンをカイのゲシュペンストに向かって投げ付け、ラドラは異形のゲシュペンスト・シグとメカザウルスを向かい合わせる。

 

「メカ……ザウルス? なんだ、ラドラ。お前……こいつらを知っているのか? それに軍を退役して、教導隊まで抜けて今まで何をしていたんだ」

 

「備えていたのさ。人類に牙を向ける……外敵と戦うための備えをな」

 

ゲシュペンストのコックピットでラドラは苦笑する。かつての同胞と……いや、かつての半身と言えるメカザウルス・シグの姿を見たからだ。

 

(だが、今の俺はキャプテンではない)

 

かつて恐竜帝国のキャプテンとして、メカザウルス・シグを駆りゲッターロボと戦ったキャプテンラドラはもういない。今ここにいるのは人間に生まれ変わり、人の本当の強さを知った人間の元教導隊のラドラだ

 

「行くぞ! カイッ!!」

 

ゲシュペンスト・シグの両手首から帯電する3つの爪が姿を見せる

 

「行き成り出てきてそれか! お前も変わらんなッ!! 今までどこにいたのか、後で説明しろ」

 

「気が向いたらなッ!!!」

 

3体のメカザウルス・バド、そしてメカザウルス・シグ。元教導隊の2人と、メカザウルスとの戦いもまた時と同じく始まるのだった……

 

 

 

第25話 アイドネウス島の決戦 その2へ続く

 

 




今回はここで一区切りとします。次回はオリジナルのメカザウルスが出ることとなります、原作の面影は微塵も無いアイドネウス島編は後4つほど続けていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話 アイドネウス島の決戦 その2

第25話 アイドネウス島の決戦 その2

 

アイドネウス島を眼前に確認したハガネのブリッジはその凄まじい光景に言葉を失った。巨大な……それこそ島のような建造物がアイドネウス島の近くに浮上し、そこからメカザウルスが休む事無く出撃を繰り返している。そしてハガネがアイドネウス島の領海に侵入した事でメカザウルスの攻撃は当然ハガネにも向く、全方位からの集中砲火にハガネの船体が大きく揺らぐ。

 

「艦長! PTを迎撃に回しますッ!」

 

「ならんッ! 本艦はこのままのエシュリオン湾へ突入するッ!!」

 

「しかし! このままの勢いで攻撃を受けていたらいかにハガネとは言えッ!?」

 

「大尉ッ! 仮にこの場でPT隊を展開したとしてメカザウルスと戦えると本気で思っているのか!」

 

その一喝にテツヤは息を呑む、DCのAMとは異なりハガネのPT隊はその大半が陸戦用だ。この状況で出撃したとしても、まともに戦闘を行うのは不可能だ。

 

「主砲、副砲のエネルギー全てをエネルギーフィールドに収束! メカザウルスの包囲網を突破し、アイドネウス島に上陸する! 総員! 対衝撃、閃光防御ッ! 突っ込むぞッ!!!」

 

「りょ、了解ッ! 最大船速ッ! 攻撃と回避は諦めろ! 防御に集中して一気にアイドネウス島に上陸するッ!!」

 

ダイテツの命令を補足するようにテツヤの指示が飛ぶ、その言葉を聞いてダイテツは笑みを浮かべる。無謀とも言える突入、だが足を止めていてはメカザウルスにとっては良い的だ。リスクは承知で突っ込むしかない

 

「ま、待ってくださいッ! ハガネの出撃ハッチが開いていますッ!」

 

エイタの言葉から遅れて、ハガネのメインスクリーンに武蔵の姿が映る。

 

『ダイテツさん、テツヤさん、オイラが先に出る。奴らは必ずゲッターを追いかけてくる、そうすれば少しは安全に出撃準備が出来る筈だ』

 

「ば、馬鹿な! 何を言ってる!? この状況でエネルギーフィールドを解除出来る訳がないだろうッ!」

 

武蔵の言葉にテツヤがそう怒鳴りつける。出撃の為には1度エネルギーフィールドを解除するしかない、そんな事をすればハガネは一瞬で撃墜される。

 

「……武蔵君。ゲットマシンならばエネルギーフィールドを内部から突破出来るのか?」

 

『はい、今のゲットマシンなら出来ます』

 

武蔵とて馬鹿ではない、エネルギーフィールドを解除して出撃するつもりはなく、最大速度でエネルギーフィールドを突き破りそのままアイドネウス島に向かうつもりなのだ。破壊されてしまえば、再展開に時間が掛かる。だが、破壊が少なければそれだけ少ないエネルギーでエネルギーフィールドは復旧出来る

 

「判った、先陣は任せる」

 

ダイテツの指示が信じられず叫び声を挙げるテツヤ。だが武蔵はダイテツの言葉に笑みを浮かべ、任せてくれと返事を返す。それから数秒後格納庫からゲットマシンが飛び出していく

 

『うおおおおおおッ!!!』

 

最大加速で出撃したゲットマシンは途中で緑の光に包まれ、そのままの勢いでまるですり抜けるようにエネルギーフィールドを突き抜けていく、そのあまりに信じられない光景にテツヤが大きく目を見開く硬直する。

 

「大尉! 何を惚けているッ! 艦首トロニウムバスターキャノンの発射準備を始めろッ!」

 

そんなテツヤを見てダイテツの一喝と命令が飛ぶ、その命令を聞いて我に帰ったテツヤだが命令の内容に驚いた。

 

「し、しかし! この状況でDCの総司令部を「誰がアイドネウス島に向けて撃つと言ったッ!? 目標恐竜帝国拠点と思われる海上浮遊物ッ!」……了解しました! 艦首トロニウムバスターキャノンの発射準備を始めますッ!」

 

今は人間同士で争っている場合ではない、武蔵の言う通りだ。ダイテツは軍人として民間人を守る者としての指示を出した、それは連邦の意向とは異なる物だ。それでもダイテツは命令を覆すつもりは無かった、軍人としての責務を果たす。ハガネの敵はDCではない、人類に害を加える恐竜帝国なのだから……先陣を切って戦場に飛び出していたゲットマシンの姿を見て、ダイテツの中の迷いは完全に消え去るのだった……

 

 

 

 

総司令部でビアンは唇を噛み締めた。DCの兵士……いや、正しくはビアン派の兵士の気力は充実しているが、いくら気力が充実していても、メカザウルスと言う圧倒的攻撃力と防御力を持つ相手と戦っていれば精神は疲弊し、その動きも荒が目立ってくる。

 

(アードラー派は排除したが、この場合悪手だったか)

 

アードラー派はアードラーが集めてきた権力欲や金を求める……所謂傭兵や、連邦や宇宙統合軍で問題を起こした軍人がその大半を占めていた。その中でもビアンの思想に共感し、協力を申し出た兵は決して少なくは無い、だが今回のメカザウルスを相手にしては権力欲、金欲に駆られた兵士は使い物にならないと判断したのだが、それが致命的とまでは言わないが兵力不足を呼んでいた。

 

「……クロガネはまだかッ!?」

 

DCの旗艦となるべく開発されたスペースノア級参番艦「クロガネ」の発進準備はまだかとビアンが叫ぶ。本来はハガネにぶつける為に調整していたが、このままではアイドネウス島が落とされると判断したのだ。

 

「機材の積み込み完了及び、艦首超大型回転衝角の調整終了まで、380秒!」

 

(ギリギリか……)

 

アイドネウス島に近づいてきているあの海上拠点、それを破壊しない限りはDCに勝利は無い。少なくともメカザウルスの発進だけは阻止しなければならないのだ。

 

(どうするヴァルシオンで出るか……)

 

自分が出るか、それともシュウに出撃要請を出すかとビアンが悩み始めたその瞬間。オペレーターの悲鳴に思考の海から引き上げられた

 

「テンペスト少佐を庇い、エルザム少佐のガーリオンが大破ッ!」

 

「いかんッ! 各員エルザムの支援に……あれはッ!」

 

ビアンがエルザムの支援に向かえと指示を出そうとしたとその瞬間、ゲットマシンが凄まじい勢いで戦域に突入してきた。

 

『ゲッタァァーミサイルッ!!!』

 

ベアー号から放たれたミサイルがガーリオン・カスタム・トロンベを襲おうとしたメカザウルスを吹き飛ばす。

 

「「「「シャアアアーッ!!」」」」

 

『そうだ! こいッ! オイラについて来いッ!!!』

 

ゲットマシンの存在を確認するとメカザウルスはリオンやガーリオンに目もくれず、ゲットマシンの追走を始める。

 

「いまだ! エルザム少佐のガーリオンの回収命令を出せッ! 更に指示系統をアイドネウス島からクロガネに変更する! 総員移動を急げッ!!」

 

このままでは総司令部はメカザウルスの攻撃によって落とされる。アードラーたちを収容しているフロアは地下施設、念の為に緊急隔壁を降ろし、ビアンはアイドネウス島の基地を放棄して、クロガネに司令部を移す事を決めた。

 

「エルザム少佐のガーリオンの収容を確認しました!」

 

クロガネのブリッジに腰掛けた少女の言葉に返事を返し、モニターで戦況を見つめる。ゲットマシンの乱入から、メカザウルスの攻撃は明らかにゲットマシンに向けられている。この状況ならば合体するのが正しい選択だが、武蔵はまだそれをしていない。メカザウルスを引き付け、リオンやバレリオンの離脱する隙を作り出している。

 

「総帥! こちらに高速で接近する熱源あり……識別信号は……ハガネですッ! 後480秒で視認領域に入りますッ!」

 

ゲットマシンと武蔵がいるのだ、ハガネも接近して来ている事は判っている。この状況で己がすべきことは何だとビアンは己に問いかける……

 

(何を迷っている、何をするかなんて決まってるじゃないか)

 

自分は、DCは……いや、ビアン・ゾルダークと言う男は地球を護るために立ち上がった。何をいまさら立ち止まる必要がある?

 

「ビアン総帥、申し訳ありません。預けられた機体を失う事となりました」

 

「いや、構わん。よく無事だった」

 

ブリッジに上がってきたエルザムにビアンは笑みを浮かべる、機体の半分を食い千切れ掛けているのに奇跡的に生還したエルザム。これは運命が言っているのだろう、まだエルザムは死ぬべきではないと

 

「エルザム・V・ブランシュタイン、現時刻を持ってお前をクロガネの艦長に任命する。それに伴い指揮権もお前に譲渡する」

 

ビアンの言葉に顔色を変えるエルザム、ビアンはそれを見て笑いながらエルザムの肩を叩く

 

「後は任せる。何、心配するな。私は私の成すべき事をする」

 

「……了解しました、ご武運を」

 

「「「ご武運をッ!!」」」

 

最敬礼をしながら言うエルザム達に頷きビアンはクロガネの通路を格納庫へ向かって走る。エルザムならば指揮を任せることが出来る、それならば自分は何の憂いも無く出撃できる

 

「ビアン博士、ご助力は必要ですか?」

 

「……いや、今はいい、状況を見て出撃してくれ、それと……ここまで協力してくれて感謝する」

 

格納庫の前で待っていたシュウにそう告げて、ビアンは格納庫に入る。そこには何十人もの整備兵が出撃前のヴァルシオンの調整を行っていた。

 

「「「「総帥に敬礼ッ!!」」」」

 

ビアンに気付き最敬礼をする整備兵達の前を通り、ビアンはヴァルシオンのコックピットに身体を滑り込ませる。

 

「出力チェック、ゲッター炉心は出力30%で固定、システム順次起動」

 

ヴァルシオンのコックピットで起動シークエンスを進めていく、クロガネのメインモニターと同調しているヴァルシオン内部モニターには、メカザウルスからの四方からの攻撃をかわし、上空へと上昇していくゲットマシンの姿が映し出されている。

 

(そうだ、私は地球を護るのだ)

 

過去から訪れた武蔵によって、何よりも大事な思いを思い出した。そして何よりも、旧西暦に地球を救った英雄と肩を並べて戦える……ビアンは気がついたら獰猛なまでの笑みを浮かべていた。

 

「ふっ、私もまだまだ若いな」

 

『チェーンジッ!! ゲッタァァァーッ!!! ワンッ!!!!』

 

上空でマントを翻すゲッター1の姿を見て、ビアンは苦笑する。その姿を見て高まる心臓の音、言葉に出来ない高揚感。まだエンジンが温まっておらず、出撃出来ないがヴァルシオンの操縦レバーを握り締める。クロガネに収容した技術班、そしてキラーホエールに逃がした科学者達には自分が分析したゲッター炉心の設計図を渡している。最悪の場合、彼らが武蔵のゲッターを万全にしてくれるだろう。

 

(……覚悟は出来た)

 

戦争を起こした者として、地球圏を乱した者としてビアンは裁かれなくてはならない。だからその責任を果たす為に、自分は戦うのだ。地球圏を守護する剣として、地球を、人類に害をなす恐竜帝国と戦い果てる。それが自分の運命だとビアンは悟るのだった……

 

 

 

 

 

 

ゲットマシンからゲッター1へとチェンジさせた武蔵は目の前の惨劇を見て、ニューヨークでの戦いを思い出した。メカザウルスが闊歩し、建造物を破壊し、僅かに残った米兵がメカザウルスへと突撃し死に絶える光景。時代も、建造物も何もかも違うが、どうしてもニューヨークを思い出せさていた。

 

「行くぜぇッ!!!」

 

戦場をあえてゲットマシンで飛びメカザウルスを引き付けた。リオンやバレリオンではなく、ゲッターを狙う。それはメカザウルスの習性であり、存在理由であった。ゲッターロボを倒せ、それがメカザウルスの電子頭脳の根底にある。武蔵はそれをニューヨークでの戦いで把握していたのだ。マントでゲッターの身体を隠すようにし、一気に急降下する。凄まじい重力が一気に襲い掛かり、武蔵はそれを歯を食いしばり耐える。

 

「ゲッタァァァ……ビィィィムッ!!!」

 

マントに包まれたままゲッタービームを放つ、ゲッターウィングはただの飾りではなく、それ単体も耐熱防御や、ビームの防御能力を持つ防具でもある。そんなマントに包まれたまま、ゲッタービームを放つ。それは普通に考えればただの自殺行為だ、マントとゲッターの装甲でゲッタービームが乱反射を繰り返し、マントの隙間から縦横無尽にビームが飛び出す。

 

「ギシャア!?」

 

「ガアアアアッ!?!?」

 

「ギギャアアッ!?」

 

狙いを定めた攻撃ではない、マントと装甲で乱反射されたゲッタービームは無差別にメカザウルスを貫き爆発させる。

 

(ぐっ……! まだだッ!!)

 

武蔵はコックピットの中で必死に歯を食いしばる、乱反射したゲッタービームは容赦なくゲッターの装甲を抉る。そしてその熱量でゲッターのコックピットは真紅に染まり、武蔵の額には大粒の汗が浮かんでいる。コックピットにレッドアラートが灯ると同時にゲッタービームの照射を解除し、マントを開きマント内に篭もっていた熱を排出する

 

「おおおおーーーッ!! ゲッタァァーーーマシンガンッ!!!」

 

機体を反転させ、両手を突き出すと同時に腕部装甲から展開されたゲッターマシンガンの引き金を引く、狙いなんて定まるわけはない、急降下からの反転、普通の人間ならば重力でブラックアウトして当然の重力を武蔵は耐え切った。だが流石に平気とは言えず、視界が定まらない中で放たれたゲッターマシンガンの銃弾はゲッターを追って降下してきたメカザウルスバドを貫き、次々と破壊していく……

 

「正気か……!?」

 

その光景を見ていたテンペストもエルザムもそう叫んだ。どこの馬鹿が機体が傷つく覚悟でビームを放つ、下手をすればゲッターは爆発していてもおかしくない特攻に近い攻撃。それに加えて急降下からの反転、優れた重力装備があるならまだしも、ゲッターにはそれらがない。普通ならば気絶していてもおかしくない状況での攻撃。どの行動をとっても新西暦のパイロットならば実行しようとも思わない行動だ。

 

「邪魔だああッ!!!」

 

だが武蔵はそんなことはお構いなしでゲッターを走らせる、その先はランドリオンがメカザルス・ゼンⅡを近づけさせまいと攻撃している方向だ。滑走路に足跡をつけて走るゲッターはそのままの勢いで蹴りを入れて、拳を叩きつける。

 

「大丈夫か!」

 

「は、はい!」

 

「よっしゃ、それなら逃げろッ! ここはオイラが食い止めるッ!」

 

破損しているランドリオンを庇いながらゲッター1は両手にトマホークを持ち、向かってきたメカザウルスの尾や機械で出来た腕を受け止め、空いている方のトマホークでメカザウルスの首を絶つ。今までと打って変わり、静の構え。だが一度間合いに入れば、メカザウルスは避ける事も、逃げることも出来ずトマホークで両断される。

 

「総員、クロガネに集まれ!陣形の組みなおし、及び弾薬、エネルギーが不足している機体は補給に入れッ!」

 

本来ならば武蔵1人に任せるのは酷だ。だがゲッターは致命的なまでに連携と言うことには向いていない機体だった。単機での殲滅能力に特化しているからこそ、連携や協力すると言うことは前提にないのだ。だからこそ、武蔵を残して1度補給に入れと指示を出したエルザムの行動は間違いではない。だが不運だったのは戦艦から聞こえてきたエルザムの声に武蔵が足を止めてしまった事だ。

 

「あの声……エルザムさんか」

 

アイドネウス島の格納庫からゆっくりと浮上してきた、赤と黒のハガネに似た戦艦を見て武蔵の注意が一瞬だけメカザウルスから逸れた

 

「な……ッ!? ぐはあッ!!!」

 

「キシャアアアーッ!!!」

 

アイドネウス島の滑走路を突き破った拳がゲッター1を上空に殴り飛ばす。滑走路を破壊しながら姿を見せたのは、巨大な尾も、プテラノドンを思わせる装甲も無いが、紛れも無くメカザウルス・ラドの姿だった。

 

「ぐっ! このっ!!」

 

「「「「シャアアアーッ!!!」」」

 

バドが何十匹とゲッター1に組み付き、その動きを完全に封じ込め、アイドネウス島に上陸していた10体近いメカザウルスが口を大きく開き、火炎弾を発射しようとする。

 

「いかんッ! 対空砲座照準「舐めるなあああッ!!!」

 

火炎弾が発射され、ゲッターに命中したと思った瞬間。爆炎の中から凄まじい勢いでゲットマシンが飛び出してくる、その光景を見て思わずエルザムは絶句する。

 

「まさか!? あのタイミングで分離したのかッ!」

 

ゲッターロボは合体こそすれば無敵だが、戦闘機状態では攻撃力も防御力も低い、今の回避だってほんの少しでもタイミングがずれれば、ゲットマシンの撃墜と言う結果になっていただろう。だが武蔵はその卓越した操縦技術で紙一重でバドによる火炎弾の嵐を回避して見せたのだ。

 

「チェーンジッ!!! ゲッタァァァーーーッ!! スリィィィーッ!!!!」

 

「ギ、ギギャアアアアアアッ!?!?」

 

上空でゲッター3にチェンジし、その自重でラドを押しつぶす。だが武蔵の攻撃はそれだけでは終わらない、ラドの両足を掴み、滑走路に傷をつけながら高速で回転する。

 

「オッラアアアアアッ!!」

 

「ギギャァッ!?」

 

「ゴガアアッ!!」

 

ラドをハンマーのように使い、メカザウルスを文字通り叩き潰していく、その凄まじい光景はゲッター3の圧倒的な攻撃力をこれでもかと示していた。

 

「少佐、ハガネがエシュリオン湾に侵入してきます!」

 

「来たか! これより超大型回転衝角を用いて恐竜帝国本拠地への突撃を行うッ!! 各員、対衝撃、閃光防御ッ! 更にハガネに通信を繋げろッ!」

 

あの浮遊拠点を潰さない事にはメカザウルスの増援を止める事は出来ない、クロガネの艦首の対艦対岩盤エクスカリバードリル衝角だけで突破出来る確証も無かった。それゆえにエルザムはハガネを待っていたのだ、クロガネとハガネならばあの浮遊拠点を破壊出来る筈だ。ハガネはエシュリオン湾上空に滞空し、PTや特機を展開していく、その光景を見ながらテンペストに通信を繋げる。

 

「テンペスト少佐、判っていると思いますが、ハガネ及びその部隊への攻撃は禁止されています」

 

『……判って……判っている! 通信を切るぞッ!!』

 

苛立たしいと言わんばかりに通信を切るテンペストに僅かな不安を抱きながら、ヴァルシオンに通信を繋げる。

 

「総帥。出撃は間に合いそうですか?」

 

『すまないが、まだ時間が掛かる。このまま突撃してくれて構わない、クロガネ、ハガネによる攻撃の後出撃する』

 

ビアンの中では、既にハガネが協力する事は決定事項かとエルザムは苦笑する。だが他の軍人とは異なり、ハガネのクルーならば話は通じると思っているだけに、ビアンの意見にはエルザムも賛同していた。

 

「少佐、ハガネとの通信繋がります」

 

通信兵の言葉に顔を引き締め、モニターに映し出されたダイテツとの共同作戦を切り出すのだった……

 

 

 

 

 

武蔵から遅れること15分。ハガネはアイドネウス島に辿り着いたのだが、そこでダイテツ達を待っていたのは地獄と言う言葉さえ、生ぬるい地獄絵図だった。アイドネウス島の強固の城壁は既にメカザウルスによって破壊され、噛み砕かれたリオンや、爪で引き裂かれたガーリオン、尾で押しつぶされたであろうバレリオンやランドリオンなど酷い有様だった。

 

「うおおおおおーーーッ! 大雪山おろおぉぉーしッ!!!」

 

ゲッター3だけが縦横無尽に暴れ周り、メカザウルスの進撃を防いでいる。だが敵の数があまりに多く、完全にDCが窮地に追い込まれている、そしてやはりEOTI機関で開発されていたクロガネの姿もある。

 

「各員! 出撃ッ!」

 

出撃前のブリーフィングでDCとの共同作戦になるということ、そしてメカザウルス……恐竜帝国を滅ぼさない事には人類の未来はない。確かに思う所はある、だがそんな事を言っている場合ではないのだ。

 

「やはりDC側も同じ気持ちのようですね」

 

ハガネから出撃したPT隊に攻撃を加えないDC部隊。それはDCもまた、メカザウルス、恐竜帝国を倒さない事には人類には未来がないと判っているのだろう。ほんの僅かな動揺を見せたが、直ぐにハガネのPT隊も陣形に入れて一丸になってメカザウルスと戦っている。

 

「艦長! クロガネより通信です」

 

エイタの言葉にダイテツはメインモニターに回せと告げる。そしてモニターに映し出されたのはビアンではなく、艦長席に腰掛けたエルザムの姿だった。

 

『ダイテツ・ミナセ中佐。こうしてアイドネウス島に訪れたと言うことは、共に恐竜帝国と戦ってくれると言うことでよろしいのですね?』

 

エルザムの第一声は味方かどうかの確認であった。本来ならば、軍の命令を果たすのならば、DCと恐竜帝国が疲弊してから出撃する。だがこうしてアイドネウス島に現れたのは共に恐竜帝国と戦う事に他ならない、そう思っていても言葉で聞きたいと思うのは当然の事だろう。

 

「本艦はDCではなく、恐竜帝国と戦う為にアイドネウス島に来た。攻撃などを加えるのならば、本艦はこの海域より離脱する」

 

『……ふっ、嘘がお下手ですね』

 

艦首トロニウムバスターキャノンの膨大なエネルギー反応を感知したのだろう、エルザムはそう苦笑すると同時に頭を下げる。

 

『ご協力感謝します。それに伴い、1つ作戦に協力していただきたい。恐竜帝国の拠点からはメカザウルスが休む事無く出撃してきています』

 

それはダイテツも確認している、メカザウルス・バドやゼンと言う空戦型のメカザウルスに、海中から大型の陸戦型のメカザウルスも休む事無く姿を見せている

 

「先にあの島を落とすと言う事か?」

 

『察しが早くて助かります。本艦が活路を開きます、そしてその上でハガネによる全力攻撃を望みます』

 

それは本来ならばありえない提案だった。共通の敵がいるとは言え、元々は戦争をしていた者同士、それなのに自ら先陣を切るなんて普通は言えない、背後から撃たれる可能性は十分にあるからだ。エルザムの提案はダイテツに全幅の信頼を寄せてなければ出来ない提案だった。

 

「……判った、必ず本艦が恐竜帝国の拠点を沈める」

 

エルザムは言葉短く感謝の言葉を口にして、ブリッジの兵士に矢継ぎ早に指示を飛ばす。ダイテツもそれに続くように指示を出す

 

「艦首トロニウムバスターキャノン発射準備ッ!!」

 

「了解! エネルギーバイパス開放ッ!!」

 

「目標! 恐竜帝国本拠地ッ! 全砲門開けッ! これより我が艦は一斉砲撃の後、艦首超大型回転衝角を使用するッ!!」

 

「了解! 全部各砲塔発射準備ッ!!」

 

ダイテツとエルザムの指示が交互に飛ぶ、お互いのタイミングがあってなければこの攻撃は失敗する。クロガネとハガネの通信は今も繋がったままとなっている。

 

「艦首超大型回転衝角始動ッ!」

 

「了解! 回転衝角始動ッ! 機関最大戦速ッ!!」

 

エネルギーフィールドを展開したまま突っ込むクロガネの後を追ってハガネも前へ進む。

 

「スティール2より、DC、各機に通達ッ! 本艦の射線軸より離脱せよッ! 繰り返す、本艦の射線軸より離脱せよッ!」

 

全域通信がアイドネウス島に広がり、ハガネとクロガネの進路からPT、AMが姿を消す。

 

「各砲塔攻撃開始ッ!!」

 

「総員衝撃に備えよッ!!」

 

クロガネに備え付けられた全ての砲塔から圧倒的な弾幕が全てマシーンランドへと突き刺さる。メカザウルスが進撃を防ごうとするが、その圧倒的弾幕の前にクロガネ、ハガネに近づくことも出来ず爆散する。

 

「全速前進ッ! クロガネ突撃ぃぃぃッ!!!!」

 

エルザムの号令と共にクロガネが最大速度でマシーンランドへと突撃する。弾幕に抉られ、内部が見えているマシーンランドに対艦対岩盤エクスカリバードリル衝角が突き刺さり、容赦なくその装甲を削っていく

 

「発射10秒前ッ!」

 

「安全装置解除ッ!」

 

「了解ッ!最終安全装置解除ッ!!」

 

クロガネが離脱すると同時にハガネがオーバーブーストでマシーンランドへと突撃する。

 

「総員対衝撃、閃光防御ッ!」

 

「発射5秒前! 4! 3! 2! 1ッ!!」

 

「トロニウムバスターキャノン発射ぁぁッ!!!!」

 

クロガネのエクスカリバードリル衝角によって荒らされた箇所にトロニウムバスターキャノンが突き刺さり、マシーンランドが凄まじい振動と共に爆発を繰り返し、徐々に沈んでいく。その光景を見ていた全員が勝利を確信した時

 

「まだだっ!! 早く離脱するんだッ!!」

 

武蔵の怒声が周囲に響いたが、それはあまりにも遅かった。今だ煙が出ているマシーンランドから全方位にビームが放たれた……

 

「ぬっ! ぐううッ!!!」

 

「しまっ!?」

 

クロガネはハガネよりも先に離脱していたからか、後部に数発被弾しただけだ。だがハガネは前部から船底に被弾し、煙を放ちながら降下して行く

 

「ふっははははーッ!!! まだだ! まだ我が恐竜帝国は滅びんぞおおおおおおッ!!!」

 

マシーンランドを内部から破壊しながら、巨大なメカザウルスが姿を見せる。初めて恐竜帝国が現れた時の4つ首のメカザウルスの胴体の上には鋭い鉤爪を持つ異形の人型の姿。頭部はコブラを思わせる形状をした鬼のような顔……

 

「ゴール……」

 

それを見た武蔵はゲッターのコックピットで呟く、今新たに現れたメカザウルスの上半身、それはゴールを模した物であった。

 

「勝負だぁッ!! ゲッターロボ! そして人間共よッ!! このギガザウルス・ゴールの力を思いしるが良いッ!!!」

 

バットの雄叫びと共に放たれた何十発と言うビームが無差別にアイドネウス島に降り注ぐのだった……

 

 

第26話 アイドネウス島の決戦 その3へ続く

 

 

 




クロガネとハガネの連続攻撃は私の趣味です。クロガネもハガネも好きですしね、これはどうしてもやりたかった。マシンランドウ撃墜後、ギガザウルス・ゴール出現。ここからが本番になります、第二次OGとかの定番のMAP持ちの長距離射程と近接武器が強いボスユニットとなります。流石にHP回復とバリアはないですが、バットが確実に底力を持っているので強敵となるでしょう。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26話 アイドネウス島の決戦 その3

第26話 アイドネウス島の決戦 その3

 

クロガネとハガネの同時攻撃、しかもただの同時攻撃ではない。両艦の最大火力による攻撃は凄まじく、マシーンランドを破壊した。だがその事が、マシーンランドに眠っていた恐竜帝国の最終兵器を目覚めさせる事となった。

 

「全員無事かッ!」

 

普段冷静なイングラムの焦った声がハガネのPT隊全員のコックピットに響き渡る。マシーンランドから現れた巨大なメカザウルス……ギガザウルス・ゴールの出現と同時に放たれた全方位射撃はハガネ、クロガネだけではなく、ハガネのPT隊、AM隊に凄まじい被害を齎していた

 

「すいません、少佐。俺のゲシュペンストは今の一撃で腕と足をやられました」

 

「ぐっくっ……駄目、今ので操作系統がやられたわ」

 

ジャーダとガーネットはビームの直撃を受け、ゲシュペンストが行動不能に陥っている

 

「俺は大丈夫だ! 少佐ッ!」

 

「左のツインビームカノンがやられましたが、こちらも大丈夫です!」

 

「私も問題ありません」

 

ビルドラプターからR-1は掠りもせず、全弾回避することに成功した。元々ギガザウルスから離れていたアヤのヒュッケバイン009も被弾していない、ただ鈍重なシュッツバルトに乗っているライは直撃こそ回避したが、シュッツバルトの最大の武器である2門のツインビームカノンの1つを失っているが、それ以外の被害は少ないようだ

 

「こっちは被弾してるが問題ないぜ、少佐ッ!」

 

「俺もサイバスターも問題ないッ!」

 

重厚な装甲を持つグルンガストは攻撃を回避する事は出来なかったが、その装甲でビームの雨を何とか耐え切っていた。サイバスターはその機動力で完全に回避したようだ

 

「私は……大丈夫です」

 

「私も大丈夫です!」

 

「僕も大丈夫です、思ったよりも良く動いてくれました」

 

ラトゥーニも手持ちのM-950マシンガンは失ったが、機体にダメージは無い。リオは一番最後に出撃したからか全く被弾していない、自身の乗っていたリオンをアーマリオンへと改造したリョウトもダメージは受けていないようだ。急造の改造機だが、想定以上の能力を持っていたようだ。

 

「リオ、ライ、ラトゥーニ、アヤの4人はジャーダとガーネットのハガネへの撤退を支援、その後はハガネとクロガネの護衛に回れ、リョウト、お前は空中からの支援を行え」

 

イングラムの指示はこの状況では本来最も悪手となる分散命令だった、だがそれも仕方ない事だ。ハガネは着水し、主砲や副砲での攻撃を仕掛けているが、浮かび上がる気配は無い。恐らく動力部をやられたのだろう、そうなってしまえばハガネは固定砲台として扱うことになる。そのための護衛を残すのは必然であり、更にPT隊と異なり空中を飛んでいるAM隊の被害は大きい、本来は敵同士だ。だがクロガネとハガネが協力し合ったおかげでメカザウルスの出撃数は落ちている、このまま協力し合いメカザウルス、恐竜帝国を倒すのが最も堅実で確実な方法だ。

 

「了解ですッ! リオ、行くわよッ!」

 

「は、はい!」

 

イングラムの指示を聞いて即座に動くアヤ、その後を追ってリオのゲシュペンストがジャーダのゲシュペンストの元へ走る。

 

「リュウセイ、この場は頼んだ。このままでは足手纏いになるからな」

 

「り、リュウセイ。気をつけて……」

 

「おう、ありがとな、あとライも、そっちも気をつけろよ」

 

リュウセイに声を掛け離脱していくビルドラプターとシュッツバルト、その2機の光景を見ながらイングラムは自身の乗機であるビルトシュバインの機体チェックを行う。

 

(ちっ、やはりか……)

 

一番最初に出撃したイングラムは最も長くビームの雨に晒された、その卓越した操縦技術で被弾こそ間逃れた。だが、その反面脚部のモーターや、推進剤の消耗が非常に大きい物となっていた。

 

「うおおおおッ!!! ゲッターミサイルッ!!!」

 

ギガザウルス・ゴールの圧倒的巨体にも恐れを見せず戦うゲッター3。その姿を見ていると、どこか、どこかで同じ様な光景を見たような……何とも言えない焦燥感がイングラムの胸を締め付ける。何か、何か思い出さなくてはならない。だが自分が何を忘れているのか、それが判らない。

 

「っッ!!」

 

4本の首から放たれた電撃に咄嗟にビルトシュバインを反転させ回避する。今は考えている場合ではない、なんとしてもあのギガザウルスを撃墜しなければならない。

 

「各員に告ぐッ! あの巨大メカザウルスを撃破しない事には人類に未来は無いッ! 各員奮起せよッ!!!」

 

いま自分がやらなければならない事は軍人として、そしてSRXチームの隊長として、そして指揮官として適切な指揮を取る事だ。イングラムは小さく深呼吸をし、先陣を切っているゲッター3の後を追ってギガザウルス・ゴールへと走り出すのだった。

 

 

 

 

マシーンランドを突き破り現れたギガザウルス・ゴール。その圧倒的な巨体、そして生物と機械の融合態であるギガザウルス・ゴールはただの機械ではなく、生物でもあった。荒い呼吸と肩を上下させるその仕草、鮮血のような真紅の瞳に睨まれたDCの兵士は恐怖にその動きを硬直させる。

 

「うおおおおおおーーーッ!!!」

 

だが武蔵だけは違う、メカザウルスと何年と戦ってきた。そして恐竜帝国の脅威も、メカザウルスの恐ろしさも知っている。だからこそ、ここで倒すんだという強い意思を持ってギガザウルス・ゴールへと立ち向かう。最大加速からゲッターパンチを伸ばす、それはギガザウルス・ゴールの頭部を捉えるが……

 

「利かんわぁッ!」

 

バットの鋭い怒声が響き、反撃に繰り出された電撃がゲッター3に迫る。凄まじい電圧を秘めた一撃に視界が白に染まるのを見た武蔵は反射的にレバーを操作する。

 

「ちいっ!!!」

 

電撃が命中する寸前にオープンゲットし、爆発的な加速で電撃を回避する。だがこの回避方法はバットにとっては見慣れた光景であり、4本の首を自在に操り、ゲットマシンの行動を阻害する。イーグル、ジャガーが自動操縦なので明らかに動きが鈍い、本来ならば再び合体することは叶わず、撃墜される筈だ。だが……武蔵は1人ではない

 

「ファイナルビームッ!!」

 

「頼んだぜッ! シロ、クロッ!!!」

 

グルンガストの放った熱線がギガザウルス・ゴールの身体を横から吹き飛ばし、そこにサイバスターのハイファミリアがぶつかりその姿勢を大きく崩す。

 

「チェンジッ!」

 

ジャガー号のブースターが止まり、ベアー号に覆い被さって来る。ジャガーとベアーが合体するのと同時にジャガー号の側面から骨組みが伸び、装甲板が展開される。そしてベアー号のミサイル発射部も伸びるように変形し両足へと変化する。

 

「ゲッタァァーッ!!! ワンッ!!!」

 

イーグル号が胴体の前を追い抜いていき、回転しながら胴体と合体する。ゲッター1の顔と角を思わせるパーツが現れゲッター1への合体が完了する。

 

「ゲッターウィングッ!!!」

 

武蔵の叫びと共に背中からマントが現れ、放たれた電撃を回避しギガザウルス・ゴールへと肉薄する。

 

「来いッ! ゲッタァァロボォォッ!!!」

 

バットの怨嗟の叫びがアイドネウス島に響き渡る。ゲッターがこの中で最大の火力を持つが、それと同時にギガザウルス・ゴールに対する囮にもなる。攻撃と敵の注目を引き付ける、それは武蔵にとって凄まじい精神的疲労を与える。だが、今この場にいるゲッター炉心搭載機はゲッターロボだけではなかった。

 

「クロスマッシャーッ!!!!」

 

アイドネウス島に響いた男性の叫び。そして空中を走る閃光はゲッタービームと同じく、鮮やかな緑が混じった3色の光線がギガザウルス・ゴールの背部に命中する。

 

「ぐ、ぐおおおッ!!」

 

大出力のビームを喰らい、ギガザウルス・ゴールの巨体が大きく揺らぎ、海中へと沈む。クロガネのハッチが開き姿を見せていたのはヴァルシオンだが、依然と違い、その巨体は翡翠色の光に包まれていた。

 

「ビアンさんッ! い、今のは! もしかしてゲッタービームなのか!?」

 

パイロットである武蔵は今のがゲッタービームに類似した攻撃と言う事が判った。前回のクロスマッシャーはゲッター線の出力が弱かったが、今のはゲッター線の威力のほうが明らかに高かった。それはギガザウルス・ゴールの生身の部分が焼け爛れているのを見れば明らかだ。

 

「ふふふ、君の思っているとおりだよ、武蔵君。あの時は試作型だったが、今のヴァルシオンには完成したゲッター炉心が搭載されている」

 

ゆっくりと降下してきたヴァルシオンはグルンガストやサイバスターを一瞥し、手にしていたディバインアームをギガザウルス・ゴールが沈んでいる海面へ向ける。

 

「ゲッター線がメカザウルスには効果的と言うのは、研究結果から判っている。ゲッター炉心搭載機が1体では限界があるが、2体なら戦術は広がるだろう?」

 

ビアンは何でも無いように告げるが、これがどれほどの価値を持っているのか判らない訳ではない。

 

「さて。ハガネの兵士の諸君、今は互いに言いたいこともあるだろう。だが今は共に恐竜帝国と戦おうではないか」

 

「貴様あああああッ!!!」

 

海面を割って姿を現すギガザウルス・ゴール。その背中からは僅かな煙が出ているが、それほど大きな負傷を受けているようには思えず。むしろ火に油を注いだだけに見えるが、圧倒的な火力と防御能力を持つヴァルシオンの参戦に僅かばかりの勝機が生まれるのだった……

 

 

 

 

 

やっと安定して稼動するようになったR-1のコックピットでリュウセイは背筋に冷たい汗が流れるのを感じていた。今まで何度もPTに乗り込み戦ってきた、そういう面ではリュウセイは戦場になれていると言える。だが今リュウセイが対峙しているのは本物の肉食獣、PTのコックピットごとリュウセイを噛み砕ける存在だった。

 

(落ち着け、落ち着け)

 

自分に言い聞かせるようにリュウセイは何度も心の中で呟く、動揺したら、混乱したら死ぬのは自分だ。だから冷静になれと己に声を掛ける、だがアイドネウス島のあちこちに転がっているコックピットを砕かれたリオンやガーリオンの姿に操縦桿を握るリュウセイの手は震え始めていた。

 

「死ねぇッ!! ゲッターロボォッ!!!」

 

「舐めるなぁッ!!!」

 

怨嗟の叫びを上げ、ゲッターロボを執拗に狙うギガザウルス・ゴール。その両腕と頭部はゲッターに向けられている。だが、他の機体を攻撃していないわけではない。ギガザウルス・ゴールの下半身である4つ首のメカザウルスはR-1、サイバスター、グルンガスト、ビルトシュバインを狙い縦横無尽に伸びてくる。

 

「ちいっ! 首だけって言っても思ったよりもキツイぜッ!?」

 

「それにめちゃくちゃ硬えッ!!」

 

イルムとマサキの悲鳴にも似た声が響く、攻撃力ではR-1よりも遥かに上のグルンガストとサイバスターでさえ、有効打が入らない。爬虫類特有の強固な皮膚であったとしても、この防御力ははっきり言って異常だった。

 

「これでも喰らえッ!!!」

 

自身を奮い立たせ大声を上げながらG・リボルバーの引き金を引かせるリュウセイ。ビアンから提供された対メカザウルス弾頭は鈍い音を立ててメカザウルスの首に突き刺さる……だがそれは文字通り蚊に刺された程度のダメージであることは明白だ。

 

「リュウセイ! 離脱しろッ!!!」

 

4つ首のメカザウルスの目に睨まれ、金縛りにあったかのように動けなくなったリュウセイだったが、その叫びに咄嗟にペダルを踏み込んでその場から離脱した。その瞬間凄まじい地響きと共にR-1がいた場所にメカザウルスの4本の首の内2本が突き刺さっていた……

 

「あ、危ねえ……」

 

滑走路に出来ている蜘蛛の巣状の亀裂。それを見てリュウセイは大きく息を吐いた……イングラムの声が無ければ、間違いなくR-1はメカザウルスの牙で噛み砕かれていただろう。

 

「リュウセイ、敵は確かに強大だ、だが落ち着いて対処すれば突破口は見えてくる」

 

いつの間にかR-1の隣にいたビルトシュバインからの接触通信。そこから聞こえてくるイングラムの声にほんの少しだが、リュウセイは自分が落ち着くのが判った。

 

「すまねえ、教官」

 

「気にするな、お前達をフォローする為に俺がいる」

 

それに戦っているのはお前だけではないと告げられる。イルムとマサキ、それにリュウセイとイングラムだけではなく、DCのAMもフォーメーションを組んで首に攻撃を仕掛けている。

 

「リュウセイ、お前のフォローはしてやる。思いっきり突っ込め」

 

恐怖で足をすくませ、自分の長所を忘れるな。その言葉にメカザウルスと戦うのを恐れて自分が消極的になっている事にリュウセイは気付いた。確かにギガザウルス・ゴールは巨大なメカザウルスだ、だがギガザウルスのゆえんたる上半身はゲッター1とヴァルシオンが完全に押さえ込んでいる……いや、ギガザウルス・ゴールのパイロット「バット」がゲッターロボと炉心を搭載しているヴァルシオンだけを標的にしているのだ。

 

「ぬうんッ!!!」

 

「ふっはははッ!! なかなかやるなッ! 人間ッ!!」

 

「お褒めに預かり光栄だッ!!」

 

ギガザウルス・ゴールの鋭い爪をディバインアームで絡め取るように受け流し、ヴァルシオンの鉄拳がギガザウルス・ゴールの頭部を捉える。その流れるような動きにバットの高笑いがアイドネウス島に響き渡る。

 

「おおおおッ!!!」

 

「ギシャアッ!!!」

 

イルムはグルンガストを駆って、噛み付こうとしてきたメカザウルスの頭部に計都羅喉剣を突き立て滑走路の上に貼り付けにする。

 

「一式爆連打ぁッ!!!」

 

両腕のブースターを吹かし、凄まじい勢いの連打が計都羅喉剣で拘束されたメカザウルスの頭部に叩き込まれていく。

 

「アカシック……バスタァァーッ!!!」

 

サイバードへと変形したサイバスターは魔法陣から呼び出した火の鳥と一体化し、戦場を飛び回っている……メカザウルスを吹き飛ばし、あるいはメカザウルスに捕まっているAMを助けたりと縦横無尽に活躍している。

 

「ソニックブレイカーセットッ!」

 

「「「「ソニックブレイカーセットッ!!!」」」

 

テンペストのガーリオンを先頭に、ガーリオン達もメカザウルスに恐れを抱かず、果敢に突撃していく。ハガネやクロガネ、アイドネウス島に配置されていたキラーホエールやライノセラスもギガザウルス・ゴールに攻撃を続けている。敵同士ではあった、だがそれでも恐竜帝国と言う脅威に敵味方関係なしで協力し合い戦いを挑んでいた。

 

「ゲッタービームッ!!!」

 

「クロスマッシャーッ!!」

 

ゲッター1とヴァルシオンが放った光線が空中で交じり合い、巨大な光線とギガザウルス・ゴールの巨体に突き刺さる。ギガザウルス・ゴールの巨体から火花と紫の鮮血が散る。だがギガザウルス・ゴールとバットの闘気はますます激しい物となっていた。

 

「ぬおおおおおッ!! まだだッ! この程度でこのバットを倒せると思うなあッ!!!」

 

ギガザウルス・ゴールの両腕から紫電が溢れ、開かれた口には凄まじい火炎が溢れ出す。そしてグルンガストによって縫い付けられている首を除いた3本の首が胴体の前に集まる。

 

「いかん! 動ける者はヴァルシオンの背後に集まれッ!!」

 

蜃気楼のように歪む光景に今正にギガザウルス・ゴールが現れた時と同じ様に、広域攻撃を仕掛けようとしていたのは明白だった。それを感知したビアンがヴァルシオンの背後に隠れろと叫ぶ中、R-1だけが滑走路の上を走り出す。

 

「リュウセイ!? 何を考えているッ!」

 

イングラムやアヤ達の戻れという声がするが、R-1は……いや、リュウセイは立ち止まらない。さっきのゲッターとヴァルシオンのビーム攻撃、それを見た瞬間。何かが、口では説明できないが何かが自分の中でガッチリと嵌った感覚がしたのだ。

 

「うおおおおッ!!!」

 

地面に縫い付けられているメカザウルスの首の上に飛び乗り、そのまま長い首の上を駆け上がっていく。Rー1のコックピットの中にはいくつものメーターや、エネルギー表記が浮かんでは消えていく、そして最後に「T-LINKシステム F-C」の文字が浮かび上り、R-1の左拳が緑の閃光に包まれる。

 

「必殺ッ!! T-LINKナッコォッ!!!」

 

ギガザウルス・ゴールとメカザウルスの接合部……ではなく、強固な皮膚にR-1の左拳が突き刺さる。だがそれだけでは終わらない、リュウセイはRー1の全身の姿勢制御のバーニアを使い、即座に左腕を引き抜くと同時に機体を反転させる

 

「くらえッ!! T-LINKダブルナッコォッ!!!」

 

最初の左拳で陥没した皮膚の上から抉るように右拳が叩き込まれる、リュウセイは最初接合部を狙った。だが攻撃を繰り出す寸前に何かに導かれるように、緑の光が走ったのだ。

 

「破ぁッ!!!」

 

何かを砕く手応えを感じながら叫び、R-1からR-ウィングへと変形しギガザウルス・ゴールの上から離脱する。

 

「そんな攻……なっ!?」

 

R-1のサイズはギガザウルス・ゴールからすれば、蟻のような物。そんな機体の攻撃など効かないと叫ぼうとした瞬間、ギガザウルス・ゴールの巨体のあちこちが爆発を始め、今正に放たれようとしていたエネルギーの塊はギガザウルス・ゴールの制御を離れ、全く見当違いの方向へと放たれる。R-1の攻撃は下半身のメカザウルスの制御系を完全に砕いていたのだ、それに気付かず攻撃をしようとしたバットだが、制御系を失った事で暴発したエネルギーにギガザウルス・ゴールは内部から破壊されていた。

 

「よっしゃあッ!!!」

 

コックピットの中でガッツポーズをとるリュウセイは気付かなかった。モニターに映し出された文字「T-LINK」ではなく、ウラヌスシステムへと変わっている事に……だがそれも一瞬の事で、ウラヌス・システムの文字はリュウセイが正面を向くのと同時に、元の「T-LINK」の文字へと戻っているのだった……

 

 

 

 

動力部の破壊、そしてエネルギーの逆流によって倒れたギガザウルス・ゴール。機体の内部も外部も爆発を繰り返し、今にも完全に機能を停止する寸前だった。

 

「うっ……ぐうう……」

 

コックピット付近が爆発したことにより、意識を失っていたバットだが、レッドアラートとギガザウルス・ゴールを襲う衝撃で目を覚ます

 

「うっ、げほっ! ごほッ!!!……まだだ……まだ終わらんッ!!」

 

咳き込んだバットの口元と手にはどす黒い血が飛び散っていた。バットはそれを拭うとレバーに手を伸ばす……今のギガザウルス・ゴールは不完全だ。本来は騎乗しているプロトメカザウルス・ダイが脚部へと変形する、だがギガザウルス・ゴールを動かすには爬虫人類の生体パルスが必要になる。それを賄えるのが己1人であり、どうしても二の足を踏んでいた

 

「ふふふふ……あのロボットには感謝しなければならないな」

 

接合部付近を破壊し、一斉攻撃を封じて見せたあのトリコロールの機体を見てバットは笑う。今の爆発で下半身が潰れた、死ぬ覚悟で乗り込んだはずなのに、まだ自分には覚悟が足りなかったとバットは笑う。

 

「栄えある恐竜帝国の最後の1人として、無様な死に様など出来るかぁッ!!!」

 

脅威はゲッターだけであると思い込んでいたのがそもそもの間違いだ。ここは自分がいた時代よりも遥か未来、ゲッターに匹敵するとは言わずとも、脅威に感じるだけの機体が存在してもおかしくないのだ。レバーを引くと同時に、コックピットの座席から今までの非ではない、プラグが現れバットの身体に突き刺さっていく

 

「うぐっ、ぐうううう……私と言う存在をくれてやるッ!! だが代わりに私に勝利をよこせぇッ!!!」

 

バットのその雄叫びと共にレッドアラートに照らされていたギガザウルス・ゴールのコックピットは光を取り戻し、そして倒れていた巨体がゆっくりと起き上がっていく

 

「マジかよ……」

 

「冗談だろ?」

 

今の爆発であの巨大なメカザウルスを倒したと思い込んでいた、DCやハガネのPT隊から嘘だろという言葉が次々と零れる。全員が見ている中で4本の首は2つずつ合体し、脚へと変化し今までも巨体だったギガザウルス・ゴールの巨体が更に巨大になる

 

「だよな、その程度では終わらないよなッ!!!」

 

『当たり前だぁッ! ゲッターロボッ! いやッ! 巴武蔵ッ! 私は恐竜帝国最後の1人として無様な敗北などしないッ!』

 

2足歩行に変化したギガザウルス・ゴールはその鋭い爪をゲッターロボ、ヴァルシオンに向け、新たに現れた巨大な尾をアイドネウス島に叩きつける。

 

『さぁ最後の勝負だッ! 巴武蔵ッ! このギガザウルス・ゴールとバットを倒せると思うなあッ!!!』

 

これからが本番だと言わんばかりに放たれる火炎弾と電撃の嵐、その攻撃で爆発するアイドネウス島のDCの基地。その爆発音が合図となりゲッターロボはマントを翻し宙を舞う。

 

「掛かって来いッ! バット将軍ッ! 今日が恐竜帝国最後の日だぁっ!!!」

 

バットの叫びに答えるように武蔵も叫び返し、ギガザウルス・ゴールへと向かっていく。アイドネウス島で雄叫びを上げるギガザウルス・ゴール。その叫びに呼応するようにマシンランドからは身体のあちこちが破壊されたメカザウルスがその巨体を引きずりながら、アイドネウス島に上陸する。恐竜帝国とDC、ハガネ、そして武蔵の戦いは今ここに、最終局面を迎えるのだった……

 

 

 

 

第27話 アイドネウス島の決戦 その4へ続く

 

 




ギガザウルス・ゴールが第二形態へ変化、更にメカザウルスも再出撃。難易度は上昇して行きます、ただし第二形態はバットを燃料としているので、バットが燃え尽きれば終わりなので第一形態よりは多少HPは減ってるかな?って感じです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第27話 アイドネウス島の決戦 その4

第27話 アイドネウス島の決戦 その4

 

一時は勝機が見えた恐竜帝国との戦いだが、それは一瞬で消え去り逆にDCもハガネも徐々に恐竜帝国に追い詰められ始めていた……

 

「化け物か……ッ!?」

 

クロガネのブリッジで思わずそう叫んだ。ハガネの出航の時に見たトリコロールのPTが、あの巨大なメカザウルスの一部を破壊した。それは恐らく、あのメカザウルスのエネルギーを伝達する部分だったのだろう。それのおかげであのメカザウルスが放とうとしていた広範囲攻撃は失敗し、逆流したエネルギーが暴走しその巨体がアイドネウス島に倒れこむ。その姿を見て、エルザムだけではない、ハガネのブリッジでも、リュウセイや、DCの兵士も同じだった……だが今暴れ回る姿を見ろ、その姿にダメージを受けた様子は微塵も感じられない。

 

「うおおおおおッ!!!」

 

「どりゃああああッ!!!」

 

4本の首が合体し、脚部となったことで今まで以上に暴れ回るメカザウルス……パイロットが言うには、ギガザウルス・ゴール。そのスピードは確かにPTやAMに比べれば、1段も2段も劣る。だが特機として考えればそのスピードは破格だ。しかもあの巨体で動き回れれば、PTやAMは下手に接近した瞬間に破壊されるだろう。

 

「はははッ! そうだッ! それでこそゲッターロボッ! 我等の怨敵よッ!!!」

 

「言ってろ! 今日がてめえの命日だぁッ!!!」

 

あの戦いに割り込むことが出来る物など存在しない、互いに互いを敵としてみなし、互いに互いを倒す事だけを考えている。その戦いは新西暦の人間には余りに血生臭く、そして理解を超えていた

 

「死ねぇッ! ゲッターロボォッ!!!」

 

「オープンゲーットッ!!!」

 

両腕に加えて、尾を交えた3方向からの同時攻撃。命中する寸前にゲッターは自ら爆ぜ、回避など不可能と言うタイミングだったのにも関わらず、その一撃をすり抜けるようにかわして上空へと逃れる。

 

「私を忘れてもらっては困るなッ!!!」

 

ゲッターが爆ぜた事で一瞬塞がれたバットの視界、視界が戻った時にはヴァルシオンが両手でディバインアームを持ち、大上段からギガザウルス・ゴールに切りかからんとしていた。だがバットはギガザウルス・ゴールのコックピットで笑みを浮かべていた。

 

「忘れる物かッ!」

 

ビアンの駆るヴァルシオンがギガザウルス・ゴールに切りかかり、ゴールの振り上げた爪とぶつかり火花を散らす。

 

「チェンジッ! ゲッタァァァーッ!! ツゥゥゥッ!!!」

 

上空から降下してくる勢いのまま、ゲッター2へと合体した武蔵がドリルを翳しゴールへと向かっていく

 

(……駄目だ。あの戦いに下手に支援を出すと流れが一気に変わる)

 

武蔵とビアン……いや、ゲッターとヴァルシオンでなければあの形態になったゴールと戦うことは出来ない。

 

「少佐! 沈没していく巨大建造物から熱源多数確認ッ!」

 

オペレーターの言葉にエルザムは顔を歪める、ギガザウルスが変形すると同時に何体ものメカザウルスが出撃してきた。だが、まだ恐竜帝国には余力が残っていたのだ。

 

「各員に告ぐッ! 恐竜帝国拠点より熱源多数ッ! 敵増援と思われる、燃料、弾薬の少ないものは1度帰還せよッ!」

 

帰還命令を出すと同時に砲撃手に海中からメカザウルスが出現すると同時に、主砲、副砲の照準を合わせと指示を出して艦長席から立ち上がる。

 

「少佐!? どこへッ!」

 

「決まっているッ! 私には私の出来る事をするッ!」

 

あれだけのメカザウルスがゲッターロボとヴァルシオンに攻撃を仕掛ければ、今2対1で均衡している戦況は一気に恐竜帝国にとって有利な方向に向かう。それだけは阻止しなければならないとエルザムがブリッジを出ようとしたその時……ブリッジの扉が外から開いた。そのことに驚き、足を止めるエルザムの目の前には柔らかい笑みを浮かべたシュウの姿があった。

 

「シラカワ博士……」

 

「少佐、貴方はこのクロガネを任された。今貴方がするべきことは戦場に出ることではないはず」

 

「し、しかし!」

 

「心配ありません、貴方の代わりに私が出ましょう。大多数戦では私とグランゾンの方が優れている」

 

それに搭乗機を失っている今、何で出撃するつもりなのですか?と問いかけられ、エルザムは唇を噛み締める。ガーリオン・カスタム・トロンベは大破し、ノーマルのガーリオンではエルザムの動きにはついて来れない

 

「判りましたか? まともに動けない機体で的になりに行く必要は無いと言う事です。ですからここは私に任せてください」

 

淡々とした口調で告げられるが、それが全て事実であり、エルザムはシュウとグランゾンに出撃を頼む事しか出来ないのだった……

 

 

 

 

クロガネから出撃した濃紺の特機……特徴的な胸部パーツと見る者に威圧感を与える存在感。重力の魔神グランゾンがこの戦場に現れた。

 

「シュウッ!!」

 

一瞬硬直する者が多い中サイバスターだけはグランゾンへと開き直る。そして凄まじい殺気を放ちながらマサキが手にしている剣……ディスカッターの切っ先を向ける。だがシュウはその殺気など取るに足らないと言わんばかりに笑う。

 

「ククク、随分と苦戦しているようですね。マサキ、手伝ってあげましょうか?」

 

その圧倒的な上から目線の言葉。お前達だけでは、この状況を切り抜けられないだろうと言わんばかりの言葉に一瞬マサキの頭に血が上りかける……だがマサキは激情に身を任して行動することは無かった。

 

「変な動きをしてみろ……怪しいと思えば、お前を後ろから斬る」

 

マサキとシュウにはなんらかの因縁がある、だがマサキはそれよりも今この場を切り抜けることを選んだのだ。

 

「ククク、それで良いですよ。では行くとしましょうか」

 

虚空に開いた穴に手を入れ、そこから異形の剣を取り出し構えるグランゾンとその隣でディスカッターを構えるサイバスター……その姿は恐竜帝国と言う未知の存在と戦うハガネのPT隊、そして凄まじい被害を受けながらもまだ戦う事を諦めないDCのAM隊に勇気を与える。

 

「フッ……懸念は無駄だったか」

 

グランゾンの登場でマサキが暴走する事を危険視していたイングラム。だがマサキはシュウに怒りを向けつつも、今は共闘する事を選んだ。グランゾンとサイバスターはこの状況ではこの上ない味方となる……

 

「リュウセイ、まだエネルギーは十分か?」

 

「大丈夫だ。教官、まだ行けるッ!!」

 

ビームソードを構えるR-1、その闘志に満ちた姿を見ればまだ戦えるというのは明らかだった

 

「イルムガルト、そっちはどうだ」

 

「こっちも問題ないぜ少佐。ただ……ファイナルビームには期待してくれるなよ」

 

計都羅喉剣を構えるグルンガスト、イルムの告げたファイナルビームに期待するなと言うのはエネルギー切れが近いのだろう。通常戦闘には問題は無いが、エネルギーを使う攻撃を連発する事は出来ないと言う意味がその発言には含まれていた。

 

「それで構わん、先頭はお前だ。リュウセイ、俺とお前はグルンガストの左右につくぞ」

 

メカザウルスが上陸する勢いは一向に収まる事を知らない。一撃喰らえばその時点で脱落が決まるR-1とビルトシュバインがバックアップに回るのは当然だ。

 

「やれやれ、相変わらずきついな」

 

イングラムの命令が何を意味しているか理解しているイルムは深く溜め息を吐く、今イルム達は孤立している……いやしてしまったと言える。さっきまで共に戦っていたAM隊は壊滅寸前で後退した。ギガザウルス・ゴールに肉薄していたこともあり、ハガネとも距離が開いている。グルンガストでメカザウルスの群れを突破し、そしてハガネの近くまで後退する……口で言うのは容易いが、実行するとなれば恐ろしい難易度を持つその命令に思わずぼやいたイルムだが、イングラムは即座に返事を返した。

 

「リンならそんな文句は言わないぞ」

 

イングラムから返された言葉にうめいたイルム。だがイルム自身が一番判っている、この場で先陣を切れるのはグルンガストと己しかいないと

 

「遅れてメカザウルスに捕まっても知らないからなッ!!」

 

計都羅喉剣で振り下ろされた爪を切り払い、蹴りを叩き込んで走り出すグルンガストを追って進むビルトシュバインとR-1。アイドネウス島での戦いはまだ始まったばかりと言わんばかりに島中に響き渡るメカザウルスの雄叫び……だがそれはイングラムには戦いを求める叫びには聞こえなかった。メカザウルスの叫び、それは自分達はここにいる、確かに生きていた、存在していたと訴えかけるような叫びに聞えるのだった……

 

 

 

 

リュウセイ達がハガネへと帰還する為に決死の撤退作戦に出たと同時刻、ハガネもまた窮地に追い込まれていた。ギガザウルス・ゴールの出現と共に放たれたビームの雨、それによって破損したテスラドライブは応急処置すらまだ済んでおらず、海中に沈んでいる。アイドネウス島に上陸しているメカザウルスが大半だが、海中から執拗にハガネに攻撃を繰り出すメカザウルスのミサイル攻撃によってハガネの巨体は徐々に、徐々にだが海中に沈んでいた

 

「ぐうッ! エネルギーフィールドの展開率はどうなっているッ!?」

 

「て、展開率50%を切りましたッ! 40%を切るのも時間……うわあッ! じ、時間の……も、問題ですッ!!」

 

エイタの言葉にダイテツは顔を歪める。一刻も早く海上に浮上しなければハガネの轟沈も時間の問題だ、だがハガネの現段階の戦力は僅か主砲が1門、副砲が4門。対空砲座と対地砲座、そしてミサイルは健在だ。だがメカザウルスを相手にすれば焼け石に水程度の効果しかない……

 

「シュッツバルト、ゲシュペンストの消耗率が危険域に到達! ビルドラプター、アーマリオンは健在ですが弾薬およびエネルギーが危険

域に入るのも時間の問題ですッ!」

 

オペレーターから告げられるPT隊の被害状況にダイテツは歯を噛み締める。状況は悪化の一途を辿っている

 

「ドリルアタックッ!!!」

 

「ぬおおおおッ!!!」

 

「ぐうううッ!! まだだ! この程度でこのバットを倒せるなどと思うなぁッ!!」

 

ギガザウルス・ゴールを足止めしているヴァルシオンとゲッターロボ。あの巨体が暴れだせば、ハガネもクロガネも轟沈する。敵であるビアンと民間人である武蔵が最大戦力と言う状況……それを覆す一手を必死に考えるダイテツ。だが、妙案は浮かんでは来ない。

 

(緊急用のオーバーブースト……駄目だ。艦首トロニウムバスターキャノン……これも駄目だ)

 

大気圏離脱用の緊急用のオーバーブーストならば海上に出ることも可能だが、最低限でも浮遊出来るだけの修理が必要だ。そしてトロニウムバスターキャノンはたった1発しか運用できない、浮上出来ないのでは発射の反動でアイドネウス島に激突し、轟沈する危険性が高い

 

(万事休すか……)

 

恐竜帝国が脅威と言うことは把握していた、だがそれはダイテツ達の予想を遥かに超えていた。今も、ハガネを何度も苦しめたテンペストのガーリオンが被弾し、煙を上げて落下していく……その姿を見てダイテツは覚悟を決めた。

 

「大尉、最悪の場合我らはハガネを放棄する。脱出艇の準備を始めろッ!」

 

「し、しかし! 貴重なスペースノア級を破棄するのですか!?」

 

「最悪の場合の話をしている! ワシとて放棄するのは本意ではないッ! しかし部下を死なせるわけにはいかんのだッ!」

 

だがこのまま移動出来ないハガネに拘り、部下を全員死なせるわけには行かないと叫ぶダイテツ。テツヤもまた苦しそうに顔をゆがめ、脱出艇の準備を始めろと艦内放送で叫ぶ

出艇の準備を始めろと艦内放送で叫ぶ

 

「自動操縦の準備! 最悪の場合、ハガネの機関部をオーバーヒートさせて爆破する!」

 

それはハガネを放棄してでも恐竜帝国を倒すというダイテツの決断であった……

 

「ラトゥーニ! ライ! 大丈夫ッ!」

 

ヒュッケバイン009を駆るアヤはロシュセイバーでバドの首を切り落とし、バドに襲われていた2人に声を掛ける

 

「無事といいたいですが、流石にこれ以上の戦闘は無理です。大尉……」

 

最初の一撃で中破していたシュッツバルトでよくここまで奮闘したと言うべきだ。最大の武器であるツインビームカノンを失い、PTとしては機動力を犠牲にして得た防御力もメカザウルス相手では紙にも等しい。それなのに良くここまで戦ったと本来なら言うべきなのだが、敵の波状攻撃が収まらない今戦力が減るのは避けたい事だった。

 

「ハイパービームライフルを潰されました」

 

ラトゥーニが苦しそうに告げる。最大の武器を失い、ビルドラプターの戦闘力もガタ落ちだ。

 

(これ以上は耐えられない)

 

アヤが駆るヒュッケバイン009だって、エネルギーも弾薬もそろそろ危険域が近い。だが今下がれば、ハガネがメカザウルスの集中攻撃を受けることになる。それが判っているから撤退することが出来ない。

 

「スクエア・クラスター発射ッ!!」

 

空中を旋回したアーマリオンの両肩から放たれたミサイルの雨が、メカザウルスの前で炸裂し進撃して来たメカザウルスの足を止める。

 

「いっけええッ!!!」

 

ゲシュペンストが足を止めたメカザウルスの顔目掛けて飛び上がり、プラズマステークで殴りかかる。高電圧の一撃はメカザウルスの脳を破壊し、大きな振動を立ててその巨体を滑走路の上に倒れさせる。

 

「はぁ……はぁ……駄目、今のでエネルギー切れ」

 

「リオ、僕が殿を勤める。撤退して」

 

「……ごめん、直ぐ戻るからッ!!!」

 

上空から降下してきたアーマリオンがゲシュペンストの前で滞空し、ゲシュペンストはアーマリオンに庇われるようにして撤退していく

 

「ヒュッケバインに搭乗しているパイロットに告げる、射撃軸より離脱せよ、繰り返すヒュッケバインに搭乗しているパイロットに告げる、射撃軸より離脱せよ」

 

クロガネからの回避勧告にアヤ達は機体を後退させる。それと同時にクロガネから放たれた主砲がメカザウルスを薙ぎ払う、だがそれだけでは終わらない

 

「DCの底力を見せてくれるッ!! 各員続けッ!!!」

 

アイドネウス島の格納庫から姿を見せるのはグレーのカラーリングのリオンやガーリオンの数々。だがその腕や脚部はどれも同じ物は無く、プロトタイプであると言う事は明らかだった……

 

「隊員の思いを無駄にしないで欲しい、今の内にハガネへと後退するがいい」

 

「……撤退します。私に続いて」

 

アヤにそう声を掛けて、自らもメカザウルスに突撃していくランドリオンのプロトタイプ。DCと連邦、敵同士だったにも関わらず、それでもアヤ達が撤退する隙を作る為に囮となることを選んだのだ。兵力では勝るDCだが、各機の性能では僅かに劣る。それ故に自ら死を覚悟して囮に出た……アヤは口を開きかけたが、自分に声を掛けた兵士の言葉の裏にこめられた覚悟に撤退する事を決めた。ヒュッケバイン009を先頭に、ハガネへと撤退するPT部隊……

 

「グオオオオンッ!!!」

 

だがメカザウルスもここまで疲弊させたのに、むざむざ撤退させるつもりは無いとプロトタイプのガーリオンやリオンを蹴散らし、アヤ達に迫る。

 

「通すなッ! 撃て撃てッ!!!」

 

「怯むな! 行けえッ!!!」

 

仲間がメカザウルスに蹴り飛ばされ、尾で薙ぎ払われ、火炎で焼かれる。それでもDCは一歩引かず、メカザウルスへの攻撃を続ける。確かにDCは戦争を起こした、だがその根底にあるのは地球を護りたいと思う願い。それは死を覚悟しても一歩も引かないという強い決意になり、完全にメカザウルスの足を止めていた。

 

「仕方ありませんね、無駄死にをさせるのも気分が悪いですしね……グラビトロンカノン……発射ッ!!」

 

空中でサイバスターと共にメカザウルスと戦っていたグランゾンの胸部が怪しく光り、凄まじい重力の嵐を巻き起こす。滑走路に叩きつけられ、圧死していくメカザウルス、だがそれは小型のメカザウルスだけで、大型のメカザウルスは重力に抗い、前へ進む。だがそれを許さない者がいた……

 

「いっけえええッ!! サイフラァァァッシュッ!!!」

 

サイバードへと変形したサイバスターが上空から一気に急降下し、メカザウルスの群れの中心でサイフラッシュを放つ。グラビトロンカノンとサイフラッシュの連続攻撃。如何に強靭な肉体を持つメカザウルスといえど、その連続攻撃には耐え切れず爆発していく……

 

「グオオオオッ!!!」

 

だがメカザウルスにも意地がある。たった2機を相手に全滅する恥など受け入れられるかと、滑走路を砕きながら一直線に進む、その巨大な口を開き、一番近いPT……ビルトラプターを噛み砕かんとする

 

「くっ!!!」

 

近づけさせまいと無防備な口の中にメガビームライフルやM-950マシンガンの弾雨が叩き込まれる、だがメカザウルスは鮮血を撒き散らしながらも接近をやめない。それは特攻に等しく、怯むことも無くビルトラプターへと突き進む。その牙がビルトラプターを捉えようとした瞬間何かがメカザウルスとビルトラプターの間に割り込んだ。

 

「ソニックブレイカーセットッ!!! うおおおおおおッ!!!!」

 

「ギガアアアアッ!!!」

 

大口を開いたメカザウルスの口の中に自ら飛び込んだのは……ダークブルーのガーリオンだった。牙が突き刺さり火花を散らしながらも、ソニックブレイカーを維持するガーリオン

 

「くそ……どうして俺は連邦の兵士なんぞを庇って」

 

忌々しそうに呟くテンペスト、だがコックピットに映るその顔は安堵の色に満ちていた。これが他の連邦の兵士ならば見捨てていただろう、だが……ビルドラプターには自分の娘と同じ年齢の少女が乗っていた。顔も知らない少女のはずなのに、どうしてもテンペストは見捨てることが出来なかった

 

「ああ……くそ……すまん、アンナ、レイラ……俺は……俺は……」

 

火花を散らすコックピット、左半身を押し潰され血反吐を吐くテンペスト。苦しい筈なのにテンペストの顔は満足げな笑みを浮かべていた……

 

「俺は……俺は……お前達の仇を……取れなかった……」

 

白に染まる視界の中テンペストは爆発に飲まれて行った……庇われたラトゥーニにはガーリオンの近くに居たこともあり、テンペストの呟きが聞えていた。

 

「……あり……がとう」

 

聞えていない、それは判っていた。だがラトゥーニはテンペストへの感謝の言葉を告げるのだった……

 

 

 

 

ギガザウルス・ゴールの尾の一撃がゲッター2を捉える。すさまじい衝撃と共に滑走路に叩き付けられ、武蔵は血反吐を吐く。

 

「ぐう……やっぱりオイラには扱いきれんぜッ!」

 

火花を散らすベアー号のコックピットで思わず呟く、苦手と判っていたのにゲッター2にチェンジしたのは理由がある。それはギガザウルス・ゴールの身体に傷をつけるという目的の為だ。どういう理屈は判らないが、ゲッターミサイルの効果が薄く、ゲッタービームも弾かれた。通常よりも強力なゲッター線対策が施されているのは明白で、攻撃を通す為にもギガザウルス・ゴールに傷をつける必要があったのだ

 

「死ねえッ!! ゲッターロボォッ!!!」

 

オープンゲットは間に合わない、ペダルを踏み込み転がってギガザウルス・ゴールの振り下ろした爪を回避する。逃げるゲッターの後を追って、ギガザウルス・ゴールの連続踏みつけ攻撃が襲い掛かる

 

「させるかッ!!!」

 

ヴァルシオンの巨体がギガザウルス・ゴールにぶつかる。膨大な推進力を伴った体当たりはギガザウルス・ゴールの身体を大きく揺らすが、巨大な爪で離れようとした所を捕まる

 

「その程度で止められると思うなぁッ!!!」

 

「ぐおっ!?」

 

「ビアンさん!?」

 

ギガザウルス・ゴールの爪がヴァルシオンの胴体に深く食い込み火花を散らす。思わず零れたビアンの苦悶の声に武蔵がその名を叫ぶ。

 

「心配……無用ッ!!!」

 

「ぐ、貴様ぁ!」

 

ゴールの爪が食い込んだまま、ヴァルシオンは強く踏み込みディバインアームをゴールの胴体に突き立てる。深くディバインアームが相手に突き刺さるのと同時に、ゴールの爪も深くヴァルシオンの胴体に食い込む

 

「悪と呼ばれようが、独裁者と罵られようがッ!! 私の願いは誰にも否定などさせんッ!!」

 

火花を散らしながらも、ヴァルシオンは両手で握り締めたディバインアームの柄を握り締める手を緩めない。

 

「私が願うのは! 地球をお前のような者から護ることだッ!!」

 

「戦争を起こした人間が何を言うッ!」

 

「ぐおおおッ!!! はははッ! 耳が痛いなッ!! だが千載一遇のこの機会! 逃すわけが無かろうッ!!!」

 

ゴールの膝蹴りが、尾が容赦なくヴァルシオンを打ち据える。湾曲フィールドを貫き、ヴァルシオンの胴体をへこませ、その身体を容赦なく抉る。火花を散らす機体を見ればコックピットにも凄まじい被害を与えているであろうにヴァルシオンは止まらない

 

「何をぼんやりしている! 巴武蔵ッ!」

 

武蔵君ではなく、武蔵と呼び捨てにした。その凄まじい気迫が込められた一喝にベアー号のコックピットで武蔵は背を伸ばす

 

「正義のスーパーロボットなのだろう! ならば何を為すべきか判っているんじゃないのかッ!」

 

「オープンゲットッ!!!」

 

ビアンの叫びに反射的に武蔵はゲッターを分離させ、ゲッター1へと再合体を果たす。だがそれだけには留まらない、あふれ出したゲッター線の輝きがゲッター1を包み込む。

 

「そうだ! それでいいッ! 己が為すべき事を為すが良いッ!!」

 

「は、はははッ! 良いぞッ! そうだ! これでこそッ! これでこそだ! 我ら恐竜帝国の最後の戦いに相応しいッ!!!」

 

これ以上は好きにさせんと言わんばかりに振るわれた尾の一撃。それはヴァルシオンをゲッターの下へと吹き飛ばす

 

「ごほっ! げほっ! ぐふうっ……ぐぐぐぐ……まだだ! まだ終わってくれるなよ! ゲッターロボ! そしてビアンよッ!!」

 

何度も咳き込むバット、ギガザウルス・ゴールもまた機体の各所から火花を散らす。その火花は徐々に大きくなり、火花から爆発に変わり一際大きな爆発でその腕が落ちる。だがバットの気迫はますます強くなっていく……残った右腕で身体を支え、4つ這いになったゴールは大きく口を開き、周囲を歪めるほど熱を放ちながら火炎弾を作り出す……その熱でゴール自身がダメージを受け、あちこちが爆発しつつもゴールの目は……いや、バットの目はゲッターロボとヴァルシオンから一瞬たりとも逸らされない

 

「ゲッタァアアーーーッ!!!」

 

「これで終わりだ、恐竜帝国ッ!」

 

ゲッター1の光に呼応するかのようにヴァルシオンの姿もゲッター線の光に包まれる。

 

「そうだ、これで恐竜帝国は滅ぶ。だが滅ぶとしても、意地がある! 我らの最後は! 宿敵であるゲッターロボにのみ齎される物だぁッ!!!」

 

ゲッターとヴァルシオンに向かって放たれる火球と無数のビームの雨、それはアイドネウス島を容赦なく破壊し、そして滑走路を溶かしながら2機へと迫る……

 

「ビィィィームッ!!!!」

 

「クロスマッシャー発射ぁッ!!!」

 

ゲッターの腹部から離れたゲッタービームと、ヴァルシオンの手首から放たれた3色……いや、ゲッター線の緑に染められたクロスマッシャー……それも違う、もはやゲッタービームと呼ぶのが相応しい、高密度に圧縮された光線はゲッターロボのゲッタービームと螺旋回転をしながら交じり合い、巨大な光線となる。螺旋回転しながらゴールへと向かう光線は火球を貫き、ゴールへと迫る

 

「……ここまでか……ははははッ! 満足だ! 我らは戦った、最後の最後まで誇り高く戦った!! はは……はははははッ!! さらばだッ! ゲッターロボ! 巴武蔵ッ!! 恐竜帝国に栄光あれッ!! 散って行った親友達よ! このバットも今逝くぞッ!!! ははは……ははははははッ!!! はーははははははッ!!!! 」

 

憑き物が落ちたように笑うバットはゲッター線の光に包まれ、消え去る最後の一瞬まで笑い続けて逝った……

 

「ふう。これで……「いいや、まだだッ!!!」

 

これで全てが終わったと武蔵が溜め息を吐いた瞬間、ゲッター1の前にディバインアームが突き刺さる。

 

「恐竜帝国が滅んだ今、共闘は終わりだ。勝負だ、武蔵。そしてゲッターロボッ!!!」

 

火花を散らし、あちこち破損にも拘らずゲッターロボの前に立ち塞がるヴァルシオン……その姿に武蔵は悲しみに満ちた声でビアンの名を呼ぶのだった……

 

 

 

第28話 アイドネウス島の決戦 その5へ続く

 

 




ギガザウルス・ゴールで終わりだと思いましたか? 残念! まだ続きますよ。ゲッターロボ(中破)VSヴァルシオン(大破)となる予定です。ハガネのPT隊は……うん、出ません。武蔵VSビアンで書くつもりなので、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第28話 アイドネウス島の決戦 その5

第28話 アイドネウス島の決戦 その5

 

ギガザウルス・ゴールの大爆発により、破壊されつくしたアイドネウス島の中心でゲッターロボとヴァルシオンが向かい合う。ギガザウルス・ゴールとの戦いで半壊した者同士……だがヴァルシオン……いや、ビアンの放つ闘志は武蔵をしても飲み込むほどに凄まじい物だった……

 

「どうしても戦わなきゃいけないのかい?ビアンさん」

 

「そうだ……私は戦争を始めた、その責任を果たさなければならない」

 

静かな声だが何もかもを飲み込み圧倒的な威圧感があった。ディバインアームの切っ先を向けられてもなお、武蔵には迷いがあった。

 

「責任……責任か、死んじまった人の想いか……」

 

「そうだ、私が始め、私の願いに共感し、そして戦い死んでいった者達……それらの犠牲を無駄にすることは出来ないのだッ!!」

 

振るわれたディバインアームが煙を巻き上げる。その姿を見て武蔵もゲッターロボにトマホークを握らせる。

 

「……恐竜帝国と戦うために戦争を始めたって言うのは無理なんだな」

 

「無理だな。日本にも恐竜帝国が現れた、だがそれは……私が作り出し、日本に向けて出撃させた物と政府は発表した」

 

ビアンから告げられた言葉は武蔵にも、ハガネのクルーにも凄まじい衝撃を与える。日本を、世界を護る為に戦ったDCを悪として槍玉に上げられたビアン……それは明確な敵を用意することで自分達への批判を遠ざけようとする政治家達の策略だった。

 

「……なんでそこまで政府はあんたを執拗に眼の敵にする」

 

「そうだな。私も知りたい所だよ……だが1つ言えることがある、政府は……ゲッターロボを、ゲッター線を知っている。そして武蔵君……君を排除しようとしている」

 

「なんだって!?」

 

ビアンから告げられた言葉に武蔵が声を荒げる。なんで新西暦の政治家が自分を眼の敵にするのか、そして排除されなければならないのか……それにどうしてゲッターロボを知っているのか……ビアンから告げられた言葉に武蔵は動揺する、

 

「それは私も判らない、だが人類を見捨ててまで自分達が生き残る事を考える役人達だ。自分達が助かる為の条件としてと言うのは考えられるだろう」

 

地球を捨て、其処に住む人類を捨て自分達が逃げる事だけを考える役人。淡々とした口調だが、その口調に激しい怒りが込められているのが判り、その通信を聞いていた全員が思わず息を呑んだ……

 

「その役人達はどこに逃げるつもりなんだ」

 

「さあな。そこまでは答えるつもりはない……知りたければ……私を倒すことだッ!!!」

 

地面を踏みしめ駆け出してくるヴァルシオン、振り下ろされたディバインアームをゲッタートマホークで受け止める。

 

「どうして、そこでオイラとビアンさんが戦う事になるんだッ!」

 

「武蔵君、人と言うのはどうしようもなく、愚かでそして醜く、邪悪だ。今まで君が戦ってきた恐竜帝国とは違う、ありもしない罪を捏造

され、悪人とされる。そうなった時……君に何が出来る?」

 

ビアンの言葉に武蔵は黙り込む、人間と戦うことなんて武蔵は考えても居なかった。今までDCと戦うこともあったが、その全てを殺すまいと武蔵はしてきた。それは分かり合えると、そう思っていたから……だがそれはありえないとビアンは断言する。

 

「君の優しさは美徳ではある。だが、それを利用する悪辣な人間が居ると知れッ!!」

 

「ぐあっ!!」

 

ヴァルシオンの前蹴りが胴体に叩き込まれ、ゲッターは大きく吹き飛ぶ。

 

「軍人は上の命令には逆らえぬ。ハガネとて、君の敵として立ちふさがる事もあるだろう! 君はこれから1人で世界と戦わねばならぬッ!!」

 

横なぎのディバインアームがゲッターロボを切り裂き、その身体を大きく吹き飛ばす

 

「それが出来なければ、君も私と同じとなるだけだ! 世界を、地球を護ろうとし、戦争を起こすという道しか残されなかった私と同じになるだろう!!」

 

ビアンの言葉は武蔵だけではない、ハガネのクルーにも向けられた言葉だった。軍人である以上どうしても逆らえぬものがある、もしもビアンの言葉の通りならば……ハガネにゲッターロボの破壊命令が出ることも不思議ではない

 

「立て! 立ち上がれッ!! この老いぼれ1人と戦えぬようならば、武蔵君。君はこれから生き残る事など出来はしないッ!!!」

 

ビアンが武蔵に戦いを挑んだ理由……それはこれから孤立無援の戦いに挑まなければならない、武蔵に対する警告であり、そして思いやりでもあった。ゲッターロボはトマホークを支えにして立ち上がる

 

「……判ったよ。ああ、よーくっ判った」

 

「そうか、ならば来いッ!!」

 

「あんたが悲観的で、未来に希望を持てないって言うのはよーっく判った!! ならオイラが教えてやるッ!! そんなに人間は愚かじゃないって事をなぁッ!!!」

 

マントを翻し天を舞うゲッターロボとそれを追って宙を舞うヴァルシオン。ギガザウルス・ゴールとの戦い以上に武蔵とビアンの間に割り込める者は誰1人存在しないのだった……

 

 

 

 

2つの赤がアイドネウス島の上空を何度も何度も交差し、火花を散らし激しい金属音をかき鳴らす。今まで抜群のコンビネーションで恐竜帝国と戦っていた2人が戦う……その光景をDCも、そしてハガネもただ見ていることしか出来なかった。

 

「ククク……2人の邪魔をするのならば、その前にこの私を倒していただきましょうか」

 

最初はDCの兵士も、リュウセイ達も武蔵とビアンを止めようとした。2人の機体は大破こそしていないが、大破の一歩手前と言う状態であり、ただ立っているだけでも火花を散らすほどに損傷していた。それなのに戦うなんて正気ではない、見ている全員がそう思った。ビアンの告げた言葉、それはダイテツを初めとした、ハガネのクルーに衝撃を与えた。その一瞬の動揺の隙にグランゾンが湾曲フィールドと重力を駆使し、ビアンと武蔵の戦う場所を完全に封鎖し、そしてその前に立ちふさがった。今の疲弊した状況でグランゾンと戦えるわけが無く、何度も何度もぶつかり合うゲッターとヴァルシオンをただ見ていることしか出来ない

 

「教官、ビアンの話は本当なのか」

 

ハガネの前で膝を付いていたR-1のコックピットからリュウセイがそうイングラムに問いかける。武蔵は一緒に戦ってきてくれた、それなのに、DCの脅威が去れば武蔵が敵として命令されるかもしれない。そう聞いてリュウセイは冷静ではいられなかった……

 

「判らない、だが……その可能性はゼロではない」

 

執拗にメカザウルスの存在を認めなかった政府、DCとの和平要請を拒否し続けたこと……ビアンの話を嘘と断言したくとも、今までの上層部の動きには不信感がある。

 

「いや、でもよ、武蔵は何も悪いことなんてしてないだろ!? おかしいじゃないか」

 

「リュウセイ……軍には知られてはいけないことがある」

 

ビアンの言葉は嘘だと言って欲しかったリュウセイだが、誰もリュウセイの意見に同意しない。全員が全員、ビアンの言葉が嘘であると断言出来るほど上層部を信用していなかった

 

「な、なんだよ、それ……どうなってるんだよ。軍って奴はッ!」

 

「……リュウセイ、気持ちは判る。だが命令されても、最終的に行動するのは俺達だ」

 

ライの遠まわしの命令を拒否するという言葉に僅かにリュウセイの瞳に希望が宿る。今はまだ……もしもと言う話だ。それが真実になって欲しくないと思うのはライも同じ気持ちだった……

 

「シュウ、なんでお前はそんな事をする」

 

「ククク、珍しいですね。マサキ、貴方が私と会話をしようとするとは」

 

茶化すんじゃねえとマサキが怒鳴る。するとグランゾンはやれやれと肩を竦めるような素振りを見せた

 

「良いですか? 武蔵にしろ、ビアン総帥にしろ、貴方達が介入するとどちらにとっても厄介な事になるのです」

 

そんなことも判らないのですか?と挑発するように告げるシュウ。だが、それは紛れも無い事実。恐竜帝国と言う脅威があったからこそ、DCと共闘したハガネ。だがそれは軍上層部からすれば命令違反だ、そしてビアンと武蔵の戦いを止める為に割り込んだとしても、それはこの戦いが終わった後に双方の立ち位置を悪い物にするだけだ

 

「判ったのなら、黙って見ていればいいのですよ」

 

「……シュウ・シラカワ。お前はビアンと武蔵君が戦っているのを見ても何も感じないのか?」

 

ダイテツからの言葉にシュウはクククッと笑いながら、グランゾンの顔を上空に向ける。

 

「ビアン総帥は決死の覚悟で戦っていますが、武蔵がそう思い通りになるとは思うべきではないのですよ」

 

ビアンの望む結末はありえない、ゲッターロボの動きを見てシュウはそれを確信するのだった……

 

 

 

 

ディバインアームの攻撃をゲッタートマホークで受け止めきれず、肩に命中しそのままアイドネウス島に叩きつけられる。ギガザウルスゴールを倒すまでは最大出力を示していたゲージは徐々に減り始め、今では満タンの7割ほどにまで低下している。

 

(くそッ! この調子だとどこまで出力が下がるか判らんぞッ!?)

 

オーバーフローが原因か、それとも恐竜帝国が消えたことが原因なのか、それは判らないがゲッターは徐々に弱体化を始めていた。

 

「どうした武蔵ッ! そんな様ではお前は死ぬぞッ!!」

 

「ぐっ!!」

 

受け止めるのは無理と判断し、トマホークでディバインアームの側面を叩き軌道を逸らすと同時に飛びのいて距離を取る。長い戦いの間に戦場は上空から地上へと変わっていた……変わったのは最初は互角だったのに、徐々にゲッターが押され始めていると言う事だろう

 

「クロスマッシャー発射ッ!!」

 

手首からではなく、背中に背負ったユニット全てから打ち出される3色のエネルギーの雨。それを見た瞬間、武蔵はペダルを踏み込み、レバーを力強く引いた。ゲッター1の合体を解除し、最大速度でクロスマッシャーを回避に入る武蔵。

 

「逃がすかぁッ!!!」

 

「しまっ!? くそったれッ!!!」

 

だがビアンはその隙を見逃さない。いや、分離させる為に放ったクロスマッシャーだ、オープンゲットをして回避するのはビアンの予想の範疇に過ぎない。投げ付けられ高速で回転しながら迫るディバインアームとチャフグレネードが誘導操縦で動きの鈍いイーグルとジャガーを襲う。衝撃で誘導操縦が解除され、コントロールを失うイーグルとジャガーに舌打ちし、ベアー号を急加速させる

 

「うおおおおおッ!!!」

 

螺旋回転しながら墜落していくジャガー号に凄まじい勢いで追突し、そのままの勢いでイーグル号とも強引に合体する。だが速度の出しすぎでそのまま飛翔することは叶わず、合体した状態でアイドネウス島の上を削りながら滑っていくゲッター1

 

「ぐ、ぐうう……や、やるな。ビアンさん」

 

「当たり前だ。ゲッターの戦闘データを何回解析したと思っている」

 

武蔵の賞賛の言葉にビアンは誇らしげな様子で返事を返す。今までのダメージで湾曲フィールドを張る能力を失い、半壊しているにも関わらずゲッターを圧倒する……その姿は正に究極ロボの名に相応しい能力だろう。

 

「武蔵君。言葉で私を止められると思わないことだ……ここで私とヴァルシオンを打倒しなければ、己が死ぬという事を覚悟するが良い」

 

「……」

 

ビアンの言葉に武蔵は返事を返すことが出来なかった。ここまで追い詰められてもなお、武蔵はビアンを説得できると思っていた。いや、恩人であるビアンに攻撃する事を躊躇い、攻撃をするチャンスを何回も逃していた。

 

「私は君を倒すつもりで攻撃している。躊躇えば、死ぬのは君だッ!!」

 

自分で投げ付けたディバインアームを手に、再びゲッターに向かってくるヴァルシオン。地響きを立てて襲ってくるその姿は紛れも無い恐怖を与えるだろう、今までの武蔵ならばそれを防ぐ事を考えた。だが今は違っていた

 

「ゲッタァアアマシンガンッ!!!」

 

「ぬっ!」

 

今まで使う事の無かったゲッターマシンガンの弾雨が突進してきたヴァルシオンの足を止める。ディバインアームを盾にして直撃を防いだヴァルシオンだが、次の瞬間ヴァルシオンのモニターが真紅に染まる

 

「な、なんだ!? 何がッ!「ウオオオッ!!!」 がはっ!?」

 

武蔵の雄叫びが聞こえたと思った瞬間。凄まじい衝撃が横から襲ってきて、ヴァルシオンは滑走路を削りながら滑る

 

「なるほど、そういうことか」

 

一瞬ヴァルシオンの視界を遮ったのはゲッター1の赤いマントだ。マントを分離させ、それをヴァルシオンの顔に一瞬の内に巻き付けてビアンの視界を遮ったのだ。

 

「行くぞぉッ!!!」

 

砲身が折れたゲッターマシンガンをヴァルシオンに投げ付けると同時に回収したマントを身体に巻きつけるゲッター1。

 

「ゲッタァアアーーービィィィムッ!!!」

 

マントで自身を覆ったまま、ヴァルシオンへと突撃するゲッター1。マントの隙間から放たれるゲッタービームが容赦なく、ヴァルシオンの強固な装甲を破壊していく

 

「まだだ! まだ終わらんッ!!」

 

「ぐっがぁあ!?」

 

突っ込んできたゲッターをバッティングの要領でディバインアームで打ち返す。突進した勢いも相まってゲッター1の頭部はひしゃげ、ジャガー号に深い傷を残しゲッター1は背中から格納庫に叩きつけられ、その動きを止める。

 

「……どうやらこの勝負……私の勝ちのようだ!」

 

ヴァルシオンの4つのカメラアイが光り、全身から凄まじい緑の閃光を放つ。それは紛れも無くゲッター線の輝き……

 

「に、逃げろ武蔵ーッ! 立て! たって逃げろぉッ!!!」

 

黙って見ていられなくなったリュウセイがそう叫ぶがゲッターはピクリとも動かず、ヴァルシオンの放ったゲッター線が混じった重力波に囚われ上空へと巻き上げられる。

 

「これで終わりだッ! 受けろ! メガ……「オオオオオオオーーーーーーーッ!!!」な、何だと!?」

 

完全に重力に囚われていた筈のゲッターの全身がヴァルシオンを上回る閃光に包まれる。武蔵もビアンも知る良しもないが、ヴァルシオンの攻撃に含まれているゲッター線、攻撃を受ける度にゲッター線をゲッターロボは蓄えていた。そして今メガグラビトンウェーブに含まれるゲッター線によってゲッターロボのゲッター線量は最大値に到達したのだ

 

「オープンゲーットッ!!!」

 

ゲッター1が分離し、ゲットマシン形態になるがまだヴァルシオンの重力操作は続いており、機体が重力に囚われる……筈だった。

 

「いっけええええええッ!!!」

 

一際強い閃光をベアー号が放った瞬間。ゲットマシンは重力波から脱出し、凄まじい速度でヴァルシオンに迫る

 

「おおおおおおおおッ!!!」

 

「ぬっぐっ! ぐううううッ!!!」

 

3機のゲットマシンから放たれるマシンガンの嵐。それは本来なら恐れるに足りない攻撃だが、マシンガンの銃弾1発1発にゲッター線の証である緑の光が付与されていることもあり、マシンガンの弾雨はヴァルシオンの装甲を容赦なく削る

 

「チェンジッ!! ゲッタァアアアッ! ワンッ!!! うおおおおおおッ!!!!」

 

空中でゲッター1にチェンジすると同時に両肩からゲッタートマホークを取り出し、ヴァルシオンへと投げ付ける。トマホークも緑の光に包まれ、ヴァルシオンの強固な装甲を豆腐のように切り裂き、基地にぶつかっても直進をやめず、グランゾンが展開している湾曲フィールドをつきぬけ、海面を切り裂きながら水平線の彼方へと消えていく

 

「オープンゲットッ!! チェンジッ!!!」

 

トマホークの投擲と同時に再びゲッターが爆ぜ、凄まじい勢いで急降下しヴァルシオンの背後を取る

 

「馬鹿な!? これほどの速度の合体が出来る訳がッ!!「ゲッタァアアッ!! ツウッ!!!!」 ぐおッ!? があああああッ!?」

 

背後に回りこむと同時にゲッター2に合体し、凄まじい勢いでヴァルシオンの背中に飛び蹴りを叩き込む。その衝撃でヴァルシオンが前のめりになるが、ゲッター2の攻撃はそれだけでは終わらない

 

「ドリルハリケェェェンッ!!!!」

 

着地同時に左腕をヴァルシオンの背中に突き立て高速で回転させる。それは勢いをどんどん増して行き、凄まじい暴風となり信じられない事にヴァルシオンの巨体を巻き上げ上空へと跳ね飛ばす

 

「オープンゲットッ!!!」

 

竜巻に絡め取られ、天を舞うヴァルシオンを追いかけて……いや、追い抜いてゲットマシンが空を飛ぶ。そしてヴァルシオンを追い抜き、上空を取った瞬間武蔵の雄叫びが響き渡る

 

「チェンジッ!!! ゲッタァアアアーーースリィィィッ!!!」

 

身動きの取れないはずの上空でゲッター3へとチェンジし、その伸縮自在の腕をドリルハリケーンによって生まれた竜巻の中に突っ込む

 

「大ッ! 雪ッ!! 山ッ!!!!!!」

 

「ぐっ……こ、ここまでかッ……」

 

「おろぉぉぉーーーしッ!!!!」

 

巻き上げられた以上のスピードで全身を回転させられたヴァルシオンの中でビアンは意識を失い、ヴァルシオンは高速で回転しながら頭からアイドネウス島の地表に叩き付けられ、上半身を完全に潰され爆発の中へ消えて行くのだった……

 

「……」

 

そして爆発炎上するヴァルシオンの姿をゲッター3からゲッター1にチェンジしたゲッターロボが悲しそうに見つめているのだった……

 

 

 

 

ヴァルシオンがアイドネウス島に叩き付けられる数分前。地下ドッグでは……

 

「どうしたんじゃ、コーウェン」

 

自分を助けに来た学会の顔見知りが立ち止まった事に不信感を抱き、アードラーがキラーホエールの深海使用に乗り込む前に足を止める

 

「いえ、少し気になる事があっただけですよ。さ、行ってください、アードラー博士」

 

アードラーに逃げましょうと声を掛けるコーウェン。3隻残されていたキラーホエールの深海使用の内2隻は既に地下ドッグを出航し、アイドネウス島から離れている。真っ先に脱出していそうな、アードラーが残っていたのはビアンの私室に残されていた研究データなどを持ち出す為に、時間ギリギリまで粘っていた事にある

 

「ふん、シュトレーゼマンの派閥に入り込んでから変わったと思ったが、まだおぬし達は昔のままじゃな」

 

「ははは、そう簡単に人は変わりませんとも、あの議員の所にいたのは、あの議員が隠し持っている特機に興味があったからですよ」

 

シュトレーゼマンが隠している特機の言葉にアードラーは一瞬顔色を変え、コーウェンの背後で海面から上半身だけを出している特機に視線を向けたが、あちこちから爆発音が響くのでここで話している場合ではないと判断したのか、再び足をキラーホエールに向ける。

 

「待っておるぞ、コーウェン」

 

「ええ、先に行って待っていてください。私もスティンガー君も直ぐに合流地点に向かいますから」

 

アードラーを見送り、出航するキラーホエールを見つめるコーウェンの背後の影が盛り上がるようにして、スティンガーが姿を見せる。

 

「お、終わったよ。コーウェン君、あの乱暴者ほどではないけど、む、武蔵もゲッター線に選ばれたようだ」

 

「そのようだね。スティンガー君、だけどあの旧式ではGには勝てない」

 

「そ、そう! Gに旧式が勝てる訳が無い」

 

身体中からギチギチと音を立てながらコーウェンとスティンガーは笑う。真紅に輝く瞳が明かりが落ちた地下ドッグで紅く輝く

 

「それでどうしてそんなのを拾ってきたんだい?」

 

「つ、使えるじゃないか、この世界の人間はゲッターに耐えれない。それなら機体に組み込んでしまえばいいんだよ」

 

「なるほど、それも1つの解決方法か。まぁ良いさ、使える、使えないは組み込んでから試せば良い。アードラーも私達がシュトレーゼマンの所から回収したGを解析させれば用済みさ」

 

スティンガーの腕には半身を潰され、全身を火傷し、それでも虫の息ながら生きているテンペストの姿があった。

 

「ほら、スティンガー君」

 

「あ、ありがとう、コーウェン君!」

 

コーウェンは脇に抱えていたヘルメットをスティンガーに投げ渡す。それを受け取ったスティンガーは土気色の顔色をしたテンペストをゴミのように片手で持ち上げて振り返る。

 

「さぁて、まずは種を撒こうじゃないか、一度はGを捨て駒にしないといけないのが苦しいところだけど、それも仕方ない」

 

「そ、そうだね! 南極にも行かないといけないし、それにアースクレイドルに隠されているあれも見ておきたいよね」

 

海面から上半身を出しているGを見つめ、にやりと笑った2人は瀕死のテンペストをGのコックピットに引きずり込み、海中の中へと姿を消すのだった……

 

 

 

 

 

 

海に沈むメカザウルスの残骸と、島の上に上がると同時に機能を停止したゲシュペンストMKーⅡの中でカイはヘルメットを投げ捨て、汗を拭う

 

「はぁ……はぁ……化け物が」

 

「息切れしているか、老いたなカイ」

 

ラドラの言葉にカイはやかましいと怒鳴り返す、その声にラドラはくっくっと喉を鳴らす。中破したゲシュペンストMK-Ⅱに対して、ラドラのゲシュペンスト・シグは小破であり、そしてラドラにも余裕が見えていた

 

「……ラドラ、教導隊を抜けた後、何をしていたんだ」

 

「研究をしていた。俺の新しい剣、ゲシュペンスト・シグの開発をな」

 

軍を抜けたラドラが何故PTを所持しているのか、そして今まで音沙汰が無かったのに何故急に現れたのか、色々と尋ねたい事はあったが、カイは口を閉じた

 

「……お前の退役条件と関係があるのか?」

 

「そういう所だ。だからお前は知らないほうが良い」

 

ラドラは教導隊に所属していたが、そのモーションデータ。そして彼が在籍していたという記録は一切が残されていない、教導隊全体にも緘口令が引かれるほどの徹底振りだ。その退役条件の中にゲシュペンストが関係していると言うことを感じ取ったカイは判ったとコックピットに深く背中を預ける

 

「SOSだけは発信しておいてやる」

 

「それは助かるな……もうこっちはバッテリーがないからな」

 

通常のゲシュペンストよりも頭1個分は大きい、それに伴い機体サイズも巨大化している。PTと言うよりかは、準特機サイズのゲシュペンストだ。カイのゲシュペンストよりも、バッテリーも何もかも数段上なのだろう

 

「1つだけ言っておく、上層部には気をつけろ。最近きな臭い」

 

「……それは俺も薄々感じていた。特にこのメカザウルスだ」

 

DCの部隊がメカザウルスと戦う姿はこの無人島からでも見えていた。その姿は日本を護ろうとしているように見えたのだが、連邦からの攻撃、メカザウルスからの挟撃で劣勢に追い込まれながらも、勝利し撤退して行った姿は確認している

 

「大きな戦いが始まるだろう……気をつけておけ」

 

「了解した、協力感謝する」

 

気にするなと笑い背中に背負っているバックパックから出現した翼で宙を舞うゲシュペンスト・シグの姿を見送るカイ

 

「お前もゼンガーもエルザムも全員不器用なんだよ、馬鹿たれ」

 

今まで姿を消していたと思ったら突然現れたかつての仲間にカイは苦笑いを浮かべ、遠くに見える救援部隊を確認しコックピットから外に出るのだった……

 

 

第29話 逃亡者へ続く

 

 




アイドネウス島編決着です。やばい2人組みが暗躍していますが、そこはあんまり気にしないでください。次回からは暫くオリジナルシナリオで考えて行きたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第29話 逃亡者

第29話 逃亡者

 

恐竜帝国との戦いでボロボロになったハガネは、アイドネウス島のクロガネのドッグの中にいた。確かにクロガネのドッグを初めもアイドネウス島の設備の全て恐竜帝国の攻撃によって崩壊していた。だが地下ドッグや、貴重なスペースノア級を収容するドッグは頑丈に作られており、外部の破壊と比べて軽症だった。日本に戻るにもハガネもそしてPT隊も修理が必要であり、暫くアイドネウス島に滞在することになった。

 

「……クロガネも、武蔵も行ってしまいましたね」

 

「仕方あるまい」

 

ハガネの艦長室でテツヤがダイテツにそう切り出す、ヴァルシオンとゲッターの戦いを見届けた後クロガネとグランゾンは姿を消した。そして武蔵もまたボロボロのゲッターのままアイドネウス島から飛び去っていった……それらを追う事は今のハガネには不可能であり、そして何よりもダイテツを初め、クルーの全員が武蔵を追う事をしたくないと思っていたのだ。目を閉じたダイテツの脳裏には武蔵が去るときの姿が鮮明に浮かび上がる

 

「今まで世話になりました、ダイテツさん」

 

「……やはり行くのか?」

 

角は折れ、あちこちの装甲が焼け焦げているゲッター。その姿を見て引き止めたのだが、武蔵はもう行くと告げた。

 

「ビアンさんの話のとおりなら、オイラとゲッターがいると迷惑を掛けるじゃないですか? だから早めに行く事にします」

 

「……ワシ達の基地司令のレイカーは話の判る男だ。それにテスラ研という選択肢もあるぞ」

 

レイカーなら匿ってくれる場所を提供してくれるだろうし、テスラ研もゲッターを分析させる必要はあるが武蔵の安全は保障されるだろう。

 

「いや、良いですよ。迷惑をかけるのも悪いですしね、じゃあまたどこかで……出来れば敵同士で無ければ良いですね」

 

武蔵はそう告げるとゲッターを操縦し、クロガネが飛び去ったのとは別方向に消えていった。確かにエルザムとは顔見知りのようだが、ビアンを殺した以上合流する事にも躊躇いがあったのだろう……だがダイテツは武蔵にはクロガネに乗っていて欲しいと思っていた。武蔵には今の世界の情勢が判っていない、それにもし本当に政府から指名手配されたらと武蔵を心配していた。

 

「あのギガザウルス・ゴールを初めとしたメカザウルスの処理は」

 

「前回同様ナパーム弾による焼却処分となるだろうな、だが上層部も馬鹿な事をした物だ」

 

政府はメカザウルスをビアンの手による物と発表した。だがビアンが天才とは言え、メカザウルスと言う存在を作り上げることは不可能だ。あまりにも見え透いたスケープゴート……それは政府が何かを隠蔽しようとしていたと言う疑惑となった事だろう

 

「大尉、一杯付き合ってくれるか?」

 

「は?」

 

引き出しから取り出した酒瓶にテツヤが目を丸くする。その姿を見てダイテツは小さく笑いながら蓋を開ける

 

「京都伏見の酒「振り袖」ワシのとっておきだ」

 

「か、艦長。艦内のアルコール類の持ち込みは禁止されているのでは?」

 

「艦長特権だ。それに古来から酒は気付け薬として持ち込まれておるものだ」

 

ダイテツが酒を持ち出したことに驚いているテツヤ。だがダイテツはそんなテツヤを見て楽しそうに笑いながらグラスの中に酒を注ぐのだった……

 

 

 

テツヤとダイテツがアイドネウス島で酒を酌み交わしている頃。武蔵はと言うと……

 

「よっと、ひーふーみー。もうちょい欲しいな」

 

無人島の森林の中にゲットマシンにしたイーグル、ジャガー、ベアー号を隠し、ナイフで削りだした手作りの銛で魚を突いていた。武蔵が竜馬と出会ったのは北海道の山中で、海に面している森の中だった。武蔵はそこで自身の得意技である大雪山おろしを鍛え上げるために山篭りをしていた。その為武蔵のサバイバルの技術は桁違いに高い

 

「ぷはあッ! ほっほーッ! ラッキー! サザエみっけーッ!!」

 

いま自分が潜ったポイントに大降りなサザエや鮑などの貝を見つけ、テンションが上がった武蔵はナイフを咥えて再び海中へと姿を消すのだった……

 

「いやあ、大漁大漁」

 

褌一丁で無人島を進む武蔵の姿はどこからどう見ても不審者なのだが、何故か違和感がない。それもまた武蔵だからこそなのだろう……海に潜る前に木の枝や葉っぱで作り上げた簡易の小屋……そこには1人の男の姿があった

 

「もう起きても大丈夫なんですか? ビアンさん」

 

「……武蔵君か、ああ、もう大丈夫だ」

 

そこにいたのはアイドネウス島で死んだ筈のビアン・ゾルダーク本人だった。頭に包帯こそ巻いているが、五体満足の姿で武蔵の用意した椅子に腰掛けていた。

 

「……死なせてはくれんのだな」

 

「元々殺すつもりで戦ったわけじゃないですから、それに戦争を起こした責任を取らないといけないって言うなら、死んで逃げるのはどう

かと思いますよ。生きて償ってください」

 

武蔵がビアンと戦ったのは余りに悲観的な事を言うビアンを叩いて考えを変えさせる目的だった。それに自身の恩人であるビアンを殺すと言うのは武蔵の中に存在する訳もない

 

「その割には最後の攻撃は凄まじかったが?」

 

ゲッターによる3連続攻撃、流石に究極ロボヴァルシオンと言ってもその破壊力に耐えることは出来なかった。ついでに言うと大雪山おろしで回転をさせられた段階でビアンの意識は飛んでおり、自分がどうやって助かったのかも理解していなかった

 

「いやあ、ダイテツさんとかに見られると不味いなあと思って、大雪山おろしの嵐の中でコックピットだけを抉り出したんですよ。あ、コックピットならゲッターの近くに置いてますよ?」

 

魚を捌きながら言う武蔵にビアンは深く溜め息を吐く、まさかあの神業とも言える3連続の分離と合体を繰り返す、神速のコンバットパターンを自分をヴァルシオンから引きずり出すためだけに使うとは……

 

「ハガネとは距離を置いたのか?」

 

「迷惑をかけるかもしれないですからね、ビアンさんの言う通りなら。はい、焼けましたよ」

 

差し出された魚の塩焼きにビアンは苦笑しながら受け取る。焼き加減なんて無いただ塩を振って焼いただけの魚だ、それなのにやけに美味そうに見えるのは何故だろうなと呟く

 

「サザエとか鮑とかも見つけたんですけど、焼きます?」

 

「いや、これで結構。それは置いておこう」

 

自分はあそこで死ぬつもりだった。だがここまで完膚なきまでに負け、しかも責任をと言うのなら生きて償えと自分よりも遥か年下の少年に諭されてまで、ビアンは自身の死に拘ることが出来なかった。

 

(すまん、マイヤー。逝くのは大分先になりそうだ)

 

自分と共に戦ったマイヤーに心の中で謝罪する。そして叶うのならばマイヤーにも武蔵を紹介したかった……もう叶わないそんなもしもの事をビアンは思わずにはいられなかった。

 

「ゲッターはどんな様子なんだ?」

 

「いやあ、ここまで飛んできて隠れるので手一杯でしたねえ。少なくとも戦闘に耐えれる状況じゃないです」

 

元々応急処置程度の修理しか施されていなかったのだ、そこに恐竜帝国、そしてヴァルシオンと連続で戦えば完全にゲッターが戦闘不能になるのは自明の理。良くここまで持ったと言うべきである

 

「ふむ……どうしたものか」

 

無人島でゲッターの修理が出来る訳が無い、だがゲッターは少なくとも今存在する機動兵器の中では最強とも言える。それを修理しないで放置することは難しい……

 

「少し休んだらコックピットに連れて行ってくれないか?」

 

「それは良いですけど……あれ殆ど壊れてますよ?」

 

武蔵に言われなくても判る。あれだけの攻撃を受けて……受けて? そこまで考えた所で気付く、少なくともビアンはギガザウルスの攻撃で、足を骨折していた。だが今両足に痛みは無い、それに衝撃で肋骨が折れたはずだが息苦しさも無い……

 

(これがゲッター線か)

 

武蔵君も自爆する前は重傷だったと言っていたが、目覚めれば回復していた。それと同じ現象がビアンにも起きていた……それはビアンにゲッター線とはただのエネルギーではないという考えを与える。金属に照射すれば、その金属は異常とも言える硬さと柔軟性を得た。まだまだ調べている段階だが、ゲッター線はただのエネルギーではない……何か未知の存在なのかもしれない。

 

「どうかしました?」

 

「ああ、いや、なんでもない。クロガネと合流するか、バン大佐と合流しようと思う。彼は信用出来る男だ」

 

まずはゲッターの修理を優先しようと武蔵に告げ、もう1匹どうです? と差し出された魚の塩焼きをビアンは苦笑しながら受け取るのだった……

 

 

 

 

 

コーウェンとスティンガーによってアイドネウス島を脱出したアードラーは2人に案内された基地を見て、眉を細めた。そこには地球連邦の旗が飾られ、基地の中にいる兵士も連邦の兵士。最初は嵌められたか? と思ったアードラーだが、その兵士が何の反応を見せず。悠々と2人が進んでいく姿を見て、自分の一派の兵士と共にアードラーもその基地に足を踏み入れた。

 

「この基地は何じゃ?」

 

「私達の新派とでも言いましょう、ね、スティンガー君」

 

「そ、そうだね、コーウェン君。僕達の思想に共感してくれた者達の派閥なんだ」

 

2人の派閥と聞いてアードラーは首を傾げた。コーウェンとスティンガーの名前は決して知られていないわけではない、放射線と言う分野で彼らを知らない者はいないほどの権威だ。だが、その反面2人の研究は理想論と言われることも多い分野だ

 

「なにか新しいものでも発見したのか?」

 

2人の自信満々の顔を見てアードラーはそう切り出す。その言葉に待ってましたと言わんばかりにコーウェンが小型PCをアードラーに差し出す。

 

「まずはその画像データをご覧ください。私達の話はそれからと言う事で」

 

にやにやと笑う2人に不信感を抱きながらも、キーボードを操作し画像を再生する。最初は興味が無いと言わんばかりな態度だったが、徐々にその顔色は変わっていく

 

「……ゲッターロボG、真ドラゴン、早乙女……下らん合成と言うには余りにも真に迫っておるな」

 

「勿論、これは合成などではなく真実の記録ですからね」

 

「そ、そう! 何百年も前の空白の歴史の記録なのですよ!」

 

学者や研究者の間には政府によって隠蔽された歴史があるという都市伝説がまことしやかに語られていた。そしてその中には人類の危機を救ったスーパーロボットの話も少なくもない……

 

「道理で調べても判らんはずじゃ」

 

巴武蔵と言う存在を調べても一切記録は無かった。その時点でアードラーは偽名と経歴査証を疑った……まさか旧西暦の人間とは思っても見なかったわけだ。

 

「この映像記録を元に私達はゲッター線の採取に成功し、私達を利用するだけ利用して切り捨てようとしたシュトレーゼマンの所から逃げてきたのですよ。ああ、ご心配なく、逃げる前にシュトレーゼマンにはたっぷりと落とし前をつけてきたので私達を追う事は無いでしょう」

 

こいつ……本当にコーウェンとスティンガーか? 今のあの一瞬とても人とは思えない顔をしていたが……いや、そんなことは些細なことだろう。

 

「ゲッターGの分析資料をよこせ」

 

「ふふふ、そう言うと思っていましたよ。どうぞお持ちください、勿論オリジナルのゲッターGもお譲りしましょう」

 

最悪この場で2人を殺すことも考えていたアードラーはまさかの2つ返事に驚いた。何が狙いかと考えるが、当然答えは出ない。コーウェンとスティンガーはそんなアードラーを見て嗤う

 

「ただし交換条件です。どうか、私とスティンガー君にアースクレイドルの場所を教えていただきたい」

 

「……ほう」

 

極秘機密のアースクレイドルを知っている。そのことにアードラーは目を細める、異端者と言われている癖によく知っていると感心する。

 

「紹介することは構わんが何をするつもりじゃ? ムーンクレイドルなら判るんじゃがな」

 

放射能の研究で宇宙を好むはずなのに、何故と言う疑問を尋ねる。するとスティンガーはニコニコと笑う

 

「なに、アードラー博士、知的好奇心と言う奴ですよ。なんでもアースクレイドル周辺に未知の機械物質が落ちたそうじゃないですか」

 

「……ああ。あれか……」

 

アードラーもその事は知っていた、そして正確に把握しているわけではないのだなと思う。裏の情報では落ちてきたという話だが、アースクレイドルの内部に浮き上がるように出現したのだ。

 

「ふむ、まぁいいじゃろ。イーグレットには話を通しておこう」

 

未知の放射線と言えば、イーグレットの奴も2人の話を聞こうとするじゃろうしな。2人にそう声を掛け、ワシはゲッターロボGの分析データを手に、その場を後にするのだった

 

「さてと、どこまで再現出来るかな?」

 

「き、期待するだけ馬鹿だと思うけどね」

 

分析データと設計図、それを渡しはしたがアードラーではどこまで再現出来るかと言う話をする。コーウェンとスティンガー

 

「ぼ、僕は良い所1つの形態だと思うよ」

 

「ずるいじゃないか、私もそこが限界だと思っているよ」

 

新西暦の人間には出来たとしてもドラゴン、ライガー、ポセイドンのいずれかの形態の劣化コピーが限界だろうと笑う2人。

 

「まぁ暫く様子見さ。武蔵の事も気になるしね」

 

「そ、そうだね、僕達の知ってる武蔵とは年齢も違うしね」

 

そう笑いあう2人の皮膚の下からは不気味な音が響き続ける。アードラーを助けたのは2人にとって必要な情報をアードラーが持っているから、Gを渡したのはこの世界の人間の技術力を試す為だ。

 

「さてと、どうなるか楽しみに見ていようか」

 

「そ、そうだね! でも出来るなら僕達で動きたいよね」

 

「仕方ないさ、今の私達では旧ゲッターであったとしても、戦うにはリスクがある。だから今は準備を進めようじゃないか」

 

そう笑うコーウェンの目は血の様な色に輝き、口の中からは無数に光る黄色い瞳が現れていた

 

「同胞達を呼ぶ篝火の準備は始まったばかりだ、焦ることは無い。のんびりと行こうじゃないか」

 

恐竜帝国は滅びた、だが恐竜帝国を越える悪意はゆっくりとこの世界に広がり始めているのだった……

 

 

 

 

 

DCの総帥「ビアン・ゾルダーク」の死が連邦政府によって告げられてから、4日後……ジュネーブに進撃していたDCの部隊の1部隊は個別行動を取っていた

 

「ビアン総帥の死の裏づけを取れ、死んだという割には情報が余りに出回っていない」

 

DCの陸上戦艦ライノセラスのブリッジで顔にいくつもの傷を持つ褐色の大男が部下に指示を飛ばす。顔の傷、そしてその大柄な体格滲み出るオーラは凄まじく、その姿はライオンを連想させる。

 

「了解です。バン大佐ッ!」

 

だが彼は恐怖で部下を支配しているのではない、その人格と人柄によって部下を纏め上げていた。部下の返事を聞いて、バン・バ・チュン大佐はライノセラスの艦長席に背を預け、目を閉じた。連日連邦から告げられるビアンの死、そしてアイドネウス島のDC隊の敗走……それらはバンに少なくない衝撃を与えたが、それと同時にビアンから託された使命を果たす為にDCの本隊から、自分に忠実な部下だけを連れて離脱するという選択を取った。

 

(嘆かわしいことだ)

 

ビアンの理想に共感し、DCへと入隊したという経歴を持つバン。元々は民族解放運動や反連邦運動といった活動をしており、指揮官としての腕前だけではなく、その鋭い政治手腕を期待してビアンにスカウトされたという経歴を持つ。

 

(ビアン総帥を倒したのはハガネか……)

 

僅かに得た情報はアイドネウス島に乗り込んだのはダイテツ・ミナセが指揮をとるハガネ。確かにダイテツならばアイドネウス島に突入する戦略を取るだろう……だが気になるのは、そのハガネに未知の特機が乗っていたと言う情報もある。それらの裏付けを取る必要がある……そして本当に総帥の死を確認したのならば、バンは動かなければならない。ビアンが願った地球圏を護る刃を鍛えると言う使命を果たす必要がある

 

「ば、バン大佐! 南西の方角から巨大な熱源あり! は、早い! 後240秒後に本艦の進路に現れます!」

 

「総員出撃準備ッ!!」

 

その言葉を聞いてバンの脳裏を過ぎったのは異星人の襲来。だがライノセラスに搭載されているAMが出撃するよりも早く、その熱源はライノセラスの前に現れた……

 

「鬼……?」

 

思わずバンはそう呟いた、ライノセラスの前に滞空するのは鬼を思わせる2本角を持つボロボロの姿をした特機。だがその特機は今までも見たこともない姿をしていた。太い手足、寸胴のような胴体……今の機体から考えて余りに古い姿をした特機を見て、ライノセラスの中のDCの兵士の動きが止まる。

 

『バン大佐、聞えるか? 私だ、ビアン・ゾルダークだ。着艦許可を求める、すまないが、この機体は旧式だ。映像通信は出来ないが、私だと信じて欲しい』

 

信じて欲しいと告げたがバンは間違いなく、あの特機にビアンが乗っていると確信した。その声も、話し方も何もかもバンの記憶の中のビアンと同じだったから

だ。

 

 

「リオン3機、ガーリオン2機を周辺の警戒のために出撃させろ。その後、本艦の格納庫を開放し、あの特機を収容する」

 

ブリッジの部下にそう告げるとバンはビアンを出迎える為格納庫へと走り出すのだった……

 

 

第30話 これから

 

 




ビアン生存ルートかつ、OG1の段階でバン大佐と接触です。暫くはオリジナルの話を続けて、ある程度話を進めたらOGのシナリオを進めて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第30話 これから

第30話 これから

 

ライノセラスの格納庫に収容された赤い特機を見上げるバン。モニター越しにも感じていたが、時代に逆行しているとも言える無骨なデザインだ。

 

(……これをどこから持ち出したのだ、総帥は)

 

巨大な熱源と言う事で異星人を警戒した。だが現れたのは見たことも無い特機であり、しかも総帥が乗っている。全く似ていないが、もしかしたらヴァルシオンのプロトタイプなのかもしれない……そんな事を考えながら部下と敬礼し、総帥が降りてくるのを待つ、赤い特機の腕が腰の辺りに伸ばされ、黒いベルトの帯のような部分が左右に開く

 

「よっと、大丈夫ですか? ビアンさん」

 

「……判っていたことだが、乗り心地は最悪だな」

 

……バンを含め、このライノセラスに乗っている兵士はビアン親派だ。そのビアンが剣道の胴を身につけ、マントを首元に巻いた……何とも言えない姿をした青年の肩を借りて出てくる姿を見て一瞬思考が停止した。

 

「バン大佐、すまないな。急に押しかけて」

 

「いえ、問題ありません総帥。それよりも負傷の方は大丈夫なのですか?」

 

頭に包帯を巻いている姿を見て負傷の具合を尋ねる。ビアンは問題ないと笑い、肩を貸している武蔵の方に手を向ける。

 

「巴武蔵君だ。決起の前、そうだな。大佐がアイドネウス島を発った後に現れた少年だ」

 

「……何か訳ありと言う事ですね」

 

どう見ても武蔵は軍人ではない、かと言ってアードラー副総帥が集めてきた民間人とも思えない。この空気は命のやり取りをする戦場にいた者でしか出せない空気だ

 

「どうも、武蔵です。よろしくお願いします」

 

「ああ、よろしく」

 

親衛隊であるLBでもなく、そして軍人でもない少年。彼が自分の判断で総帥を救助して、逃走して来たと言う可能性もあるか……

 

「私と武蔵君、そして大佐だけで話をしたいのだが」

 

「判りました、進路を地下隠しドッグへ向けろ。連邦の警邏に注意を払え」

 

本隊から離脱したのはバンのライノセラス1番艦とその配下の2~4番の計4艦だ。収容しているAMの数はかなりの数になるが、それでも戦闘を避けるべきだとバンは判断した。DCが倒れ勢いに乗っている連邦と事を構えるのは危険だ、行けるという空気に満ちた戦場と言うのは予想だにしないビッグキリングが潜んでいる場合がある。細心の注意を払うべきだとバンは判断した。

 

「了解です、大佐」

 

「うむ。頼んだぞ、では総帥、武蔵。こちらへ」

 

内密な話となれば私室しかないと判断し、バンはビアンと武蔵を案内し格納庫を後にするのだった……

 

「コーヒーで宜しいですか?」

 

「ああ、それで構わない。武蔵君もそれでいいかね?」

 

「え、あー砂糖をぜひ」

 

体格こそ立派だが、子供かと苦笑し自分とビアンの分はブラックを、武蔵には砂糖とミルクをつけて出す。

 

「良くぞご無事でした」

 

「ふっ、武蔵君のおかげとしておこうか……ヴァルシオンを破壊したのは武蔵君だが」

 

その言葉に思わず眉が動く、ヴァルシオンを破壊した……つまり武蔵は連邦からの逃亡兵と言うことなのか?

 

「誤解させてしまったな、そういう訳ではない。元々は民間人として私とエルザムが保護したわけなのだが……その前に大佐はメカザウルスを知っているか?」

 

「……連邦が配信している情報によればDCの最新兵器と言う事らしいですね」

 

「それを信じているか?」

 

ビアンの言葉にバンはまさかと返事を返す。生物と機械の融合……しかもその生物が恐竜と来た、ビアンが天才だとしても恐竜を復元する事など出来るわけが無い。更に言えば、その情報には繰り返しビアンの名前とDCが上げられていた

 

「連邦の愚かさが良く出ていると思いましたよ」

 

バンの言葉にビアンはその通りだなと笑うが、次の瞬間鋭い目付きになる。その雰囲気の変化を感じ取りバンもその顔を引き締める。

 

「大佐……いや、民族解放軍リーダーバン・バ・チュン君に問いたい事がある」

 

その言葉に今ビアンが必要としているのは、DC大佐としての己ではなく、民族解放軍を指揮していた時の自分なのだとバンは理解した。

 

「……アメリカが1度消滅したと言うのは知っているか?」

 

「………」

 

ビアンの問いかけにバンの返答は沈黙。沈黙と言うのは時に饒舌に真実を語る物だ、ビアンはその沈黙を肯定と受け取った

 

「滅びの光と救済の光と言う伝承なら知っております、インディアンに代々伝わる物ですが……実はこれがアメリカを中心とした都市伝説のように広がっているのです」

 

民族解放そして反連邦として活動している時に、2つの部族が口論をしていた。その理由は全てを滅ぼす緑の光、全てを救う緑の光。互いの部族に伝わる伝承として、そしてまた互いの部族に伝わる物が間違っているという理由でもめにもめたのだ。

 

「私は部族の民間伝承と考えていました」

 

旧西暦から新西暦に変わる時に消えた物と言うのは数多く存在する、その中で消えて行ったもの、また口伝でも良いと伝わった物は多く存在する。

 

「興味を持って調べてみたのですが、アメリカを中心とする一部の部族、それもかなり年老いた者が夢で見たという話を良く聞きました。予知夢、もしくは恐怖による夢とも思い、それらを昔話として語ったのではと私は考えました。ですが、そうではないようなのです」

 

くだらないと一瞥するにはあまりにもリアル。そしてその夢は民族解放軍を率いている時にバンもまた見たのだ……

 

「魂に刻まれた記憶とでも言うのでしょうか……それとも土地の記憶とでも言うのでしょうか……それらは時々顔を見せるようです」

 

年代も場所も違うのに、滅ぶ街と緑の光を見るらしいですと告げるとビアンは思案顔でそうかと呟く

 

「どう思う、武蔵君」

 

「……オイラが原因ですかね。ニューヨークのど真ん中で自爆した訳ですし」

 

2人の話の内容が理解出来ないバンは1口コーヒーを口に含んでから小さく息を吐く。

 

「どういうことですかな?」

 

「……メカザウルスと言うのは旧西暦に人類を滅ぼそうとした爬虫類から進化した者達の尖兵だ。ああ、判っている、何を馬鹿なと言いたいのだろう。だがこれは事実だ、何故ならばここに生き証人がいる」

 

その言葉に咄嗟に武蔵に視線を向ける。武蔵はバツの悪そうな表情をしながらも頷く

 

「旧西暦の人間……とでも言うのですか?」

 

「ああ、そうなるな。NYで、メカザウルスと戦い、自爆した武蔵君は気がついたらアイドネウス島にいた。それは持っていた物などで証明されている」

 

……ビアン総帥が生きていたのは正直嬉しい、だが私の予想を超える話を告げられ正直混乱している。

 

「総帥はこれからどうするおつもりですか?」

 

「決まっている、人類を滅ぼす外敵と戦う。そのためにゲッターロボの修理を第一に考えているが、調べたい事もある」

 

その目に宿る強い決意の光を見て、バンはビアンの為に尽力する事を決めた。

 

「連邦では無理だと言う事ですか」

 

「いや、連邦にも骨のある物はいる。だが今回は見極めが思うように行かなかった」

 

それは言うまでも無く、恐竜帝国、そしてメカザウルスと言う存在のせいだろう……あんな存在がいればビアンの思い通りに話が進まなかったのも納得だ。

 

「連邦が私が死んだと発表したのは好都合だ。表立って動くのは難しいが、裏で動くには死んだ事にしている方が都合がいい」

 

それは自身が死んだ事で動き出す者がいる……それを聞いてバンは眉を顰めた

 

「アードラーですね?」

 

「ああ、あの男の頭脳は優秀だったが、権力欲と自己顕示欲に満ちている。私が死んだ事にすれば、表立って動くだろう……計画は狂っているが、今の段階ならばその狂いも利用して修正をする。地球を護る剣を見出すという目的を果すまでだ」

 

本来の歴史とは異なる流れ、ビアン・ゾルダークの生存によって、これからこの世界の流れは大きく変わり始めるのだった……

 

 

 

 

 

薄暗い部屋の中をディスプレイの光だけが照らし出す。椅子に腰掛けディスプレイを見て腕を組んでいるのは白い連邦の制服に身を包んだ、どこか影のある紫の髪をした男の姿だった、そしてディスプレイに向けられる視線は喜んでいいのか、それとも嘆くべきなのか、何とも言えない色を宿していた。男の名は「ギリアム・イェーガー」テンペスト、エルザムと同じくかつて教導隊に籍を置いた凄腕のPTパイロットだ。

 

「メカザウルスと聞いてまさかと思っていたんだがな」

 

DCの拠点にハガネが突入しビアン・ゾルダークを倒したと言うのが連邦が発表したシナリオではある。そして、メカザウルスはビアンが作り出した無差別テロ兵器と発表した。だがそれを聞いてギリアムともう1人は何を馬鹿なと鼻を鳴らした物だ

 

「……ゲッターロボ……竜馬……いや、違うな」

 

人の口に戸は立てられぬ、そしてまた隠蔽した筈の情報も全てを隠し切れる訳ではない。衛星で記録された戦闘データであるがゆえでぼんやりと記録された物だが、ハガネと共に行動している特機の姿にギリアムは目を見開いた。それはもう会えない筈の仲間の機体だったからだ……

 

「……隼人でもないな、これは……武蔵か」

 

機体の操縦にはその人物の癖が出る。衛星で記録され、ぼんやりとした姿だったとしてもその姿を、その操縦の癖が判らないはずは無い。

 

「恐竜帝国は滅んだらしいが、ゲッターロボは消息不明……か」

 

出来ればゲッターロボとそしてゲッターロボを操縦するパイロットに会いたいなと呟くギリアムだったが、新しく入った情報に目を細める

 

「シュトレーゼマンの配下の研究所が壊滅……か、きな臭いな」

 

シュトレーゼマンは反EOTIの代表者とでも言うべき男だ。だが、その性質上異星人についての知識は凄まじい、それだからこそ徹底抗戦を掲げたビアンとは相容れなかった。そんな男の膝もとの研究所が壊滅、しかも生存者は無しと来た

 

「そう言えば、大量の機材が運び込まれていたらしいな」

 

それに整備兵も熟練と呼ばれるレベルの者が何十人と配属されていた……それらも全員死んでいるが……この事件の前に配属されている事も確認している。

 

「……何かしでかしたか」

 

運び込まれていたのは、PTで言えば100機近い機体を1から組み上げることが出来るだけの資材だ。何かを作ろうとし、そしてそれを何者かに奪われたと考えるのが妥当だろうか……

 

「っといかん」

 

考え事に没頭していて気付かなかったが、さっきから何度も腕時計のコールがなっていた様だ。今から出発しても待ち合わせ時間には間に合わないな……待ち合わせをしている人物の気性の荒さを思い出し、ギリアムは慌ててPCからフラッシュメモリを取り出して部屋を出る

 

「随分遅かったわね」

 

「申し訳ない。少し調べている事があってね」

 

古びれたバーに向かい、老いた店主と待ち合わせをした1人の女だけがいる。そんな廃れたバーにギリアムが訪れると先に待っていた目付きの鋭い、金髪の美女が非難の声を出す。

 

「お詫びにここの代金は全部俺が持とう」

 

その言葉にその女は小さく笑みを浮かべる。老いた店主の酒とつまみを注文する

 

「ビールとジャーキー……か、仮に女優としている者が頼むものではないな」

 

「うるさいわよ、ギリアム」

 

ギリアムのからかいの言葉に女は鋭く目を細める。ギリアムはやれやれという素振りで手を上げると店主は何かを察しして厨房へと消える、それは店主に離れろという合図であり、この店が裏の情報の交換場所と知る客の間に伝わる合図だった。

 

「……まだ注文が来てないんだけど」

 

「飲む前に聞いてもらう必要があるからな、元百鬼帝国の胡蝶鬼」

 

もう捨てたはずの経歴、そして名前を告げられ女の顔色が変わる。今まではやる気が無いという感じだったのだが、冷酷とも言える気配を身に纏った。

 

「その名を出すという事は何か判ったんでしょうね?」

 

この女の名はアゲハ・キジマ……若くはあるが女優としての地位を持つ少女だ。その女王とも言える美貌を歪め、ギリアムを見つめるアゲハにギリアムは1枚だけ印刷した写真を見せる。

 

「……! ゲッターロボ……いえ、でもGじゃないわね。これは旧ゲッターロボね」

 

「そうだ。それがアイドネウス島近辺で目撃されている」

 

「私のような迷い人が現れたって事ね」

 

「そういうことだ、現にメカザウルスの事も知ってるだろう」

 

ギリアムとアゲハだけではない、この世界にも次々と迷い人が訪れている。そしてそれは決して、味方とは言い切れないのもまた事実だった。

 

「もしも、誰かが接触してきたら頼む」

 

「……まぁ角こそ無いけど、生前のままだしね。判ったわ、でも惚けるわよ」

 

それでいいとギリアムは返事を返す。姿こそは生前……いや、別の世界の己のものであり、角こそないがその容姿は以前のままだ。そしてアゲハとギリアムが顔見知りなのは、胡蝶鬼を知るギリアムが探りを入れに来たからでもある。

 

「メカザウルス、恐竜帝国と来たら百鬼を警戒するのは当然よね」

 

「……ああ。出来れば俺の思い過ごしであって欲しいと願っているがな」

 

新西暦とは違う歴史を知るからこその警戒、そしてそれを伝えることが出来るものが限られているからこその焦りだ。

 

「まぁ覚えてはおくわ」

 

アゲハはそう告げると灰皿を頂戴と呼びかける。それが店主を呼ぶ合言葉となっている、ゆっくりとした仕草で灰皿を置き、ギリアムとアゲハの前にビールを置く

 

「車で来たんだがな」

 

「付き合いなさいよ。1人で飲んでも味気ないんだから」

 

そうは言うがアゲハの願いはそこではなかった。誰も自分を知らない孤独、知ってるけど、知らない世界、自分だけが独りぼっち……その恐怖を知るギリアムと話をしたい、それだけで。最優秀女優賞の受賞パーティを抜け出して来たのだ、これではい、さようならじゃ抜け出した意味がない。立ち上がろうとしたギリアムの手を掴み、椅子に座らせるアゲハにギリアムは疲れたように溜め息を吐き、ビールのジョッキを手にするのだった。

 

 

 

 

武蔵とビアンがバンと合流してから1週間が経った。予想通りと言うべきか、マイヤー亡き後の統合軍はアードラーの率いるDCに取り込まれる形になった

 

「些か不味い展開だな」

 

連邦軍本部であるジュネーブの近くにある独立国家「リクセント公国」にアードラーの命令で攻め込んだDC、そして齢12歳でありながらリクセント公国の現国家元首である「シャイン・ハウゼン」は連邦の極東支部に保護されたのだが、保護された場所が悪すぎた。

 

「アードラーを迎え入れたのは失敗だった……か」

 

権力欲や金欲に塗れた奴は、それを持つものを嗅ぎ分ける嗅覚でも持っているのかアードラーの言う、連邦の協力者がいる場所が極東支部。そしてシャイン皇女は浚われてしまった……

 

「急がねば……」

 

アードラーが研究していたゲイムシステム。その生体ユニットとしてシャイン皇女は狙われた、未来予知を持つシャイン皇女をゲイムシステムと組み合わせればそれは無敵の機体になる。その提案を1度蹴ったビアンだから判る、アードラーはシャイン皇女をゲイムシステムの生体ユニットにするつもりだと。あの手の狂人は自分の計画を実行する為ならば、どんな手も使う。その頭脳を利用しようとしたのだが間違いだったかとビアンは呟き、頭上を見上げる。目の前に広がるのは天井だが、ビアンの視線にはその先に浮かぶものが見えていた

 

「……今が好機と見たか」

 

DCが倒れると同時に地球圏に現れたネビーイーム……異星人の機動要塞の出現。それは武蔵には伝えていないが、ビアンが危惧した異星人の襲撃が現実になったという証拠だった。本当ならネビーイームの対策をしたい、だがアードラーが動き回っている以上先にアードラーを何とかしなければ背後から撃たれる可能性がある

 

「……間に合うか……いや、間に合わせてみせる」

 

リオンやガーリオンでは、アードラーの一味と思われるので表立って動けない。今、ビアンの手元にあり、自由に動かせるのはゲッターロボしか存在しない。だがそのゲッターロボも応急処置の状態で戦い続けた事で今は修理中だ。その中でもジャガー号の状態は酷いもので、元々ボロボロだったのを無理に動かしていたツケが今回って来ている。

 

「総帥、エルザム少佐との連絡がつきました」

 

「そうか、悪いがこっちに回してくれ」

 

この基地のオペレーターにそう頼む。するとゲッターの修理を進めていた端末の画面が切り替わり、クロガネと繋がりエルザムの姿が映し出される。

 

『ビアン総帥。ご無事で何よりです』

 

「はは、武蔵君に責任を感じるならば生きて償えと怒られたからな」

 

冗談めいた口調にエルザムは武蔵君らしいと笑う、だが近況報告の為だけにエルザムとの連絡を取ろうとしたわけではない。

 

「マイヤーと共に死ぬつもりだったのだが、1人だけ生き延びてすまない」

 

『いえ、父は本懐を遂げたと思っております。どうか御気になさらず』

 

エルザムはそうは言うが、自分の思想に共感し戦争を起こしたマイヤーが死に、自分だけが生きているとなると罪悪感が重く圧し掛かってくる。

 

『もし責任があるとお考えならば、どうか生きて償ってください。それが何よりも我が父への手向けとなるでしょう』

 

武蔵と似た言葉だ。だがこうして生き延びた以上死と言う償いではなく、生きて償う事を心に決める

 

「今私と武蔵君はバン大佐の所にいる。悪いが合流してくれ、アードラーを止めるにはお前の力が必要だ」

 

『了解しました。クロガネの進路をそちらに向けます、ではビアン総帥。これ以上は通信を傍受される危険性がありますので』

 

そう告げて通信を切るエルザム。再びゲッターの修理に戻ってみたが修理状況は良い所7割と言うところだ。せめてもの救いはゲッター線が最大まで貯蔵されている点だろう。機体が本調子とは言えずとも、エネルギーが最大になっていれば出来る事もある。勿論ビアンとて完璧な修繕を諦めたわけではないが、いかんせん時間がない。

 

「エルザムが合流するまでにはゲッターの修理を終えておきたい物だ」

 

マイヤーが死んだと言うことは今統合軍の指揮を取っているのはリリー・ユンカース中佐だろう。彼女は誰よりもマイヤーを慕い、そしてビアンとマイヤーの願いにも共感していた。そんなリリーがアードラーに協力するわけが無い、彼女と行動を共にしているゼンガー・ゾンボルト少佐も同じだろう。

 

「……何とか連絡がつけば良いのだが」

 

それも今の段階では難しい、可能ならば何とかして接触を取りたいのだが……連邦から追われている以上それもまた難しい。死んだ事になったから出来る事もあるが、それ故に出来ない事も多い。だがそれでもビアンはやり遂げなくてはならない……弱音を吐いている時間は無いと再びゲッターロボの修理を再開するのだった……

 

「な、無理はいわねえ。お前さんにゲッターは無理だ」

 

「まだまだあ……」

 

「いやあ、やる気は買うぜ? でもよ無理だって死んじまうよ」

 

そして武蔵はと言うとビアンが作成したゲッターロボのシュミレーターでゲッターロボに乗れるかもしれない者を探していたのだが、その結果は死屍累々と言う余りに悲惨な結果だった。全員が戻すか、白目を向いて倒れている。そして今も涙を流しながら、シュミレーターに乗り込もうとする男を武蔵は止めていた。これ以上は死んでしまうという判断からだ。だが余りに悲惨すぎる光景を見て、初めて武蔵は自分やリョウや隼人が如何にに異常だったのかを思い知るのだった。

 

「どれ、私が乗ろう」

 

「……大丈夫ですか?」

 

「問題ない、見ているがいい」

 

自信満々にシュミレーターに乗り込むバンを見送る武蔵、そしてシュミレーターが緊急停止するまで後1分45秒……倒れていたバンの部下達が座り込み頑張ってください大佐と応援する姿を見ながら、武蔵はタオルやスポーツドリンクの準備を始めるのだった……

 

 

第31話 VSゲッターロボ その1へ続く

 

 




今回はちょっと伏線を用意してみました。あとバンさん好きだけど、なんかふわふわしててごめんなさい。次回はちょっと話を飛ばして書いていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第31話 VSゲッターロボ その1

第31話 VSゲッターロボ その1

 

連邦軍の本拠地であるジュネーブ。そこには現在連邦の司令と呼ばれる者達が集まっていた……その議題は地球圏に現れたネビーイームと呼ばれる巨大な移動要塞の出現による会議である……極東支部から呼び出されたレイカーはそうであると思っていた。だが蓋を開けてみれば、その会議の内容は彼の予想を大きく上回っていた。まず、今回の地球圏防衛会議の主催者は反EOTIであり、そして異星人への降伏を選択したアルバート・グレイを初めとしたビアンの主張を一切聞き入れなかった者達で構成されていた。その段階で抗戦派のレイカーとノーマンの立ち位置は危うい物となっていた。

 

「それから、コロニー統合府のブライアン・ミッドクリッド大統領もジュネーブに来ている」

 

「ほう、あの名政治家が……」

 

味方とは言い切れない、だがEOTI審議会による議論の一極化は防いでくれるかもしれないと言う期待をノーマンもレイカーも抱いた。

 

「統合軍によって拉致され、ヒリュウ改によって救助されたミッドクリッド大統領ならば、われわれの目的に理解を示してくれるかもしれない」

 

だが完全に理解し、自分達に味方してくれるとは言い切れないな……レイカーは心の中でそう呟き、ノーマンと共に会議室へと足を向けた。

 

「極東支部とダイテツ・ミナセ中佐にはゲッターロボとムサシ・トモエの捕縛を命じていたはずだが、何故逃亡を許したのかね?」

 

だがそこでノーマンとレイカーを待っていたのは、ムサシを逃がした事に対するダイテツを責める話だった。

 

「ムサシは決して敵ではなく、恐竜帝国と言う敵勢力と戦ってくれた善意の民間人です。彼を捕縛する理由は何ですか?」

 

「……捕縛しろと言っているんだ! お前達のような軍人が政治に口を挟むんじゃない」

 

「それはおかしいですな大使、何故ムサシと言う民間人を捕らえる事が政治に関係するのですか?」

 

ノーマンの言葉にアルバートは眉を顰める、理由は判らないがムサシを捕らえる事が異星人との交渉に関係しているのかもしれない。

 

「もしや、彼を人身御供に出すことが交渉の条件とでも言うのですか?」

 

「う、うるさいうるさい! 戦う事しか考えることの出来ない野蛮人が何を言う!」

 

急に叫びだすアルバートにレイカーは確信した。ムサシとゲッターロボには自分達の知らない秘密があり、それがアルバートが交渉出来ると思い込んでいる理由なのだと……

 

「それよりもだ! ムサシ・トモエを指名手配にし、生かしたまま捕らえるんだッ!!」

 

「それはおかしくないかい? 僕は異星人に対する対策会議と聞いてきているんだが、何故そこに民間人が関係してくるのかな?」

 

レイカーとノーマンに怒鳴り続けていたアルバートがブライアンの言葉で黙り込んだ。

 

「大使に聞きましょう、何故そこまでムサシ・トモエに拘るのですか? それは異星人会議よりも大事なことなのですか?」

 

「……詳しくはお話できませんが、彼を捕える事が大事なのです」

 

アルバートの発言にブライアンは明らかな失望の色を瞳に浮かべる。罪を犯したわけでもない、それなのにまるで犯罪者の様にムサシを扱おうとするアルバート。しかも詳しくは説明出来ないとこればブライアンが失望するのも当然だ

 

「では僕はコロニー統合府大統領として、ムサシ君だったか、彼を罪人とすることに反対させて貰うよ」

 

「……ムサシを捕える事が地球を救う事になるのだ」

 

「何故かな? 彼はただの善意の民間人と言うじゃないか、それがどうして地球存続に関係するのかな?」

 

最もな疑問にアルバートは呻くと同時に黙り込む。そして口を開こうとするが、言葉に出来ず口を閉じたり、開いたりするだけとなる。

 

「ムサシ君をどうこうするよりも、今はまず異星人対策をどうするか、それをはっきりさせてくれよ。これは地球圏防衛会議であって、ただ1人の民間人の罪状をでっち上げるための会議ではないんだろう?」

 

ブライアンの責めるような視線と言葉にアルバートは耐え切れず目を逸らす、その態度を見れば誰もが後ろめたい取引なのだというのは明らかであった。

 

「さてと、じゃあ改めて地球圏防衛会議を始めようじゃないか」

 

ブライアンが仕切る事で改めて会議が始まった。だがブライアンに丸め込まれた事を自分に逆らえないレイカーとノーマンで発散するかのように、無理な要求を突きつけるアルバートにレイカーもノーマンも精神的に疲弊しきる事となるのだった……

 

 

 

 

 

ゲッターロボがバン大佐と合流するまでの4日間、武蔵とビアンは決して寄り道をしていた訳ではない。キラーホエールに乗って退避させていたゲッターロボと炉心の設計図を持つ科学者達に声を掛け、バン大佐の元に来るようにと伝えて回っていたのだ。正直半壊したゲッターロボでは厳しい所もあった、それでもビアン1人でゲッター線を実用レベルにするのは不可能であり、ビアンが認めた科学者だからこそ呼び寄せることにした

 

「来た来た来たーーーーーーッ! おい! ゲッター線の定着率はッ!?」

 

「70……80……85%ッ! 行けーッ! そのまま行ってくれーーーーッ!!!」

 

「ヒャッハーーーーーッ!!!! 俺達は新しい時代を作るんだーッ!!!」

 

ただしアードラー同様少し……いや性格に難はあるが、科学者として研究者としては優秀なのだ

 

「はははははーーーーッ!! ははッ!! はーッはははーーーーッ!!!」

 

その中に赤いコートを着た髭のダンディが混じっているが、決して気にはしてはいけない。研究とは時に正気を失わせるのだ、そしてゲッター線照射装置が停止し、ゲッター線が照射されていた金属には確かにゲッター線の幾何学模様が浮かんでいた

 

「出来た! 出来たぞッ! ゲッター合金だッ!!」

 

「イエーーーーッ! これで炉心が作れますね! ビアン博士!」

 

「いやいや! まずはゲッターの装甲の補修だろッ!!」

 

「武器! でかくて、重い、ハンマーーーッ!」

 

「馬鹿だなあ、男ならドリルしかねえだろう?」

 

「ハンマードリルだぁッ!」

 

「ハンマードリル……くそ、お前馬鹿じゃなくて、天才だったのかよ……」

 

なんか物凄い馬鹿な話をしている研究者がいるが、うん、大丈夫。多分大丈夫、まだ引き返せる可能性はある

 

「お前達は何も判ってないな、ドリルパイルバンカーこそが至高だッ!」

 

「いや、レールガンだ。レールガンをゲッター合金で実現するんだぁッ! スペースノア級に搭載できるレールガンこそ最強ーーーッ!」

 

「「「黙ってろ、ロマン武器馬鹿共ッ!!」」」

 

ロマン武器馬鹿研究者の話を聞いて、良いなそれと呟いているビアンを見て周りの研究者は信じられない物を見るような顔をしてビアンのほうに向き直る

 

「「「ビアン博士ッ!?」」」

 

「い、いや、すぐに作るというわけではなくてだな……あ、あくまで最終的。最終的なことを言っているんだ

 

そんな感じで連日連夜、バン大佐が管理する地下基地はどこぞの原住民の宴状態だった。しかもそこにビアンが混じっているので止める事も出来ず、武蔵達はそれを見て苦笑いを浮かべる。

 

「バンさん、ビアンさんって昔からあんな事を?」

 

「い、いや……きっと徹夜続きでどこかおかしくなってしまったのだろう」

 

ゲッター合金の周りを踊り狂う学者(ビアン含む)は狂乱状態と言っても良いだろう。暫く呆れた様子で見つめていた武蔵とバンだが、1人、また1人と力尽きたのかその場で倒れて動かなくなる

 

「ぶつぶつ……ゲッター合金……柔軟……硬度……」

 

1人だけぶつぶつと呟いているビアン、超集中に入っているのかバンの言葉も武蔵の言葉も届かない様子だ

 

「すまないな、武蔵」

 

「いえいえ、大丈夫ですよー」

 

力尽きた科学者達を背負い、仮眠室へと運ぶバンと武蔵。これがここ数日のバンと武蔵の日課となっていた、ビアンは力尽きるまで研究し、ゲッターロボの足元で死んだように眠るので風邪を引かないように布団を運ぶのも武蔵の仕事だ

 

「他の兵士がここまで嫌がるとは……な」

 

「はは、幽霊を見たでしたっけ? そんなことありえないんですけどねえ」

 

最初は巡回の兵士がビアンに布団を被せ、力尽きた科学者を運んでいた。だが突然それを嫌だと言い始めたのだ、その理由は幽霊を見たという余りにも情けない言葉。その姿に、バンは自分と武蔵でやると言い出したのは仕方の無いことだ

 

「戦争をしているのだ、精神の弱い者は幻覚を見る」

 

「そうなのかもしれないですね、それか外に出れないストレスですかね」

 

「そうだとしてもだ、我等は為さねばならぬ使命がある。そのような弱さは許されないのだ」

 

力強いバンの言葉に武蔵は笑う、確かに厳しくはある。だがその厳しさは武蔵にとって心地よく、信用出来ると思わせる。そしてバンからしても、武蔵の素直な性格は素直に好感が持てる物だった。それほど日にちは過ぎていないが、武蔵は既にこの基地での信用を勝ち取っていた

 

「ああ、それと明朝クロガネが到着する。申し訳ないが、出迎えを頼む」

 

バンの頼みを快く引きうけ、武蔵はビアンに出す為のインスタントコーヒーを準備する為に格納庫を後にする。そして明朝、朝靄に隠れながら1隻の戦艦が降下してしてくる……それはDCの旗艦にして3機めのスペースノア級戦闘母艦……巨大なドリルを持つ漆黒の戦艦「クロガネ」は、リオンやガーリオンに護衛されながら、砂漠に隠されたバンの拠点である隠し基地にゆっくりと収容される。

 

「エルザムさん!」

 

クロガネから降りたエルザムの耳に武蔵の声が飛び込んでくる。声の聞えた方に視線を向けると武蔵が手を振っているのが見え、エルザムも手を振り返す。確かに敵対し合う事になったが、それは意見の違いであり、ビアンも武蔵も、そしてエルザムも願いは地球を護ると言うことで共通している。それにアイドネウス島での恐竜帝国との決戦では共闘したこともあり、エルザムと武蔵の間に蟠りは無かった。

 

「こっちです、ビアンさんが呼んでます」

 

武蔵に案内されエルザムはビアンの元へと向かう、そこは予想に反し会議室などではなく、地下に隠されているバンの拠点の中でも最下層に位置する特殊ドッグだった。

 

「ゲッターの修理は済んでいるようだな」

 

「はい、やっと完全に修理が済んだみたいです」

 

DCを蹴散らし、恐竜帝国と戦った時でも万全ではなかったと言うのだからゲッターのパワーにはエルザムとしても驚かされる。ゲッターの全身を確認しながら階段を下りていくと人だかりが出来ているのにエルザムは気付いた。

 

「武蔵君、あれはなにをやっているんだい?」

 

置いてあるのはPTやAMのシュミレーターではない、もっと大型の戦闘機などのシュミレーターだ。それをわざわざ引っ張り出して何をしているのかをエルザムが尋ねる。するとそのタイミングでシュミレーターが開き、バンが姿を見せた

 

「やったあ! バン大佐がゲットマシンのシュミレーターをクリアしたぞッ!!!」

 

「おめでとうございます! 大佐ッ!!!」

 

ゲッターロボのシュミレーターと聞いてエルザムは驚いた。思わず武蔵に視線を向けると、武蔵は頬を掻きながら理由を説明してくれた。

 

「バットと戦って思ったんですけど、やっぱり単独操縦には限界があって、乗れそうなパイロットを探すためにシュミレーターを作って貰ったんですよ」

 

その言葉になるほどとエルザムは頷く、元々ゲッターロボは3人乗り、それを1人で動かすには限界があるのは当然。だが、前はパイロットを探している時間は無かったが、表立って動かない今パイロットの選出をするのは当然だ。

 

「武蔵……これで……む、少佐か。久しぶりだな」

 

「ええ、お久しぶりです。バン大佐」

 

バンと握手を交わすエルザム。アイドネウス島で会ったきりだが、元気そうで何よりだと互いに挨拶をかわす

 

「おめでとうございます、ゲットマシンを乗りこなせたんですね」

 

「ああ。何度戻して、気絶したかは忘れたが……イーグル号か、あれは何とか操れるようになった」

 

「それでも凄いと思いますよ、大佐」

 

いつ武蔵とビアンがバンと合流したかは判らないが、時間的な余裕は数日あったかどうかだろう。その短時間でゲットマシンに乗れるようになったバンを素直にエルザムは賞賛した。あの悪魔のような乗り心地はエルザムにとっても一種のトラウマになっていたからだ……

 

「だがまだまだと言う所だ。合体シミュレーターと戦闘シミュレーターをクリアしないことにはな……」

 

ゲットマシンを乗りこなす事が出来てもゲッターロボに乗れないのでは意味は無い。その目に強い光が宿っているのを見て、エルザムも武蔵にシュミレーターを使ってみても良いかと尋ねる。

 

「武蔵君、ビアン博士への挨拶を済ませたら私も乗って見てもいいかな?」

 

「こちらこそお願いします。エルザムさんはジャガーを飛ばせましたから、練習さえすれば大丈夫だと思いますよ」

 

今すぐにでもシュミレーターを試したい気持ちはあるが、まずはビアンに挨拶するべきだと判断し、武蔵を促してビアンの元へと案内して貰ったエルザムなのだが……その場所の光景を見て驚かされた。ゲッターロボの足元のコンピューターの近くでうつ伏せで倒れているビアン。その姿を見て叫ばなかった自分をエルザムは褒めてやりたいと思っただろう、だが武蔵は仕方ないという様子で肩を竦めてビアンに近寄る。

 

「あーあ、またこんな所で寝てる。ビアンさん、ビアンさん。こんな所で寝ると風邪引きますよ?」

 

「ん、んむ……ああ、すまないな」

 

武蔵に肩を揺さぶられ目を覚ますビアン。武蔵はそんなビアンに肩を貸して椅子の上に座らせ、その手にコーヒーのカップを持たせる。カップの中のコーヒーを啜り頭が回転し始めたらしく、向かい合って座っている私にこの時初めて気付いたようだ。

 

「少佐か、よく合流してくれた」

 

「いえ、ビアン総帥も……」

 

お元気そうで何よりと言うことは出来なかった。今の今まで死人のように倒れて寝ていたのだ、お元気そうとはとてもだが言える訳が無い。

 

「ふふふ、いや、すまないな。研究に没頭しすぎてあの様だ……だがこれでゲッターロボは万全と言える、後はパイロットを3人揃えるだけだ」

 

異星人と戦うにはゲッターロボを早く万全にするべきとビアンは考えているようだ。確かにあの戦闘力は魅力だ、不完全な1人乗りでもあれだけの力を発揮するゲッターロボ。敵戦力が未知数なので戦力を整えるのは最優先するのは当然だ

 

「それで少佐。リリー中佐とは連絡はついたのかね?」

 

「はい、タクラマカン砂漠に降下する予定と聞いております。ただ、問題はハガネとヒリュウ改もその周辺にいるということです」

 

エルザムとビアンからすればリリー・ユンカースという人物には生きて欲しいと思っている。ハガネやヒリュウ改は連邦の中でもかなり特殊な立ち位置にいる、交渉の余地はあるが……

 

「我が友ゼンガーも同行しているので、最悪のケースは避けられると思いますが……」

 

「出来る事ならば応援を送り込みたい所だな」

 

降下した直後と言うのは機体にもパイロットにも強い負担をかける。そう言う戦場では普段ありえないジャイアントキリングが起きかねない……だがバンの部隊もエルザムの部隊も動かすことは出来ない。連邦からすれば、どちらも敵だ。そして名目上はアードラーと合流する為に降下してきている以上、リオンやガーリオンで出撃すればそのままアードラー派に合流することになる。バンの部隊、エルザムの部隊と言う事がバレれば、アードラーの事だ。クロガネがどこにいるのか? 何故バン大佐が合流しないのかと追求し始めるだろう。それはビアンにもエルザムにも避けたい事態だ……

 

「オイラが行きましょうか? ゲッターなら支援して撤退してくるのも出来ると思うんですよ」

 

「……武蔵君。頼めるかね?」

 

ハガネに乗っていた事もあり、出撃することは武蔵にとってもリスクはある。だがそれでも今自由に動けるのは武蔵だけだった、ビアンは苦渋の決断で武蔵に出撃要請をすることにした。

 

「任せてくださいよ! あ、でもその前にそのえーっとリリーって人ですか? その人が乗ってる戦艦とかゼンガーって人の機体を教えてくれますか?」

 

「勿論だ。それと、可能ならばゼンガーに通信機を渡して欲しい」

 

「了解です! 丈夫で長持ちの武蔵さんに任せてください!」

 

そしてタクラマカン砂漠でハガネ、ヒリュウ改がDCと統合軍の残兵と戦闘を始めた頃。ゲッターロボはタクラマカン砂漠に向かって出撃するのだった……

 

 

 

 

ジュネーブの護衛の任務を与えられているハガネとヒリュウはタクラマカン砂漠を経由して、ジュネーブへと向かう進路を取っていた。だが統合軍司令であるマイヤーを倒したヒリュウ改と、ハガネがたった2艦で動いている。それはDCや統合軍にしても撃墜する最大のチャンスである。敵の伏兵が隠れている事を考慮し、マサキとリューネの2人が偵察へと出た。DC総帥の娘であるリューネ・ゾルダークと、アイドネウス島でメカザウルスと戦ったサイバスターの存在は決して無碍に出来るものではなく、2人の計画通り統合軍の敗残兵を誘き出す事に成功した。最初こそ、先行していたサイバスターとヴァルシオーネが囲まれる結果となったが、ハガネとヒリュウ改が合流したことにより、統合軍との戦力差は広がり始めていた。だがタクラマカン砂漠は統合軍の降下ポイントになっていたこともあり、リリーが率いる統合軍の部隊もまた、ハガネとヒリュウ改が統合軍と戦う場所に現れた

 

「ねえ、キョウスケ……あれってやっぱり」

 

ペレグリンやガーリオンと言う統合軍の主力の中に佇む、黒いグルンガストを見て、ATX計画で開発された白銀の天使と言うべきPT「ヴァイスリッター」のパイロットである「エクセレン・ブロウニング」がパートナーであるキョウスケ・ナンブにそう声を掛ける

 

「ああ……間違いない」

 

カブトムシを連想させるPT「アルトアイゼン」に乗るキョウスケも、黒いグルンガスト……グルンガスト零式を見てその表情を強張らせる。その機体の強さ、そしてそのパイロットである「ゼンガー・ゾンボルト」の強さを知っているからだ。そしてグルンガスト零式から広域通信が放たれる

 

「ハガネ、そしてヒリュウ改の戦士達に告ぐッ!! 我が名はゼンガー! ゼンガー・ゾンボルト! 悪を断つ剣なりッ!! ここを通らんとする者は、何人であろうとも、零式斬艦刀で一刀両断にしてくれるッ!!!」

 

零式の象徴である「零式斬艦刀」を振りかざし、そう叫ぶグルンガスト零式の圧力は凄まじく、思わずR-1にのっていたリュウセイが叫んだ。

 

「な……なんだ、あいつ!? 馬鹿でかい剣を持ちやがって……グルンガストの新型か!?」

 

ハガネにはグルンガストがあることもあり、見たことも無いグルンガストの姿に新型と勘違いする、リュウセイ。だがそれはグルンガストを駆るイルムによって違うと告げられる

 

「いや、あれは剣撃戦闘能力を特化させた試作型……」

 

「ゼンガー・ゾンボルト少佐のグルンガスト零式よ」

 

元トロイエ隊のレオナ・ガーシュタインがイルムの言葉に付け加えて告げた。ゼンガー・ゾンボルト、元ATXチームのリーダーであり、DCへと寝返ったパイロットの名前だったからだ。

 

「そう、私達ATXチームの元ボスよ」

 

自分達のリーダーが再び敵として立ちふさがった。その事に普段はお調子者で明るいエクセレンも悲しそうな様子でヴァイスリッターを零式へと向けた

 

「久々の再会……ってとこね。1人で私達を止めようとするなんて相変わらずみたいね」

 

多勢に無勢、この状況で1人で残ることの危険性は誰が見ても明らかだ。それこそ死ぬ為に残ったと思われても仕方ない、そんなゼンガーを見てキョウスケとエクセレント同じくATXチームの「ブルックリン・ラックフィールド」……ブリットが同じく広域通信で叫ぶ

 

「ゼンガー隊長! 自分達が戦わなければならない理由はもう無いはずですッ!」

 

DCもコロニー統合軍も既に壊滅寸前、今は人間同士で戦っている場合ではないと説得を試みる。だがゼンガーの返答は拒絶だった。

 

「ブルックリン……戦士たる者、ひとたび戦場に身を置けば……眼前の敵を倒す事だけに専念しろと教えたはずだッ!!!」

 

ゼンガーの凄まじい一喝が広がる、それはPTに乗っていても威圧されるほどの凄まじい力が込められた言葉だった。

 

「しかし、自分たちの共通の敵はエアロゲイターの筈です! 今こそ力を合わせるときではないのですか!!」

 

しかしブリットも宇宙での統合軍との戦いを切り抜けた猛者だ。気の弱い人間ならば威圧され、動けなくなる一喝を受けてもなお、自分達の隊長であるゼンガーの説得を試みる

 

「問答無用ッ! 己の信ずる道ならば、己の力で押し通って見せろッ!!!」

 

ゼンガーの力強い一喝にブリットは息を呑み、同じ通信を聞いていたエクセレンがブリットへ通信を繋げる

 

「……ブリット君。ああなったら、ボスはテコでも動かないのは判っているでしょ?」

 

「で、でも!」

 

それでもゼンガーと戦う事を拒むブリット。尊敬しているゼンガーと戦う事に迷いが生まれるのは当然だが、ここは戦場だ。戦う、戦わないという話をしている余裕はない

 

「そこまでだ、ブリット。ゼンガー・ゾンボルトとの決着は俺がこの手でつける」

 

アルトアイゼンを象徴する右腕の杭打ち機のリボルビングステークを零式に向ける

 

「良い度胸だ。来い! キョウスケ・ナンブッ!」

 

「ゼンガー……勝負だッ!!」

 

ゼンガーに対して静かだが、凄まじい闘気がゼンガーの気迫とぶつかり、2人の気迫で空気が震えたと思った瞬間。凄まじい振動が周囲に響く

 

「な、なんだ!? 何が起こって……!?」

 

地震ではない、地震だったとしてもPTがここまで揺れるわけが無い、まるで巨大な何かが砂漠を掘り進んでいるような……そんな衝撃が続く、ランドリオンを初めとした陸戦型のAM、PTがバランスを崩す中、統合軍、そしてハガネとヒリュウ改の間から、高速回転するドリルが姿を見せ、ドリルから腕、そして頭部と徐々に砂漠から巨大な特機が姿を現した。

 

「な、なんだありゃ!? DCの新型か!」

 

「あんな特機があるなんてッ!」

 

ヒリュウ改の面子は見たことも無い特機に驚愕し、そしてハガネのクルーはヒリュウ改のクルーに広がった動揺とは全く異なる動揺が広がった……

 

「ゲッターロボ……」

 

「武蔵! なんでそっち側にいるんだッ!?」

 

砂漠から完全に姿を現したゲッター2はその左腕のドリルの切っ先をハガネとヒリュウ改へと向ける。恐竜帝国との戦いでは味方だった武蔵が敵として立ちふさがる……それはハガネのクルーに凄まじい衝撃を与えるのだった……

 

 

 

 

グルンガスト零式のコックピットでゼンガーは動揺した。突如地面から現れた白銀の特機。それが自分の隣に立ち、武器であろうドリルをハガネとヒリュウ改に向ける姿に動揺するなと言うのが無理であった。

 

「なんで……か。悪いな、リュウセイ。オイラにもオイラの都合ってもんがある、ここでこの人に倒れられる訳には行かないんだよ。エルザムさんの頼みでもあるしな」

 

白銀の特機から告げられた親友でもあるエルザムの名に、僅かにゼンガーは平常心を取り戻した。

 

「お前は?」

 

「ゼンガーさんで良いのかい? 黒いグルンガストってしか聞いてないから状況を見てたんだが……それらしいのはあんたしかないからな。ゼンガーさんであってるかい?」

 

逆にそう尋ねられゼンガーはそうだと返事を返す。エルザムの名前を告げられ、そして親友からの頼みで応援に来たという見知らぬ特機……だが少なくともハガネとは何らかの因縁があるようだ。

 

「そうか、お前は敗残兵についたのか? 武蔵」

 

「いやいや、そういう訳じゃないぜイングラムさん。たださっきも言った通り、オイラにはオイラの都合があるって事だ」

 

万力のような腕を動かし、器用に肩を竦ませるような動きをする特機を見て、決死の覚悟で残ったゼンガーは邪魔をされたと怒鳴るべきなのかと僅かに悩み、そして気付いた。白銀の特機の背後に落ちているコンテナの姿に……まるで回収しろと言わんばかりのそれを、ゼンガーは僅かに悩みながら拾い上げ、補給が出来ず空になっているアーマーブレイカーのコンテナを収容した。

 

「ふん、何か判らんが、味方なら協力しろ! 俺に協力するならば「あ、オイラはそう言うのじゃないから。ただゼンガーさんっていう人とリリーって人を助けてくれって言われて来ただけだから」

 

味方だと勘違いしたジーデルの言葉を両断する武蔵。能天気とも言える口調で告げられる言葉に両軍に動揺が広がる……

 

「じゃあ、DCについたわけじゃないのか?」

 

リュウセイがそうであってくれと言う感じで武蔵にへと問いかける。

 

「あったりめえだ。オイラはオイラの考えで動いているし、DCとか、統合軍とかは関係ない……っと」

 

会話を遮るように放たれるランドリオンからのミサイル。ゲッター2はそれを残像を残しながら回避する

 

「速い……! 特機クラスであの機動力だと」

 

「敵じゃないけど……味方でもないって感じよね、あの口ぶりだと……」

 

ゲッター2の機動力を知っているハガネは動揺することは無い、だが初めてゲッターを見るキョウスケやヒリュウ改のクルーには驚愕が広がる。

 

「ったく、落ち着いて話も出来ねえなぁ……死にたくなければ脱出しなッ!!」

 

ゲッター2の左腕のドリルが高速で回転し、砂漠の砂を膨大に巻き上げ、辺りの視界はどんどん悪くなっている。だがそれだけでは終わらない、砂漠と言う広大な面積に広がる凄まじい風は砂をはらみ叩き付けられるその音はまるで巨大な台風のようだ。

 

「ドリル……ハリケェェェンッ!!!」

 

雄叫びと共に放たれた左腕の突き、そして突き出されたドリルから放たれた突風がランドリオンを巻き上げ、吹き飛ばしていく……それだけに収まらず、砂漠を抉り、上空の雲を吹き飛ばしてもなお周囲を荒らしている突風。それがたった1体の特機によって与えられた被害とは信じられなかった……

 

「マジかよ……」

 

「し、信じられない……なんていうパワーだ」

 

「……ちょっと、キョウスケ。ボスに加えて、あの特機ってちょっと洒落にならないわよ」

 

自然現象を操ると言っても過言ではないパワーを持つ、敵か味方かもわからないゲッターの存在はヒリュウ改のクルーに凄まじい衝撃を与える。

 

「まぁなんだ、オイラにもオイラの都合がある。ダイテツさん、物は相談なんだが……ここは何も見なかったことにして、通り抜けてくれないか? もし先に行ってくれるならば、あの統合軍って奴はオイラが食い止めてもいい、あ、でもゼンガーって人は見逃して貰う」

 

「な! お前何を言っている!」

 

武蔵から提案される案。確かにここに留まるよりも、先に進む方がよっぽど有意義だろう……だがいつの間にか自分まで見逃せという話になっているとゼンガーが声を荒げる。

 

「ゼンガーさん、オイラにも、あんたにもやるべき事があるだろ? それを優先するべきじゃないのかい?」

 

武蔵の言葉にゼンガーも言葉に詰まる……どうするべきか、ここでキョウスケたちと戦うのか、それともエルザムに託された物を確認するのか……何が正しいのか、ゼンガーは零式の操縦桿を握り締め己に問う。そして出した決断は1つ

 

「悪いが俺は引かん」

 

「そうか、ならオイラは何も言わない」

 

一度は萎え掛けたゼンガーの闘気が増す。その姿を見て自分は余計な事をしたなと武蔵は思い、何も言わずドリルを構えさせる。それはハガネ、ヒリュウ改、そしてジーデルが乗るライノセラスのこの場にいる全ての戦艦を狙える立ち位置だった。武蔵はどんな返答であれ対応できる準備をしていた。そして武蔵に提案された案を呑むべきかどうかとダイテツは僅かに悩んだ。

 

(武蔵君は決して敵ではない)

 

恐竜帝国との戦いでも、DCとの戦いでも武蔵の願いは一貫して地球を護る事だ。たとえジュネーブの連邦の本部の命令だったとしても、武蔵を捕える事にダイテツを初めとしたハガネのクルーには迷いがあった。レイカーもまたその命令に従うつもりはなく、極秘でかくまうつもりだったが、それを告げることが出来ないタイミングでもあり、ダイテツは迷い、行動が一手遅れた。だがその迷いが、行動の遅れが戦場の流れを変える。

 

「ゼンガーの味方をするって言うなら、お前も敵だろがッ! やれ! タスク!!」

 

「い、良いのかな……ギガワイドブラスターッ!!!」

 

赤いゲシュペンストの命令に従い、同じく赤い特機の胸部が変形し、巨大なビームを放つ。それは殆ど独断に近い行動だが、武蔵はそれをハガネとヒリュウ改が自分と戦う事を決めたと判断した。

 

「まぁ無理な提案だよな。ここまで来るまでに連邦の兵士に、国家反逆罪とかどうとか言われてたけど……やっぱりダイテツさん達にもそういう命令は出てるんだな……」

 

悲しそうな声で告げる武蔵。その声にダイテツは悩んでいる場合ではなかったと己の判断を悔いた。違うと、告げるべきだったのだ。

 

(ここまで読んでいたのか、ビアン・ゾルダークッ!)

 

武蔵が告げたのはビアンが危惧した、DCとの戦いの後で武蔵に降りかかるであろうと言った物だった。

 

「少佐! そんな命令が出てたのか!?」

 

「聞いてないぜ、少佐」

 

「……お前達に告げるべきかは悩んだ上で、艦長と決めた事だ、それに武蔵とそんなに直ぐ出会うとは思っていなかったんだ」

 

そしてイングラムが遠まわしに捕獲命令が出ている事を認めた、それは広域通信で武蔵の耳にも入る。

 

「ダイテツさん達の立場を悪くするわけにもいかねえし、オイラにもオイラのやるべき事がある。悪いけど、少しの間相手をしてもらうぜッ!!!」

 

武蔵の声に迷いは無い、殺気も敵意も無い。だが全てを飲み込むような凄まじい武蔵の闘志がハガネ、ヒリュウ改、そしてDCと統合軍の敗残兵全てに向けられるのだった……

 

第32話 VSゲッターロボ その2へ続く

 

 




グルンガスト零式&ゲッターロボの組み合わせが、ハガネとヒリュウ改の前に立ち塞がり、そして武蔵にはヒリュウ改、ハガネ、敗残兵と言う3つの組み合わせが敵と言うことになります。この話のゲッターロボはスパロボでよくある黄色ユニットで感じですね、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第32話 VSゲッターロボ その2

第32話 VSゲッターロボ その2

 

ヒリュウ改のブリッジから見ていた赤髪の女性……ヒリュウ改の艦長である「レフィーナ・エンフィールド」は、たった1機の特機に与えられた被害に衝撃を受けていた。

 

「ユン! DC側の勢力はどうなっていますか!?」

 

「は、はい! 8割が行動不能に陥っていますッ!」

 

ヒリュウ改のオペレーターである「ユン・ヒョジュン」が顔を真っ青にして、ゲッター2の攻撃によって被害を受けたDC側の状況を報告する

 

「たった1回の攻撃でそれですか……しかし会話を聞く限り、ダイテツ中佐はあの特機の事はご存知の様子。艦長、戦闘に入る前に通信を繋げるべきだと進言します」

 

銀髪に髭を蓄えた紳士と言う風貌の男性……「ショーン・ウェブリー」がそう告げる。彼はダイテツの副艦長も勤め上げた歴戦の軍人であり、まだ年若いレフィーナの補佐としてヒリュウ改に乗り込んでいた。

 

「判っています、副長。ユン、ハガネへの通信を」

 

レフィーナの指示でハガネへの通信を繋げる、ヒリュウ改。ゲッター2はドリルこそ向けているが、動き出す気配は無い。

 

「ダイテツ中佐、あの特機は一体……」

 

『ムサシ・トモエと言う民間人が騎乗している特機だ。DCとの戦いに協力してくれた人物でもある』

 

「ふむ、ですが、今はDC側……とは言い切れませんが、何故連邦に追われているのですか? 開示できないDCとの戦闘データと関係しているのですか?」

 

ショーンの問いかけにダイテツは少し考える素振りを見せた後、そうだと返事を返す。

 

『この状況を切り抜けたら説明する。それよりも気を引き締めろレフィーナ中佐……ゲッターロボはハガネとヒリュウ改の全PTを持ってしても勝てるか判らない機体だ』

 

その深刻な声、たった1機の特機だが、総数30を越えるPT隊を所有するハガネとヒリュウ改でも勝てないかもしれないと告げられ、レフィーナは顔を引き締め、ゲッターロボへの戦闘命令を出すのだった……

 

 

 

ヒリュウ改の前方に陣取っていた巨大な盾の様な両手を持つ特機「ジガンスクード」を駆る「タスク・シングウジ」は自身の愛機である、ジガンスクードのコックピットで冷たい汗を流していた

 

(見てやがる……)

 

砂漠から姿を見せた白銀の特機が自身を見ている。根拠は無いが、タスクはそう確信した。

 

『タスク! ジガンで突っ込め!』

 

「りょ、了解!!」

 

オクトパス小隊の隊長であり、最初に攻撃命令を出した「カチーナ・タラスク」の命令でジガンスクードが動き出そうとした瞬間

 

「え?」

 

自分でも信じられない間抜けな声が出た。十分に距離は離れていた、だがジガンの目の前にはドリルを振りかぶる白銀の特機の姿があった。警戒を怠ったわけではない、そしてセンサーを見逃したわけでもない。だが本当に一瞬のうちに白銀の特機……ゲッター2はタスクの目の前にいた。

 

『こっちも都合があるんでな。ちっと大人しくしててくれや、ドリルアームッ!!!!』

 

接触通信での通信の後、タスクを襲ったのは今まで感じたことも無い凄まじい衝撃。零式斬艦刀を受け止めた時よりも遥かに凄まじい衝撃がジガンスクードの胸部ユニットを中心に広がる。

 

「う、うわあああああッ!!!」

 

その凄まじい振動と衝撃に耐え切れず、タスクは悲鳴をあげると同時に意識を失い。ジガンスクードの巨体はタクラマカン砂漠に沈み込んだ

 

「タスク!?」

 

強固な防御を誇るジガンスクードが、たった一撃で倒れた。その姿を見てガーリオンに乗っていたレオナが思わずタスクの名を叫ぶが、タスクからは返答は無い

 

「ちいっ! レオナ! タスクの馬鹿をたたき起こせッ! ラッセル! バックアップに入れッ!!」

 

カチーナもまさかたった1撃でジガンスクードが沈むとは思ってはいなかった。特機には特機をぶつける、それが基本だ。だがゲッターの機動力は完全にジガンスクードを上回っていた。

 

「は、はいッ!!」

 

自身の部下である「ラッセル・バーグマン」に続けと命令し、M-13ショットガンによる面射撃を繰り出す。少しでもダメージを与えて、機動力をそぐ目的だった

 

「なっ!?」

 

「は、速いッ!」

 

だがゲッター2をM-13ショットガンの弾幕が捕えることはなく、残像を残してその姿を消す。完全に姿を見失ったカチーナがその攻撃に反応出来たのは一種の本能とでも呼ぶべき物だった。

 

「くっ! 化け物か!?」

 

万力のような右腕を咄嗟に飛び退いて交わす、命中していれば一撃で戦闘不能になっていた。カチーナの背中に冷たい汗が流れる

 

「よう、武蔵。久しぶりの再会にしては随分と手荒じゃねえか」

 

『どーも、イルムさん。さっきも言いましたけど、こっちにもこっちの都合があって、そっちにもそっちの都合があるって事で1つご勘弁を』

 

グルンガストがカチーナとラッセルのゲシュペンストMK-Ⅱを庇うように前に出て、ゲッター2に殴りかかる。だがゲッター2はそれを再び残像を残しながら回避し、イルムの広域通信に返事を返す。

 

「お前、追われてたのか?」

 

『まーそんな感じですね、正直追われる理由は判らないんですけどね。オイラ何時、国家に反逆したんですかねえ』

 

世間話と言う感じで会話を続けているが、その間も計都羅喉剣とゲッタードリルはぶつかり合い、火花を散らしている。

 

「DCについた訳じゃねえんだろ?」

 

計都羅喉剣を振るいゲッター2を弾き飛ばす、本来ならその程度の攻撃ではゲッターは距離を取らないが武蔵も現在行っている戦闘が本意ではないのでそのまま素直に距離を取り、イルムの言葉に返事を返す。

 

『勿論。ただ本当に都合があるんですよ』

 

イルムは会話を続ける事で、武蔵から情報を引きずり出そうとした。ハガネのクルーは皆武蔵を知っており、武蔵が進んでこういうことをするとは思えなかったからだ。だがヒリュウ改のクルーにとっては、初見であり行き成り襲い掛かってきた敵に過ぎない。そしてそれはコロニー統合軍からしても変わりは無い、ランドリオンからのミサイルランチャーと大型レールガンがゲッターに向かう

 

「ちいっ! 邪魔しやがって」

 

背後からの攻撃を感知し、グルンガストは射撃軸から逃れる。鍔迫り合いをしていたグルンガストが離れた事でゲッター2は僅かに姿勢を崩す、その姿にゲッターに攻撃が命中したとヒリュウ改と統合軍は感じた……だが、それはゲッターロボを完全に理解していない、楽観的過ぎる考えだった

 

「ゲッタービジョンッ!!」

 

ゲッター2の姿がぶれ、1体のゲッターロボのはずなのに、2体、4体、8体、16体と倍々に増えていく

 

「な、なんだ、ありゃあ!?」

 

「ね、熱源は16体全てにありますッ!」

 

質量を持った分身、ゲッターロボと戦っていたリュウセイ達も見た事の無いゲッターロボの新しい能力に絶句するしかない

 

「最初に言ったけど、もう一度言ってやるよ…… 死にたくなかったら脱出しなッ!!!」

 

16体のゲッター2が砂塵を巻き上げながら、ランドリオン達に駆け出す。そのありえない光景、そして最初のドリルハリケーンで錐揉み回転し、砂丘に叩きつけられた者は恐怖に駆られ脱出レバーを引く。そしてゲッター2は脱出したランドリオンにドリルアームを叩き込み次々破壊していく

 

「なんと言うパワーだ……」

 

「これは直接戦ったら、その瞬間にスクラップですわね」

 

PTと比べれば装甲の薄いAMだが、その中でもランドリオンは陸戦型と言う事もあり、重厚な装甲を持っている。だがゲッター2はランドリオンの装甲など取るに足りないと言わんばかりに引き裂き、スクラップにしていく

 

「くそったれッ! この化け物がッ!!」

 

その中で1体のランドリオンがゲッター2に抱き付くようにランドリオンを走らせ、それと同時に脱出レバーを引く。攻撃が命中する瞬間だったので、パイロットの思惑通りゲッター2の足を止めることに成功する

 

「そんなんでゲッターは止まらないぜ」

 

万力の腕で足に絡み付いているランドリオンを引き離そうとするゲッター2。だがその致命的な隙を見逃すエクセレンではなかった、上空から反転しヴァイスリッターが最大速度でゲッター2に向かって突撃する

 

「はいはーい、詰まらないものですけどどうぞーッ!!」

 

軽い口調と共に放たれたヴァイスリッターのオクスタンランチャーのビームがランドリオンの動力部を貫く、炸裂したビームとランドリオンの爆発によってゲッターの姿が一瞬巻き上げられた砂の中に消える。

 

「やったか!?」

 

「熱源は消えてます!」

 

ビームの直撃でゲッターの巨大な熱反応が消えた。それはヒリュウ改のクルーにはゲッターを倒したという考えに繋がった。だがハガネのメンバーは違っていた

 

「まだだ! 気を緩めるなッ!」

 

イングラムの通信が入ったが遅かった。粉塵の中から3色の戦闘機……ゲットマシンが弾丸のような勢いで姿を見せる

 

「え!? な、なに何が起こって!?」

 

特機が戦闘機になる。その信じられない光景にエクセレンが困惑している間にゲットマシンはヴァイスリッターをすり抜けて上昇していく

 

「チェンジッ!!!」

 

武蔵の力強い叫びと共に、ジャガー号とベアー号が合体し、ジャガー号の脇から骨組みが現れ、瞬く間に巨大な腕へと変形する。

 

「嘘でしょッ!?」

 

「マジかよ……合体式の特機だと!?」

 

ヒリュウ改のメンバーはその信じられない光景に我が目を疑う。だがその間にもゲッターの合体は続き、ベアー号のミサイル発射口が足へと変形する。

 

「ゲッタァァーッ! ワンッ!!!」

 

イーグル号が覆い被さるように合体する。だがゲッターの攻撃はこれからだった、背中に現れたマントを身体に巻きつけ、急降下しながらヒリュウ改とハガネに向かう。

 

「ゲッタァアアッ! ビィィィームッ!!!!」

 

身体に巻きつけられたマントの隙間から放たれるビームの雨、それはPT達をすり抜け、砂漠に命中する。だがその熱でヴァイスリッターを初めとしたPTは少なくないダメージを受ける。

 

「トマホークブゥゥメランッ!!!」

 

砂漠に突っ込む寸前で反転し、マントを開いたゲッター1の放った2つの巨大な戦斧が空を裂き、ヒリュウ改とハガネに向かって投げ付けられる。だがそれは外さない距離だったのに外され、そのままライノセラスへと向かい、ハガネとヒリュウ改を狙っていた主砲に突き刺さるのだった……

 

 

 

 

グルンガスト零式と向き合っていたキョウスケは今の攻撃に不信感を抱いた。どの攻撃も命中すれば、その時点でゲシュペンストMK-Ⅱもヴァイスリッターも脱出も許さず破壊していただろう。態と外すように投げた戦斧もだ。

 

(……あの特機のパイロットにとってこの戦いは本気ではないと言う事か)

 

最初の見逃せという通信もある、カチーナが攻撃命令を出さなければそのまま離脱していた可能性もある。それにハガネ側のPTが殆どグルンガスト零式の戦いに参加していることもある……何らかの訳ありなのは確実だ。

 

「ちっ、あれこれ考えている場合では無いと言うのに」

 

グルンガスト零式……つまりゼンガーとの戦いだ。それはあの特機と同じく1撃でもクリーンヒットで貰えば、そのまま粉砕される戦いだ。集中力を緩めている場合ではない……

 

『キョウスケ・ナンブ少尉。この場は任せてもいいか』

 

ビルトシュバインからの接触通信……零式に当たっているのはアルトアイゼン、ビルトシュバイン、R-1、R-2、ヒュッケバイン009の5機だ。残りはハガネとヒリュウ改の護衛についているが、あの合体式の特機にあそこまで差し込まれてはそちらに当たる必要がある。

 

「了解しました」

 

キョウスケは少し考えてからイングラムの命令を了承した。確かに思うところはある、だがもしあの特機のパイロットの考えが変わりハガネやヒリュウ改が撃墜されてはと思ったのだ。了承を得てからハガネとヒリュウ改に向かうビルトシュバイン達を見送り、キョウスケの駆るアルトアイゼンはそのままの勢いで零式へと向かう

 

「来るかッ!! キョウスケ・ナンブ!」

 

零式が斬艦刀を構えながら叫ぶ、確かに迷いはある。だがそれでも目の前に立ち塞がると言うのならば……キョウスケに迷いは無い。

 

「全て打ち貫くのみッ!!」

 

アルトアイゼンの右腕のリボルビングステークの切っ先で振るわれた斬艦刀を受け流す……

 

「何を腑抜けている、ゼンガー」

 

「……返す言葉もないな」

 

そう簡単に零式の一撃を受け流せるわけが無い。キョウスケが迷いを持ったのと同時に、またゼンガーもまた迷いを持っていた。

 

「眼前の敵は全て打ち砕け、それがあんたの教えだろう」

 

「ふっ……そうだな」

 

ゼンガーが先ほど纏っていた闘気は消えていた……ゲッターロボの乱入はこの戦場にいる全ての者に凄まじい影響を与えていたのだ。

 

「「!!」」

 

アルトアイゼンと零式が睨みあっている両機体の間にゲッタートマホークが突き刺さる。お互いに距離を取った所で零式は背を向ける

 

「キョウスケ。この場は預ける」

 

キョウスケはゼンガーの言葉にリボルビングステークの切っ先を下ろすことを返事とした。確かに互いに敵ではある、だが闘気が萎えた今……再び戦うと言うのは難しかった。

 

「気をつけるがいい、人類の敵はまだ生きている」

 

「何?」

 

「ハガネが全てを知っている、良いか。もう1度言う、気をつけろ、人類の敵はまだ生きている」

 

ゼンガーはもう1度そう告げると、零式のブースターを吹かしタクラマカン砂漠から離脱していく……キョウスケはその姿を見つめ、ゲッターへと視線を向ける。そして無言のまま、ゲッターへと突撃していく、その目には紛れも無くゼンガーとの戦いを邪魔されたことに対する怒りの色が浮かんでいるのだった……

 

 

 

 

ベアー号のコックピットで武蔵は舌打ちをする。ダイテツを初めとしたハガネのクルー達がいらない不信感を持たれないために戦っているが、やはり顔見知りと戦うことは武蔵にとって抵抗があった。

 

(そろそろ離脱したかな)

 

ゼンガーのグルンガスト零式も姿を消した、そしてその前のリリーが乗っているペレグリンも今ならば安全圏に離脱しているだろう。そろそろ撤退する頃合としては丁度いいのだ。

 

(あっちも終わったみたいだし)

 

ドリルハリケーンの先制攻撃から崩れたDCの部隊もハガネのPT隊によって鎮圧され、背後から回り込もうとしていたライノセラスも完全に沈黙している。ハガネとヒリュウ改に攻撃こそ加えたが、両艦に搭載されているPTも特機も破壊しておらず、牽制程度の攻撃で終わっている。これならばさほど問題が無いと武蔵は考えていたのだが、実際はそうではなかった。

 

「てめえ! 随分と好き勝手やってくれたなッ!!」

 

カチーナを初めとしたヒリュウ改のPT隊の攻撃が執拗で離脱するタイミングが掴めない。それだけならまだ良いのだが

 

『武蔵、お前は何もしてないんだから追われる事は無いだろ! 武蔵の罪が冤罪って隊長達が証明してくれる!』

 

リュウセイ達の説得も入り、武蔵は胃が痛くなってきた気がした。リュウセイ達が心配してくれているのもわかっている、そして自分も勿論罪などは犯していないし、国家反逆罪とか言われても思い当たる節は無い。

 

『……今回の件は兄さんの差し金と言うことか?』

 

「んーそうなるのかなあ、ライはリリーさんって知ってるか?」

 

接触通信で話しかけてくるライ。最初見たこと無い青い機体だから驚いた、だけどライは上手く立ち回って見覚えの無いPTからの攻撃がゲッターに来ないようにして武蔵から話を聞きだそうとしていた

 

『……言っておくが、俺達はお前の捕縛命令など知らない。出来ることならば隙を見て逃げろ』

 

「いやあ。そうしたいんだけどなあ」

 

ハガネに乗っていなかったPTからの攻撃が予想以上に激しい、ゲッターの防御力ならある程度は大丈夫だ。だがそれを過信することも出来ない。

 

『武蔵、追いかけてきたのは何処の部隊か判るか?』

 

今度はイングラムがビルトシュバインで斬りかかりながら尋ねてくる。武蔵はイングラムとライの思惑を読み取り、2人を盾にするようにしてゲッターを操縦する。

 

「識別ってやつは確かジュネーブって所だったと思います」

 

ラトゥーニにインストールして貰った連邦の識別情報。それには確かにジュネーブ所属の部隊だったと返事を返す

 

『なるほど、判った……難しいと思うが、何とか離脱しろ。お前の無実を出来る限りの用意をして証明してみせる。この戦いが終わればヒリュウ改のメンバーにも説明はする。少なくともハガネとヒリュウ改がゲッターを攻撃することは無いようにしよう』

 

「すんませんね、ご迷惑を掛けます」

 

気にするなと言う言葉を最後に2人の接触通信は途絶え、大振りなゲッタートマホークの一撃を大げさなほど距離を取って回避する

 

(皆に迷惑を掛けてるな)

 

敵は少ないのにハガネとヒリュウ改から離れない、華奢な女性のようなシルエットの機体と、アーマリオン、それにビルドラプター。その動きを見れば武蔵を心配して、攻撃に参加していないのは明らかだ

 

(やっぱり良い人たちなんだよな)

 

問答無用で攻撃してきた連邦とは違う。ダイテツ達ならば匿ってくれるだろうし、何かいい考えも出してくれるかもしれないと武蔵は思った、だが今武蔵はビアンを初めとしたDCの生き残りと行動を共にしている。ここで自分がハガネと合流すれば、隠し事が苦手な自分だ。ビアンのことなども話しかねないし、何よりも・・・

 

(連邦は信用できないしなぁ)

 

ビアンに言われたからではない、だがここに来るまでに話を聞かずにゲッターを撃墜しようとしてきた連邦軍の事もあり、ハガネやダイテツが協力してくれても、軍人である以上命令には逆らえないだろうし、それでダイテツ達に迷惑を掛けるのは武蔵の本位ではなかった。やはり同じ戦艦で寝泊りしていたこともあり、リュウセイ達にも情はある。竜馬や隼人では仕方ないと割り切れる事でも武蔵には割り切れなかった、それが巴武蔵と言う青年の良い所でもあり、また弱点でもあった

 

「ジガンテウラガーノッーーーーーッ!!!」

 

「しまっ!? ぬっ、ぐあっ!?」

 

最初の一撃でダウンしていたジガンスクードが復活し、エネルギーフィールドを展開した、全長70mを越える巨体が最大速度で突っ込んでくる。それはいかにゲッターとは言え耐え切れる一撃ではなく、ゲッター1が上空に向かって弾き飛ばされる。破壊されることはなかったが、間違いなく致命傷のはず。その会心の手応えにタスクはコックピットで思わずガッツポーズを取る

 

「ざまぁみやがれえッ!! いつまでも調子乗ってるから……うえ?」

 

だが最後までタスクは言い切れず、間抜けな声が広域通信で零れた。空中でゲッター1は再びゲットマシンへと分離し、空中でゲッター3へとチェンジする

 

「おらあッ!!!」

 

「う、うあわおわおあああーーーッ!?!?」

 

触手のように伸びたゲッターアームがジガンスクードを絡め取り、ゲッター3のカメラアイが怪しく光る

 

「必殺、赤いのハンマーーーーッ!!!」

 

「げぼあたおらーとをつあーーー!?!?」

 

捕まえたジガンスクードを力任せに振り回すというとんでもない暴挙に出たゲッター3。タスクの悲鳴と共に、ジガンスクードが何度も砂丘に叩きつられ、地響きを起こす。その衝撃でランドリオンもハガネ、ヒリュウ改のPT隊も姿勢を崩し、その場に膝をつく

 

「そりゃあーーーッ!」

 

そして最後にジガンスクードを上空に投げ飛ばすと同時に、ゲッター3は再びゲットマシンへと分離し、動く事の出来ないハガネとヒリュウ改のPT隊を見下ろしながら、ゲッター1へと悠々と再合体を果たす

 

「……これさ、キョウスケ。カチーナ中尉が喧嘩売らないほうがよかったんじゃない?」

 

「言うな……あの状況では中尉が正しい」

 

ゲッター1がマントを翻し、悠々と立ち去ろうとする。自分達にトドメをさせる段階にも関わらずだ、その姿にダイテツに武蔵が投げかけた言葉が真実であり、無理に戦う必要は無かったのではとエクセレンが呟く。統合軍の追撃に向かって、容赦なくミサイルマシンガンを放つ姿に本当に戦う気はなく、ゼンガーとリリーを見逃せば消耗も無しに、タクラマカン砂漠を抜けることが出来たのは明白だった

 

「さてと、ま、こんなもんで良いだろ。じゃあ、ダイテツさん、またどこかで」

 

統合軍が動きを止めたのを確認し、ゲッター1がタクラマカン砂漠から離脱しようとした時。一陣の風が吹いた……

 

「でやあああーッ!!」

 

「っと!」

 

少女の姿をした特機がディバインアームを手に襲い掛かってくる。それをゲッタートマホークで受け止め、切り結びながら思わず呟く

 

「くそ、ヴァルシオンと同じ様な装備かよ」

 

「親父の作った機体なんだから、同じ装備があって当然だろッ!!」

 

その口ぶりからこの機体のパイロットがビアンの娘だと判り、さすがの武蔵も反撃に出る手が止まった。

 

「娘ぇ!? え、何それ!? オイラ聞いてないッ!!」

 

「お前、DCだったのか!?」

 

まさかの娘発言に武蔵も思わず大声を出してしまう。だがビアンは自分の話を殆どしなかった、ビアンは武蔵から早乙女研究所やメカザウルスとの戦いの話ばかりを聞きたがったので、武蔵もその話ばかりをしていた。

 

(これは無事に戻ったらちゃんと報告しよう)

 

ビアンももしかしたら、娘がハガネとヒリュウ改と行動を共にしているとは思ってないかもしれない。武蔵はそう受け取ることにした

 

「リューネ! 突っ込みすぎだ!」

 

「で、でも、マサキ!」

 

「ゲッターを止めるよりも、今は動けない味方を助ける方が先だ」

 

いいから少し下がれと叫んでサイバスターがゲッターの間に割り込む、だがそれは攻撃のためではなく、武蔵が逃げる隙を作ってくれていると判断し、改めてゲッターを反転させて離脱しようとしたその時。ゲッターのモニターに砂煙を上げながら突進してくるPTの姿が映りこんだ

 

「この距離……貰ったぞッ!!」

 

赤いカブトムシのようなPTが突撃してくるが、その両肩が開いているのを見て武蔵は反射的に緊急分離のレバーを引いた

 

(やっば……)

 

つい一瞬前までゲッターがいた場所を通過していく、鉄の塊の雨に流石の武蔵も冷や汗を流す。

 

「はいはーい、もう合体なんてさせないわよ」

 

「悪いね、マサキ! ここで捕まえさせて貰う」

 

攻撃を回避する為に分離したが、ヴァルシオーネとヴァイスリッターが、動きの鈍いイーグルとジャガーを狙う。さすがにこれは不味いと武蔵が思った瞬間。ベアー号のゲッター線メーターが一瞬で限界値を振り切った……何かやばいそう思った瞬間。上空から2本のトマホークが降下してくる、だがゲッタートマホークと違い、それは両刃刃であり。そしてサイバスターを背後から襲う、武蔵の声も、リュウセイ達の声も間に合わなかった

 

「な、なんだ!?」

 

「マサキッ! くそっ! チェンジッ!!! ゲッターワンッ!!!」

 

マサキは心配だが、ゲットマシンへの妨害が減ったこの瞬間にとゲッター1へとチェンジする。だがそれと入れ違いに急降下してきた何かがゲッタートマホークが突き刺さり沈黙しているライノセラスの前で静止したと思った瞬間、頭部から光線を放ちライノセラスを破壊する。だが頭部から放たれたビームが問題だった。

 

「ゲッタービームだとッ!?」

 

あの緑の光は間違いなくゲッタービームの輝き……3本角と口髭のようなパーツを持つどこかゲッターに似ている特機は、紛れも無くゲッター炉心で稼動していると言う証拠だった。

 

「待てッ!!! ダイテツさん! 今回はすいませんでした! こっちにも都合があったんで! それじゃッ!」

 

ライノセラスを破壊すると、背を向けて飛び去るゲッターらしい特機。武蔵は慌ててダイテツに謝罪を告げ、逃げる謎のゲッターを追いかけて、タクラマカン砂漠を後にする。

 

(速い!)

 

単独操縦ではあるが、ゲッター1のスピードは最大をマークしている。それなのに全く距離が縮まらない、それ所か徐々に、徐々に引き離されている。それでもあの特機が何者かを知る為に追いかけていたのだが、突如雲の切れ間から蒼い閃光が走る

 

「ぐっ……ば、馬鹿な!? げ、ゲッター2だとッ!?」

 

雲の切れ間から姿を見せたのは武蔵が追いかけているのと同じく、どことなくゲッター2に似た特機が4体。ゲッター2が飛んでいる事に驚いた瞬間、ゲッター2に似た機体の左腕が変形し、ドリルミサイルが同時に放たれる。

 

「くそっ! しまっ!? うわあああああッ!!!」

 

咄嗟にそれを回避した武蔵だが、その直後自分が追いかけていたゲッター1に似た機体が投げ付けてきた2本のトマホークがゲッターのどてっぱらに命中し、ゲッターは錐揉み回転しながら海に向かって墜落していくのだった……

 

 

 

海中に向かって墜落していく旧ゲッターを見つめるゲッターロボG……いや、ライガー号とポセイドン号に乗り込んでいるコーウェンとスティンガーは今回の事で確信していた。

 

「やはり、あのゲッターは不完全だ」

 

「そ、そうだね。コーウェン君! あれは旧ゲッターにしても出力が低すぎる」

 

今回の襲撃はアードラーの依頼でもあったが、こうして直にゲッターを確かめると言う意味もあった。

 

「ゲッター線で稼動していないライガーにも遅れを取るとは、正直残念だ」

 

「炉心を確保したかったのにね」

 

コーウェンとスティンガーの目的は旧ゲッターの炉心にあった。2人の計画では1度ゲッターロボGを破棄する必要があったが、それは炉心を得るための計画であり、旧ゲッターの炉心でも賄えるならばそれに越したことは無いと考えていたのだが、炉心の出力が弱すぎる事を確信し、やはり計画通りにゲッターGを1度破棄する事を決定した。

 

「でもしかたないさ、Gはゲッター線増幅装置のおかげで10倍パワーアップしてるからね」

 

「そ、そこは流石早乙女と言うべきだね」

 

とりあえず今の段階ではゲッターも武蔵も脅威ではない、それが2人の下した決断であった。炉心は正直惜しいが、あの程度の不安定な炉心ではあっても変わらないと判断した。

 

「さぁアースクレイドルに帰ろうか」

 

「そ、そうだね! 帰ろうか!」

 

データ取りは十分、AI制御のこの世界で製造した変形・分離の出来ない、ゲッター炉心すらも搭載していないライガーに遅れを取る。その時点で2人の中で武蔵は脅威ではないと言う判断が為された

 

「やはり恐ろしいのは流竜馬、そして神隼人だな」

 

「そ、そうだね、怖いのはあの2人だね」

 

海中から浮上した旧ゲッター……いや、武蔵を一瞥し、コーウェン達はAI制御のライガー4機を引きつれ、その場を後にするのだった……

 

 

第33話 一つを起点に動き出した思惑たち

 

 




次回は一度インターバルを挟んで話を進めて行こうと思います。武蔵の話をするダイテツとか、そういう件ですね。後は連邦の上層部の話とか、そういうのをやりたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第33話 一つを起点に動き出した思惑たち

第33話 一つを起点に動き出した思惑たち

 

空を飛んでいるゲッター2のような機体とゲッター1に似た機体が飛び去るのを海面から見つめる。まさかと言う気持ちはある、だがあれは紛れも無くゲッターだ。

 

「……新ゲッターロボ……か」

 

武蔵が特攻する前に早乙女博士が開発していた戦闘用に作成されたゲッターロボ。骨組みと僅かな装甲しか見ていないが、その姿には見覚えがあり、ゲッター炉心で稼動していることも含め。あれがゲッターロボと言うことは間違いない……それも自分のゲッターよりも遥かに高性能だ。

 

『武蔵君、今何処にいる? 何か問題でもあったのかね?』

 

考え事をしていて気付かなかったが、通信機からビアンの声がしていた。武蔵は慌てて通信機を手に取る

 

「すいません、ちょっとトラブルです。でもゼンガーって人にはちゃんとコンテナは渡せましたし、それにリリーって人も逃げてくれたと思います」

 

『そうか、それでトラブルと言うのはなんだ?』

 

「……オイラの知らないゲッターに襲われました」

 

ゲッターに襲われた……その言葉でビアンの雰囲気が変わった。その反応で何かを知っていると武蔵は感じた

 

『言うのが遅れてすまない、この世界にはメテオと呼ばれる隕石が落ちたという話はしたな?』

 

「はい、覚えてます。ビアンさんがPTとかを開発するのを決めた理由でしたよね」

 

アイドネウス島にも巨大な隕石が落ちていたので、それを思い出しながら武蔵は返事を返す。確かメテオ3と呼ばれる隕石だったはずだ

 

『その中でメテオ1……つまり一番最初に落ちた隕石で地球がパニックになっている頃。浅間山に崩壊した研究所が出現した』

 

浅間山……そして崩壊した研究所。そこまで聞けばビアンが何を言おうとしているのは武蔵も理解した

 

「早乙女研究所ですか?」

 

『すまないが、私もそれを知ったのはつい最近の事だ。ただ、そこで何かを回収したという話だ』

 

「それが……オイラを襲ったゲッターロボですか?」

 

『それも判らない、とりあえず1度戻って来てくれ。情報を整理したい』

 

ビアンの言葉に武蔵は判りましたと返事を返し、ゲッターを浮上させる。既に武蔵を襲ったゲッターの姿は何処にも無い……武蔵は唇を噛み締め、その場を後にするのだった……

 

 

 

武蔵が去った後、ハガネとヒリュウ改は情報を整理する為、一時タクラマカン砂漠に停泊する事を決定した。このままゲッターの捕縛命令が出されたとしてもハガネのクルーには迷いが生まれ、そうなればヒリュウ改のクルーはハガネのクルーに対する不信感が生まれる。それを回避する為にも話し合いは必要だった

 

「それではダイテツ艦長。あの特機の事、そして武蔵と言う少年の話をしてくれますか?」

 

「判っている。だが先に言っておくがワシ達は意図して武蔵君の情報を隠していた訳ではないと言う事は判って欲しい」

 

ヒリュウ改のブリーフィングルームにダイテツの姿があった。ハガネではなく、ヒリュウ改にダイテツとイングラムが訪れたのは理由がある。ハガネのクルーは武蔵を好意的に受け入れている、だからこそ武蔵に罪が無いと言う者が多い。だがそれを一々聞いていては話が進まないと言う事でダイテツとイングラムだけがヒリュウ改に移動してきたのだ。

 

「武蔵君はSSSS級機密とし、ジュネーブの連邦軍本部からの痕跡抹消が命令されていた。本当ならば戦闘になった段階で、情報を伝えるべきだったのだが、それを出来なかった事を許して欲しい」

 

SSSS級、そして痕跡抹消命令。それを聞いてキョウスケ達の顔色が変わる

 

「あいつはなにをやったんだ? 連邦の上層部でも殺したのか?」

 

SSSS級なんていう規格外の機密扱いと聞いてカチーナがそう呟く、その問いかけにイングラムが返事を返す

 

「ムサシ・トモエ。可変合体式特機「ゲッターロボ」のパイロットであり、DCとの戦いの間に出現した「恐竜帝国」と「メカザウルス」の脅威を知る、旧西暦の人物だ」

 

淡々と告げられたイングラムの言葉。恐竜帝国、メカザウルス、そして旧西暦の人間

 

「……いけませんな、今旧西暦の生まれと聞えたのですが?」

 

「事実だ、ショーン。武蔵君は旧西暦の生まれであり、そして連邦がひたすらに隠している失われた時代の生き証人だ」

 

ダイテツにまで旧西暦の人間と告げられ、ヒリュウ改のブリーフィングルームに混乱が広がる。今は新西暦で、旧西暦の人間が生きているはずも無い。だがイングラムもダイテツも冗談を言うタイプではない……だがそれをすぐに信用することは出来ない

 

「中佐。その話が事実だという証拠はあるのですか?」

 

「勿論だ。キョウスケ・ナンブ少尉、確かに軍部の命令と言うことハガネ及びそのPT隊での一切の戦闘記録は廃棄した。だが、民間人である、マサキ・アンドーのサイバスターに全ての記録を保存してある」

 

「随分とグレーな部分を攻めましたね」

 

ダイテツの言葉でダイテツが何を命令したのかを理解したショーンが苦笑しながら言う。だがダイテツは豪快に笑いながら

 

「軍人だから軍部の命令には従う。だが幸いと言うべきかハガネには民間人である、マサキ・アンドーがいた。彼の機体であるサイバスターに全ての情報を保存させて貰ったのだ。これが彼が旧西暦から来たと言う証拠であり、DCの残存兵がまだ暴れている理由である」

 

モニターに映し出された戦闘記録。それは決して長い物ではない、時間にして30分ほどの短い映像だ。だがそれでも、30分とは思えない重厚な時間であった。恐竜と機械を融合させたメカザウルスと言う異形の襲撃に始まり、武蔵には秘密だったが、記録していた武蔵の生きた時代の話……そしてアイドネウス島でのギガザウルス・ゴールとの戦い、最後にゲッターロボとヴァルシオンの一騎打ち……それは凄まじいの一言に尽きていた。

 

「ダイテツ艦長達がDCを倒した訳では無かったのですね」

 

「ああ、上層部の決定だった。ワシ達がアイドネウス島に到着した頃にはメカザウルスの襲撃により、アイドネウス島のDCの拠点は半壊状態だった」

 

詳しい記録の提示もなく、DCはハガネが倒したと言う報告だけを聞いていたレフィーナは今の映像を見て真実を知った。連邦が自分達の手柄とする為に恐竜帝国、そして武蔵の情報を隠蔽する事を決めたのだと……

 

「恐らく武蔵が生きていれば、連邦にとっては都合が悪い。それ故に武蔵の捕縛命令、及びゲッターロボの破壊命令が下されている」

 

自分達の面子を護る為に、ただ1人を犠牲にする事を決断した上層部。確かに上層部にも良い人間はいる、だがそれ以上に腐敗しているという事実……そしてハガネのクルーが率先的に武蔵の攻撃しなかった理由もこれで明かされた。

 

「なんだよ、じゃああいつは、地球を守る為に戦った挙句、反逆者に仕立て上げられたってか?」

 

「……そ、そんなことが許されるのですか!? 大々的に彼を表彰するべきではないのですか!?」

 

武蔵がいなければ、地球は恐竜帝国によって制圧されていた。武蔵は英雄として大々的に公表されるべき人物のはずなのに、犯罪者へと仕立てられた。直情的な性格なカチーナは隠す事も無く舌打ちをし、ブリットは信じれないと言う表情で叫ぶ。

 

「……あのーイングラム少佐。申し訳ないんですけど、さっきの戦闘記録の事で気になることがあるんですが?」

 

「なんだブロウニング少尉」

 

「えーっとですね、ゲッターロボとヴァルシオンの戦いの最後の所なんですけど、ちょっと引っかかる所があるんです」

 

エクセレンの言葉にイングラムは首を傾げながらPCを操作する、再びモニターに映し出される戦闘記録

 

「……俺、随分手加減されてたんだな」

 

「そうですわね。もしゲッターが本気ならジガンスクードはスクラップですわ」

 

ゲッターの凄まじい戦闘力。ゲッター2のドリルでの攻撃は手加減された攻撃であり、それですら気絶した自分にタスクはとほほと溜め息を吐き、そしてそんなタスクにレオナが止めを刺す。

 

「そこ! そこで止めてください」

 

「判った」

 

そして戦闘記録も佳境に差し掛かった所でエクセレンがそう叫ぶ。ゲッターの連続攻撃で上空に巻き上げられたヴァルシオンが、タクラマカン砂漠でも猛威を振るった戦車のような姿の伸縮自在の両腕に絡め取られた場面だった。

 

「この映像がどうかしたのか? エクセレン」

 

「キョウスケ、本当にわからないの?」

 

エクセレンに言われて全員がモニターを注視する。ゲッターの攻撃にばかり目を取られていたが、よく見るとその場面には1つおかしな点があった。

 

「むっ!」

 

「なるほど、あのオーバーキルとも取れる攻撃はこれが目的か……」

 

エクセレンに指摘され、全員が気付いた。ゲッターよりも遥か後方に上がった水柱の存在にだ……

 

「ヴァルシオンってどうなっていたんですか?」

 

「上半身が完全に潰されていると言う状態だったが……ふ、武蔵め、やってくれる」

 

恐らくだが大雪山おろしに捕えた段階で、ゲッター3はヴァルシオンのコックピットを抉り取っていた。そしてその上でアイドネウス島に叩きつけることで、ヴァルシオンを必要以上に破壊して証拠隠滅を図ったのだ

 

「つまり、親父は生きている?」

 

「その可能性は高い、武蔵君にとってビアン・ゾルダークは恩人だ。殺した事にして、回収したとしてもおかしくはないな……」

 

ただそうなると本当に国家反逆罪が適応されることになる事にダイテツは頭を抱える事になるが、それも武蔵らしさかと呟く

 

「……中佐。ゼンガーが撤退する前に俺に告げた事があります。人類の敵は生きていると……」

 

キョウスケの静かな呟き、人類の敵と言う余りに遠まわしな指摘。キョウスケも最初は何の事か判らなかったが、今の映像を見て確信した。

 

「生き残りのメカザウルスがいるって事ですか?」

 

ラッセルがまさかと言う表情で呟く、だがメカザウルスは生物でもある。自分の生命の危機を感じ取り、戦場を離脱した個体がいてもおかしくは無い。

 

「……問題は山積みだが、武蔵君とゲッターロボは決して敵ではない。その事を証明したいと思っている」

 

確かにビアンを生かしている可能性はあるが、それを差し置いても武蔵は地球を護ったと言う功績がある。そして上層部への不信感も強くなった、今のこの時期の不自然なジュネーブへの移動命令……それはレイカーやノーマンの戦力を削ぐ目的であるという事も明らかだったからだ。

 

「ではゲッターロボへの積極的な攻撃は行わないと言う事で良いですね」

 

「そうするべきだ。異星人との戦い、そして生き残っているメカザウルスと戦う為には武蔵君とゲッターロボの力は必要だ」

 

可能ならば武蔵を匿う事を考えていたダイテツだが、ビアンが生きているのならば、恐らく武蔵はクロガネ、そしてビアンと行動を共にしていると判断した。そしてハガネとヒリュウ改は上層部の命令であるジュネーブに向かってタクラマカン砂漠を出発するのだった……

 

 

 

 

ハガネとヒリュウ改がタクラマカン砂漠を後にした頃。アードラー達が隠れている南米の「アースクレイドル」では連邦を裏切ったハンスによって、攫われたシャイン皇女がアードラーの手によって調整を施されていた。

 

「被験体とのゲイムシステムのリンク率、3.5%低下しました」

 

「構わん。強制リンクを続けるのじゃ」

 

「し、しかし……これ以上は命に関わります」

 

アードラーの言葉を聞いて、実験に参加していた一般兵がこれ以上は危険だと進言する。だがアードラーは鼻を鳴らし、投薬と実験によって意識が朦朧としているシャイン皇女に非道な言葉を投げかける。

 

「判っておるのか、皇女? ワシらの言う事に従わねば……侍従が死ぬぞ?」

 

アードラーの言葉にシャイン皇女は苦しげな呻き声を上げる。だがそれを見てアードラーはさらに鼻を鳴らす

 

「強情じゃのう。ラトゥーニ11と同じじゃ、ヒッヒッヒ……ならば、同じ手を使うしかないのう……誘発剤を強制投与するのじゃ」

 

薬を投薬しろと命令を出すアードラー。その瞳は正気ではなく、狂気に満ちた色に染められている

 

「そ、それでは副作用が出ます! 実験に支障が出ますよ!」

 

副作用が出るとは言っているが、兵士の目にはシャイン皇女への同情の色が浮かんでおり、アードラーを止めようとしているは明らかだ。だがアードラーはそんな兵士の感情を読み取り、下らんと一喝する

 

「構わん。ワシらには未来があるでの、それともお前も組み込んでやろうか?」

 

アードラーの言葉に兵士はヒッと息を呑む、先日アースクレイドルでは悪魔の実験が行われた。それは、アイドネウス島での戦いで瀕死の重傷を負ったテンペストの脳にゲイムシステムを組み込み、さらにテンペスト自身もコーウェンとスティンガーが持ち込んだ「ゲッターロボG」の廉価版、変形・合体機能を排除した機体に組み込まれて生体ユニットと化していたのだ。自分もそうなるかもしれないといわれ兵士は歯を鳴らしながら必死に首を振る。

 

「嫌ならばワシの命令には従え、それこそが人類が生き残る道じゃ、テンペストの実戦データを下に調整すれば、副作用など出るわけも無い。それからゆっくり、ゆっくりと調整してやるんじゃ」

 

機体に組み込まれしまうかもしれないと言う恐怖で、アードラーに逆らう者はおらず。繰り返しすまないと謝罪の言葉を口にしながら実験を再開する。そして投薬された薬の影響で身体を細かく震わせながら、シャイン皇女はアードラーに言葉を投げかける

 

「……わ、私には見えますわ……貴方達に……未来など……」

 

「フン、生意気な小娘め……生意気にも予言でもしておるつもりか、誘発剤を再投与せいッ!!」

 

先ほどよりも濃度の濃い投薬をされた事で、身体を大きく震わせて軈て弓ぞりに身体を曲げシャイン皇女は意識を失ってしまった。その小さな手が小さくたれる。その余りに凄惨な光景に、研究者も周りにいた兵士も沈鬱そうに目を伏せる

 

「お~お~やってるねえ。中々刺激的な光景じゃないの」

 

その痛ましい姿に兵士が目を逸らす中、楽しそうなテンザンの声が響く

 

「テンザンか、今日の訓練は済んだのか?」

 

「勿論だぜ、あのGって奴は最高だぜ! 俺の思い通りに動く、あんな合体と分離の出来ない出来こそないじゃなくてオリジナルを寄越せよッ!」

 

テンザンの言葉にアードラーは小さく眉を細める。メカザウルスに殺されかけた事で、一時精神が不安定に陥ったテンザン。致し方ない手段として投薬したが、想定よりも好戦的になっている。

 

(まぁ、良いじゃろ。量産型1号機にもゲイムシステムは搭載している)

 

テンザンもデータ取りに使えば、もう必要ない。全てはシャイン皇女が乗る予定のオリジナルのGのゲイムシステムの完成度を上げる為の実験だ。

 

「それよりよ、俺にも出撃させてくれよ。俺が今度こそ、ハガネとヒリュウ改を片付けてやるぜ、そしたら俺にオリジナルをくれよ」

 

「良かろう、じゃが貴様の量産型Gの1号機の調整には時間が掛かる。次の作戦には間に合わないが、ジュネーブに攻め込む時にはあれを

使うがいい。戦果さえ上げれば、お前にオリジナルGを預けよう」

 

指を鳴らし喜ぶテンザンを見つめながら、今頃ライノセラスに搭載された量産型ライガーが出撃している頃だ

 

(フヒヒヒ、死んだ男が最後に役に立ったわ)

 

既に人間としては死んでいるテンペストだが、ゲイムシステムと量産型ライガーのデータを取れれば十分過ぎる、アードラーは歪んだ笑みを浮かべながら、オリジナルGを提供してくれたコーウェンとスティンガーに感謝するのだった……

 

「フェフ博士……何時までアースクレイドルにDCの残存部隊を駐留させておくつもり? 彼の存在は連邦軍や異星人の標的となる」

 

アースクレイドルの最深部で2人の男女が向かい合っていた。美しい水色の髪をした女性が、神経質そうな顔をした青い髪の男にそう問いかける

 

「それでは、人と言う種を未来に遺す事など出来ない。今のままでは本末転倒です」

 

「ですが、ネート博士。コンピューター・メイガス、そして地球環境再生のためのマシンセル……さらにマシンナリー・チルドレンはどれもが未完成だ。それ故に、番人としてアードラーが必要だったのだ」

 

「しかし……」

 

言葉にすることは無かったが、ソフィアの言葉にはアードラー達に対する深い嫌悪の響きがこめられていた。イーグレットはそんなソフィアの様子を見て楽しそうに笑う

 

「ふふふ……心配はいらん。戦闘が始まれば、メイガスの門は閉じてしまえばいい」

 

「フェフ博士!?」

 

イーグレットの言葉はアードラーを含めた全員を囮にすると言う意味がこめられており、流石にソフィアも声を荒げるが、イーグレットは楽しそうに笑い、両手を広げる

 

「アースクレイドルも、ブラックボックスも俺達のものだ! 連邦にも、DCにも、EOT特別審議会の誰にも渡すつもりは無い」

 

狂気の色を宿すイーグレットに背を向け、ソフィアはその場を後にする。自分の理想に共感し、共に研究してきたイーグレットは変わってしまった、いや、アードラー達さえいなくなれば元にもどるかもしれない。そんな淡い期待を抱きながら、ソフィアはイーグレットの前から姿を消すのだった……

 

「やあやあ、イーグレット博士。研究の調子はどうですかな?」

 

「コーウェン博士、それにスティンガー博士、貴方達には感謝してますよ。どうぞ、こちらへ」

 

イーグレットはコーウェンとスティンガーを連れ、ソフィアも知らない研究区画に案内する。

 

「お、おおお! 素晴らしい! 素晴らしいですよ! イーグレット博士!」

 

「ほ、本当に素晴らしい! 貴方は素晴らしい研究者だ!」

 

コーウェンとスティンガーの目の前には高密度に収束したゲッター線の中に浮かぶ、何体もの人間の姿があった。

 

「研究に行き詰っていたが、貴方達が提供してくれたゲッター線。そのおかげでマシンナリーチルドレンは更なる上へと進化する!」

 

「進化! 進化とは素晴らしい物ですよ」

 

「進化ってとっても気持ちいい物なんですよ!!」

 

今はまだ眠り続ける悪意の種、それは確かにこのOG時空に撒かれ始めていた。

 

「ふふふ、それだけはありませんよ。ブラックボックスもゲッター線のおかげで解析が進んでいる」

 

「ほう、やはりあれはゲッター線に反応を示しましたか」

 

「ええ、何年も解析も出来なかったブラックボックスですが、貴方達のおかげで飛躍的に解析が進みましたよ」

 

全ては貴方達のおかげですと笑みを浮かべるイーグレットにコーウェンとスティンガーも微笑み返す。

 

「貴方達ならばアースクレイドルに居てくれても良いと思いますよ」

 

「お気持ちは嬉しいですが、私達にも予定と言う物がありますからね、ね、スティンガー君」

 

「う、うん! とても残念だけど、仕方ないんだ」

 

2人に断られたイーグレットは一瞬残念そうな顔をしたが、すぐに気を取り直し

 

「では、少しでも良いブラックボックスの解析を手伝ってくれますか?」

 

「「勿論!」」

 

イーグレットの言葉に満面の笑みを浮かべ、返事を返すコーウェンとスティンガー。イーグレットは2人を引き連れ、地下最深部の格納庫に向かう

 

「おお、これが宇宙から落下してきた謎の特機なのですね!」

 

「す、凄い! どこも破損していないなんて!」

 

「ええ、これが5年前、建築中のアースクレイドルに突如現れた特機。私達はこれを「オーガ1」と呼んでいます」

 

格納庫に鎮座する2つの顔を持つ鬼のような特機を見上げるコーウェンとスティンガーは、楽しくて仕方ないと言う様子で笑い出す。この世界は、自分達が想像しているよりも遥かにゲッター線と深い関係があると確信したからだ。

 

「おそらくコックピットは腹部にあると思うのですが」

 

「なるほど、鋭い着眼点だ」

 

「そ、そうだね! 素晴らしい着眼点だよ! イーグレット博士」

 

楽しげに笑う3人はオーガ1の解析を始める、だがイーグレットは知る由も無い、自分達の解析しているオーガ1がアースクレイドルが崩壊する切っ掛けになるとは……夢にも思わないのだった。

 

 

 

 

連邦軍本部のジュネーブの応接間ではカール・シュトレーゼマンとニブハル・ムブハルが密談を行っていた。

 

「随分と荒れているようですね。議長」

 

「当たり前だッ! 何兆円もの大金を注ぎ込んだ「G」はあの2人に奪取されるわ、私の部下は全員殺されるわ! 最悪だッ!」

 

頭を抱えて叫ぶシュトレーゼマンにニブハルは落ち着いてくださいと声を掛ける。

 

「ちっ、それよりも本当に会談は準備できるんだろうな」

 

疑うようなシュトレーゼマンの言葉にニブハルは笑みを浮かべながら勿論と返事を返す。

 

「それは勿論です。セッティングは私にお任せください」

 

「だが、レビ・トーラーと言う女はお前達のリストに載っていなかったぞ、彼らとお前の「国」は本当に繋がりはあるのか?」

 

シュトレーゼマンの責めるような口調にも、ニブハルは薄い笑みを浮かべ続ける。

 

「その点はご容赦を、私達の世界も1枚岩ではないのですよ、貴方方同様にね……ですが、武蔵・巴とゲッターロボを手中に収めれば、彼らの国よりもより上位の国と交渉することも不可能ではないと言ったはずです」

 

「ええい! 判っておるわ! 今武蔵と言う小僧もゲッターロボも生かしたまま捕獲しろと命令を出している、お前達も手を抜かずに動くんだな!」

 

シュトレーゼマンの言葉にニブハルは笑みを浮かべる、それは自信の表れや、シュトレーゼマンに信用を得るためのものではない。思ってもみない、大きなチャンスを手にしたからの笑みだった

 

(素晴らしい、ゲッターロボ……いや、ゲッター線。これは最高の手土産になる)

 

もう消滅した筈のゲッター線。ゲッターロボGの修理をシュトレーゼマンに勧めたのもニブハルだ、ただしGはコーウェンとスティンガーに持ち逃げされたが……だがまだゲッター炉心は残っている。それを手中に収める事が出来ればとニブハルは笑みを浮かべる

 

(バルマーにも、ゾヴォークにも高く売れる)

 

未開の星地球に、ゲッター線が現れた。資源としても、そして危険な因子としても非常に価値のある情報だ。それを高く売りつける事を想像し、ニブハルはこみ上げてくる笑みを抑えることが出来ないのだった……

 

 

第34話 悪のゲッターロボ出現に続く

 

 




このタイミングだと、それも私だぁおじさんがいるのは判っているんですけど、OG1では出てないのでそれも私だおじさんには独自解釈とオリジナル設定を付与する予定なので、この段階ではまだ普通の秘書官だと思っていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第34話 悪のゲッターロボ出現

第34話 悪のゲッターロボ出現

 

連邦軍の警邏を避けながら砂漠の隠し基地に無事戻って来た武蔵はゆっくりとベアー号を降りる。

 

(やっぱり色々な可能性を考えないとダメだ)

 

自分が居て、ゲッターが居て、そして恐竜帝国が居た。だが、ビアンの話では、浅間山に崩壊した早乙女研究所らしいものが出現したらしい。

 

「オイラがいた時から、さらに未来とか……うん、なんかありえそう」

 

恐竜帝国が滅んだ後……考えたくはないが、新しい脅威……例えば、あの鬼だ。鬼が本格的に日本への侵攻を始め、研究所を廃棄する必要があったとかはどうだろうか? あんまり考えたくない話だが、その可能性は捨て切れない。

 

「っと」

 

考え事をしていると、横から何かを投げられた気配を感じて振り返る。胸元に向かって投げられたのはスポーツドリンクのボトルだった。

 

「えーっと……誰?」

 

車椅子に乗っている女性が投げたのだと判る。だが勿論顔見知りではないので、武蔵は誰? と首を傾げながら尋ねる。

 

「ユーリア・ハインケルだ。あの時は助けてくれてありがとう」

 

「……どの時ですか?」

 

あの時と言われても思い当たる節は無く、武蔵は続けてそう尋ねる。ユーリアはそうか、そうだったなと笑う。

 

「メカザウルスと言う化け物が現れた時だ。総帥も出撃してきただろう?」

 

「あ、あーっ。あの時ですね」

 

そこまで言われてやっと判った。メカザウルスに噛み砕かれそうになっていた角付きのリオンの姿を思い出したのだ。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ん、パイロットとして復帰出来るかは判らないが、生きているだけでも儲けものだ」

 

ギプスをつけている両足を見て武蔵は痛ましそうな表情をするが、ユーリアは逆に笑みを浮かべる。

 

「この足だから共に戦うなんて事は出来ないが、これからよろしく」

 

「は、はい、よろしくお願いします。それとジュースありがとうございました」

 

ユーリアと握手を交わし、投げ渡されたジュースのボトルを手に走っていく武蔵。ユーリアは車椅子の上から武蔵の後姿を見て小さく笑う。

 

「隊長! もうこんなところに居たんですね。車椅子だからって出歩いたら駄目ですよ」

 

「ああ、すまない。だが病室に居るのも飽きてしまってな」

 

自分を探していたトロイエ隊の僅かな生き残りの隊員に連れられ、自分の病室へと引き換えてして行くのだった……。

 

「えっとですね。口髭見たいのがあるゲッターロボと、青いゲッターでした」

 

武蔵はビアンの元へ戻り、自分が見たゲッターの特長を伝えていた。ビアンはその話を聞いて、眉を僅かに顰める

 

「……恐らくそれはGと呼ばれるゲッターロボだ。早乙女研究所の跡地から回収された機体のデータとして、連邦のデータベースにハッキングして確認している。完全戦闘型の機体であることは間違いない」

 

「元々ゲッターは宇宙開発用だったらしいですしね」

 

完全戦闘用と聞けば、武蔵もゲッターで追いつけなかった理由も納得だ。だが1つ納得出来ないこともある。

 

「ゲッターよりパワーアップしてるのに、何で新西暦の人間が乗れるんですかね? 早乙女博士の事だから、安全装置とかつけてるわけないって思うんですけど」

 

「……そうやって断言される早乙女博士の危険性が判るな」

 

人知を超えた敵と戦う必要に迫られていた事があり、パイロットの安全性よりも戦闘力が優先された時代だ。決して早乙女博士が異常だったと言う訳ではない。

 

「私もこの時代のパイロットが乗れるように強化スーツを考案しているが、アードラーの事だ。恐らく投薬などでそのスピードに耐えていると言う可能性が高い」

 

「……本当ろくでもない奴ですね」

 

武蔵の呆れた様な言葉。だがビアンも自身がスカウトした事もあり、苦笑いを浮かべるに留まる。

 

「あ、そうそう。言い忘れてましたけど、ビアンさんの娘さんが居ましたよ」

 

「……リューネか、まぁあの娘の事だ。大して心配あるまい」

 

ビアンの言葉に武蔵は苦笑いしながらそれなら良いんですけどねと笑う。ビアンが良いと言うのなら、それ以上武蔵としても言うことはないからだ。

 

「リューネ嬢は、総帥によって厳しい訓練をつんでいる。並みの軍人には負けんよ」

 

バンのどこかずれた言葉に武蔵だけではなく、ビアン達も苦笑する。だがそれはリューネなら心配ないと言う、バン大佐なりの心遣いだったようだ。

 

「ゲッターロボの情報はジュネーブに保管されているそうですね」

 

「うむ、浅間山の研究所は焼却処分をされたらしいからな」

 

「となると、新ゲッターの情報を得るにはジュネーブに向かう必要があるってことですね」

 

今武蔵やビアン達に必要な情報がある。だがジュネーブは連邦軍の本拠地、そう簡単に侵入する事は出来ないだろう……。

 

「難しくはあるが、アードラー達はジュネーブを目指している。そこでの戦闘中にジュネーブの地下に侵入することにしよう」

 

リスクはあるが、回収する必要があるのならばリスクを犯してでも回収する必要がある。

 

「それでしたら、私の部隊を使うのはどうでしょうか?」

 

「ああ。バン大佐の特殊部隊ならば、侵入行動に適しているな」

 

「では脱出は私が車を出しますか」

 

とんとん拍子にジュネーブへの侵入計画が立てられる。その分野の専門家が集まっているので、計画を立てるまでは恐ろしいまで早い。

 

「となると私はジュネーブの地下の地図でも出しておくか、武蔵君は最悪の場合。ゲッターGと戦う事になるが……」

 

「大丈夫ですよ! 悪のゲッターロボになんてオイラは負けませんから!」

 

あくまで遅れを取ったのは不意打ちだったからですと熱弁を奮う武蔵にビアン達が苦笑した時、武蔵が思い出したように手を叩く。

 

「ビアンさん、あの娘さんの機体を女の子にするのは正直オイラもどうかと……」

 

「む、あれか。あれは、娘の趣味だ。本当はヴァルシオンをリューネに与えるつもりだった」

 

「い、いや、正直それもどうかと思うんですけど、ビアンさんの趣味じゃないんですね? オイラてっきり、ビアンさんの趣味かと」

 

武蔵の言葉に思わず噴出してしまったバンやエルザムにビアンは冷めた視線を向けながら、弁明の言葉を口にする。

 

「決して私の趣味じゃない。ただ、そうだな……あれを作った時は4徹めだった」

 

「あの、ビアンさん。寝ましょうよ、流石に」

 

4夜連続徹夜でハイになっていたと語るビアンに武蔵は苦笑していると会議室の扉が勢いよく開いた。

 

「会議中失礼します! 黒海沿岸セバストポリ基地に謎の特機が複数出現! ハガネとヒリュウ改が急行している模様!」

 

謎の特機……武蔵の話ではゲッターを襲った、新型ゲッターの数は5つ。その内の何機かがハガネとヒリュウ改の進路を妨害する為にセバストポリ基地を襲撃しているのだろう……。

 

「エルザム。クロガネで出るぞ」

 

「……了解しました。では私は乗組員に出撃準備をさせます」

 

敬礼をして出て行くエルザムとバン。武蔵は2人の姿を見ながら、ビアンを心配そうに見つめる。

 

「クロガネを動かして大丈夫なんですか?」

 

「無論余りよくは無い。だが、近くに隠れる事は出来る。それにゲッターの補給や修理を行う為にも近くに戦艦が待機している方が安心だろう? 行くぞ、武蔵君」

 

「はいっ!」

 

セバストポリ基地でのDCと連邦との戦い、その場にクロガネ……いや、ビアンも参戦する事を決めたのだった……

 

 

 

セバストポリ基地で始まったDCの残存兵との戦いは、連邦を裏切った「ハンス」の登場と共に大きく流れを変えていた。ハンスの機体が強力だった訳ではない、ハンスの搭乗する大型輸送船グレイストークに大量のAMが搭載されていたわけでもない。だがグレイストークが運んできた機体が戦況を変えたのは事実だった。グレイストークに搭載されていた3体の特機……そのたった3機の特機が戦況を変えたのだ。

 

「ははッ! はーははははッ! やはり私の決断は間違いではなかった!! 連邦では異星人に勝てない。やはり私がDCについたのは正しい選択だったのだッ!!!」

 

ハンスの狂ったような笑い声がセバストポリ基地の上空に響く……グレイストークから出撃した3体の特機。それはハガネのクルーにある存在を連想させていた。姿だけではなく、その強さまでもがタクラマカン砂漠での僅かな戦闘時間で、ハガネ、ヒリュウ改のPT部隊をてかげんしたままで圧倒したゲッターロボに酷似していた。

 

「「「……」」」

 

AI制御されているのか、それとも話すつもりが無いのか、そこは不明だ。だがその強さは紛れも無く、ゲッターに匹敵、いや、ゲッターを越えていた。

 

「各員に告ぐ、アンノウンへの単独攻撃の禁止及び、必ず複数体でアンノウンへと当たれ。この命令は厳守せよ」

 

イングラムの乗るビルトシュバインから部隊全員に通達が入る。だがこの通達が無くても、単独で戦おうとする者はいなかっただろう。

 

「ゲッター……なのか?」

 

青く細い姿をし、左腕がドリル。だがゲッター2とは決定的の異なるのはその背に持つ翼で自由に空を飛ぶ点だ。2機セバストポリ基地の上空を旋回しているのだが、グレイストークから最後に出撃した機体の動きは格段に良かった

 

「!!!」

 

「ちいっ!! こいつ俺に恨みでもあるのかッ!?」

 

思わずタスクがそう叫んだ。動きのいい、青い機体は徹底的にジガンスクードを狙い、高高度からの突撃、凄まじい機動力でのかく乱、ドリルミサイルによる攻撃……その全てがジガンスクードを狙っての物だった。

 

「踏ん張りな! タスク! ラッセル続けッ!」

 

「は、はい!!」

 

シールドユニットを駆使して、上空から突進してきた青い機体の動きを封じているジガンスクードにR-GUNと緑のゲシュペンストが向かう。だがその2機の動きはもう1機の青い機体のドリルによって防がれる。

 

「ちいっ! うざってえッ! おい! もっとしっかり足止めしろよッ!!!」

 

PTの装甲を紙の様に切り裂くドリルを前にすれば、流石のカチーナも無理に突撃する訳にはいかず、R-GUNの足を止めて後方に飛ぶ。

 

「タスクッ!」

 

カチーナとラッセルの代わりではないがレオナのガーリオンがソニックブレイカーで突撃する。あっさりと回避されるが、それでもジガンスクードから引き離す事は出来た。

 

「さ、サンキューレオナちゃん」

 

「お礼はいいから身構えなさいな」

 

感謝の言葉を口にするタスク、だがレオナはその言葉を最後まで聞かずに警戒を強めろと言う。レオナの妨害を受けてもなお、青い機体はガーリオンに目を向けることは無く、その無機質な目をジガンスクードに向けている。その余りに不気味な素振りにレオナもガーリオンのコックピットの中で眉を顰める。

 

「足止めしろって言うけど、そうも行かないのよね」

 

ヴァイスリッターのコックピットの中でエクセレンがカチーナの怒鳴り声にそう返事を返す。エクセレンとて、青い機体の突撃を止めようと努力はしている。だが、そこにランドリオンやバレリオンなどの重装甲のAMが援護に入れば、以下に射撃のセンスが優れているエクセレントは言えど、青い機体の動きを妨害することは難しい。

 

「!」

 

「ちいっ!!」

 

青い機体から金属音を立てて腕が射出される。それはまっすぐにR-2に向かって伸び、その胴体に巻き付く。右腕で鎖を掴み、自身の方に引き寄せようとする青い機体、R-2が腰を落としてそれに耐えようとするが、出力の差なのかジリジリと引き寄せられていく

 

「ライッ!!」

 

その姿を見て、アヤがビームソードで鎖に切りかかる。だが、鎖を断ち切る事が出来なかった。そして鎖を引かれ、R-2は宙を舞いながら引き寄せられ右拳が胴体に叩き付けられ殴り飛ばされる。

 

「ぐうううッ! な、なんと言うパワーだッ!?」

 

片腕でPTを引き寄せるその力、そして高機動の機体でさえ追いつけない機動力……その信じられないスピードにライが呻く。

 

「それなら俺が相手になってやるぜッ!」

 

「マサキ、あたしも行くよッ!!」

 

サイバスターとヴァルシオーネが空を舞う青い機体を追いかけていく……だが信じられないことにサイバスターとヴァルシオーネですら、青い機体には追いつけない。

 

「!!!」

 

急反転し突進してきた青い機体の両腕は何時の間にかドリルに変化しており、擦れ違い様にサイバスターの翼と、ヴァルシオーネの脚部にダメージを与える。

 

「ぐっ!サイバスターでも追いつけないだと!?」

 

「マサキッ!」

 

翼にダメージを与えられ、体制を崩したサイバスターにヴァルシオーネが慌てて駆け寄るが、その瞬間に左腕から放たれた3発のミサイルがサイバスターとヴァルシオーネを捕え、2機ともバランスを崩し、海面に向かって落下していく……

 

「誰かマサキとリューネの支援に入れ!」

 

イングラムがそう叫ぶと同時に、手にしているM-13ショットガンの引き金を引き追撃をしようとした機体を引き離す。だが上空に逃れると同時に上空からミサイルの雨が放たれるのだった……。

 

 

 

 

ミサイルの雨の中に消えたビルトシュバインや、R-3を見てリュウセイが思わずそちらにR-1を走らせようとする。だがそれはR-1やアルトアイゼン、そしてグルンガストと言った特機に迫るパワーを持つPTや、特機を相手にしているグレイストークから出撃したもう1体の特機によって防がれた。

 

「……」

 

特徴的な3本の角と口髭にも見えるフェイスパーツ……その赤いカラーリングと合わせてゲッター1を連想させる特機がここから先は通さないと言わんばかりに腕を組んでリュウセイ達の前に立ち塞がる。

 

「くっ! 邪魔をするなッ!!」

 

リュウセイが無理やりにでも突破しようとする。だが赤い機体は無造作に拳を突き出し、R-1を殴り飛ばす。

 

「うわああああッ!!」

 

「リュウセイッ!」

 

リュウセイとコンビを組んでいたラトゥーニがすぐに援護に入り、追撃を防ぐが拳の命中したR-1の胸部にはその特機の拳の痕がくっきりと刻み込まれていた。

 

「リュウセイ、大丈夫?」

 

「っぐ……すまねえ、ラトゥーニ」

 

ビルドラプターの手を借り立ち上がったR-1。だがたった1発の攻撃で、機体のあちこちから火花が散っている。

 

「リュウセイ! 無理をするんじゃねえ! あいつの相手は俺がする!」

 

イルムがそう叫び赤い機体に向かってグルンガストを走らせる。姿形がゲッターに似ているだけではない、その攻撃方法も斧を使い、ゲッター1は腹部からだったが、この赤い機体も額からという差異はあるがビームを放つ。しかもそのビームが曲者で、セバストポリ基地の防衛の任務についていたゲシュペンストMK-Ⅱを1発で消滅させるほどの威力を秘めていた。

 

「!」

 

グルンガストが向かってくるのを確認すると両肩から両刃刃の斧を射出し、両手に持ち構える赤い機体。真っ向から打ち合えば、グルンガストと言えどダメージを受ける、そう判っていて馬鹿正直に突っ込むほどイルムは単細胞ではない。

 

「ブーストナックルッ!!」

 

赤い機体の間合いに入りかけた瞬間に急ブレーキを掛けて、右拳を射出する。

 

「!?」

 

それは完全に予想外だったのか、胴体に突き立つ拳ごと後方に押し込まれる。そしてその方向にはタンクの裏に隠れていたアルトアイゼンがいる。

 

「この距離……貰ったぞッ!!」

 

最大速度で赤い機体に突っ込み、右腕のリボルビングステークをその背中に突き立て、連続でステークを打ち込む。3発目でステークが外れ、赤い機体が自由になる。

 

「お願い、当たってッ!!」

 

グルンガストよりもスマートな形状をした特機「グルンガスト弐式」に乗ったクスハの祈るような言葉と共に左腕が射出され、その足を掴んで二式へと引き寄せる。

 

「!」

 

それに気付いたAIは頭だけをグルンガスト弐式に向け、頭部からビームを放とうとする。

 

「させるかッ!!」

 

イングラム達とキョウスケ達の違い、それはもっとも根本的な部分にあった。青い機体は2機でコンビを組み、互いに互いをカバーしているからこそ、エクセレン達もその機動力も相まって後手に回っていた。だが火力、装甲共に青い機体よりも上の赤い機体だが、アルトアイゼン、R-1、グルンガスト、グルンガスト弐式と言う高い能力を持つ者が相手では否が応でも劣勢に追い込まれる。それは奇しくも、赤い機体と青い機体の周りの環境が変わったと言う事を意味していた。そして今もヒュッケバインMK-Ⅱの手にしているフォトンライフルから放たれた光弾が頭部を捉え、弐式に向かって放たれようとしていたビームの軌道を逸らす。

 

「あ、ありがとう。ブリット君」

 

「い、いや、無事なら良いんだ」

 

助けられたことに感謝の言葉を口にするクスハにはにかみながら返事を返すブリット、ここだけ見れば微笑ましい光景だ。だが、今ここは戦場であり、2人の方には引き寄せられた赤い機体が刻々と近づいている。

 

「一意専心ッ! 狙いは一つッ!」

 

裂帛の気合と共にヒュッケバインMK-Ⅱの腰に搭載された、PT用の実体剣ブレード「シシオウブレード」を抜き放ち、引き寄せられてくる赤い機体に向かって踏み込むヒュッケバインMK-Ⅱ。その一閃は赤い機体の胴体部を切り裂く、直感で振るわれた一撃だが、それはピンポイントでコックピットを切り裂いていた。無人機ではあった、だがコックピットを潰せば動く事は無いとブリットは油断してしまった。

 

「な、ま、まだ動く……ぐあっ!?」

 

一瞬ぐったりとして機能が停止したように見えた赤い機体だが、そのカメラアイに凄まじい光が宿り。反撃と言わんばかりに振るわれた斧の一撃がヒュッケバインMK-Ⅱの重力制御を応用したバリア「G・ウォール」ごと、シシオウブレードを手にしているヒュッケバインMK-Ⅱの右腕を根元から切り裂く

 

「ブリットッ!」

 

近くにいたR-1が追撃にと動き出そうとした赤い機体に飛び蹴りを喰らわして弾き飛ばす。だがその距離は微々たる物で再び動き出そうとする赤い機体……だが胴体部のコックピットが潰された事で僅かに動きが鈍っていた。

 

「ファイナルビームッ!」

 

「マキシブラスターッ!!」

 

その隙を見逃すわけは無く、グルンガストとグルンガスト弐式の胸部の熱線が同時に放たれ、赤い機体の姿は光の中へと消えた。

 

「ふう、随分とやばい相手だったが、何とかなったな。キョウスケ、早く向こうと合流……おいおい……嘘だろ?」

 

イングラム達と合流しようと声を掛けたイルムだったが、雲の切れ間からたった今倒したばかりの赤い特機と青い特機、それがそれぞれ5機ずつ降下して来る光景を見て、引き攣った声でそう呟くのだった……。

 

 

 

ハガネのブリッジでダイテツは降下してきた機体を見て顔を顰めた。それは自分が若い時に見てしまったゲッターの資料に描かれていた機体と瓜二つだったからだ。

 

「艦長、このままではセバストポリ基地だけではなく、ハガネとヒリュウ改も危険です」

 

テツヤの報告にどうするべきかとダイテツは考えを巡らせる。恐らくあの赤と青の機体はそれぞれ「ドラゴン」「ライガー」だろう、だが分離する兆候も無い。恐らく、機能をいくつかオミットして製造された量産型なのだろう。だがそれでもPTとのサイズ差もあり、出力は上だ。それにあの機体の登場で明らかにDCが息を吹き返して来ている……。

 

『ウォアアアアアアアッ!!!』

 

どうするべきか悩むダイテツの耳に、背筋も凍るような雄叫びが響く。そして次の瞬間、1機だけ動きの良かったライガーが突然機体を反転させ、バレリオンのコックピットにドリルを突き立てる。

 

『な、何をしている!? テンペスト少佐!!』

 

焦ったハンスの声に初めてあの機体にテンペストが乗っていると知ったダイテツ。だが思わず心の中でそんな馬鹿なと呟いた、あの青い機体には生気と言う物が一切感じられなかった。だから無人と断定していたのに、それにパイロットが乗っている。あんなパイロットの安全を度外視した異常な動きでだ……。

 

「各員! 一時後退せよッ!!」

 

ダイテツは己の直感に従いそう命令した。何か危険だと、歴戦の軍人としての勘がそうさせたのだ。そしてダイテツの直感は的中した、今まではPT隊を襲ってきたドラゴンとライガーがDCもセバストポリ基地も、そしてハンスが乗るグレイストークまで襲いだしたのだ。

 

『ば、馬鹿な! アードラーの奴! とんでもない欠陥品をッ!? 来るなッ! 来るなああああああッ!!!』

 

【アアアアアアアッ!!!】

 

一番最初に狂った……いや、テンペストの乗るライガーがドリルをグレイストークのブリッジに何度も何度も突き立て、そしてミサイルを叩き込みグレイストークを轟沈させた。

 

【アア、アアアアアアッ!!!】

 

獣のような雄叫びを上げるライガー、そしてその叫びに呼応するかのように斧を、ドリルを掲げるドラゴンとライガー。爆発炎上したグレイストークを背後にするドラゴンとライガーの姿は無人機とは思えない恐ろしさを秘めていた。

 

「ま、待ってください! 急速にこの空域に向かう機影あり! 早いッ! 後20秒です!」

 

エイタの報告と同時に上空から光の柱が叩き込まれ、R-1やヴァイスリッターに襲い掛かろうとしていたドラゴンの動きを止める。そしてRー1達をその背に庇うように上空から降下してきた何かがセバストポリ基地に着地する。ドラゴンの暗い赤とは違う、眩いまでの赤が戦場に舞い降りた。

 

「……ゲッター1。武蔵君かッ!?」

 

マントを翻し、ドラゴンとライガーの方を向くゲッター1のカメラアイが力強く光り輝くのだった……

 

 

第35話 ゲッターロボ対ゲッターロボG その1へ続く

 

ドラゴンとライガーの暴走が始まろうとした瞬間にゲッター1登場です。ここから先はゲッターロボ対ゲッターロボGと言う事で複数回続けていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

 

 

PS

 

今回登場したゲッターロボGをOG風にすると多分こんな感じです

 

 

量産型ゲッターライガー(テンペスト機)

HP29000

EN210

運動性170

装甲1500

 

特殊能力

 

ジャマー

分身

ゲイムシステム

 

チェーンアタック 2100

ドリルミサイル 2500

ドリルアタック 3300

ダブルドリルアタック 3900

 

 

量産型ゲッターライガー(人工知能)

HP22000

EN170

運動性140

装甲1100

 

特殊能力

 

ジャマー

 

チェーンアタック 1900

ドリルミサイル 2100

ドリルアタック 2800

 

 

量産型ゲッタードラゴン(人工知能)

HP24000

EN190

運動性95

装甲1900

 

特殊能力

 

ビームコート

 

スピンカッター 1900

ダブルトマホークブーメラン 2100

ダブルトマホーク 2400

ビーム 2800

 

 

 

 




多分こんな感じかな?(強すぎるかな?)ゲッター炉心で稼動していないのでEN回復は無し、オープンゲットと合体能力は排除。
その代わりにジャマーとビームコートを搭載、テンペスト機は分身とゲイムシステムが追加されています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第35話 ゲッターロボ対ゲッターロボG その1

第35話 ゲッターロボ対ゲッターロボG その1

 

ゲッターのコックピットの中で武蔵は小さく間に合ったかと呟いた。クロガネはDCの旗艦と言う事もあり、近くまでは来ているがそれでもセバストポリ基地のレーダーの範囲外の海中に停泊している。そこから全力で飛ばして来たが、正直かなりギリギリだったと思う。

 

(あれか……ドラゴンと……ライガー……オイラが死んだ後に完成した……新ゲッターロボ)

 

出発前にビアンに見せられた新型ゲッターの姿。多少細部は違っているが、その外見的な特徴から赤い機体がドラゴン、青い機体がライガーと判断する。

 

『武蔵! 助けに来てくれたのか!』

 

「おうともさ、言っただろ? オイラにはオイラの都合があって、そっちにはそっちの都合がある。だけど同じ目的があれば、そんな都合なんてどうでも良くなるさ」

 

リュウセイの言葉に武蔵はそう返事を返す。正直ハガネの面子は顔見知りだが、ヒリュウ改の面子は2回目。しかも1回目が最悪の出会いだったからか、流石の武蔵も不味いかなと心の中で呟く。

 

(まぁ、やることは1つだ)

 

自分は馬鹿だから言葉で何とか出来るなんて思っていない。なによりも自分の行動で示すことだと思っている武蔵はゲッターをドラゴンとライガーに向かって走らせる。

 

「「「「「!!!」」」」」

 

それと同時に駆け出してくるドラゴン。そのスピードはリュウセイ達にとっては脅威と言えただろう、だが武蔵はコックピットの中で首を傾げていた。

 

(違う、これはアレじゃない)

 

タクラマカン砂漠で現れたドラゴンとは違う、ゲッター線も何の反応も示さず。ゲージは最大の半分を維持している……あの時のような、ゲッターが壊れるんじゃないかと思うほどの凄まじい力の高まりは無い。

 

(やっぱりビアンさんの言う通りか)

 

出撃前のブリーフィングで聞いていた事だが、量産型のドラゴンやライガーは性能をかなり制限して製造されているのではと言う事だ。性能を制限し、形態を固定にすることで複数体の個体の製造を可能にしたと考えている。ビアンのその言葉に最初は半信半疑だったが、こうして戦えば判る。脅威となるのは、自分を海中に叩き落したドラゴンだけだと……

 

「くらええええッ!!!」

 

マントを掴み、一番先頭のドラゴンの顔面に向かって投げ付ける。それは、的確にドラゴンの頭部を覆い隠し、その動きを止めさせる。

 

「オラァッ!!!」

 

動きが止まったドラゴンの顔面に容赦のない蹴りを叩き込み、そのまま頭を踏み砕く

 

「トマホークブゥゥゥメランッ!!!」

 

「!」

 

ゲッター1とドラゴンの投げたトマホークがぶつかり、それぞれの軌道が逸れる。だが武蔵は自分の方に飛んできたダブルトマホークを見逃さずゲッターを走らせ、宙を舞うトマホークを掴むと同時に空中で反転して再び投げ付ける。

 

「!!」

 

「は! 弱すぎるぜッ!!」

 

それは空中からゲッター1を狙っていたライガーを中心から両断し、爆発させる。特機として考えれば、ドラゴンもライガーも十分な脅威だ。だがゲッターロボとして考えればドラゴンとライガーの戦闘力はあまりにも弱すぎた。

 

「むっ! うおっ!?」

 

だが爆発したライガーの残骸から無数のチェーンが伸びてきて、それぞれが両手足、胴体、首元に巻き付く。ペダルを踏み込み出力を上げるゲッターだが、5体のライガーもまたゲッターを自由にさせまいと踏ん張り、完全に均衡状態に陥る。

 

「「「「!!」」」」

 

身動きの取れないゲッター目掛け、頭を潰されたドラゴンも含め5体のドラゴンが同時にダブルトマホークを構え投げ付けてくる。

 

「はいはーい、ここはお任せッ!!」

 

オープンゲットしようとした瞬間。斧に向かってビームが放たれ、ダブルトマホークを明後日の方角に弾き飛ばすと同時にミサイルがドラゴン達に向かって放たれ、煙幕を作り出す。

 

「……この距離、貰ったッ!!!」

 

煙を突っ切って姿を見せたアルトアイゼンが、両肩のハッチを開き、チタン製のベアリング弾をライガー目掛け撃ち出す。高速で迫るベアリング弾にライガーはチェーンを回収し、空中へと逃れる

 

『ゲッターロボのパイロット、武蔵だな。話は聞いている、お前がこの戦いに協力すると言うのならば、当てにしたい。どうするつもりだ』

 

接触通信で告げられるぶっきらぼうな言葉。その口調に隼人に似ているなと武蔵はベアー号の中で苦笑し返事を返す。

 

「オイラはその為に来たんだ。よろしく頼むぜ!」

 

武蔵の言葉にキョウスケは小さく笑い、ゲッタートマホークを構えるゲッター1の隣で、右腕のリボルビング・ステークをドラゴンへと向けるのだった。

 

 

 

ゲッターに迫るトマホークを迎撃しつつ白銀のPT……ヴァイスリッターのコックピットでエクセレンは小さく息を吐いた。正直、オクスタンランチャーでも撃ち落せるかは五分五分で、そこにさらにスプリットミサイルの追撃を放ちアルトアイゼンの突撃する隙を作る。

 

(もうこんなのやってられないわよ)

 

トマホークを全部撃ち落すことが出来なければアルトアイゼンは最高速度でトマホークに突っ込むことになるし、弾幕を作らなければ赤い機体に迎撃される可能性もある。10回やって1回成功するかどうかの大博打……分が悪い賭けは嫌いじゃないが恋人であるキョウスケの口癖だが、その賭けの目が自分に左右されていると言うのは予想以上にエクセレンの精神に負担をかけていた。だがその賭けには勝利し、ゲッターロボとアルトアイゼンがコンビを組んだのでそのまま各個撃破されることは無いと安堵し、そのままヴァイスリッターを急上昇させる。

 

「……っと、今度は私がピンチなのよねぇ」

 

「「……」」

 

セパストポリ基地にいるライガーは5体、ドラゴンは半壊したのが1体と万全な状態が5体。ゲッターロボが1体を速攻で片付けたおかげで機動力が高いライガーが1体減ったのは幸いだ。

 

『じ、ジガンスクードオオオオオオオオオオッ!!!!!』

 

「ぐふっ! じ、ジガンを殴り飛ばすなんて……化け物かよッ!?」

 

機械音声で発せられる人間の声……テンペストの血を吐くような叫びがジガンスクードに向けられる。ジガンスクードが健在の間は、あの1体だけ性能の良いライガーは完全に足止めされる。だがその代わりにジガンスクードが落ちれば、その瞬間その脅威は再びエクセレン達に向けられる。

 

「くそ! よくもやりやがったな! あの野郎ッ!!」

 

「100倍にして返してやるからねッ!!」

 

海面が爆発したような勢いで盛り上がり、海中から飛び出てきたサイバスターとヴァルシオーネがヴァイスリッターに並ぶ。

 

「リューネ! マサキ! とにかくあの青いのを足止めするわよッ!」

 

ミサイル、鎖攻撃などのこちらを足止めする攻撃を複数持ち合わせ、さらにその機動力は特機としては破格であり、無人機であるがゆえにサイバスターさえも振り切る。ライガーを先に破壊しない事には、状況はますます不利になる一方だと判断したエクセレンはリューネとマサキにそう指示を出し、ドリルを向けるライガーに向かってヴァイスリッターを走らせる。

 

「!」

 

「くっ! 厄介ねぇッ!」

 

無人機であるが故の急加速、急旋回は非常に厄介だ。急激なGによるパイロットの意識の喪失が無い、それだけでライガーの加速力は恐ろしいほどの脅威になる

 

(Bモードは当たらないし、Eモードもダメだわ)

 

ヴァイスリッターの主武装の「オクスタン・ランチャー」は実弾とエネルギーを使い分けが出来る有効な武装だ。だが、ライガーを相手にしてはBモードは遅すぎ、Eモードも命中させるのは極めて困難。となればヴァイスリッターでライガーを撃墜するのは不可能と言うのがエクセレンが導き出した答えだった

 

(……とりあえず、ある程度は分散してるわね)

 

戦場をサッと見渡し状況を把握したエクセレン。ドラゴンにはゲッターロボを中心に、アルトアイゼンやグルンガストが当たり、少しでも数を減らそうとしている。ライガーには自分を初め、機動力に優れた機体や遠距離射撃が得意なR-2やリオのヒュッケバイン009とアーマリオンが当たり、そしてハガネにはこの状況では戦力不足となるR-3や、ラッセル、ジャーダ、ガーネットと言った量産型ゲシュペンストMK-Ⅱに乗っている面子が護衛に回っている。暴走状態のライガーとドラゴンはDCも、連邦も関係なしに襲ってくる。だからこそ、3つの戦場に分かれて戦っている、だがこれがもし完全にAMと連携を取ってきたらと想定するとエクセレンの背中には冷たい汗が流れた。

 

(これが量産されてるってとんだ悪夢だわ)

 

装甲と攻撃力に優れたドラゴン、機動力と妨害に優れたライガー。それが量産されてるとか、どんな悪夢よと心の中で呟き、デッドウェイトとなるオクスタン・ランチャーを投げ捨て、左腕の3連ビームキャノンをライガーに向ける。装甲はドラゴンと比べて低いとは言え、PTやAMとして考えると非常に硬い装甲を持ち、攻撃力は完全にPTを越えている。そんな相手と真っ向から戦うほど、エクセレンは馬鹿ではない。まずはライガーの機動力の源である背中のブースターを破壊する……ライガーを撃墜するのではなく、ライガーを撃墜できるように場を整えること、それがエクセレンの出した作戦だった。

 

(一発で決めてよね、ブリット君……)

 

セバストポリ基地の崩壊した格納庫に隠れ、Gインパクト・キャノンの照準を合わせているヒュッケバインMK-Ⅱが一撃で仕留めてくれる事を祈り、ヴァイスリッターに向かって放たれたミサイルをビームキャノンで打ち抜くのだった……

 

 

 

量産型ライガーとドラゴンの登場で一時は全滅を覚悟したダイテツ。だが、ドラゴンとライガーは現れた時と異なり完全に暴走していた。

DCも連邦もお構い無しに襲い掛かり破壊していく、確かにドラゴンとライガーの存在は脅威だ。だが、それが敵味方関係なしとなると、話は変わってくる。

 

『ダイテツ艦長、セバストポリ基地の司令からゲッターロボの捕獲命令が出ています』

 

「無視しろ中佐。この状況でゲッターロボを捕獲してどうなる」

 

この状況でもゲッターロボの捕獲命令を出す基地司令。やはりジュネーブが近い事もあり、それだけシュトレーゼマンやアルバートの思想に近いと言うことだろう。だが、それは余りに状況を見えていない愚か者の判断だ。そしてそんな愚か者に待つ末路も昔から相場が決まっている

 

「っち……ハガネを微速前進! ヒリュウ改に続けと打電しろッ!」

 

ドラゴン2機の頭部から放たれたビームでセバストポリ基地の司令部が吹き飛んだのを見て、ダイテツは指示を出す。確かにハガネとヒリュウ改は司令部の護衛を勤めていたし、暴走していたドラゴンやライガーとも戦闘をしていた。だが今回の襲撃は余りに予想外だった

 

「「「!!!」」」

 

ライガーが掘り進んだ地面からドラゴンが飛び出し、司令部を直接攻撃するなんて夢にも思っていない。基地の防衛をしていたゲシュペンストや戦車が次々とドラゴンに破壊される中ハガネとヒリュウ改は司令部から離れる。見捨てたと取られても仕方ない、だが、ここで全滅するわけには行かない

 

『中佐。全てを背負うことはありませんぞ』

 

「ふっ、気にしすぎだショーン」

 

先に命令を出したのはレフィーナがあくまで自分に従ったと言う記録を残すためにある。今の上層部はハガネもヒリュウ改も目の敵にしている。まだ若いレフィーナの進路を閉ざしてはならないと言うダイテツの思いやりだった

 

(しかし、状況は悪化の一途を辿っている)

 

増援で来たドラゴンとライガーに破壊し尽くされたセバストポリ基地と、DC部隊。ここさえ抜けてしまえばジュネーブはもう目前だ。だがライガーとドラゴンの追撃を受けながらジュネーブに向かったとしてもその先に待つのは、ここにいる数以上のドラゴンとライガーの姿だろう。挟撃を防ぐためにも、ここでドラゴンとライガーを撃墜しておく必要性がある。

 

「ゲッタァァビィィィムッ!!!!」

 

「!?」

 

ゲッター1の放ったビームとドラゴンのビームがぶつかるが、それは一瞬とて拮抗せずドラゴンすらも飲み込み消滅させる。

 

(色が違う?)

 

ゲッタービームは緑、だがドラゴンのビームは黄色だった。もしや……いや、確実にドラゴンとライガーはゲッター線で稼動していない

 

「オープンゲットッ!!」

 

ゲッター1の姿が爆ぜ、ドラゴンを追い抜いて背後で合体する。

 

「リュウセーイッ!! 赤いカブトムシ! いくぜえええええッ!!!!」

 

「「!?」」

 

ゲッター3の伸ばした両腕が、ドラゴンとライガーの足に絡みつく。そしてゲッター3は力任せにドラゴンとライガーをR-1とアルトアイゼンの方向に向かって投げ飛ばす。

 

「うおおおおおッ! T-LINKナッコォッ!!!」

 

R-1は自身に向かって投げ付けられたライガーが体勢を立て直し、離脱しようとしているのを見てライガーへ向かって走り出す。だがそれよりも早くライガーが体勢を立て直した。それを見たリュウセイはRー1がマウントしている盾に手を伸ばす

 

「オラアアッ!!」

 

投げ付けられた盾がブーメランのように高速回転し、離脱しようとしていたライガーの胴体を捕え、再びライガーが落下してくる

 

「喰らえッ! 必殺! T-LINKダブルナッコォッ!!!」

 

右拳がライガーの胴体を貫き、即座に繰り出された左拳がライガーの顔面を殴り砕く。だがR-1の攻撃はそれだけには留まらない

 

「念動集中ッ!! 天上天下念動爆砕剣ッ!!!」

 

両手のエネルギーを収束し、剣の形となった念動力を吹き飛んだライガー目掛けて撃ち出す。それは頭部と胸部を潰されても動こうとしていたライガーの胴体を完全に貫いた。

 

「破を念じて刃となれッ!!! 破ッ!!!」

 

着地したR-1が手刀を振り上げると同時にライガーを貫いていた念動力が変形し、ライガーを中心から両断し完全に破壊する。

 

「……この隙は見逃さんッ!!!」

 

赤いカブトムシ呼ばわりされたキョウスケはやや複雑そうな表情をしたが、この千載一遇のチャンスを逃がすほど馬鹿ではない。左腕の3連マシンキャノンをドラゴン目掛け撃ち込み、ビームを放とうとしていたドラゴンの頭部を粉砕する

 

「全弾持って行けえッ!!!」

 

ドラゴンの胴体にリボルビングステークを撃ち込み、連続でステークが撃ち込まれる。最後の6発目で宙に浮いたドラゴンは完全に胴体が破壊されていたが、それでもまだ動こうとする。

 

「言った筈だ……全弾持って行けとなッ!!!」

 

アルトアイゼンの両肩が開き、そこから放たれたチタン製のベアリング弾が容赦なくドラゴン目掛けて打ち出され、装甲が穴だらけになったドラゴンは空中で爆発する。

 

「……ジョーカーを切らせて貰った」

 

リボルビングステークの薬莢を交換しながらキョウスケは静かにそう呟く、最初は劣勢に追い込まれてたハガネとヒリュウ改だが徐々に。徐々にだが、ドラゴンとライガーの部隊を押し返していた。

 

「こいつで片をつけてやる」

 

グルンガストと肩部から計都羅喉剣の柄が飛び出し、グルンガストはその柄を掴み計都羅喉剣を引き抜く

 

「計都羅喉剣ッ!!」

 

計都羅喉剣を構えるグルンガストを見て、ドラゴンが離脱しようとする。だがそれは余りに遅すぎた

 

「へっ! 逃がすかよッ!!」

 

RーGUNの撃ち込んだメガビームライフルでバランスを崩すドラゴン。その隙にグルンガストは天高く舞い上がっていた

 

「暗剣殺ッ!!!」

 

「!?!?」

 

唐竹割りにされ、即座に振るわれた横薙ぎの一撃。4分割にされたドラゴンは視界が左右に離れていくのを感じながら爆発する。

 

「天に凶星……地に精星ッ!!」

 

クスハの言葉と共に弐式が手にしていた柄だけの剣に刃が現れる、それを見たライガーはドリルアームを翳して弐式へと突っ込む。それはライガーの方が早いと判断したからだろうが、それは明らかに悪手だった

 

「させないッ!!」

 

アーマリオンの両肩が開き、そこから放たれたミサイルの雨がライガーの背中で炸裂し、加速力が僅かに落ちる。そしてその隙をクスハは見逃さなかった

 

「必殺ッ! 計都瞬獄剣ッ!!」

 

僅かに加速が緩んだライガー目掛け突進した弐式が擦れ違い様にライガーを一閃し、ライガーの胴体と脚部は真っ二つに両断されゆっくりと視界が横にずれ、ライガーの姿は爆発の中へと消えていった……

 

「少尉! 離脱してください!」

 

「OK! 待ってたわよッ!!」

 

ヴァイスリッターが離脱すると同時に、崩壊した格納庫からチャフグレネードが放たれ、ヴァイスリッターにドリルアームを向けていたライガーの顔付近で炸裂する

 

「!?!?」

 

予想外の角度からの予想外の襲撃、ライガーのAIは奇襲とチャフグレネードにより完全にパニックになっていた。

 

「今だ! Gインパクトキャノン……ファイヤッ!!!!」

 

格納庫に隠れていたヒュッケバインMK-ⅡのGインパクトキャノンが炸裂し、ライガーを跡形も無く消し飛ばす。その姿を見てダイテツは確信した。あのドラゴンとライガーに炉心は搭載されていない、あくまで通常動力で稼動していると……

 

「大尉! 各員に通達! ドラゴンとライガーはゲッター線で稼動していない。エネルギー切れが近い、いまこそ攻勢に出ろ!と」

 

「りょ、了解!」

 

ゲッターロボが旧西暦の骨董品でありながら新西暦の機体を相手にして有利に戦える理由は1つ、それはゲッター炉心と言う膨大な出力を持つエンジンとゲッター線によるエネルギーの回復能力にある。ドラゴンとライガーが現れ、1時間。恐らく複数の動力源を積み込む事で稼働時間の延長を図っていたようだが、それもエネルギーの枯渇が近いのか攻撃が緩くなり始めている。これ以上、敵の増援が来る前にセバストポリ基地を突破し、ジュネーブに向かうべきだと判断したダイテツは攻勢に出るように命令を下す。だが動きが鈍る、ドラゴンとライガーの中で1機だけ、時間が経てば立つほどにその動きを激しくさせるライガーがあった。他の機体には目もくれず、ジガンスクードを襲い続けるテンペストのライガーだ。

 

『カエセッ! カエセええええッ!! レイラとアンナを俺に返せええええッ!! ジガンスクードオオオオオオッ!!!!』

 

腕がひしゃげ、頭部が半壊し、ドリルも中ほどから曲がり、全身から火花を散らし、最早戦闘など行えるレベルではない。それでも、ジガンスクードへの恨みを叫び、攻撃を繰り返す姿は哀れとしか言いようが無かった。

 

『俺の妻が何をしたァッ! 俺の娘が何をした!! 何故!何故何故何故何故ッ!!!! どうしてあの子の未来は奪われた! 答えろッ!! 答えろオオオオオオッ!!! ジガンスクードオオオオオオオッ!!!!!』

 

火花を散らし、身体が砕けてもなおジガンスクードに攻撃を続けるライガー。それは連邦が生み出した哀れな被害者の魂の叫びであり、それはダイテツだけではなく、今この場にいる全員に重く圧し掛かるのだった……

 

 

 

 

『俺の妻が何をしたァッ! 俺の娘が何をした!! 何故!何故何故何故何故ッ!!!! どうしてあの子の未来は奪われた! 答えろッ!! 答えろオオオオオオッ!!! ジガンスクードオオオオオオオッ!!!!!』

 

海中で待機しているクロガネのブリッジにテンペストの血を吐くような叫びが木霊する。その余りに痛ましい声と姿に誰も口を開くことが出来ない……

 

「……ライガー内部のスキャンは出来たか?」

 

ゲットマシンには急ごしらえだが、スキャン装置などが搭載されていた。アードラーに攫われたシャイン皇女が救出可能か否かを判断する為の装置だった。艦長席に腰掛けるビアンの言葉……それは涙を流している女性オペレーターに自分だけで抱え込むなと言っていたのだ。

 

「……こ、これを……」

 

オペレーターが操作し、クロガネのブリッジに映し出されるライガーの分析結果。それを見たバンとエルザムは拳を強く握り締めた

 

「これが……これが人間のやることかッ!!!」

 

「アードラー……コッホッ!!!」

 

ライガーの胸部に用意された僅かな隙間、そこには上半身だけのテンペストらしき人影……それはテンペストが生体ユニットとしてライガーに組み込まれていると言う証だった。

 

(ここまでやるか! アードラー!)

 

艦長席に腰掛けるビアンは強く拳を握り締める、人間を実験材料と言ってはばからないアードラー。だがまさかここまでするとはビアンを持ってしても予想だにしない光景だった

 

「……総帥、出撃許可を出してください」

 

「……ならん」

 

エルザムの搾り出すような願いを、ビアンは認めなかった。あくまでエルザムやバンを初めとした兵士はジュネーブの捜索の為に同行している。クロガネの護衛としてガーリオンを4機搭載してきたが、それはあくまで護衛機としての性能を特化したガーリオンだ。攻撃能力は通常のガーリオンを大きく下回り、リオンよりも低い可能性すらある。

 

「私達の目的はあくまでジュネーブの地下にある。それを覆しはしない」

 

反論しようとしたエルザムだが、唇を噛み締める鬼の形相をしたビアンを見て、ビアンもまた出来ることならばテンペストを呪われた生から開放してやりたいと思っているのは明らかだった

 

「申し訳……ありません」

 

謝罪の言葉を口にするエルザム、だがエルザムを責める者はいない。今クロガネのブリッジにいる全員がエルザムと同じ想いを抱いていた

 

「潜行状態を維持したまま、クロガネはジュネーブへ向かう。武蔵君には先に向かうと通達してくれ」

 

「り、了解! クロガネ微速前進」

 

ビアンの指示に従いゆっくりと動き出すクロガネ。ビアンがその決断を下したのはジュネーブに降下する何十機と言うドラゴン、ライガー、ポセイドンの反応を感知したからだ。ハガネとヒリュウ改がセバストポリ基地に足止めされている間に、アードラー率いる、DCはジュネーブへの侵攻を成功させていたのだ。

 

 

 

忌まわしいジガンスクードを壊すことしか、テンペストの頭には無かった。ライガーに組み込まれ、ゲイムシステムを埋め込まれたテンペストの精神は完全に崩壊し、自分の幸せを奪ったジガンスクードを壊す事しか考えることが出来なかった。

 

「テンペストさん! もう止めるんだッ!!!」

 

「はなせえッ!! ジガンスクード! 返せッ! 俺の妻と娘を返せええええッ!!!」

 

ドラゴンとライガーを一掃したゲッター3がライガーの動きを止める為に、その伸縮自在の腕を伸ばす。だがライガーは拘束されているにも拘らず、ゲッター3を振りほどこうと暴れ続ける。もはやテンペストを止めることは出来ない、そう判断したのかテンペストに狙われているジガンスクードのコックピットでタスクは意を決した表情で操縦桿を握り締める。

 

「すまねえ、すまねえ……」

 

ジガンスクードの最終兵器であるエネルギーフィールドを纏った体当たり、「ジガンテ・ウラガーノ」を使う決意を決めたタスク。だがジガンスクードが動き出す前に、ライガーが全身を爆発させながらもゲッター3の拘束を振り切った。

 

「ヤメロオオオオオオッ!! レイラ! レイラアアアアアアアアアッ!!!!!!!」

 

火花を散らし、オイルを鮮血のように撒き散らすライガーはPT……ビルドラプターへ走る。

 

「止めろッ!!」

 

ラトゥーニが狙われている、そう判断したイングラムがライガーへの攻撃命令を下す。銃弾が、エネルギーが炸裂し、崩壊していくライガー。だがそれでもライガーはビルドラプターに向かう足を止めない

 

「オアアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

「!?」

 

ドリルを振りかざし、向かってくるライガー。そのおぞましいとも取れる姿にラトゥーニは思わず目を硬くつぶった、そして彼女の耳にジャーダとガーネットの自身の名を叫ぶ名が聞えた……だがライガーはビルドラプターの横をすり抜ける

 

「ガアアアアアアアッ!?!?」

 

ラトゥーニの耳に飛び込んだのは、機械がひしゃげる音とテンペストの苦悶の雄叫びだった……

 

「!!!!」

 

「ギギイイイイイッ! レイラ、レイラ……レイラはぁッ!!!!」

 

上空から降下してきた最後のドラゴンのダブルトマホークが、ライガーの胸部を完全に押し潰す。だが折れて曲がったドリルアームもドラゴンの頭を貫いていた。

 

「う、ウゴアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

最早テンペストの言葉は言葉としての形を成していなかった。獣のような唸り声を上げ、ドラゴンのビームに焼かれながら、折れたドリルアームを何度も何度も叩きつける。

 

「ラトゥーニを護った!?」

 

「もう区別がついていないのか」

 

崩壊した自我の中、ビルドラプターに乗るラトゥーニが自身の娘と同じ年頃であると言うことをフラッシュバッグのように思い出したテンペスト、それは崩壊した自我の中でビルドラプターに乗っているのは自分の娘であるレイラ・ホーカーであると思い込んでしまった。ライガーが破壊されながらもドラゴンへの攻撃を繰り返す、テンペスト。何度目かのドリルアームが動力部を刺し貫き、一際大きく痙攣したドラゴンはオイルを撒き散らしながら、その活動を停止した。

 

「レイラ……レイラァ……俺の……俺の……愛しい……娘……」

 

だがドラゴンを破壊したライガーは頭部の右半分を失い、右腕も根元から千切れ、火花を散らす。左腕を震わせ、機能停止する前のぎくしゃくとした動きでビルドラプターの顔に手を伸ばす。

 

「……」

 

慈しむように、無事で良かったと言うかのように、ビルドラプターの顔を撫でるライガー。遺された左半分のライガーの顔からは、オイルが涙のように流れ続けていた

 

「ああ……よかっ……た……レイ……ラ……が……無事で……」

 

その言葉を最後にライガーのカメラアイから光が消え、膝から崩れ落ちるライガーをビルドラプターは抱き止める。

 

「……テンペスト……ホーカー……少佐。貴方は……最後に救われたのですか?」

 

ビルドラプターのコックピットでラトゥーニはそう呟いた。自我が崩壊し、壊れた肉体に壊れた精神がしがみついているだけのテンペスト……だが最後の最後のあの安堵しきった声。それはラトゥーニではなく、まるで自分が救われたかのような響きだった

 

「……各員ハガネとヒリュウ改へと乗艦せよ。このままハガネとヒリュウ改はジュネーブへと向かう」

 

だが戦いはまだ終わっては無い、ダイテツは非情とも取れる決断を下し艦へと撤退しろと告げる。ジュネーブからのSOS通信、既にジュネーブでの戦いは始まっているのだ。ここで足踏みしている時間は無い

 

「……テンペストさん。お疲れ様でした」

 

武蔵はビルドラプターからライガーを受け取り、ライガーの残骸を抱き上げる。

 

「……後で必ず合流しますから」

 

ゲッター1はそう告げると、マントを翻し飛び去って行くのだった……

 

第36話 ゲッターロボ対ゲッターロボG その2へ続く

 

 

 




なんかテンペストが原作と違うことになっておりますが、ご了承願いします。書き出した最初からテンペストはラトを庇い死ぬで考えておりました。ちょっと書き出しと違うことになりましたが、概ね最初の考案とおりとなっております。次回はジュネーブ、オリジナルゲッターGを出して行こうと思っております。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第36話 ゲッターロボ対ゲッターロボG その2

第36話 ゲッターロボ対ゲッターロボG その2

 

テンペストの乗るライガーの反応が途絶えた。それを見てアードラーはふんっと鼻を鳴らす。そしてイーグレットもやれやれと言う素振りで肩を竦める

 

「さしもの教導隊も俺のゲイムシステムには耐えられなかったか……生体ユニットにすればまた違う結果が出ると思ったのだがな」

 

「仕方あるまい。死に掛けの男を組み込んだのじゃ、所詮はその程度の器と言う事じゃよ。だが稼動のデータは十分に集まった。後はテンザンとシャイン皇女を使って調整を行うぞ」

 

テンペストの死を悼むでもなく、死んで当然と言う反応のアードラーにアースクレイドルにいる一般兵は顔を歪める。一応総帥と言う事になっているが、誰もアードラーを敬う者はおらず。自分が実験台にされるのを避ける為に従っていた。

 

「おお、そうじゃそうじゃ、ハンスはどうなった?」

 

長い間DCにスパイとして情報を送り続けたハンスはどうなった? と今思い出したように尋ねる。

 

「暴走したライガーによって殺害されました」

 

本来なら味方のライガーに殺される、確かにハンスはスパイであり裏切り者だ。だが、アードラーの開発したライガーが暴走したことで殺された……兵士はそう思っていたのか、戦死ではなく死亡と告げた。

 

「所詮、スパイ以外に使い道の無い男じゃったか。こんなことならばドラゴンに組み込んでしまえばデータを取れたものを」

 

だがアードラーは兵士のその責めるような視線には全く気付かず、ハンスもテンペスト同様の処置を施してドラゴンに組み込めばよかったと悪びれもせずに告げた。

 

「……それが死んでいった同胞に対して言う言葉ですか?」

 

リリーが責めるような口調で言うとアードラーはくだらないと言わんばかりに鼻を鳴らす

 

「何が悪い? リリー・ユンカースよ?」

 

「曲がりなりにも、1度は志を共にして戦った者達。あなたは彼らを何だと思っているのですか?」

 

「奴らは死して、ワシの世界征服の礎となった。それだけであいつらも喜んでいるじゃろう」

 

その冷酷な言葉にリリーを含めた全員がアードラーを睨みつける。それと同時に、今のDCにビアンやマイヤーの思想は無いとリリーを含めた全員が感じた。だがアースクレイドル内部に軟禁に近い形で幽閉されているリリー達はアースクレイドルから脱出する事は出来なかった。

 

「それよりも、リリー。次の作戦には、お前の部隊にも参加して貰うぞ」

 

「……判りました」

 

軟禁状態から脱する1つの方法……リリーは眉を顰めながらも、アードラーの要請に頷き部下に伝達してくると言う名目でアースクレイドルの司令部を後にし、目的地である格納庫へ足を向ける。どの兵士も疲弊し、その顔には濃い疲労の色が浮かんでいる。

 

(……あれがオリジナル)

 

投薬と強化スーツを着込まされたシャイン皇女が運び込まれている真紅の機体。旧西暦から新西暦に現れたと言う特機「ゲッターロボG」のオリジナル。リリーは今正に乗せられようとしているシャイン皇女を助けたいと言う思いに駆られたが、それをぐっと堪え、爪が突き刺さるほどに硬く拳を握り締めた

 

「……ゼンガー少佐」

 

グルンガスト零式の前に立つゼンガーの元へ向かう。ゼンガーならば、ビアンやマイヤーの遺志を継いでいると……本当の2人の願いに気付き、賛同してくれたゼンガーならばと思い声を掛ける。リリーが近づいて来た事に気付いた整備兵はゼンガーとリリーに敬礼し、その場を後にする。

 

「リリー中佐……次の作戦にはあなたも参加されるそうですね?」

 

ゼンガーの第一声はそれだった。マイヤーの遺志を継ぎ、生き延びたリリーをアードラーのような俗物の目的の為に死なせる訳には行かない。ゼンガーはリリーの目を見て言葉を続ける

 

「……前線は自分にお任せを。マイヤー総司令に救われた命……無駄にすることはありません」

 

アードラーの捨て駒になってはいけないとゼンガーはリリーに告げる。だがリリーの目には強い決意の色が浮かんでいた

 

「そうはいきません。それより、少佐にお願いがあるのです」

 

「……」

 

その強い決意の色を宿した目を見てゼンガーは悟ってしまった。リリーは死を既に覚悟していると……

 

「ゼンガー少佐。私がなんとかしてシャイン皇女をハガネかヒリュウ改に救出させる時間を稼ぎます」

 

「し、しかし、それではリリー中佐。貴女が……」

 

アードラーの部下も多い格納庫ゆえに小声だが、ゼンガーにはリリーが自ら死のうとしている事に気付き止めようとする。

 

「いいのです、私はマイヤー様の部下。あの御方の傍にいることこそが、私の存在理由。どうか、最後まで……見届けてください」

 

「……り、リリー……中佐」

 

その強い覚悟を目の当たりにし、ゼンガーは言葉に詰まった。ビアンとマイヤーの願い……地球圏を護るための刃を見出し、鍛え上げると言う目的を果たす為にあえて部下の敵へと回ったゼンガー。無論、戦いの中で死ぬ覚悟は勿論していた。自分は戦士であり、戦場で死ぬ定めだ。だがリリーのような、優秀な司令官であり。そしてビアンとマイヤーの真意を知る彼女はこんな所で死んではならない……ゼンガーはそう思ったのだ。

 

(リリー中佐こそ生きなければならない)

 

マイヤー総司令の遺志を継ぎ、恥を覚悟で生き延びたリリー。彼女こそ、生き延びなければならない。だが……リリーには自分の言葉は届かない。

 

「後は貴方に託します。悪を断つ剣、ゼンガー・ゾンボルト少佐」

 

笑みを浮かべ、ストークに足を向けるリリー。ゼンガーはその後ろ姿に手を伸ばしかけ……その手を止めた。誇り高き戦士の最後を見届ける……そして後は自分に託すとまで言われたゼンガーにリリーを止める言葉は無かった。

 

(今こそ……あれを使う時)

 

タクラマカン砂漠でゲッターロボに託されたコンテナ。そこにはビアンの直筆の手紙とクロガネの基地の場所が記されたデータディスク……そして衛星通信装置と、グルンガスト零式の新しいOSが収められていた。グルンガスト零式のコックピットに隠した衛星通信装置を手に取る

 

『……ゼンガーか? どうした』

 

やや声にノイズが掛かっているが、エルザムの声に違いない。

 

「エルザム……どうか力を貸して欲しい、リリー中佐を止める事が出来るのはお前しかいない」

 

『……詳しく話を聞かせてくれ、ゼンガー』

 

エルザムの言葉にすまないと謝罪し、ゼンガーはリリーの決意を無碍にする事を覚悟しエルザムにリリーの決意を伝えるのだった……

 

 

 

 

 

クロガネの格納庫には崩壊したライガーが収容されていた。ジュネーブの地下に侵入する為の準備の為ステルスシェードを展開し、ジュネーブ近くの海岸に停泊しているクロガネに武蔵が持ち帰ってきたのだ

 

『お願いします。どうか、テンペストさんを奥さんと娘さんの傍に……』

 

武蔵の頼みを断る者はクロガネにはおらず、ビアンもエルザムもその頼みを引き受けた。だがビアンは武蔵には言わなかった、テンペストが生体ユニットとして、ライガーに組み込まれている事を……今ここでコックピットから出さないのはあまりに死体の損傷が激しいからと言う事で見るべきではないとビアンがコックピットを開こうとしていた武蔵を止めたのだ。

 

「ハガネとヒリュウ改はジュネーブの連邦軍の本部に向かっているが、どうやらDCの部隊に足止めを受けているらしい」

 

「じゃあオイラもすぐに合流します」

 

「気持ちは判るが少し待って欲しい、武蔵君にはやってもらう事がある」

 

ゲッターロボGとの戦いですか? と尋ねる武蔵にビアンは違うと首を左右に振った。

 

「リクセント公国という国が近くにあるのだが、その国の姫様がアードラーに囚われ、Gに乗り込んでいるらしい」

 

「いや、女の人でも乗れる人は乗れるんじゃないですかね?」

 

現にミチルだって乗れていたしと思いそう告げる武蔵だが、ビアンは深刻そうな顔をして

 

「彼女はまだ10歳ほどだ。そんな彼女に投薬して、テンペスト少佐を発狂させたゲイムシステムという装置を組み込んだGに乗せているらしい」

 

「……」

 

武蔵は無言だったが、その額に浮かんだ青筋と硬く握り締められた拳を見れば何を考えているかは一目瞭然だろう。

 

「武蔵君には彼女の救出を頼みたいのだが、何とかなるだろうか?」

 

「……無理でもやります。オイラに任せてください」

 

大の大人でも死に掛けるゲッターロボに年端も行かない少女を乗せるなんて正気ではない。武蔵はその目に強い怒りの色を宿して頷く

 

「ゲッターロボの補給が済み次第出発して欲しい、私達も同時に行動に出る」

 

「了解です!」

 

格納庫で待ってますと敬礼しブリーフィングルームを出て行く武蔵。ビアン達もパイロットスーツではないが、防刃、防弾のベストとヘルメットを準備して、ジュネーブの地下への侵入準備をしていた。

 

「エルザム少佐。リリー中佐の事は頼むぞ」

 

「はい、お任せください。我が父の部下を死なせる訳には行きません」

 

ゼンガーからの通信の内容を聞いたビアンはエルザムをジュネーブへの侵入班ではなく、リリーを説得するための人員として配置する事を決めた。

 

「防衛用のガーリオンを緊急換装し、高機動にしたが……武装の類はマシンキャノンと使い切りのハイ・ソニックブレイカーしか搭載していない。長時間の戦闘は無理だと思って欲しい」

 

「判っています。任せてください」

 

一気に戦場に突入し、そしてリリーを説得する。その為にガーリオンは黒く塗装され、ブランシュタインの紋章が刻まれた。この機体を見ればリリーも誰が乗っているか一目瞭然だからだ。

 

(それと、そのパイロットスーツならばゲッターの加速にも耐えれるはずだ)

 

小声で告げる。リリーを説得し共に離脱するか、それともゲッターロボに乗り込むかはエルザムの意志に任せることにした。敬礼し出て行くエルザムを見送りビアンは振り返る。

 

「バン大佐。準備は出来ているか?」

 

「は! 突入班12名準備完了しております」

 

「良し! ならば我らも動くぞ!!」

 

ゲッターロボが出撃していく姿を見て、ジュネーブの地下に突入する班であるビアン達も急ピッチで出撃準備を始める

 

(ジュネーブの地下に眠る早乙女研究所の資料。なんとしても手にしてみせる)

 

ゲッターロボ、ゲッター線、そして恐竜帝国……この世界は今劇的に変わろうとしている。ゲッター線によって……それが何を意味するのか、そして上層部が何故ゲッターロボと武蔵を目の敵にするのか、それを知る為にビアンもまた戦いに参加する決意をしたのだった

 

「時間がない、急ぐぞ」

 

ここからジュネーブに向かうにはアルプスを越えるしかない、クロガネに搭載されている4機のガーリオンの内、1機は高機動型に換装した。残りの2機をクロガネの護衛に残し、最後の1機にコンテナを装備させ、そこにバンとビアンを含め14人の突入班を収容した特殊使用のガーリオンもまたジュネーブに向かって飛び立っていくのだった……

 

 

 

 

ハガネと並んでジュネーブに向かうヒリュウ改のブリッジの隣には先ほど合流してきたゲッターロボが並んで飛んでいる。

 

「……ああしてみると確かに旧式って感じですね」

 

「ですな」

 

鉄を丸めるだけの技術しかないように見える寸胴な胴体と手足、だがその力は本物であり、こうして味方として戦えるのならば頼もしい味方だとレフィーナは考えていた。

 

「副長。今回の件で武蔵さんでしたか? 彼の指名手配は解除されるでしょうか?」

 

「難しいですな……恐らく今回の件には軍上層部だけではなく、政治家も数多く携わっているでしょうから」

 

冤罪で追われ、それでも共に戦ってくれる武蔵。イングラムが隊長となり、先行して行くPT隊と共にジュネーブに向かうゲッターロボの後ろ姿を見てなんとかしてやりたいと考えるレフィーナだが、それはショーンによって止められた。

 

「今はジュネーブです。武蔵君のことは後でまた考えましょう」

 

「……はい」

 

酷な言い方だが、レフィーナもダイテツも軍人である。だからこそ、連邦軍本部であるジュネーブの陥落は防がなければならない。レフィーナは小さく息を吐くとその顔に浮かんでいた迷いの色は完全に消えていた。

 

「ユン伍長。状況はどうなっていますか?」

 

「防衛隊の損傷率60%以上! ジュネーブの第3警戒ラインが、各所でDCの部隊に破られています!」

 

第3警戒ラインまで突破されているとなるとハガネとヒリュウ改でも間に合わないかもしれない。レフィーナは強い焦りを感じながらショーンにジュネーブまでの所用時間を尋ねる

 

「……後20分ほどですが……もう間に合わないかもしれませんな」

 

「だからと言って引き下がることは出来ません!」

 

間に合わないからと言って諦める事は出来ないと叫ぶと、ショーンは嬉しそうに笑う。今から陥落しそうな基地に向かう……それは通常の軍人ならば絶対に取らない選択肢だ。だがレフィーナはそれを迷う事無く選択した、それは自分の教えが生きている証だとショーンは喜んでいた。

 

「全く持ってそのとおりです。では我々の部隊の特長を生かし、敵の中枢を突きましょう?」

 

「中枢?……もしやドラゴンやライガーのいる部隊をですか!?」

 

ダイテツからの提案で赤い機体をドラゴン、青い機体をライガーと呼称したが、恐らくジュネーブにいるドラゴンやライガーはセバストポリ基地のいた数よりもはるかに多いだろう。それを直接叩くのは余りに厳しい……ショーンもそれが判っているから顔を顰めている

 

「ですが、ゲッターロボを加えた今の部隊ならば、連携さえ組む事が出来れば……十分に対処できます」

 

「……特化戦力を潰し、後は物量戦を挑むと言うことですね?」

 

今DCが取っている戦法はハガネとヒリュウも敢行した敵中枢を潰す、いわば斬首戦法である。短期決戦を挑む事が出来るが、それだけ危険性の高い博打戦法に近い。だがそれだけに逆に敵の中枢を潰しかえせば、後は各個撃破になる。そうなれば数の差で有利な連邦側がはるかに有利だ。

 

「そうなれば、後は他の基地からの増援しだいで、戦況は覆せましょう」

 

「……判りました! これより本艦は敵中枢部隊に突撃しますッ!」

 

どの道このままでは間に合わない。そう判断したレフィーナはハガネにもそう入電し、エネルギーフィールドを展開したまま強引にDCの包囲網を突っ切ってジュネーブへと向かう進路を選ぶのだった……

 

 

 

 

量産型ドラゴンやライガー、そしてポセイドンによって破壊されて行くジュネーブを見て、アードラーはグレイストークのブリッジで高笑いしていた

 

「ひっひひっ!! 最高の眺めじゃッ!!」

 

コーウェンとスティンガーの助言で最初から出撃したグレイストークのブリッジでアードラーは目の前の光景を見て、笑い続けていた。変形機能をオミットし、プラズマジェネレーターを3つ搭載した量産型ドラゴン、ライガー、ポセイドンの力は圧倒的だった。僅かしか残っていないリオンやガーリオン、バレリオンを使うまでも無く、資材の殆どを注ぎ込み作り上げた10機ずつの量産型Gシリーズは圧倒的な性能を発揮していた

 

「!!!」

 

「う、うわあああああッ!!!」

 

ポセイドンの投げ付けたミサイルは戦車を基地もろとも吹き飛ばし、ミサイルの爆発は基地の燃料に引火し、巨大な火柱を上げるのを見るのも気分がいいとアードラーは笑い続ける。

 

「う、うわああああッ! 来るな、来るな、来るなアアアア!?」

 

「!!」

 

メッサーはライガーに追い回される。だが、ライガーは恐怖を与えてやると言わんばかりに、スピードを自在に調整し、メッサーの燃料が少なくなった所でドリルで粉々になるまで粉砕する

 

「くっ! 我々は負けないッ! 本部……「うるせえよ。モブが」

 

そしてテンザンが乗る量産型ドラゴンは僅かにジュネーブに配置されていた量産型ゲシュペンストMK-Ⅱをダブルトマホークで両断し、その両腕の回転刃「スピンカッター」で引き裂き高笑いする。量産型Gシリーズの力は凄まじく、戦いではなく虐殺へとなっていた。

 

「へへ……へへへへへッ!! 良いぜ良いぜェ! このドラゴンってのは最高だぜ!! アードラーの爺もこんな良い機体があるならさっさと俺に渡せばいいんだよ」

 

テンザンの高笑いを聞きながら、アードラーもまた笑みを浮かべる。あの機体に搭載されているゲイムシステム、そして量産型ドラゴンのパイロットの生存を度外視した戦闘力の追及……それは紛れも無くパイロットの精神を削る。如何に天才とは言え、そろそろテンザンも限界を迎えるはずとアードラーはほくそ笑む。

 

(もうそろそろかの?)

 

テンザンは十分にデータを取ってくれた。今はまだ強靭な精神力で耐えているが、それもいつまでも持つまいと笑う

 

(せいぜい最後までワシの為に踊れ)

 

量産型Gをより完璧な兵器とする為にテンザンを利用する事を決めていたアードラーは、ゲイムシステムに飲み込まれテンザンが暴走する瞬間を今か今かと待ち望んでいた。

 

「副総帥! ハガネとヒリュウ改が来ました」

 

「おお、やっと来たか!」

 

ジュネーブ防衛隊の雑魚相手にオリジナルGを使う事は出来ないので、最後まで調整していた。だからこそ量産型Gを使ったが、ハガネとヒリュウ改……いや、ゲッターロボが現れるのを待っていたのだ

 

「ひ、ひひひッ!! そうだ、ころしちまおう、ひゃはややはやあははははあッ! そうだ、そうだ、そうだ!! それが良い!!!」

 

「おお、テンザンもついに壊れたか!」

 

ハガネとヒリュウ改だけではない、ゲイムシステムを搭載したドラゴンのデータを取る為にテンザンの精神が壊れた事にもアードラーは喜びの声を上げる。

 

(……やっぱり、今のDCに大義は無い)

 

よほど興奮しているのかオープンチャンネルで叫ぶアードラー。その姿にリリーは眉を顰める、それは自分だけではなく自分と共に統合軍から逃げてきた兵士達も同じだ。

 

「……全員退艦してください、後は私が全てをやり遂げます。貴方達はマイヤー様の意思をついで、エルザム様とライディース様の為に生きるのです」

 

「そのご命令は承服しかねます。私達はリリー中佐を1人で逝かせはしません」

 

自分の命令をきっぱりと断った部下にリリーは大きく目を見開く、いままでそんな事はただの1度も無かったからだ。

 

「リリー中佐。私達だってとっくの昔に覚悟を決めています」

 

「1人で死のうなんてやめて下さい」

 

「……皆さん……」

 

部下が次々と発する言葉にリリーは目に浮かびかけた涙を拭う。確かにDCにかつての大義は無い、だがマイヤーとビアンが残した意思は自分だけではない、部下にもしっかりと宿っていたのだ

 

「……では皆さん、対衝撃、対閃光防御を、機会を図り。本艦はグレイストークへの特攻を仕掛けます」

 

「「「了解ッ!!」」」

 

アードラーが狂笑を上げる中。リリーを艦長とするストークはその砲台の照準をグレイストークに合わせ、リリーの合図を待って全員が特攻する覚悟を決めていた

 

「ヒッヒッヒ……オリジナルのゲッターGの力を見せてやるわ。ドラゴン号、ライガー号、ポセイドン号を発進させろ!」

 

シャイン皇女はあくまでゲイムシステムの生体ユニット。その制御の大本は急遽改造を施されたグレイストークのブリッジで行われていた。

 

「了解です、ドラゴン号、ライガー号、ポセイドン号……発進ッ!!」

 

グレイストークから誘導操縦され、ドラゴン号、ライガー号、ポセイドン号が発進する。その姿を見てアードラーはさらに笑う、旧西暦で日本を破壊しつくした悪魔のマシンが自分の手によって、より完璧な姿となりハガネとヒリュウ改を破壊する姿を想像し笑い声を上げる。ビアンもマイヤーも成し遂げなかった地球征服を自分がやり遂げると言う全能感に酔いしれアードラーは笑い続ける。自分の周りにいる兵士が1人、また1人と体内からギチギチと不快な異音を発する異形に変わっている事に気付かず、アードラーは与えられた力が自分の力だと思い込み笑い続けるのだった……

 

 

第37話 ゲッターロボ対ゲッターロボG その3へ続く

 

 




今回はDC側の視点をメインで書いてみました。次回は、ハガネ、ヒリュウ改の視点をメインで書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第37話 ゲッターロボ対ゲッターロボG その3

第37話 ゲッターロボ対ゲッターロボG その3

 

ハガネとヒリュウ改がジュネーブに向かう道中。ハガネとヒリュウ改のブリーフィングルームでは、1機ずつだけ回収したドラゴンとライガーの分析結果が告げられていた

 

「何かの機体の劣化レプリカだと?」

 

『はい、構造を分析すれば間違いないと思います』

 

PTでさえ戦うことが難しかったドラゴンやライガーが劣化レプリカと聞いて、ブリーフィングルームにざわめきが広がる。

 

「他に何か判ったことはあるか? オオミヤ博士」

 

『時間がないので、絶対とは言えませんが……ドラゴンやライガーの構造をスキャンすると、飛行機の機首や尾翼らしき物が確認出来ました。ドラゴンやライガーはゲッターロボの劣化レプリカ……いえ、恐竜帝国や武蔵のように、違う時間から訪れた機体ではないか? なんて馬鹿馬鹿しい考えが正解のように思えてきますよ』

 

武蔵も恐竜帝国も同じ時代、同じ時間軸から現れている。それと同じ様に、ドラゴンやライガーの大本が別の時代から新西暦に現れていてもおかしくは無い。ロブはそう考えていた

 

「その根拠はあるのか?」

 

『フレームや、構造がゲッターロボと酷似しています。ただしゲッター炉心もゲッター合金も搭載されておらず、代わりに3つのプラズマ

ジェネレーターを搭載していて、装甲もバレリオンの物を改良したとも思われる複合装甲等、例を挙げれば切りは無いですがゲッターロボとして考えれば粗悪な劣化レプリカですが、特機として考えれば破格の性能を持っていると思われます』

 

弱点とすれば3つのジェネレーターをフル稼働して、やっと得られる高火力と高機動。その反面連続稼動には向いておらず、予備動力を搭載している可能性を考慮しても最大1時間前後……セバストポリ基地での勝利は稼動時間の限界が近かったのが大きいというのがロブの分析結果だった

 

「真っ向から当たるには危険だが、弱点らしいものは無いのか?」

 

『それなんですが、分離機構が無いにも拘らず、コックピットは3つ、それと中途半端に残されている戦闘機の部位。今映像を送りますが、そこの部位が弱点になると思います、短時間ですが機能がショートする可能性が高いと考えています』

 

機体の動きが一時的にでも止まれば、PTでも撃破出来る可能性が出てくる

 

『あとは武装の少なさでしょうか、ドラゴンは比較的多彩な武器を搭載していますが、どれも近~中距離のみ、ライガーはドリルとミサイル、それと鎖攻撃とこれも距離が短いです。チームを組めば勝率は十分にあるかと思います』

 

戦闘範囲を絞り、その能力に特化させた機体。それがドラゴンとライガーだと結論付けられた。ただし、もし本当にドラゴンとライガーがゲッターロボの改良機なのかは不明だが、ゲッター3に該当するパワー形態がある可能性もある。アイドネウス島の陥落からそれほど時間も経っていないのに、あれほどの完成度を誇る量産機……それが何故恐竜帝国との戦いで現れなかったとのかと言う疑問は残るが、恐らく既に完成している機体のデッドコピーであるとロブは分析していた。

 

『タクラマカン砂漠で現れたドラゴン、あれを分析して作られた量産型ではないか? と言うのが技術班の意見です』

 

「短時間でよくここまで分析してくれた、また判り次第連絡してくれ」

 

『了解です』

 

ロブはそう言うと通信を切る。ジュネーブまで後1時間を切っている、その間に少しでも多くの分析結果と弱点を見出そうとしているのだろう。ロブの分析結果がジュネーブに多くいるであろうドラゴンやライガーの攻略のヒントになる。そうでなければハガネとヒリュウ改と言えど、轟沈する可能性は十分にある。事実ドラゴンとライガーの戦闘力はグルンガストに匹敵していたのだ、それが複数存在すれば脅威になるのは当然の事だ。ブリーフィング終了後、イングラムの指揮でPT隊はハガネとヒリュウ改の進路を確保する為出撃していくのだった……

 

ハガネとヒリュウ改の進路を確保する為にPT隊が向かった先で、目に飛び込んで来た光景は一方的な破壊を行われたジュネーブの姿だった

 

 

 

ゲッターロボのコックピットで武蔵は強く歯を噛み締めた。ドラゴン、ライガー、ポセイドンの3機の量産型ゲッターロボに破壊しつくされているジュネーブの惨状を見てだ。

 

(良くもゲッターにこんな酷い事を……ッ!?)

 

ゲッターロボは正義のスーパーロボットだ。それが、破壊に使われる。その事に対して強い怒りを抱いた武蔵は操縦桿を強く握り締め叫ぶ

 

「てめえ、よくもゲッターでこんな事をしてくれたなあッ! アードラーッ!!!」

 

破壊された戦車や戦闘機、頭部だけになっているゲシュペンスト等……そのどれもがゲッターロボに破壊された連邦軍の兵器だ。1部隊や2部隊ところではない、破壊された残骸の山に武蔵だけではない。リュウセイ達も強い怒りの色をその目に浮かべる。

 

「ふん、何も知らない小僧が粋がりおって、ゲッターロボGを作り上げた早乙女もまた日本を……いや、世界を乙の手中に納める為に使った。つまりこれこそが量産型ゲッターロボGの正しい使われ方じゃ」

 

「黙れ!! 早乙女博士はそんな事をしねえッ!!」

 

アードラーの言葉は武蔵の怒りを買う、だが怒りに燃える武蔵を見てアードラーは更に嘲笑うかのように言葉を投げかける。

 

「兵器とは他を圧倒する為に存在するのじゃ。ビアン・ゾルダークは優秀な男じゃったが、下らぬ理想を持っていたのが欠点じゃった」

 

「何だって!?」

 

「何だとてめえッ! もう一度言って見やがれッ!!」

 

自分の父を馬鹿にされたリューネと武蔵が怒鳴り声を上げる。

 

「この戦いに勝った方が地球圏の守護者になる……下らん、全く下らん理想じゃ。最初からDCには地球を支配する力があった。だがあの愚かな男は、敵であっても使える戦力は味方として取り入れていた……そこに隙が生まれたのじゃ、武蔵。お前のような男を引き入れ、その挙句、貴様に殺されたんじゃ」

 

アードラーは知らないが、ビアンは生存している。だがそれを武蔵は口にしない、どこで誰が聞いているかもしれないからだ……武蔵は黙り込むことしか出来ず、アードラーはそんな武蔵を見てそら見た事かと嘲笑する

 

「それみた事か、何も言えんでは無いか、真に地球人類の生存を願うのならば……下らぬ理想も思想を捨て、愚民を抹殺し、優秀な人間だけを残せば良いのだ。そうすれば地球は1つになり、異星人の脅威にも負けぬ」

 

それは強烈な選民思想……かつてのDCにあった地球圏を思う気持ちなど、アードラーの率いるDCには存在しない

 

「……ゼンガーもその理想に乗ったという事か」

 

アルトアイゼンのコックピットでキョウスケが怒りに満ちた言葉でそう呟く

 

「ゼンガー? はて、姿が見えんが……どこぞへと逃げおったようじゃな」

 

「お前のような男の下で働く事を正しい思わんからだろう、それに驚きはしない」

 

アードラーを挑発するキョウスケ。オープンチャンネルで告げられた言葉がDCの僅かな有人機にも伝わる。

 

「ふん、1兵士風情が何を言うか、ワシはDCの力を純粋に世界征服……いや粛清の為に使う。愚かな人類を殺し、1握りの優秀な人間だけを生かす、そしてワシの下に人類の力を集め、異星人共を打ち滅ぼすのじゃ」

 

「お前の下に集まる人間なんていねえッ!! くだらない夢を抱いて死にやがれッ! このくそ爺ッ!!!」

 

これ以上アードラーをしゃべらせるつもりは無い、武蔵の投げ付けたゲッタートマホークが高速でグレイストークに迫る。だがそれはダブルトマホークブーメランとライガーミサイルによって撃墜される。

 

「ヒッヒッヒ……ならば見るがいい!! ゲイムシステムとオリジナルのゲッターロボGの力をなぁッ!!!」

 

グレイストークから出撃する3機の戦闘機、そのとても戦闘機とは思えないデザインはゲッターロボとゲットマシンを連想させる。

 

「……チェンジ……ドラゴン」

 

機械的とも取れる幼い少女の声……それがゲットマシンから放たれ、上空でゲッタードラゴンに合体し降下して来る。ビアンから聞いていたが、まさかそこまではと思っていたのに、アードラーは越えてはいけない一線を越えていたのだ。大の大人でも気絶するゲッターロボ、いかに強化スーツを着ているとは言え年端も行かない少女がいつまでも耐えれるわけが無い。シャイン皇女が死んでしまう前に助けてやらなければと武蔵は更に強くゲッターロボの操縦桿を握り締める。

 

「……ゲッターロボG……合体完了……」

 

その声は小さかったが戦場に強く響いた。武蔵は声からシャイン皇女の姿を推測するしかなかったが、ハガネのクルーにはその少女の声で誰かが判ってしまった。

 

「今の声……! 貴様、そのドラゴンの中には!?」

 

「最高の機体に最高の素材! これがワシの切り札じゃ!」

 

極東基地からハンスによって拉致されたシャイン皇女。彼女には未来予知があるとされていたが、まさか年端も行かない少女をゲッターロボに乗せるという所業……それは人を人とも思わない行動だった

 

「あ、あのドラゴンにはシャイン皇女がッ!?」

 

ゲッターロボの殺人的加速、操縦者を度外視した戦闘力……その全てが幼いシャイン皇女に耐えられる物とは思えない、特にハガネのゲッターロボシミュレーターを使った全員がそれを理解していた。

 

「その通りじゃ、ゲッター線で稼動するドラゴンに皇女の予知能力! そしてゲイムシステムが加われば、ゲッターロボGは攻防に優れた能力を発揮する完璧な機動兵器となるッ!!」

 

ゲッター線は無限動力であり、そこに未来予知とゲイムシステムが加われば確かに究極の機動兵器になるだろう。ただし、人道的と言う観点に一切目を瞑ればと言う条件が加わるが……

 

「な、なんて事を……ッ! 年端もいかない女の子を無理やりパイロットにするなんてッ!」

 

「それが……あの男のやり方……許せないッ!」

 

アヤを初めとした女性陣がアードラーへの怒りを燃やす。

 

「イッヒヒ。どうする? 悪魔のマシンゲッターロボGを倒さなければ、お前達は全滅する。だがシャイン皇女をお前達は犠牲にすることが出来るかのう?」

 

ゲッターロボには並大抵の攻撃は通用しない、シャイン皇女を助ける所か自分達が全滅する可能性が高い。それが判っているからアードラーは挑発するように告げる

 

「……標的……確認。ダブルトマホーク展開」

 

ゲッタードラゴンの両肩から射出された2振りの戦斧を構えるゲッタードラゴン。その威圧感は凄まじく、リュウセイやキョウスケ達でさえ息を呑んだ。

 

「あのゲッターロボを完全に制御しているのか? 大人でもただでは済まず、体を壊しかねないと言うのに……と、なれば取る行動は一つのみ。最早一分一秒の猶予もありはし無い。皇女を助けることを最も最優先にする事だけだ」

 

それを過ぎればテンペストやテンザンのように発狂して死ぬ……だがゲッターロボを数分で戦闘不能にするのは不可能だ……

 

「……ゲッタードラゴンを落とすぞ」

 

「キョウスケ少尉! 聞いてなかったのか!? あのドラゴンの中には!」

 

ゲッタードラゴンを撃墜すると言ったキョウスケの言葉にライが正気かと叫ぶが、キョウスケはきっぱりと告げる

 

「……無駄口を聞いている時間は無い。全力で行く」

 

アルトアイゼンのステークがゲッタードラゴンに向けられるが、それはゲッターロボによって制された

 

「オイラに任せてくれ、ゲッターロボにはゲッターロボをぶつけるしかない」

 

「……武蔵……助けられるの?」

 

ラトゥー二の言葉に武蔵は任せておけと笑う。PTではゲッタードラゴンの出力に耐えられない、この中でゲッタードラゴンに勝機があるのはゲッターロボしか存在しない。

 

「オイラに任せな、その代わり量産型はしっかり抑えておいてくれよッ!! ゲッタートマホークッ!」

 

武蔵は力強くそう叫ぶと肩から現れたゲッタートマホークを両手に持たせ、ゲッタードラゴンへと掛けていく

 

「今助けてやるぜッ! お姫様ッ!」

 

「標的……確認……排除します」

 

上段から振り下ろされたゲッタートマホークとダブルトマホークがぶつかり、周囲に凄まじい衝撃音が響き渡る。

 

「シャイン皇女は武蔵に任せる、各員武蔵の邪魔をさせるな」

 

ジュネーブの基地を破壊していた量産型ドラゴン達がそのカメラアイを光らせ、ハガネとヒリュウ改に視線を向ける。そしてその先頭に立つのは暴走しているのか真紅にその目を光らせる量産型ドラゴン。

 

「ヒャーっハハハハハハアッ!! ボーナスキャラがこんなにいるぜえええええッ!!! これだけ倒せば、俺が世界一だああッ!!」

 

ゲイムシステムによって既に精神が崩壊し、ゲームと現実の区別が付かなくなったテンザン・ナカジマなのだった……

 

 

 

 

ヒリュウ改のブリッジでレフィーナは思わず親指を噛んだ。ジュネーブに辿り着くまでに出た量産型ドラゴン、ライガーの分析結果はそのとおりであり、機体同士の結合部を狙えば一時的に機能が麻痺することが判明した。だが、タクラマカン砂漠にはいなかった第3の量産型が厄介な存在だった

 

「!!!」

 

「っくっ!?」

 

両手の指の先から放たれるネット……それに絡め取られたヒュッケバインMK-Ⅱがじりじりとポセイドンの方に引き寄せられる。電磁ネットや熱を放つネットではない、だがPTを簡単に絡め取りそして引き寄せるポセイドンの膂力は想定を超えていた

 

「ブリット君ッ!」

 

弐式が割り込んでポセイドンのネットを切り裂くが、ドラゴンが放った4つのトマホークが弐式の装甲を切り裂く

 

「っきゃあッ!!」

 

「ク、クスハッ!!」

 

庇われたこともあり、ビームサーベルで飛んできたトマホークを切り裂き、弐式が態勢を立て直す時間を稼ぐヒュッケバインMK-Ⅱだが、状況は依然悪いままだ

 

「……あの新型が厄介ですな」

 

「そうですね。その機能ゆえに量産数が少ないようですが、厳しいです」

 

前回出撃しなかったのはやはり生産難易度なのだろう、正念場のジュネーブで投入されたポセイドンは外見通りの強固な装甲と、指先から放つネット、首の装甲が展開され、そこから放たれるPTを吹き飛ばすほどの暴風。そして背中に背負っている巨大なミサイル……明らかに支援型のその機体が混じるだけで、ドラゴンとライガーの脅威度は格段に跳ね上がる。

 

「主砲、副砲の照準を合わせてください。あの巨体ならば、機動力は低いはず」

 

その発想は決して間違いではない。だが、この乱戦であり、そしてライガーと言う機動力に優れた機体が多い中。果たして狙い通りに行くだろうか? 仮にショーンならばまずは対空砲塔と対空ミサイルでライガーの動きを阻害し、対地ミサイルでポセイドンを狙う。

 

「……いえ、待ってください。対地ミサイルと対空ミサイルに切り替えてください」

 

「了解です。対地ミサイル、対空ミサイル発射準備」

 

自分で言う前に気付いたかとショーンは笑みを浮かべ、命令を復唱する。人にいわれて気付くのではなく、自分で考えて気付くこと、それが経験の浅いレフィーナには何よりも必要なことだ。

 

(しかし、状況は悪いですな……)

 

ゲッタードラゴンとゲッターロボが対決しているが、やはり地力の差が大きい

 

「ぐっ! まだまだぁッ!!」

 

「……攻撃……予測」

 

ゲッターロボの攻撃はゲッタードラゴンには当たらず、そして反撃の一撃で手痛いダメージを受けている

 

「くっ! これならどうだッ! チェンジッ!! ゲッター2ッ!!」

 

「……チェンジ……ライガー」

 

ゲッターロボとゲッタードラゴンが同時に爆ぜ、全く違う姿へとなり互いの武器であるドリルでの鍔迫り合いを繰り広げる

 

「ぐっ……うっうっ……」

 

「……粉砕します」

 

だがドリルの回転力にも差があるのか、ゲッター2が押し負け、細身のライガーのドリルがゲッター2の胴体に迫る

 

「オープンゲットッ!!! チェンジ! ゲッター3ッ!!!」

 

命中の前に再び戦闘機に分裂しそのドリルをかわすゲッター2。ライガーの後ろでゲッター3にチェンジし、その伸縮自在の両腕でゲッターライガーを捕えようとする。

 

「……オープン……ゲット」

 

「ちいっ!!」

 

だがそれよりも早く、ライガーは戦闘機に分離し、ゲッター3の攻撃をすり抜けるように回避する

 

「……チェンジ……ポセイドン……ゲッター……サイクロン」

 

「ぐっ! ぬおおおおおおッ!?」

 

ポセイドンに合体し、足のバーニアで空を飛びながら放たれた凄まじい暴風がゲッター3を上空に巻き上げる。

 

「……オープンゲット……チェンジ……ドラゴン……」

 

竜巻に囚われ動くことの出来ないゲッター3。その間にゲッタードラゴンにチェンジし、頭部をゲッター3に向ける。

 

「ゲッター……ビーム」

 

「くそッ! オープンゲットッ!! チェンジゲッタァアアアーッ! ワンッ!!!」

 

ゲッタービームを分離することで回避し、ゲッター1にチェンジすると同時に基地の上に着地する。この間の攻防は僅か1分にも満たない……凄まじいまでの分離と合体の応酬だ。

 

「支援は無理そうですね」

 

「ですな」

 

ゲッターロボとゲッタードラゴンの戦いに割り込めば、1分と持たずに破壊されるだろう。武蔵だからこそ耐える事が出来ているが、これがPTならばと思うとゾッとする。

 

「艦長。今のうちに敵戦艦のカタパルトの破壊を」

 

「……ですね。これ以上量産型ドラゴンやライガーを戦場に出されては困ります」

 

無人機しか運用していないのは、量産型ドラゴンやライガーのAIの問題なのだろう。だが僅かにいるガーリオンやリオンは明らかに防衛機だ、そう簡単に旗艦を落とすことは出来ないが、格納庫だけでも潰しておくべきだと判断しヒリュウ改はその砲塔をストークやライノセラスに向けるのだった……

 

 

 

 

ジュネーブが戦闘に入っている頃。バン大佐が率いる、突入班はジュネーブ内部の連邦の基地への侵入に成功していた

 

「α1、基地内部を最短通路で進むのは不可能だ。各員散開し、通路を探せ」

 

『『『了解』』』

 

12名の突入班は3人1組になり、散開して基地の捜索を始める。

 

「やれやれ、無駄になってしまったな」

 

「総帥、そんな事はありません。途中までは最短通路で進む事が出来ました」

 

誰か基地に残っていると予測していたバン達だが、実際は既に基地は放棄されていた。それゆえの散開命令だ

 

「っと、状況はかなり不味いな」

 

あちこちが崩壊し、通路が塞がれている。時間を掛けずに最深部にまで辿り着き、ゲッターのデータを抜き出したいビアンにとって今の状況は極めて不味いものになっていた

 

「最悪の場合、引き返すことも考慮してください」

 

「……仕方あるまい」

 

ここまで突入して手ぶらで帰ると言うのはビアンにとっては苦渋の決断だが、それも仕方ないと肩を竦めたとき、蛍の様な緑の光が周囲に満ちた、それはまるで鬼火のようにビアンを囲うように漂っている。

 

「む?」

 

「どうしましたか? 総帥」

 

視界を過ぎる緑の閃光を見つけ、ビアンの目がそれを追う。だがバンはそれに気付かないようで怪訝そうな顔をしている

 

「見えないのか? バン大佐」

 

「……なにがでしょうか?」

 

「私も何も見えませんが?」

 

バン大佐とLB兵には見えていない緑の光。それは紛れも無くゲッター線の輝きだ……

 

(これも導きか……神か、悪魔かは知らんが乗ってやろうじゃないか)

 

どうせこのままでは目的地には辿り着けない。それならばこの鬼火のような光についていってやろうじゃないかとビアンは笑う

 

「バン大佐、βチームとγチームを呼び戻してくれ」

 

「は……しかし総帥」

 

「私を信じてくれ、必ず最深部に辿り着ける」

 

ビアンの強い言葉と目にバンは何も言う事が出来ず、判りましたと返事を返し散会していたβとγチームを呼び戻す。合流してくる僅かな時間の間にもゲッター線の輝きはその光を増していく、それはついて来いと言わんばかりの光の奔流……ゲッター線は意思を持つ、そんな馬鹿らしい考えを持っていたが、その光を見て自分をまるでどこかに導こうとしているように感じた。そこが地獄だろうが、ビアンは前に進むと決めた。武蔵に助けられ、武蔵を助けると決めた今、それが例えどんな茨の道であろうがビアンは前に進むと決めていた

 

「行くぞ、遅れずについて来いッ!!」

 

部下が誰1人ゲッター線の輝きを見れない中、眩いばかりのゲッター線に導かれるようにジュネーブの地下へ向かって走り出すのだった……

 

 

 

第38話 ゲッターロボ対ゲッターロボG その4へ続く

 

 




次回は武蔵の視点をメインにして、ゲッタードラゴン(ゲイムシステム)との戦いを書いていこうと思います。書き始めた最初から、一番書きたかったシーンもありますので、気合を入れて執筆して行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第38話 ゲッターロボ対ゲッターロボG その4

第38話 ゲッターロボ対ゲッターロボG その4

 

シャイン皇女を助けると言って1人でゲッタードラゴンと対峙する事を選んだ武蔵……それはこの1分にも満たないやりとりで正解だったと確信させていた。

 

(強い……これが新ゲッターロボ)

 

自分が死んでから完成した新ゲッターロボ。ゲッターロボのデータを下に作られていることもあり、1つ1つが自分が乗るゲッターよりもはるかに強力になっている。

 

「ゲッタートマホークッ!!」

 

「……ダブルトマホーク」

 

振り下ろされるゲッター1よりも巨大な両刃のゲッタートマホーク。それを受け止めるが、ゲッタードラゴンのパワーは凄まじくゲッターの足が地面にめり込む

 

「くっ! このッ!!!」

 

ドラゴンの口元……ゲッター1の時のリョウと同じくそこに小柄な人影が見えている。その人影が恐らく、シャイン皇女なのだと判断し、腕の側面についている刃「ゲッターレザー」を振るう。トマホークで鍔迫り合いをしている中でのリズムの変化、通常ならば対応しきれないはず……なのに、その攻撃は空を切る。この理解不能な回避に武蔵も流石に頭を抱えた

 

(まただ! どうなってやがるッ!?)

 

見えていると言わんばかりにゲッター1の攻撃が全て回避される。どれほど考えても、どんな奇襲であっても完全に対応される

 

「……攻撃回避……反撃します」

 

「ぐっ、うおおおッ!!」

 

ゲッターレザーよりも強力なスピンカッターの回転する刃が肩にめり込み、それを両手で掴む。だが地力の差は明らかで徐々に、徐々にだがスピンカッターは深くゲッター1の肩にめり込んでいく

 

「我慢してくれよッ!!」

 

流石に無傷で皇女を助けるのは不可能だと判断し、膝を振り上げゲッタードラゴンの背部を蹴りつけようとする。だが、ゲッタードラゴンはそれを飛び退いて躱す。

 

「おりゃあッ!!!」

 

「……! 被弾……損傷軽微……」

 

回避した直後に繰り出したゲッターの右拳が胴体を穿つ、それは戦いが始まってから初めてと言えるクリーンヒットだった

 

(……今なんで当たった)

 

今まで回避され続けていたのに、今のは何故か命中した。命中したのに何か理由があるのかもしれない……それがシャイン皇女を助けるヒントになるかもしれない

 

「……ゲッタービーム」

 

「オープンゲット!!!!」

 

地面を焼きながら迫ってきたゲッタービーム。炉心に直結しているゲッター1よりも出力の高いゲッタービームを見て、武蔵は即座にレバーを引いてゲットマシンに分離する。

 

「ちっ! 追ってきやがるッ!!」

 

向こうもゲットマシンに分離して追いかけてくる。それだけゲッターを脅威と思っているのか、それともアードラーの爺に命令されているのかは判らないがPTを狙わず、ゲッターだけを追いかけてくるのは都合が良い。問題はゲッタードラゴンをどうやって行動不能にしてパイロットであるシャイン皇女を助けるかだ

 

「チェンジッ! ゲッター2ッ!!」

 

急反転し、降下しながらゲッター2にチェンジする。元々ゲッター2は飛行に適していないが、背中と足のブースターを全開にすれば短時間なら飛行は可能だ。最大加速で急降下し、地表に戻ろうとする。

 

「……チェンジ……ライガー」

 

背後でライガーに合体し、高速で迫ってくる。ゲッター2のほうが先に降下しているのに、ライガーはもう背後に迫っている。

 

「ちいっ!!!」

 

「……目標……補足」

 

反転しドリルアームを突き出すゲッター2。高速回転するドリルがぶつかり合い火花を散らす、だが飛行能力がライガーとは格段に劣るゲッター2はバランスを崩し、がら空きの胴にチェーンアタックが叩き込まれる。

 

「ぐっはっ!? なろおッ!! オープンゲットッ!!」

 

地面に叩きつけられる前に分離し、レバーをフルスロットルに叩き込み地面に衝突する寸前にゲッター3にチェンジする

 

「捕まえたぁッ! 必殺! 大雪山おろしッ!!!」

 

追いかけてきたライガーのドリルを掴み、大雪山おろしに持ち込む。局地的に発生した竜巻はライガーを完全に捕える、短いやり取りだが、ゲッターよりもドラゴンの方が遥かに装甲が厚い。この一撃でドラゴンが撃沈されることは無いと確信したからこその大雪山おろしだ。

 

「……オープンゲット……チェンジ……ポセイドン」

 

投げ飛ばされながら空中でゲッターポセイドンにチェンジし、胸部のパーツをパージし、そこから放たれた暴風がゲッター3に叩きつけられる

 

「ぐっ……うおおおおおッ!?!?」

 

ゲッターアームを地面に叩きつけ、吹き飛ばされないように堪えていたゲッター3だが耐え切れず吹き飛ばされ、ジュネーブの基地に背中から叩きつけられる。

 

「……ストロング……ミサイル」

 

「ぐっ! ゲッターミサイルッ!!!」

 

投げ付けられるストロングミサイルを撃墜するべくゲッターミサイルを放つゲッター3。それは武蔵の思惑通りストロングミサイルの撃墜に成功する。だが爆炎を突っ切ってドラゴンが姿を見せる

 

「……ゲッタービーム」

 

「なっ!? もうチェンジしているだとッ!? くそッ! オープンゲットッ!!!」

 

戦いの中でドラゴンの動きは徐々に良くなっていた、量産型ドラゴンを破壊しながら迫ってくるゲッタービームを見て、武蔵は即座にオープンゲットを選択し、ペダルを全力で踏み込む。ゲッター1とゲッタードラゴンが戦闘を始めて約2分……武蔵とシャインに残された時間はもう僅かしか残されていなかった……

 

 

 

 

ジュネーブの放棄された基地の上でコーウェンとスティンガーはゲッターロボとゲッターロボGの戦いを見つめていた。

 

「こ、コーウェン君。このままでは駄目じゃないかな?」

 

「そうだねえ……些か想定外だねえ」

 

ゲッターロボとゲッターロボGの戦いはゲッターロボが完全に劣勢に追い込まれている。ゲッター線増幅装置のおかげでゲッターロボGの出力はゲッターロボの10倍パワーアップしているが、それでも2人の予想では6ー4でゲッターロボが有利だと思っていた

 

「やはり流竜馬と神隼人と比べれば、巴武蔵は劣るということだな」

 

「む、武蔵はやはり役立たずなんだね」

 

ゲッター線には多少選ばれているようだが、やはりあの2人と比べれば劣る。コーウェンとスティンガーはそう結論付けた

 

「でもこのままじゃあ、篝火の種火も用意できないね」

 

「わ、我らの同胞を再び地球に呼び寄せるには、前よりも強力な篝火が必要だからね」

 

ゲッターロボGを破壊し、10倍に圧縮された炉心から零れたゲッター線をばら撒く事で同胞であるインベーダーを呼び寄せようとしていたのに、このままでは計画が狂うと2人は顔を歪める。

 

「ゲッターロボの炉心で足りるだろうか」

 

「む、難しいかもしれないね」

 

ゲッターロボの炉心で全ての始まりのインベーダーが生まれた。だが、完全に進化したインベーダーを呼ぶにはゲッターロボの炉心では明らかに力不足だ。

 

「まぁ良いさ、ゲッターロボが破壊されたら、私達でゲッターロボGを破壊すればいい。そうだろう? スティンガー君」

 

「そ、そうだね。コーウェン君」

 

計画は狂っているが、まだまだ修正の範囲内だと2人は笑う、そしてその2人の邪悪な意思に呼応するかのように戦況は再び変化する。

 

「む! みたまえコーウェン君!」

 

「おお……あれぞ正にゲッター線の意思ッ!!!」

 

量産型ドラゴンの1機に吸い込まれていくゲッター線。それはまだ微々たる物だが、この調子で行けば新西暦のエンジンをベースにしたゲッター炉心の完成だって夢ではない

 

『ヒャはハハはハハは! 死ねええ!!』

 

『な、なんだ!? 急に動きが!』

 

粗悪な複製品と思っていた量産型ドラゴン。それにゲッター線がもぐりこむ事で量産型ドラゴンはゲッターロボGに進化する

 

「しかしだ。不安要素もあるねえ、ゲッター線がアレをGと勘違いしないだろうか?」

 

「む、た、確かにその可能性はあるねえ」

 

ゲッター線は戦車などで運用すれば進化は始まらない、だが人型になれば話は違う。形の無いゲッター線が人の形を持つことで凄まじい勢いで進化が始まるのだ。コーウェンとスティンガーの興味はゲッターロボ対ゲッターロボGから、量産型ドラゴンが量産型ゲッターロボGに進化するのか、それに完全に移っていた。だから2人は気付かなかったのだ、量産型ドラゴンに吸い込まれる以上のゲッター線がゲッターロボに吸い込まれて行くことに……

 

 

 

扱いなれていないゲッター1やゲッター2では勝機はない。そう判断した武蔵は自分がもっとも得意とするゲッター3での勝負に出ることにした。残された時間は余りに短い、強引にでもゲッタードラゴンを無力化する事を決めたのだ

 

「チェンジ! ゲッタァアアアースリーッ!!」

 

「……チェンジ……ポセイドン」

 

ゲッター3にチェンジした瞬間、今まで純粋な機体性能の差に驚愕するばかりで気付かなかったゲッタードラゴンの弱点に気付いた

 

「……フィンガーネット」

 

「オープンゲットッ!!」

 

ポセイドンからネットが放たれると同時に、分離し再び上空へ逃れる。ポセイドンから距離を取りながら、武蔵は間違いないと心の中で呟いた

 

(遅かった……)

 

ゲッター3にチェンジしてから、3秒にも満たない時間だが確かに合体のタイミングが遅れていた。そこに武蔵は勝機を見出す、だがそれと同時に別の不安が湧き上がる

 

(オイラ1人で出来るのか?)

 

これがもしリョウや隼人と一緒の3人乗りならば出来るという自信があった。だがイーグル、ジャガーが自動操縦……いくら武蔵がゲッターになれてもいても成功する確率は低い……

 

「武蔵! 急げ! 最早一刻の猶予は無いぞッ!」

 

イングラムの通信に武蔵は決断するしかなかった。量産型ドラゴンやライガーを押し留めてくれているイングラム達、それがどれだけ厳しいことなのかは武蔵が一番良く知っている

 

「やってやる! やってやるさ!!」

 

もう悩んでいる時間も、躊躇っている時間も無い。これが正真正銘最後のチャンス……これを逃す訳には行かない、失敗したらと思うと震えてくる手を闘志で押さえ込みレバーを握り締める

 

「チェンジッ! ゲッタァアアアッ!! ワンッ!!!」

 

グレイストークのブリッジでアードラーは武蔵の叫びを聞いて嘲笑を浮かべた。

 

「ヒッヒヒッ……どうもまだ力の差が判らんようじゃな、チェンジドラゴンじゃ」

 

「了解です、チェンジドラゴン」

 

グレイストークからの指令でシャイン皇女もチェンジドラゴンと呟き、レバーを操作する。6機のゲットマシンが宙を舞う

 

(ぐっぐぐぐうっ!!!)

 

ベアー号のエンジンを全開にし、ゲッタードラゴンのチェンジが完了するまでにその間に割り込もうとする。だが自動操縦のイーグルとジャガーは武蔵の行動についてこれない

 

(だ、駄目だ! 今のまま突っ込んだら……ッ!)

 

ベアー号は既に変形を完了しているがイーグルとジャガーはまだ変形態勢にも入っていない。コックピットの中でタイマーがレッドアラートを鳴らす、それはこのタイミングでは合体できないと言う事を示しており……それが武蔵を焦らせる。これに失敗すれば、シャイン皇女は助けられない。だがこのまま突っ込めば合体が成功する可能性は限りなく低い……助けたいのに助けることが出来ない、そのことが武蔵を焦らせ、そしてその焦りは武蔵ではありえないミスを呼ぶ

 

「しまっ!?」

 

ジャガー号との合体に失敗し、ジャガー号とベアー号が螺旋回転をしながら降下する。螺旋回転する視界の隅でポセイドンとライガーが合体し、ドラゴンの胴体と脚部が合体するのが見えた

 

「くそっ! くそッ!!! くそおおおおッ!!!!!!」

 

ベアー号のコックピットの中で武蔵は何度も何度も叫ぶ、自分のミスでやっと見つけたシャイン皇女を助ける機会を手放してしまった。不甲斐無い自分への怒りで武蔵はどうにかなってしまいそうだった……

 

『あきらめるなッ! 巴武蔵ッ!!!』

 

『まだよ! まだ間に合うッ!!』

 

自分を叱責する男の声と女の声がベアー号のコックピットに響いた。

 

「ミチルさん!?」

 

男の声は判らないが、確かに女の声はミチルだった。その声だけは聞き違えない、紛れも無く今の声はミチルだった。そして無人の筈のイーグルとジャガーには誰かの半透明の後姿が映し出され、操縦桿を握っている姿が見えた……

 

(これは……あの時の……)

 

3連続のゲッターチェンジの時と同じだ。イーグルとジャガーが無人機なのに、誰かが乗っているような感覚。だがそれは今までよりも遥かに強く、そしてその人物の声までもがはっきりと聞えた

 

『もう1度合体だ!』

 

『武蔵君! 貴方なら出来る! 自分を信じてッ!』

 

諦めかけた気持ちに再び火が着く、まだだ、まだ失敗した訳じゃない。思わず手放してしまったベアー号の操縦桿を再び握り締め、雄叫びを上げる

 

『『「チェンジッ!!! ゲッタァアアアアアーッ!!!!」』』

 

ドラゴン号と胴体は合体させる訳には行かない、今までの自動操縦とは違う。イーグル、ジャガーも恐ろしい速度で加速していく……。

 

「ヒッヒッヒ、無駄じゃ無駄じゃ」

 

合体準備を終えているドラゴン号を見てアードラーが嘲笑を上げた。何をするつもりかは判らないが、合体に失敗したゲッターロボなど恐れるに足りない……アードラーはそう思っていたが、次の光景にその笑みを凍らせた。

 

「ば、馬鹿なッ!? 何が! ええいッ! 合体はまだかッ!?」

 

ドラゴン号達とゲットマシンの距離は離れていた、だが突如翡翠色の光に包まれたゲットマシンはその距離を一気に縮め、ライガー号とポセイドン号と合体し、胴体部と脚部へと変形し、ドラゴン号と合体しようとしていた2機の間にその機首を滑り込ませた。

 

「合体完了まで後2秒ですッ! 駄目だ! 合体に割り込まれるッ!?」

 

『『「ワンッ!!!!」』』

 

ドラゴン号とライガー号の間に割り込みながら合体に成功したゲッター1はドラゴン号のブースターを掴み、足でライガー号を押さえ込んでいた

 

「今助けてやるッ! もう少しだけ頑張れよッ!!!」

 

ベアー号のコックピットを開き、ドラゴン号に飛び移る。整備用に設置されている取っ手を掴み武蔵は恐ろしい勢いでドラゴン号のコックピットへと向かう

 

「……合体失敗、エラー……発生……システムを一時フリーズに移行します」

 

合体が失敗した時のパターン等アードラーは想定しておらず、ゲイムシステムは深刻なエラーに対応出来ずそのシステムを一時的に停止させる。

 

「な、何じゃと!? ゲッターロボGの合体をあんな力技で妨害するとは!?」

 

想定外の行動、ゲッターの合体に割り込み合体を失敗させるなんて誰も考えても見なかった

 

「ぐぐ……大切な実験道具を……ええい! 貴様らに奪われるくらいならこのワシがッ!! 目標ゲッターロボ、ゲッターロボG! 照準あわせッ!!」

 

武蔵がドラゴン号のコックピットに辿り着いたのを見て、アードラーはグレイストークの照準をゲッターロボとゲッターロボGに向けろと叫ぶ、だが照準を合わせる為に防衛のガーリオンがグレイストークの正面から移動する。それは攻撃するタイミングを計っていたリリーを始めとした、アードラーの隙を伺っていた者達が動き出す最大のチャンスとなった。

 

「……これ以上、あの男に非道な真似をさせる訳にはいきませんッ! 主砲。発射用意! 目標、グレイストークッ!!」

 

リリーの乗るストークの主砲がグレイストークを側面から撃ち抜く、それにより主砲は狙いを大きく逸らす。そしてその隙に武蔵はドラゴンの口元に辿り着いていた。

 

「こいつが本当にゲッターの後継機ならッ!!」

 

キャノピーの側面に僅かな窪みを見つける、武蔵はその窪みに手を突っ込み下にずらす。するとコックピットを開放するレバーが現れた、武蔵は強風に煽られながらもレバーを掴みそれを全力で降ろす。操作に反応し音を立てて開放されるゲッタードラゴンのコックピット、その中に武蔵は身体を滑り込ませる

 

「……う……うう……だ……誰?」

 

ゲイムシステムがフリーズした事で意識を取り戻したシャインが焦点の合わない目を武蔵に向け、何者かと問いかける

 

「あんたを助けに来たんだよ、皇女様。ちょっくら失礼するぜ」

 

背中に背負っていた日本刀を抜き放ち、シャインが着ている強化スーツとゲッタードラゴンを繋いでいるパイプを切り捨て、ヘルメットも脱がして武蔵はぐったりしているシャインを抱き上げる。その間もリリーの乗るストークはグレイストークへの砲撃を繰り返す

 

「「!!」」

 

ドラゴンとライガーが反乱と判断し、ダブルトマホークやライガーミサイルがストークに向かって放たれるが、リリー達は一切怯まずグレイストークへの攻撃を繰り返す

 

「今の内です! ライディース様! レオナ! 皇女を助けなさい!!」

 

ゲッタードラゴンから少女を背負ったままゲッターに戻るのは武蔵でも不可能だ。

 

「!! リリー中佐……!? 感謝しますッ!!!」

 

リリーの言葉で我に帰り、R-2がゲッターに駆け寄る

 

「武蔵! シャイン皇女を!」

 

「ライか! 頼んだッ!!!」

 

ドラゴンの口元に向かって伸ばされたR-2の腕に飛び乗る武蔵。その掌にシャイン皇女を乗せ、自分はそのまま掌を足場にしてゲッターロボに向かって飛ぶ

 

「よっしゃあッ!!」

 

ベアー号に飛び移ると素早く乗り込みゲッターロボを再起動させる。パイロットを失ったことで機能を停止したゲッタードラゴンの頭部に拳を叩き込みコックピットを破壊し、そこから更にゲッタービームでライガーとポセイドン号を吹き飛ばし、2度とゲッターを悪用させまいとゲッタートマホークでライガー号、ポセイドン号を地面へ磔にする。

 

「よし、シャイン皇女の救出とゲッタードラゴンの破壊は完了した」

 

「ふーやれやれ。あのストークが隙を作ってくれたおかげだな」

 

最も重要なシャイン皇女の救出に成功し、ハガネとヒリュウ改のPT隊にも安堵の空気が広がる。

 

「リリー中佐……あなたは……」

 

「気にすることはありません、これは……総司令から私に与えられた使命なのです」

 

リリーの言葉がオープンチャンネルで告げられる。

 

「使命じゃと!? うぬぬ!! 最初からそのつもりでワシの元に来おったのか!!!」

 

リリーの妨害で虎の子であるゲッタードラゴンも、シャイン皇女も失いアードラーが激昂する。

 

「許せん! 裏切り者は死ねえい!!!」

 

グレイストークの強化された主砲がストークに向けられる。ドラゴン、ライガー、ポセイドンの攻撃を受けていたストークに避ける余力は無い。今正にグレイストークの主砲が放たれようとした時、黒い風が吹いた……

 

「トロンベよッ! 今が駆け抜ける時ッ!!! シュツルム・アングリフ……突撃ィッ!!!!」

 

アルプス山脈を強行突破してきた高機動型ガーリオンがグレイストークに全速力で突っ込み、グレイストークは爆発を繰り返し、大きく後退する。

 

「ぐおおおッ!? き、貴様! ワシが誰だか判っているのかぁ! エルザムゥゥッ!!!!」

 

漆黒のガーリオンがストークを庇うように滞空する。その姿を見てアードラーは唾を撒き散らしながらエルザムの名を叫ぶのだった……

 

 

 

 

リリーはストークのブリッジで困惑していた。今この場にいるはずの無い機体……漆黒のカラーリングにブランシュタイン家の紋章……それを呆然とした表情で見つめる。

 

『リリー中佐、聞えるか』

 

「エルザム様なのですか……何故ここに……」

 

消息不明だったエルザムがここにいるはずが無い、誰かがエルザムの機体に乗っていると思っていたのだが、エルザム直々の声にあのガーリオンに乗っている人物がエルザムだとリリーは確信した。

 

『こんな所で貴方を死なせる訳には行かない、我が父の本意を知る貴女達には、生きて私達に協力して欲しいと思ったからだ』

 

エルザムの言葉にマイヤーの意思を継ぎ、殉死する事を決意していたリリー達の心に迷いが生まれた。

 

『ここは私と私の親友に任せてくれ、そうだろう? ゼンガー』

 

今まで姿を見せなかったグルンガスト零式がエルザムのガーリオンの隣に立ち、リリー達のストークをその背に庇うように並び立つ

 

「貴方だったのですね、ゼンガー・ゾンボルト……」

 

今まで消息不明だったエルザムがこのタイミングで現れた。それは、リリー達の決意を誰かが話したとしか思えなかった。そしてそれはエルザムと親友であるゼンガー・ゾンボルト以外ありえなかった。

 

『……はい、リリー中佐。貴女が死ぬにはまだ早い、だからエルザムに助けを求めました』

 

ゼンガーはリリーの責める様な口調に自分がエルザムを呼んだ事を認めた。

 

『リリー中佐。ゼンガーを責めないで欲しい、我が父とビアン総帥の真意を知り、そしてその意思に殉ずる覚悟を持つのならば、死なずに協力して欲しいと思ったのは私なのだから』

 

エルザムに言われれば、リリーは口を噤むことしか出来ない。

 

『死を持ってマイヤー司令の遺志に殉じるのではなく、生きてマイヤー司令の遺志を継いで欲しいと愚考した事をお許しください』

 

そしてゼンガーの言葉には自分の身を案じ、そしてマイヤーの遺志を継いで欲しいと言う願いが感じ取れた

 

「……エルザム様、ゼンガー少佐。私達は死してマイヤー司令の遺志に殉ずる事を決めておりました……ですが……生きてその遺志を継げと言うのならば……私達にマイヤー司令を護れなかったという汚名をそそぐ機会を頂きたいと思います」

 

リリーはそう告げるとストークを反転させ、ジュネーブから高速で離脱していく。ドラゴンとライガーがそれを追おうとするがガーリオントロンベとグルンガスト零式によって阻まれる。

 

「ややこしいときに出てきたな」

 

「イルム中尉! 様子がおかしい待ってくれ」

 

グルンガスト零式とガーリオントロンベが同時に現れた。乱戦のこの状態で、エースパイロットが2人も増えた。量産型ドラゴン、ライガー、ポセイドンと戦わなければならないのに状況が更に厄介になった。イルムがグルンガストを前に進ませようとしたが、それはキョウスケによって制された

 

「どこで油を売っておった! ゼンガー!! じゃがまぁ良い! 今すぐに裏切り者を斬れ! 斬り捨てろ! そうすれば不問としてやる! ええい! どうした! ワシの命令が聞けんのか!「黙れッ!! そして聞けッ!!!」

 

アードラーのオープンチャンネルで告げられる言葉をゼンガーは鋭い一喝で止める。その凄まじい覇気と威圧感にアードラーは言葉を失った。アードラーのような小心者には耐える事が出来ない覇気に満ちた叫びだった……

 

「今こそ使命を果たす時ッ!!!」

 

「使命じゃと!? 貴様何を言っている!?」

 

零式斬艦刀をグレイストークに向けながらゼンガーは力強く叫ぶ

 

「我が使命とは異星人に対抗しうる戦力を見出し、鍛え上げる事ッ!!」

 

自分達を裏切ったとは思いたくなかったブリットがその叫びに笑みを浮かべる

 

「! やっぱり、隊長は…!」

 

「もう、回りくどいわねえ……だけど……時は来たみたいね」

 

「器用に立ち回れる男でもない……それは俺達も同じだがな」

 

ゼンガーの部下だったキョウスケもエクセレンもそれぞれの機体の中で笑みを浮かべた。何度も敵として戦った……だが、ゼンガーが自分達を裏切ったとは思っていなかったからだ。

 

「そして、アードラー! お前達のように本来の目的を見失い、私欲に走るDCの残党を倒す事ッ! その為に俺は裏切り者の汚名を受け、数多くの同胞の犠牲を乗り越えて、ここまで来たッ!!」

 

「ふん……貴様達など、所詮ビアンやマイヤーの亡霊に過ぎぬわ」

 

ゼンガーの気迫に飲み込まれながらもアードラーはビアンとマイヤーを馬鹿にする言葉を告げる。

 

「黙れッ!!! そして聞けッ!!!! 我が名はゼンガーッ!! ゼンガー・ゾンボルト!! 悪を断つ剣なりッ!!! 大義を失ったDCは! 今日この地で、零式斬艦刀によって潰えるのだッ!!!」

  

 

「ぼ、亡霊風情が! 調子に乗りおって!! 死ぬのは貴様らの方じゃ!! 行け! ドラゴン! あやつらを倒すのじゃあッ!!!」

 

アードラーは半狂乱なって零式とガーリオン・トロンベに量産型ドラゴン達を差し向ける。

 

「おっと、オイラを忘れてもらっちゃあ困るなッ!! ゲッタービィィムッ!!!!!」

 

再起動したゲッターロボのスパイラルゲッタービームが背後から量産型ドラゴン達を貫き、爆発させる。オリジナルのゲッタードラゴンならまだしも、新西暦の技術で作られた量産型ドラゴン達にゲッタービームに耐えるだけの装甲は無かった。ガーリオン・トロンべと零式の間に並び立つゲッターロボの姿にアードラーは引き攣った声を上げた。

 

「笑止! 貴様の地獄への旅路は我がグルンガスト零式が案内つかまつるッ!!!」

 

零式斬艦刀の切っ先がブリッジに向けられているのをみて、アードラーは震え上がり艦長席に逃げるようにすわり、残っている量産型ドラゴン達を出撃させろと叫ぶ

 

「ゼンガー……いや、ゼンガー隊長」

 

「キョウスケ……俺を隊長と呼ぶか……俺の今までの行いを許せとは言わん。だが今は眼前の敵を全て切り捨てるのみッ!!!」

 

「了解……!!!」

 

互いに言いたいことはある、だがそれをキョウスケもゼンガーも言うことは無く、グレイストーク、ライノセラスから再出撃する量産型ドラゴンやライガーに向かってリボルビングステークと零式斬艦刀の切っ先を向けるのだった……

 

 

 

 

ガーリオン・トロンベ……いや高機動型ガーリオンのコックピットでエルザムは一瞬笑みを浮かべたが、すぐにその顔を歪める。一発限りとは聞いていたが、ハイソニックブレイカーでガーリオンの中身はボロボロ、辛うじて浮遊していると言う状況だった。かと言って離脱するだけの燃料も無い

 

「ゼンガー。悪いが少しばかり時間を稼いでくれ」

 

『……どうしたのだ?』

 

怪訝そうなゼンガーにエルザムは今のガーリオンの状況を説明し、戦闘にもこの場からの離脱も出来ないと告げる。

 

『どうするつもりだ。流石の俺でも、お前を護りながらでは戦えんぞ』

 

「ふっ、その必要は無いさ友よ。少しだけ、そう、機体を乗り換える時間を稼いでくれれば良い」

 

零式とガーリオンの間に立つゲッターロボに視線を向けるガーリオン、それを見てゼンガーは心得たと返事を返す

 

「斬ッ! 艦ッ!! 刀ッ!!! 大ッ! 車ッ!! りぃぃぃんッ!!!!!」

 

零式斬艦刀がドラゴンとライガーに向かって投げ付けられる。高速で迫る斬艦刀にドラゴンやライガーのAIも危険だと判断したのか、一時離脱して斬艦刀を回避する

 

「武蔵君! 私をジャガー号に!」

 

「え!? で、でも大丈夫なんですか!?」

 

まさかジャガー号に乗せてくれと言われると思っていなかった武蔵は逆に大丈夫なんですかと尋ねる。だがエルザムは既にガーリオンのコックピットを開放し、乗り移る準備をしている。それを見た武蔵はゲッターの手をガーリオンに向けエルザムが乗り移りやすいようにし、ジャガー号のコックピットを開放する。その中に身体を滑り込ませたエルザムはジャガー号の操縦桿を握り締める

 

「本当に大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だ、この新型のパイロットスーツならゲッターにも耐えられるッ!」

 

自信満々に告げるエルザムに武蔵は判りましたと返事を返す、エルザムがゲッターロボのシミュレーターに何時間も篭もっていたのは知っている。ここまで言い切るのならば大丈夫だろう武蔵はそう判断した

 

「じゃあ行きますよッ!」

 

「ああ! 私に遠慮せずに全力で行けッ!!!」

 

2人目のパイロットが乗り込んだゲッターロボの目が力強く輝き、ゲッターウィングと叫んだ武蔵の叫びが周囲に響き渡りゲッターロボの巨体は宙を舞い、ドラゴン達へと向かっていくのだった……

 

 

第39話 ゲッターロボ対ゲッターロボG その5へ続く

 

 




ゲッター1でゲッタードラゴンの合体を妨害するのは、漫画版真ゲッターロボの「ゲッターロボ対ゲッターロボG」と世界最後の日の「メタルビーストドラゴン対真ゲッター」のシーンが好きなのでそこを使わせていただきました。次回は決着まで書いていこうと思います、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第39話 ゲッターロボ対ゲッターロボG その5

第39話 ゲッターロボ対ゲッターロボG その5

 

 

ゲッターロボによるゲッターロボGの撃破……いや、シャイン皇女の救出は量産型ドラゴン達と戦っていたリュウセイ達にとってなによりも喜ぶべき事だった。

 

「武蔵がやってくれたか……」

 

ゲッターロボとゲッターロボGの戦い……確かにそれは新西暦の戦いの常識を超えていた。それでも、武蔵1人に負担を掛けることなど誰1人して良しとはしなかった……だがそれでも武蔵とゲッターロボGの戦いに割り込む事が出来なかったのだ。

 

 

「くそッ! またなにも出来なかったッ!!」

 

サイバスターのコックピットでマサキが怒りの声を上げる。ハガネとヒリュウ改の搭載機の中でもっとも機動力のあるサイバスターならば、確かにゲットマシンの間に割り込む事も不可能ではなかった……だがそれは何の妨害も無い前提が必要だったのだ。

 

「「「「!!!」」」」」

 

「くそったれ!! 良い加減にしやがれッ!!!」

 

量産型ドラゴン、ライガー、ポセイドンの3体のAIに設定されていたのはハガネとヒリュウ改のPTの足止めを行えという物だった。ゲッターロボがゲッターロボGに戦闘を挑むのはアードラーにとっても想定の内、ゲイムシステムを搭載したゲッターロボGの戦闘力はゲッターロボを超えるとアードラーは慢心でも油断でもなくそう思っていた。だがそれは1対1が前提だった、如何にゲッターロボGとは言え、四方八方からの攻撃を受けては合体が妨害されるかもしれない。そう考え、量産型ドラゴン達には徹底してハガネとヒリュウ改の足止めを行うようにプログラミングがされていた。

 

「マサキ! 無理をするなッ!」

 

「ちっ! 判ってるッ!!」

 

ポセイドン3機によるサイクロンの暴風に煽られてはサイバスターと言えど、スピードを十分に生かすことは出来ないでいた。

 

「厄介な事をしてくれるッ! エクセレン何とかならないかッ!」

 

「出来るならやってるわよッ! キョウスケッ!」

 

サイバスターを初めとした空を飛べる機体を足止めするのは基地からの動力と直結しているポセイドンだ。動きが制限される変わりに基地の動力から与えられる無尽蔵のエネルギーでサイクロンを維持する。空中のサイバスターやアーマリオンだけではなく、その身体の角度を変えるだけでアルトアイゼンを初めとした陸戦機の足止めすらも可能なポセイドンは厄介と言うレベルではなかった。

 

「ひ、ひいいいーーーッ! 誰か早く何とかしてくれええええッ!!!」

 

ジガンスクードがその巨体を生かし、ライガーのドリルミサイルやドラゴンのダブルトマホーク、さらにはポセイドンのサイクロンの盾となり、その影からゲシュペンストMK-Ⅱやビルドラプターが攻撃を繰り返すが、ドラゴンやポセイドンの強固な装甲を貫けないでいた。

 

「こうなったらサイコブラスターで……「止めろリューネッ!」……マサキッ! でもッ!」

 

範囲攻撃のサイコブラスターとサイフラッシュ……確かに攻撃範囲は出撃している機体の中でも有数だ。だがその分攻撃力が低く、サイコブラスターとサイフラッシュを重ねて使用してもドラゴン達の装甲を貫ける保障はなかった。むしろ、エネルギー切れを起こして的となる危険性が高かった。

 

「各員に告ぐ、ライディース少尉のハガネへの帰還をサポートしろ、繰り返すライディース少尉のハガネへの帰還をサポートしろ」

 

R-2がゲッターロボからシャイン皇女を受け取り、コックピットに回収すると同時にホバーで敵陣を突き抜けてハガネへの向かってきている、それを見たキョウスケから撤退の支援命令が飛ぶ。

 

「ヒャーはハハハハハッ!! ボーナスユニットを逃がすかよおおッ!!!」

 

「させるかよッ!!!」

 

R-2を追いかけようとした量産型ドラゴンの前に立つR-1。そしてその支援に入るR-3……シャイン皇女と言う人質が消えた事で流れはわずかに変わり始めていた。

 

「グルンガスト零式の後、各員臨機応変に対応せよ」

 

「はいはい、好き勝手にやれって事ね」

 

「ふっ、臨機応変にだ。それに全員何をするべきかは判っている筈だ」

 

シャイン皇女は無事に救出された、グルンガスト零式とゲッターロボが量産型ドラゴン達との戦いにも参加した。耐える時は終わった、今から反撃へと打って出る時が来たのだった……。

 

 

 

 

 

武蔵からシャイン皇女を預かったライは1度ハガネへと帰還していた。ゲイムシステムと言う危険極まりないシステム、更に常人なら耐えられないゲッターロボに乗せられていた事を考えての事だ。

 

「ラーダ女史! よろしくお願いします」

 

「ええ! 任せて!」

 

マオ・インダストリーから出向しているラーダと、その隣に控えていた医療班にシャイン皇女を預け、再びR-2のコックピットに戻る。

 

『ライ! 出撃は少し待て、装備の換装を行う! 今のままだと足手まといになるぞ!』

 

ロブの言葉に舌打ちしながらも了解と返事を返す、今のR-2の装備は量産型ライガーやドラゴンの動きを削ぐ為の「スパイダーネット」や「チャフグレネード」と言った攻撃力の低い装備で固められている。勿論メガビームライフルや、ビームソードなどの装備も搭載していたが、ドラゴンやライガー、ポセイドンの執拗な攻撃で破損しているため装備を交換しなければ、再び戦闘に出るのは自殺行為に等しい。

 

(……エルザム兄さん……)

 

リリー中佐を助けに現れた漆黒のガーリオン。それは紛れも無くエルザムだった……武蔵が単独行動している可能性もあったが、新西暦の地理に詳しくない武蔵が単独行動している可能性は限りなく低かった。可能性の中だがビアンも生存しているかもしれない以上、武蔵がビアンや、エルザムと言った正しい意味でのDCの生き残りと行動している可能性はイングラムを初め全員が考えていた。だが実際に一緒に行動しているのを見ると複雑な気持ちを抱くのもまた当然の事だ、無実の罪で連邦に追われているとは言え、まさか本当に連邦に追われているビアン達と行動を共にしている。それでは本当に言い逃れが出来なくなるが……

 

(いや、兄さんがそんな当たり前のことを考えていないわけが無い)

 

元々リクセント公国はDCの前組織のEOTI機関に出資していた。そういう面では、DCの決起でその立場は悪い物となったが、連邦がシャイン皇女を護れなかった事。そして今武蔵によって救助された事で間違いなくシャイン皇女の武蔵に対する心証は良い物となっただろう。

 

(それが狙いか……)

 

そんなことは考えていないと思いたいが、武蔵の立ち位置は余りにも悪い。リクセント公国と言う後ろ盾を手にし、そして連邦へ武蔵への指名手配の撤回を求める。それが武蔵の後ろにいるであろうビアンやエルザムの考えではないかと愚考してしまう……そんな自分の性格が嫌になるとライは小さく溜め息を吐いた

 

『出撃準備OKです!』

 

オペレーターの声に従い再びハガネから出撃する。シャイン皇女の救出こそ成功したが、まだ量産型ドラゴン、ライガー、ポセイドンはかなりの数が残っている。更にアードラーの乗るグレイストークも健在、シャイン皇女の救出に安心している場合ではない。まだ戦うべき相手は残っているのだから、安心するのは全てが終わった後だ。

 

「ゲッタートマホークッ!!!」

 

「チェストオオオオオッ!!!」

 

ゲッターロボ、グルンガスト零式は量産型ドラゴン達の軍勢に引けを取らない戦いを繰り広げている。さきほど、ゲッターに乗り込んだエルザムを心配したライだが、次の瞬間には思わず苦笑していた。

 

『チェンジッ! ゲッター2ッ!!!』

 

4方向からの鎖攻撃を分離することで回避したゲッター1がゲッター2に再合体を果たしたのだが、その時に聞えてきたエルザムの声に心配するだけ無駄だったかと呟く。

 

「リュウセイ! 今支援に入るッ! 無闇に突っ込むなッ!」

 

「ライか! ありがてえ! 早く合流してくれ、なんか……こいつおかしいッ!!!」

 

リュウセイが焦った様子で叫ぶ、リュウセイだけではなく、イングラムやラトゥーニを相手にしているテンザンの量産型ドラゴン。あちこちから火花が散り、今にも爆発しそうなのだが、それでも暴れ続ける量産型ドラゴン

 

『ヒャーハハはハハハハハハハハッ!!!!』

 

更にそこにバグっているとでも言うのか、ノイズ交じりのテンザンの狂った笑い声が重なる。どこからどう見ても異常としか取れない光景にライはメガビームライフルをR-2に構えさせ、リュウセイ達のフォローに入る。だがライが支援に入った時には既に遅すぎたのだ、オーバーヒートしつつある量産型ドラゴンの関節部から上がる黒い煙に僅かに緑の光が混じり始めていた。それは量産型ドラゴンが本当のゲッターロボになろうとしている証拠なのであった……

 

 

 

 

ジャガー号の操縦桿を握り締めるエルザムは唇を噛み締め、その殺人的な加速に耐えていた。ビアンの開発したテスラドライブを応用した強化スーツで確かにゲッターの殺人的な加速には耐える事が出来た、そして合体の衝撃にも耐える事が出来た。だが、エルザムはまだゲッターに関しての理解が圧倒的に足りていなかった。

 

(戦うとなると別物か!?)

 

ゲッター2……高機動を武器とする形態。エルザムと相性がいいはずのそれですら、エルザムを苦しめていた。エルザムもふざけて叫んでいるのではない、そうしなければならない理由があるのだ

 

「ドリルアームッ!!!」

 

機体の内部が激しく揺れる、そしてそれはドリルの切っ先がポセイドンに刺さればその勢いを爆発的に加速させる。ゲッターの操縦で武蔵が叫ぶ理由は既に癖になっているのだろう、次はこれをする、これをするぞと言わなければ他のパイロットに掛かる負担が大きすぎるのだ。そしてそれは勿論攻撃をする際のコックピットも例外ではない、ドリルアームでポセイドンを貫いた衝撃でエルザムの意識は一瞬完全に飛んでいた

 

『エルザムさん、オープンゲットだッ! 囲まれているッ! エルザムさん! 大丈夫か! 聞えてますかッ!?』

 

武蔵の叫びで我に帰ったエルザムはレバーが折れるんじゃないかと言う勢いでレバーを倒すと同時にペダルを全力で踏み込む。次の瞬間に身体が座席に飲み込まれるのではないかと思う凄まじい加速に歯を食いしばって耐える、確かに辛い、だがシミュレーターの時の様に意識を失うことはない

 

『大丈夫ですか、エルザムさん』

 

「あ、ああ。大丈夫だ、予想よりも些か衝撃が強かっただけだ』

 

ドラゴンやライガーを攻撃したときは平気だったが、ポセイドンは装甲が厚い分跳ね返ってくる衝撃も凄まじかった。それがエルザムが一瞬とは言え意識を失った理由だった。

 

「ハイパーブラスターッ!!!」

 

『無理そうなら、自動操縦に切り替えますよ?』

 

ゲッター2を囲んでいたライガー4機の内2機はグルンガスト零式のハイパーブラスターの熱線の中に消え、残りの2機はゲットマシンを追いかけて来ている。レーダーの反応でそれは判っているからか武蔵がそう問いかけてくる。だが任せろといって乗り込んでやっぱり無理と言う情けない真似は出来ずエルザムは再び操縦桿を強く握り締める

 

「いや、問題ない。大丈夫だ、武蔵君は私の事を気にしないで全力で戦ってくれれば良い」

 

今ので大体の衝撃の反動は理解した、次は意識を飛ばすなんて事は無いとエルザムは断言する。武蔵はその言葉を聞いて、分かりましたと返事を返す。

 

『ゲッター3で行きます』

 

「了解だ!」

 

シミュレーターで何度も何度も練習した、だから大丈夫だと自信を持って返事を返す。

 

「チェーンジッ!! ゲッタースリーッ!!!」

 

ゲッター3への合体はジャガー号の上にイーグルとベアーが順番に突き刺さってくると言っても過言ではない。その衝撃は恐らく、全ての形態でもダントツの衝撃だろう

 

(ぐうっ!?)

 

コックピットの中で身体が跳ね上がる、上からの連続の衝撃でシートベルトをしていても慣性で身体は跳ね上がるのが判る。

 

「!!」

 

「へっ! 舐めんなよッ!!!」

 

突っ込んできたライガーのドリルをゲッターアームで受け止め、そのまま機体を反転させ上空から追いかけてきたライガーにライガーをぶつけ、2機を地面に叩きつける

 

「ゼンガーさん! 今だッ!!」

 

「応ッ!!!」

 

グルンガスト零式が凄まじい勢いで突進し、ライガー2機を胴体部で両断する。前口上を述べていたのだが、生憎ゲッター3への合体の衝撃に加え、即座の横運動で三半規管がめちゃくちゃになっていたエルザムがそれを聞くことが無かったが……なんとか意識は飛ばさないで済んだ。ビアンの強化スーツの事もあるが、やはり武蔵の気遣いもかなり大きい。確かに合体の衝撃こそ大きいが、合体さえしてしまえば、ゲッター3の構造上……ジャガー号にかかるのは移動の衝撃と旋回等で発生するGだけになる。PTやAMと比べればその衝撃は凄まじい物だが、ゲッター1やゲッター2と比べればその衝撃は微々たる物だ

 

「ブーストナックルッ!!」

 

「ゲッターミサイルッ!!」

 

グルンガスト零式のブーストナックルとゲッターミサイルが今正に突風を放とうとしていたポセイドンに向かって放たれる。ブーストナックルがポセイドンの頭部を押し潰し、体勢を崩した所にミサイルが命中しポセイドンの胴体を貫き爆発させる。ハガネ、ヒリュウ改のPT隊も量産型ドラゴン達を次々破壊していく、リリーを助けたので残るエルザムの懸念は1つ。ジュネーブの地下に侵入しているビアン達だ

 

(まだ連絡は来ないか)

 

脱出したという連絡がまだ来ないことに僅かな不安をエルザムが抱いた時、ジャガー号のコックピットに武蔵の悲鳴が木霊した

 

「武蔵君! どうした! 何か機体トラブルか!?」

 

ゲッターロボの修理は依然完全には完了していない、ゲッタードラゴンとの戦いで何か不具合でも起きたと思いエルザムが叫ぶ

 

『ち、違います! ゲッター線が上昇してる! 何が、何が起こっているんだ!?』

 

困惑する武蔵と状況を把握できていないエルザム、そしてその2人の前に信じられない光景が広がるのだった……

 

 

 

 

ジュネーブの最深部にまで侵入に成功したビアン達。だが戦闘の余波は大きく時間を掛けていると脱出する時間がないと判断し、急いで回収準備を始めていた

 

「ゲッターに関する資料だけを全て持ち出せ! Sクラス以上の物だけで良い! 急げッ!!」

 

バン自身も資料に素早く目を通し、必要な資料だけを持ち出す。この中には連邦の急所となる物も多く存在している。だが膨大なデータや、資料の中からそれだけをピンポイントで見つけるのは難しい。それこそ砂漠から米粒を見つけるような物だ

 

「良いか! 無理をするな、持ち出せる物だけで良い!」

 

連邦の政治形態を一気に崩せるかもしれないという資料の山の数に部下が暴走しかねないとバンは一喝して、それを止める。仮にここで貴重なデータを手にしても、持ち帰れなければ意味がない。だから無理をするなと叫びながら、自身も素早く資料に目を通しては、鞄の中に詰めて行く

 

「……見つけた、これだ!」

 

ビアンはシュウから受け取っていたパスワードでやっと連邦のデータベースにアクセス出来た。

 

(違う、これじゃない、これでもない)

 

アイドネウス島でハッキングで入手出来た資料には用は無い、ビアンが求めているのは焼き払われる前に早乙女研究所の格納庫から持ち出された資料だ。

 

「総帥! お急ぎください!」

 

「判ってる! 準備が出来た者から撤退して行け!」

 

壁が軋み、天井もあちこち落ちて来ている。時間はさほど残されていないが、それでもここまで侵入したのだ。目的の情報も手に出来ず脱出するわけには行かない

 

「あった、これだ!」

 

USBメモリを突き刺し、必要なデータを次々とコピーしていく。コピーが完了するまでの僅かな時間でさえも惜しい

 

「くっ! 総帥! これ以上は!!」

 

「あと少しだ! あと少し!!!」

 

天井が落ち、炎が広がる。口元に布を当てて煙を吸い込まないようにしながらコピーが終わるのを待つ。そしてコピーが完了すると同時にUSBメモリを乱暴に引き抜き、持って来たアタッシュケースの中に収める。

 

「すまない! 行こう!」

 

最後まで待っていてくれていたバンに謝罪し、ビアンは連邦本部の地下を後にし、外で待機していた特殊ガーリオンにバンとビアンが乗り込むと同時にガーリオンは最大速度でジュネーブから離脱する

 

「大佐すまないが、エルザムに脱出を成功したと連絡してくれ」

 

ビアンはそう告げるとUSBメモリの中身の確認を始める。流し見しただけだが、ここにビアンも武蔵も求めて止まない情報がある。浅間山付近に埋没する形で出現した早乙女研究所の格納庫……そこにBTー23と量産型ゲッタードラゴンが眠っていた。それが最初にビアンが入手した情報だ、だがそれにはまだ続きがあった

 

(……これか)

 

格納庫から浅間山地下に続く階段を発見、捜索班が地下へと向かったが全員が消息不明となり捜索を断念。捜索用の小型ラジコンカメラで内部を捜索した結果正体不明の異形を発見、階段にコンクリートを流し込み通路の封鎖。その後格納庫の焼却処理を行ったとある……

 

(行かねばなるまい)

 

正体不明の異形の正体は気になるが、それでもビアン達は向かわなければならない。何故ならば……資料の最後に出てきた写真付きの報告書……ぼやけているが、その形状。その姿は紛れも無くゲッターロボ……新西暦の浅間山の地下にゲッターロボが眠っている事が明らかになったのだから……

 

 

 

 

R-1のコックピットでリュウセイは恐怖に震えていた。今まで何度も死を覚悟したことはあった、だが今回は今までを遥かに上回る恐怖をリュウセイに与えていた。

 

『リュウゼエエエエエエッ!!!!! じねえええええええッ!!!』

 

テンザンの異常な叫び声と時々回転を止めながらもR-1に向けられるドリルの切っ先……機体の各所から鮮血のようにオイルを撒き散らし、いたる所から配線があちこちから飛びだし、その先端からはショートしているからか、激しく発光を繰り返していた。装甲も砕け、罅割れ、剥がれ落ち骨組みまで露出している、さながらその姿はゾンビのようであり、そんな有様で迫ってくるライガーにリュウセイの顔は恐怖に染まる

 

「くそっ! 来るんじゃねええッ!」

 

ジャイアントリボルバーの銃弾が、R-2のメガビームライフルが、ビルトシュバインのM-13ショットガンがライガーに迫る。

 

『きひゃやはやあああああッ!?!?』

 

命中する寸前にライガーが爆ぜる、それは何度も見たオープンゲットの動き。だが決定的に違う所がある、部品を撒き散らし、ゲットマシンにも見えない異形の姿となり空を飛ぶ3つの塊にしか見えない、僅かに緑のゲッター線の輝きが走っているが、その光に機体の方が耐えれないように見える

 

『どうなってやがる! 量産型は分離出来ないはずだろ!』

 

『中尉、あれは分離していると言うよりも……自らを破壊しているように見えます』

 

ドラゴンが爆ぜ、ライガーになり、そしてまたポセイドンに変化した。だが、シルエットこそはポセイドンなのだが、フレームがむき出しになり、そしてオイルを撒き散らす姿は強引に合体しているようにしか見えず、足は辛うじて形になっているが、両腕は最早、骨組みしかない。

 

『けひゃあえはとおわろばまた!?』

 

最早言葉すらも発せられないテンザン。だがそれでもポセイドンは背中に背負ったミサイルを投げ付けてくる……しかしミサイルは途中で失速し、R-1にすら届かず地面に落ちる。しかも爆発すらしない

 

『見るに耐えんな、イルム。終わらせろ』

 

『了解したぜ、少佐』

 

もはやテンザンは脅威でもなんでもない、だが量産型ドラゴンは複数の動力を積んでいる為このまま爆発でもされて、巻き込まれるわけには行かない。そう判断したイングラムの命令に従い、グルンガストが動き出そうとしたのだが

 

「教官、俺がやる」

 

「……良いだろう、決めて見せろ」

 

PTの攻撃力では足りないと判断したのだが、リュウセイがやるというのならばやって見せろとイングラムが告げる

 

『■■●△▽■■■■ーーーーーーッ!!!』

 

ポセイドンが爆ぜ、再びドラゴンになるが、胴体は完全に拉げ、辛うじてドラゴンと判る姿をしているが、その姿は最早ただのスクラップにしか見えなかった。最早、ああなれば終わらせる以外の手段は無い

 

「うおおおおッ!!!」

 

ドラゴンが両手にトマホークを持ち、駆け出すと同時にR-1も同時に走り出す、ドラゴンに向かうRー1のコックピットの中にはいくつものメーターや、エネルギー表記が浮かんでは消えていく、そして最後に「T-LINKシステム F-C」の文字が浮かび上り、R-1の左拳が緑の閃光に包まれる。

 

(テンザン、この馬鹿野郎が……)

 

何度も戦った、そして憎みもした……だが今は哀れにしか思えなかった

 

『じねええええええええッ!!!!』

 

機体を爆発させながら迫るドラゴン、だがそのスピードは余りにも遅い。振りかぶると同時にはじけ飛ぶ右肩の装甲……最早完全にドラゴンは限界を迎えていた……

 

「必殺ッ!! T-LINKナッコォッ!!!」

 

振り下ろされたダブルトマホークを左のT-LINKナックルで受け止める、収束した念動力で右腕が千切飛び、がら空きの量産型ドラゴンの胴体にT-LINKナックルが突き刺さり、風穴を開けるリュウセイはRー1の全身の姿勢制御のバーニアを使い、即座に左腕を引き抜くと同時に機体を反転させる

 

「くらえッ!! T-LINKダブルナッコォッ!!!」

 

最初の一撃で装甲が崩れ落ち、外部に露出した量産型ドラゴンの動力部に返す右拳が突き刺さる、それは完全な致命傷になり、ドラゴンの姿が大きく震えると同時に糸の切れた人形のように膝を付く

 

「破ぁッ!!!」

 

叩き込まれた右拳から収束した念動力が叩き込まれ、ドラゴンは内部から爆発を繰り返す。

 

『○▼※△☆▲※◎★●ーーーーーッ!!!』

 

そして最後まで意味の判らない言葉を発しながらテンザンは爆発するドラゴンから脱出することも叶わず、爆発に飲み込まれドラゴンと共に消えていく……

 

「テンザン、俺とお前は違う。俺には仲間がいる……ライや、アヤ達のような仲間が……」

 

爆発でR-1の足元まで飛んできた量産型ドラゴンの頭部を見つめながら、リュウセイは沈鬱そうに告げる

 

「斬艦刀!! 疾風怒涛ッ! はああああああーーーーッ!!!!」

 

アードラーの乗るグレイストークはゲッターロボとグルンガスト零式によって追詰められていた、護衛の量産型ドラゴン達を失い、無防備なグレイストークにはグルンガスト零式とゲッターロボを止めることは不可能だった……

 

「チェストォォォォッ!!!」

 

大上段から振り下ろされた斬艦刀を防ぐ手段も避ける手段も無いグレイストークはその横っ腹に斬艦刀の一撃を喰らい大きく吹き飛ぶ。そして吹き飛んだ先ではゲッター3が両腕を広げグレイストークを待ち構えていた。

 

「てめえの悪行をあの世で悔いなぁッ!!!」

 

グレイストークの巨体を受け止めたゲッター3はその場で回転を始め、その遠心力に沿ってゲッターアームが螺旋回転しながらグレイストークを巻き上げ上空へと吹き飛ばす。

 

「おいおい、あんなのありかよ……」

 

「信じられねえ……あんなの喰らったらジガンでも1発でお釈迦だぞ……」

 

ゲッター3の脚部を生かした円回転、そしてそこから伸ばされるゲッターアームによる螺旋回転。その勢いは通常の大雪山おろしを越える、凄まじい嵐を巻き起こしていた。

 

「大ッ! 雪ッ!! 山ッ!!!!」

 

『ぬ、ああああああああーーーーッ!?!?』

 

オープンチャンネルで混乱しきったアードラーの叫びが響くが、その叫びに同情する者はいない。

 

「おろしいいいいいいいいーーーーーッ!!!!」

 

上空へと投げ飛ばされたグレイストークは再び空を飛び立つ力を持たず、投げ飛ばされた勢いのまま地面に叩きつけられ爆発した動力によって炎に包まれた。

 

「ば、馬鹿な! わ、ワシはビアンやマイヤーなどととは違う、ワシは世界を! 支配する男じゃぞッ!!」

 

パニックになったアードラーの叫びがジュネーブに響き渡る。逃げようともがいたのか、広域通信のレバーを倒してしまったようだった。

 

「ここでワシが死ねば、人類に未来は無い! なんとしても、アースクレイドルへ帰らねばッ!!! あ、あそこに行けば、貴様らやエア

ロゲイターと言えども、手出しは出来んッ!!」

 

脱出しようとしているが、既にグレイストークの周りにはグルンガスト零式やゲッターロボ、更にサイバスターやヴァルシオーネが囲い込んでいる。もはやアードラーに逃げ道など存在していなかった……、

 

「脱出じゃ! 脱出するぞ! 小型機を用意……ヒッ!? な、なんじゃ!? な、何故! 何故お前達がここに!?」

 

だがその声に恐怖と困惑の色が混じる。それと同時に広域通信でグレイストークの内部で、形容しがたい何かを引きずるような音が響く

 

「く、来るな! 来るなあ! わ、ワシに近づくなッ!! こ、こー…… や、止め……止めてくれええええええッ!!」

 

アードラーは最後まで何かに怯える様な声をあげたまま、グレイストークは機関部が爆発し墜落していく。グレイストークから脱出艇が出た素振りは無く、アードラーが率いていたDCの残党はジュネーブの地で全て滅びたのだった……

 

 

 

 

「敵機の全機撃墜を確認!」

 

エイタの報告がPT全機に伝わる、それでもまだ警戒を完全に緩めることは無い

 

「これで、DCの中核部隊は全滅……」

 

「残るはゼンガー・ゾンボルト少佐とゲッターロボ、そしてアースクレイドルか」

 

ハガネとヒリュウ改と距離を取るグルンガスト零式とゲッターロボ。それはハガネとヒリュウ改とは共に行かないと言うゼンガーと武蔵の意思表明のように見え、ダイテツは小さく溜め息を吐いた。

 

「ゼンガー隊長」

 

「キョウスケ、クレイドルの責任者ソフィア・ネート博士は……地球人同士の戦闘を良しとせず、純粋に人類の未来を案じている人物だ。アードラー達が死んだとなれば、お前達に敵対することはあるまい」

 

ゼンガーはそう告げるとハガネとヒリュウ改に背を向ける。

 

「隊長……自分は隊長にお願いがあります。隊長の力を自分達に貸してください」

 

ゼンガーが行ってしまうと思ったのか、慌ててブリットがゼンガーを呼び止め、それに続くようにリュウセイも武蔵に声を掛ける

 

「武蔵、今回の事で指名手配は解かれると思う。だから俺達にまた協力してくれよ」

 

今回の事で決して武蔵は敵では無いと連邦にも伝わっただろう、それにリクセント公国も味方になる。だから心配ないと告げるリュウセイ、だがゲッターロボは首を左右に振り、拒絶の意を示す。

 

「悪いな、オイラにもオイラの都合があるんだよ。だからまたどこかで会おうぜ」

 

「そういう事だ、俺達はお前達と共に行くことは出来ない」

 

武蔵の言葉に続くように無理だというゼンガー。話し合う余地も無い拒絶の言葉にカチーナが苛立った様子で叫ぶ

 

「なんでさ!? あんた達の目的は大体わかった。DCとも決着がついたじゃないさッ! それに武蔵! お前もだ! 何時までも冤罪で追われていいと思ってるのか!? ここでてめえの無実を証明するべきなんじゃないのか!」

 

もう敵対する理由は無いと筈だとカチーナが言い、ライもそれに続いた

 

「皇女も無事保護することが出来た。彼女の事だ、武蔵。お前に礼を言いたいと言うはずだ、それでも行くのか?」

 

ライの言葉に対する武蔵の返答はゲッターロボを飛翔させる事だった

 

「悪いな、何回も言うがオイラにもオイラの都合がある。皇女様にはよろしく言っておいてくれよ、まー多分オイラの事何ざ覚えてないと思うけどさ」

 

助け出した時に意識が朦朧としていたから自分の事なんて覚えてないさと武蔵は笑う。その言葉は感謝が欲しいから助けたのではないと言うことが伝わってくる、そしてそれと同時に自分達の道と武蔵の道はまだ重ならないと言う証のようにリュウセイ達には感じられた。

 

「使命の為とは言え、俺が今まで犯して来た罪は重すぎる。……今更連邦に戻る事は出来ん」

 

そしてゼンガーの返答もまたヒリュウ改、ハガネとは共に行かないと言うものだった

 

「さらばだ。お互い命があればまた会う事もあるだろう……」

 

「じゃあな、リュウセイ達も元気でな」

 

グルンガスト零式、そしてゲッターロボがジュネーブから去った事により、ジュネーブ攻防戦はここ幕を閉じたのだ。……だがその裏で暗躍してる者達もまた、このジュネーブ攻防戦を境にして一気動き出そうとしているのだった……

 

 

第40話 早乙女研究所 その1へ続く

 

 




今回の話はゲッターロボとゲッターロボGがメインだったので、それ以外の部分が少し弱かったかもしれないですね、もしそう感じられたのならば、きっと私の力不足です。申し訳ありません、でも全力は尽くしたと思っております。ここからは暫くオリジナルルートで、裏切りの銃口まではハガネ、ヒリュウ改のルートの話は為しで生きたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第40話 早乙女研究所 その1

第40話 早乙女研究所 その1

 

武蔵とゼンガーが離脱した後、ハガネとヒリュウ改はジュネーブに停泊していた。既に崩壊しているとは言え、連邦の本部である。貴重なデータなどの回収の任務がハガネとヒリュウ改には下されていたのだ

 

「皆様。助けていただきありがとうございました」

 

シャイン皇女は自分達を助けてくれたハガネとヒリュウ改のクルー1人1人に感謝の言葉を告げ、そして今こうしてブリーフィングルームに訪れたのだが、きょときょととブリーフィングルームの中を見回している

 

「シャイン皇女。どうかしましたか?」

 

「ライディ様……あの、私を助けてくださった、大きくて丸い御方はいないのでしょうか?」

 

大きくて丸いの言葉にブリーフィングルームにいた全員が噴出す、その姿にシャイン皇女は慌てた素振りを見せながら違いますと手を振る。

 

「い、いえ、そのあんまり覚えてないのですが……その大きくて丸いということは覚えているのですが……それらしい御方はいませんでしたわ」

 

「……皇女。武蔵は既に行きました」

 

「行った? どちらへですか? すぐに戻られるのでしょうか? ラトゥーニ」

 

よっぽど直接感謝の言葉を告げたいのか、何時ごろ戻ってこられますか? と尋ねるシャイン。

 

「んふふ。色男さん、眼中にないみたいね?」

 

「……俺は別に構わん。元々、子供の扱いは苦手だ」

 

シャイン皇女がライよりも武蔵に興味を持っている事に気付き、エクセレンがにやにや笑いながら言う。だがライは肩を竦めるに留まるが、その顔は武蔵のことを何と説明するかと言う事を考えているように見えた。

 

「皇女、武蔵は軍人ではなく民間人なのです……そしてその……」

 

「どうかしたのかしら? 何か問題があるのならぜひ教えて欲しいのですが?」

 

指名手配にされていると言う言葉を切り出せず、もごもごしているラトゥーニに詰め寄るシャイン。その圧力に負けたのか、武蔵が指名手配されていると伝えるとシャインは一瞬きょとんとした顔をした後。

 

「判りました、ええ、判りました。私少し急用を思い出したので失礼しますわ」

 

頭を下げて出て行くシャイン。その目的地は間違いなく、艦長室だろう

 

「なんか、凄いことになりそうだな」

 

「まー良いんじゃない? 元々冤罪だし、あ、でも今回色男のお兄さんと一緒だったしね、そこはどうなるのかしら?」

 

間違いなくシャインは武蔵の冤罪について、リクセント公国側から連邦に苦情を出すだろう。その姿にブリーフィングルームにいたエクセレン達は肩を竦めた

 

「それよりよ、なんで破壊した量産型ドラゴンだっけ? それを回収しているんだ?」

 

タスクが思い出したように告げる、ハガネとヒリュウ改に下された命令には量産型ドラゴン、ライガー、ポセイドンの残骸の回収命令も含まれている

 

「んー量産機の割には強かったし、その分析じゃないかしら?」

 

「そうだとしても、やはり納得はいかないがな」

 

何故大破している量産型を回収させたのか? その理由が判らず首を傾げる中。ラトゥーニにはまさかと言う考えが脳裏を過ぎっていた

 

(……流石に無いはず)

 

連邦が量産型を回収し、それを修理して運用しようとしている。そんな馬鹿な事は無いはず、ラトゥーニは首を左右に振り、その馬鹿な考えを頭の中から追い出し、椅子に座り込んで考え事をしているリュウセイに近寄る、今一番精神的に弱っているのはリュウセイだ。その焦燥しきった姿にラトゥーニは何かしたいと思ったのだが、何をすればいいのか判らず、せめて話だけでも聞こうと思っていた。

 

「大丈夫?」

 

「ん、ああ。大丈夫って言えたら良いんだけどな……ちょっと正直今回のことは堪えてるよ」

 

疲れた表情で笑うリュウセイの隣に座る、ラトゥーニ。喋る訳でもなく、慰めるわけでもない。ただ傍にいると言うことを示すその行動にリュウセイは小さく笑い、その良い感じの雰囲気にジャーダやガーネット、そしてエクセレンは微笑ましい物を見るような表情で2人に暖かい視線を向けるのだった……

 

 

 

 

 

ハガネとヒリュウ改の格納庫にはドラゴン、ライガー、ポセイドンの比較的無事な部分が集められていた。かなりの数が集められているので、これだけあれば無事な部分を組み合わせ1体くらいは復元できるかもしれないなと、分析の陣頭指揮を取っているロブは苦笑する

 

「オオミヤ博士、分析の結果は出たか?」

 

「ああ、少佐。ある程度ですけどね、出てますよ。リョウト、分析結果を」

 

ロブの助手をしていたリョウトがロブにバインダーを渡し、ロブはそれをイングラムに手渡して分析結果を話し始める。

 

「まず基礎フレームですが、この段階からPTやAMとは規格が違いますね。作られたのはここ数日のことですが、使われているのは殆ど再現されたロステクです、性能は落としても外見を再現するだけならマオ社やテスラ研でも可能ですね」

 

「なるほど、他には?」

 

「はい。テンザンの乗っていたドラゴンが無理やり分離していたように見えましたが、構造的には一応分離は可能だったようです。全ての量産機にコックピットブロックが搭載される部分が動力部に換装されてますが、テンザンのドラゴンは一応コックピットブロックを搭載し、分離機構も復元していたようです」

 

ただしそれを合体させられるかどうかは別ですけどねとロブは告げる。アードラーが運用していた量産型ドラゴン達、それは本来ゲッターロボやゲッターロボGのように分離・合体が出来たはずだ。それを敢えて潰していたようだが、一部の機体は分離機構もある程度は使用できる段階だったようだ。

 

「タクラマカン砂漠の物よりも、完成度が高いですね。分析が進んだということなのか、技術が向上したのかは判りませんが、少なくともこの量産機は限りなくゲッターに近い贋作と言うことになります」

 

「贋作? どういうことだ?」

 

「はい、それは僕が説明します。色々と分析したのですが、ゲッターロボを構築しているのはゲッター合金。それに対して量産型ドラゴンはゲシュペンストやリオンに使われる複合金属です。耐久力や柔軟性はゲッター合金と比べて格段に低いです、だから合体構造をオミットして、1体ずつを完成させたんだと思います。それとこれが一番の理由なんですが、ゲッター炉心を搭載できなかった。それが贋作と言う理由ですね」

 

「つまり炉心をゲッター炉心に換装し、そして装甲をゲッター合金にすれば。この量産機は完全なゲッターロボになるというのか?」

 

「まぁ理論上はそうですけど、まず無理でしょうね。ゲッター炉心は新西暦でも再現できない代物ですし、ゲッター合金は高密度のゲッター線が必要ですしね」

 

そのどちらも入手できない以上、この量産機が本物のゲッターロボになることはないとロブもリョウトも断言した。

 

「それでゲッターロボGの修復は可能か?」

 

「いや、それはもっと無理ですね少佐」

 

上層部の命令で回収されたゲッターロボG、ボロボロのドラゴンへの合体形態でハンガーに吊るされているドラゴン・ライガー・ポセイドン号を見ながらイングラムが尋ねたが、ロブの返答は無理と言う物だった。

 

「まずドラゴン号ですけど、ゲッター炉心は無事ですけど、それ以外の部分がスクラップ寸前で、ライガー・ポセイドン号はゲッタービームの熱で中の基盤が纏めてお釈迦に加えて、ゲッタートマホークで炉心と動力の連結部分のパイプが寸断されてますからね。修理出来るとしても、ゲッターロボとしてのポテンシャルはもう発揮出来ないでしょうね」

 

武蔵はもう2度とゲッターを悪用されないように念入りに動力部などを破壊していた。念の為に回収したがロストテクノロジーの結集である動力部分の修理は困難を極める事が予想され、仮に修理できたとしても新西暦の技術と旧西暦の技術の違いによってまともに起動する事すら危ういというのがロブの出した分析結果だった。

 

「そうか……では、量産型の方をテスラ研にサンプルとして回す、各機体の残骸と分析結果を纏めてコンテナに詰めておいてくれ」

 

「ゲッターロボGはどうなるんですか? 少佐」

 

「上層部が所有権を主張しているが、スクラップなら丁度良い。伊豆基地に到着次第、回収に来ている上層部に引き渡して終わりだ。ああ、何ならもう少し壊しておいてくれても構わんぞ、オオミヤ博士、リョウト。ゲッターロボは新西暦の人間には無用の長物だ」

 

上層部がゲッターロボの戦力を見て徴収に動いたが、壊れているなら好都合。むしろもっと壊してくれても構わないとイングラムは2人にそう告げ、格納庫を後にした

 

「む……ぐっ」

 

だが自室に辿り着く前に激しい頭痛に襲われ、頭を押さえて通路にもたれかかる

 

「少佐!? どうしたのですか!?」

 

「……アヤ……か、なんでもない、頭痛がしただけだ。直に収まる……」

 

「少佐無理をしないでください、今肩を貸しますから」

 

アヤに肩を借り、自室へと足を向けるイングラム。何故かアヤに触れている間だけはイングラムを襲う頭痛は不思議と納まっていた

 

「ドクターを今呼んできますので」

 

自室のベッドに横にされ、アヤが出て行くと同時に再び激しい頭痛がイングラムを襲う

 

「うっぐ……痛い……ぐっ……う……ッ」

 

そしてその痛みに耐え切れず、イングラムの意識は闇の中へと沈んでいく……そしてその闇の中でイングラムはどこか自分に似た少年に出会うのだった……

 

【思い出せ、自分の使命を……成すべき事を思い出すんだ……】

 

それは、アヤがドクターを連れてきて慌てて救護室に運び込まれた後も、その少年の声は何度も何度もイングラムの脳裏に響き続けるのだった……

 

 

 

 

武蔵の事で抗議に来たシャイン皇女がその整った顔を怒りに歪める。その姿を見てダイテツは深く溜め息を吐いた、だがそうしなければならない理由があったのも事実だ

 

「……国へ戻れと言うのですか?」

 

睨みつけられたダイテツに変わり、ショーンが理由を説明する

 

「ええ、DCの残党軍との戦いは事実上終結しましたし……皇女が狙われることは恐らくないでしょうからね」

 

「それに一国の皇女を何時までも連れ回す訳には行かない」

 

ぐうの音もでない正論にシャインは唇を噛み締める。

 

「それに、皇女にはやってもらわなければならないことがあります。これは貴女にしか出来ないことでもあるのです」

 

「わ、私にしか出来ないことですか?」

 

ダイテツは真剣な目でシャイン皇女を見つめながら、頭を下げる。

 

「私達に協力し、そして皇女を救出してくれた武蔵君。だが彼は今、ありもしない罪で追われる罪人となっている。それを覆すことが出来るのはシャイン皇女……貴女だけだ」

 

国家転覆罪等の思想家扱いされている武蔵、だがそんな事実はなく、既に滅んだが連邦上層部の暴走とシュトレーゼマンの策略だ。だが軍人である以上、それに対してダイテツは動く事が出来ない

 

「シャイン皇女、どうかこちらをお持ちください」

 

「……レフィーナ艦長、これは……?」

 

渡された記録媒体、それを見つめるシャイン皇女。それが何か理解していない様子だが、これこそが武蔵の無実を証明するための証拠の1つとなる

 

「武蔵君が貴女を救助する為に戦った戦闘データです、これをどうかお持ちください」

 

リクセント公国は小さな小国だが、それでも連邦に対しての発言力は高い。そしてその皇女を救出した武蔵を最悪リクセント公国の客賓として招くことで連邦が手を出せない状況を作り出す。それがダイテツ達が出来る、武蔵を助ける方法だった

 

「……判りました、確かにお預かりします。私には国に戻ってやらなければならないことがあるのですね」

 

1度閉じられた目が開かれた時、その眼には強い決意の色が宿っていた。それは自分の恩人を助けるという強い意志の光だった

 

「判りましたわ、私は国に戻ります。もしも、もしも武蔵様にお会いできましたら、どうか私が感謝を告げていたとお伝えくださいませ」

 

幼くても強さを持つシャイン皇女は自分の戦う場所、護る場所を理解していた。

 

「そしてリクセント公国は貴方の味方だとどうか、お伝えください」

 

深く頭を下げ、艦長室を出て行くシャイン。その幼くても強い背中を見送るダイテツ達

 

「恐らく武蔵は正しい意味のDCの残党と行動を共にしている」

 

「でしょうな。ですが、不幸中の幸いもあります」

 

リオンやクロガネと直接的に行動を共にしている姿は目撃されていない、あくまで正体不明の特機を操る革命家として連邦は武蔵を指名手配にしている、だがそれらしい活動はしておらず。不信感を抱いている軍人は少なからずいる、そこに今回の救出劇。シャイン皇女を武蔵を救う手段の1つとして、ダイテツ達は幼い少女に全てを押し付ける形になった事を悔いるのだった……

 

 

 

 

ジュネーブ攻防戦の後、ゼンガーやリリーと言った統合軍の生き残りは砂漠の地下にあるバン大佐の隠しアジトに訪れていた。

 

「良く来てくれた、リリー中佐、ゼンガー少佐」

 

出迎えたビアンの姿にリリーもゼンガーもその顔を驚愕に染める。死んだはずのビアンが生きていれば、驚くのは当然だ。

 

「……ビアン・ゾルダーク総帥……」

 

「リリー中佐。マイヤーの事は本当に申し訳なく思っている、出来る事ならば私もまたマイヤーと共に死ぬべきだった。だが私にはまだやるべきことがあるのだ」

 

マイヤーに心酔していたリリーを初め、統合軍の生き残りはマイヤーが死んで、ビアンが生きている。その事に複雑な表情を浮かべた……

 

「父は生きていれば、必ずビアン総帥の味方をしただろう。そして仮にビアン総帥が死に、父が生きていたとしても共に死ねなかったことを後悔し、だがビアン総帥と志した物を貫く為に戦っただろう」

 

リリー以上にビアンを憎んでいてもおかしくないエルザムの言葉にリリー達は何も言うことが出来なかった。エルザムが許しているのに、自分達がビアンを許せないと責める事は出来ないのだ。

 

「ビアン総帥、どうかマイヤー司令が無駄死にではなかったと……生きて証明してください。それが私達の願いです」

 

リリーの言葉にビアンは勿論だと頷き、バンにリリー達の案内を頼み。自身の前を通過しようとしていたゼンガーを呼び止めた

 

「ああ。すまないが、ゼンガー少佐。悪いが私達に同行してほしい」

 

「……それは構いませんが何事でしょうか?」

 

「それはクロガネの中で説明する、武蔵君、エルザム。急ごう、私達には時間がない」

 

「判りま……うっ」

 

「大丈夫ですか? エルザムさん」

 

返事を返そうとしたエルザムだが、その顔は真っ青でその場に膝を突き掛け武蔵に支えられていた。

 

「やはり無理ならば、残っても構わないぞ?」

 

「い、いえ。大丈夫です、同行出来ます」

 

ビアンの残っても良いのだぞの言葉に頭を振って、立ち上がると大丈夫だとエルザムは返事を返す。

 

「エルザム、一体何が……」

 

「クロガネの中で説明する、行きましょうビアン博士、武蔵君」

 

心配そうなビアンと武蔵に大丈夫だと返事を返し、ジュネーブでの戦闘を終えて半日。休むまもなく、ビアン達はクロガネに乗り込みアメリカを後にするのだった。

 

「浅間山ですか?」

 

「そうだ。ジュネーブの地下に隠されていたデータベースには、浅間山の地下に早乙女研究所が眠っているとされていた」

 

クロガネの目的地は日本、そして浅間山の地下だ。

 

「この正体不明の異形とは?」

 

「判らないが、可能性としてあるのは爬虫人類だな」

 

捜索隊40名が行方不明となった原因の正体不明の異形。武蔵がメカザウルスと戦っていたこともあり、その地下に武蔵同様にタイムスリップしてきた爬虫人類が居たとしても不思議ではない。

 

「大勢で突入して、各個撃破されても不味い。よって浅間山の地下に向かうのは、私、エルザム、ゼンガー少佐、そして武蔵君の4名とする。武器として用意出来たのがさほど数が無いと言うのもあるが、この4人ならば問題なく対応出来るはずだ」

 

ゲッター線コーティングのされた日本刀が4本、これは2本ずつ武蔵とゼンガーが所持する。エルザムやビアンはゲッター線コーティングの銃弾とそれを撃ち出すハンドガンが2つずつと大型のショットガンが2つ。それがビアンが準備できた武器だった

 

「ビアンさん、浅間山の地下らしいですが、場所は特定できているんですか?」

 

「いや、それに関しては不明だ。出発前にクロガネのレーダーで金属反応を探知し、そのままクロガネで突っ込む形になる」

 

その一撃で早乙女研究所を破壊する可能性もあるが、それは事前の調査で出来るだけ空洞のある場所を選んで突入するとビアンが追加で説明する。ジュネーブに眠っていたとすれば、浅間山の地下にそれがあるという事は当然連邦も把握している。

 

「細心の注意を払ったが、バン大佐達が監視カメラに発見されている。連邦が動き出す前に調査を完了し離脱する」

 

下手をすればジュネーブよりも危険度の高い浅間山の地下に眠る早乙女研究所の捜索。ゼンガーやエルザムもその表情を固くしながら、ビアンから配られた資料に何度も何度も目を通す。そして武蔵はと言うと、上手く説明出来ないが浅間山で何かが待っている。それをおぼろげながら感じているのだった……。

 

「それで、エルザム。随分と調子が悪そうだがどうしたのだ?」

 

日本へと向かう道中でゼンガーがエルザムの不調を尋ねる。ミーティングまでの間ずっと眠っていたエルザムの顔色は大分回復しているが、それでも万全と言う様子ではなかった。

 

「最後の大雪山おろしの回転でな、脳震盪を起こしていたのと、酷い車酔いに近いありさまだったのだ」

 

「いやあ、途中で静かになったなあとは思っていたんですけど……気遣いが足りませんでした」

 

グレイストークを投げ飛ばした時の回転でエルザムはそのGに耐え切れず失神、そして更にその状態でゲッター1へチェンジした事で打撲と三半規管を揺らされ立つ事もままらない状況だった。

 

「心配しなくて良いと言ったのは私だ。気にする事はないさ」

 

「でも本当すいません」

 

静かになったとは感じていた武蔵だが、まさか気絶しているとは思っていなかったのだ。クロガネに着艦し、ジャガー号から出てこないエルザムに武蔵が覗き込んだらぐったりしている姿を見て慌ててジャガー号から引っ張り出したのだ。

 

「お前でもそれほどまでに操縦に苦しむのか」

 

「ゲッターロボのパワーには驚かされるばかりだ。ゼンガー、お前も乗ってみるか?」

 

「……興味はある」

 

エルザムの話を聞いてゲッターに興味を持ったゼンガーに武蔵は大丈夫かなあと心配そうな顔をする。

 

「大丈夫だよ、武蔵君。エルザムが乗ってくれた事でスーツの更に改良も進む。次は大丈夫だ……多分」

 

「そこで絶対大丈夫とは言ってくれないんですね、ビアンさん」

 

武蔵の問いかけににこやかに笑うビアン、あえて返答しないという方法に出たビアンに武蔵は苦笑するしか出来ず。

 

「それでどんな感じなのだ?」

 

「ゼンガーも覚えていると思うが、高機動ゲシュペンストの試作型より酷い」

 

「……あれよりも酷い機動兵器が存在するのか……」

 

教導隊時代の悪夢と言えるブースターを増設しまくったゲシュペンストよりも酷いと聞いてゼンガーはその顔を引き攣らせる。危険な場所に向かうと判っていたが、それでも武蔵達の表情に恐怖の色は無くむしろリラックスした表情でクロガネは日本へと向かうのだった。

 

「ここか……確かにこの感じ、早乙女研究所ですね」

 

それから2時間後、クロガネはビアンの話通り浅間山の地下に眠る早乙女研究所に辿り着いていた。真っ先にクロガネを降りた武蔵は辺りを見回しながら告げた、ここは間違いなく早乙女研究所だと……

 

「ここら辺は知ってる区画かい?」

 

「はい、ここらへんは多分プロトゲッターの墓場と言われてる場所ですね」

 

「行き成り墓場か……些か心配になるな」

 

強行突入用の装備に身を包んだゼンガーが鋭く辺りを見回しながら呟いた。捜索に来て一番最初に辿り着いた区画がゲッターの墓場と聞けば不安に思うのは当然だろう。

 

「まずは地下に続く階段を見つけよう。ここは恐らく、焼き払われた早乙女研究所の格納庫の無事な一区画だろうからね」

 

ビアンの言葉に頷き、武蔵達は懐中電灯を手に、薄暗い早乙女研究所の地下を歩み始めるのだった……

 

 

 

 

 

 

早乙女研究所を進む4人の先頭を進むのは当然武蔵だ。早乙女研究所に土地勘のある武蔵が先頭を進み、ビアン達を先導する。

 

「駄目ですね。ここの階段を上に行けば、居住区とか、早乙女博士の研究室だったんですけど……」

 

武蔵の視線の先には焼け焦げた階段が見え、その先はコンクリートで塗りつぶされている。地下へ続く階段だけではなく、格納庫自身も相当厳重に封印をしたらしい、クロガネでそのコンクリートの先に直接来たが、どうも目に見えるだけの通路ではなく全ての通路を念入りに封印したようだ。

 

「そうか、となると次の進路はどうするつもりだ?」

 

「……そうですね、ゲッターの墓場を通って、それでプロトゲッターの試験場の方に向かってみますか」

 

最初はゲッターの墓場を避けて移動した。もしかしたら早乙女博士の研究資料を手に出来るかもしれないと思っての事だが、当てが外れた武蔵はすみませんと謝罪する

 

「気にするな、武蔵。お前が居なければ俺達はまともに前に進むことも出来ないのだからな」

 

「ゼンガーさん。すいません、ありがとうございます」

 

ゼンガーの慰めの言葉に感謝の言葉を告げ、来た道を引き返していく。目的地はゲッターの墓場だ、ハザードマークが刻まれている扉、その横のレバーを降ろして武蔵達はゲッターの墓場に足を踏み入れる。一同の目の前に広がったのはまさしくゲッターの墓場と呼ぶに相応しい、凄惨な光景だった。

 

「これか……いや、圧巻の光景だな」

 

「これだけのゲッターロボが製作されていたのか……」

 

上半身だけのゲッターロボ、腕が無いゲッターロボ、脚部だけのゲッターロボ……あらゆる部分が欠損しているゲッターロボが所狭しと配置されている、これはまさしくゲッターロボの墓場と言うべき光景だった。

 

「何故プロトゲッターを破棄しなかったのだ?」

 

ここまで破壊されていては修理も出来ないだろう、それなのに何故地下に安置していたのか? ゼンガーがそう尋ねると武蔵は首を傾げて、必死に思い出すような動きをして、思い出したと手を叩いた。

 

「ゲッター線ですね。放射線なんで環境に影響を与える事を考えてらしいです」

 

ゲッター線が完全に霧散するまでは廃棄することも出来ず、地下に封印していたと聞いたエルザムは僅かに顔を歪める。

 

「人体の影響は無いのか?」

 

「いえ、余り長時間いるのは危険らしいので、早く移動しましょう。こっちです」

 

武蔵が慌てて移動しようとするが、それはビアンによって制された

 

「いや、このゲッター線レーダーは反応していない。どうもこの区画のゲッターロボはゲッター線が殆ど残されていないようだ」

 

これだけのスクラップの山を焦って移動するのは危険だ。ゲッター線がなければ周囲を確認しながら進もうと言われ、武蔵は判りましたと返事を返し、慎重に歩を進める。確かにビアンの言う通り慌てて進むには危険すぎた、瓦礫やスクラップが道を塞いでいて、すぐ目の先に見える出口に向かうには2回も3回も回り道をする必要があった。

 

「これはゲッターロボに似ているな」

 

「これはドラゴンですね」

 

プロトゲッターの中にはやはりゲッターロボやドラゴンに似ている機体も多数ある。地下に封印されていたからか、その状態は極めて良好に見える。

 

「可能ならばいくつか回収して、ゲッターのスペアパーツにしたいな」

 

「ですね、正直ゲッターもボロボロですし」

 

1度捜索を終えてからガーリオンやゲッターロボでプロトゲッターのパーツを回収する事を決め、武蔵達はゲッターロボの墓場を抜けた。

 

「な! なんでこいつがここに!?」

 

武蔵の絶叫が響く、ゲッターの墓場を抜けた先には大破し、全身が焼け焦げたゲッター3が鎮座していた。

 

「ゲッター3……か、もしかするとゲッターロボも量産していたのかもしれないな」

 

「ですね、ドラゴンを量産出来たのですからね」

 

ゲッタードラゴンを量産していたのだ、それよりも低コストのゲッター3を量産していた可能性もゼロではない。だがそうなると何故大破したゲッター3が安置されているのかと言う謎は残るが……

 

「機動試験中に爆発したのかも知れんな」

 

「……ビアンさん、この区画のゲッター線はどうなってますか?」

 

ゲッター線は少量で膨大なエネルギーとなる、ゼンガーの言う通り機動に失敗し爆発した可能性もゼロではない。

 

「ゲッター線の反応がある。このゲッターロボのゲッター線はまだ残っている」

 

骨組みが見えるほどに崩壊しているが、まだゲッター線が残っていると言うことは再起動出来るかも知れない。

 

「ビアンさん、どうしますか? 再起動してみますか?」

 

ゲッターを再起動して、何があったのか調べてみますか? 武蔵がそう尋ねる。だがビアンは首を左右に振る

 

「起動に失敗してゲッター線が暴走しても困るから止めておこうか」

 

脱出経路も確保できていない今、ゲッター線の爆発に巻き込まれるわけには行かない。ビアンはそう判断し、前に進む事を促す。そしてゲッター3の残骸が安置されている区画を抜けた時、ビアン達を待ち構えていたのは予想だにもしない光景だった

 

「これは……」

 

「なんと面妖な……」

 

「ここは本当に早乙女研究所なのか?」

 

今までビアン達が進んでいたのは劣化し、錆び付いた通路や機能しない電子ロックが並ぶ扉の数々。だが今ビアン達の目の前に広がるのは、建造されたばかりと言っても通用するであろう綺麗な金属で覆われた通路だった。

 

「ここから先が捜索班が消息不明となったエリアになるのだろうな、見てくれ」

 

ビアンが差し出したゲッター線の計測装置はメーターを振り切らんばかりに動く赤い針の姿があった。ゲッター3を発見するまでは、何の反応も示さなかった計測装置が凄まじい反応を示している。それだけで、ここから先が危険と言う事をゼンガー達は感じ取った。

 

「武蔵、ここからは俺とお前で先陣を切ろう」

 

「ですね……いやな予感がびんびんと伝わってきますよ」

 

武蔵とゼンガーがそれぞれ背中に背負っていた刀と腰に挿した刀を抜き放つ、無人の筈の研究所の筈なのに、突き刺すような妖気とも言える不気味な気配が通路の奥から瘴気の様に漂よい始めているのだった……

 

 

第41話 早乙女研究所 その2へ続く

 

 




判っている人も居ると思いますが、この早乙女研究所は「世界最後」から「新」の早乙女研究所へと繋がっています。そしてそれが何を意味しているかわかりますね?そう、バイオハザードです。……はい、すいません、調子乗りました。私の文章力ではバイオ的な戦闘は難しいので、多分とても残念なことになると思いますが、どうか温かい目で見てください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第41話 早乙女研究所 その2

第41話 早乙女研究所 その2

 

通路の奥から妖気の様に漂ってくる殺気……それを感じ取ったゼンガーは背中に冷たい汗が流れるのを感じた。

 

(これは……人なのか……いや、だがこれは……獣とでも言うのか)

 

人間のようでありながら獣のような獰猛な気配。今まで感じた事も無い気配に恐れよりも不気味さを感じる

 

「ゼンガー、どう思う」

 

「……可能ならば即座に引き返すべきだ」

 

だろうなとエルザムも頷く、ここは明らかに異常だ。この奥にビアンと武蔵が求める情報があるとしても、安全性を考慮するならば即座に引き返すべきだろう。

 

「……2人には悪いが前に進む」

 

壁に備え付けられていたコンソールを操作し、端末にこの研究所の見取り図をコピーしていたビアンがコードを回収しながら前に進むと告げる

 

「それで武蔵君、ここは君の知ってる早乙女研究所ではないと言うことで良いのかね?」

 

「……はい、こんな区画は見たことがないですし、それにこの地図を見てもそうですね」

 

武蔵が早乙女研究所の内装を知るからこその強行突入。それが無駄になった以上、今まで以上に慎重に進む必要がある

 

「ゼンガー、そして武蔵君。先頭は頼む、慎重に進もう。最悪の場合は離脱することも考慮するが、まずはここで何が起こったのか……それを知ってからでも遅くは無い」

 

ここまで来て、何の成果も無しには帰れない。それに次に来ても、恐らくその頃にはこの研究所は消滅している。それが判っているからこそ、ビアンは危険は承知で前に進む事を決断した

 

「……クリア」

 

「こっちも大丈夫です」

 

一本道の通路を前に進むとその先は十字路になっていた。進む先は右か、左か、それとも直進か……通路の陰に隠れながらエルザムとゼンガーが周囲を警戒する

 

「この先が格納庫、右が標本室と居住エリア、左が談話室と研究室か……武蔵君。格納庫に直接向かって、入れるかね?」

 

「いえ、早乙女博士なら格納庫は念入りにロックしてるはずです。パスワードか、鍵を見つけないと……」

 

自分の乗るゲッターロボの格納庫でさえ、5重のロックで念入りに閉鎖されていた。最終目的地は目と鼻の先だが、遠回りする必要があるようだ

 

「となると、研究室か早乙女博士の自室を見つける事か……」

 

「どうしますか? 総帥」

 

「研究室ですね。オイラ早乙女博士が自分の部屋で寝てる所なんて見たことないですし」

 

居住エリアに向かうか、それとも談話室に向かうかと話し合っているビアン達に武蔵が研究室しかないと告げる。

 

「確かに私も余り自室には戻らないな」

 

妙に説得力のある言葉にゼンガーもエルザムも何も言わず、談話室に向かい、そこから研究室に向かう事を決めた。だが談話室に近づくにつれ、その顔が険しい物に変わっていく

 

「血の匂いだな」

 

「ああ、だがありえないがな」

 

メテオ1の落下と共に現れたと言うこの早乙女研究所。少なくとも100年以上前の話だ、それなのにここまで鮮明に血の匂いがするのは明らかにおかしい

 

「ビアン総帥、エルザムは後ろへ。武蔵」

 

「了解です」

 

刀を抜き放ちゼンガーと武蔵が談話室の扉を蹴り開ける。開かれた扉の先血に満ちたおぞましい光景が広がっていた

 

『ギイイッ!!』

 

『シャアアッ!!!』

 

明暗を繰り返す談話室の奥からトカゲを人型にしたような異形が飛び掛ってくる。その動きは素早く、並みの軍人ならば成す術もなくその鋭い爪で切り裂かれていたが、トカゲにすれば相手が悪かった。

 

「むんっ!!!」

 

ゼンガーが鋭い気合と共にトカゲの胴を横薙ぎに切り払い、返す刀で頭を叩き割る

 

「せいっ!!」

 

武蔵も素早く刀を振るいトカゲの頭を切り落とすと同時に、刀の切っ先を下にしてトカゲの頭を談話室に縫い付ける。

 

「……手馴れているな」

 

「別になれたいわけじゃないですけどね、それよりやっぱり爬虫人類です」

 

顔に飛び散った鮮血を拭いながら武蔵が痙攣している爬虫人類の身体を蹴り飛ばす。それは談話室の机を吹き飛ばし、壁に叩きつけられる。温厚な武蔵とは思えない行動に、それだけ爬虫人類を危険視しているとビアン達は理解した

 

「う……誰か、誰……げほ、いるのか?」

 

ありえない生存者の声にビアン達も顔を顰める、100年近く前の負傷者が生きているとは思えない。エルザムがハンドガンを構えながら声の元へと向かう

 

「……う、誰だ? 俺たちの部隊じゃないな……」

 

そこに居たのは足を噛み千切られた、旧式の装備に身を固めた男の姿だった。見覚えの無いエルザムに不審そうな顔をしたが、血塗れの手で懐から何かを取り出す

 

「ここにいるって事は……増援って事でいいんだよな……悪いが、俺はもう駄目だ……これを……軍に届けてくれ」

 

「……判った。引き受けよう」

 

差し出された旧式のビデオカメラを受け取るエルザム。その姿に血塗れの男は安堵の溜め息を吐き

 

「……間違っても、標本室と居住エリアには行くな。あそこには……鬼がいる。皆喰われて、鬼になった。俺達は……封鎖して、ここまで逃げたが……ここにも化け物が居た……皆……皆……死んじまった……くそ、最初から……嫌な……気がしてた……んだよ」

逃げたが……ここにも化け物が居た……皆……皆……死んじまった……くそ、最初から……嫌な……気がしてた……んだよ」

 

負傷兵は最後にそう呟くと事切れ、その手が血の海の中に沈んだ。エルザムは渡されたビデオカメラを手にビアン達の元へ戻る

 

「ビアン総帥、これは一体どういう事なのですか?」

 

「……判らない、判らないが……この研究室の時間は止まっているのかもしれない。そうでなければ説明がつかない」

 

100年前の負傷兵がこの時まで生きているわけが無い、もっと言えばあんなに若々しい訳が無い。ありえないが、ありえないと一蹴出来ない理由もある

 

「……」

 

死んだ兵士の前にしゃがみこみ、手を合わせる武蔵だ。彼もまた旧西暦の人間であり、そして過去よりタイムスリップしてきた人間だ。だからこそ、ありえないとは言い切れない

 

「なんにせよ、今までよりも更に警戒して前に進もう」

 

「……その方がいいですね。気配がどんどん増えて来ている」

 

断末魔の叫びさえも上げさせなかったが、同胞が死んだ事に気付き爬虫人類が近づいて来ているのだろう。

 

「どうしますか? ビアンさん」

 

「決まっている、前に進むぞ」

 

ここにはやはり何かがある、危険は承知。だがそれでも前に進まなければならない、武蔵達は談話室に作られているバリケードが外から何度も殴られる音を聞きながら、それぞれの武器を構えるのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

それは悪夢のような光景だった、破壊された扉から雪崩のように飛び込んできたのはトカゲの頭部を持ち、鋭い爪を持つ異形の人型の群れだった。話には聞いていたが、実際に目の当たりにするとエルザム達はその動きを止めてしまった。

 

「おらあああああッ!!」

 

硬直したエルザム達を庇うように背中に背負った日本刀を抜き放ち、爪を振りかざして突撃してきた爬虫人類の腕を切り落とす武蔵。

 

「ぎしゃあッ!「黙って死んでろッ!!」

 

即座に腰から抜き放ったマグナムを苦悶の声を上げた爬虫人類の口の中に突っ込んで、引き金を引く武蔵。その動きに躊躇いも容赦も何一つ無かった。

 

「ギイイ!?」

 

「ギギィッ!?」

 

その一瞬の蹂躙劇、だがその必要があると言うのは武蔵の性格を知っているゼンガー達が正気を取り戻すには十分な時間であり、そして爬虫人類が武蔵がいる事に気付き、その顔を引き攣らせ動きを止めさせるのに十分な時間だった。

 

「ゼンガーさん、相手は身体が両断されようが動く化けもんだッ!! 容赦せず頭を狙ってくださいッ!!」

 

「シャアアッ!!」

 

「舐めんなッ!!」

 

上段から爪を振り下ろしてきた爬虫人類の一撃を受け止め、その腹に蹴りを叩き込んで距離を取ると居合いの要領で爬虫人類の首を切り落とす。

 

「落ち着いて! 胴体や足じゃ効果が薄いんで頭を徹底的に狙ってくださいッ!」

 

武蔵の指示に従いゼンガー達もまた爬虫人類との戦いを始めるのだった……

 

「おおおおーーーーッ!! 大雪山おろしいいいいいッ!!!!」

 

狭い通路の中に武蔵の雄叫びが響き渡り、天井に突き刺さった爬虫人類。あの後すぐに破られた談話室のバリケード、そこから雪崩れ込んでくる爬虫人類と戦い続け、いまやっと押しかけてくる爬虫人類の最後の1匹を葬った。

 

「ふーやれやれ、相変わらずしつこいぜ。ビアンさん達は大丈夫ですか?」

 

武蔵がぱんぱんっと手を叩きながら尋ねてくる。だがその問いかけにエルザム達はすぐに返事を変えさせなかった、噎せ返るような血の匂いと飛び散った脳漿……その凄惨過ぎる光景は以下に軍人と言えどそうそう許容出来る物ではなかった。

 

「良い腕前をしているな。武蔵」

 

「どうも、でもこれでもオイラは弱いほうですからねぇ……リョウとか、隼人ならもっと素早く処置出来たと思うんですけど」

 

「いや、十分だ。武蔵君、正直武蔵君がいなければあの段階で全滅していたかもしれない」

 

軍人である以上ヘッドショットは無意味と言う訓練をつんでいるエルザムは、当初長年染み付いた足打ちで相手の動きを止めようとして、逆に組み付かれる結果となってしまった。だがそこに武蔵の右ストレートからの、自分が所持していたマグナムで相手の頭を吹き飛ばす事で無力化した、もし少しでも反応が遅れていればエルザムもまた。あの談話室の兵士のように物言わぬ屍となっていただろう……

 

(しかし、凄まじい……と言うよりも凄い)

 

自分が助けられることは想定しなかったエルザムは苦笑しながら、大丈夫ですか? と手を差し伸べてきた武蔵の手を借りて立ち上がる

 

「ビアン総帥。やはりこの場所の長時間の捜索は余りに危険です」

 

「そのようだな。鬼と言う言葉も気になる……「あああッ!!」 な、なんだ!? どうかしたのか!」

 

突然武蔵が手を叩き叫ぶので、何事かとビアン達の視線が武蔵に向けられる。武蔵はなんで忘れてたんだと叫んで

 

「オイラは鬼を知ってる! そうだ、あの時だ。リョウが記憶喪失になったときの病院ッ! あそこの院長が鬼だった!!」

 

忘れていたという武蔵だが、それを責める事は出来ないだろう。その後すぐにリョウと隼人を救う為に特攻することになったのだ、確かに一大事だった。だがその記憶がすっぱり抜け落ちていても、おかしくはないのだから

 

「……クロガネに念の為に搭載しているガーリオンでプロトゲッターの残骸を回収させておこう」

 

「そうですね、まだ何か起きそうですからね」

 

捜索を終えてからプロトゲッターの墓場の捜索をする予定だったが、その時間は生憎ながらなさそうだ

 

「地震……ってわけじゃ、無さそうですね」

 

「うむ。これは明らかに何かが暴れる音だ」

 

反対側の区画から地震のような音が響くが、地震とは異なり甲高い金属音も響くことから間違いなく何かが暴れているのだろう。あの生き絶えた軍人が告げた鬼が暴れているのかもしれない

 

「研究室に向かい、ロックが見つけられなければ離脱し、連装砲で早乙女研究所を破壊する」

 

「そうですね。それが一番だと思います。惜しいとは思いますけど……」

 

今はまだこの中だけだが、もし爬虫人類が外に出たら? 鬼が外に出現したら? そうなれば日本は……いや地球は今まで以上の危機に陥る。敵が外に逃げ出す前に、この研究所は完全に破壊しなければならない。この研究所の捜索に来ていた武蔵やビアン、そしてゼンガー、エルザムもまたそれを決意した。この研究所は文字通りパンドラの箱……決して開けてはいけない物だったのだ

 

『エルザム少佐、何か問題ですか?』

 

「問題と言えば問題だが、今はそれ所ではない。クロガネに搭載しているガーリオン2機で出撃し、その先にあるゲッターロボの廃棄所から状態の良いゲッターロボを回収し、クロガネで即時離脱する準備をしておいてくれ。私達も可能な限り早く戻る」

 

研究所の中でロックを外すパスワード、もしくは鍵を見つける事が出来なければ引き返す事を決め、クロガネに通信を入れてビアン達は研究室へと足を向ける。通路は血塗れ、死んだ軍人と爬虫人類の死体が折り重なるように倒れている。それから目を背け、素早く研究室の中に駆け込む

 

「ふう……ここは少し安全みたいですね」

 

「そのようだな」

 

今までの部屋や通路とは異なり、そこは倒れた棚や血痕もない。本当に普通の部屋だった……いや普通の部屋と言うのは誤解がある

 

「ゲッター線指数85%。この高密度のゲッター線が、この部屋を護っていたのだろう。武蔵君達は少し休んでいてくれ、ここからは私の仕事だ」

 

PCの前に座り、立ち上げていくビアン。確かにここまで来れば、武蔵達に出来ることはなく、ビアンの言葉に甘えて床の上に座り込んで少しでも身体を休めることにする。

 

「……音がだんだん大きくなってますね」

 

「ああ。時間はやはり残されていないようだな」

 

隣の区画から響く音は徐々に、徐々に大きくなっている。隔壁を破り、こちらの区画に近づいて来ているのかもしれない

 

「クロガネに辿り着くまでに何事も無ければいいが」

 

「最悪廃棄されたゲッター3を再起動させましょう」

 

走って逃げる時間がなければ、それしか残された手は無い。もしくは、格納庫の先にあるゲッターロボを起動させるしか、無事にエルザム達がこの地下研究施設を脱出するすべは無いのかもしれない。

 

「武蔵、休んでいる間に色々と聞きたい事があるがいいか?」

 

「ええ、全然大丈夫ですよ。ゼンガーさん」

 

ビアンが調べ物をしている間。武蔵とゼンガー、合流したばかりのゼンガーは武蔵の過去を知らず、旧西暦の人間や、ゲッターロボのパイロットと言う要所的な部分しか知らず、エルザムもよく理解していない部分もあり、そこを武蔵に尋ねながらビアンの分析が終わるのを待つのだった……

 

 

 

 

早乙女研究所のメインコンピューター……それはビアンの想像を超える宝の山だった。ロストテクノロジーであり、オーバーテクノロジーの山、そのどれか1つでも公表すれば莫大な富を手に出来る特許の数々がビアンの頭の中を浮かんでは消えていく

 

(……見つけた)

 

格納庫のパスワード、これであの格納庫を開けることが出来る。今すぐにでも格納庫の奥へ向かうべきだと判っているのだが、研究者としての本能がそれを拒絶した

 

(……早乙女の乱……鬼の襲来……機械昆虫の襲撃……)

 

調べれば調べるほど、疑惑が強くなる。このデータベースに眠るのはまるで複数の世界の出来事を1つに纏めたような……そんな整合性のない記録の数々。1つ読み解けば、2つ矛盾点が生まれる。その矛盾をほどけば、更なる矛盾が生まれる。どの記録も年数が余りにもバラバラなのだ

 

(……駄目だ、今はそんな事をしている場合ではない)

 

いま自分がやるべきことはこれではない、格納庫のパスワードをメモし、後ろ髪を引かれる思いでPCの電源を落とす。もう二度と見ることが出来ない記録……それは深遠を覗き込んだときの興奮に似ているが、だがそれと同時に深遠もこちらをのぞき込んでいる。飲み込まれるわけには行かないと強い意志の力でそれを跳ね除けたビアンはUSBメモリだけは回収する。

 

(これだけは貰っておこう)

 

ゲッター炉心の設計図。アイドネウス島で寝ぼけて書いた図面はある、だが其れでいいのかと言う不安がある以上早乙女研究所の正式なゲッター炉心の図面は何をしても入手したかった。そしてもう1つ、ゲッターロボの図面だ。今の騙し騙しの修理ではない、完全な修理に必要なデータを収めビアンは席を立とうとして気付いた

 

「なんだこれは!?」

 

それは何故か起動していた監視カメラの映像。そこには隣の区画のゲッター試験場の壁を殴りつける、異形の姿があった。鬼の顔を胴にし、それに短い手足をつけたような異様な姿。なんども繰り返されている衝撃の正体はこれだとビアンは一瞬で理解した

 

「これは!? これが鬼なのか!」

 

「しかし、不味いぞ、障壁が砕かれるッ!」

 

ビアンの声にモニターを覗き込んだゼンガーとエルザムが叫ぶ、鬼の拳で障壁は砕け、もうこちらの区画に侵入してくるのも時間の問題だった

 

「……武蔵君」

 

「判ってます、やるだけやりましょう」

 

もう大破しているゲッター3の元に戻る時間は無い、このまま4人で格納庫に眠るゲッターを使いあの鬼を退けて脱出するしか手立ては無いのだ。武蔵達は意を決した表情で格納庫へ走る

 

「やっぱりオイラの知らないゲッター……だけど、こいつは試作機かぁ」

 

格納庫の扉の先には確かにゲッターロボが眠っていた。だが肝心の頭部……イーグル号に当たる部分が存在しないゲッターロボだ。姿はゲッター1だが頭部がなければと唇を噛む、だが背後から迫る破壊音は着実に近づいて来ていてこれ以上迷っている時間はなかった。

 

「我々にはこれしかない」

 

「迷っている時間は無いぞ!」

 

「ええい! こうなったら出たとこ勝負だ!!」

 

引き返すことも出来ないのなら前に進むしかない。武蔵は意を決して格納庫に鎮座しているゲッターロボに向かって走り出した

 

「……大丈夫ですか、ビアンさん」

 

「大丈夫だ。通常のゲッターロボよりもコックピットが広いからな」

 

ジャガーにゼンガーとエルザム、そしてベアーに武蔵とビアンで2人ずつ乗り込む。コックピットに腰掛け、操縦桿を握り締め、左手でゲッターを起動させる。

 

(レイアウトは若干違うが……問題ない、基本的な部分は同じか)

 

乗り込んだゲッターロボは武蔵の乗るゲッターロボを更に改良したようなデザインだったが、中身も改良されていた。それでも基本的な部分は変わらないことに安堵する。

 

「早く、早く立ち上がれ……」

 

起動までの僅か時間、だがその僅かな時間でこの地下研究所に潜む悪魔がゲッターを見つけた

 

【ギシャアアアアアアッ!!】

 

「くそ! もうきやがった!!」

 

まだゲッター炉心は起動しない、長い間安置されたことでゲッターの中身は外見と異なりボロボロだったからだ

 

「「ぐおっ!」」

 

鬼の横殴りの拳がジャガー号にめり込み、ゲッターに凄まじい振動が走り、ゲッターロボが背中から倒れこむ

 

「ぐっ! ビアンさん! 大丈夫ですか!?」

 

「口の中を切っただけだ、問題な……があっ!?」

 

「ぐうっ! ま、不味いッ!」

 

マウントを取られ何度も拳を叩きつけてくる鬼。一撃、一撃に殺意と敵意が込められている。

 

『ぐっ! このままでは不味いぞ!』

 

「判ってます! あと少し、あと少しなんです!」

 

明かりの消えていたモニターに明かりが灯り、外部モニターが回復する。ベアー号のコックピットに爪を突き刺そうとしていた鬼に気付き、膝蹴りを叩きこむ

 

【ギガア!?】

 

背後からの衝撃で前のめりに倒れた鬼。その隙に立ち上がり拳を構えるゲッターロボ……だがイーグル号が存在しないので、その出力は一向に上がる気配が無い。

 

「エルザムさん、ゼンガーさん、ビアンさん、かなり荒っぽく行きますよッ!!」

 

格納庫の壁に掛けられていたゲッタートマホークを手にし、鬼へと切りかかるゲッターロボ、だが上段から渾身の力を込めた一撃は鬼の右腕によって簡単に防がれ、反撃に繰り出された前蹴りでゲッターロボを蹴り飛ばす

 

「ぐうううっ!!! ちくしょう! 駄目だ! 出力が全然足りねぇッ!!」

 

ペダルを踏み込み何とか態勢を立て直したが、どう考えてもあの鬼には勝てない。イーグル号がない、たったそれだけだが、ゲッターロボは3つのゲッター炉心とパイロットによってその力を発揮する。新型ゲッターロボとは言え、パイロットも、イーグル号も無い。それではどう足掻いてもあの鬼を戦うには出力が不足しすぎていた

 

『クロガネに引き返すとしても、追いかけてくるぞ』

 

『……なにか打開策はあるか?』

 

打開策……そんなの自分が知りたいと言いそうになる武蔵だが、あたりを見回して打開策は1つだけあった

 

「……あの廃棄してあるゲッター3、あれにゲッタービームをぶち込んで、そのままオープンゲットをして、クロガネが開けた穴から脱出……ってのはどうですか?」

 

下手をすれば巻き込まれて終わりだが、出力不足のゲッターではそれしか手段が無い。大破しているゲッター3の炉心が誘爆するかは不明だが、プロトゲッターの墓場も近く、残っているゲッター線と反応して爆発する可能性は極めて高い。

 

「判った、クロガネを後退させよう。後はエルザムだが」

 

『大丈夫です総帥。死んでも意識は飛ばしません』

 

イチバチ所かイチジュウ……そんな絶望的な勝負。だが悩んでいる時間は無い

 

【グオオオオッ!!】

 

壁をぶち破りながら姿を見せた鬼の姿にビアン達は武蔵の提案を受け入れる。生き残るにはそれしかないと決断したのだ。

 

「おおおおーーーっ!!!」

 

【シャアア!】

 

鬼の頭部から放たれた電撃がゲッターを貫きその凄まじい電圧がコックピットにも広がりビアン達の苦悶の声が響く。だがゲッターは健在だった。新型ゲッターロボなのか、別の世界のゲッターロボなのかは不明だが、武蔵のゲッターロボより、遥かに頑丈でそして強力だったからだ

 

(あと少し……)

 

鬼と戦いながら少しずつ、少しずつ後退しゲッター3の近くに近寄る。あからさまに近づけば、鬼に警戒される。あくまで自然な動きでゲッター3に近づこうと武蔵はしていた、だが鬼の能力は武蔵の予想を遥かに越えていた。

 

【シャアッ!!】

 

「なっ!? ぐおおおッ!?」

 

鬼の口から伸びた舌が胴体に突き刺さり、ゲッターロボは研究所の壁に背中から叩きつけられる。

 

「ぐっ……くっ……」

 

その予想外の衝撃に苦悶の声を上げるが、その変わりに目的地まで吹き飛ばされた事は武蔵にとって幸運だった。そのまま行動不能に陥ったと思わせ、停止しているとトドメと言わんばかりの勢いで舌が射出される。

 

「ここだッ!!」

 

大破していたゲッター3を盾にして、舌を貫通させる。そして舌にトマホークを突き刺し、鬼の舌をゲッター3に縫い付ける。

 

【ガオオオンッ!!!】

 

苦悶の声をあげ、ゲッター3を引き寄せようとした鬼。そのタイミングに合わせて蹴りを叩き込む、鬼の力とゲッターキックによって吹き飛んだゲッター3が鬼の口の中に飛び込んだ。

 

「ゲッタービィィィムッ!!!」

 

出力は弱いが、それでも十分な威力を持ったゲッタービームがゲッター3を貫き爆発する。それを確認すると同時にオープンゲットする

 

「大丈夫ですか!?」

 

『ぐ、ぐぐうううう! 大丈夫だ!』

 

唇を噛み締めゲッターの殺人的な加速に耐えるエルザムとゼンガー、研究所の壁を貫きクロガネが開けた大穴からジャガー号とベアー号が地上へと繋がる地中へと脱出した瞬間。背後から凄まじい爆発音が響く、それも1つや2つではなく何十と言う爆発だ。武蔵の計算通り、プロトゲッターにも誘爆し、その爆発によって鬼を吹き飛ばしたのであろう。だがその爆発は鬼だけではなく、武蔵達にも襲い掛かっていた

 

「ぐっ、これはそ、想像以上にでかい!」

 

「……これほどまでとは!?」

 

『う、うおおおおおおおッ!!!』

 

爆発に飲み込まれないように最大加速でトンネルを抜けたゲットマシン。上空にステルスシェードを展開し、待っていたクロガネの姿を見つけ、武蔵やビアン達はやっと安堵の溜め息を吐くのだった……

 

「おおー素晴らしい、素晴らしいねぇ、スティンガー君」

 

「そ、そうだね、なんて素晴らしいんだ。コーウェン君」

 

浅間山の地下で爆発したゲッター3とプロトゲッターロボ。その膨大なゲッター線の爆発は、この世界で暗躍するコーウェンとスティンガーにとって、なによりも喜ぶべき物だった。不可視のゲッター線を存分に取り込み、2人の体調は爆発的に回復に向かっていた。

 

「大破したゲッターGも後で回収すればいいし、それに偽物のGも中々いい能力になっていたね」

 

「うんうん、まさか武蔵がGを倒すのは計算外だったけど、最終的には僕達の計算通りになったね」

 

かつて真ドラゴンが眠っていた火口でコーウェンとスティンガーは笑う、武蔵達が脱出する為に行った行動が奇しくも、コーウェンとスティンガーを活性化させることになってしまっていたのだ

 

「さー準備を続けようか、スティンガー君」

 

「そ、そうだね! コーウェン君! 今度こそ失敗しないように念入りに準備をしよう!」

 

燃え盛るマグマの上で2人は笑う、今度こそ自らの宿願を成功させてみせる、黒く濁った瞳で決意を新たにするのだった……

 

 

第42話 ゲッターロボ 改造計画

 

 




早乙女研究所で入手したのは「新ゲッターロボ」のジャガー、ベアー号。プロトゲッターの残骸でした、ですがこれでも十分に旧ゲッターロボを改造するには十分な素材です、後コーウェンとスティンガーがめっちゃ元気になりました。ゲッター線の悪用礼ですね。次回はゲッターロボの改造と、裏切りの銃口に向けての話を書いていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第42話 ゲッターロボ 改造計画

第42話 ゲッターロボ 改造計画

 

浅間山の地下から命からがら脱出してきた武蔵、無事にバンのアジトまで戻って来れたのは幸いだった。だがそこには武蔵の予想を超える脅威が再び待ち構えていた

 

「なるほど、では次です」

 

「あのーマリオンさんでしたっけ? オイラ何時までこれやってれば良いんですかね?」

 

マリオン・ラドムに捕まり、操縦なんて禄に出来ないPTのシミュレーターにほうり込まれていた。外に出ようにもマリオンが待ち構えているので外に出ることすら叶わない

 

「後もう少しですわ。この量産型ゲシュペンストMK-ⅡとゲシュペンストMKーⅢの稼動データを取ってくれれば終わりです」

 

「判りましたけど、オイラで良いんですかねぇ、今だってシミュレーター緊急停止したんですけど」

 

「構いません続けなさい」

 

マリオンの言葉にそうですかと呟き、武蔵はPTのシミュレーターを続行する。その数値を外から見ながら、マリオンは興奮した面持ちで武蔵の数値をデータ化していく。

 

(最初は眉唾でしたが、これを見れば信じざるを得ませんわね)

 

旧西暦の人間、ロストテクノロジーの特機を操る青年。何を馬鹿なと最初は思っていたが、今現在目の前で叩き出される数値を見ればそれも嘘ではないとマリオンは理解していた

 

(重力も衝撃も最大設定、それなのに全く意に介した素振りを見せないとは……もしも、キョウスケ・ナンブ少尉の前に出会っていれば、間違いなく私はゲシュペンストMK-Ⅲのパイロットにしていた)

 

数値は異常ともとれる数値をマークし続け、最終的にはシミュレーターが武蔵の反応についてこれず機能を停止する。

 

「お疲れ様でした、中々貴重なデータを取れました」

 

「それならいいんですけどねえ……」

 

武蔵からすれば自分の操縦が余りに酷く、シミュレーターが緊急停止したと思っていた訳だが、実際は武蔵の反応にシミュレーターが対応し切れなかったというのが事実だ。

 

「ゲシュペンストMK-Ⅲに乗った感想は何かありますか?」

 

「えーっと、そうですね。もっとスピードがあっても大丈夫かと、あと攻撃力は全然足りないかなあって」

 

武蔵のその言葉にマリオンに火がついた、旧西暦の人間と新西暦の人間。身体の構造的に差は無い、つまり鍛えれば新西暦の人間だってゲッターロボに乗れる。だが今の人間は旧西暦の人間と比べて弱くなっていると言うデータも出ている

 

(やはり私の構想は不可能ではなかった)

 

今のアルトアイゼンでは無理だと判断した装備の数々。だが恐らく武蔵ならばそれすらも乗りこなす、同じ人間なのだ。キョウスケだって諦めたアルトアイゼンの装備に対応出来るはず。後に武蔵の言葉で火がついたマリオンがアルトアイゼン・リーゼと言う特機クラスのPTを開発する、だがそれは正史のリーゼよりも2倍近い強化が施される事となるのだった……

 

「じゃ、オイラ。リシュウ先生に呼ばれてるんで、失礼しますねー」

 

「ええ、お疲れ様でした。また今度協力を頼みますわ」

 

マリオンの言葉に何とも言えない表情をしながら判りましたと返事を返した武蔵は、そのまま格納庫に向かって走り出すのだった……

 

 

 

 

早乙女研究所から持ち出した物はビアンの予想を超えてかなりの量があった。プロトゲッターの方はガーリオンのパイロットも空気を読んだのだろう、武蔵の駆るゲッターロボと似たものを選んでくれていた。これが実はかなりありがたかった。解析は進んでいるが、やはりゲッターをバラバラにするわけには行かず、解体出来なかった。だがこのプロトゲッターの腕や脚部を解体する事と、ビアンが持ち出した図面によってどういう構造か理解出来ていなかった細部までやっとビアンの理解が進んだ

 

(人口筋肉と言うべき構造……か)

 

今ビアンが開発していたダブルGにも応用出来るであろう技術の数々、勿論最優先するのはゲッターロボの修理だ。

 

(新型炉心が入手出来たのは大きい)

 

ジャガーとベアー号に搭載されていた物のは新型のゲッター炉心であり、それを武蔵のジャガーとベアーに積み替えるだけでもゲッターロボの性能は格段に上がるだろう。現状イーグル号には搭載出来ないが、時間を掛けて開発することで今後イーグル号にも搭載できる可能性はある。当面はジャガー号にエルザム、ベアー号に武蔵とパイロットが2人埋まっているゲットマシンに搭載する事を優先する。ハンガーで解体されている2体のゲッターロボから炉心を取り出して交換しておく。武蔵のゲッターロボの炉心は便宜上「新ゲッターロボ」と命名されたゲッターロボに乗せ変える事は出来ず、またその装備も互いに互換性は無いがゲッターロボの解析と言う面ではこの上ない財産となった。勿論半壊しているプロトゲッターもビアンのゲッターロボへの理解を深める手助けをしていた

 

「イーグル号がないのが悔やまれる」

 

ゲッターロボ以上にパイロットにかかる負担が大きいが、イーグル号があれば運用出来たはずだ。だが肝心のイーグル号がないことが悔やまれるなと呟くビアンの耳に木刀同士がぶつかる大きな音が響く

 

「ほっほ。ワシの一太刀を止めるか……中々やるのう」

 

「いやいや、結構必死ですよ」

 

リシュウ・トウゴウと武蔵が木刀で打ち合っている。リシュウは示現流の達人であり、ゼンガーの師だ。そのリシュウと打ち合う武蔵、やはり爬虫人類と言う化け物と戦っていただけあり、動体視力・反射神経などは新西暦の人間より優れているのかもしれない

 

「少し休憩するとするか」

 

マシンにプログラムを入力したので炉心が交換されるまでの間。ビアンに出来ることはゲッターの解析くらいだが、それもロストテクノロジーでオーバーテクノロジーであり、解析を続けるのは流石のビアンでも無理が来る。だから休憩をかねて、武蔵とリシュウの試合でも見るかと呟き、エレベーターで下へと降りる

 

「どうだ。ゼンガー、武蔵君とリシュウ先生の打ち合いは」

 

「……正直驚いています。事回避と防御にいたっては武蔵は私よりも腕が良いでしょう」

 

示現流は二の太刀いらず。一撃必殺の流派であり、その踏み込みと破壊力は凄まじい物がある。だが武蔵は受け止め、受け流し、そして時に防ぎ、リシュウの攻撃を完全とは言わず防いで見せていた。

 

「ここまで」

 

「ふーありがとうございました」

 

一際強い木刀同士のぶつかる音を合図にリシュウと武蔵の稽古は終わりを告げた。へたり込む武蔵と余裕の表情で汗を拭うリシュウ、正直武人でもなんでもないので、そのやりとりの凄まじさは理解出来ない。だが、ゼンガーの反応を見れば凄かったのだろうと思う

 

「ゼンガー、これもまたお前とはまた違う極地である。生死のやり取りの中で培われた防御術と勘じゃ」

 

「はい、とても勉強になりました。恐らく今の私では一打ち入れることすら困難でしょう」

 

「じゃろうな、その反面。武蔵は攻撃が苦手なようじゃが?」

 

「いやあどうも人を攻撃するって言うのは躊躇いがあるんですよ。相手が相手ならこっちも全力なんですけどね」

 

やはり武蔵は優しい青年なのだろう。稽古とは言え、人間相手に自身の武を振るうには躊躇いがあるのだろう。

 

「ゼンガー、お主の零式は暫く使えん。出撃する事を考えるのならば、ゲッターロボを借りる事になる。シミュレーターで慣れておけ」

 

「判っております。武蔵、少し助言を貰えるか?」

 

ゼンガーと伴って出て行く武蔵を見送るリシュウとビアン、恐らく今バンの基地の中でゲッターロボを乗りこなせるのはゼンガーとエルザムの2人だけだろう。テスラドライブを応用した強化スーツを着用してと言う前提条件があるが、それでもゲッターロボを乗れる人間が増えたことは喜ばしい

 

「さて、ビアン・ゾルダーク。極東司令部に向かう船を用意してくれたことは感謝しようか」

 

ただしDCがラングレー基地にしたことは忘れんがと言うリシュウの鋭い言葉に判っていますとビアンは頷く、これもまたビアンが背負わなければならない罪だからだ。

 

「連邦……いえ、ハガネには貴方達が必要でしょうからね」

 

ハガネに搭載されているRシリーズや、ATX計画のPTそれを本当の意味で整備できるのはマリオンとリシュウの2人しか居ないだろう。そう考えてビアンは2人を極東支部に送る事を決めたのだ

 

「その礼と言うわけではないが、1つ教えていこう。この世界にゲッターロボが現れたのは武蔵が初めてではないぞ」

 

「……LTR機構ですか?」

 

ビアンの言葉に流石じゃのとリシュウは笑う。遺失技術調査研究(Lost Technology Research)機構。世界各地に眠るロストテクノロジーの解析を勤める機関だ。そこにゲッターロボの情報があるとなれば、やはりいずれは接触する必要性があるだろう。100年前以上前に現れていた早乙女研究所の事もある、ゲッターロボに関しては時間軸や場所などはあまり関係の無いことなのかもしれない

 

「まぁワシも、そこまで詳しく知るわけではないがな。覚えておくがいい」

 

「助言感謝しますよ」

 

うむと頷き去っていくリシュウの背中を見送りながらビアンは考える。ゲッターロボには謎が満ちている……それを知ることがゲッターロボの謎を知る上で何よりも大事な事なのかもしれない、炉心を組み替える為に解体されているゲッターロボを見上げながら

 

「ゲッターロボ……お前は何を見ているのだ?」

 

意思の無いはずのロボット、それなのにビアンにはゲッターロボが何かを見ているように思え、そう言葉を投げかけるのだった……

だがその言葉を投げかけた直後基地内部に凄まじい警報が鳴り響いた

 

「なんだ! 何が……何!? ジュネーブが壊滅しただと!?」

 

慌てて司令室に連絡を取ったビアンに告げられた言葉は、エアロゲイターの攻撃によって、連邦の本部であるジュネーブが消滅したという報告なのだった……

 

 

 

 

 

地球上空に現れた機械要塞「ネビーイーム」……エアロゲイターの本拠地の通路を進むイングラムに似た顔付きの女性はまっすぐに通路を進み、ネビーイームの最深部にいる少女に深く頭を下げた。

 

「レビ様……ヴィレッタ・プリスケン、只今ネビーイームへ帰還致しました」

 

ヒリュウ改と共に行動をし、マオ社に戻ったはずのヴィレッタはネビーイームの内部に居た。そしてその会話からヴィレッタが地球側でなく、エアロゲイター側の人間であることは明らかだった。

 

「長らくの潜入任務、ご苦労だったな」

 

玉座に腰掛ける少女……レビ・トーラーがヴィレッタにねぎらいの言葉を投げかけるが、それが面白くないのか玉座の隣に居た女……アタッド・シャムランが不愉快そうな笑みを浮かべ、辛辣な言葉を投げかける

 

 

「おやおや、地球で随分とくつろいできたようね……そんな様子で仕込みの方は上手くいったのかい?」

 

その言葉と視線には疑いが含まれており、ヴィレッタが不愉快そうに顔を歪める

 

「私を疑っているのか? アタッド・シャムラン……」

 

「あの男はともかく、あんたの存在はイレギュラーだからねえ……まあ、いいさ。結果はすぐにわかる」

 

ヴィレッタの言葉にアタッドはにやりと笑う、その笑みはお前の事を知っているぞと言わんばかりの物で、ヴィレッタは唇を噛み締め黙り込む。

 

「ヴィレッタよ、もう一人の特殊工作員はどうした?」

 

「間もなく任務を終了し、このネビーイームへ帰還してくると思われます」

 

ヴィレッタに助け舟を出したわけではないが、レビの言葉はアタッドとにらみ合いをしていたヴィレッタには間違いなく救いとなった。アタッドとの話を切り上げ、レビへの報告を再開するヴィレッタ。だが勿論、アタッドはヴィレッタともう1人が失脚してくれたほうが都合がいいのでヴィレッタ達の立場が悪くなる言葉を投げかける

 

「そう言えば、地球にはゲッターロボがあるんだろう? それを回収する目処は立ってるのかい?」

 

「……いや、ゲッターロボは連邦ではない、今軍の上層部が捜索を始めているが相手も馬鹿ではない、そう簡単には見つからないさ」

 

ヴィレッタの言葉にアタッドは笑みを深め、レビへと深く頭を下げる

 

「レビ様、ここは主要都市を襲いゲッターロボを炙り出すのはいかがでしょうか? バルマーにとってもゲッターロボの存在は必要不可欠、回収するのならば早いほうがよろしいのでは?」

 

アタッドの言葉にレビは少し考えるような素振りを見せる、貴重なサンプルを回収……それは何よりも優先するべき事だ。そのサンプルの中でもゲッターロボの存在は回収するべきサンプルの中では最上位になる。だが其れと同時に倒すべき敵でもあるのがゲッターロボであった

 

「そうだな、我が母星に一度は攻撃を仕掛けてきた存在だ。破壊するにしろ、回収するにしろ、一度は接触を図るべきだな」

 

レビの言葉にアタッドの顔に笑みが浮かび、ヴィレッタの顔が歪む。勝ち誇った顔をしていたアタッドだが、次の言葉に顔を引き攣らせた。

 

「ではお前に任せよう。その変わりネビーイームを危機に晒さぬようにお前1人でだ」

 

「な! れ、レビ様、流石にそれは……無謀と言う物では?」

 

「そうだ、私は今の戦力でゲッターロボに攻撃を仕掛けることは無謀だと判断している、だからこそゲッターロボの事を議題に出さなかった。それでもお前がどうしてもやりたいというのならば、自己責任で好きにするがいい」

 

一度は賛同を得たと思ったアタッドだが、バルマー人の悪夢とも言えるゲッターロボに単独で挑む勇気は無く、俯いて黙り込む

 

「ヴィレッタ。少しの間情報収集を進めておけ、ゲッターロボに対しては慎重に慎重を重ねてもまだ足りん。都市部を攻撃することであぶりだせるならばそれに越したことは無いが、その間にネビーイームを攻撃されては困るからな。ゲッターロボに関しては私が指揮をとる、単独行動、独断専行は控えよ」

 

レビはそう言うとヴィレッタとアタッドに下がるように命じ、地球に視線を向ける。

 

「ゲッター……ロボか」

 

最も手にするべきサンプルであると同時に、もっとも警戒しなければならない存在。それが地球に居る……それはこの作戦が失敗する可能性を秘めていたが、大きな戦果を得られる機会でもあった。そのことに深い笑みを浮かべ、ジュデッカとのシンクロの為に玉座の奥へと向かうレビの横顔は押さえきれない喜悦の色に染められているのだった……

 

 

 

 

 

ジュネーブ崩壊は潜伏しているビアン達の元にも届いていた。それはエアロゲイターの降伏勧告が嘘でも偽りでもなく、いつでも地球を滅ぼす事が出来ると言う戦力を誇示するための行動だった。

 

「動かなくて良いんですか? ビアンさん」

 

「連邦……いや、ハガネとヒリュウ改がいる。それにジュネーブはアードラーの襲撃で殆ど無人だ。それを態々潰した理由があるんだよ」

 

新ジャガー号、新ベアー号から取り出したゲッター炉心を武蔵のゲッターロボに積み換えながらビアンは武蔵に今の状況を説明する。無人と言っても一部の軍部や政治家はいたが、それは降伏派なのでビアンにとって関心は無い。

 

「確かにジュネーブが消滅したのことは悼むべき事だ。人も死んだだろう、だがな。それは威嚇なんだよ」

 

「威嚇ですか?」

 

「そうだ。エアロゲイターが何を考えているか判らないが、どうも戦いになる事を望んでいるように思える。そしてジュネーブには降伏派が揃っていた。これで判るかね?」

 

「……ジュネーブを潰したのは抗戦派を強くするため?」

 

「その通り、降伏勧告は挑発だったんだろうね。それを真に受けられては都合が悪いんだと思う」

 

本当に降伏勧告を受けるつもりならば、レーザー攻撃は軍部に向けられていたはずだとビアンは武蔵に説明する。

 

「良し、これで炉心の積み替え準備は完了だ。後は動力部回りの調整だな」

 

「ありがとうございます。これでゲッターは万全ですね」

 

早乙女研究所地下で手に入れたゲッターロボの図面と炉心、そしてプロトゲッターを解体する事で得たノウハウ(ビアン含む研究班が5徹を突破し、半分狂っていた)によって本来は規格の異なるゲッターと新ゲッターの間に互換性を作り出し、より強化されたゲッター炉心をゲッターロボに組み込む事にしたのだ。

 

「オイラのゲッターロボの炉心はどうするんですか?」

 

「そうだな、あれはゲッター合金製造用に回して、新ゲッターにはイーグル号の修理と開発に合わせて、新しい炉心を搭載する予定だ」

 

武蔵のゲッターロボと新ゲッターでは規格が違いすぎる、無理に搭載するより新ゲッターの炉心を新設して、イーグル号と共に修理して新しいゲッターロボとして作り直すつもりだとビアンは武蔵に説明した。

 

「なるほどなあ、ゲッター合金をそんなに用意してどうするんですか?」

 

「そうだな、グルンガスト零式やヒュッケバインの改造に使うつもりだ、それにゲッター合金を用意しておけば、いつでもゲッターの修理が出来るだろう?」

 

ビアンの説明に納得した様子の武蔵は立ち上がり、大きく伸びをする。

 

「じゃあ、ゼンガーさんとエルザムさんのシミュレーターに付き合ってきます。でもビアンさんは凄いですね、規格の違う物を積み込んじゃうんだから」

 

ビアンの技術が凄いと笑う武蔵はそのまま格納庫を後にした。武蔵が去るまでは笑っていたビアンだが、武蔵の姿が見えなくなるとその表情を険しくさせた。

 

「規格は違うはずだった」

 

新ゲッターロボを回収した段階では確実に規格は合っていなかった、だが今は規格が適合している。誰もいない間に誰かが規格を整えたように……。

 

「ゲッターロボ、お前は私達に何をさせたいんだ?」

 

新ゲッターの炉心をよこせと言っている様にビアンは感じていた、物言わぬ巨人が自分に何かを命じているように、何かをさせようとしているように思えてならなかった。

 

「だが……お前の力も必要なのも事実」

 

ゲッターロボがいなければエアロゲイターには勝てない、新ゲッターの炉心を組み込む事でゲッターと武蔵に何が起きるのか、ビアンはそれを恐れたが……そうしなければならないと判断し、不安を飲み込みゲッターロボに新ゲッターの炉心を組み込むのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

ゲッターロボの改修も済み、ゼンガーやエルザムがゲッターロボシミュレーターに大分慣れ始め、そろそろ実際にゲッターロボを操縦してみると言う話が出ているころ。シャイン皇女やダイテツ達の働きによって連邦にはある動きが出ていた

 

「降伏勧告は受けない……それは決定事項なのですね?」

 

ジュネーブの壊滅、それは大きな被害を齎したが、それと同時に交戦を禁じていたアルバートの死と言う結果を残した。確かに人が死んだのは悲しいことだが、それによって救えるかもしれない命が増えると言う事でもあった

 

「うむ。ミッドクリッド臨時大統領の決定だ」

 

臨時大統領として就任したコロニーのブライアン・ミッドクリッドは、アルバートの降伏路線から一転ネビーイームへの攻撃と言う方向への舵きりを初め、それにより交戦派のノーマン達が主流となりハガネとヒリュウ改が自由に動けるようになったのだ。

 

「では、エアロゲイターに対する今後の対策は?」

 

「降伏勧告の期限内……すなわちあと15日以内に残存戦力を結集し、ホワイトスターへ総攻撃を仕掛ける」

 

エアロゲイターの戦力は確かに未知数だ。だが何もせずに降伏を受け入れることが出来る軍人などおらず。不謹慎だが、アルバートの死を喜んでいる軍人は決して少なくはなかった

 

「また、私は臨時大統領と議会の依頼を受け、軍の指揮権を預かることになった。これより、司令機能はレイカーのいる極東支部へ移し……人類史上最大の反攻作戦を実行に移す。それに伴い、ハガネとヒリュウ改にはどうしてもやり遂げて欲しい任務がある」

 

ノーマンはそう告げると深く溜め息を吐いた

 

「都合のいい話と言うことは判っている。だが私達はネビーイームの攻略にはムサシ・トモエとゲッターロボの力が必要だと思っている。これより15日の間にハガネとヒリュウ改にはゲッターロボの行方を探りながら、エアロゲイターと戦って欲しい」

 

今まで散々犯罪者と追いかけていた。間違いなく武蔵には連邦に対する不信感はあるだろう、ノーマンはだからこそ武蔵の説得をハガネとヒリュウ改に頼むことにしたのだ

 

「了解した。武蔵君は話の判る青年だ。発見しだい交渉を試みる」

 

「すまないな、ムサシ・トモエとゲッターロボの協力を得られ次第『オペレーションSRW』を実行するッ!」

 

武蔵の知らない所でまた武蔵はまた地球圏の命運をその背に背負う事になっていた。そしてその戦いの幕開けは北京で始まりを告げるのだった……

 

 

第43話 暴走ゲッターロボ その1へ続く

 

 




今回はインターミッションの話となりました。次回は裏切りの銃口を含めて、5話ほどの話の攻勢にして行こうと思います。

特に今回搭載してしまった「新ゲッター炉心」が次の話の重要なポイントになりますので、どうなるのか楽しみにしていてください
それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第43話 暴走ゲッターロボ! その1

第43話 暴走ゲッターロボ! その1

 

マイヤーの意思を継いで生きる事を決めたリリー達、彼女達の仕事は実に多岐に渡っていた。情報収集やビアンやマイヤーに賛同し口が堅いコロニーなどからの物資の補給経路の決定など、事務仕事の大半はリリーのストークの兵士とトロイエ隊の生き残りの仕事になっていた。だがこれは決して押し付けられているわけではない。今のビアン達の最大戦力は紛れも無くゲッターロボと武蔵であり、イスルギ重工が信用に値しないと判断した以上リオンやガーリオンを新造する余裕は無い。エルザムやゼンガーと言った一部のエースパイロットの戦力を充実させ、元々運用していたガーリオンやリオンは修理で騙し騙し運用しゲッターを万全にする。それが今のビアン達の出来ることであった

 

「中々大変なのですね。ユーリア」

 

「はい、そうですね。リリー中佐」

 

リリーよりも早く裏方仕事を初めていたユーリアが若輩ながらリリーの部隊……つまりトロイエ隊の先輩とも言える兵士達に指導を行っていた。メカザウルスとの戦いで足を負傷しパイロットとしての復帰が絶望的でありながらもマイヤーの意思を継いで自分に出来る最大の戦いをしようとするユーリアに反発心を抱く者はおらず、全員が素直にユーリア達の話を聞いていた

 

「さてと、そろそろですね。行きましょう、リリー中佐」

 

ユーリアの言葉にわかりましたと返事を返し、リリーはユーリアと並んでシミュレータールームに足を向ける

 

「ふう……大分なれてきたな、ゼンガー」

 

「ああ、だがまだ乗りこなしているとは到底言えんな」

 

「いやでも凄い上達振りだと思いますよ、これならお昼からのゲットマシンでの訓練も大丈夫だと思います」

 

シミュレータールームの椅子に腰掛け、汗を拭っているエルザム達にユーリアとリリーはスポーツドリンクを渡して回る。

 

「ありがとう。リリー中佐」

 

「いえ、それでどうでしょうエルザム様。ゲッターロボと言うのは」

 

旧西暦……しかも失われた時代の遺産であるゲッターロボ。その話を聞いたリリーは最初何を馬鹿なと思った物だが、ビアンやエルザムの真剣な顔を見ればそれが真実であるということは明らかだった。

 

「ほら、武蔵」

 

「どうも、いつも迷惑を掛けますね」

 

「気にするな、ゼンガー少佐もどうぞ」

 

「かたじけない」

 

スポーツドリンクで一息ついた武蔵達は大きく息を吐く。バン大佐の部隊、LB隊、トロイエ隊の生き残り。100人を越えるパイロット達だが、やはりゲットマシンに耐えれるのはバン、そしてゼンガーとエルザムの3人であった。それ以外のパイロットは最初の衝撃に耐え切れず意識を飛ばす者が多く、エースと呼ばれるパイロット達のプライドを根こそぎへし折ったのも記憶に新しい。

 

「ゲッターロボはまさに暴れ馬と呼ぶに相応しい、だが決して駄馬ではない。優秀すぎる名馬と言うべきだな、馬が人間に合わせるのではない。人間が馬に合わせるとでも言うべきマシンだ」

 

馬に例えるエルザムの口ぶり、それはリリーにとっては聞きなれた物であった。マイヤーもまた馬術を嗜み、リリーもそんなマイヤーに憧れて馬術を始めたのだ。馬に例えるエルザムの評価は確かにわかりにくい部分もあるが、リリー達には何を言いたいかと言う事は判りやすいたとえだった。

 

「車椅子でここまで来るの大変なんじゃないですか?」

 

「私のことは心配する必要は無いと前にも言ったはずだ」

 

「えーまぁ、そうなんですけど……」

 

「ちょっとした息抜きと言う奴で、私が好きでやってることだ。お前は気にしなくてもいい」

 

固い口調のユーリアにそうですかと呟く武蔵。だがユーリアがこんな事をするのは珍しく、エルザムとリリーは微笑ましい表情でユーリアを見つめているのだった……

 

 

 

 

 

DCは倒れたがビアンと個人的な付き合いのある連邦の兵器の開発などをしている工場から今の連邦の情報を集めていた。ビアンの地球を護りたいという意思に共感した者は決して少なくなく、ビアンの絶大なカリスマに惹かれ集まった者だ。口の堅さにはビアンですらも信頼を置いている、そして今連絡している男もまたビアンにとって信頼の置ける人物の1人だった。

 

「久しぶりだな。キサブロー」

 

『そうじゃな、ただでは死なんと思っておったが……生きていたか、ビアン・ゾルダーク』

 

かつてEOTI機関、そしてテスラ研に在籍していた科学者、キサブロー・アズマにビアンは連絡を取っていた。

 

『それで急に連絡してきて何のつもりじゃ?』

 

「なに、少しばかり面倒事を引き受けて貰えないかと思ってな」

 

ビアンの言葉にキサブローは楽しそうに笑う、袂は分かったがキサブローはビアンの事を嫌っているわけではなかった。

 

『それでワシに何をしろと言うんじゃ?』

 

「テスラ研に送って欲しい物がある。お前のネットワークなら不可能ではないだろう?」

 

『ジョナサンにか、多少面倒じゃが引き受けた。送り先はモガミ重工にしておいてくれ、そこならワシの顔が効く』

 

面倒事と承知して引き受けてくれたキサブローにビアンは感謝した。ルートを何個も経由してテスラ研に届けることも考えたが、今は少しでも早い段階でこの技術をテスラ研にも共有して欲しいと考えていた。

 

「それで異世界からの機体の修理はどんな様子だ?」

 

『まずまずと言う所じゃ』

 

キサブローがビアンと袂を分かったのは異世界から現れた機体の修理をする為だった。ビアンも大破したその機体を見ていて修理の手伝いの為の機材も融通していた為、世間話と言う感じで進捗具合を尋ねた。

 

「……ネビーイーム攻略には間に合いそうか?」

 

『悪いが無理じゃな、仮に修理が間に合ったとしてもパイロットがおらん』

 

キサブローの言葉にビアンは残念そうにそうかと呟いた。連邦が計画しているエアロゲイターへの反抗作戦「オペレーションSRW」の情報をビアンも手にしている。可能ならばキサブローの修理している特機にも参加して欲しかったが、流石にそれは虫が良すぎたようだ。

 

『すまんの』

 

「いや、私の方が無理を言った。キサブローは悪くない、それに私も今ある特機の修理をしている。それを何とか間に合わせてみよう」

 

ある特機……その言いかたにキサブローの目が光る。スーパーロボットが好きなのはビアンもキサブローも同じだ、こういう言い方をすればキサブローは食いついてくると判っていた。

 

『どんな特機なんじゃ?』

 

「旧西暦から現れた特機だ。その名も「ゲッターロボ」と言う、今からその試験運転を行うから興味があれば成層圏の近くを確認していてくれ、ではな」

 

ビアンはそう言うと通信を切る。もう少し話をしたい気持ちもあったがスーパーロボットは登場こそ命、それを台無しにするつもりはビアンには無かった。

 

「さてとテスラ研に炉心を取り除いたジャガーとベアー、それとプロトゲッターの一部パーツ……これだけあればテスラ研ならば新しい技術を確立するだろう」

 

脅威はエアロゲイターだけではない。地下の早乙女研究所で見た異形、それらが現れる可能性は高い。そうなる前に地球全体の戦力の底上げは必要不可欠だ。表立って動けないが、それならそれでやりようはいくらでもある。

 

「ダブルG、お前も間に合わせてみせる」

 

開発段階であったダブルG。本来ならばこれもテスラ研に送る予定だった。だがゲッターの解析で得た情報で新しく図面を引き直す事を決めた以上それをテスラ研に丸投げするわけにはいかないと判断したビアンによってダブルGはバンの地下基地での建造が始められていた 

 

「ロア、今の話を聞いたか」

 

『ああ……やはり私だけではなく、他の世界の住人も現れているようだ』

 

キサブローの言葉に何も居ない無人の空間から声が響く、その声の主こそがキサブローがビアンと袂を分かつ事になる原因となった存在、「戦士ロア」の言葉だった

 

「ゲッターロボは知っておるのか?」

 

『勿論知っている、その強さもその恐ろしさもな。私は味方として戦ったが……ゲッターロボは神にも、悪魔にもなりうる存在だ』

 

「神にも……悪魔にもか……間に合わぬのが口惜しいな」

 

振り返ったキサブローの視線の先には今だ修理の終わらぬ1体の特機……「コンパチブルカイザー」の姿があるのだった…… 

 

「ではこれよりゲットマシンを用いたテストを行う。武蔵君、ゼンガー、エルザムも細心の注意を払って実験を行って欲しい」

 

『了解です、この強化スーツのデータも取っておきます』

 

『……了解しました』

 

『よっし! じゃあ行きます! ゲットマシン発進ッ!!!』

 

そしてゲットマシンはアメリカから飛び立つ、その方角は日本。ジュネーブ壊滅に続き、エアロゲイターの襲撃がある可能性を考慮し、エアロゲイターと戦うだけの能力を持つハガネ、そしてヒリュウ改が狙われる事を考えてのテストフライトをアメリカではなく、日本上空で行う事を決めたのだ。

 

「よし、ではバン大佐。我々も行くぞ」

 

「了解です! クロガネ出航ッ!」

 

そしてクロガネもまたアメリカを発つ、地球を護ると言うビアンの意思によって……そしてその決断がハガネとヒリュウ改を救う事になる事をビアンも武蔵達も知る由もないのだった……

 

 

 

 

地球連邦軍極東支部伊豆基地にハガネとヒリュウ改が向かっていた。その理由はやはりブライアン・ミッドクリッド臨時大統領がエアロゲイターとの戦いを決断、そしてノーマンが最高司令に就任した事が大きいだろう。

 

「オペレーションSRW」の推定戦力差は6:1です」

 

伊豆基地では連日連夜オペレーションSRWに向けての会議が行われていた。地球圏の命運を分ける戦いであり失敗は許されない。作戦開始までに可能な限り緻密な計画を立てる事をレイカー達は考えていた、戦力の差は明らか。それを何処まで覆せるかが重要なポイントとなっていた。

 

「リオンシリーズの生産作業はどうなっている?」

 

「現在、イスルギ重工の各工場にて急ピッチで進行中です」

 

サカエの言葉にレイカーは小さく溜め息を吐いた。地球を護る戦いに、連邦に反旗を翻したDCの主力機体を使う事になるとは何と言う皮肉なのだろうか

 

「EOT特別審議会の横槍さえなければリオンシリーズに合わせて、相当数の量産型ゲシュペンストMKーⅡを量産出来ていたのですが……」

 

リオンは空を飛べるという利点はあるが、それでも耐久力が低い機体だ。可能ならば熟練と呼べるパイロットにはゲシュペンストMK-Ⅱを回し、リオンを支援に回すと言うのが最善の策だが、現状ではその必要数を生産出来るかと言う問題が大きかった。

 

「ない物ねだりをしても仕方あるまい。現状では、より多くの生産ラインを確保できるリオンの量産を優先させる」

 

量産型ゲシュペンストMK-Ⅱの量産も平行して行うがやはり生産ラインの都合上、よりおおくの機体を確保できるのはリオンになるだろう。

 

「……DCや統合軍の兵器が我が方の戦力の中核を為すとは……皮肉な話ですね」

 

「そうだな。だが、恐らくビアン博士やマイヤー総司令は今のような事態を見越していたのだろう」

 

反乱こそ起こしたが、やはりビアンもマイヤーも地球圏の未来を本気で案じていたと言う事だ。そうでなければマオ社よりも遥かに規模の大きいイスルギ重工にAMの生産ラインを確保させるような真似はしなかっただろう。

 

「司令、ハガネとヒリュウ改が当基地へと帰還しました」

 

「分かった。直ちに修理と補給作業を開始せよ」

 

伊豆基地のドッグに着水するハガネとヒリュウ改の姿を見ながらレイカーは命令を告げる。連邦側でできる事は可能な限り行うつもりだ

 

「クロガネとゲッターロボの目撃情報は?」

 

「……ジュネーブでの戦いを最後にゲッターロボの目撃情報はありません」

 

「そうか……これも完全に後手に回ったな」

 

巴武蔵は友好的であった、だがその手を弾いたのは連邦だ。それを今更協力を求めて、果たして武蔵がうんと頷いてくれるのか?それがレイカー達の不安となっていた。

 

「やはり早い段階で保護するべきでしたね」

 

「今更いってもどうにもなるまい」

 

恐竜帝国との戦い、ジュネーブでのDCとの戦い、そのどちらも中核を為していたゲッターロボ。オペレーションSRWの前に何とか協力を漕ぎ着ける事が出来ればいいが……レイカーは司令席に腰掛ける

 

「ゲッターロボ、クロガネの捜索も平行して行え、ただし攻撃することは禁じる。交渉及び説得を最優先だ」

 

残り14日の間になんとしても武蔵の協力を得る、その為に伊豆基地の偵察部隊は連日連夜、ゲッターロボとクロガネの姿を探して飛び回っている。

 

「司令。イングラム少佐から面会希望が出ています」

 

「……通してくれ」

 

SRX計画の責任者であるイングラムの面会希望となれば断ることも出来ず、司令室に通してくれとオペレーターに返事を返す。それから5分後にイングラムが司令室に現れる

 

「随分とお疲れのようですね。レイカー司令」

 

「まぁな……それでイングラム少佐。何の用件だ?」

 

敬礼をするイングラムにわざわざ面会を頼んだ理由は何だ? と問いかけるレイカー。ハガネとヒリュウ改のPTには補給と修理を命じている、こうして直接尋ねてきた理由は何だ? レイカーがそう切り出すとイングラムは小さく笑った。

 

「SRXチームの最終運用のテストの許可を」

 

SRX計画の最終段階のテスト……その言葉にサカエが眉を吊り上げる。

 

「イングラム少佐、それは些か早急ではないではないか? プラスパーツの装着も始めたばかりだ。まず、プラスパーツに慣れてからでも遅くはあるまい」

 

「それでは14日の猶予に間に合わない可能性があります。レイカー司令、許可を」

 

ここまでイングラムが強気に出ることは珍しい。レイカーは少し考える素振りを見せてからイングラムに問いかける。

 

「SRX計画の機体には替えが利かない、もちろんパイロットもだ。それでも大丈夫といえるのか?」

 

「はい。恐竜帝国との戦い、DCとの戦いであいつらならやれると確信しています」

 

即座の返答。それだけイングラムには自信があるのだろう……それに短い間とは言え、ハガネにはゲッターロボも乗っていたらしい。あの理解不能な合体構造もSRX計画に何かの参考になったのかもしれないとレイカーは判断しイングラムに許可を出した。だがこの決断をレイカーは後に悔いる事となるのだった……

 

 

 

 

 

連邦の偵察機の主流となるメッサーでは侵入出来ない超高高度にクロガネの姿はあった。元々外宇宙航行用のクロガネだから平気だが他の機体では耐え切れないはずの高度……だがゲットマシンは平気そうに空を飛んでいる

 

「ゲットマシンの凄まじさは理解していたと思っていたが、こうして見ると理解したつもりだったようだな」

 

ベアー号が一番生き生きと動いているが、イーグル、ジャガー号も戦闘機に見えない形状とは思えない姿の割りには良い動きをしている。

 

「ゼンガー少佐、エルザム少佐。問題はありませんか?」

 

クロガネのオペレーター席のユーリアが通信でそう問いかける

 

『イーグル号、ゼンガーだ。俺のほうは問題ない、急旋回、急制動、急加速、そのどちらも異常は感じられない』

 

『こちらジャガー号、エルザムだ。私の方も問題は無い、ただシミュレーターよりも性能が高く感じるが十分許容範囲だ』

 

新型炉心を搭載しているジャガー号のエルザムが若干疲弊しているが、それでも十分乗りこなしていると言えるだろう。

 

「武蔵君、ベアー号の調子はどうだ?」

 

『調子が良すぎるくらいですね、全然問題ありません』

 

新型炉心を積んでいるのはジャガーとベアーの2機だけだ。ゼンガーは初めて実際のゲットマシンに乗ることを考えイーグル号にしたが、その判断はどうやら間違いではないようだ

 

「では次のテストに入る。合体を始めてくれ」

 

しかし問題はここからだ。飛ばすことが出来ても合体が出来ないのでは3人揃った意味が無い、最悪の場合クロガネに搭載したネットを射出する準備をしてから、合体テストを始めてくれと指示を出す。

 

『チェンジ……ッ! ゲッターッ! ワンッ!!!』

 

急加速に一瞬ゼンガーが言葉に詰まったが、それでも加速を続け、その背後からジャガーとベアーが合体してゲッター1になる。

 

「ゼンガーの心拍数、血圧はどうなっている」

 

「心拍数、血圧共に正常です。ただ若干の興奮状態です」

 

若干の興奮状態と言うが初めてのゲッターの合体で意識を飛ばさず、そして軽度の興奮状態で済めば十分御の字だ。

 

「ターゲットドローンを飛ばす。好きに撃墜してくれ」

 

クロガネから射出されたドローンにゲッター1は一瞬で間合いを積め、両腕の側面の刃で切り裂いた。

 

『ゲッタートマホークッ!!』

 

肩から射出されたゲッタートマホークを振るい、残りのドローンも撃墜する姿を見ればゲッター1自体は問題ないだろう

 

「よし、続けてゲッター2、ゲッター3の合体テストを行うが、ゲッター2、ゲッター3の戦闘テストは後日にする」

 

ゲッター2・ゲッター3はライガー・ポセイドンと異なり飛行能力を持たないゲッターだ。上空で合体し、墜落する前に更に合体とそれなりに無茶振りはしているが。武蔵からすればそれくらい出来なければゲッター乗りとは言えないので、もちろんGOを出す

 

「オープンゲットッ!」

 

ゲッター1からゲットマシンに分離すると同時にペダルを踏み込み、操縦桿を上げて急上昇する。全身にかかる重圧、だがこれこそがゲットマシンと言える。ベアー号よりも大分遅れて上昇してくるイーグル号とジャガー号。僅かにジャガー号の方が早いが、やはり武蔵の操縦に行き成りはついて来れない様だ。

 

『武蔵君、行くぞ』

 

「了解、いつでもどうぞ」

 

ジャガー号が反転し加速すると同時にベアー号も急降下させる。その後を慌ててついてくるイーグル号。

 

『チェンジッ! ゲッター2ッ!!』

 

急制動をかけたジャガー号と背後から追突してきたイーグル号の衝撃。だがそれ自体は武蔵にとって慣れ親しんだ感覚なので驚く事も苦しむことも無い、むしろ隼人とリョウに比べれば優しい位だと武蔵は感じていた。

 

『大丈夫か?』

 

「全然大丈夫ですよ、続けてください」

 

ゲッター2が爆ぜ再びゲットマシンとなる。ゲッターロボでの合体で一番重要なのは、どんな姿勢、どんな体勢でも合体出来る事にある。ゼンガーとエルザムに其れを求めるのは酷だが、それでも最初の自分よりかは遥かに動きがいいと武蔵はベアー号のコックピットで笑う

 

「チェンジッ! ゲッタースリーッ!!」

 

ジャガー号とイーグル号の軸が重なった瞬間にベアー号を加速させゲッター3へとチェンジする。

 

『ぐっ、なるほど、これくらいやれなければ意味がないと言うことか』

 

『殆ど一瞬だな』

 

リョウと隼人が乗っているときの感覚よりも少し遅れたが、ゼンガーやエルザムよりも早いタイミングで合体する。その衝撃はかなりの物だったようだが、2人とも意識を飛ばさなかったことに武蔵は安堵し、再びゲットマシンへと分離する。

 

「じゃあもう少しだけ飛行練習をしておきましょうか」

 

急制動と急加速、それと急旋回を重点的にと武蔵は告げ、日本と中国大陸の中間点でのゲットマシンの訓練を続けようとしたのだが

 

『待て! この周辺に重力震反応! 大型飛行物体が転移して来るぞッ!』

 

ビアンの言葉に飛行訓練を中止し、再びゲッター1へと合体する。そして僅かな時間差と共にクロガネとゲッター1を囲うように現れる、まるで蕾のような巨大な戦艦の数々と虫のような機動兵器軍の姿。

 

「これは……まさか、敵なのか!」

 

武蔵にとっては初見の戦艦であり、思わず困惑した声を上げる。

 

『エアロゲイターの戦艦だ! ついに本格的に侵攻を始めたかッ! ゼンガー! やれるか!』

 

『問題ない! 眼前に立ち塞がる敵は全て打ち砕くのみッ!!!』

 

ゲッタートマホークを構えるゲッター1、だがクロガネとゲッター1の周辺を囲む戦艦……フラワーの数は4機。そのうち3機が急降下していく、その降下予想地を調べたユーリアの悲鳴のような報告がブリッジに響き渡る。

 

「総帥! フラワーは北京上空に向かって降下中ッ!!」

 

「市街地だと!? くそっ! 主砲、副砲照準合わせッ! クロガネの船首を押さえているフラワー撃墜と共に本艦は北京へと降下する! 各員奮闘せよッ!!」

 

北京でのハガネ、ヒリュウ改とのエアロゲイターとの戦いが幕を開ける1時間前。クロガネとゲッターロボのエアロゲイターとの初戦闘が幕を開けるのだった……

 

 

第44話 暴走ゲッターロボ! その2へ続く

 

 




今回の話は戦闘への導入回ですね、次回は裏切りの銃口のハガネやヒリュウサイドの話から書いていこうと思います。新西暦ゲッターチーム(仮)が結成されていますが、ゼンガーは零式のオーバーホールが終わるまで、エルザムはヒュッケバインMK-Ⅱの改修が終わるまでの臨時パイロットなので、このイベントが終われば再び武蔵のみになりますのでご了承願います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

あ、それとスパロボDD始めました

手持ちのSSR

ゲッタービーム
オウルはーガー
ヘルアンドヘブン
サンダースピア
NT連続攻撃
クロスレンジアタック
マルチプルコンバット
V-MAX


高貴なる祈り
今も残る笑顔

です。

ブラックゲッターを最大改造目指して頑張ってます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第44話 暴走ゲッターロボ! その2

第44話 暴走ゲッターロボ! その2

 

クロガネとゲッターロボの周辺に転移したフーレは、1機をゲッターロボとクロガネの足止めに残し、残りの3機は北京に向かっていたハガネとヒリュウ改の前に現れていた。ハガネとヒリュウ改はエアロゲイターが現れた北京に急行する事を余儀無くされるのだった

 

「良いか、市街地に降りた敵機を全て撃墜するぞ」

 

ハガネから出撃したイルムが市街地を攻撃しているバグズ……「メギロート」と「イルムヤ」を睨みつけながら指示を出す

 

「了解です」

 

イングラムがすぐに出撃出来ない事もあり、この場で一番地位の高いイルムがPT隊のリーダーとなり指示を出す。キョウスケは即座に了解と返事を返したが、ヒュッケバインMK-Ⅱを駆るブリットはやや困惑した様子で展開された部隊を見つめていた

 

「クスハが居ない……? 中尉、クスハはどうしたんですか?」

 

「弐式の調子が良くないらしい。SRXチームと一緒で出撃は遅れるそうだ」

 

「そうですか……」

 

クスハの出撃が遅れる。その言葉に若干気落ちした様子を見せるブリットにジガンスクードのタスクがからかうように言葉を投げかける

 

「良いトコを見せられなくて残念だったな。ブリット」

 

「な、何を言ってんだ。俺は別にそんなつもりじゃない」

 

からかわれたと思ったブリットがヒュッケバインMK-Ⅱをタスクのジガンスクードに向けるが、間に入ったヴァイスリッターが仲裁……

 

「まあまあ。嫌よ嫌よも好きのうち……ってね」

 

「……意味がわからんぞ、それよりも今は戦闘に集中しろ」

 

に入ったわけではなく、パートナーが意味の分からない事を言った事にキョウスケは溜め息交じりで、戦闘に集中しろと言ったが、北京の市街に降下しているバグスの少なさに違和感を覚えていた

 

(偵察……でも無さそうだな。しかし、なんだこの違和感は)

 

ハガネとヒリュウ改のPTを偵察に来たのかと考えたが、それに対しては余りに数が少ない。その数の少なさが伏兵が潜んでいるのでは? と言う疑いに繋がる

 

「イルムガルト中尉。ここは部隊を一部分散するべきだと判断します」

 

「……キョウスケもそう思うか、俺もだ。この配置には違和感しかない」

 

キョウスケが感じていた違和感をイルムも感じており、キョウスケの提案を受け入れる

 

「ジャーダ、ガーネット、それとラッセル少尉の3人、それとリョウトとリオの5人で避難が終了していない民間人の避難の支援に行ってくれ、マサキとリューネは先行してMAPで相手の出鼻をくじけ、被害を最小に押さえるぞッ!」

 

降下してきたバグスを囮、もしくは誘導と考え、そしてその上で相手の思惑に乗り自分達に視線を集めその隙に民間人が避難を進めると作戦を立てるイルム

 

「キョウスケは俺と一緒に突っ込むぞ」

 

「……了解」

 

サイバスターとヴァルシオーネが先行し、2色の光がエアロゲイターの兵器にのみ被害を与えるのを確認してから、グルンガストとアルトアイゼンを先頭にし、一掃作戦は幕を開けたのだった……だがキョウスケ達は知らない、ハガネとヒリュウ改の周りのバグスが少ない理由……ハガネとヒリュウ改のセンサーの範囲外で戦うクロガネとゲッターロボの存在があることを……

 

 

 

 

 

クロガネとゲッターロボのフーレとバグス達の戦闘は終始ゲッターロボとクロガネが有利に進んでいた

 

「ミサイルマシンガンッ!!!」

 

超高高度と言うこともあり、イーグル号を操縦しているゼンガーが奮闘している形になる。勿論ゼンガーもゲッターの操縦に慣れている訳ではない、だがそれでもバグスではゲッターロボを止めるには完全に役不足だったのだ。誘導式のミサイルにロックオンされたバグス、スパイダーのAIでは逃げ切れず次々をミサイルが被弾し、破壊されて行く……

 

「フーレの反応減少しますッ!」

 

「ならば今の内に畳み掛ける! 主砲2~6番、てぇッ!!!」

 

ビアンの指示で戦うクロガネもフーレの上を押さえ、有利に戦況をコントロールしていた。それなのにまだ北京へと降下出来ないのはある理由があった

 

「また重力震反応です! 5……4……1……来ますッ!!」

 

フーレが撃墜されると同時に再び別のフーレが姿を現し、クロガネとゲッターを再び包囲網で囲い込む

 

「ちいっ! 明らかに足止めが目的か! 北京はどうなっている!?」

 

「はい、ハガネとヒリュウ改が到着、戦闘を始めています。ですがエアロゲイター側の人型兵器が多数出撃しています!」

 

ユーリアの報告にビアンは舌打ちを打つ、クロガネに搭載しているガーリオンもこの高度ゆえに出撃する事は出来ない。しかも相手は完全にクロガネとゲッターをこの場に足止めする事を目的としている

 

(包囲網に穴さえあけばッ!)

 

敵は弱いが、こう数が多くては思うようには動けない。しかもフーレを残して無理に降下すれば挟撃を受ける……ハガネとヒリュウ改の戦力は連邦でも突出している。だが相手が市街地、しかも民間人を人質にする戦法を取れば、その戦力も大きく削がれることになる。

 

「バン大佐、市街地に強行降下したとして、クロガネが受ける被害はどれくらいだ」

 

「……下手をすれば轟沈になるでしょう。相手は一定感覚で増援を送り込んでいます、そのタイミングが狂えば突破口も見出せるでしょうが……」

 

今のままでは手立てが無い、そう告げるバンにビアンが唇を噛み締める。何とかしたいと思っているのに、それが出来ない。それは激しい怒りへと変わる……だがそれはビアンだけではなかった。

 

『邪魔をするなあッ!! 我はゼンガーッ! ゼンガー・ゾンボルトッ!!!』

 

右肩から射出されたゲッタートマホークを掴み、ゼンガーが名乗りを上げる。

 

『悪を断つ剣なりッ!!!』

 

振り下ろされたゲッタートマホーク。その動きに合わせてゲッターウィングが動く、だがフーレやバグスの群れを相手にするにはゲッタートマホークだけでは足りない。見ている全員がそう思った……だが次の瞬間クロガネのブリッジに警報が鳴り響く

 

「なんだ!? また増援か!」

 

「違います! ゲッターロボのゲッター線指数が上昇してます! 70……90……100……150……うわ!?」

 

ゲッターのゲッター線量を計る計測器が爆発し、オペレーターが悲鳴をあげる。ブリッジからも分かるゲッターロボの全身を包む翡翠の光がどんどん増している事に……

 

『眼前の敵は全て打ち砕くのみッ!!! チェストオオオオオオオッ!!!!』

 

裂帛の気合と共に振るわれたゲッタートマホーク……そしてその切っ先から飛び出したゲッター線の刃がクロガネとゲッターを囲んでいたフーレとバグスを一掃すると同時にゲットマシンへと分離し、急降下していく

 

「今だ! Eフィールド全力展開ッ! 北京へ向かって降下するッ!!!」

 

敵の包囲網が消滅した、この瞬間をビアン達も見逃さず。即座に北京へと降下していくのだった……

 

 

 

 

 

クロガネとゲッターロボが北京へと降下を少し前……北京市街に現れたバグスを全滅させたヒリュウ改とハガネの前にフーレがゆっくりと降下してきていた

 

「「上空に巨大な熱源反応! 大型飛行物体が降下してきますッ!」」

 

ヒリュウ改とハガネのブリッジにほぼ同時に、エイタとユンの報告が入る

 

「識別は!?」

 

「飛行物体の識別はどうなっていますか!?」

 

「「04、フラワーですッ!!」」

 

エイタとユンの報告にダイテツは顔を顰め、ショーンは顎の下に手を当てた

 

「南極の時と同じ奴……! 敵の戦艦かッ!」

 

「これは厄介ですねぇ……このタイミングで戦艦を送り込んできますか」

 

ビルの上空に現れたフラワー……そしてそのフラワーを守る様に展開された緑色の人型機動兵器の姿にハガネとヒリュウ改だけではない、出撃していたPT隊にも大きな衝撃が走る

 

「あれは……人型の機動兵器ッ!」

 

バグスを撃墜し、ディスカッターについたオイルを拭っていたマサキが驚愕の声を上げる。今まで虫や鳥という動物型の兵器だったエアロゲイターが人型兵器を繰り出してきた。それに驚愕するのは当然の事だ

 

「皆、気をつけろ。敵の新型のお目見えだ」

 

リボルビングステークのカートリッジを交換していたキョウスケが現れた新型を睨みながら、警戒を促す

 

「あいつら、あんな物まで持っていたっていうの!?」

 

ヴァルシオーネのリューネも驚愕の悲鳴をあげる、今まで見る事のなかった人型兵器の大量投入に驚くの無理は無い、だが人型兵器を観察していたリョウトはある事に気付いた

 

「サイズが……そうだ。サイズがPTやAMと同じだ……ッ!? もしかして……」

 

「ああ、本来、PTやAMはエアロゲイターの人型機動兵器に対抗する為に開発されたんだ」

 

リョウトの疑問にイルムが返事を返す、PTとAMが開発された経緯……突然始まったと言える人型機動兵器の開発……それに踏み切るにはやはり何か大きな切っ掛けがあったのだ。

 

「……彼らがあんな物を持っている……判っていたんですか?」

 

「親父の話じゃ、メテオ3にそれっぽい情報があったそうだ……もっとも、連中が本当にあんな物を持っているかどうかは賭けだったらしいが……」

 

だがこうして実物を目の当たりにして、PTやAMの開発は間違いじゃなかったと確信したとイルムは呟いた。あれだけの大群で出て来るのに、戦闘機や戦車では完全に力不足。PTやAMの開発がされてなければ、まともに抵抗出来ず連邦は相手に敗れていたかもしれない

 

「何にせよだ……今までのバグスやバード、スパイダーは前座……あの人型こそが本命。つまり、連中は本腰を入れてきたって事さ」

 

「……新しいカードか。それを俺達に切ってきた……その理由は何だ? 何故奴らは俺達を狙ってきた?」

 

あれだけの機動兵器があるならば、こんな市街地に出撃させる意味は無い。それこそ、転移で戦艦を基地に送り込み制圧した方がよっぽど意味がある……相手の目的が判らず、アルトアイゼンのコックピットでキョウスケは顔を歪める

 

「あ、判った! 私の実力と魅力に気付いて、誘拐しに来たとか!? ああ……私って罪な女」

 

「つまらん事をいってないで、戦闘に集中しろ」

 

エクセレンの軽口で戦場の空気が和らいだのはキョウスケも判っている。だが今はまだ気を緩めて良い状況ではない

 

「んもう! ホントだったらどうするのよぉ」

 

「油断はするな……奴らの目的が何であろうとな……」

 

人型機動兵器が次々と動き出す、ここからが本番とでも言いたげにその手にレーザーブレードやビームライフルを構えて、ゆっくりと進軍してくる。その姿を見て、エクセレンの纏う空気も変わる、それは今までの口調が意図的にしていた物であり、場を和まそうとしている言葉だったのは明白だった。

 

「皆、遅くなってすまねぇッ!!!」

 

だが敵の増援と同時に、ハガネからもプラスパーツを装備したSRXチームとグルンガスト弐式、そしてR-GUNの5体が出撃する。民間人の避難誘導、シェルターの警護などで戦力を分散している今。SRXチームの出撃は劣勢に追い込まれかねないこの状況を覆す、強力な手札となっていた。

 

「奴等は新しいカードを切ってきた。気をつけてくれ」

 

「ああ、遅れた分は何とか取り返して見せるぜ!」

 

リュウセイの駆るR-1はエアロゲイターの人型を見てやる気満々と言う仕草を見せる。だがその姿は気負いすぎにも見え、大丈夫か? と言う不安をキョウスケ達に与えていた。だがリュウセイ達の教官のイングラムがいるから大丈夫だろうと、その事を敢えて指摘することは無かった

 

「ライ、R-2パワードの調子はどうだ?」

 

「出力が若干不安定ですが、戦闘には支障ありません」

 

R-2の姿は大幅に変化しており、両腕には巨大な白いシールド、そして背中には5門ずつの巨大なキャノン砲を背負っていた……この姿こそが本来のR-2の姿と言うべき姿であり、やっと調整の終わったプラスパーツを装着した「R-2 パワード」の姿だった。

 

「アヤ、お前の方は?」

 

「念の逆流を感じますが、許容範囲です。やれます」

 

だが姿が変わっているのはR-2だけではない、元々PTとしては小型だったR-3もまたその姿を大きく変えていた。R-3全体を包み込むような巨大なフライトパーツ……その姿はPTと言うよりかは戦闘機、もしくは飛行機と言うべき姿をしていた。もっともこれこそがR-3の本来の姿であり、本来の武装であった。フライトユニットによる高機動による強襲、そしてフライトユニットに搭載された凄まじい量の武器による広域制圧を可能としたPT……それが「R-3 パワード」の姿なのだった

 

「俺とクスハは母艦の護衛に回る。他の者は敵機を迎撃しろ」

 

イングラムはライやアヤ達の様子を確認してから、自分とグルンガスト弐式はハガネとヒリュウ改の護衛に回ると告げた時。再びハガネとヒリュウ改に凄まじい警報が鳴り響く

 

「今度は何だ!?」

 

「ふ、フラワー2機が上空から主砲を北京に向けて降下してきます!! フラワーの推定射撃範囲到達地点まで280秒ッ!!!」

 

エイタの報告はフラワーが上空に転移と同時に、急降下してその主砲で北京を狙っていると言うものだった

 

「大尉! 艦首トロニウムバスターキャノンで迎撃する! 迎撃準備急げッ!!」

 

「了解ッ!」

 

フラワーをこのままにしては北京が消滅する、そう判断したダイテツは艦首トロニウムバスターキャノンでフラワーを迎撃する事を決めたが、ブリッジに更なる報告が飛び込む

 

「待ってください! フラワーを追う熱源3! 識別信号は……ゲットマシンですッ! イーグル号、ジャガー号、ベアー号がフラワーを追っていますッ!!」

 

その報告にハガネとヒリュウ改に僅かな安堵の色が混じる、だがその中に1人、やっと主役が来たかと言わんばかりに邪悪な笑みを浮かべている男がいることに誰も気付くことはないのだった……

 

 

 

 

 

成層圏から北京へと向かって急降下するゲットマシンのコックピットの中で武蔵は操縦桿を必死に握り締め、ペダルを踏み込んでベアー号を加速させる。だが空気抵抗の少ないジャガー号の最大速度に追いつけず、仕方なしで通信での説得を試みる

 

「エルザムさん! 無茶だ! このスピードで合体なんて無理に決まってるッ!!? それにもし失敗したらッ!」

 

ジャガー号が先行していると言うことはエルザムはゲッター2にチェンジしようとしている。だが、最大加速マッハ0.8に近い速度での合体はゲッターに乗り始めたばかりのエルザムとゼンガーでは無理だと武蔵は叫ぶ。だがしかしエルザムの意思は変わらない

 

『だがやるしかない!! フラワーの主砲は既に北京に向けられている! あの大出力が地表に向かって放たれたらどうなるか言うまでも無いだろう!』

 

エルザムの言うことは判っている、だが余りにもリスクがありすぎる。これがリョウや隼人なら武蔵だって迷う事無く合体に踏み切っただろう……だがゲッターに関しては素人に近い2人とこのスピードでの合体は余りにもリスクがありすぎた

 

(ぐっ! 不味いッ!!)

 

このスピードでの急降下……空気が壁となり、ゲットマシンのコントロールを奪う。それを必死に堪え、先行するジャガー号の後を追いかける。武蔵だって判っている、だが失敗すれば3人とも死ぬかもしれない。それが判っているからどうしても最後の一線を越えられない……そんな迷っている武蔵。気が付いたらベアー号のコックピットに影が差しており、イーグル号がベアー号を追い抜こうとしていた

 

『武蔵、エルザムの気持ちを汲んでやってほしい、そして俺達を信じてくれ、必ず合体は成功する』

 

その加速はゼンガーには辛いだろう、額に大粒の汗が浮かび、歯を強く噛み締めるその姿を見ればそれは明らかだった。だがゼンガーの言葉は武蔵に同意するのではなく、エルザムを信じて欲しいと言う友人を信じる男の言葉だった……

 

「ゼンガーさん……」

 

急降下の凄まじいGにに顔を歪めながらもゼンガーの目は死んでいなかった。エルザムならできると言う強い信頼の色が浮かんでいた……ゲットマシンの様々な計器が警報を鳴らし、減速するか、加速するかの最後の決断が迫られる。

 

「判った! 信じるぜッ!!!」

 

どうしても最後の一線を踏み切れなかった。だがゼンガーとエルザムの目を見れば、不思議と恐怖は無かった。出来る……言葉に出来ない、そんな不思議な確信が武蔵の中にあった。ペダルを強く踏み込み、ベアー号を追い抜いていったイーグル号を再び追い抜く

 

「ぐっ! ぐぐぐう……ッ!!」

 

『ぬっくっ! ……うううッ!!!』

 

『う、うおおおおおおおおおーーーーーーッ!!!』

 

ゲットマシンの最大加速で行われる急降下、それはゲッターに慣れている武蔵でも歯を食いしばらなければ耐えることの出来ない凄まじい衝撃。だがゼンガーもエルザムもそれに耐え、合体軸を合わせる為にゲットマシンを必死で操る。背後からイーグル号が追突……いや合体した衝撃を感じながら武蔵は更に強くペダルを踏み込む、空気抵抗の都合上一番スピードの出るジャガー号が先行している以上。ベアー号、イーグル号の単体出力ではジャガー号に追いつけないと判断し、1度イーグル号と合体する事を選択したのだ。

 

『チェンジッ!!!』

 

ベアー号とイーグル号が合体したことで推進力が上昇し、ゲッター2の胴体と脚部になった2機が先行していたジャガー号に追いつく

 

『ゲッタァアアーーーッ!! ツウゥゥーーーッ!!!』

 

エルザムの血を吐くような叫びと共にベアー号、イーグル号に凄まじい衝撃が走る。それは合体が成功した証でもあった……

 

『オオオオオーーーーッ!! ドリルアームッ!!!!!!』

 

急降下の勢いに加え、3機分のゲットマシンの莫大な推進力を得てゲッター2はドリルアームを翳し、フーレに向かって突撃する

 

『『「オオオオオオーーーッ!!!」』』

 

エルザム、武蔵、ゼンガーの雄叫びが重なり、急加速したゲッター2が背後からフーレを貫き、爆発させる。だが、フーレはまだもう1機残っている

 

『オープンゲットォッ!!!!』

 

フーレを貫くと同時にゲッター2の姿が爆ぜ、ゲットマシンへと分離する。

 

『ゲッターロボ!? それに今の声はエルザム兄さんか!?』

 

『やっぱり来てくれたのか! 武蔵!』

 

ライやリュウセイの声が聞える中、武蔵は軋む身体に顔を顰めながら、再びペダルを踏み込み、機首を強引に上げる。そこには旋回したジャガー号と、そのジャガー号に向かって垂直に加速するイーグル号の姿が見える。

 

「チェンジッ!! ゲッタァアアアーーーーッ!! スリィィィーーーーーッ!!!」

 

ペダルを全力で踏み込み強引に軸を合わせてゲッター3へと合体する。一瞬でも間違えば、3機ともお釈迦になるというギリギリのタイミングで武蔵達はゲッター3への合体に成功した

 

『ぐっ! 行け! 武蔵君ッ!!』

 

『これで決めろッ!!』

 

ゼンガーとエルザムの後押しも受けて、ゲッター3のカメラアイが凄まじい光を放つ

 

「おおおおおおーーーーーッ!! 大! 雪!! 山!!!」

 

伸びたゲッターアームがフーレに向かって伸ばされ、その巨体に巻きついて行く。ゲッターの推進力を使い、強引にフーレと自分の位置を交換した、着地と同時に自身の回転も加え、フーレの巨体を振り回し、伸びた腕と回転するゲッター3によって凄まじい竜巻が生まれ、フーレの巨体をまるで紙の様に切り裂いていく

 

「おろぉぉーーーしッ!!!!!」

 

上空に投げ飛ばされるフーレ、全身から放電しながらもまだフーレは自分に下された命令を実行する事を諦めない。だがそんなフーレのAIの目の前に迫ったのは、硬く握り締められたゲッター3の右拳は自身の動力部に向かって高速で伸びる光景だった……

 

「パーンチッ!!!!」

 

高速で伸ばされた右拳はフーレの傷だらけの動力部に飛び込み、動力部を完全に粉砕する。

 

「!?!?!?」

 

北京に向かって主砲を放つ為に臨界点まで高められていたフーレの動力部。それが破壊された事で蓄えられていたエネルギーが逆流し、本来北京を破壊する筈だったエネルギーが逆流し、艦内から爆発するフーレ……そして一際大きい爆発共にフーレの姿は爆炎の中へと消えていった……

 

「ふう……何とか、間に合った……」

 

フーレの北京への上空からの主砲発射と言う事態を避けることが出来、武蔵はやっと安堵の溜め息を吐いた……だが――その直後凄まじい爆発音が鳴り響いた……

 

「あ、アヤアアアアアアアッ!!!!」

 

間に合ったと呟き振り返った武蔵の耳に飛び込んで来たのはリュウセイの悲痛な叫び声。そして……頭部パーツと右腕を破壊され、墜落していくR-3の姿……リュウセイの叫び声であの機体に乗っているのがアヤだと判った。そしてR-3にビームライフルを向けていたR-GUN……そのパイロットからオープンチャンネルで言葉が投げかけられる

 

「フッ、お前もとんだお人よしだな――武蔵、今まで散々犯罪者として追われ、今度は人助け。全てが終わったら用済みなのに本当に貴様は人を疑う事を知らないようだ」

 

その声は紛れも無くイングラムの物で……イングラムがアヤを撃った……その事を理解するまで少しの時間を有したが……それを理解した時……武蔵の意識は闇の中に沈んでいた。

 

「ウ、オアアアアアアアアアアーーーーーッ!!!!」

 

無意識の武蔵の凄まじい雄叫びと共にゲッター3の姿はゲッター線に包まれ、避難が完了しているビルを薙ぎ払い、ゲッター3は一直線にRーGUNに向かって走り出すのだった……

 

【ゲッター線に飲まれたか、だがあの炉心を使えば、それも致し方あるまい。あの炉心の純度は全てのゲッターの中でも極めて高い、怒りを持って暴走するのもまた必然】

 

ビアンが持ち出し、新ゲッターロボからゲッターロボに乗せ変えたゲッター炉心。それが武蔵のゲッター線との適合率を爆発的に跳ね上げ、今回アヤを撃ったイングラムを切っ掛けにして、その力を解放させた。

 

【このまま飲み込まれるか、それとも竜馬のように抗うか……見定めさせて貰うぞ。お前が悪魔になるのか、それとも救世主になるのかをな……】

 

そして暴走したゲッター3を見つめる2人の白衣の老人の姿。ビル風に煽られ、白衣を風に靡かせ暴れ狂うゲッター3を見つめる老人は紛れも無く、早乙女博士なのだった……

 

 

 

第45話 暴走ゲッターロボ! その3へ続く

 

 




暴走状態になったゲッターロボ、やっぱり新のゲッターの炉心は危険って事がはっきり判ると思います。次回はリュウセイ達がSRXへの合体をイングラムに命じられた視点から入っていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第45話 暴走ゲッターロボ! その3

第45話 暴走ゲッターロボ! その3

 

ゲッターロボの登場、それにより北京に降下していたフーレは全て撃墜され、主砲掃射の後展開される筈であったエアロゲイターの人型兵器であるゼカリアなどは出撃するまもなく全滅となった。その光景を見てR-GUNのコックピットでイングラムは薄く笑った、多少想定外の事はあったが、ゲッターロボが乱入してくることは折込積み、それならば計画を少し前倒ししてしまえばいい。ただそれだけの事だ

 

(ぐっ……頭が)

 

そうすればいい、そう判っているのだが、激しい頭痛によりどうしても最後の一線を踏み越える事が出来なかった。しかし成層圏から急降下してくるゲットマシンの反応を確認すると同時にその頭痛は完全に消えて、今こそが最善のタイミングだとイングラムは判断したのだ

 

「リュウセイ、ライ、アヤ。パターンOOCのプロテクトを解除する。SRXに合体しろ」

 

イングラムから告げられた命令にリュウセイ達の間に僅かな動揺の色が広がった

 

「え!?」

 

「ま、まさか……今!?」

 

「そうだ、SRXによって敵機を一気に殲滅する」

 

イングラムの言う事は決して間違いではない、だがゲッターロボが合流した今。無理にSRXになるべきではないのではとライは感じていた。

 

「テストをせず、行き成りOOCを行うなんて無謀ですッ!」

 

「それに、今は戦闘中ですッ!」

 

失敗するリスクを考え、ライとアヤが反論するが、イングラムの意思は変わらなかった。

 

「だからこそだ、Rシリーズの合体は、戦闘中に行う事を前提としている。それにゲッターロボの分析で得た技術も併用している、戦闘中の合体は不可能ではない」

 

「た、確かに……そうですが……」

 

「危険すぎます。失敗をすれば、他の機体まで巻き込む事にッ!」

 

ゲッターロボのようにあれほど自由自在に合体と分離をするように設計されていないSRX。ゲッターロボを引き合いに出したイングラムだが、それに対して無茶だとライが告げた。だが、イングラムの返答は挑発するかのような言葉だった……

 

「どうした……? 自信が無いのか? また武蔵だけに負担をかけるのか?」

 

その言葉にリュウセイ達は唇を噛み締めた。ハガネもヒリュウ改も連邦での評価は高い、だが、アイドネウス島での戦いも、ジュネーブでの戦いも武蔵とゲッターロボがいたからこそ勝利出来た。今のままでは仲間ではなく、ただの足手まといなのではと考えていたリュウセイにイングラムの言葉は重くその肩に圧し掛かった

 

「リュウセイ。自分が軍に入った目的を……戦う理由を思い出せ。今、ここでOOCを成功させなければ……」

 

「判ったぜ……教官」

 

イングラムの言葉を遮り、リュウセイが了承の返事を返す

 

「リュウセイ」

 

「ライ、やるしかねえ。この場を何とかするためにも、武蔵だけに負担をかけないためにも……今ここでOOCを成功させる」

 

リュウセイの強い決意の篭もった言葉にライもアヤも制止する立場でありながら、言葉を失った。それだけリュウセイの言葉には強い覚悟が込められていた

 

「……危険な賭けだぞ」

 

「覚悟の上だ。ライ、アヤ……頼む。お前達の力を俺に貸してくれ」

 

「……良いだろう」

 

「やりましょう、リュウ」

 

ここまで言われれば、ライもアヤもリュウセイを止めるのではなく、リュウセイの力を貸す事を決めた。

 

「教官、聞いての通りだぜッ!!!」

 

「では、パターンOOCのプロテクトを解除する。2回目はない、1回で決めろ」

 

イングラムの言葉にリュウセイ達は任せておけと返事を返す、――イングラムから各機に告げられた報告に出撃前のブリーフィングを思い出した面子に僅かな動揺の色が走る

 

「行くぜ! ライッ! アヤッ!!」

 

PT隊からSRXチームが離脱する。幸いにも敵の妨害は大雪山おろしで発生した竜巻で防がれている、これ以上のチャンスはないだろう

 

「念動フィールド、ON!! トロニウムエンジン、フルドライブ!! 各機、変形開始ッ!!」

 

アヤの合図でR-1、R-2パワード、R-3パワードが変形を開始する

 

「行くぜ! ヴァリアブル・フォーメーションッ!!」

 

変形を始めるR-1達、だがその変形が完全に完了する前にアヤの苦悶の声が広がり、R-1達は爆発し、SRXへの合体プロセスが強制終了される

 

「うおあ!?」

 

「駄目だ! 念動フィールドが解除された! 失速する!!」

 

SRXへの合体に必要な念動フィールドが解除され、収束したエネルギーが合体しようとしていたR-1達の中心で爆発する。

 

「うあああああーーーッ!!」

 

「きゃあああ!!

 

「うぐっ!?」

 

R-1、R-2パワード、R-3パワードはそれぞれ別方向へと弾き飛ばされる

 

「失敗……ッ!?」

 

「みんな、無事かッ!?」

 

キョウスケやマサキが声を掛けると、R-1……つまりリュウセイからの通信が繋がる

 

「う、うう……な、なんとか……無事だ。だけどよ……バラけちまった」

 

「マサキ……ッ!!」

 

辛うじて意識は保っているようだが、その苦しみから相当な重症を負っている。そう判断したキョウスケはマサキの名を叫ぶ

 

「ああ、判ってる! こっちで敵を引き付けるぜ!!」

 

キョウスケの意図を正確に感じ取ったマサキがR-1達に向かおうとしていたゼカリア達の進路を塞ぐ

 

「す、すまねえ、みんな!」

 

「このままでは他の機体の動きを乱す! 一時後退するぞ、リュウセイ!」

 

「あ、ああ! アヤ! 大丈夫か!?」

 

ライの指示に従いハガネへと撤退しようとし、アヤの名を叫ぶ。だがR-3パワードのアヤからは何の反応もない

 

「アヤッ!!」

 

「大尉……気絶しているのかっ!?」

 

リュウセイとライの呼びかけに反応を示さないアヤ。完全に意識を失っていると判断し、リュウセイとライが墜落しているR-3パワードに近づこうとした時、イングラムが突然笑い出す

 

「い、イングラム教官ッ!? 何を笑って!」

 

「どうやらここまでのようだな」

 

イングラムはそう言うとR-GUNを墜落したR-3に隣接させる

 

「う……うう……イングラム少佐……?」

 

「アヤ、せめてもの情けだ。苦しまぬように……殺してやる」

 

その言葉と共にR-GUNの放った銃撃がR-3を破壊し、R-3が爆発炎上する。

 

「ア、アヤアアアアアアーーーッ!!!」

 

「大尉ッ!!」

 

「イ、イングラム少佐……ッ!?」

 

「う、嘘でしょ!?」

 

「R-GUNがR-3を銃撃……誤認なのか……!?」

 

イングラムがアヤを撃った、それはハガネとヒリュウ改のクルーに動揺を与える。だがイングラムの放った銃弾は引いてはいけない引き金もまた同時に引いてしまった

 

「オ、オアアアアアアアアアアーーーーーーッ!!!」

 

武蔵の怒りの咆哮と共に上空に放たれた眩いまでのゲッター線の輝き……それはイングラムが触れてはいけない逆鱗に触れてしまった証であり……

 

「………」

 

ゲッターロボのコックピットの中で意識を失っているゼンガーとエルザムの全身をゲッター線の光が走り……ベアー号のコックピットの中で唸り声を上げる武蔵と言えばその全身にはゲッター線の幾何学的な模様がくっきりと浮かんでいた

 

「ガアアアアアアーーーーッ!!!」

 

武蔵の目はゲッター線の緑によって染め上げられた渦のような形状へと変化していた。それは武蔵がゲッターロボ……いやゲッターロボに取り込まれようとしている証拠であり、そしてゲッターロボが暴走状態に陥った事でこの世界のゲッター線がその動きを活性化させていた。

 

「スティンガー君! 感じたかな!」

 

「も、勿論だよコーウェン君! 今のを感じないほど、僕は耄碌していないともッ!!」

 

「まさか武蔵がこれほどまでの力を引き出すとは……だがこのおかげでゲッター線の導きが始まるね」

 

「う、うん、始まるね!! ゲッター線の導きがッ!!」

 

そう遠くない未来、滅びの僕を呼び寄せる篝火となってしまう証でもあったのだった……

 

 

 

 

元来武蔵と言う青年は争いに向かない性格だ、穏やかで自分ではない誰かの為に怒ることが出来る。それが武蔵と言う青年であり、その穏やかな気性が闘争本能の塊とも言える竜馬と隼人の間に入ることで、ゲッターチームは成立していた。だが武蔵とて人間だ、ストレスを感じないわけではない。人間同士の争い、腐敗した軍上層部や政治家……それらを見ていた武蔵には確実にストレスが溜まっていた。そしてそれはイングラムがアヤを撃った瞬間……押し留めていた最後の防壁が砕け、積もりに積もった怒りが開放されてしまった

 

「ウオオオオオオオオオーーーーッ!!!!」

 

「「「!?」」」

 

ゼカリアを握りつぶし、キャタピラで押し潰しながら執拗にR-GUNを追い回す武蔵。その姿に普段の武蔵の様子はなく、それ以外何も見えてないのか、ビルを押し潰し、ハガネやヒリュウ改のPTであるヒュッケバイン009やビルドラプターを危うく轢き潰すような勢いでR-GUNを追い回していた

 

「ガアアアアアアアアーーーーーッ!!!」

 

「ふふふふ……そうか、俺の放った銃弾はお前の怒りを解放させたか、ならば見せて見るがいいッ! 怒りのままに暴れ回るゲッターロボの力をッ!!!」

 

イングラムの言葉でダイテツは理解した、今の武蔵は完全に切れていて、アヤを撃ったR-GUNしか見えていないのだと

 

「イルムガルト中尉! シングウジ少尉! ゲッターロボを! 武蔵を止めろッ!!」

 

テツヤに指示をさせるのではない、自らがマイクを手に取りゲッターロボを止めるように命じる。このままではゲッターロボが撃墜……最悪の場合鹵獲されてしまう、特機であるグルンガスト、そしてジガンスクードでゲッターロボを止めるように命じる……が

 

「ぐっ!?」

 

「ウ、ウガアアアアアアアアアーッ!!!!」

 

グルンガストが横から体当たりし、1度ゲッター3の動きが止まる。だが武蔵の獣のような咆哮と共にゲッター3の両腕が伸び、グルンガストを締め付ける、その動きはどう見てもグルンガストに大雪山おろしを仕掛けようとしているのは明白だった。

 

「中尉! エクセレン!」

 

「りょーかいっと!!!」

 

キョウスケがその名を叫ぶよりも早く、エクセレンが動き出しヴァイスリッターの射撃がゲッター3に向かって放たれる

 

「!!!」

 

「嘘ッ!?」

 

正気を失っているが、身体はそうではないのか、ゲッター3の姿が爆ぜ、空中でゲッター1に合体する

 

「あーあらら……物凄い狙われる予感……」

 

「アアアアアアアーーーーーッ!!!」

 

真紅に輝くカメラアイがヴァイスリッターを狙い、ゲッター1がヴァイスリッターに向かおうとした瞬間。

 

「メタルジェノサイダー……デッドエンドシュートッ!!!」

 

「ガア!?」

 

背後から放たれた超出力の重金属粒子砲が背後からゲッター1を貫く、その衝撃にビルに頭から突っ込み、瓦礫の山の中に消えるゲッター1

 

「ふふふ、どうした武蔵? 俺が憎いんじゃないのか?」

 

「■■■ーッ!!!」

 

イングラムの挑発するような言葉に、ビルを粉砕しながらゲッター1が振り返る。だがその瞬間にゼカリヤやハバククの攻撃がゲッター1に叩き込まれ、ゲッターロボの意識はヴァイスリッターから完全にゼカリヤへと移っていた。

 

「……キョウスケ、今の動きって」

 

「言うな。今はゲッター1を押さえることだけを考えろ」

 

ヴァイスリッターではゲッター1の一撃にすら耐える事が出来ず、撃墜されていただろう。本当にイングラムが敵ならばヴァイスリッターが撃墜されてから攻撃しても十分に間に合ったはずだ、そう考えると今のイングラムの動きには僅かな不信感が残る

 

(なんだ、なんだこの違和感は)

 

上手く説明出来ないが何か違和感を感じ、足を止めるアルトアイゼン。

 

「キョウスケ少尉! 俺もやるぜ」

 

「……俺もだ」

 

ライとリュウセイがまだ戦えると通信を繋げて来るR-1とR-2……だがその手足からは火花が散っており、とてもゲッターロボとR-GUNの戦いに割り込んでいけるようには見えなかった

 

「イルム中尉。大丈夫ですか?」

 

「大丈夫……に見えるか?」

 

グルンガストの装甲にはゲッター3に掴まれた跡がしっかり残っている。乱戦になるこの状況には耐えられるようには見えない

 

「タスク、俺とエクセレンと一緒に前に出ろ。リュウセイとライはイルムガルト中尉をハガネまで護衛してから再び戻れ、良いな、これは命令だ」

 

ゲッターロボを止めるには純粋な馬力が必要だが、今のグルンガストでは無理だ。しかもこの囲まれている状況では、グルンガストをこの場に残す方のリスクが高い、それに極度の興奮状態のリュウセイやライをこのまま戦わせる事にキョウスケは不安を抱き、グルンガストの護衛と言う事で1度リュウセイとライをハガネに下げることにしたのだ。それに対して不服そうにしているリュウセイとライだがもう1度命令だと言われ、渋々だがグルンガストと共にハガネへと後退する。

 

「早く俺とリューネの方に合流してくれ!」

 

「ちいっ! 鬱陶しいね」

 

「くっ、数が多いっ!?」

 

マサキとリューネ、そしてレオナの焦った声が響く、R-GUNとゲッター1が戦い始めてから、今までは散開していたゼカリアとバハタクが行く手をさえぎるようにして陣形を組んだ。それは明らかにR-GUNとゲッターロボの戦いに割り込ませないとするエアロゲイター側の戦略だった。飛行出来るサイバスターやヴァルシオーネR、そしてガーリオンでゲッターロボとRーGUNの戦いに割り込もうにも、壁のように陣形を組まれ、弾幕で行く手を遮られては割り込むことすら難しい。

 

「キョウスケ、遅くなったが、避難は済んだらしい。ラッセル達がこっちに合流するぜッ!!」

 

カチーナからの通信にキョウスケは小声で漸くかと呟く、民間人の避難も優先するべき事態だ。だがそれで分散され確固撃破されては意味がない

 

「カチーナ中尉、ラッセル少尉達が合流したら指揮を頼みます」

 

「ったく、判ったぜ。だけどお前とエクセレンだけじゃ不安だ、タスクも連れて行け」

 

カチーナの言葉に感謝しますと呟き、キョウスケはゼカリア達の陣形に視線を向ける。柔軟性の高いゼカリアが前、そしてバハタクが後ろにつき砲撃形態をとる。その防壁はかなり強固に見えるのだが……やはりに少し妙な陣形となっている

 

(イングラム・プリスケン。お前は何を考えている……)

 

先ほどの不自然な攻撃も気になる、イングラムに何か思惑があるとしても、今はこの場を切り抜けてから考えるしかない……だがこの混乱きわまる戦況を更に乱す存在が現れようとしている事をキョウスケは知る由も無いのだった……

 

 

 

 

 

ハガネのブリッジでダイテツは唇を噛み締める、暴走状態にあるゲッターロボとR-GUNの戦い……いや、戦いではない、ゲッターロボを消耗させるだけの戦いを見て歯がゆい思いをしていた

 

「まだPT隊はエアロゲイターの陣形を突破出来ないのか!?」

 

「駄目です、倒せば倒した分だけ出現します!!」

 

エイタの言葉にダイテツは舌打ちを隠すことが出来なかった。R-GUNだけを追いかけるゲッターロボ、だがその間にゼカリア達が割り込み、それらと戦いR-GUNを追いかけるゲッターロボの消耗は凄まじいものだろう

 

(市街では主砲も撃てん)

 

市街ではハガネとヒリュウ改に出来るのは副砲とミサイルによる支援だ。トロニウムバスターキャノンも、艦主超重力砲も市街で撃てるような武器ではない、副砲とミサイルによるゼカリア達の撃破を狙うが、思った以上に装甲が硬く成果が出ない。

 

「ん? 大尉。ゲッターの姿がおかしくないか?」

 

「……はい、それは私も感じています」

 

映りの悪い写真を見ているかのように、ゲッターロボの姿がぶれている。それ所か、その姿までもが変わっているように感じた。だが機体が戦っている最中に変わる訳がない、焦りによる見間違いだとダイテツ達が思うとした時、エイタからの報告が入る。

 

「艦長! こちらへ急速接近してくる物体が!!」

 

「何者だ!? フラワーか!」

 

何度も出現しているフラワーかとテツヤが叫ぶ、識別照合を行っていたエイタが近づいてくる何かの該当データを発見する

 

「こ、これは……戦艦!? しかも、本艦と同型ですっ!!」

 

「同型艦だと!?」

 

スペースノア級の同型機は全部で3隻しか存在しないが、その内の1機は既に轟沈している。必然的に今この戦場に現れようとしているのは……1つしかありえなかった。

 

「まさか参番艦の……クロガネか!?」

 

DCの旗艦であった参番艦のクロガネしかありえなかった

 

「スペースノア級万能戦闘母艦です!」

 

そしてヒリュウ改でも北京に近寄る何かがスペースノア級の戦闘母艦である事がユンから報告されていた。

 

「スペースノア級……!? ハガネ以外の!?」

 

「壱番艦シロガネは南極で大破しておりますし……となれば、残る参番艦のクロガネですな……ただ、クロガネはDCの旗艦だったと聞いておりますが……」

 

このタイミングで現れるクロガネの存在にハガネもヒリュウ改にも混乱が広がる、そしてクロガネが上空から姿を現した

 

「あれはDCのドリル戦艦じゃねえか!?」

 

「DCって言うと親父の!?」

 

アードラーとの戦いでは姿を見せなかったクロガネの存在が突如北京に現れた。それはPT隊、加えて応援に向かっている連邦の部隊、そしてハガネとヒリュウ改にも等しく混乱を与えていた。だがオープンチャンネルで告げられた言葉に更なる混乱が広がる

 

【こちらスペースノア級参番艦クロガネ艦長、ビアン・ゾルダークだ。これより貴艦を援護する】

 

「お、親父!? 生きてたのか!?」

 

【リューネか、お前も相変わらずと言った所か。だが積もる話は後だ、ダイテツ・ミナセ、レフィーナ・エンフィールド。返答はいかに】

 

その声、その声に満ちるカリスマ。その全てがビアン・ゾルダークであるという証だった

 

「生きていたのか、ビアン・ゾルダーク」

 

【ああ。罪があるというのなら生きて償えと言われてな、こうして生き恥を晒している】

 

自嘲するようなビアンの言葉。だがアイドネウス島で恐竜帝国と共に戦ったダイテツにはビアンが敵であると言う感情はなかった

 

「協力感謝する、ビアン・ゾルダーク」

 

「か、艦長!? よろしいんですか!?」

 

確かにビアンはマイヤーと共に戦争を起こした、それ自体は間違いであっても地球を守りたいという願いはダイテツ達と変わりはない

 

「こちらの手の内を知り尽くしたイングラム少佐が裏切ったのだ……! 今の我々には彼を倒す手段を選んでいる余裕はない!」

 

ダイテツの一喝もまたオープンチャンネルで戦場に広がる、確かにクロガネ、ビアンは敵であった。だが味方であったイングラムが裏切り、こちらの戦術、戦力の全てが敵に知り尽くされている今。味方が増える事を拒む余裕はないのだから

 

 

 

 

「宜しいんですか、ビアン総帥」

 

「言ったはずだ。今の私達に手段を選んでいる余裕などない、それよりもエルザム、ゼンガーとの通信は回復したか!」

 

クロガネ……いや、ビアンがこの戦場に乱入する事を決断したのには理由がある。クロガネに搭載しているゲッター線測定装置が計測不能となり爆発し、通信の一切が途絶えた。その理由を知る為、加えてハガネとヒリュウ改への助っ人をする為に戦場に出る事を決断したのだ。まだクロガネも、自分自身も再び表舞台に立つには早すぎる、だがエアロゲイターの攻撃が本格化した今隠れ続ける事などビアンには出来なかったのだ

 

「駄目です。お2人とも意識を失っていると思われます!」

 

「リリー中佐、ユーリア少佐はゼンガーとエルザムへの声掛けを続けるのだ!」

 

武蔵への連絡が繋がらず、そしてゲッター線が危険域を指し示している。通信で連絡が取れないのならば、多少強引でもイーグル、ジャガーから強制オープンゲットをするしか今の暴走しているゲッターを止める術はない。

 

(この事態は十分に考えられていた)

 

人間同士の戦いに武蔵は心を痛めていた、そしてそれは多感な時期の武蔵には相当なストレスになっていただろう。それがイングラム・プリスケンの裏切りを切っ掛けに爆発したのだ

 

「整備班! 新ゲッターロボの動力の積み替えはどうなっている!?」

 

【後30……いや10分で完了します! 総帥】

 

ゲッター炉心を取り除いた新ゲッターロボに、リオン、そしてゲシュペンストMK-Ⅱの動力部であるプラズマジェネレーターを組み込む作業がクロガネの格納庫で急ピッチで行われていた。最悪の場合、ゲッターロボを取り押さえることが出来るのは新ゲッターロボしかありえない、動力がゲッター線ではないとしても、後ろから組み付けばゲッターロボを取り押さえることは十分に可能だ

 

「ここまでのようだな、武蔵」

 

「グウウウウウウーーーーッ!!!」

 

ゲッターロボの暴走によって、エネルギーが枯渇したのか、ついにゲッターロボはエアロゲイターによって取り押さえられていた

 

「くっ! 主砲発射準備ッ!!」

 

ここでゲッターロボを……武蔵を失うわけにはいかない、ハガネやヒリュウ改では主砲を撃つ事は出来ないが、ビアンが市街地で主砲を撃ったという汚名を背負えばいい、そう判断し主砲の発射命令を下した時。――ゲッター1が凄まじい光を放った……

 

「何だ……何が起こっている……ッ!?」

 

「エアロゲイターの人型兵器が溶けていく……ッ!?」

 

イングラムだけではない、今この場にいる全員がその異常な光景に絶句していた。ゲッター1を取り押さえていたゼカリアやバハタクがゲッターに触れている部分から溶けて……いや、ゲッターロボに取り込まれるようにして姿を消していく、そしてゼカリア達が姿を消す事にゲッターロボを包み込むゲッター線の光はその輝きを増していき、ゲッターロボの姿が完全にゲッター線の光へと包まれその姿を消した

 

「あれは……ゲッターロボなのか……」

 

「どうなっているんだ……」

 

北京の市街の中央には、ゲッター線の光である緑の光が形になったかのような異形のゲッターロボの姿があった。蝙蝠を連想させる1対の羽、そしてゲッターロボよりも更に人型に近くなり、巨大化し、ゲッター線の輝きで作られたその姿にこの場にいた全員が恐怖した……

 

「………」

 

ゲッター線に満たされたベアー号のコックピットの中で俯いていた武蔵が顔を上げる……その目は完全にゲッター線の色に染まり、肌の露出している部分にはゲッター線の幾何学模様が色濃く浮かび上がり、それは胴体、首、そして顔の順番で覆っていく……そしてその模様が顔を埋め尽くした瞬間……武蔵の全身が激しく揺れた

 

「■■■■ーーーーーーーーッ!!!!!」

 

武蔵の咆哮と共にゲッターロボはその翼を使い上空へと舞い上がり、ゲッター線で出来たゲッタートマホークを手にし、R-GUNへと向かっていくのだった……

 

誰もこのゲッターロボの名前を知らない、だがこのゲッターロボは確かに存在したゲッターロボであった。もっともゲッター線の力を引き出せる早乙女博士が心血を注いで作り上げた最高傑作……「真ゲッターロボ」がゲッター線の力を借りて、この世界に現れた瞬間であった……

 

 

第46話 暴走ゲッターロボ! その4

 

 




ゲッター炉心の暴走でゲッター線が真ゲッターロボの姿を模して出現。OG1では絶対に勝てない、恐怖のゲッターロボの出現です。
なおこの話の熟練度は真ゲッターロボの出現で変更

真ゲッターロボ(ゲッター線)の出現から3ターン以内に真ゲッターロボ(ゲッター線のHPを95%以下にする)

真ゲッターロボ(ゲッター線)
HP????(HP18万)
EN450
装甲1400
運動性200

特殊能力

EN回復(全快)
ゲッター線バリア(全ての属性ダメージを20%ダウン)
※援護攻撃対象時のみ運動性0、装甲1000にダウン
※敵ユニット全てに援護攻撃の技能を与える
※時機に一番近い敵ユニットに向かって接近

ゲッタートマホーク 5500
ゲッタービーム(頭) 6500
ゲッタードリル 6700
大雪山おろし 7000
ゲッタービーム(腹) 9000


見たいな感じのイベントボスですね。HPを削らなくてもイベント終了するゲッターロボですが、熟練度の為に戦わないといけないという感じですね。どうやって真ゲッターロボの脅威を退けるのか、次回の更新も楽しみにしていてください


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第46話 暴走ゲッターロボ! その4

第46話 暴走ゲッターロボ! その4

 

それは異常な光景だった。エネルギーが機体の姿を取り暴れ回る。新西暦……いや、どんな時代でもありえない現象が今目の前で繰り広げられていた

 

(これが……ゲッター線の本当の力なのか……ッ!?)

 

ゲッター線、旧西暦に存在していた未知のエネルギー……その力を、その存在の意味を初めてビアンは理解した

 

「がっ!? まさか……これほどまでとは……俺の想像を完全に超えていたな」

 

「……」

 

イングラムの問いかけにも武蔵は何の反応も示さない。先ほどまでの暴れようが嘘のように大人しいが、その大人しさが余計に不気味さを煽る

 

「だが俺もそう簡単にやられるつもりはない!」

 

R-GUNが両手に持ったライフルでゲッターロボを狙う、90m近い巨体のゲッターロボだ。正確に狙わなくても当たる……誰もがそう思っていた

 

「き、消えた!?」

 

「どこに行ったんだッ!?」

 

ゲッターの姿は眩いゲッター線の光と共に消えた。レーダーにも、ゲッター線測定器にも何の反応も示さない。今この瞬間、完全にゲッターロボの姿は北京の上空から消え去っていた……

 

「がはっ!?!?」

 

「……」

 

イングラムの苦悶の声と共にR-GUNの身体が緑の閃光に弾き飛ばされる、そして弾き飛ばされた方向には既にゲッターロボが待ち構えており、その手にはゲッター線で出来た両刃の斧が握られていた

 

「ぐっうっ! な、何が起きて……ぐあっ!?」

 

ゲッタートマホークによる一閃は辛うじて回避したが、追撃に繰り出された右拳がR-GUNの頭部を捉え、R-GUNがビルに背中から叩きつけられ、R-GUNが叩き付けられたビルが倒壊し始め、その残骸の中に埋まりその姿が見えなくなる。

 

「……」

 

手にしていたゲッタートマホークが消え去り、やや猫背になったゲッターがゆっくりとゼカリア達に視線を向けたと思った瞬間。ゼカリア達の上半身が両断され宙に舞う。一瞬遅れて爆発するゼカリア達の残骸で何が起こったのか理解した

 

「いかん!! 気をつけろ! PTは敵として認識されているぞ!!」

 

慌ててオープンチャンネルでビアンは叫んだ。今の武蔵に意識はなく、ゲッターロボが完全に暴走している形だ。恐らく、さっき静止していたのはR-GUNの姿を見失い、R-GUNを探している間にR-GUNと似たサイズのゼカリアをR-GUNと誤認したからだ

 

「!!!」

 

瞬間移動にしか思えない超高速移動、ゲッター線の光が尾のように動きそれによってゲッターの動きを予測できる。だがそれが徐々にハガネやヒリュウ改へと近づいている姿を見て、ビアンがそう叫ぶ。だがそれは余りにも遅すぎた

 

「ぐっ! 武蔵さん! 止めて下さい! 僕です! リョウトです!!」

 

「……」

 

リオンを改良したのか、両腕をPTの腕に換装した機体のパイロットが武蔵に声を投げかける。だが武蔵は何の反応も示さず、その場で回転したゲッターの胴回し蹴りのような強烈な一撃が叩き込まれ、背面が傍にあったビルにその機体の姿が深く深くめり込みビルの中に完全に消えてしまう

 

「リョウト君!」

 

「動くな!!」

 

ヒュッケバインが動こうとしたが、隊長機の一喝で動きを止める。すると、ゲッターの目が観察するように動き……唯一動いていたハバククに飛び掛り、その首を引きちぎり拳を何度もハバククの胴体に叩き込む

 

(敵性反応に自動的に報復しているのか)

 

先ほどの機体は説得を試みただけだが、その両腕のビームキャノンの銃口に反応し、ゲッターロボは攻撃を繰り出したのかもしれない。つまり動く事がなければ、ゲッターは反撃にすら動かない可能性もある。

 

「まだゼンガー達の意識は戻らないか!?」

 

外からの説得が届かないのならば中、イーグル号とジャガー号に乗り込んでいるゼンガーとエルザムの意識が戻る事が武蔵を正気に戻し、ゲッターの暴走を止めるただ1つの方法だ。

 

「駄目です、通信にノイズが走っていて、声が届いているかも怪しいです!」

 

何故急にゲッターが暴走したのか……ビアンに思い当たる節は1つだけ、地下に眠っていた早乙女研究所から持ち出した新ゲッターロボの炉心……それがゲッターに何らかの影響を与えた可能性が極めて高い、こうなったら新ゲッターロボで暴走しているゲッターロボを取り押さえるしかない。ビアンが決意して艦長席を立ち格納庫に向かおうとした瞬間ゼカリアがゲッターに飛び掛る、ゲッターの無造作に振るわれた左腕でゼカリアは両断される……だがゼカリアの影から2機のPTが飛び出す

 

「この距離貰ったッ!!」

 

「一意専心ッ!!」

 

赤いPTと改良されたヒュッケバインだろうか? 赤いPTの腕につけられた杭打ち機とビームソードがゲッターを捉え、その全身を覆っているゲッター線を僅かに剥がす。ゲッター線で出来た身体から、ゲッター1の赤い装甲が姿を見せる

 

「……」

 

だが攻撃を仕掛けた2機のPTをゲッターが見逃すわけもなく、即座に反撃の拳が繰り出される。

 

「あんな手があったか!」

 

だがその攻撃はゼカリアへと吸い込まれ、赤い機体達に攻撃は向かわない。そこまで正確な敵識別は出来ないのか、自分を攻撃した相手よりも動いている敵を優先するらしい。PT達が停止するとその攻撃の矛先はPTではなく、エアロゲイターへと向けられていた。そして静止したPTは再びゼカリア達が動き出すのを待ち、ゼカリアの影からゲッターへと攻撃を繰り出す。攻撃のチャンスは一瞬であり、さほど有効打撃を与えているようには見えないが、ゲッター1を覆っているゲッター線を剥がすことには成功している。そしてゲッター線を引き剥がすことが、硬直していた戦況を変える一手となった。

 

『ぐ……こ、こちら……エ……ザ……ザザザ……』

 

今まで音信不通だった通信が若干だが回復し、エルザムの声がクロガネに届いたのだ。ビアン達は意識を失っていると考えていたが、高密度のゲッター線によって通信が妨害されていただけだったのだ。それが何度か攻撃で本体から僅かにゲッター線を消す事によって通信が一瞬だが回復した……それはある仮説をビアンに連想させるには十分な結果だった

 

「総帥! 今一瞬エルザム様との通信が回復しました!?」

 

やはりゲッター1を覆っているゲッター線が全ての元凶であると判断したビアンはオープンチャンネルでゲッター1を覆っているゲッター線を剥がす事がゲッターの暴走を止める方法だという自らの推論を声を高らかにして叫んだ

 

「ハガネ、ヒリュウ改のPT隊よ! 良く聞いてくれ! ゲッターを暴走させているのはゲッターを覆っているゲッター線だ! それを引き剥がせば、ゲッターの暴走は止まるッ! 武蔵君を助ける為に力を貸してくれ!!」

 

ビアンはそう叫ぶと浮かしかけた腰を再び艦長席に戻す

 

「総員対衝撃、対閃光防御! クロガネで突っ込むぞッ!!!」

 

艦首エクスカリバー衝角でゲッター1を覆っているゲッター線を引き剥がす事を考え、クロガネでゲッターへと突撃する事を決める。最悪クロガネが轟沈される可能性はある――だがゲッターロボこそがエアロゲイターと戦うための最大の切り札になると考えていたビアンと、短い時間だが武蔵と触れ合ったクルー達に迷いはなく、ビアンの命令を復唱し、クロガネのエクスカリバー衝角が音を立てて始動を始めるのだった……

 

 

 

 

オープンチャンネルによって告げられるビアンの言葉はハガネにまで届いていた。ゲッターロボが暴走していること、そして武蔵を助ける方法がゲッター1を覆っているゲッター線を全て引き剥がすことだと

 

「リュウセイ、ライ。正直言って、俺は今のお前達には出撃して欲しくないと考えている」

 

ハガネの格納庫に回収されているR-3パワードとグルンガスト、R-GUNに撃たれ、頭部と右腕を破損し、胴体部も変形しているR-3からは今も整備員達の必死の救助活動が続いている。そしてグルンガストのイルムも短時間とは言え、ゲッターロボに締め上げたれた事で右腕と左足が圧壊し、イルム自身もコックピットの中でシェイクされ頭に包帯を巻いている

 

「ロブ、それでも俺は……」

 

「判ってる、判ってるさ。俺にも誰にも今のリュウセイとライを止められないのは判っている、出撃準備はする。だけどこれだけは覚えておいててくれ、全力稼動は良くて3分、稼動にセーブを掛けても5分だ。攻撃に至っては1回出来るかどうかだ……チャンスは1回、これを忘れるな」

 

SRXへの合体に失敗した衝撃は想像以上にR-1、R-2に負担を掛けていた。出撃したとしても的になるか、それとも盾になるか……たった1回だけ許された攻撃のチャンス……

 

「すまねえ、ロブ。ありがとよ」

 

「オオミヤ博士、感謝します」

 

R-1とR-2に乗り込むリュウセイとライ、起動していくR-1とRー2だが機体各所から異音が響き、稼働時間が10分未満、そして攻撃のチャンスが1回しかないっと言うのが嘘でも偽りでもないと2人は一瞬で悟った

 

『クロガネ突撃ッ!!!!』

 

ハガネからリュウセイ達が出撃すると同時にクロガネがゲッターへと突撃していく、それは命中すればゲッター線に包まれ暴走しているゲッター1ごと破壊しかねない一撃だった

 

「!!!」

 

『ぐっ! ば、馬鹿な!? ぬ、ぬおおおおおッ!?』

 

だがゲッターは信じられない事に、クロガネを一瞥すると、上半身を突き破るようにゲッター2に酷似した新しいゲッターロボの上半身が姿を見せ、鋭く鋭利なドリルを突き出した

 

『出力を上げろ! 押し切るぞ!』

 

『だ、駄目です! く、クロガネの出力低下! 100……95……87……回転衝角維持できませんッ!!』

 

クロガネの突撃はゲッターの上半身から生えたゲッター2のドリルによって完全に防がれ、回転が止まると同時に上半身から生えていた上半身が消え、代わりに伸縮自在の腕が胸部から飛び出しクロガネを締め上げる

 

『変形もせずに、全てのゲッターの能力を行使できるのか!? いかん! 総員対衝撃防御ッ!!』

 

「ガアアアアアアアアーーーーーーッ!!!」

 

獣のような咆哮と共にクロガネを締め上げている腕が伸び、半回転したゲッターはまるでハンマーのようにクロガネをヒリュウ改に向かって叩きつける。

 

『ぐっ! 副長! ヒリュウ改の損傷度は!?』

 

『く、クロガネとの追突で50%を越えました!! いやはや、とんでもない化け物ですな。ゲッターロボと言うのは』

 

レフィーナとショーンの慌てた声が北京の上空に響き渡る。まさか戦艦を投げ飛ばすなんて想像もしていなかったPT隊に痛いほどの沈黙が広がる、ゲッターの強さを知っているつもりだったが……それはまさしく知っているつもりだったのだと改めて思い知らされていた

 

 

『……リュウセイ、チャンスは1度……お前はそれをどちらに使う』

 

ライの問いかけにリュウセイは迷う事無く告げた。今やらなければらないのは、ゲッターロボの暴走を止めるか、それともイングラムを撃墜するかの2つに1、そしてそのどちらも1回で決めれる保障はないのだ。

 

「武蔵だ、俺はゲッターロボの暴走を止める、俺は武蔵を助ける」

 

『……そうか、俺と同じで安心した。必ず止めるぞ、ゲッターロボを』

 

ライの言葉に力強くリュウセイは返事を返す、ゲッターロボが暴走したのはアヤが撃たれた事が切っ掛けだ。自分達の為に武蔵が怒っている……それを止めるのは誰でもない、自分達がやるべき事だとリュウセイとライは感じていた

 

「ぐっ! ぐううーーーッ!!」

 

『ど、どうした!? 何があった!』

 

ハガネから出撃すると同時に苦悶の声をあげるリュウセイと、膝を付くR-1の姿にライは慌ててR-1に通信を繋ぐ

 

「わ、わからねえ……あ、頭が割れる……」

 

歯を食いしばりその痛みに耐えているであろうリュウセイの呼吸は非常に苦しそうだ

 

「リュウセイ、それにライディース少尉!?」

 

「お、お前たち大丈夫なのかよ!?」

 

「火花散ってるわよ!? あんた達なんで出撃してきたの!

 

ビルドラプターを先頭に、ジャーダとガーネットの量産型ゲシュペンストMKーⅡが後退してくる。だがビルドラプター達はそれぞれアーマリオン、ガーリオン、そしてヒュッケバインMK-Ⅱを牽引していた。一切の共通点が無いように見えるが、ライはその不規則な面子にある共通点を見出した。

 

『これは……リュウセイ! T-LINKシステムをOFFにしろッ!!』

 

ライの言葉でT-LINKシステムをOFFにしたのか、R-1が再び立ち上がる

 

「ライ、なんでT-LINKシステムをOFFにしろって言ったんだ」

 

『R-1、アーマリオン、ガーリオン、ジガンスクード、ヒュッケバインMK-Ⅱ、そしてグルンガスト弐式……それには共通点がある。念動力者であるか、どうかだ』

 

暴走しているゲッター1、上空に佇むゲッターの姿は元の40M級から倍近い巨体の90Mとなっている。全身はゲッター線で構築されているのか、緑の光に満たされているがその胸部部分にカメラアイの光が消えたゲッター1の姿が見えている

 

『出て来たと言うことは戦えると判断するぞ、リュウセイ少尉、ライディース少尉』

 

「大丈夫です、キョウスケ少尉。俺も、ライも戦えます」

 

リュウセイの言葉にアルトアイゼンが満足そうに頷くと、上空で停止していたゲッターの首が凄まじい勢いでアルトアイゼンに向けられる。

 

『良いか、動くな。動けばゲッターに狙われる、不本意だがエアロゲイターの攻撃に合わせて、攻撃を叩き込め』

 

ハバククが変形し、ビーム砲を向けるとアルトアイゼンではなく、ゲッターの首がハバククに向けられ瞬間移動もかくやと言うスピードでハバククの前に移動する

 

「!!!」

 

拳を両腕の側面の刃でハバククを切り裂き、破壊していくゲッター。その執拗な攻撃と一切の容赦を持たない非情とも取れる攻撃はその蝙蝠の羽のせいもあり、悪魔のように見える。だが、それでもゲッターは避難が完了している地区でしか暴れていない。そしてシェルターのある場所でも暴れていない、それが暴走していても武蔵の意志が残っている証のように思えていた。

 

「そろそろ、動きを止めてくれないかしら!!」

 

「この化け物がッ!!」

 

ハバククを攻撃するのに夢中なゲッターの無防備な背中にオクスタンランチャーとスプリットミサイルが直撃し、ゲッター1を覆っているゲッター線がまた少し霧散する。

 

「……ギロリ」

 

攻撃を受けたことでゲッターが振り返り、その目でヴァイスリッターと赤い量産型ゲシュペンストMK-Ⅱを睨みつける、腹部にエネルギーが収束していく

 

「ゲッタービームをこんな所で撃つ気か!?」

 

ゲッタービームの破壊力は何度も見ているから知っている、今正にヴァイスリッターにゲッタービームが放たれようとしたその時

 

「!!!」

 

ゼカリアのレーザーブレードがゲッターの胸部を捉える。その攻撃でゲッターの興味はゼカリアへと移動し、ゼカリアの頭を片手で掴み吊り上げ、その下半身をゲッタービームで吹き飛ばし、頭部を握り潰して投げ捨てる

 

「……キョウスケ少尉。俺に考えがあります」

 

今までのゲッターの攻撃、そしてゼカリア達に比べて軽症なハガネのPT隊を見て、ライはある作戦をキョウスケに告げる

 

『分の悪い賭けだぞ、しかも命を賭けるのはお前だけだ』

 

「リスクは覚悟の上です、ですがキョウスケ少尉とリュウセイなら決めてくれると信じています」

 

ライの言葉にキョウスケは小さく笑い、ライの提案を受け入れた

 

『良いだろう、お前の作戦に乗ってやる』

 

『だけどライ! 失敗したらお前が!』

 

「なんだリュウセイ、自信が無いのか? 俺はお前なら出来るとチームメイトを信じているのにか」

 

ライの挑発するかのような言葉に息を呑んだリュウセイ、R-2に伸ばしかけた腕を引っ込め

 

『そこまで言ったんだ、絶対決めろよ』

 

「当たり前だ。お前こそしくじるなよ、チャンスは1度だ」

 

再び上空に滞空するゲッター、その姿を見つめR-2がその背中に背負ったハイゾルランチャーをゲッターに向ける

 

「……」

 

「そうだ、俺だ。お前を狙っているのはこの俺だッ!!」

 

ゲッターの視線が向けられると同時にハイゾルランチャーの収束射撃と両手に持ったツインマグナライフルの銃弾がゲッターに向かって放たれる

 

「!!!」

 

瞬間移動としか見えない異常な機動で放たれる攻撃を回避しながら、ゲッターがまっすぐにR-2に向かって降下する

 

「ちょ!? 何してるの」

 

「ちい! 何を考えてやがる!!」

 

「リューネ!」

 

「判ってるよッ!」

 

ゲッターをR-2に向かわせまいとエクセレン達がゲッターを攻撃しようとした瞬間キョウスケの怒声が響いた

 

『邪魔をするな! ライディース少尉の命を賭けた賭けだ!』

 

その怒声にエクセレン達の動きが止まった瞬間。R-2は強化パーツをパージして、一気に後退する。ゲッターの腕が強化パーツを貫くと同時に爆発し、ゲッターはその動きを一瞬硬直させた。

 

『リュウセイ少尉! これで決めるぞ!!』

 

『ああ!! ライの作ってくれたチャンスを無駄にはしねえッ!!』

 

ビルの影から飛び出したアルトアイゼンのリボルビングステークがゲッターの胴体を捉える

 

『全弾持って行けッ!!!』

 

「!!!!」

 

6連続でステークが打ち込まれ、ゲッターの姿が初めてぶれた。6発目で吹き飛んだゲッターに向かってスクエア・クレイモアが打ち込まれる。だがそれは急上昇したゲッターによって回避される。だが逃がす物かとR-1が損傷し、動きの遅いゲッターを追って地面を蹴る。

 

『武蔵!! 武蔵!!! 戻ってきやがれえええええッ!!! 武蔵ーーーーーッ!!!』

 

ビルを踏み台にしたR-1がそれを追いかけ、一瞬硬直したゲッターの胸部に渾身のT-LINKナックルが叩き込まれ、R-1がシステムダウンを起こし墜落するのと同時にゲッターが動きを止めた

 

「ふふふ、この時を待っていたぞ! メタルジェノサイダーッ!! デッド・エンド・シュートッ!!!!」

 

だがその瞬間ビルを吹き飛ばし、R-GUNがメタルジェノサイダーの光の中にゲッターの姿が消える

 

「てめえ! 生きてやがったのか」

 

「ふふふ、チャンスを待つのは当然の事だ。だがこれでゲッターは消えた、お前達に残された勝機はたった今潰えた」

 

勝ち誇るイングラム、そしてその周辺に再びゼカリア達が姿を見せる。疲弊しきったこの状況での増援にキョウスケ達……だが希望はまだ潰えてはいなかった

 

『『『おおおおーッ!!!』』』

 

爆煙の中から姿を見せるゲットマシン……そして北京に響き渡る武蔵の……エルザムの……ゼンガーの雄叫び。ライ達は賭けに勝ったのだ、T-LINKシステムをフル稼働させ、ゲッター線に干渉するという大博打にライ達は見事勝利した。そしてその証が上空を舞うゲットマシンの姿なのだった……

 

 

 

 

ビアンはゲッターのコックピットでゼンガーとエルザムが気絶している。そう考えていたが、それは半分当たりで半分正解だった。ゲッター1が暴走しているときはその殺人的な加速で確かに意識を失っていた、だがゲッター1がゲッター線に包まれた時からその殺人的なGかから開放され、ゼンガーとエルザムは何度もクロガネとの通信を試みていたのだ

 

「こちらエルザム! クロガネ、応答を! こちらエルザム! クロガネ、応答せよ!」

 

必死に通信機に向かって叫ぶが、通信機にはノイズが走り通信が一方通行でも繋がっているのか、それとも完全に繋がっていないのか、それすらもエルザムには判断がつかなかった

 

「ゼンガー、どうだ。操縦は取り返せたか?」

 

「駄目だ……オープンゲットのレバーも動かない。一体どうなっているんだ」

 

高密度のゲッター線に包まれているゼンガーとエルザムはゲッター線の光の中それぞれのゲットマシンのコックピットの中で浮遊しているような感覚を体験していた。

 

「武蔵君! 聞えるか! 武蔵君!」

 

「武蔵! 武蔵聞えるか!!」

 

外に通信が繋がらないならゲットマシン同士の通信をするしかない、ベアー号の武蔵に2人で通信を試みる。ノイズが走るベアー号のコックピットの中では全身をゲッター線の光に包まれ、その目すらもゲッター線の光に変わっている武蔵が力なくベアー号の操縦桿を握る姿が映し出されるだけに留まり、とても通信が繋がっている素振りは無かった。

 

「ゲッター線が暴走しているのか」

 

未知のエネルギーであるゲッター線……恐らく今の武蔵の精神状態はゲッター線とリンクしているのだろう。ゲッター線の輝きが増す度に、武蔵の身体に幾何学模様が浮かんでいく、そしてそれはエルザムとゼンガーにも広がろうとしていた

 

「がっ!?」

 

「ぐっうっ!?」

 

足元から広がってくるゲッター線の光、その光が身体の中をかき回すような不快な感覚にゼンガーとエルザムは苦悶の呻き声を上げる。だがそれと同時に2人の脳裏には武蔵の声が響き始めていた

 

【もう嫌だ……なんでこんなことになるんだ】

 

【どうして人間同士で争うんだ……】

 

【恐竜帝国! やらないと……オイラが戦わないと】

 

【リョウも……隼人もいないんだ……オイラが戦わないと、皆……皆死んじまうんだッ!】

 

【どうして……どうしてビアンさんもオイラもこんなに憎まれないといけないんだ】

 

【ゲッターロボは正義の味方なんだ。こんな酷い事をする為に作られたんじゃないッ!!】

 

【こんな……こんな子供になんてひどいことをするんだッ! アードラーッ!!!!!】

 

【なんで、なんでなんで……アヤさんを撃ったんだッ!!!】

 

【なんでだよ……オイラやリョウ……隼人は何の為に戦ったんだよ……こんな未来の為に……戦ったんじゃない……】

 

【わからねえ……オイラにはわからねえよ……リョウ……隼人……早乙女博士……誰でも良い……オイラにどうすればいいのか……オイラに何をすればいいのか……教えてくれよ……】

 

【ドジで間抜けなオイラには……何にも……何にもわからねえんだよ……誰でも良い……教えてくれ……教えてくれよ……】

 

それはこの世界に来てからずっと武蔵が抱えていた悩みだった……声にならない声、助けを求めるその声……それがゼンガーとエルザムの脳裏に響き続ける

 

「……これほどまでに己を追詰めていたのか……武蔵」

 

「……気付くべきだったんだ……私達がッ!!」

 

武蔵はあくまで何の訓練も受けていない高校生だ。それが地球を守る為にゲッターロボのパイロットとなり、地球の……人類の未来の為に戦い……そして死んだ。

 

「どうして気付かなかったんだッ!」

 

コンソールに拳を叩きつけるエルザム。武蔵が旧西暦で戦えたのは、きっと爬虫人類と言う明確な人間では無い敵の存在が大きかったのだろう、そして何よりも仲間の存在があったからだ。だが自分を知ってる人間が誰もいない未来に突然投げ出され、そして人間同士の争いに巻き込まれ、それでも戦っていた武蔵が胸の内にストレスを感じていない訳が無いのだ。それがアヤが撃たれた事を引き金にして、今まで胸に秘め続けていた闇が姿を現し、それがゲッターロボの暴走に繋がったのだ。なんとしても武蔵を正気に戻さなければ、ゲッターロボの暴走は続くだろう。それだけの闇を武蔵は抱えていたのだ

 

「これは!?」

 

「外からの攻撃か!」

 

一瞬ゲッター線の光が消え外が見えた。ハガネやヒリュウ改のPT隊がゲッターに攻撃を与え、そしてゲッターを暴走させているゲッター線を引き剥がしているのだ

 

「……う……」

 

武蔵の声がイーグル号、ジャガー号のコックピットに響く、それは小さな声だった。それでも確かにゼンガーとエルザムには聞えてきた

 

「ゼンガー、チャンスは1度だ」

 

「……判っている」

 

強烈な一撃が叩き込まれ、ゲッター線がゲッター1から引き剥がされた時。その瞬間しか武蔵にはその声が届かない

 

『そうだ、俺だ。お前を狙っているのはこの俺だッ!!』

 

ゲッターの身体に激しい振動が走り、僅かに見えた外からR-2の姿とライの姿が見えた

 

「「武蔵ッ!!!」」

 

「う……うう……」

 

だがそれでもまだ衝撃が足りないのか、武蔵を目覚めさせるにはまだ足りない

 

『リュウセイ少尉! これで決めるぞ!!』

 

『ああ!! ライの作ってくれたチャンスを無駄にはしねえッ!!』

 

ビルの影から飛び出したアルトアイゼンのリボルビングステークがゲッターの胴体を捉える

 

『全弾持って行けッ!!!』

 

「やれ! キョウスケッ!!!!」

 

届かないと判っていてもゼンガーはキョウスケの名を叫んだ、そして凄まじい衝撃が6度ゲッターに叩き込まれる

 

「「武蔵ーッ!!!」」

 

「う……ぜ、ゼンガー……さん……エル……ザム……さん……」

 

リボルビングステークの衝撃でゲッター線が大分剥がされたのか、やっと2人の声が武蔵に届いた。

 

『武蔵!! 武蔵!!! 戻ってきやがれえええええッ!!! 武蔵ーーーーーッ!!!』

 

「「武蔵ーーーーーッ!!!」」

 

外と中からの自分の名を叫ぶ声……それに武蔵が気付き、顔を上げたとき武蔵の全身を包んでいたゲッター線は消え去っていた

 

「すいません……ご迷惑を掛けました」

 

R-GUNからの砲撃をオープンゲットして交わした武蔵の謝罪の言葉が響く

 

「いや、謝るのはこちらだ。良く戻ってくれたぞ、武蔵」

 

「……クロガネに戻ったら話をしよう。私達には会話が足りない」

 

自分を気遣う言葉に武蔵はぐっと涙を堪え、手の甲で乱暴に涙を拭う

 

「まだ戦えますか?」

 

武蔵の問いかけに2人は勿論だと返事を返す。武蔵はその言葉に笑みを浮かべ、ベアー号の操縦桿を強く握り締める。

 

「行きます!!」

 

「「ああッ!!」」

 

ゲットマシンが反転し、機首を下にして急降下していく、その動きに迷いは無く……そして先ほどまでの狂ったような激情の色も無い。

 

「「「おおおーーッ!!!!」」」

 

ゼカリア、ハバククの弾雨を回避しながらゲッターはその加速を高めていく。

 

「チェンジッ!! ゲッタァアアアーーーッ!! スリィィィイイイイイイーーーーッ!!!!」

 

地面にぶつかる前にゲッター3へと合体する。そのカメラアイには力強くも優しいゲッター線の光が宿っているのだった……

 

【ははははーーッ!! そうだ! それで良いのだ! 武蔵! ゲッター線とは人を繋ぐ力、人の思いこそが真なる進化の扉を開くのだッ!!!】

 

【なるほど、それもまたゲッター線の真理か……破壊と創造……それこそがゲッター線の真の姿か】

 

そして復活したゲッター3を見つめる『2人』の早乙女博士の姿がある。ゲッター線に一度は飲まれてもなお、自我を取り戻しそして再び元の優しい心を取り戻した武蔵を眩しそうに見つめる、だがその目はそれだけではなく、非常に悲しげな物でもあった。

 

【許せ、許せよ武蔵。お前はもうゲッターから逃げられぬ。未来永劫続く戦いからは逃げられぬのだ】

 

【ゲッターに関わる者の宿命だが、お前が酷な運命を背負うのはどこの世界でもかわらぬのだな】

 

2人の早乙女は悲しそうに、この運命に武蔵を引きこんだ己達を悔いていた。そして強い風が吹いた時2人の姿は忽然と消えていたのだった……

 

 

第47話 暴走ゲッターロボ! その5へ続く

 

 

 




新の最終回の竜馬の暴走を今回はオマージュして見ました。ゲッター線に囚われるほどに武蔵のゲッター線適合率は上がっておりました、
そしてゲッター3を見つめる2人の早乙女博士、どの世界の早乙女博士かは判っているともいますが、一応前の早乙女博士が「世界最後の日」の早乙女博士、そして後者の早乙女博士が「新」の早乙女博士と言うイメージで書いておりますのでご理解よろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第47話 暴走ゲッターロボ! その5

第47話 暴走ゲッターロボ! その5

 

地響きを立てて着地するゲッター3。そのカメラアイには柔らかな緑の光が灯っている、先ほどまでの冷酷な光ではなく、柔らかい光に元に戻ったのかと言う期待がリュウセイ達の頭を過ぎる。

 

『すまねえ、迷惑を掛けた。だけど、もう大丈夫だ』

 

武蔵の言葉にリュウセイとライは安堵の溜め息を吐き、機能停止したR-1とパワードパーツを失ったR-2が膝をつく

 

「武蔵、いままで休んでたんだ。後は頼むぜ」

 

「俺もリュウセイももう限界だからな」

 

機能停止したR-1達を庇うようにゲッター3が前に出る、ゲッター3も損傷している。だがそれ以上にエネルギーが満ちていた。それにより多少の損傷などお構いなしに戦うことが出来ると武蔵は判断を下していた。

 

「おう、ゆっくり休んでくれ。イングラムは……」

 

フーレから再び出現したゼカリアやハバククの背後に佇むR-GUN。損傷こそしているが、その姿にダメージを受けている素振りは無く。まだ戦えると言うのが如実に現れていた

 

「捕まえて、コックピットから引きずり出してアヤさんに謝らせてやるよ」

 

「ふ、ふふふふッ!! やってみるがいい。だが、今のお前達にそれだけの余裕があるかな?」

 

ゲッターの暴走によってハガネ及びヒリュウ改のPT隊は少なく無いダメージを受けている、それに加えてゼカリアやハバククを盾にし、損害を抑えに抑えたのだが、ゲッターの攻撃の余波でこの地にいる機体ダメージは蓄積している。だが武蔵はイングラムの挑発するような言葉に笑い返し

 

「3人揃ったゲッターロボの力を見せてやるぜッ!! 行くぜ! ゼンガーさんっ! エルザムさんッ!!!」

 

ゲッター3のカメラアイが力強く輝きゼカリアとハバククの群れの中に砂煙を上げながら突っ込んでいく

 

「……キョウスケ。ボスが乗ってるってマジ?」

 

「……正直信じられん」

 

ハガネに搭載されていたゲッターロボシミュレーター。それを試したキョウスケ達だから判る、ゲッターロボは殺人マシンだ。いかにゼンガーとエルザムと言う元教導隊メンバーであっても厳しい……そう思っていたのだが

 

「おらおらおらおらーーーーーッ!!」

 

ゼカリアを両手に掴み、ゼカリアを鈍器にしてゼカリアやハバククを文字通り叩き潰しているゲッター3。暴走していた時のような瞬間移動や、残像だけを残す高速移動はしてこないがむしろ今のゲッターロボのほうが脅威のようにキョウスケには見えていた

 

「オープンゲットッ! ゼンガーさんッ!」

 

だがやはり単機で敵のど真ん中に突撃すれば囲まれるのは必須。ハバクク達の一斉攻撃が放たれた瞬間ゲッター3が爆ぜ、集中砲火を躱す。

 

「応ッ! チェンジッ! ゲッター1ッ!!!」

 

ゲッターから響いたゼンガーの声、地響きを立てて着地するゲッターを見てキョウスケはアルトアイゼンのコックピットで苦笑する。本当にゲッターロボにゼンガーが乗っているとは想像もしていなかったが、暴走している時よりも遥かに動きが良くなったゲッターロボ。それにゼカリア達が殺到し、キョウスケ達の方には一切動いてこない、それだけゲッターロボを脅威と見ている証だろう。

 

「全機、今のうちにハガネへと帰還する。俺とエクセレンで殿を務める、順番に後退して行け」

 

ゲッターの暴走で全員が少なくない精神疲労と、凄まじいエネルギーと弾薬を消費している。無論アルトアイゼンとヴァイスリッターも条件は同じだが、キョウスケはゲッター……いや、武蔵を見極める為に殿を務めることにしたのだ

 

「キョウスケ。ここで残るって結構リスクがあるんだけど」

 

「嫌なら、先に撤退してくれてもいいぞ」

 

キョウスケの言葉にエクセレンは冗談きついわねと笑う。この場でパートナーであるキョウスケを残し、撤退するという選択肢はエクセレンには無かった

 

「!?」

 

「やれやれ、完全にゲッターだけではないか」

 

ビルの影から姿を見せたゼカリアにリボルビングステークを叩き込み破壊し、最後のカートリッジを装填する。

 

「ゲッターロボ……か、あれ本当にただの特機だと思う?」

 

「そう思いたいがな……」

 

エネルギーが形を作り暴れ回る。機体が危険なのか、それともエネルギーが危険なのか……政府がゲッターロボを危険視した理由。最初は冤罪や、何か政府にとって都合の悪い何かを知っていると思っていた……だが現実はそうではなかった。実際にゲッターロボは危険な特機だった、下手をすればハガネとヒリュウ改でも止める事が出来ないほどに強力な存在だった

 

(……それにさっきの視線だ)

 

暴走……それはきっと見ていた全員が思っていただろう。だがあの時のゲッターには目があった、そしてその目は何かを見定めるように、せわしなく動いていた。R-1やヒュッケバインMK-Ⅱ等も見ていたが、ゲッターが注視していたのはアルトアイゼンとヴァイスリッターだった。動きを止めた時ゲッターの目はキョウスケとエクセレンを観察するように、その視線を向けていたのだ。

 

「ぬんっ!!!」

 

ゼンガーが操るゲッターに先ほどまでの異常な力は見られない……その手にした斧でゼカリアを引き裂き、両断し、その質量で文字通り叩き潰し、その拳と足で有無を言わさず破壊していく。それは純粋に特機としての力、だがその凄まじさはキョウスケの知る全ての特機を超えていた

 

(……お前は何を見ていた)

 

今は何も感じられないゲッターロボ、だがキョウスケには確信があった。自分とエクセレンを見ていたと……自分とエクセレンに何があるというのか、あのゲッターの視線を思い出しキョウスケは戦闘中でありながらも思考の海に沈んでいた。

 

「キョウスケ、後は私達だけみたいよ」

 

「……判った。俺達も1度帰還するぞ」

 

戦いに参加するにはエネルギーも弾薬も何もかも足りない、ゲッターロボがゼカリア達を引きつけている光景を見ながらキョウスケとエクセレンもヒリュウ改へと撤退していくのだった……

 

 

 

 

ビルの上に佇むボロボロの白衣を身に纏った大男と小柄な男はゼカリア達と戦っているゲッターロボを見て、小さく溜め息を吐いていた。

 

「どうやら間に合わなかったようだね」

 

「そ、そうだね。残念だけど、間に合わなかったようだ」

 

異常なゲッター線の増幅を感じ、北京まで慌てて来たコーウェンとスティンガーだが、到着してみれば既にゲッターのゲッター線増加現象は終わり、僅かな残滓が残るに留まっていた

 

「しかし新西暦の人間にもゲッター線に適合する者がいたか、いや、それとも強化スーツか……スティンガー君。君はどっちだと思う?」

 

「そ、そうだね。出来れば適合したと考えたいけれど……その割にはゲッターの出力は低くないかい?」

 

ゲッター2へとチェンジしたゲッターロボ。高速で動き回り、ゼカリアやハバククを破壊している姿は確かに圧倒的だ。だが神隼人と言うゲッターパイロットを知っているコーウェンとスティンガーからしてみれば、それは決して完璧にゲッターの性能を引き出しているとは言えない

 

「ふむ……ゲッターに振り回されている。私はそう見るが、ライガーのパイロットとしてはどう見えるね?」

 

「ろ、論外だよ。直線的な加速を組み合わせてはいるが、0か100しかない。動きの緩急をつける事こそがゲッター2やライガーの真髄だよ」

 

なるほどとスティンガーの分析にコーウェンは相槌を打つ。試作のゲッターロボを製作している時に早乙女がイーグル、スティンガーがジャガー、そしてコーウェン自身はベアー号を受け持っていた。

 

「まぁこれは嬉しい誤算と考えようじゃないか」

 

「そ、そうだけど、やはり浅間山の地下は残念だった」

 

「ああ。実に残念だったよ……一手遅れていたねえ」

 

2人がゲッター線を感知して北京に来たのは、2人が日本にいたからこそだ。本来の拠点としているアメリカではなく、日本にいたからこそ暴走が収まる前後で北京に訪れることになった。ただし、2人にとっての誤算は暴走中に間に合わなかったことだ。間に合えば暴走したゲッターを篝火にすることが出来たが、暴走が終わってしまえばそれも叶わない

 

「僅かでもゲッター線が残ってないかと思ったのが間違いだったね、君の忠告を聞くべきだったよ」

 

「さ、早乙女研究所だ。それを思うのは仕方ないさ」

 

武蔵達が新ゲッターを持ち出した後に破壊された早乙女研究所。そこに僅かでもゲッター線が残ってないかと思い、廃棄されたゲッターロボの残骸を調べていたコーウェンとスティンガー……だがそれは全くの無駄足だった。

 

「し、しかし、あのプロトゲッターのゲッター線は何処に消えたのだろうね」

 

「そう、そこだね。100機近いプロトゲッターのゲッター炉心、その全てが空になっているとは考えられない」

 

ゲッター炉心は自動的にゲッター線を蓄える機能がある。廃棄されていてもその機能までが死んでいるとは考えられない、では溜め込んでいたゲッター線が何処へ消えたのかが謎だった。

 

「破壊された早乙女研究所には戦闘の痕跡があった。あそこには何かがいたんだ」

 

「で、でも同胞ではない。だが、ゲッターを敵視する何かがいた」

 

同胞の存在を感知していれば、武蔵達が向かうよりも先に2人は地下に潜りゲッター線を吸収しつくしていただろう。だが気付けなかった……それはゲッターを敵視している何かが存在し、それと武蔵達が交戦したと言う証になる

 

「さてさて、それが何かはもう判らないから良いとして、問題は消えたゲッター線だ。スティンガー君、僕は武蔵のゲッターのゲッター炉心に宿ってしまったと考えているのだが、君はどう思う?」

 

「う、うーん、その可能性はきわめて高いと思うよ。だけど、旧ゲッターの炉心がそれだけのゲッター線を受け入れる事が出来るだろうか?」

 

「確かに……では炉心を積み替えたというのはどうだろうか?」

 

「いや、あれだけのゲッターのゲッター線を蓄えるには真ゲッタークラスの炉心で無ければ無理だよ」

 

武蔵のゲッターロボがパワーアップしているのは認める。だが、サイズは変わっていないとなると真ゲッターの炉心を組み込まれているとは考えにくい、旧ゲッターロボだと思っていたのだが別のゲッターロボだったのだろうかと2人は考えを巡らせる。

 

「ふーむ、判らないねえ」

 

「う、うん。判らないねえ……」

 

何故武蔵のゲッターがここまでパワーアップしたのか、そして早乙女研究所に眠っていたプロトゲッターのゲッター線は何処に消えてしまったのか……

 

「篝火にするほどのパワーアップなら話が早いんだけどね」

 

「ま、まだゲッターロボGクラスのパワーだ。これでは篝火にするには程遠い」

 

名残惜しそうにゲッターロボを見つめたコーウェンとスティンガーは踵を返す、これ以上ここにいても得る物は無い……いや、得る物はある

 

「あの異星人の機体持って帰ろうか?」

 

「い、いいねえ! 我々のゲッターを作るには資材が足りない。それにメタルビーストにする素体もいくつあっても足りないしねえ」

 

だが2人はただでは転ばない、一度は人間を甘く見て敗れた。だが二度目の今、人間もゲッターロボも侮ることは無い。万全に万全を期して今度こそ自らの宿願を成し遂げるのだ。

 

「急ごうか、そろそろ敵の勢いが収まって来ている」

 

「そ、そうだね。30機ずつくらい回収していこうか」

 

R-GUNとゲッター3が戦う中、コーウェンとスティンガーの影がありえないほどに伸び、影の中から現れた黄色の目玉がついた触手がゼカリアとハバククを飲み込んでいく

 

「見られてるねえ、どうする?あいつらも飲み込んでおこうか」

 

「は、ははは、思ってもないことを言う物じゃないよ。今の僕達じゃ、同胞を増やせないじゃないか。だから今は目的を達成して帰ろうよ」

 

ハガネ、ヒリュウ改、そしてクロガネからの敵意を感じながら、2人はゼカリアの残骸達を吸収していく。その顔には笑みが浮かんでおり、自分達はPTなんていうゲッターロボの出来損ないには負けないと言う絶対の自信と共に、ハガネ達のブリッジに向かって手を振るのだった……

 

 

 

 

ベアー号のコックピットで武蔵は奇妙な違和感を感じていた。R-GUN……イングラムが地球を脅かす異星人側の人間だった。と言う割には攻撃が甘いのだ、言い換えるのならば……殺意が足りない

 

(お前もそう思うだろう、兄弟)

 

ゲッターの出力は1人乗りよりも上がっている、だが一定以上には上がらない。それはまるで、自分にイングラムを殺すなと訴えかけているような気がする

 

「何を迷っている、武蔵。俺は敵だぞ?」

 

「敵が俺は敵だなんて馬鹿みたいなことを言うんだなあって思ってなッ!!!」

 

ゲッターパンチをR-GUNに叩き込むが何かに邪魔され、クリーンヒットの手応えではない。R-GUN自身が後方に飛んだのもあると思うが……R-GUNにはバリアがあるのだろうかと武蔵は考えを巡らせる。

 

『ヴァルシオンやグランゾンほどではないが、バリアを常時展開しているようだ』

 

エルザムに問いかけるとバリアが展開されていると返事が来る。気合を入れてぶん殴る、これが一番早いのだがイングラムを殺す訳には行かない

 

「ふふふ、どうした? 俺が憎くないのか?」

 

「正直なんとも言えないんだよなあ」

 

この挑発するような言葉がどうしても武蔵に引っ掛かりを与えていた。それにゼカリア達がキョウスケ達がこちら側に来るのを阻んでいるが、それにも妙な違和感を感じている。ゲッターロボは確かに強い、最強のスーパーロボットであることは間違いない。だが、やはり旧西暦の遺物なのだ。集中攻撃を受ければ、装甲も損傷するし、ダメージも蓄積する。それなのに後ろを取れるのに、背後から攻撃してこないのは明らかにおかしい

 

『武蔵、何を考えている?』

 

イーグル号からのゼンガーの声に武蔵は返答に悩み、そして通信ではなくオープンチャンネルで問いかけた

 

「なぁ? イングラムさんよ。あんた……操られてるんじゃないかい?」

 

「何を馬鹿な事を言い出すと思ったら、俺はお前達を騙していたに過ぎない」

 

R-GUNのツインマグナライフルを腕で防ぎながらゲッター3は間合いを詰めていく

 

「そこがおいらからするとまずおかしいんだよなあ。なんで裏切ってる人間がそんな事を態々丁寧に言うんだ?」

 

「リュウセイ達のような貴重なサンプルに激しい怒りを抱かせ、その力をより高める為にだ」

 

オープンチャンネルで会話を交す、武蔵とイングラム。だがその間もゲッター3とR-GUNの戦いは激しさを増していく、ビルが倒壊し、ゲッターの拳が道路を粉砕する。ビームライフルがビルを蒸発させ、ゲッターミサイルが大地を割る。だがそれは決して北京の住人が避難している地区には向けられていない、それが武蔵の予想を確信へと変えていた。

 

「その割には攻撃が手緩くないかい? オイラなら怒りを買うって言うなら1人か2人は殺す、絶対に殺す」

 

「ふふふ、なんだ随分と過激な事を言うのだな」

 

武蔵らしからぬ過激な言葉にハガネ、ヒリュウ改に沈黙が広がる。だが武蔵はお構いなしで言葉を投げかける

 

「恐竜帝国は人間側の知識を得る為に人間を解剖したり、コンピューターに繋げたりしていた。それこそ、手足……いや、胴体だって必要ない。頭だけあれば全て事足りるってあいつらは言ってた」

 

「それで、なんで俺が操られていると言う答えが出る?」

 

「技術が欲しいなら、機体を持って帰ればいい。特殊能力を調べたいなら、頭だけ生かせばいい。少なくとも恐竜帝国はそういうやり方をしていた」

 

「トカゲの化け物と一緒にして欲しくない物だな」

 

「そうだろうな、少なくとも、恐竜帝国よりも効率的な方法があるんだろうな。で、その上で聞くぜ。なんで殺そうとしない?」

 

執拗に何故殺そうとしないと問いかける武蔵。少なくとも武蔵はイングラムの攻撃に殺意がないのを感じ取っていた、長い間恐竜帝国と戦っていた武蔵は人の敵意や殺意を感じ取る能力が異常に発達していた。

 

「言っただろう? 特殊なサンプルを殺してどうする」

 

「全員が全員そうじゃないだろう? 少なくとも怒りを買うなら、殺した方が早い。オイラだって、リョウだって、隼人だって……友達を失ったし、住んでる街も失った。その上で聞くぜ、なんで戦艦を落とそうとしない? ミサイルを撃ち込まない?」

 

何故殺そうとしない? と繰り返し問いかける武蔵。いつの間にかR-GUNは後ろに後退し、ゲッター3に追詰められる形になっていた。

そしてその動きはキョウスケ達にも武蔵の問いかけが真実なのではと言う考えを持たせるには十分な動きだった

 

「まぁ詳しくはコックピットから引きずり出して、聞くことにするぜッ!!!」

 

「しまっ!?」

 

無意識に後退していたイングラムはビルの間に押し込まれ、ゲッターから逃げる道を完全に失っていた。高速で伸ばされたゲッターアームがR-GUNの胴体を掴み、自身の頭上に持ち上げる伸縮自在の両腕でR-GUNを締め上げる

 

「必殺! 大ッ! 雪ッ! 山ッ!!!」

 

伸ばされた腕が螺旋回転し、R-GUNを破壊しながら上へ、上へと運んでいく。真空の刃で切り裂かれ続けたR-GUNのカメラアイから光が消え、その腕が完全に脱力する

 

「おろ……ぐあっ!?」

 

R-GUNを叩きつけようとした時、背後からの射撃で大雪山おろしが中断させられる。振り返ったゲッター3の視線の先には鎧騎士のような新型の姿があった。新型の狙撃でバランスを崩したゲッター3とR-GUNとの間にその新型が割り込みその手をRーGUNに向ける。

 

「迎えに来たわよ、イングラム」

 

「ご苦労……ぐっ……頭が……」

 

動力系統を破壊されたR-GUNを破棄し、イングラムは新型の手の上に乗った所で、頭を抑え糸が切れた人形のように新型の手の上で崩れ落ちた。意識を失う前の苦しむ姿に武蔵の言った操られている説がより、信憑性を増させていた

 

「逃がしちまった……か」

 

暴走していた時にゲッターに負担がかかっていた。その負担のせいで、大した攻撃でもないキャノン砲でゲッター3は完全に動きを止めてしまっていた

 

『武蔵君、無事かね』

 

「ご迷惑を掛けました。オイラは無事です」

 

ビアンからの通信に武蔵はベアー号の背もたれに背中を預けながら返事を返す

 

「ゼンガーさんとエルザムさんも大丈夫ですか?」

 

『俺は問題ない。この程度でどうこうなるほど柔な鍛え方はしていない』

 

『私の方も問題ない。武蔵君こそ大丈夫か?』

 

エルザムの気遣う言葉に武蔵は自分が意識を失っている時によほど心配を掛けたのだと理解し、再び謝罪の言葉を口にする。

 

『気にする事はない、武蔵君は子供なのだからもっと大人を頼ってくれ』

 

『……口にしなければ判らぬこともある』

 

自分よりも遥か年上の2人の言葉に武蔵は素直に判りましたと返事を返す

 

「ビアンさん、それでオイラ達はどうしますか?」

 

隠れている予定だったが、ビアンもゼンガーもエルザムも表舞台に出てきてしまった。このまま離脱するというのは明らかに無理がある

 

『ダイテツ・ミナセから話をしたいという要請が入っている』

 

「正直少し気まずいですね」

 

タクラマカン砂漠での戦い、ジュネーブでの戦い、そして今北京での戦い。ハガネはともかく、ヒリュウ改の面子とは印象が悪いだろうなあと苦笑し、ゲッター3は1度クロガネへと帰還するのだった……だが武蔵は知る由もない、この戦いの間にハガネのクルーの1人がイングラムによって連れ去られていると言うことに……

 

 

 

 

 

エアロゲイターの侵攻を防いだが、与えられた被害は決して軽微ではない。あると思われていた人型機動兵器、そして空間転移による絶え間ない敵の増援……連邦軍の中でも戦力に秀でているハガネとヒリュウ改でも苦しい戦いになるのは明らかだ。

 

「艦長、本当にビアン・ゾルダークと話をするのですか?」

 

「中尉は反対か?」

 

ダイテツの問いかけにテツヤは正直判りませんと返事を返した。ビアン自身が地球圏のことを思っていることは明らか、だがDCは結局暴走し、そして凄まじい非道を行った。それがどうしてもテツヤには引っかかってしまう

 

「イングラム少佐が敵に回った以上、ワシ達に手段を選んでいる余裕はない。それにEOTについて最も詳しいのはビアンだ、彼と協力す

る事は決して無駄ではない。これはレイカーも認めている」

 

可能ならばオペレーションSRWにゲッターロボとクロガネの参加はさせたいとレイカーもダイテツも考えていた

 

「それに、あの人影のことを忘れるな」

 

「……あれもエアロゲイターだったのでしょうか」

 

戦闘中に突然現れた2人組。触手を操りエアロゲイターの人型を回収して行ったあの2人組。姿は人間だが、あの触手はどう見ても2人から生えていた。人型の異星人……あれがエアロゲイターの本性なのか、それとも全く異なる異星人なのかは不明だ。

 

「クスハ曹長が着艦しておりません」

 

エイタからの報告にダイテツもテツヤも顔を顰めた。……あれだけの乱戦だ、その乱戦にまぎれてクスハとグルンガスト弐式が連れ去られてしまったと言う事実に今更ながらに気づいてしまった

 

「リュウセイ少尉達は?」

 

「現在医療室で治療中です。恐らく意識を取り戻すのは数時間後かと……」

 

エイタからの報告にダイテツは頭を悩まさせる。今回は敵を退けることが出来た、だがこちらに与えられた損害が余りに大きすぎる

 

「ヒリュウ改とクロガネに入電、ランデブーポイントを沖縄沖の無人島A-X地点に指定、伊豆基地に帰還する前に会談を行う」

 

やはりビアンとの話し合いは必須だ。今の連邦にはエアロゲイターの情報は何もない、行動を共にするのは表立っては難しいとしてもビアンと武蔵の協力を得ることは必須だ。ダイテツはそう判断し、クロガネとヒリュウ改に入電する事を命じ艦長席に深く背中を預ける

 

(苦しい戦いになる)

 

制空権は完全にエアロゲイターに奪われ、そして敵戦力はこちらよりも遥かに強大で、そして膨大だ。戦力差、そしてその戦力の純度の高さを見せつけられた形になったが、それでもダイテツの闘志は折れない。地球を護ると言う強い意思……連邦とDCと言う形で袂をわかったが、それでも目指す所は同じ。ならば再び手を取り合うことは不可能ではないのだから……

 

 

 

第48話 これからへ続く

 

 




イングラムが武蔵の言葉に揺らぎ、原作通りクスハは拉致となりました。次回の仮面の下にある顔の前にインターバルを入れて、仮面の下にある顔や、偽りの影などの話に入っていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第48話 これから

第48話 これから

 

北京でのエアロゲイターとの戦いを終えたハガネ、ヒリュウ改、そしてクロガネは沖縄近海の無人島にステルスシェードを展開し、揚陸していた。損傷度も凄まじく本来ならば今すぐにでも伊豆に帰還するべきだが、それではビアン達と話す事が出来ない。その為に隠れるようにして無人島に向かったのだ

 

「あれか……ゲッターロボ……じゃあ、ないな」

 

ハガネへと着艦したのはゲッターロボではなかった。だが明らかにゲッターの系譜を持つ機体だとロブは感じていた、だがジュネーブで見たドラゴンやライガーとは異なり、武蔵の乗るゲッターロボに似た姿をしたイーグル号がないゲッターロボがゆっくりとハガネの格納庫に着地する、エアロゲイターとの戦いで暴走したゲッターロボではないと言うことに僅かに安堵の溜め息が漏れるのが判る。自身もそうだ、ハガネのモニターに映されていたエネルギーに包まれ巨大化したゲッターロボ。その姿は暫く忘れることが出来そうにない

 

「大丈夫ですか?」

 

「ああ、問題ない」

 

武蔵に手を借りてジャガー号から壮年の男性が下りてくる……いや、男性等とは言うまい。死んだ筈のDCの総帥ビアン・ゾルダークの姿がそこにはあった……思う事がなかった訳ではない、1発殴るといき込んでいた整備兵もいた。だがそれを実行することはなかった……何故ならば……

 

「このくそ親父ッ!!!」

 

「ぐっ!?」

 

リューネが誰よりも早く駆け出し、その拳をビアンに叩き込んだからだ。その衝撃で数メートルは吹き飛んだが、それでもビアンは倒れる事無く自身に向かってくるリューネに視線を向ける

 

「すまなかったな、リューネ」

 

「……! 生きてるなら、生きてるくらい言えよッ!!」

 

「すまん……私には果たさねばならぬ責任があった」

 

「謝るなら最初から、戦争なんて始めるなよッ!!」

 

「……すまん」

 

リューネも正直自分の中で感情を持て余していた。父親が生きていたのは嬉しい、だが、戦争を始めた事に関しては怒りを覚えている。もう会えないと思っていたビアンに会えて、その感情が爆発してしまったのだろう

 

「ロブさん、すまねえ。暫くは2人だけにしてやってほしい」

 

「……っ! あ、ああすまない」

 

武蔵に肩を掴まれ我に帰ったロブは手を叩き、好奇心で見てみた整備兵達に移動を促す。

 

「久しぶりだな、武蔵」

 

「ですね、アイドネウス島で別れたのが随分と昔の事に思えますよ」

 

それだけ濃密な時間が過ぎていた、アードラーの暴走に、量産型ゲッターロボの存在……短い時間でも長い時間に感じるのは当然の事だ

 

「……あれ、回収したんですか?」

 

「ああ、何か判るかもしれないと思ったし、何よりも貴重なトロニウムだ。失うわけには行かない」

 

ゲッター3によって半壊したR-GUNが格納庫にあるのを見つけた武蔵は複雑そうな表情をする。

 

「もしかしてオイラのせいで変な事になってません?」

 

「正直そうだな、二分されてるよ」

 

武蔵がイングラムを問い詰め、そしてイングラムは動揺し、そして頭を抑え苦痛に耐える姿を見せた。それはイングラムが操られていると言う武蔵の話に信憑性を持たせるには十分だった

 

「何か根拠はあったのか?」

 

「……殺気と敵意をあんまり感じなかったってのが大きいですね」

 

殺気と敵意……根拠にするには余りに弱い。だが武蔵は自身の勘を信じ、そしてイングラムから僅かながらに情報を引き出すことに成功していた

 

「それよりもあれはゲッターロボでいいのか?」

 

「……多分ゲッターロボなんでしょうね」

 

「多分……なんだビアン博士が作り上げたのか?」

 

それならイーグル号が無いのも納得出来ると思いながら尋ねるロブ、だが武蔵は真剣な顔をして

 

「浅間山の地下に爬虫人類と鬼……そしてあのゲッターロボが眠っていたんですよ」

 

「……本当か?」

 

「詳しくはビアンさんが話をしてくれると思いますけど、未来に来ているのはオイラだけじゃないみたいなんです」

 

ゲッターロボ、武蔵、そして恐竜帝国と旧西暦から現れた存在は多い。だが、姿を見せていないだけで多くの存在がいるかもしれない……そう思うとロブは溜め息を吐きたくなった

 

「ブリット! 何でクスハを守ってやれなかったんだ!?」

 

「こっちだって敵機と戦うので精一杯だったんだ! お前がSRXの合体に成功していればこんなことには……!」

 

そして聞えてきたブリットとリュウセイの言い争う声が通路から響いてきて本当に溜め息を吐いた

 

「て、てめえっ!!」

 

「ぐっ…! じゃあ、お前だったらクスハを守れたと言うのか!?」

 

「な、何だと!?」

 

「お前はクスハの何なんだ!? ただの幼なじみか!? それとも恋人なのか!?」

 

「……!」

 

「あの子の本当の気持ちも知らないくせに……何もしてやれないくせに……偉そうな口を利くな!!」

 

いつの間にか愁嘆場になっているリュウセイとブリットの口論、そしてブリットが大きく拳を振りかぶりリュウセイに叩きつけようとした時

 

「悪いが、そこまでにしてやってくれるか?」

 

武蔵がリュウセイとブリットの間に割り込み、その拳を受け止める。同じく止めに入ろうとしていたジャーダが武蔵の顔を見て顔を輝かせる

 

「武蔵! 良く来てくれた、またいなくなっちまうのかと思ったぜ」

 

「ジャーダさんも元気そうで何よりです」

 

ブリットの拳を受け止めながら和やかに挨拶する武蔵だったが、ブリットの方に向き直り

 

「思うことはあると思うが、それで八つ当たりしてどうにかなるのか?」

 

「う、うるさいッ! お、お前だって! 北京で大暴れしていたじゃないか! そんな奴に言われることは何も無いッ!!!」

 

左拳を武蔵に向かって振るおうとしたブリットだったが、懐で回転した武蔵の背中の上に乗り上げ、そのまま通路に背中から叩きつけられる。流れるような一本背負いにブリットは苦痛で呻き声を上げる

 

「んなもん、オイラだって判ってる。少なくともオイラがぶち切れなければ、ゲッターが暴走しなければ、出来たこともあっただろうさ。だけどそれはたらればの話だ……ここで八つ当たりしてる暇があるんならどうやってクスハを取り戻すか考えた方がよっぽど有意義だとは思わないか?」

 

「だが! リュウセイ「だから八つ当たりするんじゃねえよ、それともなんだ。足腰立たなくなるまでぶん投げてやろうか?」

 

背負い投げの痛みを思い出したのか黙り込むブリットに武蔵はすまねえなと謝る。

 

「偉そうな事を言える立場じゃねえが、クスハを助けたいのは皆同じだ。仲間割れしてる場合じゃないだろ?」

 

「……すまない、リュウセイ」

 

「い、いや、俺こそ悪かった」

 

武蔵が仲裁に入った事で険悪だったブリットとリュウセイもぎこちないながらに謝罪をかわす

 

「む。まだこんな所にいたのか、武蔵君」

 

「……随分と殴られましたね」

 

「仕方あるまい、リューネはお転婆だからな」

 

「誰がお転婆だ、誰が」

 

リューネにぼこぼこにされたビアンがリューネと共に格納庫から歩いてくる。元とは言えDC総帥の登場にリュウセイ達の間に緊張が走るが、今はそれ所ではないと判っているのか視線を向けるだけに留まり、武蔵はビアンとリューネと共にハガネの艦長室に向かって歩き出すのだった

 

 

 

 

ハガネの艦長室にはダイテツとテツヤだけではない、レフィーナとショーンの姿もあった。ビアンそして武蔵との話し合いの場を設ける……確かにビアンはDCを結成し、戦争を始めたという戦犯ではある。だがその思いの根底には地球を護ると言う願いがあった……だからこそ、今回ダイテツ達はビアンとの話し合いに踏み切る事にしたのだ。だがしかしそれでも、警戒するのは当然の事であった、もっともそれでいてもビアンの存在が必要であることはダイテツ達全員が理解していたのだが

 

「こうして再び顔を見合わせることになるとはな、ビアン・ゾルダーク」

 

「……うむ、私もだ。こうして無様に生き延びることになるとは思ってなかったよ」

 

互いに苦笑しあうビアンとダイテツ。確かに敵同士であったが、今この状況においてはビアンは頼もしい味方だ

 

「ビアン博士、エアロゲイター側の人型兵器の情報はあるのですか?」

 

「勿論だ。連邦にはしっかりと分析データと解析データを渡しておいたのだが……その様子ではそのデータは手元にはないようだな」

 

やれやれという様子で肩を竦めるビアンは服の内ポケットからデータディスクを取り出す

 

「解析データと分析データだ。だがあの新型のデータはないぞ」

 

「新型……ゲッターロボを後ろから撃った機体ですね」

 

R-GUNを完全に破壊する前にゲッターを攻撃した騎士のような姿をした機体。今回は不意打ちで留まったが、それが強大な敵となるのは明らかだった

 

「ふむ。ではエアロゲイターは態々自分達のデータを渡し、対策を練られた機体を作らせ、そしてその上でイングラムが言うサンプルとしての回収を目的にしていると言う事ですか」

 

「確証はないが、恐らくエアロゲイターの星の人間はかなり少ないか、もしくは危機に瀕しているのではなかろうか」

 

「侵略しておいて危機に陥っているとは?」

 

テツヤの問いかけにビアンは自身の推測になると前置きしてから、そう考えている理由と根拠を説明し始めた

 

「まずだが、回収した機体にコックピットは無かった。つまりあれはパイロットが乗る前提ではないと言うことだ、次にソルジャーとファットマンも捕獲用の装備を搭載している点だ。敵を殺す目的ならば捕獲用のしかも人に使う前提の装備など搭載する必要は無い。そして最後にほぼ全てが無人機と言うこと、しかもあれだけ高度なAIを搭載出来るにも関わらず、武装の貧弱さが目立つ」

 

短い時間でこれだけの事を分析していたのかとダイテツ達は驚き、そしてやはりビアンの存在はエアロゲイターとの戦いに必須だと確信していた。

 

「加えて最後にホワイトスターだが、あれが本当に侵略兵器ならば地球は今頃火の海だ。恐らくアレは回収した機動兵器やパイロットを自分達の星に連れ帰る為の言うならば虫篭ではないかと私は考えている」

 

「いやはや、良く其処まで分析したと言うべきでしょうか?」

 

余りに細かく、そして敵の情勢までも推測しているビアンにショーンが苦笑を浮かべながら拍手をする。

 

「殺さない目的は判りましたが、しかし危機に陥っているとはどういうことでしょうか?」

 

「これは完全な憶測になるが、AI制御の機体と巨大な捕獲用のプラント、そしてイングラムか? 彼が頭を押さえ苦しそうに蹲っていた……これが私の考えを裏付けする証拠と考えているのだが、AI制御の機体とホワイトスターは恐らく複数存在する。そしてそれらは宇宙を漂い、そして有益な星にメテオを打ち込み、科学技術などを発展させ収穫する時にその星の人間を操り尖兵にすると言う事を自動的に行うようにプログラムされているのではないだろうか?」

 

ビアンの推測は余りに大胆な物だった、まさかあのホワイトスターが自動的に技術レベルを判断して、そしてその上でメテオを打ち込み技術を躍進させ、そして時期を見たら回収する等と誰もが思いつかないだろう

 

「そうなると我々は家畜と言う所ですか」

 

「出荷先は遠い銀河系の果てとなりますけどね」

 

侵略兵器ではなくまさかの回収する為の装置などとは誰も想像しない、そして更に其処にビアンは爆弾を投下する。

 

「銀河の果てに星があればいいがね。もしかするとエアロゲイターの星は既に滅んでいて、AIが勝手に行動していると言う可能性もゼロではないよ」

 

「笑えない話だな、侵略者ではなく、既に滅んだ星の遺物に襲われているとは」

 

あくまでの可能性の話だが、侵略者として打ち倒すことしか考えていなかったダイテツ達からすれば目から鱗の話だった。

 

「でもビアンさん、降伏勧告があったって言うじゃないですか? それはどうなんですか?」

 

「1人か2人はエアロゲイターの星の人間がいるのか、それとも攫われて洗脳されたのか、はたまた録音されていた音声か……考えられるのは主にこの3つだが、そんなにもありえない話だと思うかね?」

 

ビアンが上げた3つの可能性、その何れもありえる話だけに誰もが口を紡ぐことになった。

 

「ビアン博士、連邦はホワイトスター攻略戦に向けて行動しています。武蔵さんもそうですが、私達に協力してくれませんか?」

 

レフィーナがビアンと武蔵にそう頼み込む、だがそれに対してビアンの反応は渋い物だった

 

「何か大きな反抗作戦をしようとしていることは私も把握していたが、今は駄目だ。私とクロガネは少なくとも、この会談が終われば離脱する」

 

「……連邦の応援か」

 

連邦の応援が来る前に離脱したとは言え、それでも民間人の口に戸を立てることは出来ない誰かがクロガネの目撃情報を告げるだろう。そうなれば、追われる身。もし協力するとすれば、それはオペレーションSRWが実行されその後に発生するであろう混乱に紛れ込み参戦する事だろう。

 

「そう言えば、ゼンガー少佐達は?」

 

「……ゲッターの操縦で全身打撲と打ち身で医務室送りです」

 

武蔵の申し訳なさそうな言葉に艦長室に嫌な沈黙が満ちた

 

「えっと全身打撲? ゼンガー少佐がですか?」

 

「うむ、ゲッターロボはパイロットの安全性など一切考慮していないマシンだ。戦闘中は興奮していたから平気だったが、降りた瞬間に2人とも崩れ落ち、そのまま担架で運ばれて行ったよ」

 

ゼンガー達が来ない理由がまさか負傷による病室送りだった、しかも操縦するだけでその有様。ゲッターロボの脅威を改めて知ったダイテツだった

 

「ゲッターの暴走は理由があったのか?」

 

「はい、浅間山の地下の早乙女研究所から回収したゲッター炉心が原因でした」

 

「浅間山って、前の深夜の地震の震源地ですよね?」

 

「すんません、地下で鬼とゲッターロボで戦ってました」

 

鬼? 恐竜帝国ではなく、鬼……武蔵から告げられた言葉にダイテツ達の目が丸くなる

 

「私が会談に参加する事を決めたのはそれだ。これをみて欲しい、これは合成でもなんでもない。数日前に浅間山の地下で起きた戦いだ」

 

ビアンの差し出した記録データが艦長室に流され始める、まだこの会談は始まったばかりである……

 

 

 

 

 

早乙女研究所……武蔵が所属していたという研究所が浅間山の地下に埋まっていた、それは信じられない話だった。だがビアン、ゼンガー、エルザム、そして武蔵の4人による調査の映像データを見てダイテツ達はそれを信じざるしか得なかった。

 

「……あれが爬虫人類ですか、実際に見てみると中々気味が悪いですね」

 

「武蔵、あれがどれくらいの規模で襲って来てたんだ?」

 

「10000人単位ですかねえ、もう殆ど群れで頭を潰さないと何度でも復活するんですよ」

 

「……すいません、私ちょっと気持ち悪いです」

 

艦長室に流されるR-18G確定の映像にレフィーナが顔を青くさせて、気持ち悪いと挙手する。

 

「ふむ、では生身の戦いの部分は飛ばそうか、あくまで武蔵君が戦っていた相手の危険性を理解させる為に流しただけだからな」

 

ビアンがタブレットを操作して、映像を飛ばす。場面が切り替わり、映し出されたのは鬼の顔に手足がついたような醜悪な異形と戦う胴体と頭の無いゲッターロボの映像だった

 

「これはお前達がハガネに乗ってきたゲッターロボか?」

 

「ああ、浅間山の地下に眠っていた物だ。性能的には武蔵君の乗るゲッターの3倍近いスペックだ」

 

武蔵のゲッターの3倍近いスペックと聞いて目を見開くダイテツだが、続く言葉に絶句した。

 

「なお乗ってる人間が加速する速度に耐え切れず、骨折するレベルだ」

 

「性能を上げてもパイロットの安全性を考えない辺りさすが早乙女博士って感じですね」

 

何が流石なのか判らないが、早乙女博士が実は危険人物と言うのは全員が納得してしまった。

 

「あの浅間山の地下のプロトゲッターは回収出来ないのか? 戦力として十分だと思うんだが」

 

「いやぁ、鬼を倒すのにゲッター炉心を爆発させたんで、全部吹き飛んでますよ。多分それで地震になってしまったんでしょうね」

 

「それに仮にゲッターを修理してもパイロットがいないと言う根本的な問題は何一つ解決していないぞ」

 

パイロット不在、それがゲッターロボが抱える最大の問題となっている、ビアンは勿論対策を考えているとは言うが……

 

「自信のあったパイロットスーツでも駄目だった以上。やはり更に強化する必要があるな」

 

「……そんなスーツがないと乗れないゲッターロボを生身で操縦する武蔵さんって何者なんですか?」

 

「え? 普通の学生ですけど?」

 

絶対普通じゃない……その言葉をぎりぎりで飲み込んだレフィーナは、誤魔化すように笑いかけ。武蔵は照れた様子で手を振る

 

「ではもしかしてゲッターロボが暴走したのは?」

 

「炉心を交換したことによるゲッター線の上昇が原因だと考えている。パイロットを増やすことが出来ないのならば、せめて炉心だけでもと考えたのだが、まさか暴走を引き起こすとは想定外だ」

 

エネルギーで出来た身体を持ったゲッターロボ、その暴走は正直言ってハガネとヒリュウ改を轟沈させかねないレベルだった。

 

「応急処置程度だがリミッターを増設したから暴走することはないと思うが……やはりゲッター線は未知数と言うことだ」

 

だがその未知数の危険性を秘めたゲッターでさえも使わなければエアロゲイターと戦うことも出来ないほどに追詰められているのも事実。

 

「気をつけなければならないのはオペレーションSRWに鬼や恐竜帝国の生き残りが乱入しないとは言い切れないことだ。無論、クロガネも武蔵君もオペレーションSRWには参加する。だが万が一には備えて欲しい」

 

その後の話し合いで武蔵とゲッターロボは暫くの間ハガネに預けられることになった。エアロゲイターとの戦いに必要になることは明らかであり、そしてパイロット同士の交友を深める必要もあるとビアンは判断したのだ

 

「ビアン、お前は何をするつもりだ?」

 

「ジュネーブから逃走したシュトレーゼマンがまた何かしようとしている。尻尾を掴んだら、武蔵君とゲッターロボは呼び戻させて貰う」

 

それはビアンなりの配慮だった。表立って動けば軍人と言う事で立場を悪くするハガネとヒリュウ改では無く、元々追われる立場であるクロガネがシュトレーゼマンを追うと言う決断を下したのだ

 

「武蔵君、気をつけてな」

 

「ビアンさんも。リューネさんに何か伝えることは?」

 

「何も無い、あの子は強い子だ。なに、これが今生の別れとなるわけじゃない。ダイテツ、そしてレフィーナ艦長。オペレーションSRWでまた会おう。何か判れば連絡する、その時はよろしく頼むぞ武蔵君」

 

「地球の裏側だってすぐ向かいますよ。ビアンさんも気をつけて」

 

ビアンと武蔵はそう笑いあい再会の約束をして分かれる、ビアンは頭部の無いゲッターロボに乗り込みハガネを後にする。

 

「じゃあ、ダイテツさん。またよろしくお願いします」

 

「ああ、ヒリュウ改のクルーにも紹介しよう」

 

そして再び武蔵とダイテツ達の道は1つに交わるのだった……

 

 

 

 

武蔵とゲッターロボの登場によって、この世界の歴史は大きく変わり始めていた。だがそれは悪い方向ではなく、良い方向にも変わっていた、そしてこれはそんな良き方向に変わった1つの出来事……

 

「シンシア! シンシアー!!」

 

避難所に顔色を変えて飛び込む士官服の男性。声を張り上げ自らの妻の名を叫ぶ……正史では、ここで男は妻だけではなく、両親とも死に判れ、そしてその死に顔を見ることすら叶わぬという悲劇に見舞われた。だが……神は男から大事な物を取り上げることは無かった。

 

「リンジュン! リンジュン! ここよ! 私はここよッ!!!」

 

「お、おおお……シンシアッ! シンシアッ!!!」

 

避難民の中に自分の名を呼び手を振り返す女の姿を見つけ、涙を浮かべながらシンシアへと走るリー・リンジュン

 

「良かった……無事で本当によかった」

 

「あの赤いロボットが助けてくれたのよ」

 

赤いロボット……シンシアから告げられたロボットの特徴を聞いて、リーは一瞬で理解した、軍から捕縛命令が下され、そして今では協力要請をしろと命じられているゲッターロボが妻を助けてくれたのだと……

 

「父と……母は?」

 

「2人も無事よ、ほら」

 

シンシアの指差した方向を振り返るリーの視線の先には松葉杖を突いているが、それでも元気そうな両親の姿を見つける。リーを見つけて手を振る両親に今度こそリーはその場に泣き崩れた。北京が戦場になり、もう妻も両親も死んだとリーの部隊の全員がそう思っていた

 

「姉さん! 姉さん!! 無事だったんだな!」

 

「貴方こそ! 良かった! 良かったわ!」

 

「なんだあ、くたばり損なったか、この馬鹿孫がッ!!」

 

「っああ! 死にぞこなったよ! お前だって生きてるじゃねえかよ! この糞爺ッ!!」

 

感動の再会をしている者、大喧嘩をし絶縁となっていた家族との再会に互いに罵り合う事しか出来ない不器用な者……だが北京にいた連邦の兵士の大半が家族や婚約者をゲッターロボ……武蔵によって救われた。それが後にリー自身もの運命を変える事になるとはこの時リー自身も予想だにしないのだった……

 

 

第49話 巴武蔵②へ続く

 

 




はい、まさかのリーに起こった悲劇回避ルート、これも1つの原作死亡キャラ生存ルートですね。次回はヒリュウ改のクルーとの話をする武蔵を書いていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第49話 巴武蔵②

第49話 巴武蔵②

 

暫くの間ハガネとヒリュウ改と行動を共にする事になった武蔵は北京から伊豆の極東基地に居た。レイカー自らが武蔵がオペレーションSRWに参加してくれるのかと云う事を聞く為とクロガネに保護されていたリシュウとマリオンの2人を受け渡すと言う為だった。

 

「こうして顔を見合わせるのは初めてだな、レイカー・ランドルフだ。伊豆基地は君を歓迎する、巴武蔵君」

 

「え、あーどうも、少しの間ですけどお世話になります」

 

小さく頭を下げる武蔵にレイカーは笑みを浮かべ、椅子に座るように促す

 

「そんなに緊張することも無い、ここに居るのは私だけだからな。これは信頼の証と受け取って貰えるとありがたい」

 

1つの基地の司令が護衛も無しにDCの中心人物と縁の深い武蔵と話をする。これはサカエを初めとした伊豆基地の全員に反対されたが、武蔵からの信頼を勝ち取るためと言う事で強引にレイカーが話を進めたのだ。

 

「今の地球圏の状態は武蔵君も理解していると思う。そして逆に私達が知らないことも武蔵君は知っている、君がビアンから託されている話を私にも聞かせてくれないか?」

 

穏やかな口調だが、その目と声の感じは武蔵にとってはどうしても早乙女博士を連想させた。

 

「オイラ馬鹿だから、上手く説明出来ないですけど……ビアンさんはオイラだけじゃなくて、他にも旧西暦の人物がこの世界に居ると考えているそうです。あ、でも人間だけじゃなくて物とかもですけど……」

 

「ジュネーブに現れた量産型ドラゴンや浅間山地下の研究所の事は私達も把握しているよ」

 

レイカーの言葉に明らかにほっとした様子の武蔵は話を進める。

 

「ただその……この世界に居るのがゲッターと戦っていた敵って言うのが問題です」

 

恐竜帝国に北京で確認された触手を操る怪人、そしてメカザウルス……武蔵とは異なり敵性反応を示した者ばかりだ

 

「それらの敵に関してだが、ゲッターロボで何とかなるのかね?」

 

「……正直五分五分だと思います。北京の事はダイテツさんから聞いてますよね?」

 

武蔵の声にレイカーは勿論聞いていると返事を返す。ゲッターロボの暴走、エネルギーがそのまま形になったような姿でハガネとヒリュウ改、そしてエアロゲイターを相手に戦ったということは把握している

 

「オイラは専門家じゃないし、早乙女博士に話を聞いたってそれも時間が経ち過ぎてもううろ覚えです。でもゲッターロボが作られた段階でもゲッター線は未知のエネルギーでした」

 

「……まだ暴走する可能性はあると?」

 

「……正直判りません、リミッターの新設である程度は大丈夫だとは思うんですが」

 

それでもある程度と武蔵は付け加えた。それだけ浅間山の地下で見つけたゲッターロボとゲッター炉心を組み込んだゲッターロボは未知数の部分が余りにも多すぎた……だがそれでもゲッターロボの力はオペレーションSRWでは必要になる。レイカーはそう考えていた

 

「もし暴走する危険性があるとしても、オイラとゲッターロボを信じてくれるなら、オイラとしては力になりたいと思っています」

 

「それは私からも頼みたいことだよ武蔵君。私達に協力してくれると言うことでいいんだね?」

 

「はい、でもただ……ビアンさんに呼ばれたらまたそちらに合流することになると思いますが……」

 

DCに所属していると言うわけではない、だが連邦を完全に信用出来ない武蔵。レイカーはそれも仕方ないことだと認め

 

「君は善意の協力者だ。軍属ではないからそれは認めよう。事前に一声くらいは掛けて言ってくれれば何も言いはしない」

 

拘束するのではなく武蔵の意志を尊重するという形で武蔵を伊豆基地に迎え入れることにした

 

「これは伊豆基地で使うカードキーだ。基本的には自由に行動してもらって構わないが、そのカードキーで開けられない場所には入室禁止だ。判ったね」

 

判りましたと返事を返す武蔵、いまどき珍しい……いや、旧西暦ではこんな青年が普通に居たのだなと苦笑し、武蔵を部屋の外に居た軍人にヒリュウ改のメンバーが集まっているブリーフィングルームに案内するように命じる

 

『レイカー、巴武蔵の協力は得れたのか?』

 

「はい、条件付ではありますが快く協力を了承してくれました」

 

ノーマンへ武蔵が協力してくれる事を伝えたレイカーはそのまま、ノーマンと話し合いを始める。信頼していたイングラムの裏切り……ただしこれは洗脳されている可能性があるとは言え、そのままにしておくことが出来ない事態だ。伊豆基地の防衛システムを全て知っているのだからどこから奇襲が起きるかは判らないのが事実。可能な限りの防衛策を練る必要がある

 

『レイカー、良い知らせと悪い知らせが1つずつある』

 

「……では悪い知らせからお聞かせ願えますか?」

 

ノーマンはその顔を曇らせ、今朝部下から伝えられた話をレイカーへと伝えた

 

『ジュネーブで回収されたゲッターGと量産型ドラゴン、ライガー、ポセイドンの全てが何者かに強奪された』

 

「な!?何故そんなことに!?」

 

『判らない、監視カメラや基地の防犯システムが一切反応しないままに強奪された』

 

機動兵器を誰にも感知されずに強奪する、その悪魔のような所業にレイカーは絶句した。量産型はまだしも、オリジナルのゲッターGの強奪は余りにも痛い

 

『捜索は行っているが、痕跡も無い。ゲッターGを見つけるのは難しいと思って欲しい』

 

修理しホワイトスター攻略で使うつもりだっただけにゲッターGの強奪は余りにも痛い、これがエアロゲイターの強奪だったとなると量産型が再び敵になる可能性もあるのだから

 

「では良い知らせは……?」

 

『元教導隊のギリアム少佐と軍を退役したラドラ・ヴェフェス・モルナ元少佐が近い内に伊豆基地へ合流する』

 

ゲッターGの強奪と比べると良い知らせとは到底言えないが、それでも元教導隊が2人も配属されるのは大きい。その知らせを最後にノーマンとの通信は途絶えたが、状況はますます悪くなっている。レイカーは背もたれに深く背中を預け、溜め息を吐くのだった……

 

 

 

 

ヒリュウ改のメンバーは全員伊豆基地のブリーフィングルームに集まるようにと指示が下されていた。

 

「キョウスケ、なんでヒリュウ改のメンバーだけなんだろうね」

 

「……判っていてて聞くな」

 

「えーあたしわからなーい♪」

 

抱きつくようにして笑うエクセレンにキョウスケは眉を顰めながら、エクセレンを椅子に座らせる

 

「ぶーぶー、恋人にする反応じゃないわよ」

 

「……無理にふざけるな」

 

睨まれたエクセレンは小さく溜め息を吐いて、さっきまでの様子と一転して静かになる。今までの悪ふざけはただ場を盛り上げようとしていただけで、彼女自身も相当な不安と心配を抱え込んでいた

 

「ブリットのやろーはどうした?」

 

「無理にでも引っ張ってこようとも思ったんですが、武蔵と1悶着あったようですからトレーニングルームに押し込んできました」

 

カチーナの問いかけにキョウスケはそう返事を返した。全員集合と言われていたがクスハが攫われた事で冷静さを失っているブリットにはどんな話も意味がないと判断し、そんなに暴れたりないならとトレーニングルームにブリットを押し込んでからキョウスケはブリーフィングルームに訪れていた

 

「ブリットの奴、相当荒れてたしな」

 

「はっ! 攫われたなら奪い返しゃあ良いんだよ」

 

「中尉……いえ、その通りですね」

 

ヒリュウ改のメンバーがそんな話をしているとブリーフィングルームの扉が開き、武蔵が部屋の中に入ってくる

 

「えっと、巴武蔵です。タクラマカン砂漠と北京では迷惑を掛けたみたいで、本当すいませんでした」

 

部屋に入ってくるなり謝罪をするという武蔵……それにはキョウスケ達も面を食らったが

 

「謝るのは随分と良い心構えだな、あたしはカチーナ、カチーナ・タラスク。こっちはラッセル・バーグマン、ヒリュウ改のオクトパス小隊の隊長をしてる。それとタクラマカンはすまなかった、あたしがタスクに攻撃しろって命令したんだよ。わるかったな」

 

さっぱりとした気質のカチーナは武蔵の謝罪で、タクラマカン砂漠と北京での暴走を許し自己紹介と自分の補佐のラッセルの紹介を始める。

 

「カチーナさんと、ラッセルさんですね。よろしくお願いします」

 

「さん付けって言うのはなれねえな、カチーナでいいぜ、カチーナで」

 

さん付けはいらないというカチーナと年上を呼び捨てにするわけにはと言う武蔵。最初の謝罪とそのやり取りで武蔵の人隣と言うのが大分理解出来た、真面目で誠実でそして年上を立てることが出来る青年だとキョウスケ達は判断した。

 

「キョウスケ・ナンブだ。キョウスケで良い」

 

「……その声……もしかして赤いカブトムシの」

 

赤いカブトムシの言葉にキョウスケを除いた全員が噴出す、確かにアルトアイゼンはその頭部の角もありカブトムシに見えなくも無い

 

「ぷっ、あはははッ! 武蔵は面白いわね。あたしはエクセレンよ、よろしくね」

 

「白い飛んでる奴の……女の人だったんですね」

 

「んふふふ、びっくりした?」

 

からかうように武蔵に視線を向けるエクセレンに武蔵が顔を赤くすると、面白い玩具を見つけたと言わんばかりに笑みを浮かべるエクセレン。

 

「あ、そうだった。そうだった、えーっとレオナさん? って人はいますか?」

 

「レオナちゃんに何のようだよ?」

 

タスクが前に出ようとするが、レオナ本人がそれを押しのけ武蔵の前に出る

 

「私がレオナよ、何のようかしら?」

 

後ろでレオナちゃーんと半泣きのタスクを無視して武蔵に何の用事か問いかけるレオナ。武蔵は着ていた服のポケットから便箋を取り出す

 

「ユーリアさんとリリーさんからお手紙を預かってます。後で目を通してください」

 

ユーリアとリリーの名前に驚いた様子のレオナ。だが便箋には紛れも無くユーリアとリリーのサインがある

 

「そうでしたね。武蔵はDC側なんですよね?」

 

「別にDCって訳じゃないですよ。一番最初に出会ったのがエルザムさんとビアンさんで、話も聞かないで追い回してきた連邦はあんまり好きじゃないって言うか……あ、なんかすいません」

 

冤罪で追われていたから連邦は余り好きではないと公言する武蔵、だが隠されるよりもそうして直接言われた方が気分も楽と言う物でキョウスケ達は気にするなと言って笑う

 

「そういえば、マリオン博士とリシュウ先生を連れてきたのは武蔵らしいけど、ボスは?」

 

「ボス?……ああ。ゼンガーさんですか、全身打撲でダウンしてます」

 

「……ゼンガー隊長がか?」

 

信じられんと言うキョウスケだが、続いた言葉で納得した

 

「あの赤いカブトムシ……ゲシュ……ゲシュ……なんとかMK-Ⅲでしたっけ? あれの10倍はゲッターの乗り心地は悪いですからね。しかもあれだけ暴れまわれば……普通の人ならダウンするかと……」

 

アルトアイゼンの10倍は酷いと言われ、アルトアイゼンのシュミレーターを試した全員は思わず絶句した

 

「じゃ、もしかして色男のお兄さんも?」

 

「……えっともしかしてエルザムさんですか?……そのエルザムさんもダウンしてます」

 

教導隊であり、エースパイロットの2人を再起不能寸前にしたと言うゲッターロボに思わず絶句するカチーナ達。だが北京でのあの強さを見ればそれも仕方ないと妙に納得してしまった

 

「じゃあ、俺は随分と手加減されてたわけだ」

 

「えっと何に乗っていたかは知りませんけど……怪我はさせないように本当に注意しましたよ」

 

ジガンスクードでもゲッターロボと戦えばスクラップになっていたかもしれない、そう思い顔を青ざめさせ、そしてそんなタスクを見て武蔵は謝罪した。

 

「まぁ良いけどよ、もしかしたらあたしもゲッターに乗れるかなあとか思っただけだ」

 

「それでしたらシミュレーターを試してくれますか? 乗れるならオイラとしては大歓迎です」

 

それならシミュレーターを試してみるかと言う話になり、シミュレータールームに向かったカチーナ達だが……その殺人的なGと加速に耐え切れず、1人、また1人と倒れ

 

「ほんと、すみません」

 

ダウンしているカチーナ達に武蔵は深く頭を下げながらもう1度謝罪の言葉を口にするのだった……

 

 

 

 

都内の薄暗いBARの中に2人の男の姿があった。紫の髪の優男と言う風貌の男と、険しい顔付きの無骨な男が並んで手にしているウィスキーグラスを呷る

 

「ラドラ、本当に私と一緒に来るのか?」

 

「……ああ、軍に戻る気は無いが……ノーマン・スレイ准将から特例として一時的な復帰が認められた」

 

オペレーションSRWを実行するためには戦力が必要だと考えたノーマンは、退役した軍人やDCの兵士でも協力的な兵士を特例として釈放しオペレーションSRWに向けての戦力として徴収する事を決めた。そして、それに伴いラドラにも声が掛かったのだ

 

「私が言っているのはハガネには武蔵がいるんだぞ、良いのか?」

 

「……爬虫人類だった俺ならば会うことは選択しなかっただろう。だが今の俺はキャプテン・ラドラではなく、ラドラ・ヴェフェス・モルナと言う人間だ」

 

だから武蔵と会うことに何の問題もないと断言するラドラ。その姿に意志は固いと判断したギリアムは深く溜め息を吐く

 

「恐竜帝国の生き残りと戦う事になるかもしれないぞ」

 

「ならば、それこそ俺がやるべき事だ。さまよい歩く同胞を終わらせるのもまた元キャプテンとしてやるべきことだ」

 

ギリアムはラドラに軍に戻る事を止めさせようとして、恐竜帝国の話を持ち出した。だがラドラはそうであったとしても、オペレーションSRWに参加する事を決めたのだ

 

「武蔵には借りがある、それを返すだけだ」

 

「判った、もう止めないさ」

 

自分と同じくこの世界とは別の世界を知るラドラの意志を尊重することをギリアムは決めた。

 

「お前のゲシュペンスト・シグを見た。凄まじい機体だな」

 

「ふっ、良いだろう。テスト機で廃棄されるゲシュペンストを何年も改造したんだ」

 

自慢の愛機の話になり饒舌になるラドラ。今の連邦はゲシュペンストではなく、ヒュッケバインを量産することを決めた。だがギリアムを初めとして現場でゲシュペンストを愛用していたエースやベテランはこの決定には少なからず不満を持っていた

 

「良くあそこまで改造したよ」

 

「フレームから改造しているからな、ヒュッケバイン系のテストフレームも入手した」

 

「……お前どうやってそれを手に入れた?」

 

蛇の道は蛇さと笑いグラスを口につけるラドラ。だがそれだけの事をしてもゲシュペンストに再び日の目を当てたいとラドラは思い行動していたのだ

 

「リオンやヒュッケバインは好かん」

 

「確かにな……量産には向いているそうだが、操縦系がどうもな」

 

ゲシュペンストに慣れているギリアム達にはリオンやヒュッケバインはどうしても歓迎出来る機体ではなかった。

 

「だがそれも時代の流れと言うのならば受け入れざるを得ないのかもしれん」

 

「……何故そんなに沈んだ考えを持つ?」

 

「沈んだ考え?」

 

そうだとラドラは断言し、飲み終わったグラスを乱暴に机の上に置く。

 

「上層部の無能の決定など知ったことではない、俺は武蔵に借りを返すためにSRWに参加する。だがしかしな、俺はそれで終わるつもりなどない、ここでゲシュペンストを再び再評価させてみせる」

 

ラドラの言葉にギリアムは驚いた表情をする、そのギリアムを見てラドラはふんと鼻を鳴らす。

 

「賄賂に買収、そんな物で本当にいい物が埋もれるなど俺は認めんぞ。俺はゲシュペンストの有効性をもう一度見せ付けてやる、ゲシュペンスト・シグでな」

 

「……そうか。その発想があったか」

 

何故自分は諦めていたのかとギリアムはラドラの言葉で気付いた。どうしてゲシュペンストが歴史に埋もれる事を認めてしまっていたのだと……ラドラの言葉で思い知らされた。

 

「その気があるなら、1度ついて来い。シグに使うはずだった、強化パーツや追加装備をいくつかピックアップしてやる」

 

2人とも酒豪ではある、4~5杯のウィスキーで酔い潰れる訳も無い。会計を済ませ、2人はBARを早足で後にする

 

「お前のラボは近いのか?」

 

「山奥に隠してあるから遠いが、問題は無かろう。タクシーで近くまで行って、そこからは歩きだ」

 

アルコールを抜くには丁度いいかもしれないなと呟き、ギリアムは手を上げてタクシーを止める。3日後の伊豆基地への合流、それまでにゲシュペンスト・タイプRを強化するのも悪くは無い

 

「カイも呼んでやりたいな」

 

「呼べるなら呼んでやれ。今のゲシュペンスト・シグは5代目だ、0~4号機に使った武装や、強化パーツは残っているぞ、試作型で悪いが2機ほど予備もある」

 

同じゲシュペンスト乗りのカイも交えてやりたいというギリアムにラドラはカイやギリアムの操縦の癖に会う装備もあるぞと笑う

 

「いや、まずは見てみよう。その後に軍のトラックを借りて武装を運搬して……3日でなんとかなるか?」

 

「なんとでもなるさ、機体の各所に少しだけ装備するという手もあるだろう?」

 

これからの戦いは激戦になる、ゲシュペンストで遅れを取らないように、そしてゲシュペンストは決して時代遅れではない事を証明する為にラドラとギリアムは立ち上がる。正史よりも早く、「ハロウィン・プラン」が始動を始めるのだった……

 

 

 

 

ホワイトスターの薄暗い通路に足音が響く、険しい顔で通路を進んでいた女……ヴィレッタは部屋の扉を開ける

 

「イングラム、気分はどうかしら?」

 

「……最低だ、ヴぃ……待て、お前は誰だ、何故俺の名前を知っている。ここはどこだ。ラーカイラムか?」

 

イングラムの反応を見てヴィレッタは悲しげに俯き、手にしていた液体食糧と水を机の上に置く

 

「私はヴィレッタ・プリスケン。貴方が作り出したバルシェム、そしてここはネビーイーム」

 

「ネビーイーム……バル……っ! ヴィレッタ……か。すまない、また迷惑を掛けたようだな」

 

ベッドの上から体を起こすイングラム、だがその顔には色濃い疲労の色が浮かんでいる。

 

「ねえ、イングラム。貴方に何があったの?」

 

「……それを知りたいのは俺の方だ」

 

北京でゲッターロボと戦い撤退した後のイングラムは情緒不安定に陥っていた。記憶が混濁し、ヴィレッタの事を忘れたり、自分が今どこにいるのかさえも把握していない様子だった

 

「イングラム……まだ大丈夫なのかしら?」

 

「どうだろうな……とっくに俺は壊れきっているのかもしれん」

 

自嘲気味に笑うイングラムは机の上の液体食糧に口を付けるが、殆ど口にせず机の上に戻す。

 

「駄目よ、イングラム。それだけでも飲まなければ……」

 

「すまない、だが駄目なんだ」

 

今のイングラムは衰弱しきっている。自分の記憶ではない記憶、知らないのに知っている記憶に悩まされ、精神だけではなく肉体までもが弱りきっている

 

「……ヴィレッタ、悪いがあそこにあるファイルを取ってくれ」

 

「?……ええ、良いわよ」

 

部屋に取り付けられている唯一の家具とも言える本棚を指差し、その中のファイルを取ってくれとヴィレッタに頼むイングラム。

 

「……」

 

「どうかしたの?」

 

ファイルを差し出されても一向に受け取らないイングラムに心配そうにどうしたの? と尋ねるヴィレッタ。イングラムはファイルを受け取り、真剣な顔でヴィレッタに言葉を投げかける

 

「ヴィレッタ、もし俺が俺ではない俺になった時……その時は頼むぞ」

 

イングラムの言葉に判っているわと返事を返し、部屋を出て行くヴィレッタの姿を見送ったイングラムは隈のある顔で部屋の隅に視線を向ける

 

「それで、お前は俺に何をさせたい、お前は誰なんだ」

 

【……】

 

亡霊のように部屋の隅に立つ銀髪の少年……自分にしか見えないその少年にイングラムは参っていた。今だってそうだ、ファイルをヴィレッタに取らせたが、目の前にいる少年にヴィレッタは全く気付かなかった。

 

「……ふふふ、ここまで壊れているとは我ながら情けない」

 

何を言うでもない、ただ見ているだけの少年。それが自分の精神が生み出した罪の意識の表れなのだと判断しイングラムは壊れたように笑う

 

「ぐっ! あっぐっ! があっ!!」

 

その瞬間に襲ってきた脳に直接針を刺されているかのような、気が狂いそうになる痛みに頭を押さえ歯を食いしばり苦しみ悶えるイングラム。その姿を見つめながら少年は消えていく……因子が満たされようとしている、自らの使命を果たせと言う言葉をイングラムに向かって呟き、現れた時と同じ様に唐突に消えて行くのだった……

 

 

 

第50話 栄光はこの胸に! 復活のキャプテン・ラドラ その1へ続く

 

 




ハロウィンプランの前倒しフラグと、イングラムがかつての世界の記憶に悩まされていると言うフラグを用意してみました。だってねえ……リヴァーレってなんか好きじゃないんですよね、まぁ黒い天使が出るとは言い切れませんけど……ゲッター線とゲッターロボによって久保の干渉が本格的になっているイングラム、彼にどんな結末が待っているのか今後の展開を楽しみにしていてください


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第50話 栄光はこの胸に! 復活のキャプテン・ラドラ その1

第50話 栄光はこの胸に! 復活のキャプテン・ラドラ その1

 

伊豆基地ではR-3の修理と平行してゲッターロボの分析と修理も行われていた。ロストテクノロジーでありながら、オーバーテクノロジーの結晶であるゲッターロボを分析することで新しい技術を得ようとすることは当然であり、そしてゲッターロボを修理することは戦力に直結する。伊豆基地にいる整備兵、そしてマオ・インダストリーの技術主任であり、ビルドラプターの開発からRシリーズの開発の全てに携わっている「カーク・ハミル」もまたゲッターロボの分析に夢中になっていた

 

「ではこの特機の開発者はパイロットを度外視してまでも、戦闘力を追及する必要があったのか」

 

「はい、えーっとカークさんはメカザウルスとかとの戦闘データは見てないんですか? もしそうならオイラのを渡しますが」

 

「それは助かる、中々メカザウルスとの戦闘データの閲覧許可は下りなくてな」

 

偏屈で有名なカークと武蔵の相性は案外悪くは無かった。と言うよりも偏屈の塊である早乙女博士や敷島博士と付き合ってきた武蔵からすればカークの偏屈など気にするレベルではなく、聞かれた事に返事を返し、そして判らないことは判らないと言えば良い

 

「おいおい、武蔵。お前の戦闘データはマリオンに渡したんじゃないのか?」

 

テスラ研から来ていたジョナサンの言葉に武蔵はあっと呟き、カークは眉を顰める

 

「す、すいません。カークさん……忘れてました。あのマリオンさんから借りて来てくれますか?」

 

「……いや、そういう話なら後で良い。悪いがゲッターロボの解析をさせて貰うぞ」

 

仏頂面でゲットマシンに乗り込むカーク。その後姿を見て首を傾げる武蔵にジョナサンが笑いながら近づく

 

「カークにマリオンの話をするなよ、勿論その逆もだ」

 

「もしかしてカークさんとマリオンさんって仲悪いんですか?」

 

「仲が悪いというか、元夫婦なんだよ。あの2人」

 

うえっと驚く武蔵にジョナサンは苦笑しながらハンガーに鎮座しているアルトアイゼン、ヴァイスリッターと言ったATX計画の機体とSRX計画のR-1達を見上げる

 

「元々は月のマオ・インダストリーと言うPTの開発をしている会社でマリオンもカークも働いていたんだが、マオ社と軍はゲシュペンストを古臭いと言う事でなあ、マリオンに開発の中断を命じたんだ。それにマリオンは反発、しかも自分の夫のカークまでもがマオ社と軍の意向に従うと言うから、激怒して離婚になったんだよ」

 

「……それはまた何とも言えませんね」

 

「ああ、ゲッターの事で2人も良く声を掛けてくると思うから、そこは気をつけたほうが良いぞ」

 

マリオンとカークが鉢合わせすると地獄になるからなと笑うジョナサン。その背後を見て、武蔵はあっと呟く

 

「ジョナサン博士……いつまで休憩するおつもりですか?」

 

「こ、コウキ? い、いや私は武蔵と意見交流を」

 

「そうですか、ですが休憩に出てから2時間45分と39秒……少なくとも1時間は伊豆基地には居ませんでしたよね?」

 

肩を握り締められ脂汗をだらだら流すジョナサン、視線は武蔵に助けてくれと訴えている。だが武蔵もそれに関してはジョナサンが悪いと思い助け舟を出すことはなく

 

「おーい、武蔵ー。悪いけど、少しイーグル号を動かしてくれるか? ゲッター合金の生成実験をやってみたいんだー」

 

「はーい、今行きまーす」

 

ロブの自身を呼ぶ声に返事を返し、ジョナサンから背を向けて逃げるように去っていく。その場に残されたジョナサンと鬼の顔をしているコウキ

 

「す、すすすす」

 

「す? なんですか?」

 

「すまなかったなぁッ!!!」

 

孤立無援になったジョナサンが自分の非を認めて、自分の弟子であるコウキに土下座して謝罪するという選択肢を取ったのは至極当然の事であった……

 

 

 

 

最近伊豆基地で1つ名物とも言える事が1つ増えた。それは武蔵の食事量である。1回の食事で大食漢と言われる兵士の倍以上はぺろりと平らげる、武蔵がふくよかなこともありデブと思われていた。だがその実、武蔵の身体は凄まじいほどの筋肉質で、身体は大きいがそれは脂肪ではなく筋肉の塊であり、しかも尋常じゃないほどの新陳代謝の持ち主でも会った

 

「おう、武蔵。席良いか?」

 

「ひょうおうああー」

 

ラーメンを啜りながら、ハンバーグを半分に切りラーメンを飲み込むと同時にハンバーグを口に運び。咀嚼しながらカツ丼に手を伸ばす、フードファイターもかくやと言う恐ろしい食事のペースだ

 

「すいませーん、唐揚げと竜田揚げの追加と、トン汁を丼で、後コーラをジョッキでお願いしまーす」

 

「……は、はい。判りましたー」

 

武蔵の追加の注文に食堂の従業員の顔が引き攣る。引き攣りながらも了承の返事をするだけ、あちらもプロ根性だろう

 

「お、ステーキ。美味そうだな、貰って良いか?」

 

「おう、良いぞ。その代わりそれくれ、納豆」

 

リュウセイの定食の納豆とステーキの切れ端を交換し、丼飯の上に納豆を掛けて満面の笑みで頬張る武蔵。武蔵の食事は全てレイカーとダイテツの2人が持つ事になっているが、恐らく今頃は2人とも予想外の出費に頭を抱えていることだろう

 

「随分と食べるわね。武蔵」

 

「ひょおでひゅか?」

 

巨大な唐揚げを丸のまま頬張り、山盛りの白米を凄まじい勢いでかっ込む武蔵にエクセレンを初めとした、ヒリュウ改の面子は苦笑いを浮かべる

 

「おい、武蔵。今度の半休に飯でも行くか?」

 

カチーナの言葉にラッセルの顔が驚愕に染まる、勿論それはラッセルだけではなく伊豆基地の全員がだ。カチーナの趣味は年下のふくよかな男と言う噂が立ちかけたが

 

「前にすげえ大食いの店を見つけたんだけどよ。あたしじゃ無理そうだし、タスクの馬鹿野郎が金を巻き上げられてるし、リベンジって事でよ、ちょっと付き合ってくれよ」

 

「へー、面白そうですね。何の大食いです?」

 

「カツカレー5キロに唐揚げとかウィンナーだったよな? タスク」

 

「……うぷ、思い出すだけで吐きそうになるんで言わないでくれますか? 中尉」

 

青い顔で口を押さえるタスクに情けねえなあと笑いながら背中を叩くカチーナ。その姿に性別こそ違うが、竜馬の姿を見た武蔵は楽しそうに笑いながら、追加で運ばれてきた竜田揚げを頬張り、コーラのジョッキの口をつける武蔵

 

「1つ聞きたいのだけど良いかしら?」

 

「はい? なんですかレオナさん」

 

カツ丼の丼に手を伸ばしかけた武蔵にレオナが声を掛ける。声を掛けられると思っていなかった相手からの言葉に武蔵はやや困惑した素振りを見せる

 

「いつもそれ位食べるのかしら?」

 

「まぁそうですかね。ゲッターロボなんて乗ってると飯を食わないとやっていけないですし」

 

あれだけ加速する機体にこれだけ食べて乗って大丈夫なのか? と全員が思ったがそれを口にすることは無かった。

 

「そう言えば、他の2人もそれ位食べると言っていたな」

 

「「「「え?」」」」

 

ライの思い出したような言葉に、話を聞いていた全員が本当と言う顔をする。これだけ大食いするのは武蔵だけだと思っていたので、そこに更に2人加わるとなるとどんな光景になるのか全然想像がつかなかった

 

「そうそう、えーっとこれこれ、ゲットマシンに写真入れてるの忘れてたんだ」

 

武蔵が懐から写真を取り出す、そこには森の中の研究所の前で記念撮影をしたのだろう。何人かの姿があったのだが……顔が凄いことになっていて、全員が思わず絶句する。武蔵と武蔵の隣にいる少年、そしてその後ろの女性を除くと、全員が悪人面と言えるような顔をしていた

 

「物凄い悪人面ですね」

 

「実際悪人ですよ? こいつは神隼人。オイラと同じ学生だけど、革命家で大臣も暗殺してたりします」

 

場を和ませるつもりが、実際に犯罪者だった隼人に聞き耳を立てていた全員が絶句した。

 

「なんでそんな奴がパイロットやってんだよ」

 

「ゲッターに乗れたからですよ。早乙女博士が政府と交渉して、無理やりゲッターのパイロットにしたんです」

 

政府と交渉してまで……それだけ旧西暦の地球は恐竜帝国によって追詰められていたのだろう

 

「えーっとじゃあこいつは?」

 

「こっちは流竜馬。ゲッター1とイーグル号のパイロットをしてる、ちっと悪人面だけどそう悪い奴じゃないぜ?」

 

ちょっと? どう見てもちょっとに見えないとタスクとリュウセイが考え込む。そしてその姿を見て武蔵は頬を掻きながら

 

「そりゃまぁ喧嘩上等でめちゃくちゃ血の気が多くて、道場破りしながら身体を鍛えていたけど、結構良い奴なんだ」

 

道場破りをして生活していたと言う竜馬。贔屓目に聞いても、犯罪者一歩手前だ。良い奴と言う言葉がこれほど程遠い人物はそうはいないだろう。

 

「……じゃあ、この子は武蔵とか、隼人の弟だったりするの?」

 

リュウセイがいると言うことで、いつの間にかリュウセイの隣に座っていたラトゥーニがそう尋ねる。

 

「いや、この子は男の子じゃなくて、女の子」

 

どう見ても男の子にしか見えない格好をしている子供が女の子と聞いて、写真を見ていた全員が驚く。

 

「早乙女元気。早乙女博士の娘で、ミチルさんの妹だよ」

 

「……なんでこんな格好を?」

 

「あー男の子って聞いてたからって早乙女博士は言ってたよ。まぁ成長すれば、普通に女の子らしくなるだろって言ってたけど……面倒を見てたオイラからすると本当かなあって思ったな」

 

「面倒を見てたって、早乙女さん達は?」

 

「ゲッターとかの開発で忙しくてなあ、リョウも隼人も子供の面倒を見るのは苦手って事で、オイラが勉強を教えたり、一緒に遊んでやったり寝かしつけたりしてたよ」

 

昔を懐かしみながらステーキを頬張り、豚汁を啜る武蔵。だがリュウセイ達からすれば、それは育児放棄に近いと思わずにはいられなかった。

 

「あ、アヤさん、もう大丈夫なんですか?」

 

しんみりしている空気を霧散させたのは武蔵だった。食堂に姿を見せたアヤに手を振る武蔵。

 

「ええ、心配を掛けたわね。でももう大丈夫よ」

 

少しだけやつれているが力強い笑みを浮かべるアヤに全員が良かったと安堵の表情を浮かべる。アヤがイングラムに想いを寄せているのは全員が知っていて、そのイングラムが操られている可能性があるが敵に回ったと言うことに一番ショックを受けているのはアヤだろう。

 

「本当に良かった。今度イングラムさんが出てきたら、逃がさないで捕まえますね」

 

「ええ、私も頑張るわよ。武蔵も手伝ってね、とりあえずコックピットから引きずり出したら思いっきりビンタしたいわ」

 

ただ……妙な方向に吹っ切れている様子だが……元気そうで良かった。

 

「さてと、あ。すいませーん、親子丼とステーキ、それとミートパスタのお代わりお願いしまーす」

 

「「「「まだ喰うのかッ!?」」」」」

 

さも当然のようにお代わりを要求する武蔵に全員が思わずそう叫び、噴出してしまうのだった……

 

 

 

 

武蔵達が食堂で話をしている頃。伊豆基地の司令部ではキョウスケとイルムと云った、PT隊の中でも地位の高い者達が集まっていた。

 

「……自分を戦闘指揮官にですか?」

 

信じられないという様子でダイテツに尋ね返すキョウスケ。

 

「そうだ。前任のイングラム少佐がああいう結果になったのでな」

 

「……階級から考えて、アヤ大尉か、イルムガルト中尉が適任だと思われますが……?」

 

自分よりも階級の高い2人の名前を出すキョウスケだが、その場にいたイルムはキョウスケの肩を軽く叩いて

 

「悪いな、俺には荷の重いポジションが性に会わなくてな。今辞退させて貰ったよ、それにアヤ大尉もまだ本調子とは言えないし、カチーナ中尉も向いてないって断ってる」

 

だからお前しかいないんだよと笑うイルムにキョウスケは考え込むような素振りを見せる。

 

「レフィーナ中佐や、ショーンからの推薦もある。無論、ワシもお前が適任だと考えておる」

 

「戦況を一番冷静に見れるとレフィーナ中佐からも聞いている」

 

今この場にいないが、レフィーナとショーン、そしてダイテツとレイカーにも言われたキョウスケはついに折れた。

 

「……判りました。若輩者ですが、戦闘指揮官の話を引き受けてさせてもらいます」

 

キョウスケの了承を得た事で部隊の再編成の話へと話が移っていく。

 

「部隊の再編成及び、今後の作戦を遂行する上で、曹長階級のパイロットを少尉へ、そして君を中尉へ戦時昇任させる」

 

これからの事を考え、階級が上がると説明をするレイカー。キョウスケは少し考え込む素振りを見せてから。

 

「武蔵の事はどうなるのでしょうか?」

 

「戦時特例措置として扱う。命令権はキョウスケ中尉には無く、基本的に私かダイテツ、もしくはレフィーナ中佐の命令のみを聞くように

話をしてある。だが、彼の事だから命令などでなくても自分で行動するだろうが」

 

レイカーがそう苦笑した時、司令部に警報が鳴り響き、全員の顔が引き締まる。

 

「第3防衛ライン上にエアロゲイター部隊が転移出現ッ! 当基地に向かって来ます」

 

オペレーターからの報告にノーマンは顔を顰める。

 

「今まで奴等は支部クラスの基地に攻撃を仕掛けてこなかったというのに……」

 

「本格的な軍施設への攻撃を開始したか……それともゲッターロボとハガネとヒリュウ改が目的か……そのいずれかでしょうな」

 

「ではそれを確かめる意味でもワシ達が迎撃に出よう」

 

相手方の出方を見るため、北京で確認されたソルジャーやファットマンの姿は無いが、ハガネとヒリュウ改が出撃することとなる。

 

「お前が指揮官での初陣だ。緊張せずに気楽にやれよ」

 

「……判っています」

 

スクランブルが掛かり、ハガネとヒリュウ改に乗り込む中。キョウスケもイルムも敵の出方に僅かな不信感を抱く。

 

「キョウスケさん、オイラも行きますよ」

 

「……すまないが頼めるか」

 

勿論ですと返事を返す武蔵もハガネへと乗り込み、伊豆基地から出撃し、エアロゲイターへの迎撃へと向かう。

 

「アサルト1より各機へ、本日から俺が戦闘指揮を執る事になった。以後よろしく頼む」

 

市街地に降下してくる新型のバグスを確認しながらキョウスケが自分が指揮官になった事を告げる。

 

「しかも中尉にご昇進~いやん、素敵! もう好きにしてって感じ!」

 

「キョウスケ中尉殿、給料上がったんでしょ? 今度おごってください」

 

「……この状況で、良く悪ふざけが出来る物ね……」

 

お調子者のタスクとエクセレンの言葉を聞いていたレオナが顔を顰めながら、ガーリオンのコックピットで不機嫌そうに呟く

 

「ま、こうなるわな。だけど、緊張しすぎるよりはマシだ」

 

エクセレンとタスクの悪ふざけが場を和ませる物であると判っている、面子は苦笑いを浮かべる。その中でキョウスケは明らかに動きの鈍いR-1に気付き、リュウセイへと通信を繋げる

 

「リュウセイ少尉……気持ちは判るが、今は戦闘に集中しろ」

 

「……あ、ああ。了解だぜ」

 

尊敬していたイングラムは操られている可能性もあるが敵に回り、そして幼馴染のクスハは攫われた。まともじゃない精神状態で出撃しているのはキョウスケも理解していたが、出撃した以上は戦いに集中しろと忠告し、戦場を見渡す。敵の主戦力はバグスがメインで、少しだけソルジャーが混じっている。しかし今まで真っ直ぐに伊豆基地に向かって進軍していたのだが、キョウスケの出撃と共にその足を止めた。

 

(敵に極東基地へ向かう気配が見当たらない……やはり、標的は俺達……いや、ゲッターロボか)

 

ハガネとヒリュウ改を囲い込むように動き出すバグスに対して、ソルジャーは明らかにゲッターロボを狙っている。捕獲を狙うバグスに対して、ソルジャーを向けるということはゲッターロボは破壊する目的の可能性が高い。

 

(つまり俺達はサンプルであり、ゲッターロボはサンプルでは無いと言うことか……何のためのサンプルかという疑問は残るが……)

 

イングラムから与えられた情報、そして今このエリアにいるバグスとソルジャーの動きを分析しながらキョウスケは敵機の迎撃に移るように指示を出し、自らもバグスに向かってアルトアイゼンを走らせるのだった……

 

 

 

 

 

R-1やアルトアイゼンに目もくれず、突っ込んできた緑色のエアロゲイターのPTをゲッターアームで殴りつけ粉砕する。北京での暴走を危惧しているのはエアロゲイターも武蔵も同じであり、暴走の危険性が高いゲッター1ではなく、最も使い慣れていて、それでいてゲッター線を使う武装の少ないゲッター3で武蔵はエアロゲイターと戦う事を選択していた。

 

(出力は……うん、大丈夫)

 

炉心の交換前よりも高い出力をマークしているが、それでも暴走する心配の無い事に安堵する武蔵。北京での暴走は凄まじく、市街地が近い上に伊豆基地に近いこの場所での暴走は絶対に避けなければならないと武蔵は考えていた。

 

「リュウセイ達も大丈夫そうか」

 

エアロゲイターのPTが全部ゲッターに集中しているので、リュウセイ達に向かっているのはバグスを初めとした決して戦闘力が高い機体ではない。今の段階ではそう恐れることは無いだろう……そう思った瞬間。背後から殺気を感じ武蔵はオープンゲットで上空へと逃れる。

 

「「「「……」」」」

 

「蜘蛛……か。あんなのもいるのか」

 

青い機体カラーの蜘蛛が突然現れていた。今の今まで反応は無かったことから転移して来たのだろうが、実に厭らしい一手だと武蔵は感じていた。

 

(ゲッターの弱点をついてきたな)

 

ゲッターロボはPTやAMと比べて索敵能力が低い、突発的な転移にはどうしても反応が遅れる。今は武蔵の野生の勘で回避したが、下手を打てば放たれた糸でゲッターは絡め取られ、その動きを封じられていただろう

 

「くっ、狙い澄ましたかのようにッ!! こっちの部隊展開のパターンを知っているとでもいうのッ!?」

 

「イングラム少佐が敵に回っているんだもの。私達の手は読まれている方が思った方が良い」

 

動揺するリオを嗜めるラトゥーニはゲットマシンとハガネとヒリュウ改の周囲に現れたスパイダーの分析結果を告げる

 

「多分、あのスパイダーは水陸両用タイプの強化型……皆気をつけて」

 

直接的な戦闘能力だけではなく、蜘蛛の姿を持ち捕縛ネットを持つスパイダーに気をつけろと告げる。

 

「それに、まだまだ夜はこれから……って感じがビシバシするわねえ」

 

「隠し球の1つや2つはあるって思っておいたほうが良いっすね」

 

「そういうことだ。敵はまだ増援を送り込んでくる可能性が高い。各機、弾薬、エネルギー配分を間違えるなよ」

 

エアロゲイターの増援は現れているが、それはあくまでバグスやスパイダーと言う弱い量産型の偵察機。本命である人型の増援が出現していない事に、敵はハガネとヒリュウ改の戦力を削ぐ事を考えていると考えたキョウスケの命令がオープンチャンネルで告げられる。

 

「へっ、そういうことなら一気に炙り出してやろうじゃねえかッ!!!」

 

「ちまちまとまどろっこしいのは苦手なんだ。一気に決めてやるッ!!!」

 

敵の数が減るまで増援が現れないのならば、敵の数を一気に減らしてやると言わんばかりにサイバスターとヴァルシオーネがスパイダーとバグスの群れへと突っ込んでいく。

 

「良いのか? キョウスケ」

 

「……よくないですが、軍人ではないので命令する権限はありませんから」

 

陣形を崩したことに僅かな苛立ちを感じているキョウスケ。だが軍人で無い以上命令違反をしているわけでもない、それに持久戦になり敵が無限に送り込まれることを考えればここで一掃してしまうのも1つの手だ。

 

「手持ち弾数の多い武器でサイバスターとヴァルシオーネの打ち漏らしを一掃する。その後各員敵の増援に備えろ」

 

敵の策を力ずくで突破する事を決め、サイフラッシュとサイコブラスターの光が街を染め上げるのを見ながら、キョウスケはそう指示を下した。

 

「なんか来るッ! ゲッターが反応していやがるッ!!」

 

「つっ! 皆警戒して!」

 

バグスとスパイダーの姿が消えると同時に武蔵とアヤの怒声が響き、ハガネ達の背後を取るように更なる一団が出現する……だが3度現れた増援にハガネとヒリュウ改、そしてそのPT隊に衝撃が走った……ファットマンの部隊の後ろに現れた3体の大型機……その内の2機に苦渋を飲まされた事を思い出したのだ。

 

「おいおい……マジかよ」

 

「冗談きついぜ」

 

「ドラゴンとライガーだとッ!?」

 

「やはり量産型を奪って行ったのはエアロゲイターだったと言うことか」

 

青い西洋騎士のような機体の左右に浮かぶ腕を組む真紅とドリルの切っ先を向ける青い機体……それは紛れも無くジュネーブで戦った量産型ドラゴンとライガーの姿だった。

 

「わお、予感大的中! でも流石にドラゴンとライガーは予想外よねえ」

 

「どうするんですか少尉! どうしてエアロゲイターがドラゴンとライガーを」

 

「多分分析して複製したんだろうな、厄介な物を持ち出してきてくれたぜ」

 

青い指揮官機に加え、凄まじい脅威だったドラゴンとライガーの復活……流石のエクセレンやタスクも普段の軽口は消え、その顔には真剣な色に染まっていた

 

「どうやら敵の本命の登場らしい、武蔵。ドラゴンとライガーを何とか出来るか?」

 

「……やるだけやってみます。でも、かなりやばいかもしれないです」

 

ゲッター線の貯蔵量が一気に増え、出力が増大した。それだけゲッターがドラゴンとライガーを危険視していると言う証拠だった

 

「あの青い奴にはイングラム少佐が乗っているんじゃないのか!?」

 

操られている可能性があるイングラムがいるのではと叫ぶリュウセイ、それに対してアヤは冷静に返事を返した

 

「アレに人は乗ってないと思うわ」

 

「じゃあ、何が乗っているんだ? 無人機とでも言うのかよ?」

 

無人機と言うにはその動きは人間味を帯びていて、アヤも言葉に詰まる

 

「敵の指揮官的存在であるということに変わりは無い。無人機だろうが、有人機だろうがどうでもいい。お手並み拝見と行こう」

 

パイロットが乗っていようが、乗っていまいが指揮官であることは変わりは無いと告げるキョウスケ、その冷静な反応に、浮き足だっていたPT隊が冷静さを取り戻したが、ラッセルが慌てながらレーダーにあった反応についての報告を始める

 

「ま、待ってください! キョウスケ中尉! この空域に接近してくる友軍機と未確認の反応を探知しました!」

 

ハガネとヒリュウ改の近くに降り立ったのは青いカラーリングのゲシュペンストの姿だった

 

「あら? あのゲシュペンスト、他のと色が違うわねえ」

 

「……!」

 

エクセレンはそのゲシュペンストの色を見て、ただのゲシュペンストではないということに気付き、そして青い指揮官機もまたそのゲシュペンストを見て、僅かな動揺を見せた。

 

「形式番号は……PTX-001!? お、おいおい! PTの元祖だぜ、あれ!!」

 

「わお! んじゃ、超レア物じゃなぁい!?」

 

量産機ではなく、そして試作型1号機でもない。この世界で一番最初に作られたPTであるゲシュペンストが戦場に現れた

 

「懐かしいな。俺も一時期はあいつの世話になったもんだ」

 

イルムがその機体を見て懐かしそうに呟く、だがイルムの反応に対して、リョウト達の反応は芳しい物ではなかった

 

「PTの第1号機が現役で使われてるなんて……」

 

「そんな、機体を持ち出して大丈夫なのか!?」

 

古い機体だと聞いて大丈夫なのかと言うリョウトとリュウセイにイルムが何も判ってねえなと呆れたように呟いた

 

「元祖とは言っても、チューンと乗る奴次第じゃ現役機より強いかも知れないぜ、なんせコスト度外視の正真正銘のオンリーワンだ。お前達の知っているゲシュペンストとはスペックから違うぜ」

 

ゲシュペンストタイプRの登場から少し遅れて、着地した機体にはゲシュペンスト・タイプRとはまた違う驚愕が広がった

 

「おいおい、あれなんだ……?」

 

「機械の恐竜?」

 

ゲシュペンストよりも大型な恐竜を思わせる、特機が地響きを立てて着地した。その機体を見た武蔵は信じられないという様子でベアー号のコックピットで呟いた

 

「メカザウルス……シグッ!? いや、でも……良く似ている……似てるなんてもんじゃない、瓜二つだッ!」

 

その恐竜の姿が自分の知っているメカザウルスに瓜二つの特機の登場に、そのパイロットの姿を思い出した。誇り高き男の姿を……

 

「こちらはギリアム・イェーガーだ。これよりそちらの援護に回る」

 

「あらん、お久しぶりです、少佐! 随分と遅いご到着で」

 

ゲシュペンストからの通信でパイロットが元教導隊である、ギリアムだと判り。エクセレンが茶化すように告げる

 

「フッ……そう言うな。遅刻分は働かせてもらうさ、なぁ、ラドラ」

 

ゲシュペンストが隣の特機に声を掛ける。だがその特機はギリアムの言葉に返事を返さず、ゲッターロボに視線を向ける

 

「久しぶりだな。巴武蔵……俺を覚えているか?」

 

「その声……お前ラドラ! ラドラなのかッ!?」

 

武蔵の驚いた声にあの特機のパイロットもまた旧西暦の人間なのかと、キョウスケ達は思ったが、続く言葉に目を見開いた

 

「元教導隊ラドラ・ヴェフェス・モルナ……だが、今はその名は名乗るまい。我が名はラドラ! キャプテン・ラドラッ! 誇り高き恐竜帝国がキャプテンが1人ッ!!」

 

「恐竜帝国だって!?」

 

「生き残りがいたのか……」

 

「なんで、恐竜帝国がギリアム少佐と一緒に……」

 

恐竜帝国であると名乗ったラドラに動揺が走り、ギリアムにも僅かな不信感が生まれた

 

「俺は人の強さを知った、そして真の栄光が何たるかをゲッターロボ! お前との戦いで学んだ。あの時は、俺は死ぬしかなかったが……あの時お前達が伸ばしたその手を、今こそ掴ませてくれるか」

 

「……ラドラ、ああ……ああッ!! あんたが味方してくれるならこれ以上頼もしい味方はいないッ!!」

 

伸ばされたシグの手をゲッター1が力強く握り返し、ドラゴンとライガーに向き直る、その力強い2つの背中に、一瞬キョウスケ達に芽生えた不信感は消えていた。饒舌に語ったわけではない、ラドラはその背中で己が敵ではないと言うことを証明したのだ。長い時を越え、ラドラと武蔵はその手を握り合うのだった……

 

 

 

第51話 栄光はこの胸に! 復活のキャプテン・ラドラ その2へ続く

 

 




ラドラが味方として参入しました。しかし前回と姿が違うのはゲシュペンスト・タイプRを入手しているか、どうかで変化していると思ってください。ゲシュペンスト・シグの強化形態とゲッター1で量産型ドラゴン、ライガーとのタッグバトル。ギリアム達はガルインや、エアロゲイターと戦うという感じになっておりますが、メインは武蔵とラドラとなりますのでご了承願いします。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第51話 栄光はこの胸に! 復活のキャプテン・ラドラ その2

第51話 栄光はこの胸に! 復活のキャプテン・ラドラ その2

 

ゲッターと並び立つシグの姿に武蔵は感慨深い物を感じていた、確かに恐竜帝国は敵であった。ラドラとも戦った、だがそれでも、分かり合えるかもしれないと僅かに竜馬と共に感じたラドラ。それがまさか未来でこうして肩を並べて戦う事になるなんて思っても見なかった

 

「ラドラ、オイラがドラゴンをやる。ライガーを頼めるか?」

 

「ふっ、任せておけ。新型ゲッターロボだとしても、お前達3人が乗った本物のゲッターロボを知る俺が偽者に負けると思うか?」

 

本物……言い得て妙だが、その通りだと思った。エアロゲイターに複製されたゲッターロボと言うことではない、竜馬、隼人、そして武蔵が乗り込んだゲッターこそが本物だというラドラの言葉に武蔵は思わず笑みを浮かべた

 

「顔を見合わせずに死んだとか止めてくれよ。お前とは、色々と話をしたい」

 

「それはこっちの台詞だ。お前こそ死ぬなよ、武蔵」

 

地面を蹴り互いの敵と定めたドラゴンとライガーに向かって同時に機体を走らせる武蔵とラドラ。自分達に向かってくるゲッターとシグの動きを探知して迎撃に動き出すドラゴンとライガー、そしてガルインが率いるバグス達はハガネとヒリュウ改に照準を定め、ゆっくりと進軍を開始するのだった……

 

「艦長、ラドラ・ヴェフェス・モルナと言う人物が教導隊であったなどと言う話は聞いた事が無いのですが……」

 

「上層部が語る事を禁じた教導隊初期のメンバーの1人だ。拳や足を使った格闘戦のOSを開発した人物でもある」

 

若いテツヤは知らないが、ダイテツやショーンと言った老齢の人物だけが知っている教導隊と軍を除籍され、姿を消したエリートパイロット……それがラドラ・ヴェフェス・モルナと言う男だ

 

「しかし、ラドラと武蔵の話を聞く限りでは、あの男も旧西暦、しかも恐竜帝国の人間であると」

 

「そうなるが、ワシが出会った時は普通の人間だった。爬虫人類と呼ばれる異形の姿では無かったよ」

 

養成学校で主席卒業をし、ゲシュペンストの開発にも携わっていた秀才。それを追い出し、語る事を禁じた軍には当時ラドラが知ってはいけない事を知ってしまったという噂が如実に語られていたが、恐竜帝国、ゲッターロボを知っていたとなるとその噂が真実だったと言うことが真実味を帯びてくる

 

「大尉、ヒリュウ改へと通達。量産型ドラゴン、ライガーの戦闘データを全て正確に記録せよと、勿論本艦もだ」

 

命令を復唱するテツヤを見ながらダイテツの目は量産型ドラゴンとライガーに向けられていた。ジュネーブで戦い、アードラーが使っていた量産型ドラゴンとは色がやや濃くなっているだけと言う差異しか見受けられないのだが、その機体から感じる威圧感はジュネーブの比ではない。エアロゲイターの技術によって複製、強化された量産型ドラゴンとライガー。今回はドラゴンとライガーだけだが、恐らくポセイドンも存在するだろう。

 

(苦しくなるな……)

 

武蔵とゲッターロボの参入、クロガネとの協力の取り付け、そしてギリアムとラドラの合流と戦力は増えている。だが敵の戦力はこちらを完全に上回っている……その事を思い知らされ、ダイテツはその背中に冷たい汗が流れるのを感じるのだった……

 

 

 

 

市街上空でドラゴンとゲッター1が何度も交錯を繰り返す。其処に他の物が割り込める余地などなく、完全に武蔵とドラゴンの一騎打ちの形へとなっていた。

 

「ちっ、随分とパワーアップしてやがるな、ええ、おい」

 

「……」

 

AI制御のドラゴンが返事を返すことは無いと判っているが、武蔵はそう呟かずにはいられなかった。勿論ドラゴンの返答はダブルトマホークを投げ付けるという物であり、それを咄嗟に弾き返した。だがその代償としてゲッタートマホークの刃が完全に欠けてしまっている

 

(アードラーの糞爺が使っていたドラゴンよりも確実にパワーアップしてやがる)

 

新型炉心を搭載しているゲッターロボと互角……僅かにゲッターが上回っているが、それでもドラゴンの強さは凄まじい物だった。炉心を積み換えてなければ最初の鍔迫り合いで押し潰されていただろう

 

「!」

 

「舐めんなッ!!!」

 

0から一気にMAXスピードで斬りかかって来るドラゴン。だが武蔵はその速さに惑わされることはなく、トマホークの側面を的確に拳で叩き――がら空きのドラゴンの頭部を右拳で貫く。

 

「やっ……っと、そんなわけはねえわなぁ」

 

一瞬ぐらついてドラゴンの高度が落ちたので、制御系を破壊したか?と一瞬期待した武蔵。だがドラゴンは高度を落としたのではなく、下に落ちる勢いを利用してオーバーヘッドの踵落としをゲッター1の肩に叩き込んだ。その衝撃と振動に顔を歪めながらドラゴンから距離を取る武蔵、攻撃力はほぼ互角だがサイズ差で言えばドラゴンの方が頭一個分は高い。機動兵器同士の戦いであり、そして互いに打撃を武器とするゲッターとドラゴン。単純に考えて、質量と速度で上回っているドラゴンの方が攻撃力が高い。炉心の出力の差で僅差でゲッターが上回っているのは機動力と防御力であり、攻撃力では完全にゲッターが劣っていた。

 

「ゲッタービィィィムッ!!!」

 

それならばとゲッター1の最大の攻撃力を誇るゲッタービームでの攻撃を仕掛ける武蔵、それに対してドラゴンは頭部からビームを放つ。だがそれは案の定ゲッター線の証である緑ではなく、鮮やかな黄色の光線だった。

 

(ビームの攻撃力はこっちが上……でも行き成りは当てれそうに無いな)

 

ゲッタービームを見てからのドラゴンの動きは完全に防ぐ物と変わっていた。つまり、ドラゴンのAIもまたゲッタービームを危険視していると言うことだ。

 

(単純な勝負だが、これはそう簡単にはいかないな)

 

ゲッターはゲッタービームを当てれば勝ち、ドラゴンは近接戦闘でゲッター1を押し潰せば勝ち。シンプルな話だが、物事はそんなに単純な話ではない。

 

「……!!」

 

「へっ! そう来るよなあッ!!」

 

ソニックブームを起こして上空へと向かうドラゴンの後を追ってゲッター1も空を飛ぶ。無人機と有人機、スピードは互角でも、中にパイロットが居るか居ないかでは最高スピードなどの維持スピードは大きく異なる。無人機ゆえにスピードで武蔵を弱らせるという事を選択した人工知能だが、それは完全に悪手だった。

 

「舐めるなって言ったよなあッ!!」

 

「!?!?!?」

 

人間が耐え切れるスピードではないはずだった。だがそれはあくまで新西暦の人間を基準にした話だ。武蔵のような強靭な肉体を持つ旧西暦の人間からすれば、ドラゴンのスピードは反応することが出来、しかも耐える事が出来る速度だった。

 

「おらよっ!!!」

 

「!!!」

 

お返しと言わんばかりのオーバーヘッドキックがドラゴンの胸部に叩き込まれ、装甲が大きく拉げる。追撃に放たれたゲッタートマホークの一撃で胴体に真一文字の後をつけてドラゴンは急降下していく、それを追ってゲッターが頭を下にして急降下していく

 

「!!!」

 

だがドラゴンのAIは急降下してくるゲッターに向かって最も最善の一撃、腰にマウントしていた中折れ式のレーザーキャノンを構えて、ゲッターに照準を合わせ、引き金を引いた。急降下してくる勢いも相まってそれは必中の一撃であった筈だ。だが、ドラゴンのAIはゲッターロボに関して、もっと言えばパイロットである武蔵の情報が圧倒的に足りていなかった。

 

「オープンゲットッ!!!」

 

命中する寸前にゲッター1が分離し、ゲットマシンへとなった事でドラゴンのAIは混乱を来たし、一瞬だけフリーズした。そしてフリーズから回復したドラゴンの視界に広がったのは自身を押し潰そうと迫るジャガー号……いや、ゲッター3の姿なのだった。

 

 

 

 

地響きを立てて落下してきたゲッター3の姿にラドラは小さく笑う、竜馬も隼人も居ない。単独操縦のゲッターだから弱体化していると考えていたが、それはいらない心配だったようだ。

 

「これで俺は目の前の敵に集中出来るッ!!」

 

「!!!」

 

ドリルを翳し突っ込んでくる青いゲッター……武蔵が言うにはライガーの一撃を紙一重で交し、反撃にテールパーツを叩きつけようとするがライガーは急加速でそれを躱す。

 

(飛行能力もちのゲッター2か、中々に厄介だな)

 

ゲッター2のスピードを持ちながら、飛行能力を持つ。ゲシュペンスト・シグも飛行能力を持つが、その飛行能力はライガーには劣っている。

 

「だが、機体の性能が絶対的に勝負を分けるとは思わないことだッ!!」

 

両手首の先からエネルギークローを発生させ、最大スピードでライガーへと突っ込む。勿論これは回避されることが前提だ、予想通りに上空に逃れたライガーにシグの頭部を向ける。

 

「破壊光線を喰らうが良いッ!!!」

 

「!?!?」

 

口から放たれた光線がライガーの背部を捉え、僅かにライガーの高度が落ちる。その隙をラドラが見逃すわけは無い、ビルを踏み台にして飛びかかりシグの牙をライガーの胴体に突きたてる。

 

「!!!」

 

「ふっふっふ。捉えたぞッ!!!」

 

ライガーの胴体に牙を突きたてたまま、頭を左右に振る。突き立った牙がシグの首振りに合わせてライガーの胴体に深く傷をつける、だがライガーも好きにさせておくつもりはないらしくドリルを1度収納し、チェーンアタックを遠くのビルに巻きつけ、それの回収と背部のブースターによる急加速でシグの牙から逃れる。

 

「それくらい出来なくてはな」

 

無理やりの離脱によってシグの頭部が大きく破損するが、ラドラはそれを気にした素振りなど見せない。代わりにラドラの視線が向けられるのはコックピットのエネルギーゲージだ。もう4分の1を切り、レッドゾーンに突入している。

 

「ここまで飛んで来たのだ。無理も無かろう」

 

テスラドライブを搭載しておらず、バーニアとフライトユニットで飛翔しているシグのエネルギーの消耗は激しい、しかもライガーと言う尋常では無い速度を持つ特機と戦っていることでエネルギーの消耗は倍以上に激しい物となっていた。だがラドラに不安も動揺の色も無い、想定通りと言わんばかりの余裕の笑みを浮かべる。

 

「ではそろそろ……本気で行くとしよう!」

 

通常のゲシュペンストのコックピットには無いレバーを力強く降ろす。ライガーがドリルを翳し再び突撃しようとした瞬間、シグの身体が爆ぜる。その異様な光景にライガーのAIは混乱し、一瞬動きを止めた。

 

「戦場で動きを止めたな? それほど愚かしいことは無い、お前が俺を倒そうとするのならば、そのまま突撃するしかなかったのだ」

 

前傾姿勢だったシグの上半身がスライドしながら回転し、前傾姿勢だったその体が垂直へとその姿を変える。そして胸部が展開され、そこから回転しながらゲシュペンスト特有のバイザー型のカメラアイが胸部から出現する。そして頭部横の2つのアンテナが展開されるとそこにメカザウルスに似た姿はなく、ゲシュペンストがライガーとと向き合っている姿があった。そして最後にエネルギークローを発生させていた腕も回転し、瞬く間に爪突きの手甲へと変形し、腕の中から回転しながら拳が姿を見せる。

 

「おいおい、変形するゲシュペンストってありか……」

 

恐竜と言う姿をしていたシグが殆ど一瞬でゲシュペンストへと変形する姿。それにイルムを初めとした全員が信じられないという声を漏らす。

 

「行くぞッ!! ゲシュペンスト・シグの力を見せてくれるッ!!!」

 

パージされたテールパーツを持ち上げると、それを変形させビームライフルへと変化させたシグは光弾を放ちながらライガーに肉薄する。

 

「!!」

 

「そんな単調な動きで俺から逃げられると思っているのかッ!!」

 

急加速でシグから逃れようとするライガーだが、ゲシュペンスト・シグの胸部から放たれた光線がライガーの2枚の翼の内1枚を跡形もなく吹き飛ばす。

 

「ぬんッ!!!」

 

「!!」

 

ライフルに変形していたテールパーツは更に変形し、ビームエッジを持つ2刀となり、逃げようとするライガーを必要最低限の動きで追いかけ、的確にダメージを積み重ねていく。

 

「必殺! 大! 雪ッ! 山ッ!!!」

 

「目障りな複製品は失せろッ!!」

 

ドラゴンをゲッター3の伸縮自在の両腕が締め上げ、天へと伸びる動きでドラゴンの巨体を引き裂きながら上空へと投げ飛ばす、シグは手にしていたテールパーツを投げ捨て、両腕のエネルギークローを展開し、獣のような動きでライガーに組み付き、その爪でライガーを引き裂く。

 

「おろしいぃぃぃッ!!!」

 

「目障りだ、消え失せろッ!!!」

 

市街地から外れた所に叩きつけられたドラゴンは上半身が拉げ、脚部を数回痙攣させると爆発炎上し、その姿を消し……ライガーはシグの両手のエネルギークローで胸部をズタズタ引き裂かれ、更に動力部を強引に引き抜かれながら、繋がっているパイプからオイルを撒き散らし――その活動を停止させるのだった……

 

 

 

 

ラドラと武蔵がドラゴンとライガーを屠った頃。キョウスケ達も残す敵は青い指揮官だけとなっていたが、その指揮官機の動きだけが桁違いに良かった。

 

「ぐあっ! く、くそ。グルンガストとジガンスクードで押さえれないとか化け物かッ!」

 

「くそ、これじゃあ、最強の盾の名を返上しないといけねえッ!!」

 

レーザーブレードで切り裂かれ、蹴りを叩き込まれたグルンガストがビルに叩きつけられた。、ジガンスクードは両腕に装備しているその盾を切り裂かれた上に頭部にレーザーブレードを突きこまれ、完全に視界を失っていた。

 

「!」

 

「今の動きは……!」

 

だがその動きにギリアムとラトゥーニは見覚えがあった。動きを停止させたラトゥーニを見てガーネットが慌てて通信を繋げる。

 

「どうしたの、ラトゥーニ!? 機体トラブルなの」

 

「う、うん……違う、あの機体の動き、見覚えがあるの……」

 

動きに見覚えがあると告げるラトゥーニ、その呟きはオープンチャンネルで全員のコックピットに響いた。

 

「見覚えがあるって……あれ、敵の新型機よ!?」

 

「そうだよ、交戦するのだって今回が初めてなんだよ?」

 

前回はイングラムを救出し、即座に撤退したエゼキエル。そして今回の戦いが初めての交戦であり、戦闘データはなどある訳が無い。だがラトゥーニはその動きを見たことがあると断言した。

 

「………まさか……な」

 

そしてギリアムもまたその動きに見覚えがあり、一瞬脳裏に浮かんだ考えに何を馬鹿なと首を振り。エゼキエルへと向き直る。

 

「無事な機体は撤退支援を行え! あの指揮官機は並じゃないッ!」

 

キョウスケがそう叫んでエゼキエルへとアルトアイゼンを突撃させる。ゆっくりと振り返ったエゼキエルはその腕でリボルビングステークを受け止める。

 

「コノオト……タイプT……」

 

「何?」

 

接触通信で告げられた声にキョウスケは一瞬動揺し、その一瞬でエゼキエルはリボルビングステークを掴んだまま、アルトアイゼンを背負い投げの要領で地面に叩きつける。

 

「がっはっ!!」

 

「排除……する」

 

アルトアイゼンの重量と、エゼキエルの膂力によって叩きつけられ、アルトアイゼンのコックピットでキョウスケは悶絶し――動く事の出来ないアルトアイゼンにレーザーブレードの切っ先を突き降ろそうとするエゼキエルにR-1が走る。

 

「うおおおおッ!!」

 

「……アマイ……」

 

R-1の決死の突撃はエゼキエルの膝蹴りによって防がれ、宙を舞ったR-1に文字通りエゼキエルの鉄拳が突き刺さる。

 

「ぐふうっ!?」

 

ビルに背中から盛大叩きつけられ、崩壊したビルの瓦礫の中に消えるR-1。今度こそアルトアイゼンにトドメを刺そうとしたエゼキエルだが、

 

「色男さん、合わせてよねんッ!」

 

「言われるまでも無いッ!!」

 

ヴァイスリッターのオクスタンランチャーEモードとR-2のハイゾルランチャーの弾雨を横から喰らいエゼキエルの巨体は大きく吹き飛ばされる。

 

「この距離貰った」

 

「取らせて貰うぞッ!!!」

 

メガ・プラズマカッターとダブルビームクローの追撃がエゼキエルへと突き刺さろうとしたその瞬間。エゼキエルの両腕はさも当然のようにメガ・プラズマカッターとビームクローを展開しているシグの手首を掴む。

 

「……コノウゴキ……マダクセガナオラナイノカ……」

 

「「!?」」

 

接触通信から告げられた言葉にギリアムとラドラが一瞬硬直し、エゼキエルの回し蹴りでタイプR、ゲシュペンスト・シグ共に大きく吹き飛ばされる。

 

「でやあッ!!!」

 

「このおッ!!!」

 

サイバスターとヴァルシオーネの挟み打ちも、エゼキエルは側面にも目があると言わんばかりに振り返る事無く回避し、サイバスターとヴァルシオーネの頭部を掴んで互いを正面衝突させ、その衝撃で前後不覚となったサイバスターとヴァルシオーネにエゼキエルの両腰から迫り出した集束機から光弾が発射され、サイバスターとヴァルシオーネはそのまま墜落していく。

 

「つ、強い! なんて性能なの」

 

「……このままでは不味い、全滅しちまうぜ!?」

 

エースパイロットと呼ばれる者達が次々と撃墜されて行く光景を見て、リオとジャーダが悲鳴をあげる。指揮官機である事は判っていた、だがエゼキエルの強さは今までのエアロゲイターの機体を圧倒的に上回っていた。

 

「ゲッタービィィィムッ!!!」

 

マントを纏って急降下してきたゲッターロボのスパイラルゲッタービームがトドメを刺そうとしていたエゼキエルの動きを止め、僅かに後退させる。

 

「……ゲッターロボ……確認」

 

「なんだこいつ……妙な感じだ」

 

エゼキエルからハガネのPT隊を護るように着地したゲッターロボにエゼキエルは視線を向ける。暫くの間レーザーブレードとゲッタートマホークを向け合うゲッターロボとエゼキエル……2機の間に凄まじい威圧感が満たされるが、先に気配を霧散させたのはエゼキエルだった。レーザーブレードを収納し、ゲッターロボに背を向けると現れた時と同じ様に転移で姿を消した。見逃されたと言う事は全員が理解し、エアロゲイターの圧倒的な戦力を体感したキョウスケ達は一言も発する事無く、ハガネとヒリュウ改へと帰還していく。エアロゲイターの本隊との初戦は完膚なきまでの敗北であった……

 

 

 

 

伊豆基地に帰還したヒリュウ改とハガネは今回交戦したナイトの分析を行う為、PT隊には半日休憩を指示し、ダイテツ達を初めとした首脳陣はデータ室へと集まっていた。

 

「ご苦労様です、ギリアム少佐。特別調査任務の方は終わったのですか?」

 

「いえ。まだ継続中ですが、ラドラと共にハガネとヒリュウ改と行動せよと指示を受けたので、このままご厄介になろうと考えています」

 

ギリアムの言葉にダイテツとテツヤの顔が険しい物となる。恐竜帝国のキャプテンと名乗ったラドラには僅かな不信感があるのは仕方ないことだ。

 

「ギリアム少佐。ラドラが恐竜帝国と言う事を君は知っていたのかね?」

 

「いえ、ただ彼は自分には前世の記憶があると良く酒の席で口にしていました。冗談だと思っていたのですが……まさか真実だったとは」

 

「では知らなかったと」

 

「はい、情報部に所属していることもあり、良く酒を飲む事はありましたが……彼のプライベートまでは詳しく知っているわけではないですので」

 

ギリアムとダイテツは暫く互いの顔を見つめていたが、ギリアムの言っている事を真実だと判断し、それ以上ラドラの事を追求するのは止め、本題であるナイトへの分析へと話題を戻す。ギリアム少佐、そしてラドラの所有するゲシュペンスト・シグはこの状況では頼もしい味方となる。下手に過去を追及するべきではないと判断したのだ。

 

「……現在、我が隊の現場の指揮官はキョウスケ・ナンブ中尉が務めているのですが……」

 

「異論はありません。自分は任務の都合上、身軽な方が助かりますから」

 

キョウスケが指揮官になることに不満は無いだろうがと思っていたショーンだが、ギリアムの異論は無いと言う言葉に安堵の表情を浮かべる。だがそれが任務の都合上と言われ、ギリアムの任務とはと疑問に感じ、その事を尋ねてみることにしたのだ。

 

「しかし、随分前から気になっていたのですが……少佐の任務とは?」

 

「……機密事項ですので、詳しく話は出来ませんが。とある者の追跡調査と、ある物の捜索とだけお答えしておきましょう」

 

遠回しに話す事が出来ないというギリアムにこれ以上問いただす事は出来ないとショーンは判断し、わかりましたと返事を返す。データ室に妙な空気が広がった時自動扉が開き、カイがデータ室に入室してくる。

 

「久しぶりだな、ギリアム。お前とは教導隊以来か?」

 

「カイ少佐もお元気そうで何よりです」

 

「ハッハッハ、俺はそれが取り柄だからな。しかし、俺を態々呼んだ理由はなんだ? ラドラの奴に会いに行くつもりだったんだが」

 

同じ教導隊であり、顔を見合わせることの無いラドラに会いに行こうと思っていたと言うカイ。DCとの戦争で教導隊は敵味方に別れたが、退役してから会う事のないラドラの顔を見たいと思うのは当然の事だろう。

 

「すいません……遅れました」

 

データ室におどおどと入ってくるラトゥーニ。その姿を見て、ギリアムはやっと話を始めることが出来ると笑い、コンソールを操作する。

 

「では、まずこの戦闘データを見てください」

 

データ室のモニターに先ほどのナイトとの戦闘データが映し出される。

 

「これは先ほどの戦闘で、ラトゥーニ少尉が記録・分析した物です」

 

「敵の青い新型……AGXー12ナイトと呼称される事になった機体ですね」

 

映像を見てレフィーナが告げる、ハガネとヒリュウ改のPT隊を一蹴した新型。その強さは紛れも無い脅威だ。

 

「キョウスケ中尉は指揮官機ではないかと言っていましたね」

 

「問題なのは、青い新型機の性能ではなく、その動きの事です」

 

この分析で戦闘力の事を考えると思いきや、その動きに問題があるというギリアムの言葉にダイテツ達は首を傾げた。

 

「ラトゥーニ少尉はナイトの動きに見覚えがあると報告しています、そして私とラドラもまたその動きに見覚えがありました」

 

「……モーションデータの記録を見たのですが、スクールにいた時にこの動きを見た事があります」

 

「スクール時代? いや、これは敵の新型だぞ? 間違いないのか?」

 

スクール時代に見た記録と聞いて、テツヤが怪訝そうな顔をして尋ねる。

 

「む……? あの動き、俺も覚えが……」

 

モニターを見ていたカイもナイトの動きに見覚えがあると告げる。3人の教導隊が見覚えがあり、そしてスクールにいたラトゥーニも見た事がある……

 

「待て、待て待て、ギリアム。この動きの癖は……俺達の物じゃないッ! カーウァイ隊長の物だ!」

 

「その通りです、恐らくエルザム、ゼンガーも気付いたでしょう」

 

教導隊のメンバーだけが判る、敵の新型のモーションデータの癖。カイが叫んだ名前にショーンが眉を顰めた。

 

「カーウァイ・ラウ……教導隊のメンバーでしたね? 確かゲシュペンストSのテスト中に行方不明になった……」

 

機体ごと行方不明となっているはずの人物の操縦の癖がエアロゲイターの新型に出ている。

 

「ギリアム、お前はカーウァイ大佐がエアロゲイターの機体に乗っているとでも言うのか?」

 

「……可能性はあります、イングラム少佐にも洗脳されている疑惑があると言う報告がある以上、カーウァイ大佐も同じく操られ、エアロゲイターの尖兵となっている可能性はゼロではありません」

 

イングラムへの洗脳疑惑、そしてそれはカーウァイ大佐もまた操られていると言う可能性に繋がる。

 

「しかしそれもあくまで可能性の段階の話になりますが、今回の件とイングラム少佐の過去の行動を調査すれば、エアロゲイターの本当の目的も判明するかもしれません」

 

ギリアムが真剣な表情で告げた言葉、それはエアロゲイターとの戦いの尖兵に同じ地球人が使われているかもしれないと言う可能性が示唆されたのだった……

 

そしてダイテツ達がデータ室で話をしている頃……食堂では異様な緊迫感に満たされていた。

 

「久しぶりって言うべきなのかな」

 

「そうなるのだろうな」

 

ラドラと武蔵が向かい合い、互いに複雑な表情をし話を切り出すタイミングを互いに計りあっているのだった……

 

 

 

第52話 ラドラと武蔵

 

 




今回は話の内容を大幅アレンジしました。エアロゲイター側に量産型ドラゴン、ライガー、ポセイドンの参戦ルートです。ゲッターがいるから、敵もハードモードでお送りすることとなりました。次回はオリジナルの話でラドラと武蔵の話を書いていこうと思います、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第52話 ラドラと武蔵

第52話 ラドラと武蔵

 

伊豆基地の食堂には異様な緊張感で満たされていた。その理由は勿論武蔵とラドラだ、武蔵が旧西暦の人間であると言うことは伊豆基地の人間全員が知っている、だがラドラもまた旧西暦の人間であり、そして武蔵と戦っていた敵側である恐竜帝国の人間……いや、爬虫人類だと言う事で警戒されるのも当然だった。そして武蔵もラドラもこの雰囲気を感じ取り、上手く話が出来ないまま沈黙だけが続く……筈だった。

 

「はいはーい! いつまでも黙り込んでいても何も変わらないでしょ! 武蔵もラドラ少佐も話す事があるなら話すべきだと思うのよね!」

 

「エクセレンさん……」

 

「なんだ、随分とお調子者が来たな」

 

食堂の雰囲気を壊したのはエクセレンだった。お調子者ではあるが、決して空気が読めない訳ではない。そして頭が悪いわけでもない、このままでは話が何も進まないと判断して、武蔵の隣に座りそう声を上げたのだ。

 

「いや、ちょっと近くないですか?」

 

「なんか凄い新鮮なリアクションッ! ブリット君わかる!? こういうのが美女に接近された時の正しい反応なのよッ!」

 

話を振られ口を開きかけ、やっぱり閉じて、ブリットは誤魔化すようにコーヒーサーバーへと逃げていった。

 

「いや、本当近いですから」

 

「もぉー照れてて可愛いわね、頭撫でてあげましょうか?」

 

撫でてあげましょうか? と言いつつも、そう言っている時にはもう撫でられている武蔵はなんともいえない表情をする。照れるべきなのか、呆れるべきなのか、青春と言うべき時代を恐竜帝国との戦いに費やした武蔵は、恋愛に関してはとことん奥手である。更に言えばエクセレンのような美女に対して、どんな反応をすれば良いのか判らないでいた。

 

「余りからかうな、すまないな。武蔵」

 

「ちょっとー、場を和ませてあげたのにー、あッ!、それとも。もしかしてキョウスケったら嫉妬してる? 若いツバメには興味はあるけど……いたたたッ!! それ彼女にする反応じゃな……あいたたッ!! 痛い! ほんとに痛いからッ!!!」

 

エクセレンの止まることのないマシンガントークにキョウスケは無言でその頭をアイアンクローで締め上げ、エクセレンが痛いと何度か叫ぶとようやくその手を放した。

 

「すまないな、エクセレンなりに気を使った結果なんだが……」

 

ひとしきり折檻した後に謝罪するキョウスケにラドラも武蔵も気にすることはないと言って首を振る。正直エクセレンがいなければ、2人は話を切り出すタイミングすら見出せず。ずっと黙り込んでいただろう……少しやりすぎた感じはあるが、エクセレンの悪ふざけは決して意味のない物ではなかった。

 

「久しぶりって言うのはおかしい……よな」

 

「そうだな。こういう時は……懐かしい……も妙だな」

 

敵として戦ったのだ、決して友人関係などではない。だが確かに、ラドラと武蔵達には言葉では容易に表現出来ない絆があった。しかしそれを絆と呼ぶには違和感しかないのも確かな事で――2人はただただ揃って苦笑する。

 

「はいはーい! 私色々聞いて見たいことがあるんだけど良い? 武蔵にもだけど、あんまり話をする機会なんてないわけだし、皆もなん

かいろいろ聞いて見たいこととか無いのー? 勿論話を聞くだけでも良いわよー」

 

エクセレンがそう呼びかけた事で、遠目で話を聞いていたリュウセイやイルム達が武蔵とラドラの座るテーブルに集まってくる

 

「それなら俺も混ぜて貰うか」

 

「……カイまでか、なんとも騒がしいことになりそうだ」

 

データ室での話し合いを終えたカイまでもが合流し、エクセレンが司会を務める中で武蔵とラドラに色々と話を聞いてみようの会が幕を開けるのだった……

 

 

 

 

「じゃあ、まずラドラ少佐「少佐はいらん」じゃあラドラって呼ぶわね。キャプテンって言ってたけど、あれって渾名みたいなものなのかしら?それとも恐竜帝国と関係のあることなのかしら?」

 

エクセレンの行き成りの核心を突く言葉、だがラドラはそれに対して不快だという素振りを見せずその通りだと頷く。ラドラから見てもエクセレンは才女であり、それをおちゃらけた姿で隠している。その姿に面白いと感じていたからだ

 

「その通りだ、キャプテンは自分専用のメカザウルスを持つ貴族階級の者を言う」

 

「貴族? ラドラは貴族だったのかしら?」

 

新たな謎が増え、目を輝かせるエクセレンにラドラは苦笑しながら、恐竜帝国の階級についての話を始める

 

「まず恐竜帝国は、王族、貴族、平民、下層民の4つの階級がある。王族は武蔵も知ってのとおり、帝王ゴールを初めとする、ゴール一族

強大な力を持つ者が多い、貴族は基本的に軍部や研究職に就くエリートを指す、そしてその中でも自分専用のメカザウルスを持ち、指揮権を持つ者をキャプテンと呼ぶ。その下に平民、武蔵もよく知る恐竜兵士の事だ」

 

「ああ、あいつらか……わらわら出てくる」

 

「そうだ、あいつらは知能も戦闘能力も決して高い訳ではないが数がいることだけが最大の武器だな」

 

「全然死なないしな、あいつら」

 

「体が両断されようが、全身を焼かれようがそう簡単に死なないからな」

 

武蔵とラドラの話が余りに血生臭く、食堂の雰囲気が悪い物になるが2人は気付かず話を続ける

 

「人間だって恐竜兵士を殺す武器を色々作っていただろう」

 

「人間じゃなくて基本的に敷島博士だけどな。三連発小型散弾銃とか、ミサイルガンとか訳の判らんのを良く作ってた」

 

「どこの研究職も頭がおかしいのは1人や2人いるものだな」

 

違いないと笑いあう2人だが、その話の内容は決して笑い合える物ではない。しかし伊豆基地にもマリオンがいるからこそ、人事ではないとキョウスケ達は感じていた

 

「敵同士だったのに、良くそんなに笑えるよな、もしかしてラドラは裏切ったりしたのか?」

 

「裏切る……ああ、そうだな。俺は確かに裏切ったよ」

 

まさかの裏切ったと口にするラドラにその場で話を聞いていた、メンバー全員が酷く驚いた様子の顔をしていたのだが……特にリュウセイ達は、イングラムの事もあり、裏切りに大しては全員が過敏になっていたが、カイが慌てた様子でラドラのフォローに入る。

 

「裏切るって、お前そういうのは嫌うだろうに……そもそも、お前はいつも言葉が足りないんだ」

 

「……ゲッターを倒し栄光を得るか、それとも死ぬかと言われ、最強のゲッターロボに挑戦したいという事もあり戦いを挑んだからな。俺自身はあの当時は人間に対して特に思う事はなかった。ただ自分の作り上げたメカザウルスとゲッターの力比べをしたかったと言うのもあった」

 

ラドラの表情や言葉にも憎しみの色は無く、純粋にどちらが強いか確かめたいと言う求道者のような素振りが見えていた

 

「なんか、想像と違うな。こう人間を憎んでいるとかそういう風に思ってた」

 

「確かにな、と言うかラドラ。人間じゃないってどういう事だ?」

 

カイのどこか抜けた言葉に苦笑するラドラは先にそちらを話すかと呟いた

 

「俺はゲッターと2度戦った、1度目は禄に抵抗も出来ずに負け竜馬に助けられた。2回目は俺が逆にゲッターを圧倒し勝利を確信した……だが勝利を確信した俺は信じられない物を見た」

 

ラドラはそう言うと目を閉じて、顔を上げる。その閉じた目にはラドラを変えた光景が浮かんでいると言う事なのだろう……その顔には懐かしさを感じさせる柔らかな笑みが浮かんでいた

 

「火山の噴火で街を襲った溶岩流をゲッターロボはその身を挺して護ろうとした。……自分達が死ぬ事を覚悟してまでも人間を護ろうとするその姿に――俺は余りにも強い衝撃を受けた。武蔵達は敵の俺の命を助け、そして今、死を覚悟で街を守ろうとしたその姿に俺は殆ど反射的にゲッターを助けていた。その結果ゴールに遠隔操作で自爆装置を起動させられたが……俺に後悔はなかった。俺は死を選んだ。しかし、同時に本当の栄光を掴んだのだ」

 

それは与えられた栄光ではない、自分自身が認めた本物の栄光を手にしたと力強く言うラドラ

 

「オイラ達も思ったさ。なんでラドラは恐竜帝国なんかに生まれたのかって」

 

「俺もそう思ったよ。何故俺は恐竜帝国に生まれたのかとな、人ならばお前達の手を掴めたのになとな」

 

スーパーロボットの定番である、敵との和解。だがそれを見てリュウセイは……いや、その場にいた全員は誰も言葉を発することはなかった。自分達の理解を超える、敵と味方、種族を超えた友情がラドラと武蔵の……いやゲッターチームの3人の間には確かに友情があったのだ

 

「すまないが、ラドラ少佐。それだと貴方は恐竜帝国として死んだはずだ、しかし貴方は人間にしか見えない。こんな事を言うのは失礼だというのは判っている、だが貴方が本当に人間であるということを証明してくれなければ、どうしても不信感を消す事は出来ない」

 

「裏切りか、確かにな。ギリアムから話は聞いている、イングラム・プリスケンの事、そして恐竜帝国と戦ったのならばそれも当然だ。だが俺も正直良く判っていないと言うことは心に留めて置いてほしい」

 

ラドラはそう前置きしてから、何故自分がここにいるのかを話し始めた……荒唐無稽と言われてもそれがラドラにとっての唯一無二の真実だ。それを偽ることは出来ないのだから――

 

「あの時は驚いた、なんせ死んだ筈の俺が目を覚ますと俺は人間になっていたからな。しかもだ、軍学校の中だ。最初は混乱した物だよ」

 

「突然だったのか?」

 

「そうだ、死んだ筈の俺が目を覚ます。そんなありえない事が起きたのだ、ラドラ・ヴェフェス・モルナと言う人間として目覚めたのだ。生まれ変わったのか、それとも同名の男に憑依したのか、それは判らないがキャプテン・ラドラは新西暦でラドラ・ヴェフェス・モルナとして新生したのだ」

 

死んだ人間が、同名の別の人間として目覚めた。元のラドラ・ヴェフェス・モルナがどうなったかは判らない、ラドラが憑依した事で元の人格は死んだのか、それともラドラ・ヴェフェス・モルナと言う人間が旧西暦のラドラの夢を見ていて、そうなったのか……何故ラドラが生まれ変わったのか、それは誰にもわからない。だが、今こうして新西暦を生きる1人の人間として新たな生を生きている。それが嘘偽りの無い、ラドラの真実だった

 

「そういえば、急に性格が変わったと噂になっていたな」

 

「……だらけ切った身体には我慢ならん」

 

カイが当時を思い出したように呟く、どうもラドラとしての意識を得る前のラドラ・ヴェフェス・モルナと言う人物は決して軍人として優秀な人間ではなかったようだ

 

「しかし、武蔵。お前は何故この時代にいるのだ?」

 

「いやあ、恐竜帝国のど真ん中で自爆してな、気が付いたら新西暦だ」

 

「お前も無茶をするな、竜馬と隼人は? 一緒じゃなかったのか?」

 

「単独操縦で特攻したからオイラだけだ」

 

単独操縦と聞いてラドラは納得したと呟き、コーヒーを啜る。

 

「道理で弱くなっている筈だ、俺の知るゲッターロボとは雲泥の差だな」

 

「うっ、やっぱりか?」

 

「ああ、最初は何故こんなにも動きが鈍いのかと思った。手加減をしているのかとさえも思ったぞ」

 

ラドラはゲッターロボの最も強い時を知っている、今のゲッターロボでも強いと思っていたリュウセイ達はその言葉に驚きながらも、尋ねずに入られなかった

 

「一番強いときのゲッターロボはどれくらい強かったんだ?」

 

「そうだな、メカザウルスの一部隊をぶつけても勝てなかった。しかもゲッターロボに傷を付ける事さえも出来なかった」

 

「メカザウルスの一部隊をぶつけても、ダメージを受けないとかどうなってるんだよ」

 

「ちょっと信じられないよな」

 

メカザウルスの強さは直に戦って理解している。だがそれだけの相手と戦って、無傷と言うのは流石に信じられなかった

 

「なんだ、武蔵言ってないのか? この世界のメカザウルスは弱いと」

 

 弱い!? ラドラから告げられた信じれない言葉にリュウセイ達の視線が武蔵に向けられる。武蔵は口にしようとしていたクッキーを机の上に戻して

 

「はっきり言って弱い、もしオイラ達が戦ったメカザウルスのままだったら、正直に言うと日本は壊滅していたと思う」

 

「ゲッター線コーティングもなかったうえに、部隊はキャプテンに率いられていないから統率も何も無い。ただ本能のまま暴れるだけだったからな……」

 

 自分達が脅威だと思っていたメカザウルスが、実は弱いと聞いてリュウセイ達は言葉もなく、懐かしむように話を始めるラドラと武蔵を呆然とした様子で見つめる事しか出来ずいた。ラドラと武蔵の懐かしむような話にリュウセイ達は勿論、エクセレン達も何も口を挟む事が出来ず。当初エクセレンの言っていた質問などが出来る空気ではなかった

 

「お前の武術……柔道だったか、あれは中々に厄介だったな」

 

「ただの学生の域を出ないさ、力任せに技を仕掛けていただけだよ」

 

2人の話はいつの間にかゲッターロボを用いない生身での戦いの話へと移っていた。

 

「ほう、お前は柔道をやるのか」

 

「中々の腕前だぞ、武蔵は」

 

「ラドラがそこまで言うのか……武蔵。伊豆基地の道場で勝負してみないか?」

 

「え! 道場あるんですか!?」

 

「ああ、あるぞ。どうだ、俺と一試合するか?」

 

「しますしますッ!! いやあ、柔道やるなんて久しぶりだなあ」

 

「どれ、俺もやるとしよう。殺し合いではない、競い合いとしての勝負も悪くはあるまい

 

 そして話はいつの間にかカイと武蔵の柔道対決となり、意気揚々とした様子でカイと共に食堂を出る武蔵とラドラ。

 

「カイ少佐って柔道の達人だったよな」

 

「こりゃ、面白そうだ。あちこちに声を掛けて見るかッ!」

 

カイと武蔵とラドラの柔道対決と聞いて、イルムやタスク達も食堂を出て、柔道場に足を向けるのだった……

 

 

 

 

 

 武蔵とラドラ、そしてカイの3人の柔道対決と聞いて伊豆基地で手が空いている兵士達はこぞって柔道場に向かっていた。ジョナサンやカークも向かった辺り、旧西暦と新西暦の人間の身体能力の差を調べようとしていたのは間違いない。

 

「……」

 

 静まり返った格納庫の中に佇むゲッターロボを見上げる男の姿。その目には憂い、憎しみ、怒り、親愛……様々な複雑な感情の色が浮かんでいる。静まり返った格納庫に銃の撃鉄を上げる音がし、ゲッターロボを見上げていた男が慌てた様子で振り返る

 

「お前は……何故俺に銃を向ける」

 

男……コウキ・クロガネに銃を向けていたのはギリアムだった。コウキを鋭い目で見つめながらギリアムは銃口をコウキへと向けながらコウキの言葉への返事を返した

 

「百鬼帝国、鉄甲鬼を警戒するのは当然だとは思わないか?」

 

「!? 貴様……何者だッ!!」

 

捨てたはずの名前、誰も知らないはずの己の本名を告げられた事でコウキの顔色は変わり懐に潜ませていたナイフを抜き放つ

 

「俺が何者か……か。お前とそう大差はない、自らの住まう世界から追放された者とでも言おうか?」

 

「……恐竜帝国か、それとも百鬼か?」

 

コウキの返答にギリアムは苦笑し、首を左右に振る。

 

「そのどちらでもない、だが恐竜帝国も百鬼も、ゲッターロボも「マジンガーZ」も知っている」

 

「まじんがー? なんだそれは?」

 

聞き覚えのない名前にコウキ……いや鉄甲鬼は困惑した様子で尋ね返す。その返答を聞いてギリアムは少し残念そうな顔をしたが、すぐに元の冷酷とも取れる表情に戻る。

 

「時間を稼ごうと言うのは無駄だ、一時的に監視カメラは遮断している。それに今この格納庫に来る人間はいない、俺の返答に答えるならばよし、答えないのならば」

 

その続きは口にはせず、銃の銃口を頭から胸へとずらすギリアム。それで何を言おうとしているのか理解した鉄甲鬼は手にしているナイフを捨て両手を上げる

 

「すまないな。こんな野蛮な真似はしたくはないのだが、生憎俺には時間はない。俺の質問に答えて貰おうか」

 

ギリアムの言葉に鉄甲鬼は溜め息を吐き、何を答えればいいと訪ねる

 

「胡蝶鬼を知っているだろう? 彼女に接触をした筈だ」

 

「……なるほど、あの時は誤魔化されたがグルか」

 

「仕方ないだろう? 彼女は俳優だ。演じるのは彼女の得意分野だ」

 

俳優じゃなくても胡蝶鬼は演じることが得意だろうにと鉄甲鬼は苦笑いを浮かべた。

 

「俺と同じなのか、それを知りたかっただけだ」

 

「百鬼帝国の再建には興味はない訳か」

 

「当たり前だ。今の俺に角はない、それにジョナサン博士には世話になっている。そんな人間を裏切るような真似はしない」

 

「鉄甲鬼「その名で呼ぶな、俺はコウキ・クロガネだ」……失礼した、ではコウキ。お前はこの時代で人間として生きるという事で良いのか?」

 

ギリアムの言葉にコウキはそうだと迷う事無く返事を返す。その眼にやましい色はなく、ギリアムはコウキの言葉を真実だと判断し、銃を懐に戻す

 

「すまないな、手荒な真似になった。だが俺にはお前を見極める必要性があった」

 

「それはラドラもか?」

 

「あいつは教導隊の時に一晩話し合っている」

 

ラドラと言う名前、そしてその言動にギリアムは教導隊時代にラドラを互いに納得行くまで話し合い、そして自分以外に来訪者がいることを知ったのだ。

 

「お前にはいくつか協力して欲しいことがある」

 

「……ゲッターロボの修理か?」

 

話を最後まで聞かずにそう尋ねてくるコウキにギリアムはその通りだと返事を返す。ビアンの手によってかなり良いところまで修理を施されているが、まだ万全とは言いがたい

 

「お前はゲッター線の研究をしていたはずだ」

 

「……敵を知るのにそれと同等の力を使うのは当然だ」

 

ゲッター線に関する理解が足りない、それ故にビアンの修理は完全ではない、だが新西暦の人間がここまで良く修理をしたとギリアムは感じていた。まるで何かに導かれるように修理が施されている……それはギリアムの中で1つの疑惑になっていた

 

(ビアン・ゾルダークはゲッター線に選ばれたのか)

 

ゲッター線は寄り代を求める。それが竜馬であり、隼人であり、そして武蔵であり、早乙女博士であった。そしてこの時代の寄り代として選んだのはビアンなのかもしれない、だからこそここまで修理が出来ていたのかもしれない。

 

「協力はしよう、だが俺の経歴は他言無用。俺は表舞台に立つ気はない」

 

「……良いだろう、何も表舞台に立つことだけが戦いではない」

 

むしろ表舞台に立つよりも、裏で活動する方が良い場合もある。その点で言えば、コウキは武蔵やラドラを隠れ蓑として動いてくれている方が、ギリアムにとっては都合が良いだろう

 

「ゲッターロボの修理は武蔵の了承が必要だが、断ることは無いだろう。ゲッターの修理をこれと平行して行って欲しい」

 

「これは……ゲシュペンストか? 今の連邦を判っているのか?」

 

「判っている、その上で頼む、これをジョナサン博士に回してくれ」

 

ゲシュペンストの強化プランをコウキを通して、テスラ研に託すことにした。直接動けば、今の段階ではゲシュペンストよりも、ヒュッケバインを推し進めたい上層部に潰される可能性がある。だからテスラ研で形にしてもらい、試作型を作りそこから強引にゲシュペンストの強化プランを推し進める。それがラドラとギリアムの計画だった

 

「良いだろう、テスラ研も今のやり方を認めているわけではない」

 

「テスラ研初のPTだからな」

 

確かに性能は良いかもしれない、だがヒュッケバインを量産する事をテスラ研も認めている訳ではないのだ。

 

「それで、俺に頼みたいことはこれで最後か?」

 

ギリアムが返事を返さない事を了承と受け取り、歩き出したコウキ。ギリアムはその背中に言葉を投げかけた

 

「最後に1つだけ聞きたい、お前はゲッターをどう考える」

 

「……越える事の出来なかった壁だ。機会があるならば、もう一度挑みたい。敵同士ではない、ただ競い合う相手としてな」

 

そう笑い、格納庫を出て行くコウキ。ギリアムはそれを見届けてからゲッターロボを、先ほどまでのコウキと同じ様に見上げる

 

「……懐かしいと思うのは、きっと酷なことなのだろうな」

 

こうして再び会う事が出来た。たとえ武蔵がギリアムを知らなくても、自分だけが一方的に知っているとしても、それを喜んでいるギリアムは苦笑し、ゲッターロボに背を向けるのだった……

 

 

 

第53話 対決 へ続く

 

 




ちょっと今回は思うような話になりませんでした、書きたい話を文にするのはとても難しいですね。次回は柔道対決から入って、次シナリオの導入までを書いていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第53話 対決

第53話 対決

 

伊豆基地の柔道場……正しくは訓練場なのだが、そこは普段の倍以上の人間が集まっていた。その理由は勿論、武蔵とカイの柔道対決にあった。カイに柔道でしごかれるのは新兵の最初の仕事とも言える、PTのスペシャリストでありながら柔道の達人であるカイと武蔵の対決と聞いて盛り上がらない訳がなかった。

 

「はいはーい、カイ少佐と武蔵の柔道対決だ。どっちに賭ける! さぁ張った張ったッ!!!」

 

タスクが意気揚々とカイと武蔵の対決を賭けにしている。それを見てカイは小さく溜め息を吐くが、今は半舷休憩そこまで目くじらを立てるものではないかと納得はしていないが、自分に言い聞かせるようにそう呟き念入りの柔軟を始める。

 

(……強いな)

 

自分と同じ様に柔軟を行っている武蔵だが、腰周りと腕周りを重点的にやっているのを見て間違いなく武蔵の柔道のスタイルは投げ技をメインとした物だろう。その身体から繰り出される力技は軍務経験を積んで過ごした日々の果てに衰えを実感している今――受け流すには些か辛いが、柔よく剛を制す。自分の流に持っていければ大丈夫だろうと考えていた。

 

「武蔵だ」

 

「おー相変わらず大穴ですね。負けたら大変ですよ~」

 

「構わない、俺は武蔵が勝つと踏んだだけだ」

 

「じゃ、俺も武蔵ッ!」

 

賭けの比率はやはりカイのほうが人気だ。カイの柔道の強さを知っているだけに、いかに柔道を修めていたとは言え学生。武蔵が勝てるわけが無いと思うのは当然の事であった。柔軟を終えて立ち上がった所でラドラがカイの背後に立つ。

 

「武蔵の事だ、まずは挨拶代わりに仕掛けてくるぞ。そのまま負けるような無様な真似は見せるなよ」

 

「言ってくれるな、まだまだ若い者には負けんさ」

 

その自信が驕りにならなければ良いがなと笑い、コートの外に出るラドラ。タスクが胴元の賭けの受付も終わり、カイと武蔵が向かい合って立つ

 

「――始めッ!!」

 

審判を務めているラドラの合図と同時に武蔵が弾丸のような勢いで突っ込む

 

「ぬんっ!!」

 

「むっ! とっ!」

 

見ていたキョウスケ達は一瞬何が起こったのか理解出来なかったが、武蔵はカイの懐に飛び込み。そのままの勢いで背負い投げを放ったのだ

 

「……わざとか」

 

「へへッ! ま、オイラの力量を見せるって事ですよ」

 

今のタイミングならば背負い投げで一本を決めることが出来た。だがそれを武蔵はしなかった、カイに自分の力を見せる為の攻撃

 

「これは久しぶりに良い勝負が出来そうだ」

 

「よろしくお願いしますよ。カイさん」

 

にやりと獰猛な笑みを浮かべるカイに武蔵は腰を深く落とし構えを取る事で自分の準備は万全だと伝える。

 

「行くぞッ!!」

 

「行きますッ!」

 

殆ど同時に飛び出しかがみ合わせのように奥襟を掴もうとする武蔵とカイ。だが互いに互いが奥襟を掴ませない様に弾き、目まぐるしく2人の立ち位置が変わる

 

「っと!」

 

「今のを避けるか、やるな」

 

「いえいえ、正直必死ですよっとッ!!!」

 

突っ込む勢いでの大外刈りを交わした武蔵はカイの姿勢が不安定なうちに、胸が密着する前に大外刈り返しを放つ

 

「悪いな、その程度の駆け引きは慣れてるんだッ!!」

 

大外返しを払い腰で返しに出るカイ。返し技を返し技で返されるとは思ってもいなかった武蔵はそのまま投げ飛ばされかけるが、畳に手を付いて腕力だけで姿勢を立て直し、そのままカイから距離を取って襟を正す。

 

「やるな、良い反射神経をしてる」

 

「カイさんも強いですねえ、オイラの学校にカイさんみたいな先生がいたら、全国優勝も夢じゃなかったと思いますよ」

 

「ふふふ、お前のような教えがいのある生徒が多いのならば、教師もまた1つの道だったかも知れんなッ!!」

 

再びぶつかり合う武蔵とカイ。その姿は真剣その物でおちゃらけた空気はなく、真剣勝負の凄まじい緊迫感が訓練場を満たし始めているのだった……。

 

 

 

並みの相手では審判を務めることが出来ないと判断し、ラドラが審判を買って出た。だが今ラドラは軽い頭痛を覚えていた

 

「お前ら、いつから異種格闘技を始めた?」

 

「「黙ってろッ!!!」」

 

格闘技を修める者同士で、そう簡単に勝てない相手と言う事でヒートアップしたカイと武蔵の対決はいつの間にか、空手VS柔道と言う異種格闘技戦に変わっていた

 

「せいっ!」

 

「とっ! そりゃあッ!!」

 

「甘いわッ!!!」

 

「どっちがッ!!」

 

正拳突きを払い、そのまま投げに入ろうとした武蔵。だがカイの甘いの叫び通り懐に入り込んでの肘打ち、だが武蔵はそれを筋肉で受け止めカイの奥襟を掴む

 

「どりゃあああーーッ!!!」

 

「ぬっぐっ! まだまだぁッ!!」

 

叩きつけられる前に背負い投げから脱出して、最初の柔道の構えはどこへやら完全に空手の構えを取るカイ

 

「すげえ……めちゃくちゃすごいんだけど……」

 

「これ柔道対決じゃないな」

 

ジリジリと距離をつめるカイと武蔵、そこに既に柔道対決の面影は微塵もなく完全に空手家VS柔道家の戦いへとシフトしていた。

 

「はっ!!」

 

「むんっ!!」

 

拳を弾く武蔵と、弾かれる事を承知で拳を繰り出すカイ。手数は圧倒的に武蔵が少なく、見ている者はカイが優勢だと考えていたが、途中から道場に来たギリアムとコウキは武蔵よりもカイが追詰められている事を理解していた

 

(急所は完全にガードして、殴れるポイントは防御の上。あれではダメージも糞もない)

 

(体力では完全に武蔵が上……か)

 

ヒートアップしたカイも武蔵も悪いが、状況的に完全にカイが不利になっていると2人は分析していた。武蔵にとって空手とは一番対処しやすい武術である、それは竜馬との組み手で喧嘩空手……いや、殺人空手になれていたと言うこともある。確かにカイは強い、だがガードの上から拳をねじ込んで殴り飛ばしたり、心臓打ち、鎧通しなどの空手以外の技も使う竜馬と比べればカイの攻撃は十分に対処出来る。

 

「必殺ッ!!」

 

「むっ!? ぬ、うおっ!?」

 

奥襟を掴んだ武蔵はそのままジャイアントスイングの要領でカイの身体を持ち上げ、回転を始める。その姿は生身とゲッターロボの差こそあるが大雪山おろしを連想させた……ここでリュウセイ達は勘違いしていたが、ゲッター3に元々大雪山おろしと言う技は存在しないのだ。頭部のミサイル、伸縮自在の両腕それと重厚なパワーと装甲。それがゲッター3の武器として早乙女博士はゲッター3を開発した。それ故にゲッター1、ゲッター2と比べて決め手がない。それが本来のゲッター3の特徴であったが、武蔵が乗り込んだことでその問題は解決した、自身の柔道での得意技である大雪山おろし。それを武蔵はゲッター3に使わせることに成功していたのだ。

 

「大雪山ンッツ! おろしいいいいッーーー!!!」

 

遠心力が付いたままカイを上空に投げ飛ばす武蔵。回転によって三半規管を狂わされたカイは受身も取れず地面に叩きつけられる所でラドラが割り込んでカイを受け止める

 

「見誤ったな、カイ」

 

「そのようだ……良い勝負だった。ありがとう」

 

「いえいえ、本当に良い勝負でした。ありがとうございます」

 

互いに感謝の言葉を告げる2人だが、見ていた者達はアレは柔道じゃねえと心の中で感じていた。だが、空気を呼んで、その言葉を口にすることは誰一人として無いのだった……。

 

 

 

 

 

カイと武蔵が訓練場で対決をしている頃。伊豆基地の司令部ではある問題が浮上していた。

 

「SRXチームの出撃停止命令ですか、ノーマン少将。状況は理解していますか?」

 

『判っている、そう嫌味を言わないでくれ。私以外の上層部が動いている』

 

この期に及んで人間同士の利権争いを起こしている、そのことにダイテツを含め、レイカーもノーマンも顔を顰める

 

「SRXチームを護れなかったのは武蔵の件ですな?」

 

『ああ、ゲッターロボの接収と武蔵の投獄を主張する者がいる。軍でゲッターロボを運用するべきだとな』

 

「愚かとしか言えんな。新西暦の人間にゲッターロボは操れないというのに」

 

ダイテツが顔を顰めて呟く、確かにゲッターロボは強力な特機であることは間違いない。だがその反面操れる人間が極端に限られる、仮にゲッターロボを接収したとしてもゲッターロボを効率的に運用する事等出来ず。エアロゲイターに回収されて、敵に回って終わりだろう

 

『査問会は極力早く終わるようにこちらも動く、お前達の報告を聞く限りではSRXチームが裏切り等は考えられないからな』

 

「出来るだけ早く終わらせていただきたい、今は戦力を無駄に削ぐ余裕などはありません。それに部隊の者にもいらない不信感を抱かせることになりますからな」

 

エアロゲイター側の新型ナイトの戦闘力の高さ、そして無尽蔵に出現する虫型機動兵器。正直ハガネとヒリュウ改の部隊以外は敗戦を続けているので、恐らくイングラムが怪しいと言うよりも、伊豆基地ばかりが戦果を上げるのを面白くないと考えているどこぞの基地司令や上層部が今回の査問会を強引に押し切ったのだろう

 

「それよりもノーマン少将。エアロゲイター陣営にドラゴンとライガーが出現しました」

 

『……そうか、その件だがこちら側の不手際を認めずにはいられないな』

 

ゲッターロボGを戦力として再活用する為に修理を認めたのはノーマンだ。だが実際は修理が完了する前にエアロゲイターに奪取され、あろう事かエアロゲイターの技術で量産されている。それは戦力差がますます開いていると同意義だ

 

『それとこれは未確認情報だが、メカザウルスらしきものの鳴き声も確認されている』

 

「生き残りか……さらに厳しくなるな」

 

アイドネウス島で全滅した恐竜帝国。だが、無作為に出撃していたメカザウルスの生き残りは、表舞台に出ていないだけで人類への反撃のチャンスを虎視眈々と狙っている

 

「頭の痛い問題ばかりだな……」

 

『迷惑を掛ける、だがこちら側から出来るのは物資の補給と人員の追加くらいだ、しかし人員は正直必要ないだろう』

 

「そうですな、いまここで輪を乱す人物が来ても意味はありませんから」

 

どこの派閥から増員が来るかは判らない、今のこの状況で輪を乱す人物は必要ないとレイカーは断言した

 

『ならば資材の搬入を行う。苦労をかけるがよろしく頼む』

 

そう言ってノーマンとの通信は途絶えたが、伊豆基地の司令部には重い沈黙が満ちる

 

「結局伝える事は出来なかったな」

 

「仕方あるまい……余計な気苦労をさせるわけには行かない」

 

ノーマンほどの豪傑が目の下に隈を作り、頬を痩せさせている。伊豆基地にハガネとヒリュウ改を配置し、さらに民間協力者とは言え、ビアンと繋がりを持つ武蔵を配置させる事に軍上層部がもめているのはレイカーとダイテツからしても想像に容易い

 

「大尉と艦長がいないのは幸いでしたな」

 

黙って話を聞いていたショーンが苦笑しながら告げる。もしこの場にテツヤとレフィーナがいれば査問会の開催に異論を唱えていただろう……リュウセイやアヤ、そしてライの疲弊具合をその目で直に見ているからこそ、査問会を開催する事を決定した軍上層部に不信感を抱かずにいられない結果となっていただろう。

 

「しかし正直に言いますとSRXチームの離脱は厳しいですな」

 

「ゲシュペンストが使えなくなって来ているだけにな」

 

メカザウルス、そして量産型ドラゴン達との戦いでゲシュペンストを初めとしたPTはボロボロだ。元より特機と戦うように建造されて居ないのだ。修理や改造で騙し騙し使ってきたが、それも限界が近い

 

「ガーリオンなどのAMを使うのはどうでしょうか?」

 

「駄目だ、ガーリオンは相当な稼動経験が必要だ。与えた所ですぐに扱えるとは思えない」

 

元よりエースパイロット用として開発されたガーリオンだ。部隊に配置した所ですぐ使えるとはダイテツもレイカーも考えていなかった。勿論、提案したショーン自身も使えるとは思っては居ない。

 

「ビアン博士達が何かを用意してくれている事を祈ることになるかもしれませんな」

 

「……表立って協力をして貰えないのが辛いところだな」

 

異星人との戦争になる事を見越していたビアンは様々な発明を開発をしていた。ビアンが決起した時に用意されていたゲシュペンストの強化案なども廃棄された事が余りにも惜しい……。

 

「ラドラ元少佐が独自にゲシュペンストを開発しており、強化パーツや武装が用意してあるとの事です。それを回収し、運用することはどうでしょうか? 本人も伊豆基地で運用する事を望んでいますし」

 

「ゲシュペンスト・シグか、確かにあのレベルの改造機があるのならば心強い」

 

強化パーツを装備することで可変式になるゲシュペンスト。通常のゲシュペンストよりも大型だが、連邦のエースパイロットはゲシュペンストに慣れている。それをAMに転向させるよりかは、ゲシュペンストを改造する方向の方が良いだろうと話し合いの方向は進む。

 

「問題は上層部とマオ社か」

 

「ヒュッケバインプロジェクトか、あれは殆ど上層部の暴走と言っても良いからな」

 

これも耳の痛い話になるが、利権絡みの話になる。正直に言うと、ヒュッケバインに転向させ、熟練機動をさせるよりもエースパイロットにはゲシュペンストの改造機を与えるのが最善だとダイテツもレイカーも考えていた。

 

「マリオン博士の暴走が痛いな」

 

「アルトアイゼンとヴァイスリッターの事ですな」

 

あれをトライアルに出すつもりのマリオン博士、正直あんな色物をゲシュペンストMK-Ⅲとしてトライアルに出せば誰がどう考えてもヒュッケバインに軍配が上がるだろう。

 

「考えは間違っていないんだがな……」

 

「しょうしょう行きすぎな所がありますからな」

 

全ての人間が扱える機体ではなく、完全なエースパイロット仕様。しかもアルトアイゼンとヴァイスリッターは2機運用を前提にしている、これではトライアルに合格する訳もない

 

「ギリアム少佐とラドラ少佐からゲシュペンストの強化プランについての報告書が上がっていますが……」

 

「……伊豆基地で内密に話を進める。ゲシュペンストをこのまま終わらせるわけには行かない」

 

仮にヒュッケバインが量産されたとしても、今までのエースパイロットがヒュッケバインに即座に対応出来るとは思えない。軍の総意に刃向かう形になってもゲシュペンストをこのまま埋もれさせるつもりはレイカーには無かった。

 

「我が艦で建造したアーマリオンはどうする、あれも量産することは決して不可能ではないぞ」

 

「……ゲッター3が鹵獲したリオンか」

 

操縦系統は脱出時に破壊されているので、そのまま運用することは出来ない。だが、リオンを素体にして作るアーマリオンの事を考えれば伊豆基地に大量に保管されているリオンの残骸にも利用価値が出てくる

 

「アーマリオンについてはカーク博士に、ゲシュペンストに関してマリオン博士に一任する。残された時間は少ない、可能な限りで良い、戦力の強化を進める」

 

具体的な強化案、そして強化されたゲシュペンスト・シグが存在する事でレイカーはゲシュペンストの強化へと踏み切った、そして恐竜帝国との戦いで、活躍したアーマリオンの実戦データもあり、ノーマンから渡される大量の資材もある。少しずつ、武蔵が現れた事で生まれた波紋は大きな波紋となり、この世界を大きく変えようとしているのだった……。

 

 

 

 

 

伊豆基地……連邦全体が動き始めた頃、クロガネは大西洋の海溝に身を隠し、エアロゲイターとの戦いに備えていた

 

「そうか、モンテニャッコとは連絡が取れないか……無理も無いが」

 

ロレンツォ・ディ・モンテニャッコ、元コロニー統合軍で、マイヤーの薦めもあってDC入隊した男だ。だがその本質は連邦の転覆を狙うテロリストとしての側面が強い

 

「仕方ないことかもしれないですね。元よりロレンツォ中佐は連邦の転覆と、スペースノイドの地位の向上を願っていましたから」

 

「だとしてもだ。スカルヘッドの情報は欲しいところだ」

 

EOTI審議会が異星人に譲渡する予定で、イスルギ重工と共同して開発した宇宙プラント。それを確保して置きたい所だったが……その性質上どこにあるかは判明していない。

 

「もしやもう異星人の手に落ちているのかも知れぬ」

 

「その可能性は十分に考えられる、やはり今手に入る物で対策を練るのが良かろう」

 

スカルヘッドを提案したのはエルザムとバンの2人だ。モンテニャッコが捜索に当たっていたので、モンテニャッコと連絡がつけばと考えていたのだが、連絡が付かないのならば無理に捜索するだけの余力は今のビアン達にはない

 

「コロニー統合軍の生き残りの方はどうなっている?」

 

「は、私とリリー中佐で私達の思想に共感した者を集めております。ただし機体の余裕はやはりありませんが……」

 

これからの戦いにアードラー達の様な人間は必要ない――本当に地球を守りたいと願う兵士だけで、誰からも感謝されることは無いが……それでもと連邦の反攻作戦オペレーションSRWに参加する事を決めていた。

 

「そうか……機体に関してはコロニー74のプラントを使う」

 

「74コロニーですか? あれは廃棄コロニーでは?」

 

「マイヤーの遺産だ。私もマイヤーも自分達が敗れた後の事を考えていた」

 

地球にビアンが隠したのと同じ様に、マイヤーもまた宇宙に遺産を隠していたのだ。異星人と戦う為に……2人の考えの深さにエルザム達は驚く事しか出来ない。

 

「エルザム、信用出来るコロニー統合軍に74の製造プラントに向かうように命じてくれ、ただし最悪の場合を想定して欲しいとも付け加てだ」

 

「……既に異星人に確保されている可能性ですね?」

 

「そうだ、スペースデブリの中に隠しているが……それ故に危険だ。エアロゲイターがどうやって量産型ドラゴンを量産しているのか、それだけの製造拠点がホワイトスターだけとは思えない」

 

どこかの地球側の製造プラントを確保している可能性がある。ビアンはその危険性を考えていたのだ

 

「量産型Gシリーズか……連邦がもっとしっかりしていればそんなことにはならなかったのですがね」

 

「しかたあるまい、連邦とて1枚岩ではない」

 

連邦に回収されたゲッターロボGと量産型ドラゴン、ライガー、ポセイドンの3体。それがどういうルートでエアロゲイターに渡ったかは不明だが、そのことに対する責任を追及しても何も変わらない。

 

「有事に備えて出撃する事を考えておいてくれ、嫌な流れだ」

 

連邦の通信を傍受していて、査問会が行われる事を知り……エアロゲイターに攫われた人間の事もある。最悪の場合、ゼンガーとエルザムに出撃を頼むと伝え、ビアンは格納庫へと向かう。

 

「……結局、テスラ研に届けることが出来なかったな」

 

ゲッターロボの暴走事件、それに伴いビアンはテスラ研に送る予定だった新ゲッターロボをクロガネで運用する事を決めた。テスラ研にはゲッター炉心の設計図とプロトゲッターの残骸を送る事となったが、それでもテスラ研の研究者ならば何か有効な術を見つけ出す事を確信していた

 

「お前もまだ、スクラップにはなりたくあるまい」

 

ハンガーに固定されている新ゲッターロボ。イーグル号はないが、それでもその力強さは全く損なわれていない。

 

「すぐに戦えるようにしてやる、そう焦らせないでくれ」

 

プロトゲッターの残骸の中で新ゲッターロボと適合するイーグル号だけを残した。イーグル号からゲッター線のエネルギーが放たれるのを見てビアンは苦笑する、まだ自分は戦えるとイーグル号が、新ゲッターロボが訴えかけてくるようにビアンは感じていた

 

「まずは炉心だ、ジャガーとベアーの炉心を組み替える。再設計が必要だな」

 

武蔵のゲッターロボから取り出した半壊しているジャガー号の炉心とベアーの炉心。それを新ゲッターのサイズに合わせて再建造する、そしてイーグル号はまるで狙い澄ましたかのようにコックピットだけが存在していない

 

「ヴァルシオンよ、再び私に力を貸してくれ」

 

イーグル号にヴァルシオンのコックピットブロックとゲッター炉心を組み込む。ヴァルシオンのコックピットに搭載されている重力装備、それがあれば新西暦の人間でもゲッターロボを操縦することは出来る。正し、重力装備を量産するのは難しいのでイーグル号だけ……つまりヴァルシオンのパイロットのビアンしか操縦できないが、新ゲッターロボをオペレーションSRWに参加させる事が出来る。クロガネの設備によって再建造されるイーグル号を見つめながらビアンはPCの操作を続ける、新ゲッターの再構築だけではない。人類の守護者となるべきの「ダブルG」の建造、そしてゲッターロボに耐える事の出来る新しいパイロットスーツの設計。表舞台に立つ戦いではないが、ビアン達もまた戦いを続けているのだった……。

 

 

 

 

ネビーイームで急ピッチで建造されている量産型ドラゴン、ライガー、ポセイドンの3体を見てイングラムは言葉に出来ない胸にこみ上げる何かを感じていた……激しい焦燥感と懐古から来る懐かしさを感じていた。

 

「壊れた人形には相応しいか……」

 

記憶が安定せず、自分が何をすれば良いのかさえも判らなくなっている。そんな自分を見てイングラムは自嘲するように笑い、格納庫を抜ける。

 

「お前の役目は、選ばれたサンプルを血祭りに上げること……」

 

「……血祭り……」

 

「そう……あたしの言うことを聞けば、楽しいゲームで遊ばせてやるさね」

 

「ゲーム……」

 

「さあ、もうお眠り。もうすぐ外に出してやるからねえ」

 

アタッドによるマインドコントロールを見て、イングラムは笑う。それが先ほどの笑みと違う、邪悪な笑みであることを自覚しますます自分が壊れている事をイングラムは実感する。

 

「イングラム……戻って来たのかい?」

 

マインドコントロールを終えた赤毛の女……アタッド・シャムランがイングラムを見て、馬鹿にするように言葉を投げかける。

 

「ああ。地球での仕込みが終わったのでな……所で……サンプルの調子はどうだ?」

 

「今の所問題はないよ。この子を含めて全員ね」

 

お前とは違うと言葉に混ぜ、イングラムを挑発するアタッド。だがイングラムはそんなことに興味はないと言わんばかりに冷めた表情を浮かべ、それがアタッドを苛立たせる。

 

「量産型ドラゴン達の他にまた新しいサンプルを持って帰って来たんだろう? あたしが調整してやるよ」

 

「いや……クスハ・ミズハは残してきたサンプル達の最後の仕上げに必要だ。俺の手で調整する、お前はせいぜい量産型ドラゴン、ライガー、ポセイドンに合うサンプルの用意でもするんだな」

 

今までのサンプルでは量産型ドラゴン達を有効的な戦力としては使えない。それの調整でもするんだなと言ってイングラムは背を向ける。

 

「フン、木偶人形風情が……調子に乗るんじゃないよ」

 

その背中にアタッドが言葉を投げかける、イングラムはお互いになとアタッドには聞えないような小声で呟き。光のない瞳で椅子に腰掛けるクスハの待つ部屋へと向かう

 

「クスハ・ミズハ……これをお前に託しておく、必ずやこれをリュウセイに渡せ」

 

「……了解しました、しかし何故ですか?」

 

「判らない、俺も判らないんだ。だがこうするべきだと俺の心が訴えている、頼んだぞ。クスハ……」

 

イングラムが渡したUSBメモリを大事そうに懐にしまうクスハ、それを見てイングラムは満足そうに頷き、襲ってきた頭痛に歯を食いしばり、頭を押さえてよろめき――壁によりかかりながら部屋を出る。

 

「テトラクテュス・グラマトン……がっ……ぐっぐぐうっ!!……天使……黒い……天使……がッ!……俺を……呼んでいる……」

 

ホワイトスターの闇の中、イングラムは漆黒の機動兵器が己を呼ぶ姿を幻視し、吸い寄せられるように闇の中へ足を向ける。

 

「イングラム? どうしたの?」

 

後一歩で黒い天使に触れるという段階でヴィレッタから声を掛けられ、その足を止めた。それと同時に黒い天使の姿は消え、イングラムを襲っていた頭痛もまた消え去った。

 

「ヴィレッタ……か、すまない。俺には残された時間はさほど多くない、最悪の場合。後は頼むぞ」

 

「……! え、ええ……判ったわ。イングラム、任せて頂戴」

 

ヴィレッタの言葉にイングラムは満足そうに頷き、かつてハガネ……いや、リュウセイ達に向けていた笑みを浮かべてよろめきながら闇の中へと消えていく。

 

「イングラム……大丈夫、全部任せて頂戴。貴方の意思は私が受け継ぐから……」

 

ヴィレッタは理解していた、次に会う時。もう自分の知るイングラムではないと、イングラムではないイングラムが自分の名を呼ぶことを理解し、その目に涙を浮かべながら闇の中に消えていくイングラムを見つめ続けるのだった――。

 

 

第54話 届かぬ声へ続く

 

 




ビアン博士新ゲッターロボの修理を進め、ゲッター線に本格的に魅入られる。イングラムはアストラナガンの呼び声に引かれ始め、色々なイベントが盛り沢山でお送りしております。ちなみに私はヒュッケバインよりもゲシュペンスト派ですので、OG1の段階でハロウィンプロジェクトの試作型くらいは出したいなとか思います、だってね、出るからね、敵ゲッターロボにメカザウルス。戦力強化はがんがん行きます、OG2は難易度ルナを目指しますからね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第54話 届かぬ声 その1

第54話 届かぬ声 その1

 

武蔵はラドラ、ギリアム、カイの3人と共にラドラが長い間ゲシュペンストの開発をしていた隠しラボに訪れていた。

 

「こんな所にこんな研究所があるなんて知らなかったな」

 

「連邦の基地にも近いですしね」

 

木の葉を隠すのは森の中と言うが、まさか伊豆基地からさほど離れていない山の中にこんなものがあるなんて、ギリアムは勿論カイも想像していなかった。

 

「ゲッターとPTで来ないといけないレベルだったのか?」

 

武蔵がそう尋ねる、山の麓にはゲッターロボと3機のゲシュペンストが停止している。それほど大掛かりな事なのか? とラドラに尋ねる。

 

「ここの品は全部持ち出す、その為にゲッターロボとゲシュペンストで来たのだからな」

 

カードキーを差込み、パスワードを入力するラドラを見つめながら山の中に隠されているアジトを見て武蔵はぼそりと呟く。

 

「恐竜帝国の基地に似てるな」

 

「似てる所か、それそのものだ。お前が浅間山の地下で見たという早乙女研究所と同じだ。この世界には、あの世界の遺物が流れ着いている」

 

「じゃあ、まだどこかに恐竜帝国の遺品があるって事か?」

 

「早乙女研究所と言う線も捨て切れないがな、良し、開いた。ついて来てくれ」

 

徐々に明かりがついていく通路をラドラを先頭にして進む、山の中は機械的になっており、山の姿その物がこの基地を隠している。木自体も本物だから相当昔から、この場所にあった事がよく判る。

 

「最近色々と信じられないことが続いているが、これは別格だな」

 

「慣れろとしか言いようがないな」

 

苦笑いを浮かべるカイにラドラはにやりと笑い、パスワード付きの扉に再びパスコードを入力する。ロックが外されるまでの間当然武蔵達は待つことになるのだが、武蔵の表情は決して良い物ではない

 

「やはり気にしているのか? 武蔵」

 

「ギリアムさん……そうですね、やっぱり気にしますよ。リュウセイ達は大丈夫なのかって」

 

今頃伊豆基地で査問会に出ているであろうリュウセイ達を心配する武蔵。だが忘れてはいけないのは、武蔵自身も危うい所だったと言うことだ

 

「他人を心配するのは良いが、お前も査問会に無理やり出される所だったんだからな」

 

「全く嘆かわしい、今の状況を判っているのか」

 

レイカー達が危惧していたシュトレーゼマン派の軍人によって、武蔵は無理やり査問会に出される所だった。いや、査問会と言う名の拷問と言換えても良い。それほど上層部の一部は武蔵とゲッターロボを危惧しているのだ

 

「俺達と行動する事で査問会を黙らせたんだ。リュウセイ少尉達を心配するなら、リュウセイ少尉達の分も戦ってやれ」

 

カイの励ますような言葉に武蔵はそうですねと力なく笑う。やはり武蔵にとって人間同士の争いと言うのは心を痛めるのだろう……皮肉な話だが、恐竜帝国と戦っていた時代の方が遥かに人間同士の結束は強く、平和になった今人間同士は互いの利権の為に争う。それが武蔵が残した人類の未来だとなると、武蔵も思う所はあるのだろう

 

「ここが格納庫だ。見てくれ、これが俺の開発したゲシュペンストと、その専用の強化パーツだ」

 

ハンガーに固定されている2機のゲシュペンスト……通常のゲシュペンストよりも大型だが、ゲシュペンスト・シグよりはワンサイズ程サイズダウンされていて、通常のゲシュペンストよりも各部分をかなり強化されているのは明白だった。

 

「ほお、これだけの物をよく用意したなラドラ」

 

「ふっ、俺だけでは無理さ。だがここは恐竜帝国の拠点だった場所だ、俺が貰い受けたゲシュペンストを複製する事など容易い」

 

複製品とラドラは言うが、ここまで改造が施されていては既に複製品ではなくワンオフと言っても過言ではないだろう。

 

「右側のハンガーが格闘戦型、左側が射撃戦型だ。持ち出すからギリアムとカイに合わせてOSを調整しておいてくれ」

 

ラドラの言葉に頷き、ギリアムは射撃型、カイは格闘戦型のゲシュペンストに乗り込む、OSの調整と自分用のフィッティングを始める

 

「ラドラもあんな感じだったのか?」

 

武蔵の言いたい事はラドラも判っている、査問会の人間の傲慢さ、そして醜さを

 

「お前達に会う前だったら、メカザウルスを統括して日本を攻撃していたよ。人間は美しくもあるが、それと同時に醜い物なのだな」

 

2人が調整をしている間、ラドラはPCを操作してパーツをコンテナに収納していく。

 

「そうなんだよな、なんでこんなことになるんだろうな」

 

「共通の敵が居ないからだろうな。それとも平和が続いたのが原因か……それは俺にも判らんさ」

 

旧西暦で敵同士と戦った武蔵とラドラ、2人からすれば今の時代のあり方は中々許容できない物であった

 

「平和になれば、また人間同士の争いになるんだろうか」

 

「どうだろうな、そうならない為に俺達は戦っているつもりだがな」

 

どうして、こんなはずじゃなかった事ばかりだと苦笑するラドラはPCの操作を続けていたが――突如その顔色を変える。

 

「どうした? 何かトラブルか?」

 

「……エアロゲイターが出現した」

 

「っ! 大丈夫なのか!?」

 

「今偵察部隊が出たが全滅は間逃れないだろう……ドラゴンが居る。ハガネとヒリュウ改も出撃準備をしているが……恐らく間に合わない」

 

冷静に言うラドラ、指揮権を持つ者として常に冷静であることを心掛けているが、それでもその声には若干の焦りの色が見える

 

「チッ! カイ! ギリアム! 予定変更だッ! フライトパーツに換装するッ! そのまま出撃して貰うぞッ!」

 

ここから出て、カイとギリアムのゲシュペンストに乗り換えている時間が惜しい。そう判断したラドラはPCを操作し、2機のゲシュペンストに飛行パーツの装着をさせると再び強く叫び、発進用のカタパルトの操作を始める。

 

「武蔵! ゲッターで出撃しろッ!!」

 

「判ってる!」

 

ラドラに怒鳴られる前に武蔵は外に向かって走り出していた。だが外に出た武蔵を待ち構えていたのは……

 

「「「「ギャオオオオオオオッ!!!」」」」

 

「マジかよ、くそったれッ!!!」

 

雲を引き裂き、月の光を浴びて急降下してくるメカザウルス達の姿だった。武蔵は舌打ちしながらゲッターロボに乗り込む

 

「ラドラ! 格納庫を開けろ! このままじゃ、カイさん達のゲシュペンストがやべえッ!」

 

『判っている! 今格納庫に収容しているが、そこから侵入されたらまとめてお陀仏だ! 10分……いや、5分で良いッ! 1人で持ちこたえてくれッ!』

 

地響きを立てて着地するゼン1と空中を旋回するバド、数では圧倒的に不利。不幸中の幸いは、街から離れている事だが……開放されている格納庫にメカザウルスが侵入すれば、カイ達がまとめて死ぬ。ゲッタートマホークを装備し、メカザウルスを油断なく睨みながら武蔵はベアー号の中で舌打ちをする。

 

「こいつは厳しいぜ……全く」

 

自分は禄に動く事が出来ないが、敵は自由に攻め込んでくる。その余りにも不利な状況に武蔵は舌打ちし、メカザウルス達はそんなゲッターロボを見て各々雄叫びを上げると、地響きを上げて一斉にゲッターに向かって走り出すのだった……。

 

 

 

 

武蔵がカイ達のゲシュペンストを守る為にメカザウルスと戦い始めた頃、伊豆基地から出撃したヒリュウ改とハガネは川崎地区に到着していたが……キョウスケ達を待ち構えていたのはあろう事か量産型ドラゴンであり――それによってことごとく破壊された偵察機の残骸とそれから漏れでた炎によって地区の至る所から黒煙が上がっていた。

 

「先発の飛行隊は既に全滅か……ッ!」

 

「見てろよ、クスハ……俺はあいつらを倒して、必ずお前を助け出してみせるッ!」

 

まるでハガネとヒリュウ改を待っていたかのようなドラゴンを見て、ブリットの表情が怒りの形相となり――その彼の身体から気炎が漏れ出る。

 

「熱くなるな、ブリット。……賭け時を見誤ったら、取り返しがつかんぞ」

 

冷静になれと投げかけるキョウスケだが、アルトアイゼンのコックピットのキョウスケ自身の顔は焦りに満ちていた。メカザウルス、量産型ドラゴン達との戦いでゲシュペンストはその殆どが出撃不可能。人員は居るが、乗り込める機体が無いと言う事で出撃出来る数に限りがあった。その上、SRXチームと、カイ、ギリアム、ラドラ、武蔵の4人までも離脱している。状況はキョウスケ達が圧倒的に不利だった。

 

「良し……各機、戦闘開始だ。正し、決して無理をするな」

 

量産型ドラゴンが再び戦場にいる。それはナイトに匹敵する程の脅威になる、加えて転移で増援の可能性がある以上決して無理をするなとキョウスケは戦闘指示に付け加えざるを得なかった。

 

「ん? あいつらは……」

 

一方ハガネとヒリュウ改を待ち構えていたようなドラゴンだが、実際にそんな事は無く、余りに歯応えの無い敵を相手に退屈を感じ、コックピットの中でパイロットであるゲーザ・ハガナーが眠っていただけだ。だがコックピットに響いたアラートで目を覚ましたゲーザはハガネの部隊を見て、その顔を歪めた。

 

「うぐっ……あ、頭が……くそ、なんだ! あ、あいつらを見た途端によぉ」

 

その激しい頭痛に顔を歪めながらドラゴンを再起動させるゲーザ。

 

「よくも俺をこんな目に合わせやがって! ゆるさねえ! このゲーザ・ハガナーとドラゴンがてめえらを皆殺しにしてやるぜッ!!!」

 

オープンチャンネルで叫ぶゲーザの姿にタスクはジガンスクードのコックピットで呻き声を上げた。チームを組んでいるレオナが怪訝そうにどうかしたのか? とタスクに尋ねる。

 

「いや、あの指揮官なんだけどさ……どこかで見覚えがあるような気がするんだよ」

 

「ドラゴンだからでしょう? ジュネーブで散々見たからじゃないかしら?」

 

「いや、そう言うのじゃなくて……あいつから感じる気配って言うのかな。それを知ってるような気がするんだよ……ラーダ姉さんは何か感じないっすか?」

 

気配と言う抽象的な物に見覚えがあると感じたタスクは、そういう気配などのエキスパートであるラーダにそう尋ねるがラーダは何も感じないと返事を返した。

 

「そっか……俺の気のせいかな?」

 

「貴方が女性と賭け事以外に興味を持つなんて珍しいわね。明日は空から槍でも降ってくるのかしら?」

 

レオナの余りに辛辣な言葉を耳にしたタスク、、だが彼はジガンスクードのコックピットで笑みを浮かべる。

 

「……賭け事はともかく、レオナ以外の女の子にはあんまり興味が無かったりするんだけどなあ……」

 

「信じられないわね、とにかく戦闘中に余り適当な事を言うのは良くなくてよ」

 

レオナの言葉に判っていると返事を返しながらも、タスクはジガンスクードのコックピットからドラゴンを睨みつける。その視線は自分の直感は間違っていないという確信めいた視線だった

 

「艦長、武蔵達とは連絡がつかないのですか?」

 

アルトアイゼンを先頭にしてエアロゲイターとの戦いが始まるが、圧倒的に敵の数の方が多い。しかも量産型ドラゴンが出撃している事もあり、武蔵達を一刻も早く呼ぶ事を提案するテツヤ。だがそれに対してダイテツの言葉は険しいものだった。

 

「……武蔵達は現在メカザウルスと交戦中だ」

 

「なっ!? し、しかし私達の方にそのような報告は」

 

「最重要機密扱いだ、ワシとレフィーナ中佐の元にしか届いておるまい」

 

全機に通達した場合に発生するパニックなどを想定し、現場の指揮官であるダイテツとレフィーナのみに文章通信で告げられた。

 

「曹長は敵機の戦闘データの収集を開始しろ、データ収集はドラゴンだけで良い」

 

「りょ、了解です!」

 

武蔵達がすぐに合流してくれると考えていただけにハガネのブリッジに僅かな混乱が広がる。だがダイテツの冷静な指示で、その慌しさは徐々にだが沈静化していく

 

「大尉、味方の増援をすぐ求めるのは大尉の悪い癖だ。今ある戦力で戦果を上げる事を考えろ」

 

「は、はい、申し訳ありません」

 

そう謝罪するテツヤだが、それは仕方の無いことなのかもしれない。ゲッターロボの戦力を見ている以上、ゲッターロボが居てくれればと思うのは仕方の無い事だ。

 

「1~12番、スパイダーネットを順次射出、その後チャフグレネードによる敵機の足止めを行う。照準合わせッ!」

 

特機であるグルンガスト、ジガンスクード、そしてサイバスターとヴァルシオーネは出撃している。だがそれ以外の機体はアルトアイゼン、ヴァイスリッター、ヒュッケバインMK-Ⅱ、ヒュッケバイン009、ビルドラプター、ガーリオン、アーマリオン、シュッツバルト等出撃出来る機体に限りがある。だがそれはそれだけ量産型ゲシュペンストの出撃回数が多すぎて、その機体を酷使した結果であった

 

「本艦とヒリュウ改に敵機の注目を集める、エネルギーフィールドを艦首を基点にし、全力展開ッ! 各員、対衝撃、対閃光防御ッ!」

 

本来沈んではいけないハガネとヒリュウ改を囮にし、PT隊で確実に敵の数を減らす。肉を切らせて、骨を絶つ。それがダイテツが考えたこの状況を切り抜ける最善の一手だった。一番最初に沈めれば敵が圧倒的に有利になる、その為に狙われる戦艦自ら囮となる。余りに大胆なその一手にテツヤは言葉も無い、自分では到底思いつかない奇策だと驚愕しながら命令を復唱するのだった……。

 

 

 

 

キョウスケ達がエアロゲイターとの戦いを始めた頃、武蔵はメカザウルスからの多段攻撃に劣勢に追い込まれ始めていた

 

「こなくそッ!!!」

 

「キシャアアッ!!」

 

ゼンが振り下ろした鉤爪をゲッタートマホークで受け止め、がら空きの頭部に拳を叩き込むゲッター1。ゼンはたたらを踏んで後退するがそれでもその闘志は全く衰える事を知らない。

 

「くそっ、このままじゃ不味い! ラドラーーッ! まだなのかッ!?」

 

都市が近くに見えているので着陸している状態ではゲッタービームを使えない、さらに空を飛べばゼンを初めとした陸上型メカザウルスが基地になだれ込む為ここからゲッターは動けない……いかに無敵のスーパーロボットであるゲッターロボだとしても、これだけのハンデを背負えば必然的に劣勢へと追い込まれてしまう。流石の武蔵も苛立ってそう叫んだ時、自身が守っている山の頂部からカタパルトが姿を見せ、そこからやっと3機のゲシュペンストが出撃する。

 

「すまないな、随分と待たせた」

 

「全くだ! オイラじゃなかったらやばかったぜッ!!」

 

地響きを立てて着地するゲシュペンスト・シグとレッドカラーの両腕と背部に強化装甲を持つゲシュペンストを見てそう怒鳴る。

 

「悪いな、中々手間取った。だが待たせた分の働きはするさ、なぁ? ギリアム」

 

「その通りだ、一気に殲滅してハガネとヒリュウ改に合流するぞ」

 

背中のフライトユニットで飛翔するブルーのカラーリングのゲシュペンストが上空から執拗に狙っているバドに急接近し、ビームソードでバドを通り抜け様の一閃で撃墜する

 

「ぬっ、ぐっ! ぬおおおおッ!!!」

 

カイの雄叫びと共に背部のブースターで短距離飛行を行いながら、レッドカラーのゲシュペンストは両腕を帯電させてゼンへと殴りかかる。

 

「ギシャアッ!?」

 

「中々のパワーだ、だがラドラよ。余りにペダルと操縦桿が重いぞ」

 

吹き飛んだメカザウルスを見ながら、ラドラに文句を言うカイ。どうも通常のゲシュペンストよりも遥かに操縦系統に難があるようだ

 

『こっちは操縦桿とペダルが軽すぎる、ふわふわとしていて安定感を感じられない』

 

「ええいっ! 文句ばかり言うなッ! そこら辺の調整は伊豆基地についてからやるつもりだったのだッ!」

 

文句言うギリアムとカイにラドラは怒鳴り返しながらも、背中に背負っているキャノン砲でバドを狙って、正確無比な射撃を放つ。

 

「いや、普通に操縦出来ているじゃないですか」

 

「ガアアアアアーーーッ!!」

 

メカザウルスとゲッター3の力比べの態勢に入りながら武蔵が呆れた様子で呟く、文句を言っているがギリアムとカイは既にメカザウルスとの戦いを始めている。それなのに何故文句を言うのは理解出来なかったのだ。

 

「重心が違うだけでも操縦は困難になる。特に慣れているつもりの機体ともなるとな、僅かな感覚の違いが大きな――差になるッ!!」

 

カイは武蔵にそう言うが、両方の拳でメカザウルスを滅多打ちにしているその姿を見れば全然問題が無いように見える。

 

「ターゲットロック……全武装一斉射撃ッ!!!」

 

両腰から展開されたレールガン、フライトユニットから放たれる弾雨と、展開されたビーム砲の射撃、胸部から展開されたニュートロンビーム、そして両手に持ったM-13ショットガンの弾雨が容赦なくバドを貫き、破壊していく

 

「良い具合だ、後は操縦系の組み換えでもっと良い機体になる」

 

「……文句ばかりを言いおって、善意で提供した物に文句を言われる筋合いは無いッ!」

 

シグの両手首から展開されたエネルギークローが、容赦なくメカザウルスの胸部を貫き心臓部と動力部を同時に抉り出す。それはラドラが対峙しているメカザウルス……ゼンの特徴を完全に把握しているからこその一撃必殺だった

 

「まぁそれはそうだな、最初から俺に渡すつもりならグリーンで塗装されているだろうしなぁッ!!」

 

背中のフライトユニットによる短距離飛行でゼンの懐に飛び込んだカイのゲシュペンスト。一瞬の事で困惑したメカザウルスの顎を下から殴りつけ、その衝撃で倒れたメカザウルスの尾を掴んで背負い投げの要領で上空へと投げ飛ばす

 

「リミッター解除、受けろこれが俺の拳だッ!!!」

 

上空に投げ飛ばしたメカザウルスを追ってゲシュペンストが飛び、帯電している両拳をメカザウルスの胴体に叩き込む

 

「ぬっ!?」

 

断末魔の雄叫びすら上げず、拳が叩き込まれた部分から上半身と下半身が分かれて爆発するメカザウルスにコックピットでカイは呻く、更にフライトユニットのパワーが思ったよりも高く、地表を削りながら何とか姿勢を正し着地する

 

「ラドラ、パワーが高すぎるのだが……」

 

「リミッターを解除するからだ! このたわけッ!! 乗った時の説明を聞かなかったのか!! リミッターを解除するなと何度も言ったはずだッ!!!」

 

ラドラの一喝にすまんと謝るカイを見て、隼人と竜馬を思い出した武蔵は思わず苦笑しながら、自分が相手をしていたメカザウルス・ラドをゲッター3の両腕が締め上げる。今こうしている間もキョウスケ達は戦っている、こんな所で無駄に時間を消費している余裕はないのだ。

 

「大雪山! おろしいいいいーーーッ!!!」

 

「ギシャアアアアーーーッ!?」

 

大雪山おろしで上空へと投げ飛ばされるラド、その落下してくるタイミングを見極めゲッター3の右拳がラドに向かって伸びる。

 

「大雪山おろしパンチッ!!!!」

 

自らの自重、そして落下する勢いに加えて最高速度で伸ばされたゲッター3の右拳が、ラドの胴体を正確に打ち抜きラドは絶命し爆発する

 

「よっし、OKッ! ラドラ! ハガネとヒリュウ改はどこにいるんだ!?」

 

「川崎地区だ、俺が先導する。付いて来いッ!!」

 

メカザウルスとの戦いは終わった、だがまだ戦いは終わっていない。白銀のゲシュペンスト・シグが夜空を飛び、その後を追ってギリアム達も川崎地区に向かって行くのだった……。

 

「これがメカザウルス、貴重なサンプルを回収出来たねえ」

 

そして武蔵達が去った後、赤いナイトがメカザウルスの残骸と血液を回収し、現れた時と同じ様に一瞬で赤いナイトは闇の中へと姿を消すのだった……。

 

 

 

 

 

ハガネとヒリュウ改に敵の注目を引きつけるという奇策によって、エアロゲイター側の無人機の数は確実にその数を減らしていた。

 

「ダブルトマホークッ!! おらぁ! 死ねえやあッ!!!」

 

「ぐっ! ジュネーブのドラゴンよりも、パワーが強いッ!!!」

 

ジガンスクードがドラゴンのダブルトマホークによって、サイズ差で圧倒的に上回っているにも拘らず、大きく弾き飛ばされる

 

「ラトちゃん、合わせてよねッ!」

 

「ターゲットロック、ファイヤッ!」

 

ヴァイスリッターのオクスタンランチャーEモードとビルドラプターのハイパービームライフルが続け様にドラゴンへと叩き込まれる。

 

「利かねえぜッ!! 攻撃するなら殺す気で撃って来やがれッ!!!」

 

手にしていたダブルトマホークを力任せにヴァイスリッターとビルドラプターに向かって投げ付けるドラゴン

 

「このッ!」

 

「ありがとうございますッ!」

 

「ううん、大丈夫。でもちょーっと厄介よね……」

 

ヴァイスリッターの3連ビームキャノンが正確にダブルトマホークの刃を貫く、空気抵抗によってその軌道を逸らしたダブルトマホークはヴァイスリッターとビルドラプターから外れ、ビルへと突き刺さる

 

「ラトちゃん、今の攻撃って命中してたわよね?」

 

「……命中する寸前にエネルギー反応を感知。多分あのドラゴンにはバリア機能が追加されてる」

 

強力なドラゴンに更にバリアが追加されていると聞いたエクセレン達の顔は厳しい物になる

 

「イルムガルト中尉、タスク少尉、ドラゴンを抑えてくれますか」

 

「随分と厳しい事を言うなキョウスケ……だが、今出来るのはグルンガストとジガンスクードくらいか……やれやれ、しょうがねえ引き受けるぜ」

 

「げえ……マジですか」

 

「死ぬよりマシだろうが、行くぜタスクッ!!」

 

グルンガストの拳を受け止めたドラゴン、サイズではグルンガストが僅かに上回っている。しかし出力は完全にドラゴンが上回っていた。

 

「死ねやあッ!!」

 

「お前がなッ!」

 

ドラゴンの額が輝きビームが放たれそうになるが、それよりも早くイルムはグルンガストもダメージを受ける覚悟でファイナルビームを放ち、グルンガストもろとも、ドラゴンに攻撃を仕掛ける

 

「ひゃーははっ!! そんなのは利かねえぜ!」

 

「ちっ、自爆覚悟でこれかよ」

 

グルンガストは関節部から火花を散らしているが、ドラゴンは全体的に煤がついているくらいで大したダメージを受けているようには見えない。

 

「ギガントナックルッ!!」

 

「ちっ、今のは少し不味かったぜ」

 

ジガンスクードの出力と加速による一撃はドラゴンの纏っているバリアを貫き、僅かにダメージを与える。だが致命傷には全然程遠い。

 

「キョウスケ中尉、このままではドラゴン1機に追詰められます」

 

「……判っている。だが無理に突っ込むのは危険すぎる」

 

サイバスターやヴァルシオーネはバグスを相手にしている、飛行できる機体が少ない以上。空中戦を得意とするバグスにサイバスターとヴァルシオーネをぶつけるのは当然だ、だがいかんせん数が多すぎる

 

「ちっ、リューネ。大丈夫か?」

 

「私は大丈夫だよ、でも、ちょっと不味いね」

 

サイフラッシュやサイコブラスターと言う大技で一掃と言う手もある。だが敵の増援が来る可能性がある以上、消耗しすぎる可能性のあるサイフラッシュやサイコブラスターを容易に使う訳には行かない

 

「キョウスケ中尉! 新たな敵機が9時の方向からこの地域へ接近中です!」

 

「ちっ、やはりか……敵の増援が来る。警戒を強めろ」

 

空間転移ではなく、直接移動してきた。それは他の基地を攻撃していた部隊がこっちに回ってきた証拠だ、それかあえて警戒させることに意味があるとは思えない。

 

「大分やるじゃねえか、そろそろ本日のメインイベントを始めるとするかッ!!」

 

「っつ!!」

 

「どうしたの、ブリット!?」

 

「あ、頭の中に火花みたいな物が散って……!」

 

ブリットは突如脳裏に走った火花のような衝撃に顔を歪める。そして敵の増援が来ると言われた方向からグルンガスト弐式とバグス、スパイダー、そしてソルジャーとファットマン。更にポセイドンがライガーが2機ずつ現れる……量産型のライガーとポセイドンに加え、グルンガスト弐式の登場にハガネの部隊に衝撃が走る。

 

「うっ……! あの機体は……」

 

「グ、グルンガスト弐式だニャ……!?」

 

「も、もしかして……乗ってるのはクスハニャの!?」

 

一番最初にグルンガスト弐式に気付いたマサキとシロとクロが驚愕の声を上げる。

 

「……目標確認……敵……破壊します……」

 

抑揚の無いまるで機械のようなクスハの声がオープンチャンネルでハガネの部隊に広がる

 

「お、お前!……やっぱりクスハなのか!?」

 

「ちょ、ちょっと!? 一体どうなってんのよ!?」

 

北京で攫われたクスハが敵として現れた……助けるべき相手が敵として現れた事にハガネの部隊に大きな衝撃が走る。

 

「……私は……帝国観察軍の兵器……」

 

続けてクスハが発した言葉は決してクスハが発するような言葉ではなかった

 

「洗脳……か」

 

「そんなッ!?」

 

キョウスケの言葉に更なる衝撃が走る、拉致したクスハを洗脳して敵として、元の仲間の元へ送り込む。その余りにも非道すぎる戦術にエアロゲイターに対する嫌悪感が高まる一方だった……そうともなれば元は仲間だったイングラム自身も洗脳されている可能性がゼロではない以上、やはりエアロゲイターの戦術がこちら側の兵士を攫い、洗脳することで敵としてぶつける……そうする事で自身らの不足している兵士事情を解決する。多分読み違えなどではないのだろう……彼らエアロゲイターの側の事はそのまま戦術に組み込まれている事は間違いない。

 

(……あれだけの洗脳が出来ると言うことは、イングラム少佐が洗脳されている可能性もゼロではない……)

 

イングラムが元々敵だったのか、それとも洗脳によって操られているのか、それが定かでは無い。それでも厄介な戦術を使い始めてきた事に間違いは無い。

 

「クスハ! 俺だ、ブルックリンだッ!!」

 

「……お前達は……敵だ……敵……敵は破壊する」

 

必死に声を掛けるが、クスハは何の反応も示さない。その余りに痛ましい姿にブリットは思わず唇を噛み締める。

 

「恐らく、あの子は強力な精神支配を受けている。ただ、語りかけているだけじゃ、それを解く事は出来ないッ!」

 

ラーダの指摘にブリットが怒りの声を上げる。

 

「く、くそッ! だったら、どうすりゃいいんだ!?」

 

言葉を掛けるだけでは駄目、じゃあどうすれば良いんだと叫ぶブリット。

 

「落ち着け、ブリット。まずは彼女をエアロゲイターから引き離す、精神支配の解除はその後でも遅くは……む?」

 

ブリットに落ち着くように声を掛けていたキョウスケだが、戦域に突入してくる友軍機の反応に言葉に詰まる

 

「おまたせ! ってグルンガスト弐式!? なんだ、どうなってるんだ!」

 

「厄介な事になってるようだな」

 

ゲッターロボとゲシュペンスト・シグと、2機の見慣れない新しいゲシュペンスト

 

「キョウスケ中尉。状況はどうなっている? あれはクスハ曹長のグルンガスト弐式か?」

 

ゲッターロボ達の登場によってハガネ、ヒリュウ改の戦力は万全となった。だが状況は決して良い物ではない

 

「キョウスケ中尉、どうするつもりだ」

 

「……弐式を戦闘不能にして回収します」

 

カイの言葉に簡潔に返事を返すキョウスケ。だがそれは口にする以上に難しいことは、全員が理解してい。

 

「……キョウスケ、判ってるのか? 自分が何を言ってるのか」

 

「……中尉のおっしゃりたい事は判っています……しかし、クスハ曹長を助けるには……そちらに賭けるしかありません」

 

敵に操られて、こちらを殺しに来る機体をパイロットを傷つける事無く戦闘不能に持って行くことは難しいなんてレベルではない、敵はグルンガストだけではなく、増援で現れたライガーとポセイドンまで加わっているのだから……。

 

「そうだな。その賭けが裏目に出ないことを祈るしかないか」

 

(なるへそ。クスハちゃんを私達に助けさせることそのものが少佐の目的かも……ってことね)

 

話を聞いていたエクセレンはキョウスケとイルム、そしてギリアム達が何を危惧しているのか理解した。味方が敵として現れたのならば、なんとかして救出しようとする。だが救出させる事がエアロゲイターの目的となると厄介な事になるが、キョウスケはそれを理解した上でクスハの救出作戦に踏み切ることを決断したのだ。

 

「アサルト1より各機へ。敵機を撃破しつつ、グルンガスト弐式を行動不能にしろ……その上で速やかにクスハ曹長の救出を行う」

 

キョウスケのその指示に全員の顔に緊張が走る、一歩間違えばクスハを殺し、しかも自分達も殺されるかもしれない。それでも見殺しにすることは出来ない、他の上官ならばクスハを殺す事を命じ兼ねない。だがキョウスケはリスクを承知でクスハを助ける事を選択したのだ。

 

「各機、くれぐれも弐式を撃墜するなよ……! 戦闘開始ッ!!」

 

ドラゴンを先頭に向かってくるエアロゲイター達を睨みながら、キョウスケ達は自分達が圧倒的な不利な状況での戦いに身を投じるのだった……。

 

 

 

第55話 届かぬ声 その2へ続く

 

 




次回は今回よりも更に戦闘メインで書いていこうと思います。後は今回よりも試作型ゲシュペンストMK-Ⅱカスタムの詳しい戦闘描写などを書いていこうと思います。ここからはOGよりもゲッター要素が強くなってくると思われますが、どうか呆れずに広い心でお付き合いしてくださると嬉しいです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第55話 届かぬ声 その2

第55話 届かぬ声 その2

 

量産型ゲシュペンストMKーⅡ・カスタム。改でもカスタムでも好きに呼べとラドラは言っていたが、ギリアムはそのコックピットの中でこの機体に既に量産型の名前は必要ないと感じていた。確かに操縦に安定感を感じられないと苦言を呈した事は認めよう、射撃と飛行能力に特化した機体だ。機動力の強化に自重を極限まで下げる必要があり、装甲も致命傷になりかねないコックピット周り以外は非常に軽装甲だ。武装とフライトユニットが一体になった強化装甲で防御力を補っているが、それでも戦闘機よりマシと言う程度の防御力。当たらなければどうと言うことは無いと言っていたラドラの言葉を思い出し、ギリアムは苦笑することしか出来なかった。

 

『わお、ギリアム少佐。とんでもないのを隠してましたね』

 

「ラドラに言ってくれ、エクセレン少尉」

 

まさかこんな物を隠れながら作っているなんて誰も考えていないだろう。性能は現行機を遥かに越えている、恐らく一部のスペックは完全にヒュッケバインを越えているだろう。恐竜帝国……すなわち、メカザウルスの技術を流用されているのだ。それは間違いないだろう……。

 

「エクセレン少尉、ライガーは私が面倒を見よう。バグスやスパイダーを頼めるか?」

 

『……えっと、正気ですか? 確かに大型になってますけどノーマルのゲシュペンストと大差ないんじゃ』

 

自殺志願でも勝ち目の無い戦いでもない。隼人が乗っているライガーならまだしも、自動操縦でゲッター炉心でもないライガーに負ける訳が無い、それにエクセレンは生粋のゲシュペンスト乗りと言うものを甘く見ている。ギリアムはエクセレンの言葉にそう感じたのだ、ゲシュペンストの性能を100%に引き出せるゲシュペンスト乗りの動きを見せてやると言わんばかりに口角が上がるのを実感しながらギリアムはヴァイスリッターに通信を繋げる。

 

「大丈夫だ、マサキやリューネにも私の心配はいらないと伝えてくれ」

 

ペダルを軽く踏み込む、その軽い踏み込みからは想像も出来ない重力が一気に襲い掛かってくる。ノーマルスーツ、しかもラドラにはテスラ・ドライブの技術は無いので勿論その凄まじい重力を歯を食いしばって耐える。ゲシュペンストの接近に気付いたバグズとバードが動き出すが……それは余りに遅すぎた。本当にギリアムを止めたければ、追いかけるのではない。攻撃を仕掛けることで、僅かでも照準を逸らすべきだった。ただし、照準を逸らした所でギリアムの攻撃を避けられる訳ではない。100%撃墜されるのが、僅かに……そう、本当に僅かに低下するだけの差であったとしても、無人機は追いかけるのではなく攻撃を仕掛けるべきだった。

 

「遅いッ!」

 

擦れ違い様に頭部にビームキャノンを叩き込み、そのままペダルを踏み込みこんで急加速し、地表のスパイダーの放ったスパイダーネットをかわすゲシュペンスト。残像を残す超高速移動、それは現行の機体を遥かに上回る速度だった。

 

「速い!? サイバスターと互角か!?」

 

マサキがそう叫ぶが、なんてことは無い。ただの緩急を付けた加速で、動きを速く見せているだけに過ぎない。用は単純に操縦技術によって生まれるトリックだ。

 

「!!」

 

「遅いと言っているのが判らないのか?」

 

ライガーのドリルアームが向けられる。だがギリアムは隼人と言う、ゲッター2やライガーの力を最大に引きだせるパイロットを見ている。そしてもっと速い、そしてもっと強いライガーをギリアムは知っている。それからすればエアロゲイターの技術で再現されたライガーだったとしても、取るに足らない敵に過ぎなかった。

 

「!?!?」

 

「言ったはずだ、遅いとな」

 

ビームサーベルで両手足を一瞬で切り落とし、踵落としをライガーの顔面に叩き込み地面に叩きつける。オイルを鮮血のように撒き散らし、肘から先の無い手を必死にゲシュペンストに向けるライガーは力尽きたようにオイルの中に沈む。

 

「!」

 

「人工知能でも恐怖はあるか、だが逃がしはしないッ!」

 

背を向けて飛翔するライガーを追いかけるゲシュペンスト、夜空を蒼い流星が何度も何度もぶつかりあう

 

「駄目だ、あのスピードには割り込めねぇ」

 

「……操縦の腕が違いすぎるね」

 

「あれが……教導隊」

 

ライガーの脅威を知っているエクセレン達はいつでもギリアムの支援に入れるようにしつつも、バグスやアルトアイゼン等の陸上機と戦うソルジャー、ファットマンへの攻撃を行う。

 

「そこだッ!」

 

「良い感じだ」

 

上空からの狙撃で動きの鈍ったソルジャーとファットマンがそれぞれ、アルトアイゼンのリボルビングステークによって動力部を貫かれ爆発し、そしてグルンガストの計都羅喉剣の一撃で両断される。だが倒した数以上のソルジャーとファットマンが足並みを揃えてアルトアイゼン達へとに迫る。

 

「ちっ、ブリット。先に行け、俺とイルムガルト中尉でこじ開ける」

 

「はっ、はいっ!!」

 

このままでは敵に囲まれ、思うように動けなくなるだけだと判断しキョウスケがブリットにそう指示を飛ばす。

 

「では私はブルックリン少尉のサポートで良いですね!」

 

「クスハ曹長を頼む」

 

量産機と言えど、グルンガスト弐式は特機だ。ソルジャー達との戦いで消耗した状態で戦えば、撃墜されるリスクが上がる。友軍機が少ないのは承知しているキョウスケだが、武蔵とカイ、そしてギリアムとラドラの4人が入った事で戦線を分ける事を決断したのだ。キョウスケが戦線を分ける事を決断した時、空中でのゲシュペンストとライガーの戦いにも大きな変化が生まれようとしていた。

 

「!!」

 

「ふっ、少しは学習したか」

 

ドリルアームと見せかけたチェーンアタック。それは、ゲシュペンストではなく、追従して飛んでいたバグスを粉砕する。動力部が破壊された事で近距離で爆発したバグスによってゲシュペンストの姿勢が僅かに崩れた。

 

「!」

 

その隙は見逃さないと言わんばかりに反転したライガーがドリルアームを翳し突っ込んでくる。必中のタイミングなのは確実……それはライガー自身も見ていたエクセレン達もそう感じた。

 

「言った筈だ……遅いとな」

 

「!?!?」

 

ドリルアームがゲシュペンストを捉えたと思った瞬間、ゲシュペンストの姿は空中に溶ける様に消えた。そして混乱するライガーの胴体に上空から降り注いだ光の矢が貫き、下半身と上半身を両断されたライガーはそのまま墜落し爆発炎上した。

 

「ステルス・ミラージュか。エネルギーの消耗こそネックだが、良い装備だ」

 

メカザウルスの技術を応用されたオーバーテクノロジー。今見せた分身ものその応用だ、ライガーを余裕で一蹴したギリアムにエクセレン達も言葉も無い、だがそれはギリアムからすれば当然の結果と言えた。

 

「エクセレン少尉、マサキ、リューネ。まだ気を緩めるな、敵はまだいるのだからな」

 

一番厄介だと思われるライガーは早々にギリアムによって破壊された。だがソルジャーやファットマン……バグスやバードと言った無人機は健在だ。

 

「あ、ああ、判ってる!」

 

「クスハも助けないといけないしねッ!」

 

ギリアムの言葉に我に帰った様子のマサキとリューネを見て、ギリアムは小さく笑い。次の瞬間には真剣な表情となり、自身を狙う無人機との戦いに身を投じるのだった……。

 

 

 

 

カイは通常のゲシュペンストの倍……いや、4倍近い重量を持つゲシュペンスト改の操縦桿とペダルの重さに顔を歪める。だがこの重さはこのパワーを押さえ込む為に必要な重量と言うことはカイも十分理解していた。

 

(反マグマ原子プラズマジェネレーター……か)

 

マグマの熱によって擬似的なプラズマを発生させるとラドラは言っていた。エネルギーを消耗しても、一定の時間が経過すればエネルギーが回復する。その説明を聞けば、無限動力を連想させる。だが現実はそれほど甘くは無い、一定の時間と言うのが最大の弱点だ。

 

(僅かに、僅かにだが回復しているが……これでは焼け石に水だな)

 

メカザウルスと一戦してからの連戦、僅かにエネルギーは回復している。だが全力戦闘に耐えれるエネルギーではない、不幸中の幸いはカイのゲシュペンストは格闘戦特化に製作されている。射撃兵器を一切搭載していない為、エネルギーの消費は移動と、背部フライトユニット、そして両腕のメガ・プラズマステークに使用されるだけだ。だが射撃武器を搭載していないという事は、牽制などに利用出来る武器が一切無いと言う事だ。

 

「カイ少佐……支援します」

 

「ラトゥーニ少尉か、すまないが頼む。ポセイドンの懐に入るまでで良い」

 

ビルドラプターが小さく頷き、その手にしているメガビームライフルの引き金を引く。並みのPTなら一撃で戦闘不能に追い込みかねない、ビームが命中したのにも拘らず2機のポセイドンは地響きを立てて近づいてくる。その姿にダメージらしい姿は見られない、その外見通りの凄まじい装甲だ。

 

「武蔵ッ!」

 

「おうよッ!!」

 

シグの手を踏んでゲッター1が飛び上がり、そしてゲッターを上空へと勢い良く投げ飛ばす、ポセイドン達を悠々と飛び越えて、その先の地表に着地すると地響きを立ててドラゴンへと突進していく。一方ゲッターを投げ飛ばしたシグは両手のエネルギークローを展開し、ポセイドンの前に立ち塞がる。

 

『カイ、判ってるな?』

 

「言われなくてもな」

 

アルトアイゼンやグルンガスト、そしてジガンスクードは確かに優秀な機体だ。だが今もなお転移でソルジャーやファットマンが現れているのを見る限り、そちらに向ける必要がある。つまりこの2機のポセイドンは俺とラドラ、そして支援に入っているラトゥーニの3人で対応しなければならない。

 

「ポセイドンの首が開いたら、お前は後退しろ小娘。そのPTの重量では耐え切れんだろうからな」

 

「おい、ラドラ。もう少し言い方って物を……聞けッ!!!」

 

カイの言葉を無視し、ポセイドンに突っ込むシグ。その後姿を見て、カイは叫ぶがラドラは通信をOFFにしており返事は来ない。

 

「すまないな、悪い奴では……「はははっ!! 欠伸が出るぞッ! この木偶の坊がッ!!」……無いと思う」

 

「……あの、少佐。私は……大丈夫です」

 

思いっきり悪役のような笑い声を上げながらラドラの駆るゲシュペンスト・シグは突撃した勢いでポセイドンの顔面に蹴りを叩き込み地面に叩きつける。

 

「!」

 

「何だ、木偶の坊が不服か? ならばガラクタだッ!!」

 

足を振り上げ踏みつける、それが何度も何度も容赦なくポセイドンに叩き込まれていく。その光景を見て、カイはラドラはあんなに好戦的だったか? と心の中で呟く。

 

「ショットガンでの面射撃の方が良いですか?」

 

「それで良い、その後は距離を取って狙撃での支援を頼めるか?」

 

カイの言葉に了解と返事を返すラトゥーニ。カイはそんなラトゥーニを見て小さく笑い、ペダルを小刻みに踏み込みながら、上空に視線を向ける。そこには青いゲシュペンストが自由自在に空を舞う姿が見える。

 

「そこだッ!!」

 

「ちょ、ちょっと少佐。もう少しヴァイスちゃんの事を考えてくれますか!?」

 

ヴァイスリッターを駆るエクセレンが文句を言うが、ギリアムのゲシュペンストはますます加速しヴァイスリッターを引き離しに掛かる。その姿を見てカイはコックピットで苦笑する、だがそれと同時に無理も無いと考えていた。ヒュッケバインの量産で数を減らすであろうゲシュペンストに悲しみを感じていた。だがラドラの改造で現行機を上回る性能を持つと言う事が判った、量産には向かない。それは判っているがエースパイロット用の機体として考えればラドラの開発したゲシュペンストは最高の機体と言える。まだ、俺もゲシュペンストを降りる気は無いのだ……だから生まれ変わったゲシュペンストの力を見たいと思ったのだ。

 

「お前の全力を見せて貰うぞ、ゲシュペンスト」

 

リミッターを解除することはない、だが両腕のメガ・プラズマステークが放電し周囲に陽炎が生まれる。全力でペダルを踏み込み、操縦桿を握り締める。フライトユニット……とは名ばかり、両腕の肥大化したメガ・プラズマステークの重量で低下した速度を補う為のユニット。言うならば、重量に負けずに十分な加速を得る為の外付けのブースターに過ぎない。4つのバーニアが火を噴く、今か、今かとゲシュペンストが叫んでいるのが判る。

 

「!!!」

 

ポセイドンの首の装甲が開いた。それと同時にビルドラプターのM-13ショットガンがポセイドンを貫き、僅かに暴風が放たれるタイミングが遅れる。そしてその隙をカイが当然見逃す事はなかった。

 

「改良されたプラズマステークの威力を思い知れッ!」

 

カイが再度力強くペダルを踏み込むと同時にゲシュペンストの姿は掻き消え、次の瞬間には地上から上空に伸びる雷の柱が地表を大きく揺らす。

 

「な、なんだ!? 何が起きた!」

 

「敵の新しい攻撃か!?」

 

その凄まじい音に混乱が広がり、それがカイの乗るゲシュペンストの攻撃による物だと判ると、どんな攻撃だったんだと言う動揺が広がり、凄まじい音を立てて放電している両拳を見て今の一撃がプラズマステークによる一撃だと判ると今度はどれだけ強力なステークが装備されているのかと言う動揺になる。

 

「!!!」

 

「まだ動くか、ならもう少し付き合ってもらおうかッ!!」

 

ポセイドンはプラズマステークのアッパーによる一撃で胴が陥没している。だが無人機なのでその程度で動きを止める訳が無い、腕を振り上げ殴りつけて来るのをカイは避けるのではない、腕の装甲で受け止める事にした。

 

(防御力は攻撃力に匹敵するか、一直線になれば相当な速度、そして高い攻撃力と防御力……か。まるでアルトアイゼンだな)

 

ポセイドンの攻撃を受けて、防御力を確かめるという意図はなかった。ただ、重量級のゲシュペンスト改なので敵の攻撃の範囲外まで脱出出来るかどうか不安があったので、防御することにしたのだ。結果は殆どノーダメージであり、その攻撃力と防御力にカイはアルトアイゼンと似たコンセプトと理解した。だがアルトアイゼンよりも尖ったカスタムを施されているがそれは、格闘戦に特化しているが故にカイにとっては丁度よい機体だった。

 

「興が乗った、受けるが良いッ! これがゲシュペンスト究極の一撃だッ!!!」

 

シグの両肩と両足の装甲が展開される、あれは機体の熱を排熱する為の物だと見ている全員が思った。だが、次の動きを理解出来た者はカイとギリアムの2人だけだった。

 

「ふっ、面白い」

 

「昔を思い出すだろう?」

 

その動きに合わせるようにカイのゲシュペンストも空手を思わせる構えを取り。地面に踏み込みの跡をつけながら2機のゲシュペンストが同時に拳を打ち合わせる。

 

「「!!!」」

 

そしてポセイドンも同時に胸部の装甲を展開し、暴風による攻撃がゲシュペンストに向けられている。だがゲシュペンストは全く怯むそぶりを見せず、同時に地面を蹴り空中で反転する背中合わせで右足をポセイドンに向かって突き出す

 

「この技は叫ぶのがお約束でな」

 

「教導隊名物とでも思って貰おうかッ!」

 

ポセイドンの暴風……ゲッターサイクロンもどきが2機のゲシュペンストを押し返し、吹き飛ばそうとする。だが、ゲッター線ではなく、ただの動力のポセイドンではゲッターサイクロンの威力を半分も再現できておらず、恐竜帝国と新西暦の技術のハイブリッドであるゲシュペンストMK-Ⅱ・カスタムとの機体性能の差にその攻撃はそよ風に過ぎなかった。背部のブースターによって得た膨大な推進力を押し返す事は叶わず、自分に向かってくる白銀と真紅の流星を少しでも遠ざけようと無駄な抵抗を続ける事しか出来なかったが……そのカメラアイに映されている――。

 

「「究極ッ! ゲシュペンストキックッ!!!!!」」

 

ラドラとカイの叫びが重なり、暴風を一瞬で突き破り2機のゲシュペンストの飛び蹴りはポセイドンの胴を貫くが、それでもゲシュペンストの勢いは止まらない、ビルをなぎ倒し、道路に深い傷を刻みながらやっと止まった2機のゲシュペンストは前を向いたまま拳を打ち合わせる。それと同時にポセイドンは爆発し、巨大な火柱が街の中央に上がるのだった……そしてその2人の動きを見てギリアムが小声で自分は除け者かと呟き、そして八つ当たりするかのようにバグス達に向かって行き。エクセレン達が何もすることが無いと思うような凄まじい勢いでバグス達の撃墜を始めるのだった……。

 

 

 

 

 

 

カイとラドラの雄叫びを聞いた武蔵はベアー号の中で小さく苦笑する。2人を馬鹿にしたわけではない、だが教導隊名物と聞いてもしかしてエルザムやゼンガーも叫ぶのだろうかと想像するとこみ上げる笑いを堪える事が出来なかったのだ。事実、2人が叫んでいるところを何度も見ているし、伝統なのかな? と思うのは当然だった。

 

「何よそ見してやがるんだ!!」

 

「別に余所見なんかしてねえッ!!」

 

振り下ろされたダブルトマホークと切り上げたゲッタートマホークがぶつかり合い、凄まじい衝撃がゲッターロボとドラゴンを中心にして発生する。

 

「ぐ……ぐぐううッ! てめえを見ると頭が割れそうにいてぇんだよ!!!」

 

「知るか!!」

 

火花を散らしながらダブルトマホークをゲッタートマホークで切り払うゲッターロボ。だがゲッタートマホークには細かい皹が幾つも入っており、砕けるのも時間の問題に見えた。

 

「トマホークブゥゥメランッ!!!」

 

「舐めんなッ!!」

 

力任せに投げ付けられるダブルトマホークブーメラン。ゲッターロボはそれをスライディングでかわし、呆然としているドラゴンの顔面に拳を突きたてる。

 

「ぎっ! くそがくそがくそがッ! バリアはどうなってるんだ!」

 

エアロゲイター……いや、バルマーの技術で複製されたゲーザの駆るドラゴンはアードラーが複製したドラゴンよりも高い性能を持ち、動力炉を複数積む事でゲッター線ではないが高い出力、そしてその出力から齎されるバリアにより、高い攻撃力と強固な装甲を持つ機体として作成されていた。だがゲッターロボの攻撃に対してはバリアが発動せず、ゲーザが苛立った様子で叫ぶ。

 

「くそくそッ!! てめえは邪魔なんだよッ!!」

 

「オイラもお前が邪魔だぁッ!!」

 

ゲッターロボとドラゴンの拳が交差し、互いの頭部を穿つ。だがよろめいたのはゲーザのドラゴンであり、ゲッターロボは即座に左拳でドラゴンの胴体を穿つ。

 

「がはっ!?」

 

頭部ではなく、胴体を武蔵が狙った理由、それはパイロットがどこにいるのかを特定する為だった。異星人とは言え、やはり武蔵には誰かを殺すことに抵抗……があるわけではない。これが同じ人間ならば、武蔵は躊躇いコックピットを引きずり出すという事を選択肢に入れただろう。だが相手は異星人であり、そして罪も無い人間を殺している。その段階で既に、エアロゲイターは武蔵にとっては恐竜帝国と同列……つまり殺す対象に入っているのだ。

 

「おりゃあッ!!!」

 

「がっ!? ぐっ、て、てめえコック……げぼっ!?」

 

正拳から、ドラゴンの首を掴んでの膝蹴りが容赦なくライガー号に叩き込まれる。ドラゴン号に搭乗しているのなら外から確認出来る、だがそこに人影が無い以上、パイロットはライガーか、ポセイドンのどちらかになる。ゲーザを殺すと決めた以上武蔵に躊躇いは無い、容赦なくライガー号に攻撃を叩き込む。

 

「誰かを殺すって事は、殺される覚悟があるって事だ。オイラは少なくとも、そう思ってる」

 

いくら爬虫人類だとしても、生きている生き物だ。最初は武蔵も躊躇いがあった、話し合えば判るんじゃないかと言う理想を抱いた事もある、そのつど竜馬や隼人に怒られていたが、元々心優しい武蔵には誰かを傷つけるということに抵抗があった。だが武蔵は見た、見てしまったのだ。生きたまま食い殺される人を、達磨にされ絶望と恐怖に顔を歪めたまま死んだ者を、メカザウルスの攻撃で骨すら残さず死んでしまった家族を泣きながら弔う者を見た。それから武蔵には躊躇いはなかった、今までは降りかかる火の粉を払う為に殺していたが、そこからは積極的とも受け取れるように爬虫人類を敵視するようになった。武蔵は目を閉じて、大きく深呼吸をする。その目が開かれた時、武蔵の瞳には全てを飲み込むような怒りの色が浮かんでいた。

 

「懐かしい……とでも言うべきか」

 

「ラドラ、お前、あの殺気で良く懐かしいなんて言えるな、俺でも一瞬息を呑んだぞ」

 

ラドラのささやくような呟きが聞えたカイは信じられんと言う様子でラドラに声を掛ける。

 

「ふふふ、竜馬や隼人もあんな感じだぞ、いや、あの2人はもっと激しいか、武蔵はまだ温厚な方さ」

 

「……俺は武蔵で良かったと思うな」

 

会話をしながらもソルジャーとファットマンを撃墜するカイとラドラ。だがその間も武蔵の殺気と怒気は劇的に高まっていく……それこそ、心臓の弱い者ならば、それだけで死んでしまうような凄まじい殺気と怒気だ。

 

「離れるように言っておけ、今の武蔵に普段の気遣いは出来ないぞ」

 

「……そのようだな、全機に通達。ゲッターロボに近づくな、繰り返す。ゲッターロボに近づくな」

 

カイのゲシュペンストから連邦兵士のみに伝わる広域通信で武蔵に近寄るなと警告が告げられる。武蔵が気遣っているから、曲がりなりにも連携して戦う事が出来ていた、だがその武蔵が怒りで我を見失いかけている今。近づくことは危険だとカイは判断したのだ、そしてその判断が正しかったと言う事がすぐに証明された。

 

「だからてめえも殺される覚悟は出来てるんだろうなあッ!!!」

 

「ひっ!? ゲッターを止めろ! 俺に近づけるなあッ!!!」

 

今までの殺気や怒気がなんだったんだとでも思うような強烈な殺気と怒気がゲッターロボを中心にして戦場全体を包み込むようにして広がっていく。

 

「!?」

 

「い、今のは……」

 

「殺気って奴か……」

 

周りにいたキョウスケ達でさえも竦む強烈な殺気、それを至近距離から叩きつけられたゲーザは息を呑み、ゲッターロボ……いや、武蔵から逃げるように空中にドラゴンを向かわせる。

 

「逃がすかッ!!!!」

 

だが1度敵と定めた以上武蔵がゲーザを見逃すわけが無い。逃げ出したドラゴンを追ってゲッターロボが翡翠色に輝くゲッター線を身に纏い、空中へと身を躍らせるのだった……。

 

 

 

 

ゲーザの命令に従い、ファットマンやソルジャー、そしてバグス達が一斉にゲッターロボへと殺到していく。

 

「邪魔だッ! てめえ! 逃げるんじゃねえッ!!!」

 

トマホークで、拳で蹴りで次々に破壊され、一瞬たりとも足止めは出来ず。ゲーザのドラゴンはゲッターロボに追いかけられては、空間転移で応援を呼び、その度にゲッターに粉砕され逃げるという事を繰り返していた。

 

「クスハ曹長!」

 

だがそれはキョウスケ達にとって、最大の好機となっていた。エアロゲイターからの妨害もなく、グルンガスト弐式に接触する最大のチャンスだった。それこそ、数で取り囲みグルンガスト弐式を捕縛することすら可能と思えるほどの好機、この好機を逃すわけには行かないとアルトアイゼンがグルンガスト弐式……いや、クスハに向かって叫ぶ。

 

「……お前も……敵……破壊……する」

 

「……戦う事になるとは不運だが、生きていただけで儲けものか、ブリットも心配している……帰って来てもらうぞ、クスハ曹長」

 

「……ブ……リット……?」

 

アルトアイゼンのリボルビングステークが弐式の腕関節に向かって突き出される。だが念動フィールドによって軽減されてしまい、弐式の装甲を貫く事が出来ず反撃に繰り出された計都瞬獄剣による横薙ぎの一撃を飛び退いてかわすアルトアイゼン。

 

「ちっ、中々厄介な物だな」

 

弐式を破壊できず、しかし相手はこちらを殺しに来ている。クスハの操縦技術はさほど高い物ではないが、弐式と言う強固な装甲と攻撃力を持つ特機相手ではPT達では分が悪い。

 

「クスハ!!」

 

「お前は……敵だ……」

 

「そうじゃない、俺は……!」

 

「敵は……破壊する……!」

 

「クスハ! 私よ、リオ・メイロンよ!!」

 

「目の前の敵は……全て破壊する……」

 

「私が判らないの!? ねえ、クスハ! どうしちゃったのよ!?」

 

攻撃することに躊躇いのあるブリットとリオが必死にクスハに声を掛けるが、クスハは何の反応も示さず。敵は破壊すると機械的に何度も繰り返し呟く、その姿にブリット達の知るクスハの面影はどこにもない。

 

「行動不能に追い込むしかないだろう」

 

「ちっ、しかたねえ。リューネ、やりすぎるなよ!」

 

「判ってる!」

 

言葉による説得は不可能と判断し、グルンガスト弐式への攻撃が再開される。だが、クスハを見捨てる訳にも行かない以上どうしても攻撃は威力の低い物に限られる。

 

「……マキシ・ブラスター……」

 

「ファイナルビームッ!!!」

 

グルンガストと弐式の胸部のビーム同士がぶつかり、対消滅し、その隙にとサイバスターとヴァルシオーネが高速で急降下し、弐式に向かってディスカッターとディバインアームを振るう、肩と左腕に命中し弐式の装甲から火花が散る。だがダメージは殆ど通ってないのは、明らかだった。

 

「……損傷軽微、戦闘を続行します。ブースト……ナックル……発射」

 

「駄目か……リューネ!」

 

「ぐっ! これは不味いね」

 

サイバスターは回避することが出来たが、ヴァルシオーネはブーストナックルの直撃を受けて大きく吹き飛ばされる。当たり所が悪かったのかヴァルシオーネの高度は僅かに落ちている

 

「リューネさん! 下がってください!」

 

アーマリオンがサイバスターとヴァルシオーネを庇うように前に出て、両肩のミサイルクラスターを弐式に向かって放つ。当然、弐式の装甲も念動フィールドも貫けない事はリョウトも先刻承知、これは布石なのだ。

 

「ギリアム少佐、後はお願いしますね」

 

「任せておけ」

 

ヴァイスリッターの放ったオクスタンランチャーのEモードがミサイルクラスターを貫き、爆発によって弐式の視界が塞がれ、その一瞬で弐式に肉薄したギリアムのゲシュペンストがビームソードを2本的確に弐式の脚部に突きたてる。

 

「……脚部損傷……60%……機動力……低下します」

 

脚部に突き立ったビームソードによって、弐式は姿勢を大きく崩し膝をその場についた。

 

「行くぞラドラ!!」

 

「ああ。判っている」

 

両サイドからゲシュペンストシグとカスタムが弐式の両腕を掴み拘束する。出力を上げて振り切ろうとする弐式だが、ラドラとシグも振りほどかれまいと、腰を深く落とし弐式の両腕を抱え込むようにして、その動きを全力で抑え込む。

 

「良し、弐式を回収する。その後、ハガネとヒリュウ改の……」

 

キョウスケの言葉は最後まで告げられることは無かった……弐式の動きを完全に止めた。これでクスハを助ける事が出来るとほんの一瞬……そうほんの一瞬警戒が緩まった……その一瞬が命運を分けた。

 

「くたばれ! この人形がッ!!」

 

ゲッターに追いかけられ、このままでは撃墜されるとと判断したゲーザはあろうことか、弐式に向かって頭部のビームを放ったのだ。

 

「くそったれッ!!!」

 

その光景を見ては、武蔵もドラゴンを追いかける訳には行かず反転し急降下する。

 

「ゲッタービームッ!!!!……ぐっ! ぐあっ!!!」

 

ドラゴンのビームの出力は武蔵の想像以上に高かった、照射が始まったばかりのゲッタービームでは完全にドラゴンのビームの威力を殺す事が出来ず、背中からビルに叩きつけられゲッターロボの姿はビルの瓦礫の中に消え、ビームの余波でアルトアイゼンたちも完全に弐式から吹き飛ばされる。

 

「ぐっ!」

 

「ああう……っ!」

 

「うっ……頭が……」

 

「な、なにこれ……怖い……誰! 誰が私達を見ているのッ!!!」

 

「誰……誰だ! 俺を見てるのは誰だ」

 

「み、見られている……うっ……なんですの、この不快な感覚は!」

 

ゲッターロボのゲッター線の輝きが周囲を照らす、その瞬間一部の人間……恐らくこの場にリュウセイとアヤもいればその感覚を感じていただろう。どこかから、姿の見えない何者かが自分達を見ている視線に恐れと不快感を感じ取っていただろう。

 

「ク、クスハ! 正気に戻れっ!!」

 

だがブリットはその不快感と恐怖に耐え、クスハに必死に声を掛ける。

 

「う……うう……お前なんか……殺してやる……」

 

「やめるんだぁぁぁっ!!」

 

計都瞬獄剣が振り下ろされようとした時、ブリットの叫び声が周囲に響き渡り、クスハとブリットは殆ど同時に強烈な頭痛に襲われた。

 

「ううっ……ああっ……あ……頭が……頭が……痛い……」

 

「! 意識が戻ったのか!? クスハ! 俺だ! ブリットだ! 俺の声が聞えるかッ!!!」

 

「あ、ああ……た、助けて……」

 

「クスハ!!」

 

救いを求めるように伸ばされる弐式の腕、ブリットにはそれがクスハが自分に助けを求めていると思いに即座にその腕を掴もうとした。だが続けて紡がれたクスハの言葉にブリットは動きを止めてしまった。

 

「……助けて……リュウセイ……君……」

 

「ク、クスハ……お前……!」

 

だがクスハが呼んだのは自分の名前ではなく、リュウセイの名前。そのことにショックを受け、ブリットの動きが止まった。そして次の瞬間には空間転移で弐式の姿はブリットの目の前から消えていた……。

 

「い……行ってしまった……クスハが……クスハが行ってしまった……」

 

助ける最大のチャンスだった。だがブリットは自分ではなく、リュウセイの名前が呼ばれた事にショックを受けて、足を止めてしまった……怒りの余り、ブリットはコンソールに拳を叩きつける。

 

「く、くそ……ッ!! くっそおおおおおおおおおおおッ!!!」

 

自分への怒り、そしてクスハを助ける事が出来なかったことに対する嘆きが込められたブリットの悲痛な叫びが、オープンチャンネルで周囲に響き渡る。

 

「敵機、撤退しました!」

 

「クスハのグルンガスト弐式は……」

 

「……機体が行動不能に陥る前に撤退……救助は失敗したようです……」

 

「そうか……」

 

ハガネのブリッジからでもブリットとクスハのやり取りは見えていた。そしてその後の悲痛の叫びもだ。

 

「……これより伊豆基地へ帰還する。ギリアム少佐達にハガネ、もしくはヒリュウ改に同乗するか、確認を取ってくれ」

 

ダイテツはテツヤとエイタにそう告げて背もたれに深く背中を預ける。エアロゲイター側の人間もゲッターロボを持ち出してきた、確かにゲッター線では稼動していないが、それでも十分な脅威だ。しかし、何故量産の利かないゲッターを選んだのか、ゲッター線で稼動していない以上、そこまでゲッターの姿を模す事に執着する必要は無いはずだ。

 

(何か……あるのかもしれんな)

 

ゲッターロボ……いやゲッター線が何かをこの世界に齎そうとしている。たかがエネルギーなのに、ダイテツはゲッター線が恐ろしく感じた。これが上層部がゲッターロボを恐れる理由なのか、それともゲッター線を有効利用する為にゲッターロボを徴収しようとしているのか……。

 

「大尉、曹長、お前達は見えたか?」

 

「何がでしょうか? 艦長」

 

「何か気になることでもありましたか?」

 

2人の返答にダイテツは誤魔化すように、ゲッターロボから溢れた翡翠の光だと呟いた。全く、本当にどうかしている……。

 

(巨大なイーグル号とそれと戦う化け物が見えた等とな)

 

これでは上層部の批判が出来ないと心の中でダイテツは呟いた。あの一瞬、上空に見えたハガネよりも遥かに巨大なイーグル号とそれと戦う複数の目を持つ化け物がいたと思うなんてと苦笑する。ダイテツは頭を振り、ハガネへと帰還するPT隊と離脱する、ギリアム達を見送るのだった……。

 

 

第56話 暗躍する影

 

 




ダイテツ艦長、ゲッペラーとインベーダーを目撃する。今回は気のせいだと思ったようですが、残念気のせいではなかったりします。ゲッターロボからゲッター線が放出された時に見てしまったって感じですね、次回はインターバルと別のサイドの話を書いていこうと思います、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第56話 暗躍する影

第56話 暗躍する影

 

ハガネとヒリュウ改が伊豆基地へと帰還した頃、日本から遠く離れたアフリカ、アースクレイドルではあるプロジェクトが進行していた。

 

「オーガシステム、実に面白いシステムですな。コーウェン博士、スティンガー博士」

 

「いやはや、これを実行出来たのは、アースクレイドルだからですよ。イーグレット博士、ねね、そうだろう? スティンガー君」

 

「う、うん。アースクレイドルと、マシンセルのおかげだよ」

 

イーグレット、コーウェン、スティンガーの3人の顔には笑みが浮かんでいる。だがそれは狂気に満ちた、恐ろしく邪悪な笑みだった。その視線の先にはまるで心臓のように脈打つ機械が鎮座していた。

 

「貴方達によって提供された生体金属とマシンセルによって作られたオーガシステム、これが実用段階になれば世界は大きく変わる。貴方

達が私に提供してくれたゲッター炉心と共に、究極の機動兵器が生まれる」

 

「いやいや、提供したといっても図面だけじゃないか、イーグレット博士。それを作り上げたのは貴方の才能だ」

 

「す、素晴らしいよ、あれは僕達ともう1人、早乙女だけが作れる物だ。それを複製した君には正直脱帽するよ」

 

2人の心からの賞賛にイーグレットは気恥ずかしそうにする、今まで人を見下していたイーグレットだ。だが自分を完全に上回り、そして未知の技術を提供してくれる2人は既に自分よりも格下の研究者ではなく、尊敬すべき恩師とも言える存在になっていた。

 

「……まだまだです、あれほど大型でしかも軽量化もサイズダウンも出来ない炉心は不完全としか言えない」

 

「その向上心を私達は認めているよ、しかし、良いのかい? 本当に炉心を貰っても、研究に必要ではないのかね?」

 

「はい、図面はもう私の頭の中に叩き込みました、それにそれがあると、自分の未熟さを思い出し悔しい思いをします。何時の日か、もっと素晴らしい炉心を作り上げるためにもお持ちください」

 

イーグレットの言葉に頷き、アースクレイドルで作られたゲッター炉心が2人が乗るトラックの後部座席へと積み込まれる。それは2人がアースクレイドルを後にする瞬間が近づいていると言う事で、イーグレットは何度も話をした。それでもどうしても諦める事が出来ない事を2人に提案した。

 

「オーガシステムが実用段階になるのはもう少し時間が掛かります、それでも行ってしまわれるのですか? 貴方達ならば、私と、私の息子達共に新しい秩序を見届ける事が出来る筈だ」

 

「その言葉はとても嬉しい、私達の理論を知り、そしてそれを発展させた貴方は我らが同胞に等しい、だが、だからこそ私達と貴方の道は相容れられぬ」

 

「……とても、とても、残念だけどね。どうか僕達の理論をより進化させ、そして更なる高みを目指して欲しい」

 

コーウェン、スティンガーがイーグレットに手を伸ばし、イーグレットは両手で2人の手を握り締める

 

「貴方達だけだ、私の思想に共感してくれたのは、今の人類は淘汰されるべきなのだ。真に優れた人間だけが生き残るべきと考える私を認め、そして私の研究に協力してくれたのは貴方達だけだ」

 

普段は俺と言うイーグレットが私と繰り返し告げる、それだけ認められ、そして研究に協力してくれた事が嬉しくて堪らないのだろう

 

「人類は繁栄しすぎた、それを間引いて優秀な人間だけを集めようと思うのは当然のこと」

 

「うんうん、特に異星人の攻撃がある今ならそう思うのは当然だよ、今の上層部は腐りきっているからね」

 

イーグレットと同調するような事を言う2人だが、その目と表情は悪意に満ちており、イーグレットの今の考えが2人に思考誘導された結果と言うことを如実にあらわしていた。

 

「どうか、お2人もご無事で、マシンナリーチルドレンが完成したらまたご連絡します。それまでご健在で」

 

「ええ、貴方の事は忘れませんとも」

 

「い、イーグレットも元気で」

 

最後まで名残惜しそうにしているイーグレットに背を向けて、2人はアースクレイドルを後にする。もう、ここでやるべき事は……種は撒き終えた。ならば次の舞台に上がる時が来たのだ。

 

「スティンガー君、やはり隠れた天才と言うものはいる者だねえ」

 

「そ、そうだね、まさか炉心を再現できるとは、いやはや、人間も捨てた者じゃない」

 

「ゲッター合金じゃないから、そこまで凝縮出来ないけどね」

 

イーグレットが作り出したのはあくまで炉心もどき、ゲッター合金を精製できないのだから完全なゲッター炉心とは程遠い。だが、それでも今の力を失い弱りきっている2人には力を回復させる最高の存在だ。

 

「インベーダーを作る事が出来ず、まさかの生体金属になるとは驚きだねえ」

 

「う、うん、でもいつか彼らも我らの同胞になる」

 

2人がアースクレイドルにいたのは、アースクレイドルをインベーダーの苗床にするつもりだったからだ。だが今の不完全な2人では機械をインベーダーにすることが叶わず、何故かアースクレイドルのマシンセルと融合し、生体金属と化した。これは2人にとっても計算外であり、嬉しい誤算であった。これがより発展されていけば、自己再生能力・自己進化能力を持つメタルビーストと遜色のない生物兵器が生まれることになるだろうからだ。

 

「あ、あのマシンナリーチルドレンだっけ、どう思う?」

 

「インベーダーもどきかな、いや、この時代の技術でインベーダーを再現するとああなるのかもしれないね」

 

ゲッター炉心とマシンナリーチルドレンの技術が合成された事で生まれた新型マシンナリーチルドレン、いや、2人からすれば劣化したインベーダーだが、この世界では革新的な技術であることは間違いない

 

「僕達にも1つくれるなんて優しいねえ」

 

「そ、そうだね。しっかりと育ててようね」

 

トラックの中に積み込まれていたカプセルの中にはゲッター線の光とその中で眠る少年の姿があった。これはイーグレットからの2人に対するサプライズだったのだろう、まだ目覚めるのには時間が掛かるが目覚めた時に使える手駒が増えた事を喜ぶべきだと考えていた。

 

「次はどこに行こうか? 色々と調べてまだまだこの世界には天才がいる事が判ったじゃないか。あのカオル・トオミネに、ヴィルヘイム・V・ユルゲンだっけ? あの2人も使えそうだと思うよ」

 

「い、いやあ、僕はあれだよ。アギラ・セトメだっけ? あれが面白いと思うねえ」

 

この世界で優れている人材を見つけて、それらが求める情報と技術を与える。それが今の2人の主な目的になっていた……ゲッター線を使える人間を増やし、この世界をゲッター線で満たす事。本当ならば、もっと手っ取り早い手段を取りたい。だがそれが取れない理由があるのだ。

 

「人材か技術か、難しい所だねえ。でもこの思い通りに行かない感じが面白いね」

 

「う、うん。面白いよねッ!! じ、人材を見つけるのか……そ、それともこの世界に眠っている遺産を見つける。どっちを優先する?」

 

「難しい所だねえ、でも良いじゃないか、時間はたっぷりある。旅を楽しむつもりで長い目で考えようじゃないか」

 

悪意の化身は笑う、この世界にもっと混乱を、もっと破壊を、そしてもっと進化の光を――悪意の化身は旅をする。再び、地球をインベーダーの楽園にすることを夢見て……。

 

 

 

 

 

ブライアン・ミッドクリッドが臨時大統領に就任した事により、ノーマン・スレイ少将を初めとする異星人との徹底抗戦派が力を付けて来た。降りかかる火の粉は払うが、積極的な戦いを好まないブライアンにとっては余り望ましい展開ではないが、それでも必要なことだと我慢し、書類整理をしていると秘書官がノックと共に入室してくる。その姿を見て、ブライアンは内心溜め息を吐いた。

 

「臨時大統領、本日15時よりグライエン・グラスマン委員長が面談を希望しております」

 

神経質そうな銀髪の男性の言葉にブライアンは深く溜め息を吐く

 

「君は僕とウィザード、どちらの補佐官なんだい? アルテウル・シュタインベック」

 

「勿論私はブライアン・ミッドクリッド大統領の補佐官です」

 

笑みも浮かべず淡々とした口調で告げるアルテウルにブライアンはもう一度溜め息を吐いた。

 

(優秀な男だ、だが……そこが知れない)

 

複数の秘書官を持つのが大統領の仕事には必要だ、だがアルテウルはそれを1人でこなす。こんな優秀な男を送り込んできたグライエンの真意がブライアンには読めなかった。

 

「そんなにもグライエン委員長の提案を飲む事は出来ませんか?」

 

「出来ないねえ、量産型ゲッターロボ計画は荒唐無稽すぎるよ」

 

「ではムサシ・トモエをこの戦いの功労者として、軍に迎え入れることもですか?」

 

「それは彼が望まないだろうねえ」

 

グライエンが望むのは地球の守護者とし、そして剣としてゲッターロボを受け入れる事である。恐竜帝国の詳細を公表し、それと戦った武蔵を英雄とするべきだと言っているのだ。

 

「確かに彼は英雄だ、それは僕も認めるよ。彼の戦歴は素晴らしい、それに非常に好青年だとも聞いている。だがね、連邦の上層部が指名手配し、追われていた人間に軍から声を掛けることが出来ると思うかい?」

 

「……難しいでしょうな」

 

「難しいなんてものじゃない、それに小国ではあるがリクセント公国が彼を囲い込もうとしている。あの幼いが、優秀な女王と事を構えるのは今は得策じゃない」

 

連邦、そして連邦政府に届けられたシャイン皇女の抗議文を思い出し、ブライアンはうへえっと呻く。幼子と言って馬鹿にすることは出来ない……彼女は生まれながら王の気質を持つ者。しかもそれが幼い恋心を原動力にしているのだから、尚更手におえやしないのだ。

 

「ウィザードに返事をしてくれ、13時から16時まで時間を取る。この際徹底的に話し合おうとね」

 

「よろしいので?」

 

「よろしいも何も、10分や15分の話し合いでは何も決まらないよ。こういうのは思い切りが大事なのさ」

 

執務を3時間止めてもでグライエンと話し合う事をブライアンは決めた。こうも連日面談を望まれては出来る事も出来はしない。

 

「それよりもシュトレーゼマン派はどうなっているんだい?」

 

「以前消息不明です、ただ、イスルギ重工に怪しい流れがありますね」

 

「……本当にあの狸は愚かですね」

 

そう苦笑するアルテウルをブライアンはじっと見つめる。その仕草にも口調にも、シュトレーゼマンと繋がっている気配は見られない、そうなると本当に彼が何を考えているのは更に判らなくなってくる。

 

「そういえば、君は記憶喪失で保護されたそうだね。何か思い出したかね?」

 

「いえ、今のところは特に、ただ、この仕事にはやりがいを感じています」

 

記憶喪失と言う話だが、その知性も言動も恐ろしいほどに磨き抜かれている。本当に記憶喪失なのかと言う疑いはあるが、今はそれを確かめる術もないので受け入れるしかない。

 

「ニブハル・ムブハルは?」

 

「は、彼はSRXチームの査問会を押し切った上層部に即座にSRXチームの出撃停止命令の撤回の為に動いている筈です」

 

「そうか、それなら良いけどね。じゃあ、悪いけどスケジュール調整を頼むよ」

 

お任せくださいと頭を下げて出て行くアルテウルを見送り、ブライアンは書類整理に戻る。そして13時5分前に応接間にグライエンが訪れる。

 

「ブライアン大統領、良い加減に決断できたかな?」

 

「量産型ゲッターロボ計画は不可能だと説明した筈でしょう?」

 

「それではない、ムサシ・トモエだ。彼は今の地球に必要な人材だ、即刻迎え入れるべきだ」

 

「……連邦政府が指名手配としたと言うのにですか?」

 

「それならば上層部の雁首を纏めて取り替えろ、及び腰の人間など要らぬ」

 

徹底交戦派のグライエンの言葉にブライアンは心の中で溜め息を吐きながらも、外見上は笑みを浮かべる。

 

「それでも今は必要な人材です」

 

「お前がノーマン少将に権限を与えた事を私は評価しているのだぞ」

 

「……降りかかる火の粉を払うためですよ」

 

ブライアンの言葉にグライエンは目を細め、明らかに威圧的な気配を纏い始める。

 

「何故判らない、今地球に必要なのは盾では無いぞ」

 

「しかし必要なのは剣でもない」

 

互いの視線が交差する。互いに目を逸らすことは無く、それが自分の意見を曲げる事は無いと言う事を如実にあらわしていた。

 

「私はビアン・ゾルダークの道は正しかったと思っている。今人類に逃げ道など無いのだ」

 

「逃げるのではありません、互いに手を取り合うのです」

 

「何を悠長な事を言っている、今異星人と戦えるのはハガネとヒリュウ改、そしてラドラ元少佐とゲッターロボだけなのだぞ」

 

……ラドラの名前が出た事にブライアンは眉を顰める。シュトレーゼマンの派閥の圧力で軍を退役した人物。そんな人物をグライエンが知っていうとは想像もしていなかった。

 

「ラドラ元少佐について何をご存知なのですかな? 勿論ムサシ・トモエもですが」

 

「お前が知っていることは全て知っている、あの腰抜け共め、旧西暦の英雄を何だと思っている」

 

その一言で理解した、グライエンはゲッターロボの価値も、ムサシ・トモエの正体も知っていると……。

 

「失礼ですが、何故それを……SSSS級機密の筈ですが」

 

「ふん、お前だけが全てを知っているなどと思うなよ。むしろ私はお前が知らない事を知っているぞ」

 

「もしやそれは南大西洋にサルベージ船を送り出したことと関係していますか?」

 

今度はグライエンが眉を顰めた、内密に深夜に送り出したサルベージ船の事を何故とその表情が物語っている。

 

「まぁ良い。教えてやろう、グラスマンの一族はかつて、そう……旧西暦の戦いが先祖から代々伝わっている。ゲッターロボ、そしてリョウマ・ナガレ、ハヤト・ジン、ムサシ・トモエ、そしてベンケイ・クルマ、ケン・サオトメの事も、そして恐竜帝国も私は知っている」

 

「……もしや、シュトレーゼマンと政治敵となったのは」

 

「あいつはゲッターロボを恐れ、私はゲッターロボを英雄機と考えた。その差だ」

 

シュトレーゼマンとグライエンは交友関係にあったが、それが突如敵対するようになった理由を知ってブライアンは素直に驚いた。

 

「ゲッターロボが再び現れた、それは未曾有の戦いが迫っていると言う事だ。逃げようが、隠れても無駄だ。立ち向かう事、それが人類と言う種を護る事に繋がる」

 

「……今は、異星人の脅威を退けることしか出来ません」

 

「ならば全てを見て決断しろ。それくらいは待ってやる、だがムサシ・トモエには個人的に話をさせて貰う」

 

それを止めれる口実も理由も見当たらず、ブライアンは溜め息を吐くしか出来ない。

 

「この異星人との戦いを終えた後、お前が立ち向かう事を選ぶ事を期待する」

 

長い話を終え、背を向けて去って行こうとするグライエン。その背中にブライアンは言葉を投げかける。

 

「1つだけ教えてください、南大西洋には何が眠っているのですか」

 

「……もう1つのゲッターロボ、冤罪により投獄されたリョウマ・ナガレが騎乗したと言う、もう1つの英雄機「ブラックゲッター」が眠っているはず、私はそれをムサシ・トモエに託したい。人類の守護者にこそ、あれは相応しい」

 

グライエンは立ち止まる事をせずに去って行き、ブライアンは溜め息を吐く。自分が想像していた以上に、物事は入り組み、そして複雑になっていると言う事を思い知ってしまったからだ……

 

 

 

 

 

様々な思惑が交差する中、潜伏中のクロガネ……いや、ビアンが率いるDCにも動きが出ていた。

 

「出力20……40……60……」

 

「ゲッター線の安定供給を確認ッ!!」

 

バン大佐の地下基地の更に地下奥深く、そこで今新しいゲッターロボが目覚めようとしていた。

 

「エルザム。ついに来たか」

 

「そのようだな。しかし……正直反対ではある」

 

ゼンガーや、エルザム、そしてバンが見守る中。新ゲッターロボの全身にゲッター線の輝きが満ちる

 

「新ゲッターロボ、起動成功だ。こちらの方は異常は見られないが、そちらはどうだ?」

 

「総帥! 大丈夫です! 出力80%で安定起動しています!」

 

「重力エンジンとの兼ね合いはどうですか」

 

「ふむ、それはやや不安定だ。ゲッター線の出力を絞るか、それとも重力エンジンを絞るか、安定起動にはもう暫く課題が残りそうだな。同出力をセーブモードに移行、ゲッターロボを起動状態で放置する」

 

ビアンはマイクでそう告げると、新ゲッターロボの口元から下降器を使ってゆっくりと降りてくる

 

「総帥、お疲れ様でした」

 

「疲れるようなことはしていないさ。だがこれでゲッターロボの修復も済んだ、これからは私も戦場に出られる」

 

戦場に出るの言葉にバンやゼンガー、エルザムの顔色が変わる。だがビアンは穏やかに笑いながら

 

「必要な事だ。戦力を温存している余裕は無いと言うことだ、それに出撃するといっても最終目標がそれであるという事で今すぐにではない」

 

今のゲッターロボはゲッター線が全身に回っているかを確認する為に装甲を取り外されている、その状態では戦える訳が無いだろうとビアンは笑う。だが、恐竜帝国との戦いでは自ら戦場に出たビアンの言葉を全てゼンガー達は信じる訳には行かなかった。

 

「それに私が乗るという選択肢もあるが、ゼンガー少佐やエルザム、バン大佐だって乗る事だって出来る。その変わり、搭載している重力制御機構は使えないが、私専用機と言うわけではない」

 

イーグル号はヴァルシオンのコックピットを流用しているためビアンしか操縦できないが、ジャガー、ベアーはそのままとなっているので乗ろうと思えばゼンガーやエルザムも乗れるとビアンは笑う。

 

「この新型のスーツも試して貰ってもいい。これならばゲッターロボを操縦出来るはずだ」

 

「ビアン総帥、本当に私達が乗っても良いのですか?」

 

「構わないとも、戦力の強化は必要だ。今のクロガネの戦力を考えてみろ」

 

今クロガネで実質戦闘に耐えれるのは、グルンガスト零式、ヒュッケバインMKーⅡ・トロンベ、そしてガーリオン・レオカスタムの3機だ。護衛機でガーリオンやリオンは搭載しているが、それでも戦力的には乏しい。ゲッターロボを修理して運用する事を決断するのは当然の事だった。

 

「総帥、諜報部の裏付けが取れました。クロです」

 

「……やはりか、状況は?」

 

「は、コーツランド基地に大量の資材が運び込まれています。運搬元はイスルギ重工、情報発信元は「ミツコ・イスルギ」ですが」

 

ミツコの名前にビアンは顔を顰める。DCにも協力していたイスルギ重工だが、今はシュトレーゼマンについている事は把握していた。

 

「……まぁ良かろう、あの娘の性根は腐りきっているが、商売として考えるならその情報は信用出来る」

 

「総帥、お言葉ですが罠の可能性は?」

 

「ない、あの娘の事だ、異星人に降伏されたら儲からないとでも考えているだろうよ」

 

腹黒さも、性根も最悪だが、イスルギ重工を発展させるという目的の為にDCに貸しを売りつけようとしているのは明白だ。ならばそれを買ってやれば良いだけの話だとビアンは言う。正しいだけでは、出来ない事も数多あるからだ。

 

「シュトレーゼマン派だがな、南極には潜入できたか?」

 

「いえ、警戒が予想以上に厳重です。遠距離での監視が限界かと」

 

「ふむ……それならばクロガネの進路を南極に取れ、南極周辺で警戒を行う。動きが確認出来たら、武蔵君に連絡を取ってくれ」

 

「判りました。ユーリアにそう伝えておきます」

 

即座にユーリアの名前を出すエルザム、ゼンガーはよく判っていない様子だが、バンとビアンは小さく咳き払いをしてから――。

 

「余り焚き付けないように」

 

「些か趣味が悪いぞ、少佐」

 

「総帥、バン大佐、一体何の話をしているので?」

 

2人にそう注意されてもエルザムは涼しい顔で、ゼンガーは相変わらず良く判っていない様子だった。そしてそれを説明しようと思う者もこの場にはいなかった。

 

「それとグライエンが武蔵に接触しようとしています」

 

「鷹派の政治家と会わせるのは不安だな、早い段階でこちらから通信を送っておこう。彼にはあの狸とやりあうには知識が足りない」

 

狡猾なグライエン相手では知らない内にグライエンの派閥に抱え込まれ兼ねない、そこら編の知識はエルザムから武蔵に伝授するように頼む。

 

「開発中に頼んでおいた、アギラ・セトメの件は」

 

「捜索中です、同じく、カオル・トオミネ、ヴィルヘイム・V・ユルゲンも同様です」

 

元はDCに所属していたが、余りに危険すぎるその思考ゆえに袂を分かつ事になった。だがほっておくことも出来ないと、捜索に乗り出したのだが……今ではどこにいるのかすらかも特定できない

 

「そうか、時間を掛けている場合ではないが焦りすぎるなと伝えてくれ」

 

焦ればミスを犯す、そのミスから自分達に辿り着かれるわけには行かないとビアンは慎重に行動するように告げる。

 

「バン大佐、出撃準備を、深夜に南極に向かう」

 

「進路はコーツランド基地ですか?」

 

「いや、違う。早乙女研究所地下に南極にも何かが墜落してきたという情報があった。それを捜索する。もしかすると早乙女博士の遺産が見つかるかもしれない。それに南極には古い知人もいる」

 

改修ゲッターロボを自軍の戦力に加え、クロガネは南極へと向かう。そこに何が眠っているのかを知る為に、だがそこに眠る物が早乙女の遺産ではない事をまだビアン達は知らない……。

 

「なんだ? 何か今……反応が」

 

クロガネが南極に向かう事を決断した時、南極でも動きが現れていた。南極に眠る遺跡の捜索を行っている「リ・テクノロジスト」である「フェリオ・ラドクリフ」はその反応に眉を顰めた、今までに無い反応だったからこそ、彼はその反応に眉を顰めた、だが一瞬だったから気のせいだと思う事にし、遺跡を調べる作業を再開する。己がかつて犯してしまった、罪を償う為に……。

 

「必ず、シュンパティアを解明してみせる……何を対価としてもだ」

 

机の上に仲睦まじく笑う兄妹の写真を見て、寝る間も惜しんでフェリオは研究を続ける。この遺跡で見つけた3つのシュンパティア……これを解析する事が娘を助けることに繋がると信じ、彼は歩みを止めない。その先に何があるかも知らないままで……。

 

そして各々の陣営が動き出す中、伊豆基地の武蔵はと言うと……。

 

「どうしたぁ! 立てブリットッ!!!」

 

「うっぐう……」

 

「何大袈裟にしてる! お前がオイラに言ったんだぞ、オイラがやっていたトレーニングをやりたいってな。止まるな! 膝をつくなッ!」

 

「……わ、判ってるッ!!!」

 

「よっし、良い根性だ。来い、まだ組み手は終わってないぞ!」

 

「おうッ!!!」

 

今のままでは駄目だと思ったブリットの頼みにより、早乙女研究所で武蔵や竜馬が鍛え上げられた地獄のトレーニングを行っていた。

 

「ぐっ! おりゃあッ!!」

 

木刀に防具を身につけたブリットが武蔵の拳を歯を食いしばって耐え、反撃に木刀を振るおうとする。だがブリットが見たのは自分の目の前に広がる拳だった。

 

「肉を切らせて骨を絶つ? 足りないぜ、骨を切らせて命を断てッ!!!」

 

「がぼおおっ!?」

 

顔面を打ち抜かれたブリットがそのまま床に叩きつけられ、それでも勢いを殺せず転がっていく。その打撃音とブリットの悲鳴に見ていたカチーナ達も顔を歪める。

 

「武蔵、ちとやりすぎじゃないか?」

 

「大丈夫ですよ、ちゃんとギリギリは弁えてますから。大体、鍛え方が足りないんですよ」

 

武蔵はイルムの静止に大丈夫だと返事を返し、バケツに水を汲んで伸びているブリットに浴びせかける。

 

「げほっ! ごほっ!!」

 

「咳き込んでる暇があるなら立て! 打って来いッ!!」

 

「ぐっ、おおおおおおーーーッ!!」

 

「気迫だけじゃ足りねえッ! 走りこみも筋トレも全然足りてねえッ!!」

 

「ぎがあっ!」

 

走ってきたブリットにそのまま背負い投げを仕掛け、ブリットは背中を強かに打ちつけ、肺の空気が押し出され呼吸が出来ず、苦悶の声を上げる。

 

「走るぞ、その後は腕立て、腹筋を500回ずつ、その後は組み手とランニング、遅れるなよ。ブリット」

 

「お……押忍ッ!」

 

重りをつけて走る武蔵のあとをよろめきながら追いかけるブリット。自分に足りない強さを身につける為に武蔵に訓練を頼んだのはブリットだが、それは訓練と言うよりも拷問に等しい。

 

「ブリットの奴が悪いのか、それとも武蔵か?」

 

「両方だろ、強くなりたいって言うブリットの気持ちに応えてやってるんだよ。やりすぎ感はあるけどな」

 

「走れ! 誰が歩くって言った!!」

 

武蔵の怒声とそれに意地で返事を返すブリットの姿を見て、カイとカチーナは苦笑する事しか出来なかった。自分達の訓練も厳しいが、武蔵の経験してきた訓練はレベルが違うと、そしてそれを乗り越えてきたからこその今の武蔵の強さがあると理解してしまったから――。

 

 

 

第57話 亡霊の再誕へ続く

 

 




偽りの影はスキップです、ビアン生きてますし、アタッドは動かしにくいってレベルじゃないですからね。あと「D]組は設定とかみて、インスペクター事件の前に先だししてみようかと思いましたので登場。ゲッター線と破滅の王って相性最悪なのは確実ですしね。次回はゲシュペンストについての話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第57話 亡霊の再誕

第57話 亡霊の再誕

 

ラドラが開発したゲシュペンスト、それは伊豆基地で分析・解析を行う事となった。だがその結果は7割が解析不能、もしくは複製不可能と言う結果だった。

 

「ラドラ博士、この反マグマ原子プラズマジェネレーターを複製することは不可能なのですか?」

 

「不可能とは言わないが、メカザウルスから損傷させずに引き抜く必要がある」

 

「……それは不可能と言わないか? ラドラ」

 

「俺は出来るぞ? 恐らく武蔵も可能だ」

 

さらりと告げるラドラに話を聞いていたマリオン、ジョナサン、カークの3人は化け物めと心の中で呟く。だが新西暦の技術でも再現可能なロストテクノロジーとオーバーテクノロジーの融合態それを再現する事を諦めるという選択肢は3人の中にはなかった。

 

「マグマの熱で稲妻を発生させ、それを循環させる事で発生するエネルギーは非常に魅力的だ」

 

「操作こそ難しいが、トロニウムエンジン、ブラックホールエンジンよりも遥かに安定するはず」

 

エアロゲイターの戦力にゲッター線を使われてはいないとは言え、量産型ドラゴン、ライガー、ポセイドンが加わっているのだ。今のままのゲシュペンストでは戦力が足りない、ロストテクノロジーの結集の反マグマ原子プラズマジェネレーターを少しでも生産出来れば戦力は格段に上昇する。

 

「ゲシュペンストと言う名の、別の機体になっているとは思わないのか?」

 

「何を言うジョナサン・カザハラ。外見がゲシュペンストで、パイロットがゲシュペンスト乗りならば、それはゲシュペンストだ」

 

とんでもない暴論だが、テスラ研の初のPTにここまで思い入れを持っているラドラにジョナサンは悪い気はしなかった。

 

「メカザウルスが出現しなければ、新しく建造することも出来ないのか」

 

「正確には修理になるな。シグと2機のゲシュペンストには、1から建造したオリジナルが搭載されている。だが、メカザウルスから抉り出した炉心を修理したとしても」

 

「その性能は落ちる訳か」

 

元々生物の体内に組み込まれていた炉心だ。1から建造して、ゲシュペンストに適合するように用意された3つの炉心とは適合率が異なるのは当然だ。

 

「動力はこの際諦めて、装甲の方はどうだ? ラドラ」

 

「そちらはかなり楽だと思われる、複合金属に変わりはないからな」

 

「ではそちらの方の技術の提供を求める。それと、その複合金属をアーマリオンに使う事は可能だろうか?」

 

「そのアーマリオンとやらの図面を見せてくれ。話はそれからだ」

 

連邦に残された時間は短い、だが諦めると言う後ろ向きな気持ちの人間は誰も居ない。エアロゲイターを退け、地球を護る……その気持ちに偽りは無いのだから。

 

「ゲシュペンスト改だが、私達のほうで名前をつけても構わないかね?」

 

「好きにしてくれ、俺にはシグがある。あの2機はカイとギリアムに譲るつもりだ」

 

改と言う容易な名前よりも、よりよい名前があるのなら好きにしてくれと言って、ラドラは席を立つ。

 

「ラドラ博士? まだ聞きたいことがあるのですが?」

 

「すまないが、ギリアムに呼ばれているので失礼する。武装や機体のデータを預けるから後は好きにしてくれ、俺は科学者ではあるが……それ以上に戦士だ」

 

だから科学者同士の長い話には付き合いきれんと告げて、格納庫を出て行くラドラ。その肩が少し落ちているので、疲弊しているのは明らかだった。そしてそんなラドラと入れ違いでコウキが格納庫にやってきた。

 

「どうやらラドラを怒らせてしまったようですね?」

 

「ああ、そうなんだよ。コウキ、いやはや、正直ゲッターロボとメカザウルスの技術を流用したゲシュペンストなんて好奇心をそそるなんてレベルじゃないからな」

 

語ることすら禁じられた失われた時代の遺産……それが2つもあり、それを直に調べることが出来るのは科学者冥利に尽きるとジョナサンは笑い、コウキは肩を竦めて苦笑する。

 

「マリオン、君はEOTIは嫌いじゃないのか?」

 

「いーえ、これはEOTIではなく、かつて存在した技術です。これは私にこそ相応しい」

 

ラドラが残した資料を奪い合うマリオンとカークにジョナサンは苦笑し、ハンガーに鎮座するフライトユニットを外されたメタリックブルーとレッドのゲシュペンストを見上げる。サイズこそ1回り巨大化しているが、その特徴的なバイザーもセンサーも全てがゲシュペンストであることを証明している。本当なら、もっと適した姿にする事も出来ただろう、それでもゲシュペンストを選んだラドラには感謝しかない。まだゲシュペンストは終わってなんかいない、これからなのだ。

 

「コウキ、カイ少佐とギリアム少佐のゲシュペンストの解体許可を貰ってきてくれるか?」

 

「そういわれると思いまして、既にこちらに」

 

カイとギリアムのサインがある指令書を見て、ジョナサンは笑う。このゲシュペンストはまだ完全ではない、あくまで試作機で操縦やコントロールに癖があると言う、それを2人の癖に合わせて再建造する。ゲシュペンストを新造するよりも改造する方が遥かに戦力になると判断したのかレイカーの了承印もある。

 

「リバイブ……ゲシュペンスト・リバイブと言うのはどうだろうか?」

 

「再誕ですか、亡霊が蘇るとは恐ろしいことですね」

 

恐ろしいと言いつつも笑うコウキ、亡霊はそのまま闇に消えるのではない、死とはまた新たな誕生でもある。再誕……これ以上に相応しい名前は無い、ジョナサンはゲシュペンストを見上げながらそう思うのだった。

 

 

 

 

 

ラドラがデータ室の前に来ると、丁度反対側から武蔵が歩いてきた。

 

「お前も呼ばれていたのか? 武蔵」

 

「おう、でもオイラ難しいことなんて判らないけどな」

 

豪快に笑う武蔵、年上には基本的に敬語だが、ラドラだけには砕けた口調を使う。それは同郷とは言いがたい、だが、自分がもう会えない友人である竜馬達を思い返させるからか、それとも竜馬達の話を出来るからか……そのどちらかは判らないが、かつての敵同士であるラドラがビアンやエルザムを除けば、武蔵が一番心許せる大人と言うことは紛れも無い事実だった。

 

「なんか難しい話だと嫌だなあって思うんだよなあ」

 

「……そういうのは隼人の得意分野だからな。お前はどちらかと言うと行動派だ」

 

「そうそう、それで突っ込んで隼人に怒られるまでがオイラと竜馬のお決まりのパターンさ」

 

そう笑いあい、ラドラと武蔵は薄暗いデータ室に足を踏み入れる。

 

「ギリアム少佐、何故武蔵とラドラ少佐を……?」

 

「ああ、個人的に彼らと話したいことがあってね。だが心配ない、イングラム少佐の残したデータのプロテクトの解除はちゃんとするさ」

 

そう笑い、ギリアムは素早い指捌きでパスワードを入力していく。イングラムの残したデータと言う事で、武蔵も興味を持ちモニターの前に座るギリアムの後ろに立った。

 

「……よし。これでイングラム少佐が残した特脳研関係のファイルのプロテクトは解除した」

 

「特脳研関係? なんですかそれは?」

 

「簡単に言うと念動力の研究をしている研究所だ。SRX計画の参加者の1人「ケンゾウ・コバヤシ」博士が所長を勤める施設だ」

 

1人だけ蚊帳の外の武蔵に簡単に説明しながら、ギリアムはキーボードの操作を続ける。画面が進み、被験体の一覧になった所でラーダがギリアムに声を掛ける。

 

「マイ・コバヤシのデータはありますか?」

 

「ああ。被験体ナンバー5……マイ・コバヤシ、164年入所……となっているな」

 

「えっ……?」

 

ギリアムの呼び出したデータに怪訝そうな声を上げるラーダ。

 

「コバヤシってアヤさんの関係者ですか?」

 

武蔵がそう尋ねるが、ラーダは顔色を変えてさらにデータを呼び出してくださいとギリアムに声を掛ける。

 

「彼女の生年月日のデータを呼び出して下さいませんか……!?」

 

「159年6月17日となっているが?」

 

生年月日を読み上げるギリアム、武蔵とラドラは何の事か判らないと言う表情だったが、ラーダの顔色はより深刻な色を帯びる。

 

「そ、そんな……! それだと彼女はアヤの妹なのに、6歳も年上だということになりますッ!」

 

妹の筈なのに、6歳も年上と言うラーダの言葉に武蔵とラドラもやっと事の重要さを知った。

 

「データの間違いとかじゃなさそうですよね。別の人を呼び出したとかはないんですか?」

 

「いや、これは紛れもなくマイ・コバヤシのデータだ。……アヤ大尉は確かにマイ・コバヤシのことを自分の妹だと言っているのか?」

 

アヤの記憶違いの可能性を尋ねるギリアム、だがラーダは違いますと首を左右に振る。

 

「え、ええ……4歳年下の……そして、181年の研究所爆発事故で亡くなられたと聞いていますが……」

 

「妙だな。イングラムの記録では……マイ・コバヤシは165年から180年まで実験と冷凍処置を繰り返した後……翌年の特脳研爆発事

故後、再度冷凍処置を受け……被験体ナンバー4のジェニファー・フォンダと共に破棄……となっているが?」

 

ギリアムの背後からPCを操作したラドラが淡々とした口調で記録を読み上げる

 

「破棄……って人間を破棄ってどういうことですか?」

 

怒りの表情を浮かべる武蔵にギリアムは落ち着けと声を掛ける。歳若い武蔵には破棄と言う人間をゴミとでも思っているような言葉に怒りを抱くのは無理も無い。

 

「破棄と言うのは研究データの破棄だ、生きている人間を捨てた訳じゃない。恐らく研究所から一般の病院などに移送されたのだろう」

 

「そうなりますね……となるとマイ・コバヤシは事故で死んだのではなく、まだ生きている可能性がある」

 

研究データを取れないから破棄したと考えれば、マイは生きている可能性がある。だが何処の病院に入院されたのか、いつデータを破棄したのかが裏付けが取れない

 

「イングラム少佐の記録を信じるのなら、その可能性は高いな」

 

「諜報部のほうで探してみるのはどうだ?」

 

ラドラに言われる前にギリアムの諜報部を使う事を考えていたので連絡を取っておこうと呟く中、ラーダはアヤから聞いていた話といま聞いた話、それが余りにも違いすぎる事に驚きながらも、今知りえた情報を必死で頭の中で整理していた。

 

(……アヤの話とあまりにも大きく食い違い過ぎているわ……それにイングラム少佐の記録が正しければ、マイはアヤの妹ではなく姉ということに……いえ、それどころか……アヤとマイは本当の姉妹ではない可能性も……このデータとアヤの記憶……いったい、どちらが真実なの?)

 

「……ギリアム少佐、ケンゾウ・コバヤシ博士はこの事を知っているのでしょうか?」

 

「恐らくは知っていると思われるが無理だ、現在、博士は軍査察部に身柄を拘束されている。次の作戦前に面会することは出来ん」

 

真実を知っている相手がすぐ近くにいるのに、それを聞くことが出来ないと気落ちするラーダ。

 

「査察部殴って連れて来ましょうか?」

 

「止めろ、殴るくらいなら神経ガスでもぶちまける方が早い」

 

「頼むから止めてくれ」

 

待ってるなんてまどろっこしいから無理やりでも連れて来ようとするラドラと武蔵にギリアムは慌てて制止に入る。今にも突撃しかねない、ラドラと武蔵に話し終えてから呼べば良かったとギリアムは内心激しく後悔した。

 

「駄目なんですか?」

 

「手っ取り早いぞ? それに最悪俺と武蔵なら逃げればそれですむ」

 

やっぱり連れ出しに行こうとする2人をギリアムとラーダの2人で説得を繰り返し、漸く武蔵とラドラの査察部に突入を止める事に成功した。

 

「だがこの資料のお陰でイングラム少佐の事が大分判った」

 

ギリアムの言葉に武蔵達が驚く、そんな武蔵達を見てギリアムは笑いながら見ていたデータを消去する

 

「策略を好む人間は相手へヒントを与えたがるものさ、無論、大概はそれすらもトラップなのだが……イングラム少佐のヒントは不必要に易しすぎる。まるで、我々を助けることが本心であるかのようにな」

 

その言葉にイングラムが洗脳されていると言う可能性が再び強くなる。

 

「ありがとうございました、ギリアム少佐。私はカウンセリングの時間なので」

 

「また調べたいことがあれば声を掛けてくれ」

 

背を向けて出て行くラーダを見送ったギリアムは再び別のデータを読み込み始める。

 

「武蔵とラドラには見て欲しい物がある、待って……いや、映像データが出た。これを見てくれ、どう思う?」

 

モニターに映し出されたのは古い絵巻の映像、それを見た武蔵とラドラの顔は驚愕に染まった。

 

「これは……いや、まさか……ゲットマシン……か?」

 

「それにこれは、ゲッターロボだよな……ギリアムさん、これは一体なんですか?」

 

古い絵巻には紛れもなく、ゲットマシンとゲッターロボに酷似した絵が描かれているのだった。

 

 

 

 

ギリアムが武蔵とラドラを呼び出した理由、それはLTR機構から提供された絵巻を見て貰う事にあった。そしてギリアムがゲットマシン、そしてゲッターロボと感じたのと同じ様に2人もまた、これをゲットマシンとゲッターロボと断言した。

 

「これはLTR機構のエリ・アンザイ博士から提供された物で、遺跡から発掘された物になる」

 

「遺跡? これが遺跡に眠っていたんですか?」

 

遺跡に眠っていたと聞いて武蔵が怪訝そうな顔をする。ゲッターロボは確かに新西暦に存在する、だがその姿が掛かれた絵巻が遺跡から出てきたということに疑問を抱くのは当然だ。

 

「その遺跡の年代は?」

 

「詳しい年代は不明だが、古代中国らしいな」

 

古代中国で発見されたゲッターロボとゲットマシンの絵巻……細部がボケているのを武蔵はじっと見つめる。

 

「これは鬼ですかね? それにこれは蛸ですか?」

 

「詳しいことはアンザイ博士に聞かなければ判らないが、この絵巻が発見されたのは超機人と言う兵器の発掘現場との事だ」

 

「ますます理解できんな、何故そんな遺跡にこれが眠っていた」

 

「そもそも超機人って何なんですか?」

 

ラドラと武蔵に続けて質問されるギリアム、だが彼自身も詳しく知っている訳ではなく。伊豆基地にゲッターロボがいると聞いたエリが、送りつけて来た物なので詳しいことはギリアム自身も判らないのだ。

 

「すまないが、私も詳しいわけではない。ただ百邪と言う、古代に存在した悪鬼と戦う為に作られた半生体兵器と言う事らしい。そして鬼神機と呼ばれたのがこの絵巻に描かれている物を指しているらしい」

 

「鬼神か、確かにまあゲッター1は鬼に見えなくもないですけど……その百邪って言うのは何なんですか?」

 

「分析の結果では鬼や悪魔を指すらしい、中には人や機械を喰らう悪鬼もいたと言う」

 

「ふむ、これか、遠目だか機械を喰らっている様に見えなくも無い」

 

武蔵が蛸と感じた異形の絵は確かに、手足の千切れた機械的なシルエットの人型を喰らっているように見える。

 

「化け物……か、メカザウルスの親戚みたいな感じか?」

 

「メカザウルスはさすがに機械は食わんぞ」

 

鬼や悪魔と聞いてメカザウルスを連想した武蔵に即座にラドラの突込みが飛んだ。仮にその百邪とやらにメカザウルスが出現していれば、もっとメカザウルスに対する認知度は高いはずだとラドラは呟く。

 

「それで、ギリアムさん。これをオイラとラドラに見せたのは何の意味があるんですか?」

 

「……実はな、武蔵。私も君を知っている、そして竜馬も隼人も、早乙女博士も知っている。共に戦ったこともあるんだが、私を覚えていないか?」

 

覚えていないか? と尋ねられても武蔵にとってギリアムは殆ど初対面に近い。その言葉に武蔵は困惑するしかなかった、そして武蔵のその反応を見てギリアムは少しだけ寂しそうな顔をする。

 

「い、いや、すいません。オイラは多分、ギリアムさんと会うのはこれが初めてだと思います……すみません」

 

「謝る事はないさ、私も判っていた事だ。つまりだ、世界と言うのは無数の姿を持つ。私と武蔵とラドラが出会った世界や、私と武蔵が出合うことのなかった世界、そして武蔵が死ぬ事無く、竜馬と隼人と戦い続けた世界もあった」

 

「……平行世界って奴ですか?」

 

ビアンから聞いていた並行世界の事を思い出し、武蔵がそう呟くとギリアムは我が意を得たりと言わんばかりに笑みを浮かべる。

 

「そのとおりだ、そして今この世界には他の世界、他の歴史を知るものが数多現れている。それらの共通点はゲッターと深く関係していると言うことだ」

 

「武蔵や、俺の事だな」

 

キャプテンとしてゲッターと戦ったラドラ、そしてゲッターを操った武蔵……言うまでもなくゲッターと深く関係している2人だ。ギリアムは口にしなかったが、鉄甲鬼や、胡蝶鬼と言う武蔵の死後に現れた脅威も現れている……この世界は既にゲッター線と深く繋がってしまっている、ギリアムはそう考えていた。

 

「だが武蔵やラドラの他に現れる者を信用する事は難しい。武蔵はゲッターロボが暴走した時の記録を見たか?」

 

ギリアムの問いかけに武蔵は苦虫を噛み潰したような顔をする。アヤを撃ったイングラムを見て、怒りに我を忘れゲッターを暴走させてしまい、リュウセイ達に迷惑を掛けた。その事は、やはり重く武蔵の胸に圧し掛かっていた。

 

「別にそれを責めたいわけではない、ただその時にこの絵に良く似た触手を操る2人組みが目撃されている」

 

「……なるほど、何が言いたいのか判ったぞ。もう既にこの世界にはゲッターと関係性のある者が現れていると言うことか」

 

「そういう事だ、味方なら良いのだが、地球を支配しようとした者が現れれば、それは地球圏を脅かす外敵となる」

 

武蔵と言う前例があるが、ギリアムは知っている。ゲッターを悪用した者もいる事を……。

 

「私や武蔵、それにラドラ。まだこの世界には来訪者が数多訪れるだろう……だがこの事は表立って話す事は出来ない、判るな?」

 

「……はい、オイラは馬鹿だけどそれはわかります」

 

異世界から訪れた、未来から、過去から訪れた。そういう人物がこれから現れるかもしれない、だがそれらを上層部は恐らく信用しない、そして拘束しようとするだろう……そうなれば、味方になってくれる人物ですら敵になるかも知れない。竜馬や隼人のような性格の相手ならば尚のことだ。

 

「武蔵、君には私が知りえた情報をビアン博士に流して欲しい。表立って私は動けない、ならば影で地球の為に動いているビアン博士たちを私は頼りたい」

 

「ギリアムさん……はい、大丈夫です! ちゃんとビアンさんやエルザムさんに伝えます」

 

武蔵の言葉に笑みを浮かべるギリアム、怪しいとなれば襲撃を考える竜馬や、あの手この手で情報を搾り出そうとする隼人ではなく、素直な性格の武蔵で良かった……ギリアムはそう考えていた。

 

「ありがとう武蔵君、それと君は困惑するだろうが、また会えて嬉しいよ」

 

ギリアムの差し出した左手を武蔵は両手で包み込むようにして握り締める、自分が感じていた孤独感、それをギリアムは何年も感じていたと思うと、武蔵は殆ど本能的に両手でギリアムの手を包んでいた。

 

「これからよろしくお願いします、オイラ馬鹿だから迷惑を掛けると思いますけど、全力で頑張りますから」

 

「……ああ、こちらこそよろしく」

 

例え自分を知る巴武蔵で無いとしても、武蔵は武蔵だ。他人の痛みを己の痛みのように感じ、そして助けようとする。心優しい武蔵なのだとギリアムは感じ、武蔵の手を握り返しそう笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

格納庫では急ピッチでゲシュペンスト・リバイブの開発が行われていた。ベースはラドラが持ち込んだ、ゲシュペンスト改。そのコックピット周りをまずは取り出し、ギリアムとカイのゲシュペンストのコックピットブロックへと交換する。

 

「拒否反応とかはあるかね?」

 

「大丈夫です、サイズはやや異なりますが、基本的な部分はゲシュペンストと同じです」

 

カークはSRXチームのPTの調整、そしてマリオンはラドラから渡されたデータを下にアルトアイゼン、ヴァイスリッターの強化、改造のための設計図を引き始めてしまった。だから、ジョナサン、コウキ、ロバートの3人が主導となりゲシュペンスト・リバイブへの改造が行われていた。

 

「互換性があって良かったですね、カザハラ博士」

 

「うむ、だが互換性があっても、OSのすり合わせに、操縦桿、ペダルの調整などやる事は沢山ある」

 

ギリアムから告げられた操縦の感覚の弱さと、カイが言っていた重さ。これらを改善しなければ、安定して運用することは難しいとジョナサンは考えていた。操縦はパイロットの感覚が大きく左右される、だがゲシュペンストのレイアウトで感覚が違えば生粋のゲシュペンスト乗りであり2人は混乱する、そうなれば撃墜される確率は増してしまう。だからこそ操縦系の調整を念入りに行う必要があるのだ。

 

「コウキはシミュレーターを作ってくれるか? 基本的なものは既に用意してある」

 

「アーマリオンの物ですね、判りました」

 

ゲシュペンストでは戦闘力はあるが、機動力が足りない。リオンでは機動力はあるが、戦闘力が物足りない。リョウトが作成したアーマリオンの量産に向け、そのシミュレーターの作成ですねと言うコウキ、だがジョナサンは首を左右に振った。

 

「それもやるが、フライトユニット搭載型のゲシュペンストの方も頼む」

 

「……判りました。少しアレンジすればいいので、今日の夜までには仕上げます」

 

アーマリオンは若い兵士には向いているが、熟練のパイロットには不向きだ。ラドラの持ち込んだ、フライトユニット……それを量産し、ゲシュペンストに装備させる計画も同時に遂行する事をノーマンは決定したのだ。

 

「すまないな、私もこれが終わり次第合流する」

 

「心配ありませんよ、これくらい8時間もあれば仕上げて見せます」

 

力強く返事を返すコウキに頼み、ジョナサンはゲシュペンスト・リバイブの細かい足回りなどの調整をロブと共に再開する。

 

「OSの調整が出来ましたが、どうですか?」

 

「良い具合だ、量産型ゲシュペンストの反応に近い」

 

コックピットブロックをゲシュペンスト・リバイブに組み込み、配線や、コントロールパネルの位置の変更などを行いながらロブとジョナサンは言葉を交わす。

 

「仮に、量産型ドラゴンを戦力としていたらどうなっていたでしょうね」

 

「その場合は無人機を奴らに片っ端からコントロールを奪われて敵側の駒となっていただろうな」

 

ドラゴン、ライガー、ポセイドンは特機としては破格の性能を持つ反面パイロットに恐ろしいほどの負担を掛ける。武蔵なら乗りこなせるが、ゲッター炉心を搭載していない機体にゲッターから乗り換える必要性は見出せず。AIによる制御になるが、そうなれば地球よりも優れた技術を持つエアロゲイターにコントロールを奪われる可能性が浮上する。

 

「こういってはいかんが、奪われて正解だったよ」

 

人間がコントロールするには、アードラーが使った人間を生体ユニットとして組み込む方法しかないとジョナサンは考えていた。それほどまでに新西暦の技術で作られたドラゴンでも制御に難があると判断していた。

 

「量産型ゲシュペンストはどうなってる?」

 

話は終わりだと、伊豆基地から各基地に配備されているゲシュペンストの譲渡依頼。その数はどうなっている? とロブに尋ねるジョナサン。ロブは手にしているハンディPCを操作して、今輸送段階にあるゲシュペンストの数の報告をする。

 

「各基地に保存されていた量産型ゲシュペンストの数ですが100機ほどで、運用可能な物は30ほどになるそうです。その中で磨耗状態の少ない15機を伊豆基地に回してもらう予定です」

 

「そうか、それならばメッサーなどを生産していたラインでのフライトユニットの生産もすれば戦力としては使えるな」

 

ラドラの開発したバックパックと一体化しているフライトユニット……シグと2機のリバイブは反マグマ原子プラズマジェネレーターによって飛行しているが、その部分はテスラドライブに組み替えることで量産が利くと言う事で急ピッチで生産が始められていた。

 

「ノーマルタイプになりますが、それでも十分でしょう」

 

「一般兵士で考えればそれでも使いこなせるとは言いがたいさ。ラドラ少佐も旧西暦の人間よりと言うことだろうね」

 

ゲシュペンスト・リバイブはそれぞれ、ギリアムは射撃用、カイは格闘用に調整されたフライトユニットを装備している。だがそれは教導隊である2人の操縦技術があって初めて使用できる装備だ。一般兵用にはビームキャノン、ミサイルポッド、それと内蔵式コールドメタルブレードの3種類の武装のみが搭載される事となっている。エアロゲイターの侵攻が激しくなる中、地球側も着実に反撃の準備を進めているのだった。

 

 

『ゲシュペンスト・リバイブ ギリアム機』

『ゲシュペンスト・リバイブ カイ機』

『ゲシュペンスト・シグ』

『ゲシュペンスト換装装備フライトユニット』

 

を入手しました

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲシュペンスト・リバイブ

 

ラドラがシグを開発するまでの間に建造したゲシュペンストの改良型である、ゲシュペンスト改をさらに伊豆基地で改修・改良した機体がゲシュペンスト・リバイブである。ラドラが拠点としていた旧恐竜帝国日本侵略基地に残されていた、3機の反マグマ原子炉の内の1機が搭載されている。量産型ゲシュペンストが約20mに対して、ゲシュペンスト改はその1.5倍の30mにサイズアップし、それに伴い強力なモーターなどを多数搭載し、反マグマプラズマジェネレーターによって生成される膨大なエネルギーを使用することにより、特機と同等の出力を有する。その反面、通常のPTの換装用装備は使用できないという欠点を持つが、背部装備型複合兵装であるフライトユニットにより、武装能力の補填が行われ、更に飛行能力を有している。ラドラが開発していたのは射撃使用のタイプSと、格闘戦使用のタイプKの2機、ただし開発段階だった為操縦性に難があったが、カイとギリアムのゲシュペンストのコックピットブロックの移植、及びジョナサン、ロバート、コウキを初めとしたテスラ研の面子により操縦系の改良を行われ、ゲシュペンスト・リバイブはロールアウトした。ギリアム機は腰に小型レールガン、プラズマステークの変わりに両腕にビームキャノン、胸部にニューロンビーム砲を搭載し、専用フライトユニットには4機のビームキャノンとミサイルポッド、大型ガトリングガンと、フライトユニットとリバイブの動力を直結し使用可能になる、分割式大型ビームライフルが搭載された物を装備しており、空飛ぶ武器庫とでも言うべき火力を有している。それに対してカイ機のフライトユニットはその自重によって損なわれた機動力を補う形で開発されている、搭載されている武装は2門のビームキャノンと牽制用のガトリングガンとミサイルポッドの3種類に留められており、開いたスペース全てに機体制御のスラスターや、大型化した両腕のプラズマステークによる自重に負けないように多数のバーニアが装備されている。なお、実際に乗って使用したカイの感想は、より近接特化に改装されたアルトアイゼンと称され、マリオンに強い刺激を与えたのは言うまでも無い。

 

 

 

ゲシュペンスト・リバイブ タイプS

HP6200

EN190

運動性180

装甲1100

 

特殊能力

 

EN回復(小)

分身

 

陸A・空S・海B・宇宙A

 

 

武装

オールレンジ射撃 MAP 

頭部バルカン 1700

ビームソード 2100

ガトリングガン 2100

ビームキャノン 2500

腰部レールガン 2700

究極ゲシュペンストキック 3500

ニュートロンビーム砲 3700

メガバスターキャノン 4100

 

 

 

ゲシュペンスト・リバイブ タイプK

HP6800

EN190

運動性155

装甲1600

 

特殊能力

 

EN回復(小)

 

陸S・空A・海B・宇宙A

 

武装

 

頭部バルカン 1500

ガトリングガン 1900

ビームキャノン 2000

試作超大型コールドメタルブレード 2400

格闘 2700

メガ・プラズマステーク 3100

究極ゲシュペンストキック 3500

Wメガ・プラズマステーク 3900

ジェット・ファントムS 4900

 

 

 

ゲシュペンスト・シグ

 

ラドラが軍を退役後、スクラップ同然だった試作型のゲシュペンストを何年にも渡り、改造・バージョンアップさせたメタリックパープルのゲシュペンスト。サイズはリバイブよりもさらに大きく、35mとなっている。動力源は反マグマプラズマジェネレーターと核融合エンジンのダブルエンジン、本来はリバイブもツインエンジンにする予定だったが、シグを改造するのに彼の拠点となっていた恐竜帝国の材質を殆ど使ってしまい、シグのみがツインエンジン機として作成された。固定武装は両腕のビームクローと胸部のニュートロンビーム、頭部バルカンの3種類のみだが、通常PTの武装をサイズアップした「M-13ショットガン改」「アサルトマシンガン改」「試作レールガン」などの手持ち火器も充実しており、固定武装の少なさに反して、どの距離でも柔軟に戦えるだけのポテンシャルを有している。また一部可変機構を有しており、使い捨てのバックパック兼強化外骨格「シグユニット」を装備する事で、メカザウルス・シグの姿を再現することに成功しており、外骨格装備時は火炎放射や、噛み付き、引っかき攻撃や尻尾による殴打など、PTや特機とは異なるメカザウルスとしての荒々しい戦闘スタイルとなる。なお、メカザウルスモードの尾はそれ自体が複合兵装「ファブニール」となっており、ビームブレードとビーム砲としての運用も可能である。分類はギリギリPTになるが、その性質はメカザウルスに近く、新西暦の技術で作られたメカザウルスと呼ぶのが本来は相応しい。だがラドラ自身が、ゲシュペンストに愛着を持っているため、ゲシュペンストとメカザウルス・シグの2つの姿を持つ特機となった。

 

 

 

ゲシュペンスト・シグ

HP7800

EN210

運動性180

装甲1500

 

特殊能力

 

分離

EN回復(中)

 

陸S・空S・海A・宇宙S

 

頭部バルカン 2000

ビームクロー 2200

M-13ショットガン改 2500

アサルトマシンガン改 2700

試作レールガン 2700

ニュートロンビーム 3500

究極ゲシュペンストキック 4000

ファブニールフルバースト ATK4500

 

 

 

量産型ゲシュペンスト換装装備フライトユニット

 

ラドラがゲシュペンストの改造中に開発した強化ユニットの廉価量産版。本来はゲシュペンストの弱点である空への対応性を上げる為の換装ユニットである。ゲシュペンスト改に装備されていた物はマグマ原子炉からのエネルギー供給を前提にしたバーニアやスラスターで無理やり飛ばす物に近かったが、ビアンからの技術提供でテスラドライブへと交換された。量産型はメッサー等の戦闘機の製造工場で生産できるように、胴体部・翼部の2ブロック性に簡略化され、低コストで量産出来るビームキャノン・ミサイルポッド・コールドメタルブレードの3種類に絞る事で低コストと生産性を重視され、各連邦基地のエースと呼ばれるゲシュペンストライダーと伊豆基地のゲシュペンストに優先的に配置される事になった。

 




第58話 鋼鉄の巨神と漆黒の天使 その1へ続く

次回はSRXの話に入っていこうと思います、連邦側の主力はアーマリオンと量産型ゲシュペンストMK-Ⅱ(フライトユニット)の2つにします。リオンやゲシュペンストを主力にしても良いとおもうんだ、量産型ヒュッケバイン……? 知らない子ですね。ヒュッケバインは好きですが、量産型は弱すぎてちょっと好きではないです。では今回は最後にリバイブの設定を書いて、終わりにしたいと思います


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第58話 鋼鉄の巨神と漆黒の天使 その1

第58話 鋼鉄の巨神と漆黒の天使 その1

 

地球上空に浮かぶ巨大な惑星……ネビーイームの中でイングラムとレビは対峙していた。

 

「……では、次はお前が出撃するというのか?」

 

「ああ。色々と試したい事もある」

 

出撃許可を得に来たイングラムにレビは僅かに思案顔になる。地球には数多のサンプルがある、それに何よりもゲッターロボがいる。いつまでも無人機ではなく、イングラムを直接向かわせる必要性があると考えていた。

 

「……まもなく時も満ちる。サンプルの仕上げはぬかりなくな、特にゲッターロボを破壊するか、回収するか、その判断は早い内に決めろ」

 

「承知している。所で、ヴィレッタの姿が見えぬようだが……?」

 

「地球人共が南極で悪あがきをしているようなのでな……今、排除に向かわせている。それに1人でも問題あるまい?」

 

挑発するような言葉にイングラムは返事を返さず、レビに背を向けて格納庫に足を向けた。

 

「イングラム……」

 

だがここでもアタッドの邪魔が入り、僅かにイングラムの声に険が混じる。

 

「出撃前だ、手短にしろ」

 

 

「どうして地球にゲッターに関する情報を残してきたんだい? あれの価値が判らない訳じゃないだろうに」

 

「価値はあったとしてもあれは地球にしか恩恵が無い。そんな物を報告する必要はない」

 

「待ちな。これはレビ様に対する反逆行為だよ?」

 

「フッ……俺につけられた枷がそう簡単に外せる代物でないということはお前自身も良く知っているだろう?」

 

アタッドの攻めるような口調にイングラムは笑みすら浮かべながら、挑発めいた言葉を投げかける。

 

「あたし自身……? 誤魔化すんじゃないよ、その代わりにヴィレッタを泳がせていたんじゃないのかい? 二重スパイとしてねえ……」

 

「ならば、彼女を問いただせばよかろう? ゲッターが恐ろしくて、ネビーイームから出る事も出来ない臆病者には出来ないだろうがな」

 

その言葉にアタッドは唇を噛み締め、凄まじい視線でイングラムを睨む。だがイングラムはその視線を無視し、ネビーイームで複製したR-GUNへと乗り込む。

 

「ぐっ……始まったか」

 

頭が割れるような痛みにイングラムは顔を顰める、脳裏に響き続ける声と知らないのに知っている記憶……それらは激しい痛みとなってイングラムを蝕み、その痛みが限界を超えた時。イングラムの表情は今までの物とは異なり、その口調も変わっていた。

 

「テトラクテュス・グラマトン……さぁ始めよう、時が来た。武蔵、お前の力を貸してくれ、イングラムを縛る枷を破壊する為に」

 

ネビーイームから出撃するR-GUN。イングラムには翼を広げる黒い天使が両手を広げ、己をその腕で抱きしめようとする……その姿しか見えないのだった……。

 

 

 

 

 

時間が許す限りブリットとの特訓に付き合っていた武蔵。新西暦の人間では信じられないほどのハードなトレーニングにブリットの身体は悲鳴を上げ、今日のお昼からのトレーニングはラーダによるドクターストップが掛かった為。武蔵はビアン達と連絡を取る事にしたのだ、ギリアムとレイカーの配慮で盗聴などの心配が無い部屋で伊豆基地に来る前にビアンから預かっていた通信機の電源を入れる。

 

『武蔵君か、丁度良かった。こちらから連絡を取ろうと思っていた所だ』

 

「それは随分と丁度良かったですね」

 

虫の知らせと言うにはおかしいが、互いに入れ違いにならなくて良かったと武蔵は思った。

 

『さてと電波が悪いので手短に話すが良いかね?』

 

「大丈夫です、オイラが聞きたいのは1つだけですし、それより電波が悪いって今どこにいるんですか?」

 

よほど変な場所にいなければ、安定して通信できると聞いていただけに、ノイズが走る通信に疑問を覚えて武蔵がそう尋ねる。

 

『南極だ』

 

ビアンの言葉に武蔵は渋い顔をする。南極事件……それが武蔵がビアン達と1度袂を別つ理由となった事件だ。だから南極と聞いて、武蔵は渋い顔をしてしまったのだ。

 

『南極にゲッターロボGとドラゴン、ライガー、ポセイドンの修理を行った者がいると言う情報を掴んでな。それの裏付けに来た』

 

「なるほど、確かにそれは気になりますね」

 

早乙女研究所をコンクリートで封鎖して、爆弾で焼き払う事を選択したのに、Gの修理に踏み切った。その理由は問いただす必要があるだろう……。

 

『可能ならば1度クロガネのほうに合流して欲しいが、大丈夫かね?』

 

「それならリュウセイ達の謹慎が終わるまで待ってください、そしたら合流します」

 

『うむ、それで構わない。それとグラスマンと言う男が近いうちに接触を図ってくるはずだ。サインなどはしないように気をつけてくれ』

 

「そりゃ判りましたけど、グラスマンって誰なんですか?」

 

『鷹派の地球連邦議員だ。そういう面ではレイカーやノーマンの考えに賛同しているが、どうも彼はゲッターロボを知っているらしい』

 

ゲッターロボを知っているの言葉に武蔵の眉が僅かに上がる。

 

「オイラ達の同類って事ですか?」

 

『そこまでは判らないが、ある程度は話を聞いておくべきだが、サインはするな。グラスマンの派閥に取り込まれることになるぞ』

 

政治的なやり取りが絡んでくると聞いて、武蔵はげんなりした様子で溜め息を吐く。よりによって自分の最も苦手とする頭を使う事、しかも相手が政治家となるとやりこまれそうで武蔵は激しく不安を抱いた。

 

「そうだ、T-LINKシステムって奴を搭載している機体に乗ってる子が、エアロゲイターに拉致されているんです。どうにかする方法はありますか?」

 

T-LINKシステムは脳波に関係すると聞いていた武蔵は、それがクスハを洗脳、もしくは操っているシステムだと考えていた。

 

『ふむ、T-LINKシステムか、脳波に関係するシステムだ。それを破壊出来れば、あるいは……チャンスはあると思う。だが危険だぞ、T-LINKシステムはその構造上、コックピットブロックに近い筈だ』

 

コックピットブロック付近を攻撃しなければならない、それはクスハに怪我を負わせる可能性を示唆していた。だが、それに賭けるしかない武蔵はなんとか上手くやって見せますと返事を返す。

 

「電波が悪くなってきましたね」

 

『ブリザードが起き始めているからな……最後に何か……言っておくことはあるか?』

 

ノイズが激しくなり、ビアンの声が遠くになっていく……通信が途絶える寸前に武蔵はどうしても伝えなければならないことを口にした

 

「ギリアムさんが、オイラとゲッターロボを知ってます。エルザムさんとゼンガーさんに伝えてください」

 

『……判った……つけ……ーネに……よろ……く』

 

ノイズ交じりで途切れ途切れだったが、何を言いたいかは武蔵は理解していた。電源の落ちた通信機を鞄に片付けていると、部屋がノックされる。

 

「はーい、あ、テツヤさん。どうかしましたか?」

 

「……地球連邦議員のグライエン・グラスマン議員が話をしたいと言って伊豆基地を尋ねて来ている。すまないが、同行してくれるか?」

 

本当に申し訳なさそうに言うテツヤ。そして武蔵も苦笑する、ビアンに伝えられてすぐ話をすることになるなんて武蔵も考えてはいなかった。

 

「……ダイテツさんとかも一緒に?」

 

「艦長とレイカー司令が同席してくれる」

 

その言葉に武蔵はほっとしたような表情をして、テツヤに連れられて応接間に足を向けるのだった。

 

 

 

 

武蔵がテツヤに連れられて応接間に向かう頃、ブリーフィングルームには分厚いマニュアルに目を通しているジャーダとガーネットの姿があった。

 

「んぐー、ちっと休憩するか」

 

「そうね、コーヒーで良い?」

 

「おう、それで頼むわ」

 

アーマリオン、もしくはゲシュペンストのフライトユニットの操作マニュアルに目を通していたが、長時間座っていたので休憩する事にしたジャーダは椅子の背もたれに背中を預け、大きく伸びをする。

 

「カチーナ中尉はアーマリオンですか?」

 

「いや、私はフライトユニットにする。アーマリオンは確かに中々良さそうだが、私には向いてねえ。ああいうのはラッセルに向いてる」

 

「そうですね、私は元々戦闘機乗りですし、ジャーダ少尉もアーマリオンの方が好みなんじゃないですか?」

 

ラッセルの問いかけにジャーダはその通りだと笑う、戦闘機とAMは似通った部分がある。そうなると、アーマリオンの方が適正があるのは当然の事だ。

 

「うし、マニュアルは覚えた。シミュレーターを試しに行くぞ、ラッセル」

 

「了解です、中尉。ですが、フライトユニットだけではなく、アーマリオンも試してくださいね」

 

「考えておいてやる」

 

カチーナの後を追って歩いていくラッセル。その姿を見て、ジャーダは性別が逆なら良かったのになと笑い。コーヒーを受け取って1口啜ると先ほどまでの笑みは一転し、真剣な表情になる。

 

「アヤ大尉とリュウセイの尋問が終わったって?」

 

「うん……リュウセイの方はひどく落ち込んでるみたい……」

 

「ま、色々あったからな。さしものあいつもショックは隠せねえか……」

 

如何に楽観的なリュウセイとは言え、それで受け止めきれない事が起きすぎている。信頼していたイングラムの裏切り、これは洗脳されている可能性があるとは言え、そう簡単に飲み込める物ではない。こういう時、大人である自分達が相談に乗ってやるべきなのか、それとも同情するべきなのか、それとも慰めるべきなのか……どうすれば良いかなんて言う答えはどこにもない。

 

「ねえ、ガーネット……こんな時はどうすれば良いの?」

 

ブリーフィングルームの扉が開き、部屋の中に入ってきたラトゥーニが2人に縋るようにして尋ねる。

 

「どうすればって……」

 

「……お願い、リュウセイの力になる方法を教えて……見てられないの」

 

「ラトゥーニ、お前……」

 

困惑したガーネットに矢継ぎ早に尋ねるラトゥーニ、その言葉と仕草からジャーダはラトゥーニがリュウセイに抱いている感情が何なのかを感じ取っていた。そしてそれは、ガーネットも同じだった。

 

「じゃあ、あの子の傍に行ってあげなよ。何も言わなくても良いから、傍にいて上げるの……それだけで人は救われるわ」

 

ガーネットの助言を聞いたラトゥーニは真剣な表情で、ブリーフィングルームを後にする。

 

「……いいのか?」

 

その良いのかに込められた感情は複雑な物が込められている。自分の感情を表に出したラトゥーニの成長を喜びたいと言う親心、だが、クスハの事もある。ラトゥーニを炊き付けるような真似をしていいのかと言う事をジャーダは考えていた。

 

「うん……あたし達で下手な同情や慰めをするよりはね、それにあたしはラトゥーニの成長を喜びたいわ」

 

「そうだな……クスハには悪いが……ラトゥーニにはリュウセイが必要だ」

 

クスハがリュウセイに抱いている気持ちは知っている。それでもラトゥーニにはリュウセイが必要だ、例えその初恋が実らないとしても……誰かを心から想うという気持ちは何よりも尊い物だから……。

 

「お赤飯って食堂で出るかしら?」

 

「どうだろうなあ……それより、お前が何か作ってやれよ」

 

「んー休暇の時に買い物に行こうかしらね」

 

ラトゥーニの心の成長を喜ぶジャーダとガーネットは笑みを浮かべながら、会話を続けるのだった。

 

(おふくろがアヤと同じ研究所にいたなんて……もしかして、病気がちだったのは……実験か何かのせいで…?)

 

査問員に聞いた、自分の母親の秘密。その話を聞いたリュウセイは頭の中が完全に混乱していた、思い当たる節はある……それでもまさかと思いたいという気持ちがあるからこそ、リュウセイは自分の中に芽生えた複雑な感情を持て余していた。

 

(くそっ……結局、俺達はイングラムの手のひらの上で踊らされてただけなのかよ……? いやそれとも……教官を操ってるかもしれない相手に利用されていただけなのか)

 

イングラムを憎むべきだと思う気持ちと、教官として慕っていた気持ち。その愛憎が入り混じる複雑な感情にリュウセイは頭をかきむしる……自分がどうすればいいのか、何をすればいいのか判らない。自分の気持ちを自分で制御出来ないでいたその時、ふっと右手に暖かさを感じたリュウセイはゆっくりと振り返る。そこには、自分の右手をおずおずと握っているラトゥーニの姿があった。

 

「……ラトゥーニか……」

 

「……イングラム少佐の事を考えていたの?」

 

ラトゥーニが真っ直ぐに自分の目を見つめてくる、その澄んだ目に思わずリュウセイは目を逸らし、ハンガーに固定されているR-1を見上げる。

 

「まあな、こんな事を言うのはおかしいと思うかもしれないけど……いつかはこうなるような気がしてたのかも知れねえ……確かにあいつには前から得体の知れない所があったからな……ゲッターロボを見てから、イングラムが俺の前に立ち塞がる夢を見た事もある」

 

それは今までリュウセイが吐露することの無かった本音だった……誰にも話す事の出来ない不安と恐怖、それをリュウセイは口にしていた。

 

「だけど、俺は心のどこかで教官を……イングラムを信じていた。アヤやクスハのことも、俺の知らないわけがあると思ってた……それに、俺がR-1へ乗れるようになったのもあいつのおかげだった……俺は……イングラムに追いつこうとして……いつか超えるべき目標だと思って……た」

 

イングラムが怪しいとは思っていた、だけどそれ以上に超えるべき目標としてリュウセイはイングラムを慕っていた。それがイングラムの裏切りによって、初めて自覚した己の感情だった。

 

「だけど、あいつはアヤを本気で撃ったかもしれない可能性だってあるって聞いた……アヤだってライもイングラムの事信じて……ッ! くそっ……俺は何も気づかずに……どうして……こんな……どうしてこんなことに……! なっちまったんだ!」

 

「……イングラム少佐は私達を裏切って、敵に回った……だけど、そこには何か真実が隠されているかもしれない。武蔵の言う通り洗脳されているのかもしれない、本当に裏切ったのかもしれない……それはきっと誰にも判らない」

 

イングラムが洗脳、もしくは操られている可能性がある。だからこそ、リュウセイはイングラムを憎みきれない、いっそ心の底からイングラムを憎む事が出来れば楽かもしれない……だけど操られているかもしれないっという可能性が頭を過ぎるリュウセイはどうしてもイングラムを憎む事が出来ないでいた。

 

「ね、リュウセイ……いつもみたいに元気を出して」

 

「………すまねえ、今の俺には何をすればいいのか、どうすればいいのかなんて判らない……こんなんじゃあ笑う事なんて出来ねえよ」

 

そう言ってラトゥーニの手を振り払おうとしたリュウセイ。だが、ラトゥーニはそうはさせまいと両手でリュウセイの右手を包み込む。

 

「過去に何かあるのは……皆同じだもの……だけど後悔だけじゃ、前には進めないよ? これから何をすべきか……自分で考えて、自分で決めて」

 

その言葉にリュウセイは目を見開いた、それは自分の母親であるユキコが口癖のように言っていた言葉だったから……。

 

「……少なくとも、私はそうしたから……ごめんね、へんな事を言って」

 

ラトゥーニはそう言うとリュウセイの手を包んでいた手を離し、リュウセイから背を向ける。リュウセイは反射的にラトゥーニの手を掴んでいた。

 

「その……ありがとうな。励ましてくれたんだよな……いつまでも情けない姿を見せて、ごめん」

 

自分を励ましてくれたラトゥーニに感謝の言葉を告げたリュウセイ、そして次の瞬間息を呑んだ。

 

「ううん、良いの……リュウセイが助けてくれたから、私も力になりたいと思ったの」

 

その華の咲く様な笑みにリュウセイは自分の胸が高鳴るのを感じた、今までに感じた事の無い熱く、けれどもそれは大切な感覚。

 

「あのさ、昼飯まだなら一緒に食堂に行かないか?」

 

「……うん、一緒に行こう」

 

自然とリュウセイはラトゥーニを昼食に誘っていた、そしてラトゥーニの了承を得たリュウセイはラトゥーニと共に食堂に向かうのだが……この時2人は全く意識してなかった――お互いの手を繋いだままであり、それを食堂に入った際にタスクに見られて、指摘されるまで手を繋いでいることに気付かないのだった。

 

 

 

 

 

応接間でグライエンと対面していた武蔵が感じたのは凄い髭……だった。漫画とか、アニメとか出てきそうな魔法使いみたいなだ……それがグライエンに感じた第一印象だった。

 

「初めましてグライエン・グラスマンだ」

 

「あ、はい。巴武蔵です」

 

差し出された手を握り返し、武蔵はソファーに腰掛ける。

 

「グライエン議員、出撃時刻が差し迫っておりますので、あまり御時間を取れないことをご了承願います」

 

「判っているさ、事前アポイトメントも無しで来たからな、それに関しては私が悪い、それに私も会議に出席する為にすぐに空港に向かわなければならない、5分、10分ほど話をしたいだけだよ」

 

レイカーの言葉にグライエンは素直に己の非を認める。議員と言うのは傲慢と言うイメージだったので、武蔵はこれには驚かされた……だが続いた言葉に武蔵の顔は凍りついた。

 

「旧西暦の英雄にこうして会い見えることが出来るとは、感激の極みだよ。伝説のゲッターパイロットである君に会えて私はとても嬉しい」

 

「ど……どうしてそれを……」

 

武蔵が旧西暦の人間と言う事を知っているのは、ビアン達とハガネ、そしてヒリュウ改のメンバーだけだ、どうしてグライエンが知っているのか判らない武蔵は半分パニックになりながらそう問いかける。

 

「私の家は旧西暦から続く名家でね、私の先祖がゲッターロボと共に戦ったのさ、だから私は君を知っている。いや、君だけじゃない、ナガレ・リョウマ、ハヤト・ジンの事も勿論知ってるよ」

 

その言葉にグライエンに対する武蔵の警戒度は跳ね上がった。自分の経歴を知る議員が名指しで尋ねてきた、そのことに警戒心を抱くのは当然だ。だがグライエンは柔らかい笑みを決して崩さない。

 

「何か困ったことがあったら、連絡して欲しい。私は君に全面的に協力しよう、勿論ハガネとヒリュウ改にも便宜を図ろう」

 

「何が目的なのですか? グライエン議員」

 

この話し合いに同席していたダイテツが固い表情で尋ねる。それに対して、グライエンは肩を竦めるような仕草をする。

 

「私はただ地球を護りたいだけだよ。シュトレーゼマンの横槍が無ければ、ゲシュペンストももっと量産できたと思うと残念でならない。地球を護るには剣が必要なのだ。君達にこんな事を言うのはなんだが……ビアン・ゾルダークは正しかったと思っている」

 

連邦軍の目の前で堂々と告げるグライエンにダイテツもレイカーも顔を顰める。

 

「シュトレーゼマンが失脚し、ブライアンが大統領に就任したが、今必要なのは盾ではない。いつでも声を掛けてくれ、私は地球を護る為に最大限の便宜を図ろう」

 

そう言って立ち上がるグライエンはそのまま応接間を出て行こうとする、武蔵はその背中に慌てて声を掛ける。

 

「なんで態々オイラを尋ねてきたんですか?」

 

「地球を救った英雄を見たいと思っては悪いかね? ではな、武蔵君。今度はもっとゆっくり話をしよう、私は何時でも君の味方だよ」

 

その言葉を最後にしてグライエンは応接間を出て、外に控えていたSPと共に伊豆基地を後にした。

 

「ダイテツさん、あの人……怖い人ですね」

 

「そのようだ、しかし、まさか旧西暦の記録を持っているとは……」

 

鷹派の議員の筆頭がまさか武蔵の事を知っている、これは流石にダイテツもレイカーも驚かされた。不幸中の幸いは、グライエンが鷹派であり、異星人との徹底抗戦の頭目であると言う事だ。

 

「でもゲッターを知ってるとなると、ゲッターの量産とかを考えるかもしれないですね」

 

「いや、その心配は無いだろう。記録を知っていると言うことは、ゲッターの危険性も把握している。そんな無茶な事を言う出すことはしまい」

 

レイカーはそう言ったが、武蔵は必ずゲッターの量産に踏み切ると言う確信があった。グライエンの目は早乙女博士にゲッターを量産するべきだと言っていた議員の雰囲気に良く似ていたからだ。

 

「ではダイテツ、昨日の打ち合わせ通り頼むぞ」

 

「……昨日の打ち合わせって何ですか?」

 

話を聞いていなかった武蔵がダイテツにそう尋ねる、ダイテツはうむと頷く

 

「ノーマン少将と話し合ったのだが、ここ数日エアロゲイターはハガネとヒリュウ改に積極的に攻撃を仕掛けてきている。このまま、ヒリュウ改とハガネがこの伊豆基地にいれば……ここもエアロゲイターによって攻撃を受けることになる可能性が極めて高い」

 

「あ、その前に伊豆基地を出るって事ですね?」

 

その話を聞いて、伊豆基地での新兵器の開発、そしてハガネとヒリュウ改が出撃される前に撃墜されるリスクを避ける為に、伊豆基地を後にする理由を武蔵は少ない会話で理解していた。

 

「オペレーションSRWの中核となるお前達を囮にするリスクは考えたが、それ以上に戦力を整える必要性を考慮した結果だ」

 

レイカーとダイテツの説明を聞いて、武蔵はなるほどと頷いたが、次には申し訳なさそうな表情をする。

 

「すいません、オイラ。ビアンさんに呼ばれているんで、クスハを助けるまではハガネに同行しますけど……その後は少し別行動を取らせてください」

 

最大戦力であるゲッターロボの別行動は確かに手痛い、だがビアンもオペレーションSRWに参加する以上。連絡役として武蔵を送り出す必要があると言う事はダイテツもレイカーも十分に理解していた

 

「判った、クスハ曹長を救出後別行動を認めよう」

 

「すんません、出来るだけ早く合流しますので」

 

「その時はクロガネと共に合流してくれるとありがたい」

 

地球圏に3隻しか存在しないスペースノア級。それが全てオペレーションSRWに参加してくれるなら、これほど頼もしい事は無いとレイカーは笑う。

 

「ビアンさんも情勢は判っているので合流してくれると思います」

 

「うむ、地球圏を憂うビアン・ゾルダークならばそうするだろう」

 

今の情勢を知るものはDC、統合軍の決起は間違っていなかったと評価するものが多い。絵空事だった、異星人の襲撃が実際の物となり、ジュネーブが陥落した今。やはり地球を護る為には戦う事が必要なのだと改めて思い始めているものは多いのだ。

 

「行こうか武蔵、ハガネとヒリュウ改も出撃準備を終えている頃だ」

 

「了解です、じゃあレイカーさん。行ってきます」

 

レイカーに敬礼して、武蔵とダイテツは応接間を後にする。エアロゲイターの襲撃を集める囮として伊豆基地を後にしたハガネとヒリュウ改だが、市街や基地に被害を与えぬために囮を買って出たハガネとヒリュウ改、その進む先に想像を超える脅威が待ち構えている事を想像だにもしていないのだった。

 

 

 

第59話 鋼鉄の巨神と漆黒の天使 その2へ続く

 

 




リュウセイはラトとマイと仲良くしていれば良いと思います、開幕何を言っていると思われるかもしれないですが、それが私の嘘偽りの無い本心です。と、脱線はここまでにして次回は鋼の巨神の話に入っていこうと思います、今回は偽りの影と鋼の巨神のインターバルを組み合わせた物になりますので、次回は戦闘開始から、出来ればクスハ救出までは書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第59話 鋼鉄の巨神と漆黒の天使 その2

第59話 鋼鉄の巨神と漆黒の天使 その2

 

グライエンとの短い会談の後、武蔵はハガネに乗り込み伊豆基地を後にした。ブリーフィングルームや、食堂で各々が思い思いの時を過ごしながら、エアロゲイターが本当にハガネとヒリュウ改を狙うのか? それともダイテツやレイカーの思い過しなのかが明らかになるときを待っていた。

 

「うーん……おかしいな」

 

そんな中武蔵は1人ベアー号のコックピットに腰掛けていた。虫の知らせと言うわけではないが、妙な胸騒ぎを感じてベアー号に乗り込むとゲッター線メーターがイーグル、ジャガー、ベアー共に最大値をマークしていたのだ。

 

(恐竜帝国の生き残りが近くにいるのか? いやでも、この感じはゲッターロボGの時に似ている)

 

メーターを振り切らんばかりに動く針に武蔵は怪訝そうな顔をしながらベアー号を降りる。

 

「武蔵、待たせたな」

 

「おう、思ったより早かったな」

 

ブリットがベアー号の近くで待っていたので、飛び降りるようにしてベアー号を降りる。ゲッター線の反応が異様に高いのは、後で伝えておけば良いだろうと判断したのだ。

 

「さてと、短い間だけど、オイラと一緒のトレーニングをしてどう思った?」

 

「正直死ぬかと思った」

 

ブリットの言葉に武蔵は苦笑いをする、それと同時にリョウじゃなくて良かったなと笑う。リョウの前でそんな泣き言を言えば、足腰が叩くなるまでぶん殴られるぜと笑う。

 

「じゃあ、オイラが出来る最後の訓練だ。木刀は持ってきてるな?」

 

「ああ、だけどこれで何をする……武蔵ッ!?」

 

木刀を持って来いと言われていただけのブリット。だが、突如武蔵が背中に背負っている日本刀を抜き放ったのを見て声を荒げた。

 

「安心しろ、峰打ちにはしてやる」

 

「い、いや、だがッ!」

 

「クスハは殺しに来るぞ? お前……そんな震えた手足で本当にクスハを救えるのか?」

 

武蔵の言葉にブリットは自分の手足が震えている事に初めて気付いた。

 

「オイラはこれから本気でお前に殺気を叩きつけるし、峰打ちだけど全力で打ち込む。殺気に慣れろ、そして一打ち入れて見せろ。じゃなきゃ……クスハを助けるなんて無理だぜ?」

 

武蔵の言葉にブリットはその通りだと返事を返した。生身とPT、その差はあれど今こうして手加減してくれている武蔵の殺気に耐えられないのでは話にならない。それにヒュッケバインMK-Ⅱとグルンガスト弐式……その性能の差を考えれば、チャンスは1度あるかどうか……。しかも、それも腕や足を犠牲にして得られるかどうかの本当に一瞬のチャンス。それは本当に生と死の狭間にしかないだろう……。

 

「武蔵……手加減無しで頼む」

 

「おうよ、元より手加減なんてする気はないぜ」

 

向かい合った瞬間ブリットは思わず膝をついた、峰を返した日本刀を持っている武蔵が恐ろしくて……気持ち悪くなったのだ。

 

「これが殺気ってもんだ。どうだ、直に感じたのは?」

 

「……そ、そうか……これか」

 

殺気と言うのは良く聞いた、そして統合軍との戦いでもそれを感じていたが……武蔵のものは完全に別格だった。

 

「本当は時間を掛けて、慣れていくんだが……生憎そんな時間は無い」

 

「判ってる! 続けてくれッ!!」

 

木刀を構えるブリットだったが、ゆっくりと近づいてきた武蔵に何の反応も出来ず日本刀で胴に横薙ぎの一撃が叩き込まれた。

 

「ぐふっ!」

 

「殺気を出すって事は、消す事も出来る。勿論気配もな」

 

「な……なるほどな……勉強になるよ」

 

あれだけゆったりと近づいて来たのに、ブリットは反応出来なかった。目の前にいるのに、全く反応出来なかったのだ。

 

「次ぎ行くぜ? 防いでオイラに一撃入れてみな」

 

「応ッ!!!」

 

ブリットの雄叫びに応えるように武蔵は再び殺気を放つ……ブリットは冷や汗を流しながらも、歯を食いしばって武蔵の一挙手一投足を見逃す物かと視線を凝らす……が。

 

「オイラの動きに意識を向けすぎだ、もっと広く周囲をみな」

 

再び叩き込まれた一撃に蹲り、激しく咳き込むが……それでもその瞳は不屈を武蔵にへと訴えているのだった……。

 

 

 

 

武蔵とブリットが格納庫で訓練の最後の仕上げをしている頃ブリーフィングルームではエアロゲイターの襲撃に備えて、綿密な打ち合わせを……。

 

「さっきさ、食堂にリュウセイとラトゥーニが手を繋いできて、マジでびびった」

 

タスクが読んでいたマニュアルを閉じて、思い出すように呟く。ブリーフィングルームにいたのはレオナ、タスク、リオの3人だったが……レオナとリオはタスクの言葉にジト目を向ける。

 

「リュウセイとラトゥーニでしたら、さほど年も離れていませんし、そう違和感もないでしょうに」

 

「からかうような事を言ったんじゃないの?」

 

ジト目で言われたタスクは誤魔化すように口笛を吹いて。

 

「いや、今日は随分と仲良しだなって言っただけだけど……いだぁッ!」

 

その言葉にリオの脛蹴りが叩き込まれ、タスクは脛を抑えて机の上に蹲る。

 

「全く、ラトゥーニが勇気を出したかもしれないんだからね、今度そんな事を言ったらグーよ、グー」

 

「わ、判りましたぁ……」

 

ハガネのクルーとして、ラトゥーニの事をよく知っているリオはタスクに怒りを露にした。そして、そんなリオを見てレオナは不思議そうな表情をした。

 

「リオはクスハの恋路を応援していたのではないですの?」

 

「……いや、そうなんだけどね……多分リュウセイ君にとってクスハはどこまで言っても幼馴染なのよ」

 

クスハがリュウセイに想いを寄せているのは知っているが、リュウセイがそれに答える事は無いとリオは感じていた。

 

「それにクスハ自身も……叶わない恋って気付いていたみたいだしね」

 

「勿体ねえことするよなあ……俺なら……げふっ!!」

 

また余計な事を言おうとしたタスクに今度はレオナの肘打ちが叩き込まれた。脇を押さえて痙攣するタスクをレオナとリオの2人はさめた視線で見下ろしているとブリーフィングルームの扉が音を立てて開いた。

 

「あ、皆……ここに、タスクはどうしたの?」

 

机の上に上半身を乗せて呻いているタスクを見て、怪訝そうな顔をするリョウト。

 

「自業自得だから気にしなくていいわよ、それでどうしたの、リョウト君?」

 

「クスハを助ける方法が判ったかも知れないんだ」

 

タスクの事は気になるリョウトだが、先に分析の結果を伝える事を選んだ。

 

「本当!? どうするの!」

 

「だおあーおー」

 

タスクも本当かと尋ねたいのに、頭と脛が痛くて呻き声になる。リョウトはそんなタスクを見て、冷や汗を流しながら手にしている分析結果を見ながら話を進める。

 

「ラーダさんやアヤ大尉と相談してたんだけど……もしかしたら、戦闘中のあの子はT-LINKシステムで操られてるんじゃないかって」

 

脳波を観測するT-LINKシステムを利用して、操られている可能性が高いという言葉にやっと回復したタスクが脇を押さえながら、身体を起こす。

 

「要はそいつがラジコンのアンテナになってるってことだな?」

 

「ラ、ラジコンって……いや、考え方は間違ってないんだけど……と、とりあえずT-LINKシステムを壊せば、もしかしたら……助けられるかもしれない」

 

クスハを助けられるかもしれないという可能性に希望が沸くが、リオのちょっと待って! と言う言葉がその雰囲気を変えた。

 

「でも、あのシステムってコックピットの近くにあるんでしょ? 一体、どうやってクスハを傷つけずにあれだけを壊すの?」

 

T-LINKシステムは脳波を観測する性質上、コックピットに近い場所にある。クスハを傷つけず、どうやってそれだけを壊すの? そう尋ねるとリョウトの顔色が曇った。

 

「そこが一番の問題なんだ……グルンガスト弐式は装甲も硬いし、かなり正確な攻撃をしないと……今考えているのはゲッター3でグルンガスト弐式を取り押さえてもらう事なんだけど……」

 

「そうなると量産型ドラゴンとかに対応できる相手がいないって事か……」

 

エアロゲイターの技術で複製されたドラゴン、ライガー、ポセイドンを相手に戦えるのはゲッターだけだ。グルンガスト弐式の拘束に回すと当然ながらドラゴン、ライガー、ポセイドンへの警戒が薄くなる。

 

「それよりよ、ブリットにも教えてやろうぜ。愛しのクスハちゃんを助ける方法がわかったってよ」

 

クスハを助ける事が出来なかったと悔やんでいるブリットに教えてやろうぜとタスクが笑い、リョウト達も同意しハガネの格納庫へと向かう。

 

 

 

 

「ぐっ、げほっ! ごほっ!!」

 

「今のは良かった、だけどまだ足りねえぞ。立てブリットッ!!」

 

そこでリョウト達が見たのは日本刀を持つ武蔵に打ちのめされているブリットの姿だった。

 

「武蔵君!? 何をしてるの!?」

 

「やりすぎですわよッ!?」

 

いかに軍人とは言え日本刀持った相手と木刀で戦える訳が無いとリオとレオナが止めに入ろうとしたが……。

 

「止めてやんな、ブリットが自分で望んでやっているんだ……それに武蔵も手加減してる」

 

「本当に危ないと思ったら止めに入るからよ」

 

イルムとカチーナの2人に止められ、リオとレオナは足を止めた。

 

「は……はっ……武蔵……頼みがある」

 

「なんだ?」

 

「峰を返してくれ、打たれても大丈夫って言う安心感が俺を鈍らせている」

 

峰を返せというブリットの言葉に武蔵は無言で峰を返し、刃をブリットに向ける。

 

「武蔵! そいつはやりすぎだ!」

 

「ブリット! いくらなんでも死ぬぞ!」

 

カチーナ達が止めに入るが、武蔵とブリットの余りに真剣な表情にその場に足を止めた。

 

「行くぞ」

 

「ああ……ッ!」

 

武蔵の鋭いすり足から白刃がブリットに向かって振り下ろされ、ブリットが切り裂かれる光景が過ぎったリオ達は思わず顔を背けた。

 

「やるな、ブリット」

 

だが響いてきたのは、乾いた音と遠くに何かが落ちた音……そして武蔵の賞賛の声だった。

 

「……は……はッ……いや、全部武蔵のおかげだよ」

 

聞えてきたブリットの声に顔を背けていた全員が2人の方に視線を向ける……武蔵の手には日本刀はなく、ブリットの木刀が武蔵の喉元に突きつけられていた。

 

「生死を賭けた一瞬……確かに体験させて貰った」

 

疲弊しきった表情のブリットだが、その表情には確かな手応えを感じた色が浮かんでいた。

 

「そいつは良かったな、必ず助けろよ。クスハを」

 

武蔵が日本刀を拾い上げようとした時、格納庫に警報が鳴り響くのだった……。

 

 

 

 

 

ダイテツ達とレイカーの予想は当たり、エアロゲイターはハガネとヒリュウ改の前に現れた。

 

「今回は人型がいねえな。単なる偵察部隊だってのか?」

 

「あるいは陽動部隊か……」

 

ゲシュペンストMK-Ⅱ・フライトユニットで出撃したカチーナが怪訝そうな声で呟いた。エアロゲイターの主戦力であるはずのソルジャーもファットマンも……そしてドラゴン達の姿も無い、その部隊は主力部隊とは程遠く、キョウスケは陽動部隊の可能性を呟いた。

 

(……胸が苦しい……すごく強い圧迫感を感じるわ……)

 

(何なんだ、これ……ッ!?)

 

だがリュウセイとアヤの2人は言葉に出来ない、プレッシャーを感じていた。誰かが見ているような……頭の中を覗き込まれているかのような不愉快な感覚を感じていた。

 

「………行ける、この感覚ならいける」

 

「どうしちゃったの、ブリット君。いつもと雰囲気が随分と違うわね」

 

武蔵との訓練で何かを掴んだブリットはいつものと違い、静かな闘志を身に纏いながら集中力を高めていた。

 

「あんまり気負いすぎるな、1人で何もかも出来るわけじゃない」

 

「……判ってます。でも、クスハを助ける役目は誰にも譲りません」

 

その気合に満ちた声のブリット、普段なら周りは見えず暴走するブリットだが……今のブリットは闘志を高めながらも、冷静さを保っていた。

 

「言い切ったのならやって見せろ。良いな?」

 

「はいっ!」

 

ブリットの返事にキョウスケは苦笑しながら、ハガネとヒリュウ改に向かって動き出したバグス達を見て、アルトアイゼンをそちらの方向へと向ける。

 

「アサルト1より各機へ。攻撃開始だ。油断はするなよ」

 

ギリアム、カイ、ラドラの3人と試験的にフライトユニットを装備したカチーナとラッセルの量産型ゲシュペンストMK-Ⅱが加わったが、それでも敵の戦力に対してこちら側の戦力は乏しい。戦闘指揮官であるキョウスケは今回の戦いも厳しい物になると言う事を感じ取っているのだった……。

 

 

 

 

 

量産型ゲシュペンスト専用のフライトユニット……外付けの換装パーツであり、突貫工事で作成されたと聞いていたカチーナ。だが実際に搭乗してみると想像以上に使いやすい。

 

(悪くねえ、いや、悪くないなんて言葉じゃ片付けられないな)

 

ゲシュペンストの操縦性の良さはそのままに、飛行能力を獲得した量産型ゲシュペンストの性能の高さにカチーナはコックピットで獰猛な笑みを浮かべる。

 

「オラオラ! 邪魔だぁッ!!!」

 

「「「!!!」」」

 

フライトユニットの主翼に搭載されているコールドメタルブレードを一閃し、バグスの頭部を切り落とす。それと同時に反転し、ユニット部のガトリングガンも叩き込む。動力部が破壊され爆発するバグスから一瞬で離脱し、次の標的に視線を向けるカチーナだったが……。

 

『中尉ッ! 突っ込みすぎですッ!』

 

「っと、すまねえ、ラッセル。ちょっと調子に乗りすぎた」

 

ラッセルの言葉に我に帰り、ハガネとヒリュウ改の方に向かって後退する。

 

「ラッセル、乗ってみた感想はどうだ?」

 

『良い機体です、特に足回りが良くなってますし。フライトユニットに装備されている武装がいいですね、支援に向いてます』

 

性格上援護が得意なラッセルの言葉を聞いて、カチーナは小さく笑う。

 

「アーマリオンの量産型とどっちが良さそうだ?」

 

『……難しい所です。ですが、実際に乗ってみた今は……そうですね。ゲシュペンストの方が良いと思いますよッ!』

 

返事を返しながらM-13ショットガンでバグスの翼を打ち抜くラッセル。そして僅かに姿勢を崩したバグスはR-2のフォトンライフルの光弾で胴体を貫かれ爆発する。

 

「ま、アーマリオンも製造されたら試しに乗ってみるほうが良いだろうよッ!!」

 

コールドメタルブレードで突っ込んできたバードを無造作に両断する。硬いだけのコールドメタルブレードだが、この質量とフライトユニットの加速、そして相手の攻撃のタイミングに合わせる事で敵の勢いを利用して両断する事は容易い。

 

「やるな、カチーナ」

 

「空飛んでるだけと思ったけど、かなりパワーアップしてるみたいだね」

 

サイバスターとヴァルシオーネが上空へと上がってくる。だが、カチーナはそれを見て怒鳴り声を上げる。

 

「打ち合わせ聞いてなかったのか! 下がれッ!」

 

人型もドラゴンもいない、これは陽動部隊である事は明白。そしてドラゴン等が出てくれば特機であるジガンスクードや、サイバスター、そしてグルンガストが必要になる。それなのにお前達が前に出てきてどうするとカチーナは怒鳴った、だがマサキとリューネは引く気配を見せない。

 

「サイフラッシュとサイコブラスターで、バグスを一掃する。そうすれば、敵の本命が出て来るのが早まるんじゃねぇか?」

 

「PTを使って私達の消耗を少なくするって言うのは判るんだけど……そういうのは性じゃないんだ」

 

2人の言い分も判る、だがここでMAPを使ってサイバスターとヴァルシオーネが消耗してしまえば、それこそ本末転倒だ。

 

『カチーナ中尉、ここは2人の意見を受け入れるべきだ』

 

「少佐……だけどよ」

 

『あんずるな、俺たちのゲシュペンストは特別仕様だ。あの2機が回復するまでの時間稼ぎは出来る、それよりも……本隊がいるなら早く引きずり出した方が良い。武蔵が不味い事になっている」

 

武蔵が不味い事になっている……ラドラの言葉にカチーナは怪訝そうに眉を顰めた。打ちのめされていたのはブリットで、武蔵は殆ど無傷のはずだ。現にブリットの乗るヒュッケバインMK-Ⅱはシシオウブレードを手にスパイダーと戦っている。

 

『何かあったのですか?』

 

普段ならば真っ先に先陣を切るゲッターロボだが、今はハガネとヒリュウ改の間で腕を組んで滞空しているだけで動き出す気配が無い。武蔵らしくないが、温存していると思っていたのだが、どうもそうではないらしい。

 

『ゲッターロボの出力が高すぎるそうだ、下手をすればメルトダウンを起こしかねないレベルだそうだ』

 

放射能で稼動しているゲッターロボだ。出力が上がりすぎればメルトダウンの可能性は高くなる……だが何故と言う疑問が全員の脳裏を過ぎる。

 

「本隊がいないなら、ゲッターロボを回収して、この場所から離脱したいそうだ」

 

「でも最悪の場合……ゲッターロボはこの場に放置するって」

 

メルトダウンによる大爆発……それを考慮すればそれは必要な事かもしれない。このまま戦闘が続けば、ゲッターロボが北京と同様に暴走するかもしれない……マサキとリューネは独断ではなく、ダイテツ達の指示で上昇してきたのだと判った。

 

「判った、1度防衛ラインまで後退する」

 

これが陽動部隊なのか、それとも本隊なのかは判らない。いや、もしかすると偵察部隊なのかもしれない……それを知る為にサイバスターとヴァルシオーネから強烈な光が放たれるのだった……。サイフラッシュとサイコブラスターの光が周囲を明るく照らし、バグスの大半を吹き飛ばす。その光景を見ていたリュウセイに突如激しい頭痛が襲ってきた

 

「ぐっ、ぐう……」

 

「リュウセイ!? どうしたの!?」

 

突然膝を付いたR-1に気付き、ビルドラプターが慌ててR-1の側に駆け寄る。

 

「! く、来る……!!」

 

「来るっ!? 大尉! 何を言っているのですか!?」

 

だがそれと全く同じタイミングで、アヤも激しい頭痛を感じ、側にいたR-2が即座にR-3のフォローに入る。

 

「ま、間違いない。あの人が……来る……ッ!」

 

あの人……その言葉がオープンチャンネルで告げられ、全員の警戒心が跳ね上がり、それから少し遅れてハガネとヒリュウ改のブリッジにも警報が鳴り響いた。

 

「こ、この空域の東側に強力な重力震を感知!!」

 

「何っ!?」

 

「何者かが転移出現してくるものと思われます!」

 

「総員、警戒を!!」

 

「艦長! この空域の東側に強力な重力震を感知しました!! 何者かが転移出現してくるものと思われます!」

 

「総員、警戒を!!」

 

ハガネとヒリュウ改ではオペレーターのユンとエイタの報告が飛び、それから即座にダイテツとレフィーナの警戒命令が部隊全員に告げられる。

 

「R-GUN!? 馬鹿な……何故、あいつらがあれを持っていやがるんだ!?」

 

「あの機体はイングラム少佐が開発した物……エアロゲイターの技術なら複製するのは容易なのかも……」

 

やはり最初のバグスは陽動部隊であったようだ、一掃されると同時に現れたエアロゲイターの機体の数々。それは、ハガネとヒリュウ改がエアロゲイターに狙われていると言う確かな証拠になった。

 

「やっとおでましか……ッ! イングラム・プリスケンッ!」

 

グルンガスト弐式、ソルジャー、ファットマン……そしてドラゴン、ライガー、ポセイドンがそれぞれ5機ずつ。それらの中心に北京で破壊されたはずのR-GUNが佇んでいる。

 

「……イン……グラム?……それが……俺の……名……か?」

 

キョウスケの問いかけに帰ってきたのは途切れ途切れになった、自分の名前すらも思い出せなくなっているイングラムの声だった。

 

「少佐! イングラム少佐ッ!!」

 

その震える声と自分が何者かも判っていない、イングラムに思わずアヤがその名を叫んだ。だが、R-GUN……いや、R-GUNはあさっての方向を向いた。

 

「……誰……だ、うっ……俺は……俺は……誰……なんだ。お前達は……誰なんだ……?……敵……なのか。敵なら……排除する……ッ!」

 

喋る事すらも辛そうなイングラムに対してR-GUNは滑らかな動きで動き出す、それが合図となったのか、弐式やドラゴンはハガネとヒリュウ改に向かって動き出すのだった。

 

【思い出せ、思い出すんだ。お前の使命を……為すべきことを……ッ!】

 

「うっ……誰だ……俺の……使命……とは何なんだ……ッ!」

 

「まただ、またゲッター線が強くなってる!?」

 

イングラムの苦しみに反応するように、出力が上がって行く炉心……イングラムと武蔵……いや、ゲッターロボの存在が、このフラスコの世界を大きく変えようとしていた。

 

【……】

 

戦場を見下ろす漆黒の天使が……だれにも知られる事なく、その翼を大きく広げるのだった……、R-GUNとゲッターロボを包み込むかのように……。

 

 

第60話 鋼鉄の巨神と漆黒の天使 その3へ続く

 

 




リヴァーレってなんか好きじゃないんですよね、もうここまで来れば何がでてくるか判っていると思いますが……お口にチャックでお願いします。次回はR-GUN撃墜まで書いていけたらと思っております、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第60話 鋼鉄の巨神と漆黒の天使 その3

第60話 鋼鉄の巨神と漆黒の天使 その3

 

R-GUN、そしてイングラムの登場はハガネ、ヒリュウ改のクルーに途方もない緊張感を与えていた……だが、イングラムの発した言葉が恐怖とイングラムに対する憐憫を抱かせていた。

 

「……ぐう……ッ! あ、頭が……お前達は誰だッ!」

 

激しい頭痛を訴え、自分達が誰かも認識出来ない。それは、イングラムがスパイであると言うことではない。イングラムもまた、エアロゲイターの被害者であると言う事を如実に現していた。

 

「……グルンガスト弐式の行動不能、及びR-GUNの鹵獲を行う」

 

そしてキョウスケの下した決断はクスハを助けるだけではない、イングラムもまた救助するという物だった。

 

「キョウスケ中尉……」

 

「R-GUNにはSRXチームで当たってくれ……お前達の隊長だ、取り戻して見せろ」

 

R-GUNが強い反応を見せるのはSRXチームの3人だけ、もしイングラムを救助できる者がいるとすればそれはリュウセイ達しかいない。

 

「……リュウ! R-GUNを行動不能にするわよッ!」

 

「判ってる! いくぜッ!! 教官ッ!!!」

 

「……教……官……? ぐっ……黙れぇッ!!! 俺は……知らん、お前など知らないッ!!!」

 

自身に向かってくるR-1を近づかせまいとするRーGUN。イングラムの言動に対して鋭く動くR-GUNのばら撒いた弾幕でR-1の突撃は強制的に止められる。

 

「リュウセイ! 無理に突っ込むな、己が判らなくてもその操縦技術は健在だッ!」

 

「そう……みたいだな」

 

R-2パワードが間に割り込んだくれたお陰でR-GUNの追撃はない。だがその正確無比な射撃は、数秒前のR-1の頭部があった場所を的確に狙い打っていた……。

 

「俺達はチームだ、3人で少佐を助け出すぞ」

 

「ああッ!!」

 

イングラムに対する恨みはリュウセイ達になかった。今リュウセイ達の胸を埋め尽くしていたのは、イングラムを取り戻す……ただそれだけだった……。

 

SRXチームがイングラムを取り戻す為にR-GUNに向かう。他の機体もSRXチームの後を追おうとしたが、それは量産型ドラゴン達とグルンガスト弐式によって妨げられる。

 

「……ブリット君……あなた達、私を助け出したいんでしょ……?」

 

クスハが広域通信でブリットへと言葉を投げかける、だがその口調は普段のクスハの物とは程遠く、馬鹿にしているような響きが含まれていた。

 

「正気を取り戻しつつあるのかッ!?」

 

前回は話しかけても反応がなかった……だが今回は向こうから話しかけてきたと言うこともあり、正気を取り戻しかけているのかと言う淡い期待が生まれる……だが続く言葉でその期待は裏切られる事となる。

 

「……でも、無駄よ。だって……私はイングラム少佐の物だもの……」

 

「ク、クスハ……ッ!!」

 

艶の混じったその言葉にブリットが動揺の色を見せた……だが、この場合、それは完全に悪手だった。

 

「落ち着きなさいブリット君。イングラム少佐を見れば判るでしょう?」

 

イングラムは完全に正気ではなく、壊れる寸前だ。そして今挑発するように言葉を投げかけるクスハの姿は明らかに、エアロゲイターに言わされているのだと判る。

 

「……イングラム少佐が壊されたのも、クスハが関係しているのかも知れんな」

 

これでイングラムが正気ならば、クスハの言葉も真実味を帯びてくる。だが、イングラムが再起不能寸前なのを見れば、クスハの言葉のなんと薄っぺらい事か。

 

「……ねえ、ブリット君。貴方、私の事好きなんでしょ? でもね、私が好きなのは……ううん、好きだったのは……ッ!!!」

 

クスハは最後まで言葉を発する事は出来なかった、ヒュッケバインMK-Ⅱが抜き放ったシシオウブレードが突きつけられたからだ。

 

「それ以上クスハを傷つけるな、エアロゲイターッ!!! 人を操り人形にするのがそんなに楽しいかッ!!!」

 

ブリットの激しい一喝にグルンガスト弐式が僅かにたじろいだ。

 

「俺には判っている、お前は誰だ」

 

先ほどは僅かに動揺したブリットだが、短い間だが武蔵との訓練で確実にレベルアップしていたブリットはグルンガスト弐式を覆い隠している、別の何者かの念を感じ取っていた。

 

「……ははッ! なるほど、なるほどねえ……あの人形が拘った理由が判るねえ」

 

次に発せられた言葉はクスハの物ではなく、別の人間の声だった。

 

「まぁいいさ、お前達にこの女を取り戻せるとは思えないしねえ。この女を殺して慟哭する姿を楽しませて貰う事にするよ」

 

「そうか、ならお前は失望する事になるなッ! 俺達はクスハを取り戻すッ!!

 

「……目標……確認……破壊します」

 

その言葉を最後にグルンガスト弐式を覆っていた何者かの念はグルンガスト弐式から消え、前に戦った時と同じ様に生気の抜け落ちたクスハの気配へと変わっていた……。

 

「良く啖呵を切った、ブリット。そこまで言い切ったんだお前が弐式を行動不能にし、T-LINKシステムを破壊してクスハを救助しろ」

 

「判ってますッ!! 行くぞクスハッ! 今助けてやるッ!!!」

 

キョウスケの言葉に返事を返し、グルンガスト弐式に向かっていくヒュッケバインMK-Ⅱにキョウスケは苦笑し、再度命令を出す。

 

「アサルト1より各機へ。ブリットを援護しつつ、弐式とR-GUNを行動不能にし……残りの敵を殲滅しろ」

 

奪われた仲間を取り戻す、強い決意を持ってハガネとヒリュウ改のPT隊は量産型ドラゴン達を初めとした、エアロゲイターの部隊に戦いを挑んでいくのだった……。

 

 

 

 

 

サイバスターとヴァルシオーネの前に立ち塞がる2機のドラゴン……全部で15機出現した量産型ドラゴン達はチームを組んでキョウスケ達に襲い掛かっていたが、サイバスターとヴァルシオーネの前にはドラゴンが2機差し向けられていた。

 

「それだけ、俺達を警戒しているって事か」

 

「でもいつまでも私達が遅れを取ると思わないことだねッ!!」

 

確かに量産型ドラゴン達との戦いにマサキ達は遅れを取っていた。だがそれは量産型ドラゴン、ライガー、ポセイドンに対する知識不足……そして分析データの解析が間に合っていなかった事が原因だ。だが、その分析がすんだ今、対策は十分に練られていた。

 

「「!!!」」

 

「リューネッ!」

 

「判ってるッ!」

 

2機のドラゴンがそれぞれ2本のダブルトマホークを投げ付けてくる。その質量もあり、直撃すればPTならば一撃で大破。特機でも致命傷は間逃れないが、投げ付けるという性質上ダブルトマホークは直線的であり、そしてブーメランのように戻ってくるといっても、やはりそれも直線的だ。

 

「そらよッ!」

 

「それッ!」

 

切り払う目的ではない、横からの一撃でトマホークは急激に空気抵抗がかかり減速する。その隙にサイバスターとヴァルシオーネはドラゴンへと肉薄する。

 

「「!!」」

 

近づけさせまいとドラゴンは頭部のビーム砲を放つ……だが、これがドラゴンにとっての最大のミスだった。近接に特化していると言えば聞えはいいが、ドラゴンにはライガーのようなミサイルもなければ、ポセイドンのようなサイクロンもない。あくまでドラゴンの武器はダブルトマホークと頭部のビーム、そして両腕の回転する鋸の3種類しかないのだ。

 

「貰った! カロリックミサイルッ!」

 

「「!?!?」」

 

ビームを放とうとした瞬間を狙い済ましたサイバスターのカロリックミサイルが頭部のビーム発射口に飛び込み、暴発したエネルギーとミサイルの爆発によってドラゴンの頭部が吹き飛んだ。

 

「行くぜッ! アカシック……バスタァァーーーッ!!!」

 

カロリックミサイルを放つ同時にサイバードに変形していたサイバスターは魔法陣から呼び出した火の鳥と一体となり、頭部を失い僅かに硬直したドラゴンへと突撃する。

 

「!?!?」

 

胴体部から両断されたドラゴンはサイバードが通過し、数秒後に爆発し、ドラゴンの残骸が地上に向かって降り注ぐ。

 

「行くよ! ヴァルシオーネッ!! クロスマッシャーァァァッ!!!」

 

ヴァルシオンの同型機のヴァルシオーネもヴァルシオンと同じ武装を搭載している。ヴァルシオーネの最大攻撃であるクロスマッシャーの螺旋を伴った光がドラゴンを飲み込み跡形もなく消滅させる。

 

「やっぱり分析結果の通りだったね」

 

「そうみたいだな」

 

ドラゴンは強固な装甲とビームコートを持ち、その耐久力は非常に脅威だった。だが頭部のビーム発射口……それがドラゴンの弱点だった。AIの近くであり、そして動力部からのエネルギーが集まっている頭部。確かにこの部位も防御力は高いが、ビーム発射口を露出した時、ドラゴンの防御力はがた落ちになる。その時にビーム発射口を狙い打てれば、ドラゴンの機能は一時的に停止するのだ。

 

「この調子でドラゴンを潰していこう」

 

「そうだな」

 

ドラゴンを速攻で2機落としたが、AIが学習するとビームの使用頻度は落ちる。今の内にドラゴンを破壊しておこうと言うリューネに頷き、サイバスターとヴァルシオーネは再びドラゴンへと向かっていく。

 

「!!!」

 

「いつまでも好き勝手出来ると思うなよッ!!!」

 

ポセイドンが胴体部のパーツをパージして竜巻を放つ。だがジガンスクードはその巨体に見合った両拳を地面に突きたて、サイクロンに完全に耐える。

 

「おらああッ!!!」

 

だがそれだけではない、体勢を低くしたジガンスクードはそのままの体勢でポセイドンに向かって突撃していく。

 

「!!!」

 

「どっせいッ!!!」

 

下からのかち上げを喰らったポセイドンは宙に弾き飛ばされたが、両足のブースターで滞空しようとした瞬間に爆発する。

 

「ナイス! レオナちゃん」

 

「当然ですわ」

 

ポセイドンはドラゴン、ライガ-の中では重厚でそれに見合った攻撃力も持ち合わせている。だがその反面、胴体にファン、両腕には電磁ネットの発射機構を初めとした内部機構が多く、その外見に反して防御力は低いものとなっている。

 

「良い腕をしている、だが動力部の位置には個体差がある」

 

「……そのようですわね」

 

ポセイドンの胴体部にはドラゴン、ライガーよりも1つ多く4つの動力が組み込まれている。先ほど、レールガンの一撃でポセイドンを破壊出来たのは動力部を狙い打ったからだが……ギリアムの駆るゲシュペンスト・リバイブが放った銃弾は、レオナが先ほど打ち抜いた場所を打ち抜いているが、まだポセイドンは稼動を続けている。つまり、そこには動力部が無いと言う証だった……。

 

「……この距離……逃がさんッ!!!」

 

「!?!?」

 

だが動きは確実に鈍っていた……アルトアイゼンの強襲にサイクロンを放とうとするポセイドンだったが、やはり爆発には至らなかったが動力部は損傷していたようだ。サイクロンを発動させる事が出来ず、リボルビングステークを顔面に打ち込まれその機能を停止させ地面に沈んだ。

 

「!!!」

 

「はいはーい! 逃がさないわよッ!!」

 

ドラゴン、ライガー、ポセイドンの中では機動力と言う事でライガーが一番厄介な機体だった。内部機構は両腕のドリルだけで、装甲もその機動力と比べれば高い部類であり、ドリルによる突撃攻撃と、鎖攻撃にミサイルとシンプルだが厄介な攻撃が揃っている。

 

「そのスピードが命取りなのよねッ!」

 

ライガーの最大の武器はその機動力。だがその機動力こそが、ライガーの弱点となっていた。

 

「そらよっ!!」

 

「行きますッ!」

 

ヴァイスリッター、そしてフライトユニット装備型の量産型ゲシュペンストMK-Ⅱ2機による、M-13ショットガンの執拗な面射撃による弾雨に晒されてはライガーは反撃のタイミングが見出せず、逃げの一手を撃つしかなかった。

 

「ファイナルビームッ!!」

 

「ターゲットマルチロックッ! 当たれッ!!!」

 

「「!!」」」

 

下からの突然の高出力のビームと小型ミサイルによる弾雨にライガーは機首を上げる、それが罠だと判らずに……。

 

「……ターゲットインサイト……リオ曹長、照準同調は出来てますか?」

 

「OKよ」

 

ハガネとヒリュウ改の艦橋でうつ伏せのヒュッケバイン009とビルドラプター。その2機が持っているのはブーステッドライフルを改良した試作スナイパーライフルだ。照準値が高く、射撃性能の高い2機だから使用できる対量産型Gシリーズ対策の武器の1つだ。

 

「……カウントスタート」

 

「3……2……1」

 

「「0ッ!!」」

 

同時に引かれた引き金、ソニックブームを残して放たれた銃弾は空中で炸裂し、ライガーを背部から撃ち貫く。

 

「メガ・プラズマステークセットッ!」

 

「ビームクロー展開ッ!!」

 

背後から撃ち貫かれ、墜落してくるライガー目掛けカイのゲシュペンスト・リバイブとラドラのゲシュペンスト・シグが跳躍する。

 

「「!!!!」」

 

高電圧の左拳と、高速回転するビームクローで胴体を貫かれたライガーは僅かな時間差と共に爆発する。量産型Gシリーズは確かに脅威であった、だが研究者達のたゆまぬ努力でその弱点が明らかにされた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

甲高い金属音が周囲に響き渡る。計都瞬獄剣とシシオウブレードがぶつかり合い、激しい火花を散らしている。

 

「敵機……損傷軽微……理解不能」

 

クスハの困惑した声を聞きながら、ブリットは乱暴にパイロットスーツのヘルメットを投げ捨てた。

 

「……持ってくれよ。ヒュッケバイン……」

 

ブリットの目の前のコンソールはレッドアラートが灯り、コックピットブロックを除く機体各所はオーバーヒートを起こし始めていた。

 

「……破壊します」

 

「ちえいッ!!」

 

上段から振り下ろされた計都瞬獄剣の側面をシシオウブレードで払い、ヒュッケバインMK-Ⅱは地面を蹴って大きく距離を取る。

 

「ぐっ……まだまだッ!!!」

 

着地と同時に脚部が悲鳴をあげ、ヒュッケバインMK-Ⅱは膝を付いた。だが、ブリットの闘志は折れない。

 

(対応出来る、まだいけるッ!)

 

ブリットの脳裏に過ぎるのは、出撃前の武蔵との日本刀での稽古。特機であるグルンガスト弐式とヒュッケバインMK-Ⅱ……それは奇しくも武蔵とブリットがそのまま当て嵌まる形となっていた。力に優れ、圧倒的な膂力で押し潰しにくる武蔵と、素早い動きで相手を翻弄するブリット……生身とPTの差はあるが稽古と全く同じ光景になっていた。

 

(……脚部の出力不足は背部スラスターでフォロー、脚部エネルギーパイプを一部分カット、その分腕部にエネルギーを巡回させる)

 

ヒュッケバインMK-Ⅱは今組み込まれているOSではなく、完全なマニュアル制御で操作されていた。そして、武装はシシオウブレード一振り。他の火器に使うエネルギー全てを機体に回し、そしてヒュッケバインMK-Ⅱの防御の要……「G・ウォール」すらも機能をOFFにしているからこそ、グルンガスト弐式と打ち合う事が出来ていた。

 

「……行って……ブーストナックルッ!!」

 

痺れを切らしたのか、計都瞬獄剣を左手に保持し、突き出した右拳が凄まじい勢いで射出される。

 

「! それを待っていたッ!!!」

 

グルンガスト弐式から射出された右拳。それにヒュッケバインMK-Ⅱは自ら飛び込み……命中する寸前に居合い抜きの要領でシシオウブレードを一閃する。

 

「……!!」

 

「一意専心ッ! 狙いは一つッ!」

 

両断された右拳の爆発に紛れ、ヒュッケバインMKーⅡはグルンガスト弐式に肉薄し、シシオウブレードの峰でコックピットの真上を穿つ。

 

「ううっ……む、無駄よ……ブリット……君……」

 

刃を振るえばクスハを傷つける、それゆえの峰打ち。機体ダメージは軽微だが、峰打ちの衝撃は確実にクスハにダメージを与えていた。

 

「弐式が怯んだッ!」

 

今までどんな攻撃を受けても、よろめく事がなかったグルンガスト弐式が初めて大きく揺らいだ。

 

「……せめて、私の手で殺してあげる……」

 

右腕を失ったが、残された左腕で計都瞬獄剣を振り上げるグルンガスト弐式、だがブリットは逃げる事無く、シシオウブレードを腰の鞘に戻し体勢を低くさせる。

 

(斬られる前に斬れ……リシュウ先生とゼンガー隊長の教えには背くことになるけど……俺は……見つけた、俺だけの剣をッ!!)

 

『さよなら……ブリット君……天に凶星、地に精星…必殺、計都瞬獄剣……!』

 

背部のブースターを全開しに凄まじい勢いで突っ込んでくるグルンガスト弐式。だが、ヒュッケバインMK-Ⅱはその場を動く事はなく、ブリットもまたコックピットの中で目を閉じていた。

 

(……目で見るんじゃない……感じ取れ……)

 

視覚は必要ない、今己が見るべき物はグルンガスト弐式ではないのだ。グルンガスト弐式を、クスハを覆う悪意! それだけが今ブリットが見るべき全てだった。

 

「……見えたッ!!! 刹那の一打ちッ!!!」

 

極限の集中によってブリットの目にはグルンガスト弐式の動きがスローモーションに見えていた。

 

(武蔵、お前には感謝しかないよ)

 

稽古の時は気付かなかった、だが今なら判る。武蔵の打ち込みは全て、グルンガスト弐式の計都瞬獄剣を用いた剣戟モーションと全く同じ物だった。

 

「うおおおおおおおーーーーーッ!!!」

 

超神速の抜刀、それはグルンガスト弐式の左拳だけを斬り落とす。ブリットが疲弊してもブーストナックルを待っていたのは、右腕か左腕を破壊し、計都瞬獄剣の保持力を落とす為だった。無論、ヒュッケバインMKーⅡも無傷ではない、超質量のグルンガスト弐式の突撃、そして何度も計都瞬獄剣と打ち合い皹が入っていたシシオウブレード……その間に挟みこまれたヒュッケバインMK-Ⅱの右腕が千切れ飛び、シシオウブレードもど真ん中から折れ、背後の崖へと突き立った。だがそれでも、ブリットは命を懸けた賭けに勝利した。

 

「……え?」

 

左拳が斬りおとされ、計都瞬獄剣が地に落ちる。そのありえない現象にクスハを操る者の意識が一瞬途絶えた……。

 

「俺の勝ちだッ! クスハは返してもらうぞッ! エアロゲイターーーッ!!!」

 

「きゃあああああッ!!!」

 

残された左拳をグルンガスト弐式のコックピットに突きたてる。そこは、グルンガスト弐式のT-LINKシステムの要……機能を停止したグルンガスト弐式、だが突撃の勢いは殺しきれずヒュッケバインMK-Ⅱとぶつかり、弐式とヒュッケバインMK-Ⅱが地面の上を転がっていく。

 

「クスハ! ブリット君!!」

 

火花を散らして機能を停止した弐式とヒュッケバインMK-Ⅱその姿を見てリオが2人の名を叫んだが、即座に広域通信でブリットの声が響いた。

 

「……キョウスケ中尉、任務……完了しました」

 

「……ううう」

 

機体が半壊しても、ブリットが守り抜いたその左腕……大きく掲げられたその左腕の中にはグルンガスト弐式のコックピットブロックが宝物のように収められていた。

 

「よくやった、ブリット」

 

「わお! やるじゃなぁい、ブリット君ッ!」

 

「ええ……何とかなりました……でも、もう動けません……回収……お願いします」

 

その言葉を最後にヒュッケバインMK-Ⅱのカメラアイから光が消え、ブリットも疲労の余り意識を失った。だが、その顔は満足げな表情を浮かべているのだった……

 

「ヒュッケバインMKーⅡとグルンガスト弐式の回収を頼む、エクセレン行くぞ」

 

「ええ、このまま奪われた者全てを取りかえさせて貰うわよん!」

 

R-GUNとSRXチームの戦いは3対1とSRXチームが有利な筈なのに、SRXチームが追い込まれていた。量産型ドラゴン達も沈黙し、残るはR-GUN……そしてイングラムを取り戻すだけとなった今、全機でR-GUNを取り押さえるべきだとキョウスケは判断した。だが……それは余りにも遅すぎた。

 

「な、なんだ!?」

 

「こいつはぁ……ゲッター線かッ!?」

 

「うっ……頭がッ」

 

「何……これ……」

 

「あれは……魔法陣……なのか?」

 

「待て! 何か出てくるぞッ!」

 

突如戦場を満たしたゲッター線の輝き、そして上空に展開された漆黒の魔法陣……異様な空気に満ちる中、空を突き破るように黒い天使が戦場に現れるのだった……

 

 

 

 

 

リュウセイ達とR-GUN、そしてブリットがクスハを取り戻す中。その中でも武蔵は動き出す事ができなかった。

 

「ロブさん、メンテナンスで何か変な機能つけませんでしたか!?」

 

『い、いや! 俺達は何もしていないぞ! 強いて言えばセンサー類の強化をしただけだが、行動不能になるような機能は追加していない!』

 

メルトダウン寸前の炉心の高まりから一転、ゲッターロボの炉心の出力は最低限起動するのに必要な数値まで低下してしまっていた。

 

『武蔵、炉心の再起動は試したか!?』

 

「さっきから何度も試してます! でも手動操作も受け付けませんッ!」

 

ゲッターロボは完全に操縦不能に陥っていた、手動操作でゲッターロボを再起動しようにも、その操作すらも受け付けない。

 

「くそッ! どうなってんだ!」

 

今までゲッターロボを酷使していたのは認める。だが、それでもこんな風に急に何の操作も受け付けないのは武蔵にとっても想定外だった。

 

『武蔵君、タスク曹長にゲッターロボの回収を頼んだ。ジガンスクードと共にハガネへと帰艦して欲しい』

 

ゲッターロボが戦えないと判断したダイテツはゲッターロボを抱える事が出来るジガンスクードに回収命令を出した。そして、武蔵もこのままでは足を引っ張るだけと判断し、その命令に従おうとした……その時。

 

「な!? 何が起こってるッ!!!」

 

今まで何の反応も示さなかったゲッターロボのカメラアイに光が灯り、武蔵が操縦してもいないのにゲッターウィングを翻し、上空にへと舞い上がった

 

『どうした!? 何があった!?』

 

「わ、判りません! ゲッターが急に動き……うっ!!!」

 

急にゲッターが動き出したと言おうとした時、武蔵は激しい頭痛に襲われた。その痛みは激しく、武蔵は意識を保つ事が出来ず、武蔵の意識は闇に沈んだ。

 

(……なんだ……これ)

 

まるで水の中に浮かんでいるような感覚を武蔵は感じていた……目の前にはゲッターロボを初め、サイバスターやヴァルシーネ、額にVの文字を持つ巨大なロボットや、漆黒の身体を胸に紅いパーツを持つ特機……そしてヒュッケバインに似た無数の機体の姿が浮かんでは消えていく。

 

『力を貸して欲しい、武蔵。お前の力が必要なんだ……』

 

(誰だ……なんでお前はオイラを知っている)

 

黒い影が武蔵に声を掛けてくる、武蔵は知らないのに……その影に覆われた人物は武蔵の事を知っているような響きに満ちていた。

 

『お前の力があれば、枷を外す事が出来るかもしれない……だから力を貸して欲しい、ゲッター線に選ばれた武蔵の力を……』

 

(オイラはどうすれば良い……?)

 

『ゲッターの力を解放してくれ、そうすれば……因果の門は開く……』

 

その声に従うように武蔵の意識に反して、その腕が動きゲッターロボからゲッター線の輝きが放たれるのだった……。

 

 

 

 

 

SRXチームとR-GUNの戦いは終始イングラムが優勢だった。自我を失いかけているからこそ磨かれた戦闘技術だけが表に出ていた。頭痛に苦しみながらも、イングラム・プリスケンと言う男が磨きあげた膨大な戦闘技術。それがリュウセイ達の前に立ち塞がっていた……。

 

「ぐっ……し、知らない……俺は……お前達など知らない……」

 

苦しみながら振るわれるビームソード……だがその狙いは正確無比でR-2の動力部をピンポイントで狙う。

 

「ライはやらせねえッ!!」

 

R-2の動力部はトロニウムエンジンだ。動力部を破壊刺されば凄まじい被害が出る、それが判っているからこそリュウセイは光り輝く両拳でR-GUNとR-2の間に割り込み、その切っ先を逸らす。

 

「ぐうう……俺の前に……立つなあッ!!!」

 

「く……ッ!?」

 

ビームソードの刃を消し、柄でコックピットを殴りつけるR-GUN。その振動にリュウセイの足が止まり、ビームソードの刃が再び展開されようとするのがモニター一杯に広がる。

 

「行ってッ!!!」

 

だがそうはさせまいとR-3パワードから放たれた盾形のビットがR-GUNとR-1の間に突き刺さり、それに気付いたイングラムはストライクシールドが命中する前に離脱する。

 

「大丈夫!? リュウ! ライッ!」

 

上空から降下してきたRー3パワードから2人を心配する声が響く。

 

「大丈夫って言いたいが、ちょっと不味いぜ」

 

「……ああ、少佐が強い事はわかっていたが……ここまでは想定外だ」

 

自我を失いかけているからこそ、楽に取り押さえる事が出来ると考えていた。だが、それが甘い考えだったと言うのはほんの数回のやり取りで思い知らされていた。

 

「……コンビネーションアタックで、R-GUNを行動不能にするわよ」

 

「それしか……ないな」

 

「……リュウセイ、フィニッシュの位置を間違えるなよ」

 

「そんなドジを踏むかよッ! 教官を取り戻す!!」

 

単機での攻撃では撃墜されるのが目に見えている、SRXチームの連携攻撃でR-GUNを行動不能にする。アヤ達がそう決断し、行動に出ようとした時。ゲッター線の光り輝く翡翠色の色が周囲を包み込んだ……。

 

「うっ……声が……誰だ、誰が……俺を呼んでいる……?」

 

質量を持っているかのようにゲッター線の輝きがR-GUNとSRXチームを分断した。手の届く距離にいる筈なのに、その姿は肉眼では確認できず、センサーに僅かにR-GUN、そしてR-2、R-3の反応を感知することで、追突事故を起こさないようにするのがやっとだった。

 

「なんだ!? これは!?」

 

「ゲッター線!? 武蔵なのか!?」

 

行動不能になっていたゲッターロボが何かをしたのかとリュウセイ達は一瞬混乱した。だが、顔を上げるとカメラアイの光が途絶えたゲッター1が空中で全身からゲッター線を放出しているのを見た。

 

「暴走!?」

 

「またあの時みたいになるっているのか!?」

 

北京でのエネルギーでの巨体へと変化するのかと全員が警戒した。だが……それは間違いだった。

 

「違うッ! R-GUNだ! R-GUNを取り押さえろッ!!!」

 

ギリアムの怒声が響いた時……それは全てが手遅れになった後だった。周囲に満ちるゲッター線、それをR-GUNは取り込み白と紫の機体色はリュウセイ達が見ている前で、漆黒へと染まり上空へと登っていく

 

「あれは!?」

 

「黒い……天使?」

 

上昇するR-GUNの先には魔法陣から上半身だけを出した黒い特機が両手を広げ、R-GUNを誘っていた。

 

「撃て! あれは危険だッ!!」

 

ギリアムがそう叫び、折りたたんで収納していたハイパービームライフルを展開し、黒い天使に攻撃を放つ。それが合図になり、ありとあらゆる攻撃が上空の黒い天使へと向かうが、その攻撃は全て黒い天使に届く事無くバリアに弾かれる

 

【……】

 

そしてR-GUNが黒い天使の目の前に来る。すると黒い天使は大事な者を抱きしめるように、もう2度と離さないと言わんばかりに両手でR-GUNを抱きしめる。

 

「あ、R-GUNがッ!?」

 

「な、なんだよ!? 何が起こってるんだよッ!?」

 

黒い天使に抱きしめられたR-GUNは抱きしめられた箇所から粒子に分解され、黒い天使の中へと吸い込まれていく。その信じられない光景にリュウセイ達は絶句するしかない、そしてR-GUNの姿が完全に消えると同時に、黒い天使が空を裂いて戦場に舞い降りた。

 

「……テトラクテュス・グラマトン、そうか……お前か。お前が……俺を呼んでいたのだな……アストラナガン」

 

【--------ッ!!!!!】

 

R-GUNと共に粒子に分解されたイングラムがアストラナガンのコックピットの中で再構築される。そして自らの操縦者を取り戻したアストラナガンの歓喜の咆哮が戦場に響き渡るのだった……。

 

 

 

 

第61話 鋼鉄の巨神と漆黒の天使 その4へ続く

 

 

 




皆大好きアストラナガンです、リヴァーレ?知らない子ですね!(パート2)OGとPS2のOGで不満だったのはアストラナガンが出ない事、なら出すしかねえッ! ってなりますよね? ならないかな……? 今回はアストラナガンに出てもらう事にしました、次回はSRXも出して行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第61話 鋼鉄の巨神と漆黒の天使 その4

第61話 鋼鉄の巨神と漆黒の天使 その4

 

ネビーイームの中でイングラムを監視していたレビ、そしてアタッドは目の前の光景に驚愕し目を見開いた。

 

「「アストラナガン……だと?」」

 

空を裂いて現れたのはバルマー帝国の最優先ターゲットである「アストラナガン」の姿だった。アストラナガンはR-GUNを粒子分解し、その身体に取り込むと獣の様な咆哮を上げる。

 

「レビ様、いかがなさいますか?」

 

「……ゲッターロボとアストラナガン……か」

 

どちらも最優先の捕獲対象であると同時に破壊対象でもある。データベースに名前だけが残されている「アストラナガン」……バルマー帝国の技術力の粋を集めた究極の機動兵器らしいが……自我らしき物があり、バルマー帝国から離脱。その後消息不明となっている……そんな機体が突如出現した事にレビもアタッドも驚愕を隠せない。

 

「だがデータベースとは違う姿をしているのが気掛かりだ」

 

「……確かに」

 

バルマー帝国で開発されていたアストラナガンはプロトタイプで白を基調にした機体の筈。それに開発凍結になった、「ティプラー・シリンダー」の試作型が搭載されていた筈だ。

 

「色と姿に微妙な差異がある。まずは戦闘データを記録する、イングラムとの通信は?」

 

「いえ、通信は愚か生体信号すら確認できません」

 

「……アストラナガンに喰われたか、イングラムの意識があれば話は楽だったんだが……な」

 

ゲッターとアストラナガンさえ確保出来ればそれだけでも十分な成果と言える。だが北京で暴走したゲッターロボと同じく咆哮を上げる姿から暴走している事が予測される。レビはここで捕獲する事ではなく、本当にアストラナガンなのか、それを確かめる為に泳がせる事を決断するのだった……

 

上空から光の粒子を舞い散らしながら降下してくる漆黒の天使……悪魔のようなフォルムに、エネルギーで構築された翼を羽ばたかせゆっくると黒い天使は地表寸前で動きを止める。

 

(……そうだ、俺は……イングラム・プリスケン……因果律の番人)

 

黒い天使……いや、アストラナガンのコックピットの中でイングラムは小さく呟く。今まで感じていた頭痛からも開放され、イングラムの顔はとても穏やかな物となっていた。

 

(お前のお陰だ。武蔵……そしてクォヴレー)

 

ゲッターロボの存在、そしてずっと己を取り戻せと叫んでいた「クォヴレー・ゴードン」の存在がイングラムとアストラナガンを繋いだのだ。だからこそ、こうしてイングラムの元に時空と世界を超えて、アストラナガンは現れた。だがそれはこの世界の因果を著しく破壊する事に繋がっている事をイングラムは感じ取っていた……。

 

(ユーゼス……お前にも何かが起きていると言うことか)

 

この世界でのイングラムの枷は完全ではなかった。恐らくだが……ユーゼス・ゴッツォにも何らかのイレギュラーが起きている……イングラムはこれを好機と受け取っていた。

 

(……リュウセイ、ライ……そしてアヤ)

 

アストラナガンを警戒しているハガネとヒリュウ改のクルー。そして大切な仲間達……このままアストラナガンを持って再びハガネに戻っても良いのでは? と言う考えが一瞬イングラムの脳裏を過ぎった。

 

「何を考えている……俺は」

 

こうしてアストラナガンが現れた事、恐竜帝国の存在……そしてゲッターロボと武蔵の出現。これらはこの世界を大きく変える、乱れに乱れた因果が何を齎すのか……それはイングラムでも把握し切れていない。

 

(……鍛え上げなくてはならない……)

 

今のままではハガネとヒリュウ改は轟沈する……その最悪の未来が容易に想像出来た。だからこそ、戻りたいと言う気持ちを抑えてアストラナガンを操縦する。

 

『や、やっぱり敵なのか!?』

 

『用済みになったイングラム少佐を殺しに来たと言うことか……』

 

『よくも教官をッ!!!』

 

通信で聞えてくるリュウセイの怒りの叫び、アストラナガンがR-GUNを分解して取り込んだのはイングラムとって好都合だった。

 

(悪いな、アストラナガン。このまま俺達は再び敵に回るぞ)

 

リュウセイ達を鍛え上げる為に……そしてゲッターの力をより引き出すために、このままエアロゲイターの新兵器にイングラムは消されたと言う呈でリュウセイ達の前に立ち塞がる事をイングラムは決意するのだった……。

 

 

 

 

 

空を裂いて現れた漆黒の機動兵器……それが咆哮を上げると同時に操縦不能となっていたゲッターロボのコントロールが武蔵に戻ってきた。

 

「ゲッタートマホークッ!!!」

 

R-GUNを取り込んだ黒い機体に向かって反転し、トマホークで切りかかるゲッター1だったが……。

 

「な、何だ!?」

 

「……」

 

大質量を持つ筈のゲッタートマホークによる一撃は黒い天使に届く事は無かった。目に見えない壁にゲッタートマホークは受け止められ、こめかみの2門の砲塔から繰り出されたエネルギー弾のバルカンが容赦なくゲッターを穿つ。

 

「がっ!? ぐっッ! くそッ! オープンゲットッ!!!」

 

至近距離でのバルカンの掃射にゲッターの巨体は右に左にと揺さぶられる。ジャガー号や、ベアー号に光弾がぶつかり火花を散らす。だが、武蔵も良い様にされるつもりは無いのかオープンゲットし、ゲッター3へと再合体を果たす。

 

「武蔵! 大丈夫か!?」

 

「大丈夫って言いてぇが……正直やべえぞあれは……」

 

近くにいたR-1がゲッター3に駆け寄る。リュウセイの問いかけに武蔵の返答は苦しい物だった、ゲッターロボの強固な装甲はゲッター

3にチェンジした今も火花を散らしており、左肩からは今も黒煙が上がっているのが見える。

 

「ブーストナックルッ!!!」

 

「全力だ。受けてみろッ!!」

 

グルンガストから放たれたブーストナックルに合わせ、ゲシュペンスト・リバイブ(K)の肥大化した右拳が黒い天使に叩きつけられる。

 

「マジかよ……」

 

「化け物めッ!?」

 

ブーストナックルは黒い天使が展開しているバリアに阻まれ、翡翠色の刃を展開する剣に両断され爆発四散する。そしてリバイブ(K)の一撃はバリアを貫いたが、掠り傷程度のダメージを与えるのがやっとだった。

 

「ッ! おい、傷が回復してやがるぞッ!?」

 

「自己修復機能ッ!?」

 

だがその傷も殆ど一瞬で回復され、攻撃が当たった箇所はもはや新品同然で何処に攻撃が命中したかも判らない。

 

「なろおッ! それなら押し潰すだけだッ!!!」

 

味方の中で最も巨体のジガンスクードがブースターを全開にして黒い天使に体当たりを仕掛ける。巨体が迫ってきているのにも拘らず、黒い天使に動揺する素振りは見えない。量産型ドラゴン達と同様でAI制御なのかその動きは非常に冷静でそして正確だった。

 

「うっそだろ!?」

 

その頭部にそっと手を添えるだけでジガンスクードの大出力を止めて見せた黒い天使にタスクは思わず悲鳴をあげる。

 

「タスクッ!! 離れなさいッ!!!」

 

レオナの警告が飛んだが……それは余りにも遅すぎた。

 

「う、うわわああ……ッ!? じ、ジガンの腕がッ!?」

 

無造作に振るわれた剣がジガンスクードの強固な装甲を引き裂き、ジガンスクードの腕を右肩から切り落とした。

 

「タスク! ヒリュウ改に撤退しろッ!!」

 

「物理が利かないなら、これはどうかしらッ!!!」

 

カチーナの真紅のゲシュペンスト・フライヤーの飛び蹴りに合わせて、ヴァイスリッターのEモードでの最大出力が放たれる。

 

「そこッ!!」

 

「やらせませんッ!」

 

黒い天使が腕を振り上げようとした時、アーマリオンとラッセルのゲシュペンスト・フライヤーのチャフグレネードが命中する。それによって生まれた煙幕に紛れてカチーナが突撃しようとした時。

 

「駄目だ!!」

 

「おっ!? うあああああーーーッ!?」

 

高速で伸びたゲッターアームがゲシュペンスト・フライヤーの胴体に巻き付き、伸びた勢いでゲシュペンスト・フライヤーを引き寄せる。

 

「てめッ! なにしやがる武蔵ッ!」

 

「いえ! 中尉! 武蔵に感謝するべきですッ!」

 

必中を確信していたタイミングだけに、武蔵の妨害に声を荒げるカチーナにラッセルの窘める通信が即座に繋げられる。

 

「……」

 

黒い天使の周囲が異常にへこんでいた、その攻撃はデータ状で見ただけだが……グランゾンの重力攻撃に酷使していた。

 

「すまねえ、武蔵。助かった」

 

「良いですよ、それにしても……やばいですね。あれ……」

 

あのまま突っ込んでいれば重力で圧壊していた事が判り、カチーナの額に冷たい汗が流れる。

 

「……!」

 

「やった! やっぱり高出力のビームならバリアを貫通するわ!」

 

ヴァイスリッターの放ったE-モードの一撃がバリアを貫通し、ビーム攻撃ならと言う考えが一瞬全員の脳裏を過ぎった。

 

「うっ! 駄目ッ! 皆離れてッ!!」

 

アヤの苦悶の声と共に出された警告の声、だがそれに反応できた者は居なかった。黒い天使の翼から零れ落ちる粒子が羽の形になり黒い天使の周りを滞空する。

 

「いかん! 全機散開ッ!! 自分の身を守る事だけを考えろッ!!」

 

その異様な光景にキョウスケの散開命令が出るが……それは余りにも遅すぎた。

 

「う、うわああああーーーッ!?」

 

「え、うそッ!? きゃああああッ!?」

 

「ぐっ! エクセレンッ!!!」

 

大きく翼を広げる動作が合図となり、黒い天使の周りを滞空していた羽が雨のように戦場に降り注ぎ、羽が着弾した場所から凄まじい爆発が連続して響き渡るのだった……。

 

 

 

 

 

ハガネのブリッジのクルー全員は目の前に広がっている光景に完全に言葉を失った。翼の羽ばたきと共に射出された羽によりPT隊がほぼ壊滅にまで追い込まれたのだ。

 

「被害状況の確認を急げッ!!」

 

「は、はいッ!!!」

 

1枚1枚が高密度のエネルギーだったのか、着弾と同時に爆発を繰り返していた。死人が出ている可能性も考え、ダイテツの顔は青褪めていた……エアロゲイターを誘き寄せるという目的は果たされた。だが、まさかたった1回の攻撃でここまで追詰められるとは考えても居なかった。

 

「全員意識はありますが、SRXチーム、ゲッターロボを除き戦闘続行不能ですッ!」

 

コックピットは外しているが、片腕や片足、行動させない事を目的にした範囲攻撃……空間を裂き現れた黒い天使はSRXチームとゲッターロボに強い興味を示している。今攻撃を加えられたら、防御する事も回避する事も叶わず破壊されるPTや特機には目もくれない。

 

「艦首トロニムバスターキャノン発射準備開始ッ! ヒリュウ改にも通信を回せッ! 艦首超重力砲とトロニウムバスターキャノンでブラックエンジェルの撃破を試みるッ! 使用可能な主砲、副砲を用いてブラックエンジェルへの攻撃! 行動可能な機体はハガネ、ヒリュウ改に撤退! PT運搬用のトレーラーも用いて回収作業も平行して行えッ!」

 

「りょ、了解しましたッ!!」

 

今はPT隊達に興味を示していないが、行動不能となっている今……いつ破壊されるか判らない。早急にハガネとヒリュウ改へ回収する必要があるのだ。

 

『ゲッターミサイルッ!!!』

 

『……』

 

『ちいっ! 直接攻撃も駄目! 遠距離攻撃も効かないとか化け物かよッ!!』

 

ゲッターロボと武蔵が攻撃が通用しないと判っていても、攻撃を繰り返しPT隊から引き離そうとしているが効果は一向に出ない。

 

『……!!!』

 

『ぐっ!? なろおッ! 舐めんなあッ!!!』

 

反撃に繰り出された頭部からのバルカンがゲッター3を弾き飛ばす、だが武蔵も負けてはおらず着地と同時にゲッターアームを伸ばして殴りかかる……だが、黒い天使の全身を覆っているバリアに弾かれゲッターアームが地面に突き刺さる。

 

『T-LINK開始……目標補足ッ!』

 

R-3パワードが空を高速で飛びまわり、死角へと回り込もうとする。だが何の反応も示さない黒い天使にR-3パワードのコックピットでアヤは冷たい汗を流す。

 

(見られている)

 

カメラアイが向けられていないにも拘らず、アヤは自分が黒い天使に見られている事を感じ取っていた。R-GUNを分解し、取り込んだ黒い天使……イングラムがどうなったかも判らない。だが、黒い天使にイングラムが殺されたのならば、仇を取る。それだけを考え、震えている手と足に活を入れて操縦桿を握り締め、ペダルを踏みしめる。

 

『大尉ッ! 合わせてください! ハイゾルランチャーシューッ!!!』

 

R-2パワードのハイゾルランチャーの収束モードが黒い天使の胸部に向かって放たれる……。

 

『ぐっ、やはり防がれるか! だがそれは想定の内だッ!!』

 

『レーザーキャノン……発射ッ!!!』

 

ハイゾルランチャーの収束モードを通常よりも長い時間照射した事で黒い天使が展開しているバリアが視覚化出来た。そこに最大までチャージしたR-3のレーザーキャノンが突き刺さる。

 

『こ、これでも駄目なのッ!?』

 

『いいやまだだぁッ!! ゲッタァアアーーーッビィィィッムッ!!!!』

 

追撃のゲッタービームがバリアに突き刺さる、時間差の3段攻撃……これによって、やっと黒い天使の全身が覆っているバリアが音を立てて砕け散った。

 

『おおおおーーーーッ!! T-LINKナッコオオオオオオッ!!!!』

 

この好機を逃がすまいとR-1が黒い天使へと飛び掛った……だが、その拳は黒い天使に届く事は無かった……。

 

『も、もう再生してる!?』

 

『リュウセイ! 逃げろッ!!!』

 

バリアが砕けたと同時にR-1は飛び掛った……だがあれほど苦労して破壊したバリアは殆ど一瞬で再生し、R-1の光り輝く拳が無慈悲に再展開されたバリアに受け止められていた。

 

『……』

 

無造作に向けられた左腕、そしてそこから放たれた光線がR-1を完全に飲み込んだ。

 

『ぐおあああっ! う……ぐ……ッ!』

 

幸運にもR-1が光の中に飲み込まれたのは数秒だった、だが光の中から現れたR-1はその装甲の殆どを失っていた。

 

『リ、リュウッ!!」

 

『リュウセイッ!! くそッ! 武蔵! バックアップに入ってくれッ!!!』

 

通信から聞えてくるアヤとライの慌てた声、その声を聞けばダイテツ達にも判る。あの黒い天使に勝つ術が無いと……。

 

「大尉! エネルギー充填率は何%だッ!?」

 

「65%です!」

 

フルパワーまでチャージ出来ていない……だがこのままでは全滅する事は明らか……しかし、あの黒い天使のバリアの再生速度は想像以上に早い。

 

(重力砲でバリアを剥がし、トロニウムバスターキャノンでトドメを刺す……)

 

当初の計画では重力砲からトロニウムバスターキャノンへと繋げ破壊、もしくは行動不能に追い込む事だった。だが、あのバリアの再生速度では、仮に破壊できたとしてもトロニウムバスターキャノンの威力も削がれてしまう可能性が高い。

 

「ヒリュウ改の充填率は!?」

 

「……52%です!」

 

100%までチャージしても突破出来る保証がないのに、50%弱ではバリアすら貫通できない……。

 

(どうする……考えろッ! ダイテツ・ミナセッ!)

 

この生き残る術が殆ど残されていない状況で全員で生き残る、その術を必死に考えるダイテツの耳にライの叫びが響いた。

 

『こちらR-2ッ! ダイテツ艦長へ……パターンOOCの解除を要請しますッ!!!』

 

「正気か少尉ッ!?」

 

北京での悪夢の切っ掛けとなったSRXへの合体、それをこの窮地で再び挑もうとしているライにダイテツの怒声が響いた。

 

『ライッ!!』

 

アヤの怒声も響いたが、ライは己の意見を曲げる事はしなかった。むしろ強い決意の込められた言葉を2人へ投げかける。

 

『……越権行為は承知の上です。しかし……いつまでも足踏みをしている訳にもいきませんッ!! このまま全滅し、地球をエアロゲイターに渡すわけには行かないッ! それになによりも……イングラム少佐の仇をみすみす逃すつもりはありませんッ!』

 

『……ライ……』

 

裏切ったと思った、だがイングラムもまたエアロゲイターの被害者だった。そしてそのイングラムを目の前で失った……2度とイングラムをエアロゲイターから取り戻す事が出来ない。ならば、イングラムを殺した黒い天使をこの場で倒すとライは叫んだのだ。

 

「……Rシリーズの合体許可を出せというのか!? また失敗したらどうするつもりだッ!!!」

 

『確かに成功するとはいえませんッ! ですがこのままでは全滅するだけですッ!! 恐れているだけでは前には進めないッ!!!』

 

ライの言う通りだった、ハガネとヒリュウ改の戦力は殆ど残されていない。それに最後の賭けであるヒリュウ改とハガネの連続攻撃も失敗する可能性が高い今……ライの言う通り、恐れているだけではない前に進む必要がある。

 

「……いいだろう。パターンOOCの解除を許可する」

 

「か、艦長!?」

 

テツヤがダイテツを見るが、ダイテツは己の意志を曲げるつもりはなかった。

 

「大尉、いずれはやらねばならんことだ。ワシも少尉の賭けに乗るとしよう……その代わり……必ず成功させろ。艦長命令だ、上官への暴言はそれで不問とする」

 

『……了解しました。必ず、俺達は成功させます』

 

その言葉を最後にR-2からの通信は途絶える、だがただ見ているつもりはダイテツも、そしてレフィーナにも無かった。

 

「何をぼんやりしているッ! SRXチームへの支援を行えッ!」

 

『少しでもブラックエンジェルの動きを止めるんですッ!』

 

ハガネとヒリュウ改から放たれた弾幕が黒い天使へと叩き込まれる、ダイテツもレフィーナもSRXへの合体に失敗する訳がない……なんの根拠もないが必ず成功する……そんな確信が2人にはあったのだった……。

 

 

 

 

 

 

ライとダイテツのやり取りを聞いていたリュウセイもアヤもそれぞれの機体の操縦桿を強く握り締めた。北京での合体失敗……それは間違いなくSRXチームの3人に黒い影を落としていた。

 

「……アヤ大尉、よろしいですね? SRXへの合体を行いますッ!」

 

「わ、判ったわ……ッ!!」

 

強引に話を進めるライ、リュウセイもアヤも……そしてライ自身もSRXへの合体には不安があった。だが……ライには出来ると言う奇妙な自信があった……。

 

(出力が安定している……いや、これは安定しているなんてレベルではない)

 

不安定なトロニウムエンジンの出力が安定しているだけではない、周囲に漂うゲッター線を取り込んでいるのか安定状態をキープしたまま、その出力を上げている。

 

(トロニウムとゲッター線には何か関係があるのか?……いや、今は考えている時間はない)

 

良く考えてみるとR-2はゲッターロボが近くにいる時に出力が上がっていた。ゲッター線とトロニウムには、何か強い関係性があるようにライには感じられていた。

 

「武蔵、合体までの間。あの化け物の相手を頼めるか?」

 

『任せとけ、その代わり楽しみにしてるぜ。SRXっていうのをよッ!!』

 

マントを翻し黒い天使に突き進んでいくゲッターロボを見送り、ライはR-1に通信を繋げる。

 

「リュウセイ……少しでも様子がおかしい時は、フォーメーションを解除する。良いな?」

 

出力は安定している、だがR-1が受けているダメージが余りにも大きすぎる。SRXへの合体での壁である、出力はクリアしている。だが、Rー1の損傷と黒い天使の出現から爆発的に精神疲労が蓄積しているアヤが懸念材料だった。

 

「ああ……判ってるッ!! だけど心配無用だッ! 絶対に成功するッ!!!」

 

「……ああ、俺もそう思ってるさッ!」

 

「私もよ。失敗する訳がないって信じてるッ!」

 

ライとアヤの力強い返事に笑みを浮かべ、R-1の最終プロテクトを解除する。

 

「行くぜ、ライ、アヤ! ヴァリアブル・フォーメーションだッ!!」

 

「念動フィールド、ONッ!! トロニウムエンジン、フルドライブ!各機、変形開始ッ!!」

 

「了解、変形を開始します! プラスパーツ……パージッ!」

 

「今度こそ決めてやる! ヴァリアブル・フォーメーション!」

 

R-1を先頭にしてR-2、R-3が後を追う様に急上昇していく……。だが、この時リュウセイ達は気付かなかった、念動力の緑の光に紛れ、光り輝くゲッター線の輝きがRー1達を包み込んでいる事に……。

 

「ぐっ、ぐぬぬぬッ!!!」

 

やはりRー1の受けているダメージは深刻で、必死に握り締めている操縦桿が手の中で暴れだし思わずリュウセイは呻く。今にも暴れだしそうな操縦桿を全力で押さえ込み、変形レバーを引く。

 

『ミサイルマシンガンッ!!!』

 

『!!!』

 

合体の邪魔をさせまいと単機で黒い天使との戦いを続けている武蔵。その背中に不安や心配はなく、成功すると信じきっている武蔵の強い信頼をリュウセイとアヤは感じていた。

 

『ガイドビーコンに合わせて、合体軸をあわせろッ!』

 

「いわれなくてもッ!」

 

プラスパーツをパージし、機体を反転させSRX用の胸部パーツを開放したR-2の姿を見ながら操縦桿を操縦し、R-2からのガイドビーコンに合わせて合体モードに変形したR-1を操縦するリュウセイ……暫くすると機体全身に走る衝撃にリュウセイは笑みを浮かべる。

 

「良しッ!」

 

『まだだ! R-3との合体が残っているッ! 気を緩めるなッ!』

 

北京でもここまでは成功していた……後はR-3との合体だ。加速するR-1とR-2に追いつけずR-3が失速してしまい、合体が失敗した。

 

『大丈夫よ! 行くわよッ! リュウ、ライッ!!!』

 

腰部へと変形したR-3が加速し、追突するような勢いで合体してくる。

 

『良しッ! 大尉! 脚部のコントロールをお願いしますッ!』

 

『判ってるわッ! ライも腕のコントロールを失わないでよッ!』

 

R-2がパージしたハイゾルランチャーが胴体へと変形したR-1達に追いつき、紫電を撒き散らしながら胴体と合体する。そしてそれから少し遅れ、R-3のフライトパーツが脚へと変形を完了し腰部に変形していたR-3と合体する……。そして最後に水中ゴーグルのような特徴的なデザインの頭部パーツがR-1に装着される。

 

「天下無敵のスーパーロボットォォォォッ!! ここに! 見参!!」

 

地響きを立てて、SRXが地面に降り立つと同時に、黒い天使の振るった剣でゲッター1が弾き飛ばされてくる。

 

「大丈夫かッ!?」

 

「っと、すまねえな。それが……SRXか、へっ! 良くやったじゃねえかッ!!」

 

SRXに受け止められたゲッター1、そのカメラアイがSRXに向けられ武蔵の賞賛の声が響く。

 

「まだ戦えるか」

 

「ゲッターエネルギーも十分! まだまだゲッターは戦えるぜッ!!!」

 

SRXの手を借りて立ち上がるゲッター1。その姿を見てリュウセイは自分が笑っている事に気づいた、夢に見たスーパーロボットを操り、そして旧西暦を救った本物のスーパーロボットと共に戦える事に、胸が高鳴っている事に気付いたのだ。だが、リュウセイはそれに酔いしれる事は無く、黒い天使に敵意を向ける。R-GUNを取り込んだ黒い天使を倒す。倒せば……R-GUNを……イングラムを取り戻す事が出来るのか……そればかりを考えていた。

 

「アヤ、大丈夫か?」

 

『大丈夫よッ! 全力で行ってッ!!!』

 

アヤらしからぬ強気の声……それはリュウセイが黒い天使に抱いているのと同じ怒りをアヤが抱えているのを如実に現していた。

 

「ライ、機体は大丈夫か?」

 

「心配ない! 理由は判らんが各部装甲とモーターはこれ以上にないというほどに安定している。全力で行けるぞッ!」

 

「よっしゃあッ!! 行くぜ武蔵ッ!」

 

『応よッ!! ゲッターウィングッ!!!!』

 

ゲッターがマントを翻し飛び上がり、それを追う様にSRXも宙に舞い上がる……。

 

(良くやった、リュウセイ。だがお前はまだ舞台に立ったに過ぎん……これからが本番だッ!)

 

アストラナガンの中でイングラムは優しく微笑み、次の瞬間にはアストラナガンに向かってくるSRXとゲッターロボを獰猛な視線で見つめる……鋼の巨神「SRX」、黒い天使「アストラナガン」、そして進化の光を宿す者「ゲッターロボ」が今ここに一堂に会するのだった……。

 

 

 

第62話 鋼鉄の巨神と漆黒の天使 その5へ続く

 

 




次回はアストラナガンVSSRX&ゲッター1で書いていこうと思います。アルトアイゼンとかがT-LINKフェザーで全滅したのは……この戦いには付いて来れないかなとか思ったからですね。可能ならばSRXとゲッターの合体攻撃等も出せるように次回も頑張りたいと思います、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第62話 鋼鉄の巨神と漆黒の天使 その5

第62話 鋼鉄の巨神と漆黒の天使 その5

 

一撃で大破寸前まで追い込まれたハガネとヒリュウ改のPT隊は整備班の決死の救助作業と、損傷が軽微だった機体によって全機がハガネとヒリュウ改に回収されていた。

 

「今回せる機体は無いか!? この際量産試作型のアーマリオンでも構わない!」

 

武蔵とSRXチームだけが戦っている、予備機でも構わないから再出撃出来ないかと怒鳴るイルムやカチーナ達……だが整備班からの返答は不可能だった。

 

「イルム中尉、申し訳ないが今のハガネとヒリュウ改に予備機は搭載していない」

 

「ぐっ……作戦の都合上か」

 

囮となる作戦であり、エアロゲイターの反応を見る為に全員の機体を搭載しているだけで、開発中の量産試作型アーマリオンなどは伊豆基地に降ろしてあると言うロブの言葉にイルム達は呻くしかない。たった一撃でハガネとヒリュウ改のPT隊を壊滅寸前に追い込んだ機体と戦えるのがゲッター1と合体に成功したSRXしかないという事実が重く圧し掛かってくる。

 

「あ、あれがSRX……ッ! SUPER ROBOT X-TYPE……! Rシリーズの本当の姿……ッ!」

 

「う~むむむ……。とりあえず、見た目のインパクトはあるな。特に眼なんか」

 

「そうねえ。何かどっかで見たことあるような、ないような……」

 

SRX計画の最終形態がやっと見られた事に対する驚愕の声が響く中、イルム達の説得を終えたロブはSRXの稼動データを確認して目を見開いた。

 

(出力が最大値をマークしている、それに各部装甲も正常値をキープしている……こんなのはありえない)

 

SRXはその名の示すとおり試作機だ。今はまだ設計図が用意されているだけの「SRアルタード」のデータを取るための実験機としての側面が強い。だが今のSRXの出力は完全にロブ達の予想を超えていた。

重複

 

(これだけ安定していて、しかも暴走も自壊の兆候も見られない。これじゃあ、アルタードじゃないか)

 

試作機で完成形であるアルタードと同等……いや、それを上回る出力を計測しているSRX……その理由をロブは必死に調べ、そしてその理由を突き止めた。

 

(これは……ッ!? あ、ありえない、どうなっているんだ!?)

 

トロニウムによる超エネルギーに加えて、ゲッター線が今のSRXには含まれている。ゲッター線は金属に恐ろしい耐久度を与えると同時に柔軟性を与える。それがSRXの関節やモーターを保護していたのだ、そしてそれだけではなくトロニウムにも影響を与えていた。

 

(ゲッター線が何故SRXに……)

 

当たり前だがSRXにゲッター炉心は搭載されていない、それなのに何故かゲッター線の反応がSRXから確認されている事にロブは驚きを隠す事が出来ないのだった……。

 

 

 

 

 

アストラナガンの中でイングラムは驚愕を隠す事が出来なかった。SRXが出現した時は、少し揉んでやるか位の気持ちだった。SRX計画に携わっていたから判るが、現状のSRXでは良くて5分、悪くて1分の戦闘が限界だ。それはアストラナガンの生まれた世界と比べてこの世界の技術力不足による戦闘時間の短縮と言うデメリット。発想と計画した人間が同じでも、圧倒的なまでの技術不足。それがこの世界の限界だったはずだ……だが既に10分近く経つのにSRXに分離の傾向は見られなかった。

 

『ハイフィンガーランチャーーーーッ!!!』

 

『ミサイルマシンガンッ!! オープンゲットッ!!!』

 

SRXの両指……R-2のパワードパーツであるハイゾルランチャーから無数のエネルギー弾と、ゲッターが手にしたミサイルの機関銃がアストラナガンに向けられる。

 

(ちいっ! やはりかッ!)

 

理由は判らないが……「今」のSRXはアストラナガンの念動フィールドを貫通する。リュウセイやアヤが中和しているわけではない、何故か判らないが念動フィールドがその効力を完全に発揮しないのだ。

 

(どこだ、どこから来るッ!)

 

両腕で弾幕を防いだが、その代りにゲッターを見失った。オープンゲットしていたから別の形態になっている……ゲッター2か、それとも3か? それともゲッター1かを考えていると背後から武蔵の雄叫びが響く。

 

『ドリルアタックッ!!!』

 

声を発する訳には行かないのでZ・O・ソードでドリルの切っ先を弾こうとして……それが罠だと気付いた。

 

『オープンゲットッ!』

 

ドリルアームとZ・O・ソードがぶつかる瞬間にゲッター2が分離し、ゲットマシンへと変化する。攻撃を受け止めるつもりだったのが、相手が居なくなった事で僅かにアストラナガンの姿勢が崩れる。

 

『ブレードキィィーックッ!!!』

 

SRXの全重量を次ぎこんだ飛び蹴りがアストラナガンの背中に叩きつけられる、その衝撃に体勢を崩すと着地したSRXの両拳が光り輝いた。

 

『至高拳ッ!! ザインナッコォッ!!!!』

 

凄まじい勢いで叩き込まれた両拳。その衝撃でアストラナガンが大きく吹き飛んだ、勿論コックピットの中のイングラムにも凄まじい衝撃が襲い掛かっていた。

 

「やはり……か」

 

今も念動フィールドが十全にその効果を発揮しなかった。そしてその理由も今の一撃で理解していた……アストラナガンがゲッター線の反応を感知したのだ。

 

「なるほど、SRXが安定しているのはゲッター線のおかげか……全く、ゲッター線にも困った物だ」

 

意思を持つ進化を促すエネルギー、それがゲッター線だ。それがまさかSRXに力を与えているとは……イングラムにとっても計算外だった。

 

(サイコドライバーとしての力に何かを見出したか……)

 

リュウセイはサイコドライバーとして目覚める未来が約束されている、それをゲッター線も利用しようとしているのか、何にせよ。ゲッター線がSRXに力を貸しているのは事実……。

 

「ならば手加減は無用だ」

 

アストラナガンは量子波動エンジンとティプラー・シリンダーによる2つの動力で稼動している。特にティプラー・エンジンは各物質世界の階層からエネルギーを抽出し、そのエネルギーを用いてタイムスリップや並行世界の転移を可能にするほどのエネルギーをアストラナガンに与える。今まではそれを使っていなかったが、ここまで戦えるのならば手加減は無用。

 

「受けろ、重力散弾! アトラクター・シャワーッ!!!」

 

アストラナガンから放出された重力の嵐がSRXとゲッター1に襲い掛かる。無論、この程度で倒れるなんて都合のいい話はイングラムは考えていない、あくまで一時離脱する為の隙を作り出す為の攻撃だった。

 

「さぁ、ここからが本番だ。フフフ……この程度で沈んでくれるなよッ!!」

 

アストラナガンの背部から射出されたガン・ファミリアがSRXとゲッター1に襲い掛かっていく、これだけの弾雨。いかにSRXとゲッターロボと言っても強引に突っ切る事は不可能。腕をクロスさせて、防御している姿を見つめながらイングラムはコンソールを高速で操作する。

 

「ティプラー・シリンダー起動開始」

 

今まで機能を停止させていたティプラー・シリンダーの起動、この起動によってユーゼスに捕捉される危険性はある。だが、リュウセイ達は今よりももっと強くならねばならぬ。そう簡単に越える事の出来ない壁となる為に……そしてリュウセイ達が死なないようにする為に……イングラムはアストラナガンをフルパワーで起動する事を決断するのだった……。

 

 

 

 

 

ゲッターは確かに強力な兵器だ。だが、バリア等の能力は搭載しておらず敵味方関係なしで放たれた広範囲攻撃では単独操縦のゲッターでは回避しきれない。リュウセイもそれが判っていたから、SRXの念動フィールドを全開にしてゲッター1を護りながらもMAPの範囲攻撃を完全に防いで見せていた。

 

『大丈夫か、武蔵』

 

「悪いな、リュウセイ。そっちこそ大丈夫か?」

 

直撃の痕跡はないが、それでも相当のエネルギーを使っているのは明らか。武蔵が大丈夫か? と問いかけるとリュウセイではなく、ライが返事を返した。

 

『今のでエネルギーの3割を消費した、全力稼動出来るのは後5分ほどが限界だ』

 

5分……与えられた時間は300秒と恐ろしいほどに短い、本来のSRXとゲッターロボならば並の相手ならば1分も立たず一蹴できる。だがアストラナガンは余りにも別格過ぎたのだ……。

 

『あちらもギアを上げてきたようね』

 

今までと異なりオーラのような物を纏っているアストラナガン……先ほどの重力弾の乱射とサイバスターのファミリアに良く似た自立兵器による射撃は明らかにアストラナガンが本気になった証だ。

 

『与えたダメージも回復されたな』

 

「みてえだな、ったく、自己修復能力なんて厄介な能力だぜ」

 

与えたダメージは既に完全に回復している。念動力の刃を展開し、挑発するように手招きするアストラナガン。

 

(AIの癖に随分と……いや……AIなのか?)

 

AIならば挑発なんてする必要は無い、それにあの攻撃力ならばSRXとゲッターを無視してハガネとヒリュウ改を破壊すればいい。

 

(少し確かめてみるか)

 

武蔵の野生とも言える直感は、アストラナガンはAI制御ではなくイングラムによって操縦されている可能性を導き出していた。AIに遊び心は無い、ただ敵を破壊するだけでいい。それをしない、アストラナガンに違和感を感じたのがイングラムが生存しているのでは? と言う考えに繋がった。

 

「ゲッタートマホークッ!!」

 

「!!!」

 

『待て! 無茶をするなッ!!』

 

両手にゲッタートマホークを持ち、ライの制止を振り切って武蔵はゲッター1を走らせる。

 

「オラァッ!!」

 

「!」

 

ゲッター線の光を宿したゲッタートマホークを手にしている剣で弾こうとするが、そうはさせまいとゲッタートマホークを強引に押し込んでアストラナガンに接触する。

 

(イングラムさんよ、アンタ。意識あるだろ?)

 

最初は無視されたが、何度目かの声掛けで諦めたような、それとも呆れたようなイングラムの笑い声がゲッターのコックピットに響いた。

 

(ふっ、流石にお前は欺けんか)

 

小声で接触通信による会話、イングラムはゲッター1を上手く盾にしながら会話を続ける。

 

(俺は俺の為すべき使命を思いだしたのだ。その為にはハガネから離れなければならない)

 

(それはどうしてもなのかい? リュウセイ達はアンタを助けようとしていたんだぜ?)

 

(……それでもだ。この世界には大きな脅威が迫っている、だから俺はアストラナガンで出来る事はする。だがそれ以上にリュウセイ達は強くならないとならないのだ)

 

短い会話だったが、武蔵は理解した。イングラムは敵として立ち塞がる事でリュウセイ達の成長を促そうとしているのだと……。

 

(判ったよ、この会話の事はオイラの胸の中に留めておく)

 

(すまないな、隠し事が苦手そうなのに)

 

武蔵の言葉にイングラムは短いが感謝の言葉を返すが、後半に馬鹿にするような響きがあり武蔵は僅かに眉を吊り上げる。

 

(それよりもだ。もう少し全力で来るがいい。アストラナガンには生半可な攻撃は通用しない、撃墜しろとまでは言わないがな)

 

アストラナガンが戦闘続行出来ない程度のダメージを与える事が出来なければ、この先の戦いには付いて来れないぞとイングラムが警告する。

 

(そんなに強い相手が居るなら、なおの事戻ってきたらどうなんだ?)

 

(それは出来ない、アストラナガンは強すぎる。アストラナガンがあれば安心だという考えを持たれては困るのだ)

 

その言葉に武蔵は反論出来ない、ゲッターロボがいるだけでも主力とする事で大丈夫と言う流れがあった事も判っているからだ。

 

(でもそれだとオイラの負担大きくないか?)

 

量産型ドラゴン、ライガー、ポセイドンがエアロゲイターの戦力に加わっている。そうなると、武蔵とゲッターロボでなければ対処できない相手も少なからず存在する。自分だけの負担が大きくならないか? と武蔵が言うとイングラムは小さく苦笑する。

 

(そのことに関しては謝るが、必要な事だ。頑張れよ、丈夫で長持ちの武蔵よッ!)

 

「いや、ちょっとま……ぐおうッ!?」

 

急に動きを変えたアストラナガンの回し蹴りがゲッター1の胴体を捉え、サッカーボールのようにSRXに向かって蹴り飛ばす。

 

「ぬうっ!?」

 

『武蔵!? 喰らえ! ガウンジェノサイダーッ!!!』

 

SRXの特徴的な顔から放たれた光線が追撃に急降下しようとしていたアストラナガンを空中に押し留める。その隙に墜落してきたゲッター1をSRXが受け止める。

 

『無茶しすぎだ武蔵ッ! 1人でどうこう出来る相手じゃないんだぞッ!』

 

全く持ってリュウセイの言う通りだ。少し鍔迫り合いをしただけだが、ゲッターを持ってしても押し切れないそのパワー。ゲッターロボGでももう少し強引に戦えた事から、あの黒い天使……イングラムが言う「アストラナガン」はゲッターロボを完全に超えている事が判った。

 

「リュウセイ、オイラに提案があるんだが……乗らないか?」

 

『提案? あの黒い天使を倒せるのか?』

 

「倒せないにしても、撤退に追い込む程度のダメージは与えられると思うぜ? それで、乗るか?」

 

武蔵はイングラムに面倒な事全てを押し付けられたことに気付き、額に青筋を浮かべながらリュウセイに通信を繋げた。温厚な武蔵でも怒る時は怒るのだ……イングラムは覚悟こそしていたが、やはり武蔵の怒りを買っていたのだった……。

 

 

 

 

 

武蔵の提案を聞いてリュウセイもライもアヤも驚きに目を見開いた。

 

「お前本気か!?」

 

『本気も本気よッ! どうせこのままだったらSRXは時間切れ、ゲッターもエネルギー切れで全滅だ。ならよ、死んであの世に行った時に閻魔様に言い訳出来るように出来るめいっぱいをやろうぜ』

 

ま、死ぬ気は無いけどよと武蔵は笑う。その声に恐怖の色は無い、それ所かリュウセイ達ならば出来ると言う強い信頼が込められていた。

 

「俺達がタイミングを間違えたら、ゲッターがどうなるか……」

 

武蔵の提案は練習も何もしていないのに、SRXとゲッター1の連続攻撃で黒い天使を撃墜すると言う物だった。

 

『馬鹿野郎、やる前にそんなに不安そうな声を出すんじゃねえ。それにな、こういう時に一番大事なのは……自分なら出来るって言う思い込みさ。リュウセイ達が自信がねえって言うなら……ハガネとヒリュウ改に戻って逃げな、自爆してでもお前達の逃げる時間くらいは稼いでやるよ』

 

「駄目だッ! 自爆なんて駄目に決まってるだろうッ!?」

 

『お前は何を言っているのかわかっているのか!?』

 

『駄目よ! 武蔵! そんな事は許さないわッ!!』

 

1度は奇跡が起きて、武蔵は新西暦で目覚めた。だが2度めの奇跡が起きるとは思えず駄目だとリュウセイ達は声を荒げる。

 

『じゃあよ、オイラに自爆なんてさせないためにも協力してくれよ。このままどうせ全滅なんだからよ』

 

軽い口調だが、武蔵は既に覚悟を決めていた様子だった。

 

「ライ、アヤ、やろう」

 

『……ああ、それしか道はなさそうだな』

 

『そうね、やりましょう』

 

武蔵の覚悟に触発されるようにリュウセイ達は言葉を交す、そして武蔵はそんな様子を見て笑っていた。

 

(良いチームになる)

 

年齢も境遇も違う、それでもSRXチームの姿に自分達の姿を見て武蔵は心から微笑んだ。そしてイングラムがリュウセイ達が強くならなければならないと言った理由も判ったのだ、他人を思いやれる優しい心……それがリュウセイ達にはあったからだ。

 

『行くぜッ! リュウセイッ!』

 

「おうッ!! 行くぞッ! ライ、アヤッ! 武蔵ッ!!!」

 

ゲッター1がマントを翻し、SRXの前に浮かび上がる。その姿を見てリュウセイだけではない、ライも、アヤもその背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。少しでもタイミングが狂えば、武蔵は背後からSRXに撃ち抜かれる事になる……。

 

『行くぜッ!! オープンゲットッ!!!』

 

ゲッター1が爆発したような勢いで弾かれゲットマシンになって、黒い天使へと突き進んでいく。

 

「ライッ! アヤッ!!」

 

『照準は合っている! 行けッ! リュウセイッ!!』

 

『テレキネシスミサイル……発射ッ!!!』

 

「行けッ!!! ハイフィンガーランチャーーーーッ!!!」

 

SRXの両腕と両腕から数えるのも馬鹿になるようなエネルギー弾が放たれ、解放されたSRXの脚部からはテレキネシスミサイルが全弾放たれる。

 

『うおおおおおーーーーッ!!!!』

 

エネルギー弾とミサイルの弾雨に追い抜かれながら、ゲットマシンはマシンガンを乱射しながら突き進む。

 

『チェンジッ!! ゲッタァアアアーーーッ!!!! ツゥゥッ!!!!』

 

弾雨に晒されながらゲットマシンはゲッター2へと合体を果たし、着地と同時に最大速度でドリルアームを突き出す。それは一度はゲットマシンを追い抜いたエネルギー弾や、ミサイルを追い抜いての一撃だった。

 

『ドリルアームッ!!!!』

 

「!!!!」

 

火花を散らしながらもアストラナガンのバリアはドリルアームでは貫通出来なかった、だがこれはリュウセイ達にとっては計算通りの出来事だ。

 

『オープンゲットッ!!!』

 

「!?」

 

反撃にZ・O・ソードが振り下ろされようとした瞬間。ゲッター2が爆ぜ、アストラナガンは目標を失いたたらを踏んだ。その直後にハイフィンガーランチャーとテレキネシスミサイルがアストラナガンを捉え煙幕を作り出す。

 

「ブレードキィィーックッ!!!」

 

そこにハイフィンガーランチャーとテレキネシスミサイルを放つと同時に飛び上がっていたSRXの全重量を次ぎこんだ飛び蹴りがアストラナガンの胴体に突き刺さる、だがSRXはそれだけでは止まらなかった。

 

「おりゃあああーーーッ!!!」

 

SRXの膝蹴りがアストラナガンに突き刺さり、その身体をくの字に曲げる。

 

「至高拳ッ!! ザインナッコォッ!!!!」

 

硬く拳を握り締めた文字通りの鉄拳がアストラナガンにニ連続で叩き込まれる。さすがのアストラナガンの念動フィールドもこれだけの猛攻には耐え切れず、音を立てて砕け散った。

 

「ガウン……ジェノサイダアアアアーーーッ!!!!」

 

吹き飛んだアストラナガンに追撃の念動波が叩き込まれ、体勢を立て直す事も叶わず吹き飛ばされ……背後から触手のように伸びるゲッターアームに絡め取られていた。

 

『大ッ! 雪ッ!! 山ッ!!!! おろしいいいいいいーーーーッ!!!!』

 

螺旋回転するゲッターアームに巻き上げられ、アストラナガンは大雪山おろしで作り上げられた竜巻に拘束される。

 

『TーLINKフルコンタクトッ!!!』

 

「うおおおおおーーーッ!!! 念動結界ッ!! ドミニオンボールッ!!!!!」

 

突き出したSRXの両腕から飛び出した虹色の輝きを持つ球体が、大雪山おろしに拘束されたアストラナガンの手足を封じ込め完全に動きを封じる。

 

『オープンゲットッ!! チェンジッ!!!!』

 

竜巻とドミニオンボールに拘束されたアストラナガンを追い抜いて、上空に舞い上がるゲットマシン。アストラナガンのコックピットでイングラムは薄く笑う、想定以上の力を相互効果で引き出した武蔵とリュウセイ達の急成長に笑みを抑えることが出来なかったのだ。

 

『Z・O・ソード射出ッ!!』

 

SRXの胸部が展開され、飛び出した柄をその腕が掴み胸部から引き抜く。金色の刀身を持つ剣をSRXは正眼に構えた……。

 

『トロニウムエンジンフルドライブッ!!!』

 

『ゲッタァアアーーーッ!! ワンッ!! ゲッタートマホークッ!!!!』

 

「うおおおおおおおおーーーッ!! 超必殺ッ! 天上天下……念動ッ!! 爆砕剣ッ!!!!」

 

最大まで高められたトロニウムエンジンの膨大なエネルギー、そしてリュウセイとアヤの念動力……そしてその全てを包み込むゲッター線の輝きを伴ったZ・O・ソード……いや、無敵剣の一撃が拘束されたアストラナガンの胴体に深い横一文字の傷を残す。

 

『おおおおおおーーーーーーッ!!! フルパワーだぁぁあああああーーーッ!!!』

 

そしてそこにゲッタートマホークの刀身から巨大なゲッター線の刃を展開したゲッター1が凄まじい勢いで急降下し、無敵剣で付けられた傷の上から唐竹割の一撃が叩き込まれる。

 

「ぐっぐうう……まさか、ここまでとは、想定外だな……」

 

ゲッターロボとSRXの連携攻撃は即興の割には恐ろしい完成度を持っていた、胴体に付けられた深い切り傷にイングラムは驚くと同時に笑みを浮かべる。

 

「だが、最後はしまらないようだな」

 

急降下してきたゲッター1にSRXが反応しきれず、2機は正面から追突し崩れ落ちている。追撃を受ければアストラナガンも撃墜されたかもしれないが……今回はイングラムの悪運に軍配が上がったようだ。

 

(さらばだ。リュウセイ、ライ、アヤ……また会おう)

 

心の中でイングラムはリュウセイ達に別れを告げ、空間転移でその場から離脱するのだった……。

 

「おおーい、生きとるかぁ……?」

 

「な、何とかな……さ、最後の最後でミスったぜ」

 

『いや、燃料切れで動けなかった。最終的にはああなっていただろう……』

 

『……逃がしちゃったわね』

 

大の字で横たわるSRXの上でうつ伏せで倒れるゲッター1。両機ともエネルギー切れで指一本動かす事が出来なかった……。

 

「良いとは言えねえけどよ、生きてたんだ……次があるさ。それに……リュウセイも、アヤさんも感じただろ?」

 

「ああ。感じた、あの黒い天使の中にイングラム教官の気配を感じたんだ……」

 

「少佐を取り戻せるかもしれないなら……私達はまだ戦えるわ」

 

武蔵はベアー号のコックピットの背もたれに背中を預け、大きく背伸びをする。どうせ自力で帰還出来ないのなら、回収を待つしかない。

 

「生きてれば次があるさ、次は取り戻そうぜ。イングラムさんをよ……」

 

イングラムの事は言わない、だがリュウセイとアヤが感じ取ったならばそれはイングラムとの約束も破った事にはならない。

 

(ん? そっか……1回ハガネとヒリュウ改を離れないといけないな)

 

ビアンからの合流要請を示すシグナルが点滅しているのを見て武蔵はなんて説明するかなと考えながら、ベアー号のコックピットの中で目を閉じるのだった……。

 

 

第63話 もう1体のゲッターロボ その1へ続く

 

 




次回はインターバル兼クロガネサイドの話に書いていこうと思います。箱舟の話はゼンガー達に活躍して貰って、ヒリュウ改・ハガネはお休みで行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第63話 もう1体のゲッターロボ その1

第63話 もう1体のゲッターロボ その1

 

アストラナガンとの戦いを終え、整備班に回収されたゲッターロボのコックピットの中に武蔵の姿はあった。クスハの救出、そしてSRXへの合体成功で盛り上がっているハガネとヒリュウ改のクルーに混ざる事をせずにゲッターのコックピットに居たのは勿論理由がある。

 

『黒い天使……か。戦闘記録は?』

 

「勿論取ってます、ビアンさん達と合流する時には持っていきますね」

 

ビアンからの合流要請があったから、出発する前に連絡を取っておくべきだと判断したからだ。

 

『ダイテツとレフィーナ艦長には一応話を通してから出発してくれ、戦闘の後で疲れているのは承知だが出来るだけ早い段階で合流して欲しい』

 

「了解です、飯を食って少し休憩したら出発します。一応出発前には連絡しますね」

 

『すまないな、南極に着いたらガイドビーコンを飛ばす。それにしたがってクロガネと合流してくれ』

 

ビアンとの通信を終えた武蔵はベアー号のコックピットから弾かれたように飛び出す。

 

「うおッ!? なんだ、どうした武蔵ッ!」

 

「っと、すまねえロブさん、それと悪いんだがゲッターのメンテナンスはしなくて良いから、そのままでお願いしますね」

 

「メンテしなくて良いって……ゲッターロボは出撃ごとにメンテが必要なんだぞ?」

 

戦闘力は新西暦の機体と互角かそれ以上だが、機体の中身は一部のオーパーツを除けば、骨董品と言うべき構造なのがゲッターロボだ。出撃ごとに細かい調整が必要となっている。

 

「ビアンさんに合流してくれって通信が入っているんで、そっちでメンテナンスをしますから。ゲッターロボより他の機体を優先してくれていいですよ! じゃッ!」

 

ロブに手を上げて通路を走っていく武蔵。ロブはその姿を見つめながら、これはチャンスだと考えていた。

 

「ビアン博士にも見て貰えるか、艦長と大尉に相談してみるか」

 

SRXのデータと戦闘データの解析結果、それと難しい話だと判っているが、今新西暦で最もゲッター線を理解しているのはビアンだ。もしも、可能ならばゲッター合金を流用したモーターなどを入手できないかと相談するべきだと思い、ロブも武蔵の後を追って格納庫を飛び出すのだった、なお。ロブが武蔵に追いつく事が出来なかったのは無かったのは言うまでも無い……。

 

「南極にか……うむ」

 

「やっぱり難しいですか?」

 

ハガネとヒリュウ改のPTが壊滅的な打撃を受けているのは武蔵も知っていたので、やっぱり難しいですか? とダイテツに尋ねる。

 

「いや、南極のコーツランド基地に向かえと言われていたが、今のハガネとヒリュウ改では無理だからな。渡りに船と思っただけだ」

 

アストラナガンとの戦闘でハガネとヒリュウ改に今戦えるPTは無くなってしまったが、コーツランド基地に向かう必要もある。そこに武蔵が南極、しかもクロガネと合流するという話は間違いなくコーツランド基地に関係する話だとダイテツは考えていた。

 

「じゃあ、オイラが南極に行くのは?」

 

「こちらからも頼みたい所だ」

 

ダイテツからの許可も出たが、武蔵にはある懸念があった。

 

「伊豆基地に戻るのは大丈夫ですか?」

 

武蔵がハガネを出ると聞いて顔を僅かに引き攣らせたテツヤに今ハガネを出るのは無理なのではないか? と考え、本当に大丈夫ですか?と武蔵はダイテツに尋ねる。

 

「確かに少々厳しいが、最終手段だ。大気圏離脱用のオーバーブーストで伊豆基地まで直行する、武蔵は何の心配もなく出発してくれて構わない」

 

戦闘することは出来ないのでオーバーブーストで伊豆基地に戻るから大丈夫だと笑うダイテツ。その姿に武蔵は何も言えず、判りましたと返事を返した。

 

「艦長、オーバーブーストでそんな事が出来るのでしょうか?」

 

「大気圏離脱用のブースターだが、なにも大気圏を離脱する時だけに使うのではないと前も言っただろう。もう少し柔軟に物を考えるんだな、大尉」

 

「はぁ……精進します」

 

普通は使わない方法らしいが、無事に戻れるのならばそれに越した事は無いかと武蔵は判断し、少しでも早く出発出来る様に艦長室を出ようとすると、外から扉のノック音が響いた。

 

「ダイテツ艦長、ロバートです。入室してもよろしいでしょうか?」

 

ロブの入出許可を求める声にダイテツは直ぐに許可を出し、ロブが艦長室に足を踏み入れる。

 

「武蔵がビアン博士と合流すると聞いたので、整備班からお願いがあります。武蔵にSRXのデータと戦闘データ、それともし可能ならば

ゲッター合金を流用したモーターなどの入手が出来ないか尋ねたいのですが大丈夫でしょうか?」

 

ロブの頼みにダイテツは少し考える素振りを見せた。だが、SRXがこのままでは長時間の戦闘に耐えられない事、そして先ほどまで戦っていたアストラナガンの事を考えるとSRXを戦闘に使用出来るようにする必要があると言う判断を下さないわけには行かなかった。

 

「良かろう、武蔵何時ごろ出発する予定だ?」

 

「えーっととりあえず飯を食べて、少し休憩してからなんで……2時間くらいで考えています」

 

「オオミヤ博士、2時間で準備が出来るか?」

 

「大丈夫です、大尉。2時間あれば十分です」

 

武蔵が出発する前に準備を整えますと言って艦長室を出て行ったロブを見送り、武蔵も出発前の腹ごなしと言う事で食堂に足を向けるのだった……。

 

 

 

 

 

「行っちまったな……」

 

食堂で遅めの昼食をとっていたリュウセイが窓の外を見てそう呟く、その視線の先には雲を切り裂き凄まじい勢いで飛び立っていくゲッターロボの姿があった。

 

「本来ならば、俺達も南極に向かう予定だったが、仕方あるまい」

 

今のハガネとヒリュウ改が同行してもクロガネと武蔵の足手纏いになるだけだと冷静に言うライ。リュウセイは判ってるけどなあと呟きながら冷え始めているカレーを口に運んだ。

 

「それより良かったのか? ライ」

 

「何がだ?」

 

「いや、レオナとかは手紙を渡してただろ? お前はいいのか?」

 

武蔵がクロガネと合流すると聞いて、レオナはリリーとユーリアの2人に急いで手紙を書いて預け、リューネもビアンへと手紙を書いた。

 

「兄さんがそう簡単に死ぬ人間じゃないって事は判っているからな、話したい事は直接あって話すさ」

 

そう笑うライにリュウセイは変わったなあと思いながら冷え始めているカレーにソースを掛ける。

 

「それよりもだ、お前こそいいのか?」

 

「あんが?」

 

「クスハ曹長の事だ」

 

意趣返しなのか、一番聞かれたくなかった事を聞かれ、喉を詰まらせたリュウセイは慌ててラッシーを口にする。

 

「げほっ、急にそんな話を聞かないでくれ」

 

「すまん……そんなに驚くとは思ってなかった」

 

自分が思っている以上のリアクションを取ったリュウセイにライは素直に謝罪の言葉を口にする。

 

「……正直さ、俺はクスハの事って幼馴染にしか見えなかった訳だ、と言うか、俺には人を好きとかそういうのがわからねえ」

 

ただクスハは幼馴染で一緒に居るのが当たり前で、自分のことを心配してくれるのもクスハの好意とは思えなかったとリュウセイは呟いた。

 

「俺のお袋さ、病気がちで入退院を繰り返しててよ……お袋を少しでも良い病院にってそれしか考えてなかったんだよ」

 

「そうか……難しい所だな」

 

好意に気づけなかったのではなく、気付く余裕がなかったのだとライは判断した。何時死んでしまうかもしれない母親に少しでも長く生きて欲しい、それがリュウセイの全てであって、そこに人の好意を受け入れる余裕は無かったのだろう。その中でリュウセイがアニメにのめり込んだのは勧善懲悪や、努力が報われると言った要素がリュウセイにとっては救いになったのかもしれないとライは考えていた。

 

「ブリットがクスハが気になるって言うなら、それで良いのかなって……そもそもブリットにクスハが俺の事を好きって言われた時も、正直嘘だろとしか思えなかった」

 

クスハは自分を好きでも、リュウセイはそれに答えられない。ならば、ブリットの方がいいんだろうなとリュウセイは呟きながらも、カレーを口に運ぶ手は止まっている。

 

「食欲がないのか?」

 

「いや、すげえ腹は減ってる……でも、なんか入ってかないんだよな」

 

既にライは昼食を食べ終えていたが、リュウセイはまだカレーが半分以上残っている。表面上は普段のリュウセイだが……やはり、イングラムの事、そしてクスハの事、今まで考えても居なかった事を考える事になり悩む結果となっているのだろう。

 

「よー、リュウセイ。なんだ、随分と食が進んでないようだな? どうした?」

 

「ほら、ラトゥーニもおいで」

 

「う、うん」

 

口下手の自分では禄に励ます事が出来ないが、チームメイトとして相談くらいには乗ってやりたかったライだったが……やはり自分にはこういうのは向いてないと苦笑し、騒々しくリュウセイの側に座ったジャーダ達に小さく頭を下げて食堂を後にした。

 

「リュウセイの悩みを解消してやろうと思ったんですけどね、俺には駄目でしたよ」

 

「そうじゃないと思うけどな、ライはリュウセイの為にと思って行動したんだろ? きっとその気持ちは伝わってるよ。アニメで定番の口下手だけど、仲間思いのクールな2枚目さ」

 

 

「……オオミヤ博士、アニメと一緒にされるのは流石に複雑なのですが?」

 

「ははは、判りやすく説明しただけさ。ま、せいぜい悩めよライ」

 

「もしかして俺で遊んでますね?」

 

ばれたかと笑うロブにライは少しだけ眉を吊り上げたが、こうしてアニメとかの例え話を交えてくるロブにふと閃いた。

 

「リュウセイがよく言ってるアニメってなんでしたっけ?」

 

「お、アニメに興味が出たか? 後でDVDを貸してやるよ」

 

相互理解の為、今まで微塵も興味が無かったアニメを見てみるのかもしれない……ライは一時の気の迷いでロブにそう声を掛けてしまったのだった……。

 

 

 

 

 

南極の巨大な氷山の中にクロガネは停泊していたが、ゲッターロボの存在を感知すると浮上し即座にゲッターロボを収容し、氷山の中に再びその身を隠した。

 

「武蔵、久しぶりだな」

 

「あ、ユーリアさん。どうも、ユーリアさんもお元気そうで何よりです」

 

ゲットマシンから格納庫に降りると直ぐに武蔵にユーリアが声を掛ける。武蔵がハガネとヒリュウ改に乗るまでの車椅子姿ではなく松葉杖でリハビリをしている姿に武蔵は笑みを零す。

 

「ああ、走ったりするのは無理らしいがそれでも日常生活には何の支障も無いらしい。まだリハビリの段階だがな」

 

「そうですか、リハビリって焦りますけどあんまり無理をしないでくださいね」

 

武蔵も腹に風穴を開けられ、リハビリで焦った経験があるのでユーリアに焦らないようにと声を掛ける。

 

「ああ、判ってるよ。リリー中佐とエルザム少佐に何度も注意されているからな」

 

「はは、エルザムさんらしいですね。あ、そうそう、えーっとレオナさんからユーリアさんにお手紙を預かってますんでどうぞ」

 

出発前に預けられた手紙をユーリアに手渡す武蔵、ユーリアはその手紙を受けとり小さく笑みを浮かべた。

 

「すまないな、伝言役みたいな真似をさせて」

 

「良いですよ、それよりもあれは何ですか?」

 

見覚えの無い扉が格納庫に増えていたのが気になり、武蔵はユーリアにそう尋ねる。ユーリアがその問いに答えようとしたとき、ユーリアよりも先に誰かの声が響いた。

 

「ゲッター線区画だよ、武蔵君」

 

勿論その声の主はゲッターが着艦した事で格納庫にやってきたビアンだ。その後ろにはリリーとエルザムの姿もあった。

 

「ユーリア隊長! またリハビリ室を抜け出しましたね?」

 

「い、いや、別に問題は」

 

「駄目ですよ、ほら、リハビリ室に戻りますよ」

 

「わ、判った。ではな、武蔵また後で」

 

トロイエ隊の生き残りに連れて行かれるユーリアに苦笑しながら、武蔵はビアンに頭を下げる。

 

「ビアンさん、今戻りました」

 

「うむ、向こうも大変だったようだが……無事で何よりだ」

 

「ははは、敵も本腰を入れてきたって所ですかね、あ、リリーさん、レオナさんからお手紙です」

 

「ありがとうございます。全く、あの子は……」

 

苦言をするが、それでも嬉しそうに笑うリリーに手紙を渡した武蔵はそのままビアンにもリューネからの手紙も渡す。

 

「武蔵君、ライディースからは?」

 

「殺しても死ぬとは思えないから会って話すと伝えてくれと」

 

自分には手紙が無いと聞いて、そうかと少しだけ寂しそうにするエルザム。その姿を見て、武蔵は無理でも手紙を書かせるべきだったかなと少しだけ後悔していた。

 

「それよりもだ、浅間山の地下で見つけたゲッターロボを修理、改造したのだ。見てみてくれるか?」

 

「本当ですか! どんな感じになったのか楽しみです!」

 

先にゲッターを見せようと言うビアンに嬉々とした様子で続く武蔵、そしてハザードマークの扉の奥には新設されたであろうハンガーにゲッターロボの姿があった。

 

「このゲッターは複眼なんですね」

 

「ああ。イーグル号を修理する時にな、興が乗ってヴァルシオンの意匠を取り入れてみたのだ」

 

赤を基調としているゲッター1だが、縁取りに金色が使われ何処と無くヴァルシオンに似た意匠がビアンが修理したゲッターには施されていた。

 

「ゲッターロボVと命名した。Vはヴィクトリー、そしてヴァルシオンのVだ」

 

ゲッターロボVと胸を張るビアンとその後ろで苦笑するリリーとエルザム、だが武蔵はゲッターロボVの名前が気に入ったのか満面の笑みを浮かべた。

 

「良いですね! ゲッターロボV! 凄く良い名前だと思います」

 

「そうだろうそうだろう! エルザム達は渋い反応だったが、私も良い名前だと思うのだよ」

 

子供のようにはしゃぐ2人にますますリリーとエルザムは苦笑を浮かべる。だが2人が喜んでいるので何も言えない。

 

「ヴァルシオンって事はやっぱりヴァルシオンの装備が使われているんですか?」

 

「勿論だ! 重力装備にクロスマッシャー、それにディバインランスなど、ヴァルシオンの装備も多数搭載している! それでいてゲッターチェンジも可能だッ!」

 

「すげえっ! それでパイロットは? バンさんとか、エルザムさんですか?」

 

「……現状私だけだ。だからゲッターチェンジは出来ない」

 

「あ、やっぱりそこは改善出来なかったんですね……」

 

興が乗って改造しすぎて、エルザム達も搭乗不可能となっているゲッターロボV。現状はヴァルシオンの重力装備とテスラドライブを搭載しているヴァルシオンのコックピットを流用したイーグル号のみが操縦可能となっている。

 

「なので今の段階ではゲッター2、3の形態は封印しているし、オープンゲットも出来ない。このまま改造するか、可変機能を戻すかが課題だな」

 

「それは実際に動かしてみないと判りませんね、多分オイラじゃ動かせ無いだろうでしょうし」

 

ヴァルシオンのコックピットを流用している段階で、ゲッターロボVは実質ビアン専用機となっている。ジャガーか、ベアーなら操縦できるがイーグル号は武蔵では操縦できないだろう。

 

「さてと、これで私の研究成果の報告は1度終わりだ。ハガネとヒリュウ改で何を見たのか、それを聞かせて欲しい」

 

「了解です、あ、それと……「判ってる、ゲッターロボのメンテも行う」すいません、お世話かけます」

 

「構わないさ、コーツランドの件は少しずつ捜索を始めている。少しばかりの時間の猶予があるのだからね」

 

コーツランド基地で失脚したシュトレーゼマン一派が動いている、それを防ぐ為にビアン達は動いている。だが今はまだ時間の余裕がある、それに武蔵を呼び寄せたのはコーツランドの件だけではないのだ。

 

「私の古い友人が南極で研究をしているのだがね、彼にも会ってほしいんだ」

 

「オイラがですか? でもオイラ馬鹿ですよ?」

 

「いや、武蔵君で無いと駄目なんだ。ゲッターらしい壁画が見つかったんだ」

 

「ゲッター……LTRとかいうやつでしたっけ?」

 

「LTRとはまた違うリ・テクと言うのだが……詳しくは私も判らない。明日会いに行く予定だ」

 

「判りました、何か判ればいいですね」

 

浅間山の地下に現れた早乙女研究所、古文書に残されたゲッターロボらしき姿、そして南極にもゲッターの影が存在しているのだった……

 

 

一方その頃アメリカでは……

 

「何者だね? 私に何か用かな?」

 

議員バッジを付けた男の前に立ち塞がる2つの影、アメフトの選手のような大柄な黒人の男と顔色の悪い小柄な男……コーウェンとスティンガーだ。

 

「いやいや、流石と言うべきですかなあ、この惨状を見ても眉1つ変えないとは、ね、スティンガーくぅん」

 

「う、うんうん、そうだよね。普通の人間なら顔を顰めるよね」

 

肉片と血塗れの駐車場、壁にめり込み死んだ遺体など常人ならば目をそむける光景の中でも、議員の男は眉1つ動かさなかった。

 

「私は忙しいのだ、単刀直入に言え」

 

「では、ぜひとも私達の話を聞いて欲しいのです、ねえ? ブライ議員殿。それともこう言いましょうか? 百鬼帝国大帝「ブライ」様?」

 

この世界では知らぬ名前を持ち出した2人に議員……ブライの顔が変わった。温厚な顔から、恐ろしい鬼の形相へと変わったのだ。

 

「……ふん、忌々しいゲッター線を引き連れた何者かと思えば、同類か」

 

「そうですとも、ゲッターに苦汁を舐めさせられた者同士……有意義な話し合いをしませんか?」

 

「ゆ、有意義な話し合いをしましょう!」

 

「ふん、良かろう、だがこの遺体の後始末がすんでからだ。お前達は命からがら私を救ったという筋書きだ、良いな?」

 

悪意の化身はコーウェンとスティンガーだけにあらず、かつてゲッターロボに敗れた者もまた、武蔵よりも前にフラスコの世界に現れているのだった……。

 

 

 

第64話 もう1体のゲッターロボ その2

 

 




新ゲッターロボ登場とブライが議員だったという話になります、正しOG1ではあんまり出てきませんのでそこの所はご理解よろしくお願いします。それと、次回はリ・テク組みとのオリジナルの話になります、コーツランドよりも先にリ・テクの話を書いていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第64話 もう1体のゲッターロボ その2

第64話 もう1体のゲッターロボ その2

 

マザーベースの出入り口近くで中年の男性とまだあどけなさを残す少年が鉢合わせた。互いに気まずい表情をしながらも男性の方が少年に声を掛けた。

 

「ジョッシュか、クリスはどうした?」

 

「あんたには関係ないだろ」

 

ぶっきらぼうなジョッシュの言葉にフェリオは口を閉じた。生まれてしまった実の息子との亀裂……研究者であるフェリオにはそれをどうすれば修正出来るのかわからかった。何とかしなければならないということは判っていてもどうすれば良いのかがフェリオには判らず、そしてジョッシュ……ジョシュア・ラドクリフも反抗期と義妹である「クリアーナ・リムスカヤ」の事もあり、父である「フェリオ・ラドクリフ」に不信感を抱いており、しかも滅多に顔を見合わせることも無いとなれば一度擦れ違った関係を元に戻す事は極めて困難だった。

 

「ジョッシュ、丁度良かった。今から私の古い友人が訪ねてくる、お前も一緒に出迎えてくれ」

 

「……なんで俺が」

 

「クリスの為だ。私だけでは限界が来た、だが彼の力を借りればクリスを元に戻す方法も、いや、クリスとリアナの人格をより安定させ、もっと良い生活をさせる事も出来るかも知れない……寝る間も惜しんで研究を続けてきたが……もう私1人では不可能なんだ」

 

「……親父の研究は、ファブラ・フォレースの事じゃ……」

 

「クリスの状態を調べる為に研究を進めていたが、最近はクリスの事ばかりだ。それで倒れていたんじゃあ何にもならんがな」

 

自分の父親が何をしているのか判っていなかった事、そして義妹が二重人格になったのにも関わらず今も研究でまともに顔を見せない父が疲労で倒れるまでクリスを元に戻す事、もしくは2人をより安定させる事だと……そして何よりも2人の事を案じていたフェリオの言葉にジョッシュが言葉に詰まっていると、上空から赤い影が2つマザーベースに向かって降下してきた。

 

「ジョッシュ、これから訪ねてくる男を見てお前は驚くだろう、だがマザーベースの建設にも協力してくれた人だ。決して失礼が無いようにな」

 

険しい表情に加え、珍しい強い口調にジョッシュは気圧され引き攣った表情で返事を返した。

 

「……わ、判った」

 

遠くに見えた紅い影が巨大な特機である事に気付いたジョッシュだが、それが目の前に着地した時。その顔は更なる驚愕に染まった……。

 

「お、親父ッ! あ、あの特機はッ!?」

 

「……驚いたな、まさか実物を見ることになるとは……」

 

並んで雪原に降り立った真紅の機体。鬼を思わせる頭部、ずんぐりとした新西暦の常識から考えると異質とも取れるそのシルエット……だがジョッシュとフェリオが驚いたのはそこではない、フェリオが人生を賭けて研究を続けているファブラ・フォレース、そしてフェリオの養女であるクリアーナが多重人格になった理由であるシュンパテイア……それが眠っている遺跡の壁画に描かれていた巨人。その姿と目の前に降り立った2機の機体が余りにも似ていて、そのことに2人は驚愕を隠す事が出来ないのだった……。

 

 

 

 

 

エルザムやゼンガー、勿論バンやリリー達も猛反対したのだが、武蔵とビアンは2人でクロガネを出発し、マザーベースに向かっていた。

 

『どうですか? ビアンさん。ゲッターロボVの試運転は?』

 

「うむ、悪くないな」

 

武蔵からの問いかけにビアンは冷静に返事を返したつもりだが、その声には隠し切れない喜悦の色が浮かんでいた。

 

「ヴァルシオンのコックピットを流用したお陰だな」

 

ヴァルシオンの重力装備とテスラドライブを流用したお陰だとビアンは告げる。新ゲッターロボはゲッターロボよりも性能が高いが、ゲッターロボにはパイロットの安全を度外視することが伝統にでもなっているのかパイロットの保護機能などは一切搭載されていなかったが、武蔵がヴァルシオンからコックピット部分を抉り出したお陰で、新ゲッターロボに重力装備と高性能なテスラドライブを搭載する事が出来ていた。

 

『テスラドライブって言うのは凄いんですね』

 

「ゼンガーやエルザムを正式にゲッターのパイロットにするならば、ジャガーとベアーにも搭載したい所だな」

 

単独操縦のゲッターにはやはり限界がある。エアロゲイターとの決戦に挑むのならば、やはり急ごしらえでも良いので3人のパイロットを揃えたいとビアンも武蔵も考えていた。

 

『それで、今向かっているマザーベースでしたっけ?』

 

「そうだ。南極に眠る遺跡を解析している基地でな、私の古い友人がそこの責任者を務めている」

 

『そうなんですか、じゃあビアンさんが訪ねて行っても大丈夫な理由って言うのがそこなんですね』

 

「ああ、あそこは連邦でもDCでもないからな、ある意味中立地帯と言える。そして私の知人で連絡が付いた3人の1人でもある」

 

リ・テクロジニストの「フェリオ・ラドクリフ」シュウと共にグランゾンを作り上げた「エリック・ワン」最後に浅草の「キサブロー・アズマ」の3人が今ビアンが連絡を取り付ける事が出来る人物の全てだった。

 

『やっぱり他の人は難しいんですかね?」

 

「大体は権力者や、軍の上層部だからな。だが表立って動けないだけで協力してくれていないわけではない」

 

コーツランド基地が怪しいと伝えたのはイスルギ重工だけではなく、穏健派や鷹派の軍人の多くだ。軍を私物化した、シュトレーゼマンに叛意を持つ軍人は決して少なくない。もしシュトレーゼマンの横槍が無ければ、地球を守る戦力は充実していたと思う者は少なくは無いのだ。

 

『友達って言うのはありがたい物ですね』

 

「全く持ってその通りだよ、さて、そろそろ着くぞ。先に降下する続いてくれ」

 

話をしている間にマザーベース上空に2機のゲッターロボは辿り着き、風を切り裂きながら雪原に2機のゲッターロボが地響きと共に舞い降りるのだった。

 

「ビアン博士、お久しぶりです」

 

「うむ、フェリオ博士も元気そうで何より。そこにいる少年は?」

 

「はい、私の息子のジョッシュアです」

 

「び、ビアン・ゾルダークッ!? なんでッ!?」

 

「ふふふ、私が生きていては不味い事でもあるかね?」

 

「だ、だってあんたは戦争を起こして「ジョッシュッ!!」……す、すみません」

 

ジョッシュの言葉を遮って叫ぶフェリオ。だがビアンは上機嫌に笑いながらジョッシュに視線を向ける、その顔は自分が悪く言われかけたにも関わらず本当に楽しそうだった。

 

「良い眼をしている。だが青いな、もう少し広く視野を持つことを勧める」

 

まさかの言葉に驚くジョッシュ。口を開こうとしたが、話は終わりと言わんばかりに視線を逸らしたビアンにそれ以上言葉を投げかける事は出来なかった。

 

「それでビアン博士、彼は?」

 

ビアンが連れている武蔵に不思議そうな顔をするフェリオ、そしてビアンは不思議そうな顔をしているフェリオに悪戯めいた表情を浮かべる。

 

「旧西暦、語られない歴史の生き証人と言ったら?」

 

「それはッ!?」

 

リ・テクロジニスト、そしてLTR機構が求めて止まない事実を知る者。本当ならば何を馬鹿なと言う所だが、遺跡に記された巨人と酷似した機体から現れた武蔵の姿にビアンの話の信憑性は一気に上がる。

 

「不慮の事故でのタイムトラベラーだ。武蔵君」

 

「あ、はい。えーっと巴武蔵です。フェリオさん? でしたっけ? よろしくお願いします……へっきしッ!!!」

 

丁寧に頭を下げる武蔵だが南極の寒さにくしゃみをする、それにビアンは苦笑しながらマザーベースの入り口に視線を向けた。

 

「立ち話もなんだ。中で話をしよう、色々聞きたいこともあるだろうからな」

 

「は、はい! ジョッシュ、後で館内放送を掛ける。そのときにクリスを連れてきてくれ、頼んだぞ! ビアン博士、武蔵君、こっちです」

 

リ・テクの人間として失われた歴史を知るチャンスを逃がすわけには行かない、フェリオはその顔に抑えきれない歓喜の色を浮かべビアンと武蔵を研究室へと案内する。そんな姿を見たジョッシュは呆れたような表情を浮かべ、いつ呼び出しが掛かってもいいように食堂にいるクリスの元へと足を向けるのだった。

 

 

 

 

 

フェリオの私室兼研究室に案内された武蔵は机の上や、壁にはられた写真を見て武蔵は首を傾げた。

 

「これ……ゲッターロボとドラゴンですかね?」

 

「確かに良く似ているな……こっちは……なんだろうな、東洋のドラゴンに見える」

 

フェリオが生涯を掛けて謎を解き明かそうとしているファブラ・フォレースの地下奥深くに残された壁画……そこに記されていたのは紛れも無くゲッターロボとドラゴンの姿だった。

 

「超古代文明の遺産だと思っていたんですけどね……旧西暦初期の機体だったんですね」

 

すこしがっかりした様子のフェリオ。超古代に存在した機械巨人だと考えていたのに、まさか旧西暦初期の機体だったとはフェリオにしても計算外だった。

 

「年代的に言うと、確かに旧西暦初期だが……フェリオ博士、忘れてはいけない。武蔵君は旧西暦から新西暦に現れているのだよ?」

 

ビアンの言葉に武蔵は首を傾げたが、フェリオはその意図を完全に読み取っていた。

 

「つまりこれから武蔵君が過去、この超古代時代に行く可能性があると!」

 

「可能性はゼロではない、ゲッター線は未知のエネルギーだ。何を引き起こすか判らない」

 

1度タイムスリップを引き起こしたのだ、2度目が無いとは言い切れない。

 

「武蔵君、もし過去に行ったら何を見たのか、何が起きているのか覚えてきてくれるかい?」

 

「え? あ、はい。頑張ります」

 

過去に行く前提だが、もしかしたら未来と言う可能性もあるが……武蔵は空気を読んでその言葉を口にすることは無かった。

 

「それでビアン博士が南極に来た理由ですが……コーツランドの件ですね」

 

「ああ。何か知っているかね?」

 

一通り武蔵の事を話し終えてからビアンが本題を切り出す、南極で暮らしているフェリオ達ならばより詳しいことを知っている筈だ。

 

「試作機の受け渡しを条件にシロガネに乗り込む事を許可しようとか言ってましたね。勿論断りましたが」

 

「試作機……地下遺跡で見つけたシュンパティアの搭載機だったか?」

 

「はい、まだフレームが完成しただけで、装甲も搭載していないと言う事を見せて引き下がって貰いました」

 

フェリオの悪戯めいた表情、それはシュトレーゼマンの一派が来ると判った段階であえて装甲を1度外したのだろう。

 

「大胆な手を打ったな。自衛機すらもないのではないか?」

 

「古代文明の遺跡に乗り込んでくる馬鹿はそういないですからね。それにシュンパティアも調整段階なのでどっちみち動かせないです」

 

笑いあうビアンとフェリオに1人蚊帳の外の武蔵は壁に張られている写真を見て歩いていた。

 

「シュンパティアによって、もう1つの人格……魂の生成か……元よりシュンパティアにはそういう機能があったのではないか?」

 

「私とジョッシュも接触していますが、それらしい兆候は無いのです」

 

「となると、クリスの資質と言う事か……互いの人格は把握しているのかね?」

 

「はい、良く2人で話をしているようです。私としては可能ならば、クリスとリアナの人格を維持したままにしてやりたいと思っています。」

 

「ふむ、通常の多重人格の治療ではない方向で行きたいわけか」

 

「クリスもリアナも私に取っては愛しい娘ですので、片方を殺すなんて事は出来ません」

 

「確かにな、だがそれだけ娘を愛しているのならば息子も可愛がってやるべきだ」

 

「反抗期みたいでしてね、どう接すればいいのか判らないのです」

 

「相変わらず不器用な男だよ、お前は、息子と何をすればいいかなど決まっているだろう? キャッチボールだ」

 

「ははは、不器用具合で言えばビアン博士もいい勝負でしょう? 戦争を起こすくらいなのですから」

 

「ははははッ!! これは一本取られたなッ!!」

 

難しい話を始めたビアンとフェリオ、途中で親としての話も混じっているので武蔵はますます蚊帳の外になったので壁に貼り付けられている写真を見つめていた。

 

「本当にゲッターに良く似てるなあ……」

 

ドラゴンやゲッターに酷似した壁画の写真を興味深そうに見つめていた武蔵。だがその写真をジッと見つめていた武蔵は何かに気付いてその写真を壁から引き剥がした。

 

「フェリオさん、ビアンさん、ちょっとすいません」

 

机の上に並べられている写真もひったくるようにして集める。すると今度は床の上に写真をばら撒いて、あーでもないこーでもないと言って写真を反転させたり、斜めにしたりして並べ始める。

 

「武蔵君、何をしているんだ?」

 

「いや、じっと見つめていたら……おかしいなと思って、えっとこれはこれか」

 

ビアンの問いかけに返事を返しながらも武蔵は写真を並べ続け、そして10分ほどで立ち上がる。

 

「フェリオさん、この壁画ってこう見るのが正しいんじゃないですかね?」

 

上下反転させたり、左右の向きを変え、写真を半分に切ったりしながら並べられた壁画の写真……今まで場面違いでしるされていると思っていたのだが、それは違っていた。

 

「これは……1つの場面なのか」

 

「1つの場面は良いが……これは……まるで」

 

「ゲッターが何かを地球に閉じ込めた……みたいに見えますよね。しかも馬鹿でかいゲットマシンみたいのがいますよね……?」

 

武蔵が壁画の見方を大きく変えていた。正面から見ている絵が反転してみる物であり、そしてその間にはまた別の壁画が入る。ゲッターロボとドラゴンらしき絵の間隔は大きく開いていて、その間には巨大な何かがある。何枚もの壁画に渡りその姿を映している巨大なゲットマシン……それが同じく巨大な異形や地球よりも大きな戦艦に攻撃を繰り出しているように見え、ドラゴンやゲッターロボはその巨大なゲットマシンの護衛機のようにも見える。

 

「一応聞いておくが、これだけ巨大なゲットマシンは……見たことあるわけがないな」

 

見たことあるかとフェリオが尋ねようとしたが、武蔵の反応を見れば見た事が無いと言うことは明らかだった。

 

「ビアン博士、これをどう見ますか?」

 

「見た通りで言うのならば、凄まじい戦争にゲッターロボが参加していたようにしか見えないな」

 

地球が小規模に見える宇宙戦争……それにゲッターロボが参加していたようにしか見えない。小さく見える青い星は間違いなく地球であり、外宇宙を舞台にした星間戦争がかつて起きていたとでも言うべき壁画の姿にビアン達は驚愕を隠せない。

 

「ゲッターロボとは、ゲッター線とは一体何なのだ……」

 

「判りません、早乙女博士は人類に進化を促したエネルギーって言ってましたけど……」

 

余りに自分達の理解を超えた壁画を見て、ビアンも武蔵もゲッター線が何なのかと言う事を考え始め、フェリオは武蔵が並べた写真を別のカメラで熱心に収めていた。

 

「な、何だ!?」

 

「敵襲かッ!?」

 

だが謎を解明している時間はビアン達に与えられる事は無かった、突如マザーベースを襲った揺れと非常警報。

 

「そんな、ありえないッ! マザーベースを襲う旨みはない筈だッ! 今までこんな事は無かったッ!」

 

「フェリオ! 叫んでいる暇があったら研究員をシェルターに避難させろッ! 武蔵君行くぞッ!!」

 

「判ってます!!」

 

マザーベースに自衛機は今存在しない、マザーベースを、そして地下の遺跡を破壊させる訳には行かないと武蔵とビアンはフェリオを研究室を飛び出し、外の格納庫に収容していたゲッターロボの元へと走るのだった……。

 

 

 

 

武蔵とビアン……いや、ゲッターロボがマザーベースに降り立った時から「それ」は動き出していた。南極の分厚い氷の下に封印されていた「それ」に内蔵されていたゲッター線測定装置は機体の機能が停止しても、その活動を止めてはいなかった。

 

ゲッター線反応確認……

 

ゲッター線指数……780を計測、全武装の安全装置を解除、動力の再起動を開始します。

 

■■再起動します……。

 

戦闘AI再起動、動力イエローゾーンで再起動しました。

 

ゲッター線反応を感知、現在地より西北西に3800kmにゲッター線反応を3つ確認。

 

同部隊α2~17再起動せよ、再起動せよッ!!

 

α4、α15、α13再起動します。

 

他のナンバーの再起動命令は遮断されました。

 

17体存在するはずの部隊の内、返答があったのは僅か3体。精鋭部隊だった……だがゲッターロボには勝てなかった。

 

ゲッター線を排除せよ。

 

ゲッター線を排除せよッ!

 

ゲッター線を排除せよッ!!!

 

これ以上ゲッター線に宇宙を汚染させてはならないッ!

 

ゲッター線指数が弱い今ッ! 

 

新たに生まれたゲッターロボを破壊するのだッ!

 

ゲッターロボを許すなッ!

 

ゲッター線を許すなッ!!

 

我らの母星を滅ぼした悪鬼を許すなッ!!

 

戦え……。

 

戦え……ッ!

 

戦え……ッ!!

 

南極の分厚い氷の下で大きな鼓動が響く、機体が熱を放ち自身を閉じ込めている氷の棺を内側から溶かしていく……。

 

「ガオオオオオンッ!!!」

 

そして何百年……いや、何億年と言う眠りから目覚めた太古の鬼神が南極の大地を引き裂き、その姿を現す……。

 

その姿は蜂のような姿をし、体のあちこちを欠損した機械の兵隊はまるでゾンビのように南極の大地から次々と姿を現すのだった……。

 

 

 

第65話 もう1体のゲッターロボ その3へ続く

 

 




今回の話で出現した敵は文庫版ゲッターロボGより、蜂のような昆虫機械となっております。なおフェリオとマザーベースの件は、若干ふわふわしてますが、お許しください。シナリオを見直したんですけど、あれ?って自分でなってますので、原作よりも早い段階での登場はここが怖いですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第65話 もう1体のゲッターロボ その3

第65話 もう1体のゲッターロボ その3

 

マザーベースの中に響く警報にその中で働く職員は血相を変えて、シェルターへと走る。確かにリ・テクは他の研究施設と比べてもその利用価値は決して高いとは言いがたい、それでもその中には失われた歴史に関係する物もあり国家反逆者に知らない内に仕立て上げられる事もそう珍しくは無い。ある意味なれていると言う俊敏な動きで職員達はシェルターへと駆け込んでいく。

 

「大丈夫か、クリス」

 

「だ、大丈夫だよ。お兄ちゃん」

 

だがジョッシュとクリスの2人には初めての事で、その振動に四苦八苦しながら2人で必死にシェルターに走る。

 

「ジョッシュ! クリスこっちだ!! 早くッ!! フェリオ博士は何をしているッ!?」

 

先にシェルターの中に駆け込んでいた顔色の悪い白衣の男が2人を必死に呼ぶが、その時に一際強い振動がマザーベースを襲い、崩れた天井がジョッシュとクリスの頭上に落下する。

 

「クリスッ!!」

 

咄嗟にジョッシュは義妹であるクリスを庇ったが、その直後に緊急電源に切り替わった薄暗い通路に雄叫びが響いた。

 

「どりゃあああああッ!!!」

 

鋭い金属音と共にジョッシュとクリスの頭上に落ちかけていた天井は両断され、2人の目の前には武蔵の背中が広がっていた。

 

「あ、武蔵……さん」

 

「間に合って良かったぜ、それよりよく妹を守ろうとしたな。偉いぞジョッシュッ!! フェリオさん! ジョッシュ達がいましたッ! もう逃げ遅れている人はいませんよッ!!!」

 

「良かったッ! 武蔵君すまないッ!!!」

 

白衣を鮮血に染めながら走ってきたフェリオ、その姿に放送室で避難を促した後逃げ遅れがいないか必死に探していたのは明らかだった。

 

「ああ、ジョッシュ、クリス、リアナ……無事で良かった」

 

「親父……」

 

「お父さん……」

 

自分の方がよっぽど酷い有様なのに自分達が無事だった事に安堵し、抱きしめてくるフェリオにジョッシュもクリスもフェリオの背中に手を回す。

 

「フェリオさん、ジョッシュたちとシェルターへ、後はオイラとビアンさんに任せてください」

 

「……武蔵君、頼んだ」

 

力強く返事を返した武蔵はそのまま格納庫へと走っていく、残されたフェリオ達はシェルターに足を向けようとするが……。

 

「ぐっ……」

 

「大丈夫かッ!? 親父ッ!」

 

「学者が無茶をしたからな、こりゃ、明日は筋肉痛だな。すまん、ジョッシュ、クリス肩を貸してくれ」

 

ここまで走ってきたフェリオの体力は怪我の事もあり、限界を超えていて、ジョッシュとクリスの2人に肩を借りて、やっとシェルターへと避難する事に成功し、隔壁がシェルターの姿を覆い隠す。

 

「大丈夫? お父さん」

 

「ああ、心配ないよクリス。リアナにも言ってくれ、私は無事だ。少し切ったのと、瓦礫が足に当たっただけだ。問題ない」

 

問題ないと言うフェリオだが、座り込んでいるシェルターの床は徐々にフェリオの身体から流れる血に紅く染め上げられていた。

 

「ちょっと待ってろ親父ッ! 今医者を呼んでくるッ!! クリスは親父が意識を失わないように声を掛け続けていてくれッ!」

 

シェルターの中とは言え、緊急電源では暖房も十分に効果を発揮しない。徐々にその顔が青白くなっているフェリオに背を向け、避難している研究員の中から医者を探しに走るジョッシュとフェリオの手を握り、声を掛け続けるクリス。

 

本来の歴史では擦れ違ったままとなっていたジョッシュ達、だが奇しくも謎の襲撃者によってその擦れ違っていた家族が再び1つになろうとしていたのは何と言う皮肉なのだろうか……。だが、これがジョッシュ達の運命を分けることになろうとは今は誰も想像もしないのだった……。

 

 

 

 

 

格納庫から出撃したゲッターロボとゲッターロボV。操縦席のモニターに映る敵を見て武蔵もビアンも困惑した。

 

「ビアンさん、あれ……エアロゲイターですかね?」

 

『判らない、エアロゲイターの機体にしては随分と古臭い姿をしているが……』

 

3体の蜂のようなロボットが中空を旋回しながらゲッターロボとゲッターロボVを威嚇している。

 

『半壊しているな……武蔵君、もしかするともしかするぞ』

 

「オイラみたいな時間漂流者って事ですか……どう見ても友好的じゃないですけどね」

 

ゲッターロボ達を見てその目を真紅に光らせている姿を見ればどう見ても友好的ではない、それにその身体は半壊している者が多い。それを見て武蔵とビアンの考えは固まった。

 

「『侵略者だな』」

 

武蔵とビアンの声が重なった。マザーベースの地下にある壁画でゲッターロボは惑星間で戦争をしていた、つまりあの蜂は負けて墜落してきたのをゲッターロボのゲッター線に反応して再起動したのだろう。

 

『行くぞ武蔵君ッ!』

 

「了解ッ!」

 

同時にマントを展開するゲッターロボとゲッターロボVだが、ゲッターロボVのマントはボロボロで穴の空いている部分もある。※ビアンの趣味が100%反映された姿である。

 

「行くぜっ! ゲッタートマホークッ!!」

 

『ディバイントマホークッ!!』

 

ゲッターロボのトマホークとVのトマホークの違いはディバインアームの技術を応用した三日月状の刃を2つ持つ長い柄の斧と言うことだ

。遠心力を生かし、長いリーチで相手を粉砕すると言う目的で建造されており、その形状上トマホークブーメランとして扱う事は出来ないが、その長いリーチも、柄の中ほどの部分から伸縮する機能が搭載されている為外見以上の長いリーチを持っていると言う品だ。

 

「トマホークブー……ぐおッ!?」

 

『武蔵君ッ! ぐっ!? は、速いッ!?』

 

先制攻撃と言わんばかりに斧を投げ付けようとした武蔵だが、それよりも先に蜂の頭部から放たれたビームに弾き飛ばされ、流氷に背中からぶつかり、もやの中に消える。その事に驚いたビアンの一瞬の隙を突いた蜂が尾から刃を出してVに突撃し、Vもまた氷海の中に消えた。

 

「なろおッ!! ゲッタービィィィムッ!!!」

 

だがマザーベースを守る為に即座にゲッターは体勢を立て直しゲッタービームを放つ。だが蜂……両腕がシールドになっている個体が展開したエネルギーフィールドに弾かれ、ゲッタービームは霧散した。

 

「やべえ、ゲッタービームを無効化する奴なんて初めてみた……」

 

『対ゲッターロボと言うことか……しかも速さも攻撃力も上だ』

 

短い邂逅だがその戦力を肌で感じた武蔵とビアンは驚愕した。相手はたった3体だが、その性能はゲッターロボを遥かに越えていた。もしも、あの壁画の通りならばゲッターロボ、ゲッターロボGよりも更に後継機のゲッターロボが相手をしていた敵となる。操縦桿を握り締める武蔵とビアンの手にも力が入る……だが蜂(盾)は2機の半壊している蜂に視線を向け、紅いカメラアイを何度も光らせる。すると、片腕が大破している蜂はゲッターロボ達に背を向け、南極の空に消えて行った。

 

「待てッ!」

 

『待つんだ武蔵君ッ! 今は私達の事を考えるべきだ』

 

ビアンの制止の声に追いかけようとした武蔵の動きは止められる事になった。確かに相手は強力だ、だがゲッターロボが南極に現れるまで何の反応も見せなかった――そこがビアンには気になっていたのだ。

 

『行方不明のゲッターロボGの元へ向かったのかもしれない、もしくはあの2機で十分と判断したのかもしれない……それは判らないが、今は敵が減った事を喜ぶべきだ』

 

ゲッター線に反応するのならば、高確率でゲッターロボGの元へ向かっているだろう。行方不明のゲッターロボGを発見するのにも役立つ、ビアンの考えではシュトレーゼマンの一派が回収していると考えていた為、南極のどこかに潜伏しているシュトレーゼマンのシロガネを発見する為にあの機体は泳がしておく方が良いと判断したのだ。

 

「判りました……後はあの機体を撃墜する事だけですね」

 

『ああ、だが細心の注意を払うべきだな』

 

両腕が鎌のようになっていたのだろうが、それが中ほど折れている個体と盾の個体。先ほど姿を消した個体と比べると損傷は軽微だが、それでもあちこちがへこんでいる事を見ると万全ではないのは明らかだ。

 

『向こうもペアだ、武蔵君。突っ込み過ぎないように注意してくれ』

 

「了解です、それで作戦は?」

 

武蔵の問いかけにビアンの返答は決まっていた、軽く分析しただけで見誤っている可能性はある。だが盾つきはゲッタービームを弾くほどの防御力を有していた、だがその反面攻撃力に乏しいのではないか? と言うのがビアンの考えだった。

 

『相手の出方を見る、まずは鎌の固体を狙う。盾の個体に武器があるのか知りたいからな』

 

相手は未知の存在だ、だからこそ情報を集める事を決めたのだ。敵の数が3体と言う中途半端な数……まだ他の個体がいる可能性があることを考え、少しでも敵の情報を集める事を最優先にした。

 

『向こうがゲッターを追ってくるのならば、マザーベースから離れクロガネと合流する。決して先行しすぎず、敵の情報を集めるぞ』

 

「了解です、ビアンさんも無茶をしないでくださいね」

 

ゲッターロボの飛行訓練がまさかの戦闘、しかもゲッターロボよりも遥かに強い敵。武蔵はビアンに無理をしないように告げ、両手にゲッタートマホークを持ち、鎌の個体に向かってゲッターロボを走らせるのだった……。

 

 

 

 

マザーベースの周辺から戦いの舞台は周りに建造物の無い氷上に移行していた。マザーベースを巻き込む心配もなく敵と戦う事が出来るとなれば膨大なエネルギーを持つゲッターロボとゲッターロボVが有利となる……筈だった。敵も2体、ビアンと武蔵も2体……条件は同じだが、余りにも敵とゲッターロボの性能の差には大きな開きがあった。

 

『ちいッ! 硬いし速いッ!』

 

「!!!」

 

『オープンゲットッ!!』

 

カメラアイから放たれた光線をオープンゲットでかわしたゲッターロボは空中でゲッター2にチェンジし、両腕が鎌の個体に突撃する。

 

「!」

 

『ビアンさんッ!』

 

「ミサイルランチャーッ!!!」

 

ゲッター2の突撃をかわした鎌の個体にゲッターロボVのミサイルランチャーの一斉射撃が放たれる。だが命中する寸前に盾の個体が間に割り込んで、ミサイルの嵐をエネルギーシールドで完全に防いだ。

 

『……結構厄介ですね』

 

「ああ、鎌の個体はさほど素早くないが……盾の個体が厄介だな」

 

鎌の個体の素早さの低さは半壊している事が原因だろうが、外見がへこんでいるだけで万全な状態の盾の個体の素早さが余りにも高く、近接攻撃もエネルギー攻撃も駄目と武蔵とビアンは攻撃する手段のその大半を盾の個体1体に封じ込められてしまっていた。

 

『その変わり、攻撃力はさほどと言うか……殆どないみたいですね』

 

盾の個体は強固な防御能力を持つが、その半面攻撃は頭部から放たれる威力の弱いビームだけだった。それに対して鎌の個体はゲッターロボの装甲を溶解させるほどの威力のビームと直接攻撃とエネルギー刃を飛ばすの3種類でどれも攻撃力が高い。

 

「何とかして盾の個体を潰す、武蔵君。何かいいアイデアはあるか?」

 

『気合を入れて殴るしか思いつきません』

 

武蔵の返答にビアンは苦笑しかけたが、それはあながち間違いではないかもしれないと感じた。盾の個体の攻撃力が低いというのはビアンの分析ミスで、基本的な攻撃力は鎌の個体と差が無いのかもしれない。それでも防衛機としてのプログラムを優先し、鎌の個体を守ることを再優先にしている可能性は十分にある。

 

(試してみるか……)

 

互いに決め手は無い、いや、決め手はあるが……それを発動させるには些か時間が掛かる。だが武蔵1人に囮を頼んでいいものかとビアンが逡巡したその時、上空から光の矢が蜂に向かって降り注いだ。

 

「これはッ!?」

 

『見たことあるぞッ!? まさかッ!?』

 

ゲッターロボとゲッターロボVが顔を上げる、そこには2人の脳裏を過ぎった特機の姿があった……。

 

『ククク……お久しぶりですね、ビアン博士、そして武蔵君。随分と面白いことをしているじゃないですか……私も混ぜていただけませんか?』

 

「ギギ……ギギィ……」

 

最初にこの空域を離脱した蜂がボロボロになって氷上に叩きつけられる――そしてそれを行った機体、重力の魔神「グランゾン」がゲッターロボとゲッターロボVの上空に静止する。

 

『シュウさんも元気そうですね』

 

『ええ、武蔵君も元気そうで何よりです』

 

「シラカワ博士、何故ここに……」

 

武蔵はアイドネウス島から姿を見せなかったシュウの事を案じていたが、ビアンは何故急にグランゾンとシュウが現れたかの方が気になっていた。

 

『なに、あの奇妙な生き物が襲ってきたのでね。その生物の反応を辿ってきたらここに辿り着いたと言う事です』

 

まさかビアン博士達に会うとは思っても見ませんでしたがねと笑うシュウ。

 

『それで手助けは必要ですか?』

 

「頼めるかね?」

 

『勿論、では武蔵君。私とコンビと言う事でよろしいですね?』

 

『勿論です! よろしくお願いします』

 

グランゾンとゲッターロボがコンビを組めば、向こうもそちらに集中しなければならない筈だ。グランゾンの多角的攻撃と、ゲッターロボの超火力。それを前にして、他の機体に気を割いている時間は無い。

 

「3分だ、3分間の間足止めを頼む」

 

『ククク、足止めと言わず倒してしまっても良いのでしょう?』

 

「私にも見せ場を残しておいてくれと頼んでいるのだよ」

 

ビアンの言葉にシュウは更に楽しそうに笑い、了解しましたと返事を返し虚空からグランワームソードを召喚し、ドリルを構えるゲッター2と共に蜂に向かって行く。

 

「良し、今の内だ」

 

ゲッターロボVには重力装備・そしてゲッター炉心……新西暦と旧西暦の技術の粋を集めた、言うならば旧西暦と新西暦のハイブリットとも言える機体だ。それゆえに重力装備とゲッター炉心の兼ね合いによって生まれた新しい機能も搭載されている。

 

「重力エンジンの出力を80%に固定、ゲッター炉心の第1、第2リミッターの解除の後出力を120%に固定」

 

ゲッターロボVがビアンにしか操縦できない理由はヴァルシオンの高度な重力制御を出来るのがビアンのみというのが非常に大きい、その機能をOFFにすればエルザムやゼンガーでも操縦は可能だが、重力エンジンを停止させればVの出力は格段に落ちる。それゆえに重力機能を操作できるビアンの実質専用機となっているのだ。

 

「オメガ・グラビトンウェーブ充填開始ッ!」

 

重力エンジンによって生み出される重力をゲッター線によって増幅させ、ヴァルシオンのメガグラビトンウェーブを上回る高出力・そして広範囲に及ぶ重力攻撃の充填が始まり、ゲッターロボVの姿は眩いまでのゲッター線の輝きに包まれるのだった。

 

 

 

 

 

盾の個体が厄介だと判断したシュウはワームスマッシャーによる全方位攻撃を仕掛けた……のだが。

 

「ふむ、中々厄介な機体のようですね」

 

煙の中から姿を見せた盾の個体は信じられない事に無傷だった。盾は外見上正面にしか展開されないのだが、どうやら全方位に発動する機能を持っていたようだ。

 

『ドリルアームッ!!!』

 

「!!!」

 

鎌の個体と武蔵はグランゾンが盾の個体と戦っている事もあり、1対1になっていたがやはりそちらも決め手不足に陥っていた。

 

『チッ! ゲッタービジョンッ!』

 

「!!」

 

残像を残しながら氷上を駆けているゲッター2、センサーにも反応を残すほどの高性能な分身だ。だが鎌の個体は正確にゲッター2本体だけを追いかけている――やはりビアンの推測通り対ゲッター用に作成された機体なのだろう。

 

「さて、ビアン博士にも見せ場を残す必要がありますし……やり過ぎないように注意をしますか」

 

グランワームソードを振りかざし、ワームホールに突入したグランゾンは盾の個体の背後に瞬間移動し、グランワームソードを上段から振り下ろす。だが、グランワームソードの一撃は不可視のシールドに弾かれた。

 

「!」

 

「おっと危ない」

 

盾の個体の首が回転するのを確認すると同時に再びグランゾンはワームホールの中に姿を隠し、完全な死角から突きを放つのだが……。

 

「ふむこれも反応しますか……」

 

「!!!」

 

反応速度が相当速いのか、その一撃も僅かに切っ先が刺さっただけで防がれてしまった。

 

「さて、これほどの機体となると壊すのは惜しくなってきますね」

 

倒すだけならばグランゾンの戦力を持ってすれば簡単な話だ。相手のエネルギーが切れるまでワームスマッシャーを続ける、ブラックホールクラスターを使う等の破壊する手段は幾らでもある。現にグランゾンは既に半壊した個体とは言え、破壊しているのだ。例え健在だったとしても、グランゾンならば破壊することは容易い。だが破壊してしまえば、あの蜂の機体の能力を解析出来ない可能性を考えれば破壊することは得策ではない。

 

『ドリルハリケーンッ!!』

 

「!!!」

 

ゲッター2のドリルから放たれた竜巻が鎌の個体に向けられる。だが鎌の個体はその竜巻に自ら突っ込み竜巻を突破してゲッター2にエネルギー刃を振るおうとする。

 

『オープンゲットッ!!』

 

命中する寸前にゲッター2はゲットマシンに分離し、鎌の個体の頭上でゲッター3にチェンジし、ジャガー号による押し潰し攻撃を仕掛ける。

 

「!!!!」

 

『なろおおおーーーッ!! 大人しく潰されろッ!!!』

 

鎌の個体は鎌を収納し、両手を出現させるとゲッター3のキャタピラ部を掴んで押し潰されるのを必死に防ごうとする。

 

「!」

 

「おっと貴方の相手は私ですよ、ワームスマッシャー……発射ッ!!」

 

僚機の危機を感じ取り、グランゾンに背を向ける盾の個体だが、それは完全に悪手であった。背を向けた瞬間放たれたワームスマッシャーの弾幕にシールド事盾の個体は氷上にめり込む。

 

「ふむ、中々の強度ですね。ここまで頑強な相手は初めてですよ」

 

ワームスマッシャーの弾雨から逃れる為に自ら片腕を捨てて、ワームスマッシャーから逃れた盾の個体。片腕を失っているが、まだ健在と言う呆れた耐久力にシュウは苦笑いを浮かべた。

 

『どっせーいいいッ!!!』

 

だがその後に響いた武蔵の声に苦笑いではなく、今度は本当に笑ってしまっていた。確かに鎌の個体の方がゲッターロボよりも高性能であった、だが完全にイニシアチブを取られてしまえば半壊しているその姿ではゲッターに再び優位を取るのは難しかったのか、ゲッターアームに胴体を縛り上げられた鎌の個体はやっとの思いでワームスマッシャーから離脱してきた盾の個体に向かって投げ飛ばされた。

 

「「!?!?」」

 

凄まじい衝突音と爆発音、更に其処に追撃にと叩き込まれたゲッターミサイルによって2体の姿は完全に煙の中に消える。

 

「武蔵君、やりすぎではないですか?」

 

『いや、大丈夫ですよ。効いてません……』

 

煙の中から姿を見せるのはエネルギーシールドで盾と鎌の個体は互いがぶつかり合った事によるダメージは受けている様子だったが、ゲッターミサイルのダメージは全く受けていない様子だった。だが、ゲッターミサイルによる足止め――それが盾と鎌の個体の命運を分けていた。

 

『武蔵君、シラカワ博士、そこから離脱しろッ!』

 

ビアンからの通信にゲッター3は氷上を砕きながら盾と鎌の個体から離脱し、グランゾンはワームホールの中に消えた。

 

『オメガ・グラビトンウェーブ発射ッ!!!』

 

黒と翡翠の輝きが混じりあった光線が盾と鎌の個体の上空を通過し、その次の瞬間盾と鎌の個体は氷塊に叩きつけられる。

 

「「!!!!」」

 

もがきながら浮き上がろうとするが盾と鎌の個体は2度と浮かび上がる事はなく、分厚い氷塊の中でその真紅のカメラアイから光が消えた。

 

『ふう、何とか威力のコントロールが出来たみたいで何よりだ。しかし、駄目だな。オーバーヒートしている、再起動は難しそうだ』

 

『まだ試運転の段階でしたからねえ』

 

ゲッターロボVはオメガ・グラビトンウェーブを発射した態勢でオーバーヒートを起こし、そのカメラアイからも光が消えていた。

 

「なるほど、試作機でしたか……では後ほど調整を手伝いますよ」

 

『すまないな、シラカワ博士。それとすまないついで悪いが、あの蜂の機体の頭部を切り落としておいてくれ、再起動しないようにな』

 

南極の大地から現れた謎の機体との邂逅戦は無事ビアン達の勝利と言う結果に終わったが、新たな謎がビアン達の元に残されたのだった……。

 

 

 

 

 

南極の上空に佇む漆黒の機体……アストラナガンの中でイングラムは小さく溜め息を吐いた。南極の大地から現れた謎の機体……その機体の反応はアストラナガンが察知し、偵察の為に南極の近くまで来ていたのだ。

 

「……見覚えの無い機体だ。虚憶に関係しているのか……?」

 

南極には決して目覚めさせてはいけない遺産が眠っている――南極の周辺に現れた未知の反応に察知し、まさかと思ったのだが……実際は違っていた。

 

「……時が早いのか、それともユーゼスもまた虚憶に囚われているか……何にせよ、もう少し様子見が必要だな」

 

バルマーはアストラナガンの反応を察知している、生憎「この世界」では完成する事無く、プロト・アストラナガンが建造されただけに留まっているが、それは当然だ。「アストラナガン」は「イングラム」がいなければ生まれる事はない、そしてイングラムがまだネビーイームにいるときにバルマーで開発しようとしても暴走と言う結果で終わるのは当然の事だ。

 

「さて、それでお前は俺が作ったアストラナガンか? それとも暴走してこの世界の時空の狭間に消えたアストラナガンか?」

 

イングラムの問いかけにアストラナガンは答えない、だが一際大きく動力を稼動させる事を返事とした。

 

「態々聞くなと言うことか。判った、ならば聞かない。そのかわり俺と共に戦って貰うぞ」

 

今度の振動は優しく、任せろと言わんばかり優しい振動がコックピットに響き渡る。

 

「ゲッターロボGを抱え込んでいるあの狸がそろそろ動くな、出来る事ならば武蔵に託したい所だが……嫌な予感がする」

 

ハガネとヒリュウ改が回収したドラゴン、ライガー、ポセイドンはネビーイームに送り届けた。だがゲッターロボGはシュトレーゼマンの息の掛かった軍人によって既に運び出され、そして消息を絶っている。

 

「愚かな事だ」

 

ゲッターロボは新西暦の人間では操れない、それこそ特別な装備が必要だ。それなのに、ドラゴンを持ち出し隠したシュトレーゼマンに愚かしいとイングラムは嘲笑を浮かべる。

 

「……だがゾヴォークやゼ・バルマリィに渡すわけにも行かない」

 

ゲッターロボはこの世界が生まれる前の世界で様々な戦いを切り抜けた。ゲッターロボは善でもあり、悪でもある。その恐ろしい戦闘力は地球以外の外宇宙のありとあらゆる場所に伝承として伝わっている。だがそれと同時にゲッターロボの存在を誰もが求めているのだ。その凄まじい力を、僅かな量で膨大なエネルギーを生み出すゲッター線を求めているのだ。

 

「ゲッター線め、1度消えたのに、再びこの世界に手を伸ばすとは……お前は何を考えている」

 

武蔵をこの世界に送り込み、早乙女研究所をこの世界に次々と生み出したゲッター線は再びだんまりを決めているが、間違いなくゲッター線……いや、究極のゲッター「ゲッターエンペラー」は地球を、いや、このフラスコの世界を見つめている。

 

「……出来る事を1つずつ潰していくしかあるまい」

 

まずはゲッターロボGを発見する事、そしてシュトレーゼマンをゾヴォーク接触させない事……そして最も重要な事がある。

 

「リュウセイ達を鍛え上げる事」

 

これからの戦いは激化する。この世界はその定めの中にある、その中の中心となるリュウセイ達を鍛え上げる事が最も重要な事だとイングラムは考えていた。

 

「時間はさほど残されていないが……出来る限りの事はやらせてもらう」

 

アストラナガンは翼を大きく広げ、再びその姿を消す。再びアストラナガンが現れた時……それが大きくこの世界の命運を変える瞬間である、その時まではまだアストラナガンもイングラムもまた表舞台に出ることは出来ないのだから……。

 

 

第66話 もう1体のゲッターロボ その4へ続く

 

 




漫画では偉いあっさり撃破されてしまったのでふわっとした感じになりましたが、多分旧ゲッターでは勝てない強敵なので重力で封じ込めて、エネルギーが底を突くまで拘束するという形で決着となりました。次回は氷の国の箱舟に入る前のインターミッション、そして氷の国の箱舟は「ゲッターロボ」「ゲッターロボV」「グランゾン」「クロガネ」「ガーリオン・トロンベ」「グルンガスト零式」の6体の味方でお送りしたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第66話 もう1体のゲッターロボ その4

第66話 もう1体のゲッターロボ その4

 

謎の蜂型機動兵器を撃破したビアン達は改めてマザーベースの格納庫にゲッターロボを収納し、マザーベースに降り立った。

 

「シュウさん、お久しぶりです」

 

「ええ、お久しぶりです。アイドネウス島以来ですね、ビアン博士も元気そうで何よりです。あの戦いでヴァルシオンが大破したのでまさかと思いましたが……改めて考えても見ても武蔵君がビアン博士を殺すとは思えませんでしたし、生きていると思っていましたよ」

 

「私もあの時は死を覚悟した物だ。連続のゲッターチェンジには驚かされたよ」

 

「いやあ、すんません。派手さでダイテツさんを誤魔化すにはあれしかないと思いまして」

 

武蔵の言う事も最もだ、ハガネはDCの撃破を命じられていた。目に見える方法でビアンを救出したのでは引渡しを要求されるのは目に見えていた。そう考えれば、武蔵の方法は荒っぽいがビアンを助けるという意味では正解だった。

 

「ビアン博士、武蔵君。お陰で助かりました」

 

ジョッシュに肩を借りて格納庫に来たフェリオ。肩を貸しているジョッシュは呆れ顔でビアン達に声を掛けた。

 

「俺とクリスが幾ら言ってもあの蜂の機械を見ると言って聞かないんだ。ビアンさんからも言ってください」

 

ビアンから止めてくれればフェリオも大人しく養生する。そう思っての助けてくれと言う言葉だったが……。

 

「ジョッシュ君。それは無理だよ、研究者は目の前に調べる物があれば止まる事など出来ない。ある程度調べさせたら、医療室に案内する。まずは好きにさせてやって欲しい」

 

「……研究者って皆馬鹿なんですね」

 

「なんだ、ジョッシュ知らないのか? 研究者はな、皆頭が良いくせに大馬鹿者なんだよ」

 

ハハハハっとハイテンションで笑う馬鹿2人+αにジョッシュは酷く疲れた表情をする。そしてそんなジョッシュを見ながら武蔵は彼の肩を叩いた。

 

「オイラ難しい話判んないし、腹減ったからさ。食堂とかない?」

 

「……今、案内します。親父、少し落ち着いて行動……「すげえッ! なんだこの金属はッ!」「分析せずにはいられないッ!!」馬鹿ばっかりかッ! ちくしょうッ!!!」

 

ビアンとフェリオのテンションが一気に100%を突破し、ジョッシュは思わずそう叫び武蔵がその隣で苦笑する。

 

「大丈夫怪我してるからアドレナリンが出てるだけさ、暫くすれば落ち着くよ。フェリオさんもビアンさんも、痙攣して瀕死じゃなきゃ大丈夫さ。人間って案外死なないぜ? ビアンさんとか良く八徹とかしてるから、そのときは殴って止めるけどさ」

 

「……あんた結構苦労してるんだな」

 

「ははは、そうでもないぜ? なんせビアンさんもフェリオさんも自分の作った武器で惨たらしく死にたいとか、いっそ殺してくれって言わないから全然平気さ、ちょっとハイになってるくらい可愛いもんだろ?」

 

「……俺は科学者って職業を甘く見ていたみたいだ」

 

武蔵の価値観と自分の価値観の余りの違いにジョッシュは絶句し、腹が減ったといっている武蔵をつれて格納庫を後にする。

 

「この材質は何だ? 生き物なのか?」

 

「これは凄い……うっ、脇腹の傷が開きそうだ」

 

「やれやれ、お2人とも、もう少し落ち着いたらどうです? まずは炎、次に電撃、その次に冷やして、最後に酸で反応を見て見ましょう」

 

「「それだッ!!」」

 

3人のマッドサイエンティストが盛り上がる光景を背に、ジョッシュは武蔵を食堂へと案内するのだった……。

 

 

 

 

 

マザーベースの食堂に人影はまばらだった。それも無理は無い、つい1時間前まで謎の蜂型ロボットに襲われ壊滅するかの瀬戸際だったのだ。重症の人の移送の話や、PCなどの復旧やる事は山ほどあり、食堂にいたのは武蔵達を除くとほんの1人か2人と言う有様だった。

 

「はいよ!焼肉定食お待たせッ!クリスちゃん。持って行ってあげて」

 

「はーいッ!!」

 

だがその厨房は人数の少なさの割りのは活気に満ちていた。元々科学者が多いと言う事で余り大量に料理を作ることは無かったのだが、武蔵が常人の2倍……いや、3倍は食べるので備蓄したままの食糧を使い。命の恩人である武蔵に無償で提供していた。

 

「あぐあぐ……かあーーーッ!! うっめーーーーッ!! はぐはぐッ!!」

 

「……めちゃくちゃ食うんだな」

 

「オイラとしてはジョッシュが小食すぎるぜ、もっと飯を食え、飯を」

 

大盛りのカツ丼をぺろっと3杯平らげ、今は丼を片手に持ちから揚げやハンバーグを凄まじい勢いで平らげている武蔵にジョッシュは呆れ半分、驚愕半分と言う様子で自分の分の昼食であるカレーライスを口に運んでいた。

 

「武蔵さん、はい、焼肉定食! ご飯大盛りね!」

 

「おーありがとなークリスちゃん」

 

「もう食ったのかッ!?」

 

今片手に持っていた丼を机の脇において焼肉定食を受け取る武蔵にジョッシュは思わず声を上げた。

 

「楽勝楽勝、あ、クリスちゃん悪いんだけどさ、カツ丼の特盛あと2杯と豚汁も丼で欲しいな」

 

「はーい! おばちゃんに伝えてきますねー」

 

更に平然とお代わりを告げる武蔵にジョッシュは呆れ果て、武蔵の食事を見ているだけで満腹になって来た腹を摩るのだった。

 

「ぷはああ。おばちゃん、ご馳走様ッ! めちゃくちゃ美味しかったですッ!!」

 

「喜んでくれて嬉しいよ、あれだけ美味しそうに食べてくれれば作ってる方も本望さッ!」

 

結局武蔵はカツ丼特盛を5杯、焼肉定食、唐揚げ定食、ハンバーグステーキ600g、豚汁を丼で2杯、山盛りのカレーライスを2杯、そしてサラダをボウルで2杯。成人男性を遥かに上回るカロリーを摂取し、食堂のおばちゃんにお礼を言ってジョッシュ達の席へ戻って来た。

 

「そんなに食べて大丈夫なのか?」

 

「平気平気、腹八分目だよ」

 

あれでっと叫びたくなったジョッシュだが、その言葉は喉元で飲み込んだ。マザーベースを救ってくれた恩人だ、もしかするとマザーベースに来るまで禄に食事をしてなかったのかもしれないとジョッシュは思うことにした。

 

「はい、食後のココアです」

 

「いやあ、何もかもすまないねえ。ありがとう」

 

クリスのココアが武蔵に差し出され、ジョッシュが止める間もなく武蔵はココアを口にした。

 

「はー暖かくて染みる、それに甘さも丁度良い」

 

「美味しいですよね!? お兄ちゃんとかも甘すぎるって言うんですよ」

 

「美味い美味い、デザートに丁度いいよ」

 

クリスと武蔵の会話にジョッシュは信じられない物を見るような顔をしていた。クリスの味覚は異常とまでは言わないが、それでもかなり……いや、医者が心配になるレベルの甘党だ。そんなクリスが作ったココアを平然と飲む武蔵にジョッシュは驚かざるを得なかった。

 

「親父を助けてくれてありがとう」

 

「本当にありがとう武蔵さん」

 

食事を終え、休憩した所でジョッシュとクリスが武蔵に頭を下げる。武蔵は2杯目のココアを啜っていた手を止めて、マグカップを机の上に置いた。

 

「オイラはオイラの出来る事をしただけさ」

 

お礼を言われる事じゃないさと笑うが、ジョッシュとクリスにとっては本当に感謝するべき事だった。

 

「親父はずっと研究ばっかりで、今もそうだけど……俺とクリスの事をないがしろにしていると思っていたんだ」

 

「私はお父さんの事好きだけど……でも寂しいと思うこともあったんだ。ね、リアナ」

 

リアナ? クリスが自然に発した言葉に武蔵の眉が少しだけ動いた。クリスは失敗したって顔をしたが、そのほわほわとした空気が急に鋭い物になった。

 

「あたしがリアナだよ」

 

「あー二重人格って言ってたっけ、巴武蔵だ。よろしく」

 

平然と差し出された手にリアナは驚いた表情をしたが、その手を握り返して握手を交わした。

 

「驚かないのか?」

 

「何に驚くんだ? 二重人格くらいでオイラは驚かないぜ? なんせ言葉を喋るトカゲと殴りあったりしてたからな」

 

「そっか、武蔵って旧西暦の人間だったんだよね。ねね、どんな事をしていたのか教えてよ」

 

武蔵の話を聞きたくてしょうがないという様子のクリスとジョッシュ、武蔵は2人のその顔に苦笑しながらマグカップに手を伸ばす。強烈な甘さのそれを啜って、一息つく。

 

「お茶かなんかを持って来ると良い、長い話になるぞ」

 

やたーっと言わんばかりにかけていくクリスと申し訳なさそうにしながらも、クリスの後を追って歩いていくジョッシュの姿。歳はそんなに離れていないのに、弟か妹のように見えた武蔵はもう1度苦笑して、ココアを啜るのだった……。

 

 

 

 

 

 

蜂型ロボットの解析が済んだ所でフェリオを医務室に叩き込んだビアンとシュウの2人は蜂型の解析データを前に互いの意見を交換していた。

 

「生物であり、機械か……私はこれを作られた生き物と考えるがシラカワ博士はどう思う?」

 

「そうですね、私は逆で生物を捕らえてこの形にしたと思います」

 

作られた割には戦闘能力はさほど高くない、昆虫特有の凄まじい身体能力によるごり押し。それでは折角の能力も生かしきれていないとシュウは断言した。

 

「なるほど……そういう観点もあるな」

 

「あくまで仮説ですがね。しかし問題は体組織ですね」

 

「地球上に存在しない昆虫のDNAデータか……やはり宇宙からの侵略者とみて間違いないな」

 

強固な外骨格の下は昆虫であり、その体組織を分析したのだが地球上の生物とはどれも合致しなかった。やはりビアンの推測通り、あの壁画でゲッターが戦っていた外敵の1つであると言うのがビアンの出した結論だった。

 

「この技術を流用できないのは残念ですね」

 

「しかたあるまい。生物としての能力では再現等出来るわけもない」

 

ロボットに見えたが、生物ではどうしようもない。分析してもその技術を得ることが出来ないのならば、休憩が終わった後ゲッタービームで焼き払うべきだとビアンは考えていた。

 

「それで何か情報があるんじゃないか?」

 

「ククク、ええ、コーツランド基地でシロガネの修理が進められているそうですよ」

 

「やはり……か」

 

シロガネを轟沈させ、グラビトロンカノンで基地上層部は焼き払ったが地下は無事だ。そこでシロガネの修理を進めている可能性はビアンも判っていた、だがそれでも強行突入しなかったのには理由がある。

 

「シュトレーゼマン側の戦力は?」

 

「DCから回収した量産型ドラゴン、ライガー、ポセイドン、そして上層部が隠して運び込んだゲッターロボGですね」

 

考えられた事態だが、こうして聞くと何と愚かしいとビアンは嘆いた。何故其処まで愚かな選択をできるのか……シュトレーゼマンに問いただしたいと思っていた。

 

「あの狸にもはや、誰の言葉も届く事はないでしょう」

 

「だろうな……」

 

自分達が生き残る、そして自分達が世界を生かすと思い込んでいる狂信者に誰の言葉も届かない。だがビアンにはビアンの懸念があった、それはイスルギ重工の存在だ。

 

「イスルギ重工が量産型の生産ラインを作る可能性はあると思うか?」

 

「難しい所ですね。あれは人間では操縦できないですから」

 

ゲッター炉心の設計図こそないが、量産型ドラゴン、ライガー、ポセイドンの情報が戦争屋であるミツコ・イスルギに渡ってしまった事を悔いていた。あれだけゲッターロボを敵視しておきながら、その後継機を手土産に異星人に寝返ろうとしているシュトレーゼマンに呆れ果て、それを悪用するであろうイスルギ重工に頭を悩ませた。

 

「もう少しだけ手伝ってくれるか?」

 

「構いませんよ、乗りかかった船です。シロガネを再び轟沈させるのも、面白いですしね」

 

「……仕方あるまい」

 

異星人はエアロゲイターだけではない、そしてマザーベースに記された壁画を見る限りではゲッターロボは宇宙でも戦っていた。ゲッターロボの強さは地球人よりも異星人が知っている可能性が高い、そしてエアロゲイターが量産型ドラゴンに目を付けたのも偽りでもゲッターロボを所有していると言う事を示そうとしたからではないだろうかと考えていた。

 

「ゲッターロボのフェイクだとしても地球の外には持ち出させない、クロガネが合流次第コーツランドを叩く」

 

どれほどの時間的な猶予があるかわからない、だがスペースノア級の動力は特殊なものを使用している、出撃する反応があればクロガネが合流する前にグランゾンとゲッターロボ、そしてゲッターロボVで押さえ込む必要がある。

 

「では次はゲッターロボVの修理を始めましょうか」

 

「すまない、やはり重力エンジンとゲッター炉心の兼ね合いがな……」

 

「構いませんよ、元々は私が提供した物ですしね。時間がありません、急ぎましょう」

 

時間的な余裕はさほど残されていないだろう……そして自らの保身に走るシュトレーゼマン派が姿を消して長い。もう地球を出る準備は出来ていると見て間違いないのだから……。

 

 

 

 

 

コーツランド基地の地下施設ではグランゾンに破壊されたはずのシロガネがその美しい白亜の姿を完全に取り戻していた。

 

「ふむ、人間の生きる執着と言うのは想像以上に驚かされますな」

 

伊豆基地でSRXチームの謹慎の解除に尽力したニブハルはその足で南極のコーツランド基地を訪れていた。

 

(ゲッターロボG……あれではスクラップではないか、まあゲッター炉心が生きていればそれだけで価値はあるが……)

 

修理をしようとしていたようだが、完全な修理は無理だったようで殆どスクラップのまま運び込まれるゲッターロボGを見てニブハルは顔を歪める。稼動する状態のゲッターロボGならばもっと良い値段が付いたというのに残念だとニブハルは考えていた。

 

「ニブハル大統領補佐官。シュトレーゼマン議員がお呼びです」

 

「判りました。直ぐに行きますと伝えてください」

 

呼びに来た軍人にそう返事は返したが、さてとこのまま一緒にいてもドロ舟と判っている相手に何処まで尽力すればいいのやら……ニブハルは顎の下に手を当ててどうするべきか考え込み、ここまで来たのだから可能性は低くとも上手く行く僅かな可能性に賭けて見ても良いかと判断した。

 

「もう少し様子を見てみるとしましょうか」

 

ニブハルがシロガネから脱出する準備は出来ている、出来る事ならばゲッター炉心を手土産にバルマーかゾヴォークに接触するつもりだったが……それも上手く行きそうに無いと判断したが、ここまで尽力したのだから失敗する前提でももう少し様子見をしようとニブハルは考えていた。

 

「何か嫌な予感がするんですよね」

 

何かとんでもない事が待ち構えているような気がする。護衛機はたった2体ずつのドラゴン、ライガー、ポセイドンのたった6機……しかも稚拙なAI制御と来た。

 

「命を預けるには余りにも頼りない」

 

命を預けるには余りにも頼りない、敵の襲撃が無ければ無事に地球圏を離脱出来るでしょうが……正直8-2でシロガネは轟沈する。

 

(協力する相手を見誤りましたね。失敗です)

 

ゲッターロボを知っているシュトレーゼマンについたが、まさかのゲッターロボを悪魔の機体とする相手だったのは計算外だった。

 

(上手く脱出できたら、次はグラスマンに接触しますかね)

 

ゲッターロボを神聖視しているグラスマンも扱いにくいといえば扱いにくいが、ゲッターロボを操る武蔵と友好的な接触をしようとしている。最初から犯罪者として捕えようとしていたシュトレーゼマンよりかは友好的な接触が出来るだろうとニブハルは考えていた。

 

(ゲッター線に関わった物は破滅する……そんなのただのジンクスだと考えていましたがね)

 

ゲッター線は恩恵と破滅を与える悪魔のエネルギーと言うのがニブハル達にとっての常識だった。最初はただのエネルギーに何が出来ると考えていたが、失脚し、犯罪者として追われているシュトレーゼマンを見るとゲッター線は確かにシュトレーゼマンに破滅を与えたとニブハルは考えていた。

 

(まぁ楽しい時間でしたよ。それなりに……)

 

ゲッターロボGの修理を勧め、そしてこれからと言う所で台無しにしてくれたシュトレーゼマンには怒りはあるが、それなりに有益な時間を過ごす事が出来た。贅沢を言えば、自分の助言通りに動いて欲しかったと思いながら、ニブハルはシロガネに足を向ける。

 

(ドラゴンを武蔵に渡して、ゲッターロボを受け取ればよかった物を)

 

途中までは思い通りに物事が進んでいた。だがシュトレーゼマンはゲッターロボGとゲッターロボを交換することに難色を示し、そして難色を示している間にゲッターロボGは修理を任されていた2人組みに奪取された。

 

(今思えば、あそこから何かが狂ってきたような気がしますね)

 

順当に進んでいた運命の歯車、ゲッターロボGが手元を離れてから一気に雲行きが怪しくなったと思いながらシロガネのブリッジを目指すニブハル。その胸ポケットの中には量産型ドラゴン達の設計図が納められたUSBメモリが収められているのだった……。

 

 

『ゲッターロボ(V)を入手しました』

 

第67話 偽りの箱舟へ続く

 





次回は氷の国の箱舟を大胆にアレンジして行こうと思います。グランゾンも参戦した氷の国の箱舟がどんな展開と結末を迎えるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

おまけ

ゲッターロボV

新西暦の浅間山地下に現れた早乙女研究所跡地から回収されたプロトゲッターの残骸とゲッターロボに酷似したイーグル号の無いゲッターロボ(新ゲッターロボと呼称)を修理、改造したビアン専用のゲッターロボである。ジャガー号、ベアー号の新型炉心は武蔵のゲッターロボに積み換えたためビアンが作成したゲッター炉心とヴァルシオンに用いられていた重力エンジンの2つを動力として稼動する。大破していたイーグル号は武蔵が抉り出したヴァルシオンのコックピットを組み込み、イーグル号のみコックピットのレイアウトが異なる物となっている為、イーグル号およびゲッター1形態はビアン専用機だが、ジャガー、ベアーはそのままのレイアウトとなっているため、武蔵が操縦する事も可能となっている。またゲッターロボVはゲッターロボにヴァルシオンの意匠が施されており、ゲッター1のカメラアイはヴァルシオン同様4つの複眼から構成され、指先にはゲッター合金を使用した鉤爪が追加されており真紅に金の意匠にはあちこちにはヴァルシオンを連想させる姿となっている。武装などはビアンの趣味が流用され、ゲッターウィングはボロボロのマントに変更され、ゲッタートマホークは三日月状のハルバード、ディバイングレイブへと交換されている。最大の特徴は重力エンジンを流用した事による、ヴァルシオン同様の重力攻撃と湾曲フィールドとゲッター線バリアによる強固な防御能力にあり、戦闘能力よりも連続戦闘に耐えれる機体となっている。なお、オープンゲットは封印されているが勿論可能ではあるが、パイロット不在、更に自動操縦機能の破損により現状はゲッター1形態で固定されている。ビアンはどうせ形態が固定されるならとゲッター1の上半身に装備する強化装甲をいくつか開発し、この形態のゲッターVの強化装甲は背部に収納しているミサイルランチャーと、小型のビームキャノンとゲッター線ビームカノンによる射撃戦能力の強化モードとなっている。


ゲッターロボV(射撃型)

HP7800
EN350
装甲1500
運動性110

特殊能力

EN回復(大)
湾曲フィールド
ゲッター線バリア


スパイラルゲッタービーム ATK1900(MAP)
ミサイルランチャー ATK2100
ビームキャノン ATK2200
ゲッターレザー ATK2400
ディバイングレイブ ATK2900
ゲッターカノン ATK3000(弾数4)
スパイラルゲッタービーム ATK3100
ゲッタービーム ATK3500
クロスマッシャー ATK3900
オメガグラビトンウェーブ ATK4500


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第67話 偽りの箱舟 その1

第67話 偽りの箱舟 その1

 

クロガネはコーツランドのレーダーに引っかからない様に流氷を砕きながら低速でマザーベースへと向かっていた。

 

「全く、ビアン総帥には困った物だ」

 

「そうですね、バン大佐」

 

当初の予定では武蔵とエルザムかゼンガーがマザーベースに向かう予定だったのだ。それをゲッターロボVの試運転だと言い張り、無理に出撃したビアンにはエルザムもバンも苦笑を隠せない。

 

「自ら動く事で兵士の士気を上げると言うのは判るんだがな……」

 

「そこまで考えていませんよきっとね……」

 

アードラーが率いていたDCが倒れ、そしてビアンは重い肩の荷が下りたと言わんばかりに弾けて……ああ、弾けているのは前からだったと苦笑するエルザム。

 

「マザーベースを目視で確認しました」

 

オペレーター席に座っているリリーの言葉にエルザムとバンもモニターに視線を向ける。

 

「あれか……遺跡だと聞いているが、何故あんな遺跡にゲッターロボの壁画があるんだろうな」

 

「判りませんね、ゲッターロボは私達の想像を超えている存在なのかもしれません」

 

LTR機構、そしてリ・テク……そのどちらも旧西暦の歴史を調べる組織だ。その調べる対象の中に含まれているゲッターロボ、ただの機動兵器ではない。ゲッターロボには何か人知を超える秘密が隠されているようにエルザムは感じていた。

 

「少佐、テスラ研からメールが来ています」

 

「差出人は? カザハラ博士か?」

 

「いえ、フィリオ博士です」

 

その言葉にエルザムは笑みを浮かべたが、今はマザーベースにいる武蔵とビアンとの合流が優先だと判断した。

 

「後で私の部屋のPCにメールを送信しておいてくれ、ユーリア」

 

了解ですと返事を返し、コンソールを操作するユーリア。今クロガネはLB隊の生き残りとトロイエ隊の生き残りで運用されていた、メインオペレーターはリリー、サブオペレーターにユーリア、そして艦長代行のエルザムと副艦長のバン。DCとコロニー統合軍の生き残りではない、ビアンとマイヤーの思想に共感し、地球を守るという大儀の下に集まった。本当のDCとコロニー統合軍の姿がそこにあった。

 

「それよりもだ、少佐。ゲッターロボのシミュレーターの調子はどうだ?」

 

「……少なくとも気絶はしません」

 

「それは何よりだ。かと言う俺も気絶と打撲の繰り返しだがな」

 

今この場にいないゼンガーはシミュレータールームでゲッターロボの操縦訓練に明け暮れている。勿論、エルザムやバンも少しでもゲッターロボの操縦を自分の物にするため艦橋に詰めていない時はシミュレータールームの住人だ。

 

「あのパイロットスーツのお陰で大分マシになったんだがな」

 

「だからフィリオに連絡したんですよ。プロジェクトTD……恒星間航行機開発計画の主任にね」

 

「テレストリアル・ドリームか……こんな状況で無ければな……」

 

アイドネウス島での恐竜帝国との戦いの前にキラーホエールで脱出した研究チームの1つである。残念な事に連邦軍に鹵獲され、研究チームだったと言うこと、そしてイスルギ重工がDCに拉致された研究者だと言う事を言い張り、監視状態であるが主任の「フィリオ・プレスティ」そしてチーフの「ツグミ・タカハラ」を初めとした研究者が4人、そしてテストパイロットでありフィリオの妹である「スレイ・プレスティ」そして戦争間近に外宇宙を飛ぶという夢を叶える為にDCに来た「アイビス・ダグラス」の全員が無事だ。

 

「テスラ研が身元を引き受けてくれているそうですから大丈夫でしょう」

 

「テスラ研は心配していない、俺はあのミツコ・イスルギが好かん。あれは戦争屋だ」

 

元は民族解放戦線のリーダーを務めていたバンだ。外交や、指揮、作戦立案まで行っていた。その中で顔を見たミツコに強い嫌悪感を示していた、あれは地球がどうなっても良い。自分の商売さえ上手く行けば良いと言うバンが最も嫌うタイプの人種だった。

 

「極秘通信ですからミツコ・イスルギに知られる事はないでしょう。フィリオはテスラドライブの権威ですし、パイロットスーツの改良案を出してくれる事でしょう」

 

ビアンの作成したパイロットスーツが劣っていると言うわけではない、だが餅は餅屋。大気圏の重力を突っ切って外宇宙へと飛び出そうと計画しているプロジェクトTDのパイロットスーツはGへの防御機構においては郡を抜いているのだ。

 

「ユーリアもそう思うだろう?」

 

「は、テストタイプでしたが、あれの加速力には驚かされました。そしてスーツのG防御も群を抜いておりました」

 

元々フィリオはコロニーの出身だ。軍部の研究者のフィリオとフィリオの開発した機動兵器のパイロットになると言って軍属になったスレイ。少々ブラコンの気が強すぎるがユーリアが直々にトロイエ隊にスカウトするほどにその操縦技術は高い、話はそれたが。元々コロニーで研究が進められていたプロジェクトTD。トロイエ隊も一時的にプロジェクトTDの機体に触れていて、そしてプロジェクトTDのタイプαのテストパイロットをしたこともあり、その特殊な重力防御の機能が組み込まれたパイロットスーツにも袖を通している。

 

「しかしあれは旧西暦の宇宙服そのものでゲッターの操縦には向かないと思いますが……」

 

「ああ、それは私も思っている。輝く笑顔で金魚鉢を被っていたフィリオには驚いた物だ」

 

フィリオは確かに優秀な科学者ではあった。だがその独特のセンスにはゼンガーに続いて親友と呼ぶエルザムも理解に苦しんでいたりする。

 

「マザーベースから熱源確認。機体照合……! グランゾンです」

 

グランゾンの名にエルザムもバンもその顔に驚愕の色が浮かんだ。ホワイトスター出現から消息を絶っていたグランゾンが何故とその顔が物語っていたのだ。

 

『お久しぶりですね、エルザム少佐、バン大佐。格納庫はこちらです、ビアン博士と武蔵君が待っていますよ』

 

格納庫へと誘導するグランゾン……だがクロガネのブリッジには重い沈黙が広がっていた。

 

「エルザム様……もしやあの戦闘の熱源は」

 

「ああ。何かあったのかもしれない、クロガネのエンジンを停止、補助動力でマザーベースへと進路を取れ」

 

2時間ほど前に確認された戦闘の振動と熱源、その反応を感知し微速でマザーベースに向かっていたが――グランゾンが必要となるほどの戦い。恐竜帝国……もしくは浅間山の地下で見た異形の鬼。それに順ずる何かが、マザーベースに現れたのかもしれない。それを悟ったエルザム達の表情は険しく歪められているのだった……。

 

 

 

 

ネビーイームの玉座で幼い少女……レビの前に膝を突くヴィレッタ。ヴィレッタを見下ろす、レビの表情は酷く冷たい。

 

「ヴィレッタよ。ではイングラムの事はお前は何も知らないと言うのだな?」

 

「レビ様、確かに私はイングラムの半身ではありますが、私とイングラムは別の存在です。何もかも知っているわけではありません」

 

イングラムが消息を絶ち、バルマー帝国でプロトタイプが建造されただけのアストラナガンに酷似した機動兵器の存在。イングラムのバルシェムであるヴィレッタならば何か知っているのではないか? と言うアタッドの言葉。レビ自身も何を馬鹿なと思いはしたが、一応話を聞いてみることにしたのだが……やはりヴィレッタは何も知らない様子だった。

 

「これで話は終わりだ、すまなかったな。時間の無駄だった」

 

「いいえ、大丈夫です。レビ様、アタッドでしょう?」

 

「ああ、ゲッターロボ、そしてアストラナガンらしき存在からアタッドが独断で何かをしているのは知っていたが……あいつはもう駄目かもしれないな」

 

手柄を求め、他人の足を引っ張るようでは駄目だなとレビは呟き、玉座から立ち上がる。

 

「ヴィレッタ、付いて来い」

 

玉座の肘掛を操作し、隠し通路を開いたレビに命じられヴィレッタは薄暗い通路の中に消えたレビの後を追って歩き出した。

 

「ゲッターロボ、アストラナガンは破壊対象でもあるが、それと同時に鹵獲対象でもある」

 

「はい、バルマーを壊滅の危機に追い込んだゲッターロボは忌むべき敵でもありますが、それと同時にバルマーに繁栄を齎します」

 

「そうだ、ゲッター線を手に入れることが出来ればバルマーはより強大な国となる。そのためにはゲッターロボの鹵獲、そしてアストラナガンの回収が必要になる」

 

通路を抜けた瞬間眩い光が広がり、一瞬ヴィレッタの視界が白一色に染まった。

 

「ここは……製造プラントですか?」

 

「そうだ。アタッドに余計な事をされるわけにはいかないからな」

 

ライン作業で建造されていく量産型ドラゴン、ライガー、ポセイドンの製造プラント。だが、やはりと言うべきかその製造速度はハバククやゼカリアと比べると格段に遅い。

 

「確かにドラゴンやライガーは強力な機体ではある。だがあれは出来損ないだ」

 

「……炉心ですね」

 

「そうだ。ゲッター炉心がなければ、あれは出来損ないに過ぎない」

 

ゲッターロボが強大な力を持つのはゲッター炉心があるから、それがないドラゴンやライガーはただの出来損ないに過ぎない。

 

「ゲッターロボ、もしくはゲッターロボGからゲッター炉心を奪い取る。その為の機体は出来ている、これはアタッドには関わらせては無い。ジュデッカが作り上げた最強のドラゴンだ」

 

製造ラインの奥に隠されていた格納庫、その中には異形のドラゴンの姿があった。

 

「これは……ヴァイクル?」

 

「そうだ。ヴァイクルの素体をベースにドラゴンの姿を流用した、ドラグクルだ」

 

下半身と背部はヴァイクル、上半身は4つ腕のドラゴン。まるでインド神話に出てくるヴァースキのような姿をした異形のドラゴンがライトアップされていた。

 

「操縦は念動力による遠隔操作。私は南極にこれを向かわせる、ヴィレッタ。お前には伴を命じる」

 

「畏まりました。レビ様」

 

ヴィレッタはその命令を断る事が出来ない、レビから下された命令を拳を強く握り締め了承するのだった……。

 

 

 

 

かつてコーツランドで沈んだシロガネはその白亜の姿をコーツランド基地上空に再び浮かび上がらせていた。そしてそのブリッジにはジュネーブから命からがら脱出したシュトレーゼマン達の姿があった。

 

「シロガネの調子はどうだ? レンジ社長」

 

「問題はありません、議長。修理作業はパーフェクト……この艦は予定通りの時刻に出航出来ます」

 

シュトレーゼマンの隣でグレーのスーツに身を包んだ、白髪の中年男性……イスルギ重工社長「レンジ・イスルギ」は自信満々の表情でそう告げた。だが、シュトレーゼマンはそんなレンジを見て嘲笑するような表情を浮かべた。

 

「フン……流石はDCのリオンシリーズを量産したイスルギ重工と言った所か、その技術だけは認めてやる」

 

大破したシロガネを短時間でここまで修理出来たのはイスルギ重工の存在が大きい、だが連邦を裏切っていたイスルギ重工にシュトレーゼマンは思う所があった

 

「だがお前達の信用は地に落ちていると知れ」

 

「と、申されますが、私達がいなければシロガネは再び飛ぶ事は出来ませんでした」

 

シュトレーゼマンの嫌味にレンジは顔色1つ変えず、純然たる事実を告げる。ゲッターロボGの修理に携わった部下全員を失い、今や国家反逆罪で追われているシュトレーゼマンが頼れるのは同じく、DC戦争でビアン達に協力した事で社長の地位を追われ、謹慎中のレンジ派のイスルギ重工しか存在しなかった。

 

「EOTI機関時代からビアン・ゾルダークに接近し……DCの兵器製造を一手に引き受けて莫大な利益を得た。しかし、ビアンが死んだと知れば手の平を返し、私の下へやって来た。そんな男を信用できると思うか? ビアンが生きている今お前が私達の情報を流していないとも言い切れない」

 

「確かに私はビアン・ゾルダークに協力しました。しかし利益を追求するのは企業として当然の事、つまらぬ理想を掲げ、客を選ぶマオ・インダストリーと一緒にしてもらっては困りますね。兵器はただの兵器、作り上げた後どう使われるなどと私達には関係のない話であります」

 

 

あくまで依頼を受けたから作り上げた、そして製造ラインを提供しただけと言い張るレンジにシュトレーゼマンは忌まわしげに鼻を鳴らした。

 

「まあ良い、シロガネとこの基地を修復し、ドラゴン達を少ないとは言え量産したお前の功績は認めよう」

 

「旧西暦の骨董品ですが、その能力は素晴らしいですからな。それで、議長……例のお話ですが……」

 

レンジがドロ舟とわかっているシュトレーゼマンの派閥に接触したのは理由がある、それは勿論エアロゲイターの事だ。このまま地球にいては死んでしまう、だからこそ地球離脱の為にシロガネを修理しろと言うシュトレーゼマンの命令に従ったのだ。

 

「判っておる。お前達のシロガネへの乗艦を認める」

 

シュトレーゼマンの言葉にレンジはその言葉を待っていたと言わんばかりに笑みを浮かべた。

 

「この目でホワイトスターを見ておきたいと思っていたのでご配慮感謝します、それに異星人とは言えビジネスパートナーになるかもしれないのですから友好的な出会いをしたいですからな、それで私達の案内人のニブハル・ムブハルは何処に?」

 

「あの男が怪しいか?」

 

シュトレーゼマンの言葉にレンジは小さく頷いた。自分達をエアロゲイターの指導者に会わせると約束したニブハル、だが出航前になっても姿を見せないニブハルを怪しいというレンジ。

 

「左様で。あの男……本当に我々をホワイトスターへ導くつもりなのですか?」

 

もし本当に案内するつもりならば、いつまで経っても姿を見せないニブハルにレンジは不信感を抱いていた。

 

「もはやエアロゲイターと正面きっての交渉は絶望的だ……地球圏の安泰を図るには、ニブハルを介して、直接彼らの統治者と話し合うしかない」

 

ハガネ、ヒリュウ改がエアロゲイターと交戦した事で最早交渉の段階ではないとシュトレーゼマンは考えていた。

 

「それにブライアンの愚か者め、ゲッターロボを手土産にすればもっと早く話は進んだと言うのに……」

 

「ああ、ムサシ・トモエとゲッターロボ。ブライアン大統領とリクセント公国が動いたせいで徴収できなかったのですね」

 

エアロゲイターが何よりも求めているゲッターロボとその操縦者、それがいればもっと良い待遇でエアロゲイターへの交渉に臨む事が出来たとシュトレーゼマンは舌打ちをする。

 

(あの小娘め)

 

連邦にも強い発言力を持つリクセント公国のシャイン・ハウゼンが、国営放送を使い流したジュネーブでのゲッターロボの活躍とそのパイロットによって救出された映像、そしてそれに続き北京でのゲッターロボによる民間人の救助活動。それによってムサシを犯罪者として追おうとしたのは上層部の保身であると言う話が広がり、シュトレーゼマンは南極まで逃げ延びることになった。この状況を作り出したムサシとシャイン、そしてブライアンの3人に逆恨みに等しい思いをシュトレーゼマンは抱いていた。

 

「あの男と行動を共にすれば、エアロゲイターに攻撃されずに済むという話はわかりますが……信用するのは危険かと」

 

そんなシュトレーゼマンの心境も知らずにレンジがニブハルを信用していいのかと語っているとシロガネのブリッジに突然第三者の声が響いた

 

「……これはまた、随分と失礼なおっしゃりようですな」

 

「……! これはニブハル大統領補佐官。随分と遅かったですな」」

 

「私も忙しい身ですので、しかし私はあなた方に先見の明があると判断し、国賓待遇でお迎えしようというのですぞ? 疑われるのは心外ですな」

 

肩を竦めるニブハル、だがニブハルにもニブハルで疑いはある。それはシュトレーゼマンにコーウェンとスティンガーを紹介したのは他でもないニブハルだからだ。

 

「口先だけでは何とでも言えるものだ、ニブハル」

 

「フフ……あなたも同様にね」

 

下らない口論を始めたニブハルとレンジにシュトレーゼマンは怒りの表情を浮かべ、何故自分がこんな事をしなければならないのだという表情で2人の仲裁に入った。

 

「今はつまらぬ言い争いをしている場合ではない。一刻も早くシロガネで……」

 

地球を脱出するべきだというシュトレーゼマンの言葉はシロガネの中に響いた警報にかき消された。

 

「議長! 氷原下に高熱原体の反応があります!」

 

「なに!? 識別信号は何だッ!?」

 

南極の大地の下からの熱源反応報告にシュトレーゼマンの詳しい報告を上げろという声が響く、そしてシロガネのオペレーターが識別信号の照合を行っている間にコーツランド基地を覆う氷が砕け散り漆黒の戦艦が姿を現した。

 

「そ、そんな馬鹿なッ!? 大陸氷を突き破って来たッ!?」

 

信じられないと言うオペレーターの声が響く中、シュトレーゼマン達もその顔を驚愕に染めた。

 

「な、何と言う無茶をッ! 貴重なスペースノア級を壊すつもりかッ!?」

 

南極の大地を突き破り姿を現したのは地球圏に3隻しか存在しないスペースノア級、その弐番艦のクロガネの姿であり、そしてクロガネからの通信でその顔を更に驚愕に染め上げた。

 

『クロガネ艦長、ビアン・ゾルダークだ。シュトレーゼマン議長、レンジ・イスルギ、お前らは何をするつもりだった……?』

 

激しい怒りの表情を浮かべたビアンの姿に小心者のシュトレーゼマンとレンジは顔を青くさせ、口をぱくぱくと開く事しか出来ず、そんな2人を見たニブハルは肩を竦めながらモニターに映ったビアンに視線を向けるのだった……。

 

 

 

 

シロガネとの通信を強引に開き、ビアンはシュトレーゼマンたちを一瞥する。

 

『まだ生きながらえていたか、ビアン・ゾルダーク』

 

「お前もな、権力に執着する狸が」

 

挑発するような言葉を投げかけられたシュトレーゼマンの額に青筋が浮かぶ。

 

「シロガネでどこへ行くつもりだ? まさかエアロゲイターとの交渉なんて戯けた事を言いはしないだろうな?」

 

『戯けた事だと? 地球圏に戦争を撒き散らしたお前が言う言葉ではないッ!』

 

「そうだな。それは認めよう、だが今の世論を知っているか?」

 

ビアンの問いかけにシュトレーゼマンは何も言い返せない、無償で人を救ったゲッターロボとムサシ。そんな好青年をでっちあげの罪で犯罪者に仕立て上げたシュトレーゼマン。そしてビアンの起こした事は確かに大罪だが、地球圏を救おうとしたと言う功績で世論は完全にビアン、そして武蔵の味方だ。

 

『貴様らが世論を操作したのだろう! いや、そうに決まっているッ!!』

 

「何を愚かな、自ら行動する者としない者、どちらが民衆に良く映るかなんて言うまでも無いだろう」

 

武蔵の献身的な行動、そしてシャイン達の声が世論を動かしたのだ。

 

「それで貴様らは母星の危機に立向かおうとする者達をも見捨て、自分達だけで逃げるつもりか?」

 

『我々は人類の種の保存の為、エアロゲイターと直接交渉を行うのだッ! 邪魔をするなッ! ビアンッ!』

 

「それが地球に新しい火種を撒くと判っていてか?」

 

『私は戦う事しか出来ぬ野蛮人とは違う、地球を代表する政治家として……人類の未来を確保する為にホワイトスターへ赴くのだ』

 

シュトレーゼマンの言葉をビアンは鼻で笑った。既に犯罪者として指名手配をされているシュトレーゼマンは決して地球の代表なのではない。

 

「自分が地球を救うと信じる事で自我を保つか……愚かな事だ」

 

『愚かだとッ! 私がエアロゲイターと交渉して地球を護ろうとしている事の何処が愚かだというのだッ!』

 

地球を守ろうという意志は感じられる、だがシュトレーゼマンが得る地球の未来はエアロゲイターに支配された植民地としての地球だ――そんな物をビアンは地球と認めるつもりはなかった。

 

『軍事力に頼り、地球を支配しようとしたお前にはわかるまいッ!』

 

「生憎だが、地球を売ろうとする人間の気持ちなど私は知りたくも無い。シロガネから降りろ、そうすれば命までは取らん、これは最後通告だ」

 

地球を護ると言う名目で地球を売ろうとするシュトレーゼマン達にそう警告するビアン。

 

『シロガネを沈めるか? 貴重なスペースノアを沈める勇気がお前にあるか?』

 

こうして直接ビアンが訪れたのは貴重なスペースノアのシロガネを徴収する為にあった。シロガネに乗っていれば安全が確保され、攻撃される事は無いと高を括っていた。ビアンもシロガネに篭城する可能性は考えていたが、やはりその通りになったかと顔を歪めた。

 

「重力震反応を感知! エアロゲイターの機動兵器が転移出現します!」

 

だがその直後コーツランド基地、シロガネ、クロガネの全てに警報が鳴り響き、コーツランド基地はエアロゲイターの機動兵器に囲まれていた。

 

「え、エアロゲイター!? 何故奴らがここにッ!? 話がついているのではないのかッ!?」

 

レンジがパニックになりニブハルに詰め寄るが、ニブハルは涼しい顔を崩さない。

 

「先ほど言いましたが、我々も決して一枚岩ではありませんので……」

 

「う、うぬぬ……ここまで来て死んでなる物かッ!! 議長ッ!」

 

「判っている。量産型ドラゴン、ライガー、ポセイドンを出撃させろッ!!」

 

シュトレーゼマンの合図でコーツランド基地、そしてシロガネの格納庫から量産型ドラゴン、ライガー、ポセイドンが2機ずつ出撃する。

 

「やはり隠していたか……武蔵君、エルザム少佐、ゼンガー少佐、シラカワ博士。想定通りになった出撃準備を、私も直ぐに出る。バン大佐、リリー中佐、クロガネの指揮は任せる」

 

バンとリリーにクロガネの指揮を任せ、ビアンも格納庫へ走る。そして量産型ドラゴン達の出撃から遅れて数分後。クロガネからゲッターロボ達が出撃した、だがゲッターロボがこの地に降り立った事で更なる混乱の種が撒かれた事をビアン達は知るよしもないのだった……。

 

 

 

 

第68話 偽りの箱舟 その2へ続く

 

 




今回は丁度いい所で話を切らせてもらいます。ビアンとシュトレーゼマンは絶対仲が悪い(確信)。新型ヴァイクルや、前々回の4体の蜂型の最後のいったいとか、スパロボの伝統形式で次回もお送りしたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第68話 偽りの箱舟 その2

第68話 偽りの箱舟 その2

 

地響きを立てて着地するゲッター3、そしてその隣に降り立つグルンガスト零式・改。

 

「どうですか? ゼンガーさん、違和感とかあったりします?」

 

『いや、今の所は今まで以上に調子がいい』

 

グルンガストシリーズはTGCジョイント、重力制御を応用した関節を利用する事でその重量を緩和し、肘や膝関節に掛かる負担を軽減していた。だが今はゲッター合金に交換する事で今まで以上に柔軟な動きを取る事が出来る筈である……。

 

『それにこの新型零式斬艦刀の試し切りには丁度いい相手だ』

 

そしてゲッター合金を使用されたのはグルンガスト本体だけではない、その武器である「零式斬艦刀」もまたゲッター合金でコーティングされ、その切れ味を今まで以上に強化されている。

 

『ゆっくり話をしておきたいが、今は無理だな。武蔵君、ゼンガー。相手を見てどう思う?』

 

漆黒に染まったヒュッケバインMK-Ⅱ。ヒリュウ改のブリットの駆るヒュッケバインMK-Ⅱの同型機だが、勿論これもゲッター合金を応用した武装を追加で装備し、関節部や装甲にゲッター合金を使用された。ヒュッケバインMK-Ⅱ・トロンベ・タイプGと言うべき機体に仕上がっており。装甲を初めとした外見的特徴こそヒュッケバイン系列だが、その中身は既に完全な別物と言うレベルまで改造を施され完全なエルザム専用機としてロールアウトしていた。

 

「判っています、量産型ドラゴンとかがいませんよね」

 

『今までアレだけ投入しておいて、出撃しないと言うのはおかしい話だな』

 

今コーツランド基地を包囲しているのはソルジャー、ファットマン、そして数体のエゼキエルと敵の中に量産型ドラゴン達の姿は無い。

 

『恐らく本隊として温存しているのでしょう。どうしましょうか? エルザム少佐、グラビトロンカノンで一掃してみましょうか?』

 

シロガネを巻き込むことになりますがねと言うシュウにエルザムはストップを掛けた。

 

『可能ならばシロガネの回収を目的にしている、シラカワ博士。今は範囲攻撃は避けてもらいたい』

 

『了解です、では1機ずつ確実に処分するとしましょうか』

 

虚空から異形の剣……グランワームソードを召喚し、真っ先に切り込んでくグランゾン。

 

「「「「!!!」」」」

 

エアロゲイターの機体からの集中砲火が放たれるが、それはグランゾンが常時展開している歪曲フィールドによって弾かれる。

 

『武蔵君、エルザム少佐。敵は確実に戦力を温存している。私は敵の本陣が出るまでは出撃しない、敵の出方と量産型ドラゴンの動きに注意してくれ』

 

『了解です、武蔵君。ゼンガー、今聞こえた通りだ。敵戦力の増援に気をつけてくれ』

 

「行くぜッ!! ゲッタァミサイルッ!!!」

 

ゲッター3の頭部から放たれたミサイルを合図にグルンガスト零式・改とヒュッケバインMK-Ⅱ・トロンベ・タイプGも戦場にその身を走らせるのだった……

 

 

 

 

軽い、グルンガスト零式・改を操るゼンガーが感じたのはまず軽いだった。零式の名前の通り、グルンガスト零式はプロトタイプであり、操縦者がいないと言う事でテスラ研でお蔵入りになっていた零式をラングレーにゼンガーが配属されると言う事で急遽メンテナンスを施されテスラ研を出たという経歴がある。完成形のグルンガストと比べれば、その操縦桿と操縦ペダルは格段に重く操縦性に難が合った。だがゲッター合金に換装され、リシュウとビアンの2人に新しいOSを組み込まれた零式の動きは格段によくなっていた。

 

「打ち砕けッ! ブーストナックルッ!!」

 

ゲッター合金で拳をコーティングされたブーストナックルの威力は今までのそれを完全に上回り、強固な装甲を持つハバククを一撃で粉砕する。

 

『やるな、ゼンガー』

 

「俺ではない、ビアン総帥とリシュウ先生のおかげだ」

 

プロトタイプである零式でここまで戦えるのは嘘偽りでもなくメカニックの腕が良いからだ。そしてそれが新西暦最高の研究者といわれるビアンが改造したのだ、ゼンガーでなくてもこのくらいの活躍は出来るとゼンガーは考えていた。

 

『ふ、相変わらずだな。それよりもだ、友よ。ナイトを狙えるか?』

 

西洋鎧のような機動兵器、今のこの陣営での指揮官機だと思われるそれを狙えるか? とエルザムは尋ねる。

 

「問題は無い、だがソルジャーとファットマンへの対応が遅れるぞ」

 

『それは私と武蔵君で何とかする。指揮官機を潰す事で敵の本命を引きずり出す』

 

「了解した、では背後は任せる」

 

零式斬艦刀を構えエゼキエルに向かう零式改。自らの指揮官に近づけさせまいとするゼカリアだったが、その動きは余りに遅かった。ゼカリアが動いた時、目の前に広がっていたのは銃弾であり、それに何の反応も出来ずゼカリアは頭部打ちぬかれ、氷原に沈んだ。

 

『っつう、中々の反動だ。だが悪くない、武蔵君。トドメは頼んだッ!』

 

『了解ッ! ゲッタァーーーパンチッ!!!』

 

グルンガスト零式以上の派手な強化を施されている、ヒュッケバインMK-Ⅱ・トロンベ・タイプGも並のパイロットでは操縦できないような、ピーキーな仕上がりになっている、まずは空気抵抗を計算され鋭利なフォルムになったことによる加速力、そして試作型ではあるがゲッター線バリア機能。次に関節部などや足回りの装甲のゲッター合金への交換、外見上はヒュッケバインシリーズの面影を残してはいるが、中身はPTサイズまでサイズダウンした特機と言っても過言ではないレベルの機体改造を施されていた。そして搭載している武装もまたかなりの改造を施され、ゲッター合金弾頭とゲッター線コーティング弾頭の2種類を打ち分ける事が出来るアサルトカノンを主武装に、ゲッター合金製のブレードやブーメランなどが搭載されている。エルザムを痺れさせたのはゲッター合金弾頭の射出時の反動だが、一撃でゼカリアを沈める事が出来るPTサイズの武器となれば文句をつける点は何処にもなかった。

 

「我はゼンガー・ゾンボルト! 悪を断つ剣なりッ!! 受けろ! 新たなる斬艦刀の一撃をッ!!!」

 

ゼカリアとハバククの包囲網を抜けたゼンガーの名乗りが南極に響き渡る。エゼキエルがグルンガスト零式・改を近づけさせまいとするが、それは最早遅すぎた。

 

「零式斬艦刀ッ!! 疾風迅雷ッ!!! ぬおおおおおおおーーーーーッ!!!」

 

ゲッター合金によって製造された新設のバックパックから齎される莫大な推進力、そしてヒュッケバインMK-Ⅱ・トロンベ・タイプGにも搭載されたゲッター線フィールドによる防御。エゼキエルの攻撃は全てフィールドによって弾かれ、一瞬たりとも零式・改の足を止める事が出来ない。

 

「チェストオオオオオーーーーーーッ!!!」

 

氷塊を砕き、エゼキエルの妨害を物ともせず突き進む零式・改。それはAIにさえも、恐怖と言うものを与えた。AIがそれを理解したかは定かではないが、零式・改から逃げなればならないと自らのプログラムを歪めさせるほどの威圧感を与えていた。

 

「我が斬艦刀に断てぬ物無しッ!!!」

 

擦れ違い様の一閃、その一閃でエゼキエルの上半身と胴体は切り裂かれ、視界が右にずれる中エゼキエルのAIはその機能を停止させ、エゼキエルの視界は漆黒の中へと消えた。

 

『すげえッ! ゼンガーさんやるなあッ!』

 

「素晴らしい切れ味だ、新たな斬艦刀を用意してくれたビアン総帥には感謝の言葉しかないな」

 

武蔵の賞賛の声を聞きながらゼンガーは新たな斬艦刀を見る、刃こぼれ1つ無いその姿は製造されたばかりを連想させる。

 

『ゼンガー、斬艦刀に酔いしれるのは良いが、ほどほどにしてくれよ?』

 

「ふっ、そうだな。これさえあれば俺は誰にも負けんッ! 覚悟しろッ! エアロゲイターよッ!!!」

 

ドラゴン達ではない、旧式のバルマーの兵器ではゲッター線によって改造されたグルンガスト零式・改、ヒュッケバインMK-Ⅱ・トロンベ・タイプG、そしてゲッター3、グランゾンを止める事は叶わず、その数は瞬く間に減らされていくのだった……。

 

「ふん、あいつらのおかげでシロガネも量産型ドラゴン達も大丈夫そうだな、レンジ、ニブハル今の内にシロガネを出航させろ」

 

クロガネとゲッターロボ達に攻撃が集まっている内にシュトレーゼマンはシロガネを出航させようとした。だが、その判断がシュトレーゼマン達に悲劇を齎そうとしていた。

 

「ま、待ってください! 議長! 空間転移反応あ……うわあああああッ!?」

 

「ぐ、ぐああああああッ!? なんだ!? 何が起きた!」

 

「あ、あれは……ドラゴン!? ドラゴンなのかッ!?」

 

シロガネのエネルギーフィールドを突き破り高速で飛来した4つの巨大なトマホーク、シロガネの頭上には下半身が蛇のような形状の純白のドラゴンの姿があった。だがその姿は禍々しいというべき姿をしており、4つの腕には1つずつ両刃のトマホークを持ち、背中からはエネルギー状の翼を羽ばたかせていた。

 

「ええい! ゲッターロボだ! ゲッターロボGを出せッ!! 量産型ドラゴン達も全てあのドラゴンに向けろッ!!!」

 

このままではシロガネが轟沈する、そう判断しゲッターロボGの出撃命令を出したシュトレーゼマンだがそれが更なる火種を生む事となるのだった……。

 

 

 

 

 

シロガネにトマホークを叩き付けたドラグクルの視界をネビーイームの中で見ているレビはその口角を上げて、獰猛とも取れる笑みを浮かべた。

 

「見つけた……ゲッターロボG」

 

シロガネから出撃したゲッターロボGを見て、レビはその興奮を抑え切れなかった。バルマー本国が求めて止まないゲッター炉心……ゲッターロボからゲッター炉心を奪うのは至難の業だが、AI制御でしかも半壊しているドラゴンからゲッター炉心を奪うのは簡単な仕事だ。

 

「ヴィレッタ、横槍を入れるなよ。あれは私が倒す」

 

『了解しましたレビ様、ですが、最悪の場合は助太刀いたします』

 

「ああ、頼むぞ。さてと……見せて貰おうかッ! 戦闘型ゲッターロボの実力をッ!!」

 

ドラグクルの背後から飛び出したビットがゲッターロボGに向かって突撃していく、攻撃には反応しているようだが、その動きは鈍く挨拶代わりのビット攻撃にもまともに反応出来ていない様子だった。

 

(ちっ、出来損ないか)

 

その様子に高揚していた気分が一気に下がるのを感じたが、最優先はゲッターロボGの確保だ。空中から反転して、ゲッターロボGを捕えようとその4つの腕を伸ばそうとした瞬間。レビは急遽反転させ、その腕を突き出した。

 

「ほう、中々やるな」

 

『よう化け物、オイラが相手をしてやるよ』

 

高速で飛来したゲッタートマホーク、それはドラグクルの強固な装甲を引き裂いていた。

 

「ふふふ、ああ、あんな出来損ないよりお前と遊ぶ方が楽しそうだ。だが、目的も同時に果たさせて貰おうか」

 

背中から射出したビットが量産型ドラゴン、ライガー、ポセイドンの胸部を貫く。一瞬びくりとその身体を痙攣させたドラゴン達だが、次の瞬間その黄色のカメラアイは真紅に染まりゲッターロボGへと襲い掛かる。

 

『しまった! これが奴の狙いかッ! ゼンガーッ!!』

 

『承知ッ!!』

 

レビ達の目的がゲッターロボG……いや、ゲッター炉心の奪取と判り特機とPTがゲッターロボGの支援に回る。

 

『ワームスマッシャーッ!』

 

「っと、なるほど、お前を忘れていたよ。グランゾン」

 

地球で警戒するべき特機「グランゾン」の胸部から放たれた光線がワームホールで飛ばされ、上下左右からドラグルに叩き込まれる。勿論念動フィールドを貫かれてはいないが、その振動にドラグルの視界が一瞬ぶれる。

 

『なるほど、中々に堅いようですね。私と武蔵君では些か分が悪い様子』

 

『ならば私も助太刀しよう、ゲッタービームッ!!!』

 

背後からの強襲、今度こそドラグルの姿は氷塊に頭から突っ込んだ。だが念動力によって遠隔操作をしているレビにはダメージなど入るわけも無い、むしろゲッターロボVの登場に笑みを浮かべていた。

 

「ふふふ、ゲッター炉心搭載機が3機か……私はついている」

 

どれか1つでも持ち帰ればゲッター炉心の量産は可能だ。そうなれば本国も喜ぶだろう、だが今のままでは戦力が足りない。

 

「さあ、おいで……私の操り人形達よ」

 

レビが指を鳴らすとコーツランド周辺に空間転移反応が連続で起こり、そこから量産型ドラゴン達が次々と姿を見せる。

 

「お前の力を見せてみろ、ゲッターロボッ!!!」

 

頭部から放たれた高出力のビームがゲッター1に向けられるが、命中する寸前にゲットマシンへと分離する。

 

『少しばかり私と遊んで貰いましょうか?』

 

「ふふ、良いさ。遊んでやるよ、地球人」

 

グランゾンのグランワームソードを2本の腕のゲッタートマホークで受け止め、背後で再びゲッター1へ合体したゲッターロボにビットを飛ばす。ドラグクルはドラゴンの上半身とヴァイクルの下半身を組み合わせた試作機でありその両方の良い所を組み合わされた機体だ。遠隔操作ビットに高出力のビームセイバー、そして背中にマウントしている2門のオプティカルカノン。そしてドラゴンの頭部ビームとダブルトマホークと遠近に高い能力を持ち合わせている。だが、操縦者であるレビは生粋のパイロットではなかった。そしてそれに対してムサシはゲッターロボのエキスパートだった。

 

『掛かったッ! ゲッターアアッ! ビィィィムッ!!!』

 

マントを身体に巻きつけ、自らビットに突撃したゲッター1。マントの隙間から乱反射したゲッタービームがビットを貫き破壊する、その想像外の攻撃に一瞬だけレビは動きを止めた。

 

『クロスマッシャー……発射ぁッ!!』

 

「舐めるなッ!!」

 

追撃にと放たれたゲッターロボVのクロスマッシャーは回避した。報告に聞いていた攻撃とは言え、実際に目の当たりとすると違うとレビは感じていた。

 

(さて、どうするか)

 

ゲッターロボGを回収して離脱する計画だったが、そこに2体のゲッターロボが現れたことで、少し欲が生まれた。そのせいでゲッターロボGも2機のゲッターロボも回収するのが難しくなってしまった……。

 

「試作機だからな、仕方あるまい」

 

外見はドラゴンでも性能はドラゴンとは程遠い、敵の戦力差は想像以上にあった。まさか出撃している機体全てにゲッター線が含まれているとは想定外だったとレビは苦笑する。ゲッターロボGだけでも回収しようとした時、レビの悪運が武蔵達を上回った。

 

『ギギィッ!!!』

 

上空から飛来した蜂型の機動兵器の尻から放たれたミサイルと回転する頭部から放たれたビーム。それがレビを取り囲んでいた機体を引き離し、体勢を立て直す時間をレビに与えたのだった。蜂型ロボットによる奇襲によって、武蔵達へと傾きかけていた戦場の流れは再びどちらに転ぶかわからない状況へと流を変え始めていたのだった……。

 

 

 

 

 

蜂型の乱入により、戦場の流れは一気に混迷を極めていた。異形のドラゴンに操られた量産型ドラゴン達、そしてエアロゲイターによって召喚された量産型ドラゴン、そしてその戦場の中で己の力を弁えず、異形のドラゴンに向かうゲッターロボG。

 

「ゼンガー! ゲッターロボGの足を切り落とせ、動きを止めるんだッ!」

 

「判っている! だがこうも邪魔が多くてはッ!!」

 

量産型ドラゴンとゲッターロボGの違いはゲッター炉心の有無だ。それ以外は全くの瓜二つで同じ機体が無数にいるこの状況ではゼンガーとエルザムでさえもゲッターロボGの姿を見失っていた。

 

「なるほど、私とグランゾンを止めにきましたか……些か厄介ですね」

 

ライガーは突撃と同時に自爆を繰り返し、グランゾンの足を止める。湾曲フィールドで防いでいるが、そうなれば湾曲フィールドを解除する必要のあるワームスマッシャーや攻撃を繰り出す隙が無い。しかも自爆前提で身体に火薬を仕込んでいるライガーの存在に流石のシュウも顔を歪めていた、そしてシロガネもまた轟沈寸前に追い込まれていた

 

「「「「「!!!」」」」」

 

「ぐわっ! くそっ! 基地の防衛隊はどうなっている!」

 

「す、既に全滅しています! 議長! この場から脱出をッ!!」

 

コントロールの奪われたポセイドンの執拗なストロングミサイルの攻撃で修復されたコーツランド基地は崩壊し、シロガネもエネルギーフ

ィールドの維持が難しくなり、オペレーターからの避難勧告が出る。

 

「ちいっ! クロガネをシロガネ上空に移動させろっ! エネルギーフィールドの全力展開だッ!」

 

シュトレーゼマンはどうなっても良いが、シロガネを轟沈させるわけには行かないとクロガネが防御に入り、陣形が再び崩される。

 

「ぐっ! 完全体はこんなに早いのか!」

 

「武蔵君ッ! 「ゲッターロボに注意を向けている場合か?」 ぐふっ!? くっ、厄介な」

 

この場の最大戦力であるはずのゲッター1とゲッターVは蜂型の機動兵器と異形のドラゴンによってその動きを完全に封じ込められていた。

 

「なろぉッ! 舐めんなッ! オープンゲットッ!!!」

 

蜂型の目の前でオープンゲットし、蜂を無視して異形のドラゴンに突き進むゲットマシン。それを見た蜂型がゲットマシンを追いかけようとするが、その背中にクロスマッシャーが直撃する。

 

「!!!」

 

「私を忘れて貰っては困るな」

 

武蔵が何をしようとしているのか理解したビアンは邪魔はさせまいと蜂型に攻撃を連続して繰り出す、その機動力の前にゲッターの操縦に慣れていないビアンの攻撃は当たらない――だが蜂型を誘き寄せる方法はビアンは十分に理解していた。

 

「ゲッター炉心の出力UP。そら、お前の嫌いなゲッター線がここにあるぞ」

 

「!!」

 

あの蜂型はゲッター線に強い反応を示す、仮に攻撃が当たらなくともゲッター線の強いゲッターVに引き寄せられる。あの蜂型は、そのようにプログラミングされていた。

 

「うおおおおおーーーッ!! チェンジッ! ゲッタァアアーーーツゥッ!!!」

 

マシンガンの連打からゲッター2にチェンジし異形のドラゴンに突き進む、遠隔操作の機体であるからこそ反応が遅れゲッター2のドリルがバリアを突き破り、ドラゴンの腹部に突き刺さり火花を散らす。

 

「ふふふ、この程度で止まると思っているか?」

 

ドラグクルの4つ腕がゲッター2を捕らえようと伸びるがそれよりも速くゲッター2が爆ぜ、再びゲットマシンへと分離する。

 

「チェンジッ! ゲッター1ッ!! ゲッターッ! トマホークッ!!!」

 

「速い……なるほど、ゲッターの強さとはこれか」

 

ゲッター1が縦横無尽に投げ付けてくるゲッタートマホークの嵐、それを弾きながらレビは冷静にゲッターを観察する。相手の戦闘力、そしてその弱点を見出そうとしていたのだ。だが、そんなレビの目の前に予想外の光景が広がった」

 

「ゲッタァアアーービィィムッ!!!」

 

投げ付けた無数のトマホークに向かって放たれたゲッタービームがトマホークの刃に当たり、乱反射を繰り返す。そしてそれは上空から無数の光の雨となってコーツランド基地周辺に降り注いだ。

 

「!?」

 

「!!!!」

 

事前に武蔵から連絡を受けていたゼンガーとエルザムはゲッタートマホークの投擲と同時に離脱しており、その光の雨の範囲から逃れていた。

 

「これで思うように動けます。グラビトロンカノン発射ッ!!!」

 

そして光の雨によって屍兵の動きが止まった一瞬で超重力の雨が降り注ぎ、ライガーやポセイドン、そしてドラゴンは氷原に叩きつけられそのカメラアイから光を消した。

 

「ふふふ、どうやら今回はここまでのようだな」

 

レビもまたゲッタービームによって弾き飛ばされ、自身を追い抜いていくゲットマシンを見て笑みを浮かべる。だが、それはレビにとって計算通りだった。

 

「チェンジッ! ゲッタァアアースリィィーーーーッ! 大ッ! 雪ッ!! な、なんだとッ!?!?」

 

ドラグクルをゲッターアームで捕え、大雪山おろしを繰り出そうとした瞬間。ドラグクルの下半身が脱皮するかのように抜け、完全なドラゴンとなったドラグクルが機能停止寸前のゲッターロボGへと突進する。

 

「いかんッ! ゼンガーッ!」

 

「承知ッ!」

 

エアロゲイターの目的がゲッター炉心の奪取だと判り、零式・改、そしてタイプGの攻撃がドラゴンに襲い掛かるが遠隔操作で無人機と大差の無いドラゴンはGを抱え込み、転移しようとエネルギーを高めた。

 

「何ッ!?」

 

「……ジジジ」

 

だがそれはレビにとって不幸を呼び寄せる結果となった。ゲッターロボGのゲッター線とドラゴンが転移の為にエネルギーを高めた事により、ゲッターVの総エネルギーを越えてしまったのだ。

 

「……シャインスパーク……発動感知……自爆シマス」

 

「なっ!? 離せッ!」

 

背部から出した6つの腕がドラゴンとGを抱え込み、ドラゴンが拘束を振りほどこうと拳を振るうが蜂型はそれに一切怯む事無くエネルギーを高め続け……蜂型とドラゴン、そしてゲッターGの姿は眩い閃光の中に消えた。

 

「おお、これで助かった……!」

 

「貴重なGは失ったが……後はホワイトスターで彼らとの交渉をするのみだ……至急周辺の連邦に通達、クロガネを補足したとな」

 

クロガネやビアン達に助けられたが、即座にビアン達を売る選択をしたシュトレーゼマン、だがその命令が連邦基地に届く事は無かった。

 

「いかん、シロガネが……!」

 

突如シロガネの前に転移してきた紫のエゼキエルがその手に持ったライフルをブリッジに向けていた。

 

「さあ、覚悟なさい……ッ!」

 

「こ、これはどういうことだ!? ニブハル・ムブハル!!……ッ!?ぎ、議長! あの男の姿が見当たりませんぞ!」

 

「な、何……!? は、謀りおったか、ニブハル……ッ!!」

 

自分がいればエアロゲイターに襲われることは無いと言っていたニブハルの言葉を信じていたシュトレーゼマン達は、エゼキエルの攻撃行動に驚愕し、そしてついさっきまでブリッジにいたニブハルの姿が無い事に悲鳴を上げた。

 

「な、何故だ!? 何故ぇぇぇっ!?」

 

「お、おのれ、ニブハル! この私を……!!」

 

そしてシュトレーゼマンを含めたEOT特別審議員のメンバーは全て、エゼキエルの放った光の中へと消えた。

 

「……所詮は、権力にすがるしかない老人だったわね……これでお膳立ては終わったわ」

 

エゼキエルのコックピットの中でヴィレッタは笑い、蜂型の自爆を耐えたドラゴンへと合流する。

 

「大丈夫ですか? レビ様」

 

「……ああ、念動フィールドで耐えたがまさか自爆するとは予想外だ。だが、成果はあった」

 

炉心は流石に手にすることは出来なかったが、ドラゴンの手の中にはゲッターロボGの頭部が握られていた。

 

「これを分析すれば、判る事もあるだろう。ヴィレッタ、撤退だ」

 

「は、転移システムを起動します」

 

「……やれやれ、前回の南極会談の時といい……どうも芝居が過ぎたようですね」

 

崩壊したコーツランド基地、そして氷海に浮かぶシロガネを見つめながらニブハルは肩を竦めた。妨害がある事は考えていたが、ここまで力づくの行動に出るとはニブハルにとっても予想外だったのだ。

 

「それに……まさか、彼らがあのような手段に出るとは。おかげで今までの苦労が水の泡です――仕方ありません。本国には結果のみを報告するとして……しばらくの間、この星の監視は……哀れな放浪者達に任せるとしましょうか……」

告するとして……しばらくの間、この星の監視は……哀れな放浪者達に任せるとしましょうか……」

 

ここまできてしまっては自分には出来る事が無い、ニブハルはそう呟きシロガネの消火活動をしているクロガネを一瞥し、溶ける様にその場を後にするのだった……

 

「バン大佐、シロガネはどうだった?」

 

「敵機はピンポイント攻撃で第一艦橋のみを破壊したようです、他ブロックに損傷はほとんどありませんが……第一艦橋にいたシュトレーゼマン、イスルギ社長、そしてEOT特別審議会のメンバーは全員死亡しました」

 

コーツランド基地からの救難要請を受けたクロガネは支援物資の投下とSOS信号を発信し、南極を後にした。第一艦橋のみの修復ならばシロガネはオペレーションSRWには間に合うだろう。

 

「仕方あるまい、近いうちに伊豆基地に連絡を取る。バン大佐、私達は少し休む、基地に到着したら教えてくれ」

 

「了解です、ゆっくり休んでください、ビアン総帥」

 

コーツランド基地は放棄されているとは言え、連邦の基地だ。留まる事は危険だと判断し、残りの調査は連邦に任せクロガネは南極を後にした……だがそれが武蔵達にとって不幸を呼ぶ事になった。

 

「ふふふふ……ドラゴンが帰ってきたねえ」

 

「そ、そうだね、こ、コーウェン君ッ!」

 

コーウェンとスティンガーによって惨殺された連邦の兵士の肉塊の中で2人は笑う。巨大なクレーンによって吊るされた頭部と左腕、そして右足の無いゲッターロボGだが、修理すれば良い。ゲッター炉心を取り戻しただけで2人にとっては意味があり、ゲッターGが崩壊していようが関係ないのだ。

 

「同胞よ、安らかに眠れ」

 

2人に連れられて来たブライは蜂型の頭部に手をあわせ、2人に歩み寄る。

 

「ゲッターGを修理する予算と人員を回してやる。だからお前達も約束を守れ」

 

「勿論だよ! ブライ議員。オペレーションSRWが終わるまで僕達は動かないよ」

 

「や、約束だからね! 僕達は約束は守るんだ」

 

「ふん、どうだかな。まぁ良い、連邦の巡回が来るまでにこの場を去るぞ」

 

崩壊したゲッターG、そしてコーウェンとスティンガーとブライはその場を後にし、巡回の兵士は惨殺された兵士と再び奪取されたゲッターGの事を隠蔽する為、ゲッターGの残骸は存在せず自爆によって跡形もなく消し飛んだと報告するのだった……。

 

 

第69話 リクセント公国 その1へ続く

 

 




暗躍大好きーズがばっちり暗躍しております、そして+αも合流。しかし、OG1ではまだ表舞台に出てこないのであしからず。次回はマリオネットソルジャーの前編のパーティの件とオリジナルシナリオを加えてやっていくつもりです、ゲーザとガルインが動くか、生き残りの恐竜帝国か、そこらを出してシャインと武蔵をあわせたいなと思っております。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第69話 リクセント公国 その1

第69話 リクセント公国 その1

 

連邦軍に与えられたコード「ブラック・エンジェル」……いや、アストラナガンの襲撃以来ハガネ、そしてヒリュウ改は伊豆基地にずっと留まっていた。アストラナガンの襲撃での被害が余りに甚大であり、当初の計画である囮で地球圏の軍事施設への被害を最小にする事が実行不可能となった事が大きい。

 

「コーツランド基地でクロガネ、ゲッターロボ、グランゾン……そしてシロガネがエアロゲイターと交戦し、シロガネとコーツランド基地は大破したようだ。ダイテツ」

 

レイカーからの言葉にダイテツはそうかと小さく溜め息と共に呟いた。

 

「EOTI審議委員会は……全滅だろうな」

 

「ああ、死体が確認されている」

 

「地球を売ろうとした罰……とは言いがたいな」

 

手段は異なるが地球を守ろうとしたことに変わりは無い、勿論賛同出来るかどうかは別の問題になるが……。

 

「エアロゲイターが伊豆基地を襲撃しないのは、クロガネ、ゲッターロボの方が脅威と判断しているからか?」

 

「その可能性は高いな、現に人がいない空域での戦闘記録などが多数報告されている」

 

「ビアン達には頭が下がるな」

 

本来はハガネとヒリュウ改が務めるはずだった囮。それが奇しくもクロガネによって為さられている……その事にダイテツもレイカーも己の無力感を感じていた。

 

「だが今はそれに感謝するしかない、それと武蔵君にもな」

 

武蔵の名前がこの場で何を意味するか、ダイテツは十分に理解していた。

 

「グラスマンか……」

 

「ああ。量産型ゲシュペンストMK-Ⅱの製造ラインを買い取って、私達の元へ送り届けてくれている」

 

伊豆基地だけではなく、連邦軍の基地のあちこちで量産型ゲシュペンストMK-Ⅱの納入が始まり、フライトユニットの開発も進んでいる。

 

「ベテランにはリオンやガーリオンよりは適正があるからな」

 

「若手を出すには今回の戦場は厳しすぎる」

 

当初は若いパイロットにリオンやガーリオンの適正訓練を行わせる事を考えていた、それはベテランと呼ばれるパイロットがゲシュペンストの操縦に慣れすぎて、熟練訓練を行っている時間が無かったからだ。しかし、地球と月で量産型ゲシュペンストMK-Ⅱの製造が再び始まれば、オペレーションSRWで乗る機体が無く戦艦のスタッフになるしかなかった軍人も戦力として数える事が出来る。

 

「武蔵君をここまで英雄視するのはどうかとも思うのだがな……」

 

グラスマンの家に伝わると言う旧西暦の歴史書。そしてそれに記されていたゲッターロボと武蔵の存在、それによって地球は勝てる。ゲッターロボによって救われると公言するグラスマン、先日の議員会議でもシャイン皇女と共に熱弁を奮っていたのは記憶に新しい。

 

「そういえば、ケネスが失脚したそうだな」

 

「ああ。賄賂や連邦の情報の売り渡しをしていた証拠があったとか」

 

ケネス・ギャレット少将が内通者として拘束されたという話は連邦の上層部にしか伝わっていないが、それでも相当な人数が拘束されている。

 

「これもグラスマンの考えか」

 

「よほど軽蔑されたくないらしいな」

 

武蔵を英雄視しているからこそ、武蔵が嫌悪感を抱くような軍人を切っているグラスマン。オペレーションSRWを妨害するような軍人は必要ないが、それが後の軋轢になるのではと言う不安がレイカーとダイテツにはあった。

 

「それでクスハ・ミズハ曹長が持ち帰ったUSBメモリの中身はどうだった」

 

「SRXの改良案、そしてホワイトスターの防衛網の薄い箇所、そして敵の能力についてのレポートだった」

 

救出されたクスハがテツヤに提出したUSBメモリ。それにはSRXの改良に必要な物、そしてオペレーションSRWに必要な情報が全て記されていた。そしてクスハの証言ではあるが、頭を抑え、苦悶の表情をしながらハガネとヒリュウ改に必要な物だと言ってイングラムに託されたのだ。

 

「イングラム少佐もまた犠牲者だったのだな」

 

「過去形にするには早い、リュウセイ曹長達はイングラム少佐を取り戻すと言っている。まだ取り戻すチャンスは残っている筈だ」

 

イングラム・プリスケンは裏切り者ではない、エアロゲイターによって洗脳されながらも自分達の手助けをしてくれた……それがハガネとヒリュウ改のクルーの共通の認識なのであった。

 

「しかし良かったのか? ハガネとヒリュウ改のクルーに休暇を与えて」

 

「息抜きも大事だ。ダイテツ、お前も少しばかり身体を休めて来い」

 

ヒリュウ改とハガネ、そしてクロガネがオペレーションSRWの戦力になる。そう判断したからこそ、レイカーはダイテツ含むハガネとヒリュウ改のクルーに2日の休暇を与えたのだ。

 

「戦の前に英気を養ってくれ」

 

「判った、それも命令と言うのだな」

 

「ああ、命令だよ。ダイテツ」

 

そう笑うレイカーに背を向け、ダイテツは司令室を後にするのだった……。

 

 

 

 

ダイテツとレイカーが最近起きた出来事の話し合いをしている頃、SRX計画のラボでは……ジョナサン達が話し合いを続けていた。

 

「ゲッター合金とゲッター線によって問題は何とか解決できそうか?」

 

「理論上は可能です、ですが私達にはゲッター合金とゲッター線を扱うノウハウがない」

 

マリオンとリシュウがビアンから託されたのは試作の粋は出ないがビアンが生成したゲッター合金だった。

 

「Rシリーズの変形機構は複雑だからな、今思えばよくあんな設計をしたものだ」

 

「作った本人にそんな涼しい顔で言われてもなぁ、これだけ集まっているのだからゲッター合金の加工方法くらい思いつかないのか」

 

「無理でしょう? ゲッター合金は生成だけではありません、加工も難しいのですから」

 

ジョナサン、ロブ、カーク、そしてコウキの4人はううーむと頭を抱え込む。SRXよりも複雑な変形を繰り返すゲッターロボ、その変形を支えているのはゲッター合金。ゲッター合金の加工さえ出来れば、SRXの合体における問題が全て解決する。

 

「装甲はともかくとして、関節にゲッター合金を使うのはどうでしょうか?」

 

「それが一番手っ取り早いか、問題は加工技術だ。柔軟性と強度に秀でたゲッター合金をどうやって加工するか……」

 

ゲッター合金で関節を作れば、SRX、そしてRシリーズは今までの機動兵器で類を見ない柔軟性と装甲を得るだろう。だがジョナサン達にはそれを加工するだけの技術、そして少量しかないゲッター合金で実験をするということに踏ん切りがつかないでいた。

 

「ロボット工学の天才達がそろいもそろって情けない話ですわね」

 

「これだから学者と言うのは頭でっかちで困るのだ」

 

SRX計画の地下ラボに本来ありえない2人組み……マリオンとラドラの2人が訪れた事にジョナサン達は驚いた。

 

「マリオン、ゲシュペンストのフライトユニットの方はいいのか?」

 

「ハガネとヒリュウ改に運び込まれたゲシュペンストの分は既に製造が終了しましたから、様子見に来たのです。それにしても何時まで答えの出ない討論を続けているのですか」

 

マリオンのきつい視線と言葉にジョナサン達は返す言葉もない。

 

「ゲッター合金は確かに稀少だ、そして加工も難しい。だが既にある程度の答えは出ているのだろう? コウキ」

 

「……まぁ、ある程度は」

 

「ならばそれを実行に移せば良い。机上の空論では何も変わらない、まず実行する事だ。そしてお前達は思い違いをしている」

 

思い違いと言うラドラの言葉に全員が苛立ちを隠せないでいた、未知の合金に自分達はベストを尽くしてきたと言う自負があったからだ。だがラドラはそんな様子のジョナサン達を見て更に鼻を鳴らす。

 

「1から生成しようとするのがまず間違いだ。ゲッター合金を溶解して、コーティングするだけでも相当な成果が出るのではないか?」

 

それはシンプルな助言だった。1から生成するのではない、少量のゲッター合金を融解し、それをパーツにコートするだけでも新西暦ではありえない柔軟性と強度を得ることは実験で判っていたからだ。

 

「どうせそんな事だろうと思い、今日、ここへ来たのはあなた方に新型サーボ・モーターをお渡しするためですわ」

 

「新型の……? それは君がゲシュペンストMK-Ⅲ用に開発していた物ではないか?」

 

マリオンが自主的に開発するのはゲシュペンストMKーⅢ以外ありえない、つまりマリオンの研究の成果であるそれを渡す。それはSRX計画と量産型ヒュッケバイン計画によって、追詰められているゲシュペンスト派のマリオンらしからぬ行動だ。

 

「ええ。私がゲシュペンストMk-III用に作っておいたものでしてよ。幸い、予備が複数ありますので、あなた方に差し上げますわ。あれを使えば、SRXの関節耐久度を上げることが出来ますわよ」

 

地下に搬入されてきた4つのコンテナ、その中にマリオンが開発したサーボ・モーターが収められている。それが判ったロブは思わず椅子から立ち上がり、マリオンに歩み寄った。

 

「で、では……SRXの合体可能回数も増えると?」

 

「それは貴方達次第です、大サービスで規格の方はすでに私の方で合わせておきましたが、ゲッター合金によるコーティングで更に合体回数を増やすのか、そのまま運用するのかはお任せします」

 

お任せしますと言っておきながら、その挑発するような視線にゲッター合金を使うのだろう? 使わないのならば持って帰ると言っているのが全員に判った。

 

「た、助かります! コウキ直ぐに準備をッ!」

 

「判っている、ゲッター合金の融解温度は極めて高い、それ相応の準備が必要だ。ジョナサン博士」

 

「言われなくても準備の為の打ち合わせは出来ている。スペースノア級の装甲を作る設備がある伊豆基地だぞ? 今は使われていないが特殊溶鉱炉がある」

 

今まで話が進まなかったゲッター合金の使用法が判ると同時に一気に地下ラボは慌しくなった。オペレーションSRWまで時間が無いのだ、その短時間でSRXをより強化できるとなれば戦力は爆発的に増大する。

 

「礼を言わせてもらう、マリオン、そしてラドラ博士」

 

自分達ではそこまで辿り着けなかったと頭を下げるカークにマリオンはそっぽを向きながら言葉を放つ。

 

「それには及びません。敵にスパイスを送ったまでですわ」

 

「それを言うなら塩だ、塩。それに俺とマリオン博士が手助けするのにも理由がある」

 

本来ならば協力するつもりは無かった、だがマリオンとラドラの気分を高揚させる事があったのだ。

 

「理由……なんですか? それは?」

 

「レイカー司令とノーマン少将によって再トライアウトが決まった」

 

「つまり、量産型ヒュッケバインの件は1度白紙に戻ったのですわ」

 

その言葉にはカークとジョナサンも目を丸くした、1度決まったトライアウトが白紙になるなんて事は今まで無かったからだ。思い当たる節は1つしかない、それに辿り着いたカークが声を上げた。

 

「ゲシュペンスト用のフライトユニットかッ!」

 

思い当たるのは1つしかなかった、ラドラ、ギリアム、カイの元教導隊3人が主導になって開発を進めたフライトユニット。その汎用性が軍上層部に認められたのだとジョナサンは思ったのだが、それだけではなかった。

 

「それとゲシュペンスト・リバイブですわ」

 

ゲシュペンストの優れた汎用性と拡張性、それがゲシュペンスト・リバイブとフライトユニットによって見直されたのだ。そしてそれによって2次まで終わっていたトライアウトがまたやり直しとなったのだ。ヒュッケバインはゲシュペンストよりも優れているのか? その点が疑問視された結果だった。

 

「あなたを助けるためではありませんわ、ハミル博士。SRX計画に集中していて、ヒュッケバインプロジェクトに集中できなかった。そんな言い訳を言わせない為の物です」

 

「判っている、だが次も私が勝つだけだ」

 

「いいえ、今度は私と、ゲシュペンストMK-Ⅲが勝ちます。オブザーバーにラドラ博士が付いてくれましたからね」

 

「あのリボルビングステーク、アレは良い。とても気に入った、だが威力が足りん」

 

……駄目な人とヤバイ人を組み合わせてしまった。それを悟ったジョナサン達は今度のトライアウトも駄目じゃないか? と思ったのだが、空気を読んでその事を口にすることは無いのだった……。

 

 

 

 

 

レイカーの命令によって休暇となっていたハガネとヒリュウ改のクルーは、オペレーションSRWの前の最後の休息と親睦会を兼ねてパーティを行っていた。

 

「YEAHッ! サンキュー、エブリバディッ!!」

 

食堂で歌っていたジャーダにパーティの参加者から拍手と賞賛の声が飛ぶ。

 

「良い声だったぜ、ジャーダッ!」

 

「パーティの余興程度に思っていたが、思ったより良かったぞッ!」

 

「「アンコールッ! アンコールッ!!!」」

 

ハガネとヒリュウ改のクルーだけではなく、半舷休暇や、休みの基地職員等も集まっていたからあちこちからアンコールの声が飛ぶ。

 

「へへ、どうもどうも。だけどアンコールは作戦成功後って事で!」

 

歌いたくて仕方ないと言う様子のジャーダだったが、次の出し物が迫っているので舞台の上からギターを抱えて降りる。

 

「ふ~ん、ジャーダって歌が上手いんだね」

 

パーティ会場で料理を摘んでいたリューネが近くに居たラトゥーニにそう声を掛ける。人見知りが改善されつつあるラトゥーニは少し驚いた素振りを見せたが、リューネの言葉に返事をしていた。

 

「……連邦軍に入る前はデビュー寸前まで行ってたって」

 

「納得。プロでも食べていけるよ、きっと」

 

素人の演奏ではなく、プロデビュー寸前だったと聞けばジャーダの歌声の良さも判る。今は軍人だが、それでもデビューする事を諦めず、まだ演奏をしているのだとリューネは今の演奏を聞いて感じていた。

 

「レディース・アンド・ジェントルメンッ! 今からこの箱に入って、あわれ串刺しとなる運命の美女は……」

 

食堂の明かりが1度消え、派手な服装をしたタスクがライトアップされながら食堂の入り口に手を向ける。その動きに合わせライトが動き、全員の視線がそちらに引き寄せられる。

 

「ガーネット・サンデイ少尉とエクセレン・ブロウニング少尉です! さあ、拍手拍手!!」

 

「ハーイ!」

 

「よろしくぅ!」

 

薄暗い通路から姿を見せたガーネットとエクセレン。それ自体は良かったのだが……その服装が問題だった。

 

「な、何だ、あの格好!?」

 

「バニーガールだな、知らないのか?」

 

「いや、そりゃ見れば判るけどよ……なんでキョウスケ少尉はそんなに冷静なんだッ!?」

 

「事前に聞いていたからな」

 

慌てるリュウセイとどこかズレているキョウスケ。しかし、それに対して食堂の中のボルテージは異常に上がっていた。絶世の美女2人がバニーガール姿で現れたのだ、それに盛り上がらない訳が無い。

 

「いよっ、ご両人! 待ってたぜ!」

 

イルムの声がきっかけであちこちから、バニーガールの姿をしているエクセレンとガーネットに賞賛の声が上がる。

 

「しょ、少尉! そんな格好で恥ずかしくないんですかッ!?」

 

舞台に立つまでに手を振りながら歩くエクセレンとガーネットに真面目なブリットが恥ずかしくないんですかと言う。だがそれはガーネットとエクセレンの加虐心を煽る事になってしまった。

 

「とか何とか言っちゃって……どこ見てんの、ブリット君?」

 

「あらあら、坊やにはちょっと目の毒だったかしら?」

 

余裕綽々という感じで胸元を強調するエクセレンとガーネットにブリットは目を白黒させながら目を背ける。

 

「か、かかか、からかわないで下さいっ!」

 

「目の毒っていうより、気の毒だな」

 

苛められているブリットを見て、マサキがそう呟きながら2人から目を逸らす。

 

「おーラトゥーニ、これうめえなあ」

 

「……ガーネットが作った奴」

 

「そうなのか、うん。美味い美味い」

 

バニーガール姿の2人に目もくれず、料理を食べているリュウセイにほっとした表情のラトゥーニと目があったマサキはまた目を逸らす。上手く言えないが、凄く気まずい気分になってしまったからだ。

 

「おーい、マサキも食べなよ。美味しいよ」

 

「お、おう。今行く」

 

リューネの自分を呼ぶ声にこれ幸いとその場を後にするマサキだが、そこでもそこでリューネと2人と言う事で周りの視線が鋭くて、妙に気まずい感じになってしまっていた。

 

「ブリット君、大丈夫? 鼻血が出てるけど…」

 

「う……。そ、それより、キョウスケ中尉! いいんですか!?」

 

クスハにティッシュを差し出され、それを受け取った物の……意中の少女を前に別の女性を見て鼻血を出した事にブリットは顔を蒼白にさせながら、エクセレンのストッパーであるキョウスケに良いんですかと詰め寄った。だが、キョウスケは我関せずという感じで料理を口に運んでいた。

 

「……止めてどうなるものでもない。好きにやらせておけ」

 

諦めの色が強いキョウスケの言葉にブリットは何も言う事が出来ず、ガーネットに色目を向けられている事を我慢していたジャーダの怒声が飛んだ。

 

「タスク! いいから先進めろ、先!」

 

このまま自分の恋人を飢えた男に見せるつもりは無いと言わんばかりのジャーダの怒声にタスクは自らの特技であるマジックを進めていく。

 

「さあ、みなさん。料理はまだ沢山ありますから、どんどん食べて下さいね!」

 

「……美味しい。一流シェフ顔負けだよ、リオ」

 

「ああ、大したものだな」

 

タスクのマジックを見ながらハガネとヒリュウ改の女性陣の料理を口にしていたリョウトとライはその味に舌鼓を打つ。

 

「ライ少尉にそう言ってもらえると自信が持てます。これもどうぞ」

 

「私とユンで作った特製トドクカリーよ。お試しあれ」

 

インドのカレーを勧められ、断るのもなんだとライはその皿を受け取った。

 

「では、頂きます…………うッ!?」

 

カレーを口に運んで停止したライにリョウトが慌てた様子で駆け寄る。

 

「ど、どうしたんですか、ライ少尉!?」

 

「……す、すまない、水を……」

 

水をくれと言うライの言葉にリョウトが水を差し出す前に、アヤがジュースを差し出す。

 

「水よりもフルーツジュースの方がマシよ?」

 

「あ、ありがとうございます。大尉」

 

フルーツジュースで一息ついたライ、そんなライを見てラーダはくすくすと笑う。

 

「あら……? やっぱり、普通の人には辛すぎたかしら?」

 

「普通って……。人を実験台にすんなよな、ラッセルもちゃんと止めとけ」

 

「い、いえ、中尉。確かに料理は手伝いましたが、女性陣のほうには行ってませんよ」

 

普通は逆だろというやり取りをするカチーナとラッセル。料理が出来るクルーの募集で何故かラッセルが来て、女性陣は驚いていたが、カチーナの命令でと聞いて、ああっとどこか納得した表情をしていたのは内緒だ。

 

「インドと韓国のコラボレーションじゃ、辛いのは当たり前だよね……」

 

ラーダとユン、インド人と韓国人の作ったカレーならば辛いのは当たり前だと思い、リョウトは手にしていたカレーをそっと元の机の上に戻した。

 

「ちょ、ちょっと、タスク! 串が刺さってる、刺さってるって!」

 

「あれ? おかしいな……少尉、太ったんじゃないスか?」

 

女性陣を敵に回す一言を何気なく口にしたタスク、回りにいる女性陣に睨まれているのに気づかず、おかしいなあと首を傾げる。

 

「ねえ、タスク。刺す串を間違ってるんじゃない?」

 

「あ、ホントだ。これ、仕掛けがない方だった……」

 

リューネの一言で仕掛けが無い串を刺していた事に気付いたタスクに周りからは呆れムードが広がっていく。

 

「やれやれ、とんだオチだぜ」

 

「んもう、しょうがないわねぇ。せっかく、こんな格好までしたのに………じゃ、ガーネット。第二ステージに行っとく? 後、タスク後で殴るからね、乙女に太ってるとか覚悟しておきなさいよ」

 

「オッケー! そっちが本命だもんね!」

 

指された場所を摩りながら食堂を出て行くエクセレンとガーネット。だがタスクは出て行く前にエクセレンに言われた言葉に顔を青くさせ、手を合わせて拝むように何度も頭を下げていた。

 

「はぁ……失敗した。所で誰かレオナがどこにいるか知らねえか?」

 

パーティが始まってから1度も姿を見せないレオナの事を尋ねるタスク、だが男性陣は勿論。回りも見ていないと返事をする。そんな中、アヤがジュースのグラスを手にしながらレオナの場所をタスクに教える。

 

「あの子、調理場にいるわよ。ずっと1人で料理を作ってるみたい」

 

「ニャんか、怪しげニャ匂いがしてたけど……大丈夫かニャ?」

 

「そうねえ、クスハの例もあるし。でも、レオナなら……」

 

なんでもそつなくこなすレオナなら料理も大丈夫だろうという雰囲気の中、顔を顰めたレオナが食堂に入ってきた。

 

「お、来た来た。俺、レオナの料理を楽しみにしてたんだぜ。んじゃ、頂きまーす!」

 

レオナの制止の声を無視し料理を口に運んだタスクは目を白黒させ、顔を青くさせながらその場に倒れこんだ。

 

「……ご、ごめんなさい……実は私、料理が全然駄目で……」

 

「そ、そうだったの……ごめんなさい、無理に誘ってしまって」

 

「い、いえ。私も最初に言うべきでした」

 

なんでもそつなくこなすレオナの弱点が発覚する等、騒がしくも明るい中伊豆基地ではパーテイが進む、それはオペレーションSRWを前にした不安を払拭しようとしているように思えるほどの明るさと騒ぎようだった。

 

「リュウセイ、どうしたの? 考え事?」

 

「あ、ああ……武蔵、今頃何をしてるかなあって思ってさ」

 

「武蔵なら元気でやってると思うけど……」

 

「俺もそう思うけどさ、やっぱり心配になるよな」

 

「う、うん。そうだね」

 

「オペレーションSRWが終わったら、今度は武蔵も入れてぱーっとパーティしたいな」

 

リュウセイとラトゥーニはそんな話をしながら並んで座って食事を進める、勿論リュウセイとラトゥーニも気付く事はなかったが、パーティ会場に居る全員はそんな2人の様子を微笑ましそうに見ていたのだった……

 

 

 

 

一方、その頃クロガネと行動を共にする武蔵はある国へと向かっていた。

 

「リクセント公国ですか?」

 

「そうだ。ジュネーブ近くの国と言うこともあり、エアロゲイターの攻撃で被害を受けているだろうから、1度様子を見に行きたい」

 

ビアンの決定に武蔵を含め、全員が反対する事は無かったが、何故? と言う考えが全員の頭を過ぎったのは言うまでも無い。

 

「リクセント公国はEOTI機関時代に色々と便宜を図ってもらった事もある、それにだ。武蔵君の無罪を主張し、国会会議で発言したシャイン皇女に一度くらい会っておくべきだろう?」

 

「あれ? お姫様オイラの事覚えていたんですね」

 

覚えてないと思ってましたと笑う武蔵だが、あれだけ衝撃的な体験をしたのだ。如何に幼いと言っても……いや、むしろ幼いからこそその記憶は鮮烈にシャインの脳裏に焼きついていたのだろう。

 

「シャイン皇女に武蔵君の無罪の証明の感謝を告げに行くのですね」

 

「ああ、それもあるが……リクセント公国に気をつけろとシラカワ博士が言っていたのでな」

 

本当ならビアンはリクセント公国に向かう予定は無かった、蜂ロボの自爆で南極の海に落ちたゲッターGを回収するのを見届けるつもりだった。だがシュウがリクセント公国に向かうべきでしょう、大変な事になる前にねと告げて姿を消した。それを聞いて、ビアン達は南極を後にしてリクセント公国に急行する事を決めたのだ。

 

「何かあると見て間違いないですね」

 

「ああ。エアロゲイターが襲うには旨みが無い国だ。だからこそ、私はリクセント公国に向かう事にした」

 

金山で発展している国だが、言い換えればそれ以上の旨みは無い。異星人であるエアロゲイターが襲うには、余りにも条件が弱い。

 

「考えられるのは……恐竜帝国か」

 

「生き残りがいるのは間違いないからな」

 

最近噂になっているUMA。だがそれはまず間違いなく、恐竜帝国の生き残りだろう。アイドネウス島で大半が全滅したが、生き残りが居てもおかしくは無いのだ。

 

「エルザム少佐とゼンガー少佐で先行してくれ、近くにクロガネを着陸させる」

 

まずは様子見で少数が上陸、その後に武蔵とビアンがシャインへの謁見を求めるという流れで話は進んでいた……だが物事とは思いとおりになる事は少ない、そして今回もビアンの思い通りにはならなかった。

 

「どうした!? 何事だ」

 

突然クロガネのブリッジに鳴り響いた警報、だがそれは通常の警報ではない。ゲッター線レーダーに反応したそれは……「通常」の存在ではない。

 

「熱源が多数リクセント公国に向かっていますッ! 識別照合……アンノウンですッ! 生体反応もあることからメカザウルスと推測ッ!」

 

リリーの報告を聞いて、武蔵が弾かれたようにブリッジを飛び出す。

 

「武蔵君!「先に行きますッ! ビアンさん達は後で合流してくださいッ!!」

 

ビアンが静止の言葉を口にする前に武蔵はそう叫び格納庫へと駆けて行く。メカザウルスが出たと聞いて、武蔵が止まっていられる訳が無い。しかもそれが自分の無罪を証明する為に尽力してくれたシャインの危機となれば武蔵が止まっていられる訳が無かった。

 

『ビアン総帥! 武蔵が出撃しようと――どうすれば良いんですか!』

 

「出撃許可は出している! その後ゲッターV、零式・改、トロンベ・カスタムも出る! 出撃準備を急げッ! クロガネ機関全速ッ! リクセント公国に向かうぞッ!」

 

クロガネはリクセント公国へと向かう、そこに待ち構えているのがメカザウルスだけではないと言う事を知らずに……。

 

 

 

 

第70話 リクセント公国 その2へ続く

 

 




マリオネットソルジャーは恐竜帝国も加え、リクセント公国でベリーハードでお送りします。もしかするとアストラナガンも出るよ?
シャイン皇女の王子様が武蔵で固定される。そんな素敵なイベントにしたいですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第70話 リクセント公国 その2

第70話 リクセント公国 その2

 

自然に囲まれた豊かな国「リクセント公国」――特別独立自治権を持つ中立国であり、豊富な金脈、そして温暖な気候として避暑地や別荘地としても有名であり、中立国として連邦などにも与さないという性質から移住者が多い穏やかな国である。だが今……そのリクセント公国には悲鳴が響き渡っていた……。

 

「ギャオオオオオオーーッ!!!」

 

「キシャアアアーーーッ!!」

 

「ガオーーンッ!!!」

 

「ギギィーーーッ!!」

 

突如雲を引き裂き、海を割り、山を砕いて現れた機械化された恐竜の群れ。その恐ろしい雄叫びにリクセント公国の住人は恐れ戦いた……だがリクセント公国の民は見た、空を裂き眩しいまでの赤が自分達の頭上を飛んで行く姿を……。

 

「ゲッタァーーートマホォォォクッ!!!!」

 

はるか上空から飛来した戦斧が今正に避難所に叩きつけられようとしていた恐竜の尾を引き裂いた。

 

「ゲッタァアアーーーレザーーーッ!!!」

 

両腕の鋭い刃が恐ろしい恐竜の胴を捉え、上半身と下半身を両断する。

 

「オープンゲットッ!! チェンジゲッターーーーッ!!!」

 

鬼のような特機の姿が弾け、戦車の上に上半身が乗ったような姿に変わる。

 

「かかって来やがれ!! メカザウルス共ッ!!」

 

リクセントの住人は皆、その機体の名を知っている。幼い国家元首を救い出したその機体を、その機体を駆るパイロットの名を……。

 

「ゲッターロボと巴武蔵が相手になってやるぜッ!!!」

 

連邦に追われていてもなお、自分達の国の代表を救い出し、名前も名乗らず去って行った男を……。

 

「ゲッターロボだ! ゲッターロボが来てくれたんだッ!」

 

「ゲッターッ! ゲッターッ!!!」

 

その頼もしい後姿に歓声が上がる。シャインが自分を助け出してくれた相手が不当に追われている、そしてこれはその証拠だと言って国内に放送した戦闘記録。コックピットから飛び出し、シャインを救い出した武蔵、そしてゲッターロボは本人達の知らぬ所で英雄として祭り上げられていたのだった……。

 

時間は少し遡り、ゲッターが全速力でリクセント公国に向かっている頃、その城の執務室に老紳士の怒声が飛んでいた。

 

「何故、何故避難してくださらないのですか! シャイン様」

 

だがその怒声は執務室に腰掛け動かない幼女……シャイン・ハウゼンを案じての悲壮感さえ感じさせる物だった。

 

「民がまだ避難完了しておりません、私は全ての民が避難するまではここを動きませんわ」

 

「な、何を言っておられるのですか! 連邦軍がリクセント公国に来てくれると思っているのですか!」

 

国家会議でシャインが連邦軍の今の姿勢を批難した事は老紳士……「ジョイス・ルダール」の記憶にも新しい。

 

「私は連邦軍はハガネとヒリュウ改以外は信用しておりません」

 

「シャイン様、例えそう思っていても口にしてはなりません」

 

シャインの命の恩人である武蔵を冤罪で追い回し、一向に彼の罪状を改めようとしない連邦の上層部にシャインは激しい怒りを抱いていた。だからこそ国家会議で堂々と連邦の非難をしたのだ、国家元首からの非難、そしてジュネーブでの戦いの記録、北京での戦いの記録の公開と合わせて連邦に冤罪を認めさせたのは良いが、一部の連邦軍の部隊を除きリクセント公国からは軍が撤退している。

 

「お気持ちは判りますが、どうかシェルターへ」

 

メカザウルスの雄叫び、そして地響きのような足音は少しずつだが確実に城に近づいて来ている。だから早く避難して下さいとジョイスが懇願するがシャインは首を横に振る。

 

「大丈夫です、私には判ります。もうすぐ助けが来ると」

 

「助け……? それは一体……「ゲッタァーーートマホォォォクッ!!!!」

 

雄叫びと共に上空から飛来した戦斧が街に叩きつけられようとしたメカザウルスの尾を両断する。

 

「げ、ゲッターロボッ!」

 

「ね。武蔵様が助けに来てくださいましたわ」

 

リクセント公国を守る様にマントを翻し、上空に佇むゲッターロボ。シャインはゲッターロボに微笑みかけ、再びマイクを手にする。

 

『リクセントの皆、恐れずに落ち着いて避難して下さい。大丈夫です、私達には頼もしい正義の味方がついてくれているのですから』

 

穏やかにそして慈愛に満ちた声で避難を促すシャイン、その姿は幼くとも民を思う心優しい君主の姿なのだった……。

 

 

 

 

ベアー号のコックピットの中で武蔵は安堵の溜め息を吐いていた。クロガネから最大速度でリクセント公国へと来たが、街並みに被害が無い姿に心底安堵した表情を浮かべる武蔵、だが状況は決していいものではない、メカザウルスは数こそ少ないがリクセント公国を覆うように展開している。

 

(間に合ってよかった)

 

メカザウルスはゲッターロボを最優先にして狙う、そのように電子頭脳にプログラミングされているからだ。その証拠に徐々にゲッターロボに向かっている、その姿を見て後はリクセント公国の外に誘導すればいい、そんな事を考えていた武蔵の耳に幼い少女の声が届いた……

 

『リクセントの皆、恐れずに落ち着いて避難して下さい。大丈夫です、私達には頼もしい正義の味方がついてくれているのですから』

 

その言葉に武蔵は小さく笑い、より強く操縦桿を握り締めペダルを踏み込む。武蔵の想いを感じ取ったかのようにゲッター3はそのカメラアイを強く輝かせる。

 

「行くぜッ!! ゲッタァパーンチッ!!!」

 

高速で伸びた右腕がミサイルを放とうしたメカザウルスの胴を穿ち遥か上空まで殴り飛ばす。

 

「あんなこと言われたら張り切らないわけには行かないよなあ、兄弟」

 

正義の味方……幼い少女がゲッターロボと武蔵の勝利を信じている。武蔵が居るから大丈夫なのだと自分の国の住人に説明している、きっと恐ろしいだろう。逃げ出したいだろう、それなのに気丈に振舞っている。その姿を思い浮かべれば、頑張らなければと武蔵の心に火が灯る。

 

「行かせるかッ!!」

 

ゲッター3の頭上を抜けてリクセント公国に向かおうとしたメカザウルスの尾を掴み、そのまま回転しながら遠心力を利用して逃げようとしたメカザウルスを地面に叩きつける。

 

「どっせーいッ!!」

 

「ぎゃあッ!?」

 

「ぐぎいッ!!」

 

そしてそれだけは終わらずメカザウルスをハンマーのようにして別のメカザウルスに叩きつける。リクセント公国から引き離す、その間もマシンガンを乱射しメカザウルスの動きは止め、別のメカザウルスで殴り飛ばす。この強引とも取れる戦法でメカザウルスは徐々に街から引き離されていく。

 

「この先に進みたかったらオイラとゲッターを倒していくんだなッ!!」

 

ゲッターミサイルを放ち、ジャガー号の機首からマシンガンを放ちながらゲッター3は地面を駆ける。少しでも、少しでもリクセント公国から引き離す為に。

 

「おらあッ!」

 

最大速度での体当たり、伸縮自在の拳による縦横無尽の乱打。それはメカザウルスを殴り飛ばし、あるいは吹き飛ばすが倒しきるには威力が足りない。

 

(ちっ、思ったよりも厳しいな)

 

大雪山おろしも、ゲッター2や1にチェンジしないのも理由があった。それは街の近くで戦うにはゲッターロボは強力すぎたのだ、ゲッタービームの余波ですら恐らく街に甚大な被害を齎す、ゲッター2ならば移動するだけでも被害が出てしまうだろう。だからこそ、一番操縦しなれていて、特別な攻撃の無いゲッター3で戦う事を武蔵は選択したのだ。

 

「ぬっぐう! まだまだあッ!!」

 

マシンガンもリーチがさほど高いわけではない、そしてゲッターミサイルもむやみやたらに使えば被害が出てしまうだろう。武蔵の繰り出せる攻撃は必然的に制限され、そして街に被害を出さない為にも派手な立ち回りが出来ず、徐々に、徐々に劣勢に追い込まれ始める。

 

「全く、無茶をするな。武蔵君」

 

だがそれは武蔵が1人だったらの話だ、武蔵は1人で戦っているわけではない。武蔵に追いついたトロンベ・タイプGの放ったビームライフルが大口を開けていたメカザウルスの口の中に飛び込みその頭を吹き飛ばす。

 

「眼前の敵は全て打ち砕くッ! ブーストナックルッ!!」

 

音速で飛来した鉄拳がメカザウルスの突進を押し留める、だがそれだけには留まらずメカザウルスの頭部を握りつぶし、グルンガスト零式・改の腕へと戻る。

 

「全く、武蔵君も無茶をしてくれる」

 

グルンガスト零式・改、ヒュッケバインMK-Ⅱ・トロンベ・タイプGに遅れてゲッターVもリクセント公国に到着する。

 

「グルルル」

 

「キシャアアーッ!!」

 

ゲッターが単機ではなくなった事でメカザウルスも警戒の唸り声を上げ、陣形を組み始める。ゲッターロボが増えた事により、メカザウルスの本能よりも、電子頭脳がより活性化したことによる軍隊行動だった。

 

「ヒャーハハハッ! 良いぜ良いぜ、舞台が整ってきたな。それにゲッターロボォ……今度はてめえが地面に這い蹲る番だぁ」

 

「……」

 

リクセント公国を後ろにするゲッターロボとメカザウルスの睨みあい、それを見て高笑いするゲーザと無言のガルイン、リクセント公国を

舞台にしたメカザウルスとゲッターの戦いはより激しさを増そうとしているのだった……

 

 

 

 

 

武蔵達がリクセント公国でメカザウルスと戦っている頃。ハガネもまたリクセント公国へと向かっていた、確かに連邦の一部を敵に回したリクセント公国とシャインではあるが、それは一部の政府高官とつながりのある部隊が大半だった。そう言う繋がりの無い一般兵達は民間人の避難誘導を行いながら救難要請を行っていたのだ。

 

「リクセント公国にメカザウルスか……やっぱり生き残りがいたのか」

 

伊豆基地でのパーティもそこそこに切り上げ、酒を飲んでいないメンバーはブリーフィングルームで状況の把握に努めていた。

 

「でも本当に部隊を分けて大丈夫なのか?」

 

「仕方ないだろ、メカザウルスが出たって事は他にもまだ生き残りが居るかもしれない、それにエアロゲイターの事もある」

 

本当ならばハガネとヒリュウ改を同時に行動させるのが得策だっただろう。だが、レイカーはヒリュウ改を伊豆基地に残し、ハガネのみをリクセント公国に派遣する決断をした。

 

「そう心配する事は無い、メカザウルスとの戦いは俺が慣れている」

 

「出来ることならばマグマ原子炉……それを無事に摘出したい所だな」

 

ハガネに乗り込んでいるのはSRXチーム、そしてラトゥーニ、イルム、マサキ、リョウトとリオと言った元々のハガネ隊のクルーに戦闘指揮官としてキョウスケ、そしてギリアムとラドラの元教導隊の2人を加えたメンバーだった。本来ならば、クスハもこれに同行する予定だったが、エアロゲイターに洗脳を施された事を考え伊豆基地へ待機となっている。

 

「マグマ原子炉の摘出って……そんな事をして大丈夫なのか?」

 

メカザウルスの動力炉であるマグマ原子炉の摘出が命令としてくだされ、リュウセイ達に困惑の色が広がる。

 

「確かに不安はあると思うだろうがマグマ原子炉の膨大なエネルギーは魅力だ。それにこっちにはラドラが居る、頼めるな?」

 

「ああ、メカザウルスと言うのは姿こそ様々だが基本的な構造は大差ない。落ち着いて対処すれば誘爆の心配も無くマグマ原子炉を回収できる」

 

メカザウルスをただ倒すのではなく、その動力炉の摘出と言う命令にブリーフィングルームにいる全員の顔の困惑の色が広がる。

 

「マグマ原子炉の確保についてはレイカー司令とダイテツ艦長の命令だ。その理由はギリアム少佐とラドラ元少佐のゲシュペンスト・リバイブにある」

 

ジョナサンを初めとしたテスラ研の研究者、そしてマリオンによってより改造されたゲシュペンスト・リバイブ。その性能は折り紙つきであり、現行機……しかも特機にも迫る性能となれば圧倒的な物量差を持つエアロゲイターとの戦いに運用したいと思うのは当然の事だ。

 

「上層部はメカザウルスとPTを混ぜる事を決めたって事か?」

 

「現行のPT及び特機を超える機体を作るという計画だが、これはメカザウルスの個体数が圧倒的に少ない以上勿論机上の空論だが、爆発的に機体性能を高める事が出来るとなればそれを試す必要があるのは判るだろう?」

 

量産型ドラゴンを初めとするとエアロゲイターの戦力は膨大だ、しかもそれが群を成してやってくる。今までの機体では出来る限界があると言われれば、それが嫌だ、危険だと言ってエアロゲイターと戦う事が可能な技術を失うわけには行かないのだ。

 

「納得してくれた様で何より、では炉心摘出の話をしよう。狙うのは大型メカザウルス……つまりバド以外のメカザウルスだ。バドは飛行の為に原子炉も小型化されている、バドの炉心は摘出しても旨みが少ない。摘出するのは大型の陸上型メカザウルスからだ」

 

リクセント公国に向かうまでの間、ラドラによるメカザウルスと戦う為の方法、そしてマグマ原子炉の摘出方法。それらの講義が行われ、リクセント公国に辿り着いたキョウスケ達が見たのは予想外の機体の姿だった。

 

「お、おいおい、あれは……グルンガスト零式、それにヒュッケバインMK-Ⅱだぞ!?」

 

「クロガネが近くにいたと言うことか……だがこの場は幸運だった」

 

自衛の為の戦力しか持たないリクセント公国。正直辿り着く前に壊滅しているのではないかと言う不安は全員が持っていた。だが街を守っているグルンガスト零式や黒いヒュッケバインの存在に笑みを浮かべ、そして再び驚愕に目を見開いた。

 

「げ、ゲッターロボがもう1体いる! で、でもあの意匠は……」

 

「ヴァルシオンに酷似している」

 

リクセント公国にメカザウルスが出現した事、そしてゲッターロボと武蔵がいることは救援要請を出した兵士からの報告で判っていた。だがまさか2台目のゲッターロボが存在するなんて考えても居なかった。

 

「各員出撃準備、武蔵達と協力してメカザウルスを撃退する」

 

敵が出現しているのにのんびりと話をしている時間は無い、そう判断したキョウスケの命令によってハガネのPT達も次々と出撃し、メカザウルスとの戦いに参戦する。

 

「ゼンガー隊長。お久しぶりです」

 

「キョウスケか、エクセレンはどうした?」

 

「酒を飲んでいるので伊豆基地に置いて来ました」

 

キョウスケの言葉にゼンガーは小さく笑い、何をしているんだと呆れ声を出す。キョウスケに続いて、空中を浮遊する2機のゲシュペンストがゼンガーへと通信を繋げる。

 

「ゼンガー、元気そうだな」

 

「その大太刀、素晴らしい品だな。俺でも判るぞ」

 

「ラドラ、それにギリアムか、それはゲシュペンストの新型か?」

 

「ゲシュペンスト・リバイブ、旧西暦と新西暦の技術のハイブリットだ。急造の改造機だが……今の機体にも引けを取らないと自負している」

 

「ゲシュペンストが旧式ではないと証明するのさ」

 

顔馴染みのラドラとギリアムの言葉にゼンガーとエルザムも笑みを零す。教導隊として乗り込んでいたゲシュペンストが時代の流れに埋もれていくのを悲しく思っていたのはゼンガーとエルザムも変わりは無い。それが新型として改造されたと聞いて、嬉しく思うのは当然の事だった。

 

「武蔵、その隣のゲッターロボは……」

 

「ふふふ、ゲッターロボVがどうかしたかね? リュウセイ君」

 

「や、やっぱりアンタか!? ビアン・ゾルダークッ!」

 

「おいおい、司令官が戦場に出てどうするよ」

 

「はーははッ! なんだジョナサンの子供にしては随分と真面目だな。それに私はもうDCの総帥でも、EOTI機関の所長でもない。ただの地球の未来を案ずる1パイロットに過ぎない」

 

楽しそうに笑うビアンだが、その声に満ちているカリスマ性にいっぺんの揺らぎもなく、話を聞いていたイルム達はどの口がと笑う。

 

「ま、そう言うわけでゲッターVにはビアンさんが乗ってるぜ、リュウセイ」

 

「……いや、どういうわけだよ」

 

「細かい事は気にすんな、今やる事はメカザウルスを倒す事……って言いたいんだが、どうもそうもいかねえ見たいだなあ」

 

武蔵の言葉の意味をリュウセイ達が理解するよりも早く、ハガネから警報が鳴り響いた。

 

『空間転移反応あり! 45秒後に空域に出現しますッ!!』

 

ハガネからの通達からすぐリクセント公国上空からドラゴンが降下してくる、それに続いてナイト。そして少数のバグスとソルジャーが地響きと共に着地する。

 

「ヒャーッハハハハッ! ゲームスタートだぜえッ!!」

 

「……」

 

リクセント公国でのメカザウルスとの戦いは、エアロゲイターの参戦によってより混迷を深めていくのだった……

 

 

 

 

第71話 リクセント公国 その3へ続く

 

 




いい所で切れそうだったので今回は少し短いですが、ここで終わりにしたいと思います。ちょっと前回で頑張りすぎたのと、ここから戦闘だと長くなりそうなので丁度いい此処で話を切りたいと思います、次回は乱戦の状態で、色んな視点で話を書いていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第71話 リクセント公国 その3

第71話 リクセント公国 その3

 

メカザウルスとの戦いが終わる間もなく、現れたエアロゲイターの襲撃。メカザウルスはゲッターロボとゲッターVを狙っているが、エアロゲイターはそうではない。真っ直ぐにリクセント公国に進む姿にキョウスケの怒声が響いた。

 

『メカザウルスは武蔵達に任せる、俺達はリクセント公国を護るぞッ! エアロゲイターの機体を街の中に入れるなッ!!』

 

言うが早くソルジャーの顔面にリボルンビステークを叩き込み、頭を吹き飛ばすアルトアイゼンは振り返ると同時に、スクエアクレイモアを放ち、突撃しようとしていたソルジャーの動きを止めると逆に自身がソルジャーの隊列の中へと飛び込みリボルビングステークを振るっている。

 

「こりゃ厳しい戦いになるな、上空の敵に気をつけろ。それと転移による増援にもだッ!」

 

グルンガストの中でぼやいたイルム。だがぼやきたくなるのも当然だ、並みのPTと特機では相手に出来ないメカザウルスの群れ、そして転移で死角から強襲を仕掛けてくるエアロゲイター。そしてリクセント公国の住民はまだ避難が間に合っていない、絶望的な状況ではあるが泣き言を言っている間も無い。

 

「マサキとラトゥーニは私と一緒にバグスを迎撃するわよ。リュウセイ、ライ、ソルジャーとファットマンは任せたわよッ!」

 

「俺達もすぐに周りを片付けて合流するッ!」

 

「気をつけてね、リュウセイ」

 

空を飛べるR-3、サイバスター、ビルドラプターは即座に上空に舞い上がり、リクセント公国の上に降下する前にバグスの撃墜を始める。

 

「リュウセイ、僕は皆のバックアップに入るね」

 

「数が少ないうちに叩くわよッ! リュウセイ、ライッ!!」

 

バグスとソルジャーの両方に対応出来る位置にアーマリオンが浮遊し、フォワードはR-1とヒュッケバイン009とグルンガスト、バックスはアーマリオンとR-2パワード、そしてセンターは伊豆基地での製造分が間に合った量産型ゲシュペンスト・Fが務めるフォーメーションだ。

 

「ジャーダ、無理すんなよ」

 

「大丈夫ですよ中尉。ガーネットの分も頑張りますって」

 

飲酒していたのはエクセレンだけではなく、ガーネットもだ。ダイテツは飲酒する寸前での警報だったので酒は口にしていないのが不幸中の幸いだった。

 

「ちなみに中尉、ヒリュウ改の応援は?」

 

「残念ながら無しだ、日本にもエアロゲイターが出現してるからそっちの対応に回ってる」

 

部隊を2つに分けたレイカーの判断は紛れも無く英断だった。これでヒリュウ改もリクセント公国に来ていれば、日本はエアロゲイターによって甚大な被害を受けていた筈だからだ。

 

「さてとおしゃべりは此処までだ、リュウセイ、リオ続けッ!!」

 

「「了解ッ!」」

 

グルンガストを先頭にして両脇にR-1、ヒュッケバイン009を連れてイルムは無機質にリクセント公国への侵攻を続けるソルジャーに向かってブーストナックルを放つのだった。

 

 

 

 

リクセント公国を包囲するようにエアロゲイターの部隊が展開され、メカザウルスとエアロゲイターの部隊に挟まれるようにしてゲッターロボ達は戦っていた。

 

「ラドラ、メカザウルスの炉心摘出は任せてもいいか?」

 

「了解した、その代り支援を頼むぞ」

 

メカザウルスは数は10体ほどだがその何れも健在だ。勿論ゲッターならば撃破は可能だった、だがメカザウルスが健在なのはリクセント公国の防衛を武蔵達が最優先にしたからだ。

 

「ゼンガー、エルザム。メカザウルスに関してだが、炉心を摘出したい。データを送るから炉心部への攻撃は避けてくれ」

 

接触通信でゼンガーとエルザムにメカザウルスとの戦いで注意して欲しい点を送るラドラ。

 

「ヒャーハハハアアッ! 今度は俺が勝つぜえッ!!」

 

「ちいっ! ビアンさん! メカザウルスはお願いします」

 

「任されたッ!! ディバイン・グレイブッ!!」

 

メカザウルスの群れに混ざって量産型ドラゴンが襲ってきては劣勢に追い込まれると判断し、武蔵はメカザウルスへの対応をビアンとゼンガー達に任せ、ゲーザの駆る量産型ドラゴンと数体のメカザウルス・バド、そしてバグスを相手にする為に空中へと舞い上がる。

 

「さてと、ラドラ君だったかな。随分と面白い話をしていたが……どうすればいいのかな?」

 

グレイブを振るい、メカザウルスを弾き飛ばしたゲッターVがラドラに広域通信を繋げる。ラドラはやれやれと肩を竦めながら、ビアンにもメカザウルスの炉心の摘出方法を伝える。

 

「なるほど、ゲシュペンストが飛んでいるのには驚いたが……メカザウルスの動力を使うとは面白い」

 

研究者としての感性が刺激されたのかゲッターVのコックピットでビアンは獰猛に笑い、頭部が鶏冠状になっているメカザウルスギンに向かってゲッターVを走らせる。

 

「ラドラ、余りビアン総帥を刺激しないでくれ、ゲッター合金とゲッター炉心の解析で徹夜続きなのだから」

 

「そんな物は知らん、メカザウルスの炉心を利用するつもりなのに壊されては叶わんからな」

 

あくまでラドラはビアンの研究意欲を刺激したのではないと告げる。あくまで、メカザウルスの炉心を摘出する選択をしたのは、ゲシュペンスト・リバイブの量産。もしくは新型のPTを開発する為だ、その話を聞いてビアンがヒートアップするかどうかは自分の責任では無いと告げ、シグの両手首から展開したビームクローを油断無く構え、地面を蹴って今にも走り出しそうなザイと対峙する。

 

「仕方あるまい、だが戦力強化にメカザウルスの炉心が必要だというのならば、それを回収することもやむなし。トロンベよ、今が駆け抜ける時ッ!!」

 

ヒュッケバインMK-Ⅱ・トロンベ・タイプGにはゲッター合金による改造によって、今までの機体では不可能だった新機能が多数搭載されている。例えば、ゲッター線フィールドや、ゲッター合金による強固な防御能力。だがそれとは別に非常に面白い、そしてエルザムの性格を十全に理解したビアンの遊び心が付与されていた。

 

「高機動モード起動、各部変形開始」

 

肩部パーツ、膝、腰部のパーツが展開し、そこから水晶体のようなパーツが姿を見せる。これは本来ゲッター線フィールドを展開する為の物だが、高機動モードとなると話は違う。本来は防御時に放出されるエネルギーの指向性を変え、その加速力と機動力を大幅に強化する。

 

「行くぞッ!!」

 

メカザウルスからすれば突然目の前の機体が消えたようにしか感じなかっただろう、次の瞬間自身の目に走る激痛に苦悶の雄叫びを上げるが、口を空けた瞬間。口の中に熱の塊が飛び込んできてただでさえ混乱しているメカザウルスの電子頭脳はオーバーヒート寸前だった。

 

「キシャアアアアッ!!」

 

「遅いッ!!」

 

黒い影に腕を振るうがそれよりも早く黒い影が回転したと思った瞬間、メカザウルス――メカザウルスゼンⅡの腕は肩から切り飛ばされる

 

「ギッ!?」

 

腕を切り落とされた事に激しい怒りを見せるゼンⅡだが、その怒りに染められた瞳が黒い影……トロンベ・カスタムを捉えることは無かった。何故ならば目の前に広がる光の雨、その雨を認識すると同時にゼンⅡの頭は吹き飛ばされ、地響きを立ててゼンⅡは森の中に倒れこんだからだ……。

 

「かなり反動がきついと聞いていたが、それほどでも無いな」

 

リミット15秒を残しトロンベ・カスタムは高機動モードを解除する。1分以上高機動モードを維持すればオーバーヒートしてしまう、そう説明を受けていたので1分以内にメカザウルスを沈める事が出来るかとエルザムは不安に感じていたが思ったよりも楽に沈める事が出来た。

 

「次だな、今の内にこの機体に慣れておくとしよう」

 

高機動モードはさほど大きな負担ではなかった、では今度は南極で試す事が出来なかった他の武装を試そうとするエルザム。自身ではさほどの負担ではないと考えていた様子だが、そうではない。ゲッターロボ、強いてはジャガー号の加速に慣れてしまっていたエルザムには、常人ならば気絶し、骨折してもおかしくない重力を負担として感じることが出来ないのであった。

 

「むんッ!!」

 

ゼンガーも負けじと改良された斬艦刀を振るう、メカザウルスの炉心を摘出するという事で派手な技を使う事は無いが堅実な動きでメカザウルスの首を刎ね、両足に新しく搭載されたブースターとテスラドライブを併用したバランサーで高速で戦場を駆ける。

 

「……面白くない、ああ、全く持って面白くない」

 

「ラドラ? どうした?」

 

囁くような声だったが、ギリアムにはその声が聞こえていた。だがラドラはその言葉に返事を返す事無く、複合兵装ファブニールを構えさせる。

 

「ラドラ!?」

 

「俺の作ったゲシュペンストが劣っているなどと言う事は認めんッ!!」

 

科学者であり、パイロット、それがラドラである。ゲッターロボに負ける事は判る、だがビアンがゲッター線を分析し、それを応用したグルンガスト零式・改、そしてトロンべ・タイプGに負けるのはラドラのプライドが許さなかった。

 

「リミッター解除、ファブニール最大出力」

 

メカザウルスモードの脚部に変形させ、地面に爪を立てることでファブニールの膨大な出力に耐える。

 

「ゼンガー! エルザム! 離れろッ! ラドラが切れてるッ!」

 

ギリアムの叫びにギョッとした表情をしたゼンガーとエルザムは即座に離脱する。ラドラと言う男の本質は高潔な武人ではある、だがそれと同時に科学者なのだ。自分の開発した物、自分が心血を注いだ物が侮辱される事を極めて嫌う。そして今回はグルンガスト零式・改、そしてヒュッケバインMK-Ⅱ・トロンベ・タイプGに劣っている事を認めない……正確には1度ゲシュペンストではなく、ヒュッケバインがトライアウトに合格した事にラドラは多大な憤りを感じていた。目の前でエルザムが高機動モードになってメカザウルスを一蹴した事に今まで溜まっていた鬱憤が爆発し、ナイトへの反マグマプラズマジェネレーターと核融合エンジンのダブルエンジンをフルパワーにしたファブニールの一撃を打ち込もうとした。だがその時、ラドラ達は見たナイトの肩を竦めるような動作を……

 

「な!? あの動きは」

 

「まさか……!?」

 

他の者ならば挑発しているようにしか思えなかっただろう、だが教導隊ならば話は違う。あの動きは些細な事で揉め事を起こしていたゼンガー達を窘める時のカーウァイ・ラウの動きに酷似していた。

 

「ちいっ!」

 

舌打ちと共に放たれたファブニールの破壊光線は真っ直ぐにナイトへと向かう。タイミングは必中の間合いだった、だがナイトは信じられない動きをした。ファブニールの膨大な光線に自らもビームを放ち、ビーム同士の干渉で生まれた僅かな隙をスライディングの要領で回避した。

 

「エルザム! あの動きは!」

 

「ああッ……間違いない」

 

あの細かい機体の操作の癖、そして今の神業とも言える操縦テクニック……。

 

「説明は後だ、ゼンガー、エルザム」

 

「今回ばかりは私達の最悪の予想が当たってしまったようだ」

 

「……判った、だが、この戦いが終わったら説明して貰うぞ」

 

「おおよその予想は付いているがな」

 

言葉にしなくてもゼンガー、エルザム、ラドラ、そしてギリアム。仮にこの場にカイもいたら気付いていだろう……元々灰色のナイトの動きに教導隊全員が見覚えがあった、だがそれはまだもしかしたらと希望もあった。だが今の動きで理解してしまった――あのナイトに乗っているのは行方不明となっている教導隊隊長「カーウァイ・ラウ」大佐だと……。

 

「ゲシュ……ペン……スト……」

 

ナイトの中でガルインは視点の合わない瞳で懐かしそうに、ゲシュペンストを見つめているのだった……。

 

 

 

 

 

 

南極での戦いではビアンは思うようにゲッターVを操る事が出来なかった。その理由は間違いなくオメガ・グラビトンウェーブで1度機体がオーバーヒートしてしまったのが原因なのは言うまでも無い。

 

「ふむ、良い調子だ」

 

回避するでもない、防御するでもない。ただ立っているだけで敵の攻撃は弾かれ爆発する、湾曲フィールドとゲッター線バリアの複合によって作られる強固なエネルギー障壁はメカザウルスの一撃であっても完全に防ぐ事が可能だった。

 

(しかしこれに頼りすぎるのも問題か)

 

ゲッター炉心によってエネルギーは回復する物の、それに頼りきっていてはエネルギー切れを起こすのは明白。バリアによって攻撃が弾かれ姿勢を崩したメカザウルスの首をディバイン・グレイブを横薙ぎし、一刀の元に断ち切る。

 

(どんなエネルギーなのか楽しみだ)

 

ラドラが言っていたマグマ原子炉、それがどんなエネルギーを持つのか、ゲッター炉心と比べるとどれほどのエネルギーの差異があるのか? ビアンの興味はゲッターVの試運転からマグマ原子炉に変わっていた。それでも、勿論リクセント公国を護る事は忘れていない。

 

「ターゲットマルチロック、ミサイルランチャー射出ッ!」

 

ゲッターVの素体となった新ゲッターロボ自身は旧西暦の機体であり、当然マルチロックシステムなど搭載されていない。更に言えば、長い間地下に保管されていたとは言え、その状態は決して良好な物ではない。そこでビアンはゲッターロボの最大の特徴である分離・合体機構を封印し、上から武装付きの装甲を装備する事で変形できないデメリットを回避する事を考えた。展開されたミサイルポッドから飛び出しらミサイルの嵐が武蔵の妨害をしていたバグスやバードを撃墜する。

 

「ぬんッ!!」

 

「ギギャァッ!?」

 

そしてミサイルを乱射しながら手にしているディバイングレイブを火球を放とうとしていたメカザウルスの口目掛けて全力で投擲する。鋭い刃に貫かれ、そのまま山に貼り付けになるメカザウルスは暫くもがいていたがやがて事切れ、その手がだらしなく地面に落ちる。

 

「ハガネのPT隊の諸君、その場を急いで離脱したまえ」

 

広域通信での一方的な通信の後ゲッターVはマントの裾を掴み全身を包み込むように身体に巻きつける。

 

「各員離脱ッ!」

 

そしてその動きはタクラマカン砂漠でも見ていた、マントの下でゲッタービームを乱反射させ、広範囲のゲッタービーム攻撃。4つの複眼からなるカメラアイを光らせ、凄まじい速度で上空を舞うゲッターVのマントの間から飛び出したゲッタービームがバグスとバード、そしてメカザウルスバドを容赦なく撃墜していく。

 

「随分と強引だな、ビアンのおっさんよ」

 

「ふふふ、なに、ゲッターVの試運転だよ。マサキ・アンドー、自分の機体がどんなものか知っておく必要がある。それに……こうすれば他のメンバーの支援も楽だろう?」

 

空中を飛べる機体が必死に応戦していたがバードやバグスの数は多く、そこにメカザウルスも加われば、苦戦は必須だった。だがゲッターVのスパイラルゲッタービームによって1度一掃されたことによりマサキやアヤは地上でソルジャーやファットマンと戦っているリュウセイ達と合流できる。

 

「ビアン博士、空中はお任せして良いと思ってもよろしいですか?」

 

「ああ、それで構わないよ。早く合流したまえ、それに感じている筈だ」

 

「……はい、ありがとうございます。今は共闘出来る事に感謝します」

 

アヤはビアンにそう感謝の言葉を告げ、マサキとラトゥーニと共に地上へ降下していく、その姿を見ながらビアンは視線を上空に向ける。

 

「流石にあのスピードにはついていけん」

 

空中で何度も交差するゲッターロボと量産型ドラゴンの姿を見て、自分では武蔵の支援は出来ないと判断しナイトとメカザウルスと戦っているゼンガー達、そしてソルジャーやファットマンと戦っているハガネのPT隊の両方の支援を行いながら、戦闘記録の保存を行う事にした。

 

(妙な感じだ)

 

さきほどアヤにも言ったが、妙な胸騒ぎ……何か大きな出来事が起きる。何かの前触れをビアンは感じ取っていたのだった……

 

「ちいっ! 前よりも早くなってやがるッ!!」

 

「ヒャーハハハッ! 何時までもお前にてこずるわけねえだろッ!!」

 

量産型ドラゴン、そしてゲッターロボの機体性能はドラゴンがゲッターロボを上回り、そして操縦テクニックは武蔵が上回る。完全に五分の戦いになりつつあったが、悔しい事に僅かに武蔵が押され始めていた。それは機体性能の差でも無い、勿論操縦の腕の違いでもない。

 

「てめえ! オイラを倒したいならオイラだけを狙えッ!!」

 

「馬鹿かッ! 街を狙えば、てめえから当たりに来てくれる。こんな楽な事はねえぜッ!!」

 

ドラゴン……即ちゲーザは機体性能が強化されたはずなのに、それでも武蔵に上を抜かれている事に気付き、あろうことかゲッターロボではなく街を狙い始めたのだ。

 

「ぐっ、くそったれッ!!」

 

ダブルトマホークの質量が街に叩きつけられればどうなるかなんて火を見るよりも明らかだ、更に言えばビームが当たればどうなるかなんて言うまでも無い。必然的に防戦に追い込まれた武蔵にゲーザは好きなように攻撃を繰り出す。

 

「そらそらそらッ!!」

 

「くっ!!」

 

普通に戦っている分にはまだ良い、だが不意打ち的に街を狙われれば対応が遅れる分ゲッターを盾にするしかない、ダメージが徐々に蓄積していく。

 

「なっ!?」

 

「ヒャーハハハッ! てめえの苦労も無駄だったなあ」

 

背後から抱きついて来たライガー、単独転移でゲッターの動きを封じたライガーはそのまま自爆しゲッターはドラゴンから大きく弾き飛ばされる。そしてその隙にドラゴンが急降下し、リクセント公国をビームで焼き払おうとした時――それは現れた。

 

「なっ!?」

 

「……」

 

空間を引き裂くようにして現れたアストラナガン、その手に握られた剣が振るわれドラゴンは上空へと吹き飛ばされる。ゲッターが待ち構える上空にだ……

 

「よお、随分好き勝手してくれたなあ、くたばれッ! ゲッタービィィーームッ!!!」

 

「ひっ!? ガアアアアアアッ! くそくそくそッ!! 覚えてやがれッ!!!」

 

弾き飛ばされたドラゴンはゲッタービームに焼かれながら、転移でその場を離脱する。だが状況は何も変わっていない、新たに現れたアストラナガン……武蔵以外の全員がアストラナガンを敵と定めていた。

 

「……」

 

「ここであったが百年目ッ!! 教官を返して貰うぞッ!!」

 

逃がさないとR-1がアストラナガンに突撃し、拳を蹴りを叩き込むが児戯と言わんばかりにアストラナガンはR-1の攻撃を受け流し、あるいは防ぎ、そしてお前に用は無いと言わんばかりに一瞥し翼を広げてその場で回転する事でR-1を大きく弾き飛ばす

 

「リュウセイッ!」

 

「うっ……ぐぐ……くそッ! 駄目だッ!」

 

虫を振り払うような無造作な一撃、その一撃でR-1の運動系統は破壊されR-1は再び立ち上がることが出来ず、そのカメラアイから光が消えた。

 

「ハイゾルランチャ……ぐっ!? 何が……ぐおっ!?」

 

「嘘ッ!? ブーステッドライフルの直撃なのにッ!?」

 

ハイゾルランチャーを放とうとしたRー2パワードは攻撃を放つ前にガン・ファミリアで吹き飛ばされ、直撃したはずの音速の弾頭もアストラナガンのバリアに阻まれ無効化される。

 

「計都羅喉剣・暗……マジか……ぐおおおおおッ!?!?」

 

「中尉ッ!?」

 

上空から飛び上がったグルンガストの一撃を片手で防ぎ、計都羅喉剣を握りつぶすことで破壊し回し蹴りでグルンガストを海へ叩き込み、ついでだと言わんばかりにへし折った計都羅喉剣をアーマリオンに投げ付ける。アーマリオンはその衝撃に弾き飛ばされた物のすぐに姿勢を立て直した。

 

「リョウト! 中尉のフォローに回れッ!」

 

キョウスケがリョウトにそう指示を飛ばし、最大加速でアストラナガンへとリボルビングステークを突き出すが……。

 

「馬鹿なッ!?」

 

アストラナガンは無造作に腕を伸ばし、アルトアイゼンの肩を抑えるとそれだけで完全にアルトアイゼンの動きを止め、そのまま右腕を肩から引き千切る

 

「ぐうっ……やはりアルトアイゼンでは……ぐうっ!?」

 

引きちぎった腕でアルトアイゼンを殴り飛ばしたアストラナガンはその右腕を無造作に投げ捨て、もう興味は無いと言わんばかりに背を向けて現れた時と同じ様に空中に魔法陣を作り出し、ゆっくりと上空に舞い上がる。

 

「……」

 

消え去る瞬間に置き土産と言わんばかりにハガネ、そしてそのPT隊は勿論エアロゲイター、メカザウルスに向かって翼から漆黒の重力弾を撒き散らし、その全てを破壊し尽くしたアストラナガンは一際大きく翼を広げた。

 

「……助かった。すまなかったな、イングラムさん」

 

『フフフ、貸し1だぞ』

 

イングラムが正気で助けに来たと判っていた武蔵の感謝の呟きにイングラムは極秘通信で連絡を繋ぎ、魔法陣の中に消え去っていくのだった……。

 

 

 

 

 

ブラックエンジェルの強襲によって、リクセント公国での戦いは強引に幕引きとなった。ダイテツは艦長席の背もたれに深く腰掛け、ため息を吐いた。

 

「大尉。被害状況は」

 

「PT隊は損傷軽微から小破です、パイロットに負傷者はいません」

 

その報告を聞いてダイテツは眉を寄せる、以前の戦いにおいてブラックエンジェルはその圧倒的な戦闘力によってハガネとヒリュウ改のPTを殆ど大破させた。それだけの力を持つ機体がハガネにもPT隊にも大きな被害を与えず撤退して行った。

 

(……何がしたい、ブラックエンジェル)

 

戦況を掻き回すだけ掻き回した後は姿を消した。そして無作為に暴れた姿を見れば暴走していると考えれば辻褄は合う――だが暴走しているならば、もっと大きな被害が出ていてもおかしくは無い。

 

「全機に帰還命令を、負傷者には手を貸すようにと伝えてくれ」

 

テツヤが帰還命令を出す姿を見ながらダイテツは考えを進める。敵味方関係なしに暴れたように見えるが、エアロゲイター、メカザウルス側の被害が圧倒的に大きく、こちらの被害は少ない。それがどうしても、ダイテツには気になっていた。

 

(イングラム少佐……か)

 

ブラックエンジェルに取り込まれた事でイングラムが死んだのか、それとも取り込まれた状態なのかは今だ判っていない。だがもしも、もしもだ。取り込まれた事によって自我を取り戻し、何かを成そうとしているのならば――今の戦闘の説明が付く。

 

「助けに来た……か」

 

「何か言いましたか?」

 

馬鹿らしいと思いながらも呟いた言葉にテツヤが顔を上げるのでなんでもないと返事を返す。

 

「ビアン。今回はそのまま去るなんて真似はさせんぞ」

 

『そうしたいのは山々だが、そうも言ってられん。なんせ……マグマ原子炉なんて胸踊る物を前にして去れるか!」

 

ビアンからの返事にダイテツは頭痛を感じながらも、このまま武蔵達がリクセント公国から去らない事に安堵した――次の瞬間までは……。

 

「リクセント公国より、会談の場もしくは休憩をするのならば場所を提供するので、武蔵を逃がさないでくれと通達です」

 

その言葉にダイテツはもう1度深くため息を吐き、エアロゲイターとメカザウルスの出現さえなければ酒を飲んでいたことを思い、そしてリクセント公国と言うよりかは、シャインの要請を思い酷く疲れた気持ちになった。

 

「大尉、クロガネに文書による連絡を、ワシはレイカーに少しの間リクセント公国に留まると連絡をしてくる」

 

「……了解です」

 

ダイテツが感じている気疲れをテツヤも感じているのか渋い顔をしながら、クロガネへリクセント公国への要求を伝える。

 

『おーい! イルムさん、大丈夫かぁ!!』

 

『悪い武蔵ー、早く引っ張り上げてくれ。動力系が逝かれて動けん』

 

『了解でーす、少し揺れますけど我慢してくださいねー』

 

ゲッター3が海中からグルンガストを引き上げる姿を見ながら、城の中で武蔵と出会うのを今か今かと待っているであろうシャインの事を思い、戦い以上にダイテツは頭を悩ませるのだった……。

 

「へ? オイラがお城に? いやいや、無い無い。見てくださいよ、一般人がお城とかないですって」

 

「シャイン王女様が是非、武蔵様に直々にお礼を言いたいと申しております。是非、城へ」

 

「いやいや、お気持ちだけで十分ですって、それにほら……オイラ。デブだから、きっとライとか、エルザムさんみたいな王子様みたいな人がいいですって」

 

「そう仰らず、ささ」

 

「いやいや、本当止めましょって、子供の夢を壊しますって」

 

「大丈夫です、シャイン様は武蔵様が大きくて丸いと知っています、そして武蔵様は大きくて丸い、シャイン様の記憶通りです」

 

「あんたもしかして喧嘩売ってる?」

 

「まさか、私はただシャイン様が命の恩人に会いたいと願っているのでそれに協力したいだけです」

 

「あのさ、もしかしてオイラの事ってすごーく美化されてない?」

 

「大丈夫です、名前も名乗らず去って行った格好良い人です」

 

「止めて! おいらそう言うキャラじゃないから! そう言うのは隼人の仕事だからぁッ!」

 

「ささ、シャイン様がお菓子を用意して待ってますから」

 

「やべえ!? この人親切な顔しながら関節技極めてるッ!?」

 

「ささ、こちらです」

 

「あたたたあッ! 人の良さそうな顔をしてるけどこの人やべえ人だよッ! リュウセイ! 助け! あだだああッ……」

 

あまりに渋る武蔵にジョイスが笑顔のまま関節技を極めて連れて行く姿にハガネのクルーは何も言う事が出来なかった。

 

「ああ、そうそう思い出しました、リュウセイ様もぜひご一緒に。シャイン様のご友人であるラトゥーニ様もこちらへ」

 

「「あ、はい」」

 

これは逆らったら駄目だと判断したリュウセイとラトゥーニは殆ど反射的にそう返事を返し、関節を極められ逃走出来ない武蔵と共にリクセント公国の城へと足を向けるのだった……。

 

 

 

第72話 リクセント公国 その4へ続く

 

 




ルダール卿最強説浮上、シャイン様の為なら何でもやります。次回はシャインと武蔵の出会いとか、マグマ原子炉でヒャッハーしてるビアン博士とかを書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第72話 リクセント公国 その4

第72話 リクセント公国 その4

 

赤いカーペットに白亜の壁、そしてシャンデリア。一般市民が想像する贅と言う物がふんだんに使われた通路で武蔵とリュウセイは身体を小さくしていた。

 

「武蔵、俺場違いだと思う」

 

「何言ってる、そんなの……オイラも一緒だ」

 

パイロットスーツではなく、連邦の制服だからまだリュウセイは救いはある。だが武蔵は剣道の胴、工事現場のヘルメット、マント、背中に日本刀と浮いている所のレベルではない。リュウセイもそれを感じ取ったが、空気を読んでそのことは口にしなかった。

 

「そう言えばビアン博士の乗ってたゲッターロボって新しく作ったのか?」

 

「いや、浅間山の地下の早乙女研究所から持ち出した奴だ。それをビアンさんが改造して、修理したのがゲッターロボVだ」

 

「そのVの略なんだ?」

 

「ヴィクトリーとヴァルシオンらしい……」

 

「そのネーミングセンスいいなあ」

 

キラキラと目を輝かせるリュウセイに武蔵はきっとビアンと話があうんだろうなあと遠い目で思っていた。

 

「お、お待たせ……」

 

おずおずとしたラトゥーニの声にリュウセイと武蔵は同時にその声の方に視線を向ける。

 

「お、可愛いな。よく似合ってるじゃないか」

 

「そ、そうかな……」

 

紫のドレス姿……武蔵は当然知るよしも無いが、それはゴシックロリータと呼ばれる分類のドレスで、以前ラトゥーニが着ていたドレスよりもよりふわふわとした物だった。

 

「……リュウセイ?」

 

自分の隣のリュウセイに視線を向けると目を丸くして、顔を赤くしているのに気付き武蔵は軽くその脇に肘打ちを入れる。武蔵は決して鈍感では無い、ラトゥーニが欲しているのは自分の言葉では無くリュウセイの言葉だと気付き、思考停止ししてるなよと突っ込みを入れた。

 

「……物凄い似合ってる、凄く可愛いと思う」

 

「そ、そうかな……変じゃない?」

 

「全然ッ! 物凄く似合ってる」

 

「嬉しい」

 

物凄く甘酸っぱい雰囲気のリュウセイとラトゥー二を見て武蔵は満足そうに頷いた。

 

「では、皆様、こちらへどうぞ。シャイン様の謁見の準備が整いました」

 

殆ど強引に連れて来られたルダールに武蔵は若干引き攣った顔をしたものの、その言葉に頷いて応接間らしき扉の前に立った瞬間。

 

「武蔵様ーッ!!」

 

「あぶねえッ!!」

 

扉が開き、凄まじい勢いで小柄な影が飛び出してきた。武蔵は剣道の胴を着ているとは思えない俊敏な動きで飛び出してきた影を受け止める。

 

「漸くお会い出来ましたわ。リクセント公国王女シャイン・ハウゼンですわ!」

 

「こりゃご丁寧にどうも、巴武蔵だ」

 

「ムサシ・トモエですか?」

 

「あー武蔵で良いよ。王女様」

 

自己紹介を交しながら武蔵は抱きかかえていたシャインを床の上に降ろす。

 

「ラトゥーニ! ラトゥー二も元気そうね。嬉しいですわ」

 

「は、はい、王女も元気そうで何よりです。」

 

弾ける笑顔のシャインとぎこちないながらも笑みを浮かべるラトゥー二を見て、武蔵は穏やかに微笑む。こうして見ると揃いのドレスの事もあり、姉妹に見えなくも無いな。武蔵はのほほんとそんな事を考えていた。

 

「それでリュウセイ曹長もお元気そうで、まぁよくきてくださいましたわ。ささ、武蔵様、ラトゥー二。お茶の準備が出来ていますのでこちらへ」

 

「え、あ、ま、待ってください。王女」

 

ラトゥー二の手を引いて応接間に入っていくシャイン、武蔵は苦笑いを浮かべながらリュウセイに視線を向ける。

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫だけどよ、俺の扱い雑くない?」

 

武蔵はシャインの鋭い視線が自分の友達が好いている男を見極めてやると言わんばかりであるのに気付いていたが、誤魔化すような苦笑いを浮かべることしか出来ないのだった……。

 

 

 

 

武蔵がシャインと紅茶を飲みながら世間話をしている頃。クロガネでは大変な事が起きていた……

 

「これ解体して良いんですの!? 本当に貰いますわよッ!」

 

「ああ、大丈夫だよ。マリオン博士、テスラ研に送った余りになるが、是非有効活用して欲しい」

 

「ええ、これがあればMK-Ⅲはもっとパワーアップ出来る」

 

クロガネに研究用として残されていた状態の良い3体のプロトゲッターの内2機をハガネに譲渡すると言ったら、データ取りの為にハガネに乗り込んでいたマリオンがエキサイトしてしまったのだ。

 

「人工筋肉、それにエネルギーの効率的な循環……凄い、旧西暦にこんな機体の理論が合ったなんて……ま、待って! 待ってください!

 ラドム博士ッ! 解体! ここで解体しないでください」

 

「うるさいですわッ! 解体は鮮度が命なんですわよッ!?」

 

「誰か! 誰かラドム博士を止めるのを手伝ってくれッ!! ここで解体されたら貴重なサンプルが無くなるッ!!」

 

マリオンを止めようと必死なロバートの叫び声にハガネの整備班も加わるが、完全に研究魂に火が付いているマリオンは体格で上回るロバートを引きずってでもプロトゲッターに向かおうとする。

 

「ほほう……これがマグマ原子炉、これを改造してあの新型ゲシュペンストの動力にしているのだね?」

 

「ああ。マグマ原子炉の熱とプラズマジェネレーターの技術の併用だ」

 

「なるほどなるほど……実に興味深い」

 

「俺としてはお前が複製したゲッター炉心、その話を聞きたい所だ」

 

「ふふふ、構わないともただ、私のほうも炉心への理解はさほど深いわけではない。今は安定してゲッター合金を精製するラインに回している」

 

「ゲッター合金の安定した製造ライン……可能ならば少し分けてもらうことは可能か?」

 

「勿論だとも、少し待ちたまえバン大佐に連絡していくつか伊豆基地に運搬しよう」

 

「すまない、とても助かる」

 

軽量で恐ろしい柔軟性と強度を持つゲッター合金は加工の難易度さえクリアできれば今まで机上の空論だった兵器や、武器の開発も可能になる。オペレーションSRWまで時間が無いが、可能な限りの戦力UPにゲッター合金を求めるのは当然の事だった。

 

「その代わりに私にあの新型ゲシュペンストの解析データとフライトユニット、それとアーマリオンの図面を頂きたい物だが?」

 

「強欲だな、ゲッター合金だけでそれだけの情報を得れると思っているのか?」

 

プロトゲッターを解体しようとするマリオンとそれを止めるロバートと背後が地獄絵図になっているにも関わらず、ビアンとラドラは互いに悪い笑顔を浮かべて交渉を始めていた。

 

「ゲッター合金の加工方法はどうかね?」

 

「それは魅力的だな、ではそれと新型ゲシュペンストの情報公開だ」

 

「中々強かだな、しかしそれだけの価値があるのかね?」

 

「勿論だとも、俺は元恐竜帝国、メカザウルスの技術が多数組み込まれている」

 

「……旧西暦と新西暦のハイブリットか、良いだろう。それと加工技術の交換だ、では私は続けて新型グルンガストの設計図だ」

 

「それを切られたらこちらは両方出すしかないだろう?」

 

「ふふふ、手札は残しておくべきだよ。ラドラ君、君はまだ若い」

 

交渉……いや舌戦はビアンが一枚上手で、ビアンは新型ヒュッケバインの設計図を手元に残し、アーマリオン、そしてフライトユニットの設計図を手に入れていた。

 

「伊豆基地に戻ったら情報交換だ。時間が無いから急ごしらえの域を出ないが、新型の開発をして見ないかね?」

 

「俺はパイロットだ。マリオン達と話をするがいい」

 

これ以上自分の情報を切る事は無いと言わんばかりにラドラは背を向けてしまう。その姿にビアンはまだまだ若いと楽しそうに笑っていた。

 

「ビアン博士、ダイテツ艦長との会談の準備が出来ました。どうぞリクセント城へ」

 

「ああ、準備が出来たのかね。では行くとしよう」

 

テツヤに呼ばれビアンは格納庫を後にする。勿論その背中にはマリオンの暴走を止めようとするロバートの悲鳴が響き続けていた事は言うまでも無い……。

 

 

 

 

ハガネでマリオンが暴走しているなんて夢にも思っていない武蔵達はと言うと、リクセントの街の観光をしていた。

 

「どうですか、武蔵様。リクセントの街は?」

 

「明るくて活気に満ちてて良い街だと思うよ」

 

「そう言って貰えるととても嬉しいですわ」

 

武蔵達が望んだ訳ではない、シャインがどうしても武蔵に街を案内すると言って聞かない為仕方なしに街の観光に来ていた武蔵だが、やはり明るいシャインの人柄としてシャインを慕う住人の声で徐々に街の観光を楽しみ始めていた。

 

「本当ならば海の方にもご案内したいのですが……今は危ないそうなので」

 

「いや、良いよ。ここまでで本当に楽しかったからさ」

 

「そうでしょうか?」

 

不安そうなシャインの頭を武蔵は撫でながら本当さと笑い、しゃがみこんでシャインと目を合わせる。

 

「オイラは街とか見てる余裕が無かったからさ、今日案内してもらえて本当に楽しいよ」

 

「本当ですか? 武蔵様」

 

武蔵様の言葉に武蔵は顔を顰めてしまい、シャインはやっぱり楽しくなかったですか? とますます不安そうな顔をする。

 

「いや、違うよ。本当に楽しかった、これは嘘じゃない。でもさ、オイラ様って言われるのは好きじゃないんだよ。王女様」

 

「あ……」

 

自分も王女様と言われ、壁があるように思えたシャインは違うと言えずにドレスの裾を掴んで俯いてしまう。武蔵はそんなシャインの頭を撫でながら優しく声を掛ける。

 

「普通に呼んでくれたらいいんだよ。オイラは様って付けられるほど偉い人間じゃないからさ」

 

「……じゃあ、じゃあ……武蔵……さん?」

 

「うんうん、そう言う感じで良いよ。シャインちゃん」

 

様付けや王女と呼ばれなれているシャインにとってちゃん付けはとても斬新な呼び方で、そして親しみが感じられた。

 

「はい、では武蔵さんと呼びますわね」

 

「うんうん、それで良いよ。シャインちゃん」

 

あちこちにいるリクセントの近衛兵は武蔵とシャインのやり取りを見て、目を押さえていた。王女と言う責務にがんじがらめにされ、表情の固いシャインがとても楽しそうに微笑んでいる。その姿に思わず涙を浮かべてしまったのだ……それでなくても武蔵は銃弾やビームの飛び交う戦場でコックピットから飛び出してシャインを救った。それに加えてメカザウルスの襲撃時にも助けに現れた武蔵とゲッターロボは既にリクセント公国での絶大な支持と人気を手にしていた。

 

「……リュウセイ」

 

「ごめん、もうちょっと……」

 

武蔵とシャインが微笑ましいことになっている反対側ではリュウセイがガシャポンの前にしゃがみこんでいて、ラトゥー二がその服を引いていたが、お目当てではないのか動く気配が無い。

 

「武蔵さん、ちょっと待っていてくださいまし」

 

そしてそんなリュウセイを見たシャインが怒り顔で駆けて行き、リュウセイの尻を蹴り上げる。そしてそのままリュウセイに説教を初め姿を見て、武蔵は楽しそうに笑い声を上げるのだった。

 

「また会いに来てくれますか?」

 

「全部終わったらな。シャインちゃんも元気で」

 

だが何時までも武蔵達はリクセント公国にいるわけにはいかない、まだエアロゲイターとの戦いは終わっていないのだ。

 

「約束ですわよ」

 

「ああ、約束する」

 

しゃがみこんでシャインと指きりげんまんをする武蔵。シャインは名残惜しそうに指を離し、そのまま一歩後ろに下がった。

 

「武蔵さん、ラトゥーニもお元気で、リュウセイはもう少し乙女心を学びなさい。いいわね」

 

「ふあい……」

 

尻を蹴られ説教をされたのにまた玩具屋のショーケースの前から動かなかったリュウセイはシャインの往復ビンタで両頬を真っ赤に染めながら、何度も頷いた。どうも、この1日でリュウセイはシャインに苦手感情を抱いたのは間違いない。

 

「ラトゥー二ももう少し積極的な方が良いですわ」

 

「……お、王女。そ、そういうのは」

 

リュウセイの隣でわたわたしているラトゥー二とよく判っていない様子のリュウセイ。シャインはそんなリュウセイをキッと睨みつける、小さく呻いて後ろに下がるリュウセイ。完全にシャインに苦手意識を抱いてるなと武蔵は苦笑し、シャインに手を振りリュウセイとラトゥー二と共にハガネへと引き返していくのだった。

 

「どうかご無事にお戻りください、武蔵様」

 

遠ざかって行くクロガネとハガネ、その飛んでいった方角にシャインはその姿が見えなくなっても腕を組んで無事を祈り続けているのだった……。

 

 

 

「壮観ですな、スペースノア級が二隻もあると言うのは」

 

「そうだな」

 

ハガネと共に帰還したクロガネを見つめながらレイカーは思う、ここにシロガネもあればオペレーションSRWの成功率も更に上がっただろうと……だがブリッジが大破したシロガネの修理には時間を有する。とてもではないが、修理をしている時間はなかった。

 

「オペレーションSRW発動まで後2日……どこまで私達は力を蓄える事が出来るだろうか」

 

「大丈夫です、レイカー司令。ハガネとヒリュウ改、そしてクロガネならばきっとやってくれるはずです」

 

クロガネのお陰か、攻撃が分散され準備する時間はまだ僅かに残されていた。2日……決して長くない、その2日間が……地球の明暗を分ける最後の2日間となるだろう。

 

「サカエ、クロガネをドッグに収納後各員に休息を伝えてくれ。此処からは私達の戦いだ」

 

残り2日間……残された時間をフルに使い、ハガネ達を万全な状態で宇宙へと上げる。それがレイカー達に出来る最後の事だった、リクセント公国にハガネ、そして東京にヒリュウ改を分散して送った後。レイカーは各基地に連絡を取り、オペレーションSRWに参加出来ない兵士を全て伊豆基地に集めた。それはエアロゲイターの偵察や妨害行動でオペレーションSRWに参加するメンバーの体力や気力を消費させない為のレイカー、そして連邦軍の総意であった。自分達は参加できないが、それでも地球を守る為に戦うのだと連邦の兵士の士気は勿論高い。

 

「レイカー司令、クロガネより入電。ビアン・ゾルダーク博士が会談の席を設けて欲しいとの事です」

 

「了承だと返事を返してくれ、すぐに準備を整える」

 

ビアンの行ったことは決して正しくは無い、恨まれてもいるだろう。だがそれ以上に異星人の脅威と戦うにはビアンの頭脳が必要だとレイカーは考えていた。オペレーターにすぐ了承と返事を返すように伝え、レイカーは総司令部を後にする。ダイテツを……ビアンを自らで迎える為に、それもまた残された者が出来る最後の戦いに向けての心配りだった。

 

「レイカー司令、グラスマン議員が動く可能性もありますよ」

 

「それも承知だ。だが積極的に協力してくれるのならば、それを拒む理由は無い」

 

ハガネとヒリュウ改のクルーを休ませることが出来るのもグライエンの力が大きい、鷹派の筆頭のような男だがその権力は莫大だ。それを利用しない手は無いとレイカーは考えていた。

 

「レイカー・ランドルフ自らが来てくれるとは驚きだよ」

 

「こうして反乱を起こしたお前と顔を見合わせることになった私も驚きだよ」

 

互いに顔を見合わせ笑いあう、敵同士であった。だが今はその敵同士であっても力を合わせなければ地球を守る事は出来ない――レイカーもビアンもそれが判っている。今は手段も方法も選んでいる場合ではない、地球を守る為に、そしてそこに住まう人々を守る為に、地球は1つに団結しなければならないのだから……。

 

「ここから先は通行止めだ。大人しく滅ぼされるのを待つが良い」

 

だが地球を守りたいと思うのはレイカー達だけではない、宇宙の闇に紛れ翼を広げるアストラナガン、そしてイングラムもまた地球を守る為に、そしてこれから地球に降りかかるであろう試練の事を考え人知れず、誰に感謝されること無く孤独な戦いを続けているのだった……

 

 

第73話 最後の休息 その1へ続く

 

 




本来ならこのシナリオの後に宇宙編に入りますが、ちょっとオリジナルシナリオを2つほど入れさせてもらいます。その後は最終話に向けて話を進めていこうと思いますので、最終話の前の最後のほのぼのと言う事でよろしくお願いします。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第73話 最後の休息 その1

第73話 最後の休息 その1

 

伊豆基地では最後のメンテナンス及び、機体改造で伊豆基地所属の整備班だけではなく、助っ人で呼ばれたテスラ研、マオ社、そして各基地のベテランと呼ばれる整備班の不眠不休の整備が行われていた。

 

「アルトアイゼンの腕を繋げるぞー! 指、関節の稼動チェックを忘れるなッ!」

 

「了解です」

 

アストラナガンに引きちぎられたアルトアイゼンの右腕の修理がその中でも急ピッチで行われていた。リクセント公国に出撃したPT・特機の中でもアルトアイゼンの損傷が著しく、現場の指揮官と言うこともあり最優先で修理が行われていた。

 

「キョウスケ少尉。随分とやられたようですわね」

 

「ラドム博士……そうですね。アルトアイゼンの動きを片手で止められては流石にどうしようもありませんでした」

 

ブラックエンジェルの戦闘力の高さは十分承知しているキョウスケだったが、完全な死角、最高速度での突撃にも関わらず片手で止められてしまえば敗北を認めざるを得なかった。

 

「ゲシュペンストMK-Ⅲですわ。私は自分の持ちうる技術を全てMK-Ⅲにつぎ込んだつもりでした。最高の機体を仕上げたという自負もありました。ですが結果は完全敗北ですわ」

 

「すみません、俺の操縦技術不足です」

 

自分の設計が甘かったとマリオンが言っていると思い、キョウスケは自分の責任だと口にしたのだが……。

 

「全く持ってその通りですわ、武蔵がMK-Ⅲのシミュレーターに乗った時は3分ほどで機能を停止しました。つまり、理論上はあれだけの動きが出来ると言う事ですわ」

 

励ますつもりの言葉が肯定され、キョウスケが思わず停止してしまう。だがマリオンは小さく鼻を鳴らし、整備班によって再び繋ぎ直されているアルトアイゼンの右腕を見つめる。

 

「正直にお答えなさい、今のMK-Ⅲでブラックエンジェル……もしくはキメイラに勝てると思っていますか?」

 

南極でクロガネが遭遇したと言う異形のドラゴン、それはAGX-16 キメイラと命名された。4つ腕のドラゴン、下半身は獣で背部にはエネルギービットを射出する翼。完全なる異形の姿からキメイラと呼称された。2体のゲッターロボ、そして改良されたグルンガスト零式・改、そしてヒュッケバイン、グランゾンでさえもトドメを刺せず、謎の蜂型のロボットの自爆に巻き込まれて破壊された。だが、ホワイトスターに攻撃を仕掛ければ、再び出現してくる可能性は十分に高い。

 

「……今のままでは勝てないでしょう」

 

「でしょうね。これで勝てるとか言ったら、貴方をMK-Ⅲのパイロットから降ろすつもりでしたわ」

 

マリオンはそう言うとアルトアイゼンから背を向けて歩き出す。勿論、着いて来なさいという言葉は無かった。だがキョウスケは直感でマリオンの後を着いて行くことにした。そうするべきだと、己の直感が告げていたから。

 

「ラドラ博士のフライトユニット、そしてゲシュペンスト・リバイブは私にとって非常に興味深い物でしたが、キョウスケ少尉はどうでしたか?」

 

「俺としても、面白いと思いました」

 

ゲシュペンストの拡張性、そして汎用性の高さを見せ付けられた。そう感じたのはキョウスケだけではない、軍上層部やトライアウトに参加していていた軍仕官までもがこのままヒュッケバインでトライアウトを進めていいものかと疑問を抱き、再トライアウトとなった。そうなったのは紛れも無く、フライトユニット、そしてリバイブの性能の高さからだろう。

 

「そこで私は考えました。MK-Ⅲは確かに性能はヒュッケバインには劣りません。ですが、これは量産には向いていないと。勿論私の考えたMK-Ⅲは至高です。ですが、至高の物が全ての者に受け入れられるわけではありませんわ」

 

完全な時代逆行機ではある、だがその性能は紛れも無く優秀なアルトアイゼン。トライアウトに落ちたのは紛れも無くその余りにも時代逆行しすぎた開発コンセプトのせいだろう。

 

「そこで私は基本的なゲシュペンストMK-Ⅲの素体を作り、そしてそこに低コストの外付けの装甲、アーマーによっての拡張性の強化を考えました」

 

「フライトユニットの発展と言う事ですね?」

 

フライトユニットの利点はその低コストと、前期の量産型ゲシュペンストMK-Ⅱでも、後期の量産型ゲシュペンストMK-Ⅱにも装備出来るその汎用性にある。それはどの型番のゲシュペンストでも使用出来る……一種の究極の汎用性の形であった。

 

「ステーク、クレイモアを排除し、基本性能を高めたMK-Ⅲでトライアウトに出します。そしてそこから本当のMK-Ⅲへと換装するパーツをつけることで格闘戦、射撃戦、援護、防衛と様々な形式に対応出来る。究極の汎用性、それが軍の求めるMKーⅢですわ」

 

「ですが、それはラドム博士の望む物ではないのでしょう?」

 

「ええ、そのとおりです。ですが、MK-Ⅲを何時までも古い鉄等と呼ばせない為にもある程度の妥協は必要です」

 

妥協が必要と言っておきながら、凄まじい顰め面をしているマリオンにその妥協が彼女にとって許容できない物であると言うことは明らかだった。

 

「話の脱線はここまで、フライトユニットをベースに私が開発した……強襲用のアサルトパックです」

 

「……これは……ふっ、面白いですね」

 

キョウスケの言葉にマリオンは自信満々と言う様子で笑う。それだけこのアサルトパックに自信を持っているのは明らかだ。

 

「胸部及びコックピット部分の強化、クレイモアの姿勢制御のバーニアと接続する形の大出力バーニアが2門、左腕のマシンキャノンの上から装着する可変式ガトリングカノン、これはシールドの機能も有しておりますわ。右腕は既存のリボルビングステークを内部に収納する事で使用可能になる試作型リボルビング・バンカー。これを修理が終わったMK-Ⅲに装着するか、否かを「お願いします」……良いのですね? これは試作型で取り外す事は出来ません」

 

「構いません。ラドム博士、シミュレーターは勿論用意してあるでしょう?」

 

「ええ、用意しております。ですが2日で乗りこなせるかどうかは……いえ、愚問ですわね。判りましたわ、修理が終わり次第装着しておきますわ」

 

「お願いします。俺はシミュレータールームで待機していますので」

 

乗りこなせるかどうかではない、乗りこなせなければ量産型ドラゴン達を主力にするエアロゲイターには勝てない。キョウスケはそれが判っていたからこそ、この2日と言う猶予で乗りこなして見せると強く決意を抱きその場を後にするのだった……。

 

 

 

 

 

ビアンの姿は伊豆基地の最高機密であるSRX計画のラボの中にあった。ビアンは確かにDC戦争を起こした犯罪者ではある。だがこうして異星人の強襲が事実になった今、ビアンの訴えた事その全てが事実であり、そしてシュトレーゼマンが単独でシロガネで地球圏脱出を図った事もあり、ビアンをDC戦争の責任者として処罰するよりもその英知を借りる方が良いとノーマン、そしてミッドクリッド大統領の決断でオペレーションSRWに参加し、そして無事に帰還すれば監視こそ付くがそれでも特例措置が下されることになっている。そして今、そんなビアンが何をしているかと言うと……

 

「だからさ、今のロボットアニメで男1女4とかいうパイロット編成は駄目だと思うんだよ。俺」

 

「同意しよう。そしてそこにラブコメが入る必要は無い、ラブコメをしたいのならば学園で日常生活でもしていろと言いたくなるな」

 

「そうそう、後さ、やたらスタイリッシュなロボはどうかと思う」

 

「造詣だけに拘るのは論題だな。やはりね、スーパーロボットと言うのはでかい・強い・大きいの三拍子が重要なのだよ」

 

「やっぱりビアン博士は話が判るな!!」

 

「ははは、私も久しぶりに話が合う人間にあえて嬉しいものだよ」

 

リュウセイと熱くロボットアニメについて語っていた……無論やることはやってからの話だが、それでもあのビアン・ゾルダークがリュウセイと同類と言うのはSRXのラボにいた全員に衝撃を与えていた。

 

「スーパーロボットは、やはり登場の演出が大事なのだよ」

 

「判る、ピンチとかにでて来てこそだよな」

 

「絶対に勝てる状況で出て来れられてもうーんっとなるしな」

 

「そうそう、やっぱり燃える展開じゃないと駄目なんだよ。1号ロボのピンチに2号ロボが来るとかな」

 

「それこそロボットアニメの最も重要なファクターだ」

 

どんどんヒートアップしている2人にライとアヤが一応のストッパーであろう武蔵とエルザムにそれぞれ視線を向けるが……。

 

「無理無理、ああなったら暫く止まらないよ」

 

「ほっておくしかあるまい」

 

ストッパーがストッパーになっていないことに、ライとアヤは深く溜め息を吐くのだった。

 

「エルザム兄さんはもうゲッターロボには乗らないのか?」

 

「ゲッターロボは確かに一騎当千のスーパーロボットだが、やはり単独では出来る事と出来ないことがある。それならば、私は改良したヒュッケバインMK-Ⅱに乗ることにしたのだよ」

 

「あの残像が出来るほどの超加速か……」

 

「ああ、あれは本来はバリアに使うゲッター線フィールドで更に加速している。恐らく常人では乗りこなせないだろう」

 

リクセント公国での残像を見せるほどの加速、それは通常のヒュッケバインでは不可能な速度だった。その加速の源がゲッター線と聞いてライもアヤも驚いた表情を浮かべる。

 

「ビアン博士は既にゲッター炉心をPTに載せられるほどに理解を深めているのですか?」

 

「流石のビアン総帥もPTに載せられるほどにダウンサイジングした炉心は開発出来ていない。私も詳しい所は判っていないよ、ただカートリッジシステムで使い捨て同然とだけしかきいていない」

 

ただ使えるから使う、それだけだとエルザムは告げ、ゲッター線コーティングされた関節に交換しているRー2パワードに視線を向ける。

 

「ライディースこそ大丈夫か? トロニウムの扱いは難しいだろう?」

 

「ええ、ですが必要な力です。エアロゲイターを倒すにも、少佐を取り戻すにもです」

 

「そう……か、無理をするなよ。最も、お前の敵に1度は回った私が言うべき言葉ではないがな」

 

「エルザム兄さん……」

 

生真面目なエルザムとライの間に奇妙な空気が広がった時、パンパンっと手を叩く音がした。

 

「兄弟なんだろう、壁なんぞ作ってないで腹割って話してきなよ。言葉をかわせねえって言うならキャッチボールでもして来な。ほら、行った行った」

 

武蔵!? 武蔵君!? と動揺しているライとエルザムの背中を押して、無理やりエレベーターに載せて上に送り出した武蔵。

 

「強引な事をするのね」

 

「はは、すいませんねえ。兄弟なんだから話せば判りますって、それか殴りあいでもすれば解決しますよ。オイラとリョウと隼人なんてしょっちゅうそれですよ。殴りあいするか、キャッチボールをするかですって」

 

はははっと豪快に笑った武蔵は辺りを確認する、リュウセイとビアンはスーパーロボットの話で熱弁を奮っている。そして格納庫にも人はいない。

 

「アヤさん、凄く大事な話があるんですけど……いいですか?」

 

「……何かしら?」

 

「イングラムさんの事です」

 

武蔵の口からイングラムの名前が出て、アヤの顔は真剣な物に変わる。

 

「リクセント公国で何かあったの?」

 

「……声、イングラムさんの声が聞こえました。多分……いや、絶対イングラムさんは生きてますよ」

 

本当は正気だと、助ける為に動いていると伝えたかった武蔵だがそれは許されない。だからぼやかして伝えるとアヤは目を細める、その目が自分の心を見透かしているようで武蔵は肩を竦める。

 

「とりあえず、そう言うことにしておいてあげるわ」

 

「……すんません」

 

「武蔵が悪いんじゃないから良いわ、生きているって教えてくれたのは嬉しいしね。でも思いっきりビンタするのは変わらないけどね」

 

(すまねえイングラムさん、オイラなんか間違えたみたい)

 

にっこりと笑うアヤが武蔵に自分が言葉の選択を間違えたと言う事を教えていて、心の中でイングラムへと謝罪するのだった。

 

 

 

 

 

伊豆基地のデータ室にゼンガー、そしてギリアムとラドラの姿があった。エルザムはSRX計画のラボに行く前に確認しているが、リクセント公国に現れた灰色のナイト。その分析結果と2人の考察を聞きにゼンガーはデータ室を訪れていた。

 

「……この癖。この足さばき……やはり間違いないのだな」

 

「ああ、カーウァイ・ラウ大佐に間違いないだろうな」

 

ゲシュペンストのモーションデータ、そしてナイトのモーションデータ。その適合率は94.2%……残り6%弱は誤差の範囲に過ぎない、ここまで合致していればナイトのパイロットは行方不明のラウ大佐であると判明したような物だ。

 

「生体反応は極微弱……言いにくいが、人間としてのラウ大佐は既に死んでいると見て間違いないだろう」

 

「……そう……か、僅かに期待したのだがな」

 

イングラムのように洗脳されているだけではないのか? ラウ大佐を取り戻せるのではないかと言う期待はラドラの一言で消え去った。

 

「……考えられるのは「……すまない、今は聞きたくない」……そうだな、胸糞悪い話だ。俺も、ギリアムもしたい話ではない」

 

生体反応の微弱さから考えられるのは脳や神経などの一部をサイボーグに移植し、そのサイボーグがナイトを操縦しているのだろう。

 

「……ゼンガー、お前1人で背負い込むな、これは教導隊全員で行う」

 

「ああ、俺達で止めるんだ」

 

「……ありがとう、ラドラ、ギリアム、俺は良き友を持った」

 

その言葉を最後にデータ室を出て行くゼンガー、その背中から溢れ出る怒気を見ればゼンガーがどこに向かおうとしているのかは明らかだ。

 

「許せんな、エアロゲイターは……」

 

「そうだな。だが、冷静でならねばならない」

 

仮にも人の上に立つ立場だ、怒りで我を見失うなんてことは許されない。

 

「しかし、そのお陰でエアロゲイターのことも判った」

 

「人員不足だな」

 

態々こちらの人間を攫う、そしてサンプルと言う呼称――もしやと思っていたが、ホワイトスターの役割は戦力を回収し、本星へと連れて返ることだろう。

 

「南極の遺跡の情報を開示してくれたが……」

 

「巨大なゲッターロボか」

 

壁画に残されていたゲッターロボの記録。そしてそのゲッターロボは宇宙を戦場にしていた、その衝撃的な記録にはラドラとギリアムも驚かされたが、そのお陰で得た情報もある。

 

「ゲッターロボはもっと過去に現れていたのだな」

 

「新西暦初頭位か……だが謎は深まるばかりだ」

 

この世界に眠るゲッターロボの記録、連邦がひた隠しにする失われた歴史……その全てはゲッターロボにある。

 

「もう少し情報を集める必要があるな」

 

「そうだな、少なくとも俺と武蔵が死んだ後もゲッターの戦いは続いていた。俺達は知らないことが多すぎる」

 

確かにラドラはゲッターロボを知っている、だがそれは初期のゲッターロボだ。まだ自分達の知らないことが多く存在する、それはドラゴンやライガーの存在で明らかになっている。

 

「失われた歴史、ゲッターロボ……そして私達のような迷い人……この世界は混迷を極めていくだろう」

 

「そうだな、だがそれだからこそ俺達が出来る事もある」

 

ゲッターの存在を知っている、世界は1つではないと知っている者がいる……だからこそ出来る事がある、誰にも話すことは出来ないが――だからこそ出来る事がある。

 

「コウキやアゲハ、そして武蔵の力も借りよう」

 

「ああ、そうだな。武蔵にも教えてやりたいしな」

 

ギリアムやラドラだけではない、他にもお前の友を知る者がいる。それを伝えてやりたい、だが今はそんな余裕が無いのも事実。今はただ

……オペレーションSRWを成功させることだけを考えさせるべきだと思いラドラとギリアムは他の迷い人の事を伝えなかった。だが、それが間違った判断であると2人が気付いた時は全てが手遅れになった後なのだった……。

 

 

 

 

オペレーションSRWを控え、伊豆基地は慌しく動き回っていた。オペレーションSRWの参加する兵士の気力や体力を充実させる為の食事や、マッサージ師を招きいれ、さらには各基地の整備兵も呼び寄せ万全の状態で出撃出来るようにとバックアップに勤めていた。

 

「くそ、まだまだ」

 

「時間はある、焦るんじゃねえ!」

 

オペレーションSRWへの不安を振り切るように、シミュレーションルームでアーマリオンやフライトユニット装備のゲシュペンストの訓練に明け暮れる者。

 

「これが最後の晩餐にならないといいんだけどね」

 

「俺達は勝つ、何の不安を抱く必要も無い」

 

「そう言ってくれると、少しでも安心出来るわね」

 

豪華な食事を食べながらも、どうしても不安を隠せない者、そしてそれを励ます者。

 

「もう一本お願いします!」

 

「良くぞ言ったッ! 来いッ!」

 

「押忍ッ!!」

 

身体を動かし続け、気力と体力を充実させる者。

 

「ライディース、力加減がへたくそだな」

 

「うっ……こんな事やったことがないんです」

 

「それも私も同じだ、もう少し力加減を考えればいい」

 

「難しいものですね」

 

「そうだな、だが……悪くない」

 

「ええ、そうですね。悪くないですね」

 

武蔵に言われた通りにキャッチボールをしているブランシュタイン兄弟の姿が見られた。

 

「ユーリア隊長お久しぶりです」

 

「ああ、レオナ。元気そうで良かった」

 

「さ、レオナもこちらへ久しぶりに話をしましょう」

 

元コロニー統合軍のレオナは久しぶりに上官であるユーリアとリリーと話を出来る事を頬を緩ませていた。

 

そんな中、ビアンとの熱いロボットアニメ談義を終えたリュウセイは酒保で頭を抱えていた。

 

「どうしたの? リュウセイ」

 

「あ、あーラトゥーニか、いやさ。アヤにさっき聞いたんだけど……お袋がな、伊豆基地内の病院にいるから、お見舞いに行くと良いって

言ってくれたんだ。だけど……手ぶらもなんだからって思ったんだけどさ……判らないんだよ」

 

「……私も選ぶの手伝おうか?」

 

「え、良いのか? 頼むよ、俺どうすればいいのか判らなくてさ」

 

 

そしてシャインの助言であるもっと積極的に動くべきと言う言葉に従いリュウセイのお見舞いに同行することにし、2人でお見舞いの品を選んだ。リュウセイは久しぶりに会える母親だが、軍属であると言う事を伝えていなかった事を思い悩み、そしてラトゥーニは勢いでお見舞いについて行くといったものの、リュウセイの母親に会うということに気づき、その顔を赤くさせていた。

 

エアロゲイターとの戦いが迫る中、それでもいつもどおりの日常を過ごすハガネ、ヒリュウ改のクルー。だが、決戦はもうすぐ側まで迫っているのだった……。

 

 

 

 

 

グラスの中で氷が音を立てる。レイカーの私室にビアン、そしてレイカー、ダイテツの3人の姿があった。

 

「オペレーションSRWに連邦の残っている宇宙艦隊の8割を使用する。そこで聞きたい、どれほど生き残ると思う?」

 

「……2割……いや、1割を切るだろう」

 

「戦力が余りにも足りない」

 

ビアン、そしてダイテツの意見は宇宙艦隊は殆ど役に立たないと言う物だった。

 

「出来る限りの準備はした……だがやはり戦力は充実したとは言い切れんか」

 

「ハガネ、クロガネ、そしてヒリュウ改が突出戦力過ぎる。それにシロガネの修理は済んだが、艦長は見つかっているのか?」

 

「……いや、今の段階ではオートクルーズで運用する。ゲシュペンストや量産型アーマリオンの運搬や補給、そして最悪の場合の離脱艦として想定している」

 

「育ちきれなんだが……」

 

「スペースノア級は特別な戦艦だ。並みの艦長では指揮をとれない。有望な者もいるが……この短期間では無理だ」

 

シロガネを戦力にするには艦長がいない。そうなれば貴重なスペースノア級をただの運搬や補給艦にするしかないというのが現実だった。

 

「ビアン、お前がクロガネに施した改造はハガネやヒリュウ改には出来ないのか?」

 

「出来なくは無いが……恐らく間に合わない、出来てコーティングだな」

 

アイドネウス島を脱出し、そこから準備を続けていたからこそクロガネはゲッター炉心を搭載し、ゲッター合金で改造された。だが今からでは到底間に合うものではないとビアンは告げた。

 

「それでも構わない、生存率を少しでも高める為に頼む」

 

「判った。明日すぐに準備をしよう。それとレイカー、申し訳無いのだがある装備を引き取って欲しい」

 

「それは構わないが……何をだ?」

 

「ゲッター合金で作成したスペースノア級に装備させるレールカノンだ」

 

「そんなものがあるのならばシロガネに装備させたらどうだ? テツヤ大尉はワシの後継だ。ここで指揮を取らせて運用するのも良かろう。その場合はリリー中佐か、バン大佐にフォローを頼みたい所だが……」

 

「いや、アレはまだ未完成だ。設計図と共に預ける、完成までは間に合わなかった」

 

「襲撃のせいか……」

 

クロガネは何度も襲撃を受けている。それさえなければ、レールカノンも間に合っていただろうとビアンは顔を歪めた。

 

「しかし、無い物強請りをしてもどうしようもありますまい」

 

「ショーン。遅いぞ」

 

「はは、すいませんね。レフィーナ艦長が随分と不安に思っているようで、話をしていて遅れました」

 

3人の話し合いに遅れて合流したショーンは机の上を見て眉を顰める。

 

「いけませんなあ、スコッチこそ至高と言うものを」

 

「何? 聞き捨てならんな、日本酒こそだ」

 

「違うな。酒はウィスキーのロック。これに限る」

 

「流石レイカー司令、話が判りますな」

 

「待て待て、人のワインをあれだけ飲んで何を言っている」

 

スコッチ派のショーン、レイカー、日本酒のダイテツ、ワインのビアン。4人の酒飲みが揃った事で話の流れはいつの間にか作戦の事から、酒の事に変わっていた。だがそれも当然の事だった。圧倒的な不利な作戦に挑むのだ。幾ら考えても不安にしかならないのならば、考えを変えたほうがよっぽど有意義だった。

 

「ならば、この話し合いは全てが終わった後にまたやろう」

 

「そうですな、これほど緊張していては酒の味も判りませんしな」

 

「全くだな」

 

そして4人はグラスを小さくぶつけ合う。言葉にすることは無い、だが必ずや生きて戻る。そんな強い意思が込められた視線をお互いに交わし、グラスの中の酒を一気に呷るのだった……。

 

 

第74話 最後の休息 その2へ続く

 

 




この話で書きたかったのは最初のリーゼ(仮)の装備とリュウセイとビアンの話、それと不穏なフラグとラトちゃんとリュウセイママンの話の準備です。次回はリュウラト風味とオペレーションSRWの発動の話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第74話 最後の休息 その2

第74話 最後の休息 その2

 

 

 

伊豆基地を初めとしたPTの開発施設のある基地では鹵獲されたリオンシリーズの改造が急ピッチで行われていた。

 

「着眼点は悪くないがね、脚にブレードをつけるのはどうかと思うよ。リョウト君」

 

「……はは、そうですかね?」

 

ビアン、ラドラ、そしてカークの3人によって再設計されたアーマリオンは、その最大の特徴であった脚の折りたたみ式のブレードを撤廃され、ガーリオンシリーズ同様両肩へと装備箇所を変更されていた。

 

「予備の脚部パーツが無かったんです」

 

「ふむ、それは不運だったね。だがこうする事で完成形が見えただろう?」

 

エアロゲイター、そしてDCとの戦いで少なからず大破、中破していた量産型ゲシュペンストMK-Ⅱ。その脚部パーツの寸法を延長しアーマリオンのサイズに合うように調整された物が次々にアーマリオンの素体になるリオンに組み込まれている。

 

「これだとゲシュペンストよりも高性能に思えるな。ビアン・ゾルダーク」

 

「あくまでエアロゲイターとの戦いに備えての物だよ。カーク」

 

ハンガーに吊るされているアーマリオンはリオン系列と言うよりも、別系統のアーマードモジュールであるガーリオンを連想させるシルエットへと変更されていた。それに伴い装甲も強化され、ミサイルクラスターなどの装備は後付装備へと換装された。

 

「あの戦争のさなかにこれだけの物を考えたのは中々優秀な技師のようだな」

 

「い、いえ、恐縮です」

 

「パイロットとしても良いが、エンジニアとしての力を伸ばすのも君に向いているかもしれないな」

 

カークとビアンに褒められているリョウトはおどおどとした返事を返すことしか出来ない。アーマリオンは急遽改造した物で、現職の研究者や開発者に褒められる物ではないと思っていたからだ。

 

「む、すまないが、私は席を外す」

 

「また後で意見を聞かせてくれ、武器の用意が間に合っていないからな」

 

了解だと返事を返し、ビアンは格納庫の奥へと足を向ける。つい先ほど武蔵が歩いて行ったのが見えたので、話が出来るうちにとビアンは思ったのだろうとカークとリョウトは奥へと向かうビアンに何も言う事は無かった。

 

「さて、リョウト・ヒカワ。もう少し詳しい話を聞かせてもらおうか、何心配することはない。アーマードモジュール、PTの武器の製造ラインは確保している。どんな武装でも間に合わせよう、さあ、設計者としての意見を聞かせてくれ」

 

「……お、お手柔らかにお願いします」

 

「考えておこう」

 

ラドラと言う旧西暦の知識を持つ人間がオブザーバーに付き、ゲシュペンストは爆発的にパワーアップした。その事に若干の焦りを覚え始めていたカークの瞳孔は完全に開いていて、リョウトは引き攣った声で返事を返すのがやっとなのだった……。

 

 

 

 

 

 

急ピッチで改良されるアーマリオンやゲシュペンスト用のフライトユニットが製造されている伊豆基地の格納庫に武蔵の姿はあった。

 

「標本……か」

 

オペレーションSRWを控え、エアロゲイターの目的の予測。そして連邦側の作戦を始めて聞いた武蔵は聞いた内容を思い返し、そう呟いていた。

 

「何か引っかかるんだよなあ」

 

地球よりも遥かに優れた技術力を持つエアロゲイターが標本として地球人を回収する。人員が少ない、もしくは滅びかけていると聞いたが……それがどこか武蔵には引っかかっていた。何か、思い違いをしているような……何か、根本的な部分で間違えているような……上手く説明出来ないのだが、武蔵は奇妙な違和感を覚えていた。

 

「何か気になるのかね?」

 

「ビアンさん……そうですね、レイカーさんやサカエさん、それにマリオン博士の話も聞きましたけど……ちょっと気になるというか……引っかかると言うか」

 

上手く説明出来ないんですけどねと言うとビアンは小さく苦笑した。

 

「確かにな、違和感はある。地球人をサンプルとすると言うよりも私は……エアロゲイターは恐れているんだと思うよ」

 

メテオ3のEOTを始めとする地球には無い超技術を与え、降伏勧告や首都爆撃を行い地球人に滅ぼされるかも知れ無いと言う恐怖を与え、そして今は戦いに来る地球人を待ち、優れた機動兵器とパイロットを集めるというのが他の連邦上層部の考えだった。何故地球を標的にしたのか、何故地球に興味を持ったのか……誰も明言はしなかった。だが誰もがそれが何なのかを理解していた……

 

「ゲッターロボですね」

 

「正しくはゲッター線だろうね」

 

武蔵が現れる前に地球にはゲッター線とゲッターロボがあった。そしてゲッターロボは宇宙の戦い、恐らくは地球を侵略する宇宙人とも戦っていたのだろう……だから再び地球に現れたゲッターロボとゲッター線、それを感知して現れたのではないか? もしくは、今は存在しなくてもゲッターロボが現れると言う事を知っていたのかもしれない。

 

「流石に言いませんでしたね」

 

「言える物か。武蔵君から聞いてなければギリアム少佐達にも伝えたくは無かった」

 

南極の遺跡に刻まれた巨大なゲッターロボの姿。武蔵からギリアムとラドラもゲッターロボを知っていると聞いてなければビアンは決して伝えることは無かっただろう。

 

「私はね。武蔵君の行く末を案じている」

 

「オイラのですか?」

 

「そうだ。君はオペレーションSRWの話を聞いて、最悪の場合を考えたはずだ。違うかね?」

 

ビアンの鋭い視線に武蔵は敵わないなあと呟きながら肩を竦めた。武蔵は1度地球の為、友の為に自ら散る事を選んでいる、ビアンは武蔵がそれを再び行うのではないか……ではない、再び行うと確信していた。武蔵は自殺願望があるわけではない、だが自分の命と他人の命を秤に掛けたとき、迷う事無く自分の命を切り捨てることが出来る人種だ。だからこそビアンは武蔵を探し、武蔵に釘を刺しに来たのだ。

 

「人の命は軽くない、考えているようなことは決してしてはいけない」

 

「……はい、判ってます。判ってますよ、オイラだって死にたいわけじゃないですからね」

 

武蔵の言葉をビアンは嘘だと見抜いていた、そしてそれと同時に自分の半分も生きていない武蔵にそこまでの覚悟を決めさせてしまっている己を恥じた。

 

「それより、ビアンさんの方は準備が出来ているんですか?」

 

あからさまに話をすり替えて来た武蔵。ビアンもそれが判らないわけではない、だがここで話を蒸し返しても武蔵は何も答えないだろう。

 

「蛇腹剣の刃をドリルにしてみた、ドリル蛇腹剣だ」

 

「子供みたいな眩い目で凄い事言ってますね……ビアンさん」

 

「後はゲッター線ミサイルのガトリングガンだ。それを両肩と背中に装備する」

 

「チェンジ出来ないからって何でもかんでも作りすぎでしょう?」

 

「む? やはりそう思うか? 私も薄々そう思っていた」

 

格納庫に武蔵とビアンの笑い声が響く、2人とも互いの事が判っていても、それでも止められない物もある。それでもその時までは笑っていたい、そうならないように頑張りたい。それが嘘偽りの無い武蔵とビアンの気持ちなのだった。

 

 

 

ビアンと武蔵が格納庫で笑い合っている頃SRX計画のラボでは1悶着起きていた。

 

「……どうしても、ハガネに乗り込むというのだな?」

 

「ああ。ギリギリまで面倒を見なきゃならない機体も多いし……俺達の手がけたマシンが人類の未来に何をもたらすのか……この目で確かめたいんだ」

 

2日での準備ではできなかったこともある、それにゲッター合金コーティングを施したRシリーズのメンテもしたいからとロブが言うとカークは少し考える素振りを見せてからロブへと視線を向ける。

 

「では、私も行こう」

 

「いや……カークはここに残って、カザハラ博士とコウキと一緒にEOTの解析を続けてくれ、ゲッター線の事もあるだろ?」

 

EOTの第一人者であるカークにもしもの事があれば、そこで全ての開発が止まってしまう。だからカークには残るようにとロブが説得する。

 

「だが、お前1人では限界がある。特にマリオンの機体は調整が難しいからな」

 

カークの言葉に格納庫にいる全員があっと言う顔をしたが、カークはそれに気付かず。早足で近づいてきたマリオンの怒声がラボに響いた。

 

「失礼ですわね! 貴方に他人の事が言えましてッ!? こうなったら、私もヒリュウ改に乗りますわよッ!」

 

「マリオン、お前はここに残れ、私がヒリュウ改に乗る。コウキ、お前からも説得してくれ」

 

口は悪いがマリオンの事を案ずる言葉を口にするカーク、だがそれはマリオンの怒りに油を注ぐだけだった。

 

「それは私の台詞ですわ。残るのは貴方の方でしてよ」

 

「どういうことだ? ハガネとヒリュウ改の主戦力はSRXになる、私が行く方が道理だ」

 

理路整然と説明するカークだが、それではマリオンの勢いを留める事は出来ない。

 

「コウキ、逃げてくるなよ」

 

「夫婦喧嘩は犬も食わん、俺を生贄にするな」

 

聞こえていれば誰が夫婦かと怒鳴るマリオンとカーク。まぁ、実際に夫婦だったのだが……それは触れてはいけない話題だ。

 

「これ以上、あなたにMk-ⅢとMk-Ⅱカスタムをいじられるのは我慢が出来ませんし……それに、EOTの解析は貴方とカザハラ博士に任せますわ。メテオ3の事もありますしね」

 

今までの怒り顔から一転して柔らかい表情のマリオンにカークの顔に驚愕の色が浮かんだ。

 

「相変わらず、EOTには興味がないのだな」

 

「勿論ですわ、あんな物に頼らなくても、ヒュッケバインやRシリーズ以上の機体を作り上げて見せましてよ」

 

その自信満々の表情を見て、カークは降参だと言わんばかりに背を向けた。

 

「判った……ただし、命だけは大事にな」

 

「……あなたが人間らしい台詞を言うと、不思議な気持ちになりますわね」

 

「……お前くらいにしか言わんがな」

 

何とも言えない雰囲気が広がり、コウキとロブは肩を竦めお邪魔虫は居なくなると言わんばかりに溜め息を吐いてその場を後にした。

 

「所でカザハラ博士は?」

 

「イルム中尉に声を掛けてくるといって席を外している。もうそろそろ戻って来るだろうよ」

 

親子の別れの邪魔はしないというコウキにロブはそうかと呟き、搬入されていくRシリーズに視線を向ける。

 

「気をつけてな」

 

「ああ、お前もゲッターの分析に根を詰めすぎるなよ」

 

互いに拳を打ち合わせ、背を向ける。ハガネかヒリュウ改に乗り込み戦いに参加する者、残された者には残された者の戦いがある。残るものは決して戦わないわけではない、地球でしか出来ない戦いをする為に残るのだ。そこに差は何も無い、全員が責任と地球の未来を案じて戦いへと赴く、生きて戻ると心に誓って……ハガネとヒリュウ改が戦いに出る時はもうすぐ側に迫っているのだった……

 

 

 

 

極東支部特別室のベッドに横になる女性に看護師が険しい顔でこの病室での注意を告げる。

 

「ユキコ・ダテさん、ここがあなたの新しい病室です。先日までの軍病院と違って、ここでは行動にかなりの制限と監視を受けることになります」

 

ユキコ・ダテ。リュウセイの母親であり、リュウセイが軍属になるのと条件に軍病院に入院していたのだが、昨晩突如伊豆基地に移動と言われ、あれよこれよと言う間に伊豆基地まで搬送されてしまった。勿論、彼女自身その理由も判っていた。

 

(やっぱり……特脳研関係で何か問題が起きたのね……)

 

かつて自分がいた特脳研究所の件で自分が疑われている、もしくは重要参考人としてこの場に連れて来られたと言う事を理解していた。

 

「色々と不自由だとは思いますがこれも軍規ですので」

 

「いえ、こういう環境は慣れていますから……」

 

特脳研にいる時も、そしてそこから抜け出した後も入院生活が続いていた。だからこういう生活には慣れている、ただ心配なのは自分の息子であるリュウセイの事だった。リュウセイの事を考えている時、電子扉の開く音がした。

 

「誰です? この患者と許可なく面会することは禁止されていますよ」

 

看護師が即座にカーテンを引いて、入ってきた誰かに引き返しなさいと強い口調で告げる。

 

「許可なら、ちゃんとレイカー司令からもらってるぜ、ほら。許可証」

 

「っ! 失礼しました。ですが、患者は身体も精神も弱っているので」

 

「……それは判っている。でも、貴方に親子のお見舞いを邪魔する権利はないと思う」

 

「……失礼します」

 

カーテン越しに聞こえてきた2つの声、攻撃的だった看護師がぐうの音も言えず再び扉の開閉音が響いた。だが、ユキコにとっては聞こえてきた声が問題だった。カーテンを開けて、尋ねて来た人物を見てその顔を驚愕に歪めた。

 

「リュウ! どうして貴方がここに……!? それに、その格好は……」

 

そこにいたのは会いたいと願っていた自分の息子、そしてその隣にいる紫の髪をした少女にも気付かず、リュウセイが軍服を着ている事に彼女は驚きを隠せないでいた。

 

「……色々と訳ありでさ。ビックリしたと思うけど……それよか、元気そうで何よりだぜ、お袋。ほら、ラトゥーニも座ってくれよ」

 

「う、うん」

 

ベッドの横の椅子を2つ並べてユキコの隣に座るリュウセイとラトゥーニ、だがラトゥーニはリュウセイとユキコの事を考え、少し後ろに座りリュウセイの後ろに隠れるようにして椅子に腰掛けていた。

 

「……私があの研究所にいたことを知ったのね、リュウ……」

 

互いに暫く無言だったが、先にユキコからリュウセイに話を切り出した。リュウセイが軍にいる……その理由として思い浮かぶのは特脳研関係としか思えなかった。沈黙するリュウセイにユキコはそれをリュウセイの返事として受け取った。

 

「もしかして、貴方が連邦軍に入ったのも……私のせい……?」

 

大学に行く事を止めて働いていると聞いていた、勿論それには反対したが……それでもリュウセイの意志は固く、働くと言うリュウセイの意志を尊重したのはユキコだ。だが、まさか自分の息子が軍にいるとは思っておらず、その声が小さく震える。

 

「そんなことねえよ。俺、自分の意志でここにいるからさ、お袋は気にしないでくれ」

 

だがリュウセイはユキコのせいではない、自分の意志で軍に入る事を決めたのだとユキコの手を握りながら言う。

 

「……ごめんなさい。貴方に私の過去のことを黙っていて……でも、これだけは信じて。あなたに真実を教えなかったのは……亡くなったお父さんとの約束で、貴方に余計な心配をかけないようにと……」

 

「ああ、良いんだ。そんな事は気にしてねえ。お袋が元気なら、それで良いんだよ」

 

リュウセイに謝るユキコの言葉を遮ってリュウセイは優しく笑う、それはユキコが好きな温かい微笑み。死んだ自分の夫であり、リュウセイの父親の笑顔に良く似ていた。

 

「それに……軍に入って自分のやるべき事が何なのか判ったんだ。俺は仲間達と一緒にこの地球を守る為にに戦う。この先、何があろうともそれは変わらないぜ、あ、そうそうお見舞いなんだけどラトゥーニが一緒に選んでくれたんだ。花と本とCD!」

 

「あらあら、ありがとうね。リュウ、それにえっと」

 

「ラトゥーニです、ラトゥーニ・スゥボータ」

 

ラトゥーニが小さく頭を下げるとユキコは上品に口元に手を当てて笑った。リュウセイが連れてきた女友達と言えばクスハだが、クスハとリュウセイの関係は幼馴染と言う空気から出る事は無かった。だけど、今のリュウセイとラトゥーニには互いに互いを意識している……そんな甘酸っぱい雰囲気があった。

 

「ユキコ・ダテです。よろしくね、ラトゥー二ちゃん」

 

「は、はい。よろしくお願いします」

 

緊張しているのが丸判りで、着ている可愛らしいドレスも良い印象を与えようとしているのがわかりユキコは微笑ましそうに笑う。

 

「リュウが迷惑を掛けてないか心配だわ」

 

「え、ええっと、リュウセイは優しいから……えっとえと」

 

ちらちら見られても訳がわからないという様子のリュウセイにユキコは小さく溜め息を吐いた。

 

「こんな子だけど、仲良くしてあげてね?」

 

「いや、その言い方だと、俺まるっきり子供じゃないか」

 

ふてくされた様子のリュウセイだが、ここまであからさまに好意を見せているラトゥーニに気付かないのでは子供と呼ばれても仕方ないとユキコは思った。

 

「ふふ、こんな子だけど本当に優しいのよ」

 

「判ってます、リュウセイは凄く優しいです」

 

「そんなに優しいって言われると照れるな……」

 

自分達の考えている優しいと彼の考えている優しさは違う筈だが、頬をかいて笑うリュウセイにラトゥーニとユキコも笑う。

 

(良く判らないけど、お袋とラトゥーニの気が合ったみたいで良かった)

 

最後まで全力で斜め上を駆け抜けているリュウセイだったが、それが判っているユキコとラトゥーニは何も言わず。時間が許す限り話を続け、オペレーションSRWの前に凄す最後の優しい時間を過ごしていた。

 

「そろそろお時間です」

 

ユキコとリュウセイを邪険にした看護師ではなく、別の看護師が優しく告げる。リュウセイとラトゥーニは名残惜しそうな顔で立ち上がった。

 

「……お袋、暫く会えなくなると思うけど……元気でな」

 

「……ええ。あなたとラトゥーニちゃん、それに……お友達の帰りを待ってるわ……」

 

悲しそうに言うユキコの姿にリュウセイとラトゥーニは絶対に戻ってくる事を心に誓った。

 

「……じゃあ、行って来るぜ」

 

「行って来ます」

 

「……行って……らっしゃい。リュウ、ラトゥーニちゃん……」

 

手を振るユキコに手を振り返し、2人はユキコの病室を後にするのだった……。

 

 

 

 

 

一方その頃武蔵はと言うと、肉まんの袋を抱え蒸し立ての肉まんを頬張りながら伊豆基地への帰路についていた。我侭だとは判っていたが、ほんの少しでも良い今の街並みを見たいと思い、レイカーとダイテツに頼み込み僅かな時間ながら基地の外に出ることを許されたのだ。だがそれを待っている者も居たことをダイテツ達は気付けないでいた。

 

「ほっほ、お主が武蔵かの?」

 

肉まんを齧っていた武蔵の背後から突如老人が声を掛ける、今までそこにいなかったのに突如浮き出るように出現した老人がだ。

 

「はぁ、どうも、爺さんは誰だい? 迷子なら案内するぜ?」

 

だが人の良い武蔵はそんな不思議な老人に自分が肉まんに夢中で気付かなかったのだろうと思い、道に迷ったのかもしれないと思い心配そうに声を掛ける。老人にしては大柄だが左目に眼帯をしていることもあり、左目が見えないのかと心配になった武蔵は齧っていた肉まんを1口で頬張り老人へと身体を向けた。

 

「かっかっか! 善哉善哉」

 

だが老人は武蔵を見るなり大声で笑い出す。武蔵はその大声に思わずギョッとなったが、まわりにいる人間はその老人に目もくれず、その隣を通り過ぎていく、そこにいる老人を武蔵以外が認識出来ないかのように……。

 

「善哉? 爺さん何処のひとだい?」

 

「ワシは泰北三太遊、連れが居るんじゃがすまないが逸れてしまっての、荷物を運ぶのを手伝ってはくれんか?」

 

三太夫と名乗った老人の足元には大量の紙袋が置かれており、それを見た武蔵は気の毒になり自分が食べていた肉まんの袋を三太夫に渡し、紙袋を両手で持ち上げた。

 

「爺さん、悪いけど肉まんだけ持ってておくれよ。食べたかったら食べても良いからさ」

 

「ほっほ、心遣いだけいただいておくかの」

 

かっかっかと大声で笑う三太夫と並んで夕暮れの街を歩き出す武蔵。

 

「それで三太夫さんはここら辺の人なのかい?」

 

「ちょっと用事で足を伸ばしての、生まれは中国じゃ」

 

異星人との戦いが迫っていると言うのに豪胆な人物だなと思いながら武蔵は三太夫の歩幅に合わせて、ゆっくりと歩みを進める。

 

「もしかして避難する前の買い込みか何か?」

 

「ほっほ、当たらずとも遠からずじゃよ」

 

シェルターかどこかに避難する前の買い込みだからこの量なのかと納得し、ずれてきた荷物を抱え上げる武蔵。すると前の方から三太夫を責める様な凛々しい声が響き渡った。

 

「三太夫、お前1人で出歩くなと言っただろう?」

 

「ほっほほっ! すまんの潤。武蔵よ、悪かったのここで十分じゃ」

 

長身の男性が三太夫を見つけて駆け寄ってきたが、その隣にいる武蔵を見て驚いたように目を見開いた。

 

「どうも、えっと三太夫さんの……お孫さんですかね?」

 

「あ、いや、僕は泰北の孫と言う訳ではないよ。それよりもすまないね、荷物を待たせてしまったようだ。それは僕が受け取ろう」

 

「車までは運びましょうか?」

 

「ああ、大丈夫だよ。気持ちだけ受け取っておくよ」

 

無理に運ぶのも悪いと思い、武蔵は持っていた荷物を青年の足元において三太夫に預けていた肉まんの袋を受け取った。

 

「全く、なんで勝手に出歩くんだ」

 

「夏喃まぁ、良いではないか、こうして武蔵に出会えたのだからな」

 

「まぁ……そうだけどね。僕は夏喃潤、潤と呼んでくれれば良いよ」

 

手を差し出してくる潤に武蔵は着ていたシャツで手汗を拭いてから、彼の手を握り返して目を見開いた。

 

「あの、すいません。もしかして女性の方でした?」

 

「おや、もう判ってしまったのかな?」

 

握り返した手が柔らかく、とても同性の手とは思えずそう問いかけると潤はくっくっと楽しそうに笑った。

 

「いや、すいません。男の方かと」

 

「はは、僕は男装が趣味だからね。でも初見で見破られたのは初めてだよ」

 

楽しそうに笑う潤に武蔵は気を悪くさせてないようで良かったと内心安堵の溜め息を吐いていた。しかし男装が趣味の女性がいるとは……世の中広いなと武蔵はぼんやりと思っていた。

 

「じゃあ、三太夫さん、潤さん、オイラはそろそろ行くよ」

 

無理に伊豆基地を出ているのであんまりうろついているのは良くないと思った武蔵は、2人にそう声を掛ける。

 

「そうか、星砕き頑張れよ」

 

「君には僕も期待しているんだ、また会おう武蔵」

 

「励ましてくれるのかい、ありがとな三太夫さん、潤さん、またどこかで」

 

なんでこの老人がオペレーションSRWの事を知っているのか、もしかしたらこの老人も伊豆基地の関係者かなと思い武蔵は励ましてくれる事に感謝し、老人に微笑みかける。

 

「うむ、何れまた会おうぞ」

 

「じゃあね、武蔵」

 

「おう、2人も元気でな」

 

オペレーションSRWの前に買い食いをしたいと言って1時間だけ外出許可を得た武蔵の前に突然現れた老人「泰北三太遊」と男装の麗人「夏喃潤」の2人に武蔵は笑顔で手を振った。伊豆基地へ引き返していくその姿を泰北は穏やかな視線を一転させ鋭い視線で見つめる。

 

「此度の進化の使徒はまっこと穏やかな気質のようじゃな、善哉善哉ッ!」

 

「少しばかりふくよか過ぎるけど好ましいよ、ふふ、また会いたい物だよ」

 

武蔵の姿が見えなくなるまで笑っていた老人と男装の麗人は一陣の風の中に溶ける様にその姿を消すのだった……。

 

 

 

 

ステルスを展開し成層圏でエアロゲイターの進軍を食い止めていたアストラナガンの動きが止まる。

 

「漸く諦めたか」

 

無人機を幾ら送り込んでもアストラナガンには勝てない。それが判らないレビでは無いだろう、恐らく……いや確実にアストラナガンの戦力分析を行っていたのだろう。それが止まったという事は戦力測定は終わったと判断したはずとイングラムは考えていた。

 

「さてと……オペレーションSRWの発動まで時間が無い筈。どうするか」

 

思ったよりもリュウセイ達を鍛え上げるという事は出来なかったが、ビアン・ゾルダーク、そして武蔵によってハガネ、ヒリュウ改の戦力は上がっている。だがバルマーには量産型とは言えドラゴン達の情報が渡ってしまった……ゲッター炉心の情報は無くとも、バルマーが欲してやまない情報だ。

 

「これでもまだ動かないか、ユーゼス」

 

量産型ドラゴンの情報が流れればユーゼスも動くと思っていたイングラムだが、いつまで経ってもその気配は無い。

 

「俺の自我が目覚め、アストラナガンが現れたことに関係しているのか……なんにせよ、好都合だ。このまま好き勝手にやらせてもらう、お前の思い通りには何一つさせんぞ」

 

イングラムはアストラナガンの中で決意を新たにし、その場から転移で姿を消す。様々な思惑が動く中、オペレーションSRWの時は刻一刻と迫っているのだった……

 

 

『クロガネ改』

『グルンガスト零式・改』

『ヒュッケバインMKーⅡ・トロンベ・タイプG』

『ガーリオン・レオカスタム』

『ゲッターロボ』

『ゲッターロボV』

『量産型アーマリオン』×4

『量産型アーマリオン専用ミサイルコンテナ』×2

『量産型アーマリオン専用ビームキャノン』

『量産型アーマリオン専用ビームガトリング』

『アルトアイゼン・改』

 

を入手しました。

 

 

 

クロガネ・改

 

ビアンがオペレーションSRWに備えて改造を施したクロガネ。武装・装甲の殆どにゲッター合金を使用しており、ハガネ、シロガネを上回る攻撃力と防御力を有している。更にビアンがゲッター炉心の複製に初挑戦した際の大型ゲッター炉心も搭載しておりエネルギー問題も解決している。大型ゲッター炉心の出力調整は極めて難しく、常時ゲッター炉心を使用する事は出来ないが、新西暦では破格の性能を持つ万能戦闘母艦へとクロガネは生まれ変わった。なお、本来ならばスペースノア級ゲッターレールカノンを搭載したかったらしいが、開発が間に合わず伊豆基地へと寄贈されることになり、ビアンは深く肩を落としたとか、落としてないとか……。

 

 

クロガネ改 

HP21000

EN350

運動性105

装甲2100

 

特殊能力

 

Eフィールド(気力130以上でゲッター線フィールドに変更)

EN回復(大)※偶数ターンのフェイズ開始時のみ発動

 

 

対空機関砲 ATK2500

艦首ゲッター合金魚雷 ATK3100

ホーミングミサイル ATK3200

連装副砲 ATK3500

連装衝撃砲 ATK3900

超大型回転衝角 ATK5500

試作ゲッタービーム ATK6200

 

 

 

 

 

グルンガスト零式・改

 

ゲッター線への理解を深めたビアンが手がけた新西暦の機体と旧西暦の技術のハイブリッドの1号機目。ラドラから得た情報をベースに再建造されたグルンガスト零式である。ヒュッケバインMK-Ⅱ・トロンベ・タイプGとは異なり、グルンガスト零式・改は内部は殆どグルンガスト零式のままで、関節部及び装甲をゲッター合金及びゲッター線コーティングを施された機体である。ゲッター合金の驚異的な柔軟性と強度を付与され、ビアンとリシュウによって最新版のOSに加え、最適化された剣戟モーションの追加を施された結果外見的な特徴はグルンガスト零式と大差は無いが、その性能は全くの別物に変化を遂げている。新造された装甲は両肩・両腕の計4箇所であり、両肩には試作ゲッター線フィールド展開装置が組み込まれ、両腕の物はゲッター合金を用いた鋭利な物に変更され、貫通力が爆発的に向上した。

そしてグルンガスト零式の最大の特徴である零式斬艦刀はゲッター合金で刃を強化され、その上にゲッター線コーティングを施した為、重量で叩き切るのではなく、日本刀さながらの切れ味を得た。

 

グルンガスト零式・改

 

HP9800

EN410

運動性95

装甲1900

 

特殊能力

 

EN回復(中)奇数ターンの開始時のみ発動

ゲッター線バリア(気力130以上で発動、すべての属性ダメージを10%低下)

 

 

ブーストナックル・改 ATK3000

ハイパーブラスター・改 ATK3500

零式爆連打 ATK4000

零式斬艦刀大車輪 ATK4200

零式斬艦刀疾風怒涛 ATK4700

零式斬艦刀雷光切り ATK5800

 

 

 

 

 

ヒュッケバインMKーⅡ・トロンベ・タイプG

 

零式改とは異なり、一般的なパーソナルトルーパーのヒュッケバインMK-Ⅱをベースにした為、装甲は殆ど手を加えず、内部フレームを全くの別機体というレベルで手を加えた。フレームから手を加えたことで試作のカートリッジシステムの搭載により、短時間のみゲッター線によるブースト機能により機体性能を上げる機構に加え、ゲッター線フィールド、一部可変機構による超高速移動などの多彩な特殊機構が搭載されているが全て試作段階と言う事でそのどれもが使用時間の制限・使用回数の制限が掛けられている。ビアン曰くやりすぎたが反省も後悔もしていない事。話を戻すがゲッター合金及び短時間ながらゲッター線の使用が可能などタイプGはPTサイズの特機と言うべき破格のパワーを有したが、その反面操縦は極めてピーキーになってしまい、エルザムにしか操縦できない機体となった。武装はPTでも使用可能なゲッター合金を使用した武装が多数搭載されており。アサルトカノンや、ショットガンなどの実弾をメインにしており、これは弾切れになった場合に捨てれることを前提にしており、固定武装は「ビームソード」「頭部バルカン」の2種類のみにされている、Gインパクトキャノンはゲッター線カートリッジと併用する事でゲッタービームを放てる使用へと改造されており、ブラックホールキャノン・ゲッタービームの2種類の超火力武装を搭載している。

 

HP7800

EN320

運動性225

装甲1300

 

特殊能力

 

分身

ゲッター線フィールド(気力130以上で発動、すべての属性ダメージを10%軽減)

ゲッター線カートリッジ(1MAPで3回使用可能、EN全回復、自分ターンのみ使用可能武器の攻撃力10%UP+最終回比率+10%UP)

EN回復(小)偶数ターン開始時のみ発動

 

バルカン ATK1500

アサルトカノン ATK2900

ショットガン ATK2900

ビームソード ATK3500

Gインパクトキャノン ATK4900

ゲッタービーム ATK5100

 

 

 

ガーリオン・レオカスタム

 

バン大佐専用のガーリオンカスタム、カラーリングはオレンジと赤。レオカスタムの名の通り、本来ならば両肩のみ搭載されている収束機を両膝にも装備し、ソニックブレイカーが牙を剥いた獅子が噛み付いたような傷跡を残す、レオ・ブレイカーへと変化している。その他の武装はガーリオン準拠だが、両拳、両足、胴体部にゲッター線コーティングを施され、通常のガーリオンよりもパイロットの生存力飛躍に向上している。

 

 

HP6100

EN210

運動性185

装甲1700

 

 

胸部バルカン ATK1900

ディバインアーム ATK2100

ソニックブレイカー ATK2900

レオ・ブレイカー ATK4200

 

 

 

量産型アーマリオン

 

伊豆基地で急ごしらえで建造されたアーマリオンの量産機。リョウトの引いた図面をベースにビアンとカークの手が加えられ、アーマリオンの特徴であった脚部ブレードは撤廃され、腕部同様ゲシュペンストの脚部の寸法を再調整した結果。アーマードモジュールではなく、パーソナルトルーパーに似たシルエットへと変貌を遂げたが、ガーリオンよりも装甲が厚く、それで居てリオンに近いデザインとなっている(異なる世界ではレリオンと呼称された機体に非常に酷似している)脚部ブレードは折りたたみ式に改造された上で肩部へと移植され、収束機と併合しようによりブレード・ソニックブレイカーと言う新構造へと改造された。その代りアーマリオン時の両肩のミサイルクラスターは背部搭載型の換装式へと改造され、同じく換装式として「ビームキャノン」「ビームガトリング」の3種類の換装パーツを用意された。両腕はヒートコールドメタルブレード・ロシュセイバーの2種の近接兵装に換装され、ブレードソニックブレイカーによる突破力、3種の換装装備による支援、実体とエネルギーの2種類の近接ブレード。そして勿論両腕をゲシュペンストの物をベースに流用しているので、PT専用の手持ち火器も使用可能と、構想を見る限りではゲシュペンストをはるかに上回る機体に思えるが、運動性はフライトユニット装備のゲシュペンストに劣り、装甲も低いとあくまでリオンの改装機の域を出ることは無かったが、オペレーションSRWに参加を希望するビアン派のDC兵をメインに、ハガネとヒリュウ改にそれぞれ2機ずつ配備される事となった

 

 

HP6500

EN180

運動性170

装甲1500

 

 

※ミサイルクラスター(MAP) ATK1900

ヒートコールドメタルブレード ATK2100

ロシュセイバー・改 ATK2200

※ミサイルクラスター ATK2900

※ビームガトリングガン ATK3100

※ビームキャノン ATK3000

ブレードソニックブレイカー ATK3900

 

米印は換装装備

 

 

 

アルトアイゼン・改

 

リクセント公国でのアストラナガンとの戦いで大破したアルトアイゼンを見たマリオン博士がフライトユニットなどの外付け装備による、急ごしらえの改造プランを独断決行し、ゲッター線コーティング済みの強化装甲を装備したアルトアイゼン。フライトユニットをベースに改造しているが、飛行能力は失われ、激増した自重の制御の為のバランサーとして使用している。まずアルトアイゼンからの変更点だが、機体前部及び、後部から挟み込むようにして改造された「スクエア・クレイモア改」左腕を埋め込むように装備し、シールド内部にクレイモアを内蔵した「可変式ガトリングシールド」右腕のリボルビングステークを格として使う「試作リボルビング・バンカー」と後にマ改造と呼ばれ、恐れられる頭のおかしい改造を随所に施され、外付けの強化パーツでありながら自重の為に機体に溶接する必要があり、取り外す事の出来ない装備となっている。スクエアクレイモア改は両肩の射手器のみではなく、開いたコンテナの内側にも発射機構が備え付けられ、射格及び威力が爆発的に向上したが、機体に掛かる負担及び、急ごしらえの装備にあることもあり、強い衝撃を受けると使用不可能になる可能性が極めて高く、さらにシールドとして左腕に装備された可変式シールドカノンも被弾時にクレイモアにより反撃として建造されたが、こちらもシールドと言うよりかはリアクティブアーマーであり、しかもクレイモアの発射の反動で左腕がお釈迦になる可能性も秘めている。リボルビングバンカーは敵への破壊力もさることながら、自機への反動も凄まじく、別名パイロット殺しと呼ばれる事になり、キョウスケ以外操縦不可能の全身呪われた装備と言っても過言ではないが、これだけの攻撃力が無ければ量産型G軍団とアストラナガンと戦うことは不可能と判断された上の装備であり、本来マリオンが構想したアルトアイゼンの強化とは全く異なる仕様となっている。

 

 

HP9100

EN170

運動性165

装甲2000

 

特殊能力

 

シールドクレイモア 防御時または近接属性攻撃被弾時に時機に500ダメージを受ける代わりに、相手ユニットに格闘技能の数値によって計算されたダメージで自動的に反撃。

 

 

ヒートホーン ATK2500

4連ガトリングカノン ATK3100

レイヤードクレイモア(MAP) ATK3300

スクエアクレイモア ATK3700

レイヤード・クレイモア ATK4200

試作リボルビングバンカー ATK4900

切り札 ATK6000

 

 

 

 

 

 

 

第75話 亡霊と亡霊 その1へと続く

 

 




今回はリュウセイとラトがユキコに会うという話がメインだったので、他の部分が少し今一だったかもしれませんが申し訳ありません。そして今回の話で正式にゲッターロボと武蔵が自軍に追加。今までは操作は出来るけど、スポット参戦のユニットと言う扱いでした。
リュウラト部分以外がふわふわしてしまいましたが、他の部分はフラグと言う事でよろしくお願いします。次回は亡霊と亡霊と言う事で、ゲームと異なる展開で話を進めて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第75話 亡霊と亡霊 その1

第75話 亡霊と亡霊 その1

 

伊豆基地から飛び立ったハガネ、クロガネ、ヒリュウ改は宇宙艦隊の部隊配置が済むまで陽動を兼ねてL5宙域を進んでいた。スペースノア級が2隻、そしてその名の通りヒリュウ級汎用戦闘母艦のヒリュウ改はその戦力から3隻の内1隻でも連合艦隊に合流するべきだと言う意見もあった。だがヒリュウ改は前身のヒリュウがエアロゲイターによって破壊された、そしてクロガネはDCの部隊と言う事でやはり諸手を挙げて歓迎するものはいない、そしてハガネはオペレーションSRWの中軸を担う、SRXそしてトロニウムバスターキャノンを要する事から疲弊する訳には行かないと言うことになり、3隻による陽動作戦へと回されていた。そしてその代わりと言っては縁起が悪いが、南極で大破したシロガネもブリッジを修復され、連合艦隊へと配属される事が決定し、スペースノア級3隻がこの作戦に参加することになっていた。

 

「ビアンさん、何してるんです?」

 

「ん? ああ、ジョナサンから頼まれ事だ。私も無理な事を頼んだし、これくらいはな」

 

クロガネの艦長はバンが務め、副艦長はリリーだ。あの2人ならば万全の指揮をとれると言う事で、ビアンは安心してゲッターVのパイロットとして活動出来ている。

 

「それで何を頼まれたんですか?」

 

「ヴァルシオーネの設計図が欲しいらしい」

 

「……なんでそれを欲しがったんですかね?」

 

ゲッター合金や炉心の設計図なら欲しがっても納得なんだが、何故あんな色物を欲したのか武蔵には理解出来なかった。

 

「なんでもリクセント公国からの依頼らしい」

 

「あの国大丈夫か? シャインちゃんが心配だな」

 

食堂での話だったので武蔵がシャインちゃんと親しげに呼んだ事にユーリアが僅かに顔色を変えたが、武蔵もビアンもそれに気付かない。

 

「まぁ大丈夫だろう、式典用の機体が欲しいらしい」

 

「そうですか、それでビアンさんは何を頼んだんですか?」

 

「私の考える究極のスーパーロボットの設計図と完成している部分までを預けて、完成させてくれと頼んだ」

 

「必要になるって事ですか?」

 

「可能性はゼロじゃないからね」

 

異星人の襲撃が1度で終わるとはビアンは考えていなかった。本当ならばアイドネウス島が陥落した段階でテスラ研に託す予定だった「ダブルG」それを最後の最後まで手を加え、そして設計を続けた。本当ならば、既に完成している筈だったがゲッター線、ゲッター合金を手にしたことで改良を続けた結果フレームしか仕上がらず、それをテスラ研にビアンは託したのだ。

 

「でも、こんな戦いなんかこれで終われば良いって思っていますよ」

 

「そうだな。私も……そう思うよ」

 

戦いなんてこれで終わってしまえば良い。平和を思う武蔵は心からそう思い、ビアンもまたテスラ研に残したダブルGも完成する事無く、平和になれば良いと思っていた。だが1度戦争が起きたなら、2度、3度起きる可能性もある。楽観視する事はビアンには出来なかったのだ。もしもエアロゲイターよりも強力な異星人が現れたら? もしもその場にビアンや武蔵がいなかったら? 様々なもしもがある以上、それに備えないという選択肢はビアンの中には存在していなかったのだ。

 

「警報!? エアロゲイターか!」

 

「落ち着け、話を良く聞くんだ」

 

突如クロガネに鳴り響いた警報に武蔵は弾かれたように立ち上がる。今にも格納庫に駆けて行きそうな武蔵にビアンが制止の声を叫ぶ。慌てて動きゲッターロボが大破するもしくは武蔵が負傷する、そんな展開は阻止しなければならない。直情的な武蔵を止められるのはビアンとエルザム、そしてゼンガーと決して多くはいない。だからこそビアンは即座に武蔵を止めたのだ。武蔵とゲッターロボはオペレーションSRWの要だ。仮に敵襲であってもそう簡単に動かす事が出来ない。ゲッターロボを操れるのは武蔵しかいない、換えのいない人材なのだから。

 

『月のマオ社がエアロゲイターの強襲を受けています、パイロットは出撃準備を。繰り返します、月のマオ社がエアロゲイターの強襲を受

けています、パイロットは出撃の準備を急いでください』

 

リリーの艦内放送が響く。そしてその放送を聞いてビアンも顔色を変えた。

 

「ビアンさん、マオ社って何ですか?」

 

「PTの開発メーカーだ。あそこを落とされるとPTの製造も修理も厳しくなる」

 

「なら、行くしかないでしょう。オイラが行きます」

 

「……いや、私も「ビアンさんはまだゲッターVの最高加速に耐えられないでしょう? ゲッターで先に出ます。それに宇宙服のテストもしたいですしね」

 

武蔵はそう笑うと食堂を飛び出して行った。だがビアンもその背中を見つめているだけではなく、テスラ研に送る予定だった資料の保存を行い、自らも格納庫へと走るのだった……。

 

 

 

 

 

月のマオ社のオペレーター室ではピンクの髪の勇ましい顔付きの女性と痩せ気味の男性がゆっくりと進軍してくるゼカリア、そしてポセイドンの姿に顔を歪めていた。

 

「エアロゲイターめ、何故今になってこんな所へ……?」

 

今まで攻撃を仕掛けてこなかったエアロゲイターの突然の強襲にマオ社社長である「リン・マオ」は驚くのと同時に何故と云う事を必死に考えていた。

 

「社長、これ以上は防ぎきれませんぞ!」

 

ユアン・メイロンがマオ社に配置されていた防衛装置が破壊されているのを見て、悲鳴にも似た声で報告する。その報告を聞いて、リンはこの場をどうやって切り抜けるかを必死に考えていた。

 

「全社員を地下シェルターへ移動させろ。それから、連邦軍の対応はどうなっている?」

 

「ヒリュウ改とハガネがこちらへ急行中とのことです」

 

この宙域の近くに居たヒリュウ改が向かってきてくれるとの言葉に僅かに希望が芽生えるが、それと同時に複雑な気分にリンはなっていた。ハガネには喧嘩別れしたままの恋人であるイルムがいる。助けに来てくれるのは嬉しいがやはり浮気性のイルムに複雑な気分になるのは当然の事だった。

 

「常務、使える機体はあるか?」

 

「機体って……まさか、社長自ら出撃なさるおつもりですかッ!?」

 

ハガネとヒリュウ改が応援に来てくれるとはいえ、その間もエアロゲイターの進軍は続いている。ただ待っている等と言うことはリンには出来ない事だった。

 

「ああ。まだ腕はさびつかせていないつもりだ」

 

かつてはイングラムの下でイルムとPTXチームとして活動していたリンだ、そのパイロットとしての腕前は並の連邦の兵士よりも遥かに上だ。だがそれを知っていても、ユアンはその指示に従う事が出来ないでいた。

 

「いけません。社長にもしものことがあったら我が社は……」

 

「ここで敵を防がなければ、セレヴィス・シティに被害が及ぶ!」

 

マオ社をどうするつもりですかといおうとしたユアンだが、リンが出撃に踏み切ったのはこの先にある月の首都。そこにエアロゲイターを進ませてはいけないと云う思いからだった。まだ避難が間に合っていないセレヴィス・シティにエアロゲイターの軍勢を向かわせるわけには行かなかったのだ。

 

「ふう……うちの娘と同じで、社長も頑固ですから……これ以上言っても無駄でしょうねえ」

 

自分の反対を押し切って連邦軍に所属した娘、リオ・メイロンの事を思い出し言葉でリンを止める事が出来ないと気付き深く溜め息をはいた。

 

「フッ、すまないな。それで、使える機体は?」

 

「追加生産した量産型ゲシュペンストMk-Ⅱは全て連邦軍に納品済み……ヒュッケバインMk-Ⅱの試作2号機はDC戦争中、統合軍にやむなく渡してしまいましたし……3号機は軍のトライアルに回ったまま。あとの新型はまだ開発中……ううむ、すぐに出せる機体となると……」

 

リンの指示に従い、今すぐに出撃準備が出来る機体を考えるユアンだが、今のマオ社にすぐ出撃させれる機体が無いと言うのは、マオ社の機体製造ラインを知るユアンの表情を見れば明らかだった。

 

「ならば、ヒュッケバインMk-Ⅰを使う」

 

それならばマオ社の地下に封印されている初代ヒュッケバインの封印を解く事をリンは決めた。だがその言葉にユアンは驚きに目を開いた。

 

「ま、まさか、008Lを!?」

 

初のEOT搭載型PTヒュッケバイン008Rはその起動実験で暴走し、基地を1つ吹き飛ばしライの片腕を奪った。そしてヒュッケバインにはバニシング・トルーパーという不名誉な渾名がつく事になった。その同型機を使うというリンにユアンは顔色を変える。

 

「ああ。確か、あれは起動可能な状態で封印をしてあったはずだ」

 

「き、危険です! 社長は同型機の暴走事故をお忘れですか!?」

 

もし機動に失敗すればとユアンは説得を試みたがリンの決意は固かった。

 

「ブラックホールエンジンはすでに改修済だ。ここで時間を稼ぐにはあれを使うしかないだろう?」

 

「わ、わかりました……5分で準備します」

 

もう止められない、ユアンは諦めの境地でマオ社の地下に封印されているヒュッケバイン・008Lのエンジンを遠隔操作で入れ、リンは出撃する為に格納庫へと走った。

 

「ヒュッケバインに乗るのはPTXチーム時代以来だな」

 

ヒュッケバインのコックピットの中でリンは苦笑する、あの時はヒュッケバイン009だったが、それでもコックピットのレイアウトはさほど変わっていない。昔の事を思い出し、笑みを浮かべてしまうのはしょうがない事だった。

 

『社長、こちらからのエネルギーケーブルをパージします。本体動力源の起動をお願いします』

 

オペレーター室に残ったユアンの言葉に頷き、メインエンジンであるブラックホールエンジンの起動を始めるリン。

 

「了解。ブラックホールキャノンの準備も頼む」

 

『すでに使えるようにしてあります。どうかご武運を……』

 

「ああ、判っている。よしッ! ヒュッケバイン、起動する!」

 

そして長い時を経て凶鳥がその産声を上げた、起動したヒュッケバインのコックピットでリンを眉を顰めた。

 

「やはりおかしな機体が混じっているな」

 

バグスやバードに加えて、その背後にいる口髭のような部位を持つ3つ角の赤い特機、すらりとしたシルエットの青い特機、そしてずんぐりとした背中にミサイルを背負っている黄色の特機。それらは2機ずつ存在し、様子見なのか後ろに控えて動く気配が無い。

 

「まぁ良い、引きずり出してやればいいだけの事だ」

 

ビームソードを抜き放ち突撃してきたバグスを両断し、頭部のバルカンでビームライフルを構えようとしたソルジャーの腕をピンポイントで弾く。社長をしているがやはりエースパイロット、その動きと操縦の動きに澱みも不審な挙動もなく、見る見る間にバグスやソルジャーを破壊していく。型番的には旧式にはなるがそれでもブラックホールエンジンを搭載するヒュッケバインのパワーは凄まじいの一言に尽きる。この調子ならば、ハガネとヒリュウ改が辿り着くまで時間稼ぎは出来る。見ていたユアンもそして操縦しているリン自身もそう思っていたとき、今まで沈黙していた黄色の特機が突然動き出した。

 

「これは……電磁ネットか!」

 

突き出した両腕から射出されたネットを後退することで回避し、反撃にとビームライフルを放つ……だが、その強固な装甲に弾かれ、ビームライフルは霧散する。

 

「やれやれ、急に動き出したと思ったらこれかッ!!」

 

「!!!」

 

上空から急降下してくるなり、細身のドリルをフェンシングの様に突き出してくる青い特機にリンは舌打ちする。その動きは鋭く、そして黄色の特機との連携で確実にヒュッケバインの動きを狭めてくる。

 

『社長ッ!』

 

「大丈夫だ! 心配……何ッ!?」

 

月の中を掘り進んできた青い特機のミサイルが背中に直撃し、たららを踏んだヒュッケバイン、そしてその目の前には黄色の特機が拳を固く握り締めている姿があった。歯を食いしばり、その衝撃に備えようとした時、それは現れた。

 

「ゲッタァアアビィィーームッ!!!!」

 

上空から飛来する何条ものビーム、それに気付いた黄色が飛び退いたが、それは余りに遅かった。

 

「おらあああああーーーッ!!!」

 

目の前で黄色い特機の頭部に何かが突き刺さり、拉げた特機の身体からオイルが噴出し、何かが一閃され上半身と下半身で両断された黄色の特機が爆発する。

 

『間に合ったみたいで良かった、助けに来たぜ』

 

そこにいたのはブリキ細工のような出来損ないのロボットと言っても良い、だが信じられない力強さに満ちた巨大な特機の姿があったのだった。

 

 

 

 

ビアンが製作した宇宙用のパイロットスーツの中で武蔵は安堵の溜め息を吐いていた。宇宙と言う舞台ではゲッター3は使えず、必然的にゲッター1か2になる。初めての宇宙での操作に戸惑っていたが、それでも間に合ったという事に心底安堵したのだ。

 

『お前は誰だ? ハガネのパイロットか?』

 

エルザムの乗るヒュッケバインに似たPTからの接触通信に武蔵は驚いた。勇ましい声ではあるが、それは女性の声だったからだ。

 

「えっと、オイラは武蔵。クロガネのパイロットだ」

 

『クロガネ? それはDCの旗艦の筈だが?』

 

武蔵は短い会話だが、このパイロットが苦手だと思っていた。その責めるような声としっかりと説明しろといわんばかりの鋭い声に女教師の姿が武蔵の脳裏に過ぎっていた。

 

「すんません、オイラ難しいことは判らないと言うか説明できないんで、後でダイテツさんかレフィーナさんに聞いてください」

 

『……味方と言う事で良いのか?』

 

「それは間違いないです、後ろのドラゴンとかはオイラが担当します。えっと……『リンだ、リン・マオ』じゃあリンさんは他の機体をお願いしますッ!」

 

リンの返事を待たずに武蔵はゲッターを走らせ、ゲッタートマホークでドラゴンに切りかかる。

 

「!」

 

「おせえッ!!」

 

ドラゴンがダブルトマホークを構えるが、武蔵の言う通り遅すぎた。擦れ違い様の一閃でドラゴンの腕は切り落とされ、顔面にはゲッター1の左拳が突き刺さっていた。

 

「トマホークブゥゥメランッ!!」

 

「!?」

 

ゲッター1の上を取っていたライガーに手にしていた斧を投げ付け、半壊しているドラゴンが手に持っていたダブルトマホークを奪い取り、頭部が潰されたドラゴンを唐竹割りにする。

 

(嫌な予感がする)

 

月に降り立ったと同時にゲッター1のゲッター線メーターは一瞬で振り切っている。メカザウルスと戦った時のように、そして北京でゲッターロボが暴走した時のように……だがそれとは別に胸を焼き尽くすような焦燥感を感じていた。

 

(急がないと、大変な事になる)

 

何もかも手遅れになる、そんな嫌な予感がし、武蔵は速攻で量産型ドラゴン達を倒す事を決めたのだ。だが武蔵が月に降り立った時……すでに運命の歯車は回り始めていたのだった……

 

「ゲッターロボが月にいるねえ、スティンガー君」

 

「う、うんいるねえ! 我らの始まりの地にいるね!」

 

地球にいるコーウェンとスティンガーだが、ゲッターロボと武蔵が月にいることは感じていた。

 

「面白い事を思いついたんだ、あそこには同胞が1人だけいたよね?」

 

「うんうん、プロトゲッターに寄生して辛うじて生きている同胞がいたよね」

 

子供のような笑顔を浮かべるコーウェンとスティンガー。だがその目に浮かぶのは押さえ切れない殺意の色だった……。

 

「丁度良いじゃないか、少しだけ遊んであげようじゃないか」

 

「うんうん、遊んであげよう! 我らの始まりの大地でッ!」

 

月で行われたゲッター線の採集実験そしてプロトゲッターの起動実験、そこからインベーダーは生まれた。インベーダーは月がルーツである、それはこのフラスコの世界でも変わりはない。ゲッター線の濃度が低い新西暦でも、月だけはインベーダーのホームグランドであり、新西暦で唯一本来の力を発揮できる場所であった。

 

「我らの存在をこの世界に僅かでも刻もう!」

 

「か、かつて地球を支配した我らの力を見るがいいッ!!」

 

コーウェンとスティンガーの声に従うように、月の岩の中で眠っていたメタルビーストが何百年と言う時を越え、最早避けられぬ崩壊の定めを背負いながらも、自らの指導者の声に導かれ戦場へとその足を一歩踏み出すのだった……。

 

 

 

 

何かに突き動かされるように凄まじい勢いでドラゴン達を破壊していくゲッターロボ、巻き込まれないように距離を取りエアロゲイターと戦っていたリンのコックピットに通信が入る、それはリンが待ち続けていたものであった。

 

『社長! ヒリュウ改とハガネが来てくれました!』

 

ハガネ、ヒリュウ改、そしてクロガネがマオ社の上空に辿り着き、次々とPTを出撃させていく、そんな中ハガネから出撃したヒュッケバイン009から広域通信が入った。

 

『父様!』

 

「その声……! まさかリオか!?」

 

ユアンがその声を聞き違えるわけが無かった。喧嘩別れこそしてしまったが、愛しい娘の声をユアンが忘れる訳が無い。

 

『ええ、父様を助けに来たわ!』

 

勇ましい娘の声を聞いて元気そうで良かったと思うのと同時にユアンは頭を抱えていた。

 

「リオ……あれほどPTには乗るなと言ったのに……全く……お前は母さんに似て、言い出したら聞かないからな……」

 

『ちょっと、父様! 今はそんなことを言ってる場合じゃないでしょ!?』

 

エアロゲイターに囲まれていると言うのに的外れな事を言い出したユアンにリオの怒鳴り声が響き、ユアンとリオのやり取りを聞いていたハガネやヒリュウ改のPT隊は何とも言えない表情を浮かべる。

 

「し、知らなかった……リオのお父さんって、マオ社の重役だったんだ……」

 

「あいつ、やっぱりいいトコのお嬢さんだったのか……」

 

「う~ん……こりゃ意外だな」

 

「意外で悪かったわね!」

 

失礼な事を言うタスクにリオの怒鳴り声が響く。頭に来ているのか広域通信に設定されたままであることにリオは全く気付いていない。

 

「でも、どうして今まで黙ってたの?」

 

「……特別扱いされるのが嫌だったから……」

 

お嬢様と言う事で特別扱いされるのが嫌だったとリオはぽつりと語り、努力を惜しまないリオの姿を知っているハガネのクルーはそれ以上リオがユアンの娘であると言う事に触れる事はなかった。

 

「む? あの機体は……」

 

「間違いない、ヒュッケバインだ」

 

マオ社の前に陣取りエアロゲイターと戦っているPTを見たギリアム、ラドラ、そしてライがその表情を変えた。

 

「……忘れはしない。俺の運命を変えた008Rの同型機……!」

 

「暴走事故を起こしたバニシング・トルーパーか」

 

ライは自らの悪夢であるヒュッケバイン008Lを見て顔を歪め、エルザムはヒュッケバインの忌み名を口にした。まさか、ここで初のEOT搭載のPTであるヒュッケバイン008Lを見るとは思っていなかった全員の顔が驚愕に歪んだ。

 

「ブラックホールエンジン搭載型のヒュッケバインMk-Ⅰ……どうして稼動しているの」

 

「何であんな物を使ってる!? 封印されてたんじゃねえのか!?」

 

ヒュッケバイン008Lを運用するべきだと口にしたが、それを却下された経験のあるカチーナは特にその事に怒りを露にした。動揺するものが多い中でイルムは冷静にヒュッケバイン008Lに通信を繋げた。アレを動かせるのはイルムの記憶の中では1人しか存在しなかったからだ。

 

「ああ。助けに来てやったぜ、リン」

 

「私はお前に助けを頼んだ覚えはない」

 

元々感謝されると思ってはいなかったが、あまりに鋭く、そして冷酷な響きを伴った声にイルムはグルンガストのコックピットで顔を引き攣らせた。

 

「なあ、一応弁解しとくけど……あの時のことは本気じゃないんだ」

 

「あの時の事? 何の話だ?」

 

ジョナサン同様浮気癖のあるイルムはマオ社の女社員と堂々とお茶をしている所をリンに目撃され、そこで喧嘩別れをしてしまっている。それでもイルムはリンを愛していたから、なんとか弁解をとあれやこれやと考えたし、コウキの言う通りメールも送った。だが今の今まで音沙汰なし、それにイルムは冷や汗を流しながら何とかリンを説得しなければと考えていた。

 

「今は無駄話をしている場合じゃない。一刻も早く敵を撃退しなければならない」

 

「ごもっとも。じゃ、久々に名コンビの復活といくか!」

 

その言葉の影に隠された戦闘が終わればと言うニュアンスを感じ取り、イルムは僅かに顔に笑みを浮かべヒュッケバイン008Lの隣にグルンガストを移動させるのだった。

 

「キョウスケ、それ大丈夫なの?」

 

「問題ない、シミュレーターは完熟している」

 

アルトアイゼン・改。ただでさえ色物のアルトアイゼンが更に色物になっているのを見てエクセレンが心配そうに声をかけるが、キョウスケは問題ないと返事を返す。

 

「本当に大丈夫ですか?」

 

「ブリット、キョウスケが大丈夫と言っているのだ、余計な気をまわすな。そんな暇があれば、眼前の敵を打ち砕く事だけを考えろ」

 

重量や加速が劇的に上がっているだろうアルトアイゼン・改の姿にブリットが心配そうな声を出すが、それをゼンガーは一言で両断し、アルトアイゼンの方にグルンガスト零式・改を向かせる。

 

「やれるな?」

 

「問題ありません」

 

「ならばよしッ!」

 

確かにペダルの重量、操縦桿の重さ、ただでさえ劣悪なアルトアイゼンの操縦性が更に酷い物になっている事はキョウスケも判っていた。だが、この力が無ければエアロゲイターに勝つ事は出来ない、そのための力だ。

 

「各員、エアロゲイターを早急に殲滅し、連合艦隊に……」

 

「ぐおおおっ!!!」

 

キョウスケの指示が飛ぶ中、ゲッター1が吹き飛び、武蔵の苦悶の声が上がる。

 

「な、なんだよあれ!?」

 

「ば、化け物ッ!?」

 

「あれはゲッタービームだッ! だが……なんと醜悪な姿だ」

 

ゲッターロボを弾き飛ばしたのは真紅のゲッタービームだった。だがそのビームを放ったものはゲッターと似てもに似つかないおぞましい化け物の姿だった。

 

「ハアアアア……」

 

全体的なシルエットはゲッター1に似ている。だが、全身に黄色の目が浮かび、破損している部分からは黒いゴムのような身体が見えている。化け物としか言いようの無い何かは他の機体に目もくれずゲッター1へと走り出す。

 

「武蔵!」

 

『オイラの事は気にするなッ! それよりも自分達の事だけを考えてくれッ! 掛かって来やがれ化けもんッ!』

 

「シャアアアーーーッ!!!」

 

ゲッター1とゲッター1もどきの姿は月の向こう側に消え、それと入れ代わりのようにエアロゲイターの増援が現れたのだが……

 

「む!? あの機体は……」

 

「ゲシュペンスト……タイプS」

 

「やはり……か」

 

ドラゴン達を伴って現れたのは漆黒のゲシュペンスト。その識別コードはPT隊の各機体にしっかりと記録されていた。

 

「機体識別……ありだ。PTX-002ゲシュペンスト・タイプS……」

 

「ってことは、元祖パーソナルトルーパーのご登場ってわけ?」

 

0ナンバーは全てのPTの始まりであるゲシュペンスト、だがそれはここに存在してはいけない機体でもあった。

 

「ああ。あれは初代ゲシュペンストの2号機……だが、あの機体は確か……」

 

「そう。教導隊の隊長、カーウァイ・ラウ大佐と共に宙間試験中、行方不明になった」

 

行方不明になっている機体が目の前に立ち塞がる。それは想定出来ていたことだった……だがそうあってほしくないと願っていた事でもあった。

 

「イングラム少佐と同じく操られているって事ですか?」

 

「……そうならば良いが、恐らくそうではないだろう」

 

余りにも生き物としての反応が無い、それが何を意味するかキョウスケ達が判らないわけが無い。エアロゲイターに捕まった者の末路が、あのゲシュペンスト・タイプSの姿だった。

 

「キョウスケ、他の機体は任せる。あれは俺達が何とかする」

 

「ああ、誰でもない。私達がやらねばならぬ」

 

「お労しや、ラウ大佐」

 

「……ギリッ!」

 

「彼を過酷な運命から解放するのは、我々をおいて他にいない!」

 

これだけは誰にも代わらせる事は出来ない、ゼンガー達の意思を汲み取ったキョウスケは増援が送り続けられているマオ社の防衛を命じ、自らもそちらへ向かう。元教導隊の5人の前に立ち塞がる漆黒のゲシュペンスト――の中でガルインは殆ど自分の思い通りに動かぬ体に歯噛みをしながら5人に向かって、聞こえぬと判っていても言葉を投げかけた。自分を止められるのは、ゼンガー達しかいないと判っていたからだ。

 

「…ク……ウ……ウウ……コ……来イ……来……イ……イ……早……ク……ク……私ガ……壊レ……ル……前ニ………」

 

自分の意志に反して動き出すゲシュペンスト。もはや制御装置でもない、ただのゲシュペンストの起動キーと成り果てたガルイン、いやカーウァイは自分の自我が削られていくのを感じ、その意識は闇の中へと沈んでいくのだった……

 

「シャアアアーーッ!」

 

「メカザウルスでも鬼でもねえ、てめえは何だ?」

 

「シャアアアーーーッ!」

 

「ま、答えてくれると思ってねえが、お前はここで消えろッ!!」

 

そして武蔵もまた、誰も見ていない所で異形のゲッターロボとゲッターロボの戦いの幕を開けるのだった……。

 

 

 

第76話 亡霊と亡霊 その2

 

 




マオ社の話だと思いました?残念オリジナルでしたッ!ここで武蔵と教導隊は一時離脱、原作メンバーは連邦艦隊の元へ向かい、武蔵とかはオリジナルルートに入ります。亡霊はガルインとインベーダーでした、え?メタルビーストゲッター1なんていない?それは私の匙加減と言う事で、シナリオはここら辺から変更して多分他の要素は大胆にカットしていきます、具体的には次はジュデッカ戦だったりですね!それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第76話 亡霊と亡霊 その2

第76話 亡霊と亡霊 その2

 

 

月面で向かい合う2体のゲッターロボ。だがもう1体のゲッターロボは機械ではなく、まるで生物がゲッターロボの外骨格を纏っているような不気味な姿をしていた。

 

(兄弟、お前はこれを警戒していたのか?)

 

月面に降り立つと同時にメーターを振り切ったゲッター線。メカザウルスの出現、そして恐竜帝国との決戦、そして黒い天使が出現した時もその全ての時ゲッター線のメーターは振り切っていた。ゲッターロボが警戒していたと思うのは当然の事だった。

 

「コハアア……」

 

猫背で呼吸を繰り返すゲッターロボもどき、生物としか思えないその挙動に武蔵は嫌悪感を抱いていた。メカザウルスも生物だから、そんな挙動をしていたのは見た事がある。だが、今目の前にいる存在の動きは生き物を真似しているように見えた。だからこそ武蔵は嫌悪感を抱いたのだ。全身に浮かび上がる黄色の瞳には何の感情の色も無く余計に不気味さと嫌悪感を煽る。

 

「!」

 

「ッ! 早いッ!! ぐうっ!?」

 

姿形は人間とは程遠いが、それでも人型をしている。だからその動きは人間の動きを模していると武蔵は考えていた――だが、凄まじい勢いで伸びて来た右拳に気付き咄嗟に飛び退いたが、空中を進む右腕はゲッターが避けると同時に空中をUターンする。ゲッターもどきの右拳が背中にめり込みゲッター1はたたらを踏んだ。

 

「シャアアッ!」

 

「へっ……これはやべえなあ」

 

鞭のような動きで元の姿に戻る右拳を見ながら武蔵は口元の血を拭った。予想外の角度、そしてその衝撃に口の中を切っていた。

 

「……見た目通りの化けもんじゃねえか、畜生が……ッ」

 

ゲッター1の姿が黒い繭の姿になったと同時にベアー号の部分が黄色の目玉で埋め尽くされた異形のゲッター2の姿へと変態した。その姿を見て武蔵はベアー号のコックピットで舌打ちを打った。基本的な能力はゲッターロボと互角、だがそこにあの異形の能力が付与されている。

 

(……楽には勝てないな)

 

ベアー号の操縦桿を握り締めて武蔵はそう判断した。今まではゲッターロボの圧倒的な性能でごり押ししてきた……だがゲッターと互角な同じ能力を持つ相手。しかも相手はメカザウルスを越える化け物となれば単独操縦のゲッターロボではジリ貧になると判断した。

 

「だけど、負けるつもりはねえな」

 

駄目だと言われていたが遠隔操作でジャガー号のリミッターを解除し、再び異形のゲッターと向かい合う。

 

「ドラアッ!!」

 

「!!!!」

 

異形のゲッター2が消えたと同時に左拳を振るう。その拳の先に確かな手応えが返ってくるが、その感触と音は鉄同士がぶつかった物ではなく、ゴムか何かを殴ったような鈍い音が響いた。

 

「打撃は今一ってか」

 

ジャガー号のリミッターを解除しているので出力は上がっている。だがダメージが通っているようには見えず、呼吸も全く乱れていない。

 

「ゲッタートマホークッ!!」

 

「シャアアッ!!」

 

肩から飛び出たゲッタートマホークを構えると異形のゲッター2もドリルアームを突き出して構える。

 

「らあッ!!」

 

「シャアアッ!!」

 

姿勢を低くし獣のような勢いで突っ込んできたゲッター2のドリルとトマホークで受け止め、そのまま胴体目掛けて振るう。

 

「っと!! あぶねえな」

 

「コハアア……ッ!」

 

ゲッタートマホークが命中する寸前に胴体から無数のスパイクが飛び出し、トマホークを振りかけたゲッター1は慌ててそれを止めて大きく後ずさる。

 

「リュウセイ達はいなくて良かったな」

 

最初のゲッタービームで弾き飛ばされた時はリュウセイ達から引き離された事に焦りを感じていた。だが今はそれで良かったと武蔵は考えていた、あの生物には鋭い牙と飢えているのか唾液がずっとたれ続けている。今こうして襲ってきているのは飢えを満たそうとしているのかもしれない、そう思えばこそ単独であの化け物と戦う事になったことを武蔵は幸運だと考えていた。

 

「シャアアッ!」

 

「へっ、ゲッター3か、オイラにゲッター3で勝てると思ってるのかッ! オープンゲットッ!!」

 

相手がゲッター3に変化したのを見て武蔵もまたゲッター3へと再合体を果たし、月面で2体のゲッター3の掴み合いになる激しい音が月面に響き渡る。

 

武蔵は知る良しも無い、自分が戦っている異形がゲッター線に寄生して生きている「インベーダー」と言う存在であると言う事、そして寄生しているゲッターロボは平行世界で月面10年戦争を駆け抜けた武蔵のゲッターロボよりも性能の高いゲッターロボであると言うこと……そしてインベーダーと融合した事でメタルビースト・ゲッターロボと言うべき存在へと変貌しており、その強さがゲッターロボを遥かに越えていると言う事を……。

 

「おっらああああッ!!! ゲッタァミサイルッ!!!」

 

「キシャアアア!?」

 

殴り飛ばされたメタルビースト・ゲッター3にゲッターミサイルが叩き込まれ、闇に満ちた宇宙に鮮やかな緋色が広がる。

 

「うっく……ここは……どこだ?」

 

蒼い人型がゲッターミサイルの炎に照らし出され、その振動と衝撃で人型のパイロットが目を覚ましているのだった……。

 

 

 

 

武蔵がメタルビースト・ゲッターロボと奮闘している頃、ゼンガー達もまた劣勢に追い込まれていた。

 

「ぬっぐう……」

 

「カイッ! ギリアム! エルザム! 支援に入れッ!! ゼンガーッ!!」

 

「言われるまでも無いッ!」

 

殴り飛ばされたゲシュペンスト・リバイブにゲシュペンスト・タイプSの追撃が叩き込まれる前に支援に入れと叫び、ゲシュペンスト・シグとグルンガスト零式・改がその豪腕を振るった。

 

「……遅……い」

 

零式・改に一瞬だけ視線を向け、シグの腕を掴んで背負い投げの要領で零式・改へと叩きつける。

 

「ぐおっ!」

 

「くっ! ぬおおおおーーーッ!?」

 

零式・改とシグに向かってスプリットミサイルを放ち、距離を取るゲシュペンスト・タイプS。腰にマウントしていた特殊な形状のビームライフルを両手に構える姿を見てゼンガー達は顔を顰める。

 

「……どう……した……掛かって……来い」

 

ライフルの先から現れたビームエッジを零式・改達に向け挑発するゲシュペンスト・タイプS。姿形はゲシュペンストである、だがその攻撃力を初め、防御力、機動力は完全にゲシュペンストとは別物だった。

 

「皆判っていると思うが、あれは外見はゲシュペンストだが、中身は違う。恐らく全てがエアロゲイター製のパーツに置き換わっているだろう、ゲシュペンストと侮ればやられるのは私達だ」

 

「判っている、それにあの構えを見て慢心出来るほど私達は愚かではない」

 

「銃撃と斬撃を組み合わせたカーウァイ大佐の得意な構えだ」

 

銃と短剣――本来ならば組み合わせる訳の無い武器同士、だが教導隊隊長であるカーウァイ大佐はその2つを好んで使っていた。今でこそゼンガー達も使いこなしているマニュアル制御による細部にまで至る細かい動作。それの原点はカーウァイ大佐であり、近接戦闘・中間距離・遠距離その全てに対応する独自の操縦技術を確立し、それを相性のいい物だけを選びゼンガー達に教授した。今でこそゲシュペンストには乗っていないが、その操縦技術は元を正せば全てカーウァイ大佐の物、どれほど意を突いたつもりでもそれは完全に見切られていた。

 

「胸部のブラスターキャノンに気をつけろ。アレを搭載していない訳が無い」

 

「判っている、先陣は俺が切ろう」

 

この中で一番装甲と攻撃力の高いグルンガスト零式・改に乗るゼンガーが先陣を切ろうと口にしたが、それはエルザムとギリアムによって止められた。

 

「ゼンガー、零式ではあのゲシュペンストのスピードには付いていけない」

 

「ここは私達が何としてもあの動きを削ぐ、お前にはトドメの一撃を任せたい」

 

「しかし……」

 

「ゼンガー、お前の気持ちも判る。だがここはまだ正念場ではない」

 

ラドラの言葉にゼンガーが言葉に詰まった。オペレーションSRWは既に発令している、ここはまだ命を賭けるべき戦場ではないのだ。

 

「……承知」

 

「ああ、だが俺達を許してくれゼンガー。お前に一番辛い役目を押し付けるのだからな」

 

カイが沈鬱そうに呟いた。ゲシュペンスト・タイプSを撃破するにはリバイブやトロンベ・タイプG、そしてシグでは火力が足りない。呪われたカーウァイ大佐を救えるのはゼンガーしかいない。敬愛する隊長を殺す役目を押し付ける、救うと言ってもそれしか方法が無いのだ。ゼンガーにその事を押し付けることを謝罪し、カイ達はゲシュペンスト・タイプSに向かっていく。その姿を見ながらゼンガーは零式・改のコックピットで掌から血が出るほどに拳を握り締め、そして口から血が流れるほどに歯を噛み締めた。零式斬艦刀を構え、エルザム達がゲシュペンスト・タイプSを相手に苦戦を強いられる姿を見て、助けに向かいたいと思うのを必死に堪え、ゼンガーは太刀を振るうその一瞬を待つのだった……。

 

 

 

 

ゲッターロボ、そして教導隊と分断されたハガネ、ヒリュウ改、そしてクロガネは月面に現れていたエアロゲイターを一掃していた。

 

「艦長、武蔵とギリアム少佐達が戻っていません。依然戦闘中だと思われます」

 

テツヤの報告を聞いてダイテツは判断に迫られていた、オペレーションSRWは既に発令されており連邦艦隊はL5宙域へと向かっている。ゲッターロボ、そしてゲシュペンスト・リバイブを初めとした戦力がこの大事な時に抜けてしまうのは痛い。だがこのまま戦闘が終わるのを待てば、連邦艦隊だけがホワイトスターに進軍する事になる。

 

「PTの回収後、本艦はL5宙域へ向かう。ギリアム少佐達と武蔵は後で合流してくれるはずだ」

 

今最も優先しなければならないのはホワイトスター攻略だ。ここで時間を浪費する訳には行かない、それがダイテツの下した決断だった。

 

「……了解です、各機に帰還命令を出します」

 

「そうしてくれ、ワシの命令だと強調するように」

 

了解と返事を返したテツヤ、心情的にはテツヤも納得していない、それは勿論ダイテツも同じだ。レフィーナや、ビアンだって自分の下した決断に納得はしないだろう。だがそれでも決断しなければならない立場にダイテツはあった、非情だ、冷酷だと言われてもそれでも決断を下さなければならなかった。

 

「艦長、クロガネより入電があります」

 

「繋いでくれ」

 

モニターにすぐ映し出されるビアンの姿。その顔は険しく、ダイテツは武蔵、そしてゼンガー達を月に残す選択をした己への叱責の言葉であると覚悟をしていた。だがビアンの言葉はそうではなかった……。

 

『ダイテツ・ミナセ。何を思いつめた表情をしている、早くL1宙域へ向かうぞ』

 

「……あ、ああ。判っている」

 

『私が責めるとでも思っていたか? ここでお前が残ると言ったらそれこそ私は怒鳴っていたぞ。今私達がするべき事はホワイトスターの攻略だ、私情を挟まず大局を見据えた。それでこそだ』

 

『ダイテツ中佐、早く向かいましょう。武蔵君や、ゼンガー少佐達ならば無事に合流してくれるはずです』

 

ビアン、そしてレフィーナもダイテツを責める事は無かった。責める筈はなかったのだ、自分達は地球を護る為に宇宙へ出た。そして今もオペレーションSRWの為に連邦艦隊は必死の戦いを続けている――酷な言い方だが、ここで足踏みをしている時間は無いのだ。

 

「信号弾を撃てッ! これより本艦はオーバーブーストでL1宙域へ向かう!」

 

武蔵達を残すが、それは見捨てたのではない。必ず武蔵達ならば追いついてくる……その信頼の元、ハガネ、ヒリュウ改、クロガネは月を後にする。

 

『へっ! そうだ、行け! 行ってくれ! オイラもすぐに倒して追いつくからさッ!』

 

『すぐに追いつく、先に行っていてくれ、地球を守るんだッ!』

 

『ふっ、その通りだ』

 

『俺達を舐めるなよ、すぐに追いつくさ』

 

『俺達の敵を残しておけよッ!』

 

『振り返るな、眼前の敵を打ち砕く事だけを考えろッ!!』

 

信号弾、そして飛び立つハガネ達を見て武蔵達から音声のみの一方通行の通信が次々と入る。武蔵達の思いも同じなのだ、決死の覚悟でこの作戦に参加している。自分達を待って、全てを無駄にする訳には行かないのだ。それでも罪悪感を持たない訳が無い、それが判っているから音声のみの激励の言葉を送る。自分達がどれほど苦しい戦いに追い込まれていても、それを感じさせない為に地球を守れという意志を託したのだ。

 

「急げ、第一フェイズまで時間が無い!」

 

「機関最大戦速ッ! 連邦艦隊と合流を最優先」

 

「Eフィールド、ゲッター線フィールド最大出力! ハガネ、ヒリュウ改はクロガネの後ろにつけ戦場を強行突破する!」

 

ゲッター線フィールドを展開し、ハガネ、ヒリュウ改を伴ってクロガネは月を後にする、必ず武蔵達は合流する――その言葉を信じてダイテツ達は次の戦場へと向かうのだった……。

 

 

 

 

月面に何度も何度も金属がぶつかり合う激しい音が響き渡る。5対1と言う絶望的な戦力差でありながら、ゲシュペンスト・タイプSは互角……いや、完全にエルザム達を圧倒していた。

 

「強い……それに反応速度が徐々に上がっている」

 

「いや、これは上がっていると言うよりも……」

 

「元に戻っていると見るべきか」

 

機体性能は確実にエルザム達の機体が上回っている、だがそこにパイロットの腕の差が大きく響いていた。当初は零式・改を温存する予定だったが、そうも言ってられずゼンガーも戦いに参戦していたが、それでもゲシュペンスト・タイプSは今だ健在だった。

 

「俺達との戦いがカーウァイ大佐に影響を与えたのだろう」

 

「……元に戻せるのではないか?」

 

教導隊の元部下との戦いでエアロゲイターの洗脳を受けているカーウァイ大佐を元に戻せるのではないか? ゼンガーが思わずそう口にしたが、それはギリアムとラドラによって不可能だと断言された。

 

「ゼンガー、気持ちは判るが不可能だ」

 

「……俺の機体に生命反応の感知装置がついているが、タイプSからの生命反応は殆ど無い。それが答えだ」

 

戦いの中で既に人間では無くなったカーウァイ大佐の記憶が刺激され、生前の動きを取り戻していたとしてもそれは既にカーウァイ・ラウではないのだ。

 

「……ギギギ……ッ! 躊……躇う……なッ! 何を……している……ッ! ガガガガ……ギギギイイ……使……命を……果たせッ!!!」

 

広域通信で投げかけられた言葉。苦しみ、悶えながらも戦えと躊躇うなと叱咤叱責するその姿は紛れも無く5人の記憶の中のカーウァイ大佐その物だった。

 

「……すみません大佐、俺は貴方と戦う事を内心で拒んでいました。何か別の方法があるのではないか、貴方を助ける方法があるのではと思っておりました。しかしそれは貴方を苦しめるだけでした、すみません。いつまでも貴方に迷惑を掛ける部下で……本当に申し訳ありません、ですが……貴方を救う為に……俺は貴方を……殺すッ!!!」

 

ゲシュペンスト・リバイブのリミッターが解除され、獣のような唸り声が月面に響き渡る。コックピットの中ではカイの涙が粒となり浮かんでいた……だがそれはカイだけではない、ゼンガーやエルザムとて同じだった。

 

「……大佐、今呪われた命から開放して差し上げます、後もう暫くお待ちください」

 

音を立ててヒュッケバインMK-Ⅱ・トロンベ・タイプGの装甲が展開され、高機動モードへと変形する。

 

「大佐、俺は貴方に恩があった。その恩を返す事が……貴方を殺す事になって俺は悲しい、だが俺は……俺達はそれを成さねばならないッ! その目で見て欲しかった、よくやったと言って欲しかった。俺の成果をこのような形で見せたくは無かったですよ……大佐」

 

覚悟を決めたつもりだった、それでもラドラにはまだ迷いがあったのだと今この時初めてラドラは自覚していた。突然別人のようになった……事実別人だが、ラドラの肉体の親はラドラを子供とは認めなかった。家に帰る事を許されず、そしてその身体能力から配属先となる部隊も決まらない中、唯一ラドラの引き取り先となった教導隊とカーウァイ大佐はラドラにとっては第二の父と言っても良い存在だった。だからこそ口では冷静でもその心情は穏やかではなかった……だがカーウァイ大佐の言葉でラドラも覚悟を決めた。

 

「いつまでも心配をかける駄目な部下で申し訳ありません、貴方の抱いた理想、願い、それら全て私達が引き継ぎます。どうか……安らかに眠ってください」

 

ギリアムのリバイブもリミッターを解除し、飽和状態になったエネルギーが全身を包み込みその蒼い輝きをより眩しい物へと変える。

 

「黄泉路への案内……このゼンガー・ゾンボルトが案内仕るッ!!!」

 

ゼンガーの雄叫びにあわせるように零式・改の顔も鬼のような表情になる。零式・改のコックピットの中でゼンガーは唇を噛み締め、叫びだしたいのを必死に堪えゲシュペンスト・タイプSを睨みつける。

 

「……そう……だッ! わた……しを……ッ!! 越え……ろッ!!!」

 

腕も足も無い、胴体と頭部だけをゲシュペンストのコックピットに組み込まれたガルイン・メハベルとなったカーウァイ大佐も叫び、ゲシュペンスト・タイプSも獣のような唸り声じみた動力音を月面に響き渡らせる。今ここにかつての隊長と部下の過酷な戦いの幕が上がるのだった……。

 

 

 

 

 

「なろお……見た目通りの化けもんかよ、畜生め」

 

武蔵はベアー号のコックピットから広がる我が目を疑いたくなる光景に舌打ちをしていた。だがこの光景を見ていたら全員が全員同じ事をしていただろう――何故ならば武蔵が対峙していたメタルビースト・ゲッターロボ、その姿はボロボロで今にも爆発しそうではあった。だが……

 

「「「シャアアアア」」」

 

「増えるとか止めろよ、メカザウルスでも増えねえよッ!!」

 

切り裂いた腕が地面と融合し、ゴムのような身体の化け物に変わる。

 

殴り飛ばした衝撃でぶちまけられた血液と大破したエアロゲイターの機体と融合して化け物になる。

 

そして自らが戦っていた化け物がゲッターの外骨格を完全に取り込んで、生身のゲッターと言うべき姿になる。

 

(3対1……ちっ、こいつは予想外にも程があるぜ)

 

ゲッター3の動きでは対応出来ないと変態している間にゲッター1にチェンジしていた自分の判断が正しかったと確信していた。

 

「「シャアアッ!!」」

 

「くそったれッ!」

 

突き出すように伸びた鉤爪と口から吐き出された光線を上空に舞い上がる事でかわすが、足に巻きついたゲッターもどきの両腕に飛び上がることは出来ず、そのまま月面に叩きつけられ、その凄まじい衝撃に武蔵であっても息が詰まった。

 

「コハアアーーーッ!!」

 

「ゲッタァパンチッ!!!」

 

牙を剥き出しにしてゲッターロボを喰らおうとした化け物に拳を叩き込み、続けて襲ってきた岩と融合した化け物には蹴りを叩き込み、その勢いで跳ね起きゲッタートマホークを構えさせる武蔵。

 

「くう……今のは効いた」

 

頭を振り明暗を繰り返す視界を必死に整え、化け物とゲッターロボを向かい合わせる。

 

(やべえな、どうすれば良いんだ)

 

両断し、引き裂いて戦いのペースは間違いなく自分が掴んでいたと思っていた。だが相手は増えて、しかも確実にゲッターを追詰めている。

 

(どうすればいいのかわからねえ)

 

メカザウルスとの戦いには慣れているので化け物との戦いに武蔵は押されはしない。だが相手の能力が未知数であり、しかも倒したと思ったら数が増えていた。そのことに武蔵はどうすればいいのか判らなかった。倒したと思っても数が増えるのならば長期戦になる。

 

(ゲッタービームは温存するべきだよな)

 

決まり手がないのにゲッタービームを乱用しエネルギー切れになる訳には行かない、戦いはここで終わりではない。ホワイトスターに先に向かったハガネやリュウセイ達と合流しなければならない……だからゲッタービームを温存し、トマホークや拳で戦いながら相手の弱点を見出すしかないと武蔵は考えていた。

 

「シャアアッ!」

 

「来いやあッ!」

 

正体不明の化け物との戦い。気持ちで負けたら勝てる物も勝てなくなる、武蔵は自らを鼓舞するかのように叫び、そしてトマホークを手に飛びかかってきた化け物と戦おうとしたその瞬間

 

「え?」

 

青い光がゲッター1の顔の横を通って牙を剥き出しにしていた化け物の頭部を吹き飛ばしていた。

 

「……なんだ、ありゃあ」

 

振り返ったゲッター1の視線の先には右腕の無く、髭のような意匠を持つ頭部パーツを持つ蒼い特機の姿があった。

 

「何をしている、武蔵。あいつらにはゲッター線が有効だと言ったのはお前だろうが」

 

「なんでオイラの名前を……つうか、あいつらにはゲッタービームが効くのか? あんたは誰なんだ?」

 

ボロボロでありながらも助太刀してくれる蒼い機体に武蔵は感謝したが、それと同時に蒼い機体のパイロットが自分に伝えてきた事に困惑した。

 

「ふ、そうか、そういうことか……とりあえず今は味方と言う訳だ。これがな」

 

「そっか、よっしゃあ! じゃあ頼りにしてもいいんだよな!」

 

「半壊しているがな、あの化け物には負けんぞ」

 

半壊している機体でありながらも微塵も不安を感じさせない歩みに武蔵は笑い、蒼い機体――ソウルゲインと共に再びインベーダーと向かい合う。

 

(ふっ、しかしこれはまた奇妙な経験だ)

 

ソウルゲインのコックピットで赤髪の男――アクセル・アルマーは苦笑する。つい先ほどまで自分と武蔵は同じ強大な相手と戦っていた……戦友と言うわけではない、それでも奇妙な友情を感じていた事は認める。

 

(べーオウルフのせいか、それともアギュイエウスのせいか……過去へ遡ったのか、それとも世界を超えたのかは判らんが……俺のやる事は変わらない)

 

己の事を武蔵が知らない事はアクセルにとっても予想外だった、だが今思えば、武蔵は現れた時からソウルゲインを知っていた。つまりこれは必然、「向こう側」からやってくる前の武蔵と自分は出会っていて、そしてそれが今なのだとアクセルは結論付けた。

 

「行くぞ! 武蔵ッ!」

 

「おうよッ!!」

 

月面に眩いまでの紅と蒼が駆け抜ける、何れ戦う定めと判っていても同じ敵に立ち向かう以上――今は味方なのだから……。

 

第77話 それぞれの戦い その1へ続く

 

 




次回は3つの視点でお送りしたいと思います、ここからはオリジナルルートです、メインは武蔵、教導隊、リュウセイ達はサブと言う感じでインセクトケージで合流する予定です、そして最後に続編フラグなどを立てつつ、今回の更新はここまでとさせていただきます

それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第77話 それぞれの戦い その1

第77話 それぞれの戦い その1

 

エアロゲイターの技術で強化されているとは言えゲシュペンスト・タイプSは今の機体、そして技術からすれば旧式の機体だ。それなのにゼンガー達と互角以上に戦えているのは偏に組み込まれているガルイン……いや、カーウェイ・ラウ大佐の存在に依る。ゼンガー達の行動パターンや思考パターン、そして最も使用されるであろうOSパターンの予測……それによって5対1と言う絶望的な戦力差でありながらも、ゲシュペンスト・タイプSは互角以上にゼンガー達と戦う事が出来ていた。

 

「……ググ……そう……だ。わた……しを……倒せ……ッ!!!」

 

ラウ大佐の意思に反して動く身体、既に人間ではなく機械であるラウ大佐にとって、そのほんの僅かな拒否反応は耐え難い苦痛になる。精神に直接に鑢を掛けられている様な、既に存在しない手足を切り刻まれるような痛みに耐えながらゼンガー達に己を倒せと訴え続ける。

 

「隊長ぉおおおおおおッ!!!!」

 

血反吐を吐くような叫び声を上げカイのゲシュペンスト・リバイブがその豪腕を何度も振るう。一撃でも当たれば、その瞬間にスクラップになってもおかしくない、凄まじい破壊力を秘めた拳の連打。しかもその攻撃にエルザムとギリアムの正確無比な射撃が加わっており、普通ならばその弾雨、そして与えられるプレッシャーにどんなパイロットであってもその動きは鈍る。だがラウは今はパーツだ。ゲシュペンスト・タイプSを効率的に稼動させる事だけがラウがどんな形であれ、生かされている理由であった。

 

「ッ!!」

 

「うっ!? 馬鹿なッ!」

 

突き出された左拳を脇に挟むようにして受け止め、そのまま反転しゲシュペンスト・リバイブの巨大な両腕を支えるフライトユニットを盾にし、フォトンライフルとメガビームライフルの熱線を受け止める。

 

「カイ!」

 

「いかん! ラドラ! 突っ込むな!」

 

盾としての役割を終えたゲシュペンスト・リバイブに向かって放電している拳を叩き込もうとしている姿を見て、ラドラがカイの救助に向かったがそれを確認すると同時に放電を止めたゲシュペンスト・タイプSはリバイブをハンマーのように振るいシグと正面衝突させ、2機を同時に月の岩へと叩きつけ、それと同時にスプリットミサイルを射出しトロンベ・タイプGとリバイブの動きを止めると同時にメガビームライフルを叩き込む。

 

「……ッ! ぐっ、やはり強いッ!」

 

「乱戦を一番得意としておられたからな!」

 

乱戦を得意としている上に操縦の癖を全て知っているゼンガー達が相手となればラウの方が圧倒的に有利であった。

 

「ぬおおおおおッ! チェストオオオオオーーーーッ!!」

 

「来る……か、ゼン……ガーッ!」

 

大上段から振り下ろされる零式斬艦刀(改)を肥大化したプラズマカッターの刀身で受け止め鍔迫り合いに入るタイプS。

 

「お、押されている……」

 

「踏み込み……が甘いぞ……ゼンガーッ!!!」

 

実体剣である零式斬艦刀をエネルギー態であるプラズマカッターで切り払い、零式・改の胴体に固く握り締められたタイプSの拳が叩き込まれる。

 

「ぐっぐうう……なんと言うパワー……」

 

「完全に零式が押されるとはな……それよりも、気付いているかゼンガー」

 

弾き飛ばされた零式・改に合流しながらラドラがゼンガーに気付いているかと尋ねた。ゼンガーは何のことか一瞬理解出来なかったが、タイプSに視線を向けてその違和感に気付いた。

 

「……気のせいだと思っていたが、どうやら違うようだな。エルザム」

 

「ああ、今ゼンガーが吹き飛ばされて、私も確信したよ。ギリアム」

 

確実にタイプSは巨大化していた、ゲシュペンストの平均的なサイズが約20m、グルンガスト零式は50mほど、だが今目の前にあるタイプSは明らかにグルンガスト零式よりも巨大だ。

 

「機械が変化するか、面妖な」

 

「いや、そうでもない。恐竜帝国ではそう言うものを研究していた、生体金属だ」

 

「……なるほど、技術が優れていれば生体金属はありえない発明ではないのか」

 

「ありえて欲しくはないですがね、カイ少佐」

 

「全くだ、数の有利性はカーウァイ大佐の前に無力になっている上に敵は特機……全く笑えない」

 

5人が見ている前で異質な音を立てて変形していくゲシュペンスト・タイプSだった物、それを見てラドラが自嘲するように呟いた。

 

「あれでは鬼だな」

 

4つ腕のそれぞれに武器を持ち、赤黒く輝くバイザーと4つのセンサー。ゲシュペンストの面影はほんの僅かしかない、その姿はラドラの言う通り鬼にしか見えなかった。

 

「ゲッターロボも鬼に見えるがな」

 

「ゲッターとは違うだろう……それに……もう」

 

ギリアムが悲しそうに呟き、カメラアイが光り輝くと同時に機械合成音が月面に響いた。

 

『敵機確認、これより排除します』

 

カーウァイ大佐の声ではある、だがそれに人間性は欠片も残されておらず、完全にゲシュペンストと同化してしまった事が判った。

 

「諦めるな、カーウァイ大佐を救うんだ。あの呪われた命から」

 

「判っている……隊長にこれ以上破壊行為をさせないッ!」

 

「先陣は俺が切るッ!! 後ろは頼んだッ!」

 

「1人で行かせるか、俺も行くぞッ!!」

 

教導隊の戦いは月面でより激しさを増していく、だがそれはゼンガー達だけではない。ホワイトスターへと向かったハガネ達、そして同じく月面に残った武蔵もまた激しい戦いに身を投じているのだった……。

 

 

 

 

ホワイトスターへと突き進むハガネ、ヒリュウ改、そしてクロガネは宙域を埋め尽くす無数の無人兵器からの弾雨に晒されていた。

 

「ぐううッ! リリー中佐! クロガネを前に出せ! 連邦艦隊旗艦グレートアークの前にだッ!」

 

「総帥!? そんな事をすればクロガネが轟沈します!」

 

ホワイトスターへと進軍していた連邦艦隊は既に第3、4艦隊と第14、17航宙隊が全滅! 敵機動部隊が第3次防衛線を突破し、既に壊滅しようとしていた。第一次防衛戦にまで食い込めているのは戦力が充実しているハガネ達3隻だけだった。

 

「クロガネは沈まない!! ユーリア少佐! 各ブロックに通達ッ! 各員対衝撃、閃光防御!」

 

ゲッターVをまだ完全に操れているとは言えないビアンはクロガネの指揮をとる事を選択していた。ビアンに変わり、バン大佐が率いるLB隊がガーリオンやアーマリオン、そしてフライトユニットを装備したゲシュペンストで戦線を維持している。そして何よりもクロガネの能力を最大に発揮するにはビアンで無ければならない理由があった。

 

「総帥!? 何をするおつもりですか!」

 

「ふふふ、無論こうするのだ!!!」

 

拳を振り上げ防護カバーに覆われていた紅いボタンを叩き潰さん勢いで押し込む。それと同時にクロガネの船体が淡い翡翠色の輝きに包まれる。

 

「これはまさか!?」

 

「ふふふ、ゲッター線だ! 試作ゲッター炉心を搭載しておいたのだ! ゲッター炉心とメインエンジンを同調! ゲッター線エネルギーフィールド展開!!」

 

グレートアークの前に出ろとビアンが命令を出そうとした瞬間。クロガネのモニターにノーマンの姿が映る。

 

『ビアン・ゾルダーク。その必要は無い』

 

「ノーマン・スレイ! まだ諦めるには早い!」

 

『いいや、諦めではなく、元より本艦は地球に戻る事を計画していない』

 

ノーマンからの言葉にビアンは絶句し、そしてノーマンの真意を理解した。

 

「特攻だと! お前何を考えている!」

 

『グレートアークの船員は皆、エアロゲイターの攻撃で家族を失い、帰る場所もない者達だ。一矢報いるそれだけの為に……この戦艦に乗ってくれた』

 

「……ダイテツ達は知っているのか?」

 

『いや、だがハガネとヒリュウ改には入電した。お前にだけは言葉で伝えたかった、これが終わればお前達はまた姿を消すだろう?』

 

「ああ、そのつもりだ」

 

戦時特例でその罪を許されても、ビアンは再び表舞台に立つつもりは無かった。ゲッターロボに関する謎を解き明かす為に、世界各地に点在する遺跡を渡り歩くつもりだったのだ。

 

『だからだよ、馬鹿な男達の馬鹿な意地を1人位知っていて欲しいのさ』

 

「……判った、私は軍属ではない敬礼はしない。逝って来いノーマン・スレイ。私も何れ、そちらへ向かうだろう」

 

『まだ来るなよ、お前の力は地球圏には必要だからな。各員に通達! 核弾頭のリミッター解除! グレートアークで突っ込むぞッ!!』

 

その言葉を最後にグレートアークとの通信は途絶え、グレートアークは弾雨にその身を抉られながら前へと進み敵艦隊の中央で爆発した。

 

「……馬鹿者め……リリー中佐、ハガネとヒリュウ改へ入電を!」

 

グレートアークが轟沈し本当に生き残りの連邦艦隊が僅かになった。最早フェイズ4を選択するか道は無いとビアンは考えていた。

 

「ダイテツ! 聞こえるか! 最早私達には一刻の猶予も残されていない!」

 

『判っている! ホワイトスターとの距離は48000……ギリギリ行ける!』

 

予定していた距離よりも連邦艦隊はホワイトスターに近づく事が出来ていた。グレートアークの自爆によって生まれた隙間を高速で抜けた事が距離を大きく縮める事が出来た理由だった。

 

『ダイテツ中佐! ビアン博士、私達はどうすれば』

 

「レフィーナ艦長とヒリュウ改はハガネとクロガネ改の後ろについてくれ、道はハガネとクロガネで切り開く!」

 

『ふっ、アイドネウス島沖だな?』

 

ハガネとクロガネでアイドネウス島沖へ浮かんだマシーンランドを沈めた事は2人の記憶にも新しい。

 

「ヒリュウ改とPT部隊は可能な限り損傷を与えんでホワイトスターへと向かう。レフィーナ艦長、辛いと思うが、お前達は待機だ」

 

『……っはい、了解しました』

 

言いたいことを飲み込みダイテツの命令を了承したレフィーナにダイテツは小さく笑った。流石ショーンだと。まだ若く、気持ちの整理が上手く出来なくてもおかしくないのに、意を汲んで頷いたのはショーンの育て方が良かったのだと判ったからだ。

 

『ですが、ビアン総帥。この無人機の群れを突破する頃にはハガネとクロガネのエネルギーが危ないのではないですかな?』

 

『ふ、こんな事もあろうかと1発限りの最終兵器を用意してある、ハガネ及びヒリュウ改のクルーに告げる。対衝撃、対閃光、そして耐防音防御!』

 

衝撃と閃光は判るが、音?と首を傾げるダイテツだったが、エクスカリバー衝角が変形するのを見て慌てて防御命令を下す。

 

『照準あわせ! ゲッター炉心出力200%! エアロゲイターに目に物を見せてくれるッ!!!』

 

エクスカリバー衝角が開き、姿を見せた巨大な砲門……そしてその銃口にゲッター線の鮮やかな翡翠色の輝きが満ちる。

 

『ゲッタービーム発射ぁッ!!!』

 

その宙域全てを揺るがすような轟音と共に放たれたゲッタービームが無人機を薙ぎ払い、瞬く間に飲み込んでいく、だがホワイトスターまでは届かず、徐々に力が弱くなり照射が止まる。だがその一撃で開いた突破口はクロガネ達が潜り抜けるのは十分すぎる物だった。

 

『続け! 再展開される前に突破するッ!』

 

「本艦はこれよりホワイトスターへ突撃するッ!! 各員対衝撃、閃光防御用意ッ!」

 

先陣を切るクロガネに続きハガネもオーバーブーストでその後を追う、だがテツヤにはある不安があった。

 

「しかし、艦長! 本艦の……いえ、クロガネの火力を合わせたとしても……ホワイトスターの破壊どころかエネルギーフィールドすら破れるかどうかも定かではありません!」

 

絶望的な状況にテツヤもすぐに了承の返事を返せなかった。だがそんなテツヤにダイテツとビアンの怒号が飛んだ。

 

「判っておる! ここは最後の手段を使うしかないッ!」

 

『エネルギーフィールドはトロニウムバスターキャノン、そしてゲッター線を流用したエクスカリバー衝角で突き破る! その後をPT隊を突入させる!』

 

2人の声を聞いてテツヤは2人が何をしようとしているのか理解していた。

 

「! そ、それはフェイズ4……キョウスケ達のPT部隊による要塞中枢部の破壊……ですかッ!?」

 

「うむ、だからこそ、何としても本艦のトロニウム・バスターキャノンとクロガネで……ホワイトスター内部への突破口を開かねばならん!」

 

『マシーンランドでの戦いのやりなおしだ。君も体験しただろう?』

 

ハガネとクロガネの連続攻撃でマシーンランドの外骨格を破壊したが、あれは地球の内と言う事で全力攻撃ではなかった。宇宙空間だからこそ出来る全力攻撃でホワイトスターの障壁を破壊すると理解したエイタが息を呑んだ。

 

「覚悟を決めろ、エイタ。キョウスケやリュウセイ達に比べれば我々の任務はまだマシな方だ」

 

「そ、そうですね……では、艦首トロニウム・バスターキャノンのエネルギー充填を開始します!!」

 

「よし、ビアン行くぞ! 機関、最大戦速! ハガネ突撃ッ!!」

 

『遅れるなよ、機関、最大戦速! クロガネ突撃ッ!!』

 

地球の明暗を分ける戦いに向かってクロガネとハガネは進む。武蔵やエルザム達の事は口にしない。何故ならば、必ず合流する、追いついて来ると判っているから。戦いの場を整える事がダイテツとビアンに出来る全てだった……。

 

 

 

 

ホワイトスターの防衛についている無人機の中の唯一の有人機、エゼキエルの中でヴィレッタは小さく微笑む。

 

「フッ……役者が揃ったようね。ならば、こちらも最後の芝居を打たせて貰うわ」

 

イングラムが離脱し、出来る限りの情報を集めた以上これ以上ネビーイームに留まる理由は無い。イングラムから託された最後の命令にヴィレッタは従うつもりだった。

 

『こちらダイテツだ。本艦は今から4分以内にこのポイントへ移動し……艦首トロニウム・バスターキャノンで敵要塞のエネルギーフィールドを破り、突破口を開く』

 

ハガネ、ヒリュウ改に隠しておいた盗聴器から聞こえてくる声にハガネ達の作戦はヴィレッタにのみ筒抜けだった。

 

(特攻……じゃないわね、勝機はあると言うことかしら?)

 

ゲッターロボやグルンガスト零式などの姿はないが、ハガネやクロガネの中で温存しているのか、それとも月から観測させれている戦闘行動からそちらにのこっているのかを考えていた。ヴィレッタに文章通信が入った、送り主は既にいない筈の男だっただからこそ、ヴィレッタの冷静な顔も驚愕に歪んでいた。

 

(これは!?)

 

文章通信を送ってくるのはイングラムしかいない、アストラナガンに飲み込まれ死んだと思われていた半身からの通達だった。

 

(機会を見てエゼキエルから離脱、その後ポイントX-1-4に隠されているR-GUNに乗り移れ……か)

 

イングラムが自我崩壊を起こしかけている事は知っていた。だからこそアストラナガンに取り込まれ死んだと思っていたが、イングラムが生きている事にヴィレッタは安堵した。

 

(離脱って事は逃げろって事ね、ゲーザとアタッドの2人ね)

 

ここまで来たのに姿を見せない2人。恐らくどこかで隠れ、自分を始末しようとしている。イングラムはそれが判っているから、その前に離脱しろと告げているのだろう。

 

(今、ジュデッカが機動兵器の制御をしている以上、手をゆるめることは出来ないわ)

 

ヴィレッタとイングラムからすればネビーイームが撃墜される事は喜ばしい事であったが、今無人機の制御をしているの自分ではなくジュデッカとレビの2人である。だから手心を加えることは出来ない。だがゲッター線を手にしたビアンがいる以上無人機に負けることは無いとヴィレッタは考えていた。

 

(後はタイミングだけね)

 

ネビーイームを護ると言う名目で自分はここから動くつもりは無い。勿論理由は他にもあるがここが一番離脱や脱出に適したポイントであるからだ。後はタイミングよく離脱するだけ、ヴィレッタはエゼキエルのコックピットでそのタイミングを淡々と待ち続けるのだった。

 

「舞台は整いつつある」

 

そしてイングラムもまた既にネビーイームの近くにまで来ていた。リュウセイ達を鍛えるという目的は中途半端になったが、武蔵のお陰で完全に失敗した訳ではない。それにゲッター線によって本来よりも強力な機体がいくつも生まれている。それならば、ここの戦いでハガネ達が轟沈する事は無いと考えていた。

 

(さて、俺はどうするか)

 

ヴィレッタがR-GUNに乗り移ったタイミングで出撃するか、それとも武蔵達が合流するタイミングで出撃するか……敵として振舞ってきた以上そう簡単に合流する事は出来ないし、するつもりも無かった。

 

(俺の使命はここよりも先だ、余り手をかしすぎる訳には行かない)

 

成し遂げるべき使命がある。だがリュウセイ達が心配なのもあるし、何よりもこれから起きる災厄にリュウセイ達は立向かわなければならない。

 

(やはり様子見に留めておくか)

 

表舞台に立つべきではない。ユーゼスが自分を見つけるかもしれない、もしくは記憶を失っているかもしれない。下手に刺激するのは得策ではない、そう判っていた。だが判っていても抑えられない物と言うものは存在する。

 

(俺も甘いな……全く)

 

もしもリュウセイ達に命の危機があれば躊躇う事無く飛び出していく、それが判ったイングラムはアストラナガンのコックピットで肩を竦め、座席に背中を深く預けた。

 

(武蔵、早く来い。俺は出来れば表舞台には立ちたくないのだぞ)

 

月面で戦っている武蔵とゲッターロボの姿をアストラナガンの内部モニターで確認し、イングラムは囁くような小さな声でそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

ゲッタービームが有効だと云う情報を蒼い特機のパイロットから受け取った武蔵。だが、ゲッタービームを放つ隙は残念な事に無かったのだ。敵は3体でこちらは2人……と言っても単独操縦のゲッターロボと片腕の無い特機では決め手に欠いており、そして3体は完璧とも言える連携を組んでおり、武蔵とアクセルのエースパイロットでも攻めあぐねていた。

 

「ちいっ、ちょこまかと鬱陶しい!」

 

「キシャアアアッ!!!」

 

ソウルゲインの拳をするりと躱し腕の上に飛び乗ったメタルビーストにアクセルの怒声が響いた。

 

「トマホークブウゥゥメランッ!!!」

 

牙を向いたメタルビースト目掛けゲッタートマホークが飛び、それに気付いたメタルビーストが飛び退いてそれを交わしたが、それを逃がすほどアクセルは甘くなく、残されていた左腕でトマホークの柄を掴んでメタルビーストを頭から両断する。

 

「ふっ、良いフォローだ。これがな」

 

「はは、あんたなら出来ると思ってたよ。なんとなくリョウに似てるからな」

 

最初から武蔵はメタルビーストを狙ったのではなく、トマホークをソウルゲインに渡す事を目的にしていた。本当にメタルビーストを狙っていたのならば、もっと大降りで早い投擲だったからだ。

 

「そら、返すぞ」

 

「使うなら持っててくれてもいいぞ?」

 

「いや、俺には必要ない、獲物があると動きにくい。俺にはこの拳と脚で十分だ」

 

無造作に返されたゲッタートマホークを受け取り、ソウルゲインと背中合わせになりメタルビーストへの警戒を高める。

 

「えーっとあんた名前は?」

 

「アクセルだ、アクセル・アルマー」

 

「りょーかい、アクセルさんだな。それでゲッタービームが利くって言うのは間違いないのかい?」

 

ゲッタービームが効果的だと自分が言っていたとアクセルは言っていたが、武蔵はアクセルにはあったこともないし、何よりもあんな化け物と戦った事も無い。だから本当なのかとアクセルに問いかけたのだ。

 

「ああ、あの化け物はゲッター線を必要とするが、必要以上のゲッター線には耐えられないそうだ」

 

「それもオイラから聞いたのか? 同姓同名の別人とか言わない? オイラそんな頭の良い事言えないと思うんだけど?」

 

隼人が言っていたのなら武蔵も納得出来る。だが自分で言って空しくなるが馬鹿な自分がそんな理性的な事を言えるとは思っていなかったのだ。ちなみにこれが竜馬なら殴ってるうちに弱点を見つけたと多少苦しいが、納得できない事は無かったのだが……。

 

「さてな、俺が知っている武蔵はそれよりも凄いゲッターロボ……確かセカンドとか言うのに乗っていたからな。別人と言うのはあながちありかもしれん」

 

「凄いゲッターでセカンド? じゃあ完全に別人だな、オイラはこのゲッターしか乗った事がないし」

 

平行世界の話を聞いていたので、同姓同名の別人がアクセルと知り合いだった。もしくは偶然であったのだと思うことにした。

 

「別人ね……まぁ俺はそこの所はどうでもいい、目の前の敵を倒せるならな」

 

「それはオイラも同意ですね、早くハガネとクロガネに合流しないと」

 

この化け物を倒さない事にはマオ社や月の住人に迷惑を掛ける。それにゲッター線が警戒している理由も知りたいので、可能な限りの戦闘データを取りたいと武蔵は考えていた。

 

(後はビアンさんが何とかしてくれるだろう)

 

馬鹿な自分では戦闘データの分析などは出来ないが、ビアンに見せれば何かを見つけてくれるだろうし、アクセルと言う青年が言っていた事もビアンが科学的に検証してくれると考えていた。

 

「クロガネ……か、ふ、ならばなおの事早くゲッタービームを当てるんだな。そうすれば、決着の目処が見えてくる」

 

「でもあれだけ動き回っていると普通のゲッタービームじゃ避けられるし……」

 

もう少し弱らせる、もしくはもう少しパターンを見ないことには当てられないと考えているとソウルゲインの左拳が軽くゲッター1の頭部を捉える。

 

「お前も苦しいが広域のゲッタービームがあるだろう、それを使え。トドメは俺が刺す」

 

「……頼んで大丈夫なんですか?」

 

「片腕と言う事を心配してくれるのはありがたいが、敵を倒すのに躊躇うな。躊躇えば牙を突きたてられるのは俺達だぞ」

 

アクセルの言葉に武蔵はそれもその通りかと判断し、ゲッターウィングを全身に巻きつけ浮かび上がせる。

 

「良く狙え、俺もそう何度も1人で時間稼ぎは出来んぞ」

 

「判ってます、暫くの間お願いします」

 

ゲッターエネルギーの充填、拡散ゲッタービームの照準合わせ、それは決して長い時間ではないが、だが決して短い時間でもない。

 

「「「キシャアア」」」

 

「おっとここから先は行き止まりだ、これがな」

 

上空に舞い上がるゲッターの後を追おうとするメタルビーストの前にソウルゲインが立ち塞がる。

 

 

 

 

 

 

教導隊とかつての隊長との悲しみの戦い。

 

ハガネ、クロガネ、そしてヒリュウ改の決意を秘めたホワイトスター攻略戦。

 

武蔵とアクセルによる、この戦いの先に待つ新たな戦いの火種。

 

 

様々な思惑が入り混じる中戦火の幕が切って落とされるのだった……。

 

 

 

 

第78話 それぞれの戦い その2へ続く

 

 

 




あんまり話が伸展してなくて申し訳ないですが、次回で一応各陣営の戦いは決着まで書いていこうと思います。そろそろOG1の完結も近づいてきましたが、どんな展開が待っているのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第78話 それぞれの戦い その2

第78話 それぞれの戦い その2

 

ソウルゲインのコックピットの中でアクセルは舌打ちを打っていた。右腕の無いソウルゲインでは攻撃の幅が狭まるのは承知していたが、細かい部分があちこちやられていて、ソウルゲインの最大の特徴であるパイロットの動きをトレースする「ダイレクト・アクション・リンク・システム」そしてパイロットであるアクセルの思考をトレースする「ダイレクト・フィードバック・システム」の操縦に関する重要なシステムの不具合が徐々に見え始めていた。

 

(不幸中の幸いはEG合金が作用している事か、雀の涙程度だがな)

 

ソウルゲインの眩いまでの蒼い装甲は自己修復機能を特化させたアクティブ・メタルの一種で造られており、金属粒子レベルでの結合・分離によって記憶した形状を取り戻す作用がある。欠損した右腕を再生するほどの能力はないが、全身に走る細かい亀裂などは見かけ上は既に回復していた。

 

「ふっ、本来想定していた使い方ではないが……案外行ける物だなッ!!」

 

「ギシャアッ!?」

 

右腕を失い本来の拳と肘の特殊流体金属で造られた両肘のブレード聳弧角を利用する戦闘が出来なくなっているのにも拘らず、相手はゲッターロボのメタルビーストと、岩と融合したインベーダーが2体。戦力的に見て右腕を失っているのは極めてアクセルにとって不利な状況だった。だが右腕が無いと言う理由でインベーダーに喰われる事をアクセルをよしとする訳が無く、左腕を地面に突いて万全な状態である両足でインベーダーを蹴り飛ばしていた。

 

「レモンの奴と合流したら調整させるか、これがな」

 

以下にソウルゲインが打撃戦に特化した機体とは言え、片腕を失った如きでここまで戦闘力が落ちていては話にならない。そもそもダイレクト・アクション・リンク・システム等と言うパイロットの動きをトレースするシステムが搭載されているにも関わらず、蹴り技を採用していないという事にアクセルは不満を感じていたのだ。

 

「でやあああああああッ!!!」

 

近づいてきた岩のインベーダーを近づけまいと自ら前に飛び込みながら膝蹴りを顔面に叩き込み、着地と同時に左腕に蓄えたエネルギーを放出しながら抜き手を放つ。

 

「ちっ、やはり決め手に欠けるか、厄介な事だ」

 

今の一撃で岩のインベーダーの頭部は吹き飛んだが、岩を吸収し再び回復しようとしている姿を見て再びソウルゲインのコックピットで舌打ちを打つアクセル。

 

(だが、今ので感じは掴んだ。次はもっと鋭く行ける)

 

本来想定されていない蹴り技による攻撃はソウルゲインのAIに少なくない負荷を与えていた。だがその負荷を学習し、より適したセッテイングを始めるソウルゲインに良く出来た相棒だとアクセルは心の中で思う。

 

「シャアアッ!!」

 

「舐めるな木偶の坊がッ!!」

 

ゲッター1の姿のまま左腕をゲッタードリルに組み替えて突撃してきたメタルビースト・ゲッターに向かってアクセルの怒号が響いた。

 

「おおおおおッ!!!」

 

メタルビースト・ゲッターの突撃に合わせるように自ら飛び込み、擦れ違い様にその頭部に鋭い回し蹴りを叩き込むと同時に反転し、聳弧角を伸ばしメタルビースト・ゲッターの頭部を刎ねる。即座に修復するメタルビースト・ゲッターだが確かに数秒間アクセルも、そして上空でスパイラルゲッタービームのタイミングを計っていた武蔵に対する警戒が緩まった。そしてその隙を武蔵を見逃す訳が無かった――

 

「ゲッタァアアア……ビィィィムッ!!!!!」

 

ゲッターウィングを全身に巻きつけ、急降下してきたゲッター1。ゲッターウィングとゲッター1の装甲の間で乱反射したゲッタービームが月面を焼きながらインベーダー達に向かって降り注いだ――。

 

「ギ!!!」

 

「ギギャァアアアアッ!?」

 

元々メタルビースト・ゲッターから分離したインベーダーのゲッター線の蓄積量はさほど多くない、月面を焼き払いながら接近してきたゲッタービームに耐え切れる訳も無く一瞬で蒸発するように消滅した。

 

「ギギィイイッ!!!」

 

だが2体のインベーダーを分離させ、なおかつゲッターロボを素体にしているメタルビースト・ゲッターはスパイラルゲッタービームの弾雨に耐え、全身をボロボロにさせながらも生存していた。

 

「ギィイイ……」

 

だがこのままでは消滅してしまうことが判っていた、だからゲッターの身体を捨て月面の街へ向かおうとした。同胞を増やし、数でゲッターロボとソウルゲインを押し潰す為に――。その判断は間違っていない、間違っていたのはアクセルと言う男の性格を理解していなかった事にある。スパイラルゲッタービームの中に身を投じ、生き残りを確実に仕留めると自爆同然の動きをしたアクセルから、完全に逃げに回ったインベーダーが逃げ切れる訳が無かった……。

 

「逃がすと思っているのか、リミット解除ッ! 行けいッ!!!」

 

残された左腕から放たれたエネルギーの弾雨がインベーダーの背中を捕らえ、エネルギーがインベーダーに着弾し煙幕を作り出す。

 

「はっ!!!」

 

「ギギャアアッ!?」

 

弾雨の中に飛び込み蹴りを放ち、残された左腕と両足による凄まじい打撃の雨がインベーダーに叩き込まれていく。

 

「せえいッ!! でやああああッ!!! おおおおおおおおおーーーーーッ!!!!」

 

アクセルの咆哮が響く度にソウルゲインの動きは激しくなる、右腕を失っている分を補うように縦横無尽に叩き込まれる蹴りが容赦なくインベーダーの身体を削り、消滅させていくそして最後に叩き込まれた一際強烈な回し蹴りがインベーダーを蹴り飛ばし大きく吹き飛ばす。そしてその距離はソウルゲインが最大攻撃を行うのに必要な間合いだった。

 

「コード麒麟ッ!!」

 

ソウルゲインの全身に埋め込まれている紅い宝玉が光り輝き、ソウルゲインの全身を蒼いオーラが包み込んだ。

 

「この一撃で極めるッ!!」

 

残された左腕の聳弧角が伸びると同時に蒼いオーラに包まれ、ソウルゲインは月面を蹴りインベーダーに弾丸のような勢いで接近する。

 

「でぃぃぃやッ!!!!」

 

裂帛の気合と共に振るわれた左腕の聳弧角――エネルギーに包み込まれたその刃はインベーダーを両断し消滅させる。

 

「ありがとう、あんたのお陰で助かったよ」

 

「気にするな、それよりも良いのか? 仲間が待っているのだろう?」

 

アクセルの言葉にゲッターロボは遠くに見える戦火に視線を向ける。その姿にアクセルはお人よしめと心の中で呟いた、思えば武蔵は自分達からすればとんだ甘ちゃんだった。だが、その甘さはアクセルは嫌いではなかった。

 

「すまねえ、オイラは行くよ」

 

「ああ、そうすると良い。生きていればお互いどこかでまた会うこともあるだろう」

 

だが次に会うときは敵同士だろうがなと言う言葉をアクセルは飲み込んだ。武蔵はそんなアクセルに気付く事は無く、ゲッターウィングを翻し上空へと舞い上がる。

 

「アクセルさんも元気で、出来るならマオ社で修理をして貰うといいかもしれませんよ」

 

「ふっ、考えておこう。ではな、武蔵。また会おう」

 

宇宙を切り裂いてホワイトスターへと向かうゲッターロボを見送り、ソウルゲインもその場を後にする。転移する前のベーオウルフ、インベーダーとの乱戦そして、転移してすぐのメタルビーストとの戦い。それは紛れも無くソウルゲインにダメージを与え、そしてアクセルの精神も削っていた。

 

「まずはどこかで休む必要があるな」

 

本隊はどうなったのか、そして武蔵の事、ゲッターロボの事、そしてインベーダーの事。考える事が山ほどあるなと呟き、ソウルゲインも月面から姿を消すのだった……。

 

 

 

 

 

ゲシュペンスト・タイプSとガルイン……いや、カーウァイ・ラウと言う人物は既にバルマーにとって大して価値のあるサンプルではない。だが、ただ破棄するのは勿体無いとアタッドは考えていた。なんせ敵にはゲッターロボがいる。バルマーにとってゲッターロボは脅威であり、そしてなんとしても回収したいサンプルでもあった。だからどうせ廃棄するならばと、レビに懇願しタイプSに少量のズフィルードクリスタルを組み込んだ。それがゲシュペンスト・タイプSの変異の理由だった。グルンガスト零式・改に勝つために大型化し、機動力に特化したヒュッケバインMK-Ⅱ・トロンベ・タイプGに勝つ為にブースターを増設し、相手を押し潰す為の強固な装甲とバリアを手にした。

 

「ちいっ!! 零式斬艦刀ですら切り裂けぬかッ!」

 

「ゼンガー無理をするな! 零式斬艦刀とお前を失えば、我らに勝利は無い!」

 

タイプSの全長は70Mに迫らんとしていた、強化を施されたゲシュペンスト・リバイブが30m強、既に2倍近い全長の差がカイ達の前に重く圧し掛かっていた。

 

「しかし」

 

「仲間を信じろゼンガー、それとも俺達はそんなに頼りないか?」

 

「……ラドラ。すまない、頼めるか」

 

「任せろ、その代り一太刀で極めろッ!!」

 

最早一刻の猶予も無い、これ以上巨大化されては零式斬艦刀でも極めきれない。だがグルンガスト零式・改を失えば決め手が無くなってしまう、だからラドラはゼンガーに突撃を控えるように告げギリアム達と連携を組む。

 

「ギリアム、エルザムは遠距離から削れ、俺とカイでバリアを削る」

 

巨大化したことで攻撃力は上がったが、その反面スプリットミサイルや、プラズマカッターを使う素振りは無く、拳と蹴り、そして胸部のニュートロンビームの3つの攻撃が絞られた。そういえば対処しやすいように思えるが、一撃でも喰らえば圧死するその状況での戦いは、エースパイロットであるラドラとカイであったとしても、恐ろしいまでに精神と集中力を削る戦いだった。

 

「精神を削られるな」

 

「だが俺とお前なら問題ない、そうだろう?」

 

「はっ! 遅れるなよ! ラドラッ!」

 

「言われるまでも無いッ!!」

 

弾丸のような勢いでシグとリバイブがタイプSへと突っ込む。

 

「でえいッ!!!」

 

「貫くッ!」

 

ビームクローとメガプラズマステークの挟撃にタイプSの巨大化した拳が叩き込まれる。

 

「ぬぐっうううッ!!!」

 

「踏ん張れ! 押し負けるなッ!!!」

 

リミッターを解除している今のシグとリバイブ(K)の出力は特機に迫る。2機を押しつぶそうとする豪腕にブースターを全力で吹かし、ペダルを強く踏み込み必死に対抗するシグとリバイブ(K)

 

『敵出力向上、出力をUPします』

 

「ぐっぐううッ!!」

 

「ぬううううううッ!!!」

 

押し潰そうとする圧力が増し、コックピットの中でラドラとカイの苦悶の声が重なる。だがその目は決して諦めてはいなかった、タイプSにラウ大佐の意思は感じられず、そのことが余りに悲しく、そしてそれと同時にエアロゲイターに対する激しい怒りが今のカイとラドラを突き動かしていた。

 

「「う、うおおおおおおおおおーーーーーーーーッ!!!!!!」」

 

ラドラとカイの雄叫びが重なり、シグとリバイブの全身から紫電を走らせながらも突き出されたメガ・プラズマステークとビームクローが突き出されたタイプSの右拳を粉砕し、肘までを粉砕する。

 

「ギリアムッ!!」

 

「エルザムぅッ!!!」

 

ラドラがギリアムの名を叫び、そしてカイがエルザムの名を叫んだ。トロンベとリバイブがその手に抱えていた巨大な砲塔をタイプSと向ける。

 

「エネルギー充填180%ッ! リミッター解除ッ!」

 

「ゲッター線充填完了、ターゲットロックッ!!」

 

リバイブの最大の武器はリバイブの全長を越えるほどの長大のメガ・バスターキャノンであり、リミッターを解除した事によりその出力は戦艦の主砲に迫るほどに高められていた。そしてトロンベ・タイプGの武器はブラックホールエンジンにゲッター線カートリッジによるブーストを掛けたブラックホールキャノンだった。

 

「ターゲットインサイト! メガ・バスターキャノン……シュートッ!!!」

 

「ゲッターキャノン……発射ぁッ!!!」

 

右腕を粉砕され姿勢を崩したタイプSに青いと翠が混じった漆黒の砲撃が迫る。完全なAI制御なタイプSはその破壊の光に一切怯む事無く、胸部のニュートロンビームキャノンを発射する。

 

「愚かな」

 

「大佐ならばそんな愚かな事はしなかった」

 

あのタイミングならば相殺する事ではなく、避ける事を選択するべきだった。それをしなかったタイプSにラウ大佐の意識はもう無いと言うことが判り、ギリアムとエルザムは沈鬱そうな声を出す。

 

『!!!!』

 

ニュートロンビームで相殺出来ないとタイプSが気付いた時にはもう遅い、機体を守るべく左腕でコックピットを守った。だがそれによって両腕を失ったタイプSに最早グルンガスト零式・改を止める余力は残されていなかった。

 

「我はゼンガーッ! ゼンガー・ゾンボルトッ!! 悪を立つ剣なりッ!!」

 

零式斬艦刀を振りかざし、零式・改のコックピットでゼンガーは涙を流す。だがこれは自分達がやらねばならぬ事と歯を食いしばり、涙を拭いタイプSを睨みつける。

 

「斬艦刀ッ!! 雷光斬いいいいいいッッ!!!」

 

怒号と共にグルンガスト零式・改がゲシュペンスト・タイプSへと突き進み、両腕の無いタイプSに零式斬艦刀を受け止める事は出来ず、横薙ぎの斬艦刀の一撃がタイプSの胴体を捕えコックピット部から両断した。

 

「ぐっ……ううう……我が……斬艦……刀に……断てぬ……物無しッ!!!」

 

唇を噛み締め涙を流しながら叫ぶゼンガー。だがコックピットで涙を流していたのはゼンガーだけではなかった、この場にいた全員が恩師であり、隊長であったラウ大佐の死に涙を流していた。

 

「……ギ……リ……ア……ム……ゼン……ガー……エ……ル……ザム……カイ……ラド……ラ……」

 

明暗を繰り返すタイプSからの通信はゼンガー達を驚かせるには十分だった。コックピット部を両断されたことでラウ大佐が死ぬ事は確実だった、だが巨大化していた事が不幸にもラウ大佐を即死させず、今際の言葉を残す時間を与えたのだ。

 

「……礼……ヲ……言……ウ……コレデ……私……ハ………」

 

「大佐! 大佐なのですね!?」

 

「隊長……ぐっ! 隊長ッ!!!」

 

「大佐ッ!」

 

今までの操られる苦痛に耐えながらの声ではない、どこか安堵さえ感じられるその声にゼンガー達がラウの事を呼ぶ

 

「……我ガ……教エ……忘レル……ナ…………ソ…シテ……チ…キュ…ウ……ヲ……マ……モレ」

 

ノイズ交じりの声に呼応するかのようにタイプSのバイザーの明暗が激しくなる。残された時間が僅かなのは誰の目から見ても、明白だった。

 

「……ワタ……シヲ……タオシ……タ……オマエ……タチ……ナ……ラ……バ……デキ……ル。オ……マエ……タチハ……ワタ……シノ……ホコリ……ダ」

 

その言葉を最後にタイプSのバイザーから光が消え、少し遅れて爆発しその姿を跡形も無く消し飛ばした。

 

「ぐっう……エアロゲイター……ッ!」

 

「カーウァイ……大佐……どうか、安らかにお眠りください」

 

爆発したタイプSの残骸に向けゼンガー達はコックピットの中で敬礼する。それが見送る者としてやるべき事であったからだ、そしてまだ立ち止まる事が出来ないゼンガー達が月面から飛び立つ。

 

「行こう、まだ戦いは終わっていない」

 

「ああ、カーウァイ大佐の分も俺達が戦うんだ」

 

「行くぞ、皆が待っている」

 

先にホワイトスターへと向かったハガネ達を追って、ゲッターロボから遅れながらもゼンガー達はL5宙域へと向かうのだった……。カーウァイ・ラウの冥福を祈り、だが……カーウァイ・ラウの旅路はまだ終わりを迎えていなかった。

 

「大将! こんなところに誰か倒れてるぜ!? し、しかも外人だ!?」

 

「嘘でしょ!? ここは日本のシェルターで外人は1人もいないはずなのにッ!」

 

「親父! どうするの、まさかインベーダーじゃ、それにこの服装……何かのパイロットなんじゃ……」

 

「判らないが、とりあえず連れて行こう。外の調査の為の話を聞けるかもしれない、ケイ、ガイ、行くぞ」

 

意識を失っているカーウァイを背中に担ぐ大柄の男。荒廃した大地を進む4人の男女は何かから逃げるように、その場を後にするのだった。

 

 

 

 

武蔵達がそれぞれの戦いを追え、ホワイトスターへと向かったハガネ達の後を追って月を飛び立った頃。ハガネ達のホワイトスター攻略線は終盤を迎えていた。

 

「艦長! 目標ポイントに到達しました!」

 

「艦首トロニウム・バスターキャノン、エネルギー充填90%!!」

 

ハガネの艦首トロニウムバスターキャノンによるホワイトスターを覆っているバリアの破壊。それが可能になる距離にやっとハガネは辿り着いていた。

 

「よし、ホワイトスターへの攻撃を……何事だッ!?」」

 

「ヒャーッハッハッハッハ!!」

 

突然の警報と共に現れたドラゴンがハガネへと肉薄する。突然の強襲、そしてドラゴンの加速力に対応出来ずドラゴンは防衛網を突きぬけハガネの眼前に立つ。

 

「もっと盛り上げてやるぜえ、この戦いをよぉ!! ヒャッハッハァ!!! てめえらの大砲なんざ撃たせるかっての!!

 

「ぬうっ! バスターキャノンを!?」

 

ドラゴンの頭部から放たれたビームがハガネの艦首を捉える。爆発する事はなかったが、火花を散らしハガネが大きく後退する。

 

「ヒャッハッハッハァ! バッチリ! 大当たりだっての!!」

 

「貴様ッ!!」

 

「おっとあぶねえあぶねえ」

 

マリオンの改造によって爆発的な加速力を得ていたアルトアイゼン・改がドラゴンへリボルビングステークを突き出しながら突撃する。だがゲーザはその攻撃に気付き、嘲笑うかのようにアルトアイゼン・改の一撃を交し、自身を囲うもうとしていたハガネの包囲網から離脱した。

 

「か、艦首部分に被弾!!」

 

「何っ!? 被害状況は!?」

 

ドラゴンも包囲網を突きぬけ、トロニウムバスターキャノンの発射を防ぐ事だけが目的であり、ハガネを轟沈させるだけの余力は無かった。だが不幸にもその行動がエアロゲイターにとって有利な状況に戦況を動かしていた。

 

「方位盤破損、測的不能!」

 

方位盤の破損、それはトロニウムバスターキャノンを発射する為の照準装置であると同時に、ハガネの航行能力の要だった。今のハガネは距離感を掴む事が出来ず、正しい距離も、ホワイトスターへの方角も正しく認識出来ない状況にあった。

 

「バスターキャノンは撃てるのか!?」

 

「砲身損傷により、長距離砲撃は不可能です!!」

 

更にそこに追い討ちを掛ける砲身の損傷。トロニウムバスターキャノンの間合いを図る事が出来ず、そして長距離射撃も出来ない、その報告を聞いたダイテツはある決断を下した。

 

「総員に退艦命令を出せ! クロガネとヒリュウ改へと向かうのだッ!」

 

「どういうことです、艦長!?」

 

まさかのダイテツからの退艦命令にテツヤが声を荒げながら、ダイテツに説明を求める。

 

「ワシがハガネを敵要塞のエネルギーフィールドへ直接ぶつけ……バスターキャノンの零距離射撃で、内部への突破口を開くッ!」

 

「拒否します! 艦長一人でこの艦を動かすことは出来ません!」

 

それはノーマン同様ダイテツが特攻を行うと言う事であり、テツヤは即座に承服出来ませんと怒鳴る。だがダイテツの決意は固く、テツヤを含めたブリッジのクルーに怒鳴り声を上げる。

 

「命令を復唱せんか、大尉ッ! お前達は次なる戦いのためにここから脱出するのだッ!!」

 

「や、やはり艦長は……このハガネを自沈させるおつもりですかッ!?」

 

ダイテツは1人で死ぬ事を既に覚悟していた。だからこそ若いテツヤ達を脱出させる事を決めたのだ。

 

「そうではない……ワシは最後の最後まで戦い抜く……ッ! 死んでいった多くの部下に報いるためにも……ワシに最後の務めを果たさせてくれ……ッ!」

 

ヒリュウ、そしてシロガネと自分が指揮を取った戦艦で多くの死傷者を出してきた、だから今回は、今回こそは部下に死んで欲しくないダイテツらしからぬ弱々しい声で逃げてくれと言うが、テツヤ達はその命令を拒否した。

 

「それでも…拒否しますッ!」

 

「じ、自分も…ここまで来て逃げるのは嫌ですッ!」

 

テツヤだけではない、ブリッジのクルー全員がダイテツの逃げろという命令を拒否し、最後まで戦うという意志を見せたのだ。

 

「それに、自分には策がありますッ!」

 

「策だと……!? この状況でかッ!?」

 

「はい! この艦の特性を生かせば……ッ! 艦長、どうか許可を!」

 

強い意思の光を宿す目を向けられたダイテツは艦長席に再び腰を下ろす。自分が育て上げた部下達は既に自分を越えようとしている、それを見届けたいとダイテツは思ったのだ。

 

「よかろう……ッ! やってみせろッ!」

 

「了解! エイタ、トロニウム・バスターキャノンの有効射程距離はッ!?」

 

「現在、800までダウンしています!」

 

「それだけあれば充分だ! 残る力を振り絞って……このポイントまで突貫するぞ!!」

 

「了解ッ!!」

 

決してハガネは万全ではない、だがそれでも最後の一瞬まで諦めない。全員で生き残る術があるとテツヤは考えていた。

 

『ダイテツ何をするつもりだ』

 

「ビアン・ゾルダーク博士! これは艦長の命令ではありません、私の指示です。作戦を大幅に変更します、クロガネはハガネと共にヒ

リュウ改と後方をお守りくださいッ!」

 

『特攻するつもりですか!? 大尉ッ!』

 

ヒリュウ改とクロガネからの通信にテツヤは柔らかい笑みを浮かべる。

 

「いいえ、死ぬつもりはありません。全員で生き残ります、そしてホワイトスターへと挑みます。この場はどうか私に任せてください」

 

覚悟を決めた表情、だが決して生きる事を諦めている訳ではない。その瞳にビアンはダイテツが何故何も言わないのかを理解した。託すべき後継を見つける事が出来た、だからこそダイテツは何も言わないのだと……。

 

『判った、本艦はこれよりハガネの後方支援に入る』

 

『ビアン博士!?』

 

『レフィーナ艦長。焦る事は無い、ハガネは……テツヤ・オノデラ大尉は必ず成し遂げる。私はそれを信じる』

 

『……ッ! 判りました。どうかご無事で……』

 

レフィーナとビアンの言葉に敬礼を返し、ハガネのモニターから光が消える。テツヤは眼前に広がるホワイトスターを見つめる。

 

「機関最大! ハガネ突撃ッ!」

 

「了解! ハガネ突撃しますッ!!!」

 

エネルギーフィールドを全開にしてハガネは突き進む、死ぬ為ではない生き残る為に、道を切り開く為にハガネは被弾しながらもホワイトスターへ真っ直ぐに進んでいくのだった……

 

 

 

 

ドラゴンに乗るゲーザは自身の横を抜いて突き進んでいくハガネに目もくれず、アルトアイゼン・改を初めとしたPTにだけ視線を向けていた。

 

「さぁて、さっきのでレビ様の命令は完了したからな……あとは俺の好きにやらせてもらうぜぇッ! ヒャハハハッ!!」

 

「何をする気だッ!?」

 

狂ったように笑い声を上げるゲーザに危うい物を感じ、ヴィレッタはゲーザに通信を繋げる。だがゲーザはヴィレッタに目もくれず、お前は何を言っているんだ? と言わんばかりの表情でヴィレッタに言葉を投げかけた。

 

「決まってんだろッ!? 地球人共を皆殺しにするんだよッ!」

 

「サンプルを殺すというのか? それはレビ様の命令と矛盾しているぞ」

 

レビの命令はサンプルの回収であり、殺害ではないと告げるがゲーザは唾を吐き散らしながら怒鳴り声を上げる。

 

「うるせえッ!! レビ様の命令はさっき完了したって言ってんだろうがッ!!」 だから、後は俺の好きにやってもいいんだってのッ!!」

 

余りに支離滅裂なゲーザの言葉にヴィレッタはゲーザがアタッドに精神操作を受けた可能性を考えた。それは一瞬ヴィレッタの警戒心を緩め、ゲーザはその隙を見逃す事は無かった。

 

「よ~し、まずはてめえから血祭りだッ! ヒャハッ! てめえが二重スパイだっていうネタは上がってんだよ!! だから、死ねぇッ!」

 

さすがのヴィレッタも至近距離からのドラゴンのビームを回避する事は出来なかった。だが緊急脱出装置のレバーを引くことは出来た、エゼキエルから脱出し、ヴィレッタはイングラムから指定されていたポイントへと向かう。

 

(ここが潮時ね、後は任せるわよ。イングラム)

 

ここからは別の計画で動く、ヴィレッタはそう判断し爆発の反応に紛れ、ネビーイームへと帰還したのだった。

 

「あいつ、味方を落としやがったッ!?」

 

「仲間割れかッ!?」

 

エゼキエルを撃墜したドラゴン。その行動はPT隊に少なくない衝撃を与えていた、その行動が既に戦死したはずのある男に酷似していたからだ。

 

「それは判らねえが、味方を殺すことを何とも思ってねえあの感じ……」

 

「ああ、テンザンの野郎にそっくりだぜ……ッ!」

 

テンザン・ナカジマに酷似する言動をするゲーザにPT隊の全員にある予想が脳裏を過ぎった。それはカーウァイ大佐のようにエアロゲイターに回収され、洗脳されてエアロゲイターの尖兵にされているかもしれないという可能性だ。

 

「この際、奴の正体が何なのかは関係ない。ここを突破しなければ、連邦軍は敗北するぞ」

 

ゲーザの正体を考えるリュウセイやマサキ達にライの冷静な言葉が突き刺さる。洗脳されていたとしてもテンザンは敵であり、最後まで改心する事は無かった。そんな相手に意識を向け、集中力を削ぐなと今はホワイトスターの防衛網を抜ける事だけを考えろとライは言う。だがリュウセイの心の中の中には恐怖が生まれていた。それはもし撃墜され、エアロゲイターに回収されたらテンザンやカーウァイ大佐のように自我を消去され改造されるかも知れ無いと言う恐怖だった。

 

「次はてめえらの番だぜぇ! ヒャハッ! ヒャハハハハッ!!」

 

狂ったように笑うゲーザの声に導かれるように現れるフーレや量産型ドラゴンを初めとしたエアロゲイターの無人機の群れ。幸か不幸か、ハガネには目もくれていないが幸いだったが状況は悪化の一途を辿っていた。

 

「恐れるな、俺達は前に進む事だけを考えていればいいッ!!」

 

「ヒャハぁッ!?」

 

高笑いをするドラゴンの腹部にアルトアイゼン・改の試作リボルビングバンカーが突き刺さる。大幅に改造されたアルトアイゼン・改の加速力は直線距離だけ考えれば異次元の加速力を得ていた……勿論その対価は安い物ではないが……。

 

(ぐぶっ……くっ、やはりままならんか)

 

だがパイロットであるキョウスケへの負担は今までの非ではなかった。体内からこみ上げる血液を飲み込み、ボタンを押し込む。それと同時にリボルビング・バンカーが火を噴き、貫いていた場所を基点にドラゴンを両断する。

 

「ヒャハアアッ!?」

 

「やった!」

 

「一撃かよ。とんでもねえな」

 

試作リボルンビングバンカーの破壊力は凄まじくドラゴンの上半身と下半身を一撃で両断する。

 

「キョウスケ! キョウスケ大丈夫!?」

 

「うっ、エクセレン……大丈夫だ……問題ない」

 

「大丈夫そうに見えないんだけど! ちょっと下がりなさい! ブリット君!」

 

「はい! 中尉! 少し下がってください」

 

「……すまん」

 

リボルビングバンカーの反動とドラゴンへの突撃で衝撃で一瞬意識が飛んだキョウスケに気付き、エクセレンとブリットが前に出る。払った犠牲は大きいが、それでもドラゴンを倒した。そう思っていたのだが……。

 

「ヒャ、ヒャハハッ! や、やるじゃねえか…! だがな、俺は死なねえぜ。てめえらをこの手でブチ殺すまではなあ! ヒャハハハッ!!」

 

ドラゴンの上半身と下半身から触手が伸び、両断されたドラゴンの損傷は一瞬で回復していた。

 

「ゲッ! あいつ、再生しやがったぞッ!?」

 

「もしかして、この間のゲシュペンストやブラックエンジェルと同じで……自己再生能力を持っているのッ!?」

 

完全に破壊しただが、再生されては倒す意味が無い、こちらが疲弊するだけだと判断し、キョウスケはヘルメットを脱ぎ捨て、口元の血を拭いながら指示を飛ばす。

 

「アサルト1より各機へ。奴には構うな。ハガネを目標ポイントへ到達させることに専念しろッ!」

 

もとより今回の作戦は電撃戦、時間を掛けている余裕はない。しかも相手が再生するのでは撃墜する意味もない、ハガネが射撃ポイントに辿り着けるように支援を行えと命令を飛ばす。

 

「LB隊、ソニックブレイカーセットッ! 全機続けッ!」

 

「「「「ソニックブレイカーセットッ! GOッ!!!」」」」

 

バンのガーリオンが先陣を切り、その後を追って多数のガーリオンがソニックブレイカーで抉じ開けた包囲網の穴をより広げる。

 

「リューネッ!」

 

「判ってるッ!」

 

開いた包囲網の中にサイバスターとヴァルシオーネが飛び込み、全身から光を撒き散らす。

 

「サイフラアアアアッシュッ!!!!」

 

「サイコブラスターッ!!!!」

 

サイバスターとヴァルシーネの広域兵器が広がった包囲網を更に広げ、他の機体が突撃する間を作り上げる。

 

「一気に行くぞッ! リオ、リョウト続けッ!!」

 

「了解!」

 

「行きますッ!」

 

「リュウ、ライ! 遅れないで!」

 

「判ってるぜアヤッ!」

 

「ハイゾルランチャーターゲットロック! ファイヤッ!!!」

 

無人機は倒しても倒してもすぐに増援が来る、時間を掛けている余裕はない1度抉じ開けた包囲網を更に開き、ハガネの進む道を確保する。

 

「敵要塞まで距離1200……1100……ッ! バスターキャノンの有効射程距離に入ります!!」

 

リュウセイ達が命を賭けて抉じ開けた包囲網を抜けてハガネがホワイトスターに突撃する。だが突如ホワイトスターとハガネの間に爆発が起きる。

 

「前方に強力なエネルギーフィールド展開ッ! か、艦が進みません!!」

 

「それは計算の内だッ! 補機ロケットエンジンクラスターのオーバーブーストを使えッ!!」

 

ホワイトスターのバリアにぶつかりハガネの進撃が止まるだが、これはテツヤにとっては計算通りで即座に次の指示を飛ばす。

 

「了解ッ! オーバーブースト、点火!!」

 

「総員、対衝撃・対閃光防御ッ! 続いて、重力ブレーキ解除ッ!!」

 

「じゅ、重力ブレーキをッ!? そんなことをすれば、発射の反動で艦体がっ!」

 

衝撃・閃光防御命令は判るが、続く重力ブレーキの解除命令にエイタが動揺したように叫ぶがテツヤはその声を上回る声で指示を飛ばした。

 

「いいからやれッ! 発射と同時に艦首モジュールを切り離すんだッ!」

 

何故と言う疑問は全員にあったがテツヤの強い口調に勝機があるのだと思い、疑問に感じながらもハガネの重力ブレーキを解除する。

 

「馬鹿がッ! そう何度も同じ手が通用すると思うなっての!!」

 

「ぜ、前方にドラゴンがッ! こちらを狙っていますッ!!」

 

ゲーザが反転し、ドラゴンがトロニウムバスターキャノンの発射口に向かう。だがテツヤは動揺も恐れもせずに真っ直ぐにホワイトスターを睨みつける。

 

「構うなッ! トロニウムバスターキャノン発射準備ッ!!」

 

「させるかッ! てめえらはここでくたばるんだってのッ! ヒャーッハッハッハッハァ!!」

 

ドラゴンの全身が光り輝き、ハガネの艦首を目指して突撃してくる。その体当たりが直撃すればハガネでさえも轟沈は間逃れないだろう、だがテツヤは決して恐れる事無く、そしてドラゴンではなくホワイトスターを見つめていた。

 

「奴ごとホワイトスターを……ッ! あの白き魔星を撃てぇぇぇぇっ!!」

 

テツヤの裂帛の気合と共に命じられ、トロニウムバスターキャノンがドラゴンごとホワイトスターに向かって放たれた。

 

「うおっ!? 馬鹿な! このゲーザ・ハガナー様が……ッ!! ギャ、ギャアアアァァァッ!!」

 

ハガネへと突撃していたドラゴンはその加速もあり、トロニウムバスターキャノンを回避する事は出来ず、トロニウムバスターキャノンの光の中へ消え、乾坤一擲の一撃はホワイトスターのバリアを砕き、内部への突入口を作り出していた。

 

「やりましたッ! エネルギーフィールドの一部が消滅! 内部へ突入出来ます!」

 

「ハガネはッ!? ハガネはどうなったのッ!?」

 

至近距離でのトロニウムバスターキャノンの発射。そのエネルギー反応が凄まじくセンサーが効かず、レフィーナはユンにハガネの安否をらずねる。

 

「お、恐らく、爆発に巻きこまれて……ッ!」

 

センサーが利かず、反応の無いハガネにユンは最悪の結果を口に仕掛けたが、ショーンによってその報告は遮られた。

 

「いや、あれを! ハガネは無事ですぞ!」

 

「確認しました! ハガネはホワイトスターから離脱しつつあります!……で、でも、一体どうやって……ッ!?」

 

ショーンの言葉の後徐々に回復してきたセンサーにハガネの識別信号が出る。だがユンにはあの至近距離でのトロニウムバスターキャノンの射撃に何故巻き込まれたのかが判らず混乱していた。それはレフィーナも同じだったが、ショーンだけがハガネの無事な理由を把握していた。

 

「バスターキャノンの発射と同時に艦首モジュールを切り離し……その反動で脱出したようですな……!」

 

テツヤの重力ブレーキ解除命令はバスターキャノンの反動により、危険区域から離脱する為の指示だった。だがそれは一歩間違えばハガネが轟沈する危険な賭けだった。ショーンの説明を聞いて、ユンもレフィーナも顔を引き攣らせたがショーンだけは楽しげに笑っていた。

 

「いえ。単純かつ無謀極まりない策ですが……テツヤ・オノデラ……流石、ダイテツ中佐が見込んだ男だけのことはありますな」

 

確かに危険で無謀な作戦だった、だがテツヤ達はその賭けに勝った。ホワイトスターに突入する経路が出来たのだから。

 

「艦長、クロガネのビアン博士より通信が入っています!」

 

『これより本艦はハガネの一部クルーを収容し……艦首超大型回転衝角で敵要塞外壁を破壊。PT部隊と共に内部へ突入する』

 

「了解です! では、本艦も……」

 

ビアンの言葉にレフィーナはヒリュウ改もまたホワイトスターへ突入すると続けようとしたが、それはビアンによって制された。

 

『貴艦には後方にいるシロガネの援護、そして私達の脱出経路の確保を頼みたい』

 

「ええっ!? クロガネ1隻で敵要塞内に突撃するつもりですか!?」

 

本来ならばハガネとクロガネの2機による突入作戦だったが、ハガネが艦首モジュールを失っている為必然的にクロガネだけの突撃になる。それを心配するレフィーナだったがビアンは小さく笑った。

 

『心配無用だ、私達は必ず勝つ。と言っても戦争を起こした私の言葉を信用出来ないのは承知だが、今は信用して欲しい。私達は必ず勝つとね』

 

クロガネに着艦していくPT隊とハガネからの脱出艇を見てレフィーナもまた覚悟を決めた。自分達の戦いはホワイトスターの中ではなく、外にあるのだと理解してしまったからだ。

 

『それに……レフィーナ艦長には、武蔵君達の補給をして貰う必要もあります』」

 

「……判りました。貴艦のご武運を祈ります……ッ!」

 

ハガネ達を行かせる為に月面に残った武蔵と教導隊の5人、彼らの道しるべであり、そしてクロガネが戻る場所を守る。レフィーナ達はホワイトスターに突入しないのは足手纏いだからではない、彼らの帰る場所を守る為の戦いをする為にこの場に残り、ホワイトスターへ突入していくクロガネをレフィーナ達は無言の敬礼と共に見送るのだった……。

 

 

 

 

第79話 因果の鎖 その1へ続く

 

 




今回はオリジナル要素は少なめでしたが、アクセルと武蔵の共闘、そしてラウ大佐の生存フラグ、ラウ大佐を回収した4人組が誰かはおおよそは予想がついていると思いますが、今はお口にチャックでお願いします。次回はインセクトケージですが、これも大胆にアレンジして以降と思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第79話 因果の鎖 その1

第79話 因果の鎖 その1

 

ホワイトスターに突入していくクロガネを見守る黒い天使――アストラナガンの中でイングラムは小さく安堵の溜め息を吐いていた。

 

「イレギュラーが多いから不安要素はあったが……何とかなったか」

 

自身を含めたイレギュラーの多さ。それは因果律の番人として覚醒した今だから判る事だった。

 

「ビアン・ゾルダークの生存、ゲッターロボと武蔵の介入、バルマーが手にした量産型ドラゴン達、そして俺」

 

本来ならばユーゼス・ゴッツオによって解けぬ枷に縛られるはずだった己がそれから解放された。そしてそれだけではなく、アストラナガンも手にした。

 

「武蔵のおかげなのだろうが……それだけではないだろう」

 

武蔵だけでは因子は足りない、クヴォレーとゲッター線、様々な要因が重なり、イングラムに枷を外すチャンスを与えたのだろうが……それでも疑問は尽きない。

 

「ネビーイームの中と言う事はジュデッカとレビ……いや、マイ・コバヤシと戦う事になるか」

 

本来ならばもっと戦闘を仕掛けて鍛え上げるつもりが、イレギュラーが余りに多く計画通りに鍛える事は出来ないでいる。

 

「念の為に俺も備えておくか」

 

ジュデッカ。そして最後の審判者であるセプタギン。それらと戦うには戦力が足りなくなるかもしれない、そう思いアストラナガンはネビーイームの中に侵入しようとしたのだが……それがイングラムにとっての不幸を呼んだ。

 

『アウレフ・バルシェムよ』

 

「がっ!?」

 

突如脳裏に響いた声と脳を掻き回すような激痛にイングラムは苦悶の声を上げた。

 

「な、何故……今更……ッ!?」

 

『万が一に備え、お前が枷を外した状態でネビーイームに戻れば再び我の手元に来るように備えておいたのだ』

 

「黙れぇッ! ユーゼス・ゴッツォッ!! 俺はお前の思い通り……などならんッ! 哀れな残留思念よッ!」

 

『その通り。今の我はネビーイームに保存されている記憶データに過ぎぬ。だがユーゼス・ゴッツォであることに変わりは無い』

 

「プログラム……風情がッ!!!」

 

『ならば貴様は人形如きと言ってやろうか?』

 

「ぐっぐうう……じ、時間が……時間が無いッ!!」

 

如何に抗おうと僅かに枷が残っている以上、イングラムは何時までもユーゼスの声に逆らう事は出来ない。そして、イングラムの精神がユーゼスに屈した時。ユーゼスはアストラナガンをその手に収めてしまう。

 

(すまん、リュウセイ。お前達の力が必要だ)

 

歯を食いしばり操縦桿を握り締める。完全なユーゼス・ゴッツォではない、その思念は確かに強力ではある。残留思念があるが為に、ユーゼスの支配を跳ね返すチャンスはイングラムの手に残されていた。

 

(これは賭けだ……リュウセイが……目覚めていれば……勝機はあるッ!)

 

『抗うな、我に従え。アウレフ・バルシェムよ』

 

「俺は……イングラムッ! イングラム・プリスケンだッ! 貴様の……ッ! 操り人形ではないッ!!」

 

血が出るほどに歯を噛み締め、イングラムはアストラナガンを操る。この枷を完全に断ち切る、最後のチャンスを逃さぬ為に……

 

 

 

 

 

ホワイトスターの多重バリアを破壊する為に中破したハガネ。機関部などのクルーを残し、ダイテツを初めとしたハガネのブリッジクルーは緊急脱出艇でクロガネへと乗り移っていた。

 

「ビアン、本当にワシがクロガネの指揮をとっていいのか?」

 

「構わない、正直な所クロガネに正規のスペースノア級の指揮技術を持つ者はいない。オペレーターやクルーの数を増員して対応していたが、それにも限界がある。ダイテツ、お前が1番適役なんだ」

 

ビアンの言葉を聞いてもダイテツの顔は渋い色を浮かべている。

 

「ワシが言いたいのは連邦の軍人に指揮されることにクロガネのクルーは不満はないのかと言うことだ」

 

ダイテツの不安の言葉にビアンは声を上げ大声で笑い出す。

 

「ふふふ、お前でもそんなことを言うのだな。だが、その心配は不要と言うものだ。クロガネのクルーは地球を守るという目的の元に集まっている。反攻するもなどはおらんさ」

 

「大丈夫です、ダイテツ・ミナセ中佐。私達の思いも貴方達の思いも同じ、地球を守る事。ならば、仲間内で争う事はないですよ」

 

リリーの言葉にダイテツを初めとしたハガネのクルーはやっと安堵の表情を浮かべた。

 

「ではクロガネは預かる」

 

「ああ、クロガネは任せる。私もゲッターVで出るからな」

 

そう言ってブリッジを出ようとしたビアンだったが、思い出したように足を止めた。

 

「ゲッター炉心を搭載している。出力等は上がっているからリリー中佐から話を聞いてくれ、では後は頼んだ」

 

クロガネにゲッター炉心が積んであると言う爆弾発言を残し、ビアンは今度こそブリッジを後にし格納庫へと向かった。

 

「ビアン総帥に敬礼ッ!」

 

パイロットスーツに身を包んでいるバンと生き残りのLB隊、そしてトロイエ隊の面子の前に立つビアン。

 

「ここが正念場だ。各員警戒を緩めず、敵の奇襲に備えよ。では各員出撃準備ッ!」

 

「「「「了解ッ!!」」」」

 

ガーリオンやリオン、そしてアーマリオンに乗り込んでいく混成部隊。唯一残ったバンがビアンに声を掛ける。

 

「エルザム少佐達と武蔵はまだ戻っていません」

 

「……大丈夫さ、彼らは負けない。そしてこの決戦の地に来てくれる」

 

「は、私もそう信じております。彼らが負ける姿など想像も出来ませんからな」

 

バンの言葉に微笑みビアンもゲッターVに乗り込み、バンのガーリオン・レオカスタムの後を追ってホワイトスターの区画へと飛び出していくのだった。

 

 

 

 

 

ホワイトスターの防壁をエクスカリバー衝角で破壊後。低速で進んでいたクロガネとPT隊は開けた場所に出ていた。

 

「大気成分、重力、気圧……ほぼ地球と同じです」

 

「追加で言いますと細菌などのバランスも地球と同じに調整されているようです」

 

開けた場所は草原と居住区らしき建物の群れがあった。その事もあり、警戒しながら進んでいたPT隊は些か拍子抜けしたような素振りを見せていた。

 

「ここ、エアロゲイターの居住区なんだろうか……?」

 

「その割には建物が少ないし、人が住んでる気配もないわね」

 

パッと見居住エリアにしか見えずブリットの困惑した声と周囲をうかがっていたレオナの居住区とは思えないという声が広域通信でPT隊の間に響いた。

 

「なに、驚く事は無い。エアロゲイターの目的はサンプル……つまり優れたパイロットと機動兵器の回収にある。ある程度の居住性がある事、地球に条件が似ている事は想定されていた事だよ」

 

ゲッターVからビアンのこの事態は想定していたと言う通信がPT隊に告げられる。

 

「でも、ビアン博士。ここは凄く穏やかな場所でとてもホワイトスターの内部とは思えないんですけど」

 

「ああ、まるで牧場みてえだな」

 

ジャーダの牧場と言う言葉にビアンは喉を鳴らした。決して馬鹿にしているわけではない、ジャーダの観点に感心しての笑いだ。

 

「レイカーやダイテツには話していたが、エアロゲイターは既に滅亡、もしくは滅びる寸前の種族だと私は考えている。この場所は地球人のサンプルを確保するだけではない、この様な言い方をするのは不興を買うのは判っているが……エアロゲイターの男もしくは女と地球人の男女による交配実験の為の施設なのではないかな?」

 

交配実験の言葉に歳若いパイロット達は顔を赤面させ、イルム達は顔を顰めた。

 

「なんだ、地球人を猿だなんだと言っておきながら、それが目的なのか?」

 

「あくまで可能性の話だ。地球人をサンプルと言うと言う事は、遺伝子パターンなどが酷似している場合がある。戦力として利用するだけではなく、滅びかけている自分達の数を増やすと言う目的も考えられるという話だ」

 

「聞いていて、気分の良い話じゃないわね」

 

「あくまで可能性の話さ、だが……この感じを見る限りでは……私の仮説はあながち間違いではないように思えるよ。そら、見てみたまえ。お出迎えだ」

 

ゲッターVが指を居住エリアの奥へと向ける。空からは無数の機体が姿を現していた、だがそれはエアロゲイターの機体ではなかった。リオンやガーリオン、そしてバレリオンを初めとした地球側の機動兵器の姿だった。

 

「アーマードモジュール! どうしてこんな所にッ!?」

 

今までエアロゲイターが使用していた無人機ではなく、アーマードモジュールの登場にPT隊に驚愕が広がっていく。

 

「先に要塞内へ侵入した部隊でしょうか……?」

 

「ラッセルッ! 馬鹿言ってんじゃねえよ、あたし達が最初で最後の突入隊だ。先に突入した部隊なんて居るわけねえ」

 

「で、では! もしかしたら、敵に捕らえられていた部隊なのかも……」

 

エアロゲイターとの交戦で行方不明になった部隊は決して少なくは無い。今姿を見せたのはエアロゲイターに拉致された部隊なのではとラッセルが告げるとバンが沈鬱そうな声でそれを認めた。

 

「この識別コードは確かにDCの物……だ。だが、すでに登録は抹消されている」

 

登録が抹消された識別コード。MIAや撃墜されたはずの部隊の識別コードだとバンは怒りに満ちた声で呟いた。

 

「おいおい、それってまさか……」

 

「最悪の予想通りになったと言うことか……」

 

「我らの敵はエアロゲイターに捕らえられ、彼らの尖兵と化した同胞達というわけだ……ッ!」

 

「じゃ、じゃああの人達を助けないと!」

 

「今ならまだ何とかなるんじゃないでしょうか!?」

 

「不可能だよ、諦めたまえ」

 

その言葉に助けるべきだとクスハやリオを初めとした若いパイロットの声が響いたが、それはビアンの不可能だと言う声と言う声に遮られた。

 

「おい、ビアンのおっさん! どういうことだ!?」

 

「簡単だよ、こうして送り出されてきたという事は既に洗脳処理が完了していると言うことだ。つまり、もう人の姿をしてはおるまい。ゲッターVに搭載している生体センサーは僅かに生命反応を感知しているが……とても生きた人間の反応ではない」

 

その言葉にビアンの話を聞いていた全員が絶句した、今目の前で戦闘の入ろうとしているアーマードモジュールの正体が判ってしまったから……。

 

「親父……それは」

 

「言うな、リューネ。私達に出来る事は哀れむ事ではない、そして同情する事でもない。彼らの呪われた生を終わらせてやる事だ」

 

もうあのパイロットを救う事が出来ないという重い空気がPT隊のメンバーの間に広がっていく、そしてそれがエアロゲイターの戦術なのだと判っていても怒りに唇を噛み締めざるをえなかった。

 

「薄々は予想していたが、いざ現実を目の前にすると……」

 

「気にするな、敵は敵として処理するだけだ」

 

リボルビングバンカーのカートリッジを交換するアルトアイゼン・改からの淡々とした指示。僅かな反発の反応が返ってくるが、それでもキョウスケは淡々と指示を続ける。

 

「相手に同情して、撃墜されればあいつらの二の舞だ。それが嫌ならば、戦うしかない」

 

同情すれば死ぬのは自分達だと言うキョウスケの言葉。だがそれは嘘偽りの無い真実でもあった。

 

「……ドライね、キョウスケ。大丈夫?」

 

業と悪役めいた事を言うキョウスケに接触通信でエクセレンが大丈夫と尋ねる。どれだけ怒りを感じていても冷静であろうとするキョウスケ、だが接触通信で聞こえてくるアルトアイゼン・改のコックピットからは唇を噛み締める音と拳を握り締める音がヴァイスリッターのコックピットに響いていた。

 

「そう考えなければ、怒りを飲み込めん……ッ」

 

「……そうね、私達で終わらせて上げましょう。望んでいない戦いを強いられているあの人達を……」

 

レールガンやミサイルポットの展開をするアーマードモジュール、その生気の無い反応にエクセレンは沈鬱そうに目を伏せ、それでも戦う為にヴァイスリッターの操縦桿を強く握り締めるのだった。

 

 

 

 

 

ホワイトスターの内部でキョウスケ達の戦いが始まろうとしている頃。ホワイトスターから定期的に出撃してくる無人機と戦っているヒリュウ改を初めとした連邦艦隊に武蔵達はやっと合流していた。

 

『武蔵君! そして教導隊の皆さん! 早くヒリュウ改へ着艦してください! この場の戦闘は私達に任せて、突入班の応援の為の補給と休息を行ってくださいッ!』

 

連邦艦隊が追い込まれているのを見て、即座に応援に入ろうとした。だがそれを制したのは、レフィーナを初めとした連邦艦隊の戦艦の艦長達の声だった。

 

『ここで消耗をしてどうする!』

 

『貴方達の戦いはここではないッ!』

 

『ここは私達の戦場だ! 敵の本丸で戦う事が出来ないが、それでも己のやるべき事は弁えている』

 

ここは自分達に任せて休息をと言う声に武蔵達は何も言えず、格納庫を開放したヒリュウ改へと着艦する。

 

「今から補給と破損部分の簡易修復を始めますッ! 僅かな時間でもいいので休息してください!」

 

「仮眠室はこちらです」

 

あれよあれよと言う間に武蔵達は仮眠室に押し込まれていた。

 

「ちょっと予想外なんですけど」

 

「今ここにいる者全員が自分に出来る戦いに全力を尽くしているんだ。それに、今のこの状態でホワイトスターに乗り込んだとしても……」

 

「足手纏いになる。キョウスケ達が持ちこたえてくれている事を信じて、少しばかり休ませて貰おう」

 

肉体的な疲労は勿論、精神的な疲労も蓄積している。それになによりも、ゲッターロボを初めとした搭乗機が中破していては、このまま乗り込んでも的か盾になる事しか出来ない。ここは応急処置でも構わないから修理を済ませ、そして休息を取るべきだとゼンガー達は判断していた。

 

「……武蔵、あの化け物はどうなった?」

 

「えっとなんか青い髭のロボットに助けられながら何とか倒せました。アクセルさんって言うパイロットで……ギリアムさん、どうかしました?」

 

「あ、いや、なんでもない。すまないが、経口食糧を取ってくれるか?」

 

僅かに動揺した素振りを見せたギリアムだが、誤魔化すように仮眠室に用意されていた経口食糧を武蔵に取るように頼む。

 

「どうぞ、ゼンガーさん達もどうぞ」

 

全員に経口食糧を配り、武蔵自身もキャップを外して口をつける。

 

「……なんともいえない味ですね。これ……」

 

「栄養価だけを取る物だからな、味は良くないさ……だがこれでも昔よりは大分マシだよな。ラドラ」

 

「……あれなら生肉を齧っていた方がマシだ」

 

昔の経口食糧はもっと酷かったと笑いあうラドラとカイ。それを見ながらゼンガーとエルザムも経口食糧を口にして眉を顰めている。

 

「これが終わったら、皆でパーティだな」

 

「あ、それならオイラ。潜って貝とか採ってきますよ」

 

「む、それなら俺は釣りだな」

 

「はははッ! それは良いな。俺も楽しみだよ」

 

全員で笑いあい、仮眠室のベッドに横になる。寝るわけではない、目を閉じて身体を休めているだけでもかなり楽になるからだ。

 

「補給と修理は済んでいるか?」

 

「はい、大丈夫ですが、もう少し休んでいてくれても大丈夫ですよ」

 

「いや、キョウスケ達が戦っているのに休む事は出来ん」

 

「それに気が緩むのが怖い、補給も修理も済んでいるのならば出撃準備をする」

 

カイからまず機体に乗り込み、それに続いてゼンガー、エルザム、ギリアム、ラドラも機体に乗り込んでいく、そして最後にベアー号に乗り込んだ武蔵はその瞬間に妙な違和感を感じていた。

 

(……兄弟、そっか、そうなんだよな)

 

乗り込んだだけで感じる一体感、そして張り詰めた空気――それに武蔵は言葉に出来ない何かを感じ取っていた。

 

『武蔵君、どうかしたのか?』

 

「いえ、なんでもないです。行きましょう、リュウセイ達が待ってますから」

 

エルザムの心配そうな声に何でもないですよと明るい声で返事を返し、ゲッターロボに乗り込みエルザム達から僅かに遅れてヒリュウ改から出撃する。

 

「ここからか、急ごう。ここまで戦闘の音が響いている」

 

「ああ、嫌な予感がする」

 

クロガネが抉じ開けたホワイトスターの風穴からホワイトスター内部に侵入する武蔵達。周囲を警戒しながらホワイトスター内部を進む武蔵達だったが――。

 

「いかん! 散開しろッ!!」

 

「あぶねえッ!?」

 

「今のは……」

 

「ゲッタービーム……だな」

 

隊列を組んで進んでいた武蔵達の前方から空間を焼き払ったのは紛れも無いゲッタービームの輝きだった。

 

「ビアン総帥か……やはり苦戦しているようだな」

 

「急ごう、遅れた分を取り返さなくては」

 

月面に残り遅れた分を取り返そうというギリアムの言葉に頷き、再びホワイトスター内部を進む武蔵達の前に熱源が1つ現れ、警戒する武蔵達の前に現れたのは、その場にあってはならない機体の姿だった。

 

「あ、R-GUNッ!? なんで、あれはオイラが壊したはずじゃ」

 

「……エアロゲイターの複製か?」

 

「何にせよ、敵ならば破壊するまでだッ!」

 

好戦的なラドラがビームクローをR-GUNに向けた時。R-GUNは両手を上げ、降参の素振りを見せながら広域通信を繋げて来た。

 

『待って私は敵じゃないわ、ヴィレッタ・バディム。マオ社のスタッフよ』

 

敵じゃないと告げるヴィレッタだが、R-GUNに乗っている事もあり、敵じゃないと言ってもそれをはいそうですかと言って信じる事は出来ないでいた。

 

「何故マオ社のスタッフがここにいる?」

 

『私はヒリュウ改と共に統合軍との戦いに参加した後、リン社長の命令で単独でエアロゲイターの調査任務を遂行していた……そしてその道中でエアロゲイターに捕まり、ここに投獄されていたの』

 

「クロガネの襲撃で牢が壊れたという事か……」

 

「一応筋書きは通っているが……」

 

クロガネの攻撃はホワイトスターの内部を破壊している、その中には確保した地球人を閉じ込めておく区画らしきものもあった。一応話の筋は通っている。

 

「だがそのR-GUNは何なんだ? 何故それを選んだ?」

 

『脱出するのに必要だったのよ、調べた所おかしな所もなかったからこれに乗って脱出する事にしたら、貴方達に出会ったの』

 

「疑わしくはある、だが今は戦力が欲しい。お前の言い分を信じよう」

 

「いや、ラドラ。そこまで言わなくても、味方だぜ?」

 

「武蔵、お前は甘い。人間は笑顔で人を殺す、まず疑って掛かるべきだ」

 

既にヴィレッタを信用している武蔵にラドラの鋭い言葉が向けられる。武蔵はゲッターロボに乗ったまま、ゼンガー達の機体を見るが、ゼンガー達も同じ考えなのか黙り込んだまま警戒する素振りを見せている。

 

『……貴方の言うことは最もだ。でも、私の目的はエアロゲイターによる災厄を止めること……信じろというのが難しいのは判っているわ……だから私の行動に疑いが生じたのなら……いつでも私を撃って構わないわ』

 

疑わしいと思うのならば、スパイだと思うのならばいつでも撃ってくれて構わないというヴィレッタの言葉に、ギリアムがゼンガー達を説得するように前に出る。

 

「ここで押し問答を繰り返しても仕方あるまい、今は味方が欲しい。彼女を信用しても良いだろう。それに今は時間がない」

 

奥から響いてくる戦闘の音はより激しさを増している。ここで時間を掛けている場合ではないと言われ、ヴィレッタに対する詰問は終わり。再び武蔵達はホワイトスターの内部を目指す、そして開けた場所に出たとき――武蔵達の目の前に広がっていたのは想像を絶する光景だった。

 

「ぐ、グオオオオオオオオッ!!!」

 

「「「!?」」」

 

獣のような咆哮を上げるアストラナガン、そしてアストラナガンに破壊された異形のライガーの残骸と破壊し尽くされた荒廃した大地が武蔵達の目の前に広がっているのだった……。

 

 

 

第80話 因果の鎖 その2へ続く

 

 




インセクトケージはアストラナガン(暴走)とのバトルに変更。これも全部ウルトラマン大好きおじさんの仕業なんだッ! あ、ちなみにあんまり役に立たないけど赤いおばさんも出てくる予定です。まぁトラウマシャドーを使っても、自分がトラウマを植え付けられる結果になると思いますけどねッ!それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第80話 因果の鎖 その2

第80話 因果の鎖 その2

 

武蔵達がヴィレッタと合流した時から少し時間は遡る。武蔵達よりも3時間早くホワイトスターに突入したリュウセイ達は苦しみながらも、エアロゲイターに拉致されたDC、そして連合の部隊の迎撃をしていた。

 

「うっ! うえっ……おえっ……ッ!」

 

グルンガスト弐式のコックピットの中でクスハのえづく声が響く、それを聞いたブリットは今撃墜されたばかりのリオンをヒュッケバインMK-Ⅱの背中で隠しながらクスハに声を掛ける。

 

「クスハ! 大丈夫か、無理ならば下がった方が良い」

 

破壊したリオンのコックピット部……そこにほんの僅かにある空間を見たクスハ、人間が納まるべき部分にある小さな箱。それが拉致された人間だと理解してしまったクスハは込み上げる吐き気を抑えることが出来なかった。

 

「だ、だいじょ……うっ……」

 

「クスハ、1回後退しましょう。リョウト君」

 

「……うん、僕なら大丈夫。リオも下がってくれて大丈夫だよ」

 

念動力持ちの中でも強力な念を持つクスハは僅かに残されていた人間の部分の死を恐れる念に当てられていた。そしてそれはリオやリョウト、ブリットも同じだったが、男性と女性の差があり。ダイレクトに念を受けてしまったリオとクスハに下がるようにリョウトとブリットは促す。

 

「レオナちゃんは大丈夫かい?」

 

「うっ、舐めないでちょうだい。私はこの程度ではへこたれはしないわ」

 

ジガンスクードのタスクの心配そうな言葉を気丈な言葉で言い返すレオナだが、その声に普段の声の張りは無い。

 

「レオナ、悪いがクロガネから弾薬を持ってきてくれ、あたしもラッセルも少し弾薬を使いすぎた」

 

「中尉……」

 

「上官の命令だぞ」

 

「……はい、すぐ戻ります」

 

不服そうだが、上官命令と聞いてレオナのガーリオンは反転し、クロガネへと引き返していく。

 

「すいません、中尉」

 

「気にすんな、だがレオナの分も働けよタスク」

 

「うっすッ!」

 

ラッセルのゲシュペンストに積み込んでおいた最後のM-13ショットガンのカートリッジを交換し、急降下してきたリオン目掛けて引き金を引くカチーナ。

 

「ちっ、胸糞わりぃ」

 

「そうは言ってもしょうがないだろ」

 

計都羅喉剣を振るうグルンガストがカチーナに通信を繋げながらぼやく、異星人の基地に突入したと思ったら戦っているのは洗脳や、肉体改造を施された同じ星の人間では苛立ちを覚えるのも当然だ。

 

「……判ってると思うが、激昂するなよ」

 

「一々言われなくても判ってる」

 

中尉と言う立場同士、キョウスケを戦闘指揮官にしているが、それでも完全にキョウスケに任せきりではない。激情型のカチーナが思ったよりも冷静だったのを確認し、クスハ、リオとのコンビを解散しているリョウトとブリットに声を掛ける。

 

「余り弾薬とエネルギーを使うなよ、敵の増援はまだ来るぞ。俺が一撃叩き込む、トドメは任せる」

 

「了解ッ!」

 

特機であるグルンガストはPTよりもはるかに燃費は悪い、だがエネルギーを使う武器を最小に押さえれば戦闘時間は格段に増える。一撃叩き込み、敵の出鼻をくじきそこをリョウトとブリットにトドメを刺すように命令し2機を引き連れてランドリオンの部隊に突撃していく中。イルムは戦況を見て小さく舌打ちをしていた。

 

(まだドラゴン達は出てこないか)

 

今戦っているのはあくまで地球のPTだ。だがエアロゲイターにはドラゴン、ライガー、ポセイドンと言う規格外の特機の存在がある。それがまだ戦場に出ていない……それは拉致した兵士を使い、こちらの精神と弾薬を削る目的だという事は明らかだ。

 

(鬱陶しい手を使ってきやがるぜ)

 

余りにも悪辣なその一手、そして同胞殺しをしなければならない事にイルムの顔はグルンガストのコックピットの中で鬼のような形相をしているのだった……。

 

 

 

 

4体のバレリオンの胴体にリボルビングバンカーを突き立てて容赦なく地面に叩きつけると同時に引き金を引いたアルトアイゼン・改。ゲッター線コーティングにより、並みのPTを越える耐久度を手に入れたとは言え、パイロットは生身の人間である。限界はもうとっくの昔に超えていた……。

 

「うっ……ぐ」

 

込み上げてくる血を飲み込みきれず、嗚咽するするキョウスケの声を聞いて即座にエクセレンがバックアップに入る。

 

「キョウスケ、無理しすぎよ」

 

コックピットの中で脂汗を流すキョウスケにエクセレンが声を掛ける。コックピットの中でキョウスケの額には大粒の汗が浮かんでおり、その顔色も決して良くは無い。

 

「……大丈夫だ。早く殲滅する事で敵の本陣を誘い出したい」

 

「それは判るわ、でも無茶しすぎよ」

 

カートリッジを交換しようとして、零れ落ちたリボルビングバンカーのカートリッジをヴァイスリッターが拾い上げる。

 

「バンさん、ごめんなさい。キョウスケがちょっと不味いの」

 

「了解した、各員アルトアイゼンとヴァイスリッターの穴埋めに入れ、残りの人員は私に続け」

 

まだ戦えるというキョウスケだが、目の前が歪んでいるのは明らか。ヴァイスリッターを簡単に振りほどけるだけの出力があるアルトアイゼン・改がヴァイスリッターに引きずられているのでそれは明らかだ。

 

「まだ敵の本陣は出てこないわ、そんな有様でどうするの? キョウスケ」

 

「……すまん」

 

「良いわよ、あなたのフォローをする為に私がいるんだからね。ほら、カートリッジを交換してあげるわ」

 

エクセレンの言葉に頷きリボルビングバンカーの空薬莢を排出する。そこにヴァイスリッターが替えのカートリッジをセットする。

 

「少し休んで、息を整えるだけでいいわ」

 

得意の空中戦を捨て、地表でオクスタンランチャーを構えるヴァイスリッター。その姿を見て、キョウスケはまたすまないとエクセレンに謝罪の言葉を口にして、ほんの少しだけ目を閉じて意識を集中させる。

 

「ガーリオン・レオカスタムの名は伊達ではない、ソニックブレイカーセットッ!!」

 

バンの駆るガーリオン・レオカスタム。獅子の名は偽りでもなんでもない、肩部と膝部に形成されたエネルギーフィールドは大口を開けたライオンその物であり、リオンやガーリオンが密集するエリアに飛び込むと同時にそのライオンを連想させるエネルギーフィールドで容赦なく敵の密集地帯を蹂躙する。

 

「バン大佐に続け、ソニックブレイカーセット!」

 

「「「「ソニックブレイカーセットッ!!」」」」

 

そしてバンが切り込んだ後をガーリオン部隊がソニックブレイカーの密集展開を行い、容赦なくリオン達を撃墜していく

 

「親父! まだかよ!?」

 

「いつまでももたねえぞッ!」

 

サイバスターとヴァルシオーネに護衛され、ゲッターVはその全身を翡翠色のゲッター線のエネルギーに包まれていた。

 

「良し、ターゲットマルチロック。オメガ・プレッシャー発射ッ!!!」

 

ゲッターVの全身を包んでいたゲッター線の光が弾けると同時にエアロゲイターに拉致されたリオンやガーリオンだけが地面に叩きつけられる。

 

「指向性の重力波による超広範囲攻撃……」

 

「それってもしかしてグランゾンって同じって事? ラトゥーニ?」

 

「ゲッター線が加わっているから、グランゾンより強力かもしれない」

 

「……はんぱねえな。だけど、今は味方って事がありがたいな」

 

地面に叩きつけられ圧壊していくリオン、そしてガーリオン。一歩間違えれば自分達も巻き込まれていたが、断続的に増援が送られてくる事を考えるとこうして一掃出来たのはありがたいことだった。

 

「クロガネ、敵機の反応はどうなっている?」

 

「あ、は、はいッ! 敵機の全滅を確認!」

 

ビアンからの広域通信で索敵結果を教えてくれと言われ、エイタが慌てた様子で敵機の反応が無いと言うことを伝える。

 

「そうか、だがこの程度エアロゲイターからすれば挨拶代わりだろう。本命がそろそろ来るぞ、気をつけたまえ」

 

ビアンの言う通り最初に地球のAMを送り出してきたのはただの威力偵察。地球側のAMが全滅した今、敵の本命が姿を見せると考えるのは当然の事だ。

 

「ッ! この感じは……ッ!?」

 

「アヤ大丈夫かッ!? うっ……俺もかよッ!」

 

敵の本命の出現を考え、分離形態で戦っていたSRXチーム。だが突如蹲りリュウセイとアヤの苦悶の声が周囲に響いた。

 

「リュウセイ! 大尉、しっかりして下さいッ!」

 

ライが即座にR-1とR-3のバックアップに入るが、2人の苦悶の声は一向に収まる気配が無い。

 

(この波形パターンは……ジュネーブの時のいえ、マイ・コバヤシの物と同じだわ……!)

 

クロガネの護衛の為にクロガネの周辺で待機していた白のシュッツバルトのコックピットの中でラーダがリュウセイとアヤの異変の正体に気づき、慌てて声を上げる。

 

「リュウセイ! アヤッ! T-LINKコネクターを40%カットして!」

 

その言葉に従い、リュウセイとアヤがそれぞれのコックピットで顔を歪めながら、コンソールを操作すると2人を襲っていた頭痛は嘘のように消え去っていた。

 

「リュウセイッ! 大尉、大丈夫ですか!?」

 

「あ、ああ。大丈夫だぜライ、心配させちまったな。俺は大丈夫だ、アヤは大丈夫か?」

 

「え、ええ……私も大丈夫よ」

 

頭痛が消えたアヤだが、さっきの念動力の中に自分の心の中を見通すような視線を感じ、その念波の持ち主の事に一瞬考えが向いたが、エ

イタからの緊急報告に顔を上げる。

 

「艦長! 新たな敵機が転移出現します!!」

 

転移で出現したのは無数のドラゴン、ライガー、ポセイドンの姿。だがそれだけではない、地響きと共に姿を現したそれに全員が絶句した

 

「「「「グオオオオーーーーッ!!」」」」

 

「め、メカザウルス! なんでエアロゲイターが……」

 

「アイドネウス島から離脱した固体を確保したんだろうよ、数が少ないのが救いだが……こりゃ不味いな」

 

数は4体と決して多くは無い、だがエアロゲイターの技術で更に改造されたであろう生物と言うよりも、ロボットと言う印象の強くなったメカザウルス・ゼンⅡが2体と3つ首に改造されたメカザウルス・ズーが姿を見せる。だが、エアロゲイターの増援はそれだけで終わりではなかった。

 

「全く、あんた達はどれだけあたしの計算を狂わせれば気が済むんだい?」

 

「ヒャーハハハッ! 最終ステージだッ! てめえらをぶっ殺してやるぜえッ!!」

 

そして最後に4つ腕に龍の下半身を持つ異形のドラゴンとライガーの名前通り、4つ這いの獣の姿でありながら、その背中に2つのドリルアームと2つの花弁のようなマニュピレーターアームを持つ異形のライガーが空間を引き裂くように姿を現すのだった……。

 

 

 

 

アタッド・シャムランはライドルスのコックピットの中で舌打ちをしていた。折角分析したハガネとクロガネのPT隊のトラウマシャドーは発動する事無く霧散し、予定を繰り上げ自らが戦場に出た事に苛立ちを隠せないでいた。

 

(まぁいいさ)

 

警戒するべきゲッターロボはいない、ならば今の内にリュウセイ達を洗脳して手駒にしてしまえばいい、4機ずつのドラゴン達とメカザウルスが4機。そしてドラグルとライドルスがあれば負けることはないと考えていた。

 

「フン……まぁ良いさ。それにしてもあんたらも馬鹿だねえ、ガルインやここにいる連中のように、あたし達に操られてる方が幸せだってのにねえ」

 

「どういう意味だ!?」

 

自分の言葉に真っ先に噛み付いてきたサイバスターにアタッドは嘲笑するような笑みを浮かべた。この連中はこんな簡単な事も判っていないのかと、これだから野蛮な猿は困ると笑みを深め、自分達が選りすぐれた種族である事を疑いもしない表情で告げる。

 

「考えてもごらん? 辛い過去やトラウマなんかに悩まされることなく……ただひたすら、戦いに専念出来るんだよ。あんた達には本望だろ?」

 

「ふざけんな! 俺達は好きで戦ってんじゃねえ!」

 

「お前達の尺度で私達を語って欲しくは無いな、エアロゲイター」

 

マサキとビアンの言葉にアタッドはますます馬鹿にするような声を上げた。

 

「い~や、好きで戦ってるね。ゲーザのようにさッ! 戦いが好きでもなけりゃ、わざわざこんな所まで来ないよ」

 

自身の横に滞空する異形のドラゴンの頬を撫でながらアタッドは不愉快な笑い声を上げる。

 

「そんな戦闘種族だから、ネビーイームとジュデッカはあんた達に目を付けたんだ。この銀河系の中でも突出した闘争本能を持つ地球人にね! そう、ゲーザ・ハガナー……いや、テンザン・ナカジマがそのいい例だよ」

 

アタッドから告げられたテンザンの名前にもしやと思っていたが、その予想が確信へと変わった瞬間だった。

 

「さあ、ゲーザ……奴らをあんたの仲間にしてやりな、多少傷物にしても、あんたと同じように身体を作りかえてあげるからね……ウフフ」

 

地球で死んだテンザンは頭部しか残されていなかったが、それを再生しゲーザへと作り変えたのはアタッドだった。エアロゲイターの技術力さえあれば、死人であったとしても生き返らせる事は不可能ではなかった。

 

「ヒャハッ! いいんだな!? ブチ殺しちまっても良いんだな!?」

 

「ああ、いいともさ! その方が扱いやすいからねえ!」

 

なまじ生きていて、自我が残っていたら扱いやすくて仕方ないよと笑うアタッドにゲーザは狂ったような笑い声を上げた。

 

「ヒャハハハッ! やってやるッ! やってやるってのッ! どいつもこいつも血祭りに上げてやるぜッ! プチプチ潰してやるぜ!!ッ プチプチプチっとなぁ! ヒャーッハッハッハッハァ!!」

 

その声、そしてその言動にゲーザがテンザンであることはリュウセイ達の頭の中にもあった。だがそれを実際に目の当たりにすると少なくない衝撃を受けていた。

 

「テ、テンザン……ッ!」

 

自分が殺した相手が再び目の前に立ちふさがる。その悪夢のような光景にリュウセイは思わず息を呑んだ。

 

「リュウセイ……判ってるな? 俺達には時間がない」

 

一度は殺した、だが洗脳されているのならば、もしかすれば今度は救えるのではないかと言う考えが脳裏を過ぎったリュウセイにキョウスケの冷酷とも取れる警告が告げられる。

 

「……情けは無用だぞ、どの道救うことは出来ない」

 

既に人間として死んでいて、そこをエアロゲイターによって生き返らせられたテンザンは最早人間ではない。割り切れとキョウスケに告げられ、リュウセイはR-1の操縦桿を強く握り締めた。

 

「ああ……俺達の手で終わらせてやるしかねえ……ッ!!」

 

「何を言ってやがる! 終わるのはてめえらの方だってのッ! ヒャッハッハッハァッ!!」

 

通信に割り込んできたゲーザの笑い声にリュウセイは顔を顰めると同時に、テンザン……いや、ゲーザを自分が倒すべき敵として睨みつける。

 

「そうさッ! その後で、あんた達に新しい人生を歩ませてやるよ! あたし達バルマーの忠実な兵器に仕立て上げてねえ! あはは、あーははっ!!」

 

狂ったように笑うアタッドにリュウセイ達の敵意が向けられるが、アタッドはそれこそがリュウセイ達戦闘種族である証拠だと高笑いを続ける。

 

「さぁ! 行きな! あいつらをぶっ殺して、お前達の仲間にしてやるんだよッ!」

 

アタッドのその合図でドラゴン達はPT隊に向かって駆け出す。

 

「リュウセイ! SRXだッ!」

 

「合体までの時間はコッチで稼ぐ!」

 

このような状況を想定して、SRXに合体していなかったのだ。ブリットやイルムが支援に入ってくれる中。SRXチームは合体フォーメーションに入る

 

「ヴァリアブルフォーメーションッ!!!」

 

ミサイルやドラゴンが投げつけたダブルトマホークが合体を阻止せんと攻撃を繰り出す。

 

「リュウセイ達の邪魔はさせない」

 

「ラッセル! 上行ったぞ!」

 

「了解!」

 

「はいはーい、そのくす玉は必要無いのよねえッ!!」

 

ラトゥーニ達の射撃がミサイルやトマホークを撃ち落し、火炎弾や電撃を吐き出そうとしたメカザウルスの前にはグルンガスト達が立ち塞がる。

 

「邪魔はさせないぜ」

 

「全く無粋な奴らだ。スーパーロボットの合体を邪魔するのは許されないと知れ」

 

ディバイントマホークやブーストナックルの一撃を叩き込まれ、メカザウルスの攻撃も防がれる。そしてホワイトスターの中に鋼鉄の巨神が降臨する。

 

「よっしゃあッ! 合体完了!」

 

地響きを立てて着地したSRXはドラゴンやメカザウルスではなく、ゲーザの乗るドラグルにその視線を向ける。

 

「リュウセイ」

 

「何だ? 何かトラブルか」

 

今正に駆け出そうとした瞬間にライからの通信。R-1のコックピットには異常はでていないが、もしかして何か異常が起きたのかと思っているとライは機体トラブルは無いと返事を返したが、その顔は神妙なままだ。

 

「判っているな? 大尉の事を……」

 

「ああ。ヤバくなったらR-3を切り離すんだろ?」

 

SRXはアヤに掛ける負担が大きい、ここからは連戦になる事を想定し最悪の場合の打ち合わせをライはしたかったのだ。

 

「……お前も頭の回転が速くなったな」

 

「うるせえ。宇宙空間に出れば脚はただの飾りだ。なくても戦える。それに……最悪の場合、SRXは俺1人で動かしてやる。その代わり、サポートをキチンとしろよ」

 

「誰に向かってそれを言っている?」

 

「ヘッ……。アテにしてるぜ、ライ」

 

「俺もだよ、リュウセイ」

 

ここが正念場であり、命の賭け所である。リュウセイとライは強い決意の光をその目に宿し、ドラグルに向かってSRXを走らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

異形のドラゴンとSRXの激突を合図にホワイトスターの内部での戦いの幕が開いた。

 

「ヒャーハハハッ!! 死ねええッ!!」

 

「舐めんなあッ!!」

 

4つの腕から振るわれるダブルトマホークはその巨躯もあり、一撃でも当たればSRXでも致命傷になりかねない一撃だった。だが極限まで高められた集中力とゲッター合金によって作られたモーターにより、SRXは当初の想定を越える滑らかな動きを実現していた。

 

「がっ!?」

 

「おっらああッ!!!」

 

腕でダブルトマホークの切っ先を防ぎながら間合いに飛び込んだSRXの豪腕が容赦なく、ドラグルの頭部を貫き怯んだ隙にブレードキックの回し蹴りが胴体へと叩き込まれる。

 

「逃がすか、ガウンジェノサイダーッ!!」

 

「へっ! そんなの喰らうかよッ!!」

 

SRXの目から放たれた念動波とドラグルの頭部から放たれたビームがぶつかり爆発を起こす。

 

「どりゃああッ!!」

 

「がっつ!? なんで俺の場所が!?」

 

だが爆煙を突っ切り再びドラグルの間合いに飛び込んだSRXの容赦ない打撃がドラグルに叩き込まれる。

 

「リュウセイ! 余り調子に乗って突っ込むなッ!」

 

「判ってる! でもあの4つ腕は厄介だ! 1本だけでも奪うッ!」

 

近接戦闘においで腕の数と言うのは大きなアドバンテージの差となる。合体したばかりでエネルギーもリュウセイもアヤにも掛かる負担が少ないうちにリュウセイはドラグルの4つの腕の内1本でも粉砕する事を考えていた。

 

「貰ったああッ!」

 

「っ! てめえ! 腕をッ!」

 

振り払おうと無警戒に振るわれたドラグルの手首を掴み、SRXの超パワーで容赦なく肘から折る。リュウセイの目的が4つの腕を破壊することだと気付いたゲーザはSRXを間合いから引き離そうとするがリュウセイはそうはさせまいと距離を詰め、先手先手で攻撃を叩き込んでいく。

 

「!!!」

 

「いつまでも自分達が有利だと思うなよッ!」

 

量産型ドラゴン達は確かに脅威ではあった。だがフライトユニットを装備し、モーターなどを新調したゲシュペンスト・フライトユニットはドラゴンと互角とまでは言わないが、それでも決して一方的に追詰められるような状況ではなくなっていた。

 

「ちえいッ!!」

 

「!?」

 

「ふー……漸く掴んだぞ、この一太刀ッ!」

 

ブリットの駆るヒュッケバインMK-Ⅱには固定武装を除けば、シシオウブレード一振りしか武器を搭載していなかった。だが極限まで追詰めた事により、ブリットの才覚が覚醒していた。擦れ違い様の一閃、それでライガーの首は飛び地面に墜落する。

 

「凄い……だけど僕も負けてられない」

 

ブリットと異なりリョウトは単独でドラゴン達を撃墜するだけの能力は無かった。だからリョウトには自分に出来る戦いを全力でやる事を考えた、それは決して派手な戦いではない。むしろ地味ともいえる戦いだが、それでもリョウトの戦いは戦況に大きく影響を与えていた。

 

「チャフグレネード、1~4番連続射出、スパイダーネット射出!」

 

相手が生身ではなく人工知能だからこそ有効な一撃。チャフグレネードとスパイダーネットの乱射によって索敵能力を失ったドラゴンや、機動力をそがれたライガー達はDC戦争、そしてエアロゲイターとの戦いを切り抜けてきたPT隊にはただの的に過ぎなかった。

 

「ターゲットロック! ブラックホールキャノン発射ッ!」

 

「……そこッ!」

 

ヒュッケバイン009からヒュッケバインに乗り換えていたリオの放ったブラックホールキャノンの一撃は前後不左右になっているドラゴンを飲み込み、ラトゥーニの正確無比な一撃はライガーの翼を射抜きその機動力を奪い取る。

 

「ガーネット! 合わせろ!」

 

「そっちも外さないでよ!」

 

「行くぜッ!!」

 

機動力を失ったドラゴン達にアーマリオンに乗り込んだジャーダとフライトユニットを装備したガーネットとカチーナのゲシュペンストが追撃にでる。

 

「ソニックブレイカーァァッ!!!」

 

「「ジェットマグナムッ!!!」」

 

音速の3連撃が叩き込まれドラゴン達は僅かな時間差を残して爆発する。

 

「うっし! ミサイルクラスター発射ッ!!」

 

「ここまで来たんだから出し惜しみ無しで行くわよッ!!」

 

弾幕の中を潜り抜けるように真紅のゲシュペンストが進み、大口を開けていたメカザウルスの口の中にジェットマグナムを叩き込む。

 

「へっ全然怖くねえな、そっちはどうだ? レオナ」

 

「こちらも問題ありません、中尉」

 

確かにメカザウルスは戦力としては強力だった。そしてハガネやヒリュウ改で戦ったパイロット以外ならば太刀打ちできなかっただろう……だがアタッドは致命的なミスを犯している事に最後まで気付けなかったのだ。

 

「なんだ? こいつら全然怖くねえ」

 

「多分だが、AI制御のせいだろうよ」

 

メカザウルスが脅威たる由縁はその闘争本能にあった。だが制御しやすいようにAIで操作されるメカザウルスに本来のメカザウルスの闘争本能などは無く、強力な武器を持つ特機程度の脅威でしかなかったのだ。

 

「なんで、なんで!? こんなに簡単にやられてしまうんだいッ!?」

 

数も戦力も自軍が上のはずなのに追い込まれている。その理解出来ない光景にパニックになったアタッド、だが戦場でパニックになるということは死を意味している。

 

「それは人の心を理解しないお前には到底理解できないだろうよ」

 

横殴りの一撃に正気に戻る。だが正気に戻らない方がアタッドは幸せだったのかもしれない。ゲッターV、サイバスター、ヴァルシオーネ、そしてアルトアイゼン・改、ヴァイスリッターの5機に囲まれている事に気付いたアタッドは、即座にライドルスを走らせる。

 

「直線距離なら追いつけん道理は無いッ!!」

 

「なっ!?」

 

ただ機体性能だけで選んで乗り込んだアタッドにライドルスを操る技能は無く、直線に逃げるだけのライドルスに追いついたアルトアイゼン・改のリボルビングバンカーが突き刺さる。

 

「ぎっ!」

 

「リューネ」

 

「判ってるよ、親父ッ!!」

 

ライドルスは巨大化し、異形になった為に本来のライガーの飛行能力を持ち合わせていなかった。僅かに浮遊し、高速で移動するという特性上背部に喰らったリボルビングバンカーの一撃に高度が僅かに落ちた。そしてそこを狙い済ませたようにゲッターVとヴァルシオーネがその手に宿った螺旋状の光を向ける。

 

「はいはーい、親子攻撃に混ざるのはちょっと思うところがあるけど、私も混ざるわよ」

 

「ふふ、構わんよ。行くぞ! リューネッ!!」

 

「ああ、判ってるッ!」

 

「「クロスマッシャーッ!!!!」」

 

ゲッターVとヴァルシオーネのクロスマッシャーが交じり合い、巨大な一条の光になる。ゲッター線の光も混じったその光に恐怖したアタッドは背中の4本のマニュピレーターアームを全てドリルアームへと変形させる。

 

「じょ、冗談じゃない、あんなの喰らう訳にはッ!?」

 

地中に逃げようとしたアタッドだが、狙い済ましたヴァイスリッターの一撃がライドルスの顔面を貫く。それはダメージなどは殆どなかったが、一瞬硬直させるには十分な威力があった。

 

「ぐ、ぐああああああッ! くそ! ふざけるんじゃないよッ! あ、あたしがこんな所でぇッ!! ゲーザァッ!」

 

クロスマッシャーの光に飲み込まれながらも、ライドルスの機動力で直撃を回避したアタッドがゲーザの名を呼んだが、アタッドの耳に届いたのはリュウセイの裂帛の気合に満ちた雄叫びだった。

 

「天上天下念動無敵剣ッ!!!」

 

「うぐっ……かっ…!?」

 

「う、嘘だろッ!?」

 

SRXの手に握られた天上天下無敵剣の一撃でコックピットブロックは僅かに外しているが、唐竹割りに両断され爆発する一歩手前のドラグルの姿にアタッドは信じられないと言わんばかりに目を大きく見開いた。だがそれは夢でも、幻でも無く現実だった。

 

「今度こそ終わりだ、テンザン!!」

 

「かっ……かか……ッ!。そ、そそそうだ……あ、あああ、ああッ! 明日は……ははは……ッ! 明日ははは………バーニングググPTの……けけ決勝大会じゃねえええか……」

 

爆発するドラグルの中でゲーザではなく、テンザンの記憶が蘇ったゲーザの壊れた声が周囲に響き渡る。

 

「い、いいい家に帰って、マママシンの設定しなきゃなななな……そ、それでででで……どいつもこここいつもブチ倒しててて、やる……ッ! どいつもこいつももも…ななッ!! ヒャ、ヒャハハ……ヒヒヒハハハ……! ヒャハハハハハ…ッ!!! ヒャーッハッハッハッハァァァ!!」

 

狂ったように笑いながらゲーザ……いや、テンザンは最後まで笑いながらドラグルの凄まじい爆発の中に消えていくのだった……。

 

「嘘だろ、こんなの、こんなあっさりやられる訳が無い!」

 

自慢の戦力が簡単に撃破され、自分をも追詰められている事に動揺を隠し切れないでいた、だがそれでも冷静になろうと務めていた。自分はバルマー人だ、こんな所で死ぬ訳がない。パニックになっているアタッド、味方はいないかと探すが殆ど撃墜されこの場に生き残っているのは自分1人だと気付いたその時。獣のような雄叫びが周囲に響き渡った

 

「グオオオオッ!!!」

 

「ひっ! や、止めろ! やだ!? こ、こんなの、嫌だ、嫌だああアアアアーーーーッ!!!」

 

アストラナガンがライドルスの頭を踏みつけ、そして容赦なく放った漆黒の光がライドルスの全身を飲み込み、その場に残ったのは蜘蛛の巣状のクレーターと僅かに残ったライドルスの残骸だった。

 

「暴走しているのか……」

 

「これ凄くやばい状況なんじゃ」

 

ライドルスの残骸を何度も踏みつけ、完全に破壊したアストラナガンの真紅の瞳がゆっくりとリュウセイ達に向けられた。

 

「グルルゥ……グオオオオオオオオッ!!!」

 

次の瞬間凄まじい雄叫びが周囲に響いた。それは新しい獲物を見つけたと言わんばかりの飢えた獣の咆哮なのだった……。

 

 

 

 

第81話 因果の鎖 その3

 

 




今までは前哨戦。ついにボスユニットとしてのアストラナガン(暴走)が降臨しました。ゲーザ、アタッド戦がさっぱりしていたのはメインがアストラナガン戦だからですね。次回は武蔵達も合流し、アストラナガン戦。イングラムがどうなるのか、そこを楽しみにしていてください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第81話 因果の鎖 その3

第81話 因果の鎖 その3

 

 

それは突然の襲撃だった。天井を突き破り、異形のライガーを足で踏みつけて逃れられないようにしてから、執拗に打ち込まれた黒い弾雨。それに異形のライガーは抵抗も出来ずに破壊され、そしてコックピットであろう頭部も容赦なく踏み潰された。

 

「グルル……グオオオオーーーーーーッ!!!!」

 

ホワイトスター内部に響き渡る獣の咆哮。それにリュウセイ達を初めとした突入隊は怯えを隠しきれず、ゆっくりと近づいてくるアストラナガンに無防備な姿を晒すことしか出来ないでいた。

 

「グルオウッ!?」

 

爪を振り上げようとしたアストラナガンだったが、リュウセイ達の背後から飛んできた翡翠色の輝き――ゲッタービームによって弾き飛ばされた。

 

「お待たせッ! ぎりぎりで間に合ったみたいだな」

 

「全員無事な様で良かった、ゼンガー、エルザム! 間に合ったぞッ!」

 

「窮地に間に合ったのならば良し」

 

ゲッターロボを筆頭にゲシュペンスト・リバイブ(S)やグルンガスト零式・改の登場に僅かに安堵の色が広がる。それほどまでに真紅の目を輝かせるアストラナガンは脅威であり、そして逃れられない死を連想させた。だが、いままでどんな戦場でも勝利に導いてくれたゲッターロボの存在は紛れも無く精神的支柱だった。ゲッターロボと武蔵が居てくれればと言う思いは少なからずリュウセイ達の胸の中にあった。だが武蔵の声は非常に険しいものだった。

 

「こりゃあ、随分と厳しい戦いになりそうだな」

 

「……そのようだな。全員下がれ、足手纏いだ」

 

武蔵と同じく旧西暦を知るラドラの声、容赦の無い下がれという命令に勿論大人数が反発した。だが武蔵とラドラの意見は変わらない。

 

「死んじまうぜ、だから下がった方がいい。何も逃げろって言ってるんじゃない、弾薬やエネルギーを補充して戻って来てくれれば良いんだ」

 

そう言われれば、突入してから戦闘を続けている機体は全員がエネルギー切れを起こしかけ、そして弾薬切れを起こしかけていた。

 

「ここまで良く持ちこたえてくれた。暫くは俺達が足止めする」

 

「遅れた分は俺達が取り返す、無理をするな」

 

「そう言うことだ。逃げろといっているのではない、戦う為に1度下がれと言っているんだ」

 

ゼンガー達の言葉にこれ以上反発することは出来なかった。このまま残れば間違いなく死ぬ、それを防ぐ為に武蔵達が殿を務め、その間に補給を済ませろと言っているのだ。

 

「私は残らせてもらおう、ゲッターVはまだ健在なのでね」

 

「お、俺もだ! SRXもまだエネルギーは十分だぜ!!」

 

無限動力とまでは言わないが、ゲッターVは今までは重力エンジンをメインにしていたのでまだエネルギーには余裕がある。そして今合体したばかりのSRXもエネルギーが十分であるが故に残ると言った。それを武蔵は止めようとしたが、暴走しているアストラナガンを前にしてはこれ以上話している余裕は無かった。

 

「グルオオオオオオッ!!」

 

「来るぞッ! 残るって言ったんだ! 死ぬんじゃねえぞリュウセイッ!」

 

「判ってるッ! 教官を取り戻すチャンスをみすみす逃すつもりも無いし死ぬつもりもねえッ!!!」

 

地面を蹴り粒子の光を撒き散らしながら襲い掛かってくるアストラナガンを前に、ゲッター達は各々の武器を構え迎え撃つ構えを取るのだった。

 

 

 

 

高速で空を飛びながら射撃を繰り出し、隙を見て剣で斬りかかって来るアストラナガンとの戦いは激しさを増し、居住エリアから離れた工場区画にその舞台を移していた。

 

「オアアアアアアアーーーーッ!!!」

 

「ぬっぐぐぐ、チェストォッ!!!」

 

零式斬艦刀とは比べるまでも無い細いZ・O・ソード。だがその切れ味は本物であり、弾き飛ばした物の零式斬艦刀には刃毀れが見え始めていた。

 

「そこだッ!」

 

「逃がさんッ!」

 

上空で反転し、急降下しようとしたアストラナガンにゲシュペンスト・リバイブ(S)とヒュッケバイン・トロンベ・タイプGのニュートロンビーム砲とフォトンライフルの光弾が突き刺さる……が、アストラナガンが常時展開している念動フィールドに弾かれ霧散する。だが霧散したことで生まれた光の幕に一瞬アストラナガンの視界が奪われた。

 

「この連撃受けきれるかッ!!」

 

「その首貰ったあッ!!」

 

放電した左右のメガプラズマステークの連撃と高速回転するビームクローがアストラナガンへと叩き込まれる。

 

「オオオオーーーッ!!!」

 

「ぐっ! これでも駄目かッ!」

 

「いや。効果はあるッ!!」

 

こめかみのフォトンバルカンで迎撃されたカイとラドラだが、強固な念動フィールドを一時的にも破壊することは出来たのだ。

 

「ゲッタァ……トマホークッ!!」

 

「うおりゃああッ!!!」

 

念動フィールドが失われたアストラナガンに高速で肉薄したゲッターロボとSRXのトマホークと天上天下無敵剣の一閃による傷跡が僅かにアストラナガンの体表に刻まれる。だがそれはとても浅くダメージと呼べる物ではなかった。

 

「メタルジェノサイダーデッドエンドシュートッ!!!」

 

「!!」

 

反撃にアストラナガンが動き出そうとした瞬間、ガンモードに変形したR-GUNの一撃がアストラナガンに撃ち込まれる。その時には既に念動フィールドが再展開されていたが、ゲッターロボとSRXが離脱する隙は出来ていた。

 

「助かりました!」

 

「いいのよ、私に出来るのはこれくらいだからね」

 

「……助かったよ」

 

武蔵のにこやかな感謝の言葉にヴィレッタが返事を返し、リュウセイがそれに合わせるように感謝の言葉を告げる。R-GUNに乗っていることもあり警戒していたが、それでもヴィレッタの支援が無ければ致命的な一撃を叩き込まれていただろう。

 

「不味いな、随分とクロガネの区画から引き離されてしまっている」

 

「合流が難しいと言う事ですか?」

 

「……いや、クロガネに無人機が差し向けられている。クロガネの護衛で恐らく補給に戻った部隊は合流できないだろう」

 

その言葉に思い沈黙が一瞬広がる。アストラナガンと言う規格外の特機相手に9機で戦わなければならない……それは非常に苦しい戦いになる。

 

「……狙いは外さん、貰ったッ!!」

 

「グルゥッ!?」

 

突撃しようとしていたアストラナガンに紅い光が正面からぶつかり、信じられない事にアストラナガンを殴り飛ばす。

 

「間に合ったか」

 

「キョウスケさん!? クロガネは!?」

 

「イルム中尉とカチーナ中尉に任せてきた。クロガネの戦力でゲシュペンスト・リバイブに匹敵するのはアルトアイゼンだけだからな」

 

カートリッジを交換しながら着地するアルトアイゼン・改。だが強化パーツである両肩のクレイモアは今のぶつかり合いが原因が既に半壊していた。

 

「大丈夫なのか、キョウスケ」

 

「問題ありません、隊長。それに俺達の仲間はそう簡単に倒れません。必ずや合流してくれるでしょう」

 

ゼンガーの言う大丈夫かは、キョウスケの身を案じた物であると同時にクロガネの護衛に残った面子を心配する言葉だったが、キョウスケは大丈夫だと断言した。その力強い言葉にゼンガーは何も言わず、再び零式・改に斬艦刀を構えさせる。

 

「1人増えたか、エルザム、ギリアム少佐、ヴィレッタ君は撤退支援と弾幕を頼む、ラドラとカイ少佐はバリア破壊、ブラックエンジェルは私と武蔵君、リュウセイ君にそしてゼンガーと……「キョウスケ、キョウスケ・ナンブ中尉です」キョウスケ中尉の5人で叩く」

 

ビアンが指示を飛ばすが、その指示に反対意見を持つ者は居なかった。僅かに傷をつけることに成功したSRXとゲッターロボだが、既にその傷は回復しており、真紅の瞳はますますその輝きを増している。

 

「敵機は広域攻撃に特化している。各員、敵の攻撃に注意し、臨機応変に対応。各々のフォローを忘れるな、さきほどの作戦はあくまでは一例だ。フィニッシャーとして温存するのはゲッターロボのみ、それ以外は臨機応変に対応するように」

 

アストラナガンの周囲を羽のようなビットが飛び交い始める。それは最初の遭遇の時にも使用してきた射撃ビットによる面射撃が行われる合図であり、それを確認すると同時に武蔵達は弾かれるように散会し、その瞬間に天空から光の雨が降り注ぐのだった……。

 

 

 

 

 

ビアンの作戦は理に叶っていた、だがそれはあくまで敵の反撃や妨害がないという前提で組まれた言うならば理想論と言うべき物でもあった。

 

「大丈夫か、ラドラ」

 

「ふん、腕一本くらいくれてやる。それよりもお前はどうなんだ、カイ」

 

ビットと同時に切り込まれたラドラのゲシュペンスト・シグの左腕は半ば切り裂かれ、火花を散らしている。

 

「問題ないに決まってるだろ、俺も、リバイブもまだまだやれるさ!」

 

カイの言葉が痩せ我慢と言うのは明らかだった、装甲があちこちへ込み、そして各部が火花を散らす。その様子を見れば長時間の戦闘に耐える事が出来ないのは明らかだった。

 

「思った以上に厄介な相手だなッ!」

 

「完全に予測されているッ! このままでは長くは持たないぞ」

 

狭い空間を飛び交うビットの射撃は正確無比であり、射撃による支援を行う予定だったギリアム達の動きは殆どガン・ファミリアによって封殺されていた。

 

「なろおッ!! うおおおッ!!」

 

「ぬんッ!!」

 

ゲッターロボとゲッターVは執拗に切り込んでくるアストラナガンを前に、ゲッタートマホークとディバイントマホークを失いかけていた。

 

「ぬおおおおッ!! チェストオオオオオーーッ!!!」

 

「!!!」

 

「ぬ、ぬおおおおおおおッ!!!!」

 

念動フィールドなどお構いなしに零式斬艦刀を叩きつけ、アストラナガンをバリアごと地面に叩きつける零式・改。フォトンバルカンによる連射が放たれるが、それはゲッター線フィールドで防ぎ致命傷だけは防ぐ。

 

「おおおおおッ!! 一刀両断ッ!!!」

 

被弾しながらも振るわれた横薙ぎの一閃に念動フィールドが音を立てて砕け散る。それはガンビットが展開されてから、劣勢に追い込まれていた武蔵達が掴んだ最初のチャンスだった。

 

「リュウセイ!」

 

「この隙はにがさねえッ!!」

 

最大の加速で懐に飛び込もうとするアルトアイゼン・改と無敵剣を正眼に構え振り下ろそうとしたSRXだが、アストラナガンの間合いに入る事は許されず、重力波によって地面に叩きつけられていた。

 

「うっぐっ……」

 

「ここまでやったのに届かんかッ!」

 

重力波にアルトアイゼン・改とSRXが動きを封じられている間にアストラナガンは舞い上がり、嘲笑うかのように念動フィールドを展開し、1度収納していたガンビットを再び射出する。

 

「大丈夫かしら?」

 

「なんとか……ライ、アヤ。そっちは大丈夫か?」

 

「……俺は大丈夫だ。ただ、ダメージの蓄積で動力部のほうに徐々に乱れが見えている」

 

「うっ、こっちも……大丈夫よ。有効打を入れるまでは合体は解除しないわ」

 

SRXはあくまで短時間の戦闘で敵を征圧するように設計されている。つまり長時間の戦闘に対応できるようには出来ていないのだ、気丈な事を言っているアヤだが、それでも限界は既に見えかけている。

 

「グルルルルルッ!」

 

「来るならきやがれ!」

 

「オオオオオオーーッ!!」

 

「舐めるなあッ!」

 

アストラナガンとゲッターロボの姿が何度も交差する。アストラナガンの攻撃には武蔵は対応出来ているが、ガンビットの攻撃には反応しきれず徐々に被弾が重なっていく。

 

「クロスマッシャーッ!!」

 

「メガバスターキャノンッ!!」

 

武蔵の支援になればとゲッターVのクロスマッシャーとゲシュペンスト・リバイブ(S)のメガバスターキャノンが放たれる。だがそれは戦う中でより強固になっている念動フィールドによってあっけなく弾かれる。

 

「これならばどうだッ! リミッター解除ッ! Wメガ・プラズマステークッ!!!」

 

エネルギーが駄目なら直接攻撃はどうだとカイがリミッターを解除し、両腕のメガプラズマステークをゲッタートマホークと鍔迫り合いをしているアストラナガンの背中に叩きつける。

 

「ぐっぬぐうううう、おおおおおおーーーーーーッ!!!」

 

裂帛の気合と共に突き出されたメガプラズマステーク。それは両腕を完全に破壊してしまったが、念動フィールドを貫きアストラナガンの背中に深い傷跡を残し、6本の電極の内4本がアストラナガンの背中に突き刺さったまま残ることになった。

 

「ラドラァァッ!!! げふうっ!?」

 

「究極ッ!! ゲシュペンストキィィックッ!!!」

 

両腕を失ったゲシュペンスト・リバイブ(K)にアストラナガンの回し蹴りが叩き込まれ、サッカーボールのように弾き飛ばされ、壁に叩きつけられると同時にそのカメラアイから光が消える。だがそれと入れ代わりにシグの飛び蹴りが叩き込まれ、背中に突き刺さった電極をより深く押し込む。

 

「!?」

 

アストラナガンの全身が一瞬不規則に揺れ、全身に紫電が走る。

 

「取った! ぐっ!? ぐがああああッ!!!」

 

即座に反転したアストラナガンに足をつかまれ、ジャイアントスイングの要領で壁に叩きつけられたシグのカメラアイから光が消える。

 

「!? ギ、ギギィ!?」

 

紫電を纏うアストラナガンの動きはギクシャクとしていて、今まで全身を包んでいた念動フィールドも目に見えて弱くなっていた。

 

「この好機……逃がさんッ!!」

 

「チェンジゲッタァアアーーーッ! ツウッ!!!」

 

背中に突き刺さった電極、それが明らかにアストラナガンの動きを束縛している。このチャンスをキョウスケも武蔵も見逃すつもりは無かった。

 

「ぐっ! ッ!! うおおおおおおおーーーーッ!!!」

 

「このまま突っ込むっ!!!」

 

ガンファミリアの弾雨に晒されながら真っ直ぐに突き進むアルトアイゼン・改とゲッター2に向けアストラナガンが右腕を向ける。その掌に漆黒のエネルギーが集まり始めた瞬間。ゲッター2とアルトアイゼンに向けていた右腕に高速で飛来した何かが突き刺さった。

 

「……行けえッ! キョウスケッ!! 武蔵ィッ!!!」

 

それはゲッター合金による改造でより鋭利になった零式・改のブーストナックルだった、アストラナガンはすぐにその拳を握りつぶしたがその隙にゲッター2とアルトアイゼン・改はアストラナガンの背後に回りこんでいた。

 

「ドリルアームゥッ!!!」

 

「どんな装甲だろうが撃ち貫くッ!!!」

 

ドリルアームとリボルビングバンカーの切っ先がアストラナガンの背中……正確には背中に突き刺さったままの電極を貫き、それをより深くへと押し込んだ。

 

「ぐあッ!?」

 

「ぐっふうっ!?」

 

だがアストラナガンもそれでは止まらない、重力波でゲッター2とアルトアイゼン・改を捕える。どんどん強くなる重力波に徐々に床にめり込んでいくアルトアイゼンとゲッター2。ギリアムとエルザムの機体では攻撃力が足りない……。

 

「……念を集中して、邪念を断つッ!!!」

 

『READS TO THE ENEMYレベル、一定値ヲ オーバー……T-LINKシステムカラ ウラヌス・システムヘ移行』

 

眩いまでの念動力の光に包まれたSRXは天上天下無敵剣を携え、アストラナガンに向かって突撃していくのだった。

 

 

 

 

SRXのコックピットの中で目を閉じて意識を集中していたリュウセイ、極限の集中、そして生命の危機はリュウセイの中に宿る力の覚醒を促していた。

 

『これは!? 出力が向上している!?』

 

『リュウ!? 貴方何をしているの!? リュウ! 応答しなさい!』

 

ライとアヤの自分を心配する声ですら今のリュウセイには届いていなかった。水の中に浮かんでいるような感覚、そして遠くにいる全員の気配までも感じ取れるような……まるでゲームをしている時のような、すべてを見通せる。そんな感覚をリュウセイは感じていた。

 

『READS TO THE ENEMYレベル、一定値ヲ オーバー……T-LINKシステムカラ ウラヌス・システムヘ移行』

 

合成機械音は発せられた声も今のリュウセイには届いていない、リュウセイが見ている物、リュウセイの耳に聞こえているのはそれではなかった。

 

『抗うな、人形が』

 

『だ、黙れええッ! 俺は! 俺はぁッ! 貴様の人形ではないッ!!』

 

イングラムの怒声とイングラムに声を掛け続ける謎の男の声。そしてアストラナガンを包み込む赤いエネルギーとその手足に纏わり付いている赤い念動力の糸だった。

 

(あれだ、あれが教官を操っているんだ)

 

リュウセイにはそれが幻覚には思えなかった。操られながらも抗い、そして今も必死に敵の洗脳と戦っているイングラムの声と姿がその目には見えていた。

 

「……念を集中して、邪念を断つッ!!!」

 

『トロニウムエンジンのリミッターが解除された!?』

 

『うっくっ……リュウ! 貴方には何が見えているのッ!?』

 

リュウセイの限界まで研ぎ澄まされた念に答えるようにSRXの出力も上がっていた。

 

「……天上天下ッ!!!」

 

「オオオオオオッ!!!」

 

両手を広げSRXを向かい撃とうとするアストラナガン。その眼前に十字架のエネルギーが出来た瞬間、SRXは地面に足を叩きつけ、その勢いを止めた。

 

「!?」

 

向かってくると思っていたSRXの動きが止まった事でアストラナガンが放とうとしていた攻撃「インフィニティ・シリンダー」は空振りし、SRXとアストラナガンの間にあった空間が最初から存在しなかったように消え去った。

 

「念動次元斬ぃぃッ!!!」

 

天上天下無敵剣の切っ先から伸びた念動力の翡翠色の刃がアストラナガンの頭上を通過する。

 

「「外した!?」」

 

千載一遇のチャンス、それなのに空振りをしたSRXに一瞬落胆の空気が広がったが、それはすぐに間違いだったと判った。何故ならば、突如苦しそうに呻く男の絶叫が周囲に響き渡ったからだ。

 

「っギャアアアアアアアッ!!」

 

アストラナガンの中から赤い怨念のようなエネルギーが溢れ出て、アストラナガンは糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。そのカメラアイは元の穏やかささえ感じさせる緑の光へと変わっていた。

 

「教官は返してもらうッ! 念動爆砕剣ッッ!!!」

 

「あ、アアアアアアアアアーーーーッ!?!」

 

断末魔の雄叫びが響き、赤い怨念は天上天下無敵剣で両断され爆発四散する。

 

「何が起きたんだ……?」

 

「まさか、あれが……イングラムを操っていた何者かとでも言うのか?」

 

「……信じられん、あんな光景を目の前で見るとは……」

 

目の前で起きた光景が理解出来ないビアン達の目の前でSRXがアストラナガンに駆け寄り、その漆黒の機体を抱き上げる。

 

「教官! イングラム教官ッ! おいッ! 死んだとか言わねえだろ! 返事をしろよッ! なぁ! 教官ッ!」

 

「う……煩い……そんなに騒ぐな……ちゃんと……聞こえてる」

 

「「少佐ッ!!」」

 

「教官ッ!」

 

返事があったことにリュウセイ達の嬉しそうな声が響いた。リュウセイ達はエアロゲイターから確かにイングラムをその手に取り返していた。

 

「お前達なら……俺の自慢の部下達ならば……やってくれると思ったが……ふっ、良くやった。リュウセイ、ライ、アヤ」

 

疲れ果てた声であったが、イングラムのリュウセイ達を褒める声が広域通信で響く、その声はとても穏やかな声だった。

 

「ふうーなんとかなったみたいですね」

 

「正直信じられんがな。まだ戦いは残っている。クロガネへと合流しよう」

 

主力部隊は短時間で癒えないダメージを負った。だが、エアロゲイターに奪われていた仲間をリュウセイ達は無事に取り返す事が出来た。だが喜んでいる余裕も時間もなかった。

 

「何だ!?」

 

「これは……この区画が崩壊している!?」

 

突如地響きと細かい爆発が連続しておき、アストラナガンと戦っていた区画が瞬く間に崩壊していく。

 

「くっ、武蔵!」

 

「判ってます! くそったれ! もう駄目だと思ったら自爆とか趣味が悪すぎるぜッ!」

 

戦闘不能になっているカイを零式・改が抱き上げ。シグをゲッター1が抱き上げる、だがその間も爆発は続き、天井が崩壊し、柱が倒れてくる。

 

「このままでは脱出できるかどうかも危ういぞ!」

 

「やる前に諦めてどうするの! 脱出経路を今……な、何!?」

 

一際大きな揺れと共に区画を区切る壁が破壊され、クロガネがその姿を見せる。まさかのクロガネの登場に全員の顔が驚愕に染まる。

 

「クロガネ! 助けに来てくれたのか!」

 

「そうか! 私達がブラックエンジェルと戦っている間に中枢を破壊したのだな!?」

 

アストラナガンと武蔵達の戦いは激しい物だったが、クロガネの方も相当な激戦を繰り広げてきたのか、船体のあちこちから煙を出しながらも、クロガネは熱源を頼りに武蔵達の救出に訪れていた。

 

『出撃可能な者は武蔵達の救出に向かえ、繰り返す出撃可能な者は武蔵達の救出に向かえ!』

 

クロガネの格納庫が開き、次々とPTが出撃し武蔵達の回収を始める。

 

「よう、少佐。目は醒めたか?」

 

「……酷い目覚ましだったよ、だがもう大丈夫だ」

 

「そいつは良かったな、でも1回面貸してくれや」

 

「ふっ……覚えていたらな」

 

グルンガストとジガンスクードに抱きかかえられ、アストラナガンもクロガネへと収容される。

 

『全機収容確認ッ!』

 

『よし! 艦首大型回転衝角起動ッ! これより本艦はホワイトスターより脱出するッ!!』

 

艦首大型回転衝角によって区画を破壊し、脱出を始めるクロガネ――だが戦いはこれで終わりではなく、最後の戦いはもう目の前にまで迫っているのだった……。

 

 

 

※リュウセイのパイロットスキル、念動力LV9がサイコドライバーLV1に変化しました。

 

気力に応じて、命中・回避・射撃・格闘のステータスに+補正。

撃墜時にSP1回復(レベルに応じて回復量上昇)

スキルレベルに応じてSP消費量ダウン

SPの上限値+1(レベルに応じて上昇)

気力上限+5(気力限界突破と重複可能)

 

 

SRXに武器追加

 

 

天上天下念動次元斬(MAP) ATK4000

 

時機前方から扇線状に3マスの範囲攻撃。敵味方識別あり、サイコドライバーのレベルに応じて射程と威力UP

 

天上天下念動次元斬 ATK7500

 

 

第82話 邪悪なる十字架 その1へ続く

 

 




次回ジュデッカ戦開始、疲弊しきった状態でのハードモードでの戦いになる予定です。OGのシナリオもあと少し、どんなラストで終わるのか、そこを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第82話 邪悪なる十字架 その1

第82話 邪悪なる十字架 その1

 

アストラナガンを含めた機体を全て回収したクロガネは爆発を繰り返すホワイトスターから決死の脱出を行っていた。

 

「回収した機体は一時的に拘束ロープで固定!パイロットはコックピットで待機だ!」

 

機体を固定しなければ死人が出るから整備班が必死で回収した機体を格納庫に固定する。だがその間も爆発の衝撃はクロガネを襲い続けている。

 

「ロブさん! ゲッターロボとブラックエンジェルは対応するハンガーがありません!」

 

だが特機の中でも特殊なゲッターロボと回収したアストラナガンを固定する術がないと叫ぶ整備班にロブはどうするか考える。重力制御されていてもこれだけ上下左右に激しく揺れていては機体も動き回る。

 

「最終手段だ! アンカーで格納庫の床に固定! 作業が終了した者は全員格納庫から退避してくれッ!」

 

整備班に指示を出す中、現場主任であるロブだけは最後まで格納庫に残る。全ての作業終了を確認するまで責任者としてその場を離れる事は出来ないからだ。

 

「マリオン博士も早く!」

 

「ぎゃーぎゃーとうるさいですわ。重力制御されているので心配ありません」

 

「ですが!」

 

「オオミヤ博士。戦いはまだ終わりではないと判っていますか? 私はゲシュペンストMK-Ⅲを万全にする義務がある」

 

その言葉にロブは黙り込むしかなかった。確かにホワイトスターは破壊した、だがエアロゲイターの首魁であるレビ・トーラーは今だ健在である。それは格納庫に広がる雰囲気で感じ取っていた。

 

「……判りました。なら俺も作業をします」

 

「ええ。それがよろしいかと……まだ戦いは終わってはおりません」

 

大破しているゲシュペンスト・リバイブ(K)とゲシュペンスト・シグを再び戦場に出すことは難しいし、他の機体も磨耗している。だが戦いはまだ終わりではない、少しでも良い万全とは程遠いが今出来る最善を……それだけを考えてマリオンとロバートは動き出す。2人は研究者であり、けっして戦闘者ではない。だが、それでも爆発の中に混じる凄まじい憎悪と殺意は感じ取っていた。それはまだホワイトスター攻略戦が終わっていない事を如実に現しているのだった……。

 

 

 

 

 

 

ホワイトスターを囲うように展開されているヒリュウ改を初めとした連邦艦隊。突入したクロガネが無事に帰還することを祈っていた艦隊全機の艦橋に緊急警報が鳴り響いた。

 

「ホワイトスター内部より高エネルギー反応!!」

 

「何が起きたのですッ!? クロガネより通達はありませんか!?」

 

突如鳴り響いた警報に最悪のケース。それはクロガネ轟沈による、自動連絡がなかったかとユンに尋ねるレフィーナ。最悪の場合はヒリュウ改、そして連邦艦隊すべてに搭載されているMAPWを発射する予定になっているが、クロガネが無事に戻ると信じているレフィーナは発射命令を下したくないと思っていた。勿論それはレフィーナだけではなく、他の戦艦の指揮を取っている艦長全員の思いでもあった。

 

「ふ、不明です! ど、どうしますか! MAPWの発射準備を行いますか!?」

 

「もしや……ッ!? 敵機の確認をしてください!」

 

MAPWの発射許可を求めるユンにショーンが何かを感じ取ったようで、索敵を行うように命令する。

 

「あっ……ッ! 艦長、敵機が……敵機動兵器が活動を停止しました!!」

 

バグスやバードを初めとした無人機が活動を止めた。それはクロガネがホワイトスターの中枢部を破壊したことを示していた。

 

「クロガネは……!? クロガネはどうなったの!?」

 

だがそれなのに作戦成功の連絡も無い、レフィーナの脳裏に先ほどの高エネルギー反応がクロガネが自爆したのではと言う考えが過ぎり、クロガネの姿を必死に探す。

 

「おお、クロガネ……ッ! 艦長! クロガネですぞッ!」

 

「ダイテツ艦長……皆……無事だったのですね……!」

 

艦首大型回転衝角を半壊させながらも無事に姿を見せたクロガネに連邦艦隊からの歓声が上がる。そしてそれに遅れて広域通信でダイテツの姿がモニターに映し出された。

 

『こちらはクロガネ艦長、ダイテツ・ミナセだ。 本艦とPT部隊はホワイトスター中枢部の破壊に成功した』

 

その報告を待ち望んでいたレフィーナ達は再び歓声を上げようとしたが、クロガネの後を追ってホワイトスターから出現した無数の無人機に息を呑んだ。

 

「か、艦長ッ!? りょ、量産型ドラゴン、ライガー、ポセイドンを確認! 数……5……10……15!? そんな、まだ増えていますッ!!!」

 

「何ですって!? きゃああっ!!」

 

ユンの報告と同時にヒリュウ改を初めとした戦艦全てが被弾し、あちこちから火柱や爆発が上がる。それは出現したドラゴン達が一斉に投げつけたダブルトマホークによるダメージだった。

 

「うあああっ!!」

 

「じょ、状況を報告しろ!!」

 

そしてそれはクロガネにも襲い掛かっていた。今正に爆発するホワイトスターから離脱してきたばかりのクロガネにはその攻撃を避けるだけの余力が無く、その衝撃でオペレーター席から転がり落ちたエイタに変り、ユーリアが被害状況の報告を始める。

 

「ざ、残存艦隊に全てにダブルトマホークが直撃!! カタパルト破損艦が10隻中4! 本艦右舷部、第三艦橋、大破!!」

 

奇襲そしてドラゴン達の一斉攻撃で少なくない被害を受けた。その報告を聞いてダイテツは顔を歪める、着艦したばかりのPT隊、そして特機はエネルギーは勿論弾薬の補充すらままならない。

 

『レフィーナ艦長! 本艦の機体は全機エネルギー及び、弾薬、さらには装甲版の破損ですぐ出撃出来る状況ではない!』

 

今の今までホワイトスターで戦っていたのだ。クロガネからの通信を聞くまでも無く、レフィーナ達は今クロガネもクロガネの搭載機も戦闘できる状況ではないと言うことは嫌でも判っていた。

 

『だから命じる! クロガネのPT隊を万全にするための時間を命を賭けて稼げッ!』

 

それは冷酷な死ねと言う命令だった。軍人である以上死ねという命令を受けるという事はレフィーナは勿論。ヒリュウ改のクルーは理解していた、そしてオペレーションSRWに参加する際に全員が遺書を地球に残している。この場にいる全員が死を覚悟して……いや、死ぬ事を前提にしてホワイトスター攻略戦に参加していた。

 

「了解です! ユン! MAPWの発射準備! それと連邦艦隊で出撃可能な機体の順次出撃を!」

 

今の最大戦力はクロガネだ。だが連戦で消耗している上に燃料も弾薬もなければ出撃できる訳が無い。それにパイロットの疲弊もある、わずかでも身体を休ませなければ出撃しても撃墜されるリスクが高まるだけだ。

 

『各機出撃ッ!』

 

『クロガネのPT隊の再出撃の準備が整うまで死ぬ気で戦線を維持しろッ!』

 

『各員ここが命の張り所である! だが私はお前達にだけに死ねとは言わん! 死ぬのならば私も共に逝こう! 地球の命運は我らにか懸かっている! 各員奮起せよッ!』

 

それでもカタパルトを失っている戦艦、今の攻撃で乗組員の大半を失った艦もある。それらの艦隊が時間を稼ぐ方法は1つしか残されていなかった。

 

「か、艦長! スター5! コバルト7がホワイトスターに突貫を始めました!」

 

「それに続くようにスター2、4も艦隊を組んでホワイトスターにッ!」

 

それらは奇しくもカタパルトを失った艦隊だった。何をしようとしているかなんて態々言われるまで無い、止めさせようと通信を繋げようとした時スター2から通信が入った。

 

『私達は地球を守る為に集まった、それがこの大事な場面で……ザザザア……たた……えん……のは……ザザアア……ま……ならない』

 

『歌えッ! 我らの死は決して無駄じゃない! ザザザアア……そうだ……無駄じゃないッ!』

 

『軍人の底力を見せてやれ!』

 

『行くぞぉ! 怯むな!』

 

『ははっはあッ!!! ははははーーーーッ!!! 後は頼んだぞ!! ダイテツ! レフィーナ中佐ッ! はははッ!!! はーははっ!!!』

 

ノイズが走ったスター2、コバルト7はドラゴン達を巻き込んで自爆し、それに続くようにスター4・スター5。そして乗組員の大半を失った戦艦達後を追いかけていってはドラゴン達の攻撃を受け爆発を繰り返しながらも、ホワイトスターへと突貫し自爆していく。

 

「ああ……そ、そんな……」

 

「くっ……」

 

『嘆くな! 涙を流すなとは言わぬが哀れむな! 彼らは自らの使命を全うしたのだ』

 

『PT出撃完了! MAPWも全弾使用しました! これより本艦も突貫します!』

 

『待て待て! 単独で行っても死ぬだけだ! 我らも行くぞ!』

 

『おうともよ! 続け続けええッ!!』

 

笑いながら死んでいく友軍達の姿にダイテツは唇と拳を強く握り締める。死ねと命令したのはダイテツだ、だが無駄死にはさせない。与えられた1分1秒を決して無駄にするなと声を張り上げる。

 

「整備員各員に告げるッ! 友軍の思いを無駄にするな! 与えられた時間を無駄にするんじゃない! パイロットは少しでもいい身体を休め出撃に備えろ! これが最後の戦いであるッ!」

 

ダイテツの血を吐くような叫びと、クロガネを揺らす巨大な爆発。それが何を意味するのか知っているクルーは唇を噛み締め、目に涙を浮かべながらも自分に出来る事を、そして自らの使命を果たす為に動き出すのだった……。

 

 

 

 

クロガネの医務室にイングラムと武蔵の姿はあった。イングラムは過度の疲労と衰弱でアストラナガンから降りると同時にその場に崩れ落ち、武蔵はパイロットへの防衛機能を一切持たないゲッターロボで何度もホワイトスターに叩きつけられた事で全身打撲と頭からの流血……両者とも言うまでも無くドクターストップである。

 

「頭の血だけ止めてくれれば良い! オイラはまだ行けるッ!」

 

「ひえっ! お、落ち着いてください!」

 

「オイラは落ち着いている!!」

 

ドクターに怒鳴りつける武蔵の姿はどう見ても冷静ではない、艦内放送を聞いて黙って治療を受けれるほど武蔵は冷酷な人間ではない。ゲッターロボで出撃すれば僅かでも人死にを減らせる――それが判っているから少しでも早く出撃したかったのだ。

 

「武蔵君。無理をするな、ここは私達に任せるんだ」

 

「エルザムさん……でも」

 

アストラナガンとの戦いで大破したのはリバイブ(K)とシグだけではない、ゲッターロボも細かい機器を破壊され、すぐに出撃出来る状態ではない。

 

「でもではない、今のまま出撃して的になるつもりか?」

 

「……ッ」

 

エルザムの強い口調に武蔵は拳を握り締め、唇を噛み締めた。全く持ってその通りだった、ゲッターのパイロットだからこそ判る。今のまま出撃してもゲッターに出来る事が殆ど無いと言う事は誰でも無い武蔵本人が一番理解していた。

 

「総帥が最悪の場合ゲッターVを使用するように言っていた。今は治療に専念するんだ」

 

「エルザム、出撃準備が出来たそうだ」

 

「判った。ゼンガー、私もすぐに行く」

 

頭に包帯を巻いて、頬にガーゼを張ったゼンガーが小さく頷き駆けて行く。その姿を武蔵は悔しそうに見つめていた。

 

「ドクター。武蔵君の治療が終わったら彼の好きにさせてやってくれ」

 

「……エルザム少佐。はい、しかし医者として引けない所もあります。だから……時間を頂きます」

 

「ああ、大丈夫だ。私達は負けないよ」

 

そう笑いエルザムも武蔵から背を向けて駆けて行く、残されたのは武蔵とイングラム、そしてイングラムをここまで運んできたリュウセイ達SRXチームだった。

 

「武蔵、俺達も行くぜ」

 

「大丈夫なのか……SRXはもう使えないんだろ?」

 

武蔵の言葉にリュウセイは苦笑する。イングラムを操っていた赤い影を両断した念動次元斬はSRXに過度な負担をかけ、再合体の出来ない状態になっていると医務室に運ばれている間に聞いていた。だからこそ大丈夫かと尋ねたのだ。

 

「心配ない、SRXだけが俺達の武器じゃない。仲間が居る」

 

「ライ……ああッ! 心配ねえよ武蔵! 仲間が居るから俺達は負けないッ!」

 

「……だから行って来るわね」

 

リュウセイ達も武蔵に背を向けて医務室を出て行く、その姿を見つめていると武蔵はその肩をドクターに叩かれた。

 

「早く座って、少しでも早く出撃したいなら」

 

「……はい、よろしくお願いします」

 

いま自分がやることは仲間を信じて、そして仲間の為に万全な状態で戦えるだけの準備をする。それが武蔵が今出来る最善の戦いなのであった……。

 

 

 

 

 

ホワイトスターから出現した無数の量産型ドラゴン、ライガー、ポセイドンはその数は恐ろしいほどに多く全て20機ずつ出現していた。それは補給を終えたギリアム達に絶望感を与えた、だがそれは最初の数分間だけだった。

 

「!!!?」

 

「!?!?」

 

時間差でドラゴンとライガーは爆発し、宇宙空間にその残骸を撒き散らす。ドラゴンを両断したサイバスターはその手にしているディスカッターを信じられない様子に見つめ、ライガーを背後から貫いたオクスタンランチャーのBモードの再確認をするヴァイスリッター。

 

「弱くなってる?」

 

「……そうとは言い切れないと思うわよ。あれたぶん……ガワだけよ」

 

ホワイトスターから定期的にドラゴン達が出撃してきているが、装甲版が足りていない物や片腕のない物が徐々に混じり始めている。

 

「この場に私達を留めるためのデコイか」

 

「留めて何をしようって言うんだ? エアロゲイターはよ」

 

ドラゴン達は確かに弱体化している。だがそれでもこの宙域から逃がさないと言わんばかりにその数を増やしている。

 

「決まっているでしょう? 私達を回収する為によ」

 

「ま、それしかねえわな」

 

居住区は破壊したが、エアロゲイターの目的が成長しきった自分達を回収することであると言う事は全員が理解していた。この執拗な足止めは時間稼ぎであることは明らかであった。

 

「相手の目的が何であれ、立ち塞がるのならば全て撃ち貫くのみッ!」

 

「考える事は無い、我らの前に立つのならば全て打ち砕くのみ!」

 

「はいはい、それは良いけど、ちょーっと嫌な感じよ。キョウスケにボス」

 

エクセレンが普段被っているお調子者の仮面がはずれ、その下に隠された冷静な面が顔を出す。雰囲気が変わっている事に勘のいいものは気付き始め、そして次の瞬間にはホワイトスターから降り注いだ光の雨にクロガネとヒリュウ改を初めとした連邦艦隊の全ての戦艦が被弾していた。

 

「今のはなんだ!?」

 

「でたらめに撃った割には正確すぎる……あれは戦艦だけを狙った攻撃だッ!」

 

しかし敵の攻撃はそれだけでは留まらない、最初に気付いたのはクロガネの格納庫で必死に機体の整備を行っているビアンだった。

 

「熱源が移動している? ユーリア! ホワイトスターの位置を確認しろ! いそげッ!」

 

格納庫からブリッジに向けて叫ぶビアン、そしてその声を聞いたユーリアとエイタは同時にホワイトスターの位置を確認し、その顔を驚愕に歪めた。

 

「ホワイトスターが地球にむけて移動を開始ッ!」

 

「あの要塞はまだ生きてるのか! 全「待て! ダイテツ中佐! 要塞内部から巨大な熱源を確認した!」

 

ホワイトスターへの攻撃命令を下そうとしたダイテツにユーリアの静止の声が響き、ホワイトスターの外骨格が内部から吹き飛びそこからまるで雛が孵るように巨大な機動兵器の拳が姿を現したのだが……それは1つではなかった。

 

「……何がでてくるって言うんだよ」

 

「やばい物って言うのは確実ですね、これは」

 

PTの胴体よりも遥かに大きい4つの拳がホワイトスターの外を掴み、そこから異様なシルエットの特機が姿を見せた。上半身は人型だが、下半身は蛇のような細長い姿をしており、胴体から伸びる4つ腕と合わせて機動兵器でありながら、生き物のような印象を受ける。その機体の姿を一番最初に確認したリュウセイの驚愕の声が上がる。

 

「な、何だ!? あのデカいロボットはッ!?」

 

自分達の知っている特機と比べても余りにも巨大すぎるその姿に驚いていたリュウセイだが、次の瞬間にはその顔を苦痛に歪めていた。

 

「つッ!!」

 

「!」

 

「く!?」

 

「な……!」

 

「うっ!」

 

「今のは……何ッ!?」

 

「こ、この念は……ッ! まさか……そんなッ……」

 

それはリュウセイだけではなく、念動力を持つリョウトやリオ、そしてクスハやブリットと言った全員に激しい頭痛と共に自身の念動力が強制的に引き出されているような違和感を覚えさせていた。

 

「我が名はレビ……。レビ・トーラー……」

 

異様な気配を放つ巨大な特機から穏やかとも取れる少女の声が周囲に響き渡る。それはホワイトスター出現と共に地球全土に届けられた降伏勧告を行った者と同じ声だった。

 

「あれが……レビ……」

 

「……エアロゲイターの統率者か……」

 

やっと姿を見せたエアロゲイターの支配者。だがギリアムとラーダはそれぞれの機体の中でその顔を歪めていた。

 

(私とギリアム少佐の予測が正しければ……あの子も他のエアロゲイターと同じく……)

 

(精神制御を受けた地球人だと言うことになる。そして、その正体は……マイ・コバヤシ)

 

レビを名乗る少女もまたゲーザや、ガルイン……いや、テンザンやカーウァイ大佐と同じく操られていたイングラムによってホワイトスターに運ばれた地球人だ。その事は全員が知っているが、レビがアヤの姉妹である可能性は口にしていないが、その類稀なる念動力で本能的にアヤはそれを感じ取っていた。

 

「選ばれしサンプル達よ……これ以上の抵抗は無駄だ。このジュデッカを破壊せぬ限り……ネビーイームを止めることは出来ん。大人しく我らの軍門に降るが良い」

 

それは最後通告ともいえる降伏勧告だった。その言葉を受け入れる者は誰もいなかったが、その中でレビの念と真っ向からぶつかっていたリュウセイが怒鳴り声を上げた。

 

「それで、てめえらの兵器となって戦えってのかッ!? あのテンザン・ナカジマやカーウァイ・ラウ大佐みたいにッ!」

 

「そうだ。その為に我々はネビーイームより先に地球へメテオ3を送り込み……地球人類へEOTを与えて兵器としての進化を促し、その

過程を見守ってきた。その中にもお前のような人間は含まれているぞ、サイコドライバー リュウセイ・ダテ。ふふふ、あえて嬉しいよ、私の同類にね」

 

「サイコ……ドライバーッ!? それになんでお前が俺の名前を……それにサイコドライバーって何だよ……お前は俺の何を知っているって言うんだッ!」

 

自分の名前を知っている事。そしてサイコドライバーと言う謎の言葉と共に自分の同類と言われた意味が判らず怒鳴り声を上げる。

 

「ふふふ。そんなに知りたければ、我らの軍門に下るがいい。我々が与えて来た幾多の試練を乗り越え……最終的にサンプルとして選び出された者が、お前達なのだ。誇るがいい、お前達は我らバルマーに選ばれたのだ」

 

レビは上機嫌に言葉を続ける。エアロゲイターと呼んでいたレビ達がバルマーと言う星の侵略者であり、そして何らかの目的の為に地球に訪れた。レビ達の言葉を借りると戦力として優秀な人類を探していたと言う事は判る。だがそれが何故地球人だったのか理解できないでいた。

 

「技術レベルはお前達の方が高いにも関わらず、ワシらを戦力として必要とする理由は何だ?」

 

「数年に渡る調査の結果、地球人は他星の人種に比べ、強い闘争心と高い戦闘能力……そして、他星の技術を短時間で吸収する、柔軟かつ優秀な知性を持つ人種であると判った。さらに、魔装機神と呼ばれる兵器のように……地球には独自の技術力で超高性能な兵器を造り出す文明も存在している。地球人は……この銀河系の中でも、類い希なる力を持った優性戦闘種族であると同時に、ゲッター線に見初められた存在であるのだよ」

 

「……優性戦闘種族……なるほどな。言い得て妙かも知れん」

 

争いを好む者は決して多くは無い。だが大事な者を守る為に力を付け、そしてエアロゲイターに匹敵する力を手に入れた地球人は確かに、優性戦闘種族と言っても過言ではないかもしれない。それを本人達が望んだ物では無いとしても、それは純然たる事実であった。

 

「地球人が何ゆえにそのような進化を遂げたか……その理由は紛れも無くゲッター線がお前達の進化を促したのだ。かつて宇宙の全てと戦いそのすべてに勝利したゲッターロボにな」

 

「ゲッターロボが宇宙を支配した!? なに訳の判らない事を言ってやがる!」

 

「………武蔵がそんな事をしたとは思えないわよね」

 

「それにゲッター線が人類の進化を促したとか、そんな馬鹿げた話を信じる訳には行かないわ」

 

ゲッター線はどこまで言ってもエネルギーだ。それが宇宙を支配したや人類の進化を促した等と言われてもそれを受け入れる事など出来るわけがなかった。だが黙って話を聞いていたキョウスケはレビの目的を理解した。

 

「……読めた。お前達の目的は……ゲッター線に選ばれた地球人という兵器を大量に『生産』することか」

 

「大量生産だと……!? どういう意味だ、キョウスケ?」

 

レビの言葉の中には隠しきれないゲッターロボに対する恐怖が見え隠れしていた。しかし、それでいてゲッターロボを回収しようとしたり、こうして量産型ドラゴンを自軍の戦力として使っている理由をキョウスケはキョウスケなりに推理していた。

 

「レビの言う通り、俺達はあくまでもサンプルに過ぎない……だが、だからこそ、奴らは俺達の様々なデータを基に……大勢の地球人を捕らえ、兵器として調整する。そして優秀な成績を残したサンプル同士を掛け合わせ、更に優秀な兵士を作り出す。それがレビ・トーラー、お前の目的であり、ホワイトスターはそのプラント……生産工場だ」

 

最初に突入した居住区や、中枢部を破壊する時に見たと言う医療施設。それらの情報から導き出した答えをキョウスケは口にした。それは荒唐無稽と言い切るには説得力があり、そして現実味が合った。何故ならば全員がそれらの光景を実際に目の当たりにしていたからだ。

 

「初期段階に、その実験台とされたのがカーウァイ大佐……」

 

アンドロイドに改造され実験データや分析に利用された「カーウァイ大佐」が最初の被害者であり、実験台であった。

 

「最近ではテンザン……」

 

生身のまま別の人物の人格を植えつけられ、兵器として利用された「テンザン・ナカジマ」

 

「手っ取り早く精神コントロールで……ってのが、クスハちゃんね」

 

その2人の実験を経て得たデータでもっと効率よく、地球人を兵器とする方法のテストケースにされた「クスハ」。それらは徐々に時間を掛けない調整方法としてバルマーが実験を行った結果だった。

 

「概ね正解だ。だが我らが最も重要視しているのはゲッターロボのパイロットである武蔵とサイコドライバーであるリュウセイ・ダテだがな。あの2人のデータを持つ子供ならばさぞ優秀な兵士となることだろう」

 

そしてレビはキョウスケ達の推理を事実として認めた。そして大量生産の意味もサンプルとして回収した優秀な男女を交配させる為だと口にしたのだ。

 

「レビ・トーラー……お前は我々を収集した後、どこへ運び去るつもりだ?」

 

「それに答える必要はない。お前達はただ……バルマーの兵器となれば良いのだ。バルマーの傘下で永遠に幸せに暮らすことが出来る、これほど幸福なことはないぞ? これが最後だ。降伏しろ、今ならば優しく調整してやろうじゃないか」

 

「悪いが、その誘いは断らせていただこう! 我らはお前の思いとおりには何一つなりはしない!」

 

レビの最後通告だという降伏勧告をエルザムがきっぱりと断る。だがレビにとっては予想通りだったのか、嘲笑するような笑い声を上げる。

 

「ふふふ……自ら生きる道を閉ざすつもりか?」

 

「……押し開く。お前の結界ごとな……ッ! 俺達の道はこの手で切り開く」

 

リボルビングバンカーの切っ先がジュデッカへと向けられ、それに続くように出撃している機体全ての武器がジュデッカへと向けられた。

 

「ならば来るがいい。我らに抵抗する気力が無くなるまで、叩きのめしてやろう。噛み付く犬の躾をするのも主人としての勤めだからな」

 

嘲笑うかのように動き出すジュデッカの目が怪しく光り輝き、それを合図にして最終決戦の幕が開くのだった……。

 

 

 

第83話 邪悪なる十字架 その2へ続く

 

 




邪悪な十字架と言うことでジュデッカ戦はその3くらいまで書いて行こうと思います。最後の審判者は1話くらいでエピローグを加え、全87話でOG1は完結にしたいと思います。このジュデッカ戦はアニメの要素を少し付け加えることが出来たらなと思います、結構好きなんですよね。あの機体、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第83話 邪悪なる十字架 その2

第83話 邪悪なる十字架 その2

 

応急処置を済ませ、最後の鎮痛剤の点滴を打っている武蔵はイングラムの隣のベッドで横になっていた。

 

「……イングラムさん、あんた起きてるだろ?」

 

「……起きてるじゃない、今起きたんだ」

 

カーテンが開きイングラムが姿を見せるが、その格好はパイロットスーツのままでベッド横になっている。だが、その腕には武蔵同様点滴の針が刺されていた。

 

「なんであんたまで点滴してるんだ?」

 

「レーションで食事を済ませていたからな、栄養失調一歩手前だ」

 

「飯食えよ、飯。なにやってんだよ、あんた……」

 

武蔵の飯を食えと言う言葉に苦笑するイングラムだったが、ベッドから身体を起こして乱暴に点滴の針を引き抜いた。

 

「時間が無い、バルマーの最も優秀で愚かな兵器が起動してしまう」

 

「……そんなにやばいものなのか?」

 

「地球を滅ぼす最終機構だ」

 

「なんでそんなもんを……サンプルじゃないのか?」

 

「自分に牙を剥く者はいらないと言うことだ。それで、お前はどうする?」

 

パイロットスーツに再び袖を通し、机の横に置かれていた経口食糧のパックを咥えるイングラムの問いかけに武蔵は自分の腕に刺さっている点滴の針を抜いて、ベッドの横の机のヘルメットに手を伸ばす。

 

「勿論決まってる。オイラも行く」

 

「ふ、そう言うと思っていた」

 

ドクターがいない隙に2人は医務室を飛び出し、クロガネの格納庫へと走る。

 

「それで最終機構とやらを起動させないにはどうすればいい?」

 

「ネビーイームの中枢が破壊された段階で起動することは確定している。厳しいのは判っているが、ジュデッカを速攻で撃墜して、アイドネウス島に向かう」

 

アイドネウス島の言葉に武蔵はまさかと言う顔をし、イングラムは勘が良いなと笑った。

 

「まさかあの……隕石?」

 

「そうだ。あれがバルマーの最も優秀で最も愚かな兵器、セプタギンだ。ビアン・ゾルダークはそれに気付いて、封印していたが、あれは

そんな物で封じれるものではない。完全に起動すれば15分ほどで地球は結晶に包まれ滅ぶ」

 

たった15分で地球が滅ぶと聞いて武蔵の顔も引き攣る。

 

「バルマー? それともエアロゲイターって言うのは馬鹿なのか?」

 

「ふっ、馬鹿に決まっているだろう」

 

そんな話をしているうちに2人の姿はクロガネの格納庫に到着していた。周りに人間がいない事を確認し、武蔵はベアー号に、イングラムはアストラナガンのコックピットに身体を滑り込ませる。

 

「待て! まだ補給も修理も万全ではない!」

 

2人の姿に気付いたビアンがロブやマリオンと共に姿を見せる。だが2人は既にコックピットの扉を閉め、出撃準備を始めていた。

 

「ビアンさん! ゲッターで出ます! 状況が悪いんでしょう!?」

 

「そう言う訳だ。心配するな、俺はバルマーに組する事はない」

 

アストラナガンのカメラアイに光が灯り、格納庫の手動開閉レバーの前に向かう。その姿を見てはビアン達も格納庫にいるわけには行かず、安全区域へと駆け込み格納庫のマイクで2人に声を掛ける。

 

『その黒い機体は修理と補給はすんでいないが』

 

「問題ない、再生能力と無限動力を搭載している。1時間も休めば再び戦闘可能だ。武蔵、俺は先に出る」

 

格納庫を手動で開放し、アストラナガンが黒い翼を広げ勢いよくクロガネから出撃していく。それに続くようにゲットマシンからも火柱が上がる。

 

『武蔵君、ゲッターロボは応急処置程度しか済んでいない。無茶は利かん、それと無事に戻ってくるんだ。良いな……?』

 

「了解です、修理ありがとうございます。よっしゃあ! 行くぜぇッ!!」

 

自動操縦のイーグル号、ジャガー号が出撃し、その後に続くようにベアー号もクロガネの格納庫から飛び出していくのだった……。

 

 

 

 

 

 

ホワイトスター攻略戦から、爆発炎上するホワイトスターからの決死の脱出、そしてそこに大量の量産型ドラゴンの襲撃。それらは確実に機体へのダメージとして蓄積していた。

 

「ちいっ! このアーマリオンとやらは操縦しにくくてかなわんッ!」

 

「我慢しろラドラ! 俺だって今更ノーマルのゲシュペンストの操縦は厳しいぞッ!」

 

それぞれの機体が大破しているラドラとカイは他の艦隊に搭載されていた量産型アーマリオンと量産型ゲシュペンストMK-Ⅱ・F型装備で出撃している。だがそれぞれの本来の機体とは比べるまでも無く弱い機体に2人は四苦八苦していた。

 

「ふふふ、どうした? ジュデッカを倒すのではなかったのか?」

 

リュウセイ達の機体と異なり万全のジュデッカ。その体表には一切の傷は無く、今放たれたGインパクトキャノンもオクスタンランチャーの一撃もジュデッカが常時展開しているバリアに阻まれてしまう。

 

「ちいっ、こりゃ正直不味いな。おい、タスク。お前のほうはどうだ?」

 

「……騙し騙しっすよ、中尉の方はどうなんすか」

 

ジュデッカのバリアを突破出来る可能性のあるジガンスクードとグルンガスト。だがその機体にもダメージが蓄積しており、第一装甲版の全損、そして第二装甲版も中ほどまで粉砕されており本来の特機の戦闘力は期待できない状況にあった。

 

「……あの機体のバリアはR-1やSRXの物と似た周波数をしてる。でもその強度は桁違い……」

 

「突破するには一点集中か、それとも大火力の一撃かって事ね。ラトゥーニ、弱い部分の分析は出来てる?」

 

「……今やってる。でも……見つかるかどうか……」

 

火力の足りないビルドラプターのコックピットの中でラトゥーニは分析を続けるが、それらしい成果は得れない。

 

「ラトゥーニ。こっちに分析データを回してくれるかしら?」

 

「私にもお願いね」

 

「……お願いします、私だけでは無理でした」

 

ラーダとヴィレッタが近くに来た事で、自分が分析したデータを接触通信で渡し、3人で必死にジュデッカのバリアのウィークポイントを探す。

 

「テンザン、アタッド、ガルイン……皆、そのジュデッカに操られていた……お前もそうなんじゃねえのかッ!?」

 

ジュデッカの4つ腕から振るわれる一撃をかわしながらリュウセイがレビに向かって言葉を投げかける。だがレビの返答は嘲笑だった。

 

「愚かな事を……私はレビ・トーラー……バルマーのサイコドライバーにしてジュデッカの生体コア。そしてネビーイームの支配者だッ!」

 

4つの腕の内、3つの人型の腕から放たれる念動波と鋏を思わせる腕から飛ばされる念動刃を交しながらR-1はジュデッカに肉薄する。

 

「だったら……そのジュデッカをブッ壊して、ホワイトスターを止めるだけだッ!!」

 

「吼えたな? ならばやってみせるがいい、サイコドライバーとしての力を十分に引き出せぬ、そのポンコツでな」

 

確かにSRXは使えない、それにR-1だって機体にガタが来ている。それでもリュウセイの脳裏には疲弊しきった顔でやれるだけの事はやったと、自分達を送り出してくれたロブの姿が過ぎる。

 

「うるせえッ! これは皆が命懸けで用意してくれたんだ! それを馬鹿にすることはゆるさねえッ!!!」

 

両拳に念動力の証である緑の光を宿し、R-1の両拳がジュデッカに向かって振るわれる。

 

「ふ、そんな貧相な……な!?」

 

「お、おおおおおおおーーーーーッ!! 破ぁッ!!!」

 

嘲笑ったレビだが、R-1の両拳の念動力に中和され、ジュデッカを覆っていた念動フィールドに一時的に穴が空いた。だがそれだけではすまない、既にサイコドライバーとして覚醒したリュウセイとレビの念が交差した。

 

「っッ! お前ッ! そんな暗い所で1人でいるのかよッ! こっちに来いッ!!」

 

「う、五月蝿いッ! 私の心の中に入ってくるなあッ!!!」

 

リュウセイは闇の中で1人でいるレビを見た。そしてレビは自分の中に入ってきたリュウセイに顔を顰め、出鱈目に念を放つ。

 

「くそッ! 動きを止めるしかねえッ! ライッ!」

 

「言われるまでもないッ!!!」

 

反撃に振るわれたジュデッカの尾に弾き飛ばされながらもリュウセイはライの名を叫ぶ。だがそれよりも早くライはポジショニングに動いていた。

 

「ハイゾルランチャー……シュートッ!!」

 

「つっう……念動力も持たない人間の分際でッ!!」

 

ジュデッカのバリアが再展開される僅かな隙を突いてハイゾルランチャーの集中火線がジュデッカに胴を穿つ。

 

「そうだ、俺はただの人間だ。だがただの人間のその力を舐めないで貰おうかッ!」

 

ジュデッカの振るった腕にそうようにホワイトスターから出撃してきたバグスがその口からリング状の光線を放ちながら、Rー2・パワードを追い回す。だがライはR-2・パワードを己の手足のように動かし、上下左右から襲ってくるリング状の光線を回避し、的確に反撃を叩き込んでいく。

 

「俺は死に場所を求めて流離っていた」

 

「ほう、それならば丁度良いではないか、ここで死ねば良いだろう?」

 

「違うな。俺には守るべき場所があり、守るべき人々がいる。それを全て失わない限り、俺は死なん……ッ!」

 

急反転し、ハイゾルランチャーの掃射で突っ込んできたバグスを全て破壊するのと同時に、パワードパーツがオーバーヒートをするのを覚悟で連続発射の態勢に入るR-2パワード。

 

「そして、俺の死に場所は、ここではないッ!!」

 

裂帛の気合と共に放たれたハイゾルランチャーの一点射撃に再び音を立てて、ジュデッカのバリアが砕け散る。

 

「ブリットォッ!!!!」

 

「はいッ!!」

 

ジュデッカの念動フィールドが展開されるまでの僅かな隙を突いてアルトアイゼン・改とヒュッケバインMK-Ⅱがジュデッカの間合いに機体を滑り込ませる。

 

「イングラムが見込んだサンプルと出来損ないか……お前等などにこのジュデッカに傷は付けられないよ」

 

念動フィールドの内部に潜り込んだアルトアイゼン・改とヒュッケバインMK-Ⅱ。それは相手の懐に飛び込んだというのと同時に、自力での脱出が出来ないと言う事を示していた。それでもキョウスケとブリットの顔に恐怖は無い、退路は味方が作ってくれる。その信頼の元に突撃したのだ。だから2人の胸の中に恐怖は無い、仲間を信じて突き進むだけだ。

 

「この勝負に引き分けはない……! ジョーカーを切らせて貰おうッ……これが最後の一枚だッ!」

 

「見せてもらおう、その札とやらを……! 貴様ッ!」

 

「二の太刀があると思うなよ、レビ・トーラー!!」

 

振るわれた鋏の一撃をブリットが決死の突撃でシシオウブレードを持って弾く、そしてその隙にアルトアイゼン・改がジュデッカの胸部の前を取った。

 

「後悔しない事だ。賭け金の払い戻しはない……ッ!」

 

最高加速と共に突き出されたリボルビング・バンカーの一撃がジュデッカの胸部に深い傷跡をつけ、更に追撃に打ち込まれたスクウエ・クレイモアの弾雨がジュデッカとアルトアイゼン・改の装甲を容赦なく削る。

 

「……貴様、正気かッ!」

 

「言っただろう、切り札だとッ! ブリットッ!」

 

「はいっ!」

 

入れ代わりでシシオウブレードを携えたヒュッケバインMK-Ⅱがその切っ先をジュデッカに向ける。

 

「そんな中途半端な念で私とこのジュデッカに傷を付けれるとでも思っているのか?」

 

「そんな力など必要ないッ! 打と意地を以て、必ずお前を倒してみせるッ!!」

 

ただの剣とレビはシシオウブレードを見縊った、それが間違いであると言うことはジュデッカに走った衝撃で気付いたが、それは余りにも遅かった。

 

「なっ!? 何故ジュデッカに傷が……」

 

極限まで研ぎ澄まされたブリットの集中力と念動力、シシオウブレードの切っ先から命中する僅かな瞬間に念動力の刃が飛び出し、その胸部に深い傷跡を残していた。

 

「貴様ら!」

 

激昂したジュデッカの4つ腕を念動フィールドの中で必死にかわすアルトアイゼンとヒュッケバインMK-Ⅱ。

 

「エクセレンッ!!」

 

「はいはーい今行くわよ! キョウスケ、ブリット君!」

 

飛び交うバグスを交しながらヴァイスリッターとR-3パワードがジュデッカへと迫る。

 

「うっ……この女……! 私の念と同調を……ッ!?」

 

「……ッ間違いない…! やっぱり、貴女は……ッ!!」

 

ジュデッカに迫るR-3・パワードにレビは不快そうに顔を歪め、アルトアイゼン達に向けられていた4つ腕全てをR-3パワードへと向けた。

 

「この念……気に障るッ! 私の前から消え失せろッ!」

 

「止めなさい! 貴女は大きな過ちを犯しているのよッ!」

 

ギリアム達の危惧した通りジュデッカに近づいたアヤはレビが自分の姉妹であるマイと言う事に気付いてしまっていた。

 

「くどいッ! そんな非力な念で、私を倒せるとでも思っているのかッ! ただの出来損ないの分際でッ!」

 

「非力……? そうよ……私の念は、所詮……! リュウや貴女には届かない! だけど、貴女を止めるのに、念の力は必要ない! 引き金を引く力さえあれば充分よ……ッ!」

 

ジュデッカに向けられたストライクレーザーキャノン。だがその銃口はジュデッカの機体そのものではなく、その身体を覆っている念動フィールドに突き刺さった。

 

「貴様!?」

 

「……私には私にしか出来ないことがあるのよ。エクセレン」

 

「はいはーいっ! ありがとねん!!」

 

ストライクレーザーキャノンにこめられた念動力によって僅かに緩んだフィールドに隙間にオクスタンランチャーの一撃が叩き込まれ、フィールドが解除される。その僅かな隙にキョウスケ達は念動フィールドの内部から離脱していた。

 

「……お前は……そうか、アタッドが言っていた女か、強かな奴だ」

 

「やだ褒められちゃった。……ま、でもどのみち相容れないわけだし、勝負は決するしかないわけだし、ね」

 

直接攻撃するのではない、離脱する隙を作り出す為の攻撃とはレビを持っても想定しておらず。そして、Rー3・パワードに意識を向けてい間にジガンスクードや、グルンガスト、そしてグルンガスト弐式と言った特機にジュデッカは包囲されていた。

 

「ふふふ、全くその程度で私とジュデッカを倒せると思っているのか?」

 

囲まれた事で逆に冷静になったレビ。些細なことで激情していたとレビは己を戒めるように首を振り、そしてジュデッカの4つ腕に力を込める。

 

「お前達の命、このジュデッカに捧げよ。第2地獄アンティノラッ!!!」

 

4つの腕の中央か現れた光の輪から氷の散弾がリュウセイ達に向かって打ち出される。それは一切の回避も防御も許さないタイミングだったが、そこに割り込む2つの影があった。

 

「……捉えた。重力散弾アトラクターシャワーッ!!!」

 

「ゲッタァアアビィィイイームッ!!!」

 

黒い重力の雨と降り注ぐ翡翠色ではなく、紅いゲッタービームの輝き、それらが打ち出された氷塊を全て打ち砕き、ジュデッカとアルトアイゼンの間にゲッター1とアストラナガンが舞い降りるのだった……。

 

 

 

 

 

アストラナガンとゲッター1の登場はレビだけではない、リュウセイ達にも驚愕を与えていた。

 

「い、イングラム教官! それに武蔵、大丈夫なのか!?」

 

一番怪我が深かった2人の登場にリュウセイの心配の声が飛ぶ。だがイングラムも武蔵も心配無用だと言わんばかりに笑った。

 

「お前に心配されるほど、俺は耄碌していないぞ。リュウセイ」

 

「なーに心配ないさ、動けないなら俺もイングラムさんも来てないぜ」

 

だから心配はないんだと返事を返すイングラムと武蔵だが、互いにそのコックピットの中では額に脂汗が浮かんでいた。鎮痛剤の点滴も半分ほどで出てきたのだ。機動兵器の操縦に掛かるGや振動は2人に少なくないダメージを与えていた。

 

「やっと出てきたか、バルシェム」

 

「俺をバルシェムと呼ぶな、レビ・トーラー」

 

「ふっ、作られた人形の分際で何を言う? アストラナガンを手に入れて慢心したか?」

 

レビの見下すような言葉にイングラムは声を押し殺した笑い声を上げる。

 

「ふふふ、お前達は何も理解していない。この世界が何なのか、そして何故アストラナガンが俺の元に現れたのかをな」

 

「ほう? まるで何もかも知っていると言う口調だな」

 

「事実知っているからな、バルマーもゾヴォークもな。俺は俺の使命を思い出した、ならば俺は最早バルシェムではない。イングラム・プリスケンと言う1人の人間だ」

 

自分達に理解出来ない話をしているイングラムとレビ。だがイングラムが味方であると言うことが判り、アストラナガンの驚異的な力を知るリュウセイ達はジュデッカ相手に勝機が見出せたことに笑みを浮かべる。だが、その中で武蔵は身体に走る痛みとは別の焦りを感じていた。

 

(……炉心の出力が……あの時と同じまで高まってる)

 

思い出すのはメカザウルスを巻き込んで自爆した時のアメリカの戦い。今はまだ身体を火傷するような熱は放っていないが、それも時間の問題のように思えた。そしてそれと同時に誰にも言っていないが、終わりの時が近いのだと武蔵は本能的に感じていた。

 

(あと少し、最後まで頼むぜ。兄弟)

 

出来る事ならばこのまま居たいという気持ちがない訳ではない、だが武蔵は自分の肩に死神が肩を置いているような感覚を感じていた。

 

「どうかしたのか?」

 

「いや、でかい相手だからぶちのめしがいがあるっておもってなあ!」

 

ラドラの言葉に誤魔化すように声を上げ、武蔵はゲッター1をジュデッカに向かって走らせる。

 

「ふふふ、お前が相手をしてくれるのかい?」

 

「地球は破壊なんてさせねえよッ!」

 

ジュデッカの伸びた腕をゲッタートマホークで弾き、そのままジュデッカに向かって投げつける。それは簡単にジュデッカの念動フィールドを貫き、その肩に突き刺さる。

 

「素晴らしい力だ。流石ゲッターロボ、その力をなんとしてもバルマーの物にしなくてはな」

 

「へっ、オイラもゲッターもお前等なんかの好きにはならないぜっ!!」

 

積極的に先手先手を攻撃を繰り出すゲッターロボにリュウセイ達はついて来れない。その動きについてこれる機体はこの中には1機しか存在しなかった。

 

「余り焦るな、ジュデッカに捉えられるぞ」

 

イングラムとアストラナガンが割り込み、死角から伸びて来たジュデッカの尾を弾き、そのままガンファミリアによる面射撃を始める。間断なく降り注ぐ弾雨にジュデッカの念動フィールドの破壊される回数が徐々に増え始めていた。

 

「俺の予測した未来へ進むか……それとも、別の未来へ行くか。ここが分岐点のようだな」

 

破壊された念動フィールド、この好機をギリアムは逃すつもりは無く。ブースターを全開にして、一気にジュデッカへと切り込む。

 

「この感覚、その力……目覚めつつあるのか、それとも……意図的に隠していたな?」

 

自身が接近した事でレビが何かを感じ取ったのか、ギリアムに言葉を投げかける。だがギリアムはその言葉を鼻で笑い、メガバスターキャノンの銃口をジュデッカに向ける。

 

「……さあな。だが、そんな力等無くても、お前の未来は見えている。この戦いに参加している全員の目にな……ッ!」

 

必ず勝利するという強い決意と共に放たれたメガバスターキャノンの一撃は、ゲッタートマホークとZ・O・ソードで破壊されたフィールドを潜り抜け、ジュデッカの4本の腕の内の1本の根元を打ち貫いた。

 

「くっ……馬鹿な、ジュデッカが押されているなどありえん……ッ!」

 

自己再生機能を持つジュデッカだが、ゲッターロボとアストラナガンの参加で念動フィールドをこうも簡単に破壊されてしまっては、ダメージが蓄積し始めている。

 

「アカシック……バスタアアアアーーーーッ!!!」

 

「ぐっぐうう……魔装機神……サイバスター。それも我々が危惧する突出しすぎた力……だが、手に入れれば我らの強力な兵器となるッ!!」

 

背後からの一撃はレビからの余裕を徐々に奪い取っていく。だが、サイバスターはゲッターロボ同様危険ではあるが、何よりも回収したいサンプルであった。だからこそ、動きの鈍い2本目の右腕を除く、3本の腕をサイバスターに向かって伸ばす。だがその腕は横から飛んできた桃色の光によって弾かれた。

 

「己を具現化した機体か……。兵器に人間らしさを求めるとは、面白い」

 

サイバスターとジュデッカの間に割り込んだ機体。ヴァルシオーネを見てレビは笑う、機動兵器でありながら生身の少女を思わせるその姿に面白いと感じたのだ。兵器は強く強力であれば良い、それなのにあそこまで女体を再現する必要があったのかとレビは思った。

 

「それだけじゃないよ! あたしのヴァルシオーネには……親父の想いや願いも込められてるッ! だからあたしとヴァルシオーネはお前には負けないッ!」

 

「具体的な力を発揮せぬ人の念など、意味はない。そんな物はただの貴様の思い過しだ、兵器に必要なのは強力な力だ」

 

ヴァルシオーネの存在を笑ったレビにリューネの怒声が響き、強さだけを求めるレビにマサキの哀れみさえ伴った声が投げかけられる。

 

「力……強力な兵器か、そんなのに溺れた奴の末路は決まってるッ! 自分の意志じゃなく、ただ誰かに利用されてる奴なら、なおさらな!」

 

「笑止……私はレビ・トーラー。ネビーイームの支配者だぞ? 私が誰かに利用されているなどありえん」

 

「だったら、てめえのどこに自分の意志があるってんだッ!? そのマシンに振り回されてるだけじゃねえのかッ!?」

 

サイバスターの奏者であるマサキには見えていたその機体を覆う邪悪な意志が、そこにレビの想いや意志は無いと判りジュデッカに操られているだけだろうと叫ぶ。

 

「な、何……ッ!? お前は何を見ているッ!?」

 

そしてマサキの叫びにレビの中に僅かな迷いが生まれた。そしてそれはマサキに言われた事が図星であると言う証だった。

 

「図星か! だったら……そいつに封じ込められた邪悪な意志を……俺が断ち切ってやるっ!!」

 

「それに見せてあげるよ、人の想いがどれだけの力を生み出すか……どんな物かをねえッ!!」

 

1度付いた勢いと言うものはそう簡単には止まらない、念動フィールドの展開速度を上げ防御に集中しているが、それでも限界は訪れる。だがレビはジュデッカの中で笑みを浮かべていた、ジュデッカで出たのも、ホワイトスターを動かしたのもサンプルの危機感をあおり、その力を引き出すため。ゲッターロボとアストラナガンも引きずり出したので、これ以上戦艦を生かしていく旨みはない。

 

「ふふふ……私とジュデッカに魅入られたら終わりだよ」

 

全身から念動力を放ち、自身を取り囲んでいた機体を吹き飛ばすと同時に今まであえて使わなかった強襲形態に変形し、クロガネへと一直線に突き進む。

 

「狙いはクロガネか!」

 

「とめろッ!!」

 

「くそったれ、これが狙いかッ!!」

 

あえて攻撃をひき付けることでクロガネとヒリュウ改の護衛機を引き離した。ここからではアストラナガンと言えどジュデッカに追いつくことは出来ない。念動フィールドを全開にしたまま、全長70mを越える巨体でクロガネへと体当たりを仕掛けようとした瞬間。クロガネとジュデッカの間に赤い影が割り込んだ。

 

「クロガネはやらせねえッ!! ぐおっ!?」

 

割り込んだ影はゲッター1だった。ジュデッカの中でレビはほくそ笑んだ。ゲッターロボも回収するべきサンプルだがその強さは桁違いだ。ここで確実にゲッターロボを戦闘不能にすることで回収を容易にしようと考えたのだ。

 

「がっ!? ぐっ! うおっ!?」

 

「ふふふふ……見るがいい、お前が堕ちる最終地獄を」

 

何度も体当たりを繰り返し、ゲッターロボの回りを何度も周回しながら近づくたびに体当たりを叩き込み、ゲッターロボの抵抗する力をゆっくりと、しかし確実にそぎ落としていく。

 

「武蔵の援護に入れ!」

 

「動きを止めるんだ!」

 

追いついてきた機体がジュデッカに攻撃を仕掛けるが、最大出力で展開した念動フィールドと高速で動き回る質量自身が盾になり、ジュデッカの攻撃を止める事が出来ず。旋回しゲッターロボの胴体を咥えたジュデッカは念動力で出来た渦の中に飛び込む。

 

「カイーナ」

 

「がっ!? ぐっ……てめえッ! 好き勝手……」

 

上下左右も判らない感覚の中、ジュデッカに咥えれたままの状態でも武蔵は必死に反撃に拳を振るう。

 

「アンティノラッ!」

 

「ぐっぐううっ……な、何がぁ……げぼおっ!?」

 

氷塊に叩きつけられたのか気温が急激に下がり、自身の手足の感覚が無くなって来ている事に武蔵は困惑する。強力な念動力で作られた幻はそれその物が攻撃となり、武蔵の精神へと強い過負荷を与えていた。この手足の麻痺もレビの強力な念動力によって与えられたイメージだが、それを現実と思ってしまった瞬間。武蔵は強い凍傷を全身に負ったのと同じ状態に陥っていた。

 

「トロメアッ!!!」

 

全身が凍傷したと思い込み、動くことが出来ない武蔵に向かって偶像であるバグスの群れの体当たりが襲い掛かる、これも幻影なのだが、それを現実と思っている武蔵には激突の振動でベアー号のコックピットの中で何度も強い衝撃を受け、切っていた頭の傷口までも開き、その顔を鮮血で染め上げていく。

 

「これでトドメ。最終地獄ジュデッカッ!!!」

 

念動力の渦の中から姿を見せたジュデッカはその口にゲッターロボを咥えたまま、ホワイトスターに向かって急降下し、ゲッターロボをホワイトスターへと叩き付けた。

 

「ぐっぐあああああああああーーーーーーッ!!!」

 

「はははッ! ははッ!! はーっはははははははッ!!!!」

 

武蔵の苦悶の叫び声と狂ったように笑うレビ。そしてホワイトスターに叩きつけられたゲッターロボはその蜘蛛の巣状のクレーターから、現れた黒い竜のような影に襲われ、武蔵の苦悶の叫びと細かい爆発が何度も繰り返される。そして永遠にも思える数秒の後カメラアイの光が消えたゲッターロボはその全身に細かい亀裂を走らせ、鋭い牙の生えた黒い竜に手足を持ち上げられ、まるで十字架に囚われた死体のような姿でホワイトスター上空にその姿を拘束されていた。

 

「武蔵! おい! 武蔵!!」

 

「武蔵君! 武蔵君!」

 

「そ、そんな……」

 

リュウセイやエルザムが通信を繋げるのをきっかけに、出撃している機体全てがゲッターロボに通信を繋げる。だが武蔵からの返答は無いのだった……。

 

 

 

 

第84話 邪悪なる十字架 その3へ続く

 

 




スパロボ定番イベント、援護防御でHP10残しとかの状態になった。ゲッターロボ、武蔵の安否は如何に、次回ジュデッカ戦決着までを書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第84話 邪悪なる十字架 その3

第84話 邪悪なる十字架 その3

 

目の前の光景を誰もが受け入れる事ができなかった。今までどんな戦いでも決して膝を着く事無く戦い続けたゲッターロボのカメラアイからは光が消え、全身に細かい亀裂の入ったその姿を現実と受け入れる事が出来なかった。

 

「武蔵君! 武蔵君返事をするんだッ!」

 

「武蔵! おい! 武蔵ッ!!」

 

「くそったれ! 気絶しているのか!」

 

エルザムのゲッターロボへの通信で全員が声を掛けるが、ゲッターロボからは武蔵の返事は無い。痛いほどの沈黙に全員の脳裏に最悪の予想が過ぎる。

 

『PT隊はゲッターロボの救出へ向かえ! 特機部隊はレビ・トーラーの足止めだ!』

 

ゲッターロボと武蔵を救出しなければならない。ダイテツはそう判断を下すが、レビとしても折角確保したゲッターロボをみすみす手放すつもりはなかった。

 

「ふふふ、ここからが本当の戦いだよ」

 

ジュデッカに付けられていた傷が回復し、その身体を覆っていた念動フィールドがセンサー無しで目視出来るほどに強固になる。

 

「……今まで手加減してたってことかよ」

 

「不味いな、どこまで持つか……」

 

連戦連戦で機体へのダメージが蓄積し、パイロット達の精神的疲労も溜まっている。そして精神的支柱であったゲッターロボも沈黙した……状況は爆発的にダイテツ達の不利へと傾き始めていた。

 

「そう簡単に武蔵がお前の軍門に下ると思っているのかレビ?」

 

「ふふふ、現に抵抗する術がないではないか」

 

ゲッターロボは半壊し、武蔵は意識が無い。もしくは死んでいるかもしれない……そんな最悪の予想が全員の脳裏を過ぎるが、イングラムはレビの言葉を鼻で笑う。

 

「お前は武蔵と言う男を何も判っていない、勿論俺達の事もだ。俺達は絶対に諦めない」

 

「ならば諦めざるを得ない絶望と言うものを見せてやろう」

 

ホワイトスターの外壁が吹き飛び、下半身が蛇で4つ腕でのドラゴン。巨大な狼のような姿をしたライガーが姿を見せる。万全な状態でもまともに戦う事が出来なかったキメイラの出現。だがそれでもリュウセイ達の闘志を折ることは出来なかった。

 

「それがどうした! 俺達は負けないッ!」

 

「……その通りだ。俺達は諦めない。絶対にだッ!」

 

確かに戦力差は絶望的であった、だがそれでもリュウセイ達の心は折れない。例えどれほど絶望的であっても、心が折れない限りリュウセイ達は不屈の意思で戦う事を決して諦めないのだ。そしてそれは……武蔵も同じだった。

 

「……うっ……く……」

 

ベアー号のコックピットに滴り落ちる血液の音。武蔵の脇腹にはジュデッカに噛まれ、そしてホワイトスターへと叩きつけられ時に折れたベアー号の内部装甲の一部が突き刺さっていた。一番酷い怪我はそれだが、全身に酷い傷を背負っても武蔵はまだ息絶えていなかった……それ所か意識がないにも関わらず、その手を震わせながらベアー号の操縦桿に伸ばしていた。

 

「……うっ……」

 

滴り落ちる血がベアー号に落ち続ける中、突如ベアー号からあふれ出した翡翠色の光が武蔵を徐々に包み込もうとしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

ゲッターロボの離脱、それはゲッターロボとアストラナガンの2機でジュデッカの動きを束縛していたのが中途半端になるということ意味していた。

 

「はははッ! どうしたんだ? 諦めないのじゃなかったのか?」

 

アストラナガン単体でジュデッカにダメージを与えることは困難になり、機体へのダメージが限界をとっくに超えているPTや特機のコックピットモニターにはレッドアラートが絶え間なり続けていた。

 

「そら、無様に逃げ回るがいい」

 

4つ腕が振るわれ、ホワイトスターから出撃したバグスの群れが一斉に襲い掛かる。

 

「ちいっ!」

 

アルトアイゼン・改が両肩のクレイモアを射出しようとしたが、コックピットに響くのは弾切れの乾いた音。

 

「ぬうんッ!!」

 

「行けッ!!」

 

零式斬艦刀の一閃とグラビトロンカノンの掃射が襲ってきたバグスを消し飛ばす。だがその代償は決して安い物ではなかった……

 

「ぐっ、流石にエネルギー切れが近いな」

 

「むしろここまで良く持ったというべきだな……」

 

ただでさえグルンガスト零式・改とトロンベ・タイプGはズフィルードクリスタルを搭載されたゲシュペンストタイプS。そして暴走していたアストラナガンと連戦を続けている。精密機械であるPTや特機に不調が出るのは明らかだった。

 

「はっ……はっ……くそ。まだ出てくるのかよ」

 

「だ、大丈夫マサキ……」

 

「お前こそ……大丈夫かよ……リューネ」

 

サイフラッシュやサイコブラスターの多用、そして明らかに集中攻撃を受けていたサイバスターとヴァルシオーネのコックピットには警報が鳴り響き続けている。

 

「ラッセル。弾寄越せ!」

 

「すいません、中尉。さっき渡したカートリッジが最後です」

 

「ちいっ……こいつは不味いぜ……」

 

「リオ、ブリット。1回下がった方がいい」

 

「そ、そんな事言ったって……今下がったら戦線が維持できないでしょ……」

 

「その通りだ。まだ俺もヒュッケバインも戦える」

 

出撃出来る機体全てが出撃し、ジュデッカの撃破を試みている。だがゲッターロボの大破と言う衝撃な光景は紛れも無く1度全員の集中力の糸を切っていた。そして1度切れた集中力の糸を再び繋ぎ合わせるのは困難で、しかも絶望的な状況に追詰められていることもあり、ゆっくりとだが確実にその動きは精彩を欠き始めていた。

 

「おい、そこの、まだソニックブレイカーは使えるか?」

 

「逆に聞くが、お前はどうなんだ?」

 

「もはや突っ込んで自爆にしか使えん」

 

「だろうな、俺も同じだ」

 

量産型アーマリオンに乗っているラドラも、ガーリオンレオカスタムに乗っているバンも機体の状態を見て乾いた笑い声を上げる。ソニックブレイカーの多用で肩パーツは半壊し、フレームも歪み始めている。もはやまともにソニックブレイカーは発動できないだろう、それでもなお不屈を誓い手持ち武器をジュデッカに向けるが、それが念動フィールドを突破できないのは判りきっていて、残された手段が自爆しかないということも理解していた。

 

「レオナちゃん、もう無理だ、下がるんだ」

 

「くっ……なんて無様……ッ!」

 

ジガンスクードに庇われ、レオナはガーリオンのコックピットで舌打ちを打つ。ゲッターロボを拘束している黒い影の破壊を試みたのは機動力に長けたヴァイスリッターやガーリオン、そしてR-3パワードと言った遠距離攻撃に長けた機体がそれぞれに出来る方法で武蔵の救助を試みていたが、やはりそれも成果が出ない。

 

「ちいっ……リバイブならば強行突破できた物を……」

 

「くっ、武蔵! 武蔵聞こえるか!」

 

何度目かの突撃に失敗したカイとギリアムの顔にも焦りの色が浮かんでくる。新西暦の機体と異なり旧西暦の機体のゲッターロボの気密性に不安を感じているギリアムは武蔵から返答が途絶えてからの時間を逆算し、残された時間がない事に焦りを隠せないでいた。

 

「きゃあっ……うっ、も、もう少しだけ頑張って弐式……ッ!」

 

「それ以上は無理だ! 下がれクスハ」

 

「で、でも武蔵君が……」

 

「それは判ってる! だけど、俺もお前ももう限界だ」

 

これ以上は自分達が死ぬと言われクスハも唇をかみ締める。何度もキメイラの突破を試みた、だが機動力に長ける異形のライガーと攻撃力に長けた異形のドラゴンの壁は予想以上に固く、何度トライしても突破口を見出せないでいた。

 

「何故だ、何故起動しない!!」

 

そしてビアンもまたクロガネの格納庫で怒声を上げていた。ゲッターロボが囚われてすぐゲッターVで出撃しようとしたのだが、ビアンの意思に反してゲッターVは起動しなかった。

 

「何故お前は今になって私を裏切るッ!」

 

武蔵を助ける為の力はここにある、だがゲッターVが起動することは無い。その事に怒りの雄叫びを上げるビアン、だがゲッターVは何も答えない。ここで見ていろと言わんばかりに沈黙を続けるだけだ。

 

「ゲッター線、お前は何を考えているッ!」

 

何故ここになって武蔵を裏切る、何故武蔵を助けさせてくれない。ビアンは込み上げる怒りを抑えることが出来ず、その握り拳をゲッターVのコンソールに叩きつけるのだった。

 

 

 

 

 

 

アストラナガンの中でイングラムは顔を歪めていた。武蔵の戦闘不能は確かに計算外だった。だがアストラナガンならばジュデッカを撃墜することは容易いはずだった。

 

(何故だ、どうした。お前に何があったアストラナガン)

 

出力が上がらない所か低下の一途を辿るアストラナガン。世界を超えてまで己を助けに来た相棒の裏切りにイングラムは驚愕を隠せないでいた。

 

「第3地獄トロメアッ!」

 

「こけおどしだなッ! アキシオンキャノンッ!」

 

無数に沸いて出るメギロートをアキシオンキャノンで吹き飛ばし、そのままジュデッカを狙うが念動フィールドに阻まれる。余りに弱体化しているアストラナガンに内心舌打ちをする。一体何が起きているのかイングラムは困惑する一方だ。

 

(こんなことをしている場合では無いと言うのに……ッ!)

 

何時セプタギンが起動するかも判らないこの状況。仮にジュデッカを倒したとしても帰る場所が無くなるのでは何の意味もない。だが焦り、行動を読まれるようになってはならないと務めて冷静に対処しようとするイングラムだが、その抑えきれない焦りは徐々にアストラナガンの動きから精彩さを奪い始めていた。

 

「ふふふ、そんな攻撃は利かないよ」

 

「ちっ……」

 

高速で迫る尾を交わし、R-1達の方に下がるアストラナガン。だが出力は低下を続け、インフィニティシリンダーは愚かアキシオンキャノンを使えるかどうかと言う瀬戸際までそのエネルギーは低下を続けていた。

 

「教官、大丈夫か」

 

「大丈夫と言いたいが状況は悪いな」

 

本来ならばジュデッカ等大した敵ではない、それなのにフルパワーを使えない事に冷静なイングラムであっても怒りを隠せないでいた。

 

「SRXが使えれば……」

 

「無理が祟ったわね」

 

SRXが使えればと言うリュウセイ達。今のこの状況こそ、SRXが必要な時。だがイングラムを救出する時の負担でSRXへの合体は不可能になっていた。

 

(……イングラム、イングラム……)

 

(うっ……この声は……クォヴレー?)

 

突如脳裏に響いた声、それは異なる世界において己が見出した新たなる因果律の番人にして、限りなくイングラムに近く、そしてイングラムから最も遠い存在である「クォヴレー」の声だった。

 

(その世界の因果は最早修正しきれない程に乱れている。それを正す事が出来るのは武蔵とお前だけだ)

 

(だろうな……判っているさ)

 

ビアンの生存、そしてイングラムの生存それら全ては武蔵によって齎された。だが世界からすればビアンの生存はまだしも、イングラムの生存、そしてアストラナガンを手にしてしまった事は許容できないことなのだろう。だからアストラナガンの力が制限され始めてしまっていたのだ。

 

(手を貸そう、だがそれが何を意味するか判っているな?)

 

(お前に言われるまでもない)

 

このままリュウセイ達の側にいることは出来ないとイングラムは判っていた。この世界で出来るイングラムの戦いはこれが最後であり、そして再び旅立つ時が近づいていたのだ。

 

「リュウセイ、ライ、アヤ。唱えろテトラクテュス・グラマトンと」

 

「教官……何を言っているんだ?」

 

「ふっ、俺を信じろ。唱えるんだ、最早レビ・トーラーを倒すにはそれしかない」

 

イングラムの自信に満ちた声。言葉を言うだけで勝てるとは思えなかった、それでもリュウセイ達はイングラムの言葉を信じたかった。

 

「「「「テトラクテュス・グラマトンッ!!」」」」

 

4人の声が重なり、R-1達とアストラナガンの姿が眩い翡翠色の光に包まれる。

 

「な、なんだ。何が起きて……」

 

「Rシリーズとブラックエンジェルが合体した!?」

 

光が晴れた時、そこには合体出来ないはずであったSRXへと合体したRシリーズの姿があった。だがその姿は漆黒に染まり、そしてその手足はアストラナガンを連想させる悪魔のような物になり、その背中にはアストラナガンの翼が新しく出現していた。

 

「何だ。それは……何が起こっている」

 

目の前の光景が理解出来ず困惑するレビ、だが混乱しているのはリュウセイ達も同じだった。

 

「これは……教官。これは何なんだ!?」

 

「DiSRXとでも言うべきか、それよりもだ。一撃で決めるぞ、トリガーはお前に預ける。ライは照準を合わせろ、アヤはリュウセイのサポートだ。もう一度言うぞ一発で決めろ、2発目は無い」

 

DiSRXの胸部が開き、長方形のパーツがせり出し、何もかも飲み込むような紫色の光が宇宙を眩く照らし出す。

 

「何をするつもりかは知らんが、お前達の好きにはさせない」

 

エネルギーチャージの時間など与える物かとジュデッカの4つの腕がDiSRXに向けられた瞬間。

 

「ゲッタァアアアアアアアーーーーーーッ!!!!」

 

「何ぃッ!?」

 

武蔵の雄叫びが響き渡り、その腕が跡形も無く消し飛んだ。そしてDiSRXの隣に佇むのはゲッター線の光で作られた真ゲッターの姿だった……

 

「遅いぞ」

 

「武蔵! お前大丈夫なのか!?」

 

イングラムとリュウセイをきっかけに全員が声を掛けるが、武蔵から返答は無く頭上に掲げた両腕の間に眩いまでのゲッター線の球体が作り出される。その姿に意識をなくしてもなお、自分達を助ける為に武蔵が動いているのだと全員が理解した。

 

「武蔵を休ませる為にも一撃で決める。外すなよリュウセイ」

 

「ああ、この一撃で極めてみせるッ!!」

 

「ターゲットロック、この距離で外すなんて真似はするなよッ!」

 

「リュウ、貴方に任せるわよッ!!」

 

口々に自分に任せるという仲間の声。そして自分達に迫ってくるジュデッカの巨体……それでもリュウセイに恐怖はなかった。仲間達の信頼にこたえる為に、この一撃で極めてみせると言う強い決意がリュウセイを支えていた。

 

「行くぜ武蔵」

 

武蔵からの返答は無い。それでもその言葉が武蔵に届いているとリュウセイは感じていた……

 

「いっけえええええーーーーッ!!!」

 

リュウセイの雄叫びと共に放たれた極限まで高められた紫と翡翠の輝き……、リュウセイ達は知る良しも無いが、アイン・ソフ・オウル、そしてストナーサンシャインがジュデッカの巨体に向かって放たれ、その巨躯を抉り取り、キメイラ達をも飲み込みながらホワイトスターへと着弾するのだった……。

 

 

 

「やった……のか?」

 

突如静寂に満ちた宇宙にキョウスケの困惑した声が響いた。だがそれも無理は無い、Rシリーズとアストラナガンが合体し、北京で猛威を振るったゲッター線で巨大化したゲッターロボが一撃で自分達がどれだけ奮闘しても倒せなかった相手を一撃で下した。その現実をすぐに受け入れられるほどキョウスケは頭の柔らかい男ではなかった。

 

「武蔵聞こえるか?」

 

「……うっ? つっうつう……何が……どうなって……? いっつう」

 

「……ぐっ、あそこまで無茶をして、この程度で済めば……御の字……か」

 

合体が解除されたRシリーズと半壊したまま宇宙に浮かぶゲッターから困惑した武蔵の声が響き、それに遅れてアストラナガンからもイングラムの苦しそうな声が響いてくる。何が起こったのか判らないが、レビを倒したことに変わりは無い、負傷した武蔵とイングラムを回収し、戦況終了の合図を出そうとしたとき。僅かに胴体部だけを残したジュデッカからノイズ交じりのレビの声が響き渡った……。

 

「……フ、フフフ……」

 

「な……何がおかしいッ!?」

 

突如笑い出したレビにリュウセイが怒鳴り声を上げる。だがレビはリュウセイ達を嘲笑うように笑い続け、そして咳き込みながら言葉を続ける。

 

「……ごほっ……お前達は……取り返しのつかない間違いを……犯した……私を……げほ……いや、ジュデッカをお前達は壊してはいけなかったのさ……地球を守り……たいのならばな……げほっ……」

 

「なに……ッ!? どういう意味だ」

 

「フフフ……このジュデッカとネビーイームが機能を停止すれば……我らバルマーの最終安全装置が……作動する……」

 

咳き込み、今にも命の灯火が尽きてしまいそうなレビだが、それでもリュウセイ達を嘲笑う言葉を口にし続ける。

 

「安全装置……? 何の為の物だ?」

 

「……対象文明が一定値以上の……戦力を発揮した場合……すなわち……このジュデッカを……撃破した時……げふっ……その文明はバルマーにとって危険因子と判断され……自動的に……消去される……ごほっ……残念……だったな……」

 

「消去だとッ!? まだ、てめえらには何かあるってのかッ!?」

 

消去されると聞いてマサキが声を荒げる。レビは苦しいのか時々咳き込みながらも勝利を確信した声色で話を続けた。

 

「最初にして『最後の審判者』が……お前達を消去する……げほ……はは……私を……ごほっ……倒しても……げほ……ッ! 終わりではない」

 

最初にして最後の審判者。その言葉を一瞬理解出来なかったが、頭脳派の面子はその言葉が何を意味するのかに辿り着いていた……エアロゲイターが一番最初に地球に齎した物……「メテオ3」の存在だ。

 

「フ、フフフ……既に……安全装置は……解除された……ごほっげほっ……もう……止めることは……出来ない……これで……お前達の星は…終・わ・り・だ……ふふふ……あはっ、あーははははッ!!!」

 

レビの高笑いと共にジュデッカは爆発を初め、そのカメラアイから禍々しいまでの紅い光が消えた。だがその姿を見ても、誰も勝ったと喜ぶことが出来なかった、レビの言葉が真実ならば地球を滅ぼす最悪の兵器が動き出そうとしているからだ。

 

「各員クロガネ、ヒリュウ改、シロガネへと着艦しろ! その後本艦は地球へと降下する! ゲッターロボはクロガネへと収容する。ヒリュウ改とシロガネはPTの回収完了後クロガネよりも先に地球へと降下してくれ!」

 

どうかレビの散り際の嘘であって欲しい、そう願いながらダイテツは各機へと着艦命令を下す。だが地球に戻ったダイテツ達を待ち構えていたのは受け入れ難い現実、そして身を引き裂くような悲しい別れなのだった……。

 

 

OG編1最終話 さらば武蔵 ゲッターロボ最後の戦いへと続く

 

 




今回の戦闘シーンはあっさりとした描写へとなってしまいました。北京で真ゲッターの姿を出したのはジュデッカ戦でアインソフオウルとストナーサンシャインを使いたかったからなんですね、それと今回の話で判ったと思いますが。OG2などではアニメなどの要素も可能な限り盛り込んで畳みきれる風呂敷で話を展開して行こうと思います。最終話は少し短くなると思いますが、次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

OG編 最終話 さらば武蔵 ゲッターロボ最後の戦い

OG編 最終話 さらば武蔵 ゲッターロボ最後の戦い

 

 

 

アイドネウス島に現れた巨大な建造物の反応――それを感知し、地球へと降下するヒリュウ改、クロガネだが満身創痍である事は明白で、それでも地球を護ると言う意思の元不屈の闘志で僅かでも戦えるようにと整備班が必死で修理を施している中。クロガネの緊急治療室でもまた戦いが繰り広げられていた……。

 

「両者とも心拍数低下! 血圧、脈拍共に危険です!」

 

「状態を逐一報告! 2人とも意地でも死なせないッ! 絶対に救うぞッ!!」

 

ジュデッカとの戦いで大破したゲッターロボと、同じくボロボロの状態で出撃したアストラナガン。そのパイロットである武蔵、イングラムは両者とも意識不明の重傷でクロガネ改の緊急治療室で懸命な救命処置が施されていた。

 

「武蔵の腹の傷と頭の傷を同時に縫合する! 幸い骨折した部分が内臓を傷付けていない!」

 

ピッピッピっと小刻みになる心電図の音……それらが痛いほどの沈黙を保つクロガネ改の通路に響く……。だが治療室の前で待つ者はいない、仮に意識があれば何をしていると、地球を護れと言うに決まっている武蔵とイングラムの意志を全員が感じていた。だからこそ全員が出撃待機室で最後の戦いに備えて、少しでも身体を休めていた。

 

「イングラム少佐の脈拍更に低下!」

 

「電気ショックだ! 武蔵には輸血を続けろ、出血死する!」

 

整備班、そして出撃班以上に懸命な治療を続ける中。武蔵の意識は眩いまでのゲッター線の光の中を漂っていた……。

 

夢を見ていた――

 

リュウセイがいて……

 

キョウスケさんがいて……

 

エルザムさんがいて……

 

ゼンガーさんがいて……

 

ダイテツさんがいて……

 

おいらを友達と呼んでくれた皆がいて……

 

ビアンさんがいなくて……

 

バンさんがいなくて……

 

ユーリアさんがいなくて……

 

リリーさんもいなくて……

 

そしてなによりオイラがいなかった……

 

色んな人が死んで、悲しい戦いが続いて……でもそのきっかけはビアンさんで……憎まれて、敵として最後まで戦って死んで……イングラムさんもリュウセイに殺されて、リュウセイ達は嘆いていた……

 

 

 

 

「……ああ……そっか、うん。そうなんだ……」

 

目を覚ました時。唐突に武蔵はすべてを理解した、きっとこの世界にはこの世界の歴史があったんだ。だけど、それを巴武蔵と言う存在が狂わせた。死ぬべき者を生かした、この世界にいてはいけないものを武蔵はこの世界に連れ込んでしまった。

 

「……ああ、そうなんだよな。全部……判ったよ。おいらはここにいちゃいけなかったんだな……」

 

あの時アメリカで死ぬべきだった。

 

リョウや隼人早乙女博士に全て託して、逝くべきだった。

 

でも未練があった、まだ生きていたいと思った。

 

もっと笑いあいたい。

 

もっと皆と同じ時を生きたい。

 

死にたくない……そう思ってしまったんだ。

 

「なんて情けないんだ」

 

覚悟を決めたつもりだったのに、最後の最後で死にたくないと思ってしまった。きっとそれが原因で自分はこの時間に来てしまったのだと……そして本来の歴史と異なる事をしてしまったのだ。今まで見ていた夢で武蔵はそれを理解した……そして自分が今傷を負ってる理由も良くない頭で考えて考えて答えを出していた。

 

「対価……だよなあ」

 

自分のせいで変わってしまった世界、それがきっと変わってしまった歴史、世界を元に戻す為の力として動いている。武蔵はそんな馬鹿げた事を事実だと思っていた。

 

だって見てしまったから、自分がいない世界を、そして自分が何を変えたのか、何をしてしまったのかを理解したから……。

 

「……うっ……ぐ……」

 

口に当てられていた酸素マスクを外し、身体中に繋がれているコードを引きちぎりながら寝かされていたベッドから立ち上がる。ただそれだけで額から大粒の汗が流れる、そのままベッドに倒れこんでしまいたいと武蔵は思ったが震える足を殴りつけて無理やり立ち上がる。

 

「……誰でもない、オイラが……やらないとな……」

 

着ていた病人服は鮮血に染まっている、腹に巻かれている包帯も真紅に染まり血液が医務室を汚している。その事に申し訳無いと思いながら、ベッドサイドに置かれていた剣道着の胴を身につけ、ヘルメットを被り首元にマントを巻いた。

 

「すまねえ……な、今のオイラにゃあ、お前は重すぎるんだ」

 

ずっと背負ってきた日本刀、そして敷島博士の作ったリボルバーをベッドサイドの机の上に残し、武蔵は血痕をクロガネの通路に残しながら格納庫へと足を向ける。だが格納庫に辿り着く前に鬼の形相のビアンが武蔵の前に立ち塞がった。

 

「……何をしている。早く、医務室に戻るんだ」

 

「……ビアンさん。駄目なんです、オイラが行かないと駄目なんだ」

 

「戻るんだッ! 早くッ! 自分の今の状況を理解しているのか!」

 

「……げほっ、ごほっ……自分の……事は……自分が一番判ってますよ……もう、オイラは長くない」

 

全身に走る寒気、そしてこれだけ酷い怪我なのに痛みが殆ど無い。その事に武蔵は自分の命の終わりが近い事を感じていた。咳き込み、咄嗟にてで口を押さえたが、その手が鮮血に染まっているのを見て、武蔵は己の死期が近い事を悟ってしまった。

 

「そんな事は無い、早く戻るんだ。本当に死んでしまうぞッ!」

 

「……本当、オイラはビアンさんに会えて良かった」

 

心配してくれる人がいる……血縁のある者もいない、自分を知るものもいない。そんなこの時代でビアンに会えた事に武蔵は感謝していた。

 

「……すいません、医務室に戻ります……肩を貸してくれませんか……」

 

「ああ。良いとも、さ、医務室に……ぐっ……な……なに……を」

 

武蔵に肩を貸そうとしたビアンの腹に固く握り締められた武蔵の握り拳がめり込んでいた。大きく目を見開いたビアンに武蔵はすいませんと謝った。だがここで立ち止まってしまえば、もう歩けない。もう進めないと判っていたから、武蔵は自分を心から気遣うビアンを殴りつけた。自分は弱いから、その声を聞いていたらまた迷ってしまうと判っていたからだ。崩れ落ちるビアンの身体をクロガネの通路に横にし、武蔵は再び咳き込みながら格納庫へと足を向ける。

 

「……自分……の引き際は……判ってます……後は……任せて……ください」

 

壁にべったりと血の跡を残して進んでいく武蔵。ビアンがその手を伸ばしても、声を掛けても武蔵には届かない。

 

「……だ……めだ。武蔵君……行っては……」

 

「ありがとうございます。後はお願いします……あれは……オイラがちゃんと……連れて逝きますから」

 

薄れいく視界の中ビアンは駄目だと繰り返し武蔵の名を呼び続けていた。

 

「……ふう……うっ……げほ……ごほっ……」

 

ベアー号のコックピットに乗り込むと同時に口を押さえて咳き込む武蔵、乱暴に口元を拭った武蔵の視界には鮮血に濡れる己の手が見えた。

 

「……よう……すまねえな……兄弟……もうひと……働き……頼むぜ……今度は迷ったりしねえからよ……最後まで頼むぜ……」

 

ゲットマシン形態で収容されていた事。そして運が良いのか悪いのか整備兵もいない格納庫で武蔵は悠々とベアー号に乗り込むことが出来ていた、滲む視界、震える手でベアー号の操縦桿を握ろうとした時ジャガー号から通信が入った。

 

『遅いぞ武蔵。何時まで待たせるつもりだった』

 

「……イングラム……さん? なんで」

 

『フッ、俺もお前と同じだ。この世界に居続けると世界を乱す。なら、俺達がやることは1つだろう?』

 

イングラムの言葉に驚愕に顔を歪める武蔵。通信機のボタンを押してジャガー号に音声だけではなく映像も繋げる。そこには武蔵同様包帯を真紅に染めたイングラムがジャガー号の背もたれにもたれ掛かるようにして座っていた。

 

「……あの黒い……のは?」

 

『……無理をしすぎてな……壊れた、仕方ないから……亜空間に戻した』

 

何を言っているのか武蔵は理解出来なかったが、アストラナガンが使えないからジャガー号で待っていたと言うことだけは判った。

 

『……お前も見たんだろう? 正しい歴史を……』

 

「……そうですね、見た……んでしょうね」

 

寝ている間に見た自分がいない世界。あれが正しい歴史だと言うのなら、自分はどれだけ世界を乱してしまったのかと武蔵は苦笑した。

 

「イングラムさん……どうなるか、判るでしょう? 降りた方がいい……」

 

『ふっ、自分のやるべきことは判っているつもりだ。それに……今のお前に……1人でゲッターを動かせるのか?』

 

その言葉に武蔵は返答に詰まった。イーグル、ジャガー共に大破寸前でまともに飛ばすことも出来ないだろう。合体して漸く飛行出来るレベルと言うことは明らかで、そして再びクロガネに戻ってくることは出来ないと武蔵には判っていた。

 

「アヤさんはどう……するんですか……あの人は」

 

『判っている。判っているさ……だが俺にはアヤの気持ちを受け入れることは出来ない。俺にはやらねばならぬ使命がある』

 

その強い意思の込められた言葉に武蔵は一瞬言葉につまり、アヤやリュウセイの顔を思い浮かべ申し訳無いと思いながら再びイングラムに尋ねた。

 

「……降りる気は……ないんですね?」

 

ゲットマシンのエンジンが点火していることに気付き、警報と整備兵が駆け込んで慌しくなる格納庫を見ながら武蔵は尋ねた……いや、確認した。このままゲットマシンに乗り続けて死んでも良いのかと、そしてイングラムは血の気の引いた青い顔に笑みを浮かべた。

 

『1人で地獄に逝くには辛かろう、俺も付き合ってやる』

 

「……酔狂……だなあ。あんたも……だけど……ありがとう……ございます」

 

『礼はいらん。それよりすまないな、きっとお前がこの時代に来たのは俺も関係している』

 

「……良いですよ……おかげで……面白い……経験が出来ましたから。それじゃあ……逝きますか」

 

『ああ、竜馬や隼人ほどではないが、単独操縦よりはましだろう。逝こうか』

 

互いに覚悟は既に済ましている。自分達がやるべきこと、成し遂げなくてはならないことをなす為にイングラムと武蔵はゲットマシンの操縦桿を握り締める。その目には誰にも消す事が出来ない、燃え盛る業火のような強い意志の光が宿っているのだった……。

 

 

 

 

 

もう無理だと全員が感じていた。蓄積したダメージ、極度の緊張感で削られた集中力、満足に補給も出来ずエネルギーも弾薬も足りず、修理も施されていない。満身創痍……そんな言葉では生温いほどにクロガネ、ヒリュウ改、そしてリュウセイ達は思いハンデを背負っていた。それでも地球を守ると言う意思で最後の審判者を名乗る巨大な石塊「セプタギン」との戦いに挑もうとしていた。だが、リュウセイ達はセプタギンとの戦いの舞台にすら立てないでいた。

 

「くそ……わらわらっと」

 

「畜生ッ!」

 

連邦のメッサー、ゲシュペンスト等のアイドネウス島の警備を行っていた機体。

 

そしてDCのリオンやガーリオンと言ったアーマードモジュール。

 

更には無尽蔵に出現するバグスやバードと言ったエアロゲイターの機体。

 

それら全てがセプタギンから出現し続けている。セプタギンに近づく事も出来ず、そして人海戦術で襲ってくる無人機にダメージが溜まっている機体ではまともな戦闘になりはしなかった。

 

「きゃああッ!?」

 

「エクセレンッ!」

 

バグスの特攻で右腕を吹き飛ばされたヴァイスリッターが落下してくるのを見て、即座にアルトアイゼンがバックアップに入る。

 

「大丈夫……な、訳はないか」

 

「ふふ。流石にね……厳しいってもんじゃないわよ」

 

「万全な状態でもまともに戦えるかどうか判らない大軍勢。それらを蹴りらし、セプタギンを破壊する……口で言うのは簡単だが、2重、3重にセプタギンを覆っている無人機の壁は想像以上に固い」

 

「T-LI……くそっ! R-1! まだだ! まだ動いてくれッ!」

 

「……弾薬、エネルギー共にレッドゾーン。最早、ここまでか……」

 

「パワードパーツパージ! まだ、諦めないわよッ!!」

 

R-1の拳は光り輝く事無くカメラアイが点滅を初め、R-2の中でライは絶望を感じ、アヤはプラスパーツをパージする事で、不屈を叫ぶが、通常よりも小型のR-3に出来る事は殆ど無いも同然だった。それでも決して諦めないと吼える。

 

「まだまだぁッ!!」

 

「おおおおーーーッ!!!」

 

片腕を互いに失ったグルンガストとグルンガスト零式・改。互いの死角を補うように背中合わせで無尽蔵に沸いて出るアーマードモジュールに拳を叩きつけ、蹴りを叩き込む。

 

「ゼンガー少佐よ、そろそろ不味いんじゃないか?」

 

「……だとしてもここで引くことは出来んッ!」

 

レッドアラートが鳴り響き、エネルギーの枯渇が近かろうがそれでも諦めはしない。イルムの口調に諦めにも似た色が混じっているが、それはうわべだけでその目はまだ爛々と輝いている。

 

「こりゃあ、死に花1つくらいはド派手に咲かせてやらないとなぁ」

 

「ああ……死んでも、死に切れんッ!」

 

まだ敵は残っている、一矢報いる事すら難しいとしても、それでも決して諦めない。なんとしてもセプタギンを破壊するという強い意志で戦い続けるリュウセイ達だが、絶望はまだ終わらない。

 

『複製完了、量産型G軍団出撃開始』

 

機械合成音と共にセプタギンから出現したのは何百と言う数の量産型ドラゴン、ライガー、ポセイドンの姿。AMやPTと戦うだけでも劣勢に陥っているのに、そこに特機であるドラゴン達が加わった……その絶望感は計り知れない。

 

「万事休すか……」

 

「……まだだ! まだ諦めんぞッ!!」

 

限界をとっくに超えている機体、そして己の身体に心が折れかける者、もう無理だと思っても不屈を訴える者。だが全員が理解していた……自分達にはもうあれらを倒す力が残されていないことを……

 

「……中佐、大尉! クルー全員を避難艇に向かわせろ! こうなればクロガネを……な、なんだッ!?」

 

最終手段としてクロガネを自爆させることを考えたダイテツだが、突如鳴り響いた警報と振動に驚愕の声を上げる。攻撃を受けたのだと思ったダイテツの耳に届いたのは整備兵の嗚咽交じりの叫び声。

 

『む、武蔵君とイングラム少佐がゲットマシンで出撃、くそ! 退避! 退避だぁ! 外に吸い出されるぞ!!』

 

最も怪我の酷い武蔵とイングラムが医務室を脱走し、ゲットマシンに乗り込んだという叫びと警報の音。

 

「馬鹿な……死ぬつもりか! 武蔵ッ!」

 

殆ど自力で飛行できないイーグル号とジャガー号をベアー号で無理やり押し出し、墜落するようにクロガネから飛び出したゲットマシンを見てダイテツはそう叫ばずにはいられなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クロガネが突如爆発し、思わず振り返った全員が見たのはクロガネの格納庫から飛び出す……いや、墜落するイーグル号とジャガー号、そしてその2機を追いかけるようにして機首を真っ逆さまにして先に落下したゲットマシンに追いつこうとするベアー号の姿だった。

 

「チェンジ……ゲッタァアアアアアーーーッ!!!」

 

血を吐くような武蔵の叫びと共にクロガネから飛び出したゲットマシンがゲッター1へと合体する。地響きを立てて着地したゲッター1の姿はボロボロだった。全身に亀裂が走り、その特徴的な2本角も根元から折れ火花を散らす。

 

『うっぐ……ごあああ……』

 

『ぐっ、中々の衝撃だな。武蔵よ』

 

スピーカーから聞こえて来たのは何かが滴り落ちる音と苦悶に満ちた武蔵とイングラムの声。それが何を意味するか判らない者はこの場にはいなかった。

 

「武蔵君! 何で出撃した! 戻るんだ! 死んでしまうぞッ!」

 

肋骨の骨折、腹には20針を越える縫合……満身創痍なんて言葉すら生温い怪我を負っている武蔵の登場に普段冷静なエルザムでさえ声を荒げ、クロガネに戻るように叫ぶ。だが武蔵の返答は明確な拒絶すら見せるゲッタービームによる横薙ぎの一撃だった。

 

「何をッ!?」

 

「何をするんだ武蔵ぃッ!」

 

それはPT隊を直撃することは無かった、だがその余波でもボロボロのPT隊を沈黙させるには十分な一撃だった。

 

「これは……オイラが……やる事だ……オイラが……新西暦に来たのは……きっとこの為だったんだ」

 

「お前達では最早、セプタギンには勝てん。後は俺と武蔵に任せて貰おう」

 

自分達よりも遥かにボロボロの武蔵とイングラム。ゲッターロボを止めようにも、今の一撃で機体の大半は動けなくなってしまった。

 

「止めろッ! 死ぬつもりか武蔵ッ!」

 

「そんな有様でゲッターロボの反動に耐えれると思っているのかッ!」

 

オープンチャンネルで叫ぶギリアムとラドラ。滴り落ち続ける音が何かなんて態々言うまでもない、開いた傷から滴り落ちる武蔵の血液だ。そんなボロボロの状態で何が出来ると叫ぶが、武蔵の声はその怪我からは信じられないほどに穏やかな物だった。

 

「誰かがやらなきゃ行けないんだ。アヤさんやリュウセイには悪いけど……イングラムさんは道連れにしちまう。ごめんな……でも、もうオイラ1人じゃあ……ゲッターは動かせないんだ。ごめん……ごめんなぁ……だけど、あの石ころだけは連れて逝くよ……だから後は頼むよ」

 

「もう俺は必要ではない、後はお前達で道を切り開け、そのための障害は……俺達が排除して逝く」

 

悲痛さを伴った武蔵の謝罪の言葉と突き放すようなイングラムの言葉……。そして道連れと言う言葉に武蔵が何をしようとしているのか全員が理解した、いや……理解してしまった。

 

「道連れではない、俺がいれば世界が乱れる。それが俺と言う存在だ、お前が謝る必要はない」

 

「……それを言えば……オイラもだろ……オイラは……旧西暦で死ぬべきだった……それが……こんな所まで来た……来ちまった。それが……きっと……すべての狂いの始まりなんだよ……きっとオイラが……いる事が……罪だったんだ」

 

2人が何を言っているのか理解出来ている者は1人しかいなかった。同じく世界を渡り歩いたギリアムだけが、2人の真意を理解していた。

 

「違う! そんな事は無い! 生きている事が罪なはずがないだろッ! 武蔵! イングラムッ!」

 

「止めろ、止めてくれッ! 武蔵! 教官!! 行くなッ! 行かないでくれッ!!!」

 

「武蔵貴様ッ!! また逝くつもりか! ふざけるなッ! 戻れッ!」

 

ギリアムとリュウセイだけではない、全員が止める様に叫ぶ。だが動かない機体では、ゲッターロボを力付くで止める事も出来ない。嗚咽交じり叫ぶしか武蔵とイングラムを止める術は無く、そして言葉だけでその決意を揺るがせる事が出来るほど2人の決意は覆る物ではなかった。

 

「ゲッタァアアウィングッ!!!」

 

音を立ててボロボロのマントがゲッターの背中を覆い、ゲッターロボの姿は一瞬で上空へと舞い上がる。

 

「行くぜええええッ!!!」

 

ゲッタートマホークを片手に壁のように立ち塞がる無人機へと突き進むゲッターロボ。

 

『ゲッター線感知、捕獲対象「ゲッターロボ」を直ちに捕獲せよ』

 

PT隊に向かっていた無人機達全てがゲッターロボへと向かう。上下左右からゲッターロボに襲いかかるPTやAM、そして量産型ドラゴン達。

 

「「おおおおおおおおーーーッ!!!」」

 

武蔵とイングラムの雄叫びが重なり、ゲッターに群がる無人機が次々と破壊され墜落していく。だがそれよりもゲッターロボの損傷は激しく、ただでさえボロボロのその姿が見る見る間に砕けていく。

 

「ちくしょうッ! 動けッ! 動けえッ!!」

 

「くそっ! くそッ! なんで、なんで動かないんだ! サイバスターッ!!」

 

たった1機、しかも2人とも命に関わる大怪我をしているのだ。早く応援に向かわなければならない、それが判っているのに動き出せる者はいなかった。動きたくとも、己の分身とも言える機体は動いてくれない。

 

「「「「「!!!」」」」

 

「ぐっ!? がっあッ!?」

 

バレリオン、リオン達のレールガンの雨がゲッターロボに襲いかかり、そのボロボロの装甲を更に抉り破壊する。

 

「ぐっ!? 武蔵ぃいッ!!」

 

ジャガー号に被弾し、イングラムの苦悶の声が響くが、即座に武蔵の名を叫んだ。それは自分の怪我よりも武蔵の怪我が重傷であり、そして今の衝撃で意識をとばしている事に気付いたからだった。

 

「ッ! ゲッタァアアーーーッ! ビームッ!!!!」

 

急降下し掛けたゲッターロボが体勢を立て直し、ゲッタービームをバレリオン達に向けて放つ。最大出力のゲッタービームにバレリオン達が耐え切れる訳も無く、連鎖的に爆発していき、ゲッターロボの視界を覆いつくした。それは本来の武蔵とイングラムならば何の問題も無く対応出来る稚拙な煙幕だった。だが今の武蔵達にはその煙幕に対応するだけの余力が無かった……。

 

「ああ……駄目ええええッ!!」

 

「そんなッ!?」

 

「がっはあッ!?」

 

そして全員が見ている目の前でドリルを翳したライガーがゲッターロボを背後から刺し貫き、そのまま地面へと叩きつける。

 

「うっごおお……ぐっ……おおおおおおーーーーッ!!!」

 

「!?」

 

ライガーの頭部を握り潰すゲッター1。だが上空から降り注いだダブルトマホークの嵐が右腕を根元から切り落とす。

 

「なめるなあっ!!!」

 

だが武蔵もただではやられない、ダブルトマホークを拾い上げ、降り注ぐダブルトマホークの迎撃を始める。

 

「そんな……あれは……あの姿は……」

 

エルザムだけが知っている。それはアイドネウス島に初めて現れた時のゲッターロボ……腹に風穴が開き、右腕が肩から存在しないボロボロの姿は間違いなくあの時の姿と瓜二つだった。

 

「ぐっ! 武蔵! 気絶するな!」

 

「……判って……るうッ!!」

 

連邦の、DCの、エアロゲイターのありとあらゆる陣営の機体がゲッターロボを抑えに掛かった時――それは起きた……。

 

「「「「!?!?」」」」

 

ゲッターに近づいた機体の装甲がドロドロに溶け始めたのだ。そしてその熱はゲッター自身をも融解させ始めていた。

 

「メルトダウンだッ!」

 

ゲッターロボは放射線で稼動している。そのメルトダウンが今まさにリュウセイ達の目の前で起き始めていたのだ。

 

「武蔵! 武蔵ィッ! 教官ッ!!」

 

「止めろリュウセイ……もう、無理だ」

 

「ライッ! てめ……」

 

ゲッターがメルトダウンを始める。それと同時に何故か今まで動かなかった機体は動き始めた、もう手遅れだと早く逃げろと言わんばかりに……

 

「……もう……無理なんだ。武蔵も……教官もッ! 俺達は逃げるしかないんだッ!」

 

涙を流し、逃げるんだと言うライにリュウセイは何も言えず、R-2に引きずられるように離脱していく。

 

『ゲッター線指数……計測不能……!? 自爆……!? ありえないありえない……理解不能、理解不能ッ!?』

 

メルトダウンによって放射された熱によって無人機が次々と溶けて爆発していく、そしてその熱はゲッターロボすらも蝕んでいた。

 

「知らねえなら教えてやるッ! この血も涙もねえ冷血野郎の石ころもどきがッ!! 今更驚いたって無駄だ。オイラは1度決めて実行している……そして――敵が現れたのなら何度だってそれを選ぶ! お前達にこの美しい地球は絶対に渡さないッ!! そして仲間は殺させねえッ!!」

 

「バルマーよ。お前達は見誤ったのだ。人の想いを、そして人の強さをなッ!!!」

 

ゲッターロボの真紅の装甲が眩いまでの翡翠色に輝き、ゲッターウィングを既に失っているのにその身体は上空に舞い上がっていた。

 

「……ま、前の時よりも、ゲッター線の値が遥かに跳ね上がってる――流石に今度こそは……助からないだろうが……どうせ死ぬ命だ。ここで全て燃やし尽くしてやるぜえええええッ!!!」

 

「……ああ、そうだな。残った命の灯火を全て燃やし尽くすのも……ああ、悪くはないなッ!!」

 

命の雫を最後の一滴まで燃やし尽くす。そう叫ぶ武蔵とイングラム、そしてその叫びに呼応するようにゲッターの輝きが増していく。まるで太陽のように、全てを照らし出すかのように……彼らの命を燃やし尽くすかのように……。

 

「てめえらが欲しがったゲッター炉心をくれてやるッ! あの世にでも持って行きやがれぇーー!!!」

 

光り輝いたゲッター1がその身体を溶かしながら、セプタギンへと突っ込んで行き……金属が次々に拉げて引き裂かれるような耳を劈き精神を掻き乱すような音がアイドネウス島上空に響き渡る……それはゲッターロボがセプタギンに追突し、その装甲が拉げていく音だった。……そして次の瞬間全員の視界を奪う眩いまでの翡翠の輝きが周囲を照らしだした。

 

「……キ……ケン………ブ…ン……メ……イ……チ…ツジョ…ヲ………ミ…ダス……キケン……キケ…ン……ホ……ウ……コク………フ……カノ……ウ……ワ…レ……ハ……サ…イゴ……ノ……」

 

ノイズ混じりのセプタギンの声。全員の視界が戻ったときセプタギンの身体は球状に抉り取られ、爆発を繰り返しながらアイドネウス島の沖へと沈んでいった……。

 

「武蔵は……教官は……」

 

残骸すら残っていない、セプタギンの残骸は振ってくるのに、ゲッターロボの残骸は何処にもない……ギリギリで離脱できたのか、そんな淡い期待が全員の胸に過ぎった時。上空から何が落ちてきた、墓標のようにアイドネウス島の中心に突き立ったのはドロドロに融解し、そして僅かにゲッタートマホークの面影を残す金属片……。

 

「ああ……そんな……」

 

「どうして……イングラム……少佐……ううっ……」

 

「あああ……教官……武蔵……うう……うわああああーーーー武蔵ぃぃぃいいいいいーーーーッ!!!!」

 

夕暮れの光に照らされ煌くゲッタートマホークだった物、それが何を意味するのかを理解し、慟哭の叫びがアイドネウス島に木霊した……。

 

地球圏を脅かした脅威は去った、武蔵とイングラムと言う余りに大きな犠牲を払い、全員の胸に深い傷跡を残しながら……

 

OG1編 エピローグへ続く

 

 

 




武蔵とイングラム死亡したかは今の段階では不明と言う事でお願いします。本日21時にエピローグを入れて第一部は完結し、6月より新章に入ります。
最後のゲッターが輝いたのは「シャインスパーク」をイメージしています。ゲッター線を全て放出するならゲッター1でも理論的には可能なはず。正し、装甲などが耐え切れず融解し、完全な自爆技になると思いますけどね。と言う訳で、セプタギン戦はシャインスパークで終わりとさせてもらいました。OG2に入る前にまだ別の新章が入りますが、どこが舞台になるかを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

OG1編 エピローグ

OG1編 エピローグ

 

武蔵とイングラムの2人は戦時中行方不明……Missing in action。「MIA」認定とされた。発見されたゲッターロボの残骸がゲッタートマホークだけであると言うこと、そしてそれ以外の残骸が発見できなかった事による。クロガネ、ハガネ、ヒリュウ改の全員の嘆願によって限りなく戦死に近いと断定されながらも「MIA」の判断が下されたのだった。

 

「……もう行くのか、ビアン」

 

「……ああ、私達にはやらねばならぬことがある」

 

無事に伊豆基地に帰還したクロガネの艦橋にビアンを初めとした。DCの正しい意味の生き残りであるクルー全員の姿があった、レイカーはビアンを引きとめるつもりだったのだが、その顔を見て何も言えなくなってしまった。

 

「……戦時中特例を拒否するのか?」

 

「ふっ、我らは罪人にあることは変わりはない。だが再び地球の危機が迫ったら、我らはまた立ち上がろう。彼の……武蔵君の意思を無駄にしないためにもな」

 

MIA認定はただの気休めと言っても良い、だがその死を受け入れたくなかった。またどこかで朗らかに笑いながら、武蔵が現れるんじゃないか……そんな淡い期待を抱いていたかった。

 

「……そうか、気をつけてな」

 

「ああ。クロガネの修理感謝する。レイカー・ランドルフ……またどこかで会おう」

 

レイカーに別れを告げてクロガネは伊豆基地を後にする。

 

「リリー中佐。ユーリアは?」

 

「……部屋に閉じ篭っています。もう暫く気持ちを整理する時間を与えてあげてください」

 

「ああ。無理強いはしないさ」

 

クロガネのクルーの多くは武蔵の明るい人柄を好いていた。この短いだけで武蔵の死を割り切れるはずが無いのだ……。無論ビアンとてそれを受け入れ難く、そして止める事が出来なかったことを悔いていた。

 

「進路をアメリカへ、バン大佐の基地へと向かう」

 

ゆっくりと進み始めるクロガネ。その艦長席にビアンは深く背中を預ける。

 

もしも、あの最終決戦の時でゲッターVが動いていたら……

 

もしも、武蔵が単独操縦で出撃を強いられることが無ければ……

 

色んなもしもが頭を過ぎるが、武蔵がメテオ3と共に自爆したと言う事実は変わらない。自分達は何も出来なかった、それが現実。

 

(……我らは抑止力となろう。武蔵君、君が愛した地球を守る為に……)

 

最後まで地球とそして仲間の無事を祈った武蔵。その武蔵が守りたいと願った地球を守る事――それがビアン達に出来る全てなのであった……。

 

「良かったのか、ラドラ?」

 

「何がだ? ゼンガー」

 

格納庫に収容されている零式・改、トロンベ・タイプG、そしてゲシュペンストシグ。ラドラはゼンガー達と共に行動をすることを決めたのだ。

 

「連邦に再び属するのもすかん、それにゲシュペンストとヒュッケバインの再トライアウトが決まれば後はマリオンに任せる……不安はあるがな」

 

むしろ不安しかないかとラドラは苦笑し、修理されている己の機体に視線を向ける。

 

「……俺もシグもまだまだ力不足だ。だから俺にはビアン・ゾルダークの知識が必要だ」

 

「そうだな。私も己の力不足を実感する……」

 

武蔵の特攻によって救われた。だが、武蔵を失ったという事実はゼンガー達の心にも深い傷を残していた。

 

「……武蔵は生きてるさ。ゲッターの残骸は殆ど無かっただろう?」

 

「それはそうだが……」

 

「もしかすると新西暦に来たのと同じで、また別の時代に跳んでしまったのかも知れない。だから残骸がない、そう思えば良いだろう?」

 

ぶっきらぼうではあるが、励ましてくれているラドラにゼンガーとエルザムはそうだなと呟いた。エアロゲイターの脅威は去った、だがまだメカザウルスや、アードラー派のDCの生き残りがいるかもしれない。地球はまだ平和になっておらず、まだ脅威は地球のあちこちに残っている。

 

「ゼンガー本当に良かったのか?」

 

「ああ。ブリットの意志を俺は買いたい。あの刀に恥じない男になるだろう」

 

武蔵の遺品であるマグナムはエルザムが、そして日本刀は本来ゼンガーが持つ筈だったが、ゼンガーはそれをブリットに託した。少ない時間だが、武蔵はブリットの師だった。自分が持ちたいという気持ちはあったが、それでもゼンガーはそれをブリットに預けたのだ。今よりももっと強くなるように、そして武蔵を忘れるなと言う意味合いを込めてだ。

 

「遺品なんて言っていたら武蔵が生きて出てきたらどうする? 泣くぞ」

 

「はは、それだったら謝るさ」

 

「うむ。それに俺も武蔵は生きている。そう思いたい、また再び会う事が出来る……俺もエルザムもそう信じている」

 

 

 

 

 

アイドネウス島での戦いから1週間経ったある日。極東支部基地のブリーフィングルームにリュウセイ達の姿があった。

 

「……じゃ、お前らは北米のラングレー基地に?」

 

ヒリュウ改はイカロス基地へ帰還し、オクト小隊とレオナがヒリュウ改と共に地球を後にした。クロガネは伊豆基地に帰還して数日で姿を消し、ビアン達は再び消息不明となった。ラドラは誰にも別れを告げずにシグと共に姿を消したが、恐らくクロガネと行動を共にしていると全員が理解していた。そして今キョウスケ達も伊豆基地を後にしようとしていた。

 

「あそこはDC戦争中に破壊されたが……間もなく再建される予定でな。護衛の意味も兼ねて、俺達達ATXチームに転属命令が出た」

 

「元々、私達はあの基地の所属だったし。それに……色々と思い出もあるしね」

 

エアロゲイターと共に戦った仲間が再び元いた場所へと帰っていく、また会えると判っていてもやはり寂しさは隠しきれなかった。

 

「それだけではありませんわ。私とリシュウ先生もラングレーへ行きます。キョウスケ中尉達には引き続きATX計画を手伝って貰いますわよ?」

 

「まぁ、上層部も今回の事は堪えているようだしの、良かったの、ATX計画もSRX計画も凍結にならずにすんで」

 

「と、凍結!? どういう事だ!?」

 

自分達の隊が凍結されるかもしれない状況だったと聞いて声を荒げるリュウセイにロブが苦笑しながら肩を竦めた。

 

「元々ATX計画とSRX計画には予算とコンセプトの問題で各方面から問題視されていた」

 

「問題と言ってもその殆どがやっかみですがね」

 

多大な予算が組み込まれているATX計画とSRX計画。それに不満を抱く研究者を抱え込んでいる軍上層部の圧力があり、2つの計画を凍結するべきだという方面で話が進められていたとロブはリュウセイ達に説明する。

 

「……だが、今回の事で上層部は意見を変えた。異星人からの侵略にはそれに対抗する力が必要だと考えた。それによってATX計画とSRX計画は計画続行となった。まぁ……オペレーションSRWではなけなしの人型機動兵器が失われてしまった事もあり、さすがに規模は縮小されるが、PTの量産計画と平行してATX計画、そしてSRX計画の続行を決定したんだ」

 

「わお、それってもしかしてラドラのお陰だったりする?」

 

「……ああ、ラドラ元少佐が提供してくれた。フライトユニット、それとゲシュペンスト・改の図面それらを用いれれば、PTの量産は可能であり、更にアーマリオンの製造プラントも確保出来た。当面はそれらを量産しながら、ATX計画、SRX計画……それと……」

 

「オオミヤ博士? なにか不安なことでもあるのですか?」

 

ATX計画、SRX計画のほかにもう1つ何か決定が下された様子だったが、口ごもるロブにキョウスケがそう尋ねるが、ロブは首を左右に振った。

 

「何、ちょっとしたプロジェクトの始動の話が合っただけだよ。まぁ、実行は不可能だから、机上の空論止まりだけどな。それに先の作戦の功績を認められて、ヒュッケバインとゲシュペンストの再トライアウトも決定されたことは喜ばしいことだと思うよ。ただ……開発中だったグルンガスト参式やヒュッケバインMk-IIIは一時計画停止になってしまったけどな」

 

まさか自分達が宇宙で戦っている間にグルンガストやヒュッケバインの新型が建造されているとは露にも思わず、リュウセイ達は思わず顔を引き攣らせていた。

 

「次のトライアウトでは確実にヒュッケバインを下し、アルトアイゼンが正しい意味でゲシュペンストMk-Ⅲの称号を得ます。そして、その後はMK-Ⅲを更に強化しますわ。後はおまけでビルトビルガー、ビルトファルケン……もですけどね」

 

ビルトシリーズはマリオンの考案ではなく、カークの計画だがそれでもそれがマリオンの口から出た事にリシュウとロブは小さく笑みを浮かべたが、マリオンに睨まれ苦笑しながら目を逸らしていた。

 

「ちょっと……ラドム博士、私のヴァイスちゃんは?」

 

「何を言っているんです? ヴァイスリッターはMK-Ⅲのパートナー。しっかりと強化してあげますわよ」

 

それはそれで不安だけど、忘れ去れていないことにエクセレンは安堵するべきか、不安に思うべきか少し悩み、ありがとうと返事を返していた。

 

「……よう、キョウスケ、リュウセイ」

 

「お別れの挨拶を言いに来たよ」

 

ブリーフィングルームの扉が開き、マサキとリューネが姿を見せたのだが、お別れの挨拶と聞いてリュウセイの顔色が僅かに曇った。

 

「マサキ、リューネ……やっぱり、行くのか?」

 

やることがあるとは聞いていたが、もう少し後でも良いんじゃないのか?というニュアンスを込めてリュウセイが尋ねるが、マサキは首を左右に振った。

 

「ああ。地上の方は何とか一段落ついたみたいだが……まだあいつが見つかってねえ」

 

「シュウ・シラカワの行方が、まだ掴めていない……と?」

 

「俺は奴を追う。草の根分けてでも、必ず捜し出してやるぜ、武蔵達と少し行動を共にしていたって言うし、案外すぐ見つかるかもしれないしな」

 

南極で共に戦ったと武蔵から聞いていたマサキはまずは南極方面から探してみると笑う。目撃情報があるのなら、それをまず第一の手掛かりにしようと思っていた。

 

「リューネはやっぱり、ビアン博士を探すの?」

 

リューネを置いて旅立ったクロガネ。伊豆基地を後にしたらビアンを探すの? とエクセレンが尋ねるとリューネはまさかと笑った。

 

「一応バン大佐には誘われたけど、いつまでも親離れ出来ないのは駄目だと親父にも言われたし……私は武蔵とイングラムでも探そうかなって思ってる」

 

MIAと言うことは生きている可能性もある、なら自由に動ける自分が探して見たいとリューネは笑った。

 

「そっか、もし武蔵を見つけたら連れて来てくれよ? 言いたい事があるんだ」

 

「判ってるよ、DCの戦火の影響が残ってるから、もしかすると途中で断念するかもしれないけど、それでも私は武蔵達を探すよ」

 

軍属であるリュウセイ達は武蔵を探す事が出来ない、生きていてくれることを願っていると言う事を知っているからリューネは武蔵達を探すことを当面の目的にしていた。

 

「また何かあったら、すぐにみんな集まって来るよ。皆仲間なんだしね」

 

「そそ。電話一本、30分以内って感じ?」

 

「アルトアイゼンなら15分だな、ピザはぐしゃぐしゃになるがな」

 

訳の判らない事を言うエクセレンだが、それが意図して言っていると判っているキョウスケはそのボケに乗ることにした。驚いた顔をするリュウセイ達にキョウスケは眉を顰めるが、それだけでも暗い雰囲気は払拭されていた。

 

「……お前らの漫才も、しばらく見られないと思うと寂しいもんだぜ」

 

「あらん、夫婦……が抜けてるわよん? マーサ」

 

猫のように笑うエクセレンに肩を竦めるマサキ。だがエクセレンはそれをみてますます楽しそうに笑い、自分がからかわれていると気付き、マサキの顔に皺が寄った。

 

「言ってろ……じゃ、そろそろ行くぜ」

 

「俺達もな」

 

マサキ達だけではなく、ラングレー基地に向かう輸送便の出発時間が近いキョウスケ達も腰を上げる。

 

「あ、そうそう。リュウセイ……ううん、やっぱり止めとく、武蔵が見つかるといいわね」

 

ゲッタートマホークが残されていた。同じゲッター合金で作られたゲッターロボが跡形も無く消えたというのは信じられない事であったし、信じたくないことでもあった。

 

「ああ、俺達も探してみるよ。きっと武蔵は生きていると思うから」

 

「……そうだな。俺達もそう思う」

 

あの大きな声と朗らかな声。今にもブリーフィングルームの扉が開いて武蔵が姿を見せるような気が全員していた。

 

「リュウセイ……極東の守りは頼むぞ」

 

「判ってる。マサキ、地上は俺達に任せてくれ」

 

「ああ。もし、何かあったら……その時はサイバスターで駆けつけるぜ。じゃあな、皆……ッ!」

 

別れを告げ空へと飛び立って行くサイバスターとヴァルシオーネ、そしてラングレーへと向かう輸送機をリュウセイ達はブリーフィングルームの窓から見送る。

 

「……何だか、ここも静かになっちゃったわね」

 

今までいた面子がいなくなった。それだけで急にがらんとしたようにアヤは感じていた。

 

「……うん……そうだね」

 

本を読んでいたラトゥーニがその言葉に同意する。その姿を見てアヤはラトゥーニも変わったわねと小さく笑った。マサキ達の別れの挨拶に返事を返すことは無かったが、それでも今までの人を拒絶する空気が薄くなっていることは、確実にラトゥーニが成長した証だった。たぶん声を掛けなかったのは、余りマサキ達と交流が無かったのが理由だとアヤは思った。

 

「でも、ラトゥーニ……本当にジャーダ達の所へ行かなくて良かったの?」

 

軍を退役するジャーダとガーネットが養子として引き取りたいと声を掛けたが、ラトゥーニはその申し出を断り、軍に残る事を決めていた。

 

「……私、散り散りになったスクールの子達を捜したいの……オウカ、アラド、ゼオラ……皆、きっと生きてると思うから……それに……私は」

 

「?」

 

ちらりと見られたリュウセイだが、訳が判らないと言う顔をしていてアヤは額を押さえて深く溜め息を吐いていた。

 

「リュウ、休暇が出ているから、少しゆっくりしてきなさい。ラトゥーニと一緒に」

 

「!?!?」

 

「休暇? 本当なのか?」

 

休暇と言うことが信じられないリュウセイ。そしてまさかアヤにそんな事をされるとは思っていなかったラトゥーニの目が激しく揺れる。

 

「ええ。本当よ、私達に特別休暇が出たの、ライも外出許可を取って基地の外に出てるから、リュウもゆっくりしてくると良いわ。勿論ラトゥーニもね」

 

「な、なんで私も……!?」

 

「クルー全員に休暇が与えられることになってるのよ、ラトゥーニは固定休暇だけど、リュウは好きなタイミングだから2人で休暇を取ればいいわ。それとリュウは1度家に帰りなさい。お母様が待っていらっしゃるわ」

 

「おふくろが……!? でも、ここの病院に……」

 

出撃前に伊豆基地の病院で入院していた母親が何で自宅にと驚くリュウセイにアヤは悪戯っぽく笑みを浮かべた。

 

「ギリアム少佐とヴィレッタさん……ううん、ヴィレッタ隊長がね……色々と便宜を図ってくれたの。だから……お母様はもう自由の身よ」

 

「ヴィレッタが……」

 

イングラムの代わりにSRXチームの隊長になったヴィレッタ。イングラムの場所を奪ったようで、ヴィレッタが苦手だったリュウセイだが、ヴィレッタが自分の事を考えて上層部に掛け合ってくれた事に感謝した。

 

「い、いいのかよ? 本当に?」

 

「ええ。それが……貴方と、貴方のお母様に対するせめてもの償いだから……ね」

 

無理やり軍属にされたリュウセイ、そしてこのまま軍属になる事を決めたリュウセイに出来るアヤ達の精一杯の償いがこれだった。

 

「修理作業には私が立ち会っておくから……お母さんの所へ寄り道しないで帰るのよ。ラトゥーニはしっかりリュウを監視してね。はい、行った行った」

 

アヤに背中を押されブリーフィングルームを追い出されたリュウセイとラトゥーニ。そして今度こそ1人きりになったアヤは椅子に深く背中を預け目を閉じた。明るく笑っていた表情から一転し、閉ざされた目から流れ落ちる雫……。

 

「……イングラム少佐……私……頑張りますから、それに信じています。少佐が生きてるって……だから今だけは少しだけ弱い私を許してください……」

 

武蔵もイングラムも生きている、そう信じるから弱い自分とはここで決別するからと言って、閉ざされたアヤの目からは涙が流され続けているのだった……

 

 

 

 

「シャイン様。無理に臨時連邦議会に出る事は無いのですよ?」

 

「……大丈夫ですわ。ジョイス」

 

気丈に振舞うシャインにジョイスは思わず顔を逸らした。武蔵がMIAになった事はリクセント公国にも伝わり、3日3晩泣き続けたシャインの身体も精神もボロボロだ、それなのに1人の国家元首として振舞おうとするその姿にジョイスは心を痛めていた。

 

「武蔵さんは生きてます。私はそう信じます……だから私は王女としてやらねばならないことをします。そうじゃないと……再会した時に

私は胸を張って会うことは出来ませんから」

 

会議場に向かう通路を進むシャインの前に険しい顔付きの男性が立ち塞がった。

 

「これはグライエン議員。どうも」

 

「ああ、シャイン・ハウゼン国家元首もお元気そうで何より」

 

余り親交のある男ではない、それが突然話しかけてきた事に驚きながらもシャインは優雅に挨拶をする。

 

「……少しばかり時間をいただいてもよろしいか?」

 

「失礼ですが、一議員である貴方がシャイン様に何様ですか?」

 

ジョイスがシャインとグライエンの間に割り込もうとしたが、それはシャインの手によって制された。

 

「大丈夫ですわ。行きましょう、ジョイスも一緒に来てくれるわね?」

 

「……判りました」

 

主の意向では逆らえないとジョイスはグライエンからシャインを庇う位置をキープしながら、近くの会議室に足を踏み入れた。

 

「武蔵君の事は本当に心を痛めている。だが、だからこそ、シャイン国家元首……貴女に問いたい武蔵君は生きていますか? 私には彼が死んだとは信じられない」

 

よりにもよって何故その話をとジョイスは怒鳴り声を上げようとしたが、シャインの穏やかな笑い声にぎょっとした。

 

「……はい、あの人は生きてます。そしてまた……戦いに身を投じます、地球を守る為に……」

 

「……そう……ですか。ありがとうございます。シャイン・ハウゼン国家元首」

 

「シャインで結構ですわ。グライエン議員、貴方も武蔵さんを助けようとしてくれた。私は貴方を信じます、味方であると」

 

「私は彼の助けをしたかった。今度は、今度があるのならば絶対に私は彼を助けたいそれだけですよ」

 

そう笑い部屋を出て行くグライエン。シャインと共に残されたジョイスはシャインを見つめる。

 

「夢を見たのです、また助けに来てくれる夢を……だから私はそれを予知だと信じます。武蔵さんがまた来てくれると信じ続けます」

 

「……そうですね。私もそう思います、さ、行きましょう」

 

「ええ」

 

武蔵の事を擁護する人間は少ない。だからこそ、シャインは辛くても臨時連邦議会に出る事にしたのだ。

 

(私は負けません、絶対に誰にも負けませんから)

 

武蔵が戻って来た時に穏やかに過ごせる場所を作る為に自分は戦うのだとシャインは決意を新たに歩みだす、何時再会出来るか判らないが……それでも武蔵に胸を張って再会出来るようにシャインは歩み続ける事を心に決めるのだった。

 

そして己の道を決めて歩き出したのはシャインだけではなかった。

 

(久しぶりだな……家に帰って来るのも……ん……? ポストに手紙が入ってる)

 

「どうしたの? リュウセイ」

 

アヤに言われてラトゥーニと共に帰省したリュウセイはポストに入っていた手紙もラトゥーニに見せる。

 

「手紙なんだ。珍しいだろ?……えっと差出人は……クスハ……?」

 

「え?」

 

クスハからの手紙と聞いてラトゥーニは顔色を変えたが、リュウセイはそれに気付かず便箋の封を切り、手紙を確認する。

 

『リュウセイ君へ……直接会うと、上手く言えないかも知れないから……手紙に書きます。私……キョウスケ中尉やエクセレン少尉、ブリット君達と一緒に……北米のラングレー基地へ行きます』

 

「……リュウセイ?」

 

黙り込んだリュウセイを心配してラトゥーニが顔を下から覗き込む。だがリュウセイは何も言わず文に視線を向け続ける。

 

『色々考えたんだけど、向こうで看護兵の仕事をすることに決めました。私はきっとパイロットよりそっちの方が向いていると思うの……

今まで、リュウセイ君には色々と心配や迷惑をかけてしまって、ごめんなさい……でも、これからは…自分で決めた道を、進んで行きたいと思っています。だから、リュウセイ君もアヤさんやライさん達と一緒に頑張って下さい……』

 

「クスハはブリット達と一緒にラングレーに向かうってさ、自分の道を決めたって」

 

「……そうなんだ。寂しい?」

 

「いいや、一緒にはいないけど、また会えるって判ってるから寂しくないさ」

 

手紙を乱暴にジャケットのポケットの中に突っ込み顔を上げる。青く澄んだ空と爛々と輝く太陽にリュウセイは目を細めた。

 

(だからまた会えるよな。武蔵……)

 

きっと、いや絶対に武蔵は生きている。だから泣かないのだ、もし泣くならそれは悲しみの涙ではない。再会した時の喜びの涙にしたいと思っていた。そんな時自宅の扉が開きユキコが姿を見せた。

 

「リュウ……! それにラトゥーニちゃん……帰って……来たのね……?」

 

病院にいた時よりも顔色の良い母親の姿に安堵し、リュウセイは満面の笑みを浮かべる。

 

「へへ、約束どおりにな」

 

「……こんにちわ」

 

「……お帰りなさい。2人とも……」

 

「「ただいま」」

 

感極まって涙を流すユキコにリュウセイとラトゥーニの声が重なる。それは良く晴れた青空が泣き崩れるユキコとそんなユキコに駆け寄るリュウセイ達を明るく照らしていた……

 

 

OG1編 完

 

 

 

__START――。

 

 

 セプタギンへと特攻した武蔵とイングラムは再び目を覚ます。

 

――大破した筈のゲッターロボは完全な姿へと戻り

 

 ――2人の傷は完全に癒えていた。

 

 

「……これはどういうことなんだ?」

 

「知りませんよ……そんなのオイラが知りたいですって」

 

 そんな2人が目覚めた場所はアイドネウス島でも無く、日本でもなかった。

 

 ――いや、そもそもそれ所か地球であるかも怪しかった……。

 

 

「なんですかねえ、この空の色」

 

「気味が悪いな、空だけではなく大地もだがな」

 

 

 荒れ果てた緑が無い荒廃した大地――どう見ても自分達の知る場所ではない。

 

 ――何故生きているのか……?

 

 ――何故怪我が治っているのか……?

 

 ――何故ゲッターが修理されているのか……?

 

 ――謎ばかりが募る2人の耳に激しい爆発音が響き渡る。

 

 

「イングラムさん!」

 

「判っている、今のは戦闘音だ!」

 

 ジャガー号に乗り込むイングラムとベアー号に乗り込む武蔵。自動操縦のイーグル号を誘導しながら爆発音が聞こえてくる方角に向かったイングラムと武蔵を出迎えたのは予想だにもしない光景だった――。

 

 

 

 進化の光フラスコの世界へ、次週新章突入!! 

 




今回で進化の光フラスコの世界への第一部は完結となります。

そして明日6月1日に第二部のプロローグを18時に更新させていただきます
そこで次の舞台がどこかわかると思いますが、皆さんお口にチャックでお願いしますよ?

それでは明日の18時の第二部のプロローグの時にまたお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IF世界最後の日編
プロローグ 迷い込んだ男達


プロローグ 迷い込んだ男達

 

その日この荒れ果てた大地の翡翠色の流星が降った。それが吉兆かそれとも凶兆を呼ぶか……それは誰にも判らない、ただ、再びの戦いの幕が再び上がろうとしていた。

 

「うっ……なんだぁ……!? な、なんでッ!?」

 

全身に走る激痛と凄まじい振動に武蔵は目を覚まし、生きている自分に困惑した。脳裏にはセプタギンに特攻し、拉げるゲットマシンと自分に迫ってくる機械の壁、そして自分の腹から零れ落ちた内臓までが鮮明に焼きついている。

 

「な、治ってる……どうなってるんだ……」

 

身体の何処にも傷は無く、怪我をしていたのがまるで自分の見た夢のように思えていた。

 

「ッ! イングラムさん! イングラムさん!!」

 

『……つっ……武蔵……? なんだ? 俺達は……生きているのか?』

 

自分達が死んだ事を武蔵とイングラムは実感していた。それなのに5体満足で怪我も無い、その事に2人は激しく混乱していた。

 

「と、とりあえず。外に……」

 

『待て武蔵、まずはモニターで外を確認してみるべきだ。もし海中や宇宙だったら死ぬぞ』

 

イングラムの言葉に冷や汗を流しながら、武蔵はベアー号のコンソールを操作しモニターを復旧させる。そして外の光景を見た武蔵とイングラムは別の意味で冷や汗を流した。

 

「なんじゃあこりゃあ……」

 

『地球……なのか?』

 

緑1つ無い荒廃した大地、厚い雲に覆われた暗黒の世界がモニター越しに2人の視界には広がっていた。

 

「……これはどういうことなんだ?」

 

「知りませんよ……そんなのオイラが知りたいですって」

 

酸素などの確認をした後にゲットマシンから出た武蔵とイングラムはその顔に困惑の色を浮かべる。何故ならば大破したゲッターは新品同様、しかも自分達の怪我も癒えている。

 

「連絡とかつきました?」

 

「いや、駄目だったな。どの基地にも、ハガネやヒリュウ改にも通じない」

 

イングラムが所持していた通信機でリュウセイ達に連絡を取ろうとしたが、それも通じなかったようだ。イングラムは足元の砂を握り締める。

 

「……なんだろうな。生気の無い砂だ」

 

「あ、イングラムさんもそう思いますか?」

 

周囲には生き物の気配1つ無い、完全なる死の世界が武蔵とイングラムの周りに広がっていた。

 

「……それにしてもなんですかねえ、この空の色」

 

「気味が悪いな、空だけではなく大地もだがな」

 

モニター越しではなく、肉眼で見るこの世界はとても不気味で、まるで死者の国に迷い込んだようだと武蔵は思っていた。

 

「どうします? 実は死んでるってオチじゃないですか?」

 

「心臓は動いてるぞ。ゲッター線が何かしたんじゃないのか?」

 

「……なんか凄く説得力がありますね」

 

自分達では理解出来ないゲッター線の力が働いている。ありえない話ではないだけに、武蔵はイングラムの言葉に納得した。

 

「……とりあえず、何か食います?」

 

「あるのか?」

 

「イーグル号に避難キットとか積んどいてくれるってビアンさんが言ってましたし、ちょっと確認してきます」

 

ゲッターロボの装甲に手を掛け、するすると登っていく武蔵。イングラムはその姿を見ながら目を閉じる。

 

「やはり駄目か……」

 

己の半身であるアストラナガンを召喚しようとしたが、やはり修復が完全ではないのかイングラムの呼びかけに半身は答えない。

 

(……俺の知らない世界だ。となるとここはやはり武蔵とゲッターロボに関係している世界なのか?)

 

因果律の番人として様々な世界を巡ったイングラムだが、こんなに荒廃した大地を見た記憶がない。自分がきっかけでゲッターロボがこの世界に来たのではなく、武蔵が引き金となってこの世界に引きずり込まれたのだとイングラムは考えていた。

 

「イングラムさん、ありましたよー。とりあえず腹ごしらえをしてからどうするか決めましょう」

 

「そうだな。どれ、俺が見よう。新西暦の物はお前では判らないだろう?」

 

「あはは、本当その通りです。お願いします」

 

武蔵が背負っていた避難キットを受け取り、中を確認するイングラム。武蔵の大飯喰らいを知ってか、食料品関係が非常に充実している。

 

「湯煎するだけで良い物が入っているな、ファイヤスターターと長期保存水がある。これで夕食としよう」

 

「ですね。しかし、本当不気味な場所ですよね。ここ地球ですかね?」

 

「どうだろうな。念の為に身体を休める時はゲッターロボの内部にしよう。何か危険な生物がいたら洒落にならないからな」

 

「ですね。化け物とかと遭遇しても困りますしね。いやあ、イングラムさんがいてくれて良かったですよ。オイラ馬鹿だから」

 

「ふっ、そんなことはないと思うがな。そら出来たぞ」

 

「ありがとうございまーす!」

 

何故生きているのか?

 

何故ゲッターロボが治っているのか?

 

ここは何処なのか?

 

謎は山ほどあり、考えることもある。だが今は身体を休める事を優先するべきだ、疲労が溜まり、そして今の状況に混乱したままでは必要な情報をえることも難しい。

 

「お、うめえ」

 

「そうか、良かったな」

 

湯煎するだけで食べれる親子丼を食べて笑みを浮かべている武蔵を見つめながら、イングラムはホワイトシチューを口に運ぶ。本格的な情報集に出るのは明日からにするつもりだ。

 

(だがこの世界で人間が生きているかも怪しいがな)

 

太陽すらでない暗黒の世界――こんな世界に人間がいるのかと言う不安を抱きながらも、イングラムはそれを口にすることは無く、明日の事を考えながら食事を進めるのだった。

 

「リュウセイ達はどうなったんですかね?」

 

「無事さ、あれだけのエネルギーの直撃を受けたんだ。セプタギンだって耐え切れない筈だ」

 

自分達も大変なのに、それでもリュウセイ達の心配をする武蔵にイングラムは励ますように言葉を投げかける。

 

「そうですよね。皆無事ですよね」

 

「ああ。そうに決まっている」

 

自分達は死んだが、間違いなくリュウセイ達は無事だ。イングラムも僅かな不安はあったが、武蔵を安心させる為に強い口調で言うと武蔵は安心したように笑い、大きな欠伸をした。

 

「そうだな。やはり疲れが溜まっている、後はゲットマシンの中で話そう」

 

「うっす」

 

眠そうにする武蔵だったが、それでも親子丼を食べ終えイングラムがジャガー号に戻れるように先にベアー号に乗り込み、山の中で直立不動だったゲッターロボをその場に座らせる。

 

『何が起こったのか、そしてここが何処なのかは俺にも判らない。だが判っている事は1つだけある、この世界はまともじゃない』

 

「そうですよね。ちょっと見ただけですけど、緑も殆ど無いですし、それに何よりも土が死んでる。こんなのありえないですよ、これじゃあ何を植えても育たない所か、芽すら出ないですよ」

 

『ここまでの荒廃はただ事ではない、人類が生きているかも怪しいということだけは覚悟しておけ』

 

「……了解です」

 

緑が無いと言うことは酸素が薄いと言うことだ。そして太陽も出ない、緑も無い、こんな場所で人類が生きている可能性は限りなく低い、イングラムの言葉に武蔵は顔を歪めながら頷き、ベアー号のコンソールを操作する。

 

「ゲッターの状態は万全です、信じらないことですけどね」

 

『不都合は?』

 

「何にも無いです。完璧な状態ですよ。強いて言えばゲッター線の貯蔵量が少し少ないくらいです」

 

あれだけの爆発だったのに万全なゲッターロボ、そして生きている自分達に謎は深まる一方だ。

 

『分離は?』

 

「そっちも大丈夫ですね。本当に……ふわ、万全ですよ……」

 

大きく欠伸をする武蔵に大丈夫か? と思っている間に武蔵は目を閉じて鼾をかき始める。その姿にイングラムは苦笑し、ジャガー号から通信を切って、背もたれに深く背中を預けた。

 

「闇ばかりの空か……地獄でも驚かんぞ、俺は」

 

夜なのに星の光すら見えない暗黒の空は地獄を連想させる。いや、事実地獄なのかもしれない、生存者が誰もいないことも可能性としては十分にありえるだけに、1人きりではなく武蔵が共にいてくれたことに感謝した。

 

「……流れ星か……他にも見てる者が居れば良いがな」

 

ジャガー号のモニターに映った流れ星を見てイングラムは目を閉じ、眠りへと落ちて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

荒廃した山岳地帯の中の大岩に腰掛ける壮年の男性。細身ではあるが良く鍛えられた屈強な肉体を包むのは、古めかしいデザインの緑の迷彩服だった。彼が長身であると言う事と、その鍛えられた肉体で今にもはち切れそうになっているが、それでも男は気にも留めず、涼やか印象を受けるアイスブルーの瞳に光1つ見えない夜空を映していた。暫くそのまま夜空を見上げていた男はややくすんだ金髪が夜風で乱されても気に留める様子を見せず握り拳を作ったと思うと、その手を日の光すら出ない暗黒の空に伸ばした。

 

「死んだ筈……なんだがな」

 

異星人に捕まり、肉体を失った。それだけではなく、地球を守る軍人だったのに地球に害なす侵略者と成り果てた罪深き己。だが、部下によって呪われた生から解放された。その時の光景は今も脳裏に焼き着いている、だが何故か生身の姿で生きている自分に男は混乱していた。

 

「……気狂いか、それとも記憶喪失か、ふっ、私には相応しいかもしれない」

 

目を覚ました時に混乱して己の記憶にある全てを尋ね、気狂いと言われ腫れ物扱いだった。だが、それでも良いのかも知れないと思った。これが地球に混乱を巻き起こした己のへの罰だというのならば男には全てを受け入れる覚悟があった。

 

「……遠いな」

 

あの分厚い雲に隠れた遠い宇宙。そこにあった己の故郷を想い、男は手を伸ばす。

 

「む? 奇怪な」

 

男の眼前を翡翠色の流星が降り注ぐ、遠くの山の中に落ちたそれを見つめていると遠くから誰かの呼ぶ声が響いた。

 

「今そっちに行く、こっちは問題無そうだ」

 

渡されていた時計を見ると集合時間を大分過ぎている。自分を受け入れてくれた仲間を心配させる訳には行かないと岩の近くに立てかけてあったサブマシンガンを肩に担ぎなおし、男は呼び声の元へ向かって歩き出す。

 

「……未練か」

 

今は何も巻かれていない己の右手首に無意識に手を伸ばしていることに気付き、自嘲気味に笑い闇夜の中の岩場をゆっくりと下っていくのだった。

 

 

第1話 蘇る亡霊 その1へ続く

 

 

 




新章第1話は特に動き無し、次回当からは話を動かし始め、この世界が何なのかと言うのを書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話 蘇る亡霊 その1

第1話 蘇る亡霊 その1

 

朝なのに一切の光が差さない闇の中に気合に満ちた少女の声が響いた。

 

「せいっ! やあッ!」

 

短く整えられた黒髪と鋭い視線がその少女の勝気な性格をこれでもかと現していた。そんな少女と向き合うのはくすんだ金髪にアイスブルブルーの瞳を持つ偉丈夫「ラウ」だ。彼は記憶喪失であり、ここ数年の記憶が抜け落ちていると言う事で地上捜索班と共に外に出ることで記憶が戻ることを期待され、地下シェルターから外に出た。表向きはそうなっているが、結局の所は厄介払いと言うのが近い。

 

「行け行け! 押してるぞッ!」

 

「やっとラウさんの負ける所が見れる!」

 

近くに座り込んだ大男と眼鏡を掛けた小柄な男性が少女……「車渓(くるまけい)」へと応援の声を掛ける。

 

「馬鹿野郎、ラウは相手が女だから怪我させないように気をつけてるんだよ。それくらい気付け凱、古田」

 

2人の組み手を見ていた山のような大男「車弁慶(くるまべんけい)」が呆れた様子で声援を投げかけていた、2人に声を掛ける。

 

「いやさ、でも大将。かなり渓が優勢に見えるんだけど」

 

「護身術しか知らないお前にはわからねえだろうが、渓は勝てねえよ。経験が違いすぎる」

 

「でもラウさんは記憶喪失じゃ?」

 

「記憶はなくても身体は覚えてるんだよ。見てみろ」

 

弁慶に促され凱達が2人の組み手に視線を向けると、上段を狙った渓の回し蹴りを片手で受け止め、軸足を払うラウの姿があった。

 

「いっつ」

 

「……すまん、力加減は気をつけたつもりなんだが」

 

「良いよ良いよ、それよりありがと、勉強になった」

 

自身に向けられたラウの手を握り締め立ち上がる渓。丁度その頃に離れた場所でテントを張っていた団六がフライパンを叩く音が周囲に響いた。

 

「お、飯みたいだな。行こうぜ、ラウさん」

 

「ああ、そうしよう」

 

朝食が出来るまでの間のほんの少しの組み手だったが、その短い時間で弁慶はラウに対して疑念を抱いていた。

 

(ああは言ったが、ありゃあ、記憶喪失の人間の動きじゃねえ……)

 

脚捌き、身体の動かし方、そして渓の攻撃を見切る速度。その全てが常人をはるかに越えていた、それに獲物こそ手にしていないが、明らかに何かを手に持ったという前提で動いているように弁慶には見えていた。

 

(生き残り……つうわけじゃなさそうだし……ったくよお、日本政府にも困ったもんだ)

 

最初にラウを発見したのは弁慶達だが、暫くの間日本政府の元にいた。それは13年前の事件で地下に隠れた日本人が外の情勢を知るための手段だった、だが数日後に日本政府の役人と共に来たラウは日本政府から「気狂い」「妄想患者」と言うレッテルを貼られ、弁慶達共に地上の調査班に回された。表向きは外に出ることで記憶が戻るかもしれないと言うことだが、軍部の裏事情を知る弁慶はラウが外に出された本当の理由を知っていた。

 

(何があった……)

 

手の平返しは日本政府のお家芸とも言えるが、それでも違和感がどうしても拭えない。一体、ラウは何を知っているのか、そして何故地上で死ねと言わんばかりに送り出されたのか……弁慶はそれを知りたいと思った。

 

「親父、早く飯食って移動しようぜ」

 

「ああ、今行く」

 

ラウの事は気になる。だが今は地上の捜索と調査と言う名目を果たすべきだと思い、弁慶はBT-23の元で待っている団六達の元へ足を向けるのだった。

 

 

 

 

BT-23の足元に張られたテントと焚き火に照らされながら飯盒の中のドロドロのおかゆを口に運んだラウ。だがその顔はくしゃりと歪んだ。

 

「お口に合いませんか?」

 

「……初めての味だな」

 

それは味わった事の無い味だった。見た目はおかゆなのに、肉や魚の味がする。視覚情報と味覚情報が合致しなかったのだ。

 

「一応歓迎のつもりだったんだがな……」

 

「昨日の栄養補給バーの方が良かった?」

 

「……いや、不味い訳ではない、すまないな。驚いただけだ」

 

粉末状の肉の栄養素などを凝縮させたそれで、煮込まれたおかゆは肉味のスープと言っても良かった。

 

(これが旧西暦……か)

 

ラウは手に入れることが出来情報全てを集め、そしてそれを自分の中で必死に整理をしていた。

 

(……何故私は生きている)

 

自分はエアロゲイターに捕まり、その身体を機械へと改造され、地球侵略の尖兵とされた。

 

(……そして引導を渡してもらったはずだ)

 

強く、そしてたくましく成長した己の部下達に殺されたはず。それなのに、何故己は生きているのか……そして何故旧西暦にいるのかが理解出来なかった。

 

(……失敗したか)

 

何故生きているのか困惑し、エアロゲイターや、コロニーの事を尋ねた。だがそれがこの世界では気狂いとして扱われ、厄介者として外の世界に追い出された。だがそこで見た光景もラウを混乱させるには十分だった、不恰好ではあるが人型機動兵器である「BT-23」そして太陽の光すら通さぬ暗黒の雲と緑1つ無い荒れ果てた大地――連邦が語るなと言った空白の歴史の荒廃しきった地球に驚いたのだ。

 

「ふう、ご馳走様。偶に食べると上手いね、殆ど栄養バーとかだし」

 

「だよなあ、いやあ、ラウさん様様だな、所で古田まだ残ってるのか?」

 

「大丈夫ですよ、3か月分はありますからね、でも節約して行こうと思いますよ。な、団六」

 

「……」

 

「ほら、団六もそう言ってる」

 

……何も言わなかったように見えるんだが……どうも仲間同士での意思疎通は出来ているようだ。

 

「さてと飯も食い終わったから、捜索予定だが……幸いなことにゲッター線の濃度が低い、進めるうちに進んで人の痕跡を探そうと思う」

 

失われた時代では地球の人口が8割死んだと聞いていたラウは生存者が見つかればいいなと心の中で呟き、古田達に先導されBT-23の中に乗り込んだ。

 

「親父ぃ……やっぱりこれ返してあげた方が」

 

「もう少し様子を見よう。無理に思い出させるのは良くないからな」

 

渓の手の中にはラウが無意識に捜し求めたツールが修められていた。

 

「記憶を失っているが、やはり彼は何処かの軍属だったのかもしれん」

 

「テスト中に何かの襲撃を受けて、脱出してシェルターの近くに倒れていたって事ですかね?」

 

「筋は通るけど……うーん、なんか違う気がする」

 

「とりあえずラウの事はもう少し様子見だ。もう少し記憶が安定したらそれを返してみよう。早乙女の乱もインベーダーの事も覚えていないとなると、相当なショックを受けたに違いないからな」

 

ラウの事を気遣い弁慶達、だがその気使いは擦れ違いを呼んでいたのだった……。

 

「ラウさん、申し訳無いんだが、これで外を見てくれるか?」

 

「構わない。任された」

 

双眼鏡を手にしてBT-23の乗り込み口に腰掛け周囲の確認を行うラウ。不謹慎だが、懐かしいとラウは思っていた若手の時にこうして偵察を任されていたなと苦笑ながらに思ったのだ。

 

「ラウさん、あたしも見るよ」

 

「中でいいんだぞ?」

 

「大丈夫大丈夫、それにこの液体窒素弾も試したいしね」

 

液体窒素弾を放つバズーカーのような物を抱えている渓。運動神経がいいから転落する事はないと判断してラウは双眼鏡で周囲を確認する。

 

(やはり生存者を見つけるのは難しいか)

 

それらしい痕跡は何も無い。生存者がいれば何らかの痕跡があるはずだと考えて双眼鏡を覗き込んでいるラウの手を渓が掴んだ。

 

「何か?」

 

「駄目だよ、それ通常モードでしょ? 双眼鏡の横」

 

渓に言われて双眼鏡を見るラウ。そこには何かを切り返るスイッチのような物があった。

 

「それでゲッター線感知モードに切り替えて」

 

「了解した」

 

ゲッター線感知モードとやらに切り替えて再び双眼鏡を覗き込むラウ。そこには翡翠色に輝く数多の岩の姿があった、ゲッター線の反応が弱いと聞いていたが、それでもこれほどまでの放射能がとラウは驚いた。

 

「本当に記憶喪失なんだね。ゲッター線の事も判らないの?」

 

「……生憎な。迷惑を掛ける」

 

「ううん、良いよ。今度休憩に止まったらゲッター線の事を……この音はッ!?」

 

渓とラウの耳に届いた空を裂く音。その音を聞けば軍人であるラウは一瞬で何かを理解した。

 

「戦闘機! 渓! 弁慶達に伝えてくれ!」

 

「了解ッ!」

 

BT-23の中にその身体を滑り込ませる渓を見送りラウは双眼鏡を覗き込んだ。そこには人型の頭部を持つ黒い戦闘機の群れが必死に何かから逃げ惑っている姿が見えた。

 

「奇怪な……あれかッ! 宇宙からの生命体とやらはッ!」

 

そして黒い戦闘機の群れを追いかける全身に黒い目玉を持つゴムのような体表を持つ漆黒の異形……ラウは知る良しも無い、「インベーダー」と呼ばれる異形の怪異が黒い戦闘機……「ステルバー」を追い回す姿にラウは一瞬言葉を失った。そしてその一瞬でラウの意識は切り替わった、記憶喪失を演じる男ではない、地球連邦軍特殊戦技教導隊隊長へと意識が切り替わったのだ。

 

「古田! 反転しろ!」

 

「え!? えっ!?」

 

「急げッ!」

 

古田に非は無かった。あくまでこの場のラウは記憶喪失の男である。そんな男に従う道理は無く、自分達の隊長である弁慶に視線を向けた。

 

「反転だ! 古田ァッ!」

 

「キシャアアアッ!」

 

「くっ! 全員つかまれッ!!」

 

古田の一瞬の迷い、しかし弁慶の反転しろと言う一喝にBTー23の操縦桿を切った古田。そしてその一瞬がラウ達の命運を分け、岩に擬態していたインベーダーの体当たりを機体の側面ではなく、正面から受け止める事に成功した。だがそれは殆ど一瞬の事で、巨躯のインベーダーの体当たりでBT-23は山岳方面へと弾き飛ばされてしまうのだった……。

 

 

 

 

全身に走る激痛のお陰でラウは意識を飛ばさないで済んだ。だがそれは武器も援軍も無しで異形の怪物と立ち向かわなければならない事を意味していた。

 

「古田、団六、凱! ブートを隠せ! あれを失う訳にはいかん! ラウ」

 

「言われるまでもない!」

 

あの追突の衝撃で渓がBT-23の外に投げ出されるのを弁慶とラウは見逃していなかった。静止に入る声を無視して、2人はBT-23から飛び出して着地の衝撃を転がる事で和らげる。

 

『大将!』

 

「いいから先に行ってろ! 渓を見つけたらすぐに俺達も後退する!」

 

渓を見捨てる訳には行かないと叫んで2人は岩場を駆け下りていく、その姿に弁慶は確信した。

 

「ラウ、お前記憶なんて失ってないだろ?」

 

「何故そう思う?」

 

「その的確な体重移動、とても記憶喪失には思えない」

 

それにブートから飛び降りた時の動きもそうだと言うとラウは方を竦めた。弁慶はその動きにラウが自分の言葉を認めたと思った。

 

「良かったら話してくれないか? 俺はお前を知りたい」

 

「聞かない方がいい、荒唐無稽すぎる」

 

「ラウ……「それより渓だ。お前の娘なんだろう? 私の事よりも娘を優先してやれ」

 

インベーダーが高速で迫っている光景を見て弁慶もラウを追って、岩場を駆け下りる。

 

「うっ……親父……それにラウ……ごめん」

 

「渓ッ! 大丈夫か!」

 

幸いにも渓はそれほど遠くに投げ出されてはいなかった。女性特有の身体の柔らかさとラウさえも認めた運動神経が渓を救っていた、だがその頭には血が滲んでいて頭を打った事は明らかだった。

 

「渓は俺が背負う。ラウは先導してくれるか?」

 

弁慶の言葉に頷きラウはBT-23から出る時に持ち出していたロープを腰に巻き、弁慶の巨体を引き上げる。

 

「チッ、間に合わないか」

 

「……ごめん」

 

「謝るな、大丈夫だ。俺達は助かる」

 

頭を打った事で弱気になっている渓を励ます弁慶。だが弁慶もラウも理解していた、このままのペースではインベーダーが現れる前にBT-23に戻ることは出来ない。

 

「あ……親父……落とした」

 

渓の言葉に振り返ったラウは渓のポケットから落とした物を見て目を見開いた。

 

「どうして……」

 

「すまん、お前が倒れていた場所に落ちててな。何時渡そうと思ったんだが……こんな時に渡されても困るよな? すまねえ」

 

弁慶が拾い上げた腕時計型のツール。弁慶から謝罪と共に差し出されたそれをラウは左手で受け取り、右手首に巻きつける。

 

「……いや、こんな時だからこそ、これは役に立つ。よく、よく……これを持っていてくれた」

 

コードを入力し立ち上げたツールには信じられない事に近くに己の愛機の反応があることを示していた。

 

「キシャアア!」

 

「くそったれえ! 最後まで抵抗するぞ!」

 

インベーダーの叫び声に弁慶が背負っていた渓を降ろして銃を構えようとしたが、それはラウの手によって制された。

 

「弁慶、お前は娘を守れ。あいつは私が倒す」

 

「ラウ!? お前は何を言って」

 

「良いか、娘を守れッ! この場は私に任せろ!」

 

弁慶と渓に背を向けてラウはインベーダーに向かって走る。何故自分が生きているのか、何故自分は過去にいるのか、疑問はある。だが今自分の手には誰かを守る力がある……それを使わないという選択はラウには存在していなかった。

 

「コード・クリア」

 

手首のツールにパスワードを入力する。そして画面が切り替わり、音声入力の画面へと変わる。

 

「メインタームアクセスッ! モードアクティブッ!」

 

ラウの音声入力が認識されると同時に周囲に地響きが響き渡る。それと同時にモニターに映し出された愛機の位置を見てラウは笑う。それは奇しくも、インベーダーの足元の地下空間にいると言うことを示していたからだ。だからこそ恐れも、不安も無くラウはインベーダーに向かって崖から飛び出したのだった。

 

「じ、地震! 大将達を迎えに行こう!」

 

「駄目ですよ! 待機してろって……て、ラウさんッ!?」

 

「し、死ぬ気かッ!?」

 

BT-23の中で待機していた凱達は崖から飛び出したラウを見て、3人は絶叫した。だが次に自分達の目の前に広がった光景に息を呑んだ

 

「CALLッ! GESPENSTッ!!!!!」

 

地震が激しくなり、地表が砕かれ漆黒の豪腕が地面から伸び、ラウを噛み砕かんとしていたインベーダーの頭部を殴り飛ばす。

 

「な、なんなんだ……あれは!?」

 

「ラウさん……貴方は一体……?」

 

バーニアでその巨体を浮き上がらせた漆黒の巨人……遠い未来で作られた人型機動兵器パーソナルトルーパーと呼ばれる兵器の右の手の平の上に着地し、バーニアの風でその金髪を風に揺らすラウの姿は一枚の絵画のように美しく、そして力強さに満ちていた。そしてその瞳は液体状から再び人型に変化したインベーダーを睨みつけ、その身体をゲシュペンスト・タイプSのコックピットの中に滑り込ませるのだった……。

 

 

 

 

第2話 蘇る亡霊 その2へ続く

 

 




カーウァイ大佐の半オリキャラとゲシュペンスト・タイプSの登場と世界最後の日に突入です。次回からは、世界最後の日のルートで話を進めて行こうと思います。武蔵の登場とラウの登場で世界最後の日がどんな風に変わっていくのかを楽しみにしていてください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 蘇る亡霊 その2

第2話 蘇る亡霊 その2

 

「な、なんだ。あれは……」

 

地面を砕きインベーダーを殴り飛ばした漆黒の人型を見て弁慶は驚愕にその顔を歪めた。弁慶は決して技術者ではない、だが早乙女研究所に所属し、ゲッターロボやそれ以外のロボットを見てきたから判る。いや、判ってしまうのだ。

 

(完成している……信じられん)

 

人型の機動兵器としてあの機体は完成している。二足歩行で立つ術も、そして攻撃を繰り出してもバランスを崩さない術も何もかもがあの機体は完成していた。歪な姿ではない、ゲッターロボのようなブリキ人形のような姿でもない。完全に人型として完成しているその機体の手の平にラウは立っていた。その顔を哀愁に歪め、その目に強い意志の光を宿して……。

 

(お前は何者なんだ……)

 

記憶喪失と聞いていたが、それは違うと弁慶は判断していた。だがまさかこんな秘密を抱えているなんて夢にも思っていなかった、一体何者で、ラウは何を知っているのか弁慶はそれが知りたいと思った。

 

『弁慶、早く渓を連れて凱達と合流しろ。あの化け物は私が何とかする』

 

「……ッ! 判った。すまねえッ!!」

 

『早く行け』

 

自分を庇うように移動した漆黒の機体。そのバイザー型のカメラアイの先には既に肉体を再生させたインベーダーが牙を向いていた。ラウが何者なのか、何を知っているのか、それは弁慶にはわからない。だが確かな事として判っている事があった。ラウは自分達を守ろうとしてくれている……それだけが判れば弁慶には十分だった。

 

「親父……あれ……って?」

 

「喋るな、頭を打っているんだ。大人しくジッとしてろッ!」

 

自分の背中の上で体を起こそうとする渓を一喝し、弁慶は渓を揺らさないように気をつけBT-23の元へ走る。その背後からは地面を砕く音とインベーダーのおぞましい叫び声が響き続けているのだった……。

 

 

 

 

ゲシュペンスト・タイプSのコックピットに滑り込んだカーウァイ。コックピットは己の記憶の中にある、タイプSと全くの同じ作り……いや、全く同じだった。

 

「私もお前も何に導かれたんだろうな」

 

コックピットのモニターの上に張られた1枚の写真。そこにはまだ若い「ゼンガー」「エルザム」「ラドラ」「ギリアム」「テンペスト」「カイ」そして己の姿があった。道が分かれる前、特殊戦技教導隊が設立された時の集合写真であり、プロトタイプのゲシュペンストの前で撮った最初で最後の集合写真だった。

 

「……だが私もお前もやることは変わらない。そうだろう?」

 

ゲシュペンストのエンジンが唸り声を上げる。それをカーウァイは相棒の返事として受け取った、地球を守る為に作られたのに、地球に害成す者になってしまったのはカーウァイの失態だった。そしてその失態を拭えぬまま、部下に己を殺させた。だが何の因果かまで生きている、それも過去で何をすればいいのか、何故生きているのか疑問は残る。だが……自分が何をすればいいのかは理解していた。

 

「キシャアアアーーーッ!」

 

「こい、化け物。相手をしてやる」

 

この身は牙無き者を守る為の刃であり、そして地球を守る為の剣なのだ。目の前にいる異形の化け物、それを倒す。それが今己のやるべきことだとカーウァイは理解していた。

 

「シャアッ!」

 

「遅いッ!」

 

突き出された腕から凄まじい勢いで伸びる触手を回避するのと同時に、タイプSのモニターを確認する。

 

(エネルギーは……70%。機体損傷度は……0、動力の安定稼動まで640秒か)

 

遠隔操作で炉に火を入れたからか、ゲシュペンストのエンジンはまだ完全には温まっていない。先ほどの回避も少しばかり自分の知るタイプSと比べると鈍いと感じていたが、その理由が判りカーウァイは小さく笑った。

 

(だがこの程度、どうと言うことは無い)

 

完全に温まっていないがその程度でどうこうなる安い経験ではない、この状況でも万全に戦う術は己の体に刻まれている。

 

(……使用可能な武装は……スプリットミサイルのコンテナは……3つ、プラズマカッター、ビームブレードガン、それと……スラッシュリッパー? 知らない武装だ。プラズマ・スライサー、ブラスターキャノンは現在使用不能と……なるほど)

 

機体の状況、武装の確認を済ませている間もインベーダーの触手はタイプSに伸び続けていた。だがそれらはタイプSに掠りもしない。

 

「言った筈だ、遅いとな」

 

伸びた触手を掴み力任せに引き寄せ、その顔面にうっすらとプラズマを纏った鋭い貫手が叩き込まれる。

 

「面妖な……だが大体は理解したぞ」

 

顔が変形し、貫手を回避したインベーダーに変わりと言わんばかりに前蹴りを叩き込み吹き飛ばす。

 

「いけっスラッシュリッパーッ!!!」

 

背中のコンテナから排出された3つの刃を持つ円盤が地面を切り裂きながらインベーダーに迫る。その隙に腰にマウントしていたブレードガンを片手に装備させる。

 

「ギギャァ!?」

 

「なるほど、悪くない」

 

自動でインベーダーを追いかけその刃で切り裂いたスラッシュリッパーを使い勝手のいい武装だと評したが、残りの数が4つしかないので連発できないのが惜しいなと呟きビームブレードガンの銃口を向ける。

 

「ギッ!?」

 

ビームブレードガンはカーウァイが希望し、タイプSにのみ搭載された試験的な武装だ。通常のビームライフルよりも銃身を短くする事で射程を犠牲に威力を得た。そして銃身の下からはビームサーベルを伸ばせるようにし、近~中間距離戦闘用の通常のビームライフルとは異なる運用をするように開発された武装だ。その高火力の熱線は容易くインベーダーの身体の接合を焼き切り、消滅させる。

 

「悪いが時間を掛けるつもりは無い」

 

タイプSのレーダーには戦闘反応が感知されている。そしてその熱が徐々に少なくなって来ている事と言うことはこの化け物に襲われ撃墜されていると言う証だった。

 

「くたばれ化け物」

 

飛び掛ってきたインベーダーに前蹴りを叩き込むと同時にその頭を踏み潰し、容赦なくビームライフルの弾丸を叩き込む、途中でカートリッジを入れ替え計18発も叩き込む徹底ぷりだ。そしてダメ押しと言わんばかりに叩き込まれたスプリットミサイルの爆風にインベーダーは完全に燃やされ、断末魔の悲鳴をあげて消滅して行った。

 

「……大したことは無いな、いや、この時代の装備では強敵か」

 

タイプSだったからまともに戦う事が出来たが、そうでなければ苦しい戦いになっていたなとカーウァイはタイプSのコックピットで苦笑した。

 

『ラウさん! その機体は……貴方は一体……』

 

『話は後だ、まだ襲われている機体がある。私はそちらに向かう、後で追いかけてきてくれ』

 

BT-23からの通信に言葉短く返事を返し、戦闘反応の元へとタイプSを走らせる。静止の声は響いていたが、それを無視してタイプSを走らせる。

 

(死なせる訳には行かない)

 

カーウァイは軍人だ。冷酷に切り捨てるべき判断を取ることが出来る、だが今は状況が違う。自分も、弁慶達も右も左も判らぬ中で外の情勢を知る人間をむざむざ切り捨てる訳には行かない。ここで外の情報を得ることが出来れば方針も出来る、だがそうでなければあの化け物の群生地に踏み込み死ぬかもしれない。そのリスクを避ける為に、今間近にある情報源を見捨てると言うことが出来なかったのだ。

 

(間に合え)

 

まだタイプSの動力は完全に稼動していない、スラスターを全開にしてもスピードが上がらない事に苛立ちを感じながらも間に合えと祈るカーウァイ。そしてその行動は正史では死ぬはずだった人間を救う事になるのだが……カーウァイがそれを知る良しも無いのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荒廃した大地に地響きを立てて黒い人型が墜落し、その後を追うように2体のインベーダーが着地すると同時に飛行形態から異形の人型へとその姿を変える。

 

「くそったれがあッ! くたばれ化け物ッ!!!」

 

インベーダーに襲われている黒い人型がその手にしているハンドガンで必死に応戦するが、インベーダーから伸びる触手にその装甲が見る見る間に削られていく……

 

「伝えなければ! この情報を伝える為にもここで死ぬ訳にはッ!!」

 

黒い機体の名は「ステルバー」アメリカで開発された可変式のスーパーロボットであり、そのパイロットである「ランバート」は自分が得た情報を伝える為に、そして戦う為にある場所へと向かっていた。だがその道中でインベーダーに見つかり、ステルバー部隊はその殆どが壊滅した。

 

『ランバートさん! 逃げて伝えてください! うおおおおおッ!」

 

「止めろッ!!」

 

左腕を失ったステルバーがインベーダーへと特攻する。決死の一撃だったが、それを嘲笑うかのようにインベーダーはステルバーの両足を切り裂き、伸ばした触手でステルバーを持ち上げる

 

『あ、あああ……うわあああああッ!?』

 

「シャアアッ!!」

 

若い男性の悲鳴が響き渡り、ステルバーはインベーダーの牙に喰らい付かれた。それは最早逃れられない死を意味していた……それでも見捨てることが出来ず、ランバートはハンドガンの銃口を向けインベーダーに銃弾を撃ち続けたが、それをくともしないインベーダーはステルバーを見せ付けるようにゆっくりと噛み砕いた。

 

「ジャックッ! くたばれええええッ!!!」

 

そして今自分の部下が乗ったステルバーの胴体がインベーダーの牙に噛み砕かれた。その事で怒りに飲まれミサイルやハンドガンを乱射する。

 

「シャアア……」

 

「ガアアア……ッ!」

 

奇しくもその弾幕がランバートの命を救う事になった。その弾幕の雨に今正に触手を伸ばそうとしていたインベーダーの動きが止まったのだ。

 

『吼える元気があるなら下がれ、一掃する』

 

「何者……いや、頼むッ!」

 

広域通信に驚いたランバートだが、今のステルバーではインベーダーを倒し切る事は出来ない。そう判断し、残された燃料を使いその場を離脱する。

 

「あれがこの時代の特機か、なんとも言えん形状だな」

 

完全に人型の頭部、それに胴体に比べて貧弱な手足。技術力不足と感じるのは新西暦の生まれであり、そしてゲシュペンストを駆るカーウァイだからこその感想だった。

 

「ターゲットロック、ブラスターキャノン発射ッ!!!」

 

不意打ち気味に放たれた青白い光線がインベーダーを背後から貫き分解する。

 

「消えろ、化け物」

 

「ギギャァ!?」

 

そしてブラスターキャノンを放つと同時に踏み込んでいたタイプSのプラズマスライサーの電圧でインベーダーは焼き焦げ、断末魔の声すら上げず塵と消え去った。

 

『大丈夫か?』

 

「た、助かった……それで……お前は……その……」

 

その機体は何だ? と尋ねようとしたランバートだったが、助かったという安心感。そしてここまで飛び続けていた疲労に意識を保っている事が出来ず、その言葉を口にする事無く、大丈夫かと言う男の声を聞きながらその意識は深い闇の中へと沈んで行くのだった……。

 

「気絶したか、無理も無い」

 

機体を見ればその消耗具合は明らかだ、助かったと安堵して意識を手放してしまうのは無理もないことだ。

 

「さてと、私は私でどうするかな……」

 

タイプSのモニターに映し出されたBT-23の姿。そしてその中に入るであろう弁慶達にタイプS、そして自分の事をどう説明するかとカーウァイはコックピットの背もたれに背中を預けながら、何と説明するのか頭を悩ませるのだった。

 

 

 

一方その頃。武蔵とイングラムはと言うと……

 

「イングラムさん、今レーダーに反応が一瞬ありましたね」

 

ゲッターパイロットが持つ腕時計型のレーダーに反応があったという武蔵にイングラムもまた小さく頷いた。

 

「ああ、あの反応は戦闘反応だな」

 

避難キットに入っていたツールで確認していたイングラムもその戦闘反応は確認していたが、その場に向かうべきだとも言わず、武蔵が切り出すまでその事を口にすることは無かった。

 

「生存者でしょうか?」

 

「……判断を急ぐな武蔵。もしもバルマーのような侵略者では困る。ここは様子見だ、俺もお前もまだ万全ではない」

 

「……そう……ですね。すいません」

 

「気にするな、それよりもだ。ここが何処なのか……俺は嫌でも予想が付いたぞ、これを見たらな」

 

ゲッターロボを山の中に隠し、周囲の偵察をしていたイングラムと武蔵の目の前にあるもの……それを見て武蔵も自分が今何処にいるのか理解した。

 

「……日本だったんですね」

 

「そのようだ」

 

岩だと思っていたそれは倒壊し、長い歳月を掛けて風化した塔の一部……。

 

「東京タワー……ですね」

 

「ああ。地球であると言うこと、そして東京と言うことは判ったが……一体何があったというのだ」

 

東京タワーがあることでここが日本だということはわかった、だが荒廃し、日本らしい面影が何処にも無いこの大地に武蔵とイングラムは困惑した。

 

「どうしましょうか?」

 

「……1度ゲッターロボに戻ろう、妙な気配だ」

 

「そうしましょうか」

 

周囲に立ち込める異様な気配、武蔵もイングラムもそれを感じ取り逃げるようにその場を後にした。だがその2人の姿を見つめる小型のインベーダーがいたことに最後まで2人は気付くことはないのだった。

 

「おやあ? どうしたんだい? 早乙女?」

 

「……いや、なんでもないさ。コーウェン、そろそろワシも出よう」

 

「そうかい! いやあ、それは楽しみだねえ。ね、スティンガー君」

 

「う、うんそうだね! コーウェン君! ああ、神隼人がどんな顔をするのか楽しみだよ」

 

邪悪な光を宿して笑う2人に背を向けて早乙女は歩き出す、前髪に隠された右目は前髪の下で赤黒く輝き、しかし、左目は優しい穏やかな光が宿っていた。

 

「武蔵……そうか、お前が来たのか。ならば、何の憂いも無い。ワシはワシの成すべき事をしよう」

 

だがその光も瞬きの内に消え去り、両目を真紅に輝かせた早乙女博士は闇の中へと消えていくのだった……。

 

武蔵と早乙女博士がこの荒廃した大地で再会する日は近い……。

 

第3話 カーウァイ・ラウと言う男へ続く

 

 




次回はインターバルです。弁慶達にランバートを加えて、ラウ大佐の話を書いて行こうと思います。武蔵とイングラムはゴウと渓が真ドラゴンに取り込まれた当たりで登場させたいですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 カーウァイ・ラウと言う男

第3話 カーウァイ・ラウと言う男

 

BTー23の中で弁慶は漆黒の機体……ゲシュペンスト・タイプSを見つめていた。カーウァイの事もあり、13年前の早乙女の乱から生き残ったのは日本人だけではないと言うことは判っていた。だがゲシュペンストは余りにも完成していた、そして余りにも弁慶の常識から見ても異常な性能をしていた。

 

「古田、団六、一応聞いておくがブートの情報に該当する物はあったか?」

 

「……いえ、一応調べましたがそれらしい物はありません。13年と言う時間で新しい観点で開発されたという可能性もありますが……」

 

「判っている、余りにも完成していると言いたいんだろ?」

 

13年と言う時間は決して短くは無い。だが重陽子ミサイルの爆発から復興した事を考えれば、13年の内半分は内政の回復に努めていたはず。6年か7年であれほどの機体は作れないと弁慶と古田は考えていた。

 

「それよりも大将、渓が心配だ。早く移動しませんか?」

 

額に応急処置の包帯を巻いている渓を心配そうに見つめている凱の言葉に頷き、内部通信ではなく外部スピーカーでラウに声を掛ける。

 

「このままここにいるのも危険だ、ブートのレーダーに近くに建造物の反応がある。そっちに向かおう」

 

『了解だ。この機体は私が運ぶ、先行してくれ』

 

弁慶の提案にラウは即座に了承の返事を返し、唯一無事だったステルバーを姫抱きで抱えあげる。だがその光景に誰も噴出すことは無く、いつまたインベーダーが襲ってくるか判らないと言う緊張感の中。レーダーに感知された建造物のある方向へと向かうのだった。

 

「余り根掘り葉掘りは聞いてこないか」

 

ステルバーを運びながらカーウァイは少しだけ安堵していた。正直詳しく説明しろと求められても、一番状況に混乱しているのはカーウァイの方だったからだ。

 

(……問題はないか、基本的な分は保存されている)

 

ゲシュペンストのメインコンピューターには新西暦の情報がいくつも記録されている。少なくともゲシュペンストと己が未来から来たと言うことは証明出来る筈だ。

 

「……緊急用の装備もある……か、ますます解せんな」

 

ゲシュペンストの内部に収納されている緊急用の避難キットも万全な状態で納められている。だが、カーウァイの記憶では宇宙での実験の際は搭載していなかったはずだ。だからこれは存在していないはずなのに目の前にある、それに装備にしてもそうだ。スラッシュリッパー等の装備はしていなかった筈だ、それなのにタイプSにはスプリットミサイルも、ビームブレードガンも装備されていた。

 

(何の思惑があったんだ)

 

タイプSを用意した何者かに何らかの意図が合ったはず。だがその意図が全く理解出来ず、考えを纏めている間に打ち捨てられた基地はもう目の前に広がっていた。

 

(富士駐屯地……か)

 

富士駐屯地と言うことは富士山の近く、静岡である筈だが……それらしい建造物は無く、駐屯地も殆ど崩壊している。その痛ましい光景を見つめながらカーウァイは一体何が起きたのかばかりを考えていた。

 

「ここで手当てをしよう」

 

凱が四苦八苦しながらステルバーからパイロット……ランバートを引きずり出し、肩に担ぐ。駐屯地は外見こそボロボロだったが、中はそれなりに綺麗だった。安全な拠点とは言い難いが、外で休むよりもはるかに身体を休めるには適した場所だろう。

 

「それでラウさん、貴方は……いえ、あのロボットは……」

 

「古田。焦るな、ラウだって何度も同じ話をするのは嫌だろう。渓とこの男……たぶんアメリカ人だろうが、こいつが起きるまでは待とう。ラウもそれで良いか?」

 

「……そうしてくれると助かる、私も正直混乱していない訳ではないからな」

 

埃を払ったベッドに渓とアメリカ人を寝かせ、2人が目覚めるまで弁慶達は富士駐屯地の内部の調査を行う事にした。そして渓達が目覚めたのは弁慶達が駐屯地の調査を済ませた夕暮れ時だった。

 

 

 

 

頭の近くであれやこれやと話し合っている男の声でランバートは目を覚ました。

 

「うっ……ここは……? つっ……」

 

「あ、大将! 起きたみたいですよ」

 

耳元で聞こえたのは日本語。そのことに気付いたランバートは即座にベッドから身を起こした。

 

「わ、急に動いたら駄目ですよ。全身打撲なんですから」

 

「……日本人……か、生きていたのか」

 

小柄な日本人と大柄な日本人が3人、それと頭に包帯を巻いている少女が1人……。腰元に手を伸ばしたが、流石に武装解除されているのか、ナイフとハンドガンは身に付けていなかった。

 

「すまねえな、一応武装解除はされてもらった。あんたはアメリカ人で良いのか?」

 

「そういうそっちは腰抜けのジャパニーズで良いな?」

 

喧嘩腰になったが、それは仕方ない事だ。13年前の早乙女の乱……それで地球の人口の6割は死滅した。それだけの事を起こした早乙女賢は日本人であり、日本人であるこの男達に敵意を向けるのは仕方ない事だった。

 

「手当てをしたんだ、そう敵意を向けるものではないと私は考えるが?」

 

「……その声、黒い機体のパイロットか?」

 

「ああ、カーウァイ・ラウだ。カーウァイでもラウでも好きに呼んでくれ」

 

見たところロシア系……か、鍛え抜かれた身体でカーウァイが軍人であると言うことはランバートにも判った。

 

「あの時は助かっ……待て、今何時だ!? っうっ……」

 

「ああ、だから駄目だって言ってるでしょう! 鎮痛剤を打ってますが、それでも動ける段階ではないんですよ!」

 

「うるさい! お、俺は行かないと行けないんだ」

 

仲間と命懸けで手に入れた情報を届けないと行けない。押さえに来た日本人を振りほどこうとするが、小柄な日本人すら振りほどく余力は今のランバートには無かった。

 

「お前の機体は今燃料を補充している、どの道動けないんだ。悪いが情報交換をした方が有益だとは思わないか? それに状況が状況ならば私も同行する」

 

「……お前が来てくれるのか?」

 

「戦力としては使えると思うがどうだろうか?」

 

あの黒い機体が同行してくれるとなれば、少し遅れたとしても戦力的には問題ないだろう。

 

「……判った。そうしよう、俺はランバート。アメリカ軍の少佐だ」

 

友好的に接するつもりは無い、だがそれでも助けられたということもあり、ある程度は社交的に接しようと思っていた、だがそれは大柄の中年男性の自己紹介までだった。

 

「車、車弁慶だ」

 

「弁慶? はっ! 武蔵の後釜のゲッターパイロットか」

 

「……俺を知っているのか?」

 

「知ってるよ、ゲッターパイロットは皆知ってる。恐竜帝国との戦いで俺は武蔵に助けられたんだ、たった1人で恐竜帝国に特攻した武蔵の後釜が無様に地下に逃げているとはな! 武蔵も救われないぜッ! この腰抜けッ!!!」

 

弁慶の軍服の襟を掴んで引き寄せる。その目は揺らいでいた、自分でも思っていた事を告げられ弁慶の目は揺れていた。

 

「おい! 止めろよ! 大将の事も何にも知らないくせに」

 

「ああ、そうだな! 俺はこんな腰抜けは知らんッ!! だがお前達は巴武蔵を知っているか! あの勇敢だった英雄をッ! お前達は知っているのかジャパニーズッ!!」

 

ランバートの言葉に返事を返せる者はいなかった。そのことが更にランバートを苛ただせた。

 

「落ち着けランバート」

 

「……ちっ……まぁ良い、だが腰抜けのゲッターパイロットなんぞ来ても縁起が悪いだけだ。今の地球はインベーダーとの生存戦争真っ只中だッ! それなのに地下に隠れていたお前達に出来る事なんかあるとは思えんがなッ!」

 

「お前! 良い加減にしろよ! 助けたのはあたし達だぞ!」

 

「俺を助けたのはカーウァイだ! お前達じゃないッ!」

 

「んだとッ! やるのか!」

 

「おう! 上等だ! 女だからって俺は手加減しないぞッ!」

 

ランバートと渓がとっ組み合いになろうとしたが、それはラウが間に入ったことで止められた。

 

「全員落ち着け、ここで互いにもめていては勝てる物も勝てなくなる」

 

「しかし」

 

「だけど」

 

「私は落ち着けと言っている、聞こえなかったのか? それならもう1度言ってやる落ち着け、そして全員座れ」

 

有無を言わさないカーウァイの言葉に頭に血が上っていたランバートも息を呑んで、その場に座り込んだ。それだけの威圧感がカーウァイの全身から滲み出ていた。

 

「ランバート、私は13年前の早乙女の乱も、ゲッターパイロットも詳しくはない、だがお前は言いすぎだ。そして渓、お前もだ。けが人を殴ろうとするな」

 

カーウァイの仲裁の言葉にランバートも渓もバツが悪そうに頭を掻いた。

 

「……そのなんだ。すまん、少し頭に血が上っていた」

 

「……いや。あたしも悪かった、ごめん」

 

完全に殺伐とした空気だったが、カーウァイの言葉でその空気は霧散していた。元々が個性の塊所か、個性が殴りあいしていた教導隊を纏め上げていたカーウァイの仲裁能力は桁違いに高かった。

 

「さてと、では次は私の話だが……なんと言っていい物か……」

 

少し悩む素振りを見せてからカーウァイは懐から小型の機械を取り出した。

 

「地球連邦軍特殊戦技教導隊隊長カーウァイ・ラウ大佐。それが私の肩書きだ」

 

「……地球連邦軍? 大将、そんなの聞いた事ありますか?」

 

「いや、無いな……それに特殊戦技教導隊と言うのも聞き覚えは無い」

 

「俺もだ。それに大佐なんて地位の人間もここ最近見たことは無い」

 

聞いた事が無いと口々に言う中。カーウァイは肩を竦めてそれは当然だと呟いた。

 

「私はこの時代から数百年後の未来からやって来た。そう言ったらお前達は信じるか? 証拠はここにあるが」

 

カーウァイが懐から出した機械はハンディPCであり、そこには新西暦の暦、そして主だった出来事が全て映し出されていた。

 

「見てもいいか?」

 

「ああ、そうしてくれ、その後で質問にも何でも答えよう」

 

まずは自分が未来から来たと言う事を信じてくれと言うカーウァイから差し出されたハンディPCを弁慶達は額を突き合わせ、覗き込むのだった。そこには確かにカーウァイが未来から来たと信じざるをえない無数の情報が記録されていたのだった……

 

 

 

 

カーウァイが差し出したハンディPCは弁慶達からすれば未知の物だった。そしてそこに記録されている物も、そう簡単には信じられないものだった。だが、信じる証拠は目の前にあった。今も窓から見える漆黒の機体……いや、PTの存在だった。

 

「あのゲシュペンストと言うのが初の人型機動兵器なんですか?」

 

「ああ、タイプS。最初に建造されたゲシュペンストの1体だ」

 

「ちなみにタイプSってなんの略なんですか?」

 

「ストレングス。PTの発展機の特機の雛形になっている、同時期に建造されたタイプR・タイプTよりも装甲やアクチュエーター、サーボモーターを初めに、装甲や動力が大幅に改造されている」

 

「へえ……すげえ、動力は何なんですか?」

 

「核融合ジェネレーターだ。初期型ゲシュペンストは全て核で起動している」

 

メカニックである凱はゲシュペンストに強い興味を抱いて矢継ぎ早に質問を投げかけ、カーウァイはそれに嫌そうな顔1つせずに丁寧に返事を返していた。

 

「核で動かすなんて。破壊された時のリスクは考えていなかったんですか?」

 

「試作機だからな、データ取りの意味合いが強かった」

 

核動力と聞いて古田は顔色を変えたが、それでも未来では話が違うのだろうと無理に納得した。

 

「解せんな、人型機動兵器の初と言うが、現に俺のステルバーや、ゲッターロボはどうした?」

 

「そこの所は俺も気になっている。歴史上初の機動兵器ではないだろ?」

 

「簡単な話だ、今の時代がいつかは判らんが、空白の歴史と言ってその時代の物を1度全て完全に捨てたらしい。その時にステルバー等の情報も廃棄されたのだろう、勿体無いことをしたものだ」

 

人型機動兵器のノウハウを捨てた。それが無ければゲシュペンストはもっと強靭な物になっていたかもしれない、カーウァイはその考えを捨てることが出来ないでいた。確かにステルバーやBTー23は不恰好だが、それでも量産出来る技術が旧西暦に既に存在していたのだ。それを捨てた政府の判断を愚かと思うのは仕方ないことだった。

 

「空白の歴史ねえ……ねえ、ラウさんも知らないの?」

 

「私が知っているのは宇宙から来た生物に全人口の8割が殺された事、そして可変する人型巨大兵器が存在したと言うことだけだが……それも都市伝説か噂の域を出なくてな、正直眉唾物だと思っていた」

 

だが実際にインベーダーを見れば、それが嘘ではないと判ったがなとカーウァイは肩を竦めた。

 

「しかし未来は凄いんですね、タイムマシンまであるんですね」

 

古田はカーウァイがタイムマシンでこの時代に来たと思っていたようで、カーウァイはその言葉に即座に返事を返していた。

 

「そんな物はない、私は敵に捕まって改造されて、部下に殺されたと思ったらこの時代に居た」

 

「「「「え?」」」」

 

余りに軽く言われたカーウァイの言葉を最初弁慶達は理解出来なかった。そしてまさかカーウァイが未来で死んで、なぜか過去で目を覚ましたと言われ、最初何を言われたのか弁慶達は理解出来ないでいた。

 

「だから敵に捕まったんだ、宇宙人って奴だ。体をバラバラにされてサイボーグにされて部下と殺し合いをしてたんだよ。メテオ1が落ちたと言っただろう? その隕石を落とした宇宙人……私達はエアロゲイターと呼んでいたが、それに捕まったんだ」

 

声も出ないという感じの弁慶達だが、カーウァイはあえてそれを口にした。タイムマシンなんて物は無いし、自分は決して英雄でもなんでもないのだ。むしろ何故生きているかも判らない亡霊なのだとカーウァイは笑った。

 

「それほどまでに強大な敵だったのか?」

 

「ああ、科学力は新西暦の地球をはるかに越えていた、万を越える無人機による物量戦を仕掛けられたのは覚えている」

 

「……悲しくないんですか?」

 

「いや、私は部下の成長を見届ける事が出来た。それだけで満足だった……何故この場にいるのか、本当に生きているのかは謎だがな、それかもう死んでいるのに未練がましく現世を彷徨っているのかもしれない、ただの亡霊なのかもしれん」

 

死んだ筈の人間が生きている。ゲシュペンストは幽霊と言うが、カーウァイ自身も自分が生きてるのか、死んでいるのか実際良く判っていなかった。

 

「お前は生きてここにいる、決して死人なんかじゃない」

 

「どうだろうな、未練であの世にすら逝けなかったのかも知れないぞ?」

 

地球を守る為に軍人になったのに、何も成す事が出来なかった。それが未練になっていたのかもしれないと自嘲気味に笑ったカーウァイに弁慶が慰めの言葉を口にする。

 

「俺にとってはお前が亡霊かどうかなんてどうでもいい、助けてくれるんだろう? 頼りにしているカーウァイ大佐」

 

「はっ、大佐なんて肩書きはもうあってないものだ。カーウァイで良いさ」

 

弁慶はカーウァイが気狂いと言われた理由を今本当の意味で理解していた。新西暦を知る人間からすれば、旧西暦の今のあり方は確かに疑問を抱くだろう。そして混乱したまま新西暦の話を聞けば、確かに気狂いや妄想を煩っていると言われても仕方ないだろう。

 

「補給が終わったら何処へ向かえばいいんだ? ランバート」

 

「……すべての始まりの場所。浅間山……早乙女研究所。そこに俺達の本隊がいる、指揮官はお前もよく知っている男だ。弁慶」

 

「俺がよく知っている男……? まさかッ!?」

 

弁慶の記憶の中で指揮官を出来るような男は1人しか存在しなかった。ランバートは弁慶の顔を見て誰か判ったようだなと頷いた。

 

「元ゲッターチーム神隼人。それが俺達のリーダーだ、俺が口引きしてやる。腰抜けではないというのなら戦え、それがゲッターチームであるお前の役目である筈だ。車弁慶」

 

13年前に逃げた、そして渓を連れて逃げ隠れる事を選んだ弁慶。そしてそれからずっと抱え続けていた罪悪感……それを払拭する機会が13年目の今日……やっと与えられた瞬間なのだった……

 

 

 

 

 

ジャガー号の中でイングラムは顔を歪めていた。オペレーションSRWの時に報告出来なかったんですがと前置きされ、見せられた映像はイングラムでもそう簡単に受け入れられる物ではなかった。

 

「この化け物をお前は知っているか?」

 

「いいえ、ただゲッターを狙って襲ってきたのでゲッターの敵かと……」

 

全身がゴムのような色合いをしていて、全身に黄色い目玉を持つ見ただけで嫌悪感を抱く化け物。それが新西暦にいるかもしれないと思えばイングラムの顔には焦りの色が浮かんでいた。

 

「……本当は伝えるべきだと思ったんですけどね」

 

「いや、あの状況では無理だった。仕方ない事だ」

 

自分と共闘した謎の特機の事もある、だがアレだけの戦いの中で余計な火種や疑惑を残すことが出来なかったのも事実。武蔵の判断は決して間違いではなかった筈だ。

 

「……ッ! 武蔵!」

 

「はいッ! 判ってます!」

 

突如肌に突き刺すように広がった殺気に武蔵とイングラムはほぼ同時に操縦桿を握り締めた。そして闇の中から現れたのは、武蔵が月で交戦したあの異形の群れだった。

 

「こいつら……もしかして月にいたのは生き残りだったのかッ!」

 

「かもしれんな、空白の歴史で地球を滅ぼしかけた異形……か、どうも俺達は空白の歴史の真っ只中にいるようだッ!」

 

「「「「キシャアアアッ!!」」」」

 

自分達が地球にいることは判っていた、だが荒廃した姿から未来だと武蔵もイングラムも考えていた。だが事実は異なり、空白の歴史……つまり武蔵が生きていた時代の前後と言う事が判った。そして恐らく武蔵が知らないことから武蔵が恐竜帝国に特攻した後の時間の可能性が高い。

 

「武蔵、思うことはあると思うが、今は余計な事を考えるな。無理そうならゲッター2にチェンジしろ」

 

「……いえ、大丈夫です。やれますッ!」

 

その目に迷いがあることはイングラムには判っていた、だがやれると言う以上無理強いすれば武蔵はますます意固地になると判断し、武蔵にこの場を任せることにした。

 

「行くぜぇッ! 掛かって来いやあッ!」

 

(余り良くない傾向だな)

 

精神的に弱っているのを吼える事で自分を鼓舞している今の武蔵の精神状況が良くない事をイングラムは看破しており、もしここが本当に空白の歴史ならば、竜馬や隼人がいるかもしれない。

 

(見つければ良いが……あの男達が死んでいるとは思えないから、余計な心配か)

 

武蔵のメンタルケアは自分では完全には出来ない、だからこそ殺しても死なないと断言できる竜馬か隼人に合流出来れば良いがと思いながら、インベーダーとの戦いに意識を向けるのだった。

 

 

第4話 降臨真ドラゴン その1へ続く

 

 




次回は少し時間を飛ばして、真ゲッター出現の後からの話を書いて行こうと思います。当然敷島博士も出てくる予定です、武蔵はその2かその3で合流させたいですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 降臨真ドラゴン その1

第4話 降臨真ドラゴン その1

 

夕暮れから始まった異形との戦いはほぼ一昼夜続いた。ゲッタービームが有効と言う事は判っていたのだが、それを使えば使うほどに異形が増える。武蔵とイングラムは打撃やゲッタードリル等の攻撃で異形……インベーダーの再生不可能になるまでの戦いを強いられていた。

 

「こいつで……とどめッ!!」

 

「アアアアーーーッ!!」

 

ゲッタートマホークで両断され消滅していくインベーダー。レーダーに反応が無いことを確認して、武蔵とイングラムはやっと一息つけた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「……まさかここまでの長期戦になるとは想定外だ」

 

時間にして8時間以上戦い続けた武蔵とイングラムの肉体的、精神的な疲労は凄まじいものだったが、まだ武蔵達は休めないでいた。

 

「さっきの……見ましたよね?」

 

「ああ、見た」

 

戦いの最中に上がったゲッター線の光の柱、それから明らかにインベーダーの動きが活性化していた。勿論それに伴い、ゲッターロボの出力も上がったが、それでも戦いは武蔵達の想定を越えて長引いていた。

 

「……あの方角が何かは判っているな?」

 

「……はい、判ってます。浅間山ですよね?」

 

浅間山……全ての始まりの場所にして武蔵の原点だ。そこから上がったゲッター線の柱……それは言うまでも無く、浅間山……早乙女研究所で何かが起こっていると言う証だった。

 

「イングラムさん「構わない、行こう」……良いんですか?」

 

自分の言葉を遮って行こうと言ったイングラムに武蔵は驚きの表情を浮かべた。

 

「ゲッター線の柱が出来たのは4時間ほど前だ。既に手遅れかもしれないが、何か情報を得れる可能性は十分にある。休むよりも先に調査に向かうべきだ。それに……お前も心配で休もうとしても休めないのではないか?」

 

早乙女研究所のある方角で何かが起こった。それを知って武蔵が休める訳がない、イングラムの言葉に武蔵はすいませんと謝罪し、その視線の光の柱が上がった方向に向けた。

 

「オープンゲットしていきます。そっちの方が早いですから」

 

「異論は無い。それに……何だ!?」

 

イングラムの声を遮り起きた凄まじい爆発にゲッターロボの巨体が揺れた。

 

「武蔵! これは戦闘音だ!」

 

「判ってます! 急ぎましょうッ!」

 

音が響いてきた方向は浅間山の方角、武蔵とイングラムが危惧した通り浅間山では何かが起きている。武蔵とイングラムはそれを感じ取り、ゲットマシンへと分離し浅間山の方角へと向かって行くのだった……。

 

 

 

 

ここで時間は少し遡る、崩壊した早乙女研究所とそれよりもはるかに巨大な異形の影……この時代の地球に壊滅的な打撃を与えるきっかけとなった「真ドラゴン」を柱のような要塞から見つめる3つの人影があった。

 

「やはり生きていたな、真ドラゴンも、あの男……號も」

 

全身傷だらけの鋭い視線の男……「神隼人」はモニターに映る真ドラゴンとその近くに佇む真ドラゴンを睨みつけるように観察していた。

 

「しかも13年前の姿のままで、実に興味深い」

 

隼人の隣で左目が白濁した老人が興奮した面持ちで呟く、その視線の先には真ゲッターの肩の上の男……號と、真ゲッターの隣に立つ2体の機体に向けられていた。

 

「隼人、良いのか? 出迎えんで?」

 

「出迎えなくても向こうから来るでしょう」

 

錆びついてボロボロながらインベーダーと戦って見せたゲッター3。今ゲッターを操縦出来るのは隼人を除けば2人しかいないが、もう1人は生死不明となれば誰がゲッター3を操っていたかは隼人にとっては判り切っていた、ここで待っていれば向こうから来ると考えている隼人は旧友だったとしても迎えに行く気は一切無かった。

 

「調査結果が出ました。やはりあの漆黒のロボットに関する情報はありません、また各国からの情報提供が求められています」

 

金髪の女性の言葉を聞いて隼人は眉を細めた。インベーダーとの乱戦の最中、ランバートのステルバーと共に現れた漆黒の機体。完全な人型であり、凄まじいパワーを持つその機体は真ゲッターが出現するまでの間に戦況を討伐隊が有利な方向に進めてくれた。だがその機体に見覚えは無く、どこかの国の秘密兵器かと考えたが、生き残った僅かな国からの情報提供が求められているとなると何処かの国の秘密兵器と言う線も消えた。

 

「そうか、ありがとう山崎。敷島博士、あれをどう見ますか?」

 

「……ありえんな、余りにも技術が発達しているように見える。詳しく分析しなければ断言は出来んが……凄まじい能力を持っているじゃろうな」

 

今では数少ないゲッター線の権威がありえないと断言する漆黒の機体。一体あれはどこからやってきたのか……隼人はそれを考えていた。

 

「解体準備は?」

 

「はい、間もなく完了する予定です」

 

山崎の報告を聞いて隼人は真ドラゴンに視線を向けた。

 

「そうか、博士」

 

「ああ、急ごう。真ドラゴンの炉心を解体しなければ」

 

「インベーダーの奴らが言う世界最後の日を防ぐ為にも……」

 

インベーダー……コーウェンとスティンガーが言う、世界最後の日。それを防ぐ為にも真ドラゴンのゲッター炉心を何としても解体しなければと話をしている隼人達の背後で自動扉が開く音がした。

 

「ランバート少佐。帰還しました、ステルバー隊は俺を除き全滅致しました」

 

「……そうか、御苦労。休んでくれてかまわない、ランバート」

 

「はっ! それと地下シェルターに隠れていた日本人5名と協力者を案内してきました」

 

協力者……あの黒い機体のパイロットかと振り返った隼人の視線の先には旧友の1人の姿があった。

 

「隼人……」

 

「弁慶。ふっ、久しぶりだな」

 

13年前に分かれたままの友人が生きていた。あのさび付いたゲッター3を動かしているのが弁慶だと判っていたから、隼人は顔色1つ変えずに弁慶との再会を迎えることが出来た。

 

「隼人、教えてくれ、今地球はどうなっているんだ。それに何でお前がここにいるんだ……頼む、教えてくれ隼人……うっ……」

 

「親父、無理するなよ」

 

弁慶の腹に血が滲んでいる。錆び付いて崩壊しかけているゲッター3を無理に動かして、ベアー号の内装が弾け、その腹に突き刺さった傷は深く、弁慶は額に脂汗を流しながら膝をついた。

 

「……放せ、渓。俺は隼人に話を……うっ」

 

「ったく言わんこっちゃ無い。団六さん、凱、親父を運んでくれるか?」

 

「おう、判ったぜ」

 

「……こくり」

 

渓に言われ、凱と団六が意識が朦朧としている弁慶を担ごうとした時、隼人が声を掛けた。

 

「待て、渓と言うのか?」

 

「そうよ、それがどうかしたの」

 

渓の顔をじっと見つめ、何も言わない隼人に気の短い渓が握り拳を作るが、それはカーウァイによって制された。

 

「彼女は今父親が怪我をして気が立っている。用がないなら、行かせてやってくれ」

 

「お前は? そうか、あの黒い機体のパイロットか……俺も博士もお前の話を聞きたいと思っていた。ランバート、弁慶達を医務室へ案内してやってくれ、それと……判るな?」

 

「……了解、とんだ貧乏くじだ。行くぜ、ついて来い」

 

ランバートが頭を掻きながら渓達を連れて行く、司令室に残されたカーウァイに隼人と敷島博士が鋭い視線を向ける。

 

「さて、改めて自己紹介だ。俺は神隼人、弁慶と同じ元ゲッターパイロットで今は真ドラゴン討伐隊の指揮官をしている」

 

「ワシは敷島と言う、お主の機体について色々と聞かせてもらいたいのう?」

 

「……カーウァイ・ラウだ。どうも、長い話になりそうだな」

 

隼人と敷島の目の色に覚えのあるカーウァイは肩を竦めながら、司令室の椅子に向かう隼人達と共に椅子に腰掛ける。

 

「それでお前は何者なんだ?」

 

「……未来から来たと言ったらお前達は信じるか?」

 

「……状況による」

 

「ワシは信じるがな、あの機体を見れば並みの技術ではないのは明らかだ」

 

どうもランバートたちよりかは話が早そうだとカーウァイは心の中でそう呟いて、弁慶達にも見せた端末を机の上に置いた。

 

「私はあくまで軍人だ、それほど詳しい訳ではないからこれを見てくれ、それで私の判る範囲では質問に答える」

 

「……ほう、ここまで小型化された端末か」

 

「ほー面白いの、ここで画面を操作できるのか、なるほどなるほど、隼人。見てみるぞ」

 

「ええ、そうしましょう」

 

懐疑的な視線を向けられている事は判っている、理知的な2人を納得させれるだけの証拠はある。後はそれを信じてくれるかどうかが問題だなと思いながら、熱心に端末を覗き込んでいる隼人と敷島から視線を逸らし、巨大モニターに映し出されている異形の巨大な機動兵器に視線を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

「ランバートはなんであたし達と一緒に居てくれてるの?」

 

医務室で寝ている弁慶の額の汗を拭いながら渓がそう尋ねる。ランバートは深い、深い溜め息を吐いて人差し指を渓に突きつける。

 

「あのなあ! ゲッター線で今の地球は壊滅状態なんだぞ! そしてゲッターロボを操ったのは日本人! このタワーにはな! 日本人とゲッターロボを憎んでいる奴は何百人と居る! 俺は一応古参だからある程度発言力があるから、お前達を守れって言われたんだよ。遠まわしでなッ!!」

 

ああ、くそっと頭をかきむしるランバートに渓達は何もいえなかった。

 

「じゃあ、この医務室って……」

 

「そうだよ、お前達の部屋だ、勝手に出歩くなよ。死にたく無ければな」

 

「おいおい、待て、待ってくれ! そんなに日本人が憎まれてるって言うなら、あの人はどうなんだよ! 大将と同じゲッターパイロット

「同じにするなッ!」

 

ランバートの一喝に凱は息を呑んで黙り込んだ。

 

「神隼人は13年前から自ら戦場に出てインベーダーと戦い続けていた。13年間隠れた車弁慶とは違う。そんな事を言ってみろ、殺されるぞ」

 

「……そんなになんですか?」

 

「そんなにだ。特に……弁慶の立場は悪い」

 

「……なんで? 親父だってゲッターロボのパイロットだったんだろ?」

 

渓達は伝説のゲッターパイロットの1人だと聞いていて、弁慶を慕っていた。だが余りにもタワーの人間の視線が鋭くその理由をランバートに尋ねた。

 

「……伝説のゲッターパイロットと呼ばれているのは、「流竜馬」「神隼人」そして「巴武蔵」の3人だ。流竜馬はA級戦犯として投獄されたが、結果論的に必要な事だったとされている。神隼人は自らの行動で討伐隊を任されるほどの地位と発言力を得た、そして巴武蔵は……恐竜帝国の襲撃から、アメリカを地球を救った英雄だ。ゲッターロボは憎いが、それでも巴武蔵を英雄としている者は確かに多い……おい、どうした?」

 

「……う、ううん……何でもない、ちょっと頭が痛いだけ」

 

武蔵の名前を聞いて渓が顔を顰め、ランバートが心配そうに尋ねるが、なんでもないと言われれば、それ以上踏み込むつもりも無いランバートはそうかと言って話を続ける。

 

「弁慶は確かに百鬼帝国との戦いに参加した、だが武蔵と比べると劣るという評価をされている。ゲッター3と言えば大雪山おろし、しかし弁慶は大雪山おろしを使えなかった。だからポセイドンには暴風を起こす機能を付けられたのさ。本当なら、ゲッター3のように伸縮自在の腕になる筈だったんだ」

 

「それってゲッター3が神聖視されてるってことか?」

 

「神聖って言うよりも英雄だな。英雄機ゲッター3と巴武蔵はセットで、大雪山おろしと言えばゲッター3、ゲッター3と言えば大雪山おろしと武蔵って言う訳だ。真ドラゴンとゲッターを憎んでいても武蔵は別って考えの人間は多いんだよ」

 

ランバートがコーヒーを入れる為に1度立ち上がったタイミングで渓達は額を付き合わせる。

 

「……なぁ、百鬼帝国ってなんだ?」

 

「……すいません、知りません」

 

「日本政府は恐竜帝国の事すら教えてくれなかったしなぁ」

 

英雄機のパイロットとして弁慶の事を知っていたが、渓達は百鬼帝国の事も知らなかった。

 

「聞いたら怒るかな」

 

「多分なぁ……」

 

「でもきかないと何もわかりませんしね」

 

そんな話をしているとランバートがマグカップを手に戻ってくる。

 

「ランバートさ、百鬼帝国って何……?」

 

渓の言葉にランバートはその目を大きく見開いた。その顔には、信じられないと言う顔が浮かんでいた。

 

「お前ら……百鬼帝国も知らないので、弁慶をゲッターパイロットって言ってたのか?」

 

「いや、政府の人がそう言ってたし……」

 

「大将も俺はゲッターパイロットって言ってたから……」

 

ランバートは深く溜め息を吐いて、手にしていたマグカップを机の上に置いた。

 

「百鬼帝国って言うのはな、恐竜帝国の後に現れた脅威で、百鬼の名の通り鬼の軍勢だ。百鬼帝国は恐竜帝国と比べれば世界的な規模は少なかったが、日本に対する被害は甚大だった。ゲッターロボの後継機であるゲッターGは百鬼との戦いに投入され、そして百鬼帝国を打ち倒した。弁慶はその戦いを潜り抜けたことで……「いや、俺はあの戦いを潜り抜けたとはとてもじゃないが言えねえ」

 

ランバートの話を遮り、弁慶が腹に手を当ててベッドから身体を起こした。

 

「親父! もう大丈夫なのか?」

 

「……ああ、それに渓達も知るべきだと俺は思う。俺は武蔵さんの変わりにゲッターパイロットになった。だけど、俺は正直言って武蔵さんの変わりにはなれなかった……竜馬や隼人に助けられてやっと戦えたと言うレベルで、その後も必死にゲッターを操ろうとしたが……俺にはそのポテンシャルを十分に引き出す事は出来なかった……だから俺は役立たずのゲッターパイロットなんだ。そんな役立たずの俺は……日本は健在だと、伝説のゲッターパイロットだと政府に祭り上げられ、広告塔になった。そんな大それた男じゃねえ、ただゲットマシンを飛ばせる程度の男がよ……分不相応なんてもんじゃねえ……幻滅したか?」

 

大将と言われ、皆を率いてきた。だが弁慶にすれば、それは何よりも苦しい13年間だった筈だ。それでも日本の旗頭として振舞う責任が弁慶にはあったのだ。

 

「幻滅なんてするわけないよ、親父。親父は辛くてもずっと頑張って来たんだよな」

 

「誰よりも辛かったは大将だ。だから俺達が幻滅なんてするわけがない」

 

「教えてくれてありがとうございます。大将」

 

「……」

 

「ありがとよ」

 

弁慶達の話を聞いていたランバートは頭を掻きながら医務室を出る。外からロックを掛けて弁慶達が外に出れないようにしてから格納庫に足を向ける。

 

「がっ……てっめえ」

 

「何だ? 文句があるなら掛かって来い。何度でもぶちのめしてやる」

 

真ゲッターロボの周りに置かれたミサイルランチャーや火炎放射器の数に眉を顰めたランバートは、カーウァイに殴られ泡を吹いているタワーの戦闘員を睨みながら、今正に殴りかかろうとしていた金髪の偉丈夫「シュワルツ」の手を掴んだ。

 

「ランバート……」

 

「おめえら何やってる、いや、何をやろうとしたこの馬鹿共ッ!!」

 

ランバートの一喝が格納庫に響き、遠回しにシュワルツ達を囃し立てていた整備兵達も身を竦めた。ランバートは恐竜帝国の脅威も、百鬼帝国の悪辣さも、その全てを見てきたタワー戦闘班の最年長だ。そのランバートに怒鳴られれば若い兵士は皆恐怖に身体を竦めた。

 

「何してるはこっちの台詞だ! なんでゲッターロボをタワーに運んできた! 何でゲッター線なんかで動く悪魔を連れてきたッ!! 俺達がどう思ってるか知ってるだろうにッ!!」

 

その中でシュワルツだけがランバートに食って掛かったが、襟首を掴んだその手を捻り上げられ、シュワルツはその場で膝を突いた。

 

「すまねえな、カーウァイ。若い連中が暴走しちまった」

 

「いや構わん、思う所があるのは判ってるつもりだ、だがこの場で戦力を減らすのが得策ではないのは判りきっているだろうに」

 

「面目ねえ……何だ!?」

 

突如タワーに鳴り響いた警報にランバートは顔色を変えた、タワーの艦内放送がその直後に響き渡った。

 

『真ドラゴン周辺にメタルビースト、インベーダー出現、戦闘員は直ちに出撃準備を、繰り返します。真ドラゴン周辺にメタルビースト、インベーダー出現、戦闘員は直ちに出撃準備を』

 

その放送を聞いてランバートは弾かれたように走り出す。

 

「待て!またお前はゲッターロボを……ゲッター線で動く悪魔を頼るって言うのかよ!! ランバートォッ!!!」

 

「……必要な事だ。それすらも判らないのか、シュワルツ。今の人員でメタルビーストとインベーダーを押し返せるなんて考えてんのか?」

 

「やる! やって見せるッ! 俺達はゲッターロボなんかに頼らなくたって「それで死ぬのか?」……うっ……」

 

ランバートの鋭い視線にシュワルツは言葉に詰まった。それだけの迫力が今のランバートにはあった。

 

「確かにゲッター線のせいで地球は滅びかけたさ、だけどな、全部が全部ゲッター線が悪い訳じゃねえ。少なくとも、地球全土にゲッター線を撒き散らす要因になった重量子爆弾は当時のアメリカのせいだ」

 

「だがゲッターロボが無ければ」

 

「無ければなんだ、シュワルツ。アメリカは恐竜帝国と呼ばれていたぞ、武蔵とゲッターロボに救われた事実を忘れるんじゃねえ。カーウァイ、俺は渓達を連れて来る。先に頼めるか?」

 

「……ああ。任せておけ、それと……お前案外良い奴だな」

 

「うっせえ、ただ……俺は、武蔵に貸しがある。それを返せないまま、あいつは死んじまった。武蔵の事を知らなくても、あいつらは武蔵の後輩だ。孤立させたくねえ、同じ人間で憎み合って欲しくねえ、それだけだ」

 

そう言って背を向けて走っていくランバートを見つめ、カーウァイはそんな奴だと呟き、ゲシュペンストが固定されているハンガーへと走り出そうとして足を止めた……。

 

「くそ……判ってる、判ってはいるんだよ……だけど、俺は……」

 

思い悩むシュワルツの声に深く溜め息を吐いたカーウァイはシュワルツの前に立つ。

 

「悩め、悩んで悩んで悩み続けろ。そして見極めるが良い、その先にしかお前の目を曇らせている殺意と憎悪は晴れる事はない」

 

「……てめえ。何が言いたい」

 

「お前に似た男を知っている……妻子を軍に殺され、それでもなお憎む心と憎まないと言う間で揺れ動いた男をな……」

 

外見は全く似ていない、それでもカーウァイにはシュワルツとテンペストが似ているように見えた。

 

「……その男はどうした?」

 

「死んだよ。自分の妻子を見殺しにした軍の人間を庇ってな……馬鹿な部下だったよ、あいつは……」

 

そして今度こそカーウァイは走り出した。出撃する為ではない、自分の中に突如生まれた記憶を振り払うかのように……。

 

(テンペスト……お前は満足だったのか)

 

己の娘と同じ年頃の少女を庇い死んだかつての部下を思う、そして突如こんな悪辣な記憶を与えた世界を憎む。

 

「憂さ晴らしだ。精々私の怒りの捌け口になってもらおう」

 

地面から這い出てきた青い特機。その姿は己の部下が悪辣な科学者に組み込まれたそれに酷似していた、カーウァイの額に青筋が浮かび、タイプSは獣のような唸り声に似た駆動音を響かせ、地面から這い出てきたゲッターライガーの顔面に拳を叩き込むのだった……。

 

 

 

第5話 降臨真ドラゴン その2へ続く

 

 




シュワルツを年上にして武蔵を知っていると言う設定に、弁慶は武蔵と比べられていたのでメンタルブレイク気味に改変。今回の話は5・6話の中間同士くらい、次回は早乙女博士襲来から入って行こうと思います。え?話を飛ばしすぎ?……すまぬ、私の文章力不足である、許してください。そして今回は続けて更新しますので次の話もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 降臨真ドラゴン その2

第5話 降臨真ドラゴン その2

 

タワーの展望室に頭に包帯を巻いたシュワルツの姿があった。先ほどのインベーダーの強襲による出撃命令。インベーダーと討伐軍の残骸のメタルビーストだと高を括っていたシュワルツ達を出迎えたのは、13年前。流竜馬によって破壊され、真ドラゴンに合体する事が無かった量産型Gシリーズに寄生したメタルビーストの群れだった。

 

「……くそったれ」

 

撃墜されて行くロボット群、インベーダーに食われる仲間。そして己も食われる寸前で真ゲッターロボに助けられた……だがそれを認められず、罵倒を吐いた己の情けなさとみっともなさにシュワルツが舌打ちを打った。

 

「……んだよ」

 

「別に随分とへこんでいるようだからな」

 

目の前に置かれた紙コップに顔を上げると涼やかな表情をしたカーウァイの姿があり、ますますシュワルツの機嫌は悪い物になる。

 

「吐いた唾は飲み込めんぞ、シュワルツ」

 

「うっせえ」

 

真ゲッターに助けられた事を認めれず、己が叫んだ言葉は間違いなく自分よりも年下のあの少女を傷付けただろう。

 

「死んでもゲッターロボには助けられたくないか」

 

「てめえ、何が言いたいッ!」

 

「別に、ただ……理不尽な怒りを叩き付けれる者の気持ちを考えた事はあるか?」

 

カーウァイならば、今の弱りきっているシュワルツの手を振り払う事など容易い事だろう、だがそれをせずにアイスブルーの瞳がシュワルツに向けられた。

 

「所詮ゲッターロボも機械、乗り込む物がそれをどう使うかだ」

 

「……うるせえよ」

 

「年寄りの老婆心とでも思っておけ、後悔後先たたずと言うぞ」

 

「うるせえよッ!!!」

 

「ふむ、どうも何を言っても無駄なようだ。では私は行くとしよう」

 

コーヒーの紙コップをゴミ箱に捨てて歩き去っていくカーウァイ。その背中にシュワルツは思いっきり睨みつけた、見たこともない黒いロボットを操る男。生身でも操縦技術も桁外れのいけ好かない男……それがシュワルツにとっての「カーウァイ・ラウ」と言う男だった。

 

「判ってる、判ってはいるんだよ。ちくしょうめ」

 

地球を滅ぼしたのは早乙女ただ1人。日本人すべてが悪人と言うわけではないし、ゲッター線がいけ好かないとしても、ゲッターロボがいなければ自分は死んでいた……それが判っているからこそ、シュワルツの心の中は荒れていた。直情型で暴力的だったとしても、けっしてシュワルツは理性がないわけではない、むしろ、その凶暴性を押さえ込むだけの理性をシュワルツは有していた。だが、だからこそ自分の言動がいかに的外れで、そして理不尽な物だったという事が判ってしまう。

 

「……くそが」

 

筋を違えたのは自分だ、ならばその筋を正さなければならない。シュワルツはまだ熱いブラックコーヒーを飲み干し、席を立った。どうせ顔を見たら、また喧嘩腰になる。それでも、救われた事に関する感謝の言葉を口にしないわけにはいかない。

 

「……英雄であり、悪魔のマシンか……ちっ、面白くねえ」

 

1度地球は恐竜帝国によって滅びかけた、だが巴武蔵とゲッターロボによって救われ、英雄巴武蔵とゲッターロボの名は有名になった。だがその後に早乙女博士によって地球が滅ぼされかければ、ゲッターロボは悪魔のマシンとされた。英雄であり、悪魔、それが今のゲッターロボだ。

 

「見極めろってこの事かよ」

 

自分がこれだけ悩む事を見透かしていたような、カーウァイの言葉にシュワルツは舌打ちし、メディカルルームにいるであろう、渓達の元へ足を向けるのだった。

 

 

 

 

早乙女研究所地下に安置されていた練習用ゲッター3に乗り込んだ際に長時間雨風に晒されたベアー号の内装が弾け、身体に深い傷を負った弁慶はベッドの上に横たわりながら軍服の胸ポケットに収めていた2枚の写真の内、1枚をその手にしていた。

 

「武蔵さん……俺はやっぱり、あんたの後継者にはなれなかった」

 

自分の姿のない写真、剣道の胴に工事現場のヘルメット、そしてマントというあまりに独創的な格好でピースサインをした武蔵とそんな武蔵の肩に肩車され満面の笑みの早乙女元気。そしてそんな2人を見て苦笑している竜馬と隼人、そんな2人の間で微笑む早乙女博士とミチルの姿に弁慶はこれこそが正しいゲッターチームの姿だと思った。

 

「……情けねえ」

 

確かに己は百鬼帝国との戦いを潜り抜けた、竜馬と隼人とも友情を結べたと思う。だけど、巴武蔵と比べれば自分が何段も劣るという事は弁慶は思い知らされていた。

 

「真ゲッターチームか、武蔵さん、あんたがいたら俺をしかったかい?」

 

会った事もない、言葉もかわした事もない。だが竜馬と隼人と完全な水と油の2人の仲裁役を勤め、それでいてあの2人と肩を並べる事が出来ていた。そして元気のベビーシッターも務め上げ、恐竜帝国との戦いで死んだ。

 

「みっともねえ」

 

竜馬と隼人に守れと言われ元気を連れて逃げた自分とは余りに違う。もしも、もしも武蔵が生きていればこんな結果にならなかったのではと考えた事は1度や2度ではない。武蔵の後釜、役立たずのゲッターパイロットと言うのは紛れもない事実なのだから……。

 

「あ、大将。もう大丈夫なんですか?」

 

「あ、ああ。心配掛けたな、大丈夫だ。渓? お前どうした」

 

古田を先頭にメディカルルームに入ってきたのだが、渓が明らかに落ち込んでいるのに気付いてどうした? と尋ねると凱が渓の頭に手をおいて苦笑を浮かべた。

 

「こいつロボット軍の連中に言われた事を気にしてるんですよ」

 

凱の言葉に渓は自分の頭の上に置かれた凱の手を振り払い、声を張り上げた。

 

「どうしてあたし達が責められないといけないのよッ! 日本人ってだけでさッ!! 大体世界を滅ぼしたのは早乙女1人じゃない! そんな奴の罪までなんであたし達が背負わないといけないのよッ!」

 

渓はメディカルルームの壁に拳を叩きつける、その声には隠し切れない悔しさが滲んでいた。

 

「早乙女が、早乙女さえいなければ……こんな目に合わずにすんだのに……」

 

「渓……」

 

弁慶は落ち込んでいる渓になんと言葉を投げかければ良かったのか判らず、それでもその名前を呼び渓に手を伸ばそうとした。その時突如地響きがタワーに襲い掛かった。

 

「おっとと」

 

「親父大丈夫か!?」

 

怪我をしている弁慶はその振動に耐え切れず、ベッドから落ちかけ渓にその身体を支えられた。

 

「なんだあ、ありゃあ……」

 

「岩柱ですかね?」

 

凱達は窓に張り付き、地響きと共に現れた岩柱を怪訝そうに見つめている。

 

「ちょっと待て、今外部モニターを……」

 

ベッド脇の机からリモコンを取り出して操作する弁慶。メディカルルームに備え付けられたモニターに外の光景が映し出され、弁慶はモニターの倍率を操作し、岩柱の上に立っている人物がいる事に気付いた。

 

「人間?」

 

「おっさんか?」

 

年老い、色素が抜け落ちて灰色になった髪、そしてボロボロの白衣姿の老人の姿に凱達は怪訝そうな表情を浮かべた。そして弁慶はその人物の後姿を見て、驚愕にその目を見開いた。

 

「久しぶりだな、諸君ッ!!!」

 

その人物はタワーに見られていることに気付いたのかゆっくりと振り返り声を上げた。

 

「さ、早乙女博士ッ!!!」

 

「「「え!?」」」

 

名前しか知らない早乙女が目の前にいる。その事に渓達の顔が険しい物になる、自分達が迫害される元凶が目の前に現れたのだ。全員がその目に憎悪の色を映し出していた。

 

「ふっはははははッ!! この早乙女そう簡単に死にしないッ!! そう、貴様ら人類の滅亡と世界最後の日を見届けるまではなッ!!」

 

生身である筈なのに早乙女博士の声は周囲に響き渡っていた。

 

「この悪魔がぁッ!!!」

 

地響きでインベーダーとメタルビーストが現れるかもしれないと出撃準備をしていたシュワルツは壁に立てかけられていたロケットランチャーを肩に担ぎ、早乙女博士目掛けて引き金を引いた。

 

「な、何ィッ!!」

 

放たれたミサイルは早乙女博士に命中する前に透明の壁にぶつかったかのように、爆発四散する。

 

「ふははははッ! 無駄な争いは避けようではないかッ!!! ワシはただわが子に会いに来ただけなのだからなあッ!!」

 

我が子と言った早乙女博士にタワーにいた全員が顔を顰めた。タワーに早乙女の縁者などいる訳がないからだ、だが弁慶はその言葉に顔を歪めた。

 

「さぁ! ワシの元に来るのだ!!」

 

「よ、よせえッ!! 言うなあッ!!!」

 

届かないと判っていても弁慶は叫ばずにはいられなかった。それだけは絶対に、誰にも知られてはいけない事実だったからだ。

 

「我が子元気よ……いや、渓よッ!!」

 

渓の名前が早乙女の口から出た。その事に弁慶は顔を歪め、凱達は信じられないと言わんばかりに俯いた。

 

「あたしが早乙女の子供? 何馬鹿な事言ってんの、な? 親父」

 

渓の問いかけに弁慶は顔を背け、黙り込んだ。その姿に渓は弁慶へと詰め寄る。

 

「親父? なぁ、嘘だろ親父、嘘だって言ってくれよッ! なぁ、本当の事を言ってくれよッ!!」

 

渓の叫び声に弁慶は俯いたまま、口を開いた。

 

「早乙女博士は自分の娘に元気と名づけた、その女の子は名前の通り、元気に育った。しかし、早乙女博士は忙しく、早乙女研究所にいたゲッターチーム……その中でも温厚で、子供に優しい武蔵さんに己の娘を預け育てさせた」

 

「……うっ……その写真は……」

 

弁慶が見つめていた写真を渓へと差し出す、その写真には武蔵に肩車されている子供の姿があった。

 

「だが武蔵さんが死んで元気はふさぎ込むようになり、竜馬が早乙女博士を撃ったとされるその日に完全に心を閉ざした。そして……13年前のあの日、真ドラゴンの姿に元気の心は砕け散り、今までの記憶を全てを失った」

 

弁慶は苦しみながら言葉を続け、渓はその言葉を聞いて、その写真を見て……何かを思いだそうとしていた。

 

「地下シェルターでの暮らしが始まれば、早乙女博士の縁者がいると噂が広がり、元気にもその疑いが向けられた。俺は……元気を守りたかった、情けない俺が武蔵さんが最後まで元気に、幸せに生きて欲しいと願った元気を竜馬と隼人に託された。だから俺には元気を守る義務があった、だから俺は咄嗟にある策を講じた……早乙女博士が元気を息子として育てていることを利用し、俺の娘……渓にしたんだ」

 

「ち、違う! そんなの作り話だッ! あ、あたしは……」

 

「渓……これを見てもそれが言えるか?」

 

弁慶が取り出したのは古いボロボロの帽子。そしてそれに安全ピンで留められた同じくボロボロの折り紙……。

 

「あ、ああ……そ、それ……は……」

 

「武蔵さんの遺品だ。俺のお守りとして、竜馬が俺にくれたものだ。これがあれば……俺は戦えた、情けなくて、みっともない俺でも、戦えたのはこの帽子武蔵さんの帽子のお陰だ。俺に武蔵さんが力を貸してくれると思ってずっと持っていた。武蔵さんが元気に託した、あの人の帽子だ」

 

「あ、ああ……あああ……それ、それ……」

 

よろよろと手を伸ばした渓がその帽子を胸に抱き、武蔵さん、武蔵さんと繰り返し呟いた。

 

「ふははははッ! 真実とは残酷なものよなあ! さぁ、元気よ。ワシの元に来るがいい、親子水入らずで世界最後の日を迎えようではないかッ!!」

 

強風で煽られた早乙女博士の前髪に隠された左目にうごめくインベーダーの姿、そして自身が胸に抱く帽子が渓……いや、元気が胸に封じていた記憶が湯水の様に溢れ出した。

 

「う、うあわああああッ! 殺してやる!! お前を殺してやるッ!!!!」

 

制止の声も振り切り部屋を飛び出そうとしたとき、外から扉が開き、シュワルツがその手にしたハンドガンを渓の額に突きつけていた。

 

「死ぬのはてめえからだ、早乙女の一族は俺がこの手で殺してやるって決めていたんだッ!」

 

「や、止めろ「動くなッ!!」

 

ハンドガンを突きつけたままシュワルツが大声を上げる。その声に弁慶達は動きを止めるしかなかった、そして渓とシュワルツは睨みあい、メディカルルームに銃声が響いた、だがそれは渓ではなく、モニターに映る早乙女博士を貫いていた。

 

「くそったれ、なんでお前は人間なんだ。お前も化け物なら……躊躇う事無く、撃てたのによおッ! なんでお前は人間なんだッ!」

 

シュワルツの様々な思いが入り混じった言葉に渓は返事を返さず、武蔵の帽子を胸に抱えたまま格納庫へと走る。

 

「……」

 

「何よ」

 

真ジャガー号に乗り込もうとした渓の肩を號が掴んで、その場にとどめた。

 

「行ってはいけない」

 

「ちょっと放してよ」

 

いらついた様子で號の手を振りほどこうとする渓だが、號がその手を放すことは無かった。

 

「あんた何のつもり、どうしてあたしに付き纏うのよ」

 

「俺はお前を守る」

 

「あたしを? 何故」

 

自分を守ると言った號に理由を尋ねるが、號は返事を返さない。

 

「笑わせないで、大きなお世話よ」

 

「……もう少し待つんだ。あの人が来る」

 

「あの人?」

 

「彷徨う者、ゲッター線に魅入られし者が来る。だからそれを待つんだ」

 

「……なんなのさ、それは、あたしはそんなの必要としていない!」

 

號の余りに抽象的な言葉に渓は苛立ちを隠す事が出来ず、號を突き飛ばし真ジャガー号の中に乗り込んで、タワーから飛び出していくのだった……。

 

 

 

 

 

 

早乙女博士の出現、そしてインベーダーとメタルビーストの出現でタワーから慌しくロボット軍が出撃していく中。弁慶は団六達に支えられて、司令室に向かっていた。

 

「隼人、教えてくれ! 渓はどこにいる! 俺の娘はどこにいるんだッ!」

 

モニターに姿を見せない真ゲッターと真ゲットマシン、そして今帰還した真ベアー号に弁慶は額に脂汗を浮かべながら、渓の居場所を隼人に問いかける。

 

「渓は何処に行っちまったんだ、隼人。知っているんだろ、なぁ! 隼人ッ!」

 

隼人の肩を掴む弁慶。だが隼人は振り返る事無く、弁慶に邪魔だと言って前を向いたまま弁慶を振り払う。

 

「そんなに無碍にすることも無かろう? 弁慶よ。彼女なら真ドラゴンの内部だ」

 

敷島博士の言葉に弁慶は顔色を変えた。ロボット軍の集中砲火を受けている真ドラゴンの内部に娘がいると聞いて、弁慶がジッとしていられる訳が無かった。

 

「ロボット軍の攻撃を止めさせろッ! 渓を殺す気かッ!」

 

「五月蝿いッ!」

 

羽交い絞めにしようとする弁慶を振り払う隼人、その目には確かな苛立ちの色が浮かんでいた。

 

「大将! 大丈夫ですか!」

 

「……」

 

「うっ、俺は大丈夫だ」

 

今突き飛ばされた事で傷が開いた弁慶の額に冷や汗が浮かぶ、そんな弁慶を見ても隼人は顔色1つ変えない。それ所か、世界の命運が掛かっている場所で己の私情を優先する弁慶を一喝する。

 

「判らないのか! 今が真ドラゴンを倒す最大のチャンスなんだ! 世界を救う戦いだと言うのが判らないのかッ!」

 

「渓のいない世界なんざあ、知ったことじゃねえッ! それに……あの人が可愛がった元気を見殺しにするって言うのかッ!」

 

弁慶の言うあの人が武蔵を指し示すことは明らかで、その時初めて隼人の冷酷な瞳に迷いの色が浮かんだ。

 

「大体、あの號って奴は何者なんだ! 渓と何の関係がある!」

 

「あの男もまた早乙女の血を引く者……そして……早乙女博士、早乙女ミチルの遺伝子を持つクローン人間だ」

 

早乙女博士とミチルの遺伝子を持つクローンと聞いて、弁慶がその目を大きく見開いた。

 

「馬鹿な……あの男が早乙女博士のクローンだというのか!?」

 

「正確には少し違う、ゲッター線を照射し、ゲッター線への適合率を飛躍的に高めた新人類なのだよ。インベーダーの復活を予知し、人類の最後の希望として真ドラゴンを建造し、真ドラゴンの起動キーとして、己とミチルの遺伝子を持つクローンを作るようにとワシに託したのだ」

 

「……しかし、カプセルは4つあったぞッ! そのうち1つが號だとして残りの3つは!?」

 

「俺と竜馬、そして……武蔵のクローンの筈だった」

 

「む、武蔵さんのクローンまで! 隼人、敷島博士! お前達は何をするつもりだったんだ!」

 

余りにもおぞましい計画、そしてそれを実行していた隼人と敷島博士に詰め寄る弁慶。だが隼人は口を開かず、だんまりを決め込み、敷島博士は楽しそうに喉を鳴らした。

 

「すべては真ドラゴンの為。そして今、渓と號の遺伝子コードを読み込み、真ドラゴンは……」

 

長い間待ち続けた真ドラゴンの完成が近いと言わんばかりに興奮した面持ちだった敷島博士が黙り込んだ。

 

「お前らの計画の為に渓を犠牲にしろって言うのか!」

 

「違う、そうではない。真ドラゴンは最早人類の希望ではない、今ここで完全に進化する前に破壊するッ!」

 

「隼人!! 弁慶ッ! あれを見ろ! 馬鹿な……ワシの見間違いかッ!? ワシの目はそこまで耄碌したかッ!?」

 

敷島博士が突如声をあげ、モニターを指差す。そしてその方向を見た隼人と弁慶もまたその目を見開いた。

 

「馬鹿な……ゲットマシンだと!?」

 

「しかもあれは……初代ゲッターロボッ! 誰だ! 誰があれに乗っているッ! 山崎ッ!! 識別信号はどうなっている!」

 

突如真ドラゴンとの戦場に現れた初代ゲットマシン。しかも、新品同様のそれに隼人達に混乱が広がる。

 

「し、識別G-001。所属早乙女研究所……しょ、初代ゲッターロボですッ!」

 

G-001。それが意味するのは1つしかない、早乙女研究所で一番最初に建造され、恐竜帝国との戦いで武蔵と共に消え去った本当の初代ゲッターロボ。

 

「馬鹿な! あれは武蔵と共に消え去ったもう一度識別を……『チェンジッ!! ゲッタァアア……スリィィィーーーーッ!!!』」

 

もう1度識別をやり直せと叫ぼうとした隼人の言葉を遮って戦場に響く青年の声。その声を聞いて隼人と敷島博士が目を見開いて、身体を硬直させた。それは紛れも無く武蔵の声だった、もう聞けない、もう会えないと思っていた友人の声だったからだ。

 

『おおおおおーーーッ!! 大ッ! 雪ッ!! 山ッ!!! おろしいいいいいッ!!!!!』

 

そして着地したゲッター3が一際巨大なメタルビーストを抱え上げ放った技は紛れも無く大雪山おろし。巴武蔵しか扱う事の出来なかった大雪山おろしだった。それはあのゲッター3を操る男が武蔵であると言う紛れもない証拠だった……。

 

 

 

第6話 降臨真ドラゴン その3へ続く

 

 




ついに武蔵がIF世界の世界最後の日に乱入! 次回は武蔵視点から入って行こうと思います。このIFの世界で武蔵がどんな動きをするのかを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 降臨真ドラゴン その3

第6話 降臨真ドラゴン その3

 

戦闘音を聞いて山中を出撃した武蔵達だが、浅間山に近づけば近づくほどにその顔色は険しい物になっていた。

 

「……ここってやっぱりオイラの世界なんですかね?」

 

「良く似た平行世界と言う可能性もある。俺がいた世界でいえば、リュウセイが女だったり、ライが女だったりする」

 

「なんであの2人で例えたんですか……」

 

脳裏に浮かんだ女装したリュウセイとライの姿にげんなりした様子の武蔵にイングラムは小さく笑う。

 

「少し力が抜けただろう?」

 

「……ですね。すいません」

 

「気にするな、力を入れるなと言うのが難しいのは俺も承知の上だ」

 

もしかしたら自分が最初にいた世界なのかもしれないと思えば、この荒廃した大地でかつての友人が生きているのか……そう思えば体に力が入るのは当然だ。だからこそ、イングラムはわざと軽口を叩いていた。

 

「イングラムさん、なんか変わりました?」

 

「戻ったと言っても良いな、世界を渡り歩いているとな……少し病んで来る」

 

「……ですか、それよりもあの化け物ってどこかで見た事がありますか?」

 

その一言にどれだけの想いが込められているのか判ったので、武蔵は深く問いただす事は無く、変わりにさっきまで戦っていた化け物の事を尋ねた。

 

「いや、俺は初見だ。強いて似ているとすれば……「宇宙怪獣」か」

 

「……なんすか。それ」

 

「巣は銀河系の中心に存在し、恒星に卵を産みつけ繁殖しながら人類の文明目指して破壊を伴う進軍を行う生物だ」

 

「おもっくそ化け物じゃねえか……」

 

「そう言う生物が世界にはいる。平行世界とはそう言うものだ、中には巨人やバッタ男もいる」

 

「平行世界こええ……」

 

淡々とした口調だが、それがかえって武蔵に真実だと伝えていて、武蔵は心の底から平行世界が怖いと思ったのだった。

 

「無駄話はここまでだ。見えたぞ」

 

「……なんじゃ、ありゃあ……」

 

崩壊した早乙女研究所の近くに地面から生えるように現れている巨大な機械を見て武蔵は驚きに目を見開いた。

 

「腕があるな……どうやら、あれ自身も巨大な特機と見て間違いないだろう」

 

「めっちゃ悪趣味ですけど……ん!? イングラムさん! あれ! あれ見てください」

 

口では上手く説明出来ない醜悪な姿に顔を背けた武蔵だが、その視線の先にありえない物を見て声を荒げた。

 

「……ゲシュペンスト……馬鹿な、何故PTが……」

 

歪な姿のロボットとは明らかに違うシルエットと力強さ、それは紛れも無くゲシュペンストの姿だった。

 

「まさかオイラ達以外の誰かがいるってことですか?」

 

「ありえない話ではない。が、今は考えている時間はない」

 

白い雪だるまのような不気味な異形が爪を振るおうとしているのを見て、武蔵は反射的にミサイルの発射ボタンを押し込む。

 

「ギギィッ!?」

 

不意打ち気味の一撃は致命傷には程遠く、そして周りにいたロボットと化け物達の視線を集める。

 

「イングラムさん、全力で行きますけど、大丈夫ですよね?」

 

「問題ない、アイドネウス島で血を吐いたのは怪我をしていたからだ。全力で行け、気を抜けばやられるのはこっちだぞ」

 

今戦おうとしている化け物は紛れも無くエアロゲイターよりもはるかに強く厄介だ。出し惜しみをしている余裕なんてあるわけがない、最初から全開だと武蔵は強く操縦桿を握り締める。

 

「チェンジッ!! ゲッタァアア……スリィィィーーーーッ!!!」

 

空中でゲッター3へと合体し、ゲシュペンストとは違う漆黒の機体に爪を振り下ろそうとしていた異形の機体にジャガー号をぶつける。

 

「しゃあッ! 後大丈夫ですか!?」

 

「……全力で行けと言ったが、同乗者のことを考えろ」

 

額を押さえているイングラムにすいませんといいつつ、ペダルを踏み込みレバーを力強く引く武蔵。

 

「おおおおおーーーッ!! 大ッ! 雪ッ!! 山ッ!!! おろしいいいいいッ!!!!!」

 

伸縮自在の両腕を伸ばし、異形の機体を遠くに見える建造物に見える機体に投げつけると同時に、ゲッターミサイルによる追撃を叩き込んだ武蔵の耳に信じられない声が響いた。

 

『武蔵! 聞こえるか! 俺だ! 隼人だッ!』

 

「は、隼人!? で、でもずいぶんとおっさんの声に……」

 

確かにそれは隼人の声だった、だが自分の知る声よりも数段低い声に武蔵は混乱した。

 

『話は後だ! 真ドラゴンを! あの化け物を破壊しろッ!』

 

「わ、判ったッ! ゲッター『止めろぉッ! 止めてくれッ! あれには、真ドラゴンには渓が……元気が取り込まれるんだッ!!』なぁッ!?」

 

隼人の声に従いゲッターミサイルを撃ち込もうとした武蔵の耳に今度は別の男性の声が響いた。そしてその男性から告げられた元気の名前に武蔵はゲッターミサイルを放てずにいた。

 

『貴様! 弁慶! 良い加減にしろッ!!』

 

『うるせえッ! 頼む! 止めてくれッ! 武蔵さんッ! あんたを慕った元気をッ! 渓を殺さないでくれえッ!!』

 

武蔵さん、武蔵さんと自分の後ろを付いてきた少年のような少女の姿を思い出してしまったら、それを聞いてしまったら武蔵は戦えない。

 

「わーははははッ!! 相変わらず甘い男よなあッ!! 武蔵ぃッ!! 非情になれと言ったワシの教えを忘れたかぁッ!!」

 

そして動けない武蔵に向かって空中から伸びた真紅の触手がゲッター3を殴り飛ばした。

 

「うっくく……そんな、早乙女博士ッ! どうして!?」

 

「ははっははははッ! ワシは蘇ったのよッ! 愚かな人類を滅ぼす為になぁっ!!!」

 

自分達が散々戦っていた同種の化け物の頭部に早乙女博士の姿を見た武蔵は驚愕にその目を見開いたのだった……。

 

 

 

 

 

早乙女博士の登場によって明らかに精彩を欠いたゲッター3を見て隼人は舌打ちをした。それは全て弁慶の言葉と早乙女博士を見てしまったからだ……、武蔵の性格を良く知る隼人は通信席の山崎に駆け寄る。

 

「ちいっ! 山崎、どけッ!」

 

苛立ちを隠しきれず山崎を通信席から突き飛ばし、マイクを手に取る隼人。

 

「武蔵! それは早乙女博士じゃない! インベーダーがその姿を写し取っているに過ぎない! 化け物なんだッ! 戦えッ!!」

 

『だ、だけど、あれは……早乙女博士だ! 早乙女博士なんだぞ! 隼人ッ!!』

 

『はーはははッ! そうだ武蔵ッ! ワシだ! 早乙女だッ! お前までもワシを殺すのか?』

 

『うっ……くっ……』

 

「くそッ!!! 誰かゲッター3の援護に向かえ!」

 

武蔵は優しい人間だ、誰よりも戦う事に嫌悪感を抱くそんな男だ。だが覚悟を決めれば、誰よりも苛烈に、そして激しく大事な物を守る為に戦う。だがその大事な者が敵に回ってすぐ戦えるか? 答えはNOだ。武蔵は戦えない、誰よりも武蔵を知る隼人だからそれを悟ってしまった。

 

「弁慶達が真ベアーに乗って出撃しましたッ!!」

 

「ちっ! ほっておけ! 今は武蔵だ! ランバート! 急げぇッ!!」

 

弁慶は確かに仲間ではある、だが私情をここまで挟まれては庇う事が出来ない。となれば隼人は武蔵を優先する。

 

「おおおーーーーッ!!」

 

「っ愚か者共がッ!」

 

ランバートのステルバーがマシンガンを乱射し、今正にゲッター3を捕えようとしていたメタルビーストを引き離す。

 

『しっかりしろ、武蔵! 俺が判るか?』

 

『そ、その声……どこかで……』

 

『お前と一緒に恐竜帝国に特攻しようとした小僧だッ! 覚えてるか!』

 

『え、ええ……ら、ランバート?』

 

『そうだ! 俺だッ! お前に救われたランバートだッ!』

 

武蔵とランバートに接点があったことに驚いた隼人だが、今回は間違いなく好都合だった。

 

『今は戦え! 見ろッ! この惨状をッ! お前の知る早乙女はこんな非道をしたかッ!』

 

『ッ!』

 

『判るだろう! 戦えッ! お前は戦うんだッ!! その為の力だろうッ! その為のゲッターロボ……があああッ!?』

 

ランバートの叱咤激励を聞いて早乙女博士はステルバーを弾き飛ばしながら高笑いを浮かべる。

 

『無駄だぁ! 武蔵は戦え……『っぐう……』ほう?』

 

戦えないと言おうとした早乙女博士だが、伸縮自在のゲッターアームが能面のようなメタルビーストの頭部を掴むのを見て、興味深そうに武蔵に視線を向けた。

 

『お、おおおおおおおおーーーーーーッ!!!』

 

『ぬ、ぬおおおッ!?』

 

そして頭部を掴んだと同時に雄叫びを上げてメタルビーストを投げ飛ばすゲッター3。その姿を見て隼人は安堵の息を吐いた、1度消えた武蔵の炎が再び灯った。これならば大丈夫だと確信したのだ。

 

「ロボット軍に告げる! ゲッター3と共に真ドラゴンを……ッ!!!」

 

隼人が真ドラゴンへと攻撃命令を下そうとした時。凄まじい地響きが周囲を襲い、早乙女研究所の地下から巨大な建造物が姿を現した。

 

「あれはクジラかッ!」

 

「ほほう、日本軍に渡す前の最後のクジラか……ははッ! いやいや、弁慶の奴随分と悪運が強いじゃないか」

 

インベーダーに叩き落された真ベアー、まさかその先でクジラを見つけ出すとは隼人も夢にも思っていなかった。

 

「ぬお! 真ドラゴンがッ!!」

 

そしてクジラはそのまま真ドラゴンへと体当たりを敢行し、クジラに激突された真ドラゴンは眩いまでのゲッター線の光に包まれた。

 

「真ドラゴンの内部構造が戻っていきます。周辺のゲッター線レベルが急上昇しています」

 

オペレーターの言葉を聞いて隼人は深いため気を吐いた。好機を逃したと判ったからだ……敷島博士は敷島博士でがっかりとした素振りを隠せないでいた。

 

「真イーグル、真ジャガー確認しました」

 

「……好機は逃したが、やる事は変わらない。真ドラゴンへの攻撃を再開しろッ!」

 

クジラの登場で動きの止まったロボット軍に再度真ドラゴンへの攻撃命令を下し、司令席に腰掛ける。

 

「敷島博士、あの武蔵はなんだと思いますか」

 

「クローンではない、判らぬな……会って話をしてみるしかあるまい」

 

大雪山おろしを使えるという事が武蔵であると言う証拠だったが、何故死んだ武蔵が突然現れたのか、その事を知るためにも1度話をしなければと隼人は考えていた。

 

「死ぬなよ、武蔵」

 

メタルビーストに戦いを挑むゲッター3を見て、隼人は小さくそう呟くのだった……。

 

 

 

 

 

 

ランバートの名前と声はよく覚えていた。恐竜帝国に特攻する時、自分も乗せてくれと最後まで言っていた少年だった。その声がおっさんになっていたが、それでもその声を武蔵は良く覚えていた。

 

「チェンジッ! ゲッタァアアーー2ッ!!!」

 

自分の知らない白銀のゲッターが空を舞い、ロボット達が化け物と戦う。自分が死んだ後の世界はこうも変わったのかと混乱し、早乙女博士が敵になっている事に1度は武蔵の心は折れかけた。だが自分を叱咤激励してくれた声によって、1度消えかけた武蔵の魂の炎は再び燃え上がっていた。

 

「大丈夫そうだな」

 

「うっす、大丈夫ですッ!」

 

自分がやらなければならない事、なさねばならない事が判れば迷う事はない。確かに早乙女博士が敵に回っている事はショックだし、何が起きてこうなったのかなんて武蔵には判らない。それでも化け物が人間を殺そうとしている……それさえ判れば、戦わなければ誰かが死んでしまうと判れば武蔵は戦える。心が軋んでも、悲しくても武蔵は戦える。

 

「逃すかぁッ!!」

 

真ゲッター2のドリルを片手で受け止め、投げ飛ばした早乙女博士が追撃にとミサイルを放つ。

 

「させるかよッ!! ゲッターミサイルッ!!!」

 

だが真ゲッター2に着弾する前にゲッター3の放ったミサイルがインベーダーに寄生されたミサイルを撃ち落す。そしてそれと同時にオープンゲットし、インベーダーの目から放たれる光線をかわしながらインベーダーへと肉薄する。

 

「チェンジッ! ゲッタァァーーワンッ!!」

 

「くっ! 流石はゲッターチームと言うべきかッ!?」

 

マニュアル操作による細かい操作による正確無比な合体技術。これには流石の早乙女博士も驚きの声を上げる。

 

「おおおおおおーーーッ!!」

 

早乙女博士の注意がゲッター1に向けられた瞬間。地面から姿を現した真ゲッター2が下からメタルビーストを貫き両断する。だが絶命させるには至らず、触手状になったメタルビーストが真ゲッター2を絡め取る。

 

「オープンゲットッ!」

 

即座に分離するが、ゲッターの設計者である早乙女博士がそれを見抜けないはずがない。

 

「甘いわぁッ!

 

「甘いのはそっちだぜ! 早乙女博士ぇッ!!」

 

分離した触手が真ゲットマシンを捉えようとした瞬間。ゲッター1が投げつけた無数のゲッタートマホークが触手を断ち切る。

 

「ちいっ!! やはりお前を一番最初に始末……ぬおっ!?」

 

武蔵の本領は何よりもサポートする事にある。竜馬と隼人の2人の間に立ち、2人をサポートし続けた武蔵の能力が最も生きるのは誰かの補助をする時だ。武蔵のフォローが入れば未熟なゲッターチームでも脅威になると判断し早乙女博士はゲッター1に狙いを定めたが、その瞬間凄まじい弾幕が早乙女博士を襲った。

 

「くっ! 愚か者共が!」

 

肉片になった早乙女博士だが、一瞬で身体を再生させる。そしてメタルビーストをロボット軍へと向けるが……。

 

「究極ッ! ゲシュペンストキィィィックッ!!!」

 

「うがああッ!? 己ぇッ!!!」

 

上空から飛来したゲシュペンストの飛び蹴りがメタルビーストの頭部ごと早乙女博士を粉々に蹴り砕いた。勿論両者とも即座に再生したが、完全に動けるまでの数秒でロボット軍の反撃の準備が整った。

 

「撃て撃てぇ! カーウァイに続けえッ!!」

 

「くたばりやがれええッ!!」

 

ランバートとシュワルツのステルバーがマシンガンを乱射しながらメタルビーストへと突撃する。そしてその2人の後を追ってロボット軍も銃の乱射を始める。

 

「己ぇッ! 邪魔をするなあッ!!」

 

メタルビーストの口から伸びた触手がロボット軍を一閃する。その直後ロボット軍の殆どの機体はコックピットである胴体部から両断され爆発四散する。

 

「ぐおおおッ!!」

 

「くそったれがあッ!!」

 

辛うじて直撃を回避したが、それでも脚部を失ったランバートとシュワルツのステルバーの胴体部が宙を舞う。そしてその下ではインベーダーが牙を剥いて落ちてくるのを待ち構えていたが、インベーダーの牙は空を切った。

 

「よっしゃああっ! 取ったぞーッ!!」

 

「「うおおああおああーーーッ!?!?」」

 

伸縮自在のゲッターアームで絡め取られ、思いっきりゲッター3に引き寄せられたステルバーのコックピットでランバートとシュワルツの悲鳴が響いていた。

 

「プラズマドリルハリケーンッ!!!」

 

「い、いかんッ!!」

 

メタルビーストの胴体に真ゲッター2の鋭利なドリルが突き刺さり、そこから放たれたプラズマドリルハリケーンがメタルビーストを木っ端微塵に吹き飛ばした。

 

「ふいい……終わったぁ……」

 

「……その……よう……だな」

 

息も絶え絶えのイングラム、確かにある程度ならば大丈夫だがここまで全開で振り回されれば、流石のイングラムもグロッキーになってした。

 

『武蔵、帰還してくれ。話を聞きたい』

 

「OK、隼人。オイラも話を聞きたいところだぜ」

 

何故こんなことになったのか、そして今が自分が死んでから何年経った後の未来なのか、それを知る為に武蔵とイングラムはタワーへと着艦したのだが……。

 

「イングラム・プリスケンッ! 何故貴様がここにいるッ!!」

 

「……カーウァイ……ラウ。そうか、お前がゲシュペンストのパイロットだったのか」

 

「ちょ、ちょ! ちょっと待って、落ち着いてくれよ! な、な!?」

 

ジャガー号から降りたイングラムを鬼の形相で見つめハンドガンを構えるカーウァイ。そしてその間に立って落ち着いてくれと叫ぶ武蔵だったが……そこに更に少女の悲鳴が重なる。

 

「親父ィッ! なんでも良いから服ちょうだい! なんであたし裸なの!?」

 

「ちょ、ちょっと待っててくださいね。お願いですからね、殺し合いとかしないでくださいよ! お願いですから」

 

成長していて一瞬誰か判らなかったが、紛れも無くその声は元気の声だった。武蔵は慌てて着ていたマントの紐を解いて、小脇に抱えて真ジャガー号に登る。

 

「だ、誰! 親父かッ!?」

 

「いや、違う。えっと……オイラは「武蔵さん?」……おう、ちょい、ちょいっ! 出てこないッ! 女の子なんだから出てこないッ!」

 

別れた時はまだ少年と言う感じが強かったが、キャノピー越しに見えた元気の姿は美しい美少女に育っていた。武蔵は出てこようとした元気を手で制し、自分のマントを投げ入れる。

 

「と、とりあえず。それで身体を隠しな、女の子は身体を冷やしちゃいけないからな。じゃ、また後でな!」

 

イングラムとカーウァイのほうから尋常じゃない気配が広がってきたので武蔵は慌てて2人の仲裁に戻る。

 

「……武蔵さん」

 

そんな武蔵の背中を武蔵のマントで身体を隠した渓がジッと見つめているのだった。その背中はぼんやりと思い出した、竜馬と隼人の喧嘩を止めに行く背中と完全に一致していて、渓は自分でも判らないが幸せな気持ちになり、知らずの内に微笑んでいたのだった。

 

第7話 過ぎ去った月日へ続く

 

 




次回は隼人達との話し合いを書いて行こうと思います。過ぎ去った月日と言うタイトルは時間の流れが混乱してきたので、誤魔化すようなタイトルになってしまっていますが、お許しください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 過ぎ去った月日

第7話 過ぎ去った月日

 

敵意を隠しもしないカーウァイに案内され、武蔵とイングラムは母船と思われるタワーの一室に辿り着いていた。

 

「武蔵……ふっ、お前はあの時のままか」

 

「……おめえ隼人……そんなフランケンシュタインみたいになっちまって……一体何があったんだよ」

 

フランケンシュタインの言葉に敷島博士が噴出し、隼人も小さく笑った。

 

「それも全て話そう。そしてイングラムだったな、お前の話も聞かせてもらおう。何故カーウァイがこうも敵意を見せているのかの理由も……「あーっ!! 思い出したぁッ!! カーウァイ、カーウァイ・ラウさんかッ!! エルザムさん達から聞いてた、教導隊の隊長ッ!!!」

 

カーウァイの名を繰り返し呟いていた武蔵が思い出したと叫んで、手を叩く、その大声に近くに居たイングラムは耳を塞いだが、隼人と敷島博士からすれば懐かしい武蔵の癖だったので、その表情をより柔らかくさせる事に繋がった。

 

「……君は私を……エルザム達を知ってるのか?」

 

「はい。オイラはエルザムさんに助けられましたから……でもあんたは……死んだ筈だ。エアロゲイターに改造されて……」

 

「……ああ、そうだな。私は死んだ筈だった、だがこうして生きている。何故かは知らないがな……」

 

死人を自称する男が2人もいる……イングラムを含めれば3人だ。その一種異様な雰囲気を感じ取り、隼人は手を叩いた。

 

「それぞれ思う事もあるだろう、因縁もあるだろう。だがそれは互いに今は胸にしまってほしい、武蔵……お前は恐竜帝国に特攻して死んだ……そうだろう? 何故生きている。ああ、生きている事を責めたい訳じゃない。正直……俺も混乱しているんだが、お前は武蔵でいいんだよな? 姿だけがが同じとかではないよな?」

 

「……ああ、オイラは巴武蔵だよ。誰が何と言おうとな、それともドジで間抜けなオイラの事を忘れたか?」

 

「忘れる訳無いだろう。この馬鹿が……あの後俺達がどれだけ悔いたか……お前1人を死なせた自分達をどれだけ責めた事か……」

 

「すまねえ、でもあの時はああするしかなかった」

 

「判ってるさ、だが……気持ちの整理が付かなかったんだよ」

 

あの時は俺も若かったという隼人に武蔵は今何歳なんだ? と尋ねた。

 

「41だ。後2ヶ月で42になる」

 

「……オイラが死んでから何年経ったんだ?」

 

「20年ほどだな、お前が死んだ後百鬼帝国が現れて戦い続き、その後……」

 

「隼人?」

 

口ごもった隼人に何があったと武蔵が尋ねる。だが隼人は頸を左右に振り、今は話せないと言って椅子に座るように促した。触れては行けない何かがある……ここに竜馬が居ない事、ミチルが居ない事でそれを感じ取った武蔵はそれを問いただす事は無く、座れと促された椅子に腰を下ろした。

 

「……それでお前に何があった」

 

「恐竜帝国に特攻した後、オイラは新西暦のアイドネウス島って場所で目を覚ました。勿論、恐竜帝国に特攻した時のボロボロのゲッターロボの中でだ」

 

ちらりと隼人が視線を向けるとカーウァイは小さく頷いた。

 

「だがでは何故新西暦に居た筈のお前は戻って来た?」

 

隼人の言葉に武蔵は頭を掻きながら非常に言いにくそうに口をもごもごさせる。

 

「言いにくいか。では、少しだけ待とう。カーウァイ、お前は何故イングラムを敵視する?」

 

「……私を殺し、サイボーグに作り変えるように命令したのがこの男だからだ、何故彼がこいつと行動を共にしているのか理解出来ない」

 

カーウァイの話を聞いていた隼人と敷島博士は眉を顰める。弁慶達に話したのと同じ話をカーウァイは隼人達にしていた、自分が異星人に囚われた事、そして改造された話も聞いていた。だからこそ、お人よしの武蔵が騙されている可能性が脳裏を過ぎった。

 

「待った、カーウァイさん。確かにその時のイングラムさんはエアロゲイターだったかもしれない、だけど今は違う。違うんだよ」

 

「何が違うと言うんだ?」

 

「イングラムさんも敵に洗脳されていたんだよ。でも、その洗脳に抗って一緒に戦ってくれた。イングラムさんが居なかったら地球は滅んでいたんだ。信じられないかもしれないけど……本当の話なんだ」

 

自分を殺し、ガルイン・メハベルへと改造するように命令したのはイングラムだ。死に掛けだったが、自分を見下すその視線はカーウァイの脳裏に焼きついていた。確かにあの時と雰囲気が違うのは確か、だがそれをはいそうですかと信じる事は出来なかった。

 

「俺が憎かろう、ならば殺すがいいさ」

 

「イングラムさん!? あんた何をッ!?」

 

殺すが良いと言ったイングラムに驚きの声を上げる武蔵。だがイングラムはそれを手で制し、己の腰のホルスターに納めていたハンドガンのグリップをカーウァイに向ける。

 

「確かに操られていたとは言え、俺がやった事は許される事では無いだろう。お前が俺を殺したいと言うのならばそれも甘んじて受けよう。だが……俺には、まだ成し遂げなくてはならぬ事がある。そして……今は戦わなければならない時だ。全てが終わり、そして俺がまだ憎いと言うのならば撃つがいい、カーウァイ・ラウ。俺は逃げも隠れもしない、だが……少しだけ時間をくれ」

 

「……良いだろう。お前が怪しい素振りを見せれば撃つ」

 

「ああ、そうするが良い。お前は俺を監視しろ、そして不審な動きをすれば撃て」

 

イングラムが差し出したハンドガンを受け取るカーウァイはそのままそれを自身のホルスターに納める。殺気に満ちたやり取りをおろおろとした様子で見つめている武蔵にカーウァイは微笑みかける。

 

「今は殺さない、私がこいつを殺すのはこいつがまだエアロゲイターだと確信したその時だ」

 

カーウァイは人を見る目はあるつもりだ、武蔵の人格も、そしてイングラムも違うと判っていた。だがそれでもどうしてもそれをすぐ受け入れる事は出来ない、監視するという条件の下カーウァイは今この場は銃をおさめ武蔵はほっと溜め息を吐いていた。

 

「さて、では武蔵。先に俺達の方に何があったのかを話そう。お前もその間に考えを纏めておけよ」

 

隼人の言葉に武蔵は小さく肩を竦める。同年代の時でも怖いと思う時が会ったが、今はその迫力が更に増していて武蔵は苦笑するしか無いのだった。

 

 

 

 

山崎が用意したコーヒーを啜りながら隼人達は武蔵の死後の話をしていた。武蔵の死んだ後に現れた百鬼帝国、そしてその1年後に起きた悲劇も隼人は顔を歪めながら告げた。

 

「……ミチルさんが……死んだ……?」

 

「……ああ、ゲッターロボGの合体訓練中にな。俺も竜馬も重傷を負う事になった……」

 

信じられないと言う顔をする武蔵。それは竜馬と隼人の操縦テクニックを知るからこそだ。

 

「何が、何が原因なんだ! お前やリョウが操縦ミスをしたとは思えない! 何か他の原因があったんじゃないのかッ!?」

 

隼人と竜馬の2人を心から信用している武蔵は合体失敗と聞いてありえないと声を荒げた。幾度も戦った、それこそ暗闇の中でも合体に成功した。そんな竜馬と隼人が訓練中に合体を失敗させるなんて武蔵には信じられなかった。

 

「それがな、判らないんじゃ……早乙女研究所から誘導している時に不具合は無く、機体のメンテも万全だった。だが……事実ゲッターロボGの合体に失敗し、竜馬と隼人は全治半年、そして早乙女ミチルは即死だった」

 

敷島博士の淡々とした説明に武蔵は浮かしていた腰を椅子の上に力なく戻す。

 

「……リョウは?」

 

「……行方不明だ。13年前……今思えば、ミチルさんが死んで……お前が死んだ後から俺とリョウは上手く行かなくなっていた……百鬼帝国と言う脅威のある時は良かった。だが戦いが無くなり、世界が平和になった時……俺とリョウは喧嘩が絶えなくなっていた」

 

武蔵と言うバランサーを失った竜馬と隼人の関係は一気に険悪な物になった。弁慶は必死に2人の間を取り持とうとしたが、それはあくまで後輩と言う観点だった。仲間として肩を並べ止めに入る事が出来ず、弁慶自身も出来損ないのゲッターパイロット、数合わせの男と言われ精神的に余裕がなかった事もありゲッターチームの関係性は同じ場所に住んでいる同僚程度に陥っていた。

 

「……そして俺はとんでもない大罪を犯した。インベーダーに喰われ始めていた早乙女博士の口車に乗ってしまった」

 

「インベーダー?」

 

「お前も見ただろう、あの化け物だ。量産型ゲッターロボ、ゲッターロボGの突然の崩壊がインベーダーの台頭の始まりだった。ゲッター線に寄生するバクテリアが高密度に凝縮したゲッター線で進化し、ありとあらゆるものを喰らう化け物が生まれた。あの時はまだ数が少なかったからこそ、俺もリョウも単独操縦のゲッターロボでの討伐に出ていた」

 

「……どうして単独操縦で……」

 

ゲッターロボは単独操縦ではその力を失う、今まで単独操縦で悪戦苦闘していた武蔵は何故竜馬と隼人が単独操縦を選らんのだのかが理解出来なかった。

 

「顔も見合せたくないほどに俺達の関係は壊れきっていた。正直あの時は竜馬と出撃するくらいならインベーダーに喰われた方がましだと思っていた。多分竜馬も同じだろうな……」

 

自分が居たときは仲良くしていた。それがここまでゆがみ、壊れきってしまったと聞いて武蔵の顔は驚愕に染まった。

 

「……人間関係と言うのは難しい物だ。仲が良ければ良いほどに、1度狂った歯車はもう戻せない」

 

イングラムの言葉に隼人はコーヒーカップを机の上に戻し同意した。

 

「その通りだ。俺と竜馬は顔を見合せば喧嘩し、そしてミチルさんの死後は互いの操縦ミスでミチルさんを失ったと思い込み、互いに罵倒を繰り返し、憎み合っていた。そんな時、早乙女博士がミチルさんを取り戻せると……俺にそう告げた。クローンを作ると、インベーダーを駆逐する為に真ドラゴンを作る。その後にミチルさんを生き返らせると……博士は俺に言った」

 

死人を生き返らせる。そんな事はありえない、だがそれを信じてしまうほどに隼人は追詰められていた。

 

「コーウェンとスティンガーは覚えているか?」

 

「コーウェンとスティンガーって……確か一時期早乙女研究所に入り浸っていた外人だろ? 早乙女博士とゲッターロボの基礎設計をしたって言う……」

 

武蔵の脳裏に過ぎったのは大柄で良く笑う褐色の男性と、そんな男性と対照的に痩せてやや神経質だったが、それでも明るい性格の小男の姿だった。

 

「そうだ。その2人もゲッター線研究の権威だったが、それが不幸を呼んだ。2人もインベーダーに食われ、インベーダーに身体を乗っ取られたんだ」

 

あまり顔見知りと言う訳ではなかったが、それでも挨拶をかわす程度の関係だった。それでもインベーダーに食われ、死んでいると聞けば武蔵の顔は険しい物になった。

 

「……それでどうなったんだ?」

 

「竜馬の遺伝子が必要だと言う早乙女博士とコーウェンとスティンガーに言われるがまま俺は竜馬を襲い血液を奪った。そして早乙女博士は政府から監視下に置かれていた事もあり、死を偽装する事を決め……竜馬に早乙女博士殺害を押し付け、俺は早乙女博士を殺し逃げた。そして竜馬はA級戦犯として投獄された。俺達の計画通りに」

 

武蔵が拳を叩きつける音が響いた。その衝撃でコーヒーカップが倒れ机の上を染め上げる。

 

「隼人……なんでそんな事をした」

 

「……必要な事だった」

 

「仲間を陥れる事がか?」

 

「……そうだ。だが……俺は間違えた、何もかも間違えた。今なら判る、早乙女博士も正気ではなかった。軽蔑するか?」

 

隼人の顔をじっと見つめる武蔵。隼人もその顔を見つめ返し、そして耐え切れなかったのか顔を逸らした。

 

「……おめえ、なんか隠してるな? オイラに」

 

「何故そう思う」

 

「……勘だ。まだ何か知っているんじゃ無いのか?」

 

武蔵の洞察力、そして直感は竜馬と同様野生的なものだ。本能的に武蔵は隼人が何かを隠していると察していた……。

 

「……今は言えない、俺も正直早乙女博士の計画の全てを理解している訳じゃなかったから」

 

「……後で教えてくれるんだよな?」

 

「……時が来れば……」

 

話すつもりの無いことまで口にしている事に隼人は気付いていた。だがそれはそれだけ武蔵と言う男を隼人が信用している証拠であり、そして仲が良かった時の姿のまま旧友に会えた事でその鉄の精神が揺らいだ事が原因だった。

 

「なら、今はオイラは何もいわねえ。リョウを見つけてから詳しく聞く」

 

「竜馬が生きていると思うのか?」

 

「殺しても死なないだろ? お前が生きてるならリョウも生きてる。つうか、1回くたばったオイラが生きてるんだぜ? ならリョウも生きてるさ」

 

にっと笑う武蔵に隼人は吊られて笑ってしまった。

 

「ほ、本当にお前は……考えなしの馬鹿だ」

 

「おうよ。ドジで間抜けで丈夫で長持ちの武蔵さんよ。変わると思うか? んん?」

 

「ははは、ああそうだ。そうだな……お前は変わらない、今も昔も変わらない俺の友達だ」

 

ここ10数年隼人はただの1回も笑わなかった。だが今の隼人の顔には子供のような、心の底から楽しそうな笑みが浮かんでいたのだった……。それは狂い続けた歯車が元に戻ろうとしているかのような、そんな晴れやかな笑い声だった。

 

 

 

 

敷島博士は驚いていた隼人が笑っている。長年崩せなかったポーカーフェイスが崩れていた、その姿を見てやはりゲッターチームに武蔵は必要だったのだと改めて感じていた。

 

「それでお前は何で戻ってこれたんだ?」

 

「……」

 

黙り込み目を逸らす武蔵に隼人が頭を掴んで自分のほうに無理やり向けさせる。笑いあったからか、昔の隼人の空気が戻っていた。

 

「武蔵?」

 

「……また特攻しました。ゲッターで敵に突っ込んでぺしゃんこに……」

 

「俺も道づれだった」

 

「何故お前は特攻って選択を選ぶ……」

 

「良いぞぉ! 武蔵判ってるな! 特攻こそ男の死に様だ!! ああ、そんな名場面を酒を飲んで見たかったッ!!!」

 

覚悟を決めると自爆も辞さない武蔵に隼人は頭痛を覚え、特攻したと聞いて敷島博士は喜んだ。

 

((旧西暦とんでもない))

 

そしてイングラムとカーウァイは旧西暦の人間の業の深さに絶句していた。

 

「特攻した事については後で説教だ」

 

「え? なんで? 自分は棚に上げるのか!?」

 

「世の中には便利な言葉がある。それはそれ、これはこれだ」

 

短い時間で隼人は武蔵の良く知る隼人に戻っていたが、そのことに武蔵は恐怖した。絶対恐竜帝国に特攻した事まで怒られると本能的に感じていた。

 

「あ、そうだ! オイラ元気ちゃんに会いたい」

 

「後で会わせてやるというか、嫌でも会うぞ。お前、なんて呼ばれてるか知ってるか?」

 

「ドジで間抜けの武蔵さん」

 

「……違う、恐竜帝国を倒した悲運の英雄だ」

 

「マジ?」

 

「嘘をいう理由があるか? 13年前の早乙女の乱でゲッターロボは悪魔のマシンと言われたが、そんな中でも武蔵。お前は別だ、英雄「巴武蔵」と初代ゲッターロボは英雄と英雄機とされている」

 

「オイラが? 嘘だろ?」

 

「本当だと言っている。食堂に行ってみろ、もみくちゃになるぞ」

 

「……おいらデブだよ?」

 

「知ってる」

 

「おい、そこは歯に衣着せろよ」

 

「着せて欲しいのか?」

 

「それはそれで腹立つわ」

 

ぽんぽんと会話を続ける隼人と武蔵にイングラム達は間に入れない。親友に会えたと喜んでいる隼人と武蔵の邪魔をしてはいけないと思うのと同時に、不思議な感覚が武蔵と隼人の間にはあったからだ。

 

「だろう? まぁ、とにかくお前は英雄扱い。下手にうろちょろすると大変だぞ。後で案内してやる、それまで待て、ついでに弁慶にも紹介してやる」

 

「弁慶……ああ、オイラの後のゲッターパイロットだな! どんな奴なんだろ、楽しみだなあ」

 

自分の後継者とも言える相手に会えると喜ぶ武蔵。そんな武蔵を見ながら隼人は複雑な表情をしたが、それを隠した。

 

「さてと、とりあえずの話し合いは終わった。これからは今後の話を纏めたい、特に真ゲッターとゲッターロボの運用についてだな」

 

「難しい話?」

 

「めちゃくちゃ難しい話だ。寝るなよ、武蔵」

 

「が、頑張ります……」

 

しょぼーんと小さくなる姿は作戦会議の時の嫌そうな武蔵の姿のままで隼人はまた楽しそうに笑う。

 

「さて、真ドラゴン討伐軍司令神隼人だ。これから武蔵達にはタワーに所属してもらう、つまり俺の部下と言う扱いだ。これからよろしく頼む。当面は武蔵の歓迎会と勉強会だな」

 

「あの、それ必要?」

 

必要だなと即答する隼人に武蔵はがっくりと肩を落とし、その姿を見てイングラムとカーウァイも笑ってしまっていた。武蔵と言う男はとにかく人を笑顔にする才能に長けた男なのだった……。

 

 

第8話 タワー へ続く

 

 




武蔵のメンタルケアは隼人の荒んだ心を回復させました、今度はそのまま弁慶や元気達のケアですね。世界最後の日もオリジナルルートで進んでいくので、どんな展開になるのか楽しみにしていてください。とりあえず、渓は武蔵ガチ勢で行こうと思いますので!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 タワー

第8話 タワー

 

医務室で過ごしている渓達だが、渓だけは軍服姿の上に武蔵のマントを身体に巻きつけ、非常に緩んだ表情をしていた。

 

(あれどうしたんですか?)

 

(いや、なんか昔の事を思い出したみたいでな……武蔵さんのマントらしいんだ)

 

見た事の無い表情でマントに顔を埋めている渓は何か触れてはいけない雰囲気があった。

 

(渓さんは武蔵さんと面識が?)

 

(……育ての親に近いって隼人は言ってた)

 

(……渓さんのファザコンの原型ですか?)

 

(多分……)

 

弁慶にもかなり懐いている渓だが、武蔵に対するそれは更に強烈だ。年頃の少女が男物のマントに顔を埋めているのは正直言って……ドン引きする。

 

「……渓」

 

だがそんな渓に怯えもせず、號が渓に声をかけた。

 

「ん? なに、號」

 

「来る」

 

「来る? インベーダーがっ!?」

 

「いや、違う。あの人が来る」

 

来ると聞いてインベーダーを連想した渓がマントから顔を離し、椅子から立ち上がったとき医務室の扉が開いた。

 

「ここに弁慶達がいる……お前ら何してる?」

 

「元気ちゃん、オイラのマントをまきつけてどうしたんだ? 寒いのか?」

 

「あああああーーーッ!!!」

 

隼人と武蔵に自分の奇行を見られたと理解した渓の悲痛な悲鳴が医務室に響き渡った。

 

「……お返しします」

 

「ああ、良いよ良いよ。隼人に新しいマントを貰ったからさ、それ気に入ったのなら持っててくれ」

 

「……はい」

 

男勝りの渓のあまりにか細い声に凱達は驚いた。そしてその後弁慶の後ろに隠れるように移動した渓は普段の姿から想像出来ない、まさしく乙女と言う様子だった。

 

「あえて嬉しい。武蔵」

 

「……おう」

 

「號。そう呼ばれている」

 

「おおー、おめえが號か! よろしくな! オイラは武蔵だ」

 

「???」

 

ばんばんと肩を叩かれ困惑している號とそんな號を見て笑っている武蔵はベッドサイドに足を向ける。

 

「ど、どうぞ」

 

「ああ、良い良い、座っててくれよ」

 

古田が慌てて自分の座っていた椅子を武蔵に譲るが、武蔵はそれを断った。だが一緒に来ていた隼人がその肩を掴んだ。

 

「あまり若いのを困らせるな」

 

「オイラの方が年下だろ?」

 

「生きていれば俺と同い年だ。年長を立たせて自分が座れるような人間はいないぞ?」

 

隼人に言われ、古田に譲られた椅子に武蔵は腰を下ろした。

 

「ど、どうぞ」

 

「ああ、すまないな」

 

全然すまないと思っていない様子で隼人は凱の用意したパイプ椅子に腰掛けた。

 

「どうも、車弁慶です。あの巴武蔵さんにお会いできて光栄です」

 

「巴武蔵だ、よろしく。しかし……年上に敬語っていうのは不思議な感じだなあ……」

 

恐竜帝国の後も武蔵が生きていれば武蔵も41だ。そんな相手に弁慶が敬語を使うのは当然の事だったが、武蔵は肩を竦めて苦笑していた。

 

「あの、随分と若いって言うか……そのお」

 

「おっさんじゃねえよなあ、オイラも良く判ってねえんだよ。いや、ほら。自爆したら未来でしたとか驚かない? んで未来でも自爆したら戻ってきましたとか」

 

「なんで2回も自爆するのッ!」

 

渓の怒鳴り声に武蔵は肩を竦めた。ふーふーっと肩を怒らせるその姿は猫そのものである。

 

「いやあ、そうする必要があったといいますか「駄目」いや、だからね「駄目ッ!」……はい、ごめんなさい」

 

武蔵の言い訳を駄目と一喝する渓に武蔵は肩を竦めて謝罪の言葉を口にした。

 

「はは、武蔵さんも渓には頭が上がらないか」

 

「いや、泣いてる子供と女の子に怒られると駄目だなあ」

 

判ると医務室にいる全員が判る同意した。特に知り合いの泣き声と涙を目に浮かべられたら自分が全面的に謝罪するしかなかった。

 

「凱って言います、メカニックです」

 

「古田です。こっちは団六」

 

「……」

 

言葉を口にしない団六と武蔵はしばし見つめあい、数秒後。握手を交わした。

 

「えっと?」

 

「気にするな、武蔵は昔からこういう所があった。ゴリラとも仲良く出来る男だ」

 

「隼人、ナチュラルにオイラ馬鹿してね?」

 

「賢くなったな、昔は自慢げにしていただろう?」

 

「やっぱりあんときも馬鹿にしてたのかッ!」

 

「今頃気付いたのか、この馬鹿が」

 

怒鳴る武蔵とそんな武蔵を煽る隼人。その騒がしい雰囲気に號が一番最初に噴出し、それに続くように全員が笑い出した。

 

「お、漸く笑ったな。やっぱり顰め面より笑顔が一番だよな」

 

自分達を笑わせる為にこんな茶番をと思ったが、隼人が肩を竦めているので結果的にそうなっただけだと理解したが、あえてそれを指摘する者はいなかった。

 

「武蔵の歓迎会でパーティをする。お前達も来るといい、武蔵来い。次は戦闘班に紹介する」

 

「え? まだあるの?」

 

ちらちらと渓達を見る武蔵はまだ名残惜しそうだったが、隼人に腕を引かれ医務室を連れて行かれた。

 

「もっとゆっくり話をしたかったのに」

 

「話をするのは後にしろ。お前達にはタワーを出てもらうから、その時にだ……全く勉強会をしている時間も無くなるじゃないか」

 

勉強会を回避出来たと武蔵は僅かに安堵していた。隼人による拷問もかくやと言う勉強会は武蔵と竜馬にとってはトラウマに近いからだ。

 

「なんでまた」

 

「……真ドラゴンを捜索するのに過度なゲッター線は不要だ。お前のあのゲッターロボ、あれはなんだ。がわは初代だが、中身は真ゲッターレベルだと敷島博士が言ってたぞ」

 

「……未来の地中にあった早乙女研究所からイーグルの無いゲッターを見つけて、それの炉心を移植したんだ。でも……ゲッターGにも真ゲッターにもあれは似てなかったなあ」

 

「……なるほど、その話も後で詳しく聞かせろ」

 

「あ、薮蛇だった?」

 

「ああ、その通りだ。よく考えて話をするんだな」

 

がっくりと肩を落とす武蔵。その姿を見て隼人は小さく笑った、本当に何も変わっていない。いや、武蔵からすれば隼人達から別れたのは数日前、武蔵からすれば隼人の変化に驚いている筈だ。

 

「懐かしい?」

 

「……まぁな、少しだけ、そう少しだけ昔を思い出した」

 

まだ早乙女研究所で馬鹿をやっていた時、全員が互いを親友だと思っていたその時を思い出していた。

 

「そうかい、そいつは良かった。あんま、背負いすぎんなよ」

 

「……ふっ、ああ。判ってるさ」

 

武蔵が馬鹿を業としている事は判っていた。そしてそれが自分を気遣っての事と言うこともまた隼人の心を冷酷な指揮官から、ゲッターチームの神隼人としての心に戻されている。それが判っていても、隼人は武蔵との会話を止めたいとは思えなかった。懐かしい過去を思い出させてくれる武蔵との会話は確かに隼人の心を癒しているのだった……。

 

 

 

伝説のゲッターパイロット「巴武蔵」の帰還と言う事でタワーは盛り上がっていた。ランバートと隼人が認めた以上若かろうが武蔵本人と認めざるを得ない、そもそも大雪山おろしを使えること自体が武蔵であると言う証明なのだ。

 

「だーしゃあああッ!!」

 

「アウチッ!!!」

 

「しゃああ! 7連勝!! へっへ、このステーキももーらい♪」

 

「武蔵。ベリーストロングね」

 

「……あーきゃんゆーのっとすぴーく……い、いんぐりゅっし」

 

あまりに拙い英語に笑いの輪が広がる。武蔵と腕相撲大会が起きているのだが、いつの間にか自分の分の食事を賭けた物に変わっていた。

 

「ふふふ、面白いですねえ」

 

「あんたもやるか? えっーっと?」

 

「エイワズ・グリムズですよ。しがない没落貴族です」

 

「ああ、エイワズさん、どうだい? オイラと勝負をしないかい?」

 

武蔵の言葉にエイワズは肩を竦めて苦笑した。丸眼鏡の細い体系をしたエイワズは腕を武蔵に向ける。

 

「この細い腕では私等折れてしまいますよ、ですから私は観客で十分です」

 

そう笑うエイワズを押しのけてシュワルツが拳を鳴らしながら前に出る。

 

「だらしねえ、今度は俺が相手だ」

 

「シュワルツ、武蔵は強いぜぇ。お前の飯も取られちまうぞ?」

 

「うっせ、それならそれで記念だ」

 

酒が回っているランバートにからかわれながら腕相撲の卓に着いたシュワルツと武蔵は手を握る。

 

「ファイッ!!」

 

「「ぬ、ぬあああああ……ッ」」

 

武蔵とシュワルツの気合の入った声が重なりお互い一歩も譲らないまま、2人の上腕二頭筋が異様な盛り上がりを見せる。

 

「「うおっ!?」」

 

しかし2人の腕相撲は決着がつくことは無かった。決着がつく前に机が限界を向かえて2人ともバランスを崩してその場に倒れこんだ。

 

「ドローッ!」

 

「ははっはッ!! いやあ強いなあ」

 

「くそ、勝つつもりだったんだがなあ」

 

互いの健闘を讃えて笑い合う武蔵とシュワルツ。元々武蔵の特攻の悲劇が伝わっていて、そして武蔵のお陰で救われたという認識があるアメリカ人は武蔵に対し非常に友好的だ。少ないやり取りで既にシュワルツと肩を組んで笑い合うレベルで武蔵はタワーに馴染んでいた。

 

「弁慶達も一緒に飯でいいだろ?」

 

「ああ、良いぜ。文句はねえよなあ!」

 

「「「おーッ!!」」」

 

武蔵と腕相撲が始まったのは弁慶達を仲間に入れるかと言うのが始まりだった。途中で食べ物を賭け始めていたが、それでも始まりは弁慶達をタワーに馴染ませるという武蔵の思惑があったのだ。

 

「おい! お前らもこっちに混ざれよッ!」

 

「ヘイ!」

 

離れた所で食事をしていた弁慶達も加わるがまず食事ではなく、空の机が置かれる。

 

「よっしゃ、勝負だ勝負だ。まずはこれからだろうよ」

 

「うっしゃあッ! 勝負だな。勝ったら、整備班に紹介してくれよ」

 

「ははぁッ! やってみなあ」

 

シュワルツと凱の腕相撲が始まり、回りに人の輪が出来る。それを見ながら隼人と敷島博士はワインを口にしていた。

 

「変わらんなあ」

 

「ええ。あれでこそ武蔵ですね」

 

とにかく明るく、人と人を繋げる。それが武蔵だ、今も昔も変わらないその姿に隼人と敷島博士は笑みを浮かべる。

 

「混ざらないのか?」

 

「後で構わない。それにお前こそいいのか?」

 

そこにイングラムとカーウァイの2人も加わり壁際にタワーの頭脳2人と新西暦の住人が集まっていた。

 

「新西暦にこの戦いが伝わっていないのは悲しいのう、結果が判ったと思ったんじゃが」

 

「いえ、敷島博士。未来は己で切り開く物ですよ」

 

新西暦にこの戦いの結果が伝わっていればと嘆く敷島博士。だがイングラムは首を左右に振って、歴史は変わっていると呟いた。

 

「俺とカーウァイがいる。これが本来ありえたのかどうかは判らない、だが俺達がいることで確実に世界は変わっている」

 

「平行世界と言う奴か」

 

「そうだ、俺は因果律の番人。本来は大きく乱れた世界を正す役割を持っていた……敵に負けた結果逆に操られていたがな」

 

「因果律ねえ……相手がどんな物なんじゃ?」

 

「負の無限力……死者や亡者、ありとあらゆる負の存在の結晶との戦いに敗れたんだ。そして……ゲッター線はいずれ無限力に至るだろう」

 

イングラムの言葉に敷島博士は面白いと笑みを浮かべた。ゲッター線が何処に行くのか、そしてどこまで強大になるのかそれを見極めようと言わんばかりに笑っていた。

 

「無限力か……私の理解を超えているな」

 

「人間が理解するには無理があるのさ、恐らく全てを理解するには永劫の時が流れてしまう。そしてその片鱗に触れた者をお前は知っているはずだぞ、カーウァイ」

 

「……ギリアムか?」

 

「気付いていたのか?」

 

「ああ、あいつは何とも言えない凄みが合った。それに初めて乗った筈のゲシュペンストを数時間で乗りこなした……今思えばあいつは最初から知っていたのかもしれないな」

 

無限力、平行世界、因果律の番人。常人であれば何を馬鹿なという話だが、優れた知性を持つ隼人達はそれが真実であると悟っていた。

 

「おーい、隼人ぉッ! 敷島博士ッ! イングラムさん達も壁際にいないでこっちにあばななんあ……「がっははは、飲めぇッ!!」オイラ未成年ッ!?」

 

頭からビールを掛けられて偉い事になっている武蔵。少し見ない間になにがあったんだと苦笑しながら隼人は壁際から離れる。

 

「お前達も混ざるなら来ると良い」

 

「武蔵ぃ、ビールよりもワインだ、ワインを飲めぇ」

 

隼人と敷島博士も騒がしい輪の中に混ざっていく中。イングラムとカーウァイの鋭い視線は1人の男に向けられていた。

 

「グリムズと言っていたな」

 

「ああ。あのテロリストの先祖か……あいつもきっと禄でもないぞ」

 

エルピス事件を起こしたテロリスト……アーチボルド・グリムズ。新西暦ではテロリストして追われているが、何度も死を巧妙に偽装して逃げ続けている男の先祖がいると知ってカーウァイは顔を歪めた。

 

「この世界が私達の世界の過去ならば、ここで殺してしまえばエルピス事件の悲劇は回避されるか?」

 

「いや、平行世界だ。結果は変わらないだろう、それが世界と言うものだ」

 

肩を竦めワインを口にするイングラムにそうかと小さくカーウァイは呟いた。

 

「いずれは新西暦に戻れるのか?」

 

「……可能性は0ではない、俺達がこの世界に来たのは膨大なゲッター線の放出が関係している」

 

「つまり真ドラゴンとやらを追っていれば……」

 

「扉は開くだろう、そのときは……武蔵は置いて行った方が良いかも知れんな」

 

もしも新西暦に帰ることが出来るなら、武蔵は置いて行った方が良いかも知れない。イングラムはそう思った、自分達の居場所が新西暦であるように、武蔵の居場所はこの旧西暦だと思ってしまったから……。

 

 

 

 

 

アラスカ付近を飛ぶクジラの司令室で弁慶は腕を組みながら、モニターを見ている武蔵に視線を向けた。

 

「武蔵さん、本当にいいんですか?」

 

「何があ?」

 

何をいいのか尋ねられたのか判らないと言う様子の武蔵に弁慶は申し訳なさそうな顔をする。

 

「日本軍が貴方を呼んでいた件ですよ」

 

「ああ、それね。別に興味なんてねえよ。どっちかと言うと元気ちゃんとかお前の方が心配だし、それにオイラ馬鹿だからさあ! 難しい話は隼人に任せて、こうやって動き回ってるほうが性に合ってるって」

 

かかかっと笑う武蔵に弁慶は小声でありがとうございますと呟いた。タワーでの歓迎会の後、日本軍に連絡を取った弁慶だが、日本政府の返答は武蔵だけを帰還させ、お前達はタワーと共に真ドラゴンを追えだった。それに武蔵は大激怒し、日本政府に怒鳴ってそのままクジラに乗り込んでいた。

 

「戦力は多いほうが良い、そうだろ?」

 

「……すいません、頼りにします」

 

「おう、それと時間があったら大雪山おろしのコツも教えてやるよ」

 

「……はい、よろしくお願いします」

 

クジラにはイングラム、そしてカーウァイの2人も乗り込んでおり、真ゲッター、ゲッターロボ、そしてゲシュペンスト・タイプSの3つを戦力にして遊撃隊として真ドラゴンの捜索を行っていた。

 

「武蔵さーん、武蔵さんも訓練に出てよ」

 

「OK-今行くよ」

 

「うん、早くね!」

 

渓に呼ばれてブリッジを出る武蔵を複雑そうな顔で見送る弁慶。

 

「大将。渓ちゃんが心配ですか?」

 

「……どっちかと言うと武蔵さんのほうが心配だ」

 

號が渓を守ると言って近くに常に控えているが、渓自身は武蔵にべったりである。

 

「そのうち渓が暴走するんじゃないかと……」

 

「ですねえ、渓ちゃん。武蔵さん大好きですもんね」

 

一緒にいた古田達でさえも心配になるレベルで渓は武蔵大好きっ子になってしまった。

 

「……でも大将も大好きですよね? 渓ちゃん」

 

「……ファザコンの毛はあったんだ」

 

ふうっと深く溜め息を吐いた弁慶だったが、タワーからの通信を確認してメインモニターに映した。

 

「おおー弁慶! カーウァイを呼べぇ! ひっひっーッ! 久しぶりに開発意欲が沸いておるんじゃぁ」

 

「敷島博士、後にしてください」

 

ゲシュペンストと言うカーウァイの乗る機体は汎用性・拡張性に特化しているらしく、それを見た敷島博士が暴走していたが、整備班に引きずられてその場を後にした。

 

「おめえも大変だな」

 

「気にするな、昔からこんな感じだ。それよりもだ、弁慶。野暮用を頼みたい」

 

「なんだ、いきなり遊撃隊を動かすのか?」

 

一応クジラも弁慶達も遊撃隊という扱いだ。タワーから出撃して半日でいきなり指令か? と弁慶は笑った。

 

「ああ、ポイントQー0にてゲッター線反応が出た。罠かもしれないが偵察に向かって欲しい」

 

「おうよ。任された、行って来るぜ」

 

「ああ、頼んだ。それと……不確定情報だが、13年前に出た化け物らしき影を見たという話も出ている。気をつけてくれ」

 

「了解。何か判れば連絡する。古田、進路をQー0に向けろ!」

 

クジラはポイントQ-0へと向かう。だがそこに待ち受けているのはインベーダーだけにあらず、13年前の悪夢もまたその牙を研ぎ澄ましクジラを待ち構えているのだった……。

 

 

第9話 13年前の悪夢 その1へ続く

 

 




次回は戦闘回で書いて行こうと思います。世界最後の日編はメタルビースト・ドラゴンで終わりの予定ですのでそこまで話を長くするつもりは無いので、フラスコ編と比べると戦闘回は少なくなる予定ですが、それでも少ない分は内容を濃くしたいなと思っております。それでは次話の更新も続けてお楽しみください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 13年前の悪夢 その1

第9話 13年前の悪夢 その1

 

クジラの格納庫に敷かれた古い布団、それが一時的な道場となりその上で武蔵と弁慶が対峙しているのを、渓達はコンテナ等の上に座りながら見つめていた。

 

「こうやって、こう! 待ってるんじゃなくて、自分から突っ込んでこうだッ!」

 

「うおっ!?」

 

弁慶の巨体が振り回されながら浮かび上がり布団の上にうつ伏せに叩き付けられる。

 

「受身取れたかあ?」

 

「いちち……いえ、無理でした」

 

座り込んで肋骨を摩る弁慶に武蔵は申し訳なさそうな顔をした。

 

「大雪山おろしは受身が難しいからなぁ」

 

「だからこそ、必殺技なんでしょう? 大丈夫です続けてください」

 

ポイントQ-0に向かう間弁慶は武蔵に大雪山おろしの指導を受けていた。竜馬や隼人に口伝で聞いていたが、やはり本人の指導となると全くの別物だった。

 

「親父楽しそうだなあ」

 

「そりゃあ、武蔵さんに教えて貰えるんだ。嬉しかっただろ?」

 

「まぁね。でも、武蔵さん全然本気って感じじゃなかった」

 

ぷうっと頬を膨らませる渓に凱は苦笑するしかない、さっきまでバンバン叩きつけられて、脇が甘いとか体重移動とか、舐めてんのかっ! と怒鳴られた側としては丁寧に指導を受けていた渓の方がよっぽど羨ましいだろう。ただ渓としては子供として見られているような気がして面白くないと言うのが本音だろう。

 

「こうですか?」

 

「自分に引き寄せて、重心をずらしてこうッ!!」

 

「おおおッ!?」

 

凄い音を立てて再び弁慶が叩き付けられる。体格で言えば武蔵が弁慶の半分ほどだが、それでも卓越した柔道の技術、そして大雪山おろしを得意とする武蔵にはその体格の差はあってないものに等しい。

 

「大体感じは掴めたか?」

 

「……うっす、ありがとうございました」

 

自分達が大将と慕う人物が自分よりも年下の相手に敬語を使うと言うのは凱にとっては微妙な物だが、それが伝説のゲッターパイロットとなればそれも仕方ないのかと受け入れる事は出来ていた。

 

「んじゃあ、オイラとイングラムさん達にインベーダーの事を今度は教えてくれ」

 

「了解です、おう! お前ら、資料室に向かうぞ」

 

渓と凱に声を掛け弁慶は格納庫を後にする。その後をついて歩きながら武蔵が思い出したように手を叩いた。

 

「そうだそうだ、後で悪いんだけどさ、敷島博士に刀と銃を頼んでおいてくれないか?」

 

「そう言えばそうだな、今の武蔵は丸腰だしな」

 

クロガネに愛用の刀と銃を置いてきてしまった武蔵は一応護身用の武器としてサバイバルナイフとべレッタを所持している。だが、やはり使い慣れた武器の方が良いと思うのは当然だろう。

 

「判りました、定時連絡の時に伝えておきます」

 

「いやあ、すまないなあ。やっぱ武器が無いと落ち着かないんだ」

 

この時代の脅威を知っているからこそ、武器が欲しいと言った武蔵に弁慶は苦笑する、資料室へと足を向ける。

 

「まずインベーダーですが、全身の目を潰すか、ゲッター線を飽和状態にするのが一番です」

 

「……となると、ゲシュペンストでは装備に不安が残るか……」

 

「え? ないんですか? あの電撃パンチ」

 

「タイプSは胸部ビームになっているな」

 

インベーダーに対する対策を聞いているカーウァイは唸る。タイプSは確かに優秀な機体だが、突破力に重点を置いている為手持ち火器は無く、固定武装も決して多くは無い。インベーダーに有効と思われるジェットマグナムは搭載しておらず、短時間だけプラズマを手に集束させる能力しかない。そうなると、タイプSはインベーダーに対する決めてに欠いていた。

 

「私が倒した時はそのどちらでもなかったが……」

 

「多分胸部のビームとやらで細胞を焼き尽くしただろう、そう言う対処法もある」

 

だがあの時はペース配分を考えないで全力攻撃だったから可能だったとカーウァイは呟く、短期決戦では可能だが長期戦ではタイプSでは分が悪い。

 

「となるとカーウァイさんは支援とかの方が良いですかね?」

 

「今の段階だとそうなるな、敷島博士の改造で何とかなるかもしれないのでそれを期待する」

 

「多分あの人ぶっ飛んだ改造をするんで慣れるまで大変ですよ?」

 

「……そうか、まぁ何とかなるだろう」

 

敷島博士も相当頭の螺子が飛んでいる。その人の改造を信用するのは危険すぎると武蔵は苦笑し、カーウァイは気まずそうに笑う。

 

「他に注意するところはないのか?」

 

「生物でも無機物でも人間でもなんにでも寄生する。倒すのならば細胞ごと焼き尽くすのが一番だ。倒したと思っていたら別の場所で復活する、もしくは助けた人間がインベーダーに食われてインベーダーになるって場合もある」

 

「となるとゲッター1が一番ベストか……ゲッタービームがあるしな」

 

「そうなりますね。もしくはゲッター2のドリルで抉り殺した後ゲッタービームで焼き尽くすっていうのも1つの方法です」

 

インベーダーに対する対策の話を聞いているとクジラの内部に警報と古田の声が響いた。

 

『ポイントQ-0に複数のインベーダーの反応、及び救難要請を感知! 武蔵さん達は出撃準備を始めてください!』

 

向かっていたポイントに現れたインベーダーの反応と言う報告を聞いて武蔵達は格納庫へと走る、だがそこに待ち構えていたのはインベーダーだけではない。

 

【グルアアアア】

 

【シャアア……】

 

空を飛ぶクジラを見つめる4つの瞳は唸り声を上げると同時に雪原を駆け出す。13年前に生まれた悪夢もまたその場に向かっている事を武蔵達は知る良しも無いのだった……。

 

 

 

 

雪原に凄まじい爆音と炎が何度も上がる。それは防寒服に身を包んだ複数の男達と3機のBT-23が必死にインベーダーとの戦いを繰り広げていると言う証だった。

 

「撤退だぁ! 全員下がれえッ!!!」

 

その場の指揮官である男がショットガンを放ちながら仲間に撤退しろと声を上げ、背中にキャノン砲を背負ったBTー23の砲撃が火を噴いた。

 

「シャアアアアーーッ!!」

 

白いシュモクザメのようなインベーダーに直撃し体表を焦がすがそれ以上の効果は見出せず、その影から小型のインベーダーが撤退する研究班達を追いかける。

 

「くそったれがあッ! こっちだ! こっちにきやがれッ!!!」

 

スノーモービルを駆る青年が後部座席に備え付けられたミサイル砲で攻撃を繰り出しインベーダーの引き付ける。

 

「早く撤退しろッ! スノーモービル班! 続けえッ!!!」

 

「「「はいっ!!!」」」

 

スノーモービルで必死に雪原を駆け回りインベーダーの注意を引きつけ、味方に撤退しろと繰り返し叫ぶ青年。それは仲間を助けようとする必死の行動だったが、インベーダーから伸びた無数の触手が迫り1人、また1人とインベーダーに貫かれていく。

 

「くそがあッ!「キシャアアアアッ!」しまっ!?」

 

氷塊を砕きながら現れたインベーダーに気を取られ、ハンドル操作を誤り雪原に投げ出された青年にインベーダーの魔の手が迫る瞬間。地響きを立て氷塊が砕け散った。

 

「まだ出てきやがる……何?」

 

氷塊から伸びた巨大な手の平がインベーダーの頭を鷲づかみにして動きを止めている光景に青年は目を見開いた。南極の辺境の地に応援なんて来る訳が無い、救難要請を出したがそれこそ無駄だと思っていたからだ。

 

『大雪山おろしいいいいいいッ!!!!』

 

そして雪原に響き渡った声と突風に青年や生き残った男達は必死に吹き飛ばされまいと抵抗しながら驚愕に目を見開いた。

 

「だ、大雪山おろしだって!?」

 

「そ、そんな……まさかッ!?」

 

「……げ、ゲッター3ッ! ま、間違いないッ! 巴武蔵だッ!!」

 

ゲッター3と大雪山おろし……それは恐竜帝国との戦いで散った筈の悲運のゲッターパイロットである巴武蔵の代名詞……大雪山おろしの反動による風だと思っていたのだが、徐々に吹雪き始め、視界が悪くなる中でもゲッター3の独特なシルエットと力強い姿ははっきりと見えていた。

 

「な、なんで死んだ人間が、それこそインベーダーじゃねえのかッ!?」

 

「だ、だが助けてくれてるのも事実だッ!」

 

『おおいッ! 早く逃げろッ!! ここはオイラが食い止めてやるからッ! 早くしなぁッ!!』

 

氷塊を砕きながら現れたゲッター3から響く大声に天の助けだと叫び男達は必死に撤退準備を行う。だがそこに追撃を掛けるように飛行型に変異したインベーダーの空襲が襲い掛かる。だが幸いだったのは吹雪になり始めた事により、触手攻撃ではなく噛み付きや引っかき攻撃を仕掛けてきたことにより、スノーモービル班による歩き部隊の回収が間に合った事にあった。それでも徐々に正確になるインベーダーの攻撃だが、吹雪による視界が悪くなった事は調査隊の救いになった。

 

「ゲッタァアアッサイトォッ!!!!」

 

ゲッター線の光りが尾を引いたと思った瞬間。男の雄叫びが響き渡り飛行型のインベーダーが両断され墜落していく。

 

「ゲッタァアアアーーービィィムッ!!!」

 

雪原に墜落する前に真ゲッター1のゲッタービームがインベーダーを焼き払う。そしてそれと入れ代わりで雪煙を上げながらゲシュペンスト・タイプSがその手にビームライフルを構えながら南極調査隊の背後を陣取る。

 

「ここは私が通さない、早く行け!」

 

吹雪で外部スピーカーの声が聞き取りにくいが、逃げろという言葉に味方だと判り生き残った男達は雪上車に乗り込み撤退していく、その姿を見てインベーダーが追いすがるが、ゲッター3、真ゲッター1、そしてゲシュペンスト・タイプSの3機による殿を知性を持たないインベーダーが突破出来るわけが無く近づけば近づいた分だけゲッターロボ達に蹂躙され消滅していく。

 

「こいつでトドメだぁッ!! 大雪山おろぉぉしッ!!」

 

「キシャアアア!?」

 

白いインベーダーが空中に打ち上げられ、頭部横のミサイルがインベーダーの胴体を貫き過度のゲッター線の吸収によってボロボロに崩れていくインベーダーを見ながらゲッター3が上空で鎌を構えている真ゲッター1に親指を立てサムズアップをする。

 

「流石武蔵さんッ! 操縦が上手いね」

 

「オイラは柔道と頑丈なのとゲッターの操縦くらいしかとりえが無いからなあ」

 

「怪我人の保護の手伝いと状況を確認したら1度撤退しよう、留まり続けるのは危険だ」

 

「そうだな、南極はインベーダーの巣窟だからな……通信は……ギリギリか」

 

通信で話をしているが、外が猛吹雪になりつつある。それに伴い、ゲッター線が吹雪に混じり通信に難が出てきた。

 

「……渓。俺達が怪我人を回収するぞ」

 

「え、それは良いけど……親父達は?」

 

號の言葉に良いけどと言う渓は勝手に行動して良いの? と呟いた。

 

「いや、多分これ俺達に言ってるぜ。渓、見てみろよ」

 

ゲッター3がその伸縮自在のゲッターアームを真ゲッターに向け何かのハンドサインをしている。通信が出来ないにしてもその余りの手段に渓は目を見開いた

 

「……あれかな?」

 

「多分」

 

ゲッター3とゲシュペンストを指差し、周辺に手の平を向ける。そして真ゲッター1を指差して、怪我人を指差す。ハンドサインと言うか、適当な指示に見えるそれに凱と渓は困惑したが、號はその意味を理解したのか返事を返すと言った。

 

「返事を返す」

 

真ゲッターがOKサインを出すと、ゲッター3もOKサインを出した。

 

「號……なんで今ので伝わると思ったの?」

 

「……勘だ」

 

無口な號だが武蔵とは会話もしてないのに妙に仲がいい。タワーで隼人が言っていたゴリラとも意思疎通できるというのは言葉を交わさなくても意思疎通が出来るという意味だったと言う事を渓は初めて知った。

 

「急いで防寒着を来て動きましょう。親父達に迷惑を掛けるし」

 

「そうだな。急ごうぜ」

 

上空からやってきた飛行型のインベーダーの事もあり、調査隊の保護が終了次第一時。調査隊の拠点に撤退する事にし、武蔵とカーウァイが周辺警護を行い、その間に渓達が怪我をした調査隊をクジラへと一時保護する。

 

「どうだった、弁慶」

 

「いやあ、もう凄いとしか言い様がないですね」

 

「はは。お褒めに預かり光栄だ、それにやっぱり3人揃ってるゲッターだと調子が良いなあ」

 

イーグル号に弁慶が乗り込み、ベアー号で大雪山おろしを行う武蔵の神業的操縦を間近で見る事が出来た弁慶は非常に嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

「……もう少し安全運転で頼む」

 

「すんません、でも我慢してください」

 

「……そうか」

 

1度動きが止まった事で我慢していたのが込み上げてきたのか青い顔をしているイングラムに我慢してくださいという武蔵。イングラムは目を伏せて小さな声でそうかと呟きぐったりとした様子でジャガー号の操縦席に背中を預けていた。

 

「ん?」

 

「どうかしましたか?」

 

「いやあ。誰かがどっかで見てる気がしてな……気のせいかな?」

 

きょときょと周囲を警戒するゲッター3にまだインベーダーがいるのかと渓達の動きは早くなり、想定よりも早くクジラに回収を終えて武蔵達はその場を後にするのだった……。

 

「……大雪山おろし……」

 

武蔵が感じた視線は気のせいではなかった。飛び去るクジラを見つめる人影……その視線はクジラの横を飛んでいるゲッター1に向けられていたが、興味を失ったように吹雪き始めた南極の大地に消えていくのだった……。

 

 

 

 

 

 

南極の台地に作られた基地にクジラの姿と真ゲッター、そしてゲッター1の姿があった。保護した調査班の中で唯一無傷だった青年に案内され、南極の基地に案内された武蔵達は責任者の部屋にいた。

 

「助かりました、ありがとうございます。そして……また会えて嬉しいよ。武蔵」

 

「……どっかで会いました?」

 

黒人の男性の言葉に武蔵がそう尋ねるとその男性は部屋の隅の写真立てを手にする。

 

「ランバートと一緒に貴方に会いましたよ。武蔵」

 

「……特攻志願者だったあの女顔ッ!?」

 

「「「「え!?」」」」

 

このゴリラみたいな黒人昔女顔だったの!? と言う驚愕が広がり、その男性は楽しそうに笑った。

 

「昔の話ですよ、昔のね」

 

そう笑った男性は外の風車を見ましたかと話をすり替える。

 

「ああ、見た。あれは風力発電ではないだろう?」

 

「ええ、あれはゲッター線吸収装置です。ゆっくりとですが、周囲のゲッター線を吸収して周辺を無害にしているのです」

 

アメリカでの戦いの後に科学職に転職することを選んだ。私の研究成果ですと男は笑った。

 

「だがその機械に集まったゲッター線にインベーダーが反応したと言うことか……」

 

「ええ。ですが、貴方達のお陰で怪我人は少ないですから感謝していますよ」

 

真ゲッター、ゲッターロボのゲッター線による攻撃でインベーダーは完全消滅した。実弾なので飛び散ったインベーダーに寄生されていないだけでも儲け物ですと目を伏せる男。

 

「被害者は多いのか……」

 

「ええ、でも皆覚悟の上です」

 

ゲッター線吸収装置による大地の浄化……それはインベーダーを引き寄せる事に繋がる為人間が密集している所では実験できない。だからリーダー達はこの不毛の大地南極でゲッター線吸収装置の実験に踏み切ったのだ。

 

「ここには農業、土木、工業、様々な分野のエキスパートが揃っています、だからこそゲッター線吸収装置の開発にも成功したのです」

 

仲間を誇るように笑ったリーダーは吹雪いてきた窓の外を見た。

 

「この吹雪では外に出ることも移動することも難しいでしょう。どうかこの基地でゆっくりと休んでください」

 

優しい笑みを向けるリーダーだが、イングラムはその顔を見て眉を顰めた。

 

「南極で俺達全員を受け入れるという選択は普通は取れない。何か裏があるな?」

 

イングラムの疑惑の視線を見て渓達が眉を顰めたが、武蔵やカーウァイ、そして弁慶も同じ考えだった。

 

「南極の地で暮らすのは苦しい事です。全員が何時死ぬかもしれない、そんな恐怖を抱え、インベーダーに襲われるかもしれないという不安を胸に抱き、確かに生活は苦しい。貴方達を迎え入れるのも正直苦しいです」

 

リーダーは観念したように今のこの基地の状況を教えてくれた。

 

「謎の生き物?」

 

「はい、インベーダーではないのですが……巨大な何かが何度も何度も現れ、収集装置を破壊していくのです」

 

「インベーダーでは無いと何故確信できる?」

 

「……インベーダーの周波数を分析する機能が収集装置についているのですが、それに反応を示さないからです。正体を見極めてやると収集装置に泊り込んで監視を行った男が死ぬ前にこう言い残しました……ゴールと」

 

「ゴールって……目的地のゴールって事?」

 

「いや、それはないだろ? あ、でも幻覚を見たって言う可能性はあるか……」

 

ゴールの名前の意味を判らない渓と凱が見当違いの話をする中、武蔵が手にしていたマグカップが音を立てて砕け散った。

 

「武蔵さん!? 急にどうした……ッ!?」

 

凱と渓は武蔵に近づく事が出来なかった。その全身から吹き出る怒気と殺気の凄まじさに2人はその場に尻餅をついて動けなくなった。

 

「……貴方にも因縁深い名前でしょう、勿論その名前は私にも非常に因縁深い物です」

 

「……恐竜帝国の生き残りがいると?」

 

「判りません。ですが、収集装置に残った男も私と同じ部隊でした。ゴールの姿を知っている、そんな男が冗談でもその名前を口にすることはないでしょう」

 

早乙女の乱よりも前の大戦争を引き起こしたゴールの名前が何を意味するか、ランバートや武蔵はそれをよく知っている。

 

「調査をお願いしたいのですが、引き受けていただけますか」

 

「いや、俺達は「オイラが引き受ける。弁慶、最悪オイラをここに残して行け」

 

真ドラゴンの調査をしなければならない弁慶達は長時間この場に残ることが出来ない、だが武蔵にとっては真ドラゴンよりもゴールのほうが重要だった。

 

「隼人に連絡を取って見ます。その後でどうするか話し合いましょう」

 

「……すまん、だが最悪の場合は先に行ってくれ」

 

隼人が許可する可能性が低いと判っている武蔵は先に行って真ドラゴンの調査をするように言った。

 

「貴方達を分断するようなことになって申し訳無い。ですが、私達にとってゴールの名前は無視できる物ではないです」

 

「そういうこった。すまねえな」

 

渓と凱は武蔵がそれだけ怒りを露にする理由があると知り、何も言えずちらちらと弁慶を見るが弁慶も武蔵を止める事が出来ないと判っているので頸を左右に振る。

 

「いや、その心配は無いだろう。南極の吹雪は長く続く移動したくとも、長距離移動は不可能だ」

 

「クジラはまず使えないだろうな」

 

部屋の中にいても強くなる吹雪の音……それは弁慶達がこの基地の中に閉じ込められた事を意味していた。部屋の中にまで響く強烈な吹雪の音はまるで獣の唸り声のようにこの場にいる全員に感じさせるのだった……。

 

 

 

 

第10話 13年前の悪夢 その2へ続く

 

 




南極編は大きくアレンジしてゴールとブライを再登場させていこうと思います。南極編は世界最後の日始まってのハードモードでお送りしたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 13年前の悪夢 その2

第10話 13年前の悪夢 その2

 

南極のゲッター線反応を感知したタワーの指示で南極に訪れていた武蔵達は今日で丸5日。この観測基地に足止めされていた……。

 

『やはりそれは自然現象ではないの。インベーダーか、それとも南極に住む獣の攻撃と見て良いだろう』

 

「やはりか……そんな気はしていた」

 

タワーとの通信を行っているのはイングラムだった。宇宙衛星を利用した通信は非常にクリアだったが、それが返ってイングラムの予測を確信へと変えていた。

 

「地上の通信が全く通じないが、宇宙通信が繋がるというのもおかしな話だからな」

 

『うむ、意図的に地上に妨害電波を流していると見て良いじゃろう。そして吹雪による足止めは紛れも無く本格侵攻のための足がかりと思うが良い』

 

「ああ、俺達もそれは予測している、だが……手札が足りない」

 

真ゲッター、ゲッターロボ、ゲシュペンスト・タイプSと戦力的には充実しているが、エースパイロットのイングラムが搭乗機が無く、ゲッターロボのパイロットを3人揃えると言う為だけにジャガー号に騎乗している。

 

『うーむ、確かにそれは勿体無いの……武蔵のゲッターの事を考えればの……』

 

炉心の出力向上によりゲッターロボは真ゲッターに迫る馬力を有している。仮に単独操縦でもドラゴンを完全に超える機体スペックがあるのだからそこいらの雑魚インベーダーに遅れなど取りはしないだろう。

 

「そこでだ、敷島博士に1つ頼みがある。今送信する」

 

イングラムの独断でタワーへとある図面を送り届ける。敷島博士は通信を繋げたままイングラムが送りつけた図面に目を通す。

 

『ほほお……面白いのう……』

 

「頼めるか?」

 

『良かろう、どうせワシはやる事もさほど無い。タイプSの改良案と共に平行してやるわい、ただし……動力はゲッター炉心じゃぞ?』

 

「ああ、それで頼む」

 

この時代の主だった動力ではあの機体を動かすには出力が足りない。ざっと見ただけでゲッター炉心が必要だと判断した敷島博士にやはり優秀な研究者だとイングラムは感心した。

 

『ま、南極を無事に切り抜けて戻ってこい、その頃には用意しておいてやる。それと武蔵にもな伝えておいてくれ、刀とマグナムもゲッター合金で作っておくとな!』

 

歯抜けの歯でにこやかに笑い、何かこっちで情報をつかめたら連絡すると言って通信が勝手に遮断される。

 

「やれやれ、困った物だ」

 

優秀ではあるが人格面に難があるなと苦笑し、イングラムは通信席を立った。

 

(アストラナガン……は答えないか)

 

己の半身は深い眠りについている。異空間から姿を見せないのは動けないほどの損傷をジュデッカとの戦いで負ったのが原因……ではないとイングラムは考えていた。

 

(干渉を受けていると見て間違いないだろう)

 

恐らくアストラナガンの不調はゲッター線が関係している。イングラムはそう考えていた、アストラナガンが動けば真ドラゴンは簡単とまでは行かないが間違いなく撃墜まで追いこめれる。だがそれをされては都合が悪いからアストラナガンは動かなくされている。

 

(仕方あるまい、損傷を回復させる期間と思うことにしよう)

 

正直新西暦の戦いの段階でアストラナガンには限界が見えていた、長時間稼動による各部の磨耗そして動力である量子波動エンジン、ティプラー・シリンダーも不調だった。その不調を治す期間と思えば良いだろうと思いイングラムは格納庫に足を向ける。

 

「せいっ!!」

 

「おっ、今のは良い感じだった。だけどまだ足運びが甘いな」

 

武蔵による大雪山おろしの稽古を行われている弁慶の動きは確実に良くなっている。近いうちに大雪山おろしを完全に習得するのも夢では無いだろうなと思いながら格納庫に収納されているゲッターロボを見上げる。

 

(……やはりか)

 

ゲッターロボ自身は旧式の機体だ。1回出撃する事にメンテが必要になる、だが今のゲッターロボはメンテを必要としていない……その理由はイングラムだけが知っていた。

 

(ズフィルードクリスタル……あれを取り込んだか)

 

アイドネウス島上空でセプタギンに特攻した一瞬でゲッター線はズフィルードクリスタルを取り込んでいた。武蔵を新西暦に送り込んだのはズフィルードクリスタルを得るためだったと思えば、死者を移動させた理由も判る。だがそうなると再び時間移動させられた理由が判らなくなるが……恐らく今回の事を含め、武蔵が新西暦に訪れたのも全てゲッター線の思惑通りなのだと思うとイングラムは感じていた……。

 

 

 

 

 

室内でもわかる猛吹雪に渓は食堂に不貞腐れたようにうつ伏せになっていた。

 

「親父い……これでもう1週間だぞ……おかしくないか?」

 

「あ? 何か言ったか?」

 

「……なんでもない」

 

武蔵との稽古の撮影を何度も見直して大雪山おろしを習得しようとしている弁慶に渓は頬を膨らませて不機嫌と言うのを全身で示していた。

 

「いやあ、本当に吹雪が凄いな。元気ちゃん」

 

「あ、はい! そうですね!」

 

食堂に入ってきた武蔵の姿を見るなり跳ね起きる渓の姿に周りにいた凱達を含め調査班が微笑ましい物を見る表情を浮かべる。武蔵が関わると普段の凛々しい感じが消え、歳相応の少女の姿が現れる。それは見ていた人物の気持ちを和ませる一因になっていた。

 

「しかしこのまま缶詰と言うのも不味いな」

 

「ですねぇ、あ、元気ちゃん。悪いんだけど温かい飲み物2つ頼めるかい?」

 

「判りました!」

 

武蔵に言われるとキッチンに駆けて行く渓。その姿を見ながら武蔵とカーウァイは揃って食堂に席に腰掛ける。

 

「武蔵さん、カーウァイさん。何か判りましたか?」

 

何時までも機体を動かさないといざと言うときに動かなくなると言う事で周辺の偵察をしていた2人になにか判りましたか? と凱が尋ねる。だが2人は首を左右に振った猛吹雪で視界だけではなくレーダーも殆ど死んでいる。そしてその上出撃すれば機体にだけピンポイントで吹雪が襲い掛かる。

 

「……やはり敵の攻撃か」

 

「だろうなあ……でもそれらしいのが見つからないんだよな」

 

敵の攻撃が行われているということが判っても、それ以上が判らない。足止め以上の攻撃をしてこないのも不安を煽るだけだ、1度格納庫で真ゲッター2とゲッター2で吹雪の突破を試みたが、その瞬間に猛吹雪で完全に足を止められた。

 

「やっぱり何かを待ってるのかな? はい、どうぞ」

 

「おう、ありがと」

 

「すまない」

 

渓から差し出されたマグカップを受け取り、武蔵達は冷えた身体を温める。

 

「武蔵さん、カーウァイさん、お疲れ様です。これあんまり具材は無いですけど……」

 

「ああ、ありがとうな。レアンヌ」

 

「ありがとう」

 

偵察に出ていた2人に差し出されるトマトスープとチーズトースト。具材はトマトと古くなったフランスパンを揚げたものだが、それでもこの状況では十分ありがたい。武蔵とカーウァイは笑みを浮かべそれを受け取り、遅くなった昼食を食べながら偵察の結果の報告を始める

 

「んぐ、今日はここからここまで見てきたけど……こことここが吹雪が強くなったな」

 

「周辺を調べてみたが、熱源反応もゲッター線レーダーにも反応無しだ」

 

地図を広げている古田に偵察の結果を伝えながらトーストに齧りついた。

 

「こことここですね。うーん、大将。どう判断しますか?」

 

「吹雪が強くなる箇所と箇所を繋げると……円状になるな」

 

吹雪が強くなる箇所同士を赤いペンで繋ぐ弁慶。地図には観測所から離れた一箇所に綺麗な赤丸が描かれえていた……それを見つめながらイングラムはふむと唸る。

 

「この場所に何かが埋まっているのか、それともこの円の中心に何かがあるのか……はたまたその両方か」

 

「観測隊のリーダーから提供された情報とあわせると、ここは一番最初のゲッター線吸収装置のプロトタイプの建設地だそうです」

 

「つまり南極の始まりの地ということか……何かあると見て間違いないな」

 

「問題はそこに辿り着けないと言うことだがな」

 

手掛かりは目の前にある。だが加速力に長けたゲッター2と真ゲッター2でも突破出来ない猛吹雪は完全にこの場所が黒と言う証だったが、その場所に辿り着く術が無いと言う事に弁慶達は眉を顰めた。

 

「あ、地上も駄目、空も駄目なら海は? ゲッター3どどーんっと」

 

「「「天才か……?」」」

 

吹雪を突破する方法ばかりを考えてた弁慶達だが、武蔵が今閃いた海中を進むという言葉に天才かと呟いた。

 

「オイラ天才?」

 

「武蔵さん、頭良いね!」

 

「へへ。そうかなあ?」

 

武蔵さん凄いと武蔵を賞賛する渓。そんな渓を見ていた號は急に窓の外を見つめた。

 

「どうかしたの? 號」

 

「いや、俺凄い嫌な予感がするんだけど」

 

號が何か意味深な事をする時は嫌な事がある。初めて出会った時からそれを見ていた凱は青い顔でそう呟き、そして號は何かを感じ取った様子で何度も頷き。

 

「来る」

 

その呟きの後で凄まじい地震が観測地を襲った。いつの間にか観測地に吹き付けていた吹雪は収まり、おぞましい獣の声が周囲に響き渡るのだった……

 

 

 

観測地を守る為に慌てて出撃した武蔵達。そんな武蔵達の目の前に現れた異形に誰もが声を失った。

 

【アガガア、ガギギギ……】

 

【ぐ、グゴアアアアアア!!】

 

おぞましい雄叫びと感じたのは苦しみ悶える獣の声だった。何かに生きながらに食われる獣の苦しむ、殺してくれと言う叫びだった。そのあまりに悲痛な叫びに渓達は顔を歪めたが、武蔵と弁慶は違っていた。

 

「メカザウルスッ!」

 

「百鬼獣ッ!」

 

機械の身体に爬虫類の身体を持ちながら、両腕はインベーダーに貪られている異形を武蔵は「メカザウルス」と呼び。

 

牛を連想させる巨大な2本ヅノを持ち、胴体をインベーダーに喰われている異形を弁慶は「百鬼獣」と呼んだ。

 

それは武蔵と弁慶がそれぞれ戦っていたインベーダよりも前に地球を襲った脅威の名前だった。

 

「メカザウルス? 武蔵さんを殺した恐竜帝国の尖兵ッ!!」

 

渓は武蔵が特攻する理由になった恐竜帝国のシモベに敵意を燃やし、最初その目に浮かんでいた憐れな物を見る色は消え、激しい憎悪のイロがその目を埋め尽くしていた。

 

「大将が戦ったって言う……でもあれはもう全部滅んだんじゃ!?」

 

弁慶の昔話に出てきた百鬼獣。だがそれは既に全部滅んだ筈と驚く凱。

 

「……敵意は完全に消えていないと言うことだ。巨悪はまだ、この世界に潜んでいる」

 

そして全てを知っていると言わんばかりの號は恐れることも、驚愕する事も無くゲッターサイトを真ゲッター1に構えさせる。

 

「事情は判らんが、休眠状態の物がインベーダーに喰われて目を覚ましたと言うことか、だが、吹雪とは関係が無いだろうな」

 

理性も無く暴れているメカザウルスの百鬼獣が吹雪を意図的に起こせるとは思えない。吹雪を起こしていた相手にとってこの2体は想定外のイレギュラーであり、邪魔だから処分しろとでも言わんばかりに吹雪による干渉を止めたに過ぎないとカーウァイは感じていた。

 

「どこかで見られている可能性もある、先手先手で攻めるぞ」

 

「うっす! 全開でいくぜぇッ!!!」

 

メカザウルスと百鬼獣は紛れも無く脅威である、それがインベーダーに喰われているとは言え、いや、インベーダーに喰われているからこそインベーダーがメカザウルスと百鬼獣を学習してしまう可能性を恐れ、先手先手で攻めろと武蔵に言うのと同時に、イングラムはジャガー号で戦闘データの記録を開始する。

 

「ゲッタトマホークッ!」

 

南極の大地を踏み砕きながらメカザウルスへと走るゲッター1。それに気付いたインベーダーの黄色い目玉が慌しく動きまわり、メカザウルスの苦悶の声が南極の大地に響き渡った。

 

「ちいっ、敵とは言え胸糞悪い」

 

「……ですね、渓! あまり時間を掛けるな、相手の自由に動かせるなッ!」

 

突撃する足が止まったゲッター1。正確には止めさせられたと言う事になる、自分が貪っているメカザウルスの生身の両腕を切り落とし、インベーダーが紐状になる事で伸縮自在の両腕になったその巨大な鉤爪を切り払う為にゲッター1は足を止めざるを得なかった。

 

【グガアア、ゴアアアアアアッ!!!!!】

 

インベーダーが神経でメカザウルスと繋がっているのか両腕が不規則な動きでゲッター1に迫るたびにメカザウルスは血反吐を吐き、苦悶の雄叫びを上げる。

 

「共生しているわけではないようだな、武蔵。先にインベーダーを狙え」

 

「え? メカザウルスじゃないんですか?」

 

鎌状に変化したインベーダーとメカザウルスの鋭い鉤爪をゲッタートマホークで切り払いながら武蔵は怪訝そうな声を上げる。

 

「メカザウルスを先に潰すとインベーダーが一気に浸食する。インベーダーを潰してから、メカザウルスだ」

 

インベーダーはメカザウルスを浸食しようとしているが、メカザウルスが自分が喰われる痛みで暴れるので、侵食が思うように進んでいない。ここで先にメカザウルスを倒せばインベーダーは強力な肉体を得る事になる。イングラムはメカザウルスを観察しながらそう告げた、インベーダーは寄生生物だが宿主が死ねば死ぬなんてことは無い、むしろ死んだ肉体に寄生された方が厄介だと肉体を幾ら傷付けても死なない。そうなれば跡形も無く消し飛ばすしかないが、この後に吹雪を起こした存在の強襲がある可能性を考えればエネルギーを使い過ぎるわけにはいかない。

 

「百鬼獣は生身じゃない、そっちは全力で潰しに行けッ!」

 

「うっしゃあ、行くぜッ!」

 

百鬼獣は電子制御のロボットだ、人工知能は積んでいるが生き物ではない。火事場の馬鹿力を発揮するかもしれないメカザウルスはゲッター1が当たり、百鬼獣は真ゲッター1とゲシュペンストが当たる事となった。

 

【!!】

 

「っと、結構早いな」

 

インベーダーが高速で伸び縮みすることで弾丸のような勢いで射出されるメカザウルスの両腕。鮮血が飛び散り、メカザウルスが苦悶の声を上げているが、それに収集力を乱す武蔵ではない。

 

「そりゃあッ!!」

 

【【グゴアアアアア!?(ギギィイイーーッ!!)】】

 

インベーダーとメカザウルスの叫び声が重なった。腕が伸びきったタイミングでゲッタートマホークを一閃し腕を切り落とす。そしてそれをそのまま掴んでメカザウルスに投げ返す、鋭い刃とメカザウルスの鉤爪がまだ生身のメカザウルスの頭部に突き刺さる。

 

「一気に決めるッ!!」

 

火の出るような速攻、だがただ闇雲に突っ込むのではない相手の攻撃を瞬時に避ける獣のような反射神経、そして実戦に裏付けされた戦闘予測。真ゲッター1を上回る速度で氷上を駆けるゲッター1に渓達は言葉も無かった。

 

「考え事は後だ、観測地を守るぞ」

 

「は、はい!」

 

百鬼獣の胴体から射出されたインベーダーに寄生されたミサイルを打ち落とすカーウァイの言葉に渓は我に返る。無論全員が武蔵の戦いに目を奪われていた訳ではない、號は積極的に百鬼獣に攻撃を仕掛けていたが、インベーダーに寄生された事で驚異的な柔軟性を得た百鬼獣を倒すには一手足りなかった。

 

「カーウァイ」

 

「判っている、行けッ!!」

 

だがそこにカーウァイの援護が入れば話は変わる。インベーダーがビーコンになり観測地を正確に狙っていたミサイルをカーウァイが打ち落とし、打ち落とされたミサイルの破片から伸びるインベーダーの触手をスラッシュリッパーで切り刻んで貰えば號はインベーダーだけに集中出来る。

 

「オラアアッ! くたばれッ!!!」

 

メカザウルスを踏みつけ、ゲッターマシンガンを撃ち込み続けるゲッター1。普段の武蔵とは異なる凶暴性の発露……だがそれはメカザウルスの脅威を知っているからこそのものだった。

 

「ゲッタァアアランサーッ!!!」

 

トマホークを展開せず、柄のまま百鬼獣に突き刺し持ち上げる真ゲッター1。その姿を見たゲッター1はゼロ距離でゲッターマシンガンを打ち込み続けボロボロになったメカザウルスを蹴り上げる。

 

「「ゲッタァアア……ビィィイイムッ!!!!」」

 

ゲッター1と真ゲッター1の腹部ゲッタービームの挟撃にインベーダーに寄生されたメカザウルスと百鬼獣はインベーダー事焼き尽くされた、その光景を見て渓がやったあと言うが武蔵の一喝に黙り込んだ。

 

「メカザウルスが1体だけとは思えない! 隼人と連絡を取ろう」

 

「その方が良いだろう、嫌な予感がする」

 

何故南極の地にメカザウルスが現れたのか、そして百鬼獣がいるのか……謎は残るが、この南極の大地は危険な場所であると言うことが判明した。観測隊と共に南極を脱出する必要があると武蔵は考えていた。

 

「號、殿はオイラ達がやる。観測隊に伝えてきてくれ」

 

「……了解した」

 

ぴりぴりと張り詰めた空気に渓と凱は何もいえず、そして常に人の良い笑みを浮かべている武蔵の険しい顔にそれだけ不味い状況なのだというのが判り、緊張した面持ちでその場を後にする。

 

「念のために細胞を採取しておくか?」

 

「……止めておいたほうが良い。インベーダーの再生能力は半端じゃねえ、観測基地もインベーダーの巣窟になるかもしれないリスクは避けよう」

 

「だな。しかしメカザウルスと百鬼獣だったか? 随分ときな臭くなってきたな」

 

インベーダーだけではなく、かつてゲッターロボと戦ったメカザウルス、そして百鬼獣、そのいずれも南極に出現したと言う記録は無い、だがこうして存在していた事に武蔵は眉を顰め、渓達から無事に観測基地に到着したと言う連絡を受けてからその場を後にするのだった……。

 

飛び去るゲッター1とゲシュペンストを見つめる4つの瞳。氷塊の中に隠れていたそれは完全に気配が無くなるのと同時に氷塊を砕きその姿を現した。コブラのような頭部をした4つ足の獣の上に巨大な雄牛の角を持つ筋肉質な上半身が生えた奇妙な生き物の口は下半身になっている獣と同じく歪んだ三日月を描いた。

 

「ゲッタァアアロボォオオッ!!!」

 

「キシャアアアアッ!!」

 

その生き物は何の為にミサイルの直撃でバラバラになった肉片を何年も掛けて集めてその肉体を再生したのか、それを間近でゲッターロボを見たことで思い出した。己は「ゲッターロボ」を壊す為に生まれ変わったのだと……そしてその怨敵が同じ大地にいる。その事に狂喜し、激しい憎悪の炎を燃やした。

 

「ゲッタァアアロボォオオッ!!!」

 

あやふやだった自己が急速に形成されていく……いや、正しくは歪んだ形に再構築される。本来この獣は號と共に真ゲッター、及び真ドラゴンを動かすために用意された竜馬と隼人のクローンだった。だが、何らかの要因で恐竜帝国「ゴール」そして百鬼帝国「ブライ大帝」の意志の欠片が寄生し、そこから複製された出来損ないのゴールとブライだった。理性など無く暴れるだけの2匹の獣は己の宿願、そして何故こうも己の胸の中に怒りの炎が燃え盛ってるのかを理解した。

 

「ユルザナイ……ゲッダアアア」

 

「ゲッタァアアロボォオオッ!!!」

 

中途半端にゴールとブライの記憶を得た獣は一瞬で己では無い記憶に飲まれた。その4つの目に憎悪の炎を宿し、しかし今の己では負けると考え氷海の中へと消えていく獣……獣から僅かに知性を得た獣人は牙を研ぐ、その牙でゲッターロボを食い殺す瞬間を夢見て……ゲッターロボ、いや武蔵とゴールの再会の時は近い……そしてそれは意外な人物と武蔵の再会が近いという証でもあるのだった……。

 

 

 

第11話 13年前の悪夢 その3へ続く

 

 

 




知性なしからやや知性ありにバージョンアップ次回辺りでゴール&ブライと戦闘を書いて行こうと思います。それと今回の更新の理由はそうですね……やり場のない怒りと絶望を動力源にしてこの話を2時間ほどで書き上げれたからですね。

まだこのブーストが掛かっていた場合、本日21時にも更新するかもしれません、もし更新出来たら21時の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 13年前の悪夢 その3

第11話 13年前の悪夢 その3

 

観測基地は武蔵達の帰還後即座に厳戒態勢が引かれた。ゲッター線吸収装置と言う今の地球に必要な装置を開発しているだけあり、観測基地の地下にはBT-23を初め、タワーで正式採用されているロボットも多数保管されていた。白いインベーダーの時は奇襲だったのが原因だったが、そうでなければ救難要請等を出さずともインベーダーを退ける事が出来るだけの戦力、そしてパイロットはこの南極基地には揃っていたのだ。

 

「メカザウルスに百鬼獣……だと、くそったれめ。どうなってやがるそんな奴ら南極に出現した記録はないぞ」

 

南極と言う不毛の大地を恐竜帝国も百鬼帝国も率先して制圧する旨みは無い。武蔵と弁慶の思った通り南極にメカザウルスや百鬼獣が出現したと言う正式な記録は無かった。

 

「それなら武蔵さん、大将。何かの実験で起動実験していた機体にインベーダーが寄生したって言うのは違いますか?」

 

「筋は……通っているな」

 

「だが人間ならまだしも、敵がそんな事を考慮してこんな場所で実験をする必要はあるまい」

 

凱の意見はイングラムとカーウァイに否定された、試験機を稼動させるのに最悪の事態を想定して人のいない所で稼動させる事はある。だが侵略者である恐竜帝国や百鬼帝国がそんな事をする必要はない、稼動に失敗してもそれを街で爆発させれば失敗作も兵器になる。むしろ失敗前提の兵器を送り込まれた事もある武蔵と弁慶もありえないよなと揃って呟いていた。

 

「しかし、私達はこの基地を作る時に念入りに周辺の捜索をしましたが、それらしいものはありませんでしたよ」

 

氷塊の下にも、雪原にも金属反応は無かった。だから南極に埋もれていた当時の遺産と言うのは信じられないと言うリーダー。人類の希望になりえる研究だ、念入りに調査は行っている筈だからその言葉には説得力がある。それなのに、メカザウルスと百鬼獣がいた……その理由は武蔵とイングラム、そしてカーウァイの3人の中では同じ答えが出ていた。

 

「……じゃあ、オイラやイングラムさん達と同じかもしれない」

 

「それが一番可能性が高いだろうな」

 

新西暦からこの時代に戻って来た武蔵とイングラムとカーウァイと言う前例がある。新西暦に生き残っていたメカザウルスと百鬼獣がこの時代に転移して来たと言う可能性は十分にある、そしてそのきっかけも武蔵とイングラムにも思い当たる節はあった。

 

「アイドネウス島ですかね?」

 

「……だろうな。あの自爆のエネルギーで未来が不安定になったという可能性は十分にある」

 

武蔵とイングラムのセプタギンへの特攻。そのエネルギーによって新西暦の地下に早乙女研究所が眠っていたのと同じく、この時代に戻ってきたという可能性はゼロではない……。

 

「一応警備隊は展開しましたが、もしもメカザウルスや百鬼獣がインベーダーに寄生され群れで襲撃してきたら、この基地は持ちこたえられないでしょう……1度タワーに連絡を取ってこの基地を引き上げる事も相談してみます」

 

「それしかないよな……でもそうなると……この吹雪が問題か」

 

武蔵達が帰還すると同時に再び発生した強烈なブリザード。この風と雪ではクジラを飛ばす事も出来ない、間違いなくこの吹雪を発生させている存在はここに武蔵達を足止めしたいのだ。

 

「でかい戦いになるかも知れない、シェルターの準備をしておいてくれ」

 

「判ってます。最悪の場合……この基地を更地にすることも視野に入れていますよ」

 

インベーダーの脅威にメカザウルスと百鬼獣まで加われば今の人類では太刀打ち出来ない。もしも、メカザウルスと百鬼獣がまだ大量に南極に眠っているのならば、南極を地図から消す必要があるかも知れない。それだけの脅威がこの南極には眠っていて、そしてブリザードの中に混じる獣の唸り声のような音がこの温かい観測基地を獣の檻の中にいるように思わせる異様な雰囲気にしているのだった……。

 

 

 

 

南極のゲッター線吸収装置の観測を行っている基地への応援に向かった武蔵達からの報告を聞いた隼人。その報告を聞いてから、普段のその冷静な表情は一転し、焦りの色が目に見えてその顔には浮かんでいた。それは会議室に呼ばれたランバートとシュワルツの2人もそのピリピリとした雰囲気と鬼気迫る表情に何かがあったのだと悟るには十分な物だった。

 

「このタイミングでメカザウルスと百鬼獣に寄生したインベーダーだと……」

 

「ああ、武蔵からの報告で戦闘記録も送られてきている」

 

タワーの戦闘班のリーダーであるシュワルツとランバートの2人だけを呼び寄せたのは隼人の決断だった。乱暴ではあるは無法者ではないシュワルツとタワーの最年長と言う事で一目置かれているランバートならば血気盛んな戦闘班を止めれると判断したのだ。

 

「間違いねえ、メカザウルス、それに百鬼獣だ……インベーダーに喰われているが見間違える訳がねえ」

 

「……隼人さんよぉ。戦闘班から応援は送るんだろう?」

 

俺を行かせろと目で訴えかけるシュワルツに隼人は首を左右に振った。

 

「タワーから戦闘班を応援に送る予定は無い、変わりに爆弾等を運搬する輸送班を派遣する」

 

「ひっひっ、ワシの研究品を大量に送り届ける予定じゃ」

 

敷島博士の言葉にシュワルツは眉を顰めた。敷島博士の研究と言えば異常な物が多いが、その中で唯一正式に使用された兵器がある。「水爆」である、今のご時勢にそれを引っ張り出すつもりかと口にはしないがシュワルツの視線は攻めるような色を含んでいた。

 

「……南極を消し飛ばすつもりか……どれだけの批難があると思っている」

 

「必要があればだ」

 

もしも南極にまだメカザウルスと百鬼獣がいるのならば、それを野放しにすることは出来ない。多少の批難は覚悟の上で南極を焼き払う決断を隼人は既にしていた。

 

「じゃあ俺らを呼んだ理由は?」

 

「偵察ルートの変更だ。今まで2-2編成から6-1に変更する。もしも南極のほかにメカザウルスがいるのならば炙り出す必要がある、

1機に小型ゲッター炉心を搭載する。インベーダーを誘き寄せるが……メカザウルスがいるのならば反応する筈だ」

 

メカザウルスも百鬼獣もゲッター炉心に反応する、インベーダーに喰われたのはゲッター線に反応して襲撃し襲い掛かったが、逆に喰われた線が濃い。

 

「もしも無事な固体を発見したら頭部を持ち帰れ、その為の6-1編成だ。判ったな、判ったら偵察組の編成を頼む」

 

「「了解」」

 

不服そうだが敬礼した2人を見送り隼人は再び南極での戦いの記録を再生した。

 

「……」

 

鋭い視線でノイズ混じりの映像なので鮮明度は低いがそれでも隼人の視線はある事に気づいていた。

 

「このメカザウルス……あの時のものか」

 

アメリカを制圧する為に送り出された不完全なメカザウルス……半分だけ機械化されている頭部を見て、数を揃える為だけに製造されたメカザウルスであると隼人は見破っていた。

 

「敷島博士はどう見ますか?」

 

「ううーん、完全体ではないだろうな。防御力があまりに低いわい」

 

敷島博士の意見も隼人と同じだった、最も襲撃が激しかった時の個体と比べると明らかに弱い。だがインベーダーに寄生され、その部分を補っている。

 

「スペックは下がっているが、その分強暴になっていると見ていいじゃろうなぁ……頭部を回収できれば何かが判るかも知れん」

 

メカザウルスと百鬼獣の電子頭脳を回収すれば何時製造されるのか判る。 そして何時インベーダーに喰われたのかが判る筈だと隼人と敷島博士は考えていた。

 

「となると……こっちもか?」

 

「いやあ、こっちは戦乱が激しい時の固体の特徴に似ているぞ? 角がでかい」

 

恐竜帝国、百鬼帝国の両方が劣勢に追い込まれた時の個体に良く似ている。だがそれらは全て壊滅させた筈……何故そんな個体がと隼人は眉を顰め、そして再び映像を巻き戻して再生しようとした時会議室の扉の扉が勢いよく開いた。

 

「会議中失礼します! 南極から緊急報告です!」

 

「何事だ!」

 

顔を青褪めさせる若い通信兵は何度も息を整える素振りを見せてから敬礼した、そして青褪めた顔で南極の状況を告げた。

 

「じゅ、13年前! 早乙女研究所で確認された2体の巨大インベーダー出現ッ! ただいま真ゲッター、ゲッターロボ、ゲシュペンストの3体が応戦中! 更にタワーにメタルビースト、インベーダーの一個小隊が接近中ッ!」

 

「緊急警報! スクランブル準備ッ!!!」

 

13年前の巨大インベーダー……それは隼人、竜馬の遺伝子を持つ、ゴールとブライの複製体。そしてタワーの足止めをするかのように現れたメタルビースト、インベーダーの出現情報に隼人は即座に指示を飛ばす。南極でゴールとブライと対峙している武蔵達も心配だが、武蔵達ならば無事に切り抜けてくれる。今自分達がやるべき事はこのタワーを守る事だ。

 

「隼人ぉッ! 弁慶が持ち出したゲッターロボの修理は済んでいるッ! 行けええッ! 指揮はワシと山崎でとる! 心配はいらんッ!」

 

「すまん、敷島博士ッ!!!」

 

そして博士から聞き、司令室ではなく隼人は格納庫に走る。武蔵のゲッターロボには数合わせでイングラムが乗っているが、ゲッター2を操れるというとそうではない、だがタワーの司令官と言う立ち位置の隼人は武蔵に同行する事も出来ない。だが真ドラゴンとの戦いが激しくなれば、まともに操縦出来ないパイロットが乗っているゲッターロボでは間違いなく敗れる。しかし隼人自身も戦場を離れて長い、ブランクを背負ったままでは全盛期の武蔵の操縦にはとても追従出来はしない。故に――錆び落としの為にと敷島博士にスクラップ寸前のゲッターロボ修理を頼んでいたのだ。

 

「悪いな、イングラム・プリスケン。ジャガー号のシートは俺のものだ、何れ返してもらうぞ」

 

修理されたゲッターロボに乗り込み、ヘルメットを被る隼人。その顔は獲物を前にした堪らないと言わんばかりの獰猛な笑みに彩られていた。旧友、そして自分が乗り込んでいたゲッターロボが今この時代に存在する……その2つは司令官をしての隼人を消し去り、ゲッターパイロットとしての隼人を再び目覚めさせていた。

 

「ゲッター2ッ!! 神隼人出るぞッ!」

 

獣の唸り声のような音を立てながらゲッター2は真っ先に戦場に飛び出し、加速していくその姿は紛れも無く伝説のゲッターパイロットとしての神隼人の姿であり、そして伝説の英雄機のゲッターロボの勇敢なる雄姿なのだった……。

 

 

 

 

時間は少し遡り、ゴールとブライの出現する前の南極の観測基地まで遡る。

 

「むー」

 

「……おいおい、どうしたんだ渓は」

 

武蔵の後ろにしがみ付いてふーっと唸っている渓を見て弁慶は苦笑し、武蔵は頬をぽりぽりと掻いている。

 

「いやね、大将。武蔵さんから未来の話を聞いていたんですけどね? くっくっく……」

 

「なんだ、どうした?」

 

楽しくて仕方ないという様子の凱を見ながら弁慶も食堂の席に腰掛けた。

 

「写真を見せたんだがな、そしたらこうなったんだ」

 

数少ない武蔵の新西暦の写真がイングラムのPBS端末に映っているのだが……それを見て弁慶は笑い出した。

 

「なるほど、こりゃあ別嬪揃いだ」

 

「親父ぃッ!!」

 

渓が美少女ではないと言う訳ではないが、渓と同等かそれくらいの美女、美少女が多い。それを見てボーイッシュな自分にショックを受けたのと、武蔵が助けたという皇女の件から嫉妬心むき出しになって武蔵にしがみ付いて渓は離れなくなったらしい。

 

「別に彼女とかじゃないんだけどなあ」

 

「うーッ!」

 

「はいはい、ごめんよ」

 

元気としての記憶を取り戻した渓からすれば、自分から武蔵を取り上げる相手がいる。それだけでもやもやするのだ、渓=元気に取って武蔵は親であり、兄であり、そして初めて好意を抱いた異性である。それを奪われる事を渓は心底嫌がったのだ。

 

「なんか弟分みたいのと妹分見たいのもいるみたいで、面白くないらしいんですよ」

 

「リョウトとラトゥー二はそう言うのじゃないんだけどなあ……」

 

「ははは、そうは言っても納得行かないですよ。渓はこう見えて甘えん坊ですからね」

 

ここにいないと判っていても感情が納得しないのだ。自分の知らない武蔵を知っている新西暦の人間に嫉妬し、でもその嫉妬を向ける相手もおらず、もやもやした結果がこの抱っこちゃん渓である。

 

「まぁ、納得するまでおんぶしてる」

 

「あんまり甘やかさなくていいですからね」

 

武蔵自身も渓に甘いのでそんなに甘やかさなくていいですよと言って、コーヒーを啜る弁慶だが、その顔はとても楽しそうだ。

 

「凱、渓、メカザウルスと百鬼獣の特徴は頭に叩き込んだな?」

 

「うっす、もう大丈夫です」

 

「あたしも大丈夫」

 

「元気ちゃん、くすぐったい「うーっ!」……オイラが何したって言うんだよ」

 

自分が言うと唸り声を上げる渓に武蔵は困り果てた表情をする。だが弁慶達からすれば微笑ましい物だ、いつ敵の襲撃があるかも知れない緊張感の中でもこの微笑ましいやり取りは弁慶達の気を穏やかにしていた。

 

「……悪いが、渓。離れろ」

 

「え? 何で?」

 

「判らないのか?」

 

カーウァイの言葉に全員が1度首をかしげ、すぐに何を言いたいのか理解した。

 

「吹雪が止んだ……!?」

 

「お出ましのようだな」

 

吹雪が止むと同時に観測基地に向かって放たれた獣の雄叫び。だがそれはメタルビーストやメカザウルスよりも遥かに巨大な物だった。それに気付くと同時に全員が弾かれたように走り出す。

 

「武蔵さん! 観測基地の人間は全員地下のシェルターに移動しました!」

 

「ありがとよ! あんたも早く地下に隠れてくれ! 出来るだけ引き離す!」

 

地下のシェルターとは言え南極の大地ではそこまで頑強な物ではない、ある程度は安全だと判っているが完全に安全とは言い切れない。ゲッターロボに乗り込み観測基地を出撃した武蔵達の前に現れたのは巨大な爬虫類の頭部に鬼が生えたような異形の姿。

 

「ゴール……ッ!」

 

「それにこいつは……ブライッ!」

 

ゴールとブライが融合した異形に険しい顔を向ける武蔵と弁慶。だがゴールとブライもゲッターロボ、真ゲッターロボを見て唸り声を上げる。かつて戦いあった怨敵同士がこの南極の大地で一堂に会すのだった……。

 

「ゲッタァアアロボォオオぉオオッ!!!」

 

「きやがれゴール! ブライッ! 今度こそぶっ殺してやるぜッ!!!」

 

南極の大地を蹴り凄まじい勢いで肉薄するゴール&ブライに先陣を切るゲッターロボ。

 

「號! あたし達も!」

 

「判ってる、最初から全開だ!」

 

そしてそんなゲッターロボを追うように真ゲッター、そしてタイプSも雪上を駆け出すのだった……。

 

 

 

 

敵はゴールとブライだが1体に融合している、それに対してこちら側は3体。数では圧倒的なまでに有利だったが、戦況はゴールとブライが優勢だった。

 

「うっがああッ!?」

 

「カーウァイさん! なろおっ! ゲッターミサイルッ!! っ! やべえ! 號避けろぉッ!!」

 

「うぐっうっ!!」

 

明らかに化け物と言う姿のゴールとブライに知性は無いと武蔵は思っていた。事実ゴールには知性がなかった、だがブライは違っていた。コブラ状の突起物を掴み、ゴールを自在に操り、その豪腕でゲッター3、そして真ゲッターを完全に圧倒し、そして念力で飛び道具を完全に無効化する所か、それを味方にぶつけることを初めとし、氷塊などを操り障壁にするなど獣性と知性が完全に融合した理知的な戦法で攻め立ててきていた。

 

「號、大丈夫か」

 

「……問題ない、だが不味い」

 

「ああ、思った以上に……強いッ!」

 

飛び道具が無効化される以上カーウァイに出来る事は少なく、速度の遅いブラスターキャノンではゴールの動きを追いきれず、ゲシュペンストキックはゴールの豪腕に防がれる。

 

「武蔵、ゲッター1にチェンジは……出来ないな」

 

「無理っすね。こりゃあマジでやばい」

 

ゲッターロボの最大の特徴は戦闘中の高速分離と変形合体にある。だがブライの念動力でゲットマシンを拘束されれば成す術も無くお陀仏だ。ゲッターの最大の攻撃パターンを封じられ、ゲッター3のパワーでもゴールを押し返せず、ゲッタービームを使える真ゲッター1はゴールの機動力と念動力に翻弄され攻撃を当てる事すら難しい。そしてそれはゴール&ブライが南極と言う大地をフルに活用している事も大きく影響していた。

 

「やべえ、またあいつらあれをやるつもりだ!」

 

「固まれ! 3機で互いの死角をカバーしろ!」

 

カーウァイに言われるまでも無くゲッター達はそれぞれ背中合わせになり死角を隠す。ブライの念動力によって吹雪を起こし、ゴールがその豪腕で氷塊を投げつけ、口からインベーダーの触手を繰り出す。吹雪で視界を防がれ、動いたと思えば氷塊を念動力によって動かしたダミーであり、そちらに気を取られれば触手に装甲を削られ、ゴールの豪腕で殴られ、その質量で吹き飛ばされる。攻防一体の攻撃に武蔵達は対応しきれないでいた。

 

「ぐうっ!?」

 

「があああッ!」

 

触手に殴り飛ばされるゲッター3と、タイプSに張り付いた触手から流される電撃にカーウァイの悲鳴が重なる。

 

「ゲッタァーーレザーッ! がっ!?」

 

レザーで触手を切り落とした真ゲッター1だが、背後からのゴールの豪腕に反応しきれず雪原に叩き付けられる。

 

「くそったれ、全然見えねえ! 武蔵さん、大丈夫ですか!」

 

「ぺっ、オイラは大丈夫だ。だけど、このままじゃ不味い……イングラムさん、何か良いアイデアはないか?」

 

「恐らくだが……あの鬼の角、あれを切り飛ばせば吹雪は止められるかもしれん」

 

ずっと光を放っているあの禍々しい角、それが吹雪を起こしている念動力の源だろう。だがそれを破壊するには飛び道具か組み付く必要があるが、この吹雪では思うように近づく事が出来ず、飛び道具は味方に誘導される。

 

「しゃあねえ、弁慶、イングラムさん。腹括ってくれよ、ゲッター3で組み付いて……」

 

ゲッター3で組み付いて角をへし折ると言おうとした武蔵だが、それを最後まで言う事は無かった。ゴールとブライの攻撃を受けた訳ではない、上空から降り注いだ光線……いや、ゲッタービームの嵐に足を止められたのだ。

 

「「ガアアアアアーーーッ!!」」

 

ゴールとブライの苦悶の雄叫びと共に吹雪は止まり、そして武蔵達の視界が晴れた時……武蔵は思わず大きく目を見開き、信じられないと言う様子で呟いていた。

 

「黒いゲッターロボ……」

 

両腕に鋭いスパイクを持ち、口元にはマスクを思わせる装甲。そして紅いマントを翻した漆黒のゲッターロボの姿があり、伸ばしたスパイクを構え、雪原を砕きながらゴールとブライへと駆けて行く姿なのだった……。

 

 

第12話 13年前の悪夢 その4へ続く

 

 




次回はブラックゲッターを含めて、ゴール&ブライ戦の正式開始になります。ゲームで言うと一定ターン経過までダメージを与えれないけど、援軍到着でダメージが通るようになるというシナリオですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 13年前の悪夢 その4

第12話 13年前の悪夢 その4

 

地響きを上げゴールとブライに向かって駆けて行く黒いゲッターロボ。ブライが印を結んで吹雪を起こすが、そんな事は黒いゲッターロボ……ブラックゲッターには何の障害にもならなかった。

 

「ギャアアッ!!?」

 

雪原にブライの悲鳴が木霊する。厚い吹雪で何が起きているのかは判らないが、その悲鳴からブラックゲッターがブライに組み付いたのは明らかだった。

 

「弁慶。黒いゲッターロボって……知ってるわけねえわな」

 

「はい。ゲッターロボは13年前の早乙女の乱で殆ど失われてますから、俺が早乙女研究所の地下で見つけた練習機がこの世界に存在する最後のゲッターロボです」

 

早乙女研究所の地下で弁慶が見つけ、渓を救出するために使った錆びだらけのゲッターロボが恐らくこの世界で最後に現存する量産型ゲッターロボの一機だと弁慶は告げた。

 

「!!」

 

吹雪の壁を突っ切ってブラックゲッターロボが武蔵達の場所まで弾き飛ばされてくる。着地する時の構えを見た武蔵はまさかと呟いた。

その構えに武蔵には見覚えがあったからだ。そしてブラックゲッターがゲッター3を睨むと同時に、肩から取り出したゲッタートマホークを全力でゲッター3に向かって投げつけた。

 

「あいつ! やっぱり敵なのッ!」

 

突然の攻撃に渓が声を荒げたが、武蔵は全く動揺せずゲッターアームをブラックゲッターに向かって伸ばした。それは互いに互いを攻撃しているように渓達には見えていた。だがそれは渓達が本当のゲッターチームを知らないからこそであり、そして本物のゲッターチームである隼人がもしこの場にいれば、同じ行動をしていた。

 

「「ギギャアアッ!???」」

 

「え?」

 

互いの攻撃は僅かにそれぞれから外れ、氷塊から顔を出したメカザウルスと百鬼獣の頭部を同時に粉砕していた。

 

「號! カーウァイさんは南極基地に! こいつ陽動だッ!!」

 

大将首自らが陽動になり雑魚が観測基地のゲッター線を狙う。セオリーとは逆の戦い……ゴールとブライの姿が化け物だからそんな知性が無いと思い込んだのが失敗だった。氷塊から顔を出したメカザウルスも、百鬼獣も明らかに水中戦に特化した姿をしている。最初からゴールとブライは陽動で、吹雪を駆使し足止めと通信の妨害をするためだけにこの場にいた。

 

「それは判る……だが」

 

「武蔵さんたちだけじゃ」

 

號達はゴールとブライと言う強大な敵を前に、ゲッターロボだけを残す事に難色を示した。だが武蔵は渓達の心配を豪快に笑い飛ばした。

 

「大丈夫さ、あいつがいる」

 

「……」

 

ブラックゲッターに視線を向けるゲッター3、そしてブラックゲッターもゲッター3を見つめていた。そこに言葉は必要ない、武蔵だから、そしてブラックゲッターを操る男だからこそ……これ以上の戦力は必要ないのだ。

 

「判った。すぐに合流する」

 

「カーウァイさん!?」

 

「観測基地を潰されてゲッター線を吸収された方が危険だ。急ぐぞ」

 

雪煙を上げて観測基地に引き返していくゲシュペンスト。その姿を見て真ゲッター1も翼を広げ観測基地へ引き返していく。

 

「さてと、やるか」

 

「……」

 

ゲッター3の問いかけにブラックゲッターは何のリアクションも示さず、ゲッタートマホークを手に走り出して行った。

 

「ったく、少し見ないうちに随分と無愛想になっちまって」

 

「武蔵さん……もしかしてあのパイロットに心当たりが?」

 

「ねえわけじゃないけど、確証は無いから言わない。さて、こっちも気合入れるぜッ! とっととゴール達をぶっ飛ばして元気ちゃん達と合流するぜッ!」

 

武蔵は確証が無いといったが、本当は確信していた。あの黒いゲッターロボを駆る男が竜馬であると、だが竜馬が何も言わないのなら無理に聞き出さない。今はこうして長い時を、時代を隔てて再会出来た。それだけで良いと、武蔵は思ったのだ。

 

「ほどほどにな」

 

「相手が相手だからそれは聞けない相談ですねえッ!」

 

操縦桿を握り締め武蔵は笑う、それは渓が見た事が無い獰猛な笑み……まだ武蔵達が3人揃っていた時の笑みなのだった……。

 

 

 

 

「バトルウィィングッ!!!!」

 

雪原に號の叫び声が木霊し、真ゲッター1のバトルウィングが縦横無尽に暴れ回り、観測基地に近づこうとしていたメカザウルスや百鬼獣を容赦なく引き裂きバラバラにする。

 

「ちいっ!」

 

「くそっ! こいつら厄介すぎるッ!」

 

號と渓の舌打ちが同時に響いた、バラバラに引き裂かれたメカザウルスと百鬼獣の切断面からインベーダーが伸び、メカザウルスと百鬼獣が融合し、全く別の化け物へと変異する。

 

「凱! 避難はどうなってる!」

 

「今でやっと半分だ! クジラにどんどん移動して貰ってる!」

 

號が観測基地に戻った時にはロボットが出撃していた。氷海から姿を見せる百鬼獣とメカザウルスに観測基地の隊員はシェルターを出て防衛とクジラへの避難を始めていたが、それでもまだ完全には完了していない。

 

「ゲッタービームは使えない」

 

「ゲッター2も駄目だし」

 

ゲッタービームを使えば避難している隊員がゲッター線に被爆してしまう、ゲッター2なら移動するだけでその暴風で人を弾き飛ばすだろう。ゲッター3で動かず防御するという方法もあるが、敵に対する攻撃の決め手が足りない。

 

「無理をするな、足止めはこっちでする」

 

「だが……」

 

「心配するな、まだルーキーに心配されるほど衰えては居ない」

 

避難が完了するまで真ゲッターはまともに戦えない。それならばとカーウァイが前に出るが、ゲシュペンストにはゲシュペンストである問題があった。それは攻撃力不足と言うあまりに深刻な問題だった。

 

「ちっ、やはり決め手が足りん」

 

インベーダーが寄生しているメカザウルスと百鬼獣の装甲を破壊することは出来る。だが肝心のインベーダーを倒すには攻撃力が不足している。フルパワーのブラスターキャノンならば消し飛ばすことが可能だ。だが、チャージと冷却の時間を考えれば使うわけにはいかない。

 

「……ターゲットロック、ファイヤッ!」

 

最後のスプリットミサイルのコンテナを射出と同時にパージし、雪原に突き立っていた百鬼獣が使っていた三日月刀を拾い上げメカザウルスの頭を跳ねる。

 

「シッ」

 

その一太刀で使い物にならなくなった三日月刀を投げすて、プラズマスライサーを再生しようとしていたインベーダーの頭部につきたて、高圧電流で焼き尽くし、崩れ落ちたインベーダーを蹴って蜻蛉を切って自身に迫っていた熱線を回避するタイプS。

 

「すげえ、どんな操縦技術があればあんなのが出来るんだよ」

 

凱が呆然とした様子で呟いた、スプリットミサイルの射出と同時に動き出し、1分弱で2体を屠り、次の反撃の準備をしているゲシュペンストに自身との比べようが無いパイロットとしての力量を見せ付けられていた。

 

「……駄目だ、やはりあの機体では倒せない」

 

「ちっ、鬱陶しいな」

 

號が言う前にカーウァイ自身が気付いていた。倒した2体が別の個体を融合し、また別の存在へと変異する。確かにカーウァイの操縦技術、そしてゲシュペンストの性能でインベーダーを含む百鬼獣、メカザウルスとも互角に戦えていた。だがあくまでゲシュペンストの装備は新西暦準拠の装備……すなわち自分と同等のサイズの敵と戦う前提で設計されている為決め手に完全に欠いていた。

 

「使えッ!!」

 

「ッ! ありがたいッ!!」

 

観測基地のロボットが投げ渡してきたアサルトマシンガンを空中で受け取り、そのままメカザウルス目掛けてフルオートで連射する。

 

「ギギャアア!?」

 

「これは助かるッ!」

 

手持ちのビームライフルは2丁あるが、まだ敷島博士が構造を理解していない為換えのエネルギーパックが無く、思うように使えないことで必然的に近接に攻撃手段が限られていたが、旧西暦の銃器を手にしたことでカーウァイの卓越した射撃も使えるようになった事で戦術の幅が倍以上に広がった。

 

「……しかし、思ったよりも効くな」

 

しかし攻撃手段が広がったが、その代りにトリガーを引くたびに相棒を伝わってくる衝撃に顔を顰めたが、これだけの火力が無ければメカザウルスや百鬼獣、そしてインベーダーとの戦いは出来ないのだろうとカーウァイは身を持って知った。

 

「スラッシュリッパーGOッ!」

 

コンテナから射出されたスラッシュリッパーが雪原を切り裂きながらメカザウルスの足に傷をつける。自重に耐え切れず首が下がったメカザウルスをゲッターサイトが文字通りの死神の鎌となりその命を刈り取る。

 

『皆! 観測基地の人は全員保護しました! クジラはこれから出航します! 団六!』

 

『必要な物資は既に全て回収しました! 全力でやってください!!』

 

古田とリーダーの言葉、それは號達が待ち望んでいた物だ。クジラが浮上すると同時に真ゲッターが立ち上がる。

 

「ゲッタァァァ……ビィイイイムッ!!!」

 

今までのフラストレーションを晴らすように頭部から放たれたゲッタービームがメカザウルスと百鬼獣を焼き払う。

 

「好機ッ!!」

 

今まで抜くタイミングを計っていたプラズマカッターを装備し、タイプSと真ゲッター1は同時に走り出す。時間を掛ければ融合して再生される。それを防ぐ為には速攻しかないと號とカーウァイは判断した、そしてなによりも武蔵達のいる方向から響く轟音に、合流するべきだと判断したのだ。

 

「速攻で蹴りをつける」

 

「言われるまでもないッ!」

 

ゲッターサイトとプラズマカッターの煌きが雪原をまばゆく照らし出すのだった……。

 

 

 

 

號とカーウァイは戦闘の激しい音から武蔵達がピンチに陥っていると感じていた。だが実際はそうではなかった、優勢なのは武蔵達の方であった。

 

「オラオラオラァッ!!」

 

「!!!」

 

ブラックゲッターとゲッター3のコンビネーションは完璧であり、全くのタイムラグも言葉も必要ない。互いに何が必要か、そして何をすれば良いのかが判っていたのだ。

 

「……まさか、そんな……」

 

「これはほぼ、決まりと言っても良いだろうな」

 

ゲッターロボに乗っている弁慶もイングラムも感じていた。武蔵とここまで完璧に息を合わせることが出来る人物は2人しか居ない、1人は勿論「神隼人」そしてもう1人は行方不明の「流竜馬」しかいない。恐竜帝国と戦い、そして友情を育んできた3人に言葉が必要ないのだ。

 

「あんまり突っ込むなよッ!」

 

「ガアアアアッ!」

 

ゴールの豪腕の直撃を喰らい掛けていたブラックゲッターの足にゲッターアームが巻きつき、戻る勢いでブラックゲッターを引き寄せると同時に、引き寄せた勢いで半回転しブラックゲッターをゴールとブライ目掛け投げつける。

 

「「!?」」

 

まさかの攻撃にゴールとブライが一瞬困惑した隙にブラックゲッターはゴールの背中の上に着地し、その上を凄まじい勢いで走りブライの背後の組み付いた。そして大きく肘を振り上げると何度も何度もブライの頭に肘打ちを叩き込む。

 

「ギッ! がアアッ!!」

 

リズミカルに、そして一切の容赦も手加減も無い肘打ちの雨にブライの額が割れ、どす黒い血液が流れ出すがそれでもブラックゲッターは動きを止めない所かその動きは激しさを増す一方だ。

 

「シャアア!「おいおい、オイラを忘れんなよッ! ゴールゥッ!!」

 

口から触手を伸ばしてブラックゲッターを捉えようとした瞬間。ゲッター3が高速でゴールとブライの前に突っ込み、固く握り締めたゲッターアームでゴールの顔面を容赦なく穿つ。

 

「ギャアアアアッ!」

 

「っと、逃がしはしねえよっ!」

 

もんどりうって倒れようとしたのをゲッターアームをゴールの胴体に巻きつけるようにして防ぎ、ジャガー号の機首を挙げ、至近距離でマシンガンの掃射を容赦なく打ち込む。

 

「ガアアアアッ!?」

 

苦しみ悶えるゴールに武蔵は一切の容赦は無い。ここで殺してやる、逃がす物かと言う明確な殺意がゴールに向けられる。

 

「ギャアアッ!!?」

 

そしてブライに組み付いているブラックゲッターはその両腕の鋭いスパイクをブライの角に何度も何度も叩きつけ、その左角を根元から容赦なく叩きおり、残された右角に視線を向ける。

 

「「ガアアアアアアッ!!!」」

 

だがその瞬間ゴールとブライの雄叫びが響き渡り、氷海から姿を見せたインベーダーの触手がゲッター3とブラックゲッターを背後から締め上げ、ゴールとブライから引き離す。

 

「オープンゲット! チェンジッ!」

 

ゲッター3は即座にオープンゲットする、その凄まじい勢いに弁慶とイングラムはブラックアウトしかけたが、それでも反射的にレバーを叩きつけるように倒す。

 

「ゲッタァアアワンッ!! おらああッ!!」

 

空中でゲッター1に変形し、反転しながら投げつけられたゲッタートマホークがブラックゲッターを締め上げていたインベーダーを両断する。

 

「!!」

 

「ギャアアッ!」

 

そしてブラックはインベーダーに突き刺さったままのゲッタートマホークを握り締め、インベーダーを両断すると腕の横の刃で十字に切り裂き、再びゴールとブライに肉薄する。

 

「「シャアアッ!!!」」

 

しかしゴールとブライも近づけさせれば再び先ほどの二の舞と理解しているからか、インベーダーが寄生したミサイルを乱射し近づけさせまいとする。

 

「ゲッタァアアマシンガンッ!!」

 

武蔵がそうはさせまいとゲッターマシンガンを乱射する。それはブラックゲッターの装甲をかすめながらミサイルを貫く、1発とも完全に被弾していないが確実にマシンガンの弾丸はブラックゲッターの装甲も抉っていた。だがそれでもブラックゲッターは足を止めない、背後に目があるような……いや、違う。武蔵が自分を撃つ訳が無いと判っている信頼の証がそこにはあった。

 

「ギャァッ!」

 

スパイクで顔面を貫かれたゴールが苦悶の声を上げるが、そんなことはお構いなしに即座に振るわれた膝蹴りがゴールの顎を蹴り砕き、だらしなく開いた口に足をかけ口を引き裂き、ゴールの口に足をかけと跳躍したブラックゲッターのスパイクがブライの首を狙う。

 

「ゲッタァアアアッ!!!」

 

そしてブライも迎え撃つといわんばかりに両腕を振り下ろそうとした瞬間。ブラックゲッターは上半身をそらすようにしてその鋭い鉤爪を交わす、そしてブライの目の前に広がったのは高速回転する鉄の刃。

 

「ギャアアアアアアッ!!!」

 

ゲッタートマホークが目に突き刺さりブライの悲鳴が木霊する。ブラックゲッターを目晦ましに、投げつけたゲッタートマホーク。それがブライの顔面に突き刺さっていた。

 

「すげえ……こんなの何の打ち合わせも無し出来るものなのか……」

 

目の前で繰り広げられる光景に、弁慶もイングラムも驚愕した。言葉を交わさすに、そして殆ど一瞬で互いに何が必要なのかを判断し、それを実行に移す事が出来る初代ゲッターチームの神技とも言うべきコンビネーションに言葉も無かった。

 

「ギャアアッ!」

 

行がけの駄賃と言わんばかりに更に目に付き立てられたスパイクによる切り傷にブライは苦悶の声を上げ、両手で目を押さえた。

 

「ゲッタァアアビイィィームッ!!!」

 

「!!!」

 

上空からのゲッター1とブラックゲッターのフルパワーのゲッタービームの照射。それはゴールとブライを溶かし、焼いていたが残された右角が輝くと吹雪が一瞬巻き起こりその姿を隠した。

 

「なろお……いねえ?」

 

ほんの一瞬でゴールとブライの姿は消えていた。何の気配も無く、レーダーに反応もない。

 

「逃げられたようだな」

 

「あの巨体が何処に……」

 

「……あっちも行っちまったな……」

 

あの一瞬でどうやってあの巨体が消えたのだと武蔵達が考えている間にブラックゲッターはゲッターウィングを身体に巻きつけ、遥か遠くの空へと消えて行った。

 

「しゃあねえ、まぁ、とりあえず全員無事だったということだけでよしとしようぜ」

 

「そうだな、突発的な遭遇戦を切り抜けれただけで良かっただろうな……」

 

「武蔵さん、あの黒いゲッターロボのパイロットは竜馬なんでしょうか?」

 

「さぁな、ま、インベーダーと戦ってりゃあその内会えるさ」

 

全員が竜馬であると言う確信を得ていたが、姿を見ないうちは何ともいえないと笑い。ゆっくりと向かってくるクジラとその護衛をしている真ゲッター1の姿を見て、南極での戦いが終わったと一息つくのだった……。

 

 

 

 

久しぶりの操縦にも拘らず、メタルビーストを15機撃墜し、ゲッターパイロットとしての腕前は健在と言う事をタワーの戦闘班に見せ付けた隼人は私室で武蔵の連絡を聞いていた。

 

「そうか、南極の基地は破棄になったか……だがそれも仕方あるまい」

 

まさかのゴールとブライの復活。映像として残されている巨体を見て、よく3機だけで持ち堪えたと隼人は笑った。

 

『いやあ、多分だけど……リョウが助けてくれた』

 

「何? それは本当か?」

 

『いや、多分がつくぜ? 構えとか操縦の癖はリョウだっただけで、黒いゲッターロボに乗ってた、あとでそっちも映像を送る』

 

先にゴールとブライの映像を送ったと言う武蔵。危険度の高い物を先に送ったと考えればそれは間違いではないだろう。

 

「あとで確認しておこう。悪いが、南極の観測隊を連れて1度タワーに帰還してくれ、調査を手伝って欲しい」

 

『調査?……正気か? 大丈夫か? なんか悪いものでも喰ったか? それとも疲れてるのか? ちゃんと寝てるか』

 

武蔵、弁慶を含め脳筋しかいないクジラクルーに調査を頼むと聞いて武蔵は隼人が疲労か、それとも悪い物でも食べたのかと心配になった。

 

「ああ、別にお前に調べろと言っている訳ではない。イングラムとカーウァイの2人が必要なんだ」

 

『……何を見つけた?』

 

イングラム達を名指しする事で武蔵も何を見つけたのか、それを理解した。自分が新西暦に言ったのと同じ様に、新西暦の物が旧西暦に現れたのだと……。

 

「崩壊したPTだったか? それらしい物の残骸が……ざっと121機。真ドラゴンの捜索中に発見された」

 

『はぁ!?』

 

「だから121機。まるで杭打ちのような物で抉られるように破壊されている物と、ベアリング弾か? それで蜂の巣にされている機体だ」

 

杭打ち機、そしてベアリング弾……その2つを武器とする機体を武蔵は知っていた。キョウスケが乗るアルトアイゼン……その姿が脳裏を過ぎった。

 

『……ゲシュペンストか?』

 

もしやその残骸がエアロゲイターが複製した機体かもしれないと思い、ゲシュペンストか? と尋ねると隼人は書類を捲りながら自分も確認しながら武蔵に詳細を伝える。

 

「いや、ゲシュペンストにはあんまり似ていないな。背中にフライトユニットらしき物を装備していて、カノン砲を2門背負っているバイザー型の頭部をしている機体だ、他にも色々発見されているが、これが一番多い。次は戦車を人型にしたような物が2機、巨大な刀の残骸が1つ。それと背中にバックパックを背負った青い機体が1つ、後は4つの砲門を持つ巨大な戦闘機が1つだ。写真を後で送信する、映像で確認を取った後、ポイントA-47に来てくれ、タワーもそちらに向かう」

 

『了解した。それで何を調査するんだ?』

 

「海上に突然出現した巨大な戦艦だ。色は緑、形状は流線型。中を調べようにもロックで侵入出来ない、だが外見はほぼ完璧だ。もしかすればイングラムが動かせる機体があるかもしれないと思ってな」

 

『まぁ、その可能性はあるか、名前とかは判ったりするのか?』

 

武蔵の問いかけに隼人はそれも判っていると返事を返した。

 

「敷島博士が回収したPTから情報を収集した。殆ど大破しているから詳しい情報が不明だが「エルドランド」と呼称されていたらしい、俺たちにとっては未知の情報に満ちた黄金境……まさしくエルドランドだ」

 

『エルドランドね、判った2人に聞いておくよ』

 

「ああ、頼んだ。また1500に連絡する」

 

しかし武蔵は知る良しも無い、この時代に流れ着いた箱舟が武蔵の知る新西暦から流れ着いた物ではなく、極めて近く、そして限りなく遠い世界から楽園を目指して旅立った箱舟であると言う事を……しかしそれを武蔵が知るのは、ここより遥か未来の出来事なのだった……。

 

 

第13話 極めて近く、限りなく遠い世界から その1へ続く

 

 




ここでオリジナルを続けます。極めて近く、限りなく遠い世界。そして捜索隊が見つけた物からもう何かは判ってますね? ですがここはお口チャックでお願いしますよ? それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 極めて近く、限りなく遠い世界から その1

第13話 極めて近く、限りなく遠い世界から その1

 

ポイントA-47に移動している間。武蔵達は隼人から送られてきた巨大な戦艦とその周りの機体のスクラップについての会議を行っていた。

 

「確かにこれはPTに酷似しているな。ここなんかは量産機特有の構造だが……これはPTではない、似て非なるシステムで構成された量産機だな」

 

120機近いPTの残骸を見て量産機の特徴こそあれど、PTではなく、別の設計理念の下開発された機体であろうと説明をするカーウァイ。それを聞いている弁慶達は改めてカーウァイ達が未来から来たと言う事を思い知っていた。

 

「でもさ、これだけ量産機がいるって何があったのさ?」

 

「だよあな。普通これだけあればそう簡単には負けないよな?」

 

空を飛べて、武装も沢山ある。それなのに何故ここまで破壊されているのか凱と渓は不思議そうな顔をしていた。

 

「考えられるのはエアロゲイターと同等の異星人の襲来だが……武蔵、お前はどう思う?」

 

「……アルトアイゼンだと思いました」

 

アルトアイゼン……その名前に不思議そうな顔をする弁慶達だが、カーウァイはその言葉の意味を正しく理解していた。

 

「タイプTの改造機か、あの紅いカブトムシだな?」

 

「ええ、あの紅いカブトムシです」

 

「「「紅いカブトムシって何だ!?」」」

 

なんで紅いカブトムシで判ると動揺する弁慶達にイングラムがPCを操作して、モニターにアルトアイゼンの姿を映し出す。

 

「カブトムシだな」

 

「カブトムシね」

 

「カブトムシだな」

 

「なんでこのデザインにしたんですかね?」

 

アルトアイゼンのデザインは旧西暦の人間にも不評だった。

 

「こいつの武器は杭打ち機とベアリング弾だ。そして破壊された機体の破壊痕と完全に合致する。だが、俺達の記憶ではアルトアイゼン……いや、キョウスケ・ナンブは俺達共に異星人と戦っていた。何故PTにこの破壊痕があるのか……そこが謎だ」

 

「敵に複製されたとかですか?」

 

「クーデターとか?」

 

考えられる物は沢山ある。今はまだ推測の域を出ないが、アルトアイゼンらしき物に破壊されたPTと言うのが事実。エルドランドを調べる事で何が起きたのかを知らなければ、どこまで言っても推測の域は出ない。

 

「判らないが、この戦艦エルドランドを調べれば何か判るかもしれない」

 

「そのエルドランドですけど、オイラ見たことないんですけど、連邦の戦艦とかなんですか?」

 

武蔵の質問にイングラムは何と言えばいいかと呟き、モニターの映像を消した。

 

「トライロバイト級と言う開発段階の戦艦として記録だけは見たことがある」

 

「記録だけ? 未来では製造されていないのか?」

 

「ああ。開発責任者が死亡した事で図面だけしか残されておらず、細かい所が判らなかった為トライロバイト級の開発は頓挫している筈だ。少なくとも俺と武蔵がいた世界ではな……」

 

「……もしかして平行世界とかですか?」

 

含みのある言葉に武蔵がそう尋ねる。イングラムはあくまで可能性の話だと告げ、判っている事は1つだと言った。

 

「少なくとも俺と武蔵、そしてカーウァイがいた新西暦の物ではないという事は確かだ、平行世界か、更に未来かはわからんが……エルドランド……黄金郷が俺達の力になるか、黄金郷の呪いが俺達に襲い掛かるか……どちらにせよ、向かうしかあるまい」

 

漸く眼下に広がった海。その先に眠る黄金郷の名を持つ存在しない戦艦……そこに何が待つのか、不安を抱きながらも武蔵達は黄金郷へ向かうしかないのだった……。

 

 

 

 

クジラよりも先にポイントAー47に到着していたタワーはエルドランド周辺の破壊されたPTなどの回収、使えそうな武器の確認などを行っていた。

 

「よく来てくれた武蔵。そしてイングラム、カーウァイ。早速で悪いが、こいつを起動させれるか?」

 

タワーに回収されていた頭部以外目立った破損の無い機体の前で隼人が声を掛ける。

 

「パイロットは?」

 

「いや、遺体も何も無くてな。ヘルメットだけが転がっていた」

 

「脱出したんですかね?」

 

「かもしれないな」

 

そうなるとコックピットブロックが輩出されている筈だがとイングラム達は思ったが、それを口にせず、イングラムはコックピットの中に身体を滑り込ませた。そしてそれから数分後頭部の無いPTが再起動した。

 

「どうだ?」

 

『連邦軍の機体であることは間違い無い。機体名称はエルアインス……配属されていた部隊は……不明だ』

 

謎の機体の名称はエルアインスであると言う事、そして連邦軍の機体であると言うことは判明した。だがそれ以上の情報は無いとイングラムは内部スピーカーを使って隼人達に告げる。

 

「他に何か判らないか、あの戦艦に入る方法とかはどうだ?」

 

『……ロックが掛かっている。自爆装置が起動するかもしれないから無理はしないほうがいい』

 

「そうか。ならばプランBだ、武蔵。お前の出番だぞ」

 

「え? オイラ?」

 

クジラ組みの中で自分だけが呼ばれた武蔵は首を傾げながら隼人のプランBの内容に耳を傾けるのだった。

 

「どっせーいッ!!!」

 

プランB――それは海上に浮かぶエルドランドをゲッター3のパワーで岸に引き寄せ、ゲッター2のドリルで風穴を開けるという物だった。

 

「やっぱオイラ達って脳筋だよな」

 

『脳筋じゃない、これは最終手段だ』

 

エルドランドを引き寄せながら隼人に声を掛ける武蔵。隼人はゲッター2のコックピットで決して脳筋ではないと言うが、最終的に壊す前提で考えている以上は脳筋と言われても無理は無いだろう。

 

「うっし、どうよ」

 

十分にエルドランドを引き寄せた所でゲッター3とゲッター2の立ち位置を交代する。

 

『ああ、良い距離だ。離れていろ』

 

ゲッター2のドリルで格納庫に穴を空け、ゲッター3とゲッター2の馬力で抉じ開ける。薄暗い戦艦の格納庫に外の光が差し込み、中を覗きこんだゲッター3のモニターには格納庫に保管されている機体を映し出していた。

 

「こいつはあ……R-GUN? いや、ちょっと違うか? イングラムさんに見て貰わないと判らないなあ」

 

新西暦でもみたR-GUNに似ていると感じたが細部が異なるその機体が改造機なのか、それとも量産機なのか判らないと言う武蔵にゲッター3の背後から格納庫を覗き込んだ隼人は満足そうに頷いていた。

 

『ふむ、やはり黄金郷だったか……』

 

エルドランドの格納庫にはハンガーに固定されたままのR-GUNに酷似したPTと、ゲシュペンストらしき機体が1機。そして無数のコンテナが安置されていた。

 

『武蔵、このまま俺とお前でエルドランドの中に侵入する。カーウァイとイングラムも合流してくれ、その他のメンバーは周辺の警戒。良いか、インベーダーにこの機体に寄生されるな』

 

スクラップではあるが、新西暦で製造された強力な最新鋭機の数々だ。それら全ては悉くタワーの主戦力のステルバー等を越えている、警戒を怠らず、インベーダーに寄生させるなと命令し、武蔵と隼人はエルドランドの中に乗り込んだ。

 

「……外から見ると完成品に見えたけど……こりゃあ未完成なのか?」

 

ハンガーに固定されているので完成形に見えていたが、R-GUNに似た機体は胴体部と背部の装甲が無く、内部フレームが剥き出しになっていたし、ゲシュペンストは内部フレームが存在せず外部フレームだけがハンガーに固定されていた。

 

「ここまで仕上げて未完成で放り出したとは考えられないな」

 

「何かトラブルがあって緊急脱出し、お前達のように何らかの要因でこの時代に飛ばされてきたと考えるべきか」

 

合流したイングラム達も未完成のR-GUNに似た機体やゲシュペンストを見て、自分達の考えを告げた。

 

「これR-GUNとゲシュペンストですよね?」

 

自分も知っているR-GUNに良く似ていると判断した武蔵がイングラムにそう尋ねる。だがイングラムは険しい顔でそれを否定した。

 

「違う、これはRーGUNじゃない、RWシリーズの2号機「R-SWORD」だ。俺達の世界では、俺が設計し、俺しか図面を知らない筈の機体だ」

 

「え? じゃあ、イングラムさんの世界の?」

 

「いや、俺は設計はしたが、まだそれは未完成でここまで完成していない筈だ。現にその図面を敷島博士に預けて製造を頼んだ段階だ、つまりここに存在して良い機体じゃない」

 

「平行世界のお前達の世界からやってきたと言うことか?」

 

「だろうな、技術的には俺達の世界よりも進んでいるように見えるが……大本は似たような世界だろう」

 

イングラムはそう言うとR-SWORDの足元のPCの前に腰掛け、キーボードを操作する。すると戦艦内部のマシンアームが動き出し、装甲の無い部分に装甲を取り付け作業をける。

 

「動力はトロニウムではない、それに装備もいくつかオミットされてる。これは……恐らく、量産型なのだろうな、だが俺が動かせる機体だ、ありがたく貰っていくとしよう」

 

「正式に完成していない筈の機体の量産機……か。なるほど、面白い」

 

「ああ。面白いな、この戦艦は名前の通り、俺達にとって黄金郷だろう。今内部構造をダウンロードした、ここは格納庫ではなく、製造プラントのようだ。このまま格納庫に向かおう、そしてブリッジで情報を回収する。と言うのはどうだ?」

 

「異論は無い、この戦艦の中の貴重な情報をすべて貰う事にしよう」

 

イングラムと隼人が悪い顔をして奥へ奥へと進んでいく、その後ろをカーウァイと共に歩きだす武蔵。

 

「隼人は昔からあんな所が?」

 

「頭良いですからね。IQ300の天才とか言われてましたし、何か琴線に触れたんじゃないですか?」

 

早く来いと自分達を呼ぶ声に返事を返し、武蔵達は小走りでエルドランドの奥へと向かう。

 

「キキキキ」

 

武蔵達の姿が製造プラントから消えると壁に張り付いていた透明化していたインベーダーが浮き上がるように姿を見せ、壁の上を高速で這いまわり、海の中へと姿を消した事を周辺を警戒しているロボット部隊も、歩兵部隊も誰1人気付くことはないのだった……。

 

 

 

 

 

エルドランドに侵入するゲッター3とゲッター2を見つめていた黄色の瞳。それと視覚共有していたコーウェンとスティンガーはにやにやと楽しそうな笑みを浮かべていた。

 

「うーん。未来からの漂着者かぁ、これは私達が失敗したと言う事かなあ?」

 

「そ、そうかもしれないね。だ、だけど別の世界からの漂着者と言うこともありえるさ」

 

ポイントA-47に突如現れた戦艦と無数の破壊された人型機動兵器はインベーダー達も確認していたが、小さなインベーダーを配置するだけでまずは情報収集と言う事で動かないでいたが、小型のインベーダーで情報収集を終えた今。コーウェン達は同胞の新しい肉体に丁度良いと動き出そうとしていた。

 

「まぁ待て、コーウェン、スティンガー」

 

「早乙女博士、何故止めるのかな?」

 

「な、何故止めるのかな?」

 

背後から早乙女博士に止められ、その目を不機嫌そうに歪めるコーウェンとスティンガー。だが早乙女博士は穏やかな笑みを浮かべた。

 

「折角真ドラゴンを見つけたというのに、その情報は要らなかったのか?」

 

「し、真ドラゴンを見つけたのかね!」

 

「さ、流石早乙女博士!」

 

真ドラゴンを見つけたという報告に喜色を浮かべるコーウェンとスティンガー。そんな2人に諭すように早乙女博士は言葉を続けた。

 

「真ドラゴンは南海の火山の中に眠っている。そちらを2人に任せたい」

 

「なるほど、漂着者は早乙女博士が動いてくれると言う事ですな?」

 

「正確には逃げ帰ったゴールとブライを送りつけるつもりだが、ワシも勿論現地へ向かう。ここは役割分担で効率化を行おうではないか」

 

南極でブラックゲッターとゲッター3のコンビに叩きのめされ、命からがら逃げ帰ったゴールとブライを使いエルドランドを強奪すると聞いたコーウェンとスティンガーは満足そうに頷いた。

 

「判ったよ、ではあの箱舟は任せるよ」

 

「う、うん、任せるよ」

 

真ドラゴンの居場所を聞いたコーウェンとスティンガーは即座に早乙女研究所を後にした。残された早乙女博士の瞳の色は狂気的な赤ではなく、穏やかな黒い瞳だった。

 

「……武蔵よ。ワシがお前にやってやれることは殆ど無い。お前は再び旅立たねばならぬ」

 

【そうだ。武蔵に希望を託すのだ】

 

【父さん……頼んだよ】

 

ゲッター線に満ちた早乙女研究所。その中に響く無数の声……純度の高いゲッター線の洗礼でインベーダーに喰われている早乙女博士は己の自我を取り戻し、そしてインベーダーの意識はゲッター線によってその身体の奥深くに眠らされていた。

 

「じゃが、これもいつまでも持つまい」

 

今早乙女研究所に満ちるゲッター線と今の地球に満ちるゲッター線は別物だ。この場所を出れば再び早乙女博士の意識は体に寄生しているインベーダーとの奪い合いになる、そうなれば早乙女博士は思うようには動けなくなるだろう。そしてこの早乙女研究所も外見こそは廃墟だが、本来はこの世界に存在する早乙女研究所ではなかった。

 

「……ゲッター線よ。武蔵をこの場所へと導いてくれ、そしてワシの遺産を、最後のゲッターロボを武蔵へと託してくれ、これがワシが武蔵にしてやれる最後の事なのだ……」

 

輝きを増していくゲッター線。その光は徐々に地下へ地下へと消えていく、そしてコーウェンとスティンガーでさえも気付かない早乙女研究所の地下深くでハンガーに固定されたゲッターロボでも、真ゲッターでも、そしてドラゴンでもない、全く違うゲッターロボの瞳が力強く光り輝くのだった……。

 

 

 

 

 

製造プラントから、格納庫に移動した武蔵達はそこのハンガーに安置されていた3体のPTを見て言葉を失っていた。カラーリング、そして細部は異なるが、その姿に武蔵とイングラムは見覚えがあった。いや、見覚えなんて物じゃない、肩を並べて戦った機体がそこには安置されていた。

 

「これ、Rシリーズ?」

 

「……そうだな。パワードパーツもある、驚いたな。Rシリーズをこんな所でも見るなんてな……」

 

リュウセイ達SRXチームの機体と酷似した4体のPTそれがハンガーにしっかりと固定されていた。

 

「武蔵、Rシリーズとは何だ?」

 

「新西暦のゲッターロボみたいな……3体が合体して巨大なロボットになるんだ」

 

「ほう……時代は違っても考える事は同じと言うことか、ではあの機体は? R-SWORDと言っていたが、Rシリーズと言うわけではないのか?」

 

「あれは武器に変形するRWシリーズの銃撃機だ、製造プラントに合ったのはR-SWORD……名称どおり剣に変形するPTだ。Rシリーズのサポート用の機体で支援機と指揮官機の2パターンが存在する」

 

突破力を求める場合最も適しているのは機体の巨大化だ。巨大な機体による一点突破……そう言う面ではゲッターロボとSRXは酷似したコンセプトと言えるだろう。

 

「エルアインス、エルツヴァイ、エルドライ、そして量産型R-GUN……なるほど、Rシリーズのドイツ語呼びか」

 

PCを操作し、機体の情報を確認していたイングラムが機体の名称を知り、囁くように呟いた。

 

「じゃあ、これって平行世界のリュウセイ達の?」

 

「いや、違う。これは……量産型SRXの1体。3セット製造されたうちの1セットだ。動力は……トロニウムではないが、プラズマジェネレーターでもない、新しい動力のようだ。詳しくは俺でも判らんが、少なくともトロニウムに近い出力は確保出来ているようだ」

 

量産型SRXなんて言う話は新西暦で聞いたことも無かった。つまりこのエルドランドはSRXが完成した世界から漂着した機体だということが判明した。正式に完成していない機体を量産するなんて馬鹿げた話はない。SRアルタードが完成した世界であり、RWのR-GUN・R-SWORDの量産型と共に採用された世界と言うことになる。端末を操作し、持ち込んだメモリにエルドランドの情報を吸い出しながらイングラムは己の考察を口にしていた。

 

「じゃあ、このエルドランドって……」

 

「ああ、量産型SRXを運用する為の母艦と言うことになるかも知れないな」

 

製造プラントが搭載されているのも出撃ごとに細かい調整や修理が必要なSRXの為の装備と考えれば辻褄はあう。

 

「これは使えるのか?」

 

話を聞いていたカーウァイがLシリーズを見上げながら尋ねる。イングラムはコンソールを操作して機体カタログを確認し、首を左右に振った。

 

「使えはするが、T-LINKシステム……つまり念動力が使えなければゲシュペンスト・タイプSよりも相当性能は劣るぞ、使うなら武装をゲシュペンスト・タイプSに流用した方が安定感がある筈だ」

 

量産型ではあるが、T-LINKシステムを前提に3体とも組み上げられている。念動力者ではないカーウァイではその機体性能を十分に引き出すことは出来ないとイングラムは判断し、パワードパーツと汎用武器を回収し、タイプSに流用した方が良いだろうと助言した。

 

「……頼めるか?」

 

「ああ、ロボット班に機体と共に武装を回収して貰おう。調整はタワーとクジラでやろう」

 

「そうだな、この機体がインベーダーに回っても困る。ここはきっちり回収しておくか」

 

乗れるパイロットの居ない機体だからこのままエルドランドに残して行ってもと思うが、インベーダーに寄生されSRXがゲッター線で稼動するなんて事になれば目も当てられない、タワーとクジラの倉庫の肥やしになる可能性もあるがそれでも危険性を考えイングラムと隼人はRシリーズの回収を決めた。

 

「良し、このまま俺達はブリッジに向かおう。ロボット部隊が回収してくれるだろう」

 

調査を終えた区画を外で待機しているロボット部隊に伝え、隼人達は更に奥を目指そうとした、この端末である程度の情報を回収したが、機密情報はブリッジか艦長室でなければ入手できない。エルドランドに何が起こったのか、それを知る為に奥の電子扉に足を向けようとした隼人達はその場を飛び退いていた。その直後電子扉の前に鋭い刃が何十本と突き刺さり、隼人達を殺そうとした物が現れた。

 

「「「「キシャアアアッ!!」」」」

 

エルドランドの装甲の隙間から姿を現したインベーダーの強襲をかわし、ハンドガンを構える隼人はインベーダー目掛け銃弾を撃ち込む。

 

「インベーダーッ! 馬鹿な外の警戒は、くそっ! 撤退するぞッ!!」

 

「ちいっ! 最悪の展開だ、武蔵ッ!」

 

投げ渡されたメモリを受け取り、武蔵は片手でハンドガンを握り、Rシリーズに組み付こうとするインベーダーの背中を撃つ。だがインベーダーは止まらず、開けっ放しのコックピットの中に飛び込んだ。

 

「くそ、動き出したら勝ち目は無い。引き返すぞッ!」

 

インベーダーは隼人達に目もくれずRシリーズの装甲に飛び込んだ。おぞましい音を立てて変質していくRシリーズを見て最悪の展開になったと舌打ちし、隼人達は慌てて製造プラントへと引き返す。

 

「武蔵! 量産型R-SOWRDの装甲の組付けが完了した。俺はそれで出撃する!」

 

外から響く戦闘音に警護隊の包囲網を抜けてインベーダーがエルドランドに組み付いたという事は明らかだった。幸いにもゲシュペンストのスペアパーツと、R-SOWRDのある製造プラントはゲッター3とゲッター2のゲッター線に満たされていたため、インベーダーの侵食は無かったようだ。昇降機でR-SOWRDに乗り込むイングラムの声に武蔵は振り返ること無く返事を返した。

 

「判りましたッ!」

 

武蔵はゲッター3に乗り込み、隼人とカーウァイもそれぞれの機体に乗り込む。敵の数が多い以上戦力は少しでも多いほうが良い、量産型とは言え、Rの名を冠する機体だ。少なくともこの世界のロボットよりも劣るとは武蔵も思ってはいなかった。

 

「くそッ! 思ったよりも早い! 武蔵、隼人。そこのコンテナを持って脱出してくれ!」

 

背後から響く音にインベーダーがLシリーズを完全に掌握したと理解したイングラムは武蔵と隼人にPT用の武装コンテナを持ち出してくれと叫んだ。

 

「私は装備をいくつか装備してから出撃する! 先に行けッ!」

 

「了解!」

 

「ちっ、やはり黄金郷に呪いはあったなッ!」

 

PT用の装備が格納されたコンテナをゲッター3とゲッター2がそれぞれ持ち、ゲシュペンスト・タイプS、そしてR-SOWRDはコンテナを開きビームライフルやビームサーベル等の換装装備を可能な限りそれぞれの機体に装備させ、エルドランドを飛び出した。

 

「馬鹿な……ゲッターGだとッ!」

 

「それだけじゃねえッ!! ゴールとブライまで居やがるッ!!」

 

エルドランド、そしてクジラとタワーを襲撃していたのは、南極でつけた傷を全て癒したゴールとブライ、そしてインベーダーとメタルビーストの大群、そしてゲッタードラゴン、ライガー、ポセイドンの姿なのだった……。

 

 

 

第14話 極めて近く、限りなく遠い世界から その2へ続く

 

 




シャドウミラーでエルアインスが運用されていたのなら、量産型Rシリーズは既に仕上がっているはず。なら量産型SRXもあるよなっ!って感じでエルドランドには量産型SRXの運用母艦となってもらいました。次回はゴール&ブライ、量産型ドラゴン、ライガー、ポセイドン、Rシリーズと量産型R-GUNと言う余りにもハードモードでお送りしようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話 極めて近く、限りなく遠い世界から その2

第14話 極めて近く、限りなく遠い世界から その2

 

エルドランドの周辺を警戒していた號達に落ち度はなかった。ただ、今回はインベーダーが一手上回っていたのだ。

 

「號ッ! こいつらより武蔵さん達をッ!」

 

「判っているッ! だがこうも……ぐうっ!?」

 

身体を周囲に同化させ、人間に牙を向けること無く破壊されたPTに取り付きメタルビーストへと変化させた。気付いた時にはエルアインスを初めとしたエルドランド周辺の破壊されたPT群は全てメタルビーストへと変貌していた。

 

『作業班は全員タワーへと帰還せよ! 戦闘班は緊急出撃! 回収班のフォローに回れ!』

 

タワーから命令にPTの回収をしていた部隊が回収作業を中断して撤退していく。だがその背後でトレーラーに詰め込まれていたPTがインベーダーに浸食され、メタルビーストへと変異していく。

 

「親父! 親父も早くタワーに!」

 

『駄目だ! 現場を任された以上追いそれと撤退出来るかッ!!』

 

BT-23でメタルビースト・エルアインスに攻撃を仕掛ける弁慶。だが、旧西暦と新西暦では根底から機体スペックが余りにも違いすぎた。

 

「號ッ! ゲッター2……うわあッ!」

 

「駄目だ! オープンゲットしたらその瞬間に潰されるッ!」

 

上下左右からの執拗な砲撃、そしてメタルビーストに変異したエルアインスがどんどん飛び立ち始めている。直線的な機動力ではゲットマシンでエルアインスを振り切れるが、そこから合体に持ち込めるかと言うと別問題であった。

 

「このままメタルビーストを制圧するッ!」

 

ゲッターサイトを構えさえメタルビースト・エルアインスに切りかかろうとするが、メタルビースト・エルアインスはその攻撃を嘲笑うかのようにかわし、背負っているビームカノンによる一斉砲撃を叩き込んでくる。

 

「ぐううっ!」

 

「うわあッ!」

 

「ちくしょうッ! このままじゃ不味いぞッ!」

 

エルアインス自体は量産機に過ぎない、だがそれは新西暦を基準にしたものであり旧西暦で考えれば最新鋭機に匹敵するスペックを持っている。それが何十機と舞い上がり、戦闘態勢に入れば真ゲッターでさえも翻弄される。

 

「くそったれ、数で押し潰しにきやがって!」

 

「ちいっ、落ち着け! フォーメーション、4-4ー7! 隊列を乱すな、冷静に対応しろ!」

 

タワーの戦闘班であるシュワルツ達もエルアインス達の動きに翻弄され、思うように行動出来ていない。余りにもステルバー達とエルアインスたちでは隔絶した戦力の差があった。

 

「「ゴガアアアアアアーーーッ!!!」」

 

エルアインスに翻弄される號達の耳に響いた獣の咆哮。地面を蹴り、空中から狙いを定めていた機体を一閃で破壊した異形と噛み砕き爆発させた2つの影……。

 

「ゴールッ!」

 

「それにブライだと!? くそったれ! 話には聞いてたがあんな化け物なのかッ!」

 

南極で戦ったゴールとブライ、それが融合した状態ではなくそれぞれが真ゲッターと同等のサイズで2足歩行で地響きを伴って出現する。

 

「ッ! ゲッタービームッ!!!」

 

何かに気付いた號が頭部のゲッタービームを上空目掛けて放射する。そこにエルアインスの姿はなかったが、ゲッタービームで引き裂かされた雲の切れ間から赤、青、黄色の機体がそれぞれ姿を見せた。

 

「馬鹿なッ! あれがまだ存在している訳が無い」

 

「ゲッターロボGッ!!」

 

地球荒廃の原因となったゲッター線、その中でも取り分け憎悪を集めるゲッターロボ……ゲッターロボGのドラゴン、ライガー、ポセイドンが現れたのと、エルドランドが爆発し、ゲッター2、ゲッター3、そして2機の漆黒のゲシュペンストが現れるのと、その4機を追ってエルドランドから出現した4機のメタルビーストが出現したのはほぼ同時のタイミングだった。どちらも助けたいと思っているが完全に分断されている状況にこの戦場にいる全ての人間が全滅を一瞬覚悟したのだった……。

 

 

 

 

インベーダーに片っ端から喰われメタルビーストに変貌していくPTの残骸、そして3機のゲッターロボG、ゴールとブライの出現。2時間に満たない時間でエルドランド周辺は地獄と化していた。

 

「隼人、先にゲッターGを潰すぞッ!」

 

「判っているッ!」

 

ゴールとブライも驚異だが、武蔵と隼人は真っ先にゲッターロボGを潰す事を選択した。エルドランドから持ち出したコンテナを海の中に沈め、殆ど同時にゲッターGに向かって機体を走らせていた。野生と知性が両立したゴール、ブライ共に厄介だが、それ以上にゲッターロボGの驚異は上だった。

 

「ッ!!!」

 

「舐めんなッ!!」

 

地面を削りながらポセイドンの放ったフィンガーネットを回避し、残骸を絡め取ったフィンガーネットを掴んでゲッター3の馬力で引き寄せようとするが、それよりも早くドラゴンのダブルトマホークがフィンガーネットを根元で断ち切り、ライガーがジェットドリルをゲッター3目掛けて撃ち込む。

 

「ゲッタービームッ!!!」

 

「サンキュー隼人ッ!! ゲッターアアミサイルッ!!!」

 

ジェットドリルはゲッター2の目から照射される牽制用のゲッタービームで爆発し、返す刃でゲッターミサイルがドラゴン達に向かうがドラゴン、ライガーは上空に舞い上がりそれを回避し、ポセイドンはその強固な装甲でゲッターミサイルを完全に防いでいた。

 

「くそったれ、かてえなぁ」

 

「戦闘用のゲッターロボだからな、あくまで宇宙開発目的で作られた俺達のゲッターよりも強力だ」

 

新西暦で戦った量産型Gよりも遥かに強力なゲッターロボGに舌打ちする武蔵。冷静に自分達のゲッターよりも強力だという隼人もその顔は苦悶に満ちていた。

 

「くそっ! こいつらに集中させてはくれないわなッ!! がっ!?」

 

「武蔵ッ!? ぐあっ!?」

 

武蔵と隼人がゲッターGを集中的に狙おうとするが、それをそのまま許すほどメタルビーストと化したPTは甘くは無い。背後から飛来したブーメランと、メタルビーストと立ち上がったばかりの戦車を人型にしたような機体の巨大なキャノン砲がゲッター3とゲッター2を襲う。

 

「!!!」

 

「!!!」

 

体勢を崩したゲッター2と3にゲッタービームとチェーンアタックが叩き込まれ、武蔵と隼人を凄まじい衝撃が襲い掛かる。

 

「くそっ、隼人、こいつやけに強くないかッ!? それともゲッターGって言うのはこんなにも強いのか!?」

 

ジュネーブで戦ったゲッターGよりも遥かに強いと隼人に叫ぶ武蔵、隼人はゲッター2の体勢を立て直させながら冷静に告げる。

 

「更に改造されていると見て間違いないな」

 

量産機のはずだが凄まじい出力を持つゲッターG達。オープンゲットと再合体する気配は無いが、それぞれの機体の威圧感が半端ではない。

 

「単独操縦じゃ無理があるか……」

 

「これは想定していなかったからなッ!!」

 

上空のメタルビースト・エルアインスのG・リボルバーやG・レールガンによる妨害を潜り抜けて、ゲッターGを倒すには単独操縦のゲッターでは明らかに不可能だった。

 

「隼人ッ!」

 

「ちいっ!!」

 

イングラムとカーウァイだけでRシリーズを抑える事など出来るわけも無く、パワードパーツを装着したエル・ツヴァイのハイゾルランチャーの散弾を回避する武蔵と隼人だが、よけた先では照準を合わせていたエルアインス達のツインビームカノンの雨が降り注ぎ、爆発と飛び散った残骸がゲッター2、3の装甲を容赦なく抉る。

 

「PTって言うのは相当に厄介だな!」

 

「本当はこんなに強くない筈なんだけどなッ!!」

 

PTを知らない隼人はこれがPTの基本的な能力だと判断していたが、それは間違いでインベーダーに寄生された事で出力が上がり、特機相当のパワーをエルアインス達もLシリーズも発揮していた。

 

「!!!」

 

「ぬあああッ!! がっッ!?」

 

「武蔵ッ! くっ! 邪魔だッ!」

 

ポセイドンと力比べしているゲッター3の背中に容赦なくPTの弾丸が叩き込まれ、それを防ごうとしたゲッター2はドラゴンのダブルトマホークで弾き飛ばされる。

 

「……こりゃあマジで厳しいなあ」

 

「少しでも数を減らさない事には勝機はないぞ……」

 

200近いPTが少しずつだがメタルビーストに変化し、ドラゴン、ライガー、ポセイドンにゴールとブライと言う圧倒的な力を持つ存在の支援をする。それに対してタワーの戦力は100にも満たない。

 

「なぁ、なんとかしてこっちに乗り移れねえ?」

 

「……俺も出来る事ならそうしたいがなッ!!」

 

「そんな事をやってる隙はねえなあッ!!」

 

PTからの弾雨とその間隙を狙って強烈な一撃を叩き込んでくるドラゴン達。2人で何とか姿勢を立て直しているからこそ、追撃こそ防いでいるが……それでも徐々に悲鳴をあげる機体に武蔵と隼人は背中に冷たい汗が流れるのを感じるのだった……。

 

 

 

 

 

R-SOWRDを駆るイングラムは少しでも早くRシリーズを行動不能にさせるべく行動していたが、メタルビースト・エルアインスによる妨害に思うように動けないでいた。

 

「ちっ、不味い」

 

最初は素体だったが、今ではツヴァイとドライがパワードパーツをエルドランドから持ち出して装備していた。外に運び出したにも関わらず、それはエルドランドが量産型SRXの運用母艦であるからこそパワードパーツにも何個もの予備が用意されていた証拠だった。

 

「「「!!!」」」

 

「舐めるなッ!!」

 

量産型R-SOWRDも基本的なスペックはツヴァイ、ドライと大差は無い。だがR-SOWRDとR-GUNはイングラムが自身の為に設計した機体だ、その機体スペックは全て知り尽くしてあり、基本的な癖も全てイングラムにあわせている。だからこそ、数の暴力に見舞われても直撃を回避して立ち回ることが出来ていた。

 

「リュウセイ達が相手ならば話は違うが、獣に負ける俺ではないッ!」

 

拳を黒く光らせて突っ込んできたアインスの胴体に蹴りを叩き込み、その勢いで離脱しながらマグナライフルをハイゾルランチャーに向かって叩き込み、爆発させる。だが即座に回復するのを見て再び舌打し、上空から飛来したストライクシールドを素早く後退しながらかわしつつバルカンでアインスの突っ込みを防ぎ、R-GUNのビームカタールソードと鍔迫り合いをする。

 

(……さすがの俺でも厳しいぞ)

 

Lシリーズの4機と戦いながらエルアインスの弱点を調べると言う事をしているイングラムの額に大粒の汗が浮かんだ。

 

「ぐっ! おおおおおーーーッ!!」

 

「トマホークブーメランッ!!!」

 

ガトリングガンとゲッタートマホークはエルアインスを切り裂き破壊しているが、飛行出来なくなっただけで着地と同時に肉体を再生させ再び走り出す。

 

「ガアアアアアーーッ!!」

 

「ゴアアアアアーーーッ!!」

 

暴れ回るゴールとブライに真ゲッターも追い込まれ始め、ロボット部隊もエルアインスに追詰められていた。

 

「ここかッ!」

 

「ッ!?」

 

エルアインスの構造を分析し弱点である箇所をイングラムは見出していた。マグナライフルの銃口をフライトユニットと機体の隙間に向け引き金を引く、着弾した瞬間。大爆発を起こし、墜落するエルアインスに弱点の箇所をイングラムは確信した。

 

「背中の飛行ユニットの隙間を狙え! そこが動力が集中しているッ!」

 

機体の動力源とテスラドライブの動力源、その箇所を攻撃されれば、機体のエネルギーが逆流し爆発する。

 

「なるほどな! まだ動ける奴は残骸のフライトユニットを破壊しろ! シュワルツッ!」

 

「おうよッ!!」

 

変形したステルバーがエルアインスに突撃し、擦れ違い様にガトリングでフライトユニットを破壊する。

 

「これで流れは変わるか、後は「イングラム、私はどうすればいい」……助かる。あの機体の強化パーツを破壊してくれ」

 

1対4の戦いに再び挑もうとしたイングラムの前にゲシュペンスト・タイプSが割り込む。その姿に小さく安堵の溜め息を吐き、どうすればいいかをカーウァイに伝えるイングラム。

 

「合体を阻止する為か」

 

「ああ。ここにSRXが現れたら俺達は全滅するぞ」

 

R-GUNもある、量産型とは言えSRXがこの戦場に現れれば、R-GUNを砲撃形態にして大出重金属粒子砲が文字通り火を噴くだろう。それが直撃すれば真ゲッターでさえも危ない。それを防ぐには再生されるとしてもパワードパーツを破壊し、完全な形での合体を阻止し、欠落した部分をインベーダーに補わせ完全体でのSRXの出現を防ぐ必要がある。

 

「渓達には悪いが、あっちはあっちで何とかしてもらうしかない」

 

「そうだな」

 

エルアインスの弱点が判明したとは言え、戦車の機体「ランドグリーズ」バックパックを背負った「アシュセイヴァー」の2機体は少数とは言えまだ稼動している。しかもあの2体は量産機ではなく、正式採用機機体を簡略化されておらず、スペックもエルアインスよりも遥かに上だ。それらを相手取りながらゴールとブライと戦うのは無謀だ、だがそれ以上にSRXを降臨させてはいけないという事がイングラムを動かしていた。

 

(もしも、最悪の場合に備えなければ)

 

SRXは最悪の場合敵陣の真ん中で自爆する事を考えられていた、もしもその機能があれば何も出来ずに死ぬ。それだけは防がなくてはならない、その為には戦闘班を見捨てる事も選択肢にイングラムは入れなければならなかった。

 

(アストラナガンが使えれば……)

 

今もなお亜空間で眠る己の半身が使えれば、こんな事にはならないのにとイングラムは歯を噛み締める。

 

「俺はアインスとR-GUNを狙う」

 

「了解した私はツヴァイを優先的に潰す」

 

「ああ。頼むぞッ!」

 

ドライはメタルビーストではその性能を万全に引き出せないのか、動きが鈍い。なら今はドライを度外視してツヴァイとアインスを潰す。SRXになる場合、ドライは最悪無くても大丈夫な部位だ。メイン動力が集まっているツヴァイを潰せば最悪の展開は消える、それだけを考え漆黒の2機の猟犬は地面を蹴り、それぞれのターゲットにした機体に突き進んでいくのだった……。

 

 

 

 

 

 

凄まじい爆発音がし、ゲッター2が左腕を失い大きく弾き飛ばされる。その姿に気付き、ゲッター3が両腕を伸ばしゲッター2を空中で受け止め、最大速度で一時ドラゴン達と距離を取る。

 

「隼人ぉッ!!」

 

「ぐっ、すまん。武蔵、やはり実戦を離れて長いのが響くな」

 

隼人は確かに優れたパイロットだ。だがやはり実戦を離れて長い時間が過ぎていた……その為に集中力を最後まで保てず、集中力が切れた瞬間にドラゴンとライガーの攻撃で大きく機体を損傷していた。

 

「くそっ、乗り移らせる隙もねえ」

 

「心配するな、まだ戦える」

 

戦えるというが、ゲッター2の最大の武器のドリルを失えば、ゲッター2に出来る事は殆ど無くなったと言ってもいい。

 

「撃墜されるのを覚悟でオープンゲットするか」

 

「空中で乗り移れるか……?」

 

「無理でもやるしかある……ちいっ!!」

 

ポセイドンがストロングミサイルを背負い振りかぶるのを見て、ゲッター2とゲッター3は弾かれたように距離を取る。しかし、ゲッター2と3を合流させまいとライガーとエルアインスがゲッター2を追い回し、ゲッター3はドラゴンとポセイドンに集中攻撃を受け、ゲッター2に近づく事が出来ない。

 

(やばいやばい)

 

ドリルを失ったゲッター2はバランスを崩していて、最高スピードで走る事が出来ない。それでも何とか逃げ回れているが、それも何時までも持たないだろう。だからと言ってイングラム達に助けを求める事も出来ない……武蔵はドラゴンとポセイドンと戦いながら、どうすればいいかを考え、一か八かオープンゲットをしてかく乱してその間に乗り移らせるという博打に出ようとした。

 

『武蔵さん! 頼みますッ!!』

 

「弁慶ッ!?」

 

ヘリモードに変形したBT-23がドラゴン達の間に向かって飛び、弁慶がBT-23から飛び出した。

 

「おおおおおーーーッ!?!?」

 

まさか飛び出てくるとは思わず、機関砲を乱射しながら突撃し無理やりドラゴンとポセイドンの包囲網を抜けて弁慶を受け止める。

 

「ば、馬鹿かッ!?」

 

「大丈夫です! それよりも爆風に気をつけてください!」

 

イーグル号に乗り込んだ弁慶の言葉と同時に操縦者を失ったBT-23が墜落し、大爆発を起こす。

 

「うおっ!?」

 

「ありったけのミサイルを積んできましたからね! それよりも今がチャンスだッ!」

 

チャフなども積み込んでいたのかドラゴン達の動きが凄まじく鈍くなった。

 

「隼人ッ! 乗り移れッ!!」

 

叫ぶと同時にオープンゲットし、レバーを最大噴射に押し込む。

 

「おうッ!!」

 

そして隼人もジャガー号から這い出し、ゲッター2に向かって突き進むジャガー号に向かって跳んだ。

 

「うッ! うおおおおおおおーーーーッ!?!?」

 

卓越した反射神経でジャガー号の外部メンテナンス用の取っ手を掴んでいるがマッハで飛ぶゲットマシンの外部に晒されている隼人が雄叫びを上げる、そうでもしなければ意識を飛ばしてしまいそうだったから、意識が何度も飛びそうになりながらもジャガー号のコックピットに滑り落ちるように乗り込む。

 

『大丈夫か!?」

 

「危うく死ぬ所だ。馬鹿野郎」

 

そんだけ言えるなら大丈夫だなと笑う武蔵に隼人は呆れながらジャガー号の操縦桿を握り締める。

 

(懐かしい、何もかも懐かしい)

 

自分の青春そのもの、辛い事も楽しい事も、悲しいことも共に分け合った相棒がそのままの姿でそこにある。

 

『弁慶! 行くぜぇッ!』

 

『了解ッ! チェンジッ!!!』

 

何もいわなくてもどうすればいいかは身体が覚えている。レバーを倒し、ペダルを踏み込む。

 

『ゲッタァアアアッ!! ワンッ!!!』

 

懐かしい衝撃と共にゲッター1が戦場に舞う。竜馬ではないが、3人揃ったゲッターロボに乗るのは久しぶりだった。

 

「弁慶! 情けない真似をすればゲッター2に変わるからなッ! みっともない操縦を見せるなよッ!」

 

『行けるところまで行こうぜ! 3人揃ったゲッターロボの力を見せてやろうぜッ!』

 

『……はいッ!! 武蔵さん、隼人ッ!! 行くぜええッ!!!』

 

3人揃ったゲッターロボ、その目が力強く輝き、ゲッターロボの内部で何かが脈打つように動き出した事を武蔵達の誰も気づく事は無いのだった……。だが確かに、ゲッターロボに埋め込まれている何かがゲッターロボの中で大きく脈打ち始めるのだった……。

 

 

 

 

 

エルアインスの数は減ったが、ゴールとブライは全くの無傷で健在だった。前は3対1ですら不利だったのに2対1では勝ち目などある訳が無かった。

 

「ぐうっ! 渓、凱、大丈夫か」

 

「うっ……な。何とか、でもこれ以上は不味いよ」

 

「くそ、大将達もギリギリだしな」

 

装甲のあちこちが凹み、亀裂の走っている真ゲッターは片膝を付いていた。

 

「ギッギッギ」

 

「ゲッタァ……ロボォ……ッ!」

 

縦横無尽に駆け回るゴールと念動力を駆使するブライを相手にするだけでも困難なのに、そこにメタルビーストの群れが加われば號達では対処し切れなかった。

 

「このままでは……」

 

それ以上號が口にすることは無かったが、何を言いたいかは渓も凱も判っていた。応援は望めない、周りは囲まれオープンゲットすら出来ない。このままではそう遠くない内に撃墜される……3人の脳裏に最悪の予想が過ぎったその時、白刃が真ゲッターの顔の横を通過してゴールの額に突き刺さった。

 

「え、ゲッタートマホーク!?」

 

「どこからッ!?」

 

武蔵達はドラゴンと戦っているので武蔵達ではない、どこから飛来したゲッタートマホークに渓達が困惑する中。號だけが頭上を見上げる、それと同時に太陽の光を遮って黒い影が真ゲッターの前に舞い降りた。

 

「あいつはッ!」

 

「南極のッ!」

 

真ゲッターの前に立ち塞がった黒いゲッターロボの登場によって、エルドランドを巡る戦いは更なる混迷を極めていくのだった。

 

 

 

第15話 極めて近く、限りなく遠い世界から その3へ続く

 

 




次回は本格的な戦闘回と量産型SRXの降臨くらいまでを書いて行こうと思います。元々ハードモードの世界最後の日なので少し難易度を上げるだけで自動的にルナになるので丁度いいですね。それでは21時の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話 極めて近く、限りなく遠い世界から その3

第15話 極めて近く、限りなく遠い世界から その3

 

真ゲッターの隣に立つ黒いゲッターロボ……その登場で流れが大きく変わろうとしていた。

 

「!!!!」

 

荒々しい動きで戦場を駆け回り、スクラップだろうがメタルビーストだろうがお構いなしにゲッタートマホークで切り裂き、それこそ戦闘班でさえも巻き込みかねない荒々しい姿はゲッター1の姿も相まって鬼を連想させた。だがその荒々しさが無ければ敵が増え続けるという絶望的な連鎖を立ち切る事が出来なかった。

 

「動力炉を狙え! 融爆させるんだ!」

 

R-SOWRDから送られる情報を元に、戦闘班はエルアインスの動力部を狙い撃ち、爆発させることでメタルビーストと化したエルアインスを吹き飛ばす。

 

「よっし、これならいける!!」

 

「よく狙え、スクラップはすぐに爆発しない事を計算に入れろ!」

 

動力が爆発することでエルアインスの装甲は吹き飛び、インベーダーの生身が姿を現す。新西暦の技術で作られた装甲を破壊するのは確かに難しい、動力を破壊する事もステルバー達でも簡単ではない。

 

「囲めッ! 全方位から銃弾をたっぷり食らわせてやれッ!!」

 

メタルビーストの伸縮自在の両腕や、本来ありえない角度からの攻撃。それらを回避しながら動力炉だけを狙い撃ち爆発させ、装甲をえぐり取る。それによって攻撃が可能になっても装甲を破壊するのに弾やエネルギーを消耗しており、インベーダーを倒す火力が足りなくなる。だが装甲を破壊しなければまともにダメージを与える事もできないのも事実、編成を組んで装甲を破壊する者、トドメを刺すものに分かれるがそれでも一瞬の隙でロボット軍は簡単に大破にまで追い込まれてしまう。

 

「ぐうっ!? くそっ!!」

 

「無理をするな! 下がれッ!!!」

 

「駄目だ! 脱出しろッ!!」

 

 

「「え? うわああああああッ!!!「キッシャアアアアアーーーッ!!!」

 

今も弾薬を使いきった友軍の腕がインベーダーに引きちぎられる。即座にカバーに入るがそれらもまとめてゴールに踏み潰され爆発四散する!

 

「なにやってるゲッターチームッ! あの化け物を止めやがれッ!! ランバートッ!」

 

「おうッ!!!」

 

ゴールとブライを倒すにはステルバー達では戦力が足りない。ゴールとブライを抑えろと叫びシュワルツとランバートのステルバーが主軸になり徐々にメタルビースト・エルアインスの数を減らす。

 

『散れッ! 散開しろッ!!!』

 

タワーからの散開命令に陣形を組んでいた戦闘班がバラバラに逃げ出す。その直後密集していた地点が凄まじい音共に爆発する。

 

「……ちいっ! あっちまで喰われたかッ!!」

 

「間に合わなかったかッ! ちくしょうめッ!!」

 

4つの砲台を持つ異形の戦闘機が舞い上がり、スクラップ同然だった機体がインベーダーに破損箇所を補われ立ち上がる。

 

「ジガンスクードッ!」

 

「カーウァイ。気持ちは判るが、あれはジガンスクードではない」

 

「……くっ、判っている!」

 

コロニーで暮らしていたカーウァイにとって、ジガンスクードは連邦による支配の証。それと酷似したジガンスパーダの姿を見てカーウァイは僅かに平常心を失う、それは数秒にも満たない隙だったが、メタルビーストにとってその隙は格好のチャンスとなった。

 

「ギィイイッ!!」

 

「ぐっ!? どこからだッ!?」

 

ロックオンの音は響かなかったスクラップ同士の影から飛び出したビームの刃を出した、小型のビット。それがタイプSの背中を貫き小破させていた。

 

「新型か……不味いな」

 

戦況を分析している間もLシリーズの猛攻を防ぎ、合体を防ごうとしているイングラムだが、メタルビースト・ジガンスパーダ、メタルビースト・アシュセイバー、メタルビースト・ラーズアングリフの参戦によってイングラム達は今まで以上に分断され、苦しい戦況にと追い込まれ始めているのだった……。

 

 

 

 

タワーで指揮を執る山崎は戦況の悪さに顔を青褪めさせた。敵の数が余りにも多くそして巨大すぎる……。

 

『これ以上の交戦は危険です、神少佐』

 

「判っている! だがエルドランドは真ドラゴンと対峙する上で必要になる! 最悪だとしてもエルドランドを轟沈させなくてはならないッ!」

 

隼人の指示は理に叶っている。インベーダーがここまでエルドランドを奪取しようとするのはその技術を早乙女博士達が欲しているからだ。もし奪われ製造プラントを利用され新西暦の強大な力を持つ機体が次々にメタルビーストと化せば勝機は確実に失われる。

 

「敷島博士、ミサイルの準備は出来ていますか?」

 

「ミサイルだと!? そんな勿体無い事をするか、あのエルドランドは何としても回収するッ!」

 

「しかし!」

 

「大丈夫だ! ワシにいい考えがある」

 

敷島博士の良い考えに山崎は嫌な物を感じたが、エルドランドの希少性は山崎とて理解している。回収できるのならば回収したいと思うのは当然だ。

 

「各機に一時帰還命令を出せ、戦場を変える!」

 

「帰還命令!? メタルビーストをタワーに誘き寄せるつもりか!?」

 

敷島のまさかの提案に山崎は声を荒げるが、敷島博士は笑みを崩さない。

 

「BT-23にミサイルをありったけと、小型ゲッター炉心を積み込んだ。敵陣のド真ん中で爆破してやれ!」

 

「しかしそれでは神少佐達を巻き込む危険性が!」

 

「馬鹿もんッ! あいつらがそんな事に巻き込まれて死ぬ輩かッ! あいつらは水爆級の爆発の中心から生き延びた連中じゃぞ!」 

 

それとこれとは違うと感じた山崎だが、このままでは物量の差で押し潰されるだけだ。

 

「ぐっうっ!? 損傷率は!」

 

「げ、現在45%! これ以上の破損は任務に支障を来たしますッ!」

 

口論している間もメタルビーストの猛攻はタワーを襲い続けている。エルアインスのビームカノン、ジガンスパーダの胸部から放たれる広域のビーム。バリアなどを搭載しておらず、装甲の固さで耐えていたがここまで攻撃を続けれればタワーの耐久力を超えて大破する……。

 

「決断しろ山崎!」

 

敷島博士の急かす言葉に山崎は拳を強く握り締め、身体を震えさせながら指示を飛ばした。

 

「各機に帰還命令を! 真ゲッター、ゲッターロボに警戒の指示を! 敷島博士、それはすぐに出来ますか?」

 

「遠隔操作の準備は出来ておる。帰還次第吹き飛ばしてくれるッ!」

 

伝説のゲッターパイロット達だ。だから大丈夫と言う敷島博士の言葉を信じ、遠隔操作のBT-23による爆破はシュワルツ達が補給に戻ると同時に決行される事となるのだった。

 

 

 

 

墜落するなり連続で爆発するBT-23に武蔵達は戦闘所ではなく、巻き込まれないように必死に逃げ回っていた。

 

「きゃーきゃーッ! なんで!? あたし達を巻き込むつもりぃッ!!」

 

「大丈夫だ、ゲッターを信じろ」

 

「おーいッ!? 破片! 破片突き刺さったぞ!?」

 

「……ゲッターを信じろ」

 

「「信じられるかあッ!!!!」」

 

通信での爆破するの言葉に動揺していた渓達は次々爆発するBT-23に悲鳴を上げ、必死に操縦し爆発に巻き込まれないようにしている號のゲッターを信じろという言葉に信じられるかと怒鳴り返していた。

 

「あの糞爺ッ! やりやがったなあッ!?」

 

「叫んでいる暇があったら逃げろ弁慶ッ!!」

 

「タワーに戻ったらぶん殴ってやるッ!!!」

 

敷島博士のBT-23の爆破の雨に武蔵達もコックピットの中で怒鳴りまくっていた。特攻をよしとする敷島博士がオブザーバーに付くとトンデモナイ事になる。変態に技術と資金を渡してはいけないのだ。

 

「巻き込まれるぞぉッ!」

 

「!!!」

 

ブラックゲッターから返事は無いが、それでも通信は聞こえているらしく必死に逃げ回っている。いくらゲッターとは言え爆発に巻き込まれれば致命傷だ、操縦で必死に逃げ回るのが手一杯だった。

 

「「「グギャアアアアーーーッ!?」」」

 

「ゴアアアアア!?」

 

「オノレエエエエエーーーッ!?」

 

インベーダー達とゴールとブライの悲鳴、そして声も無く爆発に飲み込まれるゲッターG達。地獄絵図とも思える3分間が終わるとエルドランドが打ち上げられていた浜辺は元の面影ないほどに吹き飛んでいた。

 

「……はぁ……はぁ……し、死ぬかと思った」

 

「……あの爺殴り倒す」

 

「ゲッターを信じるんだ」

 

「「それはもういいッ!!!」」

 

若干と言うかかなり天然気質の號に渓と凱が怒鳴りつける中。ゲッターロボとブラックゲッターは既に行動に出ていた。

 

「おらあああああッ!!!」

 

「!!!!」

 

爆発し、吹き飛んだ肉片を回復させようと周囲のメタルビーストを取り込み、ゴールと再び合体したブライに組み付きその念動力の要である角をへし折ろうとする。

 

「元気ちゃん! ゲッターGを頼んだッ!!」

 

「ここできっちり潰せよ!!!」

 

ゴールとブライと対峙するのが真ゲッターからブラックゲッターとゲッターロボのタッグに変わり、真ゲッターがゲッターロボGに迫ろうとした瞬間空中からダブルトマホークが飛来する。

 

「ふっはははははっーーーッ!! お前達の思い通りにいくかなあッ!!」

 

「この声……早乙女ッ!!!」

 

「あいつまで出てくるのかよッ!」

 

上空から飛来したゲッタードラゴン。その中から響く早乙女博士の声に凱と渓は声を荒げたが號と武蔵達は冷静なままだった。

 

「落ち着け馬鹿者ッ! 音声だけだ、本人はここには居ない!」

 

「だよな、早乙女博士の気配がしない」

 

自分の声を聞かせることで冷静な判断力を失わせる作戦だと言われ、渓と凱はハッとした表情になる。

 

「落ち着いたな、いくぞッ!」

 

「「応ッ!!!」」

 

この乱戦冷静さを失えばそこから敗れる。武蔵と隼人の言葉で冷静さを取り戻した渓達は2機のドラゴンとポセイドン、ライガーへと向かい、武蔵達は再生しようとしているメタルビーストを粉砕しながらゴールとブライへと肉薄するのだった……。

 

 

 

 

 

BT-23の爆破の雨、それはメタルビーストに優勢な戦況を大きく覆していた。

 

「こいつら動きが鈍くなってる!」

 

「今がチャンスって事だな! 続けッ!!!」

 

補給を終えたステルバーを先頭に戦闘班とR-SOWRD、タイプSが武装を換装して再び出撃する。

 

「棚から牡丹餅か、カーウァイ。協力してくれ」

 

「判った」

 

BT-23の爆破によって周囲に散ったチャフとインベーダーを引き寄せる為の小型ゲッター炉心、それが爆発によって周囲に強力なジャミング効果を齎していた。

 

「シャアア?」

 

「ギィイイーーッ!?」

 

それは適切に対応すれば何の問題もない妨害だ。だがインベーダーは獣である、そしてメタルビーストになった事。新西暦の機体に寄生した事が完全に裏目に出ていた。

 

「シュワルツ! 俺はあの飛んでいる奴を落とす!」

 

「おう! 俺はあの青いのをぶっ潰すッ!!」

 

新西暦の技術で作られたレーダーなどはインベーダーによってその能力を最大限に引き出され、正確無比な射撃や神技めいた回避を齎した。だがそれらをOFFにすると言う知性はインベーダーには無く、ジャミング、ゲッター線の散布によってその正確さは見るも無惨な事になっていた。

 

「回復する前に押し切れッ! 回復したらまた劣勢に追い込まれるぞッ!!」

 

どこを狙っているのかと言う酷い射撃に、自ら当たりに来ていると言っても良い動き。今までの苦戦が嘘のようになっていた、だがそれは決して長時間続くものではない。今の内に少しでも戦力を削ごうと戦闘班は多少の被弾を覚悟でメタルビーストに掴みかかっていた。

 

「シャアアッ!!」

 

「どこを狙ってやがるッ!!」

 

4つの砲台から放たれる大質量の実弾は直撃すればステルバーを跡形も無く吹き飛ばすだろう。当たりさえすれば……だ。レーダーを失い、インベーダーの目による誘導も効果を発揮しない今、大火力のジガンテ・カンノーネは無用の長物となり、バレルロールで回避したステルバーはそのままメタルビースト・ジガンスパーダの上を取り、バトルモードに変形しその機体の上に飛び乗る。

 

「おらおらおらおらッ!!」

 

ハンドガンを両手に持ち出鱈目に乱射する。ジガンスパーダの強固な装甲を破るのは難しいが、その装甲から露出しているインベーダーだけを執拗に撃ち続ける。

 

「シャアアッ!」

 

「はっ! おせえッ!!」

 

インベーダーが痺れを切らし、頭を出して噛み付きに掛かった所をナイフで目を貫き、そのまま首を掴んで力を込めてへし折る。無論インベーダーはその程度では死なないが、数秒は動きを止めれる。

 

「くたばれえええッ!!!」

 

首が表れた部位にハンドガンをカートリッジ2本分全てを叩き込み、離脱する寸前にミサイルでダメ押しする。空中で爆発するジガンスパーダの暴風に煽られながらランバートはステルバーを急降下させる。

 

「おっらあああッ!!!」

 

背後からの飛び蹴りでメタルビースト・ラーズアングリフにたたらを踏ませる。

 

「!!!」

 

「うおっ!? 中々速いじゃないか」

 

振り返り様の裏拳を飛び退いて交わし、ナイフを構えさせる。ハンドガンの弾は既に使い切っている……ランバートに出来るのは白兵戦だけだった。

 

「ランバート、こいつを片付けたら行く! くたばるんじゃねえぞッ!」

 

「はっ! お前に心配されるほど耄碌してないぜッ!!」

 

メタルビースト・アシュセイバーと切り結んでいるシュワルツにそう叫び、ランバートはステルバーをラーズアングリフに向かって走らせる。

 

「!!!」

 

「へ、あめえッ!!」

 

スライディングの要領でラーズアングリフの股の下を潜り抜け、擦れ違い様にナイフを左膝の裏に突き立てる。

 

「!?」

 

「おらあッ!」

 

膝の後ろを攻撃された事でぐらついたラーズアングリフの頭部に回し蹴りを叩き込むが重量の差でステルバーのほうが弾かれる。

 

「ちっ」

 

「耄碌してないんじゃねえのか」

 

「うるせえッ! お前こそステルバーと同じくらいの大きさを相手にしてるんだ! さっさと倒せ!」

 

「そうしたいのは山々なんだがなッ!!」

 

「なんだこれは!?」

 

上空から降り注いだ6機の小型兵器。それを咄嗟に回避するが、ランバートもこれでシュワルツが相手を倒しきれない理由を悟った。

 

「ちっ、向こうが回復するまでに時間がねえって言うのによ」

 

「……相手を変えるぞ」

 

「……それしかねえな」

 

ランバートは射撃が得意でシュワルツは白兵戦を得意としている。それぞれの相手を交換する事を提案し、互いの機体を交差するように走らせランバートがメタルビースト・アシュセイバーを、シュワルツがメタルビースト・ラーズアングリフをそれぞれの相手に入れ替え、再び戦闘を開始する。

 

「ちっ、仕留めきれない」

 

「学習している……のか」

 

そしてRシリーズと対峙しているイングラムとカーウァイは徐々に焦りを覚え始めていた。最初は力押しだったLシリーズが明確な連携を組み始めたのだ。

 

「「「……」」」

 

そして他のメタルビーストと異なり、声も上げず冷静に立ち回る姿にイングラムは違和感を覚えていた。

 

(……何か引っかかる)

 

SRXは念動力者を必要とする。それゆえにワンオフなのだ、それなのに何故量産型SRXなどと言う暴挙に出たのか、そして何故今対峙しているメタルビーストが獣のような咆哮を上げないのか……。

 

(あと少し、あと少しで何か判りそうなんだ)

 

胸の中で何かが訴えかけている。それなのにそれが判らない、自分は知っている筈なのにそれが判らない。

 

「!!」

 

「ちっ!」

 

殴りかかってきたエルアインスの拳を受け止め、胴体部に膝蹴りを叩きこんで間合いを放す。

 

「こいつら……何を考えてる」

 

「「……」」

 

機体を破壊されても声もあげず、もくもくと再生するRシリーズ。そして再生する事に動きが良くなっている……。

 

(……ん?これは)

 

不気味さを感じ始めた頃。イングラムの視線がコックピット開け放たれたままのエルアインスに向けられた。

 

(ヘルメット……だけ?)

 

ヘルメットだけが転がっているコックピット。それが何か意味があるように思えたその時イングラムは全てを理解した。

 

「いかん! カーウァイ突っ込めッ!」

 

「どうした急に!?」

 

「こいつらは他の機体と違う! 特別製だ!!」

 

バルマーにあるバルシェムと同じ、必要な技能だけを与えられた人造人間。その知性を得たメタルビーストは恐ろしい速度で学習していたのだ。念動力を持つ人造人間を量産する技術があったからと想定すればSRXの量産に踏み切った理由も判る。

 

「間に合……「!!!」ぐっ……これはッ!?」

 

「障壁ッ!?」

 

エルアインスとエルドライが前に出た瞬間。R-SOWRDとタイプSの動きは止められた。PTさえも止める不可視の強力な念動フィールドに。

 

「「「グルルル」」」

 

「くそ! 遅かったッ!」

 

気付いた時はもう遅かった。インベーダーは念動力を持ち合わせる人造人間を完全に取り込み、巨大な繭のようなものを作り出しその姿を変貌させていく……念動力、そして限りなくトロニウムに近い出力を持つ動力を取り込み、量産型SRXは今までのメタルビーストを越えた別の存在へと変貌を遂げていたのだった……。

 

 

 

 

 

 

ブラックゲッターとの連携で武蔵達はゴールとブライを追い込んでいた。ゴールとブライの戦闘力は確かに高かった、だがそれを上回るコンビネーションと3人揃った事で新型炉心の力を発揮し始めたゲッターロボはゴールとブライの回復力を上回るダメージをゴールとブライに叩き込み続けていた。

 

「……あんなのが出来るものなの……」

 

「信じられねえ」

 

目も合わさない、言葉も交わさないそれなのにゲッターロボとブラックゲッターは完璧な連携をしていた。その動きに自分達がいかに未熟なのかと言う事を思い知らされた渓達は呆然とした様子で呟いた。

 

「!!!」

 

「ったく! こっちの事も考えやがれ!!」

 

「なんだ、泣き言か、情けない」

 

「無理なら変わるか?」

 

「いいえ! やります! やってやりますッ!!」

 

弁慶が必死にブラックゲッターの動きに付いていく中。ジャガー号の隼人とベアー号の武蔵は確信を深めていた、この操縦技術。言葉を交わさなくても連携を組む事が出来る。そんな事が出来る人間がそう何人もいる訳が無い……。

 

(やっぱり竜馬だよな。うん、間違いない)

 

(……竜馬。やはり生きていたのか)

 

言葉を交わしていないが南極の戦い、そして今回の戦いでブラックゲッターに乗っているのが竜馬だと2人は確信していた。

 

「……」

 

そしてブラックゲッターを駆る男……コート姿に首にマフラーを舞いた粗暴そうな大男……「流竜馬」も確信していた。

 

「……武蔵」

 

操縦の癖が出ているからこそ、ゲッターロボに武蔵が乗っていると竜馬は感じていた。

 

「……俺と同じなのか……武蔵」

 

自分は大量のゲッター線に飲まれ時間を飛んだのかと、竜馬も武蔵がニューヨークで自爆した事は記憶に強く残っていた。掛け替えの無い友人を失ったあの戦いを忘れられる訳が無い。

 

「……ぶっ殺してやる」

 

ゴールの姿も、ブライの姿も竜馬の人生を変えた存在と言っても良い。特にゴールに対しては恨みが深く、スパイクブレードで執拗にゴールの顔面を引き裂いた。

 

「使えッ!!」

 

念動力でへし折られたゲッタートマホークの代わりを要求もしていないのに新しいゲッタートマホークを投げつけられる。右腕を何度もゴールの顔面に打ちつけ、前を向いたままゲッタートマホークを左手で掴み、全力で振り下ろす。

 

「ギャァッ!?」

 

ゴールの顔面から鮮血が舞うと同時にブラックゲッターは地面を蹴り空中へ舞い上がる。その直後にゲッターマシンガンの乱射が竜馬によってボロボロにされたゴールの顔面を更に傷つけ容赦なく抉る。

 

「ゲッタァロボォオオオオッ!!!」

 

「……良い加減にくたばりやがれッ!!!」

 

苛立ちと怒り、そして殺意がない交ぜになり今まで沈黙していた竜馬の怒声が周囲に響き渡った。

 

「ギャァアアアアッ!!!」

 

最大速度で突っ込みながら叩き込まれた肘打ちにブライが苦悶の声を上げる。追撃に飛んできたゲッタートマホークがブライの首に突き刺さり、それに気付いた竜馬がそのゲッタートマホークでブライの首を掻っ切ろうとしたその瞬間。横殴りの衝撃に竜馬達は何が起きたのか判らないままゴールとブライから引き離されてしまった。

 

「シャアアアーー!!!」

 

「グルルルウォオオオオーー」

 

ゲッターロボ達が吹き飛ばされた瞬間にゴールとブライは海に飛び込み、そのまま姿を消した。インベーダーだからこそ、自らの生命を守る事を優先し、海の中に飛び込み姿を消したのだった。

 

「うおッ!?」

 

「な、なんだ!? 何が起きた!?」

 

「ぐ、ぐううう……ッ!? に、逃げられたのか!?」

 

不可視の何かの攻撃でブラックゲッター、真ゲッター、ゲッターロボが3機とも地響きを上げて戦場に転がる。即座に態勢を立て直した武蔵達だがゴールとブライの姿が消えたことに驚愕し、そして何が起きたのかが判らない武蔵達の耳にイングラムの声が響いた

 

「すまない! 間に合わなかった……」

 

間に合わなかった……その言葉の後に起きた地響きに武蔵は顔を上げた。ゴールとブライは姿を消した、だが太陽の光を背にして立つ巨大な巨人の姿に武蔵は目を見開いた。

 

「……え、SRX……」

 

細部は違う、だがそれは紛れも無くSRXだった。だが、その姿は生物的な意匠を持ち生理的嫌悪感を抱かせる不気味な姿をしていた。

 

「ガアアアアアーーーッ!!!」

 

周囲に響かせる凄まじい咆哮に武蔵達はコックピットで身体を竦めた。ゴールとブライの脅威は去った、だが現れた新たな脅威に武蔵は背筋に冷たい汗が流れるのを感じるのだった……。

 

 

第16話 極めて近く、限りなく遠い世界から その4へ続く

 

 




次回はSRX戦になります、今回はイベント的なものが続いておりますが、量産型SRXって敵としては最高だなと思いましたので登場させてみました。次回は総力戦でSRXとの戦いを書いて行こうと思います、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話 極めて近く、限りなく遠い世界から その4

第16話 極めて近く、限りなく遠い世界から その4

 

鋼鉄の巨神……リュウセイがそう呼んだほどにSRXの姿は力強さと味方を鼓舞するたくましさを持っていた。だがいま自分の前に立ち塞がるSRXは悪鬼その物だった。

 

「「「グルルル……グオオオオオオオーーーーーッ!!!!」」」

 

3重に重なった獣の唸り声。それは戦場を震わせ、その場にいる全員の足を地面に縫い付けた。ゴールとブライを恐れずに戦っていた武蔵達の足でさえも止める恐ろしい威圧感。音を立てて動き回る黄色の複眼に見つめられた者は心臓を鷲づかみにされたような感覚を覚えていた。

 

「SRXがあんな姿になるなんて……ッ」

 

特徴的なゴーグル型のフェイスパーツ全面を覆い尽くす無数の黄色の複眼には見る者全て生理的な嫌悪感を与えた。

 

そして左腕は通常の人型だが、右腕はインベーダーに浸食され、不気味な胎動を繰り返す。

 

膝から下は3本の鉤爪付きの悪魔を思わせる物へと変異し、その背中からは今正に蝙蝠を思わせる1対の翼が音を立てて生えてきた。

 

「……DiSRXッ……」

 

イングラムは歯を噛み締めながらその名を呼んだ。量産型SRXはインベーダーに浸食され、そしてメタルビーストと化す事でDiSRXとでも言うべき姿に変貌を遂げていた。その余におぞましい姿にインベーダーに慣れているシュワルツ達でさえも息を呑んだ。だが次に目の前に起きた光景に目を見開いた

 

「ふっははははは、素晴らしい! 素晴らしいぞッ! これ……「グルオオオオーーーッ!!」なにいッ!?」

 

メタルビースト・SRXはゲッターロボでも、ステルバーでも無く、早乙女博士の声を放つドラゴンを無視して、一際奥にいたポセイドンに牙を突き立てる。

 

「己ッ! 何を考えている!!」

 

「シャアアアーーッ!!」

 

ポセイドンに早乙女博士が乗り込んでいたのか、明らかに焦った声を出しながらメタルビースト・SRXに応戦するポセイドン。

 

「ッ! 各員撤退! ゲッターロボ、真ゲッターを残しタワーへ退却しろッ!!」

 

「何を言ってる! 今ここに早乙女がいるんだ! ここで戦わないで何時戦うんだッ!」

 

「黙れ! 状況が変わったッ! いかんッ!」

 

その光景を見て我に帰った隼人が戦闘班に退却命令を出す。その命令を不服としたシュワルツの怒声が飛んだが、それを隼人は最初は窘めようとしたが、メタルビースト・SRXの背中の翼から放たれた光弾の嵐に何の命令も出せず、弾雨の雨に飲まれる。

 

「ぐ、ぬおおおおおおッ!?」

 

「シャアアアアッ!!」

 

そしてメタルビースト・SRXに組み付かれていたポセイドンもライガーの部分から両断され、ドラゴン号に変形したゲットマシンが上空へと逃れる。

 

「「「「オープンゲットッ!」」」」

 

そして武蔵達もその弾幕から逃れる為に分離し、急上昇する。弾幕を避けきれず爆発するロボット部隊を助ける事も、救う事も出来ず、それでもここで全滅する訳には行かないと非情の判断を下し、一部の飛行できる機体と共に上空へと逃れる。

 

「インベーダーではない、まさか、全く異なる進化を遂げたのか!?」

 

ドラゴン号の中で早乙女博士が声を上げる。上位種であるインベーダーに寄生されている早乙女博士を襲う、それはインベーダーではありえない事だった。だが早乙女博士達は知る良しも無いが、エルドランド……それを所有する組織「シャドウミラー」は「W」シリーズと言う人造人間の作成に成功していた、そしてそのWシリーズの中で正式なナンバリングではないが、Wシリーズを作成した科学者の意向で試験的に作成された念動力を種有したWシリーズのテスト型がLシリーズのコックピットには組み込まれていた。それを取り込んだ事でインベーダーは念動力を手にし、そして自我を芽生えさせた。自分達がこそが上位種であると、そして自分達こそが更なる進化を遂げる者なのだと傲慢にも考え、それは早乙女博士に反旗を翻した。だが決して人類の味方と言う訳でもない、インベーダーも、人間をも越える存在として生まれ変わったプロトWシリーズはSRXと、インベーダーと融合し最狂最悪の悪鬼として産声を上げたのだった……。

 

 

 

 

 

弾幕の雨をオープンゲットしてかわした武蔵達だが、自分達が攻撃を避けたあとを見て絶句していた。

 

「ひでえ……」

 

「なんてパワーだ……」

 

地形が変わってしまうどの強烈な攻撃に武蔵と言えど大きく目を見開いた。渓達の姿も、シュワルツ達の姿も確認出来ない。あの弾幕の雨に飲まれてしまったのかと最悪の予想が脳裏を過ぎった。

 

「武蔵さん! 良かった、無事なんだね!」

 

「元気ちゃん、良かった……號と凱は!?」

 

「お、俺も無事です! 間一髪でしたけど」

 

「……あれを野放しにすることは出来ない」

 

號と凱からの返答もあり武蔵はほっと安堵の溜め息を吐いた。その直後黒い影が急降下していくのが見えた……ブラックゲッターだ。あの凄まじい攻撃力を見ても、恐れずに向かっていくのを見て武蔵も操縦桿を強く握り締める。

 

「私達はどうすればいいですか?」

 

「……戦闘班の捜索を行えッ! 救助できる者を何としても救え! 俺達はあの化け物を押しとめる!」

 

空を飛ぶ事で弾雨を回避したロボット軍の生き残りに救助命令を出した隼人はそのまま弁慶に指示を出す。

 

「弁慶! ゲッター1だッ! 空を飛べないと不味い!」

 

「了解ッ! チェンジゲッタァアアーーッ! ワンッ!!」

 

ブラックゲッターの後を追うようにゲットマシンも急降下し、ゲッター1へと合体を果たしメタルビースト・SRXへと突貫する。

 

「チェンジッ! ゲッタァアアーーワンッ!!!」

 

その後を追うように號達も真ゲッター1へと合体し、メタルビースト・SRXと戦う為に3体のゲッターロボ……いや、更なるゲッターの姿があった・

 

「諸君、ここは一時休戦と行こうではないか」

 

「早乙女ぇ! お前どの口が言ってるのか判ってるのか!?」

 

渓が雲の間から姿を見せたゲッタードラゴンを見て怒鳴り声を上げる。だが武蔵達は冷静だった……いや、冷静にならざるを得なかった。地上の戦闘班ともタワーとも連絡が取れず、今の戦力は乏しい。そんな中でいがみ合いをしている場合ではないと、怒りで頭の中が埋め尽くされようとしていても、僅かにまだ冷静な判断を取ることが出来ていた。

 

「……あの機体を倒すまでと言うことか?」

 

「その通り、ワシもその間はお前達を攻撃しない。それでよかろう? それとも、あれを野放しにするか?」

 

早乙女博士の挑発するような言葉に渓達と隼人は唇を噛み締めた、私怨ではなく、ここは大局を見ろと言わんばかりの口調に苛立ちを覚えた。だが早乙女博士の言っている事は決して間違いではなかった。

 

「早乙女博士、頼むぜ」

 

「ふっはははははッ! 相変わらずお前は甘いな武蔵ッ! だがあの化け物を倒すまでは味方よ、信用するがいいッ!!」

 

そしてブラックゲッターロボ、真ゲッター、ゲッターロボ、ゲッターロボGの4機によるメタルビースト・SRX討伐が幕を開けた。

 

「SRXと同じならバリアを持っているはずだ! だから気合を入れてぶん殴れッ!!」

 

ベアー号からの武蔵の助言、それを聞いて4つのゲッタートマホークがメタルビースト・SRXに向かって振り下ろされる。

 

「何ィッ!?」

 

「……ッ!?」

 

「ここまでの力の差があると言うのか!?」

 

だがメタルビースト・SRXはその場から殆ど動かず、念動力だけでゲッターロボ達のゲッタートマホークを耐え切った。そしてバイザー型のフェイスが光り輝き、そこから放たれた光線がブラックゲッターをボールのように弾き飛ばす。

 

「竜馬ぁッ! ぐおっ!?」

 

「親父ィッ!? うわああッ!?」

 

「ぐっ……なんてパワーだッ!」

 

至近距離からのハイ・フィンガーランチャーでゲッターロボが弾き飛ばされ、動揺した一瞬の隙を突いて叩き込まれた回し蹴りで真ゲッターロボも瓦礫に背後から叩き付けられる。

 

「舐めるなあッ!」

 

ダブルトマホークを振るうゲッターロボGだが、念動フィールドに弾かれ、右腕のインベーダーの部分から伸ばされた刃に柄の部分を残して切り落とされる

 

「シャアアアアアーーーッ!!!」

 

「ぬ、ぬああああーーーッ!?」

 

SRXの胴体が開き、そこから顔を出したインベーダーがライガー号に噛み付き放電し、早乙女博士の苦悶の声が響いた。

 

「「トマホークブーメランッ!!」」

 

だがそこに真ゲッターとゲッターロボの投げつけたトマホークブーメランが飛来し、インベーダーの首を切り落としゲッターロボGを解放する。

 

「おおおらああああああッ!!」

 

ひらっきぱなしの胴体に向かってブラックゲッターが駆け出し、スパイクブレードを胴体に突き刺す。

 

「ギギュアアアアアアッ!?」

 

「うるせえ! 黙ってろっ!」

 

スパイクブレードを何度も突き刺し、ゲッタートマホークを胴体に押し込み胴体が閉じないようにしたが、それ以上はメタルビースト・SRXもさせないと言わんばかりに再び念動フィールドを展開しブラックゲッターを弾き飛ばした。

 

「竜馬! 大丈夫か」

 

「うるせえッ! 話してる暇があったらさっさとあのデカブツを倒しやがれッ!」

 

弁慶の言葉に怒り心頭と言う感じで返事を返す竜馬だが、本当にその通りだ。SRXは全身が武器と言っても過言ではない、それがインベーダーと融合した事でその破壊力は格段に上昇している。今はまだ完全にインベーダーがその体を理解していないが、もしも完全にSRXを把握してしまえば勝ち目は限りなく低くなる。

 

「シャアッ!!」

 

脚部のシャッターが開き、そこからインベーダーに寄生されたミサイルの雨が降り注ぐ。

 

「號ッ!」

 

「……ゲッタァビィィムッ!!!」

 

インベーダーが寄生しているから逃げても何処までも追いかけてくる。真ゲッターの頭部ゲッタービームがミサイルを打ち落とすのを見て隼人と竜馬が声を荒げた。

 

「馬鹿がッ! 相手の思う都合だッ!」

 

「ひよっこ共があッ! 状況判断も出来ねえのかッ!!!」

 

その怒声に渓達は何で怒られたのか一瞬理解出来なかった。だがすぐに怒鳴られた理由を悟ってしまった……ミサイルが打ち落とされたことで発生した煙で視界を完全に奪われてしまっていたのだ。

 

「しまっ! ぐふうっ!?」

 

「う、うわあーーーッ!?な、何!? 何が起きて……」

 

煙に紛れて突っ込んできたメタルビースト・SRXの豪腕でブラックゲッターが上空に殴り飛ばされ、真ゲッターロボは至近距離のガウンジェノサイダーの放射でエルドランドに叩き付けられる。

 

「リョウ! 元気ちゃんッ! うおっ!?」

 

「ちいっ、こんな隠し球まであるのか……」

 

「こいつはかなり不味いぜ……」

 

異形の右腕から出現した剣……インベーダーの細胞で作られたZ・O・ソードが赤黒く輝き、そこから放たれた念動刃に弾き飛ばされるゲッターロボ。そして背中の翼から射出されたガンビットがメタルビースト・SRXの周辺を飛び交い始める。徐々に、徐々にだがSRXの能力を引き出し始めたインベーダーに武蔵達は背中に冷たい汗が流れるのを感じるのだった……。

 

 

 

 

 

瓦礫の中から手が出現し、そこから這い出るようにタイプSとステルバー達が姿を見せた。メタルビースト・SRXの弾雨が着弾する寸前ブレードモードに変形したR-SOWRDの一閃で地下に隠れた戦闘班とカーウァイ達は間一髪で直撃を回避していた。

 

「すまない、助かった」

 

「……いや、あの場合はああするしかなかった……だが、駄目だな。変形機構はやられた……ちいっ、PTモードに変形出来ない」

 

自身が作り出したクレーターの中で動く事ができないブレードモードのRーSOWRD。だがそれは無理もない、元々完全に製造されていなかったのをこうして運用している段階で不具合があるのは当然。それなのに変形し最大出力で攻撃を繰り出せば不具合が重なり動けなくなるのは当然だった。

 

「くそったれ、状況はどうなってやがるッ!」

 

激しい爆発が続き、状況が全くつかめないことにシュワルツが怒りの声を上げる。

 

「落ち着け、タワーとの連絡も取れない。それに負傷者が多数だ、ここは冷静に動くべきだ」

 

地下に隠れたとは言え、メタルビースト・SRXのパワーは凄まじかった。地下に隠れた戦闘班の大半の機体が行動不能に陥っていた、辛うじて動く事が出来ると言うのがシュワルツとランバートのステルバー、そしてゲシュペンスト・タイプSだった。

 

「イングラム、本当にPT形態には変形出来ないのか?」

 

「出来るならとっくにしている。量産型だから構造が脆いんだ、くそっ、やはり再建造するしか……なんだ!?」

 

その時地響きを立てて、メタルビースト・R-GUN、そしてメタルビースト・R-SOWRDが姿を見せ周囲を物色する。自分達を探しているのかと息を潜めたイングラム達だが、2機のメタルビーストのとったあまりにおぞましい行動に息を呑んだ。

 

「く、喰ってやがる」

 

「共食いだと……そんな事例は今までない筈だ」

 

メタルビーストR-GUN達は最初の弾幕で行動不能になったメタルビースト・アシュセイバー達やインベーダーをその牙で引き裂き、おぞまし音を立てて捕食していた。インベーダー同士の融合は何度も合ったが、捕食と言うのは初の出来事だった。

 

「消滅していない」

 

「……本当に捕食しているとでも言うのか……」

 

メタルビースト・R-GUN、R-SOWRDに食い殺されたインベーダーは消滅せずに、その躯をその場に晒している。2機のメタルビーストの行動は今までのメタルビーストの中でも類を見ないを見ないもので、何をしようとしているのかイングラム達は理解出来ないでいた。

 

「「!!」」

 

だが突如2機のメタルビーストが地面を蹴り空を走る。見つからなくても良かったと思ったのは束の間、変形したメタルビースト・R-SOWRDがメタルビーストSRXの手に収まったのを見て、イングラムは何をしようとしているのか理解した。

 

「シュワルツ! ランバート! 動かせる機体を全部動かして、R-SOWRDを運べッ! あいつら……ここら辺を吹き飛ばすつもりだ!」

 

Z・O・ソードと合体したR-SOWRDの刀身が赤黒く輝くのを見てシュワルツ達も顔を青褪めさせる。

 

「運んで何とかなるのか!?」

 

「出力は負けるかもしれんが、R-SOWRDをフルドライブさせて直撃だけは回避するしかあるまい」

 

避ける事も、逃げる事も出来ない絶望の一撃、幸いな事にメタルビーストを喰らってもエネルギーが万全ではなかったのか念動フィールドを全開にしてゲッターロボ達の攻撃を防いでいる今なら間に合う。

 

「だが、こんな馬鹿でかい剣をどうやって振るう!?」

 

「真ゲッターロボのパワーなら可能だ! 急げぇッ! 間に合わなくなるッ!」

 

R-SOWRDの出力を全開し、エネルギーの充填を始める。放熱を始めるR-SOWRDを生き残りの機体で担ぎ上げ、真ゲッターの元へと運ぶ。

 

「やばいぜッ!? あいつとんでもない事をするつもりだッ!」

 

「ぬ、うおおおおおおーーーッ!!!」

 

メタルビースト・SRXの異常なエネルギーの高まりに気付き、ゲッターロボ達が必死に攻撃を繰り出す。

 

「回復スピードが速すぎる!?」

 

「だ、駄目だ。もう間に合わないッ!」

 

「諦めんなッ! リョウッ!」

 

「おうッ!!!」

 

確かにメタルビースト・SRXの念動力は強力だった。だが決して貫けない訳ではない、だがダメージを与えても即座に回復するそのインベーダーの特性が決め手を欠けさせていた。一瞬でメタルビースト・SRXを消滅させるだけのパワーが無ければ回復してしまう、それがわかっていても武蔵達は諦めない。そもそも絶望的な戦いなど何回も経験してきている。この程度で諦める柔な心では無かったのだ。

 

「シャアアーーーッ!!」

 

それはあくまでメタルビースト・SRXの回復力を前にしては微々たる物で、恐れる必要も無い攻撃だった。だがそれが重なれば、メタルビーストとは言え生き物だ。鬱陶しいと言わんばかりに触手による薙ぎ払いがブラックゲッターとゲッターロボに向けられるが……。

 

「ワシに刃向かうとは良い度胸よッ!!! 消え失せいッ!!!」

 

「ギギャアアッ!?」

 

背後からのシャインスパークの直撃でメタルビースト・SRXに初めて大ダメージが与えられた。

 

「ぬうっ! ふっはははは、ここまでのようじゃな。エルドランドはくれてやる! さらばだッ!!!」

 

しかし反撃に繰り出された触手が胴体に絡みつき、凄まじい放電をゲッターロボGに流し込む、その放電に耐えられないと判断したのと、これ以上深追いをするのは危険だと判断したのか早乙女博士はオープンゲットし、ドラゴン号だけで戦場を離脱する。

 

「くそ、早乙女ッ!!! 逃げるな!!」

 

ゲットマシンなら撃墜する好機だった、だがメタルビースト・SRXから射出されたビットが飛び交い、逃げるゲットマシンに向かって叫ぶしか出来ない渓。しかし早乙女博士の攻撃は決して無駄ではなく、反撃の好機を號達に与えてくれた。

 

「使え! ゲッターチーム!!」

 

ビットを回避しながらR-SOWRDを運んできてシュワルツ達がブレードモードのR-SOWRDを真ゲッターに向かって投げる。

 

「號ッ! R-SOWRDを使えッ! このままでは全滅だ」

 

「……判ったッ!」

 

地面に突き刺さったR-SOWRDに気付き真ゲッターがその柄を掴み持ち上げるのと、メタルビースト・SRXがメタルビースト・R-SOWRDを振り上げるのは殆ど同じタイミングで次の瞬間、世界が軋むような音を立てて2つのR-SOWRDから伸びたエネルギー刃の刀身がぶつかり合い、凄まじい爆風が巻き上がるのだった。

 

 

 

 

 

エネルギー同士がぶつかることで生まれた雷と爆風で視界が遮られ、何もかもが判らなくなる中。武蔵は気付いていなかったが、武蔵の身体をゲッター線の翡翠の光が包み込み始めていた。

 

「弁慶! ゲッタービームの出力を最大にして待機ッ!」

 

「おうッ! エネルギーは全部こいつに使うッ!!」

 

隼人と弁慶、そして自身の声がどこか遠くに聞こえる。ぼんやりしている訳ではないのに、それが自分の事のように武蔵は思えなかった。

 

【……し……むさ……】

 

(なんだ……これ……)

 

誰かがどこかで呼んでいる……ぼんやりとした意識の中で武蔵はそれを感じていた。

 

「!?!?」

 

「ぐっ!? なんとか……なった……か」

 

R-SOWRD同士のぶつかり合いは双方大破、そしてイングラムは気絶、メタルビースト・SRXの片腕を吹き飛ばすと言う合い打ちになったが、メタルビースト・SRXの腕に即座にメタルジェノサイダーモードに変形したR-GUNが収まる。

 

「フルパワーだッ!! 弁慶! 號ッ! 合わせろッ!!!」

 

「……了解ッ!」

 

「こっちはいつでもいけるぜッ!!!」

 

メタルジェノサイダーモードの一撃を防ぐにはこれしかないと、ブラックゲッター、ゲッターロボ、真ゲッターロボの腹部が解放され、炉心と直結されたビーム発射口が姿を見せる。

 

「「「ゲッタァアア……」」」

 

「ウルルル、ウオオオぉオーーーッ!!!」

 

互いの発射口に膨大なエネルギーが集まり……そして殆ど同じタイミングでゲッターロボ達とメタルビースト・SRXは攻撃に動き出した。

 

「「「ビイィィィムッ!!!!」」」

 

「ガアアアアアアーーーッ!!!」

 

3つのゲッタービームとメタルビースト・SRXのエネルギーも借りたメタルジェノサイダーがぶつかり合う。

 

「う、うおおおおーーーッ!?」

 

「がっ、ぐうう、ランバートッ! シュワルツッ!!」

 

ぶつかり合いで生まれた暴風に弾き飛ばされたステルバーをゲシュペンストが受け止めるが、タイプSにもエネルギーの余波が襲い掛かり、その装甲を容赦なく削り、耐え切れなくなりタイプSも吹き飛ばされるが逆にそれが幸運を呼んだ。吹き飛ばされた直後にタイプSが立っていた場所にエネルギーのぶつかり合いで生まれた雷電が炸裂したからだ。もし踏み止まっていれば、間違いなく3人とも死んでいた。

 

「う、ウオオオオオオオオーーーッ!!!!」

 

「オオオオオーーーッ!!!」

 

「いっけええええッ!!!」

 

そして永遠に続くかと思われたゲッタービームとメタルジェノサイダーのぶつかり合いはメタルジェノサイダーの放射が僅かに弱まった瞬間に、一気にゲッタービームが押し込みメタルビースト・SRXはゲッタービームの光の中に消えた……。

 

「はぁ……はぁ……な、何とか倒したか。隼人、武蔵さん。無事か?」

 

「俺は大丈夫だ。武蔵、お前は……武蔵?」

 

「武蔵さん?」

 

だがメタルビースト・SRXを倒しても万事解決と言う訳ではなかった。

 

「おい、武蔵。ふざけているのか? 返事をしろ!」

 

「武蔵さん!?」

 

隼人と弁慶の様子がおかしいのに渓達も気付き武蔵の名を呼ぶが、武蔵からの返答は無く漸くノイズが収まりベアー号の中がイーグル、ジャガー号に映し出されたとき……。

 

「む、武蔵さんがいないッ!? そんな……何が起きてるんだ!?」

 

「……馬鹿な……これはどういうことだッ!!!」

 

映し出されるベアー号の中に武蔵の姿は無く、シートベルトも締められた状態のまま武蔵の姿はこつぜんと消えているのだった……僅かに残されたベアー号の中を舞う翡翠色の粒子……それだけがベアー号に残された物なのだった……。

 

 

第17話 夢の残滓 その1へ続く

 

 




メタルビースト・SRXを一時撃退しましたが、武蔵消失。次回はちょっと旧西暦から離れて話を書いてみたいと思います。
それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


おまけ


メタルビースト・SRX

極めて近く限りなく遠い世界の1つで建造された量産型SRXにインベーダーが寄生し、メタルビーストへと変貌したSRX。本来ならばインベーダーとしての上位種である「早乙女博士」「コーウェン」「スティンガー」の始まりのインベーダーには向かうことは無いが、アインス・ツヴァイ・ドライに組み込まれていた念動力搭載型Wシリーズを取り込んだ事で自我及び強力な進化が促され、始まりの3体のインベーダーに対して反旗を翻した。同じく量産された量産型RーGUN、量産型R-SOWRDと行動を共にしており、R-GUNとの広範囲攻撃、R-SOWRDとの強烈な攻撃により真ドラゴン以上の脅威となっている。3体のゲッターロボとの攻撃で姿を消したが、撃墜されたという証拠は無い……。
近距離~遠距離を完全にカバーする武装の豊富さ、そしてインベーダーと融合した事で一部生物的な攻撃方法を獲得し、その姿はSRXと言うよりもアストラナガンと融合したDiSRXに近い姿となっている。


HP????(30万)
EN650
装甲1800
運動性175

特殊能力
念動フィールド(強) 3000以下のダメージを無効にする。
HP回復(特大) ターン開始時にHPが50%回復 ※特定条件達成でHP回復(中)にダウン
EN回復(特大) ターン開始時にENが50%回復 ※特定条件達成でHP回復(中)にダウン


テレキネシスミサイル(MAP) ATK2100
ガウンジェノサイダー ATK2500
ザインナックル ATK2900
テレキネシスミサイル ATK3000
インベーダーブレードキック ATK3200
ハイ・フィンガーランチャー ATK3400
触手 ATK3500
ドミニオンボール ATK3900
噛み付き ATK4000
ガンスレイブ ATK4400
Z・O・ソード ATK4800
メタルジェノサイダー ATK5100
メタルデッドスラッシュ ATK6500


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話 夢の残滓 その1

第17話 夢の残滓 その1

 

エアロゲイターとの戦いが終わった後。姿を消したクロガネとビアン達は各地を転々としながら、早乙女博士の遺産を探していた。

 

『ビアン博士、バミューダトライアングル中のゲッター線反応はやはり研究施設でした』

 

「そうか。御苦労。捜索班に撤退命令、その後私達で再突入する」

 

ビアンの言葉に捜索班が了解と返事を返し、通信が切断される。クロガネのメインモニターには大量の×印が打たれていた。それら全てはアイドネウス島での武蔵の特攻の後に世界各地に出現したゲッター線の反応だ。

 

「ビアン総帥。また突入するおつもりですか?」

 

「そうだが? 何か問題でもあるかな? リリー中佐」

 

ビアンの言葉にリリーは溜め息を深く吐いた。止めたいと思っても止めるだけの理由がどうしても思い浮かばない、今新西暦でゲッターロボを深く理解しているのはビアンだけだ。ビアンが行かなければ何も判らないからビアンが向かうしかないのだ。

 

「仕方なかろう、ユーリアの事もある」

 

「……それはそうですが……」

 

ユーリアが武蔵に淡い恋心を抱いていたのはビアン達も周知していた。しかしユーリア自身がその感情を知らなかった事もあり、恋に発展する事はなかったが、武蔵が消えた今。今ビアンの次に熱心に武蔵を探しているのはユーリアだろう。

 

「……よろしくお願いします」

 

「構わないとも、私も武蔵君が死んだなんて思っていないからね」

 

艦長席を立ってビアンは格納庫に向かう。シーリオンを改造した捜索艇の側では既にユーリアが準備を始めていた。だがその容姿は大きく変わっていて、前はショートカットだったが、武蔵が見つかるようにと願掛けでその美しい金髪を伸ばしていた。今は肩の所まで伸びているが、それが男装の麗人という印象を与えていたユーリアを美しい美女へと変えていた。

 

「ビアン総帥」

 

カッと敬礼する姿を見る限りでは既に精神面は回復したと思えるが、ビアン達は知っている酷い不眠症を抱え、睡眠薬が無ければ眠れない今のユーリアの状態は決して良いものではない。だがそれを知っていても、ビアンはそれを口にしない。

 

「恐らく今回は武蔵君の痕跡を見つけることは出来ないだろう。それでも構わないかね?」

 

「……はい、大丈夫です」

 

武蔵が姿を消したのはアイドネウス島周辺。探すのならばアイドネウス島周辺になる、武蔵が姿を消して1ヶ月……どこかに流れ着いている可能性を考慮して最初の2週間はアイドネウス島周辺を探していたが、今はアイドネウス島が連邦軍が駐在しているが、それらはレイカーを初めとした武蔵捜索隊なので大人しく手を引いたのだ。

 

「でも、もしもと言う可能性もあります」

 

「そうだな、ゲッター線は何を起すか判らないからな。行くぞ」

 

「「「はっ!!」」」

 

敬礼しシーリオンに乗り込みビアン達はバミューダトライアングルの近郊の海へと出撃して行くのだった……。

 

「ゼンガー、エルザムは?」

 

「ゲッターロボシュミレーターに篭もりきりだ」

 

「そうか、些か根を詰め過ぎだな」

 

座禅を組んでいたゼンガーに声を掛けたラドラはそのままゼンガーの隣に腰掛ける。

 

「皆、武蔵が消えたことに少なからずショックを受けている」

 

「1ヶ月だ、それくらいで人の傷は癒えないさ」

 

たった1ヶ月で親しい友人が死んだかもしれないと言う現実を受け入れる事は出来ない。どこかで生きている……そう願いたいのは当然の事だ。

 

「エルザムもユーリアも思っているのだろう、あの時武蔵が1人で無ければとな……」

 

「仕方ない事だ。ゲッターロボに乗れるのは本当に限られた人間だからな」

 

ラドラはそう言うが、ラドラならば間違いなくゲッターロボを操る事は出来た。それでも乗り込まなかったのはゲシュペンストに拘り過ぎた事が原因だ。ラドラもそれが判っているから声のトーンが僅かに落ちた。そんな時ふと視線を上げてゼンガーとラドラは驚きに目を見開いた。

 

「武蔵は生きている……俺はそう……武蔵ッ!?」

 

「馬鹿なッ……俺は夢でも見ているのか……ッ!?」

 

ゼンガーとラドラの前を通り過ぎ、格納庫の中を歩く武蔵の姿を見て、慌てて立ち上がりその場に向かう。だが武蔵に追いつくことが出来ず、武蔵はそのまま壁の中に溶けるように消えていた。

 

「幽霊……なのか」

 

「いや、そんなはずは無い、あるものか……武蔵が死んでいるなんて……」

 

だが事実目の前で武蔵は消えた……ラドラとゼンガーは今の目の前で起きた事が信じられず、呆然とした様子で格納庫の壁に触れていたのだった。

 

「武蔵君!?」

 

「む、武蔵!?」

 

バミューダトライアングルに沈んでいた早乙女研究所に乗り込んだビアン達の前にも武蔵の姿は現れていた。そしてその姿を追いかけるが、追いつく事が出来ずゼンガーとラドラ同様目の前で消えた武蔵に驚き目を見開いた。

 

「今のは……幻なのか……」

 

「でも、あれは……確かに武蔵でした」

 

間違いなく武蔵は目の前にいた。それは夢でも幻でもない、ビアンを含めた全員がそれを見ていた。そして武蔵が消えた場所は巧妙に隠された格納庫の入り口で、ビアン達がその場に立ったことで扉を開いた。

 

「これは……ゲッター2……なのか」

 

そこには両腕を失ったゲッター2が項垂れるようにハンガーに固定されていた。

 

「武蔵はこれを教えてくれた?」

 

「……判らない、判らないが……回収しよう」

 

武蔵の事は気になる、だが両腕無いとは言え完全なゲッターロボ。テスラ研に預けているプロトゲッターとは比べられない完成度を持つそれを見たビアンは武蔵の事を後回しにし、ゲッター2の回収作業を始めた。だがこの日からオペレーションSRWに参加したメンバー、その中でも中軸を担っていたハガネ、クロガネのクルーの前に武蔵が現れると言う怪奇現象がおき始めることとなるのだった……。

 

 

 

 

伊豆基地ではオペレーションSRWの活躍もあり、計画続行されていたSRX計画の量産機のその1号機の建造が始まっていた。北米のラングレーでも同じくATX計画の続行……ではなく、次期トライアルの再開に向けての量産型ゲシュペンストMK-Ⅲの計画が本格始動し始めていた。

 

「どうだ、リュウセイ。アルブレードの具合は?」

 

量産型SRX計画のその1号機はR-1をデチューンした通称「アルブレード」と言う事もあり、R-1のパイロットのリュウセイがシミュレーターでの稼動データ集めを行っていた。

 

「ううーん、実際に乗ってないから何ともいえないけど……ちょっと軽いよ」

 

「そりゃ当然だろ、R-1のパワーを再現した量産機となればトライアウトで落選するよ。R-1として考えないで、PTとして考えたらどうだ?」

 

「……結構良い感じだと思う。パワーに欠ける分瞬発力がありそうだ。ただ両腕のブレードトンファーがちょっと軽すぎるかな? もう少し重いほうが機体制御が楽かもしれない」

 

「なるほどなるほど、ありがとう。シュミレーターから降りてくれ」

 

ロブに言われてシュミレーターを降りたリュウセイがロブへと笑いかけようとしたが、その顔が凍りついた。

 

「む、武蔵ッ!!!」

 

「え? 武蔵! お前帰って……」

 

通路を歩いていった武蔵をリュウセイとロブは確かに見た。慌ててシュミレータールームを出ると武蔵が曲がり角を曲がる姿が見えた。

 

「「い、いないッ!?」」

 

同時に駆け出し、すぐに武蔵の後を追ったリュウセイとロブだが、武蔵の姿は無かった。

 

「マジか……噂は本当だったのか……」

 

「……いいや、俺は信じねえ。武蔵は死んでなんかねえッ! 教官もだッ!!」

 

ハガネ、ヒリュウ改の関係者の前に武蔵が現れ消えていくと怪奇現象の噂はリュウセイも聞いていた。だが実際のこうして見てみると武蔵が死んだのではと言う説が急に現実味を帯びてくる。

 

「どうした? 何を騒いでいる?」

 

「リュウセイ。オオミヤ博士と揉めているのか?」

 

「ヴィレッタ隊長……それにライ……いや、その……」

 

武蔵の姿を見たと言い出せず口ごもるリュウセイにヴィレッタとライはロブに声を掛ける。

 

「どうした? アルブレードの調子はそんなに悪いのか?」

 

「まだシュミレーションの段階と聞いていますが……リュウセイは量産機の開発に携わるのは初めてだったな。あまりオオミヤ博士に文句を言う物ではないぞ」

 

リュウセイがRー1の量産機の開発の事で文句を言っていると思ったライがそう窘める。

 

「いいえ、違います……武蔵です。俺もリュウセイも武蔵を見たんです」

 

その言葉にヴィレッタとライは顔を顰めた。

 

「ブリーフィングルームの前は誰も通っていないぞ?」

 

「……でも確かに見たんだ。あれは武蔵だった……」

 

武蔵を見たというリュウセイ。その姿にライは監視カメラを指差した。

 

「なら映像を見て見ましょう。ヴィレッタ隊長お願い出来ますか?」

 

「ええ、良いわよ。そっちのほうがリュウセイも納得するだろうしね」

 

大尉の権限で監視カメラの映像データをブリーフィングルームのモニターに映し出したヴィレッタとライ。だが2人の表情も強張った……

 

「武蔵……そんな馬鹿なッ!?」

 

「……信じられないわね」

 

監視カメラにも通路を歩く武蔵の姿は映っていた。そしてブリーフィングルームの前で翡翠色の光に包まれ、その姿を消していた。

 

「……この件は他言無用よ。ダイテツ中佐とレイカー司令には伝えておくけど、いらない不安は煽らないで頂戴」

 

「「「了解」」」

 

固い口調のヴィレッタにリュウセイ達は呆然とした様子で返事を返す事しか出来ず、納得できないものがあるのはその表情から判っていたが頷いた。

 

「そうか……伊豆基地でもか……」

 

「伊豆基地でもと言いますと?」

 

「うむ。北米のラングレー、イカロス基地のヒリュウ改でも武蔵君の姿は目撃されている」

 

レイカーの言葉にヴィレッタは眉を細めた。MIA認定の武蔵だが武蔵と伴に戦った大半がそれを信じていない。だがアメリカ、そして小惑星帯のアステロイドベルトに存在するイカロス基地でも目撃されたとなると死んだ武蔵が現世をさまよっていると言う話も信憑性を帯びてくる。

 

「……クロガネでも目撃されている」

 

世界を転々としているクロガネでも目撃されたという話が出れば、ますます武蔵の死亡説が信憑性を帯びてきた。

 

「とりあえずだ、この件は他言無用だ。判ったな、大尉」

 

「は、了解しました」

 

武蔵が生きていると信じている者が多い中、死んだかもしれないと言う話が出るのは今の連邦の情勢上宜しい物ではない。敬礼し退室するヴィレッタを見送りレイカーは溜め息を吐いた。

 

「それで……君は私に何を言いたい?」

 

『……』

 

背後に現れた気配に振り返るレイカー。そこには武蔵が無言で佇んでいた……初めて聞いたという反応をしたが、レイカーは数日前から武蔵の姿を見ていた。

 

「恨み言があるのなら、ワシは謝罪しか出来ん」

 

『……』

 

1人で死なせてしまったことに恨みでもあるのかとレイカーは武蔵に声を掛ける。だが武蔵は何も言わない、ただその目に焦りの色を浮かべ、レイカーを見つめ続ける。

 

「地球圏にまた何か大きな事件が迫っているのか?」

 

『……こくり』

 

その言葉に頷いた武蔵はゲッター線の光となって消え去った。

 

「……警告してくれたのか、急げと……」

 

L5戦役が終わってまだ1ヶ月と少し、だが新たな戦いが迫っていると警告してくれた武蔵にレイカーは感謝し、司令室の背もたれに深く背中を預けるのだった……。

 

 

 

 

 

ラングレー基地で行われているゲシュペンスト・MK-Ⅲの設計は今任務が無いキョウスケ達が協力していた。

 

「わーお、やりい、私の言ってた武装が採用されてるわ」

 

「可変式のビームランチャーか、ラドム博士も今回は本気と見た」

 

「アルトアイゼンでもかなり本気だったと思うけどね」

 

トライアルの再試行で今度こそゲシュペンスト・MK-Ⅲの名を得ると気合を入れているマリオン博士にキョウスケは苦笑する。

 

「今回は素体をベースに作戦に応じて装甲と武装を変更する事で汎用性を高めるという物だからな」

 

「そーそー、射撃型に私の意見を取り入れてくれたのは嬉しいわ」

 

今回のトライアウトに参加するゲシュペンスト・MK-Ⅲはノーマル、射撃型、格闘型の3種類を参加させる事になっている。ヒュッケバイン・MK-Ⅱを上回る汎用性と装備を与える事でトライアウトを確実に合格するつもりなのだ。

 

「ノーマル型ってさ、あれよね。普通のゲシュペンストと外見的には変わらないけど……」

 

「そのスペックは桁違いだ。量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲが量産されれば前のような事にはなるまい」

 

L5戦役の最大の失敗は上層部の混乱と、利益だけを追求した一部の高官の暴走だ。だがL5戦役でそれらが死んだ事で、レイカーを初めとした交戦派が力をつけたのは大きいだろう。

 

「そういえば、あの噂……聞いた?」

 

「……ああ。武蔵の事だろう」

 

武蔵の姿を見たと言う話はキョウスケ達も知っていた。キョウスケ達が直接見たわけではないが、ブリットとクスハが見たと青白い顔でブリーフィングルームに駆け込んできたのは記憶にも新しい。

 

「おいおい、あんまりその話をするなよ。キョウスケ、エクセレン」

 

背後から聞こえてきた声にキョウスケとエクセレンは驚きながら振り返った。

 

「カイ少佐、それにギリアム少佐。何故ラングレーに……」

 

カイそしてギリアムの2人がラングレーにいる事を聞いていなかったキョウスケは思わずそう尋ねていた。

 

「ん? なんだ聞いて無いのか? ゲシュペンスト・MK-Ⅲのデータの一部にリバイブを使いたいと言う事でな」

 

「テスラ研でオーバーホールを受けている間。俺達も開発に関わる事にしたのだ」

 

旧西暦の技術を流用しているゲシュペンスト・リバイブのメンテは並みの設備では出来ず、アメリカのテスラ研で行われている。その間カイとギリアムはやる事が無いと言う事で、マリオンの要請もありラングレーに訪れていたのだ。

 

「カイ少佐。ラトちゃんは?」

 

「ラトゥー二か、あいつは日本だ。まぁそのあれだ……判るだろ?」

 

口ごもるカイにエクセレンは楽しそうに笑った。日本を発つ前に大分良い関係になっているように見えたリュウセイとラトゥー二の事を考えて伊豆基地に残してきたのだろう。

 

「カイ少佐、やるうッ!」

 

「別にそう言う訳ではないのだが……まぁ良いだろう。それでキョウスケ、エクセレン。ゲシュペンスト・MK-Ⅲの件はどうだ?」

 

ラトゥー二の話を強引に打ち切り、MK-Ⅲのことを尋ねるカイ。

 

「そうですね、やはりトルクがかなり良いですね。それに反射速度も良いです」

 

「それに汎用装備の多さが魅力よね。フライトユニットをメインにして色々換装できるって言うのが良いですよ」

 

「ほう、それは楽しみだ。試作機も出来ているらしいし、少し乗らせてもらうか。なぁ? ギリアム……ギリアム?」

 

ギリアムの名を呼んだがギリアムが返事を返さない事に怪訝そうな顔をするカイ。ギリアムの視線の先を見てカイも目を見開いた。

 

『……』

 

「「「「む、武蔵ッ!?」」」」

 

キョウスケ達を見つめる武蔵の姿がそこにはあった。だが瞬きの間にその姿は消えていた……。

 

「キョウスケ……見た?」

 

「あ、ああ……見た」

 

「嘘……幽霊……?」

 

「……噂には聞いていたが……初めて見たな」

 

「そうですね。怖いというよりも驚きました……」

 

武蔵がハガネ、ヒリュウ改のクルーの前に現れると言う話は聞いていたが、直接見たのはこれが初めてで、歴戦の兵士たるカイ達でさえも言葉を失った。

 

「キョウスケ少尉、ああ、カイ少佐達も来てくれたのですね。丁度良かった、これからゲシュペンスト・MK-Ⅲの……どうしたんですの?」

 

「武蔵がいた……」

 

「なるほど、あの噂は本当だったと言う事ですか、ならなおの事急いでください」

 

武蔵がいたと驚いているキョウスケ達に急げと言うマリオン。その顔を思わず見つめたキョウスケ達にマリオン博士は肩を竦めた。

 

「武蔵が出て来たということは、危機を知らせているのでしょう。ならば私達に立ち止まっている時間はありませんわよ」

 

マリオン博士の言い分は冷酷だが、確かにその通りだと思わせた。地球の事を誰より思っていた武蔵。そんな武蔵が現れたと言うこと事態が地球に危機が迫っているのかもしれないという警告だと受け取る事も出来た。

 

「だから私達は武蔵が帰ってきた時、もう彼1人に何もかもを押し付けないように戦力を整えておく事ですわ」

 

マリオン博士の言葉に頷き、キョウスケ達は少しでもゲシュペンスト・MK-Ⅲの完成度を高める為にデータ取りの為の模擬戦を始める為に機体へと乗り込む。

 

「ギリアム少佐は機体が無いのでもう暫くお待ちください」

 

「いや、構わないよ。考え事をしたいと思っていたからな」

 

機体が無いことを謝罪するマリオン博士に気にする事は無いと返事を返し、データ観測室に足を向けるギリアム。だがその顔は険しく、そして誰にも聞かれることが無いが小さくある言葉を呟いていた。

 

「XNガイスト……」

 

その言葉が何を意味するのか、そしてギリアムが何を考えているのか……それは誰にも判らないのだった……。

 

 

 

 

執務室に書類を捲る音だけが響き続ける。その部屋の主……グライエン・グラスマンの顔は悲壮感に満ちていた。

 

「生き残りはいないのか……」

 

グライエンが今行っているのは、ゲッターパイロットであった。「流竜馬」「神隼人」「車弁慶」の血縁者の捜索だった。グライエンもまた武蔵の死を信じておらず。武蔵が戻って来た時の為にと行動に出ていた。

 

『ブライ議員の提唱する。英雄機ゲッターロボの量産計画の……第一次計画の可決が今賛成多数で決定しました。開発にはテスラ研や、マオ社、そしてイスルギ重工など各工場の垣根を越えて行われるようです』

 

『ゲッターロボによって地球は救われました。私達にゲッター線を扱う技術は無いですが、各企業の技術を結集すれば、ゲッターロボに負けない機体が出来ると私は考えています』

 

『ブライ議員はムサシ・トモエについてどうお考えですか?』

 

『勿論地球を救ってくれた尊敬に値する英雄だと思っています。MIAと聞いておりますが、彼が見つかる事を私も心から祈っております』

 

「ふん、あの議員か……まぁ……」

 

TVで見ていた国会の話を聞いて自分ではないが、ゲッターロボの素晴らしさが広がるのはいいと笑ったグライエンだった。

 

「ん? ブライ……?」

 

だがその議員の名前が何故か頭の中で引っかかっていた。ハーバード大学を卒業し、AT企業で働いた後、議員に立候補した。今ではアメリカを代表する議員の1人だ。

 

「何故だ、何故こんなにも胸騒ぎを覚える?」

 

今までこんな事は無かった。何度も会談をしたし、互いに議論も交わした。その時にこんなに嫌な予感を感じた事は無かったのに何故とグライエンは首を傾げていた。

 

『グライエン議員。シャイン・ハウゼン国家主席が参られました』

 

「ああ、そんな時間か、すぐに行くと返事をしてくれ」

 

会議の後に訪れると聞いていたが、こんなにも早いとはと肩を竦めグライエンは書類を片付けて席を立つ。自分が感じた胸騒ぎは気のせいだと考えて、だがそれが自分の第六感による警告だと気づいた時……それは何もかもが手遅れになった後であった。

 

『まだ声は届かぬか、仕方あるまい』

 

そしていそいそと部屋を出て行くグライエンを見つめる早乙女博士の存在にグライエンは最後まで気付く事は無いのだった……。

 

 

 

第18話 夢の残滓 その2へ続く

 

 




今回は武蔵のいない新西暦の話でしたが、ゲッター線が武蔵の姿をしてあちこちに出没。これが何を意味しているのかそれはOG2編で明らかにしたいと思います。次回は今回の話で出なかった人達の話を書いて、また真ゲの世界の話に入って行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話 夢の残滓 その2

第18話 夢の残滓 その2

 

アイドネウス島から半径20キロは現在連邦軍によって封鎖状態にあった。その理由は勿論ゲッターロボの捜索および、メテオ3の捜索に加え、宇宙で破壊された「レビ・トーラー」が騎乗した大型機動兵器ホワイトデスクロスと命名された「ジュデッカ」の残骸の落下予測区域だったからだ。

 

「ふう、結構ハードね……」

 

R-3パワードから降りたアヤがヘルメットを外して汗を拭う。強い念動力を持つアヤは自身の父ケンゾウから協力要請を受け、本人の強い希望もあり現在は伊豆基地からの出向と言う事でアイドネウス島に仮設された研究基地で落下物の捜索を行っていた。

 

「疲れたな。すまないな、アヤ。お前に負担を掛ける」

 

「お父様……いえ、私は大丈夫です」

 

「アヤ……すまないな。後は休んでくれ、次の捜索ポイントが決まり次第連絡する」

 

「判りました」

 

敬礼し女性寮に向かうアヤの姿をケンゾウは黙って見つめる事しか出来ない。自分が行った非道な研究、そしてその結果が自分の娘を酷く苦しめる事になった。確かに研究者である、だが自分の家族を不幸にした事……オペレーションSRWで己の罪を突きつけられた事によりケンゾウにかつての苛烈さと念動力を解明したいという欲求は薄れ、まだ差ほど歳ではないのに老人のように枯れていた。

 

「ケンゾウ博士。アヤ大尉のおかげで捜索ポイントが大分減りました。残るポイントは……4箇所です」

 

「そうか……ゲッターロボが沈没しているかもしれない海域を中心に捜索しよう」

 

「はい、でも私達は出来れば見つからないで欲しいと思っています」

 

「……生きていて欲しい、そう思っているのだな?」

 

「はい、私は北京方面の支部でして、私達はゲッターロボに、武蔵に救われましたから」

 

にっこりと笑う若い軍人の姿にケンゾウは言葉を失った。最後の戦いの記録は公表されていない、だからこそ生きていると信じている者は多い。

 

(酷な事をする)

 

あの映像を見たケンゾウは理解している。武蔵、そしてイングラムは共に戦死していると、あそこまで機体が潰れ、爆発炎上すれば生存率などある訳が無い。

 

「見つかると良いな」

 

「はいッ!」

 

弾ける笑顔の若い軍人に対してケンゾウは苦虫を噛み潰したような顔で頷く事しか出来ないのだった。

 

『お父様。ポイント4-Q-5に反応はありません』

 

「そうか、ではそのまま北上してポイント4-Q-7の方向に向かってくれるか」

 

残されるポイントが少なくなっていくことを感じながら、ケンゾウはアヤに指示を出す。そのときだった……。

 

『そ、そんな……』

 

「アヤ? アヤどうした!?」

 

突如声を震えさせたアヤの声に気付き、ケンゾウが声を掛けるがアヤからの返事は無い。

 

『げ、げったー……ゲッターロボが……』

 

「ゲッターロボだと!? R-3のモニターをこっちに回せ!」

 

「りょ、了解!」

 

ケンゾウの指示に従い研究員がコンソールを操作する。そしてモニターに映し出された物を見てケンゾウ達は息を呑んだ。

 

「げ、ゲッターロボ……」

 

そこには翡翠の輝きで作られたゲッター1がマントを翻し、空を飛んで行く姿が映し出されていた。

 

「お、追え! アヤッ! 見失うなッ!!」

 

『りょ、了解ッ!!』

 

R-3パワードが全速でゲッターロボを追うが、ゲッターロボに追いつく事が出来ない。その姿を見たケンゾウは座っていた椅子から立ち上がる。

 

「ケンゾウ博士どこへッ!」

 

「サルベージ船だ! 絶対何かがあるッ! ワシはそれを見なければならないッ!!」

 

港に停泊しているサルベージ船にケンゾウが走る中。アヤは空中でゲッターロボと対峙していた。

 

「武蔵……少佐なの?」

 

『……』

 

ゲッターロボからは何の反応も無い、だがその手が開き海を指差す。

 

「そこに何が……い、いないッ!?」

 

その指先を見る為に僅かにアヤが視線を逸らした。その時間は僅かに数秒、だがその数秒でゲッターロボの姿は消えていた。

 

「……まさかここに沈んでいるの?」

 

どうか違って欲しい、武蔵もイングラムも死んでいて欲しくない、そう願うアヤは震える手でゲッターロボが指差した海域にポイントマーカーを打ち込み、サルベージ船が来るのを待った。

 

「これは……ホワイトデスクロスのッ!?」

 

「よ、良かった……ゲッターロボじゃなかった……」

 

サルベージ船によって引き上げられたのはゲッターロボではなかった、だがゲッターロボと同様に連邦が捜し求めているホワイトデスクロスの胸部エリアの残骸なのだった……。

 

 

 

 

月のマオ社のPT開発区画にリョウトの姿はあった。現在月のマオ社では次期量産機の再トライアルに向けて新型の機体の開発を行っていた。そしてオペレーションSRWの時はパイロットとして活躍したリョウトは本人の希望もあり、マオ社の技術者としての進路を歩み始めようとしていた。

 

「……駄目だ。今のままではトライアウトに敗れる」

 

「カーク博士、そんなに気を落とさないでください」

 

「あ、ああ。大丈夫だ……ゲシュペンスト……MK-Ⅲにはこのままでは勝てない」

 

1度はトライアウトで破った相手だが、今では勝てないとカークは考えていた。あの当時はゲシュペンストを旧式と考える上層部や政治家が多いと言うのもカークへの追い風になっていた。だがオペレーションSRWでフライトユニット装備のゲシュペンストとゲシュペンスト・リバイブ、ゲシュペンスト・シグと言う規格外の期待の活躍によって上層部は意見を変えたのだ。

 

「想定していたスペックを5~10%あげなければ……」

 

「でもそれだとフレームが耐えれないですね」

 

「ああ……トライアウトまで時間がない。ここから組み直すというのも難しい……」

 

「でもあくまでリバイブとシグだけでしょう。あれと比べなくても良いのでは?」

 

「……判っている。判ってはいるんだ、あれがワンオフと言うことは……だが私は見てしまった。ならばそれに挑戦せずに諦めると言うこ

とは出来ないのだ……いや、すまないな、少し休む」

 

「はい、後は僕に任せてください」

 

ふらふらと研究室を出て行くカーク。4徹目のカークの目の下の隈を見ればここで1度休むと言い出してくれて良かったとリョウトは思っていた。

 

「リョウト君、今カーク博士が凄い顔で出てきたけど……」

 

「リオ、うん。リバイブとシグに勝てないって随分と思いつめてるみたい」

 

「そうなんだ。それより、はい。夜食」

 

「ありがとうリオ」

 

リオが持ってきてくれた夜食を食べながらリョウトはコンソールの操作を続ける。

 

「トライアウトの機体がシグやリバイブレベルなの?」

 

「う、うーん、流石にそこまでじゃないと思うよ。あれはラドラさんがいて初めて出来るものだからね」

 

ラドラが色々とノウハウを渡したようだが、それでも人間が再現するには限界がある。限りなくシグやリバイブに近いスペックが出たとしても、それでもそれを量産機レベルに落とし込むのは不可能だ。

 

「マグマ原子炉は使えないのよね?」

 

「うん。あれは国連が保持するらしいからね」

 

メカザウルスから摘出した炉心は全部で8つ。そのうちの5つが国連が保持すると発表した、だから今は伊豆基地に1つ、テスラ研に1、そしてここ、月のマオ社に1つ。そして公表されていないがクロガネに2つだけだ。

 

「あれを使えればよかったのに」

 

「駄目だよ、リオ。あれは特注のフレームじゃないと耐えれないよ」

 

新西暦の技術ではあれに耐えれるフレームは作れないとリョウトは笑う。

 

「ご馳走様でした。美味しかったよ」

 

「そう、それなら良かったわ……所でリュウセイ君から気になるメールが来たんだ」

 

神妙な顔をしているリオを見てリョウトが心配そうに尋ねる。

 

「武蔵君を見たって……消えたらしいけど」

 

「……それは」

 

「判ってる。判ってるわよ? 見間違いだと思うの……だけど気になるじゃない」

 

「うん。それは僕も同じだけど……」

 

リョウトもリオも武蔵の死を信じていない。だから武蔵を見たと聞いてもやはり信じたくないと言う気持ちが強い。

 

「……武蔵さんは人を恨むような人じゃない。だからきっと違うと……リ、リオッ!? きゅ、急にどうしたの……リオ?」

 

顔を青褪めさせたリオが抱きついてきてリョウトは赤面するが、その身体が震えているのを見てただ事ではない事を感じていた。

 

「……りょ、リョウト君……あ、あれ……」

 

「……そんな……武蔵さんッ!?」

 

マオ社の通路を歩いていく武蔵を見て、リョウトは慌てて立ち上がる。

 

「リオはここにいて、もしかしたら武蔵さんじゃないかもしれない」

 

「りょ、リョウト君……」

 

エアロゲイターの残兵がなにかしているのかもしれないと思い、リョウトはリオに残るように告げて後を追って走り出す。

 

「武蔵さん! 武蔵さんなんですか!!」

 

『……』

 

呼びかけて走っているが武蔵は返事を返さず、足音を立てず滑るように通路を進んでいく。

 

(おかしい、これはおかしいぞ)

 

これだけ走っているのに誰とも擦れ違わないことに違和感を覚えながらリョウトは武蔵の後を追い続ける。

 

(格納庫……)

 

メンテが行われているR-1のハンガーを通り、そして更にその奥月面で回収された崩壊したゲッターロボの残骸が眠る格納庫の中に武蔵の姿は消える。

 

「……武蔵さんの姿をして何のつもりですか」

 

武蔵では無いと考えたリョウトが護身用のハンドガンの銃口を武蔵に向ける。

 

『気をつけろ、悪意が目覚めようとしている』

 

「……武蔵さん?」

 

『気をつけるんだ。急げ、戦う準備を整えるんだ。時間はもう残されていない』

 

「武蔵さん! 武蔵さんなんですね! 今どこにいるんですか!?」

 

『また会える。いつかな……だから頼んだぜ、リョウト』

 

「武蔵さんッ!!……き、消えた……?」

 

武蔵の姿は閃光と共に消え、武蔵が立っていたコンソールはいつの間にか起動していた。

 

「これは……!?」

 

そこに残されていたのは何かの設計図、そしてゲッター合金の加工方法。

 

「何が起きるって……いや、でもこれはきっと……」

 

地球の事を思っている武蔵の警告なのだと思い。リョウトはそのデータをヒュッケバイン・MK-Ⅲ開発室のPCへと送信する為の操作を始めるのだった……。

 

 

 

 

一方そのころテスラ研でもマオ社と同じ現象が起きていた。

 

「武蔵君!」

 

「武蔵ッ!!」

 

クスハとブリットがその姿を見つけ追いかけて来たが、やはり追いつくことは出来ず。そしてリョウト同様警告を口にして、その姿を消した。

 

「……武蔵君。私達に警告を……」

 

「ああ。絶対に何か起きるんだ」

 

テスラ研のPCにも残されていた研究データ。それはブリットとクスハ同様武蔵を見つけて追いかけて来ていたコウキが確認する事になった。

 

「ブリット、クスハ。悪いが、ジョナサン博士とギリアム少佐達を呼んできてくれ。この情報を元にゲシュペンスト・MK-Ⅲの再改造を行う必要があるかもしれない」

 

コウキの言葉に頷き、ブリットとクスハはプロトゲッターの残骸が眠る格納庫から走り出す。

 

「……武蔵、いやゲッター線の言葉か……きな臭くなってきたな」

 

コウキの目付きが変わった。鋭く、冷酷な人とは思えない目をしたコウキは操作を続ける。

 

「コウキ! 武蔵君が現れたと聞いたぞ!?」

 

「はい、これがPCに残されていました」

 

「……これは」

 

「ゲシュペンスト」

 

「はい、ゲシュペンストの図面です。武蔵が知る由も無いものです」

 

多少行き詰っている事を感じていた部分を全て解決させる情報にジョナサン達は顔を歪める。

 

「どういうことだ?」

 

「恐らくですが……ゲッター線なのではないでしょうか?」

 

「進化を促すエネルギーらしいが、こんな事まで引き起こすのか?」

 

「判りません、ですが、現実にここにデータはあります」

 

ゲッター線が武蔵の姿をして警告に来た。そんなオカルト染みた考えがこの場にいた全員の脳裏に浮かんだ。

 

「……それは使わせてもらおう。私達には時間が無い」

 

「はい、フィリオ達プロジェクトTDのメンバーが来るまで時間もありませんしね」

 

プロジェクトTDは政府からの支援も受けている計画だ。フィリオ達が来ればゲシュペンストだけに集中することは出来ない、この得た情報を元に行動に出る必要がある。勿論プロジェクトTDだけではなく、極秘に動いている計画もあるが、それは表沙汰にすることが出来ないからこそ、今の内に隠蔽する準備に出ることにしたのだ。

 

「武蔵は何と言っていた?」

 

「悪意が目覚めると……そして気をつけろと」

 

「悪意……悪意か……」

 

ギリアムが視線を向けるとコウキは小さく頷いた。ギリアムとコウキだけが判る何かがそこにはあった。

 

「カイ少佐、申し訳無いのですが1度ラングレーに戻り、マリオン達を連れてきては貰えませんか?」

 

「ああ、引き受けよう。ギリアム、お前はテスラ研に残ってくれ」

 

この情報はマリオンと共有する必要があると考えジョナサンがカイにマリオン達をつれてくるように頼む。

 

「コウキ、私は製造ラインを1度止めてくる。情報の精査をギリアム少佐と共に頼んだぞ!」

 

「はい、判りました」

 

ジョナサンの言葉に頷き、カイとジョナサンを見送ったコウキとギリアムは小声で話を始める。

 

「ブライの事か」

 

「恐らくは……気をつけろ、何か必ず裏がある」

 

「ああ。判っている……コウキこそな」

 

「俺はもう鬼じゃない、ブライに従う義理も道理も無い」

 

「違うそうじゃない、戦う剣を用意しておけ」

 

「……そうだな。そうさせてもらおう」

 

武蔵の、ゲッター線の警告が無くともコウキ達は既に備えを始めていた。ブライと言う名前、そして顔を知るからこそコウキとギリアムには確信があった。

 

「あれは間違いない、ブライ大帝だ」

 

「間違いない、エアロゲイターとの戦いとは比べ物にならないほどの鮮血が流れる。俺達がそれを止めなければならない」

 

「ああ、その為に協力してくれ、コウキ……いや、鉄甲鬼」

 

「……判っている。俺には俺で守りたい物があるからな……」

 

フラスコの世界ではまだL5戦役の傷跡も癒えぬ内に大きな戦いの火種が生まれようとしていたのだった……。

 

第19話 夢の残滓 その3へ続く

 

 




次回は前半OG、後半は世界最後の日でお送りしようと思います。前半は簡単に言うとトライアルの話ですね、これもやっておこうと思いまして、折角のオリジナル要素ですしね。そして世界最後の日編も後もう少しで完結予定。どんな結末になるのかを楽しみにしていてください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話 夢の残滓 その3

第19話 夢の残滓 その3

 

 

伊豆基地で再度行われているゲシュペンストとヒュッケバインの再トライアル。これには各基地の司令や、腕利きのパイロット達が参加していた。

 

「どうだ? アルベロ少佐。ヒュッケバインMK-Ⅲの乗り心地は?」

 

『非常に心許無いですな。乗り心地は良いですが、このふんわりとした挙動はどうも好きません。俺はゲシュペンストに慣れていることもありますが……正直、ヒュッケバインMK-Ⅲの熟練訓練を行うくらいなら、ゲシュペンストMK-Ⅲに俺専用装備を作って貰うほうがよっぽど早いし楽だと思います』

 

「なるほど、アルベロ少佐ご苦労だった」

 

『いえ、次期トライアルにクライ・ウルブズから3人も召集してくれたことに感謝します、レイカー司令』

 

ハンガーに戻ったヒュッケバインMK-Ⅲから壮年の男性パイロットが降りたのを確認してから、トライアルの会場に選ばれた伊豆基地司令のレイカーが指示を出す。

 

「では次はフォリア・エスト准尉、続いてヒューゴ・メディオ少尉。ヒュッケバインMK-Ⅲへ騎乗してくれ」

 

『『了解!』』

 

敬礼し、2人のパイロットがハンガーに固定されたヒュッケバインMK-Ⅲへと騎乗する。

 

「ふむ。リン社長、このような言葉は非常に言いにくいが……此度のトライアルは恐らくゲシュペンストになるだろう」

 

「……そうですね。我が社としては自信を持って送り出していますが……ゲシュペンスト・MK-Ⅲの方が性能が良いと言わざるを得ませんね」

 

「いやいや、そう言う訳ではないと思いますよ。やはりパイロットの腕や慣れもあると思いますよ」

 

『軽いな、それにトルクも良い、俺はヒュッケバイン・MK-Ⅲの方が好きだな、この軽やかな感じが良い』

 

『フォリアはそう感じるか……俺はゲシュペンスト・MK-Ⅲのどっしりとした感じのほうが好きだ』

 

『そこの所は好みによるんじゃないか? 俺は断然ヒュッケバインだ』

 

若い2人の意見でさえも真っ二つに分かれている。それほどまでにヒュッケバイン・MK-Ⅲ、そしてゲシュペンスト・MK-Ⅲの性能の差は僅差にまで迫っていた。となると後は量産化における生産コスト、製造ラインの確保が大きなポイントなる。

 

「ふむ、しかしだな。やはりヒュッケバイン・MK-Ⅲのコストは高い、高すぎる」

 

「うむ、しかし生存率を考えるのならば」

 

「いやいや、待て。装甲の強度を考えれば生存率で言えば、断然ゲシュペンスト・MK-Ⅲだろう」

 

「ああ。それにオプションパーツや、装甲の変更により様々な作戦に対応出来る汎用性を私は買いたい」

 

「ふむ……製造ラインさえ確保できればな……」

 

「指揮官をゲシュペンスト・MK-Ⅲとして、僚機をヒュッケバイン・MK-Ⅲと言うのも可能だろう」

 

「いや、しかしブライ議員のゲッター計画もある。そこまでの製造プラントは確保出来まい」

 

どちらも甲乙つけがたいと議論が過熱していく、量産化されれば今の機体よりスペックは数段落ちる。だが、元のスペックが高ければ量産によって簡略化されても今までの量産機よりも高い性能を持てるのは当然だ。

 

「ゲシュペンスト・MK-Ⅲはオプションパーツと作戦事に装甲、OSの変更によりどんな作戦にも対応出来るとありますね」

 

「それはそれ専用の技師が必要と言う事でありませんか? その技師の熟練訓練を考えれば、ヒュッケバイン・MK-Ⅲの方が優れている」

 

「いや、それは無いだろう? 量産された時のヒュッケバイン・MK-Ⅲの固定武装はバルカンと腕部のビームチャクラムだけだ。後はPT用の汎用装備で固めるとある。これでは基礎能力が高いだけの案山子になるのではないか? それに装甲は外すのではなく、基本的にチョバムアーマー同様取り付け方式、OS調整もプログラムディスクを読み込ませるだけ、これで出来ないのなら整備兵とは言えんぞ」

 

「それに比べ、量産された場合のゲシュペンスト・MK-Ⅲはフライトユニットの装備により多彩な武装に豊富なオプションパーツとどれを見ても、ヒュッケバイン・MK-Ⅲを上回っている」

 

「それにパイロットも7割がゲシュペンストを支援している。これは重要な要素である筈だ」

 

議論が過熱し、司令達の意見がゲシュペンスト、ヒュッケバインと完全に意見が分かれた時レイカーが手を叩いた。

 

「パイロットの意見、そして私達の見た所感はここまで、次は開発主任のラドム博士、カーク博士の2人のプレゼンテーションを聞くことにしましょう」

 

これ以上話をしていても互いの意見がぶつかり合うだけ、それならば開発主任の話を聞こうと言うレイカーの意見を聞いて、その場の会議は一時終わりを向かえた。だがラドム、カークの2人を交えた会議はより過熱さを増して行く事になり、レイカーは少し後悔することになるのだが、これから起きる騒乱に向けての蓄え、そして装備は必要だと言う事で本来3日の予定のトライアルが10日にも及ぶ議論となる事になるのだが……それはレイカー達が地球を本気で護りたいという意志の表れなのだった……。

 

 

 

 

 

開発主任であるマリオン、そしてカークのプレゼンテーションだが……始まった段階で既にマリオンの独壇場になっていた。

 

「この格闘型のオプションパーツは、量産型ゲシュペンストMK-Ⅱに搭載されていたプラズマステークをより発展させた、ライトニング・ステークとなります。放熱時間、放電時間共にプラズマステークよりも発展しており、パイロットの意向によっては両腕に搭載することも可能です。また片腕に装備する場合はワイヤークローにより中間距離の攻撃、または相手に突き刺しての引き寄せなども想定しております」

 

「ラドム博士、上半身の武装に付いては納得いくものだが、脚部はどうなっているのかな?」

 

「良い質問をありがとうございます。脚部には武装を搭載するのは難しいというのは認めざるを得ません。その為、装甲の強化と、踵部にローラーを搭載し機動力の強化を重点的に強化しております。またこの踵部のローラーは重装形態、射撃形態の両方で運用する事も出来、フライトユニット装備時はデッドウェイトとなるので、パージすることも可能です」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲとなる筈だったアルトアイゼンが古い鉄と呼ばれる様になった事をマリオンは忘れておらず、相手の質問全てに切り返せるだけの装備、そして相手を論破するだけの資料を用意していた。

 

「今回のトライアウトに参加したのは、素体、格闘、襲撃の3種類だが、重装形態は本当に計画しているのかな?」

 

「勿論です。失礼します」

 

会議室のモニターを操作し、映し出されたのは重装甲の姿をしたシュッツバルトを連想させるずんぐりとした姿のゲシュペンスト・MK-Ⅲの姿だった。

 

「この形態ではリアクティブアーマーを機体各所に装備しており、防御性能を格段にUPさせております。更に両肩には多重性ビームコートを搭載しており、ビーム兵器には極めて高い防御を誇ります。また背部にはビームガトリング、肩部や脚部にはミサイルポッドなどの武装を搭載しておりますが、これらも特殊加工を施し、非常に強固なオプションパーツとなり、防御を重点に置いております。ですが、攻撃力が低いと言う訳ではなく、オプションパーツにより、レールガン、長距離スナイパーライフルなどの支援武装も多数装備可能です。ただし、その重量ゆえにフライトユニットを装備出来無いと言う欠点がありますが、拠点防衛用と考えればこの性能は破格であると言えるでしょう」

 

ヒュッケバイン派の司令はマリオンの完璧なプレゼンテーションに何も言えず、うぐぐっと呻くに留まる。

 

「ではこの射撃用の新型装備、パルチザンランチャーについてだが、3種類の攻撃が可能と言うのはどういうものなのかな?」

 

「はい、パルチザンランチャーはエクセレン・ブロウニング少尉の意見を取り入れて開発した装備になります。まず元になったのはゲシュペンスト・MK-Ⅱ改。通称ヴァイスリッターのオクスタンランチャーを改良・発展させたと言っても良いでしょう。銃口部に可変機能を搭載し、ジェネレーターをフルドライブさせる事で高出力のビームを発射可能とし、広域殲滅および、一点集中放射による収束射撃、そして通常のビームライフル、実弾の4種類の攻撃を可能にしております」

 

「なるほどなるほど、しかしこれは手持ち火器と言うことになるが、他のPTでは使用出来ないのかな?」

 

「その点も問題ありません。今回私が開発した武装すべてはPTへの互換性があります。つまり、ヒュッケバイン・MK-Ⅲに使わせることも可能です」

 

「なッ!?」

 

「ふふん、私も、MK-Ⅲも2度と負けませんわ」

 

マリオンの言葉に動揺したカークにマリオンは勝ち誇ったような表情を浮かべ、プレゼンテーションをカークへと譲ったが、その段階では既に司令達はゲシュペンスト・MK-Ⅲに意見が変わりつつあった。

 

「では私の開発したヒュッケバイン・MK-Ⅲのプレゼンを始めます」

 

だがカークも諦める事はせず、この劣勢を跳ね返すだけの準備をしていた。

 

「MK-Ⅲを核とする3種類の独自のオプションパーツを用意しております」

 

モニターに映し出されるのは、ヒュッケバイン・MK-Ⅲを核とする特機サイズのパーツを装備した姿、飛行ユニットと合体した姿、そして強行装備をした姿だった。

 

「状況により作戦遂行を変えるというコンセプトはゲシュペンスト・MK-Ⅲと酷似しておりますが、これらのユニット装備はそれぞれ飛行機や、戦車として単独での行動を可能とし、戦場での合体を可能としております」

 

このカークの隠し玉により、更にプレゼンテーションは過熱していくのだが、マリオンはそれでこそと笑みを浮かべ、カークの話に耳を傾けた。

 

武蔵の居ない間に確実に、そして着実にフラスコの世界は悪意と戦う為の準備を整えているのだった。

 

 

 

一方その頃過去の世界ではメタルビースト・SRXとの戦いの最中で姿を消した武蔵の捜索をタワーは総動員で行っていた。

 

「まだ武蔵は見つからないと言うのか!」

 

確かに武蔵はベアー号に乗っていた。それなのに武蔵の姿は何の前触れも無く消えた、エルドランドのデータを解析しながら、武蔵の捜索を続けているタワーの隼人は苛立ちを隠せないでいた。

 

『武蔵がいないなら、てめえと話すことはねえ』

 

ブラックゲッターの竜馬は武蔵がいないなら用は無いと止める間もなく姿を消した。恨まれていることを自覚している隼人はこの場で竜馬が復讐に走ることがなかった事に安堵した。だが武蔵が消えた事があり、気を落ち着けている時間などなかった。

 

「……ゲッター線が何かしたと考えるべきじゃろう。ベアー号とジャガー号の炉心が消えている」

 

「くそ、ゲッター線は何を考えていると言うのだ!」

 

武蔵の消失と共にジャガー号、ベアー号のゲッター炉心は消えていた。最初からそこに存在しなかったようにだ、これには隼人達も言葉を失った。今は弁慶が早乙女研究所の地下から持ち出したゲッターの炉心を積み換えているが、この理解不能な現象に隼人は苛立ちを隠せないでいた。

 

「今はどうしようもあるまい、国連からの要請もあるじゃろう?」

 

「っ……判っていますが、しかしッ!」

 

「落ち着け、隼人よ。国連の方の依頼には弁慶達に頼めば良かろう。ワシ達は時間の許す限り、この場で武蔵の捜索を続けよう」

 

「……判りました。弁慶に話を通してきます」

 

苛立っている様子を隠すことも無く、司令室を出て行く隼人を敷島博士は無言で見送ることしか出来なかった。

 

(恐らく武蔵は見つからない)

 

意志を持つエネルギー……ゲッター線は武蔵に何かをさせようとしている。

 

(武蔵……お前には何があると言うのだ)

 

敷島にはゲッター線が武蔵に執着しているように思えた。何故、武蔵だけなのか、竜馬や隼人、そして弁慶と武蔵に何の違いがあるのか……敷島博士は武蔵が消えたことで、以前のような明るさを失ったタワーの現状を見て思う。武蔵はつくづくムードメイカーであり、そして味方に力を与える男だと思ったのだ。

 

「……それが関係しているのか?」

 

武蔵の消失、そしてそれに伴うジャガー、ベアー号の炉心の消滅。それが何を意味しているのか、それは誰にも判らないのだった……。

 

 

 

 

隼人達が必死に武蔵を探す中、武蔵の姿は旧西暦にはなく、ゲッター線の海の中にあった。

 

【武蔵が再びここに来た。ならば、今こそ武蔵を艦長とするべきだ】

 

【いいや、まだ時が早い】

 

【ええ、まだ武蔵君には早いわ】

 

ゲッター線の海の中を漂っていた。そしてその周りには地球よりも遥かに大きな、無数のゲッターロボ……いや、ゲッターエンペラー等の姿があった。

 

【武蔵のゲッター線適合率はまだ伸びる、まだその時ではない】

 

【しかし、では何故武蔵はここに来た?】

 

【それは新たなゲッターを与える為だ】

 

【武蔵にはまだやってもらわねばならないことがある】

 

【故に真ドラゴンの世界へ送ったのだ。事を急ぎすぎるな】

 

【……良かろう、武蔵の事は暫し待つことにする】

 

【そうするが良かろう、では武蔵。また会おう】

 

強いゲッター線の光に包まれ、武蔵の姿はエンペラー達の前から音も無く消えるのだった。

 

「うっく……つ、つうう……ここは……」

 

武蔵は強い衝撃で目を覚ました、頭を振り自分がどこにいるのかを確認する。

 

「……ゲットマシン……いや、でもこれはなんてありさまだ」

 

ボロボロに錆び付いたレバーやペダル、そして操縦桿。更には内部まで破損していて、今まで自分が乗っていたゲッターロボと違う物だと一目で武蔵は理解していた。

 

「竜馬達は……いそうにねえな、ったく、どうなってんだ。こりゃあ」

 

完全に動力が死んでいるので何度も蹴りを入れて搭乗口を破壊した武蔵はそこから顔を出し、周囲を確認する。

 

「……似てるな。あの時の早乙女研究所だ」

 

浅間山の地下の早乙女研究所を連想させるボロボロの格納庫を見て、武蔵はサバイバルナイフ、ハンドガンを所持しているのを確認してからゲットマシンから飛び降りた。

 

「……これは……ゲッタードラゴン……か? いやでも……少し違うか?」

 

何度も敵として対峙したゲッターロボGに酷似した機体のコックピットにいた事に驚きながらも、武蔵はハンドガンを構え気配を殺しながら歩き出す。

 

「嫌な予感がむんむんだ……ったく、オイラ1人だって言うのによ」

 

廃墟同然の癖にあちこちから殺気が漏れている。それを敏感に感じ取った武蔵は周囲を警戒しながら油断無く格納庫の出口に足を向ける。

 

「ッ!」

 

外から格納庫の扉を叩く音がして、慌ててコンテナの影に身を隠す武蔵。一瞬だけ弁慶達かと考えた武蔵だが、その気配が余りに違う事に気付いたのだ。

 

【あ、ああああ……】

 

【シャアアーー】

 

2つの声が重なって聞こえる。武蔵はコンテナの影から身を乗り出して何が入ってきたのかを確認する。

 

(……インベーダー……と鬼……百鬼帝国って奴か)

 

弁慶と隼人から聞いていた百鬼帝国の兵士にインベーダーが寄生していた。だがやはり鬼は人間と身体の組織が違うのか、上手く融合しきれていない。剥き出しになった心臓にインベーダーの顔が出ているのを見て倒す事は不可能ではないと武蔵は考えていた。

 

(あれなら仕留めれるか……どうするか)

 

あれが1体とは思えない、まだ複数の鬼とインベーダーがいるかもしれない。ここで動いて、敵を誘き寄せる危険性、そして仮に気配を殺して先に進んだとして、この鬼が戻って来て挟み撃ちになる可能性……その2つを考えて、武蔵は決断を下した。

 

【ああ?】

 

【シャアアッ!】

 

コンテナの影から破材を投げて、そちらに注意を向けた瞬間に駆け出し、鬼の頭を背後から掴んでそのまま力任せに頭をねじ切る。

 

【シャア!】

 

「舐めんな!」

 

心臓から顔を出したインベーダーにサバイバルナイフを突き刺し、そのままハンドガンを叩き込みインベーダーを沈黙させる。

 

「……良し」

 

インベーダーが再生しないのを確認してから、武蔵は鬼が持っていたショットガンを死体から取り上げる。

 

「……2発だけか……まぁ無いよりかはましか」

 

ショットガンを背中に背負い、ハンドガンを構えながら武蔵は格納庫をゆっくりと出る。

 

「……へっ……嬉しくて涙が出てくるぜ、ッたくよぉ」

 

あちこちから聞こえてくる間延びした声と、インベーダーの鳴き声。化け物が無数に闊歩しているのに、自分の武器はカートリッジが1つしかないハンドガンとサバイバルナイフ、そして死体から取り上げたショットガンだけと泣きたくなるぜと言いながらも、武蔵は一歩一歩周囲を警戒しながら歩き出す。こんな所で武蔵は死ぬつもりは毛頭無く、なんとしてもこの場所から脱出してタワーと合流するという強い意思を抱いて、点滅を繰り返す明かりに照らされながらゆっくりと足音を立てないようにしながら歩みを進めるのだった……。

 

 

 

 

 

第20話 早乙女の遺産 その1へ続く

 

 




ここでフラスコの世界の話は1度終わりとなります。ここからは世界最後の日メインで最後まで書いて行こうと思います。

武蔵は鬼、インベーダーが徘徊する廃墟の早乙女研究所で捜索開始、どことなくバイオの雰囲気が出るように頑張って書いて行こうと思います。この早乙女研究所で武蔵が何を手にするのか、それを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話 早乙女の遺産 その1

第20話 早乙女の遺産 その1

 

武蔵にとって早乙女研究所は庭のような物であった。だがそれは本来の早乙女研究所の話であり、この歪められた早乙女研究所の捜索をしている武蔵には自分の知っている早乙女研究所と言う思い込みが重く圧し掛かっていた。

 

「……しいな、ここは警備の待機室だった筈なんだけどな……」

 

格納庫を出てすぐ武蔵が目指したのは、警備兵の待機室だった。恐竜帝国、そして百鬼帝国と言う脅威と戦ったのだから鬼だけではなく、インベーダーにも通用するであろう装備を求めての事だったが、警備兵の待機室だった場所は書類が散乱する研究室になっていた。

 

「……やっぱりあの時みたいに中身が色々と変わってるのかもしれないな」

 

気配を殺しながら、研究室を捜索し鬼もインベーダーもいないことを確認し、深く溜め息を吐いてPCの前に腰掛ける。

 

「頼むぜ」

 

キーボードを操作し、ずっと所持していた自分のIDカードを機械に読み込ませる。音を立ててロックが解除され、PCの画面が切り替わる。

 

「えっと、確か……」

 

うろ覚えなのでたどたどしい手付きでキーボードを操作し、早乙女研究所の通路の監視カメラの映像を映し出す。

 

『うわあああーーーッ! 来るな、来るなあ!! ぎゃああッ!』

 

『ちくしょう! ここはどこ……あ『シャアアッ!!』

 

鬼達が銃を乱射し、インベーダーを攻撃するが、殆ど効果は見られず鬼達が次々にインベーダーに食われるか、同化していく。

 

「ひでえもんだな」

 

だが武蔵はそれに心を乱すことは無い、武蔵が監視カメラの映像を確認しているのは敵の確認の為であり、そして百鬼帝国の悪行も聞いているので武蔵は鬼を助けるという選択肢はなかった。

 

「ロックが掛かってるのは、ここと……ここ……このコードは……オイラのカードキーじゃ駄目だな、参ったな」

 

外に出るための通路に向かうには研究主任クラスカードキーが必要だった。武蔵の所持しているカードキーで大半は開けることが出来るが、外に向かう為の通路には繋がっていない事が判明したのだ。

 

「捜索するにも、やっぱり武装がないと辛いな……」

 

監視カメラの映像、そしてPCに記録されている図面を呼び出しながらどういう進路で進むかを考えている武蔵だった。だが、1つの監視カメラが写している映像を見てその場に静止した。

 

「……これは……」

 

それは開発区画の更に地下、武蔵が特攻する前に無理やり侵入した区画にあるハンガーに固定されたゲッターロボの姿だった。

 

「真ゲッター……いや、これはドラゴンにも似てるな……新型か?」

 

早乙女博士がインベーダーに食われる前に作っていたゲッターロボかもしれない、このまま外に脱出しても、山奥だったりすればタワーに合流する手立ても無い。武蔵は少しそのゲッターを見つめてからカードキーを機械から取り出した。

 

「行くしかねえな」

 

このまま脱出しても、逃げ道がなければ結局ここに戻るしかない。疲弊した状況で戻れば、武蔵であっても死を避ける事は出来ない。武蔵はリスクを承知で地下の格納庫に向かうことを決めるのだった……。

 

 

 

 

 

監視カメラに映っていた通り、地下へは鬼もインベーダーの数も段違いに多かった。それらと一々戦えば武蔵と言えど自殺行為だ、だからこそ武蔵は音が反響する研究所の通路を利用して進んでいた。

 

「足音がしたぞッ!」

 

「またあの化け物かッ!?」

 

響く事を考慮し、足音を業と立てる。物を投げてインベーダーを誘導するという手を使いながら、ゆっくりとだが、確実に地下へと向かっていた。

 

「うわあああッ!!」

 

「ひいいいいッ!!!」

 

「ギシャアアアアッ!!!」

 

肉を咀嚼する不気味な音を背中に背負いながら、4人の鬼がたむろしていた十字路を駆け抜ける。そしてすぐさま通路の影に身を隠し、辺りを窺う。

 

「……B-2か……B-4区画は遠いな」

 

B-3へ続く階段は既に確認しているが、崩れてきた天井で塞がれていて進むことが出来ないでいた。だからこそ、武蔵はリスクを承知でB-2区画の捜索を行っていた。

 

「……後3発か……心元ねえな」

 

ショットガンはもう1発使ってしまい、1発しか残っていない。それにここまで来るのにハンドガンしか使っていなかったが、18発あった弾はもうたったの3発しか残っていない。武装の少なさに溜め息を吐き、振り返ると同時にハンドガンの引き金を引いた。

 

「あがあ……」

 

「ちっ、2発になっちまった」

 

斧を振りかぶっていた鬼の顔面を打ち抜いた武蔵は蹴りつけ、鬼が死んでいるのを確認してからその手が握っていた斧を奪う。

 

「こいつはあれだな、緊急用の奴か」

 

格納庫や通路に保管されている緊急時の武装だ。鬼も訳の判らない場所に放り出され、必死なのは判るが襲ってくる相手を説得する意味など無く、武蔵は躊躇うこと無く鬼の命を刈り取っていた。

 

「ちっ、やべえ」

 

今の銃声を聞いたのかインベーダーの鳴き声が通路に響き始める。武蔵は斧を担いで、慌てて来た道を引き返す。

 

「人間!」

 

「死ねえッ!」

 

「死ぬのは手前らだ、この馬鹿共ッ!!」

 

鬼が放った銃弾を身体に掠めさせながら鬼の間を駆け抜け、助走をつけて足から滑り込む――スライディングで瓦礫の隙間を通り抜け、即座に瓦礫の間に手榴弾を押し込む。その直後に爆発し、通路が完全に塞がる。

 

「ひ! 化け物ッ!」

 

「くそ、くそおおおッ!!!」

 

銃声とインベーダーの鳴き声を聞きながら武蔵は薄暗い通路を歩き始める。

 

「くそ、手榴弾も切っちまったな……ますます不味いぜ」

 

弾薬も通路を進む間に確保した武装も節約しながら進んでいたが、それでもやはり敵に囲まれている状況では使わずにはいられない。

 

「こっちは……何の区画だ……あーもう、訳わかんねえッ!」

 

なまじ早乙女研究所の内部を知っているだけに、ここまで内部がごちゃごちゃになっていることに武蔵は混乱していたが、一箇所に留まっているのは危険と歩き出す。

 

「……少しは休めると良いけど」

 

その通路は一本道でほかに進む道がなかった。しかしその変わりインベーダーや鬼の姿も無く、通路の先に見えた扉の中に身を隠すことにした。

 

「……ここは……はは。なんだなんだ……神様って案外いるんじゃねえのか?」

 

思わずそう笑ってしまっていた。その部屋は食堂だった……何よりも心休まるその場所は通路と異なり、清廉な気配に満ちていた。

 

「……水は出るのか……ありがてえ」

 

蛇口を捻り濁っていない透き通った水が出るのを確認して、タオルを濡らし汗を拭い。そのままグラスに注いで水を飲む、火照った身体に冷たい水が実に心地いい。

 

「何か食えるといいけど……そうだッ! 確か確か」

 

戸棚を開けると缶詰と乾パンが記憶通り収まっていた。それを嬉々として取り出し、缶切りがないのでサバイバルナイフで抉じ開けて牛肉の大和煮を頬張る。

 

「うっめええ、本当は米だともっと嬉しいんだけどな」

 

乾パンを頬張り、水を飲む。少なくとも6時間は水分補給も食事もしていなかった武蔵にとって、食堂に辿り着けたのは幸運だった。

 

「……こいつは……なんでこんな所に」

 

早乙女研究所の前で撮った写真が壁に貼られているのに気付き、裏面を確認する。日付が記されているが、その独特の筆跡に武蔵に覚えがあった。

 

「ミチルさん……そっか、そうだよな」

 

食堂はミチルがよくいた場所。そこにある写真なんて、ミチルの所持品以外無い。そんな当たり前の事に気付けないほどに疲弊していた事に苦笑し、服の中に写真を入れる。

 

「ミチルさん……オイラを守ってください」

 

お守り変わりに集合写真を入れて、壁際を手探りで探す。そして僅かな凹みを見つけ、そこに指を掛けて外装を開いた。

 

「……緊急時の出撃口……」

 

ここから飛び込めばB-3を飛ばしてBー4区画に辿り着ける筈。だが区画がこうも入り乱れていては望んだ場所に辿り着けないかもしれない……。

 

「自分の勘を信じるしかねえわなッ!」

 

ここに来たのは何かの導きのように思えた武蔵はそう叫ぶと、緊急出撃口に身体を滑り込ませた。

 

「おおおおーーッ! おあああああーーッ!?」

 

回転、上下左右から掛かる重力に悲鳴を上げ永遠とも思える暗い通路を抜けた先は……。

 

「あ、死んだ……へぐうっ!?」

 

敷島博士のマッドな発明に満ちた研究室であり、巨大なモーターの上に落下した武蔵は奇妙な呻き声と共に意識を失うのだった……。

 

 

 

 

B-4区画の中に凄まじい銃声が木霊する。勿論それは気絶から復活した武蔵が銃を乱射する音だ。

 

「おらぁッ!!」

 

「ギシャア!?」

 

インベーダーの頭を吹き飛ばし、再生しようとしたインベーダーに肩から下げた余りにも近未来的なデザインの銃の引き金を引く。

 

「あがあたああ……」

 

冷気を伴う光線でインベーダーが凍りついた隙に通路を潜り抜け、輩出されている巨大ブレイカーに体当たりするようにぶつかる武蔵。

 

「ぬぐぐうううッ!!!」

 

質量の差で押し戻されるが踏ん張って、歯を食いしばりブレイカーを押し込む。

 

『バッテリー復旧率75%。残り1つです』

 

「しゃオラァ!!!」

 

監視カメラで見たゲッターロボが収納されている格納庫の前まで来たが、肝心の格納庫の扉のブレイカーが落ちていた上に、巨大なインベーダーが巣食っていた事もあり、通路のあちこちから伸びてくる触手を斧で切り払い、敷島博士特注の規格外のマグナムを打ち込み、冷凍銃でインベーダーを凍らせ、狭い格納庫の中を武蔵は縦横無尽に駆け回っていた。

 

「シャアアアーーッ!!」

 

「くそっ! さすがにあいつはどうしようも……うおったあッ!?」

 

巨大インベーダーの噛み付きに足場を破壊され、向かっていた最後のブレイカーから引き離されてしまう。

 

「なろお、諦めるかッ!!」

 

走りながらマグナムを撃ち、格納庫内の簡易エレベーターへと走る武蔵。

 

「ああああ……」

 

「うああああ……」

 

「邪魔だぁッ!!!」

 

インベーダーに寄生された鬼の首を斧で断ち切り、インベーダーが姿を現すと同時に腹を蹴りつけ距離を取らせ、冷凍銃で凍らせる。

 

「くそ、エネルギー切れかッ!」

 

エネルギーが切れた冷凍銃を投げ捨てエレベーターで上の階へと移動し、最後のブレイカーを押し込む。

 

『バッテリー復旧100%。格納庫を開放します』

 

音を立てて、格納庫がゆっくりと開いていく、だが格納庫に巣食っているインベーダーがその先を見つめているの気付いた武蔵はエレベーターの下を見つめる。

 

「……駄目だなあ、こりゃあ」

 

鬼に寄生されたインベーダーが集まっていて、あれを蹴散らして進んでいては格納庫が開放される前に辿り着けない。そしてこのままではあの巨大インベーダーにゲッターを奪われてしまう……。

 

「しゃっ! 覚悟を決めるしかねえなッ!」

 

ショットガンを投げ捨て、斧を握り締めて助走をつける。

 

「ここから飛んで、あそこの手すりに斧を引っ掛けて……反対側に飛ぶ……はは、失敗したら死ぬな」

 

だがそうするしかないと覚悟を決めた武蔵は雄叫びを上げて走り出し、安全柵の無い部分から思いっきりジャンプした。

 

「うおおおおおおーーーーッ!!!」

 

落ちながら斧を振るい、その刃を崩壊した手すりに引っ掛ける。

 

「うっぐうっ!!?」

 

全体重が両手にかかり、さらには手すりが悲鳴を上げ。インベーダー達が触手を伸ばしてくる。

 

「おおおおおおおーーーーー! 武蔵様を舐めるなあッ!!!」

 

足を振り、その遠心力を生かし斧から手を離し更に宙を舞う。

 

「シャアアーーー!!」

 

「アアアアーッ!!!」

 

「うおおおおおおーーーッ!!!」

 

落ちながら銃をぶっ放し、自分を飲み込もうとするインベーダーを吹き飛ばし、そのまま武蔵は通路に叩きつけられる様に着地した。

 

「うっぐう……げほっ!!」

 

その衝撃で口から吐血するが、武蔵は口元を拭いほんの僅かに開放された格納庫の中に身体を滑り込ませた。

 

「こいつかッ!!」

 

目の前にあるゲッターロボはゲッターロボGを真ゲッターに改造したような、真ゲッターとドラゴンを混ぜたような姿をしていた。

 

「考えてる暇はねえッ!!」

 

格納庫の扉が凹んでいるのを見て、武蔵は慌てて搭乗用のリフトに乗り込み、ベアー号に当たるポセイドン号に乗り込んだ。

 

『これを見つけるのが、竜馬、隼人、弁慶の誰かである事を祈る』

 

「さ、早乙女博士ッ!?」

 

乗り込むと同時に再生された映像記録。そこにはまだ優しい光をその目に宿している早乙女博士の姿があった。

 

『ワシはもうじき、インベーダーに取り込まれ自我を失うだろう。そうなれば、ワシは人類の敵となる。だが……ワシはそんなことは望んでいない。故にここに試作機のゲッターロボを隠す、ワシを……インベーダーを倒すこの力をここへと隠す』

 

その言葉と共にコックピットに光が灯り、音を立ててゲッターロボが起動する。

 

『ワシの意思を継ぐ者がこの力を手にすることを心から祈る。この機体は真ドラゴンのプロトタイプ……その名も……ゲッタードラゴンセカンドッ!』

 

「は、ははッ! なんだなんだ、そんな名前……早乙女博士らしくないぜ」

 

まるでリュウセイかビアン博士みたいだぜと武蔵は全身が痛いのに、それでも昔を思い出したように楽しそうに笑い出した。

 

『本来ならば真ゲッタードラゴンと名付けたかったが、このゲッターはそこまでの出力を持てなかった上に炉心の出力が常に不安定であり、故に真ゲッタードラゴンではなく、ゲッターD2と名付けた、それでも真ゲッターと同等の力を有しているだろう』

 

音を立てて格納庫が吹き飛ぶのとゲッタードラゴン2が起動するのは殆ど同じだった。

 

『どうか、わしを止めてくれ。そして地球を護れ、それこそがワシの……最後の願いだ、そしてどうかワシを許さないでくれ、この罪人を、許すな。最後まで憎み続けてくれ……そうでなけばワシは……ワシは……達人に、ミチルに……そして元気に合わす顔が無い、どうか……ワシを許さないでくれ……頼む』

 

涙を流しながら許すなと言う早乙女博士、その言葉を最後に映像記録は停止した。武蔵は操縦桿を握り締め、ペダルの上に足を乗せる。

 

「大丈夫さ、大丈夫だよ博士。あんたの思いは、願いは……オイラが、いや、皆が継ぐよ。早乙女博士は何も悪くない、だから……止めてやるよ。オイラ達で……止めるよ……早乙女博士……」

 

「キシャアアアアッ!!」

 

雄叫びを上げてインベーダーが格納庫に侵入するのと、起動したドラゴン2の頭部からゲッタービームが放たれるのは殆ど同じタイミングであり、爆発炎上を繰り返す早乙女研究所から真紅のゲッターロボが飛び立つのはそれから数秒後の事なのだった……。

 

 

 

第21話 早乙女の遺産 その2へ続く

 

 

 




武蔵の乗り換えイベント、ゲッターロボアークで登場したゲッターD2を半オリジナルとして登場させます。OG世界に帰還するときはこのドラゴン2で行く予定ですので、あしからず。勿論オリジナルでライガー2、ポセイドン2も登場させる予定です。次回は世界最後の謀略!!摩天楼の決闘!の話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話 早乙女の遺産 その2

第21話 早乙女の遺産 その2

 

早乙女研究所の爆発から逃れる為に後先考えずに最大出力で飛び立ったドラゴンⅡ。ポセイドンのコックピットの中では武蔵が背もたれにめり込みながら必死に両手を操縦桿に伸ばそうとしていた。

 

「うっ、うぐうぐうううう……ッ!!!」

 

今もドラゴンⅡは上空に向かって上昇を続けている。このままでは生身で大気圏を突破する事になると必死に操縦桿に手を伸ばし続ける武蔵。

 

「う、うおおおおおおーーーッ!!!」

 

雄叫びと共に殴りつける様に操縦桿を握り締め、思いっきり後ろに引いた。それでやっとドラゴンⅡは動きを止め、上空に静止した。

 

「うっぷ……こ、こいつはやべえ……」

 

滴り落ちてきた鼻血をマントで拭う。確実にドラゴンⅡの性能に自分が追いついていない事は明らかだった。

 

「……だけどこれなら戦えるッ!」

 

ゴールとブライ、それに生きているかもしれないメタルビースト・SRX――そして真ドラゴン。その圧倒的な性能を持つ敵とも戦えると武蔵は確信した。

 

「……ん、これは……」

 

ドラゴンⅡのモニターやレーダーはゲッターロボよりも遥かに優れていた。遠く離れた場所にあるゲッター線反応も探知していた……そしして真ゲッターの後継機と言うこともあり、真ゲッターの情報も納められていた。そしてそれが何を意味するかと言うと……。

 

「真ゲッター、それにクジラ……元気ちゃん達かッ!? 場所はッ!」

 

コンソールを操作し、より詳しい場所を導き出そうとした武蔵の顔は驚愕に染まった。

 

「ニューヨーク……はっ、本当に……何の因果だか……」

 

自分が死んだ場所で元気達が戦っている。それを知った武蔵はペダルの上に慎重に足を乗せ、そして操縦桿を握り締める。

 

「行くぜ、ドラゴン。オイラに力を貸してくれ」

 

武蔵の言葉に答えるようにドラゴンの目が光り輝き、ドラゴンはゲッター線の光で空中に幾何学模様を描きながら光速でニューヨークに向かって飛び立つのだった……。

 

 

 

 

時間は少し遡り、クジラがニューヨークへと向かう道中にまで遡る。

 

「……」

 

イングラムは無言でエルドランドから回収できた情報を分析していたが、その結果はあまり良い物ではなかった。3機のゲッターロボによるフルパワーのゲッタービーム、そしてメタルビースト・SRXのメタルジェノサイダーの衝突の余波であの海岸はその形状を大きく変えていた。そしてそれに巻き込まれたエルドランドもまた、最も重要な部分である操舵室の破損により、得れた情報は余り多くない。

 

(……なるほどな)

 

だがそれでも得れた情報はイングラムにとって非常に有意義な物であった。

 

(連邦軍特別任務実行部隊シャドウミラーか、役割は……ハガネ達に似ている)

 

突出戦力を持ち、地球圏の平和の為に尽力したのは間違いない。だが何らかの理由があり、反乱を起こして敗北寸前まで追い込まれている。部隊もその大半を失い、とある科学者による人造人間を主力にしていたと言うところまでは判っている。

 

「ベーオウルブズ……か、生憎聞き覚えは無いな」

 

「だろうな、俺も無い」

 

連邦軍には特殊任務遂行の為の3つのウルブズがあると言う噂がある。だがその性質上、表立って動く事は無く、隠密部隊と言っても良いだろう。

 

「クライウルブズなら知っているがな」

 

「作戦の後詰め部隊だな、創立には私も関わっていたから知っているが……後のウルブズは知らないな」

 

「だが少なくとも、並の部隊ではあるまい」

 

あれだけの量産機、最新鋭機を揃えていたシャドウミラーを壊滅させたのだ。並大抵の部隊ではないということは明らかであり、僅かに調

べることが出来た情報は2つだけだった。

 

「ベーオウルフと、ゲシュペンスト・MK-Ⅲが最優先ターゲットとなっているが、俺達の世界でも、まだMK-Ⅲは開発段階だ。しかも量産などもされていない」

 

「数年単位の未来の世界と言う話だな」

 

エルドランドは、MK-Ⅲが正式採用され、そして量産された世界であると言うことが判明した。しかし、どれだけの戦力差があったのか、何と戦ったのは不明のままだ。

 

「それと……テスラ研に転移装置を配置しての世界からの逃亡を試みたとある」

 

「そこまで追詰められたのかと驚くのと同時に、そこまでの技術があったのかと驚かされるな」

 

「全くだな」

 

アストラナガンを有するイングラムは時空転移を可能としているが、それと同じ技能を平行世界とは言え自分達も良く知る世界で開発されたということにイングラムもカーウァイも驚きを隠せないでいた。

 

「アギュイエウスとリュケイオス……そしてその製作者のヘリオス・オリンパスか……」

 

それらが非常に重要なキーワードであると言うことはイングラム、そしてカーウァイも感じていた。

 

「……ちっ、これ以上は無理か」

 

「やはり全てが判るとまでは行かなかったか……」

 

「操舵室が無事ならばもっと判ったんだがな、もしくはこのPCの性能の悪さだ」

 

結局判らない事が判っただけであり、イングラムは肩を落としながらPCの電源を落とし、USBメモリをPCから引きぬいた。新西暦に戻る事ができれば、より詳しく解析することも出来る。イングラムはそう考えていた。

 

「あ、イングラムさん、ラウさん。大将が呼んでます、ブリッジまで来てくれますか?」

 

古田に呼ばれ、イングラムとカーウァイはデータ室を後にする。

 

「すまないな、イングラム、ラウ。タワーからの連絡だが、ニューヨークで高密度のゲッター線反応と、救難要請が出ている。隼人はこれが武蔵さんではないかと考えて俺達の派遣を決定したと言う話はしたな?」

 

「ああ。覚えている」

 

エルドランド周辺の捜索は隼人達が続行し、弁慶達はニューヨークの救難要請とゲッター線反応の捜索に向かっている所だ。

 

「親父、武蔵さんが危ないかもしれないから急ごう」

 

「判ってる、判ってるさ渓。だがこれが罠の可能性も捨て切れない、慎重に動く必要がある」

 

武蔵がいるかもしれないと焦っている様子の渓に弁慶だけではなく、イングラムとカーウァイも危機感を抱いた。

 

「武蔵ならそう簡単には死なないさ、まずは落ち着いて冷静に対応するべきだ」

 

「私も同意見だ」

 

「……う、判ったよ」

 

弁慶だけではなく、大人の2人にも言われ漸く渓も自分が焦りすぎだと気付いたのか、納得する素振りを見せた。

 

「良し、古田、凱。SOS反応はどうなってる!」

 

「は、はい、今探しています……あった」

 

古田と凱がキーボードを操作し、SOS反応を探し始める。

 

「大将! メタルビーストだッ! SOS反応はメタルビーストの真下だッ!」

 

凱の報告に弁慶も顔色を変えた。もしも武蔵がいたらと思えば最早その命は風前の灯だ。

 

「出撃だぁッ! 全員急げえッ!!」

 

武蔵を死なせる訳には行かないと弁慶は声を張り上げ、ブリッジにいた全員は出撃準備を始める。

 

「ラウ、判ってるな?」

 

「ああ。出来すぎてる」

 

武蔵を死なせる訳には行かないとそればかりに考えが偏っている弁慶達に危機感を覚えた。イングラムとカーウァイの2人は少し遅れて格納庫に向かった。

 

「すまない、動力が不安定だ。少し出撃が遅れる」

 

「安定次第、私達も出撃する。先に行ってくれ」

 

「仕方ねえな、渓! ゲッター2で援護してくれッ! 俺達はビートで出るッ!」

 

クジラから真っ先に出撃していくゲットマシン、そしてそれから遅れて出撃するビートを見送り、イングラム達はそれぞれの機体の中で状況を確認する。2人の頭の中には、SOS反応は罠であり、そして後詰めが現れると言う確信があるからこその出撃タイミングのずらしなのだった……。

 

 

 

真ゲッター2の援護もあり、アスファルトを破壊し地下へと突入した弁慶達。そんな弁慶達を出迎えたのは、小型インベーダーの群れだった。

 

「ちくしょう、やっぱりいやがったかッ!!!」

 

BT-23の主武装であるガトリングを放ちながらSOS信号の元へ走るBT-23。その先に行かせまいとするインベーダーに弁慶達はこの先に武蔵がいると反ば確信していた。

 

「ここから先はビートじゃ進めませんッ! 大将、どうしますかッ!?」

 

「決まってるだろッ! 団六、一緒に来い! 古田はここでインベーダーを食い止めていてくれッ!!」

 

古田の返事も聞かず、マシンガンをそれぞれ2つずつ担いで、団六と弁慶は薄暗い地下を走る。

 

「武蔵さんッ!!」

 

そして見えた扉を蹴り開けた弁慶は愕然とした。

 

「い、犬?」

 

そこにいたのはついさっきまで生きていたと思われる国連の制服を身に纏った兵士の死体が2つ。そして元気良く鳴く子犬の姿なのだった……。

 

「くそッ! このままじゃキリが無いッ!!」

 

一方その頃渓達は地下にいるのが武蔵だと思い込んでいることもあり、メタルビースト、そしてインベーダー達との戦いを繰り広げていた。

 

「このままじゃ、大将も武蔵さんも……っ!」

 

「そんなのは判ってるよッ!!」

 

SOS信号があったこともあり、広域攻撃をメインとしているゲッター3、そしてゲッタービームを多用するゲッター1が使えず。ゲッター2もゲッタードリルと打撃だけではメタルビーストも、インベーダーも倒し切る事が出来ず、徐々にジリ貧になっていた。

 

「……渓ッ!」

 

「えっ!? うわあッ!?」

 

アスファルトをぶち破り姿を見せたメタルビーストに気をとられた瞬間、今まで対峙していたインベーダーの口から吐き出した粘液でゲッター2は雁字搦めに絡め取られてしまう。

 

「渓! すぐに合流するッ!」

 

「数が多いッ!?」

 

クジラから出撃していたタイプS、そしてR-SOWRDからカーウァイとイングラムの声がする。オープンゲットも走り出すことも出来ない現状に渓の中に焦りが生まれる。

 

「動けッ! 動けッ!!!」

 

必死に操縦桿を動かし、ペダルを踏み込むが、その間もインベーダーの口から吐き出された粘液でゲッター2は繭のような姿になりつつあり、自力で脱出するのは不可能に近い状況になっていた。

 

「キシャアアアアッ!!!」

 

「うっ!?」

 

メタルビーストの鋭い鎌がジャガー号に振り下ろされるのを見て、渓は反射的に目を閉じた。

 

「……何が……?」

 

だが何時まで待っても衝撃も何も来ないことに不信感を覚え、目を開いた渓。そこにはゲッター2に鎌を振り下ろそうとしていたインベーダーの顔面にゲッタートマホークが突き刺さっていた。

 

「まさかッ!? 竜馬ッ!」

 

地下から脱出したBTー23から弁慶がそう叫んだ瞬間。遥か上空から漆黒の影……ブラックゲッターがその鋭い眼光を光らせ、戦場に舞い降りるのだった……。

 

 

 

 

クジラから僅かに送れて出撃したイングラム達は何処に隠れていたのかと思わずにはいられない無数のインベーダーに囲まれていた。

 

「やはり罠かッ!」

 

「武蔵も恐らくいないだろうなッ!!」

 

ショットガンによる面射撃で容赦なくインベーダーを吹き飛ばし、倒しきれないのは承知で廃墟を駆け抜け真ゲッターの元へ走る2機のPT。

 

「あれはッ!」

 

「ブラックゲッター……竜馬かッ!?」

 

巨大インベーダーに囲まれていた真ゲッターの前に舞い降りたブラックゲッターは、そのままゲッタートマホークをその手に握り締め、真ゲッター2に向かって投げつける。

 

「キシャアアアッ!?」

 

それは僅かに真ゲッター2を掠り、背後にいたインベーダーに顔面に突き刺さる。それを確認すると同時にブラックゲッターは駆けだし、最初にトマホークを突き刺したインベーダーからトマホークを抜き、そのまま返す刀で首を刎ねて真ゲッター2に向かって走る。

 

「ッ!」

 

ぶつかる寸前に真ゲッターがオープンゲットし、ブラックゲッターの突撃を回避したがそれはオーブンゲット出来なければ、そのまま追突しかねない勢いだった。

 

「や、止めろぉッ!!」

 

ブラックゲッターの余りに荒々しい戦いに真ゲッターを囲んでいたメタルビーストはその姿を流体に変え、廃墟の中に隠れる。だがブラックゲッターはそんなのお構いなしで、廃墟に拳を叩き込み、蹴りを入れ、トマホークでビルを破壊する。

 

「止めろぉッ! 武蔵さんがいるかもしれないんだッ! 竜馬ぁッ!!」

 

「親父ッ!? 地下に武蔵さんはいなかったのかッ!?」

 

「止めろぉッ! 竜馬ぁッ! 頼む止めてくれえッ!!!」

 

渓が武蔵がいなかったのかと尋ねるのも無視して、竜馬に必死に止めるように懇願する弁慶。突如上空を舞う影が弁慶達の視界に影を落とした。

 

「……なんだありゃあ……ッ!?」

 

「ど、ドラゴンッ!? で、でもあれは……」

 

「し、真ゲッターにも似てやがるッ! どうなってんだよこれはぁッ!!」

 

突如上空から急降下してきた真ゲッターにも、ドラゴンにも似た新たなゲッターロボに弁慶達は混乱する。だが1人だけ、この場にいる1人だけが……號だけが動揺も驚きもせずにただ淡々と舞い降りたドラゴンを見つめていた。

 

『竜馬、そこら辺にしておけよ。やりすぎだぜ』

 

『……武蔵か?』

 

『おう、丈夫で長持ち、ついでに間抜けの武蔵さんだぜ』

 

「武蔵さんだッ! 武蔵さんが生きてたんだッ!」

 

「よ、良かった……良かったぁ……」

 

その声は紛れも無く武蔵の声で、この廃墟の中に武蔵がいるのではないか思い心配に思っていた渓達は安堵の声を口にした。

 

「……武蔵。てめえ、何処に行ってやがった?」

 

「はは。オイラも訳わかんねえよ。ゲッター線に包まれたと思ったら変な場所にいたんでな」

 

それぞれコックピットから竜馬と武蔵が顔を出した事で、一時街中での戦いは中断された。

 

「……俺達はこのまま待機しよう」

 

「そうだな。そうするべきだな」

 

既に渓達はゲットマシンから降りてしまっている。敵地の中でのありえない行動にイングラムもカーウァイも顔を歪めたが、もう降りてしまっている以上また戻れという事も出来ず、互いの機体にショットガンを握らせ周囲の警戒を始めるのだった。

 

 

 

 

クジラの周辺をブラックゲッター、ドラゴンⅡ、そしてタイプS、R-SOWRDが並び立ちインベーダーの襲撃に備える中。竜馬、弁慶、武蔵はクジラの装甲の上で話をしていた。

 

「弁慶、てめえは相変わらず詰めが甘い。そんなんじゃあ、インベーダー共に足元を攫われるぜ」

 

「……竜馬……」

 

「おいおいおい、もっとほかに言う事があるんじゃねえのか?」

 

弁慶への叱責を始める竜馬に武蔵が割って入る。それに竜馬は舌打ちし、空を見上げる。

 

「生きてたんなら、生きてるくらい言いやがれッ! この大馬鹿野郎ッ!!!」

 

「はは、本当そうだよな。その通りだ、オイラが悪い。すまなかった」

 

「……そうじゃねえ、そうじゃねえよ……ああ、くそ……なんていえば良いのかわからねえ」

 

頭をかきむしる竜馬は深く溜め息を吐いて、武蔵に視線を向ける。自分よりも更に若い武蔵の姿にまだ学生の時だった自分達の姿が脳裏を過ぎる。

 

「……すまなかった。1人で……戦わせて、その挙句……あんなことになっちまってよ。全部俺のせいだ……許してくれ武蔵……俺が悪かった……」

 

「良いって、オイラも悪いのさ。でも……おめえも良く生きてたぜリョウ」

 

懐かしい渾名に固い表情をしていた竜馬の顔が僅かに緩む。それがチャンスだと思い、弁慶も口を開こうとしたが、武蔵に向けていたのとは違う鋭い眼光を向けられ、弁慶は思わず怯んだ。

 

「虫も殺せねえようじゃあ、インベーダーは倒せねえ、敵を見たら容赦するな。殺せ」

 

「……早乙女博士もよく言ってたなあ、そうやってよ」

 

「……武蔵、お前今の状況を知らないのか。ジジイが何をやったのか?」

 

「ある程度は聞いてるぜ、でもよ……まぁ、信じたくねえって言うのが本音だよ」

 

武蔵の言葉に竜馬は苛立ちを隠せないでいた。それは武蔵の性格も、隼人の性格も知っているから――甘ちゃんとは言え、今の状況を知ってこんな言葉を言うとは竜馬には思えなかった。つまり、意図的に情報を封鎖されていると言う結論に至ったのだ。

 

「武蔵に何も伝えないと隼人が決めたのか?」

 

「い、いや、そう言うわけじゃねえ」

 

「そうだ、オイラはちゃんと隼人からある程度の話は聞いてる。お前の事も、博士の事もな。それを聞いた上で、オイラは博士を信じたかった」

 

「……相変わらず甘ちゃんだな。お前は」

 

「ははは、人はそう変わらないさ。それよりも、見てくれよ。元気ちゃんがあんなに元気そうだ」

 

犬と戯れている渓達を見つめて微笑む武蔵に竜馬は毒気を抜かれたように苦笑し、渓に視線を向ける。

 

「……?」

 

見られているに気付いた渓が顔を上げ視線が合うと竜馬は視線を逸らした。

 

「伝説の男……流竜馬か」

 

「何考えてるの凱?」

 

クジラの上から自分達を見ている竜馬を見て凱は不思議そうな顔をする。

 

「なんかよ、合点がいかなくないか? だってよ、流竜馬は重量子爆弾の爆心地にいたんだろ? そりゃ生きていたのは嬉しいさッ! 味方になってくれりゃぁ、これ以上頼もしい味方もいねえ。だけどよ、40の親父には見えんぜ。どうなってるんだ」

 

竜馬が生きていたのは嬉しいが、とても隼人や弁慶と同じ歳には見えないと熱弁を奮う凱。だが渓は逆に不思議そうな顔をする。

 

「武蔵さんがいるじゃん? あの人だって本当は40代だろ?」

 

「そ、そりゃあそうだけどよ……武蔵さんはタイムスリップして戻ってきたから……あ」

 

「そうだよ、きっとそれが答えなんだよ。凱、竜馬さんもタイムスリップして戻ってきた。だからきっとまだ若いんだよ」

 

「そうかあ? そうだとしてもなんか納得行かないんだよなあ」

 

何故竜馬が若いのかと言う謎をどうしても解き明かしたい凱と、武蔵と言う前例がいると言う渓。まだ納得してない凱だが、強引に話を切られ、肩を落としながら子犬を抱きかかえるのだった。

 

「あの時俺は見た……凄まじいゲッター線の中で俺はなにかを見た」

 

「ああ、オイラも見た。あんまり覚えてないけど、確かに何かを見た」

 

竜馬と武蔵は互いに同じ物を見ていたはずなのに、それをどうしても思い出せないでいた。

 

「俺の意識は宇宙の中を駆け巡り、様々な命を見た。お前はどうだ? 武蔵」

 

「オイラ? オイラは気が付いたら未来にいたぜ?」

 

「……あの見たことの無いロボットもその関連か?」

 

「うん、未来のロボットでオイラの転移に巻き込まれたって感じかな?」

 

「ゲッター線め、訳の判らない事をしやがるぜ」

 

ゲッター線がなにかしたんだなと竜馬は割り切り、話を再開する。

 

「俺は月の廃棄されたゲッターロボの中で目を覚ました。俺はそこでゲッターを修理し……そして戻って来たんだ」

 

「なるほどな、オイラと似たようなもんか」

 

「そういえば武蔵さん、あのゲッターロボは?」

 

「おう、ドラゴン2って言うらしい、早乙女博士の……遺言と共に、オイラが飛ばされた廃墟の基地の中に眠ってたよ」

 

「ジジイの遺言だと?」

 

「後で聞かせて……な、なんだッ!?」

 

「凱! 渓ッ!! 犬から離れろぉッ!」

 

武蔵達の話が一区切りを迎えた時。突如弁慶が叫び声を上げる、それに驚いた渓と凱が抱えていた犬を手放す。

 

「「アアアアーーーッ!」」

 

「い、インベーダーだッ!?」

 

「い、犬に化けてやがったのかッ!」

 

空中で子犬はおぞましい音を立てて変異していく、それを見た渓達は慌ててインベーダーから走って逃げ、クジラへと駆け込む。

 

「くそっ、やっぱりかッ! 竜馬ッ! 武蔵さんッ!」

 

「「おうッ!!!」」

 

弁慶の声を聞く前に竜馬と武蔵はそれぞれのゲッターに向かって駆け出していた。

 

「くそ、やっぱりかよ。ちくしょうめッ!」

 

死んだ国連の兵士の死体はまだ温かかった。つまり死んだ寸前であることを弁慶は理解していた。子犬がインベーダーに変異していることも考えていたが、外にいるインベーダーの可能性もあることもあり、その両方に対応できるように考えていたが、やはり子犬がインベーダーだったようだ。

 

「古田ぁッ! クジラを浮上させろッ!」

 

「りょ、了解ッ! うわあああッ!?」

 

即座に浮上命令を出す弁慶だが、それよりも早く凄まじい衝撃がクジラを襲った。それは、SOSを出していた死体と共にいた子犬……それがインベーダーへと完全に変異し、クジラが浮上する前に沈めようと襲い掛かった衝撃だった。

 

『武蔵! 早くゲッターに乗り込めッ!』

 

『やはりこれは罠だッ!』

 

子犬がインベーダーに変異するのと同時に、廃墟から凄まじい数のインベーダーが姿を現す。

 

「「キシャアアアーーッ!!!」」

 

2体のインベーダーの咆哮が合図だったように、無数のインベーダーの襲撃が始まる。因縁の地ニューヨークでの激戦の幕が上がるのだった……。

 

 

 

第22話 早乙女の遺産 その3へ続く

 




ここで1度話を切って、摩天楼の決闘、南海を断つ邪神と話を続けて行こうと思います。もうすぐ世界最後の日編も完結ですが、最後まで応援よろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話 早乙女の遺産 その3

第22話 早乙女の遺産 その3

 

子犬が変異したインベーダーの咆哮が合図となっていたのか無数のインベーダーが次々と現れる中、イングラムとカーウァイの2人が真っ先にインベーダーとの戦いを始めていた。

 

「ちっ、大型インベーダーかッ!」

 

「こんなのが何処に隠れていたんだかッ!!」

 

触手の雨をかわしながら、ショットガンやビームライフルの反撃がインベーダーを貫くが、消滅せずに即座に回復を始める。

 

「ダブルトマホークッ!!! ぐぐぐ……うわああッ!!!」

 

ドラゴンⅡの戦斧がビルごとインベーダーを引き裂き、バランスを崩したドラゴンⅡが地響きを立てて倒れこんだ。

 

「武蔵さん!? どうしたんですか!?」

 

「ちいっ! パワーがありすぎるのかッ! 武蔵! 慣れるまで無茶をするんじゃねえッ!」

 

『すまねえッ! くそ、敷島博士がいればなぁッ!!』

 

強すぎるドラゴンⅡのパワーに振り回されている武蔵に無理をするなと叫び、ブラックゲッターと真ゲッター1が空を舞う。

 

「武蔵、マニュアル操作で何とかならないか?」

 

「いや、これそんなんで、どうこうなるパワーーじゃ――ッ!」

 

立ち上がることも出来ず、その場で転がり回るドラゴンⅡにイングラムは溜め息を吐いて、R-SOWRDにMー13ショットガンを構えさせる。

 

「落ち着いて、態勢を立て直せ」

 

「そのくらいの時間は稼ごう」

 

「すんません、よろしくお願いしますッ!」

 

武蔵がドラゴンⅡを使いこなせず、倒しても倒してもインベーダー、メタルビーストが沸いてくると言う余りにも劣勢の戦いの中……突如摩天楼の中に響いた早乙女博士の笑い声と共に、上空に巨大な早乙女博士の姿が現れる。

 

「ふわぁははははははッ!!!」

 

「てめえ早乙女のジジイッ!!!」

 

自身と対峙していたインベーダーをビルの中に叩きつけながらリョウマは怒声を上げる。

 

「竜馬良くぞ生きて戻った。このくたばり損ないがッ!!」

 

「黙れ、今日こそてめえに引導を渡してやるぜ」

 

「はははははッ! 面白いッ! やってみろ、この虫けらがッ!!」

 

ブラックゲッターが早乙女博士に突撃するが、ぶつかる寸前にその姿はインベーダーに代わる。

 

「なにッ!? うわあッ!」

 

「竜馬ッ!? ぐうっ!?」

 

インベーダーの反撃で墜落するブラックゲッターに気を取られた隙に真ゲッターも凄まじい一撃をくらい海面に向かってたたき付けられる。

 

「はーははははッ! この愚か者共が! 立てッ! 集えッ! 我が同胞達よッ!!」

 

早乙女博士がニューヨークに現れ、そう叫んだ頃。世界各地のインベーダーの動きが活性化し始めていた。

 

「世界各地のインベーダーが動き出しただと!?」

 

「はい、様々な建造物を取り込みながら活動開始ッ!」

 

「ポイント1ー5-0-0に集結していますッ!」

 

「ゲッター線反応確認!」

 

「かなり強力なゲッター線反応ですッ!」

 

「ポイント1-5-0-0……太平洋かッ!」

 

「どうやら奴ら、真ドラゴンを見つけ、総力戦を仕掛けてくるつもりだぞ、私も、私もッ!! この目で真ドラゴンを見てみたい!」

 

高笑いを浮かべる敷島博士を押しのけ、隼人はモニターを確認しながら指示を飛ばす。

 

「各地の真ドラゴン捜索隊をポイント1-5-0-0に集結させろ! タワーおよび、全てのスーパーロボット軍団は直ちに出撃ッ!」

 

そしてその報告はクジラにも届いていた。

 

「何! 世界中のインベーダーが集まっているだとッ!?」

 

「はい! クジラも早急にポイント1-5-0-0に向かうように通達が来ています!」

 

古田の報告と倒しても倒しても次々現れるインベーダーに弁慶は己のミスを悟った。最初にタワーが感知したゲッター線反応とSOSシグナル……そこから何重にも及ぶ罠の網が張り巡らされていたのだと今更似ながらに気付いた。早乙女博士に強い恨みを持つ竜馬と渓は完全に冷静さを失い、ドラゴンⅡに乗り換えたばかりの武蔵は思うように戦えないでいる。

 

「ぐうっ!? くそったれめッ!」

 

そしてクジラは子犬が変化したインベーダーに組み付かれ、思うように動けず。イングラムとカーウァイは確かに歴戦のパイロットではあるが、巨大なインベーダーが闊歩する状況では完全に決め手不足に陥っていた。

 

(どうすれば良い、俺はどうすれば良い)

 

この袋小路に追い込まれ、自分が何をすれば良いのか、弁慶は必死に考えをめぐらせるのだった……。

 

 

 

 

 

ポイント1-5-0-0に向かうタワーとスーパーロボット軍団。その司令室でモニターを見つめている隼人はポイント1-5-0-0とは別に、インベーダーが集まっている場所に気付いた。

 

「もう一箇所は……ちいッ! 嵌められたッ!」

 

「そう思わざるを得ないじゃろうな……しくじったわ」

 

ニューヨークで感知されたゲッター線反応とSOSシグナルに武蔵だと思い、クジラを派遣したのは隼人だ。だが今こうしてインベーダーがニューヨークに集まっているのを見れば、そこに足止めしようとしているのは明らかだった。

 

「先遣隊からの偵察映像が来ましたッ!」

 

「メインモニターへ回せッ!」

 

ポイント1-5-0-0に真っ先に到着した先遣隊の映像がメインモニターに映し出されたとき、思わず隼人は息を飲んだ。

 

「まさか、これほどまでのインベーダーがいるとはッ!」

 

「これは不味いぞ、隼人。先遣隊が全滅する」

 

太平洋の島の空も、海も大地も埋め尽くす無数のインベーダーの姿に隼人も顔を青褪めさせ、先遣隊に一時離脱するように指示を出す。

 

「ニューヨークのクジラとは連絡がつくかッ!?」

 

「電波妨害でつながりませんッ!」

 

オペレーターの言葉に隼人は拳をコンソールに叩きつける。

 

「弁慶と通信が繋がるまで連絡を続けろッ!」

 

「りょ、了解ッ!」

 

隼人の凄まじい剣幕に半分泣きそうになっているオペレーターに溜め息を吐き、隼人は司令席に腰掛ける。

 

「敷島博士、ゲッターロボの修理はどうなっていますか?」

 

「炉心はとりあえず積み換えたが、安定稼動するには出力が足りんぞ。このまま出れば的になるだけじゃな」

 

「くっ……どうすれば良い、どうすれば良いんだ」

 

真ドラゴンの場所を見つけたのは幸いだ。だがそこは既にインベーダーによって占領され、最大戦力である筈の真ゲッター達もいない。

 

「こうなれば待つしかあるまい、弁慶達がインベーダーの包囲網を抜けてくる事をな」

 

「……そうなりますね」

 

弁慶達も馬鹿ではない、インベーダーに包囲されている現実に気付けば、向こうから通信を取ってくる可能性は十分にある。

 

「クジラに電文を送れ、その後は呼びかけを続けろッ!」

 

少しでも早くクジラが合流してくれなければ、先遣隊だけではなくタワーを始めとした本隊も全滅する可能性がある。

 

(頼む。少しでも早く合流してくれ……)

 

決戦の前に分断されてしまった、それは隼人の武蔵を助けたいと言う気持ちが大きかったのだ。それさえも利用され、こうして分断さてしまった。隼人は己のミスを悟り、少しでも早く弁慶達が合流してくれる事を祈る事しか出来ず、己のあまりの無力さに手の平から血が流れ出すほどに強く拳を握り締めるのだった……。

 

 

 

 

自由の女神の頭上に現れた早乙女博士にブラックゲッターと真ゲッター2が接近すると、その姿は突如消え去った。

 

「なにッ!?」

 

目の前で早乙女博士が消えたことに困惑する竜馬、その時インベーダーに襲われているクジラから弁慶の声が響いた。

 

『皆聞いてくれッ! こいつは罠だ! 真ドラゴンが太平洋に出現、インベーダーも殆どが太平洋に向かってるッ! 竜馬達は早く太平洋に向かってくれッ!』

 

「で、でも、親父ッ! そのままだとクジラがッ!」

 

『馬鹿野郎ッ! 状況を読み違えるなッ!!』

 

インベーダーに組み付かれているクジラを見て、助けに向かおうとする真ゲッター2を押しとめるように弁慶の一喝が響いた。

 

『こっちは心配するんじゃねえッ! イングラム達も武蔵さんもいるッ! 俺達も後でクジラと共に向かう! だから先に行けッ!』

 

「……親父」

 

「先に行く、追いついて来いよ。武蔵、弁慶」

 

『おう! 先に行ってろッ! すぐに追いつくぜッ!』

 

『オイラ達の分も残しておけよッ!!!』

 

声を張り上げる武蔵と弁慶にこれ以上竜馬達は何も言えず、インベーダーの包囲網を振り切ってニューヨークから飛び立っていった。

 

「竜馬達は行ったか……それで正直どうなんだ?」

 

「はッ! インベーダーなんぞに食われてたまるかッ!」

 

「それだけ空元気が出せれば大丈夫そうだなッ!」

 

クジラに張り付いていたインベーダーはR-SOWRDとタイプSによって引き剥がされたが、インベーダーは今も増え続けている。

 

「くそッ! こうなったらッ! オープンゲットッ!! うがあッ!?」

 

ドラゴンⅡの姿が爆ぜ、ゲットマシンに分離するが武蔵の苦悶の叫び声が周囲に響き渡る。

 

(うぐぐううッ!!!!)

 

初代ゲッターロボとは比べ物にならない、その推進力に顔を歪めながら武蔵は必死に操縦桿を握り締める。

 

(ドラゴンもライガーもオイラには扱いきれないッ! それならこいつに賭けるしかないッ!!!)

 

余りにも桁違いの加速に意識を飛ばしそうになりながら武蔵は訓練もなしで、しかもインベーダーに追われながらのゲッターチェンジを強行した。

 

「武蔵さんッ! 団六! 古田ッ! 武蔵さんの援護だッ! ありったけの弾薬をぶち込めッ!!」

 

「了解ッ!」

 

「ッ!!!」

 

クジラに僅かに搭載されているミサイルとマシンガンが火を噴き、ゲットマシンを追いかけているインベーダーを背後から撃ち貫き墜落させる。

 

「全く、無茶をする男だッ!!」

 

「ふっ、ゼンガー達に良く似ている」

 

ビルの上に飛び乗ったR-SOWRDとタイプSの両手に持ったM-13ショットガンが火を噴き、インベーダーの包囲網が僅かに緩まった。そしてその隙を武蔵は見逃さなかった。

 

「チェェェンジッ!!!  ポセイドォォォンッ!!!!!」

 

一瞬で包囲網を抜けポセイドンⅡにチェンジし地面に着地する。そしてそのままインベーダーを睨みながら、操縦桿とペダルの感覚を確認して笑みを浮かべた。

 

(これなら行けるッ!)

 

元々武蔵はゲッター3のパイロットだ。ゲッター1や2はそれこそ付け焼刃の操縦技術しか持ち合わせていない、だからこそドラゴンの操縦に手間取っていたが、ゲッター3の後継機たるポセイドンならば話は違った。

 

「ゲッタァアアサイクロ……うおおおおおッ!?」

 

「なッ!? こっちにッ!?」

 

「ぐおおッ!?」

 

だが操縦出来るのと、ポセイドンⅡの圧倒的なパワーをコントロール出来ると言うのは別問題だった。ゲッターサイクロンのパワーを抑えきれず、地面を削りながら後方に吹き飛ばされていくポセイドン。イングラム達はそれに気付いたが、勿論対応しきれる訳も無くポセイドンに弾き飛ばされ、ビルにたたき付けられる。

 

「つ、つつう……す、すいませんッ!」

 

「ぐっ、構わないと言いたいが、これ以上は厳しいぞ」

 

「駆動系がやばいな……」

 

質量もパワーもまるで異なるポセイドンに弾き飛ばされたR-SOWRDとタイプSは行動不能に陥っていた。

 

『今アンカーを射出する、それに掴まれッ!』

 

クジラからアンカーが射出され、それぞれがそれに掴まりクジラへと回収されていく、その姿を見て武蔵は強く操縦桿を握り締めた。強い力を手に入れたが、このままでは助けをするところではなく、自分が皆を傷つけるという事に気付いてしまったのだ。だが、今はこの力を使わないわけには行かない。

 

「弁慶ッ! このままクジラで離脱しろッ!」

 

『武蔵さん!?』

 

「見ただろッ! オイラじゃまだこいつを扱いきれねえッ! 何時巻き込むかも判らないッ! 早く離脱してくれッ!」

 

雪崩のように襲ってくるインベーダーを殴り、蹴り、時に持ち上げ投げ飛ばすポセイドン。だがそのパワーは凄まじく、腕を振り上げるだけでビルを砕き、地表に足がめり込んでいる。

 

『でも!』

 

「大雪山おろしで全部ぶっ飛ばす! ゲットマシンの回収準備をしててくれッ!」

 

『ぽ、ポセイドンの腕は伸びないんですよ!?』

 

「オイラに良い考えがあるのさッ!! フィンガーネットッ!!!!」

 

両腕から射出したフィンガーネットがインベーダーを包み込むのと同時にポセイドンは腕を振り上げた。

 

『団六! 緊急ブーストッ!』

 

「おうッ!!!」

 

簡単な話である。腕が伸びなければ変わりの物を伸ばせば良い、ポセイドンの腕部に組み込まれているフィンガーネット。それは武蔵にとってはゲッターアームの延長に過ぎなかった。

 

「うおおおおおおッ!!! 大ッ! 雪ッ!! 山ッ!!!!」

 

ポセイドンがフィンガーネットを伸ばしたまま両腕を振り回す。それはビルを砕き、その計り知れないパワーで空中を飛んでいるインベーダーも、ビルと一体化したインベーダーも、何もかも等しく巻き込み、吸い寄せていく。

 

「うおおおッ! 団六ッ! 古田ぁッ! 何かに掴まれッ!!」

 

「や、やばいですよ!? これ絶対巻き込まれますッ!!!」

 

緊急加速でギリギリ大雪山おろしの範囲から逃れたが、それでもその凄まじいパワーはクジラの装甲を軋ませていた。

 

「……これが早乙女博士の遺産」

 

「凄まじい物だな。ゲッターロボの強さを知っているつもりだったが……本当につもりだったのだと思い知らされた気分だ」

 

街並みだけではなく、アメリカの大地を砕き、巻き上げていく大雪山おろしにイングラム達は戦々恐々するしかなかった。どす黒い竜巻はありとあらゆる物を飲み込み破壊し、切り裂いていく……その中心でいつの間にか足のブースターで浮遊していたポセイドンの中で武蔵はトンデモナイ事になったと思いながらも、ここまで来たら最後まで行くしかないと覚悟を決めた。

 

「おろぉぉしッ!!!!」

 

海面に向かって叩きつけられたフィンガーネット。その動きに沿うように竜巻も海へと向かい、アメリカの大地を完全に砕き、海面を殆ど吹き飛ばしながら真っ直ぐに海を切り裂いていくのだった……。

 

 

 

 

 

ポセイドンⅡがアメリカ大陸を跡形も無く粉砕した頃。太平洋の火山島ではある変化が起こり始めていた……。

 

「なんだ、何が起きている!?」

 

空も海も大地も埋め尽くしていたインベーダーが突如破裂し、液体へと変化していく。その異常な光景に隼人は息を呑んだ。

 

「ゲッター線はどうなっている!?」

 

「こ、この数値は……火口を中心にゲッター線の異常増加を確認ッ!」

 

オペレーターの声に敷島博士は何が起きているのかを正確に感じ取っていた。

 

「隼人ぉッ! 全軍撤退じゃッ!」

 

「敷島博士何をッ!?」

 

「ゲッター線の異常増加、この量はインベーダーでさえも耐え切れんッ! これに耐え切れるとするのならばッ!!『うおおおおおーーーッ! 早乙女のジジィイイイイッ!!!!』あいつらしかありえんッ!」

 

ニューヨークのインベーダー包囲網を突き破って太平洋に来た真ゲッターとブラックゲッターでギリギリこのゲッター線を中和出来ていた。それ以外の機体ではゲッター線に被爆する。

 

「全員タワーに一時帰還! 急げえッ!!」

 

「うあ……」

 

隼人の帰還命令と同時に真ゲッターのコックピットで號が胸を抑え、額から冷や汗を流していた。真ドラゴンの起動キーである號は火口の中の真ドラゴンに反応してしまっていた。

 

ゴウッ!!!

 

「な、なんだ!?」

 

「何が起きてやがるッ!?」

 

「「「「ギャアアアアアアアーーーッ!!!」」」」

 

突如火口から伸びたゲッター線の柱。それはインベーダーも、ロボット軍も関係なく飲み込み消滅させ、火口の噴火と共にマグマの中から異形の影が姿を見せた。

 

「な、なんだあれは……」

 

「何と言うことだ……こんな進化が合ったとは……美しい……だが、これはあまりにも本来の進化とは掛け離れている……これでは破壊神ではないかッ!!!」

 

蛇のような長細い胴体、その先にあるのは真ドラゴンの頭部と異常なまでに肥大した両腕……ゲッターロボ系列の機体とは到底思えない禍々しい姿に敷島博士と隼人は息を呑んだ。

 

『ふはははははっ!! 篝火は灯った。地球を我らインベーダーの安住の地とする為にッ!!』

 

『『今こそ力を使うときッ!!!』』

 

『『『ゲッタァアア……ビィィィムッ!!!』』』

 

早乙女博士、コーウェン、スティンガーの3人の声が周囲の海域に響き渡り、それと同時に真ドラゴンの口から放たれたゲッタービームが周囲を薙ぎ払った。タワーへと撤退しようとしていた機体を容赦なく飲み込み、消滅させるそのゲッタービームの威力にロボット軍は恐怖した。

 

「ステルボンバー、バトルモードッ! ステルボンバーが殿を務める! 早く撤退しろッ!」

 

ロボット軍の切り札であるステルバーの強化・発展機ステルボンバーが勇敢にも真ドラゴンへと挑んだ。

 

「力の差も判らぬ愚か者めがッ!!」

 

『『ゲッタービームッ!!!』』

 

「「う、うわあああああッ!?」」

 

だが虎の子であるステルボンバーもゲッタービームには耐え切れず、数秒の放射を耐えるので手一杯で太平洋の海へと散った。

 

「ふはははっッ! わーははははははッ!!!」

 

早乙女博士の笑い声が響く中。その声を遮るように竜馬の怒声が響き渡った……。

 

「調子に乗ってるんじゃねええッ!!!」

 

「今度こそ、逃がしはしないよッ!!」

 

真ゲッターが真ドラゴンに向かった瞬間。號は再び胸の痛みを感じ、強引にゲッターを操り真ドラゴンから離脱する。

 

「うおおおッ!!!」

 

ブラックゲッターが真ゲッターの影から飛び出し、ゲッタートマホークを背中に突き立てる。だがダメージが殆ど無いのか、真ドラゴンは身体を伸ばし、ブラックゲッターを振りほどこうとした。

 

「號ッ! 號ッ! どうしたのッ! 早く竜馬さんの援護にッ!」

 

「う、うあ……うあああ……」

 

「號ッ!? うっ!?」

 

何度呼びかけても反応を示さない號。渓も何度か呼びかけているとその脳裏に真ドラゴンから伸びた触手に絡め取られている號の姿が浮かび上がった。

 

『號ッ! 渓ッ! どうしたッ!? 何があったッ!!!』

 

「凱! 號が危ないッ! ゲッター……ううっ!?」

 

凱の呼びかけで正気に戻った渓はジャガー号からゲッターを分離させようとした。だがその瞬間真ゲッターが急に動き出し、渓と凱は操縦席にめり込むように吹き飛ばされた。

 

「俺が! 俺が護るぅぅッ!!!」

 

半狂乱になった號が真ドラゴンへと向かう。だが早乙女博士はそんな號を鼻で笑った。

 

「今の貴様に何が出来る。南海の藻屑と散れェッ!!!」

 

「「「う、うわああああッ!?」」」

 

真ドラゴンから放たれた高出力のゲッタービームに飲み込まれ、真ゲッター1は装甲から火花を散らしながら頭から真っ逆さまに墜落していった。

 

「うおおおおッ!! 舐めるなァッ!! ゲッタービィィムッ!!!」

 

竜馬は真ドラゴンに向かってゲッタービームを放ったが、その瞬間信じられない事が起きた。真ドラゴンの装甲が真紅に輝き、ブラックゲッターのエネルギーを吸い取り始めたのだ。

 

「な、何ッ!? うおおおおッ!?!?」

 

強引にエネルギーを吸い取られ、装甲からオイルを撒き散らしながらブラックゲッターも真ゲッター同様頭から海面に向かって墜落していった。

 

「はっははははッ! これで終わり……「ダブルトマホークブーメランッ!!!」うがああッ!?」

 

早乙女博士が高笑いし、己の勝利を確信した時。上空から飛来したダブルトマホークが真ドラゴンの翼を根元から引き裂いた。

 

「くそッ! 間に合わなかったッ! 弁慶ッ!」

 

『了解ッ! アンカー射出ッ!!』

 

それはニューヨークでの戦いを終えたドラゴンⅡとクジラだった。クジラから射出されたアンカーが真ゲッターの両肩を掴み海面から引き上げる。

 

「竜馬、掴まれッ!」

 

「弁慶かッ! 助かるッ!」

 

ブラックゲッターから脱出した竜馬は、牽引用のローブにぶら下がり降下してきた弁慶の手を掴みクジラへと回収される。

 

「な、なんだ。何が……うわッ!」

 

「ぐぐぐううッ! まさか、まさかこんな事がッ! ぬわあッ!!」

 

太平洋上空に武蔵と早乙女博士の困惑した声が重なり、真ドラゴン、ゲッタードラゴンⅡから放出された膨大なゲッター線が太平洋上空を眩いまでの緑に染め上げるのだった……。

 

 

第23話 真実 へ続く

 

 




世界最後の日編ももうすぐクライマックスとなります。真ドラゴン、ゲッタードラゴンⅡの共鳴によって何が起きたのか、そしてこれからどうなるのかを楽しみにしていてください。

そして活動報告にも書きましたが、連続更新やります

毎日18時に更新したいと思います。朝から書いて夕方に仕上げる……8時間は余裕であるから書き上げれるはず。

最終話まで後5つ……私は止まらないから、読者の皆様も止まらないで最後までお付き合いよろしくお願いします。

なんでそんな時間があるかといいますと……うん、もうコロナ増えすぎて、就職活動1回諦めて失業保険貰おうかなとか思い始めて、家にいるからです。

コロナの影響でかすぎるよ……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話 真実

第23話 真実 

 

タワーの司令室で敷島博士と隼人はその顔を歪めていた。今目の前ではインベーダーでさえも生存を許さない、高密度のゲッター線が太平洋上空を埋め尽くしていた。

 

「……ゲッタードラゴンⅡか」

 

「早乙女の最後のゲッターか、またとんでも無い物を残したもんじゃ」

 

行方不明になっていた武蔵が見つけてきた新しいゲッターロボ。真ゲッターとゲッターロボGを混ぜたような、新型のゲッターロボの登場で戦いは強制的に終わらされる事になった。

 

「ぐあああああーーーッ!!」

 

「ぐうううッ!!!」

 

武蔵と早乙女博士の悲鳴。その直後に崩壊した活火山と、タワーに走った凄まじい振動。互いのゲッター線が反発しあい、真ドラゴンとドラゴンⅡは磁石の反発のように弾き飛ばされ、互いに沈黙した。

 

「本来ならばとんでもない好機だと言うのに……ッ!」

 

「そんな事を言ってもられんじゃろ」

 

真ドラゴン、ドラゴンⅡから放出されたゲッター線は周囲を染め上げ、ゲッター線防御を持つタワーでさえも近づく事が出来ず。そしてインベーダーも近づけば消滅する……魔の空間の様な物が出来てしまっていた。こうなれば隼人達も、そして早乙女博士も何もすることが出来ず互いに沈黙することしか出来なかった。

 

「號は?」

 

「意識不明じゃな……真ドラゴンに反応してしまっているんじゃろ」

 

クジラによって回収された真ゲッターだが、號は意識不明で今も渓と凱が医務室で號の目覚めるのを待っている。

 

「……ドラゴンⅡの調整をしてくる。隼人、お前も懐かしい顔と話でもして来い、どうせ、このゲッター線が消えるまではワシらには何も出来ん」

 

「……そうさせてもらいますよ」

 

他に出来る事が無いのならば話でもして来いと言われ、隼人は溜め息を吐きながら司令室を後にした。1人残された敷島博士はコンソールを操作する。

 

「……なるほどなるほど、エネルギーが不安定なのか。だから一時的な出力は真ゲッターを上回るが、常に暴走の危機を秘めていると……ふうむ……」

 

ブラックゲッターが行動不能になった今……ドラゴンⅡを安定して使えるようにするのは急務だ。最も優秀なPCが揃っている司令室でドラゴンⅡの分析を続ける敷島博士はふと顔を上げた。

 

『……』

 

「おお。おおお……はっはあ、久しぶりじゃのう……早乙女」

 

『ああ……ドラゴンⅡを頼むぞ、敷島』

 

「はっははっ!! はーっはははははッ!! ワシにもついに見えたか、ハハハハッ!! ハーッハハハハハハハッ!!!」

 

ゲッター線に満ちた司令室で敷島博士は狂ったように笑う。ついに自分も早乙女博士と同じ視点に辿り着けたと最早思い残す事はないと言わんばかりに笑い続けているのだった……。

 

 

 

 

 

医務室に鳴り響く無機質な音……號の身体に付けられた心電図モニターからの音だが、その無機質で永遠と続く音は人の精神を徐々に蝕んでいく。

 

「先生、號はどうなるんですか?」

 

「……すいません。私は専門ではないので……人工呼吸器と心電図モニターを付けることしか出来ません。後で敷島博士が来られるので、それまではこのままかと……」

 

すいませんと頭を下げて出て行く医者に凱も渓も何も言えない。むしろ専門家ではないのに、ここまでやってくれた医者に対して文句など言えるわけがなかった。

 

「……凱。あたし達本当に勝てるのかな……」

 

「渓、どうしたんだ。急に……」

 

「だって見ただろ、あの化け物を……ッ!」

 

ゲッタービームを吸収し、ブラックゲッターを行動不能にした真ドラゴン。あんな事が出来るのならば、ゲッターロボでは勝てないのではと言う考えが脳裏を過ぎる。

 

「渓、考えすぎだぜ。もし本当にそんなことが出来るなら、あの外のゲッター線だって吸収してるさ。あれはきっと奥の手って奴なのさ」

 

「そうかな」

 

「そうさ、それよりも……大将達随分と遅いな。號の様子を見に来るって言ったんだけどな」

 

渓が落ち込んでいるが、どう励ませば良いのか判らない凱が強引に話を変えた時。医務室の扉が開いた、その音に凱は嬉々としてそちらに視線を向けた。

 

「遅いですよ……あれ? 古田?」

 

「凱さん、渓さん! 急いできてくださいッ!! 竜馬さん達が凄い口論をしててもう止め様がないんですッ!!」

 

古田の悲鳴にも似た叫びに渓と凱が格納庫に向かった時。そこには死屍累々というべき光景が広がっていた。きっかけは些細な事だった、敷島博士に言われて格納庫に来た隼人だったが、そこで竜馬と話をしている武蔵を見て、隼人も加わり最初は和やかに話をしていたのだ。

 

「んだと!?」

 

「なんだ、俺が悪いって言うのか?」

 

「どっちもどっちだろうが……ッ」

 

顔を突き合わせて数分と経たないうちに怒鳴り、胸ぐらを掴むか躱すかと言うやり取りに変わり、そこから更に互いを突き飛ばすと言う風に変わり始め、それに危機感を感じた弁慶が止めに入ったのだが……。

 

「止めろ! 竜馬! 隼人! 武蔵さん! 言葉を交わせば分かる筈なんだ!」

 

「「「うるせえッ!!」」」

 

「てめえ……人が折角止めようとしてるのにッ!」

 

止めに入った筈の弁慶まで殴られた事で一気に険悪なムードが爆発し、殴り合いが始まったのだ。……他の人間に迚もでは無い拳打を繰り出し――それを防ぐ、と言う展開が繰り広げられていた。

 

「そろそろとめに……」

 

「「「「邪魔すんなぁッ!!」」」」

 

しかし、そんな状況もエスカレートする一方。見兼ねたステルバーのパイロット達が止に入るが……それがかえって火に油を注ぐ事になっているとは誰もが理解し得なかった。

 

「てめえッ! 何もしらねえ癖に我が物顔で言ってるんじゃねえッ!!」

 

「うっせえボケえッ! てめえだけが悲劇のヒーロー気取りかッ!! ああんッ!!」

 

竜馬と武蔵が顔面を腫らしながら互いを殴ったと思えば、2人の背後から隼人がその鋭い貫手を突き出す。

 

「俺がこの13年間、どんな思いで生きてたか、それも判らないのかッ! この脳筋共ッ!!」

 

「「知るかあッ!!!」」

 

「げぼおっ!! てめらぁッ!!!」

 

隼人の貫手を交わし、武蔵と竜馬の鋭い返しの拳に吹き飛ばされるが、すぐに態勢を立て直し飛び蹴りを放つ。だがその先は古田や渓達には信じられない人物だった。

 

「があっ!! この野郎ッ!!!」

 

古田に渓と凱を呼んで来いと言った張本人。弁慶までもが竜馬達と殴り合いをしていた。

 

「はッ! 腰抜け弁慶ッ!!!」

 

「んだとこらあッ!!!」

 

「当たるかよッ! おらッ!!」

 

「ごぶっ!! 弁慶ッ!!!」

 

「がぁッ!!」

 

隼人が避けた事で武蔵の横っ面に弁慶の握り拳がめり込み、激怒した武蔵の拳がアッパーカットの要領で弁慶の顎を打ち抜いた。

 

「親父ッ!? なにやってるのよッ!!」

 

口論だと聞いていたのに目の間に広がっているのは凄惨な殴り合いの現場。一瞬惚けたが、渓は慌てて殴り飛ばされてきた弁慶に駆け寄った。

 

「うっせえ! 邪魔すんなッ!!! うおらあッ!!」

 

自身を止めに入った愛娘である筈の渓でさえも突き飛ばし、弁慶は立ちあがり一番近くにいた竜馬の腹に拳を突き立てる。

 

「俺だってなあッ! 好きで逃げたんじゃねえッ!」

 

「ぐっふっ! はッ! てめえは逃げる大義名分を得て嬉しかったんじゃねえのかッ!!」

 

「ごっ、がっあッ!?」

 

竜馬は反撃で弁慶の首を掴み、腹に膝蹴りを叩き込み、距離を取って回し蹴りを弁慶の顔面に叩き込んだ。たたらを踏んだ弁慶だが、すぐに態勢を立て直し、肩から竜馬に体当たりをする。

 

「お前はいつもそうだッ! 後先考えないで行動して! あの時もそうだッ! 残された俺達がどんな気持ちだったのかも知らないでッ!!」

 

「それは謝っただろうがッ! いつまでもいつまでもねちねちとしつこいやろうだなッ!!」

 

全員が今まで溜めていた鬱憤を晴らすかのように、溜め込んでいた物を吐き出すように怒声を浴びせながら拳を、蹴りを繰り出している。

 

「な、なんで誰も止めないのよッ!」

 

「馬鹿野郎ッ! 周りが見えねえのかッ!」

 

あきれたように見ていたシュワルツに掴みかかった渓だが、シュワルツに言われて辺りを見ると鼻血を出してKOされている黒人や白人があちこちに転がってる。

 

「あ、その顔……」

 

「そうだよッ! 俺も止めに入ったらこの様だッ!」

 

シュワルツの顔面にも赤いあざがあるのを見て、シュワルツも止めに入ったのだが誰かに殴られたのが明らかだった。

 

「大体よッ! なんでてめえらがいて、ミチルさんが死んでるんだッ!! てめらは何をやってやがったあッ!!」

 

武蔵の拳と蹴りを喰らった竜馬と隼人はその場に倒れたが、突如笑いながら立ち上がった。その目は完全に据わっていて、額には青筋が浮かんでいた。

 

「おいおい、聞いたか? なぁ竜馬ぁ?」

 

「ああ、聞いたぜ、まさか武蔵にそんなことを言われるとはなあ」

 

くっくっくと笑い合う竜馬と隼人の笑い声が突如止まった瞬間。武蔵の身体は吹き飛んでいた。

 

「俺達に何もかも押し付けて勝手にくたばった野郎に言われる筋合いはねえッ!!!」

 

「何があったかも知らない癖に、それを言うなあッ!!」

 

倒れている武蔵などおかまいなしに馬乗りに乗って拳を振るう隼人。

 

「隼人ぉッ!」

 

やりすぎだと叫んで隼人を引き離そうとした弁慶だが、竜馬がその間に割り込んだ。

 

「はっ! 部外者は引っ込んでなぁッ!」

 

「がっ、部外者……部外者だとぉッ!!」

 

「そうだ! お前はやっぱり数合わせだったんだよ! 役立たずの腰抜けえッ!! 「て、てめえッ!!」がはあっ!」

 

竜馬の罵声に激昂した弁慶の拳が竜馬の顔面を真正面から打ち抜いた、だが竜馬もすぐに態勢を立て直し、弁慶の腹に蹴りを叩き込んだ。

 

「うるせえ! オイラだって死にたくて死んだんじゃねえッ!」

 

「黙ってろ! 俺達に何も言わないで勝手に逝きやがってッ!!」

 

互いに転がり、相手に馬乗りになる度に拳を振るいあう武蔵と隼人。格納庫は殴られた事で吹き出た鼻血や切った傷で鮮血で赤く染め上げられていた。渓が自分が殴られても止めに入ろうとした時、背後からその腕を誰かに掴まれた。

 

「ほうっておけ、あれがあいつらのコミュニケーションじゃ。色々思うところがあったんじゃよ」

 

渓の腕を掴んでいたのは呆れた表情をしている敷島博士だった。敷島博士はいつまでも変わらない馬鹿共だと笑い、巻き込まれるから離れろと声を掛ける。

 

「で、でも」

 

「ここで止めればまたいつか始まる。お互いが納得いくまで殴り合わせてやれ、ほれ、付いて来い。號の様子を見に行くぞい」

 

敷島博士に言われ、後ろ髪を惹かれるような思いでその場を後にする渓達だった。

 

「「「「うがああッ!!!」」」」

 

渓達がその場を後にしてから数分後、ボロボロの血塗れで示し合わしたかのように頭突きを互いに繰り出した竜馬達は4人が4人とも白目を剥いて、泡を吹きながら仰向けに倒れている所を発見され、4人とも医務室に緊急搬送される事になるのだった……。

 

 

 

 

 

竜馬、隼人、武蔵、弁慶の4人とも意識を失い医務室で横にされている頃。4人の意識はゲッター線の中にあった。

 

「なんだこれはどうなってる」

 

「……いや、それよりもだ。若返ってるぜッ!?」

 

始めてゲッター線の意思に触れた隼人と弁慶は何が起きているのか理解出来ず混乱しっぱなしだった。

 

「あーすっきりした」

 

「そうだな、もやもやがぶっ飛んだぜ」

 

殴り合いをして気分をリフレッシュさせた武蔵と竜馬は腕を組んで笑いあっていた。

 

「んで、ゲッター線め。俺達に何を見せる……」

 

「……や、止めろ……俺達にそれを見せるなあッ!」

 

余裕そうな表情をしていた竜馬が突如震えだし、隼人が頭を抱えて蹲った。

 

「何が……」

 

『次はライガーだッ! 行くぜ、竜馬、ミチルさん』

 

『おう!』

 

『ええッ! いつでもOKよッ!!』

 

それは竜馬達の関係が壊れた一幕だった。自身のトラウマとも言える光景に竜馬も隼人も顔を青褪めさせ、冷や汗を流しながらその場に膝をついた。

 

「おい! 竜馬、隼人しっかりしろ!」

 

「待て、何だこれ……おい、こいつが……こんなふざけたもんが、真実だって言うのかよぉッ!!」

 

竜馬と隼人に声を掛けていた弁慶の背後で武蔵の怒声が響き、3人が顔を上げるとそこには受け入れ難い過去の現実が映し出されていた。

 

『ああ、うぐっ、あああーーッ!!!』

 

『キシャアアアアーーーッ!!!』

 

「「「「ッ!?」」」」

 

突如苦しみだしたミチルの腹を突き破り、無数のインベーダーが姿を現したのだ。

 

『うっ……ぐっ!!』

 

「「「「ミチルさんッ!!!」」」」

 

届かないと判っていても、ミチルの名を叫ばずにいられなかった。ミチルは苦しみながら素手でガラスケースを叩き割り、緊急合体解除のレバーを引いた。

 

『……』

 

それは竜馬と隼人をインベーダーに襲わせないための、そして自分が人間のまま死ぬ為の行動だった。押し潰される中ミチルは驚くほどに柔らかい笑みを浮かべミチルは炎の中に消えていった……

 

『……うう、うおおおおッ! よくも、よくもやってくれたなッ! 許さん、許さんぞインベダアアアーアーーッ!!』

 

場面が突如変わり、息絶えたミチルの前で号泣する早乙女博士の姿に変わった。

 

『……必ず、必ずや、お前達……うがああッ!! お、己ッ! ミチルだけではなく、このワシまでもッ!!』

 

ミチルの遺体から飛び出したインベーダーが早乙女博士を貫き、その身体に融合していく。

 

『ぐ、ぐううッ! わ、ワシは……お前の思いとおりになどならんぞ……決して……決しては屈しはしないッ! ……竜馬ぁッ! 隼人ぉッ! 弁慶がいるッ! 必ずや、必ずや……あいつらがミチルの敵を討ってくれる!! 貴様らの思いとおりになど、何一つするものかあッ!!』

 

そう叫んだ早乙女博士はハンドガンを自らのこめかみに当て引き金を引いた。だが早乙女博士は死ぬ事さえも許されず、インベーダーに浸食され蘇った。

 

『死ねぬか……ならば、ならばぁッ! ぐううっ! ワシは希望を残すッ! うぐっ、うがああああッ!!! 貴様らなんぞにワシの希望を食わせてなるものかあッ!!』

 

「こ、これが真実だったのか……」

 

「嘘だろ……早乙女のジジイ……」

 

ミチルの死後早乙女博士がおかしくなったと竜馬と隼人は感じていた。だがそれは、既にインベーダーに侵食されていたからこそのものだった。そしてインベーダーはゲッター線に強い適性を持つ竜馬と隼人を喰らおうとし、博士はそれをさせんが為に竜馬と隼人を争わせ、そして2人が自分に近づかないようにした。余りに不器用、そして余りにも説明不足。それでも早乙女博士は……早乙女賢という男は竜馬達を護ろうとした、そして自分がインベーダーに食われ、自我を失った時のカウンターまでも用意していたのだ。

 

「……くそったれ、んなもん見せるんじゃねえ」

 

「ああ、そうだな。知りたくなかった……」

 

「そうだな。俺も知りたくなかったぜ、竜馬、隼人」

 

憎んでいた早乙女博士が最後まで自分達を護ろうとしていた。そして自分達ならば成し遂げてくれると信じ、自分を倒させる為のゲッターを作り出した。

 

「そうだな、だけど1つだけは言える事があるぜ……全部何もかもインベーダーが原因だ。終わらせる、ここで終わらせようぜ。竜馬、隼人、弁慶」

 

「「「おうッ!」」」

 

包帯に傷テープ塗れの顔と身体で4人は笑った。ここに本当の意味でゲッターチームが蘇った瞬間だった……。

 

「そうと決まれば、まずは腹ごしらえだよな」

 

「ったりめえだ! 食わなきゃ戦えねえッ!」

 

「いちち、この野郎。人をあんだけぶん殴っておいて飯かよッ!」

 

「なんだ、弁慶は食わないのか?」

 

「食うわッ! 腹一杯食うに決まってるだろう!」

 

「全身痛いから肩かせ武蔵」

 

「オイラだっていてえよッ! 手加減無しで殴りやがってッ!」

 

「全くだ」

 

「そう言うお前だってめちゃくちゃしてるからな?」

 

互いに肩を貸しながら笑みを浮かべて歩く4人の姿は先ほどまで殺し合いかと思うほどに殴り合っていたとは思えないほどに、和やかもので楽しそうなものだった。互いに何を食う? とか話ながら歩く姿に格納庫での争いを見ていたタワーの職員は何ともいえない顔をして、竜馬達を見送るのだった……。

 

 

 

 

 

マグマの中で胎児のように丸くなる真ドラゴン。その中でも純度の高いゲッター線に包まれた一室に早乙女博士の姿はあった。

 

『お父様、もうすぐ終わるわ』

 

『お疲れ様。父さん』

 

「ワシを迎えに来たか、達人、ミチル……だがまだ終わりではない」

 

インベーダーは純度の高いゲッター線の中では活動できない。今はコーウェンもスティンガーも、そして早乙女博士の中に巣食うインベーダーも活動を休止していた。

 

『判ってるわ、竜馬君達があとは継いでくれる』

 

『父さんの見出した希望は間違いじゃないんだ』

 

「当たり前よ、この世界で竜馬達こそがワシの希望、ワシの最後の切り札よ」

 

インベーダーに食われ、正常な思考が出来なくなりながらも希望は残してきた。その為に竜馬達に酷い苦しみを与えたが、それでも守る事は出来たと早乙女博士は笑う。

 

『あと何時間かしら?』

 

「そうじゃな、明日の明朝までじゃろうなぁ」

 

早乙女研究所の一室を思わせるその部屋の中で早乙女博士はリクライニングチェアに背中を預け、普段の狂気に満ちた仮面ではなく、穏やかな、武蔵達も良く知る早乙女賢の姿になっていた。

 

『じゃあ、話をしよう。最後までね』

 

『そうね、そうしましょう。お父様』

 

「ああ、そうじゃな、そうしよう」

 

ゆっくりとリクライニングチェアを動かしながら早乙女博士は穏やかに笑う。ドラゴンⅡの調整が終われば、この高密度のゲッター線は消える。そうなれば、後はもう早乙女博士は死ぬしかない、だがそれはただ死ぬのではない。人類への未来を、希望を残して、この苦しみと騙し続ける生に終わりを告げる時が来たのだ……そう思うと早乙女博士に恐怖は無く、ゲッター線の使徒となり迎えに来てくれた愛する息子と娘と話を続けるのだった。自身の終わりがもうすぐ側に迫っているのが、嘘のように驚くほどに安らかで、そして安堵に満ちた表情で夜明けが来るのを待ち続けているのだった……。

 

 

 

 

第24話 決戦前夜

 

 




次回は穏やかな話にしたいと思います。旧友達が揃い、穏やかなときを過ごす最後の時間と言う感じですね。これが終われば世界最後の日編も完結、OG2へ入って行こうと思います。それでは明日の18時の更新もどうかよろしくお願いします。 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話 決戦前夜

第24話 決戦前夜

 

號の診察を終えた敷島博士は號の事を調べたい欲求を押さえ、竜馬達が殴り合いをしているのとは別の格納庫を訪れていた。

 

「どうじゃ、カーウァイ。ご期待には答えれたかの?」

 

「期待以上だ。敷島博士、ありがとう」

 

クジラで武蔵達が別行動をしている間に作成していた改造パーツを装着したタイプSの前でカーウァイは笑みを浮かべていた。

 

「追加装甲はゲッター合金。これは胸部や脚部、そして腕部を重点的に改造した、その分増えた重量は増設したバーニアで対応しておるが、恐らく少しばかり重いじゃろう」

 

エルドランドから持ち出した装甲や換装パーツを使い改造されたゲシュペンスト・タイプSは一目見るだけでも装甲の重厚さが増している。更にカラーをスモークブラックに変えたこともあり、より重厚な印象を与える。

 

「それは操縦しているうちに慣れる。あの背部のパーツは?」

 

「ああ、グランスラッシュリッパーとか言う、エルドランドにあった装備じゃ、規格が合うから付けておいた」

 

おまけ程度に言っているがスペックデータを見れば、それが規格外の装備であることは明らかだった。

 

「後は背中に背負うキャノンと腰部レールガン、これで武装面の追加は終わりじゃ」

 

「世話をかけた敷島博士」

 

「なーに、気にするな。未来の機体をいじれただけで十分じゃよ」

 

そう笑った敷島博士はもう1つのハンガーの前に移動する。

 

「そっちはどうだ?」

 

「期待以上と言わざるを得ない。間違いなく、お前は天才だ」

 

「がっははははッ!! 褒めても何もでんぞ!」

 

イングラムが渡していた設計図を元に建造していたパーツと、量産型R-SOWRDのパーツを組み合わせ、イングラムが望んでいた以上の性能にしてくれていた。

 

「この可変機能も良い。だがこのネーミングは気に食わんな」

 

「ケルベロスモードが不快か?」

 

改造された結果、R-SOWRDの装甲はあちこち改造されており。ブレードモードのほかに高機動モードのケルベロスモードなるものが追加されていた。

 

「実際に使ってから文句を言え、文句があるのならな! それよりもだ。お前達も早く飯でも食って来い、食いそびれても知らんぞ?」

 

真ドラゴンの決戦を控えているからか、タワーに備蓄している食糧を全部出しているのはイングラム達も知っていた。

 

「食料が無くなるなんて信じられないんだが」

 

「俺もそう思う」

 

食料が無くなるなんてありえないと笑う2人に敷島はちゃっかり確保していた握り飯をコンテナの上に腰掛け頬張る。

 

「判らんぞぉ? 武蔵達は常人の10倍は食う。あいつらが和解して飯を食いに行けば吹っ飛ぶぞぉ? 何度早乙女が嘆いていた事か」

 

そう笑われては、本当の事なのかもしれないと慌てて駆けて行くイングラム達を見て敷島博士は楽しそうに笑う。

 

「さーて、ワシも最後の仕事をするかのう」

 

ドラゴンセカンドはこのままでは操縦出来ない、武蔵が操縦出来るように各マシンの炉心にリミッターを掛け、OSを最適化する必要がある。

 

「はっはっはッ!!! いやあ、しかし楽しかった。ああ、本当に楽しかったッ!! 本当に楽しい、良い人生だったッ!!!」

 

この長い人生最後まで分からんなあと敷島博士は本当に楽しそうに笑い、ドラゴンⅡのコックピットに身体を滑り込ませるのだった……。

 

 

 

 

慌てて食堂にたどり着いたイングラムとカーウァイはその場に広がっている光景に絶句した。2つのテーブルを繋げ、竜馬、隼人、武蔵、弁慶の4人で食事をしているのだが、積み上げられている食器の数が半端ではない。

 

「豚カツ5枚!! 豚丼3杯!!」

 

「アメリカンクラブサンドを4つ!! ハンバーグを5枚ッ!」

 

隼人の注文を聞いた竜馬と武蔵が肩を竦め、隼人を指差して笑い出す。

 

「おいおい、聞いたか、竜馬。アメリカンクラブサンドだよと!」

 

「はっ、また始まったなあ! 隼人の格好付けがよぉッ!」

 

竜馬と武蔵の言葉に隼人は一瞬眉を顰め、手を上げる。

 

「クラブサンドは止めだッ! カツ丼大盛り3杯! 豚汁を丼だ!」

 

「ははは。最初から格好付けてるんじゃねえよ! オイラもカツ丼大盛り3杯! 豚汁を丼でよろしくーッ!!」

 

「はっ、小食だなあ。てめえらは、カツ丼特盛り3杯! 豚汁も丼で2杯だッ!」

 

競い合うようにおかわりを続けている竜馬、隼人、武蔵の3人の姿に見ていた誰もが唖然、厨房は戦場の有様。出て来た料理は、直ぐ様無くなって行き……フル稼働している。調理担当も、運び手も「走っていた」走らなければ、4人の食欲についていけなかったのだ。

 

「牛肉のしぐれ煮と豚肉のムニエル。それと……鯵と鰯のフライを頼むぜ」

 

そして竜馬達ほどではないが、凄まじい量を注文している弁慶にこれは不味いとイングラムとカーウァイも慌てて夕食を注文していた。

 

「あ! こらあ、それオイラが頼んだ竜田揚げだろッ!」

 

「うっせえなあ、オラッ!」

 

「もがっ! あぐあぐ……美味いッ! なんだこれ!?」

 

「ステーキだよ、ステーキ! 食いたかったらお前も頼みな」

 

「全く餓鬼かよ、っておい!? 隼人ぉッ!」

 

「なんだ?」

 

「なんだじゃねえよ!? 何しれっと俺のフライ食ってるんだ!?」

 

「五月蝿い奴だ、これだけ並んでいるんだ。誰がどれを食おうと「「もーらいッ!!」」この馬鹿共があッ!!」

 

弁慶にうるさい奴だと高説を口にしていた隼人だが、竜馬と武蔵に骨付き腿肉の唐揚げを強奪され、怒鳴り声を上げている。

 

「ええい、鶏腿肉の唐揚げとステーキ追加だぁ!」

 

「あ、俺も、ステーキよろしく!」

 

「俺もだ!」

 

「俺も頼むぜ。疲れてると思うけどよ」

 

「「「「は、はい……」」

 

給仕の疲れ果てた声に同情する者はいない、ヘタに同情すれば自分達も食材運びに巻き込まれる。それが判ってるから誰も大丈夫かと声を掛ける事はない。

 

「竜馬、漬物くれ」

 

「あいよ、水とってくれ、水」

 

「全く五月蝿いやつだ、ほれ」

 

「おいおい、水を投げるなよ。全く」

 

さっき格納庫で殺し合いもかくやと殴り合いをしていた竜馬達がにこやかに食事をしているのも驚いたが、何よりもガーゼや包帯塗れの癖にあんなにドカ食いして良いのかと見ていた全員は呆然としていた。

 

「すげえ、大将もあんなに食うのかよ」

 

「……親父があんなに食べてるの初めて見た……」

 

長い付き合いの凱や渓ですら見たこともない、大食いをしている弁慶達……だけどその顔は楽しそうで、真ドラゴンとの決戦を前にギスギスした雰囲気が霧散している事に渓は安堵の溜め息を吐くのだった。

 

「……まさか神少佐があんなに食べるなんて……」

 

「食材の備蓄は大丈夫ですか?」

 

「……ぎ、ギリギリですね」

 

なお後にこの時の消費を山崎が計算した折に、4人の食欲の凄まじさにこれが3食続くなら、ロボットの整備費よりも金が掛かりかねないと深く、深く溜め息を吐いていたのだった……。

 

「ふぅ、食った食った。あー……満腹だぁ」

 

「流石に満腹になったな、げっふ……」

 

「久し振りに全力で食べた、いつも我慢してたしなぁ」

 

「……ふう。そうだな、俺も戦場には出ないから我慢していたから久しぶりに満腹まで食べた」

 

厨房の料理人5人、給仕が3人倒れた所で、4人は満腹だと笑い、食後の茶を啜っている。

 

「んん? おい、渓。俺の見間違いか?」

 

「なにが?」

 

カレーライスを食べていた凱が渓にそう尋ねる。ナプキンで口を拭ってから渓が何がと尋ねると凱は竜馬達を指差した。

 

「なんか凄い元気そうじゃないか?」

 

「……あ、確かに……」

 

そこで渓も凱が言おうとしている事に気付いた。竜馬達の顔がつやつやなのだ、気のせいかと思って腕とかを見てもやっぱりつやつやとしていた。とてもさっきまで殺し合いかと思わせる殴り合いをしていた人物達には到底思えず、思わず漏れた、は? の声。しかしそれだけでは済まなかった。

 

「邪魔だなこれ」

 

「ああ、邪魔だ」

 

「おう、邪魔だな」

 

「取っちまうか」

 

「おいおい! お前ら一応……は?」

 

4人は顔や腕、あちこちに張られていた湿布や、ガーゼ、包帯を解いてしまう。それに文句を言おうとしたステルバーのパイロット達と、渓と凱は――己が目を疑った。外されたそこから現れた肌は……「内出血も何も無い」状態だった。

 

「嘘だろ……」

 

内出血や切り傷でボロボロだったのは凱達も見ている。それなのに竜馬達には傷らしい物は何もない、凱の呟きは、ステルバーのパイロット達だけでなく、この船にいる全ての人達の声を代弁していた。

 

「後は風呂でも行くか」

 

「だな、久しぶりに垢でもおとさねえと痒くて仕方ねえ」

 

「だなあ、湯船に肩までどっぷり浸かるかあ」

 

「ならこっちだ。風呂場まで案内しよう」

 

隼人に先導され、風呂場に足を向ける竜馬達。今満腹まで食ってすぐ風呂に入ると言う竜馬達にも驚いたが、あれだけ食べても腹が出ているわけでもない、全員全く姿が変わっていない事に凱が目を見開きながら小さく呟いた。

 

「化け物か……」

 

その言葉に食堂にいた全員が頷いたのは言うまでもない……。

 

 

 

 

まだ日が昇る少し前に緊急招集の警報が鳴り響き、それに目を覚ました竜馬達はタワーの司令室にいた。

 

「太平洋上空のゲッター線の密度が低下している。この調子で行けば夜明けと共に出撃出来るようになる」

 

「なるほど、最終決戦って事か」

 

手の平に拳を打ちつけ獰猛な笑みを浮かべる竜馬。既に竜馬の中に早乙女博士への恨みは無く、自分達をバラバラにした挙句、ミチルを殺し、早乙女博士まで殺したインベーダー……コーウェンとスティンガーへの憎悪へと全て変わっていた。

 

「その通りだが、真ドラゴンに対抗出来るのは真ゲッターロボ、それとゲッタードラゴンⅡ……今後D2と呼称するが、D2だけになるだろう」

 

「ま、待ってよ。ゲッターロボがあるじゃないか! それならあたしと凱だって出撃出来るッ!」

 

自分達が置いていかれるということに気付いた渓が声を張り上げる。だが、武蔵と弁慶に肩を掴まれて黙り込んだ。

 

「渓。號を見てやっていてくれ、インベーダー共には俺達がきっちり落とし前をつけさせてくる」

 

「それに……もう元気ちゃんは早乙女博士を憎めないだろう?」

 

武蔵の言葉に渓は言葉に詰まった。武蔵達が見たと言う真実、D2に残された早乙女博士の遺言。それを見てしまえば、今まで渓を突き動かしていた憎悪や怒りは消えてしまった。怒りや憎悪は人を動かす原動力になる、だがそれを失った時人は無力感に襲われる。今の渓が正にそれだった。

 

「武蔵さん……」

 

「大丈夫。オイラ達に任せてくれ」

 

「……はい」

 

ここまで言われては渓は何も言えない、黙り込んだ渓を見た竜馬はぽんっとその頭に手をおいて、一歩前に出た。

 

「それで隼人、この大事な戦いだ。てめえもゲッターに乗るんだろうな?」

 

尋ねているような口調だが、それは乗るんだなと言う確信を得る為の言葉だった。だが隼人の返答はNOだった。

 

「俺には俺で敷島博士とやることがある。それが終わるまでは、俺はゲッターには乗れん」

 

「……そうかい、そうかい。判ったよ」

 

その目を見れば竜馬だからこそ判る。戦場には出ないが、隼人もまた命を賭けようとしていると……それを見れば何も言いはしない、だが無言で隼人の銃を隼人に投げ返す。

 

「竜馬……良いのか?」

 

「へっ、俺はそこまで馬鹿じゃねえよ。そいつは返す、その意味が判るな?」

 

「……ああ。判るさ、すまなかった」

 

「謝るくらいなら死ぬなよ」

 

竜馬と隼人にしかわからない会話、だが、その会話で長い間のわだかまりが消えたのは見ていて明らかだった。

 

「となるとやはりパイロットが足りない。武蔵、悪いがD2を単独操縦出来るか?」

 

「問題ないぜ、敷島博士がリミッターを付けてくれたお陰でなんとかなる」

 

「よし、では真ドラゴンに対しては真ゲッター、D2の2機で当たる。それ以外の機体はインベーダーから真ドラゴン、D2を守れ。良いか、これが地球の命運を分ける戦いだ。各員、奮起せよッ!!」

 

隼人の激励に返事を返し、竜馬達は格納庫に走る。

 

「へ、まさかまたこうして武蔵と戦えるなんてな。人生どうなるか判らないもんだぜ」

 

「そうだな。オイラもそう思うぜ」

 

「しみじみ言ってる場合かよ、竜馬! 出撃だッ!」

 

「おう! 武蔵も遅れるなよッ!!」

 

タワーから出撃する真ゲットマシンを見送り、武蔵は合体形態でハンガーに固定されているD2を見上げる。

 

「武蔵よ」

 

「うおっ!? な、何だよ。敷島博士か、何だ?」

 

背後から敷島博士に声を掛けられ、仰け反る武蔵に敷島博士は楽しそうに笑った。

 

「敷島博士?」

 

その何の憂いも、未練もないと言わんばかりの笑みに武蔵が怪訝そうな顔をする。すると敷島博士は笑いながら手にしていた物を手渡す。

 

「ワシの最後の作品じゃ、大事にせえよ」

 

「……最後って……敷島博士……あんた」

 

ゲッター合金で作られた日本刀にデザートイーグルを胸に抱え、武蔵は敷島博士を見つめる。口を開こうとした武蔵だが、それは敷島博士の手によって遮られた。

 

「ワシも良い歳じゃ。自分の引き際は判っておる、最後にまたお前達3人が揃ってる姿を見れただけで十分だ。ありがとうよ、お前達にあえてワシは楽しかったよ」

 

「……敷島博士……オイラこそ、楽しかったよ。ありがとう」

 

刀を背負い、デザートイーグルを腰のホルスターに身に付ける武蔵。それを見て敷島博士はもう1度満足そうに笑った。

 

「お前がどんな道を選ぼうと、ワシは責めぬ。後悔せん道を選べよ、武蔵ッ!」

 

「つっ! ああ、ありがとなッ! 行ってくるぜ! 敷島博士!」

 

昇降用のリフトに乗りポセイドン号に乗り込む武蔵を敷島博士は眩しそうに見つめる。

 

「さらば武蔵、もう会う事はこの世界では2度と無かろう……再び時を、世界を超えろ。お前の進む道はこの世界には無いだから」

 

ゲッターウィングを広げ飛び立つD2を見つめ、敷島博士は寂しそうに、しかしそれでいて楽しそうにその真紅の姿を見送るのだった……。

 

 

第25話 決戦真ドラゴン! 復活のゲッターチーム その1へ続く

 

 




今回は殴り合いの後の食事フェイズが書きたい話でしたので少し短めです。世界最後の日は3話くらいで終わる予定です、ここまでお付き合いをしていただきありがとうございました! それでは真ドラゴン決戦編にチェンジゲッターッ!! また明日の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話 決戦真ドラゴン! 復活のゲッターチーム その1

第25話 決戦真ドラゴン! 復活のゲッターチーム その1

 

インベーダー、メタルビーストと対峙するR-SOWRDとゲシュペンスト・タイプSの頭上を高速で飛んで行く、真ゲッターとゲッターD2。

 

「成り行きでここまで来たが、文句は無いか?」

 

「あるわけないだろう。この世界の……この時代の人間は皆良い奴だった、その為に戦う事に不満などある訳が無い」

 

背中合わせで戦うR-SOWRDとゲシュペンスト・タイプS。その周りにはグズグズの肉塊になったインベーダーが蠢いている。

 

「は、やるなあ。おい! イングラムとカーウァイに遅れるな! ステルバー隊の意地を見せてやれ!」

 

「「「おうッ!!!」」」

 

「待てッ!って言っても聞く馬鹿共じゃねえわなあ、支援部隊は俺に続け、行くぞッ!!!」

 

先陣を切るR-SOWRDとゲシュペンスト・タイプS。新西暦の技術、そしてマッドではあるが新西暦の技術を数分で理解する天才である敷島博士によって改造された2機の性能はゲッターロボに勝るとも劣らない素晴らしい性能をしていた。

 

「なんだ、案外悪くない」

 

【ガオオオオーーーンッ!】

 

「……この鳴き声はいただけんがな……」

 

ケルベロスモードの名の通り3つ首の犬の姿になったR-SOWRDが戦場を縦横無尽に掛けぬけ、背部のレールガンと、両側面の犬の首から顔を見せているビームサーベルでインベーダーを引き裂き消滅させる。

 

「グランスラッシュリッパーセット、GOッ!!」

 

背部の巨大なスラッシュリッパーを掴み、回転しながら投擲する。展開されたビームエッジが地表を切り裂きながら、インベーダーを追いかけ、真っ二つに両断し、高速で戻ってくるのを再度背中に装填し、腰のビーム・ブレード・ガンを抜き放つ。

 

「手加減無しだ、全力で行かせてもらうッ!!」

 

「ギシャア!?」

 

「ギャアアッ!?」

 

上下左右ところかありとあらゆる所から姿を見せるインベーダーに視線すら向けず、背後にも、顔の横にも目があるのかといわんばかりの動きで打ち抜いていくタイプS。その姿は一種舞のような美しさと力強さに満ちていた、どんな方向からの攻撃も完璧に対応し、装甲にすらかすらせず、完璧に迎撃する。そして更にそこから移動し、敵を誘導する。完璧なヒット&アウェイと敵の誘い込みを同時に行っていた。

 

「負けてはいられんなッ!!」

 

地面を蹴ると同時に空中で再びPTモードに変形したR-SOWRDが手にしたショットガンが火を噴き、ミサイルを放とうとしてたメタルビーストの肩をミサイルごと吹き飛ばす。

 

「言ったはずだ。逃がしはしないとな、デッドエンドスラッシュッ!!」

 

肩の装甲にマウントされたビームカタールエッジでインベーダーを引き裂きながら、R-SOWRDは地響きを立てて着地する。

 

「なるほど、悪くない。そっちはどうだ?」

 

「良い性能だ、やはり天才だ。敷島博士はな」

 

良い意味でも悪い意味でもなと2人は背中合わせで笑い合う。まさか、自分達のPTのビームライフルやビームサーベルがゲッター線に交換されているとは想定外だったが、これならPTでもインベーダーと互角に戦える。

 

「ここから先にいけると思うな」

 

「貴様らの行く先は地獄だ」

 

漆黒の2機のPT。その圧倒的な姿に破壊する事と食欲しかないインベーダーでさえもたじろいだ。元特殊戦技教導隊隊長「カーウァイ・ラウ」そして因果律の番人「イングラム・プリスケン」その覇気は凄まじく、そしてそんな2人が先陣を切るからこそ、ステルバー隊の士気も高い。数で圧倒的に劣る筈のロボット軍がインベーダーを押し返し始めるのはもはや必然とも言える状況なのだった……。

 

 

 

上空で真ドラゴンと対峙する真ゲッター1とゲッターD2のコンビ。普通に考えれば機体のサイズ、そしてエネルギー総量の差から、真ドラゴンのほうが遥かに有利に思える戦いだが、押しているのは真ゲッターとD2のほうだった。

 

「うおりゃああああああーーーッ!!!」

 

雄叫びと共に振るわれたゲッタートマホークが真ドラゴンの手の平に食い込むが、それだけで、真ドラゴンが反撃に拳を振り上げ、真ゲッターを殴りつけようとするが……その間に真紅の影が割り込む。

 

「させねえよッ!!」

 

「己ぇッ!!」

 

振り上げようとした腕はダブルトマホークを手にするD2によって封じられ、がら空きの顔面にゲッタートマホークの一撃が叩き込まれる。

 

「ぐううッ!!」

 

「オイラを忘れるなよ、早乙女博士ぇッ!!!」

 

D2の手から生えるように姿を見せたレーザーキャノンが真ドラゴンの装甲を容赦なく穿つ。

 

「おのれえッ!!!「ゲッタァアアランサアアアアーーーッ!!!」ちょこざいなあッ!!!」

 

D2に注意が向いた瞬間。真ゲッター1が出鱈目にトマホークを投げ続ける。すると真ドラゴンの胴体から無数のゲッタービームが放たれる。

 

「うぐうッ!?」

 

「竜馬ッ! オープンゲット! チェンジポセイドンッ!!」

 

空中でポセイドン2にチェンジし、フィンガーネットで真ゲッターを捕まえる武蔵。

 

「大丈夫か!?」

 

「へっ、この程度どうって事はねえ。だが……」

 

「決め手が足りないな、どうする。武蔵さん、竜馬」

 

互角に戦えるという事と倒せるって言うのは同意義ではない。ダメージを与えることが出来ても、それを上回る回復力を相手が持っていれば、徐々に追い込まれるのは竜馬達の方だった。

 

「敵を前に悠長に作戦会議かあッ! この愚か者共があ!!」

 

真ドラゴンの口から放たれた高出力のゲッタービームを見て、D2は真ゲッターを突き飛ばし、首元の装甲をパージする。

 

「ゲッタァアアサイクロンッ!!!!」

 

ゲッター線を伴った翡翠色のゲッターサイクロンとゲッタービームがぶつかる。

 

「ぬぐぐううううッ!」

 

「ふっはははははッ! そんなもので抑えきれると思っているのかあッ!!」

 

「思ってなんざねえッ!! 弁慶ッ!」

 

「おう! チェンジゲッター3ッ!!」

 

「うがあッ!?」

 

空中でゲッター3にチェンジした真ゲッターが急降下し、真ドラゴンの頭部を捉え、その顔面を地表にたたきつける。

 

「武蔵さんッ!」

 

「おうよッ! いっけえッ! ストロングミサイルッ!!!!」

 

ポセイドンが背負っている巨大なミサイルが真ドラゴンに向かって射出される。

 

「良い加減にしろよッ! この戯け者共があッ!」

 

着弾する寸前に真ドラゴンが全身から放った高出力のゲッタービームが戦場全てを眩く染め上げる。

 

「「ぐうううッ!?」」

 

咄嗟にガードした竜馬と武蔵だが、弾き飛ばされ真ゲッターは海へ、D2は真ドラゴンの足元の火口に背中から叩きつけられた。

 

「まだまだあ「「ゲッタァアアアアアーーーーッ!!!」」がはあッ!? てめえッ! ゴール、ブライッ!!!」

 

D2が立ち上がろうとした時火口と一体化していたゴールとブライが出現し、その巨大な豪腕でD2を殴りつける。その破壊力にD2の姿は瓦礫の中に消えた。

 

「武蔵!」

 

「武蔵の心配をしている場合があるのか? ゲッタァアアビィィイイムッ!!」

 

「う、うおおおおおおーーーッ!?」

 

真ゲッター、ゲッターD2によって互角の状況になっていた戦況はゴールとブライの乱入によって乱れ、一気に竜馬達が不利な状況に追い込まれてしまうのだった……。

 

 

 

 

竜馬達が必死に戦う中、渓と凱は敷島博士を怒鳴りながら追いかけていた。

 

「ちょっと! 號をどうするつもりなの!?」

 

「こんな状態で動かして、號を殺すつもりか!」

 

意識不明の號を液体に満たされたベッドに寝かせた號をそのまま運び出す敷島博士を止めようと凱がその腕を伸ばした瞬間。凱は敷島博士によって殴り飛ばされていた。

 

「邪魔をするんじゃないッ! 良いか、號こそが地球の命運を分ける存在だ。それを生かす事がワシ等のするべき事だ」

 

「敷島博士! 準備は出来てます!」

 

「うむ! 渓、凱! 號と共にタワーを脱出しろッ! 良いか、後の事は通信で指示を出すッ!」

 

無理やり脱出艇に押し込もうとする敷島博士に凱も渓も食って掛かったが、その直後に警報が鳴り響いた。

 

『各員に告げる、これよりタワーは最終作戦に出る。各員脱出せよ、繰り返す、これよりタワーは最終作戦に出る。各員脱出せよッ!』

 

「ちょっと、最終作戦って何!? 何にも聞いてないんだけどッ!」

 

「それに大将達が戦っているのに、俺達に逃げろって言うのか!」

 

「黙って、脱出せんかッ!」

 

詰め寄る凱の腹に蹴りを入れ、渓達を強引に脱出艇に押し込みタワーから強引に脱出させる。

 

「敷島博士も早く!」

 

「はっ、ワシは元々脱出するつもりなんぞ無いわッ! 神風で死ぬッ! これがワシの人生の幕引きじゃあッ!!!」

 

隔壁を降ろし、司令室へと引き返していく敷島博士。その顔はクローン研究を初めてからは1度も浮かべていなかった、死を望む狂気の研究者の顔だった。

 

「博士!? なぜここにッ! 號達と脱出してくれと頼んだではありませんか!?」

 

「うるさいぞ隼人ッ! ワシは自分の死に場所をここと定めたぁ! ゲッター線の中で生きる早乙女に出会ったからな!」

 

「何を!?」

 

「ははっ!! ワシは判ったのだ! ゲッター線の意味を、そしてその力をッ!」

 

狂ったように笑う敷島博士に隼人は何も言えなかった。判ってしまったからだ、己の死に場所を定め、ここで果てるつもりなのだと……。

 

「手伝ってくれるのですね?」

 

「お前1人ではどうにもなるまいッ! まだお前にやる事がある。そうじゃろう?」

 

モニターにはゴールとブライと殴り合っているポセイドンⅡと、真ドラゴンが執拗に放つ追尾性の高いゲッタービームから逃れている真ゲッターの姿があった。隼人にはまだ真ゲッターに乗り込み、武蔵達と戦うという仕事が残っていた。だからここで死ぬ訳には行かないだろうという敷島博士の言葉に隼人は黙り込んだ。

 

「……博士。すいません」

 

「気にするな、いくぞぉッ!!」

 

タワーのマニュアル制御用の操縦席に腰掛けた隼人とその後ろでコンソールを操作する敷島博士。タワーの側面から突き出た3本ずつ、計6本のアームを出してタワーは真ドラゴンに突撃する。

 

「隼人、無茶だぁ!」

 

「馬鹿野郎! 弁慶ッ! 隼人が計算も無くこんな事をするかッ!!! ゲッタァアアランサアアアアーーーッ!!!」

 

両肩から無数のトマホークを取り出し投げ付け続ける真ゲッター1。タワーを追いかけていたインベーダーはそれによって両断され、墜落する。

 

「うおおおおおおおーーーッ!!!」

 

「ぐいがああッ!?」

 

隼人が雄叫びと共にタワーのアームを真ドラゴンに突き立て、放出口から真ドラゴンのゲッター線を吸い取る。

 

「竜馬ぁッ! 武蔵ィッ!!」

 

「へ、そう言うことかよッ!!! ゲッタァアアビィィムッ!!!」

 

「サンキュー竜馬ッ! オープンゲットッ!!! チェンジッ! ドォォォラゴンッ!!!」

 

ゴールとブライの執拗な攻撃だったが、背後からのゲッタービームでゴールとブライが吹き飛んだ隙にD2も上空へと逃れる。

 

「炉心の1~4の外部装甲パージ。続けて、エネルギー補給モードON」

 

「うっしゃあッ!!」

 

真ドラゴンから放出したゲッター線を真ゲッター、D2に与え、その戦闘力を上げる。それが隼人の立てていた計画だった。

 

「ぐっぐぐうう……くそッ! これで2割だとッ!」

 

だが計画通りには行かず、タワーの限界値が先に来てしまい、タワーのあちこちが融解し、爆発を始める。

 

「いや、これで十分じゃ。竜馬! 武蔵! タワーから離れろッ! お前も脱出しろッ! 隼人! 後はワシに任せてな」

 

「……敷島博士……今までありがとうございましたッ!」

 

司令室を隼人が出て行くのを見送り、敷島博士はタワーの動力源のロックを解除した。

 

「インベーダー共めッ!! 貴様らに好き勝手された恨みッ!! 今ここで思い知らせてくれるわあッ!!!」

 

動力源に直接流れ込む、真ドラゴンの膨大なゲッター線。それは半壊しているタワーが到底許容出来るエネルギーではなく、タワーの動力と真ゲッターのゲッター線が融合し発生した凄まじい爆発に敷島博士の姿もタワーの姿も飲み込まれていくのだった……。

 

 

 

 

それは一瞬の事だった。真ドラゴンのゲッター線とタワーのゲッター炉心によって巻き起こった大爆発は、周辺のインベーダーは勿論。真ドラゴン達をも巻き込むとんでもない大爆発を起した。

 

「敷島博士ッ! 隼人ぉッ!!!」

 

吹き飛んだタワーを見て武蔵がタワーに残っていたであろう。敷島博士と隼人の名を叫んだ。

 

「う、うおおおおおーーッ!?!?」

 

爆発の中から飛び出てきた隼人の姿を見て安堵するが、まだ終わった訳ではない。むしろここからが始まりと言っても良いだろう。

 

「武蔵! 隼人はこっちで拾うッ!!!」

 

「援護は頼みました!!」

 

「おうよッ! チェンジポセイドンッ!」

 

真ゲッターが分離し、空中を舞う隼人の回収に向かう。だが勿論それをゴールとブライはもちろん、真ドラゴンも見逃す訳が無い。

 

「ゲッタァアアアサイクロンッ!!!」

 

しかし武蔵が当然インベーダー達の思い通りにさせる訳が無い。真ゲッターがオープンゲットするのと同時にオープンゲットしていたD2はポセイドン2へとゲッターチェンジし、ゴールとブライの前に着地すると同時に至近距離からフルパワーのゲッターサイクロンを放った。

 

「き、キシャアアアーーッ!!!」

 

「ゴガアアアアーーッ!!!」

 

最初は耐えていたが、真ドラゴンのゲッター線も吸収したポセイドン2のパワーに成す術もなく、上空へと巻き上げられる。

 

「フィンガアアアーーネットォーーーッ!!!」

 

自身が巻き上げたゴールとブライをフィンガーネットで絡め取り、真ドラゴンの真下で腕を高速で振り回す。

 

「おらあッ! 隼人乗りやがれええええッ!!!」

 

「うっ、うおああおあああああーーーーッ!!!」

 

ジャガー号の突進を辛うじてかわし、ジャガー号の中に乗り込んだ隼人は海水塗れ、ボロボロの姿で操縦席に背中を預けていた。

 

「はっ、相変わらず無茶をしてくれるぜ」

 

「助けてやったのに、随分な言い草だ」

 

「いや、あれは助けたとは言わねえと思う……」

 

真ジャガーの突撃を隼人だからかわせたが、失敗してたらミンチだった筈だ。それが判っているからこそ、弁慶は苦笑いを浮かべる。

 

「いいや、良い救出方法だった。ああ、一歩間違えば俺は死んでいたが、良い救出方法だったよ。あれに、巻き込まれたら死んでいたからな」

 

「大雪山おろしいいいいーーーッ!!!」

 

大雪山おろしでゴールとブライを巻き上げ、フィンガーネットを切断し、そのままの勢いで真ドラゴンにぶつけるポセイドン2。だがそれだけでは終わらず、もう1度フィンガーネットでゴールとブライを巻きつけ、ジャイアントスイングの要領で横回転を始める。

 

「もういっぱーっつッ!!!」

 

「うごおおおッ!?」

 

「「ギアアアアアアッ!!!」」

 

遠心力と速度の付いた横殴りの一撃に早乙女博士もゴールとブライも悲鳴を上げる。だが武蔵は更に攻撃を繰り出す、ゴールとブライと言う圧倒的な質量を真ドラゴンを殴りつける鈍器としたのだ。

 

「うおおおおーーーッ! 大雪山おろしッ!! 3段返しいいッ!!!」

 

トドメと言わんばかりに最後はゴールとブライの巨体をハンマーのように真ドラゴンの顔面に叩きつける。ゴールとブライは勿論、真ドラゴンもその衝撃には耐え切れず、地面に叩きつけられる。

 

「しゃああッ! 竜馬! 隼人ッ! 弁慶ッ!! 行くぜぇッ!! チェンジライガーッ!!!」

 

「は、武蔵はお前をご指名だぜ、隼人」

 

「なら、それに応えないとなあッ!! チェンジッ! ゲッタァアアーーーツウッ!!!」

 

ライガーとゲッター2にチェンジし、白銀と蒼い流星が動きを止めた真ドラゴンの胴体部にドリルを突き立て、そのまま真ドラゴンの内部へ侵入した。だがその直後、上空から飛来したインベーダーにライガー、真ゲッター2と共に飲み込まれる。

 

「ふっふっふ、これであいつらは何も出来ない」

 

「ひっひっ、都合の良い幻を見て果てるが良い!!」

 

メタルビースト・ドラゴンの中でコーウェンとスティンガーが声を押し殺して笑う。だがドラゴン号の中の早乙女博士は、ほんの僅かに残った自我の中でライガーと真ゲッター2を見つめている。

 

(どうしたッ! お前達はその程度なのかッ!)

 

このまま夢の中で死ぬのかと心の中で叫んだ早乙女博士、だがその瞬間。ライガーと真ゲッター2を飲み込んでいたインベーダーが内部から弾き飛んだ。

 

「くだらねえ幻を見せてくれたもんだぜ。なぁ、隼人、武蔵、弁慶よ」

 

「「……」」

 

声も無いほどにぶち切れている武蔵と弁慶、そして怒りのあまり饒舌になっている竜馬。

 

「……てめえらに殺されたミチルさんの仇……今ここで取らせて貰うぜぇッ!!!」

 

竜馬達の怒りに呼応するようにゲッター線の光を放つライガーと真ゲッター2。コーウェンとスティンガーは触れてはいけないものに触れてしまったのだ……ゲッター線の中でミチルの死の真実を知り、完全に和解した竜馬達を幻を使い、その仲を引き裂く……。――最早そんな物で引き裂けるほど竜馬達の絆は脆いものではない。何をしてもどうにもなる事など無い……無二の絆となったのだ。皮肉にもその絆は、4人を引き裂こうとしたインベーダーの策によって、より強く結びついた……4人の心は完全に1つになっていた。それを再び引き裂く事など、誰にも出来ない。真の絆が4人の心を強く結んでいた、そしてそれを齎したのは人間の心を甘く見ていたインベーダーだった。

 

「行くぞ! 竜馬、武蔵、弁慶ッ!!」

 

「「「おうッ!!!」」」

 

怒りに満ちた竜馬達の咆哮が真ドラゴンの内部に響き渡るのだった……。

 

 

 

第26話 決戦真ドラゴン! 復活のゲッターチーム その2へ続く

 

 




次回はメタルビースト・ドラゴン戦ですが、こっちが2体なのでもう一体敵が出てくる予定です。何がでてくるのか、そこを楽しみにしていてください。折角2体のゲッターがあるので、合体攻撃とかやりたいと思っておりますので! 真ゲッターとゲッターD2の合体攻撃、そしてくだらない幻でぶちきれて気力超限界突破モードの竜馬達の荒々しい戦いを書いて行こうと思います。それでは次回の更新も同かよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26話 決戦真ドラゴン! 復活のゲッターチーム その2

第26話 決戦真ドラゴン! 復活のゲッターチーム その2

 

人間には誰しも触れて欲しくない部分と言うものがある。インベーダー……コーウェンとスティンガーが行ったのは、竜馬達のトラウマでもあるミチルの死を利用した精神攻撃だった。

 

竜馬には死にたくない、助けて助けてと良いながら血塗れで迫るミチルの姿が……。

 

隼人には隼人は悪くない、悪いのは竜馬だと良い、しだれかかるミチルの姿が……。

 

弁慶には出来損ないでは無いと優しく何度も何度も言い、竜馬達を罵倒するミチルの姿が……。

 

武蔵にはミチルに告白され、そして早乙女博士にも祝福されるという夢を見た……。

 

武蔵の事をあまり知らないコーウェンとスティンガーだからこそ、都合のいい夢を見せた。だが竜馬達はそれに飲み込まれることは無かった……なぜならば知っているから、竜馬と隼人を救う為。合体を中断させ、自ら死を選び自分達を救ったミチルを知っているから……そして苦しみながら、自ら悪を演じた早乙女博士を知っているから……それは竜馬達の怒りと言う名の業火に油を注ぐだけだった。

 

「ドリルミサイルッ!!!」

 

「ジェットドリルッ!!!」

 

同時に放たれたドリルミサイルがダブルトマホークを構えていたメタルビースト・ドラゴンへと突き進む。命中の瞬間にオープンゲットしたメタルビースト・ドラゴンだが、コーウェンとスティンガーは自分達の策が何の意味も持たなかったことに困惑していた。

 

「何故だ!? 何故一瞬たりとも効かなかった!?」

 

「し、信じられない、何故なんだ!?」

 

訳が判らず困惑するコーウェン達だが、早乙女博士には判っていた。自分の元に訪れたのと同じく、ミチルが自らの死の真相を語ったのだと早乙女博士には判っていた。

 

「はーははははッ! 人間の業を甘く見ていたわッ! 行くぞ、スティンガーッ!」

 

だがそれが判っていても、それを口にすることは無い。最後まで悪の研究者としての仮面を被り続ける。

 

「チェンジッ! ライガーッ!!」

 

空中でライガーにチェンジし、ドリルをかざして突撃するメタルビースト・ライガー。真ゲッター2も迎え撃つようにドリルを突き出し、2機のドリルがぶつかり合う直前に隼人達は笑みを浮かべた。

 

「「「オープンゲットッ!!」」」

 

「なッ!! 「うおりゃあッ!!!」うわあああーーッ!!」

 

真ゲッター2の後ろから姿を見せたポセイドンの豪腕がライガーの顔面を捉え、壁に向かって殴りつける。

 

「スティンガー君ッ! オープンゲット、チェンジッ! ポセイドンッ!「はっ、てめえらで俺達に勝てると思ってんのかあッ!!」ぐああッ!?」

 

ポセイドンにチェンジした瞬間、上空から急降下してきた真ゲッター1の踵落としがポセイドンの頭部を捉え、下へと叩きつける。

 

「チェンジドラゴンッ! ゲッタァアアビイイームッ!!」

 

叩き付けれられる前にオープンゲットし、ゲッタービームを真ゲッターに向かって放つが、それは両腕をクロスしたポセイドン2が防御に入り、強固な装甲に弾かれ霧散する。

 

「ゲッタァアビィィイイイムッ!!!!」

 

「ぬああああッ!!!」

 

ポセイドン2の背後から姿を見せた真ゲッター1の腹部からの高出力のゲッタービームに飲み込まれ、メタルビースト・ドラゴンは今度こそ、地表にたたきつけられる。

 

「ば、馬鹿なッ! 何故こうも出し抜かれるッ!?」

 

「あ、ありえないありえないッ!」

 

インベーダーにとって武蔵はゲッター線の適合率の低い出来損ない。だが、今はどうだ? 完全に自分達を出し抜き、声も合図も交わさずに自分達を悉く上回っている。

 

「おらおらおらッ!!!!」

 

「くっ! オープンゲットも出来んッ!!「逃がさないぜッ!!」しまったあ……ッ!?」

 

メタルビースト・ドラゴンの足に巻きついたチェーン。それによってメタルビースト・ドラゴンがライガー2に引き寄せられ掛けた時。真ドラゴンの壁が爆発した。

 

「ゲッタァアアアアアーーーーッ!」

 

「な、ぐあっ!?」

 

壁をぶち破り姿を見せたゴール&ブライの体当たりを喰らい吹き飛ぶライガー2。その姿を見て早乙女博士は笑う、まだまだ自分は竜馬達を育てる時間があるのだと笑った。

 

「ふっはははっはあーーーッ!! これで2対2! 仕切りなおしと行こうではないかあッ!!」

 

ゲッターD2にはゴール&ブライが立ち塞がり、真ゲッターの前にはメタルビースト・ドラゴンが立つ。早乙女博士の言う通り、戦況は完全に仕切りなおしとなっているのだった……。

 

 

 

 

ゴール&ブライと対峙しているゲッターD2を見て、竜馬達は援護に向かいたいと思っても、執拗に襲ってくるメタルビースト・ドラゴンの攻撃に竜馬達の動きは完全に束縛されていた。

 

「くそっ! 厄介なッ!」

 

「隼人! 俺に任せろ! チェンジッ!! ゲッタァーーースリィィいいいいーーッ!!」

 

高速で空中を駆けるライガーを捕まえる為に重装甲のゲッター3にチェンジし、その細身のドリルを受け止めながら着地するゲッター3。そのコックピットの中で弁慶は力強く笑った。

 

『もう、教える事は無いよ。弁慶なら出来る』

 

(ありがとうございます、武蔵さんッ!)

 

時間の許す限り大雪山おろしを教えてくれた武蔵。今こそ、その思いに応えるべきだと弁慶は感じていた。

 

「直伝ッ!! 大雪山おろしぃぃいいいいッ!!!」

 

「ぐ、ぐおおおおッ!?」

 

それは紛れも無く完全な大雪山おろし……いや、新西暦での戦いを経て、より知識を深めた武蔵が弁慶に合うように教え、弁慶の為にアレンジされた大雪山おろし改とも言うべき一撃だった。

 

「がっはああッ!? 己ッ!」

 

空中でオープンゲットすることも許されず、真ドラゴンの壁に叩きつけられるライガー。その全身から火花が散るのを見て、弁慶は追撃の一撃を放つ。

 

「ミサイルストームッ!!!」

 

戦車部から射出された小型ミサイルの雨がメタルビースト・ライガーへと命中する寸前、ミサイルが空中で止まり反転し真ゲッター3を襲う。

 

「ぐうううッ! ちいっ! 鬱陶しいにも程があるッ!」

 

虫の息のゴールとブライの念動力によって射撃系の武器は自分へと跳ね返り、メタルビースト・ドラゴンの攻撃は加速、あるいは減速し、竜馬達を幻惑していた。

 

「武蔵! とっとそのくたばり損ない……おい、武蔵ッ! 武蔵ッ! どうしたッ!」

 

ダブルトマホークを構えたまま沈黙するD2の異変に気づき、竜馬が何度も声を掛けるが武蔵は返事を返さない。

 

「ははははッ! 死ねええッ!!!」

 

「武蔵ッ!! ぐうっ!?」

 

武蔵へゲッタービームが放たれるのを見て、真ゲッターが庇うがゲッタービームの直撃を受けてしまう。

 

「武蔵ッ! どうした武蔵ッ!!!」

 

「っ……竜馬……隼人……す、すまねえ、ちょっと意識が飛んでた……大丈夫だ」

 

武蔵からの返答はあったが、ぽたぽたっと何かが滴り落ちる音が竜馬達の耳には聞こえていた。

 

「おい、本当に大丈夫か!?」

 

「だ、大丈夫だ! ゴール達はオイラがなんとかするッ!」

 

だから大丈夫だと言う武蔵の声を竜馬は空元気だと悟っていた。いくらリミッターが付いたといえど、ゲッターD2のパワーは桁外れだ。それをフルパワーでこれだけ稼動させていたのだ……身体が限界を迎えるのは明らかだった。

 

「隼人ッ!」

 

「おうッ! チェンジゲッターアアアアッ!!」

 

このまま戦わせれば武蔵の命が危ないと竜馬達は危険を承知で、メタルビースト・ドラゴンを無視すると言う選択を取った。

 

「うおおおおおおーーーーッ!!!」

 

念動力で動きを止められるが、それを物ともせずゲッタードリルをゴールの顔面を貫いた。そしてそこに足を振り上げゴールの巨体を蹴り飛ばす。

 

「プラズマドリルッ! ハリケェェエエエーーーンッ!!」

 

更にそこにドリルハリケーンを叩き込み、ゴール達の姿を上空へと吹き飛ばす。

 

「オープンゲット! 弁慶ッ!!」

 

「おうッ! チェンジゲッタースリィィイイッ!!!」

 

オープンゲットし、ゴールとブライを追い抜こうとする真ゲットマシンをメタルビースト・ライガーが追う。

 

「させん。させんぞおッ!「させねえのはこっちだあッ!!」ぐうっ!? まだ動くかッ!」

 

メタルビースト・ライガーの足元にフィンガーネットが絡みつき、その巨体を引き摺り下ろす。

 

「うぐぐ……最後までオイラは戦うぞッ!! うおおおおッ!!」

 

滴り落ちる鼻血を拭い、裂帛の気合と共にメタルビースト・ライガーを引き摺り下ろし、マウントをとって豪腕を何度も振るう。メタルビースト・ライガーはフィンガーネットに絡め取られているので脱出も出来ず、その豪腕を何とかして防ぐしか出来なかった。

 

「うおおおおッ! 大雪山おろしいいーーーッ!!」

 

「「ギヤアアアアーーッ!?」」

 

押し潰しからの大雪山おろしで苦悶の雄叫びを上げ再び上空に巻き上げられるゴールとブライ。

 

「ゲッタァアアアキャノンッ!!!」

 

ポセイドン2の両肩には収納式のキャノン砲がある。そこから放たれた熱線がゴールの口の中に飛び込み、頭を跡形も無く消し飛ばし再生すらも阻害する。

 

「うっし、うがあッ!!」

 

「何時までも調子に乗ってるんじゃあないッ!!」

 

「うぐぐうッ!!」

 

メタルビースト・ライガーの膝蹴りを喰らい、今度は逆にポセイドン2がマウントを取られ、コックピットにメタルビースト・ライガーのドリルが迫る。両手で掴んでドリルを食い止めているポセイドン2だが、徐々に徐々にポセイドン号に迫るのを見て竜馬達は一刻も早く武蔵を助ける為に動き出す。

 

「竜馬! けりをつけろッ!」

 

「おうッ! こいつであの世に逝きやがれッ!! ゲッタァアアアビィィイイイムッ!!!」

 

「「げ、ゲッタァーアアアアアアアアア……」」

 

最後まで怨嗟の声を上げ、ゴールとブライはもがき苦しみながらゲッター線の光の中へと消し飛んだ。

 

「武蔵ぃッ! 今行くぜッ!!」

 

急降下した真ゲッター1の一撃をメタルビースト・ライガーはオープンゲットし交わす、だがそれを逃がさないと言わんばかりにオープンゲットし、ゲッターポセイドンにチェンジしたのを見て、竜馬達はあることに気づいた。

 

「おい、気付いたか」

 

「ああ、見たぜ」

 

「へっ、なら一気に決めるぜッ!!」

 

自分達よりもチェンジのタイミングが遅かった。ならばそこに割り込み、一気に片を付ける。竜馬達はコックピットの中で笑みを浮かべ、チェンジゲッター1と叫ぶのだった……。

 

 

 

スティンガー、コーウェン。インベーダーに喰われて変わってしまった友人達と共にゲッターロボに乗る。それはかつての早乙女博士の夢だった。

 

(こんな形で叶って欲しくは無かったがな……)

 

年老い、ゲッターロボに乗れないことを悲しみ、竜馬、隼人、武蔵に希望を見出しゲッターロボのパイロットに選んだ。今思えば、竜馬達は自分達の若い時に良く似ていたなとぼんやりと早乙女博士は感じていた。

 

「ふわははははッ! 初代ゲッターチームを舐めないで貰おうかッ! トマホークブーメランッ!!!」

 

両肩から取り出したダブルトマホークを動けないでいるゲッターD2に投げつける。

 

「やらせるかよッ! ゲッターサイトッ!!」

 

「ッははははッ!! やるな、竜馬ッ!!!」

 

「はっ! ったりめえだッ! 俺はジジイが選んだゲッターパイロットだぜッ!!」

 

その言葉に一瞬動きを止めて早乙女博士は獰猛に笑った。

 

「そうだ! ワシが選んだからこそ、お前の考えている事は手に取るように判るッ!!」

 

武蔵……ゲッター線の齎す運命によって、数奇な運命を背負ってしまった男。その運命を化した事を後悔し、そしてそれと同時に自分が作り出した最後のゲッターが武蔵の手に渡った事……それら全てがゲッター線が齎している事だと早乙女博士は感じていた。

 

「ゲッターキャノンッ!!」

 

ポセイドン2の両肩から放たれた高濃度に圧縮されたゲッターエネルギー弾。それは直撃すればドラゴンでさえも致命的になるほどに高密度に凝縮された攻撃だった。

 

「ぬうっ!? 早乙女博士ッ!」

 

「おうッ! オープンゲットッ!!」

 

「へっ! 逃がすかよ、隼人、弁慶ッ!」

 

「「おうッ!!!」」

 

コーウェンの声に従い反射的に分離し、ゲットマシンとなり真ドラゴンの内部を飛ぶと同時に真ゲッターもオープンゲットし、計6機のゲットマシンが複雑な軌道を描きながら飛び交う。

 

「オープンゲットッ!!」

 

そしてそこに分離したゲッターD2も加わり、9機のゲットマシンが飛び交い、それぞれの合体を妨害しようとマシンガンとレーザーの嵐が交錯しあう。

 

「早乙女博士、今だッ!」

 

「い、一気にき、決めよう!」

 

スティンガー、コーウェンの言葉にパイロットとして、そして研究者としての早乙女はNOを出したが、インベーダーとしての己はGOを出した。

 

(やりおるわッ!)

 

業と姿勢を崩し、ゲッターチェンジが出来ないと思わせ合体を誘発させる。竜馬達の策に引っかかっていると思いもよらないスティンガー、コーウェンに内心馬鹿めと思いながらレバーを引いた。

 

「「「チェンジドラゴンッ!!」」」

 

ライガー号とポセイドン号が合体し、ドラゴン号と合体しようとした瞬間。コックピットに赤い影が割り込んできた。

 

「へっ! 遅いんだよッ!!」

 

「「ば、馬鹿なッ!?」」

 

合体の間に割り込み、ライガー号とドラゴン号の間に割り込み真ゲッター1と合体を果たした竜馬達の声が早乙女達の耳を打つ。

 

「悪いな、俺達は目を瞑っても合体できるんだッ!」

 

(ああそうだ、お前達には過酷な訓練を課したなあ……許せよ、竜馬、隼人、弁慶……)

 

「研究チームと戦闘チームの違いって奴だ」

 

(そうだな、その通りだ、隼人)

 

「やっちまえ、竜馬ッ!!」

 

ドラゴン号の内部装甲が拉げ、身体が千切れる痛みに顔を歪める早乙女博士。だがインベーダーに寄生された身体は早乙女博士の意思に反して再生を果たし、爆発してドラゴン号から吹き飛ばされる中で完全に再生を果たし、真ドラゴンの壁に触れて新たなドラゴン号を生成し、その中に乗り込んで再び合体の為に空を舞う。

 

「何ッ!? うおッ!?」

 

ドラゴンの上半身と下半身に合体していたゲットマシンが動き真ゲッターを蹴りつけて再び浮上する。

 

「チェンジドラゴンッ!! ははははッ! 真ドラゴンの内部に居る限りワシらは不死身! お前達に勝機など最初から無いわッ! ゲッタービームッ!!!」

 

「させるかよ、ゲッタービームッ!!」

 

メタルビースト・ドラゴンとゲッターD2のゲッタービームがぶつかり、真ドラゴンの内部を翡翠の光で染め上げる。

 

「ぐうううッ!」

 

「まさか武蔵にここまでのパワーがあるとは!?」

 

「ぐあっ!?」

 

磁石の反発のようにメタルビースト・ドラゴンとゲッターD2が弾き飛ばされ、互いに爆発を繰り返し、真ドラゴンの壁に背中からぶつかる。ゴールとブライが居なくなった事で数の利を失った早乙女博士達だが竜馬達と武蔵との戦いは完全に互角であり、真ドラゴンでの内部での戦いはより激しさを増していくのだった……。

 

 

 

 

武蔵が不調に陥っていたのはゲッターD2のパワーだけではない、激しい頭痛に襲われていたのだ。竜馬達との戦いは無意識であわせていたが、真ドラゴンの内部に突入してからの記憶はあやふやで、今も自分が操縦桿を握っているのかどうなのかでさえも武蔵には判らなかった。

 

(うっ、うぐう……)

 

頭の中で様々な光景が浮かんでは消えていく……

 

青いアルトアイゼンが色んな機体を追い回し、リボルビングステークで刺し貫き破壊する光景。

 

月で共闘した蒼い機体の特機のパイロットだろうか、その若い男が叫ぶ姿。

 

ゲシュペンストの中から姿を見せる異形の姿……

 

(なんだ。なんだこれは……)

 

その光景はどれもが知らない筈なのに、リュウセイ達の姿を連想させる。そしてその光景はどんどん激しさを増していく……。

 

グルンガスト零式に良く似た赤と紫の特機が巨大な剣を振るう姿……。

 

西洋の騎士を思わせる特機がハンガーに固定される姿……。

 

エルドランドに良く似た戦艦が何かから逃げ回る姿……

 

そしてメタルビースト・SRXの姿までもが鮮明に浮かび上がる。

 

最後に鮮明に浮かび上がったのは培養液の中で眠る無数の人の姿だった……。

 

『武蔵、武蔵……囚われてはいけない』

 

(ご、號……?)

 

號の声が脳裏に響くと同時に武蔵を襲っていた。頭痛は消え去った……それと同時に意識がより鮮明になっていく。

 

『まだ、その時ではない、今は目の前の戦いに集中するんだ』

 

諭すように、落ち着けと言わんばかりに柔らかい声が何度も脳裏に響き、徐々に武蔵は落ち着きを取り戻していた。

 

(大きく深呼吸をして……ゲッターチームの……4つの心を……1つにするんだ)

 

武蔵が頭痛に苦しんでいる間にもゲッターD2は動いていたのか、いつの間にか真ゲッター1と並んで上空に浮いていた。

 

(思いを込めて……パワーを上げるんだ)

 

號の声が響く度に鮮明の脳裏に浮かんでいた光景は消えていく……それは號がまだ知るべきではないと武蔵の記憶から、その光景を消そうとしているような気がした。

 

「ストナアアアアーーーーッ!! サアアアアンッ!! シャ……「「キシャアアアーーーッ!!」」インッ!?」

 

真ゲッター1から今正にメタルビースト・ドラゴンに向かってゲッター線の塊が撃ち込まれようとした時。ゴールとブライの首が背後から真ゲッター1を襲い、ストナーサンシャインが明後日の方向に飛んで行く、それを見た武蔵は即座に操縦桿を動かしていた。

 

「うっ、うぐううううッ!!!!」

 

「む、武蔵ッ!? 何をするつもりだ!」

 

「止めろ! 死ぬぞッ!!」

 

自らストナーサンシャインの中に飛び込んだ武蔵は凄まじい痛みと熱に耐えながら、歯を食いしばりペダルを踏み込んだ。

 

「ストナアアアアッ!!! サンシャイン……スパァァアアアアックッ!!!!」

 

ストナーサンシャインとシャインスパークが融合し、尾を引きながらメタルビースト・ドラゴンへと突撃するゲッターD2。

 

「させるかぁッ! ゲッタァアアビィィイイイムッ!!!」

 

メタルビースト・ドラゴンはゲッターD2の突撃を食い止めようと頭部から高出力のゲッタービームをゲッターD2に向かって放つ。

 

「ば、馬鹿な!?」

 

「勢いが止まらないだと!?」

 

真ゲッター1とゲッターD2のゲッター線を放出し突撃するゲッターD2。ストナーサンシャインスパークは攻撃と防御を兼ね備えた最強の攻撃だ、だがゲッターD2もその高出力のゲッター線に焼かれてあちこちから火花を散らす。

 

「武蔵さん! 死ぬつもりですか!?」

 

「馬鹿野郎ッ! 死ぬつもりなんてねえッ!!」

 

死ぬつもりなんて無いと叫んだ武蔵だが、ゲッター線のエネルギーにゲッターD2の全身が焼かれ、灼熱地獄を味わいながらもその目は爛々と輝いていた。

 

(早乙女博士……さよならだな。もうゆっくり眠ってくれよ)

 

真ドラゴンの内部で戦い始めて、初めて明確になった意識で武蔵は早乙女博士への分かれを心の中で呟き、最高加速のままメタルビースト・ドラゴンに向かってゲッターD2は体当たりを叩き込んだ。

 

「ぬ、ぬああああああああーーーッ!!!」

 

「う、うわああああああーーーッ!」

 

「お、おのれおのれ……武蔵。出来損ないのゲッターパイロット如きがあああああーーッ!!!」

 

メタルビースト・ドラゴンに体当たりしたゲッターD2の姿はメタルビースト・ドラゴンの中に吸い込まれるようにして消えた。その光景に竜馬達は息を呑んだが、次の瞬間ライガー号の体を引き裂き、ゲッターD2が再び姿を見せ、早乙女博士達の断末魔の叫びが響く中、姿を現したゲッターD2は弾丸のような勢いで3つの光へと分離する。

 

「オープンッ!! ゲェェット!!!」

 

ゲットマシンへと分離したゲッターD2がメタルビースト・ドラゴンから離脱し、真ゲッターの隣でゲッターD2へと合体する。

 

「ふっはははははーッ! 良くぞ、良くぞやった。竜馬、隼人、弁慶、そして武蔵よッ!!!」

 

ストナーサンシャインスパークの中で崩壊していくメタルビースト・ドラゴンの中から早乙女博士の嬉しそうな声が響いた。

 

「「「「早乙女博士ッ!!」」」」

 

「ふっふっふ……良くぞ、良くぞやり遂げてくれた。我が希望よッ! だが、これで戦いは終わりではないッ!!」

 

早乙女博士の一喝が真ドラゴンの内部に響き渡る。それは怒号ではあったが、竜馬達を思う響きをしていた。

 

「……ワシの引いたレールはこれで最後……だが、お前達の戦いはまだこれからだッ! これからはお前達で自らの運命を切り開けッ!! さらばだあッ!!! はははッ!! はーっははははははッ!!!」

 

高笑いの中メタルビースト・ドラゴンは炎の中に消え、爆発を繰り返す真ドラゴンの中から真ゲッター1とゲッターD2は、溢れる思いを無理矢理振り切って、早乙女博士の遺志を継ぐ為に飛び立つのだった。

 

 

 

真ドラゴンが爆発を繰り返すのを、タワーからの脱出艇の中から見た渓達は叫び声を上げた。

 

「親父ぃッ! 武蔵さんッ!!」

 

「くそどうなってるんだよッ!」

 

武蔵達を助ける為にロボット部隊が真ドラゴンに向かうのを見て、凱と渓も脱出艇を飛び出そうとした時。背後から肩を掴まれた、今この脱出艇にいるのは渓と凱……そしてもう1人だけ。渓と凱は笑みを浮かべながら振り返る、そこには想像通りの人物の姿があった。

 

「ご、號ッ!」

 

「お、お前! 目を覚ましたのかよ! 良かった」

 

意識不明だった號が目を覚ましたことに喜んだ渓と凱だが、號の悲しそうな顔を見て目を見開いた。

 

「ご、號? どうしたの?」

 

「渓……凱。俺達はいかなければならない」

 

「行くって……何処に行くんだよッ!」

 

外に出ようとする號の手を掴もうとする凱だが、振り返った號の顔を見て息を呑んだ。號の目からは涙が溢れていたのだ。

 

「行かないといけないんだ。俺達だけじゃない、竜馬も、隼人も、弁慶も……皆行かなければならない」

 

「だからどこへ!?」

 

「ついてくれば、判る。これは避けることが出来ない事なんだ」

 

悲しそうな顔をして歩き出す號の後を追って、渓と號も歩き出した。その先で渓達を待つのは想像を絶する悲しみと永遠の別離なのだった……。

 

 

世界最後の日編最終話 さらば友よッ! 新たなる旅立ちへ続く

 

 

 




次回は世界最後の日最終話となります。ここまでお付き合いしていただき本当にありがとうございました。最終話でどんな結末が待っているのか、そしてその後に何が待っているのかを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

世界最後の日編最終話 さらば友よッ! 新たなる旅立ち

世界最後の日編最終話 さらば友よッ! 新たなる旅立ち

 

 

真ドラゴンが爆発し、インベーダーの動きが極端に鈍くなった。それが何を意味するか、この地獄のような戦場にいる全員が理解していた。

 

「あいつらッ! やりやがったッ!! 真ドラゴンを倒しやがったッ!!」

 

「今だッ! 全員気合を振り絞れッ! ここが正念場だあッ!!!」

 

真ドラゴンが沈黙した事で元々高かった士気が爆発したように更に激しく燃える。その光景を見ていたイングラムとカーウァイもその戦線に加わろうとした。だが……それは出来なかった。

 

「馬鹿な……何がどうなっているッ!?」

 

最初にそれに気付いたのはイングラムだった。R-SOWRDのコックピットで雄叫びにも似た咆哮を上げた。

 

「あれは……ゲシュペンスト……タイプTなのか……ッ!?」

 

遥か上空に浮かび上がった1つの光景。それは蒼いアルトアイゼンがインベーダーにも似た奇妙な生物と共にSRXを初めとした、ハガネ、ヒリュウ改のPTと対峙する姿なのだった……。

 

「なんだあ、ありゃあ……」

 

「判らない、判らないが……何か特別な意味があるのだろう」

 

「武蔵さんはどう思いますか? 武蔵さん?」

 

真ドラゴンから脱出し、1度ゲットマシンから降りた竜馬達も遥か上空の光景を見て困惑した表情を浮かべる。ただ1人だけ、武蔵だけは……その顔に強い焦りの色浮かべていた。

 

「親父ぃッ! 武蔵さん!」

 

「竜馬さん! 隼人さんッ!!」

 

渓と凱が手を振りながらゲッターロボへと駆けてきて、その名を呼ぶ。2人の背後には號の姿もあるが、暗く寂しそうな顔をしていた。

 

「やったんだね、武蔵さんッ!……武蔵さん?」

 

空を見上げている武蔵を見て、渓が困惑した様子でその名を呼ぶ。だが武蔵はその声に返事を返さず、空を見上げたまま小さく呟いた。

 

「行かないと……オイラが行かないといけない場所が判った。そっか……ここまでなんだな……オイラは……」

 

「武蔵! お前何を……っ! お前……なんだ!? 何が起きてるんだッ!?」

 

竜馬の困惑した叫び声が周囲に響き渡る。武蔵の身体はゲッター線に包まれ、その身体は徐々にだが透け始めていた。

 

「武蔵……お前っ! 知っていたのかっ!」

 

「こんなもん知ってる訳ねえだろッ! ただ……判るんだ。オイラがここで、ここでやるべき事は……終わったんだって……また行かないといけないんだ。そうだろ? イングラムさん、ラウさん」

 

『……ああ。俺達は所詮異邦人……時が来たんだ』

 

『……私には判らないが、そのようだな』

 

R-SOWRDとゲシュペンスト・タイプSもその身体を翡翠の光に包まれている。そして武蔵もゲッターD2も同様だ……3人の共通点。それは新西暦から旧西暦に来たと言うことだった。

 

「行くって……武蔵さん、何処へ行くって言うんですか!? 武蔵さんはこの時代の人間でしょうッ!」

 

「ああ、そうだな。だけど……忘れてないか? オイラは1度死んでるんだぜ?」

 

武蔵の言葉に凱は息を呑んだ。そうだ、普通に笑い、共に過ごしていたから忘れていたが武蔵は死人に違いは無いのだ。

 

「で、でも! 武蔵さんは生きてるッ! ねえ、親父! 竜馬さんッ! 隼人さんッ! なんで何もいわないのさッ!!!」

 

自分達よりも付き合いが長い筈なのに、何も言わない竜馬達に渓が武蔵を止めてくれと叫んだ。だが竜馬達の返答は渓の望んだ物ではなかった。

 

「俺達よりも、しらねえあいつらを選ぶって言うなら行っちまえよ」

 

業と突き放すようなことを言う竜馬だが、その肩は震えていて、そして武蔵も見ようとしないのが竜馬の心を如実に表していた。

 

「……はは、ひでえな。本当ならオイラだって行きたくねえさ……でもよ……判るだろ?」

 

腕を掲げた武蔵の身体はもう完全に透けていて、反対側が見えていた。

 

「……お前は……俺達をまた結びつける為に来てくれたんだな。すまない、いつまでもお前に心配かけて」

 

「気にすんなよ。隼人、ダチだろうが」

 

引き裂かれた絆を再び繋ぎ止める為に、武蔵はこの時代に現れた。そしてイングラム達はそれに巻き込まれたのだと隼人は感じていた。自分達が仲違いさえしなければ、武蔵はこんな悲しみを背負う事も無かったと謝罪する隼人に武蔵は朗らかに笑う。

 

「武蔵さん……ありがとうございました。俺は……やっと本当のゲッターパイロットになれました」

 

「ああ。後は頼むぜ、弁慶。竜馬と隼人を――頼むぜ」

 

淡々と、そしてもう別れなのだと判り、悲しみを堪えて別れをかわす竜馬達に渓が嫌だと叫んで、武蔵に縋りついた。

 

「嫌だ、嫌だよ……武蔵さん、行かないで……お願いだから……あの時みたいに……1人で行かないで……」

 

渓の脳裏にフラッシュバックしたのは恐竜帝国に特攻する時。自分にだけは別れを告げに来た武蔵の姿だった……その姿を思い出した渓は涙ながらに行かないでと懇願する。

 

「元気ちゃん……大丈夫だよ。もう1人じゃないだろう? それに……オイラに護られないといけない子供でもないんだ」

 

「嫌だッ! お願いだから……行かないで……お願い……だから……僕の側にいてよ……」

 

渓の口から零れたのは幼い少年のような声だった。武蔵は半分透けている身体で渓を抱き締め、そして立ち上がらせる。

 

「渓ちゃん。いつまでも、オイラを頼ってちゃあいけない。君は強い子だ、もうオイラがいなくても、大丈夫。そうだろう?」

 

初めて元気ではなく、渓と呼ばれた……それが何を意味するのか渓が判らない訳が無かった。それは武蔵からの渓への決別の言葉だった。

 

「ずるい……ずるいね。武蔵さん……こんな時にあたしの名前を……言わなくても良いじゃないか……」

 

「はは。ごめんよ、でも……オイラだっていれるなら……ずっとここに居たかったよ。皆でさ……もっと楽しい事をしたかった……」

 

目を細める武蔵の目尻から光る雫が零れ落ちる。その姿に自分が泣けば、もっと武蔵を悲しませると渓は涙を拭う。

 

「武蔵さん、ありがとう。あたし……武蔵さんの事……大好きだよ」

 

「おお、オイラも大好きさ。だから……渓ちゃんは……幸せにおなり、ミチルさんの分も、早乙女博士の分も……そしてオイラの分も……幸せになっておくれ」

 

互いに抱き締めあい、渓が名残惜しそうに武蔵から離れ、泣き顔を隠すように弁慶の背中に顔を埋めた。

 

「武蔵……さよならだ」

 

「ああ、そうだな。きっと……まだこれから酷い戦いがあるんだろう。助けになれなくてごめんな」

 

「いいや、ありがとう。俺は……貴方と共に戦えた事を忘れない」

 

互いに拳を打ち付けあい、武蔵と號の別れの言葉は短くすんだ。

 

「武蔵さん……俺、俺……」

 

「馬鹿、大の男が泣くんじゃねえ」

 

どんっと胸元を叩かれた凱は息が詰まったが、それでも凱が顔を上げた時真っ直ぐに自分を見つめる武蔵の目を見つめ返していた。

 

「うっし、大丈夫だな。號と……渓ちゃんを頼むぜ、あの子は強い子だ、だけど弱い子だ。號と一緒に支えてやってくれ」

 

「……はいっ! 判りましたッ!! 今までありがとうございました!」

 

武蔵と凱は周囲に響くように力強く拳を打ち合わせる。

 

「……ありがとうよ、ランバート、シュワルツ。今ままで迷惑を掛けた……だけどオイラは行くぜ」

 

「……武蔵、ありがとうよ。俺はお前と戦えて嬉しかったぜ、あの時の続きが出来た気分だ」

 

「はは、そうか、そう言って貰えると嬉しいぜ」

 

「武蔵……俺は忘れないぜ、いいや、俺達は忘れない。俺はお前の話を子供に伝える、そして孫に伝える。英雄の姿をな」

 

「止めてくれよ、オイラはドジで間抜けの武蔵さんで良い」

 

「いいや、今決めた。絶対に伝えてやる、英雄武蔵を……な」

 

他にも言葉をかわしたい相手はいた、だが武蔵の足までが消えていて、名残惜しいが武蔵はゲッターD2に足を向けた。その時だった、今まで黙り込んでいた竜馬が不機嫌そうに自分の首元に巻いていたマフラーを外し、武蔵の頭の上の乗せた。

 

「竜馬?」

 

「てめえは甘ちゃんだからな、こいつを持ってれば、多少は強くなれるだろうよ」

 

ふんっと鼻を鳴らす竜馬に苦笑しながら武蔵は竜馬のマフラーを首元に巻いた。それは2度と会えないであろう友に対する形見分けだった――それを見た隼人も腕時計を外した。

 

「……古い物で悪いが……持って行ってくれ」

 

「……隼人……ありがとよ」

 

隼人は自分の腕にしていた腕時計を武蔵に手渡し、武蔵もそれをすぐに自分の手首にまいた。

 

「……すんません、本当大したもんじゃないんですけど」

 

「ちょっ、親父ぃッ!? それはあたしが作った」

 

「そうだ、お前の作ったお守りだ。武蔵さん、どうか持って行ってください」

 

「……弁慶、渓ちゃん、ありがとうよ」

 

渓のお守りの胸ポケットに押し込み今度こそ武蔵はゲッターD2に乗り込んだ。すると透けていた身体は元に戻っていた、その姿を見て武蔵は苦笑する。本当は自分は死んでいて、ゲッターに生かされている……そんな気がしてならなかった。

 

(お前はオイラに何をさせたいんだ?)

 

ゲッターロボが何をさせたいのか、何をさせようとしているのか武蔵には判らなかった。だけど、この先に何かがあるのだと武蔵は感じていた。

 

『別れは済んだみたいだな』

 

「はい、随分と待たせちゃったみたいですいません」

 

『気にするな、行こう』

 

R-SOWRDとゲシュペンスト・タイプSが舞い上がり、徐々に上空へと登っていく、その姿を見ながらゲッターD2も翼を広げ空へと舞い上がる。

 

「竜馬みたいにアバヨなんて言わないぜッ!!! 行ってくるぜッ! ダチ公ッ!!!」

 

武蔵はこの世界に響くように大声で叫び、上空に生まれたゲッター線の光の渦の中に飛び込んで行ったのだった……

 

「武蔵いいいいいいいーーーーーッ!! 今度は自分から死ぬなんて真似をするんじゃねえぞッ!!! この馬鹿野郎ーーーーッ!!!!」

 

「武蔵、行って来いッ!! 俺達は待ってるぞッ!! ああ、そうだッ!! 待っているッ! 早乙女博士とミチルさんと共にッ!! お前の進む道を見守っているぞッ!!!」

 

「武蔵さん! ありがとうございましたッ! 自分を大切に! 貴方も幸せに生きてくださいッ!!!」

 

背後から聞こえてくる竜馬達の自身の名を叫ぶ声を聞きながら、ゲッター線に導かれ新たな戦いにその身を投じるのだった……。

 

 

新機体『ゲッタードラゴンD2』

新機体『R-SOWRD(Gカスタム)」

新機体『ゲシュペンスト・タイプS(Gカスタム)

強化パーツ『思い出の写真』

強化パーツ『竜馬のマフラー』

強化パーツ『隼人の時計』

強化パーツ『思い出の折り紙』

 

 

を入手しました。

 

 

OG2・序 編プロローグ 極めて近く限りなく遠い世界へ へ続く

 

世界最後の日編は皆に別れを告げて旅立つ武蔵となりました。そして次回からは極めて近く限りなく遠い世界と言う事で、オリジナルを絡めたOG2の話になります。

 

明日プロローグと1話を投稿し、それからはいつも通り、毎週1話ずつの更新をして行こうと思います。

 

それでは明日からの新章もどうかよろしくお願いします。

 

 

 

 

 




おまけ

ゲッタードラゴンD2

旧西暦の早乙女研究所(様々な早乙女研究所が融合した場所)で武蔵が発見したゲッタードラゴンの発展機であり、真ドラゴンのプロトタイプの機体。真ゲッターの要素を取り入れたゲッターロボGであり、ドラゴンと真ゲッターの特徴を兼ね備えている。本来ならば、真ゲッタードラゴンと命名される筈の機体であったが、出力不足および未完成部分もあり、ドラゴンⅡの名を付けられた試作機でもある。だが試作機と言っても真ゲッターに匹敵する出力を持ち、更に新西暦で改造されたジャガー号、ベアー号の炉心もゲッター線によって搭載された為、単独操縦でありながら3人搭乗している真ゲッターに匹敵するパワーを持つ。そして、ライガーⅡ、ポセイドンⅡへのゲッターチェンジも可能となっている。なお、武蔵は知らないが、ゲッター炉心がズフィルードクリスタルを取り込んでいるため、本当に微弱だが自己再生能力を有している。


ゲッタードラゴンD2
HP12000(18000)
EN450(650)
運動性170(210)
装甲2000(2500)

特殊能力

オープンゲット(確率回避)
HP回復(小)
EN回復(中)


ゲッターバトルウィング ATK3300
ダブルトマホークブーメラン ATK3500
ゲッターレーザーキャノン ATK3700
ダブルトマホークランサー ATK3900
ダブルトマホーク ATK4200
MAP ゲッタービーム(腹) ATK4400 ※自機進行方向に縦6マス横2マス
ゲッタービーム(頭) ATK4900
ゲッタービーム(腹) ATK5700
?????? ATK6500 現在使用不能
?????? ATK7000 現在使用不能
?????? ATK11500 現在使用不能

フル改造ボーナス
HP回復小→HP回復中&EN回復(中)→EN回復(大)
全ての武器のCT率10%UP&全ての武器の威力+500






ゲッターライガー2

ゲッターDⅡがライガーへとゲッターチェンジした姿。基本的なシルエットはライガーと酷似しているが、背中のウィング付きブースターが2つから4つに変更され、装甲もより鋭利な物になっている。D2、ポセイドンⅡと比べれば武装の変更はさほどされておらず、ドリルの形状に僅かな変更が施されているだけだが、その加速力は真ゲッター2を上回る物となっている。


ゲッターライガーⅡ 
HP12000(17000)
EN450(650)
運動性230(260)
装甲1700(1900)

特殊能力
オープンゲット(確率回避)
マッハスペシャル改(確率回避)
ゲッタービジョン(待機後超低確率で再行動)
EN回復(中)
HP回復(小)

ゲッタードリル ATK3700
ドリルミサイル ATK3700
チェーンアタック ATK4400
MAPゲッタービジョン ATK4500 ※時機を中心に円形に4マス 
プラズマドリルハリケーン ATK4900
ゲッタービジョン ATK5500
?????? ATK6500 現在使用不能


ゲッターポセイドン2

ゲッターD2がポセイドンへとゲッターチェンジした姿。背部にブースターとその中に内蔵されたストロングミサイル。両肩に収納されたゲッターキャノンが追加され、ポセイドンの弱点であった機動力と射撃武器の乏しさが改善されている。そしてポセイドンの最大の特徴である首部ファンから放たれるゲッターサイクロンはよりパワーアップしている。特殊な変更は殆どされていないが、ゲッター3を完全に乗りこなした武蔵だからこそ出来る、フィンガーネットからの大雪山おろしなどのパワーを生かしたパワフルな戦闘が持ち味となっており、やはり完全に乗りこなせないドラゴン、ライガーと比べて武蔵が最も好む形態である。


ゲッターポセイドン2
HP12000(21000)
EN450(650)
運動性155(180)
装甲2400(2800)

特殊能力
オープンゲット(確率回避)
EN回復(中)
HP回復(小)

フィンガーネット ATK2900
ゲッターキャノン ATK3500
ストロングミサイル ATK3900
ゲッターサイクロン ATK4200
MAP 大雪山おろし ATK4300 ※自機の進行方向に放射線状に5マス
大雪山おろし ATK4700
大雪山おろし 2段返し ATK5100
大雪山おろしパンチ ATK5800
?????? ATK6500 現在使用不能
大雪山おろし 3段返し ATK7100
極・大雪山おろし ATK9500 (必要気力170)




R-SOWRD(Gカスタム)

アストラナガンの大破により、機体を失ったイングラムが新たに操るPT。元はエルドランドに収納されていた、本来のフラスコの世界では建造されなかったはずのRWシリーズの2号機。そしてその存在しない筈の量産機を元にイングラムの図面を敷島博士が大胆にアレンジして誕生した改造したPTである。カラーリングは白と紫からブラックに塗装変更され、それに伴い装甲の各所も新しく新造されている。まず敷島博士が行ったのはブレードモードの変形に加え、もう1つの変形パターン。4足歩行のケルベロスモードの追加である、これは機体側面に収納されている補助アームと腕のパーツの一部を合体させ、ケルベロスの名目通り3つ首とケルベロスモードの変形を可能とさせた事でである。後ろ足は脚部が変形している、なお敷島博士の最大の自信のある部分は犬の唸り声と遠吠えの再現である。武装の殆どと動力はゲッター線と流用する形になっており、ビームソード、ビームライフル等がゲッター線を使用した物になっている。一部気に食わない部分こそあれど、その性能は高く文句は言いつつも、アストラナガンが復活するまでの代替機として使う事となった。イングラムがエルドランドから引き出した技術も多数流用されており、念動フィールドとGフィールドの複合バリアを有している。


R-SWORD(Gカスタム)

HP6500(8800)
EN310(450)
運動性185(240)
装甲1600(2100)

特殊能力
念動・G・フィールド (2500以下のダメージを無効)
EN回復(小)
????(必要気力140以上)


頭部バルカン ATK1900
G・ビームライフル ATK2400
G・ビームサーベル ATK2700
G・カタールソード ATK3300
M-13ショットガン ATK3300
ステルスブーメラン ATK3500
ケルベロス・コンビネーション ATK3900
メタルザンバー ATK4500

フル改造ボーナス
EN+50&全ての固定武装の攻撃力+500






ゲシュペンスト・タイプS(Gカスタム)

カーウァイ・ラウと共に旧西暦にタイムスリップしていたゲシュペンスト・タイプSに強化装甲「G装備」を装着した姿。全長はタイプSと大差ないが、重量はタイプSから大幅にUPしており、ほぼ2倍近い重量になっている。それに伴い装甲も大幅に強化された。しかしそれでいて、タイプSの運動性は損なわれていないと言う脅威の強化を施されている。エルドランドに残されていたゲシュペンスト・ハーケンの機体データを基に改造されており、背中にグランスラッシュリッパーと実弾のキャノン砲、腰部にレールガン。更に左腕にネオ・プラズマカッターを搭載し、遠近に高い性能を持つゲシュペンストとして生まれ変わった。更に敷島博士がエルドランドに残されていたもので有効なものを片っ端から搭載した為、テスラドライブ、更にGフィールドも装備しており、攻撃力、機動力、防御力の全てを大幅に強化された。しかしその対価として機体バランスは著しく低下しており、カーウァイのみが操縦出来る機体となっている。


ゲシュペンスト・タイプS(Gカスタム)

HP7800(10500)
EN330(460)
運動性180(230)
装甲1900(2300)

特殊能力
Gフィールド(2000以下のダメージを無効)
EN回復(小)


G・ビームライフル ATK2400
G・ビームソード ATK2700
M-13ショットガン ATK3300
プラズマカッター ATK3500
ビーム・ブレードガン ATK3900
グランスラッシュリッパー ATK4100
ネオ・プラズマカッター ATK4200
究極ゲシュペンストキック ATK4900
ブラスターキャノン改 ATK5600
????? ATK5600 ※現在使用不能
????? ATK7200(自軍の教導隊メンバー1名に付きATK+200・CT発生率UP・命中率UP付与) ※現在使用不能

フル改造ボーナス

HP+500、EN+40、運動性+20、装甲+200 全ての武装の攻撃力200UP



強化パーツ 思い出の写真

早乙女研究所の前で撮った集合写真。武蔵達の青春の1ページ。ミチルの所有していた物で、ミチルと武蔵が並んで写真に写っている。

武蔵のみ装備可能。

出撃時にランダムで2個1~6の特殊能力発動

1出撃時気力+10
2装備武器のATK+200 
3武器のCT率30%UP
4攻撃命中時に気力増加+1
5攻撃被弾時の気力増加+1
6敵撃墜時に精神ポイント2回復
HP+1000
EN+50
移動力+1
装甲+200
運動性+20



強化パーツ 竜馬のマフラー

武蔵の魂の友の流竜馬のマフラー。時を越え、場所を越えてもなお断ち切れぬ友情の証――。

武蔵のみ装備可能 隼人の時計・思い出の折り紙と重複装備不能

出撃時気力+20
特殊スキル「アタッカー」「リベンジ」「気力上限が200になる」「アタッカー(極)」を付与
敵撃墜時HP5%回復
戦闘回数が5回を越える事に最終ダメージ2%UP
ゲッター1・ゲッタードラゴンD2操縦時全ステータス+10



強化パーツ 隼人の時計


武蔵の魂の友の神隼人の腕時計。時を越え、場所を越えてもなお断ち切れぬ友情の証――。

武蔵のみ装備可能 竜馬のマフラー・思い出の折り紙と重複装備不能

命中・回避+30
特殊スキル「カウンター」「見切り」「気力限界突破」「確率発動のスキルの発動率+15%付与」
敵撃墜時EN5%回復
戦闘回数が5回を越える事に最終回避率+3%
ゲッター2・ゲッターライガー2操縦時全ステータス+10


強化パーツ 思い出の折り紙

元気が作り、武蔵、弁慶のお守りとしてあり続けたボロボロの花の折り紙。何時だって武蔵の奮い立たせる誓いの証。

武蔵のみ装備可能 竜馬のマフラー・隼人の時計と重複装備不能

防御+180
特殊スキル「ガード(極)」「援護防御時被ダメージ-10%」「援護攻撃時ダメージ+10%」「援護攻撃・援護防御の回数+1」を付与
敵撃墜時に精神3P回復
戦闘回数が5回を越える度に援護攻撃・援護防御の補正率2%UP
ゲッター3・ゲッターポセイドン2操縦時に全ステータス+20


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

OG2編・序
OG2編・序 プロローグ 極めて近く限りなく遠い世界へ


OG2編・序 プロローグ 極めて近く限りなく遠い世界へ

 

どこまでも暗い闇の中から悲しそうな情勢にも似た声が響いていた……

 

「……ここは……違う……私は……過ちを犯した……探さなければ……『門』を開く『鍵』を……そして……創造主の下へ……」

 

壊れた機械のように繰り返し呟かれる言葉。永遠と続く、女性の嘆きの声。闇の中で反響を続けれる声が突如霧散した……闇を照らす翡翠の3つの輝きによって……。

 

「……感じる……これは……この……波動は……進化の波動……おお……おおおお……変わる。やっと変わる」

 

その輝きを見て女の声を発する、異形の球体は歓喜の声を上げながら、闇を切り裂き進み続ける3つの光を見つめ、狂ったように笑い出す。

 

「新たな進化……私は……創造主の……望み通りの姿に変わる……帰れる……創造主の下へ……」

 

闇の中で異形の球体は狂ったように笑い続ける。その瞳は決して見逃さないと言わんばかりに3つの光を見つめ続けていたのだった……。

 

 

荒廃した大地の中を駆ける青いバイザー型のカメラアイをしたPT……量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅱと呼ばれる機体の中で男は歯を食いしばり、逃げる事しか出来ない己を恥じていた。

 

(情けない、情けない……俺は一体何を見ていたんだ)

 

男は一個小隊を預かる少佐だった。だが何も出来なかった……戦いの中不運にも崩れた大地の中に落ちた事で幸運にも命を繋ぎとめた。だがそれは自分が率いる部隊と引き換えに繋がった命だった……

 

「化け物共めッ!」

 

数ヶ月前に突如現れた黒光りする身体を持つトカゲのような異形……それをきっかけに世界は変わった。だがそれは自分達が所属する部隊が掲げる世界の変革とは異なる物だった……。

 

人も、無機物も関係無しに喰らい仲間を増やしていく異形。それは人類を滅亡させるだけの力を秘めた未知の生物だった……

 

そしてそれに対抗するように現れた蔦のような体組織を持つ、異形の群れ……

 

異形同士は互いに争い、そして思い出したように人間を喰らい同胞へと変えていった。

 

「何もかも腐りきった世界のせいだッ!」

 

思い出すのは世界が変わった悪夢のような1日……。

 

異星人の襲来によって1度は支配された地球。それを取り返す為に男は命を賭けて戦った……。

 

英雄と讃えられた事も1度や2度ではない……。

 

しかし戦いが終われば、政治家や上層部はあの苦しかった戦いを、人が人として扱われなかった異星人の統括下の事を無かった事にした。

 

戦いの中でしか生きれない……確かに男はそう言う部類の男だった。

 

だがそれでも根底には地球を護りたいと言う強い決意と願いがあった……

 

牙なき者を護りたいと言う心があった。

 

緩やかに腐敗し、自分達を除け者にしていく世界……。

 

異常者だと罵られ、もう地球は狙われることが無いと言い続けた世論……。

 

「その結果がこれだッ! 何が、何がッ! 永遠に続く平和だッ!」

 

政府は地球を護る為に大規模なバリアで地球を包み込む事を計画した……。

 

男が所属する部隊の隊長はそれに反論した、戦うことを放棄すれば、剣を捨てれば後悔する事になると訴え続け処刑された。

 

それを不服とし、反乱を起こしたのは確かに……確かに罪だ。しかし隊長が処刑されるほどの悪を行ったと言うのか……?

 

それを認めることが出来ず、再び男達は立ち上がった。

 

だがそれは政府の計画を止める為の反乱だった……。

 

しかし戦力の差は埋めきれず……男達の隊は敗残兵となった……。

 

戦いの中でこそ、人は進化し、発展すると言う永遠の闘争を掲げる「ヴィンデル・マウザー」には確かに思うことがあった。

 

その永遠の闘争が理想の世界か? と言えば、男はそうではないと思った。

 

だが、永遠の平和をうたい地球を封じる事を選んだ連邦には従いたくなかった。

 

地球を愛した隊長の意志を継ぎたかった。だから男は再び「シャドウミラー」の名を背負った。

 

今は永遠の闘争を掲げているヴィンデル大佐もそれに従う、「アクセル・アルマー」も「レモン・ブロウニング」も政府の計画を止めれば、その過激な発言を納めると男は考えていた……。

 

だが敗走し、政府の計画を止める事が出来ず発動した地球を護るバリア。それは、暴走し、化け物達をこの世界に無尽蔵に呼び寄せる異空間と化した……。

 

そこからは地獄だった、化け物達に追われ、狩られる……既に地球の支配者として人間は脱落していた。

 

化け物同士の地球の支配権の奪い合い、人間は蹂躙されるしかなかったのだ。

 

「うぐうっ!? くそったれッ!!!」

 

「「「「キシャアアアーーッ!!」」」

 

上空から自身を追い立てる無数の黄色い目玉を持つ異形の触手によって右肩を切り落とされ、背中のブースターを一基破壊された。

 

「あいつら……楽しんでやがるッ!」

 

殺そうと思えば一瞬で殺せるのに、こうして態々追いたて、恐怖をあおり逃げ惑う様を見て楽しんでいる……男にはそうとしか思えなかった。

 

「友軍シグナル……応援かッ!」

 

コックピットに響き渡る友軍機のシグナルに男は助かったと一瞬表情が明るくなった。だがその表情はすぐ曇る事となった……。

 

地響きを立てて、男の進路を塞いだのは男が駆る量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅱと同型機……だった物だ。

 

「いや、違うッ! これは……あいつらかッ!!」

 

「「「静寂なる世界の為に……」」」

 

蔦のような生物に寄生された無数の量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅱ……。その中から一糸乱れず聞こえる声に舌打ちを打った。

 

「くそ、これじゃあレモンの言ってたことを空論って笑えないじゃないかッ!」

 

残された左腕でビームライフルを構える、だが前門のアインスト・ゲシュペンスト・MK-Ⅱ、後門のインベーダー……男「バリソン・ロックフォード」の命運はここで尽きたと言っても過言ではなかった。

 

(私は思うのよ、政治家や上層部の考えって急におかしくなったでしょ? 誰かに操られている……そうは思わない?)

 

酒の席で頬を赤らめながら言った、シャドウミラーの技術顧問の言葉に何を馬鹿なと笑ったのは自分だ。

 

(すまねえな。あの世にお前が来たら謝るぜ……間違ってなかったってよ、いや、そうは言い切れないか?)

 

確かにレモンの発言は正しかっただろう、だが今永遠の闘争に拘るあいつらはどうなんだよと思いながらバリソンはアインストに寄生されるのも、インベーダーに食われるのもごめんだと自爆装置に手を伸ばした――その時、男の視界に影が落ちた。

 

「なんだ、ありゃあ……」

 

突如視界を過ぎったのは不恰好な3つの戦闘機……思わずその姿に目を奪われ、次の光景には素直に絶句した。

 

『チェェエエエンジッ!!! ポセイドンッ!!!』 

 

「おいおいおい……マジか……」

 

3つの戦闘機が巨大な特機になり、脚部のブースターで空を飛びながら、胴体の装甲をパージする。

 

『ゲッタァアアア……サイクロンッ!!!!!』

 

そこから放たれた暴風が自身を追い立てていたインベーダーを容赦なく飲み込み、そして切り裂き絶命させる。

 

『ターゲットロックッ! デッドエンドシュートッ!!』

 

「……は、はは……俺は夢でも見てるのか? ありゃあ……R-SOWRDじゃないか……」

 

僅かに生き残った人間達の希望……量産型SRX計画で開発され、アインストとインベーダーの襲撃によって姿を消したトライロバイト級「エルドランド」に収納されていた型番の登場にバリソンは目を見開き……。

 

『究極ゲシュペンストキィィックッ!!!』

 

自身の目の前を過ぎった漆黒の流星に薙ぎ払われ、爆発していくアインスト・ゲシュペンストに声を上げて笑った。それはありえない機体だったからだ……しかし、それでいて、男達……バリソンを含め、シャドウミラーにとっては絶対の象徴だった。

 

「ゲシュペンスト……タイプSかよ……おいおい、俺は夢でも見てんのか……なぁ隊長……カーウァイ隊長……ッ!」

 

シャドウミラー隊の創始者にして、地球を制圧したインスペクターの多数の指揮官機を単独で撃破した英雄――しかし政府に刃向かい処刑された……カーウァイ・ラウ少将と共に見せしめに爆破されたゲシュペンスト・タイプSの姿に困惑し、思わずオープンチャンネルで叫んでいた。

 

『……私を知っているのか? お前は誰だ?』

 

タイプSからの返答は肯定であり、記憶に残るカーウァイ少将の声にバリソンはここまで逃げ回っていた事の疲労が爆発し、コックピットの中で意識を失うのだった……。

 

 

 

 

沈黙した量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅱの周りをポセイドンⅡ、R-SOWRD、タイプSが囲む。

 

「なぁ、カーウァイさん。名前呼ばれてたけど知り合い?」

 

「……いや、知らないと思うのだが……」

 

何故自分の名前を知っているのか判らないと困惑するカーウァイ。武蔵もそうだよなあっと呟いた。

 

「それよりも、なんでインベーダーがいるんだ? それに訳の判らない化け物もいる」

 

「そうだな……気になるところではあるな。俺達は……元の世界に戻ったんじゃない、また別の世界に辿り着いたのかもしれないな……」

 

「インベーダーと化け物と人間が戦う世界に?」

 

「……そうなるのかもしれん、何にせよだ。この世界の情勢を知る者に早く出会えたのは紛れも無く幸運だ。コックピットから引きずり出して話を聞こう」

 

「となると、順番で周囲の警戒か」

 

インベーダーだけではなく、正体不明の化け物もいる。そんな状態でそれぞれの機体から出るのは自殺行為に等しい、少なくとも誰か1人は警戒しなければならないだろう。

 

「あ、じゃあ、オイラが一番最初にやりますよ」

 

武蔵が一番最初の警戒を買って出て、再びポセイドンの中に乗り込む。

 

「何故インベーダーがいるのだろうな」

 

「判らない、少なくとも……俺達が居た世界ではないとは断言出来るが……少なくともだが同じ様な年代なのは間違いない」

 

「そうか、しかし……となるとこの荒廃しきった大地は何なんだ……」

 

「判らない。ただ1つだけ言える事がある……ここはインベーダー達と人類の生存競争を行っている世界と言うことだけだ」

 

あの世界で見た蒼いアルトアイゼンとSRX達の戦い……少なくともあの映像と関係する世界と言う事は判っている。

 

「現在地も、何がどうなっているのかも判らない……か」

 

「この男が起きたら聞いて見るしかあるまい、話を聞いた上でその後の方向性を決める事にしよう」

 

脱出キットを枕にして眠る男を背後に、イングラムとカーウァイの2人は救難キットの中から取り出した鍋でスープを作り始めるのだった……

 

どこか判らない場所でなにかが大きく脈打つ音が響く……。

 

「進化……の……使徒……我ら……こそ……正当なる……進化の……後継者……」

 

脈打つ音が激しくなり、脈うつ肉塊と繋がっている蒼いアルトアイゼンの目が紅く輝いた。

 

「……進化の光を我が手に……そして静寂なる世界を……ッ!!!」

 

闇の中に響くその声は間違いなく……キョウスケ・ナンブの声なのだった……。

 

 

 

 

第1話 歴史の差異に続く

 

 




向こう側の世界はあんまり細かい描写が無いので豪快にアレンジ、原型? はは、ありませんが何か? 次回はわかめ×2+マッドと会わせて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。



おまけ



現在判明している、進化の光フラスコの世界への向こう側の情報はこうなります。

シャドウミラー創始者は「カーウァイ・ラウ」少将。

カーウァイ・ラウ少将とゲシュペンスト・タイプSは「向こう側」の英雄&英雄機。

イージス計画(?)に反対し、それを止める為に決起するも大敗。反逆者として処刑およびタイプSの破壊。

イージス計画は失敗し、インベーダーを多数呼び込むワームホールとして今もなお拡大中。

インベーダー出現に伴い、アインストも活性化。

その結果がアインスト・インベーダー・人類の生存競争真っ只中。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話 歴史の差異

第1話 歴史の差異

 

全身に走る痛みに顔を歪めながら身体を起こしたパイロットスーツの男。だがその瞬間に頭の後ろに銃口を当てられ即座に両手を上げる。

 

「悪いな、いくつか質問したいことがある。シャドウミラー隊、ヨーロッパ部隊バリソン隊隊長「バリソン・ロックフォード」で間違いないな?」

 

「……はい、その通りです。カーウァイ少将」

 

声の主が何者かと言うのは直ぐに判った。だからこそ、質問を全て肯定した。

 

「悪いが誰かと勘違いしていないか? 私は確かにカーウァイ・ラウだ。それは認める、だが私の階級は「大佐」だ。少将ではない」

 

「……申し訳ありませんが、お顔を拝見させていただいても宜しいでしょうか? 武装は全て解除されているようですし、素手で抗うつもりも自決するつもりもありません」

 

「どうする?」

 

「警戒は緩めれんが……話がこれ以上進まないのも困るな」

 

もう1人いるな……3体の機体を確認しているので、特機かPTのパイロットだと当たりをつける。

 

「悪いな、反乱を起こした相手となれば警戒しないわけにはいかない、ゆっくりと振り返れ」

 

もう1人の男の指示に従い銃口を向けているカーウァイ少将を見てバリソンは目を見開いた。

 

「わ、若い!?」

 

「……26だからな。若いのは当然だが?」

 

少しむっとした様子だが、バリソンの知るカーウァイ・ラウは48の初老の男だった。だからこそ、20代のカーウァイを見て驚愕するのは当然の事だった。

 

「ど、どういう……」

 

「落ち着け、そうだな俺達は……別の世界、別の時間軸からこっちに来たと聞いたら信じるか?」

 

青い髪の男にも見覚えがあった。だがこの男も数年前に行方不明になっている……それを知っているからこそバリソンは信じられないという表情で口を開いた。

 

「イングラム・プリスケン中佐でしょうか?」

 

「……確かに俺はイングラムだが、俺は少佐だ」

 

自分の知る2人よりもはるかに年が若いということに混乱するバリソンを見て、カーウァイは額に向けていた銃口を下ろして、腰のホルスターに戻した。

 

「混乱している所悪いが、私達も状況を理解していない。そして君もだ、互いに情報を交換する事それが有意義だとは思わないか?」

 

「……は、はい、了解です」

 

敬礼しカーウァイの提案を呑んだバリソン。それを確認してからイングラムが立ち上がり、周囲を警戒していた特機に声を掛ける。

 

「武蔵、お前も1度休憩しろ、食事の準備も出来た」

 

『了解です、直ぐ降りますね』

 

膝を付いた特機から降りてきたのはまだ歳若い少年だった。しかしその服装が余りにも……そのなんだ。独創的でバリソンは口を開きかけて閉じることしか出来ないのだった……。

 

 

 

 

焚き火を4人で囲んで座り、緊急キット内の温めるだけのスープと乾パンを口にする武蔵達。

 

「美味い……ちゃんとした食事は久しぶりだ」

 

「……非常キットの物だぞ?」

 

「それでも今の俺にはご馳走です」

 

スープを涙を浮かべながら口にするバリソンに武蔵達は何も言えない、武蔵の世界から転移してきたが、その世界と同じ位荒れ果てているが、状況はそれよりも悪いのかもしれないとイングラム達は認識を改める。

 

「貴重な食糧感謝します」

 

お手本のような敬礼をするバリソンにイングラム達も敬礼を返す。

 

「さて腹も膨れた所で情報を整理したい」

 

「はい、おれ……失礼しました。私のほうも情報を整理したいと思います」

 

「楽に喋ってくれて構わない、ほかに生き残りもいないかもしれないんだ。階級で蟠りは作りたくない」

 

カーウァイの言葉に少し悩んだ様子のバリソンだったが、おっかなびっくりと言う感じで敬語をやめる。

 

「それで構わない。それで何があったんだ?」

 

「はい、連邦政府のイージス計画の失敗によって化け物が無数に現れるようになったのです。そいつらは人間も機械もお構い無しに喰らい仲間を増やし、一気に人類は窮地に追い込まれました」

 

イージス計画……聞き覚えのないプロジェクトだが、それが何かの防衛計画なのは判った。

 

「イージスと言えば、アイギスの英語読みだが……それを聞く限り何かの防衛計画ではないのか?」

 

「防衛計画と言えば聞こえは良いですが、実際は地球の外に住む人類を全て見捨て、地球をバリアで覆うという計画だった。俺達シャドウ

ミラー隊はそれに反攻して……失礼しました。つい口調が」

 

「いや、構わないそれほどの激情と言う事は俺にも判る。しかしコロニー全てを見捨てるか……」

 

「地球政府ならやり兼ねんな……」

 

「マジですか?」

 

「ああ、やりかねない。大体地球連邦なんて癒着で腐りきっているしな」

 

しかし腐りきっているとは言え、地球圏の外の人間を全て見捨てるとは計算外だったがとイングラムとカーウァイは肩を竦めた。

 

「その反乱でシャドウミラー隊総帥「カーウァイ・ラウ」少将は投獄され、見せしめで処刑、更にその搭乗機のゲシュペンスト・タイプSも破壊されました」

 

自分ではないとは言え、処刑されたと聞いてカーウァイの目が細まる。

 

「あーっとバリソンさん? この世界ではエアロゲイターは来なかったんですか?」

 

「エアロゲイター? それは知らないが……異星人か?」

 

武蔵の質問に答えたバリソンの言葉を聞いて、イングラムは何かに納得したように頷いた。

 

「なるほど、この世界はエアロゲイターではなく別の異星人の襲来によって分岐した平行世界と言うことになるようだ」

 

イングラムや武蔵達が来たのはエアロゲイターが先に訪れ、それによって作られた歴史。

 

だがバリソンの世界は先にインスペクターと言う異星人が訪れ、そこから分岐した世界と言うことだった。

 

「驚かないのだな、バリソン」

 

平行世界と聞いても驚かないバリソンに不思議そうに尋ねるカーウァイ。だがバリソンは当然と言う顔をしていた。

 

「ヘリオス・オリンパスが時空間転移装置を研究していましたから。その本人は時空間転移で姿を消しましたが、その装置を使う事を考えています」

 

「時空間転移装置でインベーダーを追放するのか?」

 

「……いえ、俺達シャドウミラー隊は自分達の育った世界を放棄する事を決定しました」

 

自分達の育った世界を捨てると言う決断をしなければならないほどに、この世界の人類は追詰められていた。

 

「それはお前達だけでか?」

 

「時空間転移システムは不安定で、成功する保障はありません。それに……イージス計画に反対した俺達は反逆者ですし……それに何よりも……蔦のような体組織に操られたゲシュペンストがいましたよね? それらにスペースノア級を3隻奪われた今。俺達に出来る事は逃げることだけです」

 

「クロガネも!? ビアンさんやエルザムさんは!?」

 

「ビアン・ゾルダークはインスペクター事変で行方不明だ。それにエルザムなんて……何十年も前に死んでいる」

 

「嘘だろッ!? じゃあ、ゼンガーさんは!? カイさん、ギリアムさん、ラドラは!?」

 

自分の知り合いが死んでいると聞いてバリソンに詰め寄る武蔵。バリソンはそれに驚きながらも武蔵が名前を挙げた人物について自分の知っている全てを答えた。

 

「ゼンガー少佐はアースクレイドル事変の後消息不明、カイ少佐はシャドウミラー隊に協力してくれたがジュネーブ攻防戦で戦死なされた。ギリアムとラドラと言う人物については俺は知らない」

 

「マジか……じゃあ、リュウセイやライ、アヤさんは?」

 

「リュウセイ・ダテ、アヤ・コバヤシなら知ってる。SRXのパイロットだな……だけど、リュウセイ達も既に戦死しているよ……ライディースはヒュッケバインの起動実験に失敗して死亡した筈だが……」

 

「信じらんねえ……マジかよ」

 

知り合いが殆ど死んでいると武蔵は深く肩を落とした。

 

「量産型SRXが成功したらしいが、それはどうやって成功したんだ?」

 

「なんでそれを……SRX計画は失敗の繰り返しだったらしいが、なんでもある日突然SRX計画が軌道に乗ったと聞いています。噂では、時空の裂け目から大破したSRXが現れたとか……」

 

大破したSRXに強烈に嫌な予感を感じたイングラムはそれを詳しく問い詰めた。

 

「大破とはどんな感じでだ?」

 

「両腕が大破していたと……後は……確か奇妙な生物片が付着していたと……」

 

奇妙な生物片と聞いて武蔵達も突然現れたSRXが何なのかを理解した。

 

「あの時の……メタルビースト・SRXなんじゃ」

 

「可能性はある。残骸は確認していないからな」

 

「インベーダーが現れたのは、メタルビースト・SRXが原因と言うことか……」

 

今度は自分が付いていけない話をし始めたイングラム達。だがその内容を聞けば、うっすらとは話を理解出来た。

 

「まさか、あの化け物を知っているんですか?」

 

「……ああ、インベーダーと言うゲッター線と言う放射能で生きている生物だ。なんにでも寄生するのはあいつらの特徴だ、そして私達はエルドランドと言うトライロバイト級の中で量産型SRXと、R-GUN、2機のR-SOWRDを発見している。R-SOWRDは1機は持ち出したが、それ以外インベーダーに寄生されたがな……エルドランドの名前に聞き覚えは?」

 

「エルドランドは最初に転移を行った戦艦です。私達は失敗したと判断して、時空間転移システムにはより慎重になる事を決定した事件です」

 

「……なんとも皮肉な話だな」

 

エルドランドが武蔵の世界に飛び、そこでインベーダーに寄生され、戻って来たことでSRX計画が進んだが、インベーダーが蔓延る事になったというのは余りにも皮肉な話だった。

 

「そうだ、キョウスケさんは?」

 

「……キョウスケ・ナンブは討伐隊「ベーオ・ウルブズ」のリーダーだ。あいつに殺された仲間は数知れない、SRXも、グルンガストも、全部、全部あいつに殺されたんだ」

 

「嘘だろ……本当にどうなってるんだよ」

 

信じれない、いや信じたくない現実の数々に武蔵だけではなく、イングラムとカーウァイも黙り込んだ。その時、中破していたゲシュペンスト・MK-Ⅱの通信機が音を立てる。

 

「これはSOS信号ッ! 行かない……っと」

 

「その身体で無茶をするな。武蔵、イングラム」

 

「了解した。俺達で向かおう、生き残りがいるのならば合流して情報を整理したい」

 

「そうですね。えっとバリソンさんは……「タイプSに乗せる。改造しているからコックピットに余裕があるからな」……助けてくれるんですか?」

 

まさか助けてくれると思っていなかったバリソンは救出の話をしている武蔵達の顔を見上げた。バリソンの視界に広がったのは当たり前だと言って頼もしい笑顔を浮かべるイングラム達の姿なのだった……。

 

 

 

 

地球の切り札たるシロガネ、ハガネ、クロガネの3隻のスペースノア級。だがそれは既にアインスト、インベーダーのそれぞれの陣営に1隻ずつ奪われ、残ったシロガネはイージス計画の失敗をシャドウミラー隊のせいにし、保身に回りたい軍上層部の手によって運用されていた。

 

「ぐうっ! やはり振り切れんか!」

 

ギャンランドの艦長席で痩せぎすの目付きの鋭い男が艦に走る振動に眉を顰めながら叫んだ。

 

「最初は何とかなるかもって期待したけど、無理ね。このままだと轟沈するか……喰われて終わりよ」

 

オペレーター席の扇情的な衣装に身を包んだ赤髪の女性が肩を竦めながら呟いた。

 

「ちいっ、読み違えたッ!!」

 

「相手の方が一歩上だったわね。でもまさか……生き残っていたサンフランシスコを丸々囮にするなんて思ってなかったわ」

 

「あの外道共目がッ!! それほどまでに己の責任を追及されたくないかッ!! ぐっ! レモン! 出撃可能な機体は!」

 

指揮官席の男……「ヴィンデル・マウザー」がオペレーター席の「レモン・ブロウニング」に怒鳴るように尋ねる。

 

「量産型Wシリーズが乗ったエルアインスとゲシュペンストは全部出撃させたわ。でも……何時までも持つか……残ってるのは調整段階のグルンガスト参式とグルンガスト、それとアシュセイバーとプロトタイプのアンジュルグって所ね」

 

特機が2体残っているが、そのどちらもメンテ段階であり、エネルギーの補充などが済んでいない。サンフランシスコの救援要請を確認し、機体よりも救難物資を優先したツケが回ってきていた。

 

「パイロットは温存しろ、何としても本艦はクロガネを振り切るぞッ! 最悪の場合ギャンランドを捨てるッ!」

 

「そうなるわね。一応シャドウミラー隊にはSOSシグナルを出したけど……正直間に合っても戦力の差で全滅ね」

 

今ギャンランドはインベーダーに寄生されたクロガネとインベーダー、そしてアインストに寄生された量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅱを初めとした無数のPTに追われていた。

 

『ヴィンデル! 俺が出る!』

 

「馬鹿を言うな! ここでお前まで失えば我が隊は全滅するのだぞ! アクセルッ!」

 

格納庫からの通信にヴィンデルが怒鳴ると格納庫のアクセルも怒鳴り返す。

 

『それならどうしろと言うんだ! 大将であるお前を失っても俺達は全滅だぞッ!』

 

どちらも正論である、だからこそ互いの話し合いは平行線を辿るしかない。

 

「Wー16を出すわ。あの子なら指揮官タイプだから上手く立ち回ってくれるはず」

 

「……人形に私達の命運を預けるというのか?」

 

「人形なんて言わないでくれる? あの子は優秀よ。私達は死ぬ訳には行かない、なら生き残る可能性を最大限に掴むのが大事でしょう?」

 

レモンの言葉にヴィンデルもアクセルも口を紡ぐしかない。今ギャンランドに乗っているのは指揮官が3人、その誰もがここで倒れる訳には行かない人材だ。

 

「出撃を許可する。だが機体はどうする?

 

「プロト・アンジュルグを使わせるわ。W-17用に調整する必要があるしね、と言うわけよ、聞こえてたかしら? W-16……いいえ。エキドナ・イーサッキ」

 

『はい、全て聞いておりました。レモン様、ヴィンデル様、アクセル隊長。どうかこの場は私にお任せください』

 

凛とした女性の声がブリッジに響く、その言葉を聞いてヴィンデルは眉を顰める。

 

「良いか、お前はクロガネの追撃を何をしても食い止めろ。それがお前の存在理由だ、良いな」

 

『はい、存じております。コードATAも使用許可が下りております、最悪の場合はクロガネもろとも自爆します』

 

エキドナの言葉にヴィンデルは満足そうに頷いた。彼の理想とする永遠の闘争……だがそれはコントロールされたものでなくてはならない。今のような生存競争であってはならないのだ、上司の命令に逆らわず、疑問を持たない。自爆しろと言う命令にも迷う事無く頷く、そう言う面ではWシリーズにはある程度の評価を下していた。

 

「エキドナ、気をつけてね」

 

『はい、W-16。必ずや貴女方の命令を達成して見せます』

 

ギャンランドから飛び立つ灰色の装甲を機械仕掛けの翼を持つ、北欧神話のヴァルキリーのような姿をした機体が飛び立った。その姿をレモンは少しだけ寂しそうな視線で見つめたが、それは数秒の事で直ぐに冷静な光が祖の目に宿る。

 

「この位置からだと、ラングレー基地が一番近いわ」

 

「……廃棄された連邦基地か、まともな補給など期待できんが……テスラ研に乗り込む前の拠点としてはいいだろう。本艦はラングレー基地へ向かう、Wシリーズは何としてもギャンランドを死守せよ」

 

インベーダーとアインストに追われるシャドウミラー本隊はラングレー基地に進路を向けるが、無論その先にもインベーダーとアインストの包囲網は出来上がっている。それを見てレモンは私達もここまでかしらねと心の中で呟きながらも、生き残る為の最善の一手を考え僅かでも包囲網が薄い部分にギャンランドの機首を向けるのだった……。

 

 

 

 

あちこちから響く友軍機の爆発音にもプロト・アンジュルグのパイロット……エキドナ……いや、W-16は眉を細める事も無く、また悲しむ訳でもなく、冷静に戦況を見極めていた。

 

「A1からA-5は前に出て、コードATA起動。それ以降のナンバーズはギャンランドの撤退支援だ、一時包囲網を抉じ開ける」

 

『『『『『了解』』』』』

 

何の感情もない無機質な声による返答が響き、W-16の指示通り5体のゲシュペンストがインベーダーとアインストに寄生されたゲシュペンストを巻き込み自爆する。

 

「シャドウランサー射出」

 

それと同時にプロト・アンジュルグの腕から射出されたエネルギー状の槍が爆煙を突き抜けてきたインベーダーを貫き、体液を撒き散らしながら墜落していく、その姿を何の感情も宿らない瞳で見つめながらギャンランドの位置を確認する。

 

(戦闘開始から約一時間……包囲網は以前突破できず……退却予想時間には後3時間必要……)

 

人造人間であるW-16はそこまで計算した所で結論を出した。今残っている友軍機24機ではこの包囲網を突破できず、クロガネの進撃も防ぎきれず近いうちに全滅するという結論を下した。

 

「A-12、クロガネの射撃軸の前へ、ギャンランドを死守せよ」

 

『了解』

 

クロガネの連装砲の直撃を受けて消し飛ぶゲシュペンストの残骸が直ぐ近くを通るが、顔色1つ変えずW-16は指示を出し続ける。自分の敬愛する創造主を護る為に、そして自らが生み出された理由を貫く為に……だがインベーダーに寄生されたクロガネからはひっきりなしにインベーダーが出撃し、アインストもその数を増やし続けている。どう考えても勝てる訳の無い負け戦……その圧倒的な物量の差に想定時間よりも早く友軍機は撃墜され、あるいはインベーダーに寄生された。

 

「ぐっ! 損傷率……60%……これ以上は無理か」

 

地上空中からの執拗な射撃にプロトタイプのアンジュルグでは耐え切れる訳も無く、徐々に装甲を削られていく、W-16は早々に諦め、クロガネとの距離を確認する。

 

(ギリギリ組み付けるか……クロガネだけでも落とす)

 

コードATAを入力しようとしたその時コックピットにアラート音が響き渡った。その音に顔を上げたW-16の視線に広がったのは翡翠色の流星の輝きだった。

 

『ゲッタァアアアーーービィィィイイイムッ!!!!』

 

翡翠色の流星だと思ったのは見たことも無い特機の姿だった。プロト・アンジュルグを庇うように蝙蝠のような翼を広げ、腹部から放たれた光線がインベーダーを跡形も無く吹き飛ばす。

 

『よっしゃ! おい、あんた大丈夫か?』

 

接触通信ではない、外部スピーカーで声を掛けてくる特機。その声からは男だとW-16は判断した、だがその声と照合するシャドウミラーの構成員の記録は無い、勿論その機体もだ。

 

「救出感謝する。ダブリュ……いや、エキドナ・イーサッキだ。お前は何者だ?」

 

コードネームを名乗りかけ、即座にレモンに与えられた名前を名乗る。

 

『オイラは武蔵、えっと……バリソンって人に言われてきた。もう少しでオイラの味方も来る、だからそれまでよろしく頼むよ。えっとエキドナさん?』

 

バリソン……バリソン・ロックフォード少佐の事かと思い、どこかの試作機のパイロットを味方にしたとW-16は判断した。

 

「了解した。我々の目的はギャンランドのこの空域からの離脱だ、その後我々も離脱する」

 

『簡単に言うなあ……完全に囲まれてるぜ?』

 

「それでもだ。我々は命令に従わなければならない、それが兵士と言うものだ」

 

『あ、オイラそう言うの関係ないから、つうか兵士でも軍人でもないし』

 

「は?」

 

武蔵の言葉にW-16は自分でもこんな声が出たのかと言う声を出していた。

 

『大体誰かに命令されるって言うのがオイラは気に食わないし、自分が何をしたいか。ようはそれだろうよッ! ま、離脱は手伝うけどなッ!!』

 

ダブルトマホークと叫び巨大な戦斧を装備する紅い特機。その後姿をW-16は呆然とした様子で見つめながらも、その特機の圧倒的な戦闘力を見て、完全には味方ではないにしろ有効に使うべきだと思い、ATAの入力モニターを元に戻しインベーダーの包囲網に身を投じた特機の後を追わせるのだった……。

 

 

第2話 堕ちた箱舟/狂う孤狼へ続く

 

 




エキドナさん登場ですね。ただいまの段階では武蔵との相性は間違い無く最悪でしょうね……いや、と言うかシャドウミラー全体と相性が悪いかな?武蔵だとね。この出会いがどうこの世界を変えていくのか、そしてインベーダーに寄生されたクロガネを見て武蔵が何を感じるのか、そこを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 堕ちた箱舟/狂う孤狼

第2話 堕ちた箱舟/狂う孤狼

 

 

ギャンランドの司令室にいたヴィンデルとレモンは驚愕に目をも開いた。翡翠色の光を纏った巨大な特機が突如ギャンランドを庇うように現れたのだ。冷静なヴィンデルとレモンでさえも、驚くのも当然だった。

 

「レモン。あの機体の照合データはあるか?」

 

「逆に聞くけどあると思う?」

 

ざっと確認しただけで70m強の超巨大特機だ。あんな物が開発されていると言う話は大佐であるヴィンデルさえも聞いた事が無かった。

 

「聞いた感じだとバリソンの救援みたいだけど……どう思う?」

 

「全面的に信じる事は出来ない」

 

「でしょうね、バリソンとも連絡が付かないしね。とりあえず、味方とは言い切れないけど支援してくれるって思えば良いんじゃない? 最悪全てが終われば処分すれば……「オープンゲットッ!! チェンジッ! ライガアアアアーーッ!』……ごめん、私あのパイロット……味方にするべきだと思う」

 

特機が破裂したと思った瞬間戦闘機になり、その戦闘機が再び合体するが、その姿は先ほどの紅い特機と異なり、眩しいまでの蒼い特機だった。

 

『ドリル……アタァァックッ!!!』

 

背中のブースターを全開しにクロガネと共にギャンランドを追っていた戦艦に突撃する。高速回転するドリルの一撃は戦艦の横っ腹を貫き、爆発炎上を繰り返し轟沈させていく。その凄まじい速度と攻撃力にはヴィンデルさえも目を見開いた。

 

『チェンジッ! ポセイドンッ!! こいつを喰らえッ!!!』

 

「やるうっ! 凄いわね、あの特機!」

 

興奮したレモンの声。だがそれも無理はない、背中に背負っていたミサイルを持ち上げブリッジに叩き付け1発で轟沈させる。更に自分は再び分裂し、空中で紅い特機へと再合体を果たす。

 

『ダブルトマホークッ! ランサアアアアーーーッ!!!!』

 

両肩から無数に斧を取り出し投げつける紅い特機。それはインベーダーもアインストも容赦なく両断し撃墜していく、そのパワー、3つの姿を持つ汎用性の高さ……どれをとっても1機で戦況をひっくり返すだけのパワーを秘めている。今の劣勢に追い込まれているシャドウミラーにとって可変する巨大特機……「ゲッターD2」の戦力は何をしても欲しい戦力であった。

 

「ちょっと待って、アンノウンが更に接近……これ……この識別番号は……」

 

「どうした? 友軍機か?」

 

「友軍は友軍だけど……この識別番号はありえちゃいけないのよ。この識別信号は……エルドランドの機体よ」

 

「何?」

 

最初の時空間転移の実験で消えたエルドランドの識別信号を持つ機体と聞いてヴィンデルも顔を顰める。

 

「もう直ぐモニターで確認出来るわよ……っ! ヴィンデル、あれは……」

 

「げ、ゲシュペンスト・タイプSだと!?」

 

既に製造ライン、設計図までも失われ存在しない筈のゲシュペンスト・タイプSの登場にヴィンデルとレモンは顔を歪めた。

 

『ヴィンデル大佐! 良かった間に合った』

 

「その声、バリソンか!? そのタイプSはどうしたのだ!」

 

レプリカはシャドウミラーも所持しているが、その性能はタイプSには程遠い。だからこの機体もレプリカだとヴィンデルは判断していた、だが次の返答に息を呑んだ。

 

『私の機体だ、ヴィンデル・マウザー大佐』

 

「……か、カーウァイ・ラウ少将! 少将なのですか!?」

 

その声を聞き違える者はシャドウミラーにはいない、カーウァイ・ラウとタイプSは絶対的なシャドウミラーの象徴だからだ。例え処刑される光景を見ていても、それでもその声を聞けば、生きていたのかと言う希望が頭を過ぎる。

 

『いいや、私は特殊戦技教導隊隊長カーウァイ・ラウ大佐だ。少将ではない、それよりもだ。これより貴艦を援護する、早急に撤退準備を進めろ』

 

その言葉を最後に通信は途絶えた。驚きに席を立ったヴィンデルだったが、倒れこむように司令席に座った。

 

「これはまさか……転移者か?」

 

「ありえりるわ。シャドウミラーを結成する前のカーウァイ少将は特殊戦技教導隊の隊長だったしね」

 

レモンの返事を聞いてヴィンデルは静かに笑い出した。最初は囁くような声だったが、今は司令部に響き渡るほどの大きな声だった。

 

「これは兆しだ。やはり我々の計画は成功する!」

 

あの特機も世界を超えて現れた機体だとすれば情報が無いのも納得だ。R-SOWRDもゲシュペンスト・タイプSも存在しない筈なのに、目の前にある。それらも世界を超えてきたと考えれば全ての辻褄が合う……それは不安のあるプロジェクトEFと同等の技術を持っている可能性がある。そうなれば今の不安定な技術もより安定するかもしれない、仮にそうではなかったとしてもカーウァイの存在はシャドウミラーの士気も上がる。たった3機の増援だがヴィンデル……いや、この世界の人間にとっては万に匹敵する応援なのだった……。

 

 

 

 

テスラドライブを搭載しているR-SOWRDとタイプSだったが、イングラムとカーウァイの2人はテスラドライブを使わず、ホバーで戦場を駆けていた。その理由はインベーダーとクロガネに制空権を取られていては、ゲッターD2クラスの機動力が無くては蜂の巣にされてしまうからだ。

 

「ターゲットロック……ファイヤッ!!」

 

「「「ギギャアアアアーーッ!?」」」

 

至近距離からのショットガンの掃射を叩き込み、蜂の巣になったインベーダーを踏みつけタイプSは飛び上がり、グランスラッシュリッパーを投擲する。

 

「「「!!?」」」

 

関節部が蔦のような生物に覆われているゲシュペンストを胴体から両断するグランスラッシュリッパーだが、触手が両断された上半身と下半身を繋げ、即座にビームライフルを撃ちこんで来る。

 

「ちっ、思ったより再生能力が高いな……」

 

「インベーダークラスか……厄介だな」

 

インベーダーの回復力を上回れる武装を多数装備しているR-SOWRDとタイプSだが、植物に寄生されているゲシュペンストはPTの装甲と武装を使う分だけ、インベーダーよりも厄介な相手だった。

 

「ダブルトマホークッ!!」

 

「「「「キシャアアアーー!?」」」」

 

武蔵が凄まじい勢いでインベーダーを撃墜しているが、撃墜した以上の数がメタルビースト・クロガネから出撃している。

 

「人類の希望が敵の手に落ちたか……」

 

3隻の地球の希望であるスペースノア級。その1隻がインベーダーに寄生されている光景はイングラムでさえもショックを隠せないでいた。

もう1隻のハガネもゲシュペンストに寄生している植物に奪われているとなれば敗走に追い込まれるのは当然だった。

 

「状況は最悪だな、バリソンの事もある。長くは持たんぞ」

 

傷口が開き意識を失っているバリソンを横目で確認するカーウァイ。呼吸が浅く、額に大粒の汗が浮かんでいるのを見れば一刻も早く治療を受けさせる必要があるのは明白だった。

 

「だが倒しても倒しても切りが無い、次から次に沸いてくる」

 

「……それにクロガネを今撃墜するのも不可能だろうな。チッ、完全な負け戦だ」

 

ただの負け戦ならまだしも、撤退戦となればその難易度は段違いに跳ね上がる。しかも戦力差が20対200では余りにも状況が不利すぎる……。不幸中の幸いはインベーダーと化け物同士も争っていて、三つ巴の形式になっている事で戦力がどちらかに集まる事が無く、辛うじて挟撃や挟み撃ちを回避し、自分が戦っている相手をインベーダーや、化け物に押し付けることで戦力図をある程度コントロール出来ている事だろう。

 

『失礼、シャドウミラーの技術顧問レモン・ブロウニングよ。カーウァイ大佐、今私達の戦力の指揮権をそっちに移譲するわ、上手く使ってくれるとありがたいのだけど、大丈夫かしら?』

 

ハッキングしてきて強引に通信を繋げて来た女にカーウァイは眉を細めた。この乱戦で集中力を削ぐような真似をする事をされた事に不快感を覚えるのは当然の事だった。

 

「部下を貸し与えてくれるというのはありがたいが、指揮権の混線に繋がるぞ」

 

『その心配はないわ、こっちの戦力としては殆どが無人機よ。あの紅い特機と一緒の機体だけが有人機だからね、命令に逆らわないわ』

 

だから上手く使ってくれと言って通信を繋げて来た時同様返事も聞かず通信を遮断される。

 

「なるほど、倫理感は吹き飛んでいると見て間違いないな」

 

「……それほど追詰められていると言うことか」

 

エルドランドに残されていた僅かな情報にある。人造人間、恐らくシャドウミラーの戦力の大半はその人造人間なのだろう。

 

『『『『ご命令を、カーウァイ少将』』』』

 

その無機質な声にカーウァイは眉を顰めながらも、今はこの状況を切り抜けるのが最優先だと判断した。

 

「スプリットミサイルが残っている者は一斉掃射。その後、ポイントB-00に再集結。1度仕切りなおしだ、弾幕を張れ」

 

『『『『了解』』』』

 

雨霰のように降り注ぐスプリットミサイルの弾幕。それらを掻い潜り、1度戦況を立て直す為に後退するイングラムとカーウァイ。

 

「警戒は緩めれんな」

 

「だろうな、ツートップで動くしかあるまい」

 

今は指示に従ったが、それは一時的なもの。人造人間を戦力に使うシャドウミラーにまともな倫理感を期待する事は出来ない、この場を切り抜けた場合、そのままシャドウミラーとの戦いになる事を想定し、カーウァイは指示を出すが、ゲシュペンストと行動を共にする事は無く、むしろゲシュペンストを囮として使う事を決めるのだった。

 

 

 

 

 

戦況はゲッターD2、R-SOWRD、タイプSの参戦によって僅かに変わり始めていた。アインストに対する知識は足りていないが、インベーダーには武蔵達のほうが専門家だ。数の多い、インベーダーを抑える事で戦況は徐々に劣勢から均衡状態になりつつあった。

 

「チッ、クロガネが相手かよ……やりにくいったらねえぜ」

 

ポセイドン号の中で武蔵は珍しく苛立ちを隠せない様子で舌打ちを打った。クロガネは武蔵にとっては特別な戦艦だ、なんせ自分の恩人と言える人物が全員乗り込んでいるのだ。なによりも大事にしたい、それがクロガネだった。そんなクロガネがインベーダーに寄生され、おぞましい姿に変わっているのは武蔵と言えど容易に受け入れる事が出来るものではなかった。

 

『このまま戦況を維持出来れば、ギャンランドは撤退できる。深追いはしなくて良い』

 

エキドナからの通信に武蔵は小さく深呼吸をし、冷静になれと自分に言い聞かせる。インベーダーの大半は撃墜した、包囲網も確実に穴が出てきている。このままここに残り最後まで戦うことの愚かさは単細胞と言われる武蔵でも十分に理解していた。

 

(今のままじゃ無理なのはオイラでも判ってる)

 

圧倒的に不利な状況だ。ここでクロガネに固執すれば撃墜されるのは自分だと理解していた。引き際を見誤る事ほど愚かな事は無い、ましてや今の機体コンデイションを考えれば、正直良くここまでの大群と戦えたと言うレベルだった。

 

(……ゲッター線が安定しない、それに……オイラもか、当然だよな)

 

真ドラゴン、メタルビースト・ドラゴン、ゴール&ブライと言う規格外の化け物と連戦した後なのだ。ゲッター炉心の出力は安定せず、武蔵は勿論イングラムやカーウァイも疲労が蓄積している……無理をせず離脱するのが1番の正解だというのは武蔵にも判っていた。

 

(文章通信……あまり信用するな……か、了解)

 

あくまで人間同士と言う事で協力しているだけで、心を許すなと言う2人からの通信を承諾した物の……武蔵と言う人間は根本的に人に甘い部類の人間だ。

 

「あぶねえッ!」

 

例え警戒しろと言われていても、目の前で攻撃されそうな相手がいてそれを見逃すと言うことは出来なかった。

 

『……何をしてる』

 

庇われたエキドナの心底困惑している声を聞きながら武蔵はプロト・アンジュルグをその背中に庇う。

 

「腕も足も無ければそれ以上戦えないだろうが、下がったほうがいい」

 

『……いや、武器は残っている。最後まで戦う』

 

「死ぬぞあんた!? 判ってるのか!?」

 

『死ぬまで戦えというのが命令だ。それを反故にするつもりは無い』

 

「正気かよッ! あのギャンランドとかに戻れよ!」

 

『退却命令は出ていない、私はギャンランドへは帰還しない』

 

完全に武蔵とエキドナの意見は対立していた。だがそれは当然と言っても良いかもしれない、エキドナ……W-16はあくまで兵器であり、代わりがある。ここで死んだとしても何の未練も恐怖も無いのだ。だが武蔵はエキドナを人間だと思っている、だからこそ死なせたくない――武蔵とエキドナお互いの認識の差が大きな壁となっていたのだ。

 

「アラート!? ぐうっ!?」

 

突如コックピットに鳴り響いた警報に顔を上げると蒼い流星が上空から突撃してきた。それを咄嗟に受け止めるゲッターD2だが、大きく後方に弾き飛ばされた。すぐ体勢を立て直したが、目の前にいるPTに武蔵は目を見開いた。

 

「……見つけた、見つけたぞッ!! 進化の使徒ぉッ!!!」

 

「……アルトアイゼンッ!? キョウスケさんか!?」

 

蒼いアルトアイゼンのカメラアイが真紅に輝き、それに呼応するかのようにゲシュペンスト達がシャドウミラーではなく、インベーダーに襲い掛かる。

 

「我らを認めよッ! 我らアインストこそ新たな種ッ! 進化の光の後継者だッ!! その英知をッ! その力を我らにッ!!!」

 

ゲッターD2に襲いかかるアルトアイゼンのパワーは凄まじく、サイズ差が3倍近くあるのにゲッターD2が押し込まれていた。

 

「何を言ってる!? オイラには意味が判らないッ!」

 

「ゲッター線……全ての生命の根源ッ! 我を認めよッ! 進化の使徒よッ!!!」

 

キョウスケの声で喋っているが、その言葉は支離滅裂であり、全く意思疎通が出来ないでいた。

 

「ベーオウルフッ!!」

 

片腕を失ったプロト・アンジュルグがミラージュソードで背後から切りかかるが、アルトアイゼンはゲッターD2のほうを向いたまま、裏拳でミラージュソードごと残された腕を肘まで粉砕する。

 

「ぐうっ!? なんと言うパワーッ! これほどまでにッ!」

 

「邪魔を……するなあッ!!!」

 

音を立てて開いた肩パーツ、そこから放たれたベアリング弾の嵐がプロト・アンジュルグだけではなく、インベーダーをも巻き込み周囲に破壊の嵐を巻き起こした。

 

「破壊魔等ではない! 我らこそが正当なる後継者ッ! さァ!! 進化の光を我が手にッ!!」

 

リボルビング・ステークをゲッターD2に突き立てようとしたその時。ゲッターD2の姿がゲッター線の光に包まれた……。

 

「何だ、何が起きて……」

 

「ぐっぐううッ! 何故! 何故拒むッ! 我らは正当なるッ!」

 

「これ……転移反応!? ヴィンデル、アクセル! なんでも良いから掴まって! 跳ばされるわよ!」

 

「は、ははははッ! やはり転移能力を持つ機体ッ! ははッ! ははははははッ!!!!」

 

「ゲッター線め、ここまで状況をかき回すかッ!」

 

「……なんだこの光は……温かい……」

 

戦場全てを照らすゲッター線の輝き、それはインベーダー、アインスト、そしてシャドウミラーを包み込み……光が晴れた時戦場は静寂に包まれていた。そこにいた全ての機体がゲッター線によってここではないどこかへと飛ばされていた。僅かに残る光の残滓……それだけが、ここにゲッターロボがいたと言う証なのだった……。

 

 

 

 

 

ギャンランド全体に走る振動にヴィンデル達はそれぞれの席から転がり落ち、ギャンランドの床に横たわっていた。

 

「あいたた……ちょっと、ヴィンデル大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だ。それに……最高の気分だ……身体は痛いがな」

 

ヴィンデルは頭を振りながらゆっくりと立ち上がる。外部モニターには中破したプロト・アンジュルグ、転移を巻き起こした特機。そしてR-SOWRD、タイプSの姿が映されていた。

 

「アクセル、そっちは大丈夫か?」

 

『……ああ。ベーオウルフと化け物共の反応はあるか、ヴィンデル』

 

頭を押さえているアクセルの問いかけにヴィンデルは首を振った。

 

「いや、敵の姿は無いが……その代わり現在地でさえも不明だ」

 

『ちっ、どうなっている』

 

「紅い特機が転移システムを内蔵していたようだ。意図してない転移だが、逃げ切れたと思えば悪くなかろう」

 

クロガネに加えて、ベーオウルフまで出現したのだ。あのままでは全滅していた、そう考えれば現在地は不明だが逃げ切れたと思えば悪くは無い。

 

「……凄く悪い知らせよ。現在地は日本、浅間山上空。見覚えの無い研究所も発見したわ」

 

「日本か……ステルスを展開後、ギャンランドを着陸させろ」

 

日本……それはベーオウルブズの拠点にして、蔦の化け物の発生地である。囲まれた状況から離脱出来たが、その反面ベーオウルブズの拠点に乗り込んでしまったことを意味していた。

 

「ま、あのままじゃラングレーは愚か、テスラ研にも辿り着けなかったし……ベーオウルブズはアメリカ、少し時間の猶予もある。装備とかを整える時間が出来たと思いましょうか」

 

後ろ向きに考えても仕方ないと笑うレモンにその通りだなと頷いたヴィンデルはブリッジを出て行く。

 

「あの特機のパイロット達と通信をしてくれ、敵陣のど真ん中でいがみ合う事も無い。ここは協力し合って日本脱出を提案するべきだ」

 

「はいはい、大将が動いて信頼を得ると、お手並み拝見と行くわね。ヴィンデル。会談の場所は格納庫にするわね」

 

レモンに見送られヴィンデルは無人の通路を早足で進んでいく。

 

「話し合いか、今は必要なことだな」

 

「ああ。日本を脱出するには戦力が足りん、それに……転移能力を持つ機体だ。システムXNの安定を高めるのにも使えるだろう」

 

転移システムを持ちながら圧倒的能力を持つ特機。そのパイロットは何としても味方にしたい、ゆっくりと開いた格納庫。その先に見える5人の人影にヴィンデルは笑みを浮かべ、表面上は友好的な態度を示す。

 

「この度は救援していただき感謝します。シャドウミラー隊司令ヴィンデル・マウザー大佐であります、カーウァイ・ラウ少将、イングラム・プリスケン中佐どうぞこちらへ、W-16はバリソンを医務室へ運べ」

 

「了解です」

 

あくまで自分は下なのだと、警護を崩さずギャンランドの中に招き入れるヴィンデルを見つめながらアクセルは入ってきた5人……W-16とバリソンを除いた面子を見て、目を細めた。

 

(SRX計画の主導者にして行方不明のイングラム・プリスケン中佐に、随分と若いが死んだ筈のカーウァイ・ラウ少将か……)

 

その内の2人は見覚えがあったが、最後の1人には呆きれた表情を浮かべざるを得なかった。剣道の胴にマントにマフラー、それに安全ヘルメットと余りにもあれな服装にアクセルでさえも目を見開いた。

 

「転移者であれば良いがな」

 

寝転がっていたコンテナの上から飛び降り、アクセルはヴィンデルの元へ足を向けた。

 

「シャドウミラー隊隊長アクセル・アルマーだ。今回は助かった」

 

「アクセルさん?……月で会いましたよね?」

 

月であったの言葉にヴィンデルは笑みを深め、武蔵に視線を向けた。

 

「君があの特機のパイロットだね?」

 

「は、はい、巴武蔵です。ヴィンデルさんで良いんですよね?」

 

役職ではなく、さん付けに少し眉を細めたヴィンデルだが、イングラムが直ぐにフォローに入った。

 

「武蔵は軍人ではない、あくまで民間の協力者だ。軍の規約に当て嵌めるな」

 

「それは失礼しました。よろしく、武蔵君。それで……アクセルと何処で出会ったのか、それと君の特機について詳しく話を聞きたいな」

 

「あ、はい。判りました、オイラ達もどうなってるのか、状況を知りたいですし、情報交換よろしくお願いします」

 

規律に厳しいヴィンデルだが、貴重な情報源かつ、戦力を失うつもりはないのか不器用ながらに笑みを浮かべ、武蔵もそれに笑みを浮かべ返し握手を求めるのだった……。

 

 

 

第3話 シャドウミラー へ続く

 

 




今回はゲッター線によって強制引き分けルートです。PS2版のOG2では直ぐ転移しますが、今作はそうはしません。オリジナルルートで話を進めていく予定です。Wシリーズと武蔵とかもやりたいですしね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 シャドウミラー 

第3話 シャドウミラー 

 

格納庫に用意された簡易の机と椅子。向かい合うように座る武蔵達とヴィンデル、アクセルの両名。しかし、ヴィンデル達のほうに用意されていた椅子を武蔵の方に移動させ、机を挟んで向かう合うように座ったのは円満に会話を進めるだけではなく、自分達はそちら側ではなく、武蔵側だと言うイングラムとカーウァイの無言の意思表示だった。

 

「では改めて、シャドウミラー隊の指揮官を務めさせていただいております。ヴィンデル・マウザー大佐であります」

 

「実行部隊隊長アクセル・アルマーだ」

 

「申し訳無い、アクセルは少々ぶっきら棒のところがありますので」

 

敬語で対応しなかったアクセルのフォローに入るヴィンデルにカーウァイは気にするなと言う意図を込めて、手を上げて静止する。

 

「そう畏まる必要もあるまい。私は確かにカーウァイ・ラウだが……お前達の知るカーウァイとは違う」

 

「勿論俺もな。あくまで、この窮地を切り抜ける協力者として……もっと軽い対応で構わない。それにガチガチの規律を武蔵に求めるのも酷だ。そしてこの世界の俺達と俺達は違う、名前を公表するのも避けてもらおうか」

 

軍人としてではなく、あくまで協力者と言う対応で構わないと言うカーウァイ達にヴィンデルは内心で舌打ちをした。

 

(そう簡単に話は進まないか……)

 

ヴィンデルの考えではカーウァイもしくはイングラムを神輿として掲げたかった。最初は反乱を起したと追われている身のシャドウミラーだったが、イージス計画の失敗、そして化け物の台頭によって上層部を除き、シャドウミラーの行動は正しかったのではと言う風潮になりつつある、そんな中で地球圏の守護者であるカーウァイ・ラウ、そしてイングラム・プリスケンの名と姿を持つ者の存在は絶対的だ。姿を見せずとも、その声だけでも上層部の対応に不満を持ちながらも、泥舟に乗る訳には行かないと躊躇っている兵士達を抱え込むことが出来る。そこには複雑な政治的な思惑があるが、それに乗るつもりは無いと言う2人にヴィンデルは内心の苛立ちを隠しながらも笑顔で対応する。

 

「承知しておりますよ。それで武蔵君……だったね。君の乗る特機の事だが、いくつか聞いても良いかな?」

 

「はい、どうぞ。あ、でも……オイラ馬鹿だからそんなに専門的なのは判らないですよ?」

 

不安そうに言う武蔵にヴィンデルは内心で判っていると呟きながら、一番気になっていた事を尋ねた。

 

「あの機体には時空転移装置が組み込まれているのかな?」

 

アメリカから日本まで一瞬で移動してきた。それが時空転移システムであることは明らかだと考えていた、だから武蔵の返答は是と考えていたのだが、武蔵の返答は判らないだった。

 

「ゲッターD2についてはオイラも殆ど判らないんです……そのえっと「時空転移システム」ああ、それです。時空転移システムっていわれても全然ぴんと来ないですし……用はワープみたいな物ですかね?」

 

「だが転移を引きこしたのは紛れも無い事実だろう? お前の機体に搭載されているんじゃないのか?」

 

「いや、だからそのー、あれは見つけたばかりで……機体の全容はオイラも全然把握してないんですよ。その仮に時空転移システムとやらが搭載されていても、どうすれば使えるのかとかそう言うのはちんぷんかんぷんで」

 

期待外れの答えに眉がよるが、こんな事で起こっていては話が進まない。小さく深呼吸して、別の質問を切り出す。

 

「ではあの機体を見つけたという事は、あれは君の正式な所有物ではないと?」

 

「ゲッターロボは早乙女研究所所属の機体だ。そして武蔵はゲッターロボのパイロットであり、早乙女研究所の所属だ。そう言う意味では、武蔵の所有物になる」

 

民間人が持つべき力ではないと徴集しようとしたのだが、それに気付いたイングラムが武蔵に変わり答える。

 

「しかしそれでは見つけたというのはおかしいのではないですか?」

 

「……この世界に失われた時代と言うのはあるか?」

 

「旧西暦初頭からの歴史は伝わっておりませんが……まさかッ!?」

 

ここでその話を切り出してきたその理由を考えれば、ヴィンデルほど優秀な男ならば直ぐにその答えにたどり着いた。

 

「そうだ、武蔵は旧西暦の生き証人。ゲッターロボ……正しくはゲッター線によって時間を何度も越えている」

 

時空転移どころではない、時間移動者となれば武蔵とゲッターロボD2の価値と言うのは恐ろしいほどに跳ね上がる。

 

「時間移動は自由に出来るのかね?」

 

「いや、そのーあれなんですよ。自爆した時に気が付いたら別の時代に居るといいますか……死んだら生き返っているっと言いますか……ゲッター線に救われているといいますか……そのすいません、時空転移とかそれ以前の問題で、時間移動なんてどうすれば出来るのか判りません」

 

「そう……か。いや、気にしなくても良い、もしかしたらと期待しただけだ」

 

イージス計画実行の前に移動出来ればと一瞬期待した、あのイージス計画の失敗からこの世界はおかしくなった。ならイージス計画を阻止出来ればと考えるのは当然の事だった。

 

「それで俺とお前は何時出会ったと言うんだ?」

 

「あ、はい、えーっと、エアロゲイターと戦っている時に蒼い片腕の無い特機に助けられたんですけど、そのパイロットがアクセルさんでした。この船にはないみたいですけど……」

 

ギャンランドに今保有している戦力はヴィンデルの搭乗機の「グルンガスト」に、調整段階の「グルンガスト参式」それに加えて「アシュセイバー」と決して多くは無い。その中で蒼い特機と言えばグルンガストが該当する。

 

「蒼い特機……グルンガストではないのかね?」

 

ギャンランドの格納庫に固定されている左腕の無い、自身の搭乗機であるグルンガストを見ながら問いかけるヴィンデルに武蔵は違いますときっぱりと断言した。

 

「グルンガストならオイラも知ってますし……あの新型っぽいグルンガストは初めて見ますけど……あのグルンガストは「超闘士」って奴ですよね?」

 

「ああ、超闘士グルンガストで間違いない」

 

超闘士の2つ名も知ると言う事は、武蔵達がいた世界でもグルンガストが建造されていると言う証だった。

 

(世界は変わってもある程度は同じと言うことか……)

 

完全に未知の世界に旅立つよりも、ある程度事情が判っている世界となれば好都合だとヴィンデルが考えていると、武蔵が思い出したように手を叩いた。

 

「あ、ソウルゲインって呼んでいたような……」

 

ソウルゲインの名にヴィンデルとアクセルも眉が動いた。それはテスラ研で強奪と言う名目で受け取る予定だった最新鋭機EGシリーズ「アースゲイン」をアクセル用に再調整したワンオフ機の名前だったからだ。

 

「後は……ああ、そうだ。アクセルさんとあった時はゲッターロボに乗っていたんですけど、アクセルさんはD2もインベーダーの事も知っていて……オイラから聞いたってインベーダーの対処法を知ってましたね」

 

武蔵の言葉にヴィンデル達はアクセルと武蔵に何が起きたのかを理解した。

 

「なるほど……な。つまりこの世界で武蔵とアクセルが出会い、アクセルがL5戦役の真っ只中に移動してきた……と言う所か」

 

この世界でアクセルは武蔵からインベーダーの対処法を聞いた。

 

L5戦役の時に会ったが、その時武蔵はインベーダーの事も、アクセルの事も知らなかった。

 

だがアクセルは武蔵からインベーダーの対処法を聞いていたので、何故苦戦すると問いかける。

 

卵が先か、鶏が先かと言う話になるがタイムパラドックスが起きたと言うのがヴィンデル達の答えだった。

 

「つまり俺がソウルゲインを受け取った後に、お前がいた時代に転移する何かが起きたと言うことなのか」

 

「いや、オイラに聞かれても判らないですよ?」

 

武蔵は今の話を理解出来ていないのか困惑したままだが、今の話を聞いてヴィンデルとアクセル、そして通信で話を聞いていたレモンは既にある程度の話の流れを理解していた。中破したソウルゲインはアクセルが固執しているベーオウルフ……キョウスケ・ナンブとの戦いの結果であり、恐らく武蔵もその戦いに参加していたか、もしくは今シャドウミラーが決行しようとしているプロジェクト・EFの発動によってアクセルだけが時空を越えた。もしくはL5戦役の時に発見されなかっただけでギャンランドもL5戦役の時に出現していた可能性は十分にあった。

 

(十分な成果とは言い難いが、それでもこの少年の話は無駄ではないな)

 

あの化け物……インベーダーについて知っていて、そして自分達が今後歩むかもしれない世界の話を知っている。正直あまりに不確定ではあるが、時空転移が成功したとヴィンデルは受け取ることにした。

 

「それで、インベーダーとやらについてだが……あれは一体何なのだね?」

 

この世界の荒廃の理由の1つであるどんな物にも寄生する怪生物……アンノウンと呼称していたが、武蔵達はその正体を知っている様子なので何なのかと問いかける。

 

「あれはゲッター線に寄生しているって言う宇宙の生物で、生き物にも無機物にも寄生するらしいです」

 

「待て、ゲッター線と言うのはあのゲッターロボと関係があるのか?」

 

「……ゲッター線はゲッターロボの動力です。そしてインベーダーは生きる為にゲッター線を必要とします、それはインベーダーを誘き寄せる事に繋がると思います」

 

あの化け物が自壊するというのは何度も見ているが、生きるのに必要なゲッター線を得る事が出来ず体組織が崩壊したと言う事をヴィンデル達は初めて知った。だがそれと同時にゲッターD2を戦力として運用するのならばインベーダーを引き寄せるリスクを背負う必要があると言うことも理解した。

 

「それは必要なリスクとして受け取ろう。どの道、今の戦力では日本脱出など夢のまた夢だ。最後に聞きたいのだが……ベーオウルフは進化の使徒と言った、何か心当たりは?」

 

今までシャドウミラーを執拗に追っていたベーオウルフが目もくれずゲッターに襲いかかった。その理由を尋ねた、だがやはり武蔵はそれに付いて何の心当たりもなかった。

 

「判りません……ただ早乙女博士……ゲッターロボの開発者ですけど、ゲッター線が人類の進化を促したと……」

 

「エネルギーが人類の進化か……は、とんでもない事になってきたな。これがな」

 

自分達の理解を超える世界の話にヴィンデル達は頭を抱えたが、今までに幾度も無く、自分達の常識が崩壊する瞬間があった。ならば、そういうこともあるだろうと柔軟に受け止めることが出来ていた。

 

「それで早乙女研究所なんですけど……そとにある研究所。あれがそうですね」

 

「何? そうなのか?」

 

「はい、外観とは全く同じですし……もしそうなら整備する機械とか手に入るかもしれません」

 

ギャンランドも損傷している。このまま移動する危険性を考えるのならば、早乙女研究所で整備するのも1つの手段なのかもしれない。

 

「1度装備を整えて捜索に出るのも悪くないか」

 

「そうだな。どのみちこのままでは迎撃されるリスクがあり過ぎる」

 

日本は蔦の化け物……ベーオウルフが言うには新たな種「アインスト」の巣窟だ。このまま進むには危険すぎるが、どこでも補給出来ないと考えていただけに補給が出来る最初で最後のチャンスとなれば、リスクは承知で早乙女研究所を捜索する必要があるだろう。

 

「さてと。お前達の質問が終わったのならば、今度はこちらの番だ。よろしいか?」

 

「ええ。大丈夫です、私達に答えられる範囲であれば何でも答えましょう」

 

そう笑みを浮かべたヴィンデルだが、カーウァイに切り出された話に顔を歪めた。

 

「では聞こう、システムXN、アギュイエウスとリュケイオス……そしてヘリオス・オリンパスについて聞きたい」

 

それはシャドウミラーの最重要機密。それを知っていた、カーウァイとイングラムにヴィンデルは認識を改める必要があると理解するのだった……。

 

 

 

 

エルドランドに僅かに残されていたシャドウミラーの機密を切り出すと明らかにヴィンデルの顔色が変わった。

 

「……失礼ですが何故それを? エルドランド所属のR-SOWRDを所有していることと何か関係が?」

 

「俺達は新西暦から1度旧西暦に飛ばされ、空白の歴史を戦った。その中でエルドランドを発見したのだ。だが……その中に収納されてい

たSRXはインベーダーに喰われ、俺達はそれを破壊したが残骸を発見する事は出来なかった」

 

「……まさか、虚空から現れたSRXと言うのは……」

 

この世界でSRXが完成し、量産型SRXを作れたのは虚空から現れたSRXの残骸の解析が出来たからだ。だがそれは間違いなく、旧西暦でイングラム達が撃破したメタルビースト・SRXであると言うことは明らかだった。

 

「あくまで可能性の話だ。旧西暦で撃破されたメタルビースト・SRXが時空を越え、この世界に戻って来た。それによってSRXは完成したが、インベーダーも秘密裏に増えた。それが俺とカーウァイの見解だ」

 

卵が先か鶏が先か……そんな哲学的な話になってきた為武蔵は話を理解出来ず黙り込む、その姿を見ながらイングラムは話を続ける。

 

「旧西暦の空白の歴史ではインベーダーが大量発生し、人類は窮地に追い込まれていた。だが何らかの因果でこの時代と旧西暦が繋がり、それをイージス計画によって発生したエネルギーによって時空が歪み、インベーダーがこの世界に現れたと俺は考える」

 

「ありえない話ではないですね。イージス計画は時空を歪めて、地球を完全に遮断するというもの……時空を歪めることが前提なのですから、何が起きても不思議ではない」

 

そもそもシャドウミラーがイージス計画に反対したのはシステムXN、アギュイエウスとリュケイオスの3つの情報から時空を歪める危険性を考えたというのもある、無論それだけではないが、あまりにもリスクがありすぎた計画なのだ。

 

「イージス計画にシステムXN、アギュイエウスとリュケイオスの技術は使用されているのか?」

 

「一部流用されたと聞いております。あれはシャドウミラーが主立って進めたプランですが、あくまでテスラ研を開発拠点としておりました。政府から要求され、情報を渡した可能性はゼロではないです」

 

ヴィンデルの返答を聞いてイングラムは顔を歪めた。システムXN、アギュイエウスとリュケイオス……その何れも巨大な設備であり、移動させるのが困難であると言う一文が残されていた。

 

「その次元の裂け目は今も広がっているのか?」

 

カーウァイの言葉にヴィンデルもアクセルもその顔を歪めた。それを見れば裂け目が健在なのは明らかだった。

 

「ジュネーブで発令したイージス計画。その周辺はお前達の言うインベーダーの巣窟で、人間は誰も生き残っていない」

 

「……人はいないが、起動した装置が今も稼動していると言うことか……」

 

可能ならばその装置を破壊したいが、今の孤立無援状態では無茶を通り越して無謀だと判断し、今はジュネーブで暴走しているイージスシステムを放置する事を決めた。

 

「……時空転移装置はアメリカ……それもテスラ研か?」

 

そして今度はカーウァイがそう問いかけた、得た情報とギャンランドは向かおうとしていた場所……そしてエルドランドに残されていた情報からシャドウミラーの持つ転移装置の場所を予測していた。その問いかけにヴィンデルは流石ですと言って、転移装置の場所を明かした。

「ヘリオス・オリンパスはテスラ研に所属していた研究者ですので、必然的に転移装置はテスラ研にあります。そして私達はそこに向かうつもりでしたが……道中の救難要請に向かい、連邦の生き残りの罠に嵌り……アインストとインベーダーに追われる事になりました。そのままテスラ研に向かえば、テスラ研が落ちる危険性があったので、こうして日本に来れたのは幸いでしたが……日本はアインストの拠点となっています」

 

倒しても再生する奇怪なゲシュペンストの中に寄生していた触手型生物……アインストの拠点と聞いてイングラム達もその顔を歪めざるを得なかった。

 

「日本から脱出するのが困難と言うのは」

 

「敵の本拠地だからです。海沿いは特にアインストの包囲網が厳しくなっています」

 

敵に追われる状況でテスラ研に向かうのはヴィンデル達も避けたかった所だが、日本からアメリカに向かうのも困難を極める。

 

「それでも日本を脱出しなければならない、今でもアメリカで仲間達が戦っている。あいつらを死なせる訳には行かない」

 

「そう言うことです。だから協力をお願いします」

 

イングラム達も自分達の世界に戻らなければならない、その為には転移システムを持つシャドウミラーに協力する必要があるのは判っていた。

 

(アストラナガンが使えれば……いや、そんなことはいえんか)

 

まだアストラナガンの修復が完了していない以上、ゲッター線の暴走による時空転移ではなく、1度は元いた世界に転移していると言うシャドウミラーの転移装置を使うしかないとイングラムは考えていた。

 

「判っている、共に協力して日本を脱出しよう」

 

「その為にはまずは……早乙女研究所の捜索だな。武蔵頼めるか?」

 

「うっす! 構造はオイラが判ってますし、カードキーもあります。後は敵にだけ備えていけば、大丈夫だと思います」

 

武蔵の返答を聞いてからカーウァイがヴィンデルに視線を向ける。

 

「あまり時間を掛けるのはリスクがあり過ぎる。早急に早乙女研究所を制圧したい」

 

「判りました。僅かですが特殊装備があります、それで突入しましょう」

 

アインストがギャンランドが移動して来ている事を察知していない訳が無い。アインストの大群が押し寄せる前に早乙女研究所のバリアを再起動させる為に武蔵、イングラム、カーウァイ、そしてアクセルとヴィンデルの5人はギャンランドを早乙女研究所の前に残し、早乙女研究所に突入することを決めるのだった。

 

 

 

 

武蔵の持つカードキーで閉鎖されている早乙女研究所の中に踏み込んだ武蔵達は顔を歪めた。外観と違って、その内部は既にアインストの浸食を受けていたからだ。

 

「やはりか……既に寄生されている、どうする。このままでは危険だ、撤退するか?」

 

今まで見た早乙女研究所の中で一番綺麗だったが、壁や天井から見えている緑色の触手……アインストの体組織に、既に早乙女研究所はアインストの手中に落ちていることを全員が悟った。撤退するかと提案するアクセルに武蔵は大丈夫ですよと笑った

 

「そうみたいですね、でもまだ間に合うと思いますよ。侵食のペースが凄く遅いです、これなら奪還出来ると思います」

 

ゆっくりと浸食しているアインストの触手……だがその侵食のペースは非常に緩やかだった。これならばまだ奪還できるという武蔵の言葉を聞いたアクセルが顔を歪め、武蔵へと問いかける。

 

「なんとかなるって言うのは楽観的にいってるのか?」

 

「いえ、確信ですかね。ゲッタービームがアインストにも効果的でしたし、インベーダーほどではないと思いますけど、ゲッター線はアインストにも効果があると思います。だから、えっと……ここが1Fホールなので、ここ……早乙女研究所のメイン動力。これを再起動させて、研究所の中にゲッター線を張り巡らせれば……」

 

賢くないと言っていた武蔵だが、決して愚かではなく、自分の知りえる情報。持ちうる情報で最善の一手を考えていた、学校などで要求される頭の良さではなく、応用や閃きと言う意味での頭の良さを武蔵は持っていた。

 

「ゲッター線で研究所を消毒する事で私達は安全な拠点が手に入るという事か」

 

確実に安全とは言い切れないが、それでも少しの間でもゆっくりと身体を休めれる可能性と、機体を整備する時間が欲しいヴィンデルは武蔵の提案を呑むことにした。

 

「ただ、問題はメイン動力は早乙女博士のカードキーか、LV5のカードキーがないと起動出来ないんですよ」

 

自分のカードキーを見せる武蔵。そのカードキーにはLV3の文字が刻まれていた。

 

「つまり、地下に直行するのではなく、ほかのカードキーを見つける必要があると」

 

カーウァイの言葉に武蔵は頷き、出入り口の早乙女研究所の地図を再び指差す。

 

「研究室は2F、3Fにあります。そこはオイラのカードキーで開けれるから、まずはそっちを目指しましょうか、途中でセキュリテイがありますけど、2F・3Fの研究室なら開けれますし、いけるなら早乙女博士の私室を目指しましょうか」

 

壁に貼られた地図を引き剥がし、武蔵はそれを折りたたんでヴィンデルに渡す。

 

「どうぞ、持っていてください。もし、分断された場合は研究室で落ち合いましょう」

 

「了解した、そうならないことを祈るがね」

 

武蔵を案内人にして進めば迷うことも逸れることも無い、だがアインストの触手が侵入していると言う事は早乙女研究所の内部にも敵はいると言う事を証明していた。

 

「ならば急ぐとしよう。時間を掛けると敵に囲まれる」

 

「いいや、もう手遅れだな。これがな」

 

アクセルの言葉に顔を上げると、通路の壁に傷をつけながら触手が人型になったような異形が立ち塞がる。

 

「見たいですね。まぁ、それでも進むしかないんですけどね」

 

「その通りだな、これがな」

 

日本刀を構える武蔵とその隣でトンファーを構えるアクセル。音として認識出来ない奇怪な鳴き声が早乙女研究所に響き渡るのを合図に、武蔵達の早乙女研究所奪還作戦が幕を開けるのだった……。

 

 

第4話 早乙女研究所奪還作戦 へ続く。

 

 




何回もやっているバイオ的な話に再びチャレンジです。何事も挑戦するのは大事ですしね、そして今回の話は互いに核心には触れず、騙し騙しの情報交換となっております。日本脱出の為に互いに出し抜く隙を窺いながら手を組むという感じですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 早乙女研究所奪還作戦

第4話 早乙女研究所奪還作戦

 

正直アクセルとヴィンデルはこの奪還作戦に置いて武蔵は案内人程度の認識だった。軍人としての指導も訓練も積んでおらず、敬語も覚束ない。ただゲッターロボと言う特機を操れるだけの民間人と言う認識だった。イングラムとカーウァイが気を掛けているのも、発動条件も判らないが転移が出来るからだと考えていた。だがいざ、アインストとの戦いに入るとその認識は嫌でも改める事になった。

 

「■■ッ!」

 

「おせえっ!」

 

アクセル達が動くよりも早く、それこそ獣のような俊敏さで背中に背負った日本刀を抜き放つと同時に突きを繰り出し、アインストのコアに皹を入れるとそのまま硬く握りこんだ拳でコアを殴り砕いた。

 

「~~~~ッ!!」

 

声にならない悲鳴を上げて崩れ落ちるアインスト。武蔵はそれを見つめながら握りこんだ拳を開き、笑いながら振り返った。

 

「なんだ。全然脆いじゃないですか、これなら全然楽勝ですね!」

 

(こいつ……何者だ)

 

アインストの弱点であるコアは何十人、いや、何百人の犠牲の元漸く得た情報だった。だがそのコア自身も非常に固く、それこそPTの装甲の合金レベルの強度だ。それを素手で殴り砕いた……いや、そもそもの体捌きのレベルから武蔵は桁違いだった。

 

「無茶をするな、いきなり動くから驚いたぞ」

 

「はは、すいません。でもこいつらってあんまり怖くないんですよね。恐竜帝国の方がもっとやばいって言うか……うーん、敵意はあるけど、殺意は無いって言うか……」

 

恐竜帝国と言う訳の判らない言葉が出てきた事にヴィンデルとアクセルも首を傾げるしかない。

 

「恐竜帝国と言うのは旧西暦に存在した人型に進化した爬虫類の事だ。武蔵はそれと戦っていた、いうならば化け物退治のエキスパートだ」

 

「ますますオカルト染みて来たな、これがな」

 

人型に進化した爬虫類……口で言うのは簡単だが、それを見たことが無いヴィンデルとアクセルはその姿を想像するしかない。だが判る事が1つだけあった、武蔵は案内しか出来ない足手纏いではなく、自分達以上に怪物と戦いなれていると言う事だった。

 

「脆いか?」

 

「んーオイラからすれば脆いですね。カーウァイさんはどうですかね?」

 

砕けたコアを拾い上げ、カーウァイに渡す武蔵。カーウァイはそれを握り顔を顰め、そのままコアをイングラムに手渡す。

 

「……馬鹿力め、お前達のような人外と一般人を一緒にするな」

 

「それ酷くないですか?」

 

「事実だ。ゲッターパイロットの身体能力が異常だというのを理解しろ。重力装備も、衝撃装備も無い。それでマッハで飛ぶ機体で昼寝できる人間がいると思ってるのか?」

 

重力装備も衝撃装備も無い機体でマッハと聞いてアクセル達はぎょっとする。確かに、ここにいる全員は加速力のある機体に乗っている。だがそれでも重力装備は当然のように搭載されている。それを生身で耐えると言うのは本来不可能だ。それこそ肉塊になりかねない、機動兵器のGと言うのは上下左右からそれこそ縦横無尽に襲い掛かる。故にパイロットの生存を第一に考えるのは当然の事で、それらの安全装備が無いと聞いてゲッターロボの製作者の正気をヴィンデル達は疑った。

 

「……リョウと隼人がいますけど……」

 

「それはお前の同類だろう……とにかくだ、お前は自分が常人とは違うと理解しろ」

 

ふあーいっと気の抜けた返事をし、再び日本刀を背中に背負い武蔵は通路の先の階段を指差す。

 

「じゃあ行きますか、時間を掛ければ敵が増えるでしょうしね」

 

そう言って先陣を切って進んでいく武蔵。その姿からは想像出来ないほど俊敏な動きだった。イングラム達は複雑に入り組んだ早乙女研究所で武蔵を見失う訳には行かないと武蔵の後を追って走り出すのだった。

 

 

 

 

バリソンとエキドナの治療、そして機体の修理の為にギャンランドに残ったレモンはアクセルの装備に付けられているカメラからの映像を見て、呆れたような溜め息を吐いた。

 

「アクセルより強い男はそうはいないと思ったんだけどねえ」

 

鎧騎士のようなアインスト――「ナイト」は蔦ー―「プラント」や骨のアインスト――「ボーン」の上位種でそれこそ、10人単位で当たってやっと互角に戦える。それなのに武蔵はスライディングでナイトの足を払い引っくり返すと刀で鰻のように通路に固定すると足の鎧を力任せに粉砕し、そこから内部にリボルバーを入れてコアを砕いてあっという間に沈黙させる。

 

「これ明らかに慣れてるわね」

 

自分よりも巨大で、そして力の強い相手と戦いなれている。旧西暦にいた異形と戦っていたらしいが、それを差し引いても武蔵の戦闘力は異常だった。

 

『そっちは大丈夫ですか?』

 

『ああ、問題ない。それよりもすまないな、ナイトを1人で相手させて』

 

『全然大丈夫ですって、爬虫人類やインベーダーと比べれば全然弱いですから』

 

『弱いか……ふっ、お前も大概だな。武蔵よ』

 

『いやいや、オイラなんて大したこと無いですよ。リョウや隼人の方がもっと強いですからね』

 

『あいつらは強いが、協力性とか皆無だろう? そう考えればお前の方が良かったと思う』

 

『そうだな。私も見たが……あの2人はどこまで行っても独断専行を止めないだろう』

 

『ま、それは認めますけどね。さてと、そろそろ研究室ですけど進んでも大丈夫ですかね?』

 

「膂力だけじゃなくて、スタミナも化け物ね。完全にアクセル以上かしら?」

 

肩で軽く息をしているアクセル達と異なり、平然としている武蔵にレモンは驚愕を隠せない。

 

「旧西暦の人間って化け物だったのかしらね」

 

失われた時代、空白の時間と呼ばれる旧西暦の一部の歴史。今まで興味を持たなかったレモンだが、旧西暦の生き証人である武蔵を見て、初めてその時代に興味を持ったが今はもうその知識に触れる事は出来ない。

 

「惜しい事をしたわね」

 

ジュネーブにいくつか資料があったはずだが、インベーダーの巣窟になっているジュネーブに乗り込むわけにも行かず。無事に戻って来たら武蔵から話を聞こうと決めて機体のメンテナンスと平行してエキドナのメンテと、バリソンの治療を行う。

 

「あら?」

 

エキドナのメンテをしている時にエキドナ――W-16の脳に何らかの異変が起きている事に気付いたレモンだったが、それを見てレモンは笑みを浮かべた。新しい種を作ると言う目的を持つレモンにとって脳に変化が起きていると言うことは喜ばしいことだった。

 

「W-17とデータを比べれると良いわね」

 

今はまだ培養液の中で調整をしているWシリーズの最高傑作であり、レモンの娘であるW-17……「ラミア・ラヴレス」の名を与えられる筈の美女と既にロールアウトし、自我が芽生えない物かと観察を続けているW-16……「エキドナ・イーサッキ」そのどちらが自我が芽生えるのか、それともどちらとも自我が芽生えないのか、はたまた両者とも自我が芽生えるのか……?

 

「ああ、こんな状況だけど楽しくてしょうがないわね」

 

むしろ何時死ぬかもしれないから楽しいかしら? と呟きレモンは作業を再開する。ギャンランドのステルスは高性能ではあるが万能ではない。

 

「早く動力とやらを復旧してくれると良いんだけどね……」

 

アインストは早乙女研究所の中にいる。個にして群のアインストは既にレモン達が日本にいることを把握している、大群が押し寄せてくる前に早乙女研究所のバリアを再起動する事が生き残る第一条件だが、レーダーに既にアインストの反応が出ている。残された時間はそんなに多くない……表情こそ飄々としているが、レモンの額から汗が一滴零れ落ちるのだった……。

 

 

 

レモンからの報告を聞き、アインストの群れが早乙女研究所に向かっていると聞いた武蔵達はアインストに発見されるリスクを承知で、通路に足音を立てて、研究所内を走っていた。

 

「武蔵! 第3研究室と言うのはまだ先かッ!」

 

「~~~~ッ!」

 

ポーンの胸部のコアをトンファーで殴り砕きながらアクセルの怒声が通路に響き渡る。

 

「もうちょっと先なんですよ! 重要区画なんで……邪魔すんなッ!!!」

 

プラントを両断する武蔵だが、ダクトや開いている部屋からどんどんアインストが姿を見せる。

 

「ちいっ! 一々相手をしていると時間が無くなるぞ!」

 

「イングラムさん! これ!」

 

「ッ! この場は任せるッ!」

 

アクセル、ヴィンデル、カーウァイ、武蔵、イングラムと言う面子の中で最も電子系に強いのはイングラムだ。武蔵は自身のカードキーを投げ渡しイングラムに先に行くように促す。

 

「おらっ!!」

 

「「「!?」」」

 

道中で拾ったショットガンをぶっ放す武蔵にアクセルが顔をゆがめる。

 

「散弾銃で遠くを狙うな」

 

「大丈夫って判ってますから、でもすいません」

 

少し間違えば自身が蜂の巣になっていたから顔を歪めるアクセルだが、謝罪と共に頭を下げられればそれ以上追求も出来ず不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

「まぁ良いだろう。今は時間がないからな」

 

アインストの大群が来るまでに動力を再起動出来るかは賭けに近い、最悪の場合、これだけ苦労したのにギャンランドで逃亡しなければならない可能性もある。

 

「この苦労が無駄にならなければ良いがな」

 

「全くだッ!!」

 

「せいッ!!!」

 

「どりゃあッ!!」

 

銃声が早乙女研究所の通路に響き渡り、それから遅れて武蔵とアクセルの気合に満ちた声が響く、砕かれ、両断されアインストの残骸が通路を埋め尽くしていくが、研究室に向かったイングラムはまだ戻ってこない。

 

「研究室にもアインストがいたんじゃないのか!? やはり1人で行かせたのは無謀だった!」

 

「あそこは常にバリアが展開されてるから安全度で言えば一番安全なんですよッ!!って! あぶねえ! 全員頭を抱えて通路に寝転がれッ!!!」

 

武蔵の怒声に反射的に全員が頭を抱えて伏せた瞬間。天井と通路が開き、そこから姿を見せたガトリングが火を噴いた。

 

『……すまん。防衛装置を起動させたんだが……』

 

研究室から放送で謝罪するイングラムに立ちあがった武蔵が珍しく敬語ではなく、本気で怒った様子で怒鳴った。

 

「馬鹿かッ!? 警備責任者は敷島博士だぞ!? まともな警備装置なんてねえよッ!?」

 

『……すまんとしか言いようがない』

 

イングラムが武蔵達を助けようと起動した防衛装置だが、それは一歩間違えば全員蜂の巣だった。

 

「……死ぬかと思ったぞ」

 

「ああ。一瞬走馬灯が見えたな……」

 

「……あのマッドめ、もう少し常識の範囲で開発しろ」

 

一歩間違えば全滅だったが、ガトリングの掃射で無限に沸いているアインストは一時的にしろ姿を消した。これは紛れも無い好機だったのもまた事実。

 

『武蔵! LV5のカードは見つけたッ! そのまま出撃用の通路へ向かえ!』

 

「シュートを使うつもりですか!? もしそこにアインストがいたら全滅ですよ!」

 

『だがこのまま地下に向かっていたら間に合わない、動力が復旧しなければどの道全滅だ。自分達の運に賭けるぞ!』

 

扉が乱暴に開く音がする。イングラムも出撃用のシュートに向かっているのだろう。武蔵はがりがりと頭を掻いて、日本刀とショットガンを背中に背負う。

 

「ええい、行きますよ! オイラ達の悪運に賭けます!」

 

走っていく武蔵の後を追ってアクセル達も走り出す、自分達がこの階にやってきた通路の影にアインストの姿を見て、戻る事は不可能と悟ったからだ。それならリスクは承知で、シュートを使うしかないと判断したのだ。

 

「やけくそだ、出たとこ勝負で行くぜッ!!」

 

先にイングラムが飛び降りたのか、口を動かしているシュートの中に武蔵が飛び込み姿を消す。

 

「この中にアインストがいたら全滅か」

 

「らしくないな、ヴィンデル。どの道1度死んだと割り切れば問題ないだろう」

 

「……そうだな、先に行く」

 

ヴィンデルがシューターの中に姿を消す。あまり間もなく入ればそれこそシューターの内部で詰まってにっちもさっちも行かなくなる。それが判っているから、アクセルとカーウァイはその場で待機し、アインストの襲撃に備える。

 

「ふ、またこうしてカーウァイ少将と同じ戦場に立てるとはな、事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。これがな」

 

「そうだな、私もそう思う。いろんなことを経験してきたからな」

 

「これを切り抜けたら話を聞いても?」

 

「構わないさ、アクセル。先に行くか?」

 

「冗談、少将に殿を任せる訳にはいかん。先に行ってくれ」

 

アクセルの言葉に頷き、カーウァイもシューターの中に飛び込み姿を消す。1人残されたアクセルはあちこちから聞こえてくるアインストの足音を聞きながら目を閉じて意識を集中させていた。

 

(……ベーオウルフ……お前は必ず俺の手で……)

 

だがその研ぎ澄まされた意識の中でアクセルが考えていたのは、研究所を奪還することではなく、憎む怨敵の事を考えていた。武蔵から聞いた話によればソウルゲインに乗ってアクセルは向こう側に移動した。だがそれは勝利したとはいえないボロボロの姿と聞く……それを聞いたアクセルは転移の際に必ずやゲシュペンストMK-Ⅲを……そしてベーオウルフを倒す事を誓う。

 

「さてと俺も行くか」

 

手榴弾のピンを抜いてシューターに飛び込むアクセル。その直後に背後から響いてきた爆風と振動を感じながら長い坂を下り降りる。

 

「来たか! アクセルも手伝え!!」

 

「後3つ!!」

 

動力を復旧する為に巨大な電源を体当たりの要領で押し込んでいるのを見てアクセルは苦笑し腕を回す。硬く閉ざされている扉の外からアインストの鳴き声と、扉を粉砕しようとする音が響いている。時間はさほど残されていないが、ここまで来たら何としても早乙女研究所を奪還すると気合を入れるアクセルは、武蔵達同様全身を使って排出されている動力炉に体当たりを叩き込む。

 

「最後の大仕事かッ! 早く復旧させろよッ!!!」

 

「言われなくても判ってるッ!!」

 

「ぬ、ぬああああああーーーッ!!」

 

「合わせろ」

 

「「1、2の3ッ!!!」」

 

武蔵とアクセルに膂力で劣るヴィンデルとカーウァイは2人で1本の動力を押し込み、全員が必死の形相で早乙女研究所の動力の復旧を試みる。

 

「これで……どうだッ!!!」

 

動力炉が音を立てて起動し、ゲッター線バリアが再構築され薄暗い通路に光が灯り、扉の外を叩いているアインストの気配も消えた。

 

「ふへえ……つ、疲れたぁ……」

 

「ま、全くだ。身体が鈍っているな……」

 

「司令官と言ってふんぞり返って……いるからだ。ヴィンデル」

 

「……ギリギリだったが……やり遂げたか」

 

疲労困憊の5人はその場にへたり込み、やり遂げたと言う充実感を感じながらその場に倒れるように寝転がるのだった……。

 

 

 

 

浅間山の早乙女研究所の復活。これはアクセル達が安全な拠点を手に入れる為に必要な事であったが、それがこの崩壊した世界の終焉を更に加速させる事となる事をアクセルは勿論、武蔵達も知る良しもなかった。

 

「「「キシャアアアアアーーーッ!!!」」」

 

ジュネーブの上空に出現した時空の裂け目。そこから無数に出現し続けるインベーダー、出現しては消滅し、出現しては消滅しを繰り返しインベーダーは何十、何百と言う進化を繰り返す。

 

「「「シャアアアーーッ!!!」」」

 

そんな中突如この世界に広がったゲッター線の波動にインベーダーは歓喜した。自分達の餌が出現したと、そして更なる進化を遂げることが出来るとジュネーブを埋め尽くしていたインベーダー達は次々に歓喜の声を上げる。そんな中、ジュネーブの崩壊した連邦軍基地が凄まじい地震……ではない、大地を砕く巨大な豪腕によって粉砕され、インベーダーを押し潰しながら地下から巨大な特機が姿を見せる。ゴーグル様な頭部パーツ、全身がひび割れ、火花を散らす異形の特機……それは旧西暦で武蔵達に敗れたメタルビースト・SRXの姿だった。早乙女研究所の動力が復旧したことにより発生した大量のゲッター線反応を感知し、休眠から目覚めたのだ。

 

「■■■ーーーーッ!!!」

 

音として認識出来ない異様な咆哮がジュネーブに響き渡り、メタルビースト・SRXの全身から伸びた触手がインベーダーも、破壊されたPTも建造物もおかまいなしに取り込み、全身を繭の様な物体に包み込み沈黙する。ジュネーブの大地に不気味な鼓動が響き、一方南極へと飛ばされたベーオウルフはその目を真紅に光らせ、雪原を駆けていた。

 

「……進化の使徒よ。その力、その英知を我らに捧げよ!! 我らアインストこそが新たな生命の源であるッ!!!」

 

狂った孤狼は日本を目指す、その地に再び目覚めたゲッター線を手中に収める為に……。

 

武蔵達がこの世界に辿り着いてしまった事で、この世界の崩壊は爆発的に加速する。ゲッター線……そしてゲッターロボD2を基点に、インベーダー、アインスト、そして人類の生存競争は更に激化していく事になるのだった……。

 

 

第5話 休息

 

 




不穏なフラグはばら撒いていくスタイルです。とりあえず転移するまでのボスとしては、インベーダーサイドは「メタルビースト・SRX」&「メタルビースト・クロガネ」。アインストは「????」&「ベーオウルフ」「アインスト・ハガネ」でお送りします。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 休息

第5話 休息

 

必死で早乙女研究所の動力を復旧した事で早乙女研究所周辺に再展開されたゲッター線バリアは、研究所内に住み着いていたアインストを滅ぼし、そして周辺に出没していたPTサイズのプラントやボーン、ナイトの進撃も防いでいた。

 

「とりあえず少し一息つけましたね」

 

設備はボロボロで、中の家財も酷い有様だが、それでも腰を下ろして休め眠ることも出来る。そう言う意味では早乙女研究所の奪還は非常に意味があった。

 

「ヴィンデル達が戻る前に話しておくが、武蔵。シャドウミラーはそこまで信用するな」

 

「文章通信でも言ってましたけど、何か理由があるんですか?」

 

ギャンランドのレモンを迎えに行っている間にしか、イングラムは武蔵にシャドウミラーと行動する上の注意点を話す事が出来なかった。ギャンランドは勿論そうだし、何よりも早乙女研究所だってレモンが来ればその中身を掌握されるだろう。アクセルとヴィンデルが戻るまでの数十分が自由に話の出来る時間だった。

 

「時間が無いから手短に説明する。エルドランドには人造人間――Wシリーズと言うデータが残されていた。そしてエキドナと呼ばれた女はヴィンデルにW-16と呼ばれていた。それで判るな?」

 

「……まさかあの人が?」

 

「ああ。恐らく人造人間だろう、それも戦闘スキルだけを与えられた……な。思い当たる節はあるだろう?」

 

イングラムの言葉に死ぬまで戦うや、自爆すると言っていたエキドナの言葉が脳裏を過ぎった武蔵は顔を歪める。

 

「それにだ。ヴィンデル・マウザーの理念は永遠に戦い続ける中での進化。永遠に戦争を続ける事が出来る機関として、Wシリーズを作成しているらしい」

 

「……そんなものの何処が進化だって言うんですか、ラウさん」

 

「さあな、私からすればそれは地獄に過ぎないが……少なくとも戦争で技術が発展したのは事実だ。それでも永遠の闘争なんてごめんこうむるがな」

 

ヴィンデルの理想の世界「永遠の闘争」は間違いなく武蔵達に受け入れられるものではない。武蔵も、イングラムも、そしてカーウァイも、平和な世界の為に戦っていたのだ。それを根底から覆す永遠の闘争など受け入れられる訳が無い。

 

「だが単独で世界を移動することが出来ない以上。俺達はシャドウミラーと行動を共にするしかない」

 

「……それは、そうですね」

 

インベーダー、アインスト、そしてイージス計画を推し進めた政府の生き残り。この世界は3つ巴になっており、そんな中で補給も移動も手段も無しで移動するのはただの自殺行為。不信感を抱いていても武蔵達はシャドウミラーと行動を共にするしかなかった。

 

「色々と思うことはあるだろう。だがそれは出来る限り顔に出すな、互いに互いを利用していると思え」

 

「……それ結構難しいですね」

 

「ああ。お前には難しいだろう……それでもだ。己を偽れ、アメリカのテスラ研に辿り着くまではな」

 

アストラナガンを使えればこんなに苦労する事は無い、だが修復段階のアストラナガンで転移するのはリスクがあり過ぎる――。それならば、シャドウミラーが保有していると言う転移装置で元の世界に戻れることを祈るしかないのだ。

 

「まぁ武蔵は深く考えずに行動してくれればいい、裏を取るのは私達でやる」

 

「むしろお前の単純さが良い方向に動くこともあるだろう」

 

「……馬鹿にされてます?」

 

「いや、そう言うことではない。生き残る為にはシャドウミラーと行動を共にするしかないが、その理念についていけるという訳ではない

。そう言う味方を増やすにはお前の方が適任だろう。俺達は行方不明者と処刑された側だ、会話が拗れる可能性がある」

 

「つまり説得しろ? と?」

 

「まぁ噛み砕けばそうなるな」

 

武蔵の朗らか性格と判りやすい正義感は人に好かれやすいという性質がある。それを上手く行かせば、生き残る為にシャドウミラーに協力している相手や、反シャドウミラーだったとしても、武蔵だけを送り出して情報収集することも出来るだろう。

 

「頼りにしているぞ、武蔵」

 

「そう言うことだ」

 

「……あんまり難しいのは勘弁して欲しいですね」

 

肩を竦める武蔵に苦笑するイングラムとカーウァイ。だがこの世界で恐らく一番自由に行動出来るのは武蔵だ、イングラム達の生命線を握っていると言っても過言ではない武蔵に期待を寄せるのは当然の事だった。

 

(それに……あるいは……)

 

人造人間と言えど、人の姿を持てば魂を持つことはありえない話ではない。なんせ自分がそうだったのだ、武蔵の性格ならば……非常に厳しいが、Wシリーズを離反させる事も不可能ではないかもしれない。一方的に与えられた知識に武蔵が疑問をぶつければ、あるいは自由に動く武蔵を見れば……その可能性はゼロではない。

 

「戻ったようだな、良いか? 武蔵。色々と思うことはあるだろうが、くれぐれも気をつけるように」

 

「ういっす」

 

早乙女研究所の格納庫にギャンランドが搬入されるのを見て、話を切り上げ武蔵達は今後の事を話し合うために部屋を出て、格納庫に足を向けるのだった。

 

 

 

 

「ふーん。悪くないわよね」

 

早乙女研究所の内部を把握したレモンは悪くないといいつつも、その表情は満更でもないという様子だった。武蔵の話では、早乙女研究所は旧西暦の建造物であり、その中身に大した期待を抱いていなかったのだが、蓋を開けてみればギャンランドをそのまま格納できる格納庫はあるわ、グルンガストとグルンガスト参式をメンテできるハンガーはある、さらには部品を製造出来るプラントまであった。ここまで設備が揃っているのは、今この世界ではありえないほど恵まれている。更に設備のレベルも紛れも無く一級品であったのも、レモンの機嫌を上機嫌にさせる要因だった。

 

「すいませーん。エキドナさんに呼ばれてきたんですけどー?」

 

「あら、思ったより早かったわね。武蔵、ま。とりあえずこっちに座ってちょうだい」

 

レモンに呼ばれていた武蔵はおっかなびっくりと言う感じで、レモンの隣に腰掛ける。

 

「悪いわね。忙しかったでしょう?」

 

「あーいえ、別にそう言うわけじゃないんですけどねえ……」

 

目が泳いでいる武蔵を見てレモンはくすくすと笑う。武蔵は明らかにレモンに苦手意識を持っているのが明らかで、それは大人の女性に慣れていない証でからかったりすると面白いとレモンは感じていた。

 

「ゲッターD2なんだけどね、稼動データからシュミレーションを作ってみたのよ。後で試してみてくれる?」

 

「それは良いですけど……なんでまた」

 

「ま、科学者の個人的な興味って所ね。ゲッターロボって3人乗りなんでしょ? 3人乗った時のパワーとかを見て見たいのよ」

 

旧西暦の機体である筈なのにその出力は計測不明。一体どれほどのパワーを有しているのか。レモンはそれを自身の目で見たいと感じていた。

 

「……いや、無理じゃないですかね? 死人でますよ?」

 

だが武蔵の返答は死人が出るという物だった。その言葉を聞いてレモンは最初から無理って言われているのが判っていたのか、無理強いをせず、その理由を尋ねた。

 

「やっぱり? ちなみにその無理な理由って判る?」

 

「オイラは絶対無理だと思いますよ? 正直オイラでもリミッター込みでやっと操縦出来るレベルですし……フルパワーなんて試したらどうなるかなんて火を見るより明らかじゃないですかね?」

 

「うーん……どうしても無理?」

 

「無理って言うか無謀だと思いますよ?」

 

レモンの頼みを武蔵は無理だと断言した。ゲッターD2は敷島博士のリミッターが全て正常に稼動しているからこそ、操縦出来ている。それを1つでも外せば、再び制御不能の暴れ馬になる事は明らか。それを、3人乗りでやれば制御出来ない間に死人が出るといって武蔵はNOを出した。

 

「でもシュミレーターは使わせてもらいますよ? オイラも使いこなせているとは言えないですし、良い訓練になると思います」

 

「そう? じゃあ後で感想を聞かせてね? 駄目な所はすぐ修正するから」

 

「了解です。話はそれで終わりですか?」

 

「うん。後は1つだけ、メンテの時に備えてちょっとパーツを組み込みたいのよ。良いかしら?」

 

「それなら全然大丈夫ですよ。ゲッターは出撃の度に細かいメンテが必要ですし、よろしくお願いします」

 

そう笑って格納庫を出て行く武蔵。その後姿をレモンは暫く見つめ、その姿が見えなくなると小さく溜め息を吐いた。

 

「なんか自分が汚れてる気がするわ」

 

武蔵の純粋さと言うか素直さを見ていると自分が汚れている気がするとレモンは小さく呟いた。ゲットマシンに取り付けたいといったのは、メンテ用のパーツではなく、いざと言うときにその機能を一時的にショートさせる為の物だった。

 

「ま、大人は汚いって事で許して貰うしかないわね」

 

ヴィンデルは武蔵を含めて自分達の思想に共感してくれる事がない事を判っていた。この世界から無事に脱出出来れば、その後で武蔵とゲッターD2を鹵獲するつもりだ。レモンも研究者とは言え軍属、上官であるヴィンデルの命令には逆らえない。

 

「それに……武蔵にはこっちにいて欲しいのよね」

 

格納庫からのモニターを見て、レモンは小さく笑う。

 

『武蔵か、何処に行くんだ?』

 

『どうもエキドナさん。ゲッターのシュミレーターが出来たらしいのでそれを試すんですよ』

 

『それは面白そうだな、私も着いて良いっても?』

 

『あ、それなら設定とか頼めますか? オイラじゃ判らないかもしれないんで』

 

『ああ、構わない。一緒に行こう』

 

命令を出さなければ動く事の無いエキドナから武蔵に話しかけた。それがレモンにとっては想定外であり、そしてそれでいて武蔵への興味を深める事になっていた。

 

「ああ。面白いわね……ふふ」

 

エキドナは基本的にポーカーフェイスだが、その唇の端が僅かに上がっている。そう、エキドナが微笑んでいるのだ。

 

「あの時のゲッター線かしらね、どうなるか楽しみだわ」

 

至近距離から放射されたゲッター線。それはエキドナに想定していない変化を与えた。進化を齎すエネルギーの肩書きに偽りが無く、そして命令している訳でもなく気配を殺し武蔵を監視している。つまりプログラムを超えて行動しているエキドナはレモンの目標である新人類の誕生に大きく近づいたと言っても良い、だからこそ武蔵が欲しい。武蔵がいればWシリーズ全てに自我が芽生えるかも知れない、そうすれば自分の夢に大きく一歩近づく。

 

「何を笑っている、レモン」

 

「あら、アクセルもうそんな時間?」

 

「いや、少しばかり早いが、やることも無いのでな。グルンガスト参式かグルンガスト、そのいずれかで構わない。俺に使えるように設定しておいてくれ」

 

「ええ、判ってるわよ。アクセルの感は当たるからね」

 

「ああ。そろそろ動いてくるぞ、奴らがな」

 

早乙女研究所に停泊して4日目。昨日の夜から出現しなくなったアインストにアクセルは怪訝な物を感じていた。これは嵐の前の静けさだと、そろそろ本格的に動き出してくる筈だと考えていた。

 

「それなら参式にしましょうか? シシオウブレードがないから火力は劣るけど、馬力で勝るわよ」

 

「何か適当に武器も頼む」

 

「はいはいっと、我侭な彼氏様で困るわねえ」

 

困るといっても笑みを浮かべているレモンとそんなレモンを腕組しながら見つめているが、その表情の柔らかいアクセル。いままで張り詰め続けていたシャドウミラー隊だが、武蔵やイングラム達の参加で僅かに気持ちに余裕が生まれていた。

 

「仮初の共闘でも、今は必要な事だ。何れ倒す」

 

「あら。もう敵って考えているのかしら?」

 

「ああ。あいつらは絶対に俺達の思想に共感する事はない、今は味方だが、何れ敵となる。だが……それで良い」

 

拳を握り締め闘志を明らかにするアクセルにレモンは苦笑し、グルンガスト参式の最終調整を始めるのだった……。

 

 

 

 

イングラムの姿はギャンランドの資料室にあった。イングラムが探していたのは、この世界の歴史などを記録した物を閲覧していた。身体を休める必要があることは判っていた、だがそれが判っていても、この世界の歴史を知る事は急務であった。

 

「……なるほど、大体判った」

 

ここ最近の作戦などは知ることが出来なかったが、それでもイングラムが求めていた物はあった。

 

「ゾヴォークか……良く切り抜けたものだ」

 

星間連合国家「ゾヴォーク」正直軍事力や兵の数ではバルマーを圧倒的に超えると言っても良い、そんな相手に良くこの世界の連邦は勝利できたなと感心する。

 

「いや、待てよ……逆か」

 

バルマーと戦い消耗し、バルマーが目的としていた地球の支配に来たと言う可能性もある。

 

「大前提から違うのか……?」

 

この世界にゲッターロボが存在した可能性もある。そうなれば、ゲッターエンペラーも存在していたかもしれない。

 

「敵対した異星人は壊滅寸前だったのか? いや、もしそうならば……」

 

何らかの痕跡がある筈だ。浅間山に早乙女研究所が出現した……それはもしかしたらこの世界にゲッターロボが存在したと言う証左ではないのか? だからこそインベーダーも活動時間に限界こそあれど、この世界で活動出来ている。

 

「……他にも調べることがあるかも知れないな」

 

この世界で何が起きたのかを知ることも大事だが、この世界で発見された壁画なども手に入るのならば調べる必要があるかもしれない。

 

「ゲッターロボが存在していたと仮定して……」

 

ゲッターロボが存在し、ゲッターエンペラーがいればバルマーとゾヴォークが壊滅寸前になっていたと考える。そうなれば、地球が勝利できた理由も多少苦しいが納得出来る。

 

「そうなれば、ゲシュペンストで抗えたとのも納得出来る」

 

ゲッターロボによって壊滅寸前になり、ゲッター線のあるかもしれない地球を支配し、ゲッター線を手にしようとしたバルマー。

 

それを知り、ゲッター線を奪おうとしたゾヴォーク。

 

そこで鉢合わせになり互いに戦争を仕掛けた

 

互いに疲弊し合い、それから地球に来て戦争を仕掛けた……。

 

だが疲弊しているからゲシュペンストでも対抗できた……。

 

「……色々と引っかかる部分があるな……」

 

詳しい情報はやはり閲覧制限で見る事は出来ないが、それでも量産型ゲシュペンストが主力の時代にゾヴォークに勝てるか? と考えるとそれは不可能だ。ゲッターに壊滅寸前にされていたと考えても、やはり納得出来ない部分が余りにも多すぎる。

 

「地球が切り抜けられる要因があった……のか?」

 

この世界はイングラムの知る新西暦とは余りにも違う歴史を歩んでいる。考察するしかないが、それでも違和感と言う物は付き纏う。

 

(……やはりもう少し情報が欲しい)

 

シャドウミラーの反乱……これは判らない訳ではない、武器を捨てバリアで地球を護ると言うのは危険すぎる。

 

イージス計画……これはイングラムの記憶にもある。かつて遠い未来で、己が霊帝に敗れた後に辿り着いた世界……そこもイージス計画を進めていた。

 

「……アースクレイドルはどうなっている」

 

もしもだ、もしも……この世界にメイガスがあるとすれば、それを掌握しなければ最悪の展開になりかねない。

 

「既に滅んでいると聞くが……あれが取り込まれているとなると厄介だぞ」

 

インベーダー、アインスト、そのどちらの手に渡っても大変なことになる。既に滅んでいると聞いているが、それが完全な廃墟となっているのか、それとも中身が生きているのか……それとも既にインベーダーかアインストのいずれかに寄生されているかもしれないと考えるとイングラムの顔は曇り、その顔には強い不安の色が浮かんでいた。

 

「ちっ、知れば知るほど不安が募るな」

 

因果律の番人としての記憶とすり合わせれる事件が多ければ多いほど、不安要素が多くなる。しかしヴィンデル達の事をそこまで信用している訳ではない以上自分達の情報は出来るだけ切りたくない、だが向こうの情報は欲しい。そう言う面では今のヴィンデル達とイングラム達の考えは合致していた。自分の手札を隠しつつ、多くの相手の手札を知りたい。

 

「イングラム、何か判ったか?」

 

「あまり嬉しくない事しか判ってないがな、どうした?」

 

「ああ、ヴィンデルと話していたんだが……当面の目的はここで装備を整えて、早急に日本を出るという事になりそうだ」

 

戦艦であるギャンランドならばすぐにでも日本を出ることが出来る。それが出来ない理由とすれば、日本はアインストの巣窟になっていると言う事が大きいだろう。

 

「強行突破ができない理由があるのだな?」

 

「ああ。海際は大型アインストが陣取っていて、強行突破しようものならば蜂の巣だ」

 

「なるほど、その大型アインストとやらを撃墜して、その上で太平洋に出る訳か」

 

「そう言うことだ、そして早乙女研究所を出れば補給も休息も出来ない」

 

「……絶望的だな。全く」

 

補給も出来ず、身体を休めることも出来ず。逃走を続ける……それは恐ろしいまでのストレスを与えるだろう。何時補足され、襲われるかと言う恐怖。そしてインベーダーもいる以上逃げることも出来ず挟み撃ちで撃墜される可能性がある。

 

「出発は2日後を予定している」

 

「それまで敵の襲撃がないとは言い切れんか……」

 

ゲッター線バリアでアインストの進撃を防いでいるが、ゲッター線バリアの存在を知り、何時までもアインストが手をこまねいているとは思えない。このバリアを突破出来る大型のアインストが送り出される可能性もある。

 

「調べ物を切り上げろという事か」

 

「そう言うことだ、後は……」

 

カーウァイは周囲を確認してから、イングラムに近づき小声で呟く。

 

(機体を見ておけ、細工されている)

 

「判ったら少し休んでおけ、早乙女研究所を出れば休むことなど出来ないのだからな」

 

カーウァイは資料室を出て行く、イングラムは手にしていたフォルダを棚に戻し頭を振る。

 

(まさかそこまで動くか……想定より早いな)

 

テスラ研に辿り着くまでは味方だと考えていたが、思ったよりも早いなと内心で顔を歪める。

 

「狸と狸の騙しあいか……なるほど、飽きる事はなさそうだ」

 

例え協力し合っていても敵同士、心を休める事など出来るわけがないかと肩を竦め、イングラムは資料室を出て、格納庫に足を向ける。自分の命を預ける半身が知らぬうちに手を加えられていると聞いてジッとしていられる訳などなかった。アインストとインベーダーに追われながら、互いを疑い続けるギャンランドに乗る……。

 

「辛い物だな」

 

ハガネではありえなかった事に苦笑し、イングラムは早足でその場を後にするのだった……。

 

 

浅間山に進む量産型ゲシュペンストMK-Ⅱやガーリオン、リオンを初めとしたPTとAMの混成部隊。その先頭を進むのは巨大な日本刀を腰に携えた特機だった。

 

「全ては……静寂なる……世界の為に……」

 

背中にドリルを持ち、赤と青の装甲を持つ巨大な特機は全身を蔦に浸食され、胸部に赤黒いコアを生成しながら、足を引きずるようにして進む。

 

「進化の光を我が手に……全ては新たな世界の……為に」

 

進路にある崩壊したPTにグラスやボーンが寄生し、新たなアインストへと転生し、新たな世界を望む破壊の尖兵となり歩み続ける。

 

「我は……悪を断つ……剣なり……」

 

昇ってくる朝日に照らされた特機はギャンランドにもある「グルンガスト参式」。そしてそのパイロットはアースクレイドルにインベーダー、アインスト襲撃時に最後まで殿を務め、そしてベーオウルフに撃墜された「ゼンガー・ゾンボルト」グルンガスト参式はアインスト・グルンガスト参式へと変貌し、そしてそのパイロットの「ゼンガー・ゾンボルト」もまたアインストへと変貌していた。地響きを立てながら進む参式はその姿を異形へと変貌させながら進む、進化の源……ゲッターロボをその手中へと納める為に……。

 

 

 

第6話 堕ちた剣神/狂う孤狼 その1へ続く

 

 




と言う訳でアインスト側のボスその2は「アインスト・参式(変貌中)」になります。これがそのうちにアインスト・○○という感じで完全に変化する予定です。何故ボスをアインストにしたかって?それは勿論「ウォーダン」とバトルさせる為ですよ! 極めて近く限りなく遠い世界編は基本的に負けイベントを続けます。戦力増えない、補給できない、味方がいない(ギャンランド)とこれだけのハードモードでは勝利するのは難しい状態になると思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 堕ちた剣神/狂う孤狼 その1

第6話 堕ちた剣神/狂う孤狼 その1

 

 

早乙女研究所の中を武蔵は感慨深そうに見つめながら歩いていた。設備的に自分が死んだ後の早乙女研究所だが、それでも懐かしい所と言うものは多々ある。しかし武蔵は懐かしさを得る為に早乙女研究所を歩き回っていた訳ではなかった。

 

「……」

 

通路に足を止めて、手の甲で通路の壁を叩く。だが跳ね返ってくる音は重い音で武蔵は小さく顔を歪めた。武蔵の記憶通りならば、ここは隠し研究室があった筈だ。だが中に空洞が無いと言うのは跳ね返ってくる音で理解出来た……。

 

「何をしているんだ?」

 

「うおッ!?」

 

背後から声を掛けられ、驚いた武蔵はその場に尻餅をついた。しかしそれは異常なことだった、恐竜帝国と戦っていた武蔵は殺気や気配を感じ取る能力が秀でている。そんな武蔵が背後に立つ人間に気付かないなんて事は通常ならありえなかった。人造人間であるWシリーズゆえの気配の薄さ、武蔵はその薄い気配を感じ取ることが出来ず背後からの声に驚いて尻餅をついてしまったのだ。

 

「大丈夫か?」

 

心配そうな口調だが、その表情には何の変化もないピンク色の髪をした女性……エキドナが手を向けてくるので武蔵はそれを握り返し立ち上がる。

 

「いや、ちょっと考え事をしていたから、すいません。驚かせました?」

 

「そう言う訳ではないが……隠し通路でも探していたのか?」

 

話を誤魔化す訳ではない、単刀直入に尋ねて来るエキドナに武蔵は肩を竦める。

 

「まぁ、そんな所ですね。もしかしたらって思って探してるんですけど」

 

「何故アクセル隊長やレモン様に声を掛けない? お2人を疑っているのか?」

 

責めるような口調のエキドナに武蔵はそう言うわけじゃないですよと言って笑った。

 

「隠し通路があればアクセルさんやレモンさんに言うつもりだったんだ。だけど、格納庫にも、食堂にもないからさ。2人とも忙しいのに、無駄骨だと悪いじゃないですか」

 

「……そうか、良い心がけだ」

 

こちらを出し抜こうとしているのならば許すことは出来ないと考えていたエキドナだが、武蔵のレモンとアクセルの事を考えている言葉にエキドナは良い心がけだといって小さく笑った。

 

「それに実際無駄骨でしたしね……やっぱりオイラの知ってる早乙女研究所とは少し違うのかな?」

 

「……寂しいのか?」

 

少し肩を落とす武蔵にエキドナは少し考えてから寂しいのかを尋ねた。そしてエキドナはそう声を掛けた自分自身に驚いていた……兵器であり、戦うことが存在意義の己が人を心配するようなことを口にしたことに驚いたのだ。

 

「まぁ寂しいか、寂しくないかで言えば寂しいですけど……仕方ない事かなと、オイラの知ってる場所って訳じゃないみたいですしね」

 

仕方ないという割りに寂しそうな顔をしている武蔵にエキドナは何か言うべきだと思ったのだが、その言葉はエキドナの口から出る事はなかった。何を言えば良いのか判らなかったのだ、そもそもエキドナはWシリーズと言う人造人間――人の心の機微を理解すると言うことは出来なかった。それなのに、エキドナは武蔵が寂しそうにしていると言うのを感じていた。

 

(どうしたのだ。私はどうなった、壊れてしまったのか? もしそうならばレモン様にメンテナンスをお願いしなければならない)

 

日本に来る時に自身を包み込んだ温かい光……それに触れてから自分がおかしいとエキドナは感じていた。兵器に必要の無い事ばかりを理解し始めている事に気付き、このままでは兵器として活動できないと考えレモンにメンテナンスを頼むべきかと考えていた。

 

「エキドナさん? どうかしました?」

 

「あ、いや、なんでも……何だ!?」

 

突如早乙女研究所に鳴り響いた警報にエキドナの言葉は遮られ、レモンからの格納庫に集合と言う館内放送にエキドナと武蔵は弾かれたように走り出すのだった……。

 

 

 

ギャンランドに物資を積み込む中。ヴィンデルが武蔵達に今何が起きているのかを説明する。

 

「警報で気付いたと思っているが、恐れていた大量のアインストの襲撃が発生した。レモン映像を」

 

「はいはーい」

 

レモンがコンソールを操作し、格納庫のモニターに外の状態が映される、ゲシュペンストを初めとした無数のPTの姿があるが、その中には見覚えのないものも多数あった。

 

「ヴィンデル。情報の開示を求める、戦闘機と戦車、それとあの人型の戦車のような物は何だ?」

 

カーウァイの言葉にレモンに目配せするヴィンデル。新しくモニターが立ち上がり、そこに求められた機体の情報が映し出される。

 

「Z&R社の「フュルギュア」「ソルプレッサ」そしてヴァルキュリアシリーズの「ランドグリーズ」になります」

 

機動兵器の脚部のような足回りをした緑色の戦車――フュルギュア。

 

薄いシルエットで胴体部がPTの胸部に酷似したデザインの戦闘機――ソルプレッサ。

 

フュルギュアに良く似た人型の戦車――ランドグリーズ。

 

「主力量産機でフュルギュアはカノン、ミサイルポッドによる高射程、そして高威力。さらにホバーによる高速機動と重厚な装甲、複合型の高感度センサーにより精密な射撃能力を持ちます。ソルプレッサはPT類のスラスターを流用した戦闘機で武装はバルカンとビームキャノンのみと貧弱ですが、機動力の高さは脅威と言えます」

 

モニターを利用しながら説明するヴィンデル。その説明を聞きながらイングラムとカーウァイは顔を顰める、自分達がいた世界よりも数段技術が発展している――これがヴィンデルの掲げる永遠の闘争の結果かと考えていた。

 

「このランドグリーズはシールドによる強固な防御、そして全身火器と言えるほどの重装備を持ちますが、その反面機動力は控えめです、武装の類は殆どが換装式なので、これとは言えませんが……主だった武装として、背部に装備している折りたたみ式の「Fソリッドカノン」そして両肩部のシールドに1つずつ内蔵されている多弾頭ミサイル「マトリクスミサイル」そして背部に装備している多弾頭ミサイルポッド「ファランクスミサイル」が主だった装備となります」

 

「情報開示感謝する。それでヴィンデル、作戦としてはどうするつもりだ? 早乙女研究所を死守するのか?」

 

「いえ、早乙女研究所は破棄します。武蔵には辛いかもしれないが、ゲッター線をアインストとインベーダーに渡すわけには行かない。動力を遠隔で爆破し、その爆破を利用してギャンランドはアインストの包囲網を突破。その後日本脱出の為に進路を取る、ゲッター線をジャマーとして利用するつもりだ」

 

「……そうっすね。仕方ないですよね。それで行きましょう」

 

武蔵としては思う事はあるが、それでも今は日本を脱出する事を最優先にして早乙女研究所の爆破に同意する。少量のゲッター線ならば、アインストもインベーダーも取り込めるが、早乙女研究所全体を稼動させるゲッター線となればそれは間違いなく毒になる。それを使えば追っ手を放たれず脱出出来ると言う算段だ。

 

「それぞれの機体にタイマーをセットしておいたわ。そのタイマーが0になるまえに離脱して、ギャンランドに戻って来て。タイマーは遠隔でこっちから操作するから、動かなくても心配しなくて良いから」

重複

 

「爆弾とか言わないよな?」

 

「まさか、そんな事はしないわ。それじゃあ、皆ギャンランドの脱出準備が整うまでよろしくね」

 

そう笑うレモンに送り出され、武蔵達は早乙女研究所から出撃する。

 

「わーお……イングラムさん、ラウさん。数がとんでもないですよ……」

 

「目視で約150機。更にアインスト達も同数……大群です」

 

武蔵とエキドナの報告に流石のイングラム達も顔を歪める。

 

「ちっ、本腰を入れてきたということか……面倒な事だ」

 

参式に乗っているアクセルが不機嫌さを隠そうとせず舌打ちする。本来の作戦では、動力を爆破し、その間に逃げることを前提にしていて戦闘は避ける方針だったのだ。好戦的なアクセルとはいえ、この戦力差を前にすれば不機嫌さを隠す事は出来ないでいた。

 

「武蔵、手加減無用だ。雑魚は任せる」

 

「本命を引きずり出すことになるが……それも仕方ないだろう。頼んだ」

 

「何をするつもりだ?」

 

「見ていれば判る、巻き込まれたくなければ下がれ」

 

イングラムの言葉にアクセルとエキドナは素直に早乙女研究所まで下がる。

 

「オープンゲット! チェンジッ!!!」

 

ドラゴンが分離し、機首を下にし急降下していく、そして地面にぶつかる寸前で武蔵が力強く叫ぶ。

 

「ポセイドンッ!!!」

 

ポセイドン、ライガー、ドラゴン号の順番で合体し、ずんぐりとしたシルエットのゲッターポセイドンが地響きを立てて着地する。

 

「フルパワーだっ! こいつで吹っ飛びなッ!!」

 

胸部装甲が展開し、露になった首元にはファンの姿があった。それが風切り音を響かせ高速で回転を始める。

 

「ゲッタァアアアサイクロンッ!!!!!」

 

武蔵の雄叫びと共に放たれた暴風が目の前を埋め尽くしていたアインストとアインストに寄生された機体を纏めて薙ぎ払う光景にアクセルもギャンランドにいるヴィンデルとレモンも大きく目を見開いた。

 

「これで戦いやすくなったな。行くぞ」

 

「ああ、有象無象を間引き出来たと考えれば上出来だ」

 

浮き足立つアインストの中に身を投じるR-SOWRDとタイプSを見て、アクセルもそれに続くように参式を走らせるのだった……。

 

 

 

 

ギャンランドのブリッジで戦況を見ていたヴィンデルは驚愕に目を見開いた。

 

「なんと言うパワー……信じられん」

 

「そうねえ……まさかこれほどまで何てねえ……」

 

フュルギュア、ソルプレッサ、そしてグラスやボーンを一撃で薙ぎ払った竜巻。それは自然災害そのもので、自然災害を操る特機には流石のヴィンデルであっても驚きを隠せないでいた。

 

『フィンガーネット!! アクセルさんッ!!』

 

『ふっ、良い距離だな。ドリルナックルッ!!!』

 

フィンガーネットでランドグリーズを拘束し、参式に向かって投げ飛ばすポセイドン。その先では、ドリルを腕に嵌めた参式が待ち構え、それを射出する事無くドリルでランドグリーズの強固な装甲をえぐり取る。

 

『グランスラッシュリッパーセット。GOッ!!』

 

『逃がしはしない、ここで落ちろッ!』

 

グランスラッシュリッパーとシャドウランサーの合わせ技で竜巻の直撃を避けた僅かなランドグリーズを破壊する。タイプSとプロトアンジュルグ。

 

「想定以上に強い」

 

「でしょうねえ、あれ2体ともゲッター炉心搭載してるからね」

 

「何? そんな話は聞いてない」

 

「分析中だったからね、R-SOWRDとタイプSはPTサイズの特機って考えて良いわよ」

 

ゲッター炉心を搭載しているからこそのハイパワー。その出力は最新鋭の特機である参式に匹敵している。

 

「ま、あれを敵に回すのは今は止めたほうが良いわよ」

 

「だろうな……どの道今は協力するしかないのだからな」

 

自力で日本脱出はどう考えても不可能だ。その為には武蔵達の協力が必要だ、互いに互いの手札を隠しながら、そして出し抜く隙を窺いながらの移動になるが、それも仕方ない事だ。

 

「動力の臨界まであと何分だ」

 

「後30分って所ね、あと物資の搬入も済んでいないわ。ま、そんなに焦る事がないんじゃない?」

 

先手のゲッターサイクロンで少なくない被害をアインストに与えている。再生能力があるとはいえ、身体を細切れにされれば回復には時間が掛かる。

 

『逃がしはしない、ここで死ね』

 

1度後退して身体を再生しようとしているアインストをショットガンで確実に処理をするR-SOWRD。

 

「この戦力ならば互角以上に戦えるか」

 

「そうね、意外と良い具合に連携が組めてるしね」

 

武蔵とアクセルが先陣を切り、カーウァイとエキドナが遊撃に入り、軽微なダメージと武蔵達が弱らせたアインストを処理する。そしてイングラムが後方から戦況全てを見て、臨機応変に対応する。たった5人だが、津波のように襲い掛かってくるアインストを撃墜し続けている。このまま行けば早乙女研究所を爆破して、その混乱に乗じて逃げる必要も無いと思ったその時。早乙女研究所と同調させた事で、より広範囲を索敵出来るようになったギャンランドのレーダーが最悪の存在を感知した。

 

「ヴィンデル! ベーオウルフよ! 海を突っ切ってくるわ! 300秒後よ!」

 

「ちいッ! 各員に告げる、300秒後に……ぐううッ! 何だ! どこからだ!」

 

「地面からよ! こんなの盲点だわッ!」

 

ベーオウルフの襲撃に警戒しろと言おうとした瞬間。ギャンランドが下部からの攻撃を受けて、その高度を落とす。

 

「……静寂なる……世界の為にいいいいッ!!!」

 

「進化の使徒よ! その力を寄越せええッ!!!」

 

海を突っ切ってきた蒼いMK-Ⅲ……そしてギャンランドを襲撃した何かは……参式の「ドリルブーストナックル」だった。

 

「……ゲシュペンスト・MK-Ⅲ。それに……あれはアースクレイドルのグルンガスト参式ッ!」

 

「ゼンガー・ゾンボルトまでもがあいつらに操られていると言うのか!」

 

アインストの群れの中から姿を見せたグルンガスト・参式と海から姿を現したゲシュペンスト・MK-Ⅲ……ドリルブーストナックルの直撃によって出力の落ちたギャンランドは参式、そしてMK-Ⅲによって挟まれ、その逃走経路を失ってしまうのだった……。

 

 

 

 

 

音を立てて再び腕に戻るブーストナックルをタイプSのコックピットで見ていたカーウァイは沈鬱そうに顔を歪めた。

 

「まさかこんな形で再会するなんてな……ゼンガー」

 

その声をカーウァイが聞き違えるわけが無かった。アインストに寄生されたグルンガスト・参式――そのパイロットがゼンガーである事を見破っていた。

 

「ベーオウルフゥッ!!」

 

「邪魔をするなあッ!!!」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲを確認したアクセルは即座に参式を走らせるが、MK-Ⅲの回し蹴りでそのままの勢いで蹴り飛ばされる。

 

「ぐうっ! またパワーアップしているのか!」

 

「アクセルさん! 1人じゃ無理ですよッ!」

 

MK-ⅢのパワーはゲッターD2に匹敵する。最新鋭機である参式と言えど、単独でMK-Ⅲと戦うだけのパワーは有していない。

 

「……新たな秩序を乱す者を……破壊するッ!!! チェストオオオオオーーーッ!!!」

 

崖の上のアインスト・参式はその腰に携えた刀を抜き放つと同時にスラスターを全開にして突っ込んでくる。

 

「くっ、ゼンガァアアアアーッ!!!」

 

ネオ・プラズマカッターを抜き放ったタイプSがアインスト・参式の突撃を防ぎに出る。

 

「ぐっ!?」

 

「……静寂なる世界をッ!!!」

 

ネオ・プラズマカッターと斬艦刀が切り結んだのはほんの数秒で横薙ぎの一撃が叩き込まれ、タイプSが吹っ飛ぶ。

 

「レモン様! ヴィンデル大佐ッ!!」

 

「ちいっ! これは不味いぞ!」

 

タイプSがアインスト参式に当たり、参式とゲッターがゲシュペンスト・MK-Ⅲに当たった事で防衛網に穴が空き、アインストがギャンランドに向かっていく、それを見てエキドナとイングラムは必然的にギャンランドの防衛に回らなければいけなくなった。

 

「くっ、レモンッ! ギャンランドの損傷は!?」

 

「バリアの出力低下、それにエネルギーを吸収されてる! これ以上吸われると早乙女研究所の爆発に巻き込まれるッ!!」

 

「ちいっ! グルンガストは使えるか! 私が出る!」

 

このままでは早乙女研究所の爆発にギャンランドまでも巻き込まれると判断して、グルンガストで出るとヴィンデルが叫んでブリッジから飛び出す。

 

「今炉に火を入れたわ! 稼動まで180秒! セッテイングはブリッジからやるから」

 

「判った! アクセル達に伝えろ! ギャンランドを死守しろとなッ!!」

 

ヴィンデルはそう叫んで格納庫へ向かう。ギャンランドはアインストに組み付かれ、光弾や触手で攻撃を受け続けている。

 

「バリアの出力15%低下……不味いわね」

 

何時までも攻撃を受け続ければ、脱出は愚かここで轟沈しかねない。R-SOWRDとプロト・アンジュルグが組み付いているアインストを引き離そうとしているが、倒しても倒しても再び出現する。

 

「きゃあっ! 本当冗談じゃないわよ……」

 

早乙女研究所の動力を復旧したからか、それともゲッターのせいなのか……アインストが大量に出現した理由は今も判らないが、今窮地であると言う事は代わりがない。

 

「進化の使徒ぉオオオオオッ!!!」

 

「くそったれ、掛かって来いやあッ!!!」

 

「ベーオウルフ、ここで貴様との戦いに終止符をつけてやるッ!」

 

「ここは通さんぞ、ゼンガー。お前を止めてやるッ!!」

 

「……押し……通るッ!!!」

 

ゲッターD2とグルンガスト参式対ゲシュペンストMK-Ⅲ。

 

アインスト参式対ゲシュペンストタイプS。

 

そして無数のアインストと対峙するRーSOWRDとプロト・アンジュルグ……。

 

日本での最初の戦いは、最初から己の生死を賭けた凄まじい激闘となるのだった……。

 

 

 

第7話 堕ちた剣神/狂う孤狼 その2へ続く

 

 




今回は戦闘開始の話なのでやや短めです、あちらの世界側は基本的にゲーム中で言えば、NPCの撃墜または味方機の撃墜でゲームオーバーのシナリオと言う風に考えております。つまり今回の話だとシャドウミラー側がNPCとなります。

勝利条件

①アインスト参式のHPを50%以下にする
②ゲシュペンスト・MK-ⅢのHPを60%以下にする

敗北条件
①ゲッターDⅡ・R-SOWRD・ゲシュペンスト・タイプSのいずれかの撃墜
②グルンガスト参式・プロトアンジュルグ・グルンガスト・ギャンランドのいずれかの撃墜

熟練度

アインスト・参式またはゲシュペンストMK-Ⅲ出現後から4ターン以内に勝利条件を達成する。

って感じですね。難易度マシマシでお送りするあちら側の世界編。次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 堕ちた剣神/狂う孤狼 その2

第7話 堕ちた剣神/狂う孤狼 その2

 

蒼いアルトアイゼン……それはアードラー率いるDC、そしてエアロゲイターとの戦いで頼もしい味方であった筈のPTの姿。だが今その姿にかつての面影は無く、孤高の狼ではなく、狂う孤狼と言うべき狂気に満たされていた。

 

「進化の使徒ォッ!!!」

 

大地を砕きながら突進してくるゲシュペンスト・MKーⅢのリボルビングステークに向かって拳を振るうポセイドン2。だがその拳が振り切られる事はなかった……。

 

「ぐっぐううッ!!! う、嘘だろッ!!!」

 

「アアアアーーーッ!!!」

 

全長も重量も上回るポセイドン2は頭2個は小さいゲシュペンスト・MKーⅢに押され、リボルビングステークの炸裂によって右腕が大きく弾かれる。

 

「我等を認めよぉッ!!!」

 

「がッ!? ぐううっ!!!」

 

がら空きの胴に5連チェーンガンの掃射が叩き込まれ、咄嗟に腕をクロスして防御に入るが容赦なくポセイドンⅡの装甲を抉る弾丸の威力に武蔵は目を見開いた。

 

「ベーオウルフッ!!!」

 

「がッ!? 邪魔をするなあッ!!」

 

グルンガスト参式の体当たりによってチェーンガンの掃射が止まるが、キョウスケは怒りを露にしクレイモアの射出態勢に入る。

 

「あぶねえッ!!!」

 

それを見た武蔵はフィンガーネットを使い、参式を絡めると高速で巻き取り参式を無理やり射程から引き離す。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「すまん、それにしても……相変わらずの化け物めッ!」

 

少なくとも参式の体当たりで1度は重量の差でゲシュペンスト・MKーⅢの装甲は大きく凹んでいた。だが今はその凹みも修復されていた。

 

「自己再生能力……ッ」

 

「そう言うことだ。俺も幾度もあいつと戦っているが、何度倒しても再生する。いや、再生するだけならばまだ良い、より強く己を強化する……とんでもない化け物と言うことだ」

 

機械であるはずのゲシュペンスト・MKーⅢの損傷がまるでビデオテープを巻き戻すかのように再生していく姿に流石の武蔵も引き攣った顔をする。再生するといえばアストラナガン、ジュデッカと見ているが、それよりも生々しく、無機物なのに有機物のように再生する姿には流石の武蔵も驚きを隠せないでいた。

 

「悪いがこの参式には武器と言うものは殆ど搭載されていない」

 

「緊急出撃でしたしね」

 

修理とアクセル用に調整するだけでやっとだったのか、アクセルの乗る参式には機体の固定武装しかない。

 

(チェンジは出来そうにないな……)

 

1度チェンジしてダブルトマホークを渡すべきかと考えた武蔵だが、再生を終えたアルトアイゼンが再び突進してくる姿を見てそんな隙は無いと判断した。

 

「ぬおおおおおッ!!!」

 

「ぐっ! くくうっ!! アクセルさんッ!」

 

リボルビングステークの杭を両手で受け止めたまま、武蔵がアクセルの名を叫ぶ。

 

「良いぞ、武蔵! そのまま押さえていろッ! くたばれぇッ!!! ベーオウルフッ!!」

 

ドリルナックルをコックピットに叩き込もうとしたアクセルだが、ゲシュペンスト・MKーⅢは左肩のクレイモアを犠牲にしてドリルナックの被害を最小限に留め、そのままポセイドンの胴体に蹴りを叩き込みその巨体を弾き飛ばした。

 

「仕留め損ねたッ! すまんッ!」

 

「いや、これでクレイモアを1つ……マジか……」

 

今粉砕したばかりのクレイモアが一瞬で再生する。だが開いたハッチから打ち出されたのはベアリング弾ではなく、エネルギー弾の嵐だった。

 

「ぐっ……変異のスピードが明らかに上がってる!」

 

「もしかしてゲッターのせいですかね……ッ!」

 

アクセルと武蔵が見ている前で目まぐるしく変異するゲシュペンスト・MKーⅢを見て、武蔵は本能的にこの化け物を倒しきる手段を今自分達が持ってないことを悟った。

 

「こりゃ、今は勝てないですよ」

 

「いいや、ここで倒す。これがな」

 

「……良くて相打ちにしかなりませんよ、それも早乙女研究所の爆発に巻き込んでの……そんな勝ち方で良いんですか?」

 

舌打ちの後。何か策があるのかと問いかけてくるアクセルに武蔵はそんなものは無いと笑い。

 

「動力が臨界を迎えればゲッターよりも、早乙女研究所の動力を狙う筈」

 

「なるほど……時間を稼ぐ訳か」

 

「生きてれば次がありますからね、今は生き残る事を考えましょう」

 

武蔵の価値観はシビアな部分もある。死んで意味があるのなら、その命を捨てることに何の未練も躊躇いも無い。だが死んでも意味がないところで命を捨てる事は決してしない、そして逃げることにも躊躇いは無いのだ。命があれば何度でもやり直しは効く、そして武蔵にとって逃げるのは挑む事を止めることであり、再び立向かう為の準備をするための行動だ。武蔵も竜馬も隼人も諦めると言う選択肢は無い、1度逃げたとしても次は必ずその刃を、牙を相手に突き立てる――だからこそ逃げる事に躊躇いは無いのだ。

 

「良いだろう、お前の考えに乗ってやる」

 

「どうも、と言っても……死ぬ気で耐えるだけですけどね!!」

 

「はっ! それなら俺は前に出ながら耐えてやるさッ!」

 

「攻撃は最大の防御ですか、気が合いますねッ!!」

 

「行くぞ武蔵ッ!」

 

「うっす!」

 

グルンガスト参式とポセイドン2が同時に動き出す、ギャンランドの出撃準備が終わり、そして研究所の動力が臨界を迎えるまでひたすらに耐える。だが逃げと受けに回っていたら押し潰される。守る為の、時間を稼ぐ為の攻撃に出る2人。今はまだ、コックピットに付けられた臨界を告げるタイマーは何の動きも示してはいない……。

 

 

 

 

鋭い金属音を立ててタイプSが宙を舞う――いや正しくは斬り飛ばされた。神技めいた見切り、そして操縦技術で直撃は避けているが地力の差は明らかだった。

 

「身体に染み付いた操縦技術は剣鬼に落ちても健在か、ゼンガー」

 

「……眼前の敵は……全て……打ち砕くッ!!!」

 

新西暦で見た出刃包丁――いや、零式斬艦刀ではない、日本刀を器用に振るうアインスト・参式にカーウァイは操縦席で冷や汗を流していた。

 

(あの打ち込み速度……癖を知っていなければ両断されていたな)

 

カーウァイは教導隊全員の操縦の癖を完璧に把握している。それは今でも変わらない。ほんの僅かな挙動、ほんの僅かな間の外し方……それら全てからどんな攻撃が繰り出されるか、どんな動きが来るかをある程度予測できる。だからこそ、紙一重でかわす事が出来ていた。だが徐々にそれらにノイズが混じり始めていた。

 

(アインスト化か……厄介な)

 

参式を蝕む触手、それらが徐々に強くなっているのかゼンガーの意志が希薄になっている事をカーウァイは感じていた。だがタイプSでは参式を倒すだけの攻撃力が足りなかった。

 

「……ハッ!!」

 

「舐めるなッ!」

 

滑るような踏み込みからの一閃を蜻蛉を切ってかわし、空中で体勢を立て直しショットガンを叩き込む。

 

「むっ」

 

「おまけだ、こいつも持って行けッ!」

 

顔に叩き込まれ一瞬動きが鈍った参式目掛け、背中にマウントしているグランスラッシュリッパーを射出する。

 

「……ぐう……ッ! むんッ!」

 

「流石と言わざるを得ないな」

 

左右のグランスラッシュリッパーの内、右は命中し戻ってきたが左は両断され、その場に落ちて爆発した。辛うじて目で追える速度の抜刀だった。飛び道具は駄目、そして近接は重量の差で押し潰される……あくまで今回の戦いは撤退戦だ、時間を稼げばいい。距離を取ってひたすら射撃で時間稼ぎをするか、それとも近接でアインスト参式を制圧する……そのどちらを取るか、安全性を考えれば前者は明らかだった。だが、カーウァイはネオ・プラズマカッターを抜き放った。それはアインスト・参式を相手に切り込むと言う事を意味していた。

 

「部下が苦しんでいるんだ、それを見ていられるわけが無かろうッ!!」

 

「オアアアアアーーーッ!」

 

大上段から振り落とされる参式斬艦刀目掛けネオ・プラズマカッターを振るう。参式斬艦刀は実体剣、そして、ネオプラズマカッターはエネルギー剣……本来は鍔迫り合いなど出来るわけが無い。

 

「ッ!」

 

「ゲシュペンストは私の手足と知れッ!」

 

プロトタイプの時からゲシュペンストを駆ってきたカーウァイはゲシュペンストの武装全てを完全に把握していた。その特徴も、性質もだ。ネオ・プラズマカッターはエネルギー剣だが、理論的には戦艦に搭載されるE-フィールドと同じだ。刀身に負荷がかかり、シールドブレイク……実体を持たないエネルギーはほんの数かだけ物質化するタイミングそれはほんの数秒のシビアなタイミングだが、その一瞬だけエネルギーは結晶化し、物質として扱える。そしてその瞬間ならば実体剣と同様に扱える。その一瞬を利用し、参式斬艦刀を弾き、握りこんだ拳を突き出す。それはアインストコアを捉え、不気味に脈打つアインストコアに細かい亀裂を走らせる。

 

「が、ガアアア……」

 

その拳は参式の胸部に形成されようとしていたアインストコアを捉える。糸の切れた人形のようにギクシャクと後退する参式を睨みながら、プラズマカッターの切っ先を参式に向ける。

 

「私の部下は返して貰おうか、アインストッ!!」

 

世界は違えど、ゼンガーはカーウァイにとって大事な部下であると言うことに変わりはない。そして参式の胸部の赤黒いコアがアインストのコアであるのならば、それを砕けばゼンガーを取り戻せる可能性は十分にある。カーウァイはそう考え、出力も装甲も圧倒的にタイプSを上回るアインスト参式に接近戦を挑むのだった……。

 

 

 

 

一方その頃ギャンランドの防衛をしているイングラムとエキドナの2人は格納庫から出撃してきたグルンガストを交え、漸く劣勢から互角に押し返すことが出来ていた。

 

「打ち砕く、ブーストナックルッ!!!」

 

踏み込みながら放たれた鉄拳がナイトの顔面を打ち砕く、それを見た瞬間。イングラムはR-SOWRDを走らせ、地面から顔を出したグラスを踏みつけて跳躍させる。

 

「そこだッ!」

 

「!?!?」

 

頭部の鎧が再生する前に、鎧内部にショットガンを叩き込み、その中心にあるコアを打ち砕いた。だがR-SOWRDの着地地点には無数のグラスとボーンが存在しており、着地する前に集中砲火を受ける寸前だった。

 

「シャドウランサーセット、行けッ!!!」

 

だがそれは上空から飛来したプロトアンジュルグの放ったエネルギーの槍の嵐でその場に縫い付けられる。

 

「いいフォローだ」

 

着地と同時に肩部に搭載されているステルスブーメランを投げつけ、拘束されているボーンの頭部を断ち切るR-SOWRD。

 

「あらかた片付いたが……」

 

「まだまだ沸いてくるようですね」

 

ギャンランドに組み付いているアインストは今の出最後だったが、地面から生えて来る様に出現するアインストには流石のイングラムも顔を歪めた。

 

「一刀……両断ッ!」

 

「舐めるなよ。ゼンガーッ!!」

 

光にしか見えない一刀をスライディングでかわし、立ち上がると同時にショットガンを参式の背中に打ち込む。

 

「ぬううッ!!」

 

「そんな攻撃にあたってやるほど私は暇ではないッ!」

 

回転させた背部のドリルで体当たりを仕掛ける参式だが、タイプSはナイトを踏みつけ飛び上がり、参式の頭を飛び越すと反転し再びショットガンを打ち込み着地とフルパワーのブラスターキャノンを放った。

 

「ぐうううッ!?」

 

「「「!?!?」」」

 

大出力のそれは参式を後退させ、その周辺にいたアインストも巻き込み消し飛ばす。

 

『そろそろエネルギーも推進剤も不味い。今はまだ何とかなるが、長くは持たんぞ』

 

有利に立ち回っているがそれは推進剤もエネルギーもふんだんに使っての物だ、そんな戦い方をしていればエネルギーなどの枯渇も時間の問題だ。更にフルパワーのブラスターキャノンを惜しげもなく使用していることもあり、胸部の砲身も焼きつき始めていた。

 

「オメガブラスターッ!!!」

 

「当たらん!」

 

「良いや、当たってもらうッ!!!」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲはグルンガスト参式、そしてゲッターD2を相手に互角以上に戦っているが、武蔵の絶妙なアシストでフィンガーネットに絡め取られオメガブラスターの射軸に投げ込まれる。

 

「……ふ、ふはははははッ!! まだだ!!」

 

高出力のビームに焼かれ、その装甲が溶け落ちるが着地する頃には完全に再生していた。

 

「ちい、化け物め」

 

「判ってた事ですけど、結構厳しいですね。アクセルさん、エネルギーは?」

 

「……半分を切ったな。おいッ! レモン! まだなのかッ!!」

 

『後ちょっと……よっし! タイマースタートッ!』

 

漸く、コックピットに搭載されたタイマーが動き出す。360秒……永遠にも等しい6分間だなと苦笑する。

 

「フォローはする。ヴィンデル、センターを頼む」

 

『了解した。エキドナ、お前は上空からトドメを刺せ』

 

『了解しましたヴィンデル大佐』

 

互いに互いを出し抜く隙を窺っているが、今は協力するしかない。歪な協力関係だが、今この時だけはイングラム達とヴィンデル達は協力し合い日本脱出の為に力を合わせるのだった……。

 

 

 

 

 

ゲシュペンスト・MK-ⅢはゲッターD2を狙う。その性質が判ってからは武蔵が防御と支援を担当し、アクセルがゲシュペンスト・MK-Ⅲへと攻撃を繰り出していた。

 

「邪魔をするなあ。アクセル……アルマーッ!!!」

 

「ぐっ……チィッ!!」

 

右肩から射出されたエネルギー弾の嵐が参式を捉えて右腕が肩から破壊され落下する。

 

「アクセルさん!」

 

それを見て武蔵が即座にアクセルのフォローに入るが、ゲシュペンスト・MK-Ⅲはそれを狙っていたのか、即座に反転しポセイドン2の突進をその両手で止める。

 

「進化の使徒ぉッ!!」

 

「くっぬぬうう……この馬鹿力ぁッ!!!」

 

ブースターを全開にして押し返そうとする武蔵だったが、ポセイドン2の推進力を上回る加速をしたゲシュペンスト・MK-Ⅲに徐々に、徐々に押し込まれる。

 

「押せええッ! MK-Ⅲッ!!!」

 

がっぷり四つにつかみ合ったポセイドン2とゲシュペンスト・MK-Ⅲだが、キョウスケの雄叫びと共にポセイドン2の巨体が浮かび上がり、そのまま浅間山に叩きつけられる。

 

「ぐっ! くそ!! 喰らえッ!! ゲッターキャノンッ!!!」

 

「無駄だぁッ!」

 

至近距離からのゲッターキャノンがMK-Ⅲの頭部の右半分、胴体の左上部、そして肩を抉るがそれらの損傷は瞬く間の間に回復する。それは戦い始めてからの1番の再生速度だった、そしてそれは武蔵にあったある予感を確信へと変えていた。

 

「やっぱりゲッター線が影響しているのかッ!」

 

明らかにゲシュペンスト・MK-Ⅲの回復能力が増している。今とさっきまでの回復能力の差……それを武蔵なりにある程度予測がついていた。

 

「ベーオウルフゥッ!!!!」

 

「駄目だ! アクセルさんッ!」

 

ポセイドン2がゲシュペンスト・MK-Ⅲを押さえている間に参式が背後に回りこみ、ドリルナックルを背後から叩き込もうとする。それを見て、慌てて静止する武蔵だが、アクセルの勢いは止まらなかった。

 

「何ィッ!!」

 

「甘いな! アクセル・アルマアアアーーッ!!!」

 

「やっぱりだ! こいつッ! ゲッター線を吸収してるッ!」

 

背部のブースターで浮かび上がったゲシュペンスト・MK-Ⅲは自らの足を犠牲にした。それを見て、自爆と言う言葉が一瞬2人の脳裏を過ぎったがそうではなかった。粉砕された両足が寄り強靭に、より強固になって再生する。ゲッターに触れているからか、それとも周囲のゲッター線を吸収しているのかは判らない、だがこうしてゲッターD2を触れているゲシュペンスト・MK-Ⅲの回復力は明らかに異常な物になっていた。そしてそれは回復だけではなく、恐ろしい速度での進化を促していた。

 

「これが狙いかッ!! ぐはっ!!」

 

PTとしてではない、特機としてのゲシュペンスト・MK-Ⅲへと変異する為にあえてゲシュペンスト・MK-Ⅲは参式の攻撃を受けたのだ。

 

「ぐっ、ぐぐぐううっ!?」

 

蹴りを叩き込まれ吹き飛ぶ参式と足の力が増した事で更に浅間山に押し込まれるポセイドンⅡ。

 

「さぁ! 我等を認めよ! 新たな種と! 進化の光の意思を継ぐ者として認めるのだッ!!」

 

前と同じく自分達を新たな命として認めろと叫ぶキョウスケ。その狂ったような声に武蔵はうんざりしていた、知人の声なのに、それは全くの別物……そして狂気を帯びていれば、誰だって嫌気が刺す。

 

『武蔵ッ! 俺達はギャンランドに乗り込んだッ! 何とか隙を窺ってこっちに乗り込め! 爆発に巻き込まれるぞッ!』

 

イングラムからの通信を聞いた武蔵はキョウスケへを変貌させたアインストへの苛立ちを込めながら、ポセイドン2のペダルを力強く踏み込んだ。

 

「何言ってるか……わかんねえよッ!!!」

 

背部のブースターを吹かし、凄まじい勢いでヘッドバッドをゲシュペンスト・MK-Ⅲの頭部に叩き込む。質量の差で大きく凹む頭部、それに伴いセンサーアイとアンテナが纏めて拉げる。それはこの戦いの中で武蔵が見つけ出したゲシュペンスト・MK-Ⅲの弱点だった。粉砕すれば即座に再生されてしまうが、拉げさせる等の方法でダメージを与える事でその再生速度は格段に落ちる。そのまま脚部と背部のブースターを全開にして飛び上がったポセイドン2はフィンガーネットを射出する。

 

「フィンガーネットッ!! 撤退しますよ!」

 

「ぐっ……くそ……勝負は預けるぞ! ベーオウルフッ!!」

 

「……くっ、ここまでかッ!」

 

参式、そしてタイプSがフィンガーネットに掴まり、ポセイドン2はフルパワーでブースターを吹かし、2機を持ち上げたまま浮上したギャンランドに乗り込む。

 

「そのままコックピットに掴まってて、喋ると舌を噛むわよ! ブーストドライブ起動ッ!」

 

この場にいる友軍機を全て回収したギャンランドはブーストドライブを起動し、早乙女研究所上空から一気に離脱する。

 

「……進化の光……逃がしは……」

 

「……逃がしはしない……その力を我が手に……」

 

高速で飛び去るギャンランドを追走しようとしたゲシュペンスト・MK-Ⅲとアインスト参式だが、背後の研究所から凄まじいゲッター線反応を感知した。そしてキョウスケ……、いや、キョウスケに憑依しているアインストはある判断を下した。

 

「なるほど、あれを護ろうとしていたのか……ふふふ……はははははッ!」

 

この劣勢でも諦めずに戦っていたのはあのゲッター線を護ろうとしていたのだと、だがこれ以上は無理だと判断したので撤退したと考え、ポセイドン2よりも濃度の濃いゲッター線を得ようと研究所の壁を突き破り内部へと侵入する。それは本来のキョウスケならば絶対に行わない、愚かな手段だった。アインストに寄生され、まともな思考回路ではないからこそ、この明らかに罠と判っている中に自ら飛び込んでいったのだ。

 

「おお……これぞ進化の光! 我らの新たな進化が今ここにッ!!」

 

「……進化……我らこそ、新たな生命ッ!!」

 

動力炉に満ちる豊潤なゲッター線。それを浴びてゲシュペンスト・MK-Ⅲが、グルンガスト参式が、そして無数のアインストが変異を始めると同時に……早乙女研究所の動力全てを担っていた動力炉は火花を散らし、早乙女研究所は周囲にゲッター線の証である翡翠の光を撒き散らし、浅間山周辺を跡形も無く消し飛ばすのだった……。

 

 

 

第8話 敗走 へ続く

 

 




がっかりウルフにアインスト化で思考回路が残念だったので明らかな罠に突っ込み爆発。勿論生きておりますが、何とか離脱は出来たと言う感じで、今回も負けイベントでした。アニメ、ゲームで明らかに思考回路がおかしくなっているので、ここまであからさまな罠にも引っかかるかなと思って書いたので、違和感とかを感じるかもしれませんが温かい目で見ていただければ幸いです。それでは次回の更新も胴かよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 敗走

 

 

早乙女研究所の爆発に煽られ、ギャンランドは激しく船体を揺らしながら早乙女研究所から少しでも距離を取ろうとしていた。永遠とも思える激しい振動を耐え、ブースト・ドライブを解除したギャンランドはゆっくりと速度を落としていた。

 

「……ふう。何とか逃げ切れたみたいね」

 

ただ1人ブリッジにいるレモンは深く溜め息を吐いて、オペレーター席に腰を下ろした。

 

「作戦成功って所かしらね、本当にギリギリだったけどね」

 

普通にブースト・ドライブを使ってしまえば、ギャンランドはそのまま日本海へと出て、その周辺に陣取ってる巨大インベーダーやアインストの襲撃を受けてしまう。そうならないために、レモンは無謀に近いがブーストドライブ中のマニュアル操作を行っていたのだ。

 

「未完成のASRS(アスレス)じゃあ、突破できないだろうしね……」

 

DCが理論を作り、アースクレイドルで作られたシステムで、周囲に電磁波を発生させてレーダーに感知されないと言う性質を持ち、PTやレーダーならば潜り抜けられる。だが生き物であるアインストとインベーダーの視界を誤魔化せるとは思えず、ASRSとブーストドライブを併用して日本を無理やり脱出するのではなく、早乙女研究所から斜め上の方向に向かって加速し、直線距離で加速するのではなく、斜め上に向かって移動することで日本上空に留まりつつ、早乙女研究所から離脱すると言う奇策に成功していた。

 

「皆、ボロボロね……いえ、生き残っているだけよしとするべきね」

 

唯一無事なのはゲッターD2だけで、それ以外の機体は最低でも中破、大破ばかりだ。特に酷いのはベーオウルフと対峙していたグルンガスト参式だ。右腕を肩から失い、装甲版も破損している。

 

「まさか1回の戦闘で駄目になるなんてねえ……」

 

アインストやインベーダーとの戦闘なら耐え切れると考えていたが、まさかのベーオウルフの襲撃に加え、アインストを率いていたのはアースクレイドル攻防戦で消息不明となったゼンガー・ゾンボルト……そう考えればたった6機で良く退ける事が出来たと思うべきだろう。

 

「負けは負けだけど、状況的に考えれば十分に勝ちね」

 

自分達が不利な状況で、誰1人死傷者を出さずに逃げることが出来、更に敵の情報もある程度得る事が出来た。敗走はしたが、結果的には十分に自分達は勝利と呼べるだけの情報を得る事が出来た。

 

「ゲッター線……ね」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲは元々本当にPTかと思うような性質を持っている事はレモンも気付いていた。それはアインストに寄生されていると言う事でそれが理由かと納得する事も出来た。だが今回の事で新たな特徴が判明したのだ。

 

「ゲッター線が近くにあるとあんな事になるのね」

 

破壊された箇所から全く別の存在に変化していた。そしてゲッターと隣接しているとその回復力と変異力は文字通り異次元のレベルだった。武蔵を戦力として数えるのならば、ゲシュペンスト・MK-Ⅲと戦わせないのが一番変異のリスクを抑える事が出来る。だが、ゲシュペンスト・MK-Ⅲがゲッターを狙っているので、武蔵から遠ざけるというのも難しい。

 

「……あえて攻撃にゲッター線を使うのもありかもしれないわね」

 

インベーダーがゲッター線の過剰供給で死ぬのならば、アインストにもある程度の有効打になるのではないか? 進化の行き着く先は袋小路による自滅、ゲッター線の過剰供給がベーオウルフを倒す鍵なのではないかとレモンが顎の下に手を当てて考え込んでいるとブリッジに通信を知らせる音が鳴り響いた。

 

『レモン、作戦会議を行う。航路設定が終わったらブリーフィングルームへ来てくれ』

 

「了解、すぐに行くわ」

 

今までのアインストにない変化を遂げたゲシュペンスト・MK-Ⅲ、そしてアインスト・参式……それらの対策を考えなければ、日本を脱出しても、その先を見る事は出来ないだろう。向こうはゲッターを、シャドウミラーを狙って追いかけてきている。例え日本を脱出しても、終わりではない。むしろそこからが始まりなのだ。

 

「ウォーダンがいればね……」

 

アメリカのシャドウミラーの基地で調整していた、人格をコピーするタイプのWシリーズ「Wー15」……いえ、「ウォーダン・ユミル」がいれば、あるいは……あのゼンガー・ゾンボルトと戦うことも出来たのかもしれない。

 

「まぁ、それも今は叶わぬ夢ね……」

 

ウォーダンの為に用意していたグルンガスト参式は大破、予備パーツはあるがギャンランドの設備で修理するのは無理。折角6機そろえた戦力も行き成り5機になってしまった。

 

「戦力と人員の確保が急務ね……」

 

アインスト側が保有しているハガネが動き出してくる事はなかった。だがそれも時間の問題だろう、早乙女研究所の爆発に飲まれたゲシュペンスト・MK-Ⅲとアインスト参式が修復するまでは動き出してくる事は無いだろうがそれも数日……ひどければ1日や2日で動き出してくるだろう。つまりこの疲弊した状態で海際に潜む巨大なインベーダー、アインストを撃破しなければならない。

 

「一難さってまた一難って所かしらね……」

 

レモンは肩を竦め、ブリーフィングルームに足を向けるのだった……。

 

 

 

 

出撃したばかりの疲労の色はまだ残っているが、武蔵達はブリーフィングルームに集まっていた。

 

「ごめんなさいね、ギャンランドの航路設定をしていたのよ」

 

遅れて入ってきたレモンが頭を下げる。だがこの中で細かい設定が出来るのはレモンだけなので、その事を責める者はいない。

 

「いや、構わない。ではブリーフィングを続ける」

 

ヴィンデルが作戦会議の進行を進め、カーウァイ達はその話に耳を傾ける。

 

「話を再開しますが、我々はこのまま日本脱出作戦へと向かいます。レモン、映像を」

 

「はいはーい」

 

ブリーフィングルームのモニターに写されるのは2体の異形の姿だった。

 

片方は巨大な大木のような身体に両腕が口になっている巨大なアインスト

 

もう一体は様々なPTや戦車などを取り込んだ巨大なインベーダー。

 

「こいつらが海岸を埋め尽くしているって言う?」

 

「その通り、アインストの方がトレント、インベーダーのほうをキメラと呼称している。トレントが海から進撃してくるインベーダーを防ぎ、インベーダーはアインストを突破して日本に乗り込もうとしている。そして勿論人間が近づけば、人間を攻撃してくる」

 

「数は?」

 

「ざっと30……正直正面突破するのは非常に厳しいです」

 

これらが1体しか存在しなければ突破する手段もあるだろう。だが、日本脱出が困難になっているのはこの巨大インベーダーとアインストが群れを成しているからだ。

 

「トレント同士が強固なバリアを発生させているから、数体のトレントを撃墜してバリアを破壊した後に」

 

「取り囲まれる前に強行突破と言うことか……だがインベーダーが海から来ているといったが、海上は……もしや?」

 

「ええ。インベーダーの巣窟ね。目撃情報だけだど、かつての戦艦に寄生して、通りかかる物全てを襲ってるみたいね」

 

レモンの他人事のような口調だが、それは日本を脱出しても戦闘続きであると言う事を示していた。

 

「疲弊した状態で海へ出るとしよう、海で戦える機体は1体しかないぞ」

 

「あ、ポセイドンですね。確かに海の中はポセイドンのホームグラウンドですけど……数が多ければやっぱり物量差で押し込まれますよ」

 

日本から脱出するのも地獄、脱出したあとも地獄。だが武蔵達は何としてもアメリカのテスラ研に向わなければならない。

 

「作戦としてはブースト・ドライブでアメリカ大陸まで強行突破をします。トライロバイト級はステルス性能に特化した戦艦なのでレーダーなどからは極めて発見されにくい性質があります」

 

「なるほど、メタルビースト化しているからレーダーなどをインベーダーが使う前提か」

 

「はい、そして発見された場合はウィングガスト、プロトアンジュルグ等の空戦が可能な機体で強行突破する事になりますね」

 

それは作戦ともいえない、特攻に等しい作戦。しかし今のヴィンデル達にはそれしか出来る手段が無いのも事実だった。

 

「作戦は了解した。だがヴィンデルよ、アメリカに辿り着いた後はどうする? テスラ研に向かうのも難しいぞ」

 

「ああ。それは私も把握している。テスラ研はシャドウミラーに協力していたと言う事で、連邦の生き残りに包囲されている。無理に突破を狙えば……」

 

「テスラ研が破壊されるということか……いや、もう破壊されている可能性も捨て切れないと言う所だな?」

 

イングラムの指摘にヴィンデルは顔を歪めながら頷く。

 

今アメリカはメタルビースト・クロガネを始めとしたインベーダー軍

 

アメリカを制圧しようとするアインスト軍。

 

シャドウミラーの捕縛を狙う連邦軍。

 

シャドウミラーの生き残りとレジスタンス。

 

4つの陣営の戦力と思惑が入り乱れる地獄のような環境になっている。

 

「連邦軍はやっぱり襲ってくるんですか?」

 

「間違いないな。奴等は全ての責任を俺達に押し付けたい、どうせ今の状況ではどうにもならんと言うのにな」

 

愚かな事だと鼻を鳴らすアクセル。だがそれも判らなくも無い、インベーダーが蔓延り、そしてアインストがわき続ける今の地球は人間にとって暮らせる世界ではない。それなのにシャドウミラーを追うのはただの自己満足、そしてシャドウミラーがイージス計画のシステムを暴走させたと信じている一部の軍人だけだ。むしろ現実を見ている兵士達はシャドウミラーに協力し、インベーダーやアインストの討伐を初めていると言うのが今のアメリカだ。

 

「今はそんなことをしている場合じゃないのに……皆で協力してジュネーブに向かえば……」

 

武蔵はジュネーブで暴走しているイージス計画の装置を破壊すればと考えているが、それはこの世界にいる全員が1度は実行している。

 

「武蔵、イージス計画の装置は既に破壊されている。だがそこから無限に出現するインベーダーがそれを維持しているんだ」

 

「え、じゃあ、エキドナさん。もう時空の穴を閉じる手段は……」

 

「無い。このまま地球はそう遠くない内にインベーダーに埋め尽くされ、滅びる。そうですよね? レモン様」

 

「え、ええ……試算で1年も持たないわね。だから私達は時空転移システムを使う事を決めたのよ」

 

滅びる世界を見捨てるという選択をしたのは、もうこの世界が完全に詰んでいるからだ。もう誰にもこの世界を救うことは出来ない……ならば僅かな生き残りを残し地球を捨てると言う選択をするのは当然の事だった。

 

「つまりだ、我々は生き残る為に日本を脱出して、アメリカ、そしてテスラ研に向かう必要がある。苦しく、厳しい作戦が続きますが、どうかお力添えをよろしくお願いします」

 

ヴィンデルのその言葉を最後にブリーフィングは終わりを告げ、日本脱出の戦いに備えほんの僅かだが、身体を休める事となるのだった……。

 

 

 

 

 

イングラム、そしてカーウァイが部屋の中を確認し、盗聴器などが無いのを確認してから、武蔵達は与えられた部屋で身体を休めていた。

 

「あの巨大アインスト……トレントでしたっけ……あれそう簡単に撃墜できるんですか?」

 

「ゲッターとグルンガストが頼みの綱だな。PTでは攻撃力が足りない」

 

「……参式が壊れたのが非常に厳しい所だな」

 

日本脱出作戦を決行するまでに参式を修理するのは不可能。特機であるグルンガストとゲッターが日本脱出の鍵を握っていた。

 

「アメリカに辿り着けばそこでも戦い続きか……」

 

「テスラ研を奪還したとしても……」

 

「攻撃は続くだろうな」

 

テスラ研に転移装置があることを知っているのはシャドウミラーだけらしいが、シャドウミラーに協力したと言う事で反逆者として扱われているらしい。となれば、テスラ研に近づけば連邦軍との戦いになるのは明らかだった。

 

「でも、テスラ研って優秀な技術者の集まりなんですよね? この状況で拘束してるんですか?」

 

「……そうだな、既に無人と言う可能性も捨て切れない」

 

「上層部のことを考えればな」

 

既に上層部はテスラ研の技師を無理に連れ出し、宇宙船で地球を脱出している可能性もあると告げると武蔵は深く深く溜め息を吐いた。

 

「偉い奴って最悪ですね」

 

「ああ、だがまぁ……因果応報宇宙に出たところでインベーダーの巣窟と言うオチで終わりだろう」

 

元々インベーダーは宇宙生物なのだ、宇宙に巣を作っている可能性は極めて高い。更に言えば、ゲッターD2のゲッター線が回復している点から宇宙にはゲッター線が満ちており、地球より凶暴化したインベーダーが多数生息している可能性はある。

 

「どっちにせよ、地獄ってことですね」

 

「そうなるな……だがレジスタンスがいると言うのは良い情報だった」

 

「味方が増えるってことですか?」

 

「可能性だがな、今のこの状況を変えたいと思うのは人間であれば当然のように思うことだ。その可能性があればそれに縋るのは当然だ」

 

溺れるものは藁をも掴むという奴だと笑ったイングラムはそのまま、パックのレーションを口にする。

 

「不味いが腹に入れておけ、この後は身体も心も休める時間などないぞ」

 

「そうですね……はぁ……こんなの想像もして無かったですよ」

 

「全くだ、だがそれでも私達は歩みを止める事は出来ない」

 

例え悪と罵られても……。

 

例えこの手で人を殺めたとしても……

 

武蔵達はその歩みを止める事は出来ない。

 

自分達が元いた世界に戻る為に……。

 

今も悲しんでいるであろう友人達の元へ戻る為に……。

 

「辛いか?」

 

「まぁ確かにそれでも……自分のやるべき事は判ってますよ。戦わないと……生き残れないんですからね」

 

武蔵の甘さを危惧していたイングラムとカーウァイだが、武蔵は覚悟を決めていた。この世界では戦わなければ生き残れないのだ、インベーダーとも、アインストとも、そして人間とも戦わなければならない、いつかその道が分かれるとしても、それでも今は味方なのだ。

 

「だから……オイラは戦いますよ。大丈夫です」

 

首元に巻いた竜馬のマフラーに触れながら武蔵は強い決意の色を宿した目で2人にそう返事を返すのだった。

 

「レモン、どうにもならんか?」

 

「無理に決まってるでしょ。アクセル、この短時間で参式を修理するなんて私でも無理よ」

 

「……チッ。ソウルゲインさえあれば……」

 

「そうよね。受け取りに行く道中だったのが惜しいわ、アースゲインでもあれば話も違ったんだけどね……」

 

テスラ研で開発されたアースゲインを元に大幅に改修され、その結果操縦者がいないからと放置されていたソウルゲイン。それを受け取る道中のSOS信号を見捨てられなかったのが、この劣勢に追い込まれた理由だ。

 

「でもアメリカに行けば何とでもなるわ。シャドウミラーの基地は沢山あるんだからね、その為にはアクセルにも頑張ってもらわないとね」

 

「参式は使えないのだろう?」

 

「ええ、参式は使えないわよ。参式はね?」

 

含みを込めた言葉にアクセルは同じ様に笑みを浮かべた。

 

「俺が使えるような機体があるのか?」

 

「ええ。あるわよ、プロトヴァイサーガ。早乙女研究所で組み上げておいたわ」

 

シャドウミラーの幹部クラスが使う為に建造される予定の特機のプロトタイプ……プロト・アンジュルグ同様のシャドウミラーの最後の切り札と言うべきものだ。それのテスト機でバラバラの状態で、ギャンランドに保管されていたそれをレモンは早乙女研究所で秘密裏に組み上げていたのだ。念の為の備えだが、まさかこんなに早く使う事になるとはレモン自体も予想していなかったが、戦力が少しでも必要な今プロトタイプでありながらも、その戦力は重要な物になる。

 

「なるほどな、ありがたく使わせてもらうぞ。これがな」

 

「ええ。頼むわよ、日本を脱出しない事には何にも始まらないからね」

 

レモンに手を振り、部屋を出て行くアクセルを見送るレモン。暫くそうして見つめていたが、その視線をモニターに向ける。

 

「さてと……急ぎますか」

 

遠隔操作でアメリカのシャドウミラー地下基地の製造プラントを稼動させるレモン。モニターにはエキドナの駆るプロトアンジュルグと異なり鮮やかなカラーリングが施された装甲を組み込まれているアンジュルグ。そして骨組みの上に装甲を取り付けられ始めているヴァイサーガ、そしてアサルトドラグーンシリーズの「アシュセイバー」を改造したレモン専用機の組み上げが始まっていた。

 

「ふふ、もうすぐ会えるわ。楽しみにしてるわよ、ラミア……」

 

そして最後に映し出されたモニターには培養液の中に眠る緑色の髪をした、美しい女性の姿があるのだった……。

 

 

 

第9話 邪悪な大樹/太古の魔龍 へ続く

 

 

 




次回は連続バトルで話を書いて行こうと思います。太古の魔龍は判ると人はきっと判ってくれる筈ッ!!と言うか判ってくれないと私が泣きます。きっと、いや多分きっと……メイビー大丈夫な筈だと信じております。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 邪悪な大樹/太古の魔龍

第9話 邪悪な大樹/太古の魔龍

 

 

そのアインスト達には他のアインストにはない明確な意思があった。だがそれは意思と言うには余りに邪悪で、そして醜悪だった。

 

「適合セズ……」

 

「廃棄」

 

「処分セヨ……」

 

本来ならばアインストは同類を増やすと言う真似をしないはずだった。だがインベーダーの存在を感知し、更にゲッター線があるとなれば話は変わってくる。

 

「進化進化」

 

「進化ノ光」

 

「我ラ二……」

 

インベーダーとの生存競争に勝つ為に、そして自らがゲッター線に認められ、新たな種となる為に日本を脱出しようとする者を捕らえ、アインスト化させると言う事を繰り返した。

 

「非適合態ヲ捕食スル」

 

「新タナ進化ヲ」

 

適合した個体はアインストへと変異し、その搭乗機ごとアインストになる。だが非適合の個体はアインスト達の胸部、両腕にある異形の口で捕食、吸収される。海岸に群生するトレントと呼称されたまだ未熟な変異途中の「アインスト・レジセイア」達は戦艦をPTを喰らい、そして変異した同胞を喰らい、より強いアインストへと変異を続ける。

 

「?」

 

「何ダ?」

 

「振動?」

 

突如海岸に走った振動にレジセイヤ達が困惑した直後。大地が砕け、その巨体が大地の中に沈む。

 

「ゲッタァアアアドリルッ!!!!」

 

大地を砕き、空へと舞い上がった蒼い光にアインスト達は歓喜する。

 

「進化ノ光ッ!」

 

「ヲオオオオオーーッ! 我ラ、我ラ二光ヲッ!」

 

「新タナ種トシテ認メヨッ!!!」

 

異形の両腕から触手を伸ばし、ライガーを捕らえようとするレジセイア達だが、その直後に横から凄まじい攻撃を叩き込まれる。

 

「貴様らに渡す物など、何一つ無い」

 

「押し通らせてもらうッ!!」

 

ASRSを展開していたギャンランドからR-SOWRDを初めとしたPTが降下してくる。

 

「作戦の第1段階は成功。このままトレントを粉砕し、日本を脱出する」

 

『了解しました。ヴィンデル大佐』

 

『考えなしの馬鹿で助かる。速攻で決めるぞッ!!』

 

グルンガストに乗るヴィンデルの指揮の元、シャドウミラー隊の日本脱出作戦が幕を開けるのだった……。

 

 

 

地割れの中に飲み込まれるトレントを見つめて武蔵が驚いた様子でそれを見つめていた。

 

「まさかここまで上手くいくなんてなぁ」

 

時間は少し遡り、ギャンランドのブリーフィングルームでは、ヴィンデル、レモンの両者からの作戦説明が行われていた。

 

「えっ、倒さなくて良いんですか?」

 

「ええ、とは言え、完全に撃破しなくていいってことで戦わなくていいって事じゃないわ」

 

レモンはモニターにトレントの姿を再度映し出す、下半身が完全に大地と融合しており、トレントの名のとおりその姿は樹木のように思える。両腕・胸部には鋭い牙の生えた口を思わせる部位が拡大される。

 

「この中にコアがあるのよ。このコアにダメージを与えて、アインストを活性化から非活性化状態に持ち込めば、活動を休止するからその間に強行突破するわ」

 

全長100Mと越えようと言う巨大な相手を完全に倒すというのはアインストの性質上難しい、だがアインストコアは肉体と比べて再生能力が劣るのか、それとも重要機関なので回復が難しいのかは定かでは無いが回復速度が遅いという性質がある。

 

「作戦は理解した、だがこの巨体だ。コアを狙うのも難しいだろう、そこはどうするつもりだ?」

 

「あら、アクセル判らないの? 相手が大きいなら、こっちの得意の領域まで引き摺り下ろせば良いのよ。ね、武蔵」

 

「え? オイラですか?」

 

「そ、この日本脱出作戦の要は貴方とライガーよ。ライガーで地面を砕いて、このポイントのトレントを地中に引きずり込む、そして高さが低くなった所を……」

 

「集中砲火か」

 

「ええ、トレント同士は思考を共有してるみたいだし、時間を掛ければ取り囲まれてお陀仏。速やかにコアを破壊して、離脱って所ね」

 

「バリアの出力低下を狙うといっていたが、何体潰せばいい」

 

「最低3体、4体ならなおよしって所ね。さ、そろそろ海岸が見えてきたわ。武蔵、先行よろしくね?」

 

レモンの言葉に頷き、レモンから与えられた資料を頼りに言われていたポイントの岩盤を砕いた武蔵。それはレモンの計算通り、トレントの足場を崩し、その巨体を地中に引きずり込んでいた。

 

「でもやっぱり、何もかも計算通りとは行かないわなッ!!」

 

高速で突っ込んできた量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅱのジェットマグナムをかわし、チェーンでゲシュペンスト・MK-Ⅱを捕らえる。

 

「どっせーいッ!!!」

 

「!?!?」

 

捕らえた量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅱをトレントの口目掛け投げ込み、噛み砕かれた量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅱの爆発に紛れ、急降下と同時にドリルをトレントの口に突き刺すライガー。

 

「あ、アアアアアアアーーーッ!!」

 

甲高い女性の悲鳴に似たそれに顔を歪めながら、片腕のアインストコアを砕くのに成功する武蔵だが、砂浜から姿を見せた半壊したPTやアインストから伸びる触手にそれ以上の追撃が不可能だと判断し、即座に空中に逃れる。

 

『武蔵! もう少し積極的に攻撃は出来ないか!?』

 

「無茶言わんといてください! こっちはこっちで手一杯ですよッ!!」

 

アインストの集中砲火を受けている武蔵は隙を見て攻撃するので手一杯でとてもではないが、出撃前の計画通り1体のトレントを速やかに破壊するということは出来ないでいた。

 

「ドリルミサイルッ!!!」

 

「サセヌ」

 

隙を見てドリルミサイルを胸部のコアに向かって打ち込む武蔵だが、バリアで弾かれドリルは辛うじて体表に傷をつけるのがやっとだった。

 

「飛び道具は駄目か、ならオープンゲットッ!! チェンジ、ポセイドンッ!!」

 

上下左右から伸びる触手をかわし、急降下しながらポセイドンへとチェンジし、トレントの巨体との真っ向から後から勝負を挑む武蔵。

 

「ぬぎぎぎいいッ!! エキドナさんッ!!」

 

胸部の口に自ら飛び込み、閉じようとする口を両腕、両足で押さえ、閉じかけている口を内部から無理やり抉じ開けトレントの巨大なコアを出現させ、エキドナの名を叫ぶ武蔵。

 

「ああッ! そのまま押さえていろッ!! コード入力! ファントムフェニックスッ!!」

 

機械翼を広げたプロトアンジュルグが腰にマウントしていた弓矢を構え、作り出したエネルギーの矢を番える。

 

「行けッ! 紅蓮の不死鳥よッ!!!」

 

放たれた矢に込められたエネルギーが羽ばたく不死鳥の形をとり、急降下し、ポセイドンの前にあるアインストコアに迫る。不死鳥の嘴がポセイドンを貫く、そう思った瞬間――。

 

「オープンゲットッ!!!」

 

ゲットマシンに分離し、爆発的な加速でファントムフェニックスを避ける武蔵。ファントムフェニックスはアインストコアを貫き、一体のトレントの目から光が消える。

 

「よっしゃ! まず1体ッ! さすがですね!」

 

「いや、お前の援護のお陰だ。このままカーウァイ大佐とイングラム中佐の支援に入る」

 

「了解ッ! 行きましょう!」

 

ドラゴンとプロトアンジュルグがそのまま別のトレントを相手しているイングラム達の支援に入るが、実際はその必要は殆ど無かった。

 

「ターゲットロック、撃ち抜くッ!」

 

「ギ、ギィイイーーーッ!!」

 

巨体と言うのはそれだけで武器になる。だがそれは逆を言えば素早い出入りに対応出来ないという欠点を持っている。そしてPTを駆るイングラムとカーウァイの最も得意とする戦術はインファイトしかも、高機動の物となれば動けないトレントはただの的に過ぎなかった。

 

「カーウァイッ! 決めろッ!!!」

 

ケルベロスモードでひたすらにトレントをかく乱し、ヒット&アウェイでその両腕のコアを砕いたイングラムがそう叫んだ。

 

「言われなくともッ! 最大出力で決めてやるッ! ブラスターキャノン発射ッ!!!」

 

「お、オオオオオオーーッ!?」

 

腰を深く落とし、最大出力のブラスターキャノンの反動に耐えながら放たれた熱線がトレントの胸部のコアに命中し、2体めのトレントが断末魔の雄叫びを上げて沈黙する。

 

「2体めが沈黙、バリアの出力が落ちてきたわ! アクセル、ヴィンデル急いでッ!」

 

ギャンランドからのレモンの声にアクセルとヴィンデルはそれぞれのコックピットで笑みを浮かべる。確かにトレントは強大で真っ向から戦うことが難しい相手だ、だが足場を崩され、移動することが出来ず。攻撃方法が両腕を振り回す、触手を伸ばすだけになればエースパイロットであるイングラム達が苦戦する訳が無かったのだ。

 

「もう決着もつく、計都羅喉剣……暗剣殺ッ!!」

 

飛び上がったグルンガストの真っ向唐竹割りを防ごうとしたトレントが右腕をそのまま両断され、両腕を失ったトレントの胸部の口が大きく開かれる。

 

「狂風がお前を切り裂く……行けいッ!!!」

 

ヴァイサーガは白兵戦に特化した特機である。その性質は刀剣を用いた近~中に特化し、その攻撃力の高さはグルンガストに匹敵すると言っても過言ではない。そして5大剣「地」「水」「火」「風」「光」の5要素に分かれた剣術モーションを組み込まれており、白兵戦に特化しながらも、その戦闘能力は極めて柔軟であり、どんな戦いにも適応するといった相反する能力を持っていた。

 

「はあああああーーーッ!!!」

 

抜刀と同時に作り出されたカマイタチを5大剣で打ち出し、口を閉じようとしたトレントの口を風によって封じる。

 

「風刃閃ッ!!!」

 

コアを護る為に伸ばされた触手が伸びるよりも先に、ヴァイサーガの刃はトレントの胸部のコアを貫いていた。

 

「失せろ、この世界からなッ!!」

 

5大剣を引き抜くと同時に罅割れたコアを蹴りつけ、ヴァイサーガは残像を残しながらトレントの胸部の口から脱出する。

 

「バリア消滅確認! 全員帰還して! バリア復活まで90秒! ブースト・ドライブで脱出するわよッ!」

 

レモンの声を聞き、アクセル達はギャンランドへと帰還し、バリアが閉じきる前にブースト・ドライブによって日本を脱出するのだった……。

 

 

 

 

ブースト・ドライブで日本を脱出したギャンランドはそのままASRSを展開し、太平洋を進んでいた。

 

「思ったよりも上手く行きましたね」

 

武蔵が良かった良かったと笑う。地表を砕き、下半身の大半が地面に埋まったトレントはその巨大さを利用した攻撃も思うように出来ず、コアも狙いやすい位置にあった。だから短時間でのコアの破壊に成功していた。

 

「本当だな。武蔵がいなければ、こうも簡単に脱出できなかっただろう。お前がいてよかった」

 

「え、あ。いやあ、なんか照れるなあ」

 

エキドナに褒められ照れると笑う武蔵。それ自体は微笑ましい光景だったが、レモンには驚きの光景だった。命じられたことしか出来ない、エキドナが自分で考えて、武蔵を褒めた。

 

(これ本当なのかもしれないわね)

 

進化を促すエネルギーと言うゲッター線。それもあながち嘘ではないかもしれないとレモンは考えていた。バイオロイドである筈のエキドナに自我が芽生える……それは新たな生命を生み出したと言う事に繋がる。

 

(やっぱり武蔵と一緒に行動させた方がいいかもしれないわね)

 

そうすればもっとエキドナの自我を芽生えさせる事に繋がるとレモンは笑みを浮かべた。

 

「それでヴィンデル。ギャンランドの目的地は何処になる?」

 

「シャドウミラーの基地があるアラスカまたはカリフォルニアを目指すつもりです」

 

「太平洋を抜けて一番最初に辿り着くアメリカ大陸か」

 

早乙女研究所で十分な補給をしているとは言え、このままテスラ研に向かうのは自殺行為だ。イングラムもそれが判っているからヴィンデルの目的地の説明に納得する素振りを見せる。

 

「補給の目処はあるのか?」

 

「一応地下基地だから見つかってないと思うし、それになによりも、シャドウミラーの新型の開発拠点でもあるのよ。だからそこで戦力と

生き残りのパイロットが居れば回収したいって思ってるわ」

 

「なるほど、では聞くが連絡は?」

 

「……通じてないわ。アメリカはインベーダーに占拠されているしね……」

 

「望み薄と言うところか」

 

「溺れる者は藁でも掴むって言うでしょ? 僅かな可能性に……きゃあッ!? な、何ッ!?」

 

アメリカに辿り着いたら何をするかと言う話し合いをしていると突如ギャンランドが激しく揺れた。

 

「むっッ!?」

 

「とっと!? エキドナさん、大丈夫ですか!?」

 

その突然の衝撃に倒れかけるエキドナの腕を掴む武蔵。そして手すりや備え付けの家具を掴みバランスを保ったイングラム達の耳に凄まじい雄叫びが響き渡る。

 

「「「「ガアアアアーーッ!!!」」」」

 

「なんだあれは!?」

 

「インベーダー、いや、アインストでもない。なんだあの生き物は!?」

 

ギャンランドのモニターに映し出されたのは紫色の身体をした龍の様な生き物が海中から首を伸ばし、その牙でギャンランドを攻撃している光景だった。

 

「ちょっ、ちょっとこんなの想定してないわよッ!?」

 

インベーダーやアインストならわかる。だがこんな化け物は想定していないとレモンが叫び声を上げる。

 

「レモンさん! ドラゴンで出ます! 何とか振り切れるか試してみてくださいッ!!」

 

言うが早く武蔵がブリーフィングルームを飛び出していく、エネルギーを補給している最中のR-SOWRDなどは当然出撃できず、唯一出撃出来るドラゴンがあの首を迎撃しない事にはギャンランドはここで沈む。武蔵はそれを防ぐ為に、格納庫が完全に防がれる前にドラゴンで外へと出撃して行った。

 

「シャアアアーーーッ!」

 

「マジモンの化け物かよ! ダブルトマホークッ!!」

 

ギャンランドに巻きついている3本の首をそのままに2本の首が伸びてくる。それを紙一重でかわし、ダブルトマホークを振るうドラゴン。だがそれは体表に当たると油で滑るかのように受け流された。

 

「げっ!? マジかッ!?」

 

「「シャアアッ!?」」

 

「たっ、ととおッ!?」

 

両サイドから襲ってきた牙を旋回し回避し、武蔵はドラゴンが手にしている斧を見て眉を顰めた。刀身がてらてらと光り、その脂で完全にその切れ味を失っているのが一目で判った。

 

「メカザウルス……ってわけじゃねえよなッ!! ぬうっ!?」

 

大口を開けて噛み付こうとしてきた龍の牙を両手で受け止め、両手足を使い口が閉じようとするのを防ぐ。

 

「ゲッタァアアビィィーームッ!」

 

「!?!?」

 

大口をひらっきぱ無しの龍の口の中に頭部ゲッタービームを打ち込む、その熱量で爆発する頭部から脱出し、ダブルトマホークを新たに取り出し、ギャンランドに巻き付いている龍の目玉に突き立てる。

 

「ギャァアアアアッ!?」

 

「うっし、流石に目玉は効くかッ! もう1発ッ!!!」

 

「ガアアアアアーーッ!?」

 

急所である目玉を切り裂かれ苦悶の雄叫びを上げる龍。その龍の首目掛け追撃のゲッタービームを打ち込む。だが次の瞬間武蔵の顔は驚愕に染まった。

 

「は、弾かれた!?」

 

腹部より出力が低いとは言え、生きている生き物にゲッタービームを弾かれた事に武蔵は驚愕した。

 

『武蔵! もう1本の首も攻撃して! 今は勝てないわ! 逃げるわよッ!』

 

「ッ! 了解ッ! スピンカッターッ!!」

 

「ギシャアッ!?」

 

両腕の側面についているチェーンソーで龍の眼を潰すドラゴン。それによりギャンランドを縛り上げていた龍の拘束からやっと逃れる事が出来た。

 

『よし! 武蔵、どこでも良いから掴まって、一気に離脱するわよ!』

 

「りょ、了解!! 掴まりましたんで大丈夫です!」

 

『OKッ! ASRS展開、ブースト・ドライブッ!!!』

 

眼を潰された痛みに龍が暴れ悶えている内にギャンランドは再びブーストドライブに入り、一気にその場を離脱するのだった……。

 

「シャアアアーー!」

 

「アアアアーーッ!!」

 

ギャンランドが姿を消してから数時間後。太平洋に巣食っているメタルビーストがゲッター線に引かれ、武蔵と龍が遭遇した海域に集まってくる。

 

「ギャアアアアーッ!?」

 

「ギイイイイイーーッ!?」

 

だが海面を割り姿を現した龍に船体に巻きつかれ、海底へと引きずり込まれていく、ゲッター線に誘蛾灯のように誘き寄せられたメタルビースト、そしてインベーダーは太平洋に巣食うにナニかにとってはただの餌に過ぎなかった。

 

「ガバアアッ!!!」

 

そして海底から姿を現した巨大な口にメタルビーストは引きずる込まれ、船体ごとインベーダーを咀嚼する不気味な音と、海底から紅く輝く瞳はギャンランドが逃げた方向をいつまでも睨みつけているのだった……。

 

 

第10話 写し身に続く

 

 




今回の話は2面構成、1面目の勝利条件はアインストレジセイア×3体に5万のダメージを与える。2面目は龍×5体に1万以上のダメージを与えると言う感じで特定のダメージを与えるとイベント進行するエリアでした。前回の戦闘話に続き逃走と言う形になりますが、基本的には逃走するしかない戦力差なのでこういう展開になります。次回は写し身と言う事で、ウォーダンを出して行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 写し身

第10話 写し身

 

太平洋を渡りきり、目的地としていたアメリカ大陸の最北端アラスカに辿り着いたギャンランドは基地に向かう前に着陸……いや、墜落する事となっていた。

 

「最悪だわ。エネルギーパイプを粉砕されている」

 

海中から姿を見せた龍に巻きつかれた上に噛まれたギャンランドの装甲は大きく凹み、エンジンに燃料を補給するパイプも破損していた。辛うじて太平洋は渡りきったがそれ以上の飛行は不可能に近かった。

 

「ギャンランドは動かせないか……低空飛行ではどうだ?」

 

「そうね、かりに低空飛行しても基地に辿り着くまでに70%の確率で墜落するわ」

 

ギャンランドで基地へ向かうのが一番の最善策だったが、そのギャンランドが飛翔出来ないとなるとギャンランドはこの場に放置するしかないとヴィンデルとレモンは判断した。

 

「そうなるとこの先にあると言う基地で修理物資を確保して戻ってくるのが最善か」

 

「ですが、連絡は依然回復しておりません、恐らくインベーダーに制圧されたと思われます」

 

イングラムの言葉にエキドナが基地へ向かう事の危険性を告げる。

 

「それにギャンランドを破棄する訳にも行かないぞ、もうこの世界で戦艦は殆ど存在しないのだからな」

 

「となると戦力を分散して、ギャンランドの護衛と基地へ向かうのか……」

 

「そうなるとインベーダーの襲撃のリスクがあるしねえ」

 

難しい話をしているイングラム達を見ながら武蔵はゆっくりと手を上げた。

 

「はい、オイラに良い考えがあります!」

 

武蔵の自信満々の顔にイングラム達は大丈夫か? と言う不安を抱きながらも武蔵の提案を聞いて見ることにしたのだった。

 

『方向はこっちですか?』

 

『いや、南西に後40度、方向転換だ。武蔵』

 

『えっとどれくらいって?』

 

『……こっちで指示する。私が良いと言うまでポセイドンの位置を移動させろ』

 

接触通信で聞こえてくる武蔵とエキドナの声にレモンは苦笑いを浮かべずにはいられなかった。

 

「ポセイドンの脚部をタンクモードにして、僅かに浮遊したギャンランドを牽引するとか普通の発想じゃないわね」

 

「確かにな、だが分散するよりかはよほど良いだろう」

 

武蔵の提案とはギャンランドのエネルギーを節約する為に僅かなホバーでその機体を浮かせ、フィンガーネットをギャンランドに巻きつけてポセイドンで引っ張るという余りに原始的な手段だった。

 

「だがこれは実際かなり効率的だと思うぞ」

 

エネルギー反応は極僅か、ポセイドンのゲッター炉心も出力を最低に絞っているのでインベーダーやアインストに発見されるリスクもない。

 

「直接飛んで向かうよりかはよっぽど安全だな」

 

「時間は掛かりますがね、しかし、これが今私達に出来る最善ですからしょうがないでしょう」

 

ギャンランドが飛べれば1時間も経たずに目的地であるアラスカのシャドウミラー基地に辿り着ける。しかしこの方法では最低でも半日の移動となる事にヴィンデルはげんなりとした様子だった。

 

「でも、あの化け物やベーオウルフについての考察が出来る時間を考えれば、この半日は決して無駄じゃないわよ」

 

言うが早くモニターにゲシュペンスト・MK-Ⅲ、そして海中から襲ってきた龍の首の映像を映すレモン。移動に時間が掛かるのならば、その時間を有意義に使おうというレモンの意見に反対する者はおらず、アラスカのシャドウミラー基地に移動するまでの間対策会議が開かれる事となるのだった……。

 

 

 

 

モニターに映し出されるゲシュペンスト・MK-Ⅲ。ポセイドン、そして参式の2体を相手にしても有利に戦うその圧倒的な戦闘能力もさることながら、最も秀でた脅威は戦闘力ではなかった。

 

「この回復能力……いや、進化とでも言うべきそれが厄介だな」

 

戦闘中にサイズをPTから準特機クラスまで拡張させ、本来実弾であるクレイモアをエネルギー態にまで変化させた。ただ再生するのではなく、より強靭に再生している姿はイングラムの言う通り進化と言うのが一番ぴったりくる表現だった。

 

「今まで何度か交戦しているのだろう? そのときもこれほどに再生していたのかアクセル?」

 

「いや、ここまで化け物染みた回復能力は無かった。現に何度か俺達はベーオウルフを戦闘不能にして離脱している、トドメを刺そうにも邪魔ばかり入って押し切れなかったのが悔やまれる」

 

行動不能にして離脱している……いや離脱せざるを得ない状況に陥ってしまったというアクセル。

 

「その時と、今の違い……か、それは1つしかないな」

 

「ゲッターロボですね? カーウァイ大佐」

 

ラウの言おうとした事を先に言うヴィンデル。だがここにいる全員がそれを言うまでも無く理解していた。進化の使徒と武蔵とゲッターロボを呼び、執拗に追い回す姿を見ればその答えに辿り着くのは当然の事だった。

 

「武蔵の話ではゲッター線は進化を促すエネルギーって事らしいわね」

 

「より化け物に進化するためにゲッター線を求めていると言うことか……笑えないな」

 

今アクセル達の最大戦力はゲッターロボと武蔵だ。ベーオウルフの変化を止める為に武蔵を追放したとすれば、イングラムとカーウァイも当然シャドウミラーから抜ける。そうなればギャンランドの轟沈は避ける事が出来ない、だが武蔵が居ればベーオウルフは手の付けられないレベルに変化するだろう。

 

「この世界で好きに変異させれば良いだろう、俺達はこの世界を捨て新たな楽園に向かう。無理に倒す必要はない」

 

「……そうね。無責任って言われる筋合いもないし、テスラ研に辿り着けばなんとでもなるわ」

 

アクセル達の出した答えはべーオウルフを無視して、テスラ研に向かうと言うものだった。だがそれは当然ともいう答えだった、ダメージを与えても回復するのならば勝つ手段はない。勝てない相手に挑む道理は無いのだ、勝てないのなら逃げる。それは一種の答えだった。

 

「1つ気になっているんだが、この世界に「エクセレン・ブロウニング」はいないのか?」

 

「……いえ、いたことはいたわ、死に別れたけど私の妹の名前が「エクセレン・ブロウニング」よ」

 

少し間があってから返答をしたレモンにイングラムは引っかかる物を感じたが、今はそれを指摘せずに話を進めることにした。

 

「そうか、では次に聞くが、他のアインストに寄生されたと思われるPTや特機は殆どコアを外部に露出させているが……コアを内部に収納している個体はいたのか?」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅱ、アシュセイバー、ラーズアングリフ、グルンガスト参式……そしてゲシュペンストMK-Ⅲ……それら全てはアインストに寄生されていたが、外部に赤黒いコアを露出させていた。だがMK-Ⅲだけは、コアが露出させていない。それがイングラムには引っかかっていた。

 

「え、ええ。今まで何度も交戦しているけど、コアを内部に収納している個体は見た事が無いわ」

 

「……そうか、となると……ベーオウルフ……いや、キョウスケ・ナンブとMK-Ⅲの異質さの答えが出たな」

 

「どういう事だ! 何か思い当たる節があるのか!」

 

「アクセル!」

 

「っ、すまない」

 

イングラムの襟首を掴んで持ち上げようとしたアクセルにヴィンデルの叱責が飛び、腰を浮かしていたアクセルは謝罪と共に再び椅子に腰を下ろした。

 

「イングラム中佐。どういうことは聞かせてもらえるかしら?」

 

「俺は少佐なんだが……まぁ、良い。俺達の世界ではキョウスケとエクセレンは士官学校時代にシャトルの墜落事故に巻き込まれたが、2人とも奇跡的に生還した。その時の事件の調書を見たことがあるのだが……表向きは整備不良となっているが、裏では正体不明の生物と衝突したと言う話が実しやかに語られていた」

 

「……続けて」

 

話を止め、レモンに視線を向けるイングラム。レモンは真剣な表情をして話を続けるようにイングラムに促す。

 

「良いだろう。シャトルの回収をした整備兵が見たこともない生物の死体の一部を発見、それは植物のような生命体の肉片だったらしい……これがアインストと考えたらどうだ? この世界のキョウスケはその段階でアインストに寄生され、長い時間を掛けてアインストと完全に同化していると言うのは?」

 

それはあくまで推論だが、限りなく正解に近いとその話を聞いていた全員が感じていた。

 

「……ちなみに聞くけど、貴方の世界のエクセレンとキョウスケは?」

 

「2人とも生存し連邦に所属している。言っておくが、エクセレンにも、キョウスケにも異変らしい物は無い」

 

世界の違いによる差異……この世界では既に死んでいるエクセレン、そしてシャトル事件で唯一生存したキョウスケ。

 

「イングラム中佐の考えとしては、その士官学校での事故がアインストが引き起こし、その時にキョウスケ・ナンブがアインストに寄生されたとお考えなのですね?」

 

「ああ。他の寄生されたPTと余りにもMK-Ⅲは様子が異なっている。つまり他の存在とは根底から違うと考えるのが最も正しい筈だ。恐らくキョウスケに寄生しているアインストが親玉と考えて良いだろう」

 

「でもそれがわかっても対処法は無いんでしょ?」

 

「……いや、無い訳ではない。再生・進化するというのならば……残骸も残さず消滅させれば良い。と、言ってもそれほどまでの火力が無いのが現状だがな」

 

ゲッターロボならば不可能では無いが、それがより変化を促す可能性が高い以上。欠片も残さずに消滅させるというイングラムの提案は机上の空論に過ぎない。だがそれも確かに1つの手段であり、他のアインスト寄生体と異なるMK-Ⅲの事もある程度は推測が出来た。

 

「まぁ倒せない相手って言うのが判っただけだから、何の意味も無いけどね。それじゃあ、さっき海で襲ってきた化け物だけど……あれはインベーダーでもアインストでもないって事が判ったわよ」

 

機械から取り出された分析資料を見ながら口を開くレモン。

 

「インベーダーでも、アインストでもない? あの化け物が?」

 

「ええ、身体の構成物質がインベーダーでもアインストでもない、そうね。純粋な生き物よ」

 

「あの化け物がか!? 分析が間違っているんじゃないのか?」

 

「いいえ、間違いないわよ。ただ身体の構成物質はかなり年代が古いわね……先カンブリア時代よ」

 

「……つまりなんだ。生き残っていた古代生物が蘇ったと?」

 

「ありえない話じゃないわよ? ヴィンデル。海は全ての生命の源にして、人間の理解を超える場所。何が起きても不思議じゃないわ、それは今のこの状況が物語ってるでしょ?」

 

人間や機械に寄生する怪生物、そして時空の境目……それはありえないとされていたことであり、それが現実で起きている。今レモン達が生きているこの世界こそが、何が起きてもおかしくないという確かな証拠なのだった……。

 

 

 

 

建物やPTの残骸をポセイドンのキャタピラが押し潰すたびに激しい振動がドラゴン号に乗っているエキドナを襲っていた。

 

「うっ……」

 

思わず込み上げてきた何かを感じ咄嗟に口を塞ぐエキドナに気付いた武蔵から通信が入る。

 

『大丈夫ですか? 少し減速しましょうか?』

 

「い、いや、大丈夫だ。それよりも急ごう、もう少しでアラスカ基地が見えてくるはずだ」

 

吹雪の中で視界は劣悪だ。だがエキドナが持ち込んだレーダーで、正確な現在位置は判っていた。だから問題ないと言うエキドナに武蔵はそれ以上何も言えず、判りましたと頷いた。

 

『……大丈夫ならいいんですけどね』

 

通信を切る武蔵だが、その視線は最後までエキドナを気遣う色をしていた。土地勘の無い武蔵のオペレーターとしてドラゴン号に乗り込んだエキドナだったが、その顔色は非常に悪い物だった。

 

(……良くこんな物に乗れるな)

 

重力装備も、対衝撃装備も、振動装備も無い。更に言えば通信装置も索敵レーダーも質素な物で、ペダルと、操縦桿。そしてあちこちから突き出した無数のレバー……それで操縦していると知り、エキドナは素直に武蔵の技量に驚かされていた。ドラゴン号に持ち込んだ通信機とレーダーを確認しながら武蔵をナビゲートしているエキドナはレーダーに反応があったのを確認し、武蔵に止まるように指示を出す。

 

『え? もう着いたんですか? それらしい物は見えないですけど』

 

「いや、迎えだ」

 

吹雪の中を地響きと共に1機の特機が姿を現した。漆黒の装甲と巨大で無骨な刀を携えた機体に武蔵は驚きを隠せなかった。

 

『ぐ、グルンガスト零式!?』

 

それはあちこし破損し、粗末な応急処置を施され、その姿を大幅に変えていたが紛れも無くグルンガスト零式だった。

 

『何者だ。事と次第によっては斬る』

 

『ゼンガーさん?』

 

オープンチャンネルで告げられた警告に武蔵が困惑している間にエキドナはスピーカーのスイッチをONにする。

 

「ウォーダン。私だ、エキドナだ。レモン様達とギャンランドを牽引してきた』

 

『エキドナ……承知した。着いて来い、こっちだ』

 

「武蔵。ウォーダンに着いて行けば基地に着く、行こう」

 

地響きと共に歩いていく零式の後を着いて歩くように言うが武蔵は怪訝そうな顔をしていた。

 

『ウォーダン? ゼンガーさんじゃなくて?』

 

「ゼンガー・ゾンボルトならアインストに寄生されていただろう。あいつはウォーダン、ウォーダン・ユミル。シャドウミラーの構成員だ」

 

『そうですか、それなら良いんですけどね……』

 

武蔵が怪訝そうにしているが、それは当然の事かもしれない。ゼンガーの人格データを移植されたウォーダンはゼンガーのコピーと言える。向こう側の世界のゼンガーを知る武蔵が違和感を覚えるのは当然の事だ。

 

「アインストやインベーダーに発見されると厄介だ。早く基地へ向かおう」

 

『……うっす、行きますよ』

 

再び襲ってくる振動に顔を歪めながらエキドナはウォーダンの案内の元。アラスカのシャドウミラーの基地へと向かうのだった……。

 

 

 

 

険しい山岳の亀裂に隠された隠し通路を通り、ポセイドンとギャンランドは目的地だったシャドウミラーのアラスカ基地に辿り着いていた。

 

「ヴィンデル・マウザー大佐、アクセル・アルマー隊長、レモン・ブロウニング技術顧問のご帰還をお待ちしておりました」

 

グルンガスト零式から降りてきた仮面の男を見て、イングラム達は顔を顰める。その言動、立ち振る舞いはどこからどう見てもゼンガーにしか思えなかったからだ。

 

「すいません、やっぱりこの人ゼンガーさんですよね? それかゼンガーさんに双子の弟か兄貴っていませんでした?」

 

武蔵もそう感じていたのか、イングラム達にそう尋ねたが、それは即座にウォーダンによって訂正された。

 

「……俺はウォーダン・ユミル。ゼンガー・ゾンボルトではない」

 

「あ、すいません。本当に知り合いに良く似ていたもので」

 

武蔵の言葉を即座に訂正するウォーダン。だが謝罪の言葉こそ口にしたものの武蔵、イングラム、カーウァイの疑念の視線は薄れる事が無い。

 

「しかし本当に良くゼンガーに似ているな」

 

「よく言われます。しかし私はウォーダン・ユミルであって、ゼンガー・ゾンボルトではありません。カーウァイ少将」

 

敬礼と共に返事をするウォーダンを見て、ますます目が細まるカーウァイ達を見て、レモンがウォーダンと武蔵達の間に入る。

 

「疲れているだろうし、この基地で少し休みましょう。エキドナ、武蔵達を部屋に案内してくれるかしら?」

 

「了解しました。カーウァイ少将、こちらです」

 

強引に話の流れを切ったという事は判っていたが、ここで追求しても何も答えが出ないと判断したのか武蔵達はエキドナに案内され、格納庫を後にする。

 

「ウォーダン、調整室で待ってなさい。すぐに調整するわ」

 

ウォーダン・ユミル。正式には「W-15」と呼ばれるWシリーズの15番目にロールアウトされたその個体は他人のパーソナルデータをコピーし、今までのWシリーズと異なり、自我を確立させる事を目標に作られた固体だ。本来は人格などはなく、パーソナルデータの書きかえでどんな戦況にも適応出来ると言うコンセプトだったW-15は、ベーオウルフと言う規格外の存在に対するカウンターとして、この世界で有数の特機のパイロットである、ゼンガー・ゾンボルトの人格データを組み込まれた個体だった。

 

「感謝します、レモン様。人格データの再現率、および定着率既に限界域……活動限界まで3万6000秒……」

 

武蔵達の姿が消えると急に機械的になったウォーダンはギクシャクとした動きで格納庫を出て行く、その後姿にアクセルとヴィンデルは険しい視線を向ける。

 

「人形を迎えに寄越すから、必要ではない疑惑を抱かれる事になったぞ。これはお前の責任だ、レモン」

 

「まぁ、人形なんて酷いわね。彼は自我を確立してるのよ?」

 

責めるような口調のヴィンデルに訂正を求めるレモン。だがヴィンデルは自分の考えを変える事無く、蔑んだ視線をレモンへと向けた。

 

「テスラ研にソウルゲインの回収に向かわなければならないからな、今度は失敗は許されんぞ。レモン」

 

吐き捨てるように命じてアクセルと共に格納庫を出て行くヴィンデルをレモンは冷めた視線で見つめ続ける。

 

「……人形なんかじゃないわ、ウォーダンもエキドナも、そしてラミアも……新しい命、そして人間なのよ。ヴィンデル、アクセル」

 

どこまでも平坦な声が静寂に満ちた格納庫に響く、レモンの顔は能面のような無表情な物だったが、その目には強い激情の色が浮かんでいた。それは普段のレモンとはありえない様子であり、レモンが気付く事はなかったが、その身体はうっすらとゲッター線の光に包まれていた。

 

「あの子達は人形じゃない、私の可愛い子供達なんだから……人形なんかじゃないんだから……ゲッター線があれば……もっと……あの子達は人間に……近づける……私がもっと……ゲッター線を理解できれば……」

 

だがその激情の色は徐々に薄れ、ぶつぶつと呟きながらウォーダンが歩いていった方向にレモンも姿を消すのだった……。

 

【ここにもゲッター線に魅入られた者が1人】

 

【進む先は地獄か、それとも天国か……】

 

【見極めさせて貰おうか、完璧になれなかった者よ……】

 

そして誰もいないはずの格納庫に広がったゲッター線の輝きの中から複数の男性の声が響き続けているのだった……。

 

 

第11話 魂を乱獲する者 その1へ続く

 

 




ウォーダンを見れば、ゼンガーを知る武蔵達は違和感を疑念を抱くのは当然ですよね?なので今回はしっかりその描写を入れさせて頂きました。そしてレモン様、若干ゲッター線に引かれ、目グルグル寸前。でもレモン様ならば確実にゲッター線に選ばれると思うんですよね、ほら……武蔵艦長のシステムとWシリーズって良く似てると思うんですよね?似てないですかね?次回はインターミッション、武蔵とウォーダンの絡みとかやりたいですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 魂を乱獲する者 その1

第11話 魂を乱獲する者 その1

 

武蔵達がアラスカのシャドウミラーの基地に辿り着いたころ、北米コロラドのテスラ研には複数のトレーラーとくたびれた連邦の制服に身を包んだぎらぎらとした粗暴な瞳の男達の姿があった。

 

「ちっ、やっぱり最終プロテクトは解除できねえか……仕方ない、ここは諦めるぞ」

 

「了解です、隊長」

 

テスラ研の最深部……シャドウミラー隊が求める時空転移システム――システムXNが収用されている扉の前で不機嫌そうに隊長と呼ばれた男は踵を返す。

 

「研究員さん達よ、この先に進むのは諦めてやろう。その代り、こちらのハンガーを解放して貰おうか?」

 

「……」

 

「返事くらいしろよ」

 

「がっあっ!?」

 

無言での抗議をした研究員の足に無造作にハンドガンを撃ち、倒れたその頭を踏みつける隊長。

 

「ここでシャドウミラーの機体を開発していたのは知っているんだ。それとも反逆者として処分されたいか?」

 

「ぐっぐぐ……わ、判った! 解放する! だから足をどけてくれッ!!」

 

金属板で補強されたブーツで踏みつけられた研究員がそう声を上げると隊長は足をどけて、分かればいいと満足そうに笑った。この男達は連邦の制服に身を包んでいるが正式な連邦兵士ではない。アインスト、インベーダーの台頭により、上層部により解放された囚人たちで構成された愚連隊と言うべき集団だった。

 

「S級コードが必要って言えば、あいつらも死なずに済んだのになぁ?」

 

くっくっくっと喉を鳴らす隊長の視線の先には喉を引き裂かれ事切れた研究員達が転がっている。それから目を背け、足を撃たれた研究員は足を引きずりながらハンガーを解放するコードを入力する。

 

「ほ、ほら、これで良い「ああ、ご苦労。これでお前は用済みだ」……ああ……そ、そんな……」

 

コンテナが開くのを確認すると同時に手にしていたサバイバルナイフで研究員の首を引き裂いた隊長を見て、その後ろで控えていた隊員が声を掛ける。

 

「いいんですかい? 殺しちまって」

 

「はッ! 上級研究員はもういないんだ。残っている味噌っかすを殺そうが咎められる謂れはねえよ。連行しようとしましたが、抵抗に合い仕方なく処理しました――これで終わりだ」

 

「あいつらも俺達のストレス発散に付き合えて嬉しいでしょうね!」

 

違いないとあちこちで響く下卑た男達の声。テスラ研にいた上級研究員……「ジョナサン・カザハラ」達を筆頭にした、開発チームは上層部や、議員が逃げるための戦艦の開発の為に連れ出され、残ったのはほんの僅かの整備兵と研究員達。有能と判断されれば連れて行かれているので、味噌っかすと言うのはあながち間違いではなかった。だが、それでもまだ有効利用できると残されていた研究員は全て自分達のストレス発散と言う形で反逆者として処分され、テスラ研は今本当に無人の研究所と化してしまった。

 

「EGシリーズの「アースゲイン」を全部持ち出せ、シャドウミラー隊を捜索する」

 

「了解、ですが、隊長。ハンガーは全部解放されてませんぜ?」

 

「何? ちっ、あの研究員め……何番が解放されてない」

 

「10~14です。どうしますか、入手したEGシリーズで破壊を試みますか?」

 

部下の言葉に少し考え込む素振りを見せる隊長だったが首を振った。地球の財産であるテスラ研だ、仮に特機クラスを使ってもそう簡単に破壊することは出来ないだろう。

 

「ここで時間を掛けると見失う。輸送機が到着次第、アラスカへ向かう」

 

この兵士達はアラスカに不時着するギャンランドの目撃情報から出撃命令を出された部隊だった。アメリカ大陸の最北端アラスカは吹雪と厳しい山岳で天然の要塞と言っても良い、更に言えばアインストとインベーダーの目撃情報も少なく隠れ家にするには最適な場所でもあった。そこにいるかもしれないシャドウミラーの中心人物「ヴィンデル・マウザー」「アクセル・アルマー」「レモン・ブロウニング」の殺害及び、捕縛が命じれていた指令であり、アラスカに向かう前に戦力を確保する為にテスラ研を襲撃していたのだ。

 

「あいつらの機体であいつらを殺すって言うのは良いですねえ」

 

「反逆者の抹殺をすれば、俺達も戦艦で地球を脱出出来る。化け物様様だぜ、輸送機が来る前にEGシリーズの設定を行え、山岳地帯では通常のPTよりもEGシリーズの方が有効だ」

 

「「「「了解!」」」」

 

敬礼し解放されたハンガーに走る部下達を見ながら隊長も1つのハンガーの前に立つ、そこには眩いまでの蒼に包まれた人型の特機の姿があるのだった……。

 

「くっくっく……ツキが回って来たぜ」

 

シャドウミラー隊の幹部を捕らえれば、地球脱出の戦艦に乗れる。そうすればこの地獄からもおさらば出来ると笑う隊長――だが彼らは気付く事が無かった。その姿を周囲の光景と同化させ、テスラ研に侵入している小型インベーダーの姿に……そして今テスラ研に向かっている輸送機が地獄への片道切符であると言う事に気付いていないのだった……。

 

 

 

 

 

一方その頃、アラスカのシャドウミラー基地では武蔵とウォーダンが木刀を手に向かい合っていた。武蔵の日々の習慣である鍛錬を見て、ウォーダンが武蔵に手合わせを頼んだのだ。

 

「ふんっ!!」

 

「ぬっ!?」

 

体格ではウォーダンが上回っていた。だが勝敗は武蔵に軍配が上がった。宙を舞う木刀をつかみ、武蔵がありがとうございましたと頭を下げる。それに遅れて、ウォーダンが礼儀と言う事で頭を下げる。

 

「見事な物だな、武蔵。最初は劣勢に見えたが……終わってみれば圧勝か」

 

コンテナの上に座ってみていたアクセルがその上から飛び降りながら声を掛ける。

 

「はは、最初は驚きましたけどね。ウォーダンさんってあんまり実戦経験がない感じですか?」

 

「……対人はあまりやったことが無い」

 

「だからかぁ、こうなんて言うんですかねえ……余りに愚直って言うか、駆け引きが苦手って言うか……どうするか一々考えてるでしょ?」

 

武蔵の言葉にウォーダンはうむっと唸る。それを見れば図星と言うのは明らかだった。

 

「考えなしで突っ込むのはどうかと思いますけど、一々考えてたら自分が不利になりますよ」

 

武蔵が言うのは動物的な直感の事であり、ウォーダンが習得出来ない技量の1つだった。

 

「なるほど、では、今度は俺が手合わせ願おうか」

 

「良いですよ、アクセルさんは素手ですか?」

 

「俺に合わせると言うのか? それは驕りが過ぎるぞ、武蔵」

 

「はは……安心してくださいよ。オイラは……素手の方が強いですから」

 

握り拳を作る武蔵の覇気にアクセルが笑みを浮かべ握り拳を作る。

 

「ではその強さとやら……見せてもらおうかッ!」

 

地面を蹴り、5m近い間合いを一瞬で詰めたアクセルの拳を武蔵は手の平で受け止め、そのまま身体を回転させる。

 

「ちいっ!」

 

投げ飛ばされると理解した瞬間に地面を蹴って自ら飛ぶ事で投げを回避したアクセルだが、顔を上げた瞬間には既に拳が迫ってきていて、それを辛うじて避ける。

 

「なるほど、素手の方が強いって言うのは本当のようだな」

 

僅かに掠った頬を撫でたアクセルのその目は獣の様に爛々と輝いていた。

 

「ふっ!!」

 

「なんのッ!」

 

「いいや、まだだッ!」

 

「気合入れりゃあパンチなんてきかねえッ!」

 

「化け物め」

 

「褒め言葉として受け取っておきますよッ!!」

 

中国武術に似た動きを駆使し、肘、膝、拳と一発でも意識を刈り取ると言わんばかりの拳を武蔵は器用に防ぎ、あるいは受け流し、自分の得意の投げ技、寝技に持ち込もうとする。武蔵とアクセルの立ち位置は目まぐるしく立ち位置が変わり、受け手と攻め手が一瞬ごとに変わる。その動きをウォーダンは一挙手一投足を全て視界に納め、ラーニングしていく。アクセルにその意図はないとしても達人級2人の動きは確かにウォーダンの戦闘技能向上に役立っていた。

 

「「おおおおーーッ!」」

 

2人が同時に飛び出し握り拳を突き出そうとした時、格納庫に緊急警報が鳴り響いた。

 

「っ!」

 

「とっと……ッ!」

 

警報に気づき、拳を止めたアクセルと武蔵だが、その拳は互いの顔の1Cmほど前で止まっており、あのまま続いていたら2人ともカウンターでその拳を貰い昏倒していただろう。

 

「アクセル隊長。緊急事態です! 至急ブリーフィングルームへ!」

 

「ちっ、良い所だったと言うのに、武蔵この続きはまた後だ」

 

「オイラは何時でもいいですよ、それより今はブリーフィングルームに行きましょう!」

 

勝負を切り上げる事になって不機嫌そうなアクセルに声を掛け、武蔵達は格納庫を後にするのだった……。

 

 

 

 

ブリーフィングルームでは既にヴィンデル、レモン、イングラム、カーウァイが険しい顔付きでモニターを見ていた。

 

「すまん、遅れた。それで何事だ? インベーダーか? アインストか?」

 

謝罪もそこそこで何が起きているのかと尋ねながらモニターを見たアクセルは顔を顰めた。

 

「ブラッド・ハウンドの連中か」

 

「ブラッド?……すいません、なんですか? それ」

 

1人だけどういう事態か判っていない武蔵にエキドナが説明する。

 

「非正規連邦軍兵士部隊の呼称だ、ブラッド・ハウンドは囚人部隊に分類される厄介な連中だ」

 

「囚人? え、じゃあこれ犯罪者の部隊って事ですか?」

 

「ま、簡単に言うとそうね。インベーダーとアインストのせいで正規の軍人が減ったからPTを操縦出来る囚人を恩赦で出して、部隊として運用してるのよ」

 

囚人を軍が使っていると聞いて嫌そうな顔をする武蔵。だがモニターを見ていて、その顔色を変えた。

 

「追われてるんですか?」

 

「そうだ、ブラッド・ハウンドはインベーダーに追われている。レモン、先ほどの映像を」

 

「はいはいっと、警報を鳴らした直後の映像よ」

 

監視映像から録画した映像に切り替わる。モニターに映る光景を見て武蔵は驚きに目を見開いた。

 

「ソウルゲイン?……いや、でもちょっと違いますか?」

 

月面でアクセルと共闘した時の機体と酷似している機体が何十機と雪原を駆け、1台のトレーラーを追い回している。色や形は少し違うが、それはソウルゲインに良く似ていたのだ。

 

「ええ、これはアースゲイン。テスラ研作の新型のEGシリーズ。格闘戦に特化した準特機になるわ、ソウルゲインって言うのはアースゲインをアクセル専用機に改造した機体なのよ、テスラ研で受け取る予定だったんだけど……どうもブラッド・ハウンドに強奪されて、私達を倒す為に使うつもりが……」

 

「インベーダーに乗っ取られた訳か、つまりあのインベーダーに乗っ取られたアースゲインとやらを撃退すればいいのか?」

 

「いいえ、違うわ。あのトレーラーにアクセル用のアースゲインが収用されているのが識別信号で分かったわ。それを奪取して欲しいの、勿論メタルビースト・アースゲインも撃破して貰うけどね」

 

アクセルの専用機をメタルビーストの群れの中から、しかもブラッド・ハウンドの隊員が操縦しているトレーラーから強奪しろと言うレモンの言葉に流石のイングラムとカーウァイも眉を顰める。

 

「機体を敵に奪われた段階で諦めるべきではないのか? ヘタに近づけば奇襲を受けることになるぞ?」

 

「いえ、ブラッド・ハウンドはソウルゲインを使えないわ。ソウルゲインはダイレクト・モーション・リンクシステムと、アクセルの生体パルスで稼動するように設定してあるから、持ち出しても宝の持ち腐れなのよ」

 

「……あの、すいません。ダイレクト・モーション・リンクシステムって何ですか?」

 

「簡単に言うとパイロットの動きを100%機体に再現させるシステムで、通常の操縦システムとは根底から異なるの、半操縦システムを組み込まれているアースゲインとは違って、完全なワンオフ、そして専用機なの。機体スペックだけ見て持ち出したんだろうけど、操縦できなきゃただの案山子だから、トレーラーから攻撃されるって言う心配はないわ」

 

トレーラーの内部から奇襲を受ける心配はないから強奪出来ると熱弁を奮うレモンに、イングラムが至極まともな指摘を行う。

 

「強奪するのは良いだろう、だがあのトレーラーにもインベーダーが侵入していたらどうするつもりだ?」

 

アースゲインが既にインベーダーに寄生されているのだ。逃げているトレーラーも既に寄生されていて、誘き出す為の罠だったらどうするつもりだと指摘されたレモンだが、真剣な眼差しをイングラムへと向けた。

 

「そこはドラゴンのゲッター線照射で様子を見るつもり、もしもインベーダーの反応があればソウルゲインは諦めるわ」

 

インベーダーがこの基地に侵入すればそれで武蔵達は終わりだ。奪取は試みるが、インベーダーの反応があれば諦めるとレモンはきっぱりと断言し、腕を組んでいるアクセルに視線を向ける。

 

「そうなったら、アクセルはヴァイサーガに乗って貰うからね?」

 

「……ちっ、しょうがあるまい。だが俺はソウルゲインを諦めんぞ」

 

「そのいきよ、まだインベーダーはアースゲインを完全にコントロールしてる訳じゃないわ。だからトレーラーで逃げれてる、今の内にトレーラーを襲撃、ゲッター線を照射しないといけないからこれは武蔵とアクセルがコンビでやってもらうわ。カーウァイ大佐達はエキドナとウォーダンを預けますので、メタルビーストとインベーダーの進撃を止めてくださいますか?」

 

戦力向上の為に敵に奪われた専用機の奪取――口で言うのは簡単だが、インベーダーに寄生されている可能性を考えれば、リターンよりリスクが大きい作戦だ。

 

「……仕方あるまい、だが作戦実行時間は限らせてもらう。5分で制圧出来なければ、あのトレーラーは破壊する。それが私達の妥協案だ」

 

時間を掛ければ掛けるほどインベーダーの脅威はより強大になり、そして寄生されているリスクを高める事になる。5分で制圧、もしくはトレーラーに隣接出来なければ破壊すると言うカーウァイの言葉にヴィンデルは小さく頷いた。

 

「了解しました。こちら側の頼みばかりを押し付けるわけには行きませんから、アクセルもそれで良いな?」

 

「5分あれば十分だ。予備機のソルプレッサを回してくれ」

 

トレーラーがメタルビースト・アースゲインに追いつかれるまでにトレーラーに乗り込み、ブラッド・ハウンドに強奪されたソウルゲインの奪取を試みるという余りに絶望的な作戦の幕が今上がるのだった……。

 

 

 

 

トレーラーに肉薄するメタルビースト・アースゲイン、そしてインベーダーの群れを遮るようにエネルギー刃が大地に突き刺さる。

 

「ギギィ!!!」

 

「シャアアアーーーッ!!!」

 

怒りの咆哮を上げるインベーダー達の目の前にグルンガスト零式、グルンガスト、プロト・アンジュルグ、R-SOWRD、ゲシュペンスト・タイプSが次々に着地する。

 

「シャアア!!」

 

「キシャアアアーーーッ!!」

 

インベーダー達は自分達の近くにいるにも拘らず、奥に着地したR-SOWRD、そしてゲシュペンスト・タイプSに向かって触手を伸ばす。

 

「掛かった、作戦通りに行く」

 

『了解しました、空中より先導します』

 

プロト・アンジュルグが翼を広げ飛翔し、吹雪の中にその姿を隠す。プロト・アンジュルグから送られてくる地形データを確認しながら、R-SOWRD、ゲシュペンスト・タイプSは雪原を駆けていく、その後ろをグルンガスト・零式、グルンガストが高速後方移動で続く。

 

「シャアアアーー!」

 

「ごアアアアーーッ!!!」

 

トレーラーを追走していたメタルビースト・アースゲインも突如自身の進路を変え、R-SOWRD、ゲシュペンスト・タイプSだけを見て走り出す。

 

『こうも簡単に掛かるとは……』

 

「この世界のインベーダーはゲッター線に飢えている。ゲッター線で稼動しているR-SOWRD、タイプSの動力をフル回転させてやれば簡単に誘導できる」

 

『このままポイントZ-14まで後退する。武蔵、アクセル。手間取らずに決めろよ』

 

アラスカのシャドウミラー基地は氷山と氷山の亀裂に作成された天然の要塞だ。だがそれはレーダーや衛星での捜索を避ける為の物で、防衛は勿論戦闘に適した場所ではない。そんな場所に向かっていたブラッド・ハウンド隊のことを考えれば戦闘に適した場所ではないという事は明らかであり、氷山内部からの奇襲を避ける。そしてアクセルと武蔵のソウルゲインの奪還作戦を遂行する為に、イングラムとカーウァイは補助ゲッター炉心を最大にし、インベーダーを戦いに適した場所におびき出すのと同時にトレーラーに迫っていた6機のアースゲインを引き離すと言うのを同時に行っていた。

 

『テスラ研に保管してあったアースゲインは全部で14体のはず。まだ4体確認出来ていないわ』

 

「いや、今補足した!「ガアアアアアーーッ!!!」

 

飛行型インベーダーが運搬していたメタルビースト・アースゲインの鉄拳が氷原に突き刺さる。それを回避し、ショットガンを放つR-SOWRD。それは胸部を捉え、その装甲をへこませたがイングラムはコックピットの中で舌打ちした。

 

「なるほど、これがEG装甲と言う奴か……」

 

『これは中々面倒なことになりそうだ』

 

インベーダーの自己再生能力と元々アースゲインが持ち合わせているEG装甲による回復能力。それらの相乗能力により、メタルビースト・アースゲインの回復能力は今まで対峙したインベーダー、そしてメタルビーストを完全に上回っていた。

 

『やはり、大火力による各個撃破しかないようですね』

 

「そのようだ、下手なダメージだと回復と同時に進化を促す。相手が回復するよりも先に一気に叩き潰すしかあるまい」

 

『とは言え、それも簡単には行きそうには無いがな……』

 

12体のアースゲインが雪煙を上げて雪原を駆け回る。その機動力は勿論だがそれら全てが同じ姿をしているので、ダメージを与えたとしても別の機体の中に紛れ込まれればその姿を補足し続けるのは難しいだろう。

 

『眼前の敵は全て打ち砕くのみッ!!!』

 

零式斬艦刀を構えるグルンガスト零式と、気迫に満ちた声で吼えるウォーダン。だが確かにその通りだとイングラム達も笑う、敵の強大さ、そして厄介さも知っている。だがそれに恐れていては勝てる物も勝てなくなる、まず何よりも気持ちで負けない事。それが勝利を掴む第一歩なのだ。イングラム達がメタルビースト・アースゲインとの戦いを始めた頃、武蔵とアクセルも動き出そうとしていた……。

 

「アクセルさん、準備は良いですか?」

 

『ああ、武蔵。急ごう、ヴィンデル達も危ないからな』

 

トレーラーを眼下に確認し、停止させていた炉心を再起動させたポセイドンがトレーラーの前に飛び降りて、トレーラーの動きを封じ、コンテナに手を開けてトレーラーを抉じ開ける。上空から急降下してきたソルプレッサがトレーラーの上に停止しさせ、それと同時に飛び降りたアクセルがポセイドンが抉じ開けた亀裂からアクセルはトレーラーの中に侵入するのだった……。

 

 

第12話 魂を乱獲する者 その2へ続く

 

 




インターミッションはここまで、次回は武蔵とアクセル、イングラム達の視点の2つの視点をメインの戦闘回を書いて行こうと思います。それと今作のソウルゲインはアースゲインの改修機と言う設定で行かせて貰おうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。



活動報告にもかきましたが、スパロボDDのゲッターノワールガチャに大爆死。


ヴァルグレイブ好きじゃないんだよなあ……しかもあんまり強くないし。
流石に課金してまで深追いするつもりはないのでここで終わりですが、悲しい。

でもノワール自体はかなり好きなデザインなので……もしかするとOG2で敵として登場するかもしれません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 魂を乱獲する者 その2

第12話 魂を乱獲する者 その2

 

それは殆ど一瞬の事だったと隊長はトレーラーのハンドルを握り締め、歯をカチカチと鳴らしながら恐怖の始まりを思い出していた……それはアラスカの大地が見えた頃合だった。

 

「なんだ、随分とお楽しみなのか?」

 

「まぁ、女日照りでしたからね、しょうがないでしょう」

 

輸送機のパイロットと行路とギャンランドの目撃情報から、どこら辺に不時着したのかを話し合っていた隊長は待機室から聞こえてくる甲高い声に顔を顰めた。

 

「しょうがない、やりすぎるなと伝えてくるか」

 

「我々の楽しみが無くなりますからね」

 

テスラ研に数人いた女の研究者を楽しむ為に連れてきたが、ブラッド・ハウンドは30人以上の大部隊だ。使い潰されては困ると待機室に足を踏み入れた。それが地獄の始まりだった……。

 

「お前ら楽しむのも……「「「「ギギィイイーーーッ!」」」化け物だとッ!」

 

部屋に入ると同時に隊長の目に飛び込んできたのは、女の腹から顔を出したインベーダーと、そのインベーダーに噛み千切られて絶命している隊員の姿だった。慌てて待機室を出て、外からロックを掛ける。

 

「くそっ、喰われていたのか!」

 

インベーダーは人を喰らい、その死体を操り生きているように見せる。連れてきた女にインベーダーが紛れていたのだと気付いてももう遅い、空中では逃げ道なんてあるわけが無い。まさかこんなことになるなんて想定していなかった隊長は恐怖を感じながらも、どうすればいいかを考えていた。

 

「仕方ない、これしかない」

 

今ならまだ間に合う。幸い、この輸送機はブロック形状で組み上げ式になっており、コックピットからいらない部位をパージする事が出来る。生存者がいるかもしれないが、待機室を切り落とさなければこの空飛ぶ棺桶の中でお陀仏はごめんだとコックピットに向かう通路を走り出す。だがそれは余りにも遅い決断だった……いや、もっと言えば、テスラ研に向かわなければこんなことにはならなかったのだ。

 

「うあわああああああ!!!」

 

「キシャアアアーーッ!」

 

慌ててコックピットに戻り、待機室を切り落とすように命じようとしたがパイロットの悲鳴とインベーダーの声にコックピットに足を向けず格納庫に向かって走る。

 

「各員搭乗! アースゲインで脱出……「アア……タイチョオオオオオーーーーッ!!」くそったれッ!」

 

既に自分の部下もインベーダーに喰われ、アースゲインと融合し始めているインベーダーも見た隊長は手動でハッチを開き、ソウルゲインを搭載したトレーラーに乗り込んで高度が落ち始めている輸送機からただ1人で脱出したのだった。

 

「くそくそ、こんな筈じゃなかった」

 

敗残兵であるシャドウミラーを壊滅させ、地球を脱出して新天地を目指す。平和で豊かな未来が待っている……そう思っていたが、結果は部下は死に、インベーダーに喰われた部下とアースゲインからただ1人逃げている己に隊長は既に限界を迎えていた。

 

『どっせーいッ! 悪いな、ここから先は行き止まりだぜッ!』

 

「と、特機!? あんな物があるなんて聞いてないぞッ!」

 

ずんぐりとしたシルエットの巨大な特機がトレーラーの前に立ち塞がり、慌てて急ブレーキを踏んだ隊長は唾を撒き散らしながら叫ぶ。

シャドウミラーにはもう特機はボロボロのグルンガストしか残っていないと聞いていたからだ。

 

「あの野郎共! 俺達を捨て駒にしやがったッ!」

 

捨て駒にされたと気付き怒鳴るが、これはブラッド・ハウンドに命じた男の責任ではない。ブラッド・ハウンドに命令が下った頃に、武蔵達はシャドウミラーに合流しておらず、その段階ではグルンガストしか残っていないのも事実だった。

 

「ぐぐ、じょ、冗談じゃないッ!」

 

ポセイドンがコンテナを掴んで抉じ開ける音を聞いて、ソウルゲインを奪われたら死ぬと分かっていた隊長は慌てて運転席をでて、最後の命綱であるソウルゲインだけでもとコンテナの中に足を踏み入れた。だがそこには既に先客がいた……。

 

「アクセル・アルマー……」

 

赤髪の粗暴な外見の男……シャドウミラー隊強行部隊隊長……アクセル・アルマーの姿がそこにあった。

 

「ほう? 俺を知っているか、盗人にしては知恵があるな。だが、ソウルゲインは返して貰おう、これは俺の物だ」

 

「ふざけるな、これは……あがあッ!?」

 

一瞬で間合いを詰めたアクセルに足の骨を蹴り砕かれ、泡を吹きながらコンテナの中に倒れる。

 

「ふざけているのは貴様らだ。これは俺の為にテスラ研が開発してくれた物、故に俺が乗るのが道理だ」

 

「は、反逆者……があッ!?」

 

振り上げた足に手を踏み砕かれた隊長は潰された右拳を押さえて、涙を流しながらのた打ち回る。

 

「俺が反逆者ならば、貴様は殺戮者だ。精々己の罪を噛み締めて逝くんだな」

 

アクセルはコンテナの中で死んでいるテスラ研の研究者を痛ましそうに見つめてから、そう吐き捨てるとソウルゲインに乗り込みトレーラーを破壊して外へと脱出する。両足を砕かれ、右手を粉砕された隊長は骨の突き出た己の足と手を見て涙を涎をたらしながら、芋虫のように這って運転席に戻ろうとした。

 

「あ。あああ……そんな……」

 

因果応報――自分が楽しむ為に殺人を犯してきたこの男に救いなどある訳が無く、トレーラーを追ってきていた4体のメタルビースト・アースゲインの内2機がトレーラーに組み付き、触手が侵入してきたのを見て男の顔は絶望に染まり、生きながら喰われるのはごめんだとハンドガンを手にしたが……。

 

「う、嘘だろ?」

 

腰のホルスターのハンドガンはアクセルの初撃で銃身が曲がっており、使い物にならなかった。

 

「ああ、嫌だ、嫌だ……し、死にたくない」

 

触手が獲物を見つけ牙を剥き出しにするのを見て、必死に這って逃げるがそんな物は無駄な抵抗に過ぎず。暴虐を尽くしたブラッド・ハウンドの最後の1人はインベーダーに足元から飲み込まれ、最後まで嫌だと叫びながらインベーダーの体内へと消えるのだった……。

 

 

 

 

雪原を駆ける4機のメタルビースト・アースゲイン……確かに最新鋭機と言う事はあり、量産機としては破格の性能を持った白兵戦特化の特機ではあった。

 

「シャアアアアアーーッ!」

 

「おせえッ!!」

 

だがそれもインベーダーと言う闘争本能しか持たぬ獣に操られれば、それはただの持ち腐れにしか過ぎなかった。アースゲインの拳を受け止めたポセイドンはそのまま力任せにその腕を握りつぶし、丸太のような巨大な足をメタルビースト・アースゲインの胴体に叩き込む。

 

「ギギャアア!?」

 

胴体がくの字に折れ、アースゲインの頭部から顔を出したインベーダーの頭部をポセイドンの巨大な手が掴み林檎のように握りつぶす。だが頭部を潰された程度でインベーダーは死にはしない。それ所か、この世界でやっと見つけたゲッター線を摂取しようと、全身から触手を出してポセイドンを取り込もうとする。

 

「とっととくたばれっ!!」

 

メタルビースト・アースゲインを力任せに投げ飛ばし、両肩にある4門ゲッターキャノンのゲッター線エネルギーの奔流に飲まれ、メタルビースト・アースゲインは跡形も無く消し飛ぶ。

 

「うっし、この程度なら楽勝ッ!」

 

「シャアアッ!」

 

「力と瞬発力があっても無駄なんだよッ!」

 

メタルビースト・アースゲインの瞬発力と力は確かに凄まじい物があった。だがそれだけであった、アースゲインは元々格闘技の有段者が使用する前提で建造された半自動操縦に分類される特機だ。つまり凄まじいパワーと速度が合っても、インベーダーが操ればそれは獣と大差が無い。飛び掛ってきたメタルビースト・アースゲインの胸部から顔を出したインベーダーの顎をアッパーカットの要領で殴り、宙に浮いた所をポセイドンの巨大な脚部が叩きつけるように踏み潰す。

 

「ポセイドンで格闘戦を良くやる物だッ!」

 

「シャアアッ!」

 

メタルビースト・アースゲインの力任せに振るわれる拳を受け流し、懐に入り込んだソウルゲインの裏拳が一撃でメタルビースト・アースゲインの頭部を粉砕し、更に追撃に叩き込まれた回し蹴りでボールのように吹っ飛んでいくメタルビースト・アースゲイン。力任せのポセイドンと異なり、ソウルゲインの格闘術は研ぎ澄まされた一種の芸術性さえ感じさせる格闘術だった。

 

「ふん、悪くない。だが反応がまだ鈍いな」

 

『じゃあ、とっととこいつらを倒して、イングラムさん達と合流しましょうか』

 

「ああ、そうするか、この程度の相手とどれだけ戦っても、機体調整にもならん」

 

空中からゲッター線に惹かれて急降下してくるインベーダーに向かって手の平を空中に向けるソウルゲイン。

 

「そうですか、なら時間を掛けてる場合じゃないですよねッ! イングラムさん達が引き寄せてくれているんですから!」

 

ポセイドンの背負った2機のミサイルが点火し、撃ちだされる時を今か今かと待っている。

 

「速攻で決めるッ! 青龍鱗ッ!!」

 

「ストロングミサイルッ!!!」

 

ソウルゲインの手の平から放たれたエネルギーの散弾に自分から突っ込み悲鳴を上げるインベーダー。そしてストロングミサイルの着弾と同時に炎の中に飲まれるインベーダーと空気中にばら撒かれた高濃度のゲッター線に耐え切れず消滅していくインベーダー。残ったのはたった3機のメタルビースト・アースゲイン。そんな物は武蔵とアクセルにとってはただの的に過ぎず、敵にすらなれなかった。

 

「「「ググウ……」」」

 

本能的に勝てないと感じ取ったのか、拳を構えながら距離を取ろうとするメタルビースト・アースゲインは飛び掛るタイミングを図っているが、それはあくまで獣の感覚。知性も何も無い獣の間合いを取る技術などアクセルと武蔵にとってはなんの障害にもならなかった。

 

「フィンガーネットッ!!!」

 

先に動いたのは武蔵だった。両手から放たれたフィンガーネットがメタルビースト・アースゲインを包み込み、両腕を振るうと遠心力によってアースゲインの巨体が巻き上げられていく。ポセイドンはその純粋な出力だけで2機アースゲインを持ち上げ、そして振り回していた。

 

「恐ろしい出力だな……全く」

 

2体の特機を振り回し、周囲に響く空気を切り裂く音にアクセルは改めてポセイドン――いや、ゲッターロボの脅威をその肌で感じていた。だがその顔に恐怖は無く、楽しそうとも言える獰猛な笑みが浮かんでいた。

 

「シャアアッ!」

 

「無駄だッ!」

 

力強い叫びと同時に踏み込んだソウルゲインの裏拳によって完全に頭部が砕け散るメタルビースト・アースゲイン。その衝撃で数歩よろめくメタルビースト・アースゲインの懐に両腕にエネルギーを溜め姿勢を低くしたソウルゲインが潜り込む。

 

「でやあッ!!!」

 

振るわれるのは音速の拳。それは容易にメタルビースト・アースゲインの装甲を砕き、その下のインベーダーを穿つ。しかしEG装甲とインベーダーの再生力ですぐにその傷は回復するが、その上から更にソウルゲインの鉄拳が叩き込まれる。雨霰のように残像を残しながらメタルビースト・アースゲインを打ち据え続け、漸くそのラッシュが収まった頃にはアースゲインの装甲は跡形も無く消し飛び、そこには1体のインベーダーがいるに過ぎなかった。

 

「白虎咬ッ!行けいッ!!!!」

 

「キシャアアアアアアーーーッ!?!?」

 

両腕に集束していたエネルギーを至近距離で打ち込まれ、インベーダーは苦悶の叫びと共に消滅する。

 

「大ッ! 雪ッ!! 山ッ!! おろしいいいいーーーーッ!!!」

 

「「ギギャアアアアアアーーッ!?」」

 

ポセイドンに力任せに振り回され続けたメタルビースト・アースゲインはポセイドンの腕の回転によって生み出された真空刃に切り裂かれながら、地面に叩きつけられ肉片となる。だが再生する気配は無く、そのまま地面に吸い込まれるように消えていった。

 

「よし、ヴィンデル達と合流するぞ」

 

『それならドラゴンで運びますよ! オープンゲット! チェンジッ! ドラゴンッ! アクセルさん』

 

「ふっ、お前といると飽きないな。武蔵よ」

 

『そうですか? ま、今は急いで合流しましょうかッ!』

 

空中で翼を広げ、手を伸ばしているドラゴンの腕にソウルゲインが掴まる。するとドラゴンとソウルゲインはゲッター線の光に包まれ、空中に幾何学模様を刻みながら崩壊したトレーラーをその場に残し、ヴィンデル達の元へ向かうのだった……。

 

「ギギィ……」

 

だが武蔵はほんの僅かな見落としをしていた。真ゲッターに迫るゲッター線を有するゲッターD2が戦えば、ゲッター線に慣れていないインベーダーは消滅すると考えていた。確かにその通りで殆どのインベーダーは消滅していたが、隊長を喰らい、ほんの僅かだが、そのインベーダーは消滅しそうになりながらも、崩壊したアースゲインの中にもぐりこみその身体を再構築する。死にたくない、消滅したくないと言うインベーダーの本能、そして取り込まれた隊長の死にたくないという思いが共鳴し、驚異的な再生能力で音を立てて、アースゲインの修復が始まるのだった……。

 

 

 

 

最初はメタルビースト・アースゲインの再生能力に苦戦したイングラム達だが、それは最初の方だけであった。最新鋭機のアースゲインは良いも悪いもパイロットに左右される機体だ。それこそアクセルクラスの白兵戦の達人が乗り込めば苦戦もしただろう。だがインベーダーに寄生され、本能で動き回るだけの獣ではエースパイロットであるイングラム達の相手ではなかった。

 

「斬艦刀……疾風怒涛ッ!!!」

 

「ギギャアア!?」

 

両断されたアースゲインの爆発に飲まれ消滅するインベーダー。相手の動き、行動パターンこそ獣染みていて予測が難しいが、獣と言うのは作戦を考えるだけの知恵も無い。そうなれば脅威となるのは瞬発力と攻撃力、そして再生能力だけだ。そうなれば、ただ回復するだけの獣などはイングラム達の敵ではなかった。

 

「シャアアッ!」

 

「遅いッ!」

 

プロト・アンジュルグの擦れ違い様の一閃で砕ける装甲。それは即座に修正されていくが、それを見逃す物はこの場には誰1人としていなかった。再生している装甲にグルンガストのブーストナックルが突き刺さり、再生を妨害すると同時に踏み込んできたヴィンデルの駆るグルンガストの前蹴りがアースゲインを吹き飛ばす。

 

「これでトドメだ。ファイナルビームッ!!!」

 

「ギッ!?」

 

上空に蹴り上げられたメタルビースト・アースゲインはグルンガストの胸部熱線に飲み込まれ、跡形も無く消滅する。

 

「良し、これで残り4体。ダブ……エキドナは支援を続行、ウォーダンは確実に仕留めろ」

 

『『了解』』

 

W16と呼ぼうとしたヴィンデルだが、そう呼べばイングラム達が不信がると思い名前を口にする。イングラム達は既にWシリーズを知っているのでそれは無駄な労力なのだが、ヴィンデルがそれに気付く事は無いだろう。

 

「シャアアッ!」

 

「これほど宝の持ち腐れと言う言葉が似合う物は無いな」

 

「全くだ、これを運用出来ればどれだけ戦いが楽になることか……」

 

メタルビースト・アースゲインの攻撃は拳を振るうか、蹴り技を使う。そして噛み付くか、触手を伸ばすと言う4種類の攻撃方法を獣染みた姿勢から放つという物だけであった。本来アースゲインに搭載されているエネルギー刃や、エネルギーを打ち込むという攻撃を使えなければ気をつけるのは再生能力と伸縮自在の噛み付きと触手だけになる。

 

「そんな程度に当たるほど、俺は暇ではない」

 

「ギャァッ!?」

 

見てからでも避けれるテレフォンパンチ。そんな物に当たってやるほど、イングラムとカーウァイはお人よしでもなければ暇人でもない。

 

「獣は獣らしく地面を駆けていればいい。その方がよっぽど厄介だ」

 

「全くだな」

 

足を払われ、倒れた2体のメタルビースト・アースゲインに容赦なく叩き込まれるゲッター線を利用したビームライフル。数発までは受けて活性化していたが、許容範囲を超えるとあっという間に崩れ落ちるメタルビースト・アースゲイン。イングラムとカーウァイの言う通り、人型と言う理由で拳や足技を使ってくるが、それを扱うだけの技量がないのなら噛み付きや引っかきと言った獣染みた攻撃を駆使した方がよっぽど厄介だと2人が話していると、空にゲッター線で描かれた幾何学模様が浮かび上がる。

 

 

『すいません、遅れましたッ! でも、もう終わっているみたいですね』

 

『ふん、つまらん。もう少し慣らしをしたかったんだがな』

 

ゲッターD2が掴んでいた手を放し、地響きを立てて着地する蒼いアースゲインに似た特機……ソウルゲインの姿に普段冷静なヴィンデルの喜色に満ちた声がグルンガストから響いた。

 

「良くやった。アクセル、ソウルゲインを失う訳には行かなかったからな」

 

「全くだ、使いこなせない機体まで盗むとは愚かの極みだ」

 

「良し、これより全機基地へ帰還する」

 

ソウルゲインを見事奪還した事に喜ぶヴィンデル。シャドウミラーは戦力に乏しい、数を確保出来ないのならば少なくともエース機をと思うのは当然の事だ。アースゲイン、インベーダーの姿もないのでヴィンデルが帰還命令を出す。しかしこの僅かに気を緩んだ隙を突いて1機の特機が動き出した。

 

『やばい! 何か……ぐうっ!?』

 

『早いッ! 敵機せっ……うわッ!?』

 

上空の武蔵の警告を言い切る前にドラゴンとプロト・アンジュルグが被弾し墜落する。

 

「武蔵ッ!? 何がっ!? ぐっ!」

 

「ぬうっ!」

 

「まだ生き残りがいたのか!?」

 

散弾状のエネルギー弾の雨の後、雪原から1機の影が飛び出し腕組をした状態でアクセル達の前に立ち塞がる。それは半壊したアースゲインの姿だった。いや、正しくはアースゲインだったというべき物だ。

 

「ソウル……ゲインだと!?」

 

「馬鹿な……インベーダーがこいつの姿を真似たというのか!?」

 

「まねてるなんて甘いもんじゃねえ、こいつ……進化してやがるッ!」

 

「……見積もりが甘かったな。インベーダーを甘く見ていた……」

 

全員が見ている前でアースゲインがアクセルの駆るソウルゲインへと音を立てて変異していく、その余りに異様な光景に一瞬思考が停止した隙にメタルビースト・ソウルゲインは再び手を上空に翳し、青龍鱗の雨をその場に降らす。

 

「散開! 散れッ!」

 

ラウの叫びに弾かれたように全員が動き出すが、グルンガスト達の姿は青龍鱗の雨の中へと消えていくのだった……。

 

 

 

おまけ 

 

メタルビースト・アースゲイン

 

HP28000

EN210

運動性105

装甲1800

 

特殊能力

HP回復(大)

 

 

格闘 ATK3300

触手 ATK3900

噛み付き ATK4100

 

 

 

 

メタルビースト・ソウルゲインもどき

 

HP?????(17万)

EN350

運動性150

装甲2100

 

特殊能力

HP回復(大)

 

 

青龍鱗(MAP) ATK2900

青龍鱗 ATK3100

白虎咬 ATK3800

玄武剛弾 ATK4100

触手 ATK4400

噛み付き ATK4900

舞朱雀 ATK5200

 

 

 

第13話 魂を乱獲する者 その3へ続く

 

 

 




メタルビースト・アースゲインに続き、メタルビースト・ソウルゲインもどきとの連続バトル、開幕青龍鱗で全員ダメージを受けている状態で味方の撃墜が敗北条件のシナリオスタートです。6対1と言う状況ですが、この状況でも互角に戦えるやばいメタルビーストの登場です。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 魂を乱獲する者 その3

第13話 魂を乱獲する者 その3

 

それは異様な光景だった、頭部が半分、胴体も凹みだらけ、そして右足と左腕しか存在しないアースゲインがビデオを巻き戻すように、その姿を修復させる姿は早乙女研究所を脱出時のゲシュペンスト・MK-Ⅲの変異と酷似しているように見えたが、それよりもおぞましく、そして邪悪な光景だった。既に活動を停止しているインベーダー、アースゲインを取り込み、全員が見ている前でその姿を修復……いや、ソウルゲインへと進化させたのだ。そして上空に向けて手の平から放たれたエネルギー弾の雨に全員が飲み込まれてしまったのだった……

 

「ぐっ……全員無事か……?」

 

タイプSのコックピットの中で頭を振りながらカーウァイが全員に尋ねる。青龍鱗の雨はメタルビースト・ソウルゲインが再生中であったこともあり、出鱈目な狙いだった。だからタイプSは幸運にも直撃はしなかったが、その余波で弾き飛ばされていた。

 

『こ……っ……い……が……しが……』

 

「くそ、何を言っているか全然聞こえんッ!」

 

ただのエネルギーではない、インベーダーのエネルギーも混ざったそれは強烈なジャミングを周囲にばら撒いていた。近くに居るはずなのに、まるで聞こえない声に痺れを切らしタイプSを立ち上がらせる。

 

「シャッ!!」

 

「ッ!?」

 

その瞬間に空を裂いて伸びて来たインベーダーの触手を反射的に回避させるが、肩の装甲を抉り取られてしまった。先ほどまではとは段違いの伸縮速度にコックピットの中でカーウァイは顔を顰めた。

 

「なるほど……随分と進化をしたようだな」

 

メタルビースト・アースゲインとはまるで違う。動きも構えもより洗練されている姿を見て、これはそう簡単に倒す事は出来ないなと小さく呟き、タイプSの巨体が空へと舞い上がる。それと同時に雪原を蹴り、メタルビースト・ソウルゲインに肉薄していたアクセルから通信が入った。

 

『カーウァイかッ!? 無事なようならあの化け物を引き離すのを手伝ってくれ!』

 

「何があった」

 

『エキドナを庇ってドラゴンが中破、行動不能になっている。インベーダーとやらがゲッター線を喰らうと言うのならば今のドラゴンは餌に過ぎん、これ以上あいつを進化させないためにもここで食い止める』

 

「了解した。武蔵には誰がついてる?」

 

『エキドナとヴィンデルがついている。グルンガストが中破してしまったからな』

 

「状況は最悪か……いや、気を緩めた私が悪いか」

 

メタルビースト・アースゲインを撃破し、撤退しようとしたタイミングだった。その気を緩む僅かなタイミングを待っていたメタルビースト・ソウルゲインの上手さにカーウァイは考えを改めた。

 

(インベーダーは獣ではない、驚異的な速度で進化する化け物だ)

 

これがメタルビースト・アースゲインと同じならばあんなタイミングで奇襲してくるなんて事はせずに、真っ向から襲ってきただろう。それをするだけの知恵がある……楽に戦える相手ではなくなって来ている事に初めて気付くのだった。

 

「ぬんッ!」

 

「!!!」

 

グルンガスト零式の刃を回し受けの要領で受け流し、がら空きの胴に拳を叩きつけ、密着した状態で青龍鱗を打ち込むメタルビースト・ソウルゲイン。その破壊力に吹き飛ぶグルンガスト零式を見て、上空からM-13ショットガンを撃ち込む、角度、位置、完全に死角からだったが……。

 

「なるほど、化け物と侮った私のミスだな」

 

『いやそうでもない。あのインベーダー……恐ろしいスピードで進化している、ここで倒さないと大変な事になる』

 

イングラムの言葉にカーウァイはその言葉は何の救いにもならないなと苦笑した。見せ付けるように開かれた右拳には今放たれたばかりのM-13ショットガンの弾頭が全て握られていた。

 

『射撃が効かないと言うのなら直接叩き潰すまでッ!』

 

『ウォーダン・ユミル、押して参るッ!!!』

 

「待て! 不用意に突っ込むなッ!」

 

相手の進化の速度が想像以上に速いのを警戒し、カーウァイがアクセルとウォーダンを止めようとしたが、ソウルゲインとグルンガスト零式は既にメタルビースト・ソウルゲインに向かって格闘戦を仕掛けてしまっていたのだった……。

 

 

 

 

 

エキドナ……いや、W-16は完全に混乱していた。どうして役立たずの自分が庇われて、ドラゴンが行動不能になったのか、そして武蔵が怪我をしているのか……。役立たずになった機械は廃棄されなければならないのに、何故自分を武蔵が庇ったのか理解出来なかった。

 

『大丈夫か!?』

 

『……いちち……大丈夫ですよ、ちょいと頭を切っただけですからね……オイラよりもゲッターがやばいですね』

 

通信機から聞こえてくる操縦桿を動かす音とレバーを動かす音が接触通信で聞こえてくる。その音を聞けば聞くほどにエキドナの混乱は深まっていく……。

 

(なんで……)

 

プロト・アンジュルグとゲッターロボではどちらが戦力になるかなんて言うまでも無い。それなのになんで自分を庇ったのか、考えてもエキドナにはその理由が判らない。

 

『エキドナさんは怪我とかないですか?』

 

一瞬何を言われたのか理解出来なかった。だがそれは当然だ、Wシリーズは使い捨ての兵隊。ある程度は修理、修復されたとしても、それすらも出来ないと判断されれば廃棄される運命にある。それ所か、自爆コードを与えられ、戦えないと判断されればコードATAで相手を道づれに死ねと言われているエキドナにとって、心配されるということは初めての事だった。

 

『大丈夫ですか? もしかして気絶してるんじゃ……ヴィンデルさん。オイラより、エキドナさんを』

 

『エキドナ、返事をしろ。それとも気絶しているのか』

 

不機嫌そうなヴィンデルの声に我に返り、エキドナはそこで初めて通信機のスイッチを入れた。

 

「大丈夫です、頭を打って意識が朦朧としていましたが、今はもう大丈夫です」

 

『いやいや頭打ってるなら大人しく……いちち……』

 

『武蔵君!? 君こそ重傷なんじゃないのか!?』

 

『いやあ、大丈夫ですよ。内臓も零れてないですし、骨も折れてないし……』

 

『大丈夫の基準がおかしいだろう!? エキドナ! 空中からアクセル達の支援を行え!』

 

「……了解しました」

 

ヴィンデルからの指示に了承し、プロト・アンジュルグを飛翔させる。だが返事に間があったとおり、エキドナにはその命令が不服だった。何故か判らないがその命令を受け入れたくないと一瞬思ってしまったのだ。

 

「……やはり私は壊れているのか?」

 

助けられた理由も……。

 

大丈夫ですかと心配する武蔵も……。

 

ヴィンデルの命令に即座に返事を返せなかった自分も……。

 

エキドナには自分が壊れているとしか思えないのだった……。

 

「武蔵君、怪我は正確に報告するんだ」

 

『ういっす。えーっと、腕にコックピットの砕けたガラスの破片が突き刺さってます。後、頭を大分切ったみたいで、目の前が真っ赤ですね……最後に足にもガラスの破片が刺さってるんで床が血塗れですけど……問題ないです』

 

「問題しかないッ! お前は馬鹿かッ!?」

 

どう考えても重傷だと怒鳴るヴィンデルだが、武蔵はからからと笑う。

 

『だから腹に金属欠片が刺さってる訳でもないですし、内臓が零れてる訳でもないから大丈夫ですよ。オイラはまだ戦える』

 

強靭な精神力と言えば聞こえは良い、だが武蔵の場合はそれは気狂いの類だとヴィンデルは感じていた。

 

(これが旧西暦の人間か……)

 

今よりももっと酷い状態で戦っていたのだろう、だから動ける段階ならば自分は戦えると言い張る武蔵にヴィンデルは歓喜した。これこそが自分が求める理想の兵士だと……だがここで武蔵を死なせる訳には行かないと内心の歓喜を隠しあくまで冷静な大人として対応する。

 

「大丈夫だと思い無茶をして、重症化したらどうする。それにドラゴンだって……」

 

ドラゴンだって動かないだろうと言おうとしたヴィンデルは初めてそれに気付いた。ドラゴンの傷が修復されているのだ、インベーダーやベーオウルフほどの速度では無いが、確実にその損傷は回復していた。

 

『すいません、心配させちゃったみたいですね。大人しくしてます、動かないなりに出来る支援はさせてもらいます』

 

「あ、ああ……そうしてくれ」

 

武蔵の言葉に返事を返せたのはありえない光景に慣れていたと言うのが大きかった。無機物が再生する……そのありえない光景を何度も見ていたからこそ、我を失わずに済んだ。だがそれと同時にゲッター線への興味が更に深まる事になった。

 

(空間転移、時間跳躍……そして自己再生……ゲッター線を手に入れることが出来れば……)

 

ゲッター線を扱う事が出来れば転移した世界でも自分達は戦える。だが、武蔵は確実に自分達に組する事はない……どうやってゲッター線を手に入れるか……ヴィンデルはグルンガストのコックピットの中で邪悪な笑みを浮かべてそれを考えていた。

 

「すいません。モニターとかが不調なんで、距離と角度の確認をお願いします」

 

「ああ、ドラゴンとモニターとレーダーを同調、こっちで角度、タイミングを合わせる、お前は引き金だけを引け、武蔵」

 

「助かります」

 

ドラゴンの肩の上に膝立ちで止まったプロト・アンジュルグ。その指示に従い、ゲッタービームの発射準備に入る武蔵。それを見て、ヴィンデルが武蔵がエキドナに気を許していることに気付くのは当然の事であり、それを生かして武蔵とゲッターロボを手中に収めることを計画し始めるのは必然の事であった……。

 

 

 

 

 

メタルビースト・ソウルゲインとアクセル達の戦いは最初こそアクセル達が優勢だった……だが今では完全に互角に持ち込まれていた。

 

「化け物め。まさか短時間でここまで進化するとは……」

 

「!!」

 

高速で駆け回るソウルゲインとメタルビースト・ソウルゲイン。その拳と足が何度も交差を繰り返し、火花を散らす。

 

「技を使う間もないッ!」

 

「ッ!」

 

最初こそ白虎咬や、青龍鱗などの技を使う間があったアクセルだが、メタルビースト・ソウルゲインは攻撃を喰らうたびにその動きを最適化していき、今ではアクセルでもギリギリ捌く事が出来ると言う猛攻撃を繰り出していた。

 

「ちいっ! ウォーダンッ!」

 

『承知ッ! ハイパーブラスターァアアーーーッ!!』

 

メタルビースト・ソウルゲインの胴体を蹴りつけ、間合いを強引に離したソウルゲインの影からグルンガスト零式の放った熱線がメタルビースト・ソウルゲインの全身を飲み込む。

 

『大丈夫か?』

 

「何とかと言った所だ、ちいっ、ベーオウルフよりも厄介だな。これがなッ!」

 

熱線の中に消えたメタルビースト・ソウルゲインは姿を現すと同時に、装甲版を全て回復させその紅い眼光を光らせる。

 

『ダメージがまるで通らないか……やはりEG装甲を破壊しない事には何ともならないか』

 

メタルビースト・ソウルゲインの中にいるインベーダーそれを撃破しなければならないが、EG装甲とインベーダーの回復力に遮られ、インベーダー本体まで攻撃が届いていない。その間にインベーダーは悠々と学習し、その動きを昇華させている。

 

『俺が撹乱する。あいつをこの場から逃がす訳には行かない』

 

ケルベロスモードに変形したR-SOWRDが雪原を駆け始める。それを見て、タイプSも飛行ではなくホバーで追走し、手持ち火器やグランスラッシュリッパーなどの遠隔操作の武器を駆使し、メタルビースト・ソウルゲインの撃破を試みる。

 

「ッ!」

 

『ちいっ! 早いッ!』

 

ケルベロスモードの低姿勢、そして高速機動からのビームクローも蜻蛉を切って軽々と回避し、右手から伸ばした触手をR-SOWRDに伸ばすメタルビースト・ソウルゲイン。だがそれがR-SOWRDに届く事は無く、漆黒の影が触手を纏めて掴んで止めていた。

 

『させんッ!』

 

そこに横から割り込んでグルンガスト零式が触手を掴み、力任せに引き寄せる。

 

「好機ッ! 白虎咬ッ!!!」

 

宙を舞ったメタルビースト・ソウルゲインに向かってソウルゲインが飛びかかり、エネルギーを込めた両拳を振るおうとした瞬間。両肘から特殊流体金属で作られた聳弧角と呼ばれるブレードが出現し、自身に向かって伸ばされたソウルゲインの腕を切り落とそうと反転した状態で肘を振るう。

 

『許せッ!』

 

「ぐあっ!」

 

「!?」」

 

背後からR-SOWRDが放ったビームライフル。それがソウルゲインの背中を捉え、バランスを崩したソウルゲインの頭上を聳弧角が素通りする。

 

『ターゲットロック。ブラスターキャノン、ファイヤッ!』

 

そしてソウルゲインを狙っていた、メタルビースト・ソウルゲインが目標を失いたたらを踏んだ所を狙い済ましたブラスターキャノンの一撃が叩き込まれる。

 

「ギギャアアアアーーッ!?」

 

咄嗟に回避したメタルビースト・ソウルゲインだが完全に回避しきれず、ブラスターキャノンの光の中に伸ばしたままの左腕が飲み込まれ消滅する。初めてメタルビースト・ソウルゲインがインベーダー特有の耳障りな悲鳴を上げた。

 

『続けて持って行けッ! アクセルッ!』

 

「ふっ、良い距離だ、これがなッ!」

 

ステルスブーメランを喰らい、僅かにメタルビースト・ソウルゲインの姿が更に上に打ち上げられる。その隙をアクセルは見逃さず、ソウルゲインの両腕の力だけで機体を持ち上げ、カポエラの要領で回し蹴りを叩き込み、跳ね起きる動きを利用してメタルビースト・ソウルゲインを更に蹴り上げる。

 

「この切っ先、触れれば切れるぞッ!」

 

地面を蹴ったソウルゲインの姿がぶれ、メタルビースト・ソウルゲインの身体に深い切り傷が刻まれる。

 

「舞朱雀……貴様に見切れるかッ!!」

 

上下左右、それに加え斜めの動きも加わり縦横無尽の連撃がメタルビースト・ソウルゲインの身体を切り刻む。

 

「でええぃッ!!!」

 

トドメの一撃と言わんばかりに叩き込まれた上段からの一撃をメタルビースト・ソウルゲインは右腕を犠牲にして、直撃を防いだ。

 

「眼前の敵は全て打ち砕くッ! 斬艦刀疾風怒涛ッ!!!」

 

だが両腕を失ったメタルビースト・ソウルゲインが素早く体勢を立て直すことは出来ず。零式の上段からの振り下ろしがメタルビースト・ソウルゲインを逆袈裟に切り裂いた。

 

「が、ガガガアガガガ……ッ!」

 

糸が切れた人形のように動き回るメタルビースト・ソウルゲインは両腕を失い、逆袈裟に両断されたのをインベーダーの体組織が辛うじて繋げているだけで、今にも爆発しそうな勢いだった。

 

「この一撃で決める!」

 

トドメにソウルゲインが駆け出そうとした瞬間。メタルビースト・ソウルゲインの両腕の切断面から触手が伸び、雪原に埋もれているメタルビースト・アースゲイン、そしてインベーダーを突き刺し、その身体に引き寄せる。

 

「まだ再生するのか! この化け物はッ!? ええいッ! 邪魔をするなッ!」

 

『あいつを再生させるな! ここで仕留めるぞ!』

 

『判っている!!』

 

全員が見ている前でメタルビースト・ソウルゲインがインベーダーやメタルビースト・アースゲインを取り込み、決死の攻撃で与えたダメージを修復させていく。勿論イングラム達もそんな行動を隙にさせるわけには行かないと回復を妨害しようとするが、全身から伸びた触手に阻まれ、ソウルゲインとグルンガスト零式の動きは封じられ、R-SOWRDとタイプSの射撃は触手に防がれメタルビースト・ソウルゲインには届かない。

 

『くっ、不味いぞ!』

 

『これ以上進化されたら手の打ちようが無くなる』

 

戦っているうちにどんどん進化を繰り返したメタルビースト・ソウルゲイン。ここで再び進化されてはそれこそ、今度こそ勝ち目が無くなると焦りばかりが募り、攻撃に集中しすぎて防御が疎かになる。しかしそれでもメタルビースト・ソウルゲインには攻撃が届かない。

 

『これよりゲッタービームを照射する! 各員メタルビースト・ソウルゲインから離れろ! 5……4……3!』

 

エキドナからの通信が入り、攻撃に前に出ていたアクセル達が後退する。その直後空気を焼きながら放たれたゲッタービームが再生を完了させたメタルビースト・ソウルゲインの左半身を跡形も無く消し飛ばした。

 

『当たりましたか!』

 

『ああ。アクセル隊長! 今の内にトドメを!』

 

「言われるまでも無いッ!」

 

左半身を失い崩れ落ちたメタルビースト・ソウルゲインに向かって、聳弧角の一閃が振るわれメタルビースト・ソウルゲインはその場で風化するように崩れ落ちた。

 

「はぁ……はぁ……ふう、これでひと段落着いたが、気を緩めている時間はなさそうだな」

 

『ああ、修理や補給を行いたいが……急いで目的地のテスラ研に向かうべきだろうな』

 

インベーダーが強くなっている、更に言えばブラッドハウンドによって時空転移システムが破壊されている可能性が浮上した今。悠長に準備を整えている時間は無いと判断し、アクセル達はギャンランドの待つ基地へと慌てて帰還して行くのだった……雪に紛れ、紅い宝玉が逃げるようにその場から雪原の中に潜っていくのにも気付かずに……。

 

 

 

 

一方その頃。ある基地では……輸送機の出発準備が行われていた。積み込まれる2体の機体を見上げながら、作業着に身を包んだピンク色の髪の少女が不安そうな顔をして、タブレットを手にした眼鏡の青年に声を掛ける。

 

「ラージさん、本気でテスラ研に向かうつもりですか?」

 

「ええ、僕達が開発したエクサランスの試験を行うのは元々テスラ研でしたし、ここにいつまでも留まる訳にも行きませんからね」

 

「で、でもでも、また化け物が出たって……やっぱりもう少し考えるべきじゃないかな?」

 

考え直すように説得している少女の後ろから赤髪の気の強そうな少女が姿を見せて肩に手を乗せる。

 

「ミズホ、そんな事を言っていては何も進まないわよ?」

 

「フィオナさん……でも危険なのは避けるべきだと思うんです」

 

ミズホ・サイキは出発を考え直すべきだと訴えるが、フィオナ・グレーデンとラージ・モントーヤの意見は変わることは無かった。

 

「くそっ! やっぱりあいつらやりやがった!! ラージ! フィオナ! ミズホッ! 早くレデイバードに乗り込めッ!!」

 

滑走路に向かって走ってきたフィオナを似た顔立ちの青年がそう叫び声を上げる。

 

「ラウルさん!? 一体なにが起きているって言うんですかッ!?」

 

「簡単ですよ、ミズホ。軍はエクサランスの強制徴収を決めたんです」

 

「そんな!? エクサランスはまだテスト機ですよ!?」

 

「今の状況じゃそんなのお構いなしって事ね! ラージ、ミズホ! 出発準備をするわよ! あれを見れば判るでしょ!」

 

非武装のラウルを追いかけている武装した軍人と出撃準備をしているゲシュペンスト・MK-Ⅱを見ればミズホも状況のまずさを理解して、操縦室に駆け込む。

 

「それで軍人さん。貴女はどうする? 私達を拘束する?」

 

レデイバードの中にいた女性軍人に声を掛けるフィオナ。だがその目と口調は自分達を拘束しないと確信したような色を浮かべていた。

 

「……ううん。私ももうこの基地にいるのは疲れたわ。私の機体も積み込んでくれるなら協力しても良い、ここに居たんじゃ私の目的はかなわないから……」

 

「OK、どうせ私達だけじゃどうしようもならないし、貴女の機体って?」

 

「あれ」

 

無造作に指された指の先を見て、フィオナは自然にその指の先に視線を向けた。そこにはトリコロールのPTが立っていた。

 

「あれって……マジ? R-1でしょあれ?」

 

女性軍人が指差したトリコロールの機体を見てフィオナは目を見開いた。それはこの基地のエースの機体であり、異星人の脅威から地球を護った特機の1つであるSRXを構成するPTの1つだったからだ。

 

「うん。お願い出来る?」

 

「勿論! どうせこれから先私達は追われる身だし、味方は多いほうが良いからね! えっと名前は?」

 

「……ラトゥーニ、ラトゥーニ・スゥボータ」

 

光の無い曇った目で自分を名を名乗る少女にフィオナは危うい物を感じたが、化け物が闊歩する今。家族か、それとも恋人か、はたまた両方か……それらを失い復讐に走る者は何人も見てきた。この少女もそのうちの1人だと、その顔を見れば判った。だが、フィオナは何も言わず、レディバードのクレーンアームを利用して、R-1を掴み上げ、強引に格納庫に搭載する。

 

「おいおい火事場泥棒みたいなことするなよ!」

 

「違うわよ! スカウトした子の機体よ! どうせ追われる身なんだから味方は多いほうがいいでしょ! ミズホ! ラージ! ラウルが

乗り込んだわよ! 出発してッ!」

 

『了解! エンジン点火、離陸準備OKです!』

 

『ええ、では行きましょうか! フィオナ、ラウル、しっかり掴まっていてくださいよッ! 安全に離陸なんて出来ないですからね!』

 

『逃がすな! 捕らえろ!!』

 

『最悪パイロットも技術者も殺しても良い! 機体だけ回収出来れば良いのだッ!』

 

ビームライフルやM950マシンガンをかわしながら、この基地唯一の輸送機であるレディバードは天高く舞い上がった。遠ざかる基地を窓から覚めた視線で見つめながら、ラトゥー二は首から下げた凹み血塗れのドッグタグを握り締める。

 

(憎い、憎いぞ……私は全てが憎い)

 

(大丈夫、大丈夫だよ。判ってる、判ってるよ。私も憎い)

 

自分……自分達から全てを奪った世界が憎い、大切なリュウセイを殺したキョウスケが憎い。復讐する為の力――痛く苦しい、人体実験を憎悪だけでラトゥーニは乗り越えた。そして後天的な念動力者となり、R-1のパイロットとなった。その時からラトゥーニの脳内にはもう1人の存在が生まれることになった――それはかつてはリュウセイを巡って、競いそして友情を育んだ少女の声だった。

 

(……殺す、許さない、許さない、許さない、引き裂いて、磨り潰して、殺してやる)

 

脳内に響き続ける怨嗟の声。常人ならば発狂するほどの激しい憎悪と殺意をラトゥーニは受け入れ、そして己もまた復讐の徒となったのだ。だから、自分達の自己保身ばかりに走る基地を捨て、ラウル達と行く事を決めたのだ。

 

(判ってる。判ってるよ……だから私に力を貸して、マイ)

 

(お前は私、私はお前……もう私はお前の一部。お前が望むままに私は力を)

 

(そしてマイが望むままに私は戦う)

 

俯いたラトゥーニの左の瞳は禍々しい金色に染まっていた。人体実験によってラトゥーニの脳内にはR-3、そしてSRXのパイロットとして戦い、そしてキョウスケ・ナンブによって殺された「マイ・コバヤシ」の思念が宿っていた……。2人の意志は1つとなり、マイであり、ラトゥー二、そしてラトゥーニでありマイと言うべき存在へとなっていた。

 

((絶対許さない……リュウセイを殺した……お前を私は……私達は許さない、キョウスケ……ナンブッ!))

 

蒼と金色に輝くオッドアイに憎悪と殺意をその目に宿した幼き復讐者を乗せ、レデイバードはテスラ研へ向かって飛び立つのだった……

 

第14話 逃亡者へ続く

 

 




まずは1つ。石を投げないでください、いいですね? 石を投げないでくださいよ? OG2編で向こう側を書くと決めた段階で、闇落ちラトちゃんは出す予定でした。リュウセイをアインスケに殺されてますからね。ハイライトOFFになるのは確定ルートだと思うんです、更に人体実験によってマイの思念を脳内に宿した事で念動力に覚醒し、R-1のパイロットになったアヴェンジャーラトゥーニが爆誕することになりました。マイであり、ラトゥーニ、ラトゥーニでありマイと言う1つの身体に2つの精神と言う状態になっております。この復讐者ラトちゃんはOG2編ではでませんが……うん、流れの中で夢とかで、ラトマイに干渉するかもしれませんね、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話 逃亡者

第14話 逃亡者

 

 

メタルビースト・ソウルゲイン、メタルビースト・アースゲインを退けた武蔵達は機体の修理もそこそこに、基地を出てアメリカの大地を進んでいた。

 

「それでアクセルさん。次の目的地ってどこなんですか?」

 

「テスラ研に向かう前に保護できる仲間を回収する予定としか聞いていない」

 

「やっぱり仲間が増えると頼もしいですよねぇ」

 

「そうだな、今回のインベーダーとの戦いで判った。戦うならば倒しきらなければならんとな」

 

「進化されると厄介ですからね」

 

普通に話をしている武蔵とアクセルだが、2人とも逆立ちして腕立て伏せをしている最中であり、上半身裸で額から汗を滴り流していた。

 

「アクセル隊長、武蔵。レモン……」

 

エキドナが格納庫に入って来たが武蔵とアクセルを見ると高速で回れ右をして扉を閉めた。

 

「今誰か呼びませんでした?」

 

「気のせいだろう?」

 

トレーニングに集中していた2人はエキドナの登場に気づく事無く、200回の腕立て伏せを終えるとタオルで汗を拭い、スポーツドリンクを口にする。

 

「それで仲間って言うのはどんな人なんですか?」

 

「エキドナが乗っているプロトアンジュルグの正式採用機アンジュルグのパイロットで女だ。エキドナと同じで要領とかは悪いが、それなりに戦力としては使える」

 

「いやいや、仲間を使えるとか言うのはどうかと思いますよ?」

 

「……悪いな、今朝一緒に飯を食っていた奴が数時間後には死んでるなんてざらでな、使えるかどうかで判断する癖があるんだ」

 

エキドナ達が人造人間であると言うことを隠しておきたいアクセルはぶっきらぼうにそう言うと、上着を羽織り調整中のソウルゲインの元へ足を向ける。

 

「……なんともなあ、難しいもんだ」

 

しかし武蔵は既にエキドナ達が人造人間だと言う事を知っており、それを隠そうとしているアクセル達に悪いなと思いながらスポーツドリンクを咥えながら格納庫を出る。

 

「あれ? エキドナさん? どうしました?」

 

格納庫の外の壁に背中を預けて座っていたエキドナにそう尋ねるとエキドナは素早く立ち上がり、手をぶんぶんと左右で振る。

 

「あ、あ、いやいや、なんでもない。大丈夫、うん、大丈夫。なんでもない」

 

スタスタと言う音が聞こえてきそうな勢いで歩き去るエキドナの背中に呆然と武蔵は手を伸ばす。

 

「なんかあったんじゃないのか……」

 

「そうね、エキドナには武蔵とアクセルをよんできてって頼んだんだけどね」

 

「うおっ!? れ、レモンさん?」

 

「はぁーい。アクセルはまだトレーニング中?」

 

「あー終わったからソウルゲインの微調整をするって言ってましたよ?」

 

「そう、じゃあ私はアクセルを呼んでから行くからブリーフィングルームに先に行っててね?」

 

レモンの言葉に判りましたと返事を返し、ブリーフィングルームに歩いていく武蔵を見送りレモンはにまあっと楽しそうに笑う。

 

「やだやだ♪ エキドナが乙女みたいな反応をして……やっぱりこれ自我に目覚めてるわよね!? ラミアも合流したら武蔵と組ませてみようかしら? あ、でもそうするとエキドナが嫉妬するかしら? そうなったらもっと自我に芽生えるわよね!」

 

「……お前、どうした? 頭でも打ったかレモン?」

 

自分の娘の成長が嬉しくて仕方ないと言わんばかりに顔を緩めていたレモン。だが背後から聞こえてきたアクセルの声に油の切れたブリキ人形のような動きで振り返る。

 

「……見た?」

 

「見た」

 

哀れな物を見るような目をしているアクセルを見て、レモンは小さく溜め息をはき、服の中から注射器を取り出した。

 

「……忘れてくれるかしら?」

 

「判った。判ったからその怪しげな色の薬が入った注射器を手放せ」

 

やると言ったらレモンはやる、アクセルはそれを知っているから両手を上げて降伏宣言をした。

 

「それよりもだ、あんまり寄り道をしているとヴィンデルが怒るぞ」

 

「そうね、それじゃあ行きましょうか」

 

しれっとした顔で歩きだすレモンを見てアクセルは溜め息を1つ吐いた後。レモンと共にブリーフィングルームに足を向けるのだった……。

 

「や、やはり私は壊れて……」

 

なおエキドナはさっきの上半身裸の武蔵を見て、筋肉フェチに目覚めかけていたのか早鐘を打つ己の心臓に手を当てて、壊れたのかと不安そうに呟いていたのだった……。

 

 

 

 

ブリーフィングルームでの会議の中。武蔵が手を上げて質問を口にした。

 

「時流エンジン? なんですかそれ?」

 

次の目的……それは先日基地から脱走したと言う時流エンジン開発チームとの合流だった。

 

「時流エンジンって言うのはね。時の流れでタービンを回して無限の動力を得るって言うエンジンよ。つまり、ゲッター炉心の仲間ね」

 

「なるほど! オイラには判らないって事が判りましたッ!」

 

弾ける笑顔の武蔵に苦笑するレモン達だが、エキドナは口を押さえてんんっと唸っていた。

 

「どうしました?」

 

「あ、いや、なんでもない。うん、大丈夫」

 

エキドナの口調はぶれっぶれになっているが、本人が大丈夫と言うのは武蔵はそれ以上あえて突っ込まなかった。

 

「時流エンジン開発チームは「ラージ・モントーヤ」「ミズホ・サイキ」「フィオナ・グレーデン」「ラウル・グレーデン」の4人だ。噂では時流エンジンを搭載した機体も2機開発していると言う。メカニックが2人、パイロットを2人手にする機会を逃すわけには行かない。連邦およびインベーダー、アインストに補足される前に発見したい」

 

「確保すると言うが、協力すると言う保障は無いだろう。断られたらどうするつもりだ?」

 

最もな意見を口にするイングラム。だがその通りである、開発チームも追われている身だ。同じく追われているシャドウミラーに合流しろと言われても、追われるリスクが高まるだけだ。断られる可能性は十分にある。

 

「アメリカはインベーダーの勢力圏、単独で逃げることなど不可能に近いです。互いに打算はあれど、協力関係は築けるでしょう」

 

だが単独で逃げれば死ぬと判っていれば、リスクを承知で協力する可能性は十分にあると言い切るヴィンデル。それは今の武蔵達とヴィンデル達と同じ状況だったが、武蔵からすればそういうのは好きではなく、思いっきり顔を顰めながら口を開いた。

 

「オイラ、そう言うのはあんまり好きじゃないですね。脅してるみたいで」

 

武蔵の言葉はこの場にいる全員にとっては甘い言葉だった。自体は深刻で、好きとか嫌いで行動しているだけの余裕は既にないのだ。

 

「そうだとしても、我々は生き残る為に行動しなければならない。その為の手段は選んではいられないのだ、そこは理解して欲しい」

 

「……はい」

 

「そう気を落とさなくても良いだろう武蔵。開発チームも死にたくないのは同じだ、合流できるとなれば喜んで合流してくる可能性はある」

 

「そ、そうですよね。エキドナさん」

 

エキドナの言葉にヴィンデルとアクセルは一瞬驚いた表情を浮かべた。言われた事しか出来ない筈のエキドナが武蔵を慰めるような行動に出た。それを初めて目の前にした2人は驚き、レモンはエキドナの成長に笑みを浮かべた。

 

「そうね、エキドナの言う通りよ。味方は多いほうがいい、素直に協力してくれる可能性はあるわ。脱走した基地がここ「オレゴン基地」、予想される行路はこうなるわ」

 

モニターの地図に行路予想を描くレモン。その進路は奇しくもギャンランドの物と重なっていた。

 

「開発チームの目的地もテスラ研と言うことか」

 

「ええ、テスラ研でテストを行う予定だったけど、足止めされてたみたいだからね。だから私達と目的地は一緒……ただ問題は、ここ」

 

アイダホ・ネバダ・モンタナに印を打ったレモンは真剣な表情を浮かべる。

 

「ここで巨大なインベーダー反応を感知――おそらくクロガネがどこかにいる」

 

インベーダーに乗っ取られた人類の希望――クロガネが近くに待機している。その言葉にブリーフィングルームに緊張が広がる。

 

「なるほど、それは厳しいな」

 

「進路的に外す訳にも行かないしな」

 

アラスカ州からコロラドを目指しているギャンランドは今ワシントン上空だ。数時間もしないうちにアイダホに差し掛かるだろう――時流エンジン開発チームと合流する可能性が高いのはアイダホ州に差し掛かる頃合だろう。

 

「一応こっちからも文章通信は送っておくわ。向こうがどうでてくるかはわからないけどね……」

 

「向こうも馬鹿でなければ、素直に協力する……ッ! ちいっ、休んでいる時間もないか!」

 

ギャンランドに鳴り響く警報。それはギャンランドがインベーダーに補足された証であり、レーダーに無数に浮かぶ熱源反応にブリーフィングルームにいた全員の顔が緊張に強張るのだった……。

 

 

 

 

 

一方オレゴン基地を脱出したラウル一行はレモンの推測通り、アイダホ州上空を経由してコロラドを目指していた。

 

「さてと、進路設定を済ませた所で今の僕達の状況ですが……食糧2日分、それと補給1回分の資材と、小破を直すだけの部材しかありません」

 

ラージからの絶望的な報告にラウル達の顔が曇るが、突然の脱出騒動で1回分の補給と応急処置が出来るだけの資材。そして食糧2日分を持ち逃げ出来ただけでも御の字だ。

 

「そうなると、やっぱりどこかの基地へ向かうしかないですかね?」

 

「……いや、それは難しいと思うわよ? もうあたし達は反逆者、ヘタに連邦の基地に近づけば……ドカンよ」

 

拘束されそうになったのを振り切って脱出して来たのだ。もう連邦にとっては反逆者に過ぎない、ヘタに基地に近づけば問答無用で打ち落とされる可能性は高かった。

 

「で、でもそれはオレゴン基地だけで他の基地は違うかもしれないですよ」

 

まだ希望を持ちたいのか、他の基地なら保護してくれるかもしれないというミズホの意見をラトゥーニが両断した。

 

「ううん、もう駄目。連邦軍は試作機強奪犯として貴女達を撃破することを決定した」

 

通信機を聞いていたラトゥーニの言葉にミズホの顔が絶望の色に染まる。

 

「やっぱり多少無茶をしても、直接テスラ研に向かうべきだったなあ……」

 

「多少の無茶所じゃ無いですよラウル。燃料切れで墜落するつもりですか?」

 

オレゴンに向かったのは輸送機の燃料切れが原因だった。あのまま強行していればアイダホで墜落していたと言うラージにラウルは肩を竦める。

 

「しかしまぁ……大変な事になってるよな。どこもかしこも化け物だらけ……イージス計画失敗はシャドウミラーが原因って聞くけどさ……それって実際どうなんだ? ラトゥーニ?」

 

ラウルの言葉にラトゥーニは首を左右に振り、化け物出現の事実を口にした。

 

「……イージスシステム起動と同時に化け物が溢れかえった。根底からイージス計画は破綻してたんだと思う」

 

「なるほど、責任逃れと言うことですか……となれば、やはり連邦は信用出来ないですね、口を開けばシャドウミラーシャドウミラーですしね」

 

「まぁ、英雄部隊だしね。正直中継で見たカーウァイ・ラウ少将の処刑は正気かと思ったわよ」

 

異星人襲来の際に先頭に立ったシャドウミラー隊の隊長を処刑……それは連邦が何かを隠そうとしていると言う都市伝説の信憑性を爆発に高めた。しかし良く考えれば、シャドウミラーが反逆したのはイージスシステムの危険性を理解していたからだと今になれば判る。

 

「さて、ここで朗報です。ギャンランドから文章通信が入っていますがどうしますか?」

 

「ギャンランドって、シャドウミラーの旗艦じゃない!?」

 

「マジか、近くに居るのか?」

 

「ええ、目的地は同じテスラ研ですし……正直僕はシャドウミラーの技術顧問のレモン・ブロウニングとは面会したかったですが、その時には既に連邦に抑えられてましたし……生き残る為にはギャンランドと合流するべきだと判断しますが……どうします?」

 

一応体裁として尋ねたラージ。だがこのまま連邦に追われ、化け物の巣でも追い込まれたら死はまのがれない。全員がシャドウミラーと合流するべきだと考えていた。

 

「俺はシャドウミラーと合流するべきだと思う。どうせこのままだったらやってもない反逆罪を押し付けられて囚人だぜ? それなら、シャドウミラーと居た方がいい」

 

「そ、そうですね……向こうは話も聞かないで撃って来ましたしね。話を聞いてくれる可能性がある方が良いですよね?」

 

「ええ、あたしも賛成。ラトゥーニは?」

 

「……私はどっちでも良い、ラウル達に任せる」

 

ラウル達に任せると言ったラトゥーニだが、突如その顔を険しくさせ立ち上がる。

 

「どうかした?」

 

「来る……」

 

「来る? それは……ロックオン警報ッ!? ラウル!」

 

「おう! ラージ、ミズホッ! 自動操縦解除! マニュアル操縦に切り替えてくれ!」

 

ラージとミズホが必死にコンソールを操作し、自動操縦からマニュアル操縦に切り替わった所をラウルが即座に機体を反転させる。その直後に進路を焼き払った熱線にラウル達の顔色が変わった。

 

「今のは……どうみても戦艦級の主砲よね?」

 

「ええ、間違いないですね。そして連邦軍に今や戦艦は無い……つまりそれが何を意味するか……言うまでも無いですね」

 

モニターやレーダーを見なくても今何が迫ってきているか、ラウル達には判っていた。

 

「ラージ、文章通信先に行路データとSOS通信。進路をそっちへ向けるッ!」

 

「逃げ切れる確率が低ければ、そっちに頼るしかありませんねッ!」

 

ミサイルや主砲が放たれ、その辛うじて回避を続けるレデイバードだが、その船体は大きく揺られる。

 

「これ不味いわよ。ミズホ、今どうなってるの!?」

 

「索敵結果……出ましたッ! く、クロガネです!」

 

クロガネ……それは最初に出現した化け物の群れに特攻し消え去った筈のスペースノア級。それはラウル達がインベーダーに補足されたと言う事を示していた……。

 

メタルビースト・クロガネの船体を埋め尽くしている不気味な瞳がぎょろぎょろと動き回り、雲の間に紛れて逃げていこうとするレディバードを逃がさないと言わんばかりに無数の瞳で睨みつける。

 

「ギャアアアアーーーッ!!」

 

「「「「シャアアアーーーッ!!」」」」

 

船体から響くおぞましい咆哮に呼応するように無数のインベーダーが解放されたままのハッチから飛び立ち、その後を翼が生えたメタルビースト・ゲシュペンストが続いて出撃していく。

 

「……シャアア」

 

唸り声を上げメタルビースト・クロガネは獲物を追詰めるようにゆっくりとその船体を進ませる。

 

「「「……」」」

 

そして闇に満ちたクロガネの格納庫の中では、6つの不気味な複眼がゆっくりと開き始めているのだった……。

 

 

第15話 悪魔王の名を冠した戦神 その1へ続く。

 

 

 




ここでメタルビースト・クロガネ出現です。勿論その内部には何かやベイ奴がいると言う感じで今回は区切りがいいので話を切りたいと思います。次回はラウル、フィオナ、ラトゥーニの3人VSメタルビースト・ゲシュペンスト、インベーダー戦から入って行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。 


そして今回更新に踏み切った理由ですが、活動報告のノワールGラスト20連ガチャをご覧ください。

理由は大体そこにありますし、触媒戦法を間違えたのか、色々思いながら今回の臨時更新をさせていただきました。

後これは関係ない話ですけど

マシンセルでブラックゲッターがノワールG進化してもおかしくないよね?(目ぐるぐる)です


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話 悪魔王の名を冠した戦神 その1

第15話 悪魔王の名を冠した戦神 その1

 

レディバードを背にして立つトリコロールカラーのPTと右腕が巨大なクローと一体化したオレンジ色の機体をR-1カスタムのコックピットからラトゥー二は観察する。

 

(フレームを変更する事でどんな戦況にも対応可能な万能型人型機動兵器エクサランス……か)

 

あの基地の司令が目の色を変えて確保したがった機体だが、その万能さも近接戦闘特化のフレームさえなければ、万能の名に偽りありだろう。

 

『今ギャンランドから通信がありました。ギャンランドが到着するまで最短で8分掛かるそうです』

 

「最短で8分って事は向こうも戦闘中って事ね? ラージ」

 

『はい、あの化け物……インベーダーと呼称しているそうですが、それの群れと戦闘中との事。先に1機だけ応援に送ってくれたそうですが……それも4分ほど掛かるでしょう』

 

「1機だけって……いや、応援を送ってくれるだけでありがたいよな。贅沢はいえないか、フィオナ、ラトゥーニ。応援が来るまで何とか持ち堪えるぞ」

 

「判ってるわよ、でも正直……どこまで耐えれるかな……」

 

「気持ちで負けたら終わり。まずは気持ちで負けない事」

 

地響きを立てて着地する化け物――インベーダーとやらに寄生されたゲシュペンストMK-Ⅱ6体を見て弱気なことを言うフィオナにラトゥーニが声を掛ける。

 

「センターは私がやる。フィオナとラウルはバックアップをしてくれればいい」

 

指示を出しながらペダルを踏み込みバーニアを噴かせるラトゥーニ。

 

「いや、フォローって言ってもストライカーには飛び道具はあんまりないんだぜ?」

 

「1人で大丈夫なの?」

 

「……良い。アレ相手は慣れてる。それより、2人はレデイバードを守って、もうすぐ敵が来る」

 

「さっきもレーダーが探知するより早く気付いてたよな? それって何か「話をしてる時間は無い」

 

ラウルの問いかけを強引に切り上げると同時にR-1カスタムの背部バーニアが火を噴き、止める間もなくメタルビースト・ゲシュペンストにR-1カスタムは向かって行くのだった。

 

「……遅い」

 

左右から伸びる触手をバックステップでかわし、太腿部にマウントしてあるコールドメタルナイフで触手を地面に縫いつけ、2機のメタルビースト・ゲシュペンストの動きを短時間だが封じ、その間に腰にマウントしてあるブレードレールガンを両手に持ち、ビームソードを手に切りかかってきたメタルビースト・ゲシュペンストを逆に引き裂き、その銃口をコックピット部に突き刺し引き金を引く。

 

「……この程度で止まらないのは判っている」

 

生身のパイロットが乗っているのならば、コックピットを破壊されればその動きを止めるだろう。だが、インベーダーに寄生されたゲシュペンストはその程度では動きを止めない。コックピット部を破壊されながらも、拳を伸ばしてくるメタルビースト・ゲシュペンスト。破損部からインベーダーが顔を出しているが、ラトゥーニは一切怯えることも恐怖することも無く右手に持っていたブレードレールガンを腰にマウントし、右手をインベーダーに向ける。

 

「念動集中……T-LINKバーストッ!!」

 

右手から放たれた指向性を持った念動力によってメタルビースト・ゲシュペンストは吹っ飛んだ。吹っ飛んだ先にいたほかのメタルビースト・ゲシュペンストを巻き込み転倒する。だがラトゥーニはそれを最後まで見ることは無く、R-1カスタムに地面を蹴らせ、背後からの一撃を回避させ、空中でのGリボルバーの乱射でメタルビースト・ゲシュペンストの頭を吹き飛ばし、再び腰のブレード・レールガンを構えさせると同時に、接近して来ようとしたメタルビースト・ゲシュペンストに向けて何度も引き金を引かせる。

 

「ギャァ!?」

 

「がぁッ!?」

 

その射撃は正確無比で的確に装甲部分ではなくインベーダーの細胞を撃ち抜く、しかも足を止めての射撃ではなく高速で後退しながら、縦横無尽に伸縮する触手をまるで背中に目があるかのように避け、反撃し続けている。その光景をエクサランスのコックピットから見ていたラウルは目を大きく開き、食い入るように見つめていた。

 

「……すげえ、これがエースかよ……」

 

「あたし達とは根底から違うわね……」

 

ラウルとフィオナも決してパイロットとしての技量が低い訳ではない。だが、ラトゥーニとは雲泥の差があった。下手に一緒に戦おうとすればそれこそラトゥーニの足を引っ張ってしまうと言う事がこの短時間で判った。

 

「しかも、俺達の方に来ないようにまでしてくれてる……」

 

「完全に足手纏いになってるわよね。あたし達……」

 

レディバードとエクサランスにインベーダーが視線を向けると頭部のバルカンで威嚇射撃をして、注意を自分に引きつける。自分達より幼い相手に守られていると言うことにフィオナもラウルも僅かに落ち込むが、そんな暇は無いとレディバードのラージから通信が入る。

 

『フィオナ、ラウル、感心している時間も、落ち込んでいる時間もないですよ。2分後に飛行型のインベーダーが降下して来ます。そちらの相手をお願いします』

 

「ストライカーで空中の相手は厄介すぎるぜ、せめてフライヤーがあれば……」

 

「ないもの強請りをしてもしょうがないわ、それに空を飛ぼうが、地面を走ろうが結果にそう大差は無いわ」

 

破壊されたゲシュペンストの身体を捨て、トカゲのような本来の姿に戻るインベーダー。威嚇を繰り返すその姿にダメージを受けた素振りは無い。

 

「そうだな、互いに喰われない様に注意しようぜ」

 

「ええ、あたし達のお相手も来たようだしね……」

 

空に現れる漆黒の影……メタルビースト・クロガネから飛び立った飛行型インベーダーの先遣隊を見て、ラウルとフィオナは気を引き締めるのだった……。

 

 

 

 

エクサランスとレディバードからメタルビースト・ゲシュペンストを引き離したラトゥーニだが、その額には既に大粒の汗がいくつも浮かんでいた。

 

『あまり無茶をするな、ラトゥーニ……』

 

「ふう……ふう……だ、大丈夫……それにエクサランスはともかく、レディバードを失う訳には行かないから」

 

ラトゥーニは生まれつきの念動力者ではない、実験の結果念動力を得た後付の念動能力者だ。死んだマイの思念が身体の中にいるから念動力を攻撃に転用出来ているが、その負担は通常の念動力者の倍……いや、数倍と言っても良いだろう。それでも念動力を使ったのはインベーダーを引き寄せる為で、唯一の移動手段でもあるレディバードを失わない為の物でもあった。

 

『それは判るが……これ以上のT-LINKバーストの使用は危険だ、勿論T-LINKナックルもな、T-LINKリッパーや、通常武器を使え』

 

「……」

 

マイの言葉に不服そうなラトゥーニだが、次のマイの言葉で頷いた。

 

『私達の敵はこいつらじゃない、仇を打つ前に力尽きるのか?』

 

「……違う」

 

『なら念動力を使うな、お前ならそれを使わなくても勝てる』

 

マイとラトゥーニの敵はインベーダーなどではないのだ、倒すべき敵は……命を引き換えにしても殺すべき相手はベーオルフ……キョウスケ・ナンブだ。こんな所で力尽きている場合ではないのだ。

 

「ラウル! トドメは任せるわよ!」

 

「おうッ!!」

 

フィオナのエクサランスのクラッシャーアームが展開し、その中央のクリスタル状のパーツから放たれた光線がインベーダーの翼を撃ちぬいた、翼を失い高度が落ちたインベーダーに向かってラウルのエクサランスが飛び掛る。

 

「間合いを詰めるッ!!!」

 

閉じた状態のクラッシャーアームを何度もインベーダーを殴りつけ、その細胞を容赦なく削る。その光景を見てラトゥーニは眉を細めた。

 

(再生していない?)

 

インベーダーが脅威なのはその回復力となんにでも寄生するその能力だ。その性質上打撃武器などの効果は極めて薄く、高出力のビームで焼き払う、ミサイルで焼き尽くすと言うのが有効な手段である。だがエクサランスの攻撃を受けたインベーダーは再生しておらず、それ所かぐったりとしているように見えた。

 

「……時流エンジン……?」

 

エクサランスとR-1カスタムの違いはその動力だ。時の流れでエネルギーを発生させる……そんな眉唾物の動力を実用化段階にまで持って行ったラージ・モントーヤとミズホ・サイキ……時流エンジンは正直未知数な所が大きい。もしかすると、インベーダーには有効な手段なのかもしれない。

 

「シャアア!!」

 

「何処を狙っているの?」

 

R-1カスタムの首を傾けさせ、視界を潰そうとしたインベーダーの触手を回避しM-13ショットガンを叩き込み、メタルビースト・ゲシュペンストの装甲を凹ませる。

 

「テレキネシスミサイル……発射ッ!!」

 

背中のコンテナから発射された念動力によって誘導されるミサイルが、メタルビースト・ゲシュペンストを飲み込む。だがこのミサイルはインベーダーを倒す為に放ったのではない、時流エンジン、そしてエクサランスがインベーダーに有効なのかどうかを見極める為に、一時引き寄せたメタルビースト・ゲシュペンストから離脱する為に撃ち込んだのだ。

 

「ギギィ……!!」

 

「シャアアッ!?」

 

ダメージが蓄積したインベーダーは味方を喰らう。そうすることでインベーダーは傷を回復させ、より強くなる。だがより強くなったとしてもゲシュペンスト・MK-Ⅱの性能を十分に引き出すことも出来ず、あくまで喰らう為に襲い掛かってくるインベーダーは大した脅威でもない。

 

「こいつでトドメだッ!!」

 

エクサランスの頭部ブレードでインベーダーを切り上げ、展開したクラッシャーアームでインベーダーを掴み上げそのパワーとビームでインベーダーを地面に叩きつけるエクサランス。確かにまだパイロットとしての技量はラトゥーニと比べて格段に劣るだろう……だがエクサランスの攻撃を受けたインベーダーは再生しない、それは間違いなくインベーダーと言う脅威に対して有効な武器だ。

 

「行くわよ、チェストスマッシャーッ!!!」

 

展開されたエクサランスの胸部から放たれた光線による薙ぎ払い、それを受けたインベーダーはまるで消しゴムで消された絵のように、その部分だけが消失し、しかも再生も出来ずどす黒い体液を流し地面にのた打ち回っている。

 

「なるほど、これか」

 

これがあの司令がエクサランスを手放す事を渋った理由だとラトゥーニは判断し、のた打ち回るインベーダー目掛けてテレキネシスミサイルを撃ち込み、ラウルとフィオナと合流する。

 

「エクサランスの攻撃がインベーダーには有効みたい。あのゲシュペンストの装甲破壊するから、トドメをお願い出来る?」

 

「OK! 任された!」

 

「あたしもOKよッ!」

 

元気良く返事を返すフィオナとラウルの姿にラトゥーニは今はいない、リュウセイと顔を見て話す事が出来ないマイの姿を思い出し、かつて3人でいたことが脳裏を過ぎりリュウセイとマイが死んだ後は浮かべることのなかった笑みを浮かべた。

 

「皆で生き残ろう」

 

「「おうッ!!」」

 

最初は打算だった。そしてそれは今も変わらない――だけどそれでもフィオナやラウル達に死んで欲しくないと復讐に狂う心でもそう思うのだった……。

 

 

 

 

 

 

レディバードのコックピットでラージは眉を顰めた。エクサランス……強いて言えば、時流エンジンを用いた攻撃がインベーダーに有効なのはラージは勿論、操縦しているフィオナ達にとっても嬉しい誤算だっただろう。現にR-1カスタムと合流してからは、インベーダーの数は確実に減っていた……だがそれにも限界が来てしまった。

 

「補助エンジンに切り替えてください、これ以上は時流エンジンをメインにすればエンジンが焼きつきますッ!」

 

『くそッ! もう時間切れかよッ!』

 

『不味いわね、これはッ!』

 

あくまで時流エンジンは開発段階の試作エンジンだ。それをフルパワーで使用していればどこかでガタが来る。本来はサブのプラズマジェネレーターでフォローしつつ使用するのが今の時流エンジンの運用方法になる。しかしそれではインベーダーに有効打撃にはならないと時流エンジンの出力を上げた。いや上げてしまった……その事でエンジンは焼きつきを起こしかけていた。

 

「ラージさん、でもここで時流エンジンの出力を下げたらインベーダーは倒せませんよ!?」

 

「オーバーヒートして活動停止したら、それこそ終わりです。それに……もうすぐシャドウミラーの援軍が来る筈。僕達はそれを信じるしかないんです」

 

4分ほどで到着する。その言葉を信じたからこその時流エンジンのフルパワーだった……ラージの計算では5分はフルパワーで活動出来る計算だったが、それよりも早くエクサランスが限界を迎えてしまった。

 

『ラージ、もう1度フルパワーで回転させるには何分いる?』

 

「……5分……いや10分は必要です。元々試作機でまだテスト段階でフルパワーなんて使う前提ではなかったんです」

 

泣き言を言うつもりはなかった。それでも、言わざるを得なかった。これ以上フルパワーで動かせばエンジンが止まる、そうなれば、動かない機体を2機も守りながらはエースと言われるラトゥーニであっても無理だろう。

 

「ミズホ。ギャンランドの反応はありますか? いえ、もしくはPTでも構いません」

 

「い、いえ。まだ反応はありません……」

 

もうすぐ4分が経過しようとしていた。それでも応援の影は無い、もしやここに辿り着く前にインベーダーに撃墜されてしまったのかと言う考えが脳裏を過ぎった時、凄まじい振動が周囲を襲った。

 

「じ、地震ですか!? このタイミングで!」

 

「きゃあっ!?」

 

その凄まじい振動に耐え切れずミズホは勿論運動神経の悪いラージも立っていられず、レディバードのコックピットの中に倒れる。

 

『うおおっ!? 姿勢が維持出来ないッ!』

 

『ちょっ、ちょっとこの地震は大きいなんてもんじゃないわよッ!?』

 

『不味いッ!? フィオナ危ないッ!?』

 

そして人が立っていられないほどの大地震にエクサランスやR-1カスタムが耐え切れる訳が無く、その場に膝をついた。インベーダーが隙だらけのエクサランスにその牙を突き立てようとした時。大地が割れ、そこから現れたドリルがインベーダーを貫き、その身体を細切れの肉片へと変える。そして大地を砕きながらドリルの先に現れたのは眩いまでの蒼い装甲――大地を砕き地震を起こしながら円錐状の頭部パーツが姿を見せた。

 

「と、特機!? これがシャドウミラーの応援ッ!?」

 

応援が特機などと想像しているわけが無い、しかも地震を起こすほどのパワーを持っているなんて夢にも思っていないラージは驚愕に声を上げたが、それを上回る驚愕と衝撃をラージ達は受ける事となる。完全にその特機が姿を現す前にインベーダー達が触手を伸ばした、いかに特機とは言え、自由に動けないところに触手の集中砲火を受ければ少なくないダメージを受ける。ラージ達はそう考えていた……だがそれは蒼い特機……「ゲッターライガー」を知らないからこそ頭を過ぎった事だった。そして武蔵にとって、この程度の速度で迫るインベーダーの触手などそれこそ目を瞑っていても避けれるほどに鈍重な物だったのだ。

 

『オープンゲットォッ!!!!』

 

青年の声が響くと蒼い特機は自らその身体を爆発させた。ラウル達には少なくともそう見えた……だがそれはすぐに違うのだと判った。

 

「ぶ、分離した!?」

 

「あ、あんな特機があるのか!?」

 

80m近い特機は自ら分離し、3つの戦闘機となりインベーダーの触手をかわす。そして機首を反転させ、インベーダーへと突っ込んでいく。

 

『チェンジッ!! ドォォラゴォォンッ!!!!』

 

赤・青・黄色の順番で追突したと思った瞬間。戦闘機は一瞬で別の特機へとその姿を変えた。

 

「か、可変合体式の特機!?」

 

「信じられない……あんな事を可能にするだけの動力をどうやって確保しているんですか……」

 

メカニックであるミズホは目の前の光景に目を見開いた。特機と言う段階で機体の各所には複数の繊細な部品が多くある、そんな特機が変形するだけでも大変なことなのに、それが更に分離し、別の形態に変形する。そんな事はミズホの常識ではありえない事だった。

そしてエンジニアのラージも驚愕を隠せないでいた。80m近い特機を稼動させるのに必要なエネルギー、そして地震と思わせるほどの移動の振動……そして、

 

『くたばれメタルビースト共ッ!! ゲッタァアアッ!! ビィィイイイムッ!!!!』

 

インベーダーを焼き払い、回復すらも許さない大出力のビーム。可変、合体ならまだ判る。理論的には限りなく不可能に近くても、不可能に近いというだけで出来ない訳ではない。現に、グルンガスト参式と言う実例があるのだから、可変、合体が不可能ではないという事は知っていた。しかしあれだけの特機の動かすだけの出力を得れるエンジン、そしてそのフレーム……それら全てがラージの理解を超えていた。

 

『どっせーいっ! あんたらが時流エンジンの開発チームで良いんだよな! 助けに来たぜッ!!!』

 

通信ではなくスピーカーから響く大きな声。それは普段なら五月蝿いと思うほどの声だったのだが、今は何故か、その大声が自分達を鼓舞し、そして助けが来たのだという安心感をラージ達に与えているのだった……。

 

 

 

第16話 悪魔王の名を冠した戦神 その2へ続く

 

 




今回は武蔵合流までで区切りがいいので話を切りたいと思います。次回はギャンランドを出発する前の武蔵から話を書いて行こうと思います。その後はラウル達とゲッターでインベーダーとの戦い、そしてギャンランドの合流、メタルビースト・クロガネの出現までを書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話 悪魔王の名を冠した戦神 その2

第16話 悪魔王の名を冠した戦神 その2

 

遠くに見えるメタルビースト・クロガネ。そして無数のインベーダーに、メタルビースト・ゲシュペンストに囲まれた輸送機とそれを守っている3体の機体を見て武蔵はポセイドン号の中で安堵の溜め息を吐いていた。

 

「ふー、間に合って良かったぜ」

 

レディバードからの救援信号を受けてギャンランドはすぐにレディバードに向かっていたが、メタルビースト・クロガネから出撃した飛行型インベーダーに囲まれ、動きを完全に制限されてしまった。

 

「武蔵、先に時流エンジンチームに合流して」

 

「ええッ! それ、大丈夫なんですか!?」

 

プロト・アンジュルグ、R-SOWRD、ゲシュペンスト・タイプS、そしてゲッターD2と飛行出来る戦力はこれだけだ。単独で飛行出来ない参式、零式、そしてソウルゲインはギャンランドの上にゲッターD2が運ぶ事で戦闘出来ていたが、その変わりにギャンランドの速度は著しく制限されてしまっていた。そんな中でゲッターD2が離脱すれば更に劣勢に追い込まれるのは明らかだった。

 

『時流エンジン開発チームと合流出来なきゃ意味ないわ! それにこれだけの面子がいるから大丈夫。先に合流して守ってあげて』

 

『そう言う訳だ。それに、お前がいないくらいでどうこうなりはしない』

 

『時流エンジン開発チームと合流出来なければ、この戦いも全て無意味になる。行ってくれ』

 

アクセル達の言葉を聞き、それでも武蔵は僅かに躊躇いが残る。

 

『俺達は問題ない、このインベーダーは弱い。こいつら程度に遅れは取りはしない』

 

『あの時のインベーダーの方がよっぽど強かった。だから心配ない』

 

「……判りました、先に時流エンジン開発チームと合流します」

 

イングラムとカーウァイの言葉を聞いて、やっと武蔵はギャンランドから離脱し、時流エンジン開発チームのいるレディバードの方に向かったのだ。だがやはりと言うか、この世界のインベーダーはゲッター線に飢えていることもあり、執拗に攻撃を受けるのでライガーで地中を進んでこなければ、ここまで早く合流は出来なかっただろう。

 

「R-1……か」

 

エクサランスという機体がいるのは聞いていたが、まさかそこにR-1がいるとは思っていなかった武蔵は少し驚いた。この世界のリュウセイは既に死んでいると聞いていたが、それでもR-1が動いているのを見ると懐かしい気持ちになるのはしょうがない事だった。

 

『あ、あんたがシャドウミラーからの応援か!?』

 

「おうよ、良く踏ん張ったな。後はオイラとゲッターロボに任せてくれッ! あんた達はその輸送機を守ってくれれば良い!」

 

今までエクサランスたちを狙っていたインベーダーは今はそちらに目もくれない。ゲッター線が極めて少ないこの世界でゲッター線を豊潤に内包したゲッターロボはインベーダーにとって格好の餌だ。ここに武蔵とゲッターがいるだけで必然的にインベーダーを誘き寄せる。

 

『ひ、1人で「オラァッ!!!」……え、すご……』

 

ダブルトマホークの一振りで飛びかかったインベーダーを纏めて消滅させる光景を見て、1人では無理だと言おうとしたフィオナは息を呑んだ。エクサランスとは……いや、フィオナ達が知るどんな特機よりもゲッターロボのパワーは凄まじかった。

 

「インベーダー退治の専門家のオイラに任せておきな! 行くぜッ! ゲッタァーバトルウィングッ!!!」

 

音を立ててゲッターD2の背中に蝙蝠を思わせる翼が現れ、70mを遥かに越える特機が浮かび上がり、全身をゲッター線の光が包みこんだ。その瞬間、ゲッターD2の姿はラウル達の視界から音も無く消えさるのだった……。

 

 

 

 

 

ラウル達は目の前の光景を最初信じられなかった。目の前にいた70mを越える特機が音も無く消えたと思った瞬間、空中に翡翠色の光が縦横無尽に駆け回り、その光に触れたインベーダーは一瞬で跡形も無く切り刻まれる。しかも再生する事無く消滅するのを見て更に目を見開いた。

 

「すげ……なんだよ。こんな特機がいたのかよ……」

 

「……シャドウミラーの秘密兵器なのかしら?」

 

呆然とした様子で呟くラウルとフィオナの声を聞きながら、ラトゥーニの視線は鋭い物になっていた。それはゲッターロボが憎いと言う訳では無い、そのありえない性能を見ての物だった。

 

(違う、あれは私達の技術ではない)

 

外見は確かに均整の取れたシルエットをしている。だが、装甲を良く見ると不恰好になっている部分もある、更に言えばボルトやナットが露出している部分もあり、それは新西暦の技術を考えればありえないほどにずさんな施工技術だった。

 

『スピンカッタアアーーッ!!!』

 

『ギギギ……ギギャアアアアアアーーーッ!?』

 

空中から突然現れたと思えば、両腕の側面のチェーンソーでメタルビースト・ゲシュペンストを切り裂きながら押さえつけ、オイルやインベーダーの体液でその真紅の装甲を染め上げる光景は凄惨な殺人現場を連想させる。だがラトゥーニが不思議に感じたのはそこではなかった。

 

(何故叫ぶ必要がある?)

 

あの機体には通信機の類が積んでいないのかもしれない。だからスピーカーで周囲に響くような大声で喋っていた……そう仮定すればあの機体に使われている技術は最新の物ではない。むしろ旧式の物なのかもしれない……考えれば考えるほどラトゥーニにとってゲッターロボと言う機体は謎の存在に見えた。それに彼女にはどうしても引っかかることが合った。

 

【インベーダー退治の専門家】

 

あの機体のパイロットはそう言ったのだ。その生体を理解出来ず何百人も喰われた、ありとあらゆる軍事基地が壊滅的な打撃を受けてやっと、やっと目玉を潰せば徐々に弱体化するということが判明したのだ。だがそれには連邦の戦力の3割と引き換えに得た情報だった……

 

「貴方は何者なの……?」

 

エクサランスも確かにインベーダーに有効打撃を与えていた。だがゲッターロボはそれを遥かに上回っていた、インベーダー退治の専門家……その名の通りインベーダーはゲッターロボに触れれば蒸発するように消えるか、それとも巨大な戦斧に引き裂かれて消滅するか、ビームで焼き払われるかのいずれかだ。PTとも特機とも違う技術で作られているゲッターロボにラトゥーニは驚愕と共に恐怖を感じていた。だがそれでもその口元は冷ややかな笑みが浮かんでいた――それはリュウセイの仇を討つ為に利用出来る存在を見つけたと言わんばかりに歪み切った嘲笑なのだった……。

 

 

 

 

 

 

レディバードのコックピットにいたラージは信じられないと繰り返し呟いていた。

 

「す、スペースノア級の倍近い出力を記録している……そんな信じられない、一体何を動力にして、いや、それだけの出力に耐え切れる素材なんて……」

 

本来エクサランスの稼動データを取るはずの観測機は今や全てゲッターロボに向けられているが、その全てが殆ど役立たずになっていた。テスト機の分析用の観測機を多数積んでいるレディバードの観測機が観測不能になる……そのありえない現象にラージは興奮を隠せないでいた。

 

「あの機体のエンジンを分析出来れば、時流エンジンは……完「ラージさんッ!!」み、ミズホ? どうしたんですか」

 

「さっきから何回も呼んでます!」

 

興奮しきっていてミズホに呼ばれていた事に今気付いたと言わんばかりにラージはその目を見開いた。

 

「すいません、つい……」

 

未知の機体、そしてその出力とパワーにラージは完全に飲まれていた。あれを理解出来れば、時流エンジンは完成する。マッドな部分のあるラージはその好奇心を抑え切れなかったのだ。だがミズホはそれ所ではなかった、怒り心頭という様子でラージを突き飛ばし、レディバードの操縦席に腰掛ける。

 

「ああ、待ってください! 今記録中で「それ所じゃありません!!」

 

観測機をOFFにしようとするミズホを見て、慌てて止めに入るラージだがミズホに睨まれて言葉に詰まった。

 

「クロガネがこの空域に侵入してきます! 繰り返します、クロガネがこの空域に侵入して来ます」

 

「ク、クロガネ!? そんなまだ時間が……」

 

ミズホの言葉を聞いて、慌ててレーダーを確認するラージ。すると確かにクロガネがこの空域に接近して来ている事は明らかだった。

 

「高エネルギー反応感知! クロガネの主砲が発射されます! 皆さん1度レディーバードに帰還……『ゲッタァアアアーーービィィィイイイムッ!!!!!!!!』

 

ミズホの声を遮る武蔵の雄叫び、ゲッターD2の腹部から放たれた高出力の光線がレディバードを狙ったクロガネの主砲と空中でぶつかりあう。

 

『む、無茶だ! 戦艦の主砲と力比べなんてッ!? 死ぬぞッ! 無茶は止めるんだッ!』

 

『死んじゃうわよッ!!』

 

ラウルとフィオナが無茶だと止めろと叫ぶ中。1つだけゲッターロボの出力を記録していた観測機が警報を鳴らした。

 

「そ、そんな……クロガネの出力を2倍……いや、これは6倍近い出力だ!?」

 

それはスペースノア級を遥かに上回るエネルギー反応であった。そんな出力を出せる特機なんてありえないとラージはこの時ばかりは興奮ではなく、恐怖した。それは目の前で弾け飛ぶ観測機を見て、こんな物を人間が作れる訳が無いと感じたのだ。

 

『フルパワーだッ!!! ぶち抜けぇッ!!!』

 

『ぎ、ギギャアアアアアアーーーーッ!?』

 

クロガネの主砲を貫き、そのままクロガネの艦首に直撃したゲッタービーム――その放出の余波なのか、全身から翡翠色の光を放つゲッターロボの姿は完全にラージ達の理解を超えていた。こんな機体がおいそれと開発できる訳が無い……機械である筈なのに、ラージ達にはその蝙蝠を思わせる翼も相まってゲッターロボが悪魔のように見えていた。

 

「一体あれはどこからやってきたんですか……」

 

最初に考えていたシャドウミラーの秘密兵器と言う考えは既にラージの頭の中からは消えていた。爆発炎上するメタルビースト・クロガネとその痛みによって苦悶の声が響き渡る。その身の毛もよだつ雄叫びにラウル達は恐怖を隠せないでいた。

 

『……なんだよ。マジか……』

 

『信じられない……ここまでのパワーがあるなんて……本当に信じられないわ』

 

ラウルとフィオナの茫然自失という声がレディバードの中に響く。だがそれはラージもミズホも同じ気持ちだった……今まで何度も自分達の理解を超える光景を見てきたつもりだ。だが今回はそんな甘いものではなかった……今までの自分達の常識、苦しみながら築いてきた全てが崩されたように感じた。

 

『何とか間に合ったみたいね、でも状況は悪いわね』

 

『クロガネか……相手にとって不足なし! 我が斬艦刀の錆にしてくれるッ!』

 

『時間を掛けている場合では無い、速攻で決める』

 

ギャンランドが到着し、そこから様々なPTや特機が着地する。その中でレディバードの近くに着地した2体を見てラージ達は正気に戻った。

 

「ゲシュペンスト……それのタイプSですか、はは……もう何でもありですね」

 

「あっちはR-SOWRD……もう存在しない筈なのに……」

 

もう存在しない筈のR-SOWRD、そしてゲシュペンスト・タイプSを見てラージとミズホは乾いた笑い声を上げた。上げざるを得なかった、なぜならば……その2機から聞こえてきたパイロットの声が既に死人とされている人物達の声だったから。

 

『間に合ったようで何よりだ、イングラム。このまま、押し返すぞ』

 

『ああ、だが……俺達の思い通りに行くとは思えないな。嫌な予感がさっきから消えない……』

 

反逆の首謀者として処刑された筈のカーウァイ・ラウ少将の声と異星人との戦いの中でMIA……死体は確認されていないが死んだとされているイングラム・プリスケン大佐の声に……そして今もなお蝙蝠の翼を羽ばたかせ、インベーダーと戦い続けるゲッターロボを見て、助けに来てくれたはずなのに、それが死神によって現世に連れ戻された冥府の住人のように思えてしまったからだった……。

 

 

 

 

 

RーSOWRDのコックピットの中でイングラムは信じられない気持ちを隠せないでいた。

 

「……R-1なのか? まさかRシリーズまで量産していたのか?」

 

量産型SRX、3機のRシリーズの特徴を持つ廉価版の機体はエルドランドで目撃していたが、まさかR-1と瓜二つの機体を見ることになるとは想像もしていなかった。

 

(細部は少し違うな……R-1の改良機……か?)

 

頭部のセンサーや胴体回り、そして両腕の装甲が変化している事に気付き、それが装甲をオミットされているのではなく、より強化・発展している事に気付き、あのR-1がイングラムの知るR-1の改良機である事は明白だった。

 

「なるほど、世界を多く巡っているが……こんなことは初めてだな」

 

「ギャアアッ!?」

 

考え事をしている間のイングラムの手足は動き続け、今も迫ってきたインベーダーの頭部にビームライフルを突きつけ、ゲッター線を打ち込み抵抗も反撃もさせずに消滅させる。

 

『この場は私とイングラムがフォローする。アクセルとウォーダン、それと武蔵はクロガネを潰してくれ』

 

『ふっ、了解。あれだけの大物だ……異論は無い』

 

『承知ッ! ウォーダン・ユミル。参るッ!!!』

 

『……ここでぶっ潰してやるぜッ!』

 

特機であるソウルゲイン、グルンガスト零式に加えて、ゲッターD2も加われば、メタルビースト・クロガネを撃墜することは容易い。

 

『眼前の敵は全て打ち砕くッ!! ブースト・ナックルッ!!』

 

『玄武剛弾貫けぃッ!!!』

 

『ダブルトマホーク……ランサアアアーーッ!!!!』

 

零式とソウルゲインの拳を追い抜いて、ダブルトマホークの嵐がメタルビースト・クロガネを襲いエネルギーフィールドを完全に砕く、そしてがら空きの船体に零式の拳と高速回転しながら突き進むソウルゲインの拳が命中し、その船体に風穴を開ける。

 

『ギャァアアアアッ!』

 

『アクセルさん、行きますよッ!』

 

『おう! 頼むぞ、武蔵ッ!!』

 

地面を疾走するソウルゲインが跳躍し、それをドラゴンが持ち上げてメタルビースト・クロガネの上空まで運ぶ。

 

『ここで良い、次はウォーダンだ』

 

『了解ッ! 離しますよ』

 

ドラゴンがソウルゲインの手を放すとソウルゲインは頭を下にしてメタルビースト・クロガネへと急降下する。

 

『遅いッ! そんな鈍らで俺を捉えれると思うなよッ!! ぬおおおおーーーッ!!!』

 

対空砲火そしてインベーダーの触手をかわし、ブースターで更に加速したソウルゲインの踵落としがブリッジを粉砕する。

 

『この程度では回復するか、ならば……再生出来ぬほどに叩きのめすまでッ!!』

 

破壊されたブリッジが回復し、怒りの色を浮かべた黄色の瞳がソウルゲインを睨むが、アクセルはその程度に気圧されるほど甘い男ではなく、上下左右から迫る触手をかわしながらソウルゲインの拳と蹴りがメタルビースト・クロガネの装甲を粉砕していく。

 

「……すげ……いや、もう俺達の理解を超えすぎだろ……」

 

「助かった……って思って良いのよね?」

 

1度は死を覚悟したラウルとフィオナは圧倒的な攻撃力でメタルビースト・クロガネを攻撃し続けるソウルゲインに驚きを隠せないでいた。そして更にその驚きはウォーダンの攻撃によって加速する事になる。

 

『オオオオオーーーッ! 斬艦刀ッ! 一刀……両断ッ!!!!』

 

『ゴガアアアアアアーーーーッ!?!?』

 

ドラゴンによってメタルビースト・クロガネの頭上まで運ばれたグルンガスト・零式の零式斬艦刀がメタルビースト・クロガネの艦首を両断し、クロガネの最大の特徴であるエクスカリバー衝角を両断する。

 

『ちっ、流石に仕留めきれないか』

 

地響きを立てて着地したグルンガスト零式のコックピットの中でウォーダンは舌打ちする。確かに艦首エクスカリバー衝角は零式斬艦刀で両断したが、即座にインベーダーの触手が伸び落下しそうになったエクスカリバー衝角と融合し、回復しようと船体へと引き寄せる。

 

『いいや、上出来だ! エキドナッ!』

 

『はっ、コードファントムフェニックス……貫け、紅蓮の不死鳥よッ!!!』

 

『ギャアアアアーーーーッ!?』

 

だがそれをアクセル達が見逃す訳も無く、プロトアンジュルグの放った燃え盛る炎の不死鳥が結合しようとしていたインベーダーを焼き払い、エクスカリバー衝角が音を立てて今度こそ崩落した。

 

『ゲッタァビィィイイムッ!!!』

 

アクセル達がメタルビースト・クロガネの無力化を出来た理由はやはり、ゲッターD2の存在が大きかった。あちこちにゲッタービームを打ち込み、ゲッター線にインベーダーを引き寄せる事で、本来メタルビースト・クロガネを護衛するインベーダーを誘き寄せることに成功していたのが大きい。

 

「落ち着いて処理をしろ、インベーダーの結合が緩んだ所を狙え」

 

『は、はい! 判りましたッ!』

 

『了解ッ! いくわよッ!』

 

ゲッター線を久しぶりに供給した事でインベーダーの体組織の結合が緩んでおり、攻撃力こそ上がっているがその分通常のインベーダーよりも遥かに耐久度が落ちていた。そこを狙えば、楽に撃墜出来る。それにより、メタルビースト・クロガネに巣食っていたインベーダーはその数を減らし、アクセル達がメタルビースト・クロガネに組み付くことが出来る事となったのだ。

 

「この調子なら……ッ! 皆! メタルビースト・クロガネから強大なエネルギー反応! 気をつけ……きゃあああーーッ!?」

 

「ラウル! フィオナ! 緊急回避! いそい……うわあああーーッ!?」

 

ギャンランドのレモン、そしてレディバードのラージからの警告が発せられたが、それは間に合わず、周囲を薙ぎ払う膨大なエネルギーを内包した複数の球体があちこちに向かって放たれ、メタルビーストも、武蔵達もお構いなしに薙ぎ払った。

 

「いっつうう……フィオナ。大丈夫か」

 

「こっ、こっちは何とか……ラトゥー二は大丈夫?……ラトゥー二?」

 

爆風によって弾き飛ばされたがラウルとフィオナのエクサランスは健在だった。そしてアクセル達もメタルビースト・クロガネの船体に乗り込んでいたが、奇跡的に損傷は軽微だった……そしてラトゥー二のR-1も健在だったが、その精神はそうではなかった……。

 

「はーッ……はーッ……」

 

R-1のコックピットの中でラトゥーニは何度も深呼吸を繰り返した、だが何度深呼吸をしても息苦しさは変わらず、怒りのあまり目の前が真紅に染まっていた。それでもまだ自制心が働いていた――本当ならばその姿を見た時に、それを穢したインベーダーを殺す為に飛び掛っていただろう。たとえ、それが自分の命と引き換えであったとしても……

 

【落ち着いたか?】

 

「……うん。ありがとう、マイ」

 

だがその激しい怒りはマイによって制された。自分達が命を賭けても倒すべき相手はあれではない、リュウセイを殺したキョウスケだと……その言葉によってラトゥーニは冷静さを取り戻していた。

 

【まだ。全てを使い果たす時では無い】

 

「……うん。大丈夫、もう大丈夫だから」

 

切り札を切り、全てを燃やし尽くす時は今では無い。それを思い出した事により、ラトゥーニの精神は再び氷のように冷ややかな物となっていた。

 

『う、嘘だろ……あれって……』

 

『りょ、量産型……SRX……』

 

『やはりか……あの時仕留め損ねたSRXだ……』

 

『生き残っていたのか、厄介な相手がいた物だ』

 

メタルビースト・クロガネからゆっくりと這い出す巨大な特機の影……ゴーグルを思わせる独特なフェイスパーツ――力強さとたくましさを兼ね備えたその腕は悪魔を思わせる歪んだ爪を伴った異形の腕へと変貌を遂げていた――そして蝙蝠を連想させる不気味な翼……確かに全体的な姿はインベーダーに寄生されておぞましい姿へと変わっている。だがその姿は紛れも無くSRXの物であった。だが、それは決してそれはSRXではなかった。

 

「コハアア……」

 

おぞましい吐息がラウル達の神経を逆撫でする。今までのインベーダーとは比べ物にならない圧倒的な威圧感と存在感……そして見ているだけで吐き気を催す醜悪な姿――それがかつてはこの世界の希望の戦神だったとはこの場にいる全員が想像も出来なかった。

 

「ゴガアアアアアアアーーーーーーッ!!!」

 

メタルビースト・クロガネを破壊し、地響きを立てながらメタルビースト・SRXが咆哮を上げる。だがその姿はより進化を果たし、とある世界では「DiSRX」と呼ばれた存在に似ていながらも、全く異なる姿をしていた。「アストラナガン」を取り込んだようにも見える異形のSRXと呼べる存在だった……。それは過去の世界で自分を仕留めることが出来なかった武蔵達を挑発するかのような、それとも自分はここにいると誇るかのようなそんな雄叫び上げるのだった……。

 

 

第17話 悪魔王の名を冠した戦神 その3へ続く

 

 




メタルビースト・クロガネは資金と強化パーツを落とすだけ、大本命はこのメタルビースト・SRXですね。正直この段階では倒しきれる相手では無いので、半分イベント戦闘みたいな部分もあります。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話 悪魔王の名を冠した戦神 その3

第17話 悪魔王の名を冠した戦神 その3

 

武蔵やイングラムが時間、そして世界間の移動をしているのは武蔵達の推測通りゲッター線が大きく影響していた。武蔵は知る良しも無いが、正史の武蔵は恐竜帝国への特攻で死に、ゲッター線と融合し遠い未来で武蔵艦長となりゲッターエンペラーの指揮を取る存在となっていた。しかし世界とは無数の姿を持ち、恐竜帝国へ特攻した時にゲッター線の適合率が低く、エンペラーによって適合率を高める為に異なる世界へこの「巴武蔵」は送り出されていた。そしてそんな武蔵の成長具合を見極める為に、ゲッターエンペラーは常に武蔵の側にいる、ゲッターエンペラーは過去や未来と言ったそんな陳腐な言葉で説明出来る存在ではない。そこにいるだけで、過去にも未来にもそして平行世界にも膨大なゲッター線と共に同時に存在している。ゲッターエンペラーの纏うゲッター線とゲッター線が同調すれば、過去にも未来にも繋がるゲートは開く。

 

武蔵が初めて世界を超えた時……それは恐竜帝国に特攻し、3基のゲッター炉心をメルトダウンさせ、それによって発生した膨大なゲッター線によって新西暦――「フラスコの世界」へ跳んだ。

 

そして2度目に世界を超えたのは、ゲッターエンペラーから武蔵への贈り物……ゲッターエンペラーに成れなかったゲッター聖ドラゴンが支配する世界を見た異なる「流竜馬」が駆った「新ゲッターロボ」の炉心を内蔵した始まりのゲッターロボのシャインスパークによって発生した膨大なゲッター線の流れによって世界ではなく、時間を越えた。その時にゲッターエンペラーは武蔵ほどでは無いが、ゲッター線に適合出来る2人の亡者を生き返らせ、共に送った。

 

そして3回目は「真ドラゴン」「真ゲッター」「ゲッターロボD2」と特別な……そう、世界の分岐点となる特別なゲッターロボが3体揃った事により、武蔵は再び世界と時間を越え、この「極めて近く、限りなく遠い世界」へと足を踏み入れた。

 

だが、時間を、そして世界を超えることを許されたのが何故、武蔵だけと言えるだろう?

 

機会とは誰にも、そしてどんな存在にも等しく与えられる。例え、それが破壊しか齎す事が出来ないとしても……機会と言うのは誰にも、等しく与えられ、そして奪われる。

 

「……識別コードSR……002……間違いないわ。エルドランドに保有されてた量産型SRXよ」

 

エネルギーの塊――「ドミニオンボール」の直撃を受けて墜落したギャンランドのレモンから全員にあの量産型SRXがどこに存在した物なのかが告げられた。

 

「エルドランド……やはりあれは呪われた黄金郷だったか……」

 

過去の世界でブラックゲッター、真ゲッター、ゲッターロボの3体のゲッターロボのフルパワーのゲッタービームによって消し飛んだように見えた量産型SRX――本来ならば、その段階で消し飛んでいただろう。だが、インベーダーに寄生されていたこと、そしてレモンが作り出した念動力を内包したWシリーズを取り込んだことにより、膨大なゲッター線の海に落ちて世界を超えた……それがこのメタルビースト・SRXだった。少し猫背になり、呼吸を繰り返す姿は鋼の戦神と言われたSRXの面影は何処にも無い、だがインベーダーに寄生されてもなお、そのゴーグル型のフェイスパーツや、巨大な腕がこの存在がSRXだと言う事を示していた。

 

「がはあっ!?」

 

その醜悪な姿に困惑していると凄まじい追突音と武蔵の苦悶の声が周囲に響き渡り、ゲッターD2の姿が瓦礫の中に消えた……メタルビースト・SRXとの距離は十分に離れていた……では何にゲッターが弾き飛ばされたのかが判らなかった。だがそれは次の瞬間に強制的に理解させられた……。

 

「跳べッ! 薙ぎ払われるぞッ!!!」

 

それは今の面子の中で唯一空を飛行しているプロトアンジュルグの中のエキドナだけが、その全貌を見る事が出来た。メタルビースト・SRXの丸太のような腕が凄まじい速度で伸び、エキドナの声でバーニアで飛んだ全ての機体の足元を薙ぎ払った。

 

「……なんと言う速度だ。あの質量で殴られればひとたまりも無い」

 

質量と速度……それがPTや特機での白兵戦の攻撃力を決める。鈍重な見た目からは信じられない速度で伸びた両腕の薙ぎ払いにはイングラムやカーウァイと言えど、その背中に冷たい汗が流れたのを感じた。

 

「……シャアアアーーッ!!」

 

攻撃に手応えが無かった。その事に避けられたと理解したのだろう、メタルビースト・SRXの両足の装甲が展開し、そこから不気味に蠢く目が生えたミサイルが無数に姿を見せる。

 

「いかんッ! イングラムッ!」

 

「判っている! 全員避けようなどと思うな、迎撃に出ろ!」

 

インベーダーの細胞に寄生されたミサイルにはジャミングや回避と言う物は何の意味も無い。目があるのだ、当たるまでそれこそ迎撃されない限りは何時までも追いかけてくる。メタルビーストのミサイルを防ぐ1番確実な方法は迎撃だ……だが、メタルビースト・SRXのミサイルの弾幕は凄まじく、迎撃出来たのは最初の内で何時までも降り注ぐミサイルの豪雨にR-SOWRDを初めとした機体は飲み込まれ、爆煙の中にその姿を消すのだった……。

 

 

 

レディバードの操縦室でミズホの顔が蒼白になり、その場にへたり込んだ。

 

「そ、そんな……ラウルさん……フィオナさん」

 

あのミサイルの雨に飲み込まれては助からない……それが判ったミズホは2人が死んでしまったと思い、その場に座り込んで動けなくなってしまった。だがラージは違っていた……。

 

「爆発反応が余りにも少ないッ! 無事です! 泣いている暇があったら熱源反応の捜索をッ!」

 

「……ッは、はいッ!!」

 

ラージの怒声にミズホは咄嗟に返事を返し、ゲッターD2の分析で大半が故障してしまったレーダーの中で無事な物を探して、熱源反応の

捜索を再開する。

 

(……確かに凄まじい爆発でした……でもそれだけだ)

 

核プラズマジェネレーターで起動しているグルンガスト零式を初めとした特機に、時流エンジンが爆発したと考えればこの辺り一体が吹き飛んでいてもおかしくは無い。だから、ラウル達が無事だと信じる。

 

「ラウル! フィオナ! 返事をしてください!」

 

ラウルとフォオナの名前を叫びながら熱源の捜索を続ける。その時、ラージ達の耳に何かを咀嚼する音が響いた。

 

「……まさか」

 

「いいえ、そんなはずはありません!」

 

ミズホがラージが全てを言う前にその言葉を遮った。咀嚼音に最悪の予想が過ぎったのはミズホも同じだ、だがそれでもラウル達は無事だと2人は信じたかった。そして煙が張れ、目の前の光景が露になった時ラージもミズホも込み上げてくる吐き気を抑える事が出来なかった。

 

『アアアア……』

 

『ゴキリ、メキャ……バキバキ……グチャグッチャ……』

 

弱々しいメタルビースト・クロガネの鳴き声と、そんなメタルビースト・クロガネの船体にかじりつき、装甲を噛み砕き捕食しているメタルビースト・SRXの姿。無造作に引きちぎられたインベーダーの触手、そしてオイルとは別に吹き出る紅い液体……。

 

「うっうえ……おええ……」

 

「ぐっぷ……おええッ!!……こ、これは厳しいですね」

 

それは獣が自ら打ち倒した獲物を捕食する光景に良く似ていた。だがメタルビースト・SRXはわざとゆっくりと喰らい付き、メタルビースト・クロガネを苦しめているようにラージには見えた。

 

「……やはり、無いですね」

 

吐き気を堪えながら漸く回復したモニターで周囲を確認する。ミサイルが着弾し、罅割れている大地がモニターに広がるが機体の残骸はどこにも無い。

 

『ラージ・モントーヤ君とミズホ・サイキさんでいいわね。レディバードのエンジンの状態を確認して』

 

「……レモン・ブロウニングさんですね。少し待ってください……」

 

徐々に通信も回復してきたのか、レモンの言葉に返事を返しレディバードの状態を確認するラージ。

 

「問題ないです。すぐにでも飛び立てます」

 

『OK、とは言え、今すぐに出発すればメタルビースト・SRXに襲われるわ……タイミングを見て一気に離脱するわよ』

 

ギャンランドとレディバードが離脱する準備が出来れば、戦闘区域から離脱した所で機体を回収して逃亡することも出来る。メタルビースト・SRXの機動力がどれほどの物かはわからないが、戦艦のオーバーブーストには追いつけないだろうとラージは考えていた。

 

『ゲッタァアアアドリルッ!!!!』

 

『ギャアアアアアアア―――ッ!!!』

 

地面を砕き、姿を現した蒼いゲッターロボがメタルビースト・SRXの特徴的なフェイスパーツにドリルを突き刺す。高速回転するドリルに抉られ、装甲の残骸と体液を撒き散らしながらメタルビースト・SRXは顔面に組み付いているゲッターライガーを引き離そうとする。

 

『オープンゲットッ!!!』

 

だがメタルビースト・SRXの触手がライガーに触れる前に戦闘機に分離したライガーは一気に危険域から離脱する。漸く視界を取り戻したメタルビースト・SRXの目の前に広がったのは、自身を飲み込まんと迫る熱線と燃え盛る紅蓮の不死鳥の姿だった。

 

『ブラスターキャノン発射ッ!!!』

 

『ファントムフェニックスッ!!!』

 

「そうか、そう言う事だったんですかッ!」

 

地割れの中から飛び出した光線と燃え盛る不死鳥を見て、ラージは何故エクサランスの反応が無かったのかを理解した。最初に吹き飛ばされたゲッターD2が最初に現れたときと同じ様に、地面を砕き地下からエクサランス達をミサイルの豪雨から救い出したのだと今初めて理解した。

 

『シャアッ!!』

 

だがメタルビースト・SRXも何時までも好きにさせている訳が無い。雄叫びと共に目視出来るほどの強力なバリアを発生させ、ブラスターキャノンとファントムフェニックスを防ぐ、だが防いだ事で生まれたエネルギーの余波で視界を失った。メタルビーストの脅威はその闘争本能にある。だが、理知的に物を考える事が出来ず本能的に攻撃はかわすが、避けた後にどうなるかと言う事を考える知恵は無かった

 

『リミット解除ッ! コード麒麟ッ!!!』

 

瓦礫を砕き、弾丸のような勢いで姿を現したソウルゲインの右肘の聳弧角が煌き、メタルビースト・SRXの左腕を肩から両断する。

 

『もういち……ぐっ!?』

 

『キシャアアアアアアーーーッ!』

 

返す刀で右腕を落とそうとしたソウルゲインだが、念動フィールドに動きを封じられ、がらあきのソウルゲインの胴体に向かって胸部から凄まじい勢いで伸びた触手に弾き飛ばされる。しかし垂直に吹っ飛ばされるソウルゲインの中でアクセルは獰猛な笑みを浮かべていた。

 

『掛かったな、この阿呆がッ!』

 

ソウルゲインが弾き飛ばされるのは計算の内。だからこそ自己再生能力を持ったソウルゲインが選ばれたのだ。そして、弾かれる前提で追撃に出たアクセルは簡単にソウルゲインの姿勢を立て直させ着地させる。

 

『この一太刀に全てを賭すッ!!!』

 

その瞬間反対側の地面が砕け、ブレードモードに変形したR-SOWRDを携えたグルンガスト零式が凄まじい勢いでメタルビースト・SRXへと肉薄する。

 

『一刀両断ッ!! チェストォオーーーーーッ!!!!』

 

『が、ガアアアアアアーーーッ!?』

 

ガードの為に振り上げた右腕はR-SOWRDから伸びた光の刃に切り裂かれ、左腕同様肩から切り裂かれる。

 

「行ける……これなら行けるッ!」

 

不意打ちに近いが、これでSRXは両腕を失った。これなら勝てる、これなら行けるという希望がラージ達の中に生まれたが、それが一瞬で絶望に塗りつぶされる事を今のラージは勿論、計画通りにメタルビースト・SRXの両腕を奪えた武蔵達も知る良しも無いのだった……。

 

 

 

 

 

世界と世界の境目の中を進むピンク色の不気味な球体状の何かは、下腹部にある瞳を光らせ、歓喜の声を上げた。

 

「見つけた……見つけた……やっと見つけた……ッ!!!」

 

その不気味な形状に反して、その声は妙齢の女性を連想させる柔らかな声だった。

 

「進化の光……私が求める力……ッ!」

 

世界を彷徨い、そして長い時を放浪してきた「それ」はもう何をすればいいのか、何を為せば良かったのか……それすらも理解出来なかった。ただ、進化の光――即ちゲッター線を手にすることで新たな進化を果たそうとしていた。

 

「そうすれば……私は帰れる……造物主の元へ……」

 

長い時をこの闇しかない、時空の境目を彷徨い続け、元の姿を失い、そして己が何をするべきなのかも見失った。

 

「進化、新しい……進化をッ!」

 

この闇の中を、無数に存在する世界をさすらい、その世界に適合する為に進化を続け、その姿は見るのもおぞましい異形へと成り果てた。

そしてそれが自力での進化の終着点だった。

 

「……私は誤りでは無い……もっと進化すれば……私はッ!」

 

何をすればいいのか、何の為に存在していたのか? それすらも思い出せないが、「誤り」と自身の存在を否定する誰かの声を聞いた。

 

そして己に呼びかける何かを聞いた……そして己は何をすれば良いのかを見失った……。それから気の遠くなる年月を彷徨い、流離い、迷い続けてきた。だが今やっと己が何かを知れるチャンスを手にしたのだ。

 

「……門、そして進化の光……それを我が手に……」

 

世界と世界を隔たれる壁を破壊し、アインスト、インベーダーが欲し続ける。進化の光――即ちゲッターD2を手中に収めんと動き出す。

 

「……須く過ちは存在する。過ちがあるからこそ、真実が存在する……そして、真実を知るため、私は行かねばならない……創造者の下へ……門と、鍵、そして進化の光を手に……世界を、時間を……越える」

 

己が何者なのか……?

 

何の為に作り出されのか……?

 

それを知る為に彷徨い続け……。

 

己の元の姿をも失った……。

 

「資質」「可能性」「全能者」「神」のギリシャ語を与えられた。「デュミナス」は今度こそ、己の求める答えを手にする為に……再び世界の壁を破り、新たな世界へと出現するのだった……。

 

 

 

 

1度はメタルビースト・SRXに勝てる……誰もがそう思っていた。だがそれは余りにも楽観的な思い違いだったと言うのを全員が痛感していた。

 

「ちくしょうめ! この化け物ッ!」

 

「キシャアアアーーーッ!!」

 

ポセイドンと両腕で殴り合いをしているメタルビースト・SRX。そう、「両腕」で殴り合いをしているのだ。ソウルゲインの麒麟、R-SOWRとグルンガスト零式の一太刀を受けて肩から切断された両腕は既に再生しており。その伸縮自在の両腕で武蔵を苦しめていた……。これが最初のように、連携を組む事が出来ていればここまで武蔵が苦しめられることも無かっただろう――だが武蔵は今や完全に孤立し、メタルビースト・SRXとのタイマンに追い込まれていた。

 

「ラトゥーニッ! もう限界だ! レディバードに戻るぞ!」

 

「くっ……嫌だッ!」

 

「嫌じゃないわ! ここで死ぬつもりッ!?」

 

「……うっ、ううう……帰還する……」

 

ボロボロに装甲を損傷させた2機のエクサランスに両脇から抱え上げられるようにして、R-1・カスタムも無理やりレディバードへと着艦する。その後をすぐにグルンガスト零式、R-SOWRD、ゲシュペンスト・タイプSがバックアップに入り追撃を防ぐ。

 

「くっ……面妖な……ッ!」

 

「物量戦に持ち込まれるとはな……こんなのは想像もしていなかった」

 

「泣き言を言っている場合では無いがな……」

 

だがフォローに入ったグルンガスト零式、R-SOWRD、ゲシュペンスト・タイプSも既に装甲があちこち損傷しており、弾薬、エネルギー共に危険域に入ろうとしていた。

 

「「「「シャアアアーーーッ!!」」」」

 

そんなイングラム達の前に立つのは無数のメタルビースト……しかし、ただのメタルビーストでは無い、ラトゥー二の乗っていたR-1と似たシルエットに一部簡略化された装甲、そして両腕のトンファーはインベーダーの細胞によってチェーンソーのような不気味な音を立てている……「メタルビースト・エルアインス」両腕のシールドユニットにインベーダーの頭部を生やし、背中に背負っている砲門をこちらに向ける「メタルビースト・エルツヴァイ」そして上空を旋回し、完全に制空権を奪い、上空からインベーダーに寄生されたミサイルの雨を降らせる「メタルビースト・エルドライ」……そう、それらは全てメタルビースト・SRXを構成している量産型Rシリーズ……それがメタルビーストへと変貌した姿だった。

 

「クロガネを喰らっていたのは、この為だったと言う訳だッ!」

 

数えるのも馬鹿らしくなるミサイルの雨を引きつけ、ショットガンで誘爆させ、僅かに生まれた隙を突いてビームソードで切りかかる。

 

「ちいっ! 化け物は化け物らしくしていれば良い物をッ!」

 

「ッ!」

 

だがそれは即座にメタルビースト・エルアインスのガードに入った、エルツヴァイに防がれ、その巨大な盾で殴りつけられる。

 

「無理をするな、イングラム」

 

「……すまん。助かった」

 

メタルビースト・エルアインスの追撃は、タイプSが入った事で防ぐ事が出来たが数の暴力で押されれば、流石のイングラムとカーウァイと言えど劣勢に追い込まれてしまっていた。

 

「……く、すまない、エネルギー切れだ……帰還する」

 

ハイパーブラスターで幾度も、進撃を防いでいたグルンガスト零式だが、ついにエネルギー切れを起こし、残されたエネルギーでギャンランドへと帰還する。

 

「不味いな、このままだと全滅だ……」

 

確かに一騎当千のエースパイロットが揃っている。だが倒しても倒しても増え続け、更に倒す度に前よりも強くなるメタルビースト・Rシリーズを前に流石のカーウァイも気持ちがくじけかけていた。

 

「メタルビースト・SRX……あいつが厄介だ」

 

メタルビースト・Rシリーズは通常のメタルビーストと比べて再生能力は格段に低く、機体の半分も吹き飛ばせば動かなくなる。だがその分連携能力に秀でており、瞬発力に長けたメタルビースト・エルアインスを切り込み隊長にし、メタルビースト・エルツヴァイ、ドライの2機がバックアップとフォローに入る事で油断をすれば一瞬で切り込み、こちらの装甲をずたずたにし、その後の飽和射撃で完全に足止めしてくるという極めて厄介な連携をする。そしてそんなメタルビースト・Rシリーズは今もメタルビースト・SRXからどんどん生まれ続けている――。

 

「今はまだ、メタルビースト・SRXが増えるという事にはなっていないが……」

 

「何れなりえる可能性がある……」

 

恐らくあのメタルビースト・Rシリーズは今はまだ、練習個体なのだ。メタルビースト・SRXを母体にし、増えて行くための最初の実験段階……ここでメタルビースト・SRXを倒さなければ大変なことになるのは判っている……が、問題なのはその再生能力。ここで倒さなければ、いずれはメタルビースト・SRXが増えることになる。しかし……それが判っていても、雪崩のように増え続けるメタルビースト・Rシリーズ。そしてどんな致命傷も即座に回復させるメタルビースト・SRXを今この場にて倒すには火力も手数も足りていなかった。

 

『ぐ……くそっ! 限界かッ!?』

 

『アクセル隊長! 1度お戻りください、殿は私が務めます』

 

『……ちいっ! 屈辱だッ!』

 

何とかメタルビースト・Rシリーズの包囲網を抜けようとしていたソウルゲインとプロトアンジュルグだが、倒しても倒しても増え続けるメタルビースト・Rシリーズを前に機体の各部が焼き付き、ソウルゲインが膝をついた。

 

『撤退準備は出来てるわよ! 戻って、これ以上はどうしようもならないわッ!』

 

『各員撤退! この場は離脱するッ!』

 

レモンとヴィンデルの撤退命令が下される。これ以上は戦えない、これ以上戦っていても、物量差で押し込まれてインベーダーに食われて果てる。

 

「オイラは何とか自力で脱出します! 早くッ! この場所から離脱してくださいッ!」

 

「シャアアアーーッ!!」

 

「舐めんなあッ!」

 

だがメタルビースト・SRXに取り込まれそうになっている武蔵を残してはいけない。何とかして、メタルビースト・SRXを引き離そうとしたその時――それは現れた。

 

「な、なんだあれは……」

 

「……生き物? しかしあれは……まるで機械の様な……」

 

突如メタルビースト・SRXとゲッターポセイドンの上空に湧き出るように現れた奇妙な建造物……それは、腹部にある目を、ゲッターロボに向ける。

 

「……その進化の光は私のもの……オオオ……進化の光よッ! 私を導きたまえッ!!!」

 

激情に駆られた女性の叫び声が周囲に響くと同時に、異形の物体が光り輝いてギャンランドを包囲していたメタルビースト・Rシリーズを全て消し飛ばし、ポセイドンを取り込もうとしていたメタルビースト・SRXも吹き飛ばした。

 

「武蔵を助けたという訳ではなさそうだな」

 

「ああ。あいつもまたゲッター線を狙う者か……」

 

アインスト、インベーダー、そして今時空を越えて現れた奇妙な存在――それら全てがゲッター線を欲している。

 

「……進化の光……私を……私を導いてくれ……創造主の下へ……私が……私が生まれた理由を知る為に……」

 

「な、なんだ!? ゲッター炉心のパワーがッ!?」

 

謎の生き物と共鳴するようにゲッターD2の全身からゲッター線が溢れ出した。

 

「シャアアアーーーッ!!」

 

そしてそれに共鳴したのか、メタルビースト・SRXも全身から禍々しい色のゲッター線を放出させる。

 

「ぐっ、制御出来ない……ッ!」

 

「扉……進化の光よ……私に新たな進化をッ!!」

 

「ゴガアアアアーーーッ!!」

 

困惑する武蔵の声と、歓喜に震える女の声、そしてメタルビースト・SRXの雄叫びが重なった時。凄まじいゲッター線が周囲に満ち、凄まじい音と共に謎の生物とメタルビースト・SRXをどこかへと消し飛ばした。

 

「転移したのか?」

 

「……武蔵! 武蔵! 大丈夫か!」

 

「な、なんとか……でも炉心が停止しちゃって動けないです……すいません、回収よろしくお願いします……」

 

その言葉と共に武蔵は沈黙した、どうやら意識を失った様子だ。

 

「……い、今のは一体……」

 

「判らないけど今がチャンスよ。ゲッターロボを回収して、この空域から離脱するわよ!」

 

いつまたメタルビースト・SRXが襲ってくるか判らない、いやメタルビースト・SRXだけならいい、ここにゲシュペンスト・MK-Ⅲも加われば、全滅は間逃れない。何が起きたのかを追求するのは後にしてレモン達はゲッターD2を回収して、この場から逃げることを選択するのだった……。

 

「……シャドウミラー隊のギャンランド、未知の特機を発見しました。転移反応も感知しました」

 

『よし、良くやった。基地へと帰還せよ、シャドウミラー討伐に乗り出すぞ』

 

「……はい、すぐに帰還します」

 

『ははは! これで世界は元に戻る! 我々が救世主となるのだッ!』

 

しかし武蔵達は知らない、この地獄を作り出した者達が自分達こそが世界を救うという妄執に囚われた者達が動き出そうとしている事を武蔵達は知らないのだった……。

 

 

第18話 分岐点 へ続く

 

 




デュナミスついに登場、でもこの段階ではフィオナはまだ転移しません。転移するのはもう少し後ですね、メタルビースト・クロガネが消え、代わりにメタルビースト・SRXが誕生。そしてデュミナスも降臨、このデュナミスはOGよりではなく、Rよりで行こうと思います。ちょっとOG外伝のデュナミスの終わりもホムンクルストリオの終わりも納得していないので、ここも変えます。救済ルートになるのかどうかはまだ未知数ですが、OG外伝の終わり方にはならないとだけはいっておきます。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


後はそうですね。

序は後8話ほどで完結予定となります。現在はOG2・本の執筆を徐々に始めておりますので、もしかすると来週もどこかで追加更新か、連続更新に踏み切るかもしれません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話 分岐点

第18話 分岐点

 

武蔵はコンテナの上に腰掛けて、ぼんやりとゲッターロボD2を見つめていた。思えば自分はゲッターロボの事を何も判っていないと今回は改めて痛感していた。

 

「ゲッター……おめえは何を見てるんだ。ええ、兄弟」

 

自分とゲッターロボは一蓮托生だと思っていた。だが新西暦に初めて来た時も、自分が死んだ後の時間にも、そして今平行世界にいるのも全てゲッターロボが武蔵をここに連れてきた。それが今初めて何故と思ったのだ、あの絶体絶命のピンチの時にゲッターは確かに助けてくれた……だが、助けてくれるならもっと早くても良かった筈だ。あのピンクの不気味な生物……それが何か関係しているように武蔵には思えてた。

 

「武蔵、こんな所にいたのか」

 

「エキドナさん、すいません。勝手に抜け出したら不味かったですよね?」

 

「全くだ」

 

武蔵は転移した直後に意識不明となり医務室に運ばれていた。時流エンジン開発チームとの話し合いがあるからその場に1人残され、目を覚ました後武蔵は引き寄せられるように格納庫に来ていたのだ。

 

「アクセルさんとかも探してますか?」

 

「当たり前だ。お前とゲッターロボがどれだけの重要な立ち位置にいるのか判っていないのか?」

 

時空間転移、時間跳躍……それは全てゲッターロボによって発生している。プロジェクトEFを計画しているヴィンデル達にとっては武蔵もゲッターロボも何よりも重要なファクターだ。唯一ゲッターロボを操れる人材がいなくなれば、騒動になるのは当然だと言いながらエキドナは手にしていたスポーツドリンクのボトルを武蔵に手渡す。

 

「何か悩んでいるのか?」

 

「悩んでいるって言うか……そうっすね。判らないんですよ、兄弟が」

 

「兄弟?」

 

「……ゲッターですよ。オイラにはゲッターは兄弟同然で、色んなことを経験してきましたよ。だけど、今回のは流石にちょっとね」

 

R-1改から出てきた眼に光のないラトゥー二を見て、新西暦の楽しそうに笑うラトゥー二の事を思い出した。そしてそれと同時にもっと早くこの世界に来ていれば、リュウセイ達が死ななかったのでは無いか? いや、もっと言えば、イージス計画を止めるのを協力できたのでは無いかと言う考えがどうしても武蔵の頭から離れなかった。

 

「出来る事しか私達には出来ない。お前の考えている事は自分に出来無い事を望んでいる。……それは高望みだ。武蔵」

 

「エキドナさん……はは、そうっすよね。人間に出来る事なんて高が知れてますよね」

 

可能性だけでも時間跳躍と言う可能性を示唆されたからこそ、武蔵は悩んでいた。だがそれはエキドナからすれば馬鹿な悩みだった――Wシリーズとして生を受けたエキドナ……いや、W-16は出来る事しか出来ないのだ。自分の限界を超えて行動しようなんて思わない、だから悩まないし、迷いも無い。だからエキドナには武蔵の気持ちが判らない――何故悩むのかそして、どうして迷うのかが理解出来ない。だがエキドナは気付かない、本当にW-16と呼ばれていたエキドナだったのならば、武蔵にこのようなことを投げかけたりはしない。ブリーフィングルームにすぐにでも連れて行き、話し合いに参加させていただろう。エキドナも自分には判らない所で変化を始めていたのだ……。

 

「飲み終わって落ち着いたら、ブリーフィングルームに行くぞ」

 

「ういっす」

 

「アクセル隊長にはこっちから連絡をしておく」

 

「……重ね重ねすいません」

 

「別に構わないさ」

 

そう笑いエキドナは通信機でアクセルに武蔵を見つけたという旨、そして少し混乱が見えるので落ち着いたらブリーフィングに参加させると報告した。

 

「……オイラ馬鹿だから、難しい事は判らないんですよ」

 

「そうか。今も判らないのか?」

 

「……こう、オイラの戦いって、明確に悪い!って奴がいて、それを倒せば平和になるっていう単純なものだったんですよ。でも今は……

どうすればこの戦いが終わるのかって事が全然判らないですよ」

 

「……お前は戦いが嫌いなのか?」

 

「嫌いですよ、あんなもん好きな訳が無い……でも守りたい物があれば戦うしかないじゃないですか、エキドナさんは戦いが好きなんですか?」

 

武蔵にそう問いかけられ、エキドナは言葉に詰まった。Wシリーズはヴィンデル・マウザーの掲げる永遠の闘争の実現の為に存在している。だから戦う事こそがエキドナの存在理由……だから戦いは必要不可欠な筈なのに……。

 

「そうだな……私にも判らない……判らなくなってしまった」

 

「そうですか……やっぱり、生きるって言うのは難しいですね」

 

武蔵と出会う前ならば即答できた。だが今のエキドナには……ヴィンデルの掲げる永遠の闘争に即座に賛同出来なかった……自身の存在理由であったとしても……それが本当に正しい事なのかと言うのが判らないのであった……。

 

(やはり私は壊れてしまったのか?)

 

創造主の願い通りに動けない自分に壊れてしまったと感じるエキドナだが、それこそが創造主レモンが求めた。Wシリーズの自我の目覚めであると言うことには気付けないでいるのだった……。

 

 

 

 

武蔵とエキドナがコンテナに揃って座り、互いの頭を悩ませている頃――ブリーフィングルームでは……。

 

「落ち着いたか?」

 

「……はい、すいません」

 

「いや。良い、平行世界のイングラムと言ってもそうは受けいられる物では無いからな」

 

ラトゥー二にそう声を掛けるイングラムの頬には打撃の痕があった。それは、イングラムの姿を確認したラトゥー二が、どうしてリュウセイを助けてくれなかったのか、どうして生きていると伝えてくれなかったのかと詰め寄り、拳を振りぬいた痕だった。即座に取り押さえようとしたヴィンデルだったが、それはイングラム自身に制されたのだ。

 

「ラトゥー二・スゥボータには俺を殴る権利がある」

 

そう言って甘んじてその拳を受け入れたのだ、本当ならば受け止める事も反撃する事も出来る中。歯を食いしばり、その小さな拳に込められた激情を受け入れる事を選択したのだ。

 

「……本当にすいませんでした。良く見れば判るのに……」

 

良く見れば自分の知るイングラムよりも数段若い……それなのにその顔を見た時にラトゥー二の中で何かが弾けてしまったのだ。それが判ったから、その小さな身体にどれだけの悲しみを背負っているのかを考えた時イングラムにはその拳を受け入れるという選択しかなかったのだ。

 

「すまないな、騒動になったがブリーフィングを始めよう」

 

席に腰掛け、何事も無いようにブリーフィングを始めようと言うイングラムにヴィンデルは何も言えず、イングラムに促されるままにブリーフィングを始めた。

 

「なるほど、別の世界のイングラム・プリスケン大佐とカーウァイ・ラウ少将と言うことですか……」

 

その内容はイングラム達がこの世界の住人では無いと言うこと、そして時空転移を起しているゲッターロボに関しての内容だった。

 

「あら? 結構早く受け入れるのね?」

 

「そうですね。本当なら何を馬鹿なと言うんですけど……実際に見てますからね」

 

証拠があれば疑いはあっても受け入れるしかないというラージにレモンは笑う。ラージ・モントーヤは確かに若い、だがその科学者としての矜持、その知識も本物であると理解したのだ。

 

「時流エンジンの情報提供を求める、もしゲッターロボと合わせて時間跳躍が可能ならばそれの1つの手段としたい」

 

「ヴィンデル大佐。確かに時流エンジンは僕の父が作ったタイムマシンの理論を発展させた物であると言う事は認めます、ですが開発段階であり、そんな物をお渡しする事は僕には出来ません」

 

「ほう? では完成したら渡してくれると?」

 

「はい、今の時流エンジンはエクサランスに搭載している2つしかありません。今この状況で、エクサランスのエンジンを取り出すことは得策では無いと思うのですがどうでしょうか?」

 

重い空気の中でヴィンデルと真っ向から話し合うラージ達をラウル達は無言で見つめるしかない。

 

(なんか、状況悪くないか?)

 

(そ、そうよね……なんでラージあんなに喧嘩腰なのかしら?)

 

(……何か思う事があるんでしょうか?)

 

シャドウミラーに保護されたのだから、エクサランスの1機の時流エンジンを渡しても良いと思っていたラウル達。だが、それはラージによって全て封殺されていた。それ所か、ブリーフィングルームでは発言しないで欲しいと言われていたのでこの険悪なムードに不安を感じながらも見ていることしか出来ない。

 

「ヴィンデル、今は戦力が欲しい所だ。確かに時流エンジンと言うものは興味深いが、今闇雲に戦力を減らすのは得策では無い」

 

「アメリカはシャドウミラーに全ての責任を押し付けたい軍上層部がいるのだろう? それならば頭数は多いほうがいい」

 

ラージの意見にイングラムとカーウァイも賛同した事でヴィンデルは溜め息を吐くしか出来なかった。

 

「俺は正直に言うと実用段階では無い物を使う事は反対だ。それにさっきの時空転移……ゲッターロボとエクサランスが共鳴していたように俺には見えた。その2つを組み合わせるのは余りにも危険だと思う」

 

「……アクセルさんでしたね、はい、確かにあのピンクの奇妙な生物が現れた時――ゲッターロボとエクサランス……そしてSRXは全て共鳴しておりました」

 

「私の方もそう言うデータがあるわね。あの奇妙な物とメタルビーストSRXが消えたのはありがたいけど……下手をすれば私達も消し飛んでたかもしれないわよ?」

 

別の世界に跳んだと考えても良いが、どこに飛ぶのか判らないと言うリスクを抱えるべきではないと言うレモンとアクセルの意見も追加され、ヴィンデルの時流エンジンの徴収は全員に反対され、却下された。

 

「すいません。遅れました……」

 

「申し訳ありません。遅れました」

 

そして武蔵とエキドナがブリーフィングルームに入ってきた事で、時流エンジンに関する話し合いは一時中断され本題が切り出された。

 

「……連邦の暗号通信を解析したら……ピーターソン基地にかなりの数の連邦軍が集結しているそうです」

 

「これは私も確認したから間違いないわね。私達をピーターソン基地で捕まえるつもりね……多分シロガネも出てくるわよ」

 

テスラ研に向かう為の最後の難関……ピーターソン基地を中心に張り巡らされているギャンランド包囲網をどのように突破するかと言う問題。そしてもう1つ……の疑念があった。

 

「テスラ研が無事であるかも怪しいぞ?」

 

「ブラッド・ハウンドか……確かにな」

 

ブラッド・ハウンドがテスラ研からアースゲイン、そしてソウルゲインを持ち出した。たとえテスラ研に辿り着いても、システムXNがまだ存在しているのかと言う不安を抱えたまま、ギャンランドはテスラ研を目指して進む事を余儀なくされるのだった……。

 

 

 

 

 

ブリーフィングを終えた後。ラージ達はイングラムに呼び止められ、イングラム達に与えられた部屋にいた。

 

「コーヒーで良いか?」

 

イングラムに差し出されたコーヒーを受け取り、ラウル達はちびちびとコーヒーを口にしていた。

 

「あのさ……これ、悲しませるだけかもしれないけど……良かったら」

 

「……これ……ッ! 良いんですか?」

 

「うん。その……この世界のリュウセイじゃないけど……」

 

「いいえ、ありがとうございます……リュウセイの写真とか持ってなくて……」

 

武蔵は自分がハガネにいるときに与えられていた携帯端末の中に残っていた、リュウセイの写真をラトゥー二にコピーして渡していた。少しでも良い、リュウセイや仲の良い友人を失い、不安定になっているラトゥー二の支えになればと思ったのだ。

 

「では改めて、イングラム・プリスケンだ」

 

「カーウァイ・ラウ。カーウァイでもラウでも好きに呼んでくれ」

 

「巴武蔵、武蔵って呼んでくれればいいぜ!」

 

「ら、ラウル・グレーデンです、こっちは妹のフィオナ」

 

「フィオナ・グレーデンです。平行世界の方とこうして会えるなんて感激です」

 

「み、ミズホ・サイキです。エクサランスのフレームのメカニックをしてます」

 

「ラージ・モントーヤです。時流エンジンのメカニックです」

 

ブリーフィングルームで1度自己紹介をかわしているが、改めて自己紹介をかわす武蔵達とラウル達。

 

「そう力を入れなくていい、この部屋はレモン達から見られることは無い。今頃はこの光景とは違う光景が向こうに映っているだろう」

 

その言葉にラージは驚いたように目を見開き、そして納得がいったように頷いた。

 

「貴方達も信用していないと言うことなんですね?」

 

「ああ、だが今は単独で行動して生き残れるほど甘い世界では無い。互いに一物を抱えながらも、同時に行動するかないのさ」

 

「えっと、どういうことなんですか?」

 

「どういうことも何もない。ヴィンデルと言う男は信用は出来ても、信頼は出来ん。いきなり時流エンジンを寄越せと言ったのも怪しいとは思わないのか?」

 

「そ、そりゃまあ……でもシャドウミラーが守ってくれるならって」

 

フィオナの言葉にカーウァイは子供だからしょうがないと言ったあとにフィオナの目を見つめた。

 

「そんな甘い考えは捨てろ。シャドウミラーの目的はこの世界からの離脱、自分達だけが別の世界に逃げることを目的としている」

 

「「「え!?」」」

 

「やはりですか……」

 

驚くラウル達に対してラージはやはりと呟いた。時流エンジンを求められた時にラージは既にその可能性に辿り着いていた――自分達の命綱それを奪われる訳には行かないとラージはヴィンデルに対して、強い敵意を示していたのだ。

 

「あの敵を何処かへ飛ばしたときの興奮具合を見ればおおよその予想は付きます、ヴィンデル・マウザーが求めているのは時空転移システム、もしくは時間跳躍システム……それも安定性が高いものを欲していると言う所ですね」

 

「シャドウミラーの持っている転移システムは不安定らしくてな。それを安定させる為に時流エンジンを求めたのだろう」

 

「ま、待ってくれ、で、でもレモンさんは俺達の研究に出資してくれたし、助言もしてくれたぞ!?」

 

シャドウミラーが信用出来ないという方向に話が進んでいるのに気付き、ラウルが止めに入った。

 

「私達もシャドウミラー全体が悪いというつもりは無い、だがあくまで軍は軍。ヴィンデルの命令には逆らえない」

 

「そう言うわけです。レモン・ブロウニングさん自身は僕も信用していますが、ヴィンデルと直接会って信用するのは危険と判断しました。ですので、エクサランスの起動コード、β12に変更していますので、起動時は気をつけてください」

 

「え、それってパスワードが10個以上あるやつじゃ?」

 

「念には念のためです。それでこんな話をして来たと言う事は……助けてくれるって言う事ですよね?」

 

「有事の際はギャンランドを離脱する事も考えている。その前提で動くようにしてくれれば、こちらも対応出来る」

 

「判りました。ではラウルとフィオナは基本ツートップで行動してください。最悪の場合、僕がラウルのエクサランス、ミズホがフィオナのエクサランスに乗り込むと言う事で」

 

ぽんぽんと最悪のケースに備えての話をするイングラム達とラージにラウル達は口を挟めず、空返事を返すしかない。

 

「それで武蔵さん、ゲッターロボについて知っている事とか教えてくれますか?」

 

「いや、オイラそう言うの全然判らんよ? 馬鹿だし、でも、そうだな……メンテとか手伝ってくれるなら判る範囲では返事をするよ」

 

「それで結構です。では早速行きましょうか?」

 

え? 今からと言う顔をしている武蔵を半分引きずるようにして部屋を出て行くラージ。

 

「すいません、ラージはちょっと周りが見えない部分があって」

 

「いや、気にしていない。正直、私達の話は最悪の場合に備えての事だ」

 

「安心出来る場所を得たと思って判断が遅れてはお前達自身が危険だ。最悪の場合は自分達だけでも離脱する事を考えろ」

 

自分達の事を心底心配してくれていると判り、ラウル達は判りましたと返事を返した。

 

「ラトゥー二、お前もだぞ」

 

「……私は逃げない、シャドウミラーはキョウスケ・ナンブに追われている。だから……私はここに残る。リュウセイを殺した、あいつを……私は許さない」

 

だが、イングラムとカーウァイのラウル達の身を案じる言葉も、復讐の業火をその目に宿すラトゥー二には何一つ届かないのだった……。

 

 

 

 

 

 

レモンはギャンランドから遠隔操作でW-17……レモンの最高傑作の調整を行っていた。

 

「あーっ! もう! 最悪ッ!」

 

だがレモンの機嫌は最悪を通り越して、最低だった。本当ならば、ピーターソン基地へ向かう前にW-17……ラミアを回収し、最後の微調整を行い。アンジュルグと共に戦線に加えるつもりが、エクサランス2機にR-1改を手にした事でWシリーズにそこまで拘る必要は無いとラミアの回収を拒否され、ギャンランドの進路は強制的にピーターソン基地へ向けられていた。

 

「……最終調整も無しで実戦投入されたらラミアがどうなるかってわからないのッ!? ヴィンデルもそうだけど、アクセルもアクセルだわッ!」

 

テスラ研を制圧した後にラミアを回収しに行けばいいと気楽に言うアクセルにもレモンは苛立ちを隠せないでいた。

 

「あーあ……失敗したかなあ」

 

人造人間の開発と言う事でスポンサーの一切つかなかったレモンをヴィンデルが拾った。その事に関しては感謝しているレモンだが、自分の息子や娘であるWシリーズを使い捨てのように言うヴィンデルとアクセルには不満があった。だがそれでも、我慢してきていたが今回の一件は流石にレモンと言えど、ヴィンデル達への不満を隠せないでいた。

 

「うっ……ここ……は?」

 

「やっと起きたのね、バリソン。気分はどう?」

 

「……良いと思うか?」

 

「OK、そんな軽口が叩けるなら大丈夫ね。バリソン、起きたばかりで悪いんだけど、手伝って欲しい事があるのよ」

 

レモンの言葉にバリソンは身体を起こし苦笑した。

 

「死に掛けてた奴にか?」

 

「死に掛けてたバリソンにしか頼めないのよ」

 

「……判った。何をすれば良い?」

 

「悪いわね」

 

「良いさ、俺の事を庇ってくれたのも知ってるしな」

 

バリソンはヴィンデルの掲げる永遠の闘争を受け入れたわけでは無い。だが、カーウァイの意志を継いでシャドウミラーに残っていた。ヴィンデルはそんなバリソンを疎んでいたが、その腕は一流だから受け入れていた。勿論、それはレモンが協力していたと言うのもある。

 

「この基地のラミアが眠っているポッドにこのカードを入れて起してあげて欲しいの、アンジュルグとかも持ってきてくれるとありがたいわ……どうかした?」

 

「いや、W-17って言わないんだなって思ってな。まぁ、良い。命の恩人の頼みだ、引き受けるぜ」

 

「ありがとう。出発する為のトレーラーを用意するわ、後はインベーダーにも、アインストにも見つからないでね」

 

「俺は運は良いんだ。任せておいてくれ」

 

バリソンはレモンから受け取った電子カードを受け取り、医務室を後にする。その後姿を暫く見つめていたレモンだが、すぐに視線を逸らしバギーの出発準備を行い、培養液に満たされたポッドに浮かぶ一糸纏わぬ姿のエキドナを見つめる。

 

「大丈夫よ。エキドナ、貴女は壊れてないわ……貴女は辿り着きかけているの「技術的特異点(シンギュラリティ)」に……」

 

人間と同じ事が出来ても、エキドナは作られた個体だ。その頭脳は高度に発達したAIと言っても良い。そんなエキドナが自我に芽生えかけている……レモンにはそれが嬉しくて堪らなかった。

 

「テスラ研に辿り着く前に、少しでも良い、武蔵とゲッターに会わせたいのよ」

 

テスラ研に辿り着けばそんな事をしている時間は無くなる。すぐに時空転移の準備を始めなければならない……エキドナの自我の芽生えは武蔵とゲッターが関係している。だからラミアにも武蔵にあわせたいと思うのは当然の事だった……そしてレモンは思うのだ。このままギャランドに乗り続けていて良いのかと……自分の子供達の行く末を見届けるにはヴィンデルではなく、武蔵やイングラム達と行動するべきだと頭では判っている。

 

「私って案外義に厚い女だったのね、知らなかったわ……」

 

だがどれほど怒りを抱えても、苦しいときに拾ってくれたヴィンデルに対する恩も、恋人であるアクセルへの情もあり、レモンにはヴィンデル達を裏切ると言う選択をすることが出来ないのだった……。

 

 

 

 

第19話 砂上の楼閣/狂う孤狼/太古の邪龍 その1へ続く

 

 




次回はOG2プロローグの大きな山場を書いて行こうと思います。OG2編の序盤シナリオの大半は全てOG2本編に繋がるシナリオと言う事で考えているので、逃げるや決着うやむやでしたが、ベーオウルフと太古の魔龍(多分皆判っていると思いますけど)は決着までは書くつもりなので、次話からは長い話にしたいと思います。


ゲッターアークアニメ化記念と言う事で明日の18時も更新しますのでよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話 砂上の楼閣/狂う孤狼/太古の邪龍 その1

第19話 砂上の楼閣/狂う孤狼/太古の邪龍 その1

 

ピーターソン基地を中心に配置された数少ないゲシュペンストMK-Ⅲや、旧式のゲシュペンスト・MK-Ⅱ、そして僅かなラーズアングリフやアシュセイバー、そしてそれらの合間を埋めるように配置された「フュルギュア」「ソルプレッサ」……それが今の連邦軍の持ちうる戦力の全てだった。だがそれも当然だ、軍上層部と政治家の鳴り物入りの計画「イージス計画」に殆どの基地から機体が徴収され、強襲するシャドウミラー隊との戦いに投入された。そしてイージスシステムの起動によって、ジュネーブにいた上級階級の者は全て化け物に食われて死んだか、身体を乗っ取られた。残された軍人もシャドウミラーに賛同する者、今でもなお軍上層部の命令に従う者、軍から逃亡した者と同じ連邦軍の中でも様々な派閥が生まれていた。

 

「本当にシャドウミラーを捕まえれば、あの化け物がいなくなるのかね?」

 

「ありえねえだろ、責任を向ける先が欲しいだけさ」

 

「……それより、お前たちも離脱する準備をしておけ」

 

「どういうことですか? 分隊長?」

 

「……ベーオウルブズの姿が確認された。今はどこにいるか判らないが……間違いなくこの近くに居る」

 

「ここに来る可能性はかなり高いってことですね?」

 

部下の言葉に分隊長は険しい顔で頷いた。ベーオウルブズ――キョウスケ・ナンブが率いる地球連邦軍特殊鎮圧部隊だが、ベーオウルブズが既に化け物の一派に取り込まれていると言う噂は有名だ。

 

「どうせ上官は宇宙に逃げるつもりだ。命の張り所を見誤るなよ」

 

この戦いは一部の上官の面子による為の物だ。そんな下らない戦いで命を捨てるなよと分隊長は告げ、自分の搭乗機であるゲシュペンスト・MK-Ⅲ指揮官タイプへと乗り込む。

 

「ちっ、良いご身分だぜ」

 

ピーターソン基地上空に滞空しているシロガネでふんぞり返っているであろう上官の事を思い、分隊長は苛立ちを隠せず舌打ちした。こうして戦場に出ている者に禄に食事を与えず、自分達は食べきれない程に料理を作り毎日毎日パーティ三昧……栄養失調間近の部下たちの事を思えば、分隊長は心を痛めていた。

 

「どうせ地球は終わりなんだ。もう上官だの、何だの立場なんて何の意味もねえ」

 

インベーダー、そしてアインストの勢力争いが始まった段階で人間は既に地球の支配者では無いのだ。シロガネで地球を脱出する前の自分達の見栄だけの為に戦場に駆り出されて死ぬつもりは無かった。

 

「さっさと来てくれよ、シャドウミラー」

 

インベーダーやアインストには話が通じず殺されるだけだ。いやもっと言えば寄生されて人間としての姿も失うだろう――それならばシャドウミラーならば話も通じるだろうし、投降だって不可能では無い――だからインベーダー達がこの基地に気付く前に、シャドウミラーが着てくれと分隊長は祈らずにいられないのだった……。

 

「レーダー索敵レベルを最大にしろ」

 

「はい、了解です」

 

「どうせシャドウミラーの事だ、馬鹿の一つ覚えのようにASRSを展開して、強行突破をするだろう。ぐふふ、そんな愚かな策が通用すると思うなよ。この完璧な包囲網、そして基地と共有したレーダーでギャンランドはここで轟沈させる」

 

オペレーター席や通信席の兵士はこの馬鹿は何を言っていると言う顔をしていた。だがそれを言えば、耳障りな声で喚き立てるのでそれを思っていても、誰もそれを否定しない。だが冷めた目で、お前は何を言っていると言う顔をするのだ。

 

「シャドウミラーさえ捕らえれば、暴走しているイージスステムも止まる。そうすれば、化け物の出現は止まるのだよ! つまりシャドウミラーさえ何とかしてしまえば我々は英雄だ!」

 

「そうですね、中佐」

 

何を馬鹿なと全員が判っている。シャドウミラーが原因ではなく、コロニーや木星圏を全て見捨て地球だけを守ると言う計画を立てた政治家と上層部――そのあまりに不完全なシステムが化け物を呼んだと全員が思っている。だがそれを指摘して、反逆者だと言って弁明の余地も無く処刑された兵士を知っているから誰も口を開かない。

 

「ああ、早く私も地球圏を脱出して、新しい新天地に向かいたい」

 

その言葉に地球はもう駄目だと、イージス計画を止めても地球が地獄のままだと言っているのに、まだ何もかもシャドウミラーのせいにしたい上層部にはうんざりしていたが、反逆者、スパイだと言われてありもしない罪で拷問されて処刑される訳には行かないと全員が口を紡ぐ。

 

(わ、私……死にたくない)

 

(そんなの、私も同じよ……もう祈るしかないわ)

 

これだけの機動兵器を運用すれば、インベーダーやアインストを誘き寄せる。きっと、今もこの基地に、この包囲網に近づいていると思うと、シロガネのブリッジにいる全員は今にも逃げ出したいほどに恐怖していた。見目の良い女性ばかりをブリッジ勤務にし、自分の性の捌け口にする名ばかりの艦長には全員がうんざりしていた。だが、拒否すれば処刑される。嫌でも、身体を差し出さなければ殺される……そんな生活を強要されているブリッジ勤務の女性達は肉体も、精神もボロボロだった。だからほんの僅かなレーダーの反応に気付けず、悪意が近づいてくるのに気付けないでいた……そして気付いた時には何もかも手遅れの段階となるのだがそれに気付く者は今は誰もいないのだった……。

 

 

 

 

 

ピーターソン基地のレーダー有効範囲内に入る前にギャンランドでは最後のブリーフィングが行われていた。

 

「ピーターソン基地は膨大な敷地を持つ巨大な連邦軍基地になります。シロガネやハガネと言った、スペースノア級のメンテが可能な基地と言われればその規模が判ると思いますが、どうですか?」

 

ヴィンデルの問いかけに武蔵が挙手してから質問を返す。

 

「伊豆基地みたいな感じですかね?」

 

武蔵の記憶の中では伊豆基地は非常に巨大な基地で、3隻のスペースノア級が揃った所を見たこともある。だからピーターソン基地がそれくらいの規模なのかと尋ねる。

 

「……そこまで大きくは無いわね。伊豆基地よりも少し規模が小さい分、PTとかの開発ラインもある複合基地って所ね。今はマスドライバーも設立されている筈よ」

 

マスドライバーの言葉にカーウァイとイングラムの眉が小さく寄った。

 

「なるほど、ピーターソン基地が今の人類の最後の希望の綱と言うところでもあるわけだな?」

 

「そうなります。マスドライバー施設はピーターソン基地が最後の人類の持ちうる施設です、ここを失えば宇宙に出る事は極めて難しくなるでしょう」

 

「マスドライバー施設自身が人質と言うことか、悪辣だな」

 

ピーターソン基地を失えば、人類は宇宙に出る術を失う。そうなれば、インベーダーとアインストの闊歩する地球から脱出する術も無くなる。ギャンランドが……強いて言えば、シャドウミラーがテスラ研に向かうにはピーターソン基地を突破する必要があるが、確実に戦いになる。その中でマスドライバー施設に被害を出さずに戦うというのは不可能に近い、そしてピーターソン基地側とすればマスドライバーを破壊されたくなければ、こちらの要求に従え位は言い出すはずだ。

 

「ヴィンデル大佐。私の記憶が正しければ、ピーターソン基地の基地司令は既に地球にいないと記憶しておりますが、そこはどうなのでしょうか?」

 

「ああ、その通りだ。ラトゥー二少尉、現在ピーターソン基地およびシロガネは基地司令代行によって運用されているが、そいつはイージス計画推進派であり、賄賂や、権力を傘に食糧等の物資の独占を行う等ととてもまともな軍人とは言えない下種だ。自分の手柄の為にとんでもない暴論に出るのは私達も想定している」

 

今のこの地球の情勢の中でも、唯一豊かな生活をしているといえばどれほどの非道を行っているか想像に容易いだろう。

 

「あたし達のエクサランスを徴収しようとしたのもピーターソン基地ね」

 

「ああ。それも俺とラージは必要ないから、フィオナとミズホだけって言ってたな」

 

「全身舐め回すように見られたのが今思いだしても気持ち悪いです……」

 

フィオナ達の話も加わり、ピーターソン基地の今の司令が自分の欲望を満たすだけの下種と言う事が良く判った。

 

「出来ればマスドライバーは残したい所だが……そうも言ってられないだろな」

 

「ああ、俺達が劣勢に追い込まれたサンフランシスコに設置された爆弾……それに踏み切ったのもピーターソン基地の司令をしている男だ」

 

アクセルが吐き捨てるように告げられた言葉に全員が顔を顰めた。シャドウミラー隊の大半を皆殺しにしたサンフランシスコの爆破――しかも国際救難信号を発信して誘き寄せての爆破と聞けばそれがどれだけの非道か良く判るだろう。

 

「……そんな酷い軍人もいるんですね」

 

「武蔵よ、良い奴ほど早く死んだ……俺の友と呼べる男も死んだ……残ったのは身の保身に走った下種ばかりだ」

 

本物の軍人……牙無き者を、国民を守りたいという男ほどインベーダーとアインストが出現した当時に殆どが死んでいる。残ったのは、地球を守ると言う理念を捨て逃げることを選んだ軍人だけだとアクセルは言う。

 

「まぁ、事実その通りよね。さてと話を戻すわよ? 私達はピーターソン基地を制圧しないといけないわ。ここを強行突破しても、アインスト、インベーダー、そして連邦の生き残りの3者から攻撃を仕掛けられたらテスラ研を守りきれないからね」

 

「作戦としてはシロガネの撃墜を最優先とする。あの小心者の事を考えればシロガネに閉じ篭っているだろう……シロガネさえ撃墜すればピーターソン基地は抵抗をやめるだろう」

 

「だがそうなるともう単独で地球圏を離脱出来る船は無くなるぞ?」

 

シロガネを破壊すれば、マスドライバーなしで大気圏を突破出来る戦艦が無くなるとカーウァイが指摘するが、ヴィンデルは首を左右に振った。

 

「ハガネがアインスト、クロガネがインベーダーに奪取された際にシロガネも中破、オーバーブーストが破壊されており、もうシロガネに単独で地球圏を離脱する力はありません」

 

「……そうか、だからシロガネを破壊するという結論になったのか……」

 

永遠の闘争を望むヴィンデルとて軍人である。地球に住む地球人をむざむざ見捨てると言うことはしない、だがシロガネにもう箱舟としての能力は無く、ギャンランドに乗せる事が出来る数も限られている……時空間転移に踏み切ったのもそう言う事情が大きく左右している。

 

「レモン、ワンダーランド、ネバーランドはテスラ研に到着しているな?」

 

「ええ、私達が派手に立ち回ったおかげでね」

 

3隻あるトライロバイトの内2隻は既にテスラ研に到着し、ステルスシェードで身を隠しながらヴィンデル達を待っている。後は、ギャンランドがテスラ研に辿り着けば、プロジェクトEFはすぐにでも発令できる。

 

「ラウル・グレーデン、フィオナ・グレーデン。この世界を捨てると言うのは容易に受け入れられる物では無いだろう。だがそれが私達に出来る最後の手段でもある、ピーターソン基地突破に協力をして欲しい、協力してくれるのならば便宜は図ろう」

 

「それは僕達も別の世界に連れて行ってくれると言う事ですね?」

 

「それしか今の私達に君達に払える報酬は無い」

 

この世界に残り続ければ死に怯える道しかない。それが自分達が育った世界を捨てると言う選択であっても、それが生き残る道となればラウル達もそれを受け入れるしかない。

 

「判りました、協力します」

 

「それは助かる、ピーターソン基地で戦闘が始まればインベーダー、アインストが集まってくるだろう。この作戦は……」

 

ヴィンデルの言葉を遮り、ギャンランドの警報が鳴り響いた。

 

「どうも……もう始まってるみたいね……どうするヴィンデル?」

 

「テスラ研を破壊されるわけにはいかんッ! ギャンランド機関最大戦速!」

 

ピーターソン基地を破壊した後にテスラ研を破壊されては困る。ヴィンデルは致し方なく、ピーターソン基地を襲撃ではなく、救援に切り替えギャンランドをそちらに急行させるように指示を出す事となるのだった……。

 

 

 

 

 

ピーターソン基地は阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。無能な司令による、ピーターソン基地を囲うように展開しろと言った部隊にインベーダーとアインストが襲い掛かり、あっという間に壊滅。展開されていた包囲網はほんの数分で化け物に食い千切られ、穴だらけにされた。

 

『シロガネはこれより戦闘空域より離脱する。各員、臨機応変かつ柔軟に対応せよ!』

 

その挙句この地獄を作り出した当の本人はインベーダーとアインストの群れを見ると即座に離脱。臨機応変かつ柔軟に対応しろと言う言葉を残し、ピーターソン基地に集まった連邦軍兵士を全て見捨てて、自分の子飼いの部下だけをシロガネに収容し逃げ出したのだ。

 

「ちくしょうが! あの禿デブめッ! フォーメーションを組みなおせッ!……「静寂なる世界の為に……」……ごぽ……くそが……ッ!」

 

ピーターソン基地に残された中で最も階級の高い男が指示を飛ばすが、それは背後から現れたゲシュペンスト・MK-Ⅲのパイルバンカーで腹に風穴を開けられ、最後まで発せられる事無く途絶えた。

 

「くそくそッ! 何で俺達を攻撃するんだ!」

 

「俺達は同じ連邦軍……ッ!」

 

ベーオウルフを責める様な通信が次々に繋げられるが、ベーオウルフ……いや、キョウスケはその言葉に何の反応も示すこと無く、無言で両肩のハッチを開放する。

 

「逃げろッ! 逃げろオオオオーーーッ!!」

 

「嫌だ嫌だ! 死にたくないッ!!」

 

「うわああああッ! 誰か! 誰か助けてッ!」

 

スクエアクレイモアから逃れようとすれば、ピーターソン基地を囲っているアインストやインベーダーに組み付かれ、コックピットを噛み砕かれる物、至近距離からのビームで骨も残さず蒸発する者……逃げる事も、そしてスクエアクレイモアを防ぐ手段も無いピーターソン基地に集められた兵士たちに向かって、ベアリング弾の雨が降り注いだ。

 

「……さぁ……来い。シャドウミラー……進化の使徒よぉ……ッ!!」

 

スクエアクレイモアの直撃を受けて跡形も無く消し飛んだピーターソン基地の中心に立ち、ギャンランドを待ち構えるゲシュペンスト・MK-Ⅲ。そして、ピーターソン基地上空に待機するハガネから地響きを立てて着地するグルンガスト参式。だが、その姿は完全に変質し、鬼を思わせる文様が浮かび、関節部が全て蔦を思わせる生体パーツへと置き換わり、機械ではなく生物へと変化したグルンガスト参式の中で頭部と胸部だけを残し、アインストに取り込まれたゼンガーの目が赤黒く輝いた。そこに既にゼンガーの意志は無く、完全にアインストの思想に染め上げられていた。

 

「……静寂なる世界の為に……」

 

「さぁ! やれ、ゼンガー・ゾンボルトッ! 我らの敵を全て薙ぎ払えッ!!」

 

スクエアクレイモアによって吹き飛ばされたインベーダーが身体を再生させ、再びピーターソン基地に向かってくる。

 

「……斬……艦……刀……星薙……の……太刀」

 

斬艦刀から伸びた赤黒いエネルギーの刃が向かってくるインベーダーごとマスドライバーもピーターソン基地の司令部や格納庫に赤黒い一閃が通り過ぎる。

 

「我が……斬……艦……刀に……断てぬ……物……なし」

 

腰の鞘に斬艦刀を納めると少し遅れて、インベーダーや司令部、格納庫、マスドライバーがズレ、爆発あるいはその身体を維持できず消滅する。

 

「ふふふふふ、くははははっはッ!!!! さぁ来い! 進化の光よ! 我等に力を! 全ては!!」

 

「「「「静寂なる世界の為に……ッ!!!」」」」

 

廃墟となったピーターソン基地の中でキョウスケ達は狂ったように笑い、ギャンランドが来るのを待ち構える。早乙女研究所の動力部の爆発に巻き込まれ、1度は吹き飛んだキョウスケ達だが、ゲッター線を取り込み、より強靭に、そしてより邪悪に進化したアインスト達は自分達こそが、進化の光の後継者であり新たな種であると叫び、今度こそこの世界で最も純度が高く、純粋なゲッター線であるゲッタードラゴンD2のゲッター線をえる為に、万全な状態でギャンランドを待ち構えているのだった……。

 

 

 

 

 

その頃ピーターソン基地を捨てて逃亡するという選択肢を取ったシロガネの中で中佐は高笑いをしていた。

 

「シャドウミラーにベーオウルブズをぶつければ、シャドウミラーの壊滅は決まり。はははははッ!! やはり私の計画は完璧だったな!」

 

何百人と言う連邦軍兵士を見捨てて来たというのに高笑いを止めない中佐に、シロガネの副艦長が意を決した表情で懐に手を伸ばした。

 

「ぎゃあッ! き、貴様ぁッ!! 何をしているッ!!」

 

「黙れ! 同胞を見捨て、何が作戦通りだ! 何が完璧だッ!! もうお前のような無能についてなど行けるか!!」

 

「反逆者がぁぁッ!?」

 

中佐が懐に手を伸ばすが、それも副長の放った銃弾で手の甲を撃たれ、取り出そうとしたハンドガンを取りこぼした。

 

「これよりシロガネを放棄ッ! レディバードにて、ピーターソン基地の生き残りの回収へ向かう! 私と志を共にするものは格納庫へ集合ッ!」

 

その言葉を聞くとブリッジにいたオペレーター達は競う様に格納庫へと向かう。

 

「き、貴様ら……裏切り者があ!」

 

「裏切り者と言うのならば、貴様がそうだ。ピーターソン基地に集まった全員を裏切り、見捨てたのだからな。せめてもの情けだ、オート

クルーズは起動しておいてやる。どこへでも行くがいいさ」

 

切れ長の瞳の女性副艦長が吐き捨てるように言って、手の甲と太腿を打ち抜かれた中佐を残してブリッジを出て行った。

 

「くそ、ふざけるなよ。あの阿婆擦れがぁッ!! あの女が来てから、けちがついてばかりだ!!」

 

今まで中佐は好き勝手に、それこそ朝から晩まで女を抱いて、好きに飯を食い、酒を飲んでいた。だがあの副艦長が来てからは何もかも思い通りにする事は出来なくなった――。シロガネのオペレートや、補給のスケジュール調整などと色々と都合を付けられ好きに女を抱く事が出来なかった事に不満が溜まっていた。しかもあの副艦長は抱いても艶声1つ出さず、ゴミを見るような目で自分を見つめていたの思い出し、足を引きずりながら艦長席に腰掛ける。

 

「ひっひひっ! 裏切り者は許さない、反逆者は死あるのみ!」

 

主砲を飛び去るレディバードに向けようとした瞬間――凄まじい衝撃がシロガネを襲った。

 

「ひ、ひい!? な、なんだッ!? あ、ああああーーッ!?」

 

今まで暴虐の限りを尽くしてきた中佐の最後の光景は無数の首を持つ、異形の生物がその鋭い牙を生やした口を大きく広げ、シロガネのブリッジに覆いかぶさってくる光景なのだった……今まで好き勝手をしてきた男の末路は誰にも看取られる事も無く、ましてやそこにいると認識される事も無く、巨大な化け物にシロガネごと噛み砕かれるという因果応報の末路なのだった……。

 

 

第20話 砂上の楼閣/狂う孤狼/太古の邪龍 その2へ続く

 

 

 




今回はシナリオの始まる前のインターミッションの話となりました。章タイトルのすべての要因を出しつつ、次の話の準備が出来たと思います。次回はベーオウルブズとの戦闘を書いて行こうと思います、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話 砂上の楼閣/狂う孤狼/太古の邪龍 その2

第20話 砂上の楼閣/狂う孤狼/太古の邪龍 その2

 

ピーターソン基地の上空に辿り着いたギャンランドのモニターに写された光景に武蔵達は絶句した。事前資料では無数の格納庫や、司令部、そしてマスドライバーが立ち並ぶ巨大基地と言う事を知らされていた。だが今の目の前に広がるのは廃墟だったからだ……。

 

「まさかたった数十分でこれとか……想像もしてなかったわ」

 

戦闘が始まっている事は判っていた。だが、まさか1時間も経たずにピーターソン基地が壊滅するとはレモンにとっても想定外だった。

 

『さぁ!! 進化の使徒よッ! 我らを認めよッ!! 我らこそが新たな種だッ!』

 

「お呼びのようですね……行きましょうか、イングラムさん、ラウさん」

 

「ああ……どの道出撃しない事にはなにも始まらないからな……」

 

「ギャンランドをここで失う訳にもいかん」

 

「……皆の仇をここで討つ……ッ!」

 

進化の使徒……武蔵の事を呼ぶベーオウルフ……その姿は誰が見ても正気ではなく、ピーターソン基地上空に陣取っているハガネの主砲もギャンランドに向けられている。このまま強行突破をしようとすれば、トロニウムバスターキャノンを放とうとするのは誰が見ても明らかだった。それを見て武蔵達は真っ先にブリーフィングルームを飛び出して行き、その後をリュウセイ達の仇を討つとその瞳に憎悪の炎を宿し、ラトゥーニが追いかけていった。

 

「ここで決着をつけ、後顧の憂いを断ってくれるッ! 行くぞ、ウォーダン、エキドナ」

 

「承知……ッ! ここでベーオウルフの首を獲る」

 

「了解しました。アクセル隊長」

 

アクセルに率いられ、エキドナとウォーダンもブリーフィングルームを飛び出して行った。

 

「ラウルとフィオナは無理をしないで、ギャンランドの支援で良いわ。危ないと思えば、撤退してくれればいいから」

 

「そう言うことです、無理をせずに命を大切に行動してください」

 

「ラウルさんもフィオナさんも気をつけて」

 

レモンの言葉の後にラージとミズホに声を掛けられ、ラウルとフィオナは互いに頷きあい、ラージとミズホを安心させるかのように微笑んだ。

 

「はい、判りました。フィオナ、行こう、ミズホ、ラージ行ってくるぜッ!!」

 

「ええ、このままジッとしてたら、何も出来ないで死にそうだしね、じゃ行って来るわッ!!」

 

ピーターソン基地の破壊された残骸から生えるように姿を見せるボーンやグラス、そしてアインストに寄生されたゲシュペンストの姿――あちら側の世界の明暗を分ける大きな戦いがピーターソン基地で始まろうとしていた……。

 

 

 

 

 

戦場にゲッターD2が現れると同時にゲシュペンスト・MK-Ⅲは弾丸のような勢いでゲッターD2へと突っ込んできた。

 

「進化の使徒! 我らはより進化した! 今こそ我らを後継と認めよッ!!」

 

「相も変わらず訳のわからねえ事を言ってるんじゃねえッ!!」

 

突撃してきたゲシュペンスト・MK-Ⅲの頭部に固く握り締められたポセイドン2の拳が振るわれる。

 

「無駄だぁ! 我らはより進化したと言っただろうッ!!!」

 

「バリアかッ! くそ厄介な物を身につけやがってッ!!!」

 

早乙女研究所の大型ゲッター炉心の爆発であわよくばと考えていたが、そのゲッター炉心の爆発の中でもゲシュペンスト・MK-Ⅲは健在であり、それ所か新しい能力を有するまでになっていた。ポセイドン2のパワーでさえも完全に防ぎきる高出力のバリア……それにポセイドンの拳は受け止められ、高速で突っ込んでくるゲシュペンスト・MKーⅢの体当たりで3倍近いサイズ差のあるポセイドン2は上空に跳ね上げられていた。

 

「なろおッ!! ゲッターキャノンッ!! フィンガーネットッ!!!」

 

「当たりはしないッ!!」

 

ゲッターキャノンによる目晦ましからのフィンガーネットによる放電でゲシュペンスト・MK-Ⅲの機動力を削ごうと考えた武蔵だが、両肩のハッチから放たれた半分エネルギー態と化したスクエアクレイモアによる弾幕によって、ゲッターキャノンは無効化され、フィンガーネットも弾き飛ばされる。

 

「チイッ! オープンゲットッ! チェンジッ! ポセイドンッ!!!」

 

ポセイドン2に迫るクレイモアをオープンゲットしかわし、離れた所に再合体を果たすポセイドン2――そのコックピットの中で武蔵は冷や汗を流していた。

 

「こいつはかなりやばいな……」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲをゲッターロボも危険と判断したのか、その出力を増している。だがゲッターロボの出力が上がれば、それだけゲシュペンスト・MK-Ⅲの進化を促すことになる。だが……これだけのパワーがあるゲシュペンスト・MK-Ⅲを相手を出来る機体はゲッターD2を除けば、ソウルゲインと修理を終えたばかりのグルンガスト参式しかいない。しかもそれも、互角に戦えるということではない。1発か2発耐えれるというだけで、連続で攻撃を受ける異なれば殆ど一瞬でその装甲は砕かれ、スクラップへと化すだろう。今のゲシュペンスト・MK-Ⅲはそれほどのパワーを有していた。

 

「だけど、諦めるってことにはつながらねえッ!! ゲッタァアアッ!! サァアアイクロンッ!!!」

 

パージされた胸部回りの装甲の下から展開されたファンから放たれた凄まじい暴風がゲシュペンスト・MK-Ⅲに向かって放たれる。その凄まじい暴風でさえも、ゲシュペンスト・MK-Ⅲのバリアを突破する事は出来ず、ゲシュペンスト・MK-Ⅲの中でキョウスケはにやりと獰猛な笑みを浮かべた。

 

「こんな小細工……がぁッ!」

 

こんな小細工など通用しないと言おうとしたゲシュペンスト・MK-Ⅲの頭部が大きく仰け反る。

 

「……私は……お前を許さないッ!!」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲを仰け反らせたのは、R-1改の放ったブーステッドライフルだった。勿論それ単体に本来ゲシュペンスト・MK-Ⅲを仰け反らせるだけのパワーは無い。だが念動力でコーティングされたライフル弾はそのバリアを貫き、ピンポイントでセンサーアイだけを打ち抜いた。その衝撃で仰け反ったゲシュペンスト・MK-Ⅲはゲッターサイクロンに耐える事が出来ず、暴風に巻上げられ機体が天高く舞う。

 

「フィンガーネットッ!! うおおおおおーーーッ!! 大ッ! 雪ッ!! 山ッ!!!!」

 

「ぐ、ぐおおおおーーッ!?」

 

舞い上がったゲシュペンスト・MK-Ⅲに即座にフィンガーネットが巻き付き、高速で動く腕の動きに合わせてゲシュペンスト・MK-Ⅲの全身が激しく揺さぶられる。

 

「おろしいいいいーーーッ!!!!」

 

ゲッターサイクロンの比では無い暴風がゲシュペンスト・MK-Ⅲを飲み込み、大きく上空へと吹き飛ばす。真空状態の中に閉じ込められ、真空の刃に切り裂かれたゲシュペンスト・MK-Ⅲの全身には細かい傷が入っているが、それだけで行動不能に追い込むだけのパワーはなかった。

 

「まだだ、進化の「貴様、どこを見ている」……アクセル……アルマアアアーーッ!!!」

 

ただ闇雲に武蔵は大雪山おろしでゲシュペンスト・MK-Ⅲを弾き飛ばしたのでは無い、大雪山おろしに合わせて参式によって天高く投げられていたソウルゲインの元にゲシュペンスト・MK-Ⅲを弾き飛ばしたのだ。

 

「白虎咬ッ!!!」

 

エネルギーを纏ったソウルゲインの両拳によるラッシュがゲシュペンスト・MK-Ⅲの胸部装甲を容赦なく貫いた。

 

「がっ!? 舐めるなあッ!!」

 

「舐めているのは貴様だッ! ベーオウルフッ!!!」

 

スクエアクレイモアを放とうとハッチが開いた瞬間。太陽の光の中にその姿を隠していたプロト・アンジュルグの放ったシャドウランサーが放たれようとしていたクレイモアを貫き、両肩を吹き飛ばす。

 

「良くやった、エキドナ。そのままギャンランドのフォローに入れ、俺は武蔵とラトゥーニと共にゲシュペンスト・MK-Ⅲをしとめる」

 

『了解しました。ご武運を……』

 

その言葉と共に通信は途切れ、プロト・アンジュルグはその翼を羽ばたかせギャンランドの元へ急降下する。

 

「くたばれッ! ベーオウルフッ!!!」

 

ソウルゲインが回転し、勢いを乗せた踵落としがゲシュペンスト・MK-Ⅲの胸部を粉々に打ち砕く

 

「がはあッ!!」

 

「おおおおおおーーーッ!!!」

 

地表に叩きつけられる僅かな時間――その時間を一秒たりとも無駄にはしないと背部のブースターを吹かし、落下していくゲシュペンスト・MK-Ⅲにソウルゲインの両拳が叩き込まれ、大きく振りかぶった回し蹴りがゲシュペンスト・MK-Ⅲを地表へと凄まじい勢いで叩きつける。

 

「こいつはついでだッ! 持って行け青龍鱗ッ!!!」

 

着地の衝撃を和らげる意味合いもある青龍鱗がゲシュペンスト・MK-Ⅲに殺到し、その反動で柔らかく着地したソウルゲインの中でアクセルは小さく笑う。

 

「いいフォローだった。これがな」

 

『……ありがとうございます。私はキョウスケ・ナンブを許さない、だけど……私だけで倒せないなら、倒せる相手を使う事に躊躇いはありません』

 

「はっ! 良いぞ、貴様。この戦いが終わればシャドウミラーに来い。俺が面倒を見てやる」

 

『……いえ、私にこの後はありませんから』

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲを倒せばそれで良い、相打ちになったとしても本望だと考えているラトゥーニにアクセルも武蔵も何も言わない。

 

「うっし、ならオイラも手伝うさ。それにどうせ……オイラ1人じゃ、あいつには勝てない」

 

「そのようだな……化け物め……ッ!」

 

ソウルゲインの攻撃で確かにゲシュペンスト・MK-Ⅲのコックピットは砕かれた。だが砂煙の中でビデオの巻き戻しのように機体を再生させるゲシュペンスト・MK-Ⅲに向かってアクセルが吐き捨てるように呟いた。

 

「まだだぁッ! その程度で我が意志は打ち砕けんッ!!」

 

「それで足りないって言うなら、何度でも倒すだけだッ!!」

 

「ああ、その通りだッ! いつまでも現世をさまよわず、地獄へ行けッ!! ベーオウルフッ!!」

 

あれだけの攻撃を叩き込んでもなお再生するゲシュペンスト・MK-Ⅲに大しても、武蔵とアクセルの闘志は折れない。

 

「……エネルギーの集束点……そこさえ、判れば」

 

既にゲシュペンスト・MK-Ⅲが機械ではなく、生き物であると言うことは明らかだった。だが生き物であると言う事は、どこかに再生を司る器官があるはず……ラトゥーニがそれを見破ってくれると信じ、アクセルと武蔵は既に完全に復元したゲシュペンスト・MK-Ⅲに向かって再びソウルゲインとポセイドン2を走らせるのだった……。

 

 

 

 

 

最後の確認……と言うよりは正気か? と言うニュアンスを込めたイングラムの言葉にも、カーウァイの意思は変わらなかった。

 

「本当にいいのか、カーウァイ」

 

「……ああ、私がやる。お前はギャンランドの支援に回ってくれ」

 

例えヴィンデル達が裏切っていると判っていても、イングラム達が元いた世界に戻るにはギャンランド、そしてシャドウミラーが必要だ。

 

「……判った。気をつけろよ」

 

「ああ。判っている。

 

R-SOWRDを見送り、ゲシュペンスト・タイプSはピーターソン基地の中心に立つ異形の剣鬼を睨みつける。

 

「全ては静寂なる世界の……為に」

 

ゼンガーの強い意思を感じさせない無機質な声にカーウァイは心を痛めた。あの時早乙女研究所で、倒す事が出来ていれば……ゼンガーがあんな姿にならなかったと……あの時倒し切る事が出来なかった己の腕の未熟さを悔いた。

 

「今度は私がお前に引導を渡してやる……ゼンガーッ!!」

 

「眼前の敵は全て……打ち砕くッ!!」

 

鬼面から生えるように現れた異形の斬艦刀を構えるグルンガスト参式だった物を睨む、シルエットは確かにグルンガスト参式だ。だがその装甲は鬼面を組み合わせたような、それこそ骸骨のような姿をしていた。

 

「剣鬼……お前にはそんな姿は似合わんぞッ!! ゼンガーッ!!!」

 

「アアアアアアーーーッ!!!」

 

振るわれた斬艦刀の切っ先から飛び出すエネルギー刃をかわしながら、ゲシュペンスト・タイプSは滑るようにアインスト参式へと迫る。

 

「ちっ、固いッ!!」

 

早乙女研究所を脱出する時よりも武装も弾薬も充実している。だからこそ、最初からカーウァイは弾幕による制圧に挑んだ……。だがアインスト参式の装甲は固く、むき出しの目を打ち抜いても即座に回復され、有効打撃にはならない。

 

「うおおおおおおーーーッ!!」

 

「くっ!?」

 

胸部の鬼面の口が開き、そこから放たれた赤黒い光線を咄嗟に飛び退いて避ける。だが体勢を立て直す間もなく、走る振動にカーウァイは口から血を吐きながら顔を顰める。

 

「姿は変われど、グルンガスト参式と言うことには変わらんか!!」

 

蔦で繋がれた腕がゲシュペンスト・タイプSの右腕を掴んでいた。装甲の拉げる音とアラートを聞いて左腕で腰のビーム・ブレードガンを抜き放ち、ビームソードで右腕を掴んでいるアインスト参式の腕を切り裂くが……。

 

「回復速度が速すぎる……ッ!」

 

切り裂いた瞬間は確かに力が緩む。だが即座に回復し、再び右腕を力強く握り締められる。その度に、タイプSのコックピットに警報がなり響いた。

 

「……一刀……両断……ッ!!」

 

「ぐっ、くっ……馬鹿力めッ!!」

 

全身のバーニアを使って引き寄せられるのを耐えているが、アインスト参式のほうが圧倒的にパワーがあり、徐々にアインスト参式にタイプSが引き寄せられていく……。

 

「ぬうんッ!!!」

 

後ほんの数メートルで斬艦刀の間合いに引きずり込まれるという所で、グルンガスト参式……ウォーダンが割り込み、アインスト参式とその腕を繋いでいる蔦を斬艦刀で両断した。

 

「ぐうっ!?」

 

腕の関節を切られたことで転倒するアインスト参式、その隙にウォーダンはタイプSの腕を掴んでいるアインスト参式の腕を引き離し両断する。

 

「すまない、助かった」

 

『いえ、部下としてお助けするのは当然です。カーウァイ大佐』

 

声は確かにゼンガーの物だが、ウォーダンはゼンガーでは無い、そう判っていてもその言い回し、その態度はどうしてもゼンガーを思い出せていた。

 

「私1人では倒せない、協力してくれるか?」

 

『……了解しました。このウォーダン・ユミル、ご協力いたします!』

 

1人で倒すつもりだった……それがかつての部下に対する手向けだと思っていた。だがアインストに寄生されたゼンガーの強さは想像を遥かに越えていた……これではゼンガーを解放する所ではなく、自分がやられてしまう――それが判ったからカーウァイは意地を張らずに、ウォーダンに助太刀を頼んでいた……いや、もっと言えばそれこそ無茶をすれば、カーウァイ単独でもアインスト参式の撃墜は可能だった。

 

(……見極めなければ……)

 

この戦いの中でウォーダン・ユミル……いや、シャドウミラーによってゼンガーの人格データをコピーされたW-15……それが機械でしかないのか、それとも……ゼンガー・ゾンボルトのなのか……それともウォーダン・ユミルと言う個なのか……それを戦いの中で見極める為にカーウァイはウォーダンに共闘を頼んだのだ。

 

『ウォーダン・ユミル。推して参るッ!!!』

 

「アアアアーーーーッ!!」

 

ピーターソン基地の廃墟に響く、ウォーダンとゼンガーの雄叫び、それを聞きながらカーウァイはゲシュペンスト・タイプSを駆る。

 

(……私に力を貸してくれ……タイプS……そして皆……)

 

今のタイプSでは、アインストに取り込まれたゼンガーを助け出すことは出来ない。カーウァイは無茶を承知で戦場の中で新しいコンバットパターンを組み上げ始めた……それはカーウァイ・ラウだけでのコンバットパターンでは無い、テンペスト・ホーカー、ゼンガー・ゾンボルト、エルザム・V・ブランシュタイン、カイ・キタムラ、ギリアム・イェーガー、そしてラドラ・ヴェフェス・モルナ……特殊戦技教導隊の7人のコンバットパターンを組み合わせた特殊戦技教導隊を象徴する新しいコンバットパターンをカーウァイはこの戦いの中で作り出そうとしていた……。

 

 

 

 

 

 

ギャンランドの中でレモンとヴィンデルは顔を顰めていた。戦力は確かに早乙女研究所の時よりも遥かに充実している……だがそれ以上にベーオウルフ……キョウスケ・ナンブの力が上がっていたのだ。

 

『なろおッ!! 負けるかよぉッ!!』

 

『ふははははッ! その程度なのか!!』

 

背負い投げで地面に叩きつけられ、確かに装甲が拉げたが、ゲシュペンスト・MK-Ⅲから響くべーオウルフの声には何の変化もない。

 

『ちい! 武蔵かわれ!』

 

ポセイドン2の背中を踏み台にし、跳んだソウルゲインの手刀が腕を断ち切った。

 

『ぬるい、ぬるいぞ! アクセル・アルマーァーーーッ!!!』

 

断ち切られた腕は即座に触手によって繋げられ、リボルビングステークの一撃がソウルゲインの胸部を貫く寸前に、R-1改が飛びかかる。

 

『ぬうッ! 弱者が邪魔をするなあッ!』

 

『……当たらないッ!』

 

T-LINKナックルによってリボルビングステークの切っ先を逸らされ、僅かにソウルゲインの脇腹を抉るに留まり、邪魔をしたR-1改に5連装マシンキャノンの掃射が迫るがラトゥーニはその射撃を背中に目があるのかと言いたくなるような軌道で舞うように回避する。

 

『おっらああッ!!!』

 

『……効かん、効かんぞォッ!!』

 

スレッジハンマーがゲシュペンスト・MK-Ⅲの頭部を押し潰すが、即座に再生し、ポセイドン2の両腕を持ち上げる。

 

『くそ……ますます回復力が高まってやがる……』

 

『化け物め……ッ!』

 

3対1の状況だからゲシュペンスト・MK-Ⅲに対しても有利に立ち回れていたが、ソウルゲイン、あるいはR-1改が倒れれば、その瞬間に武蔵達は劣勢に追い込まれるだろう……それほどまでにアインストとの融合が進んだゲシュペンスト・MK-Ⅲは脅威となっていた。

 

『……静寂なる世界の為に……貴様は邪魔だ!』

 

『ぬううッ!!』

 

アインスト参式とグルンガスト参式の戦いも、アインストの再生速度に対してダメージ量が少なく完全に劣勢に追い込まれている。

 

「計算が甘かったか……ッ」

 

「いいえ、早乙女研究所の段階での戦力で考えれば勝てるはずだったわ」

 

早乙女研究所で戦ったときにこれだけの戦力が整っていれば、間違いなく武蔵達は勝てていた。だが早乙女研究所のゲッター炉心のゲッター線を取り込んだ事で進化したゲシュペンスト・MK-Ⅲの強さを想定していなかったのが、この劣勢の原因だった。

 

「でもまだ何とかなるわ、イングラム達がハガネに組み付いたわ」

 

制空権を制圧しているハガネさえ撃墜出来ればギャンランドで支援も出来る。そうすれば、この劣勢も少しは覆せる……レモンはそう考えていたが……状況はそんなに甘いものではなかった。

 

「レモンさん、熱源反応急接近ッ! 上空から来ますッ!」

 

「ガアアアアアーーッ!!」

 

雲を引き裂いて急降下してて来た巨大な影……ギャンランドはその巨大な影の一撃に耐え切れず、煙を上げてピーターソン基地の上に墜落した。

 

「な、なんだよあれ!? あ、あんなのまで出てくるのかよッ!」

 

「驚いてる暇は無いわよ! ラージ達を助けに行くわよ!」

 

「あ、ああッ! イングラムさん、エキドナさん、俺達は1度下がります!!」

 

ハガネに組み付いていたエクサランス2機がギャンランドの救出の為に一時離脱する。

 

「時間を掛けている暇は無い、一気に落とすぞ!」

 

『委細承知ッ!』

 

ギャンランドを墜落させた巨大な影……それはまるで巨大なくらげのような生き物だった、PTよりも巨大な牙がびっしりと生え、鋭い三白眼がピーターソン基地の跡地にいる全員を見つめ、餌が山ほどあると言いたげにPTなら丸呑みできそうな巨大な口を広げ、涎と共に大きな咆哮を上げるのを見て、カーウァイは危険は承知でアインスト参式を速攻で倒す事を決め、グルンガスト参式と共に戦場を駆ける。

 

「……なんで俺はこんな事を忘れていたんだ」

 

そんな中イングラムだけは険しい顔でその化け物……「ドラゴノザウルス」を見つめていた。自分はそれを知っていたのにそれを忘れていた事に今気付いたのだ。

 

『イングラム少佐。大丈夫ですか?』

 

「ああ、大丈夫だ。エキドナ、それよりも1度下がるぞ」

 

『し、しかし、それではハガネがッ!』

 

「俺に考えがある、それにこのままここに残ると危険だ。見ろ」

 

ドラゴノザウルスを見るように促され、エキドナはそちらを見て顔を顰めた。

 

『あれはまさか……』

 

「そのまさかだ。判ったら下がるぞ」

 

確かにアインスト・ハガネを撃墜一歩前まで追い込み、下がるのはイングラムにとっても避けたい事だった。だがエクサランスが後退した今、プロト・アンジュルグとR-SOWRDだけでは火力が足りない……自分達のみを守ると言う意味もあり、イングラムは一時アインスト・ハガネへの追撃を断念したのだ。

 

「ガオオオオーーンッ!!!」

 

「「「「シャアアアーーーッ!!」」」」

 

その咆哮と共に身体の下から無数の龍の首が現れる。それは日本脱出の際に海中から襲ってきた龍の姿だった……。

 

「なるほどね……あれは触手だったって事なのね」

 

「何を冷静に言っている!? ただでさえ悪い状況が更に悪化したのだぞ!?」

 

「そんなに慌てないで頂戴、ヴィンデル。確かに状況は最悪を通り越して、最低だけど……あの化け物は利用出来るわ」

 

空中を浮遊する異様な怪生物を見てレモンは目を細める。あの化け物は飢えている、だから餌を求めてこの場にやってきた……飢えた獣は何よりも危険だ。だが危険だからこそ、利用する方法がある――前門のゲシュペンスト・MKーⅢ、後門のアインスト参式、そして上空にはハガネと正体不明の化け物……どう考えても助かる術は無い、絶望的な状況……だがレモンの卓越した頭脳はこの状況を切り抜ける為の策を考えて、フル回転を始めているのだった……。

 

 

 

 

第21話 砂上の楼閣/狂う孤狼/太古の邪龍 その3へ続く

 

 

 




戦力は充実したが、それ以上にパワーアップしていたベーオウルフとアインストゼンガー。有利に立ち回っているが、それはギリギリの綱渡り、少し間違えば一瞬で死ぬという状況で、ドラゴノザウルスの乱入と言う絶望的な状況になりました。レモンがこの劣勢をどう切り抜けるのか、そこを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話 砂上の楼閣/狂う孤狼/太古の邪龍 その3

第21話 砂上の楼閣/狂う孤狼/太古の邪龍 その3

 

 

雲を裂き急降下してきた異形の影……誰もが混乱する中。イングラムだけが、その生物の事を知っていた。フラスコの世界――に辿り着く前に、その生物と戦った事があったからだ。

 

「ドラゴノザウルス……ッ! まさかこんな所で見ることになるとは……」

 

超古代生物であるドラゴノザウルスは重油やPT――いや、かつての世界で言うモビルスーツなどの動力などを好んで捕食し、恐ろしい回復能力と、攻撃を受け流す独自の体組織を持ち極めて厄介な存在だった。ゲシュペンスト・MK-Ⅲ、そしてアインスト参式だけでも手に負えないのに、そこにドラゴノザウルスは加われば、全滅は間逃れない。普通はそう考えるだろう……だがイングラムは違っていた、R-SOWRDのコックピットで薄く笑っていた。

 

「エキドナ、協力しろ。あのドラゴノザウルスの注意をゲシュペンスト・MK-Ⅲとハガネに向ける」

 

真っ向から戦えば、勝ち目は0だ。だが何も馬鹿正直に真っ向から戦う必要は無い、利用できるものは何でも利用する。ドラゴノザウルスもイングラムからすれば簡単に利用でき、更に強力な戦力に過ぎなかった。

 

『し、しかし、そんな事が出来るのですか?』

 

「出来るさ。武装の威力を絞って、目の前を飛び回るぞ。そうすれば簡単に掛かる」

 

人間だって目の前で虫が飛び回ればいらつく。そしてドラゴノザウルスは飢えていて、その上凶暴だ。誘導するのはそう難しい事はでは無い。

 

『し、しかしアインストを喰らえばどうなるか判りませんよ!?』

 

「そこは賭けだな、しかも飛びっきり分が悪い」

 

アインストを喰らい、キョウスケの支配下に落ちればその瞬間に詰みだ。だが、真っ向に戦えばドラゴノザウルスを倒すには手数が足りない。それならば化け物同士を戦わせるのが最善の一手だとイングラムは考えたのだ。

 

『エキドナ、イングラムにしたがって、私も同じ考えよ』

 

『れ、レモン様……は、はい。判りました』

 

最後まで渋っていたエキドナだが、レモンからの通信でイングラムの作戦に賛同した。

 

「お前も同じ考えか、レモン」

 

『ええ、最悪のケースは考えたけど……これが最善よ。あのクラゲみたいな、龍みたいなわけの判らない化け物を上手く焚きつけて、ベーオウルフにぶつける。その後はテスラ研に急行するって言うのがね』

 

インベーダーはSRXが消え勢いが弱まっている。そしてシャドウミラーを追っていた連邦軍は壊滅した、部隊の再編成にはかなりの時間が掛かるだろう。残る懸念はアインストとアインストに寄生されたキョウスケだが、ここでドラゴノザウルスをぶつけ相打ちになってくればベスト。最悪、キョウスケの支配下に落ちたとしてもテスラ研に向かい、転移システムを起動出来ればその瞬間にヴィンデル達の勝ちが決まる。

 

(そうなれば、俺達がヴィンデル達と敵対する事になるが……仕方あるまい)

 

あくまでこの共闘はテスラ研に辿り着き、時空転移をするまでの仮初の物だ。それはイングラムもヴィンデル達も判っている、何時裏をかかれるか判らないが今は協力しあわなければ、イングラム達は元の世界に戻る事も出来ない。互いに騙しあいながら、ここまでやってきたのだ。しかし、仮初とはいえ協力関係にあったのが敵対する事になる事に僅かにイングラムは悲しさと寂しさを感じていた。

 

(俺もまだまだ甘いな)

 

今の自分の状態はストックホルム症候群に近いと感じていた。自分でもまだこんな甘さがあったかと苦笑するイングラムだが、その甘くなった自分をイングラムは嫌ってはいなかった……むしろ好ましいとまで感じていた。目的の為だけになにもかも切り捨ててきた。だからこそ、この甘さは人間らしさの証とまで思っていた。

 

「行くぞ、武装の威力は最低に絞れ、ハガネへと誘導する」

 

『了解しました』

 

R-SOWRDの隣を飛ぶプロト・アンジュルグを見て、イングラムは思うのだ。エキドナ……W-16と呼ばれる彼女と、自分は良く似ていると……そして自分にはリュウセイ達がいた。そしてエキドナは武蔵の側に在ろうとする……。

 

(お前はW-16等では無い。エキドナ・イーサッキという個人であると気付け……)

 

エキドナは今変わろうとしている、後はエキドナ自身はそれに気付くか、気付かないという瀬戸際だ。だがイングラムは敢えてそれを指摘しない、この世界ではバルシェムとして生を受けた。他人に与えられた個など、何の意味もない。自分で考え、迷い、苦しみぬいた先にしか己と言う「個」は与えられない。似たような存在だからこそ、イングラムは何も言わない。与えられた番号を越え、己を見出せとエキドナを見て、声無き声でそう激励するのだった……。

 

 

 

 

ゲシュペンスト・タイプSと共に戦場を駆ける――それはウォーダン、いや。W-15が知らない筈の事なのに、酷く懐かしく、そして心を高揚させる物だった。

 

(これがゼンガー・ゾンボルトの記憶か……)

 

W-15と言う固体はプロトタイプのW-05と同じく、他者の人格を移植する事で優れた戦闘技術を即座に発揮出来るとい言う前提で作られたWシリーズだ。そしてウォーダン・ユミルはゼンガー・ゾンボルトの人格データ、戦闘技術を与えられた固体だ。故にウォーダンはゼンガーのコピーとも言える存在だ。

 

(……何を迷う。敵は倒す……それだけであればいい)

 

しかし完全に人格データをコピーすれば欠陥が生まれる。故に、中途半端に与えられたゼンガーを形作るデータ……いや、記憶とでも言うべき存在がウォーダンを乱していた。

 

『突っ込みすぎるな! ウォーダン! 時間は無いが、無茶をして撃墜されては意味がないぞッ!!』

 

「……はッ! 申し訳ありません」

 

空を裂き現れた異形に襲われているギャンランドを見て、W-15としての部分がギャンランドの支援に向かえと叫び、ゼンガーとしての部分がカーウァイに従えと叫んでいる。どちらも正しく、そしてどちらも間違っている……その二律背反に苦しみながら、W-15……いや、ウォーダン・ユミルが出した結論それは……。

 

「立ち塞がるものは全て粉砕するッ! 貫けッ!! ドリルブーストナックルッ!!!」

 

ギャンランドから引き離されていく異形をイングラムとエキドナに任せ、ギャンランドを破壊出来るだけの力を持つアインスト参式を打ち倒す事だった。

 

「……邪魔だ。穿て……ブーストナックルッ!」

 

アインスト参式から射出された拳がドリルブーストナックルのドリル部を完全に破壊する。だがそれはウォーダンにとっては想定内の事であり、想定外ではなかった。

 

「アイソリッドレーザーッ!!!」

 

「ぬ……」

 

ドリルブーストナックルの動力部にアイソリッドレーザーを当て爆発させる。それはアインスト参式にダメージを与えるまでには至らない、だが、ウォーダンの目的はダメージを与えることでは無いのだ。

 

「行けッ! ブーストナックルッ!! アイソリッドレーザー!!」

 

「……笑止……ッ」

 

僅かによろめいた所に再びブーストナックルを撃ち込み、アイソリッドレーザーで爆発させる。ダメージを与えることも出来ず、両腕を失った……それは普通に考えればありえないほどに愚かな一手だった。

 

『……すまない、感謝するッ!!』

 

だが、アインスト参式を倒すのはウォーダンでは無い、それをやるのはカーウァイのための露払いであり、その為の道を作る。それがウォーダンが考えたアインスト参式を倒す最善の一手だった。

ーダンが考えたアインスト参式を倒す最善の一手だった。

 

『……行くぞッ! ゼンガーッ!!!』

 

破壊されたブーストナックルの煙幕を利用し、高速で地面を駆けるタイプSの背中のコンテナが開きスプリットミサイルの雨が降り注ぐ。

 

『面攻撃で制圧し、即座に点攻撃に切り替えるッ!!』

 

「効かん……ぬっぐうっ!?」

 

スプリットミサイルの弾幕が消えた直後に、爆煙を引き裂いて弾頭が2発的確にアインスト参式の露出したコアに突き刺さる。

 

(……信じられん、こんな事が出来ると言うのかッ!?)

 

それはタイプSの背負っている大口径のショルダーキャノンだった。その超巨大な大口径カノンによる、精密無比な射撃にウォーダンは目を見開いた。あの大口径であれだけの精密射撃はWシリーズでも不可能な代物だった。だが当然ながらアインスト参式を倒すには攻撃力が足りず、怒りに油を注ぐだけにしかウォーダンには見えなかった。だがそれはウォーダンの経験が足りないからこその判断であり、これがイングラムならばその神技とも呼べる操縦技術に感心していただろう。

 

「斬……艦……がぁッ!?」

 

斬艦刀を振りかぶった瞬間。アインスト参式の背中が爆発し、たたらを踏んだ。その瞬間にバーニアを全開にしたタイプSがアインスト参式の懐に飛び込んだ。

 

『敵を幻惑し、懐に切り込むッ!!!』

 

アインスト参式の背中を爆発させたのは、地面を切り裂いて迂回してきたグランスラッシュリッパーだった。スプリットミサイルを射出すると同時に、特殊なパターンを入力し、迂回させて背後を狙い。グランスラッシュリッパーの反応を感知させない為に大口径の実弾を雨霰のように撃ち込んだのだとウォーダンはこの時初めて理解した。

 

『ふんっ!!!』

 

「がっ!?」

 

飛び込み様の膝蹴り、着地と同時に回し蹴りを叩き込み吹き飛んだアインスト参式に向かって、ネオ・プラズマカッターを装備し素早く切り込んでいくタイプS。その姿、そのモーションデータはゼンガー・ゾンボルトの作り上げたPTによる刀や剣を使ったコンバットパターンだった。

 

「……その動き……はッ!?」

 

『思い出せゼンガーッ! これはお前の物だ、お前が作り出した。お前だけの物だッ!!』

 

ネオプラズマカッターを柄の部分で持ち回転させながら縦横無尽に切り裂き、袈裟、逆袈裟と流れるように叩き込まれていく斬撃……それはウォーダン、そしてアインストに寄生されたゼンガーを強く刺激した。仲間達と競い合い、そして師によって鍛え上げられた、恩師と仲間に答えるために作り出したPTの戦闘モーションだった。そしてそこまで理解した所でウォーダンは今までの動きが何なのかを理解した。

 

面制圧による開幕攻撃は「テンペスト・ホーカー」の得意とした戦闘モーションデータだ。

 

そしてデータにだけ残されていたが、大口径ライフルによる超精密射撃は「エルザム・V・ブランシュタイン」の得意とした戦闘技術。

 

アインスト参式の動きを完全に封殺する斬撃モーションは言わずもがな、「ゼンガー・ゾンボルト」……。

 

『はぁッ!!! うおおおおおおおーーーーッ!!!』

 

飛び膝蹴りからの蹴りと拳のラッシュ、そして迂回させるグランスラッシュリッパーのモーションはウォーダンは知らないが、あちら側の教導隊にいたと言う「ラドラ・ヴェフェス・モルナ」そして「ギリアム・イェーガー」の物だろう。

 

「がっぐああ……こ、これは……たた、大佐……?……カーウァイ……大佐……なの……ですか?」

 

アインストに浸食され意味不明な事を言っていたゼンガーが初めて明確な感情、そして言葉を発した。

 

『そうだ。すまないな、ゼンガー……もう私達にはお前を救う術は無い、せめて……私の手で逝けッ!!!』

 

アインスト参式の鬼面の中に腕を突っ込み、鋭く、そして早く回転する……それは背負い投げと呼ばれる柔道の技だった。そしてPTに柔道の技を使わせると言うのは「カイ・キタムラ」の得意とした戦術だった。

 

『フルパワー充電完了……許せゼンガー……ッ』

 

脚部の装甲が展開し、4つの鉤爪でタイプSを完全に固定する。いや、それだけではない、背部の大口径キャノンも地面に突き刺さり、タイプSの姿勢保持に利用される。そして肩部、胸部、腕部の装甲が展開し排熱口が露になった。

 

『ブラスターキャノン……発射ぁッ!!!!』

 

「……ああ……すいません……大佐……そして……ありがとうございます……」

 

タイプSの放った熱線の中にアインスト参式は呑まれて消えた……最後にトドメを刺してくれたカーウァイに感謝を告げながらその姿は細胞の一欠けらも残さず青白い光の中へと消えていった。

 

「……カーウァイ『ウォーダン、お前はギャンランドへ戻れ、お前に出来る事は無い』……承知」

 

今カーウァイはウォーダンの声を聞きたくなかった。その声が、その言動がどうしてもゼンガーを思い出させたからだ。

 

「……許せよ。ゼンガー……こんな事でしかお前を救えなかった私を許してくれ……」

 

部下を手にかけた……たとえ化け物に寄生されたとしていても、殺すと言う手段しか取れなかった己をカーウァイは責めた。だが、そうではない、そうではないのだ。確かにゼンガー・ゾンボルトは救われたのだ……かつての己と同じく……肉体は失われたが、魂は確かに救われたのだ。

 

「これは……ゼンガー……ああ、お前の意志、お前の願いは私が継ごう」

 

アインストと参式を跡形も無く消し飛ばしたフルパワーのブラスターキャノン……それに消されず、タイプSの前に突き立った参式斬艦刀……それはゼンガーからのカーウァイに対する感謝の証だった。地面に突き刺さったそれを引き抜きタイプSは、ドラゴノザウルスの触手に執拗に襲われているギャンランドの応援にへと向かうのだった……。

 

 

 

 

 

 

イングラムとエキドナによるドラゴノザウルスをハガネにぶつけるという作戦は半分は成功したと言えるだろう。ドラゴノザウルス本体はアインスト・ハガネにその牙を向け、アインストハガネも触手や主砲を使いドラゴノザウルスとの戦闘を始めていた。

 

「ったくッ! 食い意地の張った奴だッ!!」

 

『……くっ、早いッ!?』

 

しかしドラゴノザウルスの触手は執拗にR-SOWRD、プロト・アンジュルグを初めとしたこの戦場にいる全員を追い回していた。

 

『なろおッ!!!』

 

『武蔵そのまま押えていろッ!!』

 

ポセイドン2を丸呑みしようとした触手を両手両足で押さえ、飲み込まれるの防ぐポセイドン2を救出しようとソウルゲインが走る。そしてその隙をゲシュペンスト・MK-Ⅲが突こうとするが……。

 

『……そうはさせないッ!』

 

『ガアアアアーーーッ!!』

 

R-1改に誘導された触手が背後からゲシュペンスト・MK-Ⅲに喰らいついた。

 

『ぐうっ!? おのれっ! 邪魔をするなあぁああーーーッ!!』

 

その凄まじい力によってゲシュペンスト・MK-Ⅲの装甲が凹むが、アインストの力によって瞬く間に再生する。

 

『……お前はここで食われて死ねッ!! T-LINKナックルッ!! がぼっ!?』

 

『図に乗るな……この小娘ぇッ!!!』

 

脱出しようとしたゲシュペンスト・MK-Ⅲの胴体に青白く輝くT-LINKナックルが突き刺さる。だがカウンターのリボルビングステークがR-1改の胴体を掠める。

 

「ラトゥーニ! 大丈夫かッ!」

 

『……大丈夫ッ……それにあいつを倒せるのなら……死んだとしても本望ッ!!!』

 

ラトゥーニの言葉に込められた激情に武蔵は何も言えない、何を言ってもラトゥーニは止まらない。止まるつもりも無いのだ、自分にとって大事な全てを破壊したゲシュペンスト・MK-Ⅲを、キョウスケ・ナンブを殺すと言う憎悪だけが壊れかけの身体を動かし続けていた。それを失えばラトゥーニはも動けない。仮に無傷でキョウスケを殺したとしても、その精神も共に死ぬだろう。

 

今、ラトゥーニ・スゥボータを生かしているのはキョウスケへの憎悪であり、キョウスケが死ねばラトゥーニも死ぬ。それが判っているからラトゥーニは止まらないし、止まれない。そしてそれが判っているから武蔵達もラトゥーニを止めれない。

 

『何を言っても無駄だ、それよりもあの化け物がベーオウルフを狙っている内に決めるぞッ!』

 

ドラゴノザウルスは食い千切っても、即座に再生するゲシュペンスト・MK-Ⅲを餌として決めたのか、ポセイドン2やソウルゲインに対して反応が鈍くなった。

 

「「「「シャアアアーーーッ!!」」」」

 

『邪魔をするな! この下等生物がッ!!』

 

スクエアクレイモアで貫こうが、リボルビングステークで頭部を粉砕しようが瞬く間に再生し、ゲシュペンスト・MK-Ⅲに執拗に食いつくドラゴノザウルスの触手。ドラゴノザウルスからすれば、ゲシュペンスト・MK-Ⅲは食べても食べても再生するご馳走だ。ほかの物を食べるよりもよっぽど効率が良い。

 

『このような形での決着は俺としても本望では無いが……果てろッ!!』

 

『ゲッタァアアーーキャノンッ!!!』

 

『……早く死ねえッ!!』

 

青龍鱗とゲッターキャノンがゲシュペンスト・MK-Ⅲの胴体を貫き、そこに追撃R-1改が容赦なく銃撃を撃ち込む。ただ殺すのでは無い、化け物に食われその胃袋の中で何度も再生し、何度も死ねと言う激しい憎悪を込めたジャイアントリボルバーが火を噴き続ける。

 

『……ぐぐう……ふざけるなあアアアアーーッ!!!』

 

触手に喰らいつかれているゲシュペンスト・MK-Ⅲは自ら手足を引き千切り、ブースターを全開にしてドラゴノザウルスの口から脱出する。その予想外の動きに武蔵もアクセルも反応出来ず、赤熱化したヒートホーンを翻し胴体部と頭部だけになったゲシュペンスト・MK-Ⅲが向かったのはR-1改の元だった

 

『え……げぽっ……』

 

『ははははあーーッ!! 身の程を知れッ!!』

 

ヒートホーンはR-1改のコックピットブロックの間近に突き刺さっていた。通信から聞こえてきたラトゥーニの声はくぐもり、口から溢れたであろう粘着質の水の音に武蔵の脳裏に最悪の光景が広がったその時……。

 

『ふぃ、フィオナアアアアアアーーーッ!!!』

 

身を裂くようなラウルの悲鳴が聞こえ、その声のほうに視線を向けた武蔵は顔を歪めた。ドラゴノザウルスの触手が地面から顔を出し、エクサランスの胴体にその牙を突き立てていた……一瞬、瞬き程度の時間で2人も仲間が同時に死に掛けている……その絶望的な状況下で空間が歪んだ。

 

「まだこれ以上何が起きるって言うんだよッ!!」

 

そう叫ぶ武蔵の視線の先で空間が歪み、そこから姿を現したのはメタルビースト・SRXと共に消えた筈のピンク色の謎の物体だった。

 

「ちい! またあいつかッ! 武蔵ッ! ゲシュペンスト・MK-Ⅲを引き離すぞッ!!」

 

『……い、良い……必要……ないッ!』

 

ヒートホーンで身を焼かれながらR-1改は動き出し、再生が進んでいないゲシュペンスト・MK-Ⅲの頭部を胸に掻き抱くようにして、飛翔する。

 

「なッ!? 何をするつもりだ!」

 

『……言ったでしょ? キョウスケ・ナンブを殺せるなら……死んだとしても本望だってッ!!!!』

 

血を吐きながらそう叫んだラトゥーニの叫び声に応えるように、R-1改の目が光り輝き、装甲を軋ませながら再起動を果たす。そして再生しようとしているゲシュペンスト・MK-Ⅲを抱えたまま、ドラゴノザウルスの本体へと向かう。

 

『貴様! 放せッ!!』

 

『『げほっ!? ごぷっ! ふ、ふふふふ……放さない……お前は……私と……私達と一緒に地獄に落ちろッ!!』』

 

血反吐を吐きながら叫んだラトゥー二の声は何故か2重に聞こえた。だが武蔵にとってはそれ所ではない、ラトゥーニを助けようと動き出そうとした時ソウルゲインがポセイドン2の肩を掴んだ。

 

『あいつは覚悟を持って行動している……それを止める事は出来ない』

 

「で、でもッ!」

 

『止めた所であいつはどうせ死ぬ、ならば……あいつの願いを叶えてやれ。ギャンランドに戻るぞ』

 

冷酷な判断だった。だが死ぬのならば……死んでしまうのならば刺し違えてもキョウスケを殺すと覚悟を決めたその意志を尊重してやれといわれ、武蔵は操縦桿を強く握り締め、噛み締めた唇の端から血を流しながら判りましたと返事を返し、ソウルゲインと共にギャンランドへと方向転換する事しか出来なかった。

 

『放せ! 放せえええええッ!!!』

 

ヒートホーンの熱に焼かれ、再生しつつあるゲシュペンスト・MK-Ⅲの腕に殴られ、コックピットの中にレッドアラートが鳴り響いているが、ラトゥーニの顔には安らかな笑みさえ浮かんでいた。

 

(もう少しだ、頑張れ)

 

(うん。大丈夫)

 

痛みも何も感じない、だから最後まで操縦桿とペダルを踏んでいられる。途切れ途切れになる意識もマイのおかげで途切れる事無く、最後まで憎い相手を恨んでいられる。

 

「シャアアアーーーッ!!!」

 

アインストハガネのブリッジを噛み砕いたドラゴノザウルスが自分に向かってくるR-1改とゲシュペンスト・MK-Ⅲを見て歓喜の声を上げる。

 

『貴様死ぬつもりか! 放せ!』

 

「放さない……一緒に地獄に落ちろッ! キョウスケ・ナンブッ!!」

 

半狂乱になって振るわれる拳にR-1改の頭部モニターが破壊され、コックピットも砕かれ、外の空気に晒される。それでも、ラトゥーニは操縦の手を一切緩めない。

 

『こ、こんな!? ふ、ふざけるなッ!! こんな事を許すものか!!』

 

「お前に許される必要なんてないっ!! 地獄に落ちろぉおおおおおーーーッ!!!」

 

『くたばれッ! 偽りの存在よッ!!!』

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲの拳がコックピットごと、ラトゥー二を貫いた。ラトゥーニは絶命してもなお、操縦桿を握り締める手とペダルを踏みしめる力を緩めない……。

 

『後は私に任せろ、ラトゥーニ』

 

死んだラトゥー二の肉体を精神だけのマイ・コバヤシが操り、離脱しようとしていたゲシュペンスト・MK-Ⅲを念動フィールドの中に閉じ込める。

 

『くたばり損ないがああああああーー!!!』

 

『ははは。死ね、皆の分も苦しんで死ねッ!! キョウスケ・ナンブッ!! ははははッ!!! ははははははははーーーッ!!!!』

 

マイとラトゥーニの2人の声が崩壊していくR-1改の中で響き、念動フィールドを破ろうともがくゲシュペンスト・MK-Ⅲと共にR-1改はドラゴノザウルスの口の中に飛び込み、その牙にR-1改とゲシュペンスト・MK-Ⅲは噛み砕かれ爆発の中に2機の姿は消えていくのだった……。

 

 

 

 

 

 

壮絶なラトゥー二の死に様に悼む暇も、嘆く暇も無く新たな異常現象がギャンランドを襲っていた。

 

「こ、これはッ!? タイムタービンが……! 出力が勝手に上昇しているッ!?」

 

「ラージさん、この反応は!」

 

「時粒子が漏れている………! いや、これはッ……!」

 

あの謎の物体が出現してからエクサランスの時流エンジンが完全に暴走している。それに気付いたラージとミズホは席を立った。

 

「待って、何をするつもり!?」

 

「ここに居ても時流エンジンの暴走は止められない! 下手をすれば、この空域全域が吹き飛ぶッ!」

 

「だから、私とラージさんで外側から時流エンジンの暴走を止めます! 今の内にギャンランドはテスラ研へ向かってください!」

 

「待ちなさい! ああっ! もうッ!! どうして若い子って言う事を聞かないのかしらねッ!!! ヴィンデル!」

 

「仕方あるまい……各機ギャンランドへ帰還せよ。ギャンランドはテスラ研へと急行する、繰り返す、各員はギャンランドへ帰還せよ!」

 

ヴィンデルのギャンランドへの帰還命令と入れ違いでレディバードがギャンランドから出撃する。

 

「ラージ、ミズホッ!? 何をするつもりだ!?」

 

「何をって決まっているでしょう! 時流エンジンの調整ですよッ!」

 

ドラゴノザウルスの牙痕が痛々しく残るエクサランスにレディバードが近づく、それを見て武蔵は足を止める。

 

「……俺達の目的を忘れるな。今の内に離脱する」

 

「で、でも」

 

「……酷だが仕方ない。武蔵……戦場にいるんだ。こういうこともあると理解しろ。誰も死なない、皆生き残って戦いが終わるなんて都合のいい話はこの世界には存在しない」

 

この場に残ればフィオナ達が死ぬ。それが判っているから武蔵は足を止めた……イングラムもカーウァイも見捨てたいわけでは無い。だが安定するかもわからない時流エンジンの調整の為にこの場に残り続ける事は出来ない。そして命を賭けるほどラウル達と親交も無いと冷酷に、武蔵の甘さを断ち切るように告げる。

 

「……ゲシュペンスト・MK-Ⅲ、ハガネが消えた今がチャンスだ。この好機を捨てるわけには行かない……酷な話だがな、今は自分が生き残る事を優先しろ」

き残る事を優先しろ」

 

「……はい。すいません」

 

ドラゴノザウルスとあの奇妙な物体が交戦している隙に離脱する。この決定は覆らないと判り、武蔵は後髪を引かれる思いでギャンランドへ乗り込み、ギャンランドは時流エンジン開発チームを残し、ピーターソン基地から飛び立ったのだった。

 

「ラ、ラウル……! 今の内に逃げて……ッ! 皆を連れて……早く……」

 

「馬鹿言え! お前を置いていけるかっ!!」

 

鋭い牙痕を残すエクサランスを抱きかかえ、龍の首の生えた触手を回避しながらレディバードに向かおうとするラウルにフィオナが自分をおいていけと言うが、ラウルは馬鹿な事を言うなと叫んだ。

 

「いいから……ッ! ラージやミズホ達と一緒に……ッ! 早く……ッ! あたしの機体は……もう……ッ!」

 

フィオナのエクサランスを抱えていたラウルのエクサランスが弾き飛ばされる。今も放電を繰り返し、爆発寸前のエクサランスが宙に浮かぶ。

 

「ラージ、ミズホ! これはどうなっているんだ!?」

 

自分の理解を超える現象を目の当たりにしてラウルがどうなっているのかとラージ達に答えてくれと叫んだ。だがラージ達もそれ所ではなかったから、ラウルの問いかけに答える事は出来なかった。

 

「ラ、ラージさんッ! 1号機の出力が!!」

 

「180……240……! 380……500……ッ! まだ上がるッ!」

 

今までの時流エンジンの出力をはるかに越える出力値をマークしている。それを見た2人の脳裏を過ぎったのは「暴走」の2文字。

 

「あの損傷でこの出力じゃ、機体が保ちません。ラウル! クラッシャーアームで1号機のコックピットブロックを引き抜いてください!!」

 

最終手段としてエクサランス1号機を破壊してでも、フィオナを救出する事を選んだラージだったが、それは余りにも遅すぎた。

 

「な、何だ!? エクサランスが!?ッ こ、こっちも出力がッ!! エクサランスが言う事を聞かないッ!?」

 

「ラウル! タイムタービンを止めて下さいッ!!」

 

「駄目だ、制御出来ないッ! タービンも、機体も!!」

 

「何ですって!?」

 

1号機に続き2号機のエクサランスも暴走した……今までなかった事にラージ達は完全に混乱していた。

 

「ラウルさん、フィオナさん、脱出して下さいっ!!」

 

脱出装置で脱出してくれとミズホが叫んだが、ラウルとフィオナはそれは出来ないと呟いた。

 

「無理……よ」

 

「完全にコンロトールが聞かない、脱出装置もさっきから何回も起動させてるけど、動かないんだッ!!

 

ラウルもフィオナもこの場で死ぬつもりはなかった。だからさっきから緊急脱出装置を起動させていたが、エラーと繰り返し表記されるだけだった。

 

「コントロールが利かないの……タイムタービンも止まらない……」

 

「それなのにエネルギーばかりが作り出されてる! くそッ! どうなっているんだよッ!!」

 

「くっ! こちらからの緊急制御も受け付けない!」

 

「なら、EリミットでET-OSを落とすのはどうですか!?」

 

「それは既に試しました! 完全に制御不能なんですよッ!」

 

ラウルとフィオナを救おうと必死に考えるラージ達だったが、何をしてもエクサランスの暴走は止まらなかった。

 

「ミ、ミズホ……ラウルの事、お願いね……あの人、頼りない所があるから……」

 

「フィ、フィオナさん、何を!?」

 

「ラージ……あたし達の研究を……必ず……」

 

「その先の台詞は言わせませんよ! 機体を前に! 何とかして回収を!」

 

遺言染みた言葉を聞いて、そんな言葉は聞きたくないとラージが叫び、遠隔操作ではなくレディバードの中に回収し、そこでの緊急停止を試みる為にレディバードをフィオナのエクサランスの近くに移動させる。

 

「くそっ! 言うことを聞け! エクサランス!!」

 

どんどん出力を上げるエクサランスにラウルは半分パニックになっていたが、それでもフィオナを救う策を模索する。

 

「ハ、ハッチも開かない……! まったくコントロール出来ない! ちょ、調整をミスってたのか……!?」

 

「ゴアアアアアアアアアアーーーーッ!?」

 

マニュアルでエクサランスから脱出を試みたが、それも出来ず自分達が調整ミスしたのではと言う考えが脳裏を過ぎった時。凄まじい咆哮が響き渡った、ドラゴノザウルスが全身からどす黒い体液を流し、その上で浮かぶ奇妙な物体……デュミナスから伸びた鎖にドラゴノザウルスは完全に動きを封じられていた。

 

『……須く過ちは存在する。過ちがあるからこそ、真実が存在する……そして、真実を知るため、私は行かねばならない……創造者の下へ……あの『鍵』を使い、そしてゲッター線の力を得て、私は今度こそ……』

 

脳裏に響くデュミナスの声にラウルは顔を歪めた。その瞬間にラウルのエクサランスはフィオナのエクサランスから突き飛ばされていた。

 

「フィオナッ!! お前、何をしてるんだッ!」

 

「ラウル……聞いて……あたしが……いなくなっても……しっかり……」

 

「お、お前、何を!? 諦めるな! 今助けるからッ!!」

 

「しっかりね……おにい……ちゃん……」

 

フィオナの乗るエクサランスから凄まじい光が走り、その光はピーターソン基地すべてを包み込み、光が晴れた時……そこには何も存在していないのだった……。

 

 

 

第22話 楽園と地獄への旅路 その1 へ続く

 

 




今回の話はイベント戦闘多目と言う感じでした。ラト(INマイ)も死亡。ラウル、フィオナは消息不明……と世界最後の日編に続き、武蔵のメンタルを抉っていく展開でした。次回の章でシャドウミラー編は終わりの予定です、その後はフラスコの世界へ戻って話を進めて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話 楽園と地獄への旅路 その1

第22話 楽園と地獄への旅路 その1

 

ピーターソン基地にアインストも連邦も全てが集まっていたのかギャンランドは何の妨害も無くテスラ研に辿り着いていた。

 

「……酷い物ね」

 

「ちっ、余計な事しかしない狂犬共が……」

 

外側の綺麗さと打って変わってその内部は腐敗した死体や、脳漿、そして鮮血で染め上げられていた。アースゲインとソウルゲインを奪取したブラッドハウンドの仕業だろう。レモンとヴィンデルは顔を歪めてテスラ研の地下へ足を向ける。

 

「地下に辿り着いたらすぐにシステムXNの起動を始めろ。時間が無い」

 

「そんな事言われなくても判ってるわ」

 

ラトゥーニの捨て身の特攻でゲシュペンスト・MK-Ⅲとキョウスケ・ナンブはあの化け物の口の中に消えた。だが死んではいない……ピーターソン基地から飛び立つ時、コックピットブロックから蔦が伸び、その身体を修復しているのをレモンもヴィンデルも見ていたからだ。

 

「出来ればバリソンが戻るのを待ちたいんだけどね」

 

「……W-17とアンジュルグ、ヴァイサーガの回収に向かわせたんだったな。だが間に合わなければ置いていく」

 

「貴方が勝手に計画を変えてくれたせいでこうなってるのよ? もしもバリソンや、「ラミア」がいれば、エクサランスを失う事はなかったのよ?」

 

レモンの言葉にヴィンデルは顔を歪める。R-1改、2機のエクサランスが加わり、ソウルゲイン、グルンガスト参式、ゲッターD2、R-SOWRD、ゲシュペンスト・タイプSと戦力が充実した。それに慢心し、本来の計画を変更したのはヴィンデル自身だ。その計画の変更の結果がエクサランスと時流エンジン開発チームの死亡と言う結果を齎していた。

 

「今度は計画通りに動いて貰うわ。システムXNとリュケイオスの安定稼動を確認後、量産型Wシリーズとゲシュペンスト・MK-Ⅱを搭載したストークから順番に転移、バリソンが戻ったらウォーダンとグルンガスト参式、プロト・ヴァイサーガやプロト・アースゲイン、ラーズアングリフ、ジガンスパーダを搭載したライノセラスの転移、最後に私とヴィンデル、それにアクセルと武蔵達とウォーダン、エキドナ、ラミアを乗せたギャンランドで転移後。リュケイオスを爆破するわ」

 

「……最悪の場合は転移の順番を変更する。良いな」

 

「ええ、それに関しては私も同意見。でも何もないのに、転移の順番は変更しないわ」

 

時流エンジン開発チームを失ったのはヴィンデルの独断だ。それがあるからレモンの強硬姿勢にヴィンデルは文句を言えなかった……レモンの言う通りアンジュルグやヴァイサーガを回収していれば、時流エンジン開発チームを失う事が無かったという可能性はヴィンデルにも十分に判っていたからだ。

 

「じゃ後は私1人でやるから邪魔しないでよね」

 

「……ああ。私は転移した後の事を考えることで忙しいのでな」

 

吐き捨てるように言って出て行ったヴィンデルを見送り、レモンはリュケイオスの調整を始める。

 

「ヘリオス・オリンパスがいないんだから成功率なんて低いのにね」

 

リュケイオスとアギュイエウスにヘリオス・オリンポスの生体データをリンクさせる事で安定した転移を行う。だがヘリオス・オリンポスは実験中の事故で単独転移をしてしまい、今も行方不明だ。その中での転移の成功率は決して高くは無い、むしろ失敗の確率の方が高いくらいだろうが……それでもこの世界に未来が無い以上それに縋るしかなかった。

 

「どこまで連れて行けるかしらね……」

 

ヴィンデル達が囮になる事で集めた戦力は膨大だが、それらすべてを転移する事は恐らく不可能。

 

「良い所5割かしらね……」

 

レモンの計算では転移が完了する前にゲシュペンスト・MK-Ⅲの修復が終わり、襲撃してくる事は間違いない……そうなれば転移の成功率は更に下がる。

 

「……でもその方が良いのかもしれないわね」

 

少なくとも武蔵達はギャンランドから離れた場所に転移したほうが良い。そしてそこにエキドナが居れば、なおレモンにとっては良い。

 

「親離れしてくれたほうがいいものね」

 

エキドナに芽生え始めている自我……それはレモン達の側にいては決して開花しないだろう。エキドナがW-16では無い、本当の意味でエキドナ・イーサッキになる為には自分達の側から離れる必要があるとレモンは考えていた。

 

「……こんな事を思ったら駄目だけど、ベーオウルフには来て欲しい物ね」

 

計画通りに話が進んだら困るのだ。プランを崩壊させ、レモンの望む結果に至るにはゲシュペンスト・MK-Ⅲとベーオウルフの存在が必要だった。そしてここまで共に戦ってくれた武蔵達と穏便に分かれるためにも、転移の準備が完了する前にベーオウルフの襲撃があって欲しいとレモンは願ってしまうのだった……。

 

 

 

 

 

レモンが転移システムの設定を行っている間、イングラム達は最後の休息を取っていた。今まで共闘してきたが、転移が可能になればシャドウミラーとイングラム達はどうやっても相容れない……敵対するのは確実の事だった。

 

「最後まで補給をしてくれるとは予想外だったな」

 

「そうだな、最悪の場合は補給も修理も無いと踏んでいたからな」

 

ピーターソン基地を突破し、そしてテスラ研に辿り着いた段階で拘束あるいは、補給を意図的に遅らせられるという可能性をイングラムもカーウァイも考えていたが、予想に反してR-SOWRDもゲシュペンスト・タイプSも補給も修理も万全に行われ、ワンオフ機なので流石に予備パーツなどは用意されなかったが、武装の予備は簡易修理キットである「リペアキット」「プロペラントタンク」などを多数搭載した旧式ではあるが輸送機も回されていた。

 

「……レモンなりに餞別と言うことなのだろうな」

 

ヴィンデルやアクセルのいるギャンランドから離れた区画に用意された格納庫、そして苦しい懐事情なのに少なくとも5回は全力戦闘だけの弾薬を積み込んでくれていた。

 

「意図してない所だが、これも武蔵の人徳と言うところにしておくか」

 

シャドウミラーには純粋な人間と言うのは少ない、だから武蔵に説得して仲間にしろと冗談で言っていたが、まさか本当に成功しかけるとはイングラム達も夢にも思っていなかった。

 

「……イングラム少佐、カーウァイ大佐……武蔵はその……大丈夫でしょうか?」

 

笑い合っている時にエキドナが尋ねて来て、流石の2人も真顔になった。

 

「そうだな、やはりそれなりに堪えているようだ……なんだかんだいっても、武蔵はまだ17歳だからな」

 

「武蔵には会えませんか?」

 

「気持ちは判るが、今はそっとしておいてやって欲しい」

 

「そうですか……その……心配していたとだけ伝えてくだされば良いので……その、失礼します」

 

ぺこりと頭を下げ引き返していくエキドナ……その顔には確かに武蔵を心配する色が浮かんでいた。打算も計算も無く、ただ純粋に武蔵を心配していると言うのがイングラム達にも判った。

 

「……武蔵の人徳と言って馬鹿に出来ないな」

 

「人の姿をしていれば魂は宿る……エキドナもそうなのだろう」

 

エキドナはWシリーズの人造人間である。だが、今のエキドナの表情はどう見ても、1人の人間にしか見えなかった。

 

「……引き抜くか?」

 

「乱戦になって機会があれば連れて行こう。世界を超える上のリスクを承知でな」

 

「世界を超えるリスク?」

 

「そうだ。世界には修正力と言うものがある……異物が混じれば世界はそれの排除に動く」

 

イングラムの説明を聞いてカーウァイは何か思い当たる節があったのか顔を顰めた。

 

「まさか執拗なインベーダーの攻撃や、ゼンガーがアインストになったのもか?」

 

「恐らくな……俺達を殺害する事で世界の流れを正しく修正しようとしたのだろう。あの怪物……ドラゴノザウルスと言うのだが、あいつも……過去の世界で見たことがある」

 

「思いっきりSFの世界になってきたな……それでそれをこのタイミングで話してきた真意は何だ?」

 

タイムダイバーとして世界を時間を旅してきたイングラムだからこそ、それを理解していた。そしてそれをこのタイミングで話した理由は何だ? とカーウァイが問いかける。

 

「仮にだ。俺達がいた世界に戻ったとしよう。そうなった場合、異物は「シャドウミラー」そして俺と、武蔵、そしてカーウァイの3人になる。これを修正する世界の力が働いた場合……俺達は記憶の一部を喪失する可能性が高い」

 

「……記憶を失うというのか?」

 

「ああ。俺たちはシャドウミラーの戦力も、その思想も知っている。だがそれを知られていると都合が悪いとなると、そこら辺の記憶は間違いなく消される。世界と言うのは不条理を、そして世界を変える事を嫌うからな」

 

「……つまりそれは私達の世界にシャドウミラーが辿り着くのが正しい歴史と言うことなのか? 私達はシャドウミラーが起こすであろう災害を知っていても何も出来ないと言うのか?」

 

「それは判らない……だが、あの世界には平和を願う者達が居る……俺達の記憶が仮に世界に封印されたとしても……大丈夫だ。きっとあいつらならやってくれる」

 

「……そうか、そうだな」

 

永遠の闘争を受け入れる人間などあの世界にはいない。世界の平和を願い、地球を護りたいと願う者がいる……だから大丈夫だとイングラムは笑う。

 

「俺達は俺達に出来る事をする……生き残って元の世界へ帰るんだ」

 

鳴り響く警報、それは襲撃を意味していた。ここが最後の命の張り所……ここを無事に切り抜けて、元の世界へ戻る。辿り着いてみせると決意を新たにする。

 

「返すぞ、お前はもうエアロゲイターじゃない。私はそれを確信した」

 

「ふっ……まだ疑っていたのか?」

 

投げ渡されたハンドガンを自らのホルスターに納めイングラムは皮肉げに笑う。

 

「返すタイミングが無かっただけさ」

 

「警報って事は敵ですか!?」

 

部屋を蹴破って出来た武蔵にイングラムとカーウァイは顔を見合わせ合い笑った。

 

「そうだ。ここを切り抜けて、俺達は元の世界へ帰る」

 

「もうこれ以上誰1人欠ける事無くな……行くぞ、武蔵」

 

「ういっすッ!!」

 

仲間達にもう1度会う為に……そして世界へ迫る脅威を伝える為に、武蔵達はこの世界で最後の戦いにその身を投じるのだった……。

 

 

 

 

 

出撃した武蔵達を出迎えたのは無数のアインストに寄生されたゲシュペンスト・MK-Ⅱ……らしき、PTの姿だった。

 

「ここまで、変異しているか……外道共が」

 

らしきと表現したのはその腕や足が生物的な意匠を施された、アインストのようなものに換装されていたからだ。その姿はPTと言うよりかは、PTを模した生物と言っても過言では無い。だからアクセルの外道と言う発言も決して間違いでは無かった……。

 

『隊長。ゲシュペンスト・MKーⅢの姿は確認出来ません、やはりピーターソン基地で消滅したのでは無いでしょうか?』

 

「奴を侮るんじゃない、確実に奴は生きている。俺達をこの場に足止めする為に先遣隊を送り込んで来たに過ぎない」

 

『……オイラもそう思いますね。嫌な予感がさっきから消えないですし……確実に来ますよ』

 

武蔵も、アクセルと同意見だった。さっきからゲッターD2の出力が異様に向上している……それは恐竜帝国に初めて遭遇した時や、イングラムがアストラナガンに取り込まれた時と同じ……ゲッターロボが警戒しろと武蔵に教えているのだ。

 

『武蔵の予感は当たるからな……ならばゲシュペンスト・MK-Ⅲが現れると見て間違いなかろう』

 

『……最後に立ち塞がる相手としては相応しい、ここで倒して何の憂いも無く転移するとしよう』

 

ここまで幾度も無く自分達の前に立ち塞がったゲシュペンスト・MK-Ⅲを……そしてベーオウルフを倒して何の憂いも無く転移するとアクセル達が闘志を燃やす中、ギャンランドのレモンから通信が入る。

 

『闘志を燃やしている所悪いけど、転移システムが安定起動するまでの8分間。テスラ研への侵入を防いでくれないと、ベーオウルフを倒しても私達は何処にも行けないわ。そこを念頭に入れて敵を倒すよりも、テスラ研への侵入を防いで頂戴。残り2分になったら連絡するからテスラ研の敷地に戻って来ること、良い? 乗り遅れたら置いて行くわよ』

 

この戦いは決して敵を殲滅する為の戦いでは無い。時間を稼ぐ為の戦いだとレモンは念を押す、ここにいる面子は頭に血が上りやすい。深追いしすぎて、転移に間に合わないという事態を防ぐ為に口調をきつくして、暴走しないようにととことん念を押す。

 

「そこまで言われれば、馬鹿でも判る。武蔵、俺とお前で前に出て、ゲシュペンストを潰すぞ」

 

『アクセル話聞いてた?』

 

「判っているさ、だが篭城すれば良いと言うものでは無い。転移する寸前にベーオウルフに襲撃されても困る、俺と武蔵が前に出ていればベーオウルフも食いついてくるだろう。あいつを止めなければ安心して転移など出来ない」

ベーオウルフも食いついてくるだろう。あいつを止めなければ安心して転移など出来ない」

 

『何を言っても無駄って事ね、判ったわ。こっちでカウントダウンするから、アクセルがヒートアップしてたらソウルゲインを回収してテスラ研まで離脱してきてくれるかしら武蔵』

 

『了解です。じゃあ、行きましょうか、アクセルさん』

 

テスラ研の敷地からゲッターD2とソウルゲインが出ると同時に、テスラ研を取り囲んでいたゲシュペンスト・MK-Ⅱが一斉に動き出した。それは誰が見ても、ゲッターを取り押さえようとしている動きにしか見えなかった。

 

『エキドナは武蔵のフォローに、イングラム達は敷地内への侵入を防いでくれるかしら?』

 

「言われなくても判っている。それよりも、俺達の乗る船を忘れるなよ」

 

『大丈夫よ、ちゃんと準備をしてるからね。要らない心配はしないで、テスラ研を守る事に集中して』

 

レモンはそう告げると通信を切断する、転移の準備の為に無駄話をしている余裕がないと言うことだろう。

 

「世界で1番長い8分間か……」

 

「ああ、だが……俺達に負けは無い」

 

確かに敵の数は多い、だがそれだけだ。再生しようが、合体をしようが、知性がなければ脅威では無い。策略も何もなしに突っ込んでくるゲシュペンスト・MK-Ⅱの群れを見てイングラムとカーウァイは薄く笑う。

 

「ただの獣にくれてやるほど、この首は安くないぞ」

 

「そう言う事だ。獣は獣らしく、這い蹲って逃げ惑っていろ。この畜生共が」

 

敷地に近づく間もなく、コックピットを打ち抜かれ沈黙するゲシュペンスト・MK-Ⅱ。

 

「おらおらおら! オイラ達の邪魔をすんじゃねえッ!!」

 

「貴様ら等俺達にとっては何の脅威でもない。これがな……」

 

テスラ研に続く道路の前に立ち塞がるゲッターD2とソウルゲインの前に、ゲシュペンスト・MK-Ⅱは次々にスクラップへと化していく、数は圧倒的に劣っている武蔵達だが、個人の戦闘力の差によって数の劣勢を覆し有利に戦いを始めていた……。

 

『アクセル隊長! ゲシュペンスト・MK-Ⅲらしき影を確認ッ! 早い……ッ!? 後30秒で目視が可能です』

 

上空で警戒と武蔵とアクセルが仕留め損ねたゲシュペンスト・MK-Ⅱを倒していたエキドナから緊急通信が入る。そしてエキドナの報告通り、ゲシュペンスト・MK-Ⅲが姿を現した……。

 

「逃がさん……憎み合う……世界を……広げる者達……進化の使徒よ……俺は創らなければならない……世界を……静寂で満たさなければならない……そのために……お前を逃がすわけにはいかんのだぁッ!!!」

 

途切れ途切れで聞こえてくるキョウスケの声……それが今武蔵達の前に立ち塞がる異形の影がゲシュペンスト・MK-Ⅲであると言う事を示していた。

 

「おいおい……マジかよ……」

 

「あの化け物に食われたからか……一気に変異が進んだという事か……」

 

その姿は既にゲシュペンストから程遠い、アインストと化した参式と同じ様に僅かにアルトアイゼンの面影を残すゲッターD2よりも遥かに巨大な異形の姿に流石の武蔵とアクセルも息を呑んだ。

 

「お前達は……望まれていない……世界を創る……だから……撃ち貫く……そして進化の光を手にし……俺達が新たな……種となるのだ」

 

「こ、この反応は……!? ゲッターロボの倍近い出力よ!? 一体どうなってるのよ!?」

 

全身から禍々しいオーラを放つゲシュペンスト・MK-Ⅲに全員が気圧される。それだけのプレッシャーをゲシュペンスト・MK-Ⅲは放っていた。

 

「この短時間でここまで変異したか……化け物め」

 

「……こりゃあ今の段階で勝てるとは思えないなあ……」

 

武蔵でもさえも気圧され、今の自分たちでは勝てないと認めざるを得なかった。

 

「レモン、転移まで後何分だ?」

 

『……6分よ、バリソンが合流するまで後2分……転移の準備が終わるまで4分……』

 

「計画通りに行ってと言うことだな? まだ伸びる可能性も十分にあると思った方が良いか?」

 

『……言いにくいけどそうなる可能性はあるわ、攻撃を受ければ準備も遅れるから』

 

ただ耐えるだけでは転移の準備が終わらない可能性もある……ここにいる全員を圧倒するプレッシャーを放つゲシュペンスト・MK-Ⅲにこの場にいる全員の背中から冷たい汗が流れた。

 

「お前達は……純粋な生命体には成り得ん。俺が……そう、俺こそが……正当なる進化の光……の後継者……ッ!」

 

ゲッターD2を見て狂気めいた事を言うキョウスケにアクセルが言葉を投げかける。

 

「何故貴様はそこまでゲッターロボに固執する? 貴様は……ゲッター線に何を見ていると言うんだ……そこまでの力を得てもなお、何故貴様はゲッター線を必要とする……?」

 

「創造……する……望まぬ世界を……破壊……ククク……フフ、フフフフ……創造と破壊、破壊と創造……創造は破壊……破壊の創造……そして……進化の光を使い……理想郷を……新たな世界を……作る」

 

「ちっ……こちらの事を理解しているかどうかも怪しいか。化け物が……ッ!」

 

「何を言ってるか全然、これっぽっちも理解出来ないけど……てめえにゲッター線はわたさねえッ!! ラトゥーニちゃんの変わりだ。てめえを殺すぜ、化け物がッ!」

 

ソウルゲインとゲッターD2が前進し、それを見てレモンが声を荒げる。

 

「アクセル、武蔵ッ!? どうするつもりッ!?」

 

「言った筈だ。……決着をつけていくとな……」

 

「オイラにも判る、こいつは存在しちゃいけない、ここで倒して行かないと大変な事になる。ゲッターがそう言っている……」

 

『ゲッターがそう言ってる? 何を言っているの武蔵』

 

「言葉では説明できないのさ、俺も武蔵もな……ここでベーオウルフを倒すぞ、武蔵」

 

「了解、皆の仇は取らせてもらうぜッ!!!」

 

『各機展開! 噛み砕けッ!!!』

 

キョウスケの号令によって、今までとは比べ物にならない動きで動き始めるゲシュペンスト・MK-Ⅱ。そしてソウルゲインとゲッターD2に飛び掛るゲシュペンスト・MK-Ⅱ……いや「アインストヴォルフ」……ここに極めて近く、そして果てしなく遠い世界での最後の戦いの幕が切って落とされるのだった……。

 

そして一方テスラ研に向かってトレーラーを走らせているバリソンの方でも問題が発生していた。

 

『バリソン少佐。コンテナハッチを開放を望みます』

 

「おいおい!? 馬鹿言ってんじゃねえぞ!? もうテスラ研は目の前なんだぞ!? ラミアッ!」

 

アンジュルグのコックピットから機械的に出撃許可をと言う女性の声にトレーラーを運転しているバリソンは声を荒げた。

 

『ベーオウルフに襲われていると言う報告は私も聞きました。リュケイオスに損傷を受ければ転移の安定性は更に低下します、アンジュルグならばすぐに戦闘に合流出来ると判断しました』

 

「いやいや、待て、レモンの調整も受けずに戦うつもりか? そいつは無謀って言う物じゃないのか?」

 

ラミアを止めようとするバリソンだが、ラミアは自分の意見を曲げない。

 

『どうしてもハッチを開放しないと言うのならば、コンテナを破壊してでも出撃します』

 

「あーッ! もう判ったよ! ハッチを開放すればいいんだな!!」

 

『はい、すいません。バリソン少佐』

 

解放されたトレーラーのコンテナ部から飛び立つアンジュルグをバリソンはあきれた目で見つめた。

 

「……いや、あながち間違いじゃねえかもしれないな……っし、俺も気合を入れていくかッ!」

 

連絡が通じないのもそれだけギャンランドが窮地に追い込まれていると言う証かもしれない。そう考えればラミアの判断は決して間違いでは無い、ギャンランドが撃墜されても、転移システムが破壊されてもバリソン達は負けなのだ。それを防ぐ為に戦力を送り込むのは当然の事なのだから……。

 

 

 

第23話 楽園と地獄への旅路 その2へ続く

 

 

 




次回はアインストヴォルフとの戦闘をメインに書いて行こうと思います。ここはアニメの要素を少し付け加えるかも知れませんね、次回で転移までして、OG2本編に入る前に武蔵だけが別の世界に迷い込んだと言う話を入れたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話 楽園と地獄への旅路 その2

第23話 楽園と地獄への旅路 その2

 

 

ギャンランドと地下のリュケイオスをリンクさせ、時空転移システムの最終調整をしているレモン。だがその表情にいつもの飄々とした色は無く、追詰められた必死の表情をしていた。

 

「レモン、まだなのかッ!?」

 

「うるさいわね! 喚くだけなら馬鹿でも出来るんだから黙ってて頂戴ッ!!!」

 

怒鳴り込んできたヴィンデルに対して怒鳴り返すレモン。そのあまりの剣幕にヴィンデルは言葉に詰まるのと同時に、レモンでも想定していなかったイレギュラーが発生しているのだと悟った。

 

「何があった?」

 

「転移軸全然安定しないのよ……多分だけど、ベーオウルフのせいよ」

 

ベーオウルフが現れる前に転移させたストークとライノセラス――残るはバリソンを待ってギャンランドと言う段階だったが、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ……いや、最早ゲシュペンスト・MK-Ⅲだった物の影響でリュケイオスの転移計算がぐちゃぐちゃになってしまっていたのだ。

 

「今のまま転移をすれば……私達は何処にもいけず消滅するわ」

 

「……ツヴァイのアギュイエウスを使えばどうだ?」

 

「駄目よ、それはもう試している……少なくともあの化け物を弱らせないことには転移は不可能よ」

 

レモンの視線につられてヴィンデルもモニターに視線を向けた。ソウルゲインとゲッターD2を赤子のように捻る異形の化け物――「アインストヴォルフ」をレモンもヴィンデルも忌まわしげに睨み付ける。

 

「最後まで私達の邪魔をするかッ! ベーオウルフッ!!」

 

「もう私達に出来るのは武蔵とアクセルがベーオウルフを弱らせてくれる事を祈るか……時空の狭間に消えることを覚悟して転移するか……その2つに1つしかないわ……」

 

ここまで順調とは言わないが、それでも計画通りに動く事が出来ていた。だが最後まで自分達の前に立ち塞がり、最後の希望である時空転移システムすら妨害するベーオウルフ……。様々な障害を乗り越えてきた……だが最後の最後までシャドウミラーの前に立ち塞がるのはベーオウルフ……キョウスケ・ナンブの存在なのだった……。

 

 

 

獣のような唸り声を上げて飛び掛ってくるゲシュペンスト・MK-Ⅱだった物の頭部パーツを参式斬艦刀で切り裂き、素早く反転すると同時にグランスラッシュリッパーを射出するゲシュペンスト・タイプSのコックピットでカーウァイは忌まわしげに顔を歪めた。

 

「最悪の展開になってきたな、イングラム。まだ大丈夫か?」

 

『最悪の事態は想定していた、ENを使う武器は使っていないからまだ問題は無い』

 

「そいつは良い事だ、だが何時までも実弾も実体剣も持たないぞ」

 

『……ああ、弾切れを起せばエネルギーを使わざる得なくなる。そうなれば、俺達の敗北は決定だな』

 

アインストヴォルフの細胞が分裂し、姿を現したゲシュペンスト……いや僅かにゲシュペンストの面影を残すだけのアインストの動きは素早く、自分の体組織を切り離してスラッシュリッパーのような形状にして飛ばしてくる。

 

『すいません、全て迎撃できませんでしたッ!』

 

エキドナからの謝罪の通信が入るが、何十と言う数のスラッシュリッパーを全て迎撃出来るわけが無い。過半数を空中で迎撃してくれたからこそ、イングラムとカーウァイは頭部のバルカンによってスラッシュリッパーの迎撃が出来ていた。

 

「ちいっ! 鬱陶しいッ!!!」

 

「弾切れ……ッ! くそッ!!」

 

体組織で作られたスラッシュリッパーは当然アインストの意志に誘導され、何処までも追いかけてくる。頭部バルカンで迎撃していたが、それも弾切れを起こし、カーウァイは舌打ちと共にショットガンを打ち込みスラッシュリッパーを迎撃する。

 

「レモン! まだ転移に時間は掛かるのか!?」

 

『ごめんなさい! あの化け物のせいで演算式が狂っているの! 武蔵とアクセルがあれを何とかしないと、転移してもどこに飛ぶか判らないわッ!!』

 

とっくの昔に8分は過ぎている……それなのに転移の指示が出ないことに苛立って怒鳴ったが、やはり思った通り転移が出来ない状況に追い込まれていた。

 

「ゲシュペンストを撃破して、武蔵達の支援に入るしかなさそうだな」

 

「ああ……だがそれも上手く行くかな……」

 

「「「「静寂なる世界の為に……」」」」

 

無機質に静寂なる世界の為にと言って自分達を取り囲むアインストの姿……倒しても倒しても、アインスト・ヴォルフから生成され、襲い掛かってくる。もう何十機と行動不能にしている筈なのに、一向に数が減らない。

 

「これがアインストの言う新たな種と言うことか?」

 

「もしそうだとしたら、最悪だな。こんな物はただの悪夢に過ぎない」

 

キョウスケが言う新たな種と言うのがアインストから作り出される人の形を模しただけの化け物だとすれば、それは人間では無い。

 

「静寂なる世界か……どういうことか、今初めて理解したッ!!」

 

「…………」

 

ビームソードでコックピットを貫かれ、沈黙した後爆発するアインスト。その姿を見てカーウァイはキョウスケの……いやアインストの掲げる静寂なる世界と言うものなのが何なのかを理解した。

 

「同種だけになれば争う事も、諍いも無くなる……確かに静寂なる世界だな」

 

「だがそれは如何なる進化も発展も無い、袋小路の世界だな」

 

キョウスケの言う静寂を乱す存在……それは意見の対立によって戦争を行う人類の事を指し示していると仮定すれば、答えは出てくる。

静寂なる世界とは、アインストだけに埋め尽くされ王である「キョウスケ」を頂点とし、あらゆる諍いも争いも無い、意見の対立も無い文字通り完全なる静寂の世界……。いやそれは世界とは言わない、ただの入れ物に過ぎない。進化も発展も、何もかもが無くなった袋小路の世界……それがアインストの望む世界だと予想をつけたイングラムとカーウァイ、そしてそんな2人の話を聞いていたエキドナも怒りにその顔を歪めた。

 

『私は……そんな世界は嫌ですね……やはりあの化け物はここで倒していかなくてはならないッ!』

 

人形のようだったエキドナがはっきりとした意志を示した……それはエキドナ・イーサッキと言う個が目覚めた瞬間だった。

 

「ああ、エキドナお前の言う通りだ。そんな世界は俺達もお断りだ、いや、そんな物を世界とは呼ばない」

 

「その通りだ。無茶だとしても、ここであの化け物は潰していくッ!」

 

静寂なる世界を作り出そうとするアインストヴォルフを潰して行かなくてはならない。あれはこの世界に存在して良い存在では無い……倒しても切が無いアインストを無視して、アインストヴォルフへとR-SOWRD達は突撃する。すべての大本はキョウスケに寄生しているアインスト……そしてアインストヴォルフだ。それを倒さない限りは転移も出来ず、敵は増え続ける。リスクを承知でイングラム達はアインストヴォルフへと攻撃を仕掛ける。ブラスターキャノンが、ファントムフェニックスが、R-SOWRDの放ったビームライフルがソウルゲインとゲッターD2に攻撃を仕掛けていたアインストヴォルフの側面から襲い掛かる。僅かに損傷を与えたが、即座にその傷を回復させたアインストヴォルフの胸部が怪しく光った。

 

「避けろぉッ!!!」

 

武蔵の咄嗟の避けろと言う叫び声に反射的に回避運動に入ったイングラム達、そのコンマ何秒の動きがイングラム達の命を救った。

 

『邪魔をするなあアアアアッ!!!』

 

空気を焼き払い、自らが作り出したゲシュペンストをも飲み込むエネルギー波が地表を抉り、テスラ研へと向かう。

 

「しまった、搬入口がッ!」

 

「くそっ! お前の方が邪魔だぁッ!!」

 

それは不幸にもテスラ研の搬入口に直撃し、大爆発を起こす。それを見た武蔵がゲッターD2を走らせる。

 

『進化の使徒よ……我らに力をッ!!!』

 

「うっがあッ!? ぐ、ぐぐぐっ!? くそッ!? 何がどうなってやがる!?」

 

武蔵の困惑した声が周囲に響く、だがそれも無理は無い。地表を砕き背後から現れた尾がゲッターD2を絡め取りゲッター線を吸収していた。その予想外の攻撃に武蔵と言えど反応出来なかった、そして100Mを越える巨体の尾に絡め取られたとなれば、さすがのゲッターロボも単独での脱出は困難を極めていた。

 

「撃てッ! 武蔵を救出しろッ!!」

 

「ゲッター線を吸収させるなッ!!」

 

尾の溝にゲッター線を示す翡翠色のエネルギーが張り巡らされ、アインストヴォルフの全身から翡翠色のエネルギーが零れるのを見て、尾に攻撃を仕掛けるイングラム達。

 

「くそッ! 武蔵! お前も抵抗を止めるなッ!」

 

「やってます、やってますけど! どんどんゲッターのパワーが低下してるんです!!」

 

総攻撃を受けていても、ゲッターを絡め取っている尾は全く緩む事無く、むしろその力をより強くしている。

 

「コード入力ッ! ファントムフェニックスッ!!」

 

尾を攻撃しても埒が明かないと判断したのか、エキドナがアインストヴォルフの顔面に攻撃を仕掛けた……しかし、それはアインスヴォルフにダメージを与えることは無く霧散する。

 

『邪魔をするな、人形風情があああああーーーッ!!』

 

「あぐうっ!? う、うううッ!?」

 

アインストヴォルフの巨大な両手がプロトアンジュルグを掴み、両手で握り締める。

 

「うわああああーーッ!!!」

 

プロトアンジュルグの装甲が軋み、機体の各所が加えられる圧力に耐え切れず爆発を繰り返す。

 

『消え去れええッ!』

 

その雄叫びと共にアインストヴォルフが更に力を込めようとした瞬間――紅蓮の不死鳥が舞った。

 

『ぐ、ぐおおおおッ!?』

 

突然の強襲、そして目を狙われた事によるキョウスケの苦悶の悲鳴が響き、雲の切れ間から戦乙女が舞い降りてきた。

 

「間に合ったようですね、アクセル隊長。遅れましたが、W……ラミア・ラブレス。合流しました」

 

プロトアンジュルグとは違う、鮮やかなピンク色の装甲を持つ機械仕掛けの戦乙女の放った炎の不死鳥の嘴が、的確にアインスト・ヴォルフの目を撃ち抜き、エキドナと武蔵を救っていた。

 

「遅いが、良いタイミングで来た! そのままベーオウルフの目を狙えッ! このまま一気に攻め込むッ!」

 

「この好機を逃がす訳には行かないッ!」

 

「ああ、ここで決める!」

 

終始圧倒されていたアインストヴォルフとの戦い……その中で生まれた初めての好機を逃がさない為にイングラム達は一気にアインストヴォルフへと飛び掛るのだった……。

 

 

 

 

 

アインストヴォルフにエネルギーを吸い取られ、まともな稼動が出来ないゲッターD2を必死に操り、武蔵は墜落してきたプロトアンジュルグを受け止めていた。

 

『エキドナさん! エキドナさん、大丈夫ですか!?』

 

「……うっく……武蔵か……あ、ああ……何とか無事だな……」

 

武蔵の声がプロトアンジュルグに響き、意識を失っていたエキドナは意識を取り戻した。だがモニターは全て停止し、操縦桿を動かしてもプロトアンジュルグは再起動する様子もない。

 

(無理もないか……)

 

あの巨体に握り潰されそうになっていたのだ。正直良く爆発しなかったと思うべきだとエキドナは感じていた。

 

(W-17が来た……だから大丈夫だ)

 

完成したアンジュルグと、バリソンが運転してきたトレーラーがギャンランドに回収されるのを見て、エキドナはもう自分の役目は終わったと判断した。

 

「機体がもう駄目だな……武蔵私の事はいいから、戦線に……『何言ってるんですか! 動かない機体に乗ってたら死ぬに決まってるでしょう! こっちに乗り移ってください! 死んだら駄目だッ!』……」

 

プロトアンジュルグのコックピットに向けられるドラゴンの腕……それを見てエキドナはどうすればいいのか判らなかった。役に立たない兵器は廃棄されるだけ……そう思っていた。だが死んだら駄目だと言う武蔵の言葉にエキドナはどうすればいいのか判らなかった。

 

「私は生きていても……良いのか?」

 

『良いに決まってるッ! アクセルさん達が化け物を弱らせてくれたから、もうすぐ転移システムが使えるって連絡がありました。早く乗り移ってくださいッ!』……判った」

 

自爆をしてレモン達の助けをしようと思っていた。だが武蔵の生きろと、死んだら駄目だと言う言葉にエキドナは緊急脱出のレバーを引き、ドラゴンの手の平に飛び移ると、ライガー号のコックピットが解放され、エキドナはその中に身体を滑り込ませた。

 

『悪いですけど、操縦桿とかは握らないでください、シートベルトをつけて我慢しててください』

 

「ああ、判った。私は何もしない」

 

初めて乗り込んだドラゴンは新西暦のコックピットに慣れているエキドナにとって未知の存在だった。触らないでくれと言われたが、操縦がわからない機体を動かす訳には行かないと武蔵に言われた通りシートベルトを締める。

 

『凄い乗り心地が悪いですけど、我慢しててくださいよッ!』

 

ドラゴンが起き上がると同時に飛翔する。我慢していてくれと言われたが、エキドナはその急上昇の重力に耐え切れず、悲鳴を上げる間もなく意識を失った。

 

「武蔵、戦えるのか!」

 

『大丈夫ですッ! エキドナさんも無事です』

 

戦線に復帰したゲッターD2を見てアクセルは小さく笑みを浮かべた。ラミアの奇襲によって、アインストヴォルフにダメージを与える事が出来た――回復はされているが、それでも明らかにアインストヴォルフの勢いは弱くなっている。

 

「あのまま奴が力をつければ、奴は間違いなく俺達にとっての脅威になる。判るな?」

 

『大丈夫です。言いたい事は判りますから』

 

「そう言うことだ。今ここで奴を倒す……ッ!」

 

アクセルはそう言うとソウルゲインのモニターに視線を向けた。

 

「残り時間は127秒……奴を倒して転移する……どうする? ギャンランドに戻るか?」

 

『冗談、ここまで来たら最後までやりますよ』

 

既にイングラム達はテスラ研の敷地内に撤退している。ならば武蔵とアクセルの選択肢は1つだった。

 

「認証コードOK、起爆時間セット……タイムラグは5秒……とんだ博打だな、これが」

 

『ゲッターで運べば、秒もかかりませんよ』

 

「ああ。乗り心地は最悪のタクシーだが……我慢してやるさッ!! 行くぞ武蔵ッ!」

 

『おうッ!!』

 

アインストヴォルフに向かって駆け出すソウルゲインとゲッターD2を見て、レモンから慌てて通信が繋げられる。

 

『ちょっと待って! すぐ私達が跳ぶ番なのよッ!? ベーオウルフを倒すよりも戻ってくる方が確実よ!?』

 

「後顧の憂いは断っておかねばならん。奴は危険な存在だ……ここで仕留めるッ!」

 

『転移の瞬間に攻撃されても困るでしょう? 大丈夫ですよ、アクセルさんとエキドナさんと一緒に戻ります』

 

『言っても無駄か……馬鹿が』

 

『……もどれよ、武蔵』

 

アクセルと武蔵には何を言っても無駄さと判断したのか、イングラム達はそう言うと黙り込んだ。だがそれは武蔵ならば確実に戻ってくるという無言の信頼の現われだった、

 

『その憂いって、ベーオウルブズの事かしら? それとも……』

 

『どちらも、だ。俺達が行った後、リュケイオスには確実に消えて貰わねばならん……不確定な要素は可能な限り取り除く……そのイレギュラー足り得る、こいつはなッ!」

 

『静寂なる世界を乱す者は修正するッ!!』

 

胸部にエネルギーを溜め込むアインストヴォルフを見て、武蔵とアクセルは確信する。キョウスケは既に人智を越え、ゲッター線を取り込んでアインストも超越した……ここで倒さなければ、時空転移を獲得して何処までも追ってくると直感で確信したのだ。

 

『残り時間109秒……乗り遅れないでよ、アクセル、武蔵』

 

「俺達の事は気にするな、先に行けッ!!」

 

『大丈夫ですよ。オイラもアクセルさんもちゃんと戻りますからッ!』

 

その通信を最後にレモン達からの声は途絶えた。恐らく転移したのだろう、それを確認すれば残る不安要素はアインストヴォルフだけだった。

 

『行くぜぇッ!!!』

 

『進化の使徒ぉおおおおッ!!!』

 

ソウルゲインに向けていたエネルギーの放出口。それをゲッターD2が近づいてきているのを感知すると、その砲身をゲッターD2に向けた。

 

『オープンゲットッ!!!』

 

今正に光線が放たれると言うタイミングでゲッターD2がゲットマシンへと分離する。目標を失った事で、アインストヴォルフはソウルゲインにその砲口を向けた。だがそれは明らかなミスだった……。

 

「しつこい男は嫌われるぞッ! ベーオウルフッ!!!」

 

懐に飛び込み様に叩き込まれた膝蹴りで砲口を無理やり逸らされ、光線は明後日の方角に向かって打ち込まれた。

 

『チェンジッ! ポセイドンッ!! ゲッタァアアアサイクロンッ!』

 

上空でポセイドンにチェンジし、そこから放たれた暴風がアインストヴォルフを飲み込み、その巨体を上空に向かって打ち上げる。

 

『フィンガーネットッ! アクセルさんッ!!』

 

「いい距離だッ! これがなぁッ!!!」

 

フィンガーネットで絡めると同時にソウルゲインに向かってアインストヴォルフを投げつけるポセイドン。そしてその先で待ち構えていたソウルゲインの回し蹴りが剥き出しのアインストヴォルフのコアにめり込んだ。

 

『こいつはおまけだッ! もって行きやがれッ! ストロングミサイルッ!!!』

 

「貫け、青龍鱗ッ!!」

 

『が、ガアアアアーーーッ!?』

 

態勢を立て直す間もなくストロングミサイルと青龍鱗の直撃を受けたアインストヴォルフは胸部が破壊され、大きく仰け反る。

 

「武蔵ッ!」

 

『判ってますッ!!』

 

『「地獄へ落ちろぉッ!!!」』

 

ソウルゲインとポセイドンの体当たりを喰らい、アインストヴォルフはテスラ研の搬入口へと叩き落される。

 

『……どういうことだ。静寂を乱す箱舟は何処だ!?』

 

落とされた場所で困惑するベーオウルフの声が響いた。そこにあるはずのギャンランドがない……最初からここにはいなかったのか、自分が誘い込まれたのかと混乱するベーオウルフにアクセルが挑発の言葉を投げかける。

 

「転移したのさ」

 

『……転移だと……?』

 

「そうだ、そして俺達も行く、新たなフロンテイアへッ!」

 

『だけどお前に行く所は地獄だッ! 今まで皆を苦しめて、そして色んな人を殺したことを悔いろッ! アインストッ!!』

 

満月を背後にしたソウルゲインとポセイドン2のカメラアイが力強く輝いた。

 

「リミット解除ッ! コード麒麟ッ!!!」

 

ソウルゲインの全身の水晶体が光り輝き、アインストヴォルフに向かって急降下する。

 

『死ぬのは貴様だッ! アクセル……アルマァァァアアアアアーーッ!!!!!』

 

アインストヴォルフの両肩が開き、エネルギー状のクレイモアがソウルゲインに向かって撃ち出される。

 

『アクセルさんはやらせねえッ!!!』

 

「すまん……武蔵ッ!! 恩に着るッ!!!」

 

命中する寸前の所でポセイドン2が割り込み、両腕をクロスさせクレイモアの弾雨からソウルゲインを庇う。

 

『アクセルさんッ! 後は頼みましたよッ!!!』

 

クレイモアの射出が終わると同時にポセイドン2がソウルゲインの腕を掴み、反転しながらソウルゲインをアインストヴォルフに向かって投げつける。

 

『己ぇえええええーーッ!!!』

 

だがアインストヴォルフも好き勝手させる訳がない、急加速して突っ込んでくるソウルゲインに向かって再びクレイモアを射出する。

 

「ぐっ……くそっ! ソウルゲイン……俺を……勝たせてくれぇえええッ!!!」

 

ポセイドンが耐えたクレイモアよりも数も威力を劣っているが、それでもクレイモアの威力は凄まじくソウルゲインの装甲が容赦なく抉られる。レッドアラートを響かせるコックピットの中でアクセルは己を勝たせてくれと相棒の名を叫んだ。

 

『うぐああああああッ!?』

 

『アクセルさん、極めちまえッ!!!』

 

クレイモアを射出するアインストヴォルフの動きが止まった。着地したポセイドン2のゲッターキャノンの直撃を受けて僅かに硬直した隙にソウルゲインがアインストヴォルフの懐に飛び込んだ。

 

「でやああああああーーーッ!!!」

 

裂帛の気合と共に振るわれた一閃がアインストヴォルフの胸部と頭部を完全に打ち砕き、バランスを上手くとれず地面に叩きつけられそうになるソウルゲインをポセイドン2が受け止める。

 

「ベーオウルフ……俺の……俺達の勝ちだッ!」

 

1人では決してアクセルはアインストヴォルフには勝てなかった。だが、武蔵とポセイドン2の存在がアクセルを勝利へと導いた。

 

「俺は、俺達はこの世界と決別する……貴様はそこに這い蹲って吼えているがいい、リュケイオスが燃え尽きる業火の中でなッ!!」

 

リュケイオスが起動し、ソウルゲインとポセイドン2を光の中に包み込む……それは時空間転移の光だった。

 

『ふざけるなあッ! 進化の光はッ! 俺達のものだああああッ!!!』

 

胸部と頭部を再生させながらアインストヴォルフはソウルゲインとポセイドン2の元へと走る。転移をさせまいと、あるいは転移する世界に己も連れていけと言わんばかりにその両手を伸ばし、ソウルゲインとポセイドン2を掴み取ろうとする。

 

『オイラは誰の者でもない、オイラ自身の物だッ! 今まで殺してきた人達の事を悔いてあの世へ行けぇッ!!』

 

「行き掛けの駄賃だ……その首貰うぞッ! ベーオウルフ……いや、キョウスケ・ナンブゥッ!!」

 

玄武剛弾、そしてゲッターキャノンの砲弾がアインストヴォルフの両腕を打ち砕き、コアを打ち砕くと同時にソウルゲインとポセイドン2は転移の光の中に消え、今まで暴虐の限りを尽くしてきたアインストヴォルフもまたリュケイオスの爆発によって生まれた業火の中へと消えていく……最後までアクセルの名と進化の使徒と叫びながら、その全身を地獄の業火に焼かれ、細胞の欠片も残さず燃え尽きるまでの間アクセルと武蔵への恨みを叫び続けているのだった……。

 

だが武蔵とアクセルは知る良しもない、最後までアインストヴォルフと戦っていたことで、想定していた転移軸からずれると言う事を……

 

アクセル・アルマーはL5戦役最中の月面へと跳ばされ武蔵と出会う。

 

そして武蔵は……ゲッター線がたどり着く、1つの袋小路の未来へと流れ着くのだった……。

 

 

第24話 地獄 へ続く

 

 




OG2編序ももうすぐ完結。次回の話でOG2序は終わりなので、最終話は本日23時に予約投降で投稿させていただきます。ちょっと予約投稿はあんまり使ったことがないので不安要素ではあるのですが、日曜日からのOG2・本編の為に使いたいと思います。


シャドウミラー
インベーダーズ
そして百鬼帝国

が暗躍し、本来の時間軸と外れたOG2の世界がどんな物になっていくのかを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話 地獄

第24話 地獄

 

ゲッター線の海の中を進むゲッターエンペラー船団、それぞれのゲッターエンペラーの艦長の声が宇宙に木霊する。

 

『ゲッターエンペラー、武蔵が袋小路に迷い込んだようですがどうしますか?』

 

『想定外だったな。我らの中で正しく進化できず、邪悪へと成り果てたゲッターの支配する世界か』

 

『……ドラゴンはやはり未知数が過ぎる』

 

『武蔵を回収し、艦長にすること提案する』

 

『却下する。まだ武蔵のゲッター線適合率は上がる。まだその時ではない』

 

『だが、あの世界を見れば武蔵はゲッターに対して嫌悪感を抱くかもしれない』

 

『然り、だが世界が変われば『武蔵』の出す結論も変わる』

 

『ゲッターと永久に戦うことを良しとした武蔵』

 

『ゲッターを危険とし、排除する事を良しとした武蔵』

 

『ゲッターと共に死んだ武蔵』

 

『ならば、あの武蔵にも選択する自由と権利がある』

 

『だがあの世界のドラゴンは魂を求めている。武蔵が危険だ』

 

『心配は無い、あいつがいる』

 

『……異端の竜馬か……』

 

『だがそれこそ武蔵がゲッターから決別するかもしれない』

 

『それも是だ。我らはただ見守るのみ……』

 

ゲッターエンペラー達はゲッター線の光に包まれ、ゲッター線に埋め尽くされた地球の前から消え去るのだった。

 

 

 

 

 

ボロボロの廃墟の上に振る翡翠色の流星……それは真っ直ぐに墜落し、ビルをいくつも砕きやっとその勢いを殺した。

 

「いってええええーーーッ!! 頭が割れそうな位いてぇッ!!!」

 

廃墟の中に響くその声は武蔵のもので、翡翠色の流星はゲッターポセイドン2だった。ベーオウルフとアクセルと共に戦い、最後に転移した武蔵は何の因果か最狂のゲッターの支配する未来世界に流れ着いていた。

 

「いちち……んあ? なんだこりゃあ……またオイラは戻って来ちまったのか?」

 

荒廃した大地、ゲッター線の光に包まれた空……その光景は竜馬達と分かれた世界を武蔵に思い出させていた。

 

「そうだそうだ、エキドナさん……エキドナさん……? ん、んんんッ!?」

 

ライガー号の中にいるはずのエキドナに声を掛けても反応がない、もう一度声を掛けて武蔵はやっと自分の身体に起きている異変に気付いた。

 

「ちょいちょい!! ちょっと待てッ! オイラの身体は何処に行っちまったんだ!?」

 

ポセイドン2は武蔵にとって手足のように動かせるゲッターロボだ。だが武蔵が手を上げればポセイドンの手が上がり、足を上げればポセイドンの足が上がる……。

 

「……オイラは今ゲッターの目で見ている……んで」

 

自分の身体を動かす感覚で腕を上げるとポセイドンの腕も上がる……それをあたらめて認識し、武蔵の額から汗が流れた。

 

「オイラはゲッターの目で見ている……オイラはゲッターロボと融合しちまったのか!?」

 

一緒に乗っていたはずのエキドナの気配も無い、そして自分の身体が何処にも無い事に激しく混乱する武蔵。

 

「……なんだあ、ありゃあ……」

 

豆粒のような何かが空を飛んでいる……その事に気付いた瞬間、背後から殺気を感じ武蔵は反射的に裏拳を振るった。鉄同士がぶつかり合う激しい金属音が響く中、武蔵は驚きに目を見開いた。

 

『へえ、流石は完成品。やるなあ?』

 

『はっははッ!! 良いぜ良いぜ、こいつの部品を貰えば、俺達も完成するってもんだッ!!』

 

襲撃者……それはゲッター1だった、だが顔の半分は骨格が剥き出し、ベアー号も左足の装甲が無く素体が丸見えだった。唯一完成しているのはジャガー号だけだが、白銀の装甲は何故か赤や黄色のパーツも組み込まれていた。

 

「ここは何処なんだッ! お前は何者なんだッ!!!」

 

ゾンビのように見えるゲッター1に向かって武蔵は叫ぶ。だが武蔵の言葉にゲッター1は嘲笑を上げた。

 

『おいおい。こいつは寝ぼけてるぜ?』

 

『なら目を覚ます前に始末するとするか!!』

 

「ま、待て……うぐうッ!?」

 

背中から伸びてきた豪腕に殴り付けられポセイドン……いや、武蔵は膝をついた。

 

『『ゲッタァアアアーービームッ!!!』』

 

「おおおおおおおーーーッ!?」

 

咄嗟に顔は庇ったがゲッタービームの衝撃と熱に苦悶の声をあげ、武蔵は背中からビルに叩きつけられる。

 

『なんだ、随分とあっけなかったな』

 

『そうだよな、完成品だからもっとやると思ったが……けけけけ、とんだ雑魚だったな』

 

瓦礫の山に埋もれた武蔵を探して歩き出すゲッター1。その指先からは牙が生えた触手が伸び、武蔵を食い千切ろうと瓦礫の中を這いずり回っていた。

 

「ゲッタァアアアサイクロンッ!!!」

 

瓦礫を吹き飛ばしながら放たれた暴風がゲッター1を呑み込み、宙に打ち上げる。武蔵は瓦礫の中でゲッター1が自分に近づいてくるのをジッと待っていたのだ。

 

「ゲッターに似てるから、話を聞こうと思ったが……攻撃してくるなら容赦しねえッ!!! フィンガーネットッ!!!」

 

打ち上げたゲッター1をフィンガーネットで絡めとり、腕を振り回す武蔵。普段の操縦の感覚と違うのに、不思議なほどにポセイドン2と化した己の身体を操る事が出来ていた。

 

「大ッ! 雪ッ!! 山ッ!!! おろしいいいいいッ!!!」

 

『『う、ウガアアアアアーーッ!?』』

 

真空の刃に切り裂かれ、ゲッター1のパイロット達が悲鳴を上げるが武蔵は攻撃の手を緩めない。

 

「ストロングミサイルッ!!!」

 

投げ飛ばされ宙を舞うゲッター1にストロングミサイルが命中し、右腕、左足が吹き飛んだゲッター1に再びフィンガーネットが巻きつき、今度はジャイアントスイングの要領で振り回される。その遠心力に耐え切れず、ゲッター1の角と残された左腕が千切れ飛んだ所で武蔵は振り回すのを止め、フィンガーネットを回収しゲッター1の頭部を両腕で挟みあげる。

 

「もう一度聞く! ここはどこで、お前達は何なんだッ!!」

 

『が、があああああーーッ! 判った! 言う、言うからやめてくれえッ!!!』

 

頭部ごと押し潰されかけたパイロットが泣き叫ぶので武蔵はその場にゲッター1を投げ捨てた。

 

『や、やるなあ……あんた、悪かった。俺達の負けだ』

 

「ッ!?」

 

ゲッター1のコックピットから顔を出したのは芋虫のような、アインストのような蔦のような物体に人の顔が2つ張り付いたおぞましい生き物だった。それを見た武蔵も流石にその顔を驚愕に歪めた……だがゲッターから出てきた生き物は楽しそうに笑う。

 

『お前さんなら行けるぜ。俺達はまた1から頑張る事にする』

 

「行ける? どこへ、何処へ行くって言うんだ!?」

 

『あん? お前だって外に行く為にその身体を作ったんだろ? 見ろよ、この世界を! ボロボロでゲッター線に汚染されててここはもう駄目だ! だけどあそこに行けば! あいつに認められればッ!!』

 

『俺達は宇宙……別の惑星……いや極楽にだって行けるんだぜ!』

 

興奮した面持ちの生き物が腕を上げるとボロボロのゲッターの腕が動き、空を指差す。

 

『見えるだろ? あそこにこの星の支配者がいる』

 

雲の中に見える巨大なゲッター線の渦。それを見つめていると次々何が墜落しているのが見えた武蔵は足元の生き物に尋ねた。

 

「あの落ちてる奴は何だ?」

 

『完成品さ。だけどパワーが足りないからあいつに近づけないのよ』

 

『だから俺達は部品とゲッターエネルギーを集めているのさ。だけど……お前なら行けるぜ』

 

「……あそこには何がいるんだ?」

 

武蔵の問いかけに生き物は2重に重なる声を張り上げた……。

 

『『聖獣ドラゴン……ゲッターセイントドラゴンがいるのさッ!!!』』

 

恐れながら、それでも敬う素振りを見せている生き物に感謝を告げ武蔵はそのゲッター線の渦へと向かった。

 

「ここになにがある! 何が起きていると言うんだッ!」

 

色んなゲッターのパーツを持つ継ぎ接ぎが稲妻に打ち抜かれ墜落していく、その残骸の横をゲッターD2で通り過ぎながら、武蔵は降り注

ぐゲッター線の稲妻を避け、渦の中心にいたゲッターの前に辿り着いた……いや、辿り着いてしまった……。

 

「なんだ、なんだよ……これはぁ……こんな、こんな化け物がゲッターロボだっていうのかよぉッ!!!」

 

それは化け物だった。巨大なゲッタードラゴンの頭部……だがそれは生物的な意匠があり、目が動き回り武蔵を見つめているのが判る。胴体にはまるで飲み込まれたかのような、ドラゴン、ライガー、ポセイドンの姿があった。爬虫人類、真ドラゴン、インベーダー、アインストと数多の化け物を見てきた武蔵でさえも動きを止めるおぞましい生き物の姿がそこにはあった。

 

『む……さし……むさしむさしむさし武蔵いいいいッ!!』

 

武蔵の名を叫んだゲッターセイントドラゴンの装甲の各所から触手が伸び、武蔵を捕えようと迫る。嫌悪感を与える触手をダブルトマホークで切り払い、必死に武蔵は逃げ回る。

 

「っ! くそ! なんだよッ!」

 

空中で旋回や蜻蛉を切り、伸びる触手をかわし続ける武蔵だが徐々にその数が増え、切り裂いた触手から更に触手が伸び、それを切り払わなければと武蔵が思った瞬間ゲッターセイントドラゴンの口から伸びた無数の触手がゲッターD2を飲み込んだ。

 

『むさしむさしむさし、最初の使徒……武蔵武蔵武蔵ッ! 我に足りないのはお前だ! 我はお前を待っていたぁ!!!』

 

「止めろぉッ! オイラに触るなぁッ!!」

 

触手に全身をまさぐられる嫌悪感、そして狂気に満ちた声に武蔵は恐怖し、触手を引きちぎろうともがくが触手は増え続け、武蔵の全身が触手に飲み込まれようとしたその時ッ!!!

 

『ゲッタァアアアビィィイイイムッ!!!!』

 

男の雄叫びが響き、上空から放たれたゲッタービームが触手を薙ぎ払った。

 

『漸く見つけたぜ、この化け物がぁッ!! てめえはこの俺がぶっ殺すッ!!!』

 

それは紛れも無いゲッター1、そして竜馬の声だった。

 

「りょ、竜馬?」

 

『てめえもぐずぐずしてんじゃねえ、この化け物をぶっ殺すために協力しなあッ!』

 

確かにその声は竜馬だ。だが武蔵の知る竜馬よりも、声のトーンが低く、そして武蔵でさえも息を呑むような殺気を全身に纏っていた。

 

「ま、待ってくれ、竜馬……リョウなのか!?」

 

『ぐだぐだ話してる暇はねえッ! あの化け物をぶっ潰すのを手伝わないのなら離れてろッ!!!』

 

『愚かなり……流竜馬……ゲッター線の真髄を知らぬ者よ……我が腕の中で果てるがいいッ!!! ゲッタァアアーービィィイイイムッ!!!』

 

ゲッターセイントドラゴンの口から放たれた極大のゲッタービーム――それは竜馬と武蔵を呑み込み、照射が終わった時上空にはゲッター1もゲッターD2の姿も何処にも存在していないのだった……。

 

 

武蔵が辿り着いた世界……それはゲッターが辿り着く1つの可能性。だがこの出会いは武蔵の心に僅かな影を落とす事になる。

 

「武蔵、武蔵無事か! 良かった。武蔵?」

 

「いかん、失神しているのか。イングラムッ!!」

 

イングラムとカーウァイに遅れる事数分……時空を引き裂いて現れたゲッターD2に通信を繋げるが、武蔵からの返答は無い。それに気付きイングラムとカーウァイはR-SOWRD、そしてゲシュペンスト・タイプSでゲッターD2を支える

 

「武蔵、武蔵ッ!!! 聞こえるかッ! ハッチを開けるぞ!」

 

ポセイドン号のハッチを開ける。操縦席にもたれるように気絶している武蔵を見て、イングラムとカーウァイはひとまず安堵の溜め息を吐いた。

 

「エキドナはどうする?」

 

「……そうだな、一応。連れ出すか」

 

タイプSの手の上に飛び乗り、カーウァイがライガー号のハッチを外から開ける。

 

「エキドナ……エキドナどうした?」

 

「……え、エキドナ?……そ、それは誰ですか? わ、私は……ここはどこなんですか……?」

 

そこにいたのは自信に満ちた冷静なエキドナの姿ではなく、身体を小さくさせ自分の名前も自分がどこにいるかも判らない記憶喪失のエキドナの姿だった。

 

「……イングラム。エキドナが記憶喪失のようだ」

 

「……そうか、だがまぁ……それはある意味好都合かもしれない」

 

シャドウミラーの構成員だ。これからハガネやヒリュウ改に合流する事もある……それならば記憶は失っている方が良い。

 

「カーウァイ、俺達の戦いはこれからだ」

 

「ああ……そうだな」

 

時空転移システムによってイングラム達は無事に元の世界へ戻る事が出来た。だが、シャドウミラーの姿は何処にも無い……それ所か武蔵が遅れて転移してきたように、シャドウミラー……ヴィンデル達との転移の時間軸もずれている可能性がある。ここからが、イングラム達の戦いの幕開けとなるのだった……。

 

そして武蔵の記憶からあの暗く、重い地獄の記憶は目覚めた時に消えていた……だが、心のどこかでゲッター線が齎す1つの悪夢が根付く事となる。

 

ゲッターと共に戦うのか、それともゲッターを封じるのか……武蔵は何れ、その選択を迫られる事となる。

 

 

 

 

 

一方その頃とグライエン・グラスマンの屋敷の中では……目に隈を浮かべたグライエンが何十、何百と言う書物を調べ、ある存在の元へと辿りついていた。

 

「見つけた、見つけたぞ……ブライに私が感じていた違和感はこれかッ! あの男は……あいつはッ!! 百鬼帝国大帝……ブライだったのかっ!」」

 

グラスマン家に伝わる手記それを読み解いていたグライエン・グラスマンはブライ議員に感じていた違和感の正体……そして危険だと感じた理由に辿り着いていた。手記に挟まれていた手書きのスケッチの人物と自分が協力していた議員の顔が全く同じだと言うことに気付き、グライエンは新西暦で初めて百鬼帝国の存在に気付いた男となった……。

 

「早くこれを伝えなくては、全てが手遅れになる前に……」

 

量産型ゲッターロボによる地球圏防衛計画を考案した相手がゲッターと戦った存在――これ以上ブライに力をつけさせては危険だと手記を手に、屋敷を出ようとした所で背後からグライエン議員に声がかけられた。

 

「良く辿り着いたと褒めてやろう。グライエン・グラスマン」

 

背後の扉が音を立てて閉じた。グライエン議員は背筋に冷たい汗が流れるのを感じた……それは警備を抜けて、自分の前に現れたと言うこともある、だが最大の理由はそれではなかった……。

 

「それが百鬼帝国の技術力と言うことか……」

 

グラスマンの家に伝わってきた手記を服の中にしまいながら振り返ったグライエンの顔は驚愕に染め上げられていた。

 

「その通り、今日から私が「グライエン・グラスマン」になる」

 

そこにいたのは紛れも無くグライエン・グラスマンの姿だった。声も、姿も何もかも同じ……違うのはその口調だけだった。

 

「私がそんな口調で喋るとでも?」

 

「ん、んん。まさか、私はもっと威厳のあるしゃべり方そうだろう? 偽者よ」

 

声のトーンまでも一瞬で似せてきた……その事に驚くのと同時に、最近急に方針を変えた政治家達の事が脳裏を過ぎった。

 

「なるほど、ここまで百鬼帝国の侵攻は進んでいると言うことか……」

 

自分と瓜二つの百鬼帝国の構成員がいる……それは政治中枢や、軍上層部にも百鬼帝国が既に入り込んでいる可能性を示唆していた。

 

「ではさようなら、グライエン・グラス……ッ!!!」

 

銃口を向けられた瞬間凄まじい振動が屋敷全体を襲い、グライエンもグライエンに扮した百鬼帝国の兵士もその場に膝をついた。

 

【グライエン議員、早くこちらへッ!】

 

地震を起こし、グライエンを救った巨大な影から発せられる声に従い、グライエンは背後から撃ち込まれる銃弾に肩を抉られながらも、必死に窓からバルコニーに出る。

 

「こ、これはゲッター2ッ!?」

 

グライエンを救出した謎の影……それは胸元にブランシュタイン家のエンブレムの刻まれた漆黒のゲッター2だった。

 

【早く脱出をッ!】

 

「助かるッ!! おおおおーーッ!!!」

 

「逃がすか、死ねえッ!!!」

 

銃弾に晒されながらグライエンはバルコニーから飛び降りる。地面に叩きつけられるかどうかと言う所でグライエンはイーグル号から顔を出していた男に腕を掴まれ、イーグル号の中に引きずり込まれる。イーグル号から顔を出していた男……それはL5戦役から姿を消していた「ゼンガー・ゾンボルト」の姿だった。

 

【エルザム! グライエン議員は回収した!】

 

【よしッ! この場から離脱するッ!!!】

 

ゲッター2はドリルを地面に突き立て地中へと逃れる。そしてその日グライエン・グラスマンの議員が何者かの襲撃を受け、屋敷が爆破されたが警備によって連れ出され無事であると言う事、そして謎の襲撃者がゲッター2を運用していたと言う記事が世界中にばら撒かれる事となり、量産型ゲッターロボ計画の図面や試作機の強奪、あるいは横流しが疑われ、すべての連邦軍基地、並びに開発に関わっていた全ての企業に査察団が入る事となった。

 

「やぁやぁ、しくじったようだな。ブライ大帝」

 

「ふん、まぁ良いさ。何もかも計画通りでは面白くない、これくらいのイレギュラーはむしろ望む所だ」

 

「さ、流石大帝を名乗る事はあるね、こ、コーウェン君」

 

「そうだね、スティンガー君! ではブライ大帝、また困った事があれば何時でも我らにお声掛けを」

 

「きょ、協力者として、助力に全力を尽くしましょうぞ!!」

 

闇の中にいたコーウェンとスティンガーはそのまま溶けるように姿を消し、1人残されたブライはふんと鼻を鳴らしてその場を後にした。

 

武蔵達がフラスコの世界へ帰還した頃……この世界に蔓延っていた悪意もまた動き出し、武蔵達は再び地球存亡を賭けた戦いに身を投じることとなるのだった……。

 

 

 

OG2本編 暗雲へ続く

 

 

 




次回からOG2編本編開始です。もう最初の段階でOG2の原型は? って言うレベルで話が違いますが、ご了承ください。

オリジナルよりも難易度の上がっている点

その1 政治家・軍上層部に百鬼帝国

その2 インベーダーズ、ヒャッハー中

その3 原作よりもパワーアップしたシャドウミラー

その4 オリキャラ敵の追加。四邪の鬼人、四罪の鬼人 新西暦と旧西暦の技術がミックスされた可変・合体型百鬼獣の追加

その5 平均9000~10000文字前後のボリュームアップ!

でお送りします。正直その5は多すぎだろとか言われるかもしれないと不安ですが、内容的にどうしてもそうなってしまうのです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

OG2編・本
第1話 暗雲 その1


第1話 暗雲 その1

 

新西暦187年……

 

連邦政府に対し反旗を翻したディバイン・クルセイダーズとの「DC戦争」。

 

そしてその影に隠された旧西暦に人類との生存競争を繰り広げた「恐竜帝国」の復活。

 

異星人エアロゲイターとの戦い「L5戦役」が開戦した。

 

巴武蔵とゲッターロボのアイドネウス島での壮絶な討ち死にから半年後……。

 

 

大戦によって中枢部や要人を失った地球連邦政府は組織の再編を余儀なくされた。

 

コロニー統合府大統領であったブライアン・ミッドグリッドが連邦政府大統領に就任した。

 

 

そして、彼は連邦議会でL5戦役の情報を公開する事に踏み切った。

 

後に「東京宣言」と呼ばれるこの発表で地球外知的生命体の存在が公式に認められ、

 

彼らが地球人類にとって脅威となるなることが示唆された。

 

そして「L5戦役」で終始先陣を切って戦い「MIA」となり行方不明になった武蔵のことも言及した。

 

シュトレーゼマン達によってあらぬ罪をかせられて、地球を守る為に戦い続けた武蔵。

 

アイドネウス島での特攻間際の映像も交え、如何に武蔵が地球の為に貢献したかを訴えた。

 

 

さらにミッドグリット大統領は地球圏の一致団結を訴え、連邦軍の組織改革と軍備増強計画「イージス計画」を発表した。

 

そして、その計画の名の下に人型機動兵器の量産や強化などが進められた。

 

「L5戦役」で最後まで主力となった「ATX計画」「SRX計画」の続行。

 

伊豆基地そしてテスラ研が主導になった「ゲシュペンスト・MK-Ⅲ」計画。

 

月のマオ社が主導になった「ヒュッケバイン・MKーⅢ」計画。

 

そしてブライ議員が主導となった「量産型ゲッターロボ計画」

 

様々な計画が立ち上げられ地球を守る為に人種、組織を超えて動き出す人類。

 

だが、それらの陰でうごめく者達がいた……。

 

かつて、ビアン・ゾルダーク博士が率いた軍事結社「ディバイン・クルセイダーズ」の名を騙るゲリラ。

 

連邦政府や連邦軍内で軍事政権の樹立を目論む者達……それらを繋ぐ「影」……。

 

突如過激派に転向する穏健派の議員達……。

 

そして、「アインストシリーズ」と呼ばれる謎の物体群……。

 

かつて地球を支配しようとした「百鬼帝国」の復活。

 

地球を自らの種族の楽園とするべき暗躍する「コーウェン」と「スティンガー」……。

 

地球人類は今、さらなる混迷の渦へ陥ろうとしていた……。

 

 

 

 

 

ワシントン……連邦軍会議場から背広のネクタイを緩めながら、壮年の男性が顔を見せた。「L5戦役」にも参加し、連邦軍有数のゲシュペンスト乗りであり、新・特殊戦技教導隊隊長「カイ・キタムラ」は太陽の光に目を細めながら外で待機していた2人の男女の声を掛けた。

 

「……待たせたな、2人共。随分と会議が長引いてしまったようだ」

 

「いえ……大丈夫です。カイ少佐」

 

「どうでした? イージス計画の定例会議の方は?」

 

カイと同じくL5戦役を潜り抜けた若いが優秀なパイロットである「ラトゥーニ・スゥボータ」と「ライディース・F・ブランシュタイン」がカイに会議の結果を尋ねる。

 

「前向きな背広組が増えたな。DC戦争前とは大違いだ」

 

「L5戦役でビアン・ゾルダーク博士の警告が正しかったことが証明されましたし……ミッドクリッド大統領の東京宣言の影響も大きいと思いますね」

 

L5戦役……いや、もっと前。ビアン・ゾルダークが現行政府に反旗を翻す切っ掛けとなった。地球外生命体による地球侵略――以前は夢物語と言われたが、それが事実となった今は状況が大きく変わっていた。

 

「お前達にも見せてやりたかったぞ! ゲシュペンストを旧型と抜かしていた背広組が手の平返しをする光景をなッ!」

 

「……カイ少佐。余り大声で言うべきではないかと……」

 

会議場の前なので誰かに聞かれるかもしれないとラトゥーニが注意するが、カイは上機嫌でラトゥーニの警告も聞き流していた。

 

「トライアウトはゲシュペンスト・MK-Ⅲの勝ちだ。ははははッ!! 良い気分だッ!!!」

 

時期主力量産機の座を勝ち取ったのは一度はトライアウトに敗れた「ゲシュペンスト・MK-Ⅲ」だった。L5戦役の主力として戦った「ゲシュペンスト・シグ」そしてカイとギリアムの「ゲシュペンスト・リバイブ」の戦闘力の高さと整備製、汎用性、拡張性の高さが認められた形となった。

 

「カイ少佐はそうはいいますが、量産型ヒュッケバインの性能もそう悪くはありませんよ?」

 

「む……それはそうだが……今の連邦のベテランはゲシュペンストに慣れている。お前の気持ちは判るが、やはり俺含めてベテラン勢はヒュッケバインよりも、ゲシュペンストの方が好きなんだよ」

 

トライアウトの最終段階は会議だけでは決まらないと、各国の連邦軍基地に10機ずつ「量産型ヒュッケバインMK-Ⅲ」「量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲ」とそれらの機体の拡張パーツ込みで運び込まれ、実際に操縦し、拡張パーツの装着による操縦性に変化、そして整備性などのテストを行った結果。実戦に出ていない若い兵士は操縦性の良い「量産型ヒュッケバインMK-Ⅲ」を熱望したが、1度でも実戦に出たパイロットは「量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲ」を望んだ。そしてそれは整備性もゲシュペンスト・MK-Ⅱに近いと言う事で殆どの整備兵も量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲを希望したのだ。その結果が量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲの正式量産機への決定と言う結果を齎した。

 

「ラドラもきっとこの結果を喜んでいるだろう」

 

ゲシュペンストをこのまま埋もれさせないために動き出し、L5戦役と言う恰好の舞台でゲシュペンスト・リバイブを送り出した立役者…

…元教導隊の「ラドラ・ヴェフェス・モルナ」も喜んでいるだろうとカイが笑うと会議室の扉が開いて、疲れた様子のサラリーマン風の男が姿を見せた。

 

「ああ、社長になんていえば良いのか……」

 

「メイロン常務。お気持ちは判りますが、これも現場の意見の形ですよ」

 

「ええ、ええ……判ってますよ。カーク博士の暴走を止めれなかった我が社にも問題があります」

 

マオ社の社長の「リン・マオ」に代わり、会議に出ていた「ユアン・メイロン」はヒュッケバインがトライアウトに落ちた事に肩を落としていた。

 

「俺は良い機体だと思いますよ。量産型ヒュッケバインMK-Ⅲは」

 

「……ありがとう、ライディース少尉。だがあの拡張パーツは正直どうかね?」

 

ユアンの問いかけにライは何も言えなかった。実際の所、量産型ヒュッケバインとゲシュペンストのスペック自身にそう大差は無かったのだ。勝敗を分けたのは拡張パーツの有無が大きかった……個性が少なく汎用性に秀でたゲシュペンストの強化パーツと、癖の塊の強化パーツ……これが勝敗を分けた要因の1つだった。

 

「お父様! 結果は……駄目だったのね?」

 

「あ、ああ……リオ。やっぱりカーク博士を止めるべきだったね」

 

止まった車から姿を見せたチャイナ服の美少女「リオ・メイロン」にユアンは肩を深く落として溜め息を吐いていた。

 

「しょうがないですよ、常務。お疲れ様でした」

 

「リョウト……久しぶりだな」

 

「ライ少尉、まさかこんな所で会うなんて思ってなかったですね」

 

ライ達と共にL5戦役を駆け抜け、リオと共にマオ・インダストリー社に就職した「リョウト・ヒカワ」も懐かしい顔を見て小さく微笑んだ。

 

「お前も休暇なのか?」

 

「ええ。でも、色々あって、成り行きでこうなってしまって……」

 

ははっと困ったように笑うリョウトにライは苦笑した。色々あっての部分が何を意味しているのか察してしまったからだ。

 

「……何となく想像はつくが」

 

「本当は1人で休暇を取るつもりだったんですけど……ね」

 

大人しい性格のリョウトの意見を強気な性格なリオが封殺した形で休暇にリオもついてくることになってしまったのだろう。

 

「付き添いが増えたのね」

 

「う、うん。断り切れなくて。結局、半分は仕事みたいになっちゃったんだ」

 

休暇の筈なのに、リオがついてくると聞いて、リンの代わりに会議に出席すると言ったユアンも同行した結果。リョウトの久しぶりの休暇は半分マオ社の仕事になってしまっていた。

 

「……あ~あ、のんびりと羽が伸ばせるいい機会だと思ったんだけどなぁ」

 

「伸ばすなら1人で! いや、保護者同伴でだッ!」

 

リオとすれば、邪魔者なしで恋人のリョウトと共に久しぶりの地球でのんびりと旅行をするつもりだった。だが親馬鹿のユアンがそれを許さなかったのだ。

 

「もう、父様ったら……いつまでも子供扱いするのは止して」

 

「何を言う。私はお前が心配でだな……」

 

年頃の、しかも嫁入り前の娘が男と旅行に行く……ユアンはそれを聞いて、黙っていられるような性格ではなかった。そしてユアンの言動に同じく娘を持つカイが同調した。

 

「判ります、判りますぞ、常務。年頃の娘を持つ親として、そのお気持ちは」

 

「おお、カイ少佐! カイ少佐からも言ってください! た、確かにリョウト君は好青年であると言う事は認めるのですが……それとこれとは話は別なのだとッ!」

 

「良いか、リオ。お前がいくつになってもだな、常務の子供であることに変わりはないんだ。そもそも、親というものは……」

 

完全に薮蛇で説教が長い事で有名なカイに掴まった事にリオは天を仰いだ。

 

「……所で、少尉達はこれからヒッカムへ戻られるんですか?」

 

「いや、その前にラングレーへ立ち寄る。特殊戦技教導隊の新メンバーの選考試験があるんでな」

 

カイが隊長を務める新特殊戦技教導隊の噂はリョウトも聞いていた、マオ社で最初のロールアウトした量産型ヒュッケバインMK-Ⅲの配属先だからだ。

 

「良い人材は見つかりそうですか?」

 

「ごく普通に優秀なパイロットなら、多くいる。だが、良く言えば独創的、悪く言えば無茶なモーションを構築し、それを実戦で使いこなす者は数少ない」

 

「独創的……例えば、リュウセイ君みたいな?」

 

リョウトの例え話にライは苦笑して頭を振った。

 

「あいつのモーションは、どちらかと言えば基地祭のデモンストレーション向きだ」

 

「ああ……凝ってますもんね、彼」

 

戦技隊のモーションデータとしては最悪だが、基地祭りのデモンストレーションとして、場を盛り上げるという意味ではリュウセイのモーションデータは極めて優秀だろう。

 

「……最近のリュウセイは凄く頑張ってる。ちゃんとしたモーションデータも作ってる」

 

想い人のリュウセイの事と言う事でラトゥーニがリョウトとライの話に割り込んできた。

 

「そうなのか? 俺はそんな話は聞いてないが?」

 

「……驚かせるって言ってて、偶に私に意見を聞いてきてる」

 

自分達の知らない所でリュウセイとラトゥーニの関係が良い物になっている事に驚きながらも、リョウトとライは微笑ましい物を見るような目でラトゥーニを見つめていた。

 

「……男親はな、娘に対しては不器用なものなんだ。色々と偉そうに言っていてもな、心の中じゃ結構気を使っているんだぞ。だから……」

 

そんなラトゥーニは恋する乙女の1人として、死んだ目をして説教を聞いているリオに対して助け舟を出した。

 

「……少佐、そろそろ時間です」

 

「ん? ああ、そうだな。では、常務。自分達はこれで」

 

ラングレー基地に向かう時間だと告げられ、カイは説教を切り上げた。リオはラトゥーニに助けられた事を驚きながらも、ありがとうと手を合わせていた。

 

「……あの、父様。父様はこれから仕事の打ち合わせよね?」

 

「ああ、ポールスター・システムズでな、それがどうかしたか?」

 

「じゃあ、その間、リョウト君と2人でラングレーに行ってもいいかしら? クスハやブリット君達に会えるかも知れないし…」

 

リョウトやユアンの意見を聞かず話を進めるリオ。その強気な態度と口調にリョウトが丸め込まれたのは想像するに容易い光景だった。

 

「いや、あの、そんなこと言われても……それに都合も悪いだろうし……」

 

カイにリオを止めてくれと言う視線を向けるリョウトだが、カイは腕を組んで何度か頷くだけだった。

 

「ふむ……今となっちゃ、あいつらと会える機会はそうないだろうからな。何なら俺達と一緒に行くか?」

 

「え? いいんですかッ!?」

 

「でも、任務の邪魔をする訳には……」

 

乗り気のリオに対して邪魔をしたら悪いというリョウト。だが話は既に進んでしまっていた。

 

「構わん。選考試験は明日だからな。ついでに仕事の1つや2つ、手伝ってくれると助かる。常務、お2人は私がお預かりしましょう」

 

「カイ少佐がいるなら心配ない。娘達をよろしくお願いします」

 

やったあと喜ぶリオと天を仰ぐリョウト……しかしまさかラングレー基地で地球に起きようとしている大きな事件に巻き込まれることになるとはリョウト達は夢にも思わないのだった……。

 

 

 

 

 

格納庫の前で上半身裸で日本刀を熱心に振るう青年――「ブルックリン・ラックフィールド」の姿は今や新しいラングレー基地の名物になっていた。

 

「シィィ……はッ!!!」

 

鋭い気合と共に振るわれた刃は凹んでガタの来たゲシュペンストの装甲版を両断する。

 

「ブラボーッ!!!」

 

「ジャパニーズ侍に修行を受けただけはあるぜッ!!」

 

「ヒュー♪ 見てくれよ、サムライブレードに刃零れ1つないぜッ!!」

 

ブリットの鍛錬を見ていた整備兵達が口笛を吹きながらブリットに歓声を向ける。

 

「は、はは……どうも」

 

さっきまでの引き締まった表情では無い。少し困惑したような表情でブリットは日本刀……武蔵の日本刀を鞘に納め、鯉口を紐で縛る。

 

(……まだ全然だな)

 

斬った後がぎざぎざでその太刀筋はブリットの求める物とは程遠い。小さく息を吐いたブリットの通信機が音を立て、それに出たブリットは顔色を変えてブリーフィングルームに向かって走り出した。

 

「……キョウスケ中尉! クスハが試験場にいるって、どう言うことなんですかっ!?」

 

ブリーフィングルームに駆け込むなり状況説明を求めるブリット。ブリーフィングルームにいた白いジャケットを羽織った金髪の美女……

「エクセレン・ブロウニング」も困ったように頬をかいた。

 

「なんていうか……どう言うもこう言うも、そう言うことなのよね……ブリット君に伝えてなかったっていうのは、私達の落ち度だけど…」

 

「急な話だったのは確かだ。T-LINKシステムのデータ取りということで申し入れがあった」

 

エクセレンが助けを求めるように、赤いジャケットを羽織っている青年――「キョウスケ・ナンブ」に視線を向けるとキョウスケは淡々と状況説明を始めた。

 

「でも、今のクスハは……それにデータ取りなら、自分だって!」

 

L5戦役をグルンガスト弐式に乗りブリット達と共に戦いぬいた「クスハ・ミズハ」はL5戦役の後、本人の希望もあり、正式な軍属となる為の訓練中だ。それなのになぜそんなクスハが再びグルンガスト弐式に乗っているのかとブリットは声を荒げた。

 

「タイミングの問題だ。お前にはマクディルでの任務があったからな……加えて、先方が欲しがっていたのは特機タイプのデータだった」

 

「だから、クスハとグルンガスト弐式だったと言うことですか」

 

ブリットもT-LINKシステムの適合者だが、その搭乗機はパーソナルトルーパーである。ヒュッケバインMK-Ⅱだった、データがあると言われればラングレー基地の新しい司令――「クレイグ・パストラル」。パストラルの性が示すとおり、DC戦争で殉職した「グレッグ・パストラル」の息子で32歳の若手の司令官ではその要請を断りきれなかったのだ。

 

「……運が悪かったとしか言えんがな」

 

「あんな事になるなんて、考えてもいなかったし……ねえ」

 

まさか試験場がテロリストに制圧されるなんてキョウスケ達も、そしてクレイグも想像もしていなかった。

 

「それは判ってます! でも、もしかしたら、クスハや試験場の人達は……ッ!」

 

「だからそれは君達に確認して来てもらう」

 

「え!? し、司令ッ!?」

 

ブリーフィングルームに入ってきたクレイグの姿にブリットは驚き、キョウスケ達から僅かに遅れて敬礼する。

 

「すまなかった、私の判断ミスと言わざるを得ない……キョウスケ・ナンブ中尉、およびATXチームに第4試験場を制圧したテロリストの鎮圧を命じる」

 

「了解しました。司令」

 

「ああ、頼む。それと……この鮮やかな手並み、内通者の可能性がある。救出作戦は慎重に行ってくれ、見慣れないアーマードモジュールの目撃情報もある――それに1つ気がかりな事がある」

 

「気掛かりな事とは?」

 

「ケネス・ギャレットの事だ」

 

ケネス・ギャレット……本来ならば、この新生ラングレー基地の司令となる男だったが、L5戦役中に政府高官に賄賂、女性兵士へのセクハラ、更にアードラーとの通信による情報漏洩……数多の犯罪で投獄された男だ。

 

「ケネスがどうかしましたか?」

 

「噂の段階なのだが……ヴァルシオンシリーズらしき物をラングレー基地に運び込んでいたと言う噂がある。そして運び込まれた場所が……廃棄予定の第4試験場だ」

 

新しく建築されたラングレー基地。その中で第4試験場は老朽化が進んでおり、近いうちに取り壊される事が決定しており。明日行われる筈の新生教導隊の入隊試験を最後に封鎖されるはずの場所だった。

 

「それはとてもきな臭い話ですね、司令」

 

「ああ、封鎖されるはずの第4試験場をピンポイントで制圧したテロリスト……お誂え向きに用意された人質……これを怪しむなと言うのは無理がある」

 

「第4試験場を指定したのは確か、イスルギ重工でしたね?」

 

「量産型ゲッターロボの試験としてな……」

 

イスルギ重工はDC戦争の時にビアン……いや、正しくはアードラーに協力した事もある会社だ。今回の件はイスルギ重工と癒着している軍上層部が手引きした可能性が極めて高い。

 

「了解しました、ではATXチーム出撃します」

 

「あくまで先行偵察だ、危険と判断したら一時撤退してくれて構わない」

 

グレッグと異なり慎重な性格のクレイグの指示にキョウスケ達は敬礼を返し、ブリーフィングルームから出て行った。

 

「頼むぞATXチーム。父さんが選んだお前達を私は信じている」

 

その背中を見つめていたクレイグはそう呟き、ラングレー基地のテロリストによる制圧の指示を取る為、自分も司令室に足を向けるのだった。

 

「中尉、あと10分で目的地に到着します」

 

レディバードで第4試験場に向かうキョウスケ達に操縦室からの通信が入る。

 

「了解した。こちらはいつでも出られる」

 

レイディバードの格納庫でパイロットスーツに着替えていたキョウスケが返事を返すと、エクセレンが通信端末を片手にキョウスケに声を掛けた。

 

「はぁい、キョウスケ。最新情報を聞きたくなぁい? どうもイスルギ重工の保安課長がぐるぐる巻きにされたみたいよ?」

 

「イスルギがぐるぐる巻き?……何の話だ?」

 

あまりに抽象的な言葉にキョウスケがそう尋ねるとエクセレンは両手を合わせて、キョウスケに突き出した。

 

「お縄を頂戴したってこと。ネットのニュースをね、ちょっとこっちで調べてたのよ、リオンタイプのパーツを4機分横流し……やるわねえ」

 

「件のテロリストに……ですか」

 

このタイミングでの横流しの情報……そして第4試験場を制圧したテロリスト……全てが1つに繋がる話だ。

 

「まあ、間違いないでしょ。占拠事件自体は、さすがに伏せてるみたいだけど……正規の命令系統より民放の報道から下りるソースの方が速いって、大問題じゃない?」

 

「……なるほど、今回の件は相当根深いな、テロリストに情報を横流しし、人質も取られたラングレー基地への責任追及、そして民放の利用……いやらしい一手だ」

 

「クレイグ司令を引き摺り下ろすつもりね。あーあ、やだやだ、どうして人間同士で争ってるのかしらねえ……」

 

若く基地司令になったクレイグへのやっかみを含めての民放への情報のリーク。明らかにこれはクレイグに対する政治攻撃だった。

 

「で、ではクレイグ司令は司令の任を外されると言う事でしょうか?」

 

「そうさせない為に俺達を司令は派遣したんだ。その信頼に応えるぞ」

 

グレッグの意志を継いでラングレー基地の司令のなったクレイグからの信頼に応えるぞとキョウスケが口にし機体に乗り込むと同時に、レイディバードに警報が鳴り響いた。

 

「0時方向、レンジ3に反応あり! リオンタイプが8機、所属は不明! こちらへ向かって来ます!」

 

「了解。ATXチーム、出撃するぞ。ハッチを開けてくれ」

 

解放されたハッチから外を確認しながら、青いカブト虫のようなPT……「アルトアイゼン」が出撃口に脚部をセットする。

 

「わお! リオンちゃんが……え? あれアーマリオンだし、しかも8機? あらら? パーツを半分ずつケチったのかしら」

 

「機体の調達ルートが1つだけではなかった……という事だろうな」

 

イスルギの保安課長が逮捕された案件は4機のリオンパーツの横流しだが、その倍のリオンがいる……それはイスルギ以外の協力者がテロリストについていると言う証だった。

 

「なるへそ。相手はアードラー派の残党……って感じ?」

 

L5戦役にビアン・ゾルダークとDC兵が参加したのは有名な話だ。地球圏を守りたいという思いで反乱を始めたビアン達がホワイトスター攻略戦に参加するのは当然の事だからだ。そしてDCの中でも悪逆を働いたアードラー一派……同じDCではあるが、ビアン一派とアードラー一派の世間の評価は余りにも違う。

 

「それだけとは思えんがな、アードラー一派が迎撃機を出せるぐらいの余裕を持っているとは思えない……別口の可能性が高いぞ」

 

「んも~、こんな近場にそんなのが出てくるなんて、私達の立場がないじゃない……」

 

L5戦役の英雄がいると言うラングレー基地なのに、まさかその膝元でテロリストが暗躍していたなんて冗談じゃないとぼやくエクセレン。

 

「手引きしたのは、捕まったイスルギの社員だろうな。……とにかく出るぞ」

 

レディバードから降下したアルトアイゼン、ヒュッケバインMK-Ⅱ、ヴァイスリッ

 

ターがフォーメーションを組むと同時にリオン達の姿がモニターに映し出される。

 

「なるほど錬度も悪くないか……L327、そちらは戦闘外空域へ離脱してくれ」

 

キョウスケの指示に従いレイディバードが戦闘区域から離脱する。

 

「来た……! でもあれはカスタムタイプじゃない……アーマリオンタイプじゃないですかッ!?」

 

確かに出撃してきたのはリオンだが、ただのリオンではなかった。PTの手足を持つリオン……L5戦役でも運用された「アーマリオン」の部隊だった。リオンタイプはリオンタイプだが……それは限りなくPTとAMの特徴を兼ね備えたカスタム機だった。

 

「わーお、本当きな臭いわねえ……キョウスケ、アーマリオンって図面って伊豆基地とテスラ研にしかないわよね?」

 

「……いや、L5戦役時にあちこちの基地に配布されている……それが流出したと考えて良いだろう」

 

「自分で言ってて納得してないことは言わないほうがいいわよ? それにしても……その色のアルトちゃん、馴染まないわねぇ……おまけに私のヴァイスちゃんだけ仲間外れみたい」

 

L5戦役で使用されたアルトアイゼンは強化装甲を装着していたが、今キョウスケが乗るアルトアイゼンの色は青そして強化パーツの姿もなかった……大破した強化パーツを取り外し、修理している段階だった為カラーが一部変更され、装備も一部変更されていた。

 

「仕方がない。今アルトは修理段階だからな、それよりも無駄話は後だ。アーマリオンが相手だとしても、時間を掛けてはられん」

 

「試験場にいるクスハちゃん達のためにもね。ちゃっちゃとね? ブリット君」

 

「了解!」

 

「試験場はこのすぐ先だ。4分で突破する。各機、散開!」

 

キョウスケの指示にエクセレンとブリットは散開する。だがこの時はキョウスケ達は想像にもしていなかった……この戦いが再び地球圏の存亡を掛けた大きな大きな戦いへの狼煙になるとは……この時のキョウスケ達だけでは無い、地球圏で生きるすべての人々が想像すら及ばない事だった……。

 

 

 

 

ラングレー基地で大きな戦いが始まろうとしている時――誰にも知られずもう1つの戦いが幕を開けていた。

 

「きゃあっ! くっ! 右舷弾幕を這ってください! 主砲、副砲3番から6番発射ッ!!!」

 

「了解ッ! ヴァルキリオン部隊は散開せよ! 繰り返すヴァルキリオン部隊は散開せよ! 

 

一目見たら決して忘れる事のない艦首の超大型ドリルと、禍々しささえ感じさせる漆黒の船体……「クロガネ改」はいま未知の戦力の襲撃を受け、その船体を大きく揺らし、あちこちから黒煙を上げながら必死の逃亡を続けていた。

 

「シャアアアーーッ!!」

 

「キシャアッ!!」

 

「くっ、こいつらは一体何者なんだ!」

 

クロガネ改を守っていたAM――アーマリオンに良く似たシルエットだが、それよりも細身で可憐な装飾が施された装甲――まるで北欧神話の戦乙女のような印象を受ける新型AM「ヴァルキリオン」のコックピットの中で長いリハビリ生活を終え、やっとパイロットに復帰した「ユーリア・ハインケル」は苛立ちを……恐怖を隠すようにそう叫んだ。クロガネを襲撃する未知の機体は確かに機械だった、だが獣のような雄叫びを上げ、PTでもAMでも出来ない複雑な起動を描き、クロガネをゆっくりと、しかし確実に……嬲るように攻撃を繰り出していた。

 

「ぐっ、ぐうう……エルザムもゼンガーもいない時にこんな襲撃を受けるとはッ!! リリー中佐ッ! クロガネのゲッター線貯蔵率はどうなっている!」

 

艦長席で赤いコートを羽織った男性……「ビアン・ゾルダーク」が声をそう張り上げる。

 

「あの機体の攻撃でゲッター線貯蔵率更に低下ッ! バリアを維持出来なくなるのも時間の問題です!」

 

激しく揺れる船体でビアンは唇を噛み締めた。武蔵の特攻から半年……表立って動けないが、それでも可能な限りの戦力を集め、そして機体を強化してきたつもりだ。だが今はどうだ、用意してきた戦力はたった数10機の準特機によって壊滅寸前――クロガネの轟沈も時間の問題だった。

 

「くそっ! ビアン! クロガネだけでも離脱しろ! 俺達はどうとでもなる!」

 

「馬鹿を言うな! お前達だけでどうにかなる訳が無いだろう!」

 

ラドラの言葉にビアンはそう怒鳴り返した。あのゲシュペンスト・シグも度重なる被弾で黒煙を出し、ショートしている箇所もある。そんな状態で生き残れる筈がない……ビアンは必死に全員で生き残る術を考えるが、どう考えてもあの未知の特機達と戦うには戦力が不足していた。

 

(こんな時にゲッターVが使えないとはッ!)

 

武蔵がいなくなってからゲッターVは起動しなくなった……ゲッター炉心も最低数値のままで、起動する気配は微塵もなかった。そしてクロガネの戦力のゼンガー、エルザム、バンの3名は今クロガネには居なかった。

 

「陽動だったか……しくじったッ!」

 

グライエン・グラスマンへの襲撃の情報を受け、送り出したゼンガーとエルザム。

 

そしてイスルギ重工が怪しいと言う事で送り出したバン……。

 

今クロガネの戦力はラドラとトロイエ隊のみと言う状況……どう考えても、この状況を今のクロガネでは対処しきれない……。グライエンの情報も、イスルギ重工の動きも意図的に掴まされていたと言うことに今ビアンは気付いた。

 

(SOSが間に合うかどうかだ……ッ)

 

エルザム達に送ったSOS通信……それが届いてエルザム達が救出に来るまで耐えれるかどうかと言う状況にビアンは唇を強く噛み締めるのだった……。

 

 

第2話 暗雲 その2へ続く

 

 




えーのっけからボリューム満点の話となりましたが、オリジナルの話ではなく原型があるからある程度肉付け出来たと言う感じですかね。
暗雲の間はラングレーとクロガネの2つの場面で戦闘が行われていたと言う感じで話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 暗雲 その2

第2話 暗雲 その2

 

アルトアイゼン・ナハトのコックピットの中でキョウスケは小さく舌打ちをしていた。それは決してアーマリオンのパイロットの操縦技能が高いからの物ではない。自分の動きについて来れないアルトアイゼンに対しての苛立ちの証だった。

 

(反応速度が遅い……)

 

アルトアイゼン改の速度と機体反射速度に慣れていたキョウスケは、ノーマルのアルトアイゼンの操縦感覚を掴めないでいたのだ。アルトアイゼンの修理中はゲシュペンスト・MK-Ⅲのテストパイロットをしていたが、MK-Ⅲの反射速度もアルトアイゼンを上回っていた。それらの機体に慣れていたことがつまらない被弾を増やしていた。

 

「……悪いが、時間がない。お前達に付き合う暇は無い」

 

3連マシンキャノンを放つと同時に突っ込み、強引に射格を確保し、クレイモアを打ち込んだ。

 

「エクセレン! ブリットッ!!」

 

クレイモアでアーマリオンを誘導し、そこにオクスタンランチャーEモードのビームと、M-13ショットガンが打ち込まれアーマリオンはその動きを沈黙させる。

 

「ちょいちょい、キョウスケらしくないんじゃないの?」

 

「中尉もしかして、操縦の感覚が……」

 

「泣き言を言う趣味は無い、行くぞ」

 

操縦感覚が掴めない等と言う泣き言を言っている場合ではないとエクセレンとブリットに告げ、キョウスケは先陣を切って第4試験場へとアルトアイゼン・ナハトを走らせた。

 

「ブリット君、ちょい悪いけど今日は貴方のフォローは出来ないわ」

 

「……大丈夫です。キョウスケ中尉のほうをお願いします」

 

失った機体感覚を取り戻すのは難しい、それでも泣き言を言わないキョウスケ。だが操縦感覚の違和感は、例えエースパイロットだったとしても致命的なミスを生みかねない、先陣を切って進み続けるアルトアイゼン・ナハトの背中を神妙な顔で見つめながら、エクセレンとブリットも機体を走らせ、キョウスケの後を追うのだった……。

 

 

 

占拠したラングレー基地第4試験場の司令室に腰掛けた。モノクルを嵌めた老紳士と言う風貌の男……「ロレンツォ・ディ・モンテニャッコ」は無意識に髭を撫でながら、古い友人から送られてきたメールを何度も見直していた。

 

(……すまない、バン。私には私の正義がある)

 

コロニー統合軍からDCに出向していた軍人であるロレンツォはバン大佐から送られてきたメールを見て首を左右に振った。ビアン博士が生きていると言うこと……そしてビアンの掲げる地球圏を守ると言う願いに協力して欲しいと言う内容のメールにロレンツォはただの1度も返信をした事がなかった。ロレンツォにとっては地球よりも、コロニーこそが守りたいものであり故郷なのだ。地球の為に粉骨砕身で働くことは出来ない……それに自分に賛同し、着いて来てくれている部下の存在――それがビアン達とロレンツォの道を悲しいほどに遠ざけていた。

 

「ロレンツォ中佐、ランカスター隊が全滅しました」

 

「敵は3機だった筈だ。倍以上の数を回して、その結果か?」

 

アーマリオンを8体も回して、3体の機体も倒す事が出来なかったのか? メールを映していた画面を消して詳しい報告を部下に求めるロレンツォ。

 

「は、はい。 これが敵機の映像です」

 

「ヒュッケバイン……それに、ゲシュペンストのカスタム機が2体……1機はデータと色が違うようだが……ATXチームだろうな、これは」

 

メインモニターに回された画像を見てロレンツォはランカスター隊が全滅した理由を悟った。その可能性は考慮していたが、最初から最強のカードを切ってくるとはロレンツォも考えてはいなかった。

 

(なるほど、攻撃は最大の防御か……クレイグ・パラストルの評価は改めざるを得ないな)

 

ラングレー基地の新しい司令官……グレッグ・パラストルの息子のクレイグは慎重と聞いていたが、ラングレー基地の最強の札である「ATXチーム」を出撃させた所から、想像以上に強気な性格かとロレンツォは評価を改めていた。

 

「場所が場所だ、予測はしていた。奴を呼んでおいて正解だったな」

 

ラングレー基地の第4試験場に安置されている「ヴァルシオン奪取計画」……ラングレー基地の敷地内での攻撃に出たのだ、ATXチームが出てくるのは想定内だ。

 

「……人質はどうなっている?」

 

「所定の位置へ移動済みです」

 

イスルギ重工からの情報を得ていたロレンツォは第4試験場に技師とパイロットがいること把握していた。正直人質を取るような真似はロレンツォの趣味ではなかったが、目的の為には非道を成す覚悟がロレンツォにはあった。

 

「タイプCF起動までの時間は?」

 

「あと20分ほどです」

 

第4試験場の地下に安置されていたヴァルシオンタイプCFの組み上げ状況を尋ねると組み上げは完了し、今はエネルギーの充填中と言う返答が帰ってくる。

 

「広範囲ASRSの取り付け作業はどうか?」

 

「起動までには間に合うそうです」

 

起動した後の脱出の手筈も整っていると聞いて、ロレンツォは再び司令席に腰を下ろした。

 

「了解した。ムラタを呼び出せ」

 

ロレンツォの指示で第4試験場を制圧しているチームのリーダーであるムラタと通信が繋がる。

 

『……何だ、中佐?』

 

「ランカスター隊が全滅した。敵はATXチーム……お前向きの相手だ」

 

ロレンツォの言葉にムラタは興味深そうに眉を上げた。

 

「連中はまもなくここへ現れる……だが、目的はあくまでもタイプCFの移送だ。ここで敵を殲滅することではない、判っているな?」

 

『判っている。時間を稼げばいいのだろう?』

 

傭兵であるムラタはロレンツォの部下では無い、あくまで金で雇われた腕利きだ。だからこそ、ロレンツォは敵を倒す事が目的では無いと念入りにムラタに釘を刺した。

 

『ATXチームは食いでがありそうなんでな……真剣勝負が望む所なのだがな』

 

「後の楽しみにとっておけ」

 

ロレンツォの意見は変わらず、適度な所で身を引けと言われれば雇い主の意向に逆らう訳にも行かず、ムラタは小さく判ったと返事を返した。

 

『客が来た。戦うなと言うのだから早く準備を済ませるんだな』

 

ムラタはそう言うと乱暴に通信を切り、先陣を切って現れたアルトアイゼン・ナハトを見て、自分専用のガーリオン……鎧武者を思わせる装甲を身に纏った「ガーリオン・カスタム・無明」の中で獰猛な笑みを浮かべるのだった……。

 

 

 

 

 

第4試験場に辿り着いたエクセレンは試験場の一角に陣取っているガーリオンを見て顔を顰めた。明らかな指揮官機、そして相当な改造を施されているガーリオンを見て試験場にいたはずの護衛隊が全滅したのも一目で納得した。

 

「あのガーリオンタイプ……どう見ても堅気じゃないし……」

 

「なるほど、あれが指揮官機か……決まりだな。今回の一見はテロリストの暴走では無い、緻密な計算がされた作戦だ」

 

キョウスケ達が来たのに動く素振りを見せないガーリオン・カスタム・無明とアーマリオンの部隊にキョウスケは顔を顰めた。たった3機で乗り込んできたのだ、定石ならば数で上回るアーマリオンによって制圧に出る筈が動く素振りがまるでない。

 

「……動かんか。何かを待っているようにも見えるが、気に入らんな」

 

「確かにね。余裕シャキシャキって感じよねえ……逃走ルートはもう確保済み……とか?」

 

全く動く事無く、しかしキョウスケ達に対する警戒も緩めない。その動きは明らかに訓練された軍人の動きだった……。

 

「クスハ達の件もある……どの道、俺達も下手に動けん。その場で待機。油断はするなよ?」

 

「了解……う~ん、せめてクスハちゃん達の状況が判ればねえ」

 

ここで下手に動いて人質になっている試験場の所員やクスハ達を危険に晒す訳にはいかないとキョウスケは待機命令を下す。

 

「ク、クスハ……! クスハがあそこにいます!!」

 

第4試験場の様子を窺っていたブリットが声を上げる。その声にエクセレンは驚いた様子で目を見開いた。

 

「へっ!? いや、そんなに都合よく……」

 

「座標を転送します」

 

人質の場所があれば動けると考えていたが、そう都合よく人質の場所は判らないと言おうとしたエクセレンだが、ヴァイスリッターに送られてきた座標データを見て沈黙した。

 

「キョウスケ~、クスハちゃん達の状況を確認~!」

 

「……見れば判る。人質にされているらしいな」

 

アルトアイゼンにも同じデータが送られていたのか、キョウスケも不機嫌そうに顔を顰めた。

 

「それも判りやすくね……余裕があるのは、あのせい? 身代金でも要求するつもりとか? キョウスケはどう思う?」

 

あからさまの人質、そして余裕のある態度……出撃前にクレイグから告げられた第4試験場に安置されていると言うヴァルシオンタイプの存在。

 

「読めたぞ、あいつら人質を盾にヴァルシオンを組み上げるつもりだな」

 

人質がいれば強攻策に出る事も出来ない。そしてその間にヴァルシオンを悠々と組み上げるつもりだとキョウスケは当たりをつけた。

 

「んーじゃあ、あの余裕な態度は人質だけじゃなくて……」

 

「ヴァルシオンの存在だろうな」

 

DCのフラグシップであるヴァルシオンタイプ……その戦闘能力を考えればあの余裕な態度も納得だ。

 

「……あのガーリオンを何とか出来れば、人質は解放出来そうですね」

 

「馬鹿な事は考えるなよブリット。下手に動けば、人質が危ない」

 

「……判ってます」

 

直情型のブリットだが、何とか飛び出す寸前で堪えていた。これが以前までのブリットならば、何も考えずに飛び出していただろう……だがゼンガーから託された武蔵の日本刀……それに恥じない男になると言う決意が、爆発しそうなブリットを押さえ込んでいた。

 

「ほう? あの刀……シシオウブレードか」

 

だがブリットの決意を嘲笑うかのようにガーリオン・カスタム・無明の中のムラタが笑った。ヒュッケバイン・MK-Ⅱの腰に携えられたシシオウブレード……それを見て獰猛に笑うと、見せ付けるように己のシシオウブレードを抜き放った。

 

「どれ、俺が相手をしてやろう。お前達は人質を逃がすなよ」

 

ロレンツォの部下にそう指示を出すと同時にガーリオン・カスタム・無明は爆発的な加速でヒュッケバインMK-Ⅱに向かって斬り込んだ。

 

「こいつ、早いッ!?」

 

「ほう、今のを弾くか……面白い」

 

抜刀でガーリオン・無明の太刀の側面を払い攻撃を弾いたヒュッケバイン・MK-Ⅱを見てムラタはますます笑みを深める。

 

「ちえいッ!!!」

 

「ぐっ!? こいつ何者だッ!」

 

「これも防ぐかッ!! ははははッ!! いいぞッ!!」

 

横薙ぎの一閃を鞘を使い受け流したヒュッケバイン・MK-Ⅱを見て、ムラタはますます口角を吊り上げた。

 

「ブリット君!?」

 

「ブリット!」

 

「おっと貴様らは動くなよ。俺の楽しみを邪魔したら、人質がどうなるか判らんぞ?」

 

ムラタの脅しの通信にキョウスケとエクセレンは動きを封じられた。

 

「むんッ!!」

 

「せいッ!!」

 

ガーリオン・無明とヒュッケバイン・MK-Ⅱが切り結ぶ速度は恐ろしいほどに速い、白刃が何度も何度も煌き、掠れっただけでも命を刈り取りかねない剣戟の応酬。それでもブリットはギリギリでムラタの攻撃に対応する事が出来ていた。

 

「負けるものかよッ!」

 

短いやり取りだったが、ブリットはムラタの腕前が自分よりも上だと悟ったが、それでも諦める事はせずシシオウブレードを鞘に納める。

 

「ふん、敵を前に剣を鞘を納めるとは臆したかッ!!」

 

ムラタはその動きを見て、ガーリオン・カスタム・無明でヒュッケバイン・MK-Ⅱに向かって斬りかかった。

 

(こいつ……まさかッ!?)

 

後一歩で間合いに入るという段階でぴくりとヒュッケバイン・MK-Ⅱの腕が動いたのを見て、ムラタはガーリオン・カスタム・無明をギリギリで踏み止まらせた。

 

「外したッ!」

 

「……読みが甘いな、小僧ッ!」

 

甘いと言ったが、遊ぶつもりだったのならばあの一閃で両断されていた……思った以上に歯応えのある相手に意識が切り替わっていたからこそ、ギリギリでその一太刀をかわせたムラタはコックピットを両断する事も出来たが、あえてそれを外し、ヒュッケバイン・MK-Ⅱの頭部からコックピットの上を掠めるように切り裂き、蹴りを叩き込んで背を向ける。

 

「ふん。ATXチーム……あのゼンガー・ゾンボルトに鍛えられた連中だと聞いていたが……想像以上に歯応えのある獲物だな」

 

油断していれば自分が切り裂かれていた……そのギリギリの感覚を楽しんだムラタはアルトアイゼンとヴァイスリッターに背を向けて、悠々と第4試験場へと引き返していくのだった……。

 

 

 

地球連邦軍ラングレー基地の司令室で神妙な顔をしているクレイグの背後で扉が開く音が響き、クレイグはちいさく安堵の溜め息を吐いた。

 

「特殊戦技教導隊、カイ・キタムラ少佐以下2名、ただ今到着致しました」

 

「ご苦労様カイ少佐。申し訳無いのだが、疲労具合はどうだ? すぐに出撃は出来るだろうか?」

 

クレイグの問いかけにカイは敬礼と共に返事を返す。

 

「問題ありません。それで一体何があったのですか?」

 

「実は今第4試験場がテロリストに制圧され、技師と所員の何名かが人質に取られている……ATXチームを現場に派遣したのだが……人質がいて思うように行動出来ず、睨みあいとなっている」

 

「私達への任務はATXチームの支援と言う事で宜しいでしょうか?」

 

「その通りだ、キョウスケ・ナンブ中尉の報告では敵はカスタムタイプのガーリオン1機。アーマリオン8機、リオン12機の大部隊だ。必要ならば、明日の教導隊試験に参加するパイロットを同行させても構わない。1時間以内に出撃準備を整えてくれ」

 

「了解しましたクレイグ司令」

 

「頼んだぞカイ少佐。テロリスト側の要求があれば可能な限り飲んでくれても構わない。民間人の保護を最優先にしてくれ、詳しい指令書はここに用意してある。頼んだぞ」

 

差し出された書類を怪訝そうに受け取り、カイはブリーフィングルームに足を向けた。そこで待っているライ達とリオ達に状況説明をする為に早足で歩きながら、クレイグから渡された指令書に目を通し、想像以上に面倒な事になっていると言う事を悟った。

 

「クスハが派遣された試験場がテロリストグループに占拠された。キョウスケ達が現場へ向かったが、救援が必要な状況らしい」

 

クスハ達がいる試験場がテロリストに制圧されたと聞いてリョウト達は勿論ライ達の顔に険しい色が浮かんだ。

 

「ライ、ラトゥーニ、直ちに出撃準備を」

 

部下であるライとラトゥーニに出撃命令を出し、カイはリョウトとリオに視線を向ける。

 

「リオ、リョウト、お前達はワシントンへ戻れ」

 

民間人であるリョウト達にワシントンへ戻れとカイは言うがリオは強い意思が込められた目で声を上げる。

 

「いえ、私もお供しますッ! 機体を貸して下さい! ブリット君やクスハ達が危機に陥ってるんでしょうッ!? それを放っておくことなんて出来ません!」

 

「少佐、僕も行きます。マオ社で新型機のテストをやっていますから、ブランクはありません」

 

リョウト達はクスハを助ける為に機体を貸してくれと頼み込んだ。だがカイの反応は芳しくない、だがそれは当然だ。マオ社のスタッフであるリョウトとリオに機体を貸し与える事は難しい。

 

「キョウスケ中尉達が手こずる程の相手なんでしょう? 戦力は多い方がいいと思います」

 

カイはリョウトとリオの言葉に込められた本気具合を見て、止める事が出来ないと判断し溜め息を吐きながらも2人の同行を許可した。

 

「……判った。選考試験用として持ってきた量産型ヒュッケバインMk-ⅢとゲシュペンストMK-Ⅲが1機ずつある。立ち上げは……」

 

「僕がやります。開発にも関わった機体です。裏コードを使えば、短時間で立ち上げられます」

 

カイの言葉を遮り、すぐに出撃しましょうと言うリョウトとリオに頷き、カイ達はキョウスケ達の支援に向かう為にラングレー基地から出撃して行った。

 

「はぁ……はぁ……ふー……ここか」

 

その頃ガーリオン・カスタム・無明によって乗機であるヒュッケバインMK-Ⅱを大破されられた物の、爆発する寸前で脱出に成功したブリットは森の中に隠れながら第4試験場に向かっていた。

 

(……見張りは……2人? 少なくないか?)

 

さっきまではもっと人数がいたのに、急激に人数が減っているを見たブリットは表情を険しくさせた。それに慌しい足音を聞いて何かあるとブリットは判断し、裏口からゆっくりと試験場内部へと侵入するのだった。

 

 

 

 

 

(……何とか忍び込めた。いや……忍び込まされたという所か……クスハ達がいるブロックは、格納庫の先か)

 

気配を殺しながら通路を進むブリットの脳裏には、ヒュッケバインMKーⅡのコックピットを切り裂く事も出来た筈なのに、それをせずにこの試験場に侵入させるのが目的と言わんばかりに敢えてコックピットを外したガーリオンの刃の光景が鮮明に浮かんでいた。

 

「うっ……」

 

脱出の時に痛めた脇腹に顔を顰めながらも、歯を食いしばり通路を巡回しているテロリストに視線を向けた。

 

(……やっぱりだ)

 

試験場を制圧したのはテロリストなどでは無い、その動きはどう見ても訓練を受けた兵士の物だった。

 

「おい、撤収命令が出たぞ!」

 

「人質はどうするんだ!?」

 

「室内に閉じ込めたままにしておけ! 見張りも撤収だ!」

 

人質を残して撤収の手筈を整えている兵士を見てブリットは今がチャンスだと悟った。

 

「うおおおっ!!」

 

雄叫びと共に駆け出し、峰を返した武蔵の日本刀で3人の兵士の胴を払い、意識を刈り取る。流石に武蔵のように気絶だけさせるという器用な真似は出来ず、骨を砕いた感触があったがしょうがない事だったと首を振り、格納庫の奥へと走り出した。

 

「……あ、あれはッ!?」

 

格納庫に置かれている2機の特機を見て険しい顔をしたブリットは無人の整備室に忍び込み、通信コードを入力した。

 

「こちらブリットッ! キョウスケ中尉、聞こえますか!?」

 

『ブリットか。無事だったようだな……状況は?』

 

通信妨害などがなかった事に安堵し、ブリットは自分が見たことをキョウスケへ報告する。

 

「奴らは人質を部屋に閉じこめ逃走する気ですッ!それと、格納庫の中に見慣れぬ機体とゲッターロボがッ! 両機とも発進態勢に入っています!」

 

『何……?』

 

『キョウスケ、あれ!』

 

通信機から聞こえてくるブリットの報告を最後まで聞くよりも先に、試験場に2機の特機が出現した。

 

「……同志諸君、ロレンツォだ。見ての通り、タイプCF、そして量産型ゲッターロボの起動に成功した。地上部隊は撤収。人質はそのまま室内に閉じ込めるのだ。アーマードモジュール隊は広範囲ASRSの準備が終わるまでその場で待機せよ」

 

悠々と通信を繋げる特機を見てキョウスケとエクセレンは険しい表情を浮かべた。第4試験場にヴァルシオンタイプがあると言う事は聞いていたが、まさかゲッターロボを駆りだして来るとは想像もしていなかった。

 

『キョウスケ……どうしよう、切れそう』

 

「……言うな、俺も気持ちは同じだ。今はヴァルシオンを優先しろ……良いなッ」

 

アイドネウス島で特攻し散ったゲッターロボ。そのあの鮮やかな赤と違い、グレーに塗装された機体を見てさすがのキョウスケとエクセレンも冷静さを失いかけていた。ゲッターロボの存在はL5戦役に参戦した軍人にとっては自分達が犠牲にした人間の証にして、地球を守った英雄機である。それを自軍の戦力として運用しようとするテロリスト達に顔を顰めるのは当然の事だった。

 

「該当データはなし……あれがどうやら運び込まれていたヴァルシオンタイプのようだな」

 

『全然ヴァルシオンに似てないけど、発展機かしら?』

 

映像データで見ただけだが、ビアンの乗っていたヴァルシオンとはまるで違う。アードラーが改造した機体か? とキョウスケが当たりをつけているとアルトアイゼン・ナハトに文章通信が繋げられた。

 

「……頃合だな」

 

『何の?』

 

キョウスケの言葉に真面目に判らないと言う声を出すエクセレンにキョウスケは眉を顰めた。

 

「何をしに来たんだ、お前は」

 

『やーねぇ、わかってるわよ。ホントよ?』

 

「……本命が姿を現した。ブリットの無事も確認できた。次は奴らの出方を見るぞ」

 

『オッケ~イ……と言っても、向こうさんの反応はだいたい予想出来るけどね』

 

試験場を制圧し、目的の物を手に入れた。後は相手がどう出てくるかは明らか……それでも様子を見る為にアルトアイゼン・ナハトたちが前に踏み出すと即座に広域通信が繋げられた。

 

『ATXチームに告ぐ。私はDCのロレンツォ・ディ・モンテニャッコだ』

 

「モンデニャンコちゃん? いやん。どこモミモミして欲しい? ニクキュー?」

 

『……モンテニャッコだ。肉球などない』

 

エクセレンの挑発に冷静に返すロレンツォにキョウスケは軽いジャブを繰り出す。

 

「DCはビアン・ゾルダークの思想に集まった兵士達だ。今のお前達にビアン博士の大義があるとは思えないが?」

 

『確かにその通りだな、DCの名を名乗るべきでは無いか……DCと名乗った事は訂正しよう。無名のテロリスト……とでも思ってくれたまえ』

 

キョウスケの挑発にも冷静に対応するのを聞いて、ヴァルシオンタイプに乗っている男がテロリスト集団のリーダーだと確信した。

 

「お前は俺達に何をさせたい」

 

『話が早いな、キョウスケ・ナンブ中尉――我々が試験場を脱出するまで動くな、そうすれば人質は無事にお返ししよう、我々の目的はこのヴァルシオン改・タイプCFと量産型ゲッターロボだ。これを入手出来れば、無駄に争うつもりは無い』

 

「人質の命と交換……つまり、このまま見逃せと?」

 

『そうだ。悪い話ではあるまい』

 

無理に侵入し人質を殺害されるのと、このままヴァルシオン改・タイプCFと量産型ゲッターロボを見逃す……それらを計りにかけるキョウスケにロレンツォがダメ押しの一言を告げる。

 

『それとも、人質を犠牲にし、我らと戦うか?』

 

ヴァルシオン改・タイプCFとアーマリオンが試験場に視線を向けたのを見て、キョウスケは白旗を上げざるを得なかった。

 

「……そちらの要求を呑もう……エクセレン」

 

『……しょうがないわね……』

 

クレイグからも民間人の保護を最優先という指示を受けていたキョウスケはロレンツォの要求を呑む事しか出来なかった……。

 

 

 

 

 

無事に新西暦に戻って来たイングラム達はこれからどうするかと言う事を考えていた。

 

「こうなんかとんでもないもんを見た気がするんですけど……全然何も覚えてないんですよ」

 

目を覚ました武蔵は何故自分が気絶したのかを覚えていなかった。ただ何か言葉に出来ない何かを見た……それだけが武蔵の覚えている事だった。

 

「武蔵が記憶を失うほどの何かか……禄でもないものは確かだな」

 

「だろうな、しかしだ。それが何かを思い出している時間も、それを探っている時間もない」

 

武蔵が覚えている事を拒否する何か……それだけで、武蔵が単独で転移した世界は精神的にダメージを与える物だったのだろう。

 

「えっと……何の話をしているんですか?」

 

そしてそれは恐らく記憶喪失のエキドナにも何か関係しているのだろう。人造人間であるエキドナにはそれに耐えるだけのバックボーンが無く、そのまま全ての記憶を失うと言う事になったのだろう。

 

「大丈夫。エキドナさんは何も心配しなくて良いよ」

 

記憶を失っていると聞いて、安心させるように笑う武蔵。鉄面皮の2人よりも感情を表にする武蔵にエキドナは安心感を抱いた。

 

「貴方の名前は?」

 

「オイラ? オイラは巴武蔵って言うんだ」

 

武蔵、武蔵と反芻するように何度も呟くエキドナを見て、イングラムとカーウァイは頭を抱えていた。

 

「エキドナがこっちにいるのはプラスだと思ったんだが……」

 

「何もかも良い流れになるとは限らないという事だな」

 

一緒に転移したはずのシャドウミラーの事も気がかりだが、ここにいる3人は公には死人になっているので大々的に調べる事も、連邦軍に警告するのも難しい。それに加えてシャドウミラーの証人である筈のエキドナは記憶喪失だ。シャドウミラーの事を説明させるのは不可能だし、なによりも……今のエキドナは幼い少女であり、そんなエキドナに尋問をすれば武蔵の反撥を買う……それが判っているから強引な手立てに出ることも出来なかった。

 

「武蔵……武蔵……ふふ、私は貴方を知ってるような気がします」

 

「そうですか……それは良かったです」

 

記憶喪失のエキドナを見てどうすればいいんですか? と言う顔でイングラム達に視線を向ける武蔵に2人はそっと目を逸らした。確かに2人は歴戦の軍人ではあるが、女の扱いは不得手としていたからだ。

 

「……とりあえず、どうするか話し合うんで、少し待っててくれますか?」

 

「はい、大丈夫です」

 

……誰だ、あれは……とイングラムは思った。冷静――と言うよりかは機械のようだったエキドナが華の咲くような顔で笑った。それだけで印象はまるで異なる物となっている。

 

「……なんで助けてくれないんですか?」

 

「……すまん、私は女性の扱いはどうも苦手でな」

 

「俺も似たようなものだ。許せ」

 

対処法が判らなければ助けようがない。人間誰しも、得手不得手があると言うものだ。

 

「それでどうするんですか?」

 

「クロガネと合流したいと思う」

 

「……ダイテツさん達じゃなくてですか?」

 

「ああ、ダイテツ達は確かに信用出来るが……やはり軍属だ。上官命令には逆らえない、それならばビアン・ゾルダークの率いるクロガネのほうが活動しやすい」

 

イングラムの言葉に武蔵はなるほどと頷いた後、首を傾げた。

 

「クロガネの場所は判るんですか?」

 

「……人気のないところを探すか、武蔵。お前ビアンに世話になっていたんだろう? アジトの場所くらい覚えてるだろう?」

 

「あーそこまで気が回らなかったですね。伊豆基地に行けばいいと思ってましたし……」

 

「……表立って動く訳にも行かないからな。正規の軍基地に向かうのは最終手段にしよう」

 

「ヴィンデル達の事も調べないといけないからな……問題はエキドナか……、俺か、カーウァイが運ぶのがベストだな」

 

「ゲッターは安全性とか皆無ですからねえ……」

 

そこまで気が回らなかったですねと苦笑する武蔵にイングラムとカーウァイは溜め息を吐き、ビアン達の基地に向かって移動する事を決め、エキドナをR-SWORDのタイプSどちらで運ぶかと言う話をしていると、凄まじい爆発音が周囲に響き渡った。それを聞いて弾かれたように走り出す武蔵。

 

「待て武蔵! 慎重になれ!」

 

「状況を把握してからでも遅くないッ!」

 

イングラムとカーウァイが静止し、一瞬足を止めた武蔵。

 

「でもオイラは黙って見てられないんですよ! ゲッターなら囲まれても離脱出来ますから!」

 

振り返ってそう叫ぶとゲッターD2に乗り込み、翡翠色に包まれゲッターD2は上空に幾何学模様を描きながら爆発音の元へ飛んでいった。

 

「あ……」

 

飛び去るゲッターD2に向かって寂しそうに手を伸ばすエキドナ。それを見てイングラムは深く溜め息を吐いた……。

 

「カーウァイ、武蔵を追ってくれ、俺はエキドナを連れて行く」

 

「すまん、助かる」

 

R-SWORDとタイプSでは操縦性はR-SWORDの方が上だ、開け放たれたままのコックピットに乗り込み武蔵の後を追って飛んでいくタイプSを見送り、イングラムは半分泣きそうになっていたエキドナに視線を向けた。

 

「武蔵の所に行く、機体に乗り込んでくれ」

 

「は、はい! 判りました」

 

武蔵の所に行くと言うと顔を輝かせたエキドナにイングラムはもう1度心の中で溜め息を吐いて、エキドナと共にR-SWORDに乗り込むのだった……。

 

 

第3話 帰って来た男 その1へ続く

 

 




記憶喪失によりエキドナさんがただの萌えキャラになっております。これがきっと、ギャップ萌えって奴なんですね。かなりの文字数となりましたが、これでインターミッションは終了、次回はラングレーと武蔵の戦闘を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 帰って来た男 その1

第3話 帰って来た男 その1

 

 

ラングレー基地第4試験場に向かう道中でカイは完成した「ゲシュペンスト・MK-Ⅲ」に初めて搭乗していた。調整段階のプロトタイプにはリバイブのオーバーホール中に乗り込んだが、それよりも格段に操縦性もパワーも上がっていた。

 

(この出力に対して、この安定感……ふっ、ゲシュペンストはここまで来たか)

 

旧式と侮られたゲシュペンストがここまで来た――そう思うとカイの口角は自然に上がっていた。リバイブと比べれば確かに味気ない操縦感覚だが、ルーキーやベテランの操縦に応じて自由にカスタマイズ出来ると考えれば、量産機としてゲシュペンスト・MK-Ⅲは破格の性能を持っていると言っても良いだろう。

 

(今回は我慢するが、正式に教導隊に回って来る時はリバイブの予備機になる様に、しっかりとカスタマイズする事にするか……あの時の二の舞にならない為にもな……)

 

カイのために両腕をライトニング・ステークに換装されたゲシュペンスト・MK-Ⅲは貸し出された機体なので変な癖を着ける訳には行かないのでノーマルOSだが、カイの操縦感覚ではカスタムOSならば間違いなくカタログスペック以上の性能を発揮すると感じていた。無論リバイブと言う専用機があるので、他の機体に乗る事は殆ど無いが、L5戦役終盤でリバイブを失いまともに戦闘できず、目の前で武蔵が特攻するのを見ることしか出来なかったカイ。あの時ほど自分の無力さを感じたことは無く、終戦後から技量を磨き続き、歳だから等と甘えた事を言わず身体を鍛え続けてきたカイは間違いなく、L5戦役の時のカイよりも遥かに強い。

 

「ライ、ラトゥーニ、リョウト、リオ。後数分で第4試験場に到着する、設定は終了したか?」

 

先行量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲはそれぞれライとリオ。そして正式量産されることは無くなったが、一部の部隊に回される事になった量産型ヒュッケバインMK-Ⅲはラトゥーニとリョウトが乗っている。

 

『設定は今完了しました。カイ少佐、でもこの……砲戦パーツの安定感は凄いですね』

 

砲戦パーツは強行突破もしくは拠点防衛用に設計されている。その為か、テスラドライブではなくローラーによる移動と聞いていたが、想像以上に早いとリオは驚いたようにカイに報告する。

 

『こっちもですね、ノーマルタイプですが、安定度が段違いです』

 

R-2等と言う色物に乗っているライだが、それはライの操縦技術の高さによる人選だ。ライの操縦技術ならば、どんな機体でも十全以上に動かせる。そんなライが感心した様子で言うのだから、先行量産型と言う事でコストがやや高めに設定され、機体性能が高い事を除いても、ゲシュペンスト・MK-Ⅲの基本性能の高さが良く判る。

 

『私も問題ありません、カイ少佐』

 

『僕も大丈夫です』

 

量産型ヒュッケバインの2人も支援装備の設定が完了したと聞いて、カイは第4試験場に突入する際のフォーメーションを告げる、

 

「よし、第4試験場に突入するぞ、リョウトとリオは無理をするな、支援を徹底しろ。ライは俺と共にセンター、ラトゥーニはフォローバック。行くぞッ!!」

 

『『『『了解ッ!』』』』

 

フォーメーションの指示を出し、カイを先頭にして第4試験場に乗り込むのだった。

 

 

 

 

クレイグに言われていたのか、人質に触れるとATXチームは抵抗を止めた。確実に民間人に被害が及ぶのを避ける為に要求を呑めと言われていたのは明らかだった。

 

(後8分……か)

 

ロレンツォにしても人質を殺すのは出来れば避けたい。虐殺者なんて言う名目がつけば、ロレンツォの大義名分は埋もれてしまう。人質を有効に使い、必要以上の血を流さずに撤退するという余裕を見せ付ける事が必要な要因だからだ。

 

「中佐。熱源5急接近中。後60秒後に試験場に到着します」

 

「やはり……か」

 

ラングレーの膝元での作戦だ。敵増援が来る事は判りきっていた事だ、何が出てくるかと熱源方向にモニターを向けたロレンツォは興味深そうに眉を細めた。

 

「ほう……新型のヒュッケバインとゲシュペンストを投入してきたか……随分と大盤振舞いだな」

 

連邦軍が時期主力量産機としてヒュッケバインとゲシュペンストのトライアウトをしていると言う情報はロレンツォも掴んでいた。そのどちらかが投入される事は判っていたが、その両方が投入されたことに少し驚いていた。

 

「あれも手に入れたい所だが……二兎を追うのは危険か、新型の情報収集を始めてくれ、連邦の新型は相当厄介そうだ」

 

ヒュッケバインの方はパッと見、個性を無くし、安価と整備製に特化したように見える。だが機体各所にあるハードポイントをロレンツォは見逃さなかった。3機ゲシュペンストが同じデザインなのに、外付けパーツで機体特徴を変えているのも見てあえてノーマルのヒュッケバインとカスタムしたゲシュペンストを送り込んできたと判断したからだ。

 

『……こちらは特殊戦技教導隊、カイ・キタムラだ。直ちに武装解除し、投降しろ』

 

指揮官機の緑のゲシュペンストからの通信にロレンツォは苦笑した。ATXチームの次は教導隊、しかも搭乗機は新型が5機……その余りに熱烈な歓迎には流石のロレンツォも苦笑を隠せないでいた。

 

「ATXチームの次は教導隊か。ご大層な対応だな」

 

『ここへ来たのは成り行きでな。さっさと武装を解除しろ』

 

念入りに準備してきたのだが、まさかそんな不確定な要因で囲まれているとは計算外にも程がある。だがロレンツォは余裕のある態度を崩さない、人質がいる限りロレンツォ達優位性は変わらない。

 

「それはこちらの台詞だ。人質の命が惜しくば、我らの道を開けよ」

 

(さぁ、どう出てくる?)

 

自分の言葉に相手がどう出てくるか、ロレンツォは目を細め第4試験場を包囲している機体に視線を向けた。

 

新型のゲシュペンストは両腕が両方とも電極になり、背部にブースター付きのフライトユニットを装備している所から突破力が高いだろう。

 

その斜め右後のゲシュペンストは見た所ノーマルタイプだが、背部にマウントしているライフルを見る限りでは射撃特化。

 

更にその後には巨大な砲門を背負った重厚な装甲を持っている所から支援特化……。

 

(どう出てきても対応出来る)

 

ATXチームが出張ってくることは予測していた、上空のアーマリオンには狙撃を防ぐ為のシールドユニットを装備させているし、リオンにもスパイダーネット等の相手の機動力を削ぐ装備を装着させている。どんな状況にも対応出来ると言う自信がロレンツォにはあった。

 

「……返答は如何に? カイ・キタムラ。民間人を犠牲にするかね?」

 

『貴様らと取引する気は……』

 

取引する気は無いと言う言葉を聞いて、アーマリオンがその銃口を第4試験場に向けた瞬間。人質を抑えていたガーリオン・カスタム・無明が格納庫から伸びた腕に殴り飛ばされた。

 

「馬鹿なッ! 何故あのグルンガストが動いているッ!?」

 

最初は持ち出す予定だったグルンガスト弐式。だがパスワードのせいか、起動せず放置していた筈のそれが動き出した事には流石のロレンツォも驚愕し、自分の計画が乱れ始めているのを感じ取っていた……。

 

 

 

 

 

第4試験場に走る振動と降伏勧告を聞きながらブリットは格納庫の奥に安置されていた特機に向かって走っていた。

 

「……グルンガスト弐式……やっぱり残ってたか」

 

格納庫に置かれていた量産型ゲシュペンストMK-Ⅲ、ヒュッケバインMK-Ⅲの予備フレームや装備は影も形もないが、グルンガスト弐式だけはそこに残されていた。その理由は明白、このグルンガスト弐式はT-LINKシステムを起動させて使う前提で設計されている。念動力者で無ければ操縦出来ないようになっている。

 

「……これで行くしかないな」

 

他に乗り込める機体は無い、クスハ用に調整されたT-LINKシステムを自分用に設定している時間もない。ブリットは機体に乗り込むと同時に、格納庫の内部からガーリオン・カスタム・無明に向かって弐式の拳を突き出させた。

 

「こ、この違和感……! 覚悟していたが、まさかここまで強いとはッ!」

 

クスハの念動力が自分よりも上と言う事は覚悟していたが、想像以上に強い負荷にブリットは顔を歪めた。それでも自分のやるべき事を見極め、歯を食いしばって叫び声を上げた。

 

「カイ少佐! あのガーリオンは自分が抑えます! テロリストの制圧をッ!」

 

人質さえ自分が守ればキョウスケ達は攻撃に出れる。まともに動かない機体でも人質を守る盾になることは出来る……ブリットは覚悟を決めてそう叫び、ガーリオン・カスタム・無明にグルンガスト弐式を向かい合わせる。

 

「了解した! 各機、メインターゲットはヴァルシオンだ! 仕掛けろ!」

 

『『『『了解ッ!!』』』』

 

「……グルンガストが動くとはな。人質はもう役に立たんか……各機へ。広範囲ASRSの展開準備が整うまで、暫く掛かる。それまで敵機をこのヴァルシオンへ近づけるな」

 

『『『了解ッ!!』』』

 

グルンガスト弐式が動き出したのを切っ掛けに第4試験場での戦いの幕が斬って落とされるのだった。

 

「ライ少尉、ラトゥーニ少尉、どちらかで構わない。ブリットの支援を頼む」

 

戦闘開始と同時にキョウスケからの支援命令がライとラトゥーニに下される。その理由はライ達ならばすぐに判った……。

 

『了解しました中尉。私がバックアップに入ります』

 

「……すまないが頼んだ」

 

T-LINKシステムはデリケートな代物だ。他人様に設定されたT-LINKシステムを搭載した機体で戦う事になっているブリットが相手をするにはあのガーリオンは強すぎる。少なくとも、あのガーリオンに集中出来るようにアーマリオンとリオンを撃墜する必要がある。

 

『キョウスケ、俺とお前で包囲網を抉じ開ける。行けるな?』

 

「問題ありません、行けます」

 

人質が意味を成さないとは言え、戦いが激化すればその命が危ない。強引に突破し、相手の包囲網を抉じ開ける。その為に指揮官機2による突撃と言う一見無謀とも取れる作戦にカイとキョウスケは踏み切った。同時にバーニアを全開にし、敵陣のど真ん中に切り込んでいくアルトアイゼン・ナハトとゲシュペンスト・MK-Ⅲに向かって、スパイダーネットや電磁ネットを装備したリオンが動き出そうとした瞬間、爆発してそのリオンは墜落した。

 

「つっつう……思ったより、弾速も反動も大きいわね……」

 

それはリオの乗る先行量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲの背負った実弾砲が放った弾幕による物だった。

 

『かなりパワーがあるから気をつけて、エネルギー砲のほうが反動も少ないと思う』

 

「ありがと、ラトゥーニ。そうさせて貰うわ」

 

ブーステッドライフルで移動と狙撃を繰り返している量産型ヒュッケバインMK-Ⅲからの通信を聞いてリオは小さく笑う。R-2のハイゾルランチャーを参考にして作られた武装と言う事はリオも知っていたが、想像以上のパワーだった。

 

「エクセレン少尉弾幕で突破口を抉じ開けたいと思うのですがどうでしょうか?」

 

『OK、それで行きましょう。あのシールドユニットを装備しているアーマリオンを落とすわよ』

 

リョウトが作り上げたアーマリオン……L5戦役で作られた量産機の生き残りをリオは目を細めて睨む。

 

「ロングバレル展開、照準あわせ……」

 

コンソールを操作し、背中に背負っているキャノンユニットを展開する。砲身が肩にマウントされ、そこから砲門が伸びる。

 

「姿勢制御ユニット射出、エネルギー充填120%……いっけぇッ!!!」

 

『はいはーい、つまらないものですけどどうぞーッ!!!』

 

周囲に響くような轟音を響かせて放たれたメガ・ツインカノンのエネルギー波とオクスタンランチャーEモードのフルパワーがシールドユニットなどお構いなしにアーマリオンを貫き爆発させる。

 

『……ちょっーとそれパワーがありすぎるんじゃない?』

 

「……いっつつ……そうみたいですね、調整が必要みたいです」

 

メガ・ツインカノンの威力は想像以上に凄まじく、姿勢制御用のアンカーで固定しているにも関わらず、リオのゲシュペンスト・MK-Ⅲは吹き飛んで森の中に倒れていた。

 

『フォローはしてあげるから早く立ちなさいな』

 

「す、すいません。少尉」

 

ライのゲシュペンスト・MK-Ⅲとリョウトの量産型ヒュッケバインMK-Ⅲの背中にマウントされているミサイルポッドから放たれる弾雨で強引にカイとキョウスケの通路を抉じ開け、散らされた包囲網を各個撃破するんだからと言うエクセレンの言葉を聞きながら、リオは打った額を摩りながら先行量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲを立ち上がらせた。人質を失った事、量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲの大出力のエネルギー砲でアーマリオンとリオンは浮き足立っていて、各個撃破されている。だがロレンツォはその程度で気を乱す事無く、キョウスケとカイを2人にしても、有利に立ち回っていた。

 

「逃がさん……ッ!」

 

「ロレンツォ! 貴様の目的は何だ!?」

 

「しつこい男は嫌われるぞ、キョウスケ中尉、カイ少佐よ」

 

挑発を交えながらも余裕のある態度を隠さないロレンツォ……ヴァルシオン改・タイプCFと言う規格外の性能を誇る特機に乗っているからこその余裕なのか、それともこの包囲網を抜けるだけの隠し玉があるのか……戦場にいる全員が底知れぬ余裕を持つロレンツォに対して嫌な予感を感じているのだった……。

 

 

 

 

ヒュッケバインMK-Ⅱで自分を苦しめた相手が特機に乗って来た。さぞ心踊る戦いが出来ると期待していたムラタだが、その期待に反してグルンガスト弐式の動きは非常に緩慢な物だった。

 

「奴め、動かんな。機体の不調か……? 惜しいな。あまりのんびり相手はしてやれん」

 

本当ならば少し待ち、相手が調整するのを待つと言う手もあった。だが、雇い主の意向に逆らえないというのが傭兵の辛い所だ。それにさっきから自分を引き離そうといするゲシュペンストの狙撃にもムラタは辟易していた事もあり、撃墜されたリオンを無造作にゲシュペンストに蹴りつけ、強引に引き離すとシシオウブレードの切っ先を改めてグルンガスト弐式へと向けた。

 

「その足運び……本調子でないのが悔やまれるな……仕方あるまい、首級だけでも頂くとしよう……」

 

ここで殺すのは本望では無い、だが手加減していると思われ違約金を請求されても困るとムラタはグルンガスト弐式の首にシシオウブレードを添えた。

 

「名を聞いておこう、いずれ再戦の証としてな」

 

『……頼む、弐式。力を貸してくれ……ッ!……俺達の目的は……1つだろ……ッ!?』

 

接触通信で聞こえてくるパイロットの声にまだ闘志が折れていないと悟ったムラタはコックピットでにやりと笑った。

 

「気が変わった、お前の命……貰い受けるとしよう」

 

首に添えたシシオウブレードを引き、その刀身の切っ先をコックピットに向ける。勿論これは脅しだ、ムラタの経験上窮地で才能を開花させるという者を幾度も見てきた。この男もその類だと思い、恐怖させるかのように敢えてゆっくりとシシオウブレードの切っ先を突き入れる。

 

「クスハを……お前の主を助けるんだ……ッ! 弐式……応えろ……奴を……ッ! あのガーリオンを倒すッ! 奴の剣を叩き折るんだ!!」

 

グルンガスト弐式の目が輝いたとその瞬間にムラタは飛び退いていた。

 

「ふふふ、やはり俺の見る目に間違いはなかった」

 

「うおおおおおッ!!」

 

第4試験場に響き渡るブリットの雄叫び、それを聞いてムラタは笑った。自分の見る目は間違いでは無かった……生死の境目に追い込まれる事で限界を超えたと確信していた。

 

「この気迫……装甲越しに伝わってきおるわ……改めて聞こう。俺の名は「ムラタ・ケンゾウ」だ。お前の名は……?」

 

「ブルックリン・ラックフィールド……勝負はこれからだ。ムラタ」

 

コックピットにまでひしひしと伝わってくる闘志にムラタは笑みを深めた。

 

「調子が戻ったという訳か。面白い……貴様のその気概ごと斬り捨ててくれるわッ」

 

シシオウブレードと計都瞬獄剣が同時に振るわれ、凄まじい火花と轟音を周囲に響かせる。

 

「良い踏み込みだ、それにその太刀筋……迷いがない」

 

「くっ、やはり強いッ! それにこの太刀筋……完全に特機の相手に慣れているッ!」

 

瞬発力に秀でたガーリオン、そのカスタム機のガーリオン・カスタム・無明は通常のガーリオンよりも遥かに早い。そしてムラタが特機の相手に慣れているからか、グルンガスト弐式の弱点を的確に突いて来る。

 

「負けるかッ!!」

 

「ッ! 今のはいいぞ、良い太刀筋だ」

 

ガーリオンのパワーでは切り裂けないと装甲で防ぎ斬りかかるグルンガスト弐式、切り裂かれて飛んだ肩の装甲を見てムラタは更に笑みを深める。

 

「おりゃあッ!!」

 

「ぬうんッ!!」

 

目まぐるしく立ち位置を変え、相手を両断せんと振るわれる刃。そこに支援や援護の入る隙間は無い……ほんの少しの邪魔で互角の戦いは崩れる。それほどまでの張り詰めた空気がムラタとブリットの間にはあった……。

 

「ふうう……」

 

「ふん、お前の得意はそれか、ならばそれで相手をしてやろう」

 

鞘は無いが計都瞬獄剣を腰に添えて、前傾姿勢になった弐式に合わせるように無明もシシオウブレードを鞘に納める。

 

「「おおおおおーーーッ!!!」」

 

ムラタとブリットの雄叫びが重なり、グルンガスト弐式と無明の姿が交差する。

 

「ぐっ……やはり早い……」

 

右肩から左の足の根元に向かって袈裟に斬られたグルンガスト弐式が膝をつき、火花を散らす。

 

「……ふふふ……思っていた以上に 手応えのある連中だった……心行くまで戦いたかったが……続きはまたの機会にしよう」

 

肘から先のない右腕を見てムラタは楽しそうに笑い、残された左腕でシシオウブレードを腰の鞘へと納めた。

 

「ムラタ、 広範囲ASRSの準備が整った。退くぞ」

 

「承知」

 

元からASRSの展開準備が終わるまでの戦いだった。それにしては楽しめた戦いだったと思い、ムラタは無明を反転させる。

 

「! 逃げる気か!?」

 

「我らには次の仕事があるのでな。縁あらば、また会おうブルックリン」

 

ブリットの挑発には乗らず無明を浮上させると同時に、モニターを無効化させる特殊煙幕が張られ、モニターが回復した頃にはロレンツォ達は包囲網を悠々と抜けてこの空域から離脱しているのだった……。残されたキョウスケ達はここまで追詰めたにも拘らず離脱されたことに顔を歪め、ヴァルシオン改・タイプCFと量産型ゲッターロボを奪取されたが、それでも人質だけは守れた事をよしとするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

クロガネのブリッジに何度目になる激しい振動が襲った。その衝撃に耐え切れず、ビアンが艦長席から転がり落ちた。

 

「ビアン博士、大丈夫ですか!?」

 

「だ、大丈夫だ! それよりもユーリア達は大丈夫か!?」

 

クロガネのバリアは当の昔にその機能を失い、今はゲッター合金のお陰で轟沈を間逃れていたが、それも時間の問題だった。

 

「ユーリア、ラドラ機を残して全機大破。クロガネに帰還しています」

 

想像を遥かに越える凄まじい被害にビアンは言葉を失った。

 

「こ、ここまでの力があると言うのか! あいつらは一体何者なのだッ!!」

 

左腕がハサミ、頭部に1本の角がある異形の特機「百鬼獣 一角鬼」

 

両腕が3本の爪で構成された重厚な装甲を持つ片目の特機「百鬼獣 独眼鬼」

 

牛のような2本の角を持つ全身に棘を持つ特機「百鬼獣 針千本鬼」

 

頭部が髑髏で両腕にガトリング砲を持つ特機「百鬼獣 白骨鬼」

 

両腕が大きな車輪になっている頭部に1つの角を持つ「百鬼獣 大輪鬼」

 

たった5体にヴァルキリオン部隊は壊滅、ゲシュペンスト・シグも大破目前……そしてしまいにはクロガネまでも轟沈寸前だ。今まで、全く目撃情報の無かった異形の特機を前に流石のビアンも悲鳴にも似た声を上げる。

 

「ユーリアッ!?」

 

独眼鬼に組み付かれ、抱き締めるように圧壊されそうになっているヴァルキリオンを見てリリーが悲鳴を上げる。

 

「くっ、クロガネを前進させろッ! ユーリアを救出するッ!!」

 

クロガネで体当たりをしてユーリアを救出すると言った瞬間。凄まじいエネルギー反応が検知され、クロガネの警報が鳴り響いた。

 

「なんだ、何が起きている!? まだ何か来ると言うのかッ!?」

 

どうしようもない窮地に新たな敵の襲来かとビアンが声を荒げた瞬間。巨大な戦斧が上空から飛来し、ヴァルキリオンを拘束していた独眼鬼の両腕を肩から切り落とした。

 

「ギャアアアアッ!」

 

「げ、ゲッタートマホーク……?」

 

誰かがそれを口にした。地面に突き刺さる戦斧……形状は確かに異なっているが、それは間違いなくゲッタートマホークだった。独眼鬼が苦悶の声を上げた事で目の前の光景が現実だと全員が初めて気付いた。

 

「ゲッター線感知! く、クロガネのゲッター炉心の2倍……いや、5倍……うわあッ!?」

 

オペレーターが最後まで報告する事無く悲鳴を上げたクロガネに搭載されたゲッター線感知器、それが爆発し煙を上げた瞬間、上空から飛来した翡翠色の閃光がクロガネを囲んでいた百鬼獣達を薙ぎ払い、独眼鬼の手から解放され、墜落するヴァルキリオンをゲッター線の輝きが空中で抱き止める。そしてビアン達の目の前でゲッター線の輝きが散り、ゲッター線に包まれていた何かの姿が明らかになった。

 

「ゲッターロボ……Gなのか?」

 

ゲシュペンスト・シグの中でラドラは思わずそう呟いていた、そしてそれはクロガネにいるビアン達も同様だった。特徴的な髭のようなフェイスパーツ……3本の角を思わせる特徴的な頭部パーツ……それは紛れも無くゲッターロボGだった。だがビアン達の知るものよりも遥かに洗練された後継機としか思えないゲッターロボGはヴァルキリオンを抱えたまま百鬼獣に視線を向けた。すると黄色のカメラアイに黒目が浮かびあがった……それを見たビアン達はゲッターロボGが怒り狂っているように見えた。しかしビアン達はその怒りが誰に向けられた物なのか判らなかった、百鬼獣なのか、それとも自分達になのか……敵か味方かも判らないゲッターロボGに良く似たゲッターに恐怖した。だがそれは次の瞬間には安堵へと変わっていた……

 

『ゲッタァアア……ビィィイイイイムッ!!!!!』

 

雄叫びと共に放たれたゲッターロボGの頭部から放たれた横薙ぎのゲッタービームによる一閃……それは百鬼獣や、百鬼獣と共にクロガネを追い回していたランドリオン達を容赦なく薙ぎ払った。その威力もさる事ながらゲッターロボGから発せられた声にビアン達は目を大きく見開いた。

 

「い、今の声は……」

 

生きていると信じていた……だが、それを実際に目の当たりにするとまさかと、信じられないと言う思いがビアン達の脳裏を埋め尽くした。

 

『間に合って良かったぁッ!! ビアンさん! 助けに来ましたよッ!!!』

 

戦場に響いたその声は紛れも無く、ビアン達が探し続け、生きていたと信じていた「巴武蔵」の物なのだった……

 

 

 

 

 

第4話 帰って来た男 その2へ続く

 

 




百鬼獣に囲まれているクロガネを助けに現れたゲッターD2、次回からはクロガネサイドの戦闘シーンを書いて行こうと思います。
なお今作で登場する百鬼獣は全てアニメ、漫画版などごちゃ混ぜで本来「メカ○○鬼」となる敵も全て「百鬼獣」で統一するのでご了承願います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。



なお次回のシナリオの勝利条件はこうなります。

勝利条件 敵の全滅

敗北条件 ヴァルキリオン、ゲシュペンスト・シグ、クロガネ改、ゲッターD2、ゲシュペンスト・タイプSの撃墜。

熟練度取得条件 

ゲッターD2出現から2ターンの間、ヴァルキリオン、クロガネ、ゲシュペンスト・シグがダメージを受けない。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 帰って来た男 その2

第4話 帰って来た男 その2

 

クロガネを執拗に追い回し、防衛隊であるヴァルキリオン達を壊滅させた異形の特機である、独眼鬼に組み付かれ抱き締められる形で圧壊するヴァルキリオンの中でユーリアの脳裏には25年の己の人生が過ぎっていた。

 

(これが走馬灯か……)

 

ユーリア・ハインケルと言う女性はコロニー統合軍に入隊した時に「女」である自分を捨てたと思っていた。コロニー統合軍で常に指揮官、隊長として活躍していた祖父や父の活躍を聞いて育ち、ユーリアを産み落とすと同時に死去した母を思い、後妻を取らず自分を鍛え上げてくれた父の期待に応える為にストイックに己を鍛え続けた。その努力の成果が25歳と言う若さでの少佐の地位とトロイエ隊の隊長の役職だった。輝かしい経歴とその美しい美貌から言い寄ってくる男は多かったが、それらを歯牙にもかけず、どこまでも自分を追い込み鍛え続けてきた。ビアンとマイヤーの願いの為に死ぬと覚悟していたユーリアだったが、恐竜帝国のメカザウルスと戦い死に掛けた時に助けてくれた武蔵と出会ってからその鋼の決意は僅かに緩み始めていた。武蔵は決して戦士ではなかった、どこにでもいる普通の少年だった。本来ならば軍人である己の庇護にいるべきはずの子供だった。それでも武蔵は地球を守る為に戦い、そしてその為に死ぬ覚悟もしていた。

 

(ああ、そうだったんだな)

 

その誇り高い覚悟を尊敬しているのだと思っていた。

 

もう戦えない自分は補助をするべきと思っていた。

 

ゲッターロボに乗っている武蔵は死なないとどこかで思っていた。

 

だからアイドネウス島で武蔵が特攻した時、破片も残さず消えたゲッターロボを見た時に自分の胸にぽっかりと穴が空いたのを感じた。

 

そしてその時初めて知ったのだ、自分が武蔵に向けていたのは恋慕の感情だったのだと……だが気付いた時にはもう遅い、想い人は死にほんの僅かの希望に縋る日々にも疲れ始めていた……そして何時の日からかユーリアは生きる事に疲れ始めていた。幾度にも及び手術とリハビリを終え、歩けるようになってすぐにヴァルキリオンの訓練を始めたのも、今思えば死を望んでいたからかもしれない……外から掛けられる圧力で自分に迫ってくるヴァルキリオンの内部装甲を見ながらユーリアは自嘲気味に笑いながらそう感じていた。

 

(……これでいいか……)

 

もう何もかも疲れてた。火花が散るコックピットの中でユーリアはゆっくりと目を閉じた……。

 

(……おかしいな。こんなにも……死と言うのは長く感じるものなのか?)

 

圧壊するのも時間の問題だと思っていた。それなのに、いつまでもユーリアに終わりは来ない。それを不思議に思っていると一際大きな振動がユーリアを襲った、それを感じて自分に恐怖を与える為に嬲る為にかとコックピットの中で呟いた。だが次の瞬間聞こえてきた声にユーリアは大きく目を見開いた。

 

『間に合って良かったぁッ!! ビアンさん! 助けに来ましたよッ!!!』

 

それはもう聞けないと思っていた、生きていると願っていても、それがありえないことだと頭が判断してしまうほどに疲弊するほどに捜し求めた少年の声だった……。

 

「む、武蔵……か?」

 

『ユーリアさん? ユーリアさんですか?』

 

「あ、ああ……私だ。い、生きて……生きていたのか……武蔵……い、今までどこにいたんだ」

 

信じられないと言う気持ちと、信じたい気持ちが交互にユーリアの心を埋め尽くす。

 

『まぁ色々と訳ありでしてね……それよりも間に合って良かった。積る話もありますけど……まずはあいつらを蹴散らしてからにしましょう』

 

「そうだな……気をつけろ、あいつら……強いぞ」

 

『大丈夫ですよ、オイラもゲッターも負けませんからッ!』

 

武蔵の力強い声を聞いて、もう大丈夫と安心した……そして武蔵が生きていた。助かったという安心感、そして武蔵が目の前にいる……その事に気付いた時……ユーリアの目からは涙が零れていたのだった……。

 

 

 

 

 

轟沈寸前のクロガネと大破したアーマリオンに良く似た女性的なシルエットの機体……「ヴァルキリオン」と右腕と特徴的なバイザー型のセンサーアイが砕け、カメラアイが露出している「ゲシュペンスト・シグ」を背後に庇いながら武蔵は間に合って良かったと思うとの同時に、目の前の敵……「百鬼獣」を見て何故と言う言葉が脳裏を過ぎっていた。

 

(一角鬼、針千本鬼、白骨鬼、大輪鬼……か)

 

ゲッターD2のモニターに映し出される敵のデータ……武蔵は知らないが、ゲッターD2……いや、早乙女博士が知っている。それが何を意味するかは武蔵でも判った。

 

(百鬼帝国……まさか復活しているとでも言うのかよ)

 

自分の死後竜馬達が戦ったと言う「百鬼帝国」……その尖兵が新西暦にいる。それはL5戦役時に恐竜帝国が復活したのとは訳が違う、あの時は恐竜帝国は瀕死だった。だが今目の前にいる百鬼獣は万全であり、ランドリオン達も併用している。恐竜帝国とは異なり、この時代に深く百鬼帝国が根付いていることを示していた。

 

『武蔵! 貴様!!! 生きているのならば連絡くらい入れろ! この馬鹿がぁッ!!!』

 

「つつうう! 口で説明するのは難しいくらい立て込んでたんだよッ!! それよりも無理するなよ、ラドラ。オイラ以外にも応援は来るんだからよ」

 

ラドラからの返事を聞かずに武蔵はペダルを強く踏み込んだ。左右から放たれるミサイルとビームガトリングをかわすと同時に再びゲッターD2の姿がゲッター線の光に包まれる。

 

「舐めるなよ! てめぇら見たいな雑魚が何匹群れようがなあッ!! ゲッターの敵じゃねえんだよッ!! ダブルトマホークッ!!」

 

急降下し、両手に持った戦斧を振るい一角鬼をバラバラに切り刻むと同時に反転し、ダブルトマホークを背後に向かって投げつける。

 

「ギガア!」

 

「へっ、1発防いだくらいで勝ち誇ってるんじゃねえ!」

 

ダブルトマホークを弾いた大輪鬼に飛びかかり両腕のチェーンソーで大輪鬼の胴体に深い切り傷をつける。だがその代りに胴体から伸びた鎖がゲッターD2の胴体に巻きついてその動きを封じる。

 

「シャアアッ!!!」

 

「キアアアアーーッ!!!」

 

背後から放たれた白骨鬼のガトリングと針千本鬼の全身に生えた棘の嵐――鎖で拘束されているゲッターD2が回避出来ないと勝ち誇った笑い声を上げている大輪鬼に武蔵は馬鹿がとつぶやいた。

 

「言っただろうが、お前らが何匹居ようがなあッ! ゲッターの敵じゃねえッ! オープンゲットッ!!!」

 

合体形態からゲットマシン形態に分離し、鎖から脱出するのと同時にガトリングと棘の嵐を回避する。

 

「グギャアアアアーーッ!!」

 

そして白骨鬼達の攻撃は目標を失い大輪鬼へと突き刺さり、大輪鬼の苦悶の声が周囲に響き渡る。

 

「チェンジッ! ドラゴンッ!! ゲッタァアアビィィイイイムッ!!!」

 

「ギャッ!?」

 

短い悲鳴を最後に大輪鬼はゲッターD2の頭部からのゲッタービームに飲み込まれ消滅する。

 

「!?」

 

「ゲゲッ!?」

 

「逃がすかよッ!! ダブルトマホークッ! ランサアアアアーーーッ!!!」

 

ゲッターD2が只者では無いと判断したのか逃げに入る白骨鬼と針千本鬼。だがそれはあまりに遅すぎた。逃げようと背を向けた瞬間ゲッターD2の投げつけた無数のダブルトマホークが背後から白骨鬼達を貫き、クロガネを轟沈寸前まで追詰めた異形の特機達はまるで鳥葬のようにその場に縫い付けられると同時に爆発炎上した。

 

「な、何と言うパワーだ……し、信じられん」

 

ゲッターD2が戦い始めてから僅か1分にも満たない時間で、クロガネを追詰めていた異形の特機達は全て破壊されていた。その圧倒的なパワーにビアンは驚愕し、大きく目を見開いた。

 

「……ちっ、ラドラ。ユーリアさんを頼む」

 

『……なるほど、ここで確実にクロガネを沈めるつもりだったか……すまんが、俺は戦えない。ユーリアを守る事としよう』

 

本当ならクロガネに帰還したほうが良い……だが、敵はそんな余裕をラドラ達に与えてはくれなかった。

 

「ああ、そうしてくれ……どうもやっこさんも本気みたいだ」

 

空から急降下して来た茶色の船体をした巨大な百鬼獣――「百鬼獣 要塞鬼」の左右のブースターから半月状の胴体をした一つ目の百鬼獣……「百鬼獣 半月鬼」が1機ずつ、そして胴体部から水晶……いやダイヤモンドで出来た鎧と剣と槍を持った「百鬼獣 金剛鬼」が2機

地響きを立ててゲッターD2の前に立ち塞がる。

 

『半月鬼、金剛鬼……クロガネとあの目障りな赤い機体を倒せ』

 

「「「「シャアアアーーーッ!!!」」」」

 

要塞鬼から響いた男の声に4機の百鬼獣が雄叫びを上げ、半月鬼が空に浮かび上がり、金剛鬼がその手にしている剣と槍を振り上げた。

 

「あの声は私だ……どうなっていると言うんだ!?」

 

しかしビアン達には敵の応援よりも、要塞鬼から響いた声の方が問題だった。その声に全員が驚愕し、目を見開いていた。

 

『初めまして、そしてさようなら、今日から私が「ビアン・ゾルダーク」となる。偽者は、早々に死んでくれたまえ』

 

何もかも見下した冷酷な口調だが、それは紛れも無く「ビアン・ゾルダーク」の声だったからだ……。

 

 

 

 

 

大地を疾走する黒い影……グライエン議員を救出した黒いゲッター2……「ゲッター2・トロンベ」はクロガネからのSOS通信を傍受し、最大速度でクロガネへと向かっていた。

 

「ゼンガー、グライエン議員は大丈夫か?」

 

『ああ。止血もすんでいる、今は鎮静剤が効いているのか眠っている』

 

ゲッター2・トロンベはバミューダトライアングル近辺に沈んでいた早乙女研究所で発見されたゲッター2を改良し、エルザム用に再調整した機体だ。ゲッターの劣悪な操縦性を改善する為に搭載された「テスラドライブ」を応用した重力装備によって、その操縦性は大幅に改善され、操縦時の膨大なG等はPTやAMクラスにまで迫っている。

 

『クロガネが轟沈寸前とは信じられん……バン大佐が居なくても万全な警備体制だったはずだが……』

 

「そうだな、それに今クロガネに連邦軍やアードラー一派の生き残りが攻撃してくるとも思えない……やはり第三陣営か……」

 

グライエンを襲った謎の集団……それらの持つ機動兵器に襲われているとゼンガーとエルザムは考えていたが、それでも漸くパイロットとして復帰できたユーリアの率いるヴァルキリオン隊とラドラのゲシュペンスト・シグが追詰められるとは想像も出来なかった。

 

「見えた。ゼンガー、恐らくこのまま戦闘に入る。グライエン議員を頼む」

 

『承知した』

 

グライエンは今地球に起きようとしている何かに気付いている。だからこそ命を狙われたのだろう――偶然傍受した通信によって救出にエルザムとゼンガーが動いたが、今思えばそれも陽動だったかもしれない。そんな事を考えながらエルザムの駆るゲッター2・トロンベは戦場に躍り出た。

 

「ビアン博士、ご無事ですか!?」

 

『エルザムかッ! 良く間に合ってくれたッ! クロガネの護衛を頼むッ!』

 

クロガネを守っている筈のヴァルキリオン達の姿は無く、大破したユーリアのヴァルキリオンを大破寸前のゲシュペンスト・シグが守っていた。

 

『エルザム、ゼンガー、早くクロガネの前に移動しろ! 巻き込まれるぞッ!』

 

巻き込まれる? その言葉の意味をエルザムは理解出来ず。クロガネに攻撃を仕掛けようとしていた鎧を纏った異形の特機に万力状のゲッターアームに仕込まれた銃口を向けた瞬間。

 

「ギャァッ!?」

 

苦悶の声を上げて鎧を纏った異形の特機が吹き飛ばされた。その光景にエルザムは目を見開いたが、次の瞬間ゲッター2・トロンベに走った衝撃に無意識に操縦桿を強く握り締めていた。

 

「な、何が起きて……うううっ!?」

 

『ぐっ!? 何だ! 敵の攻撃か!?』

 

驚いている間にゲッター2・トロンベに強い衝撃が走った。

 

『早くこっちへ来い! 支援をするのならば俺の前に来いッ!!』

 

再び繋がったラドラからの通信に従い、今度こそゲッター2・トロンベはクロガネへと移動する。

 

「ラドラ、一体何が起きているんだ」

 

『口で説明するよりも見たほうが早い、もうすぐ現れるはずだ』

 

「現れる? 何が現れると……」

 

現れるの意味が判らずラドラに尋ねていたエルザムだったが、地面を抉りながら現れた2機の特機を見て言葉を失った。太陽の光を反射する蒼い装甲……背中に背負っているブースター付きの翼……右腕がドリル、左腕が花の蕾のような特徴的なマニュピレーターアーム……。

 

「ライガーなのかッ!?」

 

それはアードラー達が使い、L5戦役ではエアロゲイターによって運用された「ゲッターライガー」に酷似した特機と、ズタボロの半月状の胸部装甲を持つ異形の特機だった。見覚えの無い異形の特機にも驚かされたが、エルザム達にとってはゲッターライガーに似た特機に対する衝撃が凄まじかった。

 

『あれがクロガネを攻撃したのかラドラ』

 

『いや、違う。俺達はあのライガーに助けられたんだ』

 

「ライガーに助けられた? それはどういう『へっ! 言っただろ! てめぇらじゃ何匹来てもゲッターの敵じゃねえってなあッ!! ドリルアタックッ!!!』」

 

状況説明を求めるエルザムの声を遮って響いた大声……その声を聞いて、エルザムは目を見開いた。

 

「む、武蔵君! 武蔵君なのか!?」

 

『その声……エルザムさんかッ! 良かった無事だったんですね! こいつらに襲われてるのかって心配してましたよッ!』

 

「シャアアッ!!」

 

半月鬼とライガー2が鍔迫り合いをする中、武蔵の良かったと言う声が響いた。間違いない、武蔵の声だ。生きていると信じていた、だがこうして目の前にすると何を言えばいいのか判らない上に、良かったという安堵の気持ちで動きが完全に止まった。確かにエルザムは歴戦のエースパイロットだ。だが決して機械では無い、どれほど自分の感情を殺す術に秀でていても生きている血の通った人間なのだ。自分の理解を超える光景が立て続けに動けば僅かでも思考は鈍る。そしてその隙を半壊している金剛鬼は見逃さず、ダイヤモンドで出来た剣をゲッター2・トロンベに向かって突き出そうとした……

 

『究極ぅッ!! ゲシュペンスト……キィィイイクッ!!!!』

 

 

だがそれはゲッター2・トロンベには届かず、金剛鬼の目の前には漆黒の機体の足が目前に迫っていた、その光景を認識したと同時に金剛鬼のカメラアイは2度と光を映すことはなかった……ゲシュペンスト・タイプSの蹴りによって頭部パーツごと胸部パーツを押し潰された金剛鬼はそのまま、全身からオイルを撒き散らしその活動を停止させたのだった……。

 

 

「い、今の声は……」

 

『そ、そんな馬鹿なことが……』

 

『は、ははは……俺は夢でも見ているのか……』

 

金剛鬼の顔面を蹴り砕いた漆黒の流星がエルザム達の目の前に着地した。そして目の前に現れたのは漆黒のPT……だがそれはこの世に存在しない筈の機体だった。重厚な装甲、背部に背負っている装備は間違いなく違う……だがその存在感をエルザム達は決して忘れない、いや忘れられる訳がない。自分達が手を下した恩師の機体……エアロゲイターによって生身の肉体を失い、救う為とは言え恩師を手にかけたのはエルザム達にとっての最悪の記憶だった……嘘だと、ありえないと思っていてもゲッター2・トロンベの識別信号は無慈悲に目の前の光景が真実だと告げている。

 

【PTX-002……ゲシュペンスト・タイプS】

 

『間に合ったか? 武蔵』

 

『バッチリですよ。カーウァイさん、助かりました』

 

タイプSから響いた声と武蔵の声……それがタイプSに乗っている人間が「カーウァイ・ラウ」であると言う事を現していて、エルザム達は完全に思考停止に陥ってしまったのだった……。なお、これは完全に関係ない話だが、戦場で呆けている事にカーウァイは気付いており、その眉を寄せ怒り顔をしていた。

 

「どうも相当弛んでいるようだな、きっちり絞り上げてやるとするか」

 

カーウァイとエルザム達の再会は感動の再会とはならない事が決定した瞬間だった……。

 

 

 

 

要塞鬼の司令室で大帝に命令を受けて、ビアン・ゾルダークに整形した鬼は驚愕に目を見開いていた。

 

「何故だ、何故何故何故ッ! 何故こんなことになるッ!!」

 

大帝は鬼に言った、期待していると、そして確実にクロガネを沈め、ビアン・ゾルダークを殺して成り代わるだけの戦力も用意してくれた。だが実際はどうだ? 突如現れたたった2機の特機とPTに要塞鬼に搭載していた百鬼獣も、先遣隊も全滅させられていた。

 

「どうしますか! 5本鬼様! 帰還いたしますか!?」

 

「ふ、ふざけるなッ! おめおめ逃げ帰れる物かッ! 半月鬼! 金剛鬼! やつらを殺せええッ!!」

 

ビアンの声で怒鳴り散らすように叫ぶ5本鬼――その命令に従い、半月鬼と金剛鬼はゲッターD2とゲシュペンスト・タイプSに向かって攻撃を繰り出す。

 

『早いだけの攻撃など何の意味もない。失せろ』

 

『ギギイッ!?』

 

ゲシュペンスト・タイプSが腰に携えていた日本刀の一閃で半月鬼の首が飛んだ。

 

「ば、馬鹿なぁ……あ、ありえん……こ、こんなことがありえて良い訳がないッ!!! 半月鬼の速度はマッハ2だぞッ!?」

 

マッハ2で動く半月鬼が何故あんな緩やかな動きのPTの攻撃で敗れるのだと5本鬼は信じられない光景に半分発狂していた。だがそれも当然だ――他の幹部鬼達が政治家や軍上層部の人間に成り代わる中。5本鬼だけが百鬼帝国の暗躍を覆い隠す為に、ビアン・ゾルダークを抹殺し、クロガネを奪い、新生DCを結成し地球に騒乱を起せという命令を受けていた……頭脳に優れ、戦略眼を見込んでの大帝からの大抜擢だった。その期待に応えるべく、磐石の戦術を考え、そして王手目前まで追い込んだ。チェックメイトと言う所で盤外から突如割り込んできた駒に自分の戦略を全て無にされたのだ。優秀な頭脳を持つからこそ、そのありえない光景を信じられなかった。

 

『フィンガーネットッ! こいつでトドメだぁッ! 大ッ! 雪ッ!! 山ッ!!!』

 

あの可変する特機のせいだと5本鬼は憎しみさえ篭もった目でゲッターを睨みつけた。あれが居なければ、自分の戦術は完璧だった。クロガネを奪い、ビアンに扮し大帝の期待にも応えれる。もっと上役に抜擢されると信じていた……。

 

「主砲をあの化け物にあわせろッ! せめてあいつだけでも! あいつだけも破壊しろッ!!!」

 

「りょ、了解ッ!!!」

 

要塞鬼の主砲がゲッターポセイドン2に向けられる。

 

「ひ、ひひっ! 死ね! 死ねぇッ! 俺の戦略をぶっ潰しやがって!! 死んで詫びろぉッ!!!」

 

フルパワーに充電された主砲が放たれようとした瞬間。要塞鬼の船体は激しい風に揺さぶられ、照準を合わせる所の話ではなくなった。

 

「な、何が、何が……ひ、ひいいいッ!?」

 

ポセイドン2が振り回す腕によって生み出された竜巻……それが要塞鬼に迫っているのに気付き、5本鬼は聞いている者が憐れに思うほどに引き攣った悲鳴を上げた。

 

「て、てて……撤退だぁッ! 大帝に伝えるのだ! あの特機の脅威をッ! 我ら百鬼帝国を脅かす脅威があると伝えるのだぁッ!」

 

「りょ、了解! ASRS展開、オーバーブースト発動10秒前ッ!!」

 

10秒……その10秒が5本鬼には永遠にも思えた。

 

『おろしぃぃいいいいいいッ!!!』

 

(早く、早く早くッ!!!)

 

あんな台風に飲み込まれたら死んでしまう。カウントダウンをしている部下の声がやたらスローに聞こえる……任務の困難さから用意された最新鋭機である筈の要塞鬼であったとしてもあんな暴風に飲み込まれたら跡形も無く消し飛んでしまう……。

 

「オーバーブーストチャージ完了!」

 

「離脱だぁッ! この場から逃げるぞぉッ!!」

 

悲鳴にも似た……いや、実際悲鳴だったのだろう。5本鬼の叫び声と共に了解の返事も無く、要塞鬼は急加速し台風から逃げるようにその場から飛び去る。

 

「つ、伝えるんだ。大帝に……恐ろしい特機が存在するとッ!!! う、うわあああッ!? な、何だ!?」

 

「こ、金剛鬼の残骸ですッ! 金剛鬼の残骸が追突し、左エンジンが破損しました!」

 

「ば、化け物めッ! お、覚えていろ紅い特機ッ! こ、この恨み! か、必ず晴らしてくれるッ!!」

 

5本鬼はブリッジの中でそう叫びながらも本心は2度とゲッターロボに出会いたくないと思いながら、海上に浮かぶ百鬼帝国へと逃げ帰るのだった……。

 

 

 

 

金剛鬼の残骸を逃げさる要塞鬼にぶつけた武蔵だが、実際は狙った訳ではなく逃げてしまった相手に八つ当たりに近い感じで投げつけたのが、運よく要塞鬼に命中したに過ぎなかった。

 

「ちくしょうめ、逃がしちまったなあ」

 

ビアンの声で喋る誰か……そしてクロガネを攻撃していた百鬼獣……それらから新西暦に復活した百鬼帝国の目的が、ビアンを殺害し、クロガネとビアンの姿をした影武者を使っての暗躍工作だというのは武蔵でも判っていた。だからここで要塞鬼を撃墜したいと思っていたが、逃げられては仕方ないと武蔵はポセイドン号の中で舌打ちした。

 

「終わったようだな。大丈夫か?」

 

「大丈夫ですよ。クロガネもちゃんと守れました」

 

戦闘終了と共に姿を見せたR-SWORDからの通信に大丈夫だと武蔵が返事を返す。

 

『すまない、助かったよ。武蔵君……で良いんだよな?』

 

「ビアンさん……はい、正真正銘ドジで間抜けの武蔵ですよ」

 

『よ、良く……良く生きていてくれた……私達が……どれだけ……探したか……』

 

この場の緊迫したムードを和らげる為の冗談でそう言った武蔵だったが、嗚咽交じりのビアンの声を聞いてすいませんと謝罪の言葉を口にした。

 

『か、カーウァイ大佐……なのですか?』

 

『い、生きておられたのですか?』

 

「まぁ、色々あってな。冥府から追い出されて、現世を彷徨っている様だ。しかし、エルザム、ゼンガー、ラドラ。なんだ、あの腑抜けた様はッ! 教導隊の名が泣くぞッ!!!」

 

『『『も、申し訳ありませんッ!!!』』』

 

カーウァイの一喝にコックピットの中で背を伸ばし、謝罪するエルザム達。どれほど実力をつけたとしても、カーウァイの存在は大きく、その一喝に全員が額から冷や汗を流していた。

 

「説教は後にしろカーウァイ。ビアン所長……すまないが着艦許可を貰えるか? こちらにも負傷者がいる上に、俺達の姿は目撃される訳にはいかない筈だ」

 

クロガネは勿論、ゲシュペンスト・タイプS、シグ、ヴァルキリオン、ゲッター2・トロンベ、ゲッターD2、R-SWORD……その何れもが今は表舞台に立つ訳にはいかない機体だ。

 

『そうだな。勿論着艦してくれ、イングラム少佐。話はこの場から逃れた後に聞かせてもらうとしよう』

 

ビアンからの着艦許可を得てゲッターD2達はクロガネへと着艦し、この空域から離脱して行くのだった……。

 

「武蔵君……本当に生きていたのだな」

 

格納庫にはクロガネのクルーの殆どの姿があった。武蔵は自分を出迎えてくれたビアン達に恥ずかしそうに微笑んだ。

 

「まだ地獄に行くにゃあ早いって追い返されたみたいなんですよ。オイラ達」

 

「ば、馬鹿を言うな……君が地獄に行くのなら、この場にいる全員が地獄送りだよ……良く、良く生きていてくれた……い、今まで何処に……?」

 

「ん、んー説明するのはすっごい難しいんですけど……えーっと?」

 

「連邦が隠し通していた失われた時代で戦っていた。カーウァイもそこで出会った」

 

イングラムがゲシュペンスト・タイプSに視線を向け、それにつられて其方を見るとタラップから降りてきてヘルメットを外したカーウァイの素顔を見てビアンも驚きに目を見開いた。

 

「あの時のままだな。カーウァイ大佐」

 

「ビアン所長は歳を取りましたね……」

 

「ふっふ、何を言うか。まだまだ私は現役さ」

 

ゲシュペンストの設計時にビアンとカーウァイは何度も顔を合わせていた。カーウァイの外見はゲシュペンストが完成した当時……カーウァイが20代後半の姿のままだった。

 

「武蔵君……カーウァイ大佐……またこうして出会うことが出来るなんて夢にも思っていませんでした」

 

「大佐……本当に大佐なのですね」

 

「ご無事で何よりです、カーウァイ大佐」

 

敬礼するエルザム達にカーウァイも敬礼をし返したが、やはり戦場で気を抜いたのは許すつもりがないのかすぐに眉を細める。

 

「戦場で気を抜くとは弛んでいる証拠だ! 後できっちり鍛えなおしてやるから覚悟しろッ!」

 

「「「りょ、了解ッ!!!」」」

 

その一喝と鋭い眼光……自分達の方が年上になったが、カーウァイには頭が上がらないのか青い顔で敬礼し返す。だがその顔にはもう会えないと思っていた恩師に会えたと言う事による、歓喜の涙が浮かんでいた。

 

「武蔵、無事で良かった……生きていて……本当に良かった」

 

「ユーリアさん! もう歩けるんですね……良かった! それに長い髪も似合ってますね」

 

「そ、そうか……」

 

武蔵の記憶の中ではユーリアは車椅子だった。そんなユーリアが自分の足で立って歩いているのを見て、武蔵も嬉しそうな表情を浮かべる。武蔵を見つけると言う願掛けをして伸ばしていた髪を褒められ、表情を柔らかくさせたユーリアだが、すぐにその顔が凍りついた。

 

「……む、武蔵? その後の女性は?」

 

「え、えーっとなんて言えば良いんですかね……オイラを助けてくれた人なんですけど……どうも記憶喪失みたいで……エキドナさんって言うんです」

 

「え、エキドナ……い、イーサッキです」

 

武蔵よりも背の高い大人の女性が武蔵のマントの裾を掴んで、身体を小さくさせ頭を下げる姿は年上の筈なのに、何故か可愛いと思わせる不思議な印象をユーリアに与えた。

 

「そ、そうか……き、記憶喪失ともなれば不安にもなるな……う、うん……しょうがない、しょうがない」

 

「だ、大丈夫ですか? 足元がふらついてるみたいですけど」

 

「だ、大丈夫だ。し、心配ない……ただ少し気持ちを整理する時間をくれ……」

 

武蔵への恋心を自覚した瞬間に、武蔵の側に美女がいるのを見てユーリアはふらふらとトロイエ隊の部下の元へ向かった。

 

私はもう駄目かもしれない……

 

がんばれ隊長。

 

武蔵は良く判ってない感じですよ。

 

まだ大丈夫です! 諦めない限り試合終了じゃないですよ!

 

部下に励まされているユーリアをリリーは遠い目で見つめ、せめてもの情けとその背中でユーリア達を不思議そうに見つめている武蔵から覆い隠した。

 

「ん、んッ! 積る話もあるでしょうからブリーフィングルームに向かうのはどうでしょうか?」

 

「そうだな。武蔵君、カーウァイ大佐、イングラム少佐。何があったのか、そして今まで何をしていたのかを教えてくれ」

 

リリーの言葉に頷きビアン達が格納庫から消えると、ユーリアは今度こそ膝をついて蹲った。それを見てリリーは前途多難ねと呟いて、ブリーフィングルームで会議を行うビアン達の下へお茶を運ぶ為に格納庫を後にするのだった……。

 

 

第5話 帰還 へ続く

 

 

 




次回は状況整理の話とラングレーの制圧事件の後始末の話をしているキョウスケ達の話を書いて行こうと思います。ユーリアさんが尋常じゃないポンコツ属性になっているのは、ギャグ要因と言う事で温かい目で見てあげてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 帰還

第5話 帰還

 

謎の敵勢力を退けたクロガネは海中に一時身を潜め、イスルギ重工の暗躍の裏付けにでたバン大佐が戻るのを待つ間。武蔵達が何をしていたのかと言う話し合いを行おうとしていたのだが、それは前途多難な始まりだった。

 

「……」

 

「エキドナさん、ちょっと話し合いするだけですから、大人しく治療を受けてください」

 

「フルフル」

 

武蔵達と行動を共にしていた女性――「エキドナ・イーサッキ」が武蔵と離れることを非常に拒み、医務室の入り口の所で武蔵のマントを掴んで動かなくなってしまったのだ。こうなると、先にグライエンを医務室に入れたビアンの判断は英断だろう……なんせかれこれ30分はこの有様だ。

 

「すぐ戻りますから……ね?」

 

「……本当?」

 

「本当ですって、ね、こうしてエキドナさんがオイラを捕まえていると余計に時間が掛かりますから」

 

武蔵の懸命な説得でやっとエキドナは武蔵のマントから手を離し、あきれた様子で待っていた医務室の女医に手を引かれて医務室に消えていった。

 

「あー彼女は記憶喪失の前からあんな様子だったのかね?」

 

「ユーリアさんとかリリーさんみたいにキリってした格好良い人でしたよ……」

 

ふうっと溜め息を吐いた武蔵にビアン達はお疲れ様と声を掛け、改めてブリーフィングルームに足を向けたのだった。

 

「過去にいたと言うのか武蔵君達は」

 

最初の議題は勿論何故生きていたのならば連絡を取らなかったのかだった。だが武蔵達の話を聞けば、連絡を取りたくても過去にいては物理的に連絡が取れなかったと言う事、そしてクロガネが襲撃を受けている最中にこの時代に戻って来たとの話だった。

 

「失われた時代とはどんな物だったのですか、大佐」

 

「……酷い物だった。荒廃した大地と汚染され、太陽の光さえ届かぬ暗黒の世界だったよ。しかもあちこちに化け物だ、確かにあんな有様では政府が隠蔽しようとしたのも頷ける」

 

「映像記録もあるが……見てみるか?」

 

イングラムの問いかけに頷ずくとブリーフィングルームのモニターに失われた時代での武蔵達の戦いが映し出された。

 

「むう……ここまでとは……」

 

「酷い有様だな、恐竜帝国の進撃が子供の遊びに思えてくる」

 

「あれが地球の人口の殆どを殺したと言う化け物か……おぞましいといわざるを得ないな……」

 

荒廃した大地を駆けるインベーダーの悪辣な姿に歴戦の兵士であるエルザム達も顔を歪める。

 

「この時代ってオイラが特攻した後の時間だったらしくて、昔の仲間にも会えましたよ。短い時間ですけど……うん、会えて良かった」

 

自らの手の平に拳を打ちつけながら武蔵は良かったと楽しそうに笑った。

 

「……こんな事を言うのはなんだが……武蔵君は元の時代に残る事も出来たのではないかね?」

 

「いや、それが出来なかったんですよね。いや、別に新西暦に戻りたくなかったって訳じゃないんですけど……真ドラゴン、早乙女博士の作った最後のゲッターの暴走を止めたら身体が透け始めたんですよ。それを見て、唐突に理解したと言うか……もうオイラは旧西暦の人間じゃないんだなあって……漠然と理解しちゃって」

 

SF染みた話だが、アイドネウス島で特攻したはずの武蔵は旧西暦に再び飛んだ。だがそれは真ドラゴンと言う規格外の化け物を押さえ込む為の物だったのかもしれない。武蔵自身も良く理解していないと言う様子だったが……武蔵は何か大きな運命の歯車に取り込まれていたのかもしれない。

 

「ではあの新しいゲッターロボは……」

 

「ゲッタードラゴンセカンド……オイラはD2って呼んでますけど、早乙女博士の作り出した最後のゲッターロボです。真ゲッターと真ドラゴンの間の試作機みたいですね」

 

モニターに映っているゲッターロボをより戦闘特化にした大型ゲッターロボ「真ゲッター」

 

そして巨大な建造物にしか見えない異形のゲッターロボ「真ドラゴン」

 

その姿を見ると確かに意匠や装甲は真ゲッターロボとゲッターロボGに近く、後継機と言うのにも納得だった。

 

「ではお前達は失われた時代での戦いの後にすぐに、この時代に戻ってきたのか?」

 

ラドラの問いかけに武蔵達は首を振ってラドラの問いかけを否定した。

 

「失われた時代での戦いを切り抜けた俺達は、平行世界の新西暦に迷い込んだ。そこではインベーダーと機械と生物の融合態のような謎の生物群と人類の生存競争が行われていた」

 

切り替わった画面を見てビアン達は眉を細め、息を呑んだ。今度の光景はビアン達も良く知る新西暦の建造物が崩壊し、荒れ果てた有様だったからだ。

 

「旧西暦でトライロバイト級の「エルドランド」を発見した。だがビアン、お前なら判る筈だ」

 

イングラムの問いかけにビアンは腕を組んで小さく頷いた。

 

「トライロバイト級は開発者は死亡し、未完成の図面が残されているだけの戦艦だ。つまりありえてはいけない兵器と言う奴だな」

 

「そのとおりだ、だがこの通り俺達は旧西暦で殆ど完全な状態のトライロバイト級と破壊されたPT郡を発見した」

 

モニターに映し出された光景は海上に浮かぶ丸っこい特徴的なシルエットの戦艦と、穴だらけになったPTや見た事のない人型機動兵器の残骸だった。

 

「む? イングラム。その機体の破壊の跡は……アルトアイゼンか?」

 

「流石ATXチームの隊長だな。ゼンガー……ああ、この破壊を行ったのはアルトアイゼンだが……それはもう少し後で詳しく説明しよう。今はエルドランドの話を続けさせて貰うぞ」

 

ATXチームの隊長であり、何度もアルトアイゼンと戦ったゼンガーはエルドランドの周辺の破壊されたPTを見て、それがアルトアイゼンの仕業であると見抜いたが、イングラムは今はエルドランドの話を優先したいと言った。

 

「エルドランドには俺が乗っていた機体の原型になった「量産型R-SWORD」と「量産型SRX」が存在していた、だが量産型SRXはインベーダーに寄生されメタルビーストSRXとなり、俺達と真ゲッターロボと戦った。その時は俺達が勝利を収めたが、量産型SRXの残骸は確認出来ず、恐らくだが……膨大なゲッター線によって時空を越えて建造された平行世界の新西暦……この場ではあちら側と呼称するが、あちら側へと転移した。あちら側についての詳細は俺達も完全に把握している訳では無いが……エアロゲイターではなく、別の敵性異星人の襲撃を受けて分岐した世界だった」

 

「なるほどとんでもない世界を生き抜いてきたという訳だな」

 

イングラムの話を聞いていたビアンはほんの触り程度だが、武蔵達がどんな戦いをしてきたのかを察した。少しでも判断を間違えれば、死ぬ……燃料や弾薬の補充もままならない世界で必死に生き延びて、この時代に帰って来たのだと察するに余りあった。

 

「私達はそこでシャドウミラーと言う連邦部隊と遭遇し、共に生き延びこの時代へと転移してきたが……あの世界では私達は味方だったが……この世界では敵同士となるだろう」

 

「それは何故だ? 共に戦ったのだろう? 何故敵対する理由がある?」

 

「その理由は簡単だ。シャドウミラーが掲げるのは「永遠の闘争」。永続的にコントロールされた戦争を続け、発展を目指すという物だからだ。その思想に共感出来るか?」

 

イングラムの問いかけに首を縦に振るものはいなかった……エルザム達は確かに兵士だが、戦争を望んでいるわけでは無い。永遠の闘争など受けいられる訳がないからだ。

 

「エキドナはシャドウミラーの構成員にして……人造人間だ。シャドウミラーは戦い続ける為に命を作り出すという禁忌にまで手を伸ばした。そんな集団がこの時代に紛れ込んでいる……本当ならば姿や名前を言えればいいんだが……それも叶わない」

 

「どういうことかね? 一緒に戦ったのだから名前や容姿を教える事は出来るのでは無いか?」

 

「……世界を超えるというのは非常にデリケートなことなんだ。そして世界には修正力と言うものがある……カーウァイとは話し合って情報のすり合わせをしたが……武蔵……お前あいつらの事を覚えているか?」

 

イングラムの問いかけに武蔵はすいませんと謝ってから首を左右に振った。

 

「……すんません、全然思い出せません。エキドナさんの事は覚えているんですけどね……」

 

「つまりなんだ……。お前達はあちら側からこちら側に戻ってきたときに記憶を封印されたとでも言うのか?」

 

「そうなるな……言いにくい事だが……シャドウミラーが起す筈の騒乱が起きる前に俺達に止める術は無いと言うことだ」

 

脅威があるとそれを伝えるべく戻って来たイングラム達だが、その事を話す事は出来ず構成員もどんな機体を運用しているかもビアン達に教えることが出来ないのだった……。

 

 

 

 

イングラム達が覚えていた「あちら側」の話はあやふやで、そして継ぎ接ぎだらけのものだった。武蔵とカーウァイとイングラムの3人で話し合い、情報のすり合わせを行い、覚えている内容を纏めるとはっきりと覚えている事は決して多くはなかった。

 

1つ エキドナ・イーサッキが人造人間であると言うこと。だが、武蔵に救われたからか、人間性を帯び始めておりそれが判っているからイングラムとカーウァイも警戒はしつつもクロガネに連れて来ることを決めた。

 

2つ あちら側の世界では生物と機械の融合態のような奇妙な生物とその生物に寄生された「キョウスケ・ナンブ」とアルトアイゼンが猛威を振るっていたと言うこと……。

 

3つ 連邦政府が計画した地球を覆うバリアを作り出すシステム……「イージスシステム」の暴走がキョウスケに寄生した生物とインベーダーの出現を齎した、故にイージスシステムの起動はこの世界でも何か大きな事件を呼び込む前兆になりかねない。

 

4つ 時空を越える奇妙な生物の存在

 

5つ 武蔵達が転移に成功しているので、確実にシャドウミラーもこの世界にいるであろうと言うこと……。

 

大きく纏めるとこの5つがイングラム達から与えられた情報だった。

 

「教えてもらえた事はありがたいが、あちら側の情報に関しては俺達の不安をあおるだけだな」

 

「それに関してはすまないとしか言えないな……シャドウミラーの構成員と出会えば……あるいは、シャドウミラーが大きく動けば……俺達も記憶を取り戻す可能性はあるとしか言いようがない」

 

あやふやで不明瞭な記憶では、警戒を強めろとハガネやヒリュウ改に伝える事も出来ない。

 

「なるほどな。では今度はこちらの番だ。まずだが……武蔵君達が過去に飛んだ後は、連邦政府もその方針を大きく変え、地球防衛の為の新機体の開発などに力を加えている。その中でももっとも大きな事業と言えば……「量産型ゲッターロボ計画」だ」

 

「……すいません、あの何処の馬鹿がそれを計画したんですか?」

 

「ああ、それは俺も思う。あんな物を量産してどうするつもりだ? それともビアンお前ゲッター炉心の情報を連邦に流したのか?」

 

「いや、ゲッター炉心の情報は流していない、ただアメリカの議員の1人「ブライ議員」が先導になった計画とは聞いている」

 

ゲッターロボは戦闘能力こそ高いが、それはゲッター炉心による膨大なパワーが前提となっている。ゲッター炉心もない、ゲッター合金もない……それではゲッターロボの戦闘力を再現する事は出来ず、正直言って予算と材料の無駄と言わざるを得ないだろう。

 

「ブライ……百鬼帝国の大将がブライって言うんですけど、そのブライ議員って言うのオイラと同じなんじゃないですか?」

 

隼人や弁慶から百鬼帝国の長はブライという鬼だと聞いていた武蔵はブライと聞いて、自分と同じで転移してきた人間じゃないか? とビアン達に尋ねた。

 

「いや、連邦議員だから国籍や経歴はしっかりしている。旧西暦の存在だとしたらそこまで完璧な経歴は準備出来ないだろう、一応簡単なプロフィールならすぐに見せれるぞ」

 

ビアンがコンソールを操作し、モニターにブライの経歴を呼び出した。年齢65歳、ジュニアスクールから大学まで一貫して神童と呼ばれた天才児で、高校、大学ではアメフトの選手として活躍。大学卒業後は就職し、32歳で独立、その後40台後半で選挙に立候補し、無事に初当選を果たし、そこから約20年間ずっと議員を続けており、アメリカの南西部で絶大な支持率を持つ連邦議員――それがブライの経歴だった。

 

「ここまでしっかりしていると武蔵と同じという線は薄いな」

 

「ああ、親との血縁関係も確認されている。同姓同名の別人と見て良いだろう」

 

「……そうですか、オイラの考えすぎですかね?」

 

自分の考えすぎと言いながらも、武蔵の目からブライを疑う光は消えなかった。それだけブライという名前が武蔵の頭の中で引っかかっていた。

 

「まぁブライ議員に関してはおいおい調べていけばいい。話を戻すが量産型ゲッターロボ計画自体は私も失敗すると思っている……量産型ゲッターロボの為にマオ社、テスラ研、イスルギ重工などのありとあらゆる企業の技師が集められているのが気掛かりだ」

 

「確かにな……それは怪しいな」

 

技師を一箇所に集める……量産型ゲッターロボ計画の裏側で何か、別の計画が動いている可能性は極めて高い。

 

「あ、そうだ。ビアンさん、百鬼獣ってかなりの数が出現してるんですか?」

 

「百鬼獣とはクロガネを襲ったあれかね? 武蔵君が言っていた百鬼帝国というのを何か関係があるのか?」

 

武蔵の問いかけにビアンが逆に尋ね返すと武蔵は自分が知っていることを話し始めた。

 

「オイラも詳しく知っている訳じゃないんですけど……どうもオイラが死んだ後にリョウ達が戦っていた組織の兵器みたいで、生物と機械の特徴を持ってるみたいです」

 

「……なるほど、道理で歯が立たない訳だ……恐竜帝国の同類と言う事か」

 

クロガネの戦闘班が壊滅寸前に追い込まれたのも納得だ。旧西暦の技術で作られたオーバーテクノロジーがふんだんに使われた特機が集団で襲ってきたのだ。腕の良いパイロットが揃っていても、劣勢に追い込まれたのも納得だ。

 

「それよりもだ。あの戦艦に乗っていた男の声はビアンの物だったな」

 

「その件についてだが、グライエン議員を襲っていたのもグライエン議員と同じ顔をした男でした」

 

エルザムの報告を聞いてクロガネを襲った敵勢力とグライエンを襲った敵勢力は恐らく同じ存在であるという事が明らかになった。

 

「私を殺して今日からあいつがビアン・ゾルダークになると言っていたな……」

 

「考えたくない話ですが……百鬼帝国とやらは相当根深く活動しているようですね」

 

「問題はどこに敵がいるか判らないと言うことだな」

 

あそこまで完璧に変装出来るのだ、連邦軍にも、そして政治家の中にも百鬼帝国の手が伸びている可能性は極めて高い。だが敵と味方の区別がつかないのでは公にすることも出来ない。疑心暗鬼となれば、内輪揉めで人類は追詰められることになるからだ。

 

「頭が痛い問題ばかりだ……ラングレーの事もあるのに」

 

「ラングレー基地の事か? あの基地はDC戦争で廃棄されたのでは?」

 

イングラムの記憶ではラングレー基地は壊滅した所で止まっている、ラングレー基地が再稼動していると思っておらず、どうなっている? と尋ねる。

 

「いや、先日ラングレー基地は司令部の場所を一部移転して復活したんだが……そこにヴァルシオン改の発展機が隠されていたらしくてな……テロリスト、間違いなくアードラー一派の生き残りだろうがそれに奪取された」

 

「あのくそジジイくたばってても余計なことしかしねえな」

 

武蔵がポツリと呟いたが正しくその通りである。アードラー・コッホは既に死去しているが、死んでいても余計な事をする相手と言うのは少ないが存在している物だ。

 

「あの戦いの後地球は平和に向かって居たんだがな……すまない、こんな事になってしまった」

 

「ビアンさんが悪いんじゃないですよ、それに何よりも大きな騒動が起きる前に戻って来れて良かった」

 

また地球を守る為に戦えると笑う武蔵、今回の戦いは前回よりも激しい物になると全員が黙っていても察していた。戦いが本格的になる前に武蔵やイングラム、そしてカーウァイが戻って来たのはクロガネにとって間違いなくプラスだった。

 

「表舞台に出るつもりは無かったが、裏で動くとしても相当に疲れることになりそうだな。カーウァイ」

 

「望む所だ、今度こそ私は最後まで地球を守るために戦える」

 

「……それは嫌味か?」

 

「思い当たる節しか無いだろう?」

 

にやりと笑うカーウァイにイングラムは肩を竦めて笑った。イングラムとカーウァイの間に不穏な空気は無く、仲間として協力し合える関係であると言うことが判った。

 

「これから苦しい戦いになるがよろしく頼む」

 

ビアンの言葉に武蔵達は勿論だと笑い、再び武蔵達は地球を、仲間達を守る為に動き出すのだった……。

 

「エルザム、ゼンガー、ラドラ。鈍りきったその身体を鍛えなおしてやる、来い」

 

「「「ご指導ありがとうございますッ!!!」」」

 

新兵かと言う勢いで返事を返すエルザム達はカーウァイに連れられてブリーフィングルームを出て行く、武蔵とイングラムはその姿を溜め息を吐いて見送る。

 

「もう少しゆっくりすれば良いのに」

 

「カーウァイも部下に会えて嬉しいのさ、俺はR-SWORDとタイプSから情報を可能な限り吸い出してくるとしよう」

 

イングラムも端末を片手に手を振り、ブリーフィングルームには武蔵とビアンだけが残された。

 

「武蔵君、いきなりで耳が痛いと思うが……アイドネウス島での特攻のような真似はしないと約束してくれ」

 

「……判ってます。過去に行った時……皆に怒られて、あの時はあれでよかったと思ってましたけど……自分の行いが間違ってたっていやって言うほど思い知りましたよ。だから今度は皆で生き残る為に戦いますよ」

 

「……そうか、それなら良かった……武蔵君、改めて言おう。お帰り、良く戻って来てくれた」

 

差し出されたビアンの手と握手を交わした。これからの戦いを今度こそ最後まで戦い抜いて、皆と共に笑って大円団を迎えてみせると武蔵は改めて誓うのだった。クロガネを襲った百鬼帝国……、そしてラングレー基地を襲い、ヴァルシオン改・タイプCFと量産型ゲッターロボを奪ったテロリスト集団……それらの影で暗躍するであろうシャドウミラーと戦う為に再び武蔵はビアンの手を握るのだった。

 

「所で武蔵君、エキドナ君だったかな? 彼女とは付き合っているのかね?」

 

「……あのビアンさん、急に何の話ですか?」

 

「いや、随分と親しいように見えたのでね」

 

「別にそういう関係じゃないですよ」

 

「そうなのか、邪推してすまなかった、そうそう後でユーリアに顔を見せてやって欲しい、彼女は武蔵君を探して随分と頑張ってくれたからね」

 

「勿論ですよ。皆にも顔を見せて回ろうと思ってます」

 

「そうしてやってくれ、きっとユーリアも喜ぶ」

 

ユーリアが武蔵を思っているのは判っているので、少し背中を押してやろうと老婆心を出すビアンなのであった……。

 

 

 

 

武蔵達がクロガネと合流した頃。ラングレー基地第4試験場では……今回の事件の後処理が行われているのだった。

 

「そうか……奴らは逃げ切ったのか」

 

「はい。S-AWACSの方でも追尾不可能だったそうです」

 

ラングレー基地から逃亡したヴァルシオン改・タイプCFと量産型ゲッターロボの追跡を行っていた部隊からの、見失ったという報告を聞いてカイは小さく肩を落とした。

 

「詳細な情報がもっと早く来ていれば何とかなったかも知れんが……後の祭りか」

 

「そうですね、クレイグ司令も知らなかったようですしね」

 

「全くあの蛸坊主は余計な事しかしないなッ!」

 

ケネス・ギャレットと言う男は現場からとことん嫌われている軍人だった。自分の出世の為には捨て駒も平気で行う、カイも何度か顔合わせをしているが徹底的にそりの合わない人種だった。カイが悪態をついていると試験場の司令室の扉が開く音が響いた

 

「……カイ少佐、事情聴取が終わりました」

 

ラングレーからの応援部隊の事情聴取に同席していたラトゥーニがバインダーを手に入出してきた。

 

「あのヴァルシオンについて何か判ったか?」

 

「はい。あの機体はDC戦争後、イスルギ重工で秘密裏に開発が進められていたものだそうです」

 

「……連邦軍の依頼でか?」

 

ラングレー第4試験場に運び込まれていたと言う事、そしてケネスが失脚してからのことを考えると今回の事件は完全にクレイグの失脚を狙った妨害工作の可能性が高い。

 

「ええ。それで、この試験場でテストを行う予定だったと……命令はジュネーブからになっているそうです、命令書とジュネーブからのSSSクラスの通信履歴がありました」

 

ラトゥーニの報告を聞いてカイとライは眉を顰めた。命令書だけならまだ判る、しかしジュネーブからの直接の辞令となると前回のDCの戦争の時のように今回のテロリストと軍上層部が内通している可能性が浮上してきた。

 

「嫌な流れだな、クレイグ司令だけでは無い、伊豆基地のレイカー司令にも話を通しておこう」

 

「そうですね、クレイグ司令に責任を擦り付けるつもりかと思いましたが……ジュネーブが動いているとなると相当きな臭いですしね」

 

これが普通の機体ならまだ良い、だがDCのフラグシップのヴァルシオンのマイナーチェンジ機となるとDCの名を使いたい集団にとっては恰好の獲物だ。

 

「クレイグ司令も運が無いな、いきなり貧乏くじだ」

 

「大丈夫ですよ、カイ少佐。クレイグ司令は若いですが、芯のある人です。今回の件の逆境など笑って跳ね返すでしょう。それよりも問題はイスルギ重工の方かと」

 

「キョウスケ……そうだな、その通りだ。社長が代わっても、この体たらくだ……やはりイスルギ重工は信用ならんな」

 

司令室に入ってきたキョウスケの言葉を聞いてカイは眉を顰める。前回の戦争でDCに協力し、社長が変わったことでクリーンになったとアピールしているイスルギ重工だが今回の件でそのイメージは完全に瓦解しただろう。

 

「横流しをしたのは、DC残党のスパイか、それとも会社ぐるみの犯罪か……」

 

「少尉、その両方かも知れんぞ」

 

考えれば考えるほどにイスルギ重工の怪しさが浮き彫りになる。捕まった保安係長が捨て駒だったのか、それともDCのスパイが居たのか……叩けば幾らでも埃の出てくる企業だ。警戒を緩めることは出来ないだろう……

 

「いずれにせよ、そこら辺の追及は俺達の仕事の範疇外……問題なのは、活発化してきている残党共の動きだ」

 

「ええ。彼らは大規模な武装蜂起を目論んでいるのかも知れません……」

 

今回の一件が再び大きな騒乱の幕開けになる……キョウスケ達はそれを口にすることは無かったが、全員がそれを感じ取っていたのだった。

 

「そうか、ご苦労。輸送機を送るので、それに乗って帰還してくれ」

 

第4試験場での報告を簡潔だが聞いていたクレイグは態々呼び寄せた部下の前だが、深く溜め息を吐いた。

 

「大丈夫ですか? クレイグ司令」

 

クレイグの前で直立不動で待っていたアジア系の青年を見て、クレイグはすまないと謝罪の言葉を口にした。

 

「すまないな、リー・リンジュン中佐」

 

「いえ、問題ありません。むしろ私の方こそ、このようなタイミングで来てしまい申し訳ありません」

 

クレイグの謝罪の言葉に自分こそ悪いと謝罪するリーの姿にクレイグは苦労して引き抜いた甲斐があったと確信した。

 

「そう言って貰えると助かる。リー中佐、君とシロガネにはATXチームを預ける。遊撃部隊としての活躍を期待している」

 

「はッ! お任せください。ゲッターロボと共に戦ったL5戦役の英雄と共に戦えるとは光栄です」

 

その言葉に偽りは無い、リーにとって北京でゲッターロボと共に戦い、家族を守り抜いたハガネ、ヒリュウ改のクルーと共に戦えるというのは最大の誉れだ。クレイグによる引きぬきによって中国の連邦軍からアメリカの連邦に席を変えたが、それが無くてもリーは自分からアメリカへの転属を望んだろう。

 

「うむ、これからの活躍を期待しているぞ、リー中佐」

 

「はっ! ご期待に応えれるように励む所存であります」

 

正史では北京で家族を失ったリー・リンジュンだが……この世界では愛する者全てが生きているリーは決して歪むことなく、そして僻む事無く真っ直ぐに、そしてストイックに己を鍛え上げてきた。いずれは、ハガネ、そしてヒリュウ改のように地球を守る連邦軍の盾として、剣として己の職務であるスペースノア級の艦長として采配を振るう事を希望してきた。そのチャンスが訪れた事にリーは喜びを隠す事が出来ず、まるで新兵のようにクレイグに敬礼を返すのだった……。

 

 

 

 

クレイグにリーが着任挨拶をしている頃。ブリットはカタログを覗き込みながらうなり声を上げていた。

 

「どうした? なにをそこまで考え込んでいる?」

 

「キョウスケ中尉。いえ、そのヒュッケバイン・MK-Ⅱが大破し、修理が無理だという事でゲシュペンスト・MK-Ⅲを受領したんですが、どのカスタムにするかと」

 

「わお、ブリット君。オニューのゲシュちゃんのカタログ貰ったの? 見せて見せて」

 

キョウスケとブリットの話にエクセレンが割り込み、ブリットの持っているカタログをさっと奪って目を通す。

 

「へえーこんなに種類が増えてるんだ」

 

「ええ、俺としては剣撃特化のKタイプが好みなんですが……」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Kタイプ――肩部・脚部・背部に鋭利なシルエットのブースターと一体化した装甲を増設し、切り込む速度を強化し、頭部の角型のセンサーの感度を上げ、最大加速のまま避けると言ったことも可能にしつつ、数発程度の被弾ならば何の損害にもならない重装甲の胸部装甲を装着した剣撃特化型がブリットの好みらしいのだが……。

 

「腕の感覚か、試して駄目だったのか?」

 

「ええ、どうもK型では俺の感覚に合わなくて、それにシシオウブレードも今のままでは搭載できなそうなんです」

 

「え? そうなの? じゃあ、これは? 砲撃仕様のほうのSは? 武装を少しオミットして、装甲の一部をKに変えてもらうとか」

 

リオも使った砲撃装備をしたゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sを進めるエクセレン。Kタイプと異なり、流線型の装甲とビームキャノンを内蔵したシールドと一体化した腕部装甲を装着し、肩部には複合型のビームコートを搭載しておりビームに対しては無類の強さを誇り、機動力を犠牲にした重装甲、そして背中のビームキャノンと実弾キャノンの計4門の砲塔を背負った姿は正しく動く要塞と言う形相だ。

 

「ブリットには合わないだろう」

 

「ええ、ちょっとこれは俺には合いませんよ、それにそこまで組み換えが出来るって言う話も聞かないですし」

 

「そうかな? 案外いけると思うけど……じゃあこれは? タイプA」

 

「死にます」

 

「乗ってみれば、案外マシかもしれんぞ? アルトより加速度は落ちている」

 

「キョウスケ中尉死にます。想定されるGだけで無理だって判ります」

 

タイプAはアルトアイゼンを簡略化しているが、右腕のリボルビングステーク、左腕の4連マシンキャノン、肩部のブースターとクレイモアの代わりに搭載された実弾の砲門など、アルトアイゼンの癖を減らしたような姿だが加速力はやはり段違いで、危険と大きく書かれていた。

 

「んーじゃあさ、ノーマルにする? でもあれだと今度はブリット君に付いてこれないんじゃない? あ、タイプKとかSとかWとかのパーツを少しずつ装備してる?」

 

「そんなのしたら機体バランスがバラバラすぎて操縦なんて出来ないですよ……でも困ったな、どうしようか」

 

妥協するか、どうするかと話し合っているとラングレーの開発チームと見覚えの無いツナギ姿の技術者が駆け足でやって来た。

 

「ブリット、お前に合わせてKタイプを改造してやるぜ!」

 

「サムライカスタムだぁッ!!」

 

「ヒャッハー行くぜぇッ!!」

 

「好きに改造できるとか最高だな!!」

 

「あれ分解許可貰ったか!?」

 

「貰いました! ヒュッケ・MK-Ⅱはもう解体してます!」

 

「しゃあ、行くぜぇ!!! おい、どんなのがいいんだ!? キッチリ要望を言えよ!!」

 

「え。ま、待っ……うわあああーーーッ!?」

 

ブリットを担ぎ上げて走っていく開発チーム。その一瞬の惨劇をキョウスケとエクセレンは呆れ顔で見つめる。

 

「なにあれ? あんな人達いた?」

 

「テスラ研からの応援チームではなかったか?」

 

「あー……なんかあれだけど、良いんじゃない? ブリット君にぴったりのゲシュちゃんになりそう」

 

「だな」

 

正規の使用のカスタムでは感覚にあわないのならば、専用のカスタマイズしかないだろう。

 

「でもあの感じじゃ休めないわよね」

 

「軽い打撲程度だから大丈夫だろう」

 

出撃して軽い休憩はしているが、あの様子では休めそうに無いなとキョウスケとエクセレンは呟くのだった。

 

「どうだあ? 腕の感じは良くなったか?」

 

「はいッ! 後は出来たら肩部と頭部のパーツをもう少し鋭利な感じで空気抵抗のほうを」

 

「OKOKッ!」

 

疲れは感じていたブリットだったが、自分の為にすぐに装甲を調整してくれる整備班に悪い感情を抱く訳が無く、協力し合いながら自分の専用機のゲシュペンスト・MK-Ⅲの改造に全面的に協力しているのだった。

 

 

第6話 これから へ続く

 

 




次回は本来ならば「美しき侵入者」の回ですが、そこはスキップしたいと思います。話の流れで考えるとラミアはもう少し後で触れて行きたいので、アンジュルグの合流シーンは省いて、クロガネでの武蔵や、誰だお前状態のリーとATXチームの話を書いて行こうと思います。暗躍しつつ、動く予定を立てている武蔵達と若干ポンコツ疑惑のあるユーリアさんとかでほのぼの見たいな感じで書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 これから

第6話 これから

 

無事にクロガネへと合流した武蔵、イングラム、カーウァイの3人はクロガネから集めれる情報を集め始めていた。

 

「……連邦軍の時期主力量産機はゲシュペンスト・MK-Ⅲか……」

 

「あの化け物の事を思い出したいのに、どうしても思い出せないんですよ」

 

武蔵が眉を顰めながら呟いた。しっかりと脳裏には化け物になったアルトアイゼンの姿があり、キョウスケやゼンガーがそれに寄生されていたことも覚えている。だが何故か、一体「何」に寄生されていたのが思い出せないでいた。

 

「俺もだよ。カーウァイにも聞いたが覚えていないそうだ」

 

「あれだけ何回も戦ったのに……」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲを異形に変え、キョウスケを人なざる物に変えた生き物――その生物の名前をどうしても思い出せず武蔵達は顔を歪めた。

 

「世界を超える弊害って大きいんですね」

 

「ここまで大きい影響が出るのもそう無いがな……」

 

シャドウミラーの事と謎の生命体の事……それらを覚えていれば出来る事も変わるんだがなと苦笑していると、資料室の扉が開いた。

 

「武蔵、ビアンが呼んでる」

 

ちらりとそちらに視線を向けるとエキドナの姿があり、それを見てイングラムは心の中で小さく溜め息を吐いた。もう少し、武蔵と打ち合わせがしたかったが……それもここで中断のようだ。

 

「態々すいません。エキドナさん、すぐ行きます」

 

武蔵が席を立ち、エキドナと一緒に資料室を出て行く。その姿を見送り、イングラムはモニターの前で腕を組んで思案顔を浮かべる。

 

(・・・・・・百鬼獣か……想像以上に難敵のようだな)

 

L5戦役では主戦力として活躍していたゲシュペンスト・シグでさえも一方的に中破させるだけのパワーがあり、そしてかなりの数が量産されているのはクロガネの戦闘データを見れば明らかだった。

 

「……俺もビアンの所に行くか」

 

ハッキングで入手出来る情報も限られている、ビアンの見解とビアン親派で連邦に属している軍人からの情報も聞いて、そこから今後の方針を定めるべきだと判断し、イングラムも資料室を後にしてビアンが呼んでいると言う格納庫に足を向けたのだが……。

 

「……ずぅーん……」

 

「うおっ……ゆ、ユーリア。お前……何してる」

 

通路の影で瘴気を放っているユーリアを見て、イングラムはおもっきり引きながらもどうした? と尋ねる。

 

「私が武蔵を呼びに来たのにエキドナに邪魔をされて……あの女……あの女……」

 

ぶつぶつ言いながら歩いていくユーリアをイングラムは呆然とした様子で見送り、クロガネの通路の天井を見上げた。

 

「……なんだあれは、駄目すぎるだろう……」

 

イングラムも決して異性の扱いに慣れていると言うわけでは無いが、それを差し引いてもユーリアに反応は酷すぎると呟き、格納庫に今度こそ足を向けた。

 

「あれ、イングラムさん。もう情報収集は良かったんですか?」

 

ユーリアに武蔵を呼びに行ってくれと頼んだはずなのに、何故かエキドナと一緒に来た武蔵に不思議そうな顔をしているビアンと、武蔵のマントを掴んでいるエキドナ、そして自分を取り囲んでいる状況を理解していない様子の武蔵……。

 

「……ああ、俺も百鬼獣の分析に興味があってな」

 

イングラムでも判った、この話題に触れてはいけないのだと……だから誤魔化すように百鬼獣の頭部にコードを繋いでいるビアンの元に足を向け、武蔵から離れる事を選ぶのだった……。

 

(カーウァイ、お前何とかしろよ)

 

この状況を知っているのに、意図的にこちらを見ようとしないカーウァイ。そんなカーウァイをイングラムは睨みつけたが、馬に蹴られたくないと言う気持ちは判るので自分も逃げるという選択をすると気付いて、人の事は言えないかと深く溜め息を吐いた。

 

「脇が甘い! そんな踏み込みで良いと思っているのかッ!!」

 

ゼンガー達と組み手をして檄を飛ばしているカーウァイを見て、ゼンガー達との訓練に逃げたなと睨みながら百鬼獣の分析作業に合流する事にするのだった……。

 

「リリー中佐。またも出し抜かれてしまって私はどうすれば……」

 

「休憩のタイミングでサンドイッチと飲み物を差し入れするのはどうでしょうか?」

 

「な、なるほど! そうしたいと思います!」

 

軍人としては優秀だが、女性としては余りにもポンコツ過ぎるユーリアにリリーは深く溜め息を吐くのだった……こんな様子で武蔵に自分の思いを伝える事が出来るのか、同じ女として不安を抱かずにはいられないのだった……。

 

 

 

 

 

 

ビアンがクロガネで百鬼獣の分析を始めている頃。ラングレー基地の司令室では……。

 

「リョウト君、リオ君。今回は助かった、ラングレー基地の司令として君達に感謝する」

 

ラングレー基地の教導隊候補の技量が低く、最終的に協力してくれたリオとリョウトにクレイグは頭を下げていた。

 

「あ、頭を上げてください。基地司令がそうやすやすと頭を下げる物ではありません!」

 

今リョウトとリオはマオ・インダストリー社へと出向し、その所属はマオ社の社員としての扱いであり、軍属では無い。それでも基地司令がそうやすやすと頭を下げていいものではないと言って頭をあげる様に言うが、それでもクレイグは頭を上げず、たっぷり1分頭を下げた後にやっと頭を上げた。

 

「基地司令と言うのは関係ないのだよ。君達が協力してくれたお陰で犠牲者も無く、第4試験場を奪還でき、そしてその上ジュネーブの作戦担当がラングレーにヴァルシオン改・タイプCFを運び込ませたと言う命令書も復元出来た。君達2人には感謝の言葉しかない、本当にありがとう」

 

クレイグ・パストラルの立ち位置は決して良い物では無い、他のアメリカの基地がSRX計画、ATX計画に反対意見を出していた中それを強行した亡き父であるグレッグの遺志を継いでATX計画の続行。そして量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲの開発に尽力し、伊豆基地のレイカーとも親交が深い。それは量産型ヒュッケバイン・MK-Ⅲを正式採用させたい他の基地との対立を呼び、その結果がヴァルシオン改・タイプCFのラングレー基地への放棄とテロリストの誘導に繋がっているのだ。

 

「い、いえ、そのハッキングは正直褒められた物では無いかと……」

 

「そう卑下する事は無い。優れた技術は使う者によって善・悪に分かれる、リョウト君。君のお陰で私は上層部と戦う武器を手にしたのだ、これがなければ私は責任を追及され基地司令の立場から降ろされる所だったよ」

 

今回の一件すべてはクレイグの失脚を望む一派の謀略だった。それを暴いてくれたリョウトにクレイグは深く感謝をしていた。

 

「司令、感謝の言葉を告げたいのはわかりますが、これ以上2人をラングレーに残すのは危険です」

 

今回の一件で査察団が来る事になる。その時リョウトとリオがいれば事情聴取で帰れなくなると進言したカイにクレイグは頷き、司令室に待機していたラトゥーニに視線を向けた。

 

「カイ少佐……ああ、そうだな。ラトゥーニ少尉、リョウト君とリオ君をワシントンへ送り届ける手筈を頼む」

 

「……了解しました」

 

ラトゥーニがリョウトとリオを連れ出した後、小さく咳払いしたクレイグはカイに視線を向けた。

 

「今回の一件は相当に根深い、これから行われる試作機のテストには厳重に注意せよ」

 

伊豆基地では「アルブレード」まだフレームの組み立て段階ではあるが「ゲシュペンスト・MKーⅢ・R03カスタム」

 

ハワイのヒッカムでは「ビルトファルケン」「ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R02カスタム」「量産型ヒュッケバイン・MK-Ⅲ」

 

そしてヒューストンでは独自の星間飛行の機体の開発が行われている。今回のヴァルシオン改・タイプCF、量産型ゲッターロボの奪取を行ったテロリスト……いや、かつてDCだった兵士達の暗躍を考えると同じ様な事件が起きる可能性は極めて高い。

 

「了解です。情報封鎖などを厳重に行い、情報漏えい等が起きないように細心の注意を払いたいと思います」

 

「ああ、頼んだぞ。それでは改めて教導隊のテストの準備を始めてくれ、後マオ社、テスラ研、伊豆基地に提出する稼動データの報告書も頼んだぞ」

 

クレイグの言葉にカイが頷き、敬礼と共に退出する。それを見届けた後直立不動で待機していたATXチーム――キョウスケ達に視線を向ける。

 

「随分と待たせてしまって申し訳ないな」

 

「いえ、問題ありません」

 

新たな辞令が出ると聞いて待機してしたキョウスケが敬礼と共に返事を返すとクレイグは小さく頷いた。

 

「基地周辺のパトロールのローテーションからATXチームを外す。そしてキョウスケ中尉、エクセレン少尉、ブリット少尉はシロガネ隊へ所属し、遊撃部隊になってもらう」

 

「「「はっ! 了解しましたッ!!」」」

 

クレイグの命令を聞いて敬礼をするキョウスケ達にクレイグは満足そうに頷いた。

 

「1200よりシロガネへの乗艦を開始してくれ、貴官達の活躍に期待する」

 

もう1度敬礼し司令室を出て行くキョウスケ達を見送り、クレイグは司令室の背もたれに深く背中を預けた。基地司令に就任してまだ1週間も経っていないのに立て続けに事件が起きている――しかも、自分を失脚させようとする者達の謀略、そして謎のテロリスト達の暗躍……。

 

「半年しか経っていないと言うのに……」

 

L5戦役で膨大な犠牲を払いエアロゲイターを退けたばかりだと言うのに、もう既に地球には新たな戦火の狼煙が上がろうとしている。

 

「……やってみせるさ。俺にだって出来る」

 

父が命を捨ててまで見出した希望――ATXチーム、そして地球を守る為に散った軍人達の意志を無碍にしない為にもクレイグは地球を何としても守り抜いてみせると改めて決意するのだった……。

 

 

 

 

ラングレー基地のパトロール隊から外され、遊撃隊にATXチームが転属になること自体はキョウスケ達も何の文句も無かった。問題はその旗艦がシロガネということだった。

 

「シロガネ、シロガネかぁ……私あの船あんまり好きじゃないのよね」

 

DC戦争の前にはエアロゲイターに全面降伏するための調停式に持ち出され、L5戦役序盤ではシュトレーゼマン達が地球を売り渡す為にホワイトスターに向かう為に南極で極秘裏に修理され、そして破壊された。ハガネやクロガネと違い良い印象の無いスペースノア級――それがシロガネだった。

 

「ですが少尉。シロガネの艦長のリー・リンジュン中佐は非常に評判の良い方ですよ?」

 

「リー? どこの国の人かしら?」

 

「中国だ。俺達に面識は無いが、向こうは俺達を知っているだろう。北京でのエアロゲイターとの戦いの際に近くにいたそうだ」

 

ブリットとエクセレンの話を聞いていたキョウスケがリー・リンジュンについて調べていたであろうDコンを机の上に乗せる。

 

「へえ? 理想の上官でダイテツ艦長とかカイ少佐と同じ位にランキングされてるんだ」

 

「……どこを見てるんだ。お前は……」

 

自分が見せたかったのと違う所を見て感心した様子のエクセレンにキョウスケは溜め息を吐いた。Dコンを覗き込んだブリットはリーの功績に目を通し、驚きに目を見開いた。

 

「えっと……部下を誰も死なせないを掲げ、エアロゲイターとの戦いの際に数多の命令違反をしたが、民間人、部下を全て守りきった。凄いじゃないですか、こんな艦長がおられたんですね。あ……でも、いくつか勲章を剥奪もされてますね。その後に民間人を守りきった功績を讃えてスペースノア級の艦長になったらしいですけど」

 

「栄転って言う名目の左遷じゃないの?」

 

「多分な、そういう面では俺達との相性はそう悪くないだろう」

 

命令違反をしているので軍上層部の受けは良く無く、しかし中国方面では英雄となっているので昇進させないわけにも行かず。シロガネの艦長、そしてラングレー基地への転属と、栄転扱いではあるが、その実左遷に近い扱いをされている。

 

「それよりもブリット、お前のゲシュペンスト・MK-Ⅲの改造はどうなっている? 12・00までに間に合うのか?」

 

昨日改造を始めたばかりのゲシュペンスト・MK-Ⅲの事をキョウスケが訪ねる。するとブリットは大丈夫ですよと満面の笑みで笑った。

 

「そろそろ搭載準備が始まると思いますよ」

 

ブリットがそう言うと輸送車に乗せられたヒュッケバイン・MK-Ⅱを同じカラーリングをされたゲシュペンスト・MK-Ⅲが運搬されてくる。

 

「んん? ねえ、ブリット君。あれ侍ガーリオンに似てない?」

 

肩部の装甲や脚部の装甲がテロリストが運用していた侍ガーリオンに似ているのに気付き、エクセレンがそう問いかける。

 

「あはは……なんか応援に来てたテスラ研の技術者が侍好きのようで、あれでも大分妥協したんですよ?」

 

「元々剣撃特化だ。似たような改造になるのは当然だろう」

 

肩部、脚部、腰部に加え、背部にはフライトユニットをベースに改造したであろう可変式のブースター付きのバックバックを装着している。それらの特徴から改造する方向性はアルトアイゼンに似通っている。しかしフレキシブルになっているのでアルトアイゼンよりも柔軟な移動が期待出来るだろう。しかしその反面フレキシブルを搭載する為に装甲を軽量化しているのでキョウスケとエクセレンにはその装甲が薄いように見えた。

 

「でもあれじゃ脆くない?」

 

胸部などの装甲の薄さに気付いてエクセレンがそう指摘する。するとブリットはそう見えますけど違いますと返事を返した。

 

「ヒュッケバインの念動フィールドを移植したので、防御は其方に任せて機動力を強化したんです。後シシオウブレードとコールドメタルソード、コールドメタルブレードの3刀流です」

 

刀を3本装備した理由はキョウスケ達にも判った。ガーリオン・カスタム無明に計都瞬獄剣を折られている、獲物を折られた時に備え予備の刀を装備することを選択したのだろう。

 

「キョウスケ中尉、アルトアイゼンとかの搬入準備を始めるので、キョウスケ中尉達も準備してください」

 

整備班の言葉にキョウスケ達は返事を返し、乗り込みの準備を始める。キョウスケとてシロガネに思う事はある、だがクレイグがこのタイミングでキョウスケ達をラングレーから離す事を選択したのは何か意味がある。根拠があるわけではない、だがテロリストの横行を切っ掛けに何かが始まる……キョウスケはそれを感じ取っていた。そしてその予感は的中し、シロガネに乗り込み出発してすぐに謎の特機とキョウスケ達は出会うこととなるのだった……。

 

 

 

 

 

百鬼獣を調べていたビアンの出した結論は新西暦の機体では勝てないと言う物だった。

 

「恐ろしい技術力だ……ゲッターロボとは別のベクトルで凄まじいと言わざるを得ない」

 

ゲッターロボはゲッター線を軸にしたオーバーテクノロジー。

 

だが百鬼獣は単純にビアンの頭脳をもってしても理解しきれないオーバーテクノロジーの結晶だった。

 

「非常に強度があるが、それと同時に凄まじい柔軟性を兼ね備えた合金に、私が研究していた人造筋肉と言うべき循環系、そして人間の知性と獣の強暴さを兼ね備えた人工知能……どれをとっても100年……いや、200年は未来の技術だろうな」

 

額に手を当ててまいったと呟くビアンの顔には濃い疲労の色が浮かんでいる。

 

「ビアン所長ではもし百鬼獣が軍隊として現れたら……」

 

「襲撃された場所は更地になるな……まともに対抗出来るのはゲッターロボとタイプS、R-SWORDくらいだろう……」

 

使われている技術自体は新西暦の物だが、ゲッター炉心を搭載しているタイプSとR-SWORDは百鬼獣と比べても遜色ない。人工知能で柔軟性がない分、操縦技術で秀でているイングラムとカーウァイの方が上と言っても良いだろう。だがそれは連邦の戦力ではまともに戦えないという事を現していた。

 

「はぁ……作戦変更だ。タイプSとR-SWORD用の高速飛行艇を用意する」

 

「高速飛行艇? それはどういうものなんだ?」

 

「機体の全面を覆うようなロケット状の使い捨ての外付けのブースターと思ってくれたらいい。百鬼獣が動いた時に、すぐに送り出せるようにすぐ開発に取り掛かる」

 

「いや、そんな事をしなくてもゲッターでオイラが出れば良くないですか?」

 

武蔵の問いかけにビアンは首を左右に振った。

 

「強い兵器が出てきたら、より強い兵器を作り出す。それが戦争の歴史と言うものだ、武蔵君のゲッターD2は強い――いや強すぎると言ってもいい」

 

「百鬼帝国がより強い兵器を送り出してくるのを防ぐ為と言う訳ですか」

 

「相手が様子見をしている段階だからこそ、ゲッターD2は隠しておくべきと言う訳ですね……」

 

「そういう事だ。もしも武蔵君が出撃すると言うのならば、ゲッターVとゲッター・トロンベを使って欲しい。ゲッターD2を使うのは相手の戦力がこちらの戦力を完全に超えている時か、通常の方法では間に合わない時だけだ」

 

ゲッターD2を使ってはいけない理由を聞いて武蔵は判りましたと返事を返し、ゲットマシン状態で格納されているゲッター・トロンベを見つめる。

 

「ゲッター・トロンベってエルザムさんの命名ですか?」

 

「そうだよ、色も私の好みに合わせてある」

 

漆黒と赤のカラーリングは武蔵の知るゲッターロボとは違うが、竜馬の乗っていたブラックゲッターロボのことを考えると確かに良い色をしていると武蔵も思った。

 

「……乗り込むのはエルザムと誰になる?」

 

「は、私になります。大佐」

 

カーウァイの問いかけにゼンガーが答えるとカーウァイは少し考え込む素振りを見せた。

 

「ビアン所長。ゲッターロボのシミュレーターはありますか?」

 

「無論あるよ。それがどうかしたかね?」

 

ゲッターロボのシミュレーターがあると聞いてカーウァイはゼンガー達に視線を向けた。

 

「エルザム、ゼンガー、ラドラ。ゲッターロボのシミュレーターに向かえ、武蔵の操縦の足手纏いにならないかを確かめる。武蔵もそれでいいか?」

 

「え、オイラは別にいいですけど、エルザムさんとゼンガーさんで大丈夫じゃないですか?」

 

武蔵の問いかけにカーウァイは首を左右に振った。

 

「武蔵に対して、エルザム達の反応が遅ければ武蔵がフォローする事になる。相手の戦力がゲッターよりも上の場合、そのロスは致命的な隙になりかねない。共に戦うというのならば、武蔵の反応に追従出来るかを調べる必要がある。勿論私もシミュレーターを試すつもりだ」

 

これは決定事項だと強い口調で言うカーウァイに武蔵は当然エルザム達も異論を挟める訳が無く、武蔵達はシミュレータールームに足を向ける。当然エキドナはついていけるわけも無く、明らかにがっくりと肩を落としている。

 

「エキドナ君は医務室で治療を受けてくると良い、本当はこうして歩き回っているのも良くないのだからね」

 

「……はい、失礼します」

 

医務室にしぶしぶと言う様子で歩いていくエキドナ。その姿は想い人と会えなかったというよりも、親とはぐれた子供のようにビアンには見えていた。

 

「やれやれ、武蔵君も罪な男だ」

 

茶化すように言うビアンにイングラムは肩を竦めた。

 

「今はそれ所ではないだろう、バン大佐が戻るまでは俺達は動けないんだ。連絡はまだ無いのか?」

 

イングラムの言葉にビアンの目も鋭くなる。お茶らけているときもあるがビアンはやはり優秀だ、一瞬で思考を切り替える事も平然とやってのける。

 

「後1時間連絡が無ければ救出隊を送り出すつもりだ。その時は頼めるかね?」

 

「……なるほど、薮蛇だった訳だな。了解した、それでバン大佐は何処に侵入しているんだ?」

 

イングラムの問いかけにビアンはその声に心配だという声色を混ぜながら告げた。

 

「イスルギ重工だ」

 

ラングレー基地を襲撃したテロリストにリオン、アーマリオンを横流しし、そしてラングレー基地のクレイグを陥れる為に軍上層部と結託し、廃棄される予定の第4試験場にヴァルシオン改・タイプCFを運び込んだイスルギ重工にバンが侵入していると聞いて、流石のイングラムもその顔を心配そうに歪めるのだった……。

 

 

 

 

新生シロガネのブリッジの艦長席に腰掛けているリーはブリッジクルーの錬度を観察しながら、想定される襲撃等の計算を続けていた。スペースノア級を強奪出来れば旗艦に出来る上に箔がつく。反連邦勢力やラングレーを襲ったテロリストが単独で行動するシロガネを狙う可能性は極めて高い。囮を兼ねた遊撃――それがシロガネとATXチームの役割だとリーは考えていた。

 

「進路ヨーソロー」

 

順当に進路を進んでいこうとする報告を聞いて、リーは進路の変更を命じた。

 

「進路をB-7へ変えろ、速度は減速、B-12に移動したらD-13へ進路を変更」

 

「は……は? いえ、しかし順路とは」

 

「必要なのは順路のパトロールではない。我々は臨機応変に敵機を発見する事が仕事だ。それにラングレーへの襲撃の事を忘れるな、パトロールルートなどもテロリストにばれている可能性が高いのだ。順路のパトロールは偵察隊に任せればいい、我々は北米に潜んでいる可能性の高いテロリストの捜索および炙り出しを行う。納得行ったか? 曹長」

 

「は! 了解しました」

 

「よし。では私は少し席を外す、何かあればブリーフィングルームに通信を入れてくれ」

 

「それは構いませんが、何故ブリーフィングルームなのでしょうか?」

 

「部下とのコミュニケーションは円滑な任務に必要だ。ATXチームと話をしてくる」

 

唖然としているブリッジクルーに背を向けてリーはブリッジを後にした。

 

「そんなに驚く事か?」

 

「いや、中佐って言うからもっと頭の固い人かと」

 

「ははっ! リー中佐は良い人だよ。相談にも乗ってくれるしな」

 

「そ、そうなのか……」

 

リーと共に中国方面から来たブリッジクルーは呆気からんとしていたが、ラングレー基地で増員されたクルーは今までのタイプと余りに違うリーに困惑の表情を浮かべているのだった。

 

「うん? 行き成り進路の変更してるわね」

 

「……そのようだな」

 

「何か連絡でもあったのでしょうか?」

 

ブリーフィングルームで打ち合わせをしていたキョウスケ達はいきなりの進路の変更に眉を細めていた。そして次にその顔は驚きに染められた。ブリーフィングルームの扉が開く音がし、連絡兵か? と振り返ったキョウスケ達の視線の先にはシロガネの艦長であるリーの姿があったからだ。

 

「打ち合わせ中すまないな、話をする時間はあるか?」

 

痩せぎすなのだが、柔和な光を宿している瞳もあり、神経質ではなく穏やかな気質のように感じられるリーは悪戯めいた笑みを浮かべた。

 

「着任挨拶でしたら今から伺おうと思っておりました。ご足労を掛けさせて申し訳ありませんリー・リンジュン中佐」

 

唖然としているエクセレンとブリットよりも早く我に帰ったキョウスケが敬礼し、ブリットとエクセレンもそれに遅れて敬礼を返す

 

「いや、私が勝手に来たのだからそう気にすることはない。シロガネ艦長リー・リンジュン中佐だ。キョウスケ中尉、エクセレン少尉、ブルックリン少尉だな。これからよろしく頼む」

 

艦長自らやってくる……ハガネとヒリュウ改と軍律を重視しない艦に乗っていたが、リーの行動は完全にキョウスケ達にとっての未知の事だった。

 

「部下との円滑なコミュニケーションは大事だからな、それにL5戦役の英雄と今後の話をしたいと言う気持ちもあったのさ」

 

そう笑い自分で椅子を動かして座り、座らないのか? と尋ねてくるリーに困惑しながらキョウスケ達は再び椅子に腰を下ろした。

 

「本艦は当面は臨機応変に進路を変えながらテロリストのあぶり出しと襲われている基地の救援をメインとする。現場の指揮権はキョウスケ中尉に一任するので、私から特に何か言う事は無いが……強いて言うとすれば、お前達は死ぬな、そして民間人を死なせるなと言ったくらいか。何か質問は?」

 

現場の指揮をキョウスケに一任し、自分から何も言う事はないと言うリーにキョウスケは驚きを隠せなかった。

 

「それは何かあれば責任は私ということでしょうか?」

 

「何を馬鹿な事を言っているのだ? 部下の失敗は上官の責任だ。キョウスケ中尉達は何の心配もせずに、責任を私に押し付けるくらいの気持ちでいてくれれば良い」

 

まぁそんなに失敗や責任問題を持って来られても困るがと笑うリーの姿には虚偽などは一切感じられなかった。

 

「えっとリー中佐が命令違反をしたって本当ですか?」

 

「命令違反? しすぎて心当たりが無いのだが……どの話だ?」

 

命令違反をしすぎていると堂々と言うリーにエクセレンがL5戦役の時と言うとリーは頷いた。

 

「あの時か、無人機を都市部に誘い込み、街を民間人と共に吹き飛ばせと言われて承諾できるか? 私は出来なかった。だから策を考え、民間人を可能な限り避難させ、そこから反撃に出たのだ。フライトユニットを装備したゲシュペンストのおかげだな」

 

無人機を倒す為に街と民間人を犠牲にしろと命じられて頷ける訳がないと言うのはキョウスケ達も同じ気持ちだった。

 

「勲章は剥奪されたが、出世などには今は興味が無い。北京で妻と両親を救ってくれたゲッターロボのあの強い後姿は今でも忘れられん……これこそが私が軍人を志した始まりだと思い出したんだ」

 

武蔵、そしてゲッターロボに影響を受け自分の原点を思い出したと笑うリーの顔は子供のようで、明るく夢が叶ったと言わんばかりの明るい笑顔だった。

 

「リー中佐は武蔵についてはどう思っておられますか?」

 

「地球を救った英雄だよ。そして彼は生きている……私もそう信じている」

 

腫れ物扱いの武蔵のことに触れても表情を変える事無く、そして武蔵は生きていると信じている。自分達の関係者を除き、そんなことを口にしたのはリーが初めての相手だった。それだけ信用する訳には行かないが、それでもリーは今の上層部の中では珍しい話の判る男だとキョウスケ達は判断し、そこからはこれからのパトロールの順路や部隊の運用についてキョウスケ達はリーと意見交換を続けるのだった……。

 

 

 

 

一方その頃イスルギ重工に潜入しているバンは製造ラインを見てその顔を驚愕に歪めていた。

 

(……これは何だ……何を製造している?)

 

リオンでも、ゲシュペンストでも、ガーリオンでもない。見た事のない数多の機体が製造ラインに乗っていた。

 

戦車を人型にしたような、赤い重厚な装甲を持つ機体。

 

背中に特徴的な4つのバックパックを装備した機体。

 

そしてコロニーにとって連邦の支配の象徴である「ジガンスクード」に良く似た迷彩カラーの戦闘機。

 

(……やはりイスルギ重工は危険だ)

 

他にもフレームだけで何を製造しているのかは判らないが見た事のない機体が次々と製造されているのを小型カメラに収める。

 

(……やはり戦争屋。社長が代わろうが変わるわけも無い)

 

気配を殺し製造ラインの奥へと侵入するバン。

 

『ふふ、流石ですね。素晴らしい機体の情報に感謝しますわ』

 

『別に無償で提供しているわけでは無い。お前が私達にとって有益だからだ』

 

『ふふ、そして役に立たないと判断すれば、私も切り捨てるのでしょう? 私としてもそれくらいの方が良いですわ』

 

『つまりそれは私達にとっても有益な取引を続けれるという事ね?』

 

(……ミツコ・イスルギと……男と女の声……どこかの研究者か?)

 

今までの機体と根本的に違う機体を設計した研究者と声を聞いて当たりをつけるバン。その姿を納めようと一歩踏み出そうとして、後ろに飛んだ。

 

「……外したか。中々にやる」

 

暗がりから振るわれた白刃――そのまま踏み込んでいたら首と胴が泣き別れする所だったと冷や汗を流しながら、腰の鞘からサバイバルナイフを抜き放つバン。

 

「貴様何者だ……何故、ゼンガーと同じ声をしている」

 

「……そうか、お前はゼンガー・ゾンボルトを知るものか……ならば、俺の太刀がゼンガーを超えていると言う事を知れッ!」

 

鋭い踏み込みから放たれる日本刀の一撃をサバイバルナイフで受け止め、刀身を傾けて斬撃を受け流す。

 

「!?」

 

「その程度の技術でゼンガーを超えている等と驕りが過ぎるぞッ!!」

 

姿勢を崩した男の腕に手を添えて腕をへし折り、男を蹴り倒すと同時に姿を見せた警備員に向かってフラッシュボムを投げつける。顔を腕で隠すと同時に踵を返して走り出した。

 

「ちいっ! しくじった」

 

製造ラインに鳴り響く警報と自分を追いかけてくる複数の足音を聞きながらバンは工場の内部を駆け抜けていく。民族解放戦線の指導者として活動していたバンはゲリラ戦、そして侵入工作に秀でていた。ラインに設置していた爆弾を次々起爆させながら、腕時計を口元に寄せる。

 

「来い! レグルスッ!!!」

 

そう叫ぶと同時に工場の窓ガラスを突き破り外へと飛び出す。

 

「……総帥の悪ふざけだと思ったが、案外使えるじゃないか」

 

地面に叩きつける前にその鋼鉄の腕で自分を受け止めたガーリオン・レグルス・カスタムの姿を見て、そう呟くとバンはコックピットの中にその身体を滑り込ませ、イスルギ重工の敷地から脱出を試みるのだった。

 

「なんだ、偉そうな事を言っておいて、ネズミ1匹処理できないのか? ローズ」

 

「まさか、泳がせておこうと思いましてね。バン・バ・チュン大佐……ビアン・ゾルダークの側近ですわ、あのまま追いかけて行けば、貴方達の探しているクロガネに辿り着くんじゃありませんこと?」

 

「……ふふ、良いだろう。レモン、量産型のWシリーズとエルアインスを出せ、この世界での戦闘データを取る」

 

「はいはい、人使いが荒いんだから」

 

ミツコのいた部屋から姿を見せた「ヴィンデル・マウザー」と「レモン・ブロウニング」は夜空を駆ける緋色のガーリオンをそれを追って、3機のエルアインスがイスルギ重工から飛び立つのだった……。

 

 

 

第7話 星を追う翼と蘇る鬼 その1へ続く

 

 




次回は星への翼をアレンジして行こうと思います。主な登場人物は「プロジェクト・TD]組と、コウキで行こうと思います。
星への翼の難易度を少し上げるつもりなので、どんな話になるのかを楽しみにしていていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

オリ機体紹介はもう少し増えてきたら単独で纏めたいと思いますので、もう暫くお待ちください

スパロボDDで

ノワール2号機とR-1の追加

これはとても楽しみです



おまけ


先行量産型ゲシュペンスト・MKーⅢ(素体)


連邦の次期トライアルに正式採用された新型ゲシュペンスト。主な設計主任であるマリオン・ラドム博士はアルトアイゼンをベースにしたゲシュペンストにしたかったのだが、それでは採用されないという事で、初代ゲシュペンスト、ゲシュペンストMK-Ⅱをベースにした今までのゲシュペンストに酷似したデザインで作り上げた機体。頭部・コックピットに関しては今までのゲシュペンストの物をカスタマイズした物になっている。そして肩部、背部、腰部、腕部、脚部の全てにハードポイントが増設されており、作戦内容に応じて強化装甲を装着し作戦に応じた機体性能に換装出来るように設計されている。換装前提の素体とされているが、素体のままでもプラズマステークの強化型の「ライトニングステーク」や、ヴァイスリッターやアルトアイゼンに使用された3連マシンキャノン、3連ビームキャノンの改良型4連マシンキャノン、4連ビームキャノンなどに両腕の換装が可能でパイロットの適性に応じて細かい調整が可能となった。主武装としてはより高性能に再設計されたメガ・ビームライフル、そしてパルチザンランチャー等を装備しており、武装面も非常に高性能となっている。基本のまま基本を超えるというコンセプトの元、EOTも僅かに採用した事により従来のPTを遥かに上回る装甲、パワーを有しながらも量産と、エースパイロットに応じた専用カスタムを施せるなどゲシュペンストの優れた拡張性を100%継承した新型ゲシュペンスト。トライアルの為に先行量産型ヒュッケバイン・MK-Ⅲと共に10機ずつ製造され各基地に持ち回りで配備され実際に運用された。それらのデータとパイロット達の意見を聞いた上層部によって次期主力量産機正式採用された。それに伴い、先行量産された50機の先行量産型ゲシュペンストMK-Ⅲ。正式量産機よりも僅かにコストは高い物の、それでもかかるコストはゲシュペンスト・MK-Ⅱの2.5割り増し程と非常に安価である。それらすべてはゲシュペンスト・リバイブ、シグから齎された技術の応用の結果で、低コスト・高品質を確立させたラドラのゲシュペンストへの飽くなき探究心の結晶である。なお、素体は飛行能力を持たない変わりに、踵部にローラーが組み込まれており非常に高い機動力を有している。そして勿論L5戦役でも使用されたフライトユニットも装備可能となっている。

なおゲシュペンスト・MK-Ⅲ改として、両腕をライトニングステークに換装した物や、リーチを強化した4連ビームキャノン、マシンキャノン等に換装した物など、強化装備を装備せずにあくまでゲシュペンスト・MK-Ⅲとしてのカスタマイズを施された機体もあり、徐々にだがゲシュペンスト・MK-Ⅲの各基地への普及率は増えており、またハードポイントによる機体性能の変化は各基地でも行われており、その基地特有のカスタムタイプも多く存在している。そのため一言にゲシュペンスト・MK-Ⅲと呼ばれてもそのバリエーションは非常に豊富な物になっている。マリオンが基礎設計した格闘形のタイプK・射撃型のタイプS・アルトアイゼンのゲシュペンスト・MK-ⅢのタイプA・ヴァイスリッターのMKーⅢ版のWをベースに様々な派生機が生まれたが……アルトアイゼンをベースにしたタイプA、ヴァイスリッターをベースにしたタイプWの普及率はご察しである。



先行量産型ゲシュペンスト・MKーⅢ(素体)
HP5800(7800)
EN180(350)
運動性125(180)
装甲1500(1900)

特殊能力

なし

フル改造ボーナス

換装武器含む全ての武器の攻撃力+300・Wゲージ+40



格闘 ATK2400
※4連マシンキャノン ATK2600
※4連ビームキャノン ATK2600
メガビームライフル改 ATK2700
※パルチザンランチャーB モード ATK3100
※パルチザンランチャーE モード ATK3300
ビームソード改 ATK3500
※パルチザンランチャーW モード ATK3800
ライトニング・ステーク ATK4400
ジェットマグナム改 ATK4900

※はデフォルト装備の換装装備



ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプK

格闘戦特化型のカスタマイズを施されたゲシュペンスト・MK-Ⅲ。素体からの変更点はセンサー・アンテナ類の強化、両腕がライトニングステーク、肩部・脚部・腰部の3箇所に装着された空気抵抗を計算に入れた鋭利な装甲とその内部に増設されたブースターとスラスターによる加速力と機動力の強化、それとパイロットを保護する為の胸部に装着したチョバムアーマーである。踏み込み速度と防御力に重きを置いており、数発の被弾は装甲で耐え両腕のライトニングステークによる連撃で相手を制圧することがコンセプトとなっている。バリエーション機として両腕をライトニングステークを外し、篭手型の装甲を装着し両腰にコールドメタルソード・コールドメタルブレードの2種の実体剣を装備した剣撃特化のタイプKも存在する。ただタイプKの特徴として、射撃武器のサポートなどが薄くなっている事とライトニングステークや白兵戦に特化した装甲形状により射撃武器は一応搭載できるが、1つもしくはゲシュペンスト・MK-Ⅱが使用したM-950マシンガン等の旧式装備を2つ装備する事が限界で射程の短さが欠点となっているが、高い運動性、厚い装甲と格闘が得意なパイロットには非常に好まれるカスタマイズとなっている。


ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプK
HP6100(8200)
EN170(330)
運動性160(210)
装甲1800(2400)

特殊能力

なし

フル改造ボーナス

格闘武器の攻撃力+200+移動力+1

両腕がライトニングステーク

格闘 ATK3200
ライトニングステーク ATK4400
ジェットマグナムW ATK5200
究極ゲシュペンストキック ATK5600


コールドメタルソード・コールドメタルブレード搭載機

格闘 ATK3400
コールドメタルソード ATK3600
コールドメタルブレード ATK3800
2刀乱撃 ATK4800
究極ゲシュペンストキック ATK5600




ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプS


射撃・支援に特化したカスタマイズを施されたゲシュペンスト・MK-Ⅲ。流線型の丸みを帯びた大型の肩部装甲、小型シールド内に2門のビームキャノンを搭載した腕部装甲。腰部にガトリング、背部にビームキャノン2門、実弾キャノンを2門の計4門の砲身はR-2改のハイゾルランチャーを参考にし改良した物で長射程、高火力を実現している。重装甲、低機動の拠点防衛、支援機、長距離射撃の3種類の場面に対応した装甲を装着したゲシュペンスト・MK-Ⅲ。肩部の大型装甲には複合型ビームコートとミサイルが仕込まれており、ビームに対する防御力が非常に高く、近づこうにも凄まじい弾幕に遮られ、遠距離からのビームはビームコートで防がれ、ミサイルなどはジャマーで妨害されると言った動く要塞と言うべき形態。その反面近接武器を一切搭載しておらず、腰部のガトリングランチャーと腕部ビームキャノンが唯一中距離射程の武装である。エネルギーが底を尽いたり、弾薬を使い切れば攻撃手段を一切持たないと言う欠点を持つが、まず搭載されている武器の弾薬やエネルギーを使い切る事はないだろうという前提で設計されている。その外の欠点とすればその重量ゆえにフライトユニットを装備しても飛行できず、踵部のローラーで移動する事と搭載されている武装の破壊力や反動が非常に大きく、リオが初めて搭乗しメガツインカノンを使用した際は機体固定のアンカーを用いてもその反動を相殺しきれず、吹っ飛ばされた事から使い手を選ぶカスタマイズとなっている。


ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプS
HP7000(9100)
EN200(400)
運動性95(135)
装甲2000(2500)

特殊能力

複合型ビームコート ビーム属性のダメージを2000まで無効 
ジャマー ミサイル系の攻撃を50%確率で回避

フル改造ボーナス

EN+40+射撃武器の射程+1


腕部ビームキャノン ATK2900
肩部ミサイルランチャー ATK3300
腰部ガトリングキャノン ATK3500
ブーステッドライフル改 ATK3900
メガツインカノン ATK4200
メガツインバスター ATK4200
メガツインカノンFモード ATK5500
メガツインバスターFモード ATK5500



ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプA

右腕のリボルビングステーク・左腕の4連マシンキャン・大型化した肩部の装甲とアルトアイゼンを連想させるシルエットのゲシュペンスト・MK-Ⅲ。なお最初にマリオンがトライアウトに出そうとしたのがタイプAでマリオンの構想していたゲシュペンスト・MK-Ⅲがこれである。大型化した肩部パーツは高コストのベアリング弾ではなく、無数の発射口が仕込まれておりショットガンの要領で短い射程ながら高火力の特殊鉄甲弾を射出する事が可能で、相手の懐に飛び込み相手を蜂の巣にすると言うコンセプトはアルトアイゼンのままで、ベアリング弾ではなく実弾なので跳弾の危険性を低くし、最大加速で相手に突撃し、加速力×爆発で高火力と言うリボルビングステークも搭載しているなど正しくアルトアイゼンと言う感じなのだが、パイロットの技量で威力が変動する上にパイロットの安全性を度外視したのは変わらず、今だタイプAに換装されたゲシュペンスト・MK-Ⅲはただの1機も存在せず、誰も希望することが無いだろうという事で1セットのみ製造されたタイプAの換装装備はアルトアイゼンが大破もしくは修理が必要な際に必要になるだろうという事でシロガネに保管される事になった。


ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプA
HP6900(8800)
EN180(310)
運動性145(185)
装甲1700(2300)

特殊能力

なし

フル改造ボーナス

移動力+1+弾数+2


4連マシンキャノン ATK3100
リボルビングステーク ATK3800
エアリアル・クラスター ATK4200

※パイロットの格闘の技量に応じて最大1200までATKUP



ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Wカスタム

白銀の装甲と改良されたフライトユニットを装備したヴァイスリッターに酷似した姿を持つゲシュペンスト・MK-Ⅲ。装甲を極限まで軽量化し、1発の被弾でさえも致命傷になりかねないほどの紙装甲だが、機動力は高く当たらなければ問題ないを地で行っている。パルチザンランチャーによる実弾・ビーム兵器の使い分け、高機動で相手を翻弄する姿はヴァイスリッターそのものなのだが、タイプA同様今まで1回もこの姿に換装されたという記録は無く、伊豆基地とラングレー基地に1セットずつ保管されたままとなっている。



ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプW
HP4500(5100)
EN320(490)
運動性195(300)
装甲700(1400)

特殊能力

なし

フル改造ボーナス

移動力+1&射撃武器の威力+300


4連ビームキャノン ATK3100
パルチザンランチャーBモード ATK3300
パルチザンランチャーEモード ATK3500
パルチザンランチャーWモード ATK3700


ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタム

ムラタとの戦いで大破したヒュッケバイン・MKーⅡに変わり、ブリットが搭乗する先行量産型のゲシュペンスト・MK-Ⅲの剣撃特化使用の改造機。本来はタイプKと呼称される換装装備をベースにブリットの意見を元にテスラ研、ラングレー基地の整備班が突貫工事で作り出した装備を装着したゲシュペンスト・MK-Ⅲ。肩部、脚部、腰部、フレキシブルのブースター付きの装甲を増設し、最低限の飛行能力を残したフライユニットに可変式のブースターを搭載しており、加速力及び旋回能力をカスタマイズしている。その形状はガーリオン・カスタム無明に似通っており、PTで剣撃に特化するとこうなると言う一種の完成形になっている。機動力、旋回性能を強化した分薄くなった装甲はヒュッケバイン・MK-Ⅱに搭載されていたグラビコンシステムを移植したことで付与されたGテリトリーによるバリアで防ぎ、相手の懐に切り込んで切り倒すという事に特化している。補助武装程度にビームショットガンとライトニングステークを4連マシンキャノンに換装しているが、基本的に格闘特化機なのであくまで牽制程度の威力になっている。コールドメタルブレードは重量を利用した叩き切る物、コールドメタルソードはシシオウブレードを元にラングレー基地で開発されたもので、シシオウブレードよりも刀身が短く、軽量化されており3種類の実体剣はその間合いに応じて使い分ける仕様である。なお本来はタイプKを改良した物なのでKカスタムと呼称される筈だが、整備班はサムライカスタムと命名し、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムと呼称される事となった。


ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタム
HP7200(8500)
EN190(330)
運動性150(190)
装甲1500(2050)

 
特殊能力
G・テリトリー改 2200以下のダメージ無効

フル改造ボーナス
装甲+200・格闘武器の攻撃力+300


格闘 ATK2200
ビームショットガン ATK2700
4連ビームキャノン ATK2700
コールドメタルブレード ATK3700
コールドメタルソード ATK3700
二刀乱撃 ATK4100
シシオウブレード ATK4500
シシオウ連撃 ATK5500


先行量産型ヒュッケバイン・MKーⅢ


カークとマオ社が主導になって開発された新型ヒュッケバインの量産機。ベースは以前のトライアウトで採用されたヒュッケバイン・MK-Ⅱの各所のモーターなどを改良し、装甲などもバージョンアップした機体で便宜上はMK-Ⅲの呼称を持つが、正確には量産型ヒュッケバインMK-Ⅱ・改と言うべき機体。運動性に重点を置いており、固定装備を極限まで減らし、ゲシュペンストのプラズマステークに着想を得た放電するナックルガードを新たに搭載し格闘戦能力も向上させ、固定武装を減らした分開いたリソースを機体の基礎性能向上に回した。しかし、ゲシュペンスト・リバイブ等の情報を持つマリオンと比べれば技術不足、開発時間の不足が大きく響き、今回のトライアウトは惜しくも落選となった。なお、正規のエース用のヒュッケバインMK-Ⅲはコスト度外視で設計されている為。ゲシュペンスト・MK-Ⅲと遜色ない性能を誇り、それ単体を飛行機などと運用出来る強化パーツとしてカークが設計を始めていたが、それがトライアウトに間に合わなかった為。改良形態なしの素体でトライアウトに参加した。だがもし間に合っていれば結果はまた違った物になっていたのかもしれない。


先行量産型ヒュッケバイン・MKーⅢ
HP4900(7000)
EN220(380)
運動性135(195)
装甲1200(1600)

特殊能力

なし

フル改造ボーナス
運動性+20・Wゲージ+40


格闘 ATK2200
フォトンライフル改 ATK2500
コールドメタルブレード ATK2700
ビームチャクラム ATK3100
レクタングルランチャー ATK3800





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 星を追う翼と蘇る鬼 その1

第7話 星を追う翼と蘇る鬼 その1

 

 

イスルギ重工でミツコとの密約を交わして戻って来たヴィンデルに追跡失敗の報告をしたレモン。その報告を聞いたヴィンデルは眉を顰め、怒りを露にした。保険と言う意味を兼ねて3機も送り出したのに、1機も戻らず、その上バンも取り逃がしたと聞けば怒りを覚えるのは当然の事だった。机に拳を叩きつけるヴィンデルだが、レモンは涼しい顔をしていて、それが余計にヴィンデルを苛立たせることに繋がるが、その冷静さを買って技術顧問としてスカウトしたのだ。涼しい顔をしながら落ち着いた? と声を掛けられればヴィンデルも、1人だけ激昂している自分が馬鹿に思えて、冷静さを取り戻す事につながった。

 

「逃げられただと? エルアインスを3機も送り出してか? 一体何があった、それほどまでにあのガーリオンの性能が高かったのか?」

 

逃げたように見せたのはブラフで、逃げなくても勝てるだけの戦闘能力があったのか? と問いかけるヴィンデル。

 

「うーん、そうじゃなくて応援に来たのが厄介すぎたのよ」

 

正直な所レモンにしてもガーリオンを取り逃がしたのは想定外だった。確かにガーリオンにしては性能は高かったが、それでもエルアインス3体と言う劣勢を跳ね返せるほどの能力は無かった。だが、バンは逃げる事に秀でており3対1でも上手く立ち回り時間を稼いでいた。

 

「応援が来るまでの時間を稼がれたのか……しかし、リオンやガーリオンだろう、何故エルアインスが全滅した? それほどまでの大群が来たのか?」

 

リオンやガーリオンではエルアインスに勝てるとは思えず、相当数の応援が来たのか? と問いかけるヴィンデルにレモンは聞くよりも、見たほうが早いわと言ってコンソールを操作する。

 

「応援は3体だけど……流石に量産型Wシリーズじゃ荷が重かったわ」

 

レモンはそう言うとモニターにWシリーズが記録していた最後のデータと言われてモニターに映し出された光景を見て、失敗した理由にヴィンデル納得した。いや、納得せざるを得なかった。

 

「……なるほど、これならば仕方ないな」

 

「でしょ? 私達とは随分と離れた場所に転移した見たいね」

 

イスルギ重工から飛び立ったカスタムガーリオンは脚部、右腕を失い鹵獲寸前だったが、空中から打ち込まれたビームに鹵獲に動いたエルアインスが一撃で爆発四散し、一瞬の動揺を見せた隙にコックピットを一突きにされて2機。そして最後に空中から飛来した戦斧に頭部を粉砕されて最後のエルアインスも沈黙……この間約30秒。量産型ではなく、正規のWシリーズならまだしも、量産型にゲシュペンスト・タイプS、R-SWORD、そして漆黒のゲッターロボを相手にするのは能力不足が否めなかった。

 

「……ゲッターD2では無いようだが……これはなんだ」

 

「ゲッターロボ系列なのは間違いないわね。デザインからしてプロトタイプだとは思うけど、それ以上は判らないわ。ま、判っているのはイングラム達も転移に成功して、私達を止める為に動いているって事ね」

 

胴長、鉄板を丸めるだけの技術しかないような異様なデザインのゲッターロボが中破したガーリオンを抱え、その脇をゲシュペンスト・タイプSとR-SWORDがガードし、飛び去る光景が量産型Wシリーズが最後に記録した光景だった。

 

「カーウァイ大佐達が敵に回るのは想定内だ。だが武蔵はどうなった、武蔵に回収されたW-16からの連絡はないのか?」

 

「ないわね。最後まであの場所に残っていたのはソウルゲインとゲッターD2。転移の時間差も相当でてるみたいだし……まだ、こちら側には来てないのかも知れないわ」

 

テスラ研で最後までゲシュペンスト・MK-Ⅲと戦い、一番最後に転移したソウルゲインとゲッターD2。その2機の転移反応はまだ確認出来ていない……その理由はやはり戦いの中で記録された異常な数値のゲッター線が理由だろう。

 

「最後に記録されている転移反応も私達が転移した時の10倍の数値だし……武蔵が月でソウルゲインに会っているって言うんだから、探すならそっち方面ね」

 

「ちっ、アクセルの捜索と武蔵の捜索はお前に任せる。W-16からの連絡があれば私にすぐに報告しろ」

 

苛立ちを隠さずに部屋を出て行くヴィンデルは悠々と見送り、レモンは小さく微笑む。

 

(W-16……いえ、エキドナ。貴女と再会する時を楽しみにしているわ)

 

既にゲッターD2の反応は感知していたが、エキドナからの連絡が無いからそれを口にする事はしなかった。エキドナが報告しない……そこに何かが意味がある。レモンが求め続けた自我の覚醒……それが促されているのかもしれないと思えば、シャドウミラーの技術顧問としてではなく、1人の研究者としての好奇心が勝ったのだ。だからレモンは何も言わない、確かに義理固い性格のレモンだが……今はそれを上回る好奇心を覚えてしまっているのだった……。

 

 

 

 

地球連邦軍ヒューストン基地のオフィスでは、連邦軍基地には似つかわしくない服装――チャイナドレスを纏った妙齢の女性……「ミツコ・イスルギ」の姿があった。手にしている扇で口元を隠し、目元だけを露にしているが、その視線は目の前にいる男性の女性を品定めするような色を秘めていた。

 

「……プロジェクトは順調に進行しているようですね、これなら私も出資した意味があると言うものです」

 

ミツコの言葉に眼鏡を掛けた柔らかな雰囲気をした男性――「フィリオ・プレスティ」が手にしたタブレットを確認しながら返事を返す。

 

「はい。本日1500、このヒューストン基地にてシリーズ77・ コードβプロト『カリオン』のテストを行います」

 

フィリオの言葉を聞いてミツコは楽しそうに笑い、思い出したようにフィリオに注文を口にする。

 

「うふふ、結果が楽しみですこと、特にカリオンの武装がどれだけの力を発揮するか、出来ればこの目で確かめたい所ですわね。忘れないで記録映像を送って下さいましね。画像はSSSモード、音質はRS5モードで。後々、商品化するつもりですの」

 

「……シリーズ77に武器はどうしても必要な物なのですか?」

 

ミツコの言葉に僅かな嫌悪感を見せたフィリオにミツコは手にしていた扇を閉じて、それをまるで剣のようにフィリオへと突きつける。

 

「もちろん。ミッドクリッド大統領の東京宣言をお聞きになったでしょう? あれが異星人の存在と、彼らによる地球侵攻の危機が政府公認の物となりました。つまり地球の外には地球を狙う敵だらけ、そんな中を丸腰で進む事が出来ると本当に思っているのですか?」 

 

「しかし、『プロジェクトTD』の本来の目的は……」

 

フィリオが主導になって進めている計画……プロジェクトTerrestrial Dreamは外宇宙を行く恒星間移動を目的とした機体を作り出すプロジェクトであり、決してミツコの言っているような戦闘用の機体を開発するものでは無いと言おうとするが、ミツコの微笑みながらも、邪悪な色を宿した瞳に見つめられ、フィリオは言葉に詰まった。

 

「何を寝言を言っているのです? 7年前、太陽系外宙域で異星人と交戦した探査艦ヒリュウの事をお忘れ?……まさか、大事な大事な妹さん達を敵でいっぱいの外宇宙へ丸腰で送り出すおつもりですか? それに貴方は外宇宙に敵が居る事を知っている筈でしょう?」

 

図星を突かれ黙り込んだフィリオに畳み掛けるようにミツコは言葉を続ける。

 

「貴方はビアン博士の考えに賛同したからこそ、彼の下でリオンの開発に加わったのでしょう? 本来の計画を1度捻じ曲げて、それならもう1度捻じ曲げる事に何の抵抗があるのです?」

 

DC戦争時にDCの主力となったリオン――それはフィリオが設計していたプロジェクトTDの廉価版であり、本来の恒星間移動を捨て、安価、そして生産性に長けた機体として再設計された機体だ。イスルギ重工の社長であったレンジの娘であるミツコは隠されていたリオンの設計者であるフィリオの事を知っていた。だからこそ、1度軍事用に設計した機体をまた設計する事に何の抵抗があるのですか? とフィリオに告げる。

 

「良い機会ですから、はっきり申し上げましょう。私の仲介が無ければ、DCが壊滅した時点でプロジェクトは解散……それどころか、あなた達は反逆者として拘留される所でしたのよ? 恩人である私の言葉に反論など「うるさいぞ、女。そんなに文句があるのならばプロジェクトTDのスポンサーを降りろ、一々鬱陶しいぞ貴様」

 

司令室に踏み込んできた黒髪の目付きの鋭い男――「コウキ・クロガネ」とその後ろに隠れるようにして司令室に入ってきた「ツグミ・タカクラ」の姿を見て、ミツコは少しだけ目を吊り上げたが、すぐに笑みを浮かべた。

 

「コウキさんも来ていてくれたのですね。貴方にあえて嬉しいですわ」

 

「下らん世辞と色目使いは止めろ、目障りだ」

 

自分の容姿を自覚しているミツコは腕で胸の谷間を強調しながら、上目遣いでコウキを見つめる。だがコウキは下らないと言って腕を振ってミツコを自分の側に近づけさせない。

 

「L5戦役でビアン・ゾルダークは連邦に協力し、地球を勝利に導いた。確かにビアン・ゾルダークは反乱を起こしたが、それが無ければ地球はエアロゲイターに蹂躙されていた。違うか?」

 

「そ、それはそうですが……私が仲介しなければ……」

 

「ふん、貴様が仲介などしなくても、プロジェクトTDは伊豆基地のレイカー・ランドルフと、ラングレーのクレイグ・パラストルが興味を持っている。スポンサーなど幾らでも見つけれる。スポンサーなど何だの言って、貴様はやかましい上に目障りだ。とっとと失せろ、第一何故商人如きがこの場にいる。自分の立場を弁えろ女」

 

理路整然とミツコの言葉を論破し続けるコウキ、自分の色気も通じない、スポンサーだからと言う脅しも通用しない。そんなコウキをミツコは苦手にしていた。

 

「お前もお前だ。一々あの時の事を持ち出す性悪女に言い包めれられるなら、スポンサーを降りても構わないくらい言ってやれ」

 

自分に飛び火したとフィリオは苦笑する、その反応を見てミツコは眉を細めて再びフィリオに扇を向けようとするが、それはツグミによって防がれた。

 

「私達の研究に興味を持っていただけるのは科学者としては光栄です。ですが、スポンサーの地位を利用して脅すような真似はしないで欲しいですね。それに私達には既にラングレー、伊豆基地の両方からお声掛けしていただいております」

 

「なっ、そ、そんな話私は聞いてませんわよ!?」

 

つぐみの言葉に声を荒げるミツコ、そしてフィリオは意を決した表情で口を開いた。

 

「我々の研究を連邦軍で続けられるようにして下さったことに対しては感謝しています。ですから、貴女をスポンサーとして立てて、恩に報いる為に貴女の意向に従ってきました。ですが、プロジェクト・TDの基本理念は「恒星間移動」です。過度な武装は私の設計理念に反しますし、何よりもプロジェクトTDの機体は緻密なバランスによって速度を確保しております、過度の積載はスピードを低下させる所か、墜落事故のリスクを高めることにしかなりません」

 

畳み掛けるようにタブレットをミツコに見せて説明するフィリオだが、商人であるミツコにはその資料を見ても何を現しているのか理解出来ない。しかし、この場にいる全員が自分を馬鹿にしていると言う事は理解出来てきた、そしてそこにコウキが畳み掛けるように言葉を投げかけられる。

 

「商人が判らない世界に踏み込んでくるな。商人ならば商人らしく売り物が出来るのを待っているんだな……余りぐだぐだ言っているととんでもない粗悪品を掴むことになるぞ」

 

確かに武器を搭載する事を頑なに反対するフィリオに発破を掛ける為にミツコはここに居た。だが実際は自分が何も理解していないと馬鹿にするように言われ、司令室にいるオペレーター達にも笑われたミツコは顔を赤くさせ、怒りを露にした。

 

「……ッ! 失礼しますわッ!」

 

コウキの言葉にも、フィリオの態度にも腹が立った上に、自分が見下している基地のオペレーターにも笑われた。それはプライドが高いミツコに耐えれる物ではなく、ミツコは逃げるように司令室を出て行った。

 

「ふん、性悪女狐め、フィリオ。情けないぞ、男なら言い返せ馬鹿」

 

「……はは、ごめんよ。コウキ……一応逮捕される前の恩人だから無碍にも出来なくてね」

 

「それで機体のバランスを悪くして墜落させるのか? 無理な物は無理とはっきりと言うんだな」

 

コウキの言葉にフィリオは謝る事しか出来ない。武装の追加に反対していたのはコウキの言う通り、機体バランスを崩す可能性を考えての物で、今搭載している僅かな武装がカリオンを安全に飛行させる最大の積載量であり。それ以上は機体バランスを著しく崩すことになるのだ。

 

「少佐。コウキの言う通り、イスルギにそこまで拘る必要は無いと思うんです。伊豆基地でも、ラングレーでも良い。開発拠点を変えてはどうですか?」

 

「……でも一応ミツコは僕達の恩人だし」

 

「恩人だからなんだ、設計もわからないアホ女に何をそこまで義理立てする。無理だと思ったら、さっさとスポンサー契約を切るんだな。無能が一々口を挟んでくると成功するものも失敗するぞ……良く考えるんだな、では俺はアイビスとスレイに声を掛けてくる。お前達はデータ取りの準備を始めておいてくれ」

 

コウキが司令室に来たのはツグミからフィリオが追詰められていると聞いたからだ、そうでなければコンテナでカリオンの調整をしていたコウキが司令室に来る事は無いのだ。

 

「コウキ」

 

「なんだ?」

 

早足で司令室を出ようとするコウキを呼び止めたフィリオは優しげな、でもそれでも強い意思が込められた瞳で笑った。

 

「ありがとう、今度無理難題を言われたらハッキリと言い返すことにするよ」

 

「そうしろ、人の弱みに付け込んであーだーこーだ言う奴はろくでもないからな。ツグミもフィリオが言えないなら変わりに言ってやれ、調整が終わったら連絡する。それまでは訓練プログラムの確認をしていろ」

 

乱暴だがツグミとフィリオを気遣う言葉を口にして、コウキは司令室を後にした。

 

「はは、またコウキに助けられたね」

 

「そうね……あの人……口は悪いけど良い人よね」

 

ツグミは強面で歯に衣を着せないコウキを苦手としていたが、不器用ながら優しい人と言うのは良く判っていた。

 

「コウキは昔からの友人でね。SRX計画に参加しているロブと僕と、彼とでよく話し合ったものさ」

 

楽しそうに笑ったフィリオは椅子に腰掛けて、1500から開催されるカリオンのテストプログラムのデータの再確認をする。それを見たツグミはフィリオに問いかけた。

 

「ねえ、フィリオ。どうして、そこまでアイビス・ダグラスを買うの? 私は正直……今回のテストに参加させるには早すぎると思うわ」

 

プロジェクトTDのシリーズ77は繊細な操縦技術を求められる。DC戦争時に正規のメンバーの何人かはDCに所属することになり、欠員になってプロジェクトTDのパイロットに選抜されたアイビスはあくまで予備パイロット。今回のテストに参加させるのはツグミは反対していた。

 

「そうだね。アイビスはまだ未熟でツイン・テスラ・ドライブの実験機であるカリオンを操れるかどうかと言うのは別問題だと思う」

 

テスラドライブを2基搭載する事で爆発的な加速を得ると言うのがシリーズ77の試作機であるカリオンの設計された理由だ。通常のテスラドライブでも不安定なのに、2基をリンクさせるツイン・テスラ・ドライブのシミュレーションを始めたばかりのアイビスには荷が重いとツグミは思っていて、フィリオもそれを同意した、

 

「……それなら今回のテストは100時間を越える訓練をしているスレイだけの方が良いと思うわ」

 

「……君の意見は最もかも知れない。だが、テストは予定通り2機で行うよ。例え上手くいかなくても、今回の経験はアイビスにとって絶対にプラスになる」

 

失敗しても構わないと言うフィリオにツグミは驚いた表情を浮かべた。コウキによって吹っ切れたとは言え、それは想定外の言葉だったからだ。

 

「なんでそこまで彼女を……アイビスに拘るの? 確かに、メンバーの欠員によりテストパイロットは今や2名だけになってしまいましたが……他にパイロットを探す事だって、それこそコウキ博士のほうがカリオンを乗りこなせると……」

 

「……ツグミ、そこから先は聞きたくないよ。その考え方はミツコ・イスルギの考えだ」

 

嫌悪しているミツコに似ていると聞いて、ツグミは口を紡いだ。フィリオは柔らかく微笑みながら窓の外に視線を向け、空を見上げる。その視線の先が空ではなく、そのもっと先の宇宙を見ているのはツグミにも判った。

 

「テレストリアル・ドリーム……僕は外宇宙を飛びたいと願って、プロジェクトTDのα、β、Ωを考えた。そしてスレイは僕の願いを叶えようと頑張ってくれている……だけどそうじゃない、そうじゃないんだ。それは僕の願いであって、スレイの願いじゃない。だから星の海を飛びたいと願っているアイビスを僕は買う……星の海を飛びたいと願うアイビスならば星の海をいつかは飛べる。だって夢は何よりも前に進む原動力になるからね」

 

そう笑ったフィリオにツグミは何も言えなかった。自分もプロジェクトTDに参加した時は純粋に星の海を飛びたいと願った……それを忘れていた事に気付いたからだ。

 

「そうね、私は大事な事を忘れていたわ」

 

「ふふ、思い出してくれて良かったよ。さ、テストの準備を始めよう。コウキが手伝ってくれているんだ、僕達も頑張らないとね」

 

今頃カリオンのテストの準備をトレーラーでしてくれているであろうコウキの事を思い、フィリオとツグミはテストの準備を始めるのだった……。

 

 

 

 

 

ヒューストン基地の訓練場に隣接するように停車したトレーラー車の中でコウキはテスト前の最終調整を行っていた。

 

「コウキ博士。カリオンの調整具合はどうだろうか?」

 

ノックの音に作業を中断し、振り返ったコウキに声を掛ける青い髪の冷たい印象を受ける少女――プロジェクトTDの主任のフィリオの妹である「スレイ・プレスティ」の言葉にコウキは肩を竦めた

 

「……スレイか、俺に出来る範囲ではベストの調整をしたはずだ。後はお前達次第だな」

 

「コウキ博士のベストな調整と言えば、完璧と言うことだな。これで私は安心して飛べる」

 

スレイは最初はプロジェクトTDに関係の無いコウキがカリオンの調整に関わる事に難色を示したが、スレイの操縦の癖に合わせて完璧に調整したコウキの腕前を知り、今はカリオンの調整を完全に任せるほどにコウキを信用していた。

 

「アイビスはどうだ?」

 

「……あいつは知らん、コウキ博士からも言ってくれ、アイビスには早すぎる」

 

「まぁ、普通に考えればそうだろうな」

 

「それならばコウキ博士からも主任に言ってくれ」

 

「言って変わるものでもあるまい。お前の兄は柔和に見えても石頭だ、自分で決めた事は誰に言われても変えん」

 

補欠メンバーであるアイビスをテストに出すのは正直博打も博打、大博打だ。それでもテストに参加させると決めたのはフィリオだ。アイビスから辞退しない限りは、フィリオはその意見を変えることは無いだろう。

 

「失敗してイスルギからスポンサー契約をきられたら「別に切られても良かろう、既にラングレーと伊豆基地から新しいスポンサーに出るという話が出ている」……そんな話は聞いていない」

 

このテストに失敗してイスルギのスポンサー契約を切られたらと気負いすぎているスレイ。そんなスレイにコウキは軽い口調でイスルギがスポンサーを降りても、次のスポンサーが居ると軽い口調で告げる。

 

「これが最後と言う訳では無い、気楽に飛んで来い」

 

「……そうさせて貰おう。テストの前にその話を聞けて良かった」

 

少し肩の力が抜けたのか柔らかく微笑んで部屋を出て行くスレイを見送り、再びコンソールに向かい合うコウキは前を向いたまま口を開いた。

 

「アイビス、そう言う訳だ。お前も気楽に飛んで来い」

 

「……あ、ありがとうございます。コウキ博士……匿ってくれて」

 

ゆっくりと整備用のコンテナから顔を見せた赤い髪をした活発そうな容姿の少女――「アイビス・ダグラス」が申し訳なさそうにコウキに頭を下げる。

 

「別に匿った訳じゃない、それよりも聞いていたな。ここでイスルギがスポンサー契約を打ち切っても、プロジェクトTDには何の問題もない。そういう風に手筈を整えておいた」

 

カザハラは私生活こそだらしないが、決して無能な人間では無いし、冷酷な人間でもない。DC戦争を切っ掛けに袂を別つ事になったが、それでもフィリオの事を心配していたし、そしてイスルギ重工に拾われた事も聞いて気を病んでいた。フィリオの考えとイスルギ重工の考え方には隔絶した物があると言うことも知っていたからだ。だからイスルギ重工に無理難題を押し付けられ、自分の理想を曲げなければならない時の事を考え保険を用意していた。それが伊豆基地とラングレー基地にプロジェクトTDのスポンサー依頼だ。そしてその2人の了承を得た今、仮にイスルギ重工からスポンサー契約を切られたとしても、星の海を飛びたいというフィリオの夢が途絶えることは無い。

 

「そうですか……ありがとうございます! 少し気が楽になりました! それとカリオンの調整ありがとうございますッ!」

 

元気良く言うと部屋を出て行くアイビスにコウキは五月蝿い奴だと小さく微笑み、訓練用のプログラムとは別に立ち上げておいたモニターを展開した。

 

「念の為の備えは必要だからな……」

 

ラングレー基地のテロリスト制圧事件に始まり、今地球圏のあちこちの研究所や軍基地で試作機の強奪事件が多発している、今日のヒューストン基地でのカリオンのテストに……いやもっと言えば、プロジェクトTDにコウキを派遣したのもジョナサンの予想ではカリオンを狙ってテロリストの襲撃があると踏んでいるからだ。

 

(外れてくれればいいんだがな……)

 

カリオンを格納しているトレーラー車とは別にもう1台ヒューストン基地に運び込んだトレーラー車……それはジョナサンが最悪のパターンを想定した備えではあるが、出来ればそれは使いたくないなと苦笑するコウキだが……その願いは叶わず、ジョナサンが想定した最悪の予想は適中する事となるのだった……。

 

 

 

 

第8話 星を追う翼と蘇る鬼 その2へ続く

 

 




ミツコとコウキの相性は最悪、色仕掛けも利益や賄賂によって揺らぐ事のない鉄の意志の男であるコウキ・クロガネはミツコの天敵です。
次回はシロガネとスキップした「美しき侵入者」でシロガネに回収されているラミアの視点から入って行こうと思います。正直な所、インスペクター四天王が出る所までは中々話が動かない場所が多いのでスキップする部分、はしょる部分もしくはオリジナルの話になる予定です。最初からいきなり百鬼帝国出しすぎるとうーんってなりますし、かといって余り内容の無い部分を話にするのも難しいですし、そこのところは私の感じ方になると思いますが、全体的に文字数を増やして、そいう部分に対応しようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 星を追う翼と蘇る鬼 その2

第8話 星を追う翼と蘇る鬼 その2

 

シロガネのハンガーに固定されたPTを見上げる扇情的な意匠に身を包んだ、緑色の髪をした女性――「ラミア・ラヴレス」は眉をひそめて、まるで睨むかの様にハンガーに固定されたPTを見つめていた。

 

(PTX-003C、アルトアイゼン。PTX-007-03C、ヴァイスリッター……か、形状にパーソナルカラー、型式番号、名称が私のデータと異なっているな)

 

イスルギ重工の新型の特機のパイロットとして登録されているラミアだが、それは偽装工作であり、この世界に「ラミア・ラヴレス」と言う人間は存在しないのだ。シャドウミラーの作り出した人造人間……その最後にロールアウトした個体「Wー17」と言うのが彼女の本当の名前であり、シャドウミラーのヴィンデルからすれば人間ではなく、ただの道具に過ぎない存在……それがラミアと言う名前を与えられた人造人間……それが彼女の正体だった。

 

(上手く潜り込めたのは良いが、本隊とは通信も取れず、言語機能に障害か……これでは任務に支障が出るな)

 

シャドウミラーの本隊と連絡が取れなければ追加の指示を聞く事が出来ない。当面はATXチームとシロガネの戦力分析をすればいいと考えていた。

 

(しかし、私のデータとはまるで異なるな)

 

データ状ではゲシュペンスト・MK-Ⅲと呼ばれていたベーオウルフ――この世界のキョウスケ・ナンブの乗るPTはゲシュペンスト・MK-Ⅲとは呼ばれず、古い鉄と言うまるで忌み名のような名称で呼ばれていた事にラミアは納得行かなかった。

 

(それにヒュッケバインの後継機と連邦軍の時期主力量産機ゲシュペンスト・MK-Ⅲ……か)

 

自分の知るゲシュペンスト・MK-Ⅲと酷似しているが、武装を交換するのではなく、役割に応じた装甲やパーツに交換する事が出来ると言うそれは自分の知るゲシュペンスト・MK-Ⅲとは異なり、整備性は低下しているが汎用性などは格段に向上しているのが良く判る。それにヒュッケバインの後継機は既に大破し、部品も取り外されておりフレームと装甲が残っているだけだが確かにあれは間違いなくヒュッケバインの後継機だった。

 

(それにフライトユニット……か、あんな物まで開発されているのか)

 

ゲシュペンストの背後のハードポイントに装着する武装付きのバックパック……テスラドライブを搭載したシャドウミラーのゲシュペンスト・MK-Ⅱより小回りは利かないが、手持ち火器ではなく背部に装備している事で両手を自由にしつつ、複数の装備を使えると言うのはラミアから見ても作戦遂行率に直結する上に、作戦ごとに搭載武装を交換する事でどんな作戦にも対応出来ると感じていた。

 

(やはり事前情報の通り向こうの状況とは色々と違っているらしい……な)

 

この世界のイングラム・プリスケン中佐とカーウァイ・ラウ少将、そして巴武蔵の協力によって無事に転移に成功し、その上で得ていた情報があるからある程度は混乱せずに済んでいたが、それでも自分の知る情報とのすり合わせに数日の時間を有していた。

 

(しかしあの女……エクセレン・ブロウニングのことも気になる。ただの偶然だと思うが……)

 

自分にエクセ姉様と呼ぶようにと言った明るい性格のエクセレン・ブロウニング……自分の創造主であるレモン・ブロウニングと同じ姓を持つエクセレンの事を考えていると背後から声を掛けられた。

 

「……俺達の機体に興味があるのか?」

 

「キョウスケ中尉。私もパイロットの端くれでございましてからに、他の機体には興味がありますのでございましますの……自社の機体ならともかく、軍用のカスタム機……そうそうお目にかかっちゃえませんのでして」

 

転移の衝撃でおかしくなっている言語機能に内心顔を顰めながらも、顔は笑顔を浮かべてキョウスケへ返答する事が出来た。

 

「カスタム機が珍しい、ということか。その割には随分と熱心にゲシュペンスト用のフライトユニットを見ていたようだが?」

 

その問いかけにラミアは内心舌打ちを打った、この世界ではL5戦役で使用された強化パーツ。それをしげしげと見つめているのは自分で考えても不信感に繋がるだろう。

 

「軍用のカスタムパーツございますですから、それに武装も色々と変わっているようですので、興味がありましたのです」

 

自分でも苦しい言い訳だと判っているがそれでもラミアは笑顔を浮かべたまま、返答する事が出来た。

 

「まぁ、良いだろう……そう言う事にしておいてやる。それよりもだ、お前の機体――アンジュルグだったな、イスルギの機体とは思えん。どこの技術を使っている?」

 

「どこも何も、イスルギ重工の技術に決まっちゃっているのでしょうですが……」

 

イスルギ重工所属のパイロットの乗る機体なのだから、イスルギ重工の技術に決まっていると返事を返すが、キョウスケの目が鋭くなるのを見て、警戒されていると言う事を改めて実感していた。

 

「アンジュルグの件は良いだろう、そういうことにしておこう……今は……だがな。では質問を変えるお前の操縦技術、身のこなし……民間のパイロットにしては少々出来すぎている気がしてな。似ている者を挙げれば……特殊戦技教導隊のパイロットに近い、お前は一体どんな訓練をしていたんだ?」

 

その問いかけにラミアは内心で顔を顰めた、アンジュルグよりもキョウスケの本命はこっちなのだと理解したからだ。アンジュルグで誤魔化した以上、操縦技術や体捌きに関しては誤魔化すことが出来ないと悟ってしまった。

 

「私も常々疑問に思ってはいたんでございますのですが……毎日、言われた訓練を、何も考えず行っていただけですので」

 

「言われるがままに訓練を受けただけというのか? 通常の軍人でも悲鳴をあげるような教導隊基準の訓練を?」

 

だがラミアの返答はキョウスケの勘繰りから逃れる事が出来る内容ではなかった。駆け引きに関しては完全にラミアが劣っていた……稼働時間の短さが露見する結果となってしまったのだ。

 

(しくじった……)

 

教導隊を例えにだし、教導隊レベルの訓練をしていたと暗に認めてしまった。

 

「なるほど、それならばお前がどんな訓練をしていたのか、是非俺にも教えて欲しい物だ。若年だが、ATXチームの隊長だ。部下の面倒を見ることもある、民間人であるお前をそこまでに鍛え上げた訓練の内容を教えてくれないか?」

 

(仕掛けてきたか。さて……どうする)

 

毎日繰り返していると言った以上訓練の内容は嫌でも覚えている事になる。しかしラミアは戦闘用に作られた人造人間――最初から対人、PT技術を覚えて生まれている。それを教えることなど出来る訳が無い……この場をどうやって切り抜けるかとラミアが考えを巡らせていると格納庫の扉が開いた。

 

「キョウスケ中尉、ここにいらっしゃいましたか」

 

「どうした?」

 

「艦長からの命令です。ATXチームはメインブリッジに集合せよとの事です」

 

どう返答するか悩んでいるラミアを救ったのは、キョウスケを呼びに来た一般兵士だった。

 

「了解した。訓練の件は後でまた聞くことにしよう。行くぞ、ラミア」

 

「判りました。しかしイスルギ重工のスタッフからの訓練内容なので……本社の許可を得たいと思うのでございましょう」

 

苦しい言い訳ではあるがラミアにはそう言うしか出来なかった。イスルギ重工が優秀なパイロットを育成し、機体と共に軍に売りつけようとしていると言うことにするしか、キョウスケの追及から逃れる術が無かった。

 

「……そういう事にしておこう」

 

(明らかに納得して無い表情でよく言う……やはり『こちら』でも『向こう』でも……注意すべきはこの男か。動きづらくならんといいがな)

 

侵入したばかりだが、前途多難だなとラミアは内心溜め息を吐き、キョウスケと共にシロガネのメインブリッジに向かうのだった。

 

「良く来てくれた、キョウスケ中尉。本艦は本来ならば、メキシコ高原に向かう予定だったが、進路を変更する。それに伴い、ATXチームとラミア・ラブレスには至急出撃準備を整えて貰いたい」

 

シロガネ艦長のリーの言葉を聞いて、ラミアは驚いた。軍人が与えられた命令を無視する……そのありえない事に驚きを隠せなかった。

 

「それは構いませんが、メキシコ高原からどこへ進路を変更するのですか?」

 

「ヒューストン基地だ。偵察部隊がヒューストン基地へ向かうリオンやアーマリオンの部隊を発見した。そうなると派手に移動しているメキシコ高原の部隊は陽動と予測される。本艦はメキシコ高原への対応を周囲の基地に対応を依頼し、ヒューストン基地へ向かうことにした。ラングレーの一件の事を考え、慎重になるべきだと判断したからだ」

 

「ヒューストンには少数生産された量産型ヒュッケバインMk-Ⅲが配備されており、特別プロジェクトの実験機もあるのが進路変更の理由ですか」

 

「その通りだ。ヒューストンには僅かに生産された量産型のヒュッケバインMK-Ⅲと、素体のゲシュペンスト・MK-Ⅲ、そして換装パーツが保管されている。メキシコ高原で陽動を行い、ヒューストンから新型を狙うと考えたからだ」

 

(量産型のヒュッケバイン? それに、実験機だと?)

 

キョウスケとリーの言葉を聞いてまだ自分が知らない情報があるのだとラミアは驚く中、リーとキョウスケの話は続いていた。

 

「命令の変更は既にクレイグ司令に伝えてあるから命令違反にはならない。現時点で量産型ヒュッケバインと量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲの素体が配備されている基地は北米地区で4つ……その中で保有戦力が最も少ないのはヒューストン基地だ。私の取り越し苦労で済めば良いが、警戒しておくことに越した事は無いと思う。仮に私が敵の指揮官ならば、警備の薄い所を狙う。キョウスケ中尉はどう思う?」

 

「異論はありません。それならばATXチームで先行した方が良いと思うのですがどうでしょうか?」

 

「そうか、ではATXチームは直ちに出撃し、ヒューストンへ向かってくれ、本艦もすぐにヒューストンへと向かう」

 

自分の艦で命令の変更を上官に頼み、そしてそれを通す上官……自分の常識を覆すやり取りを目の前で行われたラミアは驚きながらもキョウスケ達と出撃する為に格納庫へと足を向けるのだった……。

 

 

なおラミアが任務をどうやって成し遂げるかと思い悩んでいる頃クロガネ改のエキドナはというと……。

 

「ぱぁぁあああ」

 

エルザムの作った食事を食べて華のような笑みを浮かべていたりする。その顔を見て何人かの独身のLB隊が頬を赤らめるが、エキドナは武蔵にしか興味が無く、武蔵相手には小鳥のように後をついて回っているが、それ以外の相手には警戒心むき出しですぐに逃げてしまうのである意味ツチノコのような扱いをされていた。

 

「あ、美味しいみたいですよ。エルザムさん」

 

「それは良かった。武蔵君はどうかな?」

 

「んー美味しいんですけど、これはなんか違うかなあ」

 

武蔵の手にしている丼の中身はカツ丼だったのだが、カツは小さく見栄えを重視しされており、薄い豚バラを何枚も重ねその間に大葉やチーズ等を挟み、カツを煮込んでいるタレは和風ではなくコンソメを利用した洋風の物だった。

 

「武蔵は美味しくない?」

 

「んーオイラはこれあんまり好きじゃないかなあ。丼はこう、もっと量が多くて米が多い方が」

 

「分かる。確かに美味いんだが……これは違う」

 

武蔵だけではなく、ゼンガーにもこれは違うと言われたエルザムだったが、気落ちしている様子は無くむしろやる気に満ちた表情で武蔵とゼンガーに美味いと言われる洋風のカツ丼を作ってみせると気合を入れていた。

 

「隊長……何してるんですか?」

 

「武蔵が何を好きなのか、どんなものを好むのかを調べている」

 

エキドナが一緒に食べているのに離れた所で双眼鏡を片手に、メモ帳にひたすらペンを走らせていたのだが、その姿を見てトロイエ隊の隊員は残念な物を見るような目でユーリアを見つめていたりする……。

 

 

 

 

 

シロガネがヒューストン基地に進路を向けた頃。ヒューストン基地ではプロジェクトTDの最終目標の為に建造された試作機……「カリオン」のテストが始められていた。

 

「ターゲットはバルドングか……やれやれ、あの女狐め、また一噛みしてきたか?」

 

バルドングはPTやAMからすれば旧式の取るに足りない戦車だが、それでも装甲単体と主砲の攻撃力で考えれば訓練時間の短いアイビスにとってはかなりのプレッシャーになることは明らかだ。

 

「ちっ、やっぱりか……」

 

加速力のアピールで飛行している2機のカリオンの内、アイビスの乗る白銀のカリオンが僅かに遅れている。バルドングを確認する前では直線に限ってスレイよりも良い速度を記録していたのに、バルドングがターゲットと判り萎縮したかとコウキは小さく呟いた。

 

「想定内……か、フィリオめ、妹が可愛いからと言って甘やかしすぎだな」

 

スレイの操縦技術はコウキから見ても高水準で纏まっている。だが、それ故にスレイには伸び代がない。訓練内容を完全に熟知し、そして機体の操縦も己の手足のように行える。だがそれだけだ、いやむしろ成果を上げなくてはならないと気負いすぎていると言っても良い。ああいうタイプはイレギュラーにとことん弱い、そう考えると恒星間の移動と言う不確定要素しかない星の海を飛ぶにはスレイには酷だが、適してないと言わざるを得ない。

 

「そういう面ではアイビスの方が優れているか……」

 

技量はまだまだだが、それでも星の海を飛びたいと言う熱意がアイビスにはある。その熱意をコウキは買いたいと思うし、何よりもフィリオもそれを考えてのアイビスの大抜擢だろう。

 

「……今はまだまだだがな……」

 

スレイはワンアプローチでバルドングを沈めて見せたが、アイビスはバルドングの主砲を破壊し、機体上部を中破させたが撃墜する事が出来ず、上空で旋回し再アプローチを仕掛けようとしたがツグミとフィリオに止められていた。

 

『すいませんッ! 再アプローチに入りますッ!』

 

『その必要はないよ、アイビス。テストに関しては充分な結果が出た』

 

『でも……!』

 

必要ないと言われてまだ自分は出来ると言おうとするアイビス。だがフィリオの言葉は柔らかいが、アイビスの熱意を否定する物だった。

 

『今の君の最優先事項は、一刻も早くカリオンに慣れる事だ。熟練訓練20時間と言う事を考えれば、君は良くやってくれたよ』

 

『そうよ、アイビス。スレイは100時間を越えるカリオンの稼動実績があるわ。それを考えれば、まだ訓練段階なのに良くここまで操縦したわ。次のテストに進みましょう』

 

インカムから聞こえてくるフィリオ達とアイビスの会話を聞いていたコウキは小さく溜め息を吐いた。

 

「そんな言い方をするな、馬鹿共……」

 

通信機をONにしていないのでその呟きが司令室に届く事は無いが、コウキはそう言わざるを得なかった。スレイは自分こそがプロジェクトTDのエースだと自負している、事実エースと言うだけの能力もある。だからこそ、他人にも己にも厳しく行動していた。そんなスレイの前でアイビスの失敗を容認するような言動は本来避けるべき物だ。フィリオとツグミは研究者としては優秀だが、それ以外の能力に問題があるなとコウキが冷静に分析していると警報が鳴り響き、5機のガーリオンとリオン、アーマリオンの混成部隊の姿を見て、コウキは外部スピーカーをONにし、マイクを掴んでアイビスとスレイに指示を飛ばした。

 

「ちいっ! 嫌な予感は的中か、アイビスッ! スレイッ! 1度後退しろ」

 

トレーラー車からスレイとアイビスに撤退命令を出すコウキだが、トレーラー車にヒステリックな基地司令の怒鳴り声が響いた。

 

『テスラ研の研究者如きが命令を出すなッ! フィリオ少佐、パーソナルトルーパーが出撃するまでの時間をカリオンで稼げ!』

 

「貴様は無能かッ! カリオンは試作機でパイロットに実戦経験がないッ! そんなパイロットに基地の警備網を抜けてくるような熟練パイロットの相手をしろと言うのかッ!」

 

コウキの剣幕に基地司令は息を呑んだ。だがすぐに再び耳触りな怒鳴り声を上げる。

 

『私はお前に話をしているのでは無い、越権行為をやめてもらおうか、コウキ・クロガネ技術主任。フィリオ少佐、命令を復唱せよッ! ただちにカリオンで迎撃に出るようにとなッ!』

 

基地内部にPTが居ない訳が無い。執拗にカリオンで出撃しろと言う基地司令の姿にコウキの脳裏には、厭らしく笑うミツコの姿が浮かんだ。

 

「フィリオ! 命令を復唱するな! 実験機への実戦命令こそ基地司令の越権行為だ!」

 

『コウキの言う通りです。カリオンは実験機で、パイロットにも実戦経験はありません、それとも基地司令が全責任を取ってくれるというのですか?』

 

コウキとフィリオの言葉に一瞬怯んだ様子の基地司令だが、自分の我を通すために更なる怒鳴り声を上げる。

 

『カリオンには実弾が装填されているのだろうッ! それならばテストの延長で実戦経験を積ませればいいッ! 当基地のPT隊はすぐには出撃出来んッ! あの2機に時間を稼がせるのだッ! 戦えぬ機体ならば伊豆基地もラングレーもスポンサーに等はならんぞッ! お前達のプロジェクトなど誰も協力などしなくなる!』

 

『……了解しました。こちら01。これより敵機を迎撃します』

 

『スレイ! 駄目だ、カリオンは撤退するんだッ!』

 

フィリオが静止するが、基地司令の言葉にプロジェクトTDに全てを賭けているスレイが戦闘姿勢に入ってしまった。

 

「ちいっ、無能なくせに権力を持っているから手に負えんッ!」

 

トレーラー車の座席から立ち上がり、コウキはリオンとアーマリオンと戦闘を開始したカリオンを見て舌打ちし、後部座席からコンテナの中に足を踏み入れる。

 

「カザハラ博士の言う通りだな、結局こいつを使う事になったかッ!」

 

テスラ研から運んできた保険……データ取りの為に用意されていたゲシュペンスト・MK-Ⅲのコックピットにコウキは身体を滑り込ませる。

 

「外部モニターとゲシュペンストのモニターをリンク……OS起動、機体の安定稼動まで……276秒。間に合うかッ!」

 

カリオンのデータを取るのに作業を中断していたのが災いし、ゲシュペンスト・MK-Ⅲの動力はまるで温まっていなかった。1分1秒が惜しいこの時に約5分と言う時間は普段冷静なコウキから冷静さを奪うには十分な時間だった。

 

「くそ、流石に欲張りすぎたかッ!!」

 

L5戦役で武蔵が戻らなかった……それは少なくないショックをコウキに与えていた。ゲッターロボの強さを知っているからだ……だから自分は必要ないと思い裏方に回った。その結果が武蔵の特攻であり、武蔵の戦死であった……驕る訳では無い。だがそれも頭の中にもしも自分が「鉄甲鬼」の開発を続けていて、L5戦役に参加出来れば武蔵は死ななかったのでは無いか? と言う考えがどうしてもコウキの頭から消えなかった。仮に鉄甲鬼がなかったとしても、コウキならばゲッターロボを操る事が出来た。共に戦う事も出来たのだ、それでもコウキは自分が戦場に出る必要は無いと考えた……武蔵ならば、ゲッターロボならば大丈夫と思い込んだのだ。

 

「くそっ、急げ……あの馬鹿が余計なことをする前にッ!」

 

さっきのやり取りでヒューストンの基地司令がミツコに何か言われているのは確信していた。あんな見え見えのハニートラップに引っかかる無能が余計な事をする前に出撃準備が整ってくれと願ったがコウキの願いは叶わなかった……。トレーラーの外部モニターとリンクしているゲシュペンストのモニターに量産型ヒュッケバイン・MK-Ⅲが2機と量産型ゲシュペンストMK-Ⅲが2機起動する姿が映し出されていた。

 

「2機!? ヒュッケバインは1機だった筈だッ!? 何故だ!?」

 

量産型ヒュッケバインMK-Ⅲは連邦全体で50機ほど生産されただけで、アメリカ全体で考えれば6機ほどしかない筈のそれが2機もヒューストンにある訳がないとコウキはコックピットの中で声を荒げていた。コウキは知る良しもないがミツコのハニートラップに引っかかり、無理に他の基地から量産型ヒュッケバインを回させていたのだ。今まで沈黙していた4機のガーリオンが爆発的な加速が格納庫から出たばかりの量産型ヒュッケバインMK-ⅢとゲシュペンストMK-Ⅲに組み付いた。その光景を基地司令と共に見ていたツグミとフィリオは大きく目を見開いた。何故ならば、それはプロジェクトTDの新技術だったからだ。

 

「ブースト・ドライブッ!?」

 

「馬鹿な、あのシステムは……ッ!」

 

「ちいいっ!! あの女狐ぇッ!!!」

 

「パイロットは何をしている! ヒュッケバインとゲシュペンストを守れぇッ!!」

 

最終的にはカリオンにも搭載される予定のシステムであり、理論上は可能であるとイスルギ重工に伝えたばかりの新技術だったからだ。アイビスとスレイも最終的に搭載される予定のシステムであるブースト・ドライブに対応出来るわけが無く、簡単に機体の横を抜けられ、ヒステリックに機体を奪取させるなと叫ぶ司令官の声を聞きながら、ガーリオンにコックピットを抉じ開けられ、機体を奪取される様を見ていることしか出来ないのだった……。

 

 

 

 

連邦にとって虎の子であるゲシュペンスト・MK-Ⅲと量産型ヒュッケバインMK-Ⅲの強奪に成功した。その光景を見ながらこの作戦の指揮官である「アーチボルド・グリムズ」は自分用のカスタマイズされたガーリオン・カスタムの中でほくそ笑んでいた。

 

「流石は「ローズ」良くやってくれましたねぇ……」

 

自分達をこの基地に導き、そして連邦の新型を4機も回収させてくれたスポンサーである「ローズ」にアーチボルドは心から感謝していた。

 

『アーチボルド少佐。あの機体はどうしますか?』

 

部下からの報告にアーチボルドは旋回している2機の戦闘機……プロジェクトTDの機体を見て思案顔になる。

 

(あれは手土産としては素晴らしい物なんですがねぇ……)

 

まだリオンもアーマリオンも残っている……それに新技術が使われているプロジェクトTDの機体はアーチボルドがこれから所属する「組織」への手土産と考えればここで鹵獲しておきたい機体ではある。

 

「あれは置いておきましょうか、スポンサーの機嫌を損ねると怖いですしね」

 

『了解です。では撃墜せずに、適度にダメージを与えると言う事でよろしいですか?』

 

「ええ、それで結構です。よろしくお願いしますね」

 

撃墜するなと言われているが、戦うなとは言われていない。それにローズもあの機体の戦闘データが欲しい筈だからある程度……撃墜しない程度で実戦経験のないパイロットに軽くトラウマを刻む程度の恐怖を与えるように命じて、アーチボルドはガーリオンの背もたれに背中を預けた。

 

(楽な仕事ですねぇ……私の趣味が出来ないのは残念ですが、それでも良い仕事です)

 

警備が薄くされている基地に襲撃を掛け、新型機体を強奪して帰る。生粋のテロリストであり、快楽殺人者であるアーチボルドは虐殺行為が出来ない事に不満を抱いていたが、ここで下手に暴れて「取引」が無碍になっては困ると警備がいないヒューストン基地への襲撃を必死で我慢していた。

 

『うわああッ! ううっ……』

 

『くっ!? こいつら上手い……ッ!?』

 

傍受している通信から恐怖と痛みを感じているスレイとアイビスの声を聞いて、ほんの僅かでも自分の嗜虐心が満たされるのを感じていると周囲の偵察を行っていた部下からの報告が入った。

 

『アーチボルド少佐! こちらの包囲網を抜けて4機の機体がヒューストン基地へと向かいましたッ!』

 

「おや、メキシコ高原には掛かりませんでしたか、やれやれ……勘の良い軍人もいる物ですね」

 

メキシコ高原にライノセラス2隻、そしてアーマリオン、ガーリオンの部隊に陽動を行わせ、その間にヒューストン基地の新型を奪う計画だったが、そちらの陽動には掛からなかった部隊がいると聞いてアーチボルドは再び操縦桿に手を掛けた。

 

「突破した機体は? 確認出来ましたか?」

 

『PTX-003C、PTX-007-03C、新型ゲシュペンスト1機、天使型の特機1体です』

 

部下の報告を聞いてアーチボルドは笑みを浮かべた。L5戦役で活躍したATXチームが来ていると聞いて、退屈だったこの任務も面白みが出てきたと口元に獰猛な笑みを浮かべる。

 

『アーチボルド少佐、如何しますか?』

 

「噂に名高いATXチームがお相手してくれると言うのならば、今後の戦いの予行演習にもなるでしょう。全機彼らへの攻撃を許可します。前々から手合わせ願いたいと思っていましたからね、貴方達も勉強させて貰いなさい。危険と思えばブースト・ドライブで脱出……『出来ると思っているのか、貴様はここで死ねッ!』ッ!!」

 

数多の犯罪を犯し、死を偽装し、幾つもの偽名を操り生き抜いてきたアーチボルドでさえも、背筋が泡立つような殺気を感じ慌ててガーリオンを急上昇させた。その直後に地面に突き刺さる巨大な戦斧を見てアーチボルドは珍しく目を見開いた

 

「危ない危ない……ふふ、まさか貴方のような男がこの基地にいるとは思いませんでしたよ。貴方……私と同じ側の人間でしょう? それに……その機体、ふふ、ゲッターロボの真似をしているつもりですか? その機体を操って正義の味方とでも言うつもりですか?」

 

ヒューストン基地に配置されていたトレーラー車を破壊して現れたゲシュペンスト・MK-Ⅲを見てアーチボルドは嘲笑うかのように告げた。赤と黒のツートンカラーに、背部にあるマント。そして両腕の明らかに試作型のアタッチメントはゲッター1の両腕に酷似していた。

外道である事を認めているアーチボルドだからこそ、感じ取れた気配……目の前のゲシュペンスト・MK-Ⅲに乗る男が自分と同類であると言うのを感じ取っていた。

 

「さてな……答える義理は無い」

 

「ふふ、格好良いですねえ……そういう澄ました……自分は違うと思っている奴が1番気に食わないんですよッ!!」

 

ディバインアームを振りかざし、コウキの乗るゲシュペンストMK-Ⅲ・タイプOカスタムに斬りかかるアーチボルドの駆るガーリオン・カスタム。緩急を利用した目の錯覚を利用し、背後に回りこんだ一撃をゲシュペンストMK-Ⅲ・タイプOカスタムは正面を向いたまま、戦斧でディバインアームで切り払うと同時に蹴りを叩き込む。

 

「ぐうっ!? 中々やりますねえ……」

 

完全な奇襲だったにも関わらず簡単に迎撃された事にアーチボルドは、コウキの腕前が並大抵では無いと一瞬で理解し、観察するような動きに切り替える。それを見たコウキはあえて広域通信のまま、挑発するようにゲシュペンストMK-Ⅲ・Oカスタムの右手をガーリオンにむけ、掛かって来いと言わんばかりに指を動かしながら告げた。

 

「ふん、来い三下。格の違いを教えてやる」

 

「ふふふ、良いですねぇ……その澄ました顔を歪ませてあげますよッ!!」

 

ヒューストン基地上空で外道「アーチボルド・グリムズ」とかつて鬼であった男「コウキ・クロガネ」の戦いが幕を開けるのだった……。

 

 

 

第9話 星を追う翼と蘇る鬼 その3

 

 




アーチボルドVSコウキ開幕。コウキの機体はゲッターロボを模したゲシュペンストMK-Ⅲではなく、鉄甲鬼をベースにした機体で、新西暦で「鉄甲鬼」を作り出すための試作機となります。次回は戦闘をメインで書いて行こうと思います。特にゲシュペンストMKーⅢ・オーガ・カスタムを見てゲッターロボ!?と思うキョウスケ達を書いて見たいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 星を追う翼と蘇る鬼 その3

第9話 星を追う翼と蘇る鬼 その3

 

ガーリオン・カスタムと切り結ぶゲシュペンスト・MK-Ⅲを見てフィリオはやっと安堵の溜め息を吐く事が出来た。

 

(カザハラ博士、ありがとうございます)

 

テスラ研にいるであろう恩師の顔を思い出し、フィリオは心の中で感謝を告げる。正直な所テスラ研からコウキがプロジェクトTDの為に出向すると聞いて最初にフィリオの脳裏を過ぎったのは何故の言葉だった。コウキは確かに優秀な研究者であり、技術者だがその専門はグルンガスト等を始めにした特機だ。プロジェクトTDが作ろうとしているリオン系列の研究はコウキにとっては未知の領域だった筈だ……現にコウキが合流した直後はプロジェクトTDの資料をひたすらに読み漁り、知識を付ける事を最優先にしていた。1ヶ月ほどでフィリオとツグミと専門的な議論を交わす事が可能になっていたが……それでも何故と言う疑問は尽きなかった。だがそれも今、この瞬間に解決した。コウキはプロジェクトTDの護衛としてテスラ研から派遣されていたのだと理解した。

 

『ふんッ!!!』

 

手にした戦斧でアーマリオンもリオンもお構いなしに引き裂き撃墜する。コウキの駆るカスタムタイプのゲシュペンスト・MK-Ⅲは縦横無尽に戦場を駆け回り、リオンやアーマリオンを盾にするガーリオンを執拗に追い続ける。

 

『馬鹿ですねぇ、皆さんやってくださいッ!!』

 

アーマリオンの背部に搭載されているコンテナが開き無数の無数のミサイルの雨が降り注いだ。

 

『その程度で俺の首を取れると? 舐めるのも大概にしてもらおうかッ!』

 

ゲシュペンストの両腕が背後に回ると、両腕のアタッチメントに新しい装備が装着されていた。

 

『ガトリングアームッ!!!』

 

両腕から放たれるガトリング弾がミサイルを迎撃し、ヒューストン基地の上空に火薬の花を咲かせる。

 

『逃がさんぞッ!!』

 

『っととっ!』

 

ガトリングの銃口を見せていたパーツが変形し、蕾のようなマニュピレーターアームに変化し凄まじい勢いで射出される。ガーリオン・カスタムは直撃寸前で近くに居たアーマリオンを盾にする事で防いだ。

 

『少佐!? 何故ッ!?』

 

『そうですねえ、あえて言えば近くにいた貴方が悪いと言う事で、運が悪かったですね』

 

胸部のバルカンで動力部を打ち抜き、爆発するアーマリオンをゲシュペンスト・MK-Ⅲに向かって蹴り飛ばすガーリオン・カスタム。

 

『嫌だ!? 嫌だああああッ!!!』

 

脱出装置も機能しなかったのか、パイロットが嫌だと叫びながらアーマリオンと共に爆発する。

 

『おや、これでもダメージを受けませんか……やれやれ、相当頑丈ですねぇ……』

 

マントで身体を覆うようにして防御したゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムにはダメージを受けた様子が無く、アーチボルドも驚きの声を上げる。しかしその前の部下を殺してまで攻撃しようとしたアーチボルドにコウキが凄まじい怒気を放った。

 

『外道が……そこまでするか』

 

部下を躊躇う事無く盾にし、あまつさえ脱出装置を破壊して敵への爆弾にする。その余りに人道に反する戦術を見て、司令室にいた全員が絶句した。だがその中でも基地地司令だけは違っていた……。

 

「貴様ッ! 研究者如きが我が軍の最新兵器を使いおってッ! この件はテスラ研の責任だ! お前達もだ! 何がプロジェクトTDだ、肝心な所では何の役にも立たないではないかッ! 今回の一件は貴様らの責任だ! 軍法会議物だッ!」

 

量産型ヒュッケバイン・MK-Ⅲ、そして量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲを奪われた事で自分の首が危ないという事が判っているのか、目を血ばらせ、唾を散らしながら叫ぶ基地司令に司令室にいる全員の冷ややかな視線が向けられる。

 

「失礼ですが、軍法会議に出席するのは基地司令。貴方です」

 

「な!? き、貴様ら何をする!?」

 

「量産型ヒュッケバイン・MK-Ⅲの不法な移動命令、防衛隊への出撃禁止命令、今回の一件での敵ガーリオンの警備網の突破速度から、貴方には情報漏えい、反逆の疑いが掛かっております」

 

「な!?」

 

「弁明は軍裁判所でお聞きします。連れて行け!」

 

「「「はっ!!」」」

 

警備兵に両腕を掴まれ、引きずらて行く基地司令に変わり、副司令が司令室に腰掛ける。

 

「ここから先は私が指揮を取る。フィリオ少佐、カリオンのテストパイロット2名へ撤退命令を急げ! あの機体を奪取される訳にはいかない! コウキ・クロガネ技術主任! 後3分ほどでATXチームが当基地に合流する。3分間なんとか耐えれるか!?」

 

『スレイとアイビスを下げろ。足手纏いを庇いながら戦うには分が悪い』

 

「テストパイロットには既に撤退命令を出しているから心配ないッ! それでどうだ? 出来るか?」

 

『任せておけ、子供の御守が無ければ何の問題もない。お前達は基地の防衛に専念しろ』

 

「頼もしい言葉だな、コウキ技術主任。すまないがよろしく頼む」

 

副指令が基地の指揮を取るようになり、漸くヒューストン基地が一丸となって基地防衛の為に動き出すのだった……だがそれは余りにも遅い出来事なのだった……。

 

 

 

カリオンに乗るスレイは目の前の光景を見て、驚愕に目を見開いていた。コウキはあくまで研究の支援要員だと思っていた……事実カリオンのメンテやスレイの操縦の癖に合わせ微調整をしてくれる様はプロジェクトTDの専属メカニック顔負けだった。

 

(本職はパイロットだったのか……)

 

「凄い……どうやったらあんな操縦が出来るの……」

 

リオンとアーマリオン、そしてガーリオン・カスタムを相手にしているのにも拘らず、自分達の支援まで行っているコウキを見て、スレイもアイビスも目の前の光景を最初は受け入れる事は出来なかった。

 

『トルネードを喰らえッ!!』

 

背部にマウントされていたパーツが両肩に装着され、そこから放たれた暴風がリオン達の動きを乱し、そこに即座に手にした戦斧を投げつける。

 

『いやあ、お強いですねぇ……でも……足手纏いがいて勝てるとお思いですか?』

 

ブーストドライブでゲシュペンストMK-Ⅲ・Oカスタムの脇を抜け、カリオンに接近するアーマリオン。

 

「くっ! アイビス! 何を気を抜いているッ!」

 

「うっ! くくっ……駄目だ振り切れないッ!?」

 

スレイは緩急を自在に駆使し、接近するアーマリオンを回避した。だが、操縦技術に劣るアイビスはアーマリオンはおろかリオンからすらも逃げ切れず、レールガンでバランスを崩した所を急接近したアーマリオンの両腕がカリオンに伸ばされたその瞬間。

 

『ちいっ! とっとと離脱しろ! スレイ、アイビスッ!!』

 

『ぐおっ!? なんだ。何が起きているッ!?』

 

マニュピュレーターアームが伸び、アーマリオンの胴体に巻き付き、それを引き寄せる事でアーマリオンをカリオンから引き離すゲシュペンストMK-Ⅲ・Oカスタム。だがそれは対峙しているアーチボルドに対して、隙だらけになることを現していた。

 

「ほらね、正義の味方は仲間を見捨てられないんですよ。ソニックブレイカーッ!!」

 

「ぐふうっ!?」

 

基地に向かって叩きつけられるようにソニックブレイカーの直撃を喰らい、ゲシュペンストMK-Ⅲ・Oカスタムが背中から格納庫に叩きつけられる。

 

「コウキ!?」

 

「コウキさんッ!?」

 

自分達を庇ってコウキが攻撃を受けたと聞いて思わずコウキの身を案じてその名を叫んだ。だがコウキの返答は怒声だった……。

 

『俺の心配をしている場合があったら、さっさと撤退しろッ!! 邪魔なんだッ!!』

 

その言葉に続くように司令室からフィリオの通信がカリオンへと届けられる。

 

『スレイ、アイビス、コウキの言う通りだ。コウキを心配するなら、早く離脱してくれ』

 

フィリオからの撤退命令が出るが、スレイとアイビスは即座に反対意見を口にしていた。

 

『私はまだやれます! コウキの援護だって出来ますッ!』

 

『あたしだって! それに、コウキさん1人じゃ危険だと思います』

 

敵は20機以上いる。如何にコウキが優れたパイロットだったとしても危険だとスレイとアイビスは口にする。

 

『うぬぼれるなよ、実戦も経験していないお前達が居たら足手纏いにしかならないッ!! とっとと離脱しろッ! これ以上拒むというのならば俺がお前達を撃墜するぞッ!!』

 

遠慮も何もない、年上の異性からの本気の怒声にスレイもアイビスも思わず目尻に涙が浮かんだ。

 

『コウキの言う通りだ、これ以上君達がいても出来る事は何も無い。改めて、プロジェクト責任者としての命令する。直ちに撤退するんだ』

 

有無を言わさない口調にスレイもアイビスも目に僅かな涙を浮かべ、試験場から離脱する。

 

『すまないコウキ、憎まれ役を押し付けてしまった』

 

「気にするな、あれ以上渋るなら俺が撃墜する所だ」

 

数の不利を覆す立ち回りが出来ていたのはゲシュペンストMK-Ⅲ・Oカスタムの装備が初見であり、それを警戒して相手が踏み込んでこない事が大きかった。だが実戦経験の無いスレイとアイビスがいればそれをカバーする為にコウキは動かざるを得ず、そこを狙い打たれてはコウキも劣勢に追い込まれる。

 

「ATXチームも来た。ここから巻き返す」

 

ヒューストン基地にやっと到着したATXチーム。スレイとアイビスが抜けたが、それを上回る戦力が登場し、ヒューストン基地での攻防戦は仕切りなおしとなるのだった……。

 

 

 

 

 

 

ヒューストン基地に到着したキョウスケ達は驚きに目を見開いていた。

 

「中尉、あれってゲッターロボじゃ!?」

 

「いいや、よく見ろ。ゲシュペンスト・MK-Ⅲをゲッターロボに似せた改造をしているのだろう……あんな物まで開発されていたのか……」

 

「いやーそれも違うみたいよ。識別がヒューストンじゃないわ、テスラ研みたいだし……試作機か実験機かしらね?」

 

ヒューストン基地で20機近いリオンとアーマリオン、そしてガーリオン・カスタムとたった1機で戦っていたゲシュペンストMK-Ⅲ・Oカスタムには流石のキョウスケ達も驚きを隠せなかった。

 

『こちらテスラ研所属、コウキ・クロガネだ』

 

「ATXチーム隊長。キョウスケ・ナンブだ。これより援護に入る」

 

『そうか、それは助かる。それとこのリオンとアーマリオンはブースト・ドライブを搭載している』

 

コウキの警告の声が途中で途切れ、凄まじい速度で切り込んできたアーマリオンにカウンターの要領で拳を突き出し粉砕するゲシュペンストMK-Ⅲ・Oカスタムを見て、コウキが並みのパイロットでは無いと悟った。

 

『急に加速してくる、奇襲に注意して対応してくれ』

 

「了解、警告に感謝する。話は聞いていたな、エクセレン、ブリット、ラミア。敵機の速度に惑わされる事無く対応しろ、戦況開始ッ!」

 

キョウスケの言葉に従い弾かれたように動き出すヴァイスリッターと、ヒュッケバインMK-Ⅱの代替機であるゲシュペンストMK-Ⅲ・Sカスタムに乗っているブリットがアーマリオンとリオンへと向かっていく。

 

「ラミア、お前は無理をせず援護に集中しろ」

 

『了解したでありんす、キョウスケ中尉は背後を気にせずに戦いくださいませでございます』

 

ラミアの返答にキョウスケは内心お前に背後を任せるのは不安だがなと呟き、アルトアイゼンをガーリオン・カスタムに向かって走らせる。

 

「せいっ!!」

 

ゲシュペンストMK-Ⅲ・Sカスタムが擦れ違い様にシシオウブレードを一閃し、時間差でアーマリオンが両断され爆発する。

 

「ブリット君やっるう!」

 

「いえ、俺じゃないです。ゲシュペンスト・MK-Ⅲが凄いんですよ」

 

茶化すように言うエクセレンにブリットがそう告げる。ムラタとの戦いで大破したヒュッケバインMK-Ⅱの変わりに与えられたゲシュペンストMK-Ⅲ・Sカスタムは操縦性もさることながら、ブリットのイメージ通りに動く足回りの良さと、安定した出力――それら全てが高次元で纏まっていた。

 

「はいはい、そんなに急いで何処に行くの?」

 

『なっ!?』

 

ブースト・ドライブでヴァイスリッターに向かおうとしたアーマリオンだが、加速に入ろうとした瞬間モニター一杯に広がったのは大口径の銃弾。ブースト・ドライブに入る事無く、アーマリオンは頭部を吹き飛ばされ墜落していく。

 

(使いこなせている訳じゃないみたいね。ま、早々扱いきれる物じゃないのは当然だろうけど)

 

今までの機体の常識を遥かに超える機動力。それらは早々扱いきれるものでは無い。加速力で幻惑し、背後を取って倒そう等と言う甘い考えで勝てるほどエクセレン達の経験は甘いものではなく、数回ブースト・ドライブを見た事でブースト・ドライブが直線的な軌道しか出来ないと判れば、相手の進路を予測してその先にミサイルやビームを配置する事は容易いことだった。

 

「ブラスターキャノンッ!!」

 

「あのお兄さんもやるわねぇ……」

 

キョウスケ達が到着する前に1人であれだけの大群と戦っていたコウキを見て、素直にエクセレンは感心していた。

 

「あの腕前ならばテスラ研で研究者をしていなくても十分に活躍出来たでしょうに」

 

「そうね。適材適所って言うし、彼にとっては戦場よりも研究所の方が良かったんでしょうね」

 

会話をしながらもエクセレンとブリットはアーマリオン達を撃墜しながら、敵の錬度の低さを感じていた。確かにブースト・ドライブの機動力は厄介な物であったがそれだけだ。操縦錬度で考えれば新兵とまでは言わないが、それでもルーキーの域は出ないという錬度しか持ち合わせていなかった。

 

(どーも、きな臭くなってきたわねぇ……)

 

ブースト・ドライブ頼りの奇襲戦法――そしてまるで用意されていたかのような警備の薄い基地と新型……それはDC戦争時の時のように内通者がいるようなスムーズさだ……その動きを見て、今回の一件はテロリスト達に新型を渡す為だけに用意された舞台のようにエクセレンは感じていた。

 

『さて……腕前を見せてもらいましょうか、キョウスケ・ナンブ君』

 

「俺の名前を知っているだと? お前はDC戦争の生き残りか?」

 

ガーリオン・カスタムに乗っている男は挑発するように広域通信でキョウスケへと声を掛けている。

 

『残念ながら、外れです。それに、君達は僕達の間でかなりの有名人でしてね……これからは長いお付き合いになると思いますのでどうぞよろしく』

 

人当たりのよい柔らかい声……だがその中に隠されている陰湿な響きにエクセレンは顔を歪めた。敵に回すと厄介なタイプの人種だ、可能ならばここで倒しておきたいとエクセレンは感じていた。そしてそれはキョウスケもコウキも同じだった。

 

「……断る」

 

『貴様はここで死ね、お前の声など聞きたくも無い』

 

アルトアイゼンとゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムの攻撃を受けてもなお、ガーリオンカスタムは原形を保っている。それはガーリオン・カスタムのパイロットの腕の良さを如実に現していた。

 

「泥棒さん、何なら私のハートも奪ってみる?」

 

完全に命中のタイミングだったが、ガーリオン・カスタムはあえて動力を落とす事でヴァイスリッターのオクスタンランチャーをかわした。

 

『いやあ、随分と熱烈な歓迎嬉しいですねぇ。でも今日の所は量産型のヒュッケバインMk-ⅢとゲシュペンストMK-Ⅲで充分です、貴方の心を奪うのはまた今度にしましょうかねえ』

 

「あらん、残念。でもこれだけ好き勝手してくれたお代は高くつくわよ?」

 

自然落下で墜落していくガーリオン・カスタムに向かって3連ビームキャノンとゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムのガトリングが迫る。動力を切っているので回避する術など無い完全にエクセレンもコウキも必中を確信したが、ガーリオン・カスタムは手首からアンカーを射出し、それを巻き取る事でビームの雨を完全に回避した。

 

「逃がさんッ!」

 

「その首貰ったぁッ!!」

 

アンカーワイヤーによる巻き取りでビームをかわしても、それを上回る速度で迫ってくるアルトアイゼンとゲシュペンストMK-Ⅲ・Sカスタムの攻撃は回避できる訳が無い。

 

『キョウスケ中尉、支援しますッ!』

 

アンジュルグのシャドウランサーによって周囲を囲まれたガーリオン・カスタムは誰がどう見ても完全に詰みに追い込んだように見えた。

 

『折角勉強させて貰ったんですから、ここで終わる訳には行きませんねぇ』

 

しかしガーリオン・カスタムのパイロット――アーチボルドは余裕の態度を崩す事無く、ガーリオン・カスタムの踵に内蔵された車輪をカタパルトにつけるとそれを利用しアルトアイゼン達からの攻撃から逃れる。

 

『僕は生き汚いのが売りでしてねぇ。それではまた会いましょう、ATXチームの皆さん。そしてコウキ・クロガネさん』

 

悠々と飛び上がり、ブースト・ドライブで生き残りのリオン、アーマリオンと共にヒューストン基地を離脱していくガーリオン・カスタム達にキョウスケ達は歯を噛み締める。数の利は確かに向こうにあった……だがそれでも確実に1度は詰み寸前に追い込んだのに逃げられた。

 

(想像以上に上手い……厄介な相手だな)

 

これだけの数を相手にしても余裕を失うことは無かった。詰みに追い込んだとキョウスケ達は感じていたが、実際はそうではなく詰みと思わせられる状況を演出され、それにキョウスケ達が引っかかった形になってしまった。

 

「隊長。敵機の反応、消えちゃったりしたりしてます」

 

上空のアンジュルグのラミアからの報告にキョウスケは考えを中断し、頭を振った。

 

「こちらでも確認した……基地司令とシロガネにコンタクトを取る。各機、連絡があるまで待機」

 

待機命令を出し、ヒューストン基地の司令部に連絡を取ろうとするキョウスケにコウキから声が掛けられる。

 

『ここのアホは反逆と情報漏えいの疑いで拘束されている。司令室がばたばたしているからコンタクトなど取れんぞ』

 

道理で連絡がつかない訳だとキョウスケはアルトアイゼンのコックピットの中で頷いた。

 

『失礼しました。ATXチーム キョウスケ・ナンブ中尉ですね。臨時でヒューストン基地を預かっている、ユーリ少佐であります。ヒューストン基地への救援感謝します。シロガネのリー中佐から連絡を頂いておりますので、シロガネが到着するまで休息と補給を行ってください』

 

「ユーリ少佐。ご配慮感謝します。では少しの間お世話になります」

 

ヒューストン基地の副指令のユーリの言葉に感謝を告げ、キョウスケ達は地球連邦軍ヒューストン基地の格納庫にそれぞれの機体を向かわせるのだった。

 

 

 

機体から降りたキョウスケ達の耳に飛び込んできたのは、ヒステリックな少女の怒鳴り声だった。

 

「アイビス……さっきの無様なフライトは何だ! 判っているのか! 成果を見せなければ、我々のプロジェクトは即刻解散だ! お前のミス1つで全てが終わるのだぞ!」

 

戦闘で疲れている中聞こえてきたその怒声にキョウスケ達も眉を顰め、声の方角に視線を向ける。そこには一方的に1人の少女を罵っている少女の姿があった、周りの整備兵も細目で見つめているのに、少女……スレイはそれに気付かずにアイビスに怒鳴り続けている。

 

「それは判っている……! だから……だから……!」

 

いつまでも一方的に怒鳴られているのに腹が立ったのかアイビスが口を開きかけると、それを封殺するようにスレイの怒声がアイビスを襲う。

 

「意気込みを見せるのなら、結果を出して貰いたいなッ! それが出来ない者にシリーズ77のシートに座る資格はない……ッ!」

 

自分のミスが判っているかまともに反論出来ないでいるアイビスに怒鳴り続けるスレイにコウキが怒鳴り声を上げた。

 

「きゃんきゃん喚くなスレイッ!! 成果を出せというがお前だってまともな戦闘が出来たかッ!!」

 

格納庫に響くコウキの凄まじい怒声にスレイは身体を竦めながら、コウキをキッと睨んだ。

 

「私はテストで成果を……」

 

「テストが何だ! テストでいい成果を出せても実戦で成果を出せなければ意味等は無いッ!!!」

 

スレイの反論を封殺するコウキの怒声に一緒に格納庫に来ていたエクセレンは肩を竦めた。

 

「あっちゃー、あの色男さん。随分と怖いわねぇ……」

 

「でも、俺はコウキの意見はわかります。それに相手が何も言わないのに一方的に怒鳴りつけるのは正直どうかと」

 

「ま、それは私も判るけどね。新兵特有のあれよ」

 

自分が死ぬかもしれないという状況を体験して、恐怖を忘れる為にミスをした同僚が悪いと怒鳴りつける……初めて実戦に出た兵士が良く行ってしまう事だ。

 

「しかし」

 

「しかしも糞も無い! 周りにこれだけ人間がいるのにヒステリックに叫んでいてどうするッ! 実戦を経験して気が高ぶっているのは判るが回りから見られていることを理解しろッ!」

 

凄まじい怒声スレイは何も言えず黙り込むしかない、コウキがふんっと鼻を鳴らして背後を振り返る。

 

「ツグミ、後は任せる。スレイとアイビスのメンタルケアを頼む」

 

「……それは判るけど、相手は女の子なんだから」

 

「それがどうした。女だろうが、男だろうが戦場に出れば等しく1人の人間だ。死ぬと言う事に変わりは無い、俺に出来るのは死なないように心構えをさせることだけなんだよ」

 

コウキの言葉にツグミは何も言えず、アイビスとスレイを連れて格納庫を出て行った

 

「すまないな。疲れているのに内輪揉めを見せて申し訳無い」

 

スレイを怒鳴りつけていた時と打って変わって、柔らかい声で言うコウキにキョウスケ達は気にするなと返事を返す。

 

「あれ、もしかしてあれがこの基地でテストされていたって言う新型機?」

 

丁度その時カリオンが格納されてきて、エクセレンが興味深そうに目を輝かせてコウキに質問を投げかける。

 

「ああ、プロジェクトTDの試作機のカリオンだ。内輪揉めを見せたお詫びだ、プロジェクトTDの機体をお見せしよう」

 

「あの、良いんですか? 勝手にそんな事をして」

 

「構わないさ。それにキョウスケ中尉達が来なければ、俺1人では守り切る事は出来なかった。だから貴方達には見る権利がある」

 

コウキはそう言うとキョウスケ達を連れて、カリオンが格納された格納庫にキョウスケ達を案内する。

 

「PTでもAMでもないのだな……新型の戦闘機を開発しているのか?」

 

カリオンが収納されていたのは戦闘機用のハンガーで、そこに固定されている白銀と真紅の機体を見つめながらキョウスケがコウキにそう尋ねる。

 

「いや、そう言う訳ではない。最終的には人型にはするが今はアストロノーツとしての訓練を積む為に戦闘機の形状をしている」

 

「アストロノーツって……一体プロジェクトTDって何を開発してるの?」

 

宇宙飛行士としての技量が必要な機体を開発していると聞いてエクセレンがより詳しい説明をコウキに求める。

 

「シリーズ77 恒星間航行機の開発計画だ。外宇宙を目指す機体の開発をしている」

 

外宇宙を目指すと聞いて、ブリットはカリオンを見て信じられないと言う顔をした。

 

「あんな小さな機体で外宇宙へ行こうだなんて……随分と思い切った計画ですね」

 

戦艦ではなく、戦闘機サイズで外宇宙を目指す。その無謀とも言える計画は正直正気かといわれても仕方ない計画だ、よく連邦軍が開発に協力しているとブリット達が思っているのを感じ取ったのかコウキは苦笑した。

 

「連邦軍が注目しているのは新型のテスラ・ドライブだ。カリオンに搭載されているテスラ・ドライブは小型だが従来の物よりも遥かに性能がいい。パイロットが耐えれるのならば、単独で大気圏離脱も不可能では無い」

 

戦闘機のサイズで単独で大気圏離脱も可能な高性能のテスラ・ドライブ……それだけでも十分に連邦が出資する価値はある。

 

「なるほど、新型のテスラ・ドライブか」

 

「キョウスケ中尉。この女は誰だ? ATXチームの新メンバーか?」

 

興味深そうにカリオンを見つめているラミアが何者かとキョウスケに尋ねるコウキ。

 

「イスルギの新型のパイロットだ」

 

「……イスルギの? どこの部門のパイロットだ? 俺は何度かイスルギに行っているがお前など見たことが無いぞ」

 

コウキの言葉にラミアが身を竦めた。ラミアからすればイスルギの関係者がいるとは思っておらず、コウキからすれば軍に仮出向を許されるようなパイロットなのに、ラミアを見た事が無い。コウキの何気ない一言にキョウスケの目も細くなり、ラミアは自分が疑われている事を感じていた。

 

「特殊大型機動兵器の開発部門です」

 

「特機部門か……確かにあそこは秘密主義だが……」

 

じろじろとアンジュルグを見つたコウキは疑いの眼差しをラミアに向ける。

 

「随分と少女趣味の機体だな、お前の趣味か?」

 

「……いえ、社長の趣味と聞いておりますであります」

 

社長と聞いてコウキは小さく溜め息を吐いて、額に手を当てた。

 

「なるほど、あの女狐が自分の趣味とバレたくないから出向させたのか、納得した」

 

「……納得出来るのか? コウキ主任」

 

「ああ、以前に動物型の機械を作れとか言っていたからな。変な所で少女趣味があるんだよ、あの女」

 

言われも無いミツコに対する悪評と偏見が生まれたが、ラミアは何とか自分への疑いの眼差しを避ける事が出来た事に内心安堵の溜め息を吐いていた。

 

「まぁあの女をおちょくる武器が1つ手に入ったから良しとしよう。プロジェクトTDの話に戻るぞ、最終的には、探査用と居住用のモジュールを取り付けて、小型の宇宙船にする予定なんだが、本来武器を積載する予定は無かったからな、開発が難航している」

 

「……武器を搭載していない? 兵器なのにか?」

 

「ああ、プロジェクトTDの主任……フィリオは未知に満ちた外宇宙を飛びたいと願ってそれを計画した。だから本来のシリーズ77は機動兵器ではなく、あくまで調査艇だったんだ。まぁ、それではスポンサーがつかないから武器を搭載したが……本来は平和利用のための機体だ」

 

コウキの言葉にラミアは信じられないと目を見開いた。兵器はどこまで言っても兵器に過ぎない。それなのに、平和利用を目指すと公言するプロジェクトTDが未知の存在に思えてしまった。

 

「キョウスケ中尉。こちらにおいででしたか、リー中佐とユーリ少佐の話が長くなりそうなので、食事をご用意しました、どうぞこちらへ」

 

「わーおッ! ねね、ヒューストン基地の皆って優しいわねぇ、ほらキョウスケ行きましょうよ」

 

「あんまりはしゃぐな、迷惑になるぞ」

 

呼びに来た兵士に連れられて格納庫を出て行くキョウスケ達、一番後ろを歩きながらラミアは平和利用の為に開発された戦闘兵器……カリオンの事を考えながら、キョウスケ達から少し遅れて歩き出すのだった……。

 

 

 

 

第10話 暗躍する者

 

 




次回は本来は「聖十字軍の残身」になりますが、聖十字軍の残身はスキップして、色んな陣営での視点の話を書いて行こうと思います。その次はゼオラ達が出てくる「ブーステッドチルドレン」ですね。スキップする話もありますが、内容などをちゃんと整理して、違和感などが無いように話をころがして行こうと思いますので、次回もどんな話になるのかを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 暗躍する者

第10話 暗躍する者

 

ヒューストン基地で短い休息をエクセレン達が楽しんでいる頃、キョウスケだけは司令室に呼び出されていた。

 

「キョウスケ中尉。任務ご苦労だった。新型を奪取されたのは辛いがプロジェクトTDの機体を守れただけでもよしとしよう」

 

叱責があると思っていたキョウスケは、リーからの激励の言葉に一瞬面を食らった後。敬礼と共に謝罪の言葉を口にした。

 

「いえ、申し訳ありません。我々は間に合いませんでした」

 

リーとユーリに敬礼しながらキョウスケは謝罪の言葉を口にする。襲撃の可能性を考え先行したのに、結果は機体を奪われてしまったのはキョウスケ達の落ち度だ。それは誰が聞いていても明らかなのに、リーはキョウスケを擁護する言葉を口にする。

 

「いいや、良くやってくれた。コウキ技術主任とヒューストンのレコーダーに今回の一件の犯人の名前が記録されていた。あの男が相手ならば仕方ないだろう、なんせ基地司令が内通していたのだ。こちらの手札が完全に向こうにばれている状態で中尉はよくやってくれた」

 

基地司令が内通者となっていた事を考えれば、ヒューストン基地も陥落していたかもしれない。その最悪の展開を考えれば、量産型ヒュッケバイン・MK-Ⅲ、ゲシュペンスト・MK-Ⅲの奪取は痛いが、アメリカの防衛網に穴が空かなかったと考えれば十分な成果と言える。

 

「失礼ですが、あのガーリオン・カスタムのパイロットはそんなにも有名な男なのですか?」

 

「アーチボルド・グリムズ、あのエルピス事件の実行犯と言われる男だ」

 

連邦からの独立をコロニーが訴えている時期の最大の事件にして、エルザムが妻を失った忌むべき事件……その実行者と聞いて、キョウスケも顔を顰める。

 

「警備体制の強化と、アメリカの各基地で行われる新型機の実験にも厳重な注意が必要となるでしょうね」

 

「ああ、ラングレー基地のテロリスト事件……それと今回の新型奪取事件。それら全ては間違いなく繋がっているだろう」

 

ラングレー基地の第4試験場の制圧事件から始まったテロリストの台頭――それらが地球圏を脅かす大きな戦火の種火となることをこの場にいる全員が感じていた。

 

「キョウスケ中尉。シロガネはクレイグ司令との話し合いの結果。補給を終了後ヒューストン基地を出発し、ハワイを目指す」

 

現在のATXチームは遊撃隊だが、ヒューストンからハワイは余りにも遠すぎる。何か思惑があるのかと考え込む素振りを見せるキョウスケにリーが疑問に思うのは当然だなと口にした。

 

「ハワイのヒッカム基地にて新・教導隊が新型機の実験を行う。これ以上新型機を奪取させる訳にはいかないとレイカー司令とクレイグ司令からの連名での命令だ。今度こそ、新型機奪取を防ぐぞ」

 

「了解です。今度こそご期待に応えて見せます」

 

レイカーとクレイグの連盟による命令。それが何を意味するか、キョウスケには判っていた。L5戦役から継投していたATX計画の後継機「ビルト」シリーズのテストがハワイで行われると暗に言われたのだ。今度こそ、新型機奪取は防いでみせるとキョウスケも気迫を見せる。

 

「情報が漏洩している場合、今回も連邦は後手に回ることになる可能性が極めて高い。決して気負いしすぎず、しかし気を緩めず対応して貰いたい」

 

リーの言葉に敬礼を返し、キョウスケは司令室を後にする。今まで上官に恵まれた事はなかったが……今回はそうでは無いようだと小さく呟き、食堂に足を向けるのだった……。

 

 

 

 

地球連合軍ヒューストン基地をシロガネが出発してから2時間後。プロジェクトTDのオフィスではフィリオ達が慌しく資料などの片づけを行っていた。

 

「出発時間は1900時だ。休憩している暇は無いぞ」

 

「判っているよ、コウキ」

 

ヒューストン基地を拠点にして行われていたプロジェクトTDだが、ヒューストン基地司令による情報漏えい。それによって流出したブースト・ドライブの技術……そしてアーチボルドの強襲により基地防衛機の殆どが失われた事による。拠点移動命令が下されていた、その指示を聞いてからフィリオの顔色は良い物では無い。

 

「……フィリオ、今回の襲撃事件でプロジェクトの本拠地が変わることになったの、色々思うことはあると思うけど、作業を急ぎましょう?」

 

ツグミにそう言われてもフィリオはどこか上の空だ。

 

「おい、良い加減にしろよ。フィリオ、出撃して基地防衛していた俺まで協力しているんだぞ。やる気が無いなら失せろ。俺とツグミで片づけを終わらせる」

 

何時までも動き出そうとしないフィリオにコウキが痺れを切らして、睨みながら言うとフィリオは深く溜め息を吐いた。

 

「コウキ、カザハラ博士は何か言っていたかい?」

 

今回の件でプロジェクトTDの新拠点として選ばれたのはテスラ研だった。ビアンに賛同し、テスラ研を捨てた自分がどうやってジョナサンに会えばいいのか、それがフィリオが動けないでいる理由だった。

 

「さっさと帰って来い馬鹿弟子。申し訳無いと思うのならば、可愛い女性を紹介しろと言っていたな」

 

「……はは。あの人らしいなあ……ユーリさんには?」

 

「勿論連絡済だ。今頃雨が降っているだろうな」

 

浮気を絶対許さないユーナ・カザハラによるジョナサンへのお仕置きを想像し、フィリオもコウキも小さく微笑む。

 

「テスラ研……懐かしいな、僕が帰っても良いのだろうか?」

 

不安げに言うフィリオにツグミがその手を取る。

 

「ジョナサン・カザハラ博士はそんなことを気になさらないわ。それに……今回の処置で、少しは貴方に休息を与えて上げる事が出来るわ」

 

フィリオの顔色が悪いのは何もテスラ研に戻る事に対する不安だけでは無い。フィリオの身体は病魔によって蝕まれていて、フィリオに残された時間は決して多くない。それがフィリオの顔色の悪さの理由だった……自分の命が燃え尽きる前に自分の願いは叶うだろうかと言う不安、妹を残して逝くかもしれない、愛しい女性を残して逝くかもしれないという不安がフィリオを蝕んでいた。

 

「おい、鬱陶しいぞ」

 

「コウキ何するの!?」

 

椅子に座っているフィリオに蹴りを入れ、椅子から叩き落したコウキにツグミが抗議の声を上げるがコウキはそんな物で動きを止めるような男では無い。オフィスに倒れているフィリオの襟首を掴んで立ち上がらせる。

 

「この世すべての悲劇が自分に圧し掛かっているような顔をするな。病気が何だ、プロジェクトが潰れるかもしれないと言うことが何だ、裏ぎった事が何だ。悲劇のヒロインみたいな顔をしてるんじゃない、自分に立ち塞がる逆境を乗り越えろ、気持ちで負けるな。そんな弱々しいことを考えているから病気も進むんだ」

 

「コウキ! そんなに生易しい物じゃないのよ」

 

「お前もだ。こいつの恋人だというのなら優しく言うだけじゃない。尻を蹴っ飛ばしてでも歩かせろ、立ち止まったのなら、不安と恐怖で動けなくなったら人間は終わりなんだよ。動ける限りは歩みを止めるな、恐ろしくても、怖くても歩き続けろ。決して立ち止まるな」

 

厳しい言葉ではある、だがその言葉に隠されたコウキの不器用な優しさにフィリオは小さく笑い出した。

 

「ありがとう、コウキ。こうやって君が発破を掛けてくれるから僕は進めるよ」

 

「ふん、世話を掛けたと思うんならば、もう少し覇気のある顔の1つでも見せるんだな」

 

コウキの言葉にフィリオは顔を押さえて笑い、笑い終えた後には強い意思の光をその瞳に宿していた。

 

「ツグミ、ごめん。心配をかけたね、でももう大丈夫だ。僕は夢を目指して歩いていける、夢で終わらせない為にね」

 

「フィリオ……うん、うん……良かった。頑張りましょう、貴方の夢は私の夢でもあるんだからね」

 

良い雰囲気になるフィリオとツグミに向かってコウキが咳払いをする。ハッとした様子で離れる2人にコウキはジト目を向けた。

 

「ラブロマンスをしたいのならば、誰の目に付かない場所でやれ」

 

「ごめん」

 

赤面して返事も出来ないツグミに変わりフィリオが謝罪の言葉を口にし、自ら率先してオフィスの片づけを始めるフィリオとツグミなのだった……。

 

 

 

 

 

ヒューストン基地から4機の新型を奪ったアーチボルド達はアメリカ大陸を抜けて、北太平洋を目指していた。

 

「ここら辺のはずなんですがねぇ……はて、騙されましたかね?」

 

合流ポイントに指定された場所は何もない海上だった。近くに戦艦などの反応も無く騙されたかな? と呟いているアーチボルドの目の前で浮かび上がるように巨大な戦艦が姿を見せた。

 

「おやおや、流石百鬼帝国。素晴らしい技術力ですねぇ」

 

完全なステルスなど新西暦でもありえない、それを容易に行えるスペースノア級と同程度の戦艦に驚きながらガイドビーコンに従いアーチボルド達は戦艦に着艦するのだった……。

 

「良く来てくれた。アーチボルド少佐、首尾はまずまずと言う所だな」

 

「ええ、ローズの情報通りでしたよ。オーガさん」

 

戦艦のブリッジでアーチボルドを出迎えたのは額に1本、そして右頭部から生えた三日月状の角を持つ大男だった。

 

「いい加減に名前を教えてくれると嬉しいんですけどねぇ?」

 

「……アースクレイドルに到着したら考えてやろう。食料などは用意している、休息をして再出撃の準備を整えておけ」

 

オーガの言葉にアーチボルドは大袈裟な身振りをする。

 

「ええ!? 今戻ったばかりですよ? それなのにまたですか? 何か報酬がなければやる気も出ませんねぇ」

 

ちらちらと見られオーガは舌打ちをする。アースクレイドルとまで言わずに、今すぐにでも名前を教えろと催促しているのだと判ったからだ。

 

「……ちっ、百鬼衆二本鬼だ」

 

「二本鬼さん? えっと失礼ですが、それが名前ですか?」

 

「俺達に人間のような名前は無い、角の数が名前になるんだ。気は済んだだろう、さっさと休憩して出撃準備を整えておけ」

 

ブリッジからアーチボルドを追い出し、2本鬼は艦長席に腰掛ける。

 

「ステルス展開、潜行準備!」

 

「了解。ステルス展開、潜行準備!」

 

二本鬼の指示に従い、よどみなく作業を実行し、百鬼獣 水上鬼はあぶくを上げながら海中にその姿を消していくのだった……。

 

(やれやれ、思ったよりも大きな組織のようですねぇ)

 

今の自分の雇い主……百鬼帝国。その強大な科学力、そして僅かに得れた情報を元に百鬼帝国の情報を整理する。

 

(アースクレイドルを拠点にしているそうですが……さてさて、どうやったのでしょうね)

 

種の存続を謳うアースクレイドルが何故、武力による地球支配を目標とする百鬼帝国に協力しているのか? 1番納得の行く理由は指導者の殺害からのなり代わりである。

 

(あれが出来るんですからね……不可能では無いでしょう)

 

目の前で人の背丈も顔も変わり、完全に同じ人物に変身するのを見ていたアーチボルドはその線が1番濃いと考えていた。

 

(もしくは、単純に武力制圧……ですかね)

 

今はガーリオンやアーマリオンを運用しているが、百鬼帝国の戦力は凄まじい。それを使えば、アースクレイドルは簡単に制圧出来るだろう……。

 

(まぁ、そこまで気にする事もないんですけどね)

 

自分が今百鬼帝国側で、活躍していれば処刑される事も無い。そう思えば百鬼帝国が何を考えていても良い、精々百鬼帝国が齎す混沌を最前席で楽しもうと考えているとノック音が響き、アーチボルドと共に水上鬼に着艦した兵士がティーセットを手にやってくる。

 

「少佐、お茶をお持ち致しました」

 

「おや、もうそんな時間ですか」

 

15時にティータイムにするのがルーチンになっているアーチボルドは笑顔でそれを受け取る。

 

「おや、ユウキ君達も来てくれたんですね、どうですか? 一緒にティータイムを楽しみませんか?」

 

書類を手にしていた男女のペアを見てアーチボルドは笑顔で声を掛ける。赤みがかった茶髪の若い青年「ユウキ・ジェグナン」と褐色で明るい印象を受ける少女「リルカーラ・ボーグナイン」は軽く一礼してからアーチボルドの部屋の中に足を踏み入れる。

 

「アースクレイドルとローズからの補充要員の連絡です、お目通しをお願いします」

 

「君もこの時間のお茶は欠かさないのでしょう? どうです? このアッサムティーは入手に苦労しただけあって、中々の物ですよ」

 

書類に目を通してくれとユウキが声を掛けるが、アーチボルドはそんなことはお構いなしで紅茶を勧める。

 

「結構です。それよりも……」

 

「良いんですよ、補充要員に誰が来ようと、機体が何であれ。僕達がやる事は変わりません。ユウキ君、僕の変わりにサインをしておいてください」

 

職務放棄と言っても良い言動をするアーチボルドにユウキは眉を顰める。

 

「判りました。ではサインをして返信しておきます。行くぞ、カーラ」

 

「おや、良い茶葉なんですよ? 一緒にお茶にしませんか?」

 

呼び止めるユウキにアーチボルドがそう声を掛けるとユウキは振り返り、ティーセットに視線を向ける。

 

「……では、少佐。ティーカップは紅茶を注ぐ前に温めておく事をお勧めします」

 

「ほう、それで?」

 

ユウキの言葉はアーチボルドにしても想定外の紅茶の楽しみ方で、アーチボルドは興味深そうにユウキに視線を向ける。

 

「駐留地で新鮮な水を得たとは言え、ここの水質は硬水。茶葉からの抽出力がやや低いのです」

 

饒舌に紅茶の入れ方を語るユウキにカーラは小さく肩を竦ませる。ユウキは紅茶に五月蝿く、指摘すると止まらなくなるので部屋を去ろうとしたのに、それを呼び止めたのがアーチボルドの不運だった。

 

「硬質にも拘わらず、『ポットの為の一杯』を余分に急須へいれるのを忘れています。それでは折角の茶葉の味を生かせるとは思えません」

 

「なるほど。勉強になりましたよ、ユウキ君、今度は君に1度紅茶を淹れて貰うとしましょうかね」

 

そう笑ってカップに口をつけるアーチボルドにユウキが最後の質問を投げかけた。

 

「最後に1つ。何故、この時期にアッサムティーを?」

 

「ああ、僕はこの紅茶が好きなんですよ……血の色に似ていますからね」

 

血の色に似ている、それだけの理由でアッサムを好んでいると言うアーチボルドにユウキが顔を一瞬しかめ、失礼しますと一礼して部屋を出る。

 

「ハワイまで時間がありますから、ゆっくりと英気を養ってくださいね。活躍を期待していますよ」

 

そう笑いかけるアーチボルドに返事を返さず、ユウキ達は部屋を出て行った。

 

「カーラ、お前も身体を休めておけ、明朝7000に応援が来る、それまでは部屋で待機していろ」

 

「う、うん。判った……でも部屋の中が不気味すぎて落ち着かないよ」

 

水上鬼の部屋の中のデザインは不気味でまともな人間では数時間も耐えれる代物では無い。ましてや年頃の乙女であるカーラが耐えれるものでは無い。

 

「どうしても耐え切れなくなったら、俺の部屋に来い。話し相手くらいにはなってやる」

 

「う、うん! それじゃ!」

 

顔を輝かせ部屋の中に入るカーラを見送り、ユウキは部屋の中に足を踏み入れる。そしてベッドの下からアタッシュケースを取り出して、中の機械を起動させる。

 

「定時報告、ユウキ・ジェグナンです。クロガネ、応答してください」

 

アーチボルドの部下としてクロガネから百鬼帝国へ侵入しているユウキは、通信が傍受されないように細心の注意を払いクロガネへの通信をしていた。カーラはこれを知らない、命を賭けたスパイとして、送り込まれたビアン派の兵士……それがユウキ・ジェグナンなのだった……。

 

 

 

 

 

武蔵がいない間に訓練を積み、ゲッターロボに乗れるようになっていたゼンガー、エルザム、バンの3人と元からゲッターロボに乗れるラドラとカーウァイの5人はビアンの作ったシミュレーターでゲッターロボの操縦をやってみせたのだが、その結果は決して良い物ではなかった。

 

「ゼンガー35点、エルザム39点、バン大佐27点、ラドラ45点、そして私が42点だ」

 

プログラムされている機動では今読み上げられた倍の点数を取っていた。だが武蔵が参加し、武蔵を前提にして再採点するとその点数は一気に落ち込んだ。

 

「なはは……どうもすみません」

 

「いや、お前が謝る事ではないだろう。妥協と最善は違うと言うことだ、まぁ俺自身41点と偉そうな事は言えないがな」

 

旧西暦で武蔵と共にゲッターロボに乗っていたイングラムでさえも40点前後がやっとだった。武蔵の操縦は戦闘の為の物、強引なゲッターチェンジ、オープンゲットが幾つも行なわれ、武蔵の操縦に誰もついて行けなかったのだ。

 

「大分腕を上げたつもりだったんだがな……」

 

「井の中の蛙か……」

 

半年前は特殊なパイロットスーツを着た上で飛ばす事がやっとだったゼンガーとエルザム。ノーマルスーツでも分離、合体、戦闘まではクリアしていたが武蔵の求めるレベルには程遠いというのが今明らかになり、2人揃って肩を落としていた。

 

「動物的……いや、野生的な感覚が求められるという事か……」

 

「竜馬、隼人、武蔵のゲッターロボは知っているが、それよりも今の武蔵の方が腕が上がっている。半年前ならばついていけたはずだ」

 

ラドラから見ても今の武蔵の技術は格段に上昇している。それがエルザム達と武蔵の間の大きな壁となってしまっていた。シミュレーションのデータは半年前の武蔵の操縦データを解析した物で作っている。それを前提に訓練していたゼンガー達は確実に半年前の武蔵には追いついていたが、今の武蔵には遠く及ばなかった。

 

「実際の所どうだ? 単独操縦のD2と仮に3人揃ったゲッターVかゲッター・トロンベだとどっちが強い?」

 

「ゲッターVかトロンベっすね」

 

カーウァイの問いかけに武蔵は即答でゲッターVだと答えた。

 

「D2は確かに強いし、強力です。だけどオイラでドラゴンとライガーも自動操縦しているんで、やっぱり一挙動遅れるんですよ。今はまだ良いですけど……」

 

「本当の意味での強敵に当たればその僅かな差が大きな差になると言う事か」

 

今はまだ百鬼獣も弱い、だがこれがより強力になればほんの僅かな差で破れる可能性も十分にあると武蔵は考えていた。

 

「ならば徹底して訓練をするしかあるまい、適正のありそうな者を探して重点的に訓練を行う事にしよう」

 

ゲッターロボに乗れなければD2など操縦できる訳がない。武蔵に追従出来る腕前のパイロットを育てる為に、トロイエ隊、LB隊などのクロガネの機動兵器のパイロット全員に適性検査を受けさせたのだが……。

 

「飛ばす所までいける人間の方が少ないとは……」

 

「そりゃゲッターロボですからね」

 

トロイエ隊20人中、合体まで行けたのはユーリアだけで他の面子は飛ばすので手一杯。LB隊22人は合体まではいけるが合体の衝撃で気絶……。

 

「やはりゼンガー達を鍛え上げるか?」

 

「しかしだな、専用機持ちをそれから外すのもな……」

 

ゲッターロボの戦闘力を上げる事を重視するか、戦える頭数を増やすかというのは深刻な問題の1つだった。

 

「いや、案外早く解決するかもしれないな」

 

「うむ」

 

ゼンガーとエルザムの声に振り返ると何時の間にかエキドナがシミュレーターに乗り込んでおり52点と言う今までの最高点を叩き出していた。

 

「ふっ(ダウンしているユーリアを見て鼻で笑うエキドナ)」

 

完全に勝ち誇った顔をしているエキドナにユーリアは這い蹲るように再び、シミュレーターに乗り込んだ。

 

「頑張った」

 

「え、エキドナさん。凄いですね……正直驚きましたよ」

 

武蔵も驚いた顔をしていて、その顔を見たエキドナは更に満足そうに笑う。その姿はユーリアの負けん気を強く刺激し、ユーリアのゲットマシンの操縦技術がめきめき上昇する事になる。例え残念属性であったとしても、その恋心は確かに原動力となっているのだった……。

 

 

 

第11話 予想外の再会 その1へ続く

 

 




今回はインターミッションなので短めです。そしてエキドナちゃんが挑発を覚える件乗れれば、武蔵に役に立てるという事で勝手にやってました、記憶喪失でもWシリーズの操縦技術は健在でしたと言う話になりました。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 予想外の再会 その1

第11話 予想外の再会 その1

 

薄暗い研究室のような場所にしゃがれた老婆の諭すような……いや品定めするような言葉が響いた。

 

「ブロンゾ27、ブロンゾ28……お前達の出番が来たぞ。フェフェフェフェ……」

 

赤い服に身を包み、まるで御伽噺に出てくる魔女のような風貌の不気味な老婆。「アギラ・セトメ」はまだあどけなさを残した少女と少年に向かって名前ではなく、番号で呼んだ。

 

「はい、アギラ博士の期待に応えれる様に頑張ります!」

 

銀髪のおさげ髪の少女が元気よくそう返事を返すが、その隣の紫色の髪をした少年は返事を返さず、それ所か敵意すら感じさせる視線でアギラを見つめている。

 

「アラド! アギラ博士に失礼でしょう! すいません、この子。ちょっと緊張しているみたいで」

 

「フェフェフェ。構わんブロンゾ28が反抗的なのは今に始まった事では無いからな。セロ、ブロンゾ27とブロンゾ28をアーチボルドの元へ連れて行け」

 

「……はい。さ、ゼオラ、アラド。行こう」

 

アギラの言葉に少し迷う素振りを見せてから、茶髪の優しそうな雰囲気の男性……「クエルボ・セロ」がブロンゾ……いや「ゼオラ・シュバイツァー」と「アラド・バランガ」を連れてアギラの研究室を後にする。

 

「ふん、あの男も甘いな」

 

番号ではなく、名前を呼んだセロに吐き捨てるように言ってアギラは研究室のモニターに視線を向け、背後に立っている2人を見て、驚きながら振り返る。

 

「コーウェン、スティンガー。いつアースクレイドルに来たんじゃ? 連絡をくれたら出迎えた物を」

 

笑みを浮かべ、コーウェンに手を差し出すアギラ。コーウェンはその手を握り返しながら笑みを浮かべる。

 

「いやあ、イーグレットに用がありましてな! その帰りにこうして顔を見せに来たのですよ。アギラ博士も元気そうで何よりです、ね、

スティンガー君」

 

「うんうん! アギラ博士も元気そうでなによりだよッ!!」

 

「お主らのお陰じゃよ、豊潤な資金、十分な実験体! お前たちには感謝してもしきれんわい!!」

 

かつて特脳研で念動力などの研究を行い、そしてかつて連邦軍に存在したパーソナルトルーパーパイロットの養成機関「スクール」にアードラー・コッホと共に非道な人体実験を繰り返し、指名手配となっていたアギラが逮捕される寸前で救出したのがコーウェン、スティンガーの2人組である。

 

「おぬしらのお陰でクエルボに預けていたサンプルとも合流出来た。本当に感謝しておるよ」

 

「ははっ! そう言って貰えると何よりですなあ。所で見ておりましたが、ゼオラでしたか? 何故アラドと言う少年と組ませているのですかな? ゼオラはアギラ博士に従順なようですが……彼はとてもそうには見えませんでしたが?」

 

「ゼオラ? ああ、ブロンゾ27の事か、仕方あるまい。あの娘はブロンゾ28に依存しておってな。あやつがおらんと、精神的に不安定になりとても実戦に耐えれた物では無いわい」

 

「ああ、なるほど、ただの精神安定として与えられている道具と言う事ですな?」

 

「そういう事じゃ、出来るならワシもブロンゾ27だけで運用しておるわ」

 

人間としてではない、あくまで道具としか見ていないアギラの言葉にコーウェン、スティンガーは笑みを浮かべる。

 

「なるほど、イーグレット博士との共同研究が上手く行く事を祈っておりますよ」

 

「そういうのならば、お前達の後におる小僧を少し預けてはくれんかのぉ?」

 

アースクレイドルでイーグレットとアギラが研究している新人類の創造は後一歩と言う所で足踏みを繰り返している。しかし、コーウェンとスティンガーは既に新人類「マシンナリーチルドレン」の製造に成功し、その1号機を自分達の助手として連れ回していた。

 

「いやあ、それはお断りですなあ。彼は親離れが出来ていなくてですね、私達と離れると暴走するかもしれません」

 

「も、もう少し安定したら出向させますよ」

 

「そうか……ならばそれを楽しみにしておるよ。また何時でも尋ねて来てくれ、お主らならば大歓迎じゃ」

 

笑顔で見送るアギラに手を振りコーウェン達はアギラの研究室を後にする。

 

「どうだったかな? 何か思うことはあったかな?」

 

「……いえ、記録上は「アギラ・セトメ」と同僚だったということは理解しておりますが、特には何も感じませんでしたね」

 

「そうかそうか、それは良かった! フォーゲル。アギラ博士にあって何かを思い出すんじゃないかと思ったんだけどねぇ」

 

「うんうん。別に君が記憶を取り戻す事に不安も何も無いけど、その優秀な頭脳を使いこなす切っ掛けになればと思ったんだけどねぇ」

 

2人の言葉にフォーゲルと呼ばれたマシンナリーチルドレンは被っていたフードを脱いだ。

 

「大丈夫です。僕は父さん達を裏切りません、必ずや役に立って見せます。父さん達がくれた「アードラー・コッホ」の頭脳を使って、必ずお役に立って見せます」

 

フォーゲルの言葉を聞いてコーウェンはフォーゲルを力一杯ハグする。

 

「なんて健気で可愛いんだ! これは帰りにご馳走を用意しないとだめだね!」

 

「スシ、スキヤキ、テンプーラだね! さぁ! 行こう! 遠慮しないで沢山食べるんだよ!」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

フォーゲル……かつて「アードラー・コッホ」と呼ばれた男の記憶をダウンロードしたマシンナリーチルドレンは笑う。無邪気に、そして邪悪に、己に与えられた記録を全て使い、自分を愛し慈しんでくれるコーウェン、スティンガーの期待に応えて見せると、その澄んだ瞳にどす黒い悪意だけを宿して微笑むのだった……。

 

 

 

 

 

ハワイ島沖に差し掛かった所で、百鬼獣 水上鬼は1度浮上していた。アースクレイドルからASRSを展開した輸送機の受け入れをする為だ。

 

「アーチボルド。お前の所の補充要員が来たぞ。ブリッジにいないで顔見せくらいして来い」

 

二本鬼が手を振りながらブリッジから出て行けとアーチボルドに告げる。

 

「いやあ、未知の技術に年甲斐も無く興奮してしまって申し訳無いですねぇ」

 

全然申し訳無いと言う顔をしていないアーチボルドに二本鬼は眉を顰めながら、アーチボルドを窘める。

 

「上官だというのならば部下の到着くらいは労え」

 

「……鬼なのに随分とお優しいのですね。二本鬼さんは……」

 

「上官としての心構えを言っているに過ぎん。さっさと行け、作戦開始時間まで4時間あるのだからな!」

 

「はいはい、判りましたよ。有意義な時間を過ごさせていただきありがとうございました」

 

一礼してブリッジを出て行くアーチボルドに目もくれず、二本鬼はモニターに映し出されるハワイ基地に視線を向ける。

 

「……弱い敵しかいない所に攻め込むか……いい加減俺も戦いたい物だな」

 

水上鬼の艦長と言う立ち位置になっているが、二本鬼自体は百鬼帝国全体で考えれば大尉ほどの地位しかない下っ端の鬼だ。艦長の立場など二本鬼にとっては邪魔に過ぎず。出来る事ならば、血湧き、肉踊る戦いがしたいと呟いたが、すぐに頭を振った。

 

「叶わん願いは考える物では無いな、潜行用意! 深度300まで潜行後、連邦のレーダーを回避し、ヒッカム基地周辺に向かうぞ」

 

「「「了解です!!」」」

 

部下達の返事を聞きながら2本鬼は腕を組んで艦長席に腰掛けた。だが二本鬼は知らない、ハワイのヒッカム基地で己が戦うに相応しい好敵手が己の前に立ち塞がると言う事を……。

 

「やぁやぁ、お待たせしました。セロ博士」

 

格納庫でユウキ達と話をしていたセロにアーチボルドが全く悪びれた様子も見せず声を掛ける。

 

「アーチボルド少佐、補充パイロットと、ブースト・ドライブ搭載のガーリオン2機、アーマリオン5機を確かに運んできました」

 

「ああ、それは助かりますねえ……それで彼女達が補充兵ですかね?」

 

セロの後のゼオラとアラドに何の興味も示さず、アースクレイドルで製造された新しいガーリオンとアーマリオンを見ながらおざなりに尋ねるアーチボルド。

 

「2人共、自己紹介をするんだ」

 

セロはそんなアーチボルドの態度に不快そうに顔を歪めたがゼオラ達に自己紹介をするように促す。

 

「初めまして、自分はゼオラ・シュバイツァー曹長であります。以後、よろしくお願い致します」

 

「自分はアラド・バランガ……以下同文であります」

 

敬礼するゼオラとその隣で不愉快そうに顔を歪めているアラドを見てユウキは顔を歪めた。

 

(彼らが補充兵だとッ!? まだ子供じゃないかッ!)

 

ビアンの命令でアーチボルドの部下として活動しているユウキは内面の怒りを顔に表す事は無かったが、その内心は激しく怒り狂っていた。見た所16歳前後――戦場に立つには余りにもゼオラ達は若すぎた。

 

「あーはいはい、僕が上官のアーチボルド・グリムズです。ま、与えられた任務さえしてくれれば、別にどうでも良いので精々死なないでくださいね」

 

お前達などどうでも良いと言いたげなアーチボルドの態度にゼオラはアラドの無礼な態度が原因だと感じた。

 

「ちょっと、アラドッ! 何よ、その言い方ッ! 貴方のせいで上官に怒られたじゃないッ! それに敬礼を忘れてるわよ、敬礼をッ!」

 

「ったく、うるせえなあ……俺の態度が悪いんじゃなくて、向こうは最初からこっちに興味なんか無いだろうよ」

 

「何ですってッ!? それはアラドの勝手な思い込みでしょッ!」

 

水上鬼の格納庫に響くゼオラの怒鳴り声。それは深海を進む水上鬼の中ではやたら大きく響いていた。

 

「ちゃんとやりゃあいいんだろ?……あんまカリカリしていると、頭の血管切れるぜ、ゼオラ」

 

「もうとっくの昔に切れてるわよッ!」

 

いい加減な性格のアラドとピシッとした性格のゼオラ。短いやり取りだが、この場にいる全員がゼオラとアラドの関係性を大まかにだが把握していた。

 

「お、おい、お前達……いい加減にしないか。少佐の前だぞ」

 

しかし、この場は学校などではなく、軍艦の中だ。セロが注意に入るが、ゼオラは更にヒートアップする。

 

「いえ、この子はビシッと言っておかないと駄目なんですセロ博士。良いアラド? その一言多い性格、直しなさいッ! ちゃんと少佐にも謝るのよッ!」

 

「それじゃ……アーチボルド・グリムズ少佐ッ! 先ほどは申し訳ありませんでしたッ! 自分はアラド・バランガ曹長ッ! 以下同文でありますッ!」

 

しょうがないという感じで謝罪するアラドにアーチボルドは丸眼鏡を外して、眼鏡拭きで汚れを拭いながらセロにジト目を向ける。

 

「セロ博士……僕はミドル・スクールの教師になった覚えはないんですがね? 優秀と聞いていたのですが、虚偽報告ですか?」

 

「も、申し訳ありません、し、しかしゼオラとアラドは優秀なパイロットである事は間違いありません」

 

アーチボルドの嫌味にセロが慌てて謝罪の言葉を口にする。だがアーチボルドはそんな謝罪の言葉も無視してアラド達に懐疑的な視線を向けた。

 

「やれやれ、期待のルーキーが子供だとはね……これはアースクレイドルに文句を言わなければならないですね」

 

「お言葉ですが、少佐。自分とアラド曹長は『スクール』の出身であります」

 

ゼオラの言葉を聞いてアーチボルドは更に眉を顰めた。スクールは連邦軍のPTパイロット特殊養成機関だ、その非人道的な訓練にスクールの生徒は殆どが死に絶えている。ゼオラは誇らしげだが、スクールの名はPTに関わる物からすれば忌み名に等しい。

 

「……セロ博士、これは厄介払いと考えていいのですか?」

 

「い、いえ、そんな事はありませんッ!」

 

新型機の強奪は危険が伴う、失敗してもが替えが効く兵士と感じるのは当然の事だった。スクールの生徒を使っていると知られれば、批判の視線が向けられる。だから失敗して死んでも構わない兵士を応援として送ったのですか? と尋ねられセロは慌てて手を振る。

 

「ま、新人とは言え、人手が増えるのは助かりますが……僕達のターゲットの中にはあのハガネもいますから、大変ですよ?」

 

「望む所です。この手でDC総帥ビアン・ゾルダーク博士の仇が討ちたいと思っています。ビアン博士の研究成果を全て奪った連邦は憎むべき敵です」

 

ビアンの名前が出たことにユウキは顔を顰めた。仇も何も、ビアンは死んでおらず。地球の為に戦っている……それなのにゼオラの言い回しは連邦によってビアンが殺されたと言っている様なものだった。

 

「結構。では、ユウキ君……次の作戦には彼らも連れていって下さい。君達を部下と認めるかは、この作戦が上手く行ってからにしましょうかねえ。ではユウキ君、作戦の説明をお願いしますね。それとセロ博士は2本鬼さんに紹介するのでこっちへ」

 

顔見せは済んだと言わんばかりに手を振り、ブリッジに向かうセロとアーチボルドを見送り、ユウキはゼオラとアラドに視線を向ける。

 

「ユウキ・ジェグナン少尉だ。今回のヒッカム基地襲撃の指揮官を務めている、よろしく頼む」

 

「はい、よろしくお願いしますッ!」

 

「うっす、よろしくお願いします!」

 

「ちゃんと挨拶しなさい!」

 

アラドを怒鳴りつけているゼオラを見てユウキは顔を顰め、そして彼らは戦場に立つべきではないと改めて認識した。

 

(危険だが……クロガネに連絡を取るか)

 

ヒッカム基地襲撃の作戦は既にクロガネに流していたユウキだが、そこにスクールの犠牲者であるアラドとゼオラが参加すると言う事を伝えるべきだと考えていた。

 

(……エルザム少佐達ならば上手くやってくれる筈だ)

 

スクールと言えば薬物やリマコンによる精神操作が十八番だったと聞く、今もその薬物を投与されている可能性は十分にある。だがビアンの元に保護されれば、それらを解除する手段も見つかる筈だとユウキは考え、クロガネに救助要請を出すのだった……。

 

 

 

 

 

地球連合軍ヒッカム基地のブリーフィングルームで指令通信を見ていたカイは眉を顰めた。

 

(ヒューストンの基地司令が逮捕か……これはますますやばいな)

 

ヒューストン基地での量産型ヒュッケバインMK-ⅢとゲシュペンストMK-Ⅲの奪取。それにヒューストン基地の司令が関わっていたと聞いてカイは顔を顰めた。

 

(……出来ればシロガネが来るまで待ちたいんだが……な)

 

クレイグ司令とレイカー司令によってヒッカムに向かっているシロガネが来てから出来れば試験を行いたいが、ヒッカム基地の司令から30分後の機動試験が命じられているのでそれを反故にすることは出来ない。しかしだつい先ほど演習場を急遽変更せよという命令が下され、更にシロガネとの合流時間がずれ込んでいる事を考え、きな臭くなってきたとカイが考えているとラトゥーニがブリーフィングルームに入ってきた。

 

「失礼します。少佐、試作機の重力下調整が終わりました」

 

「うむ。わざわざすまんな、ラトゥーニ」

 

指令を見る為に調整をラトゥーニに頼んでいたカイはラトゥーニに感謝の言葉を告げる。

 

「ああ、そうだ。お前、海には行ったのか?」

 

「え……? いえ、まだですが」

 

予想外のカイの言葉に困惑する素振りを見せるラトゥー二にカイは肩を竦める。

 

「これから試験だから泳ぎに行けとは言わんが、その後の自由時間に泳ぎに行っても構わないぞ。ガーネットからも水着が送られてきたんだろう?」

 

軍を退役したガーネットから水着が送られてきたんだろう? とカイが尋ねるとラトゥーニは頬を赤らめる。

 

「えっとその……日本に帰ってから……そのリュウセイと一緒にプールに行こうかと……思っているのでその時にでも……」

 

意中のリュウセイとプールに行く時までは水着を誰にも見せたくないと言うラトゥーニに一瞬カイはきょとんとしたが、すぐに豪快に笑い出す。

 

「そうか! それは余計なお世話だったな。では日本に帰ったら休暇要請を出すといい、すぐに了承をしてやるからな! では試作機のテストを行うとしよう。準備を頼むぞ、ラトゥーニ」

 

人形のようだった少女が頬を赤らめ、歳相応の表情を見せるようになった事をカイは喜び、ラトゥーニと共にブリーフィングルームを後に、格納庫に足を向けるのだった……。

 

『そうか、量産型のヒュッケバインMk-ⅢとゲシュペンストMK-Ⅲが強奪されたのか……そいつはかなり不味いな……』

 

「報告によれば、ヒューストン基地の司令が情報の横流しをしたのが、後手に回った理由だそうです」

 

試験前にマオ社から最終報告を受けていたライはそのままイルムガルトに近況報告をしていた。

 

『配備された途端にそれか。情報の横流しがあったとしても随分と無茶をするな、犯人はDCの残党なんだろう?』

 

「予想になりますが、アードラー派のDC残党だと思います」

 

ビアンの率いる正しい意味のDCは、今も人知れず地球を守っている。アードラー派の傭兵崩れの単発的な事件は多数記録されていたが、ここまで続けて行動に出るのは初めての事だ。

 

『とりあえず、そっちも気をつけろ。量産型Rシリーズの試作機を奪われるなよ、ライ』

 

「了解です。イルムガルト中尉もマオ社の方でも充分に気をつけて下さい」

 

『そうだな……連中がビルガーやブレード、ヒュッケバインMk-Ⅲを狙ってくる可能性もあるか……やれやれ、SRX計画とATX計画

の続行はマオ社がメインだからなあ……宇宙軍の大量襲撃とか勘弁してくれよ……』

 

L5戦役の後規模は縮小したが、今もATX計画、SRX計画は続行されており、ヒッカムで行われる新型もATX計画とSRX計画の新型の実験だ。情報の秘匿には尽力しているが、基地司令クラスが情報の横流しをしていると判れば細心の注意を払う必要がある。

 

『ま、お前なら大丈夫だと思うがな……それで話は変わるが新しい特殊戦技教導隊の居心地はどうだ?』

 

カイが主導になって復活した教導隊の具合はどうだ? とイルムが尋ねるとライは小さく笑った。

 

「メンバーは私とカイ少佐、ラトゥーニ少尉の3名ですし……任務は主力機用のモーション・データ作成ですから、今の所は平和な物です」

 

ラングレーでの新部隊員のテストは全員不合格となり、メンバーの増加も無く知り合いだけしかないので気が楽ですよとライが笑いながら告げるとモニター越しのイルムが思い出したように手を叩いた。

 

『そうか。俺は今度、ブレードの試作機と一緒に地球へ降りることになった。行き先は伊豆だ』

 

「ということは……あの機体は我々でなく、リュウセイ達の所へ?」

 

ATX計画の新型機は格闘戦用と射撃用。そのうちの射撃機……ヴァイスリッターの流れを汲んだ「ビルトファルケン」そしてアルトアイゼンの流れを汲んだ「ビルトビルガー」それがマオ社で開発されたATX計画の新型の名前だ。

 

『ああ、基が基だからな。じゃあ、ファルケンは任せるぞ』

 

「了解です、イルム中尉もお気をつけて」」

 

通信を終えてライは通信室を出て格納庫へ足を向ける。だがその顔は険しいものだった……。

 

(急に訓練位置の変更……ヒューストンの事もある。気を緩めることは出来ないな……)

 

ATXチームがヒッカムに向かっていると聞いて、急遽時間を早め、訓練場の変更を命じた基地司令にきな臭い物を感じながらライは格納庫へと早足で歩き出すのだった……。

 

 

 

基地司令から命じられた山に囲まれた旧試験場で2機のPTがトレーラー車から音を立てて立ち上がる。1機は青いカラーリングの標準的なサイズのPTだが、もう1機は重厚なシルエットの、背部に巨大な砲門を背負い、両腕にシールドを装備した濃いブルーのカラーリングをしたゲシュペンスト・MK-Ⅲだ。

 

『どうだ、ラトゥーニ? ビルトファルケンの具合は』

 

指令車からのカイの言葉にラトゥーニは搭乗機であるビルトファルケンの設定を行いながら返事を返す。

 

「機動性や射撃性能が高く、単独でも有効な運用が可能だと思います。しかし、良くマリオン博士がEOTの採用を了承しましたね」

 

マリオンはEOT嫌いで有名なATX計画の技術主任だ。よくそんなマリオンがEOTの搭載を了承しましたねとラトゥーニは笑う。

 

『L5戦役の事もあるし、技術の好き嫌いを言っている場合じゃないと判断したんだろうな。まぁ、安定性があるのは良い事だ。ライの方はどうだ?』

 

「出力がやはり不安定ですね、R-2ほどでは無いですが……操縦の癖がかなり強いかと」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R02カスタム。R-1の量産試作機の「アルブレード」の完成に続いて、R-2の量産機「アルブラスター」のデータ取りの為に改造を施された機体だ。R-2ほどでは無いが、その操縦の癖はかなり強いらしい。

 

『トロニウムではないのにか?』

 

「プラズマジェネレーターと核エンジンと搭載していますからね。もう少し時間をください、機体調整を行います」

 

R-2の高出力を再現する為に2つの動力を搭載したゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R02カスタムはR-2同様、繊細な機体調整が要求されピーキーな機体に仕上がっている。

 

『やれやれ、無理に高出力にしないで、まずはデータ取りを優先すれば良い物を』

 

「フッ……そうですね、お待たせしました。準備完了です」

 

『良し、俺も久しぶりにリバイブを起動させる。俺が出撃したら模擬戦を開始するぞ』

 

ライからの機体調整が完了したと言う報告を聞いて、カイもつい先日やっとテスラ研からオーバーホールを終えて戻って来た愛機に乗り込み、ビルトファルケンとゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R02カスタムの間に立たせる。

 

『それでは模擬戦を始める、2人ともカートリッジは模擬弾だな? それでは模擬戦……な、なんだッ!?』

 

模擬戦の開始を告げようとした瞬間。沖合いで複数の水柱が上がった。

 

『カ、カイ少佐! て、敵機の反応がっ!』

 

「何ッ!? あんな近くにだとッ!? 何故気付かなかったんだ!?」

 

指令車からの兵士の混乱した声に落ち着けと口にする前にカイはゲシュペンスト・リバイブ(K)を反転させ、飛来した特殊徹甲弾を回し蹴りでリオンへと蹴り返えさせる。まさか放った銃弾を蹴り返させると思っていなかったのか、混乱する素振りを見せるリオン、アーマリオン、ガーリオンをカイは鋭い視線で睨みつける。

 

「あの距離からここまでの精密射撃、相当な手練れかッ! ちいっ!? 狙いはやはりビルトファルケンとR02カスタムかッ!?」

 

高速で飛来したリオン、アーマリオンの部隊に囲まれ動きを封じ込められるリバイブ(K)の横を抜けてリオンVがビルトファルケンとR02カスタムへと肉薄する。

 

「ラトゥーニッ!! ライッ! 機体を奪取させるなッ! ええいッ! 邪魔をするなッ!」

 

模擬戦と言う事で武装を搭載しておらず、拳と蹴りで応戦するしかないカイの苛立った声が響く中。ビルトファルケンにリオンVが襲い掛かる。見覚えのあるコンバットパターンに一瞬動揺した物の、ラトゥーニはファルケンを操りリオンのレールガンとミサイルを回避する。

 

「今の攻撃パターンは……ッ!」

 

「この距離でかわしたッ!? それに、さっきのパターンはッ!?」

 

急旋回してファルケンの射撃軸から逃れるリオンVの中でゼオラは先ほどの光景が信じられず、目を大きく見開いた。そしてそれはラトゥーニも同じだった。

 

「もしかして……ゼオラッ!?」

 

「ラ、ラト……なの……? い、いえ、そんなことはあり得ないわ。きっと、あの子のデータが流用されてて……! そうよ、ラトがこんな所にいる訳無いもの! だって、あの子は……! もうPTに乗れないはずなんだからッ!!」

 

ありえないと自分に言い聞かせるようにゼオラはリオンVを再び反転させる。

 

「ライ! ラトゥーニの援護に回れッ!」

 

「そうしたいのは山々ですがッ! こっちもそう簡単にはッ!」

 

特殊鉄甲弾による遠距離射撃とPTのコンピューターを停止させるエレキネットによる執拗な攻撃にカイもライも動きを止められて、ラトゥーニへの応援に入れない。その隙に再びゼオラの駆るリオンVがビルトファルケンに組み付いてコックピットハッチに手を伸ばす。

 

「ラトゥーニッ! 動けッ!! くそッ! 邪魔をするなあッ!」

 

旋回してきたアーマリオンを捕まえて、一本背負いの要領で地面に叩きつけるリバイブ(K)一瞬包囲網が開くが、再び沖から出現したリオンとアーマリオンの執拗な攻撃に包囲網を突破出来ず、足止めを喰らっている目の前でファルケンのコックピットがカイとライの目の前で吹き飛ばされた。

 

「さあ、命が惜しければ機体を放棄しな……」

 

手にしたハンドガンを向けながらビルトファルケンのコックピットを覗き込んで硬直した。

 

「ラトッ!?」

 

「ゼオラ……ッ!」

 

互いに捜し求めていたスクールの生き残り同士……それが戦場で出会ってしまったという不幸。

 

「ゼオラ……生きて……いた……ッ!」

 

「ラ、ラトこそ……ッ! 何でパーソナルトルーパーにッ!? 貴女はもう……ッ!」

 

ゼオラの記憶の中ではラトゥーニはPTのコックピットに恐怖を抱き、PTに乗れなくなって捨てられたはずだ。そんなラトゥーニがPTに乗っている事が信じられなかった。

 

「ゼオラ……どうしてアードラー派のDC残党なんかにッ! あの男が私達に何をしたのか忘れたのッ!?」

 

「ち、違う! 私はビアン総帥のッ!」

 

「ビアン博士がこんな事を命じる訳が無い! だってそうでしょう! あの人はL5戦役で私達と一緒に戦ってくれた! 地球に危機が迫ったらまた立ち上がるって言ってた!」

 

「え、生きてる? ビアン総帥が……え、え……死んだんじゃ……」

 

ビアンが生きていると聞いてゼオラが目に見えてうろたえるのを見て、ラトゥーニはシートベルトを外してゼオラに飛び掛る。

 

「ゼオラッ! あんな所にいたら駄目ッ!」

 

「ううっ! ら、ラト?」

 

幼い妹みたいに思っていたラトゥーニが自分に飛びかかり、手にしている銃を奪おうとしているのを見てゼオラは咄嗟に銃を振るった。

 

「ううっ!」

 

「じゃ、邪魔をしないでッ! その機体を奪うのが私の任務なのよッ!」

 

「あうっ……!!」

 

至近距離で引き金を引いたゼオラだが、ビアンが生きていると言う言葉。そしてラトゥーニの強い意思が込められた目に気圧されて銃口がそれた、それでも至近距離の銃撃によってバランスを崩したラトゥーニがカイとライの見ている目の前でファルケンから落ちる。

 

「ラトゥーニッ!」

 

「機体から落ちたッ!? くそッ! 誰でも良い保護に回れッ!」

 

ビルトファルケンが飛び立とうとするのを見て、保護に回れと命じ両腕のプラズマステークをオーバーロードさせて、電磁波を回りに撒き散らし、強引に包囲網を抜けたリバイブ(K)が飛び立とうとするビルトファルケンに両腕を伸ばした瞬間。リバイブ(K)が海中から伸びた豪腕に殴り飛ばされた。

 

「ぐうっ!? な、なんだ!?」

 

『カイ少佐! 大丈夫ですかッ!?』

 

背中から砂浜に叩きつけられたリバイブ(K)、それをフォローするようにゲシュペンスト・MK-ⅢR02カスタムが支援に入る。そんな中巨大な泡と立てて、リバイブ(K)を殴り飛ばした何者かが姿を現した。

 

「キシャアアアアーーーッ!!!」

 

「ゴアアアアアアーーーッ!!」

 

海面を引き裂き現れたのは両腕が剣となった異形の特機と、リバイブ(K)を殴り飛ばした豪腕の持ち主である両腕が機体よりも遥かに肥大した特機だった。

 

「な、なんだこいつらはッ!?」

 

『メカザウルス……いや、違うッ!?』

 

見たことのない異形の特機達の出現にカイもライも混乱を隠す事が出来ず、特機と入れ代わりで離脱していくビルトファルケン達を見ていることしか出来ない。

 

「シャアッ!!」

 

「な、こいつ早いッ!?」

 

50M近い特機とは思えない速度で両腕の剣を振りかざし、突撃してくる百鬼獣 双剣鬼にカイが反応出来ず、咄嗟にリバイブ(K)の肥大した両腕でコックピットを守ろうとした瞬間……双剣鬼の巨体が何かにぶつかり弾き飛ばされた。

 

「ミサイル……? いや、ロケットか?」

 

それは巨大なロケットにしか見えなかった。地上すれすれを通り双剣鬼を弾き飛ばし、そのままの勢いで上空に機首をあげたロケットはカイ達の目の前で爆発……いや、外部装甲を捨て、発生した煙幕の中から銃撃を異形の特機達に叩き込む何か。

 

「PT……?」

 

「そんな……馬鹿なッ! あれはッ!?」

 

強い浜風によって煙幕から姿を現したPTを見てカイは叫び声を上げた。光を反射する漆黒のボデイ、赤いバイザー型センサーアイ、装甲のデザイン、装備している武装は違うが、カイがそれを見間違える訳が無かった。

 

「P、PTX-02ッ!? げ、ゲシュペンスト・タイプSだとッ!?」

 

ゲシュペンストMK-Ⅲ・R02カスタムの中でライが叫び声を上げる。識別も、機体コードも連邦のデータベースに残されていた、それが目の前にいる機体がゲシュペンスト・タイプSであると言う事を示していた。

 

「そんな馬鹿なッ!? ゲシュペンスト・タイプSは俺達が破壊したッ! それなのに何故だッ!! 何故カーウァイ隊長の機体がここにあるッ!!!」

 

ライとカイの驚愕の叫び声が海上に響く中、ゲシュペンスト・タイプSの赤いバイザー型のセンサーアイが力強く光り輝くのだった……。

 

 

 

第12話 予想外の再会 その2へ続く

 

 




カイの前に現れたゲシュペンスト・タイプSと言う所で今回の話は終わりです。予想外の再会はゼオラとラト、そしてカイ達とゲシュペンスト・タイプSと言う所ですね。次回はクロガネの視点から入って行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 予想外の再会 その2

第12話 予想外の再会 その2

 

時間はヒッカム基地でのビルトファルケン、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R02カスタムの試験が行われる2時間前まで遡る。

 

「ユウキから、緊急連絡が入った」

 

ブリーフィングルームに呼びつけられた武蔵達は神妙な顔をしているビアンを見て、ただ事では無いという事を一瞬で悟った。

 

「何があったんだ? ビアン所長」

 

「うむ、ハワイのヒッカム基地でカイ・キタムラ少佐が率いる新・特殊戦技教導隊が新型機のテストを行うのだが。そこに百鬼帝国が出現

するという情報を得た。敵側の戦力はリオン、アーマリオン、ガーリオン、そしてクロガネを襲撃した百鬼獣が約5機」

 

場所、そして戦力までも詳しく告げるビアン。そこまで正確な情報を得ることが出来る……それが可能になる方法は1つしかない。

 

「……スパイか」

 

「ああ、君達が行方不明になってから色々と私達も動いていてね。私の思想に共感してくれた兵士の何人かが、百鬼帝国と協力しているテロリストの部下となっている。命懸けの潜入任務をしてくれているユウキ・ジェグナンからの連絡だ」

 

見つかれば殺される、そして連邦には敵として攻撃を受ける――そんな危険すぎる任務を受けている男からの連絡。それを無碍にするような者はこの場には誰1人としていなかった。

 

「新型機強奪にスクールの生き残りが2人参加するとの連絡だ。エルザム達の中から誰かに救出を頼みたい」

 

「スクールって、確かアードラーのくそジジイがやってたっていう」

 

「そうだ。洗脳、薬物投与などを行われ、記憶に混濁の様子が見られるとの事だ。これ以上薬物投与などをされない為に、早い段階での救出を求めている」

 

洗脳、そして薬物操作を受けている子供がいると聞いて、エルザム達の全身から吹き上がるような殺気と怒気が放たれる。

 

「判りました。ビアン総帥、ではこの場は私「いや、私が出る」……しかし、大佐。ヒッカムにはカイがいるんですよ? カイが見たら一目でカーウァイ大佐だとバレてしまいます」

 

エルザムの言葉を遮り自分が出ると言ったカーウァイにエルザムがヒッカムにはカイがいる。誰よりも、カーウァイを慕っていたカイがその動きを見間違える訳が無いとエルザムが進言する。

 

「バレた所で問題など無い。それに私は死人扱いだから動くに容易いだろう、エルザム達ではビアン所長と繋がっているのがばれてしまう。適役は私かイングラムだ」

 

ビアン一派として名が知られているエルザム、ゼンガー達では追いかけられ、クロガネを危険にさらす可能性がある。故にこの場での適役は自分かイングラムだとカーウァイは口にする。

 

「オイラが行っても良いですよ?」

 

「いや、武蔵君の場合。ゲッターロボだと目立ちすぎる……カーウァイ大佐。頼めるかね?」

 

「頼めるも何も、私から行くと言っているんだ。私に任せてくれ」

 

「……判った。ユウキ少尉との文章通信コードと、ロケットユニットを準備する。30分以内に出撃出来るようにする」

 

カーウァイがヒッカム基地に向かうことが決定し、クロガネは慌しくカーウァイの出撃準備を始める。

 

「カーウァイ大佐。お気をつけて」

 

「ああ、百鬼獣と戦うのは2度目だ。しっかりと分析してくることにしよう、私がいない間クロガネは頼むぞ。皆」

 

クロガネは今も百鬼獣に追われている。ゲシュペンスト・タイプSの出撃で、補足される可能性は極めて高い。だからカーウァイ1人での出撃となった。

 

「カイの奴が弛んでないかついで見てくる。もし弛んでいたら、合流した時にきっちりと訓練をつけてやるとしよう」

 

獰猛な笑みを浮かべるカーウァイにゼンガー達は心の中でカイの冥福を祈った。そしてそれと同時に現在進行形で地獄の訓練を受けている身として道づれが増えたと心の中でほくそ笑んでいた。

 

「気をつけて、百鬼獣は強いですよ」

 

「判っている。ここでしっかりと実戦経験を積んでおく事にする。ではな行ってくる」

 

武蔵の言葉に頷き、カーウァイは格納庫に走り、ゲシュペンスト・タイプSに乗り込む。

 

『基本的な操縦はゲシュペンストと大差無いが、速度が尋常じゃなく速い。操縦ミスには気をつけてくれ』

 

「了解した。打ち出してくれ」

 

『健闘を祈る。ロケットユニットの射出準備、カタパルト展開ッ! カーウァイ大佐、射出まで10秒だ。ハワイに到着するまで約40分……ブラックアウトなどに気をつけてくれ』

 

「判った、ゲシュペンスト・タイプS。カーウァイ・ラウ出るッ!」

 

海底から射出されたロケットユニットを装備したゲシュペンスト・タイプSが海面を割り、ハワイへと向かって飛び立っていくのだった……。

 

 

 

 

水上鬼から出撃した百鬼獣の上空で待機していたガーリオンのコックピットの中で、ユウキは小さく間に合わなかったかと呟いた。ユウキがクロガネにコンタクトを取った時間を考えれば良く間に合ったと考える段階だ。

 

【間に合わなかったか、すまない】

 

ガーリオンの中に搭載している、ビアンが開発した秘匿の通信チャンネルに浮かぶ文字を見て片手で素早く返答を入力する。

 

【いえ、私の方こそ急な連絡で申し訳ありませんでした。貴方は?】

 

【……ゴーストとでも今は呼んで貰おう。それで、スクールの生徒は? もうこの場にはいないのか?】

 

アラドが残っているが事前のミーティングでは、アラドとゼオラを離すとゼオラが精神的に不安定になるとセロから話を聞いていたユウキは謝罪の言葉と共に返答を入力した。

 

【2人でワンペアの組み合わせらしく、引き離すと精神的に不安定になるそうで……申し訳ありません。この場に1人残っていますが……

回収するのは得策ではありません】

 

【そうか。ではそのスクールの生徒の搭乗機体、お前の機体の報告しろ】

 

【はッ、この場にいるノーマルリオンがスクールの生徒の搭乗機です。後方2機のガーリオンが私と私のパートナーの機体になります、それ以外の機体はテロリスト側の機体になるので、撃墜してくれて構いません】

 

【了解した。お前も機会を見て脱出しろ】

 

その言葉を最後に文章通信が途絶える。ユウキは小さく溜め息を吐き、パイロットスーツのバイザーを再び展開し、アラドとカーラに通信を繋げる。

 

「シロガネがこの空域に侵入してくるまで4分だ。百鬼獣の展開の完了を確認したら、各機個別でこの空域を離脱せよ」

 

『……了解です。でもユウキ少尉……あの、百鬼獣って奴……大丈夫なんですか?』

 

「それは俺の管轄外だ。アーチボルド少佐達の作戦なので俺は一切関与出来ない」

 

『でも、ユウ。あれ……めちゃくちゃ暴れてるよ? 連邦が止めれなかったら一般人に被害が出るんじゃ……』

 

アラドとカーラに言われなくても判っている。あの暴れようではハワイの市街地に踏み込むのも時間の問題だろう……ユウキ個人としては、今すぐにでも百鬼獣を止めたいと願っても、潜入任務中であるユウキにはそれを実行する事は出来ない。

 

「……市街地近郊に威嚇射撃を行え、警報を発令させ避難を開始させる。良いか、ゲシュペンスト・MK-Ⅲを狙って偶然市街地の方に向かってしまったという体を取れ」

 

『了解♪ やっぱりユウは優しいね』

 

直接的に行動することは出来ない。あくまで、偶然。偶然を装い、ヒッカム基地に警報を鳴らさせる。それを目的し、精密射撃が得意なカーラにそう命じる。

 

『……ユウキ少尉って、何かその上手く言えないですけど……優しいんですね』

 

「五月蝿い、アラド。お前も離脱の準備を始めろ……俺達の任務は完了した」

 

自分は優しく等無い……今この場で出来る事ならば市街地の民間人に逃げろと叫びたい。百鬼獣の暴走を止めたい……そう願っても、それは出来ないのだ。だから自分を優しいなどと言うなと心の中で呟き、早くこの場にシロガネが来る事を願った。百鬼獣が市街地に向かう前に、早く来てくれと心の底から願うのだった……。

 

 

 

 

水上戦闘母艦水上鬼に搭載されていた百鬼獣はアーチボルドには全5機としていた。その理由は、アーチボルドと二本鬼の性格の相違である。

 

アーチボルドはテロリストで、生粋の快楽殺人者である。虐殺を好み、必要以上の騒乱を巻き起こしたがる。

 

それに対して二本鬼は鬼でこそあれ、その性格は生粋の武人である。戦いの中で人が死ぬのは当然の事で、それに心を痛めるというわけではない。戦いの中で相手を殺す事こそ二本鬼の喜びであり、生きがいである。だからこそ戦えぬ者を殺すと言うのは二本鬼の流儀に反していた。

 

(面白い、中々倒し甲斐のある男がいるではないか)

 

だから百鬼獣の搭載数を誤魔化して伝えていたが、戦場に現れたゲシュペンスト・タイプSの姿に二本鬼はその闘志を隠せないでいた。生粋の戦士だからこそわかる、ゲシュペンスト・タイプSを駆る男が並の男では無いいうことがひしひしと二本鬼に伝わってくる。それを見てしまえば、二本鬼が止まっていられる訳がなかった。

 

「今出撃しているのは、双剣鬼、豪腕鬼、暴龍鬼だったな」

 

両腕が剣となっている双剣鬼。

 

機体の全長もある豪腕を振るう豪腕鬼。

 

龍を思わせる水中に特化した暴龍鬼。

 

ブリッジにいる部下の確認を取っている二本鬼にアーチボルドがにやにやと笑いながら声を掛けてくる。

 

「どうします? 二本鬼さん。思ったより状況は良くないんじゃないですか? 出し惜しみをしている場合じゃないんですか?」

 

たった3機に足止めを受けているのは二本鬼にとっても想定外だった。からかうように言うアーチボルドを無視して、二本鬼は艦長席から腰を上げる。

 

「二本鬼を回せ、それと豪腕鬼、後詰で半月鬼だ。俺が直接この目で確かめる」

 

これ以上アーチボルドの不快な顔を見たくない二本鬼は艦長席から立ち上がり、自分の百鬼獣を回せと部下に指示を出す。

 

「了解です! 百鬼獣 2本鬼の出撃準備を始めろ!」

 

「了解!」

 

慌しく動き始めるブリッジの鬼を見てアーチボルドは笑みを浮かべる。まさか二本鬼本人が出撃するとは思っていなかったこともあり、百鬼衆を名乗る二本鬼の戦いを自分の目で見る事が出来るという事に押さえきれない好奇心の色をその瞳に映していた。

 

「へえ? 二本鬼さんが出てくれるんですか、これは楽しみですねぇ」

 

「見ていろ、人間。鬼の戦い方を言うものな」

 

電子頭脳で動く百鬼獣とは違う、百鬼衆が乗る本物の百鬼獣を見せてやると告げて、二本鬼は格納庫に足を向けるのだった……。

 

「ぐうっ! なんというパワーだっ!!」

 

「ゴガアアッ!!」

 

『カイ少佐! 支援しますッ! 離脱してください!』

 

「すまん、ライッ!」

 

ゲシュペンスト・リバイブ(K)と殴り合いを繰り広げている豪腕鬼をリバイブ(K)とゲシュペンストMK-Ⅲ・R02カスタムの2機掛りでやっと豪腕鬼をその場に足止めすることが可能になっていた。

 

「ふう……やれやれ年を実感するな」

 

一撃でも掠れば大破する――それが判っている中でのやり取りはカイの集中力を凄まじい勢いで削っていた。ライの支援によって一息つけたカイは横目でゲシュペンスト・タイプSの視線を向けた。

 

「グギャア!?」

 

「シャガアッ!?」

 

『……』

 

カイとライが2人掛りでやっと足止め出来ている百鬼獣をたった1機で、2機相手にしているゲシュペンスト・タイプS。その技量、そして操縦テクニックは紛れも無く、カーウァイの物だとカイは確信していた。

 

(どうなっているんだ)

 

突如現れたメカザウルスのような強大なパワーを持つ特機、そして死んだ筈のカーウァイの搭乗機であるゲシュペンスト・タイプSの登場。カイの理解を超える事ばかりが続いているが、それでもカイが調子を乱すことは無い。

 

「グルゥウウウウッ!」

 

「調子に乗るなよ。この木偶の坊ッ!!」

 

確かに豪腕鬼の巨体とその豪腕は恐ろしいプレッシャーをカイに与えている。だが当たらなければどうと言う事は無いのだ、振るわれた豪腕をかわし、カウンターの要領で顎を打ち抜いたリバイブ(K)の豪腕に豪腕鬼はたたらを踏んで後退する。

 

「回復する隙は与えんッ!!」

 

相手が生物なのか、それとも機械なのかは判らない。だが顎を打ち抜かれ、たたらを踏んだのを見るかぎりでは脳震盪を起した相手の動きに良く似ていた。ならば今が畳み掛ける最大の好機とリバイブ(K)を走らせようとした瞬間。首筋に走った凄まじい痛みにリバイブ(K)の動きを止めた、そしてカイの眼前に巨大な槍が突き刺さった。あのまま突っ込んでいれば、確実にカイは機体ごと串刺しになっていただろう。

 

『良く避けたな、褒めてやろう』

 

雲を引き裂き現れたのは額と側頭部から半月上に捻じ曲がった角を持った巨大な盾を手にした圧倒的な威圧感を放つ特機だった。

 

「ちいっ、ライ。お前は撤退して、応援を呼んで来いッ!」

 

殿を務めると言うカイにライはその必要はありませんと告げた直後、この空域に巨大な熱源反応が現れた。

 

「シロガネ! 間に合ったかッ!!」

 

ヒッカム基地に向かっている筈のシロガネが戦域に現れたことにカイは安堵の溜め息を吐いた。

 

『こちらATXチーム、アサルト1……カイ少佐、ライ少尉、あの特機は何ですか?』

 

リオンなどのAMの姿は既に無く、異形の特機ばかりに埋め尽くされた戦場を見て、キョウスケがそう尋ねる。

 

「そんな物俺が聞きたいわッ! 突然現れた化け物だ。メカザウルス並みに強いぞ、気を締めて戦え」

 

『了解……ッ! ゲシュペンスト・タイプS!? カイ少佐、あれは一体……』

 

「それはこっちの台詞だ、なんだその見慣れん機体は」

 

キョウスケはゲシュペンスト・タイプSに驚愕の声をあげ、カイはアンジュルグを見て怪訝そうな声を口にした。

 

「とりあえず、タイプSは味方だ。正体も目的も不明だがな……そっちは?」

 

『イスルギ重工の新型のパイロットのラミア・ラブレスです、稼動データの収集の為に行動を共にしています。ラミア、カイ少佐だ。ラミア?』

 

キョウスケが呼びかけるがラミアは反応を示さない、いや、この場にいるゲシュペンスト・タイプSを信じられないと言う視線で見つめていた。

 

(ゲシュペンスト・タイプS・Gカスタム……カーウァイ・ラウッ!)

 

捜索しろと言われていたカーウァイとその搭乗機を発見した事でキョウスケの言葉がその耳に届いていなかった。

 

『ラミア、返事をしろ。不調なら下がれ』

 

『キョウスケ中尉……失礼したでごんす。問題ありません』

 

『……そうか、それならば良い』

 

今の自分はシロガネに所属している。だからシャドウミラーの構成員と判っていても、襲ってくることは無い。ラミアはそう判断していたが、カーウァイはそんな事を考えていなかった。

 

(……見た事はある。だが思いだせん)

 

世界を超えたことによる記憶障害により、アンジュルグに見覚えがあっても、その機体の名前もパイロットの名前も思い出せないでいた。

 

「ハ~イ、色男さん! お久しぶりじゃなぁい?」

 

「悪いが、再会を喜んでいる暇はない。先程、試作機が敵に奪取された」

 

「ほ、本当ですかッ!? くそ、俺達はまた間に合わなかったのかッ!」

 

ライの言葉にブリットが悔しさを表し、そう叫ぶ。

 

「じゃあ、ラトゥーニちゃんがいないのはもしかして……?」

 

新型機の強奪時に負傷したのかと心配そうに尋ねるエクセレンに通信に割り込んだカイが口を開いた。

 

「いや、あの子は無事だ。それより、援護を頼むッ! あの化け物を市街地に行かせる訳には行かないッ!」

 

海中から徐々に出てくる百鬼獣。その進路は紛れも無くハワイの市街地――そちらに行かせるわけにはいかないと全員が百鬼獣の前に立ち塞がるのだった……。

 

 

 

 

 

悪くない錬度だ……ゲシュペンスト・タイプSのコックピットでカーウァイはそう呟いていた。

 

「グギャアッ!」

 

『貴様達をここから先には通さんッ!!!』

 

『そう言う事ッ! いっくわよーッ!!!』

 

アルトアイゼンとヴァイスリッターの完璧なコンビネーションは1体では確実に押し負ける所を押し返し、出力の差をテクニックで補い、二本鬼と共に現れた豪腕鬼を相手に完全に有利に立ち回っていた。

 

『ちえいっ!!』

 

「ガアッ!!」

 

双剣鬼と切り結ぶシシオウブレードを手にしているゲシュペンスト・MK-Ⅲのパイロットは荒削りだが、光る物がある。

 

『ターゲットマルチロック……カイ少佐今ですッ!!!』

 

『おうッ!!!』

 

弾雨の中に身を投じ、豪腕鬼に挑みかかるカイは今も昔も変わらないとコックピットの中で微笑む。

 

『主砲! 副砲! 照準合わせ! ってーーッ!!!』

 

『逃がしはしない、ここで沈めッ!』

 

シロガネから撃ち込まれる主砲と副砲の圧倒的な火力と正確無比なアンジュルグの射撃によって暴龍鬼は海面に顔を出すことも出来ず、海中を逃げ回る事しか出来ないでいた。ATXチーム、そしてシロガネの奮闘を前に百鬼獣は徐々にだが、その動きを緩やかにさせる。

 

『やるな、人間。名を聞いておこうか?』

 

盾でゲシュペンスト・タイプSの攻撃を防ぎ、正確無比な槍により妙技を叩き込んでくる明らかな指揮官機からの言葉――本来ならば、敵に接触を取ることなどは無い、だが情報が欲しい今カーウァイは異形の特機からの問いかけに返答を返した。

 

「ゴースト。今はそう呼んで貰おうか」

 

『ふっはははは、幽霊、幽霊かッ! ふふふ、良いだろう。今はそれで我慢をしておいてやろうかッ!!』

 

横薙ぎ、突き、振り回しと縦横無尽に振るわれる槍はその重量と、百鬼獣の圧倒的なパワーと相まって掠めただけでも簡単にPTを破壊するだろう。

 

「そう簡単には当たってやれんな」

 

だがカーウァイからすれば力任せに振るわれているに過ぎず、マニュアル制御の細かいスラスターの制御を持って紙一重でかわし、ビーム・ブレードガンによる射撃と、ビームソードによる切り込みを自在に切り替え互いに攻めあぐねる状況を作り出していた。

 

『エクセレン、あわせろッ! クレイモアッ!』

 

『オッケー! オクスタンランチャーBモードッ! いっけえッ!!』

 

「ゴアアアアアーーッ!?」

 

ベアリング弾を至近距離で喰らい、顔を打ち上げられた豪腕鬼の顔面にフルパワーのオクスタンランチャーが叩き込まれ豪腕鬼は背中から倒れこんだ。

 

『……うそお……まだ全然動いてるわよ。キョウスケ……』

 

『メカザウルス並みと言うのは本当のようだな……』

 

今のアルトアイゼンとヴァイスリッターで出来る最大攻撃だったが、豪腕鬼を撃墜するには火力が足りず。顔面から煙を上げながらも豪腕鬼はその腕力だけで身体を持ち上げ、地面を殴りつけると海中へと逃亡する。

 

『待てッ! 逃げるなッ!!』

 

「キシャアアアーーーッ!!」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムに片腕を切り落とされた双剣鬼は腕を抱えたまま、海中へと飛び込んでいく姿にこの場にいる誰もが違和感を覚えた。まだ戦える筈、それなのにダメージを受けたら逃亡するという一手を打って来た百鬼獣に困惑と驚きを隠せないでいた。

 

『引き際だな。中々に面白い戦いであった』

 

「逃がすかッ!!」

 

カーウァイが二本鬼目掛け、ブラスターキャノンを放とうとした瞬間。周囲を覆い隠す紫色の煙幕が打ち込まれた。

 

『な、なんだこれは!? センサーが全て誤作動だと!?』

 

『くっ! 動き回るな! 攻撃も止めろ! フレンドリーファイヤになるッ!』

 

目の前にいるはずなのに煙幕でこの場にいる全ての機体のセンサーが狂わされた。こんな中で攻撃を繰り出せば、フレンドリーファイヤにしかならない。リーからの攻撃中止命令が下される中、2本鬼の声だけが響く。

 

『今日は顔見せ、最後まで戦う気は無い。よくそんな弱い機体で俺の百鬼獣と良く戦い抜いた。褒めてやろう人間達よ、心踊る良き戦いであったよ……いずれまた会おう、我は鬼……貴様ら人類に地獄を見せる鬼よッ! 二本鬼、この名を忘れるなッ!』

 

煙幕が晴れた時百鬼獣の姿は何処にも無く、僅かに残されている装甲や武装の欠片が百鬼獣がこの場にいたという証だった。

 

『協力感謝する。ゴースト……だったな、すまないが直接感謝を告げたいのでシロガネに着艦して貰えるだろうか?』

 

シロガネのリーからカーウァイに頼むという口ぶりで告げるが、ゲシュペンスト・タイプSは既に囲まれていて頼みと言うかは命令と言う状況だった。そんな中、ゲシュペンスト・リバイブ(K)のカイが意を決した表情で口を開いた。

 

「カーウァイ隊長なのですか? 生きておられたのですか……?」 

 

死人であるはずのカーウァイが居る訳が無い。そう判っていても、カイはそう尋ねざるをなかった。操縦の癖、立ち回り……それら全てがカーウァイと同じ物だった、カイがそれを見間違える訳が無い……疑問系で口にしたが、ゲシュペンストのパイロットがカーウァイであるとカイは確信していた。

 

『……さて……な、くたばり損ねた亡霊が現世を彷徨っているだけさ』

 

否定でも肯定でもないあやふやな回答と共にゲシュペンスト・タイプSはキョウスケ達の見ている前で翡翠色の光に包まれ、空中に翡翠色の尾を残し、包囲網を抜けて遥か上空へと飛び去っていった……。それはゲッターと戦ったキョウスケ達だからこそ間違いないと断言出来る、あのゲシュペンスト・タイプSがゲッター線で稼動していると、しかし武蔵のMIAの後ゲッター線反応は感知されず、PTサイズのゲッター炉心もビアンが開発している可能性もあるが……それでも信じられないと言う気持ちが強かった。

 

「今のはゲッター線ですよね? 中尉」

 

「ああ、まず間違いないだろう。ライ少尉、計測の結果は出ているか?」

 

「はい、ゲッター線を観測しました……しかし何故……」

 

「判らない、判らないが……何か、大きな事件の予兆なのかもしれない」

 

鬼を名乗る未知の存在……百鬼帝国。

 

そして既にこの世に存在しない筈のゲシュペンスト・タイプSとそれを駆る謎の男……。

 

各地の連邦基地で多発する新型強奪事件……。

 

それらは一見何の繋がりも関係性も見えないが、何か大きな事件の前触れだとにこの場にいる全員が感じながら、リーの命令でシロガネへと着艦しヒッカム基地へと帰還していくのだった……。

 

 

 

 

 

第13話 予想外の再会 その3へ続く

 

 

 

 




と言う訳で今回は規定ターン経過、もしくは一定のダメージを与えるで強制終了になるイベントでした。百鬼獣は全てHP「????」表記で高HP、高火力、高装甲ですが、命中が低めって感じで考えてます。OG1編の武蔵がAMとかとまともに戦えなかったのと同じですね。次回は状況整理の後、伊豆基地のリュウセイ達の話しにしたいと思います。また話を1つスキップしてますが、シナリオの流れ上と言う事でご理解の程をお願いします。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 予想外の再会 その3

第13話 予想外の再会 その3

 

 

百鬼獣の襲撃を切り抜けた後、ヒッカム基地では新型奪取に加えて、謎の敵の襲来に対する臨時緊急会議が開かれる事となり、伊豆基地のレイカー、そしてラングレー基地のクレイグ、そしてヒッカム基地の司令ジョージの3人に、シロガネのATXチーム、カイが率いる新教導隊メンバーも加わり対策会議が行われる事となったのだが……。

 

「カイ少佐。今回の新型機……ビルトファルケン奪取についてはラトゥーニ・スゥボータ少尉の手引きがあったのでは無いのかね?」

 

会議開始と共にジョージによる己の責任追及を避ける為の責任すり替えから会議は始まりを告げた。

 

「ジョージ司令。貴方は身内を疑うのですか?」

 

「ふん、私とて疑いたい訳では無い。だが、余りにも敵の手際が良すぎる。そしてあれだけテストの位置を変更したのに敵が待ち伏せしていた。それは敵への情報漏洩が在った事を疑わずにはいられない」

 

肩を負傷しているラトゥーニに目もくれず、通信越しで会議に参加しているクレイグとレイカーにラトゥーニが如何に怪しいかと言う事を熱心に口にするジョージ。

 

「ジョージ司令、お言葉ですが我々がテスト位置の変更を聞いたのはテストの15分前です。仮に情報を漏洩していたとして、15分であれだけの敵の布陣を配置できるとは思いません」

 

「……リオン、アーマリオンに確認されている高速機動を使えば可能な筈だ。それにラトゥーニ少尉は……DC副総帥のアードラー・コッホが責任者を務めていたスクールの出身者だった筈だ。ならば、DC残党と何らかの接点があると考えられる」

 

スクール、そしてアードラーの名を出されラトゥーニが肩を竦める。確かに明るくなったが、それでもまだアードラーの名はラトゥーニにとってトラウマの1つである。疑われている上に、その名前、肩を撃たれている事も加わりラトゥーニはリアクションを起してしまった。そしてそれを見たジョージは図星だからと鬼の首を取ったように笑う。

 

「ラトゥーニ少尉を拘束せよ。弁解は軍事裁判にて聞こう」

 

警備兵がラトゥーニを捕らえようとした時、リーがそれに割り込んだ。

 

「ジョージ中佐。貴方の言う事は全て状況証拠であり、そしてなおかつDC戦争、L5戦役で地球圏を守る為に戦った尊敬すべき兵士に向ける口調では無い。更にライディース少尉の言う通り、試験までに7箇所も場所を移動している。それら全てはジョージ中佐の意見によって行われていると言う司令部勤務のオペレーターの発言もあります。この場で最も疑わしきはラトゥーニ少尉ではない、失礼ですがジョージ司令は鬼を名乗るアンノウン出現時、いえ、それよりももっと前……試験の会場が決まった直後からヒッカム基地から姿を消していたと言う兵士の発言を多く聞いておりますが、それに関して何か弁明はありますか?」

 

ラトゥーニを庇い、そして逆にジョージが疑わしいと反論を口にするリー。

 

「若造がお前は私を疑うのか!」

 

「疑うも何も私は何をしていたのかと尋ねているだけです。試験会場の度重なる変更により、マオ社のスタッフと共にビルトファルケン、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R02カスタムの設定をしており、アリバイが確定しているラトゥーニ少尉を犯人に仕立て上げたいことに関する弁明を求めているのです」

 

「なっ!? そ、それは……」

 

理路整然と疑った理由を問い詰めるリー。それに対してジョージの顔色は見る見る間に悪い物になっていく……。

 

「カイ少佐。マオ社のスタッフの発言についてはどうなっている?」

 

「はっ! ジョージ司令によって基地から撤退させられ、民間の病棟に移動させられる前に話を聞くことが出来ました。ラトゥーニ少尉は

テストの時間まで最終調整を行っており、通信室に足を向けたという話はありませんでした」

 

「ジョージ司令が基地から退出なされ、避難所周辺に向かわれたのも確認しております!」

 

副指令の発言にジョージは目を見開き、口をぱくぱくと動かす事しか出来ないでいた。

 

『どうやら軍法会議に出るのはジョージ中佐。君のようだな』

 

『ジョージ司令を拘束せよ、またヒッカム基地の司令室、及びジョージ中佐の私室への立ち入りを禁止する』

 

レイカーとクレイグの言葉にラトゥーニの前から移動し、ジョージを拘束する警備兵達。

 

「ち、違う! わ、私は何もしていない! わ、私では無い!!」

 

みっともなく違うと叫びながら引き摺られていくジョージをリーは冷めた視線で見つめ、その姿が見えなくなってからラトゥーニに視線を向ける。

 

「肩の負傷もある。傷が痛むのならば、無理にこの会議に出る必要は無い。後日、また話を聞くことも出来るが……傷の調子はどうだ?」

 

「い、いえ、大丈夫です。問題ありません……それと……その……」

 

「私が君を庇った事が意外かね?」

 

言葉に詰まるラトゥーニにリーがそう問いかけるとラトゥーニは小さく頷いた。

 

「上司が部下を守るのは当然の事であり、義務である。部下の責任は全て上官が背負う物であり、責任を擦り付けるものでは無い。そして私は何よりも、L5戦役を戦い抜いた全ての兵士に尊敬、そして感謝の念を抱いている。故に、自分に向けられる責任を擦り付ける為に君を狙ったジョージ中佐が許せなかった。と言うわけだ」

 

『良い上官だろう? 今若手で、スペースノア級を任せれる唯一の艦長だと私は思っているよ』

 

『さて、邪魔者がいなくなった所で、対策会議を再開するとしよう』

 

リー・リンジュン中佐は連邦における理想の上司トップ20に名を連ねるほどに人徳がある艦長であり、義に厚い男だった。ただそれはL5戦役時から僅か半年での出来事であり、リーと同期の軍人たちは皆リーに何があったと首を傾げているのは連邦でも有名な話だったりする……。

 

 

 

 

ジョージは新型機奪取における責任追及の為にクレイグとレイカーが参加したと思っていたが、クレイグとレイカーが忙しい最中会議に参加したのは百鬼獣とゲシュペンスト・タイプSに関しての話し合いをするためだった。

 

『鬼を名乗る……謎の男と、異形の特機……』

 

『そして失われた筈のゲシュペンスト・タイプS……か』

 

DC戦争の影で出現した恐竜帝国、そしてメカザウルスに匹敵するパワーを持つ異形の特機に関しては情報が殆どなかった。

 

「シロガネの整備主任に確認してもらいましたが、材質は未知の金属で、微々足る物ですが自己修復能力を持っていたそうです」

 

金属でありながら自己修正能力を持つ……それはL5戦役で戦ったブラックエンジェルと呼称された「アストラナガン」、ホワイトデスクロスと呼ばれたジュデッカと同等の性質であり、現在の地球の技術力では製造出来る金属では無い。

 

『ふむ……カイ少佐、キョウスケ中尉。戦った者の感想を代表として聞きたい。あの異形の特機はどう見えた?』

 

レイカーの問いかけにまずカイが口を開いた。

 

「恐ろしい力を有しています……今回は何とか切り抜ける事が出来ましたが……あれが集団で襲ってくることを考えたら、今の連邦ではあの進撃を止める事は極めて難しいかと……」

 

獣のような瞬発力、そして改良されたゲシュペンスト・MK-Ⅲ、ゲシュペンスト・リバイブの装甲を容易く破壊する攻撃力、そしてアルトアイゼン達の攻撃を受けても大破しない防御力……どれをとっても脅威でしたとカイが報告する。

 

『なるほど、ではキョウスケ中尉はどうだ?』

 

「はっ、あの特機に関しては私もカイ少佐と同意見です。十分な備えがあったとしても迎撃するのは難しいでしょう……ですが、私には1つ気になることがあるのです。レイカー司令」

 

『気になる事? それは重要な事かね?』

 

「……はい、あの異形の集団の正体に関わることだと私は思います」

 

「待て、キョウスケ中尉。私はそのような話を聞いていないぞ?」

 

リーがキョウスケに待ったをかける。異形の集団の正体に関わるような重要な話を何故私に報告しないとリーが問い詰める。

 

「リー中佐。緘口令が引かれていることなんですよ、私もキョウスケも本当は報告したかったんですけど……許可無く話す事が出来なかったんです」

 

エクセレンがリーに話せなかった理由を口にすると、リーは納得はしていないがしょうがないという表情で椅子に腰を下ろした。

 

「武蔵の事に関する発言許可を」

 

『……許そう。司令部にいるATXチーム、教導隊を除き全員退出せよ。ラミア・ラブレスに関しては……』

 

「今後またあの特機と戦うこともあるかもしれません。私が責任を取るのでラミアもこの場に残る許可を」

 

『……良いだろう、許可する。ではキョウスケ中尉、何に思い当たる節があるのかね?』

 

連邦において武蔵の事はSSS機密に該当する。更に、武蔵が生きていた時代……旧西暦に関する話は最重要機密となる、レイカーの命令で司令室から人が次々と出て行き、リーとクレイグ、そしてラミアを除いて全員が武蔵を知る面子だけになった。

 

「武蔵の話の中で恐竜帝国との最後の戦いの前に「鬼」に出会ったという話がありました。あの異形の特機のパイロットは自らを鬼と名乗りました……武蔵、そして恐竜帝国に続き、旧西暦の使者なのではないでしょうか?」

 

「待て、待ってくれ、旧西暦? キョウスケ中尉、お前は何を言っている?」

 

『ふむ、混乱するのは当然だな。リー中佐、これはSSS機密の為隠されているがL5戦役、そしてメテオ3との戦いで人類を勝利に導いたゲッターロボ、そして巴武蔵は旧西暦の人間だ』

 

「……冗談……ではないのですね?」

 

『ああ、旧西暦のとある戦いの中で武蔵君はゲッターロボと共に新西暦に時空間転移を行い、アイドネウス島に出現した。リー中佐、君の事だ。武蔵君については調べていたのだろう?』

 

レイカーの問いかけにリーは黙り込んだ。それがリーが武蔵を調べていたという証拠になった。

 

「申し訳ありません」

 

『いいや、責めている訳では無い。L5戦役の立役者だ、知りたいと思うのは当然の事だろう』

 

調べれば全員が戸籍の無い男に辿り着く……巴武蔵、そしてゲッターロボが何者なのか? と言う疑問に辿り着き、そしてそこから先に進めなくなる。なぜならば、武蔵は旧西暦の人間であり、新西暦に存在した人間では無い。どう調べても、武蔵の正体には辿り着けないのだ。そしてそれは話を聞いていたラミアも同じだった。

 

(旧西暦の人間……どういうことだ?)

 

ラミア自身は武蔵と面識が無く、指令の内容と、容姿、搭乗機体に関しては情報を得ていたが、武蔵が旧西暦の人間と言うありえない情報を聞いて、その目を大きく見開いていた。

 

『……私も初めて聞いた時は、我が耳を疑った。良く話を聞いて情報を整理して欲しい』

 

「……クレイグ司令……はい、判りました」

 

武蔵に関わる話のすべては今までの常識を越える。そしてそれが必要になるほどの激しい戦いが間近に迫っていると言う証だと気付いたのか、レイカーも険しい色をその顔に浮かべた。

 

『ではキョウスケ中尉はあの特機を旧西暦の存在であると考えていると言うことか?』

 

「はい、その可能性は極めて高いかと、事実メカザウルスと同等と思われるパワーを発揮していました」

 

『ふむ……この件は1度私預かりにしよう。リー中佐達には悪いが、今回の件は緘口令を引かせてもらう』

 

旧西暦の使者……しかもそれは武蔵とは異なり、人類に明確な敵意を見せる存在。今の新型機奪取が多発し、それと共に出現した事もある。警戒しなければならないが、必要以上に警戒する事で余計に包囲網に穴を開ける訳にはいかないと言う事で、百鬼獣に関する事はレイカーの預かりとなった。

 

「それとは別にやはり、連邦軍の内部に内通者がいる可能性も捨て切れません。ヒューストン基地の事もあります」

 

『……確かにな。新型のテストに関しては司令クラスに留めていたが、こちらから信用出来る者を派遣する形にする必要もあるな』

 

このまま新型機を奪取され続けては開発した意味がない、なんとしても新型機奪取はここで食い止めなければならない。

 

『カイ少佐、ゲシュペンスト・タイプSに関してはどうだ?』

 

「かなり改良されているのは間違いないですが……操縦の癖、立ち回りなどを見てカーウァイ大佐だと確信しております。しかし隊長は……」

 

『エアロゲイターに捕まりサイボーグとなり、その残骸に残された僅かな肉片からカーウァイ・ラウ本人と言う認定が降りているな。つまりカーウァイ・ラウの戦死は確認されている』

 

月で間違いなくカイ達はカーウァイを殺した……いや、呪われた生から解放した。だがカーウァイの操縦の癖を持つゲシュペンスト・タイプSが出現し、教導隊のカイが認めた以上……タイプSを駆る男がカーウァイである可能性は極めて高い。

 

「レイカー司令。発言よろしいでしょうか?」

 

『ブルックリン少尉、構わない。何か気になることはあるのか?』

 

「はい、前から思っていたのですが……武蔵の話ではゲッターロボをオーバーロードさせた事により時間を越えたと言っていました。そしてメテオ3の時を考えると限りなく、武蔵の言っていた状況に近いと私は考えます、ゲッターロボの残骸が見つからないのも、武蔵達が再び時間を越えたと言うのはどうでしょうか?」

 

前々からブリットが感じていた事、武蔵、そしてイングラムが再び時空を越え別の時間軸にいるのでは無いか? と言う説を口にする。アイドネウス島ではメテオ3の残骸が幾つも発見されているが、ゲッターロボに関してはゲッタートマホーク1つしか見つかっていない。それもまたブリットの中では武蔵が時空を越えたと言う思いをより強くさせる要因となっていた。

 

『……つまりブルックリン少尉は武蔵、イングラム少佐が過去に飛び、エアロゲイターによって拉致される前のカーウァイ大佐を連れて、再びこの時間に戻って来たと言いたいのかね?』

 

それは夢物語と一蹴すべき内容だが、武蔵の経歴を考えるとその可能性はゼロでは無い。

 

『ふむ……それも1つの可能性として考えておこう。リー中佐、ATXチームと教導隊と共に特務命令を下す。今回の件に関してはこちらが本題となるのだが5日後リクセント公国にて、国際会議が行われる。シロガネ、ATXチーム、教導隊と共に国際会議の警護を命じる』

 

「はっ!」

 

『ヒッカム基地での補給、及びビルトファルケンの奪取に関する調査が終了次第、出発せよ』

 

こうしてシロガネ、ATXチーム、教導隊は2日ヒッカム基地に滞在し、国際会議の警護を行う為にヒッカムを後にした。だが、そこでライとラトゥーニは予想にもしない人物と再会する事となるのだった……。

 

 

 

 

 

時間はシロガネがヒッカム基地を発つ2日前まで遡る……藤沢地区のダテ家では慌てるリュウセイの声が家の外まで響いていた。

 

「リュウ、早く出ないと遅れるわよ」

 

リビングからしょうがないわねと言う顔をする母、ユキコに言われてリュウセイは階段から転がり落ちるように駆け下りてきて、ジャケットを羽織った。

 

「判ってるッ! カバン、カバンはどこだッ!?」

 

寝癖を整えるので手一杯だったのだろう。昨晩準備しておいた筈の鞄の場所を忘れているリュウセイにユキコは溜め息を吐いた。

 

「昨日、準備をして玄関に置いておいたんでしょう? ほら、髪が乱れてるし、襟が乱れてるわよ」

 

「そ、そんなの良いって」

 

気恥ずかしそうにするリュウセイにユキコは駄目よと笑い、櫛を手にしてリュウセイを振り返らせ髪と襟を整えながら声を掛ける。

 

「ダメよ、ちゃんとしなさい。でないと、ヴィレッタさんやアヤさんに怒られるわよ」

 

「わかったわかった」

 

恥ずかしさも相まって空返事を返すリュウセイに対してユキコが少し寂しそうに尋ねた。

 

「……ね、リュウ。今度はいつ帰って来れるの?」

 

リュウセイが帰って来たのは1週間前。2週間はゆっくり出来ると言っていたのに、急に呼び出されたリュウセイ。ユキコはどうしても嫌な予感を払拭出来なくて、リュウセイにそう尋ねた。

 

「判らねえな。ここ最近、何かと忙しいし……でも、大丈夫だよ。お袋、俺はちゃんと帰ってくるからさ」

 

ユキコを安心させるように笑うリュウセイ。その笑みを見てユキコもまた不安げな表情を一転させて、穏やかな笑みを浮かべた。

 

「そう。今度、機会があったら皆さんをうちに連れていらっしゃい、母さん、貴方がお世話になってる人達にお礼をしたいから。あと……

ちゃんとラトちゃんの保護者の人も1度ちゃんと連れてきて欲しいわ」

 

「……お袋、俺がいなくてもラトゥーニの服とか増やさなくていいからな?」

 

ラトゥーニが日本を発つまでの2週間。ラトゥーニはリュウセイの家に泊まっており、リュウセイの知らない内にラトゥーニの部屋が出来ているわ、ユキコがラトゥーニちゃんと呼んでいたのがラトちゃんになり、ユキコさんと呼んでいたのがユキコおば様になっていると言う自体にリュウセイは恐怖していた。自分の知らないうちに、外堀所か内堀が埋められている……そんな気がしていた。

 

「あら、もうこんな時間。気をつけてね、リュウ」

 

そしてユキコはリュウセイの疑問に返答を返す事は無く、リュウセイの背中を押して家から押し出すのだった……。埋められているような気がするではなく、埋められている事にリュウセイが気付くのはまだ先の事だった……。。

 

地球連邦軍伊豆基地の正門で待っていたアヤに手を上げて、リュウセイが門兵に入門許可証を見せて伊豆基地の中に足を踏み入れる。

 

「……休暇中に呼び出してごめんなさいね」

 

「例の試作機が予定より早く来たってんだろ? しょうがねえさ」

 

申し訳なさそうにするアヤに気にするなよと笑うリュウセイ。その笑みにつられて、アヤも笑みを浮かべてユキコの容態を尋ねた。

 

「所で、お母様の具合はどう?」

 

「まだ通院してるけど、前に比べりゃ元気になったよ」

 

「ちゃんと親孝行してきた?」

 

「それ所か、いつまで経っても子供扱いで困ったのなんの」

 

「いいじゃない。母親って、そういうものらしいわよ」

 

私は知らないけどと言うアヤにリュウセイが神妙な顔をして、アヤも妙な雰囲気をしているので話題を変える為にリュウセイが口を開いた。

 

「なんかさ、俺の家に何時の間かラトゥーニの部屋が出来てて、お袋がラトちゃんって呼んでるんだけどさ、これっておかしくない?」

 

「……そう、そうね……うん。少しおかしいかもしれないわね」

 

「少しかなぁ……浅草にジャーダとガーネットが家を買ったんだろ? なんで俺の家に泊まるんだろ?」

 

(き、気付いてない……もう手遅れ一歩手前なのに……)

 

完全に外堀も内堀も埋められているのに気付いていないリュウセイにアヤは何も言えなかった。そしてそこまでアグレッシブに行動しているラトゥーニにもアヤは驚いていたが、それを口にすることは無かった。リュウセイが自分で気付かなければ意味がないからだ、しかしいつか痺れを切らして既成事実とかにラトゥーニが動き出すんじゃないかとアヤは思ってしまった。

 

「リュウ。とりあえず今日の予定を教えておくわ、この後、試作機に関するレクチャーを受けて貰ってから、模擬戦をやるわよ」

 

「了解。所で、模擬戦の相手って誰? アヤか? ……アヤ?」

 

模擬戦の相手は誰だと尋ねるリュウセイにアヤは黙り込んで目を逸らした。その顔を見てリュウセイの額から一筋の汗が流れた。

 

「も、もしかして……た、隊長?」

 

MIAになったイングラムに変わり、SRXチームを率いているヴィレッタが模擬戦の相手と尋ねるリュウセイにアヤが小さく頷いた。

 

「何よ、そのこの世の終わりって顔は……」

 

自分も酷い顔をしているのに、リュウセイの事を棚に上げて言うアヤにリュウセイはがっくりと肩を落としながら返事を返す。

 

「だって、負けたら特訓のメニューが追加されちまうからなあ」

 

「じゃあ、頑張って勝つ事ね」

 

「そういうアヤは俺が休んでる間、隊長に何勝したんだよ?」

 

他人事のように言うアヤにリュウセイは眉を寄せながらリュウセイが尋ねると、アヤは目を逸らして、慌てた様に手を振りながら口を開いた。

 

「え? ま、まあ、そんな事は別に良いじゃない」

 

「さては連敗か。お互い先が思いやられるよな……」

 

その反応を見ればアヤも模擬戦で負け続けていると判り、自分だけじゃないと言う安堵の顔を浮かべるリュウセイだが、次のアヤの言葉にまた肩を落とした。

 

「あ、私は明日から父のラボに詰める事になるの、だから、しばらくの間訓練はお休みするわ」

 

「って事は、隊長とマンツーマン? トホホ……」

 

アヤも自分と同じでヴィレッタの訓練を受けると思いきや、アヤは伊豆基地から出ると聞いてリュウセイは絶望したと言う表情で肩を落とす。しかしそんなリュウセイに対して、アヤの顔は神妙な物で、不安げな色をその瞳に宿していた。

 

(やっぱり伊豆基地で行うのね)

 

アイドネウス島沖でアヤがゲッター線で出来たゲッターロボに導かれ、発見したホワイトデスクロスに関係した調査であると言う事は緘口令が敷かれているのでリュウセイにその事を伝える事が出来ないアヤは不器用な笑みを浮かべて、リュウセイに声を掛けた。

 

「文句を言わないの。隊長だって、忙しい中をぬって私達の面倒を見てくれてるのよ?」

 

「そりゃ判ってるけどさ……あ~あ、教導隊へ出向したライの野郎が羨ましいぜ。今頃、カイ少佐やラトゥーニと一緒にハワイでのんびりしてんだろうなあ」

 

「そんな訳ないでしょ。さ、隊長とオオミヤ博士の所へ行きましょう」

 

任務で行っているんだからハワイでも忙しく働いてるわよと言うアヤに注意され、リュウセイとアヤは2人でSRX計画のラボに足を向けた。

 

「おはようございます、オオミヤ博士」

 

「ああ、おはよう。アヤ、リュウセイ」

 

格納庫で組み上げられているPTを見て、リュウセイはロブに挨拶を返すよりも先に目を輝かせて、格納庫に視線を向けた。

 

「ロブ、ブレードは? 早く実物を見せてくれよッ!」

 

初めて自分が携わった量産機が目の前で組み上げられている事に喜びを隠しきれず、ロブにアルブレードを見せてくれと言うリュウセイの肩を背後から掴む男がいた。

 

「そう焦るな、リュウセイ」

 

「ッ! イルム中尉!? いつこっちへ? あ、もしかして……ブレードと一緒に?」

 

マオ社にいるはずのイルムが自分の肩を掴みながら笑っている事に驚いたリュウセイだが、マオ社で作られたアルブレードと共に地球に着たのかと気付いてそう問いかける。

 

「正解、アルブレードの月から付き添いでね。ま、出来れば美人の付き添いが良かったぜ」

 

「リョウトやリオ、ラーダさん達は元気?」

 

イルムらしい返答にリュウセイは笑みを浮かべながらマオ社にいるはずのリョウト達の事を尋ねる。

 

「ああ。お前達に会いたがってたよ」

 

「皆とはあの時以来だもんなあ……」

 

L5戦役の後からあっていないリョウト達の話をしているとロブが手を叩いて、リュウセイ達の視線を自分に集める。

 

「さて、積もる話は後だ。早速、仕事に取りかかろう、アルブレードの事だが……」

 

ロブが模擬戦の内容を伝えようとした時、SRX計画のラボに神妙な顔をしたヴィレッタが入って来た。

 

「オオミヤ博士。模擬戦の前にリュウセイ達に伝えておく事がある」

 

「何です? 何か予定の変更がありましたか?」

 

司令所に詰める筈だったヴィレッタが態々ラボに来た。その理由として予想される模擬戦の予定の変更ですか? と尋ねるロブにヴィレッタは首を左右に振った。

 

「2日前、ハワイのヒッカム基地からビルトファルケンが強奪された」

 

想像にもしていなかったヴィレッタの言葉にリュウセイ達は大きく目を見開いた。

 

「ちょっと待ってくれよ隊長。 ファルケンって、ブレードと一緒にマオ社で作ってたATX計画の試作機だよな? ライ達がテストするって言ってた」

 

リュウセイの言葉にヴィレッタは言葉短くその通りと返事をした。ヴィレッタ自身も今その報告を聞いたばかりなのか、書類を確認する。

 

「ライ達が居てファルケンが奪取されたのですか?」

 

「ええ。ファルケンは教導隊によるテスト中に強奪されたそうよ、詳しい所は緘口令が敷かれているけど……かなり大きな戦いだったそうよ」

 

緘口令が引かれるほどの戦いと聞いてリュウセイ達は眉を顰めた。

 

「ライとラトゥーニが怪我はしてないのかッ!? 隊長」

 

そこまでの戦いがあったのだから怪我をしているのでは無いかと心配するリュウセイにヴィレッタは報告書に目を通す。

 

「詳しい事情は判らないが、重傷者とかの報告は無いから問題は無い筈だ。世界各地の連邦で行われている新型が全て強奪されているか、襲撃を受けている。伊豆基地を狙ってくる可能性は低いが……警戒してテストに望んでくれ。では模擬戦の内容と訓練内容を説明する」

 

日本の連邦軍基地で最大の規模を誇る伊豆基地に襲撃を掛けてくる可能性は低いとしつつも、警戒を緩めることは出来ないと言う険しい顔をしているヴィレッタの言葉に頷き、リュウセイ達は模擬戦と訓練の内容に耳を傾けるのだった……。

 

 

 

第14話 予想外の再会 その4へ続く

 

 




原作ではここでユウキやゼオラ達ですが、今作では百鬼獣に襲撃して貰おうと思います。それに伴い、前回と同様特別ゲストに参戦してもらおうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話 予想外の再会 その4

第14話 予想外の再会 その4

 

伊豆基地でアルブレードの稼動試験が行われる2時間前、日本に向かうスペースノア級――「ハガネ」の姿があった。

 

「進路。よーそろーダイテツ艦長。後1時間ほどで本艦は日本へと到着します」

 

「うむ。順当に進んでくる事が出来たな」

 

L5戦役の後にハガネは大破したトロニウムバスターキャノン艦首モジュールに変わり、シロガネと同タイプの艦首モジュールを装着し、アイドネウス島でのゲッターロボ及び、メテオ3、ホワイトデスクロスの捜索任務に当たっていたが、レイカーからの命令で日本へと帰還するための航路についていた。

 

「レイカー司令からの報告……本当なのでしょうか?」

 

「わからん、それを確かめる為にもワシらは1度日本に戻らねばならない」

 

レイカーがハガネを日本に戻す決断をした理由――それはヒッカムでのキョウスケの発言が大きく関係していた。武蔵が口にした「鬼」と思わしき集団の出現、そしてメカザウルスに匹敵する特機の出現……極めつけにはゲシュペンスト・タイプSの出現――それらの要因が重なり、レイカーはハガネを日本に戻す決断を下したのだ。勿論それだけではなく、ダイテツとアイドネウス島で調査を行っていたアヤ、そしてケンゾウのコバヤシ親子と一部の軍人だけに知らされた特殊コンテナの中に搭載された金属片の調査も伊豆基地で行うべきと言う判断によっての帰還命令であった。

 

「何事も無ければ、日本でイルムガルト中尉達を回収後、補給を済ませ本艦もリクセント公国へと向かう。その後シロガネと共に国際会議の警護を行う」

 

名目上はリクセント公国で行われる国際会議の警護と言う名目でハガネは呼び戻されている。日本で補給を終えたら、そのままリクセントへ向かうぞと言うダイテツの言葉にテツヤは僅かに眉を細めた。

 

「久しぶりに同期に会うのは不安か?」

 

「……いえ、そう言う訳では」

 

「嘘を言うな、嘘を、顔に出ておるわ。そんなにリー・リンジュン中佐が苦手か?」

 

若い艦長だが、スペースノア級の艦長を任されるほどの手腕を発揮するリーとテツヤは士官学校での同期であった。故にシロガネと共に警護すると言うのが不安なのだとダイテツは感じていた。

 

「シロガネへの艦長への推薦を拒否したのはお前だぞ? ワシはもう、お前は艦長として立派にスペースノア級の艦長を務め上げれると思ったのだがな」

 

「そ、そんな、私はまだ艦長をやるなんてとてもではありませんが重責が過ぎます。私はもっと、ダイテツ中佐の元で艦長としての技術を学びたいと思っております」

 

「そうか……ならば、ワシが引退した後のハガネの艦長はお前だな、大尉」

 

ダイテツの言葉にとんでもないというテツヤだが、ダイテツの目から見ても既にテツヤは艦長の器としては十分だった。ダイテツと言う存在を知るからこそ、自分にはまだ早いと尻込みしているが十分に艦長としての手腕は既に持っている。

 

(……後もう少しだけ面倒を見てやるとするか)

 

自分もいい歳だからそろそろ現役引退をレイカーから勧められている。その時には、ハガネをテツヤに譲るのも悪くないと思いながらダイテツはパイプを吹かせる。

 

「リーなのですが、その私が士官学校に居た時はその神経質な性格から嫌われていたのです」

 

「ほう? そうなのか?」

 

「はい。正直リーが理想の上司に選ばれたと知った時は驚いて叫んでしまいました」

 

テツヤがそう言うのだから、きっと士官学校時代のリーは理想の上司とは程遠い性格をしていたのだろうとダイテツは笑う。

 

「何か良い経験をしたのだろう。それがリー中佐の考えを変える事に繋がったんだろうな」

 

「そうでしょうか?」

 

「そう言う物だ大尉。何かの切っ掛けで人間は簡単に変わる……よほど良い経験をしたのだろうな」

 

今までの人生観、そして人格を変えるほどの出会いがあったのだろうと笑うダイテツにテツヤは苦笑いを浮かべていたが、ハガネに響いた警報にその顔を引き締めた。

 

「エイタ! 今の警報はなんだ!?」

 

「い、伊豆基地にて熱源反応感知ッ! 伊豆基地で戦闘が行われている模様ッ!」

 

「ば、馬鹿な、伊豆基地に襲撃を仕掛けただと!?」

 

世界各地の連邦軍基地に正体不明のテロリストの襲撃が多発しているが、まさか伊豆基地にまで襲撃を仕掛けるとはテツヤにとっては想定外だった。

 

「驚いている暇など無いッ! 第1種戦闘配備ッ! これより本艦は伊豆基地への支援へ向かうッ!! 機関最大戦速ッ!」

 

「りょ、了解! 機関最大戦速!! 伊豆基地へと向かうぞッ!!」

 

ダイテツの一喝で我を取り戻したテツヤの命令をエイタが復唱し、微速から最大戦速に切り替えたハガネは真っ直ぐに伊豆基地を目指して進み始めるのだった……。

 

 

 

 

伊豆基地の試験場で灰色と紺色を主体にしたPTが音を立てて、ゆっくりと立ち上がった。R-1の量産の為マオ社で開発された量産に向けて製造された実験機――「アルブレード」のカメラアイが鮮やかな黄色に光る。

 

「起動完了。出力、規定値まで上昇。各部、問題なし……っと」

 

アルブレードのコックピットでリュウセイがコンソールを操作し、アルブレードのステータスを確認していると、司令室のロブから通信が入る。

 

『どうだ、リュウセイ? 実際に乗ってみたアルブレードは? お前の意見をある程度取り入れた形にはなっているはずだが』

 

SRX計画の一環として開発された事もあり、リュウセイの意見を数多く取り入れたアルブレードの感想を求めるロブにリュウセイは声を弾ませて返事を返す。

 

「シュミレーターの時より全然良いぜ! 重心がどっしりしているのがやっぱり安定感があって良いよ」

 

本来のアルブレードよりも、20%増しで重量を安定させた事で操縦の感覚が抜群に良いとリュウセイが返事を返した。

 

『なるほど、試作に向けて搭載した腰部レールキャノンと試作ブレードサイのお陰かな? 調子は良いか?』

 

「バッチリだぜ、ロブ。これで量産出来るって言うんだから驚きだぜッ!』

 

先行量産試作機と言う事で、確かにコストは高めだがそれでも量産を前提にされている機体だ。武装がいくつかオミットされたとしても、今リュウセイが乗っている機体をベースに量産されると言うことに、リュウセイは驚きを隠せないでいた。

 

『ま、そこの所はL5戦役でのSRXの活躍のおかげだな、今の段階で気になる事はあるか?』

 

模擬戦の前に気になる所はあるか? と言うロブの問いかけにリュウセイはアルブレードの腰に装備されているブレードサイを装備させて、軽く振るってみせる。

 

「うーん……重量的には前のブレードトンファーの方がどっしりとしてたかなあ? それにリーチも少し不安だぜ」

 

シュミレーションではブレードトンファーだったが、実機ではブレードサイと言う短剣になっていたのがどうも気がかりだと口にするリュウセイ。

 

『それならバックパックのモードをBTTに切り替えて見てくれ、それで大分変わるはずだ』

 

「BTTっね。っとと!」

 

ロブに言われた通りコンソールを操作すると補助アームによって背部に装備されていたアタッチメントがアルブレードの両腕に装着された。

 

「ブレードトンファー……じゃねえ? なにこれ?」

 

『試作ブラストトンファーだ。腕部に装着時はビームエッジと重量による打撃、背部に装備時はキャノンとして運用出来るらしい……な』

 

ロブもカタログを見ながらの返答なのか、言葉にキレが無い。

 

「ふーん、ま、大分いい感じそうだから俺が言う事は無いけどさ。リョウトも随分色々試してるんだな」

 

本来搭載されると聞いていた武装を変更してまで色々と試しているリョウトにリュウセイは頑張っているなあと思いながら、腕に装着させたブラストトンファーを再び背部へと装備しなおした。

 

『まぁ正式量産機「エルシュナイデ」の実験の一環と思ってくれ、とりあえず今回はブラストトンファーの射撃は無し、ビームエッジとブレードサイをメインにした格闘戦のデータ取りを頼む』

 

「了解ッ! 任せておいてくれよッ!」

 

気合に満ちた返事を返すリュウセイにその意気だとロブは笑う、模擬戦の対戦相手がリュウセイとアルブレードの前に現れる。青い巨大な特機……超闘士と名高い、グルンガストが模擬戦の相手だった。

 

「グルンガストか……キツい相手だぜ……でも、隊長相手の模擬戦と違って、特訓メニューが追加されねえだけマシかな?」

 

アルブレードよりも装甲もパワーもはるかに上のグルンガスト。正直、PTで相手をする敵では無い。だけど、ヴィレッタの駆るR-GUNとの模擬戦では無いから負けても訓練メニューが増えないから良いかと呟いたリュウセイに司令室のヴィレッタから通信が入る。

 

『そんな心構えでは困るわね。良いわ、無様な結果になれば、訓練メニュー2倍よ』

 

「うへえ……やぶへび……が、頑張ります!」

 

自分の呟きによってとんでもない事になったとアルブレードの中でリュウセイは小さく溜め息を吐いた。

 

『よし、データ取得準備完了。2人共、始めてくれ』

 

「了解! イルム中尉。行くぜッ!」

 

「遠慮はいらんぞ、リュウセイ。思いっきり来いッ!!」

 

『……日本の連邦の要、伊豆基地……どれほどのものか確かめさせてもらうとしようか』

 

伊豆基地に迫る悪意に気付かず、アルブレードとグルンガストによる模擬戦の火蓋が切って落とされるのだった……。

 

 

 

 

 

弾丸のような勢いで突っ込んでくるアルブレードの突進を振るった拳で受け止めながら、イルムはグルンガストのコックピットで冷や汗を流していた。

 

(思いっきり来いとは言ったが……まさかここまでとは……)

 

L5戦役の後からリュウセイがどれほどの実力をつけたかと言うのを確かめるつもりだったイルムだが、想像以上にリュウセイの技量は上がっていた。

 

『オラオラオラオラッ!』

 

ブラストトンファーによるビームエッジと強固な材質による打撃。そしてR-1の構造を継承しているからこその抜群の瞬発力……、特機であるグルンガストだからこそ致命傷は避けれているが、並みのPTでは一瞬で行動不能に陥っていただろう。

 

(OK、納得した)

 

何故自分が試験の相手に選ばれたか、その理由を悟りイルムはコックピットの中で小さく息を吐いた。

 

「少しばかり本気で行くぜッ!」

 

『うおっ!?』

 

ノーモーションからの前蹴りをバク宙で回避するアルブレードにそこまで出来るのかよとイルムは驚いた。流石に模擬戦なのでファイナルビームや計都羅喉剣は使えないので打撃や蹴りに攻撃は制限される事を差し引いても、アルブレードは強かった。

 

『せやぁッ!』

 

「そんなんじゃあ、グルンガストの装甲は抜けないぜッ!!」

 

鋭く早い突っ込みからのブラストトンファーの一撃をグルンガストの強固な装甲で防いだ瞬間――模擬戦のプログラムに応じて、右腕使用不能のレッドアラートが灯る。

 

「やられた……ったく、随分と小技を覚えてくれたもんだぜ」

 

肘の関節に突き刺さっているブレードサイにイルムは関心半分、呆れ半分の溜め息を吐いた。

 

『行くぜッ!!』

 

右腕がルール上使えなくなったグルンガストの右側から突進してくるアルブレード。攻撃のノリは以前のまま、しかし相手の弱点を見極める観察眼と小技を使いこなす操縦技術――半年で恐ろしいほどにレベルアップしているとイルムは感心した。

 

「なぁッ!?」

 

『へっへ、グルンガスト相手に正面から突っ込むなんて真似はしないぜッ!』

 

スライディングでグルンガストのまたの間を潜り、回し蹴りを叩き込むアルブレードにグルンガストは前のめりにたたらを踏んだ。

 

「何時までも思い通りにはいかないぜ!」

 

『ぐっ!? 流石イルム中尉だぜ!』

 

バックブローを喰らい吹き飛んだアルブレード、今度はアルブレードの左腕に使用不能のアラートが灯る。

 

「リュウセイの奴、随分と腕を上げましたね」

 

「……武蔵の事があったからね」

 

リュウセイの中で武蔵の事を整理するまでは相当の時間が掛かった。そしてリュウセイの出した結論は自分が弱かったから、武蔵もイングラムも失ったという答えにつながった。生きていると信じている、だがそれとこれとは話は別なのだ。今度は最後まで一緒に戦えるように、リュウセイは己を鍛え続けた。それがアルブレードの操縦に活かされている。

 

「アルブレードにT-LINKシステムがついていたら流石にイルムガルト中尉でも劣勢でしたね」

 

「そうね、リュウセイの成長は操縦技術だけじゃないしね」

 

PTの操縦技術が上がるに連れて、それに追従するようにリュウセイの念動力は成長を遂げている。仮にアルブレードにT-LINKシステムが搭載され、その念動力を攻撃に活かす術があったのならば、イルムガルト相手でもリュウセイは勝利を収めていただろう。

 

「おおっと、なかなかやるじゃないかリュウセイ」

 

機体のダメージレベルが70%を越えた所で模擬戦終了のアラートが響き、イルムが通信でリュウセイに賞賛の言葉を投げかける。

 

「そりゃもう、隊長に厳しく鍛えられてっからね」

 

リュウセイが調子に乗ったと気付いて、ヴィレッタがすぐに通信を繋げる。

 

『まだまだよ。力任せで相手を押し切ろうとするクセが直っていないわ、今回はイルムガルト中尉がアルブレードの様子見をしていたからの勝利だと知りなさい』

 

リュウセイが天狗にならないように注意をするヴィレッタにリュウセイはアルブレードのコックピットで呻いた。

 

『R-1との違いを素早く把握し、それを踏まえた適切なモーションを取りなさい。マニュアル操縦が出来るようになったのは褒めてあげるけど、モーションデータを使わなくて良いって事じゃないわよ』

 

リュウセイの努力もそしてその才能も認めた上でヴィレッタは厳しい言葉を投げかける。司令室で聞いていたロブとアヤは揃って肩を竦める中、リュウセイが引き攣った声で返事を返す。

 

「りょ……了解。ちなみに今のは何点?」

 

『55点ね。妥協点はクリアしているけどまだまだよ、特別訓練の追加ね』

 

「ええっ!? ト、トホホ……大分良い線言ったと思ったのに……」

 

リュウセイとヴィレッタのやりとりを聞いて、イルムはグルンガストのコックピットで苦笑いを浮かべた。少なくとも武装をフルにこそ使っていないが、それでもイルムは本気だった。リュウセイが調子に乗らないようにしても厳しいなと肩を竦めていたが、次の言葉に思わず笑みを浮かべた。

 

『でも、さっきの踏み込みのタイミングはいい感じだった。次もその調子で頑張るのよ』

 

その不器用な褒めの言葉はイングラムに似ていて、イルムは思わず懐かしくなって笑ってしまった。

 

(ったく、今頃何処で何をしているのやら)

 

イルムもリュウセイ達と同じで武蔵とイングラムの死を信じていない。むしろ殺しても死にそうに無いイングラムが生きているなら早く出て来いよとまで思っていた。コックピットの中でリュウセイの成長具合を体感した側として、次はもう少し本気になるかなと考えているとグルンガストのレーダーに微弱な反応があった。

 

(なんだ? 今確かに熱源反応が……気のせいか?)

 

身体を起こして再索敵を行う中、試験場にロブの声が響いた。

 

『さて、リュウセイ。現時点での感想は?』

 

「そうだな……プラン通り、テスラ・ドライブと肩部シールドユニットを付けたらいいバランスになると思うぜ。上手く行ったら、晴れてエルシュナイデって呼んでも……」

 

リュウセイが最後まで言い切る事無く伊豆基地に警報が鳴り響いた。

 

「くそっ! 嫌な予感が大当たりかよ! リュウセイ! 訓練モードから戦闘モードに切り替えろ!」

 

「りょ、了解!!」

 

何か強烈な嫌な予感を感じ、イルムはリュウセイに戦闘モードに切り替えるように指示を出すのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

アルブレードとグルンガストが戦闘モードに切り替わった頃。司令室は混乱に陥っていた……何せ警備網を抜けて敵機が突如出現したのだ。混乱するなと言うのが無理な話であった。

 

「最終防衛ライン上に所属不明機を多数確認しましたッ!」

 

「最終ラインッ!? 何故そこに至るまでレーダーで感知出来なかったッ!?」

 

オペレーターの報告にサカエが怒鳴り声を上げるとオペレーターは必死にコンソールを操作しながら報告を上げる。

 

「そ、それが先程まで全く反応が無く……ッ! 突如最終防衛ラインに熱源反応が出現したんですッ!」

 

その報告を聞いてサカエの脳裏を過ぎったのは、今までの新型奪取事件の事だった。何処の基地もレーダーに反応が無く奇襲されたと聞いていたが、まさかレーダーの類が充実している筈の伊豆基地までもその存在を感知出来ないとは想定していなかった。

 

「総員、第1種戦闘配置。対空迎撃システム、作動。PT部隊を緊急出撃させろッ!」

 

司令室が浮き足立つ中、レイカーの冷静な命令で司令室に僅かに平静が戻る。

 

「よもや、この伊豆基地へ仕掛けてくるとはな……他の基地の事を言えないな」

 

「他の新型奪取と同じでしょうか? まさかここまでとは……」

 

現れるまで存在を発見できず、そして目的を達成すれば速やかに撤退する。その手並みをまさか、レイカー達自身が体験するとは思っても見なかった。

 

「目標群、包囲網を……そんなッ!? 司令部の目の前に熱源出現ですッ!」

 

オペレーターが悲鳴にも似た……いや、事実悲鳴だったのだろう。突如熱源が現れ、海を割って現れた巨大な影にレイカーは信じられないと言う様子で呟いた。

 

「……鬼ッ!?」

 

『『『グゴオオオオオオオーーーッ!!!』』』

 

司令室の窓を全て粉砕する凄まじい咆哮が鬼の口から放たれ、レイカー達は吹き飛ばされ後方の壁に叩きつけられてその意識を失うのだった。

 

「な、なんだよあれ……鬼?」

 

「そうにしか見えねえな……んだよ、メカザウルスの仲間か?」

 

牛のような巨大な角を持つ「百鬼獣 牛角鬼」

 

細身で鳥を思わせる姿をした「百鬼獣 鳥獣鬼」

 

ハワイでも出現した「百鬼獣 豪腕鬼」

 

を見てリュウセイとイルムは顔を顰めた。その姿や形は違うが、どこか恐竜帝国の尖兵だったメカザウルスを思わせる姿をしていたからだ。

 

「リュウセイ、気をつけろよ。こいつら……新型機奪取とかそういう奴じゃねえぞ」

 

「……判るぜ、イルム中尉……こいつらやべえッ!」

 

肌に突き刺さるような強烈な殺気、そして獲物を目の前にした獣のような眼光。それら全てが自分達を殺しに来ていると言うことが判っていた。リュウセイにもイルムにも油断は無かった……足りなかったのは百鬼獣に対するリュウセイ達の理解だった。

 

「ガアアアアーーーッ!」

 

「え?」

 

「リュウセイッ!!!」

 

海中にいた牛角鬼が一瞬で間合いを詰めて、その巨大な角をアルブレードのコックピットに突き刺そうとしていた。それは殆ど一瞬の出来事……イルムの自分を呼ぶ声が遠くに聞こえ、コックピットに向かって振るわれる巨大な角がスローモーションに見える中、リュウセイはどこか他人事のように自分が死ぬんだと言うのを感じた。

 

【ガオオオオーーーンッ!!!】

 

「ぎゃああああーーーッ!?」

 

だがリュウセイを貫く筈の死神の鎌はアルブレードを貫く事は無く、獣の雄叫びと苦しみに悶える鬼の叫び声が響く中――漆黒の獣がリュウセイとイルムの間を駆け抜けて行くのだった……。

 

「アヤ! 出撃準備! 急ぎなさい!」

 

「りょ、了解!!」

 

「そ、そんな……あの機体は……何故ッ!?」

 

司令車にいたヴィレッタとアヤがパイロットスーツに着替え、それぞれの機体に乗り込もうとしている時。ロブの驚愕の声に乗り込む前に司令車のモニターに視線を向け、ヴィレッタとアヤの手からヘルメットが音を立てて落ちた。それだけ、リュウセイを救ったPTの姿は衝撃的な物だった……。

 

「あ、ああ……そ、そんな……嘘……」

 

「あ、R-GUN!? いや……違う、何だあの機体はッ!?」

 

司令車のモニターに写されていたPT……R-GUNに酷似した漆黒のPT――「R-SWORD」のカメラアイが目の前の光景を信じられないでいるアヤ達の目の前で禍々しさも感じさせる赤い光を放つのだった……。

 

 

 

第15話 予想外の再会 その5へ続く

 

 




リュウセイ達の危機にR-SWORD登場。次回はイングラムが伊豆基地に到着するまでの話を書いて行こうと思います。そして伊豆基地での百鬼獣戦ですね。ここら辺は完全オリジナルの話になりますが、本来のゼオラやアラド達の部分はまた今度に回したいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

PS

アルブレード(IF)はエルアインス+ビルドラプター・シュナーベルをアルブレードに混ぜた感じで考えていただければ幸いです。


特別な理由がなくても最新話を投稿してもいい、自由とはそういうものだと思う。

といいつつ、理由があるとすれば……うん、この1週間就職活動してましたが、面接にすら進まない。

10社以上爆死したかなあ……メンタル維持の為に執筆していて、投げる気分になった。

そんな感じです。

しかも私の住んでいる地方でも非常事態宣言が視野に、もう詰むかも知れないと言う恐怖をひしひしと感じている混沌の魔法使いなのでした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話 予想外の再会 その5

第15話 予想外の再会 その5

 

SRX計画のラボは突如現れた漆黒のPTを前に大混乱に陥っていた。それもその筈「RW」シリーズのR-GUNに酷似したその機体を見て混乱しない訳がない。何故ならば、それは存在しないはずの機体だからだ。

 

「識別はどうなってるッ!?」

 

「アンノウンですが、動力反応はゲッター線ですッ!」

 

「なッ!? 嘘だろッ!?」

 

武蔵が行方不明になってから1度も検知される事のなかったゲッター線。それで稼動しているPT――すべてのレーダーがゲッター線と言う事を示していても、ロブはそれを容易に信じる事は出来なかった。

 

(……ここでゲッター線だって!? それにあれは……細部は少し違うけど……間違いない)

 

SRX計画に長年携わってきたロブはイングラムが設計図を引いている所を見た事がある。そして今目の前に存在するゲッター線で稼動する謎のPTは、1度だけ見たRW2号機「R-SWORD」に酷似していた。

 

(そんな馬鹿な、ありえない)

 

ATX計画・SRX計画を統合し、発令される予定のレイオス・プラン……Reliable Extra Over Technological Hybrid――高信頼化された異星人技術複合体の第一弾として、ほんの僅かに残されたR-SWORDのデータをヒュッケバイン・MK-Ⅲ、ゲシュペンスト・MK-Ⅲに流用し、小型化されたSRXを目標に今月で漸く組み上げが始まったばかりのボクサーパーツ――その原型となったR-SWORDは完成形で存在するなどありえてはいけないことだった。

 

「い、イングラムなの……」

 

「しょ、少佐? イングラム少佐……?」

 

ヴィレッタとアヤの様子を見てロブは舌打ちした。まともな精神ではないのは誰が見ても明らか、そんな状態で未知の敵――どんな攻撃をして来るかも判らない相手と戦わせる訳にはいかない。

 

「リュウセイ、イルム中尉。アヤとヴィレッタ大尉の出撃にはまだ時間が掛かる! すまないが暫くの間2人で耐えてくれッ!」

 

「オオミヤ博士!? 何を勝手にッ」

 

「勝手にではありません! ヴィレッタ大尉今のご自分の状態をお分かりですか?」

 

そう言われたヴィレッタは咄嗟に右手を背中に隠したが、ロブの目は欺けない。小刻みに震えていて、とてもPTを操縦出来る段階では無い、そしてそれはアヤも同様だ。

 

「少し気持ちを落ち着けてください、あの機体はR-GUNに似ているだけ、ただそれだけのはずです――それにイングラム少佐なら通信をつなげてくるはず……だからあれはイングラム少佐じゃない」

 

ロブ自身が苦しい言い訳と判っていてもそう言わざるをえなかった。あのPTに乗っているパイロットがイングラムである可能性は極めて高い、何故ならばSRXとRシリーズと異なり、R-GUN、R-SWORDはイングラムが設計し、設計図もイングラムしか知りえない筈だ。

 

(イングラム少佐なら通信を繋げて来る。だからあれはイングラム少佐じゃない)

 

伊豆基地の通信コードをイングラムが知らない訳が無い。だからあれはイングラムじゃないとロブは自分に言い聞かせるように呟いた……リュウセイを助けてくれた事や、その操縦の癖からイングラムであると信じたかったが……容易にそれを信じる事が出来ない。イングラムの振りをしていて、通信を繋げた瞬間にデータを吹き飛ばされる可能性もある以上。ロブは向こうから通信を繋げて来る事を……イングラムであると言う事を告げられるのを待つしかなかったのだった……。

 

 

 

 

R-SWORDのコックピットの中でイングラムは小さく笑った。伊豆基地に向かうと決めた時、考えられる幾つ物パターンの中――イングラムにとっての最善の選択がなされたからだ。

 

(そうだ、お前ならその選択をする。だから俺はお前をSRX計画に誘ったんだ)

 

ロバート・H・オオミヤならば最悪の可能性を想定し、通信を繋げる事は無いとイングラムは確信していた。ハッキングなどの可能性を考えて、伊豆基地の司令コードを利用しての通信を繋げる事が出来たとしても、ロブならばそれをしないと言う確信があった。そしてイングラムもまた自分から通信を繋げるつもりは一切なかった。今は百鬼獣の襲撃に対応出来ない可能性を考慮して助けに来たが……まだイングラムが表舞台に立つつもりはなかったからだ。

 

「百鬼獣……か、思ったよりも事態は深刻だな」

 

『シャアッ!!!』

 

角を振りかざし突進してくる牛角鬼の一撃を跳躍して回避し、着地と同時にビームライフルを乱射しながら後退する。

 

「ブモォッ!!」

 

牛のような唸り声を上げて追いかけてくる牛角鬼の角や、肩を狙い。ダメージには繋がらないが、怒らせながら牛角鬼を引き付ける。

 

『こ、こっちに来るッ!?』

 

牛角鬼とR-SWORDが近づいてくる事に驚愕の声を上げるリュウセイ。その声に変わってないなと苦笑し、アルブレードの目の前で急加速し、アルブレードの背後に回りこむ。

 

『シャアッ!!』

 

牛角鬼はR-SWORDから、アルブレードに標的を切り替え、その角を大きく振るう。

 

『どわッ!?』

 

牛角鬼をアルブレードまで誘導し、テスラドライブを起動させ舞い上がると同時に空中から飛来した鳥獣鬼にビームライフルを撃ちこむ。

 

「ギッ!」

 

「そうだ、お前の敵は俺だ。こっちに来い」

 

当てるつもりの無い射撃を繰り返し、鳥獣鬼をR-SWORDに惹きつける。牛角鬼をアルブレード、そして豪腕鬼をグルンガストにぶつけるように誘導した。百鬼獣のパワーは凄まじく、イングラムだったとしても乱戦になれば苦戦は必須。それならば早い段階で分断させ、1対1に追い込んだほうが良いと判断したのだ。

 

(倒せないにはしろ、そう簡単には撃墜はされないだろう)

 

正直リュウセイ達が百鬼獣に勝てるとは思っていないが、それでも分断する事で生存率は確実に上がる。

 

(ハガネの到着まで10分……ヴィレッタとアヤが出撃するまでは判らんが……それまでには撤退する算段をつけるとするか)

 

本気で伊豆基地を落とすつもりならばもっと大量の百鬼獣を動員している。それがたった3機と言う事は威力偵察の可能性が極めて高い、それならば向こうも無理に攻めてくることはない筈だとイングラムは考えていた。

 

「ターゲットロック、ファイヤッ!!」

 

「ギガアッ!?」

 

ゲッター合金で作られた弾頭を持つM-13ショットガンの掃射を喰らい、完全に鳥獣鬼の目がR-SWORDに固定された。

 

『ったく、思い通りに操られてる感じがして嫌だが、相手になってやるぜッ!!』

 

『ゴガアッ!!』

 

グルンガストの鉄拳と豪腕鬼の拳が交差する。だがグルンガストは紙一重でかわし、カウンターの要領で拳を豪腕鬼の顔面に叩き込んだ。

 

『ギギィッ!』

 

『……落ち着いて対応すればッ!!』

 

牛角鬼の巨大な角をかわし、一定の距離を保ちながら背中のキャノンと腰のレールガンを駆使して戦うアルブレードを見て、イングラムは余計な心配だったなと呟き、改めて鳥獣鬼に視線を定めた。

 

「シャアアッ!!!」

 

雄叫びと共に放たれた火炎と鳥獣鬼の翼から放たれる弾丸。それにR-SWORDは右手を翳す、右手を中心に展開された念動・G・フィールドが火炎と翼の弾丸を弾き、困惑している鳥獣鬼の胴体にビームライフルのエネルギー弾が撃ち込まれた。

 

「ギャアッ!?」

 

「この程度では済まんぞ」

 

苦しんでいる鳥獣鬼の背後に回っていたステルスブーメランが高速で回転しながら背中を引き裂く。想定外の攻撃、そして翼付近を攻撃された事で僅かに高度を落とした鳥獣鬼に向かってR-SWORDは急接近し、肩にマウントしていたビームカタールブレードで斬りかかる。

 

「遅いッ!」

 

「ギィ!?」

 

近づけまいと両腕を振るう鳥獣鬼だが、R-SWORDは滑り込むように鳥獣鬼の腕の中にもぐりこみ両手に持ったビームカタールブレードで斬りかかりながら、頭部のバルカンを乱射する。

 

「ギャギャアアッ!?」

 

「お前など俺の敵では無いッ!!」

 

懐で回転したR-SWORDの踵落としが鳥獣鬼の頭部を砕き、くぐもった悲鳴を上げて鳥獣鬼は頭から墜落する。

 

「ふん、この程度では終わらないか」

 

だが途中で態勢を立て直し、その目に激しい憎悪の色を宿し、翼を大きく羽ばたかせR-SWORDに肉薄する鳥獣鬼。そしてそれから逃れるように急上昇するR-SWORD、伊豆基地の上空で音速を超えた超高速のドッグファイトが行われる。高速で何度も互いの背後を取り、互いの攻撃をかわし、そして再び攻撃を繰り返す。R-SWORDと鳥獣鬼の姿は現れては消え、そして現れては消えるを繰り返す、凄まじい闘いとなるのだった……。

 

 

 

 

空中でR-SWORDと鳥獣鬼の音速の戦いが繰り広げられている中。地上でもその戦いに引けを取らない凄まじい戦いが行われていた。

 

「ゴアアアアアーーッ!!」

 

「くそがっ! 舐めるなよッ!!!」

 

グルンガストとがっぷり4つに組み合う豪腕鬼、その重量と質量の差に脚部のモーターが悲鳴をあげ、火花を散らす。だがイルムは冷静にグルンガストの現状を把握していた。

 

(よし、もうちょいだ)

 

模擬戦を前提にしたセッテイングから戦闘モードに切り替えた。だが本来は時間を掛けて切り替える物を短時間で強引に切り替えた事でグルンガストは僅かな不調を起していた……その為にグルンガストは劣勢に追い込まれていたが、徐々に動力が温まって来ている。脚部から上がっている火花は急激に設定が変わった事によるオーバーヒートだったが、イルムはそれさえも計算に加えていた。司令部から来たハガネの到着予定時間……そしてグルンガストの動力が完全に温まるタイミング。豪腕鬼の直撃すればグルンガストでさえも一撃で大破するような強烈な一撃をかわしながら、イルムはただひたすらにその時を待っていた。

 

「しゃあッ!! 今だッ!!」

 

待ち続けたALL GREENの文字が浮かぶと同時に、イルムは一気に攻勢に打って出た。まずは挨拶代わりにと豪腕鬼の足に蹴りを叩き込む、これは通常の機体ならば意味の無い攻撃であった。だが今までのやり取りで豪腕鬼が、メカザウルスと同様に生物に近い生体をしていると把握したイルムは弁慶の泣き所……すなわち脛を全力で蹴り上げさせたのだ。

 

「ギアアッ!?」

 

「へ、予想通りだよッ! オラアッ!!」

 

脛に走った痛みにグルンガストの両拳を握りつぶそうとしていた豪腕鬼の力が緩んだ隙に拳を引き抜き、豪腕鬼の顔面に叩きつける。

 

「ギギィッ! シャアッ!」

 

グルンガストの鉄拳で歯が砕け、どす黒い血を撒き散らし怒りを露にし、腕を振り回す豪腕鬼だが、そんな闇雲に振るわれた攻撃に当たるほどイルムは優しい男ではなかった。

 

「あ? 怒ったか? だけど歯が砕けて良い男になったぜッ! 整形代はタダだッ! こいつも持ってきなッ!! ブーストナックルッ!!!」

 

「ゴバアアッ!?」

 

アッパーカットの要領で豪腕鬼の顎を打ち抜き、そのままブーストナックルへと繋げる。豪腕鬼の巨体が宙に舞い、背中から伊豆基地の格納庫に倒れこむ。

 

「……しゃあねえ、緊急事態だッ!」

 

戦闘機などを纏めて押し潰すのを見たが、イルムはしょうがないと口にして豪腕鬼が立ち上がる前にその顔をグルンガストの巨大な足で踏みつける。

 

(いつまでも有利性は保てねぇッ! 多少強引でも攻めるッ!)

 

豪腕鬼の攻撃力の高さ、そして機動兵器ではありえない機動力と柔軟性……今は怒りで我を忘れて暴れているから有利性を保つ事が出来ているが、それも長くは続かないと判断したイルムはグルンガストの強固な装甲を頼りにし、豪腕鬼へと白兵戦を仕掛ける。

 

「くそっ! もう……うおっ!?」

 

「ギギャアアアアーーッ!!」

 

グルンガストの足を掴み、強引に自分の顔の上から退かせた豪腕鬼はそのままグルンガストの足を掴んだまま、立ち上がりグルンガストを引っくり返させる。

 

「おいおい……マジかあッ!? ぐっ!? うおっ!?」

 

「シャアアアーーーッ!!」

 

ジャイアントスイングの要領で振り回され、投げ飛ばされたグルンガストが今度は背中から地面に叩きつけられる。

 

「うっくそ……マジかよ……あぶねえッ!」

 

立ち上がれないでいるグルンガストに向かって跳躍し、全体重を掛けた踏み潰しをしてくる豪腕鬼の一撃を横に転がるようにかわすが、豪腕鬼の執拗な踏みつけ攻撃は続き、グルンガストは立ち上がることも出来ず徐々に海に向かって追いやられる。

 

「……まさか、海の中にも何かいるとかいわねえよな……」

 

明らかに自分を海に追いやろうとしている豪腕鬼の攻撃にイルムは背筋に冷たい汗が流れるのを感じ、何とかしてこの場を切り抜ける方法を必死に考えるが、そんなことを考えている間もない豪腕鬼の猛攻撃にイルムが焦りを感じ始めたその時。

 

『イルム中尉、支援しますッ!』

 

「アヤかッ! すまん、助かった!!」

 

上空から飛来したストライクシールドで豪腕鬼の動きが一瞬止まった隙にグルンガストを立ち上がらせ、肩から体当たりして豪腕鬼を弾き飛ばす。

 

「大丈夫か?」

 

『……大丈夫です、今は目の前の敵に集中しましょう』

 

「OK、そう言うなら信用するぜ!」

 

イングラムが生きているかもしれない、そして今目の前にいるかもしれない。それでも今は伊豆基地を守る事を優先すると口にしたアヤを信じると口にし、R-3の支援を受け再びグルンガストは豪腕鬼に向かって駆け出すのだった……。

 

 

 

 

 

 

牛角鬼とアルブレードの戦闘は互角――いや、完全な均衡状態に陥っていた。牛角鬼の破壊力をいなす為にアルブレードは踏み込む事が出来ず、そして牛角鬼は軽業師のように飛び回るアルブレードを相手に踏み込む事が出来ないでいた。互いに余り得意では無い、射撃による距離の奪い合い、牽制を用いた互いの領域を守る戦いになっていた。

 

『リュウセイ! 突っ込みなさいッ!』

 

「了解ッ!」

 

だがそれはRーGUN――即ち、ヴィレッタの参戦によって大きく変わる事になる。アルブレードの最大の武器はその瞬発力を生かした素早い出入り、だが牛角鬼の一撃はグルンガストを越えており容易に踏み込む事が出来ないでいた。

 

「ギッ!?」

 

「オラアッ!!」

 

牛角鬼が腕を振り上げようとした瞬間。RーGUNの正確無比な射撃が腕関節を狙い撃ち、腕の動きを制限する。その隙をリュウセイは見逃さず、ブースターによって加速させた回し蹴りを牛角鬼の顔面に叩き込む。

 

「ちいっ!? やっぱり重量が足りねぇッ!」

 

牛角鬼は60M近い特機、20M強のアルブレードとは全長だけではなく、重量も遥かに違う。完全に回し蹴りが顎を捉えたが、牛角鬼の血走った目に睨まれリュウセイが舌打ちする。

 

『いえ、そのままで良いわ! リュウセイ前へッ!』

 

ツインマグナライフルによる支援射撃でスレッジハンマーを叩き込もうとした牛角鬼の注意を逸らすR-GUN。その隙にアルブレードは両腰のレールガンの側面に装着されているブレードサイを逆手に構える。

 

「行くぜ行くぜ行くぜッ!!」

 

自分を鼓舞するように叫びリュウセイは牛角鬼の懐に飛び込む、単独では回避と防御に気を割かなければならないから攻めあぐねていた。だが防御をヴィレッタが担当してくれる事でリュウセイはやっと自分のペースで戦う事が出来た。

 

「シャアッ! ギッッ!?」

 

『甘いわね』

 

生物であり、機械である百鬼獣が相手だからこそ関節部などを狙う事でその動きを阻害する事が出来る。

 

「おりゃあッ!!!」

 

「ぎッ! ギャアアアアアーーーーーッ!! ゴバアアッ!?」

 

ブレードサイを目に突き立てられ、その痛みに暴れ出そうとした瞬間R-GUNの放った牽制用のスプリットミサイルが口の中で炸裂し、煙と血を吐き暴れ回る牛角鬼の頭部目掛けブラストトンファーの強烈な打撃が襲い掛かる。

 

「ギギイッ!?」

 

「もう1発ッ!」

 

スラスターとブースターを使いこなした加速を加えた一撃は牛角鬼の名を示している巨大な牛の角を根元から叩き折り、苦痛の悲鳴を上げようとした所に強烈な回し蹴りが叩き込まれ牛角鬼の顎が砕け、悲鳴を上げる事も出来ず、だらだらと口から血液を流しながらアルブレードとR-GUNを凄まじい憎悪を込めた視線で睨む。

 

「回復してる……ッ」

 

『リュウセイ、一気に』

 

「ゴガアアアアーーーッ!!!」

 

回復しているのに気付き、アルブレードとR-GUNがトドメに動き出そうとした瞬間。牛角鬼はその口から凄まじい火炎を吐き出しアルブレードとR-GUNの動きを止めると、地面を蹴り跳躍しアルブレードとR-GUNから背を向けて海へと走り出した。

 

『なっ!?』

 

「ギギィイイーッ!!」

 

そしてグルンガストと対峙していた豪腕鬼も腕の装甲から射出した閃光弾の光に紛れて離脱する。

 

『おかしい、確かに私達が優勢だったけど、撤退するほどでは……』

 

一時的にリュウセイ達は確かに百鬼獣を上回った。だがそれは一時的な物で、自己修復能力を持つ百鬼獣ならば時間を掛ければその有利性は覆された。それなのに、百鬼獣は逃げを選択した。それは時間稼ぎが済んだから、ここにはもう用は無いと言わんばかりに鮮やかな逃亡だった。

 

『っ!? 隊長何か来ます!』

 

アヤがそう叫んだ瞬間、伊豆基地の警報がけたたましく鳴り響き、司令部からレイカーの怒声が響いた。

 

『沖合いからLASMだッ! ヴィレッタ大尉ッ! 退避しろッ!』

 

「全員散開しつつ迎撃の出来る物は迎撃をッ!』

 

レイカーの怒声を聞くと同時に散開しろと叫ぶヴィレッタ。その直後上空から降り注いだLASMが炸裂し、伊豆基地の迎撃システムを破壊する。

 

「きゃあああっ!!」

 

「くそがッ! あいつらこんな手まで打ってくるのかよッ!」

 

百鬼獣と言う圧倒的な攻撃力を持つ集団がまさか囮で、LASMによる伊豆基地の殲滅を仕掛けてくるなんて言う事はこの場にいる誰にとっても想定外だった。

 

『迎撃システムの稼働率75%ッ! 敵ミサイルを防ぎ切れませんッ!!』

 

『くっ! ヴィレッタ大尉! ミサイルの迎撃をッ!!』

 

最初のミサイルで迎撃システムが破壊されたという報告を聞いて、レイカーからミサイルの迎撃命令が出る。

 

「くそったれッ! グルンガストじゃ精密射撃なんて出来ないぞッ!」

 

グルンガストでミサイルの迎撃に出れば必要以上に被害が出る可能性が高く、グルンガストのコックピットの中でイルムが悔しさに歯噛みしながらそう叫ぶ。

 

「リュウセイ、アヤッ! 手伝いなさいッ! 全てとまでは言わないけど、半分は迎撃するわよッ!」

 

「ああッ! 伊豆基地はやらせねぇッ!」

 

「了解です、隊長ッ!」

 

アルブレード、R-3、R-GUNによるミサイルの迎撃が始まる。勿論R-SWORDも迎撃に出た事で第二波の迎撃に成功するが、迎撃された事により第一波、第二波を上回るミサイルが向かっていると言うオペレーターの声にリュウセイ達は顔を顰めたが、イングラムだけは違っていた。

 

「流石ダイテツ・ミナセ。良い読みだ」

 

海を割って姿を見せたハガネを見て、イングラムは最悪の展開は回避出来たと微笑んだ。これで自分の今の役目は終わりだと、ハワイで百鬼獣とカーウァイが戦った時のセンサーの反応が伊豆基地に出たと知って慌てて来たが間に合って良かったと安堵した。ハガネによってミサイルが迎撃されたのを確認し、伊豆基地から離脱しようとしたR-SWORDの前にR-3が立ち塞がる。

 

『少佐……イングラム少佐なんですか?』

 

泣きそうな、いや実際泣いているのだろう声を震わせ尋ねて来るアヤ。

 

『……おい、少佐よ。随分と趣味が悪いじゃねえか。生きてるなら連絡1つくらい入れろや、あんたが生きてるなら武蔵もいるんだろ?』

 

『……教官だよな。何とか言ってくれよ! イングラム教官ッ!』

 

『イングラム……』

 

仲間達の声を聞いて、やっと戻って来たという実感とこれほどまでに悲しませていたのかと言う罪悪感がイングラムの中に芽生える。だが、今イングラムはリュウセイ達の元に戻る訳にはいかない……この世界に暗躍する百鬼帝国、そしてシャドウミラーの事を探らなければならないからだ。

 

「……また会おう」

 

一言、たった一言そう告げ、R-SWORDの姿はリュウセイ達の目の前でゲッター線の光に包まれ、翡翠色の尾を空中に残し、伊豆基地上空から消え去るのだった……。

 

「い、今の声は!? アヤ、今のは!」

 

「え、ええッ! 間違いない、間違いないわ……イングラム少佐の声だわ……」

 

「殺しても死なないって思ってたけどよ……やれやれ、これで1つ肩の荷が降りたわな……」

 

「そうね、全機帰還して頂戴、レイカー司令からブリーフィングルームに集合と言う命令が出ているわ」

 

イングラムの声が聞こえたと言う事で武蔵とイングラムが生きているという事に真実味が出てきた。リュウセイ達は潤む目を拭いながら伊豆基地の格納庫に己の機体を収納するのだった……。

 

 

 

第16話 予想外の再会 その6へ続く

 

 




百鬼帝国はまだイベントバトル、本格戦闘はリクセントの国際会議になりますね。次回は今回の戦闘の話と、シロガネ、クロガネ、ハガネの三隻のスペースノア級での話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話 予想外の再会 その6

第16話 予想外の再会 その6

 

伊豆基地司令部は百鬼獣の出現と共に放たれた雄叫びによって、酷い有様となっていた。破片は撤去されているが、砕けた窓ガラスからは浜風が吹き込み、司令部の機械なども数多くが横転していた。それら全ての光景が、伊豆基地を襲った未曾有の危機が事実だったと物語っていた。

 

「すまないな、ダイテツ。こんなありさまで」

 

「いや、大丈夫だ。それよりも、レイカー。お前の方こそ心配だ」

 

額に包帯を巻いている痛々しい姿のレイカーが心配だというダイテツ。だがレイカーは首を左右に振り、今は休んでいる場合では無いと言った。

 

「まさか、ハワイにも出現したアンノウンが伊豆基地を襲撃してくるとは想定していなかった」

 

「ハワイ……それはもしやヒッカム基地での事ですか? レイカー司令」

 

ダイテツと共にレイカーの元を訪れていたテツヤがそう尋ねるとレイカーは重々しく頷いた。

 

「ハワイ、ヒッカム基地にて新型奪取の折に出現したアンノウンの映像がこれ、そして伊豆基地を襲撃したアンノウンの映像がこれだ」

 

レイカーが手元のコンソールを操作し、ハワイと伊豆基地に出現したアンノウンの映像がダイテツとテツヤの前に映し出された。

 

「これは……その……なんと言いますか……」

 

「……鬼……か?」

 

頭部や額にある巨大な角状のパーツを見て、ダイテツもテツヤも異形の特機に鬼と言う印象を受けた。

 

「指揮官機らしき特機のパイロットも自らを鬼と名乗った。現状は鬼と呼称する事が決定しているが、この鬼とテロリストが同時に行動している事から、恐らく協力体制にあるだろう」

 

「……厄介だな。レイカー」

 

僅かな戦闘データを見ただけだが、鬼の戦闘能力は凄まじく、更に機械であるにも関わらず自己再生を行っているのを確認し眉を顰めるダイテツ。

 

「しかし、良く退ける事が出来ましたね……」

 

「それに関しては、これを見て欲しい」

 

映像が再生され、ゲシュペンスト・リバイブを庇うように現れたPTを見てダイテツとテツヤは驚きの声を上げた。

 

「げ、ゲシュペンスト・タイプSッ!?」

 

「馬鹿な。これはL5戦役で破壊された筈だッ! 識別はどうだったんだ、レイカー」

 

「PTX-002――紛れも無く、カーウァイ・ラウ大佐の乗っていたゲシュペンスト・タイプSだ」

 

死んだ筈の男の機体が現れ、そして鬼と戦った。そんなオカルト染みた現象にテツヤは声も無く、目を見開く事しか出来なかった。

 

「ダイテツも見たと思うが、漆黒のPTを見ただろう?」

 

「ああ、ミサイルを迎撃していたアンノウンだな。あれがどうした?」

 

ハガネが伊豆基地に到着した時にミサイルを迎撃していたR-GUNに酷似したPTをダイテツ達も目撃している。それがどうした? とダイテツが尋ねるとレイカーは深刻な表情をしながら告げた。

 

「あれも存在していい機体では無い、イングラム少佐が設計したが、設計図が残されていないPT――RWシリーズの2号機。R-SWORDで間違いないとオオミヤ博士の分析結果が出ている」

 

「そ、それは、イングラム少佐が生きていると言うことでは!?」

 

アイドネウス島で武蔵と共に行方不明になったイングラム。そのイングラムしか知らないPTが現れた……それはイングラムと武蔵の生存の証拠ではと喜色に満ちた声を出すテツヤをダイテツが諌める。

 

「そう思い込むのは早計だ。イングラム少佐ならば連絡をつなげてくるだろうが、それも無かったのだろう?」

 

「その通りだ。現段階ではゲシュペンスト・タイプSをファントム1、R-SWORDをファントム2と呼称する事が決定している。遭遇したら、通信を試みて欲しい」

 

本当にイングラムなのか、それを確かめる必要があると口にしたレイカーにダイテツが頷く。するとレイカーはCDディスクを取り出し、ダイテツに差し出す。

 

「ヴィレッタ大尉達にも見せてやってくれ、これから戦うことがあるかもしれない相手だ」

 

「了解した。リクセントに向かう前に見せておくことにしよう」

 

「既にリクセントに向かっているシロガネとATXチームだが、キョウスケ中尉が気になることを指摘してくれた。武蔵君が旧西暦から新西暦に跳ぶ前……武蔵君は「鬼」を見たと言っていたと」

 

レイカーの小声での言葉にダイテツもテツヤも驚きの表情を顔に浮かべた。

 

「……今はまだ可能性の段階だ。だが気を緩める事無く警戒して欲しい」

 

武蔵、そして鬼の言葉からダイテツ達の脳裏にはメカザウルスと恐竜帝国の言葉が過ぎった。鬼が武蔵と恐竜帝国同様、旧西暦からの侵略者であると言う可能性が浮上したのだ。

 

「……さてダイテツ、話は変わるがアイドネウス島海域の状況はどうだった?」

 

ハガネが偵察任務に出ていたアイドネウス島の事を尋ねるレイカー。それはこれ以上、今は鬼に関しても、ファントムについても話す事は出来ないと言うことだと判断し、ダイテツもアイドネウス島での偵察の結果を口にした。

 

「付近にDC残党部隊が現れた形跡は無かった、それに加えてアンノウンの出現も無く、平和その物だったよ」

 

「そうですか……我々はテロリストをDCの敗残兵と考えていましたが……そうでは無いのでしょうか?」

 

「そう判断するのは早計だ。参謀、もう暫く様子見をしよう」

 

鬼と共に新型機奪取を繰り返しているテロリスト……ラングレーの事もあり、アードラー派のDCの敗残兵の可能性は高いが、まだ確証を得ることが出来ないでいた。

 

「しかしあれだけの機体を量産する事が出来ていることを考えると、拠点の候補はいくつか絞られますね」

 

「うむ、1番怪しいのはやはりイスルギ重工だが……それらしい痕跡は無かったのだろう?」

 

「ああ。連邦の査察団がイスルギ重工のプラントに駐在しているが、機体等の横流しの痕跡は見つかっていない」

 

DC戦争時ではビアンに協力し、そしてL5戦役時では地球をエアロゲイターに売り渡そうとしていたシュトレーゼマン派の為にシロガネを修理していたこともある。そういう面ではイスルギが1番怪しいのだが証拠がない。

 

「次点でアードラーが利用したアースクレイドルなのですが……ソフィア博士が協力するとは思えないのです」

 

人類と言う種を守る為に人工冬眠を選択したソフィアがテロリストにも鬼にも協力するとは思えないとサカエが口にすると、テツヤが手を上げて、己の意見を口にした。

 

「確かにソフィア博士は人格者であり、人類の未来を案じている人物ですが、それ以外の構成員がソフィア博士と同意見とは限りません」

 

「大尉はアースクレイドルに内通者がいると考えているのか?」

 

ダイテツの問いかけにテツヤは真っ直ぐにレイカー達を見て頷いた。

 

「アースクレイドルのメンバーの大半はかつてアードラーと親交のあった科学者と研究者が大半と言う調査結果が出ています。ソフィア博士の知らない所で、暗躍している可能性は十分にあると私は考えます」

 

自信に満ちた表情でいうテツヤの言葉を聞いて、ダイテツは満足そうに頷いた。

 

「レイカー、ワシも同意見だ。アースクレイドルは使いようによって強固かつ自給自足が可能な地下要塞となる。L5戦役の後地中に潜っているとされているが、こうもテロリストの動きが活発化しつつある今、無視は出来ん」

 

「か、艦長も同じ考えだったのに自分に話をさせたのですかッ!?」

 

テツヤに意見を促し、自分の考えを口にさせたダイテツ。テツヤがそれに気付き恥ずかしそうにするが、ダイテツは悪びれた様子も無く笑い、テツヤの成長具合を確かめる為にだと言われればテツヤは何も言えず黙り込んだ。

 

「アースクレイドルに派遣する予定はあるのか?」

 

「近い内に我が軍の機動部隊があそこへ送り込まれることになるだろう。ダイテツ達は補給終了後、SRXチームとイルムガルト中尉と共にリクセントで開催される国際会議の警護任務に就いてくれ、先にシロガネのATXチーム、教導隊が準備を整えているから協力し、テロリストの襲撃に備えて欲しい」

 

そこで1度言葉を切ったレイカーは小さく深呼吸をしてから、ダイテツに視線を向ける。

 

「それで……最後に例の件の報告を聞こうか」

 

R-3によって発見され、最近までアイドネウス島で分析が行われていた物体について問いかけるレイカー。テツヤは小脇に抱えていた鞄から分析結果の資料をレイカーに差し出しながら、現段階で判っている事をレイカーに報告する。

 

「アイドネウス島沖の海底で発見された物体ですが……ケンゾウ氏の見解では『ホワイトデスクロス』の一部である可能性が高いと思われます」

 

「やはり、そうか……」

 

自己再生能力を持つ白亜の金属――考えられるのはホワイトスターとジュデッカの2つだったが、やはりレイカーの予想通り後者であった。

 

「しかし、ホワイトスターの中枢でもあった大型機動兵器が何故そんな所に……? ブラックエンジェルとゲッターロボによって大破したのでしょう?」

 

「現段階では理由は不明ですが、オペレーションSRWで撃墜された後、地球へ落下し、メテオ3に回収されたか……あるいはメテオ3そのものが複製したか。理由は色々と考えられます、現段階では自己再生は停止しており、ホワイトデスクロスが復元されるという事は無いようですが……警戒は緩めることは出来ないとの事です」

 

「了解した。では、回収物は計画通りコバヤシ博士のラボへ回してくれ。それと、この件は関係者以外にはまだ内密に頼む」

 

アイドネウス島の簡易研究所では詳しい分析結果が得れないと言う事で、設備の整った伊豆基地での分析を要請し、レイカーもそれを受け入れた形になり、ハガネがそれを運んできたのだ。

 

「……レイカー、今までに回収したホワイトデスクロスの破片はどうなっている?」

 

「軍のあるプロジェクトに回したサンプルを除き……ギリアム少佐の指示に従って完全廃棄されている」

 

数回に渡り回収されたホワイトデスクロスの欠片……それがどうなったのかと問いかけるダイテツにレイカーが返事を返すが、ダイテツは眉を寄せ思案顔をやめない。

 

「……気になるのか?」

 

「ああ。この半年間、軍で徹底的な調査を行ったが……場所が場所だけにな」

 

ゲッターロボの残骸が見つかるかもしれないと徹底的に調査を行ったが、一切見つからなかった事に武蔵が生きていると言う可能性が生まれたことに安堵したが、ホワイトデスクロスの破片が発見され、それを回収した事にダイテツは一抹の不安を抱き、レイカーにしっかりとサンプルが保管されているか確認してくれと頼むのだった……。

 

 

 

 

アヤを伊豆基地に残し、リクセントに向かうハガネ……一方その頃。リクセント公国で国際会議の警護の為の準備を整えているシロガネのブリーフィングルームでは重苦しい空気が広がっていた。

 

「そうか……ファルケンを奪ったのは、元スクールのメンバーだったのか……」

 

ヒッカムでファルケンを強奪された時の詳しい報告をしたラトゥーニにリーが深刻な表情でそう呟いた。

 

「中佐、責任は全て私が」

 

「勘違いするな、カイ少佐。部下の不始末は上官が背負うべき物、つまりこの場合は私が全て責任を取る。ラトゥーニ少尉、もう少し詳しい話を聞けるか?」

 

「……はい」

 

震える声で言うラトゥーニ。心情的にリーはラトゥーニを責めたくは無い、だが上官としてやらねばならぬことがある。

 

「少尉。しっかりと答えて欲しい。そうでなけれれば、私も少尉を庇う事が出来ない」

 

部下を上官が庇う……そのありえない事にブリーフィングルームに居たラミアは信じられないとその目を大きく見開いた。

 

(馬鹿な……スパイの疑いのある部下を庇うだと……この男は一体何を考えている)

 

「エクセ姉様。すこし気分が悪いので、退出させてもらえますか?」

 

「大丈夫ラミアちゃん? 私も付き添おうか?」

 

「い、いえ大丈夫です……自室で少し休ませてください……」

 

自分が所属するシャドウミラーではありえない事……だがそれなのに、それが正しい事のように思える事にラミアは混乱していた。今までの自分の常識が崩れ去るのを感じ、これ以上この場にてはいけないと判断したのか、エクセレンに気分が悪いと告げてブリーフィングルームから逃げるように抜け出した。

 

「はい……。彼女はゼオラ・シュバイツァー……間違いありません」

 

「そうか……お前が長い間捜していた者がDC残党にいたとはな……」

 

カイはラトゥーニがスクールのメンバーを探しているのを知っていた。やっと見つかったのに、それが敵と言うことに顔を歪める。

 

「リー中佐。その……」

 

「余計な気を回すな、私はラトゥーニ少尉がスパイでは無いと信じている。スクールの創設者はDC副総帥のアードラー・コッホ……あの非人道的な博士の元に居たと考えれば、ゼオラだったか……彼女も被害者と言っても良いだろう。ラトゥーニ少尉……何か気になる事はあるか?」

 

優しく諭すように尋ねるリーにラトゥーニは2~3度、深呼吸をしてから口を開いた。

 

「ビアン博士が亡くなっていると、連邦がビアン博士の遺産を奪ったと、彼女はそう口にしていました」

 

DC戦争を起こしたが、最終的にビアン一派のDCは地球を守る為に戦った。勿論それはビアンも同様だ……。

 

「それはおかしいな。彼女はそれを信じている様子だったのか?」

 

「は、はい。私がそれを指摘すると、頭を押さえて混乱している様子を見せたので……私は彼女を拘束しようとして……錯乱しているゼオラに肩を撃たれました」

 

錯乱していたの言葉にブリーフィングルームにいたキョウスケ達は顔を顰めた。

 

「……投薬かリマコンか……」

 

「キョウスケ中尉……リマコンって今は条例で禁止されているあれですか!?」

 

リ・マインドコントロール……一時期連邦で研究されていたPTSDなどを発症した兵士を再び戦わせる為の非人道的な装置にして、連邦の負の遺産の1つと言っても良い技術だ。

 

「なるほど、ではラトゥーニ少尉は操られている可能性があると言いたいのだな?」

 

「……はい……ゼオラは優しくて、私を守ってくれて……」

 

スクールの被害者であるラトゥーニの記憶の中では自分を守ってくれたゼオラの姿があるのだろう。辛そうにしているラトゥーニを見て、リーはある決断を下した。

 

「今回の件は私が責任を全て持つ、報告は一切しなくてよろしい」

 

「リー中佐……よろしいのですか?」

 

「よろしいも何もない、DCの非人道的な措置によって無理に戦わせられている子供を助けるのは当然の事だ」

 

胸を張って助けると口にしたリーにカイは苦笑いを浮かべた。

 

「良いのですか? 出世街道から外れることになりますが?」

 

「ふん、勲章等と言うものの為に戦っているのでは無い。降格、出生街道から外れる……大いに結構。私は私の正義を貫く」

 

胸を張ってそう言い切ったリーの姿はダイテツに似ており、カイ達でさえも信頼に値する人物だと思わせるほどのカリスマを有していた。

 

「辛い事だと思うが聞かせて欲しい、スクールの他のメンバーがDC残党に加わっている可能性はあるのか?」

 

「はい……ゼオラのパートナー、アラド・バランガ……そして、オウカ・ナギサ……オウカ姉様」

 

姉様と呼ばれた人物の名前に全員が首を傾げると、ラトゥーニが姉と呼んだ理由を口にした。

 

「そうか……ならばなんとしても救い出さねばならないな」

 

「簡単に言いますが、リー中佐。それは至難の業ですよ」

 

投薬、リマコンによって操られている人間を元に戻すのは容易の事では無い。それでもやり遂げると口にするリーにカイがそう言うと、リーはにやりと笑った。

 

「人の心は容易に操れるものでは無い。絆は断ち切れない、何があってもだ……な、なんだ。その目は」

 

「い、いえ、リー中佐は思ったよりもロマンチストなのだと思いまして」

 

「んふふ、親しみが持てるわね。中佐♪」

 

「ええい! からかうなッ! 非人道的な実験の犠牲者を助けるのは軍人として当然の事と言うだけだ! それよりも! ラトゥーニ少尉、肩の負傷はどうだ?」

 

からかわれているのに耐え切れず強引に話を変えるリーはラトゥーニにそう尋ねた。

 

「は、はい! 問題ありません」

 

「そうか。それならば良かった、シャイン・ハウゼン国家元首からの強い要望で少尉を護衛として国際会議に出席したいそうだ。やれるか?」

 

「やりますッ!」

 

「よし、ならば了承と返事を返すぞ。カイ少佐、キョウスケ中尉。国際会議での警護の陣形だが……PT隊のほかに、国際会議の後パーティに参加する「はいはい!! 私とキョウスケでやります」……良し、ではキョウスケ中尉とエクセレン少尉に任せる。ハガネが2日後に合流するからその時にまた打ち合わせをするが、当面のフォーメーションは……」

 

ブリーフィングルームでキョウスケ達が警護の打ち合わせの確認をし始めるのだが、キョウスケの目配せによってライだけがブリーフィングルームを後にし、格納庫に足を向けた。

 

(私はどうなっている……なぜこんなにも動揺している)

 

シロガネで見て来たのは自分の知る軍隊とは余りにも違う光景だった。部下の為に泥を被る上官、仲間の為に命を賭ける事が出来る優しい人間達……シャドウミラーとは余りにも違う、そして記録の中のハガネともベーオウルフとも違う光景にラミアは完全に混乱していた。

 

「そんなに珍しいか、俺達が」

 

「ライディース・F・ブランシュタイン少尉……」

 

背後から声を掛けられたラミアは驚いた。この距離に近づかれても全く気付けなかった己を恥じた。

 

「ライで構わん、何か考えているように見えてな」

 

「では、ライ少尉。私に何か用があらせられたりしますのですか?」

 

ぶっきらぼうではあるが、僅かに自分を案じている気配を感じながらライに何のようか尋ねる。

 

「テロリストが使っていたECMの話を君から聞こうと思ってな」

 

「何故、私にそんな事を?」

 

キョウスケだけでは無い、ライも……いやもっと言えばシロガネ全体が自分を疑っているのではと言う恐怖を感じながらも、平静を必死に装う。

 

「あれについて何か知っているような感じだったからな」

 

「知っているもいないもなにも、私も初めて見ちゃいましたのでしょうです」

 

「そうか? 君が所属しているイスルギ重工の新技術ではないのか?」

 

「私にはよくわかりゃしませんのことです」

 

「そうか……変な事を聞いて悪かったな。余りにも驚いていないように見えてな、気になったのさ」

 

「……表情に良く出ないと言われるでありんす。自分も、驚いていたでありますよ?」

 

シロガネの人間は甘いが怪しまれているとなると動きにくいなとラミアが感じていると、背を向けて歩き去ろうとしたライが立ち止まりラミアの目を真っ直ぐに見つめた。

 

「何か思う事があるのなら、早く言う事を勧める。手遅れになる前ならば、俺達がお前の助けになれるだろうからな」

 

(なんて甘い連中なんだ……だが何故だ……それが嬉しいだと)

 

助けになろうと言うライの言葉に返事を返せなかったが、それでも奇妙な安心感を得てしまったラミアは更に混乱を深める。

 

(早く、次の指令を……じゃないと、私は何をすれば良いのか判らなくなってしまう……)

 

自分が自分で無くなるような、言いようの無い不安……それを払拭する為に本隊からの新たな指令を求めたが、ラミアの願いは届かずアンジュルグには何の命令も届かない……自分が何をすればいいのか判らなくなり始めているラミア……だがそれはレモンが求め、エキドナに見出した自己の発現の第一歩であると言う事にラミアは気付く事が出来ず……そしてそれにラミアが気付いた時。それがラミアにとっての分岐点になると言う事を今のラミアは知る良しも無いのだった……。

 

 

 

 

 

クロガネと行動を共にする武蔵は1日の大半を医務室で過ごしていた。

 

「……武蔵、いる?」

 

「居ますよ。大丈夫ですって」

 

「……うん。それならいい」

 

記憶喪失になったエキドナだが、それに加えて、幼児性退行……なんらかの外的要因によって幼い子供に似た精神状態になる精神疾患と診察されたエキドナは武蔵に非常に懐いており、武蔵が側に居ないと不安に思うのか極めて不安定になる為。医療行為として武蔵とエキドナを極力引き離さないようにするべきだと診察されたのだ。武蔵からすれば、自分よりも年上の成熟した女性の世話をすると言うのは不思議な感覚だったが、風呂などの世話をするのではなく話し相手になったり、食事を共にするだけならばと助けられた事もあり、医者の頼みを快く引き受けていた。

 

「離せッ! 私も記憶喪失になるしかッ!」

 

「乱心! 隊長が乱心したッ!」

 

「やめてください!」

 

「確保ーッ!」

 

「ハンマーを取り上げてッ!」

 

「リリー中佐のところへ連れて行くわよッ!!」

 

「離せーーーッ!!!」

 

しかし武蔵がエキドナの世話をすると聞いたときに、ハンマーを手に覚悟を決めた表情をしていたユーリアの事が武蔵は気掛かりで気掛かりでしょうがなかった。武蔵の中ではユーリアは真面目で頼りになる人だったので、疲れているのかもしれないと思い、見なかった事にしていた。

 

「う、うう……こ、ここは?」

 

エキドナが寝入り、少し身体を動かそうと武蔵が立ち上がった時。カーテンに覆われたベッドから男性の声が聞こえ、もしやと思いカーテンを開けるとずっと昏倒していたグライエンがうっすらと目を開けていた。

 

「グライエンさん!? 大丈夫ですか!?」

 

ナースコールを押して、グライエンに声を掛ける武蔵。疲労、そして傷のせいで熱があるのかぼんやりとし、焦点が定まっていないグライエンの顔の前で手を動かす武蔵。

 

「武蔵君……ゆめ……か?」

 

「夢じゃないですよ!? 大丈夫ですかッ! しっかりしてください!」

 

意識が朦朧としているの気付き、必死に声を掛ける武蔵。そしてグライエンも自分の肩がつかまれ、声を掛けられていることに夢じゃないとやっと気付いた。

 

「リクセント……リクセントが! シャイン王女が危ないッ!!」

 

ベッドから跳ね起き、鬼気迫る表情で言うグライエンに武蔵も大声を上げた。リクセントが危ないとシャインに危機が迫っているとグライエンは必死に武蔵に訴える。

 

「な、どういうことですか!? シャインちゃんが危ないってッ! どういうことなんですか!?」

 

「鬼……鬼がリクセントを狙っているッ! か、彼女を助ける事が……できる……のは……うっ、き、君だけだ。 た、助けに……こ、国際……かい……」

 

傷が開いたのか傷口を押さえながらも、シャインが危ないと、助ける事が出来るのは武蔵だけだと言うグライエン。

 

「グライエンさん!? ちょっとグライエンさんッ!!「武蔵! 代わるわ! どいてッ!!」

 

詳しく話を聞こうとした武蔵だが、医務室に駆け込んできた女医に突き飛ばされるようにしてベッド脇から移動させられる武蔵。脈拍を計り、鎮痛剤などを投与している姿を見て、これ以上グライエンに話を聞くことが出来ないと武蔵は判断した。意識が朦朧としていても、グライエンはリクセントに危機が迫っていると武蔵に伝えてくれた。武蔵はシャインを助ける為にリクセントに向かう事を決め、ビアンやカーウァイ達にそれを伝える為に医務室を飛び出していくのだった……。

 

 

 

第16話 予想外の再会 その7へ続く

 

 




次回はアニメの「黒い侵入者」の話を盛り込んだ話にしたいと思います。アニメではアクセル出現後でしたが、今作ではそれよりも前になりますね。シャインやキョウスケ達の前に現れる武蔵らしき影とゲッターロボと言う感じの話にしたいと思います。勿論、いぶし銀のコールゲシュペンストもやりますよ! それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話 予想外の再会 その7

第16話 予想外の再会 その7

 

グライエンからリクセント公国、そしてシャイン王女が危ないと告げられた武蔵はビアンにリクセントに向かう事を伝えに言ったのだが、ビアンの返答は武蔵の求める物ではなかった。

 

「どうしても駄目だって言うのかい? ビアンさん」

 

「……そうだ。ハワイ、そして日本での動きを見る限りでは向こうは私達をおびき出そうとしている。リクセントにはシロガネとハガネが

向かうと言う情報もある……今回は辛いと思うが、動かないでくれ」

 

ビアンの言う事も一理ある。明らかに百鬼帝国は威力偵察を繰り返している、それはビアンを名乗る百鬼帝国の鬼がいた事からビアン、そしてクロガネを誘き出し、今度こそビアンを亡き者としビアンへと成り代わる事を考えている可能性が高い以上そう簡単に動く事は出来ない。更に言えば、ゲッターロボは有名すぎるのだ。

 

「……ビアンさん。オイラはもう1度約束を破ってるんです……2度も約束を破ったら、オイラはオイラを許せないんだ」

 

何の話か判らないと言う表情のビアンの目を真っ直ぐに見つめて武蔵は口を開いた。

 

「ホワイトスターを壊したらオイラはもう1度シャインちゃんに会いに行くと約束したんだ。でも、オイラは行けなかった……確かにシャインちゃんは王女様でがんばっていると思う、だけどまだ子供なんだ。きっと泣かせてしまった……」

 

シャインと武蔵の記憶の中の元気……それが重なって見えてしまった。きっと自分が戦死したかもしれないと聞いて、シャインは泣いただろうと武蔵は心を痛めていた。

 

「それにオイラはまた危ない事があったら助けに行くって約束したんです。男が約束して、それを2回も破ったら……オイラは男を止めなきゃいけない……ビアンさん。お願いします……オイラに行かせてください、お願いします」

 

土下座しそうな勢いにビアンは折れるしかなかった。武蔵の言う事は理論的に、そして知性的に考えればもっともやってはいけない感情論……だがそれでもビアンにとっては何よりも心に響く言葉だった。

 

「ゲッターVをゲッターロボに偽装して出撃準備を整える。エルザム達にはきっと反対されるだろうから……内密にな」

 

「……すいません。オイラの我侭で……」

 

「いや、武蔵君の言う事も判る……そう私も思ってしまった。思ってしまったのなら……私はもう止めれないよ」

 

男だから、約束を破った自分を何よりも許せない……そして悲しませた子を助けたいと言われたらビアンはもう止めれない。仮にビアンが同じ立場でもそうしていたからだ、立場も役職も擲って自分はそうしていたと言う確信がある。

 

「エルザムさん達に怒られるときは一緒に叱られてくれますか?」

 

「仕方ない、送り出したのは私だ。武蔵君と一緒に謝ろうじゃないか」

 

にやりと互いに笑いあう。年齢も、人種も違うが何もかもが判っている……そんな不思議な信頼関係が武蔵とビアンの間にはあった。

 

「しかし、鬼が出るとしたら生身での戦闘になるかも知れないが……そうなるとバレてしまうのではないか?」

 

「とりあえずこのマフラーで顔を隠して、えっと上にコートでも着ようかなと」

 

「なるほど、悪くない変装だ。もしも、もしもだ。最悪の場合はハガネに身を寄せるといい」

 

「……まぁとりあえずばれない様には頑張ります」

 

今はまだ武蔵が生きていると、この世界にいると知られるわけにはいかない。今は意識を失っているが、グライエンが目を覚ましてからそこから改めてビアン達は自分達がどう動くべきなのかの舵きりをしなければならないからだ。

 

「エルザム達がクロガネに戻るまで、1時間……急ごうか」

 

「ういっすッ!」

 

今頃離島でトレーニングを積んでいるエルザム達が戻る前に出撃準備を済ませようと武蔵達が部屋を出る。

 

「……総帥、武蔵」

 

「「あ……」」

 

部屋を出るなり、呆れた目で自分達を見つめているリリーと鉢合わせし、武蔵とビアンは言い訳するでもなくその場に正座をして、頭を下げた。土下座しながら確実に止めに入るであろうリリーの説得を試みる武蔵とビアン。

 

「すいません、行かせてください」

 

「すまない、行かせてやってくれ」

 

武蔵とビアンのリクセント公国救助作戦は、最初の最初で躓いてしまうと思いきや……。

 

「リクセントは支援をしてくれてますからね。武蔵、ちゃんと助けて来てあげてください」

 

「い、良いんですか!? リリーさん!?」

 

「私の気が変わる前に行って下さい。あとビアン総帥はちゃんとエルザム様達に説明してくださいよ」

 

「判ってる! よし、行くぞッ!」

 

「はいっ!!」

 

格納庫に走っていくビアンと武蔵を見てリリーは深く溜め息を吐きながらも、その顔には笑みが浮かんでいるのだった……。

 

「うーうーッ!!」

 

「うーじゃないです! 駄々を捏ねない!」

 

少しでも早くリクセントに出発したい武蔵だったが、ゲットマシンの前でエキドナの妨害に会っていた。

 

「ゲットマシンに乗れるから着いて行くッ!!

 

「駄目ですッ!!」

 

エキドナの主張はゲットマシンに乗れるから自分も連れて行けと言う物だったが、当然武蔵がそれを了承するわけがない。

 

「嫌だッ!!」

 

「嫌じゃないですッ!!」

 

「じゃあやだもんッ!!!」

 

「そういう問題じゃなーいッ!!!」

 

埒が明かないとエキドナの脇を強引に抜けてベアー号に乗り込もうとした武蔵。

 

「着いて行く!」

 

「駄目だ! 大人しくしているんだ! ユーリア!」

 

「はいッ!」

 

それを追おうとするエキドナだがユーリアを初めとしたトロイエ隊に妨害され、武蔵の側にいけない。だがそれでもエキドナは諦めなかった。

 

「ふしゃあああーーッ!!」

 

「ふぐおッ!!!!」

 

逃がすかと言わんばかりに伸ばした腕が武蔵のマントを掴み、思いっきり首が絞まった武蔵が奇声を上げる。

 

「武蔵君ッ!?」

 

「馬鹿! 何をしている!」

 

「うーうー!!」

 

「げほっ! ううっ!」

 

マントは駄目だと判断した武蔵は片手でマントを解き、小脇に抱えている変装用のコートやマフラーを持ったままベアー号に乗り込む。エンジンが点火し、飛び立つ姿を見てエキドナも流石に諦めたのだが、今度は邪魔をしたユーリアにその怒りの矛先を向ける。

 

「残念が邪魔した!」

 

「誰が残念だッ!?」

 

「皆言ってた! ユーリアは残念だって!」

 

「皆って誰……まて、何故そこで目を逸らす!?」

 

トロイエ隊の全員に目をそらされ、部下に残念と言われていることにショックを受けるユーリアとそんなユーリアを指差して残念と連呼するエキドナ。

 

「……私にどうしろというんだ」

 

それは優秀な頭脳を持つビアンでさえも途方に暮れる地獄絵図なのだった……。

 

「本当に1人で行くのですか、アーチボルド少佐」

 

「ええ、こういうのは私の得意分野ですし、兵士もお借りしましたからね。ユウキ君達はのんびりと私が戻るのを待っていてください」

 

水上鬼に搭載された水上船に乗り込もうとするアーチボルドはその顔に押さえきれない嗜虐の色を浮かべる。

 

「国際会議の重鎮を捕えて身代金を得る。実にテロリストらしくて良い、私の得意分野ですよ。ええ、全く」

 

にやりと笑いヘルメットを被った集団と共に水上鬼から出撃していくアーチボルド。ユウキはその姿を睨まずにはいられなかった。

 

「お前も苦労しているな、ユウキ」

 

「これは、二本鬼さん、どうも」

 

「俺もあの男は好かん。あの天狗のように伸びた鼻っ柱をへし折ってやりたいものだな」

 

二本鬼はそう言うと地響きを立てながらブリッジへと足を向けるが、思い出したように足を止めた。

 

「ゼオラとアラドを今回は出撃させるな。あいつらは百鬼獣と連携を取るには力不足だ、お前とカーラの2人で準備を整えておけ」

 

「了解です」

 

確かに二本鬼は鬼である。だが、その武人気質と非人道的な手を嫌う高潔な精神は鬼ではあるが、尊敬に値するとユウキは感じていた。だがそれでもユウキにはユウキの任務がある……鬼にも、部下にも本音を見せる事が出来ないスパイ任務――ユウキはクロガネにリクセントに危機が迫っている事を伝える為に格納庫を後にするのだった……。

 

 

 

 

 

シロガネのリーによって国際会議場の警護の手筈が整った所で、日本から応援に来たハガネが到着した。艦同士を通路で繋ぎ、シロガネに乗り込もうとしたダイテツとテツヤを出迎えたのはリーだった。

 

「ダイテツ・ミナセ中佐ッ! テツヤ・オノデラ大尉! お待ちしておりましたッ!」

 

新兵もかくやと言う大声と敬礼で出迎えられ、ダイテツとテツヤも敬礼を返す。

 

「リー・リンジュン中佐だな、こうして顔を見合わせるのは初めてになるな。ダイテツ・ミナセだ」

 

「リー・リンジュンです。本日はご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いします」

 

握手をかわすダイテツとリー、2人の間にはリーがダイテツを心から尊敬しているような雰囲気があった。

 

「テツヤ、お前も元気そうだな。士官学校の卒業式以来か?」

 

「あ、ああ……そうだな」

 

にこやかに挨拶をかわしてくるリーにテツヤは思いっきり引き攣った顔をし、ダイテツに咳払いをされ、慌てて顔を戻した。テツヤの中では士官学校の時のリーと今のリーがどうしても重ならず、何度もリーの顔を見つめ、そして意を決した表情で口を開いた。

 

「ミスターパーフェクトのリーはどうしたんだ?」

 

理詰めでどんな事でも規則に従えと口にしていたリーと今のリーは違いすぎていた。上官に対して失礼だと思ったが、テツヤはそう尋ねずにいられなかった。

 

「同期の皆にも同じ様な事を言われたよ。だが完璧であると言うことが正解であると言う事では無いと言う事を学んだのさ、人には心がある。その心を捻じ曲げるような事をしてはいけないと私は学んだのだよ」

 

憑き物が落ちたような表情で笑うリーはシロガネのブリーフィングルームへとダイテツとテツヤを案内する。

 

「ダイテツ中佐が到着する前に私の方で警備プラン等を考えております、1度目を通してください」

 

「うむ、見させて貰おう」

 

リーの計画ではATXチームのキョウスケとエクセレンをパーティ会場及びパレードに配置、ライとラトゥーニの2名をシャイン王女の護衛。カイ少佐にリクセントに配置されている僅かな連邦兵士との指揮を取って貰い国際会議場とパーティ会場の警備を行うという物だった。

 

「なるほど、悪くない。ここの空白の部分はハガネの戦力と言うことだな?」

 

「はい、可能ならばアルブレード、R-GUNの2機の使用を望みます」

 

「グルンガストは使わないということか?」

 

「はっ! その通りです。ATXチームのキョウスケ中尉達を会場の警護に回したのは機体が有名すぎるからです。ただでさえ、シロガネとハガネとスペースノア級を運用するのに加えてアルトアイゼン、ヴァイスリッター、グルンガストを運用しては敵の過剰な戦力投入を促す事になると考えております。それに伴い、ブルックリン少尉にはアルブレード、RーGUN、そしてアンジュルグとチームを組んで貰う事を想定しております」

 

リーのはきはきとした説明にダイテツはうむと頷き、顎髭を摩る。

 

「ではアルトアイゼン等はハガネかシロガネに待機させるのか?」

 

「いえ、このポイントに倉庫街がありますのでそちらに運搬しております。ここは夜会の会場とパレードの順路の中間点にありますので、

最悪の場合でも対応しやすいと考えております」

 

襲撃があった際に夜会の会場でも、パレードの最中でも敵AM等に対応出来るように考えられている。遊撃と固定防衛の2つと優先するべき国賓の警護……今ハガネとシロガネのクルーは少ないが、それでもその人数でも可能な最善の一手だと言えた。たった1つの懸念材料を除いてだが……。

 

「悪くない、悪くは無いが……鬼と言うアンノウンの計算をしていないように思えるが?」

 

「……それに関してなのですが、もし襲撃があると仮定した場合。私の考えではテロリストと鬼の目的は国際会議に参加した来賓や重鎮を人質に取る事であると考えております、そうなった場合は人質を取る為に歩兵を投入してくる可能性が高く、陽動を兼ねてアンノウンの投入などが想定されます。グルンガストはそれらの襲撃に備えてもらい、我々は重鎮の警護および保護に回りたいと思っております」

 

今回の国際会議はリクセント公国から離れた場所にある会場で行われる。山と海に囲まれた天然の要塞であり、旧式ではあるが滞空砲塔なども用意されている。そして今回の会議での最も最悪な展開は国賓の拉致であり、それを防ぐ事を第一目標とリーは考えていた。

 

「概ねはリー中佐の案を採用する。だがハガネはリクセントの海中に配置する」

 

「その理由は?」

 

「お前の考えと同じだ。ハガネは有名すぎる、戦略ミサイル等を打ち込まれては話にならないだろう?」

 

ダイテツ達にとって最善の勝利とは国際会議とパーティを無事に終える事、次点で襲撃を受けても国賓を守る事にある。そのどちらかでも損ねれば、その時点でダイテツ達の負けは確定してしまう。

 

「それでしたらハガネをここに配置するのはどうでしょうか?」

 

「ほう。いい所に目を付けたな」

 

テツヤが指差した場所は旧船着場。PTが運用される前に使用された寂れた場所だが、会場から近く潜水艦なども運用していた事からスペースノア級でも十分に潜水出来る区画だ。

 

「避難用のダストシュートで会場とハガネを繋げる事も可能ですね」

 

「うむ、その方針でいくとしよう」

 

シロガネでリーとダイテツ達が警備計画を立てている頃、ラミアは会議場の下見、警護の位置を確認するという名目でシロガネを降りていた。自分に宛がわれた区画の下見をすると見せて、会場の裏路地に足を向けていた。

 

「……ここならば問題はない。出てきたらどうだ?」

 

ラミアがそう声を掛けると人形めいた顔の作りをしている若い男が姿を見せた。

 

(量産型……か)

 

ナンバーズと違い人間味が薄い――恐らく情報収集の為に配置されている量産型だと確信した。

 

「レモン様から、何故連絡がないと叱責を預かっております」

 

それはレモンではなく、ヴィンデルだと思ったラミアだがそれを口にしない。

 

「すまない、機密通信装置の破損が恐らく理由だ。決して離反しよう等とは思っていない、可能ならば通信機の受け渡しを求める」

 

「……了解しました。ではこちらを」

 

「指令ディスク……すまない、助かった」

 

差し出されたディスクを受け取ると、背を向けて歩きだす量産型Wナンバーズに思わずラミアは声を掛けていた。

 

「……任務遂行用の名称は?」

 

「そんなものは我らの間では何の意味はありません、私は量産型104番です」

 

名前ではなく番号を名乗る量産型Wシリーズ、それが正しい事であるとラミアには判っていた。だが何の感情も示さず、淡々いう量産型Wシリーズがラミアにはなぜか恐ろしく思えた。

 

「すまない、変な事を聞いた」

 

「いえ、問題ありません。では失礼します」

 

頭を下げて再び人混みの中に消えていく量産型Wシリーズ。その姿と自身の手の中の指令用ディスクを交互に見つめる……かつての自分はああだった、与えられた命令に従い、そこに迷いも疑問も抱かず、与えられた任務を実行する。それだけで良かったのに、何故自分は今こんなにも思い悩んでいるのか……今まで自分が抱く事がなかった答えのない疑問、それを胸に抱いたままラミアもまた人ごみの中にその姿を消すのだった……。

 

 

 

 

 

国際会議は問題なく閉幕し、親睦を深める夜会へ滞りなく進んでいた……国際会議の主な議題はブライ議員が提唱する量産型ゲッターロボに関係する物、そしてDC戦争時によって失われた観光地としてのリクセントを取り戻すと言う政治的なやり取りであった。ある程度既に話が固まっていたからか、話が拗れることも無く会議は進んで行ったのだ。

 

「外の巡回をしたら夜会の警備に合流するぞ」

 

「もう、キョウスケったらもう少しロマンティックな事を言えないの?」

 

「……任務の後ならば言ってやるさ」

 

文袴姿のキョウスケと肩を出しているドレス姿のエクセレンは、国際会議の成功を喜ぶリクセント公国のパレードを見つめていた。テロの可能性がもっとも高いパレードを監視していたが、パレード終了も間近に迫った今これ以上本命の夜会の警備に戻らねばならなかった。

 

「……そう、じゃあ今度は休暇で来ましょう」

 

「ああ、そうだな」

 

任務ではある――だがそれでも恋人同士の男女がいれば良い雰囲気になるのも当然の事だった。キョウスケの後を1歩遅れて夜会の会場である旧リクセント城に足を向けていた。

 

「あ、見て、あれってもしかして」

 

「……武蔵だな。そうだな、リクセントではあいつは人気者だからな」

 

ヘルメットに剣道の胴、そしてマントを羽織ったふくよかなキャラクターがシャインをモチーフにしたであろう、魔法使いの少女を肩に担いで笑っている。

 

「皆楽しそうね」

 

「そうだな」

 

寡黙な性格なキョウスケでは話が続かないが、それでもキョウスケとエクセレンは楽しそうに、そして懐かしそうにパレードを見つめていた。

 

「武蔵……生きてるわよね」

 

「ああ、生きているさ」

 

ハガネと合流したときに伊豆基地に現れた謎のPT。僅かな通信記録に残されていたイングラムの声……それを聞いて全員が改めて武蔵、そしてイングラムの生存を確信した。

 

「ふふ、今頃何をしているかしら? もしかしてボス達と一緒なのかしら?」

 

「その可能性は高いな。元気でいてくれれば良いが……」

 

キョウスケ達だって思う事は1つだ。自分達が戦えず、武蔵とイングラムだけが戦う姿を見ていることしか出来なかった……あの時の無力感は今も、キョウスケ達の胸に深く圧し掛かっていた……。

 

「ふふ、もしかしたらシャイン王女がピンチだったら助けに来たりして」

 

「……それだったらますます武蔵はシャイン王女の王子様になってしまうな」

 

もしも武蔵が生きているのならば、自分を慕う少女を助けに来ない訳がないなと笑いあうキョウスケとエクセレン……2人らしからぬ雰囲気だが、パレードの中にあった武蔵を模したキャラクターの存在がどうしても武蔵を2人に思い出させていた。

 

「帰りましょう。カイ少佐達が待ってる」

 

「ああ。そうだな、戻ろう」

 

パレードの終わりを告げる鐘がなる前にと再び歩き出したキョウスケとエクセレン。だが時計塔が19時を示した時――時計塔が大爆発を起した。

 

「きゃあっ!?」

 

「エクセレンッ!」

 

その爆風から咄嗟にエクセレンを庇ったキョウスケの背中に向かって崩壊した瓦礫が迫る。腕の中のエクセレンを守ろうとキョウスケが身体を強張らせたその瞬間、一陣の風が吹いた。

 

「シッ!!!」

 

裂帛の気合と鋭い風切り音……閉じていた目を開いたキョウスケの視界には顔を赤いマフラーで隠し、ボロボロにくたびれたコートを着た人影が鞘に日本刀を納め、城に向かって駆け出す背中が広がった。その服装は記憶の中の武蔵とはまるで異なるのに、何故かキョウスケとエクセレンは城に向かって走って行った人影が武蔵に思えてしょうがなかった。

 

「……きょ、キョウスケ……今の……ッ」

 

「考えている暇は無いッ! エクセレン掴まれッ!」

 

爆発と共に急降下してくるリオン、アーマリオンの編隊、そして遠くに聞こえる獣の叫び声……今城に向かって行った人影は確かに気になるが、今はそれ所ではないとドレス姿のエクセレンを抱き抱えキョウスケは逃げ惑う人混みを駆け抜け、アルトアイゼンとヴァイスリッターが隠されている倉庫街に向かって走り出すのだった……。

 

 

 

 

シャインはクローゼットの中に隠れ、その身体を小さくさせていた。突然の爆発にジョイスに隠れるように言われ、押し込まれるようにクローゼットに閉じ込められてしまっていた。本来のシャインの気質ならば、隠れる事を良しとせず、自ら避難誘導などに率先して動くが、今回はどうしてもシャインは前に出ることが出来なかった。

 

(怖い……怖いですわ)

 

本当は国際会議なんてやりたくなった。必要な事だと判っていてもリクセントで国際会議をやるのがシャインには恐ろしい物に通じる何か

にしか思えなかった……その恐怖がシャインの動きを完全に縛っていた。

 

(ラトゥーニ……ライディース少尉……)

 

ついさっきまで一緒にいた2人の事がシャインの脳裏を過ぎる。あの2人ならば助けに来てくれる……そう信じているのに、恐ろしくて仕方ない。最近何度も夢に見ていた……恐ろしい鬼に追いかけられ、どこまで逃げても追いかけられ、捕まってもう駄目だと顔を上げると角と鋭い牙を生やした自分が自分の腕を掴んでいる夢を何度も何度も見ていた。それが不安から見る夢なのか、予知なのかが判らなかったが……今それが予知夢なのだとシャインは薄っすらと気付いた。不安から身体を小さくして、恐怖に震えていると部屋の扉が開く音がした……ラトゥーニ達と一瞬期待したが、その顔が恐怖に引き攣った。

 

「早く見つけるんですの、私が今度からシャイン・ハウゼンになるのですからね」

 

自分と同じ声……夢で見た角の生えた自分が目の前に現れる……それが現実の事なのだと判った瞬間。今まで堪えてきた恐怖が、そして誰に1番助けて欲しいと言うのをシャインに思い出させていた。

 

(助けて武蔵様ッ!)

 

「きゃ……ぎゃあああああーーーッ!?」

 

必死に身体を小さくさせて、余りの恐怖からか居る筈の無い人物であるその人を思い浮かべ、思わずシャインは武蔵に助けを求めた――その直後おぞましい悲鳴が周囲に響き渡った。一体何が起きたのか判らず、恐怖に震えていると何かを探す音や足音が響き、ついにはクローゼットに手が掛けられた音がした時、もう駄目だと言う気持ちと先ほどのおぞましい悲鳴が脳裏を過ぎり、シャインの中で恐怖が振り切って、その小さな拳を握り締めてクローゼットを開いた何者かに殴りかかっていた。数発殴る事に成功したが、逆に自分の手を痛めそれでも拳を振るっていると両拳を捕まれたのを感じ、シャインはその声を張り上げた。

 

「このッ! このッ!! 無礼者ッ! 賊が私に触れるなんてッ!! 私が誰か判っての狼藉ですかッ!!」

 

目の前が涙で霞み、それでも絶対に思い通りにならないという強い意志で自分の腕を掴んでいる何者かに向かって、ドレスの裾が捲れるのもお構いなしで足を振り、何処でもいいから蹴ってやろうとしていると初めて襲撃者の声が聞こえた。

 

「いててッ!、シャインちゃん。痛いってッ!!」

 

「えっ……?」

 

その声で始めてシャインは自分を捕まえている相手に視線を向けた。赤いボロボロのマフラーで顔を隠しているが、その姿を見てシャインの目から先程とは違う意味で大粒の涙が零れた。

 

「武蔵様……?」

 

シーッと言いたげに口元に手を当てて、シャインの頭を撫でるマフラーの男。顔は見えないが、困ったように笑っているのがシャインには判った。

 

「……乗れと?」

 

「こくり」

 

自分の前にしゃがみこんだマフラーの男の背中に抱きつくと、マフラーの男はゆっくりと立ち上がり右手でシャインの身体を支え、左手に日本刀を握り締めて走り出した。

 

(ああ……間違いないですわ)

 

恐ろしいゲッターロボGに乗せられた時。危険を承知で助けてくれた武蔵……その時と同じ安心感を感じ。震えながら武蔵の首に腕を回す。

 

「生きて……生きておられたのですね……武蔵様」

 

武蔵からの返事は無かった。だけど、困ったように肩を竦める動作にこのマフラーの男が武蔵であるとシャインは確信し、首元に顔を埋めるのだった……。

 

 

 

 

ラトゥーニとライはシャインを探し、絨毯の敷き詰められた通路を走っていた。ほんの僅か、定時連絡の為にリクセントの近衛兵と交代したタイミングでのパレードの行われている居住区での爆破テロ、AMの強襲……余りにも手際が良すぎるそれは今までの新型奪取事件と同じ犯人が行っていると全員が察していた。

 

「くっ、シャイン王女ッ!」

 

「ぐ、ぐあッ!?」

 

「ラトゥーニ、落ち着けッ!」

 

ヘルメットとマスクで顔を隠していた兵士に回し蹴りを叩き込み、昏倒させると同時に駆け出そうとするラトゥーニの腕を掴んでライが強引に動きを止める。

 

「ライディース少尉ッ! 放してッ!」

 

「駄目だッ! 状況を考えろッ!」

 

スクールの友人がテロリストの一派に加わっているという事でラトゥーニの精神はボロボロだった。それに加えて、唯一の同年代の友人とも言えるシャインを失うかもしれないという恐怖で半狂乱になっているラトゥーニにライは容赦なく一喝した。

 

「ここで暴走してシャイン王女に怪我を負わせる訳にはいかない。俺達は冷静に、戦況を見極めて動かなければならない」

 

「ライディース……少尉?」

 

この時ラトゥーニは初めて気付いた、落ち着けと冷静にと自分に言い聞かせているように見えて、それはライが自分自身に言い聞かせているそんな風に感じられたのだ。

 

「いやあ、格好良いですねえ……ええ、とても格好良いですねぇ」

 

自分とライしか居ない筈の通路に第3者の声が響き、その時初めてラトゥーニは自分が進もうとした通路に待ち伏せしている存在が居る事を知った。

 

「すいません、ライディース少尉」

 

「良い、気にするな」

 

互いにハンドガンを手にし、柱の影に身を隠す。鬼のような表情を浮かべているライにこの通路の影に身を潜めている何者かとライに何らかの因縁があるように感じられた。

 

「んんー、シャイン王女を人質に取らなければならないので、僕は忙しいんですけどねぇ……と、言う訳で通してはくれませんかね?」

 

挑発するような口ぶりで通路の影から丸眼鏡を掛けた男――アーチボルドが姿を見せた。

 

「ね、悪い事は言いません。僕を通してくださいよ、アーチボルド……この名前に聞き覚えくらいあるでしょう?」

 

アーチボルド……国際指名手配をされているテロリスト。脅しを兼ねてその名前を名乗ったアーチボルドの顔の横に銃弾が撃ち込まれた、銃弾が掠り頬から流れる血に驚いた様子を見せるアーチボルド。

 

「少尉!? なにをしてるんですか!?」

 

頬を掠めたのは手が震え僅かに照準がずれたから、そうでなければライの放った銃弾は額を貫いていただろう。警告も無く、射殺しようとしたライにラトゥーニが諌めるようにその名を呼ぶが、ライは隠れていた通路から飛び出し、ハンドガンの銃口をアーチボルドに向けていた。

 

「ふーっ!! ふーっ!! アーチボルド・グリムズゥ……ッ! やっと、やっと見つけたぞッ! エルピス事件の首謀者ッ!!」

 

「仕事柄人様には良く恨まれますが……さて、貴方は何者でしょうか? よろしければお名前をお聞かせ願えますかね?」

 

「ライディース・F・ブランシュタインッ! 貴様のせいで義姉上はッ!!!」

 

「ブランシュタイン……義姉上……ああ。なるほどなるほど、君はあの黒い竜巻、エルザム君の弟ですか! いやあ、まさかこんな所でお会いするなんて思っても見ませんでしたよッ!!!」 

 

ノーモーションで放たれた投げナイフがライの手にしていたハンドガンの銃口を貫き、ライの手からハンドガンを弾き飛ばす。ライが呆然としている間にアーチボルドがハンドガンの銃口をライに向けるが、それはラトゥーニの射撃によって弾かれる。

 

「少尉ッ!!」

 

「っと、お嬢さんと侮ってましたが、いやいや中々良い腕をしておられる」

 

互いに通路に身を隠すアーチボルドとライ、ラトゥーニの3人。

 

「んふふふ、はははッ!! ひゃはははははッ!!! ああ、良いですねぇ。懐かしいですよ、今の君はあの時のエルザム君にそっくりだ、自分は冷静だと取り繕っていても動揺と妻を失うかもしれない恐怖で顔を歪めていたあの顔ッ!! ああ、今思いだしても胸がすく思いですよッ!!!」

 

「ッ! アーチボルドォッ!!!!」

 

「少尉ッ!! 駄目! 罠ですッ!!」

 

さっきまではラトゥーニを戒めていたライだが、アーチボルドの挑発に激昂し、警備兵が手にしていたアサルトマシンガンを拾い上げ、アーチボルドに向かって引き金を引くライ。

 

「何ッ!?」

 

「んふふ、君はエルザム君と違って頭に血が上りやすいようですねえ……」

 

「「「「……」」」」

 

アーチボルドとライの間に浮かび上がるように姿を見せた仮面で顔を隠した5人組。それらがアサルトマシンガンの銃弾を全て受け止めて、アーチボルドを守っていた。

 

「んふふふ、凄いでしょう? まるで忍者のようで、いやあ、僕もこの人達を借りているだけなんですけどね。凄く優秀なボディガードなんですよ」

 

ナイフを手にジリジリと迫ってくる仮面の5人組の後で嘲笑うアーチボルド、その距離は10Mも無いが、ライにはその10Mにも満たない距離が絶望的な距離に見えていた。やっと見つけた敬愛する義姉の仇……それを目の前にしても仇を討つ事も出来ない事に歯噛みするライ。

 

「ラトゥーニ、撤退するぞッ!」

 

「っ! 了解ッ!!」

 

「んー思ったよりも冷静ですね。でも、逃がしません……ッ!?」

 

シャインを救出しなければならないと判っていても、数の不利、そして未知数の敵を前に歯が砕けんばかりに噛み締めながら撤退を選択したライ。この情報を仲間に伝える事を優先し、ラトゥーニと共に出口へと走るライの背中目掛けハンドガンの引き金を引こうとしたアーチボルドだが、視界を覆い隠す煙幕に舌打ちし、ハンドガンを懐に戻す。

 

「久しぶりの仕事で少し興奮してましたかねぇ……でもあちらに逃げ道はありませんし、ゆっくりと追詰めるとしましょうか」

 

「「「「……」」」」

 

5人の仮面の男を連れて狩でも行うように歩き出すアーチボルド。その耳につけたインカムから通信が入った。

 

「作戦は成功ですかね?」

 

『しくじった、シャインの代わりになる鬼が殺された。気をつけろ、その会場の中に鬼を殺せる者が居るぞ』

 

「……へえ……なるほどなるほど、では予定よりも早く百鬼獣を出すのですね?」

 

『……そうなるな、お前はなんとしてもシャイン・ハウゼンを捕えろ。成り代わりが失敗したのなら、本人を使うぞ』

 

「ええ、判ってますよ。安心してくださいよ四本鬼さん、さ、皆さん始めましょうか。楽しい、楽しい鬼ごっこの時間ですよ」

 

「「「「「……」」」」」

 

アーチボルドの言葉で5人の仮面の男達が走り出す。アーチボルドはその姿を見ながら、まるで散歩のようにゆっくりと歩き出す――リクセントで始まった悪夢はまだ終わらない……。

 

 

 

第17話 予想外の再会 その8へ続く

 

 




ギリアム少佐まで行けなかった……無念です。これ以上続けると文字数が大変なことになるので、ここで1度切って、ギリアム少佐と武蔵には次回出てもらおうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話 予想外の再会 その8

第17話 予想外の再会 その8

 

リクセントに強襲を仕掛けてきたAM隊。それらと戦闘を始めたと言うカイやリュウセイ達の報告を聞きながら、ダイテツとリーはその顔を歪めた。

 

「避難率はどうなっている!」

 

「げ、現在68%です! ハガネの浮上に掛かる予想時間後38分ですッ!」

 

奇襲はダイテツもリーも予測していた、だが厳重に警備が行われていたはずの会場とパレードの順路にどうやって爆弾を仕掛けたのか……それがダイテツ達には判らなかった。

 

「くっ、ライディース少尉達にも連絡がつかんッ!」

 

夜会でシャインの警護をしていた筈のライとラトゥーニの2人とも連絡がつかない事にリーは焦りを感じ始めていた。

 

「リー中佐。シロガネを浮上させよ」

 

「はっ……は?」

 

「シロガネを浮上させるのだ。危険ではあるがシロガネで対戦艦戦闘準備をしてくれ」

 

ダイテツの命令を理解出来なかったリーにダイテツは重ねて命令を下す。

 

「し、しかし、それでは避難が、シャイン王女もまだ避難が完了していないのですよ!?」

 

避難もそしてもっとも守らなければならないシャインの避難が完了していないと命令を復唱しないリー。そんなリーにダイテツが鋭い視線を向ける。

 

「夜会の会場には情報部の凄腕が紛れ込んでいる。彼とライディース少尉達がシャイン王女を救出してくれると我々は信じるしかないッ! AM隊の奇襲速度、数を考えれば近くに戦艦が控えていると見て間違いない。敵増援を阻む為にも、シロガネには上空の守りを固めて欲しい、ポイント4-E-0に停泊後E-フィールドを展開。これ以上のAMの侵入とミサイルによる空爆を防ぐのだッ!」

 

「りょ、了解ッ!!」

 

シャイン王女の護衛に回したライ達と、数日前から国際会議場に潜入していた男……その3人が居ればシャインを無事に保護出来ると信じ、ダイテツはこれ以上リクセント公国に被害を出さない為に動き出すのだった……。

 

 

 

シャインを背中に背負ったまま、武蔵は城の中を激走していた。その理由は1つ……出口が判らなかったのだ。

 

(だああーーッ! 出口は何処だよッ!? それかせめて知り合いとかいないかッ!)

 

極力喋らないようにする事と、顔を隠す事をビアンに厳命されていなければ、武蔵はとっくの昔にマフラーを外してシャインに素顔を見せて、出口は何処と尋ねていただろう。

 

「ッ!」

 

「ぎゃっ!?」

 

時折姿を見せるテロリストと思わしき男達は峰打ちで気絶させ、武蔵は自分の勘に従い走り続けていた。城に辿り着いたのも、その道中でキョウスケとエクセレンを助ける事が出来たのも、危ない所で間に合ったのも全て自分の勘を信じた結果だ。困ったら自分の勘を信じる……それはある意味竜馬、隼人、武蔵の3人に共通する1つの事だった。

 

「武蔵様……大丈夫ですか?」

 

「だ……んんっ!」

 

大丈夫か? と声を掛けられ、殆ど無意識に返事を返しかけて咳払いをする。背中のシャインはそんな武蔵の様子を見てくすくすと笑う。

 

「顔を隠して、会話もしてくれないのは何か理由があるんですわよね?」

 

シャインの問いかけに無言で小さく頷く武蔵。シャインはそうですかと少し寂しそうにして、武蔵の背中に抱きついた。

 

「……良いです、今はその理由を聞きません……こうして助けに来てくれましたから……それに生きているって判りましたから」

 

城の外から聞こえる悲鳴と爆発音……ビアンの危惧した通りリクセントの国際会議を狙ってテロリストが動き出した。獣の雄叫びも聞こえる所から百鬼獣も出現しているだろう――それが武蔵を焦らせる。少しでも早く、ゲッターロボVの元に戻らなければならない。だが先ほど斬り殺したシャインと同じ姿をした鬼の事を考えると信用出来る相手でなければシャインを託す事も出来ない。

 

「ガアアッ!!」

 

「っなろおッ!!」

 

窓ガラスを突き破り姿を見せた鬼の一撃をかわし、ゲッター合金で出来た日本刀を振るい、その首を切り落とす。

 

「ッ!」

 

「……ちっ」

 

女王だったとしても12歳の少女に人の首を刎ねる場所なんて見せるものじゃない。武蔵は舌打ちし、再び走り出す。シャインの所に行く前にライとラトゥーニを見かけていた……あの2人なら信用出来る。武蔵はそう考えて、2人を探して走り続ける。

 

「武蔵様……あの化け物が、武蔵様がまだ表に立てない理由なのですか? あ、いえ、返事がほしいわけでは無いのです。私の独り言を思ってくださいませ」

 

武蔵の背中に顔を埋めたまま、シャインはこの短い時間で立て続けに起きた事を整理していた。

 

「また地球に危機が迫っているんですね……もしかして顔を隠しておられるのは怪我をしているのですか?」

 

心配そうなその声に武蔵は首を左右に振り違うとリアクションを返す。

 

「そうですか、良かった……今はまだ、巴武蔵としては会いに来てくれないのですよね? それなら私……待ってますから、武蔵さんとして会いに来てくれるのを待ってますから」

 

シャインは泣かなかった……それでも震えている声に武蔵は罪悪感を抱かずにはいられなかった。シャインだけなら顔を見せても良いのでは無いか? 彼女なら口が堅いと判断し、少し減速して背中に背負っているシャインを降ろそうとした時。背後から強烈な殺気を感じ、地面を強く蹴って飛び退いた。

 

「おや、良い勘をしてますね?」

 

暗がりから姿を見せたアーチボルドに武蔵は眉を顰めた。死臭、血臭というべき匂いがこびり付いたアーチボルドが敵であると、一目見た瞬間で理解したのだ。即座に反転し、シャインを背中で隠しながら日本刀の切っ先を向ける。

 

「おやおや、ミイラ男……いや、マフラー男ですね? 日本刀なんかで銃に勝てるとでも思っているのですか?」

 

腰を落とし、刀を構えるだけで返事を返さない武蔵の反応を見てアーチボルドは詰まらないですねと呟いて肩を竦めた。

 

「王女様に用があるんですよ、渡してくれたら貴方は無事……「シッ!!」ギ、ギガア……へえ……貴方やりますね」

 

武蔵とアーチボルドしかいない通路に感じた殺気……それを感じ取り日本刀を振るった武蔵。何もいないはずなのに、切り裂いた手応えを感じ、火花を散らしながら倒れる仮面の男を見てアーチボルドはサングラス越しにその目を鋭く細めた。

 

「ううーん、貴方はとても良い腕をしておられる。どうですか? 僕の所に来ませんか? 雇い主に口引きしてあげますよ?」

 

武蔵の腕が立つと判るとスカウトに出るアーチボルド。武蔵が何も言い返さないのにアーチボルドは手をぽんっと叩いた。

 

「ああ、僕の組織が判らないのですね、大丈夫ですよ。腕が立てば、どんな地位も名誉も思うがまま。どうです? 悪い話では……」

 

アーチボルドの言葉を遮るように武蔵はマグナムの引き金を引いて、大きく飛び退いた。その直後武蔵がいた場所に巨大な拳が突き刺さっていた……。

 

「四本鬼さん! 実に良い人材なんですよ!? 殺すおつもりですか!?」

 

『馬鹿をいうな、その手の男は交渉などでは靡かん。敵に回るのならば殺すしかあるまい』

 

アーチボルドと百鬼獣を操る鬼の会話を聞きながら武蔵は崩壊した通路を見て途方にくれていた。

 

(オイラ1人なら何とかなるけど……)

 

シャインを背負ったまま跳ぶには距離がありすぎる。かといって脇道も無く、退路も塞がれた。八方塞のその状況をどうやって突破するかと考えていると反対側の通路に見知った顔を見つけた。危険は伴うが、これしかないと武蔵は判断し、背負っていたシャインを降ろしてシャインと視線を合わせた。

 

「シャインちゃん。怖いと思うけど、目をつぶって身体を小さくするんだ」

 

声を聞かせてはいけないとか、顔を見せてはいけないとか考えている場合では無いと、武蔵はマフラーを少しだけずらして顔を見せて、大丈夫と声を掛ける。目を瞑り、小さい身体をより小さくさせたシャインの頭を撫で、振り返り様にマグナムの引き金を引いた。

 

「貴方……とんでも無い物を使ってくれますねぇ……ッ!? 貴方何をするつもりですかッ!? やめなさいッ!!」

 

武蔵が扱うマグナムは敷島博士の特注品、通常弾頭と散弾銃のように広がる銃弾を放つことが出来る頭のおかしいマグナムだ。武蔵は散弾銃のように広がるモードに切り替え、シャインを捕えようとしていた仮面の男とアーチボルドの足を止めるとシャインの胴体を抱えて片手で持ち上げ、そのまま数歩助走をつけると大きく振りかぶり全体重をかけて力強く踏み込んだ。

 

「ラーーーイッ!!! 受け取れええええええッ!!!!!」

 

「っきゃああああああーーーッ!!!」

 

30キロ後半のシャインを10Mは離れた通路にいるライに向かって武蔵は全力で投げつけた。

 

「な!?!?、うおおおッ!!!?」

 

飛んで来たシャインに気付き、ライは慌ててシャインを受け止めたが、その場から2歩、3歩と後ろに勢いを殺しきれず後退してついには尻餅を付いたライに小さく笑い、武蔵は右手に日本刀、左手にマグナムを握り締めアーチボルドと量産型Wシリーズを睨みつけるのだった。

 

 

 

 

 

アーチボルドと仮面の男から逃げたライとラトゥーニの2人は煙幕を投げ、2人の逃亡の隙を作ってくれた男と合流することに成功していた。

 

「すいません。助かりましたギリアム少佐」

 

「なに、気にする事は無い」

 

「しかし、どうしてギリアム少佐が?」

 

2人を助けたのは情報部に所属し、かつて教導隊メンバーの1人であった「ギリアム・イェーガー」その人だった。情報部にいるはずのギリアムが何故? とラトゥーニが問いかける。

 

「今の情勢で国際会議なんて狙ってくださいと言っている様な物だろう? レイカー司令の命令で現地入りしていたのさ。それよりもシャイン王女は?」

 

「まだ発見出来ていません。定時連絡で逸れた短時間で逸れてしまいました……」

 

「そうか、だがライディース少尉達が来た通路と私が来た通路は1本道だ。この階ではなく、上の階にいると見て間違いないだろう。急ごうッ!」

 

ギリアムを先頭にして階段を駆け上って行くライ達。後からアーチボルド達が追いかけてくる可能性を考え、走りながらライは自分達が見たことをギリアムに伝える。

 

「この事件の首謀者はアーチボルド・グリムズです」

 

「グリムズ……そうか。辛かったな……」

 

エルピス事件の首謀者であるアーチボルドと対峙し、それでも任務を遂行すること選択し逃げたライ。その心中は察するに余りある……ギリアムは辛かったなと言ってライの肩を叩いて激励する。

 

「いえ、感情的になった私のミスです。今はシャイン王女の救出を最優先にしなければ……」

 

「ああ、だが向こうも探しているのなら付け込む隙はある。ダイテツ中佐やカイ少佐達がAMを食い止めてくれている間にシャイン王女を発見するぞッ!」

 

「「了解ッ!」」

 

階段を駆け上り、シャインの名を叫び部屋の扉を開けてシャインを探すギリアム達。

 

「っ! 窓から離れろッ!!」

 

3階へ続く階段へ向かおうとした瞬間ギリアムにそう言われ、ライとラトゥーニは窓から飛び退いた。その直後巨大な影が城を覆いギリアム達が向かおうとした階段と通路をその巨大な拳で粉砕した。

 

「ッ! ハワイのッ!」

 

「やっぱり繋がっていたのかッ!」

 

ハワイでも現れた異形の特機を見て声を荒げるライとラトゥーニ。だがギリアムとは2人とは違う意味でその目を大きく見開いていた……。

 

(馬鹿な!? 百鬼獣だとッ!?)

 

世界を渡り歩いたギリアムだからこそ知っている……あの異形の特機が百鬼獣と呼ばれる機体であると言うこと、そして百鬼帝国の尖兵であると言う事を知っているギリアムの脳裏は何故と言う言葉に埋め尽くされた。

 

(どうやって作りだしたと言うんだッ!?)

 

新西暦に百鬼獣を作る技術も材料もないはず、それなのに自分の前に立ち塞がる百鬼獣は完全体に見えた。そのありえない現実はギリアムの優秀な頭脳を強い混乱に陥れた……だが、それを越える更なる驚愕がギリアムを襲った。

 

「ラーーーイッ!!! 受け取れええええええッ!!!!!」

 

崩壊した3階の通路から聞こえてきた怒声――その声は紛れも無く武蔵の物で驚いて振り返ると、マフラーで顔を隠し、くたびれたコートを着た何者かが腕を振りかぶっていた。

 

「シャイン王女ッ!?」

 

「ま、まさか投げるつもりかッ!?」

 

通路は確かに破壊されていて、とてもではないが合流出来る立ち位置にない。だがそれでもまさか投げる事は無いと信じたかったが、大きく踏み込んだ何者か……武蔵は腕に抱えていたシャイン王女をライ達に向かって全力で投げつけた。

 

「っきゃああああああーーーッ!!!」

 

シャインの悲鳴が木霊し、ライも慌てて投げられて飛んで来たシャイン王女を受け止める為に走り出した。

 

「な!?!?、うおおおッ!!!?」

 

12歳の少女と言っても30キロはある。投げられた速度などが加わり、ライが2歩、3歩と後退し尻餅を付く中。ラトゥーニとギリアムはシャインを投げた相手を見つめていた。

 

「ッ!」

 

「おらッ!!」

 

日本刀とマグナムを駆使し、4人の仮面の男と戦っているその背中はどう見ても武蔵の物だった。生きていたと言う安堵が胸の中に広がるが、今はそれ所ではない。ライの腕の中で目を回しているシャインと青い顔で呼吸を整えているライに手を貸して立ち上がらせる。

 

「逃げるぞッ!」

 

「し、しかし! ギリアム少佐ッ! あ、あの人は……」

 

今も百鬼獣の攻撃をかわしながら、アーチボルドと仮面の男と戦っている武蔵をどうするのかとラトゥーニが言うが、ギリアムは逃げるという意見を変えなかった。

 

「この場に残っている方が危険に晒す事になるッ! 彼を思うのならば、俺達はシャイン王女を連れて逃げるんだッ!」

 

その強い一喝にライ達は何も言えず、ギリアムに先導されバルコニーに向かって走り出す。

 

「少佐、この先には非常階段はありませんよッ!?」

 

「心配はいらない、全て対策済みだッ! コード・クリアッ!」

 

ライに心配いらないと告げ、ギリアムは腕時計型のツールに向かって叫んだ。

 

「メインタームアクセスッ! モードアクティブッ!」

 

「「少佐ッ!?」」

 

バルコニーの手すりを踏み台にして跳躍したギリアムにライとラトゥーニが悲鳴を上げるが、ギリアムは余裕の表情を崩すことはなかった。

 

「CALLッ! GESPENSTッ!!!!!」

 

国際会議を祝う垂れ幕の下から姿を現したゲシュペンスト・リバイブが浮かび上がり、その手の上にギリアムを着地させる。

 

「君も早く逃げるんだ! 掃射ッ!!」

 

ゲシュペンスト・リバイブが手にしていたビームライフルから放たれた熱線が百鬼獣の顔面を打ち抜き、後退させると仮面の男と切り結んでいた武蔵は即座に日本刀を鞘に納め崩壊した通路から飛び降り瓦礫の山の中に姿を消した。

 

(武蔵……良く生きていてくれた……)

 

ギリアムもあの男が武蔵と確信していたが、姿と顔を隠すのに何か理由があると判断し何も言わず、走り去る武蔵を見送る。そしてゲシュペンスト・リバイブのコックピットの中に身体を滑り込ませるとライ達をその手の中に乗せ、夜会の会場から飛び去るのだった……。

 

「やれやれ会場の中にPTを隠すとはとんでもない人材が連邦にいる者ですね」

 

『作戦はまだ失敗していない、追跡班を出す。お前は水上鬼に戻れ、アーチボルド』

 

「はいはい、了解です。やれやれ、僕も錆び付きましたかねぇ……」

 

リクセントの旧城を破壊しただけでリクセント公国自体に被害はほぼゼロ、更に人質も取れなかった事にアーチボルドは肩を竦め、量産型Wシリーズに守られながらリクセント旧城から撤退して行くのだった……。

 

 

 

 

 

リクセント旧城を中心に襲撃を仕掛けてきたAM隊だが、倉庫街から姿を現したアルトアイゼン、ヴァイスリッター、グルンガストの3機に加えて、警備をしていたカイのゲシュペンスト・リバイブとブリットのゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタム、アルブレード、R-GUN、アンジュルグ達の攻撃によってその数を減らし、状況が不利と悟ると攻撃を断念して撤退し始めていた。

 

「ふう……なんとか切り抜けれたか?」

 

『リュウセイ、まだ気を緩めるには早いわ。今ギリアム少佐から連絡が入ったわ』

 

「ギリアム少佐? あの人もリクセントにいたのか隊長」

 

『ええ、後詰の警備でね。ライとラトゥーニ、それとシャイン王女を救出したけど、伊豆基地にも現れたアンノウンに追われているそうよ』

 

『おいおい、マジか……伊豆基地のってあの鬼だろッ!?』

 

『そうよ、判ったら急ぎなさい。シャイン王女達が危ないわ』

 

冷静な口調のヴィレッタだが、言い終わるよりも早く飛び立っていくのを見れば相当焦っているのは誰の目にも明らかだった。

 

『キョウスケ、聞いてたわね。私先行するわよッ!』

 

『俺も行きますッ!』

 

「すまん、先に行ってくれ、俺もすぐに追いつくッ!」

 

百鬼獣の脅威は知っている。ギリアムが如何に凄腕でも、保護したままでは戦えず逃げに回るしかない。機動力に長けたヴァイスリッターとゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタム、ウィングガストへと変形したグルンガストと次々に飛び立っていく。

 

『キョウスケ、俺達も続くぞッ!』

 

「了解ッ!!」

 

カイ、キョウスケ、リュウセイの3人は先遣隊から遅れて、リクセントを出てギリアムのゲシュペンスト・リバイブの救難シグナルを頼りに動き出す。

 

『くそ、まさかこんなことになるなんてよッ!』

 

『落ち着けリュウセイ、動揺すればいらん被害を出す。ギリアムと一緒にいるなら心配ない、絶対に無事だ』

 

予想されていた事だが、テロリストの襲撃。そしてアンノウンの出現……考えられる最悪の展開が全て同時に起きてしまった。ギリアムが補足される前に、なんとか合流しようとするキョウスケ達のコックピットに緊急アラートが鳴り響いた。

 

「巨大な熱源が接近中ッ!? カイ少佐ッ!」

 

『くそ、ここで食い止めるぞッ! ギリアムもハガネとシロガネの場所は判っているッ! 保護されるのを祈るしかないッ!』

 

『敵の増援を倒して、早く合流すれば良いだけだッ! 何の心配も不安もねぇぜ! カイ少佐ッ! キョウスケ中尉ッ!』

 

巨大な熱源反応が接近しているのを感知し、反転したキョウスケ達だがリクセントの方角から飛んで来た特機を見て、その目を大きく見開いた。

 

「馬鹿な……あれは」

 

『……まさか……いや、しかし……』

 

『あ……ああ……げ、ゲッター……ロボッ!? ゲッターロボだッ!!!』

 

折れた右角、皹の入った胸部装甲、そしてボロボロの赤いマントを翻しアルトアイゼンの上空を通過していくその特機は紛れも無く、ゲッターロボだった。

 

「追うぞッ!!」

 

殆ど反射的にキョウスケはそう叫び、リュウセイもカイも自分達の上を追い抜いて行ったゲッターロボを追って機体を走らせるのだった。

 

「シャアアアーーッ!!!」

 

「キイイイーーーッ!!!」

 

「あーんもうっ! 鬱陶しいわねッ!!!」

 

ゲシュペンスト・リバイブを視覚、そしてレーダーと共に捕捉したエクセレン達だが、伊豆基地にも出現した鳥獣鬼に阻まれギリアムとの合流を目前に邪魔されていた。

 

「シャアアアーーッ!!」

 

「なんてインチキッ! もう良い加減にしてよねッ!!」

 

オクスタンランチャーのEモードは機体の表面に弾かれ霧散し、かといってBモードは装甲に阻まれてダメージにならない。ヴァイスリッターは最大速度で鳥獣鬼を振り払おうとしているのに、その速度にぴったりと付いてくる鳥獣鬼を前にしては流石のエクセレンも普段の飄々とした態度を保てずにいた。

 

『くっ! 邪魔をするなあッ!』

 

「ギギィッ!!」

 

空中でゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムと切り結ぶ剣角鬼は嘲笑うかのようにシシオウブレードを受け流し、コックピットに向かって剣を突き出す、紙一重で回避したブリットだが躊躇う事無く殺しに来る剣角鬼を前に冷たい汗が背中に流れるのを感じていた。

 

『くそ、この巨体でこの運動性とか殆どインチキだろッ!』

 

「キキキーッ!!」

 

ウィングガストとドッグファイトを繰り返す半月鬼。機体のサイズはグルンガストとほぼ同じなのに、グルンガストを遥かに上回る機動力と防御力、そして攻撃力。半月鬼とウィングガストでは圧倒的に半月鬼の機体性能に軍配が上がっていた。

 

「ぐあっ!? くそっ! ウィングガストじゃ分が悪いにも程があるぜッ!!」

 

ウィングガストの上を取り、擦れ違い様に目から電撃を放たれウィングガストの高度が落ちる。それでもイルムもただではやられず、ビッグミサイルを撃ち込むが、半月鬼の装甲の前に掠り傷しかつける事が出来なかった。

 

『誰でもいい! 包囲網を抜けてギリアム少佐を合流をッ!』

 

「ゴガガッ!!」

 

R-GUNをおちょくるように跳ね回り、手にしていたブーメランを投げつけてくる猿鬼はPTを上回る機動力と正確無比な投擲技術を誇っていた。それはR-GUNの放ったツインマグナライフルの弾丸をブーメランで弾き、馬鹿にするようにお手玉をする姿に表れていた。

 

『化け物めッ!!』

 

「キキッ!!」

 

もう目の前に来ているのに、敵の攻撃が激しくエクセレン達は完全に足止めを喰らっていた、少しでも早くギリアムを助けたいと言う気持ちが焦りを産み、被弾するという悪循環を作り出していた。

 

「主砲、副砲照準! 撃てぇッ!!」

 

国賓の保護を終えたハガネとシロガネもゲシュペンスト・リバイブの保護に動いていたが、百鬼獣の壁は厚く思うように動けないでいた。

 

「エクセ姉様。支援をお願いするでございますッ!」

 

『ちょっ!? ラミアちゃんッ!?』

 

そんな中被弾しながらアンジュルグが強引に包囲網を抜けてゲシュペンスト・リバイブの元へ向かう。スカート状の装甲や肩や腕の装甲を破壊されながらもアンジュルグはゲシュペンスト・リバイブを……その手の中のライ達を文字通り身体で庇った。

 

(何故私はこんな事をしている)

 

自分のスパイ疑惑を晴らそうとか、そんな考えはなかった。ただ今までシロガネとハガネで行動してきて……こうする事が正しい事の様に思えたのだ。地面から飛び出してきた巨大な百鬼獣の牙がアンジュルグに迫るのを見て、何故自分がこんな行動をしたのかと考える。もっとも効率的なのは己の身を犠牲にしかけることで、同情や疑いの視線を逸らす事……だがそれもどこか違和感を拭えない。自分が何をしたいのか、ラミアには判らず殆ど反射的にリバイブを突き飛ばして、百鬼獣の口から逃がしていた。

 

(アンジュルグは大破するが、脱出すればいい。指令ディスクさえあれば、挽回は出来る。今は少しでも信用を……)

 

自分に向けられた疑惑やスパイ疑惑を払拭し、信用をと思いはしたが、それにもどこか違和感が拭えない。何か、何か理由をと考えるがそれらしい答えはどうしても思い浮かばず、アンジュルグごと自分を噛み砕こうとする百鬼獣の牙をどこか他人事のように見つめていると上空から翡翠色の光の柱が降り注いだ。

 

「ぎ、ギャアアアアーッ!!! ゴガアッ!? ぎ、ギギィ……」

 

光の柱に焼かれ苦悶の雄叫びを上げ、自らを傷つけた何者かを睨む百鬼獣。それは生物であり、それと同時に機械である百鬼獣の反射的な行動だったが、今回ばかりはそれは愚かな選択だった。

 

「ッ!!!!」

 

「ギャアアアアーーーッ!?!?」

 

上空を睨みつけた百鬼獣 土龍鬼が見たのは箒星のように自分に向かって真っ直ぐに急降下してくる翡翠色の輝き。そしてそれを認識した瞬間、頭から巨大な戦斧の刃が突き刺さり、急降下する勢いで頭から足に向かって両断される。その間も身体の内部を焼き尽くす翡翠の輝き……ゲッター線のエネルギーに苦悶の叫び声を上げながら百鬼獣 土龍鬼は両断され爆発する。

 

『ラミアちゃん! 大丈夫!?』

 

「は、はい、大丈夫です……し、しかしあれはなんでございますでしょうか?」

 

アンジュルグを噛み砕こうとした百鬼獣を粉砕した何かはそのままの勢い着地し、やっとの思いでこの場に到着したリュウセイ達の目の前で着地の際に巻き上がった砂煙と百鬼獣の爆発したことで発生した煙の中にその姿を隠す。

 

「い、今のはま、まさか……」

 

「ふっ……やはり生きていたか」

 

高性能のレーダーと、モニターを搭載しているシロガネとハガネのメインモニターには急降下してくる何者かの姿がしっかりと映し出されていた。信じられないと目を見開くリーと、確信めいた口調で笑うダイテツ。そして百鬼獣達と戦っていたエクセレン達を間に合って良かったと言わんばかりに光り輝く力強いカメラアイの輝きと共に煙の中からゆっくりとその姿を現した。

 

『久しぶりだけど、ちょーと派手すぎる登場じゃない?』

 

『……イングラム少佐の次はお前かよ……ったく、生きてたなら一報くらいいれろ馬鹿野郎ッ!!!』

 

『む、武蔵ッ! 武蔵なのかッ!?』

 

『や、やっぱりゲッターロボ! ゲッターロボだッ!!』

 

『……そうか、生きていたか……武蔵』

 

『これは皆にも伝えてやらんとな……』

 

煙を弾き飛ばしゆっくりと立ち上がる機体。折れた右角と全身に入った細かい亀裂と満身創痍に見える筈なのに、この場を支配する圧倒的な存在感を放つ特機……その姿は紛れも無くアイドネウス島でメテオ3と共に姿を消したゲッターロボの姿なのだった……。

 

 

 

 

第18話 予想外の再会 その9へ続く

 

 




凄く良いところで切れたので、少し短いですが、今回はここまでにしたいと思います。ついにシロガネ、ハガネのクルーの前に現れたゲッターロボ。そしてハガネ達を襲う百鬼獣達、次回は戦闘回をバッチリ気合をいれて書いて行こうと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話 予想外の再会 その9

第18話 予想外の再会 その9

 

 

この場にいる全員が喜びとそして驚愕でその目を大きく見開いた。半年の間探し続けたゲッターロボ……それが自分達の目の前にいる。角が折れて、全身に亀裂が走っているがそのたくましい姿と味方を鼓舞する力強さは全く損なわれていなかった。誰もが声を掛けたい、だが声を掛けては消えてしまう……そんな気がして声を掛けれない中ゲシュペンスト・リバイブ(S)のギリアムから広域通信が繋げられた。

 

「……すまない、助かった」

 

ギリアムの言葉に気にするなと言わんばかりに右手を上げたゲッターロボに向かって地響きを立てて、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプSと切り結んでいた剣角鬼が襲い掛かる。いや、剣角鬼だけでは無い、鳥獣鬼、半月鬼、猿鬼が自分達が相手をしていたグルンガスト、アルブレード、R-GUNの攻撃を受けながらもゲッターロボに向かって走り出した。この場にいる全ての百鬼獣が一斉にゲッターロボに襲い掛かる、如何にゲッターロボが強くても全方位からの同時攻撃は捌ける物では無い。

 

「やらせるなッ! あの化け物の動きを止めろッ!!」

 

カイの指示が飛ぶがそれよりも早く、エクセレン達は動き出していた。だが百鬼獣は被弾などお構いなしにゲッターロボに襲いかかり、その手にした武器をゲッターロボに向かって振り下ろした。

 

「武蔵いッ!!」

 

ボロボロのゲッターロボでは勝てないと感じたのかアルブレードのリュウセイがその名を叫んだ。その瞬間ゲッターロボはマントで身体を覆うと、ソニックブームを起こしながら上空へと舞い上がる。

 

「ゴガアッ!!!」

 

「キュアアアアーーーッ!!!」

 

「ギギーッ!!」

 

それを見て半月鬼達もゲッターロボを追いかけて上空に向かって急上昇したと思った瞬間。すべての百鬼獣がどす黒い体液と苦悶の鳴き声を上げて墜落していく、一瞬何が起きたか分からなかったがゲッターロボの両手にゲッタートマホークが握られているのを見て、やっと何が起きたのかを理解していた。

 

「は、早いッ!?」

 

「は、早いだけじゃないですよ。パワーも段違いに上がっている!?」

 

驚愕するエクセレン達も無理は無い、ゲッターロボのやった事は単純に言うと誘き寄せて、同時に攻撃した。口にすると簡単に聞こえるが、目視……いや、レーダーでやっと感知出来るような超スピードで上空に逃れると同時に急反転し、追いかけてきた鳥獣鬼の顔面に飛び蹴りを叩き込み、地面に向かって蹴り落とすと同時に急降下し、ゲッターロボを攻撃しようとし、追いかけてきた半月鬼達の前を通り過ぎる瞬間にゲッタートマホークで切り裂いて、ダメージを与えつつ鳥獣鬼に追撃の踏みつけを叩き込みながら着地する。それから少し遅れて深い切り傷を受けた半月鬼達も地響きを立てて墜落してくるのを見て、キョウスケ達は大きく目を見開いた。やっている事は単純な事、だがそれら全てが圧倒的に早く、そして恐ろしい破壊力を秘めていたからだ。

 

「強い……あの時よりも遥かにッ!」

 

「ビアンの元に保護されていたのか?」

 

L5戦役の時のゲッターロボよりも遥かに強い、その強さに驚愕するキョウスケと、クロガネに回収されていたのかと疑うヴィレッタ。

 

「ギ、ギギィッ!?」

 

そんな疑いの視線を全く気にも留めず、ゲッターロボが足に力を込めて鳥獣鬼の胸部を踏み潰そうとした瞬間。何かに気付いたかのようにゲッターロボは鳥獣鬼の上から飛び退いた、まるで見えない何かがそこにいるかのように周囲を警戒しているゲッターロボの姿を見てカイがギリアムに通信を繋げた。

 

「ギリアム! 何かやばい! 早くシャイン王女をハガネへッ!」

 

『カイ……すまない、この場は頼んだッ!』

 

「ラミアちゃんも機体の調子がおかしかったら1回着艦してくれても良いわよ」

 

『いいえ、大丈夫でありんす。それに……今は撤退できる状況ではありんせん……』

 

暗闇から浮き出るように1体の百鬼獣が姿を現した。左右のこめかみにあたる位置から直線と半月状の角を生やし、その手に死神を思わせる鎌を手にした百鬼獣 四本鬼と、その後に立つ2体の豪腕鬼と1体の猿鬼を見てキョウスケは顔を顰めた。

 

「レーダーに何の反応もなかっただとッ!?」

 

『熱源反応も何もありませんでしたよ中尉!?』

 

テロリスト達が使う物と同質、いやそれよりも高性能のジャミング装置を搭載しているかもしれない百鬼獣の登場にキョウスケ達の背中に冷たい汗が流れた。こうして姿を現したのは4体だが、この闇の世の中にはもっと百鬼獣が隠れているかもしれない……闇夜の中の恐怖と言うものを感じていた……。

 

『まだ戦えるな、ならば何を倒れている』

 

四本鬼の底冷えするような言葉に倒れていた鳥獣鬼達はオイルを撒き散らしながら立ち上がる。

 

『戦え、死ぬまで戦い続けろ。お前達の代わりなど幾らでもいる。戦え、戦い続けろ。それが出来なければ……死ね』

 

音も無く振るわれた鎌がゲッターロボに胸部を踏み潰されていた鳥獣鬼の首を跳ねる。2~3度痙攣し倒れて爆発した鳥獣鬼の姿に戦っていたとは言え、気分の悪い光景を見たイルム達の顔が歪んだ。

 

『行け、戦え。何を立ち止まっている?』

 

びくりと身体を竦ませた半月鬼達はアルブレードや、アルトアイゼン目掛け走り出す。その姿は恐怖に怯える人間そのもので、鎌を持つ四本鬼が指揮官であると言うことを嫌でもキョウスケ達に悟らせていた。

 

『四本鬼……ゲッターロボ。貴様の首を貰い受けるッ!』

 

エネルギー状の蝙蝠の翼を作り出しゲッターロボに向かって切りかかる四本鬼とそれを迎え撃つようにゲッタートマホークを振るうゲッターロボ。リクセント近郊で始まった戦いはゲッターロボ、そして四本鬼の登場でより激化していくのだった……。

 

 

 

 

ハガネに着艦したゲシュペンスト・リバイブS。それと同時に格納庫は一気に慌しくなっていた。だがそれも当然だ。異形の特機の襲来、キョウスケ達が奮闘しているが異形の特機の方が格段に強く、頭数を増やさない事には撃墜の危機が付き纏っていたからだ。

 

「ゲシュペンスト・リバイブS着艦確認しました!」

 

「医療班はシャイン王女の手当てをッ!」

 

「ライディース少尉、ラトゥーニ少尉! 機体の準備は完了しています。すぐにでも出撃出来ますッ!」

 

「すまない、助かるッ!!」

 

「着替えている時間は無いッ!!」

 

スーツの上着だけを脱いでゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R02カスタムに乗り込むライとゴスロリドレスのまま量産型ヒュッケバインMK-Ⅲに乗り込んだラトゥーニはすぐに出撃準備を整える。リクセントからここまで飛行してきたゲシュペンスト・リバイブSに補給しようとし整備班が駆け寄るが、それはギリアムによって制された。

 

「燃料は問題ない! すぐに出る!」

 

「りょ、了解! 全員避難室へ向かえ! 少佐達が出撃するぞ!」

 

整備班達が避難所に駆け込んだの確認してからギリアム達は再度出撃していく姿をハガネのブリッジからダイテツは鋭い視線で見つめる。

 

「大尉、あの特機の戦闘記録を取り続けろ。あれは危険だ」

 

「了解ッ!!」

 

L5戦役の時から半年しか経っていないが、それでもPTやAMの開発技術は格段に向上した。奢っている訳では無いが、メカザウルスならば勝てるだけの機体性能を持つ機体も複数開発されていた。ゲシュペンストMK-Ⅲ等がその筆頭であるはずなのに、戦闘は互角――いや、僅かにキョウスケ達が押されていた。

 

『エクセレンッ! 援護を頼むぞッ!』

 

『えっ!? ま、まさか突っ込むつもりッ!?』

 

『シャアアアーーッ!!』

 

ゲッタートマホークに切り裂かれ、少なくないダメージを受けているはずなのに全く留まる素振りを見せない猿鬼に突っ込んでいくアルトアイゼン……だがその装甲はあちこちが凹んでいて、既に少なくないダメージを受けているのが容易に見て取れる。

 

『ぐうっ!? こいつグルンガストと互角かッ!?』

 

『泣き言を言ってないで食い止めろッ! イルムガルトッ!!』

 

『簡単に言ってくれるぜ少佐ぁッ!』

 

『『ゴアアアアアーーッ!!!』』

 

機体の全長ほどの腕を持つ豪腕鬼に立向かうグルンガストとゲシュペンスト・リバイブK。攻撃力は向こうが完全に上回り、装甲は互角と言っても損傷を回復する謎の合金で形成されている百鬼獣とでは徐々にグルンガスト達が劣勢に追い込まれ始める。

 

「主砲! 副砲! 照準を巨大な腕を持つ鬼に合わせッ! てえッ!!!」

 

『主砲撃てッ!!!』

 

だが豪腕鬼は他の鬼よりも巨大であり、その巨大さゆえにハガネとシロガネの援護射撃が入り、カイとイルムはギリギリの所で踏み止まる事が出来ていた。

 

『打ち抜くッ!!!』

 

『計都羅喉剣ッ!!!』

 

豪腕鬼がよろめいた隙を見逃さず、ゲシュペンスト・リバイブKが両腕を放電させ、そしてグルンガストが計都羅喉剣を手に切りかかった瞬間。1体の豪腕鬼がもう1体の豪腕鬼を蹴り飛ばした。蹴り飛ばされた豪腕鬼は放電しているリバイブKの拳に胸部を貫かれた上に計都羅喉剣に切り裂かれ痙攣し爆発する。

 

『ぐうっ!?』

 

『ぐあっ!? や、やべえな。これは……』

 

至近距離で豪腕鬼の爆発に飲み込まれたリバイブKとグルンガストの第一装甲は完全に融解し、第二装甲にも亀裂が入っていた。

 

『シャアアアーーッ!!』

 

そしてそれを見逃さないと言わんばかりに雄叫びを上げて豪腕鬼が飛び掛ったが、その顔面にハガネから出撃したゲシュペンスト・リバイブSの腰部レールガンが炸裂し、豪腕鬼の名を示す豪腕は空を切った。

 

『大丈夫か!?』

 

『ああ、すまんな。まさか味方を盾にするなんてな』

 

ゲシュペンスト・リバイブSが加わった事で豪腕鬼とグルンガスト達の戦いはイーブンへと戻った。

 

『リュウセイ!』

 

『ラトゥーニか!? すまねえ。助かった』

 

猿鬼の猿の様な動きに翻弄されていたリュウセイとアルブレードに猿鬼の投げた木の実型の爆弾が炸裂する寸前でヒュッケバインMK-Ⅲの放ったフォトンライフルが爆弾を貫き爆発した事でアルブレードは爆弾の直撃から逃れる事が出来た。

 

『リュウセイ、突っ込みすぎだ。ライは私と支援、ラトゥーニはリュウセイとセンター。行けるか?』

 

『了解です、隊長』

 

『はい、大丈夫です。任せてください!』

 

「すまねえ、ラトゥーニ。迷惑をかける』

 

『大丈夫、一緒に戦えば負けない』

 

アルブレードとヒュッケバインMK-Ⅲをセンターに据え、R-GUNとゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R02カスタムが支援に入った事で猿鬼との戦いは劣勢から一気にリュウセイ達の優勢へと変わった。だが猿鬼は牙を剥き出しにて、アルブレード達への威嚇を止めない。その姿は一種に憐れささえ感じさせるほどに鬼気迫るものだった。

 

『そんなにもあいつが怖いのかよ……』

 

『同情するなリュウセイ。同情すれば死ぬのはお前だぞ』

 

念動力が日に日に増しているリュウセイには猿鬼の怯えと恐怖がまるで自分の事のように伝わって来ていて、その顔を歪めさせたが、ライに警告され、リュウセイは深呼吸をする。目が開かれた時にリュウセイの目に同情の色はなく、燃えるような闘志の色だけが浮かんでいた。

 

『行くぜ、ラトゥーニ!』

 

『うんッ!!』

 

『キキーーーーッ!!』

 

アルブレードとヒュッケバインMK-Ⅲが同時に地面を蹴り、猿鬼に向かって駆け出す。そして猿鬼も負けないと言わんばかりに雄叫びを上げて、アルブレード達に向かって、鋭い爪を向けて走り出した。

 

『ゴガアッ!』

 

『……早い。だがそれだけだッ!』

 

そして上空で半月鬼とドッグファイトを繰り返しているアンジュルグは意外な事にアンジュルグが優勢だった。

 

(A-2、B-5……D-6)

 

確かに半月鬼は早い、だがその動きは一種のロジックで定められていて、ラミアにその動きを読むことは容易い事だった。

 

『シャドウランサーッ!』

 

『ぎゃっ!?』

 

自分から当たりに来たかのように顔面に被弾し、硬直する半月鬼にミラージュソードを手にしたアンジュルグが斬りかかる。

 

『貴様は死ね』

 

自分が死ぬかもしれないのに何でギリアム達を庇ったのか、それが理解出来ないでいるラミアは半分憂さ晴らしのように半月鬼へとミラージュソードを振るった。

 

『……ギギィ……』

 

『ふー……』

 

そして剣角鬼とゲシュペンスト・MK-Ⅲとの戦いは剣豪同士の戦いのように静かなものだった。互いに剣を構え、剣が振るわれると同時に互いの装甲に傷をつける……ほんの少しでもミスをすればその瞬間に両断されるという異様な緊張感を持った戦いの中で優勢だったのはブリットだった。

 

(早い、確かに早いが……それだけだ)

 

ブリットの脳裏に浮かぶのはガーリオン・カスタム・無明を操るムラタの姿……確かに剣角鬼は大きく、そして剣の威力も高い……だがそれだけだった。

 

『シャアッ!!』

 

『ちえいッ!!』

 

抜刀されたシシオウブレードが剣角鬼の剣を中ほどから両断し、即座に上段から振り下ろされたシシオウブレードが剣角鬼の頭から股下まで振り下ろされ、左右に分割され爆発した剣角鬼。その爆発音から一気に戦いの流れが変わり始めるのだった……。

 

 

 

 

一閃にしか見えない鋭い戦斧の一撃に四本鬼はその顔を歪めた。ゲッターロボの脅威をブライから聞いていた四本鬼だが、内心はブライが必要以上にゲッターロボを警戒しているだけだと感じていた。だがこうして実際に戦って、四本鬼はそれが嘘でも偽りでもない事を感じていた。

 

(強い……なるほど、これがゲッターロボか)

 

角が折れ、全身に亀裂に走っている損傷から満身創痍に見えたが、それすらも偽装であると感じた。百鬼獣 四本鬼は旧西暦と新西暦の技術のハイブリッドであり、その性能は従来の百鬼獣よりも遥かに上だ。しかしそんな四本鬼が押し込まれていることに気付き、四本鬼の背中に冷たい汗が流れた。

 

(なるほどな……良い経験だ)

 

新西暦で生まれた四本鬼にとってゲッターロボの恐怖なんて、ただの脅し話にしか思ってなかった。しかしそれが嘘でもなんでもなく事実だと悟ると四本鬼はこの情報を百鬼帝国を持ち帰る事を決意した。

 

「ちいっ!」

 

「ッ!!」

 

首を刎ねに来るゲッタートマホークの勢いは早まり、その中に蹴りや拳が織り交ぜられると一気にゲッターロボの脅威は跳ね上がる。

 

「ッ!? ぐっ!?」

 

腕の装甲から生えるように現れたゲッターマシンガンで殴打され、しかもそこから放たれたマシンガンの銃弾の嵐に四本鬼の装甲が容赦なく抉られる。咄嗟に翼を使ってゲッターロボから逃げる四本鬼だが逃がさないと言わんばかりに投げつけられたトマホークブーメランが肩に突き刺さり高度が落ちる。

 

「ぐっ!? この化け物がッ!!」

 

地面にクレーターを作りながら走ってきたゲッターロボの右拳が顔面に叩きこまれ、激しい振動と衝撃に四本鬼は思わず悪態をついたが、その直後に叩き込まれた膝蹴りに打撃以上の振動にコックピットの中で四本鬼は何度も頭を打ちつけていた。

 

(こ、こいつ何者だッ!?)

 

ゲッターロボが強いとは聞いていた。しかしその強さは四本鬼の想定を遥かに越えていた、戦えば戦うほどに、戦う時間が伸びるほどにゲッターロボの攻撃は洗練されて行き、四本鬼の攻撃も防御も完全に読んでいると言うばかりに防がれ、いなされ強烈な痛打を叩き込まれ四本鬼はまともに反撃も出来ない状態に追い込まれていた。先ほど感じた良い経験など言っている場合ではなく、自分の死が近づいているのを四本鬼は感じていた。

 

『エクセレン、ここへ撃ち込めッ!!』

 

『OKッ!!!』

 

『が、ガアアアアーーーッ!!』

 

リボルビングステークを胴体に突き刺され、逃げる事が出来ない猿鬼を持ち上げるアルトアイゼンに向かって、ヴァイスリッターがオクスタンランチャーEモードを撃ち込む。

 

『ギ、ギャアアアアーーーッ!?』

 

『これで決めるぞッ!!』

 

『んふふ、任せてッ!!』

 

オクスタンランチャーEモードで焼かれ、暴れている猿鬼をリボルビングステークで突き刺したまま、上昇するアルトアイゼン、それに合わせるようにヴァイスリッターがビームを放射したまま急降下し、リボルビングステークとオクスタンランチャーに挟み込まれた猿鬼は胴体で両断され爆発炎上する中アルトアイゼンとヴァイスリッターは爆煙を突きって姿を現し、猿鬼から離脱する。

 

『これが俺達の……』

 

『切り札よん♪』

 

アルトアイゼンもヴァイスリッターも少なくない損傷を受けながらも猿鬼を撃破する。

 

『イルム、行くぞッ!!!』

 

ゲシュペンスト・リバイブKのアッパーが豪腕鬼の胴にめり込み、くの字に身体が折れた豪腕鬼の顔面にゲシュペンスト・リバイブKの固く握り締められた右ストレートが叩き込まれ、豪腕鬼の巨体がグルンガストに向かって殴り飛ばされた。

 

『計都羅喉剣ッ! 暗ッ! 剣ッ!! 殺ッ!!!』

 

横薙ぎの一閃が豪腕鬼の背中に叩き込まれ、即座に切り上げられた計都羅喉剣の一撃で豪腕鬼の巨体が上空に跳ね飛ばされる。

 

『出力調整、照準固定ッ! 受けよッ! メガバスターキャノンッ!!』

 

『あ、アアアアアア……』

 

反マグマプラズマジェネレーターによって齎されるエネルギーを使ったメガバスターキャノンの青白い光に飲み込まれ、豪腕鬼は呻き声を上げながら光の中へと消えて行った。

 

『リュウセイッ!!』

 

『よっしゃぁッ!!!』

 

ヒュッケバインMK-Ⅲとアルブレードが同時に跳躍し、猿鬼の胴体に飛び膝蹴りを叩き込んだ。そして着地と同時にGリボルバーをそれぞれの両手に持って乱射する。

 

『ライ、あわせなさい』

 

『了解です。隊長ッ!』

 

パルチザンランチャーをフルパワーモードにし構えるR-GUN、そして腰を落としてハイゾルランチャーの衝撃に耐える構えをするゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R02カスタム。

 

『キキィッ!』

 

体勢を立て直した猿鬼がアルブレードとヒュッケバインMK-Ⅲに飛び掛った瞬間。弾かれたようにアルブレードとヒュッケバインMK-Ⅲが左右に分かれ、猿鬼は2機の後から放たれたパルチザンランチャーとハイゾルランチャーの光の中に飲み込まれるが倒すまでにはいたらなず、全身から煙を放ちながら転がり出た猿鬼の目の前に広がったのはアルブレードとヒュッケバインMK-Ⅲの足だった。

 

『どりゃあッ!!! 行くぜッ! ラトゥーニッ!』

 

『うんッ!』

 

顔面への飛び蹴りから着地と同時に左右から叩き込まれる回し蹴りにボロボロになっている猿鬼の身体が弾き飛ばされる。

 

『モードTPP、ブラスト・トンファーセットッ!』

 

『ライトニングブローセットッ!』

 

プラズマステークを応用したアームガードを展開したヒュッケバインMK-Ⅲと両腕にトンファーをセットしたアルブレードが同時に地面を蹴り、吹き飛んだ猿鬼の懐へと飛び込んだ。

 

『オラオラオラオラッ!!!』

 

『モーションデータ。ラーニング……行けッ!』

 

左右鏡合わせのように完璧に動きのあった連続攻撃が猿鬼に叩き込まれ、見る見る間に猿鬼の装甲がボコボコに凹んでいくのを見て、ライもヴィレッタも驚き半分呆れ半分だった。SRXチームのリュウセイと教導隊のラトゥーニが訓練を共にすることは無い、では何故ここまで息のあった連携が出来るのかと言うと単純な話である。休暇の度にリュウセイの家に入り浸り、ユキコに気に入られ何時の間にか自分の部屋まで用意されていたラトゥーニはリュウセイの家にいる間殆ど毎日と言って良いほどにバーニングPTをやりこんでいた。それがリュウセイとラトゥーニの完璧な連携の種だった。

 

「行くぞ、ラトゥーニッ!』

 

『うん! 行くよッ!!!』

 

完璧に息のあったアッパーカットが猿鬼の顎を打ち抜くと同時にアルブレードとヒュッケバインMK-Ⅲは同時に足を振り上げ、猿鬼を上空に向かって蹴り上げる。蹴り飛ばされた先にはアンジュルグに追詰められていた半月鬼がボロボロの有様で浮いていて、その上空には満月を背にしてミラージュアローを構えているアンジュルグの姿があった。

 

『舞え、紅蓮の不死鳥よッ!!!』

 

『『ギャアアアアーーッ!!!』』

 

半月鬼と猿鬼の姿が重なった瞬間に上空から放たれたアンジュルグのファントムフェニックスが猿鬼と半月鬼の胴体を同時に貫き爆散させる。

 

『ぶっつけ本番だったけど、行けたな。ラトゥーニ』

 

『うん♪』

 

アルブレードとヒュッケバインMK-Ⅲがハイタッチをかわし、その上からをアンジュルグの翼から零れるエネルギー状の翼が降り注ぐのだった……。

 

「引き際だな」

 

連れて来た百鬼獣は全滅した、これ以上戦えばゲッターロボとそしてPTに囲まれると判断した四本鬼の行動は早かった。ボロボロの四本鬼をゲッターロボに組み付かせると同時に自爆装置を起動させ、自身は脱出装置で脱出する。爆発の中に飲み込まれるゲッターロボの背後に四本鬼はリクセント公国から逃亡して行くのだった……。

 

 

 

 

ゲッターロボV・スカーフェイスの中で武蔵は小さく溜め息を吐いた。リクセント……いや、シャインを守れた事、そしてリュウセイ達に怪我人がいないということに安堵の溜め息とそして百鬼獣を操っていた鬼を取り逃がした事に対する落胆の念が込められた溜め息だった。

 

「逃がしちまったか……しかたねえかな」

 

武蔵が以前戦った百鬼獣は半壊し、インベーダーに寄生されていた。その時のイメージがどうしても拭いきれず、攻め切れないでいたゲッターロボV・スカーフェイスは終始様子見に近い状態であり、最初から本気で攻めていれば撃墜出来たのにと思いながらゲッターウィングを身体に巻きつけ上空へと舞い上がる。

 

「武蔵! 武蔵なんだろッ!?」

 

その場から飛び去ろうとするとエルアインスに似た機体から自身を呼ぶ声がして、武蔵はその場にゲッターロボV・スカーフェイスを留まらせる。

 

「これだけ派手に出て来て、はい、さようならはないでしょ武蔵? 顔くらい見せて行きなさいよ」

 

「そういうこった。それともお前は武蔵じゃないのか?」

 

エクセレンとイルムガルトにも言われ、武蔵はコックピットの中でううーむと腕を組んで唸る。

 

「別にまた出て行くと言うのなら止めはしない、だが顔を見せるくらいはしたらどうだ?」

 

「生きていたという事を知らせてくれるだけで良いんだぞ?」

 

ここまで言われれば武蔵としても顔見せくらいならと思うが、それが出来ない理由があった。

 

(アンジュルグ……だったよな)

 

ハガネとシロガネと共にいる天使の様な機体……シャドウミラーの機体であるそれがここにある。ヴィンデル達にハガネとシロガネと行動を共にしていると知られる訳にはいかない武蔵は機体を反転させる。その直後ハガネの外部スピーカーから幼い少女の声がゲッターロボV・スカーフェイスに向かって響いた。

 

『武蔵様、お気をつけて……今はまだ会えないと言うのならば私は待ちますわ、どうかお気をつけて、そしてリクセントは何時でも武蔵様の味方であるということを忘れないでください』

 

ハガネのブリッジから喋っているシャインの声に武蔵は一瞬だけ通信機の電源を入れる。今はまだ再会する事は出来ない、だけどここまで心配してもらい、そして自分の身を案じてくれている相手に何も言わずに去る事が出来るほど武蔵は薄情な人間ではなかった。

 

「また今度会おうぜ。まだ今のオイラはやることがあるんだ、だからごめんな。オイラは行くよ」

 

その一言だけを言い残し、武蔵とゲッターロボはその空域から離脱して行くのだった……。

 

「行っちまったか……正直駄目元で声を掛けたけど、やっぱ駄目だったな」

 

「武蔵のいうやることと言うのは間違いなく……この化け物ですね」

 

「恐らくそう見て間違いないだろう。各機、残骸の回収後ハガネとシロガネに帰還するぞ」

 

リクセントでテロリストと共に現れた謎の特機、そしてそれと戦う為に現れたゲッターロボ――新西暦で再び戦いが始まろうとしている。そして武蔵は自分達の前に姿を現す事は無いが、それでもどこかで戦っている。

 

「また会おうって言っていたんだ。そう気を落とすなよ、リュウセイ」

 

「大丈夫だぜ、ブリット。今の声を聞けば分かる……武蔵が生きていて、元気だって判れば今は良いさ」

 

「そう言うことだ。武蔵が今度俺達の前に現れるまでに俺達はもっと力をつけなければならない。あの時の二の舞にならない為にな」

 

L5戦役では正直武蔵にずっと助けられていた。今度は自分達が武蔵を助けれるように力をつけようと口にするライの言葉にリュウセイは頷き、ラトゥーニ達と共にハガネへと帰還する。

 

(あれがゲッターロボと武蔵か……データに残されていたゲッターD2とは違うが強力な機体である事は間違いないな)

 

飛び去っていくゲッターロボをジッと見つめるラミアだったが、空中に浮かんでいるゲッター線の光が消えると踵を返し、ハガネと引き返していくのだった……。

 

 

 

第19話 思い へ続く

 

 




戦闘終了後。武蔵は離脱、次回からはまたゼオラ達を出しながら、武蔵達の話も少しずつ書いて行こうと思います。ここから暫くはゲーム基準の話で、テスラ研とかの話も入れつつ、武蔵の合流の為の話を作って行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


PS

スパロボDDの迎撃戦は以下のスコアとなりました。

エリア1

R-1・ヴァルグレイブⅳ・ノワール2・紅蓮弐式

スコア約8万

エリア2

サイバスター・グランゾン・ボルテスV・ディーダリオン

スコア約7万

エリア3

ノワール1・ゼロリベリオン・コンバトラー・コンパチカイザー

スコア約11万

エリア4

真ゲッター・ヴァルグレイブ1・ダイターン3・ユニコーン 

スコア約7万


エリア5

マジンカイザー・ガオガイガー・フリーダム・Zガンダム

スコア約5万

Aランクに浮上できたのでまずまずかなあと思うことにしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話 思い

第19話 思い

 

百鬼獣を撃退した後、ハガネとシロガネは保護していた国賓を安全な場所に送り届ける為にリクセント公国へと向かっていた。

 

「キョウスケ中尉達も久しぶりだな! 元気そうで何よりで良かったぜッ!」

 

「危うく負傷する所だったがな、互いに怪我などをせずに会えて良かった」

 

ギリアム、カイ、そしてヴィレッタの3人を除く隊員は久しぶりに会う面子との再会を喜んでいた。国際会議の警護の時はシロガネとハガネは完全に役割分担していたこともあり、会話している時間も無かった為。リクセントに向かう間の短い時間だが、こうしてゆっくりと話が出来るのはリュウセイ達にとっても、キョウスケ達にとってもありがたい事だった。

 

「リュウセイも怪我がなくて良かった」

 

「いやいや、俺なんかよりもテロリストと鉢合わせしたラトゥーニ達の方が大変だっただろ? 怪我とかしてないか?」

 

「わ、私は大丈夫だよ」

 

そっか良かったと笑うリュウセイはゴスロリドレス姿のラトゥーニの顔を見て、目を細めた。

 

「な、何?」

 

ジッと見つめられているのに気付いて気恥ずかしそうにするラトゥーニだが、リュウセイはジッとラトゥーニを見つめている。

 

「なになに? 久しぶりに見るラトちゃんに見惚れちゃった?」

 

エクセレンがリュウセイとラトゥーニをからかうように声を掛けるが、リュウセイはその言葉に反応を見せずラトゥーニに声を掛けた。

 

「なんかあっただろ? 大丈夫か?」

 

「ううん、何でもない」

 

なんでもないと言うラトゥーニは普段通りに笑うが、リュウセイは首を左右に振った。

 

「それが何でもねえって顔かよ、なんかあったんだろ? 大丈夫か?」

 

心底心配した様子のリュウセイにラトゥーニは口を開きかけたが、口を閉じて目を伏せた。

 

「……ごめんなさい、今は言えない……」

 

「そっか、じゃあ無理には聞かないぜ、ハワイで色々とあったのは聞いてる。詳しい事情は知らねえけど……奪われた物は取り返してやる、ぐらいの気持ちでいた方がいいんじゃねえかな、勿論俺も手伝うからさ、そんなに気に病まない方が良いぜ」

 

ラトゥーニを心配しているが、そのラトゥーニが何も言えないと言うのなら無理には聞かないと言うリュウセイ。

 

「リュウセイも随分と雰囲気が変わりましたね。イルム中尉」

 

「そりゃなあ、外堀も完全に埋められて、本丸に侵入されてちゃ人間も変わるぜ?」

 

イルムの意味深な言葉に首を傾げるキョウスケ達の前でエクセレンが楽しそうに笑った。

 

「ブリット君。今のを聞いたわね、心配しつつも無理に聞かない! これはかなりポイントが高いわよッ!」

 

「わわッ!」

 

「ッ!?!?」

 

伊豆基地にいた時は朴念仁と言う感じだったリュウセイだったが、それが半年の間にかなり成長しているとエクセレンは笑いブリットに話を振りながら、ブリットにやるように頭を撫でる。

 

「しょ、少尉。離れて、離れてッ!」

 

「あら、成長してるのはリュウセイだけじゃなかったのね」

 

明らかに嫉妬の色を見せてリュウセイとエクセレンの間に割り込むラトゥーニを見て、エクセレンはますます楽しそうに笑う。

 

「と、ところでさ、クスハは一緒じゃないのか? まだテスラ研にいるのか?」

 

普段みないラトゥーニの反応に内心驚きながら、シロガネと共に来ると思っていた幼馴染のクスハの姿が無い事が気になったのかそう尋ねるリュウセイ。そしてそんなリュウセイを見てショックを受けている様子のラトゥーニを見て、エクセレンは口元に手を当てて、ますます楽しそうに笑った。

 

(ちょっと見ない間に随分と変わってるじゃない)

 

ゲームとロボットにしか興味のなかったリュウセイと対人恐怖症の気があるラトゥーニの関係性が大分変わっている事に微笑ましい物を見るような目をしていた。

 

「テスラ研でね、ちょーっと用事があったのよ。クスハちゃんに会えないのは気になる?」

 

「いや、ほらクスハの親父さんとかお袋さんに色々聞かれても俺じゃ答えれないし、どうなったかなあって」

 

「久しぶりに会えるかもしれない幼馴染が気になるとかじゃなくて?」

 

「元気かどうかは気になるけど?」

 

エクセレンの問いかけに何気なく返事を返すリュウセイの後で100面相をしているラトゥー二を見て笑うエクセレン。

 

「あまり苛めてやるな」

 

「いやん、キョウスケったら乙女の頭を叩くとか酷いわねぇ」

 

軽くコツンと頭を叩かれただけなのに大袈裟に痛そうな素振りを見せるエクセレン。そんなエクセレンを見てキョウスケは肩を竦め、小さく溜め息を吐いた。

 

「すまないな、久しぶりに会えたからエクセレンも少し興奮しているようだ」

 

「ブーブー、興奮してるんじゃなくて、リュウセイとラトゥーニが良い雰囲気じゃなぁい? 何かあったのかなあって女教師の私は気になってしょうがないのよ」

 

エクセレンの言葉にリュウセイは首を傾げるだけだが、意中のリュウセイと良い感じと言われてラトゥーニに喜びの色が浮かんだ。

 

「もしかしてもしかすると、私達のいない間に…ラブラブなフラグ立っちゃったとか?」

 

「ラ、ラブ……ッ!? そ、そんなことは……」

 

「いやん、お姉さん聞いてないわよ……そこんとこどうなの? うりうり」

 

頬を赤らめて初々しい反応を見せるラトゥー二を見て、絶対何かあったと悟りエクセレンが肘でリュウセイの脇を突いた。

 

「待て待て、それは聞くな。踏み込んだら……」

 

容易に踏み込んだからいけない話題だとイルムが静止に入るが、それよりも早くリュウセイが口を開いてしまった。

 

「何って、ゲームセンターに行ったり、買い物に行ったりしたくらいで」

 

「わお! それって、デートじゃない? リュウセイが誘ったの?」

 

「おう、こういうのは男から誘うもんだってお袋に言われて、荷解きしてたラトゥーニに声を掛けたぜ」

 

「へえ……ん? 荷解き?」

 

あちゃーっと言う顔をするイルムと聞き捨てならない言葉が出てきたエクセレンは目を丸くした。

 

「浅草から伊豆基地に通うのは遠いからって、お袋がさ、空き部屋あるからラトゥーニに下宿するかって」

 

「……え、ラトちゃん。リュウセイと1つ屋根の下?」

 

頬を赤らめ顔を逸らすラトゥーニ、その反応自体は初々しいが……妙に不味い雰囲気を感じていた。

 

「りゅ、リュウセイからラトゥーニに声を掛けたのか!?」

 

クスハとの関係が今一進展していないブリットが若干慌てた素振りでリュウセイにそう声を掛ける。

 

「いや、俺がいない間にお袋とラトゥーニが話をしててな。帰ってきたら引越し屋とか来ててすげえビビッたんだよ、でもまぁ、1週間もすればなれたけどさ」

 

あっはっはと笑うリュウセイだが、それは明らかに笑える話では無い。

 

「ラトちゃん……貴女……」

 

「にこっ!」

 

満面の笑みを浮かべるラトゥーニだが、その笑みに邪悪な物を感じてエクセレンはそれ以上口を開く事が出来なかった。

 

「本丸まで攻め込まれているってこう言う事だったんですね」

 

「おう、ラトゥーニのやつ、リュウセイのお袋さんを味方につけてるんだよ。こりゃあ詰みに追い込まれるまで時間の問題じゃね?」

 

半年の間に男女関係を良く判ってないリュウセイではなく、その母親を味方につけて、リュウセイの家に転がり込んだラトゥーニは初々しいのではなく、計算高いという事が分かり嫌な沈黙がキョウスケ達の間に広がった。

 

「んで、やっぱりクスハはテスラ研?」

 

「……ああ、テスラ研で新型機のテストを手伝っているよ」

 

「そうか……んじゃあ、クスハに俺は元気だって伝えておいてくれよ」

 

「ああ。ちゃ、ちゃんと伝えておくよ」

 

「……」

 

ジッとブリットを見つめるラトゥーニにブリットは引き攣った顔で返事を返すのがやっとなのだった……たった半年……されど半年……その時間は1人の少女を変えるには十分すぎる時間なのだった……。

 

 

 

 

 

 

リクセント公国に向かう道中でシャインから話を聞いていたダイテツはこのままリクセントに向かうべきなのかと悩んでいた。

 

「……成り代わり……か、それがあの異形の特機を操る連中の作戦か」

 

『正直はいそうですかと信じるのは難しい話ですが……事実なのでしょうね』

 

シャインが怯えながら口にした角の生えた自分と同じ顔の少女に襲われたという事、そして武蔵によって助けられたと言う事はブリッジに重い沈黙を齎していた。

 

「他の国賓を狙ったのも、それが大前提にあったのかもしれないですね」

 

「カイ少佐は、あの集団の目的が国のトップを殺して、すり替わる事にあると?」

 

「シャイン王女の話を聞く限りではそうとしか考えられないだろう……」

 

同じ顔、同じ声の人員を送り込み、殺して成り代わる……そんな恐ろしい事を容易にやってのける鬼にダイテツ達は心から恐怖した。

 

「ダイテツ中佐はどうするおつもりですか?」

 

「……正直、リクセントにシャイン王女を帰すのは不安ではある、だが……」

 

「ハガネに乗っている訳にも行きませんし、他の人間に話す事も出来ませんわ」

 

こんな話をすれば異常者か、政治の転覆を狙っていると思われてもしょうがない。そうなれば、追われる身になる事は明らかでダイテツ達は未曾有の危機が迫っている事が判っていても、それを声を大にして言うことが出来ないでいた。

 

「そうだ、武蔵が殺したシャイン王女に成り代わろうとした」

 

「そんな証拠を残している訳がなかろう。とっくに回収されているに違いない」

 

「そ、そうですか……」

 

がっくりと肩を落とすテツヤ、人間は確固とした証拠がなければ人智を越えた現象を信じることが出来ない。

 

『あの異形の特機を公表して、ある程度警戒させるという事しか出来ないでしょうな』

 

「ああ、ワシ達に出来る事は警護を増やす事くらいだが……」

 

「その警護に紛れられていたらと思うとどうしようもなりませんね……」

 

下手に護衛を増やし、その中に敵がいたのでは話にならないと顔を顰めるヴィレッタ。そんな中でギリアムが挙手をし、注目を集めた。

 

「私の家にほんの僅かだけ伝わっている旧西暦の話があるのですが、その中で今回の件に該当する事件があります」

 

「何? お前の家にだと?」

 

「昔の文献を集めるのが趣味なんだ。その文献は古いもので、失われた時代よりも更に前の話になります。百鬼帝国と言う異形の集団が現れ、百鬼獣と言う巨人を操り世界征服に乗り出したと、そしてそれを食い止めたのが……「ゲッターロボG」……つまり武蔵が恐竜帝国との戦いの中で時間を越えた後に出現した脅威になります」

 

「……ギリアム少佐はその百鬼帝国が復活したと考えているのか?」

 

「可能性の段階ですが、恐竜帝国が復活したことを考えると……ありえない話では無いかと」

 

ますますオカルト染みてきたが、今までのPTを越える異形の特機、シャイン王女と同じ顔をした鬼の存在を考えるとギリアムの話も信憑性を帯びてくる。

 

「私はこの後、百鬼帝国が本当に存在しているのかそれを特定する為の証拠を集めたいと思っています。それにここまで失敗してすぐ百鬼帝国が再び動き出すとは思えません。与えられた僅かな猶予を使い、証拠を集め、警戒を強めるというのが最善だと考えます」

 

「……そうだな。百鬼帝国に関してはギリアム少佐に任せる。皆を説得する証拠を集めてくれる事を願う」

 

『そして私達は急に言動が変わった政治家や上層部の人間を探すと言うことですか……』

 

「うむ、今の我々にはそれしか出来る事が無いようだ……」

 

ギリアムによって告げられた百鬼帝国の存在、だがそれは公表する事が出来ない内容であった。未曾有の危機が迫っているのに、それを警告する事が出来ない事にダイテツ達は唇を噛み締める事しか出来ないのだった……。

 

 

 

 

リクセントで人質を取る事も出来ず、最優先だったシャイン王女の成り代わりを成功させる事も出来ず水上鬼に逃げ帰ったアーチボルドは深い溜め息を吐いていた。

 

(いやいや、僕も錆び付いてますねぇ……)

 

テロリストとして動き回っていた時の事を考えれば、こんな失態はありえない。これではスポンサー……百鬼帝国から見限られるかもしれないと飄々とした表情をしている中、内心は不安に揺れていた。

 

「アーチボルド。今回はご苦労だった」

 

「二本鬼さん……いやいや、失敗してしまって申し訳ありません」

 

「なに気にするな、人間だろうと鬼であろうと失敗はする。それにゲッターロボと巴武蔵が出てきたかもしれないという情報を持ち帰って

きてくれただけで十分だ。ゆっくりと休んでくれ」

 

「温情ありがとうございます。次はこんな失態はしませんよ」

 

アーチボルドにとって温情にしか思えなかった。確かにアーチボルドもゲッターロボと武蔵の事を知る数少ない、新西暦の人間ではあるが……それを初見で気付けなかったのは許されないミスだろう。それでも許すと言った二本鬼には感謝しかなかった……。

 

「お前が報告してくれた超機人にあのお方は大層興味を抱いておられる」

 

「では次の目的地は極東ですか?」

 

「ああ、俺達は1度百鬼帝国に戻る。キラーホエールを用意しているから、それに乗り超機人の捜索を行えとの事だ」

 

温情ではあるが、失態によって水上鬼を追い出されたと悟り、アーチボルドは先程よりも深い溜め息を吐くのだった……。

 

「アーチボルド少佐。任務お疲れ様です」

 

「失敗していて、お疲れ様もないですが……ユウキ君……次の作戦内容は聞いておりますか?」

 

「はっ我々はキラーホエールに移動後、黄海方面へ転進……中国山東地区沿岸でアーマードモジュール隊を出撃させ、ポイントF2234を偵察を行います」

 

自分が戻る前に二本鬼と打ち合わせは済ませているのですねと小さく微笑むアーチボルド。

 

「しかし、少佐。あのポイントには連邦軍の基地などありませんが……そこに向かう価値はあるのですか?」

 

「ああ、そこまでは聞いてなかったのですね。分かりました、ではそちらに関しては僕が説明しましょう」

 

流石に超機人の事は説明していなかったと判り、アーチボルドは古い文献のデータをモニターに映し出す。

 

「これは?」

 

「僕の家に代々伝わる古文書でしてね。今から向かうポイントには我々の戦力となり得るものが眠っているのかもしれません」

 

眠っている? と理解出来ない様子のユウキにアーチボルドは文献を指差す。そこには子供の落書きのような絵が描かれていた。

 

「古代中国で造られていたという『超機人』……かつて、LTR機構のマコト・アンザイ博士がその存在を立証しようとした古の機械人形……伝説では悪魔と戦ったと言われる巨大なロボットですよ。最近の話ではなんでもゲッターロボらしきものも確認されていたとか……?」

 

「そ、そんな物が過去に実在していたのですか……?」

 

「まあ、にわかには信じられない話だと思いますがね、これはかなり信憑性のある話ですよ、ユウキ君」

 

「古代中国でロボットが造られていたなど……非常識ではありませんか?」

 

「おやおや、君は意外に頭が固いようで……旧西暦時代ならともかく……今は異星人の存在が実証されている世の中ですよ? なぜ非常識などと言えるんです? 恐竜帝国とメカザウルスを貴方は見ているはずですよね?」

 

アーチボルドの言葉に黙り込むユウキ。その沈黙こそが認めたくないが、事実だと悟っている反応だとアーチボルドは小さく笑った。

 

「いいですか、ユウキ君。事実は小説より奇なり。この世界には、君の想像を遥かに超えた物が実在しているのです。現に超機人は過去の文献にもいくつか記述が見られるんですよ、それにほら、ここを見てください旧西暦の世界大戦前後に超機人が出没したという記録も残されています」

 

「……読めないのですが?」

 

「ああ、失礼古代中国の文字ですから一般人には読めませんでした。これは失礼しました」

 

失礼したと言いつつ、まったく悪びれた様子もないもアーチボルドにユウキは眉を顰めた。

 

「まぁ良いでしょう。僕の家は元々イギリス貴族でしてね。一時期は財団を持つほどの隆盛を誇ってましたが……どうやら超機人と関わったことが没落のきっかけになったようです。おかげで、今は貴族などとは無縁の生活ですよ。ま、別に困っちゃいませんが……自分の家が没落した存在を自分が好きにすると言うのも面白いでしょう? 詳しくは中国が近づいたら説明します。僕とユウキ君だけではそこまで念入りに説明しても意味がないですしね」

 

アラド、ゼオラ、カーラの3人は今キラーホエールへの機体の乗せ変えなどを行っており、この場にはいないからこの話はここで終わりましょうというアーチボルドにユウキはどうしても気になっていた事を尋ねた。

 

「少佐、貴方はその超機人の存在を信じているのですか?」

 

態々中国に向かう価値があるのか? と問いかけるユウキにアーボルドは楽しそうに笑った。

 

「正直、僕もこの間まではマユツバものでした。しかし、ローズからの情報でLTR機構が遺跡の発掘をしていることが判り……是非、自分の目で真実を確かめてみたいと思いましてね。納得していただけましたか?」

 

「了解です。それが作戦であり、命令ならば私はそれに従います」

 

「それは結構。ああ、ユウキ君。後で良いのですがセロ博士にブロンゾ27と28は次の任務で使えますかと聞いておいてくれますか?」

 

「彼らはかなり頑張っていると思いますが?」

 

「それがですねえ、どうも精神的に不安定らしくて、今回の作戦で使えないのならば駒としても使えないでしょう? 一応彼らの主治医に

どういう状況なのか尋ねておいてください。使えない駒に巻き込まれるのはごめんですから」

 

「……了解」

 

生きている人間を駒と堂々と言うアーチボルドに隠し切れない嫌悪感を感じながらもユウキは頷き、ブリーフィングルームを後にする。

 

(これはチャンスだな)

 

水上鬼から離れ、キラーホエールに乗り移る。そして百鬼帝国も百鬼獣もいない……アラドとゼオラを助ける最大のチャンスだと思い、ユウキはクロガネへと次の定時報告の時間を考えながら、自分も資材や物資の乗せ変えをする為に格納庫に足を向けるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

僅かに船体を浮上させたクロガネにゲッターVが着艦し、武蔵がベアー号から降りると格納庫をうろうろしていたエキドナに視線が止まった。

 

「武蔵、怪我は無いようだな。良かった……」

 

そちらに声を掛けるよりも先にユーリアに声を掛けられ、武蔵は頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。

 

「シロガネとハガネもいましたしね。久しぶりに皆に会えて良かったです……所で……エルザムさんとか怒ってますか?」

 

「……かなり怒ってるな。言い訳頑張ってくれ」

 

「まぁ、しょうがないです。覚悟してますよ……」

 

シャインを助けれて、久しぶりにリュウセイ達にも会えた。そう思えば、エルザム達の説教も怖くないと笑ってユーリアと共に格納庫の出口向かって歩き出す。

 

「エキドナさん、今帰りまし……だ、大丈夫ですか!?」

 

「ど、どうした!? 何があった!? どこか痛いのか!?」

 

格納庫を出る前にエキドナに声を掛けた武蔵だが、エキドナは武蔵を見るとその場にへたり込んでぐすぐすっと泣き始めた。それには流石の武蔵もユーリアも慌てた。見た目完全に大人の女性が幼女のように泣き出す姿は武蔵とユーリアを動揺させるには十分な光景だったから……エキドナは溢れ続ける涙を服の裾で拭いながら武蔵を見つめる。

 

「よ、良かった……怪我してない。良かった、武蔵が怪我をしないで帰ってきて……」

 

どうやらエキドナは武蔵が無事に帰って来た事に安堵し、腰が抜けてしまったようで泣きながら良かった良かったと言って、立ち上がれないでいた。

 

「すいません。エキドナさん、心配かけたみたいで。立てますか?」

 

「……無理」

 

「しょうがないな、私が肩を貸そう」

 

「オイラも手伝いますよ」

 

ユーリアと武蔵に肩を借りて立ち上がったエキドナは意外そうな顔でユーリアを見つめた。

 

「残念お前、案外優しい?」

 

「残念ってユーリアさんに失礼ですよ。それにユーリアさんは優しいですよ?」

 

全く汚れのない瞳で信用しきった目で優しいと武蔵に言われ、ユーリアはうっと呻いた後、ま、まぁなっと恥ずかしそうに笑った。

 

「武蔵君……それはどう言う状況だ?」

 

武蔵が帰って来たと知って格納庫に来たエルザムだが、エキドナをユーリアと武蔵が両サイドから支えているのを見てさすがに怪訝そうな顔をする。

 

「オイラが無事に帰って来たって知って腰が抜けちゃったみたいで……後で説教でも何でも聞くんで、ちょっと待っててくれますか?」

 

「そういう話ならばしょうがない。医務室に連れて行って上げるといい、武蔵君は後でちゃんとブリーフィングルームに来るんだぞ」

 

エルザムの言葉に判ってますと武蔵は返事を返し、ユーリアと共にエキドナを医務室に運んでからエルザムに呼ばれているからと言ってエキドナとユーリアだけを医務室に残して出て行った。

 

(いやいや、何をしろと?)

 

エキドナと2人きりにされたユーリアはどうすればいいのかと困惑していた。普通なら部屋を出て行けば良いのだが、エキドナに服を捕まれているので立ち上がることも出来ない。互いに何も言えず、ベッドに腰掛けるエキドナと椅子に座っているユーリアと言う奇妙な光景がそこにあった。

 

「ユーリアは武蔵といると嬉しそうだ」

 

「きゅ、急になんだ!?」

 

口を開いたと思ったら武蔵といると嬉しそうと言われ、ユーリアは思わず声が上ずった。

 

「私は武蔵といると嬉しい。でも、ユーリアと一緒なのを見ると何か寂しい……判らない。これは何?」

 

「判らないとは? 何がだ?」

 

「判らない、武蔵といるとここが温かい……でも、ユーリアと一緒なのを見るとここが痛い」

 

胸が痛いと訴えるエキドナ。その姿はとても小さな幼子のように見えて、何度も出し抜かれていたり、武蔵がエキドナを甘やかしているのを見て面白くないと感じていたユーリアだが、今のエキドナを見ているとそれがとても大人気ないことのように思えた。

 

「そうだな、それが何かって言うのは口で説明するのは難しいな」

 

「お前もあるのか?」

 

「あるさ。でも……そうだな、エキドナはその感じは嫌いか?」

 

「ん、嫌いじゃない。ユーリアはこれが何か知ってるか?」

 

「知っていても口にするのは難しいな……でも、そうだな。うん、悪い物では無いとだけはいっておこうか」

 

自分だけを見て欲しいと思うのも、一緒にいると楽しいのも全ては恋によって齎されるものだ、だけどそれを口にするのは難しく、そしてそれを口にするには気恥ずかしい。

 

「そうか、いつか私も判るときが来るだろうか?」

 

「来るよ。私もそうだった」

 

武蔵がブリーフィングルームでエルザム達にビアンと共に謝罪を繰り返している頃。医務室ではユーリアとエキドナが奇妙な友情を結ぼうとしていたのだった……。

 

 

第20話 古の呪歌 その1へ続く

 

 




次回はハガネを見送るシャイン、アラドとゼオラ、そして安西博士などを出して戦闘開始までを書いて行こうと思います。ほんの少しゲッターの要素も出して行こうかなとか思いますね、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話 古の呪歌 その1

第20話 古の呪歌 その1

 

様々な光景が浮かんでは消えていくを繰り返す、悪趣味なパッチワークのような世界で異形の影が浮かび上がる。樹木のような身体、肉食動物を連想させる牙が生えた腕、そして重厚な機械を思わせる紫色の装甲を持つ機械のような、生物のような、そして植物のような……相反するすべての要素を持つ異形はいくつも移り変わる光景の中で1つだけ、1回も景色が変わらない光景へと、その触手のような腕を伸ばした。

 

「……問題……あり……宇宙……監視……静寂……で……なければ……」

 

途切れ途切れで今にも消えてしまいそうだが、それでも強い意思がこめられた視線でその光景を……いや、1つの世界を見つめる異形の影。その背後には胸部が抉れ、ぐったりとした様子で横たわるどことなく、アルトアイゼンに似た異形の巨人の姿があった……それは武蔵とアクセルが決死の思いで倒した「アインスト・ヴォルフ」だった。

 

「望まれた……世界……破壊……された……許されない……進……化の光……我らの……物」

 

光さえない世界にほんの僅かに零れる翡翠の輝き……ゲッター線の輝きに異形――「アインスト・レジセイア」はその手を伸ばす。

 

「もう1つの世界……2つのルーツ……望んでいない……世界……混乱……混沌……守護者を……排除……進化の光……手に……世界の……修正……完成する……新たなる生命……新たな世界……失敗した……だけどまだやりなおせる……我ら……こそ……正当なる……進化の光……後継者なり……」

 

レジセイアも、傷を癒しているアインスト・ヴォルフもその瞳に怪しい光を宿し、零れ落ちるように現れるゲッター線を狂気を宿した瞳で見つめ続けているのだった……。

 

 

 

 

 

 

リクセント公国で国賓を降ろし、僅かだが補給を済ませ、ハガネとシロガネは忙しく出発の準備を整えていた。百鬼獣、百鬼帝国……そしてシャインの証言の全てを伊豆基地のレイカーへと伝える為に一刻も早く日本に帰る必要があった。

 

「シャイン王女。大丈夫ですか?」

 

「ラトゥーニ……ええ、私は大丈夫です。今までは不安と恐怖に怯えて過ごす毎日でした……だけど」

 

窓から夜空を見上げるシャインの顔はこの半年見た事が無いほどに輝いていた。

 

「武蔵様に会えました……だから私は大丈夫です。不安があっても、恐怖があっても……それに屈する事無く前へ進めます」

 

胸に手を当てて微笑むシャイン王女の瞳には強い意思の光が宿っていた。何があっても屈しない、不屈を訴える瞳を見てラトゥーニは安堵の笑みを浮かべた。

 

「良かった。もし、またあんな事があったらすぐに連絡を……どこにいても助けに来ます」

 

「ふふ、ありがとう。ラトゥーニ……でも私は武蔵様に助けて欲しいですわ。そう、貴女がリュウセイに助けて欲しいと思うように」

 

「しゃ、シャイン王女ッ!」

 

まさかこんな切り返しをされると思っていなかったラトゥーニが慌てた様子で手を振る。シャイン王女はそんなラトゥーニの様子を見て、してやったりと言う表情で笑いラトゥーニの手を握った。

 

「頑張りましょうラトゥーニ、恋する乙女は強いんですの、何があっても負けてはなりません、くじけてはなりません。私にはこんなことしか言えませんが……頑張って」

 

「……シャイン王女。はい、ありがとうございます」

 

再びラトゥーニは戦いに身を投じなければならない、自分の家族を取り返すために……そして再びこの世界に広がろうとしている戦火を止

める為にも立ち止まっている時間は無いのだ。

 

「行ってきます、シャイン王女。今度来る時は……武蔵と一緒に」

 

「……ふふ、ありがとうラトゥーニ。でも私は武蔵様が会いに来てくれるのを楽しみに待ちたいの、だから大丈夫よ」

 

幼い少女である筈なのに、全てが判っていると言わんばかりに微笑むシャインに頭を下げてラトゥーニはシャインの私室を後にした。

 

「もう行かれるのですか?」

 

「はい、まだ私達にはやることがありますから」

 

「そうですか……お気をつけて」

 

シャインの部屋の外で待っていたジョイスは柔らかく微笑んでいるが、その目に激しい怒気が浮かんでいるのを見て思わずどうしたんですか? とラトゥーニは尋ねた……尋ねてしまった。

 

「2度に渡りシャイン様を助けてくれた事に私は深く感謝をしております。ですが、顔も見せず、再び行ってしまった武蔵を私は許せません。ですので、今度は逃げれないようにしたいと思っております」

 

「そ、そうですか……」

 

ごきりっと拳を鳴らすジョイスに武蔵が以前叫んでいたやばい人と言う意味を知ったラトゥーニは若干引き攣った顔でその場を後にするのだった……。

 

「皆さん……どうかお気をつけて……武蔵様もお怪我などをなさらないように……」

 

リクセントから飛び立つハガネとシロガネを腕を組んで見送るシャインは、ジョイスがまさか今度武蔵が現れたら力付くでもリクセントに縛りつけようとしているなんて思いもせず、ラトゥーニ達と武蔵の無事を祈り続けていたのだった……。

 

 

 

 

 

 

一報その頃。水上鬼からキラーホエールに乗り換え、中国を目指すアーチボルド達。その中でゼオラは与えられた個室で横になり、カーラに看病をされていた。

 

「具合はどう? ゼオラ」

 

濡れタオルを絞ってゼオラの額に当てながらカーラがそう尋ねる。

 

「すみません、頭痛と腹痛が酷くて……」

 

ビルトファルケンの奪取後から調子の悪いゼオラはユウキの命令によって、自室待機が多くなっていた。最初は女性特有の物を疑っていたが、明らかに病状が重く他の病気の可能性を考慮したユウキによって同性のカーラがゼオラの面倒を見ていた。

 

「ま、しょうがないよ。無理はしないでね」

 

「でも1回出撃しただけでダウンするようじゃスクールの名折れです」

 

スクールの生徒であるゼオラ。だが同じスクールのアラドはスクールを嫌っていた……アラドとゼオラの言うスクールの実態……どちらが正しいのかカーラには判らなかったが、心情的にはアラドの言い分を信じたかった。

 

「あのさ、1つ聞きたいんだけど良いかな?」

 

精神的に不安定であると聞いていた、そして不安や揺さぶりをかけるような事を言ってはいけないと念入りに注意されていたが、カーラは言わずにはいられなかった。

 

「別にスクールが悪いって言うつもりじゃないよ? でもさ、なんでスクールの人はビアン博士が死んだって貴女に教えたの?」

 

カーラの言葉が理解出来ないと言う様子のゼオラの目が激しく揺れた。それは聞きたくない事実を聞かされたと言わんばかりに柔らかな笑みを浮かべていたゼオラの表情が崩れた。

 

「生きている……ビアン総帥が? はは、何を言っているですか? リルカーラさん、ビアン総帥は死んだんですよ?」

 

何の感情も込められていない声と瞳で機械のように告げるゼオラにカーラは眉を顰めた。

 

「いやいや、ビアン総帥は生きてるでしょ? そっちこそ何を言ってるの?」

 

L5戦役の時にユウキによって助けられ、ユウキがいるからとアーチボルドみたいな外道と共にテロリストの真似事をしているカーラだが、これが全て人類の為に、ひいては地球を救う事に繋がるというユウキの言葉を信じて一緒に行動している。ユウキがいなければ、カーラはゼオラとアラドの2人を連れてとうの昔にキラーホエールを脱出して、連邦に逃げ込んでいる。ユウキが大丈夫だからと言うから、カーラはその時を待っているに過ぎない。

 

「私達は……ビアン総帥の仇を討ち、あの方の悲願であった軍事政権の樹立を実現させ……異星人から地球圏を守る為に……戦うのです……」

 

(これ本当に大丈夫なの、ユウ……あたし、判らないよ……)

 

想定外の言葉を言われ、機械の様になったゼオラを見て、カーラは激しい不安に駆られた。そもそも百鬼帝国も、百鬼獣もカーラは好きでは無い、自分の故郷を焼いた憎いメカザウルスを連想させるから……そしてその時に自分を助けてくれたユウキを信じて、アーチボルドに嫌な命令を下されても自分を庇ってくれるユウキがいるから、ここまでやってきたが……ゼオラの様子を見て本当にここにいて良いのかと言う不安がカーラの中で生まれた。

 

「……リルカーラ少尉はどうしてDCに?」

 

急に瞳に生気が戻り、声にも人間らしさが戻ったゼオラだが、自分達をDCと呼んだ。硬直していた数秒の間に一体何があったのかとカーラはいぶかしんだ。

 

(スクールなんて、誇るものじゃないよ。ゼオラ……アラドの方が正しいよ)

 

薬物投与、精神操作をして子供を無理にパイロットに仕立てていたスクール。ゼオラはその事を口にしないが、アラドはそれを言う。それは精神操作や薬物投与のレベルがゼオラよりもアラドの方が弱く、アラドが正常な理解力を持っていて、スクールの教えに抗い、ゼオラに自分を取り戻せと言っているようにカーラには感じられた。何故ならば、自分達はDCはDCでも、ビアンに反旗を翻したアードラー派のDCに所属しているのであって、誇れるような存在では無いのだから……。

 

「リルカーラ中尉?」

 

「あ、ああ……あたし? あたしもあんたと同じような感じかな」

 

2度声を掛けられ我に帰ったカーラ。ゼオラの事が心配でも、今はユウキを信じて待つしかない。今までもそうしてやってきた……だからユウキを信じて大丈夫だと自分に言い聞かせながらゆっくりと口を開いた。

 

「あたしの故郷さ、L5戦役の前にメカザウルスの攻撃を受けちゃってね……父さんや母さん、弟が死んで……あたしだけ生き残ったんだ」

 

今でも目を閉じればカーラの瞼にはあの時の恐怖が鮮明に浮かび上がる。機械と生身の体を持つ異形の恐竜がその牙を、爪を振るい、炎で生まれ育った街を焼く姿をカーラは1秒だって忘れた事はなかった。

 

「連邦は助けに来てくれなかった……だけどユウ達が助けに来てくれた」

 

ユウキは忘れていると思っているのか、その時の話をしないが、カーラはしっかりと覚えていたDCの旗艦……クロガネから現れたユウキ達の姿を、必死に救助活動を行っているその姿をカーラは知っている。今はこうしてテロリストとしてのDCに扮しているけど、ユウキが本当の意味でDCの兵士だとカーラは知っているからユウキを信じて待っていられるのだ。

 

「じゃあ、少尉は連邦への復讐を……?」

 

復讐の為にいるのか? と言われカーラが言葉に詰まっているとゼオラの私室の扉が開いた。

 

「……ゼオラ、薬を持ってきたよ」

 

「あ、セロ博士……ありがとうございます。カーラ少尉もありがとうございました」

 

ベッドサイドに置かれている桶やタオルを見てカーラはゼオラの看病をしていたと悟ったクエルボは穏やかな笑みを浮かべた。

 

「ありがとうリルカーラ少尉。後は僕に任せて席を外してくれないか?」

 

柔らかな口調だが、自分が邪魔者と目が訴えているクエルボに眉を顰め、カーラは無言で部屋を後にし、そのままの足でユウキの部屋に足を向けた。

 

「ユウ、ユウ。今良い?」

 

『カーラ? 少し待て』

 

部屋の外で待っていてくれと言うユウキの言葉に判ったと返事を返し、カーラはユウキが呼ぶのを待った。確かにユウキは信じているし、大丈夫だと思っていた……だけど、今回の件はどうしてもユウキに話しておかなければならないとカーラは感じていた。

 

「すまないな、どうした?」

 

「……ちょっとゼオラとアラドの事で」

 

「……判った。はいってくれ、話を聞こう」

 

ゼオラとアラドの事と聞いて険しい顔をするユウキに招かれて、カーラはユウキの私室へと足を踏み入れるのだった……。

 

 

 

 

無言で自分への嫌悪感を見せながら退室したカーラを見て、クエルボは内心安堵の溜め息を吐いていた。

 

(良かった……ゼオラとアラドの事を心配してくれる人がいた)

 

クエルボは確かにスクールの人間であり、ゼオラ達に投薬や精神操作を施している張本人ではあるが、アギラのようにゼオラ達を道具とは思っておらず、今回のゼオラの不調だってクエルボの計算の内の事だった。スクールに、DCに、ビアンの事に疑問を抱いてくれと、リマコンは自分で疑問を持ち、それに抗わなければ解除出来ない。投与する薬の濃度を落とした事でゼオラには不調が出てしまったが、アラドはクエルボの計算通りスクールとDCについて疑問を抱いてくれた……博打に出た甲斐があったとクエルボは内心安堵していた。

 

「……前回の戦闘、ビルトファルケンの奪取任務の後からあまり調子が良くないようだね。何か悩んでいることでもあるのかい?」

 

優しく声を掛けるクエルボだがゼオラは布団を握り締めて、黙り込んでいる。

 

(……僕の想定外の事が起きている?)

 

ゼオラ達はクエルボやアギラの問いかけにはすぐ返事をするように調整されている。それなのに、黙り込むという行動に出たゼオラに何か計算外の事が起きているのかとクエルボは内心焦った。だが、ゼオラの口にした言葉に更なる焦りを見せた。

 

「実は……ビルトファルケンにラトが乗っていたんです」

 

「ラト? もしや、ラトゥーニ11か……ッ!?」

 

自分が名前をつける事が出来なかった少女……今でもずっとその事が心に引っかかっていたクエルボは思わず彼女の事を番号で呼んでしまった。

 

「あ、いや……すまない。あの子には名前を付けてあげることが出来なかったからね。しかし、彼女が生きていたとは……いや、嬉しいよ。そうか……そうか、彼女に会って驚いてしまったんだね?」

 

連邦の新型のパイロットをしていたと言う事にはクエルボも驚いた。ラトゥーニは暗所恐怖症などを発症していて、2度とPTには乗れないと判断されて訓練機と共に廃棄された……その場にいたクエルボは、アードラーとアギラに見つからないように時間差で救援シグナルをセットしていた、それが無事に発動した事に安堵していた。そしてゼオラの不調も想定外の事によるパニックによる物だと思っていた。だが次の言葉にクエルボは目を見開いた。

 

「ええ、私も驚きました。ビアン総帥が生きているって……地球に危機が迫ったら立ち上がるって……あの子……わ、私にこんな事をしたら駄目だって……私の手から拳銃を取ろうとして……そ、それで……それで……私ッ! 訳が判らなくなって、ラトに拳銃を……ラトを……ラトを撃ってしまったんですッ……あ、あんなに大事に思っていたのにッ……わ、私……あ、あの子を……こ、殺してしまったかもしれない……」

 

自分の手を見て震えるゼオラ……。ゼオラの不調はラトゥーニを殺してしまったかもしれないという恐怖から齎されているものだった。

 

(しくじった……だから反対したんだ)

 

ゼオラとアラドの調整を緩めている事を気付かれ、出発前にアギラに手を加えられていた事は知っていた。そして憎悪を利用する事でより連邦に強い敵意を向けさせるようにとビアンが死んで、ビアンの遺産を連邦が好き勝手使っていると認識させると言っていたが、それが完全に裏目に出ていた。

 

「せ、セロ博士……ビアン総帥は亡くなられたんですよね? そうですよね?」

 

「……ビアン博士は現在行方不明ではある。僕達はビアン博士を探しているんだ」

 

「ビアン総帥は……生きてるんですか? で、でもアギラ博士は……」

 

「行方が判らないから死んでいるかもしれないって言っただけかもしれない、それにラトゥーニだって死んでいるのを見たわけじゃないんだろ? じゃあきっと彼女も生きている」

 

「生きてる……ラトが……あの時、ビルトファルケンと一緒にラトも連れて帰ってあげれば……」

 

死んだような顔色をしていたゼオラの頬に僅かに朱が指した事にクエルボは小さく安堵の溜め息を吐いた。その場しのぎだが、ビアンが生きていると言うのと、ラトゥーニが生きていると言う事を繋げる事が出来た事でゼオラの中で整理がついたようだ。

 

「自分で悩んでいるくらいなら、僕に相談してくれたら良かったんだよアラドはこの事を知っているのかい?」

 

「い、いえ、アラドにも話していません……すいません。なんて言えば良いのか判らなくて……」

 

(アラドに依存している訳ではないか、こっちもアギラ博士か)

 

アラドとゼオラはペアでの行動を前提にしている。自分には話してなくても、アラドには話をしていたかもしれないと思っていたのだが、アラドにも話をしていないと聞いて今までのゼオラとは余りにも違うと感じ、クエルボは顔を顰めた。

 

「そうだ、博士。お願いです、博士。この事をオウカ姉様に伝えて下さい。ラトを一番可愛がっていた姉様が来てくれれば、きっとあの子も……私達についてくると思うんです」

 

オウカの名前を出したゼオラ。クエルボも本来ならば、それが名案だと思うのだが今アギラに調整されているオウカがラトゥーニに反応するかどうかがクエルボには不安要素だった。

 

「博士? 駄目なんでしょうか?」

 

「いや、良いよ。ラトゥーニの事は僕からオウカに伝えておくよ、とにかく、今は体調を整えることに専念するんだ。後はアラドはパートナーなんだから、自分で抱え込みすぎないで相談するんだよ?」

 

「……はい、判りました」

 

ゼオラの頭を撫でてクエルボがゼオラの私室を出た所で足を止めた。

 

「アラド。どうしたんだい?」

 

「あ、セロ博士……あのさ、俺気になる事があるんだけど……ビアン総帥って生きてるのか? ユウキ少尉とかは生きてるって言うんだけどさ」

 

「そうだね。正直僕も行方不明だからビアン総帥が生きているか、死んでいるかは判らないんだ」

 

「じゃあ生きてるかもしれない?」

 

「僕は生きていると思うよ。いつか合流出来ると良いね、さ、アラド。ゼオラのお見舞いに来たんだろ? 行くといい」

 

ゼオラの部屋の扉の前からどいて、アラドをゼオラの部屋に入れたクエルボは早足でゼオラの部屋の前から歩き出す。

 

(これは大きなチャンスなのかもしれない)

 

連邦では投薬もリマコンも既に利用されていない。ラトゥーニが自分の意志でPTの乗れるほどに回復していると考えれば、独断や偏見なく触れ合ってくれる人間がハガネにはいるという事になる。流石にゼオラ達に逃げろとは言えないが、もしも捕虜としてでも良いハガネに回収して貰えればとクエルボは願わずにはいられないのだった……。

 

 

 

 

 

ユウキからアーチボルドが中国に向かっていると言う情報を得たクロガネは東シナ海の海溝に潜みながら中国へと向かっていた。ちなみに独断出撃かつ、大暴れをして来た武蔵への説教は非常に長時間に渡り行われた。

 

『自分の立場というものを判っているのか? 武蔵君。君の優しい気持ちは良く判っているつもりだが、それとこれとは話は別だ』

 

エルザムは武蔵の性格を理解した上で、しかしそれでも独断専行は許されるものではないと怒った。

 

『馬鹿が、何故俺達が戻るのを待たなかった』

 

ラドラは余計な事は言わず、ストレートに馬鹿がと吐き捨てた。それがラドラなりの自分ひとりで何でも出来ると思うなというメッセージが込められているのに気づき、武蔵は凹んだ。

 

『……俺はなにも言わん』

 

そしてゼンガーは無言を貫いた。ゼンガーからすればアースクレイドルにソフィアが囚われているのを知っており、それを助けに行きたいが、それも出来ないと言うことで武蔵の気持ちは判るからこその無言だが、武蔵はそれを逆に勘繰り落ち着かなくなった。ちなみにゼンガーは武蔵とシャインが恋仲と勘違いしているのもある。

 

『もう少し頭を使え……ああ。無理だったな、ゲッターパイロットはその場の乗りで生きているような所もあるし、隼人がいなければストッパーすらいない暴走特急だ。物を考える事が出来なかったな。ああ、すまない。俺がもう少し見ているべきだったな』

 

イングラムのマシンガンの嫌味で武蔵は完全にグロッキーになっていたが、忘れてはいけないのはイングラムも武蔵とそう大差が無いという点だ。

 

『罰則として整備兵の手伝いと食堂の洗い物の手伝い2週間という所が落とし所だが、異論は?』

 

『ありません……』

 

そしてカーウァイによる罰則の発表で武蔵への説教は終わったが、罰則が発表されるまで5時間近く掛かっていたりしていて、武蔵のメンタルがボコボコにされていたのは言うまでも無い。

 

 

 

「ユウキからの報告でLTR機構の採掘現場を襲うという情報を得た。あの場所にはゲッターロボの情報もあるから下手に破壊等をされたくない。ラドラ、頼めるかね?」

 

「良いだろう。俺も身体が鈍っている、中国は任せてもらおう」

 

武蔵ではLTR機構のアンザイ博士が何としても武蔵を捕まえようとするだろうからゲッターロボでの出撃は今回は見送り。イングラムとカーウァイはハガネとシロガネが動いているので自分達がクロガネと行動を共にしていると思われては困るので、これまた見送りである。

 

「む、ビアン博士。エルザムも出撃すると聞いていたのだが……」

 

「ああ、エルザムは正体がばれてはいけないから変装すると言っていたな。実に素晴らしいアイデアだと思う」

 

輝く笑顔のビアンにイングラム達は額に手を当てて、天を仰いだ。何故ビアンは優秀なのにそういう事になると途端にIQが下がるのか……頭の良さが完全に裏目に出ている。

 

「完璧な変装だと思うのだが、どうだろうか?」

 

そしてそんな時に自信満々のエルザムがブリーフィングルームに入ってくるのだが、ファー付きのジャケットとサングラスで変装と言い切るエルザムにブリーフィングルームに嫌な沈黙が広がった。

 

「エルザム……それは「ゼンガー、この姿の時はレーツェル……レーツェル・ファインシュメッカーと呼んでくれ」れ、レーツェル?」

 

偽名まで考えてノリノリのエルザム……いや、レーツェルにビアンは手を叩き、武蔵も満面の笑みを浮かべた。

 

「素晴らしい、とても良い変装だ。エルザム……いや、レーツェル」

 

「エルザムさん……いや、レーツェルさん、マジ渋いっすよ」

 

信じられない物を見るような目を向けられるが武蔵達はそれに気付かず、エルザムの変装を褒め称えていた。

 

「武蔵君、君が着れそうなジャケットがあるのだがどうだろうか?」

 

「ええ、良いんですか!? 貰います!」

 

止めろと全員が思ったが、とうの武蔵とエルザムがノリノリなので誰も止める事が出来ないでいた。

 

「んん、その素晴らしいセンスの服は今はおいておいてだ。ハガネにシャドウミラーの構成員らしいものがいるのは問題だ」

 

素晴らしい服と褒め讃えている事にも問題があるが、武蔵がリクセントで見たアンジュルグも大きな問題となっていた。

 

「下手に撃墜すれば、俺達の立ち位置が悪くないか」

 

「そうですね、ちょっと見ただけですけど、かなり馴染んでいる様子でしたし……スパイだと訴えても……」

 

「証拠がない……か」

 

映像記録では連携も完璧に近かった。それを考えると下手に言うと武蔵やイングラムを語り、輪を乱そうとしていると感じられると困る。怪しくはあるが、エキドナと同じ様に記憶喪失の可能性もあるため。今の段階ではアンジュルグのパイロットに関しては様子見せざるをえないと言う結論になった。

 

「武蔵君、ユーリアのヴァルキリオンを2人乗りに改造している。今回はゲッターを使わずに様子を見てきてくれ」

 

「了解です! レーツェルさん、ラドラそれじゃあ行きましょうか」

 

「ああ、では大佐行ってきます」

 

「ゼンガー、クロガネは頼むぞ。大佐、行って参ります」

 

カーウァイに敬礼し出て行くラドラとレーツェル、その後を武蔵がついてブリーフィングルームを出て行った。

 

「さて、では私達は会議を続けよう。百鬼帝国、そしてアースクレイドルに関してだ」

 

そう告げてブリーフィングを始めるビアンにはさっきまでのエルザムの変装を褒めていた面影は何処にも無く、人知れず地球を守っている男の顔になっており、イングラム達も真剣な表情をしこれからクロガネがどう動くべきなのか、百鬼帝国の脅威をどうやって伝えるのか? そして今もなお姿を見せないシャドウミラーの事を話し合い始める。

 

「バン大佐が意識を取り戻してくれれば話は早いのですが……」

 

「そうも言ってられないのだよ、ゼンガー。バン大佐の傷は想像以上に深かった、それこそバン大佐でなければ死んでいてもおかしく無いだろう。今私達に出来るのはバン大佐が持ち帰ってくれた手がかり……イスルギ重工とシャドウミラーが繋がっていると言う確証を得ることだ」

 

バンはイスルギ重工の偵察で重傷を負った。その事からイスルギ重工とシャドウミラーが繋がっている事は間違いないが、証拠もなしに攻め込む訳には行かない。今は周辺偵察などを行い、事実確認を続けるしかないのだ……。

 

「アースクレイドルの事が心配なのは判る。だが今は耐える時なのだ、ゼンガー」

 

「……承知」

 

ゼンガーがアースクレイドルの責任者である、ソフィア・ネート博士と恋仲であると言うのはビアンも知っていた。だが天然の要塞であるアースクレイドルに今の戦力で攻め込むのは自殺行為に等しい……今ビアン達に出来る事は身を潜め、そして脅威へと備える事。そして地球へと迫る危機を振り払う剣を作り上げる事なのだ。今は姿を見せる事は無くとも、ビアン達もまた地球を守る為に戦っているのだから……。

 

 

 

第21話 古の呪歌 その2へ続く

 

 




アンザイ博士は次回の最初の方に入れて、戦闘開始とアインストの出現までを書いて行こうと思います。本当はこの話でアンザイ博士を出して行こうと思ったんですけど、ここで入れると変な風にきってしまうので、ここで終わることにしました。原作とは違う展開を違和感無く入れて行こうと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話 古の呪歌 その2

第21話 古の呪歌 その2

 

リクセント公国を出て伊豆基地へ向かうハガネとシロガネの2隻のスペースノア級。その2つのブリーフィングルームでは百鬼獣と戦闘中に出現した3体の謎のPTと特機についての分析が行われていた。

 

「ラトゥーニ少尉と分析した結果だが、ゲシュペンスト・タイプSに関しては98.7%カーウァイ大佐の戦闘データ及びモーションデータと合致している。10%ほどの差異は恐らく改良された結果による重量などの変化によっての差異と見て間違いない、あの機体のパイロットはカーウァイ大佐と断言出来る」

 

「……やはり……か」

 

同じ教導隊メンバーとして、カーウァイを慕い、そして鍛え上げられたギリアムも認めたことで、カイは自分の思い過ごしでは無いと言う事が判ったが、それを上回る謎が残された。

 

『カーウァイ・ラウ大佐はエアロゲイターによって改造を施され、殉職なされたと報告が上がっている。それでもなお、少佐達はタイプSのパイロットがカーウァイ大佐だというのか?』

 

「ええ。間違いないですリー中佐……何故亡くなられた筈のカーウァイ大佐が生きているのか……その謎はゲッター線。それが握っているでしょう」

 

ゲシュペンスト・タイプSは非常に強力なゲッター線反応を残してその場から消えている。ビームライフル、ビームソードもゲッター線反応を残している事から動力がゲッター炉心に置き換えられていると考えて間違いない。

 

「もしかしてギリアム少佐って、武蔵と同じでカーウァイ大佐が過去へ跳んだって考えてます?」

 

エクセレンがおずおずと手を上げて尋ねる。現に武蔵は過去から新西暦へ来た、その逆もありえない話ではない。

 

「俺はそう考えている。そしてそれはR-SWORDの存在が証拠と言っても良いだろう」

 

「……イングラム少佐しか設計図を知らないからですか?」

 

「その通りだキョウスケ中尉。半年の間捜索しても見つからなかったゲッターロボの残骸……メテオ3との戦いで再び過去、旧西暦へ跳んだと考えてもありえない話ではない」

 

オカルト、そして余りにもSF染みた話だがブリーフィングに参加しているリーを除く、全員がギリアムの話が限りなく真実に近いと感じていた。

 

『頭が痛くなってきた……そんなことがありえるのか?』

 

『リー、俺は喋る猫を見たぞ』

 

『喋る猫だとッ!? そんなオカルト染みた事まで起きていたのかッ!?』

 

『ああ、後でデータを見せてやるよ。うん……自分の常識が崩れ去る瞬間って言うのを多分感じると思う』

 

テツヤが話しているのは恐らくサイバスターのパイロット。「マサキ・アンドー」と「シロ」と「クロ」の話だろう。あれを見れば、いかに自分の常識が偏った物かリーも思い知る事になる筈だ。

 

「R-SWORDはイングラムしか図面を知らない機体だわ。つまりあれが存在していると言う事はイングラムも生きている可能性が高い」

 

「そこに付け加えると、R-SWORDの戦闘とモーションデータは99.2%。イングラム少佐の物と合致している」

 

イングラムしか知らない機体の図面とほぼ100%のモーションデータの合致……それは誰が聞いてもイングラムの生存に繋がる。そして……リクセント公国で現れたゲッターロボ。

 

「武蔵もイングラム少佐も生きているなら何故、俺達の前に姿を見せてくれないのですか? 何か理由があるのでしょうか?」

 

ブリットがそう口にした。確かにL5戦役では武蔵とイングラムにすべてを押し付けた形になった、だから自分達に会いたくないと考えているのか、それとも合流したくとも出来ない理由があるのか? とブリットは口にした。

 

「こうして助けに来てくれたことを考えると恨まれていると言う線はないな」

 

「と言うか、武蔵が人をあんまり恨むって言うのが想像出来ない。少佐ならまだしもな」

 

「いや、それは言いすぎ……じゃないかもしれないわね。うちのキョウスケと同じくらい鉄面皮だから」

 

「おい、エクセレン」

 

「やだ、聞こえてた? キョウスケったら地獄耳♪」

 

何故武蔵とイングラムがハガネとシロガネに合流しないのかと言う話でエクセレン達がそれぞれの意見を口にしている中。ラミアは腕を組んで、その話に耳を傾けていた。

 

(合流しないのは恐らく私のせいだろうな……)

 

ラミア自身と武蔵、イングラム、カーウァイの3人は直接的な面識は無い、ラミアは3人の容姿と名前を知っているが、向こうはラミアの事を知らないだろう……しかしアンジュルグの存在は知っている。ハガネとシロガネにシャドウミラーの構成員がいる可能性を考えて合流しないと決断したのだろうとラミアが考えているとギリアムの手を叩く音が響いた。

 

「それに関しては俺とダイテツ中佐、リー中佐の中である可能性があると結論付けた。ハワイ、リクセントで現れた異形の特機……百鬼獣に関してだ」

 

「それはそう呼称するという事でしょうか?」

 

「いいや違う。百鬼獣の存在とはかつて……そう、武蔵が恐竜帝国と戦った後の時代に地球に存在した集団の戦闘兵器。そして、その集団の名前は「百鬼帝国」……そして更に付け加えて言うと……その目的は「世界征服」だ」

 

「ギリアム少佐、冗談……え? マジ?」

 

「大マジだ。失われた時代よりも前の話だからしっかりと文献も残っている。お前達は余り良い思い出はないかもしれないが……ゲッターロボGが百鬼獣と戦い、地球を守っている。その尖兵が百鬼獣――文献に残されている絵と完全に合致している」

 

「つまり、武蔵達は、その百鬼帝国とやらを探して、俺達と合流していない?」

 

「その可能性は……なんだ!?」

 

突如鳴り響いた警報にギリアムが声を上げるとすぐに館内放送が入った。

 

『現在中国のLTR機構の採掘現場が襲撃を受けている! 救難信号に基づき進路を変更! ハガネとシロガネは中国へ向かうッ!』

 

「採掘現場……いかんッ!!!」

 

採掘現場と聞いてギリアムがブリーフィングルームから飛び出す。

 

「ギリアムどうした!?」

 

「中国の採掘現場でゲッターロボに関する記述が見つかっている! 恐らくそこに、百鬼帝国の資料も眠っている可能性があるッ! それを失う訳にはいかんッ!! 俺が先行するッ!」

 

情報部であり、正式なハガネとシロガネのクルーではないギリアムだからこそ、独断で出撃出来る。

 

「ちいっ! キョウスケ戦闘班の指揮はお前に任せるッ!」

 

「了解ッ! すぐに出撃準備を整えます!」

 

ギリアムを1人で行かせるわけには行かないとカイはキョウスケに指揮権を依託し、ギリアムの後を追ってブリーフィングルームを飛び出して行き、その後を追ってハガネとシロガネも最大戦速で中国へと向かうのだった……。

 

 

 

 

 

 

中国蚩尤塚の採掘現場を取り囲むリオン、アーマリオン、バレリオン、ランドグリーズの姿を見て採掘現場の主任であり、LTR機構の博士である「エリ・アンザイ」はその整った顔を驚愕に歪めた。

 

「どうして……やっと採掘が軌道に乗った所なのにッ!」

 

今回の採掘は古代中国に存在したと言う「超機人」それの採掘作業だった。旧西暦に存在したと言うゲッターロボ関連の石碑や、埋蔵物を発掘している最中にエリの元にも現れた武蔵。その姿を追いかけていくと、今まで見たことの無い区画を発見し、そこに巨大な「何か」が埋まっていることが判明。長い時間を掛けてやっと採掘に乗り出した所だったからこそ、その怒りは凄まじいものだった。

 

「アンザイ博士、すぐに避難して下さいッ!!」

 

「避難って何処に避難するの?」

 

避難しろといったスタッフにエリはそう尋ねる。蚩尤塚は一際高い山の上にある遺跡であり、ここに来るまでには遺跡を傷つけないように設置したエレベーターで昇ってくる。周囲をAMに囲まれている段階で逃げ道なんて何処にもなかった。

 

「し、しかし、このまま遺跡の中にいれば崩落の可能性がありますよッ!?」

 

「外に出て人質にされるくらいなら、この遺跡の中にいたほうが安全だわ。ここの遺跡の材質は非常に強固よ、外に避難しているスタッフを全員遺跡の内部へッ! 良い、遺跡に避難する前に国際救難信号を発信して! 運が良ければ何処かの連邦軍兵士が助けに来てくれるかもしれないわ!」

 

「わ、判りました! すぐに準備を整えます!」

 

下手に避難して人質にされるくらいならば、入り組んでいてそう簡単には進入出来ない蚩尤塚に篭城する事をエリは選択した。

 

「無謀って思うかしら?」

 

「いや、良い判断だと思うぞ。最近噂になっているテロリストも蚩尤塚の材質までも知らないだろうからな、目に物見せてやるわいッ!」

 

マイペースに採掘作業を続ける老人はカカカっと楽しそうに笑う。

 

「未知の合金……いいえ、ゲッター合金で出来ているんですよね?」

 

「恐らくですがね、下手なシェルターよりもよっぽど頑丈じゃよ、ああ、出来る事なら防衛用のミサイルでも組みつけておくべきじゃったのう……」

 

「そんな事をしたら遺跡発掘になりませんよ。シキシマ博士」

 

「かかかかかッ! じゃろうなあッ! エリよ、ワシは知りたいんじゃ。かつてご先祖様が手にしたゲッター線が、ゲッターロボが知りたい。だからLTR機構に来たんじゃ」

 

その目に狂気的な光を宿し、幾つも歯が抜けている口で楽しそうに笑う老人の名は「シキシマ」と言った。若い時は失われた時代を研究し、連邦によって投獄され、ゲッターロボが地球を救った事で狂人ではなく、博士として認められLTR機構に送られてきた老研究者だった。

 

「名前は思い出せた?」

 

「いいや、別に名等どうでもいい、ワシは知りたいんじゃ……ゲッター線が、ゲッターロボがッ! ああ、知りたい知りたいッ! この地で見つかったゲッターロボの石碑……あれは素晴らしいものじゃった」

 

エリの話もシキシマの耳には届かない。シキシマにとってはゲッターロボの謎を解明する……それだけがシキシマの原動力であり、そして生きる活力だった。シキシマと言うのも、遠い先祖にあやかって名乗っているだけで本当の名前は別にあるのだ。だが、本人はその名前を忘れており、そしてデータベースにもその名前はない。こうして目の前にいるが、記録上は存在しない男……それがシキシマ博士だった。

 

「ここにいるのは最後の超機人かもしれないわよ?」

 

「カカカカカッ!! それならそれで良しッ! 超機人の眠る場所にゲッター線あり! ワシは死ぬまでにゲッター線を、ゲッターロボをこの目で見るんじゃあッ!!!」

 

外で派手な爆発が起きていても、そんな事に気もくれず。発掘機を動かし続けるシキシマ博士の背中を見ながら、エリは思わず親指の爪をかんでいた。

 

(私の父の説……20世紀初頭に超機人が姿を現していたという説が本当だとしたら……超機人やゲッターロボに関する資料……神話や伝承以上に詳しいものが他に存在していてもおかしくない……だけど……まさかスパイがいる?)

 

今まで何の音沙汰もなかったのに、採掘が安定し始めた瞬間に現れたテロリスト……数日前にスポンサーに採掘が安定しそうと報告をしたが襲撃までのスパンが余りにも短すぎる。外から響く爆発音や避難して来るスタッフの悲鳴を聞きながらLTR機構内部か、スポンサーにスパイがいるかもしれないという可能性がエリの脳裏を過ぎるのだった……。

 

 

 

 

 

蚩尤塚の採掘現場を制圧したが、採掘現場から超機人らしき影は愚か、それらしい痕跡も何も無い。

 

「今というタイミングで確認する必要はなかったのでは? ハガネとシロガネが近づいているという情報もあります。早い段階で撤退するべきではないでしょうか?」

 

今何も無いのならば制圧を続け、ハガネとシロガネと事を構える必要はないのでは? とユウキがアーチボルドに進言する。だがアーチボルドは意見を変える事はなかった……。

 

「見つかってからでは遅いんです。動き出す前の超機人を押さえないと面倒なんですよ、採掘チームが見つけれ無いと言うのならば、僕達で発掘すればいい。簡単な話でしょう? ランドグリーズのような大型機を持ち出した意味を判っていますか?」

 

「……了解です」

 

アーチボルドの性格から言って、ユウキの進言で意見を変える事は無いと判っていた。少しでも時間を稼げれば程度に思っていたのだが、無駄に終わった事にユウキは小さく溜め息を吐いた。

 

(気分が悪い……最悪の気分だ)

 

武器を持たない民間人をAMで取り囲んでいると言うのもあるが、口では上手く説明出来ない嫌悪感のような物がさっきからユウキに付き纏っていた。

 

「……ねえ、ユウ。何か変な感じがしない?」

 

「どんなものだ?」

 

カーラが何を言いたいかと言う事は判っていたが、それをあえて指摘せず何を感じているのか? とカーラに逆に尋ねるユウキ。

 

「何か寒気みたいなの。地面の下から漂ってきてない?」

 

その言葉にユウキは眉を細めた。正式な検査を受けているわけでは無いが、ユウキもカーラも簡易的な念動力の検査では陽性と診断されている。つまりユウキとカーラにはリュウセイ達のような念動力の素質があると言うことだ、

 

「ゼオラ、アラド。お前達は何か感じるか?」

 

退路を確保する為に後衛に配置しているゼオラとアラドにも何かを感じるか? とユウキが問いかける。

 

「いえ、私は特には……ただ少し不気味な雰囲気だと……」

 

「ゼオラ、お化けとか苦手だもんな」

 

「アラド! 今はそういう話をしてるじゃないわッ!!」

 

異様な雰囲気に呑まれていないと言う事に安堵するのと同時に、アラドとゼオラには念動力の素質がない、あるいはまだ覚醒していないと言う所かと思うのと同時に、クロガネからゼオラとアラドを保護する為にエルザム達が出撃したと言う報告を受けていたユウキは今度こそ、ゼオラとアラドがクロガネに保護される事を心から祈った。

 

「ユウはもしかして、怖いからアラド達に話を振ったの?」

 

「そう言う訳ではない。俺も妙な気配は感じていた、こういう時の直感は侮れないからな、意見を聞きたいと思っただけだ」

 

からかうような口調のカーラに違うと断言し、アーマリオンやバレリオンが蚩尤塚を完全に包囲したのを確認してから、ユウキは改めてアーチボルドのランドグリーズに通信を繋げた。

 

「アーチボルド少佐、採掘班を捕えて採掘を続けさせるという事でよろしいでしょうか?」

 

「いえ、敵の追撃隊が現れる前に仕事を済ませましょうか」

 

「仕事? 少佐、貴方は何をするつもりですか?」

 

尋ねるというていを取りながらも、アーチボルドの口調に怪しい物を感じて、ユウキは顔を歪めた。アーチボルドは生粋のテロリスト……そんな男が何をしでかそうとしているかが容易に想像出来たからだ。

 

「さ、ユウキ君、カーラ君、アラド、ゼオラ。お仕事ですよ、ランドグリーズのリニアカノンで一気に土砂を吹き飛ばしますよ」

 

ちょっとそこまで買い物に行って来て下さいと言いたげな口調で遺跡に攻撃を仕掛けろとアーチボルドは口にした。

 

「い、遺跡ごとですか!? あ、あそこには民間人がいるのでは!?」

 

「ええ。そうですよ? でも僕達に必要なのは超機人だけですし、あれはそう簡単に壊れる物ではありませんからね。さ、ゼオラ、その狙撃の腕でどどーんっと吹き飛ばしてください」

 

民間人もろとも撃てと命令され、ゼオラは勿論、ユウキやカーラも嫌悪を露にする。

 

「しょ、少佐待ってくれよ! 少佐はゼオラに人を殺せって言うのかよ!」

 

「アラド、何を言っているんですか? 僕達は戦争をしているんです。それとも何ですか? 君は戦争をしておきながら人を殺したくないと? ああ、いい機会です。君も撃ちなさい、人を殺す経験をしておけばいざ殺す時に躊躇わずに殺せます。だから撃ちなさい、命令です」

 

上官命令で撃てとアラドとゼオラに命じるアーチボルドにカーラが噛み付いた。

 

「ちょっと待ちなよ! 相手は民間人だよ!?」

 

「カーラ君も何を今さら。僕達は戦争をやってるんですよ? 貴女だって人を殺しているでしょう? 何を善人ぶっているのですか?」

 

「ッで、でもッ! 相手は非武装なのにッ!」

 

確かにカーラだって人を殺している。だがそれは、PTや兵器に乗り込み自分を殺そうとした相手に対してだ。非武装の人間を攻撃するなんて非道な事はした事がないと声を荒げる。

 

「そんな事は僕には関係ありませんね、ほらほら、追撃部隊が来るかもしれないんですから早く撃ってください」

 

ぱんぱんっと手を叩き撃てと命令するアーチボルド。ゼオラのランドグリーズと、アラドのリオンからは荒い呼吸の音が聞こえてくる。兵士として命令に従うべきなのか、それとも、命令に逆らい民間人を撃たずに命令違反として裁かれるのか……その極度の緊張による呼吸困難であると言う事は明白だった。

 

「少佐、ここは彼らに退去勧告を出せば済むことだと思います。まもなく現れる敵を迎撃するためにも、弾薬は節約するべきでは?」

 

「なるほど。ユウキ君、君は無駄な血を流したくないと? 戦争をしているのに?」

 

「少なくとも、今という状況では無意味です。弾薬を消費し、必要ない所で劣勢になる必要はありません」

 

「そうですか。でも、僕は無駄な血を流すのが好きなんですよ。特に民間人のね」

 

ランドグリーズのリニアカノンが蚩尤塚に向けられ、今正に放たれると言った瞬間。上空から放たれた熱線がリニアカノンの砲塔を貫いた。

 

「ぐ、ぐうっ!? ど、どこからッ!?」

 

レーダーの範囲外から撃たれた事に困惑するアーチボルドの前に雲を切り裂いて、2機のPTが立ち塞がった。

 

『非武装の民間人を狙うとは恥を知れッ!!』

 

『貴様のような人間がいるから無駄に騒乱が広がる! 貴様のような人間を俺は決して許さんッ!』

 

緑と黒のフライトユニットを装備したゲシュペンスト……いや、ゲシュペンスト・リバイブの登場にアーチボルドは舌打ちした。

 

「元教導隊ですか……いやはや、主武装を潰されて相手をするには厳しい相手ですねえ……ユウキ君。悪いですが殿を頼みますよ、僕は離脱しますからねぇ……」

 

必要のない騒乱を巻き起こしておいて、被弾したら即座に逃げる。そのアーチボルドの汚い戦略にユウキは舌打ちをしたが、この場の最高責任者として指揮権を得た事には感謝していた。

 

「カルチェラタン1から各機へ、採掘場への包囲網の展開を解除、フォーメーションを組み撤退準備。必要以上に戦闘しようと思うな、全員機体の損傷を軽微にし、撤退することを最優先としろ」

 

「……良いの、ユウ」

 

「責任は俺が全て取る。だからお前達は気にするな、カルチェラタン7、8は後方待機。撤退する為の退路を確保せよ」

 

『ユウキ少尉!? わ、私達は戦えます!』

 

『どうして俺達が後方待機なんですか!?』

 

命令違反をした分戦闘で挽回しようと考えていたアラドとゼオラがユウキに通信を繋げるが、ユウキは冷静に2人に返事を返した。

 

「敵は教導隊の2人だけではない、見ろ。ハガネとシロガネだ」

 

『『!?』』

 

展開した部隊と向き合うように出現した2機のスペースノア級とPT隊。数も戦力も圧倒的にユウキ達が不利だった……。

 

「判ったな、これは撤退戦だ。俺達の退路を……待て、カルチェラタン7! ゼオラッ! 命令に従えッ!」

 

通信をきったままでハガネとシロガネに向かってランドグリーズを走らせる。

 

『ゼオラッ! ユウキ少尉! 俺がフォローしますッ!』

 

「ちょっアラド! ああっもう! ごめん、ユウ。アラドとゼオラのフォローに入るよッ!!」

 

ユウキの考えた陣はゼオラの暴走によって一瞬で崩れた。しかし、ユウキにとってこれは好都合だった。ゼオラとアラドをクロガネに保護させる……そう考えると今のこの命令系統の混乱はクロガネからの救援隊が割り込むには最高の状態だった。

 

「しかたない、各機。臨機応変に対応し、離脱せよッ!」

 

ユウキもそう命令を下し、カーラの後を追ってランドグリーズを走らせるのだった……。

 

 

 

 

 

 

採掘現場に辿り着いたギリアムとカイだが、目の前の光景を見て怪訝そうな顔を隠す事が出来ないでいた。採掘現場に砲撃を叩き込もうとしていた見慣れない砲撃機のキャノン砲を破壊すると、その機体は一目散に撤退し、残された機体もフォーメーションを組むもの、混乱している素振りを見せる物と非常に不安定な様子になった。

 

「命令系統の混乱……いや、指揮官の現場放棄か」

 

『それならばまだ救いはある』

 

採掘現場を取り囲んでいたAMは既に無く、撤退の準備をしているのを見て皆が皆非武装の研究員を攻撃しようとしていたのではないと判りカイとギリアムは安堵した。

 

「ハガネとシロガネも来たな。後はテロリストを制圧するだけだな、ギリアム」

 

『ああ、俺の勇み足になったようですまないな』

 

「何、気にする事はない、それに先行したから被害を抑えれたと思えば悪くはない」

 

シロガネとハガネから出撃するPT隊を見ながら、ギリアムとカイは同時にゲシュペンスト・リバイブを走らせ、テロリストの機体へと攻撃を仕掛けるのだった。

 

「なんだ、陣形がぐちゃぐちゃだ……」

 

「何があったのか、それともギリアム少佐達が指揮官機を落としたのかは判らないが、チャンスだな」

 

敵の数は多いが、明らかにパイロットに動揺が走っている。今ならばテロリストの機体を鹵獲し、情報を得ることも可能と考え、ライは好機だと判断した。

 

「各機散開! テロリストの制圧を行う! 戦況開始ッ!」

 

キョウスケの号令によってハガネのPT達がAMに向かって動き出す。だがヴァイスリッターだけがアルトアイゼンの上空に滞空したままだった。

 

「エクセレン、どうした?」

 

『あ、キョウスケ……ごめん、あのさ……なんか変な感じがしない? 凄く嫌な感じがするの』

 

いつもの明るい口調ではなく、酷く暗い声で尋ねて来るエクセレンにキョウスケは眉を顰めた。

 

「陣形の混乱は罠だというのか?」

 

『ううん、そういうのじゃなくて……上手く説明出来ないけど、何か起きそうな……そんな気がするの』

 

抽象的で要領を得ないエクセレンの言葉、だがエクセレンが普段そう言う事を言わないこともあり、キョウスケもこの場に何があると悟った。

 

「アサルト1から各機へ、この陣形の乱れは罠の可能性がある。各員警戒を緩めず戦闘を続行せよ」

 

エクセレンが嫌な予感を感じていると言う抽象的な事を言う事は出来ず、罠の可能性があるとだけ告げるキョウスケ。

 

「これで良いか?」

 

『……うん、ごめん。行きましょう』

 

普段のお茶らけた口調ではなく、深刻な口調のエクセレンに蚩尤塚には何かあるとキョウスケも感じ、普段はエクセレンにバックアップを受けるキョウスケだが、今日はキョウスケがエクセレンのバックアップを行いながら戦闘に参戦するのだった。

 

「くっ!? あの機体思ったより厄介だぞッ!?」

 

「ブリット、無理に突っ込むんじゃねぇッ!」

 

カーラの乗るランドグリーズの放つファランクスミサイルの雨によってゲシュペンスト・MK-Ⅲとアルブレードの足が止まっている間に、ゼオラのランドグリーズが2機の間を抜けて、ラトゥー二のヒュッケバイン・MK-Ⅲへと向かう。

 

「ラトゥー二ッ! ブリット、ここは任せるぜッ!!」

 

質量のあるランドグリーズがヒュッケバインMK-Ⅲに向かうのを見て、即座に反転しラトゥー二の支援に入るアルブレード。

 

「リュウセイがすまない」

 

「いや、大丈夫だよ。ライ、それよりも……この機体何なんだ」

 

重厚な砲撃戦特化の機体。こんな機体なんて見たことがないと困惑するブリット。

 

「ぬうんッ!!!」

 

「くっ、流石教導隊……と言ったところかッ!?」

 

ゲシュペンスト・リバイブ(K)の豪腕の直撃を受けても大破しない強固な装甲、そして支援機として完成しているその機体性能の高さ……それらはヴィレッタ達に何故と言う困惑を与えていた。

 

(地球製の機体であることに間違いはない……DCで開発されていたものか?)

 

(ラーズアングリフに似ている……テロリストがこれを運用していると言う事はシャドウミラーと結託しているのか?)

 

見た事がない機体ではあるが、それでも技術的には地球の機体だと分析するヴィレッタ。そしてギリアムにはあちら側にいた時に開発されていたラーズアングリフに似ていると思わせ、テロリストとシャドウミラーが協力体制にあることを感じさせていた。

 

「くっ! 超闘士グルンガストなんてあたしじゃ相手しきれないよッ!?」

 

「陸戦型の機体か。ちと時代遅れだが、調べさせてもらうぜ」

 

強固な装甲を持つランドグリーズ相手ではゲシュペンスト・MKーⅢでは分が悪いと判断したイルムがカーラの前に立ち、カーラは超闘士と名高いグルンガストが自分の相手なんて冗談でしょっと悲鳴を上げた。

 

「ブーストナックルッ!!」

 

「わわッ!! つつっう……ッ!?」

 

力強く踏み込まれると同時に放たれたグルンガストの鉄拳がランドグリーズの肩部を捉え、肩部の装甲ごとマトリクスミサイルの発射口を押し潰す。

 

「マ、マトリクスミサイルがッ!?」

 

「悪いな、撤退しようとしているのはわかってるが……その機体はいただくぜッ!!」

 

撤退や弾幕を展開するのに使っているマトリクスミサイルを優先的に潰し、ランドグリーズに隣接しようとしたグルンガストだが、その足を急に止めた。

 

「ひゅー、とんでもねえ無茶をするな」

 

ランドグリーズが飛び上がり、空中で強引に射角を確保し、グルンガスト目掛けリニアカノンを打ち込んだ。それに気付いたイルムは咄嗟に足を止めたが、そうでなければ肩部ごと粉砕されていただろう。

 

「援護するッ!」

 

「はいはーい、行くわよーッ!」

 

R-GUNのメガビームライフルとヴァイスリッターのオクスタンランチャーのEモードが放たれるが、ランドグリーズの装甲を前に弾かれ霧散する。

 

「ビームコートかッ!」

 

「ただのビームコートじゃない、桁外れに強力なビームコートだッ!」

 

メガビームライフルが弾かれるのは判る。だが、ヴァイスリッターのオクスタンランチャーまでも弾くとなるとビームコート自身の性能が桁並外れて高い事が容易に判る。

 

「ご、ごめん。ユウ」

 

「いや、相手が悪い。なんとか後退するぞ」

 

ホバーで後退しながらM-13を乱射するランドグリーズだが、グルンガストもゲシュペンスト・リバイブKもM-13ショットガンの弾雨なんで関係ないと言わんばかりに距離を詰め続ける。

 

「その動き……ゼオラッ!」

 

「ラト見つけたッ!」

 

ランドグリーズの装甲を頼りにし、ヒュッケバインMK-Ⅲへの突貫をやめないランドグリーズ。

 

「なんて無茶をッ!?」

 

「ラト! 貴女は連邦なんかにいたら駄目ッ!! こっちに来るのよ! 私とアラドが貴女を守ってあげるんだからッ!!」

 

被弾なんてお構いなしに両腕を伸ばしてヒュッケバイン・MK-Ⅲを捕えようとするランドグリーズ。

 

「な、なんだあいつ!? ラトゥーニに何か恨みでもあるのか!?」

 

「ちッ! 狙いはヒュッケバインの鹵獲かッ! 手の開いている者はラトゥーニの支援に入れッ!!」

 

ランドグリーズは確かに強い、だが僚機であるアーマリオンやバレリオンはそこまで強い機体ではない、数を的確に減らし、支援に入れと言うキョウスケの命令にラミアは少し逡巡してからファントムアローを構えた。

 

(あの機体からは通信などがない、だからWシリーズではない。ならば倒しても問題はない)

 

『ラミアちゃん、悪いけど足を狙って頂戴、あそこまで無理に突っ込んできている機体だから鹵獲するにはいい位置だから』

 

「了解でありんすッ!」

 

『……それ本当に何処の言葉?』

 

多少の被弾もお構いなしにヒュッケバインMK-Ⅲに迫っていたランドグリーズだが、アンジュルグのファントムアローと、ヴァイスリッターのBモードをピンポイントで膝に当てられては自重を支えきれず、その巨体を地面に沈める。

 

「ラトッ!!! 今助けてあげるからッ!」

 

アーチボルドの命令にそむいた事、民間人を撃てと命令された事、そしてラトゥーニを殺したかもしれないという恐怖……それら複雑な思いが入り混じったゼオラは助けるといいつつ、リニアカノンの照準をヒュッケバインMK-Ⅲに向けた。

 

(機体を壊して、ラトゥー二を助けて離脱する)

 

今のゼオラにはリニアカノンの直撃を受ければ、ヒュッケバインMK-Ⅲごとラトゥーニを殺してしまう可能性などは欠片も思い浮かばず、自分のやろうとしている事が最善だと思っていた。

 

『ゼオラ!? 馬鹿ッ! そんなもんで撃ったら!?』

 

アラドもヒュッケバインMK-Ⅲの動きから、それにラトゥーニが乗っていると悟り、通信で止めに入ったがゼオラの指はリニアカノンの引き金を引いてしまっていた。

 

「あ……」

 

撃った後に我に帰ったゼオラ、リニアカノンの砲弾がコックピットに真っ直ぐ伸びている事に気づき、全身を震わせた。今度こそ、ラトゥーニを殺してしまうという事に今初めて気付いたのだ。だが命中する寸前にアルブレードの飛び蹴りが砲弾を捉え、右足を大破させるのと引き換えにヒュッケバインMK-Ⅲを庇った。

 

「ラトゥーニ、大丈夫か!?」

 

「リュウセイ!? なにやってるの!?」

 

「俺の事よりもお前だよッ! 大丈夫なのかッ!」

 

自分の機体を大破させてまでラトゥーニを庇ったリュウセイの姿はラミアとゼオラに強い衝撃を与えた。

 

(機体を大破させてまで……何故だ。機体が大破しては任務の遂行が出来ない……それなのに何故……そして何故、私は安堵しているんだ)

 

「わ、私……ま、またラトを……ああ、あああああああーーーッ!?!?」

 

ラミアは自分の存在意義と違う内容を理解出来ないのに、それが正しい事の様に思えて激しく混乱し、ゼオラは再びラトゥーニを殺しかけた事に気付いてパニック状態に陥っていた。

 

「ユウ! ゼオラがッ!」

 

「判ってる! だが、くっ……!?」

 

ゼオラがパニックに陥っているのはユウキとカーラはグルンガストやゲシュペンスト・リバイブに追われていて、とても救助など出来る状況ではない。

 

「今だ、あの機体を鹵獲する!」

 

「ゼオラ、今助けてあげるッ!」

 

ラトゥーニを殺しかけた事に茫然自失になっているゼオラのランドグリーズを鹵獲しようと、R-GUNとヒュッケバインMK-Ⅲが動き出した瞬間、R-GUN達とランドグリーズの間にアラドのリオンが割り込んだ。

 

『投降する! 俺もゼオラも投降するッ! だからこれ以上は攻撃しないでくれッ!!』

 

「……各機攻撃中止」

 

「アラ……ど……」

 

割り込むと同時に投降するから攻撃しないでくれとアラドが広域通信で叫んだ。まだ声変わりもしていないアラドの声にハガネのPT隊はその動きを止め、そしてゼオラは目の前にアラドがいると言う安心感で僅かに自我を取り戻しかけていた。

 

「あの子達……ユウ」

 

「……離脱するぞ、カーラ」

 

「……良いの?」

 

「離脱だ」

 

無理をすれば助ける事が出来なくもない、だが投降すると言ったアラドにアーチボルドの所にいるよりかは良いと判断したユウキはこの場から離脱することを選択した。

 

ハガネとハガネのPT隊は投降すると言ったアラドを前にし、動きを止めた。

 

ゼオラは崩壊しかけた自我がアラドが側にいると言うことで安定するのと同時に、アラドと一緒ならと思いその動きを止めた。

 

そしてユウキとカーラはアーチボルドの元にいるよりも、ハガネの方が良いと判断しアラドとゼオラの救出をやめた。

 

誰もがその時最善の選択をし、そして最悪の選択をしてしまった。

 

「これは空間転移だ! 警戒しろ!」

 

「え?」

 

ラミアの叫び声と同時に大地から現れた亀裂から伸びた鉤爪と触手がゼオラを庇って投降すると叫んでいたアラドのリオンを貫き、アラドが乗っていたリオンの姿は爆発の中へと消えていくのだった……。

 

 

 

 

 

第22話 古の呪歌 その3へ続く

 

 




約束は炎に消えてよりも早くアラド退場。ゼオラのメンタルを容赦なく抉っていく展開、ラトゥーニを恨むっていうのが嫌で、アインストにヘイトを向けようかなとか思ってこういう展開になりました。そしてやっぱり食通達が間に合わないのはご都合展開ですね、次回はアインスト戦と食通達の登場になります。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話 古の呪歌 その3

第22話 古の呪歌 その3

 

空間を引き裂いて現れた爪と触手によって爆発四散したリオンの破片が周囲に飛び散る。その場にいる全員が何が起きたのか理解出来ず、呆然としていた。その中で1人だけ……ラミアだけが危機迫った声で叫ぶ。

 

「何を呆けている! 散開しろッ!! 死にたいのかッ!!!」

 

罅割れた空間が徐々に大きくなる。その光景はまるで別の世界に住まう「何か」が世界を超えて、この世界へ侵入しようとしているように見えた。

 

「な、何が……何が起きているんだ」

 

『なんだ……あれは化け物……魔物とでも言うのか……』

 

「テツヤ大尉! リー中佐ッ! 何を呆けているッ! 散開命令を出せッ!!」

 

ダイテツの一喝で我に帰った、リーとテツヤはそれぞれ外部スピーカーでキョウスケ達に向かって命令を下す。

 

「アンノウン出現ッ! 各機散開せよッ!!」

 

『可能ならば投降した機体を回収し、シロガネへと帰還せよッ! いや、各機散開! 投降機は放置して散開せよッ!!』

 

正式に投降が完了した訳ではない、だが、謎の化け物によって破壊されたリオンと両足を破損したランドグリーズのパイロットは広域通信で投降すると叫んだ。ならば条約に基づいて保護しなければならない。リーはそう判断し、投降したゼオラの保護をするように命じたが、その命令はすぐに覆された。

 

「ア、アラドォォォォッ!! いや、いやあああああッ! アラドッ! アラドぉッ! 返事……返事をしてよ、アラドぉッ!!! いや、いやあッ! ラト、ラトッ! アラド、アラドが返事をしてくれないッ!! いやッ! いやああああああーーッ!?!?」

 

広域通信で半狂乱で叫ぶ幼い少女の声、それだけならばまだリーだって保護することを諦めなかった。だが半狂乱になって暴れるランドグリーズを取り押さえ回収するのは不可能だと判断したのだ。

 

「ぜ、ゼオラッ! 落ち着いて! きゃあッ! ゼオラ、お願いだから落ち着いてッ!!」

 

「いや、いやぁッ! アラドッ! アラドぉッ!! 返事して、アラドぉッ!!! ラト、ラトッ! ラトも探してッ! アラドッ! アラドぉッ!!」

 

半狂乱で暴れるランドグリーズに殴られ、ヒュッケバインMK-Ⅲの装甲が凹み、砕けたカメラアイから火花が散る。それでも何とかランドグリーズを押さえ、ゼオラを落ち着かせようとするラトゥーニだが、搭乗機であるヒュッケバインMK-Ⅲの肩を背後から掴まれランドグリーズから引き離された。

 

「ラトゥーニ! 今は下がれッ!」

 

「で、でもッ! ゼオラがッ! ゼオラがここにいるんです! カイ少佐ッ!」

 

「気持ちは判る! だがあそこまで暴れていたらお前まで共倒れだッ! 捕獲用のスパイダーネットを射出してくれッ! それで鹵獲するッ!! ラトゥーニはアルブレードを牽引して、ハガネへ戻れッ!」

 

言葉で説得する事が出来るのならば誰だって、その選択をする。だが半狂乱になって暴れているのが巨大な質量を持つランドグリーズでは下手に近づけばPTでは大破してしまう。もっと言えば、今まさに時空を切り裂いて未知の脅威が出現しようとしている中。無駄な事をして手を拱いている余裕はないのだ。

 

「りょ、了解ッ!」

 

ラトゥーニを庇って右足が大破しているアルブレードと両肩と頭部の半分を失っているヒュッケバインMK-Ⅲでは戦闘にならない、カイからの撤退命令に従い、ラトゥーニはアルブレードに肩を貸して立ち上がらせるとヒュッケバインMK-Ⅲとアルブレードのブースターを同調させて、その場から離脱する。

 

『ラトゥーニ。ゼオラって……誰なんだ?』

 

「……後で説明する。ごめんね」

 

『いや、悪い。俺も変なタイミングで聞いちまった……』

 

今もなお半狂乱でアラドと言う少年の名前とラトと言う愛称でラトゥーニを呼ぶゼオラ。その叫び声に後髪を引かれる想いになりながらもカイ達がゼオラを助けてくれると信じて、ラトゥーニはリュウセイを連れてハガネへと帰還するのだった……。

 

 

 

 

 

 

リュウセイとラトゥーニが撤退してもなおランドグリーズは暴れまわっていた。むしろラトゥーニの姿が見えなくなった事で余計に激しさを増していた。

 

「くそっ! 厄介なお嬢さんだッ!!」

 

「イルムガルト中尉。下手に近づくなッ!」

 

グルンガストで捕えようとしてもお構いなしで暴れるランドグリーズを見て、ギリアムが近づくなと警告する。

 

「ちょっとやばいわね。あれでしょ? ラトちゃんが言ってたスクールの子って」

 

「……脱出ポッドが落ちていないか……チッ! 探している時間もない。来るぞッ!!」

 

ガラスが割れるような音が響き、虚空から無数の異形の集団が現れた。

 

「あ、あれは……!!」

 

「見た目は骸骨に植物……何者なんだ、あいつら?」

 

20M前後のPTと同じサイズの骨が組み合わさり人型になった異形と、植物の蔓が鎧を纏っているような異形が次々と姿を見せる。

 

「あ、あああ……いや、いやッ!! こないでッ! いやッ! アラドッ! ラトッ! たすけ、助けて……い、いや、いやああああああーーーーーーッ!!!!」

 

異形の空虚な瞳がランドグリーズに向けられた瞬間。ゼオラの脳裏で虚空から現れた爪と触手がリオンを引き裂く光景がフラッシュバックし、ゼオラは悲鳴を残し、ブースターとスラスターで強引にランドグリーズを浮かせて、その場から逃げ出した。

 

「いかんッ! スパイダーネット撃てッ!!」

 

「2~5番連続発射!!」

 

半狂乱になっているゼオラを見逃す訳には行かないと、シロガネとハガネからスパイダーネットが連続で射出されるがランドグリーズはそれを回避しながら、蚩尤塚から逃げ出していった。

 

「ユウッ!」

 

「ちっ! カーラ、先にゼオラを追えッ! 俺もすぐに行くッ!!」

 

今のゼオラを1人にしてはいけないとカーラにゼオラを追うように命じ、ユウキは撤退命令の信号弾を射出する。

 

(……アラドを探している余裕はない。シロガネとハガネを信じるしかないッ!)

 

投降したゼオラとアラドを保護しようとしたハガネならばアラドを探してくれる。ユウキはそう信じて、カーラ達の後を追ってゼオラを追いかける。

 

(エルザム少佐、何故……まさか……何かトラブルが……)

 

余裕を持って到着出来るようにエルザム達に連絡をしていたユウキ。だが合流予定時間を過ぎても現れないエルザム達の事を考えながら、離脱しましたの文章通信を残し、その場から離脱するのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

この世界にラミア達……いや、シャドウミラーが逃げてくる事になった敵性存在……アインストの出現にアンジュルグの中でラミアは顔を歪めた。

 

(間違いない、アインストだッ! 何故、まさか私達を追いかけてきたのかッ!?)

 

本隊とは違う転移反応で現れたのがアインスト。その脅威と自分達が劣勢に追い込まれていた事がラミアの脳裏を過ぎり、アインストが世界を超えて追いかけてきたのだと感じた。

 

「該当するデータは無いわね……可能性があるとすれば、エアロゲイター……だけどそうは見えないわね」

 

ヴィレッタがデータベースを確認し、どこにも該当データがないと全員に告げる。

 

「どうやらそのようですね。あれは機械と言うよりも……生物のように思えます」

 

ガチガチと牙を鳴らし、周囲を威嚇するように歩き出す姿は機械にはとても見えず生物のように思えた。

 

「……気味が悪い。なんなんだ、あれは……キョウスケ中尉どうしますか?」

 

「あれが機械だろうが、生物だろうが敵対するのならば倒すまで、それにどこかから転移して来たということは……出所があの遺跡ではないようならば、破壊しても問題ない」

 

LTR機構が研究している古代の戦闘兵器ではないのなら破壊しても問題ないと告げキョウスケは、アルトアイゼンのリボルビングステークを現れた異形――アインスト・クノッヘンへと向けた。

 

「……うっ!?」

 

「エクセレン? どう……ッ!」

 

エクセレンの呻き声が聞こえ、キョウスケがどうしたと尋ねようとした時、キョウスケにも激しい頭痛が襲い掛かった。

 

『……メザメ……サセルワケニハ……』

 

その直後一瞬だけ、奇妙な声がアルトアイゼン、そしてヴァスリッターのコックピットに入った。

 

「ん? 今、奴らから通信が入らなかったか?」

 

「そんなもの聞こえませんでしたけど……」

 

「何……ッ!?」

 

キョウスケがブリットにそう尋ねるが、ブリットの返答はそんな声は聞こえていないと言う物だった。しかし声が聞こえたのはキョウスケだけではなかった、エクセレンも通信で他の面子に声が聞こえなかったか? と尋ねている。

 

「今、あのホネホネが喋らなかった?」

 

「いや、何も聞こえていない」

 

「え!?」

 

「エクセ姉様、機体のレコーダーにもそのような物は記録されてませんでございます」

 

これだけの面子がいる中、アインストの声が聞こえたのはキョウスケとエクセレンだけで、キョウスケもエクセレンも困惑していたが、その困惑は一瞬で吹き飛ばされる事となった。

 

「「「!!!」」」

 

目を光らせたアインスト達は遺跡とキョウスケ達に襲い掛かったからだ。先制攻撃と言わんばかりに放たれた骨のブーメランと、蔦が鎧から放ったビームを旋回し回避したカイは広域通信で全員に号令をかける。

 

「どうやら向こうは敵と見て間違いない様子だ! 各機、散開してアンノウンを叩けッ!」

 

その号令に従ってアルトアイゼンを走らせるキョウスケだが、その脳裏には何故自分とエクセレンにはアンノウンの声が聞こえたのかと言う疑問が浮かび続けていた。だが、その疑問も戦闘に入れば頭の隅に追いやられキョウスケはアインストとの戦いに意識を集中させるのだった。

 

「ブーストナックルッ!」

 

「ぬうんッ!!!」

 

アインストクノッヘンにグルンガストとゲシュペンスト・リバイブKの豪腕が叩き込まれ、骨の外見通りに粉々に砕け散って弾け飛ぶ。

 

「なんだ、見た目……なにッ!? ぐうううッ!?」

 

「ぐあっ!? くそッ! 見た目通りの化け物かッ!?」

 

粉々に砕け散った筈のクノッヘンの残骸は空中で再生し、グルンガストとリバイブKに襲い掛かり、その装甲に深い傷をつける。

 

「カイッ!」

 

「イルムガルト下がれッ!」

 

上下左右から飛来する骨のブーメランに翻弄されているカイとイルムを見て、ギリアムとヴィレッタが支援に入る。正確な射撃で宙を飛び交う骨を迎撃すると嘲笑うかのように集まりもとの人型に戻る。

 

「効いていないッ!?」

 

「どうやら普通の攻撃では駄目のようね」

 

グルンガストの打撃もR-GUN達のビーム攻撃もまともな有効打にならない謎のアンノウンにハガネのPT隊に驚愕と同様が広がる。

 

「ちえいッ!」

 

「……?」

 

シシオウブレードの一閃によって両断された蔦の様な異形――アインスト・グリートだが、ブリットを挑発するかのように何かした? と言うジェスチャーと共に再生し、その蔦の様な触手を伸ばす。

 

「こいつ!? 再生するのかッ!!」

 

「ならこれはどうだッ! ハイゾルランチャーシュートッ!!!」

 

実体剣が効かないのならビームはどうだとゲシュペンストMK-Ⅲ・R02カスタムのライがハイゾルランチャーを発射するが、命中する直前で霧散した。

 

「ビームコートだとッ!?」

 

実体剣も駄目、ビームも駄目と判り困惑するブリットとライの前を駆け抜け、アルトアイゼンがリボルビングステークをアインスト・グリートに叩き込む。

 

「実体剣もビームも駄目だと言うのなら、これはどうだッ!!」

 

炸裂音と共にリボルビングステークが炸裂し、グリートのコアを砕く。すると大きく痙攣し、グリートの身体は地面に溶けるように消えていった。

 

「残骸も残らないのか……ますます訳が判らないな。だが弱点は判った! 各機アンノウンのコアを狙えッ!」

 

アインスト達の弱点が胸部のコアだと判明し、そこからは徐々に優勢に変わり始めるPT隊。

 

(弱い……? こんなにもアインストは弱かったか?)

 

しかしその中でもラミアだけは困惑を隠せないでいた。コアに牽制程度のシャドウランサーを当てるだけで、コアが砕け消滅するアインストの弱さに困惑していた。アンジュルグに残されている戦闘データと今戦っているアインストの強さには雲泥の差があったのだ。それでも十分な脅威であると言う事に変わりはないので、十分に警戒し距離を取って戦っているとコアが砕かれ消滅しかけているアインストクノッヘンが怪しい動きをしているのに気付いた。

 

「ライ少尉! カイ少佐ッ! 足元に気をつけろッ!!」

 

そう叫んだ瞬間地面が盛り上がり、崩壊しかけたアインストクノッヘンが肋骨を展開し飛び掛る。

 

「何ッ!?」

 

「しまっ!?」

 

コアを完全に砕けきれず、奇襲の機会を伺っていたアインストクノッヘンの攻撃がコックピットに突き刺さろうとした瞬間。一陣の風が吹いた……。

 

「グラビトンライフル発射ッ!」

 

「究極ぅッ!! ゲシュペンスト……キィィイイックッ!!!!!」

 

漆黒の重力砲と紫色の彗星がアインストクノッヘンを粉砕しライとカイを救った。

 

「ラドラ! ラドラかッ!?」

 

「エルザム兄さんッ!?」

 

メタリックパープルのゲシュペンスト・シグ。そして黒・赤・金のカラーリングが施され、ブランシュタイン家の紋章が刻まれたゲシュペンスト・MK-Ⅲの登場によって、戦闘の流れは大きく変わり始めるのだった……。

 

 

 

 

百鬼帝国の偵察機によって妨害を受けていたラドラ達だが、間一髪と言う所でハガネとシロガネと合流する事が出来た。

 

「ラドラ、すまない。助かった」

 

「気にするな、それよりもまた面倒なことに巻き込まれているようだな」

 

テロリストと戦うつもりだったラドラだが、ラドラ達を出迎えたのは機械のような、生物のような化け物だった。旧西暦では爬虫人類であり、人間ではなかったラドラでさえも化け物と思うような敵だった。

 

『エルザム兄さん、今まで何をしていたんだッ!?』

 

『違うな、私はレーツェル・ファインシュメッカー。決してエルザム・V・ブランシュタインではない』

 

『に、兄さん?』

 

弟にも堂々とバレバレの偽名を名乗っているエルザムにラドラは深く溜め息を吐いた。

 

「ラドラ……」

 

「言うな、俺も困惑している」

 

あれは素でやっているのか? と問いかけるカイに言うなと質問をシャットアウトして、ゲシュペンスト・シグをアインストに向けるラドラ。

 

(戦闘データはユーリア達が取ってくれている、俺は戦いに集中出来るッ!)

 

謎の化け物がいるという事でユーリアと武蔵を偵察に上空に配置したので、戦闘データの収集を気にしなくていいラドラはシグをアインストクノッヘンに向かって走らせる。

 

「そいつらの弱点は胸部のコアだッ! 中途半端に砕くと再生するぞッ!」

 

「了解ッ!」

 

クノッヘンの放つブーメランを回避しながらシグは前進を続け、エネルギークローをコアに突き立てる。

 

「!?!?」

 

「ふんッ!!!」

 

高速で回転したエネルギークローにコアを貫かれ1度痙攣すると消滅するアインスト。

 

「なるほど相性の問題か」

 

打撃ではなく、貫き抉り取るという攻撃を取るゲシュペンスト・シグにとってはアインストの相手は楽な相手だった。

 

「わぉ、やっぱりラドラってやっるぅ」

 

「エクセレンか。元気そうで何よりだな、そこの天使みたいのはなんだ?」

 

「ああ、アンジュルグの事ね。ラミアちゃんっていうイスルギのパイロットなのよ。後で紹介するわ」

 

武蔵とユーリアを残したのはこれも大きい要因となっている。武蔵の性格では怪しんでいる相手に平常心で過ごす事など出来る訳が無いので、ラドラとレーツェルと名乗っているエルザムがハガネの前に向かうことにしたのだ。

 

『行くぞトロンベよッ!!』

 

『エルザム、お前正体を隠す気あるか?』

 

『何を言っているギリアム、私はレーツェル・ファインシュメッカー。決してエルザム・V・ブランシュタインではないと言っているだろう』

 

本気で変装したいのならばトロンベとか言うなと思いながらラドラはゲシュペンスト・シグを走らせる。

 

「ふんッ!!!」

 

「!?!?」

 

グリートに前蹴りを叩き込み、そのまま右足でコアを踏みつけてふみ砕こうとするゲシュペンスト・シグ。グリートは反撃に蔦を振るうが、シグはそれを容易に掴み取り、根元から引き千切る。

 

「!?!?」

 

「失せろ」

 

一際力を込めてコアを踏み砕くシグ。痙攣し、消滅していくグリートを一瞥し、ラドラの残虐的な戦いに絶句しているブリットに通信を繋げる。

 

「ブルックリン。武蔵に師事を受けたのだろう、お前は何をしている? 敵と判断したら躊躇うな、同情するな殺せ。死にたくなければな」

 

 

「お、押忍ッ!!!」

 

一瞬動揺したものの力強く返事を返すブリット。そしてその叫びに呼応するかのように力強い構えを取るゲシュペンスト・MK-Ⅲをみて大丈夫だなと判断し、ラドラは次の獲物に視線を向ける。

 

『スラッシュリッパーッ! GOッ!!』

 

『引き裂けッ! ファングスラッシャーッ!』

 

ゲシュペンストリバイブSから放たれた3つの刃を持つブーメランと、ゲシュペンスト・MKーⅢトロンベの左腕に搭載された十字のブーメランがアインストクノッヘンのコアを引き裂いた、だが消滅させるには僅かに破壊力が足りない……だがこれでギリアムとレーツェルの計算通りの展開になった。

 

『パルチザンランチャーBモード。そこだッ!!』

 

『ツインマグナライフル……デッドエンドシュートッ!!』

 

「「!?!?」」

 

正確無比なゲシュペンストMK-Ⅲ・R02カスタムとR-GUNの実弾が亀裂の入ったコアを砕き、グラートとクノッヘンが同時に崩れ落ち消滅する。

 

「キョウスケ、カイ少佐! 〆はよろしくねッ! ラミアちゃん行くわよッ!」

 

『了解でごんすッ!!』

 

Bモードとシャドウランサーの直撃を受けて、最後のクノッヘンのコアに亀裂が入った瞬間。アルトアイゼンとゲシュペンスト・リバイブが爆発的な加速でクノッヘンの懐に飛び込み、その腕を大きく振りかぶり突き出した。

 

「撃ち貫くッ!!!」

 

「これでトドメだッ!!」

 

リボルビングステークがコアを貫くと同時に炸裂し、コアを粉々に打ち砕き、メガ・プラズマステークの一撃がコアを体内から弾き飛ばし、最後のアインストクノッヘンが沈黙し、キョウスケ達の目の前で消滅する。

 

「ふう、なんとか切り抜けたな。それでラドラ、お前達はどうする?」

 

「ダイテツ中佐に話があるから、俺達はここに来た。ハガネへの着艦許可を求める」

 

「判った。こっちでダイテツ艦長に連絡を取ろう」

 

「エルザム兄さんですよね? 何を」

 

「何度も言わせるなライディース。私はレーツェル・ファインシュメッカー。決してエルザムなどではない」

 

「……兄さん……」

 

ハガネに着艦許可を求めるラドラとバレバレの変装でゴリ押しするエルザム。戦いの後で妙に締まらない空気の中……キョウスケとエクセレンは自分達にだけ聞こえた謎の声について考えていた。

 

「キョウスケ……声聞こえたわよね?」

 

「ああ。確かに聞こえた、だがリュウセイ達に声が聞こえなかったのは何故だ……」

 

念動力を持たないキョウスケとエクセレンだけに聞こえた謎の声――何故念動力を持たないキョウスケ達に聞こえ、念動力を持つリュウセイ達にその声が聞こえなかったのか……1つの謎を残し、蚩尤塚での戦いは終わりを迎えるのだが、アインストの出現によってこの世界での戦いは更なる激化を迎えていく事になる……。

 

 

 

 

ラドラとエルザムがハガネへと着艦したのを確認してからヴァルキリオンは戦闘区域から離脱していた。

 

「どうだ、武蔵。何か感じたか?」

 

「……すっごい見た事あるんですよ。頭の中でぞわぞわするのに、思い出さなきゃいけない事があるのに……それが言葉にならないんです」

 

「そう……か。無理する事はない、クロガネに戻ってカーウァイ大佐とイングラムと話をすれば、その疑問も解決するかもしれないな」

 

「そうですね……うん。そう思います」

 

明らかに顔色が良くない武蔵を気遣い、ユーリアは少しスピードを緩めた。

 

「大丈夫か? 気分が悪いなら1度どこかで休むか?」

 

「でも、そんなのビアンさんに迷惑をかけるんじゃ?」

 

「戦闘記録は衛星通信でクロガネに送れる。それでも不安だと言うのなら、1度クロガネに連絡を取ろうか?」

 

「……すいません。お願いします」

 

武蔵は確かに戦闘者としては優れている。だが、過去、平行世界と戦い続け、そして今はクロガネに隠れ潜む生活に間違いなくストレスを溜めているとユーリアは判断しクロガネのビアンに連絡を取った。

 

『そうか、状況は把握した。日本のE-67に隠しアジトがある、武蔵君。少し日本を見て歩いて気分転換をしてくるといい』

 

「すいません、迷惑を掛けます」

 

『気にするな、武蔵君。ユーリア、武蔵君の様子を見て、2人で少し日本で羽を伸ばしてくるといい』

 

ビアンの許可を得てヴァルキリオンは日本へと進路を向けた……。

 

(いや待てよ? これはデートと言う奴ではないのか?)

 

(ふう、やっぱり疲れが顔に出ていたのかな?)

 

武蔵とデートなのでは? と顔を赤めるユーリアと、疲れが出ていると見抜かれた事を恥じる武蔵を乗せてヴァルキリオンは優れたステルス性を利用してレーダーに検知されず日本へと上陸するのだった……。

 

 

 

第23話 騒乱の火種 その1へ続く

 

 




次回はハガネでの会議と武蔵とユーリアの視点で話を書いて行こうと思います。話を飛ばすところもありましたが、20話以上とテンポよく話を続けてこれたので、これからもその勢いで頑張って行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話 騒乱の火種 その1

第23話 騒乱の火種 その1

 

 

日本の浅間山近郊に用意されていたビアンの隠しドッグの中にヴァルキリオンを格納し、ユーリアの運転する車で武蔵は街に向かっていた。

 

「なんか重ね重ねすいません」

 

「なに、気にするな。武蔵はまだ学生の年齢なのだから車の免許がないのは当然だからな」

 

バイクの免許はあったのだが、車の免許がない武蔵に気にするなと笑いかけ、ユーリアはハンドルを切る。傍目には冷静で頼りになる女性と言う風貌のユーリアだが、その内心はと言うと……。

 

(お金……はあんまり余裕がないな、それに地球の観光なんてした事が無いぞ……どうする、どうする)

 

大人として武蔵のエスコートをするべきなのに、軍資金の少なさ。そして日本はおろか地球にだって来た事が無いユーリアの内心はテンパリまくっていた……。だが武蔵はそれに気付く事は無く、AMの操縦も出来て車の運転も出来るユーリアが凄いなあと感心していた。心中に大きすぎる差を抱きながら、武蔵とユーリアは近くの街へと向かうのだった……。

 

「へー、いやあ、案外街並みって変わらないものなんですね」

 

武蔵が新西暦の街を歩いたのはこれで3回目だ。1回目はリクセントでシャインに案内され、2回目はオペレーションSRWの前に1時間ほど歩いて見て回っただけで、ゆっくり街並みを見ている余裕なんて武蔵には無かった。

 

「ここら辺は来た事があるのか?」

 

「いえ、あんまりですかねぇ……オイラ出身は北海道ですし、早乙女研究所に来てからは訓練ばっかりで、あ、でも偶に元気ちゃんと買い物とかには来てましたよ?」

 

軽井沢の別荘地が隣接する温泉街を歩きながら武蔵はのほほんと笑う。早乙女研究所が近くにあるという事で軽井沢は何度か来た事がある武蔵だが、観光や遊びで来ていたのではなくあくまで恐竜帝国と戦う為に長野に来ていたので別に土地勘などがある訳ではなかった。

 

「そうか、もしも武蔵に思い出の場所があるとかならそこに行こうかとでも思っていたんだがな」

 

「はは、別に良いですよ。のんびりと歩けるだけでも良い気分転換になりますから」

 

武蔵の言う通り太陽の光を浴びて歩いているだけでも武蔵の顔色は格段に良い物になっていた。

 

「でも人が全然いないですよね? なんでだろ?」

 

「そうだな……なんでだろうな?」

 

軽井沢の温泉街の近くなので観光地としては間違いなく一等地。それなのに人影が少なく、店も営業していない所が多かった。その事が気になると話しながら歩いているとやっと営業している店を見つけた。それは温泉饅頭の小さな屋台だった……飲食店や土産がしまっている中でやっと見つけた店に武蔵は笑みを浮かべ、歩き出そうとしたがふと思い出したように足を止めた。

 

「温泉饅頭か、ユーリアさんは温泉饅頭ってお好きですか?」

 

外国人……厳密にはコロニーの人間なので少し違うが、餡子は馴染みがないかもしれないと心配になってそう尋ねる武蔵。だがユーリアは心配ないと柔らかく笑った。

 

「エルザム様が良く土産と言って持ってきてくれたので餡子には慣れている。大丈夫だよ」

 

「そうですか、それなら良かった。すいませーん、温泉饅頭4つください」

 

「はい、まいどー! ここで食べて行きますか?」

 

短く刈り込まれた茶髪の活発そうな印象を受ける青年が元気良く訪ねる。

 

「おう、ここで食べていくぜ」

 

「了解、ちょっと待ってくれよ。今蒸し立てが出来るから」

 

同年代そうと言う事で砕けた口調になる武蔵。そしてそんな口調の武蔵に釣られたのか青年も砕けた口調になる。

 

「2人は観光か何かか?」

 

「いや、ちょっと気分転換で散歩にな。それよりもだ、えっと……トウマか、人影も開いている店も少ないがどうしたんだ?」

 

アルバイトの青年の名札「トウマ・カノウ」の名札を見て、人が少ない理由はなんだ? と尋ねるユーリア。トウマは蒸し器の蓋を開けて、蒸し立ての温泉饅頭を取り出しながら困ったように笑った。

 

「いやさ、半年位前にかな? すっごい大地震があってそれであちこち閉まっているんだよ。震源は浅間山らしくてな、俺もバイトがもうすぐ終わりで正直困ってるんだよ。あれ? 凄い顔色悪いけどどうかしたか?」

 

笑いながら言うトウマだが、半年前、地震と言うキーワードで武蔵とユーリアは背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。浅間山地下でゲッターロボを吹き飛ばした振動が観光地をダイレクトに襲っていた事が今判り、凄まじい罪悪感が武蔵を襲っていた。

 

「あーっと、後4個貰って良い?」

 

「おう? 良いけど……じゃあ、はい、先に4個ね。280円になります」

 

罪悪感から更に4個注文したユーリアと武蔵は並んで温泉饅頭を頬張る。

 

「お、温かくて美味い」

 

「それに思ったよりも軽いな。丁度良い感じだ」

 

薄皮でみっちりと餡子が詰められているそれは小腹が空いた時に食べるには丁度良く、また甘すぎない絶妙な味が2人の舌に合った。

 

「そうそう、もしこのままぶらりって歩いて見て回るなら、川のほうに行くと釣堀と公園があるぜ。そっちの方ならまだ店もやっているからそっちに行くといいぜ」

 

更に4個の温泉饅頭を受け取り、ユーリアと武蔵はトウマに教えられた通りに釣堀を目指してのんびりと歩き出した。

 

「釣り……釣りか……」

 

「やった事とか無いですか?」

 

「まぁ……ないな」

 

コロニーにも川や海はあるが、あくまで観光や、精神衛生上のものであり魚などは居らずプールに近い物である。よってユーリアも魚釣りなどはやった事がなければ、生の魚を見るのも初めての事だった。

 

「やってみると面白いから、行って見ましょうよ、判らなければオイラが教えますし」

 

「そうだな……うん、そうしよう」

 

判らなければ教えると言う武蔵の言葉にユーリアは頷き、温泉街に来た時よりも近い距離感で武蔵とユーリアは並んで釣堀に足を向けた。

 

「あの2人恋人同士かなあ……良いなあ、俺も彼女が欲しいッ!!」

 

モデル顔負けの美女のユーリアと並んで歩いていた武蔵の姿を店先から見つめながら、トウマが唸っていると店の奥から店主のおばちゃんが顔を見せた。

 

「トウマくーん、そろそろ追加でお饅頭作るから手伝ってくれる?」

 

「はーい! 今行きまーすッ!!」

 

今日もバイト戦士トウマ・カノウはバイトで爽やかな汗を流すのだった……。

 

 

 

 

 

武蔵とユーリアが軽井沢でのんびりと過ごしている頃。中国のハガネとシロガネのクルーは蚩尤塚での謎のアンノウン出現についての情報を得る為にLTR機構のエリ・アンザイ、そしてレーツェルとラドラを招きいれ、今回の件の話についての会議を始めていた。

 

「艦長、発掘責任者のエリ・アンザイ博士、レーツェル氏とラドラ氏をお連れしました」

 

ブリーフィングルームにテツヤがエリ達を連れて来るのだが、エリの後のレーツェルを名乗るエルザムの存在感が凄まじいことになっていた。

 

(なぁ、ライ。あれ、お前の兄貴だよな?)

 

(言うな……リュウセイッ。俺も混乱している)

 

間違いなくエルザムではあるが、レーツェルを名乗りエルザムでは無いと言うレーツェルの姿にハガネのブリーフィングルームとシロガネのブリーフィングルームには嫌な沈黙が広がっていた。

 

「うむ。忙しいところ申し訳無いな、アンザイ博士、それと……レーツェル・ファインシュメッカーとラドラ少佐。救援感謝する」

 

真顔でレーツェルの名前を呼んだダイテツ……ダイテツ自身もレーツェルに関して深追いせず、偽名と変装をしている理由を察する事にしたのだ。

 

「LTR機構、特殊考古学部門主任のエリ・アンザイです。先程は我々を救助していただきありがとうございました」

 

ダイテツ達とレーツェルに深く頭を下げるエリ。ギリアムとカイが先行した事で遺跡群に被害は少なく、スタッフも怪我が無く襲撃を乗り切れたことにエリは深く頭を下げながら感謝の言葉を口にした。

 

「……なあ、ブリット。LTR機構って何だ?」

 

「名前は聞いた事あるけど、詳しい事は知らないな」

 

軍艦にオブザーバーとして招集されたエリ。だが一般的ではないLTR機構の名前にリュウセイとブリットが首を傾げているとライが小さな溜め息と共にDコンを操作し、2人の前に置いた。そこにはLTR機構の主な活動内容が写真付きで表示されていた。

 

「ロスト・テクノロジー・リサーチ機構……主にオーパーツの発掘・調査を行っている組織だ」

 

「オーパーツってあれか? 黄金のシャトルとか、水晶髑髏とか?」

 

LTR機構の名前では判らなかったが、オーパーツと言われればアニメやゲームで出てくるのでリュウセイも何を研究している場所なのかが判り、ライにそう尋ねるとブリーフィングルームの扉が開き勢い良く1人の老人が飛び込んできた。

 

「ゲッターロボも最古のオーパーツの1つじゃ! さぁ! L5戦役でゲッターロボと戦ったお前達の「ちょっと静かにしてくださいね、シキシマ博士」うっ!?」

 

エリの流れるようなボデイブローで腹を押さえて昏倒するシキシマと呼ばれた老人に全員が目を見開いた。

 

「アンザイ博士、流石に実力行使が過ぎるのではないかな?」

 

「すいません、でもシキシマ博士はゲッターロボの熱心な研究者で、起きていたら話し合いとかしている場合じゃないですよ?」

 

少し顔を見ただけだが、狂人の類であると言うのは明らかでエリの実力行使が正しい処置の可能性が高く、シキシマはハガネのクルーによって足と腕を掴んで持ち上げられ、荷物のようにブリーフィングルームから連れ出された。

 

「あれがシキシマ博士か……聞いてたとおりやべえな」

 

「イルム中尉はシキシマ博士をご存知なんですか?」

 

イルムならばエリに反応を示すと思っていたのだが、イルムが反応したのがシキシマ博士で全員が若干驚いた表情でイルムを見つめた。

 

「俺を何だと思ってるんだ? お前ら」

 

「アンザイ博士をどう思ってます?」

 

「そりゃ、ちょっときつそうだが美人だと思うぜ? シキシマ博士がいなけりゃ、俺も口説くが、シキシマ博士がいるなら話は別だ」

 

エイタのからかうような口調にエリを美人と認め、ナンパする所だったと言いつつも、真剣な顔をするイルム。そんなにもシキシマ博士の名前が大きな意味を持つのかと全員が首を傾げていた。

 

「シキシマ博士は、旧西暦から続く科学者の家系の生まれでな、早乙女研究所に所属していた先祖を持つ高名な博士だ」

 

「だがその経歴と過去の記録を持つと言う事で、ありもしない罪をでっち上げられて投獄されていた博士でもある」

 

「まさか、それってゲッターロボを知っているかもしれないからって事ですか?」

 

ブリットが信じられない、いや信じたくないと言う顔でギリアムとイルムに尋ね、2人が頷くとブリーフィングルームに先ほどとはまた違った沈黙が広がった。

 

「失われた時代を知る研究者の多くは投獄、あるいはありもしない罪によって処刑されたという時代があります。それほどまでに、時の政府はゲッターロボに関する情報を根絶したかったのです」

 

L5戦役で最後まで先陣を切って戦い、そして壮絶に散ったゲッターロボ。地球を救った戦いに参加していた事もあり、政府は一部の失われた時代に関して公表し、投獄していた研究者の一部を解放した。その一部の人間がシキシマ博士だ、かつてはEOTI機関、そしてテスラ研に所属し、何かを作り上げようとしていたと言う話は研究者にとっては非常に有名な話の1つだった。

 

『シキシマ博士がこちらに居られるという事は、この遺跡にはゲッターロボに関する記述があるのですか? アンザイ博士?』

 

「リー中佐ですね。はい、遺跡の採掘準備をする前にいくつものゲッターロボに関する資料が出土しています」

 

少し失礼しますねと声を掛け、ブリーフィングルームのモニターを操作するエリ。スクリーンに映し出された壁画を見て、全員が目を見開いた。

 

「こりゃあ、武蔵の乗ってたゲッターロボか?」

 

「それにこっちはドラゴンにそっくりだ!?」

 

ゲッターロボ、ゲッターロボGにそっくりな壁画の存在にリュウセイ達は驚いた。

 

「アンザイ博士。これと同じ物が南極のリテクでも見つかっている」

 

「レーツェルさんでしたね。はい、その通りです。一定の時期に存在する遺跡の全てにはゲッターロボの記述とそれらしい姿が残されている」

 

「……アンザイ博士、その一定の期間とは?」

 

「勿論1つは旧西暦、そして今回の件にも関係しますが古代中国、そして新西暦初頭です。ゲッターロボは時間、場所を越えてありとあらゆる場所に記述が残っています」

 

時間・場所を越えて出現していると言う記録があると聞いて、ゲッターロボによる時間移動の可能性が強く証明されるが、それはダイテツによって制された。

 

「アンザイ博士、その話にはワシも興味があるが……先に遺跡を襲撃したアンノウンについてお聞きしたい……あれに心当たりは?」

 

ゲッターロボに関しての記述は確かにダイテツ達も知りたい、だが今はアンノウンについての話を聞く為に呼んでいるので脱線はここまでにして欲しいと遠回しに言うとエリは咳払いをして小さく謝罪をしてからアンノウンについての話を始めた

 

「確証は持てませんが、『百邪』の一種か、それに近いものだと思います」

 

「百邪? そんな記述があるのかね?」

 

「はい。太古の昔、この地上に存在していたと言う悪魔や妖怪の類ですわ、そうですね……最近の所では「百鬼帝国」……なんて物もありますわ」

 

ギリアムから告げられていた百鬼帝国の言葉がエリからも告げられ、ダイテツ達は驚きに目を見開いた。

 

「伊豆基地のレイカー司令から分析と解析依頼がありまして、遺跡の文献と見比べましたが……回収された残骸は百鬼獣で間違いないでしょう」

 

まだ僅かに疑いがあったが、百鬼帝国の記述があると聞いて百鬼帝国復活が信憑性を帯びてきた。

 

「でもアンザイ博士。あのアンノウンと百鬼獣は全然違ったけど……」

 

「ええ、あくまで百邪に含まれるというだけで年代や場所が違いますし、百邪と言っても、生物や機械といったようにその姿も思想も大きく異なります。あのアンノウンと百鬼獣は全く違う分類になるのでしょうね」

 

百邪と一言で言っても、その存在は多岐に渡って存在すると言われば姿が違うと言うのも微々たる差異になるのだろう。

 

「神話や伝説ならともかく、現実にそんな物が存在しているなんて……」

 

『正直言って信じられないな……いや、ギリアム少佐を疑っていた訳では無いが……それでもまさかと言う考えがなかった訳ではない』

 

「だが、あのアンノウンを見た以上……信じられぬ話ではあるまい」

 

文献があると言われていてもそれを直接見た訳ではなく、ギリアムから話を聞いていただけで、百鬼帝国と百鬼獣の姿を真似ているだけの兵器と言う線も捨て切れなかった訳だが、アンノウンと百鬼帝国の記述があるといわれ、その専門家に間違いないと言われれば、ダイテツ達もそれを信じるしかなかった。

 

「それで、博士……アンノウンがここへ現れた理由について何かお分かりか?」

 

「おそらく、あの遺跡……『蚩尤塚』に眠っている物を狙ってきたのだと思います」

 

「しゆうづかですか?」

 

聞き覚えの無い言葉に怪訝そうな声で尋ねるテツヤにエリはしゆうではなく、しゅうと訂正した。

 

「蚩尤とは中国神話に登場する軍神……伝説の帝王・黄帝との戦いで敗れ、封印された魔神の事ですね? アンザイ博士」

 

「良くご存知ですね。レーツェルさん」

 

「ええ、私もゲッターロボに関して色々と過去の文献を見ていましてね。その中で蚩尤塚に触れることもあったのですよ、しかし、あそこ

には蚩尤ではなく龍と虎の超機人が眠っているそうですが……?」

 

レーツェルから告げられた新たな言葉、超機人の言葉にエリは驚いたような表情をした。

 

「エリ博士、超機人とは?」

 

「古の時代の人々が百邪と戦う為に造り出した巨大な機械人形の事です、一説によるとゲッターロボと共闘した、あるいは敵対した等、その存在は謎に包まれているますが……この地方の古文書によれば、蚩尤塚に眠る超機人は1体……龍と虎の姿を持ち、その力は一国の運命をも変えると言われています」

 

ゲッターロボと敵として、またあるいは味方として戦った存在が中国に眠っていると聞いて、全員が驚き、そしてテロリストがこの場所を狙った理由にも納得が行った。

 

「テロリスト達はその超機人を狙っていたのか……」

 

「ゲッターロボと一緒に戦えるほどの存在だ……喉から手が出るほどに欲しいだろうよ」

 

ゲッターロボの強さはキョウスケ達が身を持って知っている。味方にすれば頼もしく、敵に回れば何よりも恐ろしい存在……それがゲッターロボだ。それと共に戦える物があるかもしれないと判れば、誰だってそれを手にしようとするだろう。

 

『ダイテツ中佐。このまま採掘を続けさせるのは危険かと』

 

「そうだな、また襲撃が無いとは言い切れない。ワシの方からレイカーに頼んで採掘現場に警護をつけるように頼もう」

 

「すいません、よろしくお願いします」

 

ゲッターロボと対等の存在が眠るかもしれない古代遺跡。そこに眠る物をテロリストにも、百鬼帝国にも渡す訳には行かない。ダイテツとリーは連名で、レイカーにLTR機構の採掘の護衛をつける事を頼むとエリに約束した。

 

「さてと、随分と待たせてしまったな。レーツェル、何をしに来たのか聞かせてもらっても良いだろうか?」

 

エリを採掘場に送り返してからダイテツがレーツェルとラドラに声を掛けた。ビアンの使いであるレーツェルとラドラの話をユリに聞かさせる事が出来ず、待たせたことを謝罪してからダイテツはビアンから何を言われて、ここに来たのかを問いかけた。

 

「はい、私達はビアン博士の指示によって動いております。L5戦役で共に戦ったダイテツ中佐、そして伊豆基地のレイカー司令を信頼して、1つ頼みたい事があると言って私達を派遣しました」

 

ビアンの名前を出した事で更にレーツェルがエルザムであると言う疑惑がより強い物となる中。レーツェルは深刻な声色で告げた。

 

「我々も幾度も百鬼帝国の襲撃を受けています。そしてその中でビアン博士と同じ声をした何者かの姿も確認しております」

 

「それに伴い、俺達で手にした百鬼帝国のデータを譲り渡しに来た。それぞれに地球の平和を守る為にな」

 

それはシャインと同じ……シャイン・ハウゼンに成り代わろうとしたように、ビアンを殺し、ビアンに成り代わろうとしている者が存在すると言う事がレーツェルから告げられ、ハガネとシロガネのブリーフィングルームに強い緊張感が広がるのだった……。

 

 

 

 

一方ハガネでそんな重い話をしているなんて夢にも思っていない武蔵とユーリアはと言うと……。

 

「あっ……」

 

「そんなに力いっぱい引いたら駄目ですって、こうやって竿の弾力を生かしてっと」

 

自然の川を利用した釣堀で2人で並んで釣り糸を垂れていた。だがユーリアは力任せに引いてしまい、竿を高く上げた事で、糸がピンと張られてしまい、乾いた音を立てて糸は切れてしまった。しょんぼりとしているユーリアの隣で武蔵は竹竿の弾力を生かして、ニジマスを1匹釣り上げてみせる。

 

「こういう風ですね」

 

「なるほど、では今度こそ私も釣って見せるぞ」

 

「頑張ってください。ユーリアさんの竿はこっちで仕掛けを直すんで、オイラの竿を使ってくれて良いですよ」

 

武蔵はユーリアに自分の竿を差し出し、ユーリアの竿を受け取って仕掛けを作りなおす。その隣でユーリアは釣り針にイクラをつけて、敵が川の中にいるかのように鋭い視線で睨みながら仕掛けを川の中に振り込んだ。

 

「……今度こそ釣ってみせる。じゃないと昼食が無くなるからな」

 

「はは、そうですね。頑張りましょう」

 

バーベキューも出来る釣堀だが、客が居らず殆ど貸切状態の川原で気合を入れた表情をしているユーリアと、その隣で朗らかに笑いながら仕掛けを作る武蔵の姿は誰が見ても恋人のように見えているのだが、ユーリアと武蔵はそれに気付かない。勿論、もしも回りに客が居れば気付く事も出来ただろうが、2人きりでは気づきようがある訳もない。

 

「き、来たぞ!」

 

「お、流石にイクラですから食い付きがいいですね」

 

仕掛けが馴染んで数秒でウキが沈み、右往左往しながらニジマスを釣り上げようとするユーリアの隣で網を構える武蔵。その2人の顔はとても楽しそうで、久しぶりの息抜きを心から楽しんでいるのが誰の目から見ても明らかで、釣堀の管理人達も思わずほっこりするような穏やかな光景だった。

 

「もう少し寄せてくださいね」

 

「こ、こうか?」

 

「そうそう、よいしょっ!」

 

「つ、釣れた。私にも釣れたぞ武蔵!」

 

初めて魚が釣れたと無邪気に喜ぶユーリアに武蔵も良かったですねと笑い返し、今度は2人で並んで釣りを始める武蔵とユーリアなのだった……。

 

 

 

第24話 騒乱の火種 その2へ続く

 

 




本当はもう少し話を広げるつもりだったのですが、長くなりそうな感じだったのでここで1度話を切る事にしました。次回はレーツェル達とダイテツ達の話、そしてラトゥーニとリュウセイ、最後にゼオラの話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話 騒乱の火種 その2

第24話 騒乱の火種 その2

 

クロガネも百鬼帝国に襲われていると言うレーツェルとラドラの言葉はダイテツ達に少なくない衝撃を与えていた。

 

「クロガネは大丈夫だったのか?」

 

「ええ、私達は私達で独自に戦力を生産していますし、ビアン博士の繋がりでゲシュペンスト・MK-ⅢもヒュッケバインMK-Ⅲも手にしていますから」

 

ゲシュペンスト・MK-ⅢとヒュッケバインMK-Ⅲを手に入れていると言う言葉にダイテツは驚いたが、良く考えればそれはありえない話ではない。表立ってビアンには協力していないが、レイカーもビアンとのつながりは太い。トライアウトの為に作られた試作型のゲシュペンスト・MK-ⅢとヒュッケバインMk-Ⅲを入手したのだろう。

 

『失礼だがレーツェル。貴方に聞きたいのだが、百鬼帝国を退けたのはゲッターロボの力を借りたのではないのかな?』

 

「ゲッターロボ。武蔵君の事ですね、私達も武蔵君の事を探していますが……どこかでそれらしいものを見たのでしょうか? リー中佐」

 

ダイテツはリーの言葉に内心しまったと感じていた。もう少し話の中で情報を集めたいと思っていたのだが、武蔵が生きていると言う確信が欲しかったのか、すぐにそう尋ねてしまったのだ。

 

「リクセント公国でボロボロのゲッターロボが確認されているのだが、何か知らないか?」

 

「いいえ、私達は何も、しかし……武蔵君が生きているのならば、リクセント周辺を探してみるのも良いかもしれないですね」

 

「貴重な情報に感謝しよう」

 

レーツェルとラドラの言葉が嘘なのか、真実なのか……長い艦長生活をしているダイテツから見ても2人が嘘を語っているのか、真実を語っているのかは判らなかった。

 

「しかし、ゲッターロボは見ていないですが、ゲシュペンスト・タイプSと黒い見慣れないPTならば目撃しましたが、そちらはどうでしょうか?」

 

「こちらもハワイで確認している。繰り返して聞くが、クロガネにゲシュペンスト・タイプSとゲッターロボは合流していないのだな?」

 

「合流していたら報告するでしょう? 貴方達だって武蔵君が死んだと思っていない筈だ。仮にダイテツ中佐が武蔵君が生きていると言う

証拠を手にして、武蔵君が生きていると判ったのならば、その喜びを分かち合いたいと思う筈だ。私達だってそれは同じですよ」

 

横目でギリアムとカイに視線を向けるが、2人でもレーツェルが真実を述べているか判らないのか首を左右に振る。

 

「判った。失礼な事を聞いて申し訳無い」

 

これ以上ゲッターロボと武蔵の事を聞いてもレーツェルもラドラも何も語らないだろう。真実であれ、虚偽であれ、これ以上ゲッターロボに関する話を聞こうとしても何の成果も無く時間だけが過ぎるのならばとダイテツは話を切り上げた。

 

「そちらが手にした百鬼帝国についての情報を知りたい」

 

「了解です。とは言え、私達もそこまで詳しい事を手にしている訳ではないのですが……百鬼帝国は「大帝」と呼ばれる1人を頂点にした

組織のようです。角の数が地位や名誉、そして階級を表すのです」

 

「角が階級を表す?」

 

「はい、百鬼獣も頭部の角があったでしょう? その角の数が強さと階級を現しているのです。雑兵は1つ、指揮官は3つといった風にです。また角の形状などでもある程度は変化するようですが、基本的に角の数が多い百鬼獣は他の百鬼獣よりも強いと見て間違いないでしょう」

 

角の数……そう言われるとリクセントに出現したパイロットが乗っていると思われる百鬼獣は四本の角で他の百鬼獣よりも立派な角をしていた事を思い出した。

 

「角で階級や権力を現すねえ……判りやすいのは良いけどさ、随分と子供染みているんじゃないか? それは確かな情報なのかレーツェルさん」

 

イルムがほんの少しの疑惑の色を瞳に映して問いかける。レーツェルが口を開こうとした時、それよりも早くギリアムが口を開いた。

 

「それに関しては俺も似たような情報を得ているから、信憑性は高いだろう。鬼の象徴と言えば角、強さと権力の証であると考えるのは当然の事だと思う」

 

鬼と言われれば、思い浮かぶのは言うまでもなく角だ。その大きさと数で強さや階級を示すというのは原始的だが、わかりやすい選別方法だろう。

 

「OK、判った。不躾なことを聞いて申し訳無い」

 

「いや、気になることは尋ねてくれて構わない。疑問は解決するべきだ」

 

疑問は解決するべきだと言うレーツェル。その為にここに来ているのだ、気になっていることは聞くべきだと促され、ブリットが手を上げた。

 

「ゼンガー隊長はお元気ですか?」

 

それは違うだろうっと言う視線が向けられるブリットだが、若干天然気質のブリットはそれに気付かない。

 

「元気にしている。修行と鍛錬に明け暮れているぞ」

 

「そうですか、ありがとうございます! 俺も頑張っていると伝えてくださいッ!」

 

レーツェルではなく、ラドラの返答にブリットはありがとうございますと返事を返した。だがレーツェルが聞くべきだと言ったのは、百鬼帝国の事であり、決してレーツェル達の陣営の話ではないという事を忘れてはいけない。

 

「こちらもある議員を1人保護している。その時にその議員と同じ顔をした鬼を目撃している」

 

「我々は姿を見てはいないが、シャイン・ハウゼン国家元首が自分と同じ顔をした存在を見ていると話を聞いている」

 

「それで判ると思うが、百鬼帝国の目的は上層部の入れ替えだろう。だがこの事を公にすることは出来ない」

 

指導者が鬼に入れ代わっているかもしれない。そんな事を言えば、まず正気を疑われ、次に疑心暗鬼に陥り人間社会が大混乱に陥る。

 

「だからビアンが警戒しろと言うのだな?」

 

「ええ、今1番利用しやすいのはビアン博士ですから」

 

DC戦争を起こし、そしてL5戦役では地球の為に戦い。そして現在は行方不明――百鬼帝国が隠れ蓑として使うのにビアンほどの適役はいない。

 

「ビアン・ゾルダークが再び決起したとなれば、燻っているDC残党は一気に息を吹き返す」

 

『しかし、ビアン博士のL5戦役の事を考えればそう簡単に乗ってこないのでは?』

 

L5戦役で地球を守る為に連邦と共に戦ったという経歴があるビアンが再び決起したと言っても、前回ほどのインパクトはないのでは? とリーは言うが、テツヤは違うと断言した。

 

「テロリストやアンノウンを使って、俺達の怠慢をアピールするという手がある」

 

『それはマッチポンプと言うことか』

 

百鬼帝国の鬼がビアンに扮し、百鬼帝国やテロリストの襲撃を受けている街を救う。そうなれば連邦の怠慢だけが目立つ形になり、ビアンの元で地球を守る為に再びDCに賛同する者は多くなるだろう。

 

「もしくは、地球連邦では地球守る事が出来ないと、今の地球が危ないのは連邦の杜撰な政策のせいだとすると言う手も考えられる」

 

「そのために政治家に成り代わっていると考えれば、辻褄は合う」

 

ビアンを正義の味方として立たせ連邦を批難させる。そして政治家は鬼が成り代わり国民を追い詰める政策を打つ……それらで連邦に対する信頼は一気に落ち込み、以前以上にDCに賛同するものが増えると言った展開が容易に想像出来た。そして成り代わりの事を知っていても、それを公言する事は出来ず疑心暗鬼に駆られる……何重にも張り巡らされた謀略がダイテツ達を囲んでいた。

 

「警戒を続けて欲しい。急に言動が変わった議員や軍上層部の人間の把握、それ位しか備える術はない」

 

『今度の戦いはL5戦役以上に厳しい戦いになるな』

 

仲間、味方と思っていた相手が敵が成り代わった存在かもしれない。親しい相手が殺され、全く別の化け物に入れ代わっているかもしれない……その恐怖は計り知れない物となるだろう。

 

「今私達に出来るのは上層部や指導者が全て鬼に入れ代わる前に、百鬼帝国の存在を立証する事……我々はまだ表舞台には立てません。だから確実に大丈夫だと信用出来るダイテツ中佐達にお願いしたい」

 

成り代わられること無く、地球を守るために戦い続けてくれると、ダイテツ達ならば大丈夫だと言う確信があってビアンはレーツェル達に百鬼帝国の目的を伝え、そしてそれをダイテツ達に伝えさせた。

 

「その期待と信頼に応えれるようにワシ達も頑張ろう」

 

「よろしくお願いします。また何か判れば伝えに来ます。ラドラ行こう、まだやらねばならない事がある」

 

「ああ、ではな、カイ、ギリアム。また会おう、今度はゆっくり酒を酌み交わせる時にでもな」

 

レーツェルとラドラは言いたい事を伝えるだけ伝え、すぐにハガネを後にした。

 

「旧西暦の悪意の存在、そして成り代わりか」

 

『正直我々だけでは荷が重いですね』

 

「弱音を言っている場合ではないぞ、リー中佐。我々が地球を守る剣であり、盾となるのだ。弱気にも不安を感じている時間など無い」

 

『ダイテツ中佐……はっ! 私も地球を守る為に全力を尽くしたいと思います!』

 

中国に現れた百邪と言う太古に存在した敵性存在、そして旧西暦に存在したと言う百鬼帝国の復活、台頭するテロリストの蛮行……そして今まで見たこともない謎の人型機動兵器の存在――だが地球圏を脅かす新たな火種が地球に迫っている事をダイテツ達は知る良しも無いのだった……。

 

 

 

 

ラドラとレーツェルがハガネを後にした後。ダイテツ達はレイカーに連絡を取る為、ブリーフィングルームを後にし、残りの面子はアンノウンについての話し合いをしていた。

 

「ライ、アンノウンの残骸の分析結果は?」

 

「現時点では生物……のような物だと推測されています。詳しくは伊豆基地に戻らなければ判りませんが……全く未知の存在と言っても良いでしょう」

 

ビームコートに似たバリア機構とグルンガストやゲシュペンストの装甲に深い傷を与えたアンノウンが生物と聞いて、カイ達は怪訝そうな顔をした。

 

「あれだけの攻撃力があって生物だと言うのか?」

 

「ゲシュペンストの装甲をへこませていたんですよッ!? あれが生物だとはとても思えないッ!!」

 

ビームを放ち、自己再生能力を有し、攻撃ではPTや特機の装甲を傷つける。そんな異様な能力を持つアンノウンが生物と聞いて信じられないとブリットが声を荒げる。

 

「生物だと断言している訳ではない。ただ機動兵器特有の熱源反応や金属反応が無く……かと言って生物でもない。アンノウンとしか言いようがないんだ」

 

生物に似た特徴もあるが、機動兵器としての特徴もある。そして死ねば、僅かな残骸を残し消滅する。それらの特徴を聞いていたキョウスケがライに向かってある事を尋ねた。

 

「あれは地球上の物体なのか?」

 

アンノウンを構成してた物質。それが地球の物体なのか? と言う疑問だ。自己再生する金属なんて物は当然ある訳も無く、また機動兵器を傷つけるような生物が存在するなんて事も信じたくはない。

 

「まだ判りません。ただ……サイバスターやマサキの事を考えると……ありえない話ではないかと」

 

地球の内部の世界からやってきたというマサキとサイバスターと言う例もある。自分達が知らないだけで、地球にそういう生物がいたと言う可能性はゼロではない。

 

「メカザウルスの同類と言う可能性もあるんじゃないのか? ギリアムはどう思う?」

 

「いや、メカザウルスのDNAは地球に存在する爬虫類の物とほぼ合致している筈だ、ライディース少尉。あのアンノウンのDNA構造は?」

 

「それらも今解析段階ですが、やはり伊豆基地に戻らなければ詳しい事はなんとも……」

 

ハガネにある設備では正確な検査は出来ない。ほんの僅かに残されている手掛かりで、推測を立てるしか今のライ達には出来なかった。

 

「地球外から来たという可能性はないのでございましょうか?」

 

「現段階では、地球外生命と言う可能性が1番高いが……あくまで可能性の話だ。ラミア、何か思い当たることでも?」

 

「い、いえ、私には化け物にしか見えなかったでございますですから」

 

何か思い当たる節があるのか? と尋ねられ、見た目を見て化け物にしか見えなかったと言うとブリーフィングルームにいた全員が納得した。

 

「確かにあの見た目じゃ化け物にしか見えないな」

 

「そうね、それにエアロゲイターの兵器には見えないしね」

 

エアロゲイターの機体にはある程度の共通性があった。そういう意味ではアインストも共通性があったが、エアロゲイターの兵器とは根底から違うと言うのが良く判った。

 

「そう言えば、ライ。見た目と言えば……貴方のお兄さんはどうしたのかしら? 頭でも打ったの?」

 

ヴィレッタが思い出したようにレーツェルと名乗っていたエルザムの事をライに尋ねる。その瞬間に死んだ目になるライと、触れなかったのにと言う嫌な沈黙がブリーフィングルームに広がった。

 

「その、兄さんは少し影響を受けやすい部分がありまして、恐らくビアン博士の影響かと」

 

「そう……ライはお願いだからああいう服装は控えてくれるかしら?」

 

ヴィレッタの天然な言葉にますます死んだ目になるライに慌ててカイが助け舟を出した。

 

「そ、そう言えば、キョウスケ……お前、奴らの声がどうとか言って無かったか!?」

 

アンノウンの声を聞いたと言って、しきりに他のメンバーに声が聞こえなかったかと尋ねていたキョウスケ。

 

「ええ。しかし、自分とエクセレン以外には聞こえなかったようです」

 

「何だったのかしら、あれ。キョウスケも聞いてるんだから、空耳じゃないと思うけど……ん! もしかして、私ってエスパーの素質があるとか?」

 

何故キョウスケとエクセレンだけにアンノウンの声が聞こえたのか? と言う謎についての話にブリーフィングルームの話題がすり替わる。

 

「考えられるのはキョウスケ達がアンノウンの思考波を受信したと考えるのが妥当な所だな」

 

「しかし、ギリアム少佐。それでは何故、俺やリュウセイが聞こえなかったのですか?」

 

思考波となれば念動力者であるリュウセイやブリットの方が受信する確率は高いだろう。しかし、実際に声が聞こえたのはキョウスケとエクセレンだけという事を不思議そうに尋ねるブリット。

 

「んーあれじゃない? ラジオの電波の違いとか……と、リュウセイで思い出したんだけど、リュウセイとラトちゃんは? まさか2人で密会とか!? 先生不純異性交遊は許さないわよ!?」

 

少し良い感じだったリュウセイとラトゥー二の姿が見えない事に気付き、エクセレンが業と明るい声で言うとキョウスケの手刀がエクセレンの頭を捉えた。

 

「もう痛いわね」

 

「無理にテンションを上げなくても良い。普通にしてろ」

 

「……はい」

 

キョウスケに言われるとエクセレンは途端に静かになり、キョウスケの後ろに回ってそのジャケットの裾を掴んだ。

 

「すまない、エクセレンも一杯一杯でな……」

 

アンノウンに撃墜されたリオンとそのリオンの搭乗者の名を叫んで半狂乱になっていた少女の声――それは今もなおキョウスケ達の耳にこびり付いていた。

 

「完全に日暮れになる前に捜索許可が下りるといいんだがな……」

 

「確率は低いが……生存している可能性があるのならば見捨てる事はできん」

 

アンノウンに撃墜されたリオンは脱出装置を起動させた素振りは無かったが、胸部ブロックだけが射出されるのが戦闘記録に残されていた。可能性は限りなく低いが、アラドと言う少年が生きているのならば保護したいとダイテツ達は考えていた。それが伊豆基地に向かって出発せずに、中国にハガネとシロガネが残っている理由だった。

 

「もしかして、リュウセイ達は……」

 

「格納庫で待機してる。出撃許可が出たらすぐに捜索に出るためにな」

 

ラトゥー二が捜し求めたスクールの生き残り――生存率が低くても生きている可能性があるのならばとラトゥー二とリュウセイは出撃許可が下りるのをレーツェルとアンザイ博士の話の後からずっと格納庫で待ち続けていた。

 

「生きていると良いですね。あの子の為にも……」

 

「そうだな。あの取り乱しようを思い出すだけでも、胸が痛くなる……」

 

自分のパートナーであろう少年の名を叫び、助けを求め、返事をしてくれと叫び続けた少女の事を思えば生きていて欲しいとカイ達が願うのは当然の事だった。

 

(俺とエクセレンの共通点と言えば……あの時の事故か? だが、理由が判らん奴らは一体……)

 

その中でキョウスケだけは自分とエクセレンにだけアンノウンの声が聞こえていた理由を考えていた。1番可能性があるのは士官学校時代の事故だが……とそこまで考えた所でキョウスケはあることを思い出した。

 

「ラミア、お前はあのアンノウンが出現する前に空間転移と言っていたな? お前……何か知っているんじゃないのか?」

 

キョウスケの指摘にラミアはびくりと肩を竦めた。その反応を見れば、何かを知っていると言うのは明らかだった。

 

「お、おほほほ……何と申し上げますればいいのでしょうかしら。何となく……でいいじゃござんせんかでしょう? ……それに、異星人も同様の技術を持っちゃっていることでございましたですし」

 

「反応が全く同じなら、な。だが、そうだったら、ハガネの方でも気付く筈だ」

 

確かにエアロゲイターも転移装置は所持していた。だがそれならば転移パターンがハガネに残されているから、ハガネが気付く筈だと言うとラミアは目を泳がせて、キョウスケから目を逸らす。

 

「ラミアだったわね。何か知っていれば、話してくれるかしら?」

 

「そうだな。疑っている訳では無いが……君の戦闘中の言動には些か引っかかる所がある。その疑惑を払拭する為にも、何か思い当たる節があるのならば教えてくれないか?」

 

ヴィレッタとギリアムも加わり、逃げ道を断たれたと気付いたラミアは小さく溜め息を吐いた。

 

「実は……その、イスルギの社長ミツコ・イスルギはエアロゲイターの転移術に強い興味を抱いておりましたのです」

 

「あの戦争屋か……確かにあの女ならば興味を抱きそうなものだが……それと何か関係があるのか?」

 

ラミアは必死に頭を働かせ、自分への疑惑をミツコへの疑いへと逸らす為の話を考え始める。

 

「転移には独特な周波数があることが判っておりますでしょう? もしも単独で転移出来るような機体の反応があればと、探知装置の様な物がアンジュルグには搭載されていると聞いた事がありましたのです、あの時そのレーダーに反応があったので、空間転移だと咄嗟に叫んだのです」

 

苦しい言い訳ではある。だが兵器を売る商売をしているミツコの事を考えれば、転移装置を求めるのは当然の事。

 

「……ふむ、ギリアム。どう思う?」

 

「そうですね。筋は通っているかと……シロガネにもイスルギ重工の転移反応を感知するレーダーが搭載されていますし、無差別に探知すると言うレーダーを開発するというのは不可能ではないかと」

 

「ラミア、そのレーダーを提出すること可能か?」

 

「は、はい、大丈夫でありますですの、ただ転移反応を感知したことでオーバーヒートをしているので、正常に機能するかはわかりませんでありますですのよ?」

 

「それでも……「各員に告げる。採掘現場周辺の捜索許可が下りた、各員は採掘現場周辺の撃墜された機体のパイロットの捜索準備を行なえ」……ッ! で、では私も捜索準備を行いますのでこれで失礼したりしなかったりしますの」

 

破損していても構わないからレーダーを提出するようにキョウスケが言おうとした時。タイミングよく、捜索命令が下り逃げるようにラミアはブリーフィングルームを後にした。

 

「中尉、俺達も行きましょう」

 

「ああ、先に行っていてくれ、俺もエクセレンを部屋に届けたらすぐに出撃する」

 

「キョウスケ、私大丈夫「そんな酷い顔色で何を言っている」カイ少佐、ギリアム少佐。申し訳ありませんがよろしくお願いします」

 

エクセレンの手を強引に握り、ブリーフィングルームを出て行くキョウスケ。そのまま早足でエクセレンの自室まで連れて行くとベッドに横になるように告げて踵を返そうとする。

 

「ねえ、キョウスケはラミアちゃんを疑ってるの?」

 

「……今はな。だが……あの時、ラミアが警告してくれなければ間違いなく、俺達の中にも被害が出ていた」

 

散れという叫び声がなければ間違いなく出現したばかりのアンノウンに襲われていただろう。それがあるからキョウスケはラミアを疑いきれないでいた。

 

「信じたいから話を聞きたいのね。それならもう少し優しく聞いてあげなさいよ?」

 

「そうだな……次は気をつける。エクセレン……お前は休んでいろ」

 

「うん、ありがと……それとごめんね」

 

部屋に入ると取り繕うのも限界になったのか青い顔で謝るエクセレンに気にするなと告げて、キョウスケも捜索の為に格納庫に足を向ける。

 

(ラミア……お前は何者なんだ)

 

怪しくはある、だが、命を賭けて皆を救おうとしてくれた。疑う気持ちと信じたい気持ち……その両方を感じながら、キョウスケはハガネの通路から出撃していくアンジュルグの姿を見つめているのだった……。

 

 

 

 

 

時間は少し遡り、キョウスケ達がアンノウン――アインストについて話している頃。格納庫では、リュウセイとラトゥー二が待機室のベンチに腰掛け、出撃命令が降りるのを待ちながらどういう事情なのかをリュウセイに話していた。

 

「そっか。大変だったな、ラトゥーニ」

 

「……うん」

 

「俺でも悩むよ。それでもラトゥーニは助けようとしたんだ。絶対それは間違いじゃない」

 

「……そうかな?」

 

「そうに決まってる。仲の良い友達……いや、家族だったんだろ? それと戦うなんて俺だったらと思うと怖くて仕方ねえよ」

 

スクールはラトゥーニにとっては恐怖の記憶だ。だけどそれでも温かい思い出は確かにあったのだ……その温かい優しい思い出をくれた家族と戦うなんて考えるだけでリュウセイには恐ろしかった。

 

「あの時助けれたら良かったんだ。ごめんな」

 

「う、ううん。リュウセイは悪くないよッ! わ、私を庇ったから……動けなくなったんだもの……」

 

もしもあの時リュウセイがラトゥーニを庇わなければ、リニアカノンでラトゥーニは死んでいたかもしれない。

 

だがもしあの時リュウセイが動ければ、2人で暴れるゼオラを確保できたかもしれない……。

 

そんな色んなもしもが2人の脳裏を過ぎった……。

 

「それならまずはアラドだっけ? そいつを見つけようぜ、絶対生きてる。んで、次はゼオラだよな? その子もちゃんと助けよう」

 

「……手伝ってくれるの?」

 

「当たり前だろ! 俺も手伝うッ! 取り返そうぜ、お前の家族をッ! 奪われたら取り返せばいいんだ。俺達だってそうした」

 

L5戦役終盤でエアロゲイターに洗脳されたイングラムをリュウセイ達は死に物狂いで取り返した。リュウセイの言葉には凄い説得力があった……自分を助けてくれたようにリュウセイなら助けてくれるそう判った途端ラトゥーニの目から涙が零れた。

 

「ちょっ、ちょっ!? ハンカチハンカチッ!」

 

泣いてるラトゥーニを見て慌ててハンカチを探すリュウセイ。立ち上がりパイロットスーツのあちこちを探し回るリュウセイの背中にラトゥーニが後から抱きついた。

 

「リュウセイ……ありがとう」

 

「……お、おう……どういたしまして? あ、ハンカチあったッ!」

 

良く判らない様子でもどういたしましてと返事を返し、やっとハンカチがあったと笑うリュウセイにラトゥーニはその背中に顔を埋めたまま、ぎゅっと腕を回した。

 

「ラトゥーニ?」

 

「……ごめん。少しだけこのままで……」

 

背後から自分を抱き締めているラトゥーニの腕が振るえているのに気付き、リュウセイは何も言わずラトゥーニの好きにさせるのだった。なお待機室の外では……。

 

「やべえ、すごく良い感じなんだけど」

 

「どうするよ、アルブレードの修理間に合わないぞ?」

 

「でもさ、回せる機体もないぞ?」

 

待機しているリュウセイに回せる機体が無いと伝えに来た整備班達がリュウセイの背中に顔を埋めて泣いているラトゥーニを見て動けないでいると出撃許可の放送が入った。やばいと思っているまに待機室から出てきたリュウセイとラトゥーニと鉢合わせする整備班……。

 

「呼びに来てくれたのか! ありがとな!」

 

「……」

 

呼びに来てくれたと感謝するリュウセイと自分がリュウセイに抱きついているのを見られたと悟り、絶対零度の視線で整備班を見つめるラトゥーニ。このままでは殺されると判断した整備班の副リーダーは慌てて叫んだ。

 

「アルブレードの修理が済んでいないので、ラトゥーニ少尉のヒュッケバインMK-Ⅲで出撃してください!」

 

「え? 2人乗り? 出来る「行こうリュウセイ!」え、待て待て待て!? 無理じゃないか!?」

 

ラトゥーニにつれられてヒュッケバインMK-Ⅲに向かって歩き出すリュウセイ。なお、この時リュウセイに整備の状況を告げに来た整備班達はラトゥーニが人殺しの目をしていたと震えながら酒の席で口にしていたのだった……。

 

「リュウセイ。何か感じる?」

 

「いや、何にもだな。もう少し北上してみるか」

 

「うん、判った」

 

コックピットシートにラトゥーニが腰掛け、リュウセイはその後の非常用の救難キットとかの間に座り。背後からラトゥーニを抱き締める形でヒュッケバインMK-Ⅲに乗っていた。

 

(……いや、なんかこれ不味くね?)

 

自分よりも幼い少女を背後から抱き締めている形になっている事が明らかに事案のように思えて、挙動不審のリュウセイ。だがラトゥーニもパイロットスーツ越しだが、リュウセイに抱き締められているのを感じ、その顔を紅く染め上げていた。

 

「ライディース少尉達も出撃したみたいだね」

 

その気恥ずかしさを誤魔化す為にライ達も出撃したと話を振るラトゥーニ。

 

「そ、そうだな。これだけ人数がいれば……ラトゥーニッ!」

 

「え、な、なにッ!?」

 

後から身を乗り出して操縦桿を掴んだリュウセイ。その顔が自分の胸を覗き込むように形になっているのに気付き、ラトゥーニも上擦った声で何かと尋ねた。

 

「あそこ! あれリオンの胸部ブロックじゃないか!?」

 

リュウセイが操縦し、視点が変わった事で気付いたのだ。残骸の中に埋もれるようにして逆さまになっているリオンの胸部ブロックの存在に、それに気付いたラトゥーニはリュウセイの手の上から操縦桿を握り、進路を変更する。

 

「アラド、アラドッ!」

 

『っくう……ら、ラト……? か……お、俺……どうなった……』

 

逆さまの胸部ブロックに向かって叫ぶラトゥーニ。ノイズ交じりだが返事がある事に気付き、慌てて胸部ブロックを抱えさせ、ハガネへとヒュッケバインMK-Ⅲは引き返していく。

 

「え? 2人で乗ってたのか?」

 

「「あ……」」

 

しかしそこで2人でPTに乗っていた事を指摘され、アラドを救護班に引き渡した後。リュウセイとラトゥーニの顔は真っ赤になり、やましい事は無かったと身振り手振りを交えながら必死に弁解するのだが、その必死さが余計にリュウセイとラトゥーニの関係を勘繰る物となった事に2人は気付く余裕が無いのだった……。

 

 

 

 

アラドがハガネに回収されたことなんて知らないカーラは格納庫のベンチに座り深い溜め息を吐いていた。

 

「あのさ、ユウ……そのもしかして……」

 

最後に帰還したアーマリオン隊の報告を聞いていたユウキの姿を見て、俯いていたカーラは勢い良くその顔を上げた。

 

「すまない。無理だったようだ」

 

アラドの捜索を戦闘中ギリギリまで行っていたアーマリオン隊が戻って来たのを見て、カーラの顔に僅かな希望の光が宿ったがすまないと言うユウキの言葉にその顔が暗く沈んだ。

 

「……ゼオラは?」

 

「今、セロ博士と一緒にいる。さっきまで大暴れしてて手がつけられなかったんだ」

 

体力の限界が来るまで泣き叫び、暴れていたと聞いてユウキは胸が痛んだ。

 

(くそっ、上手く行く筈だったのにッ!)

 

やはりユウキの予想通り、百鬼獣の妨害を受けて、エルザム達の到着が遅れた。それさえなければユウキの計画通りにアラドとゼオラはクロガネに保護されていたのだ。それを思うとユウキは居た堪れなくなった……。

 

「だが、希望はまだある」

 

「ハガネ……の事?」

 

「ああ、アラドは投降すると叫んでいた……運が良ければ、アラドを保護してくれているかもしれない」

 

「……そっか、うん……そうだね、そう思うほうが良いよね?」

 

それが希望的観測であると言う事はユウキもカーラも判っていた。虚空から出現したアンノウンに貫かれ爆発するリオンの姿は今もなお、2人の脳裏に焼き付いていた。

 

「今に始まった事じゃないけど……堪んないよね……アラド、ホントに死んじゃったのかな……」

 

「生きている」

 

「え?」

 

「アラドは生きてる。あいつは、悪運が強かったし、何よりも生きるって言う意思が強かった。だからきっと……生きてる」

 

普段理路整然としているユウキが感情論を口にした。その事にカーラは驚いたが、小さく笑った。

 

「そうだね……きっと生きてるよね」

 

「ああ、生きてる……そう信じよう」

 

確証なんて無い、だけど生きていてほしいとユウキとカーラは心から祈るのだった……。

 

「いや、いやああッ! アラドアラドッ! どこっ! どこにいるのッ! アラドぉッ!!!!」

 

体力が無くなるまで暴れていたと言うゼオラだが、少しでも体力が回復すれば泣き叫びアラドの姿を捜し求めていると言うことを何度も繰り返していた。

 

「ゼオラ! 落ち着くんだ、ゼオラッ!」

 

「セロ博士ッ! アラド、アラドがいないのッ! アラド……アラドぉ……」

 

へたり込んで泣き叫ぶゼオラにクエルボは危ういものを感じた。元々ゼオラはアラドに依存し、アラドがいるから自我を保っていられた。だがそのアラドが死んだかもしれないと言う現実はゼオラの精神に強い負担をかけていた。

 

「ラト……ラト……アラド……アラド……どこ、いや、嫌よ……私1人じゃ……無理よ。助けて……あ、ああ……いや、いやあああああッ!! 化け物ッ! 化け物がッ! やだ、やめてッ! 殺さないでッ! アラド、アラドを殺さないでええッ!!」

 

「お、落ち着くんだ、ゼオラッ! こ、ここに化け物はいないッ! いないんだッ!」

 

クエルボもアラドを殺したかもしれない化け物の映像は見ていた。その光景がフラッシュバックしたのか、暴れ出したゼオラの腕を掴んで必死に動きを封じに掛かる。

 

「いやッ! やだ、いやああッ!! アラド、ラト……やだ、やだあああああーーーッ!! 化け物、いや、いやああああッ!!!」

 

半狂乱なんて生易しいものではない、自分が傷ついてもそれさえお構い無しで暴れるゼオラにクエルボは最終手段として、鎮痛剤の注射をゼオラの首筋に打ち込んだ。

 

「! うっ……!」

 

途端に脱力したゼオラを抱きかかえ、ベッドに横にするクエルボ。ベッドで横たわり空虚な瞳で天井を見ているゼオラの姿にクエルボは自分が如何に間違った事をしているのかを思い知らされていた。

 

(……このままではゼオラの精神が異常をきたしてしまう……だが、これでは……手の打ちようが無い……)

 

アラドを失ったかも知れないと言うこと、そして化け物の存在がゼオラに深いトラウマとして刻まれている。これではクエルボでは手の打ちようが無かった。

 

「……ゼオラ、僕達はこれからアースクレイドルへ帰る事になる。向こうに着くまでの間、睡眠カプセルの中に入るんだ。そうすれば、気分はいくらか和らぐよ」

 

「……セロ博士」

 

「なんだい?」

 

「私……連邦に投降したい」

 

ゼオラから告げられた予想外の言葉にクエルボは驚きに目を見開いた。

 

「それはどうして?」

 

「……ハガネ、そう、ハガネがいた。ハガネなら、ハガネならアラドを助けてくれてるかもしれない……私。私はアラドがいれば……それでいい。何処でも良いの……博士……アラド……アラドに会いたい……」

 

そう言うと電源が切れた人形のように意識を失ったゼオラ。眠りながらもアラドの名を呼び、涙を流し続けるゼオラ。その涙を拭い、クエルボは立ち上がり、睡眠ポッドの準備をする為にゼオラの部屋を後にする。

 

(なんとか、僕に何とかできないだろうか……やはりゼオラはここにいてはいけない……僕は2度間違えた、3度目はもう……間違いたくない)

 

1度目はマン・マシン・インターフェイスの研究に従事していた時、そして2度目はEOTI機関に移りスクールの検体への非道な実験……そして3度目の間違いを今起そうとしている……もうこれ以上自分の良心は裏切れない。

 

(見つけるんだ。オウカ達をたくせる相手を……それまでは動けない)

 

人間を人間として見ないアギラにもうんざりしていた。それでも自分には何も出来ないと動かないでいたがゼオラの消耗具合を見て、クエルボは覚悟を決めた。従う振りをして、ゼオラを、オウカを逃がす機会を待つことを心に決めたのだった……。

 

味方などいない、周囲が全て敵――それでも敵を、味方を欺き、ゼオラ達を逃がすと決めたクエルボの顔は覚悟を決めた1人の男の姿なのだった……。

 

 

 

 

 

軽井沢での気分転換を終えた武蔵とユーリアを待っていたのは自分を置いて行ったと頬を膨らませ不貞腐れたエキドナの姿だった。

 

「……」

 

「いや、別において行ったわけじゃ」

 

「つーん」

 

「ごめんなさい」

 

「ユーリアだけずるい」

 

「いや、本当ごめんなさい」

 

子供じみた事を言い出すエキドナに武蔵はぺこぺこと頭を下げ続ける。

 

「抱っこ」

 

「はい?」

 

「抱っこ」

 

「あの、どういうことですか?」

 

「ん!」

 

「いや、マジで何を?」

 

「んーッ!」

 

抱っこしろと要求するエキドナとええっと困惑を隠しきれない武蔵の背後では……。

 

「やりましたね隊長、1歩成長しましたよ!」

 

「デートおめでとうございます」

 

残念なユーリアがデートに成功したとトロイエ隊が総出でユーリアを祝っていた。

 

「デデ、デートじゃないと思うぞ!?」

 

「いや2人で遊んだらそれはデートでしょう?」

 

「こうなんか青少年を惑わす大人のお姉さん的なムーブは出来たんでしょう?」

 

隊員達の問いかけにユーリアは軽井沢で何をしたのかを口にする。

 

「饅頭を食べて、釣りをしただけなんだが……?」

 

「は? 何してるんですか隊長」

 

「駄目だ、ポンコツ過ぎる」

 

「恋をするのが遅すぎたんだ、枯れてやがる」

 

タンデムでも何もなくて、軽井沢でも何も出来なかったというユーリアにトロイエ隊の面子は駄目だわとかポンコツとか残念すぎると口々に言う。

 

「そ、そんなに駄目か?」

 

「「「駄目すぎるって言うか馬鹿」」」

 

「そこまで言うか!?」

 

「いやいや話せば判りますから」

 

「嫌だ。抱っこだ」

 

女子力が皆無のユーリアが声を荒げ、抱っこしろと詰め寄るエキドナに格納庫の壁際まで追い込まれている武蔵……クロガネの格納庫は地獄絵図の様相を呈しているのだった……。

 

第25話 星追う翼 その1 へ続く

 

 




クエルボ覚悟完了、アギラノ命令に従うふりをしながらリマコンや投薬のレベルを下げて、反逆準備。ユウキがこれを知ることが出来れば、ゼオラとオウカの救出フラグ成立ですね。クエルボがどうなるかは判りませんけどね。次回は、少しハガネとクロガネの話をして、テスラ研の話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話 星追う翼 その1

第25話 星追う翼 その1

 

 

クロガネへと帰還したレーツェルとラドラの2人だが、その表情は暗い。ユウキによる命懸けの情報の受け渡し……2回に及ぶそれを2度とも失敗した。それはエースパイロットであるという自負があるエルザム達に深い影を落としていた。

 

「良く戻った。エルザム、ラドラ」

 

ハガネにいる間は堂々としていたが、クロガネに着艦した事で意気消沈としたレーツェル……いや、エルザム達を出迎えたのはカーウァイだった。

 

「カーウァイ大佐……」

 

「申し訳ありません。失敗しました」

 

万全を期したはず、作戦予定時間よりも早く中国に到着する筈だった。だが運悪く、百鬼帝国の偵察機と鉢合わせし、足止めを受けてしまったのが救出作戦の失敗の理由だった。

 

「そうだな、ユーリアから報告は聞いている。だがそう気を落とすな、アラド・バランガをハガネが回収したそうだ」

 

「本当ですか!? 大佐ッ!?」

 

カーウァイの言葉にラドラが顔を上げた。慰めの言葉ではない、確かにハガネにユウキから救出を頼まれていたスクールの生き残りの1人が救出されたとカーウァイは告げた。

 

「そう……ですか、良かった。」

 

「ああ。また間に合わなかったのかと思ったぞ……」

 

ユウキから搭乗機が撃墜、ゼオラ撤退の文章通信を受けて絶望感に溢れていたエルザム達だが、ハガネに保護されたと聞いて漸くその顔色に明るさが戻って来た。

 

「全てはビアン所長の繋がりだな」

 

この半年の間、ビアンは戦力の強化、武蔵の捜索に加えて、DCが出資……いや正しくは監視していた危険な研究者の捜索。そしてDCと繋がりがないように偽装して連邦に潜り込ませた兵士もいる。その中の10人ほどがシロガネとハガネのクルーとなり、アラドが保護されたという通信を送ってきたのだ。

 

「ああ、後はゼオラ・シュバイツァーだけだが……これは思った以上に骨が折れるかもしれない」

 

「どういうことでしょうか?」

 

「……アースクレイドルは百鬼帝国の手に落ちている、恐らくだが、中国で出現したと言う砲撃戦用の機体はシャドウミラーの物だろう。つまり地球の最後の砦として建造されたアースクレイドルは既に敵の拠点になっていると見て間違いないだろう」

 

ムーンクレイドル、アースクレイドルの2つは地球人と言う種を残す為に作り上げられた拠点だ。DC戦争では、ムーンクレイドルが統合軍によって徴収と言う名の保護をされたが、ジーベルの暴走によってその機能の殆どが死んでおり、地球に残された揺り篭も敵の手に落ちている。

 

「この事はゼンガーは?」

 

「……暴れるから気絶させて、縛り上げて部屋にほりこんでおいた」

 

ゼンガーとアースクレイドルの主任のソフィア博士が恋仲と言うのはエルザムも知っていた。そのゼンガーがソフィアが敵の手に落ちていると聞いて落ち着いていられる訳が無い、もしもカーウァイがいなければ暴走してアースクレイドルに突貫して、百鬼帝国にゼンガーが落ちていたかもしれないと思うとカーウァイの取った手段は決して褒められた物では無いが、最善の手だっただろう。

 

「アースクレイドルは暫く放置ですか?」

 

「ああ。戦力が足りない、出来る事ならば早い段階で奪還したいが……それも叶わないだろう」

 

あくまで人類を保護するための揺り篭だが、自衛の為の機動兵器の製造プラントもある。そこを制圧するのにクロガネだけでは戦力が足りない。

 

「それにだ、これは不確定の情報だがアギラ・セトメが研究者として招かれている」

 

リマコン、投薬等を行い犯罪者として追われている元スクールの研究者にして、連邦の負の遺産の半分は作ったと言われているアギラがアースクレイドルにいるかもしれないと言う言葉にエルザムとラドラは顔を歪める。

 

「追いきれなかったのが悔やまれる」

 

「そうだな」

 

「犯罪者と言うのは痕跡を消すのが上手い物だ。仕方ないとは言わないが、取り返せばいい」

 

失敗したのならば取り返せばいいとカーウァイが言うとコバルトブルーのユーリアのパーソナルカラーに染め上げられたヴァルキリオンが着艦する。

 

「武蔵とユーリアも戻ったか、エルザム、お前が許可したそうだな?」

 

「はっ、武蔵君にストレスが溜まっているように見えたので……」

 

「怒っているわけではない、良い判断だった。戦力として優れていても武蔵は民間人だ。軍人のようには振舞えない」

 

スポーツドリンクとタオルを持ってヴァルキリオンに足を向けるエキドナ。その姿を見てカーウァイは眉を細める、記憶喪失になっているエキドナだが、記憶を失っている方が幸せなのかもしれないと、武蔵とユーリア、そしてエキドナの3人が笑いあっている光景を見て心からそう思っていた。兵器として作られただけの人造人間としてではない、エキドナ・イーサッキとして生きている方が幸せだとカーウァイは思わずにはいられなかった。

 

「大佐?」

 

「あ、ああ。すまないな、少し考え事していた。戻って来たばかりで悪いが緊急会議だ」

 

脱線していたが、カーウァイがこうして格納庫で待っていたのは会議があったからだ。

 

「それは構いませんが、何があったのですか?」

 

「今ビアン所長とイングラム達が裏付けを取っているが、ホワイトスター周辺で連邦軍の警備の行方不明が多発している」

 

「それはまさかッ!? エアロゲイターが復活したとでも言うのですかッ!?」

 

「判らない、だが地球だけではない、宇宙もきな臭くなってきたという事だ」

 

地球に騒乱の種が生まれたように……宇宙にも新たな戦火の篝火が灯ろうとしていた。そしてそれが何か調べる為にクロガネ……いや、ビアンは再び動き出そうとしているのだった……。

 

 

 

 

ハガネの医務室で包帯塗れの青年――アラドが魘されながらベットに横になっていた。額に浮かぶ汗を拭い、額に濡らしたタオルを置いて看病をするラトゥーニ。出撃し、アラドを発見してからずっと休まずに看病を続けているラトゥーニを見て、リュウセイが壁際のイスから立ち上がった。

 

「ラトゥーニ……ちょっと休んだほうが良くねえか?」

 

「……リュウセイ、うん。でももう少し見ていたいの……」

 

「そ、そうか……」

 

「リュウセイ? どうしたの?」

 

「い、いや……なんでもねえ、なんでもないと思うんだけど……」

 

心配そうにアラドを見つめているラトゥーニを見て、そわそわした様子のリュウセイ。その様子を見て不思議そうにしていたラトゥーニだが、何かに気付いたかのように小さく笑った。

 

「大丈夫。アラドは家族だから」

 

「ッ!? い、いや、そういう訳じゃなくてッ!? えっとえっと、何か軽く腹に入れるものでも作ってくるぜッ!」

 

ラトゥーニにそう言われ、自分がアラドに嫉妬していると気付いたのかあわあわしながら医務室を飛び出て行くリュウセイを見て、ラトゥーニも僅かに頬に朱色が入る。自分がリュウセイを意識しているように、リュウセイが自分を意識してくれている事がラトゥーニには少し嬉しかった。だがその喜色もすぐに消え、今も魘されているアラドを見つめ沈鬱そうな表情で看病を続けるのだった。

 

「……アラド……。ねえ、アラド。起きて」

 

アインストの攻撃によって爆発したリオンの熱によって全身に軽度の火傷を負ったアラドはアースクレイドルを出る前のゼオラとの会話を思い出していた。

 

「アラド、私達の配属先が決まったわ」

 

(配属先……? どこだよ?)

 

嬉しそうなゼオラに対してアラドは全く心が踊らなかったのを覚えている。

 

「遊撃隊だけど活躍すれば、本隊に配属されるのも夢じゃないわ。頑張りましょうッ!」

 

(頑張ってどうするんだよ?)

 

下っ端も下っ端、そんな部隊に配属されて何が嬉しいんだよと尋ねたのをアラドは覚えていた。そしてアラドの言葉にゼオラが怒りを覚えていたのも良く覚えていた。

 

「ここで活躍してビアン総帥の捜索隊に加わって、活躍すれば私達だって自由に動けるようになるッ! そうなれば皆を探せるわッ!」

 

(そっか、……そう思えば悪くないよな……やっとアースクレイドルから出られるのか)

 

L5戦役の後からずっとアースクレイドルで訓練を積んでいた。寝る所もある、食事も貰えるから外に出れなくてもアラドには文句は無かった。そして外に出ればいなくなったスクールの皆を探せると思えば、あんまりやる気が出なかったがそれでも自分に出来る範囲で頑張ろうと思えた……。

 

「……ね、アラド。私と約束して」

 

(約束? 何だよ?)

 

「これから先、何があっても2人で頑張って……必ず生き残りましょ。そして、散り散りになったスクールの子達を……ラト達を捜すの」

 

(ラト……ラトゥーニ……)

 

「……オウカ姉様と一緒に……皆で暮らせたら良いな……。今度はスクールと別の場所で……戦いなんて無い平和な場所で……」

 

(ああ、そうだったな……それが……お前との約束だった……でも……すまねえ、ゼオラ…俺は…………)

 

走馬灯のようにゼオラとの約束を思い出した所で、アラドの目はゆっくりと開いた。

 

「あ、美味しい。ありがとう、リュウセイ」

 

「そ、そうかあ? おにぎりと卵焼きを作ってきただけだぜ? 礼を言われるほどじゃないって」

 

「ううん。凄く嬉しい……」

 

……全身に走る痛みに顔を歪めながら目を覚ましたアラドが最初に見たのは、捜し求めたスクールの生き残りの1人のラトゥーニと、連邦軍の制服に身を包んだ青年が並んでおにぎりを食べている姿だった。いちゃいちゃしているとまでは言わないが、妙に甘酸っぱい雰囲気をしている2人に向かって思わずアラドは口を開いていた。

 

「あの、お2人さん。俺起きているんっすけど?」

 

「「!?!?」」

 

物凄く驚いたという顔をするラトゥーニの姿は記憶の中のラトゥーニと違い、青年と共にあたふたしているラトゥーニは年頃の少女と言う感じであのラトゥーニに春が来たのかあっとぼんやりとアラドが思うほどに、医務室の中は混沌としていたのだった……。

 

 

 

 

 

 

「うめえッ! いや、あんた料理上手だな!」

 

「いや、普通のおにぎりだぜ?」

 

「いやいや、ごま油を使ってるからめちゃくちゃ美味いっすよ!!」

 

目を覚ましてすぐ空腹を訴えたアラドにリュウセイは自分の分のおにぎりをアラドに渡していた。美味い美味いと喜んで食べるアラドに大したことをしてないんだけどなあとリュウセイが首を傾げている間に4個のおにぎりと卵焼きはアラドの口の中に消えた。

 

「ご馳走様でした、いや美味かったです……それでここはどこっすか?」

 

「ハガネの医務室だよ、アラド」

 

「そ、そうッスか。俺、助かったのか。そりゃラッキー……って、ラトッ!? と言う事はさっきのアオハルは夢とか……「アラド?」 うっ! いててててっ!!」

 

自然に会話に混じってきたラトゥーニにさっきの青春していた事を指摘しようとして、ノーモーションでボディブローを叩き込まれアラドは身体のくの字に折った。

 

「ラ、ラトゥーニ? 今殴らなかったか?」

 

「え? そんな事してないよ。リュウセイの気のせいだよ? きっと怪我してるのに急にご飯を食べたからだね」

 

「そ、そうか?」

 

違うと言いたかったアラドだが、ラトゥーニの目に光がないのを見てアラドは口を開くのをやめて、腹を押さえてくくくっと呻いていた。

 

「ま、まぁあれだ。動いたら駄目だぜ? 怪我は命に別状はないけど、安静にしてないとよ」

 

リュウセイがアラドにそう声を掛ける。するとアラドは思い出したように顔を上げた。

 

「で、でも、俺はあの時、化け物に撃墜されて……ゼオラッ!? ゼオラは!? 投降したんだから保護してくれたんだよなッ! いっつつつつ……」」

 

自分が保護されているようにゼオラも保護されているんだろっと傷を押さえながらアラドが叫ぶ。

 

「すまねえ、化け物に囲まれてあの子は保護できなかった……だけど、離脱しているのは確認してるから無事だと思う」

 

「そ、そうか……いや、すまねえ。俺の都合の良い事ばかり言ってるよな……」

 

未知の化け物に攻撃され、脱出装置も起動しなかったのだ。それで良く生きていた。そしてそれに加えてハガネに保護されたのだけでも、アラドにすれば感謝するべき事だった。

 

「アラド・バランガっす。改めて……投降します」

 

「えっと、了解。俺はリュウセイ、リュウセイ・ダテ。ラトゥーニは知ってるよな? 取り合えず、俺とラトゥーニの2人で投降を認める……ってことで良いんだよな?」

 

「うん。ダイテツ中佐とリー中佐に許可は得てる。正式に、アラドは捕虜としてハガネに保護される」

 

正式に投降したアラドはこれでハガネの捕虜となった。リュウセイは捕虜の処理などやった事が無く、ラトゥーニが大半の処理をする事になったが、それでもアラドが正式にハガネの捕虜になったという事は間違いない。

 

「えっと、じゃあ、俺はこれをキョウスケ中尉達に伝えてくるから、ラトゥーニはアラドを見ていてやってくれ」

 

リュウセイはそう言うとラトゥーニがDコンで処理した捕虜の書類を手にして医務室を出て行いった。

 

「……」

 

「……」

 

久しぶりに会った事もあり、2人きりになるとアラドとラトゥーニは黙り込んでしまった。色々話をしたいのに、何を話せば良いのか判らなかったのだ。

 

「それにしても、久しぶりだな、ラト。お前がスクールから出て以来だよな」

 

そんな中アラドが意を決したようにラトゥーニに声を掛けた。

 

「うん……そうだね、アラドも元気そうで良かった」

 

「元気つっても、化け物に攻撃されて本気で死ぬかと思ったぜ」

 

蔦と骨の化け物による強襲。それを受けた時、アラドは本気で死を覚悟していた。それでもこうして助かって、ラトに再会出来たことは嬉しかった。

 

「あのさ……この船は俺達のいた部隊と戦うんだろ? ゼオラは……ゼオラと戦うのか?」

 

今聞くべきではない、そう判っていてもアラドは尋ねずにいられなかった。その返答によっては、捕虜として投降したばかりだがハガネから脱走することになるとも覚悟をしていた。

 

「敵として出てくれば戦う事になると思う」

 

俯きながらラトゥーニが口にした言葉に、アラドは布団の中で拳を握った……だが次の言葉にその拳を開いた。

 

「でも、皆ゼオラを助ける為に手伝ってくれるって」

 

「え? ま、マジか? だ、だってハガネは連邦だろ!? なんで敵を助けてくれるんだよッ!?」

 

アラドの常識とは異なる事を艦全体でやろうとする。そのありえない事に思わずアラドは声を荒げた。

 

「私が助けたいって言ったからかな?」

 

「それこそ嘘だろ……?」

 

「そうでもないよ? L5戦役の時だってエアロゲイターに操られた仲間を助ける為に皆頑張ってくれた。だからアラドも信じて、皆を……絶対ゼオラを助けるから」

 

信じてくれと言うラトゥーニの目には強い意思の光が宿っていた。それを見てアラドの身体に入っていた力が抜けた、大丈夫だと頭ではない、心で理解してしまったのだ。

 

「そっか、お前がそこまで言うなら、俺も信じるよ」

 

「ありがとう、アラド」

 

小さく微笑んだラトゥーニにアラドは少し驚いた。昔のラトゥーニは笑わなかった、そんなラトゥーニが幸せそうに、楽しそうに笑ったのだ。それを見て驚くなと言うのが無理な話だった。

 

「お前は変わったよな。昔は大人しくて、ほとんど喋らなかったし、オウカ姉さんやおれ達の前でも、あんまり笑わなかった……それにさ、その眼鏡……似合ってるぜ」

 

アナライズツールで目を隠していたラトゥーニの姿しか覚えていなかったが、今のラトゥーニは眼鏡を掛けていてその目を見せている事で、美しい少女と言う印象をアラドに与えていた。

 

「ありがと……大切なお友達からの贈り物なの」

 

「友達……か。お前……スクールから離れて、ハガネに乗れて良かったみたいだな。そのあれだ、好きな人も……うっ!?」

 

少しのやり取りだがリュウセイにラトゥーニが思いを寄せているのが判り、それを指摘しようとして再びボデイブローを喰らってアラドは小さく呻いた。

 

「それは言わないで、まだ……その……ね? 判るでしょ?」

 

照れ隠しのつもりだろうなのだが、凄まじい威力のボデイブローに額に脂汗が浮かんでいるアラドはわ、判ったと震える声で返事を返すのがやっとだった。

 

「お、俺は応援するぜ? 頑張れ、ラト」

 

「う、うん。ありがとう」

 

ぱぁっと華の咲くような顔で笑うラトゥーニを見て、ハガネのクルーが、そしてリュウセイがラトゥーニを救ってくれたのだと判った。だからゼオラを助けようとして動いてくれているハガネの事をアラドは信用することにした。

 

「アラドの部隊の事を聞くことになると思うけど、協力してね」

 

「ああ、大丈夫だぜ。捕虜としてちゃんと知ってる限りの事は話す。その代り……」

 

「判ってる。ゼオラは絶対に助ける」

 

ラトゥーニの言葉に安堵し、アラドは柔らかく微笑み気絶するように眠りに落ちるのだった……。

 

「大丈夫だよアラド。ゼオラもオウカ姉様も絶対に助けるから」

 

根拠なんてない助けるという言葉、それなのに心から大丈夫と安心出来る力強さに満ちた声なのだった……。

 

 

 

 

中国から伊豆基地に向かってシロガネとハガネが進んでいる頃。テスラ・ライヒ研究所では……ヒューストン基地から、テスラ研に研究の舞台を移したプロジェクトTDのチームが到着していた。

 

「ようこそ、テスラ研へ。というより、お帰り……フィリオ」

 

玄関で出迎えてくれたジョナサンの姿にフィリオは一瞬驚いた顔をし、こうして顔を見合わせた事で罪悪感が込み上げてきたのか悲しそうな顔をし、ジョナサンへと頭を下げた。

 

「ご無沙汰しています、カザハラ博士。僕がEOTI機関へ行って以来になりますね……あの時は……「まあ、そう緊張するな。ここは君にとって学舎だったんだ。そんな顔はしなくていい」

 

謝罪の言葉を口にしようとしたフィリオの言葉を遮り、ジョナサンは明るく笑いながらフィリオの肩に腕を回して笑う。

 

「ありがとう……ございます」

 

それはジョナサンなりの過去の清算とこれからまた一緒に頑張ろうと言う激励のつもりだったのだが、フィリオの顔は曇ったままだった。

 

(……まだ彼はリオンシリーズを設計した自分を責めているのか……?)

 

ビアンに賛同し、リオンシリーズを設計したフィリオ。だが、フィリオの設計したリオンのおかげでL5戦役で戦う事が出来た。そう考えればビアン同様フィリオは責められるべきではない人間だ。ジョナサンがその事を言おうとすると研究室の扉が開く音が玄関に響いた。

 

「ふ~っ、やれやれ。また刀身の形状固定に失敗したわい」

 

「リシュウ先生。お疲れ様です、しかしリシュウ先生でもやはり厳しいですか?」

 

新型の斬艦刀の開発をしているリシュウにそう問いかけるとリシュウはううーむと唸った。

 

「あの新型斬艦刀の刀身な、ゲッター合金も流用できんか?」

 

「ゾル・オリハルコニウムとゲッター合金の流用が可能なのですか?」

 

時折匿名で送られてくるゲッター合金の加工方法と、ビアンから譲られたゲッター炉心によって少量だが、ゲッター合金の生産がテスラ研で可能となっていた。今はまだ、機体や武装に完全に応用出来ていないが、その第一弾として斬艦刀をゲッター合金とゾル・オリハルコニウムで作ることをリシュウはジョナサンに提案した。

 

「理論上は可能じゃ、試してみる価値はあるじゃろ?」

 

「う~ん……しかしゲッター合金の性質は完全に把握できている訳ではないでしょう? 出来るのですか?」

 

「ゲッタートマホークの展開理論を使えば、形状固定も……」

 

「しかしそれだと斧になってしまうのでは?」

 

「ううーむ、まずは斧の形状から剣に変える方法を……」

 

ゲッタートマホークの展開方法とゲッター合金を使用して新型斬艦刀の開発について話し込んでいるジョナサンとリシュウを呆然とフィリオが見つめているとジョナサンが我に帰ったのか頭を掻きながら苦笑した。

 

「ああ、すまない、フィリオ。思わず話し込んでしまった」

 

「ふふ……そういう所は相変わらずですね、博士。しかし、テスラ研では既にゲッター炉心の研究をしているのですか?」

 

DC戦争、L5戦役で圧倒的な強さを見せたゲッターロボ。その動力がゲッター線と言う放射能であるという事は広く知られているが、実用段階には至っていない。それをフィリオも知っていたので、テスラ研でゲッター合金が実用段階になっていると聞いて、驚いた表情でそう尋ねる。

 

「客人かの?」

 

この時リシュウが初めてフィリオに気付いたのかそう尋ねる。するとジョナサンは肩を竦めて苦笑いを浮かべた。

 

「……先生、一昨日言ったでしょう。プロジェクトTDのフィリオ・プレスティですよ」

 

「おうおう。すまんの、最近物覚えが悪くてな。ワシはリシュウ・トウゴウじゃ。見ての通りの爺で、ここの顧問をやっておる」

 

「ご高名は聞き及んでおります。グルンガストシリーズの剣撃モーションは、先生の剣技が基になった物だとか」

 

リシュウ・トウゴウの名はPTや特機に関わる者ならば全員が知っている。その優れた剣技をPTと特機に再現させるという分野において、リシュウに並ぶ者は誰もいないからだ、暫くそのまま話をしていたジョナサン達だが、思い出したように手を叩きフィリオにからかう様な笑みを向けた。

 

「さてとで、フィリオ。君のハートを射止めたキュートな女神は?」

 

「タカクラチーフなら、TDのパイロット達と機体の搬入作業に立ち会っています」

 

「そうか。銀河を翔ぶ天使達にも早く会いたいものだねぇ」

 

「お前そんな事を言っておるとコウキに睨まれるぞ?」

 

プロジェクトTDのチームが来たと言う事は出向していたコウキも戻ってくるという事だ。リシュウにそれを言われて不味いという顔をするジョナサンを見て、昔のテスラ研を思い出してフィリオは笑った。ジョナサンがナンパをし、それをコウキが咎め土下座する。ある意味名物とも言える光景を思い出して、フィリオはやっと帰って来たという実感を感じていた。

 

「その前に……お願いがあるのですが」

 

「……何かな?」

 

真剣な顔で協力して欲しい事があると言うフィリオにジョナサンも真剣な表情を向ける。ヒューストン基地での襲撃、そしてあちこちで起きている新型の強奪事件――これから起こりえる事件の可能性を考えてフィリオはあることをジョナサンに頼むのだった……。

 

 

テスラ・ライヒ研究所 シミュレータールームではヒューストンから移ってきたばかりだが、プロジェクトTDのメンバーが一刻も早く機体を乗りこなす為の訓練に汗を流していた。

 

「プログラム終了。各パイロットはシミュレーターから降りて下さい」

 

「今日はここまで、良く頑張ったな」

 

ツグミとコウキが戦闘データを記録しながらシュミレーターから降りるように言うとシミュレーターが開き、ふらふらで荒い息を整えているアイビスが姿を見せた。

 

「はぁ……はぁ……あ、ありがとう……クスハ」

 

「い、いえ、私は良いんですけど……大丈夫ですか、アイビスさん……」

 

アイビスのシミュレーターの相手をしていたのは新型グルンガストの開発の為にテスラ研に出向していたクスハだった。

 

「う、うん……あ、ありがとね」

 

息を切らし、今にも倒れこみそうなアイビス、息を切らすことも無く余裕の表情のクスハ。それが今のアイビスとクスハの隔絶した実力差の証だった。

 

「無様だな。この程度の訓練でここまで醜態をさらすとは」

 

「人の事をいえた成績ではないぞ、スレイ」

 

先に訓練を終えていたスレイがアイビスを睨みながら言うと即座にコウキにお前も人の事を言えた成績ではないと告げられる。それを聞いてツグミがうーんっと唸った。

 

「スレイとアイビスの対戦はスレイの20戦全勝……スレイとアイビスの連携戦闘による対クスハ戦はクスハの10戦3勝7敗……まずまずの成績だと思うけど?」

 

「クスハとのシングルの成績は20戦0勝20敗。1勝も出来てない、そんな成績で人の事を言えた様か」

 

コウキの最もな言い分にスレイはぐっと唇を噛み締め、怒りの表情を浮かべる。

 

「なんだ? その顔は、言いたいことがあるなら言ってみろ」

 

「連携戦闘では勝利している。クスハにも私は勝てるッ!」

 

確かにシングルでの成績は全敗だが、アイビスとのコンビでの戦闘では7勝を上げている。だからシングルでも勝てるのも時間の問題だとスレイが叫ぶが、コウキはそんなスレイを鼻で笑った。

 

「コンビのほうは設定をいじってある、出力制限70%、視界制限80%。ハンデを貰っての勝利を誇るんじゃない」

 

ハンデを付けられていたと聞いてスレイが振り返るとクスハが目を逸らす、それが何よりもハンデを付けていると言う証だった。

 

「く、それならば、もっと単独戦闘での訓練時間を増やしてくれッ! 無駄にしかならない連携訓練など私はやりたくないッ!」

 

悔しそうに唇を噛み締めたスレイは本気のクスハに勝つために単独戦闘の訓練時間を増やして欲しいとツグミとコウキに訴える。

 

「プログラムはフィリオ少佐との検討の上で決めています。私の一存で変更は承認できません」

 

「俺はあくまで出向の研究員だ。今はお前達の正規の訓練に口を挟む事は出来ない」

 

「でも、タカクラチーフ……テスラ研に来てからあたし達、戦闘訓練ばかりだけど……これって……やっぱりあたし達も前線へ配属になるということですか?」

 

訓練内容について不安を感じていたのかアイビスもスレイの訴えている内容とは違うが、今の訓練に対する疑問を口にする。

 

「私も詳細を知らされていません……ですが、そうなった場合も連邦の管轄にある以上、TDに拒否権はないでしょう。アイビス……あなた個人はその決定を拒否することは出来ますが、それはTDの脱退を意味します」

 

プロジェクトTDは恒星間移動のプロジェクト。星の海を飛びたいと願っているアイビスにとって前線に配置されるかもしれないと言うのは恐怖でしかなかった。ヒューストン基地でのテロリストとの戦いを思い出したことも、アイビスの身体を震わせるには十分なのものであった。

 

「フン……どうやら、この前の戦いは勢いに任せての物だったらしいな。正気に戻ったら怖気づいたか。力が伴わないからそうなる。死にたくないのなら、腕を上げるのだな。ツグミ、コウキ、もう1度シミュレーターを使わせて欲しい」

 

好戦的なスレイはツグミとコウキにもっとシミュレーターを使わせてくれと言う。訓練の時間は過ぎているから、駄目だとツグミが言おうとしたが、コウキがそれを腕で制した。

 

「良いだろう、お前のために特別なシミュレーターを使わせてやる。このシミュレーターをクリアできたのなら、俺の方からもお前の訓練の変更を承諾するようにフィリオに言ってやっても良い」

 

「コウキ! 貴方何を言っているのか判っているんですか!?」

 

「言っておくがツグミ。今はまだ出向という立場だが、テスラ研に戻った以上俺はテスラ研の技術・防衛主任と言う立場に戻ることになる。そうなればお前達の訓練内容にも口を出す権利があるという事を知れ」

 

今まで口は悪いが、ツグミとフィリオを立てて来ていたコウキの突然の豹変にツグミは驚いて何も言えない。

 

「アイビス、お前も出来るならやってみろ」

 

「え? あ、あたしも?」

 

「そうだ。このままプロジェクトTDに関わるのならば、お前達は高速での飛行訓練を行う、その訓練の予行演習だと思え。

言っておくが、今まで使っていたシミュレーターと同じだと思うなよ。ハガネのシミュレータールームで何人も医務室送りにした曰く付きのシミュレーターだからな」

 

「こ、コウキさん。それって……まさかッ!?」

 

「お前は知っているな、今は黙っていろ。アイビス、スレイ。こっちだ、乗りこなして見せろとまでは言わないが、30秒は耐えて見せるんだな」

 

「ふん、約束は守ってもらうからな。コウキ博士」

 

旧式のシミュレーターの前に立ち挑発するコウキ。そしてコウキにも噛み付くスレイがシミュレーターに乗り込み扉が閉まる。それが何かを知っているクスハが青い顔をしている中シミュレーターがゆっくりと起動する……それが地獄逝きの特急便であるという事をスレイが知るまで30秒、そして半分泣きそうになりながらも強い決意をその瞳に宿したアイビスがシュミレーターに乗り込むまで50秒――スレイとアイビスの受難は今ここに幕を開けるのだった……。

 

 

 

第26話 星追う翼 その2へ続く

 

 

 




アイビスとスレイが乗せられたシミュレーターが一体何なのか、勘のいい人は判ると思いますがお口にチャックでお願いします。
次回はグルンガストとの模擬戦まで進めていけたらなと思っております、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26話 星追う翼 その2

第26話 星追う翼 その2

 

動き始めたシミュレーターを前にツグミは首を傾げた。ハガネに搭載されていたシミュレーターと言うのならばPTの物だろう。だが、今稼動しているシミュレーターはPTの物よりも大型で、それこそプロジェクトTD用のカリオンなどのシミュレーターの規模に良く似ていた。

 

『これは戦闘機か、操縦は……なんだ、ハガネのクルーはこんな簡単な戦闘機も飛ばせないのか?』

 

コウキは何人ものパイロットを医務室送りにしたシミュレーターだと言っていた。スレイのあまりに傍若無人の言い回しにコウキが怒って、試作機のシミュレーターを回したと思っていたのだが、シミュレーターの内部のスレイの話を聞く限りではそれほど操縦が難しいと言う訳ではなさそうだ。

 

「御託はいい、操縦方法を把握しろ。操縦方法を確認したらさっさとシュミレーターを稼動させろ」

 

スレイの言葉を両断して、さっさとシミュレーターを稼動しろとコウキは命令する。

 

『まぁ良いだろう。こんなシミュレーターをクリアするだけでコウキ博士が口引きしてくれるんだ。私に文句はない』

 

スレイはそう言うと通信を切り、シュミレーターの動作確認を再開する。

 

「コウキさん、これ本当に乗せて大丈夫なんですか?」

 

「荒療治だが、天狗になっているスレイにはこれくらいしなければ何の意味もない。なにあいつなら心が折れる事はないだろう」

 

「ちょっと待ってよ。コウキ博士、そんなにこのシミュレーターってやばいのッ!?」

 

荒療治、天狗になった鼻を折ると言う余りにも物騒な言葉にアイビスがそう尋ねる。だがコウキはしれっとした顔をして、シミュレーターに視線を向けている。

 

「ああ、それとさっきの発言は撤回する。すまなかったな、ツグミ」

 

テスラ研の研究主任だから発言力は上だと言った事を謝罪するコウキ。ツグミはコウキの謝罪の言葉に驚いた表情をした、深く頭を下げていることからコウキが深く謝罪しているのが判った。

 

「そ、それは別に良いんだけど、なんでスレイをこのシミュレーターに乗せたの? このシミュレーターは……『う、うわああああああああーーーーッ!?』 す、スレイッ!?」

あーーーーッ!?』 す、スレイッ!?」

 

このシミュレーターが何なのか? とツグミが尋ねた瞬間。スレイの悲鳴がシミュレータールームに響き渡り、シミュレーターが緊急停止した。シミュレーターの内部で気絶してぐったりしているスレイを見てクスハもコウキも予想通りと言う顔をしている。

 

「こ、コウキ博士。クスハ……このシュミレーターは何? スレイが気絶する所なんて見たことないんだけど……」

 

カリオンなどのシミュレーターで気絶する候補生は何度も見たことがあるアイビス。かく言う彼女も最初はカリオンのシミュレーターに耐え切れず気絶していた口だ。だがだからこそスレイが気絶したと言うのが信じられなかった……一体このシミュレーターは何なのかとアイビスが尋ねるとクスハがアイビスの疑問に答えた。

 

「ゲットマシンのシミュレーターですよね? コウキさん」

 

「ああ。ハガネでロバートが作った物を譲り受けたんだ」

 

ゲットマシンのシュミレーターと知って二人は驚いた。L5戦役の最終盤でアイドネウス島のメテオ3が動き出した時に、メテオ3と共に自爆し、MIAになったゲッターロボの話はツグミ達も知っていた。まさかそのゲッターロボのシミュレーターがテスラ研にあるとは思っても見なかったのだ。

 

「ゲッターロボのシミュレーターなんて物があったのね。でも、なんでそのシミュレーターで気絶を?」

 

「ゲットマシンもゲッターロボもパイロットの安全性なんて度外視しているからこその高性能だ。俺の知る中では「ハジをかく」なんて言う言葉もあったくらいだぞ」

 

気絶しているスレイを引きずり出しながら淡々と言うコウキ。ぺいっと投げ捨てられたスレイは乙女あるまじき姿で床に放置されているのをみて、ツグミが自分の着ていたジャケットをスレイにタオルケットのようにして被せた。

 

「恥をかくって気絶する事?」

 

「まさか、そんな甘っちょろいもんじゃない。ツグミ達はゲッターが合体する所を見たことがあるか?」

 

「う、うん。こうぶつかって……」

 

ゲットマシンの合体は追突事故もかくやと言う合体方法だ。そこまで口にした事でハジをかくの意味をツグミ達は理解した。

 

「そうだゲットマシンのハジをかくとは死ぬという事だ。それほどゲットマシンの操縦は危険な物だ、だが逆を言えばこのシミュレーターをクリア出来れば「ベガリオン」や「アステリオン」の操縦をしてもホワイトアウトを起す事はないだろうし、どんなマニューバだって完璧に乗りこなせるだろう。なんせゲットマシンのシミュレーターは最高加速にまで到達したハイペリオンの倍近い負荷が掛かる。これを乗りこなすという事は、プロジェクトTDのどんな機体をも乗りこなせると言う事と同意義だ」

 

「……ふっ、面白い……続けさせて貰おうか……」

 

「スレイ! 今日は16時から実機訓練があるのよ!? 無茶をしてどうするの」

 

「まだ7時間もある。その間に体調は整える……コウキ博士、続けさせてくれるよな?」

 

「お前がやるというのなら俺は止めない。好きにしろ」

 

ふらつきながら身体を起こしたスレイがシュミレーターに乗り込もうとするが、その肩を背後からアイビスが掴んだ。

 

「なんだ。アイビス」

 

「スレイはさっき試しただろ? 今度はあたしだ」

 

その腕を振り払おうとしたスレイだが、アイビスの目に強い決意の色が浮かんでいるのを見て小さく笑った。

 

「どうせ私よりも早く気絶する」

 

「そんなのやってみないと判らないよ! コウキ博士、スレイは何秒で気絶した?」

 

「4秒だ」

 

「な!? 10秒は耐えた筈だ!」

 

「いえ、4秒ね。じゃ、アイビスはまず4秒を越えましょうか」

 

「そ、そうだね。よっしっ! 行くよッ!!」

 

スレイですら4秒しか耐えれなかったゲットマシンのシミュレーター。恐怖も相まって、半分泣きそうになりながらも、それでも強い決意の色をその瞳に宿し、アイビスがシミュレーターに乗り込んだ。

 

『に、にゃああああーーーッ!? な、なななななななななあああああーーーッ!!!! 落ちるッ!!! 落ちるうううううううううーーーーッ!!!』

 

「凄いな、案外耐えてるぞ。アイビス」

 

『みゃああああああああーーー……』

 

「結局駄目でしたけどね」

 

猫のような悲鳴を上げ、それが徐々に途絶えてアイビスも気絶したがスレイの倍近い8秒を耐えたアイビスにスレイが対抗心を燃やし、再びシミュレーターに乗り込む。コウキが意図したわけでは無いが、切磋琢磨する状況になりコウキは小さく微笑むのだった。

 

「じゃあ、クスハも乗っておくか」

 

「え? い、いえ私は」

 

「なに遠慮するな、乗っておけ、ああ、そうだなツグミも乗るか?」

 

「え? いやいや、私は、そ、それよりもコウキも」

 

「俺も乗る。いい経験だ、全員乗っておけ、な?」

 

有無を言わさないコウキにツグミ達も全員ゲットマシンのシミュレーターに乗せられ、テスラ研のシミュレータールームから少女達の悲鳴が途絶えることは無いのだった……。

 

 

 

 

テスラ・ライヒ研究所の休憩室にアイビス、ツグミ、クスハ、スレイの4人はぐったりとした様子で座り込んでいた。粗相をしてないだけ乙女の尊厳は守ったが、完全に消耗し切っていた。

 

「なんだ、情けない。そんな様で大丈夫か?」

 

1人平然としているのはコウキ1人だけだった。しれっとした顔でケーキを口にしているコウキにアイビス達が信じられないと言う顔をする。

 

「コウキ博士、普通に乗れてましたね」

 

「コウキ博士なら普通にプロジェクトTDの機体を乗れるんじゃない?」

 

コウキは平然とゲットマシンのシミュレーターを乗りこなし、合体にまで漕ぎ着けていた。その姿にツグミ達は普通にプロジェクトTDのパイロットになれるんじゃないか? と口にする。

 

「俺は俺で研究している専用機がある。それにプロジェクトTDの機体は好かん」

 

「兄様の機体に不満があるとでもいうのか?」

 

普段の凜とした雰囲気は無いが、それでもキッとコウキを睨むスレイにコウキは苦笑しながらコーヒーを口にする。

 

「俺は特機の方が好きなんだよ、もしもパイロットをするのならな」

 

「でも、コウキさんの機体ってゲシュペンスト・MK-Ⅲのカスタムタイプでしたよね?」

 

クスハが思い出したように尋ねるとコウキは肩を竦める。

 

「俺は一応研究主任と言う立場ではあるが、テスラ研の防衛隊も兼ねているからな。専用機が出来るまではデータ取り用のゲシュペンスト・MK-Ⅲを借りているだけだ。まぁあれでも俺の作りたい機体の武装のテストが出来ると思えば御の字だ」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタム。両腕と背部に特長的な武装を装備をしているのはクスハも知っていた。

 

「あの、失礼なんですけど、あのOカスタムの装備ってもしかしてゲッターロボをモチーフに?」

 

斧にドリル、ミサイルに腹部のビーム。マントや赤を基調にしたカラーリングを見て、クスハも初めて見た時はゲッターロボと驚いたのだ。だから武装のモチーフはゲッターロボなんですか? と問いかけた。

 

「……そうだな。ゲッターは参考にしている……ずっと、そうだな。ずっとずっと前からゲッターを越えたいと思っていてな」

 

「ずっと?」

 

コウキの口ぶりでは何年も前からゲッターを知っていると言わんばかりの口ぶりでクスハがそれを指摘しようとした時、休憩室の扉が叩かれて、振り返るとジョナサンが腕を組んで笑っていた。

 

「おいおい、コウキ、何時までお嬢さん達とお茶をしてるんだ? 私の研究を手伝ってくれる時間はとうに過ぎているぞ?」

 

「カザハラ博士。すいません、少し話し込んでいました」

 

「何気にする事はない、お嬢さん達も英気を養って、午後からの実機のトレーニングも頑張ってくれたまえ」

 

ジョナサンはそう言うとコウキを連れて休憩室を出て行った。

 

「珍しい事もあるのね」

 

「珍しいことって?」

 

「何かおかしいことでもあったか?」

 

やっとシミュレーターの衝撃から回復したアイビスとスレイがチーズケーキを口にしながらクスハに尋ねる。

 

「カザハラ博士なら、私達がお茶会してたら混じってくると思ったんだけど……コウキさんが怖かったのかな?」

 

テスラ研の女性職員の合言葉として、ジョナサンにナンパされたらコウキを呼べと言うものがある。クスハも現にテスラ研に来てすぐそう教えられていた。

 

「そういえば、コウキ博士って口は悪いけど、あたし達が達の悪い兵士に絡まれている時に助けてくれたよね?」

 

「確かにな、色々と助けられてはいる」

 

プロジェクトTDは女性ばかりがメンバーで集められているのでフィリオの趣味だ、ハーレムだと言った風の下種な勘繰りをする兵士が多く、事実アイビスとスレイもフィリオに抱かせているんだから抱かせろと言って絡んできた兵士に腕を捕まれ、部屋に連れ込まれそうになった事がある。その時にスレイとアイビスを助けたのはコウキだった。

 

「そういう意味での護衛も兼ねていたのかも知れないわね」

 

ゲシュペンストMK-Ⅲを使ってのテロリストなどからの襲撃からアイビス達を守る、そして女性だけという事で妙な勘繰りをする兵士からも守る。そして極め付きにはカリオンのメンテのエキスパートでもある。

 

「コウキ博士って実際何者なんだろうね?」

 

「記憶喪失でカザハラ博士に保護されたと兄様は言っていたが……」

 

「え? そうなんですか?」

 

「ああ、兄様がテスラ研で研究している頃から何度か顔合わせはしているが、コウキ博士は自分の生まれも、親も知らない記憶喪失の浮浪児だったらしい。本人が気にしてないようだが……一時期はそれでずいぶんと言われたらしい」

 

「でもそれなのに、今はテスラ研の研究主任なんだよね? コウキ博士って何者なの?」

 

「あら? アイビスはコウキが気になるの?」

 

「い、いやあ!? そういう訳じゃないよ? でもさ、色々助けられてるのにあたし達はコウキ博士の事何にも知らないなあって思ってさ」

 

テスラ研で最も謎多き男――「コウキ・クロガネ」の話題でアイビス達は16時の実機訓練までの間を姦しく過ごしているのだった。

 

「……と言う訳なんだ。コウキ、君も協力してくれるかい?」

 

ジョナサンに連れられてコウキが訪れたのは研究室ではなく、テスラ研の管制室だった。フィリオの説明を聞いて、コウキは深く溜め息を吐いた。

 

「俺がやった以上の荒療治になるぞ?」

 

「そうだね」

 

「下手をすれば、再起不能だ。それでもやるのか?」

 

「必要な事なんだ」

 

何を言っても無駄だと悟り、コウキは額に手を当てながら頷いた。

 

「良いだろう。付き合ってやる、リシュウ先生もやるんだ。俺が呆然と見ているわけには行くまい」

 

何を言っても無駄だと悟り、コウキはフィリオ達の狂言に付き合うことを決めるのだった……。

 

 

 

 

16時の実機訓練の前にブリーフィングと言う事でクスハ達が管制室に呼ばれたのだが、そこで信じられない言葉をフィリオによって告げられた。

 

「え? リシュウ先生とコウキさんも訓練に参加するんですか?」

 

「そうじゃ、ワシはグルンガスト2号機でな」

 

「俺はOカスタムのTC-OSの挙動を確かめる為に参加する」

 

今まで訓練に参加する事はなかったリシュウが訓練に参加すると聞いてクスハは嫌な予感を感じていた。

 

(コウキさんなら判るんだけど、リシュウ先生も?)

 

何度かコウキも実機訓練に参加し、厳しくはあるは生き残る為に必要な術をアイビス達に教えていた。その事に関しては何の疑問も無いのだが、何故リシュウが参加するのか? クスハにはその意図が判らなかった。

 

「この老いぼれに特機が扱えるのか……とか言いたげな顔じゃのう」

 

リシュウとコウキを交互に見ていたアイビスにリシュウがそう問いかける。アイビスはしまったという顔をして、慌てて手を左右に振る。

 

「い、いえ、そんな……!」

 

「心配せんでいい。ワシは立会人みたいなもんでのう。機体制御はTC-OS任せじゃ」

 

「あ……それなら……安心ですね」

 

アイビスは実際心配していたのだろう。リシュウのような高齢の男性が特機に乗ると聞けば誰だって心配する、それは当然の事である。オート操縦と聞いて明らかに安堵していたアイビスだが、訓練概要を見ていたスレイの言葉にその顔を凍りつかせた。

 

「少佐、実戦に近いデータということは実弾を使用するということでしょうか?」

 

「えッ!?」

 

慌てて訓練概要に目を通したアイビスとクスハ、そしてツグミの3人。しっかりと訓練概要に実弾を使った限りなく実戦に近い訓練と言う文字が書かれていた。

 

「……その通りだ。ここ最近テロリストの動きも活発化しているし、謎の特機の話もある。プロジェクトTDの想いには反するが……必要な事なんだ」

 

「望む所です。所詮、シミュレーションはシミュレーション……緊張感のない訓練で実力は向上しませんから」

 

スレイは実弾を使った訓練と聞いて好戦的な笑みを浮かべているが、アイビスとツグミの表情には強い不安の色が浮かんでいた。

 

「タカクラチーフ、君には現場でオペレートを担当して貰う」

 

考える時間も反論する余地も与えないと言いたげに続けざまに指示を出すフィリオ。その姿にクスハは強い違和感を抱いた……柔和な笑みを浮かべているフィリオは自分の意見を押し付けたりしない、仮にそうなる場合もきっちりと説明し、納得するまで話し合いを設けてくれる……そんな理解のある理想の上司とでも言うべき性格だった筈だ。

 

(どうしたんだろ? フィリオ少佐)

 

クスハ自身は実戦をその肌で経験しているので全く気にならないが、ルーキーのアイビス達では厳しいのでは? と思い口を開こうとしてコウキに首を振られ開きかけた口を閉じた。何か、思惑があるのならば余計な茶々を入れるべきではないと理解したのだ。

 

「私も戦闘に参加するという事ですか?」

 

「場合によっては、そうなる」

 

フィリオの固い表情を見て、ツグミもこの訓練に何らかの意図があると悟り、反論を口にする事無く頷いた。

 

「……判りました」

 

「タカクラチーフはAMの操縦が出来るんですか?」

 

しかし、ツグミの了承の言葉に驚いたのはクスハだった。オペレーターとしての活躍は何度も訓練をしているので知っていたがAMも操縦出来るのかと心配になりそう尋ねる。

 

「大丈夫ですよ。最低限の訓練は受けていますから」

 

「まあ、そう心配しなくてもいい。あくまで訓練の一環だからな」

 

訓練は受けていると言うツグミと訓練だから大丈夫と言うジョナサン。やけに訓練と言う言葉を強調するなとクスハを含めて全員が感じていたが、それを口にすることは無く、フィリオの言葉に耳を傾けた。

 

「訓練は1600から開始する。各自は30分前にブリーフィングルームへ集合してくれ、では解散」

 

実弾を使った訓練と言う事で口数が少なくなったアイビス、それに対して口数が多くなったスレイ。そんな2人を見て、クスハは大丈夫かなと思いながら管制室を後にし、ブリーフィングルームに足を向けた。

 

『CCより各機へ。事前に話した通り、ターゲットは実弾を装填している。威力は弱めてあるが、当たり所が悪ければ致命傷になりかねない。油断をしないように』

 

フィリオから淡々とした訓練内容を聞きながら、クスハは久しぶりに乗る実機のグルンガスト弐式の感覚を確かめていた。

 

(違和感は……無い、これなら大丈夫)

 

ラングレーの制圧事件の際にブリットが乗った事で再調整をしていた弐式。T-LINKシステムに違和感があるかもしれないと言われていただけに、訓練の前に念入りに挙動確認を続けていた。

 

『各機は連係を取り、全てのターゲットを5分以内に破壊してくれ。クスハはカリオンと連携を合わせる為にGホークに変形してくれ』

 

「了解です」

 

弐式のコンソールを操作し、Gホークへと変形させ2機のカリオンの後につけ、ターゲットの確認をする。

 

(バルドングと……M-ADATS……落ち着いてやれば何の問題も無いかな?)

 

旧式の戦車とミサイルとレールガンを装備しているがこれもカリオンやGホークの運動性にはついて来れないM-ADATSならば、操縦ミスや妙に焦らなければ大丈夫だとクスハは判断した。問題は、クスハよりもアイビス達の方だった。

 

『集中しろ、アイビス。お前のミス1つで、このミッションは失敗になる。お前は私のサポートに回れ。万が一、私が敵を撃ちもらす事が

あったら、それを狙うんだ。クスハは右全面に展開されたバルドング達を頼む、私とアイビスで左全面のバルドングを撃墜する』

 

『う、うん……了解!』

 

「判った、スレイさん達も気をつけてね」

 

本当ならば3機でフォーメーションを組むべきなのだが、スレイの指示に従うようにと文章通信が管制室から送られてきたので、それに従う事にする。

 

『ワシは何もせんからの。頑張れよ、嬢ちゃん達』

 

『行動パターンは記録しておく、訓練の後の見直しの準備も出来ている。まずは深く考えず、思うようにやってみろ』

 

管制室の前で左右に陣取っているグルンガストの2号機とゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムのリシュウとコウキから通信が繋げられる。

 

「でも、リシュウ先生、コウキさんも……どうしてグルンガストとゲシュペンストMK-Ⅲに?」

 

TC-OSの挙動確認とは聞いていたが、それでもやはり違和感を拭いきれずそう尋ねるクスハ。するとリシュウとコウキは若干間を置いてから返事を返した。

 

『む……まあ、ちと思う所があっての。リハビリみたいなもんじゃな、な、コウキ』

 

『そう言う所だな。まぁ、お前達は気にするな。俺とリシュウ先生もそれなりに考えている事があると言うことだ』

 

「リハビリですか?」

 

その口ぶりではまるで実戦に出ることを想定しているように感じて、思わずそう尋ね返す。

 

『ああ、いやいや。ワシにこんな物は扱えん、歳も歳じゃしのう。ここでおぬしらの訓練を見物させて貰うわい』

 

とって付けたような言い訳にますますこの訓練の違和感を感じ始めるクスハ。その事を指摘するか、しまいか悩んでいるとツグミの乗るガーリオンからGホークとカリオンに通信が繋げられ、違和感所の話ではなくなったため、クスハは操縦に専念する。

 

『所要時間は5分を想定していますが、私の計算では4分で遂行可能の筈です』

 

『え……ッ!? ツ、ツグミッ!?』

 

『……面白い。4分だな?』

 

想定している訓練時間よりも1分短縮して見せろというツグミにアイビスは動揺し、スレイは闘志を燃やす。

 

(やっぱり、この訓練どこかおかしい)

 

クスハだけがこの訓練に違和感を抱きながら、フィリオの合図で実機による実戦訓練が始まるのだった……。

 

 

 

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムのコックピットの中でコウキはキーボードを叩きながら、訓練の様子を見ていた。

 

「クスハはやはり高水準だな。スレイとアイビスとは格が違う」

 

L5戦役を駆け抜けたと言うのは伊達でもなんでもない、Gホークの装甲と運動性能、そして増設したブースターとスラスターを使い、バレルロールを交えながらバルドングとM-ADATSを撃墜している。

 

「念動力……か、ここまでの汎用性があるとは驚きだ」

 

T-LINKシステムを用いる事でグルンガスト弐式のパフォーマンスはカタログスペックを完全に超えている。その数値の高さと念動力の凄まじさを記録しながら今度はスレイとアイビスのカリオンに視線を向ける。

 

「ふむ、こっちも悪くないな」

 

ゲットマシンのシミュレーターが生きたのか、アイビスとスレイの動きも格段に良くなっている。

 

『そこだッ!』

 

『!?!?』

 

スレイの射撃は正確無比で、ワンアプローチでの撃墜に特化している。動力部のみを狙い撃てば弾丸の消費も、ENの消耗も最小限に抑えることが出来る。それは以前からのスレイの戦闘スタイルだが、ゲットマシンのシミュレーターの経験を生かしたのか、緩急を交え、バレルロールや急速反転も組み合わせ、1発も被弾しない。

 

「なるほど、スレイ自身の目標は被弾しない事か……」

 

スレイは訓練ごとに自分に目標と課題を課している。今回の実機訓練では被弾しない事を課題にしているらしく、ミサイルなどを迎撃しその爆風でミサイルを完全に回避している事から被弾し無い事を目標にして上手く立ち回っている。

 

『うわっ!? ま、まだまだッ!』

 

「アイビスは……まだまだか」

 

スレイと比べればアイビスの操縦テクニックは格段に劣る。確かにゲットマシンシミュレーターで思い切りの良い操縦が出来るようになったとは言え、それらを全て自分の物には出来ていないのか、被弾しながら懸命にバルドングへのアタックを試みている。

 

『そこだッ!!』

 

『!?!?』

 

「十分及第点だ。前よりも勇敢になっている』

 

元々戦闘が得意ではないアイビスが勇敢にアプローチしていると言うのはコウキから見て、十分に評価出来る物だった。自分達で課した4分でクリアするというノルマもクリアしている。

 

『ほほう。やるじゃないか、君の天使達は』

 

その動きはジョナサンから見ても十分に合格点だったのだろう。声も弾んでいる、しかしそれに対してフィリオの声は固い。

 

『ええ、操縦能力に関しては……十分及第点です、いや合格と言っても良い。でも、実弾を使っているとは言え、所詮訓練です。戦闘に関しては落第点です。コウキ……打ち合わせ通り頼めるかい?』

 

「本当に良いんだな? スレイとアイビスが脱落しても、俺は責任を取らんぞ」」

 

『大丈夫。僕の選んだパイロットだ、この程度じゃ折れないよ』

 

フィリオの言葉に頷き、コウキはキーボードのエンターを押し込んだ。

 

『な、なに!? 警報ッ!?』

 

『ま、まさかテロリストか!?』

 

鳴り響いた警報にスレイとアイビスが動揺している隙にカリオンの間を抜けて、高速で飛来した戦闘機がグルンガスト2号機とゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムに向かって何かを射出する。

 

『な、何!? 何が起きているの!?』

 

『自爆した!? あの戦闘機は何ッ!?』

 

ツグミ達の混乱した声に若干の罪悪感を感じながら、コウキはシートベルトでしっかりと身体を固定する。

 

『な、何じゃ!? グルンガストがッ!? い、いかん! 機体が勝手に動きおる!』

 

『こっちもだ! 機体のコントロールが一切利かないッ!!』

 

あの戦闘機により、操縦経路を乗っ取られたと言う設定で、アイビス達の実践訓練に乱入する……それがフィリオの考えた本当の実戦トレーニングだった。

 

(ここで潰れるかどうか、見届けさせてもらう。折れるのならば……お前達はここで退場しろ)

 

コウキがこの狂言に参加することを決めたのは、伊豆基地から送られてきた異形の特機……「百鬼獣」の存在を見たから、これからより激しい戦いが地球で始まる。その中にアイビスとスレイも参加することになるだろう……ここでもし心が折れるのならば、退場した方が良い。それがコウキの親心であり、そしてかつて「鉄甲鬼」として、百鬼帝国に属していたからこそ知る百鬼帝国の悪辣さから、戦えぬというのならば戦場から遠ざけようとするコウキの思いやりなのだった……。

 

 

第27話 星追う翼 その3へ続く

 

 




次回は暴走した降りのグルンガスト2号機とOカスタムの話になります。その後は、クロガネの話をしていく予定です。後、ここら辺からですが、シナリオの前後を含め、地上/宇宙ルートの同時展開とか言う無茶に踏み切ります。なので話数が増えるという事を先に報告しておきますね。今回は2話連続更新ですので次の更新もよろしくお願いします


おまけ


ゲシュペンスト・Mk-Ⅲ・Oカスタム

テスラ研に戻って来た先行量産試作機のゲシュペンスト・MK-Ⅲをコウキが改造した物。主な改造点としては背部にブースターと兼用のフレキシブルウエポンシステムの搭載、腕部に可変式のアームズユニットの装備。そしてビームと実弾に高い防御を誇るマント型の防具と腹部のブラスターキャノンの新設である。赤と黒のカラーリングとマントからゲッターロボを連想させる意匠となっている。この機体自身はコウキが自分専用の特機のテストタイプではあるが、換装武装などを装備出来なくした代わりに出力を向上させておりPTでありながら特機に迫るパワーを有している。可変式アームズユニットは腕に装着時はブレード、展開し斧、腕の先に装着しガトリングとミサイル、そしてドリルに腕先に装甲を展開し射出するなどの多岐に渡る機能を有するが、武装の8割をアームズユニットに頼っている為、それを失った場合は戦闘力が一気に低下するという弱点も有しているが、高水準で纏まった性能を持つ機体である。


ゲシュペンスト・Mk-Ⅲ・Oカスタム 
HP7200(9200)
EN190(340)
運動性155(190)
装甲1700(2100)

特殊能力

マント HP4000(HPフル改造時、6000まで上昇) 攻撃命命中時、HPが減る変わりにマントのHPを消費する。ビーム系・実弾のダメージを40%カット



格闘 ATK3300
ガトリングアーム ATK3500
ミサイル ATK3500
斧 ATK3900
チェーンアタック ATK3900
トルネード ATK4200
ブラスターキャノン ATK4900


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第27話 星追う翼 その3

第27話 星追う翼 その3

 

謎の戦闘機の攻撃によって暴走状態に陥ったグルンガストの2号機とゲシュペンストMK-Ⅲ・Oカスタム。そして正規のトレーニングのターゲットであるバルドングとM-ADATS達とスレイ達3機で相手をするのには厳しすぎる相手がアイビス達の前に立ち塞がった――と、アイビス達には見えているだろう。

 

(いやいや、フィリオ。これは荒療治にも程があると思うぞ。私は)

 

この事を知っているのはフィリオ、ジョナサン、リシュウ、コウキの4人だけで、他のオペレーター達がパニックになっているのを見て罪悪感を感じながらも、これアイビス達の為と自分に言い聞かせ、混乱している演技を続ける。

 

『カザハラ博士ッ! 少佐ッ!? 何が起きているのですかッ!?』

 

ガーリオンのコックピットからツグミが何が起きているのか説明を求める声に、ジョナサンは通信機のスイッチを入れた。

 

「原因は恐らく、先ほどの戦闘機だ。それから射出された何かががこちらにハッキングしているッ! フィリオ状況は!?」

 

「メインコンピューターへのハッキングはブロックしましたが、制御系へハッキングは止めれませんッ! 依然全機暴走中ですッ!!」

 

実際に仮とは言えハッキングを行なわれているので、それをブロッキングしながら報告を上げるフィリオ。その切羽詰った声にオペレーター達も必死にハッキングに抵抗するが、コウキお手製のハッキングプログラムだ。経験の足りないオペレーター達ではその動きを止める事すら出来ないでいると管制室にツグミの悲鳴が木霊した。

 

『きゃああっ!!』

 

ガーリオンの周辺にミサイルが着弾し、直撃はしていないがガーリオンの姿が煙の中に消える。

 

『タカクラチーフッ!』

 

『仕掛けてきたッ!?』

 

姿が見えなくなったガーリオンにアイビスとスレイの焦った声が響いた。

 

「くっ、武装系のコントロールまでッ!」

 

「アイビス君、スレイ君、クスハ君! 聞こえるか! ターゲットとグルンガスト2号機、ゲシュペンスト・MK-Ⅲが暴走中だ。こちらも何とかコントロールの奪還を試みるが、4人で協力して鎮圧してくれッ! 」

 

管制室からのジョナサンの声――それは本当に真に迫っていた。まるで本当に何者かの攻撃を受けて、機体がハッキングされて暴走しているとスレイ達も信じ込んだ。

 

『こ、これじゃ、正真正銘の実戦……!』

 

『ど、どうすればいいんだ……!? あ、兄様。わ、私はどうすればいいッ!?』

 

本当に実戦に巻き込まれたと思っているアイビスとスレイは半分パニックになり、フィリオにどうすれば良いのかと助けを求める。これが実戦に出た事が無い、スレイとアイビスの限界だった。だが、ここにクスハがいることで状況は大きく変わる。

 

『戦うしかありません……ッ! スレイさんとアイビスさんでタッグを、私がグルンガスト2号機とゲシュペンストを食い止めます。2人で砲台とバルドングを止めてくださいッ!』

 

クスハならばその選択をする。だから、フィリオは今回の訓練にクスハを参加させた。L5戦役で戦い抜いたクスハだからこそ、この状況でも冷静に自分が何をすれば良いのかを判断出来るからだ。

 

『クスハ!?』

 

『で、でも、そんな事をしたらリシュウ先生とコウキがッ!』

 

リシュウとコウキの身を案じるアイビス達だが、当の本人達からの通信がカリオンにへと繋げられる。

 

『ワシの事は心配いらん。こいつは頑丈だからなッ! 関節を壊して、動きを止めてくれいッ!』

 

『こっちは背部のプロペラントタンクを破壊してくれ、そうすれば動きが止まるッ!』

 

切羽詰った口調だが、アイビス達にどうすればいいのかを告げるコウキとリシュウ。

 

『で、でも少佐ッ! ターゲットは私達を敵だと認識しているッ! これでは実戦と同じだわッ!』

 

『し、失敗したら死ぬ……ッ』

 

しかし実戦経験の無いアイビスとツグミは自分達が撃墜される光景を想像したのか、声が震え照準を合わされると大袈裟な動きで逃げ回る。完全に心が折れかけていた……コウキが危惧したとおり、荒療治が過ぎたのだ。

 

『……覚悟を決めろッ!アイビス、タカクラチーフッ! どうやら、やるしかないようだ……ッ!』

 

だがスレイだけはやるしかない。と震える声ながら戦う事を決めた、しかしアイビスとツグミは今も逃げ回っていた。

 

『う、うう……ッ!』

 

『わ、私も……ッ!?』

 

『タカクラチーフは無理をせず、支援に回って下さいッ! 作戦はさっき伝えたとおりですッ! スレイさん、アイビスさんッ! バックアップをお願いしますッ!』

 

クスハはそう言うと格納庫を飛び越え、腕の側面のブレードを下にして急降下してきたゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムとの戦闘を始める。しかし、アイビスとツグミ戦闘に参加出来ず、砲台を止めようと動き出したスレイと、グルンガスト2号機とゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムと戦うグルンガスト弐式を震える目で見つめているのだった……。

 

 

 

 

グルンガスト二号機のコックピットの中でリシュウはその顔を痛ましそうに歪めていた。

 

(やはり荒療治が過ぎる)

 

元々リシュウはこの訓練には反対していた。だがプロジェクトTD――恒星間を飛ぶという目標を掲げる以上敵性の宇宙人と遭遇する事もある。失敗してもやり直しが利く内に訓練をするべきだというフィリオの熱意に折れた形になったが、やはり止めるべきだと感じていた。

 

『リシュウ先生、我慢してくださいッ!』

 

その声と共に振るわれるグルンガスト弐式の拳。胸部に命中し、激しい振動がリシュウを襲う。だが身体を鍛えているリシュウにとってはそんな衝撃はなんでもない、むしろクスハに言った通り今回グルンガスト二号機に乗っているのはリハビリなのだ。ラングレーの制圧事件の時に目撃されたガーリオンカスタム――それを打ち倒すために、再び戦う事を決めたのだ。だからこの程度の衝撃なんて、何の問題もない。

 

『弐式! お願いッ!!』

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムのガトリングアームを念動フィールドで防ぎ、ブーストナックルで反撃に出る弐式。

 

『ぐっ!? な、中々やるな』

 

『す、すいません。大丈夫ですか!?』

 

確かにゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムの装甲は並のPTよりも遥かに上だ。だが特機の攻撃の直撃を受ければダメージを受けるのは当然の事だった。

 

「中々骨が折れるの」

 

『しかたありません、それよりもリシュウ先生は大丈夫ですか?』

 

「なんのなんの、ワシは平気じゃよ」

 

実践だと思っているからかクスハの攻撃もかなり強烈だが、念のためにコックピット周りを強化しているので衝撃の割にはリシュウとコウキに掛かる負担は小さかった。

 

「しかし、やはりアイビスは脱落じゃろうか?」

 

『……それならばそれでいいでしょう。それも運命です』

 

スレイは果敢にバルドングとM-ADATSに攻撃を仕掛ける。しかしそれだけではない、実戦と思っている事が響いているのかスレイの動きは格段に良くなり、戦況全体を見ていた。

 

『クスハ、下がれッ!』

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムと弐式の間にミサイルを打ち込み、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムの動きを止めると同時にクスハの逃げる隙を作り出す。

 

『スレイさん! ありがとうございますッ! 行って、ブーストナックルッ!』

 

『!!!』

 

弐式と二号機のブーストナックルがぶつかり火花を散らす。その直後にカリオンのレールガンがグルンガスト二号機の脚部の装甲を狙い撃つ。

 

「ほっほ、中々やりおるな」

 

『スレイにはこのやり方があっていたようですね』

 

追詰めるほどにスレイはその才能を開花させた。今だってバレルロールでミサイルでバルドングを破壊しながらの超精密射撃――これは訓練では出来なかった事だ。フィリオの想定した通り実戦の中でスレイはその才能を開花させた。

 

『少し衝撃が来ますが我慢してください』

 

「む、良かろう」

 

テスラ研の周りと格納庫周辺のM-ADATSの放ったミサイルの弾幕が弧を描き急降下してきて、テスラ研のカタパルトを爆破する。その爆風にグルンガスト弐式を含め、全員の機体は激しく揺れる。それはアイビスやツグミが動かない事で、生き残っていたM-DATSのミサイルによる絨毯爆撃――逆を言えば、スレイが当たっていたM-ADATSは全て沈黙しており、アイビスが動いていれば当たる筈のない攻撃だった。これを見てもアイビスが動けないのでは、プロジェクトTDからアイビスは手を引くしかない。ここがアイビスにとっての分水嶺となるのは誰の目から見ても明らかだった……。

 

 

 

 

目の前の光景を見て、アイビスは手が震えた。爆発の中に飲まれたグルンガスト弐式達は既に姿を見せているが、自分が動いていればクスハ達も今のミサイルのダメージを受けなかったと判っていた。だがアイビスの手は震えて、操縦桿を握り締めることすら出来なかった。

 

『2人共、どうしたんですッ!?』

 

クスハが広域通信で叫ぶ声が聞こえる。クスハはアイビスを信じて、バルドング達を止めてくれと言ったのに動けなかったアイビスに何故と言うのは当然だった。

 

『放っておけ、クスハ。あの2人には実戦は無理だ』

 

無理と言うスレイの落胆した声が聞こえても、アイビスは奮起出来なかった。実戦への恐怖が、死への恐怖がアイビスの負けん気さえも奪っていた。

 

『でも、この状況で気持ちが負けていたらッ! きゃあッ!?』

 

役に立たない言うスレイの言葉に反論するクスハ。だが、バルドングの戦車砲やグルンガスト2号機のブーストナックルが弐式を掠めクスハの悲鳴がカリオンに響き、アイビスはますます身体を小さくさせた。恐ろしくて、今すぐにもでもカリオンで逃げたいという気持ちが込み上げてくる。

 

『あの2人が役に立たないなら、私達でやるまでだッ! 戦えない奴を信じて、私は死ぬつもりはないッ! 私は プロジェクトTDのナンバー01だ。敗北は許されないッ! 戦うべき時に戦えないのならば、星の海になど行ける物かッ!』

 

戦うべき時に戦えないアイビスとツグミを断ずるスレイ。星の海を行くと言う事は戦う事もあるという事だ、夢を見ているだけでは星の海を飛ぶ事など出来はなしないと、アイビスの夢を知るからこそそう発破を掛けるスレイ。それでも、アイビスが動けないでいると今度はクスハがアイビスに声を掛けた。

 

『……アイビスさん、私だって戦うのは怖いんです』

 

集中砲火に晒され、弐式の腕と念動フィールドで攻撃を防ぎながらアイビスへと声を掛け続ける。

 

『それに、戦うのは辛い……でも、私には守りたい人達や守りたい物があるんですッ!』

 

クスハだってDC戦争に巻き込まれなければ、争いなんて関係のない穏やかな世界で生きていただろう。戦いに巻き込まれ、そしてその中でクスハは自分の戦う意味を何の為の力なのかを、知ったのだ。そして自分が守りたい人達、守りたい物を守る為に怖くても戦う事を決意したのだ。

 

『思い出して下さいッ! フィリオ少佐が教えてくれた物を、アイビスさんの夢をッ! それこそが、あなたの守りたいものじゃないんですかッ!? だから戦って下さいッ! プロジェクトTDの為にッ! 自分の夢の為にッ!』

 

『……判ったよ、クスハ……』

 

被弾しながらもアイビスを庇い、そして激励したクスハの叫び声は消えかけていたアイビスの闘志を再び燃え上がらせるには十分な物だった。

 

『タカクラチーフ……あたし、やるよ』

 

腕の震えは止まり、さっきまで力の入らなかった手は握力が戻っていた。

 

『あたし、嫌だよ……銀河を見る前に……星の海を飛ぶ前に……こんな所で終わっちゃうなんて……嫌だッ!! だから、戦うよ! チーフとスレイとあたしで、夢を叶える為にッ!』

 

皆で星の海を飛ぶ、それがアイビスの夢であり、辛いプロジェクトTDの訓練にも耐えてこれた原動力だった。それを思い出したアイビスの瞳には燃え盛るような意志の光が宿っていた。そしてそれはツグミにとっても同じ事だった。

 

(フィリオの夢……私の夢……アイビスの夢……スレイの夢……それがプロジェクトTD……)

 

フィリオと同じ夢を見た。そしてそれをかなえるのを手伝いたいと思った、そしてフィリオの夢がツグミの夢になり、フィリオとツグミの夢がスレイとアイビスの夢になった。皆で1つの夢を叶える為にこんな所で止まれないとアイビスは吼えた、消えかけた闘志が戻り、夢を叶えるという決意を取り戻したアイビスは操縦桿を握り締め、ペダルに足を乗せた。その目にはもう迷いは一切なかった。

 

『アイビス、動きを止めるなッ! グルンガストが来るぞッ!』

 

『逃げるんじゃ、 アイビスッ!』

 

グルンガスト弐式を振り切ってアイビスのカリオンに向かってグルンガスト2号機の計都羅喉剣が振るわれた瞬間。カリオンは垂直に急上昇し、その一撃をかわし空中で反転し、機首を下にして急降下する。

 

『アイビス!? 貴女何をするつもりなのッ!?』

 

『そのままのスピードで突っ込んで何をするつもりだ! 早く機首をあげろッ!』

 

スレイとツグミの声を聞きながらアイビスは歯を食いしばって、急降下の衝撃に耐えていた。

 

(出来る出来る出来るッ! 絶対に出来るッ!)

 

テスラドライブでも殺しきれない衝撃、何度も意識が飛びそうになる中。アイビスの脳裏を過ぎっていたのは、シュミレーターでのゲットマシンの動きだった。テスラドライブなども搭載されておらず、航空力学に喧嘩を売るようなフォルム――それでもゲットマシンの飛ぶ姿は美しかった。誰かが言った、早い事は美しいのだと……アイビスはゲットマシンの飛ぶ姿に恐ろしさと美しさ、相反する2つの要素を感じていた。

 

「うあああああああああああーーーッ!!!」

 

地面に突っ込む寸前で機首を上げ、超低空飛行からミサイルとGレールガンを放ち、M-ADATSとバルドングに向かってフィールドを展開したまま突っ込むカリオン。

 

『な、何て無茶をッ!?』

 

『アイビス! カリオンを壊すつもりかッ!?』

 

最高速度で搭載武器とソニックブレイカーを併用しての突貫。それはカリオンの装甲や骨組みを揺らし、アイビスに少なくない負荷をかける。それでもアイビスは操縦桿を握り締める手とペダルを踏み込む足の力を緩めない。

 

「いっ、けえええええええーーーーッ!!!!」

 

地面スレスレから急上昇しグルンガスト2号機へと突っ込むカリオン。だがグルンガストは計都羅喉剣を構え、カリオンを待ち構えていた。

 

『アイビス、無茶じゃ! 退避しろッ!』

 

あの速度では軽く合わせるだけでもカリオンが両断される。それを悟ったリシュウがアイビスに叫んだ瞬間、カリオンの姿が消えた。

 

『『『!?』』』

 

全員が何が起こったのか判らなかった、グルンガスト2号機の計都羅喉剣が何もない空間を斬る。

 

「ブースト・ドライブッ……ゴーーーーッ!!!」

 

種を明かすと簡単な話だ、最高速度でカリオンを横から縦にし急上昇する。面から点になった事でモニターからは一瞬カリオンの姿が消え、急降下しながらグルンガストの2号機に正面から体当たりを叩き込み、右肩と右腕の関節を一撃で粉砕したのだ。

 

「やったッ!」

 

アイビスがやったのはオリジナルマニューバーの実行。しかもスレイも出来なかったゲットマシンの動きを組み込んだ。超音速の新マニューバーだった……強いて名付けるのならばマニューバーGAX。ゲットマシンの超音速の連続下降・上昇を組み込んだ新たなコンバットパターンだった。

 

『そ、そんな無茶をしてカリオンを壊すつもりかッ!?』

 

「大丈夫! まだあたしもカリオンも飛べる!」

 

『アイビスのカリオンのダメージチェックはこちらでしますッ! アイビス達は戦闘に集中して下さいッ!』

 

「了解! 行こう、スレイ、クスハ!」

 

今までの意気消沈が嘘のように明るく言うアイビス。再び飛ぶ意味を、飛びたいと願った理由を思い出したアイビスに実戦に対する恐怖は無く、以前のように飛ぶ喜びだけが胸を埋め尽くしていたのだった……。

 

 

 

 

 

薄暗い研究室の中で繰り返し戦闘画像が流される、コウキはそれをジッと見つめ時折思い出したようにキーボードを叩き、コーヒーを口にする。

 

アイビスとスレイのコンビネーションでゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムの背部プロペラントを的確に打ち抜く姿。

 

グルンガスト二号機のブーストナックルをGレールガンで迎撃し、そのままソニックカッターでグルンガスト2号機にカリオンを突っ込ませる姿。

 

そして最後はやはりこの暴走事件が狂言だと気付いたのか計都瞬獄剣峰打ちで行動不能にさせられたグルンガスト2号機とゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムを見て苦笑するコウキだったが、小さく溜め息を吐いて振り返った。

 

「俺に文句があるか?」

 

「……そうね、言い訳を聞いてからにはしてあげる」

 

ツグミが研究室に入って来たのを見てコウキは立ち上がりコーヒーサーバーでツグミのコーヒーを用意する。

 

「どこまで辿り着いた? そうでなければここにこない筈だ」

 

「そうね、貴方が連邦のデータベースにハッキングを繰り返してた事を思い出したら割りとすぐだったわ」

 

「ふっ、そうだな。俺もテスラ研にいなければ犯罪者扱いだ」

 

ジョナサンに保護されていると言う立場だが、それを利用してハッキングなどを繰り返している。それを思い出せば、今回の件の黒幕がコウキであると言う事に辿り着くのは確実だった。

 

「フィリオに頼まれたの?」

 

「……頼まれたが、最終的に決断したのは俺だ」

 

今回の訓練が狂言であると言うのはツグミにも判っていた。判らないのは、コウキが何故フィリオに協力したのかだった。

 

「普通なら貴方が止めるわよね?」

 

「そうだな普通なら止めている。だが時間が無かったんだ」

 

「……それはフィリオの事?」

 

時間がないと聞いてツグミの脳裏を過ぎったのはフィリオの病の事だ。だがコウキの返答は違う物だった……。

 

「この世界には美しい光景と優しい人間が溢れている。カザハラ博士、ユーナさん、そしてフィリオやお前達だ」

 

「コウキ?」

 

窓の外を見つめ遠い目をしているコウキを見てツグミは違和感を覚えた。普段のコウキは決してこんな事を言わないし、こんな不安を感じさせた顔をしない。

 

「だが美しい物と同じくらいこの世界には悪意が満ちている。その悪意がお前達に降りかかった時……お前達は立向かわなければならない」

 

「コウキ。貴方は……何を知っているの?」

 

「さてな……だが時間がないのは確か、だから俺は今回の事に協力した……荒療治だったが、確実にアイビス達は成長した。それで良しとしてくれ」

 

コウキはそう言うと黙り込んだ。これ以上何も聞けないと悟ったのかツグミは溜め息を吐いて、コーヒーを口にした。

 

「男って皆そうなのね、黙っていれば女が何もかも理解すると思ってる。良いわ、その時が来るまで待ってあげる、その時が来たら説明してくれるのよね?」

 

「ああ、その時が来ればな。それよりもツグミ、お前はこんな所にいないで、フィリオの所にいてやれ。あいつはあいつで気にしているからな」

 

「はいはい、後悔するくらいならこんなことやらなければ良かったのよ」

 

「だろうな。ま、それに1枚噛んだ。俺が言える事ではないがな」

 

コウキの言葉にしょうがないわねと言う口調で軽く注意したツグミを見送り、コウキが再び椅子に腰を降ろそうとした時。コウキの目はある物を映した、そしてそれはアメリカのテスラ研だけではない、日本に向かうハガネ、シロガネを初め、ありとあらゆる場所でその姿を見せた。

 

「……やはり時間がないと言うことか」

 

地上から宇宙に向かって真っ直ぐに伸びる翡翠色の輝き――ゲッター線を発する何かが大気圏を突破し、宇宙へと飛び出していく光景を見ながらコウキは改めて自分に……いや、地球に残されている時間が無い事を悟った。

 

『もしもし? あんたから電話とか珍しいわね? コウキ』

 

「……そうだな。だが用件はわかっているだろ? アゲハ」

 

『……ええ、あーあ。楽しい女優業も終わりか』

 

「戻れるさ。全て終わればな」

 

『……全て終わって生きていたら……でしょ? 私はギリアムに連絡を付けて、日本を出るわ。あんたも気をつけなさいよ、コウキ。裏切りは許されないわよ?』

 

「はっ! 先に裏切ったのはあっちだ。俺は俺のやりたいようにやる……それだけだ。お前も気をつけろよ』

 

『うん。ありがと、そっちも気をつけて……』

 

百鬼帝国の復活――それを知るのはかつて百鬼帝国だった者と、世界を渡って来たギリアムだけ……世界を滅ぼしかねない悪意が目覚める前に、その悪意に立向かう鎧と剣が必要だった。L5戦役の後から準備をしていたが、それでも完成するのが先か、それとも百鬼帝国が本格的に動き出すのが先か……コウキの勘ではギリギリ間に合うか、間に合わないかと言う瀬戸際。しかしコウキに出来る事は無く、ただ目覚めるのを待つしかなかった。その焦りと不安、そして百鬼帝国の危険性を知るからこそ、コウキは理知的で効率的であれと言う己の信念を曲げてまでフィリオの狂言に付き合った。全ては……新西暦で生きて、育った自分を愛してくれた者を、美しいと思った者を守る為に、壊すためではない、守る為の力を欲したのだ。

 

「……間に合ってくれよ。相棒……俺達の守りたい物を守る為に……」

 

テスラ研に託されたマグマ原子炉、そしてコウキが隠れながら製作したゲッター炉心を組み込んだコウキの新たな鎧にして剣、そして己自身――新たな「鉄甲鬼」が目覚めるのが先か、それともテスラ研が襲われるのが先か……残された時間は本当に極僅かなのだった……。

 

 

 

 

クロガネのブリーフィングルームでは、ビアンの親派からもたらされた宇宙で今起きている事件についての会議が行なわれていた。

 

「……と、言う訳なのだが、問題が1つ。今の我々には宇宙に行く術がない」

 

「AMや戦艦の行方不明事件か……もう少し詳しい情報はないのか?」

 

「宇宙の連邦軍が情報封鎖を行なっているからそれも難しいな、ホワイトスター周辺と月周辺までは特定出来てはいるがそれ以上は難しいな」

 

統合軍はその殆どが今連邦の管理下にある。そして再び異星人の襲撃の可能性があるとかも知れないとなれば地球圏が混乱すると判断した現場によって情報封鎖が行なわれている。

 

「仮にクロガネで宇宙に行ったとしても、そうなれば地球が手薄になる」

 

「しかし、宇宙の捜査もしない訳にはいかない」

 

今確実に百鬼帝国、しいては百鬼獣と戦えるのはクロガネだ。そのクロガネが宇宙に行くのは危険すぎる、だが宇宙で起きている事件の詳しい情報を得なければならないのもまた事実。会議の内容を聞いていた武蔵が手を上げた。

 

「オイラが行きます、ゲッターD2なら単独での大気圏突破も出来る筈」

 

「し、しかしだな、武蔵君。単独で大気圏を突破出来るとしても、身体に掛かる負担を考えたらそれはするべきではない」

 

「エルザムさん……ゲッターD2のパワーが上がっているんです。宇宙に何かある、気をつけろってオイラにゲッターが言っているんですよ。それに地球じゃあ、周りの被害が大きすぎてゲッターD2の操縦訓練も出来ないですけど、宇宙なら周りさえ見れば訓練も出来ますしね」

 

今まで何度もゲッターの炉心のパワーが上がっていた、その都度大きな事件が起きた。今回もその前触れだと武蔵は感じていた、だからこそ単独で大気圏を突破出来るゲッターD2で宇宙へ行くと告げたのだ。

 

「だが武蔵君。君はコロニーの事を何も知らない「それなら私が行く。武蔵、ゲッターD2ならPTを1機抱えても大丈夫だろう?」

 

ビアンの言葉を遮ってカーウァイが自分も宇宙に行くと告げた。

 

「いやまぁ、バトルウィングで囲えば熱とかは大丈夫だとは思いますけど……」

 

「それなら決まりだ。ビアン所長、私と武蔵で宇宙を見てこよう」

 

「し、しかし大佐! 大佐が知るコロニーはもう何年の前の話ですよッ! それならば私かゼンガーの方が適役かと」

 

決定事項だというカーウァイにエルザムが自分かゼンガーの方が適役だと言う。事実確かにその通りだろう、道案内と言う意味ではエルザム、ゼンガーの方が適役だという事もわかっている。

 

「コロニーでお前やゼンガーが動いていれば、いらぬ疑いを受ける。武蔵の顔写真が非公開にされているのと、死人の顔など覚えていないという事だな?」

 

イングラムの言葉にカーウァイはふっと笑った。コロニー統合軍司令のマイヤーの息子であるエルザムも、ゼンガーも宇宙では地球以上に有名人だ。そんな2人が歩いていれば諜報部などに目を付けられ情報収集所ではないだろう。

 

「俺のシグでは今は宇宙には耐えれない」

 

「俺も顔が知られすぎているから無理か……」

 

消去法で宇宙に行けるのはD2とD2のパワーに耐えれる、R-SOWRDとゲシュペンスト・タイプSの2機だが、イングラムも顔が知られているので宇宙に受けず、武蔵とカーウァイだけが宇宙にいけるフリーの人員だった。

 

「……武蔵君、カーウァイ大佐。頼んでも良いかね?」

 

ビアンも2人しかいないと判断し、武蔵とカーウァイを宇宙へ送り出すことを決めた。

 

「武蔵、気をつけて」

 

「ユーリアと待ってる」

 

「大丈夫ですよ、ちょっと様子を見てくるだけですからね」

 

「訓練を怠るなよ。後、ゼンガー。気持ちは判るが、今は動くべきではない。時を見誤るな」

 

「……承知。カーウァイ大佐、申し訳ありませんでした」

 

「地球はお任せください、お気をつけて」

 

「こちらも情報が判ればすぐに送る。気をつけてな」

 

武蔵とカーウァイはビアン達に見送られ、それぞれの機体に乗り込んだ。するとハンガーが稼動し、ゲッターD2とタイプSが浮上したクロガネの甲板に姿を現す。

 

『こちらは準備OKだ』

 

「了解、行きますよ。ゲッターD2ッ! 発進ッ!!!」

 

ゲシュペンスト・タイプSをゲッターD2がタイプSを抱え、更のその上からバトルウィングで囲う。そしてゲッターD2とタイプSは夜空に翡翠色の尾を残し、宇宙へと飛び立っていくのだった……。

 

 

 

第28話 宇宙の龍/大地の鬼神  その1 へ続く

 

 

 




ここら編からルート分岐入りますが予告通り同時進行で行きます。完全にオリジナルではなく、ゲームシナリオがある程度あるので同時進行でもいけると思う(無謀)のでそれで行きます。チャレンジ精神でGOGOですね! それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第28話 宇宙の龍/大地の鬼神  その1

第28話 宇宙の龍/大地の鬼神  その1

 

 

クロガネから飛び立ったゲッターD2は凄まじい勢いで急上昇を続け、夜空にゲッター線の証である翡翠色の光を残し、あっと言う間に成層圏を抜け、中間圏、熱圏へと突入する。

 

「うぐぐぐうううッ!!!」

 

スペースシャトルや戦艦で宇宙に行くのとは違う、凄まじいGとゲッターウィングで守られているがそれでも凄まじい熱がコックピットを襲い、カーウァイは操縦桿を握り締めて苦悶の声を上げる。

 

『後もう少しなんで我慢してくださいよッ!』

 

平然とした声で我慢してくれと言う武蔵の声に内心化け物めとカーウァイが感じている内にゲッターD2は大気圏を突破した。

 

「ふー……地獄のような30秒だったな」

 

宇宙に出てしまえば後はどうと言う事は無く、ゲッターD2の腕から解放されたゲシュペンスト・タイプSの動作確認を行なう。

 

『大丈夫ですか?』

 

「ああ、問題ない。少し不調があると思ったが……全く問題は無さそうだ」

 

PTで大気圏突破と言う事で不調があると思っていたカーウァイだが、それも無かったので安心した声で武蔵に返事を返す。

 

「このままランデブーポイントに向かう、私が誘導するからついて来てくれ」

 

『了解です』

 

ブースターとスラスターを使い武蔵とカーウァイは急いで移動を開始する。ゲッターD2は特機の中でも非常に巨大で全長は90M近い、そんな大質量が地球から上がってくれば警備隊も動きだす。それに囲まれる前に、迎えに来ているビアン親派と合流する事を目的にして武蔵達は動き出す。

 

『最初は何処って行ってましたっけ?』

 

「L2宙域だ。ホワイトスターからは離れているが、L5戦役で破壊された機体などの残骸が漂っているデブリ帯だ。あそこが1番失踪事件が多発している』

 

事前情報は決して多くないが、それでも人の口に戸は建てられない。どれほど少ない情報であっても、目撃者達の話はどこかに必ず存在している。

 

「信号弾探知、あそこだ。行くぞ」

 

『了解ッ!』

 

デブリに偽装した外壁から射出された信号弾を感知し、武蔵とカーウァイはその方向に向かって動き出すのだった……。

 

「艦長……今のは……」

 

「ああ、ゲッター線だな。どうやら武蔵達も動き出したようだな」

 

「……シャイン様、そろそろ夜風が強くなります」

 

「ジョイス……ええ、戻りますわ。でももう少しだけ見ていたいのです」

 

「あれはゲッター線……ゲッターロボでしょうか?」

 

「そうですわ、きっと武蔵様です。地球を守る為にまたどこかで戦っておられるのです」

 

「ゲッター線……ふっ、武蔵もこの世界に来たかこれがな……俺もいい加減にヴィンデル達と合流したいものだ」

 

「ふ、ゲッターロボが復活したか、これでやっと面白くなるな」

 

地上から宇宙を目指すゲッター線の輝きは世界各国で観測され、ゲッターを知る者すべてがゲッターロボの健在を改めて知る事となるのだった……。

 

宇宙を目指すゲッター線の光が観測された翌日――テスラ・ライヒ研究所の管制室にフィリオ、リシュウ、コウキ、ジョナサンの4人の姿があった。

 

「リシュウ先生、その件に関しては、もう謝罪したと思うんですが?」

 

「勘違いするな馬鹿者。ワシも気掛かりな事があると言ったじゃろう? まぁ、まずはこの映像を見てくれ」

 

リシュウがそう告げてコンソールを操作すると、ラングレー基地の第4試験場でグルンガスト弐式と切り結ぶ鎧武者を連想させるガーリオンの姿があった。

 

「これは……ガーリオンタイプ。各部をかなり弄っていますね……」

 

「パッと見しただけですが、ガーリオンの皮を被った別の機体と言っても良いくらい改造されてますね。リシュウ先生、これが何か?」

 

突然見せられたカスタムタイプのガーリオンの画像。それを見せられた意図が判らずそう尋ねるジョナサン達。

 

「……ワシの弟子が遭遇した機体じゃ。この改造やパイロットに心当たりがあるかの?」

 

「いえ……僕は設計と試作機の開発に携わっただけで、量産移行型やカスタムタイプについての詳細までは知りません。お力になれなくて申し訳無い……」

 

改造されたガーリオンなので、ガーリオンの設計者であるフィリオなら何か知っているかもしれないと思ったらしく、パイロットを知らないか? と尋ねられたフィリオだが、あくまで自分は基礎設計と試作機の製作にしか関わっていないと言われリシュウは小さく肩を落とした。

 

「リシュウ先生、この機体が持っている剣はシシオウブレードではありませんか?」

 

映像を見ていたコウキがシシオウブレードではないか? と尋ねるとリシュウは若干気落ちした表情で口を開いた。

 

「うむ、シシオウブレードの最初の一振り。ワシがここでこしらえたパーソナルトルーパー用の実剣の第1号じゃ」

 

「それではリシュウ先生。このガーリオンに心当たりがあるのは、フィリオではなく先生の方では?」

 

リシュウが作成したシシオウブレードを持つガーリオン……それを知っているのは誰でもない、リシュウの方ではないのですか? と尋ねられ、リシュウは今度こそ深い深い溜め息を吐いた。それはリシュウが抱えている後悔さえも吐き出したような、とても重い溜め息だった。

 

「そうじゃ。この機体に乗っておる男は、ワシの古い弟子かも知れん、だから何か知らないかと思ったのじゃ」

 

「弟子……ですか。すいません、僕はDCの兵士までの事は知らないんです」

 

「そうじゃな、その通りだ。すまぬ、ワシの思い違いじゃった……あの当時ワシの元には才能に溢れ、特殊戦技教導隊への入隊を勧められた程の腕を持つ男が何人もおった。 じゃが、カーウァイ大佐との面接の後、ゼンガーを残し、奴はワシらの前から消えた。一振りのシシオウブレードと共に……」

 

カーウァイ大佐との面談の後に姿を消した……それは、教導隊としての資格が無いと言われたからと容易に想像出来た。

 

「あの当時は先生の弟子は大勢いましたし、現に教導隊へと言われた男も何人もいましたね。ゼンガー少佐もそのうちの1人でしたよね?」

 

「うむ、ワシの弟子から6人が教導隊へのスカウトを受けた。その中でゼンガーだけが教導隊へ招かれた。他の5人とはそれ以降あっていない」

 

教導隊にスカウトされ、隊長との面談で落とされた。それはエリートの道を歩み始めるかもしれないと言う時に深い挫折へと繋がっただろう……それがシシオウブレードの盗難事件に繋がったのだ。

 

「……ワシは確かめねばならん。このガーリオンに乗っておる者の正体を……もし、ワシの弟子達の1人だとしたら……止めねばならん。師として悲しんでいるあいつらを……正しき道へ導けなんだワシの責任なんじゃ」

 

ゼンガーが採用されたという事に喜び、他の5人へのフォローが出来なかった事――それがリシュウの後悔しても仕切れない、後悔の1つだった。

 

「その為にグルンガスト2号機に乗ったのですね?」

 

ここでやっとリシュウが何故、昨日の狂言に乗ったのかをコウキ達は理解した。もしも、弟子の1人がシシオウブレードを手に殺戮を繰り返しているのならば、それを止める為にリシュウはグルンガストを駆って戦う為に昨日の狂言に参加していたのだ。

 

「やはり直接見つけて止めるしかないの、それよりもだ。次はこれを見てくれ」

 

リシュウであっても触れて欲しくない過去なのか強引に話を変えたリシュウが再びモニターを操作した。

 

「これは昨日の……」

 

「うむ、フィリオは判らないと思うが、これを拡大していくと……」

 

「これは!? ゲッターロボGッ!?」

 

「いえ、カザハラ博士、良く見てください。細部が少し違います、それに機体のサイズもです」

 

「し、しかし、良く似ているな」

 

DC戦争でアードラーが使い、L5戦役ではエアロゲイターに使われた量産型ゲッターロボG。それに酷似した未知の機体の存在にジョナサン達は顔を歪めた。

 

「うむ。恐らく何者かがこの機体を操り、宇宙に飛び立ったのじゃろう。計り知れぬ推進力とパワーを持つ機体じゃ、この機体に関して判りうる限りでいい、調べて欲しいと言う依頼じゃ。映像記録だけじゃから、難しいと思うが協力してくれ」

 

モニターに映るドラゴンに似た未知のゲッター……それを調べる為にジョナサン達は何度も映像を巻き戻しては再生し、少しずつ、少しずつその情報を集め始めるのだった……。

 

 

 

 

 

武蔵とカーウァイが宇宙に旅立って12時間後――アフリカのアースクレイドルにこの場には似つかわしくない、スーツ姿の1人の男が飛行機から降り立った。それを青い髪の男が笑顔で招き入れた。

 

「ようこそ、アースクレイドルへ……ブライ議員。我々は貴方をお待ちしておりました」

 

「下らないおべっかは良い。時間の無駄だ、イーグレット」

 

それは今アメリカの会議に出席している筈のブライだった。普段の柔らかい笑みではなく、邪悪とも言える全てを見下すような視線をしていた。

 

「それは失礼しました。ではこちらへ」

 

イーグレットの案内でブライはアースクレイドルの中を進む。

 

「そう言えば、あの小娘はどうした」

 

「小娘……ああ、ソフィア博士ですか? 余りにもうるさいのでね。人工冬眠装置に押し込みましたよ、貴方方や、コーウェン博士達の素晴らしい知識を邪悪だと言う愚か者をね」

 

アースクレイドルは既にイーグレットの謀反によって完全に百鬼帝国の親派となっていた。

 

「ほう、これが平行世界の兵器と言う奴か?」

 

ブライが案内されたのは格納庫と製造ラインだった。そこに並べられている機体を見て、ブライの目に初めて興味深いという色が浮かんだ。

「初めまして、ブライ議員。ヴィンデル・マウザーと申します」

 

「お前がそうか……なるほど、良い面構えをしているな」

 

機体の陰から姿を見せたヴィンデルを見てブライはにやりと笑う。ブライほどの存在になれば、一目で相手が何を考えているか、何を企んでいるかを見抜くことなど容易い。

 

「イーグレット。貴様は失せろ」

 

「は……いえ、その私の研究は……」

 

「気が向いたら見に行ってやる。今はヴィンデルと私だけで話をしたい。良いな?」

 

睨まれたイーグレットは不服そうだったが、判りましたと返事を返し格納庫を後にする。

 

「さてと、ヴィンデルだったな。中々やるではないか」

 

「……何の事でしょうか?」

 

「誤魔化すな。これでも私はお前達のスポンサーになってやろうというのだぞ? くだらない誤魔化しは止めろ不愉快だ」

 

ギロリと音が出そうな眼で見つめられヴィンデルは小さく肩を竦めた。

 

「イーグレットを焚きつけたのは私だけではないですよ」

 

「はははッ! あの小心者をコントロールしたと言うだけでも評価するぞ。コーウェンとスティンガーのように煽ったのではないだろう? お前は何をした? どうやってあの小心者に謀反などを起させた?」

 

言わなければお前を殺すと目が物語っているブライにヴィンデルは溜め息を吐き、自分が何をしたのかをブライに伝えた。

 

「ただ兵力を、私達が作ることが出来る兵力を提示したのですよ。そして……ゲッターロボの戦闘データを渡しただけです」

 

ヴィンデルがアースクレイドルに潜り込んだのはミツコの口利きではあるが、こうして格納庫や製造ラインを自在に使えるようになったのはその話術と未来を見させる弁術だった。

 

「ゲッターロボ……か」

 

「量産型ゲッターロボ計画をしているブライ議員には興味深い物でしょう。どうです? 戦闘データをお譲りしましょうか?」

 

「いや、いらん。この目で見なければ信用など出来ん。映像などではなくな……それよりも私はお前が気に入ったぞ」

 

少ない会話で自分の何を知ったと言うのだと言わんばかりにヴィンデルが顔を歪める。するとブライはそれを見て、牙を剥き出しにして笑った。

った。

 

「何もかも利用してやる、自分の目的の為にならば裏切りも平気でやる。そういう野心溢れる人間は大好きだ、私の首も狙ってみるか?」

 

「……ご冗談を」

 

「ふふっ、今はそういう事にしておいてやろう。今日は有意義な話し合いが出来そうだな」

 

自分と向かい合い冷や汗を流しながらも、それでも不屈をその目で訴えるヴィンデルを見てブライは楽しそうに笑う。

 

「好きな数字を書くがいい。私が本格的に動く時までは、出資をしてやろう」

 

「……ありがとう……ございます」

 

数字の書かれていない小切手を平然と差出し、寝首を掻けるものならば掻いて見ろと言わんばかりのブライにヴィンデルはやや押されながらも、対等な立場に立つ為にあれやこれやと策を講じるのだった……。

 

 

 

 

 

疲れ果てた様子で帰って来たヴィンデルをレモンがからかうように笑いながら出迎える。

 

「……で、どうだったの? 百鬼帝国の指導者って言うのは?」

 

「化け物だな、アインストやインベーダーとはまた違う。俺でさえも飲まれそうだった」

 

実際に生死をかけた戦いをしてきたヴィンデルではあるが、そんなヴィンデルでさえも恐れ戦き、飲み込まれそうな威圧感を持っていたとヴィンデルは告げ、レモンが用意してくれた紅茶を口にして、漸く一息付く事が出来たようだ。

 

「そ、鬼の帝王って言うだけはあるわねぇ。それにしても、私達が世界を超えてきたって言うのまで切る必要があった?」

 

手札は隠していればいるほどに効果を発揮する。それなのに既にヴィンデルは平行世界の人間と言う札を切ってしまっている……いや、正確には切らされたと言うべきなのかもしれない。

 

「言うな、俺だって切りたくて切った訳じゃない」

 

「ふふ、まぁ別に良いんだけどね。あの手のタイプはこちらの手札は切っておいた方がいいもの」

 

レモンから見てもブライと言う男は化け物に見えた。下手に隠し立てすれば、命を以って償わされる……それくらいの事は平気でやるタイプの人間……人間ではなく鬼だがその危険性は一目で判る。

 

「反逆出来るならして見ろ、裏切れるなら裏切って見せろと言われたぞ」

 

「でしょうねえ。システムXNを修理する為の時間稼ぎ程度に思っていたけど、ふふ、そうも言ってられないわね」

 

ヴィンデルとレモンからすれば戦力を整える為にアースクレイドルに接触した。利用するだけ利用したら捨てるつもりが、それすらも出来ない伏魔殿に潜り込んでしまっていた。だがそれに気付いた所で逃げ出す術もない、ならば逆に喰らい尽くしてやろうと気位を持つべきと開き直っているレモンに対して、ヴィンデルは自分の作戦ミスを悔いていた。

 

「笑っている場合か……それで連邦の作戦実行日は?」

 

「んー3日かくらいね。シロガネとハガネが日本に戻って補給して……それからね」

 

連邦軍のアースクレイドル攻略戦――それは既にアースクレイドルに情報が漏れていた。

 

「3日か……それならばもう少し戦力を削いでおくか?」

 

「やめといたら? 下手に動くと更に切らなくても良い札を切らされるわよ?」

 

「しかしだな、向こう側よりも連邦の戦力が増しているのだぞ?」

 

「ゲシュペンスト・MK-ⅢとヒュッケバインMK-Ⅲね。確かに、私達のより高性能だわ」

 

向こう側の連邦よりもはるかにこちら側の連邦の戦力は増している。それをヴィンデルは懸念していたのだが、レモンは明るく笑うだけだ。

 

「今回の作戦は立ち上げ、勝ち負けはどうでも良いのよ。なら私達は下手に動かないで、百鬼帝国さんに任せましょうよ?」

 

「それは判るが、W-17からの報告もないのだろう? あの人形しくじったんじゃないだろうな?」

 

ラミアを人形と言われ、レモンはむっとした表情になる。

 

「人形って言わないでくれる? あの子は私の最高傑作で、大切な娘なのよ? 顔も良いし、スタイルも凄いんだから」

 

「顔と身体が良ければ娼婦として男に取り入るくらい出来るだろう?」

 

「……それ以上言うと、私も考えがあるわよ」

 

レモンにとってWシリーズの後期NOは自分の子供と同意義だ。それを慰安婦のように男に媚を売れと平然と言うヴィンデルにレモンは静かだが明確な怒りを見せた。

 

「悪かった。俺が悪かった、しかしだな? W-16は行方不明、W-17は音沙汰なしでは失敗を疑うだろう?」

 

一応謝罪の言葉を発するヴィンデルだが、それに謝罪の感情が込められていないのは明らかでレモンは更に不機嫌そうになるが、ヴィンデルはそういう性格よねと呟いて報告書を机の上に投げる。

 

「リクセントの量産型Wシリーズからの報告よ。武蔵らしき人影発見、それとラミアから通信機の破損により、連絡不能。通信機もとむだって」

 

「しくじっているのではないか! そんな有様でヘリオス……あのファーストジャンパーを発見出来ると思っているのかッ!」

 

「あのねえ? 転移は完全な形で成功したんじゃないの。判る? 貴方が1回計画を変えたせいでミスが起きたの。それに通信がないってだけで、ちゃんと任務は遂行してる。任務ディスクも渡しているからちゃんと仕事はしてくれるわ、少し落ち着きなさいよ。ヴィンデル」

 

レモンとヴィンデルの間に険悪な空気が広がるが、それも仕方の無い事だった。転移してきて、新天地に来たと思えば自分達の機体よりも高性能な量産機が多数配備されている連邦に焦りを覚えるのは当然の事だった。

 

「……すまない。そうだな、冷静に考えればヘリオスが姿を見せないのは当然の事だな」

 

「そうそう、彼も私達の事には気付いている筈だし……簡単に尻尾は出さないでしょうね。それに、W17から連絡が無いって事は……ハガネとかシロガネにはいないんじゃない? とにかく、あの子に任せておきましょうよ、果報は寝て待てって言うでしょ? 後は、昨日のゲッター線の柱、あれやっぱりゲッターD2だったわ。ちょっと画像は荒いけど、これを見てよ」

ゲッター線の柱、あれやっぱりゲッターD2だったわ。ちょっと画像は荒いけど、これを見てよ」

 

モニターに映し出されたのはぼんやりとしていて輪郭しか判らないが、ゲッターD2とゲッターD2に抱えられたゲシュペンスト・タイプSの姿だった。

 

「……やはり武蔵もこちらに転移していたか、あのボロボロのゲッターロボとの関係性は?」

 

「そこは判らないけど……多分D2を地上で動かす気はあんまり無いんじゃないかしら?」

 

D2のパワーは桁違いだ、それ故に荒廃したあちら側ならまだしも、こちら側では積極的に動かすつもりはないと武蔵の性格を知るレモンは分析していた。

 

「……そうだな。それだけでも御の字か……後はW-16次第か」

 

「ま、仕掛けはしてあるしね」

 

ゲッターD2と戦う事になれば苦戦は必須――レモンがこっそりとゲッターD2にセットしておいた仕掛けが起動すれば武蔵とゲッターD2は鹵獲出来る。その後はどうにでも出来るとヴィンデルは笑い、カップに残っていた紅茶を飲み干した。

 

「それで今の所で何か判っている事は?」

 

「宇宙で連邦軍の部隊がいくつか行方不明になってるって事ね、多分武蔵とカーウァイが宇宙に行ったのも、この件の捜索と見て間違いないんじゃないかしら?」

 

連邦軍の部隊の行方不明とそれに前後して、宇宙を目指したゲッターD2。誰が聞いても、行方不明の部隊の捜索に出たと考えるのが自然な流れだ。

 

「やはり武蔵の言う通り順序が逆だと言うのも信憑性を帯びてきたな」

 

「何? 信じてなかったの?」

 

「いや、我々のほうではあの事件が先だった。この世界ではインスペクターが出現しないのかと思っていてな」

 

ヴィンデル達の世界ではインスペクターが現れ、イージス計画と話は進んだ。だがこの世界では別の異星人が現れ、そこからイージス計画の話になるとヴィンデルは考えていたのだ。

 

「L5戦役の事もあるから、ハガネとヒリュウが囮になるかもよ、ま、もう少し様子を見ましょうよ。色々と事態が動き始めたみたいだしね。私達も百鬼帝国の影で動きましょ。と、言う訳で私は日本に行くわ」

 

「待て、何をしに日本に行くんだ?」

 

軽い口調で日本に行くと告げたレモンに何をする為に日本に行くんだと尋ねるヴィンデル。

 

「ハガネが伊豆基地に戻るならラミアも戻るでしょ? ちょっと様子を見てくるのよ。それに気になる事もあるしね」

 

「気になる事?」

 

「ええ、武蔵の言う通りL5戦役の時にアクセルは転移してしまったみたいでしょ? それで各地で蒼い特機の目撃情報噂もあるからバリソンとそこら辺を調べてくるわ。そのついでにラミアに通信機を渡してくることにするわ、じゃあね~」

 

アクセルの搭乗機らしいソウルゲインの噂と、ラミアが破損したと言っている通信機の事もあり、レモンはオペレーションキルモールが発令させる前に1度日本に向かう事にしたのだが、これが後にレモン、ラミア、そして今は消息不明のエキドナの運命を変える出来事になるとは思っても見ないのだった……。

 

 

 

 

リクセントの国際会議、そして中国でのアンノウンとの遭遇を経て、シロガネとハガネは漸く伊豆基地へと帰還し、3日後に控えるオペレーションキルモールの最終調整をしていた。そんな中、ダイテツとリーはレイカーと共に衛生兵の報告を聞いていた。

 

「身体検査の結果、筋肉増強剤や精神高揚剤など薬物投与の痕跡が発見されました、後大変微弱ですが、リマコンの痕跡もあります」

 

簡易的ではあるがハガネで行なったアラド・バランガの身体検査と同じ結果が伊豆基地でも確認された。

 

「ここまでやるのか、テロリスト共めッ!」

 

少年兵であるアラドに投薬やリマコンをし兵士とする。その非人道的な行いにリーがレイカーの前だと言うのに怒りを露にする。レイカーが自分を見ているのに気付き、リーはすぐに敬礼する。

 

「も、申し訳ありません。怒りを抑え切る事が出来ず」

 

「いや、それで良い。君の正義感を私もクレイグ司令も買っている」

 

熱く燃える激しい正義の男。だからこそ、クレイグもレイカーもリーを買っている。むしろ上官の前でさえも、その正義感を見せると言う事は演技ではないと言う事が判る。

 

「注目すべき点は肉体の頑強さ……か、見た目の年齢とは不釣り合いと言う報告もある。それに、傷の回復力も常人より速いのか……」

 

「恐らくだが、数で劣るテロリストが数の不利を覆す為に色々と試しているのだろう」

 

「そうか……普通ならば精神操作などを疑うべきなのだが……」

 

連邦の負の遺産であるスクールの生き残り、投薬や精神操作の疑いもあるのならば投獄や、戸籍が無いので処理すると言う方法もある。レイカーとダイテツのやりとりに不信な物を感じたのかリーは敬礼したまま声を張り上げる。

 

「レイカー司令ッ! ダイテツ中佐ッ!! アラド・バランガは投降しておりますッ! 処罰や投獄などの行いは出来れば避けて頂きたいと具申させていただきますッ! 全ての責任は私が背負います、どうか温情ある決断をよろしくお願いいたしますッ!!」

 

部屋中に響くほどの大声にレイカーもダイテツも驚いた顔をしたが、小さく笑い始める。

 

「リー中佐。安心して欲しい、私が伊豆基地の司令である限りアラド・バランガは捕虜として人道的な扱いを行なう事を約束しよう」

 

「リー中佐。覚えておけ、伊豆基地に集まっているのはある意味、問題児、命令違反の常習犯だ。お前の心配するような事はない」

 

「流石ダイテツだ、命令違反の常習犯が言うと説得力が違うな」

 

自分の早とちりだったと気付き、リーは再び敬礼し申し訳ありませんでしたと謝罪を口にした。

 

「それでアラドの様子は?」

 

「リュウセイ少尉、ラトゥーニ少尉と良く話をしている」

 

「そうか、その中で錯乱するような素振りは?」

 

「ありません。ただその……常人の4倍近い食事をするのが些か問題ではありますが……」

 

アラドの食事量は成人男性の4倍近いのが問題ですと言うリーだが、ダイテツとレイカーは声を揃えて笑った。

 

「3日で1ケ月分の食糧を消費した男もいる。それと同じと思えば大した事はない」

 

「念のために多目に食糧を積んでおいて正解だった」

 

「は、はぁ?」

 

武蔵の事を知らないリーは2人が何の話をしているか判らなかったが、食事量に関しては問題がないと言うことは判ったようだ。

 

「早めに連絡をしてくれたからマオ社のラーダ女史と連絡がついている」

 

「流石レイカーだな。手が早い」

 

ハガネの簡易の検査報告を聞いてすぐレイカーはマオ社に連絡を取り、セラピストでありメンタルケアの専門家であるラーダにアラドの検診を頼んでいたのだ。

 

「どの道アラドからテロリストの話も聞けそうにない。マオ社で見てもらう事を優先しよう」

 

「本人は自分の知る限りの事を話してくれたが、立場も末端の兵士だから詳しい事は何も知らなかった。判ったのはアースクレイドルと百鬼帝国に繋がりがあると言うことだ。レイカー、今からでもキルモールを中止する事は出来ないか?」

 

オペレーションキルモールはアースクレイドルの制圧作戦だ。そのアースクレイドルに百鬼帝国がいるとなれば、苦戦は必須……いや、最悪の場合全滅の可能性もある。今からでも中止を発令出来ないか? と尋ねる。

 

「それは出来ない、既に第21・23・24混成機動師団が出撃している」

 

既に出撃している為今更キルモール作戦は中止できないと言うレイカーの言葉を聞いてダイテツは深く肩を落とした。

 

「しかしだ、この作戦でハガネとシロガネを轟沈させる訳には行かない。私の権限で部隊を分ける、ダイテツ達はエチオピアで第21・23・24混成機動師団と合流後、アースクレイドル攻略戦に参加してくれ、リー中佐は第25・26と合流してベルフォディオ基地を目指してくれ」

 

「そんな事をしていいのか?」

 

「言った筈だ。ハガネとシロガネを失う訳には行かない。最悪の場合――現場放棄をして離脱せよ。良いな」

 

誘い込まれて全滅する可能性を考慮し、レイカーはハガネとシロガネを遊撃隊、最悪の場合に離脱出来る立ち位置へと配置した。

 

「それとだ、ダイテツ、リュウセイ少尉とエクセレン少尉を月に派遣してくれ」

 

「急にどうした?」

 

「マオ社から要請があってな……名目上は最近宇宙もきな臭いから、早めに新型を受け取りに来て欲しいそうだ」

 

このタイミングで単独行動で宇宙へ行き新型を受理せよと言う命令はかなりむちゃくちゃだ。

 

「それはキルモールに参加させろという事でしょうか?」

 

「恐らくな……だが、これを利用させて貰う。アラドを連れてマオ社へ迎え、事後承諾になるがラーダ女史に見て貰う。出発は2日後だと伝えてくれ、ダイテツ、リー中佐。貧乏くじを引かせてしまうが……よろしく頼む」

 

「「了解ッ!!」」

 

こうして百鬼帝国の影がちらつくなか、テロリストの本拠地であるとされるアースクレイドル攻略戦の準備が進められていくのだった……。

 

 

 

 

第29話 宇宙の龍/大地の鬼神  その2へ続く

 




今回はここまでにしたいと思います。次回はオリジナルのインターミッション、そしてヒリュウ改の面子を出しつつ、誰が為の盾と疑惑の宇宙をやや簡略化して書いて行こうと思います。ゲームでのシナリオで言うと、誰が為の盾と疑惑の宇宙を1つに、その後は地上ルートの桜花幻影→異形の呼び声→その名はアインスト→星から来るもの→第三の凶鳥→ノイエDC→剣神現るとシナリオを前後させて、シナリオを調整しながら展開して行こうと思います。やや混乱するかもしれないですが、上手く調整して行きたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


それとエイプリルフールには間に合いませんが、4月4日の更新でエイプリルフールの特別企画をやりたいと思っております。

それに伴い活動報告にアンケートをおいてありますので、そちらも1度目を通していただけると幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第29話 宇宙の龍/大地の鬼神  その2

第29話 宇宙の龍/大地の鬼神  その2

 

オペレーションキルモールの発令前の2日間の休息。ラトゥーニは伊豆基地に戻ってきた事もあり、リュウセイと共にユキコの顔を見に行くつもりだったのだが……リュウセイの言葉に目を見開いた。

 

「え、リュウセイ。マオ社に行くの?」

 

「おう。R-1とかを取りに行けって言う命令でさ、エクセレン少尉と一緒にマオ社に行けってさ。トホホ……休暇だと思ったのに俺とエクセレン少尉は伊豆基地に缶詰だよ。ん? どうしたラトゥーニ」

クセレン少尉は伊豆基地に缶詰だよ。ん? どうしたラトゥーニ」

 

「う、ううん!? 何でもない、何でもないよッ!?」

 

エクセレンと2人で月へ行くと聞いて完全に平常心を失っているラトゥーニの目が泳ぎまくっているが、リュウセイはそれに気付かない。

 

「それでさ、もしも休暇で伊豆基地を出るならお袋の様子見て来てくれないか? 大分元気になったけど、やっぱり心配だからさ」

 

「うん。判った!」

 

「すまねえ。今度休暇取れたら埋め合わせをするから」

 

ラトゥーニとリュウセイのやり取りは完全に彼氏彼女のやり取りなのだが、当の本人達が全く気付いていないのが謎である。

 

「俺、なんであの2人が付き合ってないのか理解出来ないっす」

 

「だろうな。まぁ、良いんじゃねえの? と言うか、お前食いすぎだろ?」

 

捕虜と言う扱いのアラドだが、精神操作などの疑いが無いと診断され、流石にハガネの外に出る事は許可されなかったが、ハガネの中では監視付きだがある程度は自由に出歩く許可を得ていた。

 

「え、そうっすかね? あ、すいませーん。カツ丼おかわり」

 

「……武蔵を思い出すぜ、マジで」

 

武蔵を彷彿とさせる凄まじい食欲にイルムは若干疲れた様子で溜め息と共にそう呟いた。

 

「むひゃし?」

 

「ああ、こっちの話だ。気にすんな、しかしリンの奴に伝えておいたほうがいいかねえ」

 

これからリュウセイとエクセレンと共にマオ社に行く予定のアラド。この食欲では、大変なことになるかもしれないと判断しイルムは食欲お化けが行くぞとリンに伝えることを心に決めていた。

 

「しかしリュウセイ、エクセレン少尉と月に行って、新型を受け取って来てもキルモールには間に合わないだろう?」

 

リュウセイとラトゥーニが座っていた机に自分の食事のトレーを自然な素振りで置いて、声を掛けるブリットにまわりにいた全員が驚きの表情を浮かべた。良く、ラトゥーニとリュウセイの間に割り込めたなと言う驚愕の瞳だ。

 

「ああ、俺もそう思う。R-1は細かい調整が必要だし……なんでそんなに急げって言われるのか理解できないぜ」

 

「……」

 

「ラトゥーニ? どうかしたか?」

 

「う、ううん。なんでもないよ?」

 

明らかにリュウセイと2人きりを邪魔されて不機嫌なラトゥーニなのだが、それに気付かないブリットを見て、アラドとイルムは揃って一言呟いた。

 

「「天然って怖いなあ……」」

 

普通あの中に割り込んでいくのとか無理だろと思いながら、イルムとアラドは揃って溜め息を吐いた。

 

「と言うか、知ってるか? ラトゥーニの奴、リュウセイの家に居候してるし、お袋さんとも仲良しなんだぜ?」

 

「ええ……いや、なんで、マジでそれで付き合ってないんっすか?」

 

「簡単だ。リュウセイがお子様過ぎるからさ、リュウセイは完全攻め落とされているのにそれに気付いてないんだよ」

 

「……すっげえ納得。あ、すいませーん。豚肉のしょうが焼き定食、飯メガ盛で」

 

「お前まだ食うのかッ!?」

 

アラドの底知れぬ食欲にイルムは驚愕し、絶対にこの事をリンに伝えるべきだと改めて思うのだった……。

 

「オーライ! オーライッ!!」

 

「おーいッ!! 換装パーツの搬送はどうなってるッ!!!」

 

キルモールに向けてハガネへ様々な機体が搬入されるのを私服姿のライが見つめていた。

 

「ライ、まだいたの?」

 

「隊長……ええ、自分の機体が搬入されるのを見てからと思いまして」

 

R-2が格納庫に搬入されている作業を見つめていたライはヴィレッタの手の中の書類に気付いた。

 

「それはもしかして」

 

「ああ、あの時のアンノウンの簡易的な分析資料だ。これからケンゾウ博士に見て貰う予定だ」

 

「……キルモールに出現する事を危惧しているのですか?」

 

「ありえない話ではないからな」

 

アースクレイドル攻略戦。そこにあのアンノウンが出現する可能性は捨て切れない、そして百鬼獣が出現するのもまた然りだ。

 

「それよりもだ。半日休暇を取ったんだろう。早く行け」

 

「……ええ、すいません。では、失礼します」

 

小さく頭を下げて格納庫から出て行くライを見送り、ヴィレッタはハンガーに固定されているゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R02カスタムを見つめる。

 

「ヴィレッタ大尉。どうかしましたか?」

 

「ああ、オオミヤ博士。R02カスタムが勿体無いと思ってな。いや、もうR02カスタムではないか……」

 

R-2が搬入された為、パワードパーツを外され素体に近いそれをロブも見上げて大丈夫ですよと笑った。

 

「クライウルブズのアルベロ少佐専用にカスタマイズして、再利用するそうですから」

 

「そうか。まぁ考えれば当然の事か」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲは今の連邦の主力量産機だ。汎用性を高めた一般兵用とカスタマイズされた専用機が日々量産されている、そんな中でテスト機ではあるが高性能の試作エンジンを2つ積んだゲシュペンスト・MK-Ⅲを遊ばせている訳がないかと苦笑する。

 

「そうだ。後でいいんですけど、リュウセイにこれを渡しておいてくれますか?」

 

「これはヒュッケバイン・MK-Ⅲの仕様書?」

 

「はい、量産型ではなく、エース用に開発したヒュッケバインMK-Ⅲのテストを行なうそうなので、リュウセイの意見も記録しておいて欲しいと思いまして、でも俺はこれから搬入とかの確認があるから直接言ってる時間が無いんですよ。すいませんが、よろしくお願いします」

 

「しょうがないわね。まぁ、いいわ。任されたわよ」

 

トライアウトではない、レイオスプランの一環として作成されたヒュッケバインMK-Ⅲと、そのパーツの意見をリュウセイに聞いてレポートとして頼むと言うロブの頼みを聞いて、その書類を手にしてヴィレッタは伊豆基地のSRX計画のラボに足を向ける。

 

「今戻ったわ」

 

「おかえりなさい、隊長」

 

アヤに出迎えられヴィレッタはモニターに視線を向けた。

 

「また見ていたの?」

 

「……ええ。見れば見るほど確信するんです」

 

モニターに映されているのは便宜上R-SWORDと呼称された漆黒のPTだった。

 

「それも良いけど、ハガネから送った情報の分析結果は?」

 

「あ、はい、こちらになります」

 

中国でのアンノウンとの戦闘情報を元に伊豆基地で分析された物にヴィレッタは目を通す。

 

「やっぱりね」

 

「隊長の言う通りでしたよ。エアロゲイターの兵器とは構成が全く異なりました」

 

僅かに回収されたサンプルとエアロゲイターの兵器――バグスやスパイダーを構成する金属とは全くの別物と言う事が明らかになった。

 

「正体の見当は?」

 

「エアロゲイターとは別の異星人の兵器か……アンザイ博士のレポートにもあった通り、古の地球に存在していた物か……いずれにせよ、あのデータだけでは答えを導き出せそうにないわ、百鬼獣も含めてね」

 

謎のアンノウンとかつて地球に存在したと言う百鬼帝国の復活。それらはL5戦役よりも激しい戦いの前触れのようにアヤは感じられた。

 

「隊長はやっぱりホワイトスターへ?」

 

「ええ、破片の解析が済み次第、私はホワイトスターへ戻るわ。予定を繰り上げてでも、あれを例のバリアの中継点として仕上げなくてはならないから」

 

イージス計画で使用される予定のホワイトスター。それの調査にヴィレッタは向かうと告げる、リュウセイとエクセレンが月へ向かうのにヴィレッタも相乗りする事になった。

 

「ホワイトスターに機能回復の兆しは見られないんですよね? 本当に使えるんですか?」

 

「ホワイトデスクロスという中枢を失っているから無理だとは思うんだけど、それでも命令なら従うしかないわ。後はハガネが回収した例の破片ね」

 

今の段階では使い物にならないホワイトスター。それでもそれを使えるようにしろと命令されれば、ヴィレッタは軍人としてそれに従うしかない。

 

「さ、行きましょう。ホワイトデスクロスの破片の解析に参加しないとね」

 

「はい」

 

SRX計画ラボの地下の更に奥の極秘研究室に白亜の建造物が固定されていた。

 

「ヴィレッタ大尉。良く戻ってくれた」

 

「いえ、それでオブジェクトの現在の状況は?」

 

「TP反応がレベル2のままです。表面材質にも変化はない」

 

ハガネに回収された段階では修復を繰り返していた謎の物質だが、伊豆基地に着いたと同時に修復作業の一切が停止している。その謎の物質を見つめながらケンゾウはヴィレッタに問いかける。

 

「ヴィレッタ大尉、どう思う?」

 

「破損が激しいが、間違いなくあれはホワイトデスクロスのコア……で間違いないわ」

 

「え……ッ!? で、でも隊長は最初ホワイトスターの構成物質だと言っていたではないですか!?」

 

捜し求めていたホワイトデスクロスのコアと言われ、アヤが声を荒げるとヴィレッタは小さく溜め息を吐いた。

 

「あの時は何の反応も無かった。だけど今はTP反応がある。それが何よりの証拠よ」

 

「じゃ、じゃあ、あの中にはれ、「……修復率の事もある。それ以上は今は言うべきではないわ」……隊長……はい」

 

ホワイトデスクロスのコア……それが何を意味するかアヤには判っていた。それが判っていて、ヴィレッタはあえて修復率と言う言葉を口にした。それはアヤの希望を打ち消すような冷酷な響きがあった――。

 

「よし……切開作業を開始しろ」

 

「お、お父様……ッ!? しかしッ!」

 

修復作業が止まっている。切開すれば、自分達の前に現れるのは恐ろしい何かかもしれない。そう思って止めに入るアヤだが、ケンゾウは首を左右に振った。

 

「アヤ……真実はあの中にある。そして、我々はそれを確かめなければならない……それがどれだけ残酷な物だったとしてもだ」

 

「……わ、わかりました」

 

ケンゾウの言葉にアヤが頷き、ホワイトデスクロスのコアの切開作業が再開される。

 

「あ、あれは!?」

 

「やはり……か」

 

解放されたデスクロスのコアから培養液と共に姿を見せた小柄な影を見て、ケンゾウ達はその顔を大きく歪めるのだった……。

 

 

 

 

 

地下研究室で大騒動が起きているなんて知る良しも無いラミアはハガネのデータ室にいた。

 

(……キーワード入力、ヘリオス。検索開始)

 

リクセントで受け取った命令ディスクの内容を実行する為にデータ室の使用許可を得て、ヘリオス・オリンパスについて調べていた。

 

(結果はゼロ、か。どうやら、この艦との関わりはないらしい……もっとも、そう簡単に尻尾が掴める相手だとは思えんが……前提条件が間違っているのか?)

 

あちら側でヘリオスと名乗っていたが、その素顔は誰も知らない。この世界に転移している事で名前を変えて、隠していた素顔を晒している可能性もあると言う可能性にラミアは辿り着いていた。

 

「これは骨が折れるな」

 

ヘリオスと言う名前自身が偽名の可能性が高いのだ、それを馬鹿正直にヘリオスで探しても見つかる訳が無い。

 

「何か手掛かりがあれば……」

 

ヘリオスに通じる何かがあればとラミアが考えているとデータ室の扉が開く音が響いた。

 

「ギリアム少佐。お疲れ様でありますでごんす」

 

「……なんと言うか凄い口調だな。ラミア・ラブレス」

 

入ってきたギリアムに内心不味いと思いながらそれでもラミアは笑みを浮かべた。

 

「ギリアム少佐はデータ室に何を調べにきちゃったりしちゃったり?」

 

「……喋りにくければ敬語でなくても構わない。普通に喋れるのだろう?」

 

「ん、すまない。どうも敬語は苦手でな」

 

「苦手にしても酷いと思うがな。俺はリクセントに現れたゲッターロボの分析に来たんだ。何、邪魔はしないさ」

 

ラミアから離れた所に座り、解析を始めるギリアム。

 

(監視……か?)

 

ギリアムと言う男はラミアにとって未知の存在だった。教導隊らしいが、あちら側では該当データが無い。そして妙な雰囲気を感じるギリアムは調べなくてはと思うのと同時に近づいては危険と思わせる相手だった。

 

「ああ、そうそう。ラミア、君が提出してくれたレーダーだが」

 

「それがどうかしたか?」

 

「やはり破損が酷く、修復は出来なかったので返却しよう。しかし、あれだな? あれは本当にイスルギの作った機械なのか?」

 

ギリアムからの問いかけを聞いて不味いと思いながらも笑みを浮かべる。

 

「そうなのではないのか? アンジュルグはイスルギの機体だからそうとしか思えないが?」

 

「……ふむ。それもそうだが……あのレーダーはどうも個人が作成したように思える。既製品とはまるで違う構造だからな、何か知っていれば教えてくれないか?」

 

柔らかい口調だが、攻め立てるような口調にラミアがどうやってこの場を切り抜けるかと考えていると再びデータ室の扉が開く音がした。

 

「ああ、やっと見つけた。 ラミアさんこんな所で何やってるんですか、迎えが来てますよ?」

 

データ室に入ってきたエイタがDコンを操作して、見つけたという報告をしている。

 

「迎え? どういうことだ?」

 

「あ、ギリアム少佐。お疲れ様です、はい。イスルギ重工のスタッフが1度定期健診を行なうと伊豆基地へ見えられているんです。所が連絡がつかないと言われて、皆で探していたんですよ」

 

「定期健診? そんな物があったのか?」

 

「わ、忘れていたでございますですのよ。教えていただいでありがとうございましたですの」

 

定期健診なんて物は知らないが、それでも今この場を切り抜けれるならとラミアはエイタに笑みを浮かべて、慌ててデータ室から逃げ出していった。

 

「あー、でもラミアさんって美人だな」

 

「なんだ。エイタはラミアのような女性がタイプなのか?」

 

「え、あ……まぁ、その……そ、それよりも! ギリアム少佐こそ、何故データ室に、ミーティングだとカイ少佐が探してましたよ?」

 

「おっと忘れていた。教えてくれてありがとう、ではな」

 

エイタの肩を叩いてデータ室を出て行くギリアム。その背中を見つめながらエイタは小さく溜め息を吐いた。

 

「暗いデータ室で2人きり……俺もしかしてお邪魔虫だったかなあ……」

 

美男美女であるギリアムとラミアの関係を勘繰ってしまったエイタは失敗したなあと呟きながら、データ室を後にするのだった。

 

「お待たせしましたでありますでごんす」

 

「……おめえ、どうした、その変な喋り方は?」

 

伊豆基地の敷地内に待っていたイスルギ重工のエンブレムの入った車に乗り込んだラミアは、運転席から顔を見せた男を見て目を見開いた。

 

「ば、バリソン少佐! しつれいしちゃったりなんかり……すみません」

 

シャドウミラーの上官であるバリソンが運転手に扮しているのを見て、慌てて謝罪をするラミアだが思ったように喋れず謝罪の言葉を口にする。

 

「……なんか調子悪そうだな。ま、レモンに見て貰えよ」

 

「定期健診とはレモン様が?」

 

「ま、お前の様子を見に来たのはついでらしいけどな。行くぜ」

 

バリソンはラミアに軽く声を掛け車を走らせ伊豆基地から出て行く。バリソンの運転する車に揺られながら、ラミアは目的地に到着するまでの間自分が何か失敗をしたのではと言う恐怖にその身体を小さくさせているのだった……。

 

 

 

 

ハガネの艦長室の扉を叩き、入れという声を聞いてからキョウスケは艦長室に足を踏み入れた。

 

「失礼します」

 

「キョウスケ中尉。ご苦労」

 

艦長室にいたのはダイテツとカイ、そしてギリアムの3人だった。

 

「失礼ですが、私はリュウセイ少尉とエクセレン少尉の件についてのお呼び出しだったと思っているのですが……?」

 

リュウセイとエクセレンが月に行くと言う話の打ち合わせだと思っていたキョウスケはギリアムとカイがいた事に驚きながらそう尋ねた。

 

「俺がダイテツ中佐に頼みがあってきたんだ。とは言え、俺の独りよがりだったが」

 

「ふふ、鬼隊長と言われたカイも随分と丸くなったな」

 

ギリアムのからかうような言葉にカイはうるさいと声を上げた。

 

「アラド・バランガの件についてだ。リュウセイ少尉達にアラド・バランガも同行させる」

 

「それは構いませんが……何故?」

 

「マオ社でラーダに様子を見てもらうためだ。それで異常なしと判れば、本人の希望もある。義勇兵として招き入れる予定だ」

 

リョウト、そしてヒリュウ改のレオナと言う前例もある。だから決断についてはキョウスケ自身には反論も何も無かった。

 

「了解です。出発予定時刻は明朝と言う事でよろしいですね?」

 

「それについてだが、出発時間をキルモール作戦でワシ達が出航した後にずらしてもらう」

 

出発時間の大幅な変更を聞いてキョウスケは驚いたように目を見開いた。

 

「しかし、それではキルモール作戦には間に合わないのでは?」

 

「うむ。そうなるが、どの道無理な計画だった。遅れること自体には何の問題も無い」

 

元々キルモールにR-1を投入する事自体問題があった。だからキルモールにR-1が間に合わないのはダイテツにとっては想定内、想定外なのはその次だ。

 

「ギリアム少佐、キョウスケ中尉にも、あの情報を」

 

「了解です。キョウスケ中尉をこれを」

 

差し出された資料を受け取り目を通したキョウスケ。最初は目を通しているだけだったが、その顔が徐々に険しい物になる。

 

「ダイテツ中佐。エクセレン少尉達を今宇宙に送るのは危険です」

 

キョウスケに差し出された資料には、L2宙域に駐留している部隊の相次ぐ失踪事件の事が記されていた。

 

「うむ、ワシもそう思うが軍本部の命令ではワシも逆らえぬ。時間をずらしたのがワシとレイカーに出来る限界だった。すまない」

 

レイカーが尽力しても2日。出発までに2日の猶予を与えるのがやっとだったとダイテツは謝罪の言葉を口にする。

 

「いえ、こちらこそ失礼しました」

 

部下思いのダイテツが、むざむざ部下を危険に晒す訳が無い。キョウスケは自分の失言を謝罪し、再び資料に目を通した。

 

「何者かと交戦した後、消息を経った部隊や……戦艦ごと反応が消えてしまった部隊もいるとありますが……この部隊の規模は?」

 

「詳しい事は不明だが、フライトユニットを装備したMK-Ⅱが10機、アーマリオンが7機、ガーリオンが8機とある」

 

「かなりの大部隊ですな……残骸などは?」

 

「確認されていない。だから嫌な予感がするのだ、レイカーもそれを指摘して、シャトルでマオ社に向かうのではなく、輸送機で宇宙へと向かって貰うように計画を変更させた」

 

「……では当初の計画では、パイロットのみの?」

 

「その通りだ。ギリアム少佐、ワシもレイカーもその指示書を見て、すぐに反論をした」

 

この時期にパイロットのみを送り出すという事は無謀にも等しい。それを強行した軍本部、誰も口にしないが百鬼帝国の成り代わりによる仕業の可能性があると全員が感じていた。

 

「レイカーの権限でヒリュウ改を調査の為に呼び戻した。調査の後、大気圏付近で待機、リュウセイ少尉達と機体を回収後マオ社へ向かう手筈となっている」

 

アステロイドベルトから戻ってきたと言うヒリュウ改と合流できると判ればある程度は安心出来る。

 

「だがそれでも不安はあるな、ダイテツ中佐。俺もリュウセイ少尉達に同行してもよろしいでしょうか?」

 

「ギリアム少佐が良いと言うのならばワシは反対などせん」

 

教導隊のギリアムもリュウセイ達に同行する。それだけ宇宙が危険であるという認識だった。そしてそんな最中にリュウセイ達を宇宙へ送り出すという事に全員が不安を抱いているのだった……

 

 

 

 

 

L2宙域付近を進む赤い龍を思わせる戦艦――レイカーの要請によって地球圏に戻って来たヒリュウ改だ。周囲を警戒しながら、ゆっくりとL2宙域へと進路を取る。ヒリュウ改のブリッジでは艦長のレフィーナの姿は無く、副艦長のショーンとオペレーターのユンの姿だけがあった。

 

「宙間座標、太陽、月、星座確認」

 

「……確認終了。現在位置、L-SU8875」

 

「艦内各部点検の結果報告を」

 

「艦首超重力衝撃砲は、ボルトキャリアー点検中のため使用不可。それ以外は異常ありません」

 

ユンの報告を聞いて、ショーンは満足そうに笑い、その手を叩いた。

 

「ふむ……私の予測クリア時間より15分早い。イカロス基地での訓練の成果が出ておるようですな」

 

「ですが、艦長不在というシチュエーション設定が冷や汗ものでした」

 

地球圏に戻るまでの間に訓練として、レフィーナ艦長不在でのユンとショーンのみのヒリュウ改の運用訓練。それが終わりを向かえ、ユンは小さく溜め息を吐いた。

 

「まあ、これから忙しくなりますからな。艦長には今の内に休んで貰いませんと、それにいざって言う時に艦長に頼りきりと言うのは良くない傾向ですから」

 

戦闘によってレフィーナが負傷しないとは言い切れない。いざと言う時に備え、レフィーナ不在でも運用出来るように訓練しておく必要があったのだ。

 

「さてと、L2宙域の調査任務開始まで少々余裕が出来ましたな」

 

「艦長を起こした方がいいでしょうか?」

 

ユンに問いかけにショーンは首を振る。地球圏が見えるまではレフィーナがワンマンオペレーションをしていた、その時の疲労を考えればまだ起すべきではないと告げた。

 

「緊急時ではないですから、まだ暫く私達で行動しましょう。L2宙域へ偵察ポッドの射出、それとオクト小隊に格納庫での待機命令を」

 

「了解です」

 

ショーンの指示に従い、偵察ポッドが射出されその後を追うようにゆっくりと行方不明事件が起きたポイントへと向かうヒリュウ改。その格納庫ではせわしなく機械の動き回る音が響いていた。

 

「ラッセル、そっちのゲージの数値を読み上げてくれ」

 

巨大な赤いユニットを組み上げている機械の操作をしながらタスクがラッセルにそう声を掛ける。

 

「359.18……予定以上の値が出てますよ。」

 

「よっしゃ、これでグラビコン・システムの調整はチリバツだぜッ!」

 

想定していた数値をはるかに上回る数値をマークした事にタスクは嬉しそうに笑い、やっと形になって来た己の機体を見上げる。

 

「ラドム博士のジガンスクード改造プラン……実現まであともう少しですね」

 

タスクが顔を上げたのにつられて、ラッセルも顔を上げながらそう呟いた。ゲシュペンスト・MK-Ⅲの正式採用に喜んだマリオンがタスクに押し付けた設計図とパーツ。殆ど形になっていないそれをここまで組み上げたのはタスク達の努力の証だった。

 

「おう。餞別代わりに設計図とパーツを渡された時はどうなる事かと思ったけどよ、皆が色々手伝ってくれたおかげで、何とかなったぜ……毎日の訓練に加えて、イカロス基地周辺のパトロール、機体の整備、炊事の手伝い、トイレの掃除にレクリエーションの仕切り……その合間を縫って、ジガンを改造するのは大変だったな~」

 

「そ、そんな事までしていたのは、知りませんでしたが……漸く形になってよかったですね」

 

完成間近のジガンスクードの強化パーツを見て満足そうにタスクとラッセルが笑っていると格納庫の扉が開き、カチーナがその姿を見せた。

 

「おう。どうだ、タスク? ジガンのマ改造は?」

 

「マ、マ改造? 何スか、それ?」

 

からかわれていると思いきや真面目な顔をしているカチーナに何の事かとタスクが尋ねる。するとカチーナはふふんっと自慢げな顔して、マ改造が何かを告げた。

 

「マリオン・ラドム博士のマッドな改造プラン……略して、マ改造だ」

 

「それ聞かれたら大変なことになると思いますよ?」

 

頭のおかしい改造だったとしても本人は大真面目に作成している。それをマッドな改造なんて呼べばマリオン博士が怒りますよとラッセルが注意するが、いない相手を恐れる必要はねぇと言ってハンガーに固定されているジガンスクードを見上げるカチーナ。

 

「で、実際作業はどうなんだ? 今んとこ、見た目は変わってねえみたいだが」

 

「ああ、後でシーズシールド・ユニットをシーズアンカーに変えるんスよ」

 

タスクが格納庫の隅を指差す、そこに置かれているパーツを見てカチーナはにやりと獰猛な笑みを浮かべる。

 

「おう、アレか。男らしくて良い武器じゃねえか。あたしのゲシュにも付けてみてえぜ。そしたら、アルトに負けねえ突撃野郎になるかもな」

 

シーズアンカーを見て、羨ましそうな顔をしているカチーナを見て、タスクが考え込むような素振りを見せる。

 

「……中尉が本気で欲しいなら準備するっすよ?」

 

「お? マジか?」

 

「うっす。ゲシュペンスト・MK-Ⅲの改造案を出して受理されたらの話っすけど」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲが1機だけヒリュウ改に受領されている。熟練訓練中の機体なので、それを無許可で改造することは出来ないが、改造案を出して受理されれば改造しますよと言うタスクの言葉にカチーナはパシッと拳を自身の手の平に打ちつける。

 

「口を切ったんだからやっぱり無理とか言うなよ。あのMK-Ⅲはあたしのになるんだからな」

 

本来の機体色であるグレーを既に真紅に塗装しているのを見れば、誰もがあのゲシュペンスト・MK-Ⅲがカチーナの搭乗機になると言うのは一目で判った。だからタスクも苦笑しながら返事を返した。

 

「判ってますよ。ドゥロの作業が終わったら、手も空きますしズィーガーを弄りながら、換装パーツの改造も一緒にやりますよ」

 

「ズィーガー? ああ、そいつもマ改造だっけか?」

 

地球でのトライアウトに参加する前にいくつかマリオンが残した強化プラン。それを実行しようとしているタスクの言葉に思い出したようにカチーナが尋ねる。

 

「ええ。ラドム博士のプランを基に、このタスク・シングウジの愛を込めつつ、レオナちゃんのガーリオンを改造するッス。言うなれば、2人の愛の結晶……、お、そうだ機体に相合い傘のマークを入れとくか」

 

「……そんなことをしたら、ズィーガーリオンで踏み潰すわよ」

 

黙って話を聞いていられなかったのか、ガーリオンの整備の作業を止めてレオナがタスクに釘を刺した。

 

「ゲッ! レオナッ!? だ、駄目? 相合傘?」

 

「私の新作の方を食べてくれるなら、考えますけど?」

 

「どっちも嫌です。ごめんなさい」

 

レオナに猛アタックをしているタスクだが、それを差し引いてもレオナの料理を食べるのはごめんだった。しかも食べれば入れて良いのではない、考えても良いのでは流石のタスクも諦めざるをえなかった。医務室送りの上に、相合傘のマークを入れることも出来ないのでは踏んだり蹴ったりにも程があるからだ。

 

「やれやれ、従兄弟の『黒い竜巻』はスーパーシェフだってのにな、何時になったら料理の腕が改善されるんだ?」

 

「が、頑張ってはいるんです。中尉」

 

「頑張ってても成果が出ないんじゃ、しょうがないだろうよ? ったく何度教えても改善しねえなあ」

 

口は悪いカチーナだが、本人の性格的にあんまりやらないだけで、実は料理や裁縫といった一般的な事は人並み以上に出来るのだ。面倒見の良い性格もあり、レオナにも何度も料理の指導をしているのだ。

 

「す、すいません。中尉」

 

「まったくッス。良い加減に腕が良くなって欲しいっすね、毒味役はキツいッス」

 

カチーナの注意に隠れてタスクはぼやくように呟くとギロリと睨まれ、即座にタスクは降参と言わんばかりに両手を上げた。そんなやり取りを見てカチーナは楽しそうに笑い、レオナに詰め寄られているタスクへと助け舟を出した。

 

「所で、タスク。改造後のジガンの名前は?」

 

「ドゥロってのが後ろに付きます。ジガンスクード・ドゥロ。ラドム博士の命名ッスよッ!」

 

天の助けと言わんばかりにカチーナの方に逃げるタスク。その背中を見て、若干さびしそうにしているレオナを見て、カチーナは小さく素直になれよなと呟き、タスクに向かって指を向けた。

 

「長え。舌噛むぞ。略してガンドロだ、ガンドロ。語呂も良いだろうが」

 

「う~ん……ガンドロ、ねえ。なんか超スッゲー光線を撃ちそうだな」

 

ドゥロではなくガンドロで良いだろとカチーナが笑っていると警報が鳴り響き、カチーナ達はその顔を引き締め、ブリッジからの詳しい報告に耳を傾けるのだった……。

 

「熱源多数、識別信号からロレンツォ・ディ・モンテニャッコ大佐の部隊と思われますが、どうしますか?」

 

「……状況によっては出る。私のタイプSの準備を、武蔵はどうする?」

 

「そうすっね。操縦訓練って事でゲットマシンで出ますよ」

 

ヒリュウ改は気付いていなかったが、スペースデブリに偽装した外装の中のアルバトロス級の中で、武蔵達もまた熱源を感知し、出撃準備を整えているのだった……。

 

 

第30話 宇宙の龍/大地の鬼神  その3へ続く

 

 




次回はやっと戦闘回に入ります、疑惑の宇宙と守るべき者を混ぜるのでムラタとあーチンとの連続バトルですね。途中でカーウァイ大佐とゲットマシンで武蔵も乱入する予定です。オリジナルユニットの紹介等の準備が間に合わなかったのでストックを1つ放出し、2話連続更新とします。次の話もよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第30話 宇宙の龍/大地の鬼神  その3

第30話 宇宙の龍/大地の鬼神  その3

 

ヒリュウ改のモニターには複数のAMの姿が映し出されていた。その数と宇宙用の迷彩カラーで黒を基調にしたカラーリングにショーンは眉を顰めた。

 

(最悪の展開とまでは言いませんが、その次位には不味い状況ですな)

 

今地球圏では正体不明のテロリストによる新型奪取事件が多発しているという事を聞いていた。迷彩カラーから見てAM隊がテロリスト、もしくは公に見つかると不味い部隊と言うのは明白だ。

 

「ユン伍長。一応警告を」

 

「了解です。艦長にも連絡を入れますね」

 

「ええ、そうしてください。最悪の場合、ここで事を構える事になりますよ」

 

恐らく先に射出した偵察ポッド。その反応を逆探知してきたと予測するショーン、普段の飄々とした表情は消え、歴戦の軍人と言うべき鋭い気配を纏っていた。

 

「ん?」

 

「どうしましたか? 副長」

 

「いえ、今僅かな熱源反応が……ソナーによる熱源捜索を、伏兵の可能性があります」

 

迷彩カラーの機体を運用しているのに正面からだけと言うのは考えられないとショーンは告げ、ソナーによる熱源捜索を命じ、再びモニターに視線を向ける。

 

「やはり駄目なようですね。今地球圏を騒がしているテロリストグループと見て間違いないようですね」

 

声による警告、文章による警告も完全に無視。それ所か武装を展開し、目撃者であるヒリュウ改を轟沈しようと動き出した。これで相手がテロリストグループの一員であるという事を確信したショーンはユンにさらに命令を飛ばす。

 

「対AM戦闘、用意。オクトパス小隊、出撃させてください」

 

「了解!」

 

「お、遅れてすみません!」

 

ショーンの命令でオクトパス小隊の出撃命令を出したのと同時に、仮眠をしていたレフィーナが慌ててブリッジに駆け込んできながら謝罪の言葉を口にしたのだが、ショーンとユンは驚きに目を見開いた。

 

「か、艦長! その格好は!?」

 

「え!? ああっ!?」

 

ネグリジェ姿でぬいぐるみを抱えている姿に今気付いたのか、レフィーナはその白い肌を赤く染め上げた。

 

「わ、私、なんて格好をッ!?」

 

「気付いて無かったのですかッ!?」

 

今の今まで何故気付かなかったと言わんばかりにぬいぐるみで顔を隠して蹲りながらレフィーナは一応弁解を口にする、

 

「む、無我夢中で飛び出して来たので……」

 

「ううむ……いや、まぁ私やダイテツ中佐もそういう経験はありますが……しかし……」

 

仮眠中に警報がなり、寝巻き姿で寝癖をつけたままブリッジに上がって来た経験はショーンとこの場にはいないがダイテツにも経験があったが、レフィーナのような年若い乙女がネグリジェ姿と言うのは流石に些か問題があった。

 

「は……恥ずかしい……です」

 

耳まで真っ赤に染めて消え入りそうな声で言うレフィーナは顔をライオンのぬいぐるみで隠しながら、身体を小さくさせて艦長席に腰掛けた。

 

「まあ、仕方ありませんな。緊急事態で混乱するのは仕方ない事です。……ちなみに、その子は?」

 

「え? 寝る時いつも一緒の……」

 

ショーンがマイペースにライオンのぬいぐるみを指差して尋ね、レフィーナが返事を返そうとした時一際大きい警報が鳴り響いた。

 

「そんな事を言ってる場合じゃありません! アンノウン群がレンジD3へ侵入しましたッ!」

 

「各員は副長が出した命令を続行!……副長、状況報告をッ!」

 

最終警告ラインを突破してきたというユンの報告を聞いて、レフィーナは羞恥心を押し殺し、いつもの凜とした声で指揮を取り始めるのだった……。

 

 

 

赤く染め上げられたゲシュペンスト・MK-Ⅲを先頭に、緑のゲシュペンスト・MK-Ⅱ、ガーリオン、ジガンスクードがヒリュウ改から出撃してAMの部隊と向き合うようにフォーメーションを組み、隊長であるカチーナからの檄が飛ぶ。

 

「オクト1より各機へ。久々の実戦だ、しくじるなよ」

 

『オクト4、了解です』

 

『オクト2、了解です』

 

レオナ、ラッセルからの続けて返事を聞いた後。カチーナはジガンスクードに通信を繋げた。

 

「タスク、ホントにジガンで良いのか? まだ改造が終わってねえんだろ。無理そうなら、あたしの予備のゲシュペンスト・Mk-Ⅱかアーマリオンに乗り換えて来てもいいぜ」

 

ジガンスクード・ドゥロに改造中のジガンスクードは決して本調子ではない。戦場で、しかも宇宙で不調の機体に乗り込むという恐怖を考えれば、今の内に乗り換えて来いと言うのはカチーナの不器用な優しさの現われだった。

 

『まあ、調整中の所もあるんでギガ・サークルブラスターなんかは使えないッスけど……それ以外のところは問題ないっス。だから大丈夫っスよ、後ついでに改良したグラビコン・システムの調子を見たいんで、大丈夫です』

 

「ブッ壊して仕事を増やすんじゃねえぞ」

 

「そのつもりッス」

 

心配したカチーナに対してタスクの返答は大丈夫と言う物だった。本人が大丈夫と言うのならば、これ以上カチーナから言える事は何もなく、壊すなよ=死ぬなよと声を掛けるに留まった。

 

『カチーナ中尉! 敵機がレンジD2へ侵入します!』

 

「コスモリオンとアーマリオンか。なんだ、随分と豪勢な部隊じゃねえか」

 

ラッセルの報告と共にカチーナもAM隊の姿を確認した。迷彩カラーのコスモリオン4機とアーマリオン4機の混成部隊――しかもアーマリオンは独自のカスタマイズを施されているのか両腕がシールドに換装され、背部にレールカノンとビームキャノンの計4門の砲台を背負っているカスタムタイプだ。

 

『あんなタイプのアーマリオンは初めて見ますわね』

 

『ですね……支援と防御を同時に行うタイプなのでしょうか?』

 

シールドと支援用の中距離~遠距離装備と言うややちぐはぐな武装をしている事に疑問を抱くレオナとラッセルだが、カチーナはさっぱりとした考え方をしていた。

 

「あたしらに向かってくるって事は、DCかコロニー統合軍の残党だろうよ、あいつらの事なんて気にせずぶっ潰すぞッ! 詳しい話が聞きたきゃ後で脱出ポッドを回収すれば済む」

 

襲ってくるのなら敵。詳しい事情は撃墜した時に脱出ポッドを回収して聞けば良い。考え事なんてしていて、要らない隙を作るなと言うカチーナの言葉は乱暴だが、確かにその通りだった。

 

『もしかして、部隊消失事件と何か関係があるんでしょうか?』

 

もしかしたら他のコロニーの部隊からの捜索班では? とラッセルが口にしたが、アーマリオンからのレールガンによる砲撃が始まり、捜索班と言う線は消えた。

 

「今ので判っただろ、あいつらは敵だ。考え事は良い加減に止めるんだな、行くぞッ!」

 

『合点承知!』

 

『了解です、カチーナ中尉』

 

部隊の捜索・救助班を攻撃すれば条約違反となる為。それを警戒したラッセルだったが、攻撃してきた事で条約違反の心配は無くなり、カチーナの指示に従い戦闘に入ろうとしたのだが……

 

『あいつら、どこへ行くんだ!? っ! ああ、もう鬱陶しいッ!!』

 

迷彩カラーのコスモリオンは反転し、ヒリュウ改から逃げ、アーマリオンはレールガンとビームを使い分けしながらコスモリオンを守りながら後退する。後退している為狙いが甘く、狙わなくても当てれる巨大なジガンスクードに攻撃が集中している為タスクの苛立った声がジガンスクードから響いた。

 

『私達をヒリュウから引き離すつもりみたいね、カチーナ中尉。どうしますか?』

 

「陽動っつうなら乗ってやる、だけどあたしとラッセルだけだ。タスクとレオナはヒリュウをガードしろッ!」

 

『了解』

 

『ういっス!』

 

狙いが甘く見えるが、それが囮でヒリュウ改をピンポイントで狙撃される訳にも行かない。カチーナはそう判断し、レオナとタスクをヒリュウ改の護衛に残し、あからさまに囮であるアーマリオンとコスモリオンの部隊に向かって機体を走らせるのだった……。

 

 

 

 

 

宇宙に明暗を繰り返すビームとミサイルの明かりを見つめながらレフィーナは鋭い視線をAMに向ける。

 

「副長。あのタイプのアーマリオンは建造されていましたか?」

 

「いえ、私の記憶の中では存在しませんな」

 

L5戦役時の戦力増強で生産されたアーマリオンは武装換装タイプであり、決して機体の基本構造を変えるまでの改造はされていなかった。両腕がシールド、そして決して威力は高くないがビームマシンガンを装備している腕部を見ればかなりの改造が施されているのは明白だった。

 

「どう見ますか?」

 

「そうですな。並みのテロリストではないとしか今は言えませんね」

 

ここまだ大規模な改造をしていることを考えると並のテロリストではない、組織的に高い力を持ち、財力と、そしてそれだけの改造を実行できるメカニックも有していると見て間違いない、だからこそレフィーナの視線は鋭いものとなっていた。

 

(ライオンが……)

 

(胸で押し潰されておりますな、いやいや、眼福)

 

しかしその姿はネグリジェ姿で胸元に抱え込んでいるライオンのぬいぐるみが凄い事になっているが、戦況に集中しているレフィーナはそれに気付かない。

 

『ライトニングステークセット! ぶちぬけッ!!!』

 

ゲシュペンスト・MKーⅢからのカチーナの雄叫びが響き、アーマリオンをシールドごと粉砕する。

 

「流石、カチーナ中尉と言った所でしょうか? 勝手にカラーリングを変えているのは不味いですが、その操縦技術はピカイチですな」

 

命令違反の常習犯ではあるが、その操縦技術と戦術眼はやはりピカイチだとショーンは笑う。

 

「ええ、流石です。カチーナ中尉も、ラッセル少尉もですけどね」

 

突撃癖のあるカチーナとそんなカチーナの背中を何年も守ってきたラッセル。剣と盾と言うのに相応しい堅牢なコンビネーションはATXチームのキョウスケとエクセレンのコンビネーションに通じる物がある。

 

『ラッセルッ!』

 

『うっ!? 大丈夫ですッ! しかし、あんな攻撃までしてくるなんて……』

 

カチーナの心配する声とラッセルの大丈夫だと言う声を聞きながら、レフィーナは顎の下に手を当てた。

 

「あの盾は防具だけではなく、攻撃も兼ねているのですね」

 

「やれやれ、アーマリオンでガーリオンのソニックブレイカーを再現ですか、これは報告しないわけには行きませんね」

 

シールドユニットを前面で構え、テスラドライブを最大出力にした突撃。ガーリオン系列の最大武器である、ソニックブレイカーをアーマリオンで可能にするとはレフィーナ達にとっても計算外だった。

 

「あの突破力、あの速度……やはり本命はアーマリオンのようですな」

 

「ええ、回避出来たので良かったですが、直撃していたら不味いですね」

 

支援機に見せかけて、引き寄せた所をソニックブレイカーによる突撃で仕留める。いやらしい攻撃手段を持つアーマリオンだとレフィーナは顔を歪め指示を飛ばす。

 

「主砲、副砲、照準をコスモリオンへ、対空砲塔はミサイルの迎撃を続けてください。ジガンスクードにはギガワイドブラスターでの支援命令を、1度仕切りなおします」

 

コスモリオンから放たれるミサイル、そしてそれを守るアーマリオンが一撃でPTを粉砕できる攻撃力を見せた以上先行しているカチーナとラッセルが危険だと判断し、1度後退出来る隙を作るように命令するレフィーナ。

 

「良い判断です、艦長」

 

「いえ、副長の指導のお陰です」

 

撤退するように見せかけて、ここで確実にヒリュウ改の戦力を削ぎに来た。つまり今回の攻撃は計画的に練られた物だとレフィーナは判断した。

 

「副長はどう考えてますか?」

 

「本艦を攻撃するには、いささか数が少ないですな、それに2の矢を隠していた事を考えると……」

 

「3の矢があると見て間違いありません。ならば敵の思い通りに動かず、こちらのペースに巻き返します。本艦はしばらくの間、この位置で固定。オクト1、オクト2はレンジ2まで後退、オクト4はレンジ3へ移動し、撤退支援を、オクト3はレンジ1で固定、ギガワイド……ッ!!!」

 

指示を飛ばしている間にヒリュウ改は激しく揺れた。

 

「どうやら思ったよりも早く3の矢を撃ち出してきましたな」

 

「……そのようですね。オクト3、4はレンジ2へ移動。ヒリュウ改を護衛してください」

 

レーダーにも、そしてレオナやタスクにも気付かせない、超速度による狙撃に警戒を強めるレフィーナ。

 

「0時方向、レンジU3に熱源反応多数ッ! AMと思われます!」

 

「やはりですか、疑いたくはありませんが……ッ」

 

「ええ、情報漏えいですね。やれやれ、随分ときな臭くなってきましたなあ……」

 

L2宙域にヒリュウ改がやってくるのを判っていた――対艦用の大型レールガンを装備したガーリオンとアーマリオンを見てレフィーナとショーンは情報漏えいがあったと確信した。

 

「今度は妥当な数ですな、しかしながら……」

 

「ええ、部隊のカラーが統一されていません。恐らくは、最初のコスモリオンとアーマリオンの部隊と後詰は違う部隊と見ました」

 

最初に遭遇したコスモリオンとアーマリオンは迷彩カラーの黒で統一されていた。しかし、後続の機体は赤や黄色を主体にした威圧感や目立つカラーをしていた。

 

「あのガーリオンも気になりますしなぁ」

 

鎧武者のような装甲をしたガーリオン。それが明らかに指揮官機であると判断し、これ以上増援はないと決断した。

 

「ええ、恐らくあれが指揮官機ですね。波状攻撃で攻められては厄介です、こちらから打って出ます」

 

「了解しました。が、現状は艦首超重力衝撃砲が使用不可です。その事をお忘れなきよう」

 

「判りました、微速前進。対艦装備のガーリオンとアーマリオンをまずは落とします」

 

ガーリオン・カスタム・無明の参戦によって、L2宙域での戦闘は更に激しさを増していく事になる。そしてヒリュウ改とテロリスト達の戦いを小惑星に偽装したアルバトロス級のブリッジからカーウァイと武蔵は戦況を見ていた。

 

「落ち着け武蔵」

 

「いや、でもほら……すんません」

 

足踏みをしている武蔵にカーウァイは落ち着けと冷静に声を掛ける。戦況は確かにヒリュウ改が圧倒的に不利……割り込むタイミングとしてはそろそろ決断するべきだろう。

 

「ムラタか……ちっ、あいつめ」

 

その中でもカーウァイはガーリオン・カスタム・無明の動きを見て舌打ちをした。その癖を見て、そのパイロットが何者か判ったからだ。

 

「知り合いですか?」

 

「知り合いと言うほどではない、ただゼンガーと同じ時期に教導隊にと声が掛かっていた1人だ」

 

「じゃあ連邦の……?」

 

「リシュウ・トウゴウ氏の弟子だ、確かに腕は良かった。だがあの男は駄目だ、剣鬼に誰かを導く事は出来ない」

 

確かにムラタは教導隊に相応しい腕前をしていた。だがその目に潜む、人を斬りたい、殺したいという狂気を見てカーウァイはムラタに教導隊に相応しくないとして受け入れを拒否し、ゼンガーを迎え入れたと言う過去がある。

 

「なるほど、狂人ってやつですか……なら」

 

「ああ、私が出る。武蔵は待機していてくれ」

 

かつての因縁とこうして鉢合わせたのも何かの運命だと判断し、カーウァイは自分が出ると告げ、武蔵に待機するようにと口にした。

 

「オイラも出れますよ? ゲットマシンで」

 

「いや、私の勘ではまだ何かある。それに備えておいてくれ」

 

カーウァイの勘ではこれで戦いは終わらない、まだ戦いは続くとカーウァイの勘が訴えていた。

 

「カーウァイ大佐、出撃準備は完了しています」

 

「ああ。すまない、気密室に退避してくれ」

 

整備兵に感謝の言葉を口にしてカーウァイはゲシュペンスト・タイプSに乗り込み、アルバトロス級の格納庫から出撃するのだった。

 

 

 

 

 

 

対艦用レールガンの弾頭は特殊な物で、初弾以降を全てジガンスクードに防がれると即座に反転し離脱して行った。だが指揮官機であるガーリオン・カスタム・無明だけは残り、オクトパス小隊に執拗に攻撃を繰り返していた。

 

「うぐっ! あいつ、速い!」

 

「ふふ、頑丈だな。斬り甲斐があるわッ!」

 

素早い出入りでジガンスクードをシシオウブレードで斬りつけ、カチーナ達にはレールガンやマシンキャノンを駆使して、足を止めさせ、その脇を悠然と突破する。

 

「くそッ! こいつ乱戦に慣れてやがるッ!」

 

「ははははッ! その程度では俺には届かんぞッ!」

 

カチーナのゲシュペンスト・MK-Ⅲをあしらい、殴り飛ばすと再びジガンスクードに向かってガーリオン・カスタム・無明を走らせる。

 

「タスク、離脱しなさい! ジガンスクードじゃ、あの速さに対処しきれないわッ!」

 

ジガンスクードはその巨体ゆえにPTやAMの相手をするのは厳しい。それなのに並みのガーリオンの数倍は早いガーリオン・カスタム・無明をジガンスクードが相手にするのは無茶を通り越して無謀だった。レオナがガーリオンを駆り、少しでも自分に注意を引き付けている間に離脱しろと怒鳴るがタスクは余裕の態度を崩さない。

 

「ヘッ! 親分の斬艦刀ならともかく、そう簡単にジガンは斬られやしねえッ! レオナこそ下がれ! あいつの相手は俺がする!」

 

「だから、無理だと言っているでしょうッ!」

 

DC戦争でグルンガスト零式の斬艦刀を受けているタスクはシシオウブレードで両断される事はないと叫ぶ。だが、レオナから見ればシシオウブレードの切れ味は鋭く装甲は切り裂かれなくてもコックピットを狙われたらと心配するのは当然の事だった。

 

「痴話喧嘩をしている場合か? チェストォッ!!!」

 

ガーリオン・カスタム・無明は急旋回し、ガーリオンの背後を取り、そのままコックピットを両断せんとシシオウブレードを振りかぶる。

 

「覚悟!!」

 

「させるかよ!!」

 

そのあまりの速度に対応出来ないでいたレオナを庇う為に、タスクがジガンスクードでガーリオン・カスタム・無明の斬撃を両腕のシールドユニットで受け止める姿勢に入る。

 

「散り際は潔くなッ! 我が太刀を受けよッ!」

 

「レオナに手ェ出すんじゃねえ!」

 

神速の抜刀による横一線が、ジガンスクードのシールドユニットを引き裂き、ジガンスクードを後方に向かって大きく弾き飛ばした。

 

「うぐううっ!?」

 

ジガンスクードの巨体が弾け飛んだ。パイロットであるタスクも多少の衝撃は覚悟していたが、まさか一太刀で中破に追い込まれるとは思っていなかった。

 

「タスクッ!!」

 

「タスク! 大丈夫かッ!?」

 

そしてカチーナとレオナもジガンスクードの巨体が標準的なAMに弾き飛ばされると言う信じられない光景を目の当たりにし、タスクの名を通信越しで叫んだ。

 

「っ……な、何とか……! 無事っス!」

 

無事だと叫んだタスクだが、ジガンスクードは無事ではなかった。煙の中から姿を見せたジガンスクードを見てラッセルが叫び声を上げた。

 

「シールド・ユニットがッ!?」

 

ジガンスクードを最強の盾と知らしめていたシールドユニットが両断され、火花を散らしている。シシオウブレードの切れ味は判っている筈だったが、ガーリオン・カスタム・無明のシシオウブレードの切れ味は桁外れの物だった。

 

「下がりなさい、タスクッ!! もうこれ以上は戦えないわッ!!」

 

シールドユニットを失ってはもうガーリオン・カスタム・無明のシシオウブレードの一撃を耐える事は出来ない。レオナが撤退しろと叫ぶが、タスクは後に引かず敢えて前に出た。

 

「いや! ここで退く訳には行かねえッ! オクト3よりドラゴン2へ! 例のブツを射出してくれ!」

 

『例のブツ!?』

 

「か、艦長、そのカッコは何スかッ!?」

 

通信を繋げたら、モニターに映ったネグリジェ姿のレフィーナを見てタスクは目を見開いた。

 

『こ、これは……その……ッ! 副長、お願いします!』

 

見られているのが恥ずかしく、艦長席の後ろに隠れてしまうレフィーナに変わりショーンがタスクの要請を承認する。

 

『非常時ですから観賞は後で……すぐに例のブツの射出を』

 

『例のって……まさか!?』

 

『そう、事前に話があったあれです』

 

『りょ、了解ッ!』

 

タスクが出撃前に頼んでいた仕掛けの準備に入るヒリュウ改。だがムラタがその隙を見逃す訳が無かった……。

 

「何をするつもりか知らんが、潔く滅せい! 巨大なる盾よ!」

 

シシオウブレードを再び腰の鞘に納め、急加速しジガンスクードにトドメを刺そうとした瞬間。小惑星の影から飛び出してきた何かによって、その動きを止められた。

 

「むっ!? ちえいッ!?」

 

高速で飛来した何かを動きを止めて弾き飛ばすガーリオン・カスタム・無明。だが動きを止めた事でジガンスクードは両腕のシールドユニットをパージし、ヒリュウ改から伸びているガイドビーコンに向かって移動する。

 

「おいおい……今のはなんだ……ッ」

 

「実弾ッ!?」

 

一体何がガーリオン・カスタム・無明の動きを止めたのか困惑しているカチーナとラッセル。確かにタスクはその何かによって、救われた。だがタスクを救った何者かが味方とは限らない。ガーリオン・カスタム・無明の強襲も相まって、否が応でもその緊張感は増していく事になった。

 

「ドラゴン2! 今だ、射出してくれッ!!」

 

『ッシーズアンカー・ユニット、射出準備完了ッ!』

 

『座標軸合わせ。射出ッ!』

 

ヒリュウ改から射出されたシーズアンカー・ユニットをシールドユニットを捨てた両腕に装着するジガンスクード。

 

「よっしゃあ、合体完了ッ!! 覚悟しやがれ、サムライ野郎ッ! 生まれ変わったジガンの力! てめえに見せてやるぜぇッ!!」

 

シーズアンカーを振り上げ、放電させるジガンスクード・ドゥロ。その力強さに溢れる姿を見て、ムラタはにやりと笑った。

 

「何が俺の邪魔をしたかは知らんが……まぁ良い、これは斬り応えのある相手だッ! 貴様を斬ってから俺の邪魔をした者を見つけだして斬る事としようッ!」

 

自分の邪魔をされた事に腹が立つ物の、更に斬り応えのありそうな姿になったジガンスクードに笑みを浮かべ、ガーリオン・カスタム・無明を走らせるムラタ。

 

「行くぜ! ジガンスクードド、ド……いてッ! 舌噛んだッ! ええいッガンドロ! 行くぜぇぇぇ!!」

 

そして向かってくるガーリオン・カスタム・無明を向かい打つ為に、シーズアンカー・ユニットをガーリオン・カスタム・無明に向かって突き出すのだった……。

 

「やれやれ、私の嫌な予感は本当に当たってくれるな」

 

ガーリオン・カスタム・無明の突撃を食い止めたのは、ゲシュペンスト・タイプSの放ったレールガンの一撃だった。だがそれは、ガーリオン・カスタム・無明を狙った物ではなく、運よくそちらの方向に飛んだ流れ弾の一撃だった。

 

『『『『……』』』』

 

ゲシュペンスト・タイプSはL2宙域で行方不明となったランゼン、ゲシュペンスト・MK-Ⅱ、ヒュッケバインMKーⅡ、そして奇妙な形状の偵察機――「ガロイカ」に囲まれ、戦闘中だったのだ。

 

「ヒリュウ改の事は気になるが、来い。相手になってやるッ!」

 

ヒリュウ改とガーリオン・カスタム・無明が戦う中、カーウァイもまた戦いに身を投じていたのだった……。

 

 

第31話 宇宙の龍/大地の鬼神  その4へ続く

 

 




次回はこのインスペクター達との戦力との戦闘中にヒリュウ改とガーリオン・カスタム・無明のほうに雪崩れ込んでいく、と言う形で疑惑の宇宙と誰が為の盾を続けて行こうと思います。そしてその次の話では地上ルートの桜花幻影に入って行く予定です、場面や登場人物が目まぐるしく変わると思いますが、ある程度は整理してお送りしようと思うので、温かい目で見ていただけると幸いです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第31話 宇宙の龍/大地の鬼神  その4

第31話 宇宙の龍/大地の鬼神  その4

 

ヒリュウ改への襲撃と言うのは本来の計画にはない物だった。ただL2宙域にヒリュウ改が訪れると聞いていたロレンツォの部下の独断専行が今回の襲撃事件の発端であり、先に出撃した連中を連れ戻す為にムラタはこんな旨みも面白みもない戦場に立っていた。それこそヒリュウ改にジガンスクードがいなければ、そんな命令を引き受けるわけがないというレベルでやる気の出ない任務だった。

 

『よっしゃあ、合体完了ッ!! 覚悟しやがれ、サムライ野郎ッ! 生まれ変わったジガンの力! てめえに見せてやるぜぇッ!!』

 

シシオウブレードで切り裂かれた盾を捨て新たな武器を手にして吼えるジガンスクードを見て、にやりと獰猛な笑みを浮かべた。

 

「これで下らん任務にも張り合いが出てきたな」

 

捜索隊は既に離脱している、それに命令違反の対艦レールガンを装備したアーマリオンやガーリオン部隊も撤退した。もうムラタ自身もこの場にいることに意味がない事は判っているが、その気性から目の前にいる斬り応えのある特機に背を向けるという選択肢が無かった為にこうして、まだ戦場に立っていた。

 

(それにさっきの銃弾も気になる、殺気も何も無かったのがな……)

 

ガーリオン・カスタム・無明の突撃を止めたレールガンの一撃がどうしてもひっかかるムラタ。殺気も何も感じさせず、自分に放たれた銃弾は咄嗟に動きを止めなければコックピットを打ち抜かれていただろう。それ故に、一体この宙域には何が潜んでいるのか確かめるべきだと己の直感が訴えていた。

 

『オラアッ!!』

 

「良い気迫だ、だがまだ青いッ!!」

 

シールドから鋭角状の鋭いナックルガードに換装された一撃に向かって、シシオウブレードを振るう。

 

「ちえいッ!!」

 

『舐めんなよッ! この特製シーズアンカーはなぁッ! ゲッター合金でコーティングされた特別製だぜッ!!!』

 

それがどれだけ強固な物であれ、ムラタには両断する自信があった。だがジガンスクードから聞こえてきた声に咄嗟にシシオウブレードを止めた。

 

「……なるほど、自信の源はそれか……」

 

ゲッター合金――L5戦役を終結させた特機ゲッターロボを構成する合金。非常に軽く、そして強固であり、そしてなおかつ恐ろしい柔軟性を持つと言われるそれでコーティングされていると聞いて警戒の意味を込めて1度剣を引いた。

 

『へっ、ビビッたなッ!! ついでにこいつも見てちびれッ!!』

 

凄まじい音を立てて展開された鉤爪状のユニットがムラタの目の前で何度も閉じる。一撃でも受ければ、その瞬間に圧壊に追い込まれると判るほどの凄まじい威圧感を誇る一撃を後退しながら回避する。

 

『おらおら、今まで好き勝手やってくれたんだ! きっちり落とし前を付けて行ってもらうぜ!』

 

『逃がさないわよッ!!』

 

「ちっ、楽しむ所では無くなってきたか」

 

ガーリオン、アーマリオン部隊を撃墜させてきたのか、ゲシュペンスト・MK-Ⅲとガーリオンが放ったバーストレールガンと、パルチザンランチャーの一撃を回避すると、その直後にジガンスクードの豪腕がガーリオン・カスタム・無明の顔を掠める。

 

『ちいっ! これでも仕留めきれないか!』

 

『でも中尉明らかに動きが鈍くなっていますッ!』

 

『おう! タスク気合入れろよ!』

 

『うっす!』

 

ジガンスクードのパワーアップでヒリュウ改が勢いづいた。こういう時は厄介なんだとムラタが舌打ちすると更に苛立たせる通信がガーリオン・カスタム・無明に繋げられた。

 

『……ムラタ、応答せよ』

 

「何だ、中佐? 今俺がお前の部下の尻拭いで死に掛けているのに通信を繋げて来たのか?」

 

振るわれるジガンスクードの豪腕、そしてPTとAMの離脱を阻止する厭らしい立ち回りに苛立ちながら返事を返す。

 

『ガリバルディの離脱が完了した。それと今回の件はすまん』

 

「謝罪するくらいなら追加給金を払うんだな。謝罪の言葉等で腹は膨れん」

 

特機を切り裂く事を楽しんでいるムラタだが、自分が狩られるのは好きではない。死ぬのならば、一騎打ちで刀か剣で死ぬと思っていたムラタにとってジガンスクードに向かって追い立てられるのは不愉快極まりなかった。

 

『180秒後のその宙域にアンノウンが出現する。それを利用して離脱しろ』

 

「ふん、気楽に言ってくれるわッ!」

 

今も4対1と言う絶望的な状況で戦っているのに好き勝手言ってくれるとムラタが怒鳴ると、デブリ帯から奇妙な機動兵器が姿を見せた。

 

「あれは……アーチン、なるほど、アンノウンは異星人か」

 

『……と言うわけだ、離脱出来るな?』

 

自分にもヒリュウ改にも無差別に攻撃を仕掛けてくるアーチンを見て、推進剤も危険域なのでその混乱に乗じて離脱しようとしたムラタだが、アーチンを追うように……いや、アーチンに追われる様にして姿を見せたPTを見て、その顔を鬼の形相にさせた。

 

「ゲシュペンスト・タイプSッ!」

 

『何? ゲシュペンスト・タイプSだと? 見間違いではないのか?』

 

「俺が見間違える物か! あの操縦の癖、あの立ち回りッ! カーウァイ・ラウだッ!!」

 

己のプライドを、全て粉砕した忌むべき男。そして報復の機会も得る事なく、エアロゲイターに囚われた男……挫折、屈辱、憎悪、ありとあらゆる負の感情がムラタの胸を埋め尽くす。

 

『離脱するんだ。カーウァイ大佐は既に亡くなっている、良く似た別人か。ゲシュペンスト・タイプSを模造した何かだろう』

 

「中佐、貴様は俺を愚弄するのか?」

 

ムラタの築き上げた全てを打ち砕いた憎むべき怨敵――それを見間違えたと言われ怒りを露にするムラタ。だがロレンツォは冷静その物だった、それ所か怒らせた上で説得に打って出た。

 

『何らかの方法でカーウァイ大佐が生きていたとしよう。それでお前はその疲弊した有様で勝てるのか?』

 

「……それは……」

 

装甲はあちこちが凹み、稼動想定時間を越えて活動していたので機体の動きも鈍くなっている。それに幾つも機動兵器を切り裂いた事で、シシオウブレードの刀身も歪んでいる上にエネルギーと推進剤も枯渇寸前……満身創痍とまでは言わないが、カーウァイと戦えるコンディションではないのは明らかだった。

 

『リベンジをしたいのならば、場は整えてやれる。だが今はその時ではない、良いな?』

 

「……帰還する」

 

確かにムラタと言う男は剣鬼だが、それでも状況を見極める戦術眼は残っていた。このまま、残っていても己が望む戦いは出来ない。そう判断すればアーチンの襲撃によって混乱した戦況を利用して離脱する事に躊躇いは無かった。

 

(必ず、貴様の首を貰う! カーウァイ・ラウッ!!)

 

だがカーウァイへの恨みが消えることはない、離脱する最後の瞬間までゲシュペンスト・タイプSを睨みつけ、憎悪の炎を燃やしたままムラタは宙域を離脱して行くのだった……。

 

 

 

ジガンスクード・ドゥロの登場によってガーリオン・カスタム・無明との戦いを有利に進めていたヒリュウ改だが、デブリ帯から出現した小型の機動兵器……ガロイカの登場によって、ヒリュウ改の戦力の優位性は一気に崩された。

 

「くうっ!? 被弾状況は!?」

 

「甲板の一部が破損しましたが、主砲、副砲共に健在です!」

 

ステルス性の高いガロイカの強襲によって、ヒリュウ改のブリッジは何度も揺れていた。

 

「まさかアーチンと行方不明になった部隊の機体が同時に襲撃して来た上に、ゲシュペンスト・タイプSに救われるとは……まさかのような事態ですな」

 

ガーリオン・カスタム・無明への対応によってがら明きになっていたヒリュウ改を救ったのは漆黒のPT――ゲシュペンスト・タイプSだった。

 

「識別信号は!?」

 

「P、PTX-002! ゲシュペンスト・タイプSですッ!」

 

ユンの報告を聞いてレフィーナもショーンも顔を歪めた。ヒリュウ改のデータベースに残っていると言うことは、殉職したカーウァイ大佐のゲシュペンストであると言うことは確実だった。

 

「ま、まさか幽霊?」

 

「ゲシュペンストですから、幽霊と言えば幽霊ですが……熱源反応もありますし、幽霊とは言い難いですなあ」

 

飄々とした口調のショーンだが、その目はレフィーナ達が見た事が無いほどに大きく開かれていた。

 

「警報!? まだ何か来ると言うのですか!?」

 

しかし気を緩める事も出来ないままにヒリュウ改のブリッジに警報が鳴り響いた。

 

「あれは!?」

 

「いやいや……最早驚きの言葉すら出ませんな」

 

ガロイカと編隊を組んで現れた機体を見て、ショーンは肩を竦めた。仕草自体は飄々としているが、その顔は青くなっていた。

 

「ランゼン、ゲシュペンスト・MK-Ⅱ・F装備、量産型ヒュッケバイン・MK-Ⅲですッ! 識別は行方不明となっていた部隊の物です!」

 

「これはほぼ決まりとなりましたな」

 

「ええ、最悪の状況っという事ですね」

 

エアロゲイターの兵器と言われていたガロイカだが、L5戦役では一切目撃されなかった。その事から別の異星人の戦力と言う噂もあった。それが、こうして行方不明になっていた部隊の機体と共に出てきた――それは今回の失踪事件が異星人の手の物によるものという可能性が真実味を帯びてきた瞬間だった。

 

『こちらオクト1! あたし達はどうすればいい!? ゲシュペンストもアーチンとも戦えば良いのか!?』

 

カチーナから混乱した声がブリッジに響く、ガーリオン・カスタム・無明に続いて、ゲシュペンスト・タイプSの出現、それに加えてガロイカと行方不明になった部隊が編隊を出て来て現れた。目まぐるしく変わる状況に流石のカチーナも自分の判断で部下もヒリュウ改も危険に晒す訳には行かないと、敵対行動を見せるガロイカ達と戦いながら、ゲシュペンスト・タイプSはどうすればいいのかとレフィーナとショーンに指示を仰いだ。

 

「副長……」

 

「艦長の思うとおりに、私は何も反対しませんよ。ただ1つ言えるのは……私も同じ思いという事です」

 

ゲシュペンスト・タイプSはL5戦役でのエアロゲイターによる被害者の末路の1つと言える。だが今のゲシュペンスト・タイプSはヒリュウ改を守る為に立ち回ってくれている。それらを見た上で、レフィーナは大きく1つ深呼吸してからカチーナ達に指示を飛ばした。

 

「ドラゴン2より、オクト各機へッ! ゲシュペンスト・タイプSと協力してアーチン及び、行方不明部隊の迎撃を行なってくださいッ! ただし、ゲシュペンスト・MK-Ⅱ・F装備とヒュッケバイン・MK-Ⅲを1機ずつ完全に撃墜せずに鹵獲してくださいッ!」

 

レフィーナの下した決断はゲシュペンスト・タイプSと共闘して、ガロイカ達を撃墜せよという物だった。L5戦役の事を考えれば、ゲシュペンスト・タイプSは敵だ。だが今は守ってくれている――それがこちらの油断を誘うものなのか、それとも本当に味方なのか? それを決断するには余りにも判断材料が足りなかった。それでも、レフィーナは信じたいと思った。だからこそ、カチーナ達だけではない、ゲシュペンスト・タイプSのパイロットにも届くように、広域通信で共闘命令を下したのだ。

 

『オクト1了解! 行くぞ、野郎共ッ!!』

 

『『『了解ッ!!』』』

 

フォーメーションを組み直すオクト小隊と共闘するように動き出すゲシュペンスト・タイプSを見て、レフィーナは自分の判断が間違いでは無かったと感じていた。

 

 

 

 

 

ゲシュペンスト・タイプSの赤いバイザーが宇宙の暗闇に光の尾を残し、ついて来いと言わんばかりにカチーナ達の前を進む。

 

『良いんですか、中尉』

 

『助けてくれているのか、それともあの世に連れて行こうとしているのか……嫌な雰囲気だぜ』

 

ゲシュペンスト・タイプSは既に存在しない機体、そしてパイロットもまた死んでいる。だがそれが目の前にいると言う現実は宇宙と言う闇の世界と言うことも相まってあの世へと導かれているように感じる。

 

「良いも悪いもねぇ。艦長命令だ、あたし達は襲ってくる敵を倒す。ゲシュペンストが襲ってくるまでは味方として考えな」

 

カチーナだって本音を言えば、不気味ではあるし、蘇ったエアロゲイターの機体と言う線も捨て切れない。だがカチーナの勘では、あのゲシュペンスト・タイプSとエアロゲイターには何の繋がりもないと感じていた。

 

『ホワイトスター駐在艦隊からの連絡が無いからですね?』

 

「おう、もしもあのゲシュペンスト・タイプSがエアロゲイターに再生された機体なら、向こうで大騒動になっている筈だ』

 

『あ、そ、そうかッ!?』

 

『なるへそ、思ったより考えているッスねッ!』

 

「てめぇ、後でぶちおるぞッ! タスクッ!!」

 

命令違反の常習犯であるが、カチーナはれっきとした中尉であり、しっかりと部隊運用などの知識もある。考えるよりも先に敵を倒すという考えから、考えなしに見えるがその行動すべてにはちゃんとした裏付けがある。

 

『それにもしもエアロゲイターが復活しているのならば……最初に複製するのは量産型Gシリーズ』

 

「そういうこった。旧式のゲシュペンストを再生する旨みはねぇ。つまりあのアーチンと一緒にいるL2宙域の機体とゲシュペンスト・タイプSには何の関係性もねえだろう」

 

エアロゲイターの最大戦力と言えば量産型のドラゴン、ライガー、ポセイドンだ。それと比べればゲシュペンストを再生するには旨みが少ない。小数でも、ドラゴンかライガーを生産すればそれで戦力的には十分なのだから。

 

『ではあのアーチンとランゼン達は?』

 

「んなもんとっ捕まえてから考えりゃ良いんだよ! ラッセル、レオナッ! フォローに入れッ! ヒュッケバイン・MK-Ⅲを鹵獲するぜッ!」

 

『俺はッ!?』

 

「てめえはゲシュペンスト・MK-Ⅱをとっ捕まえろッ! 行くぜッ!!」

 

ゲシュペンスト・タイプSは両手に持ったやけに銃身の短いビームライフルでアーチンやランゼンを次々撃墜している。その動きを見て、ちまちましていると鹵獲対象を失うと判断し、カチーナはそう指示を飛ばした。

 

「!!!」

 

「へっ! んなもんがあたるかよッ!」

 

フォトンライフル改による狙撃でカチーナの突込みを止めようとするヒュッケバイン・MK-Ⅲだが、カチーナはその弾丸に自ら突っ込みライトニングステークで殴り飛ばす。

 

『中尉! またそんな無茶をしてッ!』

 

「心配ねぇッ! それよりもあたしの邪魔をさせんなよッ!」

 

ライトニングステークはプラズマステークの3倍近い出力を持つ、それを上手く扱えば簡易的なシールドになりビーム兵器を殴り飛ばす事も理論上は可能だ。それをぶっつけ本番で自分から敵に突っ込みながらやるカチーナにラッセルが心配そうな声を出すが、カチーナは無用の心配だと言って、距離を取ろうとするヒュッケバイン・MK-Ⅲを追いかける。

 

「!」

 

「舐めんなよッ!」

 

逃げ切れないと判断したのか、両腕にナックルガードを展開し電撃を纏わせてインファイトを仕掛けてきたヒュッケバイン・MK-Ⅲ。それに向かい合うようにゲシュペンスト・MK-Ⅲもライトニングステークを再び放電させて拳を構える。

 

「!?」

 

「はっ! おせぇッ!!!」

 

飛び込みながら振るわれたヒュッケバイン・MK-Ⅲの拳を首を傾けるだけで回避したゲシュペンスト・MK-Ⅲの反撃の拳が顔の右半分をごっそりと抉り取る。

 

「!?ッ!?」

 

「はっ! 今さらパニくっても遅いんだよッ!」

 

カメラアイを半分潰された事で後退しながら頭部のバルカンで、ゲシュペンスト・MK-Ⅲの突っ込みを止めようとするが、ゲシュペンスト・MK-Ⅲは両腕でコックピットとカメラアイをガードして、ヒュッケバイン・MK-Ⅲの後を追う。

 

『レオナ少尉ッ!』

 

『ええ、判ってますわッ!!』

 

鹵獲する目的なのでカチーナの行動は間違いではない、ただ他の敵に完全に背を向ければ敵のガロイカやランゼンの集中放火が迫るのは当然。だがそれを阻止する為にラッセルのゲシュペンスト・MK-Ⅱとレオナのガーリオンが照準を合わせようとしているガロイカとランゼンに攻撃を仕掛ける。

 

『そこッ!』

 

『逃がしませんわよ』

 

照準に割り込むと同時にメガビームライフルとマシンキャノンの一撃でガロイカとランゼンを撃墜し、そのまま次の機体に向かって照準を合わせる。

 

『早いッ!』

 

『確かに、でも対応出来ないスピードではありませんわッ!』

 

奇襲により一撃で最初の機体は撃墜出来たが、ゲシュペンスト・MK-Ⅱとガーリオンを敵と見定めたガロイカとランゼンの動きは格段に早くなった。

 

『くそ、こいつッ! 思ったよりも強いッ!?』

 

『!!!』

 

『ぐっッ!? 狙いが正確すぎるッ!?』

 

ラッセルとレオナがランゼンとガロイカに翻弄されている頃、タスクもゲシュペンスト・MK-Ⅱ・F装備に翻弄されていた。

 

『くそッ!』

 

『!!!』

 

『ぐあっ!? くそったれッ! こいつはなんなんだッ!?』

 

L5戦役を戦い抜いたタスクでさえも対応出来ない程にゲシュペンスト・MK-Ⅱ・F装備の動きは良かった。それこそ、パイロットがいないからこそ出来る無人機特有の軌道なのだが、その癖有人機のような厭らしい精密射撃を織り交ぜてくる。そして苦戦を強いられているのは、タスクだけではなかった。

 

『この動きAIなのか?』

 

『その割には操縦の癖が人間臭いですけどねッ!』

 

互いに背中合わせになり背後からの射撃を防ぎ、迎撃に出るラッセルとレオナだが、想像以上にランゼンの動きが良かった。それも統合軍のエリートが乗っているような、しかし、重力装備を装備していないランゼンではパイロットに多大な負荷をかけるであろうその機動に翻弄されていると横から飛び込んできた熱線にランゼンが爆発炎上する。しかし、ランゼンを破壊したのはゲシュペンスト・タイプSではない、宇宙でもひときわ強く輝く航空力学に喧嘩を売ったような異様な形状の真紅の戦闘機の姿にラッセルとレオナは目を見開いた。

 

『『ゲットマシンッ!?』』

 

その形状は違っていても、そのゲットマシンを連想させるシルエットに思わずそう叫んだ。バレルロールしながらの精密射撃でランゼンとガロイカを沈黙させたゲットマシンらしき戦闘機は翡翠の粒子を宇宙空間にばら撒きながら反転し、ゲシュペンスト・タイプSにへと向かう。擦れ違い様にゲシュペンスト・タイプSはゲットマシンに掴まりゲットマシンに牽引されるように高速で戦闘区域から離脱する。

 

「てめえ! 待ちやがれッ!!!」

 

『おい! 手伝ってくれた礼も言えないうちにどこに行くんだよッ!』

 

カチーナとタスクがヒュッケバイン・MK-Ⅲとゲシュペンスト・MK-Ⅱ・F装備をそれぞれ鹵獲するのを確認すると、もう用はないと言いたげに離脱する2機に向かってそう叫ぶカチーナとタスクだが、ゲシュペンスト・タイプSとゲットマシンらしき戦闘機は瞬きの間にその姿を宇宙の闇の中に消した。

 

「副長。今のは……もしや?」

 

「確かにその可能性は高いですが、今はなんとも……ユン伍長。敵機の反応は?」

 

「レーダーには反応はありません。完全に反応は沈黙しました」

 

ショーンの問いかけにレーダーに反応はないと返事を返すユン。その報告を聞いて、レフィーナは小さく安堵の溜め息を吐いた。突発的な遭遇戦、未知の戦力の登場に、ゲシュペンストとゲットマシンらしき物の出現……どれか1つでも大変だというのに、それが纏めて3つも立て続けに起きれば、流石のレフィーナも精神的な疲労を隠せないでいた。

 

「判りました。本艦は現状維持。周辺宙域の警戒を続行して下さい、ではすいませんが、今の内に着替えてきます」

 

「もう少しそのままでもよろしいですぞ?」

 

「「副長?」」

 

「……どうぞ着替えて着てください。失礼しました」

 

カチーナ達が帰還する前に着替えてくると言って席を立ったレフィーナは半分逃げるようにブリッジを後にし、ユンはその背中を心配そうに見つめていた。

 

「後でフォローしておいてください。今はもう暫く、艦長として頑張って貰わなければなりませんから」

 

「了解です」

 

鹵獲したゲシュペンスト・MK-Ⅱ・F装備とヒュッケバイン・MK-Ⅲの2機の調査が終われば、レイカーからの指令でヒリュウ改は地球付近で待機する事になる。その間にフォローしてあげてくださいと声を掛け、ジガンスクード・ドゥロに牽引される大破したヒュッケバイン・MK-Ⅲとゲシュペンスト・MK-Ⅱにショーンは視線を向ける。

 

(鬼が出るか、蛇が出るか……なんとも嫌な予感がしますなあ)

 

見慣れたPTであるはずなのに、ショーンにはその2機があけてはいけないパンドラの箱のように見えてしまうのだった……。

 

 

 

 

 

 

ヒリュウ改のブリッジには重苦しい沈黙が広がっていた。その理由は当然、鹵獲したゲシュペンスト・Mk-Ⅱ・F装備とヒュッケバインMK-Ⅲが原因だった。

 

「艦長、ゲシュペンストMk-Ⅱ・F装備とヒュッケバインMK-Ⅲの調査結果が出ました」

 

「どうでした?」

 

主要メンバーが集められた中でショーンが整備班の調査結果を見ながら、その顔を歪めながら、それでも感情的にならず報告を続ける。

 

「ゲシュペンストの方は行方不明になった部隊に配属されていた機体で間違いありません。但しヒュッケバインMK-Ⅲに関しては謎です」

 

「やはりですか?」

 

「ええ、マオ社に問い合わせましたが量産型のヒュッケバインMK-Ⅲは全て残っていたそうです。やれやれ、どこから持ち出したのでしょうな」

 

少数生産のヒュッケバインMK-Ⅲは当然宇宙軍には配属されていない。このヒュッケバインMK-Ⅲがどこからやって来たのか? どういう経路で宇宙軍に渡り、そして異星人の手に渡ったのか? その全てが謎だった。

 

「それより副長。やっぱりエアロゲイターの仕業だったのか?」

 

「それに関してはエアロゲイターではないという事も確証が得れましたよ、タスク。出来ればエアロゲイターであって欲しかったんですけどね」

 

アーチンと共に出現した事でエアロゲイターの仕業ではない可能性は全員が感じていた。しかし、心のどこかでエアロゲイターならば1度撃退した事もあり、慢心する訳では無いがそちらの方がいいと感じていたのも事実。だがそれを改めてエアロゲイターではないと言われると複雑な物を感じずには居られなかった。

 

「それで副長どういうことなんだ?」

 

「簡単に言うと今回の物は中身が違ったのです、ゲシュペンストMk-Ⅱ・F装備とヒュッケバインMK-Ⅲの中身がね」

 

「AIの類ですか?」

 

「似て非なる物です、ですが敵に回すとあれほど厄介な物も無いでしょう」

 

ショーンの回りくどい言い方に気の短いカチーナが舌打ちする。戦闘の後で気が立っているのもある、それに加えて自分達を追詰めた物が何なのかを知りたいと強い口調でショーンに向かって尋ねた。

 

「じれってぇな。早く教えてくれよ、副長」

 

「簡単に言うとバイオロイド……一種の人造人間ですな。それがコックピットに搭載されておりました」

 

「人造人間だぁ? んなもん……いや、判りきってるか。また別の異星人ってこったろ?」

 

「……そう見て間違いないですな」

 

地球の技術では作れない人造人間――それが組み込まれている段階で、また別の異星人が地球に攻撃を仕掛けて来ているのは明白だった。

 

「道理でAIとは思えなかった訳ですわね」

 

「めちゃくちゃ厄介だったもんな。レオナちゃん」

 

AIの動きと言うのは予測しやすく、そして対処しやすい。ある意味AIと言ってもいい人造人間だが、その操縦の癖には人間らしいものがありこちらの動きを幻惑し、そしてなおかつパイロットの安全性などは考えなくてもいいので、軌道もめちゃくちゃで、そしてリミッターをつける必要も無い。そうなれば、エースクラスが集まっているオクト小隊が劣勢に追い込まれていたのも納得が行った。

 

「では、私達が戦った部隊全てが人造人間だったのですか?」

 

「残骸にそれらしいものもありましたので、まず間違いないですね。人格や自我を持たず、訓練や経験が不要で命令に忠実……『部品』としての替えも効く」

 

「機動兵器のパイロットとしては、理想的ですね」

 

育成する手間も無く、そして反乱する事も無い。命令に忠実な部品――そう考えれば理想的な存在だろう。人道的ではないという点に目を瞑り、なおかつそれを複数生産する技術があればの話だが。

 

「僅かな部品を解析する事ができましたが、地球の金属は一切使われていないそうです」

 

「そりゃ、もう異星人で決まりじゃねぇッスかッ!?」

 

地球の金属が使われておらず、なおかつ人造人間等というオーバーテクノロジー。それら全てが、今まで戦っていた敵が異星人による攻撃だというのは明らかだった。

 

「タスク、少し落ち着け、それで副長。あのゲットマシンもどきみたいのはどうだったんだ?」

 

戦いに乱入し、タスク、レオナ、ラッセルの3人を支援し、ゲシュペンスト・タイプSと離脱したゲットマシンみたいなものはなんだったんだ? とカチーナが尋ねると、ショーンは報告書に挟んでいた写真を取り出した。

 

「伊豆基地から撮影された物です、こちらを見てください」

 

差し出された写真をカチーナ達が覗き込み、その顔を驚愕に染めた。

 

「これは!? ドラゴンじゃねえかッ!?」

 

「いえ、良く見てください。ドラゴンに似てますけど、少し違うようです」

 

「待て待て、こいつが抱きかかえているのって!?」

 

「ゲシュペンストですわね……」

 

ショーンが差し出した写真には翡翠色の光に包まれ、細部までは判別出来ないが、ドラゴンに酷似した特機がゲシュペンストを抱きかかえている姿が映し出されていた。

 

「これは?」

 

「36時間前に地球で撮影された物です。単独で宇宙に出る事が出来るゲッター線で稼動する特機……ゲッターロボであると言うことは確実です、恐らくですが、先ほどの戦いに割り込んできたゲットマシンは分離形態の物でしょう」

 

「じゃあ、武蔵が生きていたって事か!?」

 

ゲットマシン、そしてゲッターロボと聞いて武蔵が生きていたのかとタスクが顔に喜色を浮かべながら尋ねるが、ショーンの顔は渋いままだった。

 

「いえ、そう判断するには早いでしょう。それに武蔵が最後に乗っていたのはゲッターロボ、ドラゴンではありません」

 

「武蔵さんと判断するに早いという事ですね?」

 

「そういう事です、仮に武蔵ならば連絡をしてくるでしょうが、それもないと言うことなので、武蔵と結びつけるのは早計ですな。まぁ、宇宙で活動する以上どこかでまた鉢合わせする事もあるでしょう。その時は、カチーナ中尉にお願いしましょうか」

 

 

「おうよ、ぶちのめしてでも連れ帰ってやるぜ」

 

「なんで戦う前提なんですか……」

 

逃げ回るというならぶちのめしてでも捕まえるというカチーナにラッセルは深い深い溜め息を吐いた。そしてその様子を見ながらショーンは小さく笑った。

 

「いずれにせよ、今回の件はすぐに上へ報告した方がよろしいでしょうな」

 

「……そうですね、どうもきな臭くなってきましたから」

 

人造人間が乗り込んでいたゲシュペンストとヒュッケバイン、そしてゲシュペンスト・タイプSと未知のゲッターロボ。地球圏に戻ってきたばかりのヒリュウ改だが、休む間もなく騒乱の中にその身を投じていくのだった……

 

そしてその頃地球では……正史ではありえないある出会いがあった。

 

「ラミア、こっちよ」

 

「レモン様……お待たせして申し訳ありませんでございましたですの」

 

「……ごめん、どうしたの?」

 

「すまんこってです……」

 

作られた人間――ラミア・ラブレスとその創造主レモン・ブロウニングが再会を果たしていたのだった……。

 

 

第32話 宇宙の龍/大地の鬼神 その5へ続く

 

 




ここで宇宙ルートは1回終了、次回からは地上ルート「桜花幻影」に繋がるオリジナルの話と久しぶりにそれも私おじさんなどを書いて行こうと思います。この段階でありえない、ラミアとレモンがエンカウントしてますが、原作のエキドナさんの代わりだと思ってください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第32話 宇宙の龍/大地の鬼神 その5

第32話 宇宙の龍/大地の鬼神 その5

 

バリソンにラミアを迎えに行かせ、イスルギ重工の中のカフェでラミアを待っていたレモンはカフェに入ってきたラミアを見てその瞳を輝かせた。

 

(前と全然違う……凄いわ)

 

自分に気付き、しまったと言う顔、そしてレモンに会えた事で喜ぶ仕草、目まぐるしく変わるその表情は調整中や、あちら側の時のラミアでは決してしない顔だった。その表情の変化は武蔵と触れ合っている時のエキドナと同じ様に、生きている女その物だった。

 

「ラミア、こっちよ」

 

どうしようかと悩む素振りを見せているラミア。その姿すら愛おしいと思いながらも、何時までも観察している訳には行かないので手を上げてラミアを呼ぶと不安と喜びのその瞳を揺らしながらレモンの側に駆け寄ってきて、頭を下げながら口を開いた。

 

「レモン様……お待たせして申し訳ありませんでございましたですの」

 

「……ごめん、どうしたの?」

 

その奇妙すぎる口調にレモンは驚きに目を見開き、ラミアは耳まで真っ赤にして俯きながら再び口を開いた。

 

「すまんこってです……」

 

その意味不明な言葉にレモンは始めて思考停止するという状況を味わっていた……。

 

「そっか、転移の衝撃で……大変だったわね」

 

「本当に申し訳なかったりしちゃったりしてしまうのです」

 

レモン達が転移した時もヴィンデルとウォーダンと逸れていた時期もある。その間にミツコと言うスポンサーを得て、散りじりになったメンバーを集めた。その事を考えればラミアが敬語を喋れないと言う不調だけですんでいるのは御の字かもしれない。

 

「敬語でなければ喋れるのでしょう? 良いのよ、敬語じゃなくて」

 

「そんな、とんでもないのでございますのですッ!」

 

私には無理だと言って手を振るその仕草を見て、レモンは小さく笑った。エキドナの変化はゲッター線が影響していると思っていたが、ゲッター線だけではない善良な人間と触れ合っているラミアにもその変化は現れていたのだ。

 

「判ったわ、それに可愛いから許しちゃう。貴女が何を見たのか、そして何を感じたのか教えてくれる?」

 

「はい、了解したのでござる……」

 

「ふふ、そんな顔をしないの、折角の可愛い顔が台無しだわ」

 

自分の口から出た奇妙な言葉に100面相をしているラミアの頭を撫でて、柔らかく微笑みレモンはラミアの報告に耳を傾けた。

 

「そう、アインストが……大丈夫だった?」

 

「はい、大丈夫でごんした。ただその……私達の知るアインストよりも弱い、弱すぎたであります」

 

戦闘データのコピーを差し出しながら弱いというラミアにレモンは首を傾げた。

 

「弱いってどんな風に?」

 

「実弾系の武器でコアが簡単に砕けちゃったりして、再生能力も無いよりましと言う感じでありました」

 

レモン達の知るアインストは実弾もビームも効果が薄く、そして何よりもコアが砕けても再生する時すらあった。

 

「ふーん、判ったわ。教えてくれてありがとう、偉いわ。ラミア」

 

「あ、いえ……レモン様をここまでご足労させてしまい、本当に申し訳無いで気持ちで胸が張り裂けそうなのです」

 

奇妙な言い回しだが、申し訳無いと言う風に感じているラミアを見て、人間らしい感情に芽生えているのが一目瞭然だった。

 

(ラミア、貴女は私の最高傑作……そして愛しい娘。貴女は私に何を見せてくれるの?)

 

エキドナは武蔵と触れ合い、恋や愛といった感情らしき物を見せた。そしてラミアは人の善性に触れて、様々な感情を理解しようとしている。それが何よりもレモンには嬉しかった。

 

「ヘリオスの方はどうかしら?」

 

「すまんこってす。痕跡らしい物は……ただ、ヘリオスは仮面をしていたでありんすよね?」

 

「え、ええ。そうね、それがどうかしたのかしら?」

 

「素顔はご存じないのでしょうか? もし素顔を知っていれば、教えていただきたいのでありんす」

 

「あ」

 

ラミアに指摘されて初めてレモンは気付いたのだ。ヘリオスの素顔を知らないのだと……。

 

「盲点だったわ。そうね、うん。そうに決まってるわよね」

 

転移した時に仮面を捨てて、別の名前を名乗っている可能性もある。そうなれば、ヘリオスと言う名前で探しても見つかる訳が無いのだ。そんな単純な事にレモンもヴィンデルも今まで全く気付かなかった。

 

「ヘリオスの事はとりあえず、今はいいわ。他に何か気になっている事は?」

 

「……ラドラ、ギリアム、エルザムの教導隊の他のメンバーに遭遇しましたです」

 

「戦闘データは?」

 

「バッチリ記録してあるでごんす」

 

あちら側ではいなかった、あるいは死去している教導隊メンバーの戦闘データ。それはレモン達にとっては非常に貴重なデータだ、対策などを練る重要な資料になる。

 

「もしかしてゲシュペンスト・MK-Ⅲとかのデータは?」

 

「……さすがにそれは無理でごんした」

 

「いえ、普通に考えて無理よね。ごめんなさい」

 

この世界の主力量産機「ゲシュペンスト・MK-Ⅲ」のデータがあれば、複製できるかもしれないという考えは流石に欲張りすぎだったとレモンは苦笑を浮かべた。その後もラミアがハガネで見た物等の話にレモンは耳を傾ける、戦闘に関する物や、シャドウミラーの常識では考えられない甘い上官に混乱した話など、子が親に話すようなそんな他愛もない話だった。

 

「はい、これ通信機と解析機。この後は指令ディスクの内容に従って行動してね。今日は話せて楽しかったわ」

 

「レモン様……はい。ありがとうございます、その出来れば今度お会いする時は言語系のパーツも」

 

「ふふ、それは考えておいてあげるわ。今の貴女の口調は可愛いからね、もうそんな顔をしないの。それじゃあ帰りなさい、ラミア」

 

「……はい、レモン様」

 

レモンに言われてやや肩を落として歩き出したラミア。その小さくなった背中を見つめながらレモンが紅茶を口にしていると、ラミアが弾かれたように振り返った。

 

「レモン様、私は、私は……ハガネとシロガネで様々な物を見ました。それを見て、私は何が正しいのか、何が間違っているのか判らなくなってきました。レモン様、私は……私はどうすれば「ラミア、それは貴女が見つけ出す事よ。私に命令されたからじゃない、ヴィンデルに命令されたからじゃない、自分で考えて自分で正しいと思う決断をしなさい。容易に答えを求めたら駄目よ」……はい」

 

人造人間W-17と呼んで欲しかったのだろう、だがレモンはあえてそう呼ばず、ラミアと呼んで助けを求めるラミアを突き放した。レモンの求める新たな生命になろうとしているラミアの成長を止めない為に……。

 

「お前、ラミアに優しくしたいのか、厳しくしたいのかどっちだ?」

 

「ふふ、勿論優しくしたいに決まってるじゃない。でもね、優しいだけじゃ成長はしないのよ」

 

「そういうもんかねぇ……」

 

レモンとラミアの話を聞いていたバリソンが食べかけのサンドイッチを頬張り、コーヒーを口にしているとレモンがバリソンの机に上に1枚のカードキーを乗せた。

 

「……お前、これ」

 

「ふふ、私はラミア達だけに優しい訳じゃないわよ?」

 

「嘘言え、これを俺に渡してどうするつもりだ?」

 

レモンがバリソンに渡したのはゲシュペンスト・MK-Ⅱの起動用カード。しかも量産型ではない、レモンがあちら側で乗っていたカスタムタイプのワンオフのゲシュペンスト・MK-Ⅱの起動カードだった。

 

「だって貴方永遠の闘争とか興味ないでしょ? こっちに来たら明らかに私達と距離置いてるし」

 

「……」

 

「沈黙は肯定とみなすわよ。と言う訳で、優しいレモンさんは貴方に逃げる為の手助けをしてあげるのでした」

 

「嘘付け、絶対ウォーダンとか送り出すだろうが」

 

「うん。逆に言うと、それから逃げれないようじゃどの道死ぬでしょ? それなら殺してあげるのが優しさだと思わない?」

 

「……お前が優しいとか絶対ないわ。怖い女だよ、お前は」

 

怖い女と言いつつも起動キーを懐にしまうバリソンを見ながらレモンは席を立った。

 

(ああ。楽しみだわ)

 

正直な所、もうレモンには永遠の闘争に対しての興味はない。ゲッター線、そしてゲッターロボが齎す進化によって、Wシリーズがどんな進化を果たすのか、それだけが今のレモンの知りたいと願う全てであり、興味のすべてだった。それでもヴィンデルに拾われたという恩義があるから協力しているだけに過ぎない。

 

「何をしても最後まで見届けないとね」

 

行方不明のエキドナ、そして自我と感情に芽生え始めているラミア……自分の最高傑作と傑作の2人がどんな答えを出すのか、それを見届ける。それだけが今のレモンの全てなのだった……。

 

 

 

 

 

 

伊豆基地から飛び立つハガネとシロガネをリュウセイとエクセレンが休憩室から見送っていた。

 

「なーに、随分とブルーな感じじゃない? 愛しのラトちゃんと離れたのがそんなに嫌?」

 

「そういうエクセレン少尉だって、キョウスケ中尉と離れて寂しそうな顔をしてるぜ」

 

「やだ、ブーメラン。いつそんな高等手段を覚えたのッ!?」

 

実際の所エクセレンもリュウセイも気落ちしていたのは事実だ。ギリアムとヴィレッタが同行するとは言え、L5戦役の後の最大規模の作戦に参加出来ないと言うのはやはり精神的に来る物がある。

 

「2人には悪いけど、気落ちしている時間はないわよ」

 

「悪いがすぐにブリーフィングルームに集まってくれ」

 

ヴィレッタとギリアムに呼ばれ、リュウセイとエクセレンは慌ててブリーフィングルームに足を向けた。

 

「え、人造人間ッ!?」

 

「それらしいものと戦闘したって言うヒリュウ改からの報告があったわ」

 

L2宙域で多発している部隊の行方不明事件――それの捜索に当たっていたヒリュウ改からの報告はすぐに伊豆基地と連邦政府に届けられていた。

 

「これ……量産型のヒュッケバイン・MK-Ⅲですね、少佐」

 

「ああ、宇宙軍にはまだヒュッケバイン・MK-Ⅲは配備されていない筈なんだがな……」

 

少数生産のヒュッケバイン・MK-Ⅲはマオ社にデータ取りに残されている2機と、カークの全精力を告ぎ込んだヒュッケバイン・MK-Ⅲが2機存在しているだけだ。勿論マオ社に残っていると言う報告があった以上、この宇宙で発見されたヒュッケバイン・MK-Ⅲがどこからやってきたのが謎なのだ。

 

「地上から打ち上げられたって言うのは?」

 

「いえ、それらしい痕跡も無いわ」

 

「じゃあどこからヒュッケバイン・MK-Ⅲが……」

 

何故宇宙で発見されたのか、何故そのヒュッケバイン・MK-Ⅲに人造人間らしい物が乗っていたのか全てが謎だ。

 

「考えられるのはマオ社に百鬼帝国の手が伸びている可能性だが……これを口にするわけには行かない」

 

「疑心暗鬼になると大変ですしね……あーやだやだ、どうしてこんなに鬱陶しい手を打ってくるのかしら」

 

百鬼獣と言う凄まじい性能を持つ特機を複数所持しているのに、それで力押しするのではなく絡め手によって味方同士の疑心暗鬼を煽ると言う戦略はエクセレンの言う通り、鬱陶しい戦術である。

 

「それとこれを見て欲しい」

 

次に差し出された写真はゲシュペンスト・タイプSと真紅の戦闘機の姿が映されていた。

 

「ゲットマシンッ!?」

 

「もう宇宙で行動してる訳ね」

 

ゲッターロボらしきものがゲシュペンスト・タイプSを抱えて、宇宙に飛びだったのは伊豆基地でも確認されていた。それが既にヒリュウ改と異星人らしき部隊との戦いに出現している。と言うのはリュウセイとエクセレンに少なくない衝撃を与えていた。

 

「出発予定時間を1時間早めるわ。ヒリュウ改と合流後、すぐにマオ社へ向かうわ、リュウセイとエクセレンは自分の機体の設定を宇宙用に変更しておいて、下手をすればヒリュウ改と合流する前に戦闘になる可能性もあるからね」

 

「「了解!」」

 

ブリーフィングを終えて、格納庫に向かうリュウセイとエクセレンの2人を見送り、ヴィレッタとギリアムはゲットマシンらしき戦闘機を見つめる。

 

「ギリアム、どうみる?」

 

「そうだな。ゲットマシンであることは確定だ。だが……これが武蔵のものであるとは言い切れない」

 

「リクセントの事ね?」

 

「ああ、あのボロボロのゲッターロボの事もある。別の誰かが、このゲッターロボに乗っている可能性もある」

 

今地球圏では3体のゲッターロボが確認されている。

 

1体はリクセントで目撃された角の折れたボロボロのゲッターロボ。

 

1体はグライエン議員の屋敷が爆破された際に目撃された漆黒のゲッターロボ。

 

そして最後の1体はゲシュペンストと共に宇宙に向かったゲッターロボGに酷似したゲッターロボだ。

 

「……全員バラバラのパイロットなのか」

 

「それとも、武蔵が別の機体に乗っているのか……だ。ゲッターロボを見たから武蔵と繋げるのは危険すぎる」

 

LTR機構とリ・テクで発見されたゲッターロボの壁画の存在――それはギリアムが知らないゲッターロボも複数存在すると言う証拠だった――だからゲットマシン=武蔵と繋げるのは危険だとギリアムは呟いた。

 

「それもあるけど、貴方が調べている件は何時になったら教えてくれるの?」

 

「……確証を得てからだ。もう少し待っていてくれ」

 

「ふう、貴方も随分の秘密主義よね」

 

「すまないな、俺も確証が無い事を言う訳にはいかないからな、俺達も準備を始めよう。時間が無い」

 

これ以上話すことは無いとヴィレッタとの話を切り上げ、格納庫に向かって歩き出すギリアム。その背中を見つめながら、ヴィレッタは机の上の写真を持ち上げた。

 

「ゲシュペンスト・タイプS……か、どうせならR-SWORDなら良かったのに……」

 

イングラムが生きていると言う確信が欲しいヴィレッタはそう呟いた後に頭を振って、格納庫に足を向けた。

 

「見つけたら絶対引っぱたいてやるんだから」

 

だがそれは心配して、R-SWORDが良かったと言ったのではなく、心配を掛けさせられた分引っぱたいてやりたいと言う意味での発言であり、鋭く何度もビンタの素振りをしながらヴィレッタは格納庫に向かって歩き出すのだった……。

 

「む……」

 

「どうした? イングラム」

 

「いや、何か強烈に嫌な予感がしてな……」

 

「キルモール作戦に何かあると言うのか?」

 

「いや……そういうものではなくて……うーむ」

 

アースクレイドル攻略戦に内密に参加するために南米に向かうクロガネの中でイングラムはどうしようもない寒気を感じて、その身体を震わせているのだった……。

 

 

 

 

 

連邦政府・大統領府――執務室ではブライアンがレイカーからの報告を聞いていた。

 

『……以上がヒリュウ改からの報告内容であります、ミッドクリッド大統領』

 

「すまないね、レイカー少将。職務に戻ってくれたまえ」

 

ヒリュウ改が遭遇したガロイカと行方不明になった部隊のランゼンとゲシュペンストやヒュッケバインに人造人間らしき物が乗っていたと聞いたブライアンは背もたれに深く背中を預け、深い深い溜め息を吐いていた。

 

「……総合参謀本部を通さぬコンタクトは感心せんな」

 

「お疲れのようだな。ブライアン大統領」

 

ノックもなしに入ってきたグライエンとブライの来訪――それがブライアンの深い溜め息の理由だった。

 

「彼とはL5戦役からの縁でね。信頼出来る男だよ、少なくとも勝手に執務室に入ってくる貴方達よりも信用出来る」

 

軽い嫌味のジャブから入ったブライアンだが、ブライとグライエンは全く気にした素振りを見せない。

 

「そういう問題ではない。組織の縦の繋がりという物をもう少し意識して貰わねば困る。その上、民間人の前で機密事項の話など……言語道断だ」

 

グライエンの鋭い視線がブライアンの執務室のソファーに腰掛けているチャイナドレスの女性に向けられる。心臓の弱い人間ならば引き付けを起してしまいそうな視線だが、女性――ミツコ・イスルギは飄々とした態度を崩さない。

 

「なに、そう嫌味を言う物ではないのでないかな? グライエン議員。確かに縦の繋がりは大事だが、その間に情報を操作されては困る。

そうなれば信用出来る男から話を聞くのは間違いではないと思うよ」

 

「ご理解頂けたようで何よりだ。ブライ議員」

 

ブライアンを擁護するような発言をするブライだが、その口元には弱みを握ったぞと言わんばかりの笑みが浮かんでいた。その笑みを見て、ブライアンは表面上は笑っていても、内面はこれ以上無いと言うほどにしかめっ面をしていた。

 

(前から感じていたけど、やっぱりブライ議員は信用出来ない)

 

これ以上弱みを見せる訳にはいかないとブライアンは小さく溜め息を吐いた。そう思いたく無いが、余りにもブライとグライエンの来訪したタイミングが良すぎた。

 

「……さて、ああいう事態が発生した以上、ミツコ・イスルギ君の査問は中断だ。DC残党に対する軍事物資の横流しの件は、次の機会に回すからまた後日尋ねて来て欲しい」

 

帰ってくれと言っているのに帰る気配の無いミツコにブライアンは一瞬嫌そうな顔をしたが、ミツコにだけ構っている時間が無いとグライエン達に視線を向けた。

 

「宇宙での出来事、そして今全世界で発見されている異形の特機について――ここにいる面々の意見を聞きたいな」

 

宇宙での新型機の強奪事件とそれに乗っていた人造人間。

 

そしてハワイ、伊豆基地、リクセントと現れた異形の特機。

 

その両方について尋ねると、まずグライエンが口を開いた。

 

「DC残党の仕業とは思えん。……『ケースE』だな」

 

「私もそう考えます」

 

「その根拠は何かな? ニブハル・ムブハル特別補佐官」

 

この部屋にいる面子の中で最もブライアンが信用していない人間――ニブハル・ムブハルにその根拠は? と尋ねるとニブハルは笑みを浮かべてブライアンの問いかけに返事を返した。

 

「ヒリュウが接触したというアーチンです。今になって姿を現したという点が気になります、やはり別の敵性異星人の可能性は捨て切れないでしょう」

 

「……確かに、アーチンは一説にはエアロゲイターの戦力と言われていたが、L5戦役ではその姿は一切確認されなかったな……そう思うと、ケースEは確かにありえる話だ」

 

「そら見た事か、ブライ議員も私と同じ意見だ。早く、ケースEの発令をするべきだ」

 

我が意を得たりとグライエンがブライの発言にあわせるようにケースEを発令するべきだとブライアンに詰め寄る。だがブライアンはグライエンに視線を向けず、ブライへと視線を向けてその発言の真意を尋ねた。

 

「ブライ議員はケースEの促進派なのかな?」

 

ブライアンの問いかけにブライは肩を竦め、その顔に笑みを浮かべる

 

「あくまで可能性の話ですよ。大統領――私としてはそうですね。イスルギ重工についての責任追及をしたい、私の促進しているゲッターロボ量産計画――イスルギ重工の試験場から次々奪われている件についてね」

 

自分はあくまで中立、今回は自分が主導になって計画しているゲッターロボ量産計画の試作機の強奪事件についての話だとブライは告げる。

 

「な、お前は!? 私に協力するのではなかったのか?」

 

「協力しますとも、ですが、状況を把握し、最も効果的な場面で打たなければ意味が無いのですよ。グライエン議員」

 

口論をするグライエンとブライを見て、ブライアンは更に混乱する。

 

(演技……それとも本気どっちだ? 判らない)

 

ブライとグライエンの関係性が全く見て取れず、これ以上話を聞いているとブライ、グライエンの両者の真意が判らなくなると強引に話をすり替える事にした。

 

「……ミツコ君。弁明は何かあるかな?」

 

「先程もご説明した通り、イスルギ社のアーマードモジュールはライセンス生産されております。故に戦後の混乱した状況で、製品の先行きを全て把握することは到底不可能……この件に関しましても、弊社の与り知らぬことでございますわ。ゲッターロボに関しては私の不徳の致す所ですが、L5戦役を終結させた英雄機――それを欲するのはどこの陣営でも同じことでは?」

 

「ふむ……確かに一理ある」

 

英雄機ゲッターロボ。行方不明になっている悲運の英雄武蔵と共にその存在とネームバリューは到底無視出来ない物である。反政府に対しては英雄が今の情勢に反対していると言う旗頭になる、そして政府と連邦軍からすれば英雄機と言う事で絶対的な正義の象徴としても使える。どの陣営からも例えレプリカだったとしても、喉から手が出るほどに欲しいのがゲッターロボだ。

 

「大統領閣下。私共より、マオ・インダストリー社を疑われた方がよろしいのでは? 主力機として導入されたばかりの機体が、謎の組織に使われるなど由々しき事態でございますし」

 

考え込んでいるのを見て、これ幸いと矛先を変えようとするミツコの言葉にブライアンはにやりと笑った。

 

「確かにね。でも拘束されたヒューストン基地の元司令は君の頼みでヒュッケバイン・MK-Ⅲを運び込ませたと言っているのだけど……そこはどうなのかな?」

 

先日情報漏えい、そして反逆罪で収監されたヒューストン基地の司令が自白したのだ。ミツコに頼まれ、無理にヒュッケバイン・MK-Ⅲを2機自分の基地に運び込ませたと、ミツコはブライアンの問いかけに一瞬目を泳がせたが、すぐに笑みを浮かべた。

 

「……確かにマオ社の最新鋭機には興味がある言いはしましたが……別にそれが内通していると言う……」

 

「おや? 僕は内通なんて言ったかな? ただ僕はイスルギ重工の社長として、ライバル会社の最新鋭機に興味があるのかな? と尋ねたかっただけなのだけど?」

 

「ッ」

 

「それと、うーん。やっぱり今の発言を聞く限りだと、ミツコ君。君は随分とヒューストン基地の司令と仲が良かったようだね? 彼は色々と喋ってくれているんだよ?」

 

「それは私共がスポンサーをしているプロジェクトTDの開発拠点ですから、スポンサーとして何度もヒューストン基地に足を向ける機会はありましたわ、でも男女の関係ではありませんわ」

 

「そうかい? でも何度も彼は君と酒を飲んで、一晩を過ごしたと言っていたけれど……」

 

「……プライベートの事に踏み込みすぎですわよ?」

 

「うん、プライベートと言うのなら、君も黒だよね? 僕は今君をここで拘束しても良いんだよ?」

 

ヒューストン基地の司令の発言は決して多くない。だが、ミツコと一晩を過ごしたと言う事、そして酒を飲んだというのは事実だし、ヒュッケバインMK-Ⅲに関しては間違いなくミツコの頼みだったと自白している。

 

「ブライアン大統領。ミツコ・イスルギに関してはヒューストン基地の口からでまかせと言う可能性もあると思うぞ」

 

「おや、今度はグライエン議員がミツコ君を庇うのかな? さっきまで責めていたのに?」

 

「確かにそうだが、証拠もないのにせめて立てるのは違うだろう。正規の手続きをとった上でやるべきだと私は言っているに過ぎない」

 

「ふむ、まぁ、そういう事にしておこうか――、ミツコ君。君の会社は限りなく黒に近いグレーだ、確かにイージス計画などに協力はしてくれているが……あまり黒い噂が多くなると、僕も連邦軍もそれなりの対応をしなければならない」

 

「……存じておりますわ。ですが、私は己の身が清廉潔白だと声を高らかにして言えますわ」

 

「そう、それならそれで良いけれど、僕は君を信用していないし、ミツコ君をフォローするような発言をしたグライエン議員も信用出来ない。だけどケースEの発令は承認する、今日はそれでお引取り願おう、今度は正規のアポイトメントを取って来てくれ、アルテウル。と言うわけだ、お帰りだ。見送ってくれてあげてくれ」

 

「はい、判りました。では皆様、こちらです」

 

強引に話を切り上げ、ブライ、ミツコ、グライエンの3人を執務室から追い出すブライアン。

 

「ああ。そうだ、グライエン議員。先日の贈り物、とても助かったよ、また今度お願いするね」

 

「……喜んでもらえて何よりだ。また送らせて貰おう」

 

グライエンの返答にブライアンは一瞬眉を動かし、それでも笑みを浮かべて執務室を出て行く3人を見送った。

 

「さてと、ニブハル特別補佐官、1つお願いがあるんだ」

 

「おや? 皆さんを追い出して、私に何の頼みですかね?」

 

「彼らとの接触手段を検討してくれ」

 

ケースEの発令を認めたのはニブハルのルートを利用して、平和的に戦争を回避出来ないかと検討する為でもあった。

 

「ケースEを発令しておいて、それですか?」

 

「警戒するのは仕方ない事だろ? それでどうかな? 頼めるかな?」

 

「……良いですよ、任せてください。大統領」

 

にこやかに笑うニブハルを見送り、ブライアンは個人端末のDコンを取り出した。

 

【気をつけろ。ブライアン……旧西暦の悪意は広がっている、知人でも信用するな。私を含めてな】

 

「ああ、そのようだね。グライエン議員……」

 

それはグライエンの屋敷が爆破される前日に送られて来たグライエンからのメールだった。ブライアンが言っていた贈り物とは、このメールの事であり、決して同じ様な内容のメールを送れという意味ではない、だがそれを贈り物だと勘違いしたグライエンは間違いなく、グライエンではない。同じ顔をした別人だと確信した……。

 

「どこまで持つかな……出来る限りの備えはしておきたいんだけどなあ……」

 

アルテウルに送られ、大統領府を出て行く3人を見つめ、政府の高官であるグライエンですら、もう傀儡にされている事が判り、ブライアンは深い溜め息を吐くのだった……それはもう、自分が頼れる味方がどこにもいないと言う絶望感からもたらされる諦観の混じった物なのだった……

 

 

第33話 宇宙の龍/大地の鬼神 その6へ続く

 

 




次回は前回のあとがきの通り、桜花幻影の話に入って行こうと思います。こちらもかなりのオリジナルルートが入っておりますが、難易度マシマシでお送りするのは変わりはないので、それでは続けて第2話もお楽しみください


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第33話 宇宙の龍/大地の鬼神 その6

第33話 宇宙の龍/大地の鬼神 その6

 

ハガネがエチオピアを目指し伊豆基地を発った頃――ユウキとカーラ達はアースクレイドルに辿り着いていた。

 

「地下シェルターって 聞いてたけど……プラント所か、 街みたいな物まであるんだね。これなら何年も篭城する事になっても平気そう」

 

「ここは人類の方舟となるべく造られた施設だからな、人工冬眠をするだけでなく、内部で人が暮らせるようにもなっているそうだ」

 

そう説明しながらも、本来箱舟となるべく作られた施設が百鬼帝国、そしてテロリストの手に落ちて、本来守るべき人間に攻撃を仕掛けていると言う現実にユウキは内心失望しながらも、カーラには素晴らしい設備なのだと説明する。

 

「農場もあるみたいだし、紅茶の葉っぱを栽培してるかもよ? 見に行ってみる?」

 

そしてカーラはユウキのそんな内心の複雑な感情に気付いたのか、ユウキの好きな紅茶の葉っぱがあるかもと声を掛けるが、ユウキは頭を振った。

 

「天日で育っていない物は邪道だ。それに良い茶葉は買い込んであるから心配ない」

 

「あっそ。でも、こんだけ広いと、ダンスの練習をするスペースにも困らなさそうだね……少し踊っても良い?」

 

ユウキの言葉に苦笑したカーラは跳ねるようにユウキの前に移動して、上目目線でそう尋ねる。

 

「……だからあの時下りれば良かったんだ。お前にはこんな世界は相応しくない」

 

ユウキは何度もカーラに降りろと告げていた。だがその度にカーラはユウキを1人にするのは嫌だと言って降りなかった。そのせいでカーラの手も鮮血に染め上げられてしまっていた……自分が助けた少女が、自分の後を追いかけて、その手を鮮血に染めた。その事にユウキは口にはしないが、心を悼めていた。こんな世界に入らせるために救ったのではない、明るく、幸せな世界に行ける様にと助け、そしてシェルターまで連れて行ったのにと言う後悔があった。

 

「ユウを1人に出来ないし、それに今は戦わないと駄目だからさ……ね、考えてみてよ。戦いが終わってさ、もう何にも怯える事が無くなって……あたしはダンサー、ユウはお洒落な喫茶店でマスターをしてさ……楽しいと思わない?」

 

それはありえたかもしれない1つの結末だろう。ユウもカーラもPTなどに乗らず、また戦争等が起きなかった平和な世界――だがそれは願っても叶わない夢だ。

 

「本気でそう思っているのか?」

 

「……思わない、思わないよ。でも……どうせ夢なら平和な世界を夢見てもいいでしょ?」

 

「そう……だな」

 

自分達は何処まで言ってもテロリストなのだ。そして百鬼帝国の傘下にいる以上、望む、望まないにしても戦いからは逃げられない。

 

(……俺は良い。だが、カーラだけでもなんとかしてやりたい……な)

 

ユウキはスパイとして、テロ組織に潜り込んだ段階で己の死は覚悟していた。それでもカーラは違う、ユウキを追いかけてここまで来てしまったのだ。自分と共に、死なせる訳には行かないとユウキが考え込んでいるとカーラの声がユウキの耳に飛び込んできた。

 

「あ……見て、ユウ。あれ、ランドグリーズだよ。結構な数が揃ってるんだね」

 

そう言われて顔を上げるユウキ。何時の間にか保養施設や、街の区画から離れて格納庫の区画に来ていたのに今気付いたユウキも格納庫のハンガーに視線を向けた。

 

「それに見慣れん機体もあるし……あれは龍と虎?」

 

「なんだろうねえ。あれ……」

 

ランドグリーズの横に固定されている、PTサイズの青い機体、そしてその隣の金色の龍と銀色の虎を模した特機を見つめていると、背後から頭の上に手を乗せられた。

 

(う、動けんッ!)

 

軽く手を乗せられているだけなのに、ユウキの身体は動かなかった。腕力だけではない、恐怖で身体が金縛りにでもあったような……そんな感覚を感じ、冷や汗を流して硬直しているとふっと身体の痺れが取れ、咄嗟に振り返り様の裏拳を放った。

 

「いーい拳だ。信念の篭もった良い拳だぜ、人間」

 

「ッ! 失礼しましたッ!!」

 

ユウキの拳を受け止めていたのは左側頭部から金色に光る角を生やした漆黒の着流し姿の鬼だった。鬼に拳を向けたことを謝罪するユウキだが、鬼は上機嫌に笑う。

 

「何気にするな、俺が悪戯をしただけさ」

 

「そうそう、貴女達は悪くないわよ? 何か言われたらあたしが庇ってあげる」

 

舞うように鬼の隣に対になるように、右側頭部から銀色に輝く角を生やした、真紅の着物姿の女の鬼が現れた。

 

「俺様は龍王鬼。てめえの名は何だ? 人間」

 

「あたしは虎王鬼。よろしくねえ」

 

二本鬼、四本鬼とも違う、だが圧倒的な威圧感を持つ鬼にユウキとカーラは冷や汗を流しながら頭を下げる。

 

「ユウキ・ジェグナン少尉です」

 

「り、リルカーラ・ボーグナイン少尉です」

 

「あー、その少尉とか言うのはどうでもいい、ユウキとカーラだな。今回の作戦では俺らの部下つっうことでよろしくな」

 

「ふふ、そう言う事。でも良いじゃない、2人とも中々良い顔をしてるわ龍」

 

「そうだな。あの仮面の連中よりもよほど良いな、虎よ」

 

何故気に入られたのか判らないが、それでも今は自分の身の安全を確保出来たと内心安堵するユウキ。しかし龍王鬼は、これから発令させる作戦について心配していると判断したのか、大丈夫だと豪快に笑った。

 

「なーに、そう心配すんな。デザートクロスなんつう大層な名前だけどよ、ようは名乗りだ。んな、緊張するもんじゃねえ」

 

ユウキとカーラの首に丸太のような太い腕を回し、にかっと笑う龍王鬼にユウキとカーラが愛想笑いを返すと、龍王鬼は肩を竦めた。

 

「もうちっとよ、楽しそうに笑えないか? お前ら」

 

「ふふ、貴方の顔は怖いからしょうがないわ。でも大丈夫よ、龍は優しいし強いわ、何よりも全部大帝に任せておけば何の心配もない。異星人にだって勝てるわ、そうすれば……ふふ、貴方達の夢、ダンサーと喫茶店のマスターだっけ? それも叶うわ」

 

「き、聞いていたんですか!?」

 

虎王鬼の言葉にカーラが声を上げると虎王鬼は楽しそうに笑う。

 

「ええ、良いじゃない。素敵な夢よね?」

 

「おう、良いじゃねえか、ユウキよ、番は大事にしなきゃなんねえぞ」

 

「「つ、番ッ!?」」

 

龍王鬼の言葉にユウキとカーラが声を上げると龍王鬼の首に虎王鬼が腕を回し、その身体にしがみ付いて、からかうように口元を隠して笑った。

 

「あら、あたし達の勘違いみたいね」

 

「そう見てえだなあ。だがまぁ……見込みがないわけじゃ無さそうだ。かっかっか、堅物だと後悔するぜ、人生楽しく生きろよ。俺みたいな、美人の嫁さんを貰って、戦って、酒飲んで、飯食って、ああ、素晴らしき人生かなッ! あ、鬼生か?」

 

「ふふ、どっちでも良いじゃない。龍、まぁ、出撃前の顔合わせ。ふふ、今度は一緒に食事でもしましょう?」

 

虎王鬼を抱きかかえたまま、歩き去っていく龍王鬼。その巨大な背中を見つめているとカーラが顔を赤くさせる。

 

「あ、あたしと、ユウってつ、つ……な、なんでもないッ! ごめんッ!」

 

「お、おいッ! カーラッ!」

 

龍王鬼の番発言を聞いて、自分とユウキが夫婦に見えるのかと尋ねようとしたカーラは耳まで赤く染めて、逃げるように駆け出していく、呼び止めはしたが走り去ったカーラの背中に伸ばした手を握り締めるユウキ。

 

「こんな浮ついた気持ちでは駄目だな」

 

自分は死んでも、カーラは死なせない――鬼も、アーチボルド達も騙し続けて、その先にある平和な世界にカーラを連れて行くためにこんな浮ついた気持ちは不要だと口にして、ユウキは歩き出す。連邦の大規模作戦――「キルモール」しかし、そこに待ち構えているのは土龍等ではなく、誘い込まれた全てを噛み砕く邪悪な鬼と言う事をクロガネに伝える為にその場を後にするのだった……。

 

 

 

 

薄暗い研究室の中に安置された睡眠用のポッドに向かって声を掛けるアギラをクエルボは冷めた目で見つめていた。

 

「さあ……目を覚ますんじゃアウルム1。ワシの可愛い娘……お前の出番が来たぞ」

 

(何が娘だ、オウカの事を番号でしか呼ばないくせに)

 

精神操作を繰り返し、スクールの子供達に自分を母親と呼ばせるアギラは醜悪な化け物にしか見えなかった。自分の目的を、自分の価値を上げる為にだけに何度も子供達を犠牲にしたアギラはクエルボにとって嫌悪する存在だった。

 

「……母様……おはようございます」

 

ポッドから身体を起こした黒髪の少女――「オウカ・ナギサ」は辺りを見つめ、アギラを見つけると柔らかく微笑んで母様と呼んだ。

 

(駄目か……)

 

クエルボは眠っている間のオウカやゼオラの調整を任されていたが、やはりアギラが最も執着するオウカには、クエルボの小細工など何の効果も無かった。アギラに会えて嬉しいという顔を見て、クエルボは痛ましそうに目を背けた。

 

「気分はどうかえ? アウルム1」

 

気遣っているように見えるアギラだが、アギラが必要としているのはオウカの戦闘技術であって、オウカ本人ではない。だがそれに気付かないようにされているオウカは心配されていると思い柔らかい笑みを浮かべる。

 

「……悪くありません」

 

「そうかい。それは良かったのう、フェフェフェ」

 

「母様、弟や妹達は……?」

 

「もう目覚めておる。お前も早う支度をするんじゃ」

 

アギラに促され、オウカが退室した所でアギラはやっとクエルボに視線を向けた。

 

「そうか、化け物にブロンゾ28がやられたか」

 

「はい、それでゼオラは不安定となっております」

 

アインストに対する恐怖は百鬼獣に対しても同じ感想を抱くようになってしまい、今も部屋で休ませているとクエルボが言うとアギラは考え込む素振りを見せたが、それはアラドの安否を思っての物ではなかった。

 

「ラトゥーニ11がPTに乗っていると言う事が驚きじゃな……廃棄したが、今捕えれば面白いデータが取れそうじゃなあ……」

 

アラドの事も、ゼオラの事も、そしてオウカの事も何も考えていないアギラの姿を見て、クエルボは改めて離反の決意を固めた。

 

「まぁ、良かろう。ブロンゾ27に関してはワシが調整する」

 

「しかし、今下手に調整するのはゼオラの精神を壊す事に繋がります。今はもう少し様子を見るべきかと……」

 

「ふむ、精神崩壊しては調整も何も無いな、よし、ブロンゾ27とアウルム1の様子を見に行くぞ」

 

「……はい」

 

アギラに連れられて、クエルボはゼオラの私室に足を向ける。

 

「オウカ姉様……! ば、化け物……化け物が……アラドを、アラドを撃墜したの……」

 

「話は聞いたわ、大丈夫。大丈夫よ、ゼオラ。貴女を怖がらせる化け物はここにはいないわ」

 

オウカがゼオラを抱き締めて、大丈夫と繰り返し声を掛ける。

 

「で、でもラト……そう、ラトが! ラトがハガネにいたの……も、もしかしたらアラドはハガネに」

 

「ラトがハガネに? 本当なの?」

 

「う、うん。私見たの! あれはラトだった。だから、だからハガネに……「ゼオラ。大丈夫かい?」

 

「せ、セロ博士……」

 

ハガネにアラドがいるかもしれない。だからハガネに行きたいと繰り返し言っていたゼオラ。それをアギラに聞かせる訳にはいかないとクエルボが強引に話に割り込んだ。

 

「セロ博士、ラトの事は私は聞いていませんが……?」

 

「すまないね。ゼオラの調子が悪かったからね、僕はそれに掛かりつけだったんだ」

 

ゼオラのハガネに行きたい、投降したいという発言は早々許容出来る物ではなく、それをアギラに聞かせないために色々と対策を講じていたのだが、それが全て無駄になってしまった。

 

(でも肝心な部分は聞かれていない、大丈夫だ)

 

まだハガネに投降したいと言うのはゼオラ自身の口から出ていない。だから大丈夫だとクエルボは小さく安堵の溜め息を吐いた。

 

「そう、ラトならアラドを助けてくれているかもしれないわね」

 

「アラドは投降したから! 捕虜になっていると思うのッ! アラドは死んでない、死んでないよね?」

 

「ええ、大丈夫よ。アラドは生きている、私が確かめて来てあげるわ。だから少し眠りなさい、酷い隈よ」

 

オウカに抱きかかえられ、頭を撫でられている内にゼオラの身体から力が抜けオウカの胸の中で眠りに落ちた。オウカはゼオラを抱きかかえ、ベッドの上に寝かせるとアギラとクエルボに身体を向けた。

 

「……母様、私を出撃させて下さい。ラトとアラドを連れ戻したく思います」

 

「良いじゃろう。 ちょうどヴィンデルの配下の者達と龍王鬼達が出る所じゃ、奴にはワシが話をつけておく。ウォーミングアップも兼ね、共に出撃するが良い」

 

「承知致しました、母様。ゼオラ、大丈夫よ。起きた頃にはラトもアラドも私がちゃんと連れて帰ってくるから」

 

泣きながら眠っているゼオラの頬を撫で、オウカはゼオラの部屋を出て行った。その姿をアギラとクエルボは並んで見送り、アギラはクエルボに視線を向けた。

 

「ブロンゾ28がハガネに回収されたのかい?」

 

「いえ、それは確認しておりません……ですがアラドなら生存している可能性は十分にあるかと……」

 

映像で確認したが、アンノウンの攻撃はリオンのコックピットブロックを避けていた。脱出装置が発動した保障は無いが、もし生きていればハガネに捕虜として回収された可能性は十分にあるとクエルボは考えていた。

 

「ふん、お前はブロンゾ28に過度な期待を抱きすぎておるわ、あやつは新型のベースとして 肉体を改造しただけのサンプルに過ぎん。それ以外はロクな成績を残さなかった欠陥品だからのう。惜しくはないわ」

 

クエルボのアラドが生きていると言う根拠はアラドは身体能力を改造された存在だからだ。常人よりもはるかに強靭な肉体を考えれば、もしかしたらと言う希望を抱くのは当然の事だった。

 

「まぁ良い、ワシからすれば廃棄されたラトゥーニ11が戦っていると言う事に興味があるな。アウルム1が連れ戻して来たら調べる価値はありそうじゃ」

 

アギラの言葉にクエルボの目付きが鋭くなる。すべてを騙すと決めていても、それでも隠し切れない嫌悪感などはどうしてもある。

 

「何じゃ、その顔は。 不満でもあるのかえ?」

 

「……いえ」

 

不満でもあるのか? と言われクエルボはなんでもないと返事を返すが、アギラはクエルボの心境を見抜いていた。

 

「フン……くれぐれも、ブーステッド・チルドレンにつまらぬ情けなどかけるでないぞ。あやつらはただのサンプル、道具に過ぎないんじゃからな」

 

「……はい、判りました。では失礼します」

 

アギラのどこまでもオウカ達を人間として見ない発言。その発言にアギラを殴り倒してやりたい気持ちになりながらも、クエルボはぐっと拳を握り締め、それに耐えてアギラの前から姿を歩き去るのだった……。

 

 

 

 

アラビア半島に向かって進むハガネの格納庫――忙しなく出撃準備をする整備兵やキョウスケ達をぼんやりと見つめながらラミアはレモンから言われた言葉を考えていた。

 

(正しい事とは何なのですか……レモン様)

 

自分で考えて、自分で決断を下せと言われ、自分が何をすれば良いのか、それはレモンなら判ると思い尋ねたのに、容易に答えを求めるなと突っぱねられ、自分が何をすれば良いのか、そして何が正しい事で、何が間違った事なのか……それがラミアには判らなかった。

 

(指令ディスクに命令は入っていた……デザートクロス作戦のスケジュールに基づき、潜入任務の続行……)

 

Wシリーズとすれば、指令ディスクの内容に従って動くべきだ。だがレモンは自分やヴィンデルに命じられた内容だけではない、自分で考えて正しいことをしろと告げた。では正しい事が何なのか……それが判らないラミアが悩んでいると艦内放送が響いた。

 

『間もなく、 本艦はアラビア半島に進入する。総員、第二種戦闘配置』

 

その放送に考え事を中断し立ち上がるラミア。その顔には先ほどまでの迷いの色は無かった、戦いの中にいれば何も考えないで済む。悩む必要も無いと考えれば気が楽だった。

 

「どうしたんです、ラミアさん?」

 

アンジュルグに乗り込もうとしたその時、ブリットに背後から声を掛けられラミアはその足を止めた。

 

「え?」

 

「そんな顔をするなんて珍しいですね。 何か気になることでも? それなら今の内にカイ少佐やキョウスケ中尉に相談してきても構いませんよ?」

 

心配そうにしているブリットにラミアは何を言われたのか一瞬理解出来なかった。自分は何時も通りにしていた筈だ、それなのに何故心配されているのか判らなかった。

 

「そんな顔とは……どんな顔でございますの事なのですか?」

 

「落ち着きがないって言うか、不安そうって言うか……イルム中尉はどう思います?」

 

ラミアとブリットが話している事に気付いたのか、アンジュルグと同じ特機のハンガーに固定されているグルンガストに乗り込みに来たのか、近くにいたイルムにブリットがそう尋ねる。

 

「さしずめ、母親とはぐれた子供だね。何か悩みがあるんなら聞くぜ?」

 

「そ、そんな事……全く持ってありませんでございます……」

 

ラミアは自分で何時も通りの表情を浮かべていたつもりだった。だがブリットやイルムが気付いた通り、その瞳は不安げに揺れ、その表情も曇っていた。ラミアは自分の感情が、自分の迷いが顔に出ている事を指摘されるまで全く気付いていなかった。

 

「無駄話はそこまでだ。さっさと機体に……」

 

ラミアと話をしているブリットとイルムを見て、カイが機体に乗り込めと言おうとした瞬間、格納庫に警報が鳴り響いた。

 

「敵襲ッ!?」

 

「各員機体に乗り込め! 緊急発進だッ!!」

 

突然の警報に驚いているブリット達にカイは格納庫中に響き渡る怒声で機体に乗り込めと叫び、自分の乗機であるゲシュペンスト・リバイブに乗り込むのだった。

 

「本艦の前方より、機動兵器群が急速接近中ッ! 友軍機ではありませんッ!」

 

アラビアの第21・23・24混成機動師団と合流する為にアラビア海を進んでいたハガネのレーダーに機動兵器の熱源反応が感知され、ハガネのブリッジは一気に慌しくなった。

 

「アースクレイドルからの迎撃部隊かッ!?」

 

「総員、第一種戦闘配置ッ! PT各機を出撃させろッ!」

 

「了解ッ! エイタ、敵機の識別はッ!?」

 

ダイテツからの出撃命令を聞いてテツヤが出撃命令を下し、敵機の識別を行えとエイタに命ずる。

 

「待って下さい……こ、これはッ!? そ、そんな馬鹿なッ!?」

 

識別を行なっていたエイタのうろたえた声がブリッジに響き、ハガネのブリッジに映った敵影にダイテツとテツヤもその顔を驚愕に歪めた。

 

「馬鹿なッ!? あれはッ!」

 

「ゲシュペンスト・MK-Ⅱだとッ!?」

 

テロリスト達が送り出してきた機体はリオンでも、アーマリオンでもなく、連邦の主力であったゲシュペンスト・Mk-Ⅱの大軍なのだった……。

 

 

 

 

ハガネから出撃したハガネのPT隊も空を埋め尽くすゲシュペンスト・MK-Ⅱの大軍に驚きに目を見開いていた。

 

「あ、あれはッ!?」

 

「量産型のゲシュペンストMK-Ⅱだと……?」

 

「妙ですね。あの機体は生産が終了されているのに……」

 

既に連邦軍は主力をゲシュペンスト・MK-Ⅲに切り替え、ゲシュペンスト・MK-Ⅱは生産されていない。それなのに新品同様のゲシュペンスト・MK-Ⅱの登場には流石のカイ達も驚いた。

 

「フライトユニット装備型ならまだしも、ノーマルのゲシュペンスト・MK-Ⅱなんてどこの部隊も使っていないぞ」

 

ゲシュペンスト・Mk-Ⅲの生産が間に合うまでは、ゲシュペンスト・MK-Ⅱにフライトユニットを装備して運用している部隊は確かに存在するが、ノーマルのゲシュペンスト・MK-Ⅱを運用している部隊なんて存在しないとカイは訝しげに呟いた。

 

「それにあれだけの数がテロリスト側にあるのも妙だ」

 

「もしかして、彼らが量産していたんでしょうか?」

 

「リオンシリーズがあるにも関らずにか?」

 

ブリットの呟きにライが即座にそう突っ込みを入れると、ブリットはしまったと言う様子であっと呟いた。テロリスト側の主力はリオンやアーマリオンだ、それなのに態々ゲシュペンスト・MK-Ⅱを量産する意味は殆ど無い。

 

「L5戦役を潜り抜けたゲシュペンスト・MK-Ⅱ・F型装備は確かに保管されているが……」

 

「それが盗まれたって言う話も聞かないわな……それにフライトユニットじゃなくて、テスラ・ドライブを積んだタイプなんて聞いた事が無いぜ」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅱにテスラドライブを搭載するくらいならば、改造費も、制作費もぐっと安い上に、武装を搭載する事も出来るフライトユニットを製造するだろう。

 

「態々テスラドライブを搭載したゲシュペンスト・MK-Ⅱを作るくらいなら、アーマリオンやガーリオンを量産するだろうな」

 

「だな。今時ゲシュペンスト・MK-Ⅱを量産しても、友軍機に偽装する事すら出来ないぜ?ったく、何処の馬鹿があんなもんを量産したんだ?」

 

DC戦争当時ならまだしも、今頃フライトも装備せず、テスラドライブを搭載したゲシュペンスト・MK-Ⅱなんて時代遅れにも程がある。動揺が広がる中、ラミアだけはゲシュペンスト・MK-Ⅱを冷静な視線で見つめていた。

 

(あれは本隊のゲシュペンスト……こちら側の戦力偵察か。それとも足止めか……アースクレイドルに今はハガネにこられては困るという事か)

 

順調にハガネが進んでいればアースクレイドルを攻撃するキルモールに間に合ってしまう。それを阻止する為の足止めだとラミアは考えていた。

 

「「「!!」」」

 

展開されたゲシュペンスト・MK-Ⅱの部隊からメガビームライフルによる射撃が放たれる。それを見て、カイが全機に通信を繋げる。

 

「各機へッ! 詮索は後だッ! 散開して敵機を撃破しろッ!」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅱからの攻撃を受け、カイは敵の詮索をしている場合ではないと叫び戦闘命令を下した。

 

「なんだ、こいつら……?」

 

「弱い?」

 

狙いは正確無比、そしてテスラドライブによる機動力の向上、そして改良された武器を扱っているゲシュペンスト・MK-Ⅱは確かにかつてのゲシュペンスト・MK-Ⅱと比べれば確かに高性能だった。だが、ゲシュペンスト・MK-Ⅲに乗っているブリット達からすれば、脅威には程遠い性能しかなかった。

 

「ふんッ!!」

 

「!?!?」

 

リバイブ(K)の装甲にゲシュペンスト・MK-Ⅱのメガビームライフルは完全に無効化され、メガ・プラズマステークの一撃でガードした両腕ごと粉砕され爆発四散する。

 

「確かに弱いな。テスラドライブを搭載しているだけか?」

 

ツインマグナライフルを避けきれず、爆発するゲシュペンスト・Mk-Ⅱを見てR-2のコックピットでライが怪訝そうに呟いた。

 

「確かにそんな風に思えますね」

 

ヒュッケバイン・Mk-Ⅲが中破したので、ノーマルのゲシュペンスト・MK-Ⅲに乗り込んでいるラトゥーニがライの言葉に同調すると、キョウスケとカイからの警告の意味を込めた通信が全機に繋げられた。

 

「本命は別の部隊かもしれないですね。カイ少佐」

 

「ああ。俺もその可能性を考えている、各員。敵機の応援、増援に備え慢心せず対応せよ」

 

弱いと連呼するカイ達にラミアは内心複雑な物を抱いていた。

 

(シャドウミラーの本隊がこうもあっさりとやられるとは……やはりあちら側と同じでハガネは強い)

 

決してゲシュペンスト・MK-Ⅱの部隊は弱くない、だがそれを上回る戦力をハガネが有しているのだ。ゲシュペンスト・MK-Ⅱよりもはるかに性能が高い、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ、そしてヒュッケバイン・MK-Ⅲを主力として量産しているこちら側の世界はラミア達の世界よりも遥かに戦力が充実し、技術も向上していた。それがシャドウミラーの本隊のゲシュペンスト・Mk-Ⅱがろくに抵抗も出来ず撃墜されている理由だった。圧倒的な戦力差によって、シャドウミラーのゲシュペンスト・MK-ⅡはハガネのPT隊が出撃してから、20分と経たず殲滅されてしまっていた。

 

「敵機殲滅完了、アサルト1からスティール2へ、敵機の増援はあるか?」

 

『スティール2からアサルト1へ敵の増援部隊、 本艦へ向けて急速接近中ッ! 特機の反応ありッ! 繰り返す、特機の反応ありッ!』

 

キョウスケの要請から数秒と経たずエイタからの警告が広域通信で繋げられ、ハガネとキョウスケ達の進路を塞ぐように再びゲシュペンスト・MK-Ⅱの部隊が上空から降り立った。

 

「なんだ、虎と龍ッ!?」

 

「おいおい、マジか……あれ超機人って奴じゃないのか?」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅱの後に地響きを立てて着地する金色の龍と白銀の虎――それは中国のLTR機構の博士、エリ・アンザイから聞かされていた超機人の特徴を全て満たしていた。そして更にその上空に2体のPTが出現し、更なる混乱が戦場に広がった。

 

「馬鹿なッ!? 何故あれが……」

 

「あれは……そんなありえない」

 

「リュウセイがテストしてたアルブレードなのか……?」

 

フライトユニットを装備したグレーのPT――それはリュウセイがテストしていたR-1の量産試作機、アルブレードに酷似していたからだった……。

 

 

 

 

第34話 宇宙の龍/大地の鬼神 その7へ続く

 

 




ゲシュペンスト・MK-Ⅱは前座、百鬼帝国の龍王鬼、虎王鬼とオウカがこのステージのボスになります。次回はメイン戦闘開始になります。新たな百鬼衆の龍王鬼、虎王鬼との戦いがどんな物になるのか、そこを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第34話 宇宙の龍/大地の鬼神 その7

ゲッタービジョンで頑張りました。
2時間で1万文字強、過去最速の執筆完了です。

龍王鬼と虎王鬼との戦いをお楽しみください。


第34話 宇宙の龍/大地の鬼神 その7

 

存在しないテスラドライブを搭載したゲシュペンスト・MK-Ⅱの部隊に続き、まだ試作段階のはずのアルブレード、そして金色の龍と銀色の虎の登場には流石のキョウスケ達も困惑を隠せなかった。

 

『ラトゥーニ、アルブレードは確か3機しか製造されていない筈だよな?』

 

「はい、あの機体はリュウセイが乗った物を含めて、3機しか製造されていません。そのうちの2機は今も、月のマオ社でアルブラスター、アルガードナーの試験機として運用されています……つまりリュウセイが乗ってたアルブレードは完全なワンオフ、3機とも別々に改造されているので同じタイプのが2機も存在する訳が無い」

 

量産型Rシリーズのデータ取りにゲシュペンスト・MK-Ⅲを使い、そのデータを反映され、日々改造されているアルブレードがここに存在する訳が無いと断言した。

 

『ではマオ社から試作機のデータが流出した可能性は?』

 

『ないとは言い切れんが、可能性は限りなく低いです、キョウスケ中尉』

 

データの流出はどれほど厳重に警戒しても、完全に無いとは言い切れない。だが、その上でライは可能性は限りなく低いと断言した。

 

『ライの言う通りだ。それに、あれはこの世に存在している筈のない機体だからな』

 

『…存在している筈が無い? どういう事です?』

 

イルムの言葉にキョウスケがそう尋ねる。するとイルムは部隊を展開したまま動かないゲシュペンスト、金色の龍、銀色の虎、その上空のアルブレードに酷似したPTにグルンガストのコックピットから視線を向けた。

 

『細かい所は色々違うようだが、肩のビームキャノン、背中のテスラ・ドライブ……あれは試作機じゃない。エルシュナイデだ』

 

『え、エルシュナイデ!? それって確か、量産型R-1と別のコンセプトのレイオスプランのッ!?』

 

アルブレードはその低コストながら優れた性能から、R-1を模したアルブレード、そしてアルブレードとは別のコンセプトで製造される量産機エルシュナイデの2種に派生する予定の機体だ。

 

『最も……マオ社じゃ、まだ図面を引いてる最中だがな』

 

『現時点で 完成しているはずのない機体、か……どうやら、幽霊はゲシュペンストだけでは無いらしい』

 

マオ社が現在アルブレード、アルブラスター、アルガードナーの3体の量産型Rシリーズとヒュッケバイン・MK-Ⅲの開発に全てを注いでいる。量産型Rシリーズが完成した後に作る予定の更なる廉価版のエルシュナイデの建造はまだ始まってもいない。だからこそ、存在している筈の無い機体とイルム達は告げたのだ。

 

『それにあの龍と虎も半端じゃねえ』

 

『ああ、もしかするとあれがアンザイ博士の言っていた超機人なのかもしれない』

 

小高い丘の上に陣取っている金色の龍と銀色の虎――それがもしかしたら超機人なのかもしれないとカイ達が警戒していると広域通信から少女の声が響いた。

 

『……ラト、 聞こえているなら返事をなさい』

 

親しみさえ感じられるラトと言う愛称。その呼び方にラトゥーニの過去を知る全員が、エルアインスに乗っているパイロットがスクールの関係者だと悟った。

 

『ラトゥーニを知っているだと? まさか……!?』

 

「オウカ姉様……ッ!!」

 

カイ達が動揺しているとラトゥーニがエルアインスのパイロットの名を呼んだ。オウカ……、オウカ・ナギサ――スクールの最年長であり、ラトゥーニが姉と慕っていた人物が敵として立ち塞がった事にハガネのPT隊には少なくない衝撃が走った。

 

『久しぶりね、ラト。 貴女が生きていてくれて嬉しいわ』

 

「お、オウカね、姉様……どうして……」

 

広域通信であるから全員にオウカの声が届いているが、その柔らかく、甘い声は本当に妹に会えて嬉しいと感じている姉の声だった。その声を聞けば、本当にオウカがラトゥーニの事を思っていると言う事がひしひしと伝わってきた。

 

『貴女ともっと話をしたいけど、少し待っていてね。ダイテツ・ミナセ。私の声が聞こえていたら返答を求めます』

 

しかし突然その声から甘さと柔らかい響きが消え、冷徹とも取れる声が戦場に響いた。

 

『ハガネ艦長。ダイテツ・ミナセ中佐だ。ワシになんのようだ』

 

『条約に基づき、アラド・バランガを保護していた場合、彼の身元とラトの身柄の引渡しを要求します』

 

条約に基づいての捕虜の引渡し要求――だがテロリストであるオウカ達の要求を呑む必要は本来はない、それでもダイテツはオウカの要求に返答を返した。

 

 

『確かに本艦でアラド・バランガは保護した』

 

『それならばアラド・バランガの引渡しを、それさえ呑んで頂けるのならば今回は私達は撤退します』

 

アラドが生きていると聞いて声に喜色が混じったオウカは、アラドさえ引き渡してくれるのならば撤退するとまで口にした。だがダイテツ達はその要求を今は飲めない状況にあった。

 

『だが、アラド・バランガは現在月で彼の身元を引き渡す事は出来ない』

 

アラドは確かに保護されていた、だが今は月にいるから引渡しが出来ないとダイテツが返答を返すと、オウカの怒りに満ちた声が響いた。

 

『そうやって人の心をもてあそぶのですね、連邦は――そうやってラトも騙しているのですか?』

 

『間が悪かった。今はハガネにはいないと言うだけで、アラドは生きている』

 

『いいえ、私はもう信じません。この場にいないと言う事は私達の話を聞くために、拷問をしているのでしょう。許しません、私の弟を傷つけ、妹を騙している貴方達を私は決して許さないッ!!』

 

「違う……! アラドはちゃんと生きてるッ! 私と話もした! 拷問なんてされてもないッ! ダイテツ艦長達はちゃんとアラドの事を考えてくれてるッ!」

 

自分の居場所であるハガネのクルーを陥れるような発言をするオウカにラトゥーニが怒りに満ちた声で叫んだ。だがオウカには、その言葉は届かなかった。

 

『……可哀想なラト。自分が騙されていると判らないのね……思い出して、ラト。スクールで私達と過ごした日々の事を……』

 

ラトゥーニの事を心から案じているのは判る。だがそこにラトゥーニの意志を酌むという気持ちは無く、自分だけが正しいと言うのを押し付けてくるオウカ。それは愛玩動物かのようにラトゥーニを思っているのか、決して正しい姉妹愛と言う物ではないようにキョウスケ達には感じられた。

 

『本当の自分を思い出して。 そして、私と一緒に帰るのよ、母様とゼオラが貴女を待っているわ、私がずっと貴女を守ってあげる。だから私の所に帰ってきて』

 

「嫌……ッ!」

 

オウカの慈愛に満ちた声をラトゥーニは明確な拒絶の言葉で返した。

 

「私は……帰らない。騙されているのは、姉様達の方……」

 

『何を言うの。貴女は母様やメイガスに育てて貰った恩を忘れたの? 私達と一緒に過ごした日々を忘れてしまったの?』

 

オウカの悲しそうな声にラトゥーニは胸を痛めたが、それでも自分の意志をしっかりと口にした。

 

「……皆の事は忘れていない……」

 

『なら、何故? 何故私を拒むの? 私が貴女を守ってあげると言っているのに……』

 

「……私はスクールで本当の自分を失ってしまった……そして、それをジャーダやガーネット、リュウセイ、シャイン王女……ハガネやヒリュウ改の皆のおかげで取り戻せたの」

 

アードラーとアギラに捨てられ、そして死を待つ事しか出来なかったラトゥーニを助けてくれたジャーダとガーネット、そして自分の友達になってくれたシャイン、そして守ってくれたリュウセイ……自分の事を見守ってくれたハガネとヒリュウ改の皆が自分を取り戻させてくれたのだとラトゥーニは語る。

 

「だから、姉様…… 私は貴女達の所へ帰らない……そして、私が姉様達に掛けられた呪縛を解く……ッ!」

 

今も操られているオウカ達を、スクールの呪縛から解き放つとラトゥーニは、心からオウカの事を案じながら口にしたが、オウカにはその言葉は届かなかった。

 

『それは私の台詞よ、ラト。私の言う事が聞けないなら、力ずくでも貴女を連れて帰る。そして、私と母様の手で本当の自分を思い出させてあげるわ』

 

オウカの返答は自分こそが正しい、ラトゥーニは間違っていると言う物だった。

 

「オウカ……姉様ッ!」

 

自分の言葉が届かなかった……その事を悲しみ、オウカの名を叫ぶラトゥーニ。

 

『冗談じゃない! それじゃ、スクールの時と 同じじゃないか!!』

 

『その通りだ、本当にラトゥーニの事を思うのならば、彼女の言葉に耳を傾けたらどうだ!』

 

そしてオウカのやり方はスクールと変わらないと怒鳴るブリットとカイに向かってオウカの怒声が響いた

 

『お黙りなさいッ!! 部外者である貴方達に何が判ると言うのですッ!!? 私とラトの絆を知らぬ貴方達に口を挟まれるのは心外ですッ!! 姉妹の関係に割り込まないで「いやあ、そいつは違うんじゃねえかあ? オウカ」……龍王鬼さん』

 

ヒートアップするオウカを窘めるように、1人の男の声が響いた。

 

『おう、ハガネの艦長さんよ。1個聞きたいんだけどなあ、あー……アド? とか言うのは生きてるのかい?』

 

『アラド・バランガは生きている』

 

『男として二言は?」

 

『無い』

 

ダイテツの言葉を聞いて、龍王鬼と呼ばれた鬼は高らかに笑った。

 

『オウカ、こいつの言っていることは真実だ。アドは生きてるぜ、この場にいなくてもなッ!! この俺龍王鬼はその言葉を信じるッ!』

 

『な、何を根拠にッ!』

 

『はっ! それはこいつが男だからだッ!! その声を聞けば俺には判るッ!! こいつは嘘を言ってねえ、んでもっとラ……ら……『ラトゥーニよ、龍』おう! そうだ。ラトゥーニだ! こいつの言う事も間違ってねえな!! つうか、あの糞婆、あのみょうちくりんなコンピューターは俺は嫌いだッ! 人間を組み込まなきゃうごかねえなんて、欠陥品にも程があるぜッ!!』

 

『な、何を言うのですか!? 貴方は母様とメイガスを罵倒するのですか!?』

 

味方同士の筈なのに口論をしているオウカと龍王鬼――攻撃するチャンスなのは全員が判っていたが、その間に割り込めない不思議な感覚があった。今邪魔をすれば全員が死ぬ――そんな異様な空気があった。

 

『罵倒? 事実だ! 敵は倒す、それでいい。だからこそ、ああいう奴は好かん! 眼前の敵は全て倒すッ! 俺様の道を妨げるならぶっ潰すッ!! それが俺様龍王鬼様の生き様よッ!!!』

 

金色の龍から響く男の声はどこまでの真っ直ぐに、しかしそれでいて邪悪な響きを伴ってキョウスケ達に向かって放たれる。声だけだと言うのに、威圧される。凄まじい闘気とでも言うべき物が、キョウスケ達に叩きつけられていた。

 

『流石龍ね、あたしの旦那様はやっぱり格好良くて最高だわッ!』

 

『へっ、たりめえだッ! 俺様は何時だって格好良くて強いのさッ! ラトゥーニ、それにオウカよ、お前らの言う事はどっちも正しい! こういう時は、勝った方が更に正しいッ! さぁ、てめえらの意見を通したいのなら、戦って相手を打ち倒せッ! 野郎共! 戦闘開始だぁッ!!!』

 

金色の龍が雄叫びを上げると同時に崖の上から飛び立つ、そしてそれに付き従うようにゲシュペンスト達も動き出し再び戦いの幕が切って落とされるのだった……。

 

 

 

 

金色の龍と白銀の虎、そして存在しない筈のエルシュナイデとゲシュペンスト・MK-ⅡとハガネのPT隊の戦いは乱戦を極めた。金色の龍はグルンガスト、白銀の虎はゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタム、そしてエルアインスはラトゥーニの駆るゲシュペンスト・MK-Ⅲをそれぞれの敵と定め、ゲシュペンスト・MK-Ⅱの軍団はキョウスケ達の足止めをするように部隊を展開していた。

 

『ッ!?』

 

「ちいッ! 分断策かッ! キョウスケは俺と一緒に包囲網をぶち抜くッ! ライ! ラミアッ! お前達は俺達が抉じ開けた包囲網を抜けてラトゥーニのバックアップに回れッ!  イルムとブリットは何とか踏み止まれッ! すぐに合流するッ!」

 

『『了解ッ!』』

 

『了解したでありんす、カイ少佐』

 

敵機の戦力が未知数の為。分断されたままでは不味いと矢継ぎ早に指示を飛ばすカイ。だが、簡単に合流させないと言わんばかりに次々にゲシュペンスト・MK-Ⅱが戦場へと降り立つ。

 

「馬鹿なッ! 一体何機ゲシュペンスト・MK-Ⅱが存在すると言うんだッ!」

 

「落ち着け大尉ッ!!」

 

ハガネのブリッジで次々に現れるゲシュペンスト・MK-Ⅱを見て動揺と恐怖を隠せずにそう叫ぶテツヤにダイテツの一喝が飛ぶ。

 

「動揺した事で状況は変わらん! 冷静に対処せよッ! 副砲、対空、対地ホーミングミサイル照準ゲシュペンスト・MK-Ⅱッ! カイ少佐達の突破口を開くのを支援せよッ!」

 

「り、了解ッ! 副砲、対空、対地ホーミングミサイル、照準ゲシュペンストMK-Ⅱ! てぇッ!!」

 

高速で動き回る龍と虎にはハガネの攻撃は遅すぎる。かと言って、乱戦状態の中で主砲を撃てば友軍を巻き込む。それを踏まえ、ダイテツは小径の副砲とミサイルで分断する為に現れ続けるゲシュペンスト・MK-Ⅱの撃破を優先した。

 

「伍長はヒリュウ改とギリアム少佐達のシャトルへ通信を続けろ! 運が良ければそれが好機となる!」

 

「りょ、了解! こちらスティール2! ドラゴン2ッ! 応答せよッ!」

 

衛星上のヒリュウ改と打ち上げ途中の輸送機の両者に地上でしかも戦闘中のハガネが通信が繋がる可能性は決して高くない、むしろ低い部類になるだろう。だが、もしも通信が繋がれば、オウカとラトゥーニの戦闘だけは止める事が出来る可能性がある。

 

「ぬっぐう! 主砲へのエネルギーラインカット! E-フィールド維持に回せ!」

 

出現を続けるゲシュペンスト・MK-Ⅱからの攻撃はついにハガネを襲いだし、ハガネの船体を大きく揺らす。倒しても、倒しても出現を続けるゲシュペンスト・Mk-Ⅱを見て、冷静になれとテツヤを一喝したダイテツでさえもその背中に冷たい汗が流れるのを感じずには居られなかった。それでも艦長である己が動揺する訳には行かないと、己を鼓舞し、内心の恐怖を押さえ込みクルーへの指揮をとり続けるのだった……

 

 

 

 

「へえ、お前中々やるなあ? 名前は?」

 

高速で空を駆け、地面に着地したと思ったら、尾による叩きつけと爪による引き裂き攻撃に噛み付き、ほぼゼロ距離からの火炎放射と多彩な攻撃を繰り出す――金色の龍。自身と同じ名を冠する百鬼獣 龍王鬼のコックピットの中で龍王鬼は感心したように自らの攻撃を全ていなしたグルンガストに接触通信を繋げた。龍王鬼にとって強い敵を倒す事こそ誉れ、敵であれ強い相手には敬意を払う。それが四邪の鬼人 龍王鬼の流儀だ。だから気軽くイルムにその名前を尋ねた……だがイルムの返答は計都羅喉剣による鋭い一閃だった。

 

『人に名前を尋ねる時は自分からって教わらなかったかッ!』

 

計都羅喉剣の一撃で龍王鬼を弾かれ、空中で体勢を立て直しながら龍王鬼は高らかに笑った。

 

「そいつは礼を欠いていたな。謝るぜ人間、俺様は百鬼帝国の将。四邪の鬼人 龍王鬼つうもんだ。改めて聞くぜ、てめえの名は?」

 

『イルムガルト、イルムガルト・カザハラだ』

 

「おう、イルムガルトだな。覚えておくぜ、てめえが死んでもなぁッ!!」

 

『ファイナルビームッ!!!』

 

大口を開けて放たれた龍王鬼からの火炎放射をファイナルビームで相殺するが、凄まじい爆発に龍王鬼、グルンガストの両方が弾き飛ばされ、龍王鬼は背中から墜落し、グルンガストは背後の石壁に叩きつけられた。

 

「龍王牙ッ!!」

 

『ブーストナックルッ!!』

 

だがその程度で龍王鬼とイルムの戦いが終わる訳が無い、態勢を立て直すよりも先に龍王鬼の口から放たれた牙とグルンガストのブーストナックルがぶつかり、互いを弾き飛ばす。

 

「おらぁッ!!」

 

『ぐうっ! 舐めんなッ!!』

 

追撃の龍王鬼の尾の打撃がグルンガストの脇腹を穿つが、グルンガストは自分を殴りつけた尾を脇に抱えて、そのまま崖に向かって龍王鬼を叩きつける。

 

「がっ! はははははぁッ!! 楽しいなあ! ええ、イルムガルトッ!!」

 

『生憎だが、俺は戦いを楽しいなんて思った事は1度もねえ!』

 

「なんだなんだ、楽しめよッ! イルムガルト! これほど楽しいもんはねえだろッ!!」

 

『それなら、楽しんだまま死になッ! 龍王鬼ッ!!』

 

「はっはーッ!!! その殺気最高だッ!!」

 

計都羅喉剣と龍王鬼の鋭い爪が何度も交錯する。互いに互いを殺そうとしているが、それが紙一重で急所を避ける。イルムと龍王鬼のパイロットとしての腕はほぼ互角、特機同士の激しい戦いで周囲の地形を変えながら、イルムと龍王鬼の戦いはより激しさを増して行った。

 

「くっ! ぐっあっ!?」

 

『ふふ、ほらほら、どうしたの、ぼ・う・や?』

 

「ちえいッ!! い、いなっ!? がぁッ!?」

 

『ほらほら、鬼さんこちら♪ 手のなる方へ♪』

 

虎王鬼とブリットの戦いはイルムと龍王鬼との戦いとは打って変わって、完全にブリットが虎王鬼に翻弄されていた。

 

(目の前にいる……それなのになんて遠いんだッ!)

 

攻撃が当たったと思っても虎王鬼の姿は掻き消え、全く違う方向から放たれる一撃に確実にゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムはダメージを蓄積させていた。

 

『ふふふ……ほーら。あたしはここだよ?』

 

「ッ!!」

 

耳元から聞こえた声に振り返ると虎王鬼が大口を開けて迫っているのを見て、咄嗟にその牙を受け止めるゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムだが、その瞬間に伸びた尾の横殴りの一撃に弾き飛ばされた。

 

「くそッ! どうなってるんだッ!」

 

殴られた衝撃と叩きつけられた衝撃で額を切ったブリットはヘルメットを投げ捨て、パイロットスーツで血を拭うが、あふれ出す血でその視界が徐々に真紅に染まり、視界が狭まっていく。

 

『ふふ、面白かったわよ。でもそれも終わり、さよならね』

 

軽やかにゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムの周りを駆ける虎王鬼、視力を殆ど失ったブリットはその動きが見えなかった。それが焦りと恐怖を呼び起こす、次の攻撃で確実に自分の命を獲りに来る――それを直感で感じたブリットはシシオウブレードを鞘に戻し、目を閉じる。両目が見えていてもその姿を追いきれないのならば、視界をあえて閉じた。

 

(気配を切るッ!)

 

目で見るから幻惑される。それならば、視界は必要ない。一見無謀とも取れるブリットの行動だったが、研ぎ澄まされた集中力、そしてリュウセイほどでは無いが、L5戦役、そしてゲッター線に触れたブリットの念動力も半年前と比べれば遥かにパワーアップしていた。

 

「そこだぁッ!!!」

 

『ッ!!』

 

上空から飛び掛って来た虎王鬼の一撃を下から上に切り上げるようにシシオウブレードを振るい、弾き飛ばす。そしてそれと同時に前に踏み込み、横薙ぎの一撃を叩き込んだ。それは周りの人間には何にも無い場所に攻撃を振るったように見えたが、シシオウブレードの切っ先に引きずり出されるように虎王鬼が出現し、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムの前に居た虎王鬼は陽炎のように消え去った。

 

『ふふ、あたしの術が破られるなんて驚いたね。あたしは四邪の鬼人 虎王鬼。ぼうやの名前は?』

 

「ブルックリン、ブルックリン・ラックフィールド」

 

『そうブルックリンだね。あたしの術を破って見せてくれたんだ、そう簡単に倒れるなんて無様な姿は見せないでよねッ!』

 

虎王鬼が吼えるとその姿が4体に増え、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムの周りを駆け回る。その音は確かにブリットの耳に届いていた、だが目を閉じているブリットには4体に増えている虎王鬼の姿は見えず、自分の回りを駆ける悪意だけを感じ取っていた。

 

「見えたッ!」

 

『っ! とっと、どうも完全にあたしの術は通用しないみたいだね、ふふ、面白くなってきたわね』

 

自分の術を初見で見破り、そして反撃さえして見せたブリットに虎王鬼は淫靡で、そして邪悪な笑みを浮かべ、舌で自身の唇を舐め再びゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムに向かって虎王鬼を走らせる。

ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムに向かって虎王鬼を走らせる。

 

『さあ、ラト…… 私の所へ来なさい、私は貴女を傷つけたくないのよ』

 

傷付けたくないと言っておきながら、G・リボルバーでラトゥーニのゲシュペンスト・Mk-Ⅲを攻撃する姿は完全に異質だった。言葉と行動が全く合致していない

 

(やっぱりオウカ姉様は……)

 

その姿を見てラトゥーニは確信した。まだオウカがリマコンから脱せられていないのだと、あのアギラ・セトメを母と呼ぶ事でおかしいと感じていたが、今の動きを見てそれは確信へと変わった。

 

「姉様こそ、私と一緒に来て、そうすれば、本当の事が判るから……ッ!」

 

反撃……と言うよりも威嚇の意味合いが強いメガビームライフルによる射撃を放ちながら、必死に説得を試みるラトゥーニ。

 

『可哀想……それほどまでに 再教育されてしまっているなんて』

 

ビームライフルの熱線をかわすと同時に恐ろしい速度で切り込んできたエルアインスに、殆ど反射的にビームソードを振り上げるゲシュペンスト・MK-Ⅲ。メガプラズマカッターとビームソードの火花が散る。

 

「くうっ!?」

 

その光の明暗に一瞬視界を奪われたラトゥーニ、その隙に蹴りが叩き込まれゲシュペンスト・MK-Ⅲは大きく弾き飛ばされた。

 

(やっぱりブーストドライブッ!)

 

テロリスト達が使うリオン達に搭載されているASRSとブーストドライブ、それを完璧に駆使するオウカの戦闘技術は判っていた事だが、ラトゥーニの物よりも上だった。

 

「くっ! うあッ!?」

 

パルチザンランチャーを構えさせようとするが、クイックドロウのG・リボルバーの一撃がパルチザンランチャーの銃口に飛び込み、銃身を爆発させる。その衝撃に苦悶の声を上げるラトゥーニにオウカが再び優しい声を投げかける。

 

『でも、安心なさい。 私達があなたの呪縛を解いてあげる』

 

どこまでも優しいその声は確かにラトゥーニの記憶の中のオウカの物と同じだった……だがその言葉の中に本当の意味でラトゥーニを案ずる物はない、自分の独善的な、正義を押し付けるだけのオウカにラトゥーニは覚悟を決めた。

 

『ラト、貴女は自分の意思で戦っているのではない……それに……あなたでは私に勝てないわ』

 

だから自分に従いなさいと言うオウカの声を聞きながら、ラトゥーニは通常の――自分のモーションデータから別のモーションデータに切り替えた。

 

「シッ!」

 

『!? 動きが変わったッ!?』

 

バク宙の要領での爪先の蹴り上げによって、向けられていたG・リボルバーを蹴り飛ばし、立ち上がった勢いで拳を握りインファイトを仕掛けるゲシュペンスト・MK-Ⅲ。

 

「今度は私が助けるッ!」

 

『そんな、そんな動きはラトの動きじゃないッ!』

 

ラトゥーニが選択したモーションデータ……それはリュウセイのR-1のモーションデータだった。拳と蹴りを交えたPTを使った白兵戦、本来の射撃をメインにおいたラトゥーニの理詰めの戦闘パターンとは違う、荒々しささえ感じさせる行動にオウカは完全に混乱した。

 

『こんな事まで連邦は』

 

「違うッ! これはリュウセイの……私を助けてくれたリュウセイの物ッ! それを侮辱するのはオウカ姉様だって許さないッ!!」

 

飛び膝蹴りでエルアインスの手の中のメガ・プラズマカッターを蹴り飛ばし、着地と同時に足払いを仕掛ける、それを飛び上がることで回避するオウカだが、ラトゥーニの猛攻はより激しさを増していく。

 

『くっ! こんな……どうしてッ!?』

 

『逃がさんぞッ!』

 

『沈めッ!』

 

飛んで1度距離を置いて逃げようとした時、ゲシュペンストの包囲網を抜けたR-2のフォトンライフルとアンジュルグのシャドウランサーが放たれ、高度を取る事が出来ずゲシュペンスト・MK-Ⅲの飛び込みながらのライトニングステークの一撃を叩き込まれ、右腕が肘から拉げて完全にその機能を停止させる。

 

『そんな……ラトが私を上回るなんて……ッ!』

 

「今度は私がオウカ姉様を助けるッ!」

 

今のラトゥーニを突き動かしているのは、オウカを助けるという一念だった。それは、アギラとメイガスによって精神を操作されているオウカにはない、心から助けたいと願う心だった。そしてオウカを助けたいと願うラトゥーニの行動は更なる声を呼び起こした。

 

『姉さん! 俺は死んでないぞッ! 月で治療を受けてるッ! 姉さんッ! アギラの糞婆の言う事なんか聞いてるんじゃねえッ!!!』

 

『あ、アラド……?』

 

ヒリュウ改にはまだ合流していないと聞き、輸送機へのアプローチを続けた結果やっと繋がったハガネから、一方的だがアラドの叫びが戦場に木霊した。

 

『俺はひどいことなんかされてねえッ! ちゃんと助けて貰ってるッ!!!』

 

『あ、ああ……生きて? 連邦は……アラドを助け……うううっ!?』

 

アラドの叫び声が響く度にオウカの声が苦しそうなものになり、エルアインスの全身から力が抜けた。

 

「オウカ姉様、今助けるからッ!」

 

『ラミア、今だ。エルシュナイデを拘束する』

 

『了解した』

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲ、R-2、アンジュルグがオウカの乗るエルアインスを鹵獲しようとした瞬間。空から降り注いだ雷撃がラトゥーニ達の動きを止めた。

 

『う、ううう……あ、頭がッ!!!』

 

「オウカ姉様ッ!!!」

 

その雷撃でゲシュペンスト・MK-Ⅲの動きが止まった、その一瞬にも満たない時間で脱力していたエルシュナイデの全身に力が戻り、ラトゥーニの呼び声から逃げるようにエルアインスは戦闘区域から離脱して行くのだった……。

 

 

 

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅱも打ち止めになり、グルンガストとアルトアイゼンを相手にしていた龍王鬼、ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・Sカスタムとゲシュペンスト・リバイブ(K)を相手にしていた虎王鬼は徐々にだが、押され始めていた。だが龍王鬼と虎王鬼の顔に不安の色は無く、むしろ楽しくなってきたと言わんばかりに牙を剥き出しにして笑みを浮かべていた。

 

「なぁ、虎よ。こいつら思ったよりもやるぜ」

 

『そうね、少し油断していたかもしれないわね』

 

リボルビングステークとブーストナックルを喰らい吹き飛ばされた龍王鬼と、メガ・プラズマステークの連撃で白銀の毛が焦げ付いている虎王鬼のコックピットで2人は笑う。今回はあくまでヴィンデルの足止め依頼と、オウカの戦闘能力を確認する為の偵察だったが、ここまで強ければ手加減なんてする必要はないと判断したのだ。

 

「本気でやるか! 虎ッ!」

 

『ええ、そうしましょうか。舐められたまま、終わりなんてあたしも嫌だしね』

 

龍王鬼と虎王鬼の瞳が赤く輝き、2体が同時に吼える事で周囲に凄まじい雷の嵐を巻き起こした。その雷の中、虎王鬼をその爪で持ち上げ、上空を舞う龍王鬼を見て、グルンガストのイルムが叫んだ。

 

『逃げるのか? 大層なことを言っておいて、情けねえなあッ!』

 

「逃げるだと、馬鹿を言うんじゃねえッ! 顔見せのつもりだったが、本気で戦うって決めただけだッ! 虎行くぜぇッ!」

 

『ええ、ふふ。ここからは本気で戦いましょう? アースクレイドルには行かせない、だってこれから始まるんだもの、こんな序盤で貴方達に退場されたら面白くないでしょ? だから、もっと遊びましょう?』

 

好戦的な龍王鬼の雄叫びと意味深の事を言う虎王鬼の声が周囲に響き、凄まじい風と雷がハガネとハガネのPT隊を襲った。

 

「な、なんだ!? 何が起きている!?」

 

「さ、さっきまで快晴だったのにッ!」

 

「ぐっ、くくっ! 1度ハガネまで下がれ、吹き飛ばされるぞッ!」

 

PTでも吹き飛ばされるような暴風と雷にカイは1度下がる事を決断し、ハガネのPT隊がハガネまで下がる、

 

「回復してる!?」

 

「自己再生能力だとッ!?」

 

嵐の影響を全く受けていないところか、嵐の中でその傷を癒しているかのように受けた損傷を瞬く間に回復させる。

 

「滅神雷帝ッ!!」

 

『神魔必滅ッ!!』

 

龍王鬼達の叫びに呼応するかのように嵐は激しさを増し、その嵐の中で龍王鬼の胴体が展開し、その中に吸い込まれるように虎王鬼が消えていく……いや、変形しながら脚部のような形状に変形する。

 

「おいおい、まさかあいつら合体するとかいわねえよな……」

 

「イルム中尉、そのまさかのようです……ッ!」

 

龍と虎の状態でも、恐ろしいほどに強かった龍王鬼と虎王鬼がキョウスケ達の見ている前でその姿を変える。

 

「『邪念合一ッ!!』」

 

獣から人……否魔神へとその姿を変えた龍王鬼と虎王鬼が凄まじい光を放ちながら、キョウスケ達の前に降り立った。

 

「無敵龍鬼ッ! 龍虎皇鬼推参ッ!!」

 

『さぁ始めましょう? 楽しい楽しい戦いを?』

 

金色の鎧を纏ったように見える屈強な上半身とそこから伸びる両肩には盾を思わせる装甲とPTでさえも容易に引き裂くであろう鋭い鉤爪。そして上半身と同じく金色の鎧を纏った細身だが、猫科の動物を思わさせるしなやかな形状をした下半身をした魔神……龍虎皇鬼の咆哮が響き渡り、凄まじい雷鳴が辺りを眩く染め上げるのだった……。

 

 

 

第35話 宇宙の龍/大地の鬼神 その8

 

 




オリジナルボス登場、龍虎皇鬼の登場です、味方にスーパーロボットを増やすなら、敵にもスーパーロボットが必要ですからね! と言う訳で四邪の鬼人と名乗っている通り、龍・虎・朱雀・玄武の4つの四聖獣モチーフの2機で1体の超機人ならぬ、超鬼人なるものを考えて見ました。次回で宇宙の龍・大地の虎は終了で、また地上ルート、宇宙ルートで別の章に入って行こうと思います! それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


おまけ

龍王鬼

HP90000
EN450
運動性150
装甲1800

特殊能力
HP回復(小)
EN回復(中)


牙 ATK3000
爪 ATK3300
尾 ATK3500
龍王牙 ATK3800
龍王鱗 ATK4000
火炎放射 ATK4500




虎王鬼


百鬼帝国の将 四邪の鬼人 虎王鬼が乗る自身の名を冠した百鬼獣。白銀の体毛を持つ虎の姿を持つ特機。外見通りの俊敏な運動性と爪と牙を用いた白兵戦に加え、相手の五感に作用し、距離感や間合いを誤認させる幻惑能力を併せ持つ。龍王鬼を上半身、虎王鬼を下半身としと合体し、龍虎皇鬼と呼ばれる魔神形態と、虎王鬼を上半身、龍王鬼を下半身にした虎龍皇鬼への2種の合体形態を持つ。


HP90000
EN450
運動性180
装甲1700

特殊能力
HP回復(小)
EN回復(中)
幻術 最終回避率+10%+被ダメージ-8%


牙 ATK3200
爪 ATK3500
白虎葬爪 ATK4000






龍虎皇鬼

龍王鬼と虎王鬼が合体した魔神形態の百鬼獣。全身が金色に染め上げられ、腹部に虎王鬼の顔を持つ超巨大特機。龍の上半身から放たれる強烈な打撃と虎の下半身による縦横無尽な機動力、ハイパワーのヒット&アウェイを得意とする形態。武器は巨大な三日月刀――「邪龍剣」を持つが、基本的には拳と爪による近距離での白兵戦に特化している。

HP????(19万)
EN550
運動性220
装甲1900

特殊能力
HP回復(中)
EN回復(大)
分身(確率回避)


龍虎双掌 ATK3500
龍虎爆撃脚 ATK3800
邪龍剣 ATK4000
龍虎爪撃破 ATK4500
龍虎猛撃拳 ATK5800
邪龍剣・逆鱗斬 ATK6500






虎龍皇鬼

龍王鬼と虎王鬼が合体した魔神形態の百鬼獣。全身が白銀に染め上げられ、腹部に龍王鬼の顔を持つ超巨大特機。龍虎皇鬼と打って変わり、どっしりと構え、龍王鬼の翼が変形した盾を駆使した防御特化の形態。しかし攻撃力が低い訳ではなく、鬼術による中~遠攻撃を自在に操り、バリアや念力と言った多彩な攻撃方法を持ち、打撃を駆使する龍虎皇鬼よりも遥かに厄介な相手である。

HP????(24万)
EN550
運動性120
装甲2400

特殊能力
HP回復(中)
EN回復(大)
結界 全ての攻撃の被ダメージを10%ダウン


氷虎 ATK3200
雷龍 ATK3500
龍鱗 ATK3800
牙龍双牙 ATK4400
龍皇月破 ATK5400


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第35話 宇宙の龍/大地の鬼神 その8

第35話 宇宙の龍/大地の鬼神 その8

 

先ほどまで快晴だったそれが黒く重い雷雲に覆われ、そこから降り注ぐ漆黒の雷電――それらを呼び出したのは目の前の金色の巨大な百鬼獣。メカザウルスよりも、そしてメテオ3をも超える圧倒的な存在感を放つそれに全員が唾を飲み込んだ。その存在感と威圧感はアストラナガン、そしてジュデッカに匹敵していた・

 

『がっはははははッ!! さぁ人間共ッ! ここからが本番だぜッ! 俺様と虎の無敵龍鬼ッ! 龍虎皇鬼を打ち倒せるもんなら、打ち倒して見せなぁッ!!!』

 

『龍、それは酷よ? 死なないで足掻いて見せろ位にしてあげた方が良いわ』

 

『お? そうか、なら精々死なないで足掻いて見せなぁッ!!!』

 

龍虎鬼皇がパイロットである龍王鬼の叫びに呼応するように口を開けて雄叫びを上げる。その咆哮は周囲を覆っていた暗雲を吹き飛ばし、歴戦のキョウスケ達でさえも足を竦ませる。生理的、いや、生きている生き物が当然のように持つ死にたくないと言う本能――それを掻き立てる咆哮にキョウスケ達の闘志が一瞬かき消された。目の前の龍虎皇鬼の脅威を、その強さを感じ警戒していた糸が強制的に断ち切られた。

 

『龍虎双掌ッ!!!』

 

「が、がはぁッ!?!?」

 

龍王鬼の雄叫びにも似た叫び声と、大地を踏み砕く踏み込みの音。その直後に凄まじい轟音とイルムの絶叫が響き渡り、アルトアイゼン達の頭上をグルンガストの巨体がボールのように吹き飛び、崖に背中から突っ込み瓦礫の中に消えるグルンガストを見て、正気に返ったカイの怒声にも似た指示が飛んだ。

 

『散開ッ! 1箇所に留ま……『オラアッ!!!』 ぬおおおおッ!!!』

 

だがその指示も最後までキョウスケ達の耳に届く事は無く、地面を破壊しながら飛び込んできた龍虎皇鬼の巨大な拳とゲシュペンスト・リバイブ(K)の豪腕が音を立ててぶつかる。

 

『ぬっ、ぬううッ!』

 

『がはははッ!! 良いぜッ!! 良い拳だぁッ!!』

 

豪腕同士がぶつかるが、吹き飛んだのはゲシュペンスト・リバイブの方だった。電極と拳を潰され、火花を散らすゲシュペンスト・リバイブ(K)。だが龍虎皇鬼にはダメージらしいものがあるようには見えなかった。

 

『行くぜッ!!』

 

足の筋肉が盛り上がり、追撃に駆け出そうとしているのを見たキョウスケはアルトアイゼンを龍虎皇鬼に向かって走らせる。

 

『やらせんッ!! ステークッ! 撃ち……なッ!?』

 

リボルビングステークが突き刺さる瞬間に龍虎皇鬼の姿が残像を残して掻き消え、リボルビングステークが空を切った。

 

『惜しい、本当に惜しいぜ? だが踏み込みが遅いッ!!』

 

『がぼっ!?』

 

アルトアイゼンを背後から蹴り上げる龍虎皇鬼。その一撃で背部のスラスターやブースターが纏めて拉げ、アルトアイゼンの最大の武器である加速力は完全に潰された。

 

『はっはぁッ!! 死ぬなよ、赤いカブトムシッ!!!』

 

龍虎皇鬼の両手にエネルギーが溜まるのを見るまでもなく、ゲシュペンスト・MK-ⅢやR-2が手にするビームライフルの熱線が龍虎皇鬼へと迫る。

 

『き、利いてない!?』

 

『馬鹿なッ!?』

 

確かに直撃した筈――だが改良されたメガ・ビームライフルや、パルチザンランチャーの一撃はその体表に弾かれて完全に無効化されていた。

 

『うふふ、そんな豆鉄砲じゃ龍虎皇鬼に傷1つつける事も出来ないわよ?』

 

『そういうこったッ!! 俺達を倒したければ、もっと魂を込めて打ち込んできなぁッ!!!』

 

再び放たれた咆哮にライとラトゥーニの動きが止まったが、カイとブリットだけでその咆哮にも怯まず龍虎皇鬼へと立向かっていた。

 

『リミッター解除ッ!! ぶち抜けッ!!』

 

『一意専心ッ! 狙いは1つッ!!』

 

周囲を歪めるほどの電圧を放つメガ・プラズマステークと念動力の刃でコーティングされた刃の一撃。それはアルトアイゼンにトドメを刺そうとしていた龍虎皇鬼の背中と右腕に命中し、龍虎皇鬼をたたらを踏ませた。

 

『おおッ! 良い踏み込みだ、褒めてやるぜッ!!!』

 

『『なッ!?』』

 

間違いなく渾身の一撃だった。だが、龍虎皇鬼を倒すには火力が全く持って足りておらず。裏拳の一撃でゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムは右腕を大破させられ、そのまま崖に叩きつけられ、背中から崩れ落ち、ゲシュペンスト・リバイブは回し蹴りを叩き込まれ、両腕でガードしたが大きく弾き飛ばされる。

 

『ファントムフェニックスッ!!!』

 

拳が再び構えられるまでの僅かな隙に上空のアンジュルグの放ったファントムフェニックスが龍虎皇鬼へと向かった。

 

『ぬるいッ!!!』

 

『そんな……馬鹿なッ!?』

 

龍虎皇鬼はファントムフェニックスに自ら両腕を突っ込み、炎をかき消してファントムアローをその手に掴んでいた。

 

『おらよ、返すぜッ!!!』

 

『うあッ!?』

 

投げ返されたファントムアローがアンジュルグの右肩ごと翼を貫き、アンジュルグは真っ逆さまに墜落し砂煙の中に消えた。

 

『お? もう終わりか? なんだつまら……『まだだッ!!!』ッ!!! 良いねえ、その強い闘志……これだから戦いはやめられないッ!!』

 

ブースターを失い、自慢の加速力は見る影も無くなったアルトアイゼンだが、それでも残されたブースターで加速したアルトアイゼン――キョウスケの捨て身のリボルビングステークの一撃は龍虎皇鬼の腕と脇の間で挟み込むようにして受け止められた。

 

『ば、馬鹿な……』

 

『もうちょい鍛えなおして出直して来なッ!! おらぁッ!!』

 

『ぐ、うぐああああああ――ッ!!!』

 

腕を挟まれたまま投げ飛ばされ、右腕を肘からねじ切られ再び地面に叩きつけられたアルトアイゼンのカメラアイから光が消えた。龍虎皇鬼が出現して僅か5分――たったそれだけの時間でハガネのPT隊の殆どは沈黙してしまったのだった……。

 

 

 

 

 

ハガネのブリッジにいたテツヤは目の前の光景を現実として受け入れられないでいた。

 

「そんな馬鹿な……カイ少佐達が……殆ど何も出来ずに……」

 

戦力的にはハガネだけでも、他の連邦軍と比べれば頭1つ……いや、頭2つは飛びぬけた戦力を持っていた。それなのにたった1機の特機に壊滅寸前に追い込まれていた、その現実を受け入れられず、茫然自失のテツヤ、いやテツヤだけではない、ブリッジのクルーはただ1人を除いて戦意を完全に喪失させていた。

 

「E-フィールド解除! 全エネルギーを主砲に収束ッ!!」

 

「か、艦長……」

 

「復唱せんかぁッ! テツヤ大尉!! お前は何の為にこの場にいるッ!!」

 

思わず逃げ出したくなるようなダイテツの一喝。それはテツヤ達だけではない、ブリッジのクルーに再び戦意を取り戻させていた。

 

「い、E-フィールド解除! ハガネの全エネルギーを主砲に収束!」

 

「りょ、了解!!」

 

E-フィールドが解除され、主砲にすべてのエネルギーが集束される。

 

「しゅ、主砲の砲身に焼き付き発生! この一撃で主砲が大破すると思われますッ!」

 

「構わん! どの道あの鬼を撃退しない事にはワシらに道はない!」

 

ここでハガネは轟沈する訳にはいかず、そしてキョウスケ達もまたここで死んではいけないのだ。その為には生き残る事が最優先だとダイテツは判断を下した。

 

『まだだッ!』

 

『ほーこの戦力差を前にしても挫けないかッ! 良いぜ良いぜ、遊んでやる……『ファイナルビームッ!!!』 がはッ! はははははッ!! まだ立ち上がってくるか! イルムガルトぉッ!!!』

 

そして不屈を訴えているのはダイテツだけではない、ハガネのPT隊のパイロットは誰1人諦めてはいなかった。

 

『ぺっ! 当たり前だぁッ! 計都羅喉剣ッ!!!』

 

最初の一撃で胸部が殆ど潰されたグルンガスト。ファイナルビームの照射で完全にお釈迦になり火花を散らしているが、それでもイルムの闘志は折れておらず、計都羅喉剣を手にして龍虎皇鬼へと切りかかる。

 

『はははっ!! 良いぜ、最高だ!! 邪龍剣ッ!!』

 

肩と足の装甲が弾け、それが合体した巨大な三日月刀を手に龍虎皇鬼とグルンガストがそれぞれの獲物を振るう。

 

『どうしたどうした! 気合の割には踏み込みが足りてねえぞ!!』

 

『うるせえ! ヒーローは負けないんだよッ!!』

 

一号打ち合うたびにグルンガストの巨体が大きく弾かれる。それでもイルムの心は折れない、不屈を吼え龍虎皇鬼へと立向かう。

 

『は、気合だけじゃ……っと? 『おらあッ!!』 ぐっ!? はははッ!! 良いぜ良いぜ、これくらいのハンデは必要だわなッ!!』

 

大きく振りかぶった龍虎皇鬼の邪龍剣にゲシュペンスト・Mk-ⅢとR-2のフォトンライフルとメガビームライフルの狙撃がぶつかり、その軌道を僅かに逸らし、その隙にグルンガストの一撃が龍虎皇鬼の脇腹を穿った。

 

『究極ッ!! ゲシュペンスト……キィィイイイイイイクッ!!!!』

 

『おおッ!?』

 

邪龍剣にゲシュペンスト・リバイブ(K)の最高加速から繰り出された一撃が叩き込まれ、咄嗟に邪龍剣を縦にしてその一撃を受け止めた龍虎皇鬼。だが上空からの一撃に必然的に両腕を上げる姿勢になり、ブースターが焼きつくのも覚悟で加速を続けるカイからの絶叫にも似た指示が飛んだ。

 

『今だぁッ!!! 畳み掛けろぉッ!!!!!!』

 

『お、おああああああああーーーーーッ!!!!!!!』

 

だがそのカイの指示が飛ぶよりも先にブリットもキョウスケも動き出していた。

 

『全弾くれてやるッ!!! 持って行けえッ!!!!!』

 

残された脚部、そして腰部のブースターで強引にアルトアイゼンを走らせ、ヒートホーンで龍虎皇鬼の胴体に深い切り傷をつけると同時に跳弾を覚悟でスクエアクレイモアを打ち込む。

 

『捨て身かッ!! ははッ!! 随分と思い切りが良いなッ!!!』

 

『がっ……ブリットォッ!!!!!』

 

ボロボロのアルトアイゼンはクレイモアの跳弾に耐え切れず、龍虎皇鬼のストレートを叩き込まれ全身から火花と煙を散らしながら吹き飛ぶ。だがそれでも、クレイモアの至近距離からの全弾射出は龍虎皇鬼の胴体に深い傷を残していた。

 

『う、うお、うおおおおおおおおおおおおッ!!!!!』

 

『ははぁッ!! 良い踏み込みだなぁッ!!!』

 

シシオウブレードを左腕に構え、ブースターを全開にし体当たりの要領で突っ込みながら振るうゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタム。その一閃を受けると同時に龍虎皇鬼は剣を振るい、ゲシュペンスト・リバイブ(K)とゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムを同時に弾き飛ばす。

 

『どうしたどうしたこれで『ファントムフェニックスッ!!!!』だからぬるいって……『計都羅喉剣ッ!! 暗ッ! 剣ッ!!! さぁぁああああつッ!!!!』

 

ファントムフェニックスを隠れ蓑にし、残されたエネルギー全てをつぎ込んだグルンガストの一撃が龍虎皇鬼の胴を捉えた。それはカイ、キョウスケ、ブリットと執拗に攻撃を続けた箇所だった。同じ所に連続して攻撃を喰らい、龍虎皇鬼の胸部が爆発し、その姿を大きく弾き飛ばした。

 

「今だぁ! 主砲てぇッ!!!!!」

 

『う、うおおおおおおッ!?!?』

 

PT隊と龍虎皇鬼の距離が開いたと同時に、主砲を爆発させながら放たれたハガネの渾身の一撃が龍虎皇鬼を飲み込んだ。

 

『や、やったか……』

 

『これで倒しきれてなかったら打つ手がもう……』

 

この場にいる全員が持てる全てを出し切った――これで倒せていなかったら終わりだと全員が感じたその時。煙が弾け飛び、そこから飛び出した白銀の閃光がハガネの船体の横を通り過ぎた。

 

「う、おおおッ!? こ、高度が維持出来ない!」

 

「つ、墜落するッ!!!!」

 

「そ、総員対衝撃防御ぉッ!!!!!」

 

爆発を繰り返し墜落するハガネ。そして煙の中から姿を見せたのは巨大な盾を構えた白銀の巨人の姿……。

 

『マジか……』

 

『また変形したッ!?』

 

『こ、ここまで……か……』

 

金色の龍神から、白銀の獣人へと変貌を遂げていた無傷の龍虎皇鬼の姿の姿にキョウスケ達の脳裏にあまりにも大きい、絶望の2文字が過ぎるのだった……。

 

 

 

 

 

流石にハガネの主砲の直撃を受けるのまでは容認できず、強引に龍虎皇鬼から、虎龍皇鬼へと転身し、ハガネの主砲から身を守り、反撃した所で虎王鬼は龍王鬼に苦言を呈した。

 

「ちょっと気を抜きすぎたんじゃない?」

 

『がはははッ! 何、あの闘志に惹かれてなッ! すまんすまんッ!』

 

「もう、しょうがないわね」

 

夫である龍王鬼の気質を知っている虎王鬼はそれ以上龍王鬼を責める事は無かった。それ所か、この飽くなき闘争心こそが虎王鬼が龍王鬼を愛した理由なのだから、それを責める事などあるはずはないのだ。

 

「さて、どうする?」

 

『もう足止めは十分だろ、うん。これであーキルモールにハガネは参加出来ない。これでいいだろ?』

 

少しやりすぎた感はあるが、再起不能になるまえなのだからヴィンデルからの足止めの依頼は十分だろうと龍王鬼と虎王鬼は判断した。

 

「ふふ、楽しかったわ。今度は最後まで戦いましょう」

 

『楽しかったぜ! またやろうぜッ!!』

 

これ以上戦えば本当に殺してしまうと判断し、龍王鬼と虎王鬼も虎龍皇鬼への合体を解除して、再び龍と虎の姿になり、また会おうと告げてその場を後にした。

 

「見逃された……のか」

 

「そうみたいですね……だがこの有様では……」

 

「ああ、キルモールには参加出来ないかもしれないな、参ったぜ」

 

亡霊のように現れるゲシュペンスト・MK-Ⅱと存在しない機体アルブレード、そしてハガネの全戦力をつぎ込んでも掠り傷をつける事すら出来なかった百鬼帝国の将軍龍王鬼と虎王鬼、そしてその搭乗機の龍虎皇鬼の圧倒的な強さにハガネは完全に行動不能に追い込まれていた。

 

『各機はその場に待機、回収機を向かわせるので、回収機と共にハガネへと帰還せよ。その後本艦は応急処置を終えた後、ケイハム基地へと向かう』

 

墜落し、煙を上げているハガネから響くダイテツからの命令を聞きながら、キョウスケ達は満身創痍と言う言葉がぴったりな状態の己の機体の中で回収機が訪れるのを待つ。

 

「次は勝つ……」

 

「ああ。そうだな、次は負けない。絶対にな」

 

しかしその心は折れておらず、再び龍虎皇鬼を対峙した時は必ず勝つと闘志を燃やしていた。確かにキョウスケ達は敗れた、だがその心までは敗れていないのだった。

 

「楽しかった?」

 

『おうさ、楽しかったぜ!! 良い気分だ、今日は良い酒が飲めそうだな!!』

 

楽しそうに笑う龍王鬼に虎王鬼は良かったわねと返事を返し、アースクレイドルへと帰還して行った。

 

「おう、今戻ったぜ。ユウキ、カーラ」

 

「ただいま、ハガネは大分攻撃しておいたからキルモールには参加出来ないと思うわよ」

 

格納庫で出迎えに来ていたユウキとカーラに手を上げて今戻ったぜと言う龍王鬼と、今回の戦闘の結果を告げる虎王鬼。だが2人の反応は芳しくなく、龍王鬼と虎王鬼は首を傾げた。

 

「あら? どうかしたかしら? もしかしてやりすぎたかしら?」

 

「それかあれか? お前らを連れて行かなかった事にでも不満があったか?」

 

虎王鬼は足止め依頼の割りにやりすぎたのが問題だったのか? と尋ねる。

 

龍王鬼はユウキとカーラを連れて行かなかったのが問題だったのか? と尋ねる。

 

ユウキとカーラの返答は2人にとって想定外のものだった。

 

「朱王鬼と名乗る鬼が、オウカとゼオラを連れて「何時だ! 何時の話だッ!!!!」……30分くらい前の……」

 

「ちいっ!! くそがぁッ!」

 

30分前に連れて行かれたと聞いて龍王鬼は怒りに満ちた怒声を上げて、地面を蹴りあっという間に姿を消した。

 

「お仲間では?」

 

「冗談じゃないわ、朱王鬼と玄王鬼はあたしも嫌いなのよ。間に合ってくれればいいんだけど……」

 

姿を消した龍王鬼の行き先を心配そうに見つめ、虎王鬼は間に合って欲しいと告げてユウキとカーラに視線を向けた。

 

「2人もおいで」

 

「え、えっと? それはそのどういう意味なんですか?」

 

付いて来いと言われ、カーラが困惑した様子で尋ねる。すると虎王鬼はごめんなさいと呟いてから2人の頭を優しく撫でた。

 

「あたしと龍王鬼が貴方達を守ってあげる。貴方達も自分が自分でなくなるとか嫌でしょう?」

 

「自分が自分で無くなる?」

 

「……朱王鬼は洗脳や心を砕く専門家なの、アースクレイドルにはいないから大丈夫って思ってたんだけど……出撃の前にゼオラや貴方達に術を施しておくべきだったわね。ごめんなさい」

 

龍王鬼と虎王鬼は鬼ではあるが、その気質から鬼の中では異質だ。四邪の鬼人と呼ばれるのは龍王鬼、虎王鬼、そして朱王鬼と玄王鬼――しかし、その気質と性格の違いから決して相容れない存在だった。朱王鬼の術に囚われては並の人間では、それを解除する事が出来ず、下手に解除すれば2度と元の姿に戻る事はない。だから間に合ってくれと虎王鬼は心から祈るのだった……。

 

「ゼオラ? ゼオラ!」

 

「アネサマ?」

 

「ゼオラッ! ゼオラどうしちゃったのッ!?」

 

「ヘンナアネサマ……ワタシはナンニモナッテナイヨ?」

 

「貴方、ゼオラに何をしたの!!」

 

「別に何も? ただ矮小な人間が下らない悩みを持っているようだから、それから解き放って上げただけだよ。君も救ってあげよう、オウカ・ナギサ」

 

アギラの部屋から聞こえてきたオウカの悲鳴と何の感情も感じられないゼオラの声。それを聞いた龍王鬼はアギラの部屋の扉に蹴りを叩き込み、扉を粉砕すると同時に部屋の中に飛び込んだ。

 

「朱王鬼ぃッ!! てめえ、随分と面白いことをしてくれたなあッ!!!」

 

オウカの頭に手を伸ばしていた紅い導師服の男の腕を握りつぶさんばかりに握り締め、無理やりオウカの前から引き離す龍王鬼。

 

「なんだ、もう戻ったのか? 龍王鬼。駒は駒らしく制御しなければイレギュラーを起す。そうだろ? お前が出来ないのなら僕がやってやろうと思っただけじゃないか、何をそんなに怒っているんだい?」

 

「ふざけんなよッ! てめえッ!!!」

 

瞳から光を失い、何の感情も込められていない声でオウカの名を呼ぶゼオラと、そんなゼオラを抱き締めているオウカをその背中に庇って龍王鬼は怒声を上げる。

 

「こいつらは俺の部下だッ! 俺が守るべき部下だッ! よくも勝手に手を出してくれたなッ! 元に戻しやがれッ!!」

 

「痛いな、龍王鬼。無理なことを言う物じゃない、僕の術はそう簡単に甘いものじゃない。判っているだろう?」

 

襟首を掴んで持ち上げられた優男風の朱王鬼はやれやれと肩を竦めるのを見て、龍王鬼は朱王鬼を壁に向かって投げつけた。

 

「アギラぁッ! てめえ、この糞婆ッ!!!」

 

「ひ、ひいいいいッ!!!!」

 

朱王鬼への怒りはアギラへと飛び火し、龍王鬼の叫び声にアギラは腰を抜かしてその場にへたり込んだ。

 

「てめえの娘なんだろ!! なんで止めなかった!」

 

「わ、ワシの娘なんだから何をしても怒られる……ぎゃああッ!!!」

 

自分の所有物なのだから何をしてもいいと言ったアギラの腕を踏み砕き、そのまま足を振り上げ胸に前蹴りを叩き込んだ。ボールのように吹き飛び壁に叩きつけられたアギラの胸部は陥没し、血反吐を吐いて痙攣する死ぬ一歩手前のアギラを一瞥し、龍王鬼は涙を流すオウカと光を失った目で虚空を見つめているゼオラを抱きかかえる。

 

「いぎ、いぎゃああッ!」

 

「うるせえ!! わめくな、糞婆ッ!!! アギラ、朱王鬼。覚えてろよ、てめえ……絶対落とし前を付けさせてやるからな」

 

怒りに満ちた視線で朱王鬼を睨む龍王鬼だが、朱王鬼は微笑むを崩すことはない。

 

「僕はアラドとか言う人間が生きていると聞いて、錯乱したから何とかしてくれと言われたからそうしただけだ。お前がちゃんと処置していれば、こんな事にはならなかったのさ」

 

龍王鬼が悪いという朱王鬼、その言葉に龍王鬼は大きく舌打ちし、血反吐を吐き痙攣しているアギラと笑い続ける朱王鬼に背を向けて龍王鬼はその場を後にする。

 

「ゼオラを元に戻したければ、お前の弟か妹を殺すがいい、それだけがお前が妹を取り戻す手段だ。どうしても辛ければ僕の元へ来るといい、君の心も砕いてあげよう」

 

朱王鬼の嘲笑うような言葉を聞きながら龍王鬼は虎王鬼の元へ走る。

 

「げぼ……ごぷ」

 

「死んだら治すくらいに思っていたけど好都合だね」

 

血反吐を吐き痙攣しているアギラの頭を掴み、無造作に引き摺りながら朱王鬼もその場を後にする。

 

「すまねえ、すまねえな、オウカ。許してくれ、俺様が悪かった」

 

ゼオラの名を呼んで涙を流すオウカと、オウカの腕の中で何の光も宿していない瞳でオウカの名を呟くゼオラの姿に龍王鬼は拳を強く握り締めた。興が乗って龍虎皇鬼まで持ち出してハガネと戦った。それが姉妹の絆を引き裂いた……その事に龍王鬼は心を痛め、これをやった朱王鬼にも、朱王鬼に許可を下したアギラにも激しい怒りを抱いた。

 

(どうせあいつは死なない)

 

確実に心臓を破壊したことを確信していたが、イーグレットと仲の良い朱王鬼にアギラは救われるだろう。その時にアギラへの落とし前を付けさせてやると龍王鬼は決意し、自分の部屋へと飛び込んだ。

 

「虎ぁ! ゼオラを見てくれ! まだ間に合うか!」

 

「龍! あの外道の仕業ねッ!!」

 

「ああ、頼む! まだ間に合うかもしれないッ!!」

 

朱王鬼の術が完全にゼオラに馴染む前ならば元に戻せるかもしれない……そんな淡い希望を抱き、龍王鬼は抱きかかえていたゼオラとオウカをベッドの上に寝かせて虎に頼むと叫ぶのだった……。

 

 

 

キョウスケ達が龍虎皇鬼に敗れ去った頃。赤黒い光に照らされた不気味な世界に声が響いた。

 

「……刻が……近い……世界の……修正……新たなる……創造……新たなる……純粋な……生命体を」

 

幾重にも折り重なった男性の声が響き、闇の中から異形の影が姿を現した。

 

「……進化の光……再び現れた……英知の源……我らがより進化する為に……必ずや……進化の光を……」

 

無数に浮かぶ様々な光景――その中の1つ、小惑星に偽装したアルバトロス級を異形は見つめる。

 

「進化を果たし……『扉』を開き、我の依り代となる物を……捧げよ」

 

この異空間を潜む異形はキョウスケ達の世界に現れるだけの肉体がない、肉体が無ければ進化の光を手にすることは出来ない。故に異形は自分の寄り代となるべく肉体を捜し求める。

 

「もう1つのルーツを抹消……そして、新たなる種子を……そして更なる進化を……」

 

異形が虚空に視線を向けると影の中から小柄な少女の影が現れた。

 

「……承知いたしましたの……私が調べて参りますので……ご心配なく……」

 

少女の影から現れる鬼のような異形の影――宇宙を進むヒリュウ改。しかしその行く先には人智を越えた異形が待ち構えているのだった……。

 

 

第36話 進化の光を求める者 その1へ続く

 

 




次回は宇宙ルートから入って、地上ルートの話にはいって行こうと思います。このルートも当然オリジナルの要素を入れていくので、どんな展開になるのかを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第36話 進化の光を求める者 その1

第36話 進化の光を求める者 その1

 

 

キルモール作戦の発令から36時間――アフリカのアースクレイドルを目指している各連邦軍の部隊から届けられる報告は決して吉報とは言い難い物だった。

 

「思ったよりも苦戦しておりますね」

 

「ああ、やはり錬度不足が響いているな」

 

最新鋭機であるゲシュペンスト・MK-Ⅲを使いこなし切れていないと言うのが苦戦の原因だった。キルモール作戦は予定していた日程よりもかなり繰り上げられて実行されていた、部隊同士の連携やゲシュペンスト・MK-Ⅲの熟練訓練の不足が大きく響いていた。

 

「ハガネのダイテツ中佐から連絡です。メインモニターに回します」

 

「だ、ダイテツ! 何があったッ!!!」

 

オペレーターからの報告にレイカーとサカエはやっと吉報を聞く事が出来ると思ったのだが、モニターに映し出された血染めの包帯を巻いているダイテツの姿にレイカーは司令席から腰を上げて何があったのかと叫んだ。

 

『百鬼帝国の将を名乗る2人組みに襲撃を受けた。ハガネのPT隊はほぼ壊滅、ハガネもエンジンをやられた。応急処置の後ケイハム基地へ向かう』

 

疲れ切ったダイテツの声にレイカーとサカエに最悪の予想が脳裏を過ぎった。

 

「ダイテツ、殉職者は……」

 

『いや、幸いにも死亡者はいない。だが状況は決して良いとは言えないな、戦闘データは衛星通信で送信する』

 

死亡者がいないとは言ったもののそれに順ずる、もしくはそれに近い状況であると言うのがダイテツの覇気の無い声から伝わってくる。

 

『キルモール作戦に関しては状況を見て、続行か離脱かを判断する。期待に応えられず申し訳無い』

 

「いや、良くやってくれた。ケイハム基地にはこちらから連絡を入れておく、補給や治療の準備をさせておこう」

 

『すまないな。ケイハム基地に到着したら再び連絡を入れる』

 

その言葉を最後にハガネからの通信は途絶え、レイカーは尻餅をつく様に司令席に腰を下ろした。

 

「まさかダイテツ中佐達があそこまで追詰められるとは……」

 

「やはり今回の作戦には無理があったのだろうな」

 

無茶な日程で計画されている作戦だが、ダイテツならば、L5戦役を駆け抜けたキョウスケ達ならば大丈夫という考えが合った事は否定出来ない。だがこうしてハガネが轟沈寸前、そしてPT隊も壊滅寸前という報告を聞いてレイカーの顔にも強い焦りの色が浮かんだ。

 

「ハガネの進路予想はケイハム基地からムータ基地だな」

 

ダイテツの性格を考えれば、ケイハム基地で補給と修理をある程度進めたら限界だと判断するまではキルモール作戦に従事しようとするだろう。

 

「は、現在ムータ基地方面にはリー・リンジュン中佐とシロガネが向かっております」

 

「……ギリアム少佐達の輸送機とシロガネとヒリュウ改に緊急通信を、シロガネをムータ基地へ固定。リュウセイ少尉達はマオ社で機体を受理後、カチーナ中尉達と共にムータ基地へ向かうように通達を」

 

レイカーはさきほどのダイテツの報告を聞いて、キルモール作戦の失敗を悟った。連邦軍の最大戦力であるハガネが行動不能寸前となった事で、ジュネーブの総本部の作戦は大前提から崩された。それならば、作戦前提から大幅に変更をさざるを得ないとレイカーは決断を下した。

 

「……良いのですね?」

 

「ああ。ハガネをダイテツ達を失う訳には行かない」

 

元々無謀な作戦だったのだ。ここで無理をさせてハガネを失うだけならば良い、だがダイテツや優秀なハガネのクルーを失う訳には行かないとレイカーはハガネを無事に伊豆基地に帰還させる為に、同じスペースノア級のシロガネを護衛につけて伊豆基地へと帰還させる事を決断したのだった……だがレイカーの計画は宇宙からの来訪者によって、その予定を大きく崩される事となるのだった……。

 

 

 

 

 

 

輸送機で宇宙へと向かっているリュウセイ達は伊豆基地から送られて来た通信にその顔を歪めた。

 

「ハガネが轟沈寸前で、ハガネのPT隊も壊滅寸前ってどういう事なんだよ、隊長ッ! ギリアム少佐ッ!」

 

キルモール作戦はかなり無茶な作戦ではあったが、それでもハガネとキョウスケ達ならばと考えていたリュウセイはヴィレッタの報告に声を荒げた。

 

「百鬼帝国の将軍に襲撃を受けたらしいわ。龍と虎の特機が合体した超巨大特機を前に壊滅寸前に追い込まれたらしいわ」

 

龍と虎の特機と聞いてリュウセイとエクセレンの脳裏を過ぎったのは中国で採掘されている超機人の存在だった。

 

「まさか、百鬼帝国が超機人を手に入れたってことじゃないわよね? ギリアム少佐」

 

「それについては違うそうだ。中国の採掘現場に百鬼帝国は出現していない」

 

一国の運命を変えるとまで言われた超機人。それがキョウスケ達の前に立ち塞がったとエクセレン達は考えたのだが、そうではなく、純粋に百鬼帝国の戦力だったらしいが、それを聞いても安心出来る訳が無かった。

 

「くそ、そんなにも百鬼帝国は強いって言うのかよ……」

 

「怪我人とかは?」

 

「……酷い打撲を負っている者が何人かいるそうだけど、命には別状はないみたい。今はケイハム基地で治療と機体の修理を行う予定だそうよ」

 

死傷者がいないと言う事に安堵したエクセレンとリュウセイだが、状況は決していい物ではないと言うのは明らかだった。

 

「隊長。この状況でもホワイトスターの調査に行くのか?」

 

「今の段階では調査に行く予定よ。でも、状況次第ではこの予定も変えざるを得ないわね」

 

ホワイトスターを手にしても、地球のハガネや連邦軍が壊滅しては意味が無い。最悪の場合ホワイトスターの調査を中断して、リュウセイ達と再び地球に降下する必要があるとギリアムとヴィレッタは考えていた。

 

「なんにせよだ。まずは、ヒリュウ改と合流して、マオ社へ向かう。R-1の事やアラドの事もあるしな」

 

キョウスケ達の事は心配だが、まずは地球へと持ち帰るR-1達の方が重要だとギリアムは言う。試作機のアルブレード、そしてヴァイスリッターでは戦力的に不安があると言うことだ。焦って地球に帰って、足を引っ張るようなことになってはならないのだ。

 

「アラドで思い出したけど、あいつ大丈夫かな?」

 

ハガネからの緊急通信で一方的にだが、自分が生きていると姉に告げていたアラドだが、回収され撤退していく姉の乗った機体を見て落ち込んでいるのを思い出したリュウセイがそう尋ねる。

 

「うーん、精神的にはかなりタフみたいだけど……心配よね」

 

捕虜という扱いなのでブリーフィングには参加出来ないアラドは部屋で待機している筈だが、血の繋がりは無いと言え義姉が敵として出現したことに少なくない衝撃を受けている筈だ。

 

「そうね。ランデブー・ポイントまで時間が掛かるのなら、少し部屋から出してあげたらどうかしら?」

 

「そうだな、合流予定時間まで1時間以上ある。アラドを部屋から出してやるか……」

 

ブリーフィングは終わったからアラドを部屋から出してやろうとギリアムが席を立った時、輸送機の窓に赤い影が入り込んだ。

 

「ゲシュペンスト・MK-Ⅲ? おかしいわね。まだ合流予定時間まで大分あるはずなんだけど……」

 

「待ってくれ隊長。ゲシュペンスト・MK-Ⅱの姿もある。あれは……」

 

「ラッセルの奴ね……でもあの様子……ただ事じゃないわよ」

 

輸送機の窓から見えるゲシュペンスト・Mk-ⅢとMK-Ⅱを見てエクセレンは眉を細めた。

 

「確かに……まるで、いやまるで何て言葉は必要無いな」

 

「ええ、どう見ても戦闘の後でそのままこっちに合流しに来たって感じね」

 

一瞬リュウセイ達を過ぎったのはヒリュウ改が当たっていると言う行方不明部隊の捜索だったが、それでは説明出来ないほどのフル装備をしているのを見てリュウセイ達もその顔を引き締めた。

 

『こちらオクト1だ。ランデブー・ポイントまでの護衛に来た。最悪の場合に備えてギリアム少佐達は機体に搭乗してくれ』

 

そしてそれはカチーナの固い声で確信へと変わった……護衛に来たと言う言葉と機体に搭乗してくれと言う通達。良く見ればゲシュペンスト・MK-Ⅲの装甲はあちこち凹み、カートリッジホルダーやプロペラントタンク等も既に空になっているのが見て取れる。

 

「どうも宇宙も大変なことになってるみたいね」

 

「そのようだな……念の為に機体へ搭乗するぞ」

 

「「了解」」

 

ランデブー・ポイントまではまだ1時間以上時間が掛かる、それなのにカチーナとラッセルの2人が護衛に来た。それは地上と同じ、いや下手をすれば地上よりも遥かに激しい戦いが繰り広げられていると言う証なのだった……。

 

 

 

 

 

カチーナとラッセルに護衛され、ヒリュウ改に辿り着いたリュウセイとエクセレンはアラドを連れてヒリュウ改のブリーフィングルームに訪れていた。

 

「皆さん、ご無事で何よりです」

 

良かったと笑みを浮かべるレフィーナと、固い表情をしているタスク達を見て、ギリアム達は今ヒリュウ改が厳戒態勢だと言うのを一目で悟った。

 

「護衛を送っていただき感謝します。レフィーナ艦長、早速で悪いのですが、一体何があったのですか?」

 

「先日からアーチンや行方不明になった宇宙軍の機体による襲撃を受けているのです。既に聞いていると思いますが、人造人間らしき物が乗っている機体です」

 

伊豆基地から出立する前に報告されていた人造人間らしき物が搭乗した機体に襲われていると聞いてギリアム達は眉を顰めた。

 

「襲撃は受けていないと聞いておりましたが……」

 

「ランデブー・ポイントに向かい始めたと同時に襲撃を受け始めましてね。これはいかんと護衛を送り出したのですよ……それで、そちらの彼が例の?」

 

ショーンの鋭い視線に射抜かれたのか、アラドがびくりと身体を竦めて沈黙する。普段は飄々としているショーンだが、やはり戦闘が続いていると言う事もあり気が立っているのかとギリアム達は思っていたのだが、急に柔らかい笑みを浮かべた。

 

「君のお姉さんはどんなタイプの女性ですかな?」

 

「……はい?」

 

「いえいえ、ダイテツ中佐から話は聞いていたのですが……どんなタイプの女性なのかと気になりましてね。それでどんな女性なのですかな? 出来れば容姿などを教えていただけると嬉しいのですがね」

 

急に自分の義姉の容姿を尋ねてくるショーンにアラドがどうすれば良いのか? という助けを求める視線をリュウセイ達に向けた。

 

「もう副長ったら、変わってなかっちゃったり致しましちゃいますの事ですわ」

 

突然ラミアの真似をして変な口調で喋り出したエクセレンにブリッジの中に奇妙な空気が広がる。

 

「え……えっと?」

 

「……少尉。その喋り方は?」

 

あまりに奇妙すぎる敬語にレフィーナは首を傾げ、ショーンは苦笑いを浮かべる。アラドは小さくぷっと吹き出してしまっていたのだが、それを見てエクセレンは満面の笑みを浮かべてんふふっと笑った。

 

「義姉さんの事を言われてむっとしたかもしれないけど、副長なりのコミニケーションだったりしちゃったりするのよね」

 

「エクセレン少尉、もしかしてラミアの口調移ってない?」

 

「んふふ、あの子の口調って結構癖になる楽しさなのよね」

 

ブリッジの重い空気を払拭する為の悪ふざけだったが、これが実に効果を発揮していた。

 

「ラミア? 誰でしょうか?」

 

「あ、ウチのチームのニューフェイスなんです」

 

にこにこと笑うエクセレンが中心になって、話の流が大きく変わり始める。

 

(なるほど、上手いな)

 

(ムードメイカーっと言うのは伊達ではないか)

 

たった一言で場の空気を変えた。普段はおちゃらけた仮面を被っているが、エクセレンはやはり頭の回転が速い。ラミアの口調を使う事で、警戒心を緩めさせ、そしてラミアの事を紹介する。場の空気と話の流れを強引にエクセレンは変えていたのだ。

 

「名前から察すると女性の方のようですな。お会いするのが楽しみです」

 

「そりゃあもう、ボカン、キュッ、ボーンですよん♪」

 

「ボカン…ですか。それはそれは。数字の当て甲斐がありそうですな、アラド君のお姉さんもですが」

 

「お、オウカ姉さんにセクハラするのは駄目だからなッ!!!」

 

そしてエクセレンの悪ふざけにショーンも乗り、オウカがセクハラの対象になると思ったのかアラドが声を荒げた。

 

「ふふ、そうですかそうですか、オウカさんと仰るのですね」

 

「あ……」

 

「そんなに警戒しなくても結構ですよ。今のはちょっとしたジョークですからね? ショーン・ウェブリーです。ヒリュウ改の副長をやっております」

 

「あ、アラド……バランガです。その、すいません」

 

ショーンの自己紹介に続いてアラドが若干固い表情と口調で自己紹介をし、声を荒げた事を謝罪する。

 

「ふふ、緊張する事はありませんよ。あなたの事情はダイテツ中佐から聞いていますから、レフィーナ・エンフィールドです。ようこそ、ヒリュウ改へ」

 

「は、はあ……そのよろしくお願いします」

 

「完全に自由という訳には行きませんが、気を楽にしてくれて大丈夫ですよ」

 

ショーンのジョークと柔らかい笑みを浮かべるレフィーナにアラドは毒気が抜かれたのか、頭を下げながらレフィーナに視線を向けた。

 

(艦長さんが美人でおしとやか系なのか~なんか、軍艦って感じじゃないよなあ……でも美人だよなあ)

 

「お前、なに笑ってんの?」

 

柔らかい笑みを浮かべているレフィーナにアラドが見惚れていると、リュウセイになに笑ってんだ? と指摘されて頬が緩んでいたのに気付いたのかアラドは慌てて顔を上げて両手を振った。

 

「あ……いえ、何でもないッス。あ、それより誰か来たみたいですよ!」

 

助かったと言わんばかりに開かれたブリーフィングルームの出入り口に視線を向けるアラドの耳は、ほんのりと赤味を帯びていた。

 

(何焦ってるだろ?)

 

(何か焦ることがありましたでしょうか?)

 

(何故アラドは焦っているのだろうか?)

 

レフィーナに見惚れていた事を指摘された事に焦っているアラドをリュウセイ、レフィーナ、ヴィレッタは不思議そうに見つめた。

 

(おやおや、気が合いそうですなあ)

 

(お姉さんが好きなのかしらねえ。んふふ)

 

(……不憫な)

 

そしてレフィーナに見惚れていた事に気付き、ショーンはアラドに自分に似たものを感じ、エクセレンはからかうネタを見つけたと言わんばかりに笑みを浮かべ、ギリアムは2人のそんな視線に気づき、アラドに心の中で不憫なと呟いているのだった……。

 

 

 

ブリーフィングルームに入ってきたのは疲労の色が濃いが、それでも笑みを浮かべたカチーナ達の姿だった。

 

「よッ! 元気だったか? エクセレン、リュウセイ」

 

「わお、カチーナ中尉。そちらは相変わらずお元気そうで」

 

自分達の疲れを見せずに笑顔で対応するカチーナにエクセレンも笑みを浮かべて声を掛ける。こういう時の下手な気遣いは余計に相手に負担を掛ける、相手が自分の疲労を隠そうとしているのならばそれを察して口にするべきではないとエクセレンは判断したのだ。自分達もハガネの事、キョウスケの事が心配だが、合流してすぐそれを口にする訳には行かないと互いに互いを気遣ったのだ。

 

「皆さんもお久しぶりですね」

 

「ああ。 変わりなさそうだな、皆も」

 

オクトパス小隊の4人が元気そうに声を掛けてくるので、リュウセイも疲れている気配を感じ取ったが、それを口にせず、自分が胸に抱えている不安を隠して、その口元に笑みを浮かべた。

 

「チッチッチッ! 判ってないねえ、リュウセイ君」

 

「へ?」

 

しかしそれにタスクが待ったを掛け、指を左右に振った。タスクのその顔には自信に満ち溢れた色が浮かんでいた。

 

「この俺とレオナの間に漂う空気……何か違うと思わない?」

 

「違うって何が?」

 

レオナが冷めた目でタスクを見ているのだが、それに気付かないタスクと何を言われているか良く判っていない様子のリュウセイ

 

「か~っ判んないかねえ。 このツーと言えばカーな関係。そんでもって……」

 

タスクが饒舌に語り、レオナがタスクを止める為に動き出そうとした時、ヴィレッタが口を開いた。

 

「何を勝ち誇っているのかは判らないけれど、リュウセイの家にはラトゥーニが下宿してるわよ」

 

「「「「ふぁッ!?」」」」

 

無表情で爆弾発言をするヴィレッタにヒリュウ改のメンバーが素っ頓狂な声を上げてリュウセイに視線を向ける。

 

「え? なにそれ……どうやったの?」

 

「ん? いや、なんか寮が遠いとか、浅草から通うのはとかラトゥーニが言ってて、それならお袋が下宿したら? って言ってそれからだな。前に帰ったらラトゥーニの部屋があってめちゃくちゃ焦ったぜ」

 

あっははっと笑うリュウセイだが、タスクの顔は引き攣ったままである。

 

「ヴィレッタお姉様、爆弾発言も考えたほうがいいとおもうんのですのよ?」

 

「何か問題でも? 下宿しているって言っただけじゃない?」

 

ああ、駄目だこりゃと天を仰ぐエクセレンと何を言われたのか理解していない様子のヴィレッタ。

 

「なんかこう、嬉し恥ずかしイベントとか無かっただろうなッ!?」

 

ラトゥーニがリュウセイに想いを寄せているのはヒリュウ改の面子も知っていた。そんな2人が、母親がいたとしても1つ屋根の下。タスクは当然勘繰るが、リュウセイは訳が判らないと言う表情を浮かべた。

 

「なにが? 偶に買い物とか一緒に行くくらいだけど?」

 

あ、こいつ何も判ってねえ……その純粋無垢とも言える瞳を見て全員がそれを悟った。こいつが相手では、絶対にきゃっきゃうふふ見たいなイベントには辿り着けていないと悟った。

 

「いや、なんで気付かないんだよ。完全に外も内も埋められてるじゃねえか……」

 

「リュウセイ少尉が純粋すぎるんですかねえ……」

 

「つうか信じられねえ……」

 

「貴方のように下心剥き出しではないからですわ……ただちょっとあれですけど」

 

「ラトの奴が健気で、なんか見ててかわいそうになるときがあるんッスよねえ」

 

「もう少しリュウセイの……ってお前誰だ?」

 

何時の間にかヒリュウ改のメンバーの中に混じって、ラトゥーニの話に混ざっていたアラドにカチーナが誰だ? と尋ねる。

 

「アラド・バランガだ。ラトゥーニと同じスクールの生き残りで、つい先日捕虜として投降し保護された少年だ」

 

「アラド・バランガです。よろしくお願いするっス」

 

ギリアムの紹介で頭を下げるアラドだが、投降し保護されたという言葉にカチーナが眉を細める。保護されたと言うのならば判る、しかし投降したと聞けば連邦軍に敵対していたと言うのは容易に想像出来る。

 

「つい先日までテロリストの派閥に属していたのです」

 

「何だってッ!? じゃあ、敵じゃねえかッ! どうして そんな奴がここにいるんだッ!?」

 

テロリストの派閥に属していたと聞いてカチーナが声を荒げ、アラドを睨みつける。

 

「落ち着くんだ。カチーナ中尉、アラドは投降し、条約で保護されている。それにだ、ダイテツ艦長、リー艦長、そしてカイ少佐と私が彼なら大丈夫と判断して、同行させている。警戒するのは分かるが理知的に対応して貰いたい」

 

ギリアムの言葉にカチーナはチッと舌打ちする。

 

「レフィーナ艦長はどうなんだよ?」

 

「レイカー司令からの話も聞いておりますので、私も承諾しています」

 

自分よりも上官全員が承諾していると聞いても、カチーナは警戒の色を緩めない。行方不明の部隊に人造人間らしき物が組み込まれ、それと幾度とも無く戦闘をしていることもあり、気が立っていたと言うのもあった。

 

「スパイじゃねえって言う保障もねえんだろ? そう簡単に出歩かせていいのかよ」

 

「まあまあ、アラド君がそうじゃないのは私が保障するから」

 

「俺もアラドは大丈夫だと思うぜ、そんなに警戒しないでやってくれよ。カチーナ中尉」

 

エクセレンとリュウセイもアラドのフォローに入る。これだけの人数がアラドの身の潔白を信じているとなれば、流石のカチーナも閉口するしかないが、その目はアラドに向けられていて、今も警戒の色が浮かんでいる。暫くそうしているとカチーナは再びキッとアラドを睨んで口を開こうとした時にタスクがアラドを庇うようにカチーナの前に立った。

 

「別に良いんじゃないスか、隊長。前例だってあるんだし。上の方で納得してるんなら、細かい事は抜きって事で」

 

「前例ィ?」

 

前例があると言われてカチーナは殆ど無意識にタスクが庇っているアラド――いや、その後にいるレオナに視線を向けてあっと呟いた。

 

「ほら、今に始まった事じゃないっしょ?」

 

ハガネではDCに所属していたリョウトが、そしてヒリュウ改では統合軍に所属していたレオナがメンバーとして加わり、そしてL5戦役を戦い抜いた。そういう面ではアラドも似たような立場だと言われ、カチーナの警戒心が僅かに緩まった。

 

「あ、あの……どういう事なんです?」

 

カチーナ達は納得したようだが、アラドは何故急に警戒心が緩められたのかが判らず、蒸し返す事になると判っていたが、どういう事情なのかを尋ねた。するとレオナが苦笑いを浮かべて事情を説明した。

 

「……私はDC戦争中、コロニー統合軍のトロイエ隊に所属していたのよ」

 

「え!? トロイエって……コロニー統合軍親衛隊のッ!?」

 

アースクレイドルの中で軟禁に近い状態だったとしても、軍に対する知識は与えられていた。その中には当然、コロニー統合軍の情報もあった。トロイエ隊がコロニー統合軍の司令、マイヤーの親衛隊と言うのは勿論知っていた。

 

「ええ。それで、今はこのヒリュウにいる、戦後の特別措置だけでなく、自分の意思でね」

 

小さくふっと笑ったレオナにアラドは少し驚いた。トロイエ隊に所属していた軍人なのだから、戦後の特別措置を利用していたと思ったのだが、レオナは自分の意志でヒリュウ改に留まる事を決めたとアラドに告げたのだ。

 

「……旧教導隊の出身で、統合軍やDC側についたエルザム・V・ブランシュタイン少佐や……ゼンガー・ゾンボルト少佐……それにクロガネを率いたビアン総帥にゲッターロボと武蔵……L5戦役では陣営の垣根を越えて色んな人達が私達に協力してくれた。この艦やハガネはそういう不思議な縁がある艦なのよ、だから……あなたがここへ来た事には何か意味があると思うわ」

 

ハガネではなく、ヒリュウ改にアラドを預けたのはマオ社のラーダにカウンセリングを受けさせる為だけではない、アラドと似た境遇のレオナやリョウトに会わせる事で自分が何をしたいのかを考えさせるという意味合いがあった。

 

(意味……俺が何をしたいか)

 

レオナという自分に似た境遇の存在に出会い、そしてヒリュウ改とハガネのもつ奇妙な縁――それを聞いた上でアラドは自分が何をしたいのかというのに考えを巡らせた。

 

「そんなに焦る事はないわ、良く考えて、自分が何をしたいのかを考えればいいわ」

 

「そう言うことだ。焦って決断を下す事はない」

 

ヴィレッタとギリアムの言葉を聞いてアラドは拳を握り締めた。自分が何をしたいか、それに悩む必要なんて無かった。自分が何をしたいかと言うのは、既に判りきっていた。

 

「俺はゼオラとオウカ姉さんを取り戻したい。百鬼帝国みたいな所にゼオラもオウカ姉さんもおいておけないからッ!」

 

百鬼帝国、そしてアーチボルドに言いように使われる事になるであろうゼオラとオウカを取り戻したい。それが、アラドの願いであり、ハガネへと投降した理由だった。

 

「と言う事よ。家族を助けたいからっていう理由なら信用出来るんじゃないかしら?」

 

下手な理由よりも家族を助けたいと言うアラドの願いの方が確かに信用出来た。

 

「アラドとか言ったな、本気で家族を助けたいんだな?」

 

「うっすッ!!!」

 

カチーナの目を見て真っ直ぐに返事を返すアラド。その姿にカチーナは初めてアラドに向けていた警戒心を僅かに緩めた。

 

「良し、良い返事だ。本気で家族を助けたいって言うならあたしだって協力してやる。みっちり鍛えてやるぜ」

 

「よろしくお願いしますッ!!」

 

「気合があるのは十分だが、まだアラドを部隊の一員として運用する事は出来ない。マオ社でラーダ子女にカウンセリングを受けてからだ」

 

今からでもシュミレータールームに向かいそうなアラドをカチーナをギリアムが呼び止める。

 

「っとそうだったな、所で百鬼帝国ってなんだ?」

 

「そうだな、地球のハガネの現状況と一緒に説明するべきだな」

 

アラドの話の中に出てきた百鬼帝国についてカチーナが尋ね、ギリアムがハガネが現在陥っている状況と含めて百鬼帝国について説明しようとした時。ブリーフィングルームにブリッジのユンからの呼びかけが響いた。

 

『艦長、副長。ブリッジへ上がってきて貰えませんか?』

 

レフィーナとショーンにブリッジへ戻って来て欲しいと言う呼びかけにブリーフィングルームにいた全員の顔が険しい物になった。

 

「まさかまた行方不明の部隊の反応ですか?」

 

『いえ、航路上に奇妙なエネルギー反応があります、重力反応とゲッター線反応を感知しました』

 

「判りました。すぐに行きます、ギリアム少佐達も出撃の準備をお願い出来ますか?」

 

「勿論だ。アラドは悪いが一応営倉で待機していてくれ、行くぞ皆」

 

「「「「了解ッ!」」」」

 

重力反応とゲッター線反応があると言う報告を聞いて、ギリアム達も出撃準備をする為にブリーフィングルームを後にする。だがそこに待ち構えていたのは、ギリアム達が想像にもしない、超常の存在なのだった……。

そしてゲッター線反応と重力異常を感知したのはヒリュウ改だけではなかった。

 

「カーウァイ大佐、武蔵君。異常重力反応とゲッター線反応を感知しました。ヒリュウ改が向かっているようですがどうしますか?」

 

「ゲッター線反応? 武蔵、どうする?」

 

「行きましょう。初めてオイラがインベーダーと戦ったのは宇宙でした。もしもインベーダーが居るとなったら、ヒリュウ改が危ない」

 

ヒリュウ改が近づいているのならどうするか? と尋ねるカーウァイの問いかけに武蔵は即答で行くと返事を返した。

 

「……生き残りがいないとは言い切れないか、良し。私と武蔵で出る。お前達はこの場で待機」

 

もしもヒリュウ改がインベーダーと遭遇すれば、有益な迎撃方法が無いと判断し、アルバトロス級に待機する事を命じ、武蔵とカーウァイもまたヒリュウ改が調査に向かっている宙域へと出撃して行くのだった……。

 

 

 

第37話 進化の光を求める者 その2へ続く

 

 




インターミッション終了で次回はアインストとの戦いを書いて行こうと思います。後はおまえらは駄目だろって言うゲストも出して行こうと思います、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第37話 進化の光を求める者 その2

第37話 進化の光を求める者 その2

 

重力反応とゲッター線が感知された宙域にゆっくりと周囲を偵察しながらヒリュウ改が現れる。

 

「目標宙域に進入。ゲッター線反応は微弱ですが、重力異常値はやや増加傾向にあります」

 

「減速後、艦を固定。 ギリアム少佐達に出撃して貰って下さい」

 

ゲッター線反応は弱くなっているが、重力異常値が上昇していると聞いて、予定通りギリアム達に出撃要請を出すレフィーナ。

 

「副長、あれをどう見ますか?」

 

「ストーンヘンジですなぁ――、あれはイギリスにある筈ですがね」

 

ヒリュウ改の進路に浮かぶ石の輪を見てレフィーナとショーンは眉を顰める。

 

「ですよね……ゲッター線反応と何か関係があるのでしょうか?」

 

「判りません、ですが、あのゲットマシンらしき戦闘機とゲシュペンスト・タイプSとの関係が無いとは言い切れないですな、警戒は続けるべきでしょう」

 

行方不明の部隊と戦闘中に現れたゲットマシンとゲシュペンスト・タイプSの存在。それらの姿はないが、ここで何かをしていたと言う可能性も捨てきれず、出撃していくPT隊を見ながらレフィーナは更に指示を飛ばす。

 

「熱源ソナーとゲッター線レーダーの感度を最大にしてください」

 

「重力センサーはどうしますか?」

 

「そちらは停止させてください、ゲッター線反応の感知を最優先です」

 

重力反応だけならば判る。ホワイトスターの影響で宇宙での重力反応の異常反応は度々感知されているからだ、だがゲッター線は武蔵のMIAの後殆ど感知されていなかった。それが感知された事に何か意味があるとレフィーナは感じ、ゲッター線の反応を感知する事にヒリュウ改のレーダーの殆どを向けるのだった。

 

 

 

ゲシュペンスト・リバイブ(S)を先頭にして出撃したリュウセイ達。ヒリュウ改の前方を守るように鏃の形に部隊を展開し、各々の機体のレーダーの反応を最大に設定する。

 

「ストーンヘンジだな。各機へ、周囲の警戒を怠るな。何か反応があれば随時報告せよ」

 

「なんらかの意図が動いていると見て間違いないわね」

 

宇宙には様々なスペースデブリが存在するが、それが自然に輪の形に並ぶ訳がない。宇宙の中心に浮かんだストーンヘンジを見て、ヴィレッタとギリアムの警戒レベルは最大にまで跳ね上がっていた。

 

『ストーンヘンジですか……なにか妙な気配ですね』

 

「確かになんかこう、ぞくぞくするような……嫌な感じがするなあ」

 

ラッセルの言葉に続いて、リュウセイがうへえっと呻きながら嫌な予感がすると言うとそれにタスクとレオナも賛同した。

 

『リュウセイもか? 実は俺もなんだ。誰かから見られているような……あ、まさかレオナちゃんからの熱視線ッ!?』

 

『違いますわよ。でも確かに妙な気配がするのは同意ですわね』

 

念動力持ちの3人が妙な気配を感じると言った事でカチーナ達も警戒心を強める。

 

『しかし何故、ストーンヘンジがこんな所に……自然発生したとは思えないですね』

 

『ですわね。ストーンヘンジは建造者も建造目的も不明――1説には宇宙人の建造物って言う話もありますが……』

 

宇宙人の建造物と言われる事もあるストーンヘンジが宇宙に存在している。周囲の状況もあり、宇宙人に作られた物という考えがこの場にいる全員の脳裏を過ぎった。

 

「最近こんなのばっかりだな……中国で見たアンノウンとか、超機人とか……最近、その手の話が多すぎるぜ」

 

『そう言えばよ、アラドの奴が百鬼帝国とか言ってたけど、そりゃなんだ?』

 

リュウセイがうんざりした様子で言うと、カチーナが思い出したように百鬼帝国ってなんだと尋ねる。

 

『旧西暦に存在した敵性の侵略者の事だ。恐竜帝国の後に出現した集団で百鬼獣という特機を操る集団と思ってくれればいい』

 

『ギリアム少佐が言うって事はまじかよ……で、そいつらはそんなに強いのか?』

 

タスクがそう尋ねるとリュウセイとエクセレンが固い口調で口を開いた。

 

『ハガネが轟沈寸前って聞いてる』

 

『PT隊も壊滅寸前、キョウスケ達も怪我人だらけだって……』

 

『はっ? 嘘だろッ!?』

 

『キョウスケ中尉達が……そんな信じられない』

 

『道理で元気が無かったわけですわね』

 

ヒリュウ改に着てからリュウセイとエクセレンの顔色が優れなかった理由が判り、タスク達が声を荒げる。

 

『落ち着けッ! あたしらは人造人間、地球では旧西暦の化けもんかよ、だが死んでねえなら大丈夫だッ! とっとと調査を終えてキョウスケ達に合流してやればいいッ! だからあたし達は今自分達に出来る事をやるぜッ!』

 

カチーナだってキョウスケ達は心配だ、だがこの場にいないキョウスケ達の心配をして、自分達が撃墜されては意味が無いと檄を飛ばす。

 

『ああ、確かにその通りだな。キョウスケ達ならば問題ない』

 

『ええ、今は私達がやるべきことをしましょう』

 

カチーナの言葉にギリアムとヴィレッタも賛同し、今は自分達がやるべき事に集中しようと口にした時エクセレンが慌てた様子で口を開いた。

 

『く、来る……ッ! 皆気をつけてッ!』

 

『来るって、何が? まさかあたしが化けもんでも出てくるかって……なんだッ!?』

 

自分が化け物が出てくるかっていたのが理由かとカチーナがエクセレンの言葉を笑い飛ばそうとした瞬間。ヒリュウ改からの警報が響いた。

 

『中尉……』

 

『あたしのせいじゃねえよッ!!』

 

『ふざけている場合ではない、来るぞッ!!』

 

カチーナの発言のせいだと遠回しに言うタスクにカチーナが怒鳴り声を上げるが、それを窘めるギリアムの一喝が響き、ストーンヘンジの中心から無数の異形が這い出るように姿を現した。

 

『な、何だ、ありゃッ!? マジの化け物じゃねえかッ!』

 

骨で構成されたようなアインスト・クノッヘン、蔦で構成されたアインスト・グリートの大軍にカチーナが驚愕の声を上げる。

 

「ア、アンノウンだッ!! 中国に現れた奴と同じだぜッ!」

 

『それって、 さっきてめえが言ってた奴かッ!?』

 

「あ、ああ……ッ! でも、 何であいつらがこんな所に……ッ!?」

 

中国で出現した異形が何故宇宙で現れたのかと困惑するリュウセイ。だがカチーナは動揺してるんじゃねえと一喝を飛ばし、ゲシュペンススト・MK-Ⅲを偵察モードから戦闘モードに切り替える。

 

『何だって構わねえッ! 敵ならブッ倒すだけだぜ!』

 

『いえ、待ってください、カチーナ中尉。 念の為にアンノウンにコンタクトを試みます。戦闘に入るのはその後です』

 

真っ先に切り込もうとしたカチーナにレフィーナが待ったを掛ける。

 

『おいおい、マジかよ……艦長。どう見ても友好的にはみえねぇぞ?』

 

『だから念の為なのよ、気を緩めないで』

 

ギチギチと奇妙な鳴き声を上げるアインストを見つめながらヴィレッタが警戒するように告げる中。ヒリュウ改からの広域通信によるコンタクトが試みられる。するとストーンヘンジの外周部にいたアインスト・クノッヘン達が動き始めた。

 

『反応は見せてくれましたけど……』

 

『どう見ても友好的な反応ではありませんね』

 

牙と爪をむき出しにして唸るように吼えるアインスト・クノッヘン達を見てレフィーナは戦闘に入る事を決断した。

 

『敵性アンノウンとの戦闘準備! アンノウンのデータはこちらで収集します、思いっきりやっちゃってくださいッ!』

 

『了解、リュウセイ少尉とエクセレン少尉は俺とヴィレッタ大尉でフォーマンセルで行くぞ、カチーナ中尉はオクトパス小隊の指揮を』

 

『何時も通りって事だな、了解! 行くぜ野郎共ッ! 気合を入れろッ!!』

 

指揮系統の分断を恐れ、ギリアムはヴィレッタ、リュウセイ、エクセレンの4人でフォーマンセルを組み、カチーナ達には普段と同じ編隊で戦闘に入れとギリアムが指示を飛ばした時、エクセレンが声を上げた。

 

「えッ!? 声が、声が聞こえるッ!」

 

【……マ……タ……】

 

異形の声が聞こえると言うエクセレン。だが他のメンバーにはその声は聞こえていなかった。

 

『声なんて聞こえませんよ!? どうしました、 エクセレン少尉!?』

 

『声ッ!?  何言ってんスか、少尉。んなもん聞こえてないっスよッ!』

 

【コノ……バショ……】

 

『や、やっぱり……あれ、喋ってる……ッ!』

 

誰にも聞こえていないが、確かにエクセレンにはアインスト達の声が聞こえていた。

 

「今度は俺も聞こえるぞ……ノイズまじりで何を言ってるか全然判らないけど……何か言ってるッ!」

 

『リュウセイも今度は聞こえた!?』

 

「ああ、聞こえた! 何か、ぼそぼそ言ってるッ!」

 

前回の中国ではリュウセイにアインストの声は聞こえなかったが、今回は聞こえていた。

 

(リュウセイに聞こえたと言う事は念動力とあのアンノウンには何か関係がある?)

 

桁並外れた念動力者へと覚醒したリュウセイには、ノイズ交じりで、しかも遠くから聞こえるせいか不明瞭だが確かにアインストの声が聞こえていた。

 

『リュウセイ少尉、エクセレン少尉! 今は声は無視するんだ! カチーナ中尉、あのアンノウンの弱点は胸部のコアだ。一気に殲滅するぞッ!』

 

『ああ、そっちの方が良さそうだな。ギリアム少佐、行くぜッ!』

 

様子のおかしいリュウセイとエクセレンの事を危惧し、ギリアムは速攻で片を付けるべきだと判断し、カチーナ達にアインストの弱点が胸部のコアであることを告げ、自ら先陣を切ってアインストに戦いを挑みかかり、その後を追いかけてカチーナ達もアインスト達との戦闘を始めるのだった……。

 

 

 

 

 

ストーンヘンジから出現するアインストと対峙しているギリアム、リュウセイ、ヴィレッタ、エクセレンの4人はすぐにある違和感に気づいた。

 

「なんだ? 弱い?」

 

フライトユニットの牽制用のガトリングでコアが砕かれ沈黙するアインスト・クノッヘンを見てギリアムは思わず弱いとつぶやいていた。

 

『ギリアム少佐もそう思うかしら?』

 

中国と戦った時よりもアインストの再生能力も攻撃力も格段に劣っていたのだ。

 

『なんだ? 中国の時はもっと強かったって言うのか?』

 

『そうなのよ、カチーナ中尉。1発でこっちの外部装甲をお釈迦にするくらい強かったし、ビームライフルも全然効かなかったの、でも今はこの通りよ』

 

『ギィイイーーッ!?』

 

オクスタンランチャーのEモードの直撃を受け、アインスト・グリートが絶叫しながら消滅する。ハイゾルランチャーもパルチザンランチャーの攻撃も対して効果が無かった事を考えると、明らかにストーンヘンジから出現するアインストは弱かったのだ。

 

『マジで? 中国のはもっと強かったのか?』

 

ガンドロのアンカーナックルを受けて構成している骨ごとコアを粉砕され、塵となって消滅するアインスト・クノッヘンを見て、ますますリュウセイは違和感を覚える。

 

『ああ、皆ボロボロになりながらやっと倒したんだ。なんでこんなに弱いんだ? 宇宙だからか?』

 

中国での戦いは終始劣勢であり、レーツェルとラドラの2人が応援に来てくれた事でやっとイーブンに持ち込めた。それほどまでに追詰められていたのだが、今出現しているアインストが余りにも弱すぎることにリュウセイは強い疑問と不信感を抱いていた。

 

『環境に適合出来てないと言う事でしょうか?』

 

ラッセルの環境に適合出来ていないと言う言葉――それはあながち間違いでは無かった。明らかにアインスト達は宇宙の環境に適合して切れておらず、明らかにその動きに精彩を欠いていた。例えるのならば、初めて泳ぐ事に挑戦する子供とでも言うべきなのか、完全に宇宙の無重力状態にアインストは対応出来ていなかった。

 

『確かにそう言われると動きが鈍いな』

 

『……今はまだ学習しているとでも言うのかしら?』

 

今出現しているアインストは宇宙空間への適合を始めたばかりなのかもしれない。そう考えるとこの弱さはある意味先遣隊、もしくはこの宇宙の環境を調べる為の物かもしれないという可能性が浮上した。

 

『ならあいつらが学習する前に潰せばいいだろッ! タスクッ! ぶちかませッ!!!』

 

『了解!! 皆離れててくれよッ!』

 

ジガンスクードの両肩・両膝にエネルギーが溜まるのを見て、リュウセイ達は慌ててジガンスクードから距離を取った。

 

『いっくぜえッ! G・サークルブラスタァァアアアアアアッ!!!』

 

両肩・両膝から放たれたエネルギー刃が高速で回転しながらアインストの群れの中心で炸裂する。

 

『!?』

 

『!!!?』

 

突然の広範囲攻撃にアインスト達は対応出来ず、高速で回転し広範囲を薙ぎ払うGサークル・ブラスターの光の刃に切り裂かれて消滅していく、その凄まじい広範囲攻撃と破壊力にリュウセイはアルブレードの中で冷や汗を流していた。

 

『あぶねえ……巻き込まれる所だったぜ』

 

『確かにねえ、でもまぁ……これで敵を一掃出来たと考えれば御の字じゃない?』

 

G・サークル・ブラスターは威力は凄まじく、攻撃範囲も広いがその反面味方を巻き込む可能性のある兵器だ。使い所がかなり限られる武器だが、今回に至っては最高の状況で使えたと言っても過言ではないだろう。

 

『もしもあのアンノウン達が先遣隊だと言うのならば……』

 

『次に出てくるアンノウンが本隊って事になるわね』

 

中国のアンノウンを比べて弱かったストーンヘンジから出現したアインスト。それが個体差なのか、それとも宇宙という環境に適合する為に環境を調べていただけなのか……1度アインスト達が殲滅された事で相手の出方を見る事が出来る筈だと、敵の姿が確認出来ないがリュウセイ達は警戒を緩める事無く、周囲を警戒し続ける。

 

「レフィーナ艦長。あのアンノウンからのリアクションはありましたか?」

 

声が聞こえたと言うエクセレンとリュウセイ、ヒリュウ改のレコーダーにアインストの反応があったかとギリアムが問いかける。

 

『いえ、こちらではそれらしいものは感知されていません』

 

『そもそも人が乗っている物とは思えませんしね』

 

レフィーナとショーンからの返答はそれらしいものは感知されていないと言う物だった。

 

『やっぱりリュウセイ少尉達の気のせいだったんでしょうか?』

 

『そうとも言い切れねえだろ、リュウセイの奴は勘が鋭いからよ』

 

レコーダーに記録されていないからと言っても気のせいとは言い切れない。エクセレンは違うが、リュウセイは卓越した念動力者。常人では感じ取れない何かを感じ取っている可能性は捨て切れない。

 

『でも、また出てくる気配は……げえッ!?』

 

出現してくる気配がないとタスクが言いかけた瞬間。ストーンヘンジの中心から再び重力反応が感知され、這い出るようにアインスト達が再出現する。

 

『タスクてめえ! 余計な事を言いやがって』

 

『本当に余計なことしかしませんわね』

 

『ええー!? お、俺が悪いって言うのかよッ!』

 

カチーナとレオナに責められて俺が悪いのかよとタスクが叫んだ。

 

『理解出来ない状況で混乱するのは判るが、もう少し冷静に対応してくれるかしら?』

 

『うっ……すんまへーん……』

 

誰も本当にタスクのせいだとは思っていない、ただ間が悪かっただけだ。ただタスクとカチーナ達のやり取りで肩に入っていた力が抜けたのもまた事実だった。

 

『リュウセイ、エクセレン、今度は声は聞こえるかしら?』

 

『いや。今は何も聞こえないって言うか感じないぜ、隊長』

 

『私もよん。ヴィレッタお姉様、最初のも勘違いだったのかしら?』

 

新しく出現したアインストからは何も感じないと言うリュウセイとエクセレン。さっきのアインストと今出現したアインストに何か違いがあるのか、それとも最初から気のせいだったのか……そして何故アインストがストーンヘンジから出現するのか……謎ばかりが深まる。

 

『ふーむ。重力反応とゲッター線反応自身が我々を誘い込む餌だったというのも捨て切れないですなあ』

 

『なんだ、副長はあの化け物があたしらを食うつもりでここに呼び寄せたって言うのか?』

 

『可能性は決して低くはないと思いますよ? ここはスペースデブリ地帯ですが……明らかに新しい残骸も多々見受けられます』

 

『それに行方不明事件が多発しているポイントにも近いです』

 

レフィーナとショーンの打ちたてた重力反応とゲッター線反応に引き寄せられた相手を喰らうという説。アンノウンの生態が判らない以上、絶対に違うとは誰にも言い切れなかった。だが、ギリアムだけは違うと感じていた。

 

(違う、あのアンノウンとゲッター線には何の関係もない。なんだ、俺は何を見逃している?)

 

重力反応はアインストと関係があるが、ゲッター線は違う。どこからか見ているのはアインストではないと感じていた、しかしそれが何か判らないギリアムは口を開く事は無く、アインストではなく周辺への警戒を強めていた。上手く説明出来ないが、まだ何か起きるという事をギリアムは直感で感じ取っていた。

 

『となれば、私達は誘い込まれた憐れな餌と言うことですか』

 

『はっ! 黙って喰われてやるもんかよッ! 出てきたら出てきた分だけぶちのめしてやるさッ!!』

 

今もなお出現を続けるアインストを見てカチーナが力強く吼える。

 

『本当カチーナの中尉がいると劣勢でも負けそうって思わないわね』

 

『ああ、何とかなるって思えてくるぜッ!』

 

増え続けるアンノウン――アインスト。ストーンヘンジがゲートになり、そこから無制限に出現するかもしれない。そう思えば、戦えば戦うほどに絶望的な状況に近づく、それでも何とかなるかもしれないと言う希望が沸いた時、エクセレンとリュウセイの脳裏に頭が割れそうな痛みが走った。

 

『つうっ!? なんだ今のはッ!?』

 

『何か……やばいのが来るッ!』

 

リュウセイとエクセレンがそう叫んだ瞬間。ストーンヘンジの中心に罅割れたような亀裂が走り、そこから巨大な異形が姿を現した。

 

『さっきまでの アンノウンとは違う……ッ!』

 

『これが親玉かよ、随分と趣味が悪いじゃねえか』

 

『アンノウンの反応を見る限りでは、それもあながち間違いではないようね』

 

鬼面を組み合わせ、身体を構成しているアインスト……ぺルゼイン・リヒカイトに付き従うように隊列を組むアインスト・クノッヘンとグリートの姿を見れば、ぺルゼイン・リヒカイトがリーダー格であると言うのは明らかだった。

 

『やべえ感じがびんびん伝わってくるぜ』

 

『ええ、これは気を引き締めないといけないわね』

 

明らかに別格の存在の出現に全員が警戒心を引き上げる中、アルブレードのリュウセイから苦しそうな声が通信で全員の機体の中に響いた。

 

『あ、ああ。 見た目も中身も……別格だ』

 

中身がいる……その言葉の意味を一瞬誰も理解出来なかった。だが少し考えれば、中身の意味は容易に予想がついた。

 

『中身ッ!?』

 

「まさか中にパイロットがいるとでも言うのか? リュウセイ、エクセレン」

 

鬼面のアンノウンの中にパイロットがいるかもしれない。その可能性がリュウセイによって告げられたと同時に、広域通信で幼い少女の声が響いた。

 

【……あなた……あなたは……】

 

『誰ッ!? 誰なのッ!?』

 

ペルゼイン・リヒカイトはその指先をヴァイスリッターに向ける。その瞬間リュウセイ達とカチーナ達を分断するようにアインスト・クノッヘンとグリートが動き出した。

 

『この動きは!?』

 

『やっぱり指揮官なのかよッ! くそッ! すぐに倒して合流するからなッ!』

 

オクトパス小隊とリュウセイ達がアインストの壁によって分断された

 

【これでゆっくりお話できますの、私の名はアルフィミィ。アインスト・アルフミィ……】

 

『アインスト……アルフィミィ……? それが貴女の名前?』

 

『アインストって何だッ!?』

 

『落ち着きなさいリュウセイ、エクセレン! 相手の言動に惑わされては駄目よ!』

 

『隊長、まさか聞こえてるのか!?』

 

「ああ、俺たちにも聞こえている。こっちの回線に割り込んできているようだ」

 

今度はリュウセイとエクセレンだけではない、ギリアム達にもアインスト・アルフミィを名乗る少女の声は聞こえていた、それはあのアンノウンにパイロットが存在しているという確かな証拠なのだった……。

 

 

 

 

 

ペルゼイン・リヒカイトの出現の前に現れたアインスト達は先ほどまでカチーナ達が戦っていたアインストよりも一回りも二回りも強力なアインストだった。

 

『オラアッ!!』

 

『??』

 

ゲシュペンスト・Mk-Ⅲのライトニング・ステークの直撃をコアに受けても、アインスト・クノッヘンは何かした? と言わんばかりに首をかしげ、反撃に鋭い鎌となっている両腕を振るう。

 

『ぐっ! なんだ、こいつらさっきよりも強いじゃねえかッ!』

 

さっきまでは装甲に弾かれ、ろくなダメージにならなかったのだが、今ゲシュペンスト・MK-Ⅲの装甲には深い切り傷が刻まれていた。それは第1・第2装甲板を貫通し、内部装甲にまで深い損傷を与えていた。

 

『ラッセル、レオナッ! 援護に回れッ! タスクッ! ガンドロで前に出ろッ!!!』

 

『合点承知の助ッ!!!』

 

改良されているゲシュペンスト・MK-Ⅲの装甲を一撃で内部装甲まで引き裂いた。旧式のゲシュペンスト・MK-Ⅱとガーリオンではアインストの攻撃に耐え切れないと判断したカチーナはラッセルとレオナに後方に下がるように指示を出す。

 

『こいつでぶっ飛べッ! ギガワイド・ブラスターーーーッ!!!!』

 

しょっぱなの広範囲攻撃でアインストの数を減らそうと考えたタスクがギガワイド・ブラスターをアインストの群れのど真ん中に向かって打ち込んだ。

 

『『『『……』』』』

 

命中寸前に前に出たアインスト・グリート達が触手を突き出す。その先から展開されたビームコートがギガ・ワイドブラスターを受け止める。

 

『へっ! 止められ……なッ!?』

 

前方のグリートが消滅すると、後のグリートが、それが永遠と繰り返され、ギガ・ワイドブラスターの照射はアインスト・グラートを4体撃墜、3体に体表に軽い損傷をつけるだけだった。

 

『『『……ッ』』』

 

『回復している……先ほどまでの非じゃないッ!』

 

『なるほど、キョウスケ中尉たちが苦戦した理由がやっと判りましたわね』

 

ギガ・ワイドブラスターを受けきったアインスト・グラート達がカチーナ達の目の前でビデオの巻き戻しのように損傷を回復させる。その異様な光景にカチーナ達は背筋に冷たい汗が流れるのを感じるのだった。そして劣勢に追い込まれていたのはペルゼイン・リヒカイトを相手にしているリュウセイ達も同じだった。

 

『『……』』

 

ペルゼイン・リヒカイトから分離した両肩の鬼面を中心に展開された下半身の無い異形の鬼。それがその手に持った異形の日本刀とヴィレッタとギリアムを追い回す。

 

『くッ! 早いッ!』

 

『!!』

 

ギリアムとゲシュペンスト・リバイブ(S)をもってしても振り切れない圧倒的な速度。そして一撃で切り落とされたゲシュペンスト・リバイブ(S)の右肩装甲を見てギリアムは冷や汗を流しながらビームキャノンによる射撃を叩きこむ。

 

『?』

 

『ちっ、ビーム兵器無効かッ! とことん俺と相性が悪いッ!』

 

ゲシュペンスト・リバイブ(S)はその圧倒的な機動力と実弾、ビーム兵器による豊富な攻撃手段を持つのが特徴だが、レールガンやガトリングの攻撃は殆ど一瞬で回復され、ビームキャノンなどのエネルギー兵器はビームコートで霧散してしまう。ペルゼイン・リヒカイトから分離した鬼面はギリアムにとって天敵とも言える能力をしていた。そしてそれは、ヴィレッタも同様だった。

 

『こんな事ならR-GUNを持って来れば良かったわねッ!!!』

 

『!!!』

 

ヴィレッタが念動力を持たないという事、そして中国での戦いで無理をしたと言うこともありオーバーホール中のR-GUNに変わり、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプRに乗ってきたヴィレッタも舌打ちを隠せなかった。機動力を強化したタイプなのに、鬼面を振り切れず、パルチザン・ランチャーの攻撃も無効化される。完全に劣勢に追い込まれていた、打撃武器のライトニング・ステークはあるが、鬼面の機動力と再生能力には有効打にはなりえないと判断し、防御と逃げに回らざるを得ず。このままでは撃墜されるという事をヴィレッタは直感で感じ取っていた。

 

「答えて貰うわよッ! 貴女は何者ッ!?」

 

宇宙空間を白銀と真紅の影が何度も交錯しながら、ヴァイスリッターからエクセレンの叫び声が響いた。放たれるオクスタンランチャーの一撃は普段よりも鋭く、そして正確無比な一撃だった。だが、ペルゼイン・リヒカイトは舞うような必要最低限の動きで回避する。

 

(これは反応速度がいいとか、反射神経がいいとか、そういうレベルじゃない。判っているんだわッ!)

 

エクセレンの操縦の癖も、そして何処を狙うのかもペルゼイン・リヒカイト――いや、アインスト・アルフィミィを名乗る少女にはわかっている、エクセレンにはそう感じられた。そしてオクスタンランチャーのEモードを回避したペルゼイン・リヒカイトの反撃に振るわれた日本刀の切っ先から飛び出したエネルギー刃を回避したエクセレンだが、その顔には普段の余裕の色は一切見られなかった。

 

『来るべき刻が……近い……進化の時が訪れていますの』

 

「私にも判るように言って貰える? 声からすると……可愛いお嬢ちゃんなのかしら?」

 

意味深なことを言いながら、容赦なく、それこそコックピットブロックごと両断せんと言わんばかりに振るわれる日本刀。そのあまりに鋭い太刀筋に背筋が冷えるものを感じながら、アルフィミィに何者なのか? と問いかける。まともな返答はないと思っていたのだが、アルフィミィから返ってきた返事は少しむっとしたような、いじけたような響きが込められた言葉だった。

 

『お嬢……ちゃん? 違いますの……私は……貴女、貴女は私ですの』

 

「どういうことッ!?」

 

普段なら戯言と言って聞き流せたエクセレンだが、今回ばかりはそうも言ってられなかった。初めて会ったはずなのに、会った事がある。そんな奇妙な感覚を感じていたからこそ、アルフィミィの言葉が真実だと直感で感じてしまっていた。

 

『貴女が……もっと完全なら……私も……』

 

「はい、ストーップッ! 順序よく話してくれない? 私にも判るようにッ!!」

 

どこか責めるような響きを感じ、もっと判りやすいように説明してくれとエクセレンが問いかけ、ほんの少し前に出た瞬間。

 

『あぶねえッ! エクセレン少尉なにやってるんだよッ!? 死ぬつもりかッ!?』

 

横から割り込んできたアルブレードが両手に構えたブラスト・トンファーでペルゼイン・リヒカイトの日本刀による一撃を受け止めていた。その光景とリュウセイの一喝にエクセレンは我に帰った

 

(今私は何の警戒心も無かった……どういう事なのよ)

 

何の警戒心もなく、アルフィミィに近づいて何を知っているのかそれを問いただそうとしていた。問いかければ、話し合えば判る。変な話だが、親族か何かに抱く無条件による信頼――それをエクセレンはアルフィミィから感じていた。

 

『……この力……進化の光……貴方は……進化の光に触れている……どこで触れたんですの……?』

 

『てめえッ! 何言ってやがんだッ!?』

 

『答えて欲しいですの、貴方は……どこで進化の光に……触れたんですの?』

 

進化の光にどこで触れたのかと言って、アルブレードに執拗に攻撃を繰り出すペルゼイン・リヒカイト。

 

「このッ! それは教えて欲しいって態度じゃないわよッ!!」

 

リュウセイの援護に入ったヴァイスリッターの射撃に1度、ペルゼイン・リヒカイトは刀を振るう手を止めて後退する。

 

「大丈夫?」

 

『な、なんとか……でもブラスト・トンファーがお釈迦寸前だぜ。何つうパワーだよ……』

 

グルンガストと打ち合っても凹み1つ無かったブラスト・トンファーは凹み、深い切り傷がついている。下手をすれば、ブラスト・トンファーは両断されていただろう。

 

『どうして邪魔をするんですの? 私はただ……聞いているだけですのよ?』

 

どうして邪魔をしたのかとむくれた声でリュウセイとエクセレンに声を掛けるアルフィミィ。その声には本当に何故怒られたのか、邪魔をされたのか判らないと言う響きがあった。

 

「あのね、話をしたいのならまず自分達が何者なのか? って言う事から説明するのが筋でしょ? 急に攻撃してきて貴女の疑問に答えてくれると思っているの? まず武器をしまいなさい、そして攻撃をやめさせるのよ」

 

エクセレンの警告が効いたのかアインスト達の動きが止まり、ペルゼイン・リヒカイトもその敵意を一瞬緩めた。

 

『知りたいんですのよ、私は進化の光――そして鍵を……む? 邪魔者ですのよ』

 

アルフィミィが不機嫌そうに言うと、デブリ帯に隠れていた行方不明部隊のPTやランゼン達とガロイカが姿を現す。

 

「なんでこの距離まで気付かなかったのッ!?」

 

『す、すいません! 熱源反応とかは無かったんです。本当です! 突然現れた……ゲッター線反応感知ッ!! ストーンヘンジ中心ですッ!』

 

エクセレンの責める口調にユンがすぐに謝罪の言葉を口にする。だが自分には非が無いと、突然熱源が現れたと言うユンだったが、ゲッター線反応を感知と叫ぶ。その瞬間、ストーンヘンジの中心からゲッター線の光の柱が浮かび上がった。

 

『な、なんだ!? あの光は』

 

『ゲッター線っ! 何故今になってッ!?』

 

『『『『!!!!!』』』』

 

突然現れたゲッター線反応にギリアム達は驚愕し、アインスト達はまるで喜ぶような鳴き声を上げた。その直後ゲッター線の光の柱の中から黒い異形が飛び出した。

 

『『『キシャアアアアアーーーッ!!!』』』

 

それは全身に目玉がある黒いトカゲのような化け物だった。それはゲシュペンスト・Mk-Ⅲとフライトユニットを装備したゲシュペンスト・MK-Ⅱに飛び掛り、吸い込まれるように姿を消した。そしてその次の瞬間、ゲシュペンストの装甲が異音を立てて凹み、全身に黄色い目玉が浮かび上がり、フェイスパーツが砕けそこから血走った紅い目で現れる。

 

「な、何!? また化け物がッ! 貴女の仕業!?」

 

『いえいえ、違いますのよ。どーも、偶然繋がってしまったみたいですのよ? 私は悪くありませんことよ?』

 

化け物ではあるが、自分のせいではないと言ったアルフィミィ。そしてペルゼイン・リヒカイトが指を上げると、アインスト達はカチーナ達に目もくれず、化け物になったゲシュペンストMK-ⅢとMk-Ⅱに襲い掛かる。

 

『な、なんだ。化け物同士仲間じゃないのかよ』

 

『残念ですけど、破壊魔は仲間ではありませんのよ? それよりも……気をつけないと……喰われてしまいますのよ?』

 

からかうよう響きがあったがアルフィミィの喰われるという言葉に反射的に動いたヴァイスリッターとアルブレード。ほんの一瞬前まで2機がいた場所にはゲシュペンストの背中から伸びた化け物の首が涎をたらしながら突き立っていた。

 

「こ、こいつら私達を喰うつもり!?」

 

『や、やべえぞ……アンノウン以上に化けもんじゃねえかッ!』

 

機動兵器を喰らい、その姿を変質させる化け物――それはアインストよりも遥かに恐ろしい化け物だった。

 

『気をつけますのよ? 破壊魔はなんでも食べて同胞にしてしまいますのよ?』

 

牙を剥き出しにし、涎を垂らしているゲシュペンストを見れば飢えている、自分達を喰らおうとしているのが本能的に判った。捕食されるという恐怖にリュウセイ達は身体を震わせた。その瞬間、様子を窺っていた化け物がアルブレードを喰らおうと一斉に飛び掛った。

 

『うわあッ!!!』

 

「リュウセイッ!」

 

『逃げなさいッ! 立向かっては駄目ッ!』

 

向かってくるメタルビースト・ゲシュペンストに恐怖し、リュウセイはアルブレードのブラスト・トンファーで迎撃しようとした瞬間。アルブレードの頭上を通り抜けて飛来した何かがメタルビースト・ゲシュペンストを両断し、そのままストーンヘンジに突き刺さった。

 

「な、あ……あれは……」

 

『げ、ゲッタートマホーク?』

 

ストーンヘンジにメタルビースト・ゲシュペンストを縫い付けていたのは両刃の巨大な戦斧だった。

 

『熱源反応が2つ急接近中ッ! 早いッ! 後10秒でこの宙域に出現しますッ!』

 

ユンの報告のすぐ後にストーンヘンジの浮かぶ宙域に2機の機動兵器が現れた。1体は前も現れたゲシュペンスト・タイプS――そしてもう1機は宇宙の暗闇の中でも眩いまでに輝く真紅の特機だった。

 

『ど、ドラゴン?』

 

『ゲッタードラゴンじゃねえかッ!?』

 

『いえ、細部が少し違いますし、ドラゴンよりも遥かに巨大ですッ!』

 

蝙蝠の翼を思わせる漆黒の翼を持つドラゴンに似ているが、ドラゴンよりも更に巨大で、そして力強さに満ちた機体の出現にリュウセイ達の間には混乱が広がり、アルフィミィは小さく笑い出した。

 

『やっと会えましたの……進化の使徒……さぁ、私達を貴方の後継者と……認めるんですのッ!』

 

喜び、羨望、怒り、嘆き――複雑な感情の入り混じった声で自分達を後継者と認めろとアルフィミィは叫ぶ、その声に追従するようにアインストとメタルビースト達のゲッター線を求める叫び声が宇宙に響き渡るのだった……。

 

 

 

第38話 進化の光を求める者 その3へ続く

 

 




ストーンヘンジからアインスト、インベーダー出現、あちら側で勃発していたアインストVSインベーダーVS人間の三つ巴再び。信じられるか? これまだゲームで言うと17話なんだぜ? 後30話以上ある原作シナリオにオリジナルシナリオ――これ完結までに何話かかるんだ? と内心恐怖しながらも地上ルート・宇宙ルートもやるぜと決めた事に若干の後悔を抱きながら話を進めて行こうと思います。
次回は武蔵とカーウァイの視点から入って行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


PS

スパロボDDの迎撃戦で40万を獲得する事に成功しました
無課金でもいけるものですねと自分でも驚きです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第38話 進化の光を求める者 その3

第38話 進化の光を求める者 その3

 

ヒリュウ改のメインモニターに映し出された機体を見て、ショーンは口髭を摩りながら、ううーむと唸った。

 

「化け物達に続いて今度はドラゴンとゲシュペンスト・タイプSですか……なんともB級映画染みてきましたなあ」

 

「副長。そんなことを言っている場合ではありませんよ、ユン。あのドラゴンらしき特機からゲッター線反応はありますか?」

 

ドラゴンとゲシュペンスト。エアロゲイターが運用していた機体であり、それが揃って出現したと言う事にレフィーナは嫌でも警戒心を上げざるを得なかった。もしも、もしもエアロゲイターが復活していて、ワンオフで強力なゲッターロボG、そしてゲシュペンスト・タイプSを作成していたらと言う可能性は0ではないからだ。偽者と本物を見極めるポイントは1つだけ――ゲッター線反応の有無だ。ユンにゲッター線反応はあるか? と問いかけるとユンは焦った様子で振り返った。

 

「げっ、ゲッター線レーダーが壊れました……」

 

「「は?」」

 

ユンからの予想外の返答に思わずレフィーナとショーンが間抜けな声を出してしまった。

 

「待ってくださいユン伍長。ゲッター線レーダーが壊れたというのは振り切ったと言う事ですか?」

 

「ざ、暫定ですがクロガネ改のゲッター線レベルの約10倍を確認後、レーダーが沈黙しました」

 

クロガネ改のゲッター線反応の10倍の数値と聞いてレフィーナとショーンは眉を顰めた。だがエアロゲイターにゲッター炉心を複製する技術が無いのはL5戦役時代に判っている。レーダーが壊れるほどのゲッター線反応が感知された段階でエアロゲイターの機体ではないと言う事が判明しただけでも、僅かな安心感があった。

 

「後は味方かどうかと……武蔵さんかどうかですね」

 

「ええ、そこだけはハッキリさせておかないといけませんね」

 

明らかに新型のゲッターロボ。それの搭乗者が何者なのか? 行方不明の武蔵なのか、それとも武蔵と同じく旧西暦から新西暦に現れた使者なのか……それを見極める必要があるとレフィーナとショーンは目を細め、新型ドラゴンに目を向けた。ペルゼイン・リヒカイトが出現した段階で武蔵とカーウァイはストーンヘンジの周辺にいた。しかし合流しなかったのには理由があった、アインストと名乗ったアルフィミィの一言――その一言で失われていたあちら側での世界の記憶が蘇っていたのだ。

 

「ぐっくうう……頭いてぇ……カーウァイさんは大丈夫ですか?」

 

『……なんとかな、気分は最悪だが色々と思い出したぞ』

 

「そうですね。キョウスケさんをおかしくしたのがアインストだったとか、あのクラゲみたいな化けもんの事を思い出しましたよ」

 

『肝心のシャドウミラーの事は思い出せていないがな』

 

肝心のシャドウミラーの記憶は今だ失われたままだが、アインストの事を思い出しただけでも武蔵とカーウァイにとっては意味のある事だった。アインストの言葉を聞けばイングラムも何かを思い出すかもしれない。そうなれば、忘れている何かを連鎖的に思い出す可能性はあるのだ。

 

「っなんだ、ゲッター炉心のパワーがッ!?」

 

『こっちもだ。急に炉心のパワーが上がり始めただと!? 何がどうなっているッ!?』

 

突如ゲッターD2とゲシュペンスト・タイプSの炉心の出力が上がる。メーターを完全に振り切り、正常な数値すら読む事が出来ないほどの出力の上昇に続き、ゲッターD2とゲシュペンスト・タイプSの炉心の上昇に導かれるようにストーンヘンジからゲッター線の柱が出現した。

 

『なにか不味い! 行くぞッ!』

 

「了解ッ!」

 

直感的にあのゲッター線の光の柱が悪い物だと悟り、カーウァイと武蔵がストーンヘンジに急行した時そこには、この時代にはいないはずのインベーダー、そしてインベーダーに寄生されたメタルビースト・ゲシュペンストの姿があった。

 

「あぶねえッ!!!」

 

そしてどことなくR-1に似ている機体にメタルビースト・ゲシュペンストがその牙を突きたてようとしているのを見た武蔵は反射的にダブルトマホークをメタルビースト・ゲシュペンストに向かって投げつけたのだった……。

 

 

 

 

メタルビースト・ゲシュペンストに喰われ掛けたリュウセイを助けた真紅の特機――DC戦争後期、そしてL5戦役で現れたゲッターロボGに酷似した新しいゲッターロボとゲシュペンストの出現にリュウセイ達は混乱していた。

 

『ドラゴンッ!? それにゲシュペンストと一緒ってやっぱりエアロゲイターの機体なのかッ!?』

 

『落ち着きなさいタスクッ! もしエアロゲイターの機体ならリュウセイを助ける理由が無いわッ!』

 

『ですが、通信には一切反応を見せないところを見ると容易に味方だと思うのは危険では?』

 

ヒリュウ改、そしてリュウセイ達からの通信にも反応を見せないドラゴンに敵なのか、味方なのか? それの判断がどうしても付けられなかった。

 

『進化の使徒……やっと見つけましたのッ!!』

 

リュウセイ達よりも先に混乱から回復したアルフィミィがゲッターD2に向かってペルゼイン・リヒカイトを走らせる。そしてそれに続くようにインベーダー、メタルビースト・ゲシュペンスト、アインストが咆哮を上げゲッターD2とゲシュペンスト・タイプSに殺到する。目の前にいるリュウセイ達に目もくれず、ストーンヘンジから出現した全ての異形が一直線にゲッターD2に向かう。

 

『なっ!? このッ!!!』

 

『どうなっているのッ!』

 

自分達に何の興味も反応を見せず、一直線に宇宙を走る異形達に向かってオクスタンランチャーのBモードとグラビトンライフルの重力波が放たれる。だが異形達は背中に攻撃を受けても振り返る事無く、一直線にゲッターに向かい続ける。

 

『どうなっているんだよ! あのアルフィミィって奴が言ってた進化の使徒って言うのと何か関係があるのかよッ!!』

 

『判らんッ! だがあれだけの数だ。ゲッターロボとゲシュペンストだけでは対処出来ない筈だ。援護に向かうぞッ!』

 

ギリアムがそう命令した瞬間。ゲッターD2の全身を翡翠色の輝き――ゲッター線が包み込みその姿を消した。

 

『ギャアッ!?』

 

『シャアアアアアッ!?』

 

『!?!?』

 

『ッ!!!!?』

 

リュウセイ達を苦しめていた化け物達の大半が翡翠色の光に飲み込まれその姿を消した。一瞬、再生能力も、防御力もすべてが無意味と言わんばかりに、翡翠色の光が通過した瞬間に化け物達が爆発し霧散する。

 

『な、何が起きたんだッ!?』

 

『ぜ、全然見えなかった……』

 

光の中から姿を見せたゲッターD2の腕の側面のチェーンソー。それが高速回転していたのと、バラバラに切り刻まれて爆発四散したメタルビースト・ゲシュペンストを見て、擦れ違い様の一閃で全てを引き裂いたというのがやっとリュウセイ達に判った。

 

『龍神を捕えるんですの』

 

アルフィミィの指示でヴィレッタとギリアムを追い回していた鬼面が姿を隠しながらゲッターD2に襲いかかる。左右から突如現れた鬼面がその手に持った異形の日本刀をゲッターD2に突き刺そうとした瞬間。ゲッターD2は滑るように後ろに移動し、鬼面の後頭部を鷲づかみにして鬼面同士の顔面をぶつけ合わせる。

 

『『!?!?』』

 

完全な奇襲だったのに見向きもされず、味方と同時打ちさせられた左の鬼面が怒りに身体を震わせ、大上段から日本刀を振り下ろした。だがゲッターD2は右腕で無造作に日本刀を受け止め、力を込めると中程からへし折り。折れた日本刀の切っ先を掴んで左の鬼面の顔面に突き刺した。

 

『ッギャアアアアアアアアアーーーーーッ!!!!』

 

宇宙空間に響く異形の叫び声。ガラスを擦り合わせたかのような、精神を蝕む叫び声にリュウセイ達は思わず目を背けた。

 

『ッ! 貰ったですの!』

 

ゲッターD2が鬼面を相手にしているをしている間に背後に回りこんだペルゼイン・リヒカイトが日本刀を突き出した瞬間。ゲッターD2の姿が爆ぜる。DC戦争時、そしてL5戦役で何度も見た緊急分離――「オープンゲット」だった。3色の戦闘機が高速で飛び交い、ペルゼイン・リヒカイトの一撃をかわし急上昇する。カチーナ達の目にはしっかりと見えていた、紅く輝く戦闘機の姿を初めて見たのではない。1度カチーナ達はその姿を確かに見ていたのだ。

 

『やっぱりあの時のッ!』

 

行方不明部隊に襲われた時に支援し、ゲシュペンスト・タイプSと一瞬の内に消え去った戦闘機――それがあのゲッターロボのゲットマシンであったというのがカチーナ達の目の前で明らかになった。

 

『っきゃあああッ!?』

 

ペルゼイン・リヒカイトの頭上を取ったゲッターD2の腹部から放たれたゲッタービームがペルゼイン・リヒカイトを呑み込み、ゲッタービームに焼かれたアルフィミィの悲鳴が周囲に木霊する。その声を聞いて、一瞬ゲッターD2が動きを止めた。その動きには躊躇っているようにも、このまま攻撃していいのか悩んでいるようにも見えた。

 

『『『シャアアアーーッ!!!』』』

 

『いかんッ! 後……ッ』

 

その隙をインベーダー達が見逃す訳が無く、一斉に背後から飛び掛るのを見てギリアムが警告を発しかけたが、その言葉は最後まで発せられる事は無かった。伸びた触手を前を向いたまま左手で掴んだゲッターD2。その全身から溢れる殺気と怒気――その気配は歴戦の戦士であるギリアムでさえも言葉を失うほどの濃密な殺気だった。

 

『ギロリッ!!』

 

そしてカメラアイの中心に突如浮かび上がった瞳がインベーダーを睨みつけるのを見て、ギリアム達は自分達に向けられていないと判っていても死を感じ、ゲッターD2の頭部が一瞬光り輝いたと思った瞬間。ゲッタービームの翡翠色が宇宙を眩く染め上げた。

 

『『『キシャアアアーーーッ!!!』』』

 

『『『!?!?』』』

 

全身をボロボロにさせながら消滅していくインベーダーとアインスト達。数が多かろうが何の利点もない、ただ等しくゲッターロボによって蹂躙される。ゲッターロボとインベーダー、そしてアインストには隔絶した戦闘能力の差があった。

 

『ッ!?』

 

『ギャアアッ!?』

 

圧倒的な強さを見せたのはゲッターロボだけではない、ゲシュペンスト・タイプSもだった。背部から射出された大型のスラッシュリッパーがアインスト・クノッヘンを胴体から両断し、戻って来た刃が背後からインベーダーをXの字に引き裂きその身体を消滅させる。

 

『シャ……グギャアッ!?』

 

隕石に擬態していたインベーダーがゲシュペンスト・タイプSの背後から飛び掛るが、振り返りもせず、腰にマウントしていた異様に銃身の短いビームライフルを手に取りインベーダーの貫くと同時に反転し銃身から伸ばした翡翠色の刃で両断する。流れるようなその動き、レーダーにも感知されないインベーダーを一瞬で補足するその空間認識能力――機体性能だけではない、カチーナ達とは隔絶した操縦技術の差がそこにはあった。

 

『早い……ッ! 私達とは操縦技術が違いすぎるッ』

 

『……これ、マジでカーウァイ大佐とか言わないよな?』

 

自分達が完全に蚊帳の外になっているのは判っていた。だがそれは脅威度の違いと考えれば当然の事だった、アインストに苦戦し、インベーダーの速度には完全に対応出来ていなかった。だがゲシュペンスト・タイプSとゲッターロボはアインストもインベーダーも一瞬で撃破し、撃墜せしめている。

 

『あたし達は敵にもならねえってかッ! ふざけんなぁッ!』

 

『中尉ッ! 止めて下さいッ!』

 

カチーナが自分達など眼中にないと言わんばかりのインベーダーとアインストに怒りを露にし、攻撃を仕掛けようとするがそれはラッセルによって制された。

 

『止めるなッ! また見ているだけかッ! あたしはそんなのはごめんだぜッ!!』

 

『……判ってますッ! でも、それでもッ!! 今は動いたら駄目ですッ!』

 

L5戦役の最終局面――カチーナ達はボロボロの状態でメテオ3との戦いに挑み、そして自爆したゲッターロボを見ている事しか出来なかった。情けなかった、そして武蔵を、イングラムが死ぬのをただ見ていることしか出来なかった。そんな自分が嫌でカチーナは己をまた1から鍛え上げた、今度は見ているだけではない。最後までちゃんと一緒に戦える力をつけたはずなのに、今も見ていることしか出来ない。己の力の無さを恥じ、見ているだけじゃない戦えるんだとそれを証明しようとするカチーナをラッセルが必死に止める。

 

『今は……耐えてください、中尉ッ!』

 

歯を噛み締める音が接触通信でコックピットに響いた。悔しいのは、力が無いと悔いているのはカチーナだけではない。ラッセル達だって悔しい思いをしたのは同じだ、だから歯が砕けかけるほどに噛み締めたラッセルの言葉にカチーナは動きを止めた。止めざるを得なかった……悔しいのは、悲しんだのはカチーナだけではないのだ。この場にいるゲッターとゲシュペンストの戦いを見ている事しか出来ない全ての者が己の無力さを噛み締めていた。

 

『強い……なんて強さなの』

 

『応援どころじゃない、俺達では足手纏いにしかならないじゃないか……』

 

強さの桁が違うと言うのをギリアム達は肌で感じていた。今の動きを見ることが出来ず、そして自分達を歯牙にもかけない異形達。ギリアム達はこの場にこそいたが、既にもう戦闘に参加する資格は無く、ただの傍観者と化しているのだった……。

 

 

 

 

 

 

目の前を交錯する翡翠と真紅の閃光をリュウセイは見ている事しか出来なかった。L5戦役から力をつけた、操縦技術も格段に上がった。L5戦役の時とは肉体も精神も格段に成長したと慢心している訳ではないが、己の成長を実感していた。それでも、今リュウセイには何も出来なかった。あの時と同じく……ただ見ている事しか出来なかったのだ。

 

(これでもまだ足りないのかよッ!?)

 

割り込む事も、応援することも出来ない――圧倒的な力の差。どれだけ鍛えても、どれだけ技術を磨いても決して届かない、隔絶した世界でゲッターロボは、武蔵は戦っていたのだ。

 

(違う、違うッ!!! 俺は……俺は――もう後悔しないってそう決めたんだッ!)

 

何度も己の無力さに泣いた、武蔵がイングラムが生きているとそう信じていてもそれでも涙は流れた。

 

もっと強くなりたいと、後悔したくないと心から思った。

 

ただ壊すだけの力ではない守れるだけの、誰かを救える力が欲しいと心から願っていた。

 

『捕まえましたの……』

 

「ッ!」

 

砕かれた鬼面が4方向からゲッターを押さえ込んでいる。凄まじい力で振りほどこうとしているが、両手、両足に1体ずつ、そして鬼面から伸びた蔦が全身に巻きついていた。ゲッターが力をこめれば蔦がちぎれ、鬼面も亀裂が走る。ゲッターの力から考えれば、鬼面の妨害なんて1秒、いや2秒にも満たない微々たる時間稼ぎ――ゲッターの力を考えればその2秒という時間は凄まじく価値のある物だった。

 

『少しだけで良いんですの……少しだけ、動きが止まればッ!!』

 

ペルゼイン・リヒカイトの腕がゲッターに伸びるのを見た。ゲッターの力を求めているアインスト――それがゲッターに触れれば何が起きるのか? 間違いなく禄でもないことになるというのは明らかだった。

 

『思いとおりにはさせないんだからッ!!』

 

『やらせんッ!!』

 

『リュウセイ、何をしているッ! アルフィミィを止めるんだッ!』

 

オクスタンランチャー、メガ・バスターキャノン、グラビトンライフルの攻撃を受けてもゲッターに手を伸ばし続けるペルゼイン・リヒカイト――その光景がリュウセイにはスローモーションに見えていた。

 

「俺は見ているだけじゃねえッ!!!! 今度は、今度はッ!!」

 

後悔しない力を、最後まで一緒に戦えるだけの力を――それをリュウセイは欲した。目の前で仲間が死ぬ光景も、置いて行かれるのも、2度とあんな思いはしたくないと心から思った。

 

「今度は俺が助けるんだッ!!」

 

リュウセイはそう叫ぶと同時にアルブレードを走らせ、ペルゼイン・リヒカイトの背中にブラスト・トンファーを振るう。それはゲッターが鬼面を砕き、ペルゼイン・リヒカイトの腕がゲッターの胸部に触れる瞬間だった。

 

「うおああああああああああッ!!!」

 

『そんな攻撃効かないですのッ!』

 

リュウセイの渾身の力が込められた一撃だったが、それは確かにアルフィミィの言う通り、通常ならばペルゼイン・リヒカイトの強固な装甲を貫くことが出来なかっただろう。だがリュウセイの咆哮と共に振るわれたブラスト・トンファーによる一閃――本来エネルギーバンカーを打ち込む筈のその一撃から放たれたのは高密度に圧縮された念動力の刃だった。

 

『うううッ!? な、なんでですの?』

 

アルフィミィの困惑した声が響くと同時に念動力の刃はペルゼイン・リヒカイトの装甲を貫き、ゲッターの手前でその動きを封じていた。

 

『あ……ああああああーーーッ』

 

そして動きの止まったペルゼイン・リヒカイト目掛け、ゲッターD2の腹部から放たれたゲッタービームが放たれペルゼイン・リヒカイトの姿はゲッタービームの光の中へと消えた。

 

「はぁ……はぁ……い、今のは……どうして?」

 

アルブレードにはT-LINKシステムが搭載されていない。それなのに、今ブラスト・トンファーから放たれた刃は紛れも無く念動力による一撃だった。

 

『う、うう……やっぱり欲張ったのが駄目だったですの……』

 

全身から火花を散らすペルゼイン・リヒカイトが姿を現すが、その姿に覇気は無く、これ以上戦えないと言うのは誰の目から見ても明らかだった。

 

【うう……キョウ……スケ……】

 

「!!」

 

【キョウスケ、彼に……彼に会いに行きますの……最初からそうしていれば、こんなに痛い思いをしないで済んだのに……】

 

「な、何で 貴女がキョウスケの事をッ!?」

 

苦しそうな声でエクセレンの脳裏に響いたアルフィミィの口から告げられたキョウスケの名にエクセレンは声を上げる。

 

『エクセレン、アルフィミィはキョウスケの名を言ったのか?』

 

『おい、何を慌ててやがるんだ、キョウスケに何かするって言ったのかッ!?』

 

「え、皆には聞こえてない……の?」

 

しかしアルフィミィの声はエクセレンにしか聞こえておらず、動きの鈍いペルゼイン・リヒカイトを鹵獲しようとしていたカチーナ達の動きが一瞬止まった。その一瞬の隙にボロボロだったペルゼイン・リヒカイトの姿はほんの少しだが回復する。

 

【私に無い物…… 私が……私である為に……では……また会いましょうですの】

 

「待ってッ!!」

 

アルフィミィはそう言い残すとペルゼイン・リヒカイトを反転させ、凄まじい勢いでこの場から離脱して行った。

 

『逃げやがったかッ!  追うぞッ!!』

 

『あの速度では無理です。それにまだアンノウンは残っていますッ!』

 

アインストは消えたが、全身に黄色い目玉が浮かんでいる異形が残っているとレオナに告げられ、カチーナは舌打ちと共にその動きを止める。

 

『あの化け物は一体……アルフィミィとは関係がないのでしょうか?』

 

『化けもんなら化けもんらしく、襲ってくればいいだろッ!!』

 

タスクがそう叫ぶとインベーダー達は一斉に反転し、アルフィミィとは別の方角に向かって逃走を始める。

 

『逃げたッ!?』

 

『逃げるというだけの知性があると言うことかッ!?』

 

知性も何も無い、食欲だけの化け物に思われたが逃げると言う行動を見せた。それは今まで攻撃一辺倒だった化け物達の始めての知性ある行動に見えた。そしてゲッターとゲシュペンストは化け物が逃げた方角に姿を消す、通信を繋げる間もその正体を尋ねる間もなかった。

 

『あの化け物を追いかけていった……という事は、あのゲッターとゲシュペンストはあの化け物を追いかけてこの場に現れた?』

 

『……でもよ、あのアインスト・アルフィミィだっけ? あいつらとあの化け物は化け物同士で戦ってたぜ?』

 

アインストとインベーダーが争い、そしてそこにゲッターとゲシュペンストが現れた。

 

『全てはストーンヘンジから放たれたゲッター線から始まった』

 

『ええ。なんにせよ全員ヒリュウ改へ帰還しましょう、ここで話し合っても何も始まらない。ヒリュウ改の分析データを基に話し合いましょう』

 

ストーンヘンジ、そしてそこから現れたアインストとインベーダー。そしてその両者に狙われていたゲッターロボとゲシュペンスト――与えられた余りにも多すぎる情報。それを1度整理する為にリュウセイ達はヒリュウ改へと帰還して行くのだった……。

 

『ピピピピ……』

 

ストーンヘンジの残骸に張り付くようにして隠れていたガロイカがどこかへと帰還していくのに最後まで気付く事無くヒリュウ改へと帰還してしまうのだった……。

 

 

 

 

マオ社へ向かう道中でストーンヘンジから現れたアインストとインベーダーの簡易分析結果がブリーフィングルームで告げられていた。

 

「……調査の結果、 ストーンサークルを形成していた岩石に異常は無かったそうです。強いて言えば、ゲッタービームの直撃によってゲッター線反応が検知されたくらいだそうです」

 

「馬鹿言うな。 あんな化け物共が出てきて、何もねえってのか?」

 

「重力反応だけではなく、可能な限りの検査結果を取った上で何も無かったって事か?」

 

「いやいや、マジでないって、絶対あのストーンヘンジが原因だって、もっかい調べた方が良いって」

 

アインストとインベーダーが出現したストーンヘンジ――そこに何かあると考えていた面子は多く、ラッセルの何も無かったと言う分析結果の報告に異を唱えた。

 

「調査班もそう思い、10回以上調べた結果です。恐らくですが……感知された重力反応とゲッター線反応によって、「どこか」と繋がったと言う事ではないでしょうか?」

 

「どこかってどこだよ? ええ?」

 

カチーナの凄んだ声にラッセルは苦笑しながら、手にしていた資料を机の上に並べる。

 

「L5戦役中の物ですが、ゲッター線の高反応の後、ゲッターロボが転移したというデータがあります」

 

「あ、そう言えばジュネーブでのゲッターロボGの時も合ったわね」

 

「それを言うとアイドネウス島でのビアン博士との戦いの時もだ」

 

なんどもリュウセイ達は見ていたのだ。ゲッター線が齎す不可思議な現象の数々を、それは空間を歪め絶対に間に合わないと思わせる状況で、シャイン王女を救い、そしてヴァルシオンに苦しめられていた時の逆転をも起した。

 

「ゲッター線は未知のエネルギーだ。何が起きても不思議ではない。不思議では無いが……」

 

「そう簡単には受け入れられないわね」

 

理解を超える現象を全てゲッター線だからという理由で片付けてしまえば、そこから進めなくなってしまう。確かに不可思議な現象を起しているゲッター線だが、すべてが全てゲッター線のせいにしてはいけないのだ。

 

「所でだ、あのゲシュペンストとゲッターロボの反応は?」

 

「すいません、振り切られてしまったそうです。方角はホワイトスターの方角という事は判っているんですが……それ以上は」

 

「ホワイトスターのほうで見失ったぁ? おい、本当にエアロゲイターじゃないんだろうな? あの化けもんとエアロゲイターが敵対してるからあたし達を助けたってオチじゃねえだろうな?」

 

「いや、違うぜ。中尉――ドラゴンもゲシュペンストも敵じゃねえ」

 

存在しないゲシュペンスト・タイプSとドラゴンの改良機――そのどちらも現在は地球には存在しない物だ。今回は助けられたが、実は敵の敵は味方ってオチじゃないだろうな? というカチーナにリュウセイが違うと異を唱えた。

 

「なんか確信でもあるのかよ?」

 

「いや、そういうのは無いんだけど……俺には判るんだ。あれは――きっと人が乗ってる、もしかすると武蔵かもしれない」

 

「いや、そりゃ気持ちは判るけどよ? リュウセイ。あんだけ馬鹿げた機動をしてた「人間の生命反応が感知されていますよ。タスク少尉」……マジか」

 

ゲッターもゲシュペンストも重力装備で対応出来る加速と機動ではなかった。だから無人機の可能性があると言い掛けたタスクだが、有人反応があったと聞いてげえっと呻いた。

 

「しかしそうなると何故通信に応じなかったのかというのが気になりますわね」

 

「それに関しては通信に出ている余裕が無かったのが理由だろう。あの化け物が相手では一瞬の油断でさえも命取りだ」

 

機体を喰らい、取り込み進化する異形の化け物――それと戦うには極度の集中が必要だとギリアムが呟いた。

 

「しかし、危険性くらいは教えてくれても良かったのでは?」

 

「それだけ必死だったんだろう。その証拠に化け物が逃げたと同時に離脱して行ったしな」

 

「……俺喰われると思った。すげえ飢えてるって感じた……めちゃくちゃ怖かった」

 

「今回は無機物だったが……恐らくあの化け物は人間すらも喰うのだろうな。だから応答にも反応せずに追いかけていったんだろう、あいつらが生きていたらそれこそ大規模なパンデミックになりかねないからな」

 

「コロニーにもぐりこまれたら、それこそ一巻の終わりね」

 

無機物に寄生し、化け物に作り変える異形、人間すらも喰らいその数を増やすのならば、コロニーに侵入されたら一巻の終わりだ、それこそバイオハザードになり、コロニーを破壊しなければ対処出来なくなる、いや、仮に破壊しても自己再生することを考えると、余計に被害が広がる可能性もある。そう考えるとそれを防ぐ為に追いかけて行ったと考えれば応答する余裕が無かったと容易に推測することが出来、ゲッターとゲシュペンストが味方である可能性は極めて高いと言えるだろう。

 

「それとあのアンノウンですが……アインストと呼称する事が決定しました」

 

「あのアインスト・アルフィミィって奴がそう名乗ってたな。 あたしは気になるんだがあいつ、人間なのか?」

 

アルフィミィはアインストと告げた、それがあのアンノウンの種族の名称である可能性は極めて高い。だがアルフィミィが人間であるかどうかには疑問が残っていた。

 

「私達の言葉を使っていたことから判断すると……その可能性は無きにしも非ずですが……隊長はどうお考えですか?」

 

「他の奴が骨に植物だぜ? 声だけ女の化け物だと思ってるぜ」

 

他の個体が化け物だからアルフィミィも化け物だと断言するカチーナ。確かに普通に考えればその通りなのだが、エクセレンには違うと言う確信があった。

 

「う~ん……中身はともかく、見た目は人間の女の子じゃないかしら?」

 

「俺もそう思うぜ。凄い小さい女の子だと思う」

 

声の感じからして幼い少女だとリュウセイとエクセレンが口を揃えて言うと、レオナが思い出したように頷いた。

 

「そういえば2人とも声が聞こえるって言ってましたわね。それと関係してるんですの?」

 

「確かにな、お前。なんか感じなかったのか?」

 

「あの赤いのが出てくる前に頭がズキンと来てからはハッキリと声が聞こえるようになったんだ。それにこう、誰かに見られてるって感じもしたんだ」

 

「私もそれを感じたわ。なんだったのかしらね? もしかして、アヤ大尉が良く言う念って奴かしら?」

 

「その可能性はゼロではないわね。ただ、念と仮定すると……」

 

「何故念動力者ではない、エクセレンにその声が聞こえたかが謎だ」

 

念動力者にだけ聞こえると仮定すればリュウセイだけではなく、レオナやタスクにも聞こえてなければおかしい。だがレオナとタスクにはその声が聞こえなかった。そうなると念動力は関係していないと考えるべきなのか、それともタスクとレオナがリュウセイのレベルに到達していないのが原因なのかと色々と考察をしているとブリーフィングルームにユンの艦内放送が響いた。

 

『各員、至急ブリッジへ集合。繰り返します、至急ブリッジへ集合してください』

 

ユンの切羽詰った集合通信にブリーフィングルームで話し合っていたギリアム達は急いでブリッジへと足を向けたのだった。

 

「な、何だって!?  テロリスト共に出し抜かれただぁッ!? あの百鬼帝国って奴のせいなのかッ!」

 

レフィーナから告げられたのはキルモール作戦で連邦軍の敗退が続いていると言う報告だった。ハガネが敗走した理由である、百鬼帝国の襲撃で敗走が続いているのか? と尋ねるとショーンは首を左右に振った。

 

「百鬼帝国は関係ありません。確かに百鬼帝国の姿を見て連邦軍の攻め手が緩まったのは事実ですが……ハガネの敗走で浮き足立ち、そこに広範囲に部隊を同時展開され、物量の差で押し込まれてしまったのです」

 

DC戦争、L5戦役での英雄であるハガネが轟沈寸前に追い込まれたと聞けば誰しもが浮き足立つ。そしてハガネを轟沈寸前に追い込んだ、百鬼帝国の襲撃があるかもしれないと恐怖する。そうなれば、動きは鈍り隙が生まれる。そこを一気に突きこまれ、劣勢に追い込まれてしまっていた。

 

「考えられる最悪の展開になってしまったな」

 

「ここから巻き返すのは厳しいわね、ユン。今の状況はどうなっているのかしら?」

 

ハガネがいれば大丈夫という安心感から、ハガネがいても駄目だったと変われば他の部隊の士気も下がる。そして士気が下がった所の電撃作戦――連邦軍という巨大になった組織だからこそ、効果的なカウンターパンチだった。

 

「現在テロリスト軍はニジェール地区の自治政府を管轄下に置き……現在はアルジェリア南端へ進出中だそうです」

 

想像以上に攻め込まれている事にギリアム達は顔を顰めた。だがそれと同時に余りにも手際が良すぎる事にも気づいた。

 

「今回の作戦――情報が漏れていたのではないか?」

 

「……レイカー司令もそれを危惧しておられました」

 

今回のキルモール作戦は広範囲に展開し、アースクレイドルを制圧するという旨の作戦だった。その中でハガネがどこに配属されているかも判らない筈なのにピンポイントでハガネに大打撃を与えた。それは何処にハガネが配置されるか判っていなければ打てない戦略だ。

 

「またDC戦争の時みたいに内通者がいるとギリアム少佐はお考えなのですか?」

 

「あくまで可能性の話ですが……ありえなくはないでしょう。敵の進路を考えれば、この作戦――連邦は大敗する」

 

ギリアムはそう断言し、ショーンもその意見に賛同した。

 

「恐らくですが……あの周辺の自治区は旧西暦時代の植民地政策の歴史の反動で……連邦政府樹立後も民族独立運動や部族抗争で内戦が続き、 連邦の干渉が上手く行っていません。それを利用し、地勢を味方につけたのかも知れませんな」

 

軍上層部にスパイがいたのか、それとも作戦の発令前に動いていた連邦軍を見た地元の反連邦勢力を味方につけたのかは不明だが……戦況は間違いなく連邦にとって不利な状況に回っている。

 

「しかし、反連邦勢力とは言え、主義主張は違うでしょうし、そう簡単に行くものではありません、副長とギリアム少佐の考えすぎでは……」

 

反連邦と言ってもそれぞれの集団の掲げる主義・主張は異なる。それらを纏め上げるのは不可能だとラッセルが言うが、ギリアムとショーンの眉間の皺は深く寄ったままだった。

 

「ここまで大規模侵攻に打って出たんだ。間違いなく、制圧した後の事も考えているだろう」

 

「恐らくテロリストとしていますが、敵勢力はDC残党と見て間違いないでしょう」

 

「そしてその残党の中には反連邦勢力に顔の効く人間がいる、彼らの目的は反連邦主義者を纏めあげ、地歩を固めてヨーロッパへ侵攻し……連邦大統領府があるパリを制圧する気なのかもしれない」

 

ギリアムの予想はあまりにも大規模な物だった、だが決して違うとも言い切れない。そうなると言う可能性が極めて高い物だった。

 

「ラングレーを制圧したロレンツォって言う大佐かしら?」

 

「ふむ、ロレンツォ大佐はコロニー側の反連邦勢力のリーダーとも言えますが……コロニーと地球では状況が違いますからなぁ。関与している可能性は高いですが……恐らくは違うでしょう」

 

コロニー統合軍に所属し、そしてDCでビアンの元で戦ったロレンツォ・モンテニャッコを旗頭に立てるには無理があるだろう。だが間違いなく地球での反連邦勢力のリーダー格をテロリスト達が有している可能性は高い。しかし、宇宙にいるヒリュウ改に出来る事は今はない、大破したハガネが戦況に復活することを願い。レイカーの指示に従って行動するしかない。

 

「レイカー司令からの指示でリュウセイ少尉達はマオ社で新型を受け取り次第、オクトパス小隊と共に地球に降下しハガネと合流して欲しいと通達がありました。これより本艦は最大戦速でマオ社へと向かいます」

 

全てが手遅れになる前に、戦うだけの戦力を揃えなくてはならない。解決するべき謎は多数残っているが、現在の状況では解決する術が無い以上それに拘っている時間は無く、少しでも早くハガネへと合流する為にヒリュウ改はマオ社に向かって進路を取るのだった……。

 

 

 

第39話 進化の光を求める者 その4へ続く

 

 

 




宇宙ルートは1回ここで終了! 次回は地上ルートの異形の呼び声を書いて行こうと思います。その後はオリジナルシナリオを1つ挟んで、戦うべき敵をオリジナル展開で書いて、ノイエDCと剣神現るを飛ばして星から来る物、第3の狂鳥と続き、ノイエDCで武蔵とハガネ、ヒリュウ組と合流という風に話を進めて行こうと思います。話を前後左右させているので、整合性に若干の不安を抱いておりますので、もしどこか間違っている部分などありましたらご指摘お願いします。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。



PS

スパロボDDにノワール3実装予告

待ってたぜ、この時をッ!溜めに溜めた3000ジェムをブッパする時が来た。天井までは引けるので、確実にノワール3のSSRは入手出来る算段ですが、ガチャという性質上複数出ることもあるでしょうし、何よりもノワールのゲッタービームの時はダブルダークネストマホークもピックアップされました、つまりノワール3の時はトマホーク・ビーム・ノワール3の必殺技と3種類のピックアップになると踏んでおります。

なので、天井まで引くまでに出たゲッターノワール関連のSSR1枚につき、1話の連日更新をしたいと思います。
おいおい、正気かよと思うかもしれませんが大丈夫です、安心してください。だって武蔵ですよ、今作の主人公のムサシのクローンですが、武蔵は武蔵ならばやるしかないでしょう?ゲッタービジョンからマッハスペシャルになる時が来たのです。(なお、その後は燃え尽きる可能性が特大です)

私は早朝5時から昼12時までの勤務なので6時間もあれば恐らく1話書ける計算です。ではノワール3実装時のガチャの結果は活動報告で触れるつもりなので、どうなるのか楽しみにしていてください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第39話 進化の光を求める者 その4

第39話 進化の光を求める者 その4

 

コロニーの近くで翡翠色の閃光から姿を現したゲッターD2のダブルトマホークの一閃と、ゲシュペンスト・タイプSのブラスターキャノン改がコロニーに組み付こうとしたインベーダーにむかって放たれる。

 

「こいつでとどめだッ!」

 

『消えうせろッ!!!』

 

『『『キッシャアアアーーー!?!?』』』

 

ストーンヘンジから出現し、ホワイトスターを目指して移動していたインベーダーだが、その数を減らされると一転しコロニーに向かい出したのを見てを武蔵とカーウァイは必死にインベーダーを追い、コロニーの一歩手前でインベーダーに追いつき、インベーダーにトドメを刺すことに成功していた。

 

「ふいー、危ない所でしたね」

 

『ああ、だが一息ついている暇も無いぞ』

 

「……これってかなり不味い感じですかねえ」

 

コロニーから出撃してくるコスモリオンやガーリオン。その姿は明らかに友好的ではなく武器をその手にしている。

 

『コロニーの近くでこれだけドンパチをやれば、敵対行動と取られるだろう。逃げるぞ』

 

「うっす」

 

『そこの機体! 所属と名前を……ま、待てッ! 追え、追えッ!!!』

 

警告を告げてくるガーリオン達に背を向けて、武蔵とカーウァイはコロニーを後にして逃亡する事になったのだった。

 

「さてと、これからどうします? 月は近いですけど……オイラ達がどこか身体を休めれる場所はありますかね?」

 

ヒリュウ改の救出に成功し、そしてインベーダーに襲われかけたコロニーを救う事も出来た。だがその対価として武蔵とカーウァイは宇宙での活動母艦であるアルバトロスと離れすぎてしまっていた――アルバトロス級に戻るにはゲシュペンスト・タイプSの推進剤も酸素も持たない。ゲッターD2で運ぶにしても、酸素がギリギリすぎる。

 

『そうだな。アルバトロス級とは離れすぎてしまったし……1度ビアン所長に連絡をとる事にしよう。アインストの事も伝えたいしな』

 

「じゃあ、お願いしてもいいですか?」

 

『ああ、私の方が上手く説明出来るだろう。武蔵は周囲の警戒をしておいてくれ』

 

カーウァイがクロガネ改と通信をしている間。武蔵は周囲の警戒をしながら、先ほど倒したインベーダーの事を考えていた。

 

(なんでインベーダーが新西暦に……あの石ころの輪が理由なのか?)

 

ストーンヘンジから出てきたアインストで武蔵とカーウァイはあちら側の世界でキョウスケを狂わしていた存在の事を思い出した。しかしそれに続くように現れたインベーダー……それがどうしても理解出来なかった。

 

(宇宙のどこかにゲッター線があってインベーダーがまだ存在しているのか? ううーん。わかんねえ……)

 

旧西暦で竜馬達が真ドラゴンを使いインベーダーを消滅させる計画を立てていたのは知っている。だがそれが決行される前に武蔵はあの世界を旅立ったので、どうなったのかという経過を知らない。ゲッター線を得る事が出来なければインベーダーは消滅する――そう考えれば新西暦まで生き残っていたインベーダーという線はない。

 

『武蔵、ビアン所長を連絡がついたぞ。セレヴィス・シティの旧マオ社の格納庫で1度匿ってくれるそうだ。ただヒリュウ改がこっちに向かってるそうなので急いで欲しいそうだ』

 

「ういっす。じゃあ、そっちに行きましょうか」

 

『ああ、考えなくてはならない事はあるが――まずは身体を休めることにしよう』

 

カーウァイの先導で初代ゲシュペンスト達が製造されていたマオ社の旧ラインに向かって武蔵は移動を始めたのだが、突如その動きを止めた……。

 

『どうかしたか?』

 

「いえ、誰かに見られている気がして――気のせいかな?」

 

見られている気配を感じ振り返った武蔵だが、その周辺には何の姿も無く気のせいだったかと苦笑した。

 

『インベーダーとアインストのせいで気が立っているんだろう。そういう事もあるさ』

 

「ですかね――すいません。行きましょう」

 

ヒリュウ改に見つかる訳には行かないと武蔵とカーウァイは急いでその場を後にしたのだった。だが武蔵の感じた視線は間違いではない、ただ余りにも距離が離れていて、その姿を確認出来なかったのだ。だが確かに武蔵達を見つめている影は存在していた……。

 

『見つけた、ゲッターロボだ。しかし、マジでいるとはな……正直誤認だと思ってたぜ』

 

『へえ……本当にゲッターロボがいたんだねえ……正直眉唾ものだと思っていたよ。ね、シカログ』

 

『……』

 

『ええい! 貴様らはウェンドロ様が嘘を言っていたとでも思っていたのか!』

 

『ああ、うるせなあ。ヴィガジ――でもよ、ゲッターロボだぜ? 何千年も前に銀河系を支配しかけた悪魔のマシンだ。そんなもんが存在するなんて思わないだろうが』

 

『それは……そうだがッ』

 

『ゲッター線に触れた者は破滅する。こいつを忘れるなよ、ヴィガジ。アギーハ、シカログ。俺達は予定通りネビーイームを制圧するぜ』

 

『OK、あたしに異論はないよ。ゲッターロボに近づくなんてあたしは嫌だしね』

 

『……』

 

『シカログも言ってるよ。大隊が全滅する覚悟をしろってさ』

 

『だよなぁ、ったく、地球圏の査察に加えてゲッターロボのパイロットを説得しろなんて無茶な命令にも程があるぜ……』

 

ぼやく男――メキボスが駆る蒼い機体「グレイターキン」が動き出し、それに付き従うように両腕がブレードになっている下半身の無い機体「シルベルヴェント」と、緑の屈強な機体「ドルーキン」が逃げるようにその場を後にする。だがヴィガジという男が駆る黄色の恐竜の様な特機――「ガルガウ」だけは月の側面に向かって隠れるように移動するゲッターロボとゲシュペンストを忌まわしげに見つめていた。

 

『ヴィガジ。仮に戦うとしても、今は無謀だと判ってるだろうが』

 

『ちっ、貴様に言われんでも判っているわッ! メキボスッ!!』

 

メキボスに指摘されやっと反転したガルガウがグレイターキン達と合流し、その場を後にするのだった。

 

 

 

 

武蔵とカーウァイとの通信を終えたビアンは、そのまま保留状態で待っていてくれた協力者に向かって頭を下げた。

 

「すまないな、リン社長。ご迷惑を掛ける」

 

『なに気にしないで欲しい、ビアン博士』

 

L5戦役の後からビアンが積極的に動き、協力者としたリン・マオ。彼女が協力してくれているからゲシュペンスト・MK-Ⅲ、そしてヒュッケバインMK-Ⅲをビアン達が手に出来ていたのだ。

 

「この借りは必ず返す」

 

『何十分過ぎるくらい助けて貰っているさ』

 

「……くれぐれもヒリュウ改には内密で頼む。まだ武蔵君達は表舞台に出る訳には行かないのだ」

 

『言われなくても判ってるさ、ではなビアン博士。余り話を続けていると補足されてしまう』

 

「ああ。そうだな、だがリン社長。気をつけて欲しい、宇宙は今地球以上に危険な状態となっている。最悪の場合は常に想定しておいて欲しい」

 

『……判った。忠告感謝する、ビアン博士』

 

その言葉を最後にモニターは沈黙した。ビアンはそれを見て、小さく溜め息を吐いて背もたれに背中を預けた。

 

「宇宙の状況は最悪だ。武蔵君とカーウァイ大佐を送り出して正解だった。イングラム少佐、気分はどうかな?」

 

「……最悪だが、色々と思い出したぞ。アインスト……そうだ。アインストだ、あちら側でキョウスケを狂わせ、ゼンガーを取り込んだ生命体――それがアインストだ」

 

通信の中で告げられたアインストの名前。武蔵とカーウァイと同様でイングラムもあちら側の記憶を取り戻していた。

 

「俺を取り込んだと言うのか?」

 

信じられないと言う顔をするゼンガー。だが事実だとイングラムはきっぱりと告げ、平行世界のゼンガーがどんな末路を辿ったのかを告げた。

 

「ああ、グルンガスト・参式に寄生し、そのままお前も取り込んだ筈だ。最終的には鬼のような姿になり、カーウァイに解放されていた」

 

「……そう……か」

 

解放された――それがカーウァイが手に掛けたという事であり、ゼンガーは小さくそう呟き目を閉じた。

 

「これで得心が行った」

 

「ああ、カーウァイ大佐は俺達の事を考えてくれていたのだな」

 

「いつまでも心配をかけて情けない限りだ」

 

アインストがこの世界で現れないと言う保障はない。あの世界のようにゼンガー達がアインストに取り込まれないように、アインストに敗れないように厳しく鍛え上げる事がカーウァイからゼンガー達に出来る事だったのだ。

 

「……しかし、それが本当ならばとても大変な事になるのでは? 中国で出現したアンノウン――あれがアインストなのですよね?」

 

「ああ。もうこの世界でアインストは動き出している。キョウスケ達やダイテツ中佐に1度警告しておく必要があるが……」

 

そこでイングラムは口を閉じた。ここでイングラムがハガネのクルーの前に現れればそこから済し崩しに武蔵の事まで明らかになるだろう。まだ武蔵、イングラム、カーウァイの3人が生きていると言う事を隠しておきたいと言うのはイングラムだけではない、ビアン達も同様だった。

 

「イングラム少佐は1度私のアジトで降ろそう。勿論R-SWORDと共にだ」

 

「すまない、迷惑を掛ける」

 

イングラムを1度ケルハム基地の近くのビアンの親派の拠点に下ろし、そこから改めてケルハム基地へとクロガネが進路を取る事で話は決まった。その直後クロガネのブリッジに警報が鳴り響き、ビアン達の顔が険しい物に変わった。

 

「何事だ!」

 

「アンノウン――いえ、アインストの反応を感知ッ! ケルハム基地へと進軍中ッ!」

 

リリーの切羽詰った報告を聞いて即座にビアンは指示を飛ばす。

 

「ゼンガー、エルザム、ラドラは出撃準備ッ! イングラム少佐には悪いが、アジトのポイントを教える。自分で其方へ向かって貰えるか?」

 

「ああ、言われなくてもそうするつもりだった。俺の事は気にせずケルハム基地へ向かってくれ」

 

「ゼンガー達が出撃後クロガネはケルハム基地へと向かう! 総員戦闘準備ッ!」

 

イングラムの了承を聞き、ビアン達は戦闘準備を整えていく、いまケルハム基地には戦闘には耐えれない状態のハガネが停泊している。あの世界のようにハガネをアインストに強奪される訳には行かないとクロガネはイングラムとR-SWORDを残し、最大戦速でケルハム基地へと向かった。しかし、ケルハム基地へ向かわなかったイングラムもビアンのアジトに向かい、そこで戦闘に巻き込まれることになる。

 

『R-SWORD。イングラム中佐か……全くやっとソウルゲインの修理が終わるという段階でお前に遭遇する事になるとは……』

 

近づいてくる熱源を探知して出撃したのか、ビアンのアジトの前でソウルゲインがイングラムを待ち構えていた。

 

「……アクセル、そうだ。お前はアクセル・アルマー。やっと思い出したぞ、貴様の顔を」

 

ボロボロで片腕の無いソウルゲインを見て、イングラムはアインストに続き、更なる記憶を取り戻した。シャドウミラーの隊長――「アクセル・アルマー」の名と顔を今はっきりと思い出していた。

 

『思い出した? ああ、なるほどそう言うことか。お前も俺と同じで少し記憶を失っていると言う事か――それならば好都合。ここで消えてもらうぞッ! イングラム・プリスケンッ!!』

 

「悪いがそれはこちらの台詞だッ! 貴様らの存在は世界を乱すッ! ここで死んでもらうぞッ! アクセル・アルマーッ!!!」

 

眩いまでの蒼と闇を思わせる黒が交差する。フラスコの世界でのシャドウミラーとの戦いはR-SWORDとソウルゲインの戦いから始まり、そしてそこからシャドウミラーの本格的な介入が幕を開けていく事となるのだった……。

 

 

 

 

 

ケルハム基地に停泊しているハガネとそしてそのクルーは満身創痍一歩手前という有様だった。そしてその格納庫ではハガネとケルハム基地の整備班がフル稼働で大破寸前の機体の修理を行なっていた。

 

「キョウスケ、また見に来てるのか?」

 

「イルム中尉。ええ、嫌な感じがどうしても拭えないんです」

 

昨日の早朝からキョウスケは言葉に出来ない奇妙な感覚を味わっており、何度も格納庫に足を向けてアルトアイゼンの修理の様子を見に来ていた。

 

「俺のグルンガストの次くらいに重傷なんだ。アルトは動かせねえぞ」

 

龍虎皇鬼によって容赦の無い攻撃を受けたグルンガストは全身の装甲の破損にくわえ、胸部の装甲の破損状態でのファイナルビームの使用によってファイナルビームの発射不可に加えて変形不能。そしてそれに加えて駆動系がボロボロと動かせる状態ではなく、そしてアルトアイゼンも腕を掴まれたまま投げ飛ばされた事で肩部からフレームが歪み、その挙句跳弾を受けながら至近距離でスクエアクレイモアを打ち込んだ事で頭部センサーに加えて、コックピットも拉げ、工具でコックピットを切り開かれ救出されたキョウスケの頭には今も痛々しく包帯が巻かれている。

 

「予備パーツがあるのですぐに回復すると思ったのですが……」

 

「無茶が過ぎたな。幾ら予備パーツがあっても無理しすぎだ」

 

フレームから歪んでしまえば幾ら予備パーツがあっても修理には時間が掛かる。不幸中の幸いはゲシュペンスト・MK-Ⅲのパーツの流用が効くので肩部をまるまるゲシュペンスト・MK-Ⅲの物に交換する事で通常の修理よりも短時間で済む点だろう。しかしそれでも数日の缶詰は避けられなかった。

 

「強かったな、あいつら」

 

「……ええ。成す術も無かった」

 

皆が捨て身で戦い、それでも龍虎皇鬼は倒せなかった――それ所か姿を変えてハガネまで轟沈寸前に追い込んだ。百鬼帝国の将軍四邪と名乗った事からあの強さの鬼が後もう2人は最低でも存在すると言う事を示していた。龍虎皇鬼の圧倒的な強さ、どう足掻いても勝てないと言う絶望感――それをキョウスケ達は味わっていた。

 

「DC戦争時にゲッターロボと戦ったDC兵の気持ちが判った気がします」

 

「ああ。なるほど、確かにそうだろうな」

 

自分達のどんな技術も押し潰す圧倒的な力の顕現――それがゲッターロボであり、龍虎皇鬼だった。だがそれでもキョウスケ達の心は折れていない、確かに完膚なきまでに負けた。だが次は勝つという闘志に燃えていた。

 

「しかしキョウスケが嫌な予感がするとか、不吉だな」

 

「……ただの思い過ごしで……ではないようですね」

 

思い過ごしであれば良いとキョウスケが口にした瞬間。格納庫に警報が鳴り響き、キョウスケが溜め息を吐いた。

 

「グルンガストもアルトも使えねえ! 俺はヒュッケバイン・MK-Ⅲで出る。お前はゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプAを使えッ! 整備班が準備してくれてる筈だッ!」

 

「すいません、助かりますッ!」

 

一気に慌しくなる格納庫の中でキョウスケとイルムは臨時の代替機であるゲシュペンスト・MK-Ⅲとヒュッケバイン・MK-Ⅲの元へと走り、慌しく出撃する。

 

「ダイテツ中佐。ケイハム基地は全精力を向けて、ハガネとハガネのクルーをお守りします」

 

「……いや、その必要はない。ハガネも出撃させる」

 

「し、しかし! ハガネは戦闘に耐えれる状態では!」

 

不安そうな若い司令にダイテツは大丈夫だと笑う。

 

「ワシもそしてハガネのクルーもこんな窮地は何度も潜り抜けている。だから大丈夫だ」

 

「……判りました。しかし私達共も守られるわけではありません。共に戦います」

 

ハガネの轟沈寸前と聞いて確かに連邦軍全体の士気は落ちている。しかし全てが全て戦意を失ったわけではない、キョウスケ達同様不屈の闘志を抱き、戦う決意を持つ男達が確かにケイハム基地にも存在しているのだった……。

 

 

 

 

 

 

辛うじて浮遊していると言う状態のハガネを守るようにハガネのPT隊が出撃し鉢合わせたのは中国で出現したアンノウンの群れだった。

 

「……間違いない。あの時のアンノウンだ」

 

ケイハム基地を包囲するように展開されているアンノウンの部隊にキョウスケは顔を歪めた。中国で戦った時よりも戦力が低下していて、そしてキョウスケ含むパイロットも疲弊している状態で戦うには厳しいとキョウスケはゲシュペンスト・MK-Ⅲのコックピットの中で顔を顰めた。

 

『でも、 奴らがどうしてこんな所にッ!?』

 

『ここは遺跡じゃない。あの基地に何かあるというのでしょうか?』

 

『化け物に理論的な物を求めるんじゃない、ブリット、ライ。キョウスケ、先陣は俺が切る』

 

「了解です。カイ少佐」

 

中国で出現した際は遺跡があった。しかし、今回は遺跡は当然無い。何故アンノウンが出現したのかという謎はある、だが襲ってくるのならば戦うしかない。

 

『私達はどうすればいいでしょうか! カイ少佐ッ! キョウスケ中尉ッ!』

 

ケイハム基地から出撃してくるゲシュペンスト・MK-Ⅲ、ヒュッケバイン・MK-Ⅲの若い隊員から指示を求める声が響いた。

 

『お前達はアンノウンとの戦闘経験がない。基地を防衛しながら支援を行ってくれ。狙うのはアンノウンの胸部の赤黒い球体部だ』

 

『『『『了解です!』』』』

 

4機の支援機がカイの指示に従って隊列を組んでいるのを見ながらキョウスケは上手いと感じていた。ケイハム基地の司令の面目も潰さず、そして若い隊員にアンノウンへの戦闘経験を積ませ、戦闘データを記録させる。正直アンノウンの手数、そして戦略が不明な部分もありケイハム基地の戦力を減らす訳には行かないのでカイの指示は最も理に叶った物であった。

 

(俺を見ている?)

 

アンノウンが自分を見つめているような気がして、其方を向いた瞬間アンノウン――アインスト・クノッヘンが顔を動かし、ゲシュペンスト・MK-Ⅲに視線を合わせてきた。

 

【……コノホシ……カラ……】

 

「また言葉を……ッ!? 聞こえたか皆」

 

自分を見るように動き、そして声を発したと言う事に冷静なキョウスケも驚き声を上げた。中国の時よりも鮮明で、まるで耳元で言われたかのようにはっきりと聞こえたからだ。だから皆にも聞こえていたと思ってそう尋ねたのだが、帰ってきた返答にキョウスケは驚きを隠せなかった。

 

『え!? な、何を言っているんですか?』

 

『声なんて聞こえなかったですよ。キョウスケ中尉』

 

『おい、キョウスケ大丈夫か? 前もそんな事を言ってただろ?』

 

ブリット、ラトゥーニ、イルムに言われて自分以外の誰にも聞こえていなかったと言う事に驚きを隠せなかった。

 

「ブリット、お前には聞こえなかったのか?」

 

『は、はい。敵意みたいのは感じますけど……声は聞こえていないです』

 

念動力者であるブリットなら聞こえているかもしれないと思い改めて尋ねたが、ブリットの返答は敵意は感じるが声は聞こえないと言う物だった。

 

(念動力の有無は関係ないのか?  だが、何故俺とエクセレンだけが……)

 

中国でもエクセレンと自分だけが聞こえていた。念動力者でもない何故自分とエクセレンだけが聞こえていたのか? 自分達とアンノウンには一体何の関係性があるのかとキョウスケは戦闘中だというのにその理由を考えずにはいられなかった。

 

『ラミア、ラトゥーニ。音声は記録出来たか?』

 

『いえ』

 

『私の方も何も記録されていません』

 

ライが念の為にラミアとラトゥーニに音声が記録されているかと尋ねるが、2人も音声が記録されていないと返事を返す。

 

「すまない、俺が気にしすぎているようだ」

 

自分にだけ聞こえていた声が勘違いだとキョウスケは口にしたが、間違いなくキョウスケにはその声が聞こえていた。何故自分にだけ声が聞こえているのか、キョウスケはこの戦いの中で明らかにしてみせると意気込みゲシュペンスト・MK-Ⅲの操縦桿を握り締めた。

 

『スティール2より各機へッ!  友軍機と協力し、ハガネとケイハム基地を守りつつ、アンノウンを撃破せよッ!』

 

『キョウスケ、今は戦闘に集中しろ。良いな?』

 

「了解……!」

 

テツヤから戦闘命令とカイからの忠告にキョウスケは了解と返事を返したが、どこから自分を見つめている視線を感じ、嫌な胸騒ぎがキョウスケの中から消える事が無いままにアインストとの戦いの幕が切って落とされるのだった……。

 

 

 

第40話 進化の光を求める者 その5へ続く

 




今回はインターミッションなので戦闘描写はありません、その分次回の分にガッツリと戦闘描写を書くつもりです。クロガネもこの段階で登場させるつもりなので、文字数はかなり多くなると思いますが、頑張って行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


それとノワールガチャの結果
ダブルトマホークダークネス2枚
ゲッタービーム1枚
天井でギガントミサイルストーム

となりましたので、日曜日の固定に加えて、月・火・水・木の4日を追加で更新しますのでお付き合いの程、どうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第40話 進化の光を求める者 その5

第40話 進化の光を求める者 その5

 

ケルハム基地に出現したアインストと戦い初めてすぐキョウスケ達はある違和感に気付いた。

 

「弱い?」

 

中国で出現した個体よりも遥かに耐久力、そして攻撃力が低かったのだ。ゲシュペンスト・MK-Ⅲは確かに優秀な機体であるが、DC戦争、L5戦役の間ずっと強化され続けていたアルトアイゼンと比べると当然その馬力は劣る。更に言えば、換装パーツのリボルビングステークは本家の物よりも衝撃が軽く、取り回しが楽になっている分威力に劣るのだが、それでコアを簡単に粉砕出来た時に弱いと確信した。

 

「アサルト1から各機へ、現在出現しているアンノウンは陽動及び偵察の可能性が高い。弾薬、エネルギーの使いすぎに注意しろ」

 

中国での脅威を知っているから最初から全力だったが、明らかに弱い。この後に中国で戦った個体と同等の強さのアインストが現れる危険性を考え、弾薬などをセーブして戦えとキョウスケが指示を出している間にケイハム基地の砲撃型ゲシュペンスト・MK-Ⅲのレールガンがコアに直撃し消滅するアインストを見て、弱いと言う疑惑は確信に変わった。

 

『キョウスケの言う通りだな。余りにも弱すぎる』

 

『やはり中尉の言う通り偵察隊という事なのでしょうか?』

 

ライトニングステークやシシオウブレードを使わずとも、打撃や牽制の射撃で撃退出来る弱さの個体――これが人間ならば偵察、もしくは陽動と容易に判断がついた。だが今の目の前にいるのは人とは似つかない異形の集団だ。

 

『偵察か、陽動か、どっちにせよ言えるのはこいつらはその程度の戦略を考える程度の頭脳があるって事か』

 

『行動パターンなどを推測すると、私達をこの基地周辺から離脱させるつもりはないようです』

 

『一定の箇所に近づくと途端に攻撃が激しくなるか……ますますきな臭いな』

 

普通に戦っている分には問題ないのだが、基地の外れ、戦闘区域から離脱する素振りを見るとアインスト・グリートの高出力のビームが襲い掛かる、R-2とヒュッケバイン・MK-Ⅲが即座に反転したことで被害は少ないが、直撃すれば一撃で良くて行動不能、そうでなければ撃墜されるほどの威力が秘められていた。

 

『あの蔦見たいのは中国の個体と同程度の能力を持っているようだな』

 

クノッヘンの背後で密集しているグリート達の能力はクノッヘンと比べて非常に高い、コアを攻撃されても消滅しない可能性が極めて高い。

 

『私達をこの場に押し留めて何をするつもりなんでございましょうか?』

 

上空からファントムアローでグリート撃墜を試みたラミアだったが、ファントムアローを簡単に弾かれ顔を歪めながらそう呟いた。

 

「考えられるのは広範囲殲滅兵器が放たれるか、それとも本隊が到着するまでの時間稼ぎだが……アンザイ博士の言う通り、あいつらが百邪だと言うのならば……前回の様に龍王鬼が現れる可能性もゼロではない」

 

あの異形も、百鬼帝国も百邪に分類されるとアンザイ博士は言っていた。なんらかの方法で意思疎通が取れるのならば、自己再生するアインスト達は優秀な足止めと言えるだろう。

 

『中尉は百鬼帝国とあのアンノウンが協力体制にあるとお考えなのですか?』

 

「あくまで可能性の話だ。ボーンの弱さに攻め込んで孤立しないように気をつけろ、俺の勘だと本命が来る」

 

勘と表現したキョウスケ。だが実際はどこかから自分を見ている視線が強くなっているのを感じ、アインスト達が自分達をここに足止めしようとしていると言う事に確信を得ていた。

 

『ま、確かにこの流れだとそうなるか』

 

『一体何が出て来ると言うんでしょうね』

 

『大型の個体か、それとも百鬼獣か――どっちにせよ強敵には変わりはないだろう。各員、伏兵と本隊の両方に警戒し、陣形を組んで戦うことを意識し、ケルハム基地の防衛を最優先に考えろ!』

 

クノッヘン自身が戦えば、ある程度後退すると言う行動を繰り返している為。カイもキョウスケの言う孤立させる為の戦術を取っていると判断し、攻め込むのではなくケルハム基地の防衛を最優先にし、陣形を組んで対処しろと指示を飛ばしながら自身もケルハム基地へと後退する。

 

「追って来ない……か」

 

『やはり足止めか、化け物の癖に知恵が回る奴らだ』

 

目の前で後退しているのに追う気配も無く、ケルハム基地を囲うように再び動き出すアインスト達。その不気味とも取れる行動にキョウスケ達は背筋に冷たい汗が流れるのを感じるのだった……。

 

 

 

 

 

キョウスケ達がアインストの動きに不信感を抱きながらも戦闘を続けている頃。荒野の無人地帯でのR-SWORDとソウルゲインの戦いは一進一退という状態で周囲を破壊しながら、互いに高速で動き続けていた。

 

「ちぃッ! そう簡単には取らせてくれんかッ!」

 

『それはこっちの台詞だ』

 

ソウルゲインの全長が約40m、それに対してR-SWORDは平均的なPTの全長である約20m前後。機動兵器同士の戦いは基本的には大きいほうが有利である。搭載出来る動力や大型化されたモーターなどによって馬力があり、ソウルゲインは例外だが、更に巨大な分、機動力を犠牲にした装甲の厚さ等例を挙げれば切が無いが、簡単に言えば大きいほど固く、そして強いという点からPTと特機の戦いは基本的に特機が有利とされる。PTは小型な分立ち回りが速いが、特機の装甲を貫通する攻撃力が無いからだ。だが、R-SWORDはその基本を根底から覆していた。

 

「随分と徹底して右側を狙ってくれるじゃないか、イングラム」

 

あちら側でのゲシュペンスト・MK-Ⅲとの戦いで失った右側からの攻撃を徹底してくるイングラム。乗ってくるとは思っていないが、挑発するようにアクセルが問いかける。

 

『相手のウィークポイントを狙うのは戦いの定石。まさか卑怯などとは言うまいな?』

 

「はっ、当たり前だッ!!」

 

青龍鱗による薙ぎ払いで攻め込んでこようとしたR-SWORDの突込みを阻止すると同時に踏み込み、まだエネルギーの残滓が残っている左腕による掌打を打ち込むソウルゲイン。だがR-SWORDはその打撃に自ら突っ込むと同時に跳躍し、ソウルゲインの腕に1度着地し跳躍する。

 

「ぐうっ!? おのれ、ちょこまかとッ!」

 

背後を取りながら放たれたM-13ショットガンの一撃でたたらを踏んだアクセルがいらついた声で叫んだ。だがイングラムは終始冷静だった。

 

『そんな安い挑発には乗ってやらんぞ。アクセル』

 

怒りで冷静さを欠いた振りをして見せたが、イングラムが掛かる訳も無く一定の距離を保ち、クレバーに立ち回っている。だが、そのクレバーさがアクセルにも落ち着かせる余裕を与えていた。

 

(落ち着け、向こうだって突発的な戦闘だ。その証拠に応援が来る気配はない)

 

最初は偵察にイングラムが出ていて、後に武蔵やカーウァイが来る可能性を考えて速攻を仕掛けていたアクセルだったが、何時までも応援が来る気配が無いのに気付いた。

 

(恐らく単独行動中の突発的な遭遇だ。仮に偵察だったとしても30分を過ぎても応援が来ないのはおかしい……)

 

かなりの時間戦闘しているが、ここまで時間が過ぎても応援が来ないと言う事は武蔵もカーウァイも動けない、もしくは近くにいない。あるいは自分のように単独転移をしていて、休める場所を探していた――等々応援が来ない理由も幾つも考えられる。

 

(EG装甲は稼動している、時間を掛ければ俺の方が有利……いや、五分五分か)

 

ソウルゲインはEG装甲による自己修復機能がある。そして少量だがエネルギーを回復する機構も組みつけられており、継戦能力は特機とは思えないほどに高い。そういう面ではR-SWORDもゲッター炉心によるエネルギー回復能力を持つが、装甲の修復能力はない。例え片腕でも、焦って攻め込まず。冷静にヒット&アウェイで削れば、耐久力と攻撃力の差でR-SWORDは行動不能になる。アクセルはそう判断し、今までのように攻め込まず一転し、距離を取っての青龍鱗等での中距離での差し合いを選択した。

 

「ちっ、冷静になったか……」

 

構えを一転させて、ヒット&アウェイの構えを取ったソウルゲインを見て今度はイングラムが顔を歪めた。

 

(厄介な……)

 

突発的な遭遇戦で互いに浮き足立っている中では、どちらが冷静に立ち回れるかが勝敗を分ける。そういう面では先にイングラムが冷静になり、着実に攻撃を重ねていたが、ソウルゲインのEG装甲を前に与えたダメージは殆ど回復されてしまっている。

 

「ブラフももう通用しないな」

 

30分――これだけの時間が経てば通常ならば応援が来る時間だ。それが無いと言う事でアクセルはイングラムが単独行動、もしくは応援がすぐに来れない状況にあると判断したのだろう。そうなれば、自己再生能力を持つソウルゲインで遠距離で削っていればR-SWORDの方が先に限界を迎えるのは明らかだった。

 

「さて、どうした物か……」

 

右腕を失っているから攻撃力が落ちている訳ではない、むしろあちら側では使っていなかった足技を戦闘に組み込んでいるからか、間合いが非常に図りにくくなっている。浮き足立っている間に戦闘でのアドバンテージを稼ごうとしたが、そのせいで攻めあぐねその結果はイーブン……いや機体の性能の差で僅かにイングラムが不利な状況に追い込まれていた。

 

「……ちっ、業腹だが撤退せざるを得ないか」

 

ここでアクセル、そしてソウルゲインを沈めておきたかったイングラムだったが、アクセルが冷静になってしまっては圧倒的な己の不利を悟らざるを得なかった。

 

「……問題は撤退出来るかどうかだなッ!」

 

『青龍鱗ッ!!』

 

ソウルゲインの左腕から放たれるビームをかわし、G・ビームライフルを打ち込むが回し蹴りで迎撃し、返す刀で特殊弾頭弾を打ち込んでくる。

 

「ちっ、厄介になったものだな」

 

頭部のバルカンで迎撃した物の、発生した煙幕を利用し一瞬で切り込んできたソウルゲインの拳をG・ビームソードで受け止め、バルカンを乱射する――だがバルカンが放たれた段階で既にソウルゲインは射程距離から離脱していた。このままでは火力不足でジリ貧に追い込まれると気付き、イングラムはその顔を歪めながらどうやってこの場切り抜けるかを考え始める。その顔には普段の余裕の色は無く、焦りの色が浮かんでいた。

 

「いつまでも持たんな、これがな……」

 

しかしソウルゲイン、アクセルにも実の所余力はさほど残されていなかった。まともにメンテなど受けておらず、アクセルの独学での応急処置で騙し騙しやってきたソウルゲインには行き成りの全力戦闘に耐えるだけの余裕がなかった。EG装甲、エネルギー回復共に稼動しているが、このままでは腕部か脚部……どちらにせよ駆動系がやられて行動不能になるのは明らかだった。イングラムとアクセルは互いに互いを仕留めたいが、それと同時に離脱したいという状況に追い込まれていた。近距離ならばソウルゲイン、中距離ではR-SWORD――互いに得意な距離を奪い合う高度な陣取り戦へと2人の戦いは変わり始めているのだった……。

 

 

 

 

ケルハム基地での戦いは完全な消耗戦になりつつあった。簡単に撃墜出来るアインスト・クノッヘン、そしてその後で陣取っているアインスト・グリート。クノッヘンは幾ら倒しても、無限に出現し続け、その後のグリートはキョウスケ達に目もくれず、ケルハム基地のゲシュペンスト・MK-Ⅲとヒュッケバイン・MK-Ⅲに執拗な砲撃を続けていた。

 

『うあッ!?』

 

『ぐっ……あの後のやつだけ別格だッ』

 

防衛用の盾を装備していたが、何十回と放たれるアインスト・グラートのビーム砲撃についにシールドが融解し爆発する。

 

『お前達は下がれ、後は俺達がやるッ!』

 

『すいません、司令部まで下がります!』

 

これ以上は耐えられないと判断したカイによって撤退命令が出ると、ゲシュペンスト・MK-Ⅲとヒュッケバイン・MK-Ⅲが基地司令部まで後退する。

 

『動きが止まった……?』

 

『何を考えているの?』

 

ケルハム基地のゲシュペンスト・MK-Ⅲとヒュッケバイン・MK-Ⅲが後退すると、ビームを放つ姿勢だったアインスト・グリート達が一斉に攻撃を取り止めた。

 

『こりゃあれか? もしかして俺ら以外には興味はねえって事か?』

 

「ありえますね。あのアンノウンの攻撃はケルハム基地の部隊を排除しようとしていたのかもしれません」

 

あのまま攻撃を続けていればケルハム基地の機体は撃破されていただろう。事実今も射程距離にヒュッケバイン・MK-Ⅲ達の姿はある。それなのに攻撃する素振りがない、それにキョウスケ達が怪訝そうな顔をしているとケルハム基地の機体が一歩前に踏み出した。

 

『うおッ!?』

 

【【【!!!】】】

 

沈黙していたグリート達が一斉に攻撃姿勢に変わり、慌てて後退するケルハム基地の機体。するとグリート達は一斉に攻撃態勢を解除した。

 

『やっぱり邪魔者と受け取っているようだな』

 

『化け物の考えている事は判らんぜ。何がしたいんだよこいつらは』

 

あれだけ執拗に攻撃を繰り返していたのに、一定の距離に下がれば攻撃をやめる。だが前に出ればまた攻撃を繰り出す、その射程にキョウスケ達の機体があっても、奥のケルハム基地の機体だけを狙うという奇妙な行動に出るアインスト・グリート。その奇妙な行動を観察していた時、戦い始めてすぐキョウスケが感じていた視線が一気に強くなった。

 

【……見つけましたの……】

 

「ッ!?」

 

『うっ!!』

 

キョウスケの脳裏に幼い少女の声が響いたのと同時にブリットが苦しそうに呻き声を上げた。

 

『どうした、ブリットッ!?』

 

『く……来るッ! 皆気をつけろッ!』

 

ライの心配そうな声に返事を返す事無く、敵が来る気をつけろとブリットが叫んだ瞬間。アインスト・グリートの背後から無数のアインスト、そしてペルゼイン・リヒカイトがその禍々しい姿を現した。

 

『……敵の中に1機、データに無い人型のアンノウンを確認しちゃいましたです。データを送ります』

 

空中にいたアンジュルグからアインストの後に陣取っているペルゼイン・リヒカイトの姿が全員の機体に送られる。

 

(今の声……あいつか?)

 

脳裏に響いた声の主を探していたキョウスケはラミアから送られた映像を見て、ペルゼイン・リヒカイトが声の主かと当たりをつけ、その視線を鋭くさせた。

 

『おいおい、鬼……か?』

 

『いえ、百鬼獣とはパターンが違います……良く似てますが、百鬼獣ではありません』

 

鬼面で構成されたペルゼイン・リヒカイトを見て百鬼獣か? と呟くと機体のデータを分析していたラトゥーニから百鬼獣ではないと言う報告が入った。

 

『百鬼帝国ではないとしても安心は出来ないな』

 

『……ああ、あいつ只者ではない』

 

ペルゼイン・リヒカイトの放つ圧倒的な存在感――それはハガネを轟沈寸前に追い込み、キョウスケ達を全滅間際まで追いやった龍虎皇鬼に匹敵する物があり、あの時の絶望感を思い出し全員がその顔を引き攣らせる。

 

『あ、あの赤い奴……ッ! さっきのはあいつからです……ッ!』

 

その時だったブリットが自分が感じた気配の持ち主が、ペルゼイン・リヒカイトの中にいると叫んだのだ。

 

「気配……いや、『念』を察知したという事は、あの機体の中には人間が乗っていると言うことか?」

 

念動力者であるブリットがその気配を感じ取ったという事は念を発している人間がいると言うことだ。キョウスケがそう尋ねるとブリットは要領を得ない様子で口を開いた。

 

『え、ええ……多分ですけど……人が乗っていると思います』

 

『多分ってなんだよ。もっとこうハッキリ判らないのか? ブリット?』

 

『す、すいません。でも俺にも良く判らなくて……知っている人の気配に良く似ているような……でも違うような……すいません。俺じゃあ、感覚が全然掴めません。アヤ大尉か、リュウセイなら判ると思うんですけど……』

 

念動力者として劣っているブリットは奇妙な感覚を感じたが、それが人の物なのか、そうではないのかというのが判らなかった。

 

『別格と言う事だけ判ればいい。全員警戒を強めろ、何をしてくるか判らんぞ、全員戦闘……』

 

【……キョウ……スケ……】

 

アインスト・クノッヘン、グラートとは姿だけではない、その強さも別格と言う事だけ判ればいいとカイが戦闘に入れと指示を飛ばそうとした瞬間。幼い少女のキョウスケの名を呼ぶ声が全員の機体に響いた。

 

「何ッ!?」

 

自分の名を呼ぶ声にキョウスケが驚きの声を上げる。だがその少女の声が聞こえたのはキョウスケだけではなかった。

 

『キョウスケだとッ!?』

 

『自分にも聞こえました。一体、これは……』

 

『音声……記録出来ましたです』

 

「お前達にも 今の声が聞こえたのか?」

 

口々にキョウスケを呼ぶ声が聞こえたという声が聞こえる。何故今までは自分にだけ聞こえていた声がカイ達にも聞こえたのかとキョウスケが尋ねる。

 

『はい、確認出来たりしました。 隊長の名を……女の声で』

 

『ああ、間違いねえな。随分と若いが女の声だ、間違いない』

 

ラミアとイルムの女の声が聞こえたという言葉。それはキョウスケに聞こえていた声と合致しており、自分が聞こえている声とカイ達が聞こえている声が同じだというのが明らかになった。

 

『そう…… 貴方が……キョウスケ……会いたかったですの』

 

「何者だ? 何故、俺の名を知っている?」

 

嬉しくて仕方ないと言う様子の少女の声にキョウスケが固い声で何者だと問いただす。

 

『私の名はアルフィミィ。アインスト・アルフィミィ……と、申しますの』

 

「アインスト……アルフィミィだと? それがお前の――いやお前達の名前なのか……いや、それはどうでもいい。お前達は何者だ、何故俺達に攻撃を仕掛ける」

 

喜色に満ちた声で自己紹介をする声にキョウスケが更に問いただす。

 

『……キョウスケ……エクセレン……疑問……』

 

「エクセレンだとッ!?  お前は何を言っている……ッ!?」

 

だが聞こえて来たのはエクセレンと己の名前。何故自分だけではなく、エクセレンの名前も知っているとキョウスケが声を荒げた。だがアルフィミィは返答を返さず、ペルゼイン・リヒカイトに日本刀を抜かせた。それに付き従うように停止していたアンノウン――いやアインスト達が一斉に動き出した。

 

『貴方達の相手は……アインストクノッヘンが致しますの……キョウスケは私が相手をしますのよ?』

 

アルフィミィの愛らしさを残しつつも、隠し切れない敵意の込められた声が響き、アインスト達が一斉にブリット達へと襲い掛かり、キョウスケとブリット達は一瞬で分断されてしまった。

 

「お前は何者だ? 何故、俺やあいつの名を知っている?」

 

目の前に立ち塞がったペルゼイン・リヒカイト。その圧倒的な威圧感に背中に冷たい汗が流れるのを感じながら、キョウスケがそう問いかける。

 

『私、進化の使徒に苛められましたの、ですからキョウスケに慰めてもらおうと思いましたのよ?』

 

「……進化の使徒?」

 

アルフィミィから告げられた新たなキーワード。虐められたという事はここに出現する前に他の勢力と戦っていたのかと、与えられた僅かな情報からキョウスケは状況の推測を行なう。

 

(そう言われると、確かにダメージを負っている様に見えなくも無い)

 

両肩の鬼面には深い切り傷があり、殴られたのか凹んでいるように見えなくも無い。

 

『キョウスケも進化の使徒は知っている筈ですのよ?』

 

「何?」

 

『……そう確か……ゲッターロボ……と呼ばれている筈ですのよ?』

 

アルフィミィから告げられたゲッターロボの名にキョウスケが一瞬硬直した瞬間。ペルゼイン・リヒカイトが切り込んできて日本刀を振るう。それを咄嗟にリボルビングステークで受け止め、そのまま受け流し蹴りを叩き込んだが、ペルゼイン・リヒカイトはびくともせずゲシュペンスト・MKーⅢの方が後方に弾かれる。

 

「慰めて欲しいとか言っておきながら、俺を殺すつもりか?」

 

『……大丈夫ですの、殺してもちゃーんと生き返りますのよ? だから大丈夫ですのよ?』

 

悪意も敵意も無い、自分がやっている事に何の躊躇いも、罪悪感も無い――幼い少女の声だからこそ余計に不気味さをキョウスケは感じた。

 

(ちっ……長くは持たんぞ)

 

たった一撃受け流しただけでゲシュペンスト・MK-Ⅲのリボルビング・ステークには亀裂が入っている。キョウスケの見立てでは後1撃受け流せるかどうか程度の耐久性しかないだろう。

 

(アルトならば何とかなるが……ゲシュペンスト・MK-Ⅲでは……)

 

確かにゲシュペンスト・MK-Ⅲの性能は高い。だがキョウスケ用にカスタマイズされたアルトアイゼンと比べれれば、その性能は低いと言わざるを得なかった。

 

『大丈夫ですのよ? 優しく、優しく致しますの、だから痛いのは一瞬ですのよ?』

 

日本刀の切っ先がコックピットへと向けられると同時に、一直線に突きこんで来るペルゼイン・リヒカイト。

 

「ぬっぐうッ!?」

 

反射的に飛び退かせ回避したが、ペルゼイン・リヒカイトの刺突でゲシュペンスト・MK-Ⅲの肩部が切り飛ばされる。その衝撃と爆発にコックピットで顔を顰める。

 

『どうして避けますの? 大丈夫ですのよ? 痛いのは一瞬ですの』

 

悪意も敵意も無い、だが幼い子供が持つ特有の純粋な悪意――いや、傲慢とも取れる善意の押し付け。それがアルフィミィの持つ、幼さゆえの狂気だった。

 

『逃げないで欲しいですの、感覚が狂ってしまいますのよ?』

 

(くっ……これは不味いッ! 逃げ切れんッ!)

 

ぴったりと吸い付くように距離を詰め続け、日本刀を振るってくるぺルゼイン・リヒカイト。その正確無比の斬撃の嵐にゲシュペンスト・MK-Ⅲの装甲を次々と斬り飛ばされながら、キョウスケは必死にこの場をどうやって切り抜けるか策を考え、必死に頭を巡らせるが、どれほど考えてもこのままではそう遠くない内に追詰められるという結論にしか辿り着けず、逃げ切れない死神の魔の手が自分をしっかりと捕えている姿を幻視し、死神の鎌が自分の喉元に突きつけられていると感じるのだった……。

 

 

 

 

ペルゼイン・リヒカイトと単騎で対峙するキョウスケのゲシュペンスト・MK-Ⅲが見る見る間にボロボロにされていく。その姿を見てカイ達はキョウスケの救援に向かおうとするが、凄まじい勢いで向かって来続けるアインスト・クノッヘンの妨害にあい、完全に足止めを受けていた。

 

『くっ、このままじゃキョウスケがやばいぞッ!!』

 

『しかし、このアンノウン強くなっていてそう簡単に突破出来ませんッ!』

 

今まで容易に倒す事が出来ていたアインスト・クノッヘンではない、中国で出現した個体よりも更に強力なアインスト・クノッヘンの群れは非常に強い上に強固でゲシュペンスト・リバイブ(K)を駆るカイでさえも押し返されていた。

 

『ライ! ラミアッ! そこからキョウスケの支援を行えッ!』

 

カイの指示でR-2、そしてアンジュルグの放ったハイゾルランチャーとファントムフェニックスがペルゼイン・リヒカイトへと向かうが、クノッヘンの背中に蝙蝠状の翼が生え、飛び上がるとその身体を盾にしてハイゾルランチャーとファントムフェニックスからペルゼイン・リヒカイトを庇う。

 

『ッ! 最初から狙いはキョウスケ中尉だったのねッ!』

 

『くそ、最初から向こうの思う壺だって言うのかよッ!!』

 

焦れば焦るほどにアインスト・クノッヘンの攻撃を受け、劣勢に追い込まれる。完全な悪循環にカイ達は陥っていた、その光景を見て、ラミアは上空からの突破を試みたのだが……即座に動きを止めざるを得なかった。

 

「やはり最初から狙いは隊長か……」

 

アインスト・クノッヘン達が肋骨を一斉に飛ばした。流石のアンジュルグの機動力でも一面を覆い尽くす刃の群れを回避し切るのは不可能で動きを止めざるを得なかったのだ。

 

『ふふ、ダンスは楽しいですのね?』

 

『こんな物騒な踊りなんかあるものかッ!』

 

『そうなんですの? 踊りとはこういうものだと思っていましたのに』

 

ペルゼイン・リヒカイトの猛攻撃を紙一重で避けているゲシュペンスト・MK-Ⅲだが、その姿はボロボロで機体の各所からはオーバーヒートを示す黒煙が上がり始めていた。

 

(やはりアインストはベーオウルフに執着しているのか)

 

あちら側でのキョウスケの変異にアインストが関係している事はレモンから与えられている情報で把握していた。あちら側では既に寄生されていたが、こちら側ではこれから寄生されると言うことなのかとラミアは考えを巡らせる。

 

(ここでベーオウルフを処理するのが確実か)

 

あちら側のように化け物になられても困る。アインスト・クノッヘンの壁もあり届く可能性は低いが、攻撃が届けばキョウスケがアインストになる前に処理できるとファントムアローをつがえようとした時ラミアは始めて己に起きている異変に気付いた。

 

「手が……」

 

後ほんの少し操縦桿を動かすだけで良いのに、手が震えて動かなかった。

 

(こんな時に故障したと言うのかッ!)

 

『ラミアさん! 危ないッ!』

 

「っうあッ!?」

 

手が震えていると言う事に動揺したその一瞬。ラミアの中からアインストへの警戒が緩まってしまった。アインスト・クノッヘンの放った肋骨がアンジュルグに直撃し、真っ逆さまに降下する。

 

(私はどうなってしまったというんだ……レモン様達のお役に立てないのならば……もう私は壊れてしまった方が……)

 

言語障害だけではない、身体の回路のどこが故障したのだとラミアは感じた――ベーオウルフの危険性は知っている、それを排除するべき事がW-17とやるべき使命だったはずなのに、それすらも遂行出来ない。レモン達の役に立てないのならばこのまま墜落し完全に壊れてしまった方が良いのではないか? そう思った直後脳裏にレモンの言葉が過ぎった。

 

【自分で考えて自分で正しいと思う決断をしなさい】

 

「舞え! 紅蓮の不死鳥よッ!!!」

 

レモンの言葉が過ぎった直後震えていた手に力が戻った。墜落しながら放たれた一撃は地を這うようにアインスト・クノッヘンを潜り抜け、ゲシュペンスト・MK-Ⅲに向かって刀を振り下ろそうとしていたペルゼイン・リヒカイトの頭を貫いた。

 

『う、ううう……い、痛いですのッ』

 

まさかの攻撃にアルフィミィがたたらを踏んだその一瞬の隙にゲシュペンスト・MK-Ⅲはペルゼイン・リヒカイトから距離を取る事に成功していた。

 

『すまない、助かったぞラミア』

 

「い、いえそのご無事で何よりです」

 

『やるじゃねえかッ! まさか墜落する振りをするとは驚きだ』

 

『す、すいません。ラミアさんの計画の邪魔をしてしまいましたか』

 

『なんにせよだ。キョウスケがアンノウンから距離を取る事に成功したッ! このまま包囲網を突破してキョウスケと合流するぞッ!』

 

皆からの賞賛の声を聞きながらラミアは困惑していた。W-17としてはあそこでゲシュペンスト・MK-Ⅲを破壊するのが正解だった。だが「ラミア・ラヴレス」としてはキョウスケを救いたいと思ったのだ――それが神業とも言える絶技をラミアに使わせたのだ。

 

(レモン様、私がやった事は正しかったのでしょうか?)

 

自分で考えた正しい行動――それはシャドウミラーとしての構成員としては間違った行動だろう。だけど、何故かラミアには自分が正しいことをしたと言う確信があったのだった……。

 

 

 

 

ラミアの絶技によってキョウスケは一時窮地を脱した。だが、依然分断されている状況は続いており予断は許されない状況だ。

 

「副砲、対地ミサイル! 照準あわせッ! てぇッ!」

 

ハガネとケルハム基地の支援は続いている。だがアインスト・クノッヘンが想像以上に固く、支援は殆ど効果を持っていない状況だった。

 

(こんな時に主砲が使えないとは……)

 

龍虎皇鬼へと打ち込んだフルパワーの連装主砲は完全に砲身が焼きついており、今もまだ使用出来る段階では無い。もしも主砲が使えれば、支援の状況が変わっていたとダイテツが歯噛みしているとハガネのブリッジに警報が鳴り響いた。

 

「何事だッ!」

 

「きょ、巨大な熱源がケルハム基地に接近中!」

 

エイタの報告を聞いて脳裏を過ぎったのは百鬼獣の襲来だった。

 

「くっ、このタイミングで百鬼獣まで来るというのかッ!」

 

「落ち着け大尉ッ! 動揺しても何も始まらない、冷静に対処せよッ!」

 

テツヤに落ち着けと叫ぶダイテツだが、状況は最悪に等しい。無限に出現するアインスト・クノッヘンに加え、ペルゼイン・リヒカイトという指揮官機までいる……しかも分断までされているのだから戦況は悪化の一途を辿っている。

 

(このままではジリ貧で敗れる……)

 

ハガネはまともに飛行できず、連装主砲も使えない。ハガネのPT隊はボロボロで代替機で出撃している者も居る……この状況で百鬼獣までも出現すれば勝機はない。

 

「待ってください、識別信号ありッ! そんな、この識別信号はッ!」

 

絶望感に満ちていたエイタの声に覇気が戻り、その瞳にも何とかなるかもしれないと言う希望の光が宿った。

 

「識別は何だ! エイタッ! 報告は最後まで行なえッ!」

 

「は、はいッ! 識別信号アイアン3ッ! クロガネですッ!!」

 

「何ッ!? く、クロガネだとッ!?」

 

エイタの報告と共に雲を引き裂き漆黒のスペースノア級のクロガネがこの絶望的な状況に現れた。

 

『ゲッタァアア……ビィィイイイムッ!!!!!』

 

『『『!?!?』』』

 

クロガネに驚いた直後、上空から急降下してくる翡翠色の光の柱がアインスト・クノッヘンを呑み込み消滅させ、ケルハム基地の上空にゲッターロボVが滞空し、その後に続くように漆黒のヒュッケバイン・MK-Ⅲ、グルンガスト・零式改、ゲシュペンスト・シグの3体がクロガネから出撃してくる。

 

『ハガネの諸君。助太刀はいらないかね?』

 

そしてビアンからの助太刀はいらないかねの言葉にダイテツは思わず苦笑すると同時に、奇妙な安心感を得ていた。自分でも気付かない内に冷静さを失っていたのだと気付いたからだ。飄々としたビアンの言葉に冷静さを取り戻したのを感じていた。

 

「大尉、広域通信準備。ビアンに通信を繋げろ」

 

「りょ、了解です!」

 

クロガネ、そしてゲッターロボVと教導隊の3人の応援――それは絶望的なこの状況を覆す希望の光となるのだった……。

 

 

 

第41話 進化の光を求める者 その6へ続く

 

 

 




今回はクロガネとビアン達の参戦で終了となります、ゲームで言うと黄色の第三軍ユニットですね。原作よりもパワーアップしているアインストが敵なので、応援が登場するのは当然ですね。ビアン達の参戦でケルハム基地での戦いがどうなるのか、次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第41話 進化の光を求める者 その6

第41話 進化の光を求める者 その6

 

上空から降り注いだゲッタービームの雨によって消滅したアインスト・クノッヘン。そしてそれに続くように現れたヒュッケバイン・MK-Ⅲ、グルンガスト・零式改、そしてゲシュペンスト・シグの登場はこの絶望的な状況を覆す、希望の一手となった。

 

「ハガネの諸君。助太刀はいらないかね?」

 

ビアンはゲッターVにディバイン・グレイブを装備させながら、広域通信でハガネへと呼びかけた。

 

『ビアン助かった。ありがとう』

 

「何、気にすることは無い。私達も調べ物をしていてこの周辺に来ていたんだ。運が良かったな、ダイテツ」

 

正直な所ケルハム基地での戦闘なので参戦するかはビアンはおおいに悩んだ。ハガネならば大丈夫ではないか? と見ていたのだが、分断され各個撃破されかけている姿を見てビアンは決断を下した。L5戦役を共に駆け抜けた戦友を見捨てる事は出来ないと……こうして連邦軍に自分達の存在が認知されるのを覚悟でハガネの救援に訪れたのだ。

 

『共闘してくれるのならば助かる。頼めるか?』

 

「任された」

 

ダイテツからの救援要請を聞いてビアンは即座に返事を返すと共にゲッターVを操り、アインスト・クノッヘンへと向かわせ、ハガネのPT隊に向かって警告を口にする。

 

「ハガネの諸君、まずは1度下がりたまえ。巻き込まれるぞ」

 

ダイテツならば面子や逃亡中であるクロガネを前にしても、攻撃してくることは無い。それが判っていたからビアンは出撃と同時にゲッターVにエネルギーをチャージさせていた。

 

「まずは戦場を整えさせて貰うとしよう。オメガグラビトンウェーブ発射ッ!!!」

 

『『『『!!!!!』』』』

 

ゲッター線を伴った指向性を持つ重力波の嵐は敵味方の識別を行い、アインスト・クノッヘン達を弾き飛ばす。

 

「ふむ、思ったよりも固いな。全力では無いとはいえ、オメガグラビトンウェーブを耐えるか」

 

ビアンも初めて対峙するアインストの強固さに驚いたような声を上げる。しかし、アインスト・クノッヘンを倒す事は出来なくとも1度動きを止めさせればカイ達が再び陣形を組むだけの時間を与え、グルンガスト・零式改がペルゼイン・リヒカイトを前に劣勢に追い込まれているゲシュペンスト・MK-Ⅲの救援に入るだけの時間を与えていた。

 

『大丈夫か、キョウスケ』

 

『ゼンガー隊長……助かりました』

 

零式斬艦刀を構え、その背中にゲシュペンスト・MK-Ⅲを庇うグルンガスト・零式改。

 

『むう、貴方に用はないんですのよ?』

 

『お前になくとも俺にはある』

 

『そうですの、なら……少しだけならお話してあげますのよッ!』

 

『ぬうんッ!』

 

零式斬艦刀とペルゼイン・リヒカイトの日本刀がぶつかり合い火花を散らす。それが合図となり、再びケルハム基地でのアインスト達との戦いは再び激化し始める。

 

『久しぶりだな、ライディース』

 

『……中国でも会いましたよね。兄さん』

 

『中国? 何の事か判らないな』

 

『……兄さん……いえ、良いです。助けに来てくれてありがとうございます』

 

レーツェルとエルザムは別人だと言い張るエルザムにライは追求する事を止めた。乗っている機体も違うから、別人だとゴリ押すつもりなんのだと理解してしまったのだ。

 

『遅れたが、大丈夫か?』

 

『遅い、来るならもっと早く来いッ!』

 

『言うな、俺達にも都合がある』

 

ゲシュペンスト・シグに手を借りて立ち上がったゲシュペンスト・リバイブ(K)は拳を強く打ち合わせる。

 

『ぶち抜くぞ』

 

『ああ、ゼンガーの奴が行ったが、あの鬼面――只者ではない』

 

オメガグラビトンウェーブで弾き飛ばされたアインスト・クノッヘン達は既に体勢を立て直し、再び隊列を組んでイルム達に向かって行進を始める。それは先ほどまでより勢いがあり、更にアインスト・グリートも加わり先ほどまで遥かに厄介な軍勢となっていたが、ビアン達の参戦によって気力が充実しているイルム達はその軍勢に臆する事無く、挑みかかって行くのだった。

 

「よろしいのですか、司令」

 

「何がだね?」

 

「クロガネと元教導隊は発見次第、ジュネーブに連絡しろとの通達ですが……」

 

「恩人を売るような真似はしない、我々は友軍機に助けられた。ただそれだけだ……異論は?」

 

「ありません、連絡しないと言っていただき安心しました」

 

部下の言葉を聞きながらケルハム基地の司令は司令部から戦況を見つめる。確かにビアン・ゾルダークはDC戦争を起こした、だがそれがなければ人類がL5戦役を勝ち抜く事は出来なかった。ビアンが警鐘を鳴らしたからこそ戦い抜くことが出来た……だからこそケルハム基地の司令はクロガネが出現した事を連邦軍本部に伝えない事を決めた。

 

「ここからの戦闘記録は全て消去せよ」

 

「「「了解です」」」

 

クロガネがここに現れたと言う痕跡を全て消し去る事を部下に命じ、司令席に腰を下ろした。だがその顔は苦渋に満ちており、共に戦う事が出来ない事を悔やむ、1人の男の姿がそこにあったのだった……。

 

 

 

 

戦場を高速で飛ぶ漆黒のヒュッケバイン・MK-Ⅲは、その手にしたビームライフルでアインスト・クノッヘンのコアを撃ぬき沈黙させる。その光景を見てライの脳裏を過ぎったのは何故という言葉だった……R-2や、ハガネのヒュッケバイン・MK-Ⅲの所持しているビームライフルと同型のビームライフルなのに、何故こうも威力に差があるのか? 考えられるのはビアンによる改造を施されているという事だが、そうなると別の問題が浮上する。

 

(兄さん達は何処でヒュッケバイン・MK-Ⅲとゲシュペンスト・MK-Ⅲを手にしたんだ?)

 

L5戦役での活躍で得れる戦時特例を受け入れず、追われる身となり放浪しているクロガネでどうやって連邦軍の最新鋭機を手にしたのかという謎が残る。ゲシュペンスト・MK-Ⅲならば判る、だが少数生産のヒュッケバイン・MKーⅢをどうやって? しかも見た所かなりカスタマイズされているのを見れば、トライアウトの前にクロガネにヒュッケバイン・MK-Ⅲが渡っていたのは明らかだ。

 

「ちっ、弱体化している訳ではないか」

 

『このままだとまた分断されてしまいます……』

 

もしかして最初に出現していたアインスト・クノッヘンと同様の強さなのかと思い、それを確かめる為にフォトンライフルを撃ちこむが、コアに当たっても霧散し、クノッヘンにダメージを与えられない。ラトゥーニが焦った様子でR-2に合流するが、再び追い込まれ始めている光景にライも状況が再び悪化し始めていることを悟らざるを得なかった。

 

『ライディース、ヴァルキリオンから武器を受け取れ』

 

その時だったエルザムからそう通信が繋げられたのは……だが聞き覚えのない機体の名称にライは困惑した。

 

『ヴァルキリオン?』

 

『もうじきクロガネから出撃してくる。コンテナに入っている武装を装備しろ、良いな。そうでなければお前達はこの戦いでは何の役にも立たない』

 

エルザムの説明を聞いている途中で、主砲とミサイルで飛行しているクノッヘンを迎撃したクロガネから、コンテナを抱えたアーマリオンに良く似た、しかし女性的なシルエットをした機体が出撃し、R-2達の近くにコンテナを2つ投下する。

 

『!!』

 

パラシュートでゆっくりと降下するコンテナ目掛け、アインスト・グリートがビームを放った。それは直撃すればコンテナごと中身を焼き尽くすほどの熱線だった。しかしビームが命中する寸前にヒュッケバイン・MK-Ⅲが割り込んだ。

 

『良いか、投下されたコンテナから武器を受け取れッ!』

 

アインスト・グリートの放ったビームに向かって手を突き出すヒュッケバイン・MK-Ⅲ。手首から展開されたバリアがビームを弾き、反撃に撃ちこまれたビームライフルでコアを砕かれ、アインスト・グリートは砂になり消滅する。

 

「武器……そうか! ラトゥーニ、イルム中尉! 投下されたコンテナの武器を装備してくださいッ!』

 

地響きを立てて降下したコンテナを抉じ開け、中に収納されていたビームライフルを装備し、振り返ると同時に引き金を引いた。

 

『!?』

 

一撃でコアを撃ち抜きクノッヘンを消滅させる。それは破壊力があるとか、改良されているとかそういう次元のレベルでは無かった。

 

『ふんッ!! やはりか、ゲッター線ならば効果があるッ! 今の内にコンテナの中の武器を装備するんだッ!』

 

ゲッターVが手にしたディバイン・グレイブを振るう。両断されたクノッヘンは再生する気配もなく、苦しみ悶えながら消滅する。

 

『なるほど、そういう事か。ライ、ラトゥーニ。悪いが、この実体剣は俺とブリットが貰うぜ。ブリットッ! 受け取れッ!』

 

『イルム中尉! ありがとうございますッ!!』

 

飛来したバスターソードを受け取り、飛び掛ってきたアインスト・クノッヘンに向かって振るうゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタム。

 

『凄い……なんて威力だ』

 

『いや、こりゃ威力じゃねえな。この化けもん達はどうもゲッター線に弱いみたいだな』

 

切り裂かれた部分から溶けるように両断されている、それは重度の放射線障害のように見えた。

 

「アンジュルグには使える武装がない。すまない」

 

『いえ、問題ない。私の事は気にしないでくれ』

 

コンテナの中の装備は標準的なAMとPT用の装備であり、アンジュルグに装備出来る物ではない。ライの言葉にラミアは判っていますと返事を返し、ファントムアローを構えさせ、クノッヘンに向かって打ち込んだ。

 

『ギッ!』

 

『貰ったッ!』

 

『!?!?』

 

ファントムアローの直撃を受けて僅かにクノッヘンの動きが鈍くなった瞬間にイルムのヒュッケバイン・MK-Ⅲがブレードを突き出し、コアを両断する。断末魔の声を上げて消滅していくクノッヘンを見て、今装備している武装がアインストに効果的であると言う事が判明した。

 

「ラトゥーニ、ラミア、俺達でアンノウンにダメージを与えて、イルム中尉とブリットがトドメをさせる状況を作るぞ」

 

『了解です』

 

『了解、上空からアンノウンの動きを把握し、密集している場所を伝えます』

 

バスターブレードは一撃でクノッヘンを倒せるが、その重量とリーチのせいで近くまで近づかなければ効果は期待出来ない。イルムとブリットがトドメを刺しやすい状況を作ると指示を出す。クロガネから渡された武器によって、劣勢だった状況は少しずつ変わり始めているのだった……。

 

 

 

 

コンテナによって渡された武器を手にし、戦況を巻き返し始めたライ達を見てカイは隣でクノッヘンのコアを抉り出しているラドラに声を掛ける。

 

「俺の使えそうな武器はないのか?」

 

『あるなら渡している』

 

「だと思ったッ!!」

 

『!?』

 

飛び掛ってきたクノッヘンのコアにメガ・プラズマステークを叩き込み、そのままの勢いで地面に叩きつける。

 

「ぬんッ!!」

 

地面に叩きつけた状態で拳を更に打ち込みコアを砕く、するとクノッヘンはもがき苦しみながら消滅する。

 

『思ったよりも固い。中国の物よりも強いな』

 

「ああ、だから苦戦しているッ!!」

 

背後から組み付いてきたクノッヘンの頭を掴み、地面に叩きつける同時にコアに踵落としを叩き込みクノッヘンを沈黙させるカイ。

 

『カイ少佐、ラドラ。左右に分かれたまえ、クロスマッシャー発射ッ!!』

 

カイとラドラが左右に分かれたと同時に、ゲッターロボVの放ったゲッター線の光と赤と青の3色の色の混じった光線がアインスト達を薙ぎ払った。

 

『むう、これでも駄目なのか』

 

胴体部で薙ぎ払われたアインスト達が崩れ落ち消滅するが、倒した数以上のアインストが再び出現し、防壁を作り上げる。物言わぬアインスト達だが、その動きを見ればペルゼイン・リヒカイトと対峙しているグルンガスト・零式改、そしてゲシュペンスト・MK-Ⅲと合流させたくないとしているのは明らかだった。

 

「何故あそこまでキョウスケに拘るんだ」

 

『何? そうなのか、カイ』

 

どうしてここまで徹底してキョウスケとカイ達を分断しようとするのか、その理由を考えていたラドラはカイの言葉を聞いて驚いた。

 

『確実に仕留めるためではなく、キョウスケ中尉に執着しているという事なのか……』

 

『……前世の縁者とか言わないよな?』

 

「何を……いや、ありえるな」

 

前世の縁者と口にしたラドラに何を馬鹿なと言いかけたカイだが、途中でありえるかもしれないと自分の意見を覆した。何故ならばラドラは旧西暦の生まれでかつて恐竜帝国に属していたと言う経歴がある。前世と言うのはありえない話ではない、なにせ生きた証人がカイとビアンの目の前にいるからだ。

 

『なんにせよだ、キョウスケ中尉とゼンガーが危ない。私はそちらに合流する、この場は任せるぞ。カイ少佐、ラドラ』

 

ただ分断するのではない何らかの因縁があるのならば、キョウスケとゼンガーが危ないというと同時にゲッターロボVの腹部から放たれたゲッタービームがクノッヘンを薙ぎ払い、ほんの僅かだけ包囲網が抜けた隙に潜り抜け、グルンガスト・零式改と切り結んでいたペルゼイン・リヒカイトへと斬りかかるゲッターロボV。

 

『やはり無理か』

 

「俺達まで抜けたらエルザム1人でライ達の支援は無理だからな。ここで食い止めるしかないだろう」

 

包囲網に穴が出来たのはほんの数秒で再び壁を作り出す、アインスト・クノッヘンの姿を見てカイは小さく溜め息を吐いた。

 

『聞かないのか?』

 

「聞いたら教えてくれるのか?」

 

互い機体を背中合わせにし、死角を消す飛び掛ってくるクノッヘンを捌きながら尋ねてきたラドラにカイは逆にそう尋ね返した。

 

「お前も、ゼンガーもエルザムも俺には何にも言わん。ずっとそうだ、昔からずっとそうだ」

 

『ギギャァッ!?』

 

『グガアッ!?』

 

カーウァイに鍛えられている頃からそうだったとカイは昔を思い出すように呟いた。

 

『それはそのすまん』

 

「良いさ、話せる時になったら話してくれるんだろ? ならそれを待つだけだ」

 

ゼンガーとキョウスケが危ないとビアンは慌てた様子だった。そしてラドラもそれを止めなかった……その二点からカイはゼンガーとキョウスケがアンノウンと対峙することに何らかの危険性があるのだと悟ったのだ。

 

『話せるときは良い酒と摘みを準備する』

 

「ああ、そうしろ、毎回俺にばっかり貧乏くじを引かせやがって、良い加減にしろよ」

 

『『『『シャアアアーーッ!!!』』』』

 

1体ずつでは勝てないと判断したのかクノッヘン達が雄叫びを上げながらゲシュペンスト・シグとリバイブ(K)に襲い掛かる。だがその直後に背中合わせだったゲシュペンスト・シグとリバイブ(K)は弾かれたように構えを取った。

 

「『やかましいぞッ!』」

 

リバイブ(K)が両腕を振るうとその軌道に沿うように雷が地上から空中に向かって放たれ、クノッヘン達を消し炭へと変貌させる。

シグは高速回転する両手のエネルギークローでクノッヘンの胸部からコアを抉り出す。

 

『本当によ、化け物って言うのは馬鹿だよな。教導隊2人に突っ込んで行くとか、自殺行為にしか思えねえぜ』

 

呆れたように言うイルムの呟きにこの場にいた全員は賛同さぜるを得ないのだった……。

 

 

 

 

ペルゼイン・リヒカイトの猛攻からグルンガスト・零式改に庇われながら、キョウスケは一矢報いる機会を虎視眈々と狙っていた。

 

(……腰部エネルギーバイパスカット、エネルギーラインを背部・脚部ブースターに集中……)

 

庇われながらと言ってもペルゼイン・リヒカイトの攻撃は激しく、日本刀による斬撃だけではなく、今では鬼面から光線や、出現するまで感知出来ない鬼火と多彩な攻撃を織り交ぜて来ていた。

 

『ぬんッ!!』

 

『ふふ、当たらないですのよ?』

 

現れた時に負っていた傷は既に回復しており、動きは現れた段階と比べると格段に良くなり、更に言えば攻撃の威力も段違いに高まっている。

 

『進化の使徒……とは少し違うようですのね』

 

アルフィミィが繰り返し告げる『進化の使徒』と言う言葉。それがアルフィミィ達の求める物であり、与えられた情報から整理すればアルフィミィ――いやアインストが欲しているのはゲッター炉心という事になる可能性が高い。

 

『そんなにもゲッター線が欲しければくれてやるッ! 斬艦刀・飛竜一閃ッ!!!』

 

グルンガスト・零式改の手が斬艦刀の表面を撫でるよう動くと、零式斬艦刀の刀身に淡い翡翠色の輝きが灯る。斬艦刀を振りぬくとその切っ先にそって三日月状の飛ぶ斬撃がペルゼイン・リヒカイトに向かって放たれた。今まで近接攻撃しかしていなかったグルンガスト・零式改の初めての遠距離攻撃――キョウスケもゼンガーも必中を確信した一撃だったが、ペルゼイン・リヒカイトは手を突き出すようにしてその飛ぶ斬撃を正面から受け止めた。

 

『……やっぱり違いますの、これは私の探している進化の光ではありませんの』

 

そしてそのまま薙ぎ払うように腕を振るうとグルンガスト・零式改の放った飛竜一閃は明後日の方向に弾き飛ばされた。

 

『何ッ!?』

 

流石のゼンガーも攻撃を受け止められ、それを無造作に弾き飛ばされると言うのは想像していなかった為、一瞬その動きを止めてしまった。

 

『まがい物の進化の光はいらないですのよ』

 

その隙をペルゼイン・リヒカイトが見逃す訳が無く、唖然としているグルンガスト・零式改に向かってペルゼイン・リヒカイトが切り込んだその瞬間……第3者の声がこの場に響いた。

 

『では本物のゲッター線の輝きはいかがかね?』

 

『っつうッ!?』

 

ゲッターロボVの手にしたディバイングレイブによる一閃。その刃にはゲッター線の輝きが灯っており、ペルゼイン・リヒカイトの装甲に深い傷を残す。

 

『進化の光……やっと見つけましたの――宇宙のは強すぎましたが……その進化の光なら手に出来ますのッ!』

 

宇宙の進化の光――それが意味するのは先日確認された地上から宇宙へと向かう姿が確認された新型のドラゴンらしきゲッターロボの事だろう。

 

『悪いがそう簡単にはゲッター炉心はやれんな』

 

『いいですのよ? 奪い取るだけですのッ!!』

 

ディバイングレイブとペルゼイン・リヒカイトの日本刀が火花を散らし、何度も何度も交差を繰り返す。

 

『俺を忘れてもらっては困るなッ!』

 

『大丈夫ですのよ? 忘れておりませんの』

 

左肩の鬼面の下から異形の日本刀を手にした腕が伸び、グルンガスト・零式改の一撃を受け止めそのまま弾き飛ばす。

 

『まだ姿を見せる事は出来ませんが……これくらいなら出来ますのよ?』

 

『その異形の姿は伊達ではないと言うことか……ッ』

 

両肩から腕が出現した事で、ペルゼイン・リヒカイトは計4本の腕にそれぞれ日本刀を手にし、グルンガスト・零式改とゲッターロボVを徐々に押し返し始める。

 

『進化の光、進化の使徒とは何を意味しているのだね?』

 

『ふふ、そのままですのよ? 全ての存在が欲するエネルギーとだけ言っておきますの』

 

『何故キョウスケを付けねらうッ!』

 

『いやん、少女の想いをこの場で告白させようなんて酷いですのよ?』

 

『ぐっ!?』

 

軽口を叩きながらも正確無比な攻撃を繰り出すその姿はエクセレンの物に酷似していた。これはキョウスケだけではなく、ゼンガーも感じていた。

 

(何故こんなにもエクセレンに似ている)

 

(気配までも似ているとはどういうことだ)

 

喋る間の取り方、話の中に混ぜる虚――相手の神経を逆撫でする挑発とも取れる言動をしながらも、その癖操縦は正確無比。それらペルゼイン・リヒカイト――いや、アインスト・アルフィミィを名乗る少女は余りにもエクセレンに似すぎていた。

 

(だがこれは好機だ)

 

グルンガスト・零式改とゲッターVにペルゼイン・リヒカイトの注意が向けられている。ビアンとゼンガーを囮にするような形になったが、逆転の一手をキョウスケが打ち込む最初で最後の機会が訪れていた。

 

(あと少し……)

 

薄暗いコックピットの中で最後の博打に出る為に集中力を研ぎ澄ますキョウスケ。右腕以外のエネルギーラインを全て背部と脚部に回し、一撃に全てを賭けるキョウスケはその時を待ち続けた……そして、その時は訪れた。

 

「貰ったッ!!」

 

直線にしか進めない今、ペルゼイン・リヒカイトの姿がゲシュペンスト・MK-Ⅲの前に来た瞬間。爆発的な加速でペルゼイン・リヒカイトに迫るゲシュペンスト・MK-Ⅲ。その殺人的な加速が齎すGに耐え、渾身の一撃をペルゼイン・リヒカイトに向かって繰り出す。

 

「な、何ッ!? う、うぐっ!?」

 

キョウスケの全てを賭けた一撃がペルゼイン・リヒカイトを捉える寸前。ペルゼイン・リヒカイトの姿は溶けるように消え去ったのだ。攻

撃を空振りしたゲシュペスト・MK-Ⅲはそのまま地面に叩きつけられ、バウンドし川に半分ほど落水する形で動きを止めた。

 

『少し頑張りすぎて時間切れになってしまいましたの……』

 

時間切れとアルフィミィが口にするとケルハム基地へ襲撃を繰り返していたアインスト達が次々に溶ける様に消滅する。

 

『な、なんだ? 何が起こってる!?』

 

『活動限界がある生き物とでも言うのか?』

 

『あ、危ない……基地を攻撃する所だった』

 

打ち合っていたブリットは突然戦っていた相手が消えた事でたたらを踏み、アインストに照準を合わせていたライやラトゥーニは危うくケルハム基地に向かって攻撃を撃ちこむ所でそれぞれのコックピットで冷や汗を流していた。

 

『ほんの少し……理解…出来ましたの……キョウスケ……でも、まだ……貴方は未熟ですの』

 

「……お前は何者だ? アインストとは何だ? 俺が未熟とはどういうことだ」

 

消えかけているペルゼイン・リヒカイトに向かってそう尋ねるキョウスケ。すると、現れた時の様に喜色に満ちた声でアルフィミィの声が響き渡った。

 

『また……会いに来ますの。私の……キョウスケ……私は貴方が好きですのよ』

 

「な……に?」

 

キョウスケを好きだと告げ、ペルゼイン・リヒカイトの姿は完全に消え去り、アインスト達もその姿を消した。

 

『ふむ、逃げた……いや見逃されたかな? キョウスケ中尉。怪我はないかね?』

 

「え、ええ。助かりました、ビアン博士」

 

思っていたよりフレンドリーに声を掛けられ、困惑するキョウスケにビアンは続けて言葉を投げかける。

 

『間に合ったのなら何より、出来れば君の救助を行ないたいが、私達には私達の都合がある。私達と話をしたければ、ポイントP4ー078にクロガネは停泊している。今から48時間はそこで停泊するつもりだ、用があれば尋ねて来てくれたまえ』

 

キョウスケからの返事を一切聞かず、接触通信で一方的にそう告げてクロガネと共に姿を消すビアン達。その姿を見つめながら、キョウスケは被っていたヘルメットを後ろに向かって投げ捨て、最低限のエネルギーしか残っていないゲシュペンスト・MK-Ⅲの操縦席に背中を預けた。

 

(アルフィミィ……一体何者なんだ?)

 

親しげに、そして会えて嬉しいとそして好きだと告げて消えていったアルフィミィ――だが当然キョウスケはアルフィミィなんて知り合いはいない。

 

(それに……雰囲気と声がエクセレンに似ている……?)

 

声こそ幼いが雰囲気や喋り方、そして戦闘での立ち回りがエクセレンに酷似していた。

 

(俺とあいつの間には何があると言うんだ……?)

 

今回は他のメンバーにも聞こえていたが、前回の中国ではキョウスケとエクセレンにしかアンノウン――アルフィミィの口振りではアインストと呼ばれる生き物の声は聞こえなかった。自分とエクセレン、そしてアインスト・アルフィミィの間にはどんな関係があるのかカイ達が救助に来るまでの間キョウスケはそればかりを考えているのだった……。

 

 

 

 

 

ケルハム基地での戦いが一区切りした頃。アクセルとイングラムとの戦いも佳境を迎えていた。

 

『お前に恨みはない、だがお前達の思想はこの世界にとって害悪だ。故に死ね』

 

一時はソウルゲインが有利に立ったが、それ以上にイングラムの立ち回りが上手かった。障害物を駆使し、変形しての4足機動でアクセルの視界を幻惑し、ソウルゲインの膝だけにダメージを与え続けた。その結果がソウルゲインの再生能力を持ってしても回復しきれず、ついには自重すら支えきれずに膝をついて動けなくなるという状態だった。

 

「死ねと言われて、はいそうですかと言って諦めるほど俺は諦めが良くないんだよ、これがなッ!! ぐっ!」

 

『悪いな、お前の行動パターンは読めている』

 

残された左腕すらも捨てて、青龍鱗の暴発で自分もろともR-SWORDを吹き飛ばし、R-SWORDが立て直す隙に離脱しようとしたのだが、左腕にエネルギーが溜まりきる前に速射で腕を撃ちぬかれ、青龍鱗の発射装置だけを破壊された。

 

(く、万事休すか……)

 

遭遇した瞬間に逃げる――逃げた所で行き先などない。やっと思いで辿り着いたこのアジトを捨てるのも惜しく、迎撃に出たのが間違いだったのか……立ち上がる余力さえないソウルゲインのコックピットで自分の行動を思い返すアクセル。

 

『案ずることはない、すぐに他の奴らも送ってやる。先に地獄で己の行動を悔いていろ』

 

R-SWORDの指に力が入った瞬間――それは現れた。

 

【ギゴガハアアアアアアアーーーーーッ!!】

 

『な、なんだ!? う、うぐうっ!?』

 

身の毛もよだつ獣の雄叫び、太陽をその巨体で覆い隠しながら飛び込んできた異形がその巨大な拳を振るい、R-SWORDを殴り飛ばすと同時にソウルゲインを抱え上げ、地面を蹴って一瞬でR-SWORDの前から離脱する。

 

(助かったのか……いや、そうとは言い切れんぞ)

 

人の顔に獣の胴体を持つ異形はR-SWORDから十分に距離を取ると、ソウルゲインをまるでゴミのように投げ捨てた。地面に叩きつけられた衝撃にアクセルが顔を歪めているとその異形がソウルゲインを指差した。

 

【ソウルゲイン……アクセル・アルマーじゃな?】

 

「何? 貴様何故……な、なんだ!?」

 

何故ソウルゲインの、そして自分の名前を知っているのだとアクセルが問いただそうとした時。異形の身体から黒煙が溢れ、アクセルの見ている前で見る見るその巨体を小さくさせる。

 

「ふぇふぇふぇふぇ、助けてやったのに随分な態度じゃなあ?」

 

「……お前。何者だ?」

 

ソウルゲインを越える巨体が一瞬で腰の曲がった老人の姿になり、アクセルが困惑しながら尋ねると老人は歯抜けの歯を見せて声を上げて笑い出した。

 

「ヴィンデル殿の頼みでお前を探しに参った。我が名は四凶の鬼人 饕餮(とうてつ)じゃ」

 

四凶の鬼人と言う2つ名も気になったが、ヴィンデルの名前が出た事にアクセルは僅かに警戒心を緩めた。

 

「ヴィンデルの? あいつが俺が探してお前に頼んだのか?」

 

「うむ。ヴィンデル殿と協力しておる大帝の頼みでな。ほれほれ、ワシは疲れた。道案内はしてやるからワシを手の上に乗せい」

 

「あ、ああ。判った」

 

アクセルは困惑しつつも饕餮をソウルゲインの手の上に乗せ、饕餮に案内されながらその場から移動を開始するのだった。

 

「くそ、駆動系がやられた……何だ今のは……」

 

奇襲による一撃で駆動系を粉砕されたR-SWORDのコックピットから出た、イングラムは突然襲ってきた異形について考えていた。

 

「負の念の集合体……ケイサル・エフェスの分身か?」

 

身の毛もよだつような邪悪な気配から仇敵であるケイサル・エフェスの分身の可能性を考えたイングラムは即座に救難要請を出した。

 

「やはりこの世界はもう乱れきっているという事なのか……」

 

武蔵を初めとする旧西暦の使者、そして百鬼帝国の復活に加え、アインストの進軍、そしてケイサル・エフェスの分身の可能性がある巨大な異形の出現――フラスコの世界はもはや修正しきれない程に正史から離れ始めているのをイングラムは感じるのだった……。

 

 

 

第42話 進化の光を求める者 その7へ続く。

 

 




次回はシナリオエンドデモとビアンとの話し合いを書いて、宇宙ルートへと話を向けて行こうと思います。時間の流れなどはある程度前後することになりますが、話の都合及び時間の流れをあまり把握してい無いと言う事で温かい目で見てください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第42話 進化の光を求める者 その7

第42話 進化の光を求める者 その7

 

アインストの襲撃を退けた後、ハガネはビアンの言い残したポイントP4ー078に向かう為の修理を進めていた。

 

「48時間か……時間的にはかなりギリギリだな」

 

「もうちっと時間的猶予を取ってくれるとありがたかったんだけどな」

 

アルトアイゼンの修理が終わるまで22時間、グルンガストの修理が完了するまで37時間。時間的には10時間ほどの猶予しか残されていなかった。

 

「やはり応急処置を済ませ、先にビアン博士と話し合うのが1番ベストですね」

 

「そうだな、ダイテツ艦長達も同じ決断を下す筈だ。ラトゥーニが戻って来るまでは何とも言えないが……恐らくそうなるだろう」

 

今回戦闘したアインストの分析データを渡すのと同時に、スケジュールの確認に向かっているラトゥーニが戻り次第出発になるだろうとカイ達は考えていた。

 

「しかしビアン博士達も一箇所に留まるのは危険ということなのでしょうね……ゆっくり話をしている時間がないのが残念です」

 

「新西暦の人間で唯一ゲッター炉心を作成出来る人間だからな。追われているのは当然か……48時間も時間を取ってくれただけでも破格と思わないとな」

 

「ビアン博士はDC戦争の咎で追われているのではないのですか?」

 

ラミアが不思議そうに尋ねるとカイが頭を振った。世間一般論で言えばビアンは確かにDC戦争を起こした犯罪者だが、それを差し引いてもL5戦役での功績は大きい。戦時特例を断ったからDC戦争での決起人として追われている――というのが連邦軍がクロガネを追う建前なのだが、真実は全く異なる物となっているのだ。

 

「公にはそうなっているが本当の理由は違うんだ。ラミア」

 

現在ビアンが追われている理由として1番大きいのはゲッター炉心で稼動するクロガネ改、そしてゲッター線をPTや特機に応用する技術があるからだ。ゲッター炉心をPTや特機に流用できれば無限動力になり、そしてその機体性能は飛躍的に向上する。だがそれを扱えるのはビアンだけであり、それを軍事転用することを考えている軍上層部から逃げるという意味もあり、戦時特例を拒否したのだ。

 

「今回の件を見る限りでは、ビアン博士やゼンガー隊長の決断は間違いではないと思いますね」

 

「ああ、ラドラの選択にも納得だ」

 

未知の敵であるアインストと互角、いや、互角以上に立ち回ることが出来ていたのは間違いなくゲッター線を応用した技術があるからだ。しかし強すぎる力は新たな争乱を産むと言ってビアンと共に行くことを選んだラドラの判断もまた正しいものであった。マグマ原子炉はそのままでは流用出来ず、ラドラが開発したマグマ原子炉とプラズマジェネレーターを組み合わせた反マグマプラズマジェネレーターでなければ、エネルギーが逆流し機体がオーバーヒートを起す。国連が5つ保持しているマグマ原子炉を使った機体の開発が頓挫したのもラドラがおらず、マグマ原子炉をPTや特機に流用する術が無かったのが大きな要因となっている。マグマ原子炉、ゲッター炉心を兵器転用させないために追われる身となったとしても技術を悪用させない為に行動したビアンとラドラの決断は紛れも無く英断だったとカイはラミアに説明し、今回の戦闘でライ達がアインストと互角に戦えた武器についての事をライに尋ねた。

 

「エルザムが残して行ってくれた武器はどうなってる?」

 

「エネルギーを充填する術がないのでビームライフルの方は使用出来ませんが、実弾系の、恐らくゲッター合金を流用した弾頭の物は弾薬の予備があるのであと数回は戦闘出来ると思います」

 

「そうか……となると、弾を使い切ったら武器の方はイルムとブリットが使ったブレードだけになるか……」

 

「これからの事を考えるとやはりクロガネとの接触は必要ですね」

 

ブリーフィングルームで話し合っているとブリッジでダイテツに話を聞きに行っていたラトゥーニが戻って来た。

 

「どうだった?」

 

「キルモール作戦は実行すると決定されたそうです。72時間後までにムータ基地へ向かうようにとの事です」

 

キルモール作戦は既に失敗していると言っても良い段階だが、ジュネーブの連邦本部はまだキルモール作戦の遂行を諦めていないようだ。レイカーの意見も封殺され、修理の時間を加味しても72時間だけがハガネに与えられた時間だった。

 

「となるとビアンと話し合って、そこからケルハムに戻ってくるのは無理か」

 

「時間的なことを考えるとそうなりますね」

 

応急処置を済ませ、P4ー078で待つクロガネと合流し、ビアンとの話をしてケルハムに戻りムータ基地へ向かうという最初のプランは破棄し、ハガネと機体の修理を済ませてからクロガネと合流し、話をした後にムータ基地へ向かうと言う時間ギリギリのスケジュールになってしまった。

 

「あのアンノウン――アインストだったか? あれのせいで随分と予定が狂ったな」

 

「アルフィミィと名乗った個体……一体何者だったりしちゃいますのでしょう?」

 

カイの話に合わせる様に言うラミアがアルフィミィの事を言う。すると話の話題は自然とアインストの方に変わり始める。

 

「俺達の言葉を使っていた事から判断すれば、人間なのかも知れんが……声だけという可能性もある」

 

「俺の勘じゃラトゥーニよりちょい下……それも、美少女と見た。でもよ、気になるのがキョウスケを好きって言ってたのはどういう事だ? キョウスケ。一応聞いておくが、お前の知り合いじゃないんだよな?」

 

キョウスケに熱烈なラブコールをしていたアルフィミィ。キョウスケの知り合いじゃないよな? と確認するように問いかけるイルムにキョウスケは小さく頷いた。

 

「少なくとも俺の知り合いではない。ただ……1つ気になる事はある」

 

「気になる事? あのアルフィミィに何か関係のあることですか?」

 

「ああ、俺はエクセレンに似ていると感じたが……カイ少佐達はどうですか?」

 

ラトゥーニの問いかけに頷き、キョウスケがエクセレンに似ていると感じなかったか? と尋ねるとカイ達はハッとした表情になった。

 

「確かに言動や立ち回りはエクセレンに似ていたな」

 

「獲物は違いますが、あの機体操作の感じは確かにエクセレン少尉の物に似ている」

 

キョウスケの言葉でアルフィミィがエクセレンに似ていると言う声があちこちで上がり始める。

 

「そ、そう言われるとあの赤い奴の意思のような物を感じた時にエクセレン少尉に似ていると感じました」

 

「意思……『念』か……イルム中尉。念動力が似ていると言う事はあるのですか?」

 

「おいおい、俺に聞くなよ。ライ、そういうのはどうなんだ?」

 

「……少なくとも似ていると言うことあるそうですが……俺も専門ではないので何とも……」

 

念――すなわち念動力。それで感じ取られたと言う事はアルフィミィが人型である事は間違いがない。だが、何故エクセレンに似ているのかという謎が残る。

 

「キョウスケ中尉が知らないだけで妹とか、親族という可能性はありんせんのですか?」

 

「ラミアは俺の親族がアインストに取り込まれていると考えているのか?」

 

「可能性の話でございますことです。親族だからキョウスケ中尉を求めていると言うのはおかしくない推測だと思うのでありんすが?」

 

「だけどラミアの推測だと、あの化け物共――アインストは人間を取り込むって事になるぜ?」

 

ラミアの言う通りならばアインストは人間を取り込み、その知識や記憶をえるという事になる。

 

「ええ!? そ、それじゃあ俺達が倒したのは人間って事に?」

 

「お前が驚いてどうするよ? ブリット。俺が聞きたいのは、他のアインストを倒したときに念を感じたかって事だ」

 

「あ、いえ……他の個体を倒した時は何も感じませんでした」

 

「となると、他の個体は人間を取り込んでいない、もしくはあのアルフィミィって奴だけが特別ってことになるんじゃないのか? んでエクセレンに似ているとなると、取り込まれているのはキョウスケの親族じゃなくて、エクセレンの親族って事になるんじゃないか?」

 

ラミアの説でアルフィミィがアインストに取り込まれ変質したエクセレンの親族なのではないか? という説を唱えるイルム。

 

「エクセレンからそういう話は聞いた事はないのですが」

 

「アンザイ博士が言うには百邪という存在なのですよね? キョウスケ中尉かエクセレン少尉の先祖という可能性はないですか?」

 

今度はラトゥーニがアルフィミィがキョウスケかエクセレンの先祖ではないか? という説を出す。

 

「親族は親族でも過去の親族か、そうなるとありえるかもしれないな」

 

「確かに、武蔵やラドラ元少佐の事もありますしね」

 

旧西暦からやってきた武蔵と生まれ変わって人間になったラドラという前例がある分だけ、ラトゥーニの説は真実味を帯びていた。

 

「あいつらの正体に関しては不明だが、1つだけ確かなことがある。アインストが俺達の敵だということは確実だな」

 

「ええ。それに今回の事で蚩尤塚だけでなく、他の所を襲う可能性も高まりましたね」

 

「やれやれ、百鬼帝国だけでも厄介だって言うのに、その上更に厄介な敵が現れたってか……」

 

テロリストの台頭から始まり、百鬼帝国、宇宙で多発する行方不明部隊、そしてアインスト――半年の間の平和が嘘だったかのように立て続けに起きる事件、そして現れる敵勢力――地球圏を燻る戦火は今、大きな大火となろうとしているのだった……。

 

 

 

 

ソウルゲインとの戦いの間に割り込んできた謎の異形によって致命傷を受けたR-SWORD。自力で動かせる段階ではないと言うイングラムからの救難要請でクロガネからやってきたエルザム達によって、R-SWORDはビアンの隠しアジトの中へと運ばれていた。

 

「すまない、わざわざ世話をかけさせたな」

 

「いや、気にする事はない。クロガネにゲシュペンスト・MKーⅢ・トロンベを置いておく訳には行かないからな。私がレーツェルだとばれてしまう、そういう面では隠し場所としてこの場所に来るつもりだったから問題はないさ」

 

真顔でレーツェルだとばれてしまうというエルザムにイングラムは本気でバレていないと思っているのか? と言いかけたが、その言葉をぐっと飲みこみ、ソウルゲインとの戦闘データをエルザムに渡す。

 

「俺はハガネとの話し合いが終わるまではこの場所で待機している。面倒だが、それが終わったら迎えに来てくれ」

 

R-SWORDもゲシュペンスト・MKーⅢ・トロンベもクロガネにあれば、そこから武蔵、イングラムとなし崩し的にばれてしまう。今はまだ、表舞台に立つ訳には行かないイングラムはハガネとの話し合いが終わるまで、この場に留まることにした。

 

「アクセルもすぐにここに戻ってくる事はあるまい。数日は安全だろう」

 

「シャドウミラーの構成員だったな、まさか鉢合わせになるとはお前も運が悪い」

 

「全くだ。ソウルゲインが本調子でなくて良かった」

 

片腕、そして整備不良というハンデがあってイングラムはソウルゲイン相手に有利に立ち回ることが出来た。もしもソウルゲインとアクセルが本調子ならば結果はまた異なる物となっていただろうとイングラムは感じていた。

 

「戦闘データと突然襲ってきた異形の映像だ。持ち帰って分析してくれ」

 

「ビアン総帥に渡しておこう。月のカーウァイ大佐との連絡コードを渡しておこう」

 

「助かる、カーウァイと武蔵と話しておきたかった事があるからな」

 

イングラムからソウルゲインと謎の異形のデータを受け取ったエルザムは変わりにカーウァイの連絡コードをイングラムに預け、ビアンの隠しアジトを後にした。

 

「……しかしあの異形は一体……」

 

飛び去るヴァルキリオン達を見送り、イングラムは戦闘データの解析を始める。

 

「形状は百鬼獣に似ているが、それよりも遥かに生物的……しかし機械でもある。一体あいつは何なんだ」

 

現れた時に感じた圧倒的な負の気配にケイサル・エフェスの分身かそれに順ずる物かと推測したイングラムだったが、こうして分析していると自分の予想が的外れだったのを感じた。

 

「……全く未知の敵と言う事か……いや、可能性は低いが武蔵が知っている可能性もあるか?」

 

調べれば調べるほどにあの謎の異形の不気味さが際立っていく……生物であり機械。それはメカザウルスに酷似しているように見えるが、根本的に何かが違うとイングラムは感じていた。

 

「これからこの世界はどうなって行くと言うんだ」

 

因果は乱れに乱れている。それこそディス・アストラナガンとクォヴレー・ゴードンが何時現れてもおかしくないほどに乱れきっているこの世界――これからこの世界はどうなっていくのかとイングラムは思わずにはいられないのだった……。

 

 

 

アルトアイゼンとグルンガストの修理が完了してからハガネはビアンから指定されたポイントに訪れていた。

 

「これは正に自然の要塞と言う所ですね」

 

「ああ。クロガネが見つからないのにも納得の理由だな、当初の予定通り、ワシとカイ少佐、キョウスケ中尉でクロガネへ向かう。大尉、周囲の警戒を怠るなよ」

 

「了解です。お気をつけて」

 

スペースノア級は万能戦闘母艦というだけあり、単独での大気圏離脱や深海での活動にも特化している戦艦だが、その性質上並みの戦艦よりも遥かに巨大と言う長所であり短所を抱えている。一部の連邦軍高官が血眼になって探しているクロガネは海溝に潜んでいるとダイテツは考えていたが、ビアンに指定されたP4ー078は切り立った渓谷の中にあるスペースノア級が余裕で停泊する事の出来る深い渓谷だった。ドッキングブリッジでダイテツ、カイ、キョウスケの3人が代表として、クロガネの中に足を踏み入れていた。

 

「来たか、悪いが時間がない。こっちだ」

 

ドッキングブリッジの所で待っていたラドラに案内され、ダイテツ達はクロガネのブリーフィングルームに案内される。

 

「良く来てくれた。ダイテツ」

 

ブリーフィングルームで待っていたのはビアン1人だけだった。ダイテツ達ならば自分を捕える事が無いというビアンの無言の信頼にダイテツは思わず苦笑した。

 

「すまない、グルンガストとアルトアイゼンの修理で思った以上に時間を食ってしまってな」

 

「なに謝ることはない、このポイントは自然の磁気嵐が発生するポイントだ。衛星等で発見される心配もない」

 

とは言え、あまり長時間留まっている事も出来ないがなとビアンは苦笑し、ダイテツに1枚の図面を差し出す。

 

「これは?」

 

「ゲッター合金弾頭の作成書だ。ゲッター合金をハガネに運び込む、伊豆基地で製造すると良いだろう。ビームパックに関しては申し訳無いが、ゲッター炉心がなければ定期的にエネルギーを補充する事が出来ない。一応予備で5つほど用意しているが、それ以上の用意は難しい」

 

「いや、ここまでやってもらって文句など言うまいよ。助かる」

 

アインストに効果的なダメージを与えれるゲッター合金の弾頭とビームライフルの予備パック。決してその数は多くないが、それでも有効な武器があると言うだけでかなりの安心感がある。

 

「ビアン博士、ゼンガー隊長達は?」

 

「周囲の警戒を行なっているよ。話をしたいという気持ちは判るが我慢してくれたまえ、私達は連邦だけではない、百鬼帝国にも追われているからな」

 

さらりと告げられた百鬼帝国に追われていると言うビアンの言葉にダイテツ達は驚きを隠せなかった。

 

「大丈夫だったのか?」

 

「なんとか切り抜けられたがかなり危ない所だった。その時なのだが……私は私を名乗る百鬼帝国の鬼に追われていた」

 

その言葉にリクセントでのシャインと同じ顔をした鬼の存在が脳裏を過ぎった。

 

「もしや百鬼帝国の狙いはビアン博士の名前と顔を使い、世界に散っているDC兵を再び集める事なのでしょうか?」

 

「私はそう考えている。故に、私を真似ている百鬼帝国の鬼が決起を告げる前にハガネに接触したのだよ。カイ少佐」

 

アインストからハガネを助けるという目的はあったが、本当の目的は自分達は決して再び決起しないと言うこと、DCを名乗る事はないという事をダイテツ達に告げる為だったとビアンは言う。

 

「ビアン博士。お気持ちは判りますが、俺達だけにその話をしても何の意味も無いのではないですか?」

 

「キョウスケ中尉の心配も判るが、私達はレイカーとも何度も話し合いを重ねている。故に心配は無用だよ」

 

心配は無用だと笑うビアンだが、百鬼獣は強い。ゼンガーやエルザム達がいてもその脅威を退けることは難しいだろう……それなのに何故ビアンがここまで強気に出れるのか……ダイテツは核心をつく事にした。

 

「最近確認されている黒いR-GUN、ゲシュペンスト・タイプS、そして新型と思われるゲッターロボG――お前の強気はそれらと何か関係しているのか?」

 

「いや、そう言う訳ではない。私達は1度もそれらの機体に遭遇した事は無いんだ」

 

「無いのか?」

 

「ああ。それらしい目撃情報を聞いて探しているが、私達は見た事が無い」

 

ダイテツとビアンが互いに見つめあう。真実を口にしているのかどうなのか――ダイテツは長年人を見てきた己の観察眼を頼った。

 

「そうか。そうだな、お前なら武蔵が見つかればすぐに連絡してくるな」

 

「判ってくれて何よりだ」

 

ビアンは武蔵の事をとても信頼していた。そして武蔵が特攻した事に1番心を痛めていたのはビアンだ。武蔵が生きていると判れば、最も喜び、そしてダイテツ達に連絡してくるのは明らか。それが無かったと言う事はビアンは武蔵に出会っていないとダイテツは判断したのだ。

 

「我々はハガネを見送ればまた姿を消す。クロガネを百鬼帝国に渡す訳には行かないからな。本当はもう少しゆっくりと話をして、百鬼帝国の脅威に備えたかったが、そうも言ってる時間が無いのだ」

 

時間が無いと姿を消すと言うビアンにキョウスケは何故そこまでビアンが焦っているのか、その理由を悟った。

 

「……そうか、DCの旗艦はクロガネとヴァルシオン――そのいずれかが揃わなければ、ビアン博士として決起したとしても信憑性は低いッ」

 

「その通り、確かに百鬼帝国の技術力は高い。だが、クロガネはそう簡単に用意出来る物ではない上に、オリジナルのヴァルシオンを用意するのは更に難しいという事だ」

 

DCとしてビアンの名を語って決起するにはクロガネ、そしてヴァルシオンの存在が必要不可欠だ。それが無い以上、百鬼帝国がビアンを語ろうが、その信憑性は低くなる。それでも反連邦組織等は賛同するだろうが……以前のようなDCとして組織が成立する可能性は低い。

 

「しかしそれも長くは続かないでしょう」

 

「うむ、時間を掛ければクロガネやヴァルシオンの姿だけでも百鬼帝国は作り上げるだろう。百鬼帝国がクロガネとヴァルシオンを作り上げる前に私達は百鬼帝国の存在を世論に明らかにする」

 

「単独で挑むつもりか、ビアン」

 

「今はその必要があると言うだけだ。何れまた私達の道は重なるだろう――その時には力を貸してくれ、ダイテツ。私の願いは何時だって

変わらない、地球の平和を願っているのだからな」

 

ビアンの言葉に偽りはないと判断しダイテツも頷いた。今はまだ、ビアン達とダイテツ達の道は重ならないがいずれまた、そうL5戦役の時のようにその道は重なるだろう。

 

「クロガネとの連絡コードだ。百鬼帝国の事で何か判れば情報を送ろう」

 

「ならばワシからもだ。これはワシのプライベートな物、逆探知などの心配はない」

 

別れ際にビアンから差し出された特殊コードで作られた連絡コードを受け取り、ダイテツもプライベートな端末の連絡コードをビアンに渡し、クロガネから譲られた支援物資を乗せてP4ー078を後にする。

 

「良かったのかね、グライエン」

 

「ああ、今私が姿を見せて政治の場にいる私が偽者とハガネが知るほうが危険だ」

 

「もはや政治家も軍上層部にもどれだけの百鬼帝国の鬼が潜り込んでいるかも判らないからな」

 

ダイテツが訪れた時にその事を伝えるか否かを悩んだ。だが、今ここでそれを告げればダイテツ達は不信感を抱くだろう――そうなれば上層部の中に潜んでいる鬼に目を付けられるだろう。

 

「疑心暗鬼に陥るのが1番危険だ」

 

味方と敵の区別がつかない状況で味方の中に鬼がいると明らかになるほど恐ろしい事はない。今はまだ鬼の中には人間に完全に擬態できる存在がいると言うことだけを明らかにし、急に言動が変わった相手に注意しろと警告するのがやっとだった。

 

「それでグライエン。次の目的地だが、本当にニューヨークで良いのかね?」

 

「ああ、グライエンの家に残されている資料によればそこに旧西暦の資料が残されている。そこに百鬼帝国の資料があることを願う事にしよう」

 

グライエンの家に伝わっているゲッターロボの資料。それと同じ物がニューヨークにあると言う話を聞いて、ビアン達はイングラムを回収した後。ニューヨークへ向かうことを決めるのだった……。

 

 

ビアン達が動き出した頃、月のセレヴィスシティのカフェ街に武蔵とカーウァイの姿はあった。

 

「んーうめえ。でも、こうちょっと物足りない感じですね」

 

「カフェ街だからこんな物だろう。それよりも余り食いすぎるなよ、まだ私達は動かなければならない」

 

「了解っす」

 

パスタを食べ終え、ナプキンで口元を拭った武蔵は砂糖とミルクをたっぷり入れたコーヒーを口にする。

 

「それで次は?」

 

「リン社長に言われているエリアを見て回る。イスルギ重工の工場で何か不味い事になっているそうだからな」

 

今カーウァイと武蔵はリンの依頼でセレヴィスシティにある工場街を見て回っていた。その理由はイスルギ重工の管理する製造ラインに申請されている部材よりも多くの部材、そして推進剤などが納入されている痕跡があったからだ。連邦に言っても賄賂で黙り込んでいる以上、別口で証拠を掴む必要があったからだ。

 

「ん? な、お前はもがっ!? 「ふんッ!」うっ……」

 

侵入したイスルギ重工の工場で行き成り研究員とはちあった武蔵とカーウァイだったが、武蔵が素早く研究員の口を塞いで腹に拳を叩き込んで意識を刈り取る。

 

「カーウァイさん。着ます? それなら剥ぎ取りますけど?」

 

「いや、良い。私とこいつでは体格が違う。どうせバレる変装なら必要ない」

 

「じゃ、喋られないように縛り上げて、カードキーとかを奪いますね」

 

カーウァイの返事を聞いてから武蔵は用具入れに気絶した研究員を引きずり込み、てきぱきと後始末をする。その手馴れた仕草を見てカーウァイは関心半分、呆れ半分という様子だ。

 

「お前がまさかここまで隠密行動を出来ると思ってなかった」

 

「必要に駆られて覚えただけですよ、まぁ昔はどうしてもゲッターのパイロットになりたくて早乙女博士にも同じ事をしましたけどね……まぁ若気のいたりって事でんじゃま。行きましょうか」

 

帽子もサングラスも身に付けず堂々と武蔵とカーウァイは歩みを進める。獅子身中の虫――イスルギ重工が行っている悪事の証拠を手にする為に武蔵とカーウァイはたった2人で厳重な警備が敷かれているイスルギ重工への最深部へと侵入している頃。セレヴィスシティの頭上をヒリュウ改が通過していくのだった……

 

 

 

第43話 戦う理由 その1へ続く

 

 




今回は短いですがエンドデモなのでこれくらいで行こうと思います。次回はまた宇宙ルートで話を進めて行こうと思います。アラドと武蔵とかを何とか遭遇させたいなとかバラルとかを出して行こうかなとか色々考えて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第43話 戦う理由 その1

第43話 戦う理由 その1

 

リンに指定された工場の捜索を終えた武蔵とカーウァイは捜索の結果をリンへと報告する為、工場街を脱出し、再び繁華街へと潜り込んでいた。

 

『そうか、その工場ではそれらしい痕跡はないのか……』

 

指定された全工場8箇所の内3箇所を昨晩の深夜から正午までのほぼ1日かけて調べたが、それらしい痕跡は発見出来なかったと聞いてリンは明らかに気落ちした様子を見せる。

 

「相手もそう簡単に尻尾を見せることはないだろう。だが確かに怪しい資材の流れは確認出来た」

 

完成したであろう部品等の証拠を手にする事は出来なかった武蔵とカーウァイだが、製造されている部品よりも遥かに多い資材の空きコンテナなどを確認していた。それから導き出される答えは1つしかない、既に作られた部品は別の工場に搬入されているか、その工場内にある隠し通路から別の場所に隠されているか、もしくは賄賂を積まれて抱え込まれている軍人によって巡回時に別の場所に運び込まれているかの3つの可能性があるという事を示していた。

 

『判った。こっちからもイスルギ重工のトラックの経路を調べてみる』

 

「そうしてくれ、私はこのまま工場に張りこんで様子を見てみる、怪しいトラックの動きがあれば連絡する」

 

リンへの報告を終えカーウァイは武蔵へと視線を向けた。

 

「と言う訳だ、私は工場の方に戻る。武蔵は暫く休んでいると良い」

 

「いや、良いっすよ? オイラも付き添いますって」

 

休んでいろと言われた武蔵だが、そこまで疲れていると言うことも無くカーウァイに付き合いますよと返事を返したが、カーウァイはその言葉に首を左右に振った。

 

「2人も工場の近くでうろうろしていたら余計に怪しまれる。後ろめたい事をしている連中はそういう所が目聡いからな、遠慮せずに休んでいてくれ。私が無理だと判断したら、通信機で連絡する。そこで交代しよう」

 

「順番で監視って事ですね。判りました」

 

武蔵の性格上自分1人で休んでいろと言われたら相手の事を気遣って休むことをしようとしないが、順番で監視をする為に先に休んでいろと言われれば次の事を考えて判ったと返事を返すしかなかった。

 

「ビアンからカードを預かっている。買い物はこれでしてくれて構わないが、常識の範疇で頼むぞ」

 

武蔵の尋常じゃない食欲を知るカーウァイは武蔵にそう釘を刺して、工場へと引き返す。

 

(私の勘だと、ここが1番怪しい)

 

宇宙軍の為のリオンやガーリオンを製造している筈の工場なのに、やけに警備が厳重な工場が1箇所だけあった。

 

(やはりか……ここも押さえておくか)

 

気配を殺して工場の様子を窺い始めて2時間ほど……連邦軍の制服を着た男が乗った黒塗りの高級車が顔パスでイスルギ重工に入っていく姿を見てカーウァイは自分の勘が間違いでは無かったと確信した。

 

(腕章から見て大佐か……なるほど、セレヴィスシティの連邦軍の駐在兵は信用出来ないと言ったリンの気持ちが判る)

 

大佐クラスの軍人がイスルギ重工と癒着していれば、セレヴィスシティの雇用の大半を占めるマオ社のリンの依頼であっても大佐の権限で握りつぶされてしまうだろう。

 

(清廉潔白そうだからな)

 

リン・マオと話した時間は短いが、カーウァイはその性格、気質を十分に理解していた。リン・マオという女性は己にも他人にも厳しく、そして賄賂などを嫌う清廉潔白な性格で賄賂等を贈ることも無い、いや、もしかすると遠まわしに賄賂を要求されてそれを蹴った可能性もある。マオ社の社長であるリンの要請が通らないのも納得だなと思いながら車がイスルギ重工に入っていく瞬間を写真に収めるカーウァイ。しかしすぐにその顔を険しく引き締めた。

 

(……なるほど、思った以上に厳重だな)

 

フラッシュも焚かなかったが、すぐに警備兵が動き出すのを見て何らかの盗撮対策をしていたかと呟き、カーウァイはすぐに気配を殺して移動を始めた。最初の工場では武蔵が研究員を殴って昏倒させるという事をしている。その事が原因で工場の警備のレベルが上がっていると見て間違いないとカーウァイは考えていた。

 

(制服は警備員の物だが……こいつらは違うな。金で抱え込んだか……)

 

明らかに表の人間とは違う気配を纏っている警備員。暗殺者や工作員、もしくは軍のブラックゾーンを担う裏の人間が何十人も巡回をしている。その姿を見てカーウァイはこの工場が当たりだと確信した……だが侵入する事は諦めざるを得なかった。

 

(これだけ証拠を集めれば十分。離脱するか)

 

無理に侵入するにはリスクがある。表の人間ではない警備員達――そしてバンが怪我をしたのはゼンガーと同じ声をした男。名前は思い出せないが、エキドナと同様上位のWナンバーズ――イスルギ重工がシャドウミラーと手を組んでるのは明らかであり、もしも自分達の存在を確認されればそれこそセレヴィスシティごと工場を破壊して証拠隠滅をしかねない。カーウァイはこの街に住んでいる住人と証拠を掴む事を秤にかけて住人を優先した。イスルギの工場に入った連邦の軍人――腕章して大佐クラスが護衛も付けず隠れるように工場に入った事、そして明らかに裏の筋の警備員の姿は写真に収めた。後は監視カメラ等を利用して情報を集めればいいと判断し、カーウァイはその場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

人通りの少ない公園の近くを青年――「アラド・バランガ」はとぼとぼと歩いていた。

 

「どうしろって言うんだよ」

 

はぁっと深い溜め息を吐いてアラドはどうしてこうなったんだろうと思い返していた。

 

「え? 俺マオ社に入れないんっすか!?」

 

「ええ、すいません。どうも駐在している連邦軍の大佐が駄目だと言っておりまして、私達もドッグで待機になりそうなんです。今レイカー司令に連絡を取ってますから、なんとかなるとは思うんですけど、少しの間ここに足止めされそうなんです」

 

マオ社のラーダに診察して貰う予定だったアラドなのだが、セレヴィスシティに駐在している連邦軍の大佐からのやっかみが入ってアラドはマオ社に入る事が出来なかったのだ。

 

「で、でもヒリュウ改はマオ社のドッグに入るっすよね? 俺、どうしたら?」

 

ヒリュウ改はマオ社のドッグでメンテを受けるので、マオ社に入る事を許可されていないアラドは当然ヒリュウ改の中で待っている事も出来ない。許可が下りるまでどうすればいいんですか? とアラドが尋ねる。

 

「セレヴィスシティで散歩でもしていてください」

 

「はい?」

 

「散歩でもどうですか?」

 

「いや、聞こえなかった訳じゃないっス、え? 良いんすか? 俺一応捕虜ですけど?」

 

捕虜を散歩させるというとんでも無い事を提案するレフィーナにアラドがそう尋ね返す。

 

「逃走やスパイ活動をするおつもりですか?」

 

「いや。そんな事しないっスけど……」

 

「なら大丈夫ですね。1時間もあれば許可も下りると思うので、近くの公園で息抜きをしていてください」

 

半分追い出されるようにヒリュウ改を出たアラド。ドッグで待っている事も出来ない、マオ社の敷地内にいる訳にも行かず、アラドはガイドMAPに従って公園でヒリュウ改のクルーが迎えに来るのを待つことになったのだ。

 

「L5戦役の英雄でもしがらみには勝てないんだなあ……しかし腹減った」

 

ぐぐうっと鳴き声を上げる己の腹に涙しながらアラドは公園の中に足を踏み入れた。

 

「うめえ、いやあ、こういうの良いなあッ!」

 

水でも飲んで空腹を凌ごうと思っていたアラドだったが、聞こえてきた美味いと言う声に振り返ってしまった。ベンチに腰掛け、大量のホットドッグの包みとコーラの瓶を手にしているふくよかな青年が美味そうにホットドッグを頬張っている姿を見て、アラドも美味そうだなと思い思わずその姿をガン見してしまった。

 

「ん?」

 

あまりにジッと見つめていたせいで青年がアラドに気付いた。大口を開けて齧りつこうとしていたホットドッグとアラドを交互に見て、にかっと笑った青年はアラドに手招きする。

 

「おおーい、お前腹減ってるのか? それなら来いよ」

 

後に誰かいるのか? と思い後ろを見たアラドだが、誰もおらず思わず自分を指差しながら青年に尋ねた。

 

「俺っスか?」

 

「お前以外に誰がいるんだよ? 腹減ってるんだろ? 来いよ」

 

ちょいちょいと手招きされながら大声で呼ばれ、アラドは恥ずかしいと思いながら青年の隣に腰掛けた。

 

「ほい、コーラとホットドッグ」

 

「いや、俺金なくて」

 

「良いって、飯は1人で食うより誰かと食う方が美味いだろ? ほれ、食え食え」

 

最初は断ろうとしたアラドだが、無理やり渡されありがとうございますと頭を下げて、ホットドッグの包みを開けて齧り付いた。

 

「うまッ!!」

 

「だろ? いやあ、この美味さで250円って安いよなあ」

 

パンは柔らかくてふわふわ、ソーセージはパリパリに焼かれていて齧り付くとパキっと言う音を立てて耳を楽しませてくれる。そしてジューシーな肉汁に負けない刺激の強いマスタード……シンプルだが、シンプルゆえにどこまでも突き詰めれば味を高めてくれる。空腹だったこともあり、3口ほどでホットドッグを食べ終えたアラドは青年に向かって頭を下げる。

 

「いやあ、美味しかったです。ありがと……「ほれ」え、えっとお?」

 

「足りねえんだろ? 遠慮すんなよ。食え食え」

 

満腹には程遠い上に、少し食べた事で余計に腹が空いた。もっと食べたいと思ったのだが青年に悪いと思い、その場を後にしようとしたアラドだったが、青年はアラドにホットドッグを向けて笑っている。

 

「あんたの分が」

 

「良いって足りなかったらまた買えば良いんだよ。屋台も公園にあるからまた買えるからさ、遠慮しないで食えよ。奢ってやるからさ」

 

「あ、ありがとうございますッ!」

 

遠慮するなと豪快に笑いながらホットドッグを齧りながら奢ってやると言う青年につられ、アラドも笑いながらホットドッグに齧りつくのだった。

 

「へえ、お前今ヒリュウ改に乗ってんのか」

 

「もしかして退役軍人とかっスか?」

 

青年とホットドッグを食べている内にアラドは青年に心を許し、自分が今何をしているのかを話していた。青年の鍛えられた肉体を見て、軍人かもしかするとセレヴィスシティの軍人かとアラドは思ったのだ。

 

「んーオイラは軍属じゃねえなあ、でもL5戦役の時はハガネに乗ってたぜ?」

 

「マジっすか!? えっともしかして整備兵とか?」

 

「いや、ちゃんと機体に乗って戦ってたよ。整備班の真似事もしたけどな。しかしそっかあ……お前……えーっと「アラドっス。アラド・バランガ」おう、悪いな。アラドはヒリュウ改に乗ってるのかぁ」

 

ヒリュウ改に乗っていると聞いた青年が何かを考え込む素振りを見せる。その姿を見たアラドは自然に口を開いていた。

 

「もし知り合いがいるなら伝言を伝えますよ?」

 

「良いのか?」

 

「任せてください、これだけ奢って貰ったんですからそれくらい引き受けますよ!」

 

屋台のホットドッグを殆ど2人で食べ尽くした青年とアラド。これだけ御馳走して貰ったんだから伝言くらい伝えますよとアラドが言うと、青年は悪いなあと言って笑った。

 

「じゃあ、リュウセイとリョウトにまた今度って伝えておいてくれないか? ちょいと訳ありで会いに行きにくててなあ」

 

「リュウセイとリョウトですね! 判りました。ちゃんと伝えておきますね!」

 

その親しい感じから同期とかそういうのだと思い。また今度という言葉の中にあるのが、食事に行こうとか、遊びに行こうという言葉だと思ったのかアラドは深くその言葉の意味を尋ねる事は無かった。

 

「ハガネを降りたのって怪我をしたとか、そういうのですか?」

 

「んん? いや、民間協力って奴だな。戦いが終わったから降りたのさ」

 

「やっぱり怖かったっスか?」

 

戦いが終わったから降りたと聞いて、アラドが思わずそう尋ねると青年は少しだけ真剣な顔になった。

 

「んなもん、怖いに決まってる。戦いなんてない方が良い、アラドは違うのか?」

 

逆にそう尋ねられ、アラドの脳裏を過ぎったのは民間人の虐殺を趣味と言い切ったアーチボルドの姿だった。

 

「嫌っス。俺も戦いなんてないほうが良い」

 

「だよなあ、平和が1番さ。だけどな……男なら戦わなきゃいけねえ時がある。オイラに取っちゃあDC戦争、L5戦役の時がそうだったのさ」

 

「戦いはやっぱり怖かったですか?」

 

アースクレイドルでずっと訓練を積んでいたが、実戦経験は殆ど無かったアラドはDC戦争、L5戦役を潜り抜けたという青年にそう問いかけた。

 

「怖いさ、何時だって戦いは怖いし、恐ろしいもんだ。だけどよ、戦わないと大事な物が自分の手から零れ落ちるんだ。それが嫌だったら悲しくても、怖くても、歯を食いしばって戦わなきゃなんねえ。アラド――お前にはないのか? てめえの命より大事なもんがさ」

 

そう言われアラドの脳裏を過ぎったのはオウカ、そしてゼオラとラトゥーニの自分と同じくスクールの生き残りの姿だった。

 

「あります。死んでも助けたい人がいます」

 

「そうかい、じゃあ。オイラから1つアドバイスだ。死んでもなんて言葉は口にするな、たとえてめえの命よりも大事な者を守るためでも死んでもいいなんて思うんじゃねえ。自分が死んで相手がどう思うかそれを考えろ。大事な奴も助ける、自分も死なない。生き残って皆で笑い合うんだ」

 

死んでも助けたい言ったアラドにそれは駄目だと青年は強い口調で言って、アラドの前に拳を突き出した。

 

「男の拳って言うのはな、自分も守る、大切な人も守る為にあるんだ。だから捨て鉢になるんじゃねえ、死んでもいい、命と引き換えなんて思うんじゃねえぞ。生きてよ、またこうやって楽しく飯を食おうぜ?」

 

「……はいっ! えっと、貴方の名前は?」

 

「武蔵ッ! 行くぞッ!!」

 

自分に真摯に向き合ってアドバイスをくれた青年の名前を尋ねようとした時。公園の入り口の方から武蔵と青年の名を呼ぶ声が響き、初めて自分にホットドッグを奢ってくれた人物の名前が武蔵だとアラドは知ることになった。

 

「っと、わりぃな! 呼ばれてるからオイラは行くぜ。じゃな、アラド! またどっかで会おうぜ!」

 

「は、はい! 武蔵さん! ホットドッグありがとうございました! 美味かったです!」

 

「おう! また飯を食おうなッ!」

 

逆光になっていて見えにくかったが、くすんだ金髪にアイスブルーの瞳をした青年に呼ばれ、走り去っていく武蔵の背中をアラドは見送った所でふと気付いた。

 

「あれ? 武蔵ってゲッターロボのパイロットの……はは、まさかな?」

 

L5戦役の中で敵と戦い消息不明となっているゲッターロボのパイロットの名前――それが武蔵だったような? とアラドが首を傾げていると今度はアラドを呼ぶ声がし、アラドも公園の外に向かって走り出すのだった……。

 

 

 

 

 

レイカーからのセレヴィスシティの駐在軍への抗議の連絡が入り、やっとレフィーナとリンは顔を見合わせる事が出来ていた。

 

「ようこそ、 マオ・インダストリー社へ。 レフィーナ・エンフィールド中佐。お疲れ様でした」

 

駐在軍のいらないやっかみで結局3時間もヒリュウ改はドッグで缶詰になってしまっていた。リンからの苦情を一切受け取らず、レイカー及びジュネーブの作戦本部からの命令があってやっと駐在軍はヒリュウ改の入港を認めたのだ。リンからの労いの言葉にレフィーナは苦笑しつつもその顔に笑みを浮かべた。

 

「慣れたい訳ではないですが、私もヒリュウ改のクルーもある程度こういう扱いには慣れてしまいましたよ」

 

「そういう嫌がらせをする連中はL5戦役に参加しなかった腰抜けですからなあ。何を言われても私達は気にしていませんよ」

 

L5戦役で華々しい戦果を上げたが、それゆえに疎まれている。セレヴィスシティの駐在軍はL5戦役に参加せず、しかしセレヴィスシティの守りに回ったわけでもなく、民間人の保護という名目でシェルターに避難してしまっていた。自分達の行動を棚に上げて、嫌がらせをする。地上でも宇宙でもそういう軍人は少数だが存在するというのが今の連邦軍の現実だった。

 

「リン社長もお疲れの所申し訳無いですが、搬入作業の方をよろしくお願い致します。3時間も足止めを受けたので、出来れば急いでお願いしたいのです」

 

キルモール作戦に合流しなければならないリュウセイ達やカチーナを初めとするオクトパス小隊を早く降下班と合流させなければならず、急いで搬入作業を行なってほしいとレフィーナがリンに頼むがリンの表情は暗い物だった。

 

「その事なのだが……申し訳無い、正式型のヒュッケバイン・Mk-Ⅲとビルガーのロールアウトが予定より遅れてしまっている」

 

「やはり……ですか?」

 

「仕方ありませんな。無理に納期を繰り上げたのはこちらの方ですから」

 

キルモール作戦にビルガーと量産型ではないエース仕様のヒュッケバイン・MK-Ⅲ、そしてR-1を投入する予定は本来無かったのだ。ヒリュウ改に回収に向かわせたが、受け取れる段階ではないと言うのは容易に想像が付いていた。だがリンは申し訳なさそうな顔をして謝罪の言葉を口にする。

 

「申し訳ない……常務、状況の説明を」

 

「はい、R-1に関してはゲッター合金による強化も完了しておりますので、リュウセイ少尉に合わせてT-LINKシステムを調整すれば直ぐにでもお渡し出来ると思います。ファルケンのタイプLは、新OSへの書き換えと装甲の一部換装が終了次第お渡し出来ます」

 

「新OSと装甲の変更をこのタイミングでですか?」

 

ビルトファルケンのOSを書き換えならばまだ判る。ヒッカムでファルケンのタイプRが奪取されたのでTC-OSの解析がされている可能性はある。そうなればただの的になりかねないから書き換えるというのは判る。しかし装甲まで手を加えると聞いてレフィーナが思わずそう尋ねると、ユアンは手にしていた端末をレフィーナの座る机の前に置いて変更点等の説明を始める。

 

「ええ。レフィーナ中佐もご存知の通り、タイプRが奪取されたこともあり、TC-OSに改良を加えたのですが……マリオン博士がその……ええ、暴走しまして……こんな風になっております」

 

「「ファルケンですか? これ?」」

 

頭部や胸部には面影があるが、両腕・脚部・背部が完全な別物になっている。装甲の一部換装とユアンは言っていたが、完全にフレームから手を加えられているのは明らかだった。

 

「これは可変式のウィングですかね?」

 

元々ファルケンには可変式の折り畳まれる1対の翼があるのだが、それよりも遥かに肥大し、鋭利になっている翼を見て、それに続いて原形を留めていないほどに改造された両手足を見てショーンが眉を細める。

 

「……アルトアイゼンのリボルビング・ステークですか?」

 

「いえ、これはビームバンカーを打ち込むビームステークですね、両腕と両足に内蔵されています。ヴァイスリッターの改造中に思いついたらしくて……気が付いたら搭載されてました」

 

先に納入されたビルトファルケンの面影なんて何処にもないマ改造されたファルケンにレフィーナとショーンは絶句した。

 

「すまない、ヴァイスリッターの改造中に閃いたらしくてな……性能は優秀だ。性能は」

 

「ただノーマルのOSでは動かせないのでカスタムタイプのOSが必要になったんです」

 

性能は良いが、まともに動かせないPT――正しくマ改造ですな。とショーンは呟き口髭を摩る。

 

「まぁ改造されたファルケンの方はカチーナ中尉にでも任せるとして、正式採用ヒュッケバインMk-Ⅲの方は?」

 

ピーキー過ぎて操縦出来ないのならば、試作機・実験機を望んでいるカチーナに預ければいいと言って、本題の1つであるヒュッケバイン・MK-Ⅲの事を尋ねるショーン。

 

「すでにノーマルエンジン搭載型のタイプRがロールアウトしておりますが……トロニウム・エンジン搭載型のタイプL、マグマ原子炉搭載のタイプMと3種類のAMパーツの仕上げに手間取っております」

 

連邦本部が求めているのはノーマルタイプのヒュッケバイン・MK-Ⅲではなく、トロニウム・エンジン搭載型のタイプLと、ゲシュペンスト・リバイブの情報を元に調整したメカザウルスから摘出したマグマ原子炉を搭載したタイプMの2機が求められている。レイオスプランで小型化されたSRXを目指し改造されているヒュッケバイン・MK-Ⅲは戦場に投入できれば、1機で戦況を引っくり返す可能性を秘めていた。ただし、ロールアウト出来ればの話なのだが……。

 

「タイプLとタイプMのロールアウトまでの時間は?」

 

「タイプLに関しては2週間ほどで何とかありますが、タイプMに関してはまるで目処が立っておりません」

 

調整が難しいトロニウムエンジンを安定稼動させるには時間が足りず、失敗すれば周囲を吹き飛ばすマグマ原子炉搭載型のタイプMに関してはまるで完成の目処が立っていないと聞いてレフィーナは小さく溜め息を吐いた。

 

「タイプRはどうですか? もしも搬入出来るのならば受け取りますが……」

 

「すいませんタイプRに関してはレイカー司令の許可を得て、今実戦でのデータ取得中となっておりますので……今ここにはないのです」

 

「やはり無理な計画だったのですね。判りました、R-1とビルトファルケン改のみの搬入で結構です」

 

タイプRもマオ社には無く、正式版のヒュッケバイン・MK-Ⅲを受け取るのは物理的に不可能と言うのが明らかになった。

 

「我々が引き取りを命じられたのは、タイプLとタイプMですからな。 上も文句は言いますまい、そう御気になさらずにユアン常務」

 

元々無理な計画だったのだ。受け取れないのも仕方ないと判っていたので気にしなくて良いとショーンが言うとユアンは安心する所か、ますます申し訳なさそうな顔をした。

 

「ビルガーなのですが、そちらも多分無理なのです、その完成間近なのですが……パリからの通達でラドム博士達が量産型ゲッターロボを改造するように命じられて、そっちに向かってしまいまして……」

 

「「え?」」

 

そんな命令はレフィーナ達は聞いておらず、思わずそう尋ね返すとリンとユアンは天を仰いだ。

 

「社長……」

 

「言うな、あいつめ。ブライ議員達の判が押してある書類があると言っていたが嵌められたか……」

 

偽造の司令書……いや、改造依頼は確かに出ていたであろうが、納入予定日を偽装された書類に踊らされている事に気付き、リンは改めて謝罪の言葉を口にするのだった……。

 

 

 

 

やっとヒリュウ改からマオ社の格納庫に足を踏み入れたリュウセイ達だったが、格納庫に固定されている機体を見て足を止めていた。

 

「……ファルケンってこんなのだっけ?」

 

「違うわ……え? 何これ?」

 

「へえ? 良いじゃねえか。あたし好みだぜ、色も赤で景気がいいじゃねえか。あたしの為の機体か?」

 

「い、いえ違うと思いますよ? 中尉」

 

ヒッカムで見たファルケンとはまるで別物を見て絶句するリュウセイとエクセレン。カチーナは自分のパーソナルカラーのファルケンを見て自分の機体か? と呟き笑みを浮かべ、ラッセルに違うと突っ込みを入れられていた。

 

「ま、間違いねえ。こ、こいつはマ改造だぜ……」

 

「……でしょうね。私達の中にこれに乗れる人がいるのかしら?」

 

タスクとレオナはその機体を見て、間違いなくマリオンが暴走した結果というのを一目で悟っていた。

 

「あ、あはは……うん。ラドム博士が暴走しちゃって」

 

「タイプキメラとか言われてるわね」

 

リョウトとリオはビルトファルケン・タイプKを見て声を失っている面子に苦笑いを浮かべながら、搬入予定のR-1の説明を始める。

 

「リュウセイ、R-1の関節部の交換とTFコーティング、それと装甲全面のゲッター合金コーティグは、ハミル博士の指示通りにやっておいたよ。ちょっと慣れるまで大変だと思うけど、機体性能は大幅に上がってると思う」

 

「おう、ありがとよ」

 

久しぶりに見る己の相棒を見上げながらリュウセイが満足そうに笑うとリョウトは更に説明を続ける。

 

「あと、僕の方で変形シーケンスの微調整をしておいたから……変形時のつっかかりが前に比べてマシになってる筈だよ。後は最後にT-LINKシステムの微調整が終わればすぐにでも使えるよ」

 

「判ったぜ、今から調整するのか?」

 

T-LINKシステムの調整が終われば乗れると聞いて、リュウセイが直ぐ調整するのか? と尋ねるとリョウトは首を左右に振った。

 

「最後の微調整が残ってるから、後1時間くらいかな? それよりアルブレードの新しい武装はどうだった?」

 

「おう! 良い感じだったぜ! ブラスト・トンファーはかなり気に入ったぜ!」

 

「そっか、腰部のレールガンとブレードサイはどうだった?」

 

アルブレードに搭載した武装の感想を求めるリョウトにリュウセイは実際に操縦して見た感じを事細かく伝える。

 

「レールガンはやっぱり牽制程度だな、突っ込む前に使う分にはかなり使いやすい、ブレードサイも良い感じだけど、もう少し刀身が長くするか、思いきって短くしてくれたほうが使いやすいと思う」

 

「OK、ありがとう。もう少し調整してみるよ」

 

「それにしても、お前……技術屋がすっかり板についたなぁ」

 

リュウセイの操縦した感覚を聞いて、細かくデータを記録しているリョウトを見て、リュウセイがそう呟くとリョウトは照れたように笑った。

 

「え? そ、そうかな? 僕なんかまだまだだよ」

 

「リョウト君、 ハミル博士やラドム博士の下で頑張ってるものね。今じゃ、SRX計画とレイオスプランの重要な開発スタッフなのよ」

 

謙遜するリョウトに自信を持って良いのよとリオがフォローを入れる。するとリュウセイ達から次々に凄いなという言葉を投げかけられ、リョウトはますます身体を小さくさせて謙遜する。

 

「い、いや……僕なんてまだまだだよ。ラドム博士とミハル博士に怒られてばかりだしね。だから、思い切って軍を辞めて、マオ社に正式に入社しようと思ってるんだ。僕の性にもあっているしね」

 

今は軍からマオ社に出向という扱いのリョウトだが、近況が落ち着いたら軍を辞めてマオ社に正式に入社するつもりなんだとリュウセイ達に打ち明けた。

 

「でも本当に良いの? リョウト君、パイロットとしての腕前も高いのに……」

 

リオは軍を辞めて開発スタッフに加わると聞いて本当に良いのか? と尋ねる。すると話を聞いていたカチーナがリオに声を掛けた。

 

「止めてやれ、自分で決めて自分で決断したんだ。それを迷うような事を言ってやるな、それにマオ社のスタッフになったからってパイロットを完全に引退する訳じゃねえんだからな。そうだろ? リョウト」

 

「は、はい、一応。警部部と開発部の兼任をやるつもりなので、完全にPTから手を引くって訳じゃないです」

 

ちらっとリオを見るリョウト。リオはその視線には気付いていないようだったが、リョウトが軍を辞めるという決断をしたのは軍属だと何時戦場に呼ばれるかも判らない。それならマオ社に所属するリオの側にいたいと思ったのは明らかだった。

 

「リョウト君? どうかした?」

 

「え? あ、ううん。な、なんでもないよ?」

 

しかし余りにジッと見ていたのでリオに気付かれアタフタしているリョウトを見て、リュウセイが助け舟を出した。

 

「それより気になってるんだけどさ、正式版のヒュッケバイン・MK-Ⅲの方はどうなんだ?」

 

量産型ヒュッケバイン・MK-Ⅲは知っているが、正式採用のエース仕様のヒュッケバイン・MK-Ⅲはどうなんだ? と尋ねる。

 

「うん。えっとね、タイプLはもうすぐロールアウトできると思うんだ。だけどタイプMとAMボクサーは時間が掛かると思う」

 

「装着すれば、小型版のSRXになるっていうアレか」

 

カークはトライアウトに落ちる事を見越しており、落ちて直ぐレイオスプラン用のヒュッケバイン・MK-Ⅲの開発に進路を切り替えていた。それが小型化されたSRXをコンセプトにした、ヒュッケバイン・MK-Ⅲ用の強化パーツだった。

 

「うん。RWシリーズ2号機の機体フレームを流用してまで作ってるものなんだけど……やっぱり微調整が難しくてさ」

 

イングラムが行方不明になり、フレームだけ放置されていたR-SWORDをヒュッケバインMK-Ⅲ用に改造するのは当然の事だった。

開発責任者がおらず、図面も無ければ別の機体に流用するしかない。

 

「あのよ、R-SWORDなんだけどよ……俺見たんだ」

 

「見た? R-SWORDの図面を?」

 

「違う、そうじゃねえ。動いている完成形のR-SWORDも見たし、ゲッターロボも、ゲシュペンスト・タイプSも見たんだ」

 

リュウセイの話を聞いてリョウトとリオの顔が輝いた。

 

「それって武蔵君達が生きているっていうことじゃない!」

 

「おう、まだその通信とかが通じてないから生きてるって言う確証はないんだけどな。でも俺は武蔵と教官が生きてるって確信したぜ」

 

「リュウセイ、そろそろ行くわよー?」

 

ついついリョウトとリオと話し込んでいたリュウセイは今行くとエクセレンに返事を返す。

 

「じゃあ、悪いけどR-1の事を頼んだぜ!」

 

「うん、任せておいて」

 

笑顔で言うリョウトにリュウセイも笑みを浮かべ、エクセレン達が待っているもう1つの格納庫に足を向けるのだった。

 

「言わなくて良かったの?」

 

「うん。リュウセイ達が武蔵さんに会ってるなら、きっともうすぐ会えるよ。僕達が見たのはきっと幽霊なんかじゃなかったんだ」

 

自分達に気をつけろと戦力を増やせと告げて消えた武蔵の姿。それを見て、幽霊の可能性を考えていたがリュウセイ達がその姿を見たと言うのならば、きっと武蔵は生きている。だからリョウトは自分が見たのは幽霊ではないと笑い、R-1の搬入作業を再開する。そしてリュウセイ達はRー1、ビルトファルケン・タイプKが固定されている格納庫から別の格納庫に移動したエクセレン達を出迎えたのは細身のPTだった。

 

「わお、あれが噂のビルトビちゃんね?」

 

ビルトファルケンがヴァイスリッターをベースにEOTを搭載した後継機ならば、ビルトビルガーはEOTを流用したアルトアイゼンの後継機だった。エクセレン達はアルトアイゼンの後継機と聞いていたので、重厚なシルエットを想像していたのだが、ハンガーに固定されているビルトビルガーはアルトアイゼンににても似つかない細身のPTだった。

 

「アルトと同じコンセプトって 聞いてたけど、随分と細身ッスね」

 

「そうねぇ。ちょっとスリム過ぎるし……右手に何も付いてないしね」

 

「クレイモアもねえじゃねえか、これで本当にアルトの後継機なのか?」

 

アルトアイゼンと言えば、右手のステーク、そして両肩のクレイモアだ。それが無いのにどうしてこれがアルトアイゼンの後継機なんだ? とカチーナ達が話をしていると格納庫の扉の開く音がした。

 

「やはり、量産型ゲッターロボにはマグマ原子炉をそのまま搭載すればいいのでは?」

 

「それをすればフレームが耐えられないだろう。それにマオ社のマグマ原子炉はヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMに使用しているんだぞ」

 

「国連から奪えば良いでしょう?」

 

「それを許可すると思っているのか?」

 

「それを許可しないのならば、量産型ゲッターロボをゲッターロボに近づけるなんて無理難題ですわね。それなら私はビルガーの調整をしたいですわよ」

 

「そんな物は私だって同じだ。やれやれ、何故急にゲッターロボを改造しろなんて言い出したんだ」

 

「全くですわよ」

 

無理な命令を出され、口論していたマリオンとカークだが、エクセレン達の姿を見て口論……いや、無理な命令を出されたことに対する愚痴の言いあいを止めた。

 

「エクセレン少尉……久しぶりですわね。丁度良い所に来てくれましたわ」

 

「丁度良いと言うと、もしかしてヴァイスちゃんの改造プラン?」

 

「ええ、そうですわ。アルト用の換装パーツに合わせてヴァイス用の強化アーマーも作りましたので、それをヴァイスに装備させますわ」

 

「待って、アルトちゃん用の装備パーツってあの呪われた外せない奴?」

 

「呪われたなんて失礼ですわね? 機体性能を飛躍的に上昇させる強化アーマーですわよ? その性能は折り紙付です。良い機会ですから、取り付けておきますわね」

 

エクセレンの意見を聞かず、勝手に話を進めているマリオン。差し出された端末を見て死んだ目をして改造案を確認するエクセレン

 

「可変式のウィング? え、そんなのつけて大丈夫なの?」

 

「大丈夫ですわよ? 空中爆発はしません」

 

「いや、私への負担は?」

 

「大丈夫です。死にはしませんわ」

 

「待って、お願いだから待ってマリオン博士」

 

「30分で装備は完了しますわよ」

 

「違う、そうじゃない。そうじゃないのよ」

 

エクセレンの意見を完全に無視し、ヴァイスリッターへの装着作業を始めるマリオンを見て不安そうにしているエクセレンをリュウセイ達は南無と呟いて手を合わせて見ているのだった……。

 

 

 

一方その頃やっとマオ社に入れたアラドの姿は医務室にあった。

 

「ぐぎゅっ」

 

「あら、どうしたの?」

 

検査の結果が出るまでの間。ラーダにヨガを教わっていたのだが、常人では曲がらない角度に曲げるように言われ、潰されたカエルのようなを出していた。

 

「あ、あの……このポーズ、めっちゃキツいんですけど」

 

「蓮華のアサナよ。 気持ちが落ち着かない?」

 

気を落ち着けるヨガと言われ、ラーダの真似をしていたアラドだったが、気を落ち着ける所ではなく意識を飛ばす寸前だった。

 

「そ、それ所か、マジで落ちそうッス……もう止めて良いっスか?」

 

「あらあら、若いのに身体が固いのね。それじゃ、元に戻していいわ」

 

もう無理だと言うアラドにラーダはしょうがないわねという感じで笑ったが、もし駄目といわれていたら間違いなくアラドはその意識を飛ばしていただろう。助かったと安堵の溜め息を吐いているアラドにラーダは優しく笑いかける。

 

「検査の結果が出るまで、少し待って貰えるかしら?」

 

「はい、判りました」

 

アラドから離れて検査結果を確認するラーダの顔から笑みが消えた。

 

(やはり……脳に調整を受けた形跡がある……。恐らく過去の記憶がないのはそのせい……でも、この反応は……)

 

リマコンをされている可能性があるので精神鑑定を依頼されたラーダはアラドのデータを見てその顔を歪めた。

 

(特脳研のデータにあったものと似ているわ。そして、あのプロジェクトにも……まさかとは思うけど……)

 

かつてラーダは特脳研の被験者だった。その時にある科学者に救われ、研究者側に移ったという経歴がある。アラドに施されているリマコンの処置などの痕跡を見て、自分を救ってくれた研究者の顔が脳裏を過ぎった瞬間。マオ社が大きく揺れ、警報が鳴り響いた。

 

「な、何だ!?」

 

「警報……!? まさか敵の襲撃ッ!?」

 

「ええっ!?」

 

「様子を見てくるわ。 あなたはここにいて」

 

「待って! 待ってください! 俺も行きますッ!」

 

自分も連れて行ってくれというアラドにラーダは迷いの表情を見せた。だがアラドの真剣な眼差しを見て頷いた。

 

「判ったわ、最悪の場合。貴方の力も借りるわよ」

 

「うっすッ!」

 

精神操作や、特定の行動に反応する催眠術が掛けられている様子も無かった。だからラーダはアラドを連れて行く事にし、アラドと共に格納庫に向かって走り出すのだった……。

 

「ここにゲッター線反応があるのか、もしゲッターロボが本当にいるというのならば炙りだしてくれるわ!」

 

セレヴィスシティに襲撃を仕掛ける無人機の背後で巨躯の恐竜を思わせる特機の姿があった。月から発せられる微弱なゲッター線反応――月に潜んでいるゲッターロボを炙りだす為に無人機を送り出し、己が出撃する時を今か今かと待ちわびているのだった……。

 

 

 

 

第44話 戦う理由 その2 へ続く

 

 




今回はシナリオデモがかなり長くなってしまいましたが、次回からは戦闘回を書いて行こうと思います。強化されたR-1やヴァイスリッターの活躍などを書いて行きたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第44話 戦う理由 その2 

第44話 戦う理由 その2 

 

セレヴィスシティの駐在連邦軍大佐は目の前の光景を受け入れられないでいた。

 

「ば、馬鹿な……最新鋭機の拠点防衛用だぞ!? 何故こうも簡単に撃墜されるッ!? こ、これでは私の責任問題になるッ!」

 

ヒリュウ改に出撃禁止命令を出し、駐在軍で襲撃者を撃退しレフィーナがヒリュウ改に相応しくないと弾圧し、レフィーナを基点にレイカー、ダイテツの責任問題を追及するつもりだった大佐は見る見る間に撃墜されて行く部下の機体を見て顔から血の気を失った。

 

「相手はただの旧式だぞ!? 何故こんなことになるッ!?」

 

相手はコスモリオン、アーマリオン、ガーリオンのゲシュペンスト・MK-Ⅲと比べれれば格段に性能の劣る機体だ。それなのに禄に抵抗も出来ず撃墜され、鹵獲されていくゲシュペンスト・MK-Ⅲの姿に大佐は冷や汗を流し始める。

 

「ひ、ヒリュウ改に伝達! 緊急出撃だ! お前達の初動が……あ……」

 

自分の裁量ミスで最新鋭機であるゲシュペンスト・MK-Ⅲを8機も失った。降格、いや軍事裁判にもなりかねないとヒリュウ改に責任を押し付けようと指示を出そうとしたがそれは余りにも遅すぎた。司令部を覗き込む赤いカメラアイを光らせるリオンのレールガンの銃口が司令部に向けられ、賄賂、汚職に塗れた駐在軍司令とその司令に付き従い、セレヴィスシティの民間人に横柄な行動を取り続けて部下共々その身体はレールガンの銃弾に押し潰され、わずかな肉片だけを残しこの世から消え去るのだった……。

 

「武蔵、待て。ここは様子を見るぞ」

 

「え? いやいや、正気ですかッ!?」

 

セレヴィスシティの上空を旋回するリオン達を見てゲッターD2に乗り込もうとした武蔵をカーウァイが呼び止めた。今正に司令部が吹き飛ばされたのを見て何故待機なのかと武蔵がカーウァイに食って掛かる。

 

「落ち着け、あいつらの動きは明らかに陽動をかけている。私達を誘い出そうとしている可能性が高い」

 

「それならなおの事出撃するべきでしょッ!?」

 

「だから落ち着くんだ、今この状況で私達を誘い出すことにメリットのある者は少数だ。私達が戦った人造人間が搭載された戦闘機の事を

考えろ、エアロゲイターとは別口の異星人の可能性があるんだぞ?」

 

「いや、それなら出撃するべきでしょ!」

 

カーウァイの説明を聞いても出撃しようとする武蔵にカーウァイは溜め息を吐いた。困っている人を見捨てて置けないと言う武蔵の気質は好感の持てる物だ。だが、今この状況での武蔵の気質は武蔵だけではない、セレヴィスシティの住人全てを危険に晒し兼ねない行動に繋がる。

 

「私達を誘い出すという事は私達を倒す算段があると言う事だ。下手に出撃して、MAPWでも打ち込まれてみろ。迎撃出来なければセレヴィスシティ全体を危機に晒すことになる。それもただのMAPWなら良いさ、毒物系等の深刻な後遺症を齎す類だったのならば月全体が死の星になるぞ」

 

カーウァイが危惧したのはそこだ。少なくない敵をゲッターD2とゲシュペンスト・タイプSは倒してきていた――それはゲッターD2の存在をこれでもかと示す事に繋がっている。少し考えれば判る筈だ、ゲッターD2に正面から当たれば勝てる可能性の方が低い。それなのに旋回行動などを繰り返し誘い出そうとしているのは倒す算段あるいは、パイロットに強い精神的負荷を掛ける目的があると言う可能性が極めて高い。

 

「……オイラが出撃したほうが危険って事ですか?」

 

「ああ、それは武蔵だけじゃない。私も同じ事だ。MAPWの可能性がある以上――今私達が動くのはいらないリスクを高める事にしかならない」

 

本音を言えばカーウァイだって出撃したいのだ。だが、それをすれば月全体を危険に晒す可能性がある。その可能性が僅かでもあれば、カーウァイは慎重にならざるを得なかった。教導隊を率いていた隊長という役職、そして敵が強大で勝てない可能性がある場合。指揮官として取るべき選択――脳裏に浮かぶ複数の選択肢の中でもっとも確率が高く堅実な策がMAPWによる広範囲を薙ぎ払う事だった。

 

「それにだ。これから広がる戦火を私達だけで消す事なんて出来はしないんだ。武蔵」

 

ゲッターD2は確かに強い。単騎で戦場の雰囲気を一瞬で変える事だって出来るだろう。だがそれには限界がある――同時に部隊を展開されれば、必ずその手から零れ落ちる物が存在するのだ。

 

「その上宇宙でインベーダーが目撃された、下手に動けば月面がインベーダーに埋め尽くされるぞ」

 

インベーダーはゲッター線に反応する。可能な限りは倒したが、生き残りがいる可能性がある以上カーウァイは月面での戦いを避けるべきだと考えていた。

 

「じゃあオイラはどうすれば……」

 

「簡単だ。仲間を頼る事を覚えるんだ――武蔵1人で何もかも背負う必要はない。お前の仲間は守られなければならないほどに弱い存在か?」

 

「違います」

 

「だろう? ならば、仲間を信じろ。大丈夫だ、ヒリュウ改は無事にこの戦いを切り抜けるだろう」

 

武蔵とカーウァイの隠れている廃工場の上を通過していくヒリュウ改の姿を見上げ、カーウァイは武蔵に仲間を信じろともう1度言うのだった……。

 

 

 

ヒリュウ改から避難勧告とリオンからのミサイル攻撃で激しく振動を繰り返すマオ社の通路をよろめきながら格納庫に向かってリン達が歩み進める。

 

「ちい、あの無能な輩め。最後まで余計な事をしてくれる」

 

駐在軍の司令部が壊滅し、駐在軍からの出撃禁止命令が解除されたと判断したヒリュウ改が出撃した事で、先程よりも振動の数は減っているが、ヒリュウ改が出撃するまでの時間のロスでどれだけの被害が出ているかを考えるだけでリンは頭が痛かった。

 

「……常務、従業員の避難は?」

 

「プロジェクト関係者以外はシェルター内に入りました。後は……」

 

ユアンが一瞬言葉に詰まった。それが何を意味するかをリンは一瞬で理解していた。

 

「開発中の試作機やパーツか」

 

ケイオスプランで開発を進めているアルブラスター・アルガードナーを初めとした簡易版Rシリーズ。そしてゲシュペンスト・ヒュッケバインMK-Ⅲ用のアーマーパーツ等……容易に移送出来ない装備が余りにも今のマオ社には多かった。

 

「ええ。 現在、ハミル博士やリョウト達が最下層ブロックへ移送させている所ですが……動力の問題で起動出来ない、アル・ブラスター、アル・ガードナーの2機の移送に手間取っています」

 

「仕方ないな、あの2機は新型エンジンを搭載する予定だったからな」

 

アルブレードの成功に続き、R-2、R-3の量産計画も大きく進んだ。だがその反面トロニウムを使用せずに高出力を得る為に試作型のエンジンの開発を待っていた2機は装甲こそ装着しているが、エンジンが無く張子の案山子に等しい状態だった。

 

「仕方ない。常務。今、使える機体は何体残っている?」

 

リンの言葉のユアンが眉を細める。リンが何を言おうとしているのかユアンが察するのは簡単であり、常務という立場からリンを止めなければならないのだが、リンの性格上止めれないと判ってしまいユアンは深く溜め息を吐いた。

 

「万が一に備えてだ。すぐに使える物は?」

 

「トライアウトから帰って来たゲシュペンスト・MK-Ⅲの砲撃戦用とデータ取り用に改造したヒュッケバイン・MK-Ⅲの剣撃と射撃仕様がそれぞれ1機ずつ。それとファルケン・タイプKと量産型ゲッターロボですね。残りはバラしていたり、シーリングの解除に時間が掛かったりで使えません。後トライアウトで使用された機体なので、各パイロットの操縦の癖が付いていて、かなり操縦しにくい筈です、それに各関節の磨耗具合を考えると耐久力はかなり落ちると思います」

 

各基地で持ち回りで使われたゲシュペンスト・MK-Ⅲとヒュッケバイン・MK-Ⅲは関節部の交換が必要なほどに磨耗していた。だから廃棄する前提でデータ取り用に改造していたが、その中身も外もボロボロに近い。

 

「私はあの2人に出撃要請を出すべきだと思いますが……」

 

「駄目だ。確かにあの2人に出て貰えば退ける事は出来るだろう。だがその後に齎される被害を考えれば出撃要請は出来ない」

 

「しかし「5機もあれば十分だ。ヒリュウ改のPTと連携して、セレヴィスシテイを守る事くらいは出来るだろう」

 

「ですがタイプKと量産型ゲッターロボはまともに運用できないですよ!?」

 

「それも判っている。私が剣撃型のカスタマイズのヒュッケバイン・MKーⅢで出る。ラーダにはゲシュペンスト・MK-Ⅲ、リオには射撃使用のヒュッケバイン・MK-Ⅲで出て貰う。出撃準備を……」

 

「ま、待ってください、社長! 彼を、アラドにも機体をッ!」

 

「ラーダ、正気かッ!?」

 

アラドを連れて走ってきたラーダの言葉にリンは思わずそう叫んでいた。精神鑑定を行なうと言ってから1時間ほど、機体を貸すには余りにも時間が短い。レフィーナとダイテツ、そしてレイカーの観察眼を疑っている訳では無いが機体を貸し与えるには余りにも博打が過ぎる。

 

「お願いします! 俺にも機体を貸してくださいッ! 逃げたり、裏切ったりしませんから! お願いしますッ!!!」

 

「何故、そこまで機体を貸して欲しいと言うんだ。アラド」

 

深く頭を下げるアラドにリンはそう言葉を投げかけた。これが月の出身と言うのならば生まれ故郷だからという理由で納得も出来る。だが、幼い頃の記憶が無く、自分の出身地も定かではないアラドが命を賭ける理由はない。だから何故だと問いかける。

 

「俺に飯を奢ってくれて、大事な事を教えてくれた人がこの近くに居るんですッ! 俺はその人を助けたいんですッ! それにあの人の……武蔵さんの言葉で俺は戦う理由が判ったんですッ! だから俺はあの人を助けたいんですッ!」

 

アラドから出た武蔵の名前にリンとユアンは驚いた。武蔵とカーウァイを廃工場で匿っているのはリンとユアンしか知らない事だ。

 

「武蔵!? 武蔵君に会ったの!? どこで!?」

 

「え、えっと、ち、近くの公園でですけど……」

 

ラーダは武蔵を匿っている事を知らないので、MIAの武蔵が生きているかもしれないと言う言葉にアラドの肩を掴んで詳しい事情を聞こうとしている。

 

「ラーダ、後にしろ」

 

「で、ですが、社長ッ! 武蔵君が生きて月にいるのなら早く見つけないと」

 

「それは判っている。だが、同名の別人という可能性の方が高いだろう……今は襲撃者を退ける方が先だ。アラド、そこまで言ったんだ。途中で撃墜されるなんて真似はするなよ」

 

「うっす! ありがとうございますッ!」

 

リンからの出撃許可が降り、アラドも格納庫へと向かう。

 

「リョウト! アラドをタイプKに乗せる! OSのセッティングを急げッ!」

 

「しょ、正気ですか!? これはぶっつけで操縦出来るようなPTじゃないんですよ!?」

 

マ改造されすぎて、並みのパイロットでは乗れない機体のなっているビルトファルケン・タイプKにアラドを乗せると聞いてリョウトが声を荒げると、一緒に作業してたカークとマリオンが振り返った。そしてアラドを見つめ、にやりと笑った。

 

「アラド・バランガにタイプKを預けるのは無理だ」

 

「ええ、私もですわ。でも、タイプK以上にアラドに相応しい機体がありますわよ」

 

アラドの簡易的な身体能力の測定結果を知るマリオン達はファルケン・タイプKに乗せるよりも相応しい機体があると笑った。

 

「相応しい機体? お前らまさか「あれ」を使うつもりか!? それこそ正気か!?」

 

「ミハル博士!? 何を言っているんですかッ!?」

 

リンとリョウトに怒鳴られるが2人の意見は変わらなかった。

 

「アラド。この状況を覆せる機体が1機ある」

 

「ですが、並の人間では操縦出来ず気絶する代物ですわ」

 

「「それでも乗るか(乗りますか?」」

 

「乗ります!!」

 

2人の問いかけに迷う事無く乗ると返事を返し、アラドはマリオン達に連れられて地下の格納庫へと向かう。

 

「ええい、リョウト。ヒュッケバインの剣撃・射撃用の設定とゲシュペンスト・MK-Ⅲの準備を始めろ! リオ、ラーダ! 出撃準備だッ! いそげッ!」

 

研究者2人が暴走しているが、止める手段はないと気付きリンはイラついた素振りを見せながら、リョウトにそう指示を出すのだった……。

 

 

 

 

セレヴィスシティとマオ社を守らなければならないヒリュウ改のPT隊は必然的に拠点防衛と敵を積極的に撃墜に行く2班に分かれる事を強要されていた。8人しかパイロットがいない以上分断されると言うのは考えられる最悪の展開だったのだが、強化パーツを装備したヴァイスリッターとR-1の機体性能が想像以上に高かった事で、ヴァイスリッターとR-1をフォワードに据えて、ギリアム達はセレヴィスシティとマオ社の防衛に集中する事が出来ていた。

 

『リュウセイ、前に出すぎよ。セレヴィスシティに帰還出来る範囲で戦いなさい』

 

「りょ、了解ッ!!」

 

ヴィレッタからの忠告で逃げるアーマリオンを追おうとしていたR-1はその動きを止めて、一旦後退する。その直後セレヴィスシティの方角から放たれたレールカノンがアーマリオンを貫き粉砕し、エネルギー波がコスモリオンを纏めて3機飲み込み爆発させる』

 

『レオナ少尉、命中しましたか?』

 

『レオナちゃん命中しただろ!』

 

『ええ、ワンアプローチとはお見事です。ラッセル少尉』

 

『いえいえ、レオナ少尉の正確な着弾予想のお陰ですよ』

 

『待って! レオナちゃん。俺を無視しないでッ!?』

 

レオナのガーリオンが着弾地点を予想し、射角を計算しラッセルのゲシュペンスト・MK-Ⅱとジガンスクードのギガワイドブラスターによる範囲攻撃でセレヴィスシティとマオ社に侵入しようとしているコスモリオン達の動きは完全に封殺されていた。

 

『ラッセル、あんまり無理すんなよ』

 

『大丈夫です、中尉。まだまだ持ちそうですから』

 

現在ラッセルのゲシュペンスト・MK-Ⅱはゲシュペンスト・MK-Ⅲ用の砲撃装備を無理やり装備していた。フレーム強度が異なるゲシュペンスト・MK-Ⅱのフレームは一撃撃ち込む事に大きく軋んでいたが、それでもラッセルは大丈夫だと笑って返事を返したが、フレームの耐久値がイエローとレッドゾーンの中間にあり、口調ほど余裕は残されていなかった。

 

『こんな時に嫌な報告になりますが、敵影更に増加。力づくで私達の包囲網を抜けるつもりのようですわ』

 

索敵をしていたレオナから更に敵影確認の言葉を聞いてカチーナ達の眉間に険しい皺が寄った。

 

『ちっ、まだ攻め込んでくるか……ギリアム少佐このまだと更に押し込まれちまう。あたしもリュウセイとエクセレンの方に回るか?』

 

セレヴィスシティとマオ社を守る必要があり、思うように動けないカチーナがイラついた様子でギリアムにフォーメーションの変更を提案する。この波状攻撃が何時まで続くか判らない以上慎重にならなければならない。だがなんらかしらのアクションを起さなければ何時までもこの波状攻撃が続くとカチーナは直感で感じていた。そしてそれはギリアム達も感じていた――だからカチーナの提案を直ぐに受け入れた。

 

『カチーナ中尉。俺とヴィレッタでセンターに入る。オクトパス小隊は引き続きセレヴィスシテイの……』

 

『3時方向に熱源反応多数!  識別はバレリオンとアーマリオンです!』

 

ギリアムが指示を出している間にアラートが鳴り響き、ユンの報告の声が響きバレリオン部隊とそのバレリオン部隊の上空に浮かぶ、7機のアーマリオンの姿にレフィーナは顔を歪めた。

 

「どうやら敵はよほどセレヴィスシティを掌握したいようですね」

 

「ええ、そのようですな。しかし、これはちと不味いですな」

 

アーマリオンの最大特徴はAMでありながら、全くの別機体を思わせる程の改造を施せるその拡張性にある。背部に大型ブースターを複数装備したアーマリオンは防衛網を強行突破し、セレヴィスシティを制圧する為に送り出されたのは明らかだった。更にバレリオンで周囲を固めることでアーマリオンへの攻撃を防ぐのと同時に、アーマリオンに隣接しようとするリュウセイ達の動きを止める役割も果たしていた。

 

「艦回頭! 本艦で敵機を迎撃します!」

 

バレリオンを撃墜しなければアーマリオンのセレヴィスシティ侵入を許すと判断したレフィーナは、コスモリオン、ガーリオンの部隊に無防備な船体をさらす事になるがヒリュウ改でバレリオンの迎撃に出る事を決断した。

 

『いや、その役割は私達でやるッ!』

 

レフィーナの指示が飛んだ直後、広域通信でリンの声が響きマオ社の格納庫から3体のPTが出現した。

 

『これより貴隊を援護する。バレリオンの撃墜はこちらに任せてくれ』

 

『わお! シャッチョーさん自らご登場!?』

 

『セレヴィスや開発中の新型に何かあったら大変ですもの。 私達もお手伝いしますわ』

 

『あんまり派手に動けないですけど、バレリオン相手なら問題ないです! エクセレン少尉達はアーマリオン達をお願いします!』

 

リン、リオ、ラーダの3人が加わり、戦況は少しずつだが変わり始めていた。

 

「ちっ、この程度ではまだゲッターロボを炙りだすには足りないか」

 

だがこの戦況をコントロールしている者はこの展開を受け入れるつもりは無く、更なる攻撃の一手を打ち出そうとしているのだった……。

 

 

 

 

リン、リオ、ラーダの3人が加わった事でリュウセイとエクセレンは先ほどまでの、何時でもセレヴィスシティに帰還出来る位置から移動し、より攻撃的な位置取りをし、バレリオン部隊とアーマリオン部隊をカチーナ達に任せ、コスモリオン、ガーリオンの混成部隊への積極的な攻撃を始めていた。

 

「オラオラッ! こっから先は通さないぜッ!!」

 

換装装備を装着している余裕が無く、標準装備しかしていないR-1だが、その機動力とパワーを活かしガーリオンに突撃する。それは一見無謀な行動に見えたが……コスモリオン達の放つレールガンはR-1が展開している念動フィールドに弾かれ、R-1の装甲にただの1発も届かない。

 

「行くぜR-1ッ!!!」

 

L5戦役から高まり続けていたリュウセイの念動力はアルブレードに乗っている間も高まり続け、そしてリクセントで見たゲッターロボ、宇宙空間で遭遇したペルゼイン・リヒカイトと新型ドラゴンとの戦いを見て更に高まり、T-LINKシステムを搭載していないアルブレードでも念動刃を作り出す事に成功していた。

 

「破を念じて刃となれッ!!!」

 

そして今念動力を十分に引き出す事が出来るポテンシャルを持つR-1に乗った事でその高まり続けた念動力はやっとその出口を見つけたのだ。

 

『おいおい、マジか……』

 

『R-1でこんなことまで出来るんですの?』

 

R-1の背後に浮かび上がる無数の念動力で出来た刃にタスクとレオナは思わずそう呟いていた。タスクとレオナも念動力者だが、ここまでの事は出来ない。確かにタスク達の念動力も向上していたが、リュウセイの成長具合とは隔絶した差があった。

 

「敵を貫けッ! 念動爆砕剣ッ!!!」

 

R-1の指の動きに沿って一斉に念動力の刃がコスモリオンとガーリオンに突き刺さり爆発する。だが撃墜するには威力が僅かに足りず、1度落ちた速度を再び上げてコスモリオンとガーリオンはR-1の頭上を通過する。セレヴィスシティに向かおうとしたがその瞬間上空から射抜かれて爆発四散する。

 

『OK、操縦の感じは掴んだわ、ここからは本気で行くわよぉッ!』

 

アルトアイゼンが強化アーマーを装着すると、ヴァイスリッターはその速度について行けず、連携を取れなくなると言う欠点があり、L5戦役の後からヴァイスリッターの強化はマリオンの中ではゲシュペンスト・MK-Ⅲの設計の次に重要な事になっていた。そしてゲシュペンスト・MK-Ⅲがトライアウトに合格するのを確認すると直ぐにヴァイスリッターの強化に取り掛かっていた。

 

『さーヴァイスちゃん、全力で行くわよッ!』

 

可変式のウィングが展開され、ヴァイスリッターの姿が掻き消える。

 

『それッ!』

 

『!?』

 

ガーリオンの目の前に現れると同時に急上昇し、ガーリオンの攻撃を誘発しそれを回避すると同時に再び加速し、背後を取るとオクスタンランチャーの銃口を背後からコックピットに押し当て、一撃でガーリオンを粉砕する。

 

『ふふ、良いじゃない。さーどんどん行くわよッ!』

 

左右からのコスモリオンのレールガンを急旋回して回避し、バレルロールしながら左腕の5連装ビームキャノンでコスモリオンを撃ち抜いた。

 

「しゃあッ! T-LINKナッコォッ!!!!」

 

高度が落ちたコスモリオンの動力部にRー1のT-LINKナックルがめり込み爆発する。だが敵陣のど真ん中に切り込んだことでコスモリオンとガーリオンの攻撃の矛先が一斉にR-1に向けられるが、ゲシュペンスト・リバイブ(S)とゲシュペンスト・タイプRの放ったメガバスターキャノンとM-13ショットガンによる援護が入り、R-1は体勢を立て直す時間を得る事が出来ていた。

 

『操縦の感覚は掴めたみたいね、それと余り突っ込む過ぎないことよ。念動フィールドを過信しすぎては駄目』

 

「ああ、すまねえ。隊長……思ったより操縦の感覚がシビアで、でももう大丈夫だ」

 

『エクセレンは?』

 

『こっちも大丈夫よん♪ ヴィレッタお姉様』

 

機体パワーの上昇に最初は手間取っていたが、今は完全に乗りこなし、波状攻撃で攻め立ててくる無人機の群れを完全に押し留めていた。

 

『ターゲットロック。そこよッ!』

 

『貴方の動きはもう捉えたわ……ッ』

 

セレヴィスシティの正面と両側面からの侵入を試みる無人機群に向かってレールカノンの音速の弾丸が迫る。回避も許さず、上半身を消し飛ばされたアーマリオンは爆発しながら墜落し、月面に落下すると爆発炎上する。

 

『少尉は無理せず、ジェネレーターの冷却をッ!』

 

『すいません、少し無理をしすぎました』

 

ラーダとリオが加わり、無理に砲戦使用の装備を装着していたゲシュペンスト・MK-Ⅱのジェネレーターはオーバーヒート寸前で、機体の各所から火花を散らしていた。その姿を見てリオがラッセルの位置と立ち位置を後退し弾幕を張り、突っ込んできたアーマリオンの出鼻を挫き失速させる。

 

『捉えた。逃がさんぞッ!』

 

『ライトニングステークセットッ! ぶち抜けッ!!』

 

それを見てリンとカチーナがアーマリオンの撃墜に動くと、待ってましたと言わんばかりにバレリオンがその銃口をヒュッケバインMK-Ⅲとゲシュペンスト・MK-Ⅲに向ける。だがその銃弾が放たれることは無く、その巨体を大きく揺らす事になった。

 

『主砲、副砲照準あわせッ! てぇッ!!』

 

『てめらの好きにはさせねえぜッ! こいつでぶっとびなぁッ!』

 

ヒリュウ改からの連装主砲と副砲とジガンスクードのギガワイドブラスターの直撃を受け、バレリオンの最大の特徴である大型レールガンを粉砕されてしまえばバレリオンの攻撃手段は一気に封殺される。

 

『やるじゃねぇか、社長さんよ』

 

『ふ、まだまだ。私は現役さ』

 

バレリオンからの援護射撃を受けることが出来なかったアーマリオンは、コールドメタルブレードの一閃とライトニングステークの一撃を受け、増設された大型ブースターによる加速を生かす事が出来ず爆発し墜落する。執拗な波状攻撃に苦しめられていたリュウセイ達だが、連携とフォーメーションを組む事でセレヴィスシティへの無人機の侵入を防いでいた。

 

「ッ! やべえッ! クレバスに気をつけろッ!」

 

その時だった。何かを感じ取ったリュウセイがそう叫んだ瞬間、クレバスから飛び出したアーマリオンがブレード・ソニックブレイカーを展開し最大加速でセレヴィスシティへと向かう。

 

『止めろッ!』

 

誰が叫んだのかは判らない、いや全員が叫んでいたのかもしれない。突貫するアーマリオンに攻撃が命中するが完全に展開されているブレード・ソニックブレイカーの防壁を貫く事が出来ず、アーマリオンがセレヴィスシティに侵入する寸前にマオ社の方から飛来した何かに両断され爆発した。アーマリオンを両断した何かはリュウセイ達の目の前で音を立てて月面に突き刺さった。

 

「げ、ゲッタートマホークッ!?」

 

その形状は紛れも無くゲッタートマホークの姿だった。――何故ゲッタートマホークがここにとリュウセイ達が驚いていると、ゲッタートマホークの飛来した方向にある地下格納庫から灰色のゲッターロボがカタパルトによってリフトアップしていた。

 

「りょ、量産型ゲッターロボッ!?」

 

『おいおい、誰があんなもん動かしてるんだ』

 

『マジか……あれ動かせるやついたのかよ』

 

オリジナルと比べれば衝撃は少ないが、それでも常人なら気絶するレベルのGや衝撃がある量産型ゲッターロボが動いていると言う事に少なくない衝撃を受けるリュウセイ達だったが、量産型ゲッターロボから響いた声に更に驚かされることになった。

 

『うぐう……こ、これちょっとやそっとって言うレベルじゃないんですけどッ!?』

 

『当たり前だ、リミッターを外しているからな』

 

『文句を言う暇があったら敵を倒しなさい、エネルギー配分は細心の注意を払うんですわよ』

 

アラドの苦しそうな声に続いて冷静なカークとマリオンの声が響き、完全に姿を現した量産型ゲッターロボのカメラアイが力強く輝いた。

 

「あ、アラド!? お、お前が動かしてるのかッ!?」

 

それはラーダによって精神鑑定を受けているはずのアラドの声だったからだ。

 

『うっす! 俺も手伝いますッ! セレヴィスシティはやらせねえぞッ! かかってこいッ! こっから先には1歩も行かせねえぞッ!!』

 

ゲッタートマホークを構えた量産型ゲッターロボから響くアラドの声。その姿はリュウセイ達の知るゲッターロボと色も姿も僅かに異なっている。それでも味方を鼓舞するその力強さは紛れも無く、ゲッターロボの姿だった。

 

『ヘッ……あのガキ、なかなか根性あるじゃねえか』

 

『そうですね、この状況で味方が増えてくれるのはありがたいです』

 

『マジかあ……信じらんねえ』

 

『貴方は直ぐ諦めましたからね』

 

『いやいや、無理だって!? あれ暴れ馬ってレベルじゃねえんだよッ!』

 

安定して動かすにはリミッターを幾つも使用してやっと動かせるレベルの量産型ゲッターロボ。それをリミッターもなしで動かしているアラドは正直異常だった。新西暦の人間では、恐らく誰もフルパワーで動かせないとまで言われたそれが動いている事にカチーナ達は驚きを隠せなかった。

 

『アラド、こうして出てきたんだ。泣き言は聞かんぞ』

 

『大丈夫、貴方なら出来るわ』

 

「アラドッ! 一緒に頑張ろうぜッ!」

 

『うっす! しゃあ、行くぜぇッ!!』

 

リュウセイ達の激励の声を聞いてアラドが気合の入った返事を返した直後。ヒリュウ改からの警報が鳴り響いた。

 

『8時方向に局地的な重力異常を感知ッ! こ、これは……空間転移反応ですッ!!』

 

ユンの空間転移反応感知の報告の直後。セレヴィスシティの南西端に異形の特機が地響きを上げて転移してきた。

 

『な、何だありゃッ!?』

 

『か、怪獣かッ!?』

 

現れたのは黄色の装甲を持つ巨大な恐竜のような姿をした超巨大特機だった。

 

『アインスト……!? いえ、違うわッ!!』

 

『なるほど、あれが人造人間を使って我々に攻撃を仕掛けてきた敵と言うわけね』

 

『そのようだな……全員警戒を強めろ、このタイミングで出て来たんだ。俺達ごとセレヴィスを潰すつもりかもしれん』

 

凄まじい威圧感を放つ超巨大特機の出現にギリアム達は警戒を強め、恐竜のような特機――ガルガウを睨みつけるのだった……。

 

 

第45話 戦う理由 その3へ続く 

 

 




ファルケンLがマ改造されてファルケン・キメラになっているので、アラドは量産型ゲッターロボで出撃中。ちなみにタイプKのモチーフはラピエサージュなのであしからず。アラドは普通に旧ゲッターロボなら操縦出来ると思うんですよね。D2になるとどうなるか判りませんけども……なので、ガルガウと戦う際に量産型ゲッターロボを投入します。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第45話 戦う理由 その3

第45話 戦う理由 その3

 

両腕にブースター、そして鋭い大型クローを装備した恐竜を思わせる巨大特機――「ガルガウ」のコックピットでスキンヘッドの大男「ヴィガジ」は不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「……フン、 流石は闘争本能だけを発達させた野蛮人共だ。折角回収したサンプルとバイオロイドが酷い有様だ」

 

破壊された量産型ヒュッケバイン・MK-Ⅲや、アーマリオンやガーリオンを見て、ヴィガジはセレヴィスシティの前に展開されている部隊を見て、吐き捨てるようにそう呟いた。

 

「しかもゲッターロボを確認したと思ったら出来の悪いデッドコピーではないかッ!」

 

ヴィガジが率いていた部隊は月で確認されたゲッター線反応を確かめる為にゲッターロボを誘き出す為に用意した大軍勢だった。しかし現れたゲッターロボは粗悪なデッドコピー、更に用意した軍勢はゲッターロボ以外の機体に破壊された。その光景にヴィガジの額には濃い青筋が浮かんでいた。

 

「メキボスの奴め……本当にゲッターロボ等存在するのか」

 

ヴィガジの所属する組織「ゾヴォーク」に伝わるゲッターロボ――それは始まりの地に住む住人に絶大な力を与え、そして害なす者全てを破壊する始まりの地の守護神にして破壊神と言われる古の巨人。しかしそれらはあくまで伝説であると言う考えが今の一般的なゾヴォークの考えだ。だが地球からゲッター線反応が感知された……それは伝説のゲッターロボが地球で新たに生まれたかもしれない。ゲッター線が再び地球から銀河系を制圧する為に動き出すかもしれない。それに危機感を感じた枢密院がヴィガジ達が属する「ウォルガ」に調査を依頼し、ヴィガジ達は地球圏にやってきていたのだ。

 

「これ以上ゼゼーナン達に好きにやらせる訳にはいかん。ゲッター線等が存在しない事を、俺が証明してくれるッ!」

 

ウォルガを差し置いて地球との交渉を任されたゼゼーナンだったが、「グランゾン」の攻撃によって調印式は失敗した。それによって地球人の危険性、そして攻撃性の高さが明らかになり、負傷したゼゼーナンが復帰する前に、ゾガルが再び動き出す前にウォルガによる、地球の武力制圧を行なうべきだとヴィガジは考えていた、だがありもしない、存在する訳もないゲッターロボ、ゲッター線に怯えているメキボス、アギーハ、シカログ、そして本国の枢密院にゲッターロボは存在しない、ゲッター線なんてもう完全に消え去っている。それを証明する良い機会を得る事が出来たとヴィガジは笑みを深めた。

 

「……このままあいつらが逃げ腰では出来る事も出来ない、ここで出るつもりはなかったが……貴様らの命と機体をいただくぞ」

 

ヴィガジの中では量産型ゲッターロボを見た段階で、ゲッターロボ発見の情報は既に誤情報になっていた。バルマーがゲッターロボGの設計図を入手したと言う情報はあったが、ゲッター炉心で稼動していないと言う段階でそれは出来損ないのゲッターロボだ。ホワイトスターを制圧する前にゲッターロボを確認したが、遠目で確認しただけであり、搭載しているゲッター線レーダーにも反応がなかった事から姿形をゲッタードラゴンに似せただけだと既に思い込んでいた。自分達の機体に搭載されているレーダーが旧式でゲッターD2のゲッター線を感知出来ていなかったなんて事はヴィガジは夢にも思っていなかったからだ。

 

「このガルガウの実戦テストを兼ねてなッ! まずは貴様からだッ!! 偽りのゲッターロボッ!!」

 

ゲッターロボの存在は宇宙に生きる者全ての根源的な恐怖と言っても良い。ゲッターロボなんて存在しなかったという事を明らかにさせる為にまずはゲッターロボを破壊し、その残骸を持ち帰る事を決めたヴィガジはPT達を無視し、一直線に量産型ゲッターロボに強襲を仕掛けた。最大加速からのアイアンクローによる質量と速度を生かした一撃。これで簡単に量産型ゲッターロボを破壊出来ると踏んでいたヴィガジだが、コックピットの中でヴィガジは感心したような呟きを漏らした。

 

「ほう? 見掛けだけではないということか」

 

『なろお!!』

 

ガルガウのアイアンクローを真っ向から受け止め、その突撃を食い止めている量産型ゲッターロボに姿形だけまねたと言う評価を改めた。

 

「だが、その程度でッ!!」

 

『うがあッ!?』

 

両腕の動きは止めても、ガルガウには尾がある。遠心力をつけた尾の一撃が量産型ゲッターロボの胴体を捉えボールのように弾き飛ばす。

 

「貴様だけは完全に破壊する。ゲッターロボの存在は害悪だからな」

 

例えゲッター炉心で稼動していないとしても、ゲッターロボの姿をしているだけで宇宙に住まうすべての民族にとって恐怖の象徴になる。ゾヴォークの人間として、ゲッターロボの存在はなんとしてもここで排除しなければならない相手だった。尾による一撃でゲッターロボだけではなく、他の機体も回避させる事で距離を強引に取らせ、確実に量産型ゲッターロボにトドメを刺そうとガルガウが倒れているゲッターロボに歩みを進めた瞬間。弾丸のような勢いでR-1が両腕を光らせ、ガルガウに挑みかかった。

 

『うおおおおッ!! T-LINKナッコォッ!!!』

 

「ふん、そんな機体でこのガルガウ……ぬおッ!?」

 

ガルガウの全長の半分も無いR-1の攻撃を避ける必要もガードする必要もないと判断したヴィガジだったが、凄まじい衝撃がガルガウに走り、ガルガウの身体は一瞬だが宙に浮いた。

 

「ちいっ! なんだ、あの機体随分と性能がぁッ!?」

 

続け様に撃ちこまれたヴァイスリッター改とゲシュペンスト・リバイブによるビームの一撃がガルガウの巨体を揺らした。

 

『つまらない物ですけどどうぞーッ!!』

 

『貴様が何者かは知らんが、好き勝手出来ると思わないことだッ!!』

 

「馬鹿な!? 何故だッ! ぐっ!?」

 

執拗に撃ちこまれるビームの一撃をガルガウのクローで防ぎながらヴィガジは強い混乱に陥っていた。数の不利は把握していたが、地球の機体は既に回収し、分析した結果。数が頼りの量産機であり取るに足らないと言う分析結果だった。故にガルガウの実戦テストと共に月面機体の製造工場を押収するつもりだった。勿論最大の目的はゲッター線とゲッターロボの有無の確認だが、それを差し置いてもガルガウ単騎で十分に達成出来ると考えていた。だがいざ戦闘になると地球の機体はヴィガジ達の戦力分析の結果を容易く上回っていた。

 

(ビーム吸収は問題なく稼動している、それなのに何故だ!?)

 

コックピットのコンソールを操作し、ガルガウのコンディションを確認する。ガルガウの装甲はビームを吸収し、損傷を回復させる特殊装甲で構築されている。故にビーム兵器には無類の強さを発揮するのだが、何故かヴァイスリッター改とゲシュペンスト・リバイブ(S)のビームは吸収出来ず、強い衝撃が続け様にヴィガジを襲っていた。

 

「ぬっぐうッ!!! ええい、調子に乗るなよ! この野蛮人どもがッ!!!」

 

腕部から放ったビーム砲でR-1達の動きを止め、ブースターで距離を取り1度仕切りなおすことをヴィガジは選ばされてしまった。だがそれはヴィガジにとってはマイナスではなく、プラスに働いた。ヴィガジという男の気質は粗暴で、そして直情型の気の短い男である。そして自分が地球人に負ける訳が無いという傲慢な考えもあったが、1度距離を取った事で冷静になり戦況を見詰めなおす事が出来ていた。

 

「ただの野蛮人ではないと言うことか」

 

追撃に放たれた砲戦仕様のゲシュペンスト・MK-Ⅲとヒュッケバイン・MK-Ⅲの実弾を防ぎながら、ヴィガジは目を細めた。ゲシュペンスト・MK-Ⅲ、ヒュッケバイン・MK-Ⅲは既に回収した機体だったが、街を背に戦っている機体はそれらの装備が全て異なっていた。

 

「なるほど、ベース機に装備を変える事で戦況に合わせて機体個性を変えるのか」

 

自分達が回収した機体はノーマルタイプの機体で性能はさほど高くないものだったとヴィガジは判断した。だが所詮は装備を変えたマイナーチェンジ機――警戒するべき機体は3体だけだと判断した。

 

「あの3色と白銀、それと黒いゲシュペンストだな。あいつらはなんとしても回収させてもらうとしよう」

 

ガルガウを殴り飛ばしたR-1。そして何故かガルガウのビーム吸収装甲を貫通するヴァイスリッター改とゲシュペンスト・リバイブ(S)だけが要注意するべき敵であり、それと同時に回収するべきだとヴィガジは考えていた。

 

「さあ行くぞッ! 最早油断などせんッ! 偽りのゲッターロボと共に今の内に貴様らを始末してやるッ!」

 

それ以外の機体は回収する価値も無い、量産型ゲッターロボと共に破壊してやるとガルガウのコックピットの中でヴィガジは吠え、ガルガウを再び量産型ゲッターロボに向かって走らせるのだった。

 

 

 

 

 

月面に響き渡る激しい追突音とミサイルの放たれる音、そして怪獣の雄叫びを聞いて武蔵は腰を上げかけたが、カーウァイに肩を掴まれ上げかけた腰を再び椅子の上に戻された。

 

「まだなんですか……」

 

「駄目だ。今回は私とお前は動かない。絶対にだ」

 

無人機は姿を消したが、怪獣のような特機1体にリュウセイ達は完全に苦戦を強いられていた。それなのにまだ動こうとしないカーウァイに武蔵は眉を顰めた。

 

「リン・マオからの連絡だ。動くんじゃない」

 

歯が砕けんばかりに噛み締めているカーウァイの言葉に武蔵は自分だけではない、カーウァイも出撃したいのを鉄の意志で押さえ込んでいるのだと判った。

 

「すんません」

 

「いや、良い。私も出撃出来るなら今すぐにでも出撃したいが……そうも言えんのだ」

 

数の利は完全にリュウセイ達が上だ。だが戦闘力では怪獣のような特機――「ガルガウ」の方が圧倒的に上だ。数の有利などは圧倒的な暴力で押し潰される。しかもガルガウと同格の能力を持った機体が後3体控えていることを考えれば、今武蔵とカーウァイが動く事はその3体を呼び寄せる事、そしてインベーダーを誘き寄せる事に繋がりかねない、だからカーウァイは武蔵に動くなと言ったのだ。

 

「ガルガウが出てきた以上、他の奴らもいるかもしれない」

 

「ガルガウ? あれがあの機体の名前なんですか?」

 

「ああ、細部は違うが間違いない。あちら側の世界で襲撃してきた異星人の特機だ」

 

「それって……シャドウミラーが結成された理由だって言うえっとえっと」

 

「『インスペクター』だ。査察官とはよく言った物だな……これではただの侵略者だ」

 

あちら側にいる間時間の許す限りイングラムと共に調べていた最初の襲撃者――その中のリーダー格4人の1人が駆っていたのが、細部こそ違うが「ガルガウ」だった。査察官を名乗っているが、やっている事は襲撃だとカーウァイは皮肉めいた口調で呟いた。

 

「……大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫だ。ギリアムもいる、この状況もあいつがいれば切り抜けてくれるだろう。もし私達が動くとすれば……他の3体が出現するか、インベーダーが現れてからだ」

 

先に動いて他の機体を呼び寄せることになってはそれこそ月が死の星になる。仮に出撃するとしても、他の機体……「グレイターキン」「シルベルヴィント」「ドルーキン」あるいはインベーダーが出現するまでは動いてはならないとカーウァイは強い口調で武蔵を律した。

 

「了解です。それにしても随分と情報がハッキリしているんですね」

 

「ああ、かなり傲慢な性格だったみたいでな。自分達の機体の事を自慢げに語っていたそうだ」

 

「……馬鹿っすか?」

 

「自分達が負ける訳が無いという自負があったんだろう。それゆえに足を掬われたようだがな」

 

何度も戦闘を繰り返し、それこそ捨て駒戦法さえも交えて、集めた情報――それを元にシャドウミラーは戦闘力の差を引っくり返したのだ。

 

「嫌な流れになって来ましたね」

 

「ああ、捜索が終わったら1度ビアン所長と合流する必要があるな」

 

ホワイトスター周辺の捜索に来た武蔵とカーウァイ。だが宇宙では「インスペクター」「アインスト」「インベーダー」と地上の百鬼帝国と同格、いやもっとすれば百鬼帝国よりもやっかいな敵勢力が動き始めていた。通信で情報は送れるが、それとは別に今後の対策も考える必要がある――地球はビアン達が考えるよりも遥かに危機的な状況に追い込まれているのだった。

 

 

 

 

ガルガウの大型クローとジガンスクード・ドゥロのシーズアンカーが激突し、凄まじい轟音が月面に響き渡る。

 

『ぐぐっ、この馬鹿力ぁッ!!!』

 

機体のサイズはジガンスクード・ドゥロが上回っていたが、出力は完全にガルガウが上回っており90m近いジガンスクード・ドゥロが完全に押し込まれていた。

 

『しゃあ! そのまま押さえてろ! タスクッ!! リュウセイッ!』

 

『おうッ!! いっけえッ!!』

 

ガルガウとジガンスクード・ドゥロが力比べをしている間に真紅のゲシュペンスト・MK-ⅢとR-1がガルガウ目掛けて飛び掛る。

 

『う、嘘だろッ! 逃げろぉ!? うおあわああああーーッ!?』

 

しかし2機の拳がガルガウに届くことはなかった。ガルガウがジガンスクード・ドゥロを持ち上げ、力任せに振り回した事でカチーナとリュウセイは攻め込む事が出来ず足を止めるしかなかったからだ。

 

「なろおッ! それなら俺が相手だッ!!」

 

ジガンスクード・ドゥロをハンマーのように振り回しているガルガウに量産型ゲッターロボが手にしたゲッタートマホークで切りかかろうとした時――ガルガウのカメラアイが光り輝いた。

 

『アラド! 駄目だッ! 止まれッ!!』

 

『凄まじい悪意……罠よッ!!』

 

リンとラーダの声が響き、アラドが動きを止めた瞬間。ジガンスクード・ドゥロの巨体で隠されていたガルガウの胸部から生えるように出現していたビーム砲が周囲を焼き払った。幸いセレヴィスシティを直撃する事はなかったが、月面に深い傷跡を残したその威力にアラドは唾を飲み込んだ。

 

「あ、あぶねえ……直撃していたら消し炭だ……」

 

リンとラーダの警告がなければアラドはそのまま量産型ゲッターロボを突っ込ませ、ビーム砲――メガスマッシャーの前に自ら飛び出し量産型ゲッターロボと共に消し炭になっていただろう。

 

『思ったよりも武器が多彩ね……』

 

『ああ、それにパイロットの腕も相当良い……厄介な相手だ』

 

その外見とは信じられないほどに立ち回りが上手いガルガウにギリアムは無人機ではなく、パイロットが乗っていると確信していた。下手に攻撃すれば同士討ちになりかねない場所取りを続け、口からの火炎放射でこちらの動きを制限する。怪獣のような粗暴な外見からは信じられないほどに冷静に、そして数の不利を引っくり返す立ち回りを続けている。

 

『きゃあッ!』

 

『ううっ……これ以上は……』

 

『ぐっ! これは不味いですね……』

 

ジガンスクード・ドゥロと量産型ゲッターロボの動きを封じるためにはなったガルガウのアーマーブレイカーの雨。それによって装甲に細かい亀裂が走っているのを見てカチーナは舌打ちと共に撤退命令を出す決断を下した。

 

『ちいッ! ラッセルッ! レオナとリオをつれて下がれッ! お前も限界だッ!』

 

今の状態では装甲を削られているヒュッケバイン・MK-Ⅲでは一撃も耐え切れず破壊される。カチーナの命令に自分達も限界だと悟ったのか、ヒリュウ改の前方まで下がるリオ達。ガルガウはそちらに一瞬視線を向けたが、興味を失ったのか両腕のクローの先から高周波ブレードを展開し、唸り声を上げ尾を月面に何度も打ちつけ威嚇行動を行なう。

 

『ち、メカザウルスの真似事をするなら考え方もそうしやがれ! この化け物トカゲッ!!』

 

行動自体は威嚇行動だが、それは振りだけで下手に踏み込めば両腕の高周波ブレードで両断される。その光景が容易に想像出来、カチーナの悪態が響いた。

 

『でもちょーっと、これ不味くない? ギリアム少佐』

 

『ああ……状況は余りよろしくないな』

 

支援機が減ったことで弾幕が減り、Rー1、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ、ヒュッケバイン・MK-Ⅲは前に出にくくなった。

 

『あからさまにギリアム少佐とエクセレンを警戒しているからな、どうするつもり? ギリアム少佐』

 

戦いの中でガルガウはビーム兵器を吸収するという性質が明らかになった。だが、ヴァイスリッター・改とゲシュペンスト・リバイブ(S)の攻撃は通る。ガルガウはそれを警戒し、ヴァイスリッター・改とゲシュペンスト・リバイブ(S)が攻撃しにくいように、ミサイルの雨をセレヴィスシティに向かって放ち、迎撃に回させ、そこを火炎放射による一撃で狙うと言う厄介な攻撃パターンを見せていた。

 

『いや、ただのビームが通用する訳ではない』

 

『こっちもみたいよん。ヴィレッタお姉様』

 

作戦会議をしている間もミサイルを迎撃し、タスク達が攻撃しやすいようにガルガウの動きに合わせて、射撃を繰り出し、その動きを僅かでも束縛し、その攻撃の軌道を逸らし続けているギリアム達は紛れも無くエースパイロットだ。その攻撃の中でギリアムとエクセレンはあることに気付いたのだ。

 

『ジェネレーターに直結したやつだけみたい。ビームを吸収する装甲を貫通するの』

 

『こっちもだな、動力の問題か』

 

ヴァイスリッター・改は本体とは別にアーマーの方にも動力をジェネレーターを装備している。それはヴァイスリッター本体のジェネレーターを機動力に回し、攻撃はアーマーのジェネレーターを使い攻撃と移動に使う動力を完全に分離させ、機動力と攻撃力の両立を目的とした強化アーマーだからだ。そしてゲシュペンスト・リバイブは言わずもがな反マグマプラズマジェネレーターによる圧倒的なエネルギーを攻撃に転用している。通常のビーム兵器とは違う事がガルガウの装甲を貫通出来る理由かもしれないとギリアム達は考えていた。

 

『ヴィレッタ。ミサイルの迎撃をラーダと2人で出来るか?』

 

『……良いわ。弾幕が少し弱まってきてる……これなら少し厳しいけれどやるわ』

 

『すまん。厳しいと思うが頼む、エクセレン。俺とお前のツートップで切り込む、ジガンスクード・ドゥロ、ゲッターロボ、R-1の進路を作るぞ』

 

『了解、私は何時でも行けるわよ』

 

『良し、では行くぞッ!!』

 

ゲシュペンスト・リバイブ(S)のフライトユニットが唸りを上げ、それに呼応するようにヴァイスリッター・改の可変式ウィングが展開され、次の瞬間には2機の姿は消え、白銀と漆黒の光がガルガウに向かって飛び立つのだった……。

 

 

 

 

ガルガウの巨体が前後左右から撃ちこまれるビームの嵐によって、右に左に大きく弾かれる。戦闘開始から放ち続けてきたアーマーブレイカーとホーミングミサイルの残り弾数が少なくなったその瞬間にセレヴィスシティの守りから、攻撃に転じたゲシュペンスト・リバイブ(S)とヴァイスリッター・改によってヴィガジが圧倒的に有利だった戦況が僅かにリュウセイ達の方に傾き始めていた。

 

「ぐうっ!? おのれッ!!」

 

一瞬だけ姿を確認出来たが、要注意するべきと考えていたゲシュペンスト・リバイブ(S)とヴァイスリッター・改が超高速飛行に加え、低空飛行と急上昇を組み合わせ、全方位からの射撃を撃ち込んできていた。

 

「この速度、シルベルヴィントに匹敵するかッ!?」

 

大型クローで直撃は防いでいるが、ゲシュペンスト・リバイブ(S)とヴァイスリッター・改の速度はシルベルヴィントに匹敵する物があった。その動きに翻弄され、ヴィガジの意識から一瞬ジガンスクード・ドゥロと量産型ゲッターロボが消えた。

 

「くらえッ!!」

 

狙って当てれないのならばとメガスマッシャーと火炎放射で広域に攻撃を繰り出そうとした瞬間。超精密射撃による狙撃が斜め下から掬い上げるように打ち込まれ、ガルガウの上半身がそれ、メガスマッシャーは明後日の方向に向かって放たれた。

 

『アラド! お前は右からだ!』

 

『了解ッ! ぶっこむぜッ!!!』

 

「ええいッ! 調子に乗るなよッ!! 旧式と偽者如きがッ!!」

 

アーマーブレイカーとホーミングミサイルを放ちながら弾幕と同時に煙幕を展開し、狙撃を防ぐと同時にジガンスクード・ドゥロと量産型ゲッターロボを向かい打とうとアイアンクローを振るった瞬間。ジガンスクード・ドゥロと量産型ゲッターロボは後方に跳んだ。

 

「なッ!?」

 

『うおおおおーーッ! ぶち抜けぇッ!!!』

 

『念動集中ッ! T-LINKナッコォッ!!!!』

 

『……これ以上お前の好きにはさせんッ!!』

 

ジガンスクード・ドゥロと量産型ゲッターロボの後ろに隠れていたR-1の拳がガルガウの左肘の関節をピンポイントで殴りつけ、そこに続けてゲシュペンスト・MK-Ⅲのライトニングステークがねじ込まれ、超高圧電流によって完全に左肘の関節が破壊され、飛び込んできたヒュッケバイン・MK-Ⅲの手にしているコールドメタルブレードをメガスマッシャーの砲身にねじ込まれ、メガスマッシャー砲が中ほどから吹き飛んだ。

 

「ぐあっ……己……こんな……」

 

今まで戦ってきた地球の機体が弱かったこともあり、単騎で制圧出来ると考えていたヴィガジ。その考え自体は間違いではない、しかし一般兵とL5戦役を潜り抜けたリュウセイ達では操縦技術から何もかもが異なる。それがヴィガジとの戦いの中でガルガウの行動パターン、攻撃手段を知り、少しずつ少しずつだがヴィガジのアドバンテージを奪った。その結果が、メガスマッシャーと左腕の完全破壊だった。

 

『……よ~う、いい加減頭は冷えたか? ヴィガジ』

 

「貴様……何の用だッ!?」

 

強引にガルガウに通信を繋げて来たメキボスの言葉にヴィガジが怒鳴り返す。

 

『おいおい……1人で抜け駆けしといて、しかもガルガウは大破寸前……その様で良くも偉そうに言えるな?』

 

「見ているならば、応援の1つにでも来たらどうだ」

 

『冗談だろ? リーダーさんよ。俺達はホワイトスターの制圧に来たんだぜ? 勝手に地球人に攻撃を仕掛けて、んで追詰められてる馬鹿を助ける道理が何処にあるよ?』

 

メキボスの挑発染みた口調に怒鳴り返そうとするヴィガジだが、左腕を失った事で攻撃と防御がその幅を失い。メキボスと話している間もガルガウを凄まじい衝撃が襲っていた。

 

「ゲッターロボは害悪だ! あれの存在を許してはならんッ!」

 

『可能なら交渉だったろうが、まぁ……偽者を見て腹が立ったって言う気持ちは判らんでもないがな。俺もここまで来て、無駄足だったなら怒りを覚えるだろうしな、だけどよ。俺達の見たゲッターロボは本物だろうよ』

 

ゲッター線反応を感知したのがメキボス達が派遣された理由の1つである。そこにゲッターロボの偽者を見つけ、もしそれが感知、発見されたゲッターロボとなれば完全な無駄足。ゼゼーナンがちょっかいを掛けているから、ゲッター線反応にも信憑性が出たが、それ自身もゼゼーナンの罠である可能性も捨て切れなかった。

 

「ならばお前も手伝え」

 

『おいおい、気持ちは判るが手伝うとは言ってねえ。俺達の出番はもうちょっと後の筈だぜ? 撤退するって言うなら手伝うが、それ以上戦うつうなら、1人でやれ、んで地球人に反撃されてくたばれ』

 

メキボスの言葉にヴィガジは最後通告をされているのだと悟った。独断専行、交渉等をしようとせずに殲滅を始めようとしたヴィガジにはメキボスに指摘されなくても判るほどに複数の命令違反を既に犯している。

 

「……む」

 

敬愛する自分達の最高指揮官が来る前にこれ以上の失態は重ねられない。更に言えばガルガウを失う訳にも行かない、ヴィガジは拳を握り締め、屈辱に身体を震わせながら呟いた。

 

『なんだ? 声が小さすぎて聞こえん』

 

「撤退支援を頼むッ!」

 

『了解、45秒後にフォトンビームを撃つ。それに合わせて離脱しろ。今度は助けねえからな』

 

その言葉を最後にメキボスからの通信は途絶え、ヴィガジは歯を噛み締めながら、残された右腕と尾でR-1達の攻撃を凌ぎ、離脱するタイミングを図っていた。そしてきっちり45秒後――メキボスの言う通り、月面上空から放たれたビーム砲がガルガウの前に撃ちこまれた。それによってR-1達の追撃が止まった瞬間に撤退の為に振り返った瞬間、ゲッターロボが強引にビームを突っ切ってガルガウに挑みかかった。

 

『逃がすかよぉッ!!!』

 

「貴様のせいでぇッ!!! 消え去れ! 滅びの化身よッ!!」

 

この時ヴィガジは1つミスを犯した、激昂する余りその叫びが月面全体に響いてしまったのだ。これによって、ガルガウにパイロットが存在していると言う事がヒリュウ改側に伝わる事になってしまった。

 

『がはああッ!?」

 

飛び掛ってきたゲッターロボにカウンターの要領でクローをつきたて、至近距離で火炎放射を浴びせるガルガウ。最初のクローで動力を破損していたゲッターロボは火炎放射に晒された事で爆発炎上を始め、ヴィガジは小刻みに痙攣し、爆発するゲッターロボを追撃に来たR-1に向かって投げつけ、ダメ押しのホーミングミサイルを撃ち込み爆発に紛れて月面から離脱した。

 

「メキボス……」

 

「よ、これに懲りたら独断専行は止めるんだな。行くぞ」

 

「……ああ。先に戻らせて貰う」

 

メキボスの指摘に全面的に悪いヴィガジは何も言えず、しかしメキボスと共に帰還する事は己のプライドが許さず、グレイターキンを追い抜いてアギーハ達の待つ宙域へと引き返して行った。

 

(偽者か……いや、止めとくか……嫌な予感がする)

 

月面で爆発炎上する量産型ゲッターロボ――あれはウォルガのデータベースにあったが、初代ゲッターロボであり、自分達が目撃したゲッターではない。更に言えば、肌に突き刺すような殺気を感じこれ以上深追いすれば自分まで危険に晒されると判断し、メキボスは量産型ゲッターロボの消火活動とパイロットの救助を行なっているヒリュウ改のクルーを一瞥し、その場から離脱するのだった……。

 

 

こうしてインスペクターとの地球人との最初の戦いは幕を閉じた……いや、この戦いにより戦禍の幕は開かれた。

 

地球では百鬼帝国の復活と暗躍。

 

宇宙ではインスペクターの襲来。

 

地球と宇宙で暗躍するテロリスト、そして人智を越えた謎の生命体であるアインストとインベーダーの存在――

 

地球圏に生まれた小さな戦火は今地球圏全てを燃やし尽くす業火となりつつあるのだった……。

 

 

 

 

第46話 戦う理由 その4へ続く

 

 

 




今回はここで終わりで、次回はシナリオエンドデモと武蔵とカーウァイの視点で話を書いて行こうと思います。インスペクター四天王は何故か書いていると、凄く仲が悪くなる不思議何故なんでしょうね? それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第46話 戦う理由 その4

第46話 戦う理由 その4

 

ガルガウとの戦いを終えたリュウセイ達はこれからの事を話し合う為にマオ社のオフィスに集まっていた。

 

「アラドの奴、大丈夫かな?」

 

「思い切りの良さは買うが、思い切りがありすぎだ。あの場合は追ったらいけねえ……あれはそういう場面だった」

 

撤退しようとする相手を追撃する時は細心の注意を払う必要がある。余力を残して撤退するのと、余力も無く逃げる……前者ならば撤退する動きに合わせて、追撃に出た相手を確実に仕留める為の刃を隠している。後者ならば確実に追って仕留めるが、あの戦いの最後の場面に上空から放たれた高出力のビーム――それを見てカチーナ達は伏兵がいると悟り追撃を止めた。だがアラドはそれを追ってしまった……それが量産型ゲッターロボの大破という結果を齎してしまった。

 

「ギリギリの所でベアー号の部分が飛び出てきたから無事だとは思うけど……」

 

「やっぱり心配ですね」

 

量産型ゲッターロボはオープンゲットの機能は再現されていない。一応分離状態にして、装備を変更する事でゲッター2、3に姿を変える事は出来るが戦闘中の分離・再合体は元から想定されていない――いや、正しくは出来ない。新西暦の素材ではゲッター合金の柔軟性に迫る物は無く、3つのコアブロックと、パーツの変更によってゲッターの形状変化を再現するのが今の限界だった。しかし、その中途半端なゲッターロボの合体機能の再現がアラドの命を救う事になっていた。

 

「悪運が強いって奴ッスね」

 

「もしかしたら貴方より悪運が強いんじゃないですの?」

 

「そりゃ無いっスよ~レオナちゃん」

 

クローと火炎放射の段階でアラドは気絶しており、ダメ押しのミサイルがイーグル号とジャガー号の中間部分で炸裂した時に運よく合体用のボルトが弾け、アラドが操縦していたベアー号に当たる部分だけが弾き飛ばされた。今は医者が見てくれているようだが、アラドの安否をリュウセイ達は案じていた。

 

「アラドの事を心配なのは判るけど、こっちの話し合いにも、もう少し集中して欲しいわね」

 

「何かあればラーダが教えてくれる。今俺達がやるべきなのはあの巨大特機の分析結果についてだ」

 

しかしアラドの身を案じている訳にも行かず、ギリアムとヴィレッタに忠告され、オフィスのメインモニターに写されているガルガウの映像にリュウセイ達の視線が集まる。

 

「ではリョウト。簡易的な分析結果で構わない。現段階で判っていることを教えて欲しい」

 

「はい。まずですが、この怪獣型の特機の装甲ですが、ビーム兵器に被弾する事で自己修正能力を持つ特殊な金属で構成されているようです」

 

リョウトがコンソールを操作すると、ビームが命中した箇所の損傷が修復されている光景と、ビームに焼かれている光景の2つの映像が再生される。

 

「こっちのビームはゲシュペンスト・リバイブの物ですが、通常のビーム兵器は無力化されると考えていいでしょう」

 

「ビームを無効にする装甲……やはり地球の技術ではないと見て間違いないですわね」

 

「ビームコートとかならわかるけど、ビームを吸収して、装甲を修復するなんて言うのは整備兵としてもありえねえって断言出来るぜ」

 

整備兵も経験しているタスクがビームを吸収する装甲なんてありえないと断言した。

 

「それにこの映像を見る限りでは装甲だけではなく、パワーも相当な物があると判りますね」

 

「ガンドロを持ち上げて振り回すなんて芸当が出来るのはゲッター3くらいだと思ってたぞ、あたしは」

 

500t近い巨体を持ち上げれる機体と言うだけで地球の技術ではないと言うのは明らかだった。

 

「それに胸部の搭載されているビーム砲、口部の火炎放射、両腕のクローと特異な能力が無い分、戦闘においての癖が少なく、そして武装の少なさを補う馬力もある。それらの点から僕はこの機体が例のバイオロイド兵の指揮官機であると推測します」

 

リョウトは推測と言ったが、それは限りなく確証があると言っても良かった。

 

「今まではこちらの機体を鹵獲して運用していたが、このタイミングで特機を切って来た理由はなんなんだろうな」

 

「ゲッターロボを執拗に狙ってたし、なんか滅びの化身とか言ってたよな?」

 

「そうそう、あの機体のパイロットとゲッターロボに何か確執でもあったのかしら?」

 

「でも、武蔵君はそんな事言ってなかったわよ?」

 

ガルガウのパイロットはゲッターロボに強い憎悪を見せていた。それはDC戦争で戦った恐竜帝国のバット将軍に匹敵するほどの強い恨みの感情だった。

 

「ゲッターロボは様々な遺跡で発見されている。恐らくそれらと関係しているのだろう」

 

「全くロテクの癖に、随分とオカルト染みた事になって来ましたわね」

 

「カーク博士、マリオン博士、量産型ゲッターロボはどうなった?」

 

リンが量産型ゲッターロボがどうなったか? と尋ねるとカークとマリオンは揃って肩を竦めた。

 

「言いにくいが、完全にスクラップだ」

 

「至近距離の火炎放射がトドメになりましたわね」

 

量産型ゲッターロボが完全に破壊されたと聞いたのに、リンの顔色は明るい物だった。

 

「なんか嬉しそうね。シャッチョーさん?」

 

「無理やり預けられて、強化しろとか言われていたんだ。破壊されればその分他の機体の開発が出来ると判れば、機嫌の1つも良くなる。ヒュッケバイン・MK-ⅢのタイプLとMの開発で今マオ社は手一杯なんだ」

 

そもそも敵対企業のイスルギ重工がメインになって開発されている量産型ゲッターロボを預けられても困るだけだとリンは言い切った。

 

「まぁシャッチョーさんの機嫌が良いならそれに越した事はないけどね」

 

「本物のゲッターロボを知っている私からすればあんなパチモンの開発に関わるなんて悪い冗談ですわ」

 

「確かにな、無理に複数の動力を搭載して火力を上げるにしても、パイロットがいないのでは意味がないからな」

 

マリオンとカークも酷評するほどに量産型ゲッターロボは酷い仕上がりだったようで、リュウセイ達も肩を竦めて苦笑するしかなかった。丁度その時だったオフィスの扉が開き、ラーダとその後に続いて、頭に包帯を巻いたアラドが姿を見せた。

 

「すんません……その俺、あの時夢中で……あいつをここで倒さないとって思って……ほんと、すんませんでしたッ!!」

 

オフィスに入るなりアラドは深く頭を下げて、己の独断専行を詫びた。

 

「アラド。思いきりは買うが、もう少し状況を見極める事を覚えるんだな。あの時のあいつは余力を残していたし、伏兵もいた。ああいう場合の撤退する素振りは罠だ。良く覚えとけッ!」

 

「うっすッ!!」

 

カチーナの言葉にアラドが元気よく返事を返す。その様子を見て、良しとカチーナは笑い肩を叩いた。

 

「お前に足りないのは実戦経験だ。これからあたしがキッチリ鍛えてやるから安心しな。お前タスクより、見込みがあるぜ」

 

「ひどっ!?」

 

「うっせ、お前は肝心な所で尻込みするからいけないんだ。アラドを見てみろ、結果は悪かったがあの思い切りの良さを見習えタスク」

 

ガルガウに突っ込んで行った姿を買うというカチーナにアラドが小さく手を上げた。

 

「なんだ? どうした?」

 

「いや、多分俺も普段だったら逃げてたと思うんですよ、でもマオ社に入る前に俺に色々とアドバイスをしてくれた人がいて……ここで引いたら、あの人があぶねえって思ったら怖いとかそういうのがどっか行っただけっス」

 

元来アラドの性格はタスクに似ている。もしもその出会いがなければアラドはガルガウに立向かうなんて事はしなかったと、嘘偽りの無い自分の気持ちを告げた。だからそこまで買いかぶられても困るとアラドは苦笑しながらカチーナの目を見て言ったのだ。

 

「あん? お前にアドバイス?」

 

「セレヴィスシティは退役軍人も多いからな。その類かもしれん」

 

「なんにせよ良い出会いがあったのね。良かったわね」

 

良い出会いがあったと笑うエクセレン達だったが、その話を聞いてラーダだけが目を細めた。

 

「アラド、その時の話なんだけど……皆にもしてくれるかしら?」

 

ラーダの言葉にアラドは不思議そうに首を傾げながらも、頷いて自分がマオ社に入れない間。近くの公園で出会った青年の話を始めた。L5戦役の時に民間兵としてハガネに乗り、L5戦役終結と共にハガネを降りたという青年に公園で出会い、ホットドッグを奢って貰いながら色んな話をしたのだと嬉しそうに話すアラド。戦いは怖い物だと、それでも自分が守りたい物を守るためには歯を食いしばって、恐怖に抗って戦わなければならない時があると言われ、しかし自分の命と引き換えなんて思うんじゃない――その言葉に感銘を受けたアラドは怖いと思っても、ガルガウに戦いを挑む事が出来たのだとリュウセイ達に話した。

 

「あ、そうそう。リュウセイとリョウトにまた今度って言ってたぜ」

 

「俺とリョウトに? 俺の知り合いで月に来ているのはリョウトとリオくらいだぜ?」

 

「……うーん。L5戦役の時の知り合いはセレヴィスシテイにいなかったと思うけど……アラド、その人の名前は?」

 

アラドの話を聞く限りではリョウトとリュウセイにかなり親しい人物のような印象を受けたが、リュウセイとリョウトには思い当たる人物がおらず、その青年の名前は? とリョウトが尋ねた。

 

「武蔵さんって呼ばれてましたけど……知り合いなんじゃ?」

 

「「「む、武蔵だってッ!?」」」

 

アラドがなんでもないように告げた武蔵の名前にオフィスにいた全員が声を荒げるのだった。

 

 

 

 

武蔵の名前を聞いて顔色を変えて詰め寄ってくるリュウセイにアラドは目を白黒させる事しか出来なかった。

 

「ほ、本当に武蔵って言ったのか!? 背格好はどんな感じだった!?」

 

「え、えっと、あんまり背は高くなくて、でも凄い筋肉質でちょっとこう……なんて言うんだろう? えっと髪を前で固める」

 

「リーゼントか!? 短いリーゼント風の髪型か!?」

 

「そ、そう! リーゼントって奴で、こう凄い優しそうな感じの人で、というかやっぱり知り合いだったんだ」

 

武蔵の身体的特徴を言うリュウセイにアラドはやっぱり知り合いだったんだというが、リュウセイ達はそれ所ではなかった。

 

「月に武蔵がいる! それなら探さないと」

 

「そうだな。あの時の新しいゲッタードラゴンのパイロットはやっぱり武蔵だったんだ」

 

「うっし、出発まで時間があるんだろ。おい、アラド。どこで会った? そこまであたし達を案内しろ」

 

「え? え? い、いや、それは良いんですけど。俺と別れる前に誰かに呼ばれてたから近くにいないかも?」

 

拳を掌に打ちつけながら場所を教えろと言うカチーナに危ない物を感じたのか、武蔵が近くに居ないかも? とアラドは言ったのだが、誰かに呼ばれての言葉にリュウセイが目の色を変えた。

 

「それって青い髪の少し冷たい印象を受ける男じゃないかッ!? えっとヴィレッタ隊長に似てる感じの」

 

リュウセイがヴィレッタを指差しながらそう尋ねる。

 

「どうだったかしら? 私とイングラムは良く似ているといわれるけれど……アラド。私に似ていたかしら?」

 

「い、いや、全然似てなかったと思います。ちょっとくすんだ金髪でアイスブルーの目をした……20代後半くらいの……」

 

くすんだ金髪とアイスブルーの瞳をしていたと聞いて座っていたギリアムが椅子を倒しながら立ち上がった。そして懐から写真を取り出して、アラドに詰め寄った。

 

「アラド。すまないが、この男性ではなかったか?」

 

「そう、この人! この人ですよッ! 間違いないッス!」

 

ギリアムが懐から取り出した写真をアラドが指差して間違いないと断言した。その写真を覗き込んだエクセレン達の顔が引き攣った。

 

「もう1度聞く、この人で間違いないか?」

 

「間違いないっス。あれ? でもギリアム少佐――写真より大分若くないっスか?」

 

ギリアムが差し出した写真はプロトタイプのゲシュペンストの前に教導隊のメンバーが集まっている写真だった。だがそこに写るゼンガー達の姿は若く、10代後半という様子だった。

 

「俺が若いのは当たり前だ。これは10年近く前の写真だからな」

 

「……うえ?」

 

「そしてこの男性……カーウァイ・ラウ大佐は既に亡くなっている。L5戦役時にエアロゲイターに捕まりサイボーグにされたのを俺達で倒したんだ。そしてアラドが見た武蔵もMIAになっている武蔵である事は間違いないな」

 

既に故人である人物を見たと知ったアラドの顔から血の気が失せた。

 

「え? お、俺が見たの幽霊なんですか!? で、でも俺一緒にホットドッグを食べたんですよ!?」

 

ゲッターロボのパイロットである巴武蔵は限りなく殉職に近いMIAとされている。そんな人物と一緒にホットドッグを食べたアラドは驚きと混乱を隠せないでいた。

 

「や、やっぱりあのゲッターロボのパイロットは武蔵だったんだよ! 武蔵は生きてたんだよ!」

 

「落ち着きなさいリュウセイ。仮にあのゲッターロボのパイロットが武蔵だとしたらリクセントで見たボロボロのゲッターロボはどうなるの?」

 

ヴィレッタの言葉にリュウセイは口を紡ぐんだ。リクセントで見たゲッターロボと宇宙空間で見た新型のドラゴンはどう見ても別機体だ。それに、武蔵が乗っていたゲッターロボはメテオ3との戦いで完全に消滅している。

 

「ビアンが回収してたっつうのはどうだ?」

 

「ビアン博士なら生存を教えてくれる筈だ。だから武蔵がクロガネで保護されていたと言う線は薄い」

 

リクセントで目撃されたゲッターロボは音声通信のみだが、武蔵の声を確かに聞いている。

 

そして月面でホットドッグを食べていた武蔵をアラドが目撃し、話もしていたと言う。そしてアラドの言う武蔵の特徴は完全にリュウセイ達の知る武蔵の物と合致していた。

 

「あの新型のドラゴンには別のパイロットが乗っていると言うのはどうですか?」

 

「うーん……考えられるのはそれなんだけど……実際どうかしら?」

 

「……判りません。ゲッター1とドラゴンは戦闘スタイルは良く似てますけど、PTやAMのようにOSがあるわけでも、TC-OSがあるわけでもないですから……言うならばその時の状況で戦闘方法は変わります。ですから操縦で武蔵さんかどうかと見極めるのは不可能かと……」

 

ゲッターロボは無数のペダルとレバー、そして操縦桿で操作する。現代の人型機動兵器とは根底から異なる操縦方法はこれという固定パターンを持たず、戦闘ごとに全く異なる戦闘パターンをとる。

 

「それならゲシュペンストのほうは?」

 

「それは断言出来る。カーウァイ大佐の戦闘パターンとモーションデータだ」

 

「じゃああれか? エアロゲイターに改造されて死んだ筈の人間が生き返って生身に戻っているとでも言うのかよ?

 

新しいゲッターロボと武蔵の因果関係が判らない。武蔵が月面にいるとなれば、考えられるのは地上から宇宙に出たゲッターロボを武蔵が操っていたと言うことだが、それだとリクセントで目撃されたゲッターロボと武蔵の声はなんだったのかと言う事になる。10年前のカーウァイの姿をした男についても、僅かな肉片と脳組織だけが回収されたガルインと呼ばれていたカーウァイの全てだった。しかし突如現れた生きているカーウァイに関してもかなりの謎が残る。何故アンドロイドにされたカーウァイが生身なのか、そして何故10年前の姿のままなのかという謎だ。

 

「エアロゲイターが武蔵とカーウァイ大佐のクローンを作ったと言うのはどうでしょうか?」

 

「ラッセル少尉、それはありえないわね。ホワイトスターの機能はその殆どが死んでいるわ。クローンを作る事は愚か、新型のゲッターとゲシュペンストを再生することすら出来ない筈」

 

「ああ、これから俺とヴィレッタが調査に向かう予定だが……ホワイトスターは宇宙に浮かぶスクラップに等しい。クローンも新型の機体を作り出すことも出来ない」

 

L5戦役の後から何度も調査に行っていたギリアムとヴィレッタがホワイトスターの機能は完全に停止していると言った事でラッセルの口にしたクローン説とエアロゲイターの復活の線は消えた。

 

「あーだこーだ考えてないで武蔵を探しに行ったほうが良いんじゃないか?」

 

「あたしもそう思うぜ、まだ出航まで時間があるんだろ? 時間が許す限りで良い、武蔵を探しに行こうぜ。おい、アラド。武蔵を見つけた場所に案内しろ」

 

「う、うっす!」

 

カチーナとタスクがここで話し合っているよりも探しに行った方が早いと口にし、アラドに武蔵を見かけた場所まで案内しろと言ってオフィスを出ようと出入り口に足を向けようとした時に先に外から扉が開いた。

 

「申し訳無いですが、武蔵君を探している余裕はないようです。ヴィレッタ大尉、ギリアム少佐はヒリュウ改へ、カチーナ中尉達は輸送機へ向かってください」

 

オフィスに入ってきたレフィーナが固い口調でリュウセイ達にそう告げた。

 

「急にどうした? 何かあったのか?」

 

「はい、先程、総司令部から新たな命令が下り……私の艦はホワイトスターの護衛任務に就く事になりました」

 

本来ならばヒュッケバイン・MK-ⅢのタイプLとタイプM、そしてビルガーとファルケンを受け取った後。ギリアムとヴィレッタをホワイトスターまで送り届け、地球に降下する予定だったヒリュウ改だが、総司令部からヴィレッタ。ギリアムと共にホワイトスターの護衛に回れという命令が下されたとレフィーナは告げた。急な命令の変更、配置の移動の理由は明らかだった。

 

「それは彼らの襲撃に備える為か?」

 

「はい。事態を重く見た連邦政府と軍上層部は……ケースEを発令し、月や各コロニーに警告を出しています」

 

セレヴィスシティを襲撃した無人機群とガルガウの存在を敵性異星人の襲来と判断し、宇宙の連邦軍達に厳戒態勢を敷くことを上層部は決定したとレフィーナが自分が受けたのと同じ説明をリン達に告げる。

 

「ヒュッケバイン・MK-Ⅲとファルケンを受け取った後にホワイトスターに向かう予定だった筈だが、レフィーナ中佐。そこはどうなったんだ?」

 

「ヒュッケバイン・MK-ⅢのタイプLとMに関しては機体の受け取りの延期が決定されました。受け取りに時間が掛かるのならば、今回は見送ることにしたそうです」

 

頭の固い上層部ならば、何をしてもタイプLとMの両機の受け取りを優先した筈だが、それに猶予を与えてまでホワイトスターへ向かえという指示を出した。それだけ、あの無人機群とその指揮官機であろうガルガウの存在を危険視したと言うことである。

 

「しかし随分と早い対応じゃないか?」

 

「ですね。交戦記録を送ってから2時間も経ってないのでは?」

 

異星人の物らしき特機との戦闘データを送ってから2時間も経たずとケースEそして、ヒリュウ改への新しい命令の発令……それは普段の上層部からは信じられないほどの対応の早さだった。

 

「それに関してはレイカー司令の口利きに加えて、政治的な動きがあったようです。それがなければ調整不足のタイプLとMを抱えて、我々はホワイトスターへ向かい、Uターンして地球に降下する事になったでしょうな」

 

政治的なやり取りと聞いて、ギリアム達の脳裏を過ぎったのはニブハル・ムブハルの存在だった。SRX計画の続行、そしてケイオスプランの発令にも大きく関係している。そんな相手が出張ってきたと言う事に、一抹の不安を抱く事となる。

 

「何はともあれ、 私達にとっては朗報ですわね」

 

「まあな、量産型ゲッターロボの破壊の件も追求されなかったという事だけで十分だ」

 

「本当すんません……」

 

自分の暴走で量産型ゲッターロボを失ったので、アラドがカークとマリオンに深く頭を下げて謝罪する。

 

「いえいえ、構いませんわよ。あれを動かせる人材というだけで貴重です」

 

「ああ、これでビルガーの完成形も見えてきたな」

 

アラドを見て邪悪な笑みを浮かべている2人にカチーナ達は心の中で南無と呟いた。そしてそれと同時にビルガーがビルト・ファルケンタイプKを越える色物になるのが決まった瞬間でもあった。

 

「余り設計図案を変更しないでくださいね。それと一時的に受け取りに余裕を持たせましたが、実際余裕はありません。調整は前倒しでお願いしたい所ですな」

 

ショーンが釘をさすが、カークとマリオンにその忠告は届かず、アラドを連れてオフィスを後にしてしまった。その後姿とアラドに話しかける言葉にショーンは天を仰いだ。

 

「チェーンソー型のブレードとかは好きかね?」

 

「アルトアイゼンを見た事は?」

 

「え? え?」

 

それは完全にマ改造される事が決定した瞬間であり、受け取りしてもアラド専用機になると言う事が判った事による嘆きの反応でもあった。

 

「……嘆いている所申し訳無いんですけどレフィーナ艦長。私とリュウセイ君もホワイトスターへ行く事になるんですか?」

 

「受け取りが出来ない以上、俺達もヒリュウ改に残る事になるのか? それなら俺は武蔵を探したいんだけど……」

 

リュウセイとエクセレンの本来の任務はR-1の受け取り、それとヒュッケバイン・MK-Ⅲの受け取りにある。それが延期されたなら、ヒリュウ改に残る事になる。それなら武蔵を探したいというリュウセイにレフィーナは首を左右に振り、小脇に抱えていた命令書を捲った。

 

「いえ、総司令部からの命令で、エクセレン少尉とリュウセイ少尉は……カチーナ中尉達と共に、『デザートスコール作戦』へ 参加してもらうことになります」

 

「デザートスコール? キルモール作戦じゃなくて?」

 

今発令中の大規模作戦はキルモール作戦だった。聞き覚えの無い作戦にリュウセイが思わずそう尋ね返した。

 

「アフリカ北部へ降下し、テロリスト軍と交戦中の友軍を支援する作戦です。上空からの奇襲と速やかな殲滅行動が要求されますな」

 

「そんなのをやるって事は……まだ連邦軍が劣勢なんですか?」

 

宇宙空間からの輸送機による急降下と、そのままの戦闘参加――無茶を通り越して、無謀に近い作戦案は連邦がテロリストの勢いを止めれていない事を現していた。

 

「ええ……テロリストの勢いを止められぬようですし、百鬼帝国でしたか? それらに属する特機の出現もあり劣勢のようですな」

 

「それで奴らの頭の上から 水をブッかけようってのか……面白れえ、やってやるぜ。百鬼帝国つうやつらもこの目で見てみてぇと思ってたんだ」

 

好戦的なカチーナの言動は劣勢に追い込まれている地上の連邦軍にとっては良い起爆剤になるだろう。不利な状況によって生まれた重い空気は戦果、そして味方を鼓舞する存在によって覆される物だからだ。

 

「艦長、地球へ降下した後、私達はどうすれば良いのですか?」

 

「合流目的地点にシロガネが待機しているそうです。降下後はリー中佐の指揮下に入って下さい。では、各員は直ちに準備をお願いします」

 

「武蔵に関してはマオ社の社員で探すことを約束する。見つければ連絡しよう」

 

「僕とリオのほうでも探してみるよ」

 

「絶対見つけておくから、安心して!」

 

「「「よろしくお願いします」」」

 

レフィーナの指示によってリュウセイ達は動き出し、リンとリョウト達の武蔵を見つけたら連絡するという言葉にリュウセイ達は安堵し、月から出発する準備を始めた。

 

「気をつけてな皆。また今度会おうぜ」

 

数時間後には輸送機で降下ポイントに向かうカチーナ達とホワイトスターへと向かうヒリュウ改をセレヴィスシティのカフェで見送っていた武蔵だったが、真向かいに座った男にその眉を顰めた。

 

「相席良いかな? 巴武蔵君」

 

白いスーツに胸元に白百合の華を刺した金髪の若い男。明るく、そして口元に笑みを浮かべているがその目を見て武蔵は警戒心を強めた。

 

「……どうぞ」

 

「いやあ、ありがとう! 君とはこうやって顔を見合わせて話してみたかったんだ。僕の名前は孫光龍(そんがんろん)よろしく」

 

「ええ。よろしく」

 

差し出された手を握り返しながら武蔵は既に臨戦態勢に入っていた。人の姿をしているが、その目は目の前にいる武蔵さえも映していない。何もかも見下しているその瞳を見て、孫光龍を名乗った青年が恐竜帝国の同類だと武蔵は直感的に感じ取っているのだった……。

 

 

 

 

そして武蔵と孫光龍がセレヴィスシテイで邂逅を果たしていた頃――地上では……。

 

「ブライ議員。ブライ議員ッ!!」

 

「なんですかな?」

 

ヘリコプターに乗り込もうとしていたブライだが、背後から自分を呼ぶ声に足を止め穏やかな笑みを浮かべて振り返った。

 

「ブライ議員が震源地や被害の大きい地域の見回りと激励をしておられるのは知っておりますが、今回はおやめください!」

 

ブライを呼び止めたのは連邦軍の制服に身を包んだ。肥満気味の大佐の腕章をつけた中国系の男性軍人だった。

 

「ハオ大佐。私は連邦議員の1人として、原因不明の船の転覆、そして行方不明になった民間人の捜索を行わなければならないのです」

 

「いけません、この土地は呪われた土地。そこを切り開き、都市を作ろうとした企業が悪いのです。ブライ議員――どうか私の顔を立てて、この場は引いてください。お願い申し上げます」

 

中国大陸で現在多発している原因不明の船の転覆事件、そして何百人という行方不明者の発生。その理由と捜査をしている連邦軍の激励という名目で視察に訪れていたブライに行ってはいけないとハオ大佐が必死で説得を試みる。

 

「呪われた土地とは?」

 

「この土地は四罪の悪神共工(きょうこう)が没したと言う土地です。河川には共工の念が宿り、決して船を行き交いしてはならぬと言われた場所。どうぞお考え直しを……」

 

中国に数多ある神話。その中に登場する悪神の1人――共工が死んだ場所。故にその怨念が宿り危険だというハオ大佐にブライは声を上げて笑う。

 

「今の時代に怨霊・怨念などはありえないですよ。大丈夫、すぐに戻りますので」

 

「ぶ、ブライ議員! お、おやめ、おやめください!!」

 

ハオ大佐の静止を振り切り、ブライはヘリコプターに乗り込み軍基地を飛び立った。そしてヘリが飛び立った瞬間ブライが浮かべていた笑みは消え去り、連邦議員ブライから百鬼帝国のブライの顔が姿を現した。

 

「大帝、いかがしますか?」

 

「目的通りだ。行け」

 

「了解です」

 

そしてハオは与り知らぬが、既に自分の基地の軍人の大半が百鬼帝国の尖兵に入れ代わっていた。ハオよりもブライの命令を優先するパイロットの操縦によってヘリコプターは視察地よりも更に奥へと進んで行く。そして川の源流である山奥に着陸したヘリコプターからブライが降りた直後。雨が降り始め、穏やかだった川面が風もないのに逆巻き始めた。それを見てブライは当たりだと気付き笑みを浮かべた。

 

「共工よ! このような土地で燻り、大した糧にもならぬ船や人間を喰らっていて満足か! そのような事をしてもお前の願いは叶わぬぞッ! 仮にも神と呼ばれた者が何時までもこんな小物のような真似をして満足か! 己の力を取り戻したいとは思わぬのかッ!」

 

【……何用だ。鬼よ】

 

ブライの呼びかけに呼応するように水が盛り上がり、その口腔の中に人の顔を持つ巨大な大蛇の幻影が姿を現した。

 

「取引に来た! 四罪の神である超機人共工王になッ!」

 

【取引だと? はッ! 鬼の分際で身の程を知れッ!!!】

 

共工の一喝と共に雷鳴がブライを襲うが、ブライはその雷鳴を何もせずに防御する素振りも見せずに無効化してみせた。その光景を見て幻影の共工が興味深そうな声を上げた。

 

「私の力はこれで判っていただけたと思うが、まだ不満か?」

 

【……我の雷鳴を弾くか、ふん。良いだろう、話くらいなら聞いてやってもいいぞ】

 

ただの鬼ではなく、神である己の一撃を防いでみせた。共工はそれに興味を抱き、ブライの話に耳を傾ける事にした。

 

「今のお前には肉体がない、だが私達にはお前に新しい肉体と、そして力を取り戻す為の魂魄を与える事が出来る」

 

【だからお前に従えと?】

 

「まさか、私に従え等とは言わない、同等な同盟を結びたいのだよ。私はお前に肉体を与え、力を取り戻す為の生贄を用意しよう。お前は好き勝手に暴れてくれて構わない、時々私の願いを聞いてさえくれれば良いのだよ。そしてその上で私が気に食わぬと言うのならば、すべてが終わった後に覇権を競えば良い。どうだ? 悪い取引ではなかろう?」

 

【お前に何の益でもないではないか。そんな契約を受け入れるほど我は愚かではないぞ。寝言は寝て言うのだな】

 

肉体を失い、魂だけになった共工――いや、四罪の超機人「共工王」はブライの提案を蹴ろうとしたのだが……ブライがにやりと笑い口にした言葉に反応を見せた。

 

「進化の使徒が今この時代に居ても? そしてその使徒を取り入れようとバラルが動いていてもかね?」

 

【……ッ】

 

地震を思わせる激しい揺れと土砂崩れを起しかねない豪雨。それが共工王の怒りの深さを現していた。その凄まじい殺気と怒気に当てられて百鬼帝国の兵士が崩れ落ちる中ブライだけは両手を上げて高笑いをして見せた。

 

「いい憎悪と殺意だ、それでこそだよ。共工王よ、いつになるか判らぬ復活の為に時間を浪費するか? それも良かろう。だが今度はバラルに魂さえも滅されるぞ。あの愚かな仙人達がお前を何時までも見て見ぬ振りをしてくれると思うか? 断じ否ッ! これは最初で最後の交渉だ! 私の頼みを聞きいれ、肉体を得るか! それとも恨みごとだけを口にしバラルに滅せられるか! 今ここで返答を聞うッ!!!」

 

かつて無理に使役され、バラルの捨て駒にされ、龍虎王に肉体を破壊された忌まわしき過去が共工王の脳裏を過ぎった。

 

【我の失った肉体を完全な形で用意できると?】

 

「それよりもはるかに強力な物を用意して見せよう。そしてお前が持つ忌まわしき衝動も封じて見せようぞ」

 

四罪の超機人は他の機人を喰らうという性質上、単騎でしか戦えず。その性質ゆえに共工王は人間の連携の前に敗れた。しかし、その衝動を抑え、仲間と共に戦えるとなればかつてのように敗れることはないだろう。

 

【はっははッ! 大きく出たな鬼よ。あの素晴らしき肉体よりも強力な物を用意出来るとお前は言うのか?】

 

「出来る! それが私にはワシには出来るのだ! さぁどうする! 忌まわしきバラルに、進化の使徒――いや、ゲッターロボにまた敗れるのをよしとするのか?」

 

【否! 良かろう鬼よ。お前の戯言を聞き届けてやろうではないか! バラルに、進化の使徒にこの牙を突き立てる事が出来るのならば! 一時の隷属を誓おうぞッ!】

 

「そう言うと思っていたぞ。これより我らは同志! 共に戦おうではないか!」

 

共工王の叫びにブライは満面の笑みを浮かべた。かつて己が敗れたのは、自身と同格の戦力が足りなかったからだ。自分の立場を脅かす強者それを招きいれることで、かつての百鬼帝国よりも遥かに強い帝国を作り上げる。その為の慈善活動、世界に封じられた悪神――いや機人大戦で敗れた超機人を鬼に転生させると言うブライの計画はゆっくりだが、しかし着実に遂行されているのだった……。

 

 

 

第47話 邂逅 その1へ続く

 

 




今回はシナリオエンドデモなのでやや短め、そしてここでハッピーかい?を突っ込むという暴挙をやります。この後は前も書きましたが、星から来る物と第三の狂鳥を書いて、剣神現る、ノイエDCの話とゲームと順番を前後させたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


PS

迎撃戦は44万点でSランクで攻略出来ました。
しかし45万の壁は大きいですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第47話 邂逅 その1

第47話 邂逅 その1

 

目の前に座る白いスーツの優男。その首も腕も細く、武術など全く嗜んでいるようには見えないその男――「孫光龍」に武蔵は強い警戒心を抱いた。

 

(なんだこいつ)

 

人の良い笑みを浮かべているが、その目に宿っている光には何の温度も感じられない。それこそ、爬虫人類とどっこいだと武蔵は感じていた。

 

「んー僕はエスプレッソとチーズケーキにしようかな。武蔵君はどうする?」

 

「いや、自分で払いますよ」

 

「良いから良いから。なんせ君はあの悲運の大英雄だ。そんな君と話が出来る……こんなハッピーな事はない。そうだろう? 飲み物と食べ物くらい奢らないと罰が当たるってもんさ。そうだろう? ゲッター3のパイロット君」

 

武蔵の名前は知られているが、武蔵の顔自体は案外知られていない。だからこそ、セレヴィスシテイでも人通りの多いカフェで武蔵は堂々と食事をしていた。

 

「誰かと勘違いしていないかな? オイラがあのロボのパイロットな訳が無いだろう?」

 

「いやいやいや、そんなすっとぼけはいらないんだよ。そうだろ? 東葉高校柔道部キャプテンの巴武蔵君。いやこういうべきかな? 恐竜帝国を道連れに自爆した巴武蔵――とでも呼ぼうかな?」

 

孫光龍の言葉に武蔵は眉を顰めた。それはリュウセイ達にも話していない武蔵が早乙女研究所に所属する前の話だ。それを知っている相手はこの世界に存在しない――いや、存在しない筈だった。そして注文を聞く為に待っていたウェイトレス――いや、周りの人間がピクリとも動かないのを見て武蔵は本能的に目の前の男が何かをしたのだと悟った。

 

「あんた。何もんだ?」

 

これが竜馬や隼人ならば躊躇う事無く殴りかかっただろう。だが武蔵は動けなかった、今ここで目の前の男を殴ったとしよう。そうした場合周りの人間になんらかの害があるかもしれないと思うと固く握り締めた拳を膝の上から持ち上げる事が出来なかった。その代りに何者だ? と問いかけると孫光龍は穏やかに笑った。だがその目は全く笑っておらず、良く殴るのを我慢したなと言わんばかりの挑発的な光がやどっていた。それを見て武蔵が睨みつけるが孫光龍は何事もないように笑い続ける。

 

「まずは注文したまえよ。ああ、君。彼の注文を聞いてくれるかな?」

 

「畏まりました。ご注文はお決まりですか?」

 

孫光龍の言葉が合図だったのか、動きを止めていた周りの人間が動き出した。その姿を見て、周りの人間全てが自分にとっての人質だと武蔵は理解した。

 

「BLTサンドとハム卵のサンドを3つずつ、それとカフェオレ。食べ終わった頃合にチョコレートケーキとプリンを1つずつ」

 

注文を聞いたウェイトレスが歩き去ると、不自然に回りの音がが消えた。しかし、さっきのように動きを止めている訳ではない。声だけが排除されていた。

 

「あんた魔法使いかなんかか?」

 

「魔法使い。ははッ! 当たらずも遠からず。そうだね……僕は尸解仙(しかいせん)なんだって言ったら信じるかい?」

 

「しかいせん?」

 

訳の判らない言葉に武蔵が尋ね返すと孫光龍は手を叩いて笑った。

 

「まぁその内判るだろう。僕は君に良い話を持って来たんだ。僕達の女神様に仕える気は無いかい? 今ならなんと幹部クラスの待遇だ。

こんなハッピーな事はないよ?」

 

「……怪しい宗教って訳じゃねえな? だけどあんたは嘘も言ってない、本当の事も言ってないけどな」

 

「へえ? じゃあ僕の言ってる嘘ってなにさ?」

 

嘘の中に真実、真実の中に嘘。それを交えている孫光龍の言葉に武蔵は僅かに警戒心を緩めた。

 

「オイラの力が欲しい訳でも、あんたの言う女神様に仕えて欲しい訳でもない。あんたが欲しいのはゲッターロボだけ、幹部クラスとかなんとか言ってオイラ自身は必要ない。ただそうする事でオイラが幸福になれるって言うのは嘘じゃないな――オイラの気持ちなんて無視して、強引に幸福を押し付ける……違うか?」

 

「どうだろうねえ。ただの怪しい勧誘でしたッ! とか言ったらどうする?」

 

からかうように言う孫光龍を武蔵は真剣な目で見つめ返す。その視線を向けられている孫光龍は肩を竦め、運ばれてきたエスプレッソを口にする。

 

「うーん。幹部クラスの待遇って言ったけど、僕に実はそこまでの権限はないし、女神様も寝てるから実は幹部クラスの待遇って言うのは嘘なんだ」

 

「そうかい、でも「女神様」がいるっつうのは本当みたいだな」

 

運ばれてきたカフェオレを口にしながら武蔵はそう尋ねた。掴み所が無く、すべてが嘘、怪しい勧誘でしたと言ってもなんだと思うほどの胡散臭さ。だけど、それは孫光龍が纏っている擬態。それに欺かれるか、それともそれを見抜けるか? それによって孫光龍の対応も変わる。

 

「なんだ、ドジで間抜けとか言っておきながら結構頭いいじゃないか。君」

 

「そらどーも、後ついでに飯も奢ってくれてありがとうございます」

 

「礼儀正しいのは良いね、好感が持てるよ。どうだい? うちに来ないかい?」

 

「お断りだ。今の段階じゃな」

 

「おや? 案外好感触かい? 君、僕の事を警戒してるんじゃないのかな?」

 

チーズケーキを口にする孫光龍とサンドイッチを口にする武蔵。一見和やかだが、少しでも動きがあれば激しい戦闘になりかねない。そんな緊迫感が2人の間にはあった――。

 

「遠慮しないで食べた……なんだ、もう食べてるか」

 

「あぐ。んだよ?」

 

厚切りのベーコンとフレッシュなレタスとトマト、そしてスライスされたチーズが挟まれたこんがりと焼かれたパンの香ばしい食感を楽しみながらも、武蔵の目の目は警戒の色を緩める事はなかった。

 

「いやさ、僕の事を警戒しているようだから促さないと食べないかなって」

 

「悪いけど、オイラはそんな事で食欲を失うタイプじゃないんでね」

 

残りの半分を豪快に頬張り、カフェオレを口にする武蔵を見て孫光龍は口元だけで笑みを浮かべる。

 

「良い事だよ。食べる事は生きる事だからね。人間は他の命を犠牲にして、その上で生きている。うんうん、大事なことだよ」

 

「あんたさ? 食べろって言っておきながら食欲が無くなる事いうなよな」

 

食欲が無くなるといいつつも卵ハムサンドを口にする武蔵。その食欲が衰える様子は無く、孫光龍もチーズケーキを口にする。

 

「僕達の神様は高潔な魂の持ち主を探しているんだ」

 

「魂ねえ……強いとか賢いとかじゃないんだな」

 

「強くても賢くても、魂が穢れていては意味が無いんだよ。高潔な精神と穢れなき魂、それが僕達の求める力さ」

 

あやふや過ぎる表現と求める基準に武蔵は小さく眉を顰め、ふわふわのパンと厚切りハムと卵ソースの挟まれたサンドイッチを頬張る。だがその顔は味を楽しんでいるようには見えず、頼んだ物を食べ終えて孫光龍から離れたいと言うのがマシマシと感じられた。

 

「もう少し頼むかい?」

 

「うんや、もう良い」

 

孫光龍は会話を楽しみたいからか、まだ頼むか? と尋ねるが武蔵は皿の上のサンドイッチをあっという間に空にして、手を上げてデザートを運んでくるように頼んだ。

 

「高潔な魂って言うけどよ。オイラはそんなんじゃないと思うけど」

 

「そう謙遜することはないさ。仲間の為に命を捨てる事が出来る。うん、そんな人間はそうはいないよ」

 

自分の事を全て知っていると言わんばかりの態度の孫光龍。苛立ちを覚えるよりも先に、何故という疑問を感じながら運ばれてきたプリンを口にする武蔵。その円やかな甘みとたっぷりの卵の味の濃さも武蔵の舌の上を滑り落ちていく、今の武蔵には味を楽しむよりも、正体不明の怪人にしか見えない孫光龍に対する警戒心の方が上回っていた。

 

「僕の事を警戒している割に大分食べてること無い?」

 

「警戒はしてるさ。だけど食べ物に罪はないし……それになんだろうな……あんた少し、早乙女博士に似てる」

 

孫光龍の問いかけに武蔵はこうして向かい合って食事をし、会話をしているように感じた事を突きつけた。

 

「へえ? 僕があの大博士に似てるか。はっはっは! そりゃあ良い! だけど、それは節穴ってもんじゃないか?」

 

早乙女博士に似ていると言われて笑った孫光龍だが、笑い終えた後の瞳には強い怒りの色が浮かんでいた。

 

「なんだ。あんた冷静に見えても、怒ったりするんだな」

 

「……あー、そう言うことね。はっ、まさか僕がねえ。誘導されるなんて」

 

怒りという感情を露にした。それを指摘された孫光龍は武蔵の評価を改めた。案外頭がよくて、人の本質を見抜く眼力をしている。

 

「ご馳走様。んじゃ、オイラは行くぜ」

 

「ん。ああ、お粗末様。じゃあ、またどこかで会おうか。そうだね……地球の存亡を賭けた戦場でね。その時は……君が味方だと嬉しいよ」

 

孫光龍の言葉に武蔵は返事を返さず歩き去った。嘘だらけで、人をおちょくったような態度だが、今の地球の存亡を賭けた戦いがあると言うこと、そして味方だと嬉しいという言葉に嘘偽りはない。そして武蔵が早乙女博士に似ていると言ったのも挑発でも嘘でもない。

 

(やべえ相手だな)

 

早乙女博士に似ていると感じたのはその目だ。以前恐竜帝国を滅ぼす為ならば、どんな犠牲が出ても構わない。それが地球全てを人類を救う事になると言っていた早乙女博士。正義ではある、だがそれは凄まじい被害と犠牲の上に成り立つ平和であり、正義であると同時に悪である。孫光龍の言葉にはそれと良く似た響きがあった、自分がやる事は正しいからそれに従えという傲慢とも言える感情が感じられた。しかしそれと同時に地球の事を思っているのも事実――自分が間違っていると判っていても、それが最終的に全てを救う事に繋がるのならば少しの犠牲もやむなしと考えて突き進む相手。振り返った時には姿の無かった孫光龍――目をそらしたのはほんの数秒にも満たない。それなのにあの目立つ白スーツは何処にもなかった。

 

「狐につままれたか、それともマジモンの魔法使いか……なんにせよ。気をつけないとな」

 

孫光龍の語った尸解仙、そして女神という言葉。それが何か大きな意味を持つ、武蔵はそう感じながらカーウァイの待つ廃工場に足を向けるのだった……。

 

 

 

 

 

普通に歩いているように見えて、警戒を緩めず歩いていく武蔵の後姿を孫光龍はビルの上から見つめていた。

 

「いやあ、楽しかった。しかしなんだな、簡単に操れると思ったんだけど……そうじゃなかったね」

 

孫光龍は終始武蔵に催眠術を仕掛けていた。だが武蔵はそれを自然体で弾いて見せていた。本気ではなかったが、まさか自分の術を食事をしながら弾かれたのは少しばかりショックだった。しかしそれが逆に孫光龍に強い興味を抱かせていた。

 

「貴様! 何を勝手に武蔵に接触している!」

 

「おや、夏喃。思ったよりも早かったじゃないか? ハッピーかい?」

 

「何がハッピーだッ!!」

 

導師服を身に纏い、美しい銀髪にオレンジのメッシュの入った一見男に見える男装の麗人――「夏喃潤(かなんじゅん)」がビルから武蔵を見下ろしていた孫光龍に詰め寄りながら怒りを露し、そのスーツの襟首を掴んだ。

 

「おいおい、これでも僕は君の上司だぜ? その態度はいただけないなあ」

 

「僕と泰北に鬼を見張れと言っておいて、鬼はいない。しかもお前は武蔵に接触して何をしようとしたんだ!」

 

夏喃が怒りを露にしたのは自分達を遠ざけておいて、いけしゃしゃあと武蔵と接触していた孫光龍に対する怒りと無駄足を踏まされたと言う事に対する怒りだった。

 

「武蔵の勧誘は僕に任せてくれた筈だ」

 

「うん、そうだね。朱王機が復活するまでの間に勧誘出来るならって言ったのは僕さ。だけど、バラルの元締めとして今代の進化の使徒を見極める義務があるだろう? この後は夏喃に任せるよ」

見極める義務があるだろう? この後は夏喃に任せるよ」

 

見極めは済んだから武蔵の件は任せると笑う孫光龍だが、夏喃の怒りは収まらなかった。

 

「夏喃。気持ちは判るが少しは落ち着け」

 

「泰北……しかし」

 

怒りを収めようとしない夏喃の腕を掴んだのは巨漢の老人――「泰北三太遊(たいほうさんだゆう)」だった。自らの相棒であり、そして師でもある泰北の言葉もあり、夏喃はやっと孫光龍の襟首から手を放した。

 

「余りからかってやらんで欲しいのう?」

 

「はっは、この程度で気を乱していちゃあ駄目さ。それで泰北。首尾はどうだい?」

 

孫光龍の問いかけに泰北は顎鬚を摩りながら眉を顰めた。

 

「四罪の共工王と鯀王が鬼の軍門に下った。もはやワシの術も届かぬ、この調子では他の四凶・四罪の超機人も鬼に下るな」

 

バラルのシモベであると同時に、敵でもある。四狂・四罪の超機人――人間界に「機人大戦」と呼ばれる伝説が残るほどの戦いの末に消滅・もしくは封印された悪の超機人がブライの元に集まっていると聞いては流石の孫光龍の眉を顰めた。

 

「うーん。ちょっとそれは不味いねえ……真・龍王機は修復中だし……封印を強化することで対応しようか」

 

「うむ、それが最善じゃろう。時が来て、武蔵を我らの仲間へと迎え入れ、全てはそこからじゃ」

 

「……そうだね。ガン・エデンも武蔵をきっと受け入れるだろうしね」

 

「それは勿論さ。かつての戦いで僕達が勝利出来たのは進化の使徒が力を貸してくれたのが大きいからね。武蔵も地球を守る為ならば力を貸してくれるさ――だから今は見守ろうじゃないか。未熟な子供達が万魔百邪と戦う為の力を付けてくれるのを期待して待とうじゃないか」

 

一陣の風と共に姿を消した孫光龍達。年齢も性別もそして人種も違う3人に共通していること――それは武蔵の感情や気持ちを一切無視し、自分達に力を貸してくれるだろうと言う考え。そして未熟な人間達を自分達が導くのだという傲慢な考え、反発される訳がない、拒絶される訳がない。自分達は絶対に正しいのだと言う不遜にして傲慢な考え、それが自分達が選ばれた存在であると思いこんでいる「尸解仙」即ち、仙人である孫光龍達の変わらないただ1つの考えなのだった……。

 

 

 

 

孫光龍との奇妙な邂逅を終えた武蔵はカーウァイと合流してから、すぐにビアンと連絡を取っていた。

 

『孫光龍と名乗る謎の男か……容姿としては?』

 

「白いスーツと帽子、それと胸元に白い花……多分白百合だと思うんですけど、ちょっとオイラは花には詳しくないんで、絶対とは言えないです」

 

ミチルが飾っていた花しか知らない武蔵はその中で見たことがある白百合の花に似ていたと思うとしか言えなかった。

 

『何か意味がある可能性もあるか……とりあえずエルザム達にも話を聞いてみよう』

 

何か考えがあって接触してきた可能性が高い孫光龍。終始笑みを浮かべ、嘘と真実交えながら話していたので武蔵もどれが真実で、どれが嘘かというのは自信がなかったが、少なくとも武蔵を引き抜こうとしていたと言うのは真実だと感じていた。

 

「ああ、私もそれが良いと思う。その言動から考えると、武蔵と同じく旧西暦の人間という可能性も捨て切れない」

 

『武蔵君の話していない過去を知っていると考えると、その可能性は高いからな。しかし、女神と尸解仙か……百鬼帝国にアインストに加えて随分とオカルトじみて来たな』

 

「ビアンさんは尸解仙って何か知っているんですか? やっぱり何かの暗号か何かですか?」

 

孫光龍が口にした尸解仙という言葉。武蔵はそれを何かの暗号か何かだと考えていたので、そう尋ねるとビアンは違うと言って首を左右に振った。

 

『尸解仙――中国の伝承にある仙人の一種だ。生身の肉体を捨て、魂だけで生きる存在と言っても良いな』

 

「……いや、思いっきり金髪だったし、目も青かったですよ?」

 

『別に中国人だけが仙人に至る訳じゃないさ、それに仙人とも確信があるわけじゃない。ただ尸解仙は仙人を意味する言葉だと言うことだ。それに、時間を停止させたり、音を遮断したのだろう? 本物の仙人とまでは言わないが、それに近い能力を持っていると考えたほうが良い』

 

仙人を意味する尸解仙。仙人というと胡散臭くなるが、時間停止や回りの音を遮っていたことを考えると確かに仙人という可能性も捨て切れない。もしくは、そう言う事が可能になる科学技術を持っていると言う線もある。なんにせよ、警戒を緩める事は出来ないと言うのは確実だった。

 

「ビアン所長。マオ社に襲撃を掛けてきた無人機だが、向こう側の世界でエアロゲイターの前に襲撃してきた「インスペクター」と言う存在である可能性が高い。シャドウミラーの戦艦に戦闘データと分析結果が残っていた。それをイングラムが持っているはずだから、そちらで1度解析して欲しい」

 

『そうか……地球の争乱に加えて再びの敵性の異星人の襲来か。状況は悪化の一途を辿っているな』

 

ハガネを轟沈寸前に追い込んだ百鬼帝国の将軍。そして政治家や軍の上層部に成り代わっている百鬼帝国……。

 

向こう側を滅ぼす寸前に追い込んだアインストと、死に絶えた筈のインベーダーの再出現。

 

「どうしますか? 1度オイラとカーウァイさんで地球に戻りますか?」

 

『……いや、もう暫くは武蔵君とカーウァイ大佐は宇宙で活動して欲しい。レイカーからの情報だが、ヒリュウ改がホワイトスターに向かっている。それに、確証はないのだがヴァルシオーネらしい機体も確認された。少し様子を見て欲しいのだ』

 

地球の内外で武蔵とイングラムを探しているリューネの機体であるヴァルシオーネが確認されたと聞いてビアンは武蔵とカーウァイにもう暫く宇宙で活動して欲しいと頼んだ。

 

「了解した。では武蔵をホワイトスターに向かって貰うことにする」

 

「2人で行かないんですか?」

 

ここで戦力を分散することを選択したカーウァイに武蔵は2人で動けば良いと言ったが、ビアンもカーウァイと同じ意見だった。

 

『今回の敵はマオ社を征圧する事を優先していた。それに、破壊されたヒュッケバイン・MK-Ⅲとゲシュペンスト・MK-Ⅲを回収していた。相手の目的が私達の兵器の回収と量産となると再びマオ社に襲撃が無いとは言い切れない』

 

前はヒリュウ改がいたから退ける事が出来たが、セレヴィスシテイの駐在軍が壊滅、そしてマオ社に戦える面子はリン、リオ、ラーダ、リョウト、アラドの5人とマオ社を防衛出来るだけの戦力が無い。そう考えれば、武蔵とカーウァイの2人がホワイトスターに向かうのは下策である。マオ社に保管されているRシリーズのデータ、量産型Rシリーズのテストタイプに、サンプルとしてテスラ研から譲渡されたプロトゲッターロボの残骸、そしてトロニウムと反マグマ原子炉――マオ社に集まっているデータに加えて、月の住人を人質にされるわけには行かない。少なくとも避難出来るだけの時間稼ぎが出来るパイロットが必要だったのだ。

 

「あ、ゲッターだとやりすぎるってことですね」

 

「そういうことだ。ホワイトスターなら破壊しても構わん、だから武蔵にはホワイトスターに向かって貰いたい」

 

セレヴィスシテイとマオ社を守ろうとすればゲッターD2は戦闘方法を大きく制限される。それならば破壊しても問題が無いホワイトスターに向かってもらうのが最善であり、市街戦にもなれているカーウァイがセレヴィスシテイの防衛に残るのがベストだ。カーウァイとビアンの説明を聞いた武蔵は分散する意味とその理由に納得し、先にホワイトスターへ向かったヒリュウ改を追って月面を後にした。

 

「それで正直な所、ハガネはどうだ?」

 

武蔵の姿が見えなくなった所でカーウァイは地上での今の戦況をビアンに尋ねた。ビアンは武蔵がいた時と異なり、苦渋に満ちた表情で今の地上の状況をカーウァイに話し始めた。

 

『かなり不味いな。それに地球の連邦軍もかなり押されている。このままでは地球連邦の作戦は失敗するな』

 

「そうか……そうなるとかなり苦しいな」

 

1度劣勢に追い込まれ、そこから戦況を巻き返すのは難しい。そしてそれが人智を越えた存在を相手にする戦いならば、1度奪われたイニシアチブを取り返すのは容易ではない。

 

『ああ、予定より早く武蔵君をハガネに合流させる必要があるかもしれないな……』

 

「そうだな。本意では無いが、そうする必要があるかもしれん……」

 

ハガネのクルーが武蔵の事を心配していることは判っている。しかしだ、DC戦争、L5戦役の時のように武蔵に頼りきられてしまえば前回の焼きまわしになるかも知れない……ビアン達はそれを危惧していたのだ。武蔵は最悪の場合になれば己の命を捨てる事に躊躇いが無い、それが地球を守る事に繋がるのならばと自爆することも辞さない……それは子供が抱いて良い覚悟ではなく、そしてその状況にまたなろうとしている現実にビアンとカーウァイは胸を痛めていた。

 

「もっと力をつけるまでは合流は出来れば先送りしたいのだが……」

 

『そうも言ってられないかもしれんな……』

 

武蔵がいなければ戦えないと言う状況になりつつあるこの状況はビアン達にとって最悪の展開なのであり、この状況をどうやって覆すのかをビアンとカーウァイだけではない、会議に参加してきたイングラム達も交え話し合うのだった……。

 

 

 

 

 

 

薄暗い研究室に無数に並んでいる培養ポッド。その内部データを写しているモニターの電源を切ってレモンは大きく背伸びをした。モニターに映し出されていたステータスや現在の状況はレモン単独で調整していた時よりも遥かに上方修正されたデータだった。だがレモンの顔は不満そうで、それは機械から吐き出されているデータを記録したレポートを見ること無くシュレッダーに叩き込んでいることからも明らかだ。

 

(これは違うのよ)

 

調整中のWシリーズ。その15番の「ウォーダン・ユミル」の安定度はアースクレイドルのメイガス・ゲボによって比較的に向上した。だがそれは一種の催眠術であり、素体に紐付けされたゼンガー・ゾンボルトの記憶データをより定着されるだけであり、レモンの目指す新たな生命体とは程遠い物だった。

 

「マシンセルもそうだし、はぁ……なんだかなぁ……」

 

豊潤な資材、優秀な科学者によるサポート――それら全てがあちら側よりも充実しており、ゲシュペンスト・タイプSとR-SWORDという規格外のPTの解析データも加わり、戦力も飛躍的に向上した。だが今のこの環境はレモンにとって喜べる物ではなかった……アースクレイドルにはアインスト、そしてインベーダーに匹敵する化け物の百鬼帝国が巣食っている。それに、鬼人という人智を越えた化け物もいる。

 

(本当にこのままでいいと思っているのかしら?)

 

ヴィンデルの掲げる永遠の闘争――しかしそれは百鬼帝国に関わっている以上決して成し遂げられる物ではないだろう。なんせ、相手はこちらが裏切る機会を窺っていると知っていながら、技術と資金を提供してくれているのだ。ヴィンデルとブライでは将としての器が違いすぎるとレモンは感じていた。利用されるだけ利用されて、そして切り捨てられる未来しか想像出来ず、レモンはアンニュイな溜め息を吐いていた。

 

「アクセルがいれば違うのかしらね」

 

レモンとバリソンではヴィンデルを止める事は出来ない。アクセルならば止めれるのかしらねと呟いて、百鬼帝国の技術で修復されたあちら側から持ち込んだグルンガスト・参式にマシンセルが投入され、機体の変化が始まったのに一度だけ目を向けてレモンはモニターの電源を切った。

 

「私はどうしようかしらね」

 

ヴィンデルに恩があるから裏切るという考えはないし、恋人のアクセルも合流することを考えてアースクレイドルに留まっていたが、このままでは自分の身も危ないかもしれない。そう考えるとバリソンと共に逃亡する方が良いのだろうか? もし逃亡して逃げ切れたのならば武蔵を探してエキドナがどうなったのか、ラミアがどうなるのか、それを見届けるのも……と考えた所で首を左右に振った。

 

「はぁ……損な生き方をしてるわ」

 

ヴィンデルもアクセルも裏切りたくない、ヴィンデルの掲げる永遠の闘争――あちら側で失敗し、こちら側で失敗した理由を排除し、確実に成し遂げるはずが、既にとんでもないイレギュラーを抱えていることにヴィンデルは気付いていないのだろうか? それとも気付いていても進みつづけることを選んだのだろうか。

 

「人の事を言えた義理じゃないけど、妄執よね……」

 

新しい人間を作りたいレモンと、永遠に闘争が続く世界を作り出したいヴィンデル――平和な世界を楽しむ事も出来るのに戦い続ける道を選んだヴィンデル。それはもはや願いではなく、執念や妄執に近いだろう。利用しているつもりで利用されていることに気付くのは何時になるのか、それとも気付かないままに死ぬのか――ヴィンデルはどうなるのだろうかとレモンが考えていると、研究室に緊急通信のコールが響いた。

 

『レモン様ソウルゲインを確認、アースクレイドルに到着まで後30分ほどです』

 

アースクレイドルの運用に当てられている量産型Wシリーズからの報告を聞いて、レモンは弾かれたように立ち上がり格納庫に向かって走り出した。

 

(本当、私って度し難いわ)

 

ヴィンデルとアクセルを裏切る可能性を考えていたのに、アクセルが生きているかもしれないと知ると生娘のようにアクセルの身を案じて止まっている事が出来ない自分に嘲笑めいた笑みを口元に浮かべながらレモンは格納庫へと足を走らせるのだった……。

 

 

 

第48話 邂逅 その2へ続く

 

 




今のあり方に悩むレモンと暗躍を始めたバラル。次回はシャドウミラーと百鬼帝国、そしてインスペクターの3つの陣営で話を書いて行こうと思います。メインのほうで書ききれなかった分、こういうところで補完しておかないと、書く機会が無くなってしまいますからね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第48話 邂逅 その2

第48話 邂逅 その2

 

ソウルゲインの手の中にいる老人……いや化け物をアクセルはコックピットの中から睨みつけていた。

 

『ほっほ、そう殺気をむけんでくれんかの? ワシもつい……それについ答えたくなってしまうじゃろう?』

 

瞳孔が縦に開き、白目と黒目が反転する化け物を見て、アクセルは僅かに殺気を緩めた。ソウルゲインを越える巨体の化け物から老人の姿にへと変わった。それだけでアクセルの中ではアインスト、もしくはインベーダーに属する化け物であり殺す対象なのだが、ヴィンデルとレモンの元へ案内するという言葉。そして損傷しているソウルゲインと1年にも及ぼうかというサバイバル生活で体力・精神力共に磨耗している今の自分では勝てないと悟り、ソウルゲインの手の中にいる化け物に従わなければならないと言う状況に強い不快感を露にしていた。

 

『ほっほっほ、若い、若いのう? 永遠の闘争なんて物を求める割には若い。ワシが何者であれ、このように争乱を起すのならばそれはお主らの望み通りじゃろうに』

 

「俺が求めているのは、コントロールされた争いだ。無秩序な争いではない」

 

『はっ! はははははははッ!!!!』

 

「何がおかしい、化け物」

 

『制御出来る争いなどはありはしないわ。憎み、蔑み、嫉み、裏切り、血に濡れた殺戮こそが闘争の本質。戦いの中で人間の業は明らかとなり、血は血を求め、死は死を呼び寄せる。カカカカカカカカッ!!! お主らの思想の愚かさ、それがワシには面白くてしょうがないのよ。だからあの若造の頼みを聞いてやったのだ! トウコツの奴も言うじゃろうなぁ。争え、戦え、逃げるな、戦い続けて血を血で洗え! そしてその上で死ね! その骸はこのワシ饕餮が喰らってやろうぞ。クヒャヒャヒャッ!!!!』

 

「化け物め」

 

赤黒い瘴気を放つ饕餮を見てアクセルが思わずそう吐き捨てると饕餮は鋭い歯をむき出しにして、更に笑い出した。

 

『ひゃひゃひゃ、それは褒め言葉かのう? それともワシが人間に見えるかの?』

 

「見えるか、化け物」

 

『ひゃひゃひゃッ!! 安心したわい。これで人間等と言われたら、笑いすぎてワシは死ぬ所だ!!』

 

狂ったように笑い続ける饕餮。その姿を見てアクセルの脳裏を過ぎったのはアインストやインベーダーに食われ化け物になっていった仲間、そして敵だったはずの軍人が寄生されながら殺してくれと懇願する姿だった。

 

(ヴィンデル。お前こんな奴らと手を組んで何をするつもりだ――これではあちらと何も変わらんぞ)

 

あちら側ではコントロールが出来ないアインストとインベーダー、そしてベーオウルフによってシャドウミラーは敗走を繰り返した。今度はあんな間違いをしない為にここまで時間を掛けて準備をしたはずなのに、アインスト達に匹敵……いや、明確な知性と悪意を持つだけこの饕餮のほうがよっぽど化け物だと思っていると、饕餮が声を上げた。

 

『ほれ、あれがアースクレイドルじゃ。お主の愚かな同胞が待っておるな』

 

「ふん、化け物が人の事を化け物と罵れるほど上等か?」

 

『はははッ! これは一本取られたなッ! ワシなんざ食欲最優先だからのう……確かに人の事は言えんわ!!』

 

アクセルの言葉が何か琴線に触れたのか楽しそうに笑う饕餮。その顔は本当に楽しそうで、馬鹿にされたとも挑発されたとも感じていないのは明らか。強いて言うのならば、粋がっている子供を見て、調子に乗っていると感じている大人と言うべきとも取れる表情を浮かべていた。その顔を見てアクセルはもう1度化け物めと心の中で呟き、饕餮の案内でアースクレイドルにソウルゲインを向かわせる。

 

「アクセル。無事……とは言えないわね。何よその顔」

 

「レモンか、ずっとサバイバル生活でな。身嗜みに気を使っている余裕など無かったんだ」

 

無精ひげにぼさぼさに乱れた髪、そして薄汚れた服を見て眉を顰めるレモンだが、アクセルは1年近くサバイバルをしていたのだ。身嗜みを整えている余裕などは無く、こうなっているのは当然でそれに文句を言われる筋合いなど無かった。しかしアクセルはレモンの嫌そうな顔よりも饕餮を出迎えた若い男の存在の方が気になっていた。

 

「饕餮様。お疲れ様です」

 

額に角の生えた男が饕餮に必要以上にへりくだり、恐れを伴った視線を向けながら深く頭を下げたのだ。

 

「おう、出迎えご苦労。準備は出来ておるかの?」

 

「はい、饕餮様のご要望の若い女の鬼をご用意しました」

 

「ひゃひゃっひゃ、それは良い。ではな、アクセル。お主らの行く末でワシらを楽しませて見せよ」

 

そう笑い角の生えた男と共に格納庫を後にするアクセル。若い女と聞いて一瞬好き者か? と思ったが、涎をたらすその姿は情欲よりも食欲を刺激されているように見えた。

 

「おい、レモン。なんだ、あの化け物は」

 

「何って見た目通りよ。若い女を抱きながら食い殺すおぞましい化け物よ」

 

レモンの言葉のすぐ後に艶声と苦しみ泣き叫ぶ男の声が響き渡った。その声は饕餮を出迎えた角の生えた男の絶叫だった――その声を聞いて、そちらに向かおうとしたアクセルの腕をレモンが掴んだ。

 

「行ったら殺されるわよ」

 

その目を見れば、その言葉が冗談ではないのは明らかで、アクセルは大きく舌打ちを打った。

 

「……ちっ、なんだ。この様は、これではあちら側と変わらんぞ」

 

「そうね、私もそう思うわ。でもヴィンデルはそれで良いと思ってるみたいよ」

 

「ヴィンデルの所に「先にお風呂で垢を落として髭くらい剃って来なさい」……判った」

 

自分の言葉を遮り押し付けられたタオル。その中に包まれている金属的な感触を感じたアクセルは文句を言わず、レモンに案内されるまま空き部屋に案内され、その中でシャワーを浴びる振りをしてタオルに包まれていた小型端末を起動させた。

 

「……なるほどな、大体は理解したが……迷走が過ぎるぞ、ヴィンデル」

 

人智を越えた相手を利用し、それらを同士討ちさせ、漁夫の利を狙う。その考え自体は判らないでもないが、百鬼帝国はアインストやインベーダーに匹敵する脅威だ。それを利用しようと考えているヴィンデルはアクセルから見ても無謀にしか見えず、苛々した様子で端末を投げ捨て、アクセルはシャワーを浴びながら何故ヴィンデルがそんな考えに辿り着いたのか、そしてそれが勝算のある計画なのか――それを問いただす事を決めるのだった……。

 

 

 

ソウルゲインの回収――それはヴィンデルが探し続けていたアクセルの帰還を意味していた。Wー15を投入し、連邦軍の出鼻を完全に挫くよりも、ソウルゲインを修理し、アクセルを戦線に投入する方が確実と考えていたヴィンデルだが、レモンのドクターストップに忌々しそうに眉を顰めた

 

「何? アクセルを動かさないというのか?」

 

「逆に聞くけど、1年もサバイバル生活をしていて、肉体も精神もギリギリまで磨り減ってるアクセルを戦線に投入できると思う? 今シャワー浴びてるけど、相当酷いわよ? アクセルの今の状態」

 

「……ちっ、やはり最後の戦いが響いているか」

 

こちら側に転移する前のベーオウルフとの最後の戦い。あの場には武蔵もいたが、それでもアクセルのダメージは深刻だったようだ。

 

「そのままオペレーションSRWで武蔵と戦っているし、しかもその後で治療も受けずに自己流の応急処置と完全な栄養不足。これでアクセルを戦わせるって言ったら流石の私も切れるわよ」

 

簡易のスキャンデータを見せられればヴィンデルも諦めざるを得なかった。

 

「W-15は?」

 

「調整は完了しているわ。後はマシンセルが参式に定着するまで36時間って所ね」

 

「ではマシンセルが定着次第送り出せ。連邦軍が敗走を続けている今を利用して万全な状態で送り出すんだ」

 

「はいはい、判ってますよ」

 

百鬼帝国の戦力である百鬼獣、そして四邪の鬼人、四狂の鬼人の投入によって連邦のタイムスケジュールは最早意味を成していない。それでも作戦の失敗を認めず、キルモールを続行しようとする上層部の愚かさ――それはヴィンデルの嫌悪する権力の一極化、そして軍人を捨て駒としか思っていないと言う証だった。

 

「このままの状況で行けば私達の思想に共感する者も出てくるだろう。その為には百鬼帝国だけに戦果を上げさせる訳には行かないのだ……与えられた平和、それがどれだけ脆く儚い物か、それをこの世界の住人は知る必要がある」

 

「平和になれば癒着と腐敗が広がるから?」

 

「そうだ。その結果が私達の世界の崩壊だ」

 

上層部の愚かさを知れば、権力と金だけに拘る上層部に対する不満も高まる。そうなれば自分の思想に共感する者もいるだろう、平和こそが腐敗の始まりだ。人類は常に争っていなければ、権力による横暴が始まる。そうなればヴィンデルのように戦いの中でしか生きれない者はその行き場を失う、そしてそれだけではなく一部の上流階級だけが全てを得ると言うのは許されないとヴィンデルが高説を続ける。

 

「ヴィンデル。愚かと言うが、お前もそうなりかけているのではないか?」

 

「アクセル……どういう意味だ?」

 

首からタオルを下げたアクセルがブリーフィングルームに入るなり投げかけた言葉にヴィンデルは眉を顰めた。

 

「あんな化け物と手を組んで本当に俺達の思想は叶うのか?」

 

アースクレイドルで短い間だが見た、人外の存在。そしてあのおぞましい絶叫と醜悪な老人――それら全てがアクセルにあちら側の破滅を思い出させた。そんな存在と手を組んでいるヴィンデルに批判的な意見を向けるアクセルだったが、ヴィンデルはアクセルの言葉を聞いて納得したように笑った。

 

「大丈夫だ。化け物には化け物同士で潰し合って貰う」

 

「そう上手く行くのか?」

 

「行く。百鬼帝国はゲッターロボを憎んでいる、それを利用しない手はない」

 

百鬼帝国は言われなくてもゲッターロボを狙う。そしてゲッターD2の力を考えれば百鬼帝国相手でも十分に勝利を掴む事が出来るだろう。仮にゲッターD2が敗れても百鬼帝国もそれと同等に戦力を疲弊する筈――そこを叩けば百鬼帝国を下すことは十分に可能だと断言するヴィンデル。

 

「そうなると武蔵の信頼を失うぞ」

 

「それも対策は考えている。W-16との連絡は付かないが、武蔵と共にいるのは確実だ。仕込んでいるウィルスを起動させ、ゲッターD2を停止させ回収する。その後はリマコンでこちらの手駒に加えればいい」

 

理想論。そして不安要素やイレギュラーを考えていない自分達に都合の良い展開だが、レモンの事だからW-16――エキドナがいなくてもゲッターD2に施している仕掛けを起動させることも可能だろうとアクセルは判断した。

 

「まぁ良い。お前の計画が完璧だと言うのなら良い」

 

百鬼帝国の対策も出来ていると聞いてアクセルはそれ以上深追いせず、手にしているスポーツドリンクの封を切って、中身を口にする。

 

「それでアクセル。今まで何をしていたの?」

 

本当はもう少しヴィンデルの説得を試みて欲しかったレモンだが、アクセルにその気がないのを感じ取り何をしていたのかとアクセルに問いかける。

 

「武蔵の協力でゲシュペンスト・MK-Ⅲを完全に粉砕してきた。代わりにソウルゲインも片腕を失ったがな。その後は武蔵の言っていた通りだ、オペレーションSRWになしくずしで巻き込まれ、下手を打って地球に墜落した訳だ。ソウルゲインでなければ俺は死んでいたな」

 

「道理で身体もボロボロなのね。ソウルゲインの膝も肘もボロボロだし、良く無事だったわね」

 

生身での大気圏突破、しかもソウルゲインは大破した状況で良く五体満足で突破出来たとレモンは正直感心していた。

 

「ソウルゲインが大破したのはR-SWORDと交戦したからだ。忌々しいが、饕餮が割り込まなければ俺は死んでいたな」

 

R-SWORDと交戦した――それはイングラムが明確な殺意と敵意を持ってアクセルを殺しにかかったという事を意味していた。

 

「やっぱりそうなったのね」

 

「想定内だ。あいつらとてこの世界では死人。好きには動けまい」

 

元々あちら側を脱出する前の共闘だ。無事にあの世界を脱出した今敵対するのは当然の事だった。だからアクセルの報告を聞いてもヴィンデルには何の動揺もなかった。むしろ、この世界では死人なのでその意見は弱いだろうと考えていたのだが、次のアクセルの言葉に眉を細めた。

 

「俺がお前達の顔を思い出したのは1週間ほどまえ、転移した際に記憶を一部俺もイングラム達も失っていた」

 

「え? 私達はそういうの無かったけど?」

 

「時間軸の問題なのだろう。だからイングラム達は俺達の顔を思い出せない、あいつらが思い出す前に大きく動くなら今の内だぞ」

 

自分が思いだしたのだから段階的にイングラム達もヴィンデル達の事を思いだす。そうなれば、永遠の闘争を掲げるヴィンデル達は狙われる。その前にある程度の土台を作っておけと言うアクセル。

 

「なるほど、ではW-15を送り出した後に動ける範囲で勢力を広げておくとしよう」

 

「そうしておけ、この世界では随分と武蔵の発言力がある。リクセントが全面的に武蔵のパックアップを公表している、早い段階でリクセントは押さえておけ、面倒なことになる」

 

「それは判ってるから心配ないわ、それよりもアクセルの方が今は不味いんだからそろそろ素直に休みなさいな」

 

レモンに休めと言われたアクセル。だがそういわれるのも当然だ、目の下には深い隈があり欠伸をかみ殺しきれていない……逃走といつ見つかるかという周囲を警戒し続けていたアクセルはレモンとヴィンデルに出会った事でその緊張の糸が切れてしまったのだ。深い睡魔に襲われている表情のアクセルだが、最後に1つだけ教えろとヴィンデルとレモンへ問いかけた。

 

「……『こちら側』のベーオウルフはどうなっている?」

 

武蔵達から話を聞いているのでベーオウルフ――キョウスケ・ナンブがいる事を知っているアクセル。1年近くの間接触を試みたが、それが出来ないでいた。あちら側とこちら側が違うと知っていても、それを聞くまでは安心して眠れないとアクセルの目が2人に訴えかけていた。

 

「現在の奴の所在は押さえている。今はスペースノア級戦闘母艦……ハガネにいる」

 

「それにWナンバーの1人にマークをさせてるわ。だから余り心配しなくてもいいわ」

 

場所も割れている、最悪の場合処理も出来ると聞いても、皺の寄ったアクセルの眉は離れる事はなかった。

 

「……それなら構わないがあの人形達で大丈夫なのか? 下手を打てば……俺達の場所を逆に特定されるぞ」

 

「ふふ……あなたなら絶対にそう言うと思って、人選は拘ったのよ? Wシリーズの最高傑作……ラミアなら文句はないでしょう?」

 

「どうかな。俺が奴らを評価していない理由……」

 

「何? 何かあるの?」

 

「いや、警戒しているならいい。悪いが俺は少し休む」

 

まだ言いたい事はあっただろうが、疲労が限界を超えたのかレモンとヴィンデルに後は任せるといってブリーフィングルームを後にした。

 

「流石に言えないわよねえ?」

 

「そうなるな。私達の始まりだからな」

 

本当はアクセルに話そうとしていた事――月で確認されたガルガウ。それはあちら側でシャドウミラーが結成された理由であり、アクセル達が数多くの戦友を失った戦いが始まろうとしていたのだ。

 

「どうする?」

 

「ハガネと百鬼帝国の対抗馬にもなってくれるだろう。暫くは様子見だ」

 

あちら側とこちら側。その差異を調べる為にヴィンデルはインスペクターの襲来を予期しつつも、それを伝える事も戦力の分析データも百鬼帝国に伝える事はなかった。今は協力関係にあっても、後に戦う事になるのだ。そんな相手にヴィンデルは伝える事など何もない、むしろ潰しあってくれれば好都合とまで思っているのだった……。

 

 

 

 

 

中国の奥地で共工王を迎え入れたブライの姿は巨大空母型の百鬼獣戦空鬼の中にあった。玉座に腰掛け書類に目を通していたブライの前に怒り心頭という様子の若い女が立ち塞がり、ブライの手にしている書類を奪い取った。その背後には女を止めようとした百鬼帝国の兵士が胴体から両断され、鮮血の中に沈んでいた。

 

「鬼。これはどういう事だ」

 

「ほほお? 随分と愛らしい姿になったな。共工王よ」

 

凄惨な殺害現場が後で起きているのにブライは眉1つ動かさず、からかうような言葉を投げかけた。

 

「貴様が何かしたのだろう?」

 

「おいおい私はただ肉体を与えただけだ。写し身は男の鬼を与えた、そうだろう? それはお前の魂の質によって変質した物だ。私のせいではない」

 

ブライが行なったのは共工王がこの世に現界するための器と不安定な魂魄を安定させる為の生贄を用意しただけだ。それ以外は何もしていない、共工王が若い女の姿になったのは共工王自身の問題だとブライが言うと共工王は思い当たる節があったのか、手にしていた書類を机の上に戻し、不機嫌そうに鼻を鳴らすだけだった。

 

「まぁ良いだろう。お前は約束通り肉体を与えた、仮初の肉体なのだから性別などはどうでも良いか」

 

「判ってくれたようで何より。魂魄は安定したかね? もしまだ不安定ならば、もう少し生贄を用意するが?」

 

「いや、今はいい。余り一気に取り入れすぎても不安定になるだけだからな」

 

超機人は全て「五行器」と言う自然エネルギーで稼動する無限動力を内包している。四罪の超機人である共工王の五行器は操縦者を有しない変わりに定期的に他の機人を喰らい、その魂を吸収する必要がある。それが機人喰らいの四罪の超機人なのだ、機人を喰らわずとも鬼を喰らい魂魄を取り入れれば問題なく活動出来ると言うのは、饕餮で既に判明している。だからこそブライは封印もしくは魂だけになった超機人に器を与え、生贄を与える事で仲間に引き入れてきたのだ。

 

「私の肉体はどうなる?」

 

「しばし時間をいただこう。有象無象で良ければすぐに用意するが……そうなると強い力を発揮するのは難しくなる。お前の好みに合わせて肉体を用意した方が言いと思うのだが、どうだろうか?」

 

ブライにとっても超機人に百鬼獣の肉体を与え、マシンセルにより更に変質させるという製法で超機人を擬似的に再現する以上、マシンセルを投入する最初の素材というのは非常に重要になる。弱い素体では共工王の力を発揮できない所か、足枷にすらなりかねない。戦空鬼には豪腕鬼などの量産型の百鬼獣は多数搭載しているが、焦って弱い肉体で共工王を復活させても量産型の百鬼獣に毛の生えたくらいでは態々中国の奥地まで行って共工王をスカウトに行った意味がない。故にワンオフの百鬼獣を作るのを待てと共工王に告げる。

 

「そう言う物なのか。判った、ならば待とう」

 

「判って貰えて何より。それよりもだ……こうして肉体を与えたのだ。2つほど私の頼みを聞いてくれないかな?」

 

ブライの言葉に共工王は楽しそうに笑みを浮かべた。

 

「なんだ、対等な関係と言っておきながらいきなり命令か? たかが知れるぞ鬼」

 

「私は肉体と生贄を用意した、故に2つだ。私が労力を裂いた分、そちらも労力を提供して欲しい。それだけだよ」

 

対等な関係なのだから自分が動いた分だけ、共工王にも動いてくれというブライ。それは確かに理に叶っている、一方的に与えられた物を受け入れるだけでは対等な関係とは言えない……。

 

「良いだろう。私に何をしろというのだ?」

 

「何そう難しいものではない。水神である共工ならば簡単な話だよ。肉体が出来てから海中に沈んでいるある物を2つほどサルベージして欲しいのだよ」

 

「なんだ、それだけでいいのか?」

 

「ああ、それだけで良いんだ。頼めるかね?」

 

共工王はブライの頼みに拍子抜けしたようだが、ブライにとっては海中に沈んでいる物をサルベージする為に共工王を復活させたのだ。勿論他の「四罪」「四狂」の超機人も復活させるが、それよりも先に共工王を選んだのは今の技術力では海溝の奥深くに沈んだ物をサルベージ出来なかったからだ。

 

「良かろう。その程度の頼みごとならば聞いてやるさ。その代わり私の肉体を早く用意するのだぞ?」

 

「勿論だ。アースクレイドルに到着したらすぐに取り掛かろう」

 

ブライから言質を取った共工王は踵を返し引き返していく、これ以上話す事はないと言う不遜な態度だが、神を名乗るのだから必要以上に媚び諂わない実力で周囲を黙らせるその態度にブライは好感を抱いていた。

 

「さて、五本鬼よ、そろそろ再びお前の出番だが……次はないと判っているな?」

 

「は、ははは、はい!! わ、判っております」

 

ビアンの姿になっている五本鬼が地面に頭をこすり付けるように土下座をする。その顔は青く、冷や汗さえも浮かんでいる。

 

「本来ならばクロガネを奪取してから計画を進めたかったが、そうも言ってられん」

 

ケースEの発令によって地球の内外の警戒は大きく高まった。そうなるとクロガネを奪取するよりも先にハガネに合流される可能性がある。一度は轟沈寸前に追い込んだがそれは戦力が不足していたから、ヒリュウ改と合流し戦力が整えば状況は互角になる。それをさせないためにもクロガネを――強いて言えばビアン達を孤立させる必要があった。

 

「良いな。2回までは許そう、しかし3回目はないぞ」

 

「は、はい!! 必ず、必ずや!! 大帝のご期待に応えて見せます!」

 

「ならば行け、私の合図が合ったらすぐに動き出せ。私の期待を裏切るなよ」

 

引き攣った顔で返事を返し、逃げるように玉座を出て行く五本鬼。その姿をつまらなそうに見つめ、机の上の2枚の写真に手を伸ばす。

 

「裏切り者は許さない。その罪はお前たちの命で償って貰うぞ」

 

写真に収められていたのは胡蝶鬼――新西暦では「キジマ・アゲハ」と名乗っている女優と、テスラ研の主任研究者という立場を手にしている鉄甲鬼「コウキ・クロガネ」――裏切り者の2人を許さないと口にしたブライは写真を握り潰し、その瞳に強い怒りの色を浮かべるのだった……。

 

 

 

 

 

 

百鬼帝国が徐々に勢力を強めて行っている頃――宇宙では……。

 

「なんだい、ヴィガジ。地球人にここまでやられたのかい? あーあ、みっともないったらありゃしない。こんな様で良くリーダーなんて名乗れたね」

 

「五月蝿いぞアギーハッ!」

 

大破寸前のガルガウを見たアギーハに罵倒され、額に青筋を浮かべて怒鳴り声を上げるヴィガジは、アギーハに掴みかかろうとしたがシカログがヴィガジとアギーハの間に割り込み、ヴィガジを無言で睨みつける。

 

「俺に逆らうというのか?」

 

「……ッ」

 

「シカログ、やっちゃってよ! 調子乗っているヴィガジは1回痛い目を見た方が……ああ、もう見てたね。あははッ!」

 

一触即発という雰囲気のヴィガジとシカログ。その後でヴィガジを煽るアギーハにヴィガジが拳を握り締めた瞬間、手を叩く音が響いた。

 

「そこまでにしとけよ。アギーハ、ヴィガジが馬鹿をやったのは事実だが、俺達にはホワイトスター制圧って言う大きな仕事があるんだからよ。シカログもだ、もし決闘するなら正式な場でやれ。ここでヴィガジを殴れば、お前の立場が悪くなるぞ」

 

ヴィガジの味方をするわけではなく、独断専行をし、ガルガウを中破させたとは言えシカログよりも上の地位を持つヴィガジを殴ると問題になるぞと言うメキボスにシカログは頷き、アギーハの隣に移動した。

 

「お前もだぜ? ヴィガジ。アギーハとシカログはきっちりスカルヘッドを押さえた。しっかりと命令通りにな、馬鹿にされても当然。それが嫌ならホワイトスターの制圧で挽回するんだな。と言ってもガルガウが使えないから、内部制圧になるから戦果は上げれないけどな」

 

「ちいっ! 判っている!」

 

メキボスの言葉に舌打ちし部屋に引き返していくヴィガジ。その姿を見てメキボスはやれやれという様子で肩を竦めた。

 

「あいつも馬鹿だねえ、ゲッターロボがいないって証明したいのは判るけどさ」

 

「まぁ気持ちは判るけどな。それよりもだ、アギーハ、シカログ。ホワイトスター制圧の時は気を締めていけよ」

 

「どうしてさ? 地球人の軍隊相手にそこまで警戒する必要があるのかい?」

 

「……月面で確認されたゲッター線を俺もヴィガジも確認して無いんだ。偽者のゲッターロボは見たが、じゃあ。俺達が見たゲッターロボとゲッター線反応はどうなる? 月面では自分達が割り込む必要がないと判断しただけで、ヴィガジの戦いを見ていたとしたら? ホワイトスターを制圧しようとしたら動いてくるだろうぜ」

 

「……OK。判ったよ、警戒しとく」

 

「判ってくれて何よりだ。相手は銀河系の星を幾つも滅ぼしたゲッターロボだ。警戒は幾つしても足りないからな」

 

ゲッターロボなんていないと言い切れれば楽だろう。だがそれは叶わない願いだという事はメキボスには判っていた。ホワイトスターを取りに行けば自分達の前に確実に立ち塞がるゲッターロボ――それと戦う事を想像したメキボスは憂鬱そうに溜め息を吐いた。宇宙船の外から見えるバルマーの起動要塞――それを制圧する事自体は簡単な話だろう。しかし戦いの最中で確実に現れるであろうゲッターロボの事を考えると、簡単に制圧出来る筈の要塞だが、行く事は出来ても戻る事の出来ない地獄の入り口のようにメキボスには見えるのだった……。

 

 

 

第49話 怒る海神 その1へ続く

 

 




今回はインターバルミッション。色んな陣営の動きを書いて見ました、ちょっとおかしいだろ? みたいなところがありましたら教えてください。シナリオの前後、時間系列の変更などをしておりますのでもしかすると自分でも混乱している部分があるかもしれないので、指摘していただけると嬉しいです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第49話 怒る海神 その1

第49話 怒る海神 その1

 

 

宇宙の暗闇を進む白銀の鎧を纏った少女の姿をした特機――「ヴァルシオーネ」のコックピットでリューネ・ゾルダークはレフィーナからの連絡を受けて、木星圏から地球圏に戻って来ていた。

 

「やれやれ、やっと戻って来れたよ」

 

ゾルダークの名が示すとおり、ビアンの娘であるリューネの身柄を拘束しようとする連邦軍の暗部、そして反連邦組織による襲撃が余りに多く、1度ほとぼりが冷めるまで地球圏を離れる事にしたのだ。

 

「ったく、親父も親父だよ。戦時特例を受け入れてくれればこんな事にはならなかったのにさ」

 

戦時特例を受け入れず、流浪を選択したビアン。それによって一部の反連邦組織からすればビアンはまだ連邦軍と敵対することを考えているに違いないと思い込み、ビアンを抱え込む為にリューネを人質に取る事を考える者の多いこと多い事、そして後ろめたい事をしている上層部は表舞台に立つ事のない暗部を動かしリューネを人質にとり、ビアンをおびき出すことを考えていた。襲ってきた相手を倒した後、その話を聞いたリューネはビアンに対する憤りを隠せなかった。

 

「親父がどこにいるかなんて知らないっつうのッ!!」

 

武蔵とイングラムを探してあちこち移動していたのも裏目に出たのか、ビアンの命令で戦力を増やそうとしていると誤解されてしまい。面倒事が大きくになる前に地球を離れほとぼりが冷めるまでは木星圏にいるつもりだったが、レフィーナからの助けて欲しいと言う連絡があったので今回地球圏に戻って来たのだ。

 

「しかし……ホワイトスター……か。またここへ来ることになるなんてね」

 

地球圏に戻って来たリューネを出迎えたホワイトスター。地球を見るよりも先に目に入ったホワイトスターに憂鬱な気分になりながら、ホワイトスターの駐在防衛隊の隊列から離れた所に停泊している真紅の戦艦――「ヒリュウ改」を見つけ、リューネはヒリュウ改に通信を繋げた。

 

「ヴァルシオーネよりドラゴン2へ。今からそっちへ着艦するよ」

 

『ドラゴン2了解しました。ガイドビーコンに従い、本艦の後部第2格納庫へ入って下さい』

 

モニターに映ったユンからの指示通りにヒリュウ改の後部から放たれたガイドビーコンに誘導され、ヴァルシオーネはヒリュウ改に着艦する。

 

「さてと、着替えないとね」

 

ヴァルシオーネの操縦はダイレクト・モーション・リンクシステムによる物で、専用のパイロットスーツが必要であり、身体のラインが出る物でヒリュウ改の中をうろうろする訳には行かないと手早く着替えてからヴァルシオーネのコックピットを出てヒリュウ改のブリッジに足を向けるのだった。ただ、ピッチリとしたパイロットスーツとは違うがノースリーブのシャツに短いホットパンツ姿であり、その姿はある意味専用のパイロットスーツよりも扇情的なのだが、リューネはそれに気付く事が無いのだった……。

 

「久しぶりだね、レフィーナ艦長」

 

「ええ。 わざわざこんな所まで来ていただいてすみません」

 

オクトパス小隊が抜け、ヒリュウ改の戦力がギリアムとヴィレッタの2人になってしまったという事――そして地球圏で多発しているテロリストの正体を探るために助っ人として呼んだリューネにレフィーナが頭を下げて感謝の言葉を口にすると、リューネは朗らかに笑いながら気にしなくていいとレフィーナの肩を叩いた。

 

「ううん、困った時はお互い様だからね……所で、ギリアム少佐達は?」

 

てっきり自分が来るのでギリアムとヴィレッタもブリッジにいると思っていたリューネだが、2人の姿は無く、レフィーナ、ユン、ショーンの姿しかなかったので、2人はどうしたのか? とレフィーナに問いかける。

 

「今、本艦のデータルームで調べ物をなさってます。気になる事があるそうなので」

 

気になる事と濁した喋り方をするレフィーナ。一応は民間人なので、軍に狙われるような事にならないようにする為のレフィーナの配慮だった。だがリューネはその配慮を知った上で口を開いた。

 

「百鬼帝国に人造人間でしょ? 知ってるよ」

 

驚いた顔をするレフィーナ。それは執拗に情報封鎖されていて、木星圏にいたリューネが知るはずのない話だった。

 

「ビアン博士ですかな?」

 

「いや、親父とは連絡は取ってないよショーン副長。ただ、バン大佐がね。随分とあたしの事を心配してるみたいでさ、色々と一方通行のメールで伝えてくるのさ」

 

肩を竦めて心配性なんだからと言って笑うリューネ。それに対してショーンはリューネの口から出たバンの名前に眉を細めた。

 

「上層部はテロリストの先導者としてバン・バ・チュン大佐を疑っているようなのですが、どうも違うようですな?」

 

「ま、確かにバン大佐ならって思うかもしれないけど、お門違いだね。バン大佐は親父の強烈な親派だからさ、親父が死んでればそれこそ新しいDCを設立位するだろうけど……親父が生きてるなら、離反する理由も無いよ。むしろ怪しいのはロレンツォ大佐じゃない?」

 

ロレンツォ・ディ・モンテニャッコ――バンの次に上層部がマークしているテロの先導者だ。ラングレー基地の襲撃から姿を消しているが、自ら表舞台に立たず、ヴァルシオンの改造機であるタイプCFをフラグシップにして、再起を宣言する確率はかなり高い。

 

「しかしなんだね。随分と警戒態勢が緩くない? 大丈夫これ?」

 

ヒリュウ改のモニターから見て、警戒網が緩いというリューネだが、量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲにペレグリン級、それに貴重な虎の子のアルバトロス級まで借り出されている。その警戒網に投入されている戦力は非情に強固と言っても良いレベルだ。それでもリューネは警戒網が緩いと言い切ったのは理由があった。

 

「そうでしたね。リューネさんは包囲網を抜けて地球圏を離脱したのでしたね」

 

「そうでもないと、冤罪で投獄されそうだったからね」

 

ビアンをおびき出したい上層部に追われていたリューネは包囲網がもっと厳重な時にL5宙域を抜けて木星圏に向かっている。その時の事を考えれば、今の防衛網は余りにも手薄だった。戦力こそは整っているが、陣形はぐちゃぐちゃ、主砲・副砲を機体内部に格納している戦艦も多く、とても防衛隊と言えない有様だった。

 

「仕方ありません。百鬼帝国の襲撃で連邦軍は敗走を続けておりますからな。動かせる機体の殆どはデザートスコールに回されましたし、ここの駐在司令が今度の異星人は地球に隷属の為に来るなんて公言する馬鹿ですからね」

 

「それって凄い本末転倒な気がするし、本当上司に恵まれないね。レフィーナ艦長」

 

リューネの言葉にショーンは返す言葉もありませんなと苦笑いを浮かべた。ケースEを発令しておいて、宇宙の駐在軍を地球に降下させる。宇宙からの襲撃者に気をつけろと言っておいて、その命令は余りにも辻褄の合わない奇妙な命令だった。しかもホワイトスター駐在軍はエアロゲイターを退けたのだから、今度の異星人は地球の武力を恐れ下手に出て来ると考えている馬鹿ばかり――上官に恵まれないにも程があるとリューネが言うのも当然だった。

 

「エアロゲイターを退けたから、今度は大丈夫と思っているのかもしれませんね」

 

「それなら最悪だね、そういう時は足元を掬われるよ。凄く嫌な予感がする」

 

宇宙の闇の中に浮かぶ白き魔星――「ホワイトスター」それを見てリューネは眉を細める。今は警戒態勢命令が出ているが、リューネの勘は警戒態勢では駄目だという事を感じ取っていた。

 

「レフィーナ艦長。悪い事は言わないよ、臨戦態勢に入っていた方が良いよ」

 

「……それは勘ですか?」

 

「うん。でもあたしはこの勘のおかげで連邦からも反連邦からも逃げ切れた。命令違反になるかもしれないけど……最悪の事を考えたほうがいいと思う」

 

展開されている部隊、そして警戒網――それは余りにも稚拙、そして穴だらけに見えた。

 

「副長」

 

「ええ、私もリューネ嬢と同じ考えです」

 

ショーンの同意を得たレフィーナは目を閉じて、小さく溜め息を吐いてからユンに指示を出した。

 

「すべてのクルーに対衝撃、閃光防御命令を、それと機首回頭。主砲副砲を……」

 

そこで言葉を切ったレフィーナは少し考え込む素振りを見せ、現在の展開位置。そして待機しろと言われた位置――そして自分が敵の将ならばと考えを巡らせる。

 

「ヒリュウ改上面に合わせて下さい。対空機銃は本艦後方、ミサイルは前面と左右に対応出来るように発射準備」

 

月面で見た空間転移――それを考えれば一方向からの襲撃というのはありえない。多面的に、そして部隊の同時展開をしてくるとレフィーナは読み、基地司令から命令違反を疑われない範囲で戦闘準備に入るのだった……。

 

 

 

 

一方その頃、ギリアムはデータ室で解析作業を続けていた。しかし調べているのはオペレーションSRWの間に出現した正体不明の特機――そして地球で確認されたと言う量産型のゲシュペンスト・MK-Ⅱ、そしてアルブレードの事だった。

 

(オペレーションSRW中に確認された『マスタッシュマン』……いや、アースゲインの改良機か)

 

ギリアムは知っている機体とは細部が違うが、原型になった機体をギリアムは知っている。存在しない筈の機体、そしてありえてはいけないアルブレード、ゲシュペンスト・MK-Ⅱにギリアムが長い間危惧していた最悪の展開が現実味を帯び始めてきていた……。

 

(この可能性は十分に考えていた……しかし、この状況では最悪と言わざるを得ないな)

 

百鬼帝国の復活、アインストを名乗る謎の異形、そしてゲッターロボが敵意を露にした化け物――そこにギリアムの業によって導かれた新たな組織……地球圏に広がる争乱を更に広げる切っ掛けを自分が齎したと知り、ギリアムの表情は酷く曇った。

 

(そして、アンノウン……月で接触した謎の特機……系統から見て、彼らとの関係はなさそうだが……)

 

地球の技術力で作られた機体ではないと言うのは判っている。そしてそれがエアロゲイターでもないと言うことも判っている……そして恐らくだが、月に出現した謎の特機が何処で作られた機体かもある程度の予想はついている。

 

「……こんなあやふやな記憶では何も言えんな」

 

しかしだ、そこでギリアムは襲うのが武蔵達と同じ症状――世界を超えたことによる記憶への干渉だ。ギリアムもまた無数の世界を渡り歩いた者――決して忘れないと誓った「戦友」の記憶こそ色濃く残っているが、それ以外の部分があやふやとなっている。そのあやふやな記憶の中に見た機体と月面に出現した恐竜型の特機「ガルガウ」に似た機体を見たような気がするのだが……それをはっきりと思い出せないでいた。

 

「少佐、タイプRの調整が終わったわ、どうかしたの?」

 

データ室の扉が開いた事にも気付かないほどに考え込んでいたギリアムだが、ヴィレッタの声でハッとした表情を見せた。

 

「すまない。考え事をしていた。それより機体の方は問題はないか?」

 

ゲシュペンスト・MK-ⅡタイプRを宇宙に出てから使っているヴィレッタだが、宇宙での戦いは想像以上に激しくタイプRに僅かな不調が見え始めていた。

 

「とりあえず整備班が奮闘してくれたから大丈夫そうだけど……流石に1回オーバーホールが必要かもしれないわ……所で、そのデータは?」

 

ヴィレッタはギリアムが見ていたデータに視線を向けた。ギリアムはそれを見やすいように大画面に映しながら、自分が何を調べていたのかをヴィレッタに告げた。

 

「マオ社を襲撃した例の特機だ。マスタッシュマンとの関連性を調べていた」

 

「マスタッシュマン……連邦軍やエアロゲイターの物ではない謎の機体ね。確か月面で武蔵と一緒に戦っていたんだったかしら?」

 

セレヴィスシテイの望遠カメラでゲッター1と共に異形の化け物と戦っている姿が記録されていた。

 

「その通りだ。謎の異形の化け物と交戦していた事からメカザウルスの一種が月面にいたと上層部は判断したようだが……あの時の戦いで判った。武蔵達がオペレーションSRWの時に戦ったのは、ストーンサークルから出現した化け物と同種の生き物だろう」

 

オペレーションSRWの最中、武蔵と教導隊メンバー、そしてハガネ、クロガネ、ヒリュウ改が分断された時――化け物になったゲッターロボらしき存在を確認していたが、あの時は新種のメカザウルス程度にギリアムもヴィレッタも感じていた。だがストーンサークルから出現したアインスト、そしてその後に出現した全身に目玉を持つ異形を見て、初めてあれがメカザウルスではないという事を悟ったのだ。

 

「少し見ただけだから思い出せなかったが、こうして見ると間違いないな」

 

「……そうね。一体なんなのかしら? あの化け物……」

 

餓え続けている化け物。機体も人間も何かも喰らおうとしていたその邪悪とも取れる貪欲な姿――それは生理的嫌悪感を呼び起こし、歴戦の戦士であるギリアム達ですら恐怖を覚えざるを得ない姿だった。

 

「あの化け物とマスタッシュマンと何か因果関係でもあった?」

 

「いや、武蔵と共闘していたという事を思い出したので見てみたんだが……因果関係はなさそうだな」

 

ゲッターロボと比べても洗礼されたシルエットをしている上に、未知の攻撃機構を内蔵している点からゲッターロボと同じく旧西暦の機体であるという線は消えた。それ自体はL5戦役終了後に判っている筈の事だった――それなのに再びそれを調べているギリアムにヴィレッタは1つ踏み込んだ問いかけをした。

 

「少佐はマスタッシュマンを知っているのかしら? 酷い顔をしているわよ?」

 

明らかに表情が強張り、敵対の意を見せているギリアムの姿にヴィレッタはマスタッシュマンとギリアムの間に何らかの因縁があるのを感じ取っていた。ヴィレッタに指摘され、黙り込んだギリアム。暫く黙り込んだギリアムは搾り出すように口を開いた……。

 

「すまない。今はまだ……君にも教えられん」

 

なんらかの因縁があるが、それを教える事は出来ないと告げた。それは嘘はつきたくなく、しかし本当の事も言えないと言うギリアムなりの妥協案だった。

 

「……判ったわ。それなら深くは聞かない」

 

「すまないな……マオ社を襲撃した特機に関して君の見解を聞きたいのだが……良いか?」

 

あからさまに話題を変えてきたギリアム。それは普段のギリアムらしからぬ物で、それだけ触れて欲しくない話題なのだと判り、ヴィレッタは深く問いただす事をせず、ギリアムの質問に答えた。

 

「エアロゲイターの機動兵器でないことは確実ね」

 

「やはりか……ではL2宙域に現れた機体に乗っていたバイオロイドについては?」

 

ギリアムはヴィレッタがイングラムのクローンであると言う事を知っている。そしてイングラムが持ちえるエアロゲイターの知識も全て持ち合わせていること知っているからこそそう問いかけた。そしてヴィレッタはギリアムがそれを知っているからこそ嘘偽り無く返事を返した。

 

「……アーチンは確実に違う。バイオロイドはエアロゲイターのものじゃない。そしてテロリストの物でも、百鬼帝国の物でもない」

 

ギリアムとヴィレッタだけが知る話――決して公に出来ない情報を持つ2人が知る情報を交換しているとデータ室に警報が鳴り響き、ヒリュウ改の船体が激しく揺れる。

 

「敵襲警報……ッ! まさかッ!?」

 

「最悪の展開だ。ヴィレッタ行くぞッ!!」

 

その警報が何を意味するか、それは考えられる中で最悪の展開になったという事を示しており、2人は弾かれたように格納庫に向かって走り出すのだった……。

 

 

 

 

 

『全艦、第一種戦闘配置ッ! 繰り返すッ! 全艦第一種戦闘配置ッ!  これは演習ではないッ!』

 

ホワイトスター駐在軍司令の焦りに満ちた戦闘配備につけと言う声が響くが、不自然に広く警戒網を取っていた防衛隊の初動は遅く、正面・左右から機動力に長けたフライトユニット装備型のゲシュペンスト・MK-Ⅱと、その後を続くランゼン、対艦装備をした量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲに簡単に包囲網を抜けられて、擦れ違い様の対艦ミサイル、ライフルの一撃で格納庫とカタパルトを潰されホワイトスター駐在軍はただの的に成り果てていた。

 

「主砲! 副砲ッ! 照準合わせッ! てぇッ!!」

 

そんな中で警戒していたヒリュウ改だけが素早く反撃に転じ、正面から突撃してくるゲシュペンスト・MK-Ⅱ・F装備とランゼンの突撃を防ぎ、E-フィールドをフルパワーで展開し対艦ミサイルと対艦ライフルの一撃を防いだ。

 

『レフィーナ中佐。私は戦闘配備など命令……ぐうっ!?』

 

自分の命令も無く戦闘配備を取っていたレフィーナを叱責した駐在軍司令だが、対艦ミサイルの爆風にペレグリンの船体が大きく揺らされ最後まで叱責の言葉を口にする事はなかった。

 

「やれやれ、面子などに拘っている場合ではないと言うのに……さてどうしますかな? 艦長。随分と司令が怒っているようですが?」

 

「ペレグリンとの通信は無視してください。今は互いの面子などに拘っている場合ではありません、ギリアム少佐達に出撃命令を出してください。その後第一種戦闘配備ッ!」

 

ケースEが発令されている段階で第一種戦闘配備をとるのは当然。それなのに戦闘配備は愚か警戒態勢すら取っていなかった駐在軍司令の筋違いの叱責などを受ける必要はないと断言した。格納庫を潰されているとは言え、中の機体で格納庫を破壊して出撃することも出来る。それなのに、それすらもしようとしないのを見て、レフィーナを初めとしたヒリュウ改のクルーが落胆を隠せないでいるとホワイトスター周辺を覆うように転移で無数のPT、AMが姿を現した。

 

『何て数だ……ッ! 直ちに月面軍、L4宙域軍に支援要請を出せッ!』

 

それを見て震える声で支援要請を出せと喚く駐在軍司令の声がオープンチャネルで響き、ギリアムは苦い顔をして通信をOFFにして、転移で出現した機体の照合を確認して、苦渋に満ちた声で照合結果を口にした。

 

「照合完了……あれはL2宙域軍第34、 第19、L3宙域第21・35戦闘航宙団の機体だな……今出現したのはセレヴィスシテイの防衛隊の機体だな」

 

『あいつら、 転移してきたけど本当にエアロゲイターじゃないんだね。親父が付けてくれたエアロゲイターの転移レーダーに何の反応もなかったよ』

 

圧倒的な物量で押し潰しに来る戦術――それはエアロゲイターの物であり。L5戦役でも何度も苦しめられた戦法を思い出し、ヴァルシオーネに搭載されているエアロゲイターの転移反応レーダーに反応が無かったのを確認して、本当にエアロゲイターじゃないのを悟り固い声で呟いた。

 

『ええ、先程の転移反応は彼らの物ではないわ。それよりも、これだけの大部隊を送り込んでくるって事はまだ増援が来ると見て間違いないわね』

 

「恐らくな……質量で押し込まれると厄介だ。フォーメーションを確認しながら、孤立しないよう戦闘する事を心掛けてくれ。この戦いの

結果次第では敵の正体を知ることにも繋がるだろう」

 

『了解ッ! 敵の正体が判らないでもやもやしてたからね! これで敵の正体を暴き出してやろうじゃないか!』

 

好戦的な性格であるリューネは確かに数で不利なのは承知だが、ここで敵を倒すことで正体を知ることに繋がるのならばと気合を入れた声でギリアムの言葉に返事を返し、ヴァルシオーネにディバインアームを構えさせる。

 

『好戦的なのは良いけど、突っ込みすぎないでね』

 

「リューネ、見れば判るが多数の敵との戦闘になる。意気込みは買うが、慎重に行動してくれ」

 

ホワイトスターに向かう上でリューネを呼び寄せたのは戦力を増やすと言う目的だけではなく、ヴァルシオーネの搭載している武器――「サイコブラスター」による広域殲滅能力を期待しての物だった。ストーンサークル、そして月面での無尽蔵の増援……それらの事から敵はエアロゲイター以上に人海戦術を取ってくるとギリアムは確信していた。そしてそれが要所である場所であればあるほどに、その可能性は高まると予想していて、そしてホワイトスター駐在軍を取り囲むように展開された無人機の群れを見てそれは確信へと変わっていた。

 

(後はどちらの援軍が先に来るかだが……俺達は敵の術中に嵌ったか……?)

 

駐在軍司令が救援要請を出したが、ホワイトスター周辺警護に当たっていた5部隊の内2部隊の機体が無人機として運用されている――それは救援要請を出した部隊が既に敵の手中に落ちている可能性を示しており、救援部隊が来る可能性――そして敵の増援が先に出現する可能性……それらを踏まえた上でギリアムは詰みに近い状況に陥っているのを感じていた。

 

「レフィーナ中佐。最悪の場合を想定しておいてくれ」

 

『……ギリアム少佐。はい、判っております』

 

最悪の場合――それはこちら側の機体を鹵獲し運用している異星人の目的がホワイトスターの制圧だった場合。これ以上の戦力が投入される事になる……そうなった場合生き残ってその状況を伝える物が必要になる。防衛隊の中で1番足が速いのはヒリュウ改だ。敵前逃亡、命令違反という咎を背負うことになるが、レフィーナに逃げる事を想定しておいてくれと告げ、ギリアムはヴィレッタ、リューネと共に最も数の多い正面からの強襲部隊との戦闘を始めるのだった……。

 

「……どうやら敵はこちらの戦艦集結に合わせ行動を起こしたようですな。こちらの部隊では応戦出来ない数の軍勢を送り込んできております。敵の増援もまだまだ来るでしょうな……責任は私が全て……「大丈夫です。心配ありません副長――すでに私は覚悟を決めております」

 

「……それは失礼しました。ユン伍長、離脱ポイント候補の検索を始めてください」

 

「りょ、了解です!」

 

ホワイトスターは確かに守らなければならない物だ。しかし勝てない相手と戦いを続け、こちらの機体全てを鹵獲される訳には行かない。更にいえばホワイトスターを異星人に制圧されたと伝える者が必要だ……時に屈辱に耐えて逃げること――その判断を下せるかどうかが指揮官に求められる必要な要素となる事がある。ショーンが責任を取るのでと言おうとしたのに、それを遮り命令違反、敵前逃亡を問われる覚悟を決め、全ての責任を取ると言い切ったレフィーナ――その姿は紛れも無く優秀な指揮官であり、艦長としての姿なのであった……。

 

 

 

 

 

ホワイトスター周辺に断続的に発生する爆発――その反応をグレイターキンのコックピットで確認していたメキボスは小さく口笛を吹いた。

 

「中々やるじゃないか、なぁ? ヴィガジ」

 

『ちっ! 忌々しい下等生物如きが』

 

メキボスの問いかけに苛立ちを隠しきれないヴィガジ――その怒りはメキボスとバイオロイドと鹵獲機を破壊しているヒリュウ改に向けられていた。

 

『平均消耗率40%――正面だけは70%越えてるね。随分と精鋭が集まってるじゃないか、これならガルガウが破壊されたのも納得だよ』

 

『一々俺を引き合いに出すなッ!!』

 

「おいおい。そう怒るなよ、ガルガウがそこまで消耗した理由をこっちも知りたいと思ってるだけだろうが」

 

ヴィガジは簡単に制圧出来ると考えていて戦闘データを記録していなかったのでガルガウが中破したその戦いの内容をメキボス達は知らなかった。頭数は減ってるが、それでもガルガウを退けた戦艦――ヒリュウ改の姿を確認したので、想定以上の部隊を展開しメキボスは初手様子見に徹したのだ。

 

(さてと……どうするかね)

 

左右と後方の防衛隊の錬度は明らかに低くかなり深くまで無人機が攻め込んでいるが、正面は完全に足止めをされている――。定石ならば、もう少し無人機を送り出して消耗を待つのが得策だ。技術力ではウォガルが上でも、その応用力は地球人の方が上。慎重に動こうとするのは当然なのだが……。

 

「しゃあねえ、もう少し無人機――いや、駄目だな。あのお方が到着するまで2時間を切った……到着までに制圧しておけとのご指示だ。俺達で制圧する」

 

無人機の増加を考えたメキボスだが、あと1時間強で指揮官が来ると電文があったので作戦を切り替え、無人機ではなくメキボス、ヴィガジ、シカログ、アギーハの4人で駐在軍を壊滅させ、ホワイトスターを制圧する事を決めた。

 

『ふん、お前がとろとろしているからお怒りを買ったのだ。最初から制圧していれば良い物をッ!』

 

『ま、あたしも同意見かな。ゲッターロボは確かに怖いけどさ、出て来る前に制圧しておけば良いんだよ』

 

失った右腕を大型クローから、ゾヴォークの条約でも使用が禁止されている対惑星用大型ビームキャノンに変えたガルガウが先陣を切って行き、その後を追ってシルベルヴィントが進んでいく……。

 

『……間違ってない』

 

「おう、ありがとよ。行こうぜシカログ」

 

『……』

 

「返事しろや……」

 

珍しく喋ったシカログだがメキボスの言葉に返事を返さず、ドルーキンを走らせる。その後姿を見ながらメキボスはもう1度溜め息を吐いた。

 

「くそったれ。嫌な予感しかしねえよ……」

 

元からメキボスはもう少し慎重にホワイトスター攻略に動きたかったのだ。ガルガウを制圧した地球人の兵器――それに出現するかもしれないゲッターロボ……制圧命令は出ているがもう少し時間的な余裕があると思っていたんだけどなと呟き、メキボスもグレイターキンをホワイトスターに向かって走らせた。

 

『地球人に告ぐ……私の名はヴィガジ。文明監査次官だ』

 

解析した地球人の通信チャンネルで呼びかけるヴィガジ。その姿を見てメキボスはほんの少しだけ安堵した――好戦的なヴィガジだが、ウォガルの条約にある声明による警告を行うだけの自制心はあったと思ったのだ……だがその安堵も一瞬で消し飛んだ。

 

『貴様らの言葉で言えば、 異星人となるのかな。最も我々は貴様らが知る所のバルマー……いや、エアロゲイターではない』

 

出してはいけないバルマーの名前を出したヴィガジにメキボスはグレイターキンのコックピットの中で天を仰いだ。

 

『ならば、お前達は『ゲスト』か?」

 

広域通信なので地球人側からの問いかけがメキボス達の機体に届いた。しかし、地球人とウォルガの言葉は異なる。機体に搭載された翻訳機によってメキボス達に判る言葉に変換される。

 

『……『ゲスト』? 『客』とはどういう意味だ……』

 

「ああ、そりゃあれだ。 あの連中のコードネームだろ?」

 

ウォルガを仲介せず、一方的に地球との条約を結ぼうとした共和連合――それの地球側のコードネームだろうとメキボスがヴィガジに指摘する。

 

『なるほどな。では、その呼び方に倣って……我々の事は『インスペクター』とでも呼んで貰おうか』

 

ヴィガジが一歩的に演説しているのを聞きながら、メキボスは注意深くグレイターキンに搭載されているゲッター線レーダーに反応が無いかを調べていた。

 

(頼むぜ……穏便に済ませてくれよ……)

 

武装解除とかに持ち込んでくれと祈りながらゲッター線反応が無い事を祈るメキボス――ゲッターロボのパイロットの説得、そしてウォルガへのスカウト。それが何よりも優先するべき任務だ。地球人はともかく、ゲッターロボと敵対するようなことにはなってはならないのだ。ゲッターロボに乗っている限りは客人として扱い、信頼を得てからゲッターロボとパイロットを引き離す――そうすればゲッターロボは無力化出来る。その流れに持ち込めるように行動は慎重にならなければならないのだが……。

 

『こそこそと人んちの物を掠め取るような真似をして……あんた達の目的は一体何なのさ!?』

 

少女の姿を象った機体からの呼びかけがあったが、少女型の機体に近いドルーキンのパイロットであるシカログは返事を返さない。

 

『ッ!? 何とか言いなよッ!』

 

その事に馬鹿にされたのかと思い女のパイロットの怒鳴り声が響いた。

 

『おい、シカログ! こんな時ぐらい喋れッ!』

 

ヴィガジに怒鳴られてもシカログはだんまりである。無口と言うか――基本的に喋らない男。それがシカログという男だった……優秀ではある、だが社交性と協調性がヴィガジとは別ベクトルで皆無の男なのだ。

 

『全く、何度こんな奴が……』

 

『ちょっと、ヴィガジッ! あたいのシカログをバカにすると許さないからねッ!』

 

シカログを馬鹿にされたと感じ取ったアギーハが怒鳴るが、ヴィガジは鼻を鳴らし、シカログはやはりだんまりを決め込む。地球人側に嫌な沈黙が広がっているのに気付いてメキボスは心の底から深い溜め息を吐いた。

 

『あ、紹介しとくよ。こっちのシブいハンサムがシカログ。あたいのステディさ」

 

『はッ!? ステディッ!?』

 

『そうさ。 で、あたいはアギーハってんだ。短い付き合いになるとは思うけど……一応覚えときな』

 

『ふざけんじゃないよ! この年増ッ!!』

 

『だ、誰が年増だってぇッ!? あたいはまだ……ッ!』

 

少女型の機体に乗っているだけあり、パイロットも女なのだろう。アギーハと口喧嘩をしているのを見て、メキボスはこれ以上静観出来ないと悟り、仲裁に入ったのだが……。

 

「やれやれ、地球人共相手にバンザイ……あれ、何だっけ?』

 

地球の言葉を使おうとして何か違うなとメキボスが考え込んでいると、地球側からコンタクトがあった。

 

『マンザイ……ですかな?』

 

「そう、それそれ。とにかくまともにあいつらの相手をするこたぁねえだろうによ。おっと、紹介が遅れたな……俺はメキボス。一応、リーダーだ」

 

一応上層部から現場リーダーとして任命されていたのでリーダーと名乗ったのだが、その言葉にヴィガジとアギーハが噛み付いてきた。

 

『待て!  いつから貴様がリーダーになったッ!?』

 

『そうよッ! リーダーはとってもシブいあたいのシカログよッ!』

 

『違うっっ!! リーダーはこの俺、ヴィガジだッ!!』

 

命令書見てないのかよとメキボスが肩を落としていると、そのやり取りを見ていた地球人側から失笑が漏れているのが聞こえた。

 

「ほ~れ見ろ。ンなことやってっから地球人に馬鹿にされるんだろうが」

 

ゲッターロボとの邂逅が終わるまでは下等生物と内心侮っていても、地球人と呼ぶメキボス。しかしその内心は下等な地球人に笑われたと言う事に対する怒りで腸が煮えくり返っていた。

 

「こっちの要求は今の所1つだけだ。武装解除して、ホワイトスターを俺達に渡せ、そうすれば命だけは……」

 

『ふん。こんな下等生物達に降伏勧告など必要ないわッ!』

 

ガルガウの目が光り輝き、ゾヴォークの間で禁止兵器となっているビーム砲を駐在艦隊に向ける。

 

「おい馬鹿ッ! 止めろヴィガジッ!!! そいつは脅し用だろうがッ!」

 

『五月蝿いッ! ウェンドロ様を出迎える時に下等生物がいては困るのだッ!!』

 

メキボスの静止を振り切ってガルガウが

雄叫びを上げ、駐在艦隊に向かってビーム砲を打ち込んだ。ホワイトスターを破壊するわけには行かないので、流石に威力は絞っていたが……それでも駐在艦隊を消し飛ばすには十分すぎる威力を持ったビームが撃ちこまれ、駐在軍の艦隊は跡形も無く消し飛んだ。

 

「そいつを使うのは条約違反だろうがッ!?」

 

その光景を見て広域通信で聞こえて来るレフィーナ達の驚愕の声を聞きながらメキボスはヴィガジを怒鳴りつける。だがヴィガジは悪びれも無く、逆にメキボスに怒鳴り返してきた。

 

『地球は俺達の同盟に入っていない、条約違反も何もないッ!! 降伏勧告と武装解除など生温い!!』

 

確かにヴィガジの言う通りではある。だがそれでも査察官として選ばれた以上――自分の行動全てがウォガルのウェンドロの評価に繋がると言う事がヴィガジの頭の中から完全に抜けていた。

 

『貴様らを排除し、ウェンドロ様をお迎えする準備をさせてもらうとしよう』

 

「馬鹿野郎ッ!! まだ使うつもりかッ!?」

 

『ヴィガジ! そいつはやりすぎだよッ!!』

 

ヒリュウ改に砲身を向けるガルガウを見て、メキボスが言葉では止まらないとグレイターキンのビーム砲をガルガウに向けたが……それは余りにも遅かった。本気で止めるつもりならば、条約で禁止されている武器をガルガウに装備させている段階で止めるべきだったのだ。メキボスが己の失態を悟った瞬間、凄まじい勢いで飛来した数発のミサイルがガルガウの右腕に直撃し、ヒリュウ改に向けられていたビーム砲の軌道を逸らさせ、明後日の方向にビーム砲が放たれた。ガルガウの姿勢を崩したミサイルの飛んできた方角を見て、メキボスは自分の足元が崩れ落ちるのを感じた。ヒリュウ改の後方から現れたのは肩部にキャノン砲、背部に巨大なミサイルを2つ背負ったずんぐりとしたシルエットをした巨大特機だった。その姿はウォガル……強いてはゾヴォークに残されていたゲッターポセイドンの姿に酷似していた。

 

『ふん、偽者のゲッターロボ如きがッ!!』

 

ヴィガジはそのゲッターロボを偽者と断じ、ガルガウでゲッターロボに襲いかかった。確かにゲッター線レーダーに反応はなかった……だからゲッターロボではないとヴィガジが判断したのも当然だ。元々ヴィガジはゲッター線もゲッターロボに懐疑的だったからだ今回もゲッター線、ゲッターロボなど御伽噺だと証明してやるといき込んでいた。だからガルガウのゲッター線レーダーは旧式で、正確な探知の出来ない物が搭載されていた。それゆえに現れたポセイドンを姿だけを真似した偽者だとヴィガジは判断したのだ。

 

「馬鹿ッ! そいつは【本物】だッ!! うおッ!?」

 

メキボスの乗るグレイターキンにはウォガル――ひいてやゾヴォークの中でも閑職と呼べるゲッター線研究をしている部門が地球で感知されたゲッター線が真のものなのかを調べる為に新開発した最新のゲッター線レーダーが搭載されていた。それを一瞬で破壊するほどの高出力のゲッター線にメキボスは慌てて制ししたが……それは余りにも遅かった。

 

『フィンガァアアアーネットッ!!!』

 

『なっ!? う、うおおおおッ!?!?』

 

ポセイドン2の手から射出されたネットがガルガウを絡め取り、凄まじい勢いでゲッターポセイドン2の元へと回収される。その勢いで吹っ飛んで来たガルガウをゲッターポセイドン2の豪腕が受け止め、そして肩を握り潰さん勢いで拳を握りこんだ。

 

『大雪山おろしぃぃいいいいいーーーーッ!!!』

 

『う、うおおおおおおーーーーッ!?!?』

 

メキボスの静止の声を掻き消す男の怒号が宇宙に響き、ゲッターロボに掴まれたガルガウの巨体が木の葉のように巻き上げられる。そして即座に両腕から放たれたネットがガルガウの身体に巻き付き、凄まじい勢いでゲッターロボに向かって引き寄せる。

 

『うおらぁッ!!!』

 

『う、うがあああああーーーッ!?!?』

 

そして引き寄せたガルガウの頭部と上半身を纏めて押し潰しながら鉄拳が振るわれ、ガルガウはそのままの勢いでホワイトスターに叩きつけられて沈黙した。グレイターキンに搭載されていたゲッター線レーダーを破壊するほどの高出力のゲッター反応――今自分達の前に立ち塞がるその特機が本物のゲッターロボであることは明らか。そしてヴィガジの暴走によって消し飛ばされた駐在軍の残骸を見て、激しい怒気と殺気を叩きつけてくる姿を見て説得も交渉も無理だと悟った……いや、悟ってしまったメキボスはゲッターロボを見つめて眉を細めた。

 

「本当、最悪だぜ。ちくしょうめ」

 

相手は本物のゲッターロボ――しかも一撃でガルガウを粉砕して見せた。そんな規格外の化け物と無人機と3人だけで立向かわなければならない……ヴィガジの暴走が無ければ説得や交渉の余地もあったかもしれないが……それも最早ありえない。この瞬間インスペクターと武蔵の戦いは避けられない物となるのだった……。

 

 

 

第50話 怒る海神 その2へ続く

 

 




禿(ヴィガジ)無能説が私の中に在るので、ゲッターロボとの交渉を念頭においていて、慎重に行動していたメキボスの行動を全て無駄にしてもらいました。次回はインスペクター3人VS武蔵で書いて行こうと思います。この後は第3の狂鳥に繋げる予定ですが、メキボス以外の相手がリョウト達の相手になる場合もあります、それは全部この後の展開次第ですね。つまり私が書いている時に何を閃くかで大きく展開は左右されると思います。それではメキボス、シカログ、アギーハが武蔵にどう立向かうのかを楽しみにしていてください――ん? あれこれだと武蔵がボスになるような……うん。大丈夫きっと気のせいですね! それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします!


PS

スパロボDDでゲッタートマホーク配布は太っ腹ですね、まぁ私はもう+5なのでチップにするか悩む所ですけど


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第50話 怒る海神 その2

第50話 怒る海神 その2

 

月面でカチーナ達を苦しめた恐竜型の特機を一撃で大破させた巨大な特機――DC戦争時にはアードラーが、L5戦役ではエアロゲイターが運用したゲッターポセイドンに酷似したその機体の圧倒的なパワーにも驚かされたが、レフィーナ達の驚愕はポセイドンから響いた声によって齎されていた。

 

「い、今の声は……」

 

「間違いありませんな。やはりあの機体は武蔵が操縦しているようです……しかし、艦長。これは大きなチャンスです、今の内にギリアム少佐達に進路を確保していただき、我々は早急に離脱しましょう」

 

ショーンの提案は武蔵にこの場を任せるといえば聞こえは良いが、武蔵を囮にして離脱すると言う物だった。

 

「ふ、副長。何を言っているのですか!? や、やっと武蔵さんを見つけたんですよ!?」

 

「ええ、私も武蔵が生きていた事に安堵しております」

 

「ならば武蔵さんと共に帰還するのが「今の我々に武蔵と共に戦う力はありますか?」……ッ!」

 

自分の言葉を遮り、冷酷な響きさえも伴ったショーンの言葉にレフィーナは絶句した。ショーンがこんな冷たい目と声をしているのを見るのはレフィーナには初めての事だった。

 

「ここで残ればL5戦役の二の舞。今の私達は足手纏いなのです」

 

「……うっく……ッ」

 

ショーンの言う通りだった……武蔵の乗る新しいゲッターロボと自分達の戦力には雲泥の差があった。共闘しようにも機体性能が何もかも違いすぎる。そして武蔵の性格を考えればヒリュウ改を狙われれば守りに動く……そうなれば相手は武蔵ではなく、ヒリュウ改やギリアム達を狙うのは明らかだった。

 

「ご決断を、これ以上囲まれては離脱する事も出来ません。どうしても出来なければ私がやります」

 

悩んでいる時間はないとショーンに念を押され、レフィーナが命令出来なければ自分が言うというショーンにレフィーナはぐっと唇を噛み締めた。

 

「……ギリアム少佐に伝達を、この場は……武蔵さんに任せ、本艦はこの宙域を……離脱……します……」

 

「りょ、了解ッ!」

 

ユンが命令を復唱し、ギリアムに通信を繋げる。艦長として、最善の選択を取らなければならない……そして今の最善の選択とはホワイトスターがインスペクターを名乗る異星人に占領された事、そして防衛艦隊が全滅したと言うこと……それを地球の連邦本部に届けることが唯一生き残ったヒリュウ改がやるべきことだ。

 

『ちょ、ちょっと!? やっと武蔵を見つけたのに、武蔵を見捨てて離脱するって言うのかいッ!? あたしだけでも残るよッ!』

 

レフィーナの指示を聞いたリューネが通信を繋げてそう怒鳴り込んでくる。誰がどう考えたって死んだという状況――それでも生きていて欲しいと願いMIA認定させた武蔵が目の前にいるのに、無尽蔵に出現する無人機。そして大型の特機3体がいるこの状況で武蔵だけを残して行くというレフィーナの決断は到底リューネに受け入れることが出来る物ではなかった。

 

『リューネ言うな……レフィーナ中佐も苦渋の決断だ。今俺達がこの場に残って何が出来る? 武蔵にだけ負担を掛けるのか? 武蔵の事を思うなら俺達は逃げるしかない』

 

『私も少佐の意見に同意よ。敵は無尽蔵、こっちの弾薬とエネルギーは限りがある。応援は見込めない以上――私達は逃げるしかないのよ』

 

『だけど! やっと見つけたんだよ! アヤやリュウセイ達になんて言えば良いのさ!』

 

武蔵を見つけたが、自分達が生き残る為に囮にして逃げたなんて言えないとリューネは声を荒げた。ホワイトスターを強奪されたことを話せばどうやって逃げたのかという話に繋がる。そうなれば武蔵の事を話さない訳には行かなくなる――1度だけではなく、2度も武蔵を見殺しに出来ないとリューネは逃走する事を渋る。その時だったポセイドンから武蔵の声が響いたのは……。

 

『オイラも逃げるから心配しなくて良いさ。それに今度はちゃんと顔を出すからさ、気にしなくて良い行ってくれ』

 

ホワイトスター上部に陣取る3体と向かい合うポセイドン。その背中にはヒリュウ改を庇っている。

 

『今度は何も言わずに去らないと言うのか? お前は3回それをやっているが?』

 

『まぁそのなんだ……こっちも都合があったんですよ。ま、今回はそうも言ってられないんで』

 

ここまで派手に立ち回り、そして謎の異星人が出現したとなれば武蔵とてだんまりを決め込んではいられない。それも向こう側の世界でエアロゲイターの変わりに出現した異星人となれば尚のことだ。だから武蔵はビアンの指示を破り、ヒリュウ改に1度顔を出す事を決めた。

 

『ポイントマーカーを出しておく、それを頼りに合流してくれ』

 

『ういっす』

 

『ああ、そうそう。ライが怒っていたぞ。シャイン王女を投げるなんて何を考えていると』

 

冗談めいた口調のギリアムの言葉に場に満ちていた緊張感が僅かに緩んだ。

 

『ちゃんとシャインちゃんにもライにも後で謝ります。んじゃま、行ってください。今度はちゃんと合流しますから』

 

無人機の中を突っ切っていくのはギリアム達と言えど容易ではない、だがこのまま負け戦を続ける訳には行かない。武蔵にインスペクターの指揮官機を任せ、回頭したヒリュウ改の前方にゲシュペンスト・リバイブ(S)、ゲシュペンストMK-Ⅱ・タイプRが移動しヒリュウ改を守りながらL5宙域からの脱出を試みる。

 

『武蔵。1個聞きたいんだけどさ。もしかして親父は知ってるのか?』

 

『何の事かちょっと判らないですね』

 

『OK。親父はとりあえず1発殴る。武蔵……無理したら駄目だよ』

 

最後まで残っていたヴァルシオーネも武蔵にそう告げると、反転しヒリュウ改のほうへ向かう。それを追って動き出す無人機――本当ならば食い止めたい所だが……不意打ちで一撃で倒したガルガウと違い、完全に警戒心を露にしている3体を前に隙を見せる事に繋がるとヒリュウ改を追う無人機を武蔵は見過すしか出来なかった。その時だった1体の機体……グレイターキンからポセイドンに向かって声が掛けられた。

 

『おたくらの話が終わるまで俺達は待った。不意打ちも、強襲も出来たのにだ。やりあうにしても話をしたい』

 

ヒリュウ改が逃亡という選択を取るまでグレイターキン達も無人機も動く事はなかった。逃亡し始めたからヒリュウ改を追って動き出したが、確かに話が終わるまで無人機も動かなければグレイターキンも動かなかった……敵ではある、敵ではあるが筋を通してきた。筋を通した上で話をしたいと切り出してくる相手を武蔵は無碍にすることが出来なかった……これが竜馬や隼人に散々甘いと言われても治す事が出来なかった武蔵の弱点であると同時に、武蔵らしさだった。

 

「巴武蔵だ。オイラにゃ話す事はねえが……聞くくらいはしてやってもいい」

 

グレイターキンからの問いかけに武蔵はそう返事を返すのだった……。

 

 

 

 

 

グレイターキンのコックピットでメキボスは小さくガッツポーズをしていた。ヴィガジの暴走による駐在艦隊の壊滅、そして有無を言わさずの襲撃……そのどれもが敵対行動であり、宣戦布告と同意義だった。

 

「アギーハ、シカログ。動くなよ、頼むから勝手な事をしてくれるなよ」

 

『……さすがのあたいも判ってるよ。あの小娘に年増呼ばわれされたのは腹が立つけどさ……あたいはヴィガジみたいに馬鹿じゃない。だから交渉は頼んだよ。リーダー』

 

『……』

 

『シカログも言ってるよ。穏便にはすまないだろうが、この場は互いに引く程度の交渉は出来るって』

 

「さいですか……」

 

相変わらずだんまりにしか思えないが、アギーハにはその無言に隠された真意が判る。シカログの言葉を聞いて肩を竦めながら、メキボスは改めてポセイドンに向かって声を掛けた。

 

「星間連合ゾヴォークのメキボス・ボルクェーデだ。まずは話し合いに賛同してくれたことに感謝する」

 

『そっちが筋を通したから、こっちも筋を通しただけだ』

 

ぶっきらぼうではある。だが話し合いの余地は十分にある……メキボスはそう感じた。そして無人機も、己も攻撃行動に出なかった事は間違いではないと笑みを浮かべた。

 

「こっちの馬鹿が暴走したことについては謝罪する。すまない、俺はホワイトスターさえ手に入れば、全員を見逃しても良かったんだ。交渉ですめばそれに越したことはないだろ?」

 

この言葉に嘘はない。素直にホワイトスターを渡せばメキボスは地球人を追撃するつもりは無かった。無論反撃してくれば万々歳で抹殺したが、逃げるのならばそれを見逃すくらいの器量はあった。今殺すのも、後で殺すのも大差はないからだ。

 

『あの黄色いの……ガルガウだっけか? 月であれだけ暴れて、んで。今度は駐在軍をぶっ殺しておいて交渉? おいおい、冗談きついぜ……なぁメキボス。お前らの言う交渉っつうのは殴りつけてからやるもんなのか?』

 

その返答にメキボスは僅かに眉を細めた。嫌味はまだいい、それを言う資格が武蔵にはある。月の戦いを見られていた事もそうだが、ガルガウの名前を武蔵が知っていた。

 

(こいつ何でガルガウの名前を……)

 

シカログのドルーキンを除けば、メキボス達の機体は全て最新鋭機だ。何故名前を知っている? いや、名前だけではない、機体特徴も知っているのではないか? だからガルガウを優先して戦闘不能に追い込んだのではないか? という考えが脳裏を過ぎる。

 

『あん? もしかして間違ってたか? グレイターキン、シルベルヴィント、ドルーキンだよな? んであれがガルガウ。なんか違ってるか?』

 

それぞれの機体を指差さされ、メキボスは背中に冷たい汗が流れた……完全に名前を言い当てられている。アギーハとシカログも息を呑む音がした……圧倒的強者に自分の事を知られていると言うのは想像以上に恐ろしい事だった。

 

「い、いや、合ってるぜ」

 

『そうかい、そいつは良かった。んでウェンドロって奴はいないのか?』

 

次の言葉にメキボスは完全に交渉のイニシアチブを武蔵に取られている事を悟った。

 

(どういうことだ。なんで、あいつがあそこまで知ってる!?)

 

機体名もウェンドロの名前も武蔵が知るわけのない情報だ。ゾガルから何かを聞いているのか、もしそうならウォガルであるウェンドロ達は誘い出された形になる。何故という言葉ばかりがメキボスの脳裏を過ぎった――それでも問いかけに答えないと言う事で交渉が無碍になってはならないと思い、ウェンドロはまだいないと返事を返した。

 

「ウェンドロ様はまだいない」

 

結局の所震えながらそう返事を返すのがやっとだった。どこまで武蔵が知っているのか、ゲッターロボの存在もありメキボスには武蔵が下等な生物ではなく、自分よりも上位の存在のような気がしていた。だからこそ、やはり下手に出ても武蔵と正式に交渉のテーブルについて貰わなければならないと感じていた。もしも本国の場所を知っていたら? 宇宙を滅ぼすことも出来ると言われるゲッターロボが自分達に牙を向いたら? 己の言動1つで敵対関係になると言う緊張感を感じながらメキボスは口を開いた。

 

「俺達は武蔵と友好的な関係を……『くたばれええ!!』てめえッ! 良い加減にしろよこのハゲェッ!!!!」

 

ガルガウが機体を爆発させるのと引き換えにビーム砲をゲッターロボに撃ちこんだ。その光景を見て流石のメキボスも激怒した。交渉の余地も何もかもぶっ壊しておいて、しまいには話し合いの最中に背後から攻撃を撃ち込む……その余りに目に余る光景にメキボスが怒鳴り声を上げるのも当然だった。爆発の中に消えたゲッターロボ――惑星さえも破壊するビームの直撃を受けたのだから破壊出来たと思う気持ちが無い訳ではない。だが宇宙すべてを滅ぼすとまで言われたゲッターロボがこの程度で死ぬ訳無いという気持ちもあった。

 

『やったの?』

 

「それならそれでも良いが、せめて残骸だけでも……『フィンガァアアアーーネットッ!!』うおッ!?」

 

爆煙の中から射出されたネットがグレイターキンに巻き付き、凄まじい勢いで煙の中にグレイターキンが引きずり込まれた。至近距離で見たゲッターロボに損傷らしい物はなかった……いや、確かに損傷していたのだが、メキボスの前で恐ろしい速度で修復されていた。

 

『よーっく判った。話し合いですみゃあオイラもそれに越した事はねえと思ったさ。ウェンドロとか言う、お前達の親玉が殺した人達にあやまってくれりゃあそれで良いと思ったさ。だけど……やっぱり甘かったって事だよなあッ!!! てめえらが殺した人達の弔い合戦だ、覚悟しやがれこの馬鹿野郎ッ!!』

 

「ごばあッ!?」

 

グレイターキンのフレームを一撃で歪め、機体全身を軋ませるほどの剛拳が叩き込まれ、その凄まじい衝撃に肺から強引に酸素が押し出されつぶれた蛙のような声を出したメキボスは何とかグレイターキンを操り姿勢を立て直した……だがそのダメージは凄まじくメキボスの口からは血が溢れていた。

 

「げふ……くそ……交渉決裂だ」

 

手の甲で口元を拭いながらメキボスはゲッターポセイドン2に視線を向ける。全身から迸ると闘志と殺意を前に流石のメキボスも小さく体を震わせた。

 

『交渉決裂って言うか、あのハゲのせいでしょ。どうすんのよ、完全に怒らせちゃってるじゃない』

 

「んなもん、俺が聞きてぇ……」

 

確かに敵対する意思はあった。だがそれでも話を聞こうと言う素振りをゲッターロボのパイロット――武蔵は見せてくれていた。それを弾いたのはヴィガジだが、同じ陣営である以上その責任はメキボス達にもある。

 

「泣けてくるね。全く」

 

肌を突き刺すような殺気と闘志。そしてゲッターロボの全身から溢れ出すゲッター線の証である翡翠色のオーラ……それは完全に臨戦態勢に入っている証であり、交渉の余地が無くなったことを示していたのだった……。

 

 

 

 

グレイターキン、シルベルヴィントは地球の技術を元に作られた最新鋭の機体であり、ゾヴォークの科学力も相まって地球人の機体よりも遥かに強力に仕上がっているのは今までの戦闘で判っていた。事実地球側の最新鋭機である量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲ、そしてヒュッケバイン・MK-Ⅲも容易く撃墜し、鹵獲する事も出来ていた。ヴィガジが交戦したヒリュウ改にいた機体はどれも強力だったが、各個撃破もしくは物量で押し込めば負ける訳がないと考えていた。それはメキボスもアギーハもシカログも共通の考えだった。だが、力はより強い力に押し潰される――そんな単純な話をメキボス達は目の前で実感していた。

 

『!!!』

 

『ぬおらああッ!!!』

 

ドルーキンはゾヴォークの中では旧式で大型の砲撃機だったが、その分重装甲・ハイパワーが売りの機体で、地球制圧に向けて装甲の強化や近接戦闘のためのハンマーやメイスを新たに建造され、砲撃機から近接戦闘機に改造されたと言う経歴のある機体だ。機体構造が単純な分強化も容易く、60m級の大型特機ということもあり地球の機体では禄にダメージも与えられない――そう考えられていた。だがドルーキンを遥かに上回る全長――80mという巨体を持つゲッターD2にはドルーキンのパワーも装甲も何の意味もない物だった。ホワイトスターの上でがっぷり4つに組み合ってるポセイドン2とドルーキンを見て、メキボスとアギーハは己の機体を其方に向かって走らせた。

 

『シカログ! そのまま押さえてろッ! アギーハッ!』

 

「判ってる! 今行くよ! シカログッ!」

 

機体の性能差は明らか、それでもシカログは己の職務に忠実だった。その装甲とパワーで敵陣のど真ん中に切り込み、そして盾と矛となりメキボス達が有利に戦える環境を作る。ポセイドン2の剛力にその指を押し潰されながらも、その動きを封じグレイターキンとシルベルヴィントに向けてポセイドン2を引き摺るように動かす。

 

『やるなあ、あんた』

 

『!!!』

 

『自分達が悪いのは認めるが、それでも任務は遂行しなければならないか……軍人っつうのはどいつもこいつも頭がかてえなぁッ!!』

 

『!?!?』

 

ポセイドン2をがっぷり4つに組み合っていたドルーキンが持ち上げられ、ホワイトスターに力任せに叩きつけられる。1回ではない、2回、3回と叩きつけられ、その腕が反対方向に捩れかけていてもドルーキンはポセイドン2の両腕を押さえているその腕を放す事は無かった。

 

「シカログッ!!」

 

火花を散らすドルーキンを見てアギーハがその名を叫ぶ。すると膝をつきかけていたドルーキンが再び立ち上がり、完全に上から押し潰そうとしていたポセイドン2を押し返し始める。

 

『!!!!!』

 

『惚れた女の前で情けない姿を見せられんか……は。こんな形じゃなかったらあんたとは友達になれたかもな』

 

『!!!!』

 

『おう! 手加減なんてしねえさッ!!!』

 

ポセイドン2とドルーキンが掴みあっていた腕を放し、拳を握り締めその剛拳を互いに交互に繰り出しあう。だがドルーキンの拳はポセイドン2の装甲に弾かれ、ポセイドン2の拳はドルーキンの装甲を凹ませくっきりとした拳の跡をドルーキンに刻みつける。

 

『メガバスターキャノンを喰らいやがれッ!!!』

 

「シカログ! 今助けるよッ!」

 

グレイターキンが背中にマウントしている大型ビームライフルと、シルベルヴィントの胸部のフォトンビーム砲がポセイドン2の背後に向かって放たれる。

 

『当たるかよッ! うおッ!?』

 

飛び退いて交わそうとしたポセイドン2の脚部にドルーキンのハンマーが巻きつき、それを引き寄せられたことでバランスを崩したポセイドン2にメガバスターキャノンとフォトンビーム砲が直撃する。

 

『ぐっ!? 流石に3対1は厳しいかッ! ゲッタァアアーーーキャノンッ!!』

 

ポセイドン2の両肩のゲッター線キャノンが火を噴き、グレイターキンとシルベルヴィントを近づけさせまいとしながら、脚部をキャタピラに変形させドルーキンへと向かう。

 

「これ以上シカログはやらせないよッ!!」

 

『相手は遅い、一気に切り込むぞッ!』

 

グレイターキンとシルベルヴィントが急加速し、ポセイドン2に向かって高周波ブレードを振るう。

 

『うっ!?』

 

『しゃあッ! 悪いな、こっちが悪いのは承知してるが、こっちも仕事なんだよッ!』

 

細身の剣と言う事でポセイドン2の装甲は切り裂けないと判断し防御をしなかった武蔵。だがそれは大きな間違いだった……高周波ブレード……つまり高周波振動発生機によって刀身を振動させる事で原子間結合を強固にし刀身の強度を高め、逆に高周波エネルギーを帯びた刀身に触れた物体は原子間結合力が弱められるため、刀剣の切断能力を大きく高めるという能力を持ったブレードだ。ポセイドン2の装甲は確かに強固だが、装甲の間の原子結合を切断されれば、その強固な装甲も豆腐のように切り裂かれる。

 

『なんだ、なんかわからねえけどやべえッ!!』

 

『!!!』

 

『ぐうッ!?』

 

グレイターキンとシルベルヴィントと切りあっては不味いと判断した武蔵はポセイドン2を反転させようとするが、そこにドルーキンのタックルが叩き込まれ後退を阻害される。その隙を突いてグレイターキンとシルベルヴィントが一気に間合いを詰めようとしたその瞬間だった……ポセイドン2が自ら爆ぜた。

 

『オープンゲットッ!!!』

 

『しまッ! 追え!』

 

「判ってる! でも早いッ!」

 

ゲッターロボの最大の特徴が頭から抜け落ちていたのがメキボスとアギーハのミスだった。ゲットマシンに分離し高速で飛ぶゲッターロボを追うが、加速力が売りのシルベルヴィントでさえゲットマシンには追いつけなかった。

 

『チェンジライガーッ!!』

 

グレイターキンとシルベルヴィントが自分を追ってきているのを確認し、急反転と同時にライガー2へと合体を果たす武蔵。

 

『ドリルミサイルッ!!』

 

ドリルミサイルを放つと同時に背中の4つのブースターを吹かしたライガー2の姿がアギーハ達の目の前で消えた

 

『ゲッタービジョンッ!!!』

 

宇宙空間に眩い蒼い軌跡が描かれては消え、描かれては消えると繰り返す。その圧倒的な速度にメキボスとアギーハは完全に幻惑されていた。

 

「シルベルヴィントより早いだって!? うあッ!?」

 

『うおらぁッ!』

 

熱源を感知した瞬間背後に現れたライガーの回し蹴りでホワイトスターに向かって叩き落されるシルベルヴィント。その凄まじい衝撃にアギーハは思わず悲鳴を上げた、態勢を立て直すということすら考えられず。シルベルヴィントはホワイトスターの外郭に背後から叩きつけられた。

 

『アギーハッ!? うおッ!?』

 

「ドリルアタックッ!!」

 

目の前でシルベルヴィントが墜落するのを見てメキボスがアギーハの名前を呼んだの直後。ライガーがグレイターキンの背後を取り、高速回転するドリルをその背中に叩き込んだ。装甲が抉り取られ、アギーハとシカログが見ている中グレイターキンもホワイトスターに向かって叩き落とされた。

 

『オープンゲットォッ!! チェンジポセイドンッ!!!』

 

態勢を立て直す間もなく、ライガー2が爆ぜメキボス達の目の前で再びポセイドン2へと合体を果たす。そして新たな絶望を見せ付けるようにポセイドンの胸部装甲が展開された。

 

「やばいッ!」

 

『しくじったッ!!』

 

ゲッターポセイドン……その姿と能力はゾヴォークのデータベースにしっかりと残されている。その最大の武器は胸部に搭載されたファンから放たれるゲッター線を伴った暴風――それに1番最初に気付いたドルーキンがグレイターキンとシルベルヴィントをその背中に庇った。

 

『ゲッタァアアア――サイクロォォオオオオンッ!!!!』

 

ポセイドン2が放ったゲッターサイクロン――その凄まじい暴風が放たれたと思った瞬間。ドルーキン達は吹き飛ばされ一瞬意識が跳んだ――そしてアギーハが意識を取り戻したのはポセイドン2の手から放たれたフィンガーネットが各々の機体に巻き付き、容赦ない電流が流された事による痛みだった。

 

「が、がああああああッ!!!!」

 

『き、きやああああッ!!』

 

『!!!!????』

 

容赦ない電流はグレイターキンの帯電防御を貫き、コックピット内のコンソールがあちこち火花を散らす……だがそんな物はこれから始まる地獄を前にすればまだ天国に等しいものだった。

 

『うぉおおおおおお――ッ!!! 大ッ!! 雪ッ!!! 山ッ!!!! おろしぃいいいいいッ!!!!』

 

フィンガーネットで囚われたままメキボス達は激しく回転させられ、ホワイトスター周辺に浮かぶスペースデブリに何度も何度も容赦なく叩きつけられる。

 

「ごは、げほっ!?」

 

『うっぷ……うえッ!?』

 

余りの衝撃と振動にメキボスとアギーハの口から血液と吐瀉物の混じったものが溢れ出し、その意識が何度も目覚めては消え、目覚めては消えを繰り返す。

 

『こいつでトドメだッ!! 大雪山おろし……パン……うおっ!?』

 

グレイターキンとシルベルヴィントの動きが止まったのを見て、フィンガーネットを回収しながら右拳を握り、その鉄拳で文字通りグレイターキンとシルベルヴィントを叩き潰そうとした武蔵は驚きの声を上げた。

 

『う、うおおおおおおおお――ッ!!!』

 

シカログの雄叫びと共にドルーキンの両腕が爆発し、強引にフィンガーネットを打ち破り肘だけでグレイターキンとシルベルヴィントを抱えて逃げようとするドルーキンに流石の武蔵も驚きを隠しきれなかった。

 

『逃がすかよッ!!! ゲッタァアアア――サイクロォォオオオオンッ!!!!』

 

驚きはしたが敵を逃がすという事を武蔵がするわけも無く即座に胸部装甲をパージし、逃げようとするドルーキンに向かってゲッターサイクロンによる追撃を叩き込み、グレイターキン、シルベルヴィント、ドルーキンは錐揉み回転しながらヴィガジが破壊した地球の戦艦へと叩き付けられた。

 

「うげえっ……ごほっ! おい、アギーハ……シカログ……生きてるか……」

 

かすむ視界と口元を拭いながら生きてるかと問いかけたメキボスの耳に響いたのはヒステリックなアギーハの叫び声だった。

 

「シカログ! シカログ! 大丈夫かいッ!?」

 

ゲッターサイクロン、大雪山おろし、ゲッターサイクロンと猛攻撃を受けたグレイターキンとシルベルヴィントのダメージも大きいが、それでもドルーキンにかばわれていたから損傷はまだ軽微だ、だが最も攻撃を受け、そして戦艦の残骸に叩きつけられる寸前に2人を庇ったドルーキンは完全にスクラップ手前で、しかもコックピット付近に鋭い残骸が突き刺さり細かい爆発を続けているドルーキンは完全に死にたいだった。

 

『……』

 

『シカログぅッ!!!』

 

アギーハが必死に呼びかけるがシカログからの反応はない。コックピットは外しているが、ゲッターサイクロンの直撃を食らったことで、強い衝撃を受けたことが原因である脳震盪であるのは明らかだった。

 

『つっつう……こいつは不味いぜ』

 

シカログは意識不明、メキボスとアギーハは意識を残しているが、機体のダメージは深刻。ヴィガジはどうでも良いが今は戦力としては数えられない。それに対してポセイドン2は高周波ブレードによる損傷ももう回復し、完全に万全の状態だ。どう考えてもここから巻き返すのは不可能とメキボスは判断を下していた。しかしここでメキボスにとって予想外の幸運――いや不幸とも言えるが、この状況を覆す事が出来るかもしれない出来事が起きた。

 

『『『キシャアアアーーー!!』』』

 

『イ、インベーダーだとッ!?』

 

ゲッターサイクロンの凄まじいゲッター線の余波に引き寄せられたインベーダーの大群――ゲッター線に引き寄せられ、ありとあらゆる者を喰らう暴食魔――勿論その存在もゾヴォークの中では懐疑的だったが、今こうして目の前に現れればそれが実在の存在であるという何よりの証拠だった。

 

『おい。アギーハ、大博打に出るが乗るか?』

 

「何をするつもり?」

 

『もう1度交渉する。あの化け物が出て来たんだ、向こうだって対策を取らなきゃなんねえ。良い落とし所だろ』

 

シカログが意識不明、まだメキボスとアギーハは戦える状況だが、3つ巴になればどうなるかなんて容易に想像出来た。このままゲッターに殺されるか、インベーダーに喰われるかの2択――それしかメキボス達に残された選択は無かった。

 

『……頼んだ』

 

その時だったノイズ交じりだがドルーキンから確かに通信が繋げられた。頼んだとメキボスに任せると小さく呟いたシカログ、その声を聞いたメキボスはもう1度広域通信のスイッチを入れたのだった……。

 

 

 

 

 

ホワイトスター駐在軍の残骸を取り込みメタルビーストに変異しつつあるインベーダーを見て、武蔵は焦りを隠せないでいた。

 

「くそ、不味い不味い不味いッ!」

 

ストーンサークル周辺でインベーダーを見た。新西暦にもインベーダーが存在することを武蔵は知っていた、集まってくる可能性を考えて威力を絞ったゲッターサイクロンを撃ちこんだが……それでも夥しい数のインベーダーがホワイトスター周辺に集まってきていた。

 

(どうする。どうすればいいッ!?)

 

今は破壊された残骸を貪っているが、それだけでは足りない。インスペクターと戦いながら、インベーダーとも戦い、そしてなおかつコロニーを守ると言うのはどう考えても不可能なことだった。

 

『サンダァァアッ!! クラァァアアシュッ!!!』

 

何かを見捨てなければならない――その選択を迫られていることに武蔵が気付いた時だった。今まで武蔵と戦っていたグレイターキンがメタルビーストに変異しようとする残骸にむかって左腕を突き出し、そこから放たれた高圧電流がインベーダーが寄生しようとしていた残骸を焼き尽くし、インベーダーをも飲み込んだ。

 

『武蔵、ここは手打ちにしないか?』

 

「んだよ、急に」

 

インベーダーの進撃が一時的に止まった瞬間。メキボスから広域通信で手打ちにしないかと提案された武蔵が思わずそう尋ね返すとメキボスは会話を続けた。

 

『あの馬鹿で間抜けなハゲが暴走した事は謝罪する。すまない、俺達としては確かに武力による制圧も候補に入れてはいたが、交渉で済めばそれに越した事はないと考えていたのは本当の事だ』

 

「じゃあ、地球から手を引けや」

 

『それは出来ない。俺達にも都合って言う物がある。だから地球から手を引く事は出来ないが譲歩は出来る。インベーダーの出現はお前にとっても都合の良い話ではないだろう?』

 

メキボスの言葉に武蔵は黙り込んだ。確かにゲッターD2ならばインベーダーにも有利に戦える……だが余りにも数が多すぎる。地球への降下を許せばその数を爆発的に増やすのは容易に想像出来、更に言えばコロニーに到達されても同じ事だ。

 

『地球圏全域をインベーダーのコロニーにする訳には行かない。違うか?』

 

「……何が言いたい、オイラにはぐだぐだ話をしている時間はないんだよ」

 

インベーダーが徐々に再生を始めている。長話をしている時間はないと武蔵が声を荒げるとメキボスは本題を切り出した。

 

『俺達はお前を追わないし、邪魔もしない。お前が移動すればインベーダーはお前を追うだろうが、ホワイトスターという餌場が残っている以上インベーダーはこの場にも残るだろう。この場はこれ以上互いに争わず、インベーダー退治に集中する。これで手打ちにしよう』

 

「随分とお前に都合のいい話だな。メキボス」

 

インベーダーが最も好むのはゲッター線だ。インベーダーの大半は武蔵を追い、ホワイトスター周辺に残るインベーダーは少数になるだろう。

 

『そうだな、それは十分承知している。だが考えても見ろよ。俺達とここで押し問答をしているうちにインベーダーはその数を増やすぜ? それに俺達は地球圏から離脱してインベーダーを増やした後に惑星事滅ぼすって言う選択も取れる。だってそうだろ? てめえの住んでない星だ。滅ぼしても何にも感じねえ』

 

「下種が」

 

メキボスが言う手打ちとは地球全てを人質にし、武蔵にこれ以上自分達と戦うな。そしてこの場をされと言う一種の脅迫にも等しかった。

 

『悪いな。俺達はそういう種族なんだよ、その星が他の星に被害や危険を及ぼすなら制圧して占領下におく、それでも駄目なら滅ぼすつうのが俺達ゾヴォークだ』

 

「交渉で終わらせるつもりなんかねえじゃないか」

 

『まぁそこは俺達のボスと地球の代表次第だ。俺達は命令されればそれに従うだけだぜ、どうせ俺達は兵士だからな。俺達を殺しても次のが来るだけさ、捨て駒って言っても良い。だからここでお前と心中してもいいんだぜ? ゲッターロボが消えてくれれば、上も動きやすいしな。それなのに俺は譲渡しているここで手打ちにしてくれるならお前の邪魔はしない、後で戦うとしてもここは手打ちにするのが互いの為じゃないか? さぁ? どうする。お前の個人的な感情で地球全てを危険に晒すか?』

 

ゲッターD2の回りを囲うグレイターキンとシルベルヴィント、そしてドルーキンの3機――心中しても良いというのははったりだったが、ここでメキボス達が死ねばより上位の軍人が出張ってくる。そして危険惑星として地球を処理するだけというのは事実だった……武蔵はメキボスの言葉の中に嘘と真実が混ざっている事は感じていたが、どれが嘘で本当かが見抜けなかった。

 

「……判った。手打ちだ」

 

『OK。賢い選択をしてくれて感謝するぜ』

 

地球を全て引き合いに出されては武蔵は戦えない。自分の選択で地球が滅ぶかどうかの瀬戸際で、そして自分が引けば一時的にしろ戦いが終わるとなれば武蔵は手打ちの提案を受け入れるしかなかった。

 

「今は引くが、メキボス。てめえ覚えてろよ、お前らが殺した人達の分もきっちり落とし前を付けさせてやる」

 

ここで少なくとも1500人は死んだ。その仇を討てない事を武蔵は心の中で謝り、そして必ずこの落とし前を付けさせてやるとメキボスに凄んだ。

 

『ああ、そうしてくれ。じゃあな』

 

それに対してメキボスは軽く返事を返し、それが余計に武蔵の怒りを煽ったがヒリュウ改、そしてコロニーのほうに向かうインベーダーを見て、武蔵はメキボス達に背を向けてその場を後にするのだった。

 

『なんとかなったね』

 

『1時的な。だが今度は交渉の余地もねえ、完全に潰しあいだ』

 

インスペクターと武蔵の間には埋めることの出来ない亀裂が生まれた。戦いは避けることは出来ない展開にヴィガジのせいでなってしまった事にメキボス達は深い溜め息を吐くが、何時までも気落ちしている時間はない。

 

【キシャア!】

 

【シャアアッ!】

 

インベーダーの3割はヒリュウ改をおい、ゲッターD2を追って残り4割がホワイトスターを去った。しかし3割が残り雄叫びを上げている――ゲッターロボという脅威は去ったが、ゲッターに負けず劣らない脅威がまだメキボス達の前に残っていた。

 

『気合入れろよ。喰われたなんて報告したくねえからな』

 

『そっちこそよ。あーあ、やだやだ……こんな命令聞くんじゃなかった』

 

地球に再び現れたかもしれないゲッター線の捜索――それがとんでもない貧乏くじだったと悟ったがもう遅い。メキボス達を喰らおうと迫るインベーダー達との戦いが幕を開けた頃――ヒリュウ改もまたインベーダーとの戦いを始めていた。

 

「アンノウン接近中!!」

 

「くっ! ギリアム少佐達に再出撃要請をッ! なんとしても本艦は生き残り地球へと向かいますッ!!」

 

縦横無尽に襲ってくるインベーダーに恐怖を感じながらも、レフィーナは凛とした声でクルーに向かって指示を飛ばすのだった……。

 

 

 

 

 

第51話 怒る海神 その3へ続く

 

 

 




インスペクターと武蔵の初戦は途中中断となりました。インベーダーの出現で手打ちを選ばされた武蔵の怒りゲージはUP。今度インスペクター……特にハゲと遭遇すればぶち切れる事は確定ですね。次回はヒリュウ改のサイドで書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


ゲッターアークでゲッター線を得た気分ですねぇ、4時間で1万3000文字は過去最高知れないです。



これからゲッターアークが放送される日曜日が楽しみですね。

あと感想というなのゲッター線はいつでも大歓迎です。


PS

アークに進化の光の武蔵を突っ込んでも良いよね

書いてる余裕無いけどね、進化の光の中の話でそんな話があってもいいじゃないかなと思ってます。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第51話 怒る海神 その3

第51話 怒る海神 その3

 

無人機の襲撃を振り払い、武蔵をホワイトスターに残すという苦渋の選択をしたヒリュウ改。彼らはL5宙域を抜け当初月面のセレヴィスシティ、もしくはその近辺のコロニーを目指していた。ホワイトスターが敵性異星人に襲撃を受け、奪取された事。それを伝えるために地球方面に進路を取っていたのだが……今ヒリュウ改は地球、そして月からは逆方向に進路を取っていた。

 

「くっ! E-フィールドの出力はどうなっていますか!?」

 

「出力80%以上をキープしてます! きゃっ!?」

 

E-フィールドを展開しているのに激しく揺れるヒリュウ改の船体――実弾・E兵器に強い防御力を持つE-フィールドが簡単に貫通されている事にレフィーナは眉を顰めた。

 

「総員対衝撃・閃光防御を! 対空砲座、副砲で敵機を引き離してください! ううっ!?」

 

指示を出している間も敵の攻撃は激しさを増していた。ギリアム、ヴィレッタ、リューネとエース級パイロットが3人も揃っているが、ヒリュウ改の戦力はそれだけだった。敵の撃墜に回ればヒリュウ改が無防備になり、ヒリュウ改の守りを固めれば敵の攻撃の勢いが増す……そしてその上連邦軍の部隊が駐留している月や月面には向かえないと完全に詰みに追い込まれかけていた。

 

「あの化け物――どうも相当数が存在するようですな」

 

アインストを名乗る異形と共にストーンサークルから出現した全身に目玉のある異形の生物――それが寄生した量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲ、そしてヒュッケバイン・MK-Ⅲがヒリュウ改に向かって執拗に攻撃を続けていた。

 

「それだけではありません。寄生された機体の性能が恐ろしいほどに上がっています」

 

「ふむ、自分の能力を機体にも付与すると言った所ですな。ユン伍長、接近戦を控えるように通達を」

 

「りょ、了解ですッ!」

 

ショーンの指示に頷き、ギリアム達に射撃戦を選択するように指示を出すユン。

 

「これは相当不味いですな」

 

「……ええ。ですが、諦める訳にはいきません」

 

倒しても倒しても僅かに残った肉片同士が融合し再生する化け物――ビームライフルなどで装甲を破壊されれば、そこから本来のゴムのような光沢の体組織が姿を見せる。決め手が足りない……しかし地球に向かえばこの化け物をそちらに誘導する事に繋がる。地球に向かうにはあの化け物を倒すしか道はないのだが、倒す手段がない。完全に八方塞りになりつつある状況にレフィーナは無意識に親指の爪を噛み、この状況をどうやって打破するかを考えをめぐらせるのだった……。

 

 

 

 

 

 

ホワイトスターの方角からヒリュウ改を追ってきたインベーダーとメタルビースト・ゲシュペンスト・MKーⅢ、そしてメタルビースト・ヒュッケバイン・MK-Ⅲの攻撃は非常に苛烈だった。

 

【シャアッ!!】

 

「くっ!? しまったッ!?」

 

ビームソードを避けたと思った瞬間。胸部の装甲から伸びた鎌にビームライフルの銃身を両断され、発生した小規模な爆発にゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRが大きくバランスを崩した。

 

【シャアアアア!!】

 

そしてその隙をMB・ゲシュペンスト・MK-Ⅲが見逃す訳が無く、頭部が左右に開き、そこから顔を出したインベーダーがその牙を向ける。

 

『下がれ! 大尉ッ!!』

 

ギリアムの怒声を聞いて反射的にペダルを踏み込んだ事で、インベーダーの牙は肩部のパーツをほんの少し抉り取るに留まった。そしてゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRの頭上を通って一条の光線がインベーダーの口内に向かって放たれた。

 

【ギャアッ!?】

 

大口を開けたインベーダーの口の中にゲシュペンスト・リバイブ(S)のビームキャノンが飛び込み、頭部を焼き尽くす。だが頭部を吹き飛ばされ、苦悶の声を上げたがその体組織はMB・ゲシュペンスト・MK-Ⅲの中に戻るだけで、倒す事は出来ないでいた。

 

「た、助かったわ。少佐」

 

『気にするな。だが……不味いな。リューネ、間違ってもサイコブラスターは使うなよ』

 

メタルビーストとなった事で攻撃力は上がったが、その反面攻撃手段が限られている。下手に装甲を破壊すれば、どこから触手を伸ばしてくるか予見しにくく戦いにくくなる。先ほどはサイコブラスターが鍵を握っていたが、今度はサイコブラスターを使えば敵の攻撃手段が増える事に繋がる為数の不利を覆すサイコブラスターが使えないと言う状況になっていた。

 

【シャアッ!!】

 

「これは思ったよりも厳しいわねッ!」

 

数の不利だけならば操縦技術やチームワークで挽回する事も出来る。だが相手は餓えた化け物で、下手に攻撃を加えればその数を増やし、攻撃方法が変わる。それはホワイトスター周辺でインスペクターを名乗る異星人に鹵獲された無人機と戦い続けて、簡易的な補給しかすませていないギリアム達では対処しきれない敵となる事を現していた。

 

「突破口を何とかして見出さないといけないわね」

 

『ああ、だがそう簡単な話ではないぞ』

 

こちらの機体に組み付いて寄生しようとする化け物に囲まれ、その上MBの群れに囲まれていると言う状況はどう考えても絶体絶命であり、突破口なんてどう考えても見出せない状況だった。

 

「最悪の場合リューネはヒリュウ改と共に離脱しなさい」

 

『……それしかあるまい』

 

『ちょっと!? 2人とも何を言ってるのさッ!? 諦めるには早すぎるよッ!』

 

軍人であるギリアムとヴィレッタは最悪の場合を既に想定していた。ヒリュウ改をなんとしても逃がし、そして民間人であるリューネを逃がすために特攻までをこの場を切り抜ける方法として考えていた。

 

「諦めたんじゃないわ。軍人としてやらなければならない事を言っているだけよ」

 

『あたしが言いたいのはそういう事じゃないッ!』

 

感情を押し殺して言うヴィレッタに向かってリューネが声を荒げる。武蔵を見捨てて、そしてその上ギリアムとヴィレッタまで見捨てろという選択をリューネが取れる訳がなかった。

 

『いかん! 散れッ!!!』

 

【【【シャアアアーーッ!!!!】】】

 

3体のインベーダーが突き出した両手。その指が一本ずつ凄まじい速度で伸び、更に枝分かれをしてギリアム達を孤立させんと迫った。

 

「こいつらまさかここまで知恵がッ!?」

 

今までは獣のように吼え、触手を伸ばすか、腕を伸ばし攻撃してきただけのインベーダーだったが、ここに来て初めて相手の逃げ道を塞ぐように、そして協力させ合わないように分断するような攻撃を繰り出してきた事にヴィレッタは驚きを隠せなかった。

 

『くそッ! うおッ!?』

 

『ギリアム少佐!? うあッ!?』

 

枝分かれした触手に追い立てられ、分断された所をインベーダーが寄生したことにより、目標に当たるまで追いかけるミサイルが襲い掛かり逃げようにも触手が邪魔をし、撃墜しようものならば枝分かれした触手と融合し、鋭い切っ先が伸ばされる。

 

(このままじゃ持たないッ……)

 

敵は細胞全てを焼き尽くさない限り何度でも再生し、ミサイルや実弾にもインベーダーの全身に浮かんでいる目が現れ執拗に追いかけてくる。これは最早戦闘ではなく、狩りだとヴィレッタは感じていた。本能的な獣のような動きに明確な知性が加わった事で一気に戦況が傾き始める。

 

『ヴィレッタ! 後ぉッ!!!』

 

「え?」

 

リューネからの警告に振り返ると枝分かれした細い触手から巨大な顎が出現し、ゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRごとヴィレッタを噛み砕こうとしていた。

 

「ッ! うううッ!?」

 

反射的に回避する事に成功はしたが右腕を肩から噛み千切られ、回避した事で触手にぶつかりそこから伸びた無数のスパイクに装甲が穴だらけにされ、モニターが一気に赤に染め上げられた。

 

『くそッ! なんとか離脱しろッ!』

 

『こっちに! ああもうッ!! 良い加減にしなよ! この化け物ッ!!』

 

ギリアムとリューネも触手の間を縦横無尽に現れるインベーダーからの前後左右に加え上下からも執拗に繰り出される噛みつきや触手に完全に翻弄されていた。

 

(まるで狩りじゃなくて、狩りだったのね)

 

この縦横無尽に張り巡らされた触手全てが化け物の狩場で、そこに迷い込んだギリアム達は翻弄され、追詰められ捕食されるという運命しか残されていないのだとヴィレッタは感じた。合流しようにもスパイクで全身を穴だらけにされ、中の基盤も相当やられてしまった。ブースターが全く動かないという事でヴィレッタは完全に移動する術を失った。

 

『大尉!? ヴィレッタ! 応答しろ! ヴィレッタッ!!』

 

『ヴィレッタ!! ちょっと冗談きついよッ!?』

 

腕を失い、ブースターも完全にやられて移動も出来ない――機体コンディションを確認したヴィレッタは薄暗いコックピットの中で1つの決断を下していた。ギリアムとリューネの通信に返事を返さず、コンソールを操作し自爆コードの入力画面を出す。

 

「少佐とリューネは何とかして離脱して、道は何とか私が作るわ」

 

『ま、待ちなよ! 駄目だッ!!』

 

『ヴィレッタッ! まだ諦めるなッ!!』

 

最悪の展開を覚悟しろと言っておいていざそうなると甘いんだからと苦笑し、通信を完全にシャットアウトして淡々とヴィレッタは自爆コードを入力する。

 

(イングラムもこんな気持ちだったのかしら)

 

武蔵と自爆する事を選択したイングラム――自分が死ぬ事になっても、味方の道を作ろうとしたイングラムの気持ちもこんなに穏やかだったのだろうかと小さく苦笑する。自爆してもコックピットブロックが射出されるから生き残る可能性はゼロではない――ただこれだけボロボロのタイプRで正常に脱出装置が起動するかは判らないけどと苦笑し、最後のコードを入力しようとしたその時だった。

 

【【【キシャアアッ!!!】】】

 

化け物達が一斉に顔を上げて雄叫びを上げた。その突然の行動にヴィレッタの動きが一瞬止まった……こんな事を言うのは不謹慎だが、インベーダーの雄叫びによって入力が一瞬止まった……それがヴィレッタの命運を分けた。

 

『ダブルトマホォォクッ!!! ブゥゥウウウウメラァァアアアアアンッ!!!!』

 

武蔵の凄まじい雄叫びと共に放たれたPTを優に越えるサイズの巨大な戦斧――それがインベーダー達を薙ぎ払ったのだ。

 

「……ふふ、どうも……まだ死ねないみたい……ね」

 

自分達を助けに現れた真紅のゲッターロボを見てヴィレッタは小さく笑うのだった……。

 

 

 

 

 

メキボスの言う通りヒリュウ改にインベーダーが群がっていた上に、ゲシュペンスト・リバイブ(S)やヴァルシオーネもボロボロという形相を見て、あれ以上メキボスと押し問答をしていればそれこそ間に合わなかったかもしれないと武蔵はポセイドン号の中で冷や汗を流していた。

 

「シャアアッ!!」

 

「ギィイイッ!!」

 

あれだけ追詰めていたギリアム達に目もくれず、インベーダー、そしてMB・ゲシュペンスト・MK-Ⅲとヒュッケバイン・MK-Ⅲが一斉にゲッターD2に襲い掛かる。

 

「舐めんなよッ!!!」

 

弧を描いて戻って来たダブルトマホークを両手で掴み、襲い掛かってきたメタルビーストを頭から股まで右腕に持ったダブルトマホークの一振りで両断し、左腕のダブルトマホークの横薙ぎの一閃で飛びかかってきたインベーダーを纏めて両断する。ゲッターD2の高密度に圧縮されたゲッター線に触れたインベーダーはぐずぐずに崩れ再生も出来ず消滅する。

 

「ギリアムさん! 大丈夫ですか!?」

 

『あ、ああ……助かった。すまないな、見捨てた上に助けられるなんて情けないな』

 

「大丈夫っすよ! オイラは見捨てられたなんて思ってないですからッ!!」

 

話している最中も飛び掛ってくるインベーダーをダブルトマホークで両断し、ギリアム達の機体をゲッターD2で庇う武蔵。

 

「早くヒリュウ改に逃げてくださいッ! インベーダーの糞野郎にPTじゃ分が悪すぎるッ!」

 

「シャアッ!!」

 

「うるせえッ! 黙ってろっ! このトカゲの出来そこないがッ!!!」

 

挑みかかって来たインベーダーの頭を握り潰すゲッターD2。びくんと痙攣し、再生する素振りも見せず消滅するインベーダーを見てギリアム達は驚いた。ストーンサークルで出現した謎の化け物の事を武蔵はインベーダーと呼んだ――それは武蔵がこの化け物の素性を知っているという事をギリアム達に感じさせていた。

 

「来いッ! こっちにきやがれッ! てめえらの欲しくてしょうがねえゲッター線はここにあるぜッ!!」

 

「シャアアーーッ!!」

 

「シャアッ!!!」

 

「ガアアアーーッ!!!」

 

武蔵の叫びに惹かれるようにインベーダー達は禄に動けないゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRに目もくれず、ゲッターD2に集まり始める。それは今まで自分達が喰われかけていたギリアム達にとっては理解出来ない現象だった。しかもヒリュウ改に取り付こうとしていたインベーダーもこちらに集まり始めているのを見れば、ゲッターロボとインベーダーの間になんらかの因果関係があるのは誰が見ても明らかだった。

 

『武蔵1人にこれ以上負担を掛けるわけにはッ!!』

 

『いっけえッ! クロスマッシャァーーーッ!!』

 

武蔵は見捨てられたと思ってないと言ったが、あの状況では見捨たと同じ事。その事が引っかかっていたギリアムとリューネはゲッターD2に向かっていくインベーダーの背後に向かって攻撃を叩き込んだ。

 

『なんだ、何故何の反応も取らない』

 

『どうなってるのさ、これは……』

 

今までは逃げ回る必要性があり溜めの時間が必要だったメガバスターキャノンや、クロスマッシャーはどうしても無防備な姿をさらしてしまうために使えなかった大技だ。事実命中したインベーダーはボロボロに崩れ消滅しているのだが――何故かインベーダーは攻撃を受けてもそれを無視し融合して、巨大になりながらゲッターD2に向かっている。

 

「シャアッ!」

 

「でっかくなっても無駄だァッ!!」

 

ホワイトスターからヒリュウ改に向かってきていたインベーダーが全て融合し、ゲッターD2を上回る巨体となりゲッターD2に爪を伸ばす。

 

「オラアッ!!」

 

「シャアアッ!?」

 

宇宙空間に凄まじい轟音を響かせゲッターD2と巨大インベーダーがその豪腕を何度も交差させる。その姿はギリアム達の介入の余地が無い凄まじい戦いだった。

 

『どうなってるのさ……これ』

 

『信じられないわね……』

 

人智を越えた戦いにリューネとヴィレッタは言葉も無かった。それはヒリュウ改のレフィーナ達も同じだったが、ただ1人……ギリアムだけは違っていた。武蔵と同様に世界を超えた経験があるギリアムだけが……この戦いがこれから百鬼帝国、そしてアインストと戦う上で避けられない物であるという事を知っていた。

 

(まさかこれほどまではとは……最早俺達に残された時間は殆どないと言うことか……)

 

恐竜帝国の出現、そして量産型ゲッターロボGに始まった世界の乱れ、それは乱れに乱れ、そして百鬼帝国を復活させ、アインスト、インベーダー、そしてインスペクターを呼び寄せた。まだ表舞台に出ていないが、影で暗躍する者達もいる。

 

「ゲッタァアア……ビィィイイイムッ!!!!」

 

「グッギャアアアアアアアッ!?!?」

 

宇宙空間を焼き払う翡翠色の輝きに飲まれ消滅するインベーダー。その姿を武蔵は鬼のような形相で見つめていた……。

 

(どうしてインベーダーが……)

 

ストーンサークルから出現したのは武蔵も見ていた。それゆえにストーンサークルが門のようになり、そこから何かの間違いでインベーダーが現れたと武蔵は考えていた。だが実際はホワイトスター周辺に突然現れたのを見れば、宇宙のどこかでインベーダーが増えているという事を現していた。

 

(どうして……)

 

自分が消えた後竜馬達がインベーダーを絶滅させたと武蔵は信じていた。向こう側の世界でのインベーダーは世界が違う事で竜馬達がおらず、インベーダーが出現していたと思うことにしていた。しかし、今こうして過去の世界から未来に戻ってもインベーダーが出現するという事は竜馬達がしくじったのか、それとも他の要因があったのか……武蔵の脳裏には何故という言葉ばかりが過ぎっていた。

 

(何があったんだ……)

 

自分がいなくなった後何が起きたのか? 竜馬達がしくじったのか、それともメキボスの言う通りならば別の惑星にはインベーダーがまだその数を増やしており、ゲッター線を求めて地球圏にやって来たのか……考えても答えの出ない事を考え込んでいるとゲシュペンスト・リバイブ(S)から通信が繋げられた。

 

『武蔵。どういうことか事情を聞きたい、ヒリュウ改に着艦してくれるか?』

 

「判りました。オイラも色々と話を聞きたいですし、少しの間お世話になります」

 

カーウァイに文章通信でヒリュウ改と合流したと言う旨の事を伝え、武蔵はギリアム達に誘導されヒリュウ改へ向かって行くのだった……

 

 

 

 

 

武蔵がヒリュウ改に着艦した頃、月面のセレヴィスシティにはケースEの発令により、移動制限が課せられる前の最後のシャトルが到着していた。

 

「月と言ってもそう地上と変わらない物だね。玄」

 

「そうじゃのう……もっとこう近未来的な物を想像しておったわ」

 

殆どの人間がケースEの発令によって月面から地球へと避難する中。まるでケースEなど恐れるに足りないと言わんばかりに観光という様子の2人組みが悠々とゲートを通りセレヴィスシティへと侵入を果たしていた。

 

「やっぱり避難しているのは一部の人間って所だねえ」

 

「……金が無いんじゃろうなぁ。ま、ワシらは安く月に来れたから文句など無いがの」

 

避難するシャトルはケースEによって高騰し、その反面地球から月へ来るシャトルは格安となっていた。今月面に残っているのは軍人や各企業のトップシークレットを知る一部の研究者やメカニック、そして金の無い一般市民という構図になっていた。

 

「不安だからこそ、騒ぐか……まぁそんな物だろうね。玄はどう思う? 玄?」

 

あちこちに立つセールの昇りなどを見て少し呆れた様子の青年が隣を歩いていた老人に声を掛けるが、反応が無く横手を見ると老人の姿がなかった。慌てて振り返ると老人は立ち止まり、不安を誤魔化すように騒いでいる若者をジッと見つめていた。

 

「ふぇふぇふぇ……中々賑やかじゃのう?」

 

腰がくの字に曲がった黒い導師服の老人は騒いでいる若者――取り分け若い少女を嘗め回すように見つめていた。

 

「玄。やめてくれよ? まだ早い」

 

それを見て若い青年は溜め息と共に腰の曲がった老人の肩に手を当て、首を左右に振った。すると老人は少女に向けていた視線をずらし、誤魔化すように笑った。

 

「……そうじゃな。大帝の命令に従わなければならんのう」

 

「その通りさ。大帝のご指示は全てにおいて優先される。僕達の意思はその次だ」

 

青年の言葉にその通りだと返事を返した老人は誤魔化すようにと髭をさする。青年に玄と呼ばれた老人は朗らかに笑ったが、その目は短いスカートとブラウス姿の少女を食い入るように見つめていた。情欲ではない、抑えきれない食欲と嗜虐欲を隠しきれないでいた。だがそれを大帝の命令が押さえ込んでいた、玄――四邪の鬼人 玄王鬼にとってはブライの命令が全てにおいて優先される。それゆえに鬼の獰猛な本能を押さえ込むことが出来ていた。

 

「落ち着いてくれた用で何より、僕達も仕事をこなそう。まずは種まき、次に刈り取るよ」

 

「ふぇふぇふぇ、承知した」

 

観光という様子で歩く朱王鬼と玄王鬼。その視線はセレヴィスシテイ、そして工場街――その奥のマオ社と見つめる。どこをどう制圧すれば、月面を掌握出来るか? 念入りなシュミレートを繰り返す2人の影が不自然に伸び、街の中の影の中に潜りこんで行く……ブライの命令で月面を制圧に来た百鬼帝国の尖兵は人知れずセレヴィスシテイの中に潜み始めていた。

 

「しかしのう、何故大帝が下手に出る必要があるんじゃ? 本来ならあいつらが頭を下げるべきじゃろう?」

 

「さあね? でも大帝には深い考えがあるんだろう。僕達は言われた通り月面を制圧する、そしてウォガルに交渉をする。それだけさダヴィーンの名前を出せば交渉のテーブルにつけると言っていたじゃないか」

 

「ワシは大帝が頭を下げるのが腹立たしいのだ」

 

「我慢しなよ、全部終わったら破壊も殺戮も暴食も好きにすればいい。だけどまずは月面を制圧するポイントを絞り込む事さ」

 

「あい、判った。参ろうか、朱」

 

「そうさ、行こう。玄」

 

祖父と孫という様子で言葉を交す朱王鬼と玄王鬼。どうやって月面を制圧するか、どうやって自分達が有利な条件で交渉を進めるかという物騒な物だったが、周りの人間はそんな2人の言葉が世間話の様にしか聞こえず、いつしか朱王鬼と玄王鬼の姿は人混みの中に紛れその姿を消すのだった……。

 

 

 

第52話 再会 へ続く

 

 




今回の話は前回が長かったので少し短めの話になりました。文字数のバランスが少し間違えたかなあと思っていますが、今回はこういう形でお許しください。次回はヒリュウ改でのギリアム達の話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第52話 再会

第52話 再会

 

ヒリュウ改に順番に着艦するゲットマシン――格納庫には整備兵達に加え、パイロットスーツ姿のまま簡単な手当てを済ませたギリアム達。そしてレフィーナを初めとするブリッジクルーの姿もあった。ドラゴン号、ライガー号、ポセイドン号と順番に着艦し、ポセイドン号のコックピットが開いた。

 

「よっと」

 

そこから姿を見せた武蔵は半年前よりも更に奇抜な服装になっていて、一瞬武蔵を出迎える為に集まっていた全員が動きを止めた。工事現場のヘルメットに剣道の胴、それにニッカボッカにマント……そして首元にはボロボロの赤いマフラーが巻かれていた。しかし面を食らっていたのは一瞬の事で、生きていると信じていたが、それにも疲れ始めていた頃に姿を現した武蔵に歓声が上がった。武蔵はびくんと肩を竦め、驚いた様子だったがすぐに笑みを浮かべて両手を振って、用意されたタラップを降りてくる。

 

「武蔵さん。お久しぶりです。見捨てた癖に何を言ってると思うかもしれませんが……ご無事でよかったです。でも……生きていたなら連絡の1つくらい入れるべきでしょう。皆とても心配していたんですよ」

 

「いやあ。本当に色々あって簡単には説明出来ないです、ご心配をかけたみたいで申し訳無いです」

 

レフィーナの言葉に頭をかきながら心配をかけて悪かったと謝罪する武蔵。その姿は半年前よりも精悍になっていて、力強さに満ちていた。

「ギリアムさん、ヴィレッタさんもお久しぶりです。リューネも元気そうで良かったぜ」

 

レフィーナに続いてギリアム達にも笑みを浮かべて再会出来た事を喜ぶ武蔵。

 

「生きていると信じていたが、連絡くらい入れろ。武蔵」

 

「リクセントの時に返事を返したんだから、ストーンサークルの時に声くらい掛けなさい」

 

だがギリアムとヴィレッタにすぐに釘を刺され、すみませんともう1度頭を下げる武蔵。

 

「いや、責めたい訳じゃないんだ。武蔵、あの時は見捨ててしまってすまなかった」

 

「いやいや、そんなの全然気にしてないし……オイラが勝手にやった事ですし」

 

「でも軍人としては許される事ではないんですよ」

 

「いや、そういうの本当気にしなくていいですから」

 

互いに負い目があるので格納庫で謝罪と気にしなくて良いという言葉の繰り返しになり、全く話が進まないのを見てリューネが手を叩いた。

 

「ここで謝り合っていても何にも進まないし、互いに長い話になると思うからブリーフィングルームで腰を据えてゆっくり話をしようよ」

 

報告しなければならない事が山ほどあるのでゆっくりしている時間は無いのだが、それでも武蔵から話を聞く事が重要な事であるのは明らかだった。

 

「そうだな。そうしよう、武蔵。何があったか説明してくれる時間はあるのか?」

 

「大丈夫ですよ、まぁ流石に一緒に地球に行くとか、連邦の基地に向かうって言うのはお断りですけど……何があったのかって話をする時間はありますから」

 

合流はしてくれた武蔵だったが、まだ完全に行動を共にしてくれる訳ではないと断言した。

 

「それはあのゲシュペンスト・タイプSとR-GUNのパイロットに関係しているのか?」

 

「……まぁそれも含めてブリーフィングルームで話しますよ。まぁオイラあんまり頭良くないんで、上手に話すのは難しいっすけどね」

 

にかっと笑った武蔵に釣られて、どこかから笑みが零れた。そしてそれはどんどん広がって行き、先ほどまでのヒリュウ改に満ちていた悲壮感は何時の間にかどこかへと消えているのだった……。

 

 

 

 

 

 

「まずは連絡出来なかった事は謝ります。でもオイラは連絡できない状況にあったんです」

 

ブリーフィングルームでの話の席で武蔵はレフィーナ達に向かってそう話を切り出した。

 

「連絡できない状況ですか……誰かに囚われていたとか、怪我をしていたと言うことですかな?」

 

連絡できない状況と言う事で真っ先に連想させるのはその2つだ。ショーンがそう尋ねると武蔵は首を左右に振った。

 

「そのー馬鹿げてるとか、ありえないと思うのは判っているんですけど……あの石ころに突っ込んだ後オイラは気が付いたら怪我が完治して、新品その物のゲッターロボの中で目を覚ましたんです」

 

武蔵の言葉にレフィーナ達の顔にありえないと言う表情が浮かんだ。武蔵もゲッターロボもジュデッカと戦いボロボロの状況だった。そんな状況の武蔵が新品同様のゲッターロボ、そして怪我も完治していたなんて言う話をそう簡単に信じる事は出来なかった。

 

「それは目覚めたのが最近ということかしら?」

 

「いえそういうことじゃなくて、オイラとゲッターは……オイラが死んだ後の旧西暦にいたんですよ。ギリアムさん達が言う空白の歴史の真っ只中ですね」

 

「……ではまさか、武蔵がインベーダーと呼んだのって……」

 

「そ、その空白の歴史で人を殺しまくってたって言う異形の化け物って奴ですよ」

 

今も数多の歴史研究家が解明しようと躍起になっている当時の人類の8割を抹殺した生物の正体――それを目の当たりにしていると武蔵に言われたギリアム達。信じられないと思うよりかは何故かすんなりと納得してしまった。

 

「信じられん……とは言えんな。失われた時代では人類の8割が死んだと聞く……あの化け物を見れば納得さざるを得ないか」

 

無限に再生し、融合し巨大化し、更に人間にも無機物にも寄生し変異する化け物――それを目の当たりにすれば当時の政府がその時代の歴史を全て破棄したのも納得出来た。

 

「武蔵。イングラムはどうなったのかしら? 旧西暦にいたのは武蔵だけなの?」

 

「……」

 

「武蔵?」

 

だんまりを決め込んだ武蔵にヴィレッタが微笑みかける。口元は笑っているが、目が全く笑っていない笑みを向けられた武蔵は目をそらすが、ヴィレッタが余りにじっと見つめるので武蔵は両手を上げた。

 

「すんません、降参です。イングラムさんも一緒でした」

 

MIAの2人が旧西暦にいた。それはどれだけ探しても痕跡なんて見つからないのも納得だった。

 

「では武蔵。あのゲシュペンスト・タイプSのパイロットは誰なんだ? イングラムではないだろう?」

 

今度はギリアムにジッと見つめられ武蔵は深い溜め息を吐いた。

 

「カーウァイさんですよ。って言うか判ってますよね?」

 

「まぁな。動きでは判っていたが、言葉として聞くのと聞かないのでは大きな差がある」

 

動きからカーウァイであると確信していたギリアムだが、こうして武蔵の口から聞くのと聞かないのでは雲泥の差があった。

 

「カーウァイ大佐まで旧西暦で生きていたんですか……もしや他に亡くなられた方も?」

 

「いや、見つけれたのはカーウァイさんだけですね。そもそもオイラもイングラムさんも確実にあの石ころに突っ込んだ段階で死んでるんですよ。オイラは覚えている、ゲットマシンに押し潰されて胸から下が完全に潰れたのも、あの熱さも息苦しさも全部覚えている。だから生きていたって言うのは根底から違う……オイラ達は「生き返らさせられた」んですよ。ゲッター線に」

 

生きていたのではなく、死んだのを生き返らせられたと断言する武蔵。その言葉と目には凄まじい力強さがあり、レフィーナ達はその通りなのかもしれないと思ってしまった。

 

「ゲッター線って言うのはそんなことまでするのかい?」

 

「多分が付くけどな。それにオイラ達には1つ共通点がある――意識が途絶える瞬間にゲッター線の光に包まれたのを3人とも共通して覚えている。そこからまた記憶が始まっているんだ」

 

死の間際に見たゲッター線――それが確実に武蔵達が再び生きているという事に大きく関係していると武蔵達は考えていた。

 

「オイラとイングラムさんとカーウァイさんは旧西暦で竜馬達とインベーダーと戦って、んでまた時間を越えた。今度は未来って言うか……んー? 平行世界って奴だと思う。そこで連邦軍の特殊部隊と一緒にインベーダーとアインストと戦って……んでまたこの時代に帰ってきたって所ですかねえ」

 

「武蔵。その連邦軍の特殊部隊の名前は?」

 

連邦軍の特殊部隊と聞いてギリアムが即座にそう尋ねたが武蔵は首を左右に振った。

 

「世界を超えたのか、時間を越えたのかっていうのは全然判らないんですけど……どうしても思い出せない事が多々あって」

 

「その特殊部隊の名前を覚えてないという事ですかな?」

 

「そうなりますね。いや、本当に申し訳無いです」

 

ぺこぺこと何度も頭を下げる武蔵の姿を見てギリアムは目を細めていた。

 

(武蔵は覚えているが……それを伝える事は出来ないと言うことか……)

 

地球圏に広がっている争乱――それを更に広げる可能性がある存在をどこにいるかも判らないのに伝える事は出来ない。武蔵はそう判断して、本当の事を告げていないという事をギリアムとヴィレッタは感じていた。本当はもっと詳しく聞いても良かったのだが……武蔵が、いや、武蔵だけではないイングラムも生きていると聞けただけでも今は十分と考え、ギリアムとヴィレッタはそれ以上深く話を聞くことは無かった。

 

 

「武蔵は百鬼帝国の事は知ってるかしら? 百鬼帝国も旧西暦に存在していたらしいけど、何か知ってるかしら?」

 

地球で猛威を振るっている百鬼帝国――それも旧西暦に存在した集団と言う事で武蔵に何か知らないか? とヴィレッタが尋ねる。

 

 

「百鬼帝国に関してはオイラも殆ど知ってることはないですよ? 判ってるのは人間に化ける事と百鬼獣っていうのを使うって事と……後は大帝って言われる奴がトップって事くらいで」

 

旧西暦の生まれではあるが、武蔵は自分が生きた時代と百鬼帝国の時代は微妙に違うと言って、詳しくは知らないとヴィレッタに返事を返した。

 

 

「だがリクセントに現れた百鬼獣はゲッターロボを知っている様子だったけれど……」

 

「リョウや隼人、それにオイラの代わりにゲッターに乗り込んだ弁慶って奴がいますからね。だからゲッターロボを知ってるんでしょう」

 

武蔵が何か隠しているとヴィレッタは感じていたが、百鬼帝国については殆ど知らないという武蔵を暫く見つめ、武蔵の言葉が真実だと判ると判ると小さく頷いた。この件に関しては武蔵は嘘を付いていないと判ったのだ。

 

「武蔵は今までどうやって過ごしていたんだ?」

 

「そりゃまあ、ゲットマシンの中で寝たり、たまーに街に出て飯を食ったりしてですよ。名前は知られてるけど顔は知られてないんで騒ぎとかにもなりませんでしたし」

 

名前は知られていても顔は知られてないので、あっちうろうろこっちうろうろして過ごしていたと言う武蔵だったが、それにリューネが待ったをかけた。

 

「待って武蔵。親父とつるんでるだろ?」

 

武蔵が既に父親であるビアンと行動を共にしていると言うのは間違いないと感じていた。そしてそれを問いただすと武蔵は思いっきり目をそらした。

 

「……」

 

「目をそらすな。こっちむけ」

 

目をそらし続ける武蔵の頭を掴んで強引に自分の方に向かせるリューネ。武蔵は青褪めた顔でゆっくりと口を開いた。

 

「……も、黙秘権」

 

「あると思ってるのか?」

 

ぴしゃりと断言され武蔵はがっくりと肩を落とした。

 

「ビアンさんと合流したのは1ヶ月くらい前かな」

 

「そうか、その頃ならあたしはバン大佐とメールでやり取りしてたよ。なんでバン大佐、いや親父に……そうだな。ゼンガー少佐達もそれを知ってたのに、それを隠していたんだろうなぁ? あたしが地球をあっちこっち調べて、木星の近くまで探しにいってたのにさぁ?」

 

リューネの責める言葉に武蔵はダンと両手を机の上に置いて深く頭を下げた。

 

「すんませんでしたぁッ!!」

 

「あたしは武蔵じゃなくて親父に怒ってるんだよッ!!」

 

「いや、本当に色々事情がッ!」

 

「武蔵ぃ! クロガネの場所を教えなッ! 親父に直接文句を言ってるやる!」

 

「すんません! 勘弁してくださいッ!!」

 

何もかも知っていたのにそれを隠していたビアンに対して怒るリューネを必死に宥める武蔵。ブリーフィングルームは一時騒然となり、武蔵の話も、ギリアム達も自分達の近況を話している状況ではなくなり、全員で激怒しているリューネを必死に宥めるのだった……。

 

 

 

 

全員の説得が功を奏したのか、まだ怒りを隠せないでいるリューネだったが何とか一時的にしろ怒りを押さえ込んでくれた。

 

「とりあえず親父を見つけたらぶん殴る」

 

「すんません、本当勘弁してくれませんか?」

 

「駄目だ」

 

武蔵の生存を隠していたビアンに対するリューネの怒りは深く、ビアンを見つけたら殴るというのは決定事項になってしまった。その事に武蔵は心の中でビアンへと謝罪の言葉を呟いていた。

 

「この後武蔵さんはどうするつもりなんですか?」

 

「えっと……月で待ってるカーウァイさんと合流して地球に戻るつもりです。ゲッターD2なら単独で大気圏突入も、突破も出来ますし」

 

レフィーナの言葉に武蔵がそう返事を返すと、話を聞いていたショーンが手を上げた。

 

「ゲッターD2というのですか? あの新しいゲッターロボは?」

 

「ういっす。早乙女博士の作った最後のゲッターロボですよ。旧西暦で見つけてからずっと使ってますよ。正直ゲッターD2が無かったらオイラ達は無事に戻って来ることは出来なかったと思いますよ」

 

「ゲッターD2を使っても窮地に追い込まれるような状況だったのか?」

 

ゲッターD2の力はギリアム達から見ても凄まじかった。それこそ、ゲッターD2だけで戦場を制圧する可能性のある機体だ。それがあっても苦戦を強いられていたと聞いてレフィーナ達の顔が強張った。

 

「アインストもインベーダーも人に寄生してたし、機体にだって寄生した。見たと思いますけど、でかくもなるし。化け物にもなる……これ以上増える前に対策を考えないといけないんだ。あの世界みたいにならない為にも……」

 

「あの世界って武蔵が戻ってくる前にいたって言う未来の? どんな世界だったの?」

 

リューネが疑問に感じたことを尋ねると穏やかに笑っていた武蔵の顔が鬼の形相になった。

 

「あんなにひでえもんはオイラは見た事が無い。インベーダーとアインストに人間が狩られ、寄生され化け物になってインベーダーとアインストとして化け物どうし潰しあう。人に出来る事は逃げる事……そんな酷い有様だった。あれを一言で言うなら……地獄としか言いようがない」

 

そう言って黙り込んだ武蔵は平行世界のついての事はこれ以上話したくないと言う雰囲気で、レフィーナ達もこれ以上武蔵に平行世界についての事を尋ねる事はしなかった。事実アインストとインベーダーを目の当たりにしたレフィーナ達も武蔵の言う事が真実だということを疑う余地は無かった。

 

「対策などありますか? もし知っていれば教えていただきたいのですが?」

 

「……赤黒いコアを破壊すればアインストは倒せます。でもインベーダーはゲッター線を使った武器じゃないと倒すのは厳しいと思います」

 

アインストの弱点がコアであると言うことは今までの戦いでも判っていた。しかしインベーダーにはゲッターロボでなければ有効打を与えれないと聞いてレフィーナ達は眉を顰めた。ゲッター線を使えているのはビアンだけ、そして武蔵のゲッターロボだけだ。何時何処に出現するかも判らないインベーダーを相手にゲッターロボしかまともに戦えないと言うのは不味いという物ではなかった。

 

「ほかに何か対策はないかしら?」

 

「……そうだ、目玉。目玉を潰していけば弱体化するって弁慶が言ってました、あとは凄い火力で細胞1つ残さず消滅させる方法があるくらいですね」

 

目玉を潰すといってもインベーダーは全身に目玉があり、それを潰すのそう簡単に出来る物ではない。更に高火力で消滅させると言っても、それだけのレベルに出力を高めればエネルギーの消耗も激しくなる。

 

「ゲッターロボしか有効的な対策はないと言うことか……」

 

「それはかなり不味いですなあ。今は宇宙でしか確認されていませんが、地球にも出現するかもしれない可能性を考えると……武蔵には出来れば同行していただきたいところなんですが……」

 

ちらりとショーンが視線を向けるが武蔵は深く頭を下げた。

 

「すんません。まだオイラも調べる事があるんで、一緒に行くのは無理です」

 

「武蔵、その調べ物ってなんなのかしら? ヒリュウ改やハガネで一緒に調べるのは無理な物なのかしら?」

 

武蔵にビアンが付いているのは判っているが、ハガネとヒリュウ改と共に調べるという選択肢もあるはずだとヴィレッタが武蔵にそう問いかける。

 

「そうだよ。リュウセイ達も会いたがっているし、一緒に行けばいいじゃないか」

 

名案だと言わんばかりのリューネだが、武蔵の顔は優れない。心情的には一緒に行きたいと思っているのは明らかだが、それでも一緒に行けない理由があるというのをギリアムはその顔を見て感じ取っていた。

 

「……その調べ物は公になれば俺達――もっと言えばレイカー司令達の立場でさえも危うくなるものか?」

 

ギリアムの問いかけに武蔵は黙り込んだまま小さく頷いた。レフィーナ達だけではない、レイカーの立場まで危うくなる調べ物――武蔵が一緒に行けないと言うのはギリアム達の事を心配しての物だった。

 

「……すんませんね。オイラとしては一緒行きたいんですよ……でも、それをすると今はまだ危ないんで、オイラはそろそろ行きます。ギリアムさん。個人的に連絡取れる端末のコードとかあります? それで連絡を取り合えると嬉しいんですけど」

 

「ああ。判った、少し待ってくれ」

 

ギリアムは手早く個人的な端末の通信コードをメモし、武蔵に手渡した。武蔵はそれを受け取ると小さく頭を下げた。

 

「もう少し何か判ればまた顔を見せに来ます。それじゃあ、また」

 

ブリーフィングルームを後にする武蔵をギリアム達は黙って見送った。武蔵の生存を知る事が出来たギリアム達だが、その武蔵から告げられたのは地球を滅ぼしかねない人智を越えた敵の存在――そして武蔵を明言することを避けたが、百鬼帝国が既に相当数上層部に潜り込んでいる事を暗に示していた。ゲッタードラゴンに似た形態に合体すると同時に翡翠色の光に包まれ、高速で飛び去るゲッターD2をギリアム達は無言で見送るのだった……。

 

 

 

 

 

武蔵がヒリュウ改を出た頃。月面のカーウァイはリンと連絡を取り合っていた。

 

『やはり早い内に月を脱出するべきと言うのだな?』

 

「ああ、武蔵がまたインベーダーと遭遇している。宇宙はもう安全ではない、シャトルがあるのならば早く脱出を考えろ」

 

マオ社で現在開発されている機体は今後の戦況の明暗を分ける。それらがインベーダーに寄生されるのも、インスペクターに奪取されるのも避けなければならない事態だとカーウァイはリンに警告する。

 

『判った。1度ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプLとMのエンジンを停止させる。その後脱出の準備に入る』

 

「そうしろ。いやな雰囲気になってきているのは間違いない」

 

月から地球に脱出するシャトルが次々と出立しているが、それは一部の人間だけでセレヴィスシテイに在住している人間の殆どが月面に取り残されたと言ってもいい状況になっている。

 

『……迷惑をかけることになると思うが、最悪の場合は助力を頼む』

 

「ああ。任せてくれ。そのために私が月に残ったんだ」

 

『そう言って貰えると助かる。では私達も脱出の準備に入る』

 

その言葉を最後にリンからの通信は途絶えた。カーウァイは廃工場の椅子に深く背中を預け目を閉じて、深く溜め息を吐いた。

 

「……駄目だな。胸騒ぎが収まらない」

 

首筋にちりちりと感じる静電気にも似た感覚――それは殺気と呼ばれる物に良く似ているとカーウァイは感じていた。それだけではなく、月面全体から言いようの無い邪気のような物をカーウァイは感じていた……深い闇から伸ばされた手が全身を絡めとるような……底なし沼に嵌っていくような……上手く言えないどす黒い何かを感じていた。

 

「何事も無ければ良いのだが……」

 

リン達の避難もそうだが、民間人の避難が済むまで何事も無ければ良いのだがと祈るカーウァイだが、その願いは届かず月での争乱の幕は開かれようとしているのだった……。

 

 

 

 

武蔵がヒリュウ改を後にし月面に向かっている頃、ホワイトスターでは……最後のインベーダーが悲鳴を上げながら消滅したところだった。。

 

「ぜぇ……ぜぇ……おい、アギーハ、生きてるかあ」

 

『な、なんとか……生きてるよ』

 

『……』

 

「おう、シカログもすまねえな。そんなボロボロなのによ」

 

両腕を失い、爆発を繰り返していたドルーキンだが、旧式であるがゆえにコックピット回りの装甲が厚く、負傷こそしているがそれでも命に関わる怪我ではなく、インベーダーとの戦いに苦戦していたメキボスとアギーハへの支援へ入り、3体となった事で辛うじてインベーダーを退ける事に成功していた。

 

『こんな事を言うのはなんだけどゲッターのお蔭だね。あたい達をボロボロにしてくれたけどね』

 

「おう、俺もそう思うぜ」

 

新西暦のインベーダーはゲッター線に餓えていたが、ゲッターD2の密度の高いゲッター線はインベーダーにとって猛毒にも等しく、ゲッターサイクロンの余波で消滅しながら戦いを仕掛けてきていたのが、メキボス達の命を繋いでいた。

 

『ゲッターのお蔭ってどういう事かな? 僕に説明してくれないか』

 

安堵の溜め息を吐いたメキボス達だったが、通信に割り込んできた穏やかな少年の声に引き攣った表情を浮かべた。

 

「ウェンドロ様」

 

『うん、この宙域のありさまとホワイトスターにめり込んでいるガルガウの件も含めて、全部説明してくれよ』

 

有無を言わさない自分達のボスの要求にメキボスは厄日だなと心の中で呟きながら、了解と返事を返すのだった。

 

 

「以上がことの推移になります。ヴィガジの暴走さえなければ交渉の機会があっただけに無念の極みであります」

 

疲労もあり、今回のすべての責任は全てヴィガジにあると言わんばかりに悪意のある報告をするメキボスだが、8割方事実であり、戦闘記録の映像もある為ウェンドロはメキボスの報告を真実として受け入れた。

 

「なるほど、ヴィガジの暴走でゲッターとの交渉の機会を失い、なおかつインベーダーの襲来でゲッターを見逃したと……ヴィガジ、謹慎だ。最悪査察官の資格を取り上げられる事も覚悟するように」

 

「ウェ、ウェンドロ様ッ! わ、私の話も聞いてくださいッ!」

 

「いいや聞く必要はないよ。ゲッターとは交渉優先だった筈なのに攻撃を仕掛け、交渉を失敗させた。謹慎で済んでいるだけありがたいと思うんだ……あ、いや、待てよ。ホワイトスターが基地として使えないレベルだ、謹慎よりもその修復をしてもらおう。その完成度によっては君の話ももう1度聞くし、挽回のチャンスも与えよう。メキボス達はお疲れ様、少し休んでから報告書を上げるように」

 

 

「了解です。失礼します」

 

「……失礼……します」

 

敬礼し退室するメキボスと震える手と声で顔を青褪めさせてヴィガジが退室していく。

 

「ふふ、本当にゲッターロボがいるなんてね……面白くなって来たじゃないか」

 

1人だけになったウェンドロは上機嫌に笑う、ヴィガジのせいで交渉と言う名目で罠を仕掛ける事は不可能になったが、地球にゲッターロボが存在する。それだけでも十分すぎる価値がある。それに映像と報告でゲッターのパイロットは単純で罠を仕掛けやすいというのも判れば、十分幾らでも手の内用はあるとウェンドロはほくそ笑む。

 

「未開の地の猿にゲッター線なんて勿体無い、あれは僕達ゾヴォークが管理するべきものなんだ」

 

ゲッター線を手にしゾヴォークでの立ち位置をより磐石にすることを企むウェンドロ。己が優秀だと驕る愚者は悪意を持った上位者にとっては絶好の駒となる、自分が利用されていると気付いた時……それは己が死す時なのだが、己が優秀だと信じているウェンドロはそれに気付く事無く、そしてそれを悟らせる事も無く、無数の悪意はウェンドロにへと迫っているのだった……。

 

 

第53話 四邪の鬼人 その1 へ続く

 

 




今回はシナリオデモの話になり、ヒリュウのメンバーが武蔵の生存と、今の地球を取り囲む不味い状況を知りました。次回は第三の狂鳥の話を書くつもりですが、インスペクターではなく百鬼帝国を敵にしたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第53話 四邪の鬼人 その1

第53話 四邪の鬼人 その1

 

武蔵との再会を果たし、インベーダー、そして百鬼帝国の情報を武蔵から僅かながらに得たヒリュウ改はL3宙域の連邦軍基地へと辿り着いたのだが……そこでレフィーナ達は隔離されたドッグでの数日間の缶詰となってしまった。

 

「……やっぱり上層部って馬鹿じゃない?」

 

「耳が痛いな……」

 

リューネからすれば貴重な情報を持ち帰ったのに隔離と言う選択を取ったL3宙域の司令は無能以外には思えず、そして通信機すら使用制限を掛けられてしまったギリアムも耳が痛いなと言いつつもその通りだと内心思っていた。

 

「必要最低限の情報はパリの連邦本部に伝える事は出来ましたし……後はブライアン大統領や、レイカー司令達が動いてくれることを祈るしかありませんね」

 

「ええ。でも……正直缶詰はかなり痛いわ。レフィーナ艦長」

 

レフィーナの計画ではホワイトスターをインスペクターを名乗る異星人に奪取された事を伝え、インベーダーとアインストの戦闘データを渡して、地球へと降下するプランだった。だがインベーダーが人や無機物に寄生する事を知るとヒリュウ改のクルーやPTが寄生されていることを恐れ、司令の独断で隔離ドッグへと閉じ込められてしまったのだ。しかもドッグ周辺に機雷と電磁ネットまで用意されては、レフィーナ達はこのドッグの中でおとなしくしているしかなかった。

 

「確かにインベーダーはやばいけどさ、このまま本末転倒にならないと良いんだけど、あたし凄い嫌な予感がするんだよ」

 

「リューネ、あんまり不吉なことを言わないでくれるかしら? 本当にその通りに……『月面に正体不明の特機多数出現ッ!! 防衛隊は緊急出撃! 繰り返す! 月面に正体不明の特機多数出現ッ! 防衛隊は緊急出撃をッ!』

 

「あ、あたしのせいじゃないからねッ!?」

 

リューネがあたしのせいじゃないと声を荒げるが、誰もそんなことは思ってはいなかった。何故ならば、誰も口にしていないだけで、言いようのないどす黒い何かが自分達に迫っているのを感じていたからだ。

 

「出撃命令が出てくれればいいんだけど……」

 

「無理に出航する訳にも行かないからな、一応コンタクトは取ってみるが……駄目だろうな」

 

仮に出撃許可が下りても機雷の撤去、電磁ネットの回収などが終わるまでは出撃出来ない状況になっている。

 

「あーっもう! 最悪ッ!! どうするのさギリアム少佐!?」

 

「……しかたないな。別れてすぐで気まずいが……そうも言ってられん」

 

制服の中に隠していた組み立て式の通信機を慣れた手付きで組み上げたギリアムはすぐにスイッチを入れた。

 

『はいはい、ギリアムさん。どうしました?』

 

「すまない武蔵。緊急事態だ、月面が正体不明の特機……百鬼獣か、インスペクターかは判らないが、それらに襲撃を受けている。俺達はドッグに軟禁されていて動けない。向かってくれるか?」

 

『任せてください、どっちみち月でカーウァイさんと合流する予定でしたし、急いで向かいます!』

 

「すまない。よろしく頼む」

 

ゲッターD2とゲシュペンスト・タイプS――その2機がマオ社、そして月の住民を守ってくれる事を祈るしか出来ないギリアム達はぐっと唇を噛み締めるのだった……。

 

 

 

 

武蔵が月面に向かっている頃。パリの大統領府は大混乱に陥っていた……。

 

「は? ヒリュウ改をドッグに軟禁して、機雷と電磁ネットで動けなくした? お前は何を考えている! 早く機雷の撤去とと電磁……無人機の襲撃を受けていて、そちらに回す人員がいないだと!? 貴様ッ!! お前は何を考えてそんな暴挙に出たッ!! ふざけるなよ!! 誰がそんな事を命じたッ!!」

 

『ひ、ヒリュウ改が持ち帰った戦闘データをみ、見た上での判断です』

 

「だから誰がそんな事を命じた!! この馬鹿者がぁッ!! セレヴィスシティの住民やマオ社が制圧されたらお前はどう責任を取るつもりだ!!」

 

『い、今部隊の一部が月面に……』

 

「それで間に合うと思っているのか! どうやって民間人を避難させる!? 輸送機等も向かっているのか!?」

 

『い、いえ……その……も、申し訳ありません!!』

 

「お前の謝罪などいるか!! もう良い! 貴様の顔も声も聞きたくないッ!!」

 

ニブハルは凄まじい剣幕があちこちから響く大統領府の通路を早足で進み。ブライアンの執務室を目指していた。その顔に普段の余裕の色は無く、強い焦りの色が浮かんでいた。

 

(インベーダー……まさかあの破壊魔達が地球圏に出現するとは……これは不味いですね)

 

一時期は宇宙全てを埋め尽くす勢いで増えていたインベーダー……しかしそれらは木星圏での出現を最後にその目撃情報はぱたりと途絶えていた、それが再び現れた。再び宇宙全域の危機を現していたが、それはニブハルのような男には逆にチャンスだった。

 

(インベーダーのある所、ゲッター線あり)

 

インベーダーはゲッター線がなければ生存出来ない。だからゲッター線の反応が途絶えてからインベーダーも死滅したと考えられていた。事実ニブハルもそう考えていた1人だが、L5戦役でのゲッター線で作られた巨大なゲッターロボ、しかしそれは失われニブハルは落胆した。しかしだ、半年たって今地球で確認されたドラゴンの発展機――その圧倒的なゲッター線反応にニブハルは歓喜した。ゲッター線に近づく事はとても危険な事だ。しかし、しかしだ。ゲッター線を手中に収める事が出来れば絶対的な繁栄が約束される――その光に誘われて滅びたものは数知れず……それでもゲッター線は求めずにはいられないのだ。

 

「ニブハル・ムブハル大統領補佐官。ブライアン大統領がお待ちです」

 

「すいません、少々野暮用で遅れました」

 

ブライアンの執務室の前で待っていた痩せぎすの男――「アルテウル・シュタインベック」の前を通り過ぎようとして、ニブハルはある事に気付いた。その目にギラギラと輝く野望の色を見たのだ……それは記憶喪失であったアルテウルにはなかった強烈な個性の表れ……。ゲッター線が全てを導き、そしてあらたな世界を作ろうとしている。

 

「後でお時間を作ります。もう少しだけお待ちいただけますか?」

 

「……良いだろう。ついでに私が記憶を失っていた間、何がどうなったのか、それを全部説明してもらおうか」

 

立場としては秘書であるアルテウルの方が下だ。だがニブハルは自分が下のように振舞った……それこそが本来の力関係、そしてあるべき姿だ。

 

「すいません、お待たせしました」

 

執務室にいるブライアンとグライエン――ではない、鬼を見てニブハルは笑った。平穏には飽きていた、争乱の中にだけニブハルが追い求める物があり、そして商売がある。この地球圏の未曾有の危機も、数多の星を渡り、数多の陣営を行き来していたニブハルにとってはいつもの事。そして今が自分が待ち望んだ時であると言わんばかりに楽しそうな笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

マオ・インダストリーの訓練室に用意されていたシュミレータールーム――その中にアラドの姿はあった。マオ社のテストパイロットは多数いるが、そんなテストパイロットでも使用しない特別なシュミレーター。それにアラドはかれこれ3時間は篭もりきりだった。

 

「ぷはあー、ふーやっとコツを掴んできたぜ」

 

量産型ゲッターロボを失ったのは完全なアラドのミス。だが、リンもマリオンもそれを怒る事は無かった。そもそもイスルギが主導になった機体をマオ社で改修しろと言うのがリン達が面白くないと感じているのは当たり前の事だった。リン達にすれば誰も動かせないと思っていたリミッターを解除された量産型ゲッターロボを操縦して見せたアラドは優秀なパイロットであり、量産型ゲッターロボを失いはしたが、将来有望なパイロットを見つけたということでイスルギと連邦本部から小言は言われたが、それを差し引いてもアラドを抱え込めたという事で十分なおつりがあった。

 

「うーん。やっぱここなんだよなあ……」

 

アラドがシュミレーターで使っていたのはビルトファルケン・タイプKだった。両手足にビームバンカー発射装置を組み込まれ、奪取されたファルケンよりも大型化した可変翼による、急な方向転換と加速を可能とした反面、パイロットに掛かる負担は桁違いに高く、TC-OSも不完全でマニュアル制御を要求されるそれを乗りこなせるように訓練していたアラドはどうしても引っかかっている部分で頭を抱えていた。

 

「何を悩んでいるのかしら?」

 

「あ、ラーダさん。いや、足のバンカーを使うと機体バランスが崩れるんで、そこをどうしようかなあって」

 

「熱心なのは良いけど、怪我人という事を忘れないで」

 

「うっ……す、すんません。でも時間までで良いからもう少し操縦の感覚を掴んでおきたいかなあって」

 

早朝からリンの指示でマオ社からの脱出準備は既に始まっており、一般職員の大半は既に離脱し、セレヴィスシティのシャトルに乗れなかった者はシェルターで、順番待ちをしており今マオ社に残っているのはリンを初めとしたヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプLとMの開発に携わっているリョウトやリオ達だけが今マオ社に残っている人員だった。

 

「それでラーダさんは何をしに?」

 

「何ってこないだの続きよ。こういうのは習慣づけないと駄目だからね」

 

こないだの続きと聞いてアラドは顔を青褪めさせ、逃げたいと思いながらも何をするのか尋ねないことには行動に移せないと考えて、意を決した表情で何をするのかとラーダに尋ねることにした、

 

「つ、続きって……もしかしてヨガですか?」

 

余りの痛みに気絶しかけたヨガの続きならば絶対に逃げようと思っていたアラドだが、ラーダは穏やかに微笑んだ事でどっちか判断が付かず、動く事が出来ずにヨガで無い事を心から祈った。

 

「違うわ。ヒアリングよ。ヨガは時間を掛けてやらないと駄目だから、今回はやらないわ」

 

ヨガじゃないと聞いてアラドは心からの安堵の溜め息を吐いて、浮かんでいた汗を拭いスポーツドリンクを口にして自分の真向かいに座ったラーダと視線を合わした。

 

「じゃあ、 この間の話の続きを聞かせて」

 

「え、ええ……っとどこまで話をしてましたっけ?」

 

話をしている最中で襲撃があったせいで記憶が抜けているアラドがそう尋ねる。ラーダは柔らかく微笑み、何の話をしていたか? そして自分が何を聞きたいかをアラドに優しく告げた。

 

「スクールで貴方達の教育を担当していたのは誰?」

 

「……メイガス・ケーナズって言うコンピューターです」

 

最初の診察で予測は出来ていたが、アラドから告げられた言葉にラーダは眉を細める。リマコンを処置するには高性能なコンピューターが必要だが、まさかコンピューターが人間の教育をしていたと聞いて予測は出来ていたが、アラド本人から言われると少なくない衝撃が合った。

 

「メイガス・ケーナズって言うのはアースクレイドルの中枢、メイガス・ゲボの試作タイプです。そいつが……俺達の親の1人。PTの操縦技術とか、DCの事とか、戦術とか色々教えてきました……えっと大丈夫ですか?」

 

「え、ええ。大丈夫よ。他に貴方達の面倒を見てくれたのは誰? 人はいなかったかしら?」

 

違っていて欲しいと願いながらも、ラーダは心のどこかでアラドからその名前が告げられるのを覚悟していた。

 

「アギラ・セトメっていう糞婆と……クエルボ・セロ博士です」

 

クエルボ――その名前が出た事。自分を救い出してくれた筈の人間が今もまだ非道な研究に従事している。それにはラーダも深い悲しみを受けた。だがアラドはその様子には気付かずに、思いだすように、数少ない楽しい思い出を語るように口を動かしていた。

 

「DC戦争の少し前にアギラの糞婆とセロ博士が判れて行動して、1年……は無かったかな。でもセロ博士と俺とゼオラの3人で軍事施設とかない静かな山奥で暮らしてたんですよ。PTとかのシュミレーターとか、銃の訓練とか、白兵戦とかの訓練も無くて……自給自足で、キャンプみたいな毎日が本当に楽しかった。夜空を見上げて、あれがどんな星座とか教えてくれて……」

 

アラドから語られる言葉を聞いてラーダは小さく笑った。アラドから告げられるクエルボ・セロという人物像はラーダの記憶の中にあるままのクエルボだった。

 

「変わらないのね。クエルボ……あの人は……本当に変わらないわ」

 

「え? ラーダさん、セロ博士を知ってるんですかッ!?」

 

親しみさえ感じられるラーダの声にアラドがクエルボを知っているのか? と尋ねるとラーダは小さく笑った。

 

「私もアラドと同じなのよ、私と彼との出会いは……連邦軍の特殊施設の中だったわ。その時クエルボは マン・マシーン・インターフェイ

スの 研究を行っていて……私はその被験者だったの」

 

「え!? う、嘘でしょッ!?」

 

口振りからラーダも研究者か何かと思っていたアラドは自分も被験者だったというラーダの言葉に声を荒げた。

 

「本当よ。私は少しだけ、他の人よりも勘が鋭くてね。それで被験者に選ばれたの……でもね。軍内である特殊プロジェクトが立ち上がった時……クエルボは私を被験者ではなく、開発者として誘ってくれた。その後は彼から色々な事を教わったわ……その時の経験があるから私はこうしてマオ社で働けているの」

 

ラーダの言葉の中には隠しきれない親愛の情が隠されていて、鈍いアラドだが、クエルボとラーダが恋仲で合ったことをその言葉の中から悟っていた。

 

「でも、EOTI機関が設立された時……クエルボは自分の研究をよりよい環境で進めるために……そちらへ行ってしまったの」

 

「じゃ、じゃあ……それ以降は会ってないんですか?」

 

「ええ、彼とはそれきりよ」

 

悲しそうに目を伏せるラーダにアラドは言葉が出なかった。偶にクエルボがロケットを大事そうになでている姿を見た、大事な人の写真なんだと笑って金庫にしまう姿を見たこともある。今もクエルボはラーダを想っていて、そしてラーダもクエルボを想っているのが良く判った。

 

「その後、戦争が始まって……あの人がDCにいるのは判っていたけど……まさか、貴方達の教育を担当していたなんて……」

 

「違う! セロ博士は俺達を助けてくれたんだッ!」

 

「アラド?」

 

ラーダがクエルボへの不信感を抱き、それが敵意になろうとしているのを見てアラドは声を荒げた。違う、違うのだとクエルボは自分達の味方だったと声を荒げた。

 

「セロ博士は番号で呼ばれていた俺達に名前をくれた! ボロボロに痛めつけられた時もすまないすまないと謝りながら手当てをしてくれた! それにDC戦争の時に言ってたんだ。このままアギラの婆に見つからなかったら遠くへ行こうって、もうPTとか、AMに乗る必要ない優しい所へ行こうって……なんとかしてオウカ姉さんを助けて、4人でスクールの生き残りを探そうって俺とゼオラにそう言ってくれたんだッ!」

 

甘く優しい夢――それでもアラドとゼオラはそれを信じた。自分達を人間として見てくれない人間に囲まれて育ったアラド達にとっては、クエルボだけが人間だった。そしてクエルボだけが自分達を人間と見てくれた……心から親と呼べるクエルボを誤解されるのはアラドにとって耐え難い苦痛だった。

 

「あいつら……コーウェンとスティンガー……あいつらさえいなければ……あれは夢じゃなかったんだ」

 

「コーウェンとスティンガー……?」

 

「あの2人はそう名乗ってた、俺達をアースクレイドルに連れ戻したやつら。アギラの糞婆が敬語を使っていた。良く判らない2人組みで、フードを被った子供と一緒にいたんだ」

 

「……アラド。その2人組みの事をもう少し教えてくれないかしら?」

 

アラドの口から出た不審な2人組みの名前――ラーダの勘ではその2人が大きく関係していることを感じ取り、アラドのその2人の容姿や特徴を詳しく教えてくれとアラドに頼むのだった。その2人の正体を知る事が、アースクレイドル――もっと言えばクエルボ達の事を知ることに繋がるとラーダは感じていたのだった……。

 

 

 

 

 

リンの命令でマオ社からの脱出準備を進めているリョウト達だった。ある問題に直面し、輸送機に機体を搭載する作業は途中で中断してしまっていた。

 

『……く……ううっ!!』

 

モニター越しに聞こえて来るリオの苦しそうな声、それに続いてモニターに映し出されているグラフに一気に乱れが生じた。

 

「TPレベル、3まで低下」

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲのトロニウム搭載型のタイプL、そしてマグマ原子炉搭載型のタイプMの2機はエンジン部が非常にデリケートであり、輸送用のトレーラーで積み込んだ場合。深刻なトラブルが発生する確率が高く、安全性を考慮した場合。機体を操縦して輸送機内のハンガーに固定するという方法が必要だった。その為に起動させようとしていたのだが……安全性に強い不安を抱えているタイプMは予想に反して稼動してくれ、先ほど格納庫をあちこちへこませながらも、辛うじて輸送機に搭載することが出来た。だがタイプLは起動の段階で躓いてしまっていた。

 

「コネクター、5番と8番、それに11番に異常発生ッ!」

 

「TPレベル、2まで低下。 いけませんわね、これでは……」

 

ただ起動させて、輸送機に乗せる。そんな簡単な事だが、タイプMは動き出す素振りを微塵も見せてくれなかった。

 

『あうっ!!』

 

それ所か逆流現象を見せ、リオの大きな悲鳴が格納庫に響いた。

 

「リ、リオッ! こ、これ以上は無理です! 実験の停止を!」

 

「ハミル博士、リンクの中止を」

 

「ああ。サイコ・クラッチを切れ」

 

リオのみを案じたリョウトの声を聞いて、マリオンとカークは素早くサイコ・クラッチを切り、タイプLの起動を諦めた。

 

『う、ううっ……』

 

「リオ、やはり現段階ではタイプLを起動させるのは無理だ。ヒュッケバインMK-Ⅲから降りろ」

 

横たわった状態のヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプLのコックピットが開き、リオが頭を振りながら姿を見せた。

 

「リ、リオ……大丈夫?」

 

悲鳴を聞いていたリョウトが慌てて駆け寄り、ふらついているリオに肩を貸す。

 

「ちょっと辛いわね……普段より凄く負担が大きく感じるわ」

 

「や、やっぱり、僕が起動させれば……」

 

リオが負担が大きかったと弱気な事を言うのを聞いてリョウトが自分がやるべきだったと言うが、リオは心配そうなリョウトに明るく笑って見せた。

 

「何言ってるの。 それじゃ、私の仕事が無くなっちゃうじゃない」

 

「でも……やっぱりタイプLは安定性に不安が」

 

トロニウムエンジンとリュウセイの強くなった念動力に合わせて再開発されたT-LINKシステムを搭載しているタイプLはやはり実験機としての側面が強い。リオに負担を掛けるなら自分がパイロットをやるべきだったと曇った顔をするリョウト。

 

「大丈夫、大丈夫。 貴方も開発に関わってる機体だもん、信用してるわ」

 

「……だけど……やっぱり」

 

メカニックとしては既にタイプLは稼動出来る状態にある。それなのに稼動しないタイプLに何か別の要因があるのでは? とリョウトは考え始めていた。それがリオに負担を掛けるというのはリョウトには耐えられない事だった。

 

「リョウト君は開発の仕事に専念したいんでしょ?  だからテストパイロットは私に任せて。大丈夫よ」

 

心配しないでと笑うリオだが、マリオンとカークの顔色は曇ったままだ。

 

「……新型のT-LINKシステムにやはり問題があるのではなくて? 起動すら出来ないのでは話になりませんわね」

 

「確かにな……T-LINKシステムは別の何かに反応している。それがタイプLが起動しない理由だ」

 

新型のT-LINKシステムとトロニウムエンジンを搭載したタイプLは小型化されたSRXの名に偽りなしのスペックを発揮する筈だった。だがその新型のT-LINKシステムが予想にもしていない不具合を齎していた。

 

「私は言いましたわよ。リュウセイ少尉の念動力データを基に開発したT-LINKシステムはRー1にしか搭載できないと」

 

L5戦役から飛躍的に念動力を向上させているリュウセイのデータを基に使ったT-LINKシステムはリュウセイにしか使えないとマリオンは口を酸っぱくさせ、カークに警告していた。それでも搭載に踏み切ったのは高性能のT-LINKシステムが齎す多面的なメリットばかりを重視してしまったからだ。

 

「しかもT-LINKシステムをトロニウムエンジンの出力調整にも使うなど、無理があり過ぎです」

 

「……本来のSRX――SRアルタードにはそういう想定があった」

 

SRXはその名が示す通り試作機であり、完成機のバンプレイオスは念動力を流用しての、トロニウムエンジンの安定化が求められていた。そのデータを取る為に新型のT-LINKシステムを搭載に踏み切ったカークだが、それが完全に足を引っ張っていた。

 

「ガンナーだけをロールアウトさせても、本体が使えなければ意味はありませんわよ? それにT-LINKシステムとフル同調させないと追加のアーマーパーツは使えないのでしょう? また欠陥機を増やすつもりですか?」

 

マリオンの鋭い口撃にカークはついに両手を上げて降参の意を示した。

 

「判っている。このままでは持ち出せず、敵に利用されることになる。T-LINKシステムをカットして、起動出来るように設定する。リョウト、手伝ってくれ」

 

ケースEの発令、謎の巨大特機による襲撃――それらを懸念してマオ社からの脱出を命じられている以上。これ以上動かない機体に時間を掛けている場合ではないとカークは計画を変更した。

 

「ですから私は何度も言いましたわよね? 脱出してから調整すれば良いと」

 

「……判っている。マリオン、先に脱出の準備を進めてくれ。T-LINKシステムさえカットすれば、すぐに動かせる」

 

カークが新型のT-LINKシステムに拘ったのは脱出の際に敵の襲撃を受けることを考慮しての事だった。だがこれ以上時間を掛けて脱出が遅れれば機体を奪われるリスクだけに留まらず、この場にいる全員の命を失うことにも繋がりかねない……早急に脱出出来るようにいくつかシステムをOFFにする決断を下したカークだが……それが少しばかり遅い決断だった。設定を変えるために動き出した30分後鳴り響いた緊急警報にリョウト達は最悪の展開になったことを悟るのだった……。

 

 

人けの少なくなったセレヴィスシティの中心では異様な光景が広げられていた。目に見えない巨大何かの手の上の立つ糸目の紅い導師服の青年と黒い導師服の腰の曲がった老人がマオ社やイスルギ重工――強いてはアースクレイドルのほうを見つめて、鋭い犬歯をむき出しにして獰猛な顔で笑った。

 

「さて、そろそろ始めようか。玄」

 

「うむ、視察は済んだ。有象無象もいなくなった……頃合じゃな」

 

紅い導師服の青年の額からは炎を象ったようなねじれた真紅の角が皮膚を突き破り姿を見せ、黒い導師服の老人からはこめかみからねじれた牛のような角が姿を現した。

 

「待たせたね。偉大なる大帝の為とは言え、ジッと待つのはさぞ辛かっただろう。だが待つのはもう終わりだ」

 

「始めるぞ、大帝の為に月を我らが手中に収めようぞ」

 

『『『ガオオオオーーンッ!!!』』

 

 

朱王鬼、玄王鬼の声に呼応するようにセレヴィスシティを囲うように無数の百鬼獣が姿を現し、その手にした武器を振り上げて雄叫びを上げる。ホワイトスター制圧に現れたインスペクター、それによって齎される混乱――それを利用し動く事を決めたブライの命令によって月に潜んでいた鬼達が一斉に動き出した。これによって地球圏の争乱は更に激しさを増していくのだった……。

 

 

 

第54話 四邪の鬼人 その2へ続く

 

 




今回はインターミッションなのでやや短め、次回は戦闘描写を交えて新しい四邪の鬼人の機体を出して行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第54話 四邪の鬼人 その2

第54話 四邪の鬼人 その2

 

時間は少し遡り、リョウト達がヒュッケバイン・MK-ⅢのタイプL・タイプMの2機を輸送機に搭載する為に悪戦苦闘しているころ。マオ社の社長室でリンが眉を細めていた。

 

「ホワイトスターで大規模な戦闘があったか……避難の準備を始めておいて正解だったな」

 

ユアンからの報告を受ける前にカーウァイから話を聞いていたリンには驚きは無かった。ホワイトスター周辺での戦闘が月面に現れた巨大な恐竜型の特機によって齎された物であると言う事と、ヒリュウ改を除く艦隊の全滅を聞いていた事もあり、カーウァイの警告通り早めに避難の準備を始めていて正解だったとリンは呟いた。

 

「ええ……本当にその通りです。良い読みでしたね社長」

 

「世事は良い、現在の我が社の避難はどうなっている?」

 

「一般社員の避難はほぼ完了しています。今は開発に携わっている部門の社員の避難が70%完了しました」

 

「そうか……間に合えばいいんだが……」

 

ホワイトスター周辺での爆発を確認してからもうすぐ24時間――ホワイトスターを制圧した集団が再びマオ社の制圧に訪れる前に試作機やヒュッケバイン・MKーⅢの2機を運び出されば良いがとリンが呟いた時。マオ社を揺らす凄まじい咆哮と地響きが響いた。

 

「間に合わなかったか……ユアン常務は残っている職員を連れてセレヴィスに避難してくれ。私は格納庫へ向かう」

 

「……了解です。お気をつけて」

 

ユアンと別れ格納庫へと走るリン。その途中でアラドとラーダも姿を見せ、3人で格納庫へと走る。

 

「ラーダ。どうだ、何かを感じるか?」

 

「……凄まじいまでの敵意を感じます。殺意を感じないのは幸いですが……余り状況は良くないと思います」

 

「そう……か。ならなんとしても私達はマオ社を離脱する。アラド、お前にも出撃して貰うつもりだが、身体の調子はどうだ?」

 

「全然問題ないッス! ファルケンのタイプKの訓練も上手く行きましたし、あれを使っても良いですか?」

 

ビルトファルケンのタイプKを使いたいと言うアラドにリンは思わず苦笑した。

 

「ゲシュペンストとヒュッケバインの量産型だが、MK-Ⅲがあるぞ?」

 

「いや、あれはなんか軽くて好きじゃないッス。軽いって言ったらタイプKもそうなんですけど、あれはもろ俺好みって感じで、駄目ッスか?」

 

「構わない。乗りこなす自信があるなら使え、頭数は多い方がいい」

 

敵の数も戦力も未知数な以上頭数は多い方が良い。そんな話をしながら格納庫に辿り着くとリョウト達が慌しく出撃の準備を整えていた。

 

「リオ! セレネ基地からの応答はあったか?」

 

「い、いえ! セレネ基地だけではなく、周辺の基地からも応答がありません!」

 

「そうか……完全に孤立したか、機体の積み込み状況はどうなっている?」

 

カーウァイの警告を聞いてスーツの下にパイロットスーツを着ていたリンはスーツを脱ぎ捨てながらリオに今の状況を問いかける。

 

「AMボクサー、ビルガー、ブラスターとガードナー、それとヒュッケバイン・MK-ⅢのタイプMと予備パーツ類は解体して輸送機へ移送済みです」

 

リオの報告を聞いて思ったよりも作業が進んでいる事が判りリンは安堵した。どうしても運び出さなければならない機体はタイプLとAMガンナーを除き輸送機に積み込めていたからだ。

 

「残ってるのはシュッツバルトの1号機、008L、ヒュッケバイン・MK-ⅢのタイプL、AMガンナーと、ファルケンのタイプKです。廃棄する予定のゲシュペンストとヒュッケバインMK-Ⅲだけです」

 

恐竜型の特機との戦いで各部が磨耗し、パーツ取りをして1機ずつのみ稼働状況にしていた。だがそれを無理して運び出すだけの価値は無いとリンは判断した。

 

「ラーダは砲撃仕様のゲシュペンスト・MK-Ⅲで出ろ。シュッツバルトと量産型ヒュッケバインは破棄する。タイプLとMを積み込み次第、輸送機を発進させろ」

 

パイロットの都合上持ち出せない機体はここで廃棄するしかないとリンは決断し、リオに指示を飛ばす。

 

「ファルケンのタイプKと008Lは?」

 

「008Lは私が、タイプKにはアラドを乗せる。AMガンナーはリオ、お前に任せる」

 

アラドを乗せると聞いてリオは目を見開いた。タイプKのTCーOSの調整は済んでおらず、マニュアル制御を要求される。それに加えて、パイロットの安全性を度外視した加速力を持つ機体に乗せると言うのはリオからしても正気には思えなかった。

 

「しゃあ! 準備完了! 社長さん、先に出ますよ!」

 

「リオ、後は頼んだわよ」

 

パイロットスーツに着替えたアラドとラーダがそれぞれの機体に向かって走り出す。

 

「ここで口論している時間はない。リオ、お前も出撃準備を急げッ!」

 

「……はいッ!」

 

地響きが近づいてくるのを感じ、リオはリンの命令に従いパイロットスーツの気密ボタンを押してヘルメットを被る。出撃していくファルケンのタイプKとゲシュペンスト・MK-Ⅲ・砲撃仕様を見ながらリンもヒュッケバイン・008Lに乗り込み、起動準備を整えるのだった。

 

 

 

マオ社の格納庫から出撃したアラドとラーダの目の前に現れたのは化け物としか言いようの無い異形の特機の姿だった。

 

「ら、ラーダさん。こいつらなんなんっすか!?」

 

『……判らないわ。でもあの時現れた恐竜型の特機とは別の技術なのは明らかね』

 

「見た目は似たり寄ったりなんですけど……」

 

アラドにはガルガウも百鬼獣も似たような姿に見えたが、ラーダは違うと断言した。

 

『恐竜型の特機は見た目はともかく特機と同じよ。だけどこれは……生き物の気配を感じるわ』

 

「パイロットって事ですか?」

 

生き物の気配を感じるというラーダにアラドは最初パイロットの事だと思った。だがラーダは違うと断言した。

 

『あの機体自身が生き物よ』

 

「うえ!? そ、それってメカザウルスって奴と同じって事ですか!?」

 

『そう見て良いわ。とにかく慎重に立ち回って、突っ込んだりしないで相手の出方を見るわ』

 

「りょ、了解!」

 

ラーダの指示に返事を返し、アラドは操縦桿を握り締め。地響きを立てて近づいてくる特機に視線を向けた。

 

(……た、確かに、ああ言われるとその通りだと思う)

 

呼吸に合わせて上下するから、呼吸を吸い込んで膨らむ胸部――それらを見ていると目の前の異形の特機……百鬼獣が生き物であると言う事がひしひしと伝わってきた。それに向かい合っているだけで心臓を鷲づかみにされたような威圧感を感じた。それは巨大な肉食獣に睨まれているようだとアラドには感じられた。

 

「ガアアアアアーーッ!!!」

 

「どわったあッ!?」

 

雄叫びと共に放たれた巨大な火球を見て咄嗟にペダルを踏み込んだ。だが思いっきり踏み込んでしまった事で凄まじい加速のGがアラドに襲い掛かった。シュミレーターとは違う本物の重力に驚き、姿勢を崩しているビルトファルケン・タイプKに火球を吐き出した百鬼獣がその爪を振るおうと迫るのを見たラーダは背中に背負っているビームキャノンを即座に放ち、ビルトファルケン・タイプKと百鬼獣一本鬼との距離を取らせた。

 

『アラド。落ち着いてッ! 訓練通りにやれば良いの』

 

「ら、ラーダさん。すんません、もう大丈夫です」

 

百鬼獣の威圧感と殺気に飲まれて過剰に反応してしまったアラドだったが、ラーダの呼びかけによって冷静さを取り戻していた。

 

「でもこれだけの数……俺とラーダさんだけじゃ」

 

しかし冷静になった事でセレヴィスシティ、そしてマオ社を取り囲んでいる百鬼獣の群れを見て不安が顔を見せた。

 

『大丈夫よ。落ち着いて、相手をよく見て。そうすれば判るわ』

 

ラーダは落ち着いた様子でアラドにそう告げて、ミサイルやブーメランの迎撃を始める。その姿には囲まれていることに対する恐怖も無く、淡々と自分のやるべきことをする……プロフェッショナルというべき風格があった。

 

「シャアッ!」

 

「くそっ! 俺だってやってやる!」

 

両腰にマウントされているアサルトマシンガンを両手に持たせ、その銃身の下から伸びたコールドメタルブレードで飛び掛ってきた百鬼獣の爪を弾く。だが機体のパワー差は明らかでたった1回打ちあっただけで機体のフレームが軋むのを感じた。

 

「なろッ!!」

 

「ギギッ!?」

 

二丁のアサルトマシンガンの銃口を向け、フルオートで連射する。胸部に命中した百鬼獣は苦悶の声を上げて後退すると、いらついた素振りを見せながらも、それ以上攻撃する素振りを見せず爪を向けて威嚇の唸り声を上げた。

 

「「「シャアッ!!」」」

 

入れ代わりに後方の百鬼獣がミサイルを撃ち込んできたが、それに合わせて他の百鬼獣が動く気配は無かった。

 

「もしかして……こいつらって」

 

ミサイルを迎撃し、宇宙の闇の中に無数の赤い花が咲くのを見ながらアラドはどうしてラーダがあそこまで落ち着いていたのかを理解した。百鬼獣は徹底してビルトファルケン・タイプKとゲシュペンスト・MK-Ⅲ・砲撃仕様をマオ社から引き離そうとしている――それが何を意味するか、アラドにも判っていた。

 

「マオ社とセレヴィスを制圧するつもりなのか?」

 

考えてみれば直ぐに判ることだった。百鬼獣の火力ならばセレヴィスもマオ社も滅ぼすのは簡単な話だ、しかしそれをせずマオ社とセレヴィスシテイを取り囲んでいるのは完全な状態でマオ社を手にしたいからではないか? そう考えれば何十機も存在する百鬼獣に目を向けるのではなく、自分の近くにいる2機ほどの百鬼獣にだけ意識を向ければいいと判ったのだ。

 

「そうとわかりゃぁ……やりようは幾らでもあるぜ」

 

ヘルメットの下で唇を舐め、アラドは百鬼獣を睨みつけた。いま自分達がやるべき事は敵を倒すことではない、相手の攻撃をいなし、防ぎ、輸送機の脱出までの時間を稼ぐ事だ。敵を全て倒さなければならないと思わなければ、リラックスしてアラドは百鬼獣と向き合うことが出来た。

 

『私はミサイルやブーメランを使う百鬼獣を押さえ込むわ』

 

「了解です! じゃあ俺はあの馬鹿でかい腕と剣を持ってるのを押さえ込みます」

 

唸り声を上げている百鬼獣を見据え、自分達が相対する敵を見定めたアラドとラーダは百鬼獣との戦いに意識を完全に向けるのだった。

 

 

 

 

 

その頃。セレヴィスの外れの廃工場を破壊しながらゲシュペンスト・タイプSが動き出していた。

 

「……宇宙にも百鬼獣が出てくるか……これは想定外だったな」

 

カーウァイの計算では無人機、悪くてもインスペクターの特機までは想定していたが、まさか百鬼帝国が宇宙に進出して来るのは計算違いだった。

 

「武蔵。後どれくらいで月につく?」

 

『すんません、大分時間が掛かりそうです。宇宙にも百鬼獣がわんさかいますよ』

 

「そうか、地球よりも先に宇宙を押さえに来たか……こっちは私が何とかする。武蔵も出来るだけ早く合流してくれ」

 

『了解! カーウァイさんも気をつけて』

 

武蔵からの通信はその言葉を最後に途絶え、カーウァイも通信機の電源を切っていた。話している時間も余裕も無く、少しでも早くリン達の救援に向かわなければならないと言うことは武蔵もカーウァイも十分に承知していたからだ。

 

「あれは……ヒュッケバイン? そうか、あれが初代ヒュッケバインか」

 

輸送機を守っている青いPTを見てカーウァイはビアンから聞いていた1番最初にEOTを搭載したPTであると言うことを一目で見破った。繊細な操縦技術で舞うように百鬼獣の攻撃をかわし、輸送機から引き離している姿を見てパイロットの腕の良さに素直にカーウァイは感心した。時代が時代なら教導隊に選抜されるだけの力量を持っていると感じつつ、月面を強く蹴りゲシュペンスト・タイプSを跳躍させる。

 

「いい距離だ。逃がさんッ!!」

 

輸送機の進路を塞ぐように横並びに展開していた百鬼獣を見据え跳躍し百鬼獣を強引にブラスターキャノンの照準の中に巻き込み引き金を引いた。ブラスターキャノンの掃射を斜め上から受けた百鬼獣――豪腕鬼、龍頭鬼、白骨鬼は頭部から腰部を焼き払われ、黒煙を上げながら月面に背中から倒れこんで爆発した。

 

『な!? ど、どこから!?』

 

『あ、あれってしょ、初代ゲシュペンストッ!?』

 

月面を抉りながら着地したゲシュペンスト・タイプSの登場にアラド達に衝撃が走った。ゲシュペンスト・タイプSは既に存在しない筈の機体――何度も目撃情報は出ているが敵か味方かも判らない存在を警戒するのは当然の事だった。輸送機の進路を塞いでいた百鬼獣を撃破したことを見れば味方に思えるが、その横を通ろうとした瞬間に撃墜されるかもしれないと考え動けないでいる輸送機のリョウト達にリンが広域通信で呼びかけた。

 

『百鬼獣と戦っているだけで今は味方だ。ゲシュペンスト・タイプSのパイロットが何者かなんて事は関係ない、私達は輸送機を守りながら月を脱出する事だけを考えろ。包囲網が開いているうちにこの場を離脱するんだリョウト』

 

広がったざわめきをリンが収め、ビルトファルケン・タイプK、AMガンナー、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・砲撃仕様と共にゲシュペンスト・タイプSの横を通過する。

 

【すまない、この場は任せる】

 

短い文章通信をゲシュペンスト・タイプSに向かって送信し、輸送機の進路を塞ぐように立ち塞がる大輪鬼へと立向かっていく。その後を追って他の百鬼獣が地響きを立てて進もうとするが、それを許すカーウァイでは無かった。

 

「ここから先は通行止めだ。通りたければ私を倒していけ」

 

背中にマウントしている参式斬艦刀を抜き放ち百鬼獣の群れの前に立ち塞がるゲシュペンスト・タイプS。

 

「シャアアーーッ!!」

 

「がああああーーッ!!」

 

PT如きが邪魔をするなと言わんばかりに雄叫びを上げて突っ込んできた剣角鬼と牛角鬼の姿とゲシュペンスト・タイプSの姿が交差する。

 

「「ギギャァッ……」」

 

「侮ったな。戦場で相手を侮った時……それは己の死を意味すると知れ」

 

胴体から両断され、返す刀で頭から更に両断された2機の百鬼獣が爆発四散する。

 

「ギギィ」

 

「シャアア!」

 

一瞬で2体の同胞を屠ったゲシュペンスト・タイプSを見て百鬼獣にも警戒心が広がり、ゲシュペンスト・タイプSを囲うように巨体の百鬼獣が動き、その上を通って飛行能力を持つ百鬼獣が輸送機を追って行こうとしたが、そんな事を許すカーウァイではなかった。

 

「ふんッ!!」

 

覆いかぶさるように突っ込んできた豪腕鬼の胴に参式斬艦刀を突きたてると同時に跳躍し、参式斬艦刀の柄を踏んで飛び上がる。

 

「ギィッ!?」

 

「悪いな。ゲシュペンストは私の手足も同然なんだよ」

 

飛び上がってきたゲシュペンスト・タイプSを見て龍頭鬼が驚きの声を上げた瞬間。顎を蹴り砕き、三角飛びの要領で反対側に飛び上がる。それを繰り返し百鬼獣の包囲網を抜けたカーウァイは輸送機へと向かう鳥獣鬼と半月鬼をその射程に捉えた。

 

「捉えた。行けグランスラッシュリッパーッ!!!」

 

ゲシュペンスト・タイプSを囲っていた百鬼獣を踏みつけ、蹴り跳ね上がった勢いで反転しグランスラッシュリッパーを投擲する。背後から高速で迫るグランスラッシュリッパーに対応出来ず、鳥獣鬼はその翼を、半月鬼は頭を切り飛ばされ地響きを立てて墜落する。

 

「シャアア!」

 

「ガアアアーッ!!」

 

グランスラッシュリッパーを投擲し隙だらけのゲシュペンスト・タイプSを噛み砕こうとと龍頭鬼と土龍鬼が大口を開ける。

 

「私がそんな間抜けに見えるか?」

 

手首のモーターが回転し、豪腕鬼の胴に刺さっていた参式斬艦刀が高速で巻き取られ再びゲシュペンスト・タイプSの手の中に納まる。

 

「はぁッ!!!」

 

「ギャアアッ!?」

 

大口を開けていた土龍鬼に向かって急降下し参式斬艦刀の白刃が煌いた瞬間。土龍鬼は縦に真っ二つに両断され爆発する、そしてその爆煙の中から姿を見せたゲシュペンスト・タイプSは各部装甲を展開し、背部キャノンをスタビライザーにし胸部のブラスターキャノンの発射姿勢に入っていた。それを見てある百鬼獣は逃げようと、ある百鬼獣は防御を、そしてある百鬼獣は発射される前にとゲシュペンスト・タイプSに迫った。だがそれは余りにも遅すぎた、カーウァイはこの戦場に来てからずっとブラスターキャノンのチャージを行っていた。それは百鬼獣がPTやAMを侮るという性質を知っていたからだ。

 

「消えうせろ、ブラスターキャノン発射ッ!!!!」

 

宇宙の闇を染め上げる超高火力のビームの一閃――それはゲシュペンスト・タイプSの前にいた百鬼獣を纏めて薙ぎ払い、その姿を完全に消し去っていた。だがカーウァイの顔は敵の数が減っても鋭く周囲を窺い続けていた。

 

(どこだ、どこにいる)

 

この百鬼獣の指揮を取っている存在がいるはずだとカーウァイは感じていた。百鬼獣の動きは理知的で、そして詰め将棋のように計算しつくされた動きだった。今だって味方がやられたのにマオ社とセレヴィスシティを制圧している百鬼獣に動きはない。それは百鬼獣の闘争本能を持ってしても、それを押さえつける何者かがいることを示しており、その姿をカーウァイが探す中輸送機の方向から凄まじい爆音が響き渡った。

 

「ちいっ! しくじったッ!」

 

輸送機のほうに百鬼獣が少なかったのは逃げる者をよりも、セレヴィス、ひいてはマオ社の制圧を優先しているからだとカーウァイは考えていた。だが違ったのだ、輸送機のほうに百鬼獣が少なかったのはその方角に百鬼獣の指揮を取っている鬼がいたからなのだった。月面を破壊し、姿を見せた巨大な亀の姿をした百鬼獣を見たカーウァイはゲシュペンスト・タイプSを反転させ、即座に其方に向かうのだった……。

 

 

 

 

 

マオ社で開発していた数多の試作機、そして発展機を積んだレデイバード改はゲシュペンスト・タイプSの抉じ開けた包囲網を抜け、リン達の駆るヒュッケバインに護衛されながら敵陣の真ん中を抜けて脱出のために進んでいた。

 

「やはりか……やれやれ、オカルトが続くな。なぁ? マリオン」

 

「……ですわね。この目で見ると信じざるをえませんわ」

 

「もしかしてあのパイロットに心当たりが?」

 

ゲシュペンスト・タイプSを見て、どこか懐かしささえ感じさせる視線をしているマリオンとカークを見て、輸送機を操縦しながらリョウトは知り合いなのかと尋ねるとマリオンは小さく笑った。

 

「直接的な面識はありませんが、PTに携わる人間は皆その名前を知ってますわ」

 

「ある意味すべてのPTの元祖、そしてPTにおける戦闘・操縦技術の開祖と言ってもいい」

 

そこまで聞けばリョウトでもパイロットの名前に辿り着いていた。

 

「カーウァイ・ラウ大佐ですか? でも彼は……亡くなっている筈です」

 

エアロゲイターに囚われ、サイボーグにされて死んでいるはず。

 

「だからオカルトだといっているんですわ、まぁ、武蔵もいい勝負ですけどね」

 

旧西暦の人間である武蔵と共に戦った。そして今は旧西暦で人類と地球の覇権をかけて争った百鬼帝国が復活している。そう考えれば、死人が1人生きていたとしても違和感はないだろう。

 

「それよりもだ。リョウト、安全運転で頼むぞ。マリオン、手伝ってくれ」

 

「……この状態でやるつもりですの?」

 

「当たり前だ。敵はこちらの常識を超えている――社長達が頑張ってくれているが、念の為の備えは必要だ」

 

「何を動かすつもりですか? ハミル博士。まさかタイプMですか?」

 

搭載している機体の中で稼動させるのはタイプMとタイプLの2種類しかない。その中で動かすとなればタイプMだとリョウトは考えていたのだが、カークの返答はリョウトの予想とは異なる物だった。

 

「タイプLだ」

 

「正気ですか?」

 

「正気も正気だ。タイプMではAMボクサーは動かせない上にMAガンナーとのドッキングも出来ない。そのどちらかを使えなければこの状況は切り抜けられない」

 

タイプMは反マグマ原子炉を使うという前提の為、、AMボクサー、MAガンナーとの合体は前提とされておらず、ボクサーとは異なる方向性で小型化されたSRXを目指して開発されたサポートパーツを持つ。

 

「ボクサーの調整もドッキングもシュミレートすら済んでないんですよ? このまま離脱……」

 

ゲシュペンスト・タイプSに百鬼獣が集まり、もう少しで離脱出来るかもしれないと言う考えが過ぎった瞬間だった。凄まじい轟音と共に月面が砕かれ、そこから背中に巨大なレールガンを背負った亀型の特機が姿を現した。

 

『リョウト君! 避けてッ!』

 

『避けろッ!!』

 

リンとリオの悲鳴にも似た避けろという声を聞いて、リョウトは反射的に操縦桿を切った。それによって亀の背中のレールガンを紙一重で交すことが出来た。

 

「うわぁッ!」

 

「ぬおっ!?」

 

「つうっ!?」

 

だがそこまでだった。グルンガスト――いやそれよりももっと巨大な亀の背中のレールガンの威力は凄まじく、避ける事は出来たがその衝撃でレディバードはバランスを崩し、地響きを立てて墜落する。リョウトが必死に操縦し横転する事は避けたが、即座に飛び立つのは不可能な状況に追い込まれてしまった。

 

『いかん! 輸送機を守れッ!』

 

『りょ、了解……ッ!』

 

地響きを立ててゆっくりと身体を起こした亀の特機から守るようにヒュッケバイン、ビルトファルケン・タイプK、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・砲撃仕様が動き出そうとした時、ラーダがある存在を感じ取った。

 

『社長! アラド、リオッ! 動かないでッ!!!』

 

その叫びにリン達が動きを止めた瞬間。輸送機の周囲に火柱が上がった、動き出していれば脱出すら許さずに消し炭になっていたのが容易に判るほどの凄まじい業火にリン達は息を呑んだ。

 

『避けたとは驚きだね、勘の良い人間もいたものだ』

 

柔らかい声が周囲に響いたと思った瞬間。炎を伴った凄まじい暴風が巻き起こり、上空から燃え盛る炎の鳥が悠々と亀の甲羅の上に降り立った。

 

『す、朱雀? それにあれは……玄武?』

 

中国人であるリオは目の前に立ち塞がる2機の特機を見て、思わずそう呟いた。余りに邪悪、そして禍々しい姿ではあったが、その姿は紛れも無く朱雀と玄武だったのだ。

 

『さてと、では改めて自己紹介だ。僕は四邪の鬼人 朱雀の朱王鬼』

 

『ほっほっほ。ワシは四邪の鬼人 玄武の玄王鬼。まぁ短い間じゃがよろしくの人間』

 

どす黒い周囲を歪めるような殺気と敵意を放ちながら、2人はそう名乗った。そしてそれと同時にリン達は悟った、自分達はこの2人を倒さなければ月から脱出出来ないのだと……。

 

 

 

 

第55話 四邪の鬼人 その3へ続く

 

 




がっつり戦闘を書く予定だったんですが、思ったよりも会話が必要だったと気付き、戦闘描写はカーウァイ大佐だけになってしまいました。申し訳ない。次回はメキボスの代わりのボス「朱王鬼」「玄王鬼」を相手に今度こそがっつり戦闘描写を書いて行こうと思います。
それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第55話 四邪の鬼人 その3

第55話 四邪の鬼人 その3

 

輸送機を守るように立つ3体のPTとその上を旋回する戦闘機を見て、朱王鬼は抑えきれない嗜虐的な笑みを浮かべた。龍王鬼、虎王鬼が鬼とは思えぬ人格者ならば、朱王鬼と玄王鬼は並の鬼を遥かに凌駕する残虐性、嗜虐性を持った凶悪な鬼だった。

 

「さて、玄。どうする? どっちで遊ぶ?」

 

『ほっほっほ。お主はもう自身の獲物を決めておるじゃろ? ワシは余り物でいいわ』

 

形式上どっちにするか? と問いかけた朱王鬼だが、玄王鬼はそんな朱王鬼の問いかけが形だけの物と判っているのでそう返事を返した。

 

「ではあの紅いのと戦闘機を貰う。玄王鬼にはあのオンボロと初代ヒュッケバイン。それとおまけで黒い亡霊をあげよう」

 

『ほっほ、亡霊の方が本命じゃろうに……五本鬼の小僧が泣き叫んで逃げた敵の仲間。甚振れば竜神を引きずり出すことも出来るじゃろうに』

 

朱王鬼と玄王鬼から見ればPTなどは赤子の手を捻るような物だ。現にセレヴィスとマオ社を制圧さえ出来れば輸送機とPTを見逃してもいいとさえ思っていた。重要なのは開発拠点を制圧する事であり、そこにいる人間に対して価値はない――だがゲシュペンスト・タイプSがこの場に現れたのならば話は変わってくる。百鬼帝国に害なす存在としてゲッターD2、R-SWORD、ゲシュペンスト・タイプSは最重要ターゲットと言っても良い、3機とも百鬼獣に匹敵する能力を持つ上にゲッターD2はかつて百鬼を滅ぼしたゲッタードラゴンに酷似していると言うこともありブライが唯一警戒している存在と言っても良い。新西暦で生まれた朱王鬼、玄王鬼は百鬼帝国が滅ぼされたなどということは信じていなかったが、心酔するブライに対する不安を取り除こうと思い、ここでゲシュペンスト・タイプSを破壊する事でドラゴンをおびき出すことを考えていた。それがリン達の前に立ち塞がった理由だった……。

 

「じゃあ少しばかり遊ぼうか、玄」

 

『うむ。現れないのならばそれもそれで良し、少しばかり退屈を紛らわす余興にはなるじゃろう。あやつらには邪魔をさせぬように命ずるが良いな?』

 

「勿論いいとも。あいつらがいても何の意味もないからね、それじゃあ始めようかッ!!」

 

朱王鬼が力強く羽ばたくとビルトファルケン・タイプKとAMガンナーがその暴風に煽られ、大きく輸送機から引き離される。

 

『うわあッ!?』

 

『きゃっ!?』

 

その姿を追って朱王鬼が飛び上がり火の粉を撒き散らしながらビルトファルケン・タイプKとAAガンナーの前にゆったりと翼を羽ばたかせ立ち塞がる。

 

『アラド、リオッ!?』

 

『ラーダ! 待てッ!』

 

リンの警告で動きを止めたゲシュペンスト・MK-Ⅲ・砲戦仕様の前に玄王鬼の巨大な右手が叩きつけられ、月面に深い亀裂を作り出す。

 

『ほっほっ、おぬしらの相手はこのワシじゃ、精々足掻いて見せよ? 余りあっけないと面白みも何も無いからのう』

 

朱王鬼に対してはAMガンナーとビルトファルケン・タイプK……。

 

玄王鬼に対してはヒュッケバインとゲシュペンスト・MK-Ⅲ・砲撃仕様……。

 

圧倒的な力量差を感じさせる2機との戦いを強要されたリン達の背中に冷たい汗が流れるのだった……。

 

 

 

 

 

燃え盛る炎の翼を羽ばたいたと思った瞬間。アラドの目の前に炎の波が迫ってきた、反射的にそれを回避する事は出来たが凄まじい熱がパイロットスーツ越しにアラドの全身にダメージを与えていた。

 

「ぐうっ……なんて熱さだよ……ッ」

 

朱王鬼は攻撃したのではない、ただ悠然と羽ばたきビルトファルケン・タイプKの上空を旋回しただけで、ただそれだけでビルトファルケン・タイプKのコックピットには熱によるダメージとイエローアラートが灯っていた。戦うことすら難しい熱量を放ち続ける朱王鬼を相手にしてもアラドの闘志は折れず、両手に持ったアサルトマシンガンの照準を合わせてトリガーを引いた。

 

『無駄無駄。そんなのが僕の朱王鬼に届くと思っているのかい?』

 

「マジか……くそったれッ!!」

 

フルオートの射撃は朱王鬼の身体に届く前にその熱で融解し、その勢いを失って墜落する。

 

『アラドッ! このッ!!!』

 

アラドのバックアップにリオが動き、ホーミングミサイルが朱王鬼にへと放たれるが、それも命中する寸前で朱王鬼の熱で爆散する。目の前でアサルトマシンガンの弾頭が溶かされるのを見ていたので、リオに驚きも驚愕も無く、即座にチャフグレネードを撃ち込み朱王鬼の熱で爆発させることで煙幕を作り出した。

 

『今の内よ!』

 

「す、すんません! 助かりますッ!!」

 

リオが行なったのは朱王鬼への攻撃ではなく、朱王鬼と距離が近すぎるアラドの救出行動だった。煙幕に紛れ離脱することに成功したアラドはビルトファルケン・タイプKが手に持っていたアサルトマシンガンに視線を向けた。

 

『凄い熱ね……』

 

「そう見たいっすね、もう使い物にならねえや」

 

朱王鬼の近くで数分いただけでアサルトマシンガンの銃身は溶け、異様な方向に捻じ曲がっていた。それを見たアラドは使い物にならないと呟いてアサルトマシンガンを投げ捨て、背中にマウントしてあったオクスタンランチャーを装備する。

 

「実弾が駄目ならビームはどうだッ!!」

 

タイプK用に取り回し重視で小型化されたが、その代りにエネルギー効率を最適化し、その威力を高めたオクスタン・ランチャーのEモードの熱線が朱王鬼の翼を僅かに掠める。炎を少しだけ掻き消され、見えた装甲に確かにダメージが通っているように見えた。

 

『ふーん、僕に当てれるくらいの腕はあるんだ。ま、どっちでもいいけどね。君達は焼け死ぬ、それは避けられない運命だよ』

 

翼が羽ばたくと同時に羽が飛び出し、炎を纏いながら凄まじい勢いでビルトファルケン・タイプKとAMガンナーに迫る。

 

「くそっ!」

 

『アラド! 落ち着いて! 良く見れば避けれるわよッ!』

 

その勢いは凄まじくミサイルとは比べられないほどの速度だが、一直線にしか進まないという性質上避けれないと言うことはない。

 

『あははは!! どこまで避けれるかなッ!』

 

だがそれは単発での話だ。羽ばたくたびにマシンガンのように放たれ続ける羽を避け続けるのは容易な事ではなかった。

 

『くっ! これは不味いわね!?』

 

「燃料に誘爆しないように気をつけてくださいよッ!」

 

朱王鬼の燃える体は攻撃と防御を同時にこなしていた。移動するだけでPTとパイロットに致命的なダメージを与え、近づけばその熱で危機をオーバーヒートさせる。そして燃料や動力に引火すれば脱出する間もなく爆発する事になる。ただそこに存在するだけで凄まじい被害を巻き起こす、それが百鬼獣 朱王鬼の特性だった。

 

『とにかく避けて、攻撃するチャンスを見出すしかないわ』

 

「うっす」

 

実弾のダメージは殆どなかったが、ビームなら炎の鎧を貫通してダメージを与えれる。リオの言う通りアラドは距離を取って、避けながら少しずつでも良いビームでダメージを与える事を選ぼうとした。

 

『それで良いのかい? アラド・バランガ? いや、ブロンゾ27だっけ?』

 

朱王鬼から嘲笑うように告げられた番号にアラドは操縦桿を握り締めて動きを止めた。リオもアラドがスクールで番号で呼ばれていた過去を聞いていた為、朱王鬼の言葉に怒りを見せた。

 

『ブロンゾとか呼ばないで頂戴。アラドはアラドよ。ブロンゾ27なんかじゃない』

 

自分を庇ってくれたリオの言葉にアラドは激昂しかけていた気分が落ちついて来たのを感じた。だが朱王鬼の次の言葉に怒りでアラドの目の前は真紅で染まった。

 

『知ってるかい? 君が自分を守ってくれる相手を見つけているころブロンゾ28――ああ、ゼオラだったね。彼女がどうなったか知りたくないか?』

 

「てめえッ! ゼオラになにをしやがったッ!!! あいつにひでえ事をしたら許さなねえぞッ!!」

 

それが安い挑発だとわかっていた。だが、ゼオラの名前と嘲笑う朱王鬼の言葉にアラドの頭に一気に血が上った。

 

『ははは、出来もしない事は言わない方が良い。まぁ僕は優しいから教えてあげるけどね、ゼオラはもう何も判らない、何も感じない、お前の事も判らない。人を人として認識出来ない人形になったのさ、お前だよ。お前が悪い、お前がいなくなったからゼオラは狂った。だから苦しまないようにした、嘆かないようにした、お前を求めなくしたんだよ』

 

「な、何を……てめえ!!! ゼオラに何をしやがったぁぁあああああッ!!!」

 

『アラド駄目ッ!!!』

 

リオの制止の声も無視してビルトファルケン・タイプKがオクスタンランチャーを乱射しながら、朱王鬼にへと向かう。

 

『ははは、知りたいかい? 知りたいなら教えてあげようか!!』

 

「ぐっ!? うあああああッ!!!」

 

朱王鬼の放った羽がビルトファルケン・タイプKをかすめ、バランスを崩したが、それを一瞬で立て直しアラドはビルトファルケン・タイプKを朱王鬼へと向かわせる。

 

『心を砕いたのさ、ゼオラはもう何も迷わない、何も感じない、言われた事しか出来ない。あれでは性処理としての価値も無い、なんせ喘ぐことも無いのだからね。そんな人形でも欲しいかい?』

 

「ふざけんなあああああッ!!!」

 

高速で飛ぶ朱王鬼をビルトファルケン・タイプKは追い回し、ビームを放ち続ける。被弾しているが朱王鬼はその速度を緩めることも無く、むしろその速度を上げる。

 

『はははッ! ふざけてなんか無いさ、これはアギラに頼まれた事だからね。これは呪いであり、祝福だ』

 

「なにが祝福だ! ふざけんな!! ゼオラを元に戻しやがれッ!!」

 

『アラド落ち着いて! 相手の嘘かもしれないのよッ! 深追いしないでッ!』

 

リオの言う通りそれが朱王鬼の挑発かもしれない、ゼオラは無事かもしれない。そう思っても朱王鬼の声はアラドの神経を逆撫でし続けていた。

 

『元に戻したいか、それならその方法を教えてあげようか。僕は優しいからね、お前が死ぬか、ラトゥーニが死ぬか、それともオウカが死ぬか? それだけがゼオラを元に戻す方法だよ』

 

「な!?」

 

『そらここで死んで、ゼオラを元に戻したらどうだい? 出来損ない君?』

 

反転した朱王鬼の吐き出した炎が自分達の誰かが死ぬことだけがゼオラを元に戻す方法だと告げられ、目の前が真っ白になったアラドの目の前に埋め尽くすのだった……。

 

 

 

 

リンはカーウァイの見立て通り教導隊に選ばれるほどのPTの操縦技術を有していた。それは社長として実戦から遠のいていても、絶え間ない努力と鍛錬の末に身につけた技術は錆び付かないという事を現していた。そしてリン自身も今パイロットに復帰してもすぐに戦果を上げれると確信していた。だがそれは玄王鬼と言う1体の特機の前に覆されそうになっていた。

 

『ほっほっほ、随分と逃げ惑って愛らしいものじゃなあ』

 

地響きを立てながら振るわれる前足、鈍重そうな見た目からは想像出来ないその動きの早さにリンとラーダは反撃の切っ掛けすらつかめずに逃げ回る事を強いられていた。

 

「ちいっ、早い。亀なら亀らしく動けば良い物をッ」

 

『落ち着いてください、社長。必ず反撃のチャンスはあります』

 

「判っているさ、だが愚痴でも言わなければやってられんッ!」

 

その苛立った口調に対してリンは冷静だった。ただ自分の理解を超えている化け物と戦う事にぼやかずにはいられなかっただけだ。

 

『ほっほっ、そんな豆鉄砲など痛くも痒くも無いわ』

 

逃げながらフォトンライフルやビームキャノンによる攻撃を仕掛けているが、それらは全て命中する寸前に霧散している。

 

「バリアか」

 

『恐らく……そうでしょうね』

 

L5戦役の後からPTの武装は飛躍的にその威力を向上させた。それでも攻撃が効かないというのは別の要因があると考えるのは当然の事だ。

 

「あの巨体に加えてバリアか、なんとも慎重なことだ」

 

PTを優に超える全長と体重を持っているのだ。PTの攻撃なんて碌なダメージにはならないだろう、それに背部の大型レールガンは機体と比べても相当大きい――攻撃を避けながらリンは朱王鬼と玄王鬼の機体の特徴を観察していた。そして様々な機体を見て、あるいは操縦してきたリンはある結論に辿り着いていた。

 

(あいつらはペアだ。しかも最悪のな)

 

今テスラ研で開発されている新型グルンガスト参式。分離合体機構を有した実用的な特機の第1号機――それと同じく合体するための機体と考えれば強固なバリアも機体に対して巨大すぎる武器にも納得出来る。

 

「リョウト、マリオン博士、カーク博士、誰でもいい応答してくれ」

 

沈黙を続けているレディバードに呼びかける。だが機体から返答はない、暫くそれを繰り返してリンは溜め息を吐いた。

 

(あいつらの事だ。何をしようとしてるかは予想が付く)

 

恐らくタイプLかMを動かそうと格納庫にいるのだろう。それでは通信が通じないのは当然の事だが、今回に限ってはそれは最悪の展開だった。

 

(相手が遊んでいるうちに離脱しておきたかったんだがな)

 

まず間違いなくあの特機は合体する。そうなれば勝ち目は愚か逃げる事すら不可能だ。ならば一瞬の隙をついて離脱出来るようにレディバードの発進態勢を整えて起きたかったのだが、それも叶わない。

 

『へ、お、俺、生きてるッ!?』

 

朱王鬼の挑発に乗って自ら朱王鬼の口の中に飛び込みかけたビルトファルケン・タイプKだったが、ゲシュペンスト・タイプSが手首から伸ばしたワイヤーがその足に巻きつき、強引に引き寄せた事でアラドは致命傷を避けていた。

 

『馬鹿か、お前は、戦場では冷静さを失った者から死んでいく。例え何があっても頭は冷ややかに、それを忘れるな』

 

『で、でも!』

 

『でもではない、お前の命をあんな下種にくれてやるな。判ったか?』

 

ビルトファルケン・タイプKをその背中に庇いながらゲシュペンスト・タイプSが朱王鬼を見上げる。その紅いバイザーの下からは凄まじい怒りと敵意が放たれているのが良く判る、

 

『へえ? やっと出てきたんだね、ゴースト』

 

『お前らの部下が邪魔をするんでな。随分と手間取ったが、ここからは私も相手をしてやろう』

 

参式斬艦刀を構え、その切っ先を朱王鬼に向けるゲシュペンスト・タイプSを見て、アラドとリオは大丈夫だと安堵したリンだが、今度は自分達が窮地に追い込まれているのを感じた。

 

『ほっほっ、暇つぶし程度に思っておったが余り退屈なのも考え物じゃな。人間なら人間らしく、悲鳴をあげながら死にワシらを楽しませよ』

 

死んで興じさせよと言う玄王鬼の言葉にリンが怒鳴り声を上げようとした瞬間、信じられない事が起こった。月面に凄まじい地震が起きたのだ。

 

「なッ!?」

 

『きゃあッ!?』

 

玄王鬼が一際強く足を叩きつけるとそこを基点にして亀裂が走り、ヒュッケバインとゲシュペンスト・MK-Ⅲ・砲撃仕様の足を止めた。

 

『ほっほっ。死にたくなければ必死に抗って見せるんじゃな。どうせ貴様ら人間など、ワシらの遊び道具にしか過ぎんのじゃからなぁ』

 

玄王鬼がその巨大な口をあけて、せり出すように砲門が姿を現し、その砲口をヒュッケバインに向けた瞬間。レディバードの格納庫が吹き飛び熱線が玄王鬼の口の中に飛び込んだ。

 

『ギヤアアアアアア!?』

 

『はっはあ、窮鼠猫を噛む。少しばかり遊びすぎたかのぉ?』

 

苦しむ百鬼獣などお構いなしに楽しそうに笑う玄王鬼。その視線の先には砲身が捻じ曲がり、融解した巨大なビーム砲を抱えた真紅のヒュッケバイン・MK-Ⅲの姿があった。

 

「タイプMを動かしたのか!? 正気か!?」

 

『くっううう……すいません、社長。でもあの化け物を……何とかするにはこれを使うしかッ!!』

 

全身から蒸気を放ちながらレデイバードの中から姿を現したヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM。マグマ原子炉を組み込むためにバックパックと一体化した独特なボデイ形状を持つ真紅のヒュッケバインは周囲に凄まじい熱を撒き散らしながらそのカメラアイを真紅に光らせるのだった……。

 

 

 

 

ヒュッケバイン・MK-ⅢのタイプLを動かす準備をしていたのに、リョウトがタイプMに乗ってリンとラーダの救援に出たのには理由があった。それは玄王鬼の出現と共に放たれた超大型レールガンが原因だったのだ。

 

「駄目ですわね。完全にいかれてますわ」

 

「ちいっ……あの化け物め、余計な事をッ」

 

辛うじて直撃を回避したレディバード改だが、玄王鬼という規格外のサイズの百鬼獣の放ったレールガンの衝撃と威力は凄まじく、墜落した事もあり、ハンガーから倒れたタイプLの上にクレーンが倒れこみ、右肩、左脚部を完全に破壊していた。

 

「ラドム博士、ハミル博士。タイプMを動かしましょう」

 

破壊こそされていないが、今はどう考えても動かせる状況に無いタイプLを断念して、タイプMを動かそうとリョウトはマリオンとカークに提案した。

 

「……正気か? 確かにこの状況ではタイプMを動かすしかないが……安定稼動には程遠い上にタイプMには深刻な問題が……」

 

「ぐだぐだ言ってる暇はありませんわよカーク博士。リョウト、覚悟は出来ているんですね?」

 

動かせないと言うカークに対して、マリオンは一言覚悟は出来ているのか? と問いかけた。

 

「はい。このままじゃリオ達が危ないです。動かせる機体があるなら、動かさない理由はありません。それに機体は壊れたらまた修理すれば良い、でも命は戻ってこないんです」

 

真紅のタイプMを見上げたリョウトの目には強い決意の色が合った。それを見てマリオンは小さく頷いた。

 

「試作型ですが、タイプM用のパイロットスーツがあります、それに着替えてきなさい。あれならノーマルスーツよりましな筈です」

 

「はい! すぐに戻ります」

 

着替えに走るリョウトを見送り、マリオンはタイプMの稼動準備に入る。

 

「マリオン、リョウトを死なすことになるぞ」

 

「どの道このままでは私達も死にますわ。それなら少しでもいい、生き残る確率に賭けますわ。いやなら、お一人で脱出したらどうです?」

 

「……いや、良い。マリーお前が命を賭けるのに私が逃げる訳には行かないだろうに」

 

「言ったはずですわよ、 貴方にそう呼ばれる理由はもう無いとね」

 

「……そうだったな、それなら男として、意地の1つくらい張らせてくれ」

 

「意地なんてどうでも良いですわ、それならタイプMを完全な状態で動かせるようにして見せてくれたほうがいいですわね」

 

話をしながらもマリオンとカークの指は動き続け、タイプMを起動出来るように手筈を整え続けていた。

 

「ぬっう……」

 

「判っていたことですが、かなりきついですわね……ッ」

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM。それはメカザウルスから摘出された反マグマ原子炉を搭載した最初のPTである――メカザウルスに搭載されていた反マグマ原子炉は非常に巨大で、通常の方法ではPTに搭載出来なかった。その為旧西暦の技術の推移である反マグマ原子炉を搭載する為にボデイとバックパックを1つにし、通常のPTと異なり背部に大きく突き出した形状になった変わりに通常のPT――20m級のヒュッケバイン・MK-Ⅲに反マグマ原子炉を搭載する事に成功した。だが次の問題がカーク達に襲い掛かったのだ、反マグマ原子炉――マグマの熱を利用するそのエンジンは起動するだけで周囲に凄まじい熱を齎したのだ。

 

「マリオン、先にノーマルスーツに着替えて来い。起動する前に死ぬぞ」

 

「……すぐに戻りますわ」

 

その熱は凄まじく滴り落ちた汗が地面に落ちるまでに蒸発するほどの物だった。そしてその熱はPTの配線などを容赦なく焼き尽くし、特殊な加工を施さなければエンジンの熱だけで機体を破壊するほどの代物だった。それがタイプMのロールアウトが大幅に遅れた理由だった、そして正直な事を言うとレフィーナ達が来た段階で実はタイプMを引き渡すことは可能だった。だがリンの命令で引き渡すのを断念したのだ。それはエンジンをフルドライブさせた時に発生する熱によってパイロットが大火傷をする可能性が高く、マグマ原子炉の熱に耐えれるパイロットスーツが無ければ出撃する前にパイロットを死亡させる可能性が高かったからだ。だからリンは目処が立っていないとレフィーナ達に言ったのだ、だってそうだろう? 起動させるだけでその熱でパイロットを焼き殺すかもしれない。そんな機体を責任者として引き渡すことは出来ないと考えるのは当然の事だった。

 

「リョウト、予備に搭載していたT-LINKセンサーをONにする。これである程度は熱のコントロールは出来るはずだ」

 

『はい、判りました』

 

T-LINKセンサーがONにされると、軽い頭痛がリョウトを襲ったが、それ自体は大したことは無かった。問題は耐熱スーツを着ていても肌を焼く熱の方だった。

 

『うっくう……』

 

「今更泣き言は聞きませんわよ」

 

『だ、大丈夫です。エンジンのロックの解除作業を続けてください』

 

今ここでタイプMが動かなければリオ達が危ない、そう思えばこの程度の熱なんてなんて事はない、滴る汗が目の前で蒸発するのを見ながらリョウトは強く操縦桿を握り締め、歯を食いしばった。

 

「エンジンの安定度は?」

 

「……現段階で20%このまま出せば的にしかなりませんわ」

 

「そうか、やはり休止状態だったからな」

 

反マグマ原子炉は熱を蓄えることでその出力を上げていく、その性質は理論上はフルパワーで稼動させる事が出来ればトロニウムを越える出力を得る事が出来ると考えられていた。だがそれはあくまで理論上の話だ、フルドライブさせればその熱でパイロットは間違いなく死ぬ、エンジンの余波だけで3人ものテストパイロットを病院送りにした事を考えればヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMはフルパワーを出す事は不可能と言うのがマリオン達の出した結論だった。

 

「このまま出すわけには……ッ」

 

「なんだ!? 急にエンジンの出力が!?」

 

急にタイプMの現状をモニターしているグラフが一気に跳ね上がった。レッドゾーンからイエロー、グリーン、ブルーとその出力を上げていき、マリオン達が操作していないのにタイプMの出力はフルパワーに近い状態になっていた。

 

「リョウト! リョウト! 大丈夫か!?」

 

「聞こえていたら返事をしなさい!」

 

耐熱スーツは用意していたが、この熱に耐えれる訳が無い。マリオンとカークがリョウトに呼びかけた時、ゾッとするような底冷えする声が格納庫に響いた。

 

『……い』

 

「リョウト?」

 

『ゆる……い、許さない……ッ! あいつらを僕は許さないッ!!!』

 

レデイバードにも朱王鬼と玄王鬼の言葉は届いていた。人間を生き物とすら見ていないその言動はリョウトの逆鱗に触れた、そしてリョウトの怒りに呼応するように反マグマ原子炉はその出力を上げていた。

 

『ラドム博士、ハミル博士、気密室へッ! 出撃します!』

 

「だ、大丈夫なのか!?」

 

『大丈夫です! 時間が無いから早くッ!!』

 

リョウトらしからぬ怒声にマリオンとカークは気密室へと退避する、その直後凄まじい振動がレデイバードを襲い、外から百鬼獣の悲鳴が木霊した。

 

「リョウトの怒りに呼応したとでも言うのか?」

 

「判りませんが……今のタイプMならば、この不利な状況を引っくり返せるかもしれないですわね」

 

蒸気を放ち、真紅の装甲を紅く輝かせるヒュッケバイン・MK-Ⅲを見て、今のタイプMならばと勝てるかもしれない――カークもマリオンもそう感じていた。

 

「許さないぞ……お前達を僕は許さないッ!!!」

 

アラドが大事に思っているゼオラを傷つけた朱王鬼も、人間は死んで自分達を楽しませろと言った玄王鬼も、おぞましく邪悪な存在だった。

 

『許さないからなんじゃ? 人間如きがッ!』

 

『りょ、リョウト君!?』

 

『おい、嘘だろッ!?』

 

玄王鬼がその前足を振り上げヒュッケバイン・MKーⅢ・タイプMに向かって振り下ろした。動く事も無く押し潰されたヒュッケバイン・MKーⅢ・タイプMを見てリオ達が悲鳴をあげた。

 

『ほっほっ、人間は死ね、それが「ふざけるなッ!! お前に何の権利があって人を殺すんだッ!」ほっ!?』

 

玄王鬼の足をヒュッケバイン・MKーⅢ・タイプMが持ち上げ、背部のブースターで徐々に徐々に玄王鬼の巨体を持ち上げるヒュッケバイン・MKーⅢ・タイプM。それは50m近い玄王鬼を20mあるかないかのPTが持ち上げるという信じられない姿だった。

 

『ば、馬鹿な!? 人間の機体が何故ここまでの力をッ!?』

 

「人間を! 僕達を舐めるなあッ!!!」

 

リョウトの怒りの咆哮に呼応するように唸り声を上げる反マグマ原子炉、そしてモニターに浮かぶ「T-LINKシステム」の文字は何時の間にか「ウラヌスシステム」へと変わっていた。

 

「うおおおおおおおおーーーーッ!!!!」

 

『ギャアアッ!?』

 

獣染みたリョウトの雄叫びと共に玄王鬼は引っくり返され、真紅に燃えるビームソードに一閃されその装甲を融解させ、苦悶の声を上げながら玄王鬼はその場にのた打ち回る。

 

『玄ッ!?』

 

「ターゲットロック! いけえッ!!!」

 

相棒がPTに手傷を負わされた事に驚愕し、動きを止めた朱王鬼にヒュッケバイン・MKーⅢ・タイプMがその手にしたグラビトンライフルの銃口を向け引き金を引いた。紅く燃える重力波が朱王鬼の胴体を貫き、朱王鬼もまた苦悶の声をあげながら墜落する。

 

「この出力なら……リオッ!! ガンナーとドッキングするッ! コントロールをこっちに!!」

 

『そ、そんな無理よ!? タイプMはガンナーとドッキングは出来ないって』

 

リョウトの声にリオは無理だと言った。ガンナーはタイプLに合わせて調整されている。それをタイプMでやるなんて不可能だとリョウトをとめようとしたが、リョウトは普段とは違う荒々しい声で怒鳴り声を上げた。

 

「プログラムは今組み上げた! タイプMとだってガンナーはドッキング出来るッ!!」

 

『で、でも仮にそうだったとしてもぶっつけ本番なんてッ』

 

「良いから僕の言う通りにするんだッ!!!!  コントロールを僕に寄越せッ!!!」

 

余りに荒々しい声、そしてリョウトらしからぬ口調にリオは困惑した。だが、このままでは自分達が死ぬことも判っていた。

 

『リョ、リョウ……ッ!? わ、判ったわ! ガンナー、ドッキングモードにッ!!』

 

「そうだ、それで良いッ!!」

 

赤い燐光を撒き散らしながら飛び上がったヒュッケバイン・MKーⅢ・タイプMがAMガンナーの上に飛び乗る。

 

『ドッキング、コネクト完了!』

 

「行くぞッ! リオッ!!」

 

「判ったわ、リョウト君ッ!!」

 

ヒュッケバインガンナーが急旋回し、朱王鬼と玄王鬼の2体をその照準に合わせた。

 

「フルインパクトキャノン……いっけええッ!!!!!」

 

雄叫びと共に放たれた紅い4門の重力砲――それが朱王鬼と玄王鬼を飲み込み凄まじい爆発を起した。

 

『やったの?』

 

『すげえ……なんてパワーだ』

 

『ラーダ、アラド! 今の内に輸送機を『どこに行こうって言うのさ、まだ終わってなんかいないよ』なっ!?』

 

あの威力ならば朱王鬼と玄王鬼を倒す事が出来た、そう判断し今の内に離脱しようとしたリン達だったが、爆煙の中から姿を現した巨大な特機にその道を遮られた。

 

『やはりか……ッ!』

 

『そう簡単には終わらないということだな……』

 

天を突く朱王鬼と玄王鬼が合体した巨大百鬼獣――新たな絶望の壁がリン達に立ち塞がるのだった……。

 

 

 

真紅の重力砲――フルインパクトキャノンに焼かれた装甲が巻き戻しのように再生する中で朱王鬼と玄王鬼は小さく溜め息を吐いていた。人間と侮っていたのは事実だが、フルインパクトキャノンの威力には流石の2人も危うい物を感じていたのだ。

 

「あまり侮りすぎてはいけないって事を忘れていたね」

 

『うむ、正しく窮鼠猫を噛むと言う所じゃな』

 

フルインパクトキャノンは分離状態のままでは耐えれる物ではなかった。そう判断し、命中する前に合神したが、そうでなければ撃墜されないにしても致命傷を受けて撤退に追い込まれていただろう。

 

「玄王鬼が居て助かったよ。これが龍王鬼達と同じタイプなら死んでいたかもしれないね」

 

『大帝様の設計じゃからな、あやつらの物とは出来が違うわい』

 

龍王鬼と虎王鬼が龍虎王をモチーフにしたレプリカならば、朱王鬼と玄王鬼はブライがその手自らで設計した最新鋭の百鬼獣になる。

 

その理由としては龍虎王に負けた雀武王をモチーフにする事をブライが嫌った事と、アーチボルドからのさほど強い超機人ではないと言う発言によるものだった。

 

【グルルルルッ】

 

「ああ、判っているさ、大丈夫だ。朱玄皇鬼、君の怒りは最もさ、油断した僕達を許しておくれ」

 

朱王鬼と玄王鬼は機体のサイズは倍以上異なる。それなのに合体出来る理由としては、玄王鬼の甲羅の中身にあった。玄王鬼の甲羅の中には朱玄皇鬼、玄朱皇鬼となる際にそれぞれ胴体、脚部、腕部となるように複数のパーツが収納されており、合体時には甲羅が分割されバリアを展開しながら合体出来るようになっている事。そして甲羅の中に主要パーツが既に合体形態で収納されており、龍王鬼と虎王鬼のように両方が変形しながら合体するという必要が無く、胴体・脚部・武装に変形した玄王鬼に頭部・腕部に変形した朱王鬼が合体するだけと龍虎皇鬼よりも合体のプロセスが短く、そして合体時の隙も少ない。

 

『じゃが、朱。油断するなよ、あの紅いの特別製じゃ。油断すれば再び地面に伏すのはワシらじゃ』

 

「僕もそう思う、ここで確保しておこうか」

 

PTに損傷を負わされた。その事に強い怒りを抱くと同時に、何故PTが自分達に一瞬とは言え不味いと思わせたのか、それを知るためにその巨躯を使いヒュッケバイン・ガンナーを捕えようとした瞬間。凄まじい殺気を感じて、伸ばしかけた腕を上に向けた。

 

『ダブルトマホォォオオオクッ!!!!!』

 

「ぐっ!?」

 

翡翠色の流星から姿を現したゲッターD2の振るったダブルトマホークによる一撃で腕の盾に深い切り傷が刻まれた。

 

『こっからはオイラも相手をしてやるよ。百鬼帝国』

 

朱玄皇鬼よりも巨大な真紅の特機――ゲッターD2の乱入によって月面での戦いはより激しさを増していくのだった……。

 

 

 

第56話 四邪の鬼人 その4へ続く

 

 




オリジナルのヒュッケバインの追加です。マグマ原子炉で稼動するやばい奴、パイロットの回避を下げる代わりに攻撃力UPとかのスキルとか付いている筈です。次回はゲッターD2も加わった朱玄皇鬼とのバトルを書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第56話 四邪の鬼人 その4

第56話 四邪の鬼人 その4

 

月面に立つ2体の巨神――天を突く3つの角と口元から左右に伸びた髭のようなフェイスパーツが特徴的の眩いまでに輝く真紅の龍神「ゲッターロボD2」そしてもう1体は上半身は燃えるような紅、下半身は闇を溶かし込んだような禍々しい漆黒の装甲をした「朱玄皇鬼」――その2機の間には心臓の弱い者ならばショック死しかねない凄まじい殺気が放たれあっていた。その余りに重々しい空気に誰もが動けない中先手必勝と言わんばかりにゲッターD2がその手にしている戦斧を朱玄皇鬼の首目掛けて振るった。

 

『話をしようとか思ったりしないのかい?』

 

『悪いな、時間の無駄は省く主義なんだよッ!! 鬼はぶっ殺す! それだけだッ!!!』

 

朱玄皇鬼が手にしている炎の弓とダブルトマホークがぶつかり合い凄まじい轟音と火の粉が周囲に撒き散らされる。

 

『うわッ!?』

 

『きゃっ!?』

 

『し、姿勢が保てないッ!?』

 

何度も何度も振るわれる弓と斧――そのどれもが必殺。互いにこの一撃で相手を殺してやる、倒してやるという殺意と敵意に満ちた何の容赦もない攻撃の応酬――そこにリョウト達に入り込める余地は無かった。

 

「武蔵が押さえている間に輸送機に下がるぞ」

 

『む、武蔵さんだけを残すって言うんですかッ!?』

 

『いやいや!? 社長さん! その指示はおかしいでしょう!?』

 

リンの輸送機に下がれという指示にリョウト達が声を荒げたが、リオとラーダは違っていた。

 

『リョウト君。冷静に考えて、頭に血が上ってるのは判るけどPTであの特機と戦えるの?』

 

『後から援護射撃するだけでも流れは変わるわ。一緒に並んで戦うだけが全てじゃないのよ?』

 

リオとラーダの言う事は反論の余地が無い完璧な正論だった。PTで60mを越える朱玄皇鬼と80mに迫るゲッターD2と共に戦うことは不可能だ。だが巨体ゆえに的は大きく、攻撃や武器に射撃を当てて軌道をそらす事や動きを阻害する事は可能だ。

 

『判ったようだな。それなら輸送機に下がれ、敵の増援が何時来るか判らないんだからな』

 

リンはどこまでも冷静に戦況を見つめていた。百鬼帝国の目的が月面の制圧ならば、この後も敵の増援が来る事は確実だ。武蔵が自分達を庇いながら戦うにも限界がある。武蔵の事を考えるのならば、いつでも離脱出来る準備を整える事が最善の選択だ。後退するリン達に代わりゲシュペンスト・タイプSが前に出る。

 

(ゲッター線……か。なるほど)

 

リンがすれ違い様に見たのはゲシュペンスト・タイプSの装甲の各所から漏れる翡翠色の輝き――それが示すのはゲシュペンスト・タイプSがゲッター線で稼動しているという事だった。タイプSだったとしても圧倒的に強い理由がゲッター炉心だとすれば武蔵と共に戦えるのも納得だと心の中で呟き、玄王鬼の出現時にレールガンがかすめて墜落しているレディバードに接近する。

 

「ラーダ、ブラックホールキャノンを引っ張り出せ、リョウトとリオはエンジンを臨界点まで高めろ、フルパワーのフルインパクトキャノンの反動は凄まじい、それを押さえ込んで1発で当てろ、出来ないなんて言う言葉は聞かんぞ。アラド、お前は試作型のG・インパクトキャノンを預ける。試作型だから一発しか撃てないから外すなよ、カーク博士達はレディバードの再発進の準備を急いでくれ」

 

確かに一緒に戦うのは無理だ。だがいままで散々好き勝手し、更に人間を殺す事が趣味だと言う朱王鬼と玄王鬼にはリンとて強い怒りを抱いていた。

 

「人間の底力を見せてやるぞ。侮った事をあの世で悔いるが良い」

 

静かだがその底冷えするようなリンの殺気と怒気にラーダ達は何も言えず、リンの指示に従い動き出すのだった……。

 

 

 

 

 

鳥の頭を模した兜の下から僅かに露出している朱玄皇鬼の口元が大きく歪んだ。だがそれは痛みに歪んだ苦悶の顔だった……。

 

『おらあッ!!!』

 

ゲッターD2の容赦も何も無い前蹴りが胴体に叩き込まれ朱玄皇鬼がくの字に折れ、その巨体がサッカーボールのように弾け飛ぶ。

 

『朱! 距離をこのまま取れ!』

 

「判って……うぐうっ!?」

 

玄王鬼の言葉に頷き、蹴り飛ばされたまま距離を取ろうとした朱王鬼だが、背後から戻ってきたダブルトマホークが背中に突き刺さり、その勢いでゲッターD2に向かって弾き飛ばされる。

 

『よお、さっき振りだなあッ!!!』

 

「『がはぁッ!!!』」

 

朱玄皇鬼の頭をゲッターD2が鷲づかみにし、そのまま月面に叩きつける。コックピットの中の朱王鬼と玄王鬼は叩きつけられたことで凄まじい衝撃が襲う。だがその程度で武蔵の攻撃は収まらず、跳ね上がった所を追撃のサッカーボールキックが叩き込まれ、月面を転がりながら朱玄皇鬼は吹っ飛んだ。

 

『おおおおおーーーッ!!!』

 

地響きを立てて迫ってくるゲッターD2。その威圧感と凄まじい闘気は自分達よりも弱い相手としか戦った事がなかった朱王鬼と玄王鬼を飲み込んで余りある物だった。

 

「調子に乗るなよ! 人間がッ!」

 

自分達はブライに選ばれた特別な鬼だ。そんな自分達が人間に負ける訳が無い……そんな傲慢とも取れる強烈なプライドに支えられ、やっと自分の武器である弓を構え、ゲッターD2に向かって燃え盛る矢を放った。

 

『オープンゲットォッ!!!』

 

矢が命中する寸前にゲッターD2が弾け、朱玄皇鬼の放った矢はゲッターを素通りした。そしてその直後エネルギーを溜めていたゲシュペンスト・タイプSが姿を現した

 

「玄ッ!」

 

『判っておるわッ!!』

 

朱玄皇鬼の両腕に装備されていた亀の甲羅が分離し、朱玄皇鬼の前に浮かぶとエネルギー障壁を作り出した。

 

『ぶち抜けッ! ブラスターキャノンッ!!!!』

 

ゲッター線の光を伴ったブラスターキャノン――いや、最早ゲッタービームと呼んでも差し支えない強力な一撃が障壁にぶつかり、周囲に凄まじい電撃の嵐を巻き起こす。

 

「ぬっくうッ! やっぱりあのゲシュペンスト……ただものじゃない!」

 

『そのようじゃな。大帝様の慧眼を疑った罰かのッ!?』

 

ブライが気をつけろと言っていても、警戒しすぎている。人間なんかに負ける訳が無いと驕っていた朱王鬼と玄王鬼はゲシュペンスト・タイプSとゲッターD2の強さに驚愕し、ブライが警戒しろと言った意味を自らの身体で体験していた。

 

「な、なんとかしの……『チェンジッ! ライガァアアアアアーーーッ!!!』 ぐっぐうううッ!?」

 

ブラスターキャノンの掃射を凌いだ直後にライガー2が高速で飛来し、ドリルを容赦なく朱玄皇鬼に突き立てる。本来朱玄皇鬼は距離を保ち、弓と背中の砲台で中~遠に強い能力を持つ百鬼獣だ。ここまで距離を詰められては戦力の差で押し潰される事は明白だった。

 

『ぐっ、朱よ! ワシに変われッ!』

 

「ま、負けっぱなしで変わるなんて僕のプライドにッ!」

 

『お主のプライドに巻き込んでワシを殺すつもりか? 冷静になれ』

 

淡々とした玄王鬼の言葉に朱王鬼は何も言えなかった。自分達に下された命令は月面の制圧とインスペクターとの交渉――ゲッターを倒せと言う物ではない。

 

「……人間に負けを認めろと?」

 

『そうではない。だが今は大帝の命令を優先すると言う事だ。ワシらのすべては?』

 

己のプライドを穢されたと怒りを露にする朱王鬼だったが、玄王鬼の言葉で強制的に鎮めさせられた。

 

「大帝様の為に……」

 

『そうじゃ、ワシらの命、誇りなどは何の意味もない。判るな?』

 

諭すように言われた朱王鬼はがっくりと項垂れ、無言のまま玄王鬼に操縦権を引き渡した。ゲッタードリルを受け止めていた朱玄皇鬼の全身から氷が溢れ出し、それを見た武蔵は慌ててライガー2を後退させた。

 

『ほっほっほ、ここからはこのワシ玄王鬼と玄朱皇鬼が相手をしよう。ゲッターロボよ』

 

「なるほど、ゲッターに少し似てるってわけか」

 

氷の中から姿を現した百鬼獣は先ほどまでの重厚なシルエットから一転し、細身で背中に翼を生やし、亀の甲羅を模した盾と鳥の頭がそのまま切っ先になった槍を構えた先ほどとは異なる姿に武蔵は警戒心を強め、互いにジリジリと距離を窺いながら飛び出すタイミングを窺いあうのだった……。

 

 

 

 

炎を纏った鋭い刺突とライガー2のドリルが何度もぶつかり、火花を散らす。姿を現しては消えるを繰り返すライガー2と玄朱皇鬼の速さはマッハの戦いであり、容易に割り込める状況ではなかった。月面の岩等が紙切れのように吹き飛ばされ、凄まじい勢いで破壊されていく月面を見ながらカーウァイは戦況の観察をし、ある決断を下さざるを得なかった。

 

(月の奪還は不可能だ……セレヴィスの住人には悪いが、ここは見捨てるしかない)

 

圧倒的なパワーを持つ朱玄皇鬼と戦っている間にセレヴィスシティ周辺は百鬼獣に完全に包囲されてしまった。それに加えて機動力に長ける玄朱皇鬼は月面からゲッターD2とゲシュペンスト・タイプSを引き離すように立ち回っていた。

 

(悪手だったか……だがあの状況ではな)

 

マオ社から脱出するレディバードとリン達をカーウァイは優先した。セレヴィスからの避難は続いており、百鬼獣が出現した段階では住民の6割は避難完了していた。それに加えてゲッターD2が合流すれば百鬼獣を一掃して、月面の奪還は可能と考えていたが、こちらを撃墜するよりもセレヴィスとマオ社の制圧を優先した百鬼獣――最初からこちらを倒すつもりはないと言う事に気付いた時にはもう遅かったのだ。

 

「リン。脱出の準備は出来ているか?」

 

通信をせずに極力痕跡を残さないという真似はもう出来ない。これだけ派手に立ち回り、L5戦役の時にハガネに乗っていたクルーが複数人この場にいる段階何も言わずに去るという事は出来ない段階になっている。だからこそ通常通信でリンにカーウァイは声を掛けた。

 

『レディバードのエンジンは何とか復旧した。後はエンジンの出力が高まれば脱出は可能だ……だが……』

 

「……私が言えた義理では無いが、無理だ」

 

セレヴィスの奪還をするには戦力的にも、そして時間的にも無理だ。最初からセレヴィスの制圧を目的にしているのならば敵の増援は間違いなく来る。百鬼獣という並みの特機を遥かに越える機体が複数体現れればゲッターD2をもってしても不可能だ。それ所か民間人を人質にされては武蔵は動けなくなる。百鬼帝国にゲッターD2に奪われるようなことがあってはならないのだ。

 

『……判った。脱出の準備を進める』

 

「すまないな、助けに来てこの様だ」

 

かなりの数の百鬼獣を撃墜したカーウァイだが、それでも限界はある。エネルギー残量などはレッドゾーンに入ろうとしている……冷静に考えてこれ以上の戦闘は不可能だと決断せざるを得なかった。リンからの脱出準備を進めるという返答を聞いてからカーウァイは鍔迫り合いをしているライガー2と玄朱皇鬼の戦いの中にゲシュペンスト・タイプSを割り込ませた。

 

「武蔵、離脱する。輸送機が飛び立ったら、それを護衛しながら百鬼獣を振り切るぞ」

 

ゲッター合金弾頭のM-13ショットガンによる面射撃で玄朱皇鬼の動きを阻害しながら、これからの動きを武蔵に口早に説明した。

 

『えッ!? で、でもあの街は!?』

 

「また奪還する機会はある。この場は引く」

 

『鬼が人を殺すかもしれないんですよ!? オイラ1人でも残ります!』

 

セレヴィスの住人を見捨てるという選択に武蔵は当然反対した。だがカーウァイは冷酷に、そして非情に決断を下した。

 

「人質を取られ、ゲッターD2から降りろと言われてお前は反対出来るのか?」

 

『っ! そ、それは……』

 

「最悪はゲッターD2を百鬼帝国に鹵獲される事だ。ここは辛いと思うが……逃げるしかない。リン達も脱出支援をしてくれている、判るな?」

 

ミサイルやビームライフルの攻撃で玄朱皇鬼の動きを封じようとしているリン達を見て、武蔵も今の状況を理解せざるを得なかった。

 

『了解です。でも……最後に一発くらいぶちかましてもいいですよね?』

 

「好きにしろ、私はそれを止めるつもりはない」

 

離脱せざるを得ない、だがそれでも朱王鬼と玄王鬼の言動を許したわけではない。少なくとも、すぐに玄朱皇鬼が動けない状況にしてから撤退するつもりだった。

 

『話をしているとは余裕じゃなッ!!』

 

弾幕を強引に突っ切って玄朱皇鬼がその手にした槍でゲシュペンスト・タイプSとゲッターD2を貫かんと迫る。

 

『オープンゲットッ!!!』

 

「武蔵、きついのをかましてやれッ!!」

 

横っ飛びで玄朱皇鬼の突撃を避けたゲシュペンスト・タイプS。そして玄朱皇鬼の進行方向にはポセイドン2にチェンジしたゲッターD2が立ち塞がっていた。

 

『フィンガーネットォォオオオオッ!!!』

 

『ふぇッ!?』

 

雄叫びと共に放たれたフィンガーネットが玄朱皇鬼を絡め取る。それと同時にポセイドン2の目が力強く光り輝き、その豪腕を振り上げる。

 

『おらぁッ!』

 

武蔵が行なったのは単純だが、凄まじい破壊力を持つ攻撃だった。フィンガーネットで絡めとり動けない玄朱皇鬼を持ち上げて月面に叩きつける、振り回して岩にぶつける。ポセイドン2のパワーで振り回されては玄朱皇鬼は脱出する事も、反撃する事も出来ず。振り回されは叩きつけられる、そんな原始的な暴力の嵐に晒されていた。

 

『うおらぁッ!!!!』

 

ジャイアントスイングの要領で振り回し、トドメだといわんばかりに月面に叩きつけ、更に振り上げてフィンガーネットを切り離す。

 

『しゃああッ!! 行けええッ!!!』

 

月上空を舞う玄朱皇鬼は振り回され、叩きつけられ回避も防御も出来ない状況――そしてセレヴィスに何の影響も与えないと言う最高の位置に玄朱皇鬼が投げ飛ばされる。

 

『ターゲットロックッ! リョウト君! 照準は合わせたわッ!』

 

『判ったッ! 反マグマ原子炉リミッター解除ッ! 臨界点突破ッ!! フルインパクトキャノン……発射ッ!!!!』

 

避ける事も、防御することも出来ない玄朱皇鬼に向かって赤黒く輝く4つの重力砲が放たれた。

 

『ぬおおおおおッ!! 舐めるなよ人間があああああああッ!!!』

 

【ガアアアアアアアーーーッ!!!】

 

玄王鬼と玄朱皇鬼の雄叫びが響き渡り、手にしている亀の甲羅が展開しそこから放出されたバリアがフルインパクトキャノンを受け止めるが、見ている前で亀裂が走った。

 

『うおおおおおッ!!!』

 

玄王鬼の雄叫びと共にフルインパクトキャノンは弾かれたが、ヒュッケバインとビルトファルケン・タイプKが巨大なキャノン砲を構え、その照準を玄朱皇鬼に向けていた。

 

『ターゲットロック、照準リンク開始、行けるな? アラド』

 

『うっすッ!! いつでも行けます!』

 

ブラックホールキャノンとGインパクトキャノンの砲口にエネルギーが溜まるのを見て、朱王鬼と玄王鬼は顔色を変えた。

 

『朱ッ!』

 

『判ってる!』

 

札が玄朱皇鬼を囲うように展開され、札同士が繋がり作り出されたバリアにブラックホールキャノンとGインパクトキャノンの凄まじい重力波が玄朱皇鬼を飲み込まんと迫り、球体のバリアがそれを防ぎきった時月面に着陸していたレディバードとヒュッケバイン達の姿はそこには無かった。全身から火花を散らし、動かない玄朱皇鬼のコックピットで朱王鬼と玄王鬼は屈辱にその顔を歪ませるのだった……。

 

 

 

 

月面から離脱したレディバードと平行するようにゲッターD2とゲシュペンスト・タイプSは移動していた。

 

「社長、月面からの離脱に成功しましたね」

 

百鬼獣の追撃も振り切り安堵の表情を浮かべたラーダだが、ちらりと窓の外を見て若干気まずそうな顔をした。

 

「仕方あるまい、ゲッターD2とゲシュペンスト・タイプSまでは収容できんからな。 それで敵の追撃は?」

 

一緒に戦ってくれた2人だが、レディバードはあくまで輸送機で超大型特機のゲッターD2と色々と強化され、準特機サイズのゲシュペンスト・タイプSは収容する事が出来なかったのだ。

 

『いやあ、オイラの事は気にしなくていいですよラーダさん』

 

『私の事も気にしなくて良い、ある程度連邦の勢力下に入ったら離脱するからな』

 

離脱するつもりだからレディバードに乗り込まなくて都合がいいと言う武蔵とカーウァイ、そう言われてはラーダも強く言う事が出来ず。丁度格納庫からコックピットルームにリオ達が入って来たので、リンに尋ねられたセレヴィスの今の現状を報告した。

 

「セレヴィスも無事のようです。あの特機――百鬼獣に囲まれているようですが、それ以上は無いようです」

 

「ほ、本当ですかッ!?」

 

「セレヴィスの人達は無事って事で良いんですね!?」

 

最後まで避難誘導していたユアンは脱出が間に合わなかったとリンから聞いて気落ちしていたリオだが、セレヴィスに直接的な被害が出ていないと聞いてその顔を輝かせた。

 

「ええ、どうも街はおまけで彼らの本命は月の製造工場だったみたいね」

 

マオ社を初めとしたPTの製造工場に無数の角を生やした男達がなだれ込んでいる姿を遠隔操作で見つめながらマリオンは顔を歪めた。

 

「本当に鬼なのですね。鬼と名乗っているだけかと思いましたが」

 

「……マジで角生えてるのかよ」

 

額やこめかみから角を生やしている男達を見て流石のリンも驚きの顔を隠す事は出来なかった。百鬼帝国、四邪の鬼人と名乗っていたが、まさか本当に鬼だとは思っていなかったのだろう。

 

「しかし奴らの行動には謎が残るな、何故我が社の工場を手に入れようとしたんだ?」

 

百鬼帝国の戦力である百鬼獣はPTを遥かに越えている。仮に月で百鬼獣を作ろうとしても規格が違えば、製造等出来る訳も無い。

 

『それは予測になるが、インスペクターとのやり取りに使いたいのではないか?』

 

「どういうことだ?」

 

『インスペクターの求める物は優れた技術だという、百鬼獣は確かに強力だが、それはロテクで決して最新の技術ではない』

 

『ああ、オイラのゲッターと同じって事ですね』

 

『そういう事だ、不安定な物は必要ないと言う所だろう』

 

予測と言ったがあちら側でのインスペクターの目的を知っているカーウァイは予測ではなく確信だった。どうもインスペクター達は技術はあってもその技術を武器に転化する能力に劣っていて、武器などの開発に長けている地球人の開発データと機体を求めているようだった。

 

「となると今ごろはムーンクレイドルも」

 

「恐らく制圧されていますわね。武器を現地調達しようなんてずいぶんとセコい異星人ですわね」

 

やれやれと言う様子のマリオンだが、事実そうだろう。制圧に来て、使う武器は侵略している所の物――それをセコイと言わず何というと思うのは当然の事だった。

 

「そ、そうだ! 武蔵さん。あん時のホットドッグありがとうございました!」

 

『アラドか! なんだ元気そうだなあ』

 

「元気そうだなじゃないですよ! 何でゲッターロボのパイロットって言ってくれなかったんですか!?」

 

『あり? 言ってなかったっけ?』

 

「言ってないです!!」

 

武蔵と話をしているアラドを見たリオは武蔵と話がっていたリョウトに視線を向けたが、リョウトはぐったりとした様子で椅子に横たわり、額に濡れたタオルを乗せていた。

 

「リョウト君、大丈夫……?」

 

「う、うん……大分落ち着いたよ」

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMから降りたリョウトはその瞬間に崩れ落ちた。その理由は反マグマ原子炉による熱による軽度の焼けどと熱中症に近い状態だったのだ。

 

「その程度で済んで御の字ですわ。私が用意したリミッターを解除した上に、無理やりプログラムを組んでガンナーとドッキング、そして

その上フルインパクトキャノンを2発も、私の言ったことをぜんぜん聞いてないんですのね」

 

「す、すいません。頭に血が上ってて」

 

マリオンに怒られ、リョウトが謝罪の言葉を口にする。だがマリオンが責めていたのはリョウトではなく、カークの方だった。T-LINKシステムがウラヌスシステムに変化することを知っていた素振りを見せていたカークに対しての言葉だった。

 

「どうやら、あのシステムは火事場の馬鹿力を誘発する為の物らしいですわね。良い加減にパイロットに詳しく説明したらどうですの?」

 

「……私はタイプMの再調整をしてくる。放熱は済んだだろうからな」

 

逃げるように格納庫に向かうカークを見てマリオンは眉をひそめた。マリオンの指摘はカークにとって耳の痛い物だったのだろう。だがここで逃げた事でマリオンの中にはT-LINKシステムへの不信感が生まれ始めていた。

 

「武蔵君。今までどこにいたの?」

 

「そうですよ、武蔵さん。今までどこにいたんですか?」

 

リオに支えられながらどこにいたのか? と武蔵に尋ねるリョウト。あれだけ探していたのに見つからず、そして生きていたのに連絡もなかった。その理由はなんなのか? と尋ねられた武蔵は笑いながら口を開いた。

 

『ちょっと旧西暦でリョウ達と化けもんと戦って、んで今度は未来? なんか訳の判らんところでまた化けもんと戦ってた』

 

「「「は?」」」

 

理解を超える武蔵の言葉にレディバードにいた全員から困惑の声が零れた。

 

『武蔵もう少し詳しく説明したらどうだ?』

 

『いやいや、オイラ馬鹿ですから頭のいい説明はどうも苦手で、カーウァイさんが代わりにしてくれません?』

 

『……やれやれ、私達はインベーダーとアインストと戦っていた。戦闘データはヒリュウ改から貰ってないか?』

 

「ああ、貰っている。だがあの化け物達は旧西暦の生き物なのか?」

 

最近宇宙で確認されている謎の化け物。アインストとインベーダー……その両方が旧西暦の生き物なのか? とリンに尋ねられたカーウァイと武蔵の返答は……。

 

『さぁ? インベーダーは旧西暦にもいましたけど、なんか未来にもいましたよね?』

 

『いたな。アインストもだが、まぁあれだ。化け物の正体など気にする事も無いだろう』

 

2人の返答は正体は判らないと言う物だったが、次の全く同じタイミングで言われた言葉にリン達は絶句した。

 

『『化け物は殺す。それだけだ』』

 

敵の正体がなんであろうが襲ってくるなら殺す――シンプルだが、それが最も正しい選択と言うのはリン達にも判っていた。

 

「ふ、確かにその通りだな。その方がシンプルでいい」

 

『インベーダーはマジで人を食いに来るんで、考えている暇があったら攻撃した方が良いですよ。じゃないと、食われて死にます』

 

「肝に銘じておこう、ありがとう」

 

考える暇があったら自分の身を守る事を考えろと言う武蔵のシンプルな助言。しかし、それは化け物と戦っていた武蔵達だからこそ、非情に説得力のある言葉だった。

 

「武蔵さんはこれからどうするんすか? やっぱり行っちゃうんですか?」

 

『おう、悪いけど、オイラ達もやることもあるし、それにもう護衛もいらないみたいですしね』

 

護衛がいらないと武蔵が告げ、その言葉の意味をリン達が考えているとラーダの嬉しそうな声がコックピットに響いた。

 

「ヒリュウです!  ヒリュウ改から通信が入っています!」

 

武蔵達の視線の先からヒリュウ改がレディバードに向かっている姿があった。

 

「武蔵さん、もう行ってしまうんですか?」

 

『おう、でもまぁ、これが今生の別れって訳じゃねえ、また会おうぜ。リョウト、リオもな』

 

「ええ、武蔵君も元気で」

 

『おう! また……でもまあ、もう本当すぐに会うことになると思うぜ。じゃあな!』

 

もうすぐ会うことになると思うと言い残し、武蔵とカーウァイはヒリュウ改から背を向けてその場から離脱していく。

 

「武蔵君が元気そうで良かったわね」

 

「うん。生きているって判れば、それだけで良かったと思うよ」

 

飛び去る赤の光――その光が見えなくなるまでリョウト達はゲッターD2とゲシュペンスト・タイプSが飛び去った方向を見つめ続けているのだった。

 

 

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM

ビルトファルケン・タイプK

 

を入手しました。

 

ビルトファルケン・タイプK

 

テロリストに奪取されたビルトファルケンのTC-OSを解析されていることを考え、TC-OSの書き換え作業を行なっている間にマリオンが暴走し、マ改造されたビルトファルケン。タイプKの「K」はキメラであり、キメラのように複数のコンセプトが組み込まれているためにマオ社のスタッフの間でそう呼ばれるようになった。まず大きな改造点としては背部大型の可変翼であり、プロジェクトTDの機体に匹敵する加速力を持つが、その加速力を得るために極限まで軽量化され、装甲は紙と言われるほどに薄く、当然のようにパイロットへの負担は度外視され、可変翼による突然の方向転換や、急旋回も可能だが、可能と言うだけでそれをすれば間違いなくパイロットはブラックアウトすると言う代物。更に両腕と両足にビームステーク発射機構が組み込まれ、コンセプトとしては可変翼による爆発的な加速で相手の懐に飛び込み、ビームステークを打ち込むと言う射撃型でありながら、アルトアイゼンのような改造を施されてしまった。射撃武器として極限まで接近し、射撃を行ない速やかに離脱する為に銃身を短くし、ジェネレーターと直結させ取り回しと威力を両立させたオクスタンランチャー改、両腰にマウントされているアサルトマシンガンも銃身が短くなり射程が短くなった代わりに銃身の横を操作することでショットガンモードへの切り替え機能に加え、銃弾は特殊加工を施された専用のカートリッジを与えられ、凄まじい破壊力を持つ兵装となってる。こう聞くと非常に強力な機体に聞こえるが、操縦出来るパイロットが居らずお蔵入り確定だったが、アラドが乗りこなした事でアラドの専用機となった。なお、このコンセプトに合わせビルガーのマ改造が始まっているのだが……それを知る者はいない。

 

 

ビルトファルケン・タイプK

 

HP5500(7800)

EN200(350)

運動性170(215)

装甲900(1500)

 

特殊能力

分身

 

 

フル改造ボーナス

 

運動性+15 分身発生率+10%

 

 

コールドメタルナイフ ATK2400

アサルトマシンガン改 ATK2900

アサルトショットガン ATK3300

オクスタンランチャーEモード ATK3500

ビームステーク(腕) ATK3900

ビームステーク(足) ATK4200

B・K・Kコンビネーション ATK4900

 

 

 

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM

 

マオ社で開発されていたマグマ原子炉搭載型PTの1号機であり試作機。開発コンセプトは表向きはレイオスプランの1つである「小型化されたSRX」だが、それと同時に「新西暦の技術で作成されたメカザウルス」と言う2つ目のコンセプトも隠されている。ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMはマグマ原子炉を搭載するに当たり、ボデイとフレームは新規構造の物となり、背部に大きくせり出したバックパックと一体化した独特な胴体形状を持つ。マグマ原子炉の出力は不安定でT-LINKシステムによる制御を試みているが、マグマ原子炉の出力が高すぎてT-LINKシステムの不調を起しており、本来想定された使い方は出来なくなっている。レフィーナが受け取りに来た時には既に完成していたのだが、マグマ原子炉の抱える欠点――稼動時に周囲に齎す熱はパイロットすらも火傷させる凄まじい物であり、専用のパイロットスーツが完成するまでは引き渡し出来ないと言うことで完成の目処は立っていないと言われた。百鬼帝国の襲撃の際にリョウトが操縦し、玄王鬼に大ダメージを与えたが、その時のリョウトは非常に荒々しい言動をしており、TーLINKシステムによる制御は出来ていないが、T-LINKシステムを通じてパイロットに何らかの影響を与えているのではないか? と危惧されている。派手なメタリックレッドだが、これには理由がありマグマ原子炉の熱を外部に放出しつつ、機体とフレームに熱を篭もらないようにする為の物の特殊装甲で、稼動時は真紅に輝くのが最大の特徴。あくまで試作機である為手持ち火器は少なく、まだまだ改良段階ではあるがマグマ原子炉から供給される無尽蔵のエネルギーにより機体スペックは極めて高く、熱を攻撃に転用している為、機体とパイロットに同時にダメージを与えることが可能となっている。並みのPTを越えるスペックを持つが、その出力でもリミッターの掛けられた制限された出力である。MAガンナー、AMボクサーについで、ヒュッケバイン・MK-Ⅲ用の強化パーツAMハウンドによる可変式による装甲を装備する事で初めてフルパワーでの稼動が可能となるとされていたが、リョウトが戦闘中に組み上げたプログラムにより、本来想定されていないガンナーとの合体を行い、フルパワーを発揮する事になったが、本来のコンセプト、小型化されたSRX、そして新西暦の技術で建造されたメカザウルスと言うコンセプトとは全く異なる物となっている。

 

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM

 

HP6800(8400)

EN280(410)

運動性125(195)

装甲1400(1900)

 

特殊能力

EN回復(小)

念動フィールド(炎) 1000以下の攻撃無効+回避率+8%UP

????

 

 

フル改造ボーナス

 

すべての武器の攻撃力+500、移動後使用不可の武装の使用可能

 

 

頭部バルカン ATK1900

ファングスラッシャー ATK2500

ビームソードH ATK3000(命中時装甲ダウン)

フォトンライフルH ATK3300(命中時ダメージとは別に500の追加ダメージ)

グラビトンライフルH ATK4100(命中時 装甲ダウン+命中ダウン)

ヒートバーン ATK4900(命中時 敵ユニットの移動力-1)

ヒートプレッシャー ATK5200(命中時 装甲ダウン、気力ダウン)

G・インパクトキャノンH ATK5500(命中時 装甲ダウン、気力ダウン、敵ユニットの移動力-1、攻撃力ダウン、確率行動不能付与)

 

 

 

第57話 動き出す世界 その1へ続く

 

 




今回で宇宙ルートは1回休みで、ノイエDCと剣神現ると1回前の話に戻るので、その方向に迎えるようにオリジナルの話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第57話 動き出す世界 その1

第57話 動き出す世界 その1

 

デザートスコール作戦で地球へと降下したカチーナ達はリー・リンジュンの率いるシロガネと合流し、ムータ基地へと向かいながらテロリストとの戦いを繰り広げていた。シロガネの戦果は華々しい物であったが、それ以外の部隊の戦果は乏しく、基地防衛も成し遂げる事が出来ず戦力差は大きくなっていった。それはシロガネがハガネの待つムータ基地へ向かう道中の補給ポイントと考えていたベルフォディオ基地も既にテロリストに制圧され、日単位での合流予定の大きなずれを引き起こしていた。

 

「迎撃作戦を良く頑張ってくれた。だが君達も判っているように状況は最悪と言わざるを得ない」

 

予定したベルフォディオ基地での補給が不可能となり、ムータ基地とベルフォディオ基地の間にあるPTの整備ハンガー等の無い旧式の基地で燃料や弾薬の補給の為に停泊中にリーはそう話を切り出した。

 

「上層部はなんて言ってるんだ? 中佐」

 

「……作戦の続行命令を出している。玉砕覚悟でな」

 

カチーナの問いかけに答えたリーの顔は苦渋に歪みきっていた。誰がどう見てもキルモール作戦は失敗であり、これ以上の作戦続行は連邦の被害を拡大するだけだ。それなのに作戦続行を選択した上層部はL5戦役から何も学んでいないと誰もが感じた。

 

「リー艦長の決断は?」

 

「……命令違反を覚悟で奪還作戦を断念し、レイカー司令からの指示であるハガネの待つムータ基地への強行を考えている」

 

このまま無理に基地奪還作戦に参加しても戦力を失うだけだ。リーは上層部の決断を無視し、伊豆基地のレイカーの指示に従うことを決めた。軍人だからこそ、死ねと上官に言われれば死ぬ覚悟はリーだってしている。だが無意味な死を受けれいるつもりはリーには毛頭無かった。しかも指示系統が分裂し、撤退しろという指示を出しているレイカーと、そのレイカーに反抗して無理な作戦続行をしようとしている作戦本部――そのどちらに従うかなんて馬鹿でも判る理屈だった。

 

「出世街道から外れるな中佐」

 

だがそれでも命令違反は命令違反として処分されるだろう。若手でスペースノア級の艦長にまで上り詰めたリーだが、命令違反で出世街道から遠ざかるなとカチーナに言われると小さく笑った。

 

「ふん、元よりそのような物に興味などない。今からベルフォディオ基地の奪還に合流しても、その流れを阻止する事は出来ない。それならば反撃に打って出れる可能性のあるハガネと合流し、この包囲網突破を試みる方がよほど意味がある。異論のある者は?」

 

異論はあるか? と問うリーに反対する者は誰もいなかった。

 

「皆私と同じ考えで安心した。ではこれより本艦はムータ基地へと向かうが、その前に君達の耳に入れておきたい事がある。むしろ、本題はこっちなのだが……私の判断で君達にいう事を決めた」

 

「……大丈夫なんですか? それ」

 

「まぁ大丈夫ではないな。だが、そうも言ってられん」

 

その口振りから上官の一部にしか知られない極秘事項と言うことは明らかだった。緊張感に満ちたブリーフィングルームにリーの硬い声が響いた。

 

「ああ。ホワイトスター防衛軍がヒリュウ改を残し全滅、インスペクターを名乗る異星人に制圧された。それに加えて月が百鬼帝国を名乗る集団に制圧されたそうだ」

 

「「「なッ!?」」」

 

宇宙の重要拠点2つが制圧されたと聞いてリュウセイ達がその声を荒げた。

 

「り、リー中佐! ヒリュウ改は!? レフィーナ艦長達はどうなったんっすか!?」

 

「落ち着けタスク少尉。報告によればドラゴンに似たゲッターロボとゲシュペンスト・タイプSが出現し、ヒリュウ改と月面から脱出を試みたマオ社のスタッフの脱出に協力し、その後は再び姿を消したそうだ」

 

ヒリュウ改の脱出に協力したゲッターロボと言う事で、リュウセイ達の中でゲッターロボのパイロットが武蔵であるという思いが強まる結果となった。

 

「上層部が意固地になってキルモールを成功させようとするのはホワイトスターと月面の制圧に関係しているのですか?」

 

「恐らくそうだろう。宇宙を完全に押さえられ、その上アースクレイドルをテロリストの拠点とされてしまえば、L5戦役以上の劣勢に追い込まれる。だから意地でも成功させようとしているのだろう。だがそれは愚策だ、もはや地球圏に安全な場所などは存在しない。それならばまた押し返す。それだけだ」

 

「随分と簡単に言ってくれるじゃねえか? ええ、中佐」

 

「ふっ、お前達なら出来ると考えているのさ。私だけではない、レイカー司令達もな。これから更に厳しい戦いになると思われるが、その力を私達に貸して欲しい」

 

深く頭を下げるリーに了解を返事を返しながら敬礼するリュウセイ達。確かに地球圏は窮地に追い込まれている――だがそれに抗おうとする者達は確かにいた。地球を守る為に、平和を守る為に戦う戦士達は確かにそこにいたのだった。

 

 

 

 

ヒリュウ改と分かれた武蔵とカーウァイは大気圏の単独突入を敢行し、クロガネとの合流を果たしていた。

 

「今戻りました」

 

「ビアン所長。私達が地球に居ない間に何か判った事はありましたか?」

 

武蔵とカーウァイは休むつもりも無く、自分達が地球にいなかった間に何があったのか? という事をビアンに尋ねた。

 

「少し休んでくれても良いのだが……本人達にそのつもりが無いのなら余計なお世話になるな。ブリーフィングルームで詳しく説明しよう」

 

ビアンとすれば休んでから会議を行なうつもりだったが、武蔵達にそのつもりが無いとわかるとブリーフィングルームに向かおうと促し、武蔵達が地球にいなかった間に何が起こったのか、そしてこれからビアン達がどうするかの行動方針を話し合う為にブリーフィングルームに武蔵達は向かうのだった。

 

「グライエンさん! もう大丈夫なんですか?」

 

「ああ。まだ寝ている時間の方が多いが、今回は話し合いに参加させて貰うよ」

 

ブリーフィングルームで待っていたグライエンを見て武蔵が笑顔で声を掛けると、グライエンも笑みを浮かべて返事を返した。

 

「さて、かなり出来事が起きているので簡潔に説明するが、連邦軍の作戦――キルモールは既に失敗していると言っても良いだろう」

 

アースクレイドルとそこを拠点にしているテロリストを一掃するという連邦軍の作戦だが、既に失敗しているとビアンは断言した。

 

「そんなにですか?」

 

連邦の部隊の大半がつぎ込まれた作戦だった。武蔵は単純にそれだけ戦力を次ぎこんでいれば完全に成功とまでは言えなくても、互角程度にはなるだろうと考えていたこともあり、完全に失敗と聞いて信じられないと言う顔をしながらビアン達に尋ねる。

 

「一部の部隊を除き錬度が余りにも低すぎたのが大きい」

 

「それに加えて指示権の混線――それが追い込まれた理由だな」

 

ゼンガーとエルザムが沈鬱そうな顔で言う。表立って合流する事はなかったが、それでも割り込めるところでは割り込んで、連邦とテロリストとの戦いに介入していたが、その上でゼンガーとエルザムは今の状態でキルモールが成功するわけが無かったと断言した。

 

「機体性能に頼りすぎて訓練をサボっていたのが原因だろうな」

 

「それに加えてL5戦役で活躍した部隊へのいらないやっかみ。正直そんな状況で勝てる訳が無い」

 

ラドラとイングラムの鋭い舌撃を聞いて武蔵はそうかぁっと呟いて肩を落とした。

 

「ハガネはどうなっている?」

 

「ムータ基地周辺に陣取り防衛をしている。今シロガネが合流する為に向かっているが……恐らく合流後はアフリカ離脱に動くだろう」

 

ハガネとシロガネの戦力は凄まじいが、単独で包囲網を抜けるには厳しい。シロガネと合流し、2隻のスペースノアを利用しアフリカを離脱する方針に出るだろうとビアンは考えていた。

 

「ダイテツさんなら巻き返しを図ると思うんですけど、それでも離脱の方針ですか?」

 

「恐らくな、テロリストの勢力が余りにも強すぎる。それに百鬼帝国、シャドウミラーも加われば戦力的には不利過ぎる」

 

ビアンもダイテツの性格は良く判っている。だがテロリストに加えて、百鬼帝国とシャドウミラーも控えているとなれば、慎重に動かざるを得ないとビアンは分析していた。

 

「シャドウミラーと言えばアクセルと交戦した」

 

「どうなった? ソウルゲインは大破寸前だったらしいが、捕虜にしたのか?」

 

「いや、恐らくだが百鬼獣らしい敵機に割り込まれてソウルゲインを見失った。シャドウミラーと百鬼帝国が協力体制にあるのは確実だな」

 

イングラムは自分の戦闘結果を踏まえてシャドウミラーと百鬼帝国が協力体制にあると断言した。

 

「ヒリュウ改に武蔵君達が合流しているのならば、予定を早めてハガネとシロガネに合流する事も考えても良いだろう」

 

「あのーすいません、それなんですけど……1つ言わなければならない事がありまして」

 

武蔵がそろーっと手を上げて報告しなければならないことがあるとビアン達に言う。

 

「何かあったのか? 武蔵」

 

「まぁ何かあったといえば、そうなんですけどね? バンさん。リューネと連絡とってましたよね? ヒリュウ改にいたんですよ、リューネ」

 

その言葉にビアン達は武蔵が何を言おうとしているのかを理解した。

 

「な、なんと言ってた?」

 

「殴る、殴り倒す、ついでに蹴る。覚えてろ親父だそうです。オイラも必死に宥めたんですけどね? クロガネの場所を教えない変わりに殴って蹴るのは認めろと……本当すんません」

 

「い、いや、武蔵君が良く努力してくれたのは判るよ」

 

リューネの性格を考えれば意地でも付いて来ようとするのを何とか宥めた武蔵の努力をビアンは認めざるを得なかった。

 

「やはりリューネくらいには伝えておくべきではなかったのか? ビアン」

 

「あ、あとイングラムさんにも、ヴィレッタさんに会いましてね」

 

ヴィレッタの名前に硬直したイングラムはそのままブリーフィングルームの天井を見つめた。

 

「なんて言ってた?」

 

「フルスイングのビンタを覚悟しろと」

 

「……そう……か」

 

「あとたぶん確実にアヤさんとイルムさん、あとついでにリンさんも絡んでくるかも……」

 

PTXチームのメンバーとアヤも絡んでくると聞いてイングラムはこの世の終わりという顔をした。

 

「……連絡を入れるべきだったか? だがな」

 

「まぁ仕方ないだろう。覚悟は決めておけ、私は庇わんぞ」

 

処刑が確定しがっくりとイングラムが肩を落とす中。武蔵たちがハガネに合流した後の話をビアンは淡々と進める。

 

「武蔵君とイングラムがハガネに合流するとして、私達はクロガネでアメリカにあると言う旧西暦の資料を手にし、それを解析しながら状況に応じて戦闘に介入するというスタンスで行こうと思う。ここまで派手に百鬼帝国が動いているとなると、クロガネの鹵獲を危惧しなければならないからな」

 

ホワイトスターのインスペクターによる制圧、そして月を占領した百鬼帝国――ここまで派手に立ち回っていることを考えれば、地球での活動はより活性化するだろうとビアンは考えていた。ポセイドン2に記録されていたメキボス達と武蔵との会話の記録も参考資料となる。

 

「カーウァイ大佐とイングラム少佐、後で情報の差異の解析を頼む」

 

「了解した。あちら側の資料とのすり合わせを行なおう」

 

シャドウミラーの世界でのインスペクターの情報とこちら側のインスペクターの情報にはいくらか差異はあるが、それでも共通点などもいくらか見える。それらを上手く使い、可能な限りの情報収集を行う事で今後の方針を定めつつ今まで以上に慎重に動くことをビアンは決断したのだ。

 

「すいません、うろ覚えで申し訳ないです」

 

「いや、武蔵君が悪いわけではない。気にしなくていい。その情報でさえも、我々にとっては稀少な物だからね。当面はそれらの情報を精査しながらアメリカに向かうことにする」

 

「アメリカ……ですか、このタイミングでアメリカに向かうって事はアメリカに資料があるんですか?」

 

「ああ、それは間違いない。私の家に伝わっている情報だから確実だ」

 

グラスマンの家に代々伝わっている情報となれば、旧西暦での有力な情報を得れる可能性は極めて高い。

 

「とりあえず今の所の方針はそんな所だ。武蔵君達は少し身体を休めてくれ、これから戦火は大きく広がっていくだろうからな」

 

宇宙での戦いを潜り抜けてきた武蔵とカーウァイに休むようにビアンは指示を出し、クロガネはアメリカを目指してゆっくりと深海を進み始めるのだった……。

 

 

 

 

 

龍虎皇鬼の襲撃を受けてPT隊と深刻なダメージを受けたハガネはムータ基地の防衛任務についていた。しかしこの場にいる全員が重苦しい物を感じていた。

 

「キョウスケ中尉達は何と言っていた」

 

「艦長と同じく、そろそろ敵の本命の襲撃があると感じたそうです」

 

「やはりか……」

 

散発的に起きる襲撃だが、決して深追いせず、しかしハガネの離脱は許さないと言う陣形、そしてパイロットの精神と体力を削る早朝・深夜を問わない襲撃行動――それら全てがハガネを足止めし、パイロットの疲弊を高める為の物であった。

 

『ダイテツ中佐。後36時間でシロガネがムータ基地に合流予定だ。それまで耐えれるだろうか?』

 

「厳しいな、しかし単独で離脱するだけの戦力と余力がハガネにはない」

 

『そう……か、我が基地が攻め落とされることは既に覚悟しているが……負け戦でハガネを失う訳にはいかん。すまないな、力になれなくて』

 

ムータ基地の現司令はダイテツと同じく、レイカー派の鷹派の軍人だった。だからこそハガネとそのPT隊を失う訳には行かないと硬い声で告げた。

 

「いえ、司令は良くやってくれていると思います。司令のお陰で私達の機体の損傷や消耗は軽微なのです」

 

『ふっ、ありがとうテツヤ大尉。だが共に戦えないのでは意味はないのだよ』

 

敵の目的がハガネの足止めと判明した段階でムータ基地の司令はキョウスケ達の疲弊を最小に控える為に、所属PTやAMを総動員してくれていた。そのお陰で機体の修理も進み、キョウスケ達も身体を休める時間があった。しかしそれも何時までも続くものではない、明朝、深夜のスクランブルでムータ基地のパイロット達も疲労が募り、機体も連続出撃で各部に不具合が出始めていた。

 

「いや、意味はあった。ワシ達の戦力を整える時間を稼いで貰っただけで十分だ。後は基地の防衛に当たってくれ……そして基地の放棄に向けて動いてくれ」

 

敵の本命部隊が攻め込んできた時にムータ基地にはそれを跳ね返す余力は無く、そしてハガネにもその侵攻を食い止めるだけの力も無かった。

 

「よろしいのですか?」

 

「仕方あるまい。波状攻撃に加えて、百鬼獣も加わればワシらに勝ち目はない」

 

これが普通のPTやAMが相手ならばダイテツもムータ基地の放棄を選択しなかった。だがムータ基地の戦力が乏しくなってから遠目に百鬼獣らしき異形の特機の目撃情報が増えてきた。それらの要素もダイテツがムータ基地の放棄を選択した理由の1つだった。

 

『どうせ放棄するなら基地を爆破して利用など出来ないようにしてやるとしよう』

 

そう笑ってムータ基地の司令は通信を切り、ハガネのブリッジには嫌な沈黙が広がった。

 

「中尉達にホワイトスターの事は伝えるのですか?」

 

「……この場を切り抜けてからにするべきだとワシは考えている」

 

12時間前にホワイトスターがインスペクターを名乗る異星人に制圧され、ヒリュウ改を除く防衛隊は全滅。更にセレヴィスシテイも百鬼帝国を名乗る集団によって占拠された。相当数の住民は避難出来たが、それでもまだセレヴィスにはかなりの人が残り、百鬼帝国の人質となっている。

 

「L5戦役と同じ――いや、もっと状況は悪い。だがこの状況をワシらの力で打破せねばならん」

 

L5戦役は最初から最後まで武蔵とゲッターロボに頼りきりに近い形になってしまった。それが武蔵とイングラムのメテオ3への特攻という結末を作ってしまった。今度はそうならないように力を付けた筈だった……それでも敵の強さは悉くダイテツ達を上回っていた。

 

「負け戦となっても死ななければ次がある。負けたままではすまさん」

 

敗北の屈辱に身体を震わせ、怒りに満ちたダイテツの呟きに返事を返せる者はいなかった。それほどまでにダイテツの闘志は凄まじく、全てを飲み込む威圧感を放っていた。L5戦役で悔しい思いをしたのは、悲しんだのはキョウスケ達だけではない、ダイテツもまた将来ある1人の青年を犠牲にした、それを悔いた。そして今度は同じ様な結末にはならないと己を磨き続けていたのだった……。

 

 

 

 

 

連邦軍の進撃を跳ね返し、逆に攻め込んでいるテロリスト達の拠点のアースクレイドルでは完全に勝ち戦の雰囲気になっていたが、その中でオウカだけは肩を大きく落とし、暗い顔をしていた。オウカの美貌も相まって近づき難い雰囲気を出すオウカの前に龍王鬼が立った。

 

「よお、オウカ。ちょっと付き合えよ」

 

「……龍王鬼さん。すいません、今は私は何もしたくないんです」

 

ゼオラの心を朱王鬼に砕かれ、人形のような反応しか示さないゼオラに食事を与え、風呂にいれ、着替えさえもオウカが行なっていた……それは最早介護に等しい状態で、そんなゼオラを見ているオウカは自分を追詰め、心も身体もボロボロだった。ゼオラを元に戻す術が自分が死ぬか、ラトゥーニが死ぬか、それともアラドが死ぬか? その3つの選択しかないと知り、虎王鬼に精神攻撃防御の術を守りを渡されたが、オウカはいっそ自分の心も砕いて欲しいとさえ思っていた。

 

「しっかりしやがれッ! オウカッ!!」

 

「っ!!」

 

そんなオウカの心境を見抜いていた龍王鬼はオウカの肩を掴んでそう怒鳴った。その怒声にオウカはびくりと肩を竦めた。

 

「そんな様でゼオラを元に戻すなんかできねえだろ。てめえは姉貴なんだ、しっかりしゃんとして背筋を伸ばして前を見ろ」

 

「で、でも私はッ!」

 

「判ってる。守ってやれなかった俺様も悪いすまねえ、許してくれ」

 

朱王鬼がくると判っていれば龍虎皇鬼まで持ち出してハガネと戦う事はなかった。言われた通り足止めをし離脱していればゼオラと朱王鬼が接触することも無かった。面倒見の良い性格の龍王鬼は自分の享楽を優先して、姉弟達の絆を引き裂いた事を心から悔いていた。

 

「す、すいません。そんなつもりでは」

 

「いや、お前には俺様を責める資格がある、すまねえ。許してくれ」

 

謝罪の言葉を口にする龍王鬼にオウカは何も言えず、小さくすいませんと呟いた。

 

「お付き合いします。どこへ行くのですか?」

 

「ユウキとカーラを連れて、少し街に出てみようと思う。てめえらの息抜きと偵察をかねてる……それと」

 

そこで龍王鬼は周囲を見回し、百鬼帝国の兵士が近くに居ない事を確認してからオウカの耳元に口を寄せた。

 

(ゼオラを元に戻す術はまだもう2つある。それにもう1つ――てめえの弟についても、こっちに情報が入った。だけど、ここじゃ話せねえ。そうだろ?)

 

龍王鬼はあくまで百鬼帝国の将軍という立場にある男である。そんな龍王鬼が気に食わない相手だとしても味方である朱王鬼の事を話すわけには行かない。その為の偵察だとオウカは悟った。それと同時に長時間の外での活動だと知り、その顔が曇った。

 

「で、でもゼオラが……」

 

今のゼオラは言われた事を何の抵抗も無く受け入れてしまう。自分がいない間にゼオラが慰み者にでもなったらと思って不安そうな顔をするオウカに龍王鬼は大丈夫だと笑った。

 

「大丈夫だ。虎が見ててくれる、朱王鬼と玄王鬼さえいなきゃ、虎を出し抜ける相手なんかいやしねえ」

 

「そ、そういうことでしたら……よろしくお願いします」

 

「おう、ユウキ達が待ってる。行くぜ」

 

オウカを連れてアースクレイドルを後にした龍王鬼達だったが、そこで予想にもしない出会いをする事を龍王鬼は勿論、オウカ達も知るよしも無いのだった……。

 

 

 

 

 

赤い絨毯の引かれた高層階の夜景が美しいレストランにブライと共工王の姿があった。向かい合い豪勢な夕食を口にする中、共工王が眉を細めてワイングラスに口をつけた。

 

「鬼よ、お前の戯れは些か趣味が悪いな」

 

「そうかね? 良く似合っていると思うがね」

 

肩を出した真紅のドレスとそれとは対照的のブルーサファイヤのネックレス――強気な性格を良く現している吊り目の共工王の姿にそのドレスは良く似合っていたが、共工王はふんっと鼻を鳴らしただけだった。

 

「私を女に変えたのはやはり貴様の趣味か?」

 

「まさか何度も言うが私ではないよ」

 

どうだかと肩を竦めて共工王は手にしていたワイングラスを机の上に置いた。

 

「月を制圧して何の意味がある。いい加減に私の身体を用意したらどうだ?」

 

「準備はしているさ、そう焦らないで欲しいな」

 

鋭い視線を向けられても飄々とした態度でステーキを切り分け、口に運ぶブライ。その態度を見て余計に共工王は苛立ちを感じたが、ここで怒りを露にしては自分がブライよりも格下という事を認めるような物だと思い共工王は小さく溜め息を吐いた。

 

「それで私をこんな所に連れてきて、お前は何がしたかったんだ?」

 

良い女を連れて気分が良いなんて事はブライは感じないだろう。では何の為に自分を連れてきたんだ? とブライに尋ねるとブライはナイフとフォークを机の上に置いた。

 

「鬼というものが何なのか、お前は知っているかね?」

 

「鬼は鬼だろう? お前は何を言っている?」

 

ブライの言葉に共工王はうろんげな視線を向けた。その視線と声を聞いてブライは小さく肩を竦めた。

 

「ああ、失礼した。お前の知る鬼と私は同じ鬼に見えるか?」

 

「……そういうことか、確かにお前は私の知る鬼よりも知性的だ」

 

鬼というのは己の欲求にどこまでも従順で、そこに知性的な行いというのは見られない。ただどこまでも暴力的に己の欲を満たす……それが共工王の知る鬼という存在だった。

 

「そういう事をいうという事は知性で欲を抑えているわけではないのか」

 

「その通りだ。私が作った鬼は簡単に言うと品が無い。流石の私も己と同じ存在を増やす事は出来なかった訳だが、私はね。異星人の力を借りて鬼になったのだよ。ダヴィーンという星の数少ない生き残りが私に力を貸してくれたのだよ」

 

楽しそうに、そして誇らしげにブライは共工王に語った。

 

「判らないな、それと月を制圧した事に何の関係性がある?」

 

「ふふ、事を急くと損をするぞ? まぁ良いがな。ダヴィーンという星は星間連合ゾヴォークに属していた。ゲッターロボに滅ぼされはしたが、それでも重要な立ち位置にあった星なのだよ。そしてホワイトスターを制圧した集団はゾヴォークに属する集団なのだよ」

 

「滅びた星の生き残りなどと一蹴されるのではないか?」

 

「いや奴らは私が送り込んだ朱王鬼達の話を聞かざるを得ない。あいつらはな技術力はあるが、戦う事に対する嫌悪感が強く武器などの扱いは子供同然でね。それゆえにだ、強い武器を欲しているのだよ」

 

互いに無い物を欲しているからこそ、ダヴィーンの名を出した朱王鬼達を無碍には出来ないとブライは告げる。そしてその言葉と同時にブライの目は爛々と輝いていた、その目の奥に隠れている強い欲望の色を見て肩を竦めた。

 

「お前が知性で抑えていると言うのは訂正しよう。お前も他の鬼と同様強欲だ」

 

共工王の言葉にブライは犬歯を剥き出しにして獰猛に笑った。そこに地球連邦議員としてのブライの姿は無く、百鬼帝国大帝ブライの邪悪にして、どこまでも強欲な鬼としての姿があるのだった……。

 

 

 

第58話 動き出す世界 その2へ続く

 

 




今回はシナリオデモ、今後の話の布石などを準備してみました。次回も今後のフラグなどを準備したいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第58話 動き出す世界 その2

第58話 動き出す世界 その2

 

グライエンの言う旧西暦の資料を保管している場所を目指して海を進むクロガネ改。その場所への行き方を知っているのはグライエンだけで、グライエンは怪我の痛みに顔を歪めながらもブリッジに用意された椅子に腰掛け、進路の指示を出していた。

 

「そのままだ。進路はアメリカ大陸中心部、そこに海流の流れがある筈だ。それに乗っていけば良い」

 

「大陸の真ん中を進む事は出来るが掘削でもしながら進めと言うのかね?」

 

「いや違う。これは私も正直眉唾なのだが、アメリカ大陸は旧西暦に半分以上吹き飛んでいるらしい、それを写真に残されているアメリカの写真を元に人工大陸の上に今のアメリカを再建築したそうだ」

 

グラスマンの家に伝わる情報とだったとしても大陸が吹き飛んでいるとか、フロートの上に浮かんでいるとか眉唾すぎる話にビアン達もまさかという顔をしていたのだが……。

 

「あ、それマジですよ。ポセイドン2にリミッターが付く前に大雪山おろしをしたら大陸をごっそり破壊しちゃって、やべえって正直思ってたんですよ。いやあ、ちゃんと形になってて良かった」

 

当事者というか、アメリカ大陸を粉砕した当事者の武蔵がやばいって思ってたけどちゃんと元に戻ってて良かったと笑うが、話を聞いてい居るビアン達の顔は引き攣ったままだった。大陸を粉砕するほどのパワーを有しているゲッターD2のパワーに恐怖していたと言っても良いだろう。だがそれだけの力が必要だった旧西暦の戦いの凄まじさにビアン達は思い知らされる形になっていた。

 

「んん、と言う訳でだ。当時の政府はメガフロートを作成、失われた部分を補填する形でアメリカの復興を行い。その中に当時の資料などを保管しているらしい。それらの確認とメガフロートの動力チェックをしておこうという訳だ」

 

誇張した話だと思っていたグライエンだが、当事者の1人に事実だと言われ若干引き攣った顔で話を進める。

 

「つまりクロガネが向かうのは整備用の搬入口という所か」

 

「そうなる。当時は今ほど技術が発達していなかったから戦艦もスペースノア級と同じくらい大型だった。だからそのまま進入できると見て間違いない」

 

アメリカ大陸の地盤の一部に隠された人工島――そこに眠る旧西暦の遺産。そこに何が眠るのか? それを知る為にクロガネは進んでいく。

 

「もう少しで潜行して行かねばならぬ。武蔵君はどうするのかね?」

 

「あーユーリアさんと少し外に出ます。気分転換して来いって言われてますし」

 

「当たり前だ。休める時は休む物だよ、ゼンガー少佐達だって魚釣りなどをして気分転換をしているのだからな」

 

ビアンとリリーに休みの重要性と昏々と説かれ、武蔵はユーリアと共に外に出る事を決めたのだ。

 

「んじゃま、そろそろ行きます。ビアンさん達も気をつけて」

 

ブリッジを出て格納庫に向かっていく武蔵。その背中を見つめながらグライエンはビアンに視線を向けた。

 

「少々お節介が過ぎるのではないか?」

 

「いやな、見ていると余りに不憫でな……」

 

ユーリアがあーだこーだと考えている間にエキドナに出し抜かれている姿を見て、それを不憫に思っていたビアンとリリーが共謀し、今回の武蔵とユーリアの外出となったのだが、グライエンからすればお節介が過ぎると思わずにはいられなかった。

 

「武蔵君は平和な世界を見る権利がある。そうは思わないかね?」

 

「……それはそうだな。彼には平和な世界を見る権利がある」

 

旧西暦の文献を知るグライエンからすれば、武蔵は恐竜帝国に特攻し死んだ悲運の英雄だ。年若く青年らしい楽しみも出来ず死んだ武蔵には平和な世界を見て、楽しむ権利があると言われれば反論する理由は無かった。

 

「しかし、大丈夫なのか? ビアン」

 

「何がかね?」

 

「バン大佐達の事だ。クロガネの戦力をカーウァイ大佐とラドラ氏、そしてイングラム少佐だけにして大丈夫なのか?」

 

ビアンは潜行する前にライノセラスにゼンガー、エルザム、バンの3人とLB隊、トロイエ隊の大半を配置すると言っていた。武蔵達が出るのと同時に別働隊もクロガネを後にする。直接的な戦力が3人で大丈夫なのか? とグライエンが尋ねた。

 

「問題ない、私もいざとなればゲッターVで出る。それにこれから向かう先は上層部でも知られていないのだろう? それならば襲撃を受けるリスクも少ない。過度な戦力をクロガネに結集するくらいならば、キルモール作戦から撤退する連邦の支援に向かって貰った方が良いだろう」

 

キルモール作戦の失敗は確定となった今。戦力を必要以上に失わせる訳には行かないとビアンは判断し、その為の別働隊の派遣に踏み切ったのだ。

 

「それならば良いが、やはり地球圏に必要だったのはアイギスの盾ではなく、ハルぺーの鎌だった。戦わなければ、立向かわなければ平和を手にする事などは出来ないのだ」

 

「それに関しては賛成だ。守りでは何も成し遂げる事は出来ないからな」

 

クロガネのブリッジから飛び立っていくヴァルキリオンと輸送機を見ながらビアンとグライエンは誰に聞かせるでも無くそう呟いた。守りたい物があるのならば戦うしか、立向かうしかないのだ。後に進む道はない……それが嘘偽りの無いビアンとグライエンの気持ちなのだった。

 

 

 

 

 

着流し姿からジーンズにシャツ、そしてジャケットと近代的な服装をした龍王鬼を見て、ユウキは思わずあることを呟いてしまった。

 

「角隠せるんですね?」

 

「ん? たりめえだ。角生やしたまま堂々と歩いてたら騒動になるだろうが」

 

そう言われればその通りなのだが、角を生やしている姿を見慣れているからこそ角の無い龍王鬼の姿にユウキは違和感を感じていた。

 

「大丈夫? オウカ」

 

「え、ええ。大丈夫です……ありがとうございます。カーラ少尉」

 

「カーラで良いよ」

 

「えっと、ではカーラさんと呼んでも?」

 

オウカとカーラが話をしている姿を見つめていたユウキ。だがその視線は鋭く、そして悲しげだった。

 

(酷い隈だな、化粧でも隠しきれていない)

 

ゼオラが朱王鬼によって人形のようにされ、言われた事しか出来ないゼオラの介護をしているオウカの疲労は察して余りあった。せめてもの幸いと言えるのはアギラが必要以上にゼオラとオウカに近づかなくなり、徐々にリマコンの影響が抜けてきている。それ自体は良い事なのだが、妄信的にアギラのいう事を信じなくなった分迷いや不安を感じるようになった。それがオウカの不眠と食欲不振に繋がり、ゼオラの面倒を姉だから見なければならないと言う責任感でオウカは雁字搦めになっていた。

 

「龍王鬼さん。先にオウカに教えてあげてくれますか?」

 

「おう。そうだな、オウカ。朱王鬼の術を解除する方法だがな、単純な話だ。朱王鬼を殺すか、あいつの角をぶち折れば良い。あいつの術……まぁ鬼全般だが、特殊な力を持つ鬼は角が力の源だ。角さえ折れば、あいつの術は間違いなく解除出来る。」

 

角を折れば良いと言う龍王鬼だが、朱王鬼も龍王鬼と同じく自分専用の百鬼獣を持ち、そして朱王鬼自身もかなりの強さだ。角を折ると言うのは簡単そうに見えて、かなりの難易度を持っていた。

 

「後もう1つ……ゼオラ自身が自分で術を破るかだ。朱王鬼の術を上回る精神力があれば、あいつの術は敗れる。やるとすれば、そっちの方が確実だな」

 

「精神力って言うけど、それはどうすればいいの? 龍王鬼さん」

 

カーラの問いかけに龍王鬼は歯を出して笑い、オウカの頭に手を乗せてその頭を撫で回した。

 

「姉貴として呼びかけてやれ、反応は無くてもその声は絶対にゼオラに届いてる筈だからな」

 

「龍王鬼さん……はい、ありがとうございます」

 

オウカとゼオラの2人の身を案じる龍王鬼の姿はどこどう見ても気前のいい兄貴分という感じで、何故龍王鬼が百鬼帝国に属しているのかそれがユウキには判らなかった。

 

「それでそのアラドは……?」

 

「おう、なんかヒリュウ改つう戦艦に乗ってるらしい、赤いなんかとんでもねえ変なPTに乗ってるらしいぞ? 朱王鬼の野郎と月に言ってる鬼からの報告で言ってたから間違いねえ」

 

アラドが無事だと聞いてオウカだけではなく、ユウキも安堵した。だが赤くてとんでもないPTと聞いて、それは大丈夫なのか? と思わず不安を抱いたのだが、龍王鬼はそんなユウキ達の様子に気付かずジャケットからむき出しの札束をユウキ達に投げ渡した。

 

「それで好きに過ごしな。夕暮れまで自由に過ごせ、俺様もそうするからよ。少しは肩の力を抜いてリラックスしてきな」

 

ぶっきらぼうだが、それでもユウキ達を案ずる言葉を口にし、龍王鬼は肩を回しながら街に向かって歩いていった。

 

「じゃあ、あたし達も見て回ろっか?」

 

「そうだな、そうしよう。龍王鬼さんの心遣いを無碍にする訳にも行かないからな。オウカもそれで良いな?」

 

「はい。行きましょう」

 

龍王鬼の気遣いを無駄にする訳には行かないとユウキ達も待ちに向かって歩き出した頃。反対側の森の中にヴァルキリオンが着陸し、そこからユーリアと武蔵も同じ街に向っていたのだった……。

 

 

 

ユウキ達が街中を散策している頃。武蔵とユーリアも同じ街を散策していて歩いていた、決して大きな街では無いが明るい人々の笑顔に満ちた街を見て武蔵は嬉しそうに微笑んでいた。

 

「へえ……凄いなあ」

 

「何か思う所でもあるのか?」

 

ユーリアの言葉に武蔵はそういうわけじゃないですけどねと小さく笑った。

 

「ポセイドン2でめちゃくちゃにした街がここまで復興してるのを見ると人間って凄いなあって思うんですよ」

 

キルモール作戦もあり、戦闘機やPTが飛び交う中でも非戦闘区域ということで人の営みは今も続いている。その光景を見て旧西暦で荒れ果てたアメリカを見ていた武蔵は人間の底力って凄いと正直に感心していた。

 

「……」

 

「どうかしました?」

 

「いや、なんでもない」

 

しかしユーリアは武蔵の言葉になんと反応すれば良いのか判らず、黙り込んでしまい。武蔵にどうかしました? と尋ねられ、なんでもないと返答するのがやっとだった。そのままなんとも言えない雰囲気の中で歩くユーリアと、子供のような顔をしてあちこちを見ている武蔵という余りに対照的な組み合わせはかなり目立っていたのだが、一杯一杯のユーリアと、何も考えていない武蔵は周囲の視線に気付く事は無かった。

 

「武蔵は何か好きな物でもあるのか?」

 

「食べ物ってことですかね? それなら嫌いな物はないですけど」

 

「いや、そういう意味ではなくてだな。本が好きとか、ゲームが好きとか何か無いのか?」

 

ユーリアにそう言われた武蔵は通り過ぎかけた店の前で足を止めた。ユーリアは最初それに気付かなかったが、武蔵が来ていないことに気付いて引き返してきた。

 

「これ買っても良いですかね?」

 

「グローブとボール? 武蔵は野球が好きなのか?」

 

「野球が好きって言うかキャッチボールが好きなんですよ。よくリョウとか、隼人とかとキャッチボールしてて」

 

会うことの出来ない友人を思い出しているのか神妙な顔をしている武蔵を見て、ユーリアはその手を引いてスポーツ用品店に入った。

 

「なら買おう。運動不足の部下も多いからな」

 

「それは嬉しいんですけど、ユーリアさんってキャッチボールとかしたことあるんですか?」

 

活き込んで入店したユーリアだが、コロニーではキャッチボールをしたと言う記憶は無かった。

 

「無いな。ボールも投げたことが無いかもしれない」

 

「ははッ! 案外ユーリアさんってどっか抜けてるんですね」

 

武蔵に笑われなんとも言えない気持ちになったユーリアだが、武蔵が笑っているのを見て釣られるようにユーリアも笑みを浮かべた。

 

「それなら武蔵にでも教えてもらう事にしようかな」

 

「良いですよ。いくらでも教えますよ、えっとじゃあ……これとこれ……それと」

 

初心者でも使いやすいグローブとかを選んでいる武蔵を見て、微笑ましい表情をしていたユーリア。だがその顔が急に険しいものになった。

 

「武蔵、財布を預ける。買い物を終えたら駅前の広場で会おうッ!」

 

「えッ!? あー……行っちゃった。どうしたんだろ?」

 

武蔵の返答を聞かずに店を出て行ってしまったユーリア。その後姿をぼんやりと見つめながら武蔵は選んだグローブやボールを会計するために店主の元へ運ぶ。

 

「ガールフレンドに振られたな」

 

「ガールフレンドって、違いますよ。オイラただ道案内して貰ってただけなんです」

 

「なんだ、こんな時期にホームステイか? 随分と強気だな」

 

「まぁそんな所ですかねえ」

 

からかうように話しかけてきた店長との会話を楽しみ、武蔵は背負っていた鞄にグローブとボールを入れてのんびりと歩き出すのだった。

 

「ユーリアさん。何故こんな所に」

 

「お前こそ、まさかここでテロ活動をするつもりか? そんな連絡は受けていないぞ」

 

「いえ、俺達の今の上官が息抜きをしろっと俺達をここに連れてきたんですが、逸れてしまって探していたんです」

 

「そういうことか……お前の仲間には悪いが、逸れたのは好都合だ。少し話を聞いてもいいか?」

 

「はい、出来ればクロガネの今後の方針も聞けると俺としてもありがたいです」

 

ユーリアが武蔵を置いて駆け出した理由――それはテロリストの中に紛れ、クロガネに情報を流してくれているユウキの姿を見つけたからだったのだが、それが武蔵とある人物の出会いを促す事になった事を知ったユーリアは後にがっくりと肩を落とす羽目となるのだった……。

 

 

 

 

 

最初ユウキとカーラと行動を共にしていたオウカだが、気が付いたら彼女は1人で見知らぬ街を歩いていた。

 

(……私、私は……)

 

姉として守らなければならなかった妹を廃人にしてしまった後悔――元に戻すには自分の面倒を見てくれている龍王鬼と敵対する道か、愛しい妹か弟、もしくは自分が死ななければならないと言う非情過ぎる現実――それを受け止めるにはオウカの心は弱く、そして硬すぎた。責任感がありすぎて、その現実を受け止めきれずオウカの心は折れてしまいそうだった。

 

「うおおおおーッ! すげえッ! あの兄ちゃんめちゃくちゃ食うぞ!」

 

「行け行け!! チャンピオンを倒せ!!!」

 

ふらふらと歩いていたオウカは広場から聞こえてきた声に引かれ、そちらに足を向けた。

 

「ぎ、ギブア……」

 

「お代わり!」

 

広場で行なわれていたのは大食い大会で3mはありそうな巨漢の男がゆっくりと崩れ落ち、その大男から見て頭1つと半分ほど小さい青年がホットドッグをまだ食べている姿にオウカは弟であるアラドの姿を重ねて見て、優勝賞金を受け取り歩いていく青年の後を無意識でついて歩き出した。

 

「あの、オイラに何か用ですか?」

 

「え……あ、す、すみません」

 

公園の近くまでついて行ってしまった所で青年が振り返り、何か用か? と若干警戒した様子で声を掛けられ、オウカは反射的に頭を下げて謝罪の言葉を口にし、来た道を引き返そうとしたのだが立っていられず、その場に膝をついた。

 

「調子が悪いんですか? 大丈夫ですか!?」

 

崩れ落ちたオウカを見て慌てて駆け寄る青年――武蔵の手を借りてオウカはベンチに腰を下ろしたのだった。

 

「これ、良かったら」

 

「すみません、ありがとうございます」

 

武蔵に差し出されたペットボトルを受け取ったオウカ。既に封が切られているのを見て自分の様子を見て開けれないと判断し開けてくれた武蔵に感謝しながらペットボトルに口をつけた。

 

「本当にすいません。ご迷惑を掛けました」

 

「いえいえ、それより大丈夫ですか?」

 

心配そうに見つめてくる武蔵の姿をじっと見つめて、自嘲気味な笑いを浮かべた。背格好どころか髪の色も何もかも違うのにアラドに見えた自分がどうしようもなく、みっともない存在に思えてしまったのだ。

 

「大丈夫ですか? 一緒にいる人とか居ないんですか? いるなら探してきますけど……」

 

人を探してくると言って背を向けた武蔵の手をオウカは咄嗟に掴んで、その場に止めた。

 

「あ、いや、その……すいません……」

 

「いえ。そうですよね、調子が悪い時に1人は心細いですよね。連絡が付くなら迎えが来るまで一緒にいますよ」

 

1人になるのが心細いのだろうと武蔵は判断し、オウカに笑いかけオウカの隣に腰を下ろした。

 

「すいません」

 

「大丈夫ですよ。オイラ馬鹿だから気の聞いた事とか言えないですけど、人に言うと楽なこともありますよ」

 

自分が失礼な事をしていると判っているのに自分を気遣っている武蔵――見ているだけで安心出来るような暖かな笑みを浮かべる武蔵。今まで見た事のないタイプの人種の武蔵に絆されてぽつぽつとオウカは苦しい胸の内を武蔵に語っていた。無論全てを語る事は出来ないので、要領を得ない変な話になった部分も合った。だが武蔵は余計な茶々も入れず、無言でその話を聞いていた。

 

「そっか、辛いですね。姉弟同士で争わないといけないなんて……」

 

「私はどうすればいいのか判らなくて、苦しくて……」

 

「そりゃそうですよ。大事な弟と妹が争わないといけないなんて辛いに決まってますよ」

 

「貴方も弟や妹が?」

 

その口振りから武蔵にも兄弟がいるのですか? とオウカが尋ねる。武蔵は非常に聞き上手でそして親身になってくれていた。初見の人間に抱く感想では無いが、オウカには信用に足る人物だと思っていた。

 

「血の繋がった兄弟じゃねえけど、本当の兄弟みたいに思ってるダチ公はいる。血は繋がってないけどさ、あいつらの為ならてめえの命も賭けれる。そんな最高のダチ公さ……っとへんな喋り方でしたね。すいません」

 

敬語ではなく、自分本来の口調で喋っている事に気付いた武蔵は謝罪の言葉を口にしたが、オウカは明るく朗らかに笑った。

 

「いえ、その喋り方の方が貴方らしくていいと思いますよ」

 

「え? そうかなあ?」

 

「ええ、そう思います」

 

互いに名前も知らない。だがそれだからこそ、オウカも武蔵も自然に話す事が出来ていた。

 

「そのオイラは馬鹿だから、上手く言えないけど、どうすればいいかって判るぜ。あんたはきっと良い姉だったんだろうな、弟と妹を守って、ずっと頑張って来たんだ。オイラはそれを正直に凄いと思う。だけど……それじゃ駄目だ」

 

姉として頑張っていたとオウカを認めた上で、それでは駄目だと武蔵は断言した。

 

「……どうして私が駄目なんですか?」

 

今まで自分の事を受け入れてくれていたのに、突然突っぱねるようなことを言った武蔵にむっとしながらオウカが自分の何が駄目だったのかと武蔵に尋ねた。

 

「姉弟って言うのはさ、助け合って互いに協力し合う物だ。あんたは自分が全部やらないといけないって思ってないか?」

 

「……そ、それは……でも姉ならば」

 

「そうだな。姉貴なら、兄貴なら弟や妹は守ってやらなきゃいけねえ。でもな、あんたが守ってやりたいと思う以上に、きっと弟さんや妹さんはあんたを助けたいと思ってるはずだ」

 

否定するのではない、オウカの考えを認めた上で、武蔵はオウカの間違っている所を指摘した。

 

「一方的に押し付けるんじゃなくて、弟と妹と助け合ってみれば、案外道は広がるかも知れねえ。あんた達の事を何にも知らないけど、オイラはそう思うぜ。それに、自分1人で抱え込むんじゃねえ、助けてって言ってみたら助けてくれる人はきっとあんたの側にいると思うぜ」

 

偉そうなことを言ってすまねえと謝りながらも、武蔵は親身になってオウカの悩みの解決に協力しようとし、そしてどうすればいいのかという道をオウカに示した。

 

「ありがとうございます、少しだけ何か判った気がします」

 

「そうか、それは良かった。弟さんと妹さんと仲直り出来ると良いな」

 

そう笑う武蔵に深く頭を下げてオウカは歩き出した。やらなければならない事は沢山ある。それでも、それでもまずは……。

 

(謝ろう)

 

自分の事を心配してくれていたユウキとカーラにつっけんどんな態度を取ってしまった。その事を謝ろうと考え、オウカはユウキとカーラを探して歩き出した。その足取りは武蔵と話す前とは異なり、力強く背筋をぴんっと張った凜とした美しさと強さを兼ね備えたしっかりとした足取りだった。オウカが見えなくなるまでその背中を見つめていた武蔵だが、その姿が見えなくなったと同時にその顔が鬼の形相に変わった。

 

「おいおい、黙ってみてたのは謝るがよ、そう敵意を向けてくれるなよ。……やりあいたくなるだろうが」

 

「鬼……はッ、薄々感付いてたが……あの子もテロリストの一派って事かよ。ええ? あの子の弟と妹を人質に取ってるのか?」

 

向かい合う武蔵と龍王鬼――2人の間の空気は重く、そして鋭く張り詰め、今にも殺し合いを始めそうなそんな状態だったが、先に構えを解いたのは龍王鬼だった。

 

「やめだやめだ。俺様だってオウカの事は心配してんだよ。あのくそったれの朱王鬼が余計な事をしてくれたからよ、あいつの悩みを聞いてくれたてめえに礼の1つでも言おうかと思っただけだ。ここで殺し合いをするつもりはねえ」

 

両手を上げて争うつもりはないと言う龍王鬼に武蔵は怪訝そうな顔をしつつも構えを解いた。

 

「話をしようぜ。なぁ? お前があれだろ? 巴武蔵。違うか?」

 

「……ああ。オイラが武蔵だ」

 

「俺様は龍王鬼。百鬼帝国の将の1人だ、だが今は争う気はねえ。お前が戦うって言うなら話は別だがな」

 

にやりと歯を剥き出しにする龍王鬼、その視線が街に向けられているのに気付いて武蔵は街全体が人質にされていると悟り、嫌そうな顔をしながらも龍王鬼の向かい側に腰掛けた。

 

「てめえも食うか?」

 

「……お前マジで鬼か?」

 

「あん? 鬼が人間の飯を食ったら駄目か?」

 

差し出されたホットドッグにさっきまでの大食いを思い出しながらも、武蔵はそれを受け取り包みをはがすのだった……。

 

 

 

 

 

互いに何か動きを出せば机を蹴り上げて戦えるように構えを取りながら、武蔵と龍王鬼はホットドッグを齧る。

 

「うーんうめえ、口には合わないか?」

 

「いや、美味いぜ? だけど誰が好き好んで鬼と飯を食うんだよ」

 

武蔵の口撃に龍王鬼は違いねえと豪快に笑い、転がってきたボールを持ち上げる。

 

「おい、止めろッ!」

 

「ほれ」

 

「ありがとー!」

 

子供が受け取れるように軽い力で投げ返す龍王鬼。その姿を見て全力で投げ返し、子供の上半身が吹き飛ぶ光景が脳裏を過ぎった武蔵は驚いたように龍王鬼を見つめた。

 

「んだよ? 争う気はねえって言っただろうが、俺様は戦いは好きだが、関係ない奴が巻き込まれるとかそういうのは好きじゃねえ。戦いは死ぬ覚悟と殺す覚悟がある奴同士でやるもんだ」

 

鬼らしかぬ龍王鬼の言動に武蔵は驚きを隠せなかった。

 

「お前変わってるな……」

 

「はっ、良く言われるぜッ!」

 

にかっと豪快に笑い残りのホットドッグを頬張った龍王鬼は楽しそうな子供達の声を聞いて笑みを浮かべた。

 

「平和の味だ。良いもんだなあ」

 

「それを乱してる奴がよく言うぜ」

 

「おいおい、勘違いすんなよ? 俺様は確かに鬼だが、立向かう相手しか殺さない。そして強い相手には敬意を払う、それが俺の流儀だ。他の鬼と一緒くたにしてくれんなよ」

 

龍王鬼の目は真っ直ぐで、その言葉に嘘偽りが無いと悟り武蔵はこの時初めて本当の意味で構えを解いた。

 

「なんの目的でオイラの前に出てきたんだよ」

 

「そうだな、他の鬼ならゲッターに乗る前に殺しに来たって言うだろうが俺様は違う。戦うならゲッターロボと戦いてえ、その中で死ぬとしても本望だ。俺様が顔を見せたのはお前に感謝を言いに来たんだよ。ありがとな、オウカの相談に乗ってくれてよ。感謝するぜ」

 

机に手をおいて深く頭を下げる龍王鬼に武蔵は困惑した。

 

「お前本当に百鬼帝国なのか?」

 

「おう。そうだぜ、でもな、鬼でも性格の違いはある。そうだろ?」

 

にっと笑った龍王鬼は指を1本立てた。

 

「お前はオウカを助けた。だから俺もお前に情報を1つ与える。それで貸し借りなしだ、信じるかどうかもお前次第だが、俺は嘘は言ってねえ」

 

「いいぜ、信じる。お前はオイラに何を教えてくれるんだ?」

 

龍王鬼が人を欺く性格ではないと武蔵は信じ、龍王鬼にそう問いかけた。

 

「俺様は詳しくはしらねえが、シャドウミラーと無人機の百鬼獣が動いてる。助けに行くなら動いたほうがいいぜ? 今から動けば、本隊がハガネの前に出る前に間に合うだろうよ」

 

その言葉を聞いた武蔵は弾かれたように走り出し、龍王鬼はその背中を見つめながら酒の瓶に口をつけた。

 

「間に合え、ハガネもそう簡単に沈んじゃあつまらねえ。抗えよ」

 

にっと獰猛に笑い、酒を口の端から零しながら瓶に口をつけて酒を呷りながら龍王鬼は無防備な武蔵の背中を見送る。今攻撃すれば確実に武蔵を殺す事が出来る……だがそれは龍王鬼の流儀に反している上に、己を信じた武蔵への裏切りに等しい。だから龍王鬼は何もせず武蔵を見送るのだった……。

 

 

 

第59話 龍神と剣神 その1へ続く

 

 




次回は地上ルートでのノイエDCと宇宙ルートの剣神現るの内容を混ぜて1つの話にしたいと思います。そしてタイトルと今回の話の最後で判るように、武蔵がハガネと合流するルートで話を進めて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第59話 龍神と剣神 その1

第59話 龍神と剣神 その1

 

駅前の広場のベンチにユーリアは腰掛け、武蔵が戻って来るのを待ちながらユウキから聞けた情報を端末を使ってクロガネに送信していた。

 

(しかし、得れた情報はさほど多くない……か)

 

潜入工作の訓練を受けているユウキでさえ、アースクレイドル中枢に潜り込む事は難しく、格納庫に置かれている機体や上官の話から推測された話が大半を占めていた。それでも文章だけではなく、ユウキが感じた物を直接聞けたのは大きな意味があった。

 

(ユウキの話ではアースクレイドルには4つの部隊が混成していて、それらの指揮権は皆バラバラということか)

 

1つは各基地からの新型奪取を主にしていた部隊――これの指揮官が全てのコロニーに住む住人の怨敵と言っても良いアーチボルド・グリムズが指揮を取っている。

 

1つは百鬼帝国の自由に動かせる戦力。明確な指揮官が居らず、その時その時に応じての部隊編成、指揮権の変化なので1番行動が読みにくい部隊――リクセントの襲撃を行ったのがこの部隊との事だ。

 

1つは龍王鬼と虎王鬼という鬼に思えない性格の2人の鬼が指揮権を持つ部隊で独立隊、連邦で言えばハガネやヒリュウ改に該当する部隊で、龍虎皇鬼と言う合体式の特機を有する現アースクレイドルの中での最大規模の部隊だそうだ。ユウキもこの部隊であり、1番多くの情報を得ているが、強敵と戦う事だけを望んでいると言う龍王鬼の性格から小手先の策は打たず、力で押し潰してくる部隊との事だ。

 

(こういうパターンが1番厄介なんだがな)

 

策を講じるのではなく、力で攻めて来る。単純だが、こういうタイプは真っ向からのぶつかり合いになる。こういう手合いほど厄介な物はないとユーリアは感じていた。1度勢いが付けば止められず、そして部隊の柱が健在ならば決してその闘志が折れることも無い。それが単騎でハガネとハガネのPT隊を相手どった龍虎皇鬼ならば簡単に撃退することも出来ず、味方を鼓舞し続ける。これほど厄介な手合いはいないだろう。

 

「そして最後はシャドウミラー……か」

 

あちら側というこちらとは違う歴史を歩んだ世界の連邦軍部隊――イングラム達が最も警戒している部隊が動き出そうとしていると聞けば、ユーリア自身の警戒も当然ながら強まる。ユーリアの視界に武蔵が人混みを掻き分けてくる姿が入ってきたのはそんな時だった……。

 

「武蔵? どうか? お、おい!? 急にどうした!?」

 

ベンチに腰掛けていたユーリアの手を掴んでそのまま走り出した武蔵。自分よりも背丈の低い武蔵に手を引かれ、少し躓きながらユーリアは武蔵に何があったのかと尋ねた時。街中に緊急警報が鳴り響いた。

 

「敵襲ッ!?」

 

「くそったれ! ゲッターを取りに行く間もねえのかよッ!!」

 

街の上空を飛んでいく百鬼獣とゲシュペンスト・MK-Ⅱの姿を見て武蔵とユーリアは声を荒げるのだった……。

街の上空を通過した百鬼獣とゲシュペンスト・MK-Ⅱの混成部隊は龍王鬼の情報通り、ハガネが防衛しているムータ基地に向っていた。そしてその大量の熱源反応はハガネ、そしてムータ基地の両方のレーダーに補足され、緊急警報が基地内に鳴り響いていた。

 

「ちいっ、やっぱりシロガネの合流は許してくれないかッ!!」

 

やっと修理が終わったグルンガストに向って走りながらイルムが盛大に舌打ちを打った。

 

「泣き言を言っている場合か!」

 

「判ってるぜ少佐ッ! それでもぼやきたくなるってもんだろッ!」

 

カイの一喝が格納庫に響く、深夜・早朝を問わないAM隊の攻撃でムータ基地の基地設備、そして本来防衛を行なうムータ基地所属のPT、AMはその殆どが大破――ムータ基地の防衛は不可能であると言う事がこの場にいる全員に判っていた。

 

「基地防衛と百鬼獣の迎撃班に分かれる事になるな……ライディース少尉とラトゥーニ少尉、それとラミアは基地防衛に当たれ、俺と、カイ少佐、イルムガルト中尉、それとブリットの4人で百鬼獣にあたる。ムータ基地の細工が終わり次第少尉達もこちらへ合流し、撤退作戦に切り替えるぞ」

 

ムータ基地の放棄は既に決まっていることだが、余りに本隊の襲撃が早すぎて基地の細工が終了していなかった。その細工が終わるまでは防衛をし、その後は撤退作戦に切り替えるとキョウスケは指示を出し、アルトアイゼンのコックピットに乗り込みヘルメットを被った。

 

『各員に告げる。判っていると思うが、今回の作戦は撤退作戦だ。無理に敵機の撃墜に拘らず、防衛に専念せよ』

 

出撃と同時にダイテツからの指示が下される。だがムータ基地周辺を見て、流石のキョウスケ達も顔を歪めた。

 

『これは撤退なんて出来るのか……』

 

『どうやら亡霊は鬼と手を組んで俺達をここで完全に潰すつもりのようだな』

 

ムータ基地周辺を取り囲んでいるのはゲシュペンスト・Mk-Ⅱ――そしてその後には無数の百鬼獣の軍勢。その包囲網を抜けて、離脱すると言うは誰の目に見ても不可能だった。

 

「俺とキョウスケで突破口を開く『その必要はない。カイ少佐、シロガネがこちらに向っている。シロガネと合流後、撤退へと切り替える。各員慎重に行動せよ』……了解」

 

突破口を開くといったカイの言葉を遮り、慎重に行動しろと繰り返しダイテツからの命令が下された。

 

「向ってくる相手を迎撃、ミサイルなどの飛び道具に警戒してくれ、百鬼獣と真っ向から戦うのは避けるんだ。戦況開始ッ!」

 

凄まじい勢いで迫ってくるゲシュペンスト・MK-Ⅱ。真紅に輝くバイザー型のカメラアイとその後で目を輝かせる百鬼獣――その姿は醜悪でそして恐ろしい物だった。

 

(地獄の入り口が迫っているようだな……)

 

鬼は地獄に住むという、そして地獄には亡者がいる。地獄から現れた軍勢が自分達を飲み込まんと迫ってくる――誰も口にしないが、百鬼獣の背後に地獄門が開かれていて、そこから伸びる亡者の手が自分達に向けられている……この場にいる全員が言いようの無い寒気と恐怖を感じているのだった……。

 

 

 

 

 

ムータ基地に急行するシロガネの船体が何度も何度も激しく揺れる。その振動で艦長席から振り落とされそうになりながらリーは歯を食いしばりながら指示を飛ばす。

 

「対空砲座何をしている! 弾幕が薄いぞッ!!! 左舷、主砲でアーマリオンを狙え、チャフグレネードを打ち敵の照準を乱せ! 良いか落ち着いて行動しろッ!」

 

ムータ基地へのゲシュペンスト・MK-Ⅱと百鬼帝国の襲撃を感知したシロガネはハガネの支援の為にムータ基地へと向っていたが、そうはさせまいと爆弾を抱えたアーマリオンの特攻とそれを支援するリオンの度重なる妨害を受けて、その足を完全に止めさせられていた。

 

『中佐! E-フィールドを解除しろ! あたし達が出る!』

 

格納庫からのカチーナの出撃命令を出せという怒鳴り声にリーはそれを上回る声で怒鳴り返した。

 

「ならんッ! お前達は万全な状態でハガネと合流するのだ! この場は私達の戦いだッ!」

 

『だ、だけどよ! このままじゃシロガネが轟沈するぞッ!?』

 

「沈まん! シロガネは沈まんさッ!! ぐうっ!?」

 

自爆特攻を仕掛けてくる無人機の直撃は避けたが、爆発でシロガネが大きく揺れ、艦長席から転がり落ちたリーは額にドロリとした液体が零れてくるの感じた。

 

『言わんこっちゃねえ! このままだと本当に轟沈するぞ! 早くE-フィールドを解除して、格納庫を開けろッ!!』

 

額から血を流しているリーを見てカチーナが声を荒げるが、リーは制服で血を拭い、獰猛とも取れる笑みを浮かべた。

 

「中尉、お前は人の話を聞かないな。これは私達の戦いだ。邪魔をするなと言っている」

 

『だけど!』

 

「艦長命令だ。PTに乗り待機しろ、それと機体をハンガーで固定しろ。全クルーに発令! 総員対衝撃防御ッ!!! しっかりとベルトを締め、緊急時マニュアルに乗っ取り座席に己の身体をしっかりと固定しろッ!!」

 

カチーナの意見など一切聞かず怒鳴りながら指示を飛ばす。

 

「大気圏離脱用のオーバーブーストを行なうッ!」

 

「か、艦長!? 何をするおつもりですか!?」

 

「知れた事を聞くな! Eフィールドを展開し、オーバーブーストによる加速で包囲網を突き抜けるッ!」

 

「む、無茶ですよ!? それにオーバーブーストは大気圏離脱か、緊急時の「今がその緊急時だ! 馬鹿者ッ!!! オーバーブーストをマニュアル制御にしろ! コントロールを艦長席に回せ!!」

 

リーの考えている事は1つ。大気圏離脱用のオーバーブーストをマニュアル操縦で行い、放射時間をコントールすると言う物だった。

 

「しかし、コントロールを間違えれば……!?」

 

「良いから命令を復唱しろ! ここで押し問答をしている時間はないッ!」

 

下手をすれば地表に凄まじい被害を与え、更にムータ基地を通り過ぎるかもしれないという副官の言葉に怒鳴り付けることで封殺し、マニュアル制御の操舵が姿を見せる。

 

(……シンシア、父さん、母さん……私に力を)

 

今頃避難している妻と両親の事を思い、首から下げたペンダントを握り締め大きく息を吐いた。

 

「オーバーブースト発動! スペースノア級でのソニックブレイカーの威力を見せてくれるッ!!!」

 

艦長席に押し付けれる凄まじい重力を感じながらも、リーの両手は操舵を握り締めていた。

 

(……3……2……1ッ!!)

 

オーバーブーストを解除したが、その凄まじい加速とスペースノア級の質量――そして全力展開されたE-フィールドはそれ全体が1つの武器となり、特攻してくるアーマリオンの爆発で減速しながらも、加速を緩める事はなくアーマリオン達の包囲網を抜けてムータ基地へと真っ直ぐに突き進んでいくのだった……。

 

 

 

 

ムータ基地のはるか後方のライノセラス。そのブリッジにヴィンデルとレモンの姿があった。今回のハガネへの襲撃の指揮を取っているのはヴィンデルであり、百鬼獣とアースクレイドルで量産されているゲシュペンスト・MK-Ⅱを用いてここでハガネを轟沈させる為に指揮を取っていた。

 

「わお……シロガネの艦長さんむちゃくちゃするわねえ……こっちの艦長とは大違いだわ」

 

「なんだ。シロガネの艦長は何をした? 私の計画を狂わせる物か?」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅱを捨て駒にし、徹底してチャフで相手の照準を乱し、対地ミサイルで基地に打撃を与えれば後は撃墜されても良い。本命はこの後の百鬼獣とW-15と考えていたヴィンデルはシロガネにアーマリオンを差し向け、自爆による足止めをさせていたのだが、レモンの声を聞いて何か計算違いか? と問いかけた。

 

「後10分経たずムータ基地に辿り着くわよ」

 

「何? どういう事だ? シロガネの周辺に増援などは確認されていなかった筈だぞ!」

 

ヴィンデルの計算では1時間はシロガネとハガネの合流を妨げられる筈だった。それなのにそれが10分も持たないとはどういう事だと声を荒げた。

 

「オーバーブーストを使ってスペースノア級でソニックブレイカーを再現したみたい。そんなのされたらPTやAMじゃ何にも出来ないわよ」

 

「……地上でオーバーブーストを使ったと言うのかッ!?」

 

テスラドライブを臨界点まで高めればソニックブレイカーは理論上は使える。だがそれを行なうにはスペースノア級の質量が邪魔をする。それをオーバーブーストで補おうとする艦長がいるなんて想像もしてなかったヴィンデルはその顔を歪めた。

 

「W-15の出撃を早めろ」

 

「……W-15じゃなくて、ウォーダンよ。ま、貴方にはそんなことを言っても無意味だろうけどね」

 

W-15と呼んだヴィンデルに一瞬敵意の色を見せたレモンは立ち上がり、ブリッジを後にして格納庫に足を向けた。

 

「レモン、何故スレードゲルミルしか積んでいない」

 

「どうしてうちの男連中は人の話を聞かない奴ばかりなのよ。アクセルは見ているだけ、そういう約束でしょう?」

 

格納庫の前で不機嫌そうに待っていたアクセルの姿を見て、レモンは聞き分けの無い子供に諭すようにアクセルに声を掛けた。

 

「ああ、見ているだけだ。戦場でな」

 

「……縛り上げるわよ。この馬鹿」

 

極度の疲労で動ける状態ではないのに機体に乗ると言うアクセルをレモンは本気で睨みつけた。

 

「ベーオウルフは俺が倒す」

 

「そう、それはいいわよ? でも万全にしてからにしなさいな。あんまりいう事を聞かないと、薬で動けなくするわよ」

 

「……駄目元で聞いただけだ、そう怒るな」

 

レモンが怒っている事を悟ったアクセルは駄目元で聞いただけだと誤魔化すようにいうと、逃げるように歩き去った。

 

「何が駄目元よ、馬鹿」

 

機体があれば今にも飛び立っていきそうだった。それほどまでにアクセルはベーオウルフ……いや、キョウスケ・ナンブとゲシュペンスト・MK-Ⅲに敵意を燃やしている。

 

「なんであっちとこっちは違うって認めないのかしらね」

 

レモンは呆れたように呟いた。だがそれはアクセルだけではない、ヴィンデルにも向けられた言葉だった。イングラムから話を聞いていたレモンは当然この世界に来てすぐキョウスケとエクセレンの事を調べた。そして軍の上層部も調べた――カーウァイの処刑に賛同した高官も軍人もいなかった。確かにイージス計画は勧められていたが、それ以上に抗う為の戦力を作っていた。例を挙げれば切りは無いが、少なくともヴィンデル達を邪魔者と考えた物は誰もいなかった。それなのにヴィンデルは永遠の闘争を掲げ続け、鬼とも手を組んだ。アクセルはありもしない可能性を警戒し、そしてこの世界にはいない相手を憎み続けている。

 

「私も人の事を言えないけどね……あの2人は輪に掛けて酷いわね」

 

新しい人間を作ろうとしている自分も普通では無いが、それでも臨機応変という言葉は知っているつもりなんだけどねと呟いて、レモンは格納庫に足を踏み入れた。

 

「ウォーダン、どう? 新しい貴方の機体は気に入った?」

 

白亜の巨人を見上げているウォーダンにレモンはそう声を掛けた。アースクレイドルで研究されているマシンセルを投与され、変異したグルンガスト参式がもしかして気に食わないのではないか? と思い声を掛けるとウォーダンはゆっくりと振り返った。

 

「レモン様、気付けず申し訳ありません」

 

「ううん、気にしなくていいわ。予定よりも出撃が早まりそうだけど……大丈夫かしら?」

 

「問題ありません。直ぐにでも出撃出来ます」

 

アースクレイドルのメインコンピューターとリンクする事で、あちら側よりも遥かに安定したウォーダンを見てレモンは小さく微笑んだ。

 

「そう、じゃあ頼んだわよ」

 

「はい、必ずやご期待に応えて見せましょう。メイガスの剣として……」

 

その口振りは以前にも増してゼンガーに近づいた。だが調整を手伝っているレモンには判っていた、W-15でも、ゼンガーでもない。ウォーダンとしての何かが芽生えようとしている事を知っていた。

 

(あの反応はエキドナと同じ……貴方は私に何を見せてくれるのかしらね。ウォーダン)

 

品定めする自分と、そしてどんな結果になろうともウォーダンを受け入れようと考えている自分――母としての愛と、科学者としての興味。相反する感情が自分の中に逆巻いているのを感じながら、レモンは笑みを浮かべた。

 

「ウォーダン、ハガネを攻撃するって事はどういうことか判っているかしら?」

 

「敵は倒す、それだけです」

 

「良く考えてみて、貴方がハガネに攻撃すればどうなるかって」

 

考えることを放棄したウォーダンに考えろという自分は、もしかしると楽園からアダムとイブが追い出される理由になった蛇ではないか? という考えが一瞬脳裏を過ぎった。考えさせること、それはヴィンデルが望む兵士ではない。だがレモンが望む存在は己で考える者だった。

 

「……武蔵」

 

「そう、武蔵がきっと貴方の前に立ち塞がる。思いっきり戦ってきなさい、勝っても負けてもいいわ。全力を尽くしてくるのよ」

 

「御意」

 

スレードゲルミルに乗る込むウォーダンを見送り、気密室に足を向けるレモン。まず間違いなく武蔵とゲッターロボは現れる――分析結果などではない、レモンの勘と言ってもいい。ヴィンデルの作戦は失敗する――そしてそれを妨げるのはゲッターD2と武蔵だ。

 

「学んで来なさいウォーダン、武蔵、イングラム、カーウァイと戦いなさい、そしてゼンガーとも戦うの。きっとその先に貴方自身があるわ」

 

開かれた格納庫から飛び立つスレードゲルミルを見送るレモン。その瞳の奥には蛍のように輝くゲッター線の輝きがあるのだった……。

 

 

 

 

 

 

ヴァルキリオンでクロガネ、もしくはバン達が乗るライノセラスに合流するつもりだったユーリアと武蔵。だが半分も行かないうちにそれは不可能だと決断せざるを獲ない状況になっていた。

 

「駄目だ。敵の包囲網が厚過ぎる……単騎でのこの包囲網を抜けるのは不可能だ」

 

「やっぱり……ですか」

 

ヴィンデルがムータ基地でハガネの戦力を完全に奪う計画を立てていた。どこに向おうが数十機のゲシュペンスト・MK-Ⅱとアーマリオンの混成部隊が待ち構えており、場所によってはハガネの支援に向おうとしていた連邦の部隊と戦っている者もいた。

 

「武蔵、これを被っておけ」

 

「……何をするつもりですか?」

 

2人乗りに改造されているユーリアのヴァルキリオンは他のヴァルキリオンと比べて大型で、装甲も厚い物となっていた。武蔵にヘルメットを渡し、自分もヘルメットを被りヴァルキリオンの設定を弄るユーリアに武蔵が何をするつもりかと尋ねる。

 

「この距離ならムータ基地に行ってハガネの脱出支援をする方が確実だ。単騎でうろうろしていては撃墜されるリスクしかないからな」

 

隊長としての立場から最も正しい選択――ユーリアは単独での離脱、ライノセラスからの応援を待つ、そしてハガネと合流の3つから最も確実で安全な選択を選んだ。

 

「済し崩しでハガネと合流することになるかもしれないが……」

 

「良いですよ。行きましょう、どっち道レフィーナさん達とダイテツさん達が合流すればオイラの事はばれますし、早いか遅いかの違いなら早い方が良い」

 

ヒリュウ改で堂々とレフィーナ達と話をしたのだ。何時ヒリュウ改が地球に降下してくるか判らないが、武蔵の事がバレるのは時間の問題だ。そう考えれば、早くばれても、遅くばれても大差は無く、安全を考慮するならハガネと合流するべきだと武蔵も判断した。

 

「ならこのまま包囲網を抜けてハガネに合流する。武蔵、射撃の心得はあるか?」

 

「問題ないですよ、ゲットマシンで戦う為にバルカンとかレーザー射撃の訓練はしましたから」

 

「良し、それならバックパックの射撃を任せても良いか?」

 

「大丈夫です、任せてください」

 

武蔵が射撃ユニットの操縦桿を握り締めたのを確認してから、ペダルを踏み込み徐々にヴァルキリオンの動力の出力を上げていくユーリア。

 

「飛ばして行くぞ、パイロットスーツ無しだから負担があるが……」

 

「心配ないですよ。ゲットマシンと比べれば快適なもんです」

 

「ふっ、それもそうだな。では行くぞッ!!!」

 

出力を上げた事でヴァルキリオンの反応に気付いた百鬼獣とゲシュペンスト・MK-Ⅱが動き出し、その時に僅かに生まれた隙間にヴァルキリオンを超低空飛行で滑り込ませ、そこから加速しゲシュペンスト・MK-Ⅱと百鬼獣の追撃を振り切ってムータ基地へ向うユーリアと武蔵。連邦、シャドウミラー、百鬼獣、そしてビアンが率いる真のDC――すべての陣営の戦力がムータ基地へと集う。新西暦に入って最初の大きな戦いが今正に始まろうとしているのだった……。

 

 

 

第60話 龍神と剣神 その2へ続く

 

 

 




今回は戦闘開始前のデモなので少し短めです。次回は戦闘描写メインで頑張って行こうと思います。そしてスレードゲルミルとゲッターD2やグルンガストとの戦いも書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

なお私が小説を書く際に資料としていたサイトが消失し、情報収集に若干の難が出て、シナリオ部分が不安定となる可能性がありますがお許しください


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第60話 龍神と剣神 その2

第60話 龍神と剣神 その2

 

ムータ基地で始まったシャドウミラー、百鬼帝国混成軍とのハガネの戦いは終始シャドウミラーと百鬼帝国が有利に立ち回っていた。

 

『ちいっ! あのゲシュペンスト一体何体あるんだッ!?』

 

ゲシュペンスト・リバイブ(K)からカイの苛立った怒鳴り声が響いた。ムータ基地の周辺には破壊されたゲシュペンスト・MK-Ⅱの残骸が散乱している。だがその数は10や20で利かず、更に倒した数以上のゲシュペンスト・MK-Ⅱが赤いバイザーアイを光らせ、一斉のスプリットミサイルを放つ。20機近いゲシュペンスト・MK-Ⅱの放ったスプリットミサイルは絨毯爆撃に等しく、モニター全面に映るスプリットミサイルの姿には流石のカイも背中に冷たい汗が流れた。

 

『カイ少佐! 下がって! ハイゾルランチャーシュートッ!!!』

 

『パルチザンランチャーフルパワーモード……ファイヤッ!!!』

 

『シャドウランサー射出ッ!!』

 

R-2パワード、ヒュッケバイン・MK-Ⅲ、そしてアンジュルグの放ったエネルギー態の槍がスプリットミサイルを貫き、爆発したスプリットミサイルが空中に赤い花を咲かせ、その瞬間にキョウスケとカイは敵の術中に嵌ったことを悟った。爆発の煙が周囲に広がると同時に搭乗機のセンサーが反応を示さなくなったのだ。

 

『物量に加えて、こんな鬱陶しい手まで使ってくるのかよッ!』

 

『うわああっ!? く、くそッ!!!』

 

チャフグレネードとスモークグレネードがスプリットミサイルの中に混じっており、スプリットミサイルが撃墜されたと同時に巻き込まれて爆発し、モニターとセンサーを纏めて使い物にならなくなった。煙で視界を封じられ、更にセンサーで熱反応を感知することも出来ない……完全に視界を塞がされたこの状態は余りにも不味い状況だった。

 

「ちっ、これは不味いぞ」

 

煙の中から飛び出してきたプラズマカッターを装備したゲシュペンスト・MK-Ⅱの攻撃を回避しながらキョウスケは唇を噛み締めた。人海戦術で押し潰しに来たと思いきやチャフなどを駆使し、こちらを幻惑しに来ているその術中に前衛を務めてるキョウスケ、ブリット、カイ、イルムの4人は完全に嵌ってしまった。

 

『くそっ! どこだッ!!!』

 

『落ち着け! レーダーが回復するまで防御に徹底しろッ! 下手に動くな、フレンドリファイヤになるぞッ!』

 

チャフグレネードとスモークグレネードの持続時間はさほど長くない。長くて5分、短くて2分ほど――だがこの乱戦状態で数分間も視界を塞がれると言うのは死に等しい状態だった。

 

「……ッ! くっ、やはりかッ!」

 

どうしても1つ、いや、2つは挙動が遅れる。そうなれば武装は二の次でコックピットを守る事を優先せざるを得ない。スクエアクレイモアに深く突き立ったプラズマカッターを見て舌打ちしながら、ゲシュペンスト・MK-Ⅱにリボルビングステークを撃ち込み胴体から両断する。

 

「……命が助かったと思えば安いが……ちっ、左のクレイモアが死んだか」

 

右腕でクレイモアに突き刺さったままのプラズマカッターを抜き、左手で構えほんの僅かだけ残っている視界を注視し、奇襲に備える。煙の先に影を見てプラズマカッターを突き出しかけ、それを既の所でキョウスケは止めさせた。

 

「下手に動き回るなとカイ少佐が言っただろう。何をしている」

 

『す、すいません中尉! でもリボルビングステークの炸裂音がしたもので』

 

音を頼りに合流を考えたブリットだったが、下手をすればプラズマカッターでゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムを破壊する所だった。

 

「まぁ良い、よく合流した。後ろは任せる、死角を減らすぞ」

 

『はいッ!』

 

キョウスケとブリットは運良く合流できていたが、イルムとカイは単独での戦いを強いられていた。

 

「シャアアッ!!」

 

「なるほど、俺とリバイブを警戒していると言うことかッ!!!」

 

煙から姿を現したのは一つ目の百鬼獣。一本鬼だった、鋭い爪を振るい装甲を切り裂こうとするのをカイは的確に見切り、細かい反撃を叩き込む。

 

「ギギィッ!?」

 

鳩尾、脇腹を素早く打ち抜かれた一本鬼は苦悶の声を上げて煙の中に姿を消し、変わりに三日月刀を手にした百鬼獣が飛び出してくる。

 

「余り舐めないで貰おうかッ!!」

 

三日月刀の一撃を左腕で受け止め、反撃に右拳を突き出し顔面を穿つ。背中から地面に叩きつけられ、転がって行く百鬼獣を見てカイは眉を細めた。

 

「良い具合に決まりすぎた……か」

 

煙の中を駆け回る百鬼獣とゲシュペンスト・MK-Ⅱの気配――微弱な殺気とも取れるそれを感じながら致命傷をかわし、反撃を繰り出している。だが相手は即座に逃げに回り、あるいは攻撃を受けてわざと煙の中に逃れるという戦法を取られては当然攻めきれる訳も無い。

 

「仲間意識もないか……面倒な事だ」

 

そしてゲシュペンスト・MK-Ⅱと百鬼獣に仲間意識などは無く、それこそ味方ごと攻撃する勢いの百鬼獣の攻撃はゲシュペンスト・MK-Ⅱに当たり、わずかに威力と勢いを削がれている。だが元が百鬼獣という巨大な特機の攻撃だ、多少威力が削がれた所でそのダメージは決して低い物ではなくゲシュペンスト・リバイブに少量だがダメージを蓄積させる。

 

「ハガネはまだかッ!」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅱが健在な限りはまた何度でもこのチャフグレネードとスモークグレネードによるかく乱は続く、ゲシュペンスト・MK-Ⅱも条件は同じだが、相手は死兵であり死ぬ事前提の突撃だ。しかも百鬼獣はゲシュペンスト・MK-Ⅱごとこちらを攻撃してくる。少しでもゲシュペンスト・MK-Ⅱの数が減らなければこの状況は変わらない――カイは焦りを覚え始めているのだった。そして焦りを覚えているのはチャフとスモークグレネードのせいでキョウスケ達と連絡が付かないハガネ、そしてライ達も同様だった。

 

「照準ゲシュペンスト・MK-Ⅱ! これ以上あいつらの好きにさせるな!」

 

テツヤの指示が飛び、対空砲座とミサイルが放たれゲシュペンスト・MK-Ⅱを捉える。だが撃墜したと思えば新たなゲシュペンスト・MK-Ⅱが姿を見せる。

 

「くそッ! あのゲシュペンストはどうなっているんだ!!」

 

「落ち着け大尉! 我々が動揺してどうする!」

 

「艦長……すみません」

 

テツヤを一喝したダイテツ。だがダイテツも悪化の一途を辿る状況に眉を顰めていたチャフとスモークで姿が見えないキョウスケ達。そして煙の中に突入していくゲシュペンスト・MK-Ⅱと百鬼獣――煙が晴れた時に残骸が広がっているのではないか? という最悪の予想が脳裏を過ぎる。

 

「ライディース少尉達にはゲシュペンストを狙うように指示を、対地ホーミングミサイルをスモークの密集地帯手前に打ち込め。爆風でスモークを散らすぞ!」

 

ダイテツの指示が飛びエイタがそれを復唱しようとした時――ハガネのブリッジに警報が鳴り響いた。

 

「巨大な熱源確認! 所属は不明ですが、恐らく百鬼帝国だと思われます!」

 

ゲシュペンストと百鬼獣の後方に現れた空中母艦。そしてそこから無数の飛行型の百鬼獣が出撃し、ダイテツはその顔を歪めた。ここで飛行型の百鬼獣を切ってきたという事はハガネ、そしてPT隊も一掃するつもりだというのが明らかだった。こんな時にトロニウムバスターキャノンが使えれば……普段は考えもしない泣き言がダイテツの脳裏を過ぎった時、更なる警報がブリッジに響いた。

 

「今度は何だ!? また敵の増援か!?」

 

「い、いえ! 友軍反応です! 所属照合……プラチナム1シロガネです!! だ、だけど早い、早すぎる!? どうなっているんだ!?」

 

所属照合を終えたエイタがパニックになった様子で叫んだ。スペースノア級であっても異常な速度でハガネと空中母艦、その中間を横から突入してくるシロガネの反応。その速度に百鬼帝国に利用されているのかという考えが脳裏を過ぎった時、広域通信でリーの叫び声が響いた。

 

『総員対衝撃防御! 突っ込むぞッ!!! シロガネ……突撃ィいいいいッ!!!』

 

E-フィールドを展開し、その上からテスラドライブを臨界させた事で発生するブレイクフィールドで覆ったシロガネが最大速度のまま百鬼獣の群れのど真ん中に突っ込みその質量と速度を用いて百鬼獣を弾き飛ばした。

 

「な、なんて言う無茶を……ッ! す、スペースノア級でソニックブレイカーをやるなんて正気か!?」

 

「だがその無茶に我々は救われたぞ大尉!」

 

シロガネが最高速度で戦場を突っ切った事でスモークは弾き飛んだ。アルトアイゼン、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ、グルンガスト、そしてゲシュペンスト・リバイブ(K)そのすべてが健在だった。

 

『総員出撃! 巻き返すぞッ!!』

 

そしてシロガネから出撃するオクトパス小隊、そしてR-1、ヴァイスリッター……奇しくも両舷から部隊が展開され、左右からの挟撃という陣形になった事で、圧倒的に不利だったムータ基地で戦いは辛うじて互角という状況になろうとしているのだった……。

 

 

 

 

 

シロガネのブリッジではあちこちでイエローアラートが点灯していた。想定していない地上でのオーバーブースト、Eフィールドの全力展開とテスラドライブを臨界点まで高めた事による不調をシロガネは訴えていた。だが、艦長席でリーは小さく笑みを浮かべていた。

 

「流石はスペースノア級……良く耐えてくれたッ」

 

並みの戦艦では辿り着く前に爆散していただろう。それに耐え切ったシロガネは紛れも無く、人類の希望である箱舟であるとリーは笑った。

 

「総員出撃ッ!! 巻き返すぞッ!!!」

 

E-フィールドを解除すると同時に弾かれたようにゲシュペンスト・MK-Ⅲを先頭にしてオクトパス小隊、そしてR-1、ヴァイスリッター改が出撃していく、敵の包囲網を抜け味方を全て無事にハガネの元に運ぶ事が出来た……それだけでリーの捨て身の作戦は意味があっただろう。

 

「使用可能な対空砲座、主砲、副砲の数はッ!」

 

「はっ! ぜ、全体の4割ほどかと……」

 

「十分だッ! 照準をゲシュペンスト・MK-Ⅱ! そしてアンノウンに合わせろッ!」

 

想定されていないソニックブレイカーを行った事でシロガネはその武装の半数を失っていた。それでも支援を行うだけの武装が残っていれば良いとリーはそのまま支援射撃を命ずる。

 

「か、艦長。ハガネより通信です」

 

「繋げてくれ」

 

戦況図を確認し、ここからどうやってムータ基地を防衛するかと計算しながらハガネからの通信に応じるリー。

 

『助かった。リー中佐、お前とシロガネのお陰で我々は窮地を脱する事が出来た』

 

「助けになれたのならば何よりですダイテツ中佐。これより本艦はダイテツ中佐の指揮に入りますが、作戦目的はムータ基地の防衛でよろしいのでしょうか?」

 

リーの問いかけにダイテツは首を左右に振った。

 

『ムータ基地は既に動力を停止、更に非戦闘員も離脱している。残っているのは囮の部隊だが彼らも脱出準備を進めている』

 

「……ムータ基地が万全だと思わせ、敵を引き付けるということでよろしいでしょうか?」

 

戦力の差、そして敵の数――リーはダイテツの指示を最後まで聞かなくても、その作戦の意図を理解した。

 

『そうなる。合図をしたら全ての機体を回収後、この場を離脱する。だが、シロガネはどうだ? 長距離航行に耐えれるか?』

 

ダイテツの言葉を聞き、リーはオペレーターに視線を向ける。するとオペレーターは首を左右に振った。

 

「申し訳無い。ここまで来るのに無茶をした為武装のみではなく、動力にも些か不調を抱えております」

 

敵陣のど真ん中を無理に突っ切ってきたのだ。正直良く考え直してみればよく轟沈していないと言うレベルの無茶をしている。こうして飛行し、戦闘に参加出来るだけでも奇跡の様な状態だった。

 

『了解した、脱出時はハガネが先導する。シロガネはハガネの後部についてくれ』

 

ダイテツからの指示にリーが頷くとダイテツは暫く戦闘を続けると言い残し、通信を切った。

 

(良くあれだけの戦力で耐えた……流石はダイテツ中佐。私では持ち堪えられなかったぞ……)

 

応急処置を施されただけのハガネと、10にも満たないPT隊。それで良くここまで耐えていたとリーは感心すると同時に、自分とは隔絶した指揮能力の高さを感じていた。

 

「主砲てぇッ! 妨害をさせるな!」

 

「「「了解ッ!」」」

 

だがその能力の差を嘆いている場合も、そして羨んでいる時間も無い。それに加えて、重く圧し掛かってくる嫌な気配を感じ、その気配を振り払うように矢継ぎ早に指示を出すリーだったが、時間が経てば経つほどその重く圧し掛かるような重圧が増してくるのを感じ顔を歪めるのだった……。

 

 

 

 

 

シロガネとオクトパス小隊の参戦によって今まで様子見をしていた百鬼獣も本格的に攻撃に参加してきた。だが味方が増え、そして士気が向上し始めている今百鬼帝国が攻勢に出るのは余りにも遅すぎたと言える。

 

『おらぁッ!! 行くぜぇッ!!!』

 

真紅のゲシュペンスト・MK-Ⅲが先陣を切り、それに付き従うようにグリーンのゲシュペンスト・MK-Ⅱが続き、その上をガーリオン・カスタムとヴァイスリッター改が続く。

 

『行くぜッ! こいつでぶっ飛べッ! ギガワイドブラスタアアアアアーーッ!!!!』

 

先制攻撃と言わんばかりのジガンスクード・ドゥロの撃ち込んだギガワイドブラスターの熱線が百鬼獣の密集地帯で炸裂する。

 

『キョウスケ! 一気に攻め込むぞッ!』

 

『了解ッ!!』

 

脱出するにしろ、ここまで攻め込まれていは退却する事も容易ではない。1度百鬼獣を押し返し、戦況を互角に戻す必要がある。ゲシュペンスト・リバイブ(K)とアルトアイゼンがスラスターを全開にし、ギガワイドブラスターの直撃を喰らい動きが鈍っている百鬼獣に突撃する。

 

『ちょっと、ちょっとキョウスケぇ~なんか言う事があるんじゃないの~?』

 

『後で言ってやる。今はこの場を切り抜けるぞ』

 

『んふふ、りょーかいッ! いっくわよーッ!!!』

 

アルトアイゼンの頭上をぴったりと飛ぶヴァイスリッター・改からエクセレンの楽しそうな声が響き、再び集まろうとしていた百鬼獣の中心にオクスタンランチャーのBモードを撃ち込み、合流をさせない。そしてその上にスプリットミサイルが叩き込まれ、百鬼獣の全身に細かいダメージを与え、装甲を傷つける。

 

『行くぞッ! 貫けッ! ジェットマグナムッ!!!』

 

『この距離……外さんッ!!!』

 

ゲシュペンスト・リバイブ(K)にもアルトアイゼンにも単独で百鬼獣を撃墜するだけの攻撃力はない。しかし、ギガワイドブラスター、オクスタンランチャー、そしてスプリットミサイルと続け様に攻撃を喰らったことで装甲が傷つき、内部が見えてみれば話は違う。メガプラズマステークの高圧電流で動力が暴走し、動力にピンポイントでリボルビングステークを撃ち込まれれば以下に強靭な装甲を持つ百鬼獣と言えどひとたまりも無かった。

 

『ギャアアッ!?』

 

『ゴガアアアアーーッ!?』

 

動力に直接攻撃を叩き込まれ、内部から爆発四散する百鬼獣。その爆発に紛れ戦線から後退するキョウスケ達。

 

『次はこうはいかんぞ、慎重に立ち回れ』

 

『了解』

 

『了解っと、相手化け物みたいだけど、案外賢いみたいですしね』

 

損傷を受けた百鬼獣が後退し、損傷が軽微な百鬼獣が前に出る。その動きは動けない仲間を庇う動きその物だった……ゲシュペンスト・MK-Ⅱは味方として認識していないようだが、同じ百鬼獣には仲間意識があったようだ。

 

『おら! タスク! さぼってねえで突っ込めッ!!!』

 

『さぼってねえっすよぉッ!! 敵が多すぎるんですって!!!』

 

放電を続けるシーズアンカーを振るい続けるジガンスクード・ドゥロからタスクの悲鳴が響く、ジガンスクード・ドゥロの一撃があたれば百鬼獣と言えどただではすまない。装甲さえ拉げれば、そこを狙い撃てばPTでも撃破の目が出て来る。

 

『泣き事言ってないで仕事しなッ! おら! 邪魔だッ!!』

 

『ぎゃあッ!?』

 

グルンガストを駆るイルムは計都羅喉剣を振るわせ、百鬼獣の胸部に傷を付け、あるいは腕を切り落とす。

 

『しゃあッ! ぶちぬけッ!!!』

 

『ゴガアアアああッ!?!?』

 

剥き出しの配線にゲシュペンスト・MK-Ⅲの電極がねじ込まれ、頭部が吹き飛んだ百鬼獣は痙攣し、ゆっくりと倒れこむ。

 

『レオナ少尉!』

 

『了解、良いサポートですわ!』

 

鉄甲弾を撃ち込み百鬼獣の装甲に亀裂を入れ、そこにガーリオンカスタムが手にしたメガビームライフルが飛び込む。

 

『ギイイッ!?』

 

さすがに倒しきるには至らなかったが、動きが鈍ったそこにシーズアンカーが叩き込まれ百鬼獣の上半身が吹き飛び、胸部から噴水のようにオイルを飛び散らせ百鬼獣は倒れ込んだ。

 

『うげえ……気持ちわる』

 

『何泣き事言ってやがる! 宇宙のあの化けもんと比べれば全然だろうが!』

 

『宇宙の化けもん? 宇宙にも出たのか?』

 

タスクを叱咤するカチーナの声を聞いたイルムが化け物と聞いて中国で出たアインストが宇宙にも出たのかと思いながら尋ねる。

 

『この場を切り抜けたら説明するぜ、とんでもねえ化け物が出たんだよ』

 

『おいおい、まだ化け物が増えるってか、勘弁してくれよな。全くよぉッ!!!』

 

百鬼獣を両断しながらぼやくイルム。ゲシュペンスト・MK-Ⅱがその数を減らした変わりに攻撃の勢いを増させた百鬼獣。テロリストに百鬼獣、そしてアインストでも手一杯なのにこれ以上化け物が増えると聞いて勘弁してくれと思うのは当然の事だった。

 

『おらぁッ!!』

 

『ギャアッ!?』

 

ラトゥーニ、ライと合流したリュウセイは基地に攻め込んでくる百鬼獣と殴り合い……いや、一方的に百鬼獣を殴り続けていた。

 

『動きが前と全然違う』

 

『最適化すると言っていたが、こういうことか……』

 

ライとラトゥーニはリュウセイの支援を行っているが、リュウセイの駆るR-1はまるで軽業師のように百鬼獣の攻撃を利用し、ヒット&アウェイで攻撃を積み重ねる。

 

『ブリット! 頼んだッ!!!』

 

『グギャア!?』

 

『ああ、任せろッ! チェストォオオオオオッ!!!』

 

百鬼獣をゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムに向って蹴り飛ばすと同時にR-1はムータ基地に手を当てて、両腕の力で機体を跳ね上げる。

 

『ラトゥーニ! 頭を下げろッ!!』

 

『え、う、うんッ!!』

 

ラトゥーニのヒュッケバイン・MK-Ⅲが頭を下げ、その上をR-1が飛び蹴りの恰好で跳び越す。その瞬間凄まじい衝突音が響き、浮き出るように爬虫類を思わせる百鬼獣が姿を見せた。

 

『なッ!?』

 

『う、嘘……全然気付かなかった……』

 

レーダーだけではない、センサーでさえもすり抜け、そして視認さえもさせないカメレオンのような百鬼獣の胴体にR-1の飛び蹴りの後がくっきりと刻まれ、仰け反りながら痙攣しているその口の中にアンジュルグの放ったファントムアローが飛び込み、串刺しになったカメレオンのような百鬼獣と、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムに首を両断された百鬼獣が時間差で爆発する。

 

(……リュウセイ・ダテ。なるほど、人類の希望と言われていたが……データよりも強いな)

 

ファントムアローで百鬼獣を屠ったラミアは冷静に、リュウセイの評価を改めていた。SRXを駆り、アインスト、インベーダーと戦い続けた鋼の戦神――それはある意味連邦の象徴であり、希望の証だった。それゆえにSRXが倒れた時に連邦の士気は一気に崩れた。ラミアも勿論リュウセイのデータは持っていたが、それを上回る反射速度、そして攻撃力にSRXが無くてもリュウセイは強いとその評価を改めた。

 

『リュウセイ! 今のは気付いていたのか!?』

 

『ああッ! なんかいるって感じてたんだけどよ、場所が判らなかったんだ! それよりも気をつけろッ! 囲まれてる!』

 

『な!?』

 

『ぐっ!? こんな隠し球が!?』

 

『レオナちゃん! あぶねえッ!!』

 

『え!?』

 

リュウセイがそう叫んだ瞬間。滲み出るように無数のカメレオンのような機体が姿を現し、スパイク付きの舌を伸ばした。完全に不意打ちであり、背後、側面からの奇襲に反応しきれず少なくないダメージを受ける。タスクの叫び声に振り返ったガーリオン・カスタムの目の前にはカメレオン型の百鬼獣の姿があり、両手首から伸びる槍でコックピットを貫こうと迫った瞬間だった。高速で飛来した何かがカメレオン型の百鬼獣の頭部を捉え、姿勢を崩した所に高速で切り込んできた何かがその首を跳ね飛ばした。

 

『なんだありゃあ……アーマリオンか?』

 

ガーリオンカスタムを庇うように浮かんでいる謎のAM。アーマリオンに酷似しているが、そのフォルムは女性的で細身な印象を受ける。装甲は中世の鎧のような装飾が施されており、その形状から戦乙女のような印象を与えた。

 

『こちらトロイエ隊。ユーリア・ハインケルだ。訳あって貴官らを支援する』

 

そしてその機体から発せられた女性の声はL5戦役から姿を消していたビアン一派の1人。ユーリア・ハインケルの物なのだった……。

 

シロガネ、ハガネと百鬼帝国、そしてシャドウミラーとの戦いは激化の一途を辿っていたが、仲間が集まり、徐々にその戦況を劣勢から互角に巻き返している頃クロガネはアメリカ大陸内部のメガフロートに辿り着き、ビアン達は隠されている旧西暦の資料を手にする為に何百年も浮かび続けたフロート内の捜索を始めていた。

 

「一体ここに何が眠っているのか……」

 

「私も詳しくは知らん。この設備を作った人間が何を何を思い、そして何を願いここを封印したのか……ここに眠る物が我々の助けとなれば良いのだが……」

 

ビアン達とて今の地球の状況は判っている。数多の陣営、そして人智を越えた恐ろしい侵略者達の襲撃――だがそれらはまだ始まったばかり、本当の戦いはまだ始まってすらいないのだ。劣勢に追い込まれていることも、窮地に追い込まれていることも判っている。

 

「ハガネのクルーならばやり遂げてくれる」

 

「そうだな。進もう、我々には我々の出来る戦いをする」

 

だがL5戦役を潜りに抜けた者達ならば必ずや勝利してくれる。それを信じ、ビアン達はこの中に隠された物がこれからの戦いを助けとなる事を信じ、闇の中をゆっくりと進んで行く。そして無人のクロガネの格納庫でもまた新たな胎動が始まろうとしていた。

 

【器を持たぬ者よ、さぁゲッターに集うが良い】

 

【数多の時、数多の世界を超え、今再びゲッターと共に1つとなるが良い】

 

無人の格納庫に響く2人の早乙女博士の声――その声に導かれるように、ビアン達が進んでいった通路から翡翠の輝きが溢れ、1つ、また1つとドラゴン号、ライガー号、ポセイドン号に集い、ゲットマシンは人魂のようなゲッター線を取り込み、その力を増大させる。

 

「こ、これは……一体何が……」

 

クロガネの中にただ1人残されていた記憶喪失のエキドナは格納庫に満ちるゲッター線の光を見て、その輝きに魅入られていた。怪しく、禍々しく、しかし神々しいその進化の光に無意識にその手を伸ばし、そしてゲッター線にふれたエキドナはその意識を失い、ゆっくりと格納庫の床の上に崩れ落ちた。

 

【虚ろなる者。しかして人の形に魂は宿る】

 

【主に与えられた命に逆らい、己を確立させるか】

 

【それとも己で考える事を忘れ、与えられた道を進むか】

 

【【己が望み、そして進みたいと願った道を行くが良い。その先にお前だけの進化があるだろう】】

 

2人の早乙女の幻影が手を掲げるとエキドナの姿は浮かび上がり、ゲッター線の中に満ちたライガー号の中へと運ばれて行った。しかしゲッター線の奔流は今だ止まることを知らず、ゲットマシンへと流れ込み続ける……己が必要となる戦いが、自分を必要とする武蔵の叫びが響くまで、その力を高め、己が呼ばれるその時を待ち続けているのだった……。

 

 

第61話 龍神と剣神 その3へ続く

 

 




今回は良い区切りなのでここで話をきりたいと思います。スレードゲルミルとゲッターの所は気合を入れたいので、次の話の冒頭から書いて行こうと思います。それでは次回の更新もよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第61話 龍神と剣神 その3

第61話 龍神と剣神 その3

 

 

レオナはガーリオン・カスタムのコックピットの中で驚きに目を見開いていた。鮮やかな青い機体カラーと、トロイエ隊のエンブレムが刻まれた女性的なシルエットのAMから響いたパイロットの声が信じられなかった。

 

「た、隊長……に、2度とパイロットになれないのでは!?」

 

メカザウルスに噛み付かれたことでコックピットブロックが押し潰され、それによって足を潰されたユーリアはパイロットとしての再起は不可能だと言われていた。そんなユーリアの声が目の前のAMから響けば、驚くのは当然の事だった。普段の冷静さがどこにもない焦りも交えた声でそう問いかけるとAM――ヴァルキリオンから響いたのはレオナを叱責する声だった。

 

『何を呆けた質問をしているレオナ。今はそんな話をしている場合ではないと言う事も判らないのか」

 

「も、申し訳ありません! 隊長ッ!」

 

鋭いユーリアの叱責の言葉にトロイエ隊だった時の事が脳裏を過ぎり、ユーリアを隊長と反射的に呼んでしまった。

 

『しょうがない奴だ。私の所属していた部隊の隊長は今はもう私ではないだろうに』

 

足の怪我もあり、ユーリアは既にトロイエ隊の隊長という役職を降り、別のパイロットがトロイエ隊を率いている。だからもう自分は隊長ではないとユーリアは言うが、レオナは自分の意見を曲げなかった。

 

「いえ、ユーリア隊長は今でも私の隊長です』

 

カチーナも尊敬出来る隊長である事は間違いない。それでも、ユーリアもまたレオナにとって尊敬する隊長である事に変わりは無かった。

 

『ふっ、それならば好きにしろ。だが戦場で呆けるような愚か者に隊長と呼ばれる謂れはない。私達と袂を別ち、磨いた力を私に見せてみろ』

 

「りょ、了解ッ!!」

 

レオナはヒリュウ改と行動を共にし、連邦へと戦時特例で所属することになった。それでも尊敬するユーリアの無事は当然祈っていたし、死ぬ訳が無いと思っていた。そして2度とパイロットとして復帰できないと言われてたユーリアがパイロットとして再起した事を素直に喜び、そして磨き上げた力を見せてみろと言われたレオナは力強く返事を返し、戦線に再び復帰する。

 

『あらあ、隊長さん。お久しぶりね』

 

『そうだな、宇宙以来という所か』

 

宇宙で何度か交戦したエクセレンがヴァルキリオンの隣について軽い口調でユーリアに声を掛け、ユーリアもその言葉に返事を返す。だがその間も高速で飛びまわるヴァイスリッター改とヴァルキリオンは百鬼獣の攻撃をかわし、地上のアルトアイゼンやグルンガストへの支援を続けている。

 

『貴女が助けに来てくれたって事はクロガネとかボスも来てくれるのかしら?』

 

『いや、訳あって私は単独行動していただけだ。クロガネやゼンガー少佐達はこちらには来られない』

 

来られないと言う言葉にエクセレンはクロガネの状態を察していた。少なくともこの戦場に参戦できない位置、もしくは同じ様に百鬼獣の襲撃を受けている。その為にゼンガーやエルザムが助っ人に来る事は無く、ユーリア自身は偵察や、斥候に出ている中にこの状況を見て割り込んできたと判断した。

 

『貴女が助けてくれるだけでも嬉しいわ。短い間かもしれないけど、よろしくね』

 

『ああ、こうして共に戦う間は味方だ。頼りにしてくれ』

 

エクセレンが味方と認め、そしてユーリアもそれを認めた。コロニー統合軍司令のマイヤーの親衛隊であるトロイエ隊の隊長のユーリアだが、今この状況では何よりも頼もしい味方である事は間違いが無く、ユーリアも百鬼獣との戦線に組み込まれる事となった。

 

「と言う訳だ武蔵。このまま戦闘に参加するが問題ないな?」

 

「全然大丈夫ですよ。思いっきり行っちゃってください、オイラだと足手纏いになっちゃうかもしれないけですけど、出来る限り助けには入るんで」

 

「謙遜するな。あれだけの射撃が出来るんだ。頼りにしている」

 

レオナの救出した時の射撃は武蔵が行った物だった。最高加速で敵の攻撃を回避しながらの超精密射撃――それこそユーリアでも10回やって2~3回成功すればいいと言う神業的な射撃を武蔵は平然とやってのけた。

 

「もーそんな事言われちゃうと、オイラ単純だから信じちゃいますよ?」

 

「ふっ、本心さ」

 

航空力学に喧嘩を売っていると言われるゲットマシンの速度は新西暦の機体の中でも最上位と言ってもいい。飛ぶだけで操縦桿がぶれ、それを腕力で押さえ込み、何のサポート機能もなく、レーダーもセンサーも禄に機能しない中で目視で確認し、マッハで飛びながらの射撃は誰がどう見ても一流の技だ。ゲットマシンの速度に慣れている武蔵からすればヴァルキリオンの飛行速度などなんという事はなく、そして的が大きい百鬼獣から攻撃を外す訳もなかった。2人乗りのユーリア専用のヴァルキリオンのシューターとして考えれば、武蔵は類稀なる優秀なシューターだったのだ。

 

「行くぞ、武蔵」

 

「了解! 何時でもどうぞッ!」

 

力強く返事を返す武蔵に笑みを浮かべ、ヴァルキリオンの機首を下げユーリアは強引に百鬼獣の中に突っ込んでいくのだった……。

 

 

 

 

R-2のコックピットの中でライはユーリアの駆る新型のAMを見て、目を細めていた。ユーリアの参戦によって戦況の流れは僅かに変わっていた……。

 

(特殊徹甲弾か……攻撃の通りが格段に良くなっている)

 

ユーリアの機体にはビーム兵器は一切搭載されておらず、その全てが実弾・実剣系の武装で固められ、バックパックにはミサイルやビームマシンガン等の射撃兵装を搭載しており、フライトユニットを装備したゲシュペンストと似たコンセプトの機体であると言うことは明らかだった。女性的なシルエットは空気抵抗をかなり軽減し、そこにテスラドライブが加わっている為、旋回速度・急反転などの速度も非常に速く、射撃型の機体でありながら白兵戦機のような素早い出入りを繰り返している。それ自体は問題はない、ビアン一派に属しているのだからPTやAMの性能は正直連邦よりも遥かに性能が高いのは当然だ。なんせ、ビアン・ゾルダークはEOTの権威……連邦やマオ社とは有している技術、そしてEOTへの理解度の差があるのは当然の事だ。しかし、ライが不信に思ったのはその信じられない攻撃の切り替えにあった。

 

(あの機体……1人乗りなのか?)

 

形状はアーマリオンに酷似しており、シルエットも細身だ。しかし手足を比べるとやや大きめの胴体部がライの中で妙な引っかかりを残していた。

 

『シッ!!!』

 

『ギギィッ!?』

 

椀部から伸びたプラズマを帯びたブレードが十文字の傷をつけると同時に、背部のガトリングがその傷を大きく広げる。実剣と射撃までのスイッチにタイムラグが殆どない――そのあまりに早い攻撃の切り替えにライは1人乗りかどうかを疑っていた。応援が1人乗りだろうが、2人乗りだろうが、そこに大きな差はない。不利な戦況を覆す手助けをしてくれていれば、そしてそれがユーリアならば信用出来る。しかしこの状況でも声を発さない理由――それがどうしてもライの中で払拭出来ないでいた。

 

(声を発せられない理由があるのか……?)

 

1人乗りの可能性もあるが、1人乗りでは対処しきれない角度からの攻撃にも対応している。ユーリアの操縦にも追従出来るシューター……エースクラスの射撃の腕前を持った「誰か」の正体がどうしても気になっていた。

 

『ふんッ!!』

 

『貰ったッ!!!』

 

アーマーブレイカーとゲッター合金弾頭で傷をつけられた百鬼獣にゲシュペンスト・リバイブ(K)とアルトアイゼンがメガ・プラズマステークとリボルビングステークを撃ち込み破壊する。強固な装甲を持つ百鬼獣もその装甲に細かい亀裂を入れられば、その装甲も意味を失う。

 

「リュウセイ! ブリット! 1度下がれッ! 仕切りなおすぞッ! ハイゾルランチャーシュートッ!!!!」

 

考え事をしながらもライはリュウセイとブリットの支援を続けていた。前に出すぎと気付き、ハイゾルランチャーで百鬼獣の突撃を食い止め、その間にR-1とゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムが離脱する隙を作り出す。

 

『すまねえ、ライ。深追いしすぎた』

 

『……罠に嵌っていたのか』

 

百鬼獣の間が揺らめき、そこからカメレオン型の百鬼獣がその姿を現す。攻め込めると思って前に出すぎると隠れていたカメレオン型の奇襲を受けることになる。

 

「さっきのはどうしたんだ。リュウセイ」

 

『いや、なんかこうほら、あれだよあれ。殺気って言うのかな? それが濃すぎてよ』

 

リュウセイの要領を得ない説明でも、ライは何を言いたいのかを理解していた。

 

「単独なら判るが、百鬼獣と同時だとわからないという事だな」

 

他の百鬼獣の敵意と殺気を感知してしまい、カメレオン型の百鬼獣の気配を感じ取れないという事だとライは判断した。

 

『あー多分そんな感じだと思うぜ』

 

「ならお前は周囲の警戒をメインにして中間距離を保ってくれ、ブリットは前衛、ラトゥーニはリュウセイとペア、ラミアは俺と行動して遠距離から相手を炙りだす』

 

ライの指示が飛び、フォーメーションを組みなおしムータ基地に攻め込んでくる百鬼獣との戦いは再び仕切りなおすとなった。

 

(戦況はこちらがやや不利だが、ほぼほぼ互角……)

 

シロガネの突貫で増援の飛行型の百鬼獣はその大半が損傷を背負い、本来の機動力と殲滅力は恐らくはない。そしてマオ社で改良されたヴァイスリッター改、Rー1、そしてオクトパス小隊にユーリアの参戦――数の上での不利は続いている。だがそれでも互角に押し返すことが出来ている……しかし敵はここで仕留め切るつもりで増援を送り込んでいる。ならばこのまま互角の戦況が続けば敵は新たな増援を送り込んでくるだろう。その増援を凌げるかどうかがこの戦場での命運を分ける事になる事をこの場にいる全員が感じていた……その時だった。

 

『高速で飛来してくる熱源ありッ! 恐らくミサイルだと思われる!』

 

『広域殲滅兵器の可能性もある! 爆風に備えよッ!』

 

シロガネとハガネからの警告報告の直後……戦場の上空を凄まじい嵐が通過した。

 

『くうっ!?』

 

直撃を回避したヴァルキリオン達だったが、通過した何かが巻き起こした嵐に巻き込まれ、ヴァルキリオンが黒煙を上げ、ムータ基地の反対側へと墜落する。

 

『きゃあッ!? ちょっと!? 今のミサイルじゃないわよ!?』

 

『な、何が通ったんですか!?』

 

『た、隊長!? ユーリア隊長!? 大丈夫ですかッ!?』

 

墜落したヴァルキリオンに向ってレオナが通信をつなげようと必死に叫んでいるとカチーナの怒声が広域通信で響いた。

 

『馬鹿野郎! 今は目の前に集中しろ! 敵さんの本命が来たみたいだぜ』

 

百鬼獣の群れの上に現れた巨大な特機――額から赤い角を生やし、純白と漆黒の装甲を持つ西洋の騎士のようなシルエットをした特機が右腕を掲げる。すると先ほどムータ基地を通過した何か……高速回転するドリルを装備したブーストナックルがその腕に収まった。

 

『やっぱりかよ、どっかで見たと思ったんだ』

 

ミサイルではなく通過した何かを見たイルムはそれが拳であるという事を悟っていた。それはグルンガストを駆るイルムだからこそ判る物だった。

 

『百鬼獣?』

 

『いや、違う。あれは百鬼獣ではない……なんにせよ、只者ではないと言うのは確実だ。後詰でやってきた機体だ。気をつけろ』

 

額の角に見えるパーツから百鬼獣にも見えた。だが百鬼獣にある生物的なパーツがない……それを見てカイは百鬼獣ではないと断言し、警戒を強めろと告げた瞬間だった。謎の特機の肩のパーツが分離し、紫電を撒き散らしながらその姿を変え、特機の手の中に納まった。

 

『ざ、斬艦刀だとッ!?』

 

『馬鹿な……ッ!? どうなっている!?』

 

機体の全長を越える巨大なバスターブレード……その武器の名を全員が知っていた、そしてその武器を駆る事が出来る男の名もだ。

 

「我はウォーダンッ! ウォーダン・ユミルッ!!! メイガスの剣なりッ!!!! 我らに刃向かう者は全て粉砕するッ!!!! チェストオオオオーーーッ!!!!!」

 

「う、うわあああああッ!?!?」

 

凄まじい加速で突っ込んだ特機――スレードゲルミルの一閃がジガンスクード・ドゥロを捉え、両腕のシーズアンカーに深い傷跡を残し弾き飛ばす光景を全員が信じられない物を見る目で見つめ、ただ1人……ラミアだけが薄く口元に笑みを浮かべているのだった。

 

 

 

90mに迫るジガンスクード・ドゥロを一撃で仕留めた謎の特機――スレードゲルミル。その機体から発せられた声、そしてその手にする武器を全員が信じられない物を見る目で見ていた。

 

『い、今の声って……』

 

『おいおい、嘘だろ……』

 

その声、その立ち振る舞い……それら全てがゼンガーに瓜二つだった。その鋭い踏み込み、そして全てを両断する斬艦刀の一閃……それら全てがゼンガーであると言うことを悠然に語っていた。

 

『タ、タスクッ!!』

 

『タスク、大丈夫かっ!?』

 

深い切り傷を受け、沈黙をしているジガンスクード・ドゥロに向ってレオナとリュウセイが声を掛けると、火花を散らしながらジガンスクード・ドゥロは立ち上がろうとしたが、大きな爆発と共にその膝をついた。

 

「貴様…… 我が斬艦刀を受けきったか」

 

スレードゲルミルが再び斬艦刀を振りかぶった。スレードゲルミルから響く男の声は紛れも無くゼンガーの物だった。それ故に目の前の特機のパイロットがゼンガーではないかと言う疑惑が一瞬で全員の中に広がった。

 

『そ、そんな馬鹿な……!  しょ、少佐がどうして……!?』

 

『おい、ゼンガー少佐ッ! 何の冗談だ、こりゃあッ!?』

 

ゼンガーが再び敵に回ったと言う事が信じられないと声を震わせるラッセルに、ウォーダンに向って声を荒げるカチーナ。しかしウォーダンは何の反応も示さず、スレードゲルミルに斬艦刀を再び構えさせた。

 

『おいおい、どういう事だよ。あの名乗り、あの打ち込み……どう見てもゼンガー少佐だろ?』

 

『しかしイルム中尉。あの男はゼンガーと名乗りませんでした』

 

ゼンガーと名乗らなかった。だからゼンガーではないと言う一縷の希望が生まれる……だが、ラトゥーニの呟きに全員の脳裏にもしかしてという言葉が過ぎった。

 

『百鬼帝国に囚われて、リマコンを受けたのかもしれない……ッ』

 

百鬼帝国の能力を考えれば、ゼンガーを捕える事も不可能ではない。そう考えれば、スレードゲルミルのパイロットが百鬼帝国に捕まったゼンガー本人であると言う可能性も強まる。

 

『もしそうだと言うのなら、ユーリア隊長が言っていた誰も来られないと言う言葉は……ッ!?』

 

『クロガネが百鬼帝国に手に落ちたと言うことか!?』

 

1度生まれた最悪の予想は不安と共に爆発的に加速する……クロガネがこの場に現れない理由、そしてユーリアだけが応援に現れた理由……それらが最悪の予想と繋がり、この場にいる全員の脳裏にクロガネが百鬼帝国の手の中に落ちたと言う最悪の可能性が過ぎった。

 

『落ち着け! 仮にそうなら追っ手が来る筈だ。それもないと言う事はクロガネは無事という可能性が高い! この目で見ていないことに気を取られるんじゃない!』

 

『それにあのパイロットが洗脳されたゼンガー隊長だと言うのならば……この手で取り返せばいい、それだけだ』

 

キョウスケとカイの一喝が響き、スレードゲルミルのパイロットが洗脳されたゼンガーだと言うのならば助け出せばいい。そう口にした時沈黙していたタスクの声が広域通信で全員の機体のコックピットの内部に響いた。

 

『ド、ドゥロって名は…… 伊達じゃ……ねえんだ……それに……斬艦刀を……受けたのは……初めてじゃ……ね……え……ッ! て、てめえ……何もんだ……親分じゃねえ……なッ!!!』

 

血反吐を吐くような……いや、実際に血反吐を吐いていたのだろう。タスクの血を吐くような叫びに男……ウォーダン・ユミルはスレードゲルミルの中でその動きを止めた。次の瞬間には凄まじい殺気と怒気を周囲に撒き散らした。

 

「言った筈だ。俺はウォーダン・ユミル。ゼンガー・ゾンボルトなどではない! 俺は俺だッ! ウォーダン・ユミル。メイガスの剣だッ!!」

 

ゼンガーと呼ばれた事に怒りを露にし、斬艦刀を振るうスレードゲルミル。その一閃は重く、そして鋭い……だが直接受けたタスクに加えて、カイも本能的に感じていた。

 

『違う、こいつはゼンガーではない!』

 

『か、カイ少佐!? で、でもこの声、あの立ち振る舞いはどう見ても!』

 

あの特機のパイロットがゼンガーではないかと言う声が上がる中……カイがゼンガーではないと声を荒げた。だがそれは元・教導隊のメンバー同士と言う事で、それを信じたくないだけではないかと思ったとき、黙り込んでいたリュウセイとブリットが声を上げた。

 

『違う、あれはゼンガー少佐じゃない!』

 

『ああ、間違いないぜ! ゼンガー少佐じゃないって俺達は断言出来るッ!』

 

念動力の持ち主であるブリットとリュウセイが揃って違うと声を上げる。

 

『けど、 あの声に名乗り、斬艦刀…… ど、どう考えたって! ゼンガー少佐ですよ!』

 

『もしかして、 そっくりさんとか……?』

 

『馬鹿野郎! あんなとんでもやろうが2人もいるか!! おい、リュウセイ! ブリット! なんか根拠があるのか!?』

 

リュウセイとブリットにゼンガーじゃないと言うのに根拠があるのかとカチーナ問いかけようとしたとき、スレードゲルミルが刀身を大きく頭上に掲げた。

 

「斬艦刀! 電光石火ッ!!」

 

話を遮るように振るわれた斬艦刀の切っ先から飛び出したエネルギー刃がムータ基地周辺と、キョウスケ達に降り注いだ。

 

「最早問答無用ッ! 戦う意志なき者はここで我が斬艦刀の錆となるがいいッ!!」

 

「「「グオオオオンッ!!!」」」

 

周囲に響いたウォーダンの雄叫びと百鬼獣の咆哮――それを皮切りにムータ基地での戦いは最終局面へと向かって行くのだった……。

 

 

 

 

ムータ基地の反対側に墜落したヴァルキリオンは墜落した森の木々を薙ぎ払い、その身体を森の中に横たえていた。

 

「いっつつ……ユーリアさん、ユーリアさん、大丈夫ですか?」

 

「うっく……あ、ああ。なんとかな……」

 

武蔵に声を掛けられて目を覚ましたユーリアも頭を振り、ゆっくりと身体を起こしヴァルキリオンの状態を確認し始める。

 

「……武装の管制システムがやられた。戦闘には参加出来そうに無いな……」

 

「何とかならないですかッ!? リュウセイ達が危ないんですよッ!?」

 

ノイズ交じりのヴァルキリオンのモニターにはスレードゲルミル、そして百鬼獣との戦いを続けているリュウセイ達の姿が映し出されていた。意識を失い、中破しているジガンスクード・ドゥロを庇いながらの戦いになり、連携は乱れ、お構いなしに襲い掛かってくる百鬼獣の勢いに窮地へと再びリュウセイ達は追い込まれていた。

 

『その程度の踏み込みでこのスレードゲルミルを打倒出来ると思っているのか!!』

 

『ぬっぐうッ! ちい、あの図体の癖に速いぞッ!!』

 

斬艦刀でゲシュペンスト・リバイブ(K)のメガ・プラズマステークを受け止め、前蹴りで蹴り飛ばすスレードゲルミル。

 

『ならこいつはどうだッ!!! ファイナルビームッ!!!』

 

グルンガストの胸部から放たれた熱線の中にスレードゲルミルの巨体が消えた。

 

『へっ! 調子に『斬艦刀! 一刀両断ッ!!!』 ぐあっ!? おいおい……どうなってやがるッ!?』

 

斬艦刀の一撃を辛うじて避けたグルンガストのコックピットでイルムが驚愕の声を上げた。ファイナルビームを真正面から直撃で受けたスレードゲルミルの装甲には確か命中した後が残っていた……だがそれはビデオの巻き戻しのように修復され、数秒後には完全に元通りになっていた。

 

『あのパワーで自己修復する機体ってどんなインチキよ』

 

『ちっ、不味いな……ッ』

 

瞬発力・パワー・装甲。そのどれもが特機の中でも上から数えた方が早いほどの高水準――それに加えてウォーダンの卓越した操縦技術によって斬艦刀も100%その能力を発揮している。そんなインチキめいた性能を持つ機体が自己再生まで行なう……それは誰が見ても悪夢のような光景だった。

 

『ぬっ……』

 

斬艦刀を振り切った所を見極めて、突撃したアルトアイゼンのリボルビングステークがその脇腹を抉ったが、引き抜くまでの間に修復を果たしていた。

 

『ちいッ! これでも駄目かッ』

 

反撃に振るわれる斬艦刀を回避し、後退しながらキョウスケは舌打ちを打った。改心の手応えとは言い難いが、それでも装甲を完全に貫いた感触はあった。それほど深く攻撃を撃ちこんでも、回復を果たすスレードゲルミルには流石のキョウスケもその顔を歪めた。

 

『ふっ、この戦力差を見ても諦めんか、流石はベーオウルフ……いや、キョウスケ・ナンブッ! 貴様はここで我が斬艦刀の錆と消えろ!!!』

 

ウォーダンが叫んだベーオウルフの名前――それを聞いた武蔵を激しい頭痛が襲った。

 

「うっぐう!?」

 

「武蔵!? 大丈夫か!?」

 

額から大粒の汗を流し、歯を食いしばっている武蔵を見てユーリアが心配そうに手を伸ばすと、武蔵はその手を掴んだ。

 

「思い出した……あいつ、シャドウミラーだ」

 

世界を超えた事で忘れていたシャドウミラーの構成員の名前と姿、ベーオウルフの名前が鍵となり武蔵はウォーダンの事を思い出していた。

 

「ユーリアさん。なんとか飛べないですか?」

 

「飛ぶことくらいは出来るが……武器が無いんだ。的になるだけだぞ?」

 

「大丈夫です。オイラに任せてください、オイラをヴァルキリオンの手の上に乗せて飛んでくれれば後はオイラが何とかします」

 

「なっ!? お前自分が何を言っているのか判ってるのか!?」

 

この乱戦の中。AMの手の中とは言えミサイルの爆風やビームが掠めるだけで人間は簡単に死んでしまう。そんな中を武蔵を手の上に乗せて飛んでくれという頼みをユーリアは聞き入れることが最初出来なかった。

 

「お願いします。ユーリアさんなら出来るでしょう?」

 

「しかし」

 

「お願いします。このままだと皆危ないんです! 大丈夫です! オイラは死にませんッ! 信じてくださいッ!」

 

「武蔵……」

 

自分の手を握り信じてくれと、自分は死なないという武蔵。普通に考えれば、それは決して受け入れられる物ではなかった。だが自分の目を真っ直ぐに見つめる武蔵に、ユーリアは何とかなるのではないかと思ってしまった。ゲッターも何も無いのに、飛べれば何とかなると言う武蔵の言葉を何故かユーリアは信じられると思ったのだ。

 

「判った。何をするつもりか判らないが……飛ぼう」

 

「ありがとうございますッ!」

 

ヴァルキリオンのコックピットを開き、武蔵がヴァルキリオンの指を掴んだのを確認してからユーリアは慎重にペダルを踏み込み、ヴァルキリオンを再び戦場に向って飛翔させるのだった……。

 

 

 

 

 

それに最初に気付いたのは誰だったか、戦線に復帰したヴァルキリオン――その手の上に誰かが乗っていると誰かが言い出した。

 

『なッ!? 正気かッ!?』

 

『何を考えているんだ!?』

 

スレードゲルミルと百鬼獣という規格外の特機と戦っている中での、異常な光景に誰もが声を荒げた。誰かがヴァルキリオンの支援に入れと口にし、ヴァルキリオンの手の中の人物をズームで確認した時。その人物は被っていたヘルメットを投げ捨て、首元に巻いていたマフラーを下にずらした。露になったその顔にヴァルキリオンの手の上を確認していた全員がその目を大きく見開いた。

 

『『『『む、武蔵ッ!?』』』』

 

ヴァルキリオンの指に掴まり、鋭い視線をスレードゲルミルと百鬼獣に向けているのは紛れも無く武蔵だった。

 

「ゲッタァァアアアアアアアアアーーーーーッ!!!!!!」

 

武蔵の姿を確認した瞬間、戦場に武蔵のゲッターを呼ぶ叫び声が戦場に響き渡った。

 

「な、なんだ!? 何が起きている!?」

 

「これはゲッター線かッ!?」

 

1度クロガネに得た資料等を運び込んでいたビアン達を出迎えたのはクロガネの格納庫を照らす出すゲッター線の輝きだった。

 

「何が、何が起きているんだ」

 

「い、いかん! 総員退避ッ!!!」

 

ゲットマシンが無人で動き出し、エンジンが火を噴くのを見てビアンが退避しろと叫んだ。その瞬間ゲットマシンはクロガネの格納庫へ向って飛び、壁に触れる瞬間にゲッター線の光に包まれ、その場から消え去った。

 

「て、転移……したのか」

 

「これがゲッター線の力……なんと凄まじい」

 

格納庫を埋め尽くしていたゲッター線の光は消え、蛍の光のような残滓がそこにゲットマシンが存在したと言うことを示していた……。

 

「シャアアアーーッ!!!」

 

「ガアアアーーッ!!!」

 

ヴァルキリオンに向って百鬼獣が飛んだ。それを見て誰もが声を発することも無く、武蔵を助ける為にてにしている武器の銃口を百鬼獣に向けた。だが引き金が引かれる前に、虚空から飛び出したミサイルが百鬼獣に命中し、その巨体を弾き飛ばす。

 

『げ、ゲッター線反応、転移反応感知! 5……4……3……熱源が転移してきますッ!!』

 

エイタのその叫びと共にゲッター線の幕が現れ、そこから赤・青の2機の戦闘機が高速で飛び出した。

 

『げ、ゲットマシン!? ゲットマシンだッ!?』

 

航空力学に喧嘩を売っていると言っても良い。異常な形状の戦闘機が太陽の光にその機体を光らせ、戦場を飛び回る。そしてその姿を確認した武蔵は躊躇うこと無くヴァルキリオンの手の上から飛び降りた。

 

『『『武蔵ぃッ!?』』』

 

『む、武蔵ッ!?』

 

リュウセイ達だけではない、ヴァルキリオンのユーリアも武蔵のを名を叫んだ。赤と青――2機のゲットマシンは太陽に向って飛翔を続け、落ちている武蔵と距離を開け続けている。このままでは武蔵が地面に叩きつけられる――誰もがそう思った瞬間だった……黄色の戦闘機がゲッター線の渦の中から飛び出し、武蔵を開け放たれたコックピットの中に受け入れる。

 

「しゃああッ! 行くぜッ!!!」

 

ゲットマシン――ポセイドン号に乗り込んだ武蔵の叫び声が響き、機首を上げて先行しているドラゴン号、ライガー号を追って急上昇していく。敵味方問わず、その場にいる全員が急上昇していくゲットマシンの姿に目を奪われた。

 

「シャアア!!」

 

「ガアアアー!」

 

「グオオオーーンッ!!!」

 

隙だらけキョウスケ達など眼中にないと言わんばかりに百鬼獣がゲットマシンを追う。だがゲットマシンに百鬼獣は追いつけない、そして太陽の中にゲットマシンの姿が消えた瞬間再び武蔵の叫び声が響いた。

 

「チェェエエエンジッ!!!! ドラゴォォオオオオンッ!!!!!!」

 

はるか上空でゲットマシンがぶつかり合う衝撃音が響き渡り、ゲットマシンを追っていた百鬼獣を上空から降り注いだ翡翠色の光……ゲッタービームが貫き、爆煙を突っ切って真紅に輝く特機がリュウセイ達の前に舞い降りた。太陽の光を浴びて、真紅に輝くその姿――ゲッターロボともゲッターロボGとも異なる姿をしているが、力強く味方を鼓舞するその姿は紛れも無く、ゲッターロボの姿だった。

 

「掛かって来やがれ百鬼の雑魚共ッ! ゲッターロボと武蔵様が相手になってやるぜッ!!!」

 

戦場に響くその声は紛れも無く巴武蔵の物なのだった……ッ!!!

 

 

第62話 龍神と剣神 その4へ続く

 

 




リュウセイ達の前に武蔵とゲッターD2が登場。次回は百鬼獣、スレードゲルミルと戦うゲッターD2を書いて行こうと思います。ゲッターを名前を叫んで召喚するのは武蔵の適合率が上がっていると言う所をイメージしてみました。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


あと分かると思いますが、今作のゲッターD2は勝手に火星に飛んでいってしまう可能性のあるゲッターと成ります。
下手すると武蔵を取り込んでしまうやべーいやつなのをこの場で発表しておきますね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第62話 龍神と剣神 その4

第62話 龍神と剣神 その4

 

太陽の光を浴び、真紅の装甲を輝かせるゲッターロボ――その姿はリュウセイ達の知る旧・ゲッターロボでも、そして敵として戦ったゲッターロボGとも違う、だがその2体の特徴を併せ持った新型のゲッターロボだった。ハガネ組みはその姿をはっきりと見るのはこれが初めてだったが、宇宙に行っていたリュウセイ達はその姿を既に1度見ていた。だからこそ、殆ど反射的に叫んでいた。

 

「武蔵! やっぱり武蔵だったのか!! なんで、あの時何も言ってくれなかったんだよ!!」

 

『てめ! 武蔵ぃ!! 生きてるなら生きてるくらい言いやがれ!!』

 

ストーンサークルの時に自分達を助けたゲッターロボに武蔵が乗っていた。それを知り、リュウセイは悲しかった。生きていてくれた事は嬉しい、こうしてまた会えた事も本当に嬉しかった。だけど武蔵は何も言わなかった、見捨てると言う選択肢しかなかったリュウセイ達に恨みも怒りも見せる事もなかった。そしてその姿も見せてくれなかった……強くなったつもりだった……だけど武蔵とゲッターロボの背中はまだ遥か遠く、近づいたと思っても武蔵はもっと先に居た。

 

(俺達は武蔵の助けになれないのか……)

 

武蔵は何度も助けてくれた。だが武蔵は助けてくれとリュウセイ達に言った事は無かった……助けたいと思っても、武蔵とリュウセイ達の力の差は大きくて、どれだけその差を埋めようとしても埋めようの無い隔絶とした力の差があった。何も言わない武蔵が、本当は自分達を憎んでいるのではないか、恨んでいるのではないか? それでも見捨てられなくて、武蔵がこの場に現れただけで、もう武蔵は自分達を仲間と思っていないのではないか? そんな暗く重い考えがリュウセイの中に生まれた。いや、リュウセイだけではない、きっとこの場にいた全員がそう思っていただろう。L5戦役を終結させた部隊と言っても、その実は武蔵1人の実績と言っても良かった。武蔵とイングラムがMIAになったから……いなくなった人間の変わりに讃えられる存在が必要だった。それがハガネとヒリュウ改のクルーだった……そうではないとしても、自分よりも年下の人間が特攻し、自分達を生かした。それは間違いなくキョウスケ達の心に重い影を残していた。何も言わないのは……自分達を憎んでいるからではないか? 口を開けば恨み言を言ってしまうから、口を開きたくないのか? 誰もが何を言えばいいのか、そして武蔵から言われる言葉を恐れた。

 

『なんて言えば良いのかな、はは、こういう時なんて言えば良いのか全然わかんねえや』

 

ゲッターD2から響いた武蔵の声は自然体で、怒りも恨みもない、記憶の中にある穏やかな武蔵の声のままだった。ゲッターD2もその全身から溢れる闘志をそのままに、頭の後に手を当ててどこか愛嬌のある素振りを見せている。

 

「シャアアアーー!!」

 

「ごガアアアーーッ!!!」

 

『うるせえ! 考え事をしてんのに邪魔すんなぁッ!!!』

 

百鬼獣が無防備なゲッターD2を今なら倒せると思ったのか、飛び掛った瞬間肩から射出された棒が変形し、ゲッターD2の全長を遥かに越える戦斧にその姿を変えた。それを片手で掴んだゲッターD2が腕を振るうと、百鬼獣は両断されゲッターD2の後で爆発し火柱を上げた。

 

『一撃かよ……俺達があれだけ必死で戦った相手なんだけどな』

 

ぼそりとイルムが呟いた。自分達が連携を組み、それこそ決死の思いで戦っていた相手が一撃で屠られる――百鬼獣の群れが相手であっても、ゲッターD2の敵ではないと言う現実は一種の悪い夢のように思えた。しかしそれは敵にとっての悪夢であり、キョウスケ達には希望の証でもあった。

 

『色々と言いたい事とか、うん。話したい事とかあるんですけど……そうですね。今は一言だけ』

 

戦斧を構え、姿勢を低くしたゲッターD2の背中から蝙蝠を思わせる一対の翼が現れ大きくその翼を広げた。

 

『色々あったけど……帰って来れたよ。ただいま』

 

キョウスケ達が抱いていた不安や恐怖が全くの杞憂であり、武蔵は自分達の事を恨んでなどは無く、帰って来るべき場所と思っている――たった一言だったが、その一言で武蔵を犠牲にしたと思っていたキョウスケ達の肩の重みはふっと軽くなった……。だがそれで終わりでは、L5戦役のままから何も変わっていない。あの時のように見ているだけではない、今度は肩を並べて共に戦えるのだと、守られているだけではないという事を示す為に、先陣を切って進むゲッターD2の後を追って、キョウスケ達も動き始めるのだった……。

 

 

 

 

リーを初めとしたシロガネのクルーはその殆どが北京でのエアロゲイター襲撃時にゲッターロボに家族や恋人を救われた者達で固められている。リーがシロガネの艦長に任命された時に、北京で自分が率いていた艦隊の船員の8割をシロガネのクルーにへと希望したからだ。

 

「あれが……ゲッターロボ」

 

リー達はゲッターロボに自分達の生まれ育った街が救われた事、そして自分達の家族が救われた事も知っている。だがこうして戦っている所を、そして武蔵の人柄を知るのは初めての事だった。

 

『うおらァッ!!!』

 

『ギャアッ!?』

 

『ガゴオオッ!?』

 

巨大な戦斧を振るい百鬼獣を両断し、引き裂き破壊するゲッターD2の力強さは想像を絶する物だった。強さの桁が違う……ジガンスクードを優に越える90mという巨体――それが信じられないほどの滑らかな動きで戦場を縦横無尽に駆け巡る。斧が、腕が振るわれる度に百鬼獣は両断され、破壊されていく。それはまるで大人と子供の喧嘩のように見えた。

 

『シャアッ!』

 

『ギイイッ!!!』

 

『へっ! 舐めんなッ! オープンゲットッ!!!』

 

前後左右からの攻撃がゲッターD2に迫ったと思った瞬間。ゲッターD2の姿が爆ぜ、百鬼獣の攻撃は空しく空を切った。

 

『逃がさん、全弾持って行けッ!!!』

 

『武蔵にばっか良い所は持って行かせねえよッ!!』

 

攻撃を外しバランスを崩した百鬼獣に向ってスクエアクレイモアとファイナルビームが放たれ、百鬼獣の装甲を穿ち、熱線でその装甲を歪める。

 

『チェンジドラゴォォンッ!!! いっけええええッ!!!!』

 

上空で再びゲッターD2に合体し、両肩から戦斧を取り出すと同時に凄まじい勢いで百鬼獣の群れに向って投げつける。投擲された瞬間マッハの壁を越え、ソニックブームを引き起こしながら翡翠の光に包まれ百鬼獣へと迫る。

 

『ギャアアッ!?』

 

『グギャアッ!?』

 

百鬼獣は音速で迫るダブルトマホークを回避する事が出来ず両断され、爆発炎上する。その中には機動力に長けていて逃げようとする機体もあった、だが飛び上がった直後に高速で迫る実弾に翼や胴を穿たれ墜落し、ダブルトマホークの餌食になる。

 

『エクセレンさん。ナイス!』

 

『んふふ、私もやるもんでしょ』

 

ヴァイスリッター改を初めとした射撃機に上を取られ、ムータ基地に陣取っているR-2やヒュッケバイン・MK-Ⅲの精密射撃で動きを阻害されれば回避など出来るわけが無く、防御をし致命傷を防いだ所で腕や足を切り落とされた百鬼獣は攻撃力も防御力もがた落ちとなっていた。

 

『一意専心ッ!!!』

 

『T-LINK……ッナッコオッ!!!』

 

身体を欠損した百鬼獣が痛みに悶えている間に接近したゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムのシシオウブレードが百鬼獣の頭を刎ね、R-1のT-LINKナックルが百鬼獣の頭を押し潰す。

 

『ラッセル! レオナ! お前らはタスクの面倒を見てろッ! 行くぞッ!!! ライトニングステークセットッ!!』

 

『武蔵にばかり良い所は見せられんなッ!!』

 

ステークを放電させて百鬼獣へと突撃するゲシュペンスト・MK-Ⅲとゲシュペンスト・リバイブ(K)その姿を見たゲッターD2は両手を百鬼獣、そしてスレードゲルミルへと向けた。

 

『ゲッタァアアアブラストキャノンッ!!!』

 

生えるように現れたゲッターD2サイズのアサルトマシンガンが火を噴き、百鬼獣、スレードゲルミルの装甲を容赦なく穿った。

 

『ぬううッ!!!』

 

『ギャアッ!?』

 

『ぐギイイッ!?』

 

スレードゲルミルは斬艦刀を盾にし、直撃を回避すると同時に後方に飛びブラストキャノンの弾雨から逃れる。だが百鬼獣はゲッター線を纏った銃弾の嵐にその装甲を穴だらけにされていた。

 

『トドメは任せましたよッ!!』

 

翼を羽ばたかせたと思うと同時に翡翠の光に包まれたゲッターD2が飛行型の百鬼獣を引き付ける。それによってPT隊は格段に動きやすくなった。頭上を押さえられていると言うのは想像以上に劣勢を強いるからだ、それを悟り味方の支援を行った後は、敵をひきつけて動くゲッターD2の動きは明らかに支援に慣れている者の動きだった。

 

「これがゲッターロボ……これが巴武蔵なのか……」

 

リーは近くでキョウスケ達を見ていた。生身での訓練、そしてシュミレーターを使ったPTの訓練……その密度の濃さに驚いた。そしてそれと同時にそれだけの力があったからL5戦役を潜り抜けることが出来たのだと感じていた。だが、実際はそうではなかったのかもしれない。常に先陣を切り戦い続けたゲッターロボに、巴武蔵に追いつこうとしていたのかもしれない……初めて目の前でゲッターロボと武蔵の戦いを見てリーはそう感じていた。その時だったシロガネのブリッジに警報が鳴り響き、リーは思考の海から引き上げられた。

 

「警報!? まだ増援か!? 増援が来る方角はッ!」

 

「北と南、南西より3方向から熱源多数! 熱源のサイズから百鬼獣だと思われます!」

 

ゲッターD2の参戦によって戦場の流れは大きく変わった。しかし百鬼帝国がそれを許すわけが無く、奪われた流れを奪い返す為に更なる増援がムータ基地に現れようとしていた。

 

「ムータ基地の兵士の回収はどうなっている」

 

「は、はい! 現段階でハガネと共に8割の人員の回収が完了しております」

 

「判った。ハガネに通信を繋げてくれ、武蔵に今作戦の内容を伝えてくれとな」

 

シロガネのモニターからリーは戦況を見つめる。確かにゲッターD2の参戦で流れは変わり始めている……だがここまでの戦い、機体の損傷、エネルギー、弾薬は危険域に近づいているだろう。

 

「……引き際だな」

 

これ以上は戦えない、これ以上戦えば死傷者が出る可能性がある……武蔵の帰還で勢いの乗っているが、それも一過性の物だ。疲労を認識すれば身体は動かなくなる……ここが引き際だとリーは感じているのだった……。

 

 

 

 

ウォーダンはスレードゲルミルのコックピットでその身体を震わせていた。恐怖による身震いではない、ゲッターD2という規格外の戦闘力を持つ特機――あちら側で何度もその強さを間近で見ていた。だがこうして敵対することで知っているつもりだったのだとウォーダンは思い知らされていた。

 

(マシンセルの修復も始まらないか……だがそんな事はどうでもいい)

 

ゲッター線は不可思議な現象を起す。マシンセルによる修復が始まらない事も、そして今この場にいるのが自分だけになっていても、ヴィンデルに優先して殺せと言われてたキョウスケ達が撤退している事も……その全てが今のウォーダンにとってはどうでも良い事だった。

 

「真剣勝負だ武蔵ッ!! 邪魔者である百鬼獣は全て消えた……。ハガネとシロガネの機体が撤退するのも俺は邪魔しない。俺が望むのはただ1つッ!! 武蔵ッ! お前に正々堂々一騎打ちの決闘を申し込むッ!!!」

 

武蔵にウォーダンのこの要求を呑むメリットはない。普通に考えれば既に撤退を始めており、殿を務めている武蔵は機体の収容が終われば離脱すれば良い……誰もがそう思っていたが、ウォーダンだけは違っていた。武蔵はこの要求を飲むと判っていた。

 

『良いぜ、相手してやるよ。ウォーダン』

 

射出したダブルトマホークを両手で構えさせ、スレードゲルミルの前に立つゲッターD2……その姿を見てウォーダンはその身体を歓喜に震わせた。

 

「お前ならそう言ってくれると思っていた」

 

斬艦刀を構え姿勢を低くするスレードゲルミルとダブルトマホークを構え翼を広げるゲッターD2――武蔵とウォーダンの闘志がぶつかり合い、誰も口出しできない邪魔できないそんな雰囲気が2人の間にはあった。

 

『行くぜ』

 

「来いッ!!!」

 

ゲッターD2の姿が消え、スレードゲルミルの周りを翡翠の光が高速で駆け巡り、その光が消えた瞬間。スレードゲルミルの視界に黒い影が落ちた。それを確認するよりも早くスレードゲルミルは斬艦刀を振り上げていた。

 

『うおらあッ!!!』

 

「ぬううんッ!!!」

 

ダブルトマホークと斬艦刀がぶつかり合い、凄まじい衝撃が周囲を駆け巡る。誰もがゲッターD2がスレードゲルミルを押し潰す光景が脳裏を過ぎった……だが弾き飛ばされたのはゲッターD2の方だった。武蔵は油断していた訳でも、慢心していた訳でもない。全力でウォーダンと対峙していたが、武蔵の予想よりもスレードゲルミルの力が上だったのだ。

 

『くうっ!?』

 

左手を叩きつけ吹っ飛ばされた衝撃と勢いを殺すゲッターD2に向ってスレードゲルミルが駆け出した。

 

「おおおおおッ!!! 斬艦刀ッ!! 雷光斬ぃぃいいいいッ!!!」

 

両手持ちに加え、背部のブースターで加速した唐竹割りの一撃がゲッターD2に向って振り下ろされた。ウォーダンはこの一太刀の必中を確信していたが、それすらも慢心だったと次の瞬間に思い知らされた。

 

『舐めんなッ!!!』

 

ダブルトマホークの迎撃が間に合わない――武蔵はそう判断するや否やダブルトマホークを投げ捨てさせ、振り下ろされる斬艦刀を両手で挟み込み、斬艦刀の勢いを完全に殺した。

 

『『『真剣白羽取りッ!?』』』

 

特機で真剣白羽取りという常識はずれの事をした武蔵に驚きの声が上がった。少しでもタイミングがずれればゲッターD2は両断されるか、腕を失う。殆ど線でしか見えないその踏み込みを完全に見切り、受け止めるという方法に出た武蔵にはウォーダンも驚きを隠せなかった。

 

「ぬ、ぬうううッ!!!」

 

『ぐ、ぐぬううううッ!!!』

 

押し切ろうとするスレードゲルミルと、そうはさせまいと力を込めて受け止めるゲッターD2……スレードゲルミルとゲッターD2の力比べはゲッターD2にへと軍配が上がった。

 

『うおらあッ!!!』

 

受け止めていた部分から斬艦刀をへし折り、折られた斬艦刀がそのままの勢いでスレードゲルミルの顔に向って飛んだ。

 

「ぬうっ!? ぐあッ!」

 

反射的にかわしたが、その瞬間にゲッターD2が立ち上がり、スレードゲルミルの首を掴むとそのままその巨体を投げ飛ばした。

 

「ぐうう……流石というべきか」

 

重量が全てそのままウォーダンに跳ね返り、口元から溢れた血を拭いスレードゲルミルを立ち上がらせ、折られた右肩の斬艦刀を投げ捨て、左肩の斬艦刀を変形させ再び構えさせると同時に地面を蹴り、ゲッターD2へと斬りかかる。

 

『おりゃあッ!!』

 

「うおおおッ!!」

 

互いに立ち位置を何度も変えながらダブルトマホークと斬艦刀がぶつかり火花を散らす、どちらの一撃もまともに当たればその瞬間に敗北が決まる。それほどの激しく、この一撃でしとめてやるという気合の乗った一撃の応酬が続く。

 

「ぬうおおおおッ!!!」

 

『ぐっ!?』

 

下からの切り上げでダブルトマホークごとゲッターD2の腕を跳ね上げ、がら空きの胴に向かって横薙ぎの一閃を叩き込もうとするスレードゲルミル。

 

『そう簡単にッ!!』

 

だが武蔵もそう簡単にスレードゲルミルの一撃を受ける訳がない、ダブルトマホークの柄で斬艦刀を受け止め、そのまま押し返すように弾き飛ばす。スレードゲルミルの巨体が後方に押し飛ばされ、距離が十分に開くと同時にゲッターD2とスレードゲルミルは大きく振りかぶった横薙ぎの一閃を同時に叩き込んだ。

 

『おらッ!!!』

 

「ぬおおおおッ!!!」

 

互いに両腕を振れる距離、フルスイングでの斬艦刀とダブルトマホークがぶつかり合い。互いの獲物は持ち手部分だけを残し、木っ端微塵に砕け散り、互いに地面を蹴って距離を取った。獲物を全て失ったが、ウォーダンの闘志は萎えておらず、むしろより激しく燃えていた。

しかし、その闘志はレモンからの通信で消される事となった。

 

【ウォーダン。楽しんでいる所悪いんだけど、どうも百鬼帝国はゲッターロボをよっぽどそこで潰したいみたい。かなりの数の百鬼獣が動いてるわ、引けるなら引きなさい】

 

「……承知」

 

余計な横槍が入ったとウォーダンは舌打ちをし、スレードゲルミルから闘志が消えた事に気付き武蔵も構えを解いた。

 

「百鬼が増員を送り出した。これ以上は邪魔者が入るだけだ」

 

『手打ちにしようって事か、良いぜ。ハガネとシロガネも撤退した、これ以上はオイラも戦う理由がない』

 

ムータ基地に残っていたのはスレードゲルミルとゲッターD2だけだった。スレードゲルミルとゲッターD2の戦いが激しさを増し、周囲を破壊しながら戦う間にハガネとシロガネは撤退を完了させていた。それゆえに武蔵は手打ちにしようと言ったウォーダンの提案を受け入れたのだった。

 

「……次はその首、貰い受ける。ゼンガー・ゾンボルトの首と共にな」

 

『楽しみにしておく、じゃあな、ウォーダン。一応レモンさん達に言っておいてくれや、あんたらはオイラ達が止めるってな』

 

そう言い残すとゲッターD2はシロガネとハガネの後を追ってその場を離脱した。

 

「……甘いな、だが……そうだな。お前らしい」

 

武蔵にはここでウォーダンを倒す事も出来た。だがそれをしなかったのは武蔵の甘さだった……だがその甘さが何故かウォーダンには悪い物には思えず、仮面の下で小さく微笑んだ。離脱する前に砕けていたダブルトマホークの残骸を拾い上げ、百鬼獣が現れる前にウォーダンもその場を離脱した。それから数分後――百鬼獣が制圧したムータ基地は動力の爆破によって消し飛び、百鬼獣はその爆発に飲み込まれその姿を消すのだった……。

 

 

 

 

ウォーダンと武蔵を残し、ムータ基地を離脱したシロガネとハガネは森林地帯に停泊し、ゲッターD2と武蔵が戻るを待ちながら補給と簡易的な修理を始めていた。武蔵が食い止めてくれているとは言え、百鬼獣の襲撃の危険性が高く全員がそれに備えていた……武蔵と行動を共にしていたユーリアの姿もあるが、だんまりを決め込んでおり話すつもりはない様子だった。それに加えて、ユーリアの部下だったレオナは斬艦刀の一撃を受けて昏倒しているタスクの看病の為に医務室にいた。レオナならばユーリアから話を聞くことも出来ただろうが……タスクの身を案じているレオナを医務室から出てくるようにも言えず、ハガネの格納庫には嫌な沈黙が広がっていた。

 

「武蔵は本当に俺達と合流してくれるかな」

 

「……リュウセイ」

 

「いや……さ、正直言うとよ。武蔵が生きていたのは嬉しい、でもよ。怖いんだよ……武蔵に恨まれているんじゃないかってさ」

 

ただいまと武蔵は言った。それでもだ、L5戦役最終盤……リュウセイ達はメテオ3に特攻する武蔵を見ている事しか出来なかった。その

事を責められるのではないかとリュウセイはそれを怖がっていた。

 

「……大丈夫」

 

「そう……かな」

 

不安そうにコンテナに腰掛けているリュウセイの手の上にラトゥーニがその手を重ねた時。ヴァルキリオンの近くに腰掛けていたユーリアが腰を上げた。

 

「武蔵はお前達を恨んでなどいない」

 

「え?」

 

「あの時はああするしかなかった。むしろ、自分のせいでお前達を悲しませたのではないか? 武蔵はそればかりを心配していた。だからすぐにお前達の前に顔を見せるのを躊躇っていた」

 

ユーリアはリュウセイ達が武蔵に恨まれているのではないか? そう考えているのを聞いて、その考えは間違っていると静かな声の中に怒りを込めてリュウセイに声を掛けた。

 

「……武蔵が俺達の事を心配してたって?」

 

「ああ、悲しませたし、泣かせたと思う……だからどんな顔で会いに行けばいいのかと武蔵は悩んでいた。それでも、それでもだ。武蔵はお前達が危ないと知れば助けに行った。そんなやつがお前達を恨んでいると本当に思っているのか?」

 

リクセントでの百鬼獣の侵攻の時も武蔵は助けに現れた――、宇宙でのストーンサークルの時も、そして今もまた百鬼獣と謎のゲシュペンストの大群とウォーダンを名乗る男の襲撃を受けた時も武蔵は助けに現れていた。もしも憎み恨んでいる相手が窮地に追い込まれていると知っても助けに来ることはないだろう。だが武蔵はそれを助けに来た……それが武蔵がリュウセイ達を恨んでいないと言う証拠だった。

 

「……すんません、変な事を考えて」

 

「いや、余計なお世話だったと忘れてくれてもかまわない。だが武蔵はお前達を恨んでなんかいない、出迎えるのなら笑って迎えてやってくれ」

 

ユーリアはそれだけ言うとリュウセイとラトゥーニに背を向けて、再びヴァルキリオンの近くのコンテナに腰を下ろした。

 

「……俺達の事を心配してたって……そりゃ違うだろうよ」

 

「……あたしはよ、正直言って武蔵の奴には恨まれてるって思ってたぜ」

 

自分の特攻で泣かせ心配させた。だから合わせる顔がないと言っていたとユーリアは告げた……だがそれは違う。軍人である自分達が生きて、民間人の武蔵が死んだ……武蔵には自分達を恨む権利があると全員が感じていたのに、逆に武蔵はリュウセイ達の事を案じていたのだ。

 

「本当……人が良いって言うか……邪気がないって言うか……」

 

「笑ってろ。いつものようにな」

 

「……ごめん、今ちょっと無理」

 

エクセレンがキョウスケの背中に顔を埋め、キョウスケは腕を組んで何も言わずエクセレンの好きにさせた。武蔵の事で思う事は誰もが同じだった。

 

「……武蔵が喜ぶ事ってなんだと思いますか、カイ少佐」

 

「今は笑って迎えてやる事だろうな……正直難しいがな」

 

生きていたと信じて……いや願っていた。自分達が見捨てた武蔵が生きていたと願っていないと、罪の意識に押し潰されそうだった。その感情はきっと武蔵を見た時に爆発する事になるかもしれない。

 

「ブルックリン少尉。その刀は……」

 

「武蔵の刀です。ラッセル少尉――武蔵が戻って来たら俺はこれを返さないとって思っていたんです」

 

この刀に恥じない男になる――それを誓っていたブリット。だが武蔵が生きていたのならば、この刀は武蔵に返すべきだ。ブリットはそう思って私室から武蔵の刀を持って格納庫に戻って来ていた。

 

「武蔵が喜びそうなことっつたら飯だよな? あいつって高級な店とか好きなのか?」

 

「知りませんよ。俺達は武蔵の事を余りにも知らない……だからこれから知れば良い。俺はそう思いますよ」

 

「……っだな。財布の中身とか、んなこと考えないで飯を腹一杯奢ってやるか」

 

「ご馳走になります。イルムガルト中尉」

 

ライの言葉にイルムは少し驚いた表情をし笑った。武蔵が居なくて出来なかった祝勝会……それをやれる時が来たのだ。

 

「俺だけじゃ無理だな。ダイテツ中佐達やカイ少佐達も巻き込んでやるか」

 

「おいおい、勝手に決めるな」

 

「カイ少佐は反対なんですか?」

 

「馬鹿を言え、賛成に決まってるだろう」

 

武蔵が戻ったら何をしよう、何をしてやろうと話をする中、ラミアだけは腕を組んで鋭い視線を格納庫に向けていた。

 

(……巴武蔵。ヘリオスと共に最優先ターゲットになっている男……一体どんな男なんだ)

 

ラミアと武蔵は直接的な面識はない……筈だ。転移の前にアンジュルグは見られていて、声を聞かれているがそれだけだ。

 

(……最悪の場合は覚悟を決めなければならないな)

 

自分がシャドウミラーの構成員だと知られていれば、自分の身が危ない。武蔵の発言力が大きいのは格納庫でのやり取りを見ていれば判る……自分がいかに身の潔白を訴えても、武蔵の一言の方が信憑性が高くなる。ラミアはそれを危惧し、背筋に冷たい汗が流れるのを感じながら武蔵とゲッターロボがハガネに到着するのを待った。

 

『ゲッターロボが接近中。各員出迎えの準備を、俺達もすぐに向かう』

 

格納庫に響いたテツヤの声、それからすぐにダイテツ、テツヤ、そしてシロガネからリーの3人が格納庫にやってくる。それから少し遅れて格納庫が開放され、ドラゴン号、ライガー号、ポセイドン号が順番に着艦しタラップがポセイドン号の横に取り付けられ、武蔵がそこから姿を見せた。

 

「総員敬礼ッ!!!」

 

ダイテツ自ら敬礼しながら指示を出すと一糸乱れぬ動きで全員が敬礼した。武蔵はその様子を見て一瞬目を丸くし、次の瞬間に笑みを浮かべた。

 

「やっぱり何て言えばいいか全然わかんねえや……でもうん。ただいま」

 

武蔵のその言葉に格納庫の中に歓声が響き渡った。決して予断を許さぬ状況――地球圏の危機、劣勢に追い込まれている連邦軍。それでも、武蔵が無事に戻って来た。悪い事ばかりが続く中、それは紛れも無く吉報なのだった……。

 

 

第63話 偽りの神聖十字軍 その1へ続く

 

 




リュウセイ達と武蔵の再会です。次回からは暫く会話フェイズを続けて行こうと思います、漸くここまで来れたなあと思いつつもまだこれ半分も完成してないんですよね。OG2のシナリオの内容を考えると……まだまだ頑張って行こうと思いますので、応援よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第63話 偽りの神聖十字軍 その1

第63話 偽りの神聖十字軍 その1

 

タラップを降りた武蔵ははにかんだ笑みを浮かべ、敬礼しているリュウセイやキョウスケ達の前を通り、ダイテツとリーの前に立った。

 

「お久しぶりですダイテツさん。お元気そうで何よりです」

 

「ふっ、そうだな武蔵。君も良く生きていた。しかし……生きているなら連絡の1つや2つを入れてくれても良かったのではないか?」

 

差し出されたダイテツの手を握り返し武蔵は小さく笑った。

 

「いや、すんません。連絡する、しないじゃなくて出来ない状況にあったんですよ」

 

連絡をしなかったのではない、出来ない状況だったと武蔵は告げた。武蔵本人は連絡を望んでいたが、それが出来ない状況であったとダイテツは察した。

 

「色々話したい事もあるが、彼が話したがっているから変わろう」

 

武蔵の話が長くなると察し、1度話を切り上げリーに視線を向けた。

 

「君が巴武蔵君か……初めまして、シロガネの艦長をしているリー・リンジュンだ。握手をして貰っても?」

 

「はぁ? 別にかまいませんけど……」

 

武蔵が手を差し出すと、リーはその手を両手で握り締めた。

 

「ありがとう!私を含め、シロガネのクルー全員が君に感謝している!巴武蔵君」

 

「えっと? すんません、どういうことか判らないんですけど……」

 

リーから深い感謝を感じるが、武蔵はリーにこうして会うのは初めてだ。シロガネのクルー全員が感謝していると聞いても、武蔵には思い当たる節が何も無かった。

 

「私達の生まれは北京だ。私の両親も妻も、いや、シロガネのクルー全員の家族が北京にいた。私達の家族は皆君に救われたんだ、ありがとう。本当に……ありがとう」

 

北京――それは自分のせいでゲッターロボの暴走を招いた因縁の地であり、そして武蔵に良い思いではなかった……だがリーの言葉を聞いて武蔵は笑みを浮かべた。

 

「助けになれてよかったです。リーさん」

 

それでも自分に救えた物はあったのだ。怒りによって我を忘れ、破壊の限りを尽くした。それでも、それでも救えた命があった。それが武蔵にとっての救いになった。

 

「今まで何をしていたのか、聞かせてくれるか? イングラム少佐の事も聞きたい」

 

「はい、でもまぁ凄い色々ありましたから……長くなりますよ?」

 

「あッ!」

 

長い話になると武蔵が言った時だった。ユーリアが何かに気付いたのか、大声を上げた。格納庫にいる全員がユーリアに視線を向け、ユーリアはほんの少しだけ動揺した素振りを見せたが、ライガー号を指差した。

 

「武蔵! ライガー号を見てくれ」

 

「ライガー? ライガーが……あっ!?」

 

ユーリアに言われてライガー号に視線を向けた武蔵は、コックピットの中から不安そうに顔を見せているエキドナに気付いた。

 

「ちょ、ちょっと待っててくださいね!? すぐ戻ります」

 

武蔵はそう言うと慌ててタラップを駆け上がり、ライガー号のコックピット部に近づいて、外からコックピットを開放する操作を行なう。

 

「エキドナさん! 何してたんですか?」

 

「寝てた?」

 

「寝てたッ!? ライガーの中でッ!? って言うかなんで疑問形ッ!?」

 

「いや、判らないから……気がついたらここにいて、外に出ようにもどうすればいいか判らないし……外を見てたんだ。すっごい頭も痛いし……たんこぶとか出来てそう……」

 

ぼんやりとした様子ながらも何があったのかと武蔵に説明するエキドナ。その説明を聞いて武蔵は思わず天を仰いだ……寝てたんじゃなくて、ゲッターの動いている振動で気絶と目覚めるのを交互に繰り返していたのだと察したからだ。こんな事ならばドラゴン号とライガー号のコックピットを確認すればよかったと後悔したのだ。

 

「とりあえず、出れますか?」

 

「うん」

 

武蔵の手を借りてライガー号からエキドナが降りる。周囲を見てエキドナは何かに気付いたようだった。

 

「クロガネじゃない?」

 

「まあ色々ありまして、頭とか大丈夫ですか?」

 

「……今気付いたんだけど、もの凄く痛い、泣きそうだ」

 

「医務室に行きましょうか」

 

無表情で痛いと言うエキドナ。その目が潤んでいるのを見て本当に痛いのだと思い、武蔵は医務室に行きましょうかと言って、エキドナの手を引いてタラップを降りた。ライガー号からイングラムが降りてくると思っていたリュウセイ達は武蔵が美女を連れてタラップを降りてきた事に驚いていた。

 

「……シャイン王女になんて言えば……」

 

ただラトゥーニだけは友人のシャインにユーリアとエキドナの事をなんと言えば良いのかと頭を悩ませていたのだが……それに気付いた者はいなかった。

 

「おいおい、武蔵。誰だよ、その美人なお姉様は?」

 

「イルムさん。オイラを助けてくれたエキドナさんって言うんですけど、なんか色々あって記憶喪失なんです。凄い頭を打ったらしくて、

医務室に連れてって上げたいんです」

 

色々あって記憶喪失――1番説明しないといけない所をはしょる武蔵だが、頭を打ったと聞いた格納庫にいた全員は察した。

 

「それはいけないわ。早く医務室につれて行かないと」

 

「精密検査も必要かもしれないな」

 

ゲットマシンだけでも瀕死確定なのに、合体してあれだけ暴れ回っているのを見れば下手をすれば、たんこぶ所ではなくて脳とかが傷ついているかもしれない。

 

「担架、担架持ってきて!」

 

「今持って来ました!」

 

「よし! でかしたラッセル! おい、お前無理すんなこの上に寝ろ」

 

「え、えっと?」

 

「大丈夫ですよ。皆良い人ですから」

 

「そ、そう?」

 

不安そうに担架に横になり整備兵に運ばれていくエキドナ。その視線は最後まで不安そうで、一瞬ラミアと目が合ったが、エキドナはそれに反応を返さず、そのまま医務室に運ばれて行った。

 

(W-16を見つけたと思ったら記憶喪失……わ、私は呪われているのか?)

 

やっと見つけたW-16だったが、その肝心のW-16は記憶喪失で、しかも武蔵と行動を共にしていると知ったラミアは深く溜め息を吐いた。一瞬記憶喪失の振りをしているかと一瞬思ったのだが、その目を見れば本当に記憶喪失のようで、あの様子ではレモンから命じられたことも何もかも覚えていないだろう。その様子を見てラミアは深く肩を落としていた。

 

「ラミアちゃんどうしたのー? ブリーフィングルームで武蔵の話を聞くわよ?」

 

「あ、はい。今行きますエクセ姉様」

 

エクセレンに呼ばれてやっと歩き出したラミアだったが、その足取りは重く、ラミアが胸に抱えている不安がその足取りにははっきりと現れていたのだった……。

 

 

 

 

エキドナをドクターに預け、リュウセイ達は武蔵の話を聞く為にブリーフィングルームに集まっていた。格納庫での厳かな雰囲気は無く、いつものハガネの雰囲気がブリーフィングルームには広がっており、武蔵もはにかんだ笑みではなく、心からの穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「武蔵よ、リクセントの時に助けてくれたならそのまま合流してくれてもよかっただろうに、あのボロボロのゲッターロボも武蔵が操縦してたんだろ?」

 

「すんませんね、イルムさん。オイラも色々と調べて動いてたんですよ。それですぐにハガネに合流する訳にも行かないし、でもシャインちゃんが危ないって聞いたらジッともしてられなくてさ。土下座外交してたんです」

 

「「「土下座外交?」」」

 

何の話だ? と尋ね返すキョウスケ達。ブリーフィングルームにいるライだけが、その意味を察していた。

 

「リリー中佐か」

 

「めっちゃ怖かった、ビアンさんも隣で土下座してたし」

 

統合軍の中佐であり、自分の父であるマイヤーの副官を務めていたリリーならと呟いたことで武蔵がその時の事を思いだし、若干震えながら呟いたのだが、うっかりというか、気が緩んでいたのかビアンの名前を口にしてしまっていた。

 

「トロイエ隊の隊長と一緒だからクロガネに同行していると思ったが、やはり武蔵はクロガネと一緒だったのか」

 

「……あ。どうしましょう、ユーリアさん」

 

「私に言うな……まぁどの道ばれる事だが……」

 

出来ればクロガネと合流していたこと、そしてビアン達と行動をしていたことは伏せておきたかったが、そうも言ってられないとユーリアは肩を竦めた。

 

「メテオ3の後にすぐゲッターロボを回収していたんですか? ユーリア隊長?」

 

「勘違いしないで欲しい。我々も武蔵と合流したのはつい最近の事だ。リクセント公国が襲撃される少し前に武蔵と合流したんだ。それまでは我々も武蔵を探していた」

 

クロガネで武蔵とゲッターロボを回収したと思われては困るとユーリアがそう告げる。

 

「つまりあの時には既にラドラ達も武蔵の事は知ってたわけか」

 

「蚩尤塚の段階でもな。やれやれ、ビアン博士の秘匿癖にも困った物だ」

 

リクセントの後となれば蚩尤塚の段階でラドラとエルザムは武蔵の生存を知っていただろうし、クロガネと合流した際もビアン達は武蔵の生存を知っていた。それが判り、ブリーフィングルームの中に若干のビアン達に対する不信感が生まれたが、その話を聞いてブリットが武蔵に詰め寄った。

 

「ゼンガー隊長は!? ゼンガー隊長はクロガネにいるのか!? あのウォーダンとゼンガー隊長は関係ないのか!?」

 

つい先ほどまで戦っていたウォーダン・ユミル、そしてスレードゲルミル――ゼンガーと関係はないのかとブリットが焦りを浮かべた表情で武蔵に尋ねる。

 

「落ち着いてくれブリット。大丈夫だ、ゼンガーさんはエルザムさんとバンさんと一緒にライノセラスで出撃したのを見てる。ウォーダンとは何の関係もない」

 

「そ、そうか……良かった」

 

ウォーダンが百鬼帝国に捕まったゼンガーという可能性があり、気が気ではなかった様子のブリット。確かに念動力で違うという事を感じ取っていたが、それが正しいかどうかは定かではなく、武蔵から違うと断言され安堵した様子を見せた。ブリットに大丈夫だと声を掛けている武蔵だが、話しはそれで終わる事は無かった。

 

「しかし武蔵、お前はウォーダンを知っている素振りだったが、それはどういうことなんだ?」

 

ムータ基地での武蔵とウォーダンのやりとりは明らかに互いに知り合いという様子だったとキョウスケが指摘する。

 

「うーん、すっごい説明難しくなるんですよ……参ったな。これならイングラムさんも一緒だったら詳しく説明してくれると思うんですけど……」

 

「教官も生きてるんだよな!? イングラム教官は今クロガネか!?」

 

武蔵の口からイングラムの名前が出た。それを聞いて、聞きたいと思っていたのだが黙りこんでいたリュウセイが武蔵に尋ねる。

 

「おう。今クロガネにいるはずだ、カーウァイさんと「武蔵、やはりゲシュペンスト・タイプSのパイロットはカーウァイ大佐なのだな?」……あ、やぶへび」

 

カーウァイの名前を出した瞬間にズイっとカイが前に出て武蔵の肩を掴んだ。

 

「武蔵。俺は怒っていないんだ、だから素直に教えてくれ。ゼンガー達はカーウァイ隊長と一緒か?」

 

怒っていないと言うが、その目が全く笑ってない。武蔵はカイから目を逸らそうとしたが、肩を掴まれている事もあり、それも叶わずカイの眼力に恐怖しながら口を開いた。

 

「一緒です。一緒にいて、殆ど毎日投げられてます」

 

「指導を受けていると言うことか?」

 

「いや、毎日怒られてますかねえ……うん」

 

こってり絞られているとしか言い様がないと武蔵が言うとカイはそうかと小さく呟き、武蔵の肩から手を放した。

 

「なんとも羨ましいことだ。またカーウァイ隊長に指導をして貰えるとは……」

 

心底羨ましそうにしているカイに武蔵は何も言えなかった。その訓練の光景を知らないから羨ましいと言っているのだろうと思う事にした。

 

「多分そのうち会えると思いますよ?」

 

「ああ、それは楽しみだな。ギリアムの奴もきっと喜ぶだろう……おっと、すまないな。リュウセイ達にイングラムの事を話してやってくれ」

 

自分が割り込んだせいでイングラムの話を遮ってしまった事を武蔵とリュウセイの2人に謝罪し、話を続けてくれと武蔵に促すカイ。

 

「ちょっと待ってくれ、その前に聞きたい事がある」

 

武蔵が口を開く前にタスクが手を上げて話に割り込んだ。

 

「タスク。もう少し大人しくしていたらどうですの? 具体的には武蔵の話が終わるまで」

 

エキドナと入れ代わりで医務室を出たタスクにレオナがそう言う。言っている事は辛辣だが、その顔はまだふらついているタスクを案じている色が確かに浮かんでいた。斬艦刀の一撃を喰らい、脳震盪を起し、そして頭に包帯を巻いたままのタスクは若干青い顔をしたまま武蔵に問いかけた。

 

「武蔵とイングラム少佐は生きていたって言うのは判る。カイ少佐には悪いけど……カーウァイ大佐は確実に死んでた。それは確認されてる――どうして死人が生きてるんだ? 俺はそれが気になってしょうがない」

 

武蔵とイングラムが生きていたというのは判る。だがカーウァイは確実に死人だ……何故そんな人物が生きているのか? このお祝いムードの中で言うことではないとタスクにも判っていた。だがそこをはっきりさせないとタスクは素直に喜べなかった……だから何でだ? と武蔵に問いかけた。問いかけられた武蔵は少し考え込む素振りを見せてから、タスク……いや、タスクだけではない、この場にいる全員を見つめてゆっくりと口を開いた。

 

「……生きてたつうのは多分間違ってると思う。オイラ達は……確かにあの時死んだんだ、そいつは間違いない事だと思う」

 

自分達は生きていたのではない、確かにあの時死んだのだと武蔵はハッキリとした口調でそう告げた。ブリーフィングルームには誰かが……いや、全員かもしれないヒュっと息を呑んだ音がブリーフィングルームの中に響き渡るのだった……。

 

 

 

 

重苦しい雰囲気の中リュウセイが首を左右に振りながら武蔵に視線を向けた。

 

「いやいや、武蔵は生きてるだろ? 足もあるし、温かいじゃないか」

 

だから死んでない、メテオ3に特攻した後も生きていたんだというリュウセイ。だが武蔵は首を左右に振った。

 

「正直こんな話をするのもどうかと思うが……オイラはあの時間違いなく死んだ。オイラはちゃんと覚えてる」

 

武蔵はそう言うと鳩尾に下に手を当て、目を伏せた。そして意を決した表情で言葉を続けた。

 

「こっから下、全部潰された。腕も、足も全部だ。イングラムさんは左半身が完全に潰れたって言ってたぜ」

 

即死は免れたかもしれない……それでも死を避けることが出来ない重傷だ。武蔵が自分の身体に手を当てたこともあり、潰れた姿を想像したの何人かの顔色が青くなった。

 

「待て待て待て、じゃあ何か? お前も死んでるのに生きてるって事か?」

 

「いや、ここら辺はオイラもイングラムさんも、カーウァイさんも本当によく判ってない。1回ためしに3人ともナイフを腕に刺したりして、血が流れるかどうかとか、痛いとかどうとか試したし」

 

「武蔵……お前そんなこともしてたのか?」

 

知らなかったというのをその顔に浮かべ、武蔵にそう尋ねるユーリア。武蔵は肩を竦めて、小さくすいませんねと謝ってから言葉を続ける。

 

「即死はしなかったとしても、絶対に死ぬって確信してたんですよ。だから何で生きてるんだって思ったら、こう刺してみるかって」

 

「普通そうは考えないぞ? 武蔵にしても、イングラム少佐にしてもだが……」

 

生きてるかどうかを確かめる為にナイフで刺すって言う発想は絶対に無いとライが言う。だが武蔵はそれだけ一杯一杯だったと苦笑した。

 

「これは連絡出来なかった事に繋がるんだけど……意識を失う寸前にオイラ達3人はある共通があった」

 

「共通点……それが武蔵が生きていると言うのと繋がってるのか?」

 

「はい。オイラ達は意識を失う前にゲッター線に包まれた……見た事も無いほどに透き通った、でも凄まじい力強さを持ったゲッター線で出来た海に落ちた……そして目が覚めたら怪我も治って、ゲッターロボのコックピットの中にいたんです」

 

「待ってくれ、頼むから待ってくれ武蔵。つうとなんだ、ゲッター線って言うのは死人を生き返らせる事も出来るって言うのか? 武蔵」

 

自分達の理解を超えていて、混乱している者が多い中カチーナがありえないだろ? という顔をしながら武蔵に問いかけた。

 

「死ぬ寸前で怪我を治されたとか、そういう可能性もあると思いますけど……オイラ達が生きているのはゲッター線が関係していると思いますよ。なんせ、オイラ達が目を覚ましたとき――3人とも旧西暦にいたんですから、しかも失われた時代って言ってたとんでもない時代のど真ん中ですよ」

 

連邦が語ることを禁じ、それまでの技術等を全て捨てたとされる失われた時代。正体不明の敵性存在に襲われ、地球人口の8割が死滅したと言う暗黒の時代――そこに武蔵達はいたと言うのだ。

 

「連絡出来なかったと言うのは過去にいたからということなのか……」

 

「ええ、流石に過去から未来に通信するとか無理でしょう? ダイテツさん」

 

監禁されていたとか、怪我をしていたとかではない。時間を越えていた為、物理的に通信が不可能だった。だから武蔵とイングラムは通信することが出来なかった。

 

「……頭が痛くなってきたんだけど……え? 武蔵とイングラム少佐って過去にいたの? しかも失われた時代のど真ん中?」

 

今もその時代を知ろうとすれば牢屋送りにされる――そんな暗黒時代にいたと言う武蔵。その言葉を最初信じられなかったエクセレンだが、武蔵の顔を見てそれが真実だと判ると絶句した。

 

「なんか知っちゃうとやばいらしいですけど……何があったか聞きたいですか? 不味いって言うなら止めますけど……」

 

連邦に所属しているリュウセイ達が知ると不味い内容なら言わないと言った武蔵。だがこうして話を切り出してきたと言う事は、少なくとも何か今の情勢に関係する内容だとダイテツとリーは感じた。

 

「続けてくれ。リー中佐もそれで良いな?」

 

「ええ。問題ありません、続けてくれるか?」

 

ダイテツとリーというこの場の最高責任者2人に許可を得た武蔵は話を続ける。

 

「失われた時代って言うのはオイラが恐竜帝国に特攻してから20年くらい経った後だった」

 

20年――それは決して長くは無いが、短くはない。そして武蔵の懐かしそうな顔を見れば、そこで誰に出会ったのかというのは容易に想像出来た。

 

「……仲間に会えたか?」

 

「おう。竜馬に隼人、オイラの変わりにゲッターに乗ってくれた弁慶。皆オイラより年上だったけど、全然変わってないでやんの……年取ってるんだからもっと落ち着いてろよって思わず思ったもんさ」

 

掌に拳を打ち付けながら呆れたように言う武蔵だが、その顔は本当に嬉しそうな顔だった。

 

「んでだ。そこでは化け物が闊歩してた、動物も、人間も、機械も何もかもに寄生する化けもんだ。この中だと……リュウセイやカチーナさん達が見ているはずだ」

 

「あの全身に目玉があるトカゲの化け物?」

 

「おう、そいつだ。インベーダーっつう化け物なんだが、そいつらが地球を埋め尽くさんばかりに増えていてな。酷い有様だった……これ

一応写真を撮っておいたんだが、こんなかんじだ」

 

ハガネから武蔵に貸し出していたDコンが机の上に差し出され、リュウセイ達はその端末を覗き込んだ。

 

「マジかよ……」

 

「おいおい……こんなのアニメとか映画の世界だろうが」

 

「……確かにこんな有様では地球政府が失われた時代として封印するのも納得だな」

 

空は漆黒の雲で覆われ、時折翡翠の光が走り、大地は荒廃し砂しか存在しなかった。地球という存在が死んでいる……そう思わせるほどの凄惨な光景だった。

 

「インベーダーっつうのか、あの化け物は……アインストとは……あ、武蔵はアインストを「知ってますよ。旧西暦の後はこの時代の未来でアインストとインベーダーと戦ってましたから」……あのよ? こんな事言うのなんだけどよ? お前呪われてね?」「……イングラムさんは俺かもしれんって言ってました」

 

旧西暦で化け物と戦って、その後は今カチーナ達が生きている時代の未来でも化け物と戦っていたと聞いてカチーナが思わず呪われてるんじゃないか? と尋ねると武蔵はイングラムが呪われてるかもしれないと告げた。

 

「いや、なんでそこで教官が出てくるんだ?」

 

「いや、オイラもよく判らんのだけどな? イングラムさんはそう言ってた。なんか思い当たる節はあるんだろうな」

 

なんでだよっとリュウセイは呟くが、武蔵も詳しい理由は判らないので、イングラム本人に聞くしかない。ちなみに言うと、この映像は武蔵達の話を聞いてビアンがシミュレートした物で、厳密には旧西暦物とは少し違うのだが……かなり真に迫っていると3人とも認め、それを証拠の映像の1つとしてビアンがDコンにインストールした物だ。

 

「それでこの時代の未来と言っていたが、この後どうなるか知っているのか?」

 

「あーすんません、ちょっと違うのかな? エアロゲイターが最初に襲撃してきましたよね? オイラ達がいた未来は、インスペクターって言う――今ホワイトスターを制圧してる異星人が先に現れたえっと……なんでしたっけ?」

 

「平行世界だ。エアロゲイターか、インスペクターか先かという分岐世界らしい」

 

「そうそう、その平行世界っていう奴なんで詳しいことは判りませんけど、とにかく1つだけ言える事がありますね。イージスシステム? とか言うバリアをはるとインベーダーとアインストが大量出現して地球滅びます」

 

「……本当か?」

 

今ブライアン大統領が主軸になって計画しているバリア。それを発動させると地球が滅びると言われ、テツヤは引き攣った顔で武蔵に尋ねる。

 

「こんな感じになります」

 

武蔵がDコンを操作して差し出す。そこにはゲシュペンストや、ヒュッケバインの残骸が転がっており、アインストとインベーダーが戦っていた。

 

「「「「地獄絵図じゃないか」」」」

 

旧西暦の滅んだ世界より酷いありさまだった。化け物同士が争い、そして地球はボロボロに成り果てていた。その光景は誰がどう見ても地獄としか言い様のない光景だった。

 

「まぁ平行世界らしいんで、確実とは言えないですけど……かなり信憑性はあると思います。アインストもインベーダーもなんとかしないと大変な事になるってことは確実です」

 

地球圏に出現したインスペクター、そしてアインスト、インベーダー……過去の地球を1度滅ぼした悪魔、そして平行世界とは言え、新西暦の地球を支配した異星人、そしてインベーダーと覇権を争い、地球を破壊しつくしていたアインスト――どれか1つでも地球を滅ぼしかねない存在が同時に、しかもそれに加えて百鬼帝国までもが地球を狙っている。武蔵から与えられた情報――それはリュウセイ達が思う以上に地球に窮地に追い込まれていると言うものなのだった……。

 

 

第64話 偽りの神聖十字軍 その2へ続く

 

 

 




次回は武蔵の話を聞いたダイテツとリーの話と、クロガネ、ライノセラスでのビアン達の話、そして最後に百鬼帝国による偽りの神聖十字軍の決起の演説の話と続けて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第64話 偽りの神聖十字軍 その2

第64話 偽りの神聖十字軍 その2

 

武蔵が空腹を訴え、ブリーフィングルームでの話は終わり、ダイテツとリーの2人は今後の方針を話し合う為にダイテツの私室に来ていた。

 

「どう見ますか、ダイテツ中佐」

 

「うむ、上手くはぐらかされたという所だな。ワシらには話す事が出来ない何かがある……という所だな」

 

旧西暦の話は詳しくしてくれたが、平行世界の話はぼんやりとした話だった。特にウォーダンという男と武蔵が知り合いという話は旧西暦と平行世界の未来の話、そしてイージス計画の失敗の話の中で何時の間にかされなくなってしまった。

 

「何故武蔵君はウォーダンの事を話さなかったのでしょうか……」

 

「いくつか考えられることはあるが……ワシが気になっているのはどうやって武蔵達がこの時代に戻ってきたかだ」

 

アインスト、インベーダーと戦っていたと言うが、どうやって新西暦に戻ってきたのか? 武蔵はそれを言わなかった……そこがウォーダンという男と平行世界の未来からこの時代に戻って来た鍵ではないか? とダイテツは考えていた。

 

「リー中佐ならどう考える?」

 

「そうですね……平行世界の未来は荒廃し、そして化け物が闊歩していたと考えれば……顔見知り……あるいは味方同士だったのではないかと」

 

リーの結論を聞いてダイテツは顎鬚をさすり、自分の考えを口にした。

 

「ワシはこう考えている。敵対していたが、化け物の襲撃を受け致し方なく行動を共にしていた……というのはどうだ?」

 

「あれほど荒廃した世界で敵対などするでしょうか?」

 

「極限状態だからこそ、人の本性が出る。レフィーナ中佐の件は聞いているだろう?」

 

月のインスペクターの襲撃時には防衛隊が出撃するからと出撃禁止命令を出され、マオ社……いや月全体が百鬼帝国に制圧された時も格納庫に幽閉され、しかもアンカーと地雷で出撃する事が叶わなかった。それに武蔵から絶望的な知らせも1つあった……インスペクターを名乗った敵勢宇宙人についてだ。

 

『あいつらはゾなんちゃらとかいう星間連合で、えーっと……なんだったかな?』

 

難しい話しすぎて覚え切れてないと言うか理解出来てなくてすみませんと謝りながら武蔵は必死に記憶を辿っていた。

 

『まあとにかくこう、沢山いる宇宙人の集まりみたいで、技術とかそういうのを持ってる星を制圧するか、滅ぼすかしてる連中みたいで、今来てる連中を倒しても後続が来るって言ってました』

 

「状況は絶望的にも程がある……それに加えて、味方同士の足の引っ張り合い……こんな物では勝てるものも勝てはしない」

 

武蔵から告げられた敵勢宇宙人の組織構成……それは地球よりも遥かに大規模な物だった。一応連邦本部にも通達したが、それを信じるかどうかは危ういとダイテツは感じていた。一部の高官はエアロゲイターを退けた事で慢心している者も多い。そんな連中に武蔵のうろ覚えのインスペクターの事を伝えても信憑性は低いと断じられる可能性が高いという最悪の展開となっている。

 

 

「……それは確かに私も聞き及んでおりますが……武蔵の話ならば信憑性があるのでは?」

 

「L5戦役を潜り抜けたと言っても、最終局面では武蔵に我々は頼り、そして彼を犠牲にしてしまった。生き残っただけの部隊と言う事でいらぬやっかみを受けることもあると言うのが不味い、我々が武蔵に虚偽の発言をさせているのではないかと邪推される可能性が高い」

 

武蔵が気を許していたから武蔵の戦果をレイカーがハガネとヒリュウ改に渡したという心ない話も今の連邦には広がっている。それは巨大化しすぎた組織が持つ腐敗と言っても良いだろう……窮地を乗り越えてすぐそんな話が広がるほどに、今の連邦の一部の高官は腐りきっていると言うのが現実だった。

 

「真の敵とは味方の中に潜んでいる場合もあるという事だ」

 

「……このような状況でも互いの足の引っ張り合いになってしまうのですか……」

 

「こういう状況だからこそだ。今度こそ、自分達が戦果を上げるのだとやっきになり、そして暴走し、自滅する」

 

地球を護る――それはダイテツ達の偽りのない気持ちだが、それすらも建前と受け取る権力欲に紛れた上層部――腐敗しきった一部の高官こそがダイテツ達にとっては真の敵と言っても過言ではなかった。

 

「それでダイテツ中佐、今後はどうしますか?」

 

「修理と補給を最優先にし、伊豆基地を目指すことになる……が、状況は決していい物ではないだろうな」

 

キルモール作戦とデザートスコール作戦は既に瓦解している。今はこうして身を潜めることが出来ているが、謎のゲシュペンスト・MK-Ⅱの大軍、スレードゲルミルとウォーダン・ユミルと名乗るゼンガーと瓜二つの男……そして百鬼獣――ハガネとシロガネと2隻のスペースノア級があったとしても、これだけ敵に囲まれている状況での離脱は容易ではない。

 

「私が敵の司令官ならば、この好機は見逃しませんね」

 

「ああ。だが真に恐れるのはそこではない」

 

「他に何が……」

 

「ここまで連邦を敗退させたテロリスト――いや、こういうべきだな。ビアンに従わないDC一派が決起するには丁度いい状況だ、しかも百鬼帝国とDCが協力体制にあるのはほぼ確定と言ってもいい」

 

謎の化け物であるアインストとインベーダーの出現、そして地球と月で暴れてる百鬼獣、そしてホワイトスターを制圧したインスペクター……連邦は敵対勢力に対して何も出来ていない。民間人や月から逃げてきた者達からすれば連邦軍は何も出来てないと思われて当然だ。

 

「今回の件全てを敵に利用されると言うことですか」

 

「それだけで済めば良いがな……」

 

キルモールとデザートスコールの失敗だけならば良い。だが今回の敵の対応を見る限りでは、敵が全てダイテツ達の出方、そして戦略を知っていたと言う疑惑がある。そしてダイテツの疑念はほぼ確信と言っても良かった。百鬼帝国には人の姿を真似る技術がある……ビアンの姿を使い、決起を宣言されればDC戦争の焼き増しになりかねない。いや、もっと言えばビアンの姿を真似ている鬼が百鬼帝国の構成員なのだ、あの時以上に状況が悪化するのは容易に想像がついた。

 

(後は世論の反応次第と言う事になるか……)

 

ビアンが決起をしたとして、それを信用する物がどれだけいるか……そして百鬼帝国がどれだけビアンを真似ることが出来ているか、それで全てが決まるとダイテツは感じているのだった……。

 

 

 

 

 

アメリカ大陸内のメガフロートの捜索を終え、得た資料等をグライエンと再確認するビアンの顔は険しい物だった。

 

「ふむ……望んでいた資料とは少々違うな」

 

「うむ。だが、これらは決して無駄ではない」

 

ビアンとグライエンが望んでいたのはゲッター線を応用した兵器――ゲッターロボ等の図面等が保管されている事を願っていた……だが、獲得した資料には残念ながらゲッターロボに関係する資料は無かった……だがそれに匹敵する宝を手にする事が出来ていた。

 

「これなんか、応用出来るんじゃないか?」

 

「ゲッター線を使わないゲッターロボか……確かにこれは面白いな、それにこれは多分だが、回収したゲッターロボの図面だろう」

 

ゲッター線、ゲッター合金を使用していないので耐久力等が劣るが、それでもこのゲッター線を使わないゲッターロボの図面はビアンには魅力的な物に見えた。その理由は勿論メガフロートの中に封印されていた青いゲッターロボ、ゲッター線を使っていないゲッターロボの修理や改良に使える図面となればある程度の価値は十分にあった。

 

「ただ出来ればだが、武蔵君が乗っていたゲッターロボや、ゲッターロボGの図面が欲しかった」

 

「シュトレーゼマンの馬鹿がゲッターロボGの図面を持ち逃げしたからな、それが惜しまれる。だが回収したゲッターロボにゲッター炉心を組み込むのも十分に検討できる筈だ」

 

ビアンにはゲッター合金、そしてゲッター炉心を作る知識がある。完全なゲッターロボを作りたいと考えるのは当然の事だ。ゲッターロボ、新ゲッターロボ、ゲッターロボVをスキャンし、作り上げた図面は確かにビアンの手元にある――だがどうしても解析出来なかったブラックボックス。早乙女博士しか知りえない、そのブラックボックスを解明する手掛かりがあることを望んでいただけに、今回の捜索の結果にビアンは肩を落としていた。

 

「そう肩を落とすな。現物のゲッターロボを手に入れる機会は残されている」

 

「流竜馬が乗っていたと言うやつか」

 

「ああ、このまま捜索に向かっても良いだろう。スペースノア級ならば問題なく捜索出来る筈だ」

 

グライエンがサルベージ船を送り出していたと言う太平洋。そのどこかに沈んでいるブラックゲッターロボ――それの捜索に乗り出すことを提案するグライエン。ビアンは資料の束に視線を向けながら、グライエンの言葉の真意を考えた……そして答えは簡単に出た。

 

「百鬼帝国の決起があると考えているのか」

 

「……ああ。連邦は敗退を続け、アインスト、インベーダー、そしてホワイトスターは異星人に制圧され、月は百鬼帝国の手に落ちた。連邦の評判は落ちに落ちている。私ならば……この好機は見逃さない」

 

連邦では自分達を護れないのではないか? 連邦は自分達を見捨てるのではないか? 1度芽生えた不安と恐怖は消えることはない。自分達に迫る脅威があるとなれば、その不安は爆発的に広がるだろう。

 

「だな、私でもそうする……判った。エルザム達には悪いが、このままブラックゲッターの捜索に乗り出すことにしよう」

 

捜索をしている間にビアンに扮した百鬼帝国の決起が起きることは間違いない、その決起の後にビアンとクロガネが姿を見せれば2人のビアンが現れる事になる。そうすれば少なくとも百鬼帝国の目論見の1つは挫ける……ビアンの姿を使うと言うことは反政府勢力を取り込む事を目的としていると考えて間違いない、今は潜伏していてもビアンが決起したのならばと再び動き出そうとする反連邦勢力は間違いない無くいる……それらが全て百鬼帝国の戦力になるという展開を妨げるにはやはりビアンもまた再び決起する必要がある。

 

「やれやれ、表舞台に立つつもりは無かったんだがな……」

 

「そうも言ってられないという事だ。諦めるんだな」

 

そう言うグライエンが、議員をやっていた時よりも活き活きしているのをビアンは見逃さなかったが、その事は指摘しなかった。ウィザードと呼ばれ、連邦議会の首領等と呼ばれたが、グライエンもまた地球の平和を心から祈り、そしてその手法は決して褒められたものでは無いが……ビアンもまた誤った手段を取ろうとした1人……それを指摘できる訳がなかった。

 

「ビアン所長。やはりエキドナの姿はどこにも無いぞ」

 

「恐らくだが、ゲットマシンと共に武蔵の元へ行ったのではないだろうか?」

 

ゲットマシンが飛び出した後クロガネの見回りをしていたイングラムとカーウァイの2人からエキドナの姿がないと言う報告が入った。

 

「そう……か。不安要素はあるが、仕方あるまい」

 

エキドナを外に出す事で記憶を取り戻す危険性はある。だが、ここにいないのでは打てる手段など無く、武蔵とユーリアの2人が何とかしてくれることをビアン達は祈るしかなかった。

 

「それでどうだ? 何か役立ちそうな物はあったか?」

 

「ゲッター線を使わないゲッターロボとその図面を見つけた。これをベースに新しいゲッターロボの設計と修理をしつつ、太平洋に沈んでいると言うゲッターロボを探してみようと思う」

 

ビアンの言葉を聞いてイングラムとカーウァイは揃ってあれかと呟いた。

 

「もしやどこら辺に沈没しているか知っているのかね?」

 

「沈む所を見ていたからある程度の予測はつく、俺達の見ている限りでは機体の損傷も無かった筈……回収してゲッター線さえ補給すればすぐ運用出来るレベルの筈だ」

 

旧西暦での真ドラゴンとの戦いはイングラムとカーウァイにとってはつい先日の事で、場所もある程度だが把握していた。当てずっぽうではなく、ある程度の予測を立てて調べれることが判り、ビアン達はバン達に一報を入れてからイングラム達の記憶を頼りに太平洋の海溝へと進んでいくのだった……。

 

 

 

 

 

百鬼獣とテロリストに敗退し撤退していく連邦軍の輸送機とPT――それをライノセラスのブリッジで見つめながらバンは溜め息を吐いていた。

 

「欲を張るからだ。馬鹿者が」

 

ゼンガー、エルザム、そしてLB隊とトロイエ隊によって1度は戦況を引っくり返したのだが、それに調子づいて攻め込んで手痛い反撃を受け命からがら撤退していく連邦軍。戦果を求めるのは判るが、それで命を捨てる事になっては意味が無い。バンは艦長席に腰掛けたまま指示を飛ばす。

 

「トロイエ隊とLB隊に伝達、チャフグレネードとスモーク弾を散布せよ。その後、我々も撤収する」

 

「了解」

 

これ以上この場に留まっていては自分達も危険だと判断し、チャフとスモークで敵のセンサー類を乱し、その隙にバン達も戦場から離脱する事にした。

 

「連邦の作戦はどうなっている? ハガネとシロガネは無事か?」

 

「は、殆ど瓦解したと見て間違いないです。ただハガネとシロガネに関してはゲッターD2が確認されました」

 

ハガネとシロガネが轟沈していないと報告を受けて安堵したバンだが、ゲッターD2が確認されたと聞いて眉を細めた。

 

「武蔵が動いたのか……どうやってゲットマシンを運び出したんだ?」

 

ユーリアと偵察という名目で出掛けさせられていた武蔵がどうやってゲットマシンを運び出したのだ? とオペレーターに尋ねるとオペレーターは通信報告に目を通し、バンにその内容を伝える。

 

「それに関してはクロガネの内部にゲッター線反応があり、その直後に転移したとの事です」

 

ゲッター線が様々な不可思議な現象を起すと聞いていたが、まさか無人で転移までするとは想像もしておらず、流石のバンも驚きの表情をその顔に浮かべた。

 

「クロガネのビアン総帥から通信が入っております」

 

「メインモニターに回してくれ」

 

だが驚いている間もなく、ビアンからの通信に応答するバン。このタイミングでの通信という事で、何らかの作戦指示ならばそれを聞くことを最優先にしたのだ。

 

『バン大佐、そちらの戦況はどうだね?』

 

「百鬼獣とテロリスト勢のAMによって連邦は敗走。1度は支援を行いましたが、再び攻め込みそこで敗走をしたようです」

 

『そうか……ご苦労だった。エルザム少佐達は?』

 

「現在撤退中です、道中で機体を回収し、クロガネと合流する予定です」

 

『それに関してなのだが、クロガネはこのまま太平洋に沈んでいると言うゲッターロボの捜索に向かう。バン大佐達は旧テスラ研の実験場にいる技術者から新型のグルンガストを受け取って欲しい』

 

「了解です、ではその後はテスラ研周辺の警備ということでよろしいですか?」

 

『頼む、月のマオ社を制圧したと言うことはテスラ研も危険だろう。あそこには今ゲッター炉心、マグマ原子炉、それにダブルGが保管されている。ジョナサンの事だ、そう簡単に奪われることはないと思うが……最悪の場合技術者達の撤退支援を行ってほしい』

 

テスラ研の所長を務めていたビアンは当然の事だが、テスラ研へのシークレットコードを把握している。それを用いて痕跡を残さずにビアンはジョナサンと連絡を取り合っていた。キサブローに中間に入ってもらい、素体のダブルGも預け、技術提供も積極的に行なっていた。だからこそ撤退支援という言葉にバンは驚いた。

 

「防衛ではなく撤退支援ですか?」

 

『下手に抵抗し、テスラ研を壊滅させる訳には行かないのだよ、バン大佐。それに……ジョナサン達の事だ、脱出してくれと言ってもうんとは言ってくれんだろう』

 

ちゃらんぽらんに見えるが、ジョナサンは何よりも責任感が強い。そんな男がビアンから預けられた物がすぐ運び出せない中、自分が脱出すると言う選択は取らない、それこそ口先だけで立ち回り上手い事時間稼ぎをするだろう……反撃する為の手勢が揃うまでは何をしても生き延びると言う事がビアンには判っていた。

 

「了解しました、ではエルザム達が帰還後。そのように」

 

『すまんな、我々はこれから海溝に突入する。連絡は取れないから臨機応変に対応してくれ、では以上だ』

 

ビアンの姿が消え、バンは艦長席に背中を預けた。

 

(よほどの切り札ということか……)

 

テスラ研の地下で建造されていると言うダブルG――ゲッター合金とゲッター線を用いたビアンの作成したスーパーロボット。それを守る事を優先するという命令……それが意味することはテスラ研防衛に戦力を向け、テスラ研を破壊されることを危惧しているのは明らかだった。

 

「ゲッター・トロンベ、グルンガスト零式改が着艦します」

 

「ゼンガーとエルザムに帰還後ブリーフィングルームへ来るように通達してくれ。今後の方針を話し合う、何か始まったら教えてくれ。恐らく数時間の内に何か大きな動きがある筈だ」

 

反連邦勢力に属していたバンだから判る、ここまで連邦の敗退。そして月、ホワイトスターでの不手際……それら全てが連邦を攻撃する材料となる。

 

「……流れは最悪だな」

 

自分が指導者ならば、自分がテロリストを取りまとめているのならば……ここで確実に決起する。それを利用して一気に自分達の知名度を広げ、そして連邦の不手際を責め、地球を守る為に自分達の元へ集えと演説を行なうとバンは考えていた。

 

「出撃したばかりですまないな、エルザム少佐、ゼンガー少佐」

 

「いえ、大丈夫です。我々も状況は把握しております」

 

「指導者として立っていたバン大佐のご意見をお聞きしたいと思います」

 

そしてそれはゼンガー、エルザムも同様に考えていて、この状況ならば敵がどう動くのか? そしてこれからどう動くのかの判断を仰ぐ為にブリーフィングルームで既にバンを待っていた。

 

「ビアン総帥からの次の命令も出ている。それを含めて今後の方針を話し合おうと思う」

 

バン達がブリーフィングルームで話し合いを始めてから1時間後――バンの危惧したとおりテロリストの決起演説が行なわれた。

 

「やはり……か」

 

「しかし、これで我々は再び連邦に追われる身となったな」

 

テロリスト達を背後に控えさせ、演説を行なう男はビアンの姿をした鬼なのだった……。

 

 

 

 

ハガネの食堂は活気……ではなく、戦場のような凄まじい雰囲気になっていた。勿論それは武蔵が行なう大量の注文が理由なのは言うまでもない。

 

「炒飯、カレー上がり! ほら、早く持ってって!」

 

「は、はい! えっと追加で牛丼、カツ丼を大盛り! 豚汁と漬物もです!」

 

「了解! ほらほら! 休んでないでどんどん料理しな!」

 

「「「はいッ!!!」」」

 

総動員で料理をしてやっと武蔵の食欲に追いつける。料理人全員の顔に凄まじい疲労の色が浮かんでいるが、その顔は実に満足そうで楽しそうな物だった。

 

「うめえッ! あぐあぐッ!!!」

 

食堂に響く美味いと言う喜びの声。お世辞や愛想で言っているのではない、心から美味いと思っているのが判るその声が何よりも料理人の励みとなっていたのだ。

 

「……ユーリア隊長。クロガネの時も武蔵はこんな感じだったんですの?」

 

「そうだな。エルザム様がずっと料理を作り続けていたな。最初は見た目とかを考えておられたようなのだが……」

 

そこで言葉に詰まったユーリアは食後のお茶を口し、遠い目をして小さく溜め息を吐いていた。

 

「兄さんはどうしたんだ?」

 

「それでは物足りないし、あんまり美味しくないと言われて酷く落ち込まれていた」

 

ライの問いかけにユーリアは言葉を続けた。物足りないし美味しくない……エルザムにそんな事を言えるのはきっと武蔵だけだろう。

 

「いや、それは……」

 

「兄さん……」

 

「ちなみにそれはカツ丼だったのだが、こう野菜をたっぷりと使ったフレンチのような物だったんだが、武蔵はこれじゃないと、カツ丼はでかくて大きくて飯が多くないととエルザム様に言っていたな。ちなみにゼンガー少佐も腕を組んだまま、頷いておられた」

 

クロガネでの武蔵達のやり取りを聞いてレオナとライは呆れればいいのか、それとも美味しくないと言われたエルザムを憐れに思えばいいのか、それが判らなかった。

 

「まぁ元気そうで良かったですわ」

 

「……ユーリア、1つ聞きたいんだが……あのレーツェルと言うのは……」

 

これだけは絶対聞かなければならないと言う表情で自身の兄の凶行とも言える姿の事を尋ねるライ。ユーリアは肩を竦め、そして目を逸らした。

 

「……そうか、素か」

 

「……素です。強いて言うと、武蔵の感性的にあれは格好良いそうです。旧西暦では割りと流行だったと……」

 

「そうかぁ……すまない、気分が悪くなった」

 

レーツェルというバレバレの変装が兄の素であると言う現実に耐えかね、ライはふらふらと食堂を出て行き、レオナとユーリアは心配そうにその背中を見つめていた。

 

「あの、ユーリア隊長。武蔵なんですけど……食べてる間にどんどん肌艶が良くなっているんですけど……」」

 

レオナが何度か瞬きをしながらユーリアに尋ねた。食べている間に明らかに武蔵の肌艶が良くなっているし、細かい怪我が治っているように見えていた。

 

「ああ。ビアン総帥が調べていたんだが、理由は不明だが武蔵は食事で怪我とかが治るのが速くなるそうだ」

 

「……あの、どういう理屈なんですか?」

 

「知らん」

 

謎の武蔵の超回復力――ビアンも謎に思い調べたが、結果は判らないと言うままで、今もどんどん元気になっている武蔵をユーリアとレオナは信じられない物を見るような目で見つめていた。

 

「しかしよ、武蔵。相変わらず……すげぇ食欲だな?」

 

カツを頬張り、幸せそうな顔をしている武蔵に自分の分の食事を終えたカチーナが呆れ半分という様子で声を掛ける。

 

「美味いですからね。美味いってだけで幾らでも食えますよ」

 

カツ丼の丼を積み上げ、山盛りのカレーを自分の前に引き寄せる武蔵。

 

「何時日本に帰れるかわからねえが、帰れたら今度こそいくか? あの大食いチャレンジの飯屋」

 

伊豆基地に初めて行った時にカチーナが武蔵に約束した事、カチーナはそれをしっかりと覚えていて武蔵にそう尋ねる。

 

「是非お願いします。あ、そう言えばジャーダさんとガーネットさんを見ないですけど……あの2人は?」

 

ハガネにも、シロガネにも、そしてヒリュウ改にも見なかったジャーダとガーネットの事を尋ねる武蔵。

 

「ジャーダとガーネットなら結婚して、今は浅草で暮らしてる」

 

リュウセイの隣で食事をしていたラトゥーニがジャーダとガーネットの事を武蔵に教える。武蔵はリュウセイとラトゥーニが揃っている事に若干目頭が熱くなるのを感じ、誤魔化すように業と大きな声を上げた。

 

「え? マジ? お祝いに行かないとなぁ、それに顔も見せないわけには行かないよな」

 

「場所今度書いてあげるね、武蔵は軍属じゃないから……日本に帰れたら1回顔を見せに行くと良いと思う」

 

「おう! ありがとな! あ、そだそだ」

 

武蔵は思い出したように服の中をまさぐり、ある物を取り出した。

 

「リュウセイ、これやるよ」

 

「お? 俺に」

 

長方形の定期のようなカードをリュウセイに渡す武蔵。それをぼんやりと見ていたタスクはその目の色を変えた。

 

「ちょいちょい!? それ今度日本でオープンする遊園地の年間フリーパスじゃねえかッ!?」

 

流行に詳しいタスクはそのカードに刻まれているエンブレムを見て、それが最近話題になっている遊園地のパスだと気付き、大声を上げた。

 

「え? 嘘ッ! わ、本当だ!」

 

タスクの話を聞いて、リュウセイの手元を覗き込んだエクセレンも歓声を上げ、楽しそうな表情を浮かべた。

 

「なんだ、エクセレン。そんなに有名なのか?」

 

流行に詳しくない面子はそのチケットの素晴らしさが良く判っておらず、不思議そうな顔を浮かべていた。今ここにはいないが、カイも恐らく同じ反応をしていただろうし、襲撃に備えて格納庫で待機しているイルムなら自分にも貸してくれと声を上げていただろう。

 

「そりゃもう! ほら、リクセントのマスコットみたいのいたでしょ? あれもその遊園地のマスコットなのよ。武蔵、これどうしたのよ?」

 

「これプレミアムで全然手に入らない奴だろッ!? 俺だって応募したのに駄目だったんだ! どこで手に入れたんだよッ!?」

 

よく判っていない様子の武蔵にどこで手に入れたんだ? とエクセレンとタスクが尋ねる。武蔵はステーキを飲み込んでからそんなに凄い物なのかと、やっぱりとのチケットの価値をよく判っていない表情でどこで手に入れたのかを口にした。

 

「どっかの町の大食い大会の優勝商品とかで貰ったんですけどね。なんか何人でも使えるって言うし、海外の同じ遊園地でも使えるって聞いたけど、オイラ場所判らないし、有名なのかどうかも知らないからリュウセイにやろうかと」

 

ムータ基地に向かう前にユーリアと買い物をしていた町での大食い大会の商品らしいが、旧西暦の生まれの武蔵はその遊園地がどれだけ有名かを知らなかったのだ、だから軽い感じでリュウセイに譲り渡したのだ。平行世界のラトゥーニと今目の前にいるラトゥーニは違うと判っている、それでも助ける事が出来なかった事を武蔵は悔いていた。だから一種の罪滅ぼしのような意味もあったが、そんなことを知るわけも無いリュウセイとラトゥーニは楽しそうな笑みを浮かべていて、武蔵は良かったと心の中で呟いていた。

 

「行きたい」

 

「そうだな、これは今度行かないとな。いや、ありがとな武蔵!」

 

「ちょいちょい! 今度それ俺にも貸してくれよ!?」

 

「私も、キョウスケも一緒に行きたいわよね?」

 

「俺は別にどちらでも、お前が行きたいのならば付き添うが」

 

悲壮感に満ちた空気が消え、穏やかな空気が広がり、武蔵も安堵の表情を浮かべたが、それは食堂に駆け込んできたエイタの叫び声で消え去った。

 

「び、ビアンッ! ビアン・ゾルダークが演説してるッ!! あ、あれって百鬼帝国なんじゃないのかッ?」

 

食堂のモニターに映っていたTVにノイズが走り、どこかの会議場が映し出された。

 

『今地球圏は様々な外敵に晒され、窮地にへと追いやられている。あのL5戦役僅か半年、世界各地で確認されている異形の化け物、月は謎の集団に占拠され、あのホワイトスターは再び異星人の手に落ちた。連邦は何1つ守る事が出来ず、そしてこれらの事を全て隠匿した。それは決して許されることではなく、そして連邦では地球を守る事が出来ない事を現している! 私ビアン・ゾルダークは今ここにDCの……いや、ノイエDCの再結成を全世界に宣言するッ!!!』

 

そして演説を行なっていたのは紛れも無くビアン・ゾルダークに見えただろう。だが武蔵達は知っている、あのビアンが偽者だと……だが百鬼帝国の事を知らない者には再びビアンが決起したように見えただろう。今日この時より、ノイエDC……いやビアンの名を騙った百鬼帝国の侵攻が始まろうとしているのだった……。

 

 

 

 

第65話 偽りの神聖十字軍 その3へ続く

 

 




次回は演説を見ている様々な陣営の話を書いて行こうと思います。その後は亡国の姫の話に入り、シャインとの再会を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


それと明日は19時までにはもう1つゲッターロボを更新したいと思っていますので、明日の更新もよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第65話 偽りの神聖十字軍 その3

第65話 偽りの神聖十字軍 その3

 

それは唐突な電波ジャックだった……全てのTV、映像端末がジャックされ無数の兵士を背後に従えたビアンの演説が始まったのだ。

 

「おいおい、これビアン・ゾルダークじゃないかッ!?」

 

「嘘でしょ!? ちょっと、これどうなってるの!?」

 

L5戦役時に連邦に協力し、そのまま姿を消したビアン・ゾルダーク――その姿が突如TVに映った事で様々な場所で混乱が広がった。

 

「殺されたって言う噂じゃ」

 

「いや逃げ回ってるんじゃないのか?」

 

連邦にとって都合の悪い真実を知ってしまったから、暗殺された、逃げ回っていると言う様々な噂が立っている中――なぜ今になってビアンがTVに映っているのか? もしや、この半年の間に何が起きていたのか? そしてL5戦役での1つの真実――武蔵という青年について何か語るのではないか? と食事をしていた手を止めてありとあらゆる者がTVに視線を向けた。

 

『L5戦役から半年――私は世界を見て回った。DCを決起し、我々は連邦に敗れた。反乱自体は決して褒められる物ではないだろう。だがしかし、地球を守りたいという意志は我々とて連邦と変わりは無く、あの恐ろしいエアロゲイターの侵略時とて、我々は立ち上がりハガネ、ヒリュウ改と共に地球を守るために戦った』

 

「放送を止めろ! これ以上喋らせるな!」

 

「だ、駄目です! 電波をとめられませんッ!!」

 

ビアンに喋らせてはいけない、一部の連邦軍高官達がやっけになって放送を止めさせようとした。だが何をしても放送を止めることは出来ず、ビアンの演説は淡々と続いた。

 

『L5戦役時に没した巴武蔵君。君達は知っているだろうか? 彼は一部の政府高官にとって知られてはいけない真実を知っていた。故に彼は連邦に追われた、しかし、しかしだ。彼は最後まで地球を守るために戦い、そして死んだ。とても勇敢で、そして見返りを求めぬ高潔な精神を持った青年だった』

 

画面が切り替わり、ゲッターロボが連邦に追われている場面、そして一方的な連邦による武蔵への脅しとも取れる警告が次々と放送される。

 

「おいおい、こんな話聞いてないぞ!?」

 

「こんな事まで言われてたなんて知らないわよッ!?」

 

ブライアン・ミッドクリッドの東京宣言。それでも武蔵の事は触れられていたが、追われていたという部分しか知られておらず、これほどまでに追われていた。そして犯罪者のように扱われていたと言うことは全く知られていなかった。

 

『全てが全て武蔵君を追った訳ではない。しかしだ……彼が犯罪者と追われたのも事実。連邦にとっては彼が戦死したのは自分達の汚点を隠す為にも都合が良かっただろう。私はその事にも大変な憤りを感じている……だがだ、私が本当に怒りを抱えているのはそこではない。地球に生きる全ての人間に尋ねたい。ブライアンミッドクリッドの行なった。東京宣言を経て、連邦政府の執ってきた施策はどうか? 一部特権に偏った巨大な官僚機構は、無為無策のまま旧世紀からの諸問題を解決せず……そして平和の為に散っていった者達を無碍にしている……そうは思わないか?』

 

L5戦役が終わった時は連日のように様々な報道が行われていた。だがそれは今では全く触れられなくなった……そう言われればと放送を見ていた者達はその言葉に賛同し始める。

 

『確かに後ろを見ていても何も変わりはしない……前に進んでいるのならばそれもまた良かろう。だが現状はどうだ? 会議と選挙工作に明け暮れ、 問題を先送りする為の立法に日々を重ねてきたに過ぎない。一部の軍人達はL5戦役での戦いを無碍にしない為に、力をつけた。伊豆基地のレイカー・ランドルフ、ラングレー基地のクレイグ・パラストルと言った者達は再び戦いに備え、戦力を整えようとしている。だがそれ以外の者達はどうだ? 自分達の利権を求め、そしてL5戦役を戦い抜いたハガネ、ヒリュウ改のクルーに対しての敵意を剥き出しにしている』

 

そこで映し出されたのは、月の駐在軍の大佐がレフィーナへの悪態を付き、そして自分で出撃を禁じておいて、被害を全てヒリュウ改、そしてレフィーナの所為にしようと企んでいる時の基地内部での話だった。

 

『これは私の意思に賛同してくれた元・連邦軍の月での駐在軍の1人が持ち帰ってくれた映像である。武蔵君、そしてハガネ、ヒリュウ改は英雄として讃えられるべきだ。しかし、しかしだ! これを見てくれれば判るように一部の者達だけが英雄視される事を妬む者達によってあらぬ罪を負わされようとしていた! こんな事が許されていいものなのか! 良いや、断じて否ッ!! 許されてはならないッ! これが、地球を守るべき存在である連邦の今のあり方だッ!』

 

「ダイテツ艦長! リーッ! これはッ……」

 

「ああ、やられた。ワシの想像以上に相手の一手はあくどい物だった……」

 

「しかし、これは余りにも不味いッ」

 

嘘を真実の中に織り交ぜ、巧みな話術と映像によってビアンに扮した鬼は連邦へのヘイトを高めた。しかも、一方的に連邦を批判するのではない、本当に地球の事を思っている軍人の名前、そしてハガネ、ヒリュウ改は違うのだと言いつつ、他の連邦軍基地は徹底して叩いていた。

 

「連邦自身も分断される」

 

「……まさかここまでの一手を打ってくるとは……ッ」

 

ハガネやヒリュウ改、そしてシロガネを冷遇していた基地司令の対応、そしてプロジェクトTDのヒューストン基地、ハワイ司令のテロリスト――テロリストへの情報の引き渡し……更には月の連邦軍基地大佐が賄賂を受け取り、マオ社への圧力をかけている事さえも公表されてしまった。

 

「これではDC戦争の再来……いや、それよりももっと酷い事にッ!」

 

「……まだだ。今回の件にはまだ1つの疑惑が残されている。それがある限りは最悪の展開は間逃れる」

 

「……疑惑それは、一体?」

 

「簡単な話だ。DCのフラグシップはクロガネだ。クロガネが無ければ、本物のビアンなのかという疑惑が僅かだが残る」

 

スペースノア級のクロガネがフラグシップであると言う事はハガネ、シロガネ同様広く認知されている。クロガネの姿もあれば、ビアンであると言う信憑性も広がるが、クロガネの有無というのは非常に大きいファクターになっている。

 

『今地球圏は様々な外敵に晒され、窮地にへと追いやられている。あのL5戦役僅か半年、世界各地で確認されている異形の化け物、月は謎の集団に占拠され、あのホワイトスターは再び異星人の手に落ちた。連邦は何1つ守る事が出来ず、そしてこれらの事を全て隠匿した。それは決して許されることではなく、そして連邦では地球を守る事が出来ない事を現している! 私ビアン・ゾルダークは今ここにDCの再建……いや、ノイエDCの再結成を全世界に宣言するッ!!!』

 

ビアンの叫びに呼応し、控えていた軍人達が敬礼を行なう。神聖十字軍の結成、そしてビアンの再び決起は凄まじい勢いで全世界へと広がった……だがダイテツの指摘した通り、本物のビアン・ゾルダークなのかという疑惑もまた同じ様に広がっていくのだった……。

 

 

 

 

地球連邦軍極東方面軍伊豆基地の司令部にもビアンが演説している姿が映し出されていた。その姿をレイカーとサカエの2人は険しい顔で見つめていた。

 

『地球、そして宇宙で確認されたこの異形の化け物――これらによって世界各地に被害が出ているという事を諸君らは知っているだろうか?』

 

モニターに映し出されているのはアインスト、そしてインベーダーという映画から出て来たような化け物というべき異形の存在だった。

 

『L5戦役の時でさえ、地球連邦は異星人の襲来と言う事実を隠蔽しようとした。そして東京宣言を行いはしたが、それでもまだ数多くの連邦にとっての不都合な事実の多くが隠されていた。この化け物達も連邦が隠す事を決めた不都合な事実の1つと言える』

 

ストーンサークルから出現したアインストとインベーダー、そして地球でも姿を確認されたアインストと対峙するハガネとヒリュウ改のクルーの姿がモニターに映し出される。

 

「どこでこんな映像を……」

 

「ハッキングされたと考えるべきかもしれんな」

 

ブライアンと連邦の上層部によって公表のタイミングを慎重に測っていた所を、先に公表されてしまった。そうなると今更公開した所で連邦の評価は下がる一方だ。

 

「レイカー司令……このビアン・ゾルダークは……」

 

「恐らく……偽物だろう」

 

ビアンとレイカーは定期的に連絡を取り合っていたし、何よりもこの映像のビアンにレイカーを違和感を抱いていた。

 

「ビアンが持っているカリスマ感が全く感じられない。映像で連邦への不信感をあおり、そして同情により人の情に訴える。こんな物はビアン・ゾルダークではない」

 

ビアンという男が持つ強烈なカリスマ性――それが映像に映っているビアンからはまるで感じられない。それになによりも映像をメインに使い、自分が演説している時間が短い。それに加えて、映像を映している最中に喋り極力姿を見せまいとしているのもかなりの不信感を抱かせる。

 

『自分達に都合の悪い情報を隠す……そんな者達に地球圏の舵取りを任せる事は、自殺行為に等しい。諸君らは為政者の捨て駒という、意味の無い死を望んでいるのか? そして、種族として根絶やしにされる惨めな結末を享受するつもりなのか?』

 

ここで再びビアンの姿が消え、荒廃した大地、破壊された居住区などの映像が映し出される。

 

「これは……ゲシュペンスト・MK-Ⅲッ! 一体どこの戦場の物だッ!?」

 

「……連邦では守れないと言う演出か……」

 

廃墟の中に倒れているゲシュペンスト・MK-Ⅲ。連邦の最新兵器が既に破壊されている……その光景を見れば連邦への不信感は更に増していく……本当に連邦で自分達を地球を守りきってくれるのか? と言う不安、そして恐怖がこの映像を見ている民間人の中に広がっただろう。そしてその直後に再びビアンの姿が映し出され、演説に力が篭もる姿が大きく映し出される。

 

『否ッ! 諸君らには生を望む意思がある筈だ。己の未来を欲している筈だ。生ある者として、今選ぶべき手段はただ1つ……』

 

このビアンの演説に不自然に多用されている数多の映像――それはビアン本人であるか? という不信感を抱かせるには十分な材料だ。だがそれ以上に連邦への不信感を煽り、そして死にたくないと言う人間の根底的な願いを刺激する事で、ビアンへの不信感はそのままにしてもビアンの言葉に耳を傾けようとと思わせる演出が繰り返される。

 

『それは人類の力と叡智を1つに集め、来るべき脅威に立ち向かう事であるッ! そして、その為には腐敗していくだけの官僚機構を排除し……強大な力の下に、多くの意思が統一されねばならないッ』

 

力強いその声には確かにその通りかもしれないと思わせるだけの説得力があった……いや正しくは連邦への不信感が高まり、ビアン・ゾルダークならば、DCならばと言う考えを抱かせるには十分な光景だった。

 

「……だが全てがお前達の思い通りになると思うなよ」

 

ここまでやられてしまえば連邦への不信感で世論は一杯になるだろう。だがこうして演説を続ければ続けるほどにビアンに扮している何者かに粗はどんどん生まれてくるだろう……それに何よりもビアンがこのまま黙っていると訳がない。それに確かに連邦に腐敗している部分が無いとは言わない。だが全てが全てそうではない……この一敗をレイカーは受け入れた。だが、このまま負けっぱなしで終わるつもりは毛頭無く、反撃の為の一手をレイカーは既に考え始めているのだった……。

 

 

 

 

 

ビアンに扮した鬼の演説は地球だけではなく、宇宙にも発信されていた。ブリーフィングルームでそれを見ていたギリアム達は神妙な雰囲気をしていたが、リューネだけでは演説を聞いて鼻で笑っていた。

 

「えっと、大丈夫なんっすか?」

 

「何が?」

 

アラドがその様子を見て、不安そうに尋ねるがリューネは逆に何をそんなに心配そうな顔をしているのさ? と笑い手にしていたスポーツドリンクのボトルを握り潰した。

 

「いや、あれ……」

 

「ああ、あれ? 全然親父に似てなくて失笑物だよ。声と顔を似せただけで親父の真似をできるとか考えているとか馬鹿丸出しだよ」

 

からからと笑うリューネ。やはり血縁関係があるから、あのビアンが偽物だと一目で見抜いていた。

 

「良く似ていると思うのだが、そんなに似ていないか?」

 

「俺もそう思うぞ?」

 

リンとギリアムがそう言うとリューネは嘘ぉ? と驚いた様子を見せた。

 

「えっとどこが違うのかな?」

 

「私も判らないんだけど?」

 

「え、本当に言ってる? いや、それなら言うけどさ、親父ってあんまり人の悪口とか言わないんだよね。こう、論破はするけど、人の考えを真っ向から否定するってことはしないんだ。それと話をしている時にこんなにまくし立てるように喋らないし……何よりもこんなに馬鹿みたいに映像とかを使わないよ。こんなんじゃ、言葉の重みがまるで無いね」

 

ビアンの演説を見た事がある人間ならば抱く不信感――DC戦争時の決起の際の演説にビアンは一切の映像を用いなかった。終始、己の言葉のみで人の心を動かして見せた。連邦の不手際の所の部分だけを抜粋して、そこを見せながら演説を行なうなんて事はしなかった。

 

「それにギリアム少佐達だって気付いてるんじゃないの?」

 

「……まぁな。一切月の事に触れていない」

 

キルモール作戦の失敗、アインストとインベーダーの事、そしてホワイトスターが制圧されたということは大々的にそれこそ、当事者のように物語っている。だがそれに対して月の内容は薄っぺらいにも程がある内容だった。

 

『謎の勢力に制圧された月から命を賭けて逃げてきた技術者達や民間人を連邦が幽閉している。それは不都合な事実を見たからに他ならないだろう、これこそが連邦の隠蔽対策の現われなのだ』

 

月から脱出した者達が見た百鬼獣を公表させない為に一時拘留しているのは事実だ。それ自体は連邦の不手際と言える、だがそれ以上に踏み込まないようにするには違和感しかなかった。

 

「確かにそうですな。これでは百鬼獣の事に触れられたくないように見えますな」

 

「人は無意識に触れられたく無い物を遠ざける。この演説にそれが如実に現れている」

 

百鬼獣の存在を隠匿したい。だから正体不明や未知の敵という事を繰り返し表現しているが、他の演説の内容と比べて明らかに薄いその内容は聞いている全ての者に僅かな違和感を不信感を与えただろう。

 

「ま、馬鹿をやるし、5徹とか6徹とかやってハイになって踊ってたりする馬鹿な親父でも私に取っては大事な親父なんだよ。親父の姿を

利用してくれた落とし前はキッチリ付けさせてやるよ」

 

口元に笑みを浮かべているが、その目は全く笑っておらず、ビアンに扮した何者かに強い敵意をみせるリューネ。

 

「やべえ、めっちゃ切れてるんじゃ?」

 

「それはそうよアラド。誰だって自分の父親を利用されて、宣戦布告されて面白い訳がないわよ」

 

「ですよねー離れとこ……」

 

全身から怒りのオーラらしきものが出ているリューネに近づく者はおらず。徐々にリューネから距離を取っている者が増えてきた、それだけリューネの怒りが深くなっていると言う証拠だ。

 

「ハガネとシロガネのほうは何か分かりましたか?」

 

「今レフィーナ艦長が地上と連絡を取っているから、そろそろ何か判ると思うわよ」

 

「大丈夫かな……リュウセイ君達」

 

地上の連邦軍が敗走したと言うのは演説で聞いていた。だからこそ、ハガネとシロガネの安否がリョウト達の不安要素だった。

 

「今、地上のテツヤ大尉から連絡がありました。ハガネとシロガネは無事だそうです。武蔵さんが合流してくれた事で無事だそうです」

 

武蔵がハガネとシロガネと合流している。それは暗いニュースばかりが続く今の中で嬉しい1つのニュースだった。

 

「本当ですか、レフィーナ中佐」

 

「ええ、色々と話を聞けた上にこのままハガネとシロガネと行動を共にしてくれるそうなので、ハガネとシロガネに関しては心配ありません。問題は我々の方です」

 

「やはり状況は悪いのかしら?」

 

「はい。この決起によって統合軍の生き残りがその動きを激しくしています。予定していた進路でのハガネとシロガネとの合流は困難になると見て間違いありません、よって我々は北米、ラングレー基地へ降下し、そこからテスラ研を経由し、アビアノ基地を目指します」

 

予定していた進路を取る事は不可能になりつつあるとレフィーナは固い表情を浮かべながら告げ、ラングレー基地を目指すとギリアム達に説明した。

 

「統合軍の生き残りの襲撃を受ける可能性もあります。皆さんには申し訳無いですが、格納庫で機体に乗って待機していてください。リン社長達は「乗りかかった船だ。私達も出撃する」……すいません、ご迷惑をお掛けします。それでは本艦はラングレーを目指し、進路を取ります」

 

リン達の協力を得てヒリュウ改はラングレーを目指す、しかしそこでは想像にもしない敵が待ち構えているのだった……。

 

 

 

 

パリの連邦政府・大統領府の一室でブライはブライアンと共にビアンの演説に耳を傾けていた。

 

『今、この世界に必要な物はイージスの盾ではなく、ハルパーの鎌である! 我らの意思に賛同する者はノイエDCに来たれッ! 己の力を欲望ではなく、 人類と地球の未来のために使う者であれば、私は何人であろうと拒みはしない!』

 

演説も終盤に差し掛かりビアン……ではなく五本鬼の演説にも熱が篭もるが、それに反してブライの視線は冷たい物となっていた。

 

(演技力は認めていたが、あの程度か……)

 

10人用意したビアン役の鬼の中で最も秀でた才能を見せたのが五本鬼だったが、ブライから見てもビアン・ゾルダークという個人にどれだけ似せる事が出来ているかと言うと6割ほどだ。しかもブライの用意した台本をアレンジしろと命じていたが、その内容は殆どブライの考えた物のままだったのだが、余計にブライの機嫌を損ねていた。

 

『心ある者達よ、 新たな聖十字軍の旗の下に集えッ! そして、我らの手で自らの自由と未来を勝ち取るのだッ!』

 

その言葉を最後に電波ジャックは納まり、ノイズの混じった黒い画面へと戻る。それをブライアンとブライは無言で見つめ続けていた……ブライもまた驚いたと言う表情を演技していたが、予想に反してブライアンの対応は落ち着き払っていて冷静そのものだった。

 

「ブライ議員、君はこの演説を見てどう思う?」

 

「由々しき自体ですな、連邦に対する不信感を煽られ、そして政府に対する反感感情も大きく広がりました。これでは統合軍の生き残りや、DCの残党、そして反連邦勢力が一斉に動き出すことになり、連邦軍は非常に劣勢に追い込まれると……」

 

「いやいや、そうじゃないよ。僕が尋ねているのは、何で君が怒っていたのか? ってことさ」

 

柔和な笑みを浮かべているブライアンだが、その視線はブライを射抜かんばかりに見つめていた。

 

(この男……昼行灯のような態度をしておいて……)

 

その目にはブライを警戒するような光が宿っていた。ここでブライには2つの選択肢があった、1つはここでブライアンを殺し、配下の鬼にすり替える、そしてもう1つは誤魔化すと言う選択肢……少し思案顔になり、ブライはブライアンの質問に返事を返した。

 

「必死に戦った連邦軍兵士を罵倒したビアン・ゾルダークに怒りを覚えておりました」

 

百鬼帝国大帝のブライとしてではない、連邦議員のブライとしての返事を返した。

 

「そうかい、確かにそうだね、僕も腹立たしいと思っているよ。確かに連邦にとって不都合な事実を隠匿したのは間違いない、だがそこばかりを指摘し、自分が正しいと言い続けるのはね。しかし、不思議だね……ビアン・ゾルダークはあんな演説をするような男ではない筈なんだけど……」

 

そこで言葉を切り、再びブライを見つめるブライアン。その瞳にはブライが嘘を言っているのが判っているぞと言わんばかりの光が宿っていた。

 

「あのビアン・ゾルダークは偽物だと?」

 

「そうだね。整形しているとか色々と考えられるけど……ビアン・ゾルダーク本人という可能性も捨て切れない。なんせ演説のタイミングが良すぎたからね。これから連邦はどんどん苦しくなるだろう……勿論僕もだけどね」

 

ブライが踏み込むとブライアンははぐらかす。ブライは内心の怒りを堪えながら、それでも笑みを浮かべる。

 

「しかし、 連邦軍が本格的な反攻に出れば、連邦が負ける事など無いでしょう?」

 

「いやいやあそこまでの大見得を切ったんだ。ジョーカーの1枚や2枚、用意していそうだね。それにビアンが言わなかった百鬼獣の事も気掛かりな点だよ」

 

その言葉にブライは眉を細めた、新西暦で百鬼帝国の存在を知るものはいない。だからこそ、五本鬼に渡した台本には百鬼帝国、そして百鬼獣に触れる文面もあったし、資料もあった。だが五本鬼はそれを流すことを躊躇った……それがブライアンに不信感を抱かせることに繋がった。

 

「それは「今のノイエDCに話し合いは通じないだろう……だけどいずれビアンは振り上げた拳の下ろし所を見極める事になる」

 

ブライの言葉を遮り、自分の考えを口にするブライアン。それは自分で話を振っておいて、これ以上ブライの話を聞くつもりはないと言う一種の挑発染みた行動だった。

 

「……」

 

「それまでは我々は混乱を最小限に食い止める努力をするしかない。最も混乱の継続を望む者もいるようだけどね……ブライ議員、本当はもう少し話をしたかったけど、これからの対策を考える必要もある。今日の所は退室してくれるかな?」

 

「……はい、判りました」

 

ブライアンの言葉に頷き、ブライは退室したがその胸の内は怒りに煮えくり返っていた。人間如きに、侮られた。挑発されたと言う事がブライを苛ただせた。額に青筋を浮かべ外で待っていた車に乗り込むと、ブライは端末を取り出した。

 

「朱王鬼と玄王鬼にインスペクターに接触するように命じろ」

 

2人の報告ではマオ社のプラントは使えないが、それでもムーンクレイドルは使用可能段階になったと聞いていた。本当はマオ社のラインを復活させてからと思っていたが、それでは計画に遅れが出る。早い段階でインスペクターと協力体制を取り、自分の頼みを聞いて貰えるように状況を調えておく必要があるとブライは判断したのだ。

 

「共行王にも頼んでくれ、早い段階でブラックゲッターをサルベージする」

 

新しい身体に慣れるまでは動きたくないと言っていた共行王だが、五本鬼の演説のせいでシナリオをいくつも修正する必要があり、ブライは苛ただしげに指示を飛ばし続ける。

 

「随分とお怒りのようですね。ブライ大帝」

 

「お、お怒りのようですね」

 

運転席と助手席から掛けられた声にブライは通信機の電源を切り、運転手をにらみつけた。

 

「……コーウェン、スティンガー……お前ら、私の運転手をどうした?」

 

そこにいたのは自分の配下の鬼ではなく、コーウェンとスティンガーの2人だった。なぜここにいると思いながらも、2人の存在によってブライは頭に上っていた血が僅かに下がり、冷静さを取り戻していた。

 

「運転手? そんなのいたかな?」

 

「い、いなかったと思うよ?」

 

声を揃えて笑う2人にブライは眉を吊り上げたまま2人に怒りを向けた。

 

「なんだ、あのゲッターロボは、私はあんな物を聞いていないぞ」

 

「それは申し訳無い。我々も知らないゲッターロボなんです」

 

「まさか武蔵が生きていて、あんなゲッターロボを持ち出すなんて想像もしておりませんでした」

 

「ふん、どうだかな、それよりもお前達がこうして出てきたということは何かあるのだろう? 回りくどい真似は嫌いだ。用件をさっさと言え」

 

ブライの言葉に2人は耳元まで裂けた獰猛な笑みを浮かべる。

 

「ふふ、焦ると損をしますよ。このままゆっくりドライブでもしながら話をしましょう」

 

「そ、そんはさせませんよ!」

 

「なら走らせろ。ブライアンに見られたら面倒だ」

 

ゆっくりと走り出す車の窓からブライはブライアンの部屋に視線を向ける。窓際に立って自分を見下しているブライアンの姿を見て、人間の中では警戒するべき相手だと認識を改め、機会があればブライアンを殺す事を決めるのだった……。

 

 

 

 

 

 

地球で様々な騒動が生まれている頃。ホワイトスターの居住区で資料に目を通しているウェンドロは飽きれた様に溜め息を吐いていた。

 

「元老院も老いたね、全く役に立たないじゃないか」

 

ゲッターロボとの交戦禁止ばかりと通達してくる元老院にウェンドロは失望を感じさせる表情を浮かべ、その書類をシュレッダーに掛けて全て処分する。

 

「ウェンドロ様。本日の作業報告です」

 

「うん、目を通させてもらうよ。メキボス」

 

インベーダーとの戦いでグレイターキン等はほぼ大破、現在は修理中だがただ修理するだけでは二の舞になると強化も施しているので作業は思ったよりも進んでいない。

 

「機体の修理は上手く行っていないみたいだね」

 

「予備パーツ等はありますが、今のままでは意味がないと考えています」

 

「そうだね、その通りだよ、インベーダーとゲッターロボと戦えるだけの強化は必要だね」

 

メキボスの話を聞きながらウェンドロは作業報告書に目を通し終え、書類の束を机の上に乗せる。

 

 

「ヴィガジはどうしてる?」

 

「大人しく謹慎しておりますが、呼びますか?」

 

「いや、今はまだ良いよ。もう少し大人しくしていて貰おうと思ってるしね、変わりにネビーイームの修理をしてるアギーハを呼んで欲しい」

 

ヴィガジではなくアギーハを呼んでくれというウェンドロの言葉にメキボスが通信機の電源を入れ、暫くするとアギーハがウェンドロの執務室に姿を見せる。

 

「それじゃ、現状報告を聞こうか。今はどうなっているんだい?」

 

「既に空間転移装置の設置は終了し……現在はこのネビーイーム内の改修作業を行っております」

 

ウェンドロの言葉にアギーハが深く頭を下げたまま、ウェンドロがやって来るまでに出来た内容の報告を行なう。

 

「ネビーイームは使えそうかい?」

 

「我々の拠点としては。 しかしプラントは完全に破壊されており、修復不可能です。しかも一部区画はゲッター線に汚染されており、近づくのは危険かと……」

 

プラントしての価値は無く、しかもゲッター線に汚染されていると聞いてウェンドロの柔和な笑みが崩れ、怒りの表情が一瞬浮かんだが、すぐにまた口元に笑みを浮かべた。

 

「ゲッターロボが主軸になっていたのだからそれはしょうがないね。早々にスカルヘッドを奪取出来ただけで良しとしよう。流石だよ、良くやってくれたね。アギーハ」

 

ネビーイームのプラントとしての機能が死んでいても、それでも拠点を手にしただけで意味がある。それにアギーハとシカログが奪取したスカルヘッドがあれば当面は問題はないだろうとしつつも、ウェンドロはそれだけでは満足していなかった。

 

「だが、他のプラントも欲しい。スカルヘッドだけじゃ後々が不安だからね。月にある地球人のプラント、あれを確保してきてくれるかい? メキボス」

 

月のマオ社そしてムーンクレイドルを奪取に向かえとウェンドロが指示を出すと、メキボスが顔を上げた。

 

「それに関してなのですが、既に地球人からある組織が強奪しております」

 

「へえ? 僕達の他に侵略者がいたのかい? でもそれは関係ないね、そいつらから「彼らはダヴィーンの使者と名乗りました」

 

ウェンドロの言葉をメキボスが遮り、ダヴィーンの使者と名乗ったとメキボスが言うと、ウェンドロは目を大きく見開いた。

 

「冗談だろう? ダヴィーンは何百年も前に滅んでいる筈だ。ダヴィーンを騙っているだけじゃないのかい?」

 

「いえ。ダヴィーンの言葉でのメッセージがありましたので、ダヴィーンの生き残りという可能性は極めて高いかと」

 

「……やれやれ、面倒なことになってきたなあ」

 

既にダヴィーンは滅んでいる、だがかつてはゾヴォークの中でも上から数えた方が早い程に優遇されていた星だ。昆虫型の異星人でありながらその技術力と戦闘力は高く、一時期のゾヴォークの防衛網にも加わっていた戦闘集団でもある。

 

「それでダヴィーンの使者はなんて?」

 

「話をしたいと、その内容によっては月の設備を我々に譲り渡しても良いと、ウェンドロ様がおられなかったので保留にしております」

 

「OK、判ったよ。ダヴィーンの使者に対しては僕が対応する、返答をしてくれるかい? アギーハとシカログは会合の準備を相手はゲストだ。丁寧に扱うんだよ」

 

「「「了解です」」」

 

ウェンドロの指示に頷き散っていくメキボス、アギーハ、シカログの3人をウェンドロは冷めた目で見送り、口元に嗜虐的な笑みを浮かべホワイトスターの奥へと歩みを進めるのだった……。

 

 

第66話 亡国の姫君 その1へと続く

 

 




ゲーム中では何時の間にかハゲに制圧されていたラングレーですが、今回はオリジナルシナリオでラングレーでの戦いも書いてみようと思います。そして次回はシャイン王女の話を書いて行こうと思います。武蔵ガチの王女様とエンカウントしたポンコツ隊長と記憶喪失のエキドナさんとかもそろそろ書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第66話 亡国の姫君 その1

第66話 亡国の姫君 その1

 

崩壊したネビーイームの一角に紅蓮に燃える不死鳥が着陸する。その炎は徐々に収まり、真紅に輝く装甲を持つ百鬼獣「朱王鬼」がその姿を現し、朱王鬼と玄王鬼の2人が銃を装備したバイオロイドに囲まれながら格納庫に降り立った。

 

「思ったより早く会談に応じてくれて良かったよ。インスペクター……いや、こう呼ぼうかな? ウォルガの皆様と」

 

朱王鬼の言葉にバイオロイド達の返答は銃を向ける事であり、その場にいた唯一の人間メキボスはその顔を顰めた。

 

「……お前ら、ダヴィーンを騙ったのか? 貴様らは何者だ。ゾガルか」

 

音声通信だけだったので、メキボスも朱王鬼と玄王鬼を見るのは初めてだった。名前も知らず、ダヴィーンの使者という言葉だけしか聞いておらず、会談要請に応じはしたが……昆虫型の異星人であるダヴィーン人とは似ても似つかない2人に警戒心を強めるのは当然の事だった。

 

「ゾガル? ああ、ゼゼーナンだね。大帝様が怒っていらっしゃったね、小僧如きが大帝様に害なそうなんて1000年早い。そうだろ? 玄」

 

「うむ。力量差も判らず襲ってきたのは愚か者としか言いようがないのう……」

 

ゾガルと聞いてゼゼーナンの名前を朱王鬼達は出した。ゾガルの中でも鷹派として有名なその男の名前を出した事にメキボスはゾヴォークの反逆者なのか、それとも本当にダヴィーンの生き残りなのかが判らなくなっていた。

 

「……ゼゼーナンの味方ではないのか」

 

「冗談きついね、向こうの対応次第では大帝様は協力なされたさ。だが屈服しろ、従えなんて分不相応な命令を僕達が受け入れる訳が無い」

 

「俺達もそうしろと言ったら?」

 

朱王鬼の言葉を遮り、高圧的な雰囲気をメキボスが出した瞬間。玄王鬼の角が妖しく輝き、朱王鬼がその場に膝を付いた。

 

『ワシが話をしてやろうと言っておるのだよ。ウォルガ』

 

玄王鬼が白目剥いたまま顔を上げると、朱王鬼と玄王鬼を取り囲んでいたバイオロイドが動き出し、メキボスにその銃口を向けた。

 

「……何をした」

 

『何簡単な事だよ、バイオロイド兵の原型技術はダヴィーンの物だ。どれほど改良されても、基本的な部分は変わらない。そしてウォルガやゾヴォークが盟約を反故にした時に備え、思念波でコントロールを奪えるように保険を仕込んでおいたのだ。まぁ、ゲッターロボに滅ぼされ、それを使う機会はなかったが、備えは決して無駄ではなかったという事だよ。判るかね?』

 

「……親切に解説してくれてありがとうよ」

 

今ネビーイームに居る人員はメキボス、アギーハ、シカログ、謹慎中のヴィガジ、そしてウェンドロの5人。それに対してバイオロイドは1万近い……如何に雑兵とは言え、5対1万という戦力差は覆せるものではない。機動兵器に乗り込む前に殺されるのが落ちだ。

 

『何気にしてくれるな。ワシはゾガルとゼゼーナンとか言う小僧は好きでは無いが、ウォルガには今の所何も思うことはない、友好的な関係を築ける事を願っているよ』

 

「友好的というのならば、生身で来てくれればいいじゃないか。歓迎したのに」

 

玄王鬼の身体を借りて喋っているブライに向かってウェンドロがそう声を掛けた。

 

『すまないね、ワシも忙しい身でね。それに礼を持ってゼゼーナンに会いに行けば殺されかけたんだ。2度目は慎重になると言うものだ、ダヴィーンの人間で最も重要なのはその角と脳味噌……それだけあればその英知は使い放題なのだからね』

 

ブライが鬼になった際も死に掛けていたダヴィーン人の脳を使った制御ユニットから、角と脳味噌を手に入れて変化した。それ故にその価値を知る存在の前に姿を現すことを避けたのだ。

 

「やれやれ、ゾガルの連中は乱暴だね。だけど、僕は違うよ」

 

『それはこれから見極めるとしよう。では改めて、ワシはブライと言う。お前の名は?』

 

「ウェンドロ・ボルクェーデだ。改めて歓迎しよう、ダヴィーンの使者 ブライ」

 

ウェンドロとブライの間には重苦しい空気が満ちており、その光景を間近で見ていたメキボスは心の中で狸と狸の騙しあいだなと呟き、その光景を見つめていた。下手に割り込めば、下手に声をかければ己が危ないと本能的に察していたからだ。

 

「では有意義な話し合いをしよう。お茶? それとも酒かな?」

 

『ふむ。見ての通りワシは今玄王鬼に身体を借りている状況だ。これでは味も何も判りはしない……適当にお茶でも貰おう。朱王鬼が好きなのでね』

 

「……自分の好みではなく、部下の好みを優先するのかい?」

 

『上に立つ者にとって配下は皆所有物だよ。ウェンドロ、手駒が気持ちよく働いてくれるくらいの労いや褒賞は当然だ』

 

平伏している朱王鬼はメキボスから見てもブライに心酔しているように見えた。そして己の身体を何のためらいも無く差し出した玄王鬼も同じく同じだ。この場にはいないが、ブライという男の圧倒的なカリスマを朱王鬼と玄王鬼を通じてメキボスは感じていた。

 

「なるほど1つ勉強になったよ」

 

『それは何より、ではこれからは有意義な話し合いをしようじゃないか、ウェンドロ。何、ワシの頼みはそう難しい物じゃない。それに君たちにも益はある、これはビジネスと言っても良いだろうね』

 

「へえ? 僕にも得があるって?」

 

『その通りだよ、まぁ詳しくは邪魔者が入らないワシとお前の2人だけの場所で話をするとしよう』

 

「良いよ、そうしようじゃないか。メキボス、アギーハに飲み物とかの準備をするように伝えてくれ、会談の場所には僕が案内しよう」

 

「……判りました。すぐに準備をして向かいます」

 

朱王鬼を連れ、ウェンドロとブライが歩いて行くのを見送りながらメキボスは眉を細めた。どちらも悪党……いや、悪党としての具合はブライの方が遥かに上だ。下手をすればブライは枢密院の連中よりも厄介な存在だとメキボスは感じているのだった……。

 

 

 

ハガネの格納庫に特設された剣道場――そこで武蔵とブリットがそれぞれ木刀構えて向かい合っていた。ハガネとシロガネの進路方針が決まるまでは動きようが無く、補給や修理が終わるまでは偵察に出る事も出来ない。そんな中でブリットが武蔵に鍛錬の相手をしてくれないか? と声を掛けたのが、2人の試合の切っ掛けだった。

 

「ッ!」

 

武蔵が足踏みするとブリットは後に数歩下がる。ブリットが正眼に構えているのに対して、武蔵は片手で木刀を持ち、その切っ先を床に向けている。

 

「なぁ? なんでブリットの奴は逃げたんだ? あの位置からならブリットの方が攻撃しやすいんじゃないのか?」

 

剣道等の心得が無いリュウセイは隣で見ていたライとラトゥーニに向かってそう尋ねる。

 

「確かに正眼で構えているブリットの方が攻撃に入るのは早いだろう。だがそれは誘いだ」

 

「下手に打ち込めば下から弾かれて、胴を打たれる……それか武蔵の性格なら、片腕でブルックリン少尉の一撃を受け止めて反撃で仕留めると思うよ」

 

「そ、そういうもんなのか……俺には全然わからねえよ」

 

下に構えられた木刀を振り上げる前に打ち込めるとリュウセイは思っていたのだが、そうではないと説明を受けてもリュウセイにはその内容を半分も理解出来なかった。

 

「そんな事を言ってないで、よく見ておけリュウセイ。俺の予想が正しければ……これから武蔵が見せる剣術はSRXに役立つぞ」

 

カイがリュウセイにそう声を掛けたと同時にブリットは無言ですり足で近づいてくる武蔵に追詰められ、逃げ道を完全に失っていた。

 

「っ!」

 

これ以上下がれず、目の前には武蔵がいる。しかも武蔵の構えから横を抜けるというのも不可能……ブリットは歯を食いしばり、一撃貰う覚悟で木刀を上段に振りかぶる。その瞬間微動だにもしなかった武蔵が木刀を振り上げ、ブリットと同様に上段から木刀を振り下ろした。

 

「ぐっ!?」

 

ブリットはその一撃を耐える事が出来ず、木刀を取り落とし肩を打ち据えられ苦悶の声を上げた。

 

「どうした、もう終わりか?」

 

「いいや、まだだ」

 

木刀を拾い上げ、再び構えるブリット。上段が駄目ならばと今度はフェイントを交えての横薙ぎ……当たるとリュウセイの目には見えたが、弾け跳んでいたのはブリットの木刀だった。

 

「え? なんで?」

 

武蔵の方が動きが一拍遅れている。それなのになんでブリットの木刀が弾かれているのかリュウセイには理解出来なかった。

 

「あれは……ゼンガー少佐の剣とは真逆の物ですね? カイ少佐」

 

「ああ。相手を追詰めて、十分な加速、踏み込みを得られない状況に追い込む。苦し紛れの一撃は力を込めて待ち構えていた武蔵には届かない。しかもだ、ブリットの肩や足の動きを見て、攻撃に転じる一瞬の隙を突いてる。ゼンガーならまだしも、ブリットでは突破できんだろうな」

 

剣という物は振るうのにある程度の距離と間合いを必要とする。そしてそれは手にしている獲物の長さに応じて微妙な差異が生まれる……無論達人と言われる人間ならば工夫し、ここまで間合いを詰められても対応する術を持っているだろう。だがそれをブリットに求めるのは酷と言う物だった……。

 

「SRXは鈍重だから、素早く切り込むって言うのは難しいと思う。相手の動きを観察して相手の攻撃に合わせて打ち込むって事だと思う」

 

「向いてるって事か……」

 

カイ達の解説を聞きながらリュウセイは武蔵とブリットの打ち合いを見つめ、ついに木刀の耐久値が限界になり砕け散ると同時にブリットは膝を付いた。

 

「はぁ……はぁ……あ、ありがとう……勉強に……なった」

 

「そうか。そいつは良かった、オイラも色々考えて、今回のを試してみたけど、いい感じだったよ。ありがとな、ブリット」

 

「……実験だったのか?」

 

「いやさ、ウォーダンと戦った時に距離を開けられると、凄い勢いで斬り込まれて吹っ飛ばされてな。距離を取ると不味いって思って、オイラなりに考えてみたのさ」

 

思いつきの剣術で封殺されたとブリットはショックを受けたが、それはある意味当然とも言える。武蔵の場合は基本的に生死を賭けた戦いをしていた、それが旧西暦、平行世界でより磨かれ、今まで以上に動物的勘が磨かれたからこそのこの反撃術だった。

 

「うーんでも、まだまだだなあ……多分ゼンガーさんならこの程度じゃ跳ね返してくるだろうし……もっと早くあの状況に追い込まないことには……状況は不利なままだし……ブリットまた今度組み手を頼むよ」

 

「あ、ああ……任せてくれ、俺も勉強になる」

 

しゃがみこんであーだこーだと今回の反省会をしているブリットと武蔵。その姿を見て、カイは正直驚いていた。

 

「思い付きだったのか……日本刀と剣道の胴をしているから剣術の心はあると思っていたんだが……」

 

「殆ど本能って事ですか……末恐ろしいですね」

 

剣術の心があったのではなく、相手に合わせて即興で考えただけだと言う武蔵。その闘争本能と思いつきを形にする運動神経の高さにカイ達は武蔵の評価を改めていた。

 

「さっきの録画してあるから、これでモーションデータを考えてみる?」

 

「お、流石ラトゥー二だな! おーい、武蔵、ブリット! 俺達も混ぜてくれよ」

 

リュウセイとラトゥーニも武蔵とブリットの話し合いに参加し、対斬艦刀のモーションデータの開発を4人で話し合いながら始め、ライもその中に加わり、5人で話し合う姿を見ながらカイは目を細めていた。その光景はかつての教導隊での自分達を思いださせて、カイは懐かしそうに目を細めるのだった……。

 

 

 

武蔵達が格納庫で鍛錬をしている頃。キョウスケとエクセレンの2人はキョウスケの私室でアインストについての話をしていた。

 

「アルフィミィなんだけど、キョウスケの方にも来たんでしょ?」

 

「ああ、ケルハム基地でアインストが襲ってきた時にな」

 

「どんな感じだった?」

 

「殺しても生き返るから大丈夫とか言ってたな……」

 

アルフィミィがキョウスケに言っていた言葉を聞いて、エクセレンはドン引きした顔をしていた。

 

「え? なに、あの子、サイコパスなの?」

 

「判らんが、俺達とは根底から考え方が異なるのは間違いないな」

 

生き返るから大丈夫、痛いのは一瞬だと繰り返し言っていたアルフィミィは通常の感性をしているキョウスケとエクセレンには到底受け入れられる物ではなかった。

 

「リュウセイが凄いはっきり声を聞いたみたいなんだけど……そっちは?」

 

「ブリットがぼんやりと声を聞いているが……それまでだ」

 

アインストの声を聞いたリュウセイとブリットの共通点は念動力――だが、キョウスケとエクセレンには念動力はない。示し合わしたわけでは無いが、2人とも再度検査を受けて、念動力が無いのは調べがついていた。

 

「なんで私達にだけ最初は聞こえたのかしらね? 判らないわ」

 

「判らないのはそれだけではないぞ……あいつは俺の事を知っていた。お前の方もそうだったんじゃないのか?」

 

エクセレンが言わないでおこうと思っていた事をキョウスケに言われ、エクセレンは一瞬肩を竦めたが、すぐに笑みを浮かべた。

 

「わお、ご名答。 私の事も知ってる口ぶりだったのよね、しかも私、あの子の事親戚とか、妹とかそんな風に思って無条件に信じちゃいそうだったのよ……どうしてかしら?」

 

「……それは俺も同じだ。お前に似ていると感じて、敵だと思っていても今一攻め切れなかった」

 

ゲシュペンスト・MKーⅢがキョウスケに追従していないのも事実だが、それ以上にあの時攻め切れなかったのはアルフィミィとエクセレンの雰囲気が良く似ていたからだ。エクセレンは姉妹や血縁に感じる奇妙な親愛を抱き、キョウスケはエクセレンに似ていると感じていた。

 

「ちなみにキョウスケはなんて考えてる?」

 

「俺の前世と関係があるんじゃないかとイルム中尉達は言っていたな。オカルト染みているが……武蔵の事を考えると」

 

「ありえない話じゃないのよね……」

 

旧西暦の住人が新西暦にいる段階でオカルト染みている。それにラドラと言う元恐竜帝国の指揮官が人間に転生している事を考えると、前世というのもあながち間違いではないと思えてしまう。

 

「どちらにせよ、私達が感じたあの感じが謎を解くカギである気もするのよね」

 

「もしくは武蔵とゲッターロボだな、いや両方かもしれん」

 

キョウスケとエクセレン、そしてアインスト達が求めるゲッター線……それらがアルフィミィの目的を知る大きな手掛かりになるとキョウスケは感じていた。

 

「宇宙であの子はゲッターロボを進化の使徒って呼んでたわ。自分を後継者にって」

 

「ゼンガー隊長達の機体を紛い物の進化の光と呼び、ゲッターVは進化の光と呼んでいたな」

 

アインスト――いや、アルフィミィが求める進化の光、それがゲッター線であることは間違いないだろう。

 

「武蔵は何かを隠しているのかしら?」

 

「……もしくは今は言えないと言う所だろう」

 

「私達ってそんなに頼りないのかしら?」

 

武蔵はアインストに関して何かを知っている……だがそれを口にしようとしない。それをエクセレンは自分達が頼りないから? と肩を落として小さく呟いた。

 

「そう後ろ向きに考えるな、エクセレン」

 

「でも……キョウスケも気づいているんでしょ? 武蔵が何故かキョウスケを警戒してるって」

 

エクセレンの言葉にキョウスケは眉を細めた。武蔵と再会してから武蔵は微妙にキョウスケから距離を取っている、観察するような気配があるのもキョウスケは感じていた。

 

「何かあるのだろう。だが武蔵は俺達を助けてくれた。なら……俺は武蔵が話してくれるのを待つ、いや、話しても大丈夫なのだと思われるようになるしかないだろう」

 

武蔵が言わないということはキョウスケ達では対処しきれないと武蔵は思っているのかもしれない。事実L5戦役では武蔵に頼りきりだった部分もあった。だからこそ今度は武蔵が自分達を頼ってくれるように、もっと力をつけるとキョウスケはぐっと拳を握り締めた。

 

「そうね……きっと武蔵もそうなれば、私達に話してくれるわね」

 

少し不安そうに笑うエクセレンに大丈夫だと声を掛け、ベッドに腰掛けているエクセレンの肩に腕を回すキョウスケ。

 

「不安なら、ここで言っておけ。お前が気弱だと皆心配するからな」

 

「……キョウスケの前なら良いんだ?」

 

「ああ、良いぞ」

 

からかうようなエクセレンの言葉にキョウスケが返事を返してくれた事にエクセレンは驚き、キョウスケの肩に頭を預けて、口を開いた。

 

「私とキョウスケの共通点……あの士官学校の時のシャトル墜落事故……とか私は思ってるの」

 

「……あれか。俺ととお前しか助からなかった……あの事故……だが、アインストと何か関係があるとは思えんな」

 

エクセレンが抱えている不安を知りつつ、キョウスケは敢えて違うだろうと口にした。キョウスケはあの事故で誰も知らない1つの事実を知っている……だがキョウスケはそれを死ぬまで、もしくはエクセレンが思い出すまで口にするつもりはなかった。

 

「個人的には、あれが怪しいかな……とは思うんだけどね、ねえ? キョウスケはどうおもう?」

 

探るような視線を向けられ、キョウスケは無言でエクセレンの肩を強く抱いた。

 

「大丈夫だ。それにどうせあいつはまた俺達の前に現れる。ならその時に直接訊いてみればいい、大丈夫だ。何も不安に思う事はない」

 

「……なにそれ、それ普通私が言うことよね? 楽観的な事って」

 

「偶には俺が言っても良いだろ? 大丈夫だ。エクセレン、俺がいる」

 

繰り返し大丈夫だというキョウスケにエクセレンは小さく微笑んで、キョウスケの肩に頭を預けたまま目を閉じた。小さく震えているエクセレンの手を握り、キョウスケは何も言わずエクセレンと同じ様に目を閉じる。誰にも言えない不安を抱えた者同士……それを共感できる相手の体温はとても心地よく、互いに何も言わない静かな時間を2人は過ごすのだった……。

 

 

 

キルモール作戦、デザートスコール作戦の両方が失敗し、連邦軍は次々と撤退し、アビアノを目指している頃……リクセント公国は完全にノイエDCに占拠されてしまっていた。完全中立国ではあるが、そんなことはノイエDC――いや、百鬼帝国には関係が無く、城周辺はライノセラスを初めとした陸上戦艦に加え、ランドグリーズ、アーマリオンの部隊に陸・空中の全てを制圧されていた。

 

「やれやれ、あの時に成功していればこんな手間は無かったんですけどね」

 

シャインを百鬼帝国の兵士にすり替える作戦が成功していればとぼやきながら、アーチボルドは城の中を観察しながら歩いていた。

 

「……少佐、 城内の制圧と近衛部隊の武装解除が終了しました」

 

「おや、思ったより早かったですね。ご苦労様です」

 

共に制圧活動をしていた兵士……百鬼帝国の兵士から距離を取りながら報告をしてくる艦長にアーチボルドは少し呆れていた。ノイエDCと言う名目を掲げ大量の兵士を集めたが、百鬼帝国に嫌悪感を抱く者は少なくない。だがそれはアーチボルドにしては愚かとしか言いようが無かった。強い後ろ盾があれば、それに越した事はない。自分の好みで嫌悪感を抱くなんて愚か者にすることだと嘲笑っていたのだが……その背中に固い物を押し付けられ、両手を上げた。

 

「おい、アーチボルド。余り好き勝手をするなよ」

 

「判ってます、判ってますよ。だからその物騒な物はどけてくれませんかねえ? 三角鬼さん」

 

三角鬼の言葉にアーチボルドは出立前のアースクレイドルでのやり取りを思い出し、深く深く溜め息を吐いた。中立国の襲撃と占拠に向かうとして、アーチボルドは最初命令に従うゼオラ、そしてゼオラのために自分に従うしかないオウカ。ユウキとカーラの4人を連れて行くつもりが、それに龍王鬼がストップを掛けた。

 

『占拠に向かうならそんなに頭数はいらねえだろうが、三角鬼を貸してやる。言っとくが、必要以上に被害を出すなよ。戦う力も無い奴を殺すもの駄目だ。俺が言いたいことは判るよな?』

 

完全な監視体制によってアーチボルドは自分の趣味である虐殺等も出来ず、下手をすれば自分が三角鬼に殺されるかもしれないと言う状況で強いストレスを感じながら任務に当たっていた。

 

「それで今の連邦軍の状況は?」

 

「ヴィンデル隊に破れ、アビアノ方面へ撤退中です」

 

その言葉を聞いてアーチボルドは内心落胆を隠せなかった。これで連邦軍が近くにいれば、出撃する名目も出来たのだ。負けていると判ればすぐ撤退する連邦軍に内心にもう少し抵抗しろと思ったのは当然の事だろう。

 

「余計な戦力の消耗も無い、撤退するのならば追わなければいい。我々の任務はこのリクセントを完全な形で、破壊や殺戮無く占拠する事だ」

 

「はいはい、判ってますよ。では君はクレイドルへ報告してください、リクセント公国の占拠は完了したとね」

 

アーチボルドの言葉に助かったと言わんばかりに敬礼して去っていく兵士を見送り、百鬼帝国の兵士――それも三角鬼と似た気質で龍王鬼に心酔している3人の兵士に簡易的に拘束されているジョイスに視線を向けた。

 

「……という訳で、しばらくバカンスを楽しませて貰いますよ、ルダール卿」

 

「貴公らは、1度ならず2度までも我が国を……ッ!」

 

ここに三角鬼がいなければ殴り倒していたのにと思うほどに敵意を向き出しにするジョイスに向かってアーチボルドは言葉を続ける。

 

「すみませんね。この国は今回の作戦にとって位置的に都合が良い物でして」

 

「国民の安全は保障して貰えるのでしょうな?」

 

降伏したのだから身の安全は保障してくれるのかというジョイス。その顔を見て、抑えきれない嗜虐心を顔に出し、アーチボルドが口を開こうとすると、それよりも早く三角鬼が口を開いた。

 

「貴君らの身の安全はこの俺、三角鬼が保障する。更に言えば、俺の上司の龍王鬼様、虎王鬼様がもうじきこの場に来られる。そうなれば、貴君らの身の安全は約束されるだろう」

 

ここでもまた龍王鬼と虎王鬼の名前が出た。鬼でありながら人道を説くあの2人はとことんアーチボルドと相性が悪かった。これが朱王鬼や玄王鬼ならばアーチボルドの嗜虐心を認め、殺戮の許可を出していただろうが……龍王鬼達は非道を許さない鬼だからこそ、アーチボルドの中に不満ばかりが溜まっていた。

 

「所で、プリンセス・シャインはどちらに? ご挨拶させていただきたいのですが……」

 

その不満を晴らす為に気丈に振舞うジョイスの1番の弱い所に何の遠慮も無く、アーチボルドは踏み込んだ。

 

「……今、王女は公務で国外へ出ておられます」

 

「はて……? 面妖な。こちらで得た情報と違いますね、そうですよね? 三角鬼さん?」

 

「ルダール殿といったか、もし王女が居られるのならば、嘘は付かぬほうが良い。案ずるな、俺がいるからこいつの好きにはさせん」

 

今回ばかりは三角鬼も苦虫を噛み潰したような表情でジョイスに声を掛けた。リクセントを制圧すること、そしてシャインを確保する事が命令なのだ。シャインの名前を出せば、三角鬼もそのために動かずにはいられない。その時だった、リクセント公国を包囲しているライノセラスからアラートが鳴り響き、少し遅れてライノセラスからの通信が入った。

 

「アーチボルド少佐、領土内から北へ脱出する飛行隊を発見しました」

 

その報告を聞いてジョイスは大きく目を見開き、唇を噛み締めた。その姿を見てアーチボルドは喉を鳴らし、小さく笑った。

 

「直ちに追撃隊を……あ、いや、僕が行きましょう。ここら辺で僕も手柄が欲しいですしね」

 

今の所アーチボルドは失敗、敗走と決して百鬼帝国の中での評価は高くない、ここで目に見える手柄を求めるのは当然の事だった。

 

「敵の敗残兵をどう処理しようと僕の勝手でしょう? ね? 三角鬼さん」

 

敗残兵ならば殺しても良い筈だとアーチボルドがサングラスをずらし、三角鬼ににやにやと笑いながら尋ねる。だがアーチボルドの耳を打ったのは女の声だった。

 

『駄目よ。この状況での脱出と言う事はシャイン王女に決まってるわ。三角鬼、アーチボルド。怪我無く、丁寧にシャイン王女を確保しなさい。あたしもすぐに行くわ』

 

「了解しました。虎王鬼様」

 

アーチボルドの言動から旗色が悪いと判断した三角鬼は虎王鬼に通信を繋げ、アーチボルドに向けて先手を打った。アーチボルドはとことん自分の邪魔をしてと三角鬼を睨みつけたが、人間の殺気など鬼に対しては何の意味も無く、三角鬼は涼しい顔をしてジョイスを拘束している兵士に視線を向けた。

 

「ゲストだ。怪我をさせるな、勿論城の住人、リクセントの民もだ。龍王鬼様達が来られる前で、ノイエDCに好きにさせるな。良いな?」

 

「「「はっ、お任せください!!」」」

 

三角鬼に力強く敬礼をし、ジョイスを連行していく兵士達をアーチボルドは親の仇のような顔をして見つめていた。

 

「行くぞ、アーチボルド。場所が場所だ、お前が望んでいる敵が出てくるかもしれんぞ?」

 

「……ええ、判ってますよ」

 

幼い少女に恐怖を与えると言うゲームが出来ず、アーチボルドは忌まわしげに顔を歪めたが、場所的に本命――ハガネとシロガネが出てくるかもしれないと思う事で気を紛らわせ、三角鬼と共にリクセントの城を後にするのだった……。

 

 

 

 

 

ダイテツとリーはこれからの方針に頭を悩ませていた。キルモール作戦、デザートスコール作戦――そのいずれもが失敗し、連邦軍は敗退している。しかもそれに加え、ビアンに扮した百鬼帝国の演説によって反連邦勢力の動きが活性化してしまっている。

 

「ダイテツ中佐はアビアノ基地に向けてどのような進路を取るおつもりですか?」

 

「理想は本隊と合流することだが……それもやはり難しいだろう。完全に我々は出遅れてしまっている」

 

ウォーダンを名乗る男によって受けたダメージはかなり大きく、連合本部から出た撤退命令と合流地点に向かうにはかなり出遅れてしまっている。敵陣営の包囲網が広がってしまっており、これを突破して本隊と合流するのはかなり難しいとダイテツは考えていた。

 

「ジャミングが入る前に入ったレイカー司令からの連絡によれば、ヒリュウ改がラングレー基地に降下し、テスラ研を経由し、アビアノ基地に向かうとの事です」

 

「となれば我々も進路はアビアノ基地になるか……しかし、この状況。いらないやっかみを受けることになりそうですな」

 

「仕方あるまい、何か言ってくればワシが対応する。お前達は何も気にしなくて良い」

 

本来の合流予定時間を遅れてしまっている。それによって仮に集合ポイントになっているアビアノ基地に辿り着いたとしても、ダイテツ達を良く思っていない上官達を囮にしたと言ういちゃもんを付けられるのは容易に想像が付いていた。

 

「ダイテツ中佐、何も全てを背負われる事は」

 

「気にするな、ワシのような年寄りはこういう場合に責任を取る為にいるのだ」

 

まだ若いリーとテツヤの道を途絶えさせるわけには行かず、その為にダイテツは全ての責任を背負う覚悟を既にしていた。

 

「しかし……」

 

「この事はもう終わりだ。リクセントとは連絡は付いたか?」

 

「いえ、恐らく既にノイエDCに占拠されてしまったと……」

 

テツヤの報告にダイテツは眉を細めた。リクセント公国には軍事拠点などは無いが、金鉱山等を多数持ち資金源として、そしてシャイン王女を人質にする事で連邦の出足を削ぐ事が出来る。更にヨーロッパ方面に出る上で重要なポイントでもある。

 

「これでヨーロッパ方面にノイエDCの進出を許す事になってしまったか……」

 

「……DC戦争時よりも戦力はかなり充実していた筈なんだがな……やはり錬度不足か」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲの性能はMK-Ⅱと比べて格段に上昇している。操縦のしやすさと高い安定感――それが売りなのだが、それが逆にパイロットの慢心を呼んでしまっているとダイテツは考えていた。

 

「ダイテツ中佐もそうお考えですか……私もです、錬度の高さのバラつきが非常に大きいです。特にL5戦役で地球に残った兵士の錬度は低いそうですね」

 

「……嘆かわしい事ではあるな」

 

宇宙での戦闘に参加した兵士の錬度は極めて高い、更に自分に合わせたカスタマイズを行い。積極的に訓練をしているが、地上組みはノーマルタイプのままというのが多い。そう言った兵士が戦力の大半を占めていたのが、キルモール作戦の失敗の原因だと言えた。ダイテツ達が溜め息を吐いたその時だった、艦長室に警報が鳴り響いたのは……。

 

「何事だ!?」

 

テツヤが通信でブリッジに何事かと尋ねる。するとすぐにエイタからの通信が艦長室に繋げられた。

 

『リクセント公国所属と思われる部隊からの救助信号をキャッチしましたッ!』

 

ノイエDCに占拠されたリクセント所属の部隊からの救助信号と聞いて、テツヤ、ダイテツ、リーの3人は顔色を変えた。

 

「リクセントの所属だと? 位置はッ!?」

 

『第6ラインギリギリの所……敵の追撃を受けているようですッ! 更に異形の特機に追われているとの事から百鬼獣かと思われますッ!』

 

このタイミングでの脱出、そして百鬼獣が追っているとなればその部隊が誰を脱出させようとしているかは明らかだった。

 

「「総員、第一種戦闘配置ッ!  PT各機、出撃準備ッ!」」

 

ダイテツとリーがほぼ同時にそう声をあげ、スクランブル警報がハガネ、そしてシロガネの両方から鳴り響いた。

 

「リー中佐もか」

 

「はい。それに第6ラインとなると、シャイン王女が名指しで批判した元・ジュネーブ部隊の隊長が率いていた筈……」

 

武蔵を犯罪者として追ったジュネーブの部隊をシャイン王女は名指しで強く批判した。更にそれにグライエン・グラスマン議員も参戦し、これ以上の追及を逃れたい連邦本部はジュネーブの部隊の隊長達を纏めて左遷し、辺境に追い込んだ。キルモール作戦に合わせて、呼び戻されたがシャインを憎んでいる部隊が救助に向かうとはリーには思えなかった。

 

「合流が更に遅れるな」

 

「心配はありませんよ。シャイン・ハウゼン王女を救助する事は急務です」

 

昇進から更に遠ざかると判っていてもリーはダイテツと同様にリクセントの部隊の救助に踏み切ったのだ。そしてその時格納庫の整備班長からの通信に応対していたテツヤが声を上げた。

 

「何!? 武蔵が飛び出したッ!?」

 

凄まじい轟音を当てて飛び立つ3機のゲットマシン、そしてその後を追って出撃するビルドラプター、R-2の姿が艦長室から見えた。

 

「呆けている暇はないぞ! 大尉! 我々も向かうぞ」

 

「ダイテツ中佐、私はこれでシロガネの出撃準備に入ります」

 

敬礼し艦長室を飛び出して行くリーの姿を見て、テツヤとダイテツも同時にシャイン王女救出の為に動き出すのだった……。

 

 

 

第67話 亡国の姫君 その2へ続く

 

 




最初の話はラングレー基地の話を入れるための布石で、全体的に今後のフラグ整理の為の長い話となりました。次回は出撃前の武蔵達のやり取りから入ってシャインの救出の話に入って行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


泣きの10連で

カオスハーマーとスラッシュハーケンがでてくれました。

石は使いきりましたが、これでゼロの運用できると思うと成果は合ったなと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第67話 亡国の姫君 その2

第67話 亡国の姫君 その2

 

武蔵とブリットの組み手の映像を解析し、対斬艦刀に対するモーションデータを組み上げている時に、格納庫にイルムが駆け込んできた。

 

「スクランブルが掛かるぞ! 作業は止めて出撃準備に入れッ! リクセント公国の部隊からの救助要請だッ!」

 

リクセント公国からの救助要請と聞いて、武蔵とラトゥーニがその顔を上げた。

 

「え? リクセント公国から……ッ!?」

 

「イルムさん! 状況はどうなっているんですかッ!?」

 

ラトゥーニと武蔵に詰め寄られ、イルムは少し驚いた顔をしたが、すぐに自分が得た情報を武蔵達に話す。

 

「ああ。 敵に追われて、こっちへ逃げて来ている機体をキャッチしたらしい……しかも百鬼獣らしい反応も感知されている」

 

百鬼獣の名前を聞いて武蔵は弾かれたようにゲットマシンに向かって走る。

 

「武蔵! 1人で行くつもりか! 少し待てッ!」

 

どれだけの敵がいるのかも判らない中。1人で出撃するのは危険だとカイが叫んだ。すると武蔵は少し減速して、振り返った。

 

「すんませんね、オイラは1人でも行きますよ。助けるって約束してるから、1回オイラは約束を破った。2度は破れないんですよッ!!!」

 

再び走り出した武蔵は今度は振り返ること無くゲットマシンに乗り込んだ。

 

『ゲットマシンで出るぞ! 巻き込まれたくなかったら退避してくれッ!!』

 

スピーカーによる武蔵の声にリュウセイ達は慌てて気密室に退避し、格納庫が解放されると同時にゲットマシンが凄まじい轟音を響かせて飛び出して行った。

 

「カイ少佐ッ!」

 

「……ああっくそッ! 判ってるからそんなに必死そうな目で俺を見るなッ! エクセレン達が月から持ってきた改良型のビルドラプターの組み上げが完了してる、ラトゥーニ。お前が使え!」

 

デザートスコール作戦で降下してきたエクセレン達はマオ社で受け取ったアルトアイゼンの強化パーツや、分解された状態のビルドラプター等をシロガネに積み込んでいた。ムータ基地の段階では組み上げが完了していなかった為、戦場に投入出来なかった。だが停泊している間に組み立てが完了し、最終調整に入っているビルドラプター・改ならば、相当な速度が出るとカイは判断し、ラトゥーニに使うように命じた。

 

「了解っ!」

 

気密室を飛び出し、整備兵の元に走っていくラトゥーニ。その姿に深い溜め息を吐き、出撃の為の指示を出そうとするカイだったが……口を開くより先にライがカイに視線を向けた。

 

「カイ少佐。私も」

 

「……ええい! どいつもこいつもッ! 後で始末書を忘れるなよ! ライッ!」

 

「了解ッ!」

 

敬礼しラトゥーニの後を追っていくライ。その姿にリュウセイ達が呆然としているとカイの怒号が飛んだ。

 

「何を呆けている! シャイン王女の救出が最優先だ! 出撃準備を急げッ!」

 

「「「「りょ、了解!!」」」」

 

その凄まじい剣幕にリュウセイ達は慌てて敬礼を返し、それぞれの搭乗機へと向かい、エキドナと話をしようと思っていたのだがスクランブルで戻って来たラミアは今のやり取りを見て内心あきれ返っていた。

 

(感情に流されすぎだ。この状況下で……この者達はいつもこうだ)

 

周りに友軍はおらず、敗走しているこの状況を考えれば、リクセントの部隊の救助に向かわず、本隊と合流する事を最優先するのが最善の選択だ。それなのに自ら窮地に飛び込んでいくリュウセイ達はラミアには理解出来なかった。

 

(だが、相互にフォローを行い……部隊としては高いレベルで機能している……考えられん事だな)

 

感情的で、冷静に物を考える事が出来ない。それは兵士としては致命的だ、それなのに1部隊として成立し、しかもそれが高い水準で機能している。それがラミアには理解出来なかった……何故? どうしてそんなに自分達が不利になりかねない事をするのか? それが理解出来なかった。

 

(エキドナ……お前なら、私に賛同してくれただろうか?)

 

記憶喪失になっているエキドナだが、もしも彼女が記憶を失っていなければ自分に賛同してくれていただろうか? そんなことを考えながらラミアはアンジュルグの起動を始めた。だが彼女もまた、自分が変わり始めていることに気付いていなかった……W-16ではなく、自然にエキドナの名前を呼んでいる事に……それがW-17ではなく、ラミア・ラヴレスという1人の人間に自分がなろうとし始めているという事にラミアは気付くことが無いのだった……。

 

 

 

 

海上をボロボロになりながらリオン、そしてシュヴェールト改の編隊が進む、部隊の中央に配置されたリオンを守りながら飛ぶシュヴェールト改に向かって背後から無数にビームや実弾が放たれる。

 

『ぐあっ!? くそッ!!!』

 

『まだだ! なんとしても姫様をッ!!』

 

機体の表面を通過するビーム、実弾にバランスを崩しながらもシュヴェールト改はリオンを守る為に必死に飛び続ける。

 

『こちらルーメン4ッ! 自分がここで盾になります! ルーメン1、ルーメン3は隊長の護衛をッ!!』

 

1番損傷が酷いシュヴェールト改から若い兵士の決死の覚悟を秘めた言葉が響いた。

 

『馬鹿をいえ! ルーメン4ッ! 殿なら俺がやるッ!』

 

『お前はまだ二十歳になったばかりだろうがッ! こんな所で死ぬなんて思うなッ!』

 

ルーメン1、3から響いた壮年の男性の声にルーメン4のパイロットは小さく笑って、咳き込んだ。通信機越しに響いた粘着質な音に全員がその顔を歪めた。

 

『……そのお言葉は嬉しいですが……コックピットの内装が腹に……刺さってましてね。どうせ死ぬのならば……姫様の盾になりたいのです……ごほっ! げほっ!!……はぁ……はぁ……さ、最後まで痩せ我慢もできなくて……申し訳ありません』

 

最後までルーメン4は自分の重症の事を言うつもりはなかった。だが仲間からの温かい言葉に、僅かに気が緩み。痛みを、苦しみを吐き出してしまった。

 

「ルーメン1、ルーメン3、ルーメン4を牽引してこの場を離脱してください」

 

『『『姫様ッ!?』』』

 

やりとりをリオンのサブパイロットシートで聞いていたシャインが通信に割り込み、この場を離脱するように言う。その言葉にルーメン1、3、4のパイロットが声を上げた。

 

「死んではなりません、まだリクセントの民は皆私の守るべき民。私の為に死んではなりません」

 

『ひ、姫様! じ、自分は! 自分は最後まで貴女を……』

 

「……今まで私を守ってくれて嬉しく思います、ルーメン4……いえ、フランシス」

 

自分の名前をシャインが知っていた。その事にルーメン4は驚きを隠せなかった。

 

「ルーメン1……ジョセフ、ルーメン3 カーター……私は大丈夫です。フランシスをお願いします。貴方方も限界でしょう」

 

ここまで逃げる中で何機も撃墜された。その中でジョセフとカーターの機体も少なくない損傷を受けていた……だが、自分の娘に近い年齢のシャインに逃げろと言われて、はいそうですかと受け入れられる訳がなかった。

 

「お互い生きていれば、また会える日も来ちゃったり……いえ、来ることでしょう……さ、早く脱出なさいませ。これは命令ですわ」

 

幼くとも1国を治めて来たシャインの有無を言わさないその強い口調にジョセフ達は何も言えず、唇を強く噛み締めシャインの無事を祈りその場から離脱して行った。

 

「マルコ、貴方と私だけになってしまいましたが……お願いします。何としても国外まで……私を逃がしてくれた ジョイスや衛兵達の気持ちに報いる為にも……私の国をノイエDCから取り戻す為にも……! なんとしても国外までお願いします」

 

泣きそうになりながらもシャインは涙を堪え、リオンのパイロットにそう訴える。

 

「お任せください、このマルコ……必ずや貴女の命令を果たしますッ!!」

 

背後から追ってきた戦闘機……4機のソルプレッサと2機の百鬼獣――状況は絶望的、それでもマルコは己を奮い立たせ、リオンを操る操縦桿を強く握り締めた。その時だった、何かを感じ取ったシャインの顔から悲壮感が消えた。

 

「マルコ、進路は南東へ、大丈夫です。私達は助かります」

 

震えているマルコの肩に手を当てて、シャインは南東の山を指差した。

 

「も、もしや、姫様……ッ!?」

 

シャインの持つ予知能力――それが発動したのだとマルコは気付いた。そしてシャインも満面の笑みを浮かべた、それは一国を治める姫ではない、歳相応の少女が浮かべる笑みだった。

 

「ええ、助けが来ます……! そんな予感が……ううん、確信がしますのッ!」

 

その顔を見れば誰が助けに来るのか、マルコでも察する事が出来た。この華のような笑みを浮かばせることが出来る人間は1人しかいない……それはリクセントに住む誰もが知っている。

 

「しっかり掴まっていてください! 必ずお守りしますッ!!」

 

雄叫びを上げる百鬼獣。その殺気にさっきまでのマルコならば動けなくなっていた。だが今は絶対にシャインを守るのだと強い意思に支えられ、操縦桿を強く握り締め、ペダルの上に足を乗せ追っ手を振り切るためにリオンを操るのだった……。

 

 

 

 

 

ソルプレッサ4機と試験的にテスラドライブを装備した白骨鬼と飛龍鬼の2機が加わり、計6機の追っ手から死に物狂いで逃げているリオンを見て、アーチボルドは笑いを抑える事が出来なかった。

 

(……ああ、なんて面白いんですか)

 

その気になれば白骨鬼と飛龍鬼は一瞬でリオンを確保する事も出来る。だが旧式のリオン相手では下手をすればシャインごと殺してしまう……それがあるから威嚇射撃などに留まっているが、その威嚇射撃も掠っただけでリオンを粉砕しかねないレベルの物だ。シャイン王女をコックピットに匿っているパイロットが相当精神をすり減らしている事が容易に想像でき、更に言えば恐怖に身を縮めているシャイン王女を想像するだけでアーチボルドは自分が感じていたフラストレーションが発散されるのを感じていた。

 

『アーチボルド、ガーリオンやアーマリオンはまだか?』

 

「……どうも出撃に手間取っているようですね。こればっかりは何とも」

 

三角鬼からの捕獲要員はまだ来ないのか? という言葉にアーチボルドは肩を竦めて、自分も計算外なんですよ? と言わんばかりの返事を返した。だが実際はアーチボルド自身が楽しむ為に部下への出撃時間を遅らせるように命じていた、後10分はこの場には現れないはずだ。

 

『必要以上に恐怖を与える必要はないはずだ』

 

「別に僕のせいではありませんよ。早く確保しろというのならば僕が動きますが……どうしますかね?」

 

アーチボルドの言葉に三角鬼は何も言えない。アーチボルドという男の気質を知っていれば、捕獲を命じられる訳がない。アーチボルドはそれが判っているからエルシュナイデのコックピットの中でほくそ笑んだ。

 

「大丈夫ですよ。もう少しで援軍も来ますからね、僕達はソルプレッサの皆が捕獲してくれるのをのんびりと待ちましょう」

 

無言で通信をきる三角鬼に鬼の癖にと内心嘲笑いながらアーチボルドは逃走を続けるリオンを見つめていた。

 

(ふふ、全部僕の計算通りですしね)

 

ソルプレッサに捕獲用の装備などはない、元から装備をさせていないのだ。それに逃げ切れるかもしれないという希望を抱かせ、その瞬間にブースト・ドライブで組み付いて、バルカンで撃墜し、そこを白骨鬼に回収させる算段をアーチボルドは立てていた。

 

「んん?」

 

撃墜された時の悲鳴、そして助かるかもしれないと言う希望を抱かせてからの絶望――その時にパイロットとシャインがどんな顔をしているかと想像し、悦に入っていたアーチボルドはこの時ある事に気付いた。ソルプレッサに回り込まれても、それを回避し執拗に南東を目指しているリオンの姿にアーチボルドは不信感を抱いた。

 

(はて、おかしいですね)

 

本来この近辺にいる連邦軍はさっさと撤退している。なんせシャイン王女によって左遷された部隊だ、リクセントからの脱出部隊の救助に何て動く訳がない。だからこそ、こうして悠々と狩りにアーチボルドは出てきたのだ。

 

(……連邦が集まっているのはポイントは南東ではないはず……)

 

アビアノ基地とは違う方面だし、何よりも連邦が撤退している方角とも違う……。

 

「あーあー、第12陸戦部隊聞こえますかな? 南東方面に敵影はありますか?」

 

周囲を占拠している陸戦部隊に敵影を補足しているかと問いかけるアーチボルド、すぐに陸戦部隊の監視兵から通信が入る。

 

『いえ、それらしい敵影は感知しておりません。連邦部隊はアビアノ基地を目指し移動中ですから、こちらへは来ておりません』

 

「ですよねえ……ありがとうございます。そのまま周囲の警戒を続けてください」

 

そもそも今の連邦軍にリクセントからの脱出部隊を救助する余力はない筈だ。それに反連邦的な発言を繰り返すシャインを助ける訳がない……だからこそ、南東を目指して逃走を続けているリオンにアーチボルドは不信感を抱いた。

 

「三角鬼さんはどう思いますか? 僕はプリンセス・シャインが予知をしていると思っているんですけど」

 

『……確かに気になるな。シャイン王女があのリオンに乗っているのならば……例の予知能力と言うものだろう』

 

予知能力で何かを感じていると考えると面倒な事になる。南東の方角に何があるのか……アーチボルドは少し考えてから三角鬼にある提案をした。

 

「空戦鬼から百鬼獣を出してくれませんかね? 逃げ切られると面倒ですし、周囲を囲んで降伏勧告をしましょう。僕としては撃墜してもいいんですが……貴方の性格を考えるとそれも嫌でしょう?」

 

『良いだろう。すぐに呼ぼう』

 

アーチボルドにやらせるくらいならばと三角鬼は百鬼獣を呼び寄せる決断を下した。

 

(もう少し楽しみたい所でしたが……ま、しょうがありませんねえ)

 

もっと恐怖を与えて、追い回したい所だったアーチボルドだが、自分の趣味を優先して失敗してはまた自分の評価が下がるとぐっと己の欲求を押さえ込んだ。

 

(大物が来てくれてもいいですが、それはあくまでプリンセス・シャインを確保してからですからねえ)

 

この状況でもし救助が来るとすればハガネかシロガネ、もしくはその両方だとアーチボルドは考えていた。あのお人よし達ならば、シャインを人質にすれば何もできずに嬲り殺しに出来る……そのためにまずはシャインの確保をアーチボルドは優先した。

 

「「「「シャアアッ!!!」」」」

 

『なっ!?』

 

上空から急降下してきた百鬼獣に囲まれ、驚愕の声を上げるリオンのパイロットの声、完全に囲まれてもう逃げられないと言うのはパイロットも悟った筈だ。アーチボルドが完全勝利を確信し、降伏勧告を告げようとした瞬間凄まじい怒号が周囲に響いた。

 

『ダブルトマホーク……ブゥゥウウウウメランッ!!!!!』

 

上空から飛来した何かが百鬼獣を胴体部から両断する。そしてその直後上空から急降下した紅い影がリオンを爆発から庇った、爆煙の中でも見えるその真紅の巨神にアーチボルドは深い溜め息を吐いた。

 

「大物が過ぎるでしょう? やれやれ、僕は運は良い筈だったんですけどねえ……」

 

カメラアイを輝かせる真紅の龍神……ゲッターD2の登場にアーチボルドは思わず呪われているんでしょうかねえと呟くのだった。

 

 

 

気丈に振舞っていたが、シャインだって恐怖に今にも泣き出してしまいたかった。自分の国をノイエDC……そして百鬼帝国に制圧され、自分を此処まで逃がす為に様々な者が犠牲になった。

 

(泣いては……泣いては駄目)

 

脱出する姿は見えていた。それでも、脱出する場所が悪ければ当然死んでしまうし、破壊された機体の破片等で怪我をしている可能性もある。自分を守る為に命を落とす者がいる……それがシャインには何よりも辛かった。

 

(なんで……どうして)

 

今まで窮地の度にハウゼン家に伝わる予知は自分を助けてくれていた。だが今回は自分を助けてはくれなかった……ジョイスや、城の近衛兵達によってマルコの操るリオンに押し込まれ、脱出させられた時もシャインが生きていれば、リクセントは復興出来る。だから生き延びてくれと言われて脱出させられた。

 

(駄目……駄目……)

 

自分の為に命を落としたかもしれない兵士達の名前と顔がシャインの脳裏に浮かんでは消え、浮かんでは消え、涙が溢れそうになった。それでも自分はリクセントの王女なのだと、泣いてはいけないと自分に言い聞かせていた……だがその悲壮なまでの決意はリオンのモニターいっぱいに広がる真紅の影と、戦場に響いた声にあっけなく崩された。

 

「あああ……あああッ」

 

言葉にならないほどの感動と喜びがシャインの胸を埋め尽くし、今まで泣くのを堪えていたシャインの目から涙を溢れさせた。

 

『助けに来たぜッ! シャインちゃんッ!』

 

「武蔵様ぁッ!」

 

その声が届かないと判っていても、シャインはリオンのコックピットの中で武蔵の名を叫んだ。前に百鬼帝国の襲撃を受けた時も、公に姿を見せる事は出来ないからと顔を隠してでも武蔵は自分を助けに来てくれた。DC戦争の時はアードラーに囚われ、ゲッターロボGに組み込まれた時も武蔵は助けに来てくれた……その時からずっと武蔵はシャインにとっての王子様なのだ。

 

「姫様……良かったですね」

 

「マルコ……はい……ごめんなさい、貴方も命を掛けて守ってくれたのに……」

 

「いえ、お気になさらず。姫様のお気持ちは私も、いえ、リクセントの皆が判っております」

 

「え、あ……その」

 

頬を赤らめ、目を逸らすシャイン。その姿は歳相応の少女であり、一国の女王ではなく、1人の恋する乙女だった。その微笑ましい光景に思わず笑いそうになるマルコだが、凄まじい数の百鬼獣とAMが姿を見せ浮かびかけた笑顔が一気に凍りついた。

 

『ゲッターロボ……なるほど、お前が巴武蔵か……助けに来たと言うが1人で来るとは蛮勇が過ぎるんじゃないか?』

 

如何にゲッターロボが強かろうがリオンを守りながら戦える数ではない。その光景を見てシャインは自分のせいで武蔵が窮地に追い込まれたと思い、赤らんでいた顔から血の気が引いた。

 

『またお会いしまたね。ミイラ男君? ああ、武蔵君でしたね。失敬失敬、どうです? 今度こそ僕達の所に来ませんかね? 悪いようにはしませんよ?』

 

数の差による自分達の圧倒的な有利性を鼻に掛け、アーチボルドが武蔵に降伏勧告をするが武蔵はそれを鼻で笑った。

 

『あ? 何言ってやがる腐れ外道、女の子をこんな大勢で追い回しやがって、てめえら許しちゃおけねえなぁッ!!! シャインちゃんが怖がった分てめえらにも味わわせてやるよ……ゲッターロボの恐ろしさをなぁッ!!!』

 

その手にした両刃の斧を打ち合わせるゲッターD2と武蔵の気迫にAMのパイロット達は完全に飲み込まれ、無意識に後ずさった。

 

『やれやれ熱いですねえ、ですが気持ちだけでこれだけの数を引っくり返せると? 僕達は君を倒す必要が無いのですよ? お1人でこれだけの数からシャイン王女を守れると本気で思っているのですか?』

 

アーチボルドの言うことは正論だ。武蔵はシャインを守る必要があり、派手に動く事が出来ない。そうなればゲッターの移動力も攻撃力も

生かせず、むしろ巨大さとその攻撃力ゆえに完全に動きを封じられてしまう。それが判っているからこそのアーチボルドの降伏勧告だったが、武蔵はアーチボルドと三角鬼の言葉に馬鹿がと吐き捨てた。

 

『オイラが何時1人で来たって言った? オイラはシャインちゃんの救助と、てめえらの目を引き寄せる囮だ』

 

武蔵がそう嘲笑った瞬間戦艦の主砲がゲッターD2を取り囲んでいる百鬼獣とAMを薙ぎ払い、包囲網を完全に瓦解させた。

 

『散れッ!!! ぐっ!?』

 

『あぐっ!? 馬鹿な、警備隊は何をッ!?』

 

三角鬼の警告で撃墜されることは間逃れたが、それでも少なくないダメージを受けたアーチボルドは警戒に当てていた陸戦部隊はどうしたのだと声を上げた。その視線に先には悠然とこの空域に侵入してくるハガネとシロガネの2隻のスペースノア級――そしてハガネとシロガネのPT隊の姿があった。

 

『シャイン王女! 無事ですか!?』

 

『武蔵! 間に合ったか!?』

 

R-2から響いたライディースの声とラトゥーニの声――それだけではなく、DC戦争の時に顔を合わせたハガネとシロガネのPTのパイロット達からの安否を気遣う声がリオンに響き続ける。

 

『あっちに合流しな。ここはオイラが食い止める』

 

「む、武蔵様……ですが……」

 

主砲で散らされたとは言え、まだ敵の数は健在だ。1人では無理だとシャインが武蔵に声を掛ける、だが武蔵は大丈夫だと豪快に笑った。

 

『大丈夫だ。シャインちゃんには指一本触れさせねえよ、それにオイラがあんな奴らに負けると思うか?』

 

蝙蝠を思わせる翼を広げ、両手に斧を持つその姿は禍々しさもあったが、それと同時に凄まじい力強さと一種の神聖さの様な物を兼ね備えていた。

 

「い、いえ、思いませんわ」

 

武蔵だけを残し、ハガネと合流する事を渋っていたシャインだが、武蔵とゲッターロボが非道なテロリストと醜悪な百鬼獣に負ける姿が想像出来ないと即座に返事を返す。

 

『だろ? だから大丈夫さ、リオンのパイロットさんよ、シャインちゃんを無事にハガネまで送り届けてくれよ』

 

武蔵はシャインから聞きたかった言葉が聞けたと言わんばかりに笑い、マルコにシャインをハガネまで送り届けるよう口にする。

 

「あ、ああ。判った、姫様。行きますよ」

 

武蔵に言われ、マルコはペダルをゆっくりと踏み込み徐々にゲッターD2から距離を取る。

 

「武蔵様」

 

『だから様付けはいいって、なんだ? シャインちゃん』

 

「……お気をつけて……」

 

『おう、大丈夫さ。今度はちゃんとミイラ男じゃなくて、顔を見せて会おうな』

 

「はい、マルコ……行ってください」

 

武蔵に激励の言葉を口にし、通信は切られリオンはハガネに向かって飛んだ。その後を追って、百鬼獣が動き出すが、一歩踏み込んだ瞬間にダブルトマホークでバラバラで切り刻まれた。

 

『おっと、ここを通りたかったらオイラを倒していくんだなあッ!!!』

 

(武蔵様……お気をつけて……)

 

武蔵の力強い雄叫びを後ろに聞きながら、シャインは胸の前で手を組んで武蔵の無事を祈るのだった……。

 

 

 

第68話 亡国の姫君 その3へ続く

 

 




いい区切りだったので今回は此処までです。シャイン王女のヒロイン力が凄い事になってますが……大丈夫、多分……大丈夫ですよね? 次回は戦闘を書いて行こうと思いますが、武蔵を1度分断させて、陸上と海中での戦闘見たいに書いて行こうと思います。新西暦の海でのポセイドンの初陣ですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


PS

やはり武蔵艦長は駄目だな、今作の武蔵はどう足掻いてもあのルートに進化しそうにないなあ……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第68話 亡国の姫君 その3

第68話 亡国の姫君 その3

 

ハガネから出撃したキョウスケは確かめるようにアルトアイゼンの操縦桿を握り、ペダルを軽く踏みしめた。全力で踏み込んでやっと反応を示すこの重量感のある操縦感覚、パイロットの安全など知った事かと言わんばかりにうなり声を上げる動力とスラスターの音……それは常人ならば不快感を感じる物であったが、キョウスケは小さく微笑んでいた。

 

『キョウスケ、なんで笑ってるの?』

 

「む、いや、やっとと思ってな」

 

呆れたようなエクセレンの言葉にキョウスケはそう返事を返した。マオ社で修理と改造を施されていたアルトアイゼン用の強化パーツ、L5戦役時に急ごしらえで作られた物ではない、新しく新造されたカスタムパーツ「ギーガユニット」を装備したアルトアイゼン・ギーガの重々しい紅い装甲が日の光を浴びて煌いた。

 

『それにしてもアルトちゃんがドイツ語なのに、なんでギリシャ語のギガスをもじったのかしらねえ?』

 

「さぁな。それはラドム博士に聞くしかあるまい」

 

ギーガ……ギリシャ語で巨人を現す、ギガント、ギガスをもじった物なのは判るが、何故ドイツ語の名称を持つアルトアイゼンにギリシャ語を持って来たのかが謎だったキョウスケとエクセレンだが、ノーマルのアルトアイゼンがキョウスケの操縦について来れなかったので、名前は何であれ、これでキョウスケの操縦に追従出来るのならばそこに不満はなかった。今まで敗走を続けていたが、これで百鬼獣に一矢報いる事が出来れば、それで十分だ。

 

『しかしまぁ、武蔵も随分と啖呵を切るな……これじゃあますます王女様の王子様になっちまうんじゃないか?』

 

敵が多いからあえて軽口を叩いたイルム。しかし実際に窮地を助けられ、しかもあれだけ言われれば、恋に恋する年頃の少女ならばコロリと行ってしまいそうなシュチエーションだった。むしろDC戦争の時から何度も武蔵に救われているシャインは本当に武蔵に恋している可能性も十分にあった。言ったら悪いが、武蔵は王子様っというキャラではない。何人かの脳裏に武蔵が王冠を被ってる姿が浮かび、噴出す者もいた。リラックスさせたいというイルムの意図通りになったが、笑えるような状況ではなく即座にカイの叱責が飛んだ。

 

『イルム、ふざけている場合じゃないぞ。お前達も気を緩めるな、増援……いや、待ち伏せだな』

 

百鬼獣とガーリオン、バレリオン等のAMの混成部隊が海上に出現する。出現までの早さを考えればそれが増援ではなく、待ち伏せだったのは明らかだった

 

『ゾロゾロと……王女様の見送りにしちゃ物騒過ぎるぜったくよぉ』

 

今まで何度か交戦した豪腕鬼は双剣鬼、鳥獣鬼等に混じり、見た事のない百鬼獣も数体発見し、イルムは眉を顰める。百鬼獣自体の数は10体前後と決して多くは無いが、並みの特機を超える百鬼獣の存在は十分に脅威だった。武蔵が百鬼獣を食い止めると言ってもその数を考えれば数体はゲッターの脇を抜けてシャイン王女の追走に出るのは誰が見ても明らかだった。

 

『各員へ。シャイン王女がノイエDCの手に落ちれば、彼らのプロパガンダに利用されかねん。今後の情勢の為にも、必ず王女を救出せよ』

 

『プラチナム1からリクセント機へッ! 敵機はこちらのPT隊で牽制する。貴機は本艦へたどり着かれたしッ!』

 

ダイテツとリーの指示が飛び、カイが続けて指揮をとる。

 

『今回は俺が指揮を取る。キョウスケ、お前は新しいアルトに集中しろ。エクセレンはその支援だ』

 

「すいません。カイ少佐。お願いします』

 

『キョウスケが操縦に慣れたら、すぐにそっちの支援に入るわね』

 

新型の操縦に慣れながら指揮をとるのは不可能だ。キョウスケはカイの申し出を受け入れ、アルトアイゼン・ギーガの操縦桿を強く握り締めた。

 

『ライ、ラトゥーニッ! お前達はそのままフォワードに回り、王女機の突破口を開けッ! 王女機がゲッターから離れれば、武蔵もぐっと戦いやすくなるッ! お前達が王女機の突破口を開くことが今回の作戦の要だ。しくじるなよッ!』

 

ゲッターロボは確かに強力だが、この場合だと逆に強力すぎてリオンを巻き込みかねない。空中戦に特化しているゲッターD2が地面に着地している所から、巻き込む事を恐れ飛行しない事を武蔵が選択しているとカイは判断し、そう指示を飛ばした。

 

『了解。R-2、突撃しますッ!』

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R02カスタムでの稼動データにより、更に改良されたR-2のホバー能力は非常に高く、テスラドライブ搭載機と遜色ないものとなっており、右手にメガビームライフルを、左手にマグナビームライフルを装備したR-2は凄まじい加速でリオンを追いかけているランドリオンに向かって走り出す。

 

『シャイン王女、 待っていて……ッ!』

 

ビルドラプター・改をFMに変形させたラトゥーニは空中に舞い上がり、ソルプレッサとアーマリオンの空戦部隊との戦闘に入ろうとすると、R-ウィングがビルドラプター・FMの横に並んだ。

 

『支援するぜ、ラトゥーニ。王女様を助けるぞッ!』

 

『リュウセイ……うんッ!!』

 

R-ウィングが先陣を切り、その後をビルドラプター・FMが追って飛びAMとの戦いに身を投じさせる。

 

『残りの者は王女機の援護と敵機の牽制に回れッ! イルムとタスク、お前らは俺と一緒にゲッターを抜けてきた百鬼獣に当たるぞッ!』

 

『了解ッ! 気合入れてくぜッ!!』

 

『合点承知ッ!! いくぜいくぜッ!!』

 

ダブルトマホークを構えたゲッターの脇を抜けた豪腕鬼、白骨鬼、龍頭鬼に向かってゲシュペンスト・リバイブ(K)、グルンガスト、ジガンスクード・ドゥロが走り出し、互いに繰り出した拳と獲物がぶつかり合い凄まじい轟音を周囲に響かせる。

 

『おおっしゃッ! こっちも気合入れて行くぞッ!』

 

『了解ッ!』

 

『了解しましたわ、ライディース、シャイン王女のエスコートをしくじるんじゃありませんわよ?』

 

『……判っている。それよりもフォローを頼むぞ』

 

カチーナの号令でオクトパス小隊が陸上からシャインの救助に向かっているR-2の支援に入る。それに続き、キョウスケの指示もアサルト全機に告げられる。

 

『アサルト各機へ、ここで一矢報いるぞ、いつまでもあいつらの思い通りにはさせんッ!』

 

久しぶりに指揮官ではなく、1人の兵士として目の前の戦いに集中する事が出来るキョウスケの檄が飛び、ブリット、エクセレンもすぐに返事を返す。

 

『アサルト3、了解ッ!』

 

『アサルト2、了解ちゃんよん。ラミアちゃんは本当に一矢報いちゃってね? 私はキョウスケのフォローするから、よろしくよん♪』

 

『……アサルト4、了解でございましちゃいました。イリュージョン・アローがうなりましますですのよ』

 

百鬼獣の雄叫びが響き、無数のAMが次々とシャインを確保する為に出現する。ノイエDCの思い通りにさせまいと動き出すキョウスケ達……シャイン王女を巡っての戦いが今、切って落とされるのだった……。

 

 

 

ビルドラプターはDC戦争時に初の可変式・飛行PTとしてロールアウトされた機体だが、DC戦争時にはDCのスパイだったハンス・ヴィーパーにより、無理な変形を行なわされキョウスケを乗せたまま空中分解し、マオ社に戻された。その後はR-1に慣れる為にリュウセイの搭乗機になったが、あくまで練習機という扱いだった。その後にR-1が運用可能になり、リュウセイの後はラトゥーニの搭乗機となっていたが、L5戦役終結後、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ、ヒュッケバイン・MK-Ⅲの開発に伴い、伊豆基地の格納庫で保管され続けていた。初の可変式PTと言う華々しい肩書きに対して、まともな戦果を上げる事が出来なかったのがビルドラプターという機体だった。癖が少ない操縦感覚はルーキーであったリュウセイでも扱いやすく、更にゲシュペンストと同様のウェポンスロットを持ち、多彩な武器を装備可能という汎用性、そして固定武装のハイパービームライフルの火力も非常に高く、決して機体自体のポテンシャルが低かったわけではない。不運だったのはDC戦争およびL5戦役終盤での敵の強さが想定以上に強くなっていたこともあり、試作機としての側面が強いビルドラプターでは役不足に陥ってしまったのが原因だった。しかしだ、仮にもビルドラプターは初の可変式PTであり、そしてそのポテンシャルも非常に高い。そんな機体をゲシュペンスト・MK-Ⅲ、ヒュッケバイン・MK-Ⅲの開発があるからと、置いていくような性格をしていなかったマリオンとカークによって分解され、月へと移送されたビルドラプターはそこで新たな改造を施され、生まれ変わり再びラトゥーニの搭乗機となったのだ。

 

(凄い、あの時と全然違う)

 

L5戦役の時に乗っていたビルドラプターとは全く違うその操縦感覚にラトゥーニは驚きを隠せなかった。テスラドライブと、ビームガトリングガンを内蔵したバインダーを背部に装着し、人型での単体飛行、そしてFMでの機動力の向上、更にバインダーにもサブ動力を搭載したことによる出力の向上……そして白兵戦の為の機体各所のパワーフレームの強化等様々な改良が施されている。

 

(班長は急ごしらえの改造って言っていたけど……これならッ!!)

 

あくまでこれはレイオスプランで今後作成される、SRX計画の完成形……「SRアルタード」に向けての、R-1の改良・発展のテストベッド……改良を施されても、まだビルドラプターは試作機ではある。だが、ラトゥーニが望めばケイオスプランの一環としてビルドラプターを新造することも視野に入れていると言われていた。そして操縦して、ラトゥーニには判ったのだ。ビルドラプターはまだ飛びたいと願っていると……そしてシャイン王女を助けたいと願うラトゥーニにその力を貸してくれていた。

 

「逃がさないッ!」

 

改良された事でその操縦感覚は大きく異なっている筈だ。初めて乗る機体に慣れるまでは時間が掛かるのは当然の事なのに、ビルドラプター・改はまるでずっと乗っていたかのようにラトゥーニの思う通りに飛んでくれた。

 

『ぐあッ!? くそッ! 脱出する!』

 

ソルプレッサとすれ違いに撃ち込まれたビームキャノンが動力部を的確に撃ち抜き、パイロットを脱出させる。

 

『くそ、思ったより戦闘機の数が多いッ!』

 

先導しているリュウセイのR-ウィングから焦りを伴った声が響く、リオンのパイロットも必死に回避を続けているが余りにも敵の数が多い。

 

『おらおらッ! あたしらの邪魔をするんじゃねえッ!!』

 

『ライディース少尉! 今の内にレオナ少尉と共にッ!』

 

陸上のR-2もランドリオンの猛攻を前に思うように前進出来ず、カチーナとラッセルがランドリオンを押さえているうちにガーリオンと共に包囲網を抜けるが、その直後にアーマリオン達の妨害を受ける。

 

『くっ、思ったよりも錬度がッ!』

 

『くそっ! 邪魔をするなッ!』

 

アーマリオン達はスパイダーネットやアーマーブレイカーで徹底して足止めをし、ガーリオンがリオンの捕獲に回っていた。捕獲・足止めの2班が完全に独立しており、包囲網を突破しようとするラトゥーニ達は苦戦を強いられていた。

 

『キシャアアアアーーッ!!』

 

『いい加減、てめえらの相手にも飽き飽きだぜッ!!』

 

豪腕鬼にがっぷり4つに組み合っているグルンガストからイルムの怒鳴り声が周囲に響き渡る。

 

『ガアアアーーッ!!』

 

『舐めんなよッ!! うおらぁッ!!!』

 

『ぐぎいッ!?』

 

双剣鬼の名が示す通りの両手の剣をジガンスクード・ドゥロはシーズアンカーで受け止め、がら空きの胴に拳を叩き込み、その巨体を大きく後方に弾き飛ばす。

 

『ぬううんッ!!!』

 

『ギガアッ!?』

 

『俺も貴様らの相手には飽き飽きだ! 良い加減にくたばれッ!!』

 

ゲシュペンスト・リバイブ(K)の嵐のような連続攻撃が龍頭鬼の顔面を右、左と弾き、回し蹴りが叩き込まれその巨体を大きく弾き飛ばす。包囲網を抜けてきた百鬼獣の数はまだ3体でカイ達が足止めをしているあいだにリオンと合流しなければと焦れば焦るほどに、相手の包囲網が厚さを増し、焦りを与える。

 

『ラトゥーニッ! 上だッ!』

 

「ッ! このッ!!」

 

上空からのガーリオンの奇襲に気付いたリュウセイの声にラトゥーニは咄嗟に反応し、ビルドラプターを変形させ、M-13ショットガンを撃ち込みガーリオンの奇襲を防いだが、FMからPTに変形した事で速度と高度が僅かに落ちる。再度FMに変形させようとしたとした時リュウセイからの通信がビルドラプターのコックピットに響いた。

 

『そのままだ! 武器を構えてろッ!』

 

「リュウセイ!?」

 

R-ウィングがビルドラプターの下に回りこみ、その上にビルドラプターを乗せる。

 

『よっしゃあ! 行くぜラトゥーニッ!』

 

「え、嘘……なんで?」

 

機体のサイズはほぼ同じであり、受け止められる訳がない。ラトゥーニはそう感じていたが、R-ウィングとビルドラプターの間に僅かな念動フィールドの輝きがあり、ビルドラプターはその上に乗っていた。

 

『動きやすいかどうかはわからねえけど、そっちの方がアーマリオンとかに対応しやすいだろ? 一気に突っ切るぜ!』

 

「リュウセイ……判ったッ!」

 

ビルドラプターをその上に乗せたR-ウィングは更に加速し、ソルプレッサとアーマリオン、ガーリオンの混成部隊の中にその機首をねじ込み、強引に包囲網を突き破っていくのだった……。

 

 

 

 

エクセレンからの本当に一矢報いろ……と言う指示をファントムアローで支援せよという命令だと判断したラミアはファントムアローを用いての支援を行いながら戦場を観察していた。

 

(やはり強い……)

 

ウォーダンと一騎打ちをしたのに損傷も無く戻って来ていたゲッターD2の姿を見て、それほどまでに戦力差があったのかと驚いていたラミアだが、こうして実際に戦う姿を見ていると、レモン、ヴィンデルの2人が何をしてもシャドウミラーに加えたいと言っていた理由を肌で感じていた。

 

『おらっ! どりゃあッ!!!』

 

『!?』

 

『ギャアアッ!?』

 

攻撃方法は原始的と言ってもいい、両刃の斧と両腕側面の高速回転するチェーンソーと突出した能力を持つ武器を使っている訳ではない。だが単純にその圧倒的な機体出力を持ってすれば、その原始的な武器も恐ろしい火力を持つ兵器とかす。

 

『ラミアさん、ありがとうございますッ!』

 

考え事をしながらもラミアの指は動き、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムにディバインアームを振り下ろそうとしていたガーリオンの頭部を貫き、反撃でガーリオンを撃墜したブリットからの感謝の言葉を聞いても返事を返す事無く、ただただ無言でファントムアローを番え、撃つという事を機械的に繰り返していたが、その胸中はゲッターロボへの恐れがあった。

 

(強い、強すぎる……)

 

武蔵個人は穏やかな人物ではある。だが決してシャドウミラーの理念に賛同するような男ではない……1機で7体もの百鬼獣と対峙し、その悉くを1機でしかも本来空中戦特化の機体で、自身の武器であるビームなどを一切を使わず、地面に両足をつけたまま戦って見せている。それは圧倒的なハンデを背負いつつも、この不利な状況で戦い抜けるポテンシャルを有している事を現していた。ドラゴンの名が示す通り、人質や、卑劣な策略で武蔵を自分達の陣営に引き入れようとした時、文字通りの龍の逆鱗に触れてあの圧倒的な力が自分達に振るわれる光景を想像し、ラミアは心から恐怖した。優しい男ほど、怒りを抱えた時その業火は凄まじい物となる……そしてラミアが恐怖を覚えたのは、ゲッターロボだけではなかった……。

 

(なんと言うパワーだ……)

 

ギーガユニットを装備したアルトアイゼンの姿はラミアの知るゲシュペンスト・MK-Ⅲ・カスタムとは似ても似つかず、あちら側よりも更に技術力が向上しており、遥かに強くなっているその姿にラミアは恐怖すると同時に、W-17と呼ばれていた時には思わなかった事が脳裏を過ぎっていた。

 

(世界が違えば形は変わる……我々の恐怖と懸念は全て取り越し苦労なのではないのですか?)

 

キョウスケ・ナンブと破壊と殺戮を繰り返したベーオウルフは全く別の存在なのではないか? それにイングラムが立てた仮説はレモンがラミアに渡した指令ディスクにもインストールされていた。このままアインストに寄生されなければ、ベーオウルフになることはないのではないだろうか? そしてこの世界の住人とあちら側の住人は違う……ヴィンデルに言う腐敗した世界にはならないのではないか?

 

(……レモン様、レモン様……教えてください私は、私はどうすれば良いのですか)

 

機械のような自分であれば、こんなにも悩むことは無かった。命じられたままに、淡々と与えられた命令をこなせば良かった……。

 

(判らない、私には判らないんだ……)

 

誰かの為に命を賭ける事が出来る……そして誰かが自分の感情に身を任せ暴走しても、皆がそれを補ってくれる。それはシャドウミラーではありえない事……使い捨てと言っても良いWナンバーズは、ヴィンデル、レモン、アクセルの3人を守る為に死に、そして与えられた命令だけ遂行すれば良い……それだけで良かったのに……。

 

(私は自分の命惜しさに……降伏しようとしているのか)

 

死にたくないと思っているから、こんなことばかりを考えているのか、それともスパイとして潜り込んでいる身の分際でハガネとシロガネのクルーを仲間だと思っているから信じたいと思っているのか……ラミアにはそれが判らなかった、そしてこれほど頭の中が混乱しているのに、何のよどみも無く動き続ける自分の手足が自分がラミア・ラブレスではなく、W-17であると嫌でも認識させる。

 

(やはり私は壊れかけているのか……)

 

思考と身体が分離していて、身体は己の使命に無意識に動き続け、そして己の精神は迷い、恐怖し、揺らいでいる……ラミアには身体の方が正しく、自分が壊れているようにしか思えなかった。それがレモンが望んでいる自己の確立のきっかけとなり始めているとは夢にも思わず、恐怖と不安を抱え、敵が襲ってくる間は何も考えないで済む……ただ敵を倒せば良い、それだけを考え考えることを放棄するのだった……。

 

 

 

アルトアイゼン・ギーガ――なぜドイツ語とギリシャ語の名前を持つかというと、それは単純に開発者の違いだったからだ。ATX計画の続行によってビルドビルガー、ファルケン、そしてファルケンのタイプKにヴァイスリッター・改(仮名称)と言う開発を続けていたマリオンは当然新型のアルトアイゼンの開発と設計を始めており、L5戦役で大破したアルトアイゼンの強化アーマーはスクラップのまま、放置されていた。だが世の中には頭のおかしい人間というのは少なからず存在する……そして幸か不幸か廃棄される寸前のそのアーマーを1人の少女が発見していたのだ。マリオンを師と仰ぐ(マリオン本人にはめちゃくちゃ邪険にされている)ギリシャ系の技術者見習いの少女がそれに目をつけて、己の持ちうる技術をつぎ込み、勝手に作り上げたのがギーガユニットの原型と呼べる強化パーツだった。当然技術不足で、完成度も低い物だったが、自分でアルトアイゼンを調べ、そしてキョウスケの操縦の癖に合わせて開発されたそれは、マリオンの目に止まったのだ。そしてマリオンは新型のアルトアイゼンの開発をする中、片手間程度であるが少女に助言を行い、ビルガーとタイプKの開発中に生まれた試作パーツ等を次々と組み込んだ物がこのギーガユニットだった。

 

「打ち貫くッ!!!」

 

パイロットシートに身体がめり込むのではないかと思わんばかりの加速を感じながらキョウスケはランドリオンの胴体にリボルビング・バンカーを叩きつけ、そのままの勢いで2機目のランドリオンをも貫き、右腕1本でランドリオンを持ち上げトリガーを引いた。凄まじい轟音を上げて砕け散るランドリオンと、その反動で揺れるコックピットでキョウスケは小さく笑った。

 

「なるほど、悪くない」

 

『……これだけ暴れておいて、悪くないってどういうことよ?』

 

エクセレンの呆れたような突っ込みを聞いてもキョウスケは口元の笑みを消す事は無く、6連装マシンキャノンの銃口をソルプレッサに向けて掃射する。

 

「これはラドム博士の開発ではないと言うことは判った」

 

『……それってマ?』

 

「ああ、これは確実にラドム博士が開発したものではない、少しくらい手は加えているだろうがな」

 

圧倒的な火力と装甲で敵陣に突っ込み、そのまま相手を破壊すると言うのはキョウスケの理想とするコンセプトではある。だが、このギーガユニットには無理に姿勢制御や飛行を加えようとした痕跡があった。それゆえにキョウスケはギーガユニットがマリオンが作った物ではないと悟ったのだ。

 

『……マリオン博士と同じ思考のマッドがいるなんて信じたくないわ』

 

「腕は良い、それは認めるが、ヴァイスリッターの強化アーマーだって、まだ未完成品なのだろう?」

 

『うーん、そうは聞いてるけど、私としては十分な性能かなって思ってるわよ?』

 

「それで良いとか思っていると地獄を見るかもしれんぞ? それよりも次だ、漸く感覚を掴んできた」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲのトライアル採用でマリオンは自信をつけた。そしてその自信は新たな開発欲を呼ぶ、確実に新型のアルトアイゼンは今までの以上の際物になるだろうし、それの相棒と設計されているヴァイスリッターも同様だろうと笑い、リボルビング・バンカーのカートリッジを交換しながら、キョウスケは次の獲物に視線を向けていた。

 

『……ちょっと、それは洒落にならないんじゃない?』

 

キョウスケが対峙しようとしている相手……それはゲッターロボを抜けてきた百鬼獣――独眼鬼だった。

 

「あいつに勝てなければ意味がない。フォローは任せるぞッ!」

 

『ちょっとは私の意見も聞きなさいよッ!?』

 

エクセレンの制止の声を振り切り、アルトアイゼン・ギーガを走らせ最高加速のままリボルビング・バンカーを突き出す。

 

『ギッ!』

 

「ちっ、そう簡単にはいかんかッ!」

 

その手にしている盾でバンカーの側面を叩き、軌道を強引に逸らす独眼鬼、その動きは明らかに今までの百鬼獣とは違う、洗礼された動きだった。独眼鬼の防御によってリボルビング・バンカーが地面で炸裂し、その反動でアルトアイゼン・ギーガがバランスを崩す。そこに独眼鬼が手にしていた剣を振り下ろす、だがそれは左腕の6連装マシンキャノンと一体化している盾で受け止められる。

 

「不用意に踏み込んだことを悔いるんだな、ぐっ!?」

 

『ギャアッ!?』

 

シールドが展開され、そこに仕込まれた小型のクレイモアが炸裂し、独眼鬼とキョウスケの苦悶の声が重なる。痛みわけのように見えたが、質量の差でシールドごと6連装マシンキャノンの砲身が歪み、使用不能となる。しかもそれだけではなく、左腕の関節部から火花が散る。

 

『あーもう! 言わんこっちゃないッ!!』

 

それを見てエクセレンがオクスタンランチャーEモードによる狙撃で独眼鬼の追撃を防ぎながら、キョウスケのフォローに入る。普通ならばそこで後退するだろうが……キョウスケは前に出た。

 

『ちょ、キョウスケぇッ!?』

 

「逃がさんッ!!!」

 

百鬼獣は自己修復能力を有している――ここで距離を取れば百鬼獣に回復する隙を与える事になる。そう判断しての前進であり、ここで独眼鬼を仕留めるとキョウスケは決めていた。

 

(ここで引いては一生俺は届かないッ!)

 

冷静に考えれば、ここで引くという選択をキョウスケは取っていただろう。だが今も武蔵は百鬼獣を何体も食い止めている……それを大人であり、そして正規の軍人であるキョウスケは恥じた。本来己が守らなければならない子供に守られているという事に、守られなければならないと武蔵に思われている事が悔しかった。今度は武蔵が自ら命を捨てると言う選択をしなくても済むように、そのために力をつけたのだ。ここで引いては半年前から何も変わらない、キョウスケはペダルを踏み込み、後退しようとしている独眼鬼に最大速度で突っ込んだ。

 

『ギィッ!!!』

 

独眼鬼は突っ込んでくるアルトアイゼン・ギーガに対して、盾を構え、左腕で剣を振り上げた。盾で受け止め、剣でアルトアイゼン・ギーガを両断する構えの独眼鬼にキョウスケは恐れる事無く、新たに増設されている両肩後、そして背部のブースターの出力を最大にし、更に加速を早める。G防御の許容範囲を超えた、殺人的な加速――それに歯を食いしばり耐えたキョウスケはその両目で独眼鬼を睨みつけた。

 

「防げると思っているのならば、防いでみろッ!!!」

 

真っ直ぐに加速するその姿は紅い流星というべき速度で、その速度のままリボルビング・バンカーを盾に突き立てる。

 

『ギャハッ!!』

 

防いだと言わんばかりに嘲笑を浮かべ、剣を振り上げる独眼鬼だったが、ピシリと言う亀裂音にその顔を歪めた。1度響いた亀裂音は徐々に大きくなり、そして独眼鬼の瞳に恐怖の色が浮かんだ。

 

「どんな装甲だろうが打ち貫くのみッ!!!!」

 

キョウスケの雄叫びと共に盾が砕け散り、リボルビング・バンカーが独眼鬼の胸部を刺し貫いた。しかし、それでアルトアイゼン・ギーガはそれで止まらず、キョウスケの闘志と怒りに答えるようにその緑のカメラアイを輝かせた。

 

「おおおお……オオオオオオオオオッ!!!!!」

 

『ぎゃ、ギャアアッ!!!』

 

キョウスケの咆哮が響き、2倍近く差のある独眼鬼を持ち上げたままアルトアイゼン・ギーガは加速する。

 

『ギッ!?』

 

ゲッターの横を抜けてきたばかりの牛角鬼に独眼鬼の背中がぶつかり、2機の百鬼獣がリボルビング・バンカーに刺し貫かれる。流石に2機の百鬼獣を運搬する力はなく、アルトアイゼン・ギーガは地面に着地した。だがそのカメラアイはまだ爛々と輝いていた。

 

「全弾持っていけッ!!!」

 

炸裂音が6度響き、空になった薬莢が排出される頃には、独眼鬼、牛角鬼の装甲には深い貫通痕が刻まれていた。だがそれでも百鬼獣は生きていた、自分たちを殺しに来たアルトアイゼン・ギーガとキョウスケに恐怖し、逃げようとした。

 

「言った筈だ……全弾持って行けとなッ!!!」

 

音を立てて両肩ハッチが開かれ、それに加えて背部のフライトユニットをベースに改造したバックパックが変形し、更に2つのクレイモア射出装置が展開され、肩のみと比べて3倍近く弾数、射角、そしてベアリング弾の重量までもが強化されたレイヤードクレイモアが放たれ、独眼鬼、牛角鬼は穴だらけになり数歩よろめくと爆発炎上した。

 

「良し」

 

『良しじゃないわよ! この馬鹿ぁッ!!! ハガネに戻ったらカイ少佐にお説教よ!! 心配かけて!』

 

エクセレンの怒鳴り声にキョウスケは眉を顰め、小さくすまんと呟いた。完全に熱くなっていたキョウスケが悪く、エクセレンの怒りはもっともだったからだ。

 

『聞こえない!』

 

「すまな……『武蔵様ぁッ!!!』……なっ!?」

 

すまないと改めて言おうとしたキョウスケ――いや、この場にいる全員の耳にシャインの悲痛な武蔵を呼ぶ悲鳴と凄まじい落水音が響き、ゲッターD2の姿は海中に消えていく姿が全員の目の前で広がっているのだった……。

 

 

 

第69話 亡国の姫君 その4 に続く

 

 




良い区切りだったのでここで切りたいと思います。次回は海中に武蔵が引きずり込まれるまでの話を書いて行こうと思います。改良機のギーガはリーゼまでの繋ぎなので登場回数は少ないと思いますが、このギーガより、リーゼが強化されていると思ってください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第69話 亡国の姫君 その4

第69話 亡国の姫君 その4

 

今戦っている百鬼獣と違い、どこかグルンガストを連想させる機械的シルエットをした百鬼獣 闘龍鬼のコックピットの中で三角鬼は鬼とは思えない穏やかな瞳でハガネのPTと合流しそうになっているリオンを見つめていた。

 

(逃げきるか? 王女よ)

 

龍王鬼、虎王鬼の2人は元々シャイン王女を捕える事にさほど積極的ではなかった。確かに一国の王女ではあれど、10歳前後の幼い少女をプロパガンダや、洗脳すると言う計画には元々反対していたと言っても良い。そもそもリクセントを占拠する計画自体は百鬼帝国の作戦だ。しかしそこにシャインを捕えるという物を付け加えたのはノイエDCであり、それに賛同した朱王鬼、玄王鬼が自分の配下の鬼を送り出し、シャインに成り代わらせることを計画した。それが失敗したので、シャインを捕える方向に再び舵きりと相成ったが……それでも龍王鬼達はそれに不満を抱いている事は明らかであり、シャインを捕えると言う名目でアーチボルドと共にリクセントに訪れていた三角鬼だが、その本来の目的……いや、正しくは龍王鬼からの命令はアーチボルドの監視と可能ならばシャインの逃走を見届ける事にあった。

 

『良いんですか? 三角鬼さん? プリンセス・シャインに逃げられますよ?』

 

「百鬼獣ではリオンを撃墜してしまう。これだけの乱戦の中であいつらがそんな丁寧な動きが取れるわけがないだろう?」

 

アーチボルドの提案で百鬼獣をリオンの周辺に出現させた際だが、既にゲッターD2の姿を確認しており、捨て駒前提の百鬼獣を使用した。アーチボルド達には同じに見えただろうが、百鬼獣を量産する段階の試作機であり、その性能はゲシュペンスト・MK-Ⅲと大差なく、人工知能の精度もさほど良くない、酷な言い方だが案山子程度の価値しかない。今出撃している百鬼獣は完全な戦闘用だが、人を捕獲するという命令に対応出来る器用さもありはしない。

 

『だから撃墜すれば良いでしょう?』

 

簡単でしょ? というアーチボルドに三角鬼は嫌悪をその顔に浮かべた。龍王鬼の一派の鬼とアーチボルドという男はとことん相性が悪い、元々が龍王鬼の高潔な精神に惹かれ集った鬼達だ。その性格も似たり寄ったりであり、殺すとしてもそれは戦う能力を持つ相手だけになる。戦えない相手を遊戯で殺すような真似は決してしない……それに対してアーチボルドは自らの快楽の為に人を殺す、それが抵抗できない相手ならば尚良いと言う外道と性格が合う訳がない。

 

「俺達にシャイン王女を殺させて責任追及するつもりか? 随分と強かだな、そんなにも成り上がりたいか?」

 

『む、いえ、そういうつもりでは……』

 

自分が成り上がりたいから三角鬼達に失態を犯させるつもりか? と言われればアーチボルドの言葉尻はしどろもどろになる。あくまでアーチボルドは傭兵扱いだ。だからこそ三角鬼達を失脚させて、自分の立場を上げようと思っていると言われれば反乱分子と思われかねない。そうなれば自分の立ち位置が悪くなるので、三角鬼にこれ以上発破を掛ける事も出来ず、言い訳じみた言葉を口にする。 

 

『しかしですね、ゲッターロボがいては僕も動くに動けないのですよ? せめてゲッターロボだけでも何とかしてくれないと』

 

その言葉を待っていたと言わんばかりに三角鬼は口の端を上げた。

 

「それならば、お前が動きやすいように俺達がゲッターロボを抑えてやろう。そうなればお前の敵はPTと特機だけだ、不安ならば数体の百鬼獣も残してやるぞ?」

 

海中にも百鬼獣は配置している。見たところあのゲッターロボは空中戦用と見た、海中に引き摺り込めば十分に勝機はあると三角鬼は考えていた。

 

『判りました。ではそれでお願いします』

 

「シャイン王女は任せたぞ」

 

内心はあそこまで逃亡されては今更シャインを捕獲するのは無理だと三角鬼も判っていた。だが自分たちでは無理だという体を取り、アーチボルドとノイエDCの兵士に任せると三角鬼は口にし、百鬼獣に指示を出す。

 

(最悪な任務だったが、これならば悪くはない)

 

三角鬼の気質的に戦う事の出来ない相手をするのも、幼い少女を攫うのも真っ平御免だった。しかもその上アーチボルド等という外道と組まされてはなおその機嫌は悪い物となって当然だ。だがその中でも三角鬼の心を震わせる相手がいた……真紅の龍神ゲッターD2だ。海中から伸びた無数の触手がゲッターD2の手足に巻きつき、海中に引きずり込むのを確認した三角鬼は空中で待機している空戦鬼に通信を繋げる。

 

「海中戦用のユニットを射出してくれ」

 

『は、了解しましたッ!』

 

闘龍鬼はシャドウミラーの技術を組み込んだ新西暦で建造された新型の百鬼獣だ。今までの百鬼獣と一線を画すシルエットは、グルンガストタイプの特機のデータを元に、百鬼帝国の技術を使用した。いうなれば、グルンガストの百鬼帝国版とも呼べる機体だ。肩部が90度折れ、腕が肘関節を基点に上方向に捻れる。

 

「行くぞッ! ゲッターロボ! 俺と勝負だッ!!」

 

踵が脚部に収納され、空戦鬼から射出されたスクリュー等が装着されたアタッチメントを装備しゲッターロボの後を追って、海中へと闘龍鬼は飛び込んでいくのだった……。

 

 

 

 

海中に引きずり込まれたように見えたゲッターD2だが、実際は自ら海中に飛び込んだというのが正しい。振りほどくことは十分に可能だったが、シャインの救助の為に動いているキョウスケ達を巻き込みかねない、それに明らかに百鬼獣の指揮官らしき者が動き出した事で百鬼獣が活性化するリスクを考えて自ら海に飛び込んだのだ。

 

(リュウセイ達なら大丈夫だ)

 

キョウスケ達は武蔵に信用されていないから、武蔵は何かを隠していると感じていた。だが実際は覚えていないと言うのが多く、仮に覚えていても、ベーオウルフと呼ばれる化け物にキョウスケがなっていた等と言える訳が無く黙っていただけで、武蔵自身はキョウスケ達ならば無事にシャインを助ける事が出来ると信じていた。

 

「こればっかりはゲッターじゃ無理だからな……」

 

90m級のゲッターD2はそのサイズから百鬼獣等の特機と戦うのは得意としていたが、その反面20mクラスのPTとAMと戦うのは極めて不得手としていた。もちろん共闘すると言うのも巻き込みかねず、細心の注意を払う必要があった。それゆえに海中という戦場の変化は武蔵にとっては喜ばしい物であった。

 

「しゃあ! 行くぞッ!」

 

海底にいた百鬼獣は貝と烏賊をモチーフにした海洋生物の姿をした百鬼獣が数体。それとと地上から武蔵を追って海中に飛び込んできた白骨鬼、龍頭鬼、そしてその姿を変えた闘龍鬼と10体前後の百鬼獣だった。

 

(地上に2~3体って所か……いや、大丈夫だ)

 

確かに百鬼獣は強いが2体くらいならばキョウスケ達が負ける訳がない。武蔵はそう考え、腕に巻きついていた触手を掴み烏賊のような姿をした百鬼獣を強引に引き寄せる。

 

「おらあッ!!!」

 

『!?』

 

弾丸のような勢いで引き寄せられた剣頭鬼の顔面に固く握られたゲッターD2の拳が叩き込まれ、そのままの勢いで頭部が吹っ飛んだ。胴体からオイルを海中に撒き散らしながら崩れ落ちる剣頭鬼の姿に無人の百鬼獣は動揺し、一瞬その動きを止めた。

 

「ダブルトマホークサイトォッ!」

 

当然その隙を武蔵が見逃す訳が無く、ゲッターD2の腕に巻きついている触手をスピンカッターで引き裂くと同時に肩から射出させたダブルトマホークを左手で掴み、真ゲッター同様の鎌状にし、貝獣鬼と白骨鬼に向かって振るい引き寄せると同時に右腕のスピンカッターで頭部を斬り飛ばす。

 

「ゲッタァアアビィィイイイムッ!!!」

 

頭部から横薙ぎのゲッタービームが放たれ、動揺に動きを止めた百鬼獣は胴体から両断され爆発炎上した。残ったのは闘龍鬼1体だが、武蔵にはある疑問が脳裏を過ぎった。

 

(なんだ。弱い?)

 

インベーダーに寄生されていた百鬼獣でももっと強かった。それに他の場所で戦った百鬼獣も、味方が撃破されたからといって動きを止める物は居なかった。それこそ、動けない味方ごとゲッターを倒してやると言わんばかりに攻撃をしてきた……姿は同じ、だが行動は余りにも違う……その差はなんだ? と一瞬考えたが、すぐに武蔵は思考を切り替えた。

 

「っと!?」

 

『あやつらは所詮前座よ! 本番はこれからだッ!!』

 

肩部の後のスクリューを回転させ、凄まじい勢いで突っ込んできた闘龍鬼の一撃をダブルトマホークで受け止める。直撃は防いだが、それでも凄まじい衝撃が武蔵を襲う。

 

(こいつだけ別格かッ!)

 

姿だけではない、その機体性能もパイロットの腕も並の百鬼獣を越えている。

 

「なろおッ!!」

 

『遅いッ!!』

 

両手足のスクリューと肩部のスクリューによる高速移動――その速度はゲッターD2の攻撃を見てからかわすという事を可能にしていた。

 

「ちっ! ドラゴンじゃ分が悪いッ!」

 

並の百鬼獣ならば海中であろうとゲッターD2の相手ではない、だがこの闘龍鬼はパイロット自身が相当な手練れである事に加え、機体性能も高い上に完全水中戦用――相性の問題で劣勢に追い込まれていた。

 

『どうしたどうした! 手も足も出ないかッ!』

 

魚雷を乱射しながらゲッターD2の周りを泳ぎ回り、決して一箇所に留まらない。言葉に対して、ゲッターロボに対して十分な警戒をしている証拠だった。ゲッターD2が自分の動きについて来れないと慢心し、動きを止めれば……あるいはその動きを緩めれば、ゲッタートマホークの一撃を喰らい、そこから崩される事が判っていた。だからこそ三角鬼は魚雷を利用し、砂煙、そして爆発時による振動によりゲッターの動きを徹底的に妨害し、自分が有利に立ち回り続けていた。

 

「うっせえッ! 舐めんなッ!!」

 

ダブルトマホークを振るうが、水圧で勢いを大幅に削がれてしまった。その勢いは百鬼獣を相手するには十分だったが、闘龍鬼を捉えるには余りにも遅すぎた。

 

『そんな攻撃が当たると思っているのかッ!』

 

悠々とダブルトマホークの刃をかわし、反転し魚雷をゲッターD2に向かって撃ち込もうとした瞬間三角鬼は己のミスに気がついた。

 

「当てるつもりなんざねえんだよッ!」

 

振るうと同時にゲッターの手を離れたダブルトマホークの刃にゲッターD2がその頭部を向ける。威力を絞り、その代りに速度を上げた頭部ゲッタービームが2連射で放たれ、ダブルトマホークの刃に当たり、そのまま角度を急激に変えて闘龍鬼へと向かう。

 

『ぬっぐうッ!?』

 

機動力の要であるスクリューへの被弾は回避したが、胴体部、背部をゲッタービームがかすめ、闘龍鬼の速度が僅かに落ちた。

 

「オープンゲットッ!!!」

 

その瞬間を武蔵は見逃さず、ゲットマシンへと分離し急速浮上を行なう。

 

『逃がすか!』

 

「誰が逃げるか! 間抜けぇッ!!」

 

海面に向かえば、逃げようとしていると判断し三角鬼が追いかけてくるのは判り切っていた。その瞬間にゲットマシンを反転させ、ドラゴン号、ライガー号をポセイドン号が追い抜いた。

 

「チェンジッ! ポセイドンッ!!」

 

何も馬鹿正直に不利な条件で相手に付き合う必要はない。水中戦に相手が特化しているのならば、ドラゴンよりもポセイドンにチェンジすれば良い。追いかけてきた闘龍鬼を眼前に見据えたままポセイドンへとチェンジし、固く握り締めた拳が闘龍鬼の頭部を捉え海底に向かって殴り飛ばす。

 

『ぐうっ!? おのれッ!!』

 

「今度はオイラが言ってやるよ。遅いってなあッ!!」

 

ドラゴンと異なりポセイドンは水中戦に特化している。同じ土俵ならばゲッターロボが百鬼獣に負ける訳が無い、闘龍鬼の背後に回りこんだポセイドン2の蹴りが闘龍鬼の背中にめり込み、海底に地響きを立てながら闘龍鬼は倒れ込んだ。

 

「おら、てめえの得意な水中戦で相手してやるよ」

 

『……はっ! それはありがたいなッ! だが機体性能の差が絶対ではないと言うことを教えてやる!』

 

互いに水中戦に特化した機体同士。水中戦のエキスパートである武蔵と三角鬼――機体性能はポセイドン2の方が上、しかし三角鬼の闘志は凄まじく、それは機体性能の差を埋めるほどの物だった。機体性能がほぼ同じ、ならば勝敗を分けるのはパイロットの腕……自分が相手に劣っている訳が無いと言う自負を抱き、武蔵と三角鬼の戦いはより激しさを増していくのだった……。

 

 

 

 

 

海中に引きずり込まれたゲッターD2の姿は国を百鬼帝国に乗っ取られ、逃亡してきたシャインにはあまり残酷な光景だった。リュウセイ達はゲッターロボが、武蔵がその程度でやられる訳が無いと判っていた。しかし、自分の国を失い、自分を逃がすために何人も犠牲になる光景を見てきたシャインにとっては武蔵とゲッターロボが最後の心の寄り所であり、それが姿を消したことでシャインは半ば狂乱状態に陥ってしまった。

 

「武蔵様ッ!? 武蔵様がッ!? いや、いやッ!」

 

「姫様! お願いします! 落ち着いて! 落ち着いてくださいッ!!」

 

感情のコントロールが出来ず、闇雲に手を振り、武蔵の名を叫ぶシャインにマルコの言葉は届かず。リオンの操縦に集中出来ないマルコはハガネとシロガネのPTから距離を開け始めており、状況は最悪に近かった。

 

『シャイン王女! 落ち着いて! 落ち着いてください!』

 

ソルプレッサとガーリオン、アーマリオンのいる方向にリオンがその機首を向けかけた時、やっと包囲網を抜けたR-ウィングとビルドラプター改がリオンに隣接する事に成功し、半狂乱のシャインにラトゥーニが声を掛けた。

 

「ら、ラトゥーニ?」

 

『武蔵は大丈夫です! 武蔵は戦っています! 大丈夫ですッ!』

 

海中から響く轟音が武蔵が健在であるという事を示していた。だがそれでも姿が見えないと言うのは不安を煽り、恐怖をシャインに与える。

 

「で、でも……」

 

『武蔵は絶対に大丈夫です。約束は2度は破らないと言ってました、シャイン王女はハガネで武蔵が戻るのを待ってください』

 

最後に残っていたもう1つの心の寄り所……親友であるラトゥーニの言葉にシャインは冷静さを取り戻す事が出来た。それでもまだその瞳は不安げに揺れていたが、繰り返し大丈夫と言われた事で僅かに心の平静を取り戻す事が出来た。

 

「マルコ……すみません」

 

「姫様、大丈夫です。行きましょう」

 

『私が誘導します。リュウセイはフォローをお願い』

 

『おう! 急ごうッ!』

 

リオンの前方をビルドラプター・改FMが進み、その後をR-ウィングが守りハガネへとリオンが向かい始める。

 

『ラトゥーニとリュウセイがシャイン王女を保護した! 各員は2機の支援を行なえ! 敵機を抜かせるなッ!』

 

リオンを追っていたノイエDCの機体の前にゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムや、アンジュルグが立ち塞がり防衛網を敷く、追う者と守る者の立ち位置が大きく変わり、戦況が変わり始める中でも海中から響く、凄まじい轟音は今も尚止む気配が無いのだった……。

 

『ゲッターキャノンッ!!!』

 

「ちいっ!」

 

海中での闘龍鬼とポセイドン2の戦いは完全に互角という様相を呈していた。武蔵は少しでも早く姿を見せてシャインやリュウセイを安心させたいと思っていた。だが戦いの運びを焦れば、その瞬間に巻き返される事を感じ慎重な立ち回りを要求されていた。それに対して三角鬼はポセイドン2の攻撃方法がわからず、距離を取りポセイドン2の出方を終始観察していた。

 

(固い上に速い……なるほど、強いッ!)

 

戦いながら三角鬼はポセイドン2の情報を集め、そして的確な戦闘パターンを割り出して行き、徐々に戦況を不利から互角にまで押し返していた。

 

「ふんッ!!!」

 

『うおりゃあッ!!!』

 

魚雷の弾数が無くなる頃には三角鬼はポセイドン2の武器がその強固な装甲と両肩のキャノン砲、そしてその豪腕である事を見出し。あえて接近戦を仕掛けていた。

 

『ちっ!?』

 

「おっと、逃がさんぞッ!!」

 

闘龍鬼の全長が72m、ポセイドン2より頭1つ分低く潜り込まれる事を嫌った武蔵が後退させるが、そうはさせないと三角鬼は懐に闘龍鬼を潜り込ませる。

 

(距離が近ければキャノン砲を使えない。それに背中の大型ミサイルもだ)

 

そしてポセイドン2は巨体さゆえに加速力はあるが、最大速度に入るまで時間が掛かる。間合いを詰め続けていればキャノン砲や背中のミサイルは使えない。インファイトを仕掛けるにはポセイドン2は巨大で、そして力も強く近接戦闘を挑むには恐怖を伴う……。

 

「逃げに回る腰抜けは龍王鬼様の配下ではないッ!」

 

距離を取れば弾雨に晒され、近づいて掴まれれば逃げることも叶わず押し潰される。それでもだ、三角鬼が活路を見出したのはインファイトだった。

 

『へっ! 鬼にしちゃあ良い気構えだッ!!!』

 

「俺を卑怯なだけの鬼と一緒にしてくれるなッ!!」

 

ポセイドン2の一撃必殺の豪腕が何度も目の前を掠める。それは直撃すればその瞬間に死に直結する――その緊張感の中で三角鬼は牙を向きだしにして笑っていた。

 

「ぬおおおおッ!!!!」

 

『うっ! なろおッ!!!』

 

三角鬼という鬼は良いも悪いもモチベーションに左右される性格をしていた。アーチボルドと組まされ下がっていたテンションは、命を賭けて戦うに相応しい強敵――ポセイドン2と武蔵によって完全に回復し、その闘志に呼応するように闘龍鬼もその出力を上げてポセイドン2とがっぷり4つに組み合っていた。

 

「これだ! これが俺の望んでいる戦いだッ!!!」

 

『戦闘狂かよッ!! ったくよおッ!!!』

 

ポセイドン2の豪腕をかわし、1つ、2つと攻撃を当てるがポセイドン2の自己修復能力に決め手に欠ける。それでもだ、それでも三角鬼は心から武蔵との戦いを楽しんでいた。攻撃を装甲が拉げコックピットが火花を散らす、その熱が三角鬼の身体を焼いたがそれすらも三角鬼の闘争心を高める事に繋がっていた。

 

「もっと、もっとだッ!! お前と戦えば、俺はもっと先に行けるッ!! お前だって戦いを楽しんでいるだろうッ! もっとお前も戦いを楽しめッ!」

 

敬愛し、尊敬している龍王鬼の立つ高みには今のままでは届かない、だが武蔵との戦いの中で足りない何かを、自分がより強力な鬼となる為に武蔵との死闘を楽しみ始めていた。だが武蔵にとって命を賭ける場所はここではない、少しでも速く仲間の元へ向かいたいと思っていたし、何よりも武蔵と三角鬼には決定的な違いがあった。

 

『悪いな、オイラは戦いが楽しいなんて思ったことは1度もねえし、てめえみたいなキチガイに付き合ってやるほど暇じゃねえんだよッ!』

 

キャタピラモードに切り替え、高速で後退するポセイドン2を前に闘龍鬼の渾身の一撃は空振り、海底にその拳がめり込んだ直後、ポセイドン2が今まで使わなかった武器――フィンガーネットが闘龍鬼の全身に巻きついた。

 

「う、うがああああああッ!?!?」

 

フィンガーネットからの放電が三角鬼を痺れさせ、闘龍鬼の操縦桿から三角鬼の腕を離させ、動きを止めた闘龍鬼がポセイドン2を引き寄せながら足のキャタピラを使い、高速でその身体を回転させる。

 

『大ッ! 雪ッ!!! 山ッ!!!! おろしぃいいいいいいッ!!!!!』

 

感電し、動く事が出来ず、悲鳴を上げる事も出来ない三角鬼は、凄まじい回転に巻き込まれ、その意識を失い深海から瞬きの間に海上に向かって打ち上げられた事で、目と鼻、そして耳から大量の血を流しながらも、意識を失わぬ為に強く歯を噛み締め、緊急用のレバーを力強く自身に向かって引き寄せるのだった……。

 

 

 

 

エルシュナイデのコックピットの中でアーチボルドは歯軋りをしていた。何もかもが自分の思い通りに動いて当然と思うほどアーチボルドは子供ではない。だがそれを差し引いても理解出来ない現在の状況に歯噛みをした。

 

(どうしてこうも、上手く行かないんですかねえ……)

 

ソルプレッサやアーマリオンとガーリオンを言ったAMは殆ど壊滅状態、頼みの綱の百鬼獣も破壊された。

 

『アーチボルド・グリムズッ! 貴様はここで己の犯した罪を悔いて死ねッ!!』

 

「やれやれ、もう少し動揺してくれても良いんですよ! ライディース君ッ!!」

 

ホバーで高速で接近しながら手持ち火器と背中に背負ったハイゾルランチャーで攻め立ててくるR-2の姿にアーチボルドは思わずそう叫び返した。リクセントの時は感情的になって突っ込んできたライディースならば簡単に手玉に取る事が出来ると考えていた、だが実際はどうだ? 感情的になっているように見えて、理詰めでアーチボルドの逃げ道を奪うように攻撃を繰り返してきている……エルザムと違い、感情的で、それゆえに御しやすいと考えていた相手が自分の理解を超えていた事に驚いていたアーチボルドだが、なんとか冷静にと思考を切り替えようとするが、コックピットに鳴り響いたアラートに気を落ち着ける間もなかった。

 

「やれやれ、随分と色物になりましたねぇッ!」

 

『ヒューストンでの借りはここで返させて貰うッ!!!』

 

地上から垂直に飛び上がってきたアルトアイゼン・ギーガ。地上機でエルアインスの高度まで垂直に跳んで来るというのは明らかに異常なだった。

 

「いえいえ、長いお付き合いをしたいので、無理に返してくれなくても結構ですよ?」

 

『利子をつけて返してやるから遠慮するなッ!!』

 

PTが携行できる中の武器で最大の火力を持つグラビトンライフルの照準を合わせようとした瞬間。別の方向からのアラートが響き、ロックオンマーカーを解除する。

 

「やれやれ! 英雄部隊というのはどなたも情熱的ですねえッ!!!」

 

凄まじい勢いで切り込んでいたヴァイスリッター・改の射撃をかわしながら、思わずアーチボルドはそうぼやいた。

 

『あら? その声いつぞやの泥棒さんね? んふふ、美女の強烈なアタック嬉しいでしょ?』

 

「いやはや、確かに嬉しいですが、命を取りに来られるのはなんともッ!」

 

軽口に軽口を返してくるが、その攻撃は殺意に満ちていた。

 

『王女様を泣かせた分はきーっちりお返ししてあげるわ。はい、どーんッ』

 

「うぐっ!?」

 

オクスタンランチャーの銃口を向けられ、咄嗟に旋回したがヴァイスリッター・改が打ち込んだのはスプリットミサイル。その爆風で高度を落とされたエルシュナイデの先には、リボルビング・バンカーを構えているアルトアイゼン・ギーガの姿がある。

 

『落ちろッ!!』

 

「いいえ! そう簡単にはいきませんよッ!!」

 

腕を自らパージする。落下したエルアインスの右腕がヴァイスリッター・改とアルトアイゼン・ギーガの前で破裂し、煙幕を生成する。

 

『むっ!?』

 

命中のすんぜんの煙幕で照準を逸らされながらも振るわれたリボルビング・バンカーはエルアインスの左足を根元から引きちぎったが、それでもまだエルアインスは飛行を続けていた。

 

「やれやれ、隠し玉を切らされることになるとは……ASRS展開、ブースト……」

 

『言った筈だ! 貴様はここで死ねとッ!!!』

 

ASRSを展開し、ブースト・ドライブに入ろうとしたアーチボルドの視界に飛び込んできたのは長大なライフルを構えているRー2の姿だった。

 

「いやいや、流石にそれは洒落になりませんよッ!?」

 

ASRSとブースト・ドライブによる逃走がノイエDCの定番のパターンとなっている事から試作的に開発された。ASRSによるレーダーの妨害とブースト・ドライブによる防御、それを貫通する試作アンチマテリアルライフルの照準をライは逃走しようとしているエルアインスに合わせ、引き金を引こうとした瞬間だった、凄まじい地響きが周囲に広がった。

 

『な、なんだ!? じ、地震か!?』

 

『いや、新型の百鬼獣かもしれん! 各機警戒を緩めるなッ!』

 

PTでも立っていられない振動にロックオンが外れ、R-2が膝をついた。

 

「やっぱり僕って運が良いですねえ。では皆様、またお会いしましょう」

 

その地震も飛行しているエルアインスには何の影響も無く、ブースト・ドライブを発動させ、西の方角へと飛び去ろうとする。

 

『逃がすかぁッ!!!』

 

「くっ……くくうっ……まさか、そんな僕がこんな所で死ぬ訳が……ッ」

 

ロックオンは外れているが、それでも数秒前までロックオンをしていた。逃走方角を予測し、引き金を引いたR-2。執念の一撃は逃走しようとしているエルアインスに向かって真っ直ぐに飛び……。

 

『大ッ! 雪ッ!!! 山ッ!!!! おろしぃいいいいいいッ!!!!!』

 

『う、うおおおおおおおーーーーーッ!?』

 

武蔵の雄叫びと三角鬼の悲鳴共に発生した竜巻に遮られ、その勢いを失って墜落した。その光景にライは驚きの声をあげ、アーチボルドは歓喜の笑い声を上げた。やはり自分はまだ、ここで死ぬ存在ではないのだとアーチボルトは感じていた。

 

『なっ!?』

 

「ふ、ふふ、やっぱりですね。まだ僕はここで死ぬべきではないと言うことです。三角鬼さん、作戦は失敗です。離脱しましょうでは」

 

『……了解した」

 

ついさっきまで死を覚悟していたのに、余りにも自分の都合に良い展開になった事にアーチボルドは薄く微笑み、ブースト・ドライブを発動させ、三角鬼と共にその場を離脱するのだった……。

 

「逃がした……か、大尉。各機に撤退を指示、その後本艦とプラチナム1はこの空域を離脱、アビアノ基地を目指す」

 

「了解です。各機、周辺を警戒しつつハガネ、シロガネへと帰還せよ」

 

残虐なテロリストであるアーチボルドを1度は追詰めたが、ダイテツ達にとっての不幸が続き、アーチボルドにとっての幸運が続き取り逃がした。だがシャイン王女を無事に救出する事が出来た点では紛れも無く、ダイテツ達は勝利したのだ。これ以上この場に留まり、敵の増援が来る可能性を考え、ダイテツ達は即座にこの空域を離脱して行くのだった……。

 

 

 

第70話 亡国の姫君 その5へ続く

 

 




アーチボルドは運よく逃亡成功。ここで死なせる訳にもいかなかったので大雪山おろしの余波に救われた形にしました。次回は前半はシャイン王女の話、中編はウェンドロとブライ、そして後編はラングレーと3つのサイドで話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第70話 亡国の姫君 その5

第70話 亡国の姫君 その5

 

海底から浮上してきた武蔵は忌まわしげにその眉を潜めながら、モニター越しにポセイドン2の手に視線を向けた。ポセイドン2の手の中には拉げた闘龍鬼の両肩パーツが握られていた……。

 

「くそ……あそこまで極めた大雪山おろしを外されたのは初めてだ」

 

武蔵は闘龍鬼と対峙した段階で完全に破壊する算段を立てていた。確かに想像以上に強い百鬼獣だったが、百鬼帝国の幹部クラスである相手を無傷で逃がすつもりは無かった。だからこそフィンガーネットを温存し、キャタピラモードをひたすらに隠し、大雪山おろしの一撃で極めるタイミングを計った。しかし結果は闘龍鬼は両腕をパージし、大雪山おろしの勢いに乗って脱出を許してしまった。

 

「しくじったな……まぁ、しゃーねえ。シャインちゃんを助けれただけで御の字だろ」

 

ここで調子に乗って深追いすれば手痛い反撃を受けるのはこちらのほうかもしれない。それに三角鬼が口にした龍王鬼の名前――それは武蔵にハガネの窮地を教えた鬼の名前、このまま戦っていて龍王鬼が出て来たらと思えばシャインを救出した段階で撤退さぜるを得なかった。

 

「こいつが何かの参考になれば良いけどな……」

 

拉げてはいるが、完全に破壊されているわけではない。それに闘龍鬼は他の百鬼獣と明らかに構造が違っていた事から何か判ることもあるかもしれないと思い武蔵は闘龍鬼の残骸を回収して来たのだ。ハガネとシロガネはどっちに向かったかな? とポセイドン2の首を動かしていると目の前に純白のPTが舞い降りてきた。

 

『武蔵、おつかれ様』

 

「エクセレンさん。待っててくれたんですか?」

 

『まぁねん。王女様を早く安全な場所に連れて行かないといけないし、置いていった訳じゃないわよ?』

 

「はは、判ってますよ。よっと」

 

足の裏のブースターと背中に背負っている砲台から放出されたジェットでポセイドン2の巨体が浮かび上がる。

 

『今度のゲッター3は飛べるのね』

 

「まぁ、ドラゴンやライガーよりスピードは劣りますけどね。それじゃ、行きましょうか?」

 

『そうね、王女様も待ってるし、行きましょうか』

 

ヴァイスリッター・改に先導され、ポセイドン2はハガネに向かっていくのだった。ただ……武蔵とエクセレンがハガネに向かっている頃――ハガネ、それの艦長室は非常に重苦しい空気に満ちていた。

 

「……なんで武蔵様を置いて行ったんですか」

 

武蔵だけを残し、その場を離脱したダイテツとリーに怒り心頭という様子のシャイン。その小さな身体から溢れる怒気は凄まじい物で、その場にいる全員は思わず息を呑んだ。それほどまでの威圧感をシャインは放っていた、幼くとも一国の主。その覇気と威圧感は十分に女王と呼ぶに相応しい風格を持っていた。

 

「しゃ、シャイン王女」

 

「ラトゥーニは黙っていてください。私はダイテツ・ミナセ中佐とリー・リンジュン中佐に聞いているのですわ」

 

ラトゥーニが気を落ち着けるように声を掛けようとしたが、それすらもぴしゃりとシャインは両断した。

 

「御身の保護を最優先にしたのです。ノイエDC、そして百鬼帝国にリクセントを占拠された以上……御身を守る事を最優先にしたのです」

 

「……それは判ります。判りますが……武蔵様が戻るまで待つ時間はあったでしょう?」

 

本来のシャインならば、ダイテツの言い分が判らないと駄々を捏ねるほど子供ではなかった。しかしだ、リクセントを失い、そしてリクセントの住人、そして城の親衛隊やジョイスといった心の支えを失ったかもしれない恐怖を抱えているシャインにとって、武蔵とラトゥーニ、そしてライディースの3人が残された心の寄り所だ。取り分け武蔵がシャインの心を占めるウェイトは非常に大きく、納得行く理由が無ければシャインはダイテツとリーを批判し続けていただろう。

 

『エクセレン少尉から連絡です、通信を回します』

 

リーとダイテツがどうしようかと頭を悩ました時だった、通信兵から艦長室にエクセレンからの通信が入ったという報告が入ったのは。それは正しく天の助けだった、エクセレンは武蔵が浮上してくるまで待機し、共にハガネに帰還するようにと命じていた。つまりこのタイミングで通信を入れてくる理由は1つしかなかった。

 

『あーあー、えっとダイテツさん? 聞こえてます? あれ? エクセレンさん、これで良いんですか?』

 

『大丈夫大丈夫、通信機の所に緑のランプがついてるでしょ? ちゃんと通じてるわよ』

 

新西暦の通信機を使ったことが無い武蔵の困惑した声と明るいエクセレンの声が艦長室に響いた。

 

「武蔵様! 武蔵様はお怪我などは」

 

『だからオイラは王子様ってキャラじゃないって、オイラは全然平気だから心配ないぜ。シャインちゃん』

 

元気そうな武蔵の声を聞き、シャインの不安そうな顔が一転し、明るい笑顔になる。

 

『もうすぐそっちに戻れると思うから、えーっと? どれくらいでしたっけ?』

 

『30分くらいね、と言う訳で、私と武蔵は無事です。もう暫くしたら帰還します』

 

「了解した。道中の敵兵の奇襲や追跡を警戒し、敵兵に発見された場合は遠回りをして戻ってくれ」

 

リーの言葉に不満そうな顔をするシャイン。だがダイテツ達が最優先しなければならないのはシャインの安全の確保だ。シャインに睨まれたとしても、リーはこの意見を曲げるつもりは無かった。

 

『了解です。少し遅れるかもしれないけど、ちゃんと無事にハガネに戻るから心配はないから、シャインちゃんの安全の為なんだ。判ってくれるよな』

 

「は、はい……判りました』

 

不満そうでも武蔵に言われるとシャインは不服そうながらも頷いた。その姿を見るだけで、武蔵の存在がシャインにとってどれだけ大きいのかが容易に判った。

 

『リクセントの事は残念だけど……まだ大丈夫さ、きっと皆無事だ。シャインちゃんが無事で良かったよ』

 

一国の女王に対して、一貫して年下の少女として1人の少女として扱う武蔵は不敬と言われて当然だった。だがシャインからすれば、片意地を張らず女王としてではない。ただの少女として扱ってくれるからシャインは武蔵に心を開いていたのかもしれない。武蔵とシャインのやり取りを見て、ダイテツ達にはそう感じられた。

 

「国に残された者達のことを思ったら、良かったなんて……」

 

『いや、リクセントの皆もきっとそう思ってるに違いない、不安や悲しいかもしれないけど……それを無理に押し込めることはないと思うぜ』

 

武蔵のなんでもない一言一言がシャインの強固な心の殻を砕いていく、凜としていたシャインの顔に少しずつ、悲しそうな色が浮かんでいく。

 

『大丈夫かい? ごめん、近くに居ないのに勝手な事を言ったな……ごめん』

 

黙り込んだシャインに不躾な事を言ったと武蔵が謝罪するとシャインはハッとした表情を浮かべた。

 

「いえ、ありがとうございます。武蔵様のおかげで一国を預かる身として、これから何をしなければならないか……それが判りました。武蔵様……いつかそのお力を貸していただけますか?」

 

『オイラで良ければ力なんて幾らでも貸すよ。じゃ、悪いけどちょっと偵察機みたいのを見つけたから通信を切るよ。ダイテツさん、リーさん。すんません、少し戻るのは遅くなりそうです』

 

『という訳です。でも心配ないからね、私も武蔵もちゃんと追っ手はまいて帰りますので~』

 

武蔵とエクセレンの言葉を最後に通信は途絶え、艦長室に再び沈黙が広がった。

 

「……皆様。八つ当たりをしてしまい申し訳ありませんでした……皆様は私の事を考えてくれていたと言うのに……本当にすみません」

 

武蔵との会話で落ち着いたのか、シャインは自らの無礼をダイテツ達に謝罪した。

 

「いえ、シャイン王女のお怒りは最もです。どうかおきになさらず」

 

『我が連邦軍はアビアノ基地を中心として戦力を立て直し……ノイエDCに対し、 反攻作戦を敢行する予定です、その折りには必ずやリクセントの奪還をお約束します』

 

ダイテツとモニター越しではあるが協力を約束したリーの言葉にシャインは少し不安げな表情を浮かべたが、柔らかく微笑んだ。

 

「判りました。ご助力の程をよろしくお願いします。私も覚悟も決意を固めましたので」

 

覚悟と決意……余りに重い言葉にダイテツ達が眉を顰めるとシャインは立ち上がり、ラトゥーニの手を取った。

 

「ラトゥーニ、武蔵様が戻る前にタオルや飲み物を用意したいのです。手伝ってくれますか?」

 

「は、はい。でも王女、覚悟と……「参りましょう。武蔵様が戻ってきてしまいますわ」……ま、待って、待ってくださいッ!」

 

ラトゥーニの言葉を遮り、艦長室から逃げるように飛び出していった。

 

「艦長……覚悟と決意ってシャイン王女は何を考えているのでしょうか……」

 

「判らん。だが……泣き寝入りして終わるつもりはないようだな」

 

何かシャインが行おうとしていることは判っていたダイテツ達だが、それを指摘する前にシャインは逃げてしまった。武蔵に助力を頼んでいたことを考えると自力でリクセントを取り戻す為の算段を立てている様にダイテツには感じられた。

 

「リクセント、そしてシャイン王女の事も心配だが、まず我々はアビアノ基地へ向かう事を優先する。全てはアビアノ基地に辿り着いてからだ」

 

ダイテツはシャインの事に不安を抱えているテツヤとリーの言葉を遮り、アビアノ基地へと向かう事を告げるのだった……。

 

 

 

 

ハガネの格納庫で修理されているヴァルキリオンを見上げるユーリアとレオナの姿があった。

 

「隊長はこれからどうなさるおつもりなのですか?」

 

「そうだな。迎えを呼んで、エキドナと共にクロガネに戻るか、それともエルザム様達と合流するか……それともこのまま整備兵か何かに紛れ込んで連絡役をするか……だな。どの道、すぐには動くつもりはない。それよりも、レオナ。よく我慢したな」

 

「……本当は、私も飛び掛って行きたかった。全てのコロニーの住人の仇をこの手で打ち倒したかった……」

 

ぐっと拳を握り締めるレオナの肩に手を乗せるユーリア。その気持ちはユーリアも同じだった、エルピス事件で宇宙に住む者の多くが、家族を……そして友人を失った。コロニーに住む全て者の仇敵と言っても良いのがアーチボルド・グリムズという男だ。ユーリア自身も搭乗機があればアーチボルドに攻撃を仕掛けていただろう。

 

「ライディースがあれだけ冷静だったんですもの……私が激昂する訳には行きませんでした」

 

「……ライディース様だって冷静だったわけじゃない、武蔵が戻る前にタオルとスポーツドリンクを取りに行ったんだが……爪が皮膚を突き破って、酷い有様だった」

 

エルザムの妻――カトライア・F・ブランシュタインもエルピス事件で死んだ。しかもその引き金を引いたのはエルザムだ……愛する妻を自ら殺さなければならなかったエルザムの苦悩とライがブランシュタイン家を出奔する切っ掛けとなった。ブランシュタイン家の崩壊はアーチボルドのせいと言っても良い。誰よりもアーチボルドを憎んでいるライが、己の手の皮膚を突き破るほどに拳を握り締め、怒りで我を忘れそうになる己を律していたのだと知り、レオナは小さく目を伏せた。その時だった、コンテナの影からタスクがひょっこり顔を見せた。

 

「あ、いたいた。あのユーリアさん、あり? レオナちゃんも? 何か込み入った話をしてた? 邪魔だったらまた後で来ますけど……」

 

ユーリアを探していたらしいタスクはレオナに気付いておらず、その姿を見てトロイエ隊の隊長と部下と言う事で話をしていたのだと思い、邪魔なら出直しますよとタスクが言うと、ユーリアは大丈夫だと笑いかけた。

 

「いや話は終わっているから大丈夫だ。それで私になんのようだ? その様子を見ると随分と私を探していたのだろう」

 

レオナの反応から話が終わっていないとタスクはすぐに判ったが、後回しにする事も出来ない内容なので、頭をがりがりと掻きながら、小脇に抱えていたバインダーをユーリアに差し出した。

 

「えっとあのヴァルキリオンなんすけど……ハガネとシロガネの設備じゃ修理が難しいというか出来ないっす」

 

タスクが差し出したバインダーに挟まれた分析表を見て、ユーリアはやっぱりかと呟き、レオナは眉を細めた。

 

「貴方。一応でも整備兵上がりでしょう? 出来ないなんてよく言えましたわね?」

 

「いやいや、勘弁してよ。レオナちゃん、俺も勿論整備班の皆で頑張っても無理だったんだよ! あの新型のテスラドライブと、軽さと強固さを両立させた装甲とか! いや、本当にビアン博士ってマジモンの天才だったんだなって改めて思い知らされたんだよ」

 

ハガネとシロガネの整備班は非常に優秀だ。タイプの違うPTやAM、更には特機まで常に万全の形で出撃出来るように全員が全員、他の基地ならば専門家、班長を勤めるような優秀な人員が揃っている。だがそれら全員を含めても1人の天才――ビアン・ゾルダークには届くことが無かったのだ。

 

「ふむ……修理出来ないのならば分解して、パーツ取りをしたいと」

 

「なっ!? タスク! 貴方ユーリア隊長の機体に何を言っているんですの!?」

 

書類を読み進めていたユーリアの言葉を聞いてレオナが激昂し、タスクに詰め寄ろうとしたがそれは他でもないユーリア自身に止められた。

 

「ユーリア隊長?」

 

「修理も出来ず、嵩張るだけで置かれているのならば分解した方が意味もある。それに解体許可が欲しい理由がお前の機体の為だとあるぞ、お前の恋人は随分と尽くしてくれるじゃないか」

 

ユーリアの言葉にレオナがその手元を覗き込むと、確かにレオナちゃん専用機とでかでかと書かれ、マリオンがタスクに託したズィーガーリオンの図面を更にタスクがアレンジを加えた物が記されていた。しかしその後に相合傘やハートマークが書かれており

 

「な、なぁ! タスクッ! あ、貴方ユーリア隊長になんて物を!?」

 

「ヴァルガリオン・ズィーガーじゃなくて、ヴァルキリオン・ズィーガリオスの方が良かった?」

 

「違うわよ! この馬鹿ッ! 馬鹿ッ!!」

 

敬愛するユーリアにタスクが恋人と言われ、耳まで真っ赤にしてタスクの背中を叩くレオナの姿を見て、ユーリアは胸ポケットから取り出したペンで自分のサインを入れる。

 

「かまわない、どうせ修理できないのならレオナの為に使ってやってくれ」

 

「あざっすッ!」

 

「このッ! このッ!!!」

 

「痛い! 痛いってレオナちゃんッ!?」

 

タスクの背中を叩いてこそいるが、その顔は緩んでおり、照れ隠しなのがユーリアには丸判りだった。もしここに他のトロイエ隊のメンバーがいたら、裏切り者とかで大騒動になるんだろうなと想像していると今度はカチーナが顔を見せた。

 

「おいおい、痴話喧嘩してんな、整備の兵邪魔をするんじゃねえよ」

 

「「す、すみません!」」

 

カチーナの叱責にレオナとタスクが揃って謝罪の言葉を口にする。それから少し遅れて、ユーリアも頭を下げた。

 

「軽率だった。止めるべきだったな」

 

「あん? あートロイエ隊の隊長か、良いさ。あんたは確かに隊長かも知れねえけど、今は客人だ。こういう時に叱るのは上司の務めだ、あたしの仕事を取ってくれるなよ」

 

口調は荒いが、その言葉の中に上官としての矜持を感じ取りユーリアは更に謝罪の言葉を口にした。

 

「申し訳無い、部外者が差し出がましい真似をしたな」

 

「そうかたっくるしく考えなくて良いぜ。そうそう、もう武蔵が戻ったらしいぞ」

 

武蔵が戻ると聞いてユーリアの顔が僅かに緩み、コンテナの上のタオルとスポーツドリンクに手を伸ばしたのだが……ユーリアがそれを手に取る前にシャインの声が格納庫に響いた。

 

「武蔵様! おかえりなさい! タオルと飲み物をご用意してますわ!」

 

「おお、悪いなあ、シャインちゃん」

 

「いえいえ、ささ、どうぞこちらへ」

 

「っとと、そんなに引っ張らなくても」

 

シャインに右手を両手をつかまれ、ぐいぐい引っ張られ、武蔵は苦笑しながら格納庫を出て行き、その光景を見ていたユーリアはその場に崩れ落ちた。

 

「ゆ、ユーリア隊長?」

 

「だ、出し抜かれた……何故……エキドナならまだしも、何故シャイン王女にまで……」

 

Orzの格好でぶつぶつ言ってるユーリアの姿にレオナはリリーの手紙にあったぽんこつユーリアの意味を初めて知り、タスクはさっきまで凜としていた美女が急に残念になり、何とも言えない表情でレオナとユーリアを見て、口を開きかけては閉じて、結局何もいわなかった。

 

「なんだ、レオナ。お前の元隊長おもしれえな」

 

ただ1人カチーナだけが笑いながらレオナにそう告げて、レオナは苦虫を噛み潰したような表情でとりあえずユーリアを立ち上がらせようと、声を掛けるのだった……。

 

 

 

 

 

 

アギーハとシカログが必死に掃除をし、調度品を整えた一室でウェンドロと玄王鬼の身体を借りているブライが向かい合う。

 

『ほう、良い茶葉だ。香りも味も良いな』

 

「お褒めに預かり光栄だね、これはゾヴォークでも滅多に手に入らない物だからね」

 

『なるほどなるほど、それではますます仮初の身体ではなく、生身で君と合って話をして、この茶を味わいたい物だよ』

 

表面上は穏やかだが、2人の間にはピリピリとした雰囲気があり、下手をすればこの場で戦いに発達するようなそんな重苦しい雰囲気があった。

 

(勘弁してくれ)

 

その一室の中にいるメキボスはキリキリと痛み出した胃に天を仰いだ。メキボス自身も枢密院や会議にも参加しており、狸同士のやりとりには慣れているが、それを越える威圧感とプレッシャーに本当に勘弁してくれと思っていた。

 

「こちら大帝様よりの目録です。百鬼帝国、そしてダヴィーンの生き残りとしてこちらはこれだけの物を貴方に開示出来ます」

 

「どれどれ」

 

朱王鬼が差し出した目録にウェンドロは目を通す、最初は興味をなさそうにしていたが突如その顔色を変えた。

 

「このゲッター炉心というのはまさか本物かい? それともあのD2から奪い取るつもりかな?」

 

『こちらとてゲッター線の解析は続けているのだよ。まだ完成形ではないが、ゲッター炉心のレプリカの作成にも成功している。正し、これはとても稀少な物だ。判るだろう?』

 

ゲッター線を手にしたものは全てを支配する力を得る、もしくはその身を滅ぼされるというのは宇宙に住まう者全ての常識だ。少量でも膨大なエネルギーとなるゲッター線は喉から手が出る程に欲しいが、破滅するかもしれないと思えばそれを封じてしまいたいと思うのも当然だ。繁栄の為にそれを手にするか、それとも危険だからとそれを封じるか……それがゲッター線を手にした者がしなければならない選択だ。

 

(ウェンドロ――お前はそれをどうするつもりだ)

 

柔和に微笑んでいる……いや、ずっと前からメキボスには弟のウェンドロが何を考えているのか判らなかった。命を賭けて助けた事もある、だがウェンドロはその時に負った傷でさえ、くだらない情、感情で動いた愚か者の証と蔑んだ。メキボスには弟が己の理解の外にいることを感じていたが、それでも弟だからと情を捨てる事も出来なかった。

 

「まずはゲッター炉心があると言う証が欲しいな。ゲッター合金――それをまず少量でも良い、それを提供してもらいたい」

 

『少量と言わず、特機3体分を提供しようじゃないか、我が百鬼帝国の財力と技術力を見てくれたまえよ、朱王鬼、運搬はお前に任せよう』

 

ウェンドロの選択はゲッター線をその手中に納める事だった。判っていた事だ、それでもメキボスは弟の……ウェンドロの選択に落胆を隠せなかった。

 

「では後日私と玄王鬼がゲッター合金を運搬させていただきます。決して攻撃などをなさらぬように」

 

「そんなに警戒しなくても良いさ、友好な関係を築きたいのは僕も同じさ。さて今度は君の頼みを聞こうブライ。僕達は何をすれば良い」

 

笑みを浮かべて自分の要求を呑んだブライの頼みを促すウェンドロ。ブライはにっこりと笑い、地球の地図を広げた。

 

『どうせ近いうちに地球に降下するのだろう? その際に攻撃する所を指定したい』

 

「指定でもして待ち伏せでもさせるのかい?」

 

『まぁそれもありだろうね。君達の力を地球人に示すという最高の舞台だろう、まぁ負ければその限りでは無いが』

 

ウェンドロの挑発に挑発を返すブライ、一瞬ウェンドロが目を開き、腰を浮かしかけた。ブライはそんなウェンドロを見て優雅にカップに口をつけた。

 

『自分で挑発して怒るんじゃない、たかが知れるぞ』

 

「……ッ」

 

悔しそうな顔をするウェンドロを見てメキボスは素直に驚いた。ウェンドロのそんな顔を見たのは初めてだったからだ。

 

『まぁ話を戻そう。ここラングレーはATX計画という地球で進められている2つの計画の1つの主導となっている場所で、優秀な科学者や、最新の兵器の図面がある。そして更にここ、テスラ研は地球で最高と言える研究者や設備が揃っている。君達の欲しい物ばかりだろう?』

 

「そうだね。ここを制圧すれば良いんだね? 引き受けたよ。その後は今度は生身で会えるんだろう?」

 

『勿論、今度はワシ自ら挨拶に訪れることを約束しよう』

 

終始ピリピリとした雰囲気のままウェンドロとブライの会談は一時的にしろ終わりを告げた。だがブライにとってはこれからが本番だった。

 

「コーウェン、スティンガー。お前らの頼みは終わったぞ」

 

「いやいや、流石ブライ大帝ですな!」

 

「さ、流石ブライ大帝ですね!」

 

ブライの計画ではインスペクターとの会談はもう少し後の予定だったが、コーウェン、スティンガーとの取引で予定より早めたのだ。

 

「下らん世事は良い。ブラックゲッターの場所はどこだ?」

 

「ご安心ください、すぐに場所をお教えしますとも!」

 

ブライが求めて止まないゲッター合金、そしてゲッター炉心――それを手にする為のウェンドロ達との取引だった。しかしウェンドロとの交渉時にはブライの手元にはそれらの物は1つも無かった。しかしブライは巧みな話術を駆使し、手元に無い物をあるように見せかけウェンドロを自分の思い通りに動かして見せたのだ。

 

「先払いを忘れるなよ。態々ワシに手間をかけさせたのだからな」

 

「勿論。すぐにゲッター炉心をお届けします。いえ、ブラックゲッターの場所をお教えする前に先にお渡ししましょう。そうしようか、スティンガーくぅん?」

 

「そ、そうだね! コーウェン君! そうしよう!」

 

不気味な音を響かせながら会話を続けるコーウェン、スティンガーを一瞥し、先ほどまで脳内で話をしていたウェンドロの事を考えていた。

 

(無能か有能か……精々見極めさせて貰うとしよう)

 

ネビーイームで話をした時は無能な小僧という評価だったが、これからのラングレーへの攻撃への手腕でウェンドロの器を見極めてやると言わんばかりに鼻を鳴らし、コーウェンとスティンガーを警戒しつつ、これからの算段を頭の中で描き始めるのだった……。

 

 

 

 

 

ヒリュウ改は執拗な統合軍の生き残りの攻撃に晒されながらも無事に大気圏を突破し、ラングレーへ向かって進路を取っていた。

 

「ヒリュウ改が14・00に我が基地で到着との事です」

 

「了解した。貴艦が無事に我が基地に到着することを祈ると返信を返してくれ」

 

クレイグの言葉にオペレーターが了解と返事を返し、電文をヒリュウ改に返信する。

 

「司令。ヒリュウ改を……」

 

「判っている。だが今ヒリュウ改を受け入れ出来る基地は我がラングレーしかない」

 

クレイグとて馬鹿ではない、今のラングレーにヒリュウ改とヒリュウ改のクルーを受け入れる余裕はない。キルモール作戦、デザートスコール作戦と続け様の連邦軍の作戦の失敗、そして未知の特機――伊豆基地のレイカーからの情報では百鬼帝国という旧西暦の侵略者の手勢と思われる凶悪な異形の集団の攻撃を受け、ラングレー基地は厳戒態勢を引かざるを得ない状況になっていた。

 

「しかし、それでは我が基地の機体の整備が……」

 

「最悪の場合を想定しているのだ。ヒリュウ改には我が基地に来てもらわなければ困るのだ」

 

クレイグの語る最悪の展開……それはノイエDCの侵攻、そして百鬼帝国の襲撃によってラングレー基地が占拠、及び壊滅する事を示唆していた。

 

「何を弱気な事を」

 

「良く考えてみろ、ラングレー基地はATX計画の主導をしている。貴重な試作機や情報を多数有している、それに加えてここを制圧すればテスラ研は目と鼻の先だ。敵が拠点として求める条件を全て満たしている」

 

弱気な事ではない、クレイグは冷静に、そして指揮官として考えうる全ての状況を加味した上でラングレーが落ちる可能性を……いや、ラングレーが再び落ちる現実を既に受け入れていた。

 

「再びラングレーが落ちるのですか……」

 

「……だろうな。だが無様に逃げるのではない、反撃する為に1度引くのだ。その為にヒリュウ改が今ラングレーに訪れてくれるこの幸運に感謝しよう」

 

輸送機を飛ばした所で張り巡らされた包囲網に引っかかり、迎撃される可能性の方が高い。貴重な試作機や情報をむざむざノイエDCや百鬼帝国に渡す訳には行かない。それゆえに不利な条件だとわかっていたが防衛を選択した、だがこうしてヒリュウ改が来ることで貴重な試作機、そして情報・人員を逃がすことが出来る最初で最後のチャンス……この窮地に追い込まれた状況でのヒリュウ改は正に希望の箱舟だった。

 

「博士達に脱出準備や情報を纏めるように通達、我々も必要最低限の設備を残し、製造ライン等の機能を必要最低ラインまで機能を縮小。

ラングレーを奪われたとしても敵に再利用などさせるな」

 

「「「了解!」」」

 

DC戦争、L5戦役を経て再興されたラングレー基地。それが再び落とされる事になる……この最悪の予想は予想ではなく、確実に訪れる1つの結末だと悟りクレイグは強く拳を握り締め、己の未熟さを悔いながら部下達にそう指示を飛ばすのだった……。

 

 

 

第71話 立ち上がる剣神 その1へ続く

 

 




オリジナルシナリオでラングレー基地とハゲのバトルとゼンガーが参式を受け取った当たりの話を付け加え見たいと思います。次回はハガネでのやり取りを少し、テスラ研のやり取り1つ、ゼンガーとエルザムの話とヒリュウ改の話を書きたいと思います。時系列! という突っ込みはなしで広い目で見てください。それと私の小説ではあんまり見ない、変わった感じのオリキャラも1人追加したいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第71話 立ち上がる剣神 その1

第71話 立ち上がる剣神 その1

 

武蔵がハガネに戻ってきてからはシャインは武蔵にべったりで、あっちやこっちに武蔵を連れ回していた。武蔵自身も子供好きと言うのがあり、活発によく笑うシャインの姿が元気にダブりシャインの好きにさせていた。その影でユーリアがポンコツになっていたが……それはうん、レオナがきっと何とかしてくれていただろう……とりあえず一般男子高校生にとってユーリアを励ますと言うのは管轄外なのは確実だ。

 

「武蔵様。まだ居てくれていますか?」

 

「おうよ、いるよ」

 

だがシャインにも肉体的、精神的疲労が蓄積している。欠伸を繰り返すようになり、武蔵は最初シャインを部屋まで連れて行き自分の部屋に戻ろうと思っていたのだが、服の裾を掴まれシャインが眠るまで近くに居る事となった。武蔵はベッドの脇に椅子を置いて、手持ち無沙汰なので敷島博士の作ってくれたリボルバーを分解し、油を差して、磨いてとメンテナンスをしていた。

 

「……すみませんでした」

 

「何が?」

 

突然の謝罪の意味が判らず、武蔵は口に咥えていた工具を机の上に置いて、シャインに視線を向けた。

 

「その……あちこちとつれまわしてしまって、迷惑だったでしょう?」

 

「いや、別に?」

 

シャインにとっては自分の行動は恥ずべき、そして武蔵に迷惑を掛ける行為だった。だが武蔵からすればシャインの行動は子供の我侭程度位の認識でさして気にする事でもなかった。

 

「オイラからみればシャインちゃんの方が心配だよ。大丈夫かい?」

 

「……私は大丈夫だも……ですわ」

 

国を奪われ、国の住人の安否も判らない……12歳の少女が背負うには余りにも重過ぎる。だから武蔵はシャインのその重荷を少しでも軽くしてあげようと、安心感を与えようとした。その一言がどれほど残酷な物かも知らずに……。

 

「泣いても、怒っても良いんだ。大丈夫誰にも言わないから、約束するよ」

 

約束という言葉が武蔵の口から出た時――シャインはベッドから身体を起こし、その小さな拳を武蔵の背中に叩きつけた。

 

「嘘ついた! 武蔵様は嘘をついたもん! 帰ってくるって、また来てくれるって! 言ったのにッ!! 嘘つき、嘘つきッ!!!」

 

シャインの泣きながらの行動に武蔵は目を見開いて、そのまま振り返る事が出来なかった。

 

「待ってたのに……待ってたのに……嘘ついた……死んじゃったって……皆言ったもん!! 私ずっと寂しかった! 悲しかったッ!!!」

 

武蔵は約束を確かに破っていた。それからだ、シャインは約束という言葉に強い嫌悪を抱くようになった。約束と言って去っていった武蔵が戻って来なかった事をどうしても思い出させるから……そして武蔵から約束という言葉が出た事で、心の中に封じていた感情が発露してしまった。

 

「……ごめん」

 

泣きながら武蔵の背中を叩いていたシャインは武蔵の搾り出すような謝罪の言葉にハッとした表情になった。

 

「ち、違いますわ……ごめんなさい、ごめんなさい。わ、私そんなつもりじゃなくて……」

 

「いや、悪いのはオイラだ。ごめん……オイラは多分……何にも判ってなかったんだと思う。ごめん、ごめんよ」

 

旧西暦で竜馬、隼人、弁慶の3人と思いっきり喧嘩をして、己の本音をぶちまけて殴り合いをした。その時に自分の行動がどれだけ竜馬達を傷つけていたのか知った。

 

そしてあちら側ではアインストに寄生されたキョウスケと相打ちを覚悟して、ドラゴノザウルスの口の中に飛び込んだラトゥーニを、動力が暴走したエクサランスをただ見ていることしか出来なかった……遺される者の苦しみと悲しみを初めて知った。

 

リュウセイ達が平気そうにしているから自分は誤解していたのだと、幼いシャインだからこそ、自分の感情を押さえ込む事が出来なかった。今目の前に広がる、シャインの泣き顔に自分がどれほど残酷な事をしたのかを思い知ったのだ。

 

「武蔵様は悪くない、違うの……違いますの、私……私……」

 

朗らかに笑っている武蔵の顔が歪み、苦しそうにしているのを見てシャインは罪悪感に押し潰されそうだった。そんな事を言うつもりはなかったのだ……自分の感情に身を任せ口にしたたった一言が武蔵を深く傷つけたと思い、その顔から血の気が引いた。

 

「ごめん、もう信用出来ないと思うけど、もう1回、もう1回だけオイラと約束をしよう。リクセントは絶対取り戻す、百鬼帝国なんかにオイラは負けないッ! 絶対に絶対だ。んでその後に、またリクセントを見て回ろう。そうだな、今度はお祭とか、遊園地とか行って楽しい事をしよう。あれ? これだと2つ? いや3つ?」

 

自分で言っておいて1つじゃないと気付き、困ったような顔をする武蔵にシャインは思わず噴出した。

 

「へ、変な武蔵様」

 

「は、はは、だよなあ。オイラもそう思う」

 

武蔵とシャインは暫くそのまま笑いあい。笑い声が止まった時、2人自然と小指を互いに向けていた。

 

「「ゆーびきりーげんまん、嘘ついたらはりせんぼんのーますッ! 指切ったッ!」」

 

誰も見ていない武蔵とシャインだけの約束――武蔵はこの約束を破るまいと、絶対にもう悲しませないとシャイン達だけではない。リュウセイ達も、そしてあんな悲劇を起させまいと、アクセル達も止めてみせると心に誓った。

 

「眠るまでいてくれますか?」

 

「いるよ、大丈夫。ゆっくり眠りな、シャインちゃん」

 

改めてベッドに入り不安げに自分を見つめるシャインに武蔵はそう微笑み返し、その頭を撫でた。このなんでもない子供扱いが王女として重い重圧を背負っていたシャインには何よりも暖かく、そして失い難い大切なものなのだった。心から安堵した表情で眠るシャインを見て、武蔵は立ち上がろうとしたが服の裾をしっかりと掴まれているのに気付き、小さく苦笑した。

 

「しゃあねえなあ」

 

手を伸ばして折り畳まれていたシーツを掴んで引っ張りよせ、武蔵は椅子に背中を預けたままシーツを身体に巻きつけて眠りに落ちるのだった……。

 

 

 

 

 

その日コウキの姿はテスラ研に無く、テスラ研初代所長――つまりビアンが趣味で作成した地下研究所にあった。モニターで外を確認していたコウキはライノセラスが近づいてくるのを確認し、マイクに口を向けた。

 

「そのまま進んでくれ、こちらが合図したらリフトで地下で回収する」

 

廃れた渓谷の間の研究所に来るのはこの場所を知っている人員だけだ――つまりジョナサンに言われている客人だけがこの場所に訪れる。リフトでライノセラスを地下に回収し、出迎えの為にコウキは制御室を後にした。

 

「ゼンガー・ゾンボルト、エルザム・V・ブランシュタイン、バン・バ・チュンで良いか? ようこそ、地下研究所へ」

 

軍属ではないコウキはゼンガー達に敬語を使う事もなく、普段通りの口調で声を掛けた。

 

「コウキ・クロガネ氏かな?」

 

「ああ。そうだ。俺がコウキだ、カザハラ博士から話は聞いている。さっそくフィッティングを始めたいのだが……少し休んでからにするか?」

 

コウキとすれば百鬼帝国が動き回っている中で長時間テスラ研を空けるつもりは無く、用が済めばすぐにでもテスラ研に戻りたいと思っていた。キルモール、デザートスコールからアメリカ全体が非常に騒がしくなっている。この混乱と争乱に紛れて百鬼帝国が動き出す危険性をコウキは考えていた。まだ完成とは言いがたいが7割ほどは仕上がっている鉄甲鬼の仕上げも進めたかったと言うのもある。

 

「いや、始めてくれ、俺達も今の北米の嫌な流れは感じているからな。出来るだけ急いで欲しい」

 

「どれくらいで調整は済みそうか?」

 

だがエルザム達もこの重苦しく、まるで沼の中に足を踏み入れたような粘着的な重圧を感じており、引渡しがすぐに済むのならばそれに越した事はないと考えていた。

 

「2時間から3時間と言う所だな、こっちだ。作業を始めよう」

 

エルザム達を地下研究室の奥にある特機のハンガーの前にコウキは案内し、壁のスイッチを押して格納庫の中の機体をライトアップした。

 

「これが新しいグルンガストか」

 

黒と青を基調にしたカラーリングをした鋼の巨人というべき機体を見て、ゼンガーはその目を輝かせた。

 

「グルンガスト参式の2号機だ。本来は2人乗りの所を1人乗りに改良している、試験的だがゲッター線で稼動しているから空も飛べる。ただその分扱いは難しくなっているがな」

 

SRX計画によって建造された新型のグルンガスト参式はGラプター、Gバイソンの2機が合体し完成する特機だ。何故可変・合体式にしたかというと、グルンガストの巨体さ故にメンテナンス、修理に掛かる時間を2機に分割することで円満に行い、緊急時には分離し、Gラプターによる逃走までを加味し、特機であるグルンガストのメンテナンス効率を高め、特機の弱点である長時間のメンテと修理効率の向上を目指した機体である。

 

「ゲッター線で稼動しているのか……このグルンガストは」

 

「あくまで試験的で試作型のゲッター炉心だ、最初からフルドライブで稼動させている訳ではない。お前の武器、斬艦刀を使う時だけ、それをトリガーにしてゲッター炉心が稼動するように設定してある。通常時は改良型のプラズマジェネレーターだ」

 

ゲッター炉心で稼動しているグルンガスト参式を見上げ、感慨深い顔をしているゼンガー。ビアンだけではなく、テスラ研もゲッター炉心を実用段階にしているのに驚くのと同時に、ゲッター線の力があれば百鬼獣にも負けないと闘志を新たに燃やしていた。

 

「ゲッター炉心を搭載しているのは良いが、もう1つのコックピットは潰しているのか?」

 

「ああ、残すことも1度は考えたんだが……ゼンガーをサポート出来るパイロットはいないだろうと思ってな。役に立たない操縦系を残して、スペースを消費するならその分開いたスペースに色々と細工をしてある」

 

バンの問いかけにぶっきらぼうに返事を返しながら、コウキはグルンガスト参式のフィッテイング作業を始める。

 

「俺はどうすれば良い?」

 

「とりあえずコックピットに乗り込んでくれ、こっちでそっちの反応にあわせる。コックピットはグルンガスト零式と同じだ」

 

コウキの言葉に頷き、ゼンガーはタラップを上りコックピットの身体を滑り込ませる。

 

「バンとエルザムはあっちの格納庫にある修理物資や武器を積み込んでくれ」

 

ジョナサンが手を回し用意しておいた補給物資などを積み込んでくれとコウキが言うが、エルザムとバンは格納庫の一角を見たまま動かなかった。

 

「どうした? 何か興味がある物でもあったか?」

 

今回はグルンガスト参式を搬入しているが、本来はここは表に出せないつまり、技術者が暴走し作り出した不安定な試作機などが安置されている場所である。その中にバンとエルザムの興味を引くものでもあったか? と尋ねる。

 

「あれはガーリオン用のパーツに見えるのだが、私のガーリオンに搭載出来るか?」

 

「あれか、搭載出来なくも無いが……手持ち火器が使えなくなるぞ? 一応あれにも、簡易的な武器は搭載しているが……やめておけ、常人はあれを利用したソニックブレイカーを使えば意識が飛ぶぞ」

 

何処かの馬鹿が閃いた物――ガーリオンの両肩に装備されている力場誘導子装置を武器にすれば破壊力増すんじゃないか? という馬鹿みたいな発想で作られた物だ。確かに破壊力は増したが、その代りに手持ち火器は使えない、肩部腕部とリンクさせて破壊力を倍以上に増させたソニックブレイカーは強力だが、パイロットを気絶させると言う半ば呪われた仕様となっている。

 

「バン大佐はゲッターロボのシュミレーターをクリアしている。Gなどの問題は解決していると思うのだが……」

 

「何? あれをクリアしたのか?」

 

「ああ、エルザムとゼンガーも同様だ。現に私、ゼンガー、エルザムでゲッターロボを運用したこともある。1・2・3と連続合体と分離、戦闘まで実機でこなしている」

 

新西暦でゲッターロボを合体させ、戦闘までさせれる人間がいると聞いてコウキは眉を細めた。しかしだ、その通りならばこれから激しくなるであろう百鬼帝国の襲撃に対応出来る鬼札になるかもしれないと口元に笑みを浮かべた。勿論話をしている間もコウキの指は動き続け、グルンガスト参式の設定を続けている。

 

「良いだろう、それなら誰も使えないでお蔵入りしていた武装や試作品のパーツを出す。お前達の機体をこっちに運び込んでくれ、装備させるかどうかは其方の判断に任せる」

 

コウキの言葉に頷き、ライノセラスに引き返していくバンとエルザムを見送り、ジョナサンとフィリオの2人にすぐに戻れないと言う旨の

連絡を入れるのだった。

 

「……しかし、これはある意味渡りに船だったかもな」

 

今テスラ研で開発されているリクセント公国からの依頼の機体――コウキにとって悪夢としか言いようの無い機体の開発に協力しなくて良いと判り、コウキは目に見えて安堵の色のその顔に浮かべ、作業を再開するのだった。

 

 

 

 

一方その頃テスラ研とフィリオとジョナサンは最終調整に入ったPTの中でも更に小さい2体の特機を前に満足げに頷いていた。

 

「フェアリオン・タイプGとSもこれで完成ですね。カザハラ博士」

 

「ああ、我ながら最高の出来だ……女性職員にはずいぶんな目で見られたがね」

 

リクセント公国からの依頼でヴァルシオーネと同じ技術を使い、シャイン・ハウゼン、ラトゥーニ・スゥボータの2人の顔を取り込み、その顔を元にモデリングしたフェアリオンは妖精の名が示す通り、可憐な妖精その物の仕上がりだとジョナサンは満足そうに頷いた。

 

「しかし苦労しましたね。このドレスに見える対物理、対ビームコートに加えてシャマーの機能までつけたこの特殊装甲にはかなり苦労させれましたよ」

 

「ああ、だが苦労した甲斐はあったよ。一応戦闘にも耐えれるように設計はしているがあくまでこれは祭典用だが、それでもだ。手抜きをする事は出来なかったからな」

 

リクセント公国とて自分達の国の王女と同じ顔をした機体を戦闘に使うなんて言う真似はしないと言うか、出来ない。あくまで祭典用の物で武装は必要ないと言う話だったが、自衛の為の武装をいくつか搭載し、攻撃力よりも防御と回避に力を置き、飛行した時に幻想的なきらめきを伴って飛ぶ魅せる為の機体だ。

 

「出来ればこの機体の隠し能力を使う事にならなければ良いですね」

 

「……ああ。だがリクセント公国がノイエDCに制圧されたと考えるとそれも叶わぬ願いかもしれんな、私はシャイン王女の慧眼に感心するよ」

 

本来のフェアリオンは祭典用で武装を一切搭載していなかった。それにシャインがストップを掛け、公国親衛隊の旗機としての役目も与えられた。ただ、リクセント公国は特別自治区であり、法律でリクセント公国は自国の意思による戦闘用機動兵器の開発が不可能となっている。プロジェクトTD・シリーズ77の派生機として開発した式典用機体と言う抜け道を通り開発されたのだ。

 

「まぁこれを兵器と思うものは居るまい」

 

「……ですね」

 

見た目は本当に美少女その物だ。しかもヴァルシオーネの物を流用している為笑顔や泣き顔と言った物まで再現出来ており、式典時はドレス、戦闘時はその上にアーマーを装着すると言う独自のシステムも多数しようしている。

 

「後は最後の仕上げだが、コウキはまだ戻らないかね?」

 

「そろそろ戻ってくる頃合なんですけどね?」

 

そろそろ戻ってくる筈のコウキを交えれば3人となり、より正確なデータが取れる。

 

「ツインテールは譲れませんね」

 

「良い加減にしたらどうだフィリオ。シャイン王女と同じく縦ロールだ」

 

今まで和やかだったジョナサンとフィリオの間に嫌な空気が広がる。今フェアリオンの髪はストレートで流されているが、それを縦ロールにするか、ツインテールでするかでフェアリオンは完成寸前の所で留まっていた。

 

「フェアリオンはシャイン王女がモチーフなんだ。ならばツインテールはおかしいだろう?」

 

「いえいえ、ツインテールの方が少女特有の美しさが映えます」

 

「判らんやつだな、アイドルという物は容易に触れてはならない、あれは聖域なんだ」

 

互いに譲れないアイドルの存在像――フェアリオンの最後の仕上げ、それはその美しさを決める髪形の問題だった。

 

「私はフィリオの言うゴシックロリータ風のドレスを良しとした。ならば髪型は私の意見を聞いてくれるべきではないかね?」

 

「ゴシックロリータだからこそツインテールが似合うと何故判らないんですか」

 

フィリオはジョナサンを裏切り、DCに参戦したと言う負い目がある。だから普段は決してジョナサンの意見に反発する事はない……だがこれだけは、これだけはどうしても譲れなかった。

 

「ツインテールです!」

 

「いいや、縦ロールだッ!」

 

フェアリオンはPTサイズのフィギュアと言っても良いほどに生身の少女に近かった。その華奢な身体は触れれば壊れてしまうのではないか? という繊細さを持ち、赤と紫を基調にしたドレスは見る角度によってその輝きを変え、神聖さを醸し出していた。少女特有の美しさをツインテールか、それとも高貴さを演出する縦ロールか? この問題は非常に深刻な問題だった。

 

「「このアイドルオタクがぁッ!!」」

 

互いに互いを指差し罵倒する。オタク属性にとっての最大の禁忌――「解釈違い」がフィリオとジョナサンの間にはマリアナ海溝よりも深い亀裂として存在していた。

 

「コウキが戻れば、2-1になります。それで決めましょう」

 

「良かろう」

 

フェアリオンの髪形を決める討論に巻き込まれたくないコウキが調整が終わるまで戻らないという連絡が入り、このままでは何時までも髪形が決まらないそう判断したフィリオとジョナサンはある機械を格納庫にセットした。それは矢印のついたマットと画面、そして音楽を鳴らす為のスピーカー……。

 

「ハイスコアバトルです」

 

「難易度は勿論最大、1ミスでもすればその瞬間に負けだぞ?」

 

「それくらいでなければこの勝負は決まらない」

 

これ以上に無いと言うほどに緊張感に満ちた表情のジョナサンとフィリオはテスラ研地下の格納庫でフェアリオンの髪型の決定権を賭けた仁義なきダンスバトルを始めるのだった……。

 

 

 

 

 

ラングレー基地に到着したヒリュウ改のクルー達はラングレー基地の状況を見て、眉を潜めた。あちこちにトーチカが建造され歩兵の襲撃に備えている有様だったからだ。レフィーナやショーンがクレイグに話を聞きに言っている間、ラングレー基地の整備班によって機体のメンテナンスと修理を受けることになったのだが、ピリピリしている雰囲気に加え、トーチカとラングレー基地は異様な有様だった。

 

「これどういう事っすかね? ラングレーってこんな感じなんですか?」

 

初めてラングレーを訪れたアラドはこれが普通なのか? とギリアム達に尋ねる。

 

「いや、こんな事はあり得ないのだが……敵の進撃がここまで進んでいると考えるべきか……」

 

「トーチカを建造している理由は多分バイオロイドかしらね」

 

インスペクター側の兵力であるバイオロイド――その襲撃に備えてのトーチカと考えると今ラングレー基地は激戦区となっていると見て間違いない。

 

「となると、レフィーナ中佐達の話は長引くかもしれないな。しかしこの情勢でラングレーが落ちる前にこれたのは幸運だったな」

 

「ええ、それ所か私達も出撃を念頭に入れておくべきかもしれません」

 

ラングレー基地は北米の要だ。百鬼帝国にしろ、ノイエDCにしろ制圧されてしまえば、北米は完全に敵勢力に落ちる。この様相を見て、リンとラーダは良いタイミングで来れたと考えていた、ラングレー防衛の力になれるからだ。

 

「なら私達は少しでもヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの調整を進めますか」

 

「そうだな。戦力は多い方が良い」

 

「ヴァルシオーネも修理が済んでるし、あたしもやるよ」

 

「いやいや、勘違いしたら駄目だヨ。貴方達のお仕事はATX計画の機体の回収なのサ!」

 

完全にラングレーの防衛に参戦するつもりだったギリアム達だったが、それに待ったを掛ける人物の声が響いた。その声の聞こえたほうにリューネ達が視線を向けるとコンテナの上に立つ小柄な少女の姿があった。

 

「ふべえッ! 足! 足がグニってなっタ!」

 

その上から飛び降りた少女は着地に失敗し、思いっきりグネッた足首を押さえて、すすり泣いていた。

 

「誰これ?」

 

「ず、随分と個性的な人っすね?」

 

喋り方も、行動もなにもかもがおかしい。そんな人物の登場にリューネとアラドは変人を見る目で胡坐をかいている少女に視線を向けた。

 

「ラルトスなにやってるの?」

 

「お、おおー! リオ! いやあ初見の人がいるからインパクトが大事だと思ったのサ! だがラルちゃんの運動神経ではジャンプして着地が無理だったのサ☆」

 

「あ、あの怪我するよ?」

 

「心配してくれてありがと、リョウト。でももう手遅れなのサ! 思いっきり足を挫いてるからネ! リョウトにはせめて跳ぶ前に言って欲しかったネ!」

 

「随分と親しそうだが、知り合いか?」

 

リョウトとリオが普通に声を掛けているのを見て、ヴィレッタは驚いた表情で2人に知り合いなのか? と尋ねると、額に手を当てていたリンが溜め息を吐きながら、格納庫に座り込んでいる少女を指差した。

 

「ラルトス・パサート。一応うちの開発スタッフだ、ATX計画の兵器の設計や開発をしているのでラングレー基地に2ヶ月ほど前に派遣したんだ。だがこの通りの変人だ」

 

行き成りの奇行で悪い意味で度肝を抜いてくれた、艶やかな銀髪を三つ編みにし、褐色の肌に瓶底のような見ただけで度が凄まじくキツイ眼鏡をして、だぼだぼの白衣を着た少女はヨッと言って軽やかに立ち上がり、小指と薬指を折り曲げ、親指、人差し指、中指を伸ばして変則的なピースサインを作り、その場でくるりと回転し、下から見上げるように全員の顔を見て、顔の横で変則ピースサインをする。

 

「残念系インテリ美少女研究者ラルちゃんだヨ☆ よっろしくう♪ 「お前はもう少し普通にしろ、初対面の人間に対する挨拶や礼儀、マナーを覚えろとあれだけ言っただろう」 いだあ!? しゃ、社長! 割れる! 頭が割れるウ! イダダダダダッ! シショー、マリーシショーッ! 愛弟子の頭がかち割られそうだヨ!」

 

リンに頭を鷲づかみにされマリオンに助けを求めるラルトスだったが、その助けを求めたマリオンはと言うと……。

 

「エンジンにリミッターを併設しましょうか。もう少し熱量を下げないと安定して稼動は難しいですわよ」

 

「サブ動力の出力を調整するか」

 

カークと共にヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの調整を始めており、ラルトスの助けは完全無視をしていた。

 

「冷たい! 流石マリーシショー冷たい! サスマリ! あいだだだあぁぁああああッ! ごめんなさいごめんなさい! 社長! ゆるしてええッ!!!」

 

無言で頭を更に万力のような力で締め上げられ、ラルトスは謝罪の言葉を泣き叫ぶ。ギリアム達は変人という言葉で片付けることの出来ない奇人の姿に何とも言えない視線を向けるのだった……。

 

 

 

お・ま・け

 

ハガネの食堂の一角では何とも言えない凄まじい光景が繰り広げられていた……その光景に食堂にいる全員が何とも言えない顔をしていた。

 

「こっちですわ」

 

「……こっち」

 

シャインとエキドナが睨み合っている。その光景を普通の観点から見れば大人が子供相手にムキになっている……非常に大人気ない光景なのだが、エキドナが記憶喪失であることと精神年齢が大体10歳前後と言う事で奇跡的にこの喧嘩は成立していた。

 

「武蔵さんはお魚より、お肉です」

 

「肉ばっかりは体に悪いってリリーが言ってた」

 

猫の鳴き声がどこから聞こえてきた。武蔵が格納庫でブリットと訓練をしている間に昼食の注文をしておいたら喜ぶと思って動いたシャインと、いつもの事なので用意に来ていたエキドナが完全に激突していた。

 

(誰だ、あれ……本当にW-16か? 姿だけがW-16とか言わないよな?)

 

自分の知っているエキドナと違いすぎるとラミアは困惑し、姿が同じだけで実は別人ではないか? という疑惑を抱いた。

 

「武蔵ってなにやったんだよ。王女様はわかるぜ? でもあれはなぁ?」

 

「いや、同意を求められても困るのですが……」

 

シャインが武蔵にぞっこんなのは判る、武蔵の行動は余りにも劇的だったからだ。ドラゴンに生身で組み付いて、彼女を救い出し、リクセントが鬼に襲われた時は変装してでも助けに来ていた。シャインにとって武蔵は理想の王子様そのものである、だがエキドナは何でだよとイルムは思わずにはいられなかった。

 

「声掛けてビンタされたんだから諦めろや」

 

「カチーナ中尉。そういうこと言わないでくれるか? 俺はただうろちょろしてると危ないって言っただけでな」

 

「お前の言葉の中に身の危険を感じたんだろ? まぁあたしもどうなってんだよって思わなくも無いが」

 

武蔵の取りあいになっている光景はなんで? と思わずにはいられない光景だった。武蔵は確かに優しくて頼りがいはあるかもしれないが、格好良いとか、決して女受けするタイプではない。

 

「まぁ中身を気にするタイプにはもてるんじゃない? 王女様には王子様だし? というかあれ、あっちは良いの?」

 

エクセレンが武蔵も罪作りよねと笑いながら、食堂の隅を指差した。そこにはエキドナとシャインとはまた違ったベクトルの暗黒のオーラが発生していた。

 

「……」

 

「あの、ユーリア隊長? 大丈夫ですか?」

 

「……私はいつもこうだ。出し抜かれている……」

 

シャインとエキドナの喧嘩に割り込んでいく勇気とかガッツがないユーリアは机に突っ伏し、ぶつぶつ言っていて、レオナがそれを慰めているが、恨めがましい視線が向けられる。

 

「残念な隊長は可愛いですって言われた私の気持ちが判るか? いや、判る訳が無いな。お前はしっかり男捕まえてるしな、レオナ。ここにトロイエ隊の皆がいてみろ。お前は裏切り者だ、我々は出会いなど無いのだぞ? 判るか?」

 

「……あの、何の話でしょうか?」

 

素面なのに完全に酔っ払いの乗りのユーリアは、まるで仕事に打ち込みすぎて婚期を逃したOLのような……そんなくたびれた様子だった。

 

「「「あいつ本当に何をやったんだ?」」」

 

半年の間に何があればこんな地獄絵図みたいな光景を作り出せるのか、イルム達は武蔵が何をしていたのかが心底気になっていた。

 

「ぶえっくし!」

 

「なんだ? 武蔵……風邪か?」

 

「やっぱり動いてすぐモーションデータの分析が良くなかったんじゃないか?」

 

「かなぁ? ちゃんとタオルで汗は拭いたつもりなんだけど……」

 

自分がまさか噂されているとは知らず、武蔵は風邪かな? と首を傾げた。空調で温度が整えられていても、シーツを巻きつけて寝るだけじゃ無理があったかな? と呟いていた。

 

「分析なら私達がやるから武蔵はお昼食べて来ても良いよ?」

 

ラトゥーニがそう言うと武蔵の腹が大きな音を立てた。武蔵はなははと恥ずかしそうに笑い出した。

 

「んじゃまあ、お言葉に甘えて来るよ。んじゃなあ」

 

今日の日替わりは何かなあと鼻歌混じりで食堂に足を向けた武蔵だったが……

 

「武蔵さん、お肉の方が良いですよね!?」

 

「魚だよな?」

 

「ええ? 何の話?」

 

そこでシャインとエキドナに詰め寄られ目を白黒させる事となるのだった……。

 

 

 

第72話 立ち上がる剣神 その2 へ続く

 

 




オリキャラ追加、ハイテンション系変人科学者、ちなみにこの子がアルトアイゼン・ギーガの設計者だったりします。次回はそこを触れて、レフィーナ達の話を書いて戦闘に入って行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。なお「お・ま・け」は私の気分次第なので偶にはいるくらいだと思っていてください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第72話 立ち上がる剣神 その2

第72話 立ち上がる剣神 その2

 

ギリアム達が格納庫でラルトスの洗礼を受けている頃、ラングレー基地の司令室ではレフィーナ、ショーン、クレイグの3人が顔を見合わせていた。しかしレフィーナの顔はクレイグの発言を信じられない、自分が聞き違えたのではないかと言わんばかりに驚愕に歪められていた。

 

「クレイグ司令……ラングレーを放棄するって本気なのですか?」

 

「……最悪の場合を想定しているだけと言えれば良かったんだがな……正直ラングレーに敵の進撃を食い止めるだけの余力はないのが現状だ。その前にヒリュウ改が来てくれた事でATX計画の機体や、設備をラングレーから運び出せるからな。それだけでも我々は成し遂げなくてはならない」

 

防衛しきれない事は明白なのだ。無理な防衛戦を行い、負傷者や死傷者を出しては意味が無いのだ。

 

「……英断ですな。クレイグ司令」

 

「ショーン少佐に言われると少しは肩の荷も下ります。1度逃げはしても、私は戻ります。必ず、ラングレーを取り戻す」

 

「その為には臆病者と言われることも、泥を啜る覚悟もある。流石はグレッグ司令のご子息ですな」

 

基地を放棄する……その決断を下すまで悩んだろう、何とかならないかと様々な策を対処法を必死に考えたことだろう……そしてその上で基地を放棄するしかないと言う決断を下すまでの苦悩……それらを全て察すればショーンは抗戦を告げることが出来なかった。

 

「まだまだです。私は父の足元にも届いていない……だがここで勝てぬ戦をし、部下を死なせ、己も死ねば父に叱られる。将とは、部下の命を預かり、そして仮に死なせるとしても無意味な死をさせてはならない。己の誇り等は捨て、反撃に備えるしかないのです」

 

唇をぐっと噛み締め、激情を己の胸の内に飲む込むクレイグの姿を見て、ショーンは改めて若いが素晴らしい司令官だと認めた。

 

「……判りました。我々はどうすれば良いのですか?」

 

「まずはATX計画の機体とそれらに関係する機体をヒリュウ改へ積み込んで欲しい。ヒリュウ改が共にいてくれれば輸送機も飛ばせる。

其方に負傷兵達を乗せラングレーを脱出する」

 

ヒリュウ改の速度はかなり落ちるが、E-フィールドを展開したまま進む事でラングレーの旧式の輸送機での脱出も可能になるだろう。

 

「判りました、ですがそうなるとテスラ研も回る必要がありますね」

 

「ああ。ラングレーが落ちると言うことはテスラ研も危険だ。一応は警備隊などが配置されているが、それも100%とは言えない。ラングレーを脱出後は速やかにテスラ研へ向かいたい……」

 

そこまで言った所でクレイグが口を紡ぎ、その顔に苦渋の色を浮かべた。

 

「理想論と言う事ですな?」

 

「その通りです。ショーン少佐……これはあくまで私達にとって都合のいい展開です。脱出に手間取るかもしれない、いや脱出すら出来ないかもしれない……テスラ研も同時に攻撃されるかもしれない。我々は既に袋小路に追い込まれているのです……」

 

ノイエDC、そして百鬼帝国の攻勢は激しく、このラングレーからの脱出も難しいかもしれないという事実をクレイグに告げられ、レフィーナは驚きに目を見開き、そしてショーンは口髭を無意識に撫で、この状況をどうやって打破するか、そして全員で無事に脱出する方法に思考をめぐらせた。

 

「まだ敵の反応はないので休める時に休んでおいてください。少なくとも5時間……いや8時間ほどの時間的余裕はあるはず。お恥ずかしいことですが、ラングレーの戦力は殆ど残されておらず、脱出には貴方方の力を借りるしかない。どうか私達に力を貸してください」

 

深く頭を下げるクレイグのその姿を見ればどれだけ追詰められているのかと一目で察して余りあった。

 

「頭を上げてください。クレイグ司令、大丈夫です。私達も全力を尽くします」

 

「安全に脱出する為にも、作戦を練る必要がありますなあ。それに敵にこのラングレーを利用させない為の仕掛けもですがね」

 

残された時間はさほど多くはない、だがそれでも脱出の為に、そして今は逃げても必ず反撃に出る為に、レフィーナ達はクレイグに力を貸すことを了承するのだった……。

 

 

 

 

鼻歌交じりで作業をしているラルトスという少女は最初のおかしな言動は鳴りを潜め、作業をしている時はそのマオ社のスタッフとして雇われているだけあり、その作業は早くそして正確だった。しかしだ、ギリアムには言葉に出来ない違和感……というよりかは不信感があった。

 

「あの子、やっぱり引っかかる?」

 

「ヴィレッタ……ああ。俺の勘と根拠はないものなんだがな……どうも不気味だ」

 

瓶底眼鏡で見えない目のせいなのか、それともその人の神経を逆撫でする妙に高い声なのか、それともエクセレンのようにふざけることで己の本質を見せまいとするその態度か……根拠も証拠も何もないのに、ギリアムにはラルトスと言う少女は不気味で、恐ろしい存在に見えた。

 

「私もそう思うのよね。なんなのかしら、あの子」

 

ノイエDCと百鬼帝国の襲撃によって窮地に晒されていると言うこと、そしてラングレー基地を放棄し、脱出することを聞かされたからか気が立っていると言われればその通りかもしれない。だがギリアムとヴィレッタの勘では、あのラルトスという少女は決して心を許してはいけないタイプの人種に見えていた。

 

「やあ、ファルケン・タイプKに乗れるんだって? ねえ、ねえ、こんなの興味なイ?」

 

「……なんすか、この色物……?」

 

「ハンマーとドリルを一体化させたドリルハンマーサ! 重さと高速回転するドリルで貫通力ドンッ! 破壊力もドンッ!! ただ重すぎてバランスをとるのが難しいのと、フルパワーで使うと反動でPTの腕が肘からねじ切れるって言う欠点があるんだけどネ? 破壊力は折り紙つき! 火力こそパワァーーーッ!!!」

 

話の中でエキサイトしたのか雄叫びを上げるラルトスだが、それに対してアラドの反応は非常に冷ややかな物だった。

 

「いらないっす」

 

「え? いらないノ?」

 

「いや、1回使って腕が千切れるとか、その後どうやって戦えって言うんですか?」

 

アラドの余りにも真っ当な意見にラルトスはふむと呟いて、眼鏡に手を当てた。

 

「タイプKに乗っていても君の考え自体はまともなんだネ! 喜んで装備してくれると思ったんだけド」

 

「あんたもしかして喧嘩売ってます?」

 

「はははは! まさか! ラルちゃんは破壊力のある武器を紹介しようとしただけサ! じゃあ変わりにこんなのはどうだイ?」

 

機体のメンテが終わるとあれだ。確かに優秀なスタッフなのかもしれないが、余りにも癖が強すぎる。

 

「お? これは……なんすか?」

 

「これかイ? 動力の電圧を使ってレザーブレードを展開するものサ。威力は微調整できるシ、電圧で断ち切るから防いだだけでも、相手の電子機器にダメージを与えれるヨ」

 

「……なんかこう、反動的なのは?」

 

「別に無いヨ? 安全に使える範囲の電圧に絞れば問題なし、ラルちゃんの作った中じゃつまらない物サ。こんなの欲しいのかイ? それなら搭載しておくけド?」

 

ラルトスはつまらないと言っていたが、電圧を駆使したブレードというのは精密機械が密集しているPTやAMにとっては天敵に等しい。それにゼオラという少女を助けたいアラドにとっては、相手の機体の電子機器を破壊することで動きを止めれば鹵獲も楽だ。そういう面では喉から手が出る程に欲しい装備だろう。

 

「これでお願いします」

 

「オーケー、オケ。すぐに装備しといて上げるヨ。んーと、お、いたいた。ネネネ、ヴィレッタ大尉。こんなのは興味ないかナ?」

 

アラドに自分の作った武器を紹介した後はヴィレッタを見つけ、Dコンを手にふらふらとした足取りで近寄ってくる。

 

「もしかして皆に声を掛けてるのかしら?」

 

「そだヨ? 敵は強いからネ。新しい武器欲しくなイ? ちなみにラルちゃんのお勧めはこレ、クレイモアユニットネ」

 

Dコンに映されていたのはアルトアイゼンの両肩のクレイモアを小型化された物をフライトユニットに装着した物だった。

 

「もしかして、エクセレン達が持っていたあのギーガユニットと言うのは……」

 

「マリーシショーのアルトアイゼン! あれは最高だったネ! だから弟子にして貰う為に頑張って作っタ。ラルちゃんの最高傑作ネ☆」

 

マリオンが自分が作った物ではないと言っていたが、性能は折り紙つきだからと言っていた拡張パーツ。その製作者がラルトスだと判り、ヴィレッタとギリアムも少しだけ評価を改めた。変人ではあるが、その技術は本物と……。

 

「クレイモアじゃなくて、ゲシュペンスト・タイプRの足回りを強化しつつ、もう少し射程の長い射撃武器はないかしら? 出来れば手持ちじゃなくてフライトユニットにつける感じで、でもフライトユニットよりもっと火力が欲しいの、でも機動力は損ねたくないのよ」

 

今までの戦いの中で敵の多さに辟易していたヴィレッタは武装の数を増やしつつも、両手を残したままにしたいと考えていた。フライトユニットはあるが、それでは火力不足、火力を補いつつ、機動力も失いたくないと言う無理難題にラルトスはにっこりと笑みを浮かべた

 

「あるヨー? 本当はアルトアイゼンにつけるつもりだったけド、ヴィレッタ大尉なら良いネ!」

 

Dコンを操作して映しだされたのは10mを越える長大のガトリング砲が2門装着され、申し訳ない程度の翼を4枚装備したフライトユニットだった。

 

「これは?」

 

「ンフフ、デスペラードユニットネ! ガトリングキャノンの芯にレールガンを搭載しテ、レールガンとガトリングの飽和射撃! 両手足に装着する拡張ユニットによる火力と防御力の強化ッ! ゲシュペンストシリーズなら装備出来る汎用装備ヨ! でも重すぎてフライトユニットだけじゃ飛べないネ。ミサイルコンテナとブースターの2つの役割を持つこれをくっつけて、足の下駄とその上でテスラドライブで無理やり飛ばすけド、ホバーみたいになるヨ?」

 

癖が強すぎる装備ではある。だが火力、射程のどちらも間違いなく優秀だろう。

 

「良いわ、取り付けておいて、脱出に必要になると思うから」

 

重苦しい殺気をヴィレッタもギリアムも感じていた。それは近いうちにノイエDC、百鬼帝国、インスペクターのいずれかの強襲があると予感させるには十分すぎた。

 

「オケヨ、すぐに取り付けておくネ! あ、出来たら使った感想みたいのを後で教えて欲しいのネ!」

 

ヒャッホーと叫びながら格納庫の奥に走っていくラルトス。その後姿をみると小柄な外見相応の少女という感じで、先ほどまで感じていた不気味さとかが気のせいに思えてくる。

 

「もう少し様子見か」

 

「その方が良いみたいね」

 

怪しくはある、そして不気味でもある。だがこうして協力してくれている事を考えると限りなく黒に近いグレーくらいに思っておくべきなのかもしれない。

 

「全く草食動物オブ草食動物は駄目駄目ネ、リオはぐっと組み伏せられる願……「ふんッ!」……コカッ!?」

 

「リョウト君は何も聞かなかった。OK?」

 

リオの性癖を口にしようとした瞬間耳まで真っ赤にしたリオにボディを喰らい崩れ落ちるラルトスを見て、敵って感じたの気のせいじゃないか? とギリアム達は思い始める事になるのだが……その疑惑も1時間後に鳴り響いた警報でかき消される事となるのだった……。

 

 

 

 

ラングレー基地周辺を埋め尽くす無数のゲシュペンスト・MK-Ⅲ、ヒュッケバイン・MK-Ⅲ、そしてその間に立つ黒い機体――菱形の頭部パーツに4つのスリットが入り、全体的に細身でPTともAMとも違う人型の機動兵器――「レストジェミラ」の姿があった。

 

『あれがインスペクター側の兵器と言う事か、それを投入してきたと言うことはかなり本格的な襲撃という事だな』

 

ゲシュペンスト・リバイブ(S)から響くギリアムの声を聞きながら、リョウトはヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの最後の微調整を行なっていた。

 

(出力を60%にセーブしているからかな、熱はそこまで感じないけど……不安要素はある)

 

マグマ原子炉は今もなおその全てを解明出来ている訳ではない。実際に操縦しているリョウトはマグマ原子炉の意志のような物を感じていた……戦いたい、暴れたいと言う欲求――それは動力だけになっても戦いを欲するメカザウルスの意志ではないかとリョウトは感じていた。

 

『リョウト君、大丈夫?』

 

「う、うん。大丈夫、今回はドッキングは無しで行くから、リオは上空から支援を頼むよ」

 

『任せておいて! リョウト君のフォローはバッチリするからね!』

 

リオの言葉にリョウトは小さく微笑み、操縦桿を握り締めた。月面での百鬼帝国での戦いのように、闘争本能に飲み込まれないと固く心に誓う。

 

『ラングレー基地の人員の脱出が終わるまで約8分かかると思われます。脱出準備が済むまで、敵機のラングレー基地への侵入を防いでください』

 

『私とラーダ、そしてリンが最終防衛線だ。我々はここから動かず、基地の防衛を務める』

 

ヴィレッタ、ラーダ、リンの3人が基地司令部の前に陣取り、ヒリュウ改への詰みこみをしている人員の保護と護衛を行なう。

 

『リューネとアラドは2人で南から上がってくるヒュッケバイン・MK-Ⅲを、リョウトとリオは西からのゲシュペンスト・MK-Ⅲと新型への対応をしてくれ、俺は東面から上がってくる物全てを対応する』

 

『ギリアム少佐、大丈夫なんですか? 俺達よりも数が』

 

『心配するな教導隊の名は伊達ではない。リューネ、リオ、お前達の機体のMAPWが勝負を分ける。使い所を見極めてくれ、では戦況開始!』

 

ギリアムの合図と共に割り振られたエリアに陣取り、ラングレー基地への侵入を試みる敵機との戦いの幕が上がった。

 

「「「「……」」」」

 

ジリジリとすり足のような足取りで間合いを詰めてくるヒュッケバイン・MK-Ⅲの大軍を前にして、リョウトは小さく息を吐いた。恐れていたわけではない、緊張していた訳でもない。ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMから伝わってくる闘争心に飲み込まれぬように、己を強く保つ為に気を静める為に息を吐いたのだ。

 

「リオは距離を保って支援を、余り近づきしないで危ないから」

 

『……了解。気をつけてね』

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの赤い装甲が熱を帯び、周囲に陽炎を引き起こす。ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの動力であるマグマ原子炉は常に高熱を発している、その熱は特殊な加工を施されたフレームと装甲によって外に排出される。それによってパイロットを焼き殺すということはしなくなったが、その熱は完全に放出出来る訳ではない。耐熱パイロットスーツを着ていても、リョウトの額から大粒の汗が流れ落ちる。しかしこの熱はリョウトを蝕む呪いであると同時に、祝福でもあるのだ。

 

「?」

 

「??」

 

量産型ヒュッケバイン・MK-Ⅲが手にしているフォトンライフルの銃口がそれ、目の前にいるはずのヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMからずれた所に着弾する。

 

「一応……成功かな」

 

動力に掛けたリミッターによって最大出力は4割程度に押さえ込まれ、コックピットに篭もる熱の量も減った。そして嬉しい副産物としてフレームから排出される熱が陽炎のようになり、敵機の照準を逸らせるという能力も合ったのだ。

 

「行って! ファングスラッシャーッ!」

 

左腕に装着されていたファングスラッシャーを取り外す、それと同時に十字のブーメラン上に刃が展開され赤いエネルギー刃を纏ったブーメランが量産型ヒュッケバイン・MK-Ⅲに向かって放たれる。

 

「!?」

 

「!!?」

 

マグマ原子炉の熱を帯びたファングスラッシャーは豆腐のように量産型ヒュッケバイン・MK-Ⅲの装甲に傷を付け、リョウトの手元に戻ってくる。

 

「そこッ!!」

 

回収すると同時にフォトンライフル・Hによる熱を帯びた光弾がその傷の中に飛び込み、融解させながら量産型ヒュッケバイン・MK-Ⅲを爆発させる。

 

『凄い威力ね』

 

「うん、でもこれは無人機じゃないと使えないよ」

 

熱を応用出来るように加工されたヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM用の装備は機体だけではなく、パイロットにも凄まじいダメージを与える。スパイダーネットの様な電子機器を攻撃する武器は数多あるが、パイロットを直接攻撃するような武器はやはり非人道的だとリョウトは顔を歪めた。

 

「だけど……この力が必要だっていうなら使うしかないッ!!」

 

だがそれでもこの力が無ければ守れない者があるのならば、そしてこの力が無ければ戦えないのならば、それを使うしかないのだ。固く握り締められたヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの拳がブーメランのような刃を手にしたレストジェミラの胴体に突き刺さり、その身体を持ち上げながら、振りぬかれた。

 

「いっけえッ!!!」

 

高熱を発したヒュッケバイン・MKーⅢと右腕のナックルガードによって、レストジェミラの胴体から、右腕は熱で融解されながら消失した。熱を伴う攻撃を繰り出すヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMは燃え盛る紅蓮の不死鳥が人型になったような機体だった。

 

『リョウト君、少し出力を下げて、私がフォローするわッ!』

 

「ぐっ、ごめんリオッ!」

 

しかしその熱は敵にだけ向けられるものではない、味方にも牙を剥く業火でもあったのだ。緊急冷却によって熱が強制的に下げられるのを感じながらリョウトは熱をそのまま攻撃に転化させる危険性を改めて感じるのだった。

 

「えっぐ……なにあれ、半端ねえ」

 

レストジェミラの装甲を溶かし、機体を完全に破壊したのを見てアラドはビルトファルケン・タイプKのコックピットで冷や汗を流していた。あれだけの熱だ、パイロットがいれば全身火傷ではすまないダメージを受けているのは明らかだった。

 

『アラド! ぼんやりしてるんじゃないよ!』

 

くわばらくわばらと呟いていたアラドの動きは完全に止まっていて、虫型に変形したレストジェミラが飛び掛ってくるのに気付けず、リューネの一喝と共に割り込んできたヴァルシオーネの振るったディバインアームの一閃によって弾き飛ばされたレストジェミラを見て、始めてアラドは自分が狙われていた事に気付いたのだ。

 

「す、すみません! でもレーダーに反応が」

 

『言い訳は良い! とにかくこいつらはレーダーに反応しないみたいだよ』

 

墜落していくレストジェミラは地面に叩きつけられる前に、その形状を変化させゲシュペンスト・MK-Ⅲの背中に張り付くように合体した。

 

「あいつ……気味が悪いっすね」

 

『そんな悠長な事を言ってる場合じゃないだろ、とにかくレーダーじゃなくて、自分の目を頼りな』

 

最初は量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲがフライトユニットを装備しているのだと思われた。だが実際はレストジェミラが変形し、フライトユニットの変わりをしていたのだ。

 

『とにかく狙うならゲシュペンストよりも黒い方を狙いな。じゃないと不意打ちを受ける』

 

そういうとピンクブロンドの髪を翻し、戦いに身を投じるヴァルシオーネを見て、アラドも気を引き締める。

 

「このッ!」

 

「!?」

 

ゲシュペンストから分離し、蜘蛛のような形状になってビルトファルケン・タイプKを捕獲しようとしていたレストジェミラにオクスタンランチャーを突きつけ、引き金を引くと奇妙な悲鳴のような音を立てて墜落するレストジェミラだが叩きつけられる前に、空中のゲシュペンスト・MK-Ⅲの胴体に組み付き、武装のような形状に変形する。

 

「まじか……完全に倒しきれないと駄目ってことかよッ!」

 

生半可な攻撃では倒しきれず、それ所か量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲと合体……いや、寄生と言っても良いだろう。必要なくなればすぐに離脱し、飛び掛ってくる。

 

「これもしかして組み付かれたら俺死ぬ?」

 

組み付こうとしているのはビルトファルケン・タイプKに寄生しつつ、ビルトファルケンを鹵獲しようとしているからではないだろうか? そんな考えが脳裏を過ぎり、アラドの額に冷たい汗が流れた。

 

「!!」

 

「うおッ! なろ、舐めんなあッ!」

 

月面では敵が巨大すぎてついぞ使う事は無かった。だがレストジェミラとビルトファルケンのサイズが近いこともあり、ビームバンカーを突き出し、蜘蛛というよりも掌を思わせる形状になっていたレストジェミラの中心にビームバンカーが突き刺さり、炸裂する。胴体に風穴を開けて墜落するレストジェミラ。ぴくぴくと痙攣する手足にはドリルが回転しており、組み付き鹵獲しようとしているのが本当なのだと判った。

 

「……こんな所で俺はやられるわけにはいかねえ! ゼオラを取り戻す為にもッ!!」

 

ラルトスが装備させてくれたライトニングエッジを構え、オクスタンランチャーを腰にマウントさせながらアラドは力強くそう吼える。その直後ピンク色の衝撃が周囲を駆け巡った。

 

「これは……?」

 

『呆けてる暇はないよ! 相手が怯んでいる内に一気に数を減らすんだよ! アラド、あんたはそっち、あたしはあっちだ!』

 

「りょ、了解!」

 

今の衝撃がギリアムの言っていたヴァルシオーネのMAPWなのだと判断し、アラドはリューネに怒鳴られるまま無人機の群れの中に向かって行くのだった……。

 

 

 

 

ヒリュウ改のブリッジでレフィーナとショーンは揃って眉を顰めていた。ギリアム達は奮戦してくれているが、それでも余りにも敵の数が多い。

 

「どうしてこれだけの数が……これほどの数のゲシュペンスト・MK-Ⅲもヒュッケバイン・MKーⅢは配備されていない筈なのに」

 

「どうやらホワイトスターの設備を修理したとしても数は合いませんな。どんな手品を持ち出したのやら」

 

元々ヒュッケバイン・MKーⅢはトライアルに合わせて製造された数しかなく、その数は50機前後の筈。それなのにラングレー周辺だけで既に10機近くのヒュッケバイン・MKーⅢが確認されているのは明らかに異常だった。

 

「避難及び物資の運搬はどうなっていますか?」

 

「敵の攻撃が予想より激しく、まだ4割ほどですッ!」

 

ユンの報告を聞いてレフィーナが眉を顰める。脱出作戦は敵側がラングレーの征圧と機体の鹵獲を前提にしているから成功する物であり、インスペクターならばと思いはしたが、実際は鹵獲などお構いなしで襲ってくるヒュッケバイン・MK-Ⅲとゲシュペンスト・MK-Ⅲ……そして様々な形態に変形する黒い機体によって、想像以上に劣勢に追い込まれてしまっている……しかし避難が終わるまでは浮上できないヒリュウ改の護衛と避難中のラングレーの隊員の事を考えればヴィレッタ達も動かせない……レフィーナがどう指示を出せばと必死に考えを巡らせている時、突如ラングレー基地のあちこちで爆発が起きた。

 

「ッ!? 何が、敵の攻撃ですか!」

 

「い、いえ! ミサイルなどは確認し……うあっ!?」

 

ユンの報告の最中にヒリュウ改の船体が激しく揺れた。

 

「うっっ!? 何が起きているんですか! レーダーに反応はッ!?」

 

「あ、ありません! きゃあッ!!!」

 

船体を連続で襲う凄まじい衝撃にユンがオペレーター席から転がり落ち、レフィーナも姿勢を崩して艦長席から転がり落ちる。

 

「完全に何かに組み付かれていますな! 模擬戦用のペイント弾を対空・対地砲座へ! とにかく敵の正体を炙りだすしかありません!」

 

バランスを崩しながらショーンがマイクを掴み叫ぶ。ペイント弾が装填されるまでの数分間でヒリュウ改の船体激しく揺れ、主砲や副砲が容赦なく破壊される。

 

「くっ! 敵はどこにいると言うんですかッ!」

 

「落ち着いてくださいレフィーナ艦長! こういう時ほど落ち着くのです! ペイント弾は装填完了次第発射をッ!」

 

見えない敵の襲撃に混乱しているレフィーナにショーンが一喝し、ペイント弾の発射命令が下されると徐々にペイント弾が打ち込まれ、何も無い虚空から徐々にだが姿を消してヒリュウ改、そしてラングレー基地を襲っている何者かが姿を現した。

 

「「「ギギギ」」」

 

40m……いや、50m級の特機がペイント弾によって姿を現す。その頭部はトカゲのような形状をしており、両手はするどい鉤爪と掌に何かの発射口を持ち、足を収納し空中に浮遊しているのは紛れも無く百鬼獣の姿だった。

 

「百鬼獣!? 何故インスペクターの機体と共にッ!?」

 

「どうやら……侵略者同士で手を組んだということですか……あれだけのゲシュペンスト・MK-Ⅲとヒュッケバイン・MKーⅢが確保できている理由も納得ですな」

 

月面を制圧した百鬼帝国はインスペクターに恐らく月面の設備を譲り渡したか、協力態勢を築いたのだろう。それがゲシュペンスト・MK-Ⅲとヒュッケバイン・MKーⅢが多数量産されていること、そしてあの未知の黒い可変式特機の大量生産を可能にしたのだろう。それを証明するように、ラングレー基地を見下ろす位置に月面、そしてホワイトスター駐在軍を壊滅させた恐竜型の特機が姿を現した。

 

『地球人よ、降伏せよ。この降伏勧告は1度のみだ、素直に抵抗を止めれば命の保障はしよう。だが断れば……どうなるか判っているだろうな?』

 

巨大な砲塔をラングレー基地、そしてヒリュウ改に向け降伏勧告を出す恐竜型の特機――ガルガウを前にレフィーナ、ショーンの2人が唇を噛み締める。ヒリュウ改は謎のカメレオンのような百鬼獣に組み付かれ、そしてラングレー基地の人員全てを人質に取られた。特機を退けるには力が足りない……。

 

『ラングレー基地司令のクレイグ・パラストルだ』

 

『司令官か、返答は? 言っておくが俺は気が長い性質ではない。時間を引き延ばして援軍を待つ等という真似は許さん、5分以内に返答を求める。言っておくが交渉等はせんぞ、降伏するか、それとも死かだ』

 

一切話を聞くつもりはないと言う高圧的な発言を前にクレイグの歯を噛み締める音が響いた。その時だった、ヒリュウ改、そしてラングレーのレーダーがこの場に近づく熱源を4つ感知し警報を響かせたのは……。

 

『なんだ、まだ百鬼獣を送り込んでくれたのか? ふん、まぁ今回ばかりは……』

 

ヴィガジもその警報が百鬼帝国がヴィガジの増援に送り出した百鬼獣だと思いこみ、僅かに警戒心を緩めた。その直後上空から飛来したミサイルがガルガウを襲い、ヒリュウ改に向けていた砲塔を明後日の方向に向けさせ、ガルガウを崖の上から転がり落ちさせた。

 

『なっ!? どうなっている!』

 

友軍だと思っていた存在が自分の敵だったと気付き、困惑するヴィガジの声が響き、ガルガウの目の前に黒と青のカラーリングを施された特機が立ち塞がった。

 

「あ、あれはグルンガスト参式ッ!?」

 

「おかしいですなあ。あれはまだロールアウトしていないと聞いていたのですが……」

 

ヒリュウ改のモニターに映し出されたのはまだロールアウトしていないはずのテスラ研の最新特機である。グルンガスト参式の姿だった……何故ここに、そして誰が乗っているのだという疑問は次の瞬間に消し飛んだ。

 

『我はゼンガーッ! ゼンガー・ゾンボルトッ!! 悪を断つ剣なりッ!! 伸びよ斬艦刀ッ!!!』

 

その名乗りはクロガネと共に姿を消したゼンガーの物だった。その力強い叫びは絶望的な状況をなんとか出来るかもしれないという希望を抱かせるには十分な物だった。

 

『何が悪を断つ剣だ! 下等なサルの分際でぇッ!!!』

 

ヴィガジが激昂し、砲塔をグルンガスト参式に向ける。だがそれはゼンガーを相手にするには余りにも遅すぎた……。

 

『遅いッ! 斬艦刀ッ! 疾風迅雷ッ!!!』

 

『げ、ゲッター線だとぉッ!? ちいっ!!』

 

翡翠色の光を帯びた斬艦刀の刃、そしてゲッター線によって急加速したグルンガスト参式の突っ込みにヴィガジはギリギリ反応し、ヒリュウ改に向けていた砲塔を盾にし、斬艦刀の一太刀をかわしたが、参式の前蹴りを叩き込まれ更にラングレー基地から弾き飛ばされる。

 

『いまだ! 撤退準備を急げ! こいつは俺が抑えるッ!!!』

 

『舐めるなぁッ!!』

 

ガルガウの爪とグルンガスト参式の斬艦刀が何度も交差する中、ゼンガーの退却準備を急げと言う声が響いた。だがカメレオンのような百鬼獣に組み付かれている中では避難が進められない……そう思った時レーダーに映っていた残り3つの熱源が雲を引き裂いて姿を見せた。

 

「あれは……」

 

「は、はは。もうなんでもありですなあ」

 

弾丸のような形状の漆黒に染め上げられた戦闘機――その姿を知らない者はいない、間違いなくそれはゲットマシンの姿だった。

 

『チェンジッ!! ゲッタァアアツゥゥウウウウッ!!!』

 

ゲットマシンから響いたのは武蔵のものではなくエルザムの物だった。空中でゲッター2へと合体を果たしたエルザム……いや、変装としてレーツェルに扮していたエルザムはジャガー号の中で小さく笑みを浮かべる。

 

『あの百鬼獣は私とゲッター・トロンベに任せてもらおうかッ!!』

 

ドリルアームが展開され、そこから姿を見せた砲口からゲッター線の光弾を撃ち込む。ゲッター線を警戒したのか、ヒリュウ改に組み付いていた百鬼獣はヒリュウ改から離れ、収納していた足と尾を伸ばしゲッター・トロンベに向かって威嚇の唸り声を上げる。その目はゲッター・トロンベしか映しておらず、ギリアム達が無人機さえ抑えてくれているため脱出の為のチャンスが出来た。

 

「今の内です! 手の開いている者は運搬作業に協力してください! ゼンガー少佐達が特機を抑えている間に避難を完了させてください!」

 

『急げ! この好機を逃がすな! これを逃がせば脱出のチャンスはないぞ!』

 

クレイグとレフィーナの指示が同時に飛び、ラングレー基地からの脱出作戦が始まるのだった……。

 

 

 

第73話 立ち上がる剣神 その3へ続く

 

 




ゲッター線で稼動するグルンガスト参式とゲッター・トロンベの乱入です。バン大佐? 彼はコウキをテスラ研に届けに行っているので、今回は未登場です。出るとしたらテスラ研サイドの話になりますね。次回は百鬼獣やガルガウとの対決をメインに話を書いて行きたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第73話 立ち上がる剣神 その3

第73話 立ち上がる剣神 その3

 

ショーンは呆れ半分、関心半分、そしてゼンガーにグルンガスト参式を託した男の慧眼に素直に賞賛を送っていた。レフィーナにこそ言わなかったが、ショーンとクレイグの計算では避難が間に合わず、最善でも半数のスタッフが取り残される可能性を懸念していた。どれほど効率よく避難出来たとしても、敵の数や、周囲の包囲網の事を考えれば全ての人員を保護している時間はなく、仮に全ての人員を保護できたとしても今度はラングレーから離脱出来ない可能性が極めて高かった。

 

(これも日ごろの行い……いえ、グレッグ司令の助けでしょうか?)

 

ビアン一派としてあちこちを移動をしてる2人だ。その2人が運よくラングレー基地周辺にいる可能性はそれこそ天文学的な確率だ。ショーンにはグレッグの御霊が2人をこの地に呼び寄せてくれた用に思えた。

 

「ゼンガー少佐とエルザム少佐が助けに来てくれるなんて」

 

「そうですなあ。これは嬉しい誤算と言っても良いでしょう、しかし喜んでいる時間がないのが現状ですがね」

 

「判っています。ラングレー基地の隊員の避難を最優先に、残っている副砲及び対空ミサイルによる支援を!」

 

レフィーナが矢継ぎ早に指示を出すのを聞きながら、ショーンは眉を細めた。

 

(ゲッターロボ……それも黒ですか)

 

グライエン・グラスマンの屋敷を襲撃したゲッターロボは黒いゲッターロボという話をショーンは聞いていた。しかしだ、ビアンと同じく、鷹派、そして地球を守る為には徹底抗戦しかないと言っているグライエンをビアンが殺す事を選択するだろうか?

 

(普通に考えて極秘裏に協力関係にあると考えるのが妥当……)

 

レイカーもビアンとは極秘裏に連絡を取り合っていると聞く、そして目の前で戦っている新型のグルンガスト参式を見れば、テスラ研のジョナサンとも連絡を密に取り合っている可能性は十分に考えられる。となると黒いゲッターロボの目撃情報が何を意味するか……ショーンの優秀な頭脳は既にその答えに辿り着いていた。

 

(今議会にいるグライエン議員も偽物という事でしょうね)

 

恐らくエルザム達がグライエンが百鬼帝国に襲われている時に救出に現れたのだろう。そしてそれを幸いに、黒いゲッターロボによる襲撃事件をでっち上げたと考えるのがもっとも自然な流れだ。だがそうなると議会は既に百鬼帝国の手が相当数入り込んでいること示唆していた。

 

「やはりあのノイエDCの演説はビアン博士を騙る偽物というリューネさんの意見が正しかったと言うことでしょうか?」

 

「そうでしょうな。仮に本物のビアン総帥が決起していれば、お2人が助けに来ると言うことはありませんから」

 

レフィーナは決起したビアンが偽物という確証を得れて満足そうにしていた。その顔を見れば、ショーンは自分の脳裏に浮かんでいることをレフィーナに告げる事は出来なかった。

 

(やれやれ、私も甘いですな)

 

1つの窮地を切り抜けただけで安堵するのは艦長と考えれば甘すぎる。常に最悪を想定しなければならない以上、1つの窮地を乗り越えたら2つ、3つの窮地を想定しなければならない。だがホワイトスターで友軍の大量死を目の当たりにし、そしてここラングレーでも人を見捨てることになるかもしれないと言う事になっていた事を考えれば、まだ歳若いレフィーナには余りにも重過ぎる。叩きすぎて潰れても困るので、ショーンは敢えてその事を指摘しなかった。勿論それにはほかの理由も1つあった、ホワイトスターで出現した時のキャノン砲をガルガウは装備していなかった。それはインスペクター側もラングレーを無事に確保したいという理由からだろう。それゆえに向こうが乱暴な手に出てこないという事が予想出来たからこそのショーンの判断だ。

 

(しかし、予断は許しませんな)

 

ガルガウと対峙しているグルンガストだが、ショーンの目から見てその動きは鈍い。グルンガスト参式に慣れていないと考えるのが妥当な所だが、不慣れな機体でガルガウを相手にするには例えゼンガーであっても条件が不利過ぎる。姿を消す百鬼獣は黒いゲッター2が押さえ込んでくれているが、無人機の群れは今だ止まる事を知らない。ほんの少しの油断が死に直結する……この劣勢をどうやって切り抜け、無事にラングレーを離脱するか……この無理難題に直面し、その眉を険しく寄せるのだった……。

 

 

 

 

百鬼獣と戦っている黒いゲッターロボも、そして今ガルガウと鍔迫り合いグルンガスト参式もゲッター炉心で稼動している。ガルガウのコックピットに響くアラートがヴィガジを苛立たせていた。

 

「ちいッ! 忌々しいッ!」

 

ヴィガジはガルガウのコックピットの中で出発前にウェンドロに言われていた事を思い返し、頭に昇りかけた血が下がる。

 

『チャンスは1度だけだ。君は条約違反の武器を使った、そしてゲッターロボのパイロットの交渉の機会も失わせた。それに加えて地球人相手にガルガウを中破させた。本当ならばこの段階で査察員としての資格は剥奪、そして本国に強制送還だ。だけどブライが言っていたんだ、仏の顔も3度までと、まぁ君は既に3度失態をしているからその段階で、もう僕は一切君に期待をしていないんだけどね』

 

栄えある査察員――しかもゼゼーナンが何かを企んで地球で活動している証拠、そしてゲッター線を確保できるかも知れないと言う重要な任務に選ばれた事をヴィガジは誇りとしていた。無論、己が下等と見下す地球人に負ける訳が無いという傲慢な考えが無かった訳ではない。だが実際は地球人にガルガウを中破させられ月の設備の奪取も出来なかった、ネビーイームを強奪は成功したが、それはゾヴォークの条約違反の武器を使っての物だ。しかもその上ゲッターロボパイロットの怒りを買い、交渉の余地は無くなった。失態に続く、失態……正直処刑されていてもおかしくなかった。ダヴィーンの生き残りの言葉があったから首の皮一枚で繋がったが……それも本当にギリギリの所だ。

 

『地球のラングレー、それとテスラ研を無事に奪取してくる事。それを出来れば失態は許そう、しかしだ。そのどちらか片方でも基地、拠点としての価値を損なわれていたら判るね? さ、行って来るんだ。これ以上僕を落胆させないでくれよ、ヴィガジ』

 

これが最後通告であることは分かっていた。だからこそ、怒りに身を任せた普段の戦いは出来なかった。

 

「ええい! 邪魔だぁッ!!!」

 

思うように戦えない、それはフラストレーションを溜めさせていたからヴィガジは怒鳴ってこそいたが、それでも頭の中は冷静だった。

 

『ぬううっ!!!』

 

「何が悪を断つ剣だ! 俺に手も足も出んではないか!!!」

 

斬艦刀を盾にし、ガルガウのクローの連撃を受け止めるグルンガスト参式は反撃の余地が無く、徐々に後退させられていた。

 

『うぉおおおおッ!!!』

 

「ぬっぐっ! 馬鹿力だけでッ!!」

 

ゲッター炉心で稼動しているだけはありパワーはある。だがそれだけだ、それだけで打ち倒される程ガルガウもヴィガジも弱くは無かった。

 

(こいつとゲッターロボを倒せればッ!)

 

ゲッター炉心を手に出来れば今までの失態は全て帳消しになる。それだけを考えて、ヴィガジはガルガウを操る。自分に退路は無く、そして戦果を上げ続ける事でしか己の失態を取り返す事は出来ないのだ。

 

「ぬおおおッ!!!」

 

『ぐっ! お、おのれッ!!!』

 

クローでグルンガスト参式の胴体を掴み締め上げる。参式の拳が振るわれ、コックピットにまで衝撃が響いてくる。だがヴィガジはそんな衝撃に一切怯むことは無かった。

 

「俺の前に立った不運を呪えッ!! そのゲッター炉心、俺が貰い受けるッ!!!」

 

『ぐあっ!!』

 

ゼンガーの苦悶の声を聞いて、ヴィガジは薄く笑う。地球人のせいで自分はこんなにも苦しんでいる、こんなにも追詰められている。苦しむの当然だとヴィガジは残虐な笑みを浮かべ、このままグルンガスト参式を押し潰し、その残骸からゲッター炉心を回収しようと考えていた。ラングレー基地、そしてテスラ研を手にし、そしてその上でゲッター炉心を持ち帰れば己の失態は挽回出来る、参式の装甲がきしみ、火花を散らすのを見て、一気に参式を装甲破壊しようと操縦桿により力を込めた時だった。

 

「ぐがあッ!? お、己ぇッ!! 下等なサルの分際でぇッ!!!」

 

ガルガウに走った凄まじい衝撃に操縦桿を握る手が緩み、グルンガスト参式がその手から零れ落ちた。その光景を見てヴィガジは激怒し、再び参式に向かって襲い掛かろうとしたのだが……。

 

「ぐっ! ええいッ! 邪魔をするなッ!!」

 

黒いゲッター2の腕が変形し放たれる重力弾と、空を舞うゲシュペンスト・リバイブ(S)のビームでその場に釘付けにされる。

 

『お前の好きにはさせんぞッ!』

 

『ゼンガー!? 何をしているッ! しっかりしろッ!』

 

ギリアムとエルザムの声が響き、それから少し遅れてラングレー基地からクレイグの声が響き渡った。

 

『何をしている! ゼンガー・ゾンボルトッ!! お前は悪を断つ剣……父さんが見出した剣の筈だッ! 膝をついてどうするッ! 立ち上がれッ!!! 何を恐れている! その剣は何の為にあるッ! 答えろッ! ゼンガー・ゾンボルトッ!!!』

 

避難を勧める部下の声を無視し響き渡るクレイグの声。その声は今のヴィガジにとって非常に腹ただしい物だった……部下を信用し、お前なら大丈夫だと言う信頼……自分には無い物を向けられているゼンガーに怒りを覚えた。

 

「何が悪を断つ剣だ! 何が立ち上がれだッ!!! 目障りだッ! 消え失せろッ!!!」

 

ガルガウの雄叫びが響き、メガスマッシャーの銃口がグルンガスト参式に向けられ、凄まじいエネルギーの奔流がグルンガスト参式に向かって撃ち込まれた。

 

「ははははッ! どうだ! 悪を……なッ!?」

 

メガスマッシャーが「斬られた」その異常な光景にヴィガジは目を剥いた。

 

『……我はゼンガー……ゼンガー・ゾンボルトッ!! 悪を断つ剣なりッ!!! この命を賭して、俺は地球を守る為に戦うッ!!』

 

グルンガスト参式の装甲が展開し、そこからゲッター線の光が溢れる。そしてフェイスガードが展開され紅く輝く、グルンガスト参式のカメラアイがガルガウを睨みつけた。

 

「ぬ、ぬううッ!!! サルの分際でぇッ! 身の程を弁えるんだなッ!!」

 

そのカメラアイの向こう側に自分を睨んでいる人間の……ゼンガーの鬼のような形相を見て、それに気圧されたヴィガジは地球人に恐れを抱くことなどあり得ないと己を鼓舞するように叫び、グルンガスト参式に向かってガルガウを走らせるのだった……。

 

 

 

 

 

グルンガスト参式のコックピットの中でゼンガーは強く操縦桿を握り締め、唇を噛み締めていた。懐かしい古巣……ラングレー基地、クレッグ司令やキョウスケ達と過ごした時間は決して永くはなかった。だがそれでも、ラングレーで過ごした時間はゼンガーにとっては大切な物だった。しかし、ゼンガーはそれを裏切った。グレッグが脱出するまでの時間を稼ぐつもりで殿を務めようとしたが、グレッグ本人に説得され、ラングレーを見捨て、そしてグレッグを死なせた。だが死ぬ瞬間までグレッグは己を信じ、ヒリュウ改と共にいる事でDC戦争を戦い抜き、そして地球を守ってくれるとグレッグは信じていただろう。だがゼンガーはエルザムの真意を知り、キョウスケ達を裏切り、地球を守る刃を見出す為とは言え、ゼンガーはグレッグを裏切った。それがゼンガーの心に重く、引っかかっていた。

 

『友よ、やはりバン大佐に変わって貰うべきだ』

 

「いや、俺は己の罪と真っ向から向き合わねばならぬ。例え恨まれていようとも、この程度で己の罪全てが許されないとしてもだ」

 

ラングレー基地が襲われていると知った時。エルザムとバンはゼンガーに自分達が行くと言ったが、ゼンガーが自分からラングレーに向かうと言ったのだ。

 

『しかし、ゼンガーよ。慣れていない機体で戦えるのか?』

 

「大丈夫です。それに、今ラングレーに行かなくては俺が俺を許せなくなるのです」

 

グルンガスト参式の操縦には確かに慣れていない、それは大きなハンデとなる。それはゼンガーとて承知していた、だがそれでもゼンガーはラングレーに行かなくてはならなかったのだ……1度は見捨てた、だが2度は見捨てられぬ……己が己であるために。

 

(なんと情けない……)

 

口の端から零れた血を手の甲で拭い、目の前の恐竜型の特機――ガルガウを睨みつける。正直な所ゼンガーはラングレーに来るのが恐ろしかった。再編成されたラングレーは崩壊する前のラングレー基地から脱出した者も多い、それになによりもグレッグの息子であるクレイグが司令をしている。何を今更と言われるかも知れぬ、偽善と罵られるかも知れぬ、ゼンガーと言えど人間だ。心に鎧は纏えぬ、不安や恐怖を感じる事もある。親の仇と言っても良い、正直あの時ゼンガーが残れば、ゼンガーは戦死することになったがグレッグ達は逃げれた。逃亡者、敗残兵と言われても生き延びろとグレッグに命じられたとは言え、そのもしもをゼンガーは思わずにはいられなかった。だがクレイグは己を激励した……何故膝をついている、何を恐れている、お前は選ばれた剣だと、お前を見出したグレッグに恥じるような戦いはするなと叫ぶクレイグの声。自分を憎んでいるだろう、何故グレッグを助けてくれなったと思いもしているだろう。だが己の感情を越え、悪を断つ剣として立ち上がれと、己の使命は何だと言われ、ゼンガーほどの男が奮起しない訳が無かった。

 

『う……すげえ』

 

『アラド、下がりな。あたしがフォローする』

 

剣気と言うべき闘気に当てられ、アラドが呻く声を聞いてリューネがアラドに下がれと命じる。

 

『よし、これでゼンガーの方は心配いらないな』

 

『エルザム、百鬼獣を抑えれるか?』

 

『私はレーツェルだ。エルザムでは無いが、百鬼獣は抑えよう』

 

『……もう好きにしてくれ。そっちは頼むぞ』

 

『任せれた、行くぞゲッターロボ。いや、トロンベよッ!』

 

残像を残しながら駆けるゲッター2・トロンベとレーツェルだと言い張るエルザム。それらにギリアムは力が抜けたが、気を抜いている暇もない。

 

『リョウト、リオ! AからBの8まで下がれ、そのブロックの避難は完了した。ヴィレッタ達はDの12まで、リューネはC-7、避難の完了したブロックは放棄しろッ!』

 

『了解! リオ、行くよッ!』

 

『うん! 判った!』

 

ギリアムの指示が矢継ぎ早に飛ぶ、避難が最優先だ。ラングレーは陥落する……それがわかっているからこその撤退準備だ。その声を聞きながら、ゼンガーはガルガウをこれ以上進ませまいとグルンガスト参式で立ち塞がる。

 

「『うおおおおおーーーッ!!!』」

 

ゼンガーとヴィガジの雄叫びが重なり、アイアンクローと斬艦刀が何度も火花を散らす。

 

『舐めるなあッ!!!』

 

「ぬうおおおおおおッ!!!!」

 

上段からガルガウを両断しようと斬艦刀を力を込めて振り下ろすグルンガスト参式と両腕のクローでその刃を受け止めるガルガウ。互いの力は完全に均衡し、ガルガウとグルンガスト参式の足元に蜘蛛の巣状の大きな亀裂が走る。

 

『喰らえぃッ!!!』

 

「ぬうっ!! ぐああッ!?」

 

至近距離からの火炎放射で視界を塞がれ、その熱が容赦なくグルンガスト参式を、ゼンガーを焼く。グルンガスト参式の電子機器が悲鳴をあげ、モニターのいくつがブラックアウトし爆発する。その衝撃にゼンガーが顔を逸らした瞬間ガルガウの尾の一撃がグルンガスト参式の胴を穿ち、グルンガスト参式を大きく弾き飛ばす。

 

「ぐっくっ……!」

 

熱で焼かれたモニターは今も尚復旧せず、僅かに生きているモニターはグルンガスト参式の装甲や駆動系が熱と衝撃でやられ、レッドアラートを灯していた。

 

(ゲッター炉心に感謝しなければ)

 

だがそれでもグルンガスト参式はまだ動く事が出来ていた。それはゲッター炉心、そしてゲッター合金による形態変化による、装甲の強化そしてゲッター線バリアによって致命的なダメージを避けていた。レッドアラートも良く見ればダメージによっての物ではなく、排出しきれない熱による、駆動系によるダメージであり、熱さえ排出すればグルンガスト参式はまだ戦える。それが判れば、ゼンガーにとっては何の問題もない。操縦桿を握り締め、目の前の敵を睨みつける。

 

『貴様はここで死ねッ!!』

 

僅かに映るモニターにはガルガウの腕部のブースターが火を噴き、今にもグルンガスト参式に飛びかかろうとしている姿が見えていた。あの質量、そしてあの加速で追突を受ければゲッター線バリア、ゲッター合金でコックピット部分の強化を施されているグルンガスト参式と言えど耐え切れない。

 

「眼前の敵は全て打ち砕くのみッ! 伸びろ斬艦刀よッ!!!」

 

参式斬艦刀の鍔が開き、ゲッター合金、そしてゾル・オリハルコニウムを特殊な比重で混ぜ合わせ、作り上げられた新型斬艦刀が変形し、日本刀から巨大なバスターブレードへとその姿を変える。

 

『そんなこけおどしの刃を恐れる俺ではないわッ!!』

 

ヴィガジはその刃をこけおどしと断じた。グルンガスト参式を遥かに越える全長を振るえる訳が無い、ヴィガジはそう考え腕部のブースターを全開にし、グルンガスト参式に向かってアイアンクローを突き出すように構え、質量と加速を生かした突撃を繰り出す。

 

「一意専心ッ!!! 受けよ我が乾坤一擲の一撃をッ!」

 

ゼンガーが吼え、グルンガスト参式の紅いカメラアイが力強く光を帯び、ガルガウの突撃に負けない速度で走り出す。

 

『「うおおおおおおーーーーッ!!!!」』

 

ヴィガジとゼンガーの雄叫びがラングレー基地へ響き、ガルガウとグルンガスト参式の姿が交差する。2機の着地した位置がそのまま2人の勝敗を示していた。グルンガスト参式は突っ込んだ勢いのまま、真っ直ぐに進みヒリュウ改達の前に着地し、ガルガウは斜めに逸れた位置に着地した。それはガルガウが斬艦刀の刃から逃げた証であり、切り落とされたガルガウの尾と右腕が後一歩深くガルガウが踏み込んでいれば両断されていた事を表していた。

 

『ゼンガー少佐! ヒリュウ改に着艦を、本艦はラングレーから離脱します!』

 

「承知ッ!」

 

レフィーナの言葉に頷き、グルンガスト参式が着艦すると同時にEーフィールドを展開したヒリュウ改を先頭に5機の輸送機と共にラングレー基地を放棄しその場を離脱する、その姿を火花を散らすガルガウのコックピットの中でヴィガジは忌々しそうに睨みつけていた。地球人相手に恐れを抱き、そして逃げたことが自分の命を繋げたことは判っていた。だが査問官として誇りを持つヴィガジは地球人相手に逃げた己を恥じ、そして怒りを抱いた。

 

「……次はこうはいかんぞ。地球人共め……貴様らはこの宇宙に存在するべきではないのだ」

 

ヴィガジの中で既にゼンガー達は下等な猿ではなく、抹殺すべき敵とし認めた。ラングレー基地を完全に掌握する為に、そしてネビーイームから運び込まれるガルガウのアタッチメントを待ち、テスラ研の制圧に向かう為にラングレー基地へと歩みを進めるのだった……。

 

 

 

 

ラングレー基地から逃れたヒリュウ改、そして輸送機はスペリオル湖に停泊していた。追っ手への警戒、そして救助に訪れたゼンガーとレーツェルから話を聞いていた。

 

「ゼンガー少佐。よく助けに来てくれた、感謝する」

 

クレイグにそう声を掛けられ、ゼンガーは気まずそうな顔をする。だがクレイグは強引にその手を取り握り締めた。

 

「ッ」

 

ゼンガーが顔を歪めるほどの力でクレイグはゼンガーの手を握り締め、その目を真っ直ぐに見つめた。

 

「ゼンガー少佐。DC戦争での行動は確かに私とて思うことはある……だがそれはそれ、これはこれだ。もし、この場に父さんがいたのならば……過去の因縁に囚われ大局を見誤るなと私を叱っただろう。それとも、あの時の命を賭して地球を守ると言うのは嘘だったのか?」

 

「い、いえ! そんな事は」

 

「ならばそれで良い。ゼンガー少佐のこれからの活躍に期待する」

 

握り締めていた手を放し、ゼンガーの肩を叩き激励するクレイグの目には恨みや、殺意の色は無く純粋にゼンガーを信じる光が宿っていた。

 

「……承知しました。このゼンガー・ゾンボルト……必ずやそのご期待に答えて見せます」

 

敬礼し一礼するゼンガーにクレイグは満足そうに頷き、レフィーナ達に視線を向ける。

 

「すまないな、私のせいで会議が遅れた。早速今後の方針を話し合おう」

 

ラングレー基地をインスペクターに奪取され、そして北米全体はインスペクターの手に落ちたといっても良い。しかも増援も期待出来ず、百鬼帝国がインスペクターと協力していることも判明し、状況は最悪を通り越して最低に近い。だがそれでも、この場にいる全員の瞳から闘志の色は一切失われていなかった。

 

「ではこれより作戦会議を始めます。本艦の位置から行ってテスラ研へ救助へ向かうのは難しい位置にあります、それに加えて敵の追っ手の可能性を考えれば、戦力を分散することも極めて難しいです」

 

テスラ研の近くに向かう予定だったが、インスペクターの追っ手は想像以上に激しく、テスラ研から大きく距離を取る事になってしまった。

 

「テスラ研に連絡を取り、脱出時の進路をこちら側にとってもらうというのはどうだろうか?」

 

「いえ、ギリアム少佐それは出来ませんな。ジャミングが酷く、テスラ研との連絡は取れておりません」

 

「そうですか、クレイグ司令。テスラ研と定時連絡した際に襲撃の可能性は伝えてくれましたか?」

 

ショーンの言葉を聞いてギリアムはクレイグに定時連絡の際の事を尋ねる。

 

「定時連絡の際に敵の襲撃を受ける可能性は一応は告げてある……連絡が途絶えた事を不審に思い脱出準備を進めてくれている可能性はあるが……」

 

襲撃の可能性を伝えてはある。連絡が途絶えた事を不審に思い、テスラ研が脱出準備を進めてくれている可能性と口にしたクレイグだが、そこで口ごもった。

 

「脱出をしてくれたとしてもこちら側に来てくれるかどうかは判らないと言うことですね? クレイグ司令」

 

「その通りだ。レーツェル、やはり誰かがテスラ研に向かう必要がある、機動力があり隠密行動が出来、なおかつ百鬼獣と戦えるだけの機体がいい……その条件を満たしているのはゲッターロボだけだが……頼めるだろうか? 何も単騎で行けとは言わない、ギリアムかアラドも「いえ、私1人で十分です。我が友はヒリュウ改と輸送機の護衛に残してくれて大丈夫です」

 

敵機の追撃を振り切り、単騎でテスラ研へ向かう。そして道中で出現する可能性の高い百鬼獣、インスペクターの司令官機とも戦う……その余りにも難易度の高い条件を満たせるのはゲッターロボ・トロンベとレーツェルの組み合わせしかなかった。単独で向かうのならばゲシュペンスト・リバイブ(S)とギリアムの組み合わせもある、アラドとビルトファルケンという組み合わせもあるとクレイグが口にしたが、レーツェルはその言葉を遮り、自分1人で十分だと口にした。

 

「エル……いや、レーツェル。お前の実力は判っている、だが単独で向かうには……」

 

「案ずるな、私も自殺志願者ではない。テスラ研にバン大佐とライノセラスが向かっている。彼らと合流し、テスラ研の撤退支援を行うつもりだ」

 

レーツェルも百鬼獣の脅威は判っている、単独で向かい戻って来ることが不可能という事は十分に承知している。

 

「なるほど、我々ではライノセラスの兵士達の危機感を煽ることになると」

 

偽物のビアンがノイエDCの決起を行なった為再び追われる身となった、それゆえに連邦軍の識別コードが近づけばライノセラスはテスラ研から離れてしまうだろう。通信もジャミングで不可能となればゼンガーかエルザムがライノセラスとコンタクトを取る必要があるが、グルンガスト参式は鈍足でテスラ研が襲撃が行なわれる前にライノセラスに合流し、テスラ研に向かうのは難しい。テスラ研に救出に向かえるのはレーツェルただ1人なのだった……。

 

「……」

 

「どうした? コウキ博士」

 

「バン大佐、悪いがライノセラスに連絡を入れてくれ、後お前も出撃準備をするんだ」

 

「……嫌な風だな……判った。出撃準備を始める」

 

「頼む急いでくれ。もう時間が無い」

 

レーツェルがヒリュウ改を出た頃、テスラ研に戻っていたコウキはテスラ研に向かってくる敵意を感じ取っているのだった……。

 

 

 

第74話 黒き暴風と鬼神 その1へ続く

 

 




今回はここで終わりで、次回はレーツェル、バン、コウキの3人を主体でのテスラ研での戦いを書いて行こうと思います。インスペクターだけではなく、百鬼帝国も出してベリーハードモードで行きたいですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


アークの最終話は想定とおりと言えば想定通りですが、コーウェンとスティンガーが特別ゲストで出たのは思わず吹きましたね。

しかし不完全燃焼な終わり方で、少しばかり残念でしたが続編がオリジナルで作られることを祈ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第74話 黒き暴風と鬼神 その1

第74話 黒き暴風と鬼神 その1

 

テスラ研の内部がぴりぴりしている事はアイビス達もを感じていた。クスハの姿も、コウキの姿も無い……ピリピリとした空気を感じながらの訓練は何時も以上に疲労感を与え、そしてミスを誘発させていた。

 

『うわあっ!?』

 

アイビスの悲鳴が響きシミュレーターが緊急停止する。その様子を見てツグミは小さく溜め息を吐いた、ゲッターロボシミュレーターは順調に稼動させれる時間が伸びているのに、何故プロジェクトTDのシミュレーターを乗りこなせないのか不思議でしょうがなかった。

 

「無様だな。アイビス、何時になったらラピッド・アクセラレーション・モビリティ・ ブレイクを扱えるようになるんだ」

 

「うぐ……もうちょっと、もうちょっとでコツが掴めそうなんだよ。ただ、なんていうのかな……「軽い」んだよ」

 

軽いとアイビスは呟き、スレイとツグミは眉を細めた。

 

「軽い事の何に不満がある。そんな物を言い訳にするな」

 

「待ってスレイ、軽いって言うのは操縦感覚の事かしら?」

 

アイビスを叱責するスレイの言葉を遮り、ツグミが軽いという言葉の真意を尋ねる。するとアイビスは小さく頷き、気まずそうな表情を浮かべた。

 

「出来たら1回だけで良いんだ。ツグミ、操縦桿と足のペダル、それの感覚をもっと重くして欲しい。ぐっと力を込める感じで……えっと、αプロトに近い設定にして欲しいんだ」

 

「身の程を知れ。アイビス、カリオンを乗りこなせないのにαプロトの設定に出来る訳が「良いわ。でも1回だけよ」タカクラチーフ、アイビスに飛ばせる訳がない。時間の無駄だ」

 

スレイが不満そうな表情を浮かべるが、ツグミの意見は変わらなかった。

 

「何を言ってるの? スレイ、貴女もやるのよ。コウキがいないから言うけど……コウキはαプロトのパイロットにアイビスを推してるわ、そしてフィリオもね。多分コウキがフィリオに進言したんだと思うけど……」

 

「なっ!? 何故コウキ博士が流星をッ!」

 

流星……それはアイビスの忌み名めいた渾名だった。フィリオとは違うが、コウキもまたスレイにとっては尊敬するべき大人の1人だった。そんなコウキが自分ではなく、アイビスを推していると言う事にスレイは動揺を隠し切れなかった。コウキにアイビスが何かしたんではないかとスレイは反射的にアイビスに視線を向けたが、アイビスは呆けた顔をしていた。その顔を見れば、何かを企んでいるようには見えなかった。

 

「だから1度αプロト……アルテリオンで試験をしたいの、この稼動データを元にコウキの言っている事が正しいのか検証したいのよ」

 

「……コウキ博士はなんと?」

 

「スレイはAMよりも戦闘機の適正値が高いから、アルテリオンよりも操縦難易度が高いベガリオンの方が良いって言ってたの。フィリオの考えは判らないけど……賛同しているって事はフィリオも同じ考えなのかもしれないわね」

 

実力を認められてもフラグシップであるアステリオンではなく、アステリオンの補助を行なうベガリオンが向いていると言われて、プライドの高いスレイがそれを受け入れられる訳がなかった。

 

「とにかく、アステリオンの設定で1度乗ってみて、それにこれは決定事項じゃない。どちらがより、アステリオンに向いているかの適性検査でもあるわ」

 

バラバラにやったのではスレイとアイビスの間の確執がより深くなると判断したツグミによって、シミュレーターを同時に使いスレイとアイビスのアステリオンの適性検査を行なった。この結果を使い、アイビスをアステリオンにへと推すコウキの意見を変えさせようという目論みがあったのだが、それは目の前で瓦解することになった。

 

(……嘘、なんで)

 

カリオンでは出来なかったマニューバを、高速機動をスレイよりもアイビスは滑らかに行なって見せた。そして何よりも、アイビスは「飛ぶ」ことを楽しんでいた。コウキはこれを見越していたのかと、いやフィリオもこの事を知っていたのかとツグミが目の前の光景を信じられず、このテストの結果でスレイよりもアイビスの方が適正があると言うことが明らかになってしまうと思った時、シミュレーターが緊急停止した。ツグミの顔の横から伸びた腕を見て、振り返ると鬼の形相をしたコウキがシミュレーターのメイン電源を落としていた。

 

「こ、コウキ。なに……「ツグミ、アイビスとスレイと共にプロジェクトTDの資料を運び出す準備を始めろ、急げ。時間が無い」……何を言ってるの!? 何が起きているのよッ!」

 

「悪いが詳しく説明をしている時間はない。ラングレー基地からの定時連絡が途絶え、その方面から爆発が多数起きている。後は判るな? 悪いが俺も忙しい、後は自分で判断しろ」

 

「ま、待ってコウキ!」

 

白衣を翻し走っていくコウキを呼び止めようとしたが、コウキは振り返る事無く走り去ってしまった。

 

「タカクラチーフ! シミュレーターが緊急停止したがどういう事だ!?」

 

「ツグミ!? どういう事なの!?」

 

スレイとアイビスに尋ねられても、ツグミも状況を把握しているわけではない。ただ、テスラ研に危機が迫っている。それしかツグミも把握していなかった。

 

「急いでプロジェクトTDの資料を纏めて格納庫へ! 私はシミュレーターのデータを消してから行くわ」

 

「まて、どういう事だ!? 詳しく説明を」

 

「説明している時間がないのッ! 急いで行動して!」

 

説明を求めるスレイに説明をしている時間はないと一喝するツグミを見て、スレイとアイビスもただ事ではないと判断し慌しく動き始めるのだった……。

 

 

 

 

テスラ・ライヒ研究所の管制室に駆け込んだコウキを見て、ジョナサンとフィリオは安堵の溜め息を吐いた。

 

「コウキ。無事だったか!」

 

「良かった、連絡がつかないから囚われたかと思っていたんだ」

 

ゼンガー達に新しい機体を渡す為にテスラ研を離れていたコウキが無事に戻ってきた事を喜ぶ2人だったが、コウキの顔は険しいままだった。

 

「俺の事は良い、今はテスラ研の周囲の状況把握を優先するべきだ。カザハラ博士、ラングレー基地からの通信は回復しましたか?」

 

自分の無事よりも現在のテスラ研の状況を優先するべきだと言って、コウキが状況を尋ね、ジョナサンがその問いに答えようとした時管制室の扉が開いた。

 

「はぁ……はぁ、コウキさんが運び出せるだけの資料を持ち出せって言ってましたけど、今どうなっているんですかッ!?」

 

コウキの避難勧告を聞いて状況把握に駆け込んできたクスハが息を整えながら何が起きているのかを尋ねる。

 

「コウキもクスハも聞いてくれ、ラングレー基地との通信は途絶えて、既に10時間が経過した。詳しい状況は不明だが、恐らくラングレー基地は敵によって征圧されたと見て良いだろう。通信が途絶える前に最悪の事態を想定し行動するようにクレイグ司令から命令を受けている」

 

最悪の事態を想定し行動しろ……それはクレイグがラングレー基地が制圧される可能性も加味していたことを示していた。

 

「て、敵はそれ程までに強大なんですか!? あの百鬼獣も関係しているんですか?」

 

世界各地で確認されている百鬼獣――クスハもその名前と存在は知っていたからこそ、百鬼獣による被害の拡大が原因なのか? と尋ねる。

 

「確かに百鬼獣は確認されているから完全に関係なくはないけれど、彼らは戦略は空間転移装置を用い、大量の戦力を送り込んでくるんだよ。その物量差に苦戦を強いられているようだ」

 

「更に言うとこちら側の機体を運用している為、一瞬友軍か敵か悩んだ瞬間にドカンだ」

 

空間転移で戦力層の薄い所に大量の兵器を送り込み、識別信号を認知する前にし、視覚で確認し友軍機と思い気を緩めた隙に一撃で倒される。背後に急に転移してくるので救援要請に答えて味方が着てくれたと思わせる悪辣な戦略だ。

 

「エアロゲイターが使っていた装置の解析が進んでいれば、何らかの手が打てたかも知れんが……時すでに遅し……だな。うーむ、危険技術だなんだと妨害が入らなければなぁ……」

 

ジョナサンが頭を掻きながら残念そうに呟いた。口調こそ普段通りだが、その目には強い怒りの色が見えていたのをクスハは見逃さなかった。妨害さえなければ転移に対する対抗兵器を準備出来たとジョナサンが考えているのが痛いほどに伝わってきたからだ。

 

「クスハ、お前も格納庫に向かって新型や試作機の輸送機への運搬作業に協力してくれ、もう7割方終了しているが、グルンガスト参式の1号と3号機を動かせるのはお前くらいだ」

 

「わ、判りました。でもその、ずいぶんと手際が良いですね」

 

コウキの頼みを引き受けながらも、既に殆どの機体の運搬作業が終わっていると聞いてクスハは思わずそう尋ね返した。

 

「うむ、これは君には伝えてなかったが、月が百鬼帝国を名乗る集団に制圧された。その名前から恐らく、百鬼獣を運用している集団と見て間違いない。その時からギリアム少佐から念のために備えておいてくれと警告を受けていたのだ」

 

「え、ええっ!? う、宇宙にも百鬼獣がいるんですか!?」

 

一瞬何を言われたかクスハは理解出来なかったが、すぐに声を上擦らせてそう尋ね返した。

 

「ああ、どうも異星人と百鬼帝国は協力体制にあるようだ。ラングレー基地の襲撃の際に百鬼獣と異星人が同時に出現しているらしいからね」

 

「そ、そんな……そ、そうだッ! リ、リオやリョウト君、ラーダさん達は……?」

 

異星人と百鬼帝国が手を組んでいると言う衝撃的な事実に気を取られたが、すぐにマオ社にいる友人達の安否を尋ねるクスハ。

 

「彼らは最後まで社に残っていたが、ゲッターロボD2……つまり武蔵君だな。彼の協力の下脱出し……その後、 ヒリュウ改に回収されたそうだ」

 

「む、武蔵君が生きていたんですかッ!?」

 

ジョナサンの口から出た武蔵の名前にクスハの目に涙が浮かんだ。死んだと思っていた武蔵が生きていた、それはリョウト達が無事に脱出したことよりも嬉しい出来事の1つだった。

 

「ああ、今はハガネ、シロガネと行動を共にしているらしいから心配はない」

 

泣きそうになっているクスハを見て、コウキはバンとレーツェル、そしてゼンガーから聞いた武蔵が今どこにいるのか? という事を教えると、クスハは泣き笑いの顔を浮かべて安堵の溜め息を吐いていた。

 

「そ、そうですか……よ、良かった……」

 

「……コウキが何故武蔵君がハガネとシロガネにいることを知っているのは気になるが、問題はこれからだ。 彼らがここにも現れる可能性は高い……いや、十中八九彼らは現れる。問題は救援を望めない以上、脱出が間に合うかどうかだ」

 

ラングレー基地を制圧し、そのままテスラ研に攻め込んでくる可能性は極めて高い。救援は望めず、そしてテスラ研に異星人の戦力を押し返すだけのパイロットもいない。敵の襲撃が始まるまでにテスラ研からの脱出が間に合うかどうかが問題だとジョナサンが口にした時、格納庫で機体の運搬作業をしていたツグミからの通信が管制室に繋げられた。

 

『失礼します。 カザハラ所長、各機の搬出作業に関してご報告致します。ゴールド、シルバー、αプロトの積み込み作業を完了しましたが、参式の1号機と3号機の積み込み作業に少々手間取っています。クスハを応援に呼んでいただきたいのです』

 

「了解した。クスハ君、聞いていた通りだ。ツグミ君の作業に協力してきてくれ、我々には時間が無い

 

「わ、判りました! すぐに格納庫に向かいますッ!」

 

「ツグミ君。聞いての通りだ、すぐにクスハ君を向かわせる。グルンガスト参式は一時テストモードで起動、クスハ君の到着を待って輸送機に積み込んでくれ」

 

ジョナサンの指示を聞いてクスハが駆け足で管制室を飛び出して行き、格納庫の様子を写していたモニターも光を消し。管制室にはジョナサンとフィリオ、そしてコウキの3人だけが残った。

 

「クスハが協力してくれるなら1時間以内で脱出準備が整いそうですね」

 

「うむ。グルンガストの扱いに関してはこの研究所じゃコウキの次に上手いからな。コウキもここに残っている余裕はない筈だ。自分の開発中の機体を持ち出し準備をしてくると良い」

 

特機乗りとしてはクスハよりもコウキの腕前が良いが、コウキも自分の開発している機体があるだろうからグルンガスト参式の事はクスハに任せたのだ。コウキに機体を動かしたらどうだ? と言うがコウキは首を左右に振った。

 

「大丈夫です。最悪の場合に備えて地上の格納庫に移動させてあります」

 

コウキの言葉にジョナサンは目を開いた。コウキの機体も地下の格納庫で開発、設計をされていた筈だ。それを地上に上げていると言う事はゼンガー達に会いに行く前に準備をしていたことになる。コウキの慧眼にも驚いたが、敵の襲撃を受ければ試作機である機体は破壊される可能性が極めて高かった。

 

「それは良いのかね? 最悪の場合大破する事になる。今からでも輸送機に積み込んでも」

 

「かまいません、戦う為の兵器です。大事な時に使えなければ意味が無い、エネルギーチャージが完了しなければゲシュペンスト・MK-Ⅲを使いますが、そうでなければ俺はあの機体を使うつもりです」

 

心血を注いで開発している事をジョナサンは知っていた、だから今からでも輸送機に積み込めば良いとジョナサンは口にしたが、コウキの意志は固いようでジョナサンは何を言っても無駄かと溜め息を吐いた。

 

「だがオーガはαプロトと共に起動テストは間に合っていないが、本当に大丈夫なんだな?」

 

「問題ありません。万全の状態で常に戦える等と都合のいい事はありません。多少の不備で動けないほど柔な設計はしてません」

 

起動テストもなしに行き成りの実戦投入となる事を危惧したジョナサンだが、コウキの瞳に宿る光を見て石頭めと呟いて、首を左右に振った。

 

「判った。オーガに関してはコウキの判断に任せる。フィリオ、αプロトは他の機体と一緒に伊豆基地で一時保管して貰うつもりだが、それで良いな? 一応設計図等もコピーだが、輸送機に積み込んである。最悪の場合ロバートが組み上げてくれることになると思うが……」

 

「大丈夫です。ロブならαプロトを組み上げてくれると信じています。さ、カザハラ博士。作業を続けましょう」

 

ジョナサンの言葉を聞いてフィリオは柔らかくも強い意志の光を宿した瞳をジョナサンに向けて柔らかく微笑んだ。

 

「変わったな。フィリオ、以前の君ならばそんな顔で笑えなかった筈だ」

 

「ふふ、あんまり後ろ向きなことを言っていればコウキに蹴られますから」

 

「当たり前だ。後に道はないからな」

 

ふんっと鼻を鳴らすコウキにフィリオは楽しそうに笑った。

 

「僕の夢は終わらない。星の海を目指す僕の夢は……テレストリアル・ドリームは試練を乗り越えたその先にある。それを見るまでは、僕は止まらない」

 

儚さは無く、力強さを伴うフィリオの言葉にジョナサンは笑い、その肩を叩いた。

 

「その意気だ。病に負けるな、コウキ。私とフィリオはこのまま「ダブルG」を隠す作業を始める。現場の指揮は任せても良いか?」

 

「任せてください。それよりもダブルGを隠し終えたら2人も脱出の準備にはいってください」

 

コウキはそう言うと白衣を翻し、格納庫に向かって走っていく、その姿を見送りフィリオとジョナサンは揃って画面を見ながらキーボードを叩き始める。

 

「どうも異星人は相当ゲッター線を危険視している。ダブルGのゲッター炉心を休止状態にするぞ」

 

「そうですね。稼動していれば隠していても意味が無いですから」

 

テスラ研の最深部の特殊格納庫に移動させながら、フィリオとジョナサンの2人はキーボードを叩き続ける。自分達の背後に立つ、翡翠色の光を纏った老人の姿に気付かずに……。

 

【星の海を目指す者、お前もまた生きねばならぬ】

 

老人……いや、早乙女博士がフィリオに指を向けると、管制室に満ちていたゲッター線はフィリオの中に吸い込まれるようにして消えていくのだった……。

 

 

 

 

 

テスラ研格納庫ではコウキの怒声が響いていた。

 

「積み込みの完了した機体からシーリング作業に入れ! 愚図愚図するな。時間がない! 死にたくなければ死ぬ気で作業をしろッ!」

 

「「「はいッ!!!」」」

 

コウキが脱出の指揮を取り始めてから、更に脱出準備を進める作業は速度を増させる。その姿を見て、リシュウは小さく眉を細めた。

 

(……何人脱出できるか……良い所4割かの)

 

輸送機の数も限られている。しかも、その輸送機の大半は機体や新開発の兵器の運搬で使われる。人員の避難は恐らく出来ない……この場にいる全員がそれを理解し、誰が脱出するべきかを悟っていた。

 

「コウキさんも早く、輸送機へ、後は私達が」

 

「黙れ、お前達が俺の心配をするなど1000年早いッ! 貴様こそ輸送機に乗れッ!」

 

「し、しかし!」

 

「判っている筈だ。己の責務を見誤るな」

 

技術主任であるコウキを脱出させようとしたグルンガスト参式の開発チームの主任にコウキの一喝が飛んだ。

 

「自分の戦場を知れ、脱出人員の話は既に話がついているはずだ」

 

最悪の事を考え、既に脱出する人員の優先順位はついていた。グルンガスト参式の開発チーム、そしてATX、SRX計画の関係者、そしてプロジェクトTDチーム。それらの人員の脱出を優先すると既に話はついているはずだとコウキは強い口調で言った。

 

「ですが、コウキさんは」

 

「俺は警備主任だ。真っ先に逃げる事はない、判ったら行け。愚図愚図していたら、残る者の思いを無碍にする事になるぞ」

 

背中を押されグルンガスト参式の開発チームの主任を務めている女性主任はその目に涙を浮かべた。

 

「わ、私……「何度も言わせるな、行け」……ッはい」

 

コウキに睨まれ、女性主任は輸送機に駆け込んだ。その様子を見ていたリシュウは杖でコウキの肩を突いた。

 

「余り女人にする態度ではないぞ? あの娘は」

 

「リシュウ先生。俺には俺のやるべき使命がある、他ごとに現を抜かしている時間はないのです。それよりも、リシュウ先生……」

 

「その話は決着がついている筈じゃ。自分が言った事をワシに言わせるつもりか?」

 

リシュウに見つめられ、コウキは肩を竦めすみませんと頭を下げた。

 

「クスハ、参式の積み込みが完了したら弐式を積み込んでくれ」

 

己の胸の内を隠し、冷然と振舞うコウキ。その姿を見てリシュウは小さく笑った、こうして技術主任などをしているが、やはりコウキの本懐は戦士であり、自ら前に出て指揮をとる指揮官であるということを感じていた。

 

「え? で、でも弐式はテスラ研を……」

 

「……お前さんには輸送機と一緒に日本へ行って貰う」

 

クスハもまた弐式で脱出する為の時間稼ぎをする為に戦うつもりだった。それなのに機体を積み込めと言われ、困惑しているとリシュウがクスハに向かってそう声を掛けた。

 

「リシュウ先生……ッ!  どういうことなんですかッ!?」

 

「道中は何かと危険じゃ。 お前さんに輸送機の護衛を頼みたい」

 

クスハとて馬鹿ではない、輸送機に乗り込んでいる人員が少ないこと、そして今生の別れをするように抱き合っている研究者達を見れば、全ての人員が脱出出来ない事は判っていた。だからクスハはコウキと共に残るつもりだったのに、その決意を崩すような言葉にクスハは声を荒げた。

 

「危険なのはここも同じです! 私も研究所に残って戦いますッ!」

 

「クスハ、お前の戦う舞台はここではない。己の戦場を知れ」

 

「酷な言い方じゃが、コウキの言う通りじゃ。輸送機の中身はこれからの戦いに必要な物ばかりじゃ。 異星人に渡す訳にはいかん」

 

コウキとリシュウの覚悟を決めている顔を見てクスハは震えながら首を振った。テスラ研で共に過ごした仲間を見捨て、逃げろと言われることを恐れるようにその場で後ずさった。

 

「クスハ。俺は俺に出来る事をする。お前はお前に出来る事をする、そこに何の違いもない」

 

「諭すようなことを言っておるが、ワシはお前にも脱出して欲しいんじゃが?」

 

リシュウの言葉を聞こえてないフリをし、輸送機の積み込みを手伝ってくれという声に頷き逃げるようにコウキはその場を後にし、リシュウは深い溜め息を吐いた。

 

「それと……ワシの都合で悪いんじゃが、ブリットにこれを渡してやってくれんか」

 

手元のボタンを押し武装コンテナを開けるリシュウ。その中を見て、クスハは息を呑んだ。

 

「こ、この刀は……シシオウブレードッ!?」

 

「いや、違う。ワシが特別に鍛えさせたパーソナルトルーパー用の実体刀じゃ、ゲッター合金とゾル・オリハルコニウムを使ったワシの最高傑作、生憎銘を考える間はなかったが……切れ味は本物じゃ、こいつをブリットに渡し、剣の道に励めと伝えてくれ」

 

「リ、リシュウ先生……」

 

遺言めいたことを言うリシュウにクスハがすがるように手を伸ばす。リシュウはしわくちゃの手でクスハの手を取り、クスハを元気付けるように笑った。

 

「なに、心配はいらん。 所長達にはワシがついておる。後の事はお前やワシの弟子達に任せるぞ、L5戦役の時と同じく、この星を異星人から守ってくれ」

 

ますます遺言めいた言葉にクスハの目から涙が零れ、リシュウは苦笑しながら涙を拭った。

 

「お主は優しい子じゃ、ワシらの言う事がどれほど酷な事かはワシも判っておる。だがそれがお前達の使命じゃ。よいな?」

 

「……は、はい。判りました」

 

リシュウ達の思いを、願いを思えば泣いている事は許されない。クスハはそう感じたのか、涙を拭い力強い笑みを浮かべた。その顔を見れ、リシュウは大丈夫だと判断し笑みを浮かべたのだが、すぐにその笑みは苦笑に変わった。

 

「兄様、コウキ博士と共にアイビスをプロトαのパイロットに推していると言う話を聞きましたが、それは事実なのでしょうか」

 

スレイの納得行かないと言う声色と何故妹の自分ではなく、アイビスなんだという不満げな声色だった。

 

「誰から……」

 

フィリオの反応を見て、スレイはそれが事実だと判り、悲しげな表情を浮かべる。

 

「スレイ……ツグミから聞いたか、それともコウキに聞いたのかは僕は聞かないよ、でも今の段階ではスレイの方がアイビスよりも腕が上だというのは紛れも無い事実だ」

 

フィリオの言葉を聞いて今度はアイビスが悲しそうな顔をしたが、フィリオはそれを手で制した。

 

「プロジェクトTDは僕達でチームだ。僕達全員で星の海を飛ぶという夢を叶えるんだ、誰が1番で誰が2番だという事に拘ってはいけない。アルテリオンは1つの宇宙船だ、宇宙ではアストロノーツは皆助けあいだ。そこに国籍も立場も男女も関係ない、皆で助けあい。そして1つの目的の為に進むんだ」

 

フィリオはそう言うとスレイとアイビスの手を取った。

 

「スレイは嫌かも知れないが、僕はアイビスがアルテリオン、スレイがベガリオンを操り、僕とツグミで管制モジュールから指示を出す事を考えた」

 

その言葉を聞いて、スレイはフィリオの手を振り解こうとしたがフィリオはギュッとその手を握り締めた。

 

「だけどそれはアイビスが優秀だからじゃない。今の状態ではスレイがアルテリオンを操ればベガリオンの操作ミスで僕達は星の海に辿り着けないからだ、今のアイビスにはベガリオンを操るだけの技量はないからだ」

 

それは今までのフィリオでは絶対に言わないような、きつい言葉でアイビスがぎゅっと唇を噛み締めた。

 

「だけど僕やツグミではアルテリオンやベガリオンは操れない、僕は自分の夢を叶える為にアイビスやスレイの力を借りるしかない。誰もが皆、己に足りない物がある。今は地球だから良い、でも宇宙では何か1つでも足りなければ僕達は夢半ば、志半ばで死ぬしかない。僕はアイビスにはもっと力をつけて欲しいと願っているし、スレイにはもっと皆を頼る事を覚えて欲しいと持っている」

 

皆足りない部分がある。それを互いに補いあい、協力し合う。そしてそうしなければ星の海を飛ぶ事は出来ないのだとフィリオはスレイとアイビスに説いた。

 

「だから皆で飛ぶんだ。星の海を、その為に僕達は協力し合うんだ。まずはテスラ研を脱する……そして、敵襲かッ!?」

 

だがフィリオの言葉が最後まで告げられることは無く、無常にも敵襲を告げる緊急警報が鳴り響くのだった……。

 

 

 

 

 

テスラ・ライヒ研究所周辺に転移反応と共に無数のヒュッケバイン・MK-Ⅲ、そしてゲシュペンスト・MK-Ⅲ、レストジェミラの混成軍がテスラ研の前方……輸送機の航路の先に出現した。

 

「鬱陶しい所に陣取ってくれるなッ!」

 

脱出を目的にしている事が判っているのか、インスペクターは輸送機の進路を塞ぐように部隊を展開した。その光景を見てジョナサンは苛ただしげに机に拳を叩きつけた。脱出準備が速やかに進み後は逃げるだけという希望を与えておいての敵の出現は流石のジョナサンも冷静さを欠けさせるには十分な光景だった。

 

「ジョナサン、何事かッ!」

 

警報を聞いて管制室に駆け込んできたリシュウもモニターに映っている敵軍に顔を歪めた。

 

「これほどの大軍を一瞬で送り込んでくるか! ジョナサン! 脱出の準備はッ!?」

 

「既に完了しています! ツグミ君は輸送機の発進を急いでくれッ! スレイ君とクスハ君に敵機の迎撃を! 進路を確保しだい、輸送機は出発だ!」

 

ジョナサンの指示が飛び、3機の輸送機が発進準備を終え、それを守るようにグルンガスト弐式とカリオンが出撃し、それから遅れてゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムが輸送機の進路を塞いでいる無人機へ移動する。しかしアイビスだけは輸送機で待機という命令が下されていた。

 

「タカクラチーフ!  どうしてあたしは待機なのッ!? さっきのフィリオの言葉は嘘だったのッ!?」

 

皆で助け合えと言っていたのに、何故自分だけが待機なのかとアイビスがツグミに詰め寄りながら声を上げる。

 

「嘘じゃないわ、アイビス。少佐の言葉は嘘じゃない」

 

ぎゅっと顔を歪めなら言うツグミを見てなんらかの意図があると言うことはアイビスにも判った。だけど3機だけであの包囲網を抜けれる訳が無いと、戦力として弱いとしてもアイビスは皆と共に戦いたかった。

 

「でも、 相手は異星人なんでしょッ!? 少しでも戦力があった方が……ッ!」

 

今からでも遅くない、自分を出撃させてくれとツグミに訴えるアイビス。

 

「判らないのアイビス。だからこそ、少佐は貴女に待機を命じたのです」

 

「え……あ、あたしが足手纏いだから……?」

 

強い口調に自分が役立たずだからとアイビスは顔を青くさせたが、ツグミはアイビスにきっぱりと違うと告げた。

 

「敵は転移で出現するわ。脱出した進路に敵が出たら戦う能力の無い輸送機では撃墜されるか、鹵獲されるだけよ」

 

「あ」

 

そこまで言われてアイビスは自分の役割がなんなのかを悟った。敵が回りこんで転移してきた場合に、一撃を当てて離脱する隙を作るためのジョーカー。足手纏いだから出撃させないのではない、最悪の場合に備えての鬼札だからこそ、アイビスは輸送機に残されていたのだ。

 

「判ったら、格納庫で待機して。ワンアプローチで極める必要があるの、ミスをしないように集中していて」

 

ツグミの言葉に頷き、アイビスはコックピットから格納庫に走って行った。

 

「状況は最悪ね……上手く脱出出来れば良いのだけど……」

 

重苦しい空気、どこに逃げても逃げ道など無いと言わんばかりに絡みつくような視線を感じながら、ツグミは全員無事でテスラ研から脱出出来る事を祈るのだった……。

 

テスラ研からの脱出をかけた戦いが始まった頃。ビアン達はブラックゲッターが沈んでいる海溝に差し掛かろうとしていた。

 

「グライエン。やはりあのブライは百鬼帝国のブライなのだろうか?」

 

「可能性は高いと思う。だが……それをハガネやヒリュウ改に伝えることは難しいだろう」

 

「反逆者に仕立て上げられる訳には行かないからな……しかし苦しいな」

 

グライエンの偽物も百鬼帝国の指導者と思われるブライも今も連邦議会で弁舌を振るっている。もしもだ、もしもハガネやヒリュウ改がグライエンが偽者だと知れば、上層部を介しての圧力を受けることになるだろう。

 

「俺達が襲撃を仕掛けても良いぞ」

 

「ブライとグライエンが偽物という事位ならば、私とイングラムで可能だと思うが」

 

イングラムとカーウァイが正体を暴きに行ってもいいと提案したが、それはグライエンが待ったを掛けた。

 

「いや、止めておいたほうが良い。ブライは怪しげな術を使うという、もしも君達2人が操られでもすれば、我々全員が危機に晒されることになる、一番確実なのは百鬼帝国を追詰め、ブライの余裕を奪ってからになるだろう」

 

「今は余力があるから、演じる余裕があると言うことか」

 

襲撃を受けても今まで築いてきたブライ議員の仮面を被る事が出来る。そうなれば2度と偽物と公表しても、その話に信憑性は得られない。チャンスは1度、それを逃がせば反逆者の汚名を着せられ、そして全ての陣営を敵に回す。それだけはなんとしても避けなくてはならない。

 

「その為には武蔵には知られる訳にはいかんな」

 

「その通りだ、まず証拠を集め、ブライの余裕を奪い去る。全ては其処からだ。その為にもこの海溝でブラックゲッターロボはなんとしても回収したい」

 

「大丈夫だ。この深度まで潜って来れるのはスペースノア級くらいのものだ。焦らず捜索を続ける事にしよう」

 

この深度まで潜れる物はないと断言したビアンだが、クロガネに向かって凄まじい速度で何かの影がその牙をクロガネに突きたてようとしていた。

 

【ククク。やっと見つけましたよ、ビアン博士】

 

そしてその影がクロガネへと迫った時、重力の魔神が再びフラスコの世界にその姿を現す事となる。

 

 

第75話 黒き暴風と鬼神 その2へ続く

 

 




今回は戦闘開始までを書いて見ました。この話の流れで判ると思いますが、スレイはミツコの手下にならないルートです。あの狸は私としてはとても書きにくいキャラなので逃げれるタイミングなら逃げます。ちょっと第二次OGでの流れがかなり変わると思いますが、何とかする方法は考えているのでご安心ください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。



ゲッターロボアーク放送中は日曜日・月曜日の連続更新でしたが、ゲッターロボアークの放送も終わりましたし、今まで通り日曜日のみの更新を戻したいと思います。

なので月曜日には更新しませんのでご理解の程をよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第75話 黒き暴風と鬼神 その2

第75話 黒き暴風と鬼神 その2

 

異星人と戦う為の最新機種が敵として自分達の前に立ち塞がる。その悪夢のような光景にグルンガスト弐式のコックピットの中でクスハは顔を歪めた。だが今は嘆いている時間も恐れている時間も無い、輸送機が脱出する為にもグルンガスト弐式で進路を切り開くべきだと決意を固める。

 

「私が先陣を切ります! コウキさんとスレイさんは支援をお願いします!」

 

そう口にし、前に出ようとしたがそれはゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムの手で制された。

 

『クスハ、相手の戦術は空間転移による奇襲に近い形の増援にある。そうなると機動力に劣る弐式では振り切れん、L5戦役の時の事を忘れたか?』

 

「それは……」

 

エアロゲイターの機体の転移、そして囲まれ転移による連れ去りはクスハにとっては最悪の記憶の1つだ。それをコウキに指摘され、クスハは顔を歪めた。

 

『相手の出方を見れば既に確保している機体にはさほど興味が無いように見える。俺がフォワードを務める、クスハはGホークに変形し、スレイと2機態勢でバックアップだ』

 

『コウキ博士、それは余りに攻撃的なフォーメーションではないか? 輸送機の守りが手薄になりすぎる』

 

フォワードを2機でバックアップするフォーメーションは攻撃にこそ特化しているが、警戒や防衛には挙動が遅れるとスレイが指摘すると弐式のモニターに図面が送られてくる。それを見てクスハは目を見開いた、確かにフォワード1、バックス2のフォーメーションだが、それは余りにも変則的なものだった。

 

「コウキさん! これは幾らなんでも無謀ですよッ!?」

 

『コウキ博士! 流石にこれは私も承諾できんぞッ!』

 

輸送機の両サイドにカリオンとGホークをほぼ固定にし、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムが単身で敵のど真ん中に突っ込む。支援と口にしたがこれではコウキだけを危険に晒すだけだとクスハとスレイが声を荒げる。

 

『問題ない、このフォーメーションは変更しない。今回は警備主任である俺の指示に従ってもらう、俺達の勝利条件は輸送機の離脱だ。それさえ達成出来れば良い』

 

「死ぬつもりですか!?」

 

輸送機さえ脱出出来ればそれで良いと言うコウキの言葉にクスハの脳裏に嫌な予感が過ぎった。それはコウキが自分の命を犠牲にして、自分達を無事に逃がそうとしていると言う物だった。

 

『馬鹿を言え、俺にはまだやるべき事がある。そんな馬鹿げた事を考えている暇があったら、俺の言う通りに動け。敵の奇襲に気をつけろ。お前達の機体が鹵獲される可能性が1番高いのだからな』

 

コウキは一方的にそう告げるとクスハとスレイに背を向けて、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ、ヒュッケバイン・MK-Ⅲ、レストジェミラの混成部隊に向けてゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムを走らせる。思わずその背を追いかけようとしたが、管制塔からの通信がコックピットに響き、クスハとスレイの動きが止まる。

 

『コウキは英雄志願者でもなんでもない、勝機があるからその命令を出したんだ。その意味を理解して行動するんだ』

 

『下手に動けば、コウキの計画を乱す事になる。そうなればコウキ自身も危ないんだスレイ』

 

ジョナサンとフィリオに釘を刺されてはクスハとスレイは独断でコウキの後を追うことも出来ず、その背中を見ていることしか出来なかったのだが、その戦いを見ていれば自分達が近くに居れば邪魔という事を悟らざるを得なかった。

 

『なんだ、あれは……あれがコウキ博士本来の戦い方とでも言うのか』

 

スレイが恐れを隠し切れない声色でそう呟いた。それはクスハも同じだった、余りにもダーティな……それこそ百鬼獣を思わせる残虐な戦い方だった。

 

『ふんッ!!』

 

「!?」

 

両腕のアタッチメントが変形した斧を手にし、レストジェミラの斜め上から振り下ろす。その一撃にレストジェミラが痙攣し、動きを止めるとそのまま斧を振り回しヒュッケバイン・MK-Ⅲに向かって投げつける。

 

『くらえッ!!!』

 

それと同時に腕にガトリングアームを装備しレストジェミラを蜂の巣にして爆発させる。その爆発によって生まれた爆煙を突っ切って斧が投げつけられ、ゲシュペンスト・MK-Ⅲの胴体に食い込むと、凄まじい速度で突っ込んだゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムが右手で斧を引き抜き、左手と動力部に突き刺し、オイルを撒き散らし痙攣するゲシュペンスト・MKーⅢから動力を抉り出す。余りに凄惨、余りにも残酷なその戦い方だけではない、弐式のT-LINKシステムを介し、クスハはコウキから感じる圧倒的な殺意と敵意を感じ、その顔を青褪めさせた。

 

「コウキさん……貴方は何者なんですか……」

 

これだけの敵意と殺意を何故コウキが放っているのか、記憶喪失だと言っていたがインスペクター、それとも百鬼帝国のどちらかに何か関係があるのか? 今まで気にしないようにしていたコウキの謎がクスハの胸中に一気に噴出すのだった。

 

 

 

 

クスハが敵意と殺意をコウキから感じたというのはある意味間違いである。確かにコウキ自身も異星人に対する敵意を抱いていたが、今は姿を隠している者の強烈な敵意と殺意をコウキの敵意と殺意を誤認していたのである。

 

「邪魔だッ!!!」

 

無人機等はコウキにとっては何の脅威でもない、何故ならばコウキはもっと強力で、そして悪辣な無人機を知っているからだ。この程度の無人機に遅れを取るほどコウキは耄碌もしてなければ、油断もしていなかった。

 

(ちいっ! やっぱりかッ!)

 

無人機を倒せば倒すほどに絡みつくような敵意と殺意はコウキに向けられる。クスハとスレイを後衛に配置したのは百鬼帝国に目を付けられないようにする為であり、バンとの合流が容易であるという2点と、転移で背後を取られたとしても対応しやすい位置と言う事で輸送機の護衛を任せたのだ。

 

「どうした! その程度かッ! 俺はここにいるぞッ!」

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲの顔面にドリルを突き立て、その顔面に風穴を開けると同時に腕を振り下ろし、ねじ切るようにヒュッケバイン・MK-Ⅲを袈裟切りで破壊すると同時に打ち出し、遠くでパルチザンランチャーを構えていたゲシュペンスト・MK-Ⅲの胴体を貫き、鎖を掴んで引き寄せながら振り回す。

 

「!?」

 

「!!」

 

「うおおおおりゃああああーーーーッ!!!」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲの頭上を越え、テスラ研に向かおうとしていたレストジェミラにゲシュペンスト・MK-Ⅲをぶつけて墜落させ、そのまま遠心力をつけたゲシュペンスト・MK-Ⅲをハンマーのように振るいヒュッケバイン・MK-Ⅲにぶつける。金属の凄まじい拉げる音と火花が散りゲシュペンスト・MK-Ⅲとヒュッケバイン・MK-Ⅲが爆発し、撃ち出されたマニュピレーターアームを回収すると同時に背部のフレキシブルウェポンが変形し、両肩に装着されると同時に凄まじい暴風がレストジェミラ達を飲み込み、上空に弾き飛ばす。

 

「クスハ! スレイッ!!」

 

テスラ研、そして滑走路に被害が出ない位置にレストジェミラを誘導し、コウキはスレイとクスハの名前を叫んだ。

 

『狙いは外しません!』

 

『そこだッ!』

 

コウキが叫ぶと同時にGホークとカリオンから放たれたミサイルがレストジェミラに着弾し、その漆黒の機体が爆発の中へと消え去った。その直後、コウキは両腕のアタッチメントを斧に変形させGホークとカリオンに向かって投げつけた。

 

『コウキ!? 何をッ!?』

 

その突然の行動にスレイとクスハが反応出来ず、そして管制塔のジョナサンの悲鳴がテスラ研の上空に響き渡る。だがその戦斧はギリギリの所でカリオンとGホークを避けて進み、その背後に現れた物に突き刺さった。

 

「「グギャアアアアアッ!?」」

 

頭部が骨、両腕がガトリング砲の百鬼獣――白骨鬼、そして鬼その物に見える漆黒の装甲を持つ百鬼獣――闇竜鬼の2機の百鬼獣の頭部斧が突き刺さりオイルを撒き散らしながら2機の百鬼獣が墜落する。

 

(やはりッ! 俺の思った通りだ)

 

百鬼獣が仕掛けてくるのならば、それは第一陣が全滅し輸送機が動き出す直後――コウキはそう読んでいた。そしてコウキの予想は的中し、カリオンとGホークに奇襲を仕掛けてきた百鬼獣を迎撃した。だがそれは自分への奇襲への対応を放棄し、クスハとスレイを守っての事だった。

 

「ぐがあああああああーーーーーッ!?!?!?」

 

『コウキさん!!』

 

『コウキ博士ッ!?』 

 

組み付いてきた百鬼獣が流した電流がコウキを襲う。その凄まじい電圧に背部のフレキシブルウェポンシステムが破壊され、武器の大半に加え、飛行能力を失い墜落するゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムと頭部だけの百鬼獣を見てスレイとクスハが悲鳴を上げるが、空中でゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムは百鬼獣の上を取り、全体重を掛けて百鬼獣を滑走路に叩きつける。

 

「俺を舐めるなぁッ!!!! ぐっ! おおおおおおッ!!!!!」

 

『シャアアアーーーッ!!!』

 

高圧電流を放つ百鬼獣――迅雷鬼の電流に晒されながら、ガトリングアームをその口の中に突っ込み全ての銃弾を撃ち込むゲシュペンスト・Oカスタム。その捨て身に等しい攻撃によって迅雷鬼は撃墜されたが、その対価は決して安くは無く電圧によってゲシュペンスト・O・カスタムの唯一の武器と言っても良い可変式アームズユニットが小爆発を起こし、装着されている両腕から落下した。フレキシブルウェポンシステム、そしてアームズユニットを失ったゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムに使える武器は腹部のブラスターキャノンしかない。

 

『クスハ! スレイ! コウキの支援を!』

 

その姿を見てフィリオがクスハとスレイにコウキの救出に向かうように指示を出すが、それは血反吐を吐くようなコウキの言葉によって制された。

 

「馬鹿野郎ッ!! 俺に構うなッ!!! 来るぞッ!! 輸送機を守れッ! クスハッ! スレイッ!!!! ぐあああッ!!!」

 

地下から生えるように伸びた鎖がゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムの両手足に巻きつきその動きを封じると同時に電流を放ち、容赦なくゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムとコウキへと攻撃を繰り出す。ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムの両手足を封じていたのは撃墜したと思っていたレストジェミラだった。破壊されたその残骸が地中で変形した物が、触手状になりゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムを最も排除するべき敵だと判断したのだ。そして動きを封じた直後に転移で現れたゲシュペンスト・MK-Ⅲとヒュッケバイン・MK-Ⅲが手にしたアサルトマシンガンが火を噴き、全方向からの実弾がゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムの装甲を削り、コウキの苦悶の声がテスラ研に響き渡る。

 

『コウキさん! 今行きますッ!』

 

『コウキ博士ッ! クスハ! お前は輸送機を! 私が行くッ!!!』

 

「馬鹿がッ!!! 俺よりも輸送機を優先しろッ!!! う、うおああああああッ!!!!」

 

動きを止めて全方向からの射撃――その処刑とも取れる光景を見てスレイがコウキの救出に向かおうとする。だがコウキはそれを求めていなかった、今この場で優先するべきは自分ではない。輸送機だと叫び、雄叫びを上げゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムの腕を振り上げ、地面に隠れているレストジェミラを引きずり出し、その場で回転してヒュッケバイン・MK-Ⅲ、ゲシュペンスト・MK-Ⅲに叩きつける。だが度重なる電圧、そして銃弾に晒されたゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムの両腕はその行動に耐え切れず、肩からねじ切られ、地響きを立てて落下する。

 

「ブラスターキャノン発射ぁッ!!!」

 

アームズユニット、フレキシブルウェポンシステム、そして両腕を失っても尚コウキの闘志は衰えず、ブラスターキャノンでゲシュペンスト・MK-Ⅲ、ヒュッケバイン・MK-Ⅲを破壊する。だが度重なる電流によってガタが来ている上でフルパワーのブラスターキャノンを放った事で、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムのコックピット付近が爆発し、膝をつきカメラアイが明暗を繰り返す。

 

『いかん! クスハ君! コウキの救出を!』

 

『はいッ!! きゃあッ!?』

 

『クスハ!? うあっ!?』

 

ジョナサンの指示でクスハがコウキの救出に向かおうとするが、白骨鬼、闇竜鬼がコウキから受けたダメージから回復し、背後からカリオンと弐式を襲い、クスハとスレイの悲鳴が響いた。しかも敵の攻撃はそれに止まらず、プテラノドンのような形状をしたグライダーが爆撃を繰り返しながら近づいてくる。

 

『くっ! 対空ミサイルと機銃を使え! これ以上コウキ達に無茶はさせられない!』

 

『了解!』

 

テスラ研からの支援もあり、コウキ達への追撃は止まった。だがテスラ研の敷地内には2機の百鬼獣、そして上空は爆撃機が飛び交いテスラ研は完全に窮地に追い込まれていた。

 

『高速で接近する熱源1! 速い、後15秒ですッ!』

 

『まだ敵が来るというのかッ!?』

 

レーダーに感知された熱源を報告するフィリオにジョナサンの悲鳴が重なった時、テスラ研の上空に燃えるような緋色のガーリオンが姿を現す。背部に背負ったガーリオンの両肩の磁場発生装置を見てジョナサン達もそのガーリオン友軍機であるという事を悟った。何故ならば、その装置はテスラ研で開発されたガーリオンの強化パーツでありワンオフの物だからだ。

 

「遅いんだよ、バン・バ・チュン」

 

砕けたヘルメットを投げ捨て、額の血を拭いながらコウキが呆れたように呟いた。

 

『獅子の戦いを見せてやる! レオソニックブレイカーセットッ! GOッ!!!』

 

両肩、両足、そして両腕の計6機の力場誘導によって、爆発的な加速を得たガーリオン・レグルスカスタムのレオ・ソニックブレイカーが空中の爆撃機を撃墜し、そのまま白骨鬼、闇竜鬼に向かってソニックブレイカーで突撃しゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムへの道が開けた。

 

『今の内に救出を! 私が百鬼獣を食い止めるッ!』

 

『は、はい! ありがとうございますッ! コウキさん、今行きますッ!』

 

バンが百鬼獣を食い止めている間にクスハがコウキの救出に向かおうと動き出した。近くに敵の気配は無く、この場にいる全員がコウキを救出出来る……そう思った瞬間だった。

 

『く、空間転移反応です! 場所はゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムの後です!』

 

『な、なんだと! コウキッ! 逃げ……いや脱出するんだッ!』

 

空間転移反応があり、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムの背後に転移してくる百鬼獣の姿があった。ジョナサンの言葉に反射的に脱出装置を起動させるレバーに手を伸ばしたコウキだったが、ノイズ交じりだがまだ外の光景を写しているモニターを見て、コウキの手は止まった、いや止まってしまった。

 

「なん……だとッ!?」

 

例え気が緩んでいたとしても、コウキならばその奇襲に反応し回避する事も出来ただろう。もっと言えば自分の命を守る為に脱出装置を起動させただろう……だが自分の背後に現れた百鬼獣を見て、コウキと言えど動揺を隠せなかった。頭部の1本角、赤と黒のカラーリング……そしてゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムに酷似したアームズユニット……その姿をコウキは知っている。

 

「鉄甲鬼……だとッ!?」

 

『!!!』

 

それは紛れも無くかつての己の半身である百鬼獣鉄甲鬼の姿だった。その姿にコウキは一瞬思考が止まり、その隙を百鬼獣鉄甲鬼は見逃さず、振りかぶられた斧に一閃されゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムは爆発し、コウキの思考は眩い白に染め上げられるのだった……。

 

 

 

 

 

テスラ研の管制室にいたジョナサン達は目の前の光景を見て絶句した。大破寸前のゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムの背後に現れたゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムに酷似した百鬼獣の一閃を受け、爆発炎上したゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムから脱出した反応は無く、コウキの生存が絶望的という事を示していた。

 

「だ、誰でも良い! コウキの捜索を!」

 

ジョナサンにすればコウキは幼い頃から面倒を見ていた青年だ。血の繋がりは無いが、イルム同様自分の子供のようにコウキを愛し、そして導いてきていた。自分の指示がどれだけ的外れかという事も判っていた……だがそれでもコウキを見捨てると言う選択肢がどうしても取れなかった。

 

「だ、駄目です!カ、カザハラ博士ッ!」

 

「何が駄目なんだ! コウキを見捨てろというのかフィリオッ!?」

 

駄目だと静止するフィリオにジョナサンがそう怒鳴り、詰め寄ろうとした時フィリオの報告が続いた。

 

「研究所前方に転移反応! 場所はゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタム上空ッ!」

 

「なッ!?」

 

その報告の直後ガルガウが転移してきて、僅かにフレームを残していたゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムを跡形も無く踏み潰した。

 

「ぬ、ぬうッ!!」

 

「こ、コウキ……そんな……」

 

特機に踏み潰された事で僅かに残っていたコウキの生存が絶望的になった。しかもゴミでも踏み潰すように、踏みにじるガルガウの姿にテスラ研の全員が悲鳴を上げた。

 

「あ、あああ……そ、そんなッ!」

 

「こ、コウキ博士……そんな、嘘だ……」

 

それはグルンガスト弐式のクスハもカリオンのスレイも同様だった。厳しくはあった、だがそれでも自分たちを見守り、そして守ってくれていたコウキが死んだという現実をクスハ達は受け入れられなかった。

 

「間に合わなかったか……許せ、コウキ」

 

無人機の度重なる襲撃によって到着が遅れ、それがコウキの死を招いていてしまった。バンはその事を悔い、音が出る程歯を噛み締め、爪が掌に食い込むほどに拳を握り締めた。

 

「ジョナサン、フィリオ。嘆いている暇はない、ワシらがやるべき事は悔いる事も嘆く事でもない筈じゃ」

 

「り、リシュウ先生……くっ……判りました! 脱出作業を進めろ! コウキの意志を無駄にするなッ!」

 

リシュウに詰め寄ろうとしたジョナサンだが、リシュウの手が震えるほど握り締められ、その肩が震えているのを見てジョナサンは何も言えず、涙を堪えいま自分達がすべき事を優先する。

 

『クスハ、スレイ、辛いと思うけど今は脱出を優先するわ。目の前の敵に集中して、それにコウキが死んだとは限らないわ』

 

気休めだと判っている。それでも今の自分達に嘆いている時間も、悔やんでいる時間もないと言うことは判っていた。ガルガウに攻撃を仕掛けているガーリオン・レグルス・カスタムを見て、クスハもスレイも涙を拭ってガルガウへの攻撃を仕掛ける。装甲と攻撃力ではガルガウには遠く及ばないことはわかっている。それでも機動力ならばガルガウを圧倒的出来る……フォーメーションを組んで波状攻撃でガルガウへの攻撃を繰り出す。

 

『うるさいハエ共め、これでもくらえッ!』

 

だがそんな必死の攻撃もガルガウの攻撃によって一蹴されてしまう。腕部と背中に背負っているミサイルコンテナから降り注ぐ攻撃がどこまで避けてもその姿を追いかけて、ミサイルは動き続ける。

 

「誘導ミサイルかッ! 避けようと思うな! 迎撃しろッ!」

 

誘導弾だと判り迎撃しろとスレイとクスハに指示を出すバン。自ら率先しミサイルを迎撃したが、その瞬間ミサイルが弾け姿を見せた多段弾頭が周囲を薙ぎ払う。迎撃をしても、誘爆を逃れたミサイルの雨がクスハ達に襲い掛かる。

 

『くあっ!!』

 

『きゃあああっ!!』

 

『ぐうッ! お、己ッ!』

 

ラングレー基地での回収でガルガウは対PT、AM用の改造を施されていた。機動力で劣り、追い切れないのならば追わなければいい。自分はどっしりと構え、誘導ミサイルでダメージを与えれば良い。今優先するべきは、ラングレーとテスラ研の制圧――その任務を果たす為に、本来のガルガウの対特機の大型装備を減らし、小型で連射速度と誘導性に秀でた装備を増量させたのだ。

 

『貴様らはそこで大人しくしていろ……命が惜しければな、貴様らの機体には価値がある。大人しくしていれば殺しはしない』

 

勝ち誇ったヴィガジの通信が響くが、それでもバン達が動こうとするとミサイルが独りでに射出され、クスハ達に襲い掛かる。

 

『お前達の機体データは既に登録済みだ。攻撃行動を起せば自動的に反撃する。もう1度言う、死にたくなければおとなしくしているんだな』

 

既にミサイルはヴィガジの指揮を離れ、自動的に攻撃をしている。死にたくなければ動くなと言うのは脅しでもなんでもなく、動けばヴィガジの意志と関係なくミサイルが襲い掛かると言う事を示していたのだ。

 

『くっ、落ちてなる物かッ!  テスラ研には兄様がいるッ!!』

 

『私達は諦めないッ!』

 

『諦めろと言われて諦めるほど、私は諦めが良い性格ではなくてなッ!』

 

自動で襲い掛かるミサイルを回避しながら、ガルガウをテスラ研に向かわせない為に攻撃を続ける。だがミサイルはより激しさを増し、徐々に激しさを増すミサイルにエースパイロットであるバン達でさえも回避が間に合わなくなっていく。

 

『ギリギリまで誘導しあの特機にぶつけるんだッ!』

 

『はいッ!』

 

避けれないのならばとガルガウに誘導し、ミサイルを逆に利用しガルガウにぶつけるという戦法を試みるが、ガルガウに命中する寸前で止まり、休息反転しガーリオン・レグルス、グルンガスト弐式へと向かう。

 

『ふん、自分の武器に当たる馬鹿がいるか。いい加減に諦めるんだな』

 

ヴィガジの言う通りである。自分の武器に当たる馬鹿がいる訳がない、多弾頭ミサイルが再び放たれる。威力は低いがその異常な射程範囲と誘導にカリオンが避けきれず被弾し、高度を落とす。だがスレイは諦める事無く操縦桿を握り締め必死に機首を上げる。

 

『翼が折れようと飛ぶんだッ!!  兄様を守る為にッ!!』

 

自分の敬愛する兄を守る為に、絶対に諦めないと吼えたスレイに答えるように広域通信で男の声が響いた。

 

『……ならばその役目は私に任せて貰おうッ!!』

 

その通信の直後漆黒のマントを翻し、黒い特機がカリオンを追い抜いてガルガウへと襲い掛かる。

 

『『『黒いゲッター1ッ!?』』』

 

その姿は紛れも無くアイドネウス島で消滅したゲッターロボを黒くした機体だった。驚いているスレイ達を尻目にバンは呆れたように溜め息を吐いた。救援に向かうと聞いていたのに遅すぎると文句を言いたかったが、遅かったのは自分も同じだ。文句を言える立場になく、己の行動でしか己のミスは取り返せない。反転しゲッター1・トロンベと共にガルガウへ肉薄する。

 

『貴様ラングレー基地で俺の邪魔をしたッ! 今度は俺の邪魔などさせんぞッ!!』

 

「フッ……それはどうかな? オープンゲットッ!」

 

ガルガウの攻撃をオープンゲットでかわし、ジャガー、ベアー、イーグル号の順番でガルガウに突っ込んでいくゲットマシン。

 

『分離形態で俺に勝てると勝てると思って『悪いが、お前の好きにはさせんぞッ!!』ぐうっ!?』

 

分離形態の内に潰そうとしたガルガウにガーリオン・レグルス・カスタムの放ったファングクラッシャーが突き刺さり、メガスマッシャーとミサイルの狙いを逸らさせ、ゲットマシンはガーリオン・レグルス・カスタムを追い抜いた。その速度はカリオンの最高速度を優に越え、マッハの速度を越えた壁を突き抜けてガルガウに肉薄する。

 

「行くぞ、トロンベ! チェンジゲッタァアアーッ! ツゥゥウッ!!!!」

 

ゲッター2へとゲッターチェンジを果たし、更に加速を高めそのままの速度でガルガウの胴にゲッタードリルを突き立て、ガルガウの装甲を容赦なく抉り、蹴りを叩き込んでガルガウから距離を取り、片膝と万力のような腕を地面に叩きつけるようにして着地するゲッター2・トロンベ。

 

『チッ、味な真似をッ!!』

 

今の一撃でメガスマッシャーと背部のミサイルコンテナを潰され、ヴィガジは忌々しそうに声を上げる。だがその直後に連続で叩き込まれた重力砲に弾き飛ばされ、ガルガウは大きく地響きを立てて大きく後退を強いられる。

 

『く、黒いゲッターロボッ!? で、でも今トロンベって……』

 

『黒い機体……ッ! それにあの紋章……やはり、あの男は……ッ!』

 

黒い機体、ブランシュタイン家の紋章――そしてトロンベと聞いてスレイとクスハの脳裏にはエルザムの名前が過ぎっていた。

 

『貴様、何者だ? 何故ゲッターロボを操っている』

 

「私の名前はレーツェル、レーツェル・ファインシュメッカー。我が友に託された刃に何か文句でもあるのか? それとも我が友に受けた傷が痛むか? ヴィガジとやら」

 

ゲッター2・トロンベのドリルをガルガウに向けながら挑発めいた口調を投げかけるレーツェル。

 

『貴様ッ! やはりあのゲッターロボのパイロットの仲間かッ! 丁度良い、貴様を此処で殺してくれるわッ!』

 

「やってみるが良い、私とゲッターロボ・トロンベを簡単に倒せると思わないことだ。インスペクターよッ!」

 

ガルガウの爪とゲッター2・トロンベのドリルが何度も交錯を繰り返し火花を散らす。だがガルガウをゲッター2・トロンベが押さえていても、テスラ研を取り囲んでいる無人機、そして百鬼獣の襲撃は収まらず、テスラ研を巡る戦いは更なる激化を迎えていく……そしてその戦いの中で鬼神が目覚めようとしていた……。

 

「はぁ……はぁ……まだだ、まだ俺は死ねん……ぐっ、おあああああッ! あ、後は傷口を……ぐ、ぐうううううッ!!!!!」

 

ガルガウに踏み潰される瞬間、ギリギリ脱出を果たしたコウキはテスラ研の地下に落下していた。だがその腹部には砕けたコックピットの残骸が突き刺さっており、絶え間なく血が流れ落ちていた。常人ならば意識を失う激痛の中、コウキは両手で腹部に刺さった金属片を握り締め気合と共に引き抜き投げ捨てる。そして舌を噛み切らないように布を口に詰め込んだコウキは、爆発し赤く染まっている金属片を傷口に押し当てる、肉の焼ける嫌な音と声にならないコウキの悲鳴が通路に木霊し、強引に止血を終えたコウキは荒い呼吸を整え、自ら口に押し込んだ布を抜いて口の中に溜まった血を吐き出す。

 

「があ……はぁ……はぁ……き、気絶するなよ……俺……」

 

常人を遥かに越える精神力を持つコウキだからこそ出来る強引な応急処置――だがその代償は決して安くは無く、極限まで体力を消耗したコウキは壁にもたれる様にして立ち上がる。頭、そして右腕から血を流し、通路に広がる夥しい血痕――適切な処置をしなければ自分の命がこの場で潰える事が判っていた。それでもコウキは足を引き摺りながらも歩みを一瞬たりとも止めていなかった。

 

「待っていろ……今助けに行くッ」

 

上から響く爆発音と時折上から落ちてくる砂を見て、まだ戦いが続いていると判っていて足を止めるような事はコウキには出来なかった。仲間を助けたいと言う気持ち、そして自分が作り出した鉄甲鬼を勝手に使われて大人しくしている事など出来る訳がなかった。重い足を引き摺りながらコウキは新たな己の元へと歩き続けるのだった……。

 

 

第76話 黒き暴風と鬼神 その3へ続く

 

 




今回はオリジナル要素強め……いや、もう最近ずっとオリジナル要素強めなので今更ですね。次回は鬼神――新西暦で作られた鉄甲鬼を出して行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第76話 黒き暴風と鬼神 その3

第76話 黒き暴風と鬼神 その3

 

テスラ研からの脱出を試みる戦いはインスペクターのヴィガジ、そしてその搭乗機のガルガウ。かつてのコウキの半身――鉄甲鬼を初めとした百鬼帝国の刺客も現れ、その戦いはますます激化していっていた。そしてその光景はフィリオとジョナサンにある決意をさせるのには十分な光景だった。

 

「フィリオ、リシュウ先生。今の内にレディバードへ」

 

「カザハラ博士、リシュウ先生。今の内にレディバードに行ってください」

 

互いに考える事は同じ、フィリオはジョナサンとリシュウに逃げてもらえればと考え、ジョナサンはリシュウとフィリオに逃げて貰えればと考えていた。互いに一瞬呆然とした顔をしたが、すぐに互いに逃げるように口にする。今のこの混乱がジョナサン達が逃げることが可能な最初で最後のチャンスだった。

 

「テスラ研の貴重なデータを全て異星人に渡す訳には行かない。私が何とかするからフィリオとリシュウ先生は今の内に逃げるべきだ」

 

「いえ、それならカザハラ博士とリシュウ先生が逃げるべきです。カザハラ博士はこれからもっと必要になる、ここは僕が残ります」

 

師としてフィリオを逃がしたいジョナサンと、弟子として、そしてかつて裏切ってしまったという後悔からジョナサンに逃げるべきだというフィリオ。互いに石頭が故にその意見は決して変わらない、だがここにいるリシュウの手を叩く音が2人の口論を止めさせる。

 

「お主らどちらか1人でダブルGを仕上げれるというのか? あれを完成させることが出来なければ残る意味はないのだぞ?」

 

テスラ研に送られて来たビアンの最高傑作――ゲッター線で稼動する究極のスーパーロボット。それを仕上げるにはジョナサン1人でも、そしてフィリオ1人でも無理だ。それに隠し通すにも、1人では相手を欺き続けるのは不可能。自分と極めて近いレベルの技術者がいる……そうでなければ地球を遥かに越える技術を持つインスペクターを欺き続けるのは不可能だと……。

 

「それは」

 

「できません」

 

「じゃろう。互いにお互いの事を案じているのは判る。しかしだ……己のやるべき事を見失うな」

 

リシュウの言葉で2人の腹は決まった。それはきっと自分達を逃がそうとしているスレイとクスハ、そしてレディバードの中で待っているツグミの思いを裏切る事になる。それでも自分のやるべきことを見出した以上……その考えを変える事は出来なかった。

 

「敵の増援の気配はない、今の内じゃ」

 

リシュウに促されそれぞれ自分がメッセージを伝える相手に通信を繋げるフィリオとジョナサン。

 

「大丈夫かい? レーツェル?」

 

『問題ないと言いたい所だが、実際の所そこまでの余裕はないな。長話になるのならばこの危機を乗り越えてからにしよう』

 

「いや、今じゃないと駄目なんだ。レーツェル、僕の妹を……スレイをクロガネで預かってはくれまいか?」

 

ガルガウの爪とゲッター2・トロンベのドリルがぶつかりあい凄まじい火花を散らす中。フィリオはしっかりとした口調でレーツェルにそう頼んだ。

 

『……彼女は優秀なパイロットだ。それこそユーリアが認めるほどに』

 

「そうだね。トロイエ隊に誘われたほどの腕前は僕も知っている。だけど、それでは駄目なんだよ」

 

今のスレイは慢心し、己を鍛える事を止めている。それがフィリオがスレイをアステリオンのパイロットに相応しくないと感じた理由の1つである、慢心し、フィリオの夢だけを叶える。それだけで生きている今のスレイには星の海を飛ぶ事は出来ない。前を見ない瞳には星の大海を行くことは出来ないのだ。

 

「頼むよ。君にしか預けれないんだ」

 

『……判った。君の妹は私が責任を持って預かろう』

 

レーツェル――いやエルザムがクロガネと行動を共にしているのはフィリオだって知っている。連邦、ノイエDC、百鬼帝国、インスペクター……全ての陣営に追われるクロガネは極めて危険だ。だがその危険の中で、自分よりも腕の良いパイロットの中でも揉まれる事でスレイは更なる成長を遂げる――フィリオはそう信じていた。

 

『すまないが、私も余裕が無い。スレイの説得はフィリオ、君の仕事だ』

 

「判ってるよ。友よ……幸運を、武勲を祈る。君は負けないと信じているよ」

 

『当然だッ!!』

 

勇ましく吼えガルガウを翻弄し、ドリルを振るうゲッター2・トロンベを見て確信する。確かにここでレーツェル達は逃げる、だがそれは敗北ではない。勝つ為の、次は負けない為の逃走だ。そして自分達の仕事はビアンに託された刃を、万全にし再び戻って来た時にその刃を託す事にある。フィリオはそう確信し、カリオンの通信コードを入力する。ジャミングなどで通信が繋がるまでに僅かな時間がある、その間にジョナサンとツグミの会話がフィリオの耳にはいる。

 

「ツグミ君、今の内に輸送機を発進させるんだ。我々が脱出の為の支援を行う、それを利用するんだ」

 

『え……ッ!? でもそれではカザハラ所長や、少佐は……』

 

「我々はここに残る。所員達の事もある。我々だけ逃げる訳にはいかんさ。それに……反撃の為の剣を磨く者は既に輸送機に乗っている」

 

テスラ研が襲われる可能性――そして運びだせる物、それらを万全に出来る者をジョナサン達は選んでいた。残る者はテスラ研を制圧するであろうインスペクター達を相手に口八丁、手八丁で騙し通す事ができるであろう狸が残っている。

 

「そうじゃ。連中の目的がこの研究所のデータと成果物なら、ワシらの命まで取りはすまい」

 

「だから行くんだ。僕達の夢の翼と共に、今は逃げるんだ。ツグミ」

 

『で、でもッ!』

 

殺されないであろうと言う考えは余りにも楽観的だ。異星人と自分達の考えが似ている訳が無いとツグミは渋る、それを説得しようとした時最悪のタイミングでスレイと管制室の通信が繋がった。

 

『兄様! 一緒に逃げましょうッ!  データよりも兄様の命の方が……ッ!』

 

悲壮感を出すスレイの声にフィリオは顔を歪め、ジョナサンとリシュウの2人に目配せする。

 

「ツグミ君、後の事は私達に任せて離陸準備だ。良いか、ここで全員が囚われては意味が無いんだ」

 

ツグミの説得をジョナサンとリシュウに頼み、フィリオはスレイの説得に意識を向ける。混乱は徐々に収まろうとしている、そして敵の数は増え続けている。ゲッター2・トロンベの登場によって生まれた混乱――それが収まれば全員囚われる。その最悪の結果を防ぐ為にフィリオはゆっくりと口を開くのだった……。

 

 

 

カリオンのコックピットに響いていた管制室でのやり取りを聞いて、スレイは唇の端から血が溢れるほどに強く歯を噛み締めた。

 

(弱いから……私が弱いからだ)

 

フィリオもリシュウも、ジョナサンも自分達を生かす為にこの場に残る決意をしている。そしてコウキは自分達を庇い、そして搭乗機と共に死んだ。惨めだった、プロジェクトTDのNO.1――そんな肩書きが実際の戦場で何の役にもたたない事をスレイは知った。

 

『スレイ……テスラ研には多くの科学者達の英知が刻み込まれている。それを失う事だけは何としても避けなければならないんだよ』

 

その声を聞いてスレイは手が震えた。もう自分の兄が覚悟を決めていることを悟ってしまったから……何を言っても駄目だと悟ってしまった。1番近くでフィリオを見て来たのだ、その声を聞けばフィリオの考えがスレイには手に取るように判った。

 

「お、お兄ちゃ……」

 

『スレイ、良く聞くんだ。君は僕の自慢の妹だ、誰よりもスレイの努力も僕の期待に答えようとしてくれていることも判っている。僕は憎くて、アルテリオンのパイロットにアイビスを選んだじゃない』

 

かつてのお兄ちゃんと言う呼び方をしようとしたスレイの言葉を遮るようにフィリオは言葉を続ける。

 

『今のスレイには競い合うライバルがいない、競い合う事、腕を高めあう事を以前のスレイは楽しんでいた筈だ』

 

「そ、それは……でもッ! それはプロジェクトTDには必要の無いことです!」

 

コロニーにいた時はユーリアやレオナとその腕を競い合うように訓練を積み、その技能を高めてきた。それが今のスレイのバックボーンであり、彼女を支えている大きな要素だった。しかしそれはプロジェクトTDの星の海を飛ぶと言う理念にとって必要な物ではない……スレイはそう感じて、トロイエ隊に誘われるほどのAMなどの操縦技術、天才的な戦闘技術を腐らせている事をフィリオは知っていた。

 

『争う事を楽しめと言っているんじゃない。だけど戦わなければ夢は叶わないんだ、だから僕はスレイ、君に酷な事を言う。今は逃げるんだ、僕は死なない。絶対に何をしても生き延びる、だからスレイはもっと力をつけるんだ。そして迎えに来てくれ、アイビスと、ツグミ、そしてスレイの3人で僕が託した星の翼を、夢を叶える為の翼と共にそして4人で飛ぶんだ。星の海をッ!』

 

そしてまだ兄は諦めていない、ここで犠牲になんかなろうとしていない。

 

「わ、判りました。か、必ず……必ず、私は迎えに来ます。それまで待っていてください」

 

『待っているよスレイ。大丈夫、君は僕の自慢の妹だ。大丈夫って信じてる、さ、行くんだ。スレイ』

 

飛び立つレディバードとアイビスのカリオンを見て、名残惜しいがスレイはカリオンを反転させ、レディバードの先導をしているカリオンの隣に自身のカリオンを並ばせる。

 

『す、スレイ……あ、あたし』

 

「泣くな、泣くなアイビスッ!」

 

繋げられた通信から響くアイビスの嗚咽交じりの声にスレイもまた嗚咽交じりの声で怒鳴り返す。

 

「わ、私達は戻る。戻ってくるッ! 今はレディバードを守りながらこの包囲網を抜ける事だッ! 泣いている暇はないッ!!」

 

『ぐっ……うう……くう……判ってるッ!!!』

 

Gホーク、2機のカリオン、そしてガーリオン・レグルス・カスタム。4体で抜けるには余りにも厳しい包囲網、無数の無人機と4機の百鬼獣――それを突破して逃げるには、再びテスラ研を取り戻す為には、どれほど悔しくても、悲しくても生き延びなければならない。

 

『スレイさん、アイビスさん』

 

『悪いが、私には気の聞いた事など言えん。だがその悔しさを忘れるな、生き延びると誓え。それが生きる力になる、だから今は泣くな』

 

ガーリオン・レグルス・カスタムから響く無遠慮なバンの言葉の言葉が今のスレイ達には必要な言葉だった。

 

『どうするんですか、この包囲網を抜ける考えはあるんですか?』

 

『今、脱出経路を送信する』

 

この場にいる全員の機体に送られた脱出経路はコウキのゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムを大破させた鉄甲鬼が待ち構える方角だった。

 

『指揮官機に突っ込むって言うんですかッ!?』

 

『そうだ、レーツェルがインスペクターを抑えている。確かに無人機は多く、危険だが……我々にはあの方角しかない。私があの百鬼獣を押さえる。お前達はレディバードを護衛しながら包囲網を抜けることだけ考えろッ! 行くぞッ!!!』

 

先陣を切って切り込んでいくガーリオン・レグルス・カスタム。その後を追ってスレイ達も動き出し、その反応を感知した鉄甲鬼が無数の無人機を従えてゆっくりと動き出すのだった。

 

 

 

 

数えるのも馬鹿らしくなるほどのガルガウとゲッター2・トロンベのぶつかり合いは徐々にガルガウに軍配が上がり始めていた。

 

『どうした? 先ほどまでの威勢はどこにいったのだ? それとも虚勢を張るのも疲れたか?』

 

「悪いな、これは余裕と言うのだよッ!!」

 

グラビトンキャノンを乱射し、ガルガウの動きを封じてガルガウの懐から何とか離脱するゲッター2・トロンベ……だが着地しきれず、横滑りし、膝をついて着地したその姿と同じくジャガー号のコックピットシートから転がり落ちたのレーツェルの口元からは血が滴り落ちていた。

 

「これがフルパワーか、想像以上だな」

 

今までは慣らし程度の出力で稼動していたが、ガルガウ相手ではそんな手加減をして戦えるわけが無く最初からリミッターを解除していた。短時間ならば、レーツェルにも耐えれる。だが、ここまで長期戦になっては身体の方が限界を訴え始めていた。

 

『弱い、弱すぎる。こんなものをゲッターロボとは言わん』

 

「まだまだ私の力の底等見せてはいないぞッ!!」

 

地面を蹴り加速したゲッター2・トロンベのドリルアームがガルガウの頭部に向かって突き出されるが、それはガルガウの手によって防がれた。

 

「なっ!?」

 

『言った筈だ。弱いとなッ!!!』

 

ドリルアームの回転を強引に止められ、そのまま背負い投げのような形で投げ飛ばされる。態勢を立て直す事もできず叩きつけられ、凄まじい衝撃がレーツェルを襲った。

 

「がはっ!?」

 

ベルトによって衝撃はある程度緩和されたが、それでも血を吐くほどのダメージがレーツェルを襲っていた。それでも意識を失わず、態勢を立て直しゲッターアームが変形したグラビトンキャノンを撃ち込む。だがガルガウはアイアンクローを盾にし、凄まじい勢いでゲッター2・トロンベに向かって走り出す。

 

「くっ!」

 

『遅いッ!!!』

 

何とか引き離そうとした瞬間。ガルガウが反転し、そのままの勢いで振るわれた尾がベアー号を捉え、ゲッター2・トロンベを大きく弾き飛ばす。

 

『早いだけで俺を翻弄出来ると思うなよ』

 

最初はスピードで翻弄出来ていた。だがそれはヴィガジが動揺していたと言うのもある、しかし何よりもガルガウがゲッター2・トロンベの速度に対応出来ていなかったというのがある。しかし高性能電子頭脳がその速度を覚えれば、ヴィガジの反応速度がレーツェルに劣っていても、ガルガウのほうでアジャストしてくれる。それによってほんの僅かな差だが、ゲッター2・トロンベをガルガウが上回っていた。

 

(同じ単独操縦でも、ここまで差が出るかッ!)

 

最早ゴーグルをつけている余裕など無く、ゴーグルを投げ捨てグローブの甲で口元の血を拭ってガルガウを睨みつける。それと同時に、武蔵との埋められない腕の差を改めて感じさせられていた。同じゲッターロボでもこれだけの性能の差が出るのは単純に腕の差だ、新西暦ではエースと呼ばれていても、ゲッターロボに関してはルーキーの域を出ていないレーツェルではゲッターロボのパワーを存分にいかしきれていなかった。

 

「だが、それは言い訳にはならない」

 

テスラ研を助けに来たのに、それなのにこんな無様な姿など見せ続けれる訳が無い。覚悟を決めたレーツェルはコンソールを操作し、操縦桿を強く握り締めた。

 

「見せてやる本当のゲッターロボの力をなッ! 行くぞゲッターロボ……いや、トロンベよッ! 私に力をッ!!!」

 

ゲッター2・トロンベのカメラアイが光り輝き、地面に踏み込んだ痕を残しその姿を消した。

 

『なっ!? ぐうッ!!!』

 

黒い影がガルガウを殴りつけ、地面を抉りながら着地し再びその姿を消す。

 

『なんだ、なんだこの速度はッ!? がはあッ!?』

 

ガルガウを上下左右から襲う衝撃にヴィガジは完全に混乱し、ゲッター2・トロンベに完全に翻弄されていた。

 

「ぐぷ……ッ」

 

しかしレーツェルもまた強すぎる力の代償を払っていた。レーツェルが行なったのはパイロットの安全を確保する為のテスラドライブの解除――新西暦の人間では耐え切れないゲッターロボの劣悪な操縦性、そしてテスラドライブはゲッターロボからすれば異物、その異物が取り除かれた事でゲッター2・トロンベは本来の力を発揮していた。それはリミッターありのフルパワーを越える負担をレーツェルに与え、全身に走る激痛に耐えながらレーツェルは必死にゲッター2・トロンベを操る。

 

「ま、まだまだぁ……ッ! ぐうううっ!?」

 

再び加速状態に入るゲッター2・トロンベ、レーダーもそして視覚も完全に誤認させるゲッタービジョン。そのからくりは実に単純明確、圧倒的な速度に寄る残像――それを齎す為に生まれるGに意識を飛ばされないように強く歯を噛み締め、ガルガウの武器である爪と口内の火炎放射装置それを破壊するために、レーツェルは己の身体を痛めつけながら必死にゲッター2・トロンベを操る。

 

(あと15秒……これを決して無駄にはしないッ!)

 

テスラドライブの解除から、再起動までは自動的に30秒で行なわれるようにビアンによって設定されていた。与えられた30秒を無駄にしない為に、この一撃でガルガウを行動不能に追い込むと決意し、自身に襲い掛かるであろうノックバックを無視してガルガウに突撃しようとしたその時だった……凄まじい怒号がテスラ研に響いたのは……。

 

『俺をッ! このコウキ・クロガネを……ッ! いやッ! 百鬼衆の鉄甲鬼様を舐めるなぁッ!! このガラクタ共がぁぁあああああああ―――ッ!!!!!』

 

その場にいる全員を支配する圧倒的な存在感と心臓の悪いものならば、その瞬間に即死しかねない凄まじい怒気と殺気を放つ特機から響くコウキ……いや、鉄甲鬼の怒号と共に地下からリフトアップされた特機のカメラアイが禍々しい真紅に光り輝く光景と、その怒号にレーツェルでさえもその動きを止めてしまうのだった……。

 

 

 

コウキ・クロガネ――いや鉄甲鬼と言う男は鬼の凶暴性と殺戮本能、そして闘争本能をその英知で押さえ込む事が出来る精神力を持った稀有な鬼であった。言うならば獣の獣性と人の知性――それを併せ持つ並の鬼を遥かに凌駕する精神力を持つ男だった。テスラ研はコウキが10年近く過ごし、様々な出会いや別れを繰り返した場所だ。百鬼帝国のように互いの足の引っ張り合いをするような事はなく、互いに協力し合い。そして1つの目的の為に進んでいく――それはコウキにとって非常に心地よい居場所だった。それが呆気なく壊された、己の欲望の為に破壊され、踏み躙られる光景を見て長年押さえ込み続けていた鬼としての闘争本能をコウキは解放した。

 

「まだ完全に調整は済んでいないが……いけるな? 轟破・鉄甲鬼」

 

百鬼の名前は捨てても、鉄甲鬼……かつての己の名前は捨て切れなかった。名付けられた新たな名は轟破――降りかかる災厄を退け、己の道を妨げる物を、自分が守りたい者を傷つける敵を破壊し、己の存在をこの世界に轟かせる。それゆえに「轟破」とコウキは名付け、まだ完全な調整を済まされていない筈の轟破・鉄甲鬼はその目を輝かせる。コウキの心配も不安も必要ない、己はコウキの思うがままに、願うままに戦い、敵を打ち倒してみせると動力が獣のような唸り声を上げる。

 

「行くぞッ! 鉄甲鬼ッ!」

 

いま自分がやるべき事はレディバードの為の道を作る事――その為にコウキは死に掛けの己の身体に活を入れる。

 

「俺をッ! このコウキ・クロガネを……ッ! いやッ! 百鬼衆の鉄甲鬼様を舐めるなぁッ!! このガラクタ共がぁぁあああああああ―――ッ!!!!!」

 

今ここにいるのはテスラ研の警備主任のコウキ・クロガネではない。かつて百鬼帝国として、ゲッターロボGと戦い死んだ鉄甲鬼なのだと、雄叫びを上げる。最早、己の素性を隠し通すことは出来ない、そしてその結果疎まれ、憎まれたとしても自分の道を違えることはないと言う決意を込めた叫びだった。そしてその叫びは鉄甲鬼を裏切り者としてプログラミングされていた百鬼獣を誘き寄せる事に繋がった。

 

「シャアア……ギギィッ!?」

 

飛び掛ってきた姿を消すカメレオンのような百鬼獣――獣蜥鬼(じゅうしゃくき)の顔面を片手で受け止め力を込める。その激痛に獣蜥鬼は暴れるが、地面に叩きつけられた上に、追撃に踵を振り下ろされた事で頭蓋を砕かれた獣蜥鬼の手足が痙攣を繰り返し、やがて動きを止める。

 

「ガアアッ!」

 

「シャアアアーーッ!」

 

その強さを見て百鬼獣はこの場で最優先で排除するべき敵として、ブライから殺せと命じられたことに加えて、排除しなければならない敵と認識し一斉に襲い掛かる。

 

「遅い。遅すぎるぞッ!」

 

全方位からの攻撃をコウキは遅いと鼻で笑い、轟破・鉄甲鬼を百鬼獣へと走らせる。拳から伸びたブレードが白骨鬼の首を跳ねる。頭部を失った事で脱力した白骨鬼が膝をつき、突進してきた勢いのまま倒れこんでくるのを前蹴りで蹴り飛ばす。

 

「お粗末な奇襲だ。その程度で俺の首を取れると思っているのかぁッ!!!」

 

白骨鬼を隠れ蓑にし、襲ってきた双剣鬼の刃を受け止める。だが切れ味と強度に圧倒的な差があり、双剣鬼の刃が中ほどから両断される。鍔迫り合いになると思っていた双剣鬼がたたらを踏んだ直後、固く握り締められた轟破・鉄甲鬼の拳が胴体にめり込み、殴り飛ばされる。

 

「シャ「お前はもう死ね」ッ!?!?」

 

殴り飛ばされた事をむしろ幸いと目から破壊光線を放とうとした双剣鬼だったが、その目に轟破・鉄甲鬼の拳が叩き込まれ、電子頭脳が目から抉り出され、オイルを鮮血のように撒き散らしながら双剣鬼は倒れこみ動きを止めた。

 

「ハリケーンを食らえッ!!!!」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムにも搭載されていたフレキシブルウェポンシステムが轟破・鉄甲鬼にも搭載されている、肩にマウントされた長方形のパーツが変形し、酸を混ぜ込んだ水を伴った嵐を放つ。それの直撃を受けたレストジェミラ達は見る見る間に動きを鈍くさせる。

 

「トマホークブゥゥゥメランッ!!!!」

 

両腕のアタッチメントを取り外し、斧へと変形させた物を動きが鈍くなったレストジェミラ達に投げつける。普通ならば避けきれるそれは酸を伴った暴風によって機動力を失っていたレストジェミラ、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ、ヒュッケバイン・MK-Ⅲの胴体を薙ぎ払い粉砕する。そしてそれはそのままの勢いでレディバードの進路を塞いでいた鉄甲鬼に突き刺さり、その巨体を大きく弾き飛ばした。

 

「今だッ! 行けツグミッ!!」

 

『りょ、了解ッ! スレイ! アイビス! クスハッ! 行くわよッ!!!』

 

進路を強引に確保した事でレディバードが飛び立ち、それを追おうとする無人機と百鬼獣の前に轟破・鉄甲鬼が立ち塞がる。

 

「だから貴様らはガラクタなんだッ!! ブラスタァァアアアアキャノンッ!!!!」

 

フルパワーまでチャージしていたブラスターキャノンを無人機と百鬼獣に向かって放ち、輸送機とクスハ達の飛ぶ道を作った轟破・鉄甲鬼に真紅の影が飛びかかる。

 

「誰に断ってその姿をしている。この木偶人形がッ!!」

 

轟破・鉄甲鬼に襲い掛かったのは鉄甲鬼であり、己の半身があんな無様な姿になっている事にコウキは強い憤りを覚える。

 

「ッ!!!」

 

「うおおおッ!!」

 

鉄甲鬼の斧と轟破・鉄甲鬼の斧がぶつかり合い、凄まじい轟音を響かせ。鉄甲鬼の角から放たれた破壊光線と轟破・鉄甲鬼の額のブラスターキャノンがぶつかり合い爆発を引き起こす。

 

「ちっ……木偶と言ったが……中々強い」

 

マントで爆風を互いに防ぎ、斧を片手に間合いを計る2体の鉄甲鬼。ゲッター炉心を搭載しているがその力を100%発揮出来ていないとは言え、単騎で百鬼獣を屠った轟破・鉄甲鬼の力は本物だ。そしてそんな轟破・鉄甲鬼と互角に戦える鉄甲鬼も新西暦に出現した百鬼獣の中では間違いなく龍虎皇鬼に次ぐ力を持った百鬼獣である事は間違い無かった。

 

「喰らえッ!!」

 

「ッ!!!」

 

鏡のように2機の鉄甲鬼が左腕を突き出し、ガトリングの弾がぶつかり合い火花を散らす。

 

「はぁッ!!」

 

「シャアッ!!」

 

斧をゲッターロボのトマホークブーメランのように投げつける轟破・鉄甲鬼と鉄甲鬼――それと同時に飛びあがり、轟破・鉄甲鬼がハリケーンを鉄甲鬼に向かって放った。

 

「……ちっ……知恵が回る」

 

残骸の百鬼獣を盾にし、ハリケーンによる弱体化を防いだ鉄甲鬼は地面に突き刺さった斧を轟破・鉄甲鬼に向かって投げ付ける。

 

「ぐっ! くそ……今の俺では……倒しきれんか……」

 

熱した鉄で焼いた傷口が開きかけているコウキはこの場で鉄甲鬼を倒したかったが、今の自分の状態では轟破・鉄甲鬼を大破させる危険性があると悟った。命と引き換えにすれば鉄甲鬼を倒す事は十分に可能だった。だがコウキはそれを良しとしなかった。

 

「……俺の戦いはここが最後ではない」

 

テスラ研を、ジョナサン達を助けなくてはならない。ここで命を使い果たすわけには行かないと悔しさに歯噛みしながらも、コウキは冷静に撤退することを決断した。

 

「……少しで良い。俺に力を貸せ、ゲッター線ッ! ゲッタァアアア……ビィイイイイムッ!!!!」

 

轟破・鉄甲鬼の腹部が開かれ、そこから放たれた翡翠の輝きに鉄甲鬼はマントで咄嗟に防御姿勢に入り、鉄甲鬼以外の百鬼獣、そしてインスペクターの無人機はゲッタービームの光に飲まれ爆発炎上する。

 

「行き掛けの駄賃だ。貴様も沈めッ!!!」

 

『ぐっ! ぐあああッ!!!』

 

そしてそのまま機首を旋回し、ガルガウを背中から打ち貫いた。高濃度のゲッター線、そして大火力にヴィガジが苦悶の声を上げ、ガルガウの全身から黒い煙が上がるのを見たコウキはゲッタービームの放射を止め、レーツェルに通信を繋げる。

 

「レーツェル! 離脱するぞッ!」

 

『ああッ!』

 

傷口が開いてきて、轟破・鉄甲鬼のコックピットの足元が真紅に染まる。十分にエネルギーを蓄えていない状態で、しかもゲッタービームを使った為にオーバーヒートを起している轟破・鉄甲鬼ではこれ以上は戦えないと判断したコウキの行動は早く、煙幕弾を無数に打ち込みヴィガジ達の視界を遮り、追跡されないようにジャミングしながらその場を離脱する。

 

(この屈辱忘れんぞ、インスペクター、百鬼帝国よッ! 必ず、必ず助けに戻りますカザハラ博士)

 

自分の第二の故郷と言えるテスラ研を制圧したインスペクター、そして己の半身を穢した百鬼帝国への報復を、そしてジョナサン達を助けに戻ると誓いコウキはレーツェルと共に先に脱出したツグミ達の後を追うのだった……。

 

 

 

脱出したコウキ達を見て安堵の溜め息を吐いたジョナサンだったが、リシュウの目を見て肩を竦めた。

 

「ジョナサン。お主、コウキが百鬼帝国の関係者だと知っておったのか?」

 

百鬼衆と名乗った時にリシュウとフィリオは驚いたが、ジョナサンは驚いた素振りを見せなかった。その事を追及するリシュウにジョナサンは首を左右に振った。

 

「いえ、知りませんでした。でも彼は記憶喪失と言うには頭がよくて、それに古い研究データの解析は誰よりも早かった。だから何か訳があって記憶喪失を演じているのではと思っていたのですよ。まさか百鬼帝国の関係者とは思いませんでしたがね」

 

武蔵が旧西暦の生まれと知ってコウキもその類だと思っていたからこそ驚きは少なかったとジョナサンは苦笑いと共にそう口にした。

 

「リシュウ先生、コウキは味方です。疑っているのですか?」

 

「まさか、あれほどの男を疑うほど、ワシは耄碌しておらん。よく生きて、そして最後まで戦ってくれたと感謝したい」

 

コウキが百鬼帝国の手引きをしていたのかとリシュウが疑っていないと判り、フィリオも安堵の溜め息を吐いたが、すぐにその顔を引き締めた。

 

「これからですね」

 

「ああ、此処からが私達の戦いだ」

 

自分達の希望はテスラ研を飛び立った。後はテスラ研に隠されたダブルGを隠し通し、連邦軍かそれともビアン達がテスラ研の奪取に来るまで耐える――それがジョナサン達の戦いだった。

 

「さて…… それじゃ、インスペクターの指揮官を丁重に出迎えるとするか」

 

「しかし、あれですね。案外普通の人間ですね」

 

「ハゲじゃがな」

 

「もっと美人ならお近づきになりたいと思うんだがね、ハゲの大男じゃなあ」

 

管制室の前に立ったガルガウから降りてくるスキンヘッドの大男を見て、それぞれの感想を口にするジョナサン達、その顔に悲壮感は無く、必ず助けが来ると信じているからこそ、恐怖を隠し普段通りに振舞う事が出来ていたのだった。テスラ研は瞬く間にバイオロイドに制圧され、ヴィガジを出迎えたジョナサン達にヴィガジはテスラ研に残されている機体や兵器をリストアップするように命じた。

 

「フン……めぼしい機体は全てあの連中に持って行かれたか、残っている機体は このリストにある通りなのだろうな? ジョナサン・カザハラ」

 

自分の目で確かめた上でジョナサンにそう尋ねるヴィガジ、ジョナサンが頷くとヴィガジは疑わしいと言わんばかりの視線を向ける。

 

「ワシらを信じられぬのなら、研究所内をくまなく探すが良い」

 

「言われなくてもやっている」

 

ジョナサンを庇うように前に出たリシュウの言葉に不機嫌そうに返事を返すヴィガジ。この場にヴィガジがやって来たのはリストと己の目を使い確かめた上で、ジョナサン達が虚偽の報告をしていないかの確認に訪れたのだろう。それが判っているからジョナサン達は淡々とヴィガジの質問に答え、動揺も驚きもせず平坦に対応を続ける。

 

「我々は降伏し、君の要求にも応えている。我々の命は保証して貰えるんだろうな?」

 

「……それはお前達の態度次第だ」

 

忌まわしげに言うヴィガジの反応を見てジョナサンは確信した。武力制圧こそしているが、話し合いの余地もあれば、騙しあいも可能だ。

 

(オカルト染みた能力はないか)

 

こちらの思考を読むといったオカルト染みた特殊能力が無いと言う事が判っただけでも十分な成果だと心の中で笑い。抵抗する意図はないと言うアピールをする為に脱力し、諦めきった風を演じながらヴィガジの顔を弱々しく見上げる。

 

「判った……それで、君達は僕達に何をさせるつもりなのだ?」

 

抵抗する意図が無いと言うのはヴィガジに伝わったのか、ヴィガジは高圧的な素振りを見せ、ジョナサン達は内心単純なやつめと苦笑した。

 

「ここのデータを全てまとめ、 我々に提出しろ。そうすれば命は助けてやろう」

 

こちらの言う通りの兵器を作れ等の命令ではない事に安堵した物のヴィガジの要求はかなりの難題だった。

 

「テスラ研のデータ量は膨大でね。その作業にはかなりの時間がかかるよ? フィリオどれくらいの時間が掛かる?」

 

「そうですね……最低でも2週間は欲しい所ですね」

 

「フン……時間稼ぎなどさせんぞ」

 

2週間と聞いてヴィガジは眉を細め、ジョナサン達を睨みつけた。その視線はジョナサン達が嘘をついていると疑っている色が宿っているが、それこそがジョナサンにとって狙い通りの展開だった。

 

「なら、 君達の手でデータを持っていくがいい、ただし、ここのセキュリティ・システムは特殊でね……なんせ地球の兵器の7割を開発・

研究している所だ。私の言いたい事は判るだろう?」

 

「何が言いたい、ジョナサン・カザハラ」

 

挑発めいた口調になったが、これはジョナサンにとっても賭けだった。嘘とこちらの言葉を信じず、実力行使に出るか。それとも疑いながらもこちらの言葉に耳を傾けるかどうか、自分も生きて、そして研究所員も生き残らせる。そしてその上で2週間生き延びるにはここが運命の岐路であった。

 

「BLDコードを持たぬ者がメインPCを操作すれば消去されるようになっている。簡単に言えば……研究担当者の身に何かあれば、データが消えるって事さ」

 

いくらテスラ研と言えどそこまでのセキュリテイは用意出来ない、これをヴィガジが信じるかどうか……長い沈黙の後ヴィガジは不機嫌そうに舌を鳴らした。

 

「期限は2週間だ。期限を過ぎた場合は 所員を1日につき5人ずつ処刑する」

 

少なくとも2週間は自分達の身の安全は約束された。だがその時間は決して少なくは無いが、多くも無い。テスラ研を取り返すだけの準備を連邦軍――ハガネやヒリュウ改が準備できるか、それとも脱出したツグミ達が戻ってくるのが間に合うかと言う大きな賭けにジョナサン達は出る事となるのだった。そしてテスラ研を脱出したレディバードは1度着陸していた、だがそれは進路を決めるだけではなく、コウキに対する追及のための着陸だった

 

「コウキ……貴方は何者で、何を知っているの? 百鬼衆って何? 鉄甲鬼って何? 貴方は百鬼帝国なの?」

 

「待つんだ。タカクラチーフ。彼は重傷だ、今それを問いただすべきでは」

 

「いや、構わない。この事を知らなければツグミ達も安心出来ないだろう……俺は武蔵と、そしてラドラと同じだ。新西暦に迷い込んだ、旧西暦の亡者の1人だ」

 

そのコウキの言葉は重く、レディバードの格納庫に響き渡り、コウキを疑うような視線があちこちからコウキに向けられるのだった……

 

第77話 深き海の底から その1へ続く

 

 




次回はコウキの話とクロガネの話を書いて行こうと思います。ぶちきれて鉄甲鬼と名乗ってしまいましたから、そこを追求されるのは当然の事ですからね。その後はクロガネを襲撃する何かとグランゾンを書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第77話 深き海の底から その1

第77話 深き海の底から その1

 

格納庫に広がる殺伐とした雰囲気と疑惑の眼差しは全て頭と腹に包帯を巻いた痛々しい姿のコウキに向けられていた。――テスラ研での百鬼衆、鉄甲鬼と叫んだコウキに疑いの眼差しが向けられるのは当然の事だったが、それはアイビスにとって耐えられる物ではなかった。

 

「待って、待ってよ! コウキ博士を疑うとか、おかしいって! 何度もコウキ博士は助けてくれたじゃないかッ! それに見てよ、この怪我をッ! こんな所で詰問したらそれこそコウキ博士が死んじゃうよ! 1回落ち着いてから……」

 

フィリオの事で心を痛め、涙を流したことで真っ赤になった目でコウキに疑惑の視線を向けている研究者達を睨みながら、両手を広げコウキを守ろうとしてアイビスが声を上げた。

 

「いや、良い。素性のわからぬ者がいればお前達とて安心出来ないだろう、それにこの程度では俺は死なないし、死ねない。そんな柔な体ではない」

 

せめて安全が確保されてからとコウキを庇おうとするアイビスの声を遮ってコウキが口を開いた。その額からは脂汗が流れ、顔から血の気が引いているのにその目だけは爛々と獣のように輝いていた。

 

「大丈夫なのか?」

 

その言葉自体はコウキの事を案ずる言葉だったが、その言葉に込められているのはお前は味方なのか、それとも敵なのかと言う警戒するような声色が込められていた。レーツェルとバンの鋭い視線を向けられても、コウキに動揺も恐怖もなかった。旧西暦を知るコウキからすれば、いや、竜馬を知るコウキからすればその程度の殺気など恐れるに足りない……言うならば思春期のやたら斜に構えている子供と同じ程度に感じていた。仮に襲われたとしても叩き伏せる自信がコウキにはあった。

 

「問題はない。どうせ暫く俺は動けん、バンとレーツェル、それにクスハを頼るしかないんだ。話をするくらいは……はっはっ……問題……ない」

 

「こ、コウキさん! これ、早く飲んでください!」

 

「すいません、薬を探しているの手間取ってッ! コウキ博士を責め立てて貴方達は何をやりたいのですか! 恥を知りなさいッ!」

 

問題はないと言うがコウキの顔色は見る見る間に悪くなり、クスハと医療班が鎮痛剤を飲むようにと水のボトルと錠剤を渡す。しかしコウキは鎮痛剤のボトルを奪い、逆さにし全て口の中に入れて噛み砕いた。

 

「こ、コウキ博士! そんなに飲んだらッ吐いて、吐いてくださいッ!」

 

それを見て医者が吐き出せというが、コウキはペットボトルの蓋を開けて中身を一気に飲み干した。それは完全に致死量の量で、コウキを疑っていた付き合いの短い研究者達でさえ、心配そうな表情を浮かべたが、コウキは薄く笑った。

 

「薬が効きにくい体質なんだ。飲んだ所で死にはしない……それよりも俺が何者か……だ」

 

そう笑ったコウキの身体の痛々しい怪我に薄皮が張る。それは普通の人間ではあり得ない、異常な回復速度だった。

 

「コウキ博士、君は鬼なのか?」

 

レーツェルが身構えながら尋ねる。余りにも速い回復速度、そして致死量の薬を飲んでも平気そうにしている。コウキが普通の人間ではないと言うのは火を見るよりも明らかだった。

 

「いや、今は鬼じゃない……かつて、そうだな。旧西暦では俺は鬼だった、味方……いや、そんな上等な者ではないか。自分の戦果だけを求めるクソみたいな上官に嵌められて、ゲッターロボと戦い。死んだ……筈だったんだがな」

 

旧西暦では鬼だった。ゲッターロボと戦った、そして死んだ筈だったと語るコウキの姿にレーツェルの脳裏にある男の姿が過ぎった。

 

「ラドラと同じじゃないか」

 

教導隊で肩を並べて戦った戦友。しかしラドラもまた旧西暦の住人だった……コウキの経歴は余りにもラドラに似ていた。

 

「ラドラ? ああ、キャプテンラドラか」

 

「ラドラを知ってるのか?」

 

「いや、俺が一方的に知っているだけだ。面識はない、俺はゲッターロボGに敗れ、気がついたら若返った上に人間となってスラム街を彷徨っていた。この回復力の高さは恐らく鬼の名残だろうが……今の俺に鬼としての力はない」

 

死んだ筈の人間が生き返った上に若返り彷徨っていた。それはテスラ研の研究者達には簡単に受け入れられる物ではないが、レーツェルやクスハ達は武蔵とラドラと言う前例を知っている。だからこそ、その信じられない話を簡単に受け入れる事が出来た。

 

「こ、コウキ博士が前は鬼だったとしても今はあたし達の味方でしょッ! そうだよね!? スレイも何か言ってよ!」

 

「騒ぐな、私はコウキ博士がスパイだったなんて微塵も疑っていない。むしろコウキ博士を疑っている連中は恥を知れと言いたい気分だ」

 

泣いた事で目が赤く染まっているが、スレイは普段通りに振舞い、コウキを疑っている研究者達に強い怒りを向けていた。どれだけコウキがテスラ研に貢献してきたか、そして死ぬかもしれないという状況でも皆が逃げれるように奮闘し続けていた。もしもスパイだったとして、信用を得る為とは言えここまでの事は出来ないだろう……スレイに睨まれ、コウキを疑っていた最近テスラ研に来たばかりの研究者は気まずそうに目を逸らし、その連中に感化され疑惑の眼差しを向けてしまったコウキと付き合いの長い研究者達は項垂れ、自分達がどれだけコウキに助けられたかと思い返した。

 

「すみません、コウキ博士。一瞬でも貴方を疑った私が馬鹿でした」

 

1人の謝罪が始まりになり、あちこちから謝罪の言葉が広がって行く。テスラ研から命掛けで脱出し気が立っていた事もある。しかしそれでコウキへの疑いを向けて良いと言う訳ではない。

 

「ごめんなさいコウキ。少佐の事とか、私も頭の中がぐちゃぐちゃで……ごめんなさい。コウキを責めたかった訳じゃないの、本当にごめんなさい」

 

ツグミの謝罪の言葉を聞いたコウキは小さく笑い手を上げた。

 

「あんな事があれば誰だって気が立つさ。だから俺は気にしない、こういう事は早く明らかにしておいたほうが良いからな」

 

疑惑や疑い、そして疑念が合ってはこれからの戦いを切り抜ける事は出来ない。真実を明らかにし、そしてその上で協力し合う真の絆が必要だった、

 

「俺は確かにかつては百鬼帝国だった。これは何をしても変えようが無い過去だ。だが今の俺はテスラ研のコウキ・クロガネだ。いや、コウキ・クロガネが良いんだ。鬼ではなく、人として生きたいんだ」

 

人として生きたいというコウキの目は透き通っていて、嘘ではなく本心からの言葉であると言うことは明らかだった。

 

「ここまで命を賭けてコウキ博士は戦ってくれた。彼がいなければ我々はこうして話をする事も出来ていない」

 

「彼が味方であると言うことは明らかだ。異論のある者はいないな?」

 

レーツェルとバンの問いかけに異論を唱える者はおらず。生きてテスラ研を脱出した全ての者がコウキを味方と認めるのだった……。

 

 

 

 

コウキへの疑いの視線や、責める様な雰囲気が無くなった所で改めてツグミが意を決した表情でコウキに問いかけた。

 

「百鬼帝国の事……知っていることだけで良いの教えてコウキ」

 

未知の敵である百鬼帝国についての事を知りたいと思っているのはツグミだけではなく、レーツェル達も同じだった。

 

「勿論と言いたいが、俺の知っているのは旧西暦の百鬼帝国の事だけだ。今の百鬼帝国の事はまるで判らんぞ」

 

増血剤やカロリーバーを無理やり口に運び、点滴を打っているコウキが少し申し訳なさそうにして言うとレーツェル達は驚きの表情を浮かべた。

 

「旧西暦と新西暦では百鬼帝国の活動内容が違うのか?」

 

「ああ。百鬼帝国の指導者、大帝と呼ばれている鬼は自分以外の全てを見下している。そんな鬼がインスペクターやノイエDCと手を組んでいる。その事自体が俺からすれば異常事態だ。百鬼帝国を名乗っているが、実際は別の勢力と言う可能性も別の鬼が大帝を名乗っていると言う可能性も捨て切れない」

 

その性格、気質から誰かと手を組むことはあり得ないと断言し、別の陣営と手を組んでいると言うことから百鬼帝国を名乗る別の勢力、もしくは別の鬼が新しい大帝となっている可能性もあるとコウキは告げた。

 

(流石にこの話は出来ないな)

 

レーツェル達にはグライエンが持ち出した旧西暦の資料がある。それとコウキの話のすり合わせを行なえば、新西暦と旧西暦の百鬼帝国の違いを知ることも出来る。だがその話をすれば、必然的に成り代わりなどの話にも触れることになり、今の極限状態のテスラ研の職員の前でする話ではないと判断し、その口を紡ぐことになった。

 

「それに百鬼獣の動きもかなり制限を掛けている。今の所は様子見と言う所だろうな」

 

コウキの言葉にレーツェル達が絶句し動きを止め、その言葉を信じられないアイビスがおずおずと手を上げてコウキに声を掛けた。

 

「あのーコウキ博士、百鬼獣正直めちゃくちゃ大暴れしていると思うんですけど……それでも制限が掛かっているってことなんですか?」

 

百鬼獣の目撃情報こそ少ないが、出現すれば連邦軍は壊滅的な打撃を受け、その周辺の地形が変わるほどの凄まじい被害を起している。それの事を考えれば動きに制限が掛かっていると言う言葉は信じられる内容ではなかった。

 

「ああ、まるっきり別物と言ってもいい。そもそも百鬼衆が出てきていない段階で手抜きも良い所だ」

 

「そう言えばコウキ博士も百鬼衆と言っていたが、百鬼衆とはなんだ? 聞く感じでは指揮官のように思えるが……」

 

テスラ研でコウキは自分の事を百鬼衆と名乗った。そして今も出た百鬼衆と言う言葉にスレイが指揮官のように思えると尋ねるとコウキは少し違うと返事を返した。

 

「百鬼衆は百鬼獣に搭乗出来る階級を示す物だ。階級によって違うが、俺は軍の階級で言えば大尉~少佐クラスの百鬼衆で指揮官としての役割も兼任していた。有人の百鬼獣と無人の百鬼獣ではその戦力差は約5~10倍ほどだ。無人機の百鬼獣しか投入されていない段階で様子見としか言いようがない」

 

無人と有人の百鬼獣で10倍ほどの戦力差があると告げたコウキの言葉にその場にいる全員の顔が引き攣った。百鬼獣と言うだけでも脅威だと言うのに、その戦闘能力が10倍ほども跳ね上がると聞けば顔が引き攣るのも当然の事だった。

 

「ではあのハガネを大破させた四邪と言うのは大将格と考えていいのか?」

 

ハガネからの戦闘データで回ってきた龍王鬼、虎王鬼の2人の鬼と龍虎鬼皇の事を尋ねるバン。だがコウキの返答は判らないだった。

 

「俺の時に四邪なんて階級はなかった。それにあんな百鬼獣は見た事が無い、恐らく新西暦で新しく作られた百鬼獣、そして鬼なのだろう。それに関しては俺には何も判らない……危険な百鬼獣としか言いようが無いんだ」

 

「そう……か、何か判ればと思ったんだがな」

 

手を抜いていてもハガネとそのPT隊を壊滅寸前に追い込んだ百鬼獣と鬼の情報があれば、何か対策が練れると思っていたので判らないと言う言葉にバンは落胆を隠せなかった。

 

「その百鬼獣が本当の百鬼帝国の主戦力級って事って事ですか?」

 

「あのクラスが早々出てくるとは俺も思っていないが……恐らくは本格攻勢に出れば有人の百鬼獣と共に出てくるのは確実だな。まだ百鬼帝国が様子見をしている今の段階でもっと戦力を整えなければ……俺達は負ける」

帝国が様子見をしている今の段階でもっと戦力を整えなければ……俺達は負ける」

 

今でさえ苦戦を強いられている百鬼獣との戦い、それでも百鬼帝国からすればそれは手抜きの偵察に等しいと聞き、百鬼帝国がどれほどの力と余力を隠しているのか、不安ばかりが募る。格納庫に重い沈黙が広がった時、ツグミの手を叩く音が響いた。

 

「今私達の敵は百鬼帝国じゃなくてインスペクターよ。目の前にいない敵よりも、今私達に迫っている脅威の事を考えましょう、ラングレー基地が制圧されたって脱出した兵士がいない訳じゃない、彼らを探すとかやる事は沢山ある。それにコウキだって傷のせいでネガティブになってるからそんな不安なことばかり言うのよ。そんなのはコウキらしくないわ」

 

ツグミの言葉にコウキは一瞬驚いたような顔をし、そして笑い出した。

 

「ああ。確かにその通りだな、俺らしくない。すまん、余計な事を言った。確かに百鬼帝国は強い、だが対策が無いわけではない。現に1度人類は鬼に勝っているのだから」

 

旧西暦で1度百鬼帝国を退けているのだ。人間にだって鬼と戦う術も希望もあると言うとツグミはやっと笑った。

 

「よろしい、スレイもアイビスもクスハも不安ばっかり考えてないで前向きなことを考えましょう。まずは……そうね、何かご飯を食べましょう。それでそれからどうするか考えましょう、後ろや足元を見ていてもその先に道はないわ」

 

ツグミだってフィリオ達を残して脱出した事に後ろめたさや、無事に生きていてくれるかと言う不安も抱いている。だがそれでも、前を向かなければならない。無事にアメリカを脱出し、そしてテスラ研を奪還するという目的の為に進もうとツグミは不安と恐怖に飲み込まれようとしている全員の考えを前向きに変えさせた。

 

「判った。では私が何か作ろうじゃないか」

 

雰囲気が明るくなった所でレーツェルがその腕を振るうと言ってレディバード内の簡易キッチンに足を向ける。その時には既に格納庫に広がっていた悲壮感は完全に消え去っているのだった……。

 

 

 

 

一方その頃、ゲッターロボを求めて海中を進むクロガネ改の中ではカーウァイ、イングラムも含めて百鬼帝国、シャドウミラーに対する会議が熱を帯びていた。

 

「私の偽物が大々的に動き始める前にもう少し対策を練りたいのだが……」

 

「いや、酷な言い方になるがビアン。お前の偽物は泳がすべきではないだろうか?」

 

「その理由は? 何か納得出来るだけの根拠はあるか?」

 

「ある。反抗勢力をあぶり出し、一網打尽にするべきだと私は思う」

 

自分の偽者が大々的に動き出す前に戦力を整えたいと言うビアンにグライエンが自分の意見を口にし、イングラムもグライエンの意見に賛同した。

 

「俺も同じ意見だ。ビアンを旗頭にする事で反連邦勢力を誘き出せる。それにビアンに賛同している者達は殆ど既に仲間に入れているのならば、あちら側のビアンに合流するのはテロリストと考えて良い筈だ」

 

「だがそれでは民間人への被害が拡大することになる」

 

「俺も反対だな、そのやり方は余りにも非道が過ぎる」

 

カーウァイとラドラはグライエンとイングラムの考えに反対意見を投じた。確かにそれを利用して、反連邦組織を炙りだすと言うのは得策だ。これが変装や、整形でビアンに扮しているのならばカーウァイとラドラもその意見に賛同しただろう。しかし相手は百鬼帝国だ、どんな仕掛けをしてくるか判らない以上必要以上に犠牲者が出るかもしれないと言う可能性は常に念頭に入れるべきだとカーウァイとラドラは主張する。

 

「ビアン、お前はどう思う?」

 

カーウァイとラドラ、グライエンとイングラムの意見が割れ、ビアンはどっちだとイングラムが問いかける。

 

「今はまだ決断を下すには早いと思う」

 

ビアンの返答はあやふやなお茶にごしの様な返答だった。ビアンの心情的にはカーウァイ大佐達に賛同したい。だが、戦略的にはグライエンとイングラム少佐と言うことも判る。だが泳がすのか、早急に制圧するのかを決断するには余りにも情報が少なかった。

 

「珍しいですねビアン所長、悩んでいると言うことですか」

 

「ああ、正直に言うとどれが正しいかと判断するには資料が少なすぎるんだ」

 

百鬼帝国の危険性は把握しているが、まだ大きな被害と言えばハガネしか受けておらず。また政治家や軍上層部にどれだけ百鬼帝国が入り込んでいるかが判らない。

 

「もしもだ、私の偽物をハガネ、ヒリュウ改が倒したとして、それが計算通りだったとしたら、洗脳などの可能性も捨て切れない」

 

「ユウキからの報告か」

 

リマコンの技術を百鬼帝国は同時にアレンジしていると言うこと、そしてそれによって既にスクールの生き残りの1人が心を砕かれて人形同然になっている。それを知るからこそ余計に慎重になるべきだとビアンは主張する。

 

「倒した相手が鬼ならばいい、だがそれが洗脳、整形された一般人だとしたら? 鬼だと思っていたのが洗脳されていた人間だとしたら? それらを判別する術を見つけるまでは攻勢には出れん。だからこそ戦力を整えるべきだと私は考える」

 

リターンよりもリスクが大きすぎるというビアンの言葉も一理あった。洗脳、成り代わり、敵なのか味方なのかも判らないと言う状況を打破したいと言うのは判る。だがそれを知らない相手からすれば殺人者、クーデーターを思わせることになり、味方である人間からの攻撃を受けるような自体になってはならないとビアンは言う。ありとあらゆる可能性を考え、その上で細心の注意を払う必要がある。

 

「判った。この件は一時保留にしよう。まずは本来の目的であるブラックゲッターのサルベージを優先しよう。そろそろッ……」

 

本来の目的であるブラックゲッターロボのサルベージポイントが近いとグライエンが言いかけた瞬間凄まじい振動がクロガネを襲った。

 

「な、なんだ!? この感じは砲撃かッ!?」

 

「馬鹿なッ!? この深度まで潜って来れるのはスペースノア級でなければ不可能だぞッ!?」

 

敵がいないはず深海でクロガネ改を襲う凄まじい衝撃と振動に全員がバランスを崩し、その場に膝をついた。

 

「スペースノア級であったとしてもこの深度には潜ってこれない筈だ! ゲッター合金で強化しているクロガネだからこそ耐えれる圧力だぞッ! 新西暦ッ……」

 

新西暦の技術では不可能だと言おうとしたビアンが口を閉じた。新西暦の技術で無理ならば何が襲ってきているか、それを推測するのは容易だった。

 

「この深度まで百鬼獣は潜ってこれると言うのかッ!? メカザウルスでも不可能だぞッ!」

 

「だがそれしか考えられないッ! 百鬼帝国もブラックゲッターを狙っていたのか、それともクロガネを追ってきたのかは判らんが状況が不味すぎるッ!」

 

護衛機を出撃させる事も出来ず、緊急浮上をするにしても敵がどこにいるのか判らない。動力部を破壊でもされればクロガネは浮上できず、このまま沈み圧壊するのをただただ待つしかない。

 

『キシャアアアアアアーーーッ!!』

 

勝ち誇るような百鬼獣の雄叫びがクロガネを揺らし、その船体を大きく何度も左右に揺らされる。それは巨大な何かがクロガネの回りを泳いでいるような振動で、百鬼獣にクロガネが補足された言う証だった……。

 

 

 

コーウェンとスティンガーによってブラックゲッターの場所を補足し、そこに共行王を向かわせたブライの脳裏に楽しそうに、しかし残酷な響きを伴った女の声が響いた。

 

『黒き箱舟を見つけたぞ、少しばかり遊んでも構わんじゃろう?』

 

「壊すなよ。クロガネは必要だ」

 

コーウェンとスティンガーが自身を怪訝そうな顔で見つめてくるのに眉を顰めながら、共行王にしっかりと釘を刺すブライ。ブライの計画でクロガネは必要不可欠だ、更にビアンの知識も欲しい以上ここで轟沈させ、ビアン達を殺されては困るのだ。それゆえに念話ではなく、しっかりと声に出し、言霊と共に共行王を縛る。

 

『判っておる。この身体の力を確かめるだけだ、壊しはしないさ』

 

「手加減を忘れるな、絶対にだぞ」

 

『何度も言霊で縛るな、私も馬鹿ではないぞ。では少しばかり戯れ、黒き鬼神を持ち帰ろう。戦果を楽しみにしているがいい』

 

その言葉を最後に共行王からの念話は途切れ、ブライは小さく溜め息を吐いた。

 

「すまないな、話の途中だった」

 

「いえいえ、構いませんよ。ごらんください、これが我々のゲッター合金の製造プラントです」

 

地下に隠されたコーウェンとスティンガーが作り出したゲッター合金製造工場――その中心にはドラゴンの残骸があり、引きずり出された炉心とパイプが直結されていた。

 

「私がお前達に回収させたドラゴンか」

 

「ええ、ですからブライ大帝にゲッター合金をお譲りするのは当然の事でしょう?」

 

「な、なんせ、貴方がいなければシュトレーゼマンもゲッターロボGの修理には踏み切りませんでしたからね!」

 

そもそもゲッターロボを危険視しているシュトレーゼマンがドラゴンの修理に着手したのは、ニブハルの甘言もあったがブライの暗躍もあった。新西暦のゲッターロボの価値を知らない馬鹿からゲッターロボGを取り上げるという目的があったのだ、そのためにコーウェンとスティンガーを紹介し、資金を提供し修理させたのだ。

 

「それで私に譲ると言うゲッター炉心はどこだ?」

 

ゲッター合金が手に入る事よりも今重要なのはゲッター炉心だとブライが言うとコーウェンとスティンガーは更に地下へとブライを案内する。

 

「あ、おかえりなさい! お、お客さんですか?」

 

地下にいた子供を見てブライは眉を細めた。だがその理由はその子供が只者ではないと一目で悟ったからだった。

 

「フォーゲル。すこーし向こうに言ってくれるかな? お仕事の話なんだ」

 

「は、はい。判りました! あ、お茶でも用意しますね! ごゆっくり!」

 

にこにこと笑い駆けて行くフォーゲルと呼ばれた子供の姿が見えなくなってからブライは口を開いた。

 

「ゲッター線を照射した人造人間か」

 

「ほほう! 流石はブライ大帝! 一目で見抜きましたか!」

 

「ひ、一目で見抜きましたか!」

 

コーウェンとスティンガーを一瞥するブライに煽てる様な口調だったコーウェンとスティンガーは黙り込んだ。

 

「アースクレイドルで研究されている者を譲り受けましてね」

 

「それでそれがお前達の子飼いの兵士か?」

 

「まさか、アースクレイドルの戦力ですとも」

 

そう笑うコーウェンだが、その瞳の奥から聞こえる蟲の蠢く音にブライは何か仕掛けがあると思う事にした。

 

「私はいらんぞ」

 

「おや、残念、とても従順でそして強いですよ」

 

「獅子中身の虫を自ら迎えいれる趣味はない」

 

スパイと判っていて、いつその正体であるインベーダーが沸いて出るか判らない化け物を好き好んで迎えるものかと告げたブライ。

 

「まぁ必要となれば声を掛けてください。ではこちらがブライ大帝にお譲りするゲッター炉心です」

 

倉庫の奥に安置されている大型ゲッター炉心――それを見てブライは牙を剥き出しにし、にやりと獰猛な笑みを浮かべるのだった……。

 

 

第78話 深き海の底から その2 へ続く

 

 




今回は短いですが此処までです。77話、78話は短い話で流星夜を切り裂いては半分オリジナルで武蔵をメインでやろうと思うのでここは短めのインターミッション的な話になります。その分後の話はもっと話のボリュームをふやそうと思うのでご勘弁を、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第78話 深き海の底から その2

第78話 深き海の底から その2

 

ブリッジで指揮を取っていたリリーは艦長席から投げ出され床に転がっていた。だがそれはリリーだけではなく、ブリッジ勤務の殆どの人間がそうだった。頭を振りながら立ち上がったリリーの目の前に広がっていたのは巨大な龍の頭部だった。

 

「な、なんて大きさッ! こんな巨大な百鬼獣がいるなんてッ!?」

 

552mのクロガネよりも遥かに巨大な敵影がゆったりとクロガネの周りを旋回している。その全身が巻きついてきたらクロガネが一瞬で押し潰され、圧壊する光景が容易にその脳裏を過ぎった。しかしその最悪の予想はクロガネを襲った振動によって吹き飛ばされ、再びリリーはその場に膝をついた。

 

「くっ!? 何で攻撃されているのか特定出来ましたかッ!?」

 

「わ、判りません! ソナーには何の反応もッ!?」

 

敵の攻撃の正体が判らない、Eーフィールドもゲッター線バリアも貫通し、クロガネを襲う振動は敵の攻撃である事は間違いが無い。だがソナーにも熱源探知機にも何の反応も無く連続で撃ち込まれる「何か」の特定を試みるが何の反応も感じられない。

 

「ソナーの感度をもっと上げてください! それと視覚での感知をッ!」

 

ゲッター合金で強化されているからまだ耐えれているが、それも限界が近い。なんとしても敵の攻撃の正体を明らかにさせなければと躍起になるが、どれほどソナーなどを強化しても敵の攻撃の正体が判らないと言うのは変わらない。浮上して逃げるか、強行突破を試みるか、それとも敵の攻撃が激しくなる事を覚悟で反撃に出るか、3つの選択肢がリリーの脳裏に浮かんだ時。オペレーターの声がブリッジに響き渡った。

 

「リリー中佐! クロガネの進路、2000M先にゲッター線反応感知ッ! モニターに写します!」

 

海溝の岩の間に挟まるようにして停止している人型の起動兵器の姿を見てブリッジの全員が目を見開いた。

鬼を思わせる特徴的な2本角、鉄板を丸めるて人型にしたようなずんぐりとしたフォルム、そして海水の中に浮かんでいるマント……その姿はクロガネのクルーならば誰もが知っている――ゲッターロボの同型機の姿だった。

 

「ブラックゲッターロボッ! くそっ、こんな状況でなければッ!」

 

ブリッジに駆け込んできたビアンがモニターに映っているゲッターロボを見て悔しそうに声を上げた。捜し求めたゲッターロボが目の前にある――それを回収したいが、敵の攻撃を受けている状態では回収艇を送り出すことも出来ない……それにこの深度では機体を出撃させる事も出来ない。その事に歯噛みしていると、クロガネを執拗に攻撃していた龍がその首をゲッターロボに向けクロガネを無視してそちらに向かって泳ぎ始めた。

 

「百鬼帝国の目的もゲッターロボかッ!?」

 

ゲッター合金とゲッター炉心――ゲッターロボを手にすればその両方を手に出来る。それを百鬼帝国が手にすれば今よりも遥かに強力な百鬼獣が生成される事になる――今でさえ強い百鬼獣が今よりももっと強くなろうとしている。それを目の当たりにし、ビアンはある決断を下さざるを得なかった。

 

「主砲をブラックゲッターへッ! 海溝の下に落下させるぞッ!」

 

百鬼帝国に渡すくらいならば、誰の手にも届かない場所に落とす。それが今のビアン達に出来る最善であり、クロガネの主砲はブラックゲッターに向けられた時、海溝を振るわせる女の声が響いた。

 

【それをやってみるが良い、その瞬間にお前達を殺すぞ?】

 

ブラックゲッターに頭を向けていた龍がその首をクロガネに向け、口の中の顔を見せつけながら警告を口にした。

 

【お前達を襲ったのは戯れよ。逃げたくば逃げれば良い、だが鬼神だけは貰い受ける。逃げよ、下等な人間共よ。四罪の超鬼神 共行王から逃げる事を許そう。さぁ往ねッ!】

 

圧倒的な存在感、逃げろと見逃してやるという言葉に誰もが助かったと思った。ビアン達は知る良しも無いが、邪であれど共行王は神に準ずる極めて強力で、強大な存在だ。その言葉は神託となり、抵抗する事の出来ない者から反抗心などを全て奪い去る超常の力を秘めていた。それゆえに嘘はつかない、そして己の発言を歪める事も無い。神としてのあり方、そして傲慢とも取れる態度……だがそれを許される程の力を共行王は有していた。事実共行王の言葉を聞いても闘争心をおらなかったのはビアン、イングラム、カーウァイ、ラドラの4人だけであった。

 

(共行王――四罪……中国の神の1人かッ!)

 

ビアンは逃げるべきだと己の本能が叫ぶ中、それでも敵の発言からその正体を導き出そうとしていた、それにもしも戦える環境であればカーウァイ達も不屈を叫んだだろう。

 

【さて、返答はいかに?】

 

逃げなければこの場で殺してやろうかと嗜虐心に満ちた声で共行王が問いかけ、ビアンが苦虫を噛み潰したような顔で逃げると口にしようとした時だった。この場にはいない筈の第3者の声が海溝に響き渡った。

 

『なんと言う傲慢。これだから神という者は醜悪なのですよ、ワームスマッシャー発射ッ!!!』

 

【ぐっぐうッ!?】

 

海溝に現れた無数の穴から凄まじい数の光の矢が放たれ、共行王の身体を穿つ。

 

「今の声はッ! シュウかッ!」

 

『クックク、お久しぶりですね。ビアン博士、お元気そうで何よりです』

 

湾曲フィールドを展開したグランゾンが悠然とクロガネの前に出現する。

 

【己ッ! 人間風情がッ! それほどまでに死にたいのかッ!】

 

『良いんですか? 貴女の求めているゲッターロボが沈んで行きますよ?』

 

怒りを露にし、グランゾンを攻撃しようとした共行王だが、ワームスマッシャーよって海溝の壁を破壊され沈んでいくブラックゲッターが装甲をへこませながら沈んでいく光景を見て、怒りをその瞳に宿しシュウに呪言を投げつける。

 

【覚えていろッ! 群青の魔神よッ! この恨み必ず晴らしてくれようぞッ!】

 

沈んでいくブラックゲッターを追って海溝の奥に潜っていく共行王。

 

『さぁ、ビアン博士。この場は逃げるとしましょうか』

 

展開されたワームホールにグランゾンとクロガネは飲み込まるようにその姿を消すのだった……。

 

【おのれ、人間如きに】

 

圧壊寸前の所でブラックゲッターロボを回収した共行王は忌まわしげにそう呟いた。鱗が身体から剥がれ、その姿を小型の龍へと変える。この小さい共行王の分身とも言える名もなき小型の百鬼獣がクロガネを何度も襲っていた爆発の正体だった。

 

【探せ、見つけたら私に教えるのだ】

 

【【【こくり】】】

 

近くに居ないと判っていても、自らが下等生物と侮る人間に出し抜かれた事は共行王のプライドを酷く傷つけていた。発見できる確率は低いとわかっていても、追っ手を放たずにはいられなかった。

 

【……この身体にもっとなれていれば……口惜しや】

 

ブラックゲッターの回収は共行王の身体の慣らしも兼ねた作業だった。その過程でクロガネと遭遇したのはビアン達は勿論、共行王にとっても不幸だった。何故ならば、まだ共行王の身体は完全に完成していなかったからだ。その上ブライの言霊でブラックゲッターを優先しろ、クロガネを撃墜するなと縛られていたことも相まって確実に仕留めれるタイミングで取り逃がした事に共行王は苛立ちを覚えたが、それを振り切るように首を左右にふる。

 

【あの鬼の奴に早くこの身体を仕上げさせなくては……それにあやつの指示も聞いた、次は確実に仕留める】

 

以前は龍の身体しか持たないが故にバラルの仙人に出し抜かれた共行王。こうして蘇っても尚弱点をそのままにしているつもりなど無く、グランゾンに出し抜かれた事もあり、早くこの身体を仕上げさせる事を誓い圧壊寸前のブラックゲッターを尾で器用に固定し、海面に向かって泳ぎ出すのだった……。

 

 

 

 

グランゾンの力によって海溝を脱出したクロガネは太平洋のど真ん中に浮上しグランゾンを着艦させていた。このタイミングで姿を現したグランゾンとシュウ――何らかの意図があるビアンは考え、互いの情報交換を提案したのだ。

 

「ビアン博士。お久しぶりですね、元気そうで何よりです」

 

「シュウ。ありがとう、お前のお蔭で助かった」

 

ブリーフィングルームでビアンとシュウは握手を交し、ビアンは助けられた事に対する感謝の言葉を口にしていた。

 

「いえいえ、海中に凄まじいエネルギー反応を感知したので、クロガネを見つける事が出来たのは本当に運が良かった」

 

そう笑ったシュウは警戒の色を浮かべているイングラムを見つめて柔らかく微笑んだ。

 

「イングラム少佐でしたね。お名前はかねがね、こうしてお会い出来て嬉しいですよ」

 

「……こちらもな。お前の事は知っている」

 

「それは光栄ですね。EOTI機関の力も借りずにEOTを解析したと聞いて何者かと思っておりましたが、まさかエアロゲイター側だったとは思ってもいませんでしたよ」

 

「シュウ。そのような言い方はどうかと思うぞ?」

 

シュウの挑発するような口調を聞いてビアンが注意するとシュウはすみませんと口にはしたが、その目にはまだ挑発的な色が宿っていた。

 

「俺についてはどうでも良い事だ。今は俺は地球の為に戦っている、それで良い筈だ」

 

「ククク、それは失礼しました。それと初めましてカーウァイ大佐、1度貴方の話を窺ってみたかったと思っていたのですよ」

 

イングラムに対しては挑発的なシュウ。だがカーウァイに対しては友好的で握手を求める。

 

「シュウ・シラカワだったな、カーウァイ・ラウだ」

 

「ご丁寧にどうも、シュウ・シラカワと申します。よろしくお願いしますね」

 

柔和な笑みを浮かべるシュウだが、カーウァイもその瞳の奥を見て警戒心を強めた。偶然と言う言葉に嘘は無いが、その先に何かほかの意図が見え隠れしているのを感じ取ったのだ。教導隊と言う癖の塊のような連中を纏めていたカーウァイだからこそ判る観察眼――目の前にいる相手すらまともに見ていないようにカーウァイには感じられた。

 

「シュウ、私を探していたと言っていたが……何のようだったのだね?」

 

「ビアン博士が探しているヴィルヘルム・V・ユルゲンについての情報を掴んだ物で、それとインスペクターについて私が独自に掴んだ情報をお伝えに来ました」

 

ビアンが今探している元EOTI機関、もしくはDCに属していた危険な発明をしていた研究者の1人……ユルゲンの名前が出たことでビアンは眉を細めた。

 

「ユルゲンは今どこに?」

 

「それに関してですが、彼はAMNシステムの開発を再開しています」

 

「……やはり……か」

 

ユルゲンが提唱し、そしてアードラーの横槍によって12名もの死傷者を出した狂気のシステム。それがAMNシステム――Armord Module Network Systemだ。元々は人命の損失を最小限にするためのシステムだったが、ビアンはその危険性を一目で見抜いたのだ。仮にアードラーの横槍が無くともその結末は変わらないと確信できるだけの欠陥があったのだ。

 

「ビアン所長。なんだそのAMNシステムと言うのは?」

 

「Armord Module Network System――の頭文字をとってAMNシステムと呼称されたユルゲン博士が提唱したシステムだ。これは少数の人間で大多数の無人機を操り、AMNシステムを搭載している機体にデータを即時に共有し、高い戦闘能力を発揮させるというシステムだ。これにより広い局面でエースクラスのパイロットが搭乗している機体を複数用意できると言う物だったが、致命的な欠陥を抱えていた。だから私は開発の中止を命じた。」

 

ビアンが開発の中止を命じるシステム。本当に人命を守れるのならば、ビアンはそのシステムの改善に協力しただろう。しかしそれをする事無く、開発の中止を命じたというだけでそのシステムの危険性を窺い知る事が出来た。

 

「膨大な戦闘データを扱う機体スペックの問題、量産が前提である筈なのに規格外の高コスト。それに加え膨大な情報伝達が搭乗者の脳に重大な負荷をかけ、普通の人間ではまともに制御できないという重大な欠点を抱えていたのですよ。この欠点を改善する為には、無人機側に情報の媒介・処理用として人間の脳を組み込むという方法を取らざるを得ず。更にその人間の脳を使い捨てにする必要があったのです」

 

「余りにも本末転倒だな」

 

人命を守る為に、人の命を犠牲にする。そんなシステムをビアンが認められる訳が無い、しかし人道を外れればこれほど優秀なシステムは無く、目を付けるものがいるだろうと思いビアンはそうなる前にユルゲンの確保を考えていたのだが、既に開発を再開していると聞いて、その表情を歪めさせた。

 

「その馬鹿はどこにいる。そんなシステムを完成させる前にその男は殺すべきだ」

 

「いえ、私もどこにいるかまでは……ただAMNシステムらしき物で稼動する無人機に襲われたのでね、人を培養液に漬け込んだ狂気の機体にね」

 

シュウの言葉を信じるのならば、既にAMNシステムは完成間近という事だ。

 

「その人はどうなったのだね?」

 

「死にました、脳が耐え切れなかったのでしょう。機体はリオン系列でしたので、恐らくイスルギ重工の関係者に拾われたのだと思いますが……警戒を、私も調べてみますが……思った以上に隠蔽能力が高い。人間とは思えぬほどに」

 

「異星人が協力していると言うことか? シュウ・シラカワ」

 

「そこに関しては何とも、ただあそこまで完璧に痕跡を隠すというのは尋常ではないと言うことですよ」

 

無人機を開発し、その無人機に組み込むエースクラスのパイロットを確保する。今地球の内外に広がっている脅威の事を考えても、それは異常な事だった。

 

「判った。私の方でも調べてみよう」

 

単独で調べる限界はビアンにも判っている。ここからはあちこちの企業に自分の親派が紛れ込んでいるビアンの仕事だ、どこで開発していると言うのが判ればそこから一気に切り崩すしかない。

 

「よろしくお願いします。それとインスペクターに関してですが、南極に現れたフーレの事を覚えていますね? イングラム少佐、あれはエアロゲイターの物ですか?」

 

「いや、違う。良く似ているが、別物だ」

 

シュウに話を振られ少し不機嫌そうだが、イングラムは南極の時のフーレは違うと断言した。

 

「私も半年の間色々ありましてね。ビアン博士、地球内で多発している行方不明事件はご存知ですか?」

 

「あ、ああ。私はそれを百鬼帝国の手の物の仕業だと思っているが……」

 

「違いますよ。あれにはゾヴォーク、インスペクターが所属する星間連合が関わっています。どうも南極に現れたのもゾヴォークの派閥の1つのようです」

 

シュウから告げられた言葉にブリーフィングルームに緊張が走った。

 

「地球でも暗躍していると言うのか?」

 

「ええ、それも地球人を実験動物と見下すような連中です。まぁ、私を狙って襲ってきているので返り討ちにしていますが、彼らから得た情報なのである程度は信憑性はあります。ただ攫われた人達は……手遅れでした」

 

シュウは間に合わなかったと悲しそうに呟き、地球内に蔓延る異星人の悪意をシュウから告げられたビアン達は沈鬱そうに目を伏せる。その中イングラムがゆっくりと口を開いた。

 

「シュウ・シラカワ。俺と会ったのはこれが初めてか?」

 

「はて、私は貴方と会うのはこれが初めてだったと思いますが誰かと勘違いしているのでは?」

 

シュウの返答を聞いたイングラムは小さくそうかと呟く、そのやり取りを見てビアンが怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「シラカワと名乗る男に会った事があったからそれと勘違いしたのだろう。すまないな」

 

「いえ、構いませんよ。それよりも今はインスペクターの事を話し合いましょう」

 

話題をすり替えるシュウにイングラムは眉を細めるが、何も口にしなかった。「今は」それに触れるべきではないと察したからだ……。

 

(状況は芳しくないな)

 

かつてイングラムとシュウは出会っている。SRX計画に使われているオリハルコニウム――それはシュウによって齎された物であり、イングラムがまだ完全に操られる前の事だ。そしてその事を覚えていないシュウにイングラムは己に通じるものを感じ取り、何も口にする事は無く話し終え、クロガネを後にしたシュウを黙って見送る。もしもシュウが出会ったことを覚えていなければ、その事に触れるなとシュウに釘を刺されていたから、もしもそれに深入りすれば地球には今まで以上に混乱が広がると言われていたからだ。

 

(俺1人で何とかしろと言うのか、全く)

 

シュウ・シラカワとの盟約――それは今の段階ではイングラム1人の胸の内に留める必要があり、誰にも相談することが出来ないことでもありイングラムは眉を顰めながら、これからの方針を話し合うビアン達の言葉に耳を傾けるのだった……。

 

 

 

 

レディバードの質素なキッチンで用意されたとは思えない料理に舌鼓を打ち、英気を養ったツグミ達はこれからの方針を話し合っていた。

 

「……駄目です。付近の連邦軍基地からの応答はありません……」

 

ラングレー以外の連邦軍基地の生き残りと共に行動しようと考えていたのだが、それは出足から挫かれることになった。

 

「そうか……アメリカ中部もインスペクターに制圧されつつあるようだな」

 

空間転移を駆使し、1度に大量の兵器を投入してくるインスペクターが相手だ。防衛戦など望める訳が無く、脱出する事さえ奇跡的な出来事と言っても良いだろう。

 

「それに加えてあいつらはこちら側の機体を使ってくる」

 

「乱戦の中ではこれほど恐ろしい事はないな」

 

制圧した連邦軍基地の機体を用いる事で識別コードを誤認させ、友軍と思った瞬間に攻撃されれば戦線は一気に崩される。

 

「今の所都市部に大きな攻撃を仕掛けていないのはどう考える? コウキ博士」

 

「そうだな。インスペクターが求めているのはこちらの技術と軍事力だと思われる。真っ先にテスラ研とラングレー基地を制圧したことを考えれば生産力も求めていると見て良いだろう。戦力が必要ないのならば、都市部をさっさと制圧して人質を確保したほうが良い」

 

百鬼帝国として侵略者側で戦っていたコウキの意見は非常に重要な観点だった。

 

「確かにな、交渉をする上で人質は重要なファクターになる。それをしないと言うことは、まずは補給線の確保とと戦線拡大を重要視しているのだろう。自分達の領土を広げる段階での人質はむしろ邪魔になるからな」

 

そしてそれは反連邦勢力のゲリラの首領を務めていたバンも同じ意見だった。守る側ではなく、攻める側の意見と言うのはツグミ達には少ない物で、コウキとバンの意見にはなるほどと思う部分が非常に多かった。

 

「ムーンクレイドル、マオ社、そしてラングレー基地とテスラ研……それら全てに共通している点が1つある。ツグミ君は判るか?」

 

開発チームの主任だったとしても、脱出した中の面子の中では1番高い階級のツグミだけが話し合いに参加していた。だが今までは黙り込み、そして話を聞くだけだった。レーツェルに振られた内容、そしてコウキ、バンの意見を頭の中で組み合わせ、レーツェルが何を考えているのか、そして自分に何を言わせようとしているのかを考えるツグミ。そしてその答えは今の自分達の状況そのものだと判った。

 

「脱出する物を必要以上に追っていない、そして基地に対する被害が少ないと言う事ですね?」

 

テスラ研に攻撃を仕掛けてきたインスペクターの攻撃は必要以上にテスラ研を破壊する物ではなかった上に、脱出も妨害こそすれど撃墜する気配がなかった。だからツグミは意図的に見逃されたと考えたのだ。

 

「その通りだ。彼らは自分達が後々利用しようと思っている物に対し、必要以上の手を出さない。手にしようとしている戦力、生産拠点、

開発を行なう技術者を失っては本末転倒と言うところだからだろうな」

 

「つまりは、反抗さえしなければ命は保障されていると言うことだな」

 

「ああ、だがそれに安心しきる事も出来ないがな」

 

見せしめとして何人か殺される可能性はあるが、腕の良い技術者は生存させられるだろう。そういう面ではジョナサンとフィリオの命は保障されていると言っても良いだろう。

 

「その上でこれから、私達はどうするんです? 味方は期待出来ず、追っ手も今は無くとも、ずっと無いとは言い切れないこの状況で」

 

不安そうに言うツグミ。ジョナサン達の身の安全が確保出来たとしても、自分達が生き延びなければテスラ研の奪還は夢のまた夢だ。

 

「現段階でのインスペクターは西海岸方面へ勢力を伸ばそうとしている。太平洋方面に抜けるのは危険だ。 我々はこのまま北へ向かう」

 

「でも、 そちらへ行っても同じ事では……やはり距離的に太平洋方面を目指すべきでは?」

 

アメリカ大陸は広いが、それでも多目的に戦力を展開しているインスペクターを相手にすれば逃げ道なんて無いに等しい。現在位置を考えれば太平洋を目指したほうが良いとツグミが提案する。

 

「いや、スペリオル湖にヒリュウ改が停泊している。私はそこから救援に来ている、ある程度近づけばヒリュウ改から迎えが来る筈だ」

 

単独で太平洋を抜けることを考えるよりも、北上しスペリオル湖を目指す方が安全性が高いと聞いてツグミの顔に希望の色が灯る。

 

「それよりもだ。ツグミだったな、カリオンのパイロットはどうだ? 出撃は可能か? コウキ博士を動かす訳にはいかない以上、戦力は決して多くない、ルーキーとは言えカリオンのパイロットも戦力として数えたい」

 

俺は戦えるというコウキの言葉を無視してバンが話を進める。

 

「それに関しては2人とも今は休んでいますが大丈夫です。テスラ研を奪還する為に、立ち止まっていられないと2人とも気合を入れてくれています」

 

「そうか、それならば私も出るから偵察に出る事も考えよう」

 

「そうだな。なに、心配ない。俺も有事に出撃する。安心して偵察に向かってくれ」

 

「「「大人しくしていろ」」」

 

出撃する気満々の重症患者のコウキにツグミ、バン、レーツェルの鋭い突っ込みが入り、しょんぼりした様子のコウキを尻目にレーツェル達はヒリュウ改に合流する為の進路、予測される追っ手の数、会敵する可能性を考えながら慎重に進路の相談を続けるのだった……。

 

 

第79話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その1へ続く

 

 




次回はレーツェル達の視点と武蔵の視点での話を書いて行こうと思います。このまま進んでいくと、現れた影でヴィンデルとエンカウントしてしまうのでハガネからちょっと1回離す予定です。浅草にいるジャーダとガーネットに会わせ、そしてそこで胡蝶鬼とのエンカウントさせてみようかなと考えております。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第79話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その1

第79話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その1

 

 

求め続けたブラックゲッターを百鬼帝国に奪われたのはビアン達にとっても相当な痛手となった。その上シュウから伝えられたユルゲンが今も研究をしていると言う情報はおいそれと聞き流していい物ではなく、対策を練る必要のある情報となっていた。

 

「パイロットが行方不明、あるいは解体された部隊などの情報がないか、情報を集めるように頼んでくれ」

 

「分かりました。すぐに手配します」

 

ビアン達は追われる身であり、情報を得るのが難しい立場と一見思うが、ビアン親派はかなりの数が居り、地球・宇宙の両方にいるので下手な情報部よりもビアンの手元には最新情報が集まっていた。そんなビアンですらユルゲンの情報は持っておらず、ユルゲンを匿っている組織が相当なやり手であると言うことは明らかで軽く見ることの出来る相手ではないと言うことは明らかだった。

 

「ユルゲンの事も気になるが問題はブラックゲッターロボが百鬼帝国の手に渡った事だな」

 

「目の前にしていて奪われたのはかなり痛いな」

 

共行王の横槍がなければ今頃はクロガネの格納庫にはネオゲッターと共にブラックゲッターの2機があるはずだった為に流石のイングラムとカーウァイも気落ちの色を隠す事が出来ないでいた。だが1番気落ちすると思われていたグライエンとビアンは確かに気落ちしている様子だったが、イングラム達ほどではなかった。

 

「随分と表情が明るいな?」

 

「む? そう見えるか? 私とてブラックゲッターを失ったのは痛いと思っているさ、だがな百鬼帝国がブラックゲッターを手にした所ですぐに使えるとは思えないし、戦力として使えるとは思えないのだよ」

 

「それに仮に使えたとしても万全な状態で使えるとは思えない。警戒するべきなのはブラックゲッターロボよりも百鬼帝国がブラックゲッターロボを用いてゲッター合金を量産することだ」

 

ゲッター合金製の百鬼獣を警戒するビアン達はゲッター合金に有効打をいかにして与えるかと言う事に重点を置いて会議を進めたが、百鬼帝国はビアン達の予想を超える方向でブラックゲッターロボを使い、百鬼帝国の戦力として使おうとしているのだった……。

 

 

「ブラックゲッターが使えない? はは、何を言っているのかね? あれは元々使うつもりなど無いよ」

 

「は……は? も、申し訳ありません大帝ッ!」

 

ブライにブラックゲッターの解析結果を伝えに来た鬼の研究者はブライの言葉に困惑気味な返事をしてしまい、次の瞬間には顔を青褪めさせて深く頭を下げながら謝罪の言葉を口にする。

 

「かまわんよ、そんなことで目くじらを立てるつもりはない。コーウェンとスティンガーに渡されたゲッター炉心など安心して使えるものではない、ブラックゲッターの炉心のスキャンをし、それを元に複製後ブラックゲッターの炉心に残されたゲッター線を複製した炉心に移し変えろ。それを元にゲッター合金とゲッター炉心を複製する」

 

「了解しました、ではブラックゲッターは廃棄ですか?」

 

ロストテクノロジーであり、オーバーテクノロジーの塊であるブラックゲッターを修理する術は百鬼帝国にもなく、廃棄でしょうか? という研究者の言葉にブライは大声で笑った。

 

「おいおいおい、そんな勿体無い事をすると思うのかね? あれも大事に使うさ」

 

「ですが修理は」

 

「頭を使いたまえよ。誰が修理をすると言った? アースクレイドルのマシンセル、それを投与して変異の推移を観察すればいいではないか、マシンセルと融合し新たなゲッターになるも良し、失敗するもまた良しだ。ゲッターロボとしての能力は失ったとしても十分に使える代物にはなるだろう」

 

通常の方法では修理が出来ず、ゲッター合金を作ろうとしていると言うのはビアン達の予想通りだったが、マシンセルによって進化あるいは変異を促すというのはビアンにとっても想定外であり上手く適合し、ゲッター合金とマシンセルが融合し新たな物質になってもよし、失敗しても良いという考えでマシンセルを投与しようとしているのは全くの予想外の事だった。

 

「パイロットはいかがしますか?」

 

「丁度鬼にしようとしていた人間がいるからそいつにすれば良かろう。人間ではあるが見所がある、ワシには分かるぞ。あいつは良い鬼になる」

 

そう笑うブライの手元の書類にはアーチボルドの顔写真とその主だった経歴が記されているのだった……。

 

 

 

ツグミ達が脱出の為の経路、予想される追っ手の数、ヒリュウ改との連絡を取れないかと言う試みをしている頃。1度仮眠を取ったスレイとアイビスは格納庫に保管されている機体を見上げていた。

 

「ねえ、スレイ」

 

「なんだ」

 

「プロジェクトTDの機体って聞いてるけどさ……これも?」

 

「……どうなんだろうな。ただ兄様が設計しているのは見た」

 

スレイとアイビスの顔は信じられない物を見る目をしていた。そしてそれは一緒に仮眠を取っていたクスハも同意見だった。

 

「女の子ですよね、完全に……それにこの顔、ラトゥーニとシャイン王女?」

 

フェアリオンタイプGとSを見てのこの反応だった。ラトゥーニとシャインの2人をそのままAMのサイズにした……それこそAMサイズの美少女フュギュアと言っても良い出来だった。

 

「モデルはその2人だな。リクセントからの依頼だ、俺は正直馬鹿か? と言いたかったよ」

 

3人の会話に割り込んできたのは杖を小脇に抱えているコウキだった。その姿を見てクスハがすぐにコウキに声を掛ける。

 

「コウキさん、駄目ですよ。ちゃんと杖を使って歩いてください」

 

「もう普通に歩ける程度には回復してる。俺だって偵察なり戦闘なり参加できると言ったら会議から追い出されたんだ」

 

それは当然と思ったが物凄い不満そうにしているコウキを前にスレイとアイビスは苦笑する事しか出来なかった。

 

「リクセントのパレードに用いられる象徴として設計されたんだ。この姿を見たら兵器には見えないだろう?」

 

「「「まぁ。確かに」」」

 

これを兵器と言えば、その人物の正気を疑う。コウキの問いかけにスレイ達は声を揃えてそう返事を返した。

 

「それこそがリクセントとカザハラ博士とフィリオの狙いだ。装甲を装着したらAMとしての機能は十分に発揮出来る、火力は小型な分控えめだが、それでも中立国として兵器を持つことが出来ないリクセントには十分な火力になりうる」

 

コウキの説明を聞いてスレイとクスハは納得した様子だったが、アイビスだけはうん? といまいち判っていない様子で唸っていた。

 

「えっとつまり兵器をもてないから女の子をモチーフにしたAMを作ったって事ですか?」

 

「そうだ」

 

「……カザハラ博士とフィリオもしかして疲れてました?」

 

「それは俺も思っている。ちなみにツインテールと縦ロールで物凄く揉めていたぞ、とっ組み合いで研究所の床を転がり回っていた」

 

設計した段階と依頼を受けた段階で疲れていたのではないか? と言う疑惑はずっとコウキは持っていたし、説明を聞いても全員がそう思った。そして髪型で揉めていたと聞いて、それは確信に変わっていた。

 

「それよりもだ。コウキ博士、何をしている。養生を優先してくれ」

 

「そうですよ。安静にしていてください」

 

スレイとクスハに安静にしていろと言われるとコウキは嫌そうに眉を細めた。

 

「この状況でジッとなんかしていられるものか、それにαプロトの設定は俺にしか出来ん。使う事になるかもしれない機体を中途半端な状態にしておけるか」

 

自分の傷よりも科学者、開発者として矜持を口にするコウキ。それに対して安静にしていて欲しいクスハとスレイの間でもめていると、格納庫を見ていたアイビスがある物を運んできた。

 

「じゃあ車椅子なら良い?」

 

歩かせるのではなく車椅子ならと妥協案を認めたスレイとクスハに対してコウキは嫌そうにしていたが、車椅子に座らされ、アイビスに押されながら格納庫のコンテナの前に移動していた。

 

「これがαプロト……か」

 

「ガーリオンに少し似てますね」

 

コンテナの中の機体を見て感慨深そうにしているスレイと見た感想を口にするクスハ。だが車椅子を押しているアイビスは動揺を隠せなかった。

 

「いやいやなんで白銀ッ!? これじゃあ、あたしの機体みたいじゃないか!」

 

アイビスはスレイのパーソナルカラーの赤を想像していた、それなのに白銀のαプロト――アステリオンを見てそう声を上げるのだった……。

 

 

 

プロジェクトTDの完成形の1つアルテリオンの試作機、それがαプロトであると言う事はアイビスも知っていた。フィリオがアイビスがアステリオンのパイロットにすると言う話も聞いていたが、それはもっと先の話だと思っていた。現実に白銀に染められたアステリオンを見て、自分が力不足だからスレイがフォローする為にベガリオンに乗ると言う話を思い出し、その顔を不安一色に染め上げる。

 

「そうだ、アステリオンはお前の機体だ。アイビス」

 

「いやいや!? スレイはそれで良いの!?」

 

1番この決定に反対するであろうスレイにお前の機体だと言われ、アイビスは思わずそう尋ねる。

 

「良いか悪いかで言えば不満はある。だが未熟者のお前の生存率を高め、私がフォローするとなればベガリオンの方が良い。そうだろ、コウキ博士?」

 

ドヤ顔で尋ねるスレイだが、コウキの反応はあ、ああ、うんと言う感じだった。

 

「待て、まさかベガリオンは」

 

「……出来てないな」

 

βプロト――ベガリオンが既に完成していると思っていたスレイはがっくりと肩を落とし、クスハとアイビスがおろおろしているとコウキがクククと喉を鳴らす。

 

「まさか騙したのか!?」

 

からかわれたのかとスレイが詰め寄るとコウキはすまんすまんと謝罪の言葉を口にする。

 

「いや、出来てないのは本当だ。だが、ベガリオンのテスト運用をするための強化パーツは持ち込んでいる。カリオン・改とでも言っておこうか。それの組み上げと装着はもうすぐ完了する筈だ。偵察はスレイとアイビス、それとレーツェルの3人で出て貰う事になると思うが……」

 

「その時にまさか」

 

「そのまさかだ、アステリオン、カリオン改で出て貰う」

 

アイビスの不安そうな問いかけに返事を返したのはコウキではなく、レーツェルだった。

 

「作戦会議は終わったんですか? エルザムさん」

 

「私はレーツェル・ファインシュメッカーだ。決してエルザムではない、判ったかね?」

 

自然にエルザムと呼んだクスハに指を付きつけ、エルザムではないと主張するレーツェルにクスハは何とも言えない表情で頷き疑問を口にした。

 

「あのでも、新型機だと敵を呼び寄せるのでは?」

 

インスペクターの狙いが新型機ならばアステリオンとカリオン改を持ち出した段階で敵を呼び寄せるのでは? と尋ねるとレーツェルは小さく頷いた。

 

「どの道スペリオル湖に向かう距離を考えればインスペクターの妨害に合う事は間違いない。それならば先に誘き寄せ私達で戦っている間に後方をとる。そしてはさみ打ちの形にして強引に突破する」

 

「後方? 援軍の算段があるのか?」

 

孤立無援の状態で援軍なんて来るのか? と言わんばかりにレーツェルに問いかけるスレイ。

 

「ああ、ラングレー基地からの脱出に協力した際にライノセラスで私とバン大佐は来ている。彼らは今ヒリュウ改と別行動を取っているのでこちらに支援に来る事は十分可能だ」

 

「連絡はついてるのか? レーツェル」

 

「抜かりない。彼らがインスペクターの後方を取れるように我々で囮、そしてレディバードが離脱することが可能な進路の偵察を行なう。これには速度、及び突破力が要求される」

 

敵を誘導しつつ、素早い索敵が要求されることになる為に機動力に秀でたアステリオン、カリオン改、ゲッター2・トロンベの3機が必要なる任務だ。

 

「私は輸送機の護衛ですね?」

 

速度と突破力を要求されるといわれ、クスハは自分の搭乗機であるグルンガスト弐式ではその2つの条件を満たしていないと即座に判断し、自分の任務がレディバードの護衛だと悟り、レーツェルにそう問いかける。

 

「ああ。私達で進路、敵の進軍スピードなどを調べ、それを元に慎重に行動してくれ。バン大佐が行動を共にしてくれるから心配は無いだろう」

 

戦力を分散するリスクを背負わなければ、この状況は打破できない。動き出さなければ、相手に殺される。誰も口にしないが、死神の鎌が自分の喉下に突きつけられているのを全員が感じていた。

 

「所でコウキ博士、安静にしているようにと言った筈だが何をしているのかな?」

 

「この状況で大人しくなんか出来るか、ヒリュウ改と合流したら大人しく療養するさ。それまでは俺も動く」

 

何を言っても無駄だというのを感じ取り、レーツェルはやれやれという感じで溜め息を吐いた。

 

「それで出撃にはどれくらいかかる?」

 

「1時間以内には準備が済む、それまでに航路などの想定をしておいてくれ」

 

全員で力を合わせなければこの窮地は乗り越えることは出来ない。全員で一丸となり、百鬼帝国、そしてインスペクターの脅威に立向かおうとしているのだった……。

 

 

 

 

 

一方その頃、アビアノ基地に向かっているハガネの艦長室でダイテツと通信で繋がっているシロガネの艦長室のリーは揃って眉を細めていた。

 

『ダイテツ中佐のほうはどうですか?』

 

「こちらもそちらと同じだ。ゲッターロボのパイロットを大統領府への出頭命令が出ている」

 

『それも機密コードでですね?』

 

人の口に戸は立てられない。シャインの救出の際にも、ムータ基地の際にも新型ゲッターロボは目撃されている。そのパイロットが何者であれ、ゲッターロボはこの情勢は非常に重要な機体である。インスペクター、ノイエDCと戦う為に連邦の軍本部と大統領府の所属を命じるという内容の電文、そして直接的に命令も下されている。確かにSSSの機密コードでの指令ではある……しかしそれを容易に受け入れることがダイテツとリーには出来なかった。

 

『そうですか……ダイテツ中佐はどう判断しますか?』

 

「恐らくは成り代わっているとワシは考えている」

 

確かに機密コードは使用されているが、正規の文面と異なっていたり、一部のコードが間違っていた。それらから大統領府への呼び出しが罠であると考えていた。

 

『彼なら自力での脱出も可能だと思われますが……』

 

「だがそうなると再び武蔵が追われる身になる可能性もある」

 

それにどれだけの人間が鬼になっているかも判らない以上武蔵なら脱出出来ると思っていても、容易に武蔵を送り出すことは出来ない。

 

「ワシは武蔵を1度ハガネとシロガネから離すべきだと考えている」

 

アビアノ基地まであと10時間ほど、後1回か2回は戦闘になる可能性は高く、その中に百鬼獣、そして龍虎皇鬼が混じってくる可能性は十分にある。その場合ハガネとシロガネだけの戦力で跳ね返すのは難しくなるが、このまま武蔵をハガネとシロガネに残しておくのは危険だ。ステルスシェードによって発見されない可能性を祈り、アビアノ基地まで強行する。この作戦とも取れない博打が今のダイテツとリーに打てる最善の手段だった。そして武蔵が逃がす場所は今の段階では1箇所しか存在していない。

 

『伊豆基地のレイカー司令ですか?』

 

「ああ。レイカーの元が1番安全だとワシは考えている。武蔵に伊豆基地に向かってもらい、そこで戦時特例で伊豆基地とハガネ、シロガネ隊に正式に所属させる」

 

『殆ど裏技ですね』

 

「覚えておけ、リー中佐。これが規則の裏を突くということだ。軍上層部とぶつかることになったらまずは正規の手順を踏むことを覚えておけ、向こうが正規の処理をしていないのならば、こちらが正規の手続きを踏んで武蔵を囲ってしまえば良い」

 

SSS機密を使えばいいと思っているだけの百鬼帝国は穴だらけで、正規の手順を殆ど踏んでいない。ならばダイテツ達は正規の手順を踏んで武蔵を守れば良いのだ。

 

『しかしそうなるとシャイン王女が……』

 

「そこは武蔵に何とかしてもらおう」

 

流石に伊豆基地にシャイン王女を連れて行くわけにもいかない。そこは武蔵に上手く説得して貰うしかない。

 

「ダイテツさん? 呼ばれたから来ましたけどー?」

 

「ああ。すまない、入ってくれ」

 

さっき艦内放送で呼んでいた武蔵が扉をノックする音が響き、ダイテツは武蔵を艦長室に迎え入れる。そしてリーと話し合った内容を武蔵にも説明する。

 

「よく判らないですけど、オイラがこのままハガネにいると不味いって事は判りました」

 

「……そうか」

 

30分近く話をして武蔵が理解したのはそこまでだった。ダイテツとリーは疲労を隠しきれなかったが、状況が良くないと言うことだけでも理解してくれたのでそこから話を進める。

 

「こちらで伊豆基地のレイカーに連絡を取っておく、武蔵はシャイン王女とエキドナだったか、彼女を説得出来次第ハガネから出発して欲しい」

 

シャインとエキドナが武蔵を取り合って張り合っているのはダイテツも知っていたので、武蔵がいないと知ってあれるであろう2人に説明するように武蔵に頼む。ユーリア? あれはポンコツだから問題は多分ない。

 

「それは良いんですけど、あのー日本に行くなら伊豆基地に向かう前に行きたい所があるんですけど良いですか?」

 

この状況での単独行動だけでも危険だ。出来れば真っ直ぐに伊豆基地に向かって欲しいと言うのがダイテツとリーの考えだった。しかし、武蔵にどこに行きたいのかと問いかけ、その理由を聞いては納得は出来ないが理解は出来た。

 

「いや、浅草にジャーダさんとガーネットさんがいるんですよね? 退役してるから会えないだろうし、伊豆基地に向かう前に顔だけでも出しておきたいなって」

 

ジャーダとガーネットは武蔵ともかなり仲が良かった。ガーネットが妊娠したのを切っ掛けに退役したが、ジャーダは今でも武蔵の事を探している。

 

「判った。浅草に向かう事を許可しよう。しかし、2人と会ったらすぐに伊豆基地に向かうと約束出来るか?」

 

「オイラの事を心配してくれてるのは判りますんで、会ったらすぐにでも」

 

ジャーダとガーネットにあったらすぐに伊豆基地に向かうと言う約束で、ダイテツは武蔵に浅草に寄り道する事に許可を出した。

 

「場所はラトゥーニ少尉が知っている」

 

「判りました! ありがとうございます!」

 

満面の笑みで艦長室を出て行く武蔵の後姿をダイテツとモニター越しのリーは疲れた様子で見送る。軍人とすれば寄り道は認められない、だが武蔵は民間人であり、良いも悪いもその気分で大きく影響を受ける。ここで駄目だと言って反感を買うくらいなら武蔵に浅草に向かう事を許可したほうが良いとダイテツは判断したのだ。

 

「ええ!? なんで、何故!? 武蔵様が行くなら私もッ!」

 

「……私も」

 

「いや、なんか軍の仕事らしいからオイラだけじゃないと駄目みたいなんだ」

 

「イヤですわ!」

 

「(ふるふる)」

 

「参ったなあ。すいませーん、イルムさん! エクセレンさん! ヘルプッ!!」

 

武蔵が1人で日本に向かうと言うとやはりシャインとエキドナは猛反発し、イルムとエクセレンに助けを求める。武蔵が2人を説得してハガネを出発したにはダイテツとの話を終えてから約2時間後の事なのだった……。

 

 

 

 

 

 

地球連邦軍極東方面軍伊豆基地にハガネのダイテツから機密コードによる通信が行なわれていた。

 

「判った。こちらのほうで武蔵君の受け入れ準備と浅草周辺の警戒はしておこう」

 

『すまないなレイカー。本当なら伊豆基地に直行させたかったのだが……』

 

武蔵が日本に向かっていると聞いたレイカーは武蔵の受け入れ準備、そして浅草の警戒を強めるとダイテツに返事を返した。ゲッターロボは良いも悪いも目立ちすぎる、武蔵も馬鹿ではないのでポセイドンで海中を移動してくる筈だが、それでも警戒は強める必要がある。

 

「構わない。武蔵君は軍人ではない、こちらの都合を押し付けることも出来ん」

 

武蔵はあくまで民間人だ。軍規で縛る事は出来ないし、何よりもそんなことをすれば武蔵の反発を買う。余り無理難題でなければレイカーはそれを受け入れるべきだと考えていた。

 

「それよりも余り通信を続けると敵に捕捉される。続きはアビアノ基地についてから聞こう」

 

『了解した。そちらも気をつけてくれ、敵の攻撃は予想以上に激しいぞ』

 

「判った。そちらも気をつけてくれ、ハガネとシロガネが沈んでは我々には反撃の芽さえ見えなくなってしまうからな」

 

互いに気をつけるようにと言葉をかわし、レイカーは司令室の椅子に深く背中を預けた。武蔵の生存は何よりも嬉しい情報の1つだ、それにヒリュウ改がラングレー基地の隊員の殆どを回収し、SRX・ATX計画の何れの試作機・機体も回収できた。更にテスラ研の救出に向かったレーツェルからも一部の研究者をインスペクターに人質に取られたが、機体は全て回収することに成功し、今はヒリュウ改との合流し南米からの脱出を試みていると言う情報も入っている。

 

「ケンゾウ博士、待たせたな」

 

「いえ、問題ありません。しかし状況は悪化を辿りますな」

 

ビアン本人か、ビアンを語る偽者かと様々な情報が錯綜しているがノイエDCの出現、宇宙はインスペクターを名乗る異星人、そして旧西暦からの刺客である百鬼帝国の復活――そして謎の生命体の目撃情報。今の地球内はとんでもない事態に陥っている。

 

「そこまで判っているのならば、私も歯に衣を着せるのは止めよう。もはや状況は予断を許さない。今後の戦いはL5戦役以上の物となるだろう……故に我々は一刻も早く戦力を整えなければならん」

 

L5戦役時の武蔵の特攻――それは自分達の力の無さが原因だ。半年の間出来うる限りの準備をしてきたつもりだったが、それでもまだ足りない。SRX計画は更なる段階に進まなければならない、ケンゾウもそれは判っており、更に1歩、いやもっと前に進む為にレイカーに直談判に訪れていたのだ。

 

「それならばなおの事、R-GUNのパイロットに彼女を……いえ、SRXチームにマイの参加をお認めください」

 

今となっては亡霊なのか、それともゲッター線の奇跡なのかは判らない。だがゲッターロボによってアイドネウス島沖から発見されたホワイトデスクロスの中から発見された少女――恐らくレビ・トーラーと言う役割を与えられていた地球人の少女を、ケンゾウは自分の娘であるマイと認めていた。

 

「今の段階では承認出来ない。R-GUNは引き続きヴィレッタ大尉に預ける」

 

「レイカー司令。それではR-GUNの力を最大限に発揮出来ないと説明したではありませんか」

 

R-GUNは念動力者が乗って初めてその力を最大限に発揮出来る。ヴィレッタは確かに優秀なパイロットだが、念動力者ではない。

 

「我々は何の為にR-GUNのT-LINKシステムを改修したのですか? それは全て地球を守るためです」

 

SRXの力を最大限に発揮させる為にケンゾウはR-GUNの改修を行い、後はマイが正式にR-GUNのパイロットになるだけと言う段階でのレイカーのストップにケンゾウは不満を隠せなかった。

 

「どの道まだR-3は運用出来ないのだ、まずはゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムで様子を見るべきだ」

 

R-3はアイドネウス島での捜索で酷使をしすぎて今もオーバーホール中だ。それに伴いアヤの仮の機体として、そして量産型Rシリーズの試作機であるゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムで1度を様子を見るべきだとレイカーは主張していた。

 

「しかし、それでは間に合わぬかもしれません」

 

「ケンゾウ博士の気持ちも判る。だが彼女がそれを望んでいるのかね?」

 

レイカーの懸念――それはマイがレビ・トーラーなのかではなく、彼女がアヤやケンゾウの為にPTに乗ろうとしているのではないかということだった。

 

「ケンゾウ博士とアヤ大尉の報告で彼女にレビ・トーラーとしての記憶がない事は確認されている。しかしだ。そうなれば彼女は戦闘経験のない少女だ、そんな少女を私はこれから激しくなる戦いに無理に参加させることはしたくない」

 

SRXとR-GUNのツインコンタクトによって齎される超火力、そしてアヤを遥かに上回る念動力に開眼したリュウセイ――それらを用いれば間違いなく地球の切り札になると言う事はレイカーにも判っていた。そしてその力を欲しているのはレイカーも同じだ。

 

「地球を守る為にと言う名目で誰かを犠牲にするような事は2度とあってはならないのだ」

 

「……申し訳ありません。焦りすぎておりました」

 

ケンゾウはレイカーを誤解していた。マイ=レビと考えているから許可しないと思っていたのだが、実際は誰よりもマイの事を案じてくれていたのだと……それが判ればケンゾウも父として無理強いをすることは出来なかった。

 

「レイカー司令の言う通りにしたいと思います」

 

「判ってくれたのならば良い、ケンゾウ博士。焦る気持ちは判る、だが焦りすぎて若者に道を閉ざしてしまうことだけは避けねばならないのだよ」

 

レイカーの言葉にケンゾウは自分がどれだけ焦り、見なければならない物から目を逸らしていたのを再び思い知る事になるのだった。今だってマイはアヤとケンゾウの期待に答えようとしてシュミレーターによる訓練を行い、その疲労で倒れてしまった。レイカーはそれを知っていたと言う事が判り、自分がどれだけ父親として間違っているのかと言うのを思い知らされ、肩を落としてレイカーに一礼し、司令室を後にしたケンゾウはそのまま医務室に足を向けた。

 

「う、うううッ! ううッ!!!」

 

ケンゾウが医務室に向かって歩き出した頃、医務室では幼い少女の苦しむ声が響いていた。

 

「マイ、しっかりしてッ! マイッ!」

 

ベッドに横たわるピンク色の髪をした少女――マイ・コバヤシの肩をアヤが揺すり、何度も声を掛けるとマイはゆっくりと目を開いた。

 

「アヤ……」

 

焦点の合っていない瞳が徐々にあって行き、自分を心配そうに見つめているアヤに気付いたのかその名前を小さく呟いた。マイが目を覚ましたことに安堵した様子のアヤは濡らしたタオルを手に取り、ベッドサイドの椅子から立ち上がりマイに身体を寄せる。

 

「酷く魘されていたわ……大丈夫……?」

 

タオルで汗を拭われ、近くにアヤが居ると言う事に安堵したのかマイはアヤの服を片手でつかみながら口を開いた。

 

「……夢を見た……」

 

「夢……? どんな夢? 怖い夢だったのかしら?」

 

夢を見たと聞いてアヤは身体を強張らせるが、目覚めたばかりの不安定なマイはそれに気付かない。

 

「……よく覚えてない……でも、もう平気だ……アヤが呼んでくれたから……」

 

ぬくもりを求めるように手を伸ばしてくるマイの背中に手を回し、アヤはマイの身体を抱き締める。

 

「アヤの声を聞くと……アヤが傍にいてくれると……心が安らぐ……アヤが一緒なら……大丈夫って思える。何も怖くなるんだ」

 

アヤに抱き締められ安心したのか、安らかな顔をして眠りに落ちるマイの頭を撫でながら、アヤはマイの身体を包み込むように抱き締めた。

 

「ええ……一緒にいるわ。貴女は……私が守ってあげる……貴女は私のたった1人の妹だもの……」

 

眠りに落ちたマイにアヤの言葉は届かず、アヤの言葉は自分自身に言い聞かせるような響きを帯びていた。その光景を医務室の外から見ていたケンゾウは己の業、己の罪を目の当たりにし、逃げるようにその場を後にするのだった……。

 

 

 

 

第80話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その2へ続く

 

 

 




後半シナリオの頑張れ武蔵さんではアヤと再会させたりするので、ここでアヤとマイを出しておきました。現在は共依存みたいですけど、イングラムが生きていると知ればアヤさんはそっちに行きますし、マイはきっとリュウセイのほうに行って、ラトちゃんと衝突しますね(確定)次回は前半シナリオはサイバスター登場まで、後半は武蔵が浅草に到着くらいで8-2か、7-3くらいの文章構成で書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第80話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その2

第80話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その2

 

シルベルヴィントのコックピットに響く声を半ば聞き流しながら、アギーハは自分の爪に鑢を掛けていた。

 

『聞いているのか? アギーハ』

 

「聞いてるよ、あんたが逃がしたテスラ研の輸送機を追えって言うんだろ? でもねえ、態度悪いんじゃない?」

 

レーダーで既に捕捉しているが、ゲッター線の反応もある段階でアギーハは追うつもりなんて微塵も無かった。ゲッター線に関われば破滅する。それはアギーハとシカログの生まれた星での常識だ、ゲッター線の調査に向かうと言う段階で祖父母にも両親にもゲッター線から逃げろと口を酸っぱくして注意されていればアギーハも積極的に動こうという気持ちにはならない。

 

『お前にも手柄を立てさせてやろうと言っているのだぞ』

 

「あーはいはい、ありがとね、でもあたいはそういうの良いから、あんたから報告を聞いて、ウェンドロ様の所に戻るだけだから手柄とかどうでも良いのさ」

 

手柄を立てさせてやるではなく、自分の尻拭いをしろと言う意味があるのは判りきっているのでアギーハは余計に動く気にならない。そもそもシカログと離されている段階でやる気なんて物はないのだ。

 

『……む』

 

「なに? 聞こえない。用が無いなら通信を切るよ」

 

鑢で削り終え、ふっと息を吹きかけて綺麗に整ったのを確認しながらアギーハが言うと、ヴィガジが通信機越しで唸り、震える声でアギーハに頼み込んだ。

 

『試作機等を奪えとは言わん。お前の目から見た戦闘データも記録してくれ、頼む』

 

「最初からそう言えば良いのさ、ま、ほどほどであたいも手を引くからね」

 

『それで構わん、頼む』

 

ヴィガジから頼むと言う言葉を引きずり出したので、アギーハはやっと身体を起こした。

 

「あんたが遭遇した地球人の機体のデータをこっちに回して」

 

『判った。すぐに送る、頼んだぞ』

 

「はいはいっと、気が向いたらね」

 

シルベルヴィントに送られて来たデータを確認する為に通信を切るアギーハ。気が向いたらと言っておきながらその目は鋭く、完全にスイッチが入っていた。その時だった、既に捕捉していた輸送機から高速で移動する熱源が3つを探知したのだが、その速さは自身の愛機であるシルベルヴィントに匹敵していた。

 

「へえ、面白いじゃないのさ」

 

その中にゲッター線反応があるのは判っていたが、ヴィガジから送られて来たデータの中に宇宙で遭遇したゲッターロボではなく、旧式のゲッターロボであると判れば、恐れは無く自分の愛機と同等のスピードを持つ3つの熱源に対する強い興味を抱いていた。

 

「まずは様子見だね」

 

だが興味を抱いているからと闇雲に襲い掛かるような真似はしない。確かにアギーハは感情的で、地球人を見下している。だがまぐれか実力かは判らないが、ヴィガジを何度も退けて脱出して見せている。ヴィガジは直情的でそして失態を繰り返しているが査察団に選ばれるほどの実力の持ち主だ。そんなヴィガジが自分の進退が掛かっているところで手を抜く訳がない、その段階でゲッターロボほどでは無いが、地球人も警戒するには十分な相手だとアギーハは判断していた。

 

「あたいは油断も慢心もしないよ」

 

まずは様子見、相手の動き方を調べた上でそこから攻め込むのだ。その為に様子見を兼ねて攻撃を仕掛ける事にしたが、ヴィガジの言う手柄等には興味は無く、今後の為を考えた戦いをするつもりだった。

 

「ま、逃したところであたいの責任じゃないし、輸送機は見逃してやるねえ」

 

輸送機を確保した所でヴィガジの手柄になる。自分が苦労してヴィガジに手柄を立てさせるほどつまらない物は無く、アギーハは停泊している輸送機に目もくれず、高速で移動する3つの熱源だけをターゲットにし動き出すのだった……。

 

 

 

 

カリオンの胴体に挟み込むような形で装着された拡張パーツ。それらによって空気抵抗は今まで以上に軽減され、ノーマルのカリオンの2倍近い推進力と加速力を得たカリオン・改のコックピットからスレイはアイビスに通信を繋げた。

 

「何をしているアイビス。スペック上はアステリオンの方が上なのだぞ、編隊から外れるな」

 

『ま、まって、バランスが……』

 

ゲッター2・トロンベとカリオン改はぴったりと地上と空中の差こそあれど、ぴったりと並走していた。だがスペック上はカリオン・改を圧倒的に上回っている筈のアステリオンが遅れている。それはアイビス自身が乗りこなせていないといないと言うのが大きな要因になっていた。

 

『落ち着いて操縦するんだ。フィリオが君を選んだんだ、操縦は問題なく出来る筈。カリオンと同じ感覚で操縦すれば良い』

 

「そうだ、スピードと空気抵抗に惑わされず。普段通りに操縦すれば良い」

 

レーツェル、スレイの助言を聞いて徐々に遅れていたアイビスがスピードを上げてくる。その姿を見てスレイは操縦桿を握り締め、ジリジリとスピードを上げる。

 

『あまり意地悪をしてやるなよ。スレイ』

 

「大丈夫です。アイビスはこの程度ではへこたれません、むしろ私に喰らいついてくるでしょう」

 

スレイの言葉の言う通り、徐々にスピードを上げてくるアステリオンを見て、レーツェルは小さく苦笑する。スレイには越えるべき壁が無く停滞していたが、アイビスにとっては超えるべき壁であり、そして同じプロジェクトの仲間として切磋琢磨して信頼している。スレイが出来るなら自分も出来ると奮起するのは上を目指す上で必要な物だった。

 

「熱源感知、掛かったようですね」

 

『えっ!? こ、こんなに早くッ!?』

 

しかし微笑ましく過ごせるのは此処までだった。レーダーに熱源反応が複数探知された、熱源の大きさからPT・AMサイズ……インスペクターの追っ手を想定通りに引き寄せることに成功していた。計画通りと言えば、計画通りだがまだアステリオンの操縦に慣れていないアイビスからは悲鳴にも似た声が上がった。

 

「落ち着け、シュミレーターで実戦トレーニングは何回もしているだろう。後は普段通りにやれば問題ない」

 

『で、でも、あたしじゃこの子を落としちゃうかもしれない』

 

不安と恐怖で雁字搦めになって動けなくなっているアイビス。以前のままのスレイならアイビスをフォローする事はなかったが、フィリオのメッセージ、そしてコウキによって課せられたハードなトレーニングで仲間意識を芽生えさせていたスレイは不安そうなアイビスを励ます言葉を口にした。

 

「皆で生き残るんだろう? 私もレーツェルさんもフォローする。まずはやるだけやるんだ。やる前から緊張し、縮こまっていては何も出来んぞ」

 

1人での作戦ならばこのアプローチが全ての明暗を分ける。いや、もっと言えば自分だけではなく部隊全員の命に関わるのだから緊張するのもわかる、だがだがこの作戦は3人による共同作戦だ。アイビスが失敗しても、レーツェルとスレイがフォロー出来る。だから緊張しすぎるなと言うスレイのぶっきらぼうだが、アイビスを心配する言葉にアステリオンのコックピットでアイビスは小さく微笑んだ。

 

『スレイ……うん。判ったッ!』

 

スレイの言葉に一瞬驚いた様子だったが、すぐに普段の明るい声で返事を返す。

 

『大丈夫そうだな。我々はこのまま南西にしライノセラスが後を取れる方角に移動する。エンゲージポイントはマーカーで指定する、そこまで移動したら反転し応戦する。隊列を乱すなよ、加速してレディバードから引き離す』

 

「『了解ッ!』」

 

先陣を切って加速していくゲッター2・トロンベの後を追ってカリオン・改、アステリオンは加速し、それを追って加速してくるインスペクターの機体を振り切らないギリギリの速度を維持したまま荒野を駆け抜けていく。加速のGと、吹っ飛んでいく景色――それらを文字通り全身で感じながらスレイは小さく唇を舐める。新型機で緊張しているのはアイビスだけではない、スレイもまた緊張し、なれぬ機体を必死で使いこなそうとしていた。

 

『そろそろだ。落ち着いて対応すれば問題ない、3、2、1で反転する。2人の先制攻撃で相手の出鼻を挫くぞ』

 

今回の作戦の為に特別に搭載されたCTM多目的戦術弾頭弾による開幕先制攻撃、これで相手の多くにダメージを与える。レーツェルの号令にスレイとアイビスの2人は全神経を集中し、0の合図と共にブースト・ドライブを解除、即座に反転しCTM02-スピキュールを全弾発射するのだった……。

 

 

 

 

DC……ディバインクルセイダーズの開発した大気圏内外、地対地、空対空などの区別なく、あらゆる状況に対応した兵器で、フィリオが基礎設計を行ったからか、恒星や惑星、銀河の名前を関したミサイル群で、その中でCTM02-スピキュールは高速で移動しながら発射するという前提で開発されており、攻撃範囲、攻撃速度共に優秀な多弾頭ミサイルだ。癖が無く、使いやすいと欠点らしい欠点がないミサイルだが、強いて弱点と言うか欠点を上げるとすればその多弾頭ミサイルという性質上非常に嵩張る装備で、カリオン・改、アステリオンでは1回の出撃で使えるのは1回か2回と言う弾数の少なさが欠点だが、開幕先制広範囲攻撃として考えれば1回でも発射できる段階で十分なのだ。

 

(うわ、こんな風になるんだ。ゾンビみたい)

 

有人機ならば機体の全身に穴が空けばその機体は駄目だと判断し、脱出しようとするだろう。だが無人機はそんな事はお構いなしで、オイルを撒き散らしながら動くレストジェミラや、ゲシュペンスト・MK-Ⅲを見てアイビスはゾンビと言う感想を抱いていた。

 

『何を呆けているアイビス! 数を減らすぞッ!』

 

「わ、判ったッ!」

 

スレイの叱責で我に帰り、急降下しながらマシンキャノンを掃射し、動きの鈍いヒュッケバイン・MK-Ⅲを的確に撃ち抜いた。だがあくまでマシンキャノンは牽制用の武器であり、装甲が穴だらけになっても手にしているビームソードや、腕に装着されている4連マシンキャノンの銃口をアステリオンに向ける。無機質な機械から向けられる冷たい殺気――それに背筋が冷えるのを感じたアイビスだが、操縦桿をしっかりと握り締め、小刻みにペダルを踏みしめる。

 

「ふぅううう……ッ」

 

深く、長く息を吐きその集中力を極限まで高めたアイビスには敵機の動きがとても遅いスローモーションに見えていた。

胴体に風穴の開いているヒュッケバイン・MK-Ⅲの腕から射出されたチャクラムシューターをマニュアル操作を駆使し、あえて左側の動力をカットし、右のテスラドライブだけで高速反転しM-950マシンガンを打ち込みその頭部を破壊すると同時に、手にしていたM-950マシンガンを投げ捨て、腰にマウントしていたアサルトブレードを手に取り気合と共に振り上げる。

 

「このぉッ!!」

 

その瞬間に襲ってきた凄まじい衝撃と無機質な殺気に飲み込まれないようにアイビスはアステリオンのコックピットの中で雄叫びを上げる。

 

「「!!!」」

 

ライトニングステークを突き出し飛び掛ってきたゲシュペンスト・MK-Ⅲの一撃は装備していたアサルトブレードを犠牲にする覚悟で受け止め、耐えるのではなく受け流すようにして地面に叩きつけ、1度ゲシュペンスト・MK-Ⅲの背中に着地し、それを踏み台にして上空に舞い上がる。それを追ってレストジェミラがその形状を触手状に変えてアステリオンの足へと伸ばそうとした瞬間、凄まじい暴風がレストジェミラの身体を大きく揺らした。

 

『ドリルストームッ!!』

 

ゲッター2・トロンベが突き出したドリルから放たれた暴風によって、レストジェミラ、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ、ヒュッケバイン・MK-Ⅲの身体が浮かび上がる。

 

『逃がさんッ!!!』

 

ブースターで空中に浮遊し、パルチザンランチャー、レクタングルランチャーの照準を合わせようとする。それは無人機特有のパイロットがいないからこそ出来る挙動であったが、スレイ相手では完全に悪手だった。各機体の間に照準を合わせ、カリオン改に搭載されている着弾点指定型CTM-05プレアディスを撃ち込み、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ、ヒュッケバイン・MK-Ⅲの装甲から零れているオイルに誘爆させ、空中に浮かんでいたゲシュペンスト・MK-Ⅲ、ヒュッケバイン・MK-Ⅲを纏めて吹き飛ばす。

 

「スレイ。やっるうッ!」

 

『何がやるだ馬鹿ッ! アステリオンで接近戦を挑む馬鹿がいるかッ!!!』

 

アステリオンはその機動力を生かし、ぎりぎりまで近づいてのピンポイント射撃と一撃離脱をコンセプトにしている。そんな機体で敵陣のど真ん中に突っ込んで接近戦を仕掛けるのは愚の骨頂。スレイのお叱りの言葉が飛ぶのも当然だった。

 

「ご、ごめん」

 

『全くだ! もっと機体特性を生かした戦い方をしろッ!』

 

アイビスを叱りながらもカリオン改を操り、CTM-05プレアディスの爆風から生き残った無人機を撃墜するスレイ。

 

『遅いッ!!』

 

地上では両腕がライトニングステークのゲシュペンスト・MK-Ⅲを万力のような腕で受け流し、ドリルを振るい粉砕しているゲッター2・トロンベの姿がアイビスの目の前に広がる。

 

(そうか、ああすれば良いのか)

 

それはアイビスにとって知らない戦術、考えたこともない戦法だった。機動力、速度、それらを全て十二分に理解しスピードだけではなく緩急を生かして、技術で逃げる。実践と言う緊張感、そして当たれば死ぬという恐怖――それらの中で生存本能を刺激されたアイビスは戦いの中で大きく成長しようとしていた。スレイの自分よりも数段上の射撃術を自分の物に落とし込み、レーツェルの神技めいた操縦技術を自分で再現できる範囲で己の物とする。

 

「行くよ、アステリオンッ!!!」

 

蟲のような形状に変形し、荒野を高速で駆けるレストジェミラに照準を合わせ、巡航形態に変形し急降下しながらマシンキャノンとCTMを撃ち込み、カリオン改を追い抜いて急降下する。

 

『おいアイビス! そんな速度で急降下するなんて正気かッ!?』

 

スレイの叱責の声がコックピットに響くが、超集中状態のアイビスにはその声は酷く遠くに、そしてぼんやりとした物に聞こえていた。スレイの射撃術、ゲッター2・トロンベの巨体を物ともさせない軽やかな機動、そしてコウキによってやらされたゲッターシュミレーター……その3つは今まではバラバラだった。だがそれが今アイビスの中で1つになろうとした。

 

「ここだぁッ!!」

 

地面ギリギリでブレイクフィールドを展開、それを基点にして宙返りをしたアステリオンは強引に機首をレストジェミラの群れのど真ん中に向ける。

 

「マニューバG-AXッ! ぶち抜けぇッ!!!!」

 

巡航形態からAM形態に変形し、機体全面に展開したブレイクフィールドは盾であり、矛だ。強引に機体を安定させ、ソニックブレイカーを地面ギリギリで発動させ、それによって得た浮力で重力を跳ね除けアステリオンは、地表すれすれを滑るようにしてソニックブレイカーでレストジェミラを薙ぎ払いながら加速する。その光景はスレイからすれば悪夢のような光景であると同時に、フィリオ、コウキの2人がアイビスにアステリオンを託した理由なのだと納得した。

 

(あれは私には出来ない……)

 

あんな特攻めいた、イチバチのマニューバはスレイには出来ない。いや正確にはする必要がないから出来ない。卓越した操縦技術、射撃勘、空間認識能力を持つスレイにとってそんな博打をしなくとも安全に、そして的確に撃ち抜く事が出来る。だからそんな危険な行動に出る必要がないと理性がそれを押し留める。だが戦いの中では、時に強引に、命を賭けて突破口を開く必要がある。そうなった時にスレイは反射的に動き出すことが出来ず、1度考えてしまう。

 

(私に足りないのはこれか……)

 

予測出来ないイレギュラーが多発するであろう星間飛行、次々に訪れる脅威に直感的に対応出来る才覚はスレイにはない、それをフィリオ達は見抜いていたのだと巡航形態に変形し、螺旋回転しながら空中に逃れるアステリオンを見てスレイはそう感じていた。

 

「やったあッ!!! できたあッ!」

 

本来想定されているプロジェクトTDのマニューバではない、だがアイビスはこの土壇場で、再び自分だけのマニューバを作り上げた。それはアイビスが一歩前に、いや大きく前に踏み出す飛躍となったが、一瞬の気の緩みを無人機は見逃さなかった。

 

『馬鹿ッ! 喜んでいる場合かッ!』

 

「え、あっ!?」

 

岩を砕いて姿を見せたレストジェミラがアステリオンの足に巻きつき、強引に地表に向かって引き降ろす。それを振り解こうとするが、1本、2本と増えアステリオンの推進力を上回る力で引き摺り始める。

 

『調子に乗るからだ! 今支援にッ! なっ!?』

 

『く、このタイミングで転移かッ!?』

 

蹴散らしても蹴散らしても連続転移で現れ続けるレストジェミラにスレイとレーツェルは完全に動きを封じられ、アステリオンの動きを封じたレストジェミラの後方に現れたゲシュペンスト・MK-Ⅲがその手にしたパルチザンランチャーをWモードに変形させ、その銃口をアステリオンに向けた瞬間だった。

 

『サイフラァァアアアシュッ!!!!!』

 

白銀の閃光が上空から舞い降りてくると同時にと翠緑の光を周囲に撒き散らす。それはカリオン改、アステリオン、ゲッター2・トロンベには何の被害も与えなかったが、レストジェミラを初めとしたインスペクターの無人機には甚大な被害を与え、無人機達は撃墜こそされなかったが、そのダメージは大きく爆発しその動きを鈍くさせた。

 

『なんだあの機体はッ!?』

 

「あんなスピードが出る機体があるなんて……ッ」

 

スレイとアイビスはPTともAMとも違うプロジェクトTDの機体を上回る速度を持つ白銀の機体――サイバスターへの驚きと警戒を隠せなかった。ただ1人レーツェルだけがその機体とパイロットの事を知っていた。

 

『サイバスター……ッ! マサキ・アンドーかッ!』

 

風の魔装機神 サイバスター。DC戦争時に現れ、ハガネと行動を共にしL5戦役後にその姿を消した機体の登場はスレイとアイビスに衝撃を与えた。

 

「あれがサイバスターッ」

 

『なんて速さだ……我々の機体よりも遥かに速い』

 

戦闘データは残されておらず、話で聞いただけのサイバスター。恐らく現行の機体全てを上回る速度を持つとは聞かされていたが、スレイもアイビスも話半分だった。だが実際にその速度を見て、それが真実なのだと思いしらされた。

 

『武蔵じゃねえのか、その声……エルザムさんか? んだよ、やっとゲッターロボを見つけたと思ったのによ』

 

『いや、私はレーツェル……いや、今はそんな話をしている場合ではないな』

 

サイフラッシュで無人機達は手痛いダメージを受けたが、サイバスターの出現を知り、今まで以上の数の無人機が荒野を埋め尽くさんと言わんばかりに出現する。

 

『そうみたいだな。とりあえずこいつらをぶっ飛ばしてから話を聞かせてくれ』

 

『勿論だ。スレイ、アイビス。これから敵の本命が出てくる、気を引き締めるんだ』

 

「『了解ッ!』」

 

文章通信でライノセラスが近づいて来ている事、ほかに応援が近くに来ている事を伝えるレーツェル。囮となり、敵を引き寄せると言う作戦はサイバスターの登場によってさらなる敵を呼び寄せる事になったので成功したと十分に言えるレベルだ。だが今度はレーツェル達が撤退するのも難しくなる程の敵の増援――しかもここに足止めするように展開される無人機を見れば誰だって指揮官機が現れるまでの時間稼ぎであるということは明らかだった。徐々に強くなる向かい風がレーツェル達に行く末を現していた……。

 

 

 

 

 

~東京・浅草~

 

ノイエDCの決起、エアロゲイターに次ぐ異星人の出現によって地球内は大きな転換期を迎えていた。それでも人の営みは止まらない、確かに再び戦争が起きるかも知れないと言う恐怖はある。それでもそれを恐れて閉じ篭ったりする者はおらず、恐れているからこそ普段通りの生活を行い。その恐怖を紛らわそうとしていた……。

 

「よっと」

 

そしてそれは今階段を飛び降りた茶色の学生服を着た少女も同じだった。学校が終わってすぐ待ち合わせ場所に来たのだが、自分よりも早く授業が終わっている筈の兄の姿がない事に眉をひそめた。

 

「もー、お兄ちゃん。何してるのよ……時間に遅れちゃうよ」

 

活動的な性格を現しているショートカットの髪型と凜とした雰囲気を持つ少女「ショウコ・アズマ」は腕時計を見て、焦った様子で足踏みをしていた。

 

「ジャーダさんとガーネットさんの手伝いをするって約束したのに……またどこかで喧嘩でもしてるのよッ! もうっ!「あいたッ!」……ああッ! ご、ごめんなさい」

 

最近引っ越して来た夫婦であるジャーダ・べネルデイとガーネット・サンディの手伝いをするように祖父のキサブロー・アズマに言われていたのにまだ来ていない兄への怒りで振り上げた拳が歩いていた人物に当たってしまいショウコは慌てて謝罪の言葉を口にする。

 

「ああ、いや、オイラもぼーっとしてたから悪いのさ」

 

「い、いえ。私が急に手を振り上げたから、ごめんなさい」

 

「いやいや、オイラが悪いのさ。気にしないでくれよ」

 

「いえいえ、私が悪いんです」

 

短めのリーゼントの上から帽子を被った学生服姿の青年とショウコがお互いにお互いが悪いと謝罪を繰り返す。その姿はショウコが柄の悪い不良に絡まれているように見えた。

 

「てめえッ! 人の妹に何してやがるッ!!」

 

「ん? うおッ!?」

 

そしてそれは喧嘩っ早く、自信家だが、妹のショウコには優しいコウタ・アズマが誤解するには十分な光景で、石段の上から飛び降り、叫びながら拳を帽子を被っている青年に向かって拳を突き出した。だがその拳は簡単に帽子の青年に受け止められ、コウタはその事に驚きながらも着地し、再び拳を突き出す。

 

「っとと、待て待て、お前は誤解してるって」

 

「何が誤解してるだッ! 人の妹にちょっかい掛けやがって!」

 

大きく拳を振りかぶったコウタが青年に向かって駆け出そうとした瞬間。青年とコウタの間にショウコが割り込んだ。

 

「ストーップ! お兄ちゃんストップッ!」

 

頭に血が上っていたコウタだが、ショウコが割り込んだ事で虚を突かれ動きを止めた。そしてショウコの話を聞いて、手を合わせて頭を下げた。

 

「すまねえッ! 俺が悪かったッ!!」

 

「良いって事よ。誰だっててめえの妹が絡まれてるって思ったら飛び出しちまうもんさ。オイラは気にしてねえよ、むしろ誤解されるような真似をしたオイラが悪いのさ」

 

「いや、悪いのは俺だッ! すまねえッ!」

 

さっきのショウコとのやり取りの焼き増しのように謝罪合戦になる。互いにどっちも悪いと謝罪を繰り返しているとショウコが声を上げた。

 

「あーっ!! 時間! お兄ちゃん時間過ぎちゃってるよッ!」

 

「なにいッ!? お、おい。あんた、悪い。俺とショウコは用事がある、また2時間もしたらここに来てくれ」

 

「いや、良いってそんなに気にしなくてよ」

 

「駄目だ! こういうのはキッチリしねえといけねえッ! 2時間後、またここに来てくれ! 頼むぜ。ショウコ、行くぞ」

 

「う、うん! 本当にごめんなさいッ!!」

 

2人揃って頭を下げて駆けて行く兄妹を見て、青年――武蔵は肩を竦めて笑った。

 

「こりゃ2時間後に来ないと探されそうだなあ。やれやれ」

 

ジャーダとガーネットに挨拶したらすぐ帰ろうと思っていた武蔵だが、この様子ではあの2人に探されると苦笑し、2時間後に再びこの広間に来ることにし、学生服のポケットからメモを取り出す。

 

「えーっと……こっちか」

 

ラトゥーニに書いて貰ったジャーダとガーネットの家の住所を確認し、土産も買わないとなぁと呟いてのんびりと歩き出すのだった……。

 

この浅草にある脅威が迫っている事を武蔵は知らなかった。

 

「はぁ……はぁッ! もう冗談じゃないわよッ!」

 

マフラーとサングラスで口元を隠した女性が裏路地を走りながらそう叫ぶ。その背後からは裏切り者を逃がすなと言う怒号が響き、逃げている女性――アゲハ・キジマは顔を苦々しそうに歪め息を切らして百鬼帝国の追っ手から逃亡を続け……。

 

「博士ー、ねえ博士。なんで日本になんか来たのさ? 普段みたいに戦場に乱入して、どっちとも戦えば面白いじゃんかー」

 

柔和な笑みを浮かべた老紳士を博士と呼んだくすんだ金髪の少女はロリポップを口にくわえ、幼いと言う態度だったが、その言葉と瞳には隠しきれない狂気の光が宿っていた。

 

「ちゃんとした実戦データを提出しないといけないからね。まぁゲームだと思って楽に行こうか、ホルレー」

 

「りょーかーい。あーあ、でもさぁ、博士ぇ。お綺麗な軍人との模擬戦とかあたしつまらないよ、ねー博士ぇ、ユルゲン博士ぇ……」

 

ユルゲンと呼ばれた男性は柔和な笑みを崩す事無く、そして少女の狂気を諌めることも無く、周囲を狂気に満ちた瞳で見つめ続ける少女の手を引いて、浅草の街中をゆっくりと歩み続けるのだった……。

 

 

第81話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その3へ続く

 

 

 




次回はレーツェルサイドの話をヒリュウ改と向かう所まで書いて、日本のサイドに切り替えます。ヒリュウ改とハガネの合流は次の話にして、視点をぐるりと変えたいと思います。OG2.5のユルゲン博士+オリキャラ、コウタ、ショウコ、ジャーダ、ガーネットに加えて、胡蝶鬼と武蔵と言う感じでイベント盛りだくさんでお送りしたいと思います。

なお筆者はムーンデユエラーズ、ダークプリズンは未プレイなのでそこちょっと違うぜ! 見たいな部分は暖かい目で見てください、一応プレイ動画はポツポツ見てますが、多分理解しきれていないと思いますので、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第81話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その3

第81話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その3

 

サイバスターのコックピットの中でマサキはほんの少しだけ落胆していた。ゲッターロボを見つけ、武蔵を見つけたと思ったら乗り込んでいたのはエルザム……レーツェルで武蔵ではなかった。

 

「マサキ、落ち込んでるのは判るけど、今は目の前の敵ニャッ!」

 

「左から虫見たいのが来てるニャッ!」

 

シロの叱責とクロの警告を聞き終わる前にマサキはサイバスターを操り、半月状のレストジェミラのブレードを受け止めると同時に蹴りを叩き込み、レストジェミラの細身の身体を蹴り飛ばす。

 

「シロ、クロ! 頼むぜッ!」

 

「はいはーい、お任せニャッ!」

 

「ファミリア使いが荒いのニャ……」

 

サイバスターから射出されたハイファミリアがレストジェミラを追い回し、カリオン改とアステリオンへと近づけさせない。その間にマサキはカロリックミサイルの発射と同時にサイバスターを加速させ、ゲシュペンスト・MK-Ⅲの胴体に深い切り傷を入れて離脱する。

 

「やるな。あんた」

 

サイバスターが離脱すると同時に撃ちこまれたレールガンの弾頭がディスカッターの一撃で傷が入ったゲシュペンスト・MK-Ⅲの胴体に飛び込み、動力を破壊して爆発四散させる。サイバスターの横を通り、反転しミサイルによる先制攻撃を放つカリオン改を見てマサキは思わず通信でそう声を掛けた。

 

『もっと派手に暴れてくれても良いぞ。私が楽になるからな』

 

「そうかい、ならもっとド派手に行くとするかッ! シロッ! クロッ! さっさと片付けて本命を引きずり出すぜッ!」

 

マサキもどこからか自分を見ている誰かの視線を感じていた。相手の思惑通りに戦い疲弊した状態で敵の本隊とぶつかるつもりはない、相手が転移で増援を送り込んでくるのは見ていた。だがそれも無尽蔵ではない、ここで破壊しつくされるわけには行かないと判断させ、敵を引きずり出すことを考えていた。

 

『ブレイクフィールドONッ! ソニックブレイカーGOッ!!!』

 

『行くぞトロンベッ! 駆けろその名の如くッ!!!』

 

そしてそれはレーツェル達も同じ考えで、無人機への攻勢を強める。カリオン改とハイファミリアが無人機を追い、その装甲を傷つけ、そこをサイバスター、ゲッター2・トロンベ、アステリオンが撃墜する。ハイファミリアはサイバスターからのエネルギー供給があれば半無限動力で、カリオン改は武装全てが実弾およびミサイルと言うその性質上長期戦には向かない。ここで全て弾薬を撃ち切り、敵の増援を全滅させると言わんばかりの勢いで攻撃を続ける。攻撃の勢いは激しいが、本命のサイバスター、ゲッター2・トロンベの消耗は少ない。しかしそれをカリオン改、アステリオンが派手に立ち回ることで感じさせず、敵の転移による増援の勢いが目に見えて穏やかになった時……それは現れた。

 

「マサキ、 こっちに何かが向かってくるニャッ! 真っ直ぐサイバスターに突撃を仕掛けてきてるニャッ!」

 

「どっちの方角だッ!?」

 

「こっちで指示をするから勝手にうごかニャないでッ! 右ニャアッ!」

 

クロの指示に反射的にディスカッターを正眼に構えた瞬間、凄まじい勢いで切り込んできた何かとぶつかりサイバスターが大きく弾かれる。

 

「ぐっ! は、速いッ!」

 

態勢を立て直し奇襲を仕掛けてきた機体に視線を向けるマサキ。両腕がブレード状で下半身に脚部のない異形の半人型の機体がサイバスターの上に陣取っているのだった……。

 

 

 

 

 

シルベルヴィントのコックピットの中でアギーハは感心した様な、それとも対等な敵を見つけたような楽しそうでありながら嗜虐的な笑みを浮かべていた。

 

「今の一撃をかわすんだね。流石は風の魔装機神――って言う所だね」

 

警戒するべき地球側の兵器としていくつかピックアップされている機体がある。ゲッターロボは勿論、サイバスター、グランゾン、そしてゾヴォークから技術提供を受けていながら、バルマーの技術を採用したブラックホールエンジンを搭載した機体――それらは事前の調査で警戒するべき地球の機体として記録されており、可能な場合は鹵獲、それが不可能な場合は破壊せよという命令が下されていた。その中でもアギーハが注目していたのは風の魔装機神サイバスター……その速さが自分の相棒であるシルベルヴィントより上なのか、それを確かめたいと言う1つの欲求にも願望を抱いていた。速さとは美しさであり、そして己だけがいる孤高の領域、自分だけが見れるその領域を誰にも見せたくない、しかし誰かに触れて欲しい――速さに対する独特な哲学を持つアギーハは自分の領域に手を伸ばそうとしているのか、それとも自分の領域に踏み込んでくるのか、そんな期待をサイバスターへと抱いていた。

 

「しかしまあ、こんな所で風の魔装機神に出くわすなんて……残り物に福があるって言う地球の言葉は本当だね」

 

だがサイバスターの目撃情報はアギーハ達が地球に来た段階でほぼ0。それに落胆していたのだが、こうしてサイバスターと出会い、出会いがしらの挨拶にも対応して見せたサイバスターにアギーハの興味は完全に向けられていた。

 

『てめえ、何者だッ!? 答えやがれッ!』

 

血気盛んと言う様子で広域通信で叫ぶマサキ。アギーハはそれを無視しても良かったのだが、今回の作戦の責任は全てヴィガジにあり、自分はあくまで応援という事もあり、あえて広域通信で返事を返した。

 

「あたいはアギーハ。インスペクターさ、そうだね。あんた達の星に攻め込んできた異星人の1人って所だよ」

 

マサキ達にも判っていた事だが、こうして面と向かって異星人であると言うこと、そして攻め込んできたと告げたアギーハにマサキ達の間に緊張が走る……だがその緊張は次の瞬間に霧散した。

 

「あ、そうそう。 付け加えとくと裏のリーダーね。よろしくね♪」

 

声のトーンを一転させ、柔らかい声で声を掛けてくるアギーハに気勢を削がれるマサキ達。この裏表の激しさ、スイッチのONとOFFの切り替えの速さもまたアギーハと言う女性の性格だった。敵は冷酷に殺すが、敵として見定めるまでは表面上だけでも友好的に接する。ヴィガジとは違うが、自分の方が圧倒的に上だという傲慢さがアギーハにはあった。

 

『裏? 表は誰ニャ?』

 

『シロ、突っ込むトコはそこじゃニャいでしょ』

 

広域通信で聞こえてきた声、人間とも違う声にサイバスターには猫が乗ってるって言うのは本当なんだと思いながら、アギーハは小さく笑いマサキに向かってある一言を投げかけた。

 

「ねえ、あんた達……シュウ・シラカワを捜してるんでしょ?」

 

『奴を知ってんのかッ!?』

 

シュウ・シラカワの名前が出ただけで一気に頭に血が上ったマサキの声を聞いてアギーハはけらけらと笑う。隙だらけに見えるが、スピードで完全に上回っているからこそこの態度で、今攻撃を仕掛ければ一気に増援に加えて、アギーハも襲い掛かってくる。この隙だらけの時に攻撃するよりも、少し出も情報を引き出すべきだと判断したレーツェルは文章通信で攻撃停止と言う文を送り、マサキとアギーハの会話を邪魔するなと言う通達を入れてた。

 

「ま、話だけはね。あたいも知ってるよ。あいつ色々と好き勝手やってくれちゃったからさ」

 

グランゾンとシュウ・シラカワ。ゲッターについで警戒する相手であり、ゼゼーナンが何かを仕掛けていると言う情報はウォルガでも掴んでいた。しかしそれ以上の情報は無く、因縁がありそうなマサキを利用して、シュウを発見することをアギーハは考えた。

 

「最も、あの事件はあたい達にとっちゃ都合が良かったんだけどね。あたい達のトップって意味でね」

 

地球人は好奇心が旺盛で何かの情報を掴めば、それを真実かどうか確かめようとする。DC戦争と呼ばれる地球での戦いが起きる前にゾガルが勝手に暴走していた事はウォルガでも大きな問題になっていた。その事に触れれば、マサキ達が気色ばむのを見て計算通りとアギーハは笑みを浮かべた。

 

『何……ッ!? そいつはどういう意味だッ!』

 

「そのまんまの意味さ、何もかも聞こうとしないで少しは自分で考えてみなよ」

 

真実はある、だがその中に虚偽もある。それをどれだけマサキ達が理解し、その中から真実を手にするか、なんせ相手は神出鬼没だ。少しでもグランゾンとシュウを探す相手は多い方が良い。 

 

『ど……どういう事ニャんだッ! マサキッ!?』

 

『そいつは こっちが聞きてえぐらいだぜ……ッ! でもこいつが何かを知ってるのは間違いねえッ!』

 

マサキの怒りようから相当深い遺恨があるのは明らかで、マサキを利用することを考えたのは間違いではないと判り笑みを浮かべ、猫撫で声でアギーハはマサキに声を掛けた。これが駄目押しになると判っての問いかけだ。

 

「さ、細かい話は抜きにして……あんた、シュウ・シラカワの居場所を知らないかい? あたい達のトップがお礼を言いたいそうなんだよ。地球人同士何か知ってるだろ? それを教えてくれたら見逃してやるよ」

 

圧倒的な上から目線での言葉、そして甘い猫撫で声は挑発としか受け取ることが出来ない。それに気が短いマサキは完全に乗ってしまった。

 

『待て! ま『うるせえッ!何が見逃してやるだッ! こうなったら、力ずくでも訳を聞き出してやるぜッ!』

 

レーツェルの言葉を遮ってアギーハへの啖呵を切ったマサキ。それこそがアギーハの狙いだった、今まで沈黙していた無人機の群れが再び現れ、レーツェル達を取り囲んだ。

 

「ふふふ……レディの扱いが下手ね、ボク。そんなんじゃ、あたいのダーリンみたいなシブい男になれないわよ」

 

『こ、この!  ふざけやがってッ!! シロ、クロッ! 行くぜッ!』

 

「ふふふ、少し遊んであげるよ。シルベルヴィントと サイバスター……どっちのスピードが 上か、ハッキリさせときたいからね」

 

今までのふざけた雰囲気が一転し、冷酷な気配を纏うアギーハにマサキは息を呑み、自分がアギーハの手の中で踊らされている事に気付いた。だが今更止まることもできず、完全に冷静さを失った様子で向かってくるサイバスターを見て、アギーハは余裕の表情を浮かべたまま操縦桿に手を掛けるのだった……。

 

 

 

 

レーツェルはゲッター2・トロンベを操り、最後の敵の増援だと思われるゲシュペンスト・MK-Ⅲとヒュッケバイン・MK-Ⅲを相手にしながらスレイとアイビスに通信を繋げた。

 

「アイビスとスレイはマサキの支援に入れッ! 地上は私が何とかするッ!」

 

完全に冷静さを失っているマサキはアギーハに完全にイニシアチブを取られていた。このままでは撃墜されるのも時間の問題だと判断し、レーツェルはアイビスとスレイに援護に向かうように命令した。

 

『で、でも、敵の数が多すぎますよッ!?』

 

『いくらなんでも無謀だと言うものだッ!』

 

敵の数が多すぎる、いくらレーツェルが凄腕だったとしても数の不利が過ぎるとアイビスとスレイはその命令に反対した。

 

「大丈夫だ、ツグミ君からヒリュウ改からの迎えと合流したと言う通信が入った。ライノセラスもこちらに後4分もあれば合流する、その後は撤退に切り替える。しかしこのままではマサキが離脱出来ない、それは避けねばならん」

 

ゲッター2・トロンベは地中に潜って逃げることも出来る。殿とおとりを務めるのは最善の機体だ。だが、サイバスターは完全にシルベルヴィントに捕捉されている。危険度で言えばマサキの方が圧倒的に上なのだと説明され、アイビスとスレイは空中で激しいドッグファイトを繰り返しているサイバスターとシルベルヴィントの戦いにその機体を滑り込ませた。

 

『はははッ! 良いね良いねッ! そらどんどん掛かってきなよッ!!』

 

3対1になってもアギーハの余裕は消えなかった。むしろその状況を楽しんでいる節さえあった、それだけアギーハはスピードに拘り、そして自分が負けないと言う自負を持っていた。

 

(だがそこが付け込む隙になる)

 

己もスピードには自信を持っているからこそ、アギーハの考えている事は手に取るように判る。3対1でも幻惑し、自分が圧倒的な有利な状況で負ける訳がないと思っているこの状況こそがレーツェルの作り出そうとしていた状況だった。高速で頭を回転させ、上下左右から向かって来るミサイルや、パルチザンランチャーによる狙撃をゲッタービジョンを応用し、回避しながら的確にその数を減らしながら、レディバードを出発してから念入りに準備していた策がその効力を発揮するときを待った。

 

『さあ行くよ、坊やッ! 風の魔装機神の力をあたいに見せてみなよッ!!』

 

カリオン改とアステリオンの攻撃を緩急を使い、挟撃を同時に回避しサイバスターへと肉薄するシルベルヴィントの両腕のブレードが光を放つ。

 

『抜けたぞッ!』

 

『気をつけてッ!!』

 

マサキへの警告の言葉を口にし、即座に反転してシルベルヴィントを追うカリオン改とアステリオン。だがシルベルヴィントとは圧倒的な速度の差があり、シルベルヴィントへ追いつくことが出来ない。高速でサイバスターへ肉薄し、その両腕のブレードを振るうシルベルヴィント。そのスピードに加え、緩急を混ぜる事でその姿がぶれる。

 

『あ、当たらないッ!?』

 

『くっ! 操縦の腕が違いすぎるッ!』

 

そのぶれた姿にスレイとアイビスは幻惑させ、背後を取っているのにシルベルヴィントの姿を捉える事が出来ないでいた。サイバスターの直前で更に加速し、すれ違い様にシルベルヴィントの高周波ブレードとサイバスターのディスカッターが交錯する。

 

「こいつもくらえッ!!!」

 

姿勢を崩したのはシルベルヴィントだった、即座に反転し放たれたカロリックミサイルがシルベルヴィントの背中で爆発し、シルベルヴィントが僅かに高度を落とす。

 

「どうだッ!! 何時までも甘く見てるんじゃねえッ!」

 

確かにシルベルヴィントは速かった。だがそれだけだった、風の魔装機神操者であるマサキは空気の流れを読み、不自然な風の流れをその全身で感じ取り、目で見るのではなく心の目でその姿を捉えたのだ。

 

『アハハハッ!!……ハハハハッ! 良いね良いねッ!! 流石だよ、坊や。風の魔装機神ってのは伊達じゃないみたいだねえ』

 

墜落するシルベルヴィントから狂気と歓喜の入り混じったアギーハの声が響いた。事実アギーハは楽しかった、そしてそれと同時に煮えたぎるような怒りも感じていた。自分のいる世界に踏み込んでいる者がいると言う歓喜、そして自分だけの神域に相手が無遠慮に踏み込んできたことに対する怒り――アギーハの中でスイッチが切り替わり、それに呼応するようにシルベルヴィントの全身のスラスターが火を噴いた。

 

『どうやら、あたいはあんたを甘く見てたようだ……次は本気で行くよッ!』

 

墜落していたシルベルヴィントが一瞬で浮上し、残像を作り出しながらサイバスターへ肉薄する。

 

「お決まりの台詞を言いやがってッ! きやがれ! 何度だって叩き落してやるッ!」

 

『だったら、かわしてみなッ! さっきみたいにさぁッ!』

 

マサキはこの時1つ思い違いをしていた。シルベルヴィントの最大加速がさっきのものだと思いこんでいた、それよりももう一段階速い速度をシルベルヴィントは残していた。マサキが見切ったと思った瞬間、その姿がぶれディスカッターが空を切り、背後からの凄まじい衝撃にマサキは苦悶の悲鳴を上げた。

 

「何ッ!? ぐうっ!?」

 

完全に捉えていたシルベルヴィントの気配を見失った。ただ速いだけでサイバスターの知覚感覚を潜り抜けた事にマサキが驚き、態勢を立てなおす僅かな時間で更に数発の攻撃が叩き込まれる。

 

『ほらほら、どんどん行くよッ!!』

 

サイバスターの回りを回転しながら爆発的に加速を高めていくシルベルヴィント。今サイバスターが何10体ものシルベルヴィントに囲まれているようにマサキにも、スレイ達にも見えていた。

 

『こ、このままじゃ! スレイッ! CTMで何とかならないッ!?』

 

『馬鹿を言えアイビスッ! ここで攻撃してみろサイバスターだけを攻撃することになるぞッ!』

 

支援をしようにもシルベルヴィントの速さにカリオン改とアステリオンのセンサーは誤認を繰り返しており、ロックオン機能は殆ど死んでいる。その上サイバスターを取り囲むように移動しているのでシルベルヴィントがよければサイバスターに命中するという状況にスレイとアイビスは支援を言う手立てを完全に防がされてしまった。しかもその上無人機からの攻撃もあるので、それを避ける為にサイバスターから距離を取るしかないと言う状況に追い込まれていた。スレイとアイビスの中に焦りが生まれた時ゲッター2・トロンベのレーツェルから通信が入る

 

『2分後にライノセラスからの支援砲撃が入る、その後隙を作り出す! そこを畳み掛けるんだッ!』

 

『隙ッ!? そんなのどうやって』

 

『説明をしている時間はない! 今2人で出来る最大攻撃をすればいいッ!』

 

レーツェル自身も余裕はさほど残されておらず、半ば怒鳴りつけるようにスレイとアイビスに指示を出し無人機の群れに向かって重力弾とドリルを使い分けその数を減らそうと奮闘するが、ゲッター2・トロンベに対するインスペクターの警戒は凄まじく、PTの代わりにアーチンなどの無人の偵察機を送り出し、スパイダーネットや空中機雷を用いてゲッター2・トロンベの移動できる範囲を少しずつ削り始める。

 

『レーツェルさん!』

 

『アイビスッ! 今はサイバスターだッ! 与えられた命令を優先しろッ!』

 

レーツェルが追い込まれているのを見てアステリオンが降下しようとするのをスレイが一喝して止める。シルベルヴィントの攻撃によってウィングを破壊され高度を落としている。鹵獲もしくは撃墜されるのが時間の問題であるという事をスレイは悟っていた。

 

『でもあたしじゃ』

 

『フォローしてやる、好きに飛べッ! マニューバG-AXとマニューバRaMVsをあわせるぞッ!』

 

『そ、そんなこと出来るの!?』

 

『出来る出来ないじゃないッ! やるんだッ! 行くぞッ!!』

 

アイビスに強い口調で檄を飛ばし、無人機の攻撃をかわしながら再びサイバスターの元へ向かうカリオン改。アイビスは少しの間カリオン改とゲッター2・トロンベを交互に見つめ、自分が何をするべきか、今最善の選択は何かとは考えアイビスはアステリオンの操縦桿を握り締めた。

 

『やってやる! やってやるさッ!!』

 

カリオン改の後を追ってサイバスターとシルベルヴィントのほうにアステリオンを走らせる。

 

「ぐっ! くそッ!」

 

『ほらほら、どこを狙ってるんだいッ!』

 

舞うように加速と減速を組み合わせ、マサキを翻弄し続けるアギーハ。その動きを言葉に完全にマサキはペースを取られ、集中力を失っていた。超音速の戦いの中で集中力を失ったことで反撃する事も出来ず、防御する事がやっとと言う状況で徐々にレッドアラートが灯っていく光景に焦りが募り、強引に反撃に出るマサキ。

 

『ほらほら、鬼さんこちら、手の鳴る方へ』

 

「ぐっ、やっぱりあたらねえッ!? ぐあっ!?」

 

しかしそんな破れかぶれの攻撃に当たるほどアギーハは甘くは無く、痛烈な一撃を喰らい、右のウィングまで破壊されサイバスターの速度は完全に殺された。

 

『そんなのは当たらないねッ! そろそろとどめだよッ! はっ! あんたらなんかおよびじゃっ!?』

 

アギーハがとどめを誘うと動き出した瞬間。ライノセラスの主砲とライノセラスの護衛機のヴァルキリオンの一斉射撃がシルベルヴィントに向かって放たれた。奇襲ではあったがその攻撃は十分に見てから躱す事は十分に可能だった。しかし避けた瞬間に撃ちこまれたドリルにシルベルヴィントの装甲が大きく軋みを上げた。

 

『ドリルロック、ゲッター2の切り札の味はどうだッ!』

 

ドリルミサイルやドリルアタックとは違う、ゲッター2の肘部から切り離し射出する文字通りゲッター2の最後の切り札。それがドリルロックだ。完全に攻撃手段を失うというリスクを背負っているが、その破壊力、速度共に段違いの一撃がシルベルヴィントの腰から右肩の装甲を抉るように突き抜けた。

 

『ぐっ! やっぱりゲッターロボに関わると……きゃあッ!?』

 

油断していたわけではない、だが飛行能力のないゲッターロボならば地上に釘付けにすれば良い。そう思っていたからこそ対応の遅れたアギーハ、そして続け様に襲ってきた衝撃にアギーハは思わず悲鳴を上げた。

 

『いけええええッ!!』

 

『闇雲に撃つなアイビスッ!!』

 

マシンキャノンを乱射しながら両手にM-950マシンガンを持ったアステリオンの一斉射撃とその後をぴったりとついているカリオン改から放たれたCT-Mの弾雨がシルベルヴィントの装甲を容赦なく抉る。加速力を得る為に装甲を薄くしているシルベルヴィントは避ける事が前提であり、こうして完全に動きを止めた状態では旧式の武器でさえ危険な威力となっていた。

 

「しゃあッ! 今のうちだッ!」

 

そちらの防御にアギーハが気を割いた瞬間サイバスターは一気にシルベルヴィントを振り切ることに成功していた。

 

『ちいっ! 待ちな坊やッ!?』

 

それを見てアギーハがそれを追おうとするがカリオン改の放った高速長距離射程特殊レールガン「ケルベロス」の音速を超えた2発の弾丸を感知し、それを避ける為に上昇した瞬間白銀の流星がシルベルヴィントを貫いた。

 

『いっけぇえええええッ!!!!』

 

『くうっ!?』

 

最大速度のまま突っ込んできたアステリオンのソニックブレイカーに弾き飛ばされるシルベルヴィント。だが命中の瞬間に後退した為、仕留め切るには足りなかった

 

『このシルベルヴィントを捉えるとはね……ッ! だけど、浅いんだよッ!!』

 

自分の領域に踏み込んできたが、まだスピードが足りないと吼え、態勢を立て直したアギーハの視界に広がったのは紅蓮の彗星と白銀の流星が絡み合いながら自身に向かってくる光景だった。

 

『遅れるなよアイビスッ!』

 

『わ、判ってる!』

 

巡航形態に変形したアステリオンとカリオン改が螺旋を描くように空を駆け、回転しながら放たれるミサイルの嵐に完全にシルベルヴィントは飲み込まれた。

 

『『ソニックブレイカーセットッ!』』

 

『マニューバGーAXッ!』

 

『マニューバRaMVsッ!!』

 

『『ゴーッ!!!』』

 

真っ直ぐにシルベルヴィントを貫かんとするアステリオン、その周囲をバレルロールをしながら突っ込んで来るカリオン改から撃ち込まれるバルカンとミサイルは狙いなど定まっていない、その速度と攻撃範囲で完全にシルベルヴィントの動きを封じていた。

 

『くっ、舐めるんじゃないよ! 小娘がッ!』

 

しかしアギーハも女の身でありながらウォルガの査察団に選ばれるほどの女傑だ。しかもその専門は高速戦闘、地球人にスピードで負ける訳がない。負けてはならないと言うプライドがアギーハの命運を分けることになった。

 

『なっ!?』

 

メガビーム砲とボルテックシューターで迎撃しようとした瞬間――アステリオンとカリオン改のブレイクフィールドが互いに干渉し、2機を同時に跳ね除け強引にシルベルヴィントの視界から白銀の流星と紅蓮の彗星の姿が消え、アギーハの目の前に現れたのは燃え盛る紅蓮の不死鳥の姿だった……。

 

「アカシックバスタァァアアアアアーーッ!!!」

 

燃え盛る紅蓮の不死鳥はサイバスターだった、火炎を纏ったその一撃はシルベルヴィントを完全に貫いた。

 

『ぐうっ! ば、バランサーがッ!!』

 

攻撃を此処まで連続で受けたことはシルベルヴィントにもアギーハにも未知の事で、バランサーや機体のコントロールに関係する部分が不調を次々に訴えた。

 

『うあああああああッ!!!』

 

『これで決めるッ!!』

 

その直後に互いのブレイクフィールドを干渉させ、弾かれていたカリオン改とアステリオン改が上下から挟み打ちにするようにソニックブレイカーを展開し突っ込んできたのはその直後の事で高周波ブレードを辛うじて盾にし、コックピットを守ったアギーハだったが、その余波で推進系まで破壊された。バランサー、推進系、そして武器まで失った……無理をすればまだ戦えない事はなかったが、今回の出撃自体がヴィガジのフォローであり、これ以上は自分の命に関わると判断した。

 

「これでどうだッ!」

 

『あーはいはい、あたいの負けだよ。ま、今回は少し顔を見せるだけだったのが少し熱が入りすぎただけだし、そっちの輸送機も戦艦に合

流したみたいだから、これ以上やってもあたいには何の旨みもないね』

 

「逃げるのか!」

 

最後まで挑発するような素振りを隠さず、続ける意志もないと言う様子のアギーハを逃がす物かとマサキが声を荒げる。だがアギーハはその挑発に乗る事はなく、最後までその言動と調子を崩す事はなかった。

 

『逃げるんじゃなくて帰るのさ、今回の勝負はとりあえずあんた達の勝ちで良いよ、でも今度は最初からもっと本気で行くよ。じゃあねえ~♪』

 

転移で逃げるシルベルヴィントの無人機達、転移されては追う事など出来ず。マサキ達はその場に呆然とした様子で残された。

 

「ちっ、逃がしたか」

 

逃がしたといいつつ、マサキは見逃されたという事を判っていた。無人機は無尽蔵に来るのだ、それを盾にしてアギーハが下がればそれでマサキ達は攻撃が出来ない。それが判っているから勝ったというよりも見逃されたというのが強く、マサキはその顔を歪めた。

 

『マサキ、 我々はここを離脱しヒリュウ改と合流するが……君はどうする?』

 

レーツェルは問いかけと言う様子で声を掛けたが、状況も何が起きているのかも判らないマサキはその申し入れを受け入れるしかなく、ゲッター1・トロンベとアステリオン、カリオン改に先導されヒリュウ改へと向かう事となるのだった……。

 

 

 

第82話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その4へ続く

 

 




ちょっと中途半端な形になりましたが、今回は此処までこの後はヒリュウ改での話もありますし、そこも書こうと思えばもっと文が長くなるので、丁度良い此処できります。次回は浅草での話に移動し、その話の後で伊豆基地やヒリュウ改での話を書こうと思います。話の分割が少しおかしいかもしれないですが、書きたい話やりたい事がかなり多いのでご了承ください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第82話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その4

第82話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その4

 

15時を過ぎた時間ともなると学生が多くなり、学生服に帽子姿の武蔵もその中に混じっていても何の違和感もなくなり武蔵はショーウィンドウを見つめながらうーんっと唸りながら、ジャーダとガーネットの家に足を向けていた。

 

「……人形焼っておかしなもんだよな」

 

浅草に住んでいる人間に浅草土産を手土産にするって正直どうなんだろうなと呟きながら、それらしい手土産を探す武蔵。とは言え、土産と言って売っているのは人形焼やあんこ玉と言った浅草土産が大半だ。これを土産として買って会いに行くのは流石の武蔵でも無いなと呟いた。

 

「うーん……もう普通に適当にケーキとかにするかなあ」

 

ダイテツが3万持たせてくれたが、当然武蔵は全部使い切るつもりなど無く、1万はダイテツに返さないといけないと考えていたし、シャインとエキドナにも土産を持って帰らないとと色々考えながら歩き、ふと顔を上げて小さく笑った。

 

「さぁいらっしゃいいらっしゃい! 焼きたてのドラ焼き、鯛焼きなんでもあるよ!」

 

浅間山の近くの温泉街でバイトしていたトウマの姿を見つけ、そちらに足を向けるのだった。

 

「おーい! トウマ!」

 

「ん? おッ! あんたは確か温泉の時の」

 

その名前を呼んで手を上げるとトウマも武蔵の事を覚えていたのか手を上げ返す。

 

「よう、こんな所でもバイトしてんのか?」

 

「ああ。バイトしながら観光とかしてるんだよ、そういうあんたは?」

 

「久しぶりに会いに行く知り合いのところに土産を持って行こうと思ったんだけどさ、全然思いつかなくてふらふらしていたらトウマを見つけたんだ」

 

「そっかあ、知り合いって浅草の人なのか?」

 

「そうそう、だから人形焼っていうのもおかしいだろ?」

 

確かに頷いたトウマはぽんっと手を叩いた。同年代そうということもあり、トウマ本人も武蔵も非常に気が合っていたのリアクションだった。

 

「焼きたてのドラ焼きとこれ、煎茶買って行けよ。ここのは美味いぜ!」

 

「おいおい、それってお前のバイトの手伝いじゃないかよ」

 

「そらそうだろ? 俺この店でバイトしてるんだからその店の宣伝するに決まってるさ」

 

そのさっぱりとした言葉と表情に武蔵は笑い財布を取り出し、今焼かれているドラ焼きを指差した。

 

「白餡と粒餡をそれぞれ……20個ずつ、それと煎茶の茶葉をくれ」

 

「まいどッ!」

 

明るく笑うトウマがドラ焼きを袋に詰めてくれるのを見て笑っていた武蔵だったが、突如その顔を険しくさせた。

 

(……なんだ。今のは……)

 

肌に突き刺さるような強烈な殺気、目を細め周囲を見渡す。だがその殺気の持ち主は当然見つからない、無意識に竹刀袋にいれたゲッター合金で出来た日本刀を握り締める。

 

「はい、お待たせ……どうかしたか?」

 

「あ、いや、なんでもない。幾らだ?」

 

「6500円になります」

 

1万円札を渡し、おつりと紙袋に入ったドラ焼きを受け取る頃には武蔵は柔和な笑みを浮かべていたが、それでも周囲を警戒していた。

 

「あんたは剣道とか?」

 

「あーオイラは柔道かな、いや剣道もやるけどさ。それよりありがとなトウマ! 助かったぜ」

 

「おう! 喜んでくれると良いな……所であんた名前は?」

 

「武蔵! じゃな! トウマ、またどこかでな!」

 

トウマに名前を名乗り、武蔵はドラ焼きを右手に、そして竹刀袋を左肩に担いで歩き出し、トウマは武蔵の背中に手を振ってその姿を見送る。

 

「柔道と剣道やってて武蔵かあ、なんかその通りって感じの名前だよなあ」

 

武蔵って名前がしっくり来るなと笑いバイトに精を出すトウマ。その顔はまさか普通に買い物に来ているあの武蔵がゲッターロボのパイロットであり、行方不明の武蔵と結びつく訳も無く、温泉の時に一緒にいたユーリアが一緒にいないのは喧嘩でもしたのかなあとのんびりと考えているのだった……。

 

 

 

シャインの好意によって浅草の一等地に庭付きの住居を構えたジャーダは町内会のキサブローの好意で、コウタとショウコの2人に手伝って貰いながらベビーベッド等の組み立てや荷解き、家具の配置の手伝いなどをしていた。

 

「いやあ、すまないな。2人とも」

 

「良いって事よ、気にしないでくれよ。ジャーダさん」

 

ガーネットの妊娠が判り、ジャーダも正式に連邦から除隊するのを決めたのは1ヶ月前だ。それまでも浅草の家で暮らしていたが、ジャーダは家にいない時間のほうが長く少しでも武蔵の手掛かりを探そうとし、ガーネットもそれを認めていた。

 

「はーい、皆。お茶を持ってきたわよ」

 

「ガーネットさん!? 座っててくれて良いんですよ!?」

 

まだお腹は目立ち始めてないが、それでもガーネットが妊婦ということは変らない。ショウコが慌てて駆け寄るが、ガーネットは穏やかに笑い大丈夫と口にした。

 

「良いの、動かないとお腹の赤ちゃんにも良くないんだからね。それに今日の荷解きだってまだ早いって言うのにジャーダがベビーベッドとか買い込んじゃったのよ?」

 

「うっ。そりゃまあすこーし、気が早かったかなあとか思うけどよ」

 

「少し所じゃなくて大分早いの、ごめんね、コウタ、ショウコ。折角の放課後に手伝わせちゃってごめんね」

 

まだ早いと言っているのにジャーダが張り切ってベビーベッドや掴まり立ちの練習用の柵などを買ってしまい、それを運び込んでいるジャーダをキサブローが見かけ、ショウコとコウタの2人を手伝いに来させてしまった事をガーネットが謝罪しているとチャイムが鳴る。

 

「おっと、お客さんだな。キサブローさんかな」

 

針のむしろだと気付いたジャーダが慌てて立ち上がり、逃げるように玄関に向かった。

 

「もう……本当にごめんね、2人とも」

 

逃げてしまったジャーダの変わりにもう1度謝るガーネット。しかしショウコもコウタも特に気にしておらず、ジャーダをフォローする言葉を口にする。

 

「いや、自分の子供が生まれるってなれば誰だって浮き足立つし、あれもいるこれもいるって思うって」

 

「そうそう、それに双子なんですよね。ガーネットさん」

 

「んー多分双子って言う話だけど……まだ確実って訳じゃないのよ?」

 

ソファーに座り込みお腹を愛おしそうに撫でるガーネットだったが、何時までも帰ってこないジャーダに不審そうな顔をする。

 

「随分ジャーダ遅いわね……どうしたのかしら?」

 

立ち上がって玄関を見ようとするガーネットを見てコウタとショウコが立ち上がった。

 

「良いですよ、私とお兄ちゃんで見てきますね!」

 

「おう! 宅配便かもしれないしな」

 

ジャーダが遅いのは宅配便かもしれないと言って、ショウコとコウタの2人で玄関に向かう。そこには呆然とした様子で立ちすくむジャーダと、玄関の前に立っている学生服に帽子姿の少年の姿があった。それは紛れも無くショウコがぶつかって、コウタが絡まれていると勘違いして喧嘩を売ったあの少年だった。

 

「ジャーダさん、何か大きな荷物……うん? あいつは」

 

「さっきの人だよね。ジャーダさん達の知り合いだったのかな?」

 

コウタとショウコが首を傾げているとジャーダが大きく拳を振りかぶり、少年の顔面に拳を叩き込んだ。吹っ飛んだ少年の後を追うように玄関を飛び出して行くジャーダを見て、ショウコの悲鳴を聞きながらコウタはジャーダを止める為にその後を追った。

 

「ジャーダさん、なにやっ……てんだ……?」

 

余り付き合いが長いわけではない、それでもジャーダがすぐ暴力を振るうような人間ではないと言う事はコウタも知っていた。そんなジャーダが殴りつける様な相手、しかも竹刀袋を持っていたのを見てジャーダを止め、もし喧嘩になっているのならば助太刀しようと思って飛び出したコウタの声は尻すぼみに徐々に小さい物になった。

 

「お前、お前ぇッ! い、今までどこにいたんだ! なにをしてたんだッ!! お、俺達がどれだけお前を探したと……どれだけ悔いたと思ってんだこの馬鹿野郎ッ!! ひ、1人で突っ込んで行きやがってッ! 生きて……生きてたんなら連絡くらい入れろッ!! この大馬鹿野郎ッ!!!!!」

 

「……すんません、ジャーダさん。心配かけて、すみませんでした」

 

涙を流し自身が殴り飛ばした少年に馬乗りになり襟首を掴んで叫ぶジャーダと、そんなジャーダの背中に腕を回して謝罪する少年の姿を見て、ただ事ではないと言う事はコウタにも判った。ジャーダが元連邦軍の軍人で、L5戦役にも参加していた事はキサブローとジャーダの話で知っていた。今目の前にいる少年がL5戦役で死んだと思われていた人物でそれが生きていた事に喜び、そして1人で逝こうとした事に怒っていると言うことをうやむやながら感じ取ったコウタはそこに割り込むことが出来なかった。

 

「ジャーダ。何を騒いで……武蔵、武蔵なのねッ! 生きて……生きてたのね」

 

ジャーダの怒声を聞いて出て来たガーネットもその少年の姿を見て、駆け寄りその背中に腕を回した。

 

「ガーネットさん。お久しぶりです、ラトゥーニから結婚したって聞いて、お祝いと顔を見せに来ました」

 

「そ、そんなのどうでも良いわよッ! 武蔵、武蔵……生きてたのね……良かった、良かった……」

 

帽子が庭に落ち、本当に申し訳なさそうな顔をしている少年の顔をどこかで見たことがあると目を細めながら3人のやり取りを見ていたコウタの隣から顔を出したショウコが声を上げた。

 

「あ、あーッ! 武蔵! 巴武蔵さんッ! ゲッターロボのパイロットの武蔵さんだッ!」

 

「あ、あああッ! そうだ、見たことあると思ったんだッ!」

 

東京宣言で写真で見ただけだったが、コウタとショウコは少年――武蔵の名前を知っていて大きく声を上げるのだった……。

 

 

 

 

 

ジャーダに殴り飛ばされた事でつぶれてしまったドラ焼きが机の上に並び、ジャーダとガーネットが隣り合わせで座り、その向かい側に武蔵が1人で椅子に座り、その隣でコウタがソファーに腰掛けていた。

 

「あ、あの! お、お茶淹れて来ました」

 

「ありがとなー、いやあ、まさか2人がジャーダさん達の知り合いなんて知らなかったよ。あ、ドラ焼き食ってくれよ、凄くいい奴らしいんだ」

 

さっきまで修羅場と言う雰囲気だったのに今ではぽやぽやと笑い、ドラ焼きを薦める武蔵。しかしコウタとショウコは困ったような表情を浮かべた。

 

「なぁ、ジャーダさん。俺とショウコって帰った方が良いんじゃないのか?」

 

L5戦役で特攻し戦死した筈の武蔵が生きていて、話をするのに民間人がいるのはどうなんだ? と尋ねる。

 

「で、武蔵。そこのところは?」

 

「え? オイラですか? いや、わかんないですよ。レイカーさんの所に行く前に顔を見せに来ただけですから」

 

「よし、なら大丈夫だ」

 

「「大丈夫なの(か)ッ!?」」

 

ジャーダの大丈夫と言う言葉にコウタとショウコが声を上げた。

 

「おう、俺とガーネットはもう除隊してるし、武蔵は元々軍属じゃないし、別に問題はないさ」

 

「そうね。武蔵が何か作戦に関係しているって言うなら別だけど……そこはどうなの?」

 

「なんか面倒ごとになるからレイカーさんの所に行けって言われて日本に来てますよ」

 

武蔵が日本にいる理由を聞いてジャーダとガーネットは頷き、もう1度大丈夫と言って笑った。

 

「武蔵、今までどこにいたんだ? と言うか、イングラム少佐はどうなったんだ?」

 

「あーイングラムさんも生きてますよ? 今別行動をしてるんで、どこにいるかまではしらないですけど。あとなんかタイムスリップして失われた時代とかにいましたね」

 

「ごめん、どこだって?」

 

「タイムスリップですかねえ、なんか旧西暦のど真ん中にいましたよ」

 

武蔵とジャーダ達の話を聞いて本当にこの話を聞いて良いのかなと言う表情をずっと浮かべていた。

 

「えっと武蔵さん?」

 

「武蔵で良いぜ。あ、ドラ焼き食べなよ。美味しいぜ、ちょっと潰れてるけどさ」

 

「あ、ど、どうも」

 

にこにこと笑いながら差し出されるドラ焼きを受け取り、武蔵とドラ焼きを交互に見てドラ焼きを齧る。

 

「所でレイカー司令の所に行けって言うのはダイテツ中佐か?」

 

「ダイテツさんですね。レイカーさんの預かりになれば大丈夫って言うんで、あ、リュウセイ達にも会いましたよ」

 

「そっか、ラトゥーニにあったって言ってたしね。元気そうだった?」

 

「勿論元気ですよ!」

 

最初のやり取りこそ心配したが、武蔵もジャーダ達も友好的で明るくそれだけ武蔵のことで思うことがあったのだろうと思い、懐かしそうに話をしている武蔵達の話をコウタとショウコは微笑ましそうに聞いて、英雄と聞いていても穏やかで優しい人間なんだなと思っていたのだが、突如その目が鋭く細められた。

 

「武蔵? どうした「コウタ。お前はショウコを守れ、ジャーダさんはガーネットさんを」……何をっ!? ってそれ日本刀じゃねーかッ!?」

 

突然ショウコを守れと言われ困惑するコウタの目の前で武蔵が竹刀袋を開けて、そこから日本刀を取り出し鞘から抜き放つ。

 

「ちょ、ちょっとどういう、何かのドッキリッ!?」

 

「ダセ! ウラギリモノヲダセエエエエエッ!」

 

「シッ!!!」

 

ショウコがドッキリかと問いかけた瞬間、窓ガラスが弾け飛びそこから飛び出してきた影と武蔵が抜き放った日本刀がぶつかり合い火花を散らす。武蔵が日本刀を振るい襲撃者を弾き飛ばし、その姿を見たコウタは驚きに目を見開いた。

 

「な、なんだこりゃあ、お、鬼ッ!?」

 

鋭い牙と額から鋭い角を生やした鬼としか言いようのない男が涎をたらしながら、コウタ達を睨みつけていた。

 

「鬼か、インベーダーじゃないだけましだなッ!」

 

日本刀を構え駆け出す武蔵と鬼の鋭い爪がコウタ達の目の前で何度も交錯する。

 

「え、え!? な、な……きゃああああああッ!?」

 

突然始まった映画やドラマ、ゲームの中でのやり取りに困惑しているショウコの目の前で鬼の首が武蔵の振るう日本刀で刎ねられる。その首がショウコの足元に転がってきて、ショウコは悲鳴を上げ、糸が切れたように気絶した。

 

「しょ、ショウコ!? お、お前人殺しッ!?」

 

気絶したショウコを抱きとめ、目の前で首を刎ねた武蔵を見て思わず人殺しと口にしたコウタだったが、目の前で鬼の首が再び生え唸り声を上げる姿に絶句した。

 

「馬鹿野郎ッ! どう見ても化けもんだろうがッ! おらッ!!」

 

「ぎゃっ!?」

 

「くたばれッ!!」

 

学生服の後に突っ込んでいたリボルバーを抜き鬼の頭を撃ち抜き、日本刀で鬼の心臓を貫くと翡翠色の光に包まれて鬼が粒子となり消え去る。噴出した血も、遺体と同じように消え去りコウタは目の前のやり取りが現実なのか、幻なのかが判らなくなっていた。

 

「……んだよ、これ。どうなってるのか俺にも説明しろ!」

 

武蔵に詰め寄り、説明しろと言うコウタの腕をジャーダが掴んで止める。

 

「武蔵、これはどういうことなんだ?」

 

「オイラもさっぱり、ただ……オイラ達のほかにも誰かいるみたいですね。おい、そこにいるの。3つ数える前に出て来い、じゃないと撃つぞ」

 

リボルバーに弾を込めながら武蔵が警告する。その光景を見てコウタは先ほどまでの武蔵と今の武蔵が合致せず、混乱する一方だった。

 

「止めて、撃たないで。私がいたからあいつらが来たのよ、巻き込んでごめんなさい」

 

フードで顔を隠した声からして女がよろめきながら姿を現す。自分達の知らない相手がもう1人家にいたということに、元はつくが軍人だったジャーダとガーネットは驚きに目を見開いた。

 

「ジャーダさん、とにかく伊豆基地に連絡を、このアマはオイラが連れて行きます。おい、お前がいなくなれば鬼はお前を追うんだよな?」

 

「え、ええ。今までなら」

 

「判った。ジャーダさん、危ないと思ったらこれを使ってください。弾はこれです、しっかり両手で持って引き金を引いてくださいよ。じゃないと肩脱臼しますから。走れ……そうにはないな。しょうがねえなあ」

 

「……ちょっと、女にすることじゃないわよ」

 

「うるせえ、てめえのせいで、何にもしらねぇジャーダさん達が殺されかけたんだ。運んでもらえるだけ感謝しな、このクソアマ」

 

武蔵はジャーダ達の見ている前で文句を言い続けている女を俵のように肩に担ぎ、日本刀を腰にねじ込む。

 

「む、武蔵! 待て待て、お前も応援が来るまで此処にいろ!」

 

「そ、そうよ! 危ないわ!」

 

出て行こうとする武蔵を呼び止めるジャーダとガーネットに武蔵は大丈夫ですよと笑う。

 

「大丈夫ですよ。化け物とは戦い慣れてますからね。それよりも、伊豆基地に連絡してください。多分……百鬼獣、ジャーダさん達に判りやすく言えば特機がでてきます。伊豆基地に応援を呼んでください、オイラもゲッターロボを持ってきてますけど、乗り込むのには時間が掛かりますから」

 

矢継ぎ早に指示を出し、女を肩に担いだまま出て行こうとする武蔵を見て、コウタが声を上げた。

 

「どういう事なのか判るように俺にも説明してくれ!」

 

「……見た事は忘れな。ショウコも気絶しているし、鬼の死体も血痕もない。話している内に寝てへんな夢でも見たって思ったほうが良いぜ。コウタ」

 

「そんな説明で納得出来るかッ!」

 

あいまいのまま忘れろという武蔵に忘れられるかとコウタが怒鳴り声を上げる。だが武蔵は冷静に、冷ややかな視線をコウタに向けた。

 

「世の中には知らないほうが良いこともある。そう思って忘れるんだ、じゃないと……お前も殺される。ジャーダさん、ガーネットさん! 頼みましたよ!」

 

女を連れて家を飛び出す武蔵――その姿は殆ど一瞬で見えなくなり、ジャーダとガーネットは受話器を手にする。コウタは気絶しているショウコを抱き締め、目の前の非日常をぼんやりとした様子で見つめているのだった……。

 

 

 

 

アゲハを俵抱きにして街中を走る武蔵を追って、鬼が車や街頭の上を跳んで追いかける。

 

「なんだなんだ!? 映画か? 映画の撮影か!?」

 

「キジマ・アゲハだッ! 新作映画の撮影だぞッ!!」

 

アゲハの姿を見て映画と言う通行人の声があちこちから上がるが、当然映画等ではなく、武蔵は何時一般人に被害が出るかと焦りながら早く人の居る所を抜けようと必死に走るが肩に担いでいるアゲハが思った以上に邪魔で徐々に苛々してきた武蔵は日本刀をアスファルトに突き立てると同時にアゲハを両手で持ち上げる。

 

「ちいっ! ちょっと投げるぞ!!」

 

「は? ちょっ、まったあああああッ!?」

 

武蔵の人外の膂力を持って上空に放り投げられたアゲハの悲鳴が木霊する中、武蔵はアスファルトに突き刺した日本刀を抜き放ち両手でしっかりと握り締める。

 

「シャアアッ!!!」

 

「舐めんなぁッ!!!」

 

足を止めた武蔵を仕留める好機と感じたのか、鬼が街頭を蹴り砕きながら急降下し、武蔵はそれを下から振り上げた一閃で両断し、路駐禁止の張り紙が張られた車の上に飛び乗り、それを踏み砕きながら大きく跳躍する。

 

「おらあッ!!!」

 

「ぎゃっ!?」

 

ゲッター合金で出来た日本刀で両断された鬼はゲッター線の光に包まれて消える。武蔵は再び地面に降り立つ前に街頭の上の鬼目掛け、ジャーダに渡したのは別のマグナムの銃口を向ける。

 

「くたばれッ! くそ鬼ッ!!」

 

只のマグナムではなくゲッター合金弾頭の小型散弾銃に撃ち抜かれた鬼は両断された鬼と同じく空中でゲッター線の光に包まれて霧散する。

 

「うおりゃあッ!!!」

 

着地同時にアスファルトに亀裂が入るほどに地面を踏み込んだ武蔵が弾丸のような勢いで駆け出し、向かって来た鬼を横一線で両断し落下して来たアゲハを片手で掴むと再び俵抱きにし走り出す。

 

「すげええッ!!!」

 

「めちゃくちゃ派手な殺陣だな」

 

武蔵と鬼のやり取りは時間にして3分にも満たないやり取りであり、余りにも現実離れした光景という事もあり、通行人達は最後まで今のやり取りを映画だと疑わず、武蔵とアゲハを追う鬼も一般人に目もくれなかったこともあり、このやり取りを見ていたものの殆どがアゲハの最新映画と言う事を欠片も疑わないのだった……。

 

 

 

 

裏路地で鬼を切り倒す武蔵を見ながらゴミのように地面に転がされているキジマ・アゲハは自分の扱いが酷すぎると武蔵に文句を抱いていたが、助けられたのも事実なので黙り込み、武蔵を見つめていた。

 

(運が良かったのかしら)

 

百鬼帝国の胡蝶鬼だったアゲハは武蔵と言うのは伝聞で聞いた程度で余り詳しくはなかったが、文句やクソアマと言いつつも助けてくれるので善人であると感じていた。

 

「お疲れ様、ごめんなさいね、巻き込んで」

 

「うっせい。別にオイラも助けたくて助けてる訳じゃねえけど、裏切り者って言われてるって事は百鬼帝国を知ってるんだろ? それを聞く為に助けてるだけだ」

 

「それでも良いわ。そういう関係のほうが信用出来る」

 

自分が聞きたい情報があるから敵に殺される訳にはいかないと言う理由で助けられてるほうが信用出来るとアゲハが言うと、武蔵は日本刀を鞘に納め、アゲハの前に座り込んだ。

 

「んで、お前何もんだ」

 

「キジマ・アゲハ。女優よ」

 

「そういう表向きのもんはどうでもいい、本当の所は?」

 

せっかちな男は嫌われるわよと言う軽口を叩く余裕も無く、ここで自分が百鬼帝国の関係者と告げて殺される訳にも行かないとアゲハは更なるカードを切った。

 

「竜馬達はもっと優しかったわよ?」

 

「……OK、ラドラの同類ってことか、察した」

 

竜馬の名前を出せば、武蔵は自分を殺さないし、より詳しい話を聞く為に安全圏に辿り着くまでは守ってくれると言う計算がアゲハにはあった。

 

「別に百鬼帝国から逃げてきたわけじゃないのよ、ただ従えって言われたから断ったら殺すって始まったのよ」

 

「でも百鬼帝国を知らない訳じゃないんだろ?」

 

「まぁね。でも今の百鬼帝国は知らないわ」

 

自分を知っている可能性があるから殺そうとしようとしている。大物ぶっているくせにやってることが小物なのよと揚羽が内心吐き捨てていると武蔵が立ち上がる。その姿を見て、アゲハが唇を尖らせ武蔵への文句を口にする。

 

「もう少し休ませてよ」

 

確かに走り回るだけの体力は回復したが、それでももっと丁寧に扱えと睨むと武蔵は首を左右に振った。

 

「休ませれるだけの余裕があれば休ませてやりたいさ、オイラだってリョウ達の話も聞きたい。だけど無理だろ、あれじゃあよ」

 

武蔵の指差した方向を見ると3機の百鬼獣の姿が遠くに見え、避難を促す警報が鳴り響いた。

 

「判った、私が悪かったわ。ゲットマシンは近くなのよね?」

 

普通の追っ手で駄目なら百鬼獣を送り出す、道理ではあるがあまりにも酷い悪手だ。しかしそれだけ百鬼帝国にも余裕がないと言うのを現していた。武蔵が此処まで逃げてきたのはゲットマシンに乗る為だと考えたアゲハが武蔵にそう尋ねる。

 

「当たり前だ。急ごう、PTじゃ百鬼獣の相手じゃ分が悪すぎる」

 

そう言って走り出す武蔵の後を追ってアゲハも走り出す、だがその胸中は武蔵と共にゲットマシンに向かった事で自分もゲットマシンに無理やり押し込められるのではないかと言う不安と恐怖に埋め尽くされていた。

 

「よし、ここで待ってろ。逃げんなよ」

 

「乗れとは言わないのね」

 

乗れといわれると思っていたのだが、待ってろと言われアゲハは驚いたような表情で武蔵にそう問いかける。

 

「乗れるなら乗せるけど、オイラでも最初気絶しかけたんだが」

 

「……素直に待ってるわ、大丈夫逃げないから」

 

ゲッターロボパイロットでさえも気絶しかける機体に鬼の時ならまだしも、今の普通の人間の身体で耐えれる訳がないと判断しアゲハは待つと言うと、武蔵はゲットマシンのコックピットから鞄を取り出してアゲハに向かって投げる。

 

「それ非常用のキット。スタンガンとか、医療道具が入ってるからそれで手当てでもしてろ」

 

自分の返事も待たずにゲットマシンに乗り込み飛び立っていくその姿をアゲハは見送り、鞄から取り出した医療キットを取り出し、鬼から逃げている時に負った細かい傷の手当を始めるのだった……。

 

そして時を同じくして、試作機の運用テストをしていたユルゲンの元にも出撃要請が出て、模擬戦の後だが出撃準備が大忙しで始まっていた。

 

「ホフレー、運よくオーガが出て来た。これは貴重な体験だよ」

 

トレーラー車に横たわる左右で機体色の違う細身のPTでもAMでもない機体のコックピットに腰掛ける少女にユルゲンが声を掛ける。

 

「判ってるよぉ。ユルゲン博士ッ! あのオーガと戦ってくれば良いんだよねぇ! 模擬戦はつまらなかったからあれで遊んでくるよぉ」

 

破壊された試作機の残骸と走り回る救急隊員、血反吐を吐いているパイロットに目もくれず、ホフレーは楽しくてしょうがないと言う笑みを浮かべた。何の躊躇いも無く通信車を蹴り倒し、コックピットを執拗に打撃し、助けてくれ、やめてくれと叫ぶ声を無視し、パイロットを殺そうとしたホフレーとそれをとめないユルゲンに対して周囲の人間から化け物を見るような視線が向けられる。だが2人はそんなことを無視して、連邦からの救援信号だけが重要だと言わんばかりに話を進める。

 

「その通りだ。でも、エリシオネスにオーガとの戦闘データはない、ODEシステムの補助はないから慎重に戦うんだよ?」

 

「はぁーい♪ じゃあ行ってきます!」

 

口元にマスクを嵌め、液体に満ちたコックピットの中にダイビングするようにホフレーの姿は消え、ニュクスの子の1人である、争いの女神エリスの名を冠した人型機動兵器――エリシオネスが産声を上げるのだった……。

 

 

 

 

 

~おまけ~

 

武蔵がいると揉めるシャインとエキドナだが、武蔵がいなければ割かし気が合うところもあるのか、比較的に温和なやり取りが行なわれていた。

 

「何をしてますの?」

 

「……暇だから絵を書いてる。ラーダが言ってた、思い出す良い切っ掛けになるかもって」

 

記憶喪失のエキドナが記憶を取り戻す切っ掛けになると言われたエキドナは食堂の机の上で絵を書いていて、暇と言って机に突っ伏していたシャインが顔を上げてエキドナの手元を覗き込んだ。

 

「えええッ!?」

 

「シャイン……うるさい」

 

「いやいや、ええッ!?」

 

落書き程度に思っていたシャインだったが、エキドナが描いていたのは精細なそれこそ写真もかくやと言わんばかりの武蔵とゲッターロボの絵であり、想定外の絵を見たシャインが驚きに声を上げる。

 

「何々どうしたの?」

 

「また喧嘩してんのか? ちょっとは静かに過ごせよ」

 

シャインの大声にエクセレンとカチーナが喧嘩ばっかりしてるなよと言いつつ、エキドナとシャインのいる机にやってきて……。

 

「うわ、上手ねぇ……写真そっくりじゃない」

 

「なんでお前記憶ないのにこんな絵が書けるんだ?」

 

「知らない、でも武蔵はずっと見てたら書ける」

 

記憶は無くとも身体が覚えている技能は健在でナンバーズの技能としての似顔絵のスキルを遺憾なく発揮し、書き上げられた武蔵とゲッターロボの絵にエキドナは満足そうに何度も頷いた。

 

「ください!」

 

「え、やだ」

 

「そこをなんとかッ!」

 

「いや」

 

「いいじゃないですか! その絵をくださいッ!」

 

「やだ」

 

武蔵の絵が欲しいシャインとそれを渡したくないエキドナ……子供じみた喧嘩が勃発し、エクセレンとカチーナは頭を抱える。

 

「みきーッ!!」

 

「ふしゃああッ!!!」

 

「……」

 

元同僚? 仲間? 姉妹? なんと言えば良いのかはラミアにとっても複雑だが幼女と取っ組み合いの喧嘩をしているエキドナを見てラミアの目から感情が抜け落ちていた。ついでに言うと……。

 

「食堂で喧嘩をするのやめるべきだ」

 

「「うるさいっ! へっぽこッ!!」」

 

「だ、誰がへっぽこかッ!?」

 

そこにユーリアまでINしてしまいレオナの目からも光が抜け落ちていたりするのだが……武蔵がいてもいなくてもシャイン達は姦しいのだった……。

 

第83話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その5へ続く

 

 

 




非日常に無理やり踏み込まされかけたコウタさん。ギリギリで踏みとどまりましたがSAN値チェックの時間でした。でもここでの戦いを見ていたのでファイターロアやコンパチカイザーに乗る時に覚悟完了しやすい状況になっております。次回は、オリキャラを含めてアヤとマイの2人をメインにしたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第83話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その5

第83話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その5

 

 

伊豆基地地下のSRX計画のラボのハンガーに固定されたゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムの前のPCの前にはロブを初めとしたSRX計画の開発チーム、そしてケンゾウの姿があった。

 

「どうだアヤ? 大分安定してきたと思うんだが……」

 

今日は実際にアヤをパイロットとして乗せての最終調整を行なっていた。アルブレード、R-02カスタムとは異なり、最初からT-LINKシステム前提で作られているからか、その最終調整はSRX計画のラボでしか行なえず、今ではリュウセイに追い抜かれたがそれでもまだ強力な念動力者のアヤでなければ細かい調整は出来なかったからだ。R-03カスタム、そして量産型R-3、そしてアルガードナーの最終目標は高レベルの念動力者でなくとも、一定以上の能力を発揮出来る念動力者用の機体が根底にある。最初からレベルの低い念動力者ではなく、高レベルのアヤの稼動データを元にして、負荷を掛けないラインを探りだし、アヤのデータをサポートに扱い、半簡略化すると言う今までとは違うアプローチの為システムダウンや、モニターの破壊等、イレギュラーは多数あった。やっと安定稼動レベルになったが、まだ不安定な部分も多く、試験運動をしているゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R-03カスタムを全員が固唾を呑んで見守っていた。

 

「アヤ……」

 

「大丈夫だマイ。ワシも全力を尽くした、心配に思うことはない」

 

「はい。父様……」

 

不安そうに実験を見学しているマイの肩に手をおいて、大丈夫だと言うケンゾウも心配そうに実験場に視線を向けていた。今までに無いコンセプト、そして前提もない実験に流石のケンゾウも不安と心配を隠せないでいた。

 

『逆流も無く、出力も非常に安定しています』

 

アヤからの通信を聞いてラボに歓声が広がる。T-LINKシステムの影響で出力が規定値に届かない事や、それをオーバーすることが非常に多く仮に稼動してもすぐにシステムエラーによる停止も起きていた為出力が安定しているという言葉に喜びを感じる者も多かった。

 

「いや、まだ動き出したばかりだ。安定したと判断するのは早計だ、そのままレーザーキャノンを使って見てくれ」

 

しかしロブだけは慎重にグラフを確認し、武器を使ってみるようにとアヤに指示を出す。

 

『了解。ターゲットドローンをお願いします』

 

地下なので派手に立ち回ることは出来ないが、構えて撃つくらいは十分に可能だ。腰にマウントした細身のライフル――念動集束装置により、ビームの貫通力と威力を高めた念動集束型レーザーキャノンを構えるゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムの前にターゲットドローンが出現し、それにアヤは冷静に照準を合わせ、1発で確実に破壊する。

 

「グラフはどうなってる、オオミヤ博士」

 

「グリーンを維持しています、射撃時にはイエローゾーンに一時落ち込みますが、これは規定範囲内ですね」

 

リュウセイに追い抜かれ、イングラムは消息不明と言う状況で一時不安定だったアヤの念動力だが、R-SWORDらしきPTの確認とゲッターロボの姿が目撃された事で安定し、更にそのレベルも大きく上昇した。

 

「ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムのストライクシールドのシステムは切り替え式の筈だが、それのテストはどうするのだ?」

 

「午後から外の試験場で行なう予定ですが……それが何か?」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムは外見はR-3同様背部にストライクシールドを装備しただけに見えるが、コックピットを特殊な設計にし、機体の外見よりも内部を大幅に改装したタイプになる。TC-OSをベースにしあらかじめ設定されているモーションに念動力を組み合わせる事でレベルの低い念動力者でも高レベルの念動力者と同等の力を発揮することが出来るのではないか、あるいはスラッシュリッパーのように念動力を持たないとしても優れた空間認識能力があれば良いのではないか? と開発中に二転三転したと言う経緯を持つ。試験段階の時に何度もアヤが体調不良を訴えたこともあり、ケンゾウはそれを実際に使う事には懐疑的で不安を抱いていた。

 

「バリア展開ならこの場でも出来る筈だ。それで1度様子見をしよう」

 

攻撃に使わず、負担も少ないバリアモードで様子を見ようと言うケンゾウの言葉にロブは小さく頷き、マイクを手にした。

 

「判りました。アヤ、ストライクシールドをバリアモードで展開してみてくれ」

 

『了解』

 

R-3よりも4基増やし10個になったストライクシールドの内9個が分離し、3つワンセットになり念動フィールドとE-フィールドの複合バリアを展開する。しかもその形状を三角にしたり、四角にしたりとその形状とバリアの有効範囲を自在に切り替えて見せている。

 

「流石はアヤと言う所ですね」

 

アヤの念動力者としての素質自体は中の下と決して飛びぬけて強力な訳ではない。しかし、その念動力の弱さを補う精密な操作と安定感を持っており、強力だが暴走する危険性を秘めているリュウセイやマイよりも上のランクに位置づけられているのは訓練の末に手に入れたその安定感にあった。

 

『問題なく使用できます。この調子なら攻撃に転用することも問題なさそうです』

 

「そうか、それは大きな進歩だな。R-3のストライクビットも改造出来そうだ」

 

現在オーバーホール中のR-3だが、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムのデータを元に改良することも視野に入れているので、この改良型のシールドビットで得れた情報はかなり有意義な物だった。

 

「頭痛や念の逆流は?」

 

『大丈夫です。お父様』

 

「……そうか。それなら良かった」

 

今までの実験でのアヤの体調不良を目の当たりにしていたケンゾウは明るいアヤの口調に良かったと安堵の溜め息を吐いた。

 

「よし、では午後からは……なんだ!?」

 

午後からの実験のスケジュールをロブが説明しようとした時、伊豆基地全体に警報が鳴り響いた。

 

『浅草に百鬼獣が複数出現ッ! 繰り返します! 浅草に百鬼獣が複数出現ッ! 出撃可能なパイロットは出撃準備をお願いします!』

 

『ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムで出るわ! リフトアップしてッ!』

 

基地オペレーターの悲痛な叫びが響き、その声を聞いたアヤはリフトアップしてくれと叫ぶ。

 

「駄目だ! ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムはまだ試作機で実戦に投入できる段階じゃない!」

 

『ほかの基地から応援が来るまで時間稼ぎをするだけ! 早く手遅れになる前にッ!』

 

百鬼獣1体でも街を焦土にするには十分な戦力だ、それが複数出現していると聞いて声を荒げるアヤにロブは言葉に詰まる。

 

「今リフトアップする。アヤ、決して無理をするな。時間稼ぎに徹しろ」

 

「ケンゾウ博士!?」

 

躊躇うロブに変わりケンゾウがコンソールを操作し、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムをリフトアップさせる。それにロブが声を荒げるが、ケンゾウの態度は冷静そのものだった。

 

「あのままではアヤは基地の壁を破壊して出撃してしまう。それならば出撃させたほうが早い」

 

「しかし!」

 

「ここで口論している時間はない。オオミヤ博士、己が何をするべきなのか、それを見極めるんだ」

 

今やるべき事は口論をしていることではない、輸送機や輸送車でゲシュペンスト・MK-Ⅲを運搬し、浅草に出現した百鬼獣を追い返すことにある。

 

「父様。私も行きます」

 

「……実戦になるぞ」

 

「アヤを1人で戦わせるなんて出来ない。援護するくらいなら私にも出来ます」

 

出て行こうとするケンゾウの前に立ち塞がり、うんと言うまで絶対にどかないと言う様子のマイを見てケンゾウは深く溜め息を吐いた。

 

「ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプTをトレーラー車へ! 武装はタイプSの物だ。オペレートはワシがする! 行くぞ、マイッ!」

 

「は、はいッ!」

 

マイを伴って自ら戦場に赴こうとするケンゾウにSRX計画の研究者達は呆然とし、その後姿を見ていた。

 

「何をしている! 出撃準備を、支援物資の運搬準備! 急いで!」

 

「「「は、はい!」」」

 

ロブの一喝に弾かれたように動き出し、伊豆基地は即座に戦時中の警戒態勢へとなるのだった……。

 

 

 

 

リフトアップされると同時に飛び立ったゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムは3分ほどで浅草に到着した。その姿を見て百鬼獣が唸り声を上げる。その姿を見てアヤは小さく目を細めた、確かに浅草周辺に百鬼獣はいる。だがその姿が些か異様だったのだ……。

 

「伊豆基地の物とは全然違うわね」

 

伊豆基地に現れた個体は角を持ち、剣や斧を装備し、まさしく鬼と言う様子だった。だが目の前にいる百鬼獣は1機を除き飾り気も少なく、空中に浮遊したまま首を左右に動かしているだけで攻撃してくる意図が感じられない。

 

「グルルルウ」

 

牛のような角を持ち、三つ又の槍と盾を持っている鬼がのそりと動き出し、自分の前に立ち塞がるのを見てアヤはある予想を抱いた。臨戦態勢に入りながら、通信機のスイッチを入れる。

 

『アヤか? どうした」

 

PTを輸送用のトレーラーに通信が繋がり、そこから聞こえてきたケンゾウの声になんて無茶をと思いながらも、戦闘が始まっては話をしている時間はないので慌てて用件を口にする。

 

「お父様。避難誘導をしている伊豆基地の兵士に通達を頼めますか?」

 

『それは問題ないが……何を通達するんだ?』

 

「武蔵とイングラム少佐の捜索を頼んで欲しいんです」

 

通信機越しのケンゾウが眉を顰めたのが判る。生存の可能性は極めて高いが、今まで姿を見せずに逃げ回っていたと言ってもいい2人が伊豆基地に近い浅草にいるとは思えないと思っているのがアヤにも判った。

 

「灯台もと暗しってことかもしれません。少なくとも、あの2体の百鬼獣は誰かを探してます」

 

『……百鬼獣が態々探すような相手となれば、機体に乗り込む前の2人ということか……』

 

「可能性は十分にあると思います」

 

武蔵もイングラムの生身でもかなりの強さだが、ゲッターロボとR-SWORDがなければ普通の人間だ。乗り込む前に確保してしまえば、そして洗脳をすればそのまま戦力として使える。そう考えれば態々百鬼獣を持ち出す理由も判らなくはない、アヤの言葉を聞いてケンゾウは判ったと返事を返した。

 

『近くでウォン重工業の試作機のテストも行なわれている。応援要請に了承したから、識別コードを送る。攻撃はするなよ』

 

「了解。あの牛頭さえ何とかすれば浅草の被害も最小に抑えれると思います。2機でなんとか取り押さえて、引き離します」

 

『頼んだぞアヤ。だが無理はするなよ』

 

その言葉を最後にケンゾウからの通信は途絶え、アヤは小さく息を吐いて目の前の鬼――牛頭鬼に改めて視線を向けた。

 

「グガアアアッ!」

 

威嚇行動は繰り返しているが積極的に戦う意志は感じられない、それならと空中にいる百鬼獣に視線を向け……反射的にペダルを踏み込み一気に後退する。つい先ほどまでゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムの姿があったところに槍が突き刺さっているのを見て、アヤは小さく溜め息を吐いた。

 

「OK。そっちを狙ったら駄目って言うならこのまま引き離させてもらうわ」

 

ビームソードを抜いて刃を展開し、牛頭鬼に向かい合うゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタム。空中の2機の百鬼獣も十分に警戒しなければならないが、捜索を続けて攻撃をしてくる気配が無いのならばまずは目の前の牛頭鬼を浅草から引き放す事をアヤは選択した。

 

「ブモオオオオッ!!」

 

「このッ!」

 

牛頭鬼の槍とビームソードがぶつかり合い、雷のような音を周囲に響かせる。馬力では圧倒的にゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムが劣っている。だがその分技量は圧倒的にアヤの方が秀でている、力の牛頭鬼と技のゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムと言う図式だ。

 

「やっぱり力じゃ勝てないわねッ!」

 

「グギィッ!?」

 

胴体を蹴りつけ後ろに飛びながら頭部のバルカンを放つ。それは目晦まし程度の威力しかないが、数秒でも牛頭鬼の出足を遅らせる事は出来ていた。その隙に10機のストライクシールドの内7つを射出し、牛頭鬼と浅草の間にバリアを展開する。それに気付き、牛頭鬼は拳を突き出す。だが念動フィールドとEフィールドの複合バリアは非常に強固で、牛頭鬼の拳を弾き返しバランスを崩させる。その隙をアヤは見逃さず、2機のストライクシールドを打ち出し、牛頭鬼の頭を殴りつける。

 

「ブモォッ!」

 

「あなたの相手は私。浅草には手を出させないわよ」

 

最悪のシナリオは探している相手を見つけ出し、捜索をしている百鬼獣が撤退し浅草の街を牛頭鬼に踏み躙られる事だ。その前にバリアを張り、牛頭鬼が容易に手を出せない状況を作り牛頭鬼が自分だけを狙う環境をアヤは作り出したのだ。浅草への被害を抑える事は出来るが、その反面アヤは百鬼獣と1対1の戦いをする事になる。

 

「……やるしかないわよね」

 

試作機の応援と言うのがどれほどの戦力かは判らないが、あの誰かを探している百鬼獣に武器がついているようには思えず。牛頭鬼さえ倒してしまえばあの百鬼獣も撤退する可能性が高いとアヤは考えていた。

 

「ブモォオオオオオッ!!!」

 

雄叫びを上げる牛頭鬼は確かに恐ろしい。だがここで引いていては、L5戦役の時と何も変らない。

 

「行くわよッ! 覚悟しなさいッ!」

 

自らを鼓舞するようにコックピットの中でそう叫び、アヤは牛頭鬼との一騎打ちを挑むのだった……。

 

 

 

エリシオネスは非常に特殊な操縦形態を持つ準特機に分類される機体だ。勿論それは兄妹機のモロクリオス、タナトシアの3体も同様だ。ODEシステムをフルに生かす為の操縦桿もペダルも一切搭載されていない水槽のようなコックピット――それはODEシステムとの親和性を高める為の特殊な溶液で、機体と直結している酸素マスクから酸素を供給され、ダイビングスーツのような特殊なパイロットスーツの動きを読み取ると言うテスラ研で開発されているダイレクトモーションリンクシステムと同じ様な操縦機構を持つ。その為PTやAMとは一線を隔す人間のような柔軟な動きを可能としている。その特殊なコックピットの中でホルレーは粘着質な、光を宿していない瞳で牛頭鬼とゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムの戦いを見つめていた。

 

「へぇ……量産機なのにあんなに動けるんだぁ」

 

さっきまで自分が戦っていたゲシュペンスト・MK-Ⅲとはまるで別物の戦いを興味深そうに見つめていた。

 

「ねぇ、博士ぇ、あのゲシュペンストと戦ったら駄目なのぉ?」

 

『ホルレー、今回は支援だ。判っているね?』

 

「はぁーい……判ってますよぉ、一応聞いただけですよぉ。じゃあそろそろ行って来ますねぇ?」

 

『ああ、頼んだよ。ホルレー、大丈夫。君ならオーガにだって負けないよ』

 

ユルゲンからの激励の言葉にホルレー・ぺキュアはコックピットの中で身体を震わせる。ホルレーにとってはユルゲンの言葉が全てであり、何よりも優先される。戦争孤児であり、家族を殺した兵士に誘拐され、戦争の為に少女兵にされ戦う術と男を悦ばせる技だけを教えられた彼女に一般的な教養も、常識もない。彼女にあるのは殺すための技術と男が欲情するような言葉使いと性技だけ……殺しと性欲処理の為に育てられ、肉体も精神もズタボロになるまで酷使され、戦争が終わると同時に捨てられた彼女を拾ったウォン重工業には多少の恩は感じている……だけどそれはユルゲンと引き合わせてくれたからで、あーだこーだとうるさいウォン重工業には恨みさえも抱いていた。

 

(博士ぇ、あたしがんばるよぉ……)

 

戸籍も名前も無く、あくまで試作機の為の使い捨てのパイロットとしての扱いをされていた企業に感謝があるわけがない。だけどユルゲンに引き合わせてくれた事だけは感謝していた。名前を与えてくれ、必要とされる喜びと教育を施してくれたユルゲンはホルレーにとっては神なのだ。自分の欲求や、殺戮願望などを全て押し流し、ユルゲンの為だけに戦うという事だけに思考が固定される。

 

「行くよぉ。エリシオネスぅ」

 

その呟きに争乱の女神の名を冠する機体は唸り声を上げ、その声を聞くと同時に動力を一気に全開し跳躍する。

 

「!?」

 

「あはぁ、遅いよォッ!!!」

 

上空に浮いていた百鬼獣に飛びかかり、そのままの勢いで拳を叩きつける。動揺し逃げるような素振りを見せる百鬼獣を見て、ホルレーは嗜虐的な笑みを浮かべる。

 

「逃がさないよぉ、ほらほらオーガなんて言うんだから抗って見せてよぉ!」

 

腰にマウントされていたストレイトマシンガンを抜いて至近距離から撃ちまくる。兆弾が装甲を抉ろうが、地面に落下し被害を出そうがホルレーには関係がなかった。だってユルゲンは「支援しろ」と言った、被害を出すな、自分が傷つくなとは言わなかった……それなら腕が千切れとぼうが、足が千切れとぼうがゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムが戦いやすいように百鬼獣の数を減らす事だけをすればいい。

 

「つまんないぃ……もう良いよぉ、死んじゃぇ」

 

背部のウィングを兼ねているビームキャノンが腰に接続され、そこから放たれたビームが捜索用の鬼の胴体に風穴を開けて空中で爆発する。その爆風に乗ってもう1体の百鬼獣を蹴りつけると同時にテスラドライブを全開にする。

 

「あはぁッ!!! 死になよぉッ!!!」

 

エリシオネスにソニックブレイカーは使えない、もとよりそんな機構はエリシオネスには搭載されていない。微弱なバリアに守られただけで体当たりをすれば激しい振動がホルレーを襲うが、その振動と痛みがホルレー自身が生きていると言う実感に繋がる。バリアの向こう側に百鬼獣を叩き落し、チカチカと明暗を繰り返し、揺れる視界の中でホルレーは笑う……笑い声には程遠い、それこそ獣のような笑い声だがホルレーは確かに笑ったのだ。その頭の中にはいろんなホルレーの声が響く、アヤが百鬼獣を戦いやすいように近くに叩き落した、支援するってこういうことだよね。あいつに撃墜させれば良いんだよねえ、勝手に1体壊しちゃったけど褒めてくれるよねぇ、勝手なことをしたけど、いらないって言わないでぇ、あたし……役に立つからぁッ! 支離滅裂な叫びが頭の中を駆け巡り……最終的に1つの考えに統合される。ユルゲンに褒められる為に、百鬼獣をアヤに撃墜させれる状況を作り出せば良いと……。

 

「ほらほらほらッ! 行くよぉッ!!!」

 

背中のウェポンラックを解放し、マイクロミサイルを乱射し、両手に持ったストレイトマシンガンを乱射しながら急降下する。それは敵も味方も、周りも被害も何もかも無視された乱暴な攻撃だった。

 

『え、あ、きゃあッ!?』

 

『ブモオオオオーーッ!?』

 

アヤと牛頭鬼の悲鳴が木霊するが、それすらもホルレーには関係ない。アヤが撃墜出来る状況を作れば良いのだ、それだけで良い。どれだけボロボロでも、トドメをさせれば良いのだから範囲攻撃で薙ぎ払ってしまえばいい。それがホルレーの出した支援と言う余りにも曖昧なユルゲンの指示に答える形だった。

 

「あはッ! あはははッ!! あははははははははははッ!!!!!! これで、これで褒めて貰えるねぇッ!!!!」

 

両手首から展開されたビームソードで牛頭鬼に切りかかり、それだけではもどかしいと拳を叩きつけ、背部のビームキャノンを乱射する。目的と手段が完全に狂っているが、牛頭鬼を弱らせるという目的は達成していた。それと同時にゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムはストライクシールドをバリアにして直撃は防いだが、それでもダメージはけっして侮れる物ではなく、その場に膝をつき、機体の各所から黒煙を出していた。

 

『うっ……いったあ……』

 

爆風とビームの嵐に巻き込まれたアヤは苦悶の声を上げ、なんとか立ち上がろうとするが機体へのダメージが余りにも大きく、即座に動ける状況ではなかった。

 

「ほらああ! お前ぇッ! 早くこいつを殺せよおッ! じゃないと、じゃないと褒めてもらえないだろぉッ!!!」

 

動きの鈍くなった牛鬼頭にトドメを刺せとアヤに叫ぶホルレーだが、範囲攻撃に巻き込まれ大破こそ間逃れたが中破に等しいダメージを受けているアヤが動けるわけが無く、動き出すことのないアヤにホルレーは激昂し、ストレイトマシンガンの銃口をゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムに向け、その直後に背部にビームが命中した。

 

「なにするんだよぉ! ちゃんと手助けしてるだろうがあッ!!」

 

『アヤに何をする! お前は味方じゃないのか!』

 

トレーラーから身を起したゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプTを凄まじい眼光で睨みつけるのだが、その直後に上空から百鬼獣の叫び声が木霊し、新たな百鬼獣がエリシオネス、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタム、シュペンスト・MK-Ⅲ・タイプTを包囲するように出現するのだった……。

 

 

 

 

アヤごと攻撃しようとした細身の女を思わせる機体を見て、激昂し攻撃を繰り出したマイ。無論それは威嚇射撃で、背部のバインダーを狙った致命傷には程遠い牽制程度の攻撃だった。

 

『マイ、その機体は味方だ。攻撃は控えるんだ』

 

「でもアヤを攻撃しようとしたんだッ!」

 

『……それでもだ。機体に乗り込んだ以上……お前は軍属なのだ。友軍機への攻撃は許されない』

 

謝罪するのだと言うケンゾウの言葉にマイは嫌そうな顔をしながら、エリシオネスに視線を向けた。

 

(気持ち悪い……なんて五月蝿いんだ)

 

T-LINKセンサーを通じてエリシオネスのパイロットの念がマイに伝わってくる。怒り、喜び、憎悪、色んな念が浮かんでは消え、浮かんでは消え……誰かに向けられている激しい執着の念に吐き気すらマイは感じていた。

 

「すまない」

 

『ううん、いいよぉ? あたしもちょっと頭に血が上ってたからぁ。お相子ってことで良いよねぇ?』

 

粘着質な甘ったるい声がゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプTの中に響き、マイは思わず吐きそうになった。人と話しているはずなのに、人とは思えない。恐ろしい何かにマイには感じられた……何か言わなければならないと思っているのに、マイは口を開くことが出来なかった。

 

『支援に感謝します。フレンドリーファイヤに関しては、互いに事故と言う事にしましょう。私はSRXチームのアヤ・コバヤシ大尉です。あっちは妹のマイ・コバヤシ曹長です』

 

『ご丁寧にどうもぉ、あたしはウォン重工業のテストパイロットのぉ、ホルレー・ぺキュアぁって言うのぉ……階級は……一応曹長扱いだよぉ』

 

自分では対応出来ずアヤに助けられた事に安堵し、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R-03カスタムの後に逃げるように移動する。

 

『オーガが多いねえ。応援来るかなぁ?』

 

『そこは判らないわ。でも私達を完全に狙いを定めているみたいだから街には被害は出ないと思うわよ』

 

『ええ~それ嬉しくないなぁ』

 

アヤと会話をするホルレーは今は平常だが、いつまた先ほどのように激昂するか判らず、マイからすれば爆弾がすぐそばにあるようでとても平常心ではいられなかった。

 

『マイもぉ、よろしくねぇ~♪』

 

「う、うん……わ、判った。と、とりあえず鬼との戦いに集中しよう」

 

そうだねえと言うホルレーの声を聞いても、ホルレーが鬼では無く自分を見ているような気がしてマイは恐ろしくて仕方なかった。

 

『時間稼ぎをすれば応援が来るわ。とにかく今は、鬼を浅草から引き離すわよ。マイ、ホルレー』

 

猿のような姿をした百鬼獣――猿鬼、に両腕が以上に大きい百鬼獣――豪腕鬼、それに半月上の胴体を持つ百鬼獣――半月鬼、そして背中に砲台を背負った雷撃鬼はよくも邪魔したなと言わんばかりに殺気を向けてきている。人とは違う殺気にマイは脅え、ホルレーは口笛を吹いて楽しそうだ。

 

『じゃあこのまま海のほうに移動してぇ、そっちで戦う?』

 

街中で戦えば被害が大きくなる、先ほどまでは積極的に攻撃してくる事の少ない牛頭鬼だったから、ストライクシールドを併用したバリアを利用し、1対1で戦えていたが明らかに戦闘を仕掛ける気満々の4体の百鬼獣を相手にするのは街中では駄目だ。先ほどの狂人具合から信じられない理知的な事を言うホルレー。

 

『そうね、それが1番被害が……』

 

「待ってくれ、アヤ。鬼の様子がおかしいッ」

 

攻撃をして海に誘導しようとするアヤとホルレーにマイがストップを出した瞬間。雲の切れ間からミサイルが飛んで来て半月鬼の背中で爆発した。

 

『なっ!? こんな所で戦闘をするつもりッ!? どこの……うっ!?』

 

「う、うああッ!?」

 

何処かの偵察機が鬼を恐れて攻撃したと思った瞬間。アヤとマイを激しい頭痛が襲い、雲の切れ間から戦闘機が飛び出した。

 

『なにあれ? 戦闘機ぃ? 変なのぉ』

 

その姿を見たホルレーは変なのと称した。航空力学に喧嘩を売っているとしか思えない主翼も尾翼も申し訳ない程度についているだけの赤・青・黄色の三色の戦闘機が百鬼獣の頭上を越え、東京湾に向かって行く。

 

『『『『シャアアアーーッ!!!』』』』

 

そして百鬼獣達はアヤ達には何の興味もないと言わんばかりにその戦闘機を追って飛んでいく。アヤ達に向けていたのとは比べ物にならない程の強烈な敵意と殺気を持ってだ……。

 

「な、なんだあれは……わ、私はあれを知ってる!?」

 

それを見ていたマイは自分の身体を抱き締めるようにして震えた。恐ろしい、ひたすらに恐ろしくてしょうがなかった。頭が割れそうな痛みと己の意志に反して身体が震えだす……本能的な拒否、あれに関わってはいけないと言う恐怖がマイを縛り上げていた。

 

『あ、ああ……あれはッ!』

 

普段ならばマイの不調に気付くアヤだが、目の前に現れた戦闘機――ゲットマシンを見て、それ所ではなかった。自分の知るゲットマシンとは違うが、あれは紛れも無くゲットマシンだと判っていた。

 

『チェェエエエエンジッ!!!! ゲッタァアアアアア――ッ!!! ポセイドォォオオオンッ!!!!』

 

衝突事故もかくやと勢いでぶつかった戦闘機が一瞬で巨大な特機――ゲッターポセイドン2へと合体を果たす、ゲットマシンから響く声は紛れも無く武蔵のものなのであった……。

 

 

 

 

東京湾のど真ん中に着地し、自分を追ってきた百鬼獣――豪腕鬼に向かってポセイドン2の豪腕を振るわせる。豪腕鬼もそれに対抗するように拳を突き出すが、ぶつかり合った場所から豪腕鬼の拳が砕け、ポセイドン2の豪腕が豪腕鬼の肩の手前まで突き進み、豪腕鬼は苦悶の声を上げる。

 

「シャアアッ!」

 

「ガアッ!」

 

それを助けようとして猿鬼が手にしているブーメランをポセイドン2に投げつけ、半月鬼が目から破壊光線を射出する。

 

「んなもんが効くかあッ!」

 

ブーメランはポセイドン2が受け止めて握り潰し、半月鬼の破壊光線は装甲に弾かれて霧散する。

 

「ゲッタァアアキャノンッ!!!」

 

「ギャアッ……」

 

呆然としている猿鬼に向かってゲッターキャノンが放たれ、防御をする素振りを見せたが防御した腕ごと胴体を吹き飛ばされ、苦悶の声を最後まで上げる事無く猿鬼は消し飛ぶ。

 

「ゴガアッ!?」

 

「ギ、ギイイッ!!」

 

ポセイドン2の圧倒的な攻撃に驚く雷撃鬼を庇うように豪腕鬼が前に出て、片手でポセイドン2へと殴りかかる。

 

「シャアア!」

 

「ギ、ギギィッ!!」

 

半月鬼と雷撃鬼が逃げるように飛び去り、それに武蔵が視線を向けると豪腕鬼が追わせないと言わんばかりにポセイドン2へと片腕で攻撃を繰り出す。

 

「悪いな、鬼に対する情けはオイラにゃないんだよッ!!」

 

それが人間ならば武蔵は自分が死んでも仲間を逃がそうとする姿を見て同情もしただろう。死ぬことはないと説得することもあるだろう……だが相手は鬼でここで逃がせばもっと被害が出るし、みのがせられたとしてもそれに感謝することはない。鬼は侵略者であり、人間を滅ぼそうとしているのだから……。

 

「うおらあッ!!!」

 

豪腕鬼の胴体を蹴りあげ、豪腕鬼を逃げようとしている半月鬼と雷撃鬼に向かって蹴り飛ばすと同時にポセイドン2は体制を低くする。

 

「ゲッタァアアアサイクロンッ!!!」

 

姿勢を低くしなければゲッターサイクロンの被害が浅草に出てしまうと判断したからこその、頭を下げるという行動であり。斜め下から吹き上げる暴風に3体の百鬼獣は飲み込まれ、その全身を切り刻まれ細かい爆発を繰り返す。そのダメージは深刻だが、3体を纏めて破壊するには些か威力が足りなかった。だがそれも当然だ、元々トドメを刺す目的ではなく、トドメをさせる場所に百鬼獣を移動させただけなのだから……。

 

「ギガアアアーーッ!」

 

そうとも知らない百鬼獣は3体の中で最も推進力があるであろう雷撃鬼に半月鬼、豪腕鬼が掴まり、ゲッターサイクロンの暴風から逃れようとした瞬間……3体の百鬼獣を高速で射出された網が絡めとった手応えを感じ、武蔵は操縦桿を強く握り締め、ペダルを踏み込んだ。

 

「大ッ! 雪ッ!! 山ッ!!!!!」

 

自分の視界の範囲外に弾き飛ばしての大雪山おろしは武蔵に取っても初の事だった。だが近ければ浅草に被害が出る、少なくとも伊豆基地からの緊急避難勧告で飛行機や船の運行が止まっている事を信じ、そして、ビアンが増設してくれたレーダーに熱源反応が無いのを確認したからこそこの超高高度での大雪山おろしの踏み切ったのだ。

 

「おろしぃぃいいいいいッ!!!」

 

上空へ……宇宙まで飛んでいけと言わんばかりに腕を振り上げ、フィンガーネットを切り離す。

 

「まあ、これで戻ってくることはないだろ。うん」

 

ゲッターサイクロンで全身を傷つけ、そしてトドメの大雪山おろし――目では見ていないが、百鬼獣と言えど宇宙の近くまで放り出されれば仮に生きていても単独で大気圏突破とかは出来ないだろうと判断し、武蔵は振り返る。

 

「うげえ」

 

そしてまだ振り返るには早かったと言わんばかりの呻き声を上げた。何故ならば……。

 

『武蔵、武蔵よね。やっぱり生きていたのね! 少佐は……イングラム少佐は一緒なのッ!?』

 

『……えっとえっと、大人しく伊豆基地まで同行願います』

 

『あはぁ。ゲッターロボと武蔵巴、生きてたんだあ……』

 

2機のゲシュペンスト・MK-Ⅲがすぐ近くに来ており、そこから響くアヤの声に、脅えながら声を掛けてくるマイの声、そして甘ったるく、どこと無く嫌悪感を抱かせえるホルレーの声、三者三様の声掛けとその周辺に飛んでいる戦闘機とヘリコプターの姿にどうしたもんかなあと悩みながらも、武蔵はお久しぶりですと口にする。

 

(まあ、なるようになるさ)

 

ただその胸中は百鬼獣より戦うよりも難敵で、そして半分泣いているアヤにどうやってイングラムの事を説明しようかと武蔵は頭を悩みながらも、どの道伊豆基地に会えばアヤに会うことになると思えばそれが少し早いか遅い程度の差で、あーだーこーだ考えるよりなるようになれという半分諦めの境地にも似た考え方なのだった……。

 

 

 

第84話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その6へ続く

 

 




後半は武蔵無双でしたが、本番はここからアヤとマイ、そしてホルレーの3人と出会うことになる武蔵とアゲハの事をどうやって説明するとか、そこら辺になります。戦いで武蔵が頑張るというよりかはこの説明を頑張ると言うのがタイトルの頑張れ武蔵さん! って所ですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第84話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その6

第84話 彗星と流星/頑張れ武蔵さん その6

 

浅草での百鬼獣との戦いを終えたアヤとマイ、そしてケンゾウはウォン重工業のテストパイロットのホルレーとその搭乗機エリシオネスと共に伊豆基地へと帰還していた。武蔵も本当は同時に帰還させたかったのだが、どうしても連れて来たい人物がいるということで、伊豆基地に必ず来るという条件で一時別行動をしている。そしてホルレーとは出来れば別れたかったところなのだが、次の試験運用の会場が伊豆基地という事で警戒しつつ、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプTと同じトレーラー車に乗せて格納庫に止まる。

 

「……アヤ」

 

「うん、大丈夫よ」

 

トレーラーが止まると同時に逃げるように出てきたマイをアヤは抱き締めて大丈夫と声を掛ける。それでもマイの表情は固く、トレーラーの扉が開く音がするとアヤの後ろに回り込んで隠れた。その反応を見ればマイがホルレーをどれだけ恐れているのかが判り、アヤもその顔を引き締め出てくるホルレーに備える。

 

「ぷはあ、あぁ疲れたなぁ……」

 

水音を立てて現れたウェットスーツのようなぴったりとしたパイロットスーツを着たホルレーの姿にアヤは目を見開いた。年の頃は良く判らないが恐らく成人はしていない、マイと同じか少し年上と言う感じだ。鍛えられて引き締められた身体と、歩くたびに揺れる胸に格納庫にいた整備兵達が気まずそうに目を逸らす。

 

「えーっとぉ、貴女がアヤぁ?」

 

ねっとりとした絡みつくような視線と甘ったるい口調のホルレーは言い方は悪いが、娼婦か何かのような妖艶な雰囲気を身に纏っていた。

 

(何、この子……気持ち悪い)

 

戦っている時は口にしなかったが、マイが感じていた気色悪さをアヤも感じていた。それはこうして顔を見せるとより強烈になり、マイよりも成熟しているアヤでさえ嫌悪感を抱かずにはいられなかった。多重人格と一言に言ったとしてもそれでは片付けられないほどの強烈な感覚、喜怒哀楽の感情が常に暴走しているような……口調と念が合致しない。こんなに気味の悪い人間を見るのは初めての事だった……そもそも人間なのかと思うレベルだった。

 

「んん? ああぁ。ごめんなさいぃぃ……エリシオネスはぁ、培養液の中で操縦するからぁ……外に出ると回りべちゃべちゃになるのぉ……ごめんねぇ」

 

黙り込んだアヤを見て格納庫を濡らした事を怒っているのだとホルレーは思い謝罪の言葉を口にする。

 

「えっとぉ、雑巾とかあるぅ? ちゃんと自分で掃除するからぁ……」

 

「いや、それは構わない。アヤ、彼女をシャワールームへ案内してくれ、服は一般兵士の物を用意してやってくれ。マイもアヤも汗を流してくると良い、武蔵と会う前に汗まみれと言うのは些か体裁が悪かろう」

 

ケンゾウの言葉の中に隠された真意を読み取り、アヤは嫌そうにしているマイの手を握る。

 

「ホルレー、こっちよ」

 

「んーありがとねぇ」

 

そのままマイの手を引いてホルレーと共にシャワールームに足を向けるアヤ。ホルレーの姿が見えなくなった所で、ロブとケンゾウは格納庫を濡らしている培養液をスポイトなどで回収する。

 

「ウォン重工業の機体は確かゲシュタルトシリーズと言っていたな」

 

「ええ。ですが培養液を利用する機体ではなかった筈ですが……」

 

ゲシュタルトシリーズは次期主力機のトライアウトに出される筈の機体だ。運用テストに用いられる際も通常のコックピットのデータだった筈。提示されているデータの機体と目の前のデータが合致しない……ケンゾウはその事に危機感を抱き、培養液の回収。そしてエリシオネスと呼ばれる機体の内部データの分析とスキャンを行なうことを決めた。

 

「しかし、良いのですか?」

 

「ああ、これは私の独断だ。オオミヤ博士達は関係ない、心配するな。責任はワシが全て取る」

 

ケンゾウの直感でエリシオネスもウォン重工業も、そしてホルレーとすべてが危険だと感じていた。武蔵の生存が確実になり、伊豆基地全体が浮き足立っている間にケンゾウはエリシオネスのスキャンを始めたのだった。

 

「お父様。武蔵はもう帰って来ましたか?」

 

「いや、まだだ。だが、もうそろそろだろう」

 

シャワーを浴びているまでの時間だったのでそこまで長くはなかったが、大まかな機体データの解析を済ませたケンゾウはまだ武蔵が伊豆基地に戻っていないと返事を返す。

 

「シャワーありがとうございましたぁ」

 

「いや、気にすることはない。ワシ達も君には助けられているからな、ウォン重工業とは連絡もついている。昼過ぎにはあちらの責任者も来るだろう」

 

「態々ぁ、ありがとうございますぅ」

 

焦点の合わない瞳、危ういほどの感情の変化――それらは特脳研で何人も見たことがある。これが伊豆基地のパイロットならば指摘しただろう、だがホルレーはウォン重工業の所属であり、余計な事は口に出来ない。

 

(やはり……危うい)

 

ホルレーと言う少女をパイロットにする事は危険だ。そしてエリシオネスもまた危険な物にケンゾウには見えていた、伊豆基地での試験でその危険性を指摘出来るだけの何かがあれば良いがとケンゾウが考えているとジェット機のような音が伊豆基地の上空に響いた。

 

「来たみたいね」

 

「……うん」

 

尾を引いて空を飛ぶ3色の戦闘機――ゆっくりと減速し、伊豆基地の格納庫に順番に着陸するゲットマシン――ドラゴン号、ライガー号……そしてポセイドン号がゆっくりと着陸し……。

 

「うええ……吐く、吐く……」

 

「ちょちょッ!? 女優なんだろ! 吐くなよ!?」

 

ポセイドン号から現れた武蔵は青を通り越して土気色の顔をした女性に肩を貸していた。

 

「あれってキジマ・アゲハじゃ」

 

「誰?」

 

「女優だ。マイ……日本では上から数えたほうが早い程に有名な女優だ」

 

サングラスとストールで顔を隠しているが、紛れも無く武蔵が連れていたのはキジマ・アゲハ。その人だった……そんな有名な女優がへたり込み、吐くと呻いている。

 

「うっぷ……あ、駄目。これ駄目な奴……い、いや駄目よ……じょ、女優がはく、駄目……うっ、ああ、駄目かも……」」

 

「誰かッ! 誰かエチケット袋くれませんかぁ――ッ!!!」

 

武蔵の帰還を祝う雰囲気が武蔵の絶叫によって吹き飛び、何とも言えない空気が伊豆基地の格納庫に広がるのだった……。なお最終的にアゲハは女優の矜持と言う事で耐え切ったが、完全にグロッキーで医務室に運び込まれたのだった……

 

 

 

レイカー達の前で武蔵が苦笑いを浮かべながら何度も頭を下げる。自分が連れてきた相手が騒動を起こしたので申し訳ないと思うのは当然の事だったが、今この場にそれを指摘する者は誰もいなかった。

 

「いやあ。お騒がせて申し訳無いです」

 

「いや、構わない。しかし、よく無事に、生きて戻ってくれた」

 

レイカーの言う通りだった。よく生きて戻って来た……MIAは確認こそしていないが戦死扱いだ。そんな武蔵がこうして目の前にいると言う事はレイカーを始めとした伊豆基地の人間にとって歓迎し、喜ぶべきことだった。

 

「武蔵……少佐は、イングラム少佐は一緒じゃないのかしら?」

 

一通り挨拶が終わった所でアヤが震える声で武蔵に問いかける。武蔵と一緒にイングラムが現れると思っていたのだが、武蔵1人――R-SWORDという目撃例はあるが、イングラム本人ではないのか? と言う不安をアヤは隠しきれなかった。

 

「イングラムさんも無事ですよ。今はそのー……別行動してますけど、ラドラと一緒のはずです」

 

ラドラと一緒……それは今はクロガネと共に行動していることを現しており、レイカーは武蔵が容易にクロガネの名前を口にしなかったことに感謝した。

 

「そう。そうなのね……良かった」

 

目尻に涙を浮かべるアヤの手を握り締める少女の姿を見て武蔵が眉をひそめ、鋭い視線を向けられたマイが体を小さくさせる。

 

「紹介しよう。マイ・コバヤシ……ワシの娘だ。マイ、挨拶を」

 

「ま、マイ・コバヤシです……は、初めまして」

 

「いやあ、こりゃご丁寧にどうも。睨んで悪かったな、怖がらせちゃってごめん」

 

謝罪の言葉を口にする武蔵にマイは少し安堵したのか柔らかく微笑んで、気にしないでと笑った。武蔵もその顔を見て笑い返したが、その瞳の奥には警戒する色が浮かんでいた。レビ・トーラーがマイであった事は機密だが、それでもレビ=マイに辿り着いている者は少なからず存在する。それを知ってなおマイの名を名乗らせる事の意味を考え、武蔵は口を紡いだ。自分は決して賢くない、レイカーやアヤに何か考えがあるのならば、無知な自分が指摘するべきではないと考えたのだ。

 

「武蔵君は今までどこで何をしていたのだ?」

 

「旧西暦で派手にドンパチして、平行世界でも化け物と戦ってました」

 

「すまない。なんだって?」

 

サカエが聞き違いと言ってくれと言う表情で武蔵にもう一度問いかけるが、答えは同じでサカエは遠い目をして眼鏡を外してハンカチで汚れを拭っていた。

 

「つまりそれは百鬼帝国と戦っていたという事で良いのかね?」

 

「あーすんません、違います。失われた歴史とか言う年代でインベーダーのクソ共と戦ってましたよ」

 

失われた歴史を見てきたという言葉にケンゾウが腰を浮かせる。脳の専門家と言えど、失われた歴史と言うのは研究者にとって大変興味深い話だ。だが連邦にとっては隠しておきたい話でもある……下手に聞かれて反逆の意ありとされては困ると判断したレイカーの咳払いでケンゾウは我に帰り椅子に腰を下ろしたが、それでもその瞳に宿っている知的好奇心の光は全く消えていなかった。

 

「そのインベーダーと言うものに関しては軽がるしく口にしないように、では何故女優のキジマ・アゲハを連れて来たのかね?」

 

「……ラドラと同じです。どうも狙われているみたいで」

 

ラドラと同じと口を濁す武蔵。だがその一言でアゲハの重要性をレイカー達は察した。

 

「判った。伊豆基地で保護することを約束する」

 

「急に押しかけてきた上に無理な事を言ってすみません」

 

武蔵は謝罪するが、百鬼帝国の事を知るかもしれない人物となれば、今後の戦いの為に保護するのは当然の事だ。

 

「ダイテツから伊豆基地預かりにして欲しいと言う報告を受けて、こちらを用意した。これを携帯して欲しい」

 

「すみません、ありがとうございます」

 

レイカーの差し出したカードを受け取る武蔵。それを見てアヤが口を開いた。

 

「武蔵はダイテツ艦長達に先に会っていたの?」

 

伊豆基地に来る前にダイテツ達と合流していたのか? と問いかけられ、武蔵は苦笑を浮かべる。

 

「宇宙でレフィーナさんとヴィレッタさん、それとギリアムさんとリューネに会って、その後にリョウトとリオに会って……地球に戻ってからダイテツさん達ですね」

 

自分達が最初と思っていたアヤだったが、思っていた以上にL5戦役の面子と再会していた事にアヤは驚き、そして肩を竦めて苦笑した。

 

「それならもっと早くに伊豆基地に顔を出してくれればよかったのに」

 

「まぁ色々ありまして、なんか連邦本部に顔を出せと、こちらで特例処置をするって言われていたんですけど、それだと良くないって言われてましてね。レイカーさんに会いに行くようにってダイテツさんに言われたんですよ」

 

戦時特例の処置を連邦本部で行なえば武蔵は連邦本部の預かりになる。そうなれば命令を出して武蔵を取り込むことも可能だ、それを危惧し伊豆基地に武蔵を向かわせたダイテツの判断は紛れも無く英断だ。

 

「戦時特例を出したとしても私から武蔵君に強要することはない。強いていればハガネかヒリュウ改、もしくはシロガネと行動を共にしてくれれば良い」

 

「ういっす。とりあえず2~3日は伊豆基地にいるように言われてますし、それからアビアノ基地でしたっけ? そこに行ってダイテツさん達と合流するつもりです」

 

「そうか、ではダイテツか、レフィーナ中佐の指示下に入ってくれ、アヤ大尉。武蔵君の世話と手伝い等を頼む」

 

「はい、判りました。マイ、武蔵、行くわよ」

 

武蔵とマイを伴って司令室を出て行くアヤ。その姿を見送ったレイカーは重い溜め息を吐いた。

 

「ケンゾウ博士はどう思いますか?」

 

「余りにも都合が良いと言わざるを得ないですな」

 

武蔵が見つかると同時に未知の集団である百鬼帝国を知る女性が手元に現れた。それを手放しに喜ぶ事はレイカー達には出来なかった……余りにも自分達に都合が良すぎる。

 

「自分達で考えているような筈なのに、誰かに誘導されている気がしますね」

 

「ああ……今まで以上に慎重にならざるを得ないな」

 

攻勢に出れるタイミングではある、だがその攻勢でさえも誰かに演出され、用意されたようにレイカー達には感じられ、今まで以上に慎重に動くべきだと思わざるを得ないのだった……。

 

 

 

 

 

武蔵が生きていた……自分達が聞いたのはかなり遅かったが、それでも武蔵が生きていると聞いて伊豆基地の雰囲気は非常に明るい物になっていた。

 

「ジャーダとガーネットの所に行ってたのね」

 

「ええ、どうせ日本に行くならって思いまして……あ、すいませーん。焼きうどんとカツカレーお願いします」

 

厨房に向かって声を掛ける武蔵、活気に満ちた声が伊豆基地の厨房から木霊する。

 

「……いっぱい食べるんだな武蔵は」

 

「マイは食べなさすぎじゃないか?」

 

「それは違うわ」

 

おにぎり2つと味噌汁でお腹一杯と言う様子のマイに食べなさすぎと言う武蔵。その声を聞いて即座に違うと言うアヤ……実際その通りである。丼が何個も山積みになっている机の上を見れば武蔵のほうが異常であると言うことは明らかだ。

 

「リュウセイ達にももう会ってるのよね?」

 

「ええ。元気そうでしたよ、ヴィレッタさんとイルムさんなんて殴ると意気込んでました。リンさんもついでに殴っておくかなって言ってましたし……大丈夫かなあって思いますよ」

 

ヴィレッタとイルムが殴ると言う人物……それはイングラムに他ならない。

 

「ふふ、じゃあ私はビンタにしておこうかしら?」

 

「ええ……いやまぁ、うん……皆怒ってますよねぇ。オイラもシャインちゃんとジャーダさんにすっげえ怒られましたもん」

 

カツカレーを食べていた武蔵の手が止まり、申し訳なさそうな顔をする。

 

「怒られたのなら謝れば良いんだよ。武蔵」

 

「うん、本当にその通りなんだよなあ……はぁ」

 

マイに正論を言われたからか、それともかなりこっぴどく怒られたのか武蔵は深く溜め息を吐いた。

 

「シャイン王女にもあったのね、どうだった?」

 

「……すっげえ泣いて怒られました。罪悪感と申し訳なさで本当トンでも無い事をしたって後悔しました」

 

子供の涙と言うのは時に何よりも強力だ。特に武蔵のように優しい人間には何よりも重く、そして後悔させるだろう。

 

(武蔵には悪いけど、ここはフォローは無しで行きましょう)

 

武蔵のように覚悟完了しているとまた窮地に追い込まれたら特攻と言う選択をしかねない。シャインの涙で特攻と言う考えが無くなるのならば、シャインに負い目を感じて貰っている方が良い。そして何よりも、武蔵が特攻と言う選択を取らないようにもっと強くなろうとアヤは心に決める。

 

「武蔵は伊豆基地に居る間何をするんだ?」

 

「んーとりあえず1回ジャーダさんの所に顔を出すつもり。鬼が出てきて、家の中めちゃくちゃにしちゃったからさ」

 

「判ったわ、そういうことなら許可を貰ってからだけど車を出してあげる」

 

ジャーダからの連絡で伊豆基地の対応が早かったのでその事に対する感謝を告げるという意味も込めてアヤが車を出すと言った時だった。ひょっこりと1人の少女が人垣を掻き分けて姿を見せた。その姿を見てマイは顔を引き攣らせ、武蔵は誰だ? と言わんばかりに怪訝そうな表情を浮かべた。

 

「あはぁ、貴方が武蔵ぃ?」

 

「……誰だあんた?」

 

「ホルレー、ホルレー・ぺキュア。よろしくねぇ?」

 

「こらこら、ホルレー。もっと挨拶は丁寧にしなければ駄目だよ」

 

ホルレーを窘める低い男性の声が響き、人垣の中から柔和な笑みを浮かべた男性が姿を見せた。

 

「こんにちわ。ムサシ・トモエ君だね? 初めましてヴィルヘルム・V・ユルゲン。ウォン重工業で機体開発をやらせて貰っている者で、ホルレーの保護者のようなことをしている」

 

ユルゲンに頭を撫でられたホルレーの顔に狂気の色は無く、その外見相応の可憐さがあった。その姿に見惚れる者もいたが、武蔵は鋭い視線をユルゲンに向けた。

 

「武蔵です。どうぞよろしく」

 

「ああ、よろしく。L5戦役の英雄に会えるなんて感無量だよ」

 

表面上は2人とも笑っている……だが武蔵とユルゲンの間には互いを互いを探るような気配が満ちていた。

 

「そうそう、明日私の開発した機体のテストをやるんだ。是非君にも見て欲しいな、まぁ今の状況だと許可が下りるかも少し怪しいんだけどね、もし降りたら君の意見も聞きたいと思うんだ」

 

「招待してくれるのならば顔を出させてもらいますよ」

 

武蔵から聞きたい言葉を聞けたのかユルゲンは穏やかに笑い、ホルレーをつれて食堂を後にする。

 

「武蔵どうしたの?」

 

「いや、わかんないですけどね……ホルレーって奴より、あいつ……確かユルゲンって言ってましたよね? あいつ……なんかやばいっすよ。鬼とか爬虫人類に似てやがる」

 

マイとアヤが感じていたホルレーの危険性、だがそれよりもユルゲンがやばいと言う武蔵。アヤは何も感じなかったが、野生の勘とも言える武蔵の本能的な警告を聞いて警戒を強める。

 

「判ったわ。レイカー司令とお父様に言っておくわね」

 

「お願いします。オイラの気のせいなら良いんですけどね……」

 

気のせいなら良いと言いつつ、武蔵の目付きは鋭いままでホルレーとユルゲンに対する警戒は一切緩める事は無いのだった……。

 

 

 

 

コーウェンとスティンガーからゲッター合金とゲッター炉心を手にし、上機嫌なブライの携帯端末に連絡が入る。その端末に表示されている名前を見て、ブライは更にその笑みを深めた。

 

「私だ。やっと積極的に動く気になったかな?」

 

『ええ、その通りです。ブライ議員……1つ頼みたいことがあるのですが、よろしいですかな?』

 

「構わないともヴィンデル。私は君に協力してやるさ」

 

イーグレット・フェフは確かに優秀な研究者ではある。だがブライからしてみればイーグレットの目的は新人類を作ると言う物で面白みのない男だった。それに対してヴィンデル・マウザーの掲げる永遠の闘争は争いの中で進化するというその持論はブライからしても共感できる物であり、何よりも口八丁でイーグレットを焚き付け、アースクレイドルを制圧するという事を成し遂げている。

 

「私も御してみるか? んん?」

 

『恐れ多いです、ブライ議員』

 

これがブライがヴィンデルを評価する点だった。自分の目的を叶える為ならば泥をすすり、頭を下げることも厭わない。そして逃げる事も辞さない。この泥臭さ、己の目的を叶える為ならばなんでもすると言う野心に満ちた瞳――時が来れば鬼にしても構わないと思うほどにブライはヴィンデルを買っていた。

 

「それで私に何をさせたい?」

 

『しばし日本に武蔵の足止めを……礼としてゲッターロボD2の情報をお譲りします』

 

「ほう……その理由は?」

 

武蔵を足止めしろと言うのはブライにとっても無意味な物ではなかった。竜馬、隼人、弁慶と比べて武蔵の情報はさほど多くない、その上ゲッタードラゴンの後継機であるゲッターD2の情報もブライにとって欲しい物であった。

 

『ハガネ、そしてシロガネへ攻撃を仕掛ける際に武蔵の存在は邪魔なのです』

 

「良いだろう。引き受けた」

 

ヴィンデルはハガネとシロガネをやけに警戒している。その理由も今回の出撃で見極められるだろう……武蔵を日本に足止めするだけで得れるリターンの多さを計算し、ブライはヴィンデルの申し出を受け入れた。

 

『よろしくお願いします』

 

「構わんさ、その代り退屈させるなよ」

 

『勿論です。では準備があるので私はこれで』

 

沈黙する携帯端末を見てブライは笑う。どうしても手に出来なかったゲッター炉心、ゲッター合金、そして共行王が持ち帰ったブラックゲッターロボ……。

 

「ふふふ、はははは、良いぞ、良いぞ。全て私の思い通りになって来たッ!」

 

何十年も雌伏の時を過ごした……一時はあの憎いゲッターロボのせいで何もかも駄目になるかとまで思ったが、それでも自分の思い通りの展開になってきた。まるで「世界」から後押しされているような、お前の悲願をかなえて見せろと言われているような……そんな感覚を味わいながらブライは歩き出す。鬼の力を借りて、今まで影に徹していた者達がゆっくりと動き出そうとしていた。

 

「ふむ、なるほど……状況は把握した」

 

そして動き出したのはブライとヴィンデルだけにあらず……ブライと共に長い間を記憶を封じられていた男もまた動き出そうとしているのだった……。

 

 

 

第85話 蠢く影 その1へ続く

 

 




今回は短めの話でフラグを多数用意してみました。次回はレーツェルの視点の話、インスペクターの話、連邦大統領ふの話、そして伊豆基地での話を書いて行こうと思います。次回の話は全体的にフラグの話や次の話の準備と言う感じの話しにしたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第85話 蠢く影 その1

第85話 蠢く影 その1

 

百鬼獣の襲撃によって1日延長されたエリシオネスの稼動テスト。それはケンゾウの直感と武蔵の警告をレイカーに検証させる猶予を与えていた。そしてケンゾウから告げられたエリシオネスの実機データを聞いてレイカーはその眉を顰めた。

 

「……ブラックボックスだらけだと?」

 

「ええ。公表されているエリシオネスとは何もかもが違います。ユルゲン博士はデータ取りの為のワンオフのため提出したデータとは異なると主張していますが、これはワンオフ等という言葉で片付けられる次元の物ではありません」

 

公表されているエリシオネスのコックピットはガーリオンなどのAMを改造した物だが、今伊豆基地に運び込まれているエリシオネスはDMLシステムに似た操縦システムに加え、特殊な培養液の中で操縦する物になっているとケンゾウがスキャンしたデータを元にレイカーに説明する。

 

「ケンゾウ博士はどう思う?」

 

「危険極まりないシステムだと思います。それこそアードラー・コッホのゲイムシステムに通ずる何かがあると私は考えます」

 

DC戦争時にアードラーが運用したパイロットを部品とするシステム……ゲイムシステムに似た何かがあると聞けばレイカーも眉をひそめる。

 

「判った。武蔵君の警告もある事だ、稼動テストは慎重に行なおう」

 

レイカーの言う慎重とは、伊豆基地ではエリシオネスの評価点をつけないと言うことだ。伊豆基地が試験機の評価点を一番多く持つので、伊豆基地が評価しない段階でエリシオネスの軍での正規運用はほぼあり得ない段階になった。

 

「私の思い過ごしならば良いのですが……」

 

「いや、警戒することに越した事はない。私も違和感を覚えているからな」

 

ホルレー・ぺキュアと言う少女の戸籍は確かに存在するのだが、公表されている戸籍や過去と彼女の言動が合致しない。黒い噂の多いウォン重工業はイスルギ重工に合併されたという話だが、当然イスルギも真っ黒だ。どこぞの少女兵などを連れてきて、適当な戸籍を与え、危険な機体のパイロットにしていると言う可能性がゼロではない以上レイカーがエリシオネスを評価することはない。

 

「武蔵君達はジャーダ少尉達の所かね?」

 

「今から向かうと言っておりましたが、暫く様子見をしてもらうつもりです。妊婦には悪いと思いますが場所の移動か、警備をつける必要があるかもしれませんな」

 

「それをするのならばその場にいたと言うコウタ・アズマとショウコ・アズマの2人もだな、出来れば学校にカウンセラーなどを配置して対応して貰いたい」

 

伊豆基地の対応が早かったのはジャーダからの連絡が大きかった。それゆえに警備隊が百鬼獣を発見する前に警報を発令させ、アヤを出撃させる事が出来た。しかしだ、逆を言えばアゲハを狙って現れた鬼を武蔵が退治する所を見ていた4人は百鬼帝国にとって邪魔者になったという事を意味している。

 

「百鬼帝国がどこまで行動するかですな」

 

「その通りだ、だが楽観視も出来ない。サカエ、信頼出来るSPをピックアップしておいてくれ。もし鬼が出現したら、その時は保護出来るようにな」

 

了解しましたと返事を返し司令室を出て行くサカエ。その姿を見送り、レイカーが小さく溜め息を吐いた。

 

「やはり問題はありましたか?」

 

「ああ。だがこれは私は撤回するつもりはない」

 

武蔵を伊豆基地所属の戦時中特別召集にする事に対して、伊豆基地ばかりが戦力を集めていると言う不平・不満が出ているが、レイカーはそれを撤回するつもりはなかった。どこに百鬼帝国に成り代わられた司令がいるかも判らず、そして武蔵とビアンの繋がりはDC戦争時から有名だ。ビアンの居場所を知る為に武蔵を危険にあわせるわけには行かず、何を言われてもレイカーは武蔵を伊豆基地所属のままにし、ダイテツ達と行動を共にさせるつもりだった。

 

「元々武蔵君は連邦に良い感情を抱いていない。下手な所に行かせて反発させるわけには行かない」

 

「勘違いしている者が多すぎるということですね」

 

ゲッターロボと言う力を民間人が持っているのは危険だと言う者が多いが、その大半以上がゲッターロボを解析し己の力にしようとしていると見ていい。民間人が操縦できるのならばと思うのは勝手だが、ゲッターロボはそう簡単に操れるものではないのだ。

 

「今は余りにも情勢が危うい……警戒を緩める事も、大きく動く事も出来ないからな」

 

インスペクター、百鬼帝国、謎の生物群――そして本物かどうかと言う疑いは当然残っているがビアンの決起で世論は大きく揺れている……何かの切っ掛け1つで大きく地球の情勢は変わりかねない。武蔵の生存は喜ばしいことであったが、一部の連邦軍高官のせいで武蔵が連邦に見切りをつけて去る事になれば連邦への不満は一気に爆発するだろう。

 

「武蔵君は今の状況ではジョーカーとなるだろう」

 

士気を上げる事にも、下げることにもなりかねない武蔵は文字通り鬼札であり、それゆえにレイカーは慎重に動かざるを得ず、武蔵の生存を大々的に発表することも出来ないのだった……。

 

 

 

 

レイカーが武蔵を伊豆基地所属にしたその頃。パリの連邦政府・大統領府には連邦軍の総司令部からの密告じみた報告があり、その報告を聞いてブライアンは眉をひそめていた。

 

「それに何か問題があるのかな? 総督」

 

『は? いえ、ですから伊豆基地のレイカーばかりが力をつけるのは問題だと……』

 

「反逆者に仕立て上げて追いまわした相手よりも、気心知れた相手の方が誰だって良いと思うだろう?」

 

ブライアンは武蔵の事をさほど知っているわけではない。だがシュトレーゼマン達に反逆者に仕立てられ、その部下に追い回された武蔵は連邦に対する心象が悪いのは判りきっていた。

 

『しかしこの状況ならば、彼を大々的に……』

 

「だから、彼はそんな事を望まないだろうし、何より何時後から撃ってくるような人間を信用する馬鹿には思えないよ。レイカー司令には僕の方から大統領命令として武蔵に対する連邦のすべての命令の拒否権を証明する書類とカードを送ることにしよう」

 

『な!? 正気ですか!?』

 

「正気に決まっているだろう? 大丈夫だよ。彼は地球を守る為に戦ってくれるさ、何も言わなくてもね。話はそれで終わりかい? それなら君達も自分がやるべき事をやりたまえ」

 

苦虫を噛み潰したような顔をして通信を切る総督にブライアンは溜め息を吐いた。武蔵の生存、そして新型ゲッターロボの存在は非常に大きい――なんせL5戦役を終結させた英雄と地球を守った英雄機だ。顔と名前が合致しないとしてもそのネームバリューは凄まじく、それに乗っ取ったものが量産型ゲッターロボ計画だが、それも上手く行っているかと言われるとそうではない。キルモール作戦の失敗、リクセント公国の乗っ取りと、応援・救援に向かわないという旨の連邦軍の司令部からの指令書の流失……それらを挽回する為に武蔵を連邦軍本部の直属に考えている高官は多い。だが武蔵は連邦に対して良い印象は無く、L5戦役を共に戦ったダイテツ達だからこそ協力体制にあるという事を誰も判っていない。

 

(そう簡単になんで御せると思うかねえ)

 

武蔵のようなタイプは決して損得で動くことはない、義理と人情と言っても良いかもしれない。助けられたから助ける、そして地球を守ると言う願いが合致しているから共に戦っているが、百鬼帝国を恐れて穴熊を決めようとしている総司令部の要請等武蔵が受け入れる訳がない。

 

「と言う訳だ。アルテウル、武蔵君への大統領特例の発令とそれを証明する証明書の準備を頼みたい」

 

「お任せください」

 

アルテウルの目に最近野心の光が宿っているのは知っていたが、アルテウルの力がなければ大統領としての仕事は出来ない。何時までこの大統領に席に座っていられるかブライアンには判らなかったが、こうして座っていられる間に出来るだけの事はやろうとしていた。

 

「僕の名前で、ほかの人間が命令権を持たないようにしてくれよ」

 

「……判りました。では完成しましたら日本の量産型ゲッターロボ計画の査察と共に1度伊豆基地に向かうようにご予定を立てておきますね」

 

「ああ。よろしく頼むよ」

 

一礼し出て行くアルテウルを見送るブライアン。そしてそのやり取りを見ていたニブハルが小さく笑みを浮かべ、ブライアンに声を掛けた。

 

「今のこの情勢で日本に行かれるのですか?」

 

「あんまり乗り気じゃないけどね、ブライ議員の量産型ゲッターロボも見ておきたいし、大統領として武蔵君に会わない訳には行かないだろう? さてと、待たせて悪かったね。北米の様子はどうなっているのかな?」

 

インスペクターが活発に活動している北米の様子を尋ねると、ニブハルは報告書を片手に現在の状況の報告を始める。

 

「現在、ラングレーを始めとする北米方面軍基地の約9割がインスペクターに制圧されております、テスラ研も同様で現在一部の職員がインスペクターの人質状態となっております」

 

ニブハルの報告を聞き、先ほどの連邦軍総督の陳述を聞いていた時よりもその顔を歪めた。

 

「北米にはヒリュウ改が降下していると聞いていたけど、それはどうなったのかな?」

 

「はい、現在ヒリュウ改がテスラ研から脱出した面子と合流し脱出を試みております」

 

完全に出遅れた形になるが、テスラ研の研究者の脱出にヒリュウ改が協力してくれているのならば大丈夫だろうと僅かにブライアンは息を吐いた。

 

「インスペクターの様子は?」

 

「各基地を中心とした地区を封鎖していますが、他方面へ侵攻する素振りは見せていません」

 

民間人および基地関係者の避難が完全に完了しているわけではないが、捕虜扱いではないと言う事に安堵したブライアンだが、次のニブハルの言葉にブライアンは眉を顰めざるを得なかった。

 

「ただし、勢力圏内へ近づく者、圏外へ脱出しようとする者に対しては攻撃を仕掛けています。これは大人しくしていろと言う警告だと思われます」

 

「都市部の状態は?」

 

軍関係者、基地関係者ならばこういう事態への訓練も受けている。救援までは耐えれるとブライアンは考えていた。だが民間人はそうではない、都市部への攻撃は行なわれているのか? とニブハルに問いかける。

 

「大規模な攻撃を受けた地区はほとんどありませんが、各ネットワークが寸断され……日を追うごとに混乱が激化しているようです。さらにインスペクターの軍勢に百鬼獣らしき姿も確認されており、百鬼帝国との関係性が匂わされています」

 

インスペクターと百鬼帝国の関係性をにおわす行動――協力体制にあるかどうかも判らないと言うのは嫌な展開だった。しかし判っている事は1だけある、最早地球人に残されている猶予はさほど多くないと言うことだ。

 

「……もう猶予はないね。彼らと連絡は取れそうかい?」

 

「様々な方法でコンタクトを試みておりますが……返答はありません」

 

ジッとニブハルを見つめるが、それが真実かどうかも判らない。暫くブライアンはそうしていたが、首を左右に振った。

 

「難しいのは判っているけれど、何も出来なかったと諦めるわけにはいかない。何とかして突破口を見つけてくれたまえ」

 

「承知致しました。 それで、次のご報告ですが……連邦軍統合参謀本部からインスペクターへの反攻作戦案が提出されております。大統領どちらへ?」

 

「どうせ武蔵君を主力。いや、彼1人に押し付けようと言う魂胆だろう? もっと作戦を煮詰めてから連絡するように言っておいてくれ。僕はアルテウルと共に一度日本に行って武蔵君に挨拶をしてくることにするよ」

 

これ以上話を聞いていても意味はないと報告を続けようとするニブハルを一瞥し、ブライアンは席を立つ。だがその胸中にはもうこの椅子に座ることは数回しかないか、それとももうないだろうと言う確信めいた予感があるのだった……。

 

 

 

 

ヒリュウ改との合流の為にライノセラスに誘導されながら進むレディバードの中でマサキは自分がいない間に何があったのかと言うのをレーツェル達から聞いていた。

 

「ふーん、量産型ゲッターロボねぇ……それはどこの馬鹿が考えんたんだ?」

 

「アメリカのブライという議員だ。とは言え外見だけでゲッターロボと呼べるほどの戦闘力は無く、特機としては中の上っと言った所だな」

 

「ガワだけって事か、しかしゲッターロボを見た時は武蔵を見つけた! って思ったんだが、また探しなおしか」

 

落胆した様子で呟くマサキ、それだけゲッターロボを見て武蔵と思ったのか相当気落ちしているのが見て取れた。その様子を見てクスハが小さく笑った。

 

「大丈夫。武蔵君見つかったらしいですよ」

 

「本当か!? どこで見つかったんだ!? 俺がテスラ研に行く前に地球を3周した時は見つからなかったぞ!?」

 

地球を3周したと言うマサキにツグミはその航続距離と連続稼働時間に目を見開いた。

 

「ねぇ、スレイ。カリオンで地球1周って出来るの?」

 

「今の段階では無理だな、武装を全部外してプロペラントを2つ……いや4つほど必要だな」

 

「うへえ……とんでもないね」

 

自分達の機体から根底から違うんだと言うアイビスを見てスレイは溜め息を吐いた。

 

「んで今武蔵はどこにいるんだ? ヒリュウ改か?」

 

今向かっているヒリュウ改に武蔵がいるのか? とマサキが尋ねる。レーツェルは手にしていた端末を操作し、暫くメールかなにかを確認する素振りを見せてから口を開いた。

 

「今は伊豆基地にいるようだ。3日ほど滞在したあとにアビアノ基地に向かうと連絡が入っていた」

 

今すぐ会えないと判って少し落胆した様子のマサキだが、ヒリュウ改と合流すればその進路はアビアノ基地になる。少し待てば会えると判り、その顔に笑みを浮かべた。

 

「武蔵に会ったら2度とあんな馬鹿はやるなって言わないとな、いや……俺達ももっと強くならないと駄目か」

 

「うん。私もそう思うよマサキ君。武蔵君だけに負担を掛ける訳には行かないしね……」

 

L5戦役の時よりも状況は悪い。だからこそ、あの時の二の舞にならないようにもっともっと強くならなければならないと改めてクスハ達は心に誓った。

 

「話は変るんだが、レーツェルさんよ。あのビアンのおっさんは偽物だよな?」

 

「ああ。我々はビアン博士の指示で動いている、ノイエDCのビアン博士は偽物だ」

 

「やっぱりな。ビアンのおっさんがあんなことする訳無いって思ってたぜ」

 

1つ気になっている事が解決したのかマサキは明るい顔で笑ったが、すぐにその顔を鋭く引き締めた。

 

「レーツェルさんにも、テスラ研の人達にも聞きたいんだけどよ。シュウの奴を見てないか?」

 

武蔵を探すと共にシュウを探していたマサキはどこかでシュウを見てないか? と尋ねる。するとパイロットの待機室の扉が開き、コウキが端末を確認しながらマサキの問いかけに返事を返した。

 

「シュウ……シュウ・シラカワ博士か、いやテスラ研には来てないな、ついでに言うとグランゾンの活動データも記録されていない」

 

「あんたは?」

 

「コウキ・クロガネ。テスラ研の技術主任と防衛主任をしているものだ、マサキ・アンドーだな。話はカザハラ博士達から聞いている」

 

「一々説明する手間が省ける。ところでグランゾンの活動データがないって言うのはどういう意味なんだ?」

 

「簡単な話だ。グランゾンの動力は桁違いに強力だ、地球上で活動すればそのエネルギー反応を感知出来る。少なくともこの半年間の間に

グランゾンが大きく動いたと言う記録はない。まぁ通常稼動の範囲ならばは感知は出来ないから絶対とは言えないがな、レーツェルはどうなんだ?」

 

「いや……南極でのシロガネ轟沈の時から彼には会っていない。ビアン博士ならば何か知っているかもしれないが……私には何も判らない。すまないな」

 

コウキの説明に続いてレーツェルも口を開いたがシュウには会っていないと言う物で、もしかしたらと言う期待を抱いていただけにマサキは落胆する素振りを見せた。

 

「まぁしゃあねえ。また振り出しに戻っただけだ、それにお前らと一緒にいたら案外向こうから来るかもしれないしな!」

 

「ヒリュウ改やハガネに乗ってた方が情報も集めやすいニャ」

 

「闇雲に移動するよりよっぽど確実ニャ」

 

無理に明るく笑うマサキとそれを励ますようにシロとクロがハガネと行動を共にするほうが良いと口々に言う。

 

「判ってる。でも今は今はインスペクターとノイエDCを何とかしなくちゃならねえ。シュウの事は二の次だ」

 

シュウとの因縁があるのはレーツェル達も判っていた、だがそれを飲み込んで地球を守る為に戦うと言うマサキ。半年の間にマサキも精神的に大きく成長し、何を優先するべきかと言う分別がついていたようだ。

 

「こちらコックピット。 ヒリュウ改を確認しました。ランデブーポイントの指定がありますので、そちらまで移動します」

 

ヒリュウ改と言えど複数の輸送機を受け入れる事は不可能だ。1度着陸し、機体や機材の運搬から怪我人の受け渡しを行い。そこからアビアノ基地に向かうと言うことなのだろう。

 

「レーツェルさんはどうするんですか? やはりここでお別れですか?」

 

「いや、ヒリュウ改に我が友が乗っている。アビアノ基地周辺までは我々も付き添う予定だ」

 

ここからアビアノ基地に向かうまでの間に敵の襲撃を受けるかもしれないと不安に感じていたツグミだったが、レーツェルにアビアノ基地まで同行するという言葉を聞いて安心したような表情を浮かべた。

 

「ツグミ。気を緩めるには早い、これからだ」

 

「そ、そうね。ごめんなさい」

 

「怒ってる訳じゃない。ただこれだけの編隊で動くんだ……敵の襲撃がある可能性を忘れるな。バンが戻ってからこれからの方針を再び話し合うことにするとしよう」

 

ヒリュウ改、ライノセラス、そして輸送機が5機……これだけの編隊で動く以上熱源などで感知される可能性は極めて高く、ヒリュウ改と合流できたとしてもまだ安心するには早い……ガーリオン・レグルスと共にこちらに向かってくるヒリュウ改を見つめながらコウキは鋭い口調でそう指摘する。

 

「確かにな、これからだ。皆気を引き締めていこう」

 

「「「「はいッ!」」」」

 

まだ完全に安全圏に入った訳ではない。だが仲間と合流することが出来、希望の芽が生まれたことによりレディバードのクスハ達の顔は明るい物となっているのだった……。

 

 

 

 

 

一方その頃、テスラ研を制圧したヴィガジの元にサイバスターとアステリオン、カリオン・改に手痛い反撃を受けたシルベルヴィントとアギーハが訪れていた。

 

「取り逃がしたと言う訳か」

 

「うるさいね。元々あんたが取り逃がしたんだ。あたいの責任にするんじゃないよ」

 

元々ヴィガジが取り逃がさなければシルベルヴィントもここまでダメージを負う事はなく、責任のすり替えをしようとするんじゃないとアギーハは強気に言い返し、テスラ研の応接間に腰を下ろす。

 

「別にそう言う訳ではない。風の魔装機神が地球に存在すると判っただけで大金星だ」

 

「冗談じゃない。あたいのシルベルヴィントが使えない状況のどこが大金星だい。あんたのガルガウだって使えないじゃないか」

 

サイバスターが存在することが判ったとしてもシルベルヴィントもガルガウも中破して動かせない段階だ。更に言えばグレイターキンとドルーキンも宇宙でのゲッターロボとの戦いで修理段階……インスペクターの中で動かせる指揮官機は全滅してしまっている。

 

「逃げた連中は?」

 

「放置だ。今手にした資料を纏めることを優先する」

 

無人機であれば追っ手を出せるが相手はエースパイロット揃い……数を失うだけならば追っ手を出す意味はない。それに無人機は相当数が破壊されたが戦闘データは十分に取れたので、鹵獲も破壊も出来ないのならば動くべきではないとヴィガジは判断し、ウェンドロにもその旨を説明し、追撃中断の許可を得ていた。

 

「あたいはどっちでも良いさ、少し休んだら宇宙に帰らせて貰うよ」

 

「それに関してだがお前が宇宙に戻る際にガルガウを持って戻って貰いたい」

 

関係ないから帰ると言うアギーハにヴィガジがそう告げるとアギーハは見るからに不機嫌そうに眉を細めた。

 

「は? なんであたいがそんなことをしなくちゃいけないのさ?」

 

「ウェンドロ様のご指示だ」

 

ヴィガジの頼みならば跳ね除けたが、ウェンドロの名前が出てしまえばアギーハもその頼みを聞き入れるしかない。しかし命令まで出されるとなると只事ではない、その命令が出る理由は1つしかアギーハには思い当たる節が無かった。

 

「ダヴィーンの使いが本当に約束通りゲッター合金を持ってきたってことかい」

 

「そのようだ。ネビーイームで我々の機体をゲッター合金で改修し、地球人の機体のデータを元に改造する。その間は我々の活動は防衛とデータのまとめになるそうだ」

 

「なんとまぁ、随分と慎重だねえ」

 

ウェンドロらしからぬ戦術だと言おうとしたアギーハだったが、ヴィガジに名前を呼ばれ軽い口調で判ってるよと返事を返した。

 

「じゃあ逃げた連中は無視って事ね、判ったよ」

 

「業腹だが仕方あるまい。シカログが迎えに来るから後は頼む」

 

不平不満を言うと思いヴィガジはシカログを迎えに呼んでいた。案の定シカログの名前を出すと、途端に上機嫌になり鼻歌交じりで応接間を出て行くアギーハをヴィガジは呆れた様子で見送った。

 

「……だが確かにウェンドロ様らしくはないな」

 

ゲッター合金を手に出来たのは非常に大きな戦果だ。だがゲッター線を安易に使っても良いものなのか、しかもそれが自分達の機体に使われると言うことには流石に思う事がない訳ではない。何故と言う疑問がヴィガジの脳裏を過ぎったが、ヴィガジはその考えを振り払うように頭を振った。

 

「ジョナサン・カザハラ。時間だ、情報を提出してもらおうか?」

 

『準備は出来ているよ。すぐに持って行こう』

 

今自分がやるべき事はウェンドロの行動に疑問を抱くことでも不信感を抱くことでもない。自分がしくじったことで失った信頼を取り戻す事だと気合を入れるヴィガジだったが、ジョナサンが運んで来た紙媒体の資料を見て途方に暮れることになるとはこの時のヴィガジは想像すらしていないのだった……。

 

 

第86話 蠢く影 その2へ続く

 

 

 




次回も今回に続き状況整理の話になります。主にヒリュウ改とクスハ達の合流の話、ハガネでの話、アビアノ基地での話などを書いて行こうと思います。後はシャドウミラーが動く辺りでオリユニットを出しますかね、黄色ユニットで狂犬見たいのをね? それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第86話 蠢く影 その2

第86話 蠢く影 その2

 

ヒリュウ改への物資の積み替え、新型機などの移送を追え、アビアノ基地への進路をとるヒリュウ改――そのブリッジにはオブザーバーとしてクレイグの姿もある。アビアノ基地まで後3時間ほどの距離に迫った所でショーンが顎鬚を摩りながら解せないと言う表情を浮かべた。

 

「ふむ、追走はあると思っていたのですが……殆どありませんでしたなあ」

 

「……逃走経路を読まれている可能性もありますね」

 

警戒していたインスペクターの襲撃は殆ど無かった。殆ど……と言うのは現れたのはアーチン、そしてレストジェミラの昆虫形態であくまで偵察・巡回中に遭遇し、突発的な戦闘になっただけで、ヒリュウ改の警護をしてくれているヴァルキリオン部隊によって迎撃される程度の弱い部隊だった……テスラ研から離脱した事でヒリュウ改に新型機があるのはインスペクターも把握している筈。十中八九あると思っていた襲撃が無かった事に罠に誘い込まれているのでは? と言う不安がレフィーナ達の間に生まれる。

 

「……これは私の楽観的な観測になるが、インスペクターにもさほど余裕が無いのではなかろうか? ラングレーで指揮官機を中破させた、そしてレーツェル達が合流する際にもう1人の指揮官機も中破に追い込んでいると聞いている。向こうとしても我々を止めたいが、それだけの余力がないと考える事も出来るだろう?」

 

「その可能性はゼロではないですが……些か楽観的ですな」

 

「後ろ向きに考えた所で不安になるばかりだ。少しばかり楽観視したほうが良い場合もあると言う事だよ。ショーン少佐」

 

これは一本取られましたなと笑うショーンの姿にヒリュウ改のブリッジの悲壮感は僅かに霧散した。

 

「そうなると偵察機は我々の撤退路を把握する為という可能性もありますね?」

 

「確かにその可能性はある。だが戦力を整えさせる旨みはあちらにもないだろう……あくまで可能性程度に思っておくと良い」

 

インスペクターには転移装置がある。無尽蔵の戦力を送り込めるとはいえ、無人機では大した足止めにもならない。自爆前提で送り込むという事も考えられるが……新型機を鹵獲しようとしているインスペクターの今までの動きを見ればその可能性は極めて低いとクレイグはレフィーナに指摘する。

 

「艦長として最悪を考えるのは悪くないが、あまり最悪ばかりを考えていると不安が伝播する事になるぞ、レフィーナ中佐」

 

「少し弱気になりすぎていたかもしれません」

 

「無理もない。私だって基地を放棄して逃げて何を偉そうに、と言われてはなにも言い返せないが……生きていれば次がある。次があるのならば奪われた物は奪い返せば良い。そう思ったほうが建設的だ」

 

失われた物、奪われたものは決して軽くはない。だがそれに引き摺られすぎるなと言うクレイグの言葉に頷き、まだその姿も見えないアビアノ基地の方角にその視線を向ける。雲の切れ間から光が差し込んでいるが、それがかえって不安を煽り、レフィーナはその考えを振り払うように首を左右に振った。

 

「ユン伍長、リューネさんとマサキさんを呼んでくれますか?」

 

「はい、今通達を入れます」

 

進路の相談やライノセラスのバンとの話し合いで格納庫で待機して貰っていたマサキを呼んでくれとレフィーナが頼み、数分でマサキとリューネがブリッジに姿を見せるのだが……。

 

「あのマサキさん、その顔はどうしたんですか?」

 

「いや、うん。殴られた」

 

「太ったって言うマサキが悪いッ!」

 

マサキの頬に青あざがくっきりと浮かんでおり、リューネに太ったかと尋ねそれに怒ったリューネに殴られたようだ。

 

「やれやれ、女性に一番言ってはいけない事を言ってしまうとは修行が足りませんな」

 

「それはマサキさんが悪いですよ」

 

ショーンとレフィーナに注意され、マサキは小さく肩をすぼめ判ってると半分不貞腐れた様子で呟いた。

 

「マサキ・アンドーだな。初めましてになるか……ラングレーのクレイグ・パラストルだ。よろしく頼む」

 

「あ、ああ。よろしく……とりあえずの所はレーツェルさんに聞いてる。これからどうするのか、レフィーナさん達からも聞かせて欲しい」

 

レーツェルから聞けたのは今の情勢と半年の間に何があったのかだ。今ヒリュウ改がアビアノ基地に向かっている事は知っていたが、そこから何をするのかというのは何も聞かされておらず、アビアノ基地でハガネと合流した後はどうするのかと言う事についてマサキはレフィーナに説明を求めるのだった……。

 

 

 

 

マサキがレフィーナからこれからの動きを大まかに説明されている頃。クスハ達はマオ社から無事に脱出を果たしたリオ達との再会を喜んでいた。

 

「リオ! リョウト君、無事で良かった」

 

「クスハこそ! 良かった。怪我はない?」

 

「無事で良かったよ」

 

お互いにマオ社とテスラ研が百鬼帝国、インスペクターに制圧されたと聞いて安否を気遣っていたからこそ、こうして無事に再会出来た事を素直にクスハ達は喜んだ。

 

「そちらの方は確か……コウキ博士でしたよね? 負傷されているのならば医務室にご案内しますけど」

 

車椅子姿のコウキの姿を見てリオが医務室に案内しましょうか? と尋ねる。

 

「連れて行くだけ無駄だ。コウキ博士は何度も逃亡するからこうして車椅子という妥協案を出したんだ」

 

「そういうことなんです。怪我人って事を全然わかってくれないんですよ、この人」

 

「うるさいぞ。俺は俺に出来る事をする、腸が飛び出ている訳でも、腕が千切れているわけでもないのなら俺は健康だ」

 

真顔で言い切るコウキを見てリョウトとリオが冗談だろうという目をクスハに向ける。クスハが首を左右に振るのを見て、それが本当なのだと判り2人は青褪めた顔でええっと呻いた。

 

「えっと所でお2人は……」

 

「プロジェクトTDのスレイ・プレスティだ。こっちはアイビス」

 

「あ、アイビス・ダグラスです。どうも」

 

「初めましてリオ・メイロンです。よろしく」

 

「リョウト・ヒカワです。アイビスさん達も無事で良かったです」

 

初見の顔合わせを済ませ、互いに何があったのかという情報交換を始めるリョウト達。その中で百鬼帝国の名前が出てスレイとアイビスの眉が寄った。

 

「何か?」

 

「いや、その……「俺の事は気にしなくて良い。本当の事だし、変えようのないことでもある。俺は元・百鬼帝国の者だ」

 

百鬼帝国の人間とコウキが口にし、格納庫の中に一瞬張り詰めた空気が広がるが、それはギリアムの手を打ち合わせる音で霧散した。

 

「ラドラと同じだ。彼の事は俺が保障する」

 

「ギリアムか」

 

「コウキ。もう少し言い方というものはないか?」

 

「ない。面倒ごとは先に済ませたほうが良い、大体何度も同じ話をするのは面倒だ」

 

コウキの言葉にギリアムは肩を竦め、周りで警戒の色を示していた警備兵達に大丈夫だと声を掛ける。

 

「ギリアム。お前は知っていたのか? コウキ博士がラドラの同類だと」

 

「レーツェル。そうだな……俺は知っていたよ。だが正直な話百鬼帝国が復活するとは思っても見なかったと言うところだ」

 

隠していた訳ではなく復活すると思っていなかったというギリアム、その目をレーツェルとゼンガーはジッと見つめ、小さく溜め息を吐いた。

 

「もう少しその秘密主義を何とかしろ」

 

「カイの奴に殴られるぞ」

 

「ああ、それに関しては大丈夫だ。まずはお前達を殴るとカイは言っていたぞ、武蔵が言っていたんだが……カーウァイ大佐が生きていて、訓練を受けているらしいじゃないか。ん?」

 

ギリアムからの反撃に気まずそうに目を逸らすレーツェルとゼンガーだが、そうは問屋が卸さないと言わんばかりに2人の肩に腕を回す。

 

「少しばかり話を聞かせてくれても良いだろう? 俺もカーウァイ大佐の事で聞きたい事もある。ヴィレッタ大尉、コウキ博士からの話は俺の代わりに聞いておいてくれ」

 

もう少ししたらアビアノ基地についてしまう。そうなればレーツェルとゼンガーは離脱してしまうので逃がす物かと言わんばかりに2人を引きずっていくギリアム。

 

「スレイ! ちゃんとアイビスに説明しておくんだぞ!」

 

格納庫に隣接した会議室に入る前にレーツェルがそう叫び、ギリアムの手によって会議室に引きずり込まれた。

 

「あたしに話ってなに?」

 

「私は主任……いや、兄様の指示でレーツェルさん達と共に行く事にした。だからアイビスとタカクラチーフとはここで1度お別れだ」

 

スレイの口から出た別行動をすると言う言葉にアイビスが驚きに目を見開き、口を何度も開け閉めを繰り返す。

 

「どういう事!?」

 

「レーツェルさん達と共に行動している科学者が兄様と一緒にベガリオンを設計していた開発者だそうでな。コウキ博士はアステリオンの設計には協力してくれていたが、ベガリオンはそこまでではないのだろう?」

 

「ああ、俺の専門は特機だからな。戦闘機はそこまで詳しくない」

 

「と言う訳だ。私は向こうでベガリオンを完成させて、あちら側で熟練訓練を行う。アイビス、今度会うまでにアステリオンをもっと乗りこなしておくんだな」

 

スレイの中でもう方針は定まっており、何を言っても無駄だと判断したアイビスは手を上げる。

 

「死んだら駄目だから」

 

「それはこっちの台詞だ。絶対にテスラ研を兄様を取り返す、それまで足手纏いにならないように力をつけておけよ。コウキ博士も無理をしないように」

 

アイビスを激励し、コウキに無理をするなと告げ、スレイは手を上げてアイビスの手と己の手を打ち合わせた。そしてスレイは振り返る事無くカリオン改へとその足を向けた。

 

「アイビスさん、大丈夫ですか?

 

「大丈夫だよ。スレイが死ぬ訳無いし、ちゃんとまた会えるって判ってるしね!」

 

そう笑うアイビスの顔は本心からそう思っているのが伝わってくるほどに明るい笑顔だった。無理をしているわけではない、絶対にスレイとまた再会出来ると信じきった笑顔だった。

 

「ではコウキ博士。傷が痛むと思うが話を聞かせてもらいたい」

 

「構わな……おい! 貴様ぁッ! 人の機体に何をしている!」

 

「んっふふー♪ ラルちゃんがもっと完璧にしてあげるのサ!」

 

「余計な事をするな! このドアホウ!!」

 

ヒリュウ改の格納庫に搬入された鉄甲鬼を勝手に改造しようとしているラルトスにコウキが怒号を飛ばす。

 

「アイビス! あのアホの所に俺を連れて行け! 悪いが話は後だ! アビアノ基地に着いたらにしてくれ!」

 

アイビスに車椅子を押させ、ラルを止めに走るコウキ。その姿にヴィレッタは呆れ半分で見送り、懐から携帯を取り出した。

 

「もしもし? 社長。ラルの馬鹿がテスラ研から搬入された機体を改造しようとしています」

 

『すぐに行く』

 

通話は一瞬で切られ、コウキの怒号を遮るラルトスの絶叫がヒリュウ改の格納庫に響くのは僅か2分後の事なのだった……。

 

 

 

 

地球連邦軍南欧方面軍アビアノ基地に停泊しているハガネの艦長室にはダイテツとリーの2人の艦長の姿があった。

 

「武蔵の件はどうなりましたか? ダイテツ中佐」

 

「レイカー預かりになった上にブライアン・ミッドクリッド大統領が特例を出したそうだ。これで武蔵に司令部は手を出せない」

 

大統領勅令まで出されればダイテツとリーであっても容易に指示は出せないが、むしろここまでしなければ武蔵は守れないほどに重要人物になっているという事だった。

 

「心配か?」

 

「いえ。武蔵は命令などせずとも地球を守る為に戦ってくれます。何の心配もありません」

 

武蔵に対する全幅の信頼を口にするリーにダイテツが苦笑すると艦長室の扉がノックされた。

 

「……ダイテツ艦長、リー中佐。 テツヤ・オノデラ大尉であります」

 

テツヤの入室許可を求める声に了承するともう1度扉がノックされ、テツヤが姿を見せた。

 

「報告します。本艦のトロニウム・バスターキャノンモジュール、そしてシロガネの大型レールガン・モジュールの両方がアビアノに到着しました」

 

L5戦役で大破したトロニウム・バスターキャノンモジュールと、伊豆基地に安置されたスペースノア級の艦首モジュールと交換する事で使用可能になるレールガンの両方が到着したと聞き、ダイテツは小さく笑みを浮かべた。

 

「ようやく修理と改良が終わったか」

 

今のままでは1発しか使えず、不安定ということで修理を兼ねて更なる改良をしたトロニウム・バスターキャノンモジュールはその砲身をゲッター合金でコーティングし、集束率、威力、そして射程を爆発的に強化した物になる。

 

「これでハガネは本来の姿に戻れます。すぐに換装作業を始めますか?」

 

「その前に、本艦の総チェックを行う。艦首の交換作業はシロガネから始めて貰うつもりだが、リー中佐はそれで構わないか?」

 

スペースノア級を同時に換装する設備はアビアノ基地にはあるが、ダイテツはあえて作業を分けて行なうことを決めた。

 

「襲撃があるとお考えなのですね?」

 

「まずあるだろう。アビアノ基地の監視部隊がエルシュナイデらしき機体を目撃したと言っていたからな」

 

ここ数日アビアノ基地周辺で目撃されている奇妙なPTらしき機体の存在がある。遠目で確認されただけだが、可変式で鳥、獣、人型の3つの形態に変形する20m強の機体だそうだ。

 

「ダイテツ中佐はあれをゴーストの戦力と考えておられるのですね?」

 

もう製造ラインの無いはずのゲシュペンスト・MK-Ⅱ、そして完成していない筈のエルシュナイデ――それらを運用する謎の部隊を一時名称でゴーストと呼称した百鬼帝国と強い繋がりがあり、鬼と幽霊で共通性を持たせることにしたのだ。

 

「可能性は極めて高いと言えるだろう。襲撃に備える必要性はある、所でヒリュウ改は?」

 

「2025……約3時間後にこのアビアノ基地へ到着します」

 

「そうか……何とか無事にこちらまで来られたようだな」

 

インスペクターと百鬼帝国の襲撃を受けても尚無事にここまでヒリュウ改が辿り着けたと言う事にダイテツは安堵の溜め息を吐いた。

 

「ATX計画やSRX計画の機体の受け渡しもあるでしょう。アビアノ基地周辺の警備はシロガネで引き受けます」

 

「すまない、リー中佐。出撃可能な者は一時シロガネに預ける、運搬作業中に襲撃があった場合は頼むぞ」

 

伊豆基地とラングレー基地、そしてテスラ研から運び出された物は今後の戦いにおいて重要なパーツないし、機体だ。それを失う訳には行かないとダイテツ達は気を引き締める。

 

「ここ数日、百鬼獣もインスペクターも動きが見られないのはやはり戦力を整えていると言うことでしょうか?」

 

「恐らくな、ハガネ、シロガネ、そしてヒリュウ改がこのアビアノ基地に集まったタイミングで何かがあると見て良いだろう」

 

ヒリュウ改が到着するまでの3時間の間にシロガネの換装作業は終わる筈だ、だが換装作業が完了するまでに襲撃がある可能性も捨てきれず、ダイテツ達はゆっくりと沈み始めている太陽を見つめるのだった……。

 

 

 

ヒリュウ改の到着にあわせ襲撃が起きる可能性が懸念されていたが、敵の襲撃は無く先にアビアノ基地で休んでいたハガネの部隊を分割し、周囲の警戒とアビアノ基地の防衛班に分かれ、アビアノ基地のPTと共に厳重な警戒網を敷いた状態で物資の搬入作業が行なわれていた。

 

「なるへそ。 じゃ、マーサはクスハちゃん達とアメリカで合流したって訳ね」

 

格納庫でいつスクランブルがかかっても対応出来るように待機していたエクセレンがからかうようにマサキの事をマーサと呼び、マサキがそれを定着させようとするなよと苦笑する。確かに緊張感はある、だが張り詰めた糸は切れやすい。エクセレンの軽い口調はある意味空気抜きの役割を果たしており、事実眉を細めていたマサキの顔にも若干のリラックスの色が見えていた。

 

「マオ社の新型機やプロジェクトTD、それにATX計画とSRX計画の機体も 何とか持ってこられたし……これでようやく肩の荷が下りたよ」

 

「プロジェクトTDって……あのこっわーい強面お兄さんが一緒にいた奴でしょ? 確かカリオンだっけ?」

 

ヒューストン基地で共闘したコウキの事と、守ってくれたと言う事で見せてくれたカリオンの事を思い出しながらエクセレンが呟いた。

 

「いえ、違いますよ少尉。カリオンの発展機のアステリオンとカリオンの発展機のデータ取りの為の改造機ですね。そっちはレーツェルさん達と一緒に行ってしまいましたが……」

 

レーツェルの名前が出た所で話を聞いていてキョウスケがその中に入って来た。

 

「ゼンガー隊長を見たんだな? リョウト」

 

「はい、新型のグルンガスト参式で僕達を助けてくれました」

 

リョウトの言葉を聞いてエクセレンとキョウスケは揃って安堵の溜め息を吐いた。

 

「そっか、なんかウォーダンって名乗る斬艦刀持ちの特機とやりあったんだよな」

 

「そうよ、武蔵が違うって言ってたけど、やっぱり私達は誰も親分を見てないから正直ちょっと不安だったのよね」

 

「だが、これでゼンガー隊長と別人と分かれば何のためらいもない、今度は撃ち抜く」

 

ゼンガーかもしれないと言うことで二の足を僅かに踏んだが、ゼンガーに会ったというリョウト達の話を聞いて、今度こそ別人と分かりキョウスケは今度こそ倒すと気炎を燃やす。

 

「ちょっ、ちょっとラルトス! 部屋で大人しくしてろって社長に言われたでしょ!」

 

「大人しくするヨ! でもその前に1度話を聞かないとジッとしてられないネッ! キョウスケ・ナンブぅ! そこで少し待ってるヨ!!!」

 

リオに注意されながらも凄まじい勢いでキョウスケの名を叫び駆けて来る小柄な少女――見覚えのない人物から名指しキョウスケが首を傾げる。

 

「何々? キョウスケのファンかしら?」

 

「違うだろう? しかし誰だ? マサキ達は知っているか?」

 

ラルトスを知らないキョウスケが尋ねるとリョウトとマサキ、そしてリューネは揃って苦笑いを浮かべた。

 

「え? なにその反応?」

 

「ギーガユニットとかを開発した設計者で、ラドム博士の弟子を自称しているラルトス・パサートっていう子なんですけど……えっとそのですね……」

 

「変人・奇人の類なんだよ」

 

言いよどむリョウトの隣でばっさりとリューネが変人・奇人だと告げる。

 

「ほら、あれ、あれを設計してた」

 

長大の折りたたみ式のガトリング砲と4枚の翼を装備し、両腕と両足に追加装甲を装着したゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDが搬入されていく、その機体を見てキョウスケとエクセレンは確信した。

 

「なるほど、ラドム博士の弟子を自称するだけの事はある」

 

「完全にマ改造ねえ……」

 

マリオンの弟子を自称するだけあり頭のおかしい改造だと笑ったエクセレンとキョウスケだったが、その後を続いて運搬されて来た機体を見て、完全に声を失った。

 

「……何あれ?」

 

「シャイン王女とラトゥーニに見えたが……?」

 

シャインとラトゥーニをそのままAMサイズにし、武装を装備させたようなシルエットの機体を見てキョウスケだけではなく、格納庫にいた全員が声を失った。

 

「フェアリオンと言います。プロジェクトTDの一環で開発された機体でシャイン王女の依頼で設計しております」

 

そんなキョウスケ達の背後から別の女性の声が響いた。

 

「タカクラチーフでしたか?」

 

「はい。お久しぶりです、キョウスケ中尉、エクセレン少尉」

 

ヒューストンで数分話をしただけだったがプロジェクトTDのチーフのツグミ・タカクラの姿がそこにはあった。

 

「えっとこんな事を言うのはなんなんですが、正気ですか?」

 

「……カザハラ博士とフィリオ少佐がずいぶんと暴走した結果でして、あの私これからシャイン王女に説明に行かないといけないんですけど……大丈夫でしょうか? 不敬罪とか言われませんか?」

 

物凄く心配そうにしているツグミにキョウスケ達はなんとも言えない顔をした。

 

「多分大丈夫、武蔵がいないから凄く気落ちしてるから」

 

「武蔵が戻って来たらとりあえずとりなしてくれる筈だ」

 

「……はい。じゃあ、行って来ます」

 

後にエクセレンはシャインの部屋に向かうツグミはまるで処刑台に向かうようだったと呟いていた。

 

「やぁやぁ! キョウスケ中尉! ラルちゃんの作ったギーガユニットはどうだったかナ? カナ!? 使ってみた感想とかを教えてほしいんだヨ! ハリーハリーッ!!!!」

 

「あんまり調子に乗ってると社長に電話するわよ!」

 

「ごめんネ!!!」

 

リンの名前が出ると即座に土下座し謝罪するラルトスの姿を見て、キョウスケとエクセレンは変人・奇人呼ばわれも当然だなと苦笑し、改めて自己紹介から始める事にするのだった……。

 

 

 

 

 

武蔵がいないというだけでシャインとエキドナのテンションは凄まじく低かった。

 

「武蔵がいないと暇……」

 

「そうですわね……」

 

武蔵がいれば対抗意識も喧嘩もする。だが武蔵がいなければ喧嘩する理由は無く、女王としての威厳を最低限保つ事はしていたが、退屈を持て余していた。

 

「……シャイン王女、ご依頼の機体についての説明に来ました。入室してもよろしいですか?」

 

部屋の外からそう声を掛けられ、入室許可を出した頃には先ほどまでのタレパンダのようなシャインの姿は無く、凜とした女王としてのシャインの姿があった。

 

「ご迷惑を掛けて申し訳ありません。自分達も危ないのに運び出してくれたことに感謝します」

 

エキドナが信じられないものを見る目をしていたが、シャインはそれを無視してツグミと向き合っていた。

 

「これがそちらからご依頼のあった。フェアリオンのデータです」

 

「ありがとうございます。 早速拝見させていただきますわ」

 

端末に映し出された機体を見てシャインは思わず停止し、そんなシャインが気になったのかエキドナも端末を覗き込んだ。

 

「シャインとラトゥーニにそっくりだな」

 

「そ、そうですわね……あの聞いていた話と少し……いや大分違うのですが……」

 

聞いていた話ではリオン系列の筈がそこにあったのは自分と瓜2つの顔をした少女の姿だった。

 

「え、あ、あの、それは……カザハラ所長の独断で、それらしい外見であるべきだと……しかも、フィリオ少佐まで所長の意見に賛同してしまって……2人してテスラ・ドライブの改造どころか、予定外のシステムまで……」

 

弁明を続けるツグミを無視してシャインはジッとフェアリオンを見つめていた。確かに想像していた物とは違うが、これ以上にないと言うほどに自分を映し出している。

 

「い、一応こちらはパレード用でして、戦闘時はこのように……」

 

モニターの画面が切り替わると口元や額を隠すようにアーマーが装着され、お姫様という姿から勇ましさを感じさせる姿へと変っていた。

 

「私、 格好は気に入ってるんですけど……どうでしょうか? やっぱり、やり過ぎ……」

 

「いえ、流石カザハラ所長とフィリオ少佐でございますわ」

 

不安そうにしているツグミの言葉を遮ってシャインはジョナサンとフィリオの2人を賞賛した。武蔵がいなくて気落ちしていたが、フェアリオンを見て武蔵がいなくなってから久しぶりに心からシャインは明るい笑みを浮かべた。

 

「めっちゃイケて……いえ、大変気に入りました。私はこれで戦えますわ」

 

戦えると聞いてツグミは目を見開き、その言葉を理解した瞬間にシャインの肩を掴んでいた。

 

「シャイン王女。危険です、フェアリオンは確かに強力な機体ですが……あくまで祭典用の機体です。武装は護身程度のものしか……」

 

「タカクラチーフ。心配してくれるのは判ります。でも……私はもう待っているだけというのは嫌なのですわ」

 

待っているだけでは、また武蔵は遠くに行ってしまうかも知れない。分不相応かもしれないけれど、それでも武蔵と共に飛べる翼をシャインは欲していたのだ。

 

「シャインは頑固だから意見を曲げないと思う」

 

「っ……分かりました。ではダイテツ中佐達に許可を頂ければ、武装や装甲の取り付け作業を行ないます。許可を得れなければ駄目です」

 

「ええ、それで結構ですわ。行きましょう、タカクラチーフ」

 

ツグミを伴って歩き出すシャインの姿は幼くはあるが、生まれ持っての人の上に立つべき王気を全身から放っており、それと同時にもう置いていかれたくないと言う強い意思の光がその目に宿っているのだった……。

 

 

 

1度目の巡回を終えた所でアビアノ基地に帰還して来たイルムはブリーフィングルームでリンと共にクスハからテスラ研の話を聞いていた。

 

「そうか……テスラ研もインスペクターに……」

 

「ごめんなさい……カザハラ所長やリシュウ先生を一緒に連れてこられなくて……」

 

マオ社は百鬼帝国、テスラ研はインスペクター。勢力は別だが完全に制圧されてしまっている。クスハはジョナサン達を連れて来れなかった事をイルム達に謝罪する。

 

「そう暗い顔すんなって。あの親父の事だ、俺達が助けに行くまで何とか保たせるよ」

 

「その通りだ。自ら残ったと言う事は時間を稼ぐ算段があったに違いない」

 

脱出が可能だったにも拘らず、脱出せずにテスラ研に残ったのは運び出せない何かを守る為とテスラ研の情報や資料をインスペクターに渡さない為だと推測出来る。だからクスハの責任ではないとフォローするが、それでもクスハは申し訳なさそうな顔をする。

 

「異星人にテスラ研の新型機を奪われるよりはマシさ」

 

「そうだ。所長の判断とお前達の行動は間違っていない。後はどうやって彼らを救い出すか、だ」

 

後悔していても何も変らない。どうやってジョナサン達を助けるかという事を考えるべきだと言うイルムとリンの言葉にクスハの顔に明るさが戻ってくる。

 

「リン社長やイルム中尉の言う通りだ。所長や先生達を助け出す機会は必ず来る……その時に全力を尽くそう」

 

「うん……」

 

だが1番はブリットの言葉が1番クスハに響いたようで、ブリットに微笑みかけるクスハ。

 

「あ。そうだ、ゼンガー少佐が鍛錬に励めって」

 

「ゼンガー隊長にあったのか! そうか……そうかぁ……」

 

ウォーダンと名乗る男とゼンガーが似すぎていると思い悩んでいたブリットはゼンガーを見たと言う言葉に安堵の表情を浮かべる。

 

「リン、どうした?」

 

「なに、あの馬鹿がまた暴走してくれたようでな。キョウスケ中尉に迷惑を掛けたそうなので止めてくる」

 

邪悪な笑みを浮かべて歩いていくリンの背中を見てイルムは手を合わせ、内心ラルトスに感謝していた。

 

(お前のお蔭だ。感謝するぜ)

 

イルムに向かうはずのリンの怒りがラルトスに向けられており、こうして普通に話が出来る事にイルムは感謝し、良い雰囲気になっているブリットとクスハをブリーフィングルームに残し、仮眠を取る為に自室に向かって歩き出したのだが格納庫から響くカメラのシャッター音が気になり足を止めた。

 

「おい、マジか……」

 

シャインとラトゥーニをそのままAMサイズにした機体がヴァルシオーネの隣に固定されており、整備班達がそれを撮影している光景に流石のイルムもなんとも言えない表情を浮かべていた。

 

「リュウセイも写真を撮りに来たの?」

 

「あ、いや、そういうわけじゃ……」

 

「……」

 

「……はい、撮りに来ましたごめんなさい、で、でもフェアリオンとかじゃなくてあのなんかやたらゴツイ特機の写真をだな」

 

自分がAMサイズになった機体の写真を撮られているだけでも年頃のラトゥーニにとっては複雑なのは当然で、しかもそれが想い人までとなればなおの事その心境は複雑になるだろう。

 

「言い訳はいい」

 

「いや、言い訳とかじゃなくて」

 

おろおろしているリュウセイとこれを気に攻め込むと言わんばかりの顔をしているラトゥーニを見て、イルムはリュウセイも潮時かねと呟き仮眠を取ろうとしていた足を止め、自販機に足を向ける。

 

「たまにゃあ俺もなぁ……」

 

恋人であるリンと折角顔を合わせたのだから、少しは恋人らしい真似をしたいと思うくらいにはイルムもまだ若いのだった……。なお最終的にリュウセイは壁際まで追詰められ、ラトゥーニは狩を楽しむハンターのような顔をしていてイルムはそれを見なかったと言わんばかりに背を向けてその場を後にするのだった……。

 

 

 

~おまけ~

 

ジョナサンが提出したテスラ研の開発データを態々紙に出力した物をヴィガジは唸り声を上げながらゾヴォークの共通言語に変換しなおしていた。

 

「うぐぐぐ……カザハラ! カザハラ!! 今すぐ俺の部屋に来いッ!!」

 

『またかね? そんな様子ではいつまで経っても情報を纏める事なんて出来ないぞ』

 

「良いからすぐに来いッ!!」

 

苛立った様子で受話器を叩きつけたヴィガジは机の上の資料を見て深い溜め息を吐いた。

 

(分からん、これっぽっちも分からんッ!!)

 

紙の山を見て何故紙のデータなのだと怒鳴ったヴィガジだが、ジョナサンは深刻そうな表情をしながら内心は上手くいったとほくそ笑みながら自分がヴィガジに告げた言葉を思い出していた。

 

『ここは最新の兵器を開発している研究所だ。それ故にハッキングやスパイが差し向けられる可能性が極めて高い。それ故に資料は全て紙に出力した後に保管用・提出用・研究用の3種類に分け大本のデータは厳重にロックを掛けてメインコンピューターに保存するようになっている。メインコンピューターへアクセスするにはラングレー基地のクレイグ司令のIDコードが必要であり、我々ではどうする事も出来

ないのだよ。だが保管用の資料はいくらでも提出出来るさ』

 

嘘と真実を混ぜられたジョナサンの言葉をヴィガジは最初は信じなかったが、メインコンピューターに強引にアクセスしようとし、データ消去を開始しますというアナウンスに肝を冷やしたヴィガジはジョナサンの言葉を信じるしかなかった。

 

「やれやれ、今度は何が分からないんだ?」

 

「このVX-91というのは何だ? それにこのXXX77-41もだ」

 

ビアン博士の趣味で作られたフェイクの暗号コード。しかも悪乗りし、専用の翻訳コードを使わないと正しい文字にならないと言う手の込んだ遊び。勿論連邦軍に提出する物はそうでは無いが、テスラ研の内部の資料の多くはビアンが残したお遊びの極秘コードで記されて保管されている。

 

「ああ、それならばDのディスクを使えば正式なデータに切り替わるよ。それよりもやはり我々が解析したほうがいいのではないかね?」

 

「……いらん、お前達が軍にこちらの警備情報を流さないとは言い切れんからな」

 

「まぁそれなら構わないがね、では私は資料を運んでくる準備でもしてくるよ」

 

唸っているヴィガジに背を向けて通路に出たジョナサンは笑いそうになるのをグッと堪える。ここで笑ってしまえばすべてが台無しになるからだ、本当にテスラ研ではこの形式でデータを保存していると思わせる必要がある。

 

(ビアン博士に感謝だな)

 

テスラ研の研究員の多くはビアンの影響を受けている、お遊びで作っていた暗号コードがまさかこんな形で役に立つとはなと心の中でジョナサンは呟き、バイオロイドに銃を向けられながらその場を後にするのだった……。

 

第87話 蠢く影 その3へ続く

 

 




まだ状況整理の話は続きます。第88話くらいで次の話にシャドウミラーとの戦いを書いて行こうと思います。レモンさんとかをメインで書いていけたら面白いかなとか色々考えておりますので暫く話が動いておらず申し訳ありませんが温かい目で見ていただければ幸いです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第87話 蠢く影 その3

第87話 蠢く影 その3

 

シロガネ、ハガネ、ヒリュウ改……それぞれのブリーフィングルームに分かれて集められ、リュウセイ達の顔には僅かな困惑の色が浮かんでいた。

 

「なんで態々ハガネとかのブリーフィングルームに集まるんだ? アビアノ基地のブリーフィングルームを借りれば良いのに」

 

「確かにそうっすよね? 何でだろ?」

 

スペースノア級を2隻停泊出来、改修が可能なアビアノ基地は伊豆基地ほどでは無いが、それでも連邦の基地の中では大きい部類になる。リュウセイ達は確かに大世帯だが、それでもアビアノ基地のブリーフィングルームを使えばまとめて話を聞けるのに何故、態々それぞれの戦艦に分かれて話を聞く必要があるのか? リュウセイもアラドもそれが不思議でしょうがなかった。

 

「簡単な話よ、リュウセイ。アビアノ基地の人間に聞かれる訳にはいかない話だからよ」

 

「隊長……それは一体どういう」

 

リュウセイがヴィレッタの言葉の真意を尋ねようとした時、モニターに光が灯り、ヒリュウ改、シロガネのブリーフィングルームが映し出される。ハガネにはリュウセイ達SRXチームとラトゥーニ、アラドとカイ。ヒリュウ改にはギリアムを初めとし、リョウト、リオ、ラーダ、リンのマオ社組と、イルム。そしてプロジェクトTDのアイビスとツグミにオクトパス小隊。そしてシロガネにはキョウスケ達ATXチームとマサキ、リューネ、クスハとラミアという面子に分かれていた。

 

「さて、今回のブリーフィングだが、皆も判っていると思うがアビアノ基地の隊員に聞かれる訳にはいかない話になる。AAA機密と思い、決して口外しない事を胸に刻んで欲しい。これはレイカーの許可も得ている事だ」

 

レイカーが許可した機密事項と言う事で話を聞いていたリュウセイ達の顔が強張る。一体自分達は今から何を聞かされるのかと緊張した面持ちになる。

 

「ではギリアム少佐。進行を頼む」

 

ダイテツがヒリュウ改のギリアムに進行を促すと、ブリーフィングルームの外で待っていたコウキが部屋の中に入ってくる。

 

「あれは確かテスラ研の……ええっと……確か、コウキだっけ?」

 

L5戦役の際に自分達の機体のメンテナンスを手伝っていたコウキの事は覚えていたが、その名前ははっきりと覚えておらず、リュウセイが隣のライに尋ねる。

 

「ああ、テスラ研の技術主任にして防衛も担当しているコウキ・クロガネ博士だ。特機の専門家で轟破・鉄甲鬼の開発者にしてパイロットだ」

 

「轟破・鉄甲鬼……あれだろ? ゲッターロボに似ている奴」

 

フェアリオンと共に搬入されていたゲッターロボに良く似た巨大な特機――その写真を撮ろうと思っていた所をラトゥーニに見つかり、フェアリオンの写真を撮ろうとしていたと思われて責められたことを思い出してリュウセイは小さく震えた。自分より幼いラトゥーニがめちゃくちゃ怖く見えたのはきっと気のせいだと思いたかった。

 

『まず彼はラドラと同じ、元旧西暦の住人だ。ただし恐竜帝国ではなく、百鬼帝国の構成員の1人だ』

 

ギリアムの言葉にハガネ、シロガネ、ヒリュウ改に衝撃が走る。今現在未知の脅威である百鬼帝国の元・構成員と知り、警戒する者、これで百鬼帝国の事が判ると安堵する者……その反応は様々だが、コウキに対する警戒心は確かに生まれていた。

 

『ギリアム少佐、そいつは大丈夫なのか?』

 

『カチーナ中尉。問題ない、もし彼が百鬼帝国にまだ忠誠を誓っているのならば、L5戦役で我々に協力してくれることはなかっただろうし、腹に風穴が開くほどの重傷を負い、それを焼いた鉄で焼いて塞いでテスラ研からの脱出に協力することもなかっただろう。彼は自分自身のその行動で己の身の潔白を証明している』

 

普通に考えて死ぬほどの重傷を負ってまで動く利点はない、自分の命が潰えても良いと言う覚悟で動いていたコウキの行動自体がスパイなどではない証拠だと言われれば、カチーナも黙るしかない。

 

『言葉だけで信用される等とは思っていない。これからの俺の行動を見て判断してくれれば良い』

 

『コウキよ、暫くは入院だぞ?』

 

『だが断る』

 

入院するほどの重傷で今現在も車椅子なのに入院することを断るときっぱりと言うコウキにギリアムが頭を抱え、深い溜め息を吐く姿がやけに印象的だった。疲れている姿を見る限りでは、相当押し問答をしていたのかもしれない。

 

『百鬼帝国だったとしても、今の百鬼帝国と俺の知る百鬼帝国は余りにも違う。俺に今の百鬼帝国の動きは判らないぞ』

 

『それでも構わない。コウキの知る事で良い、今と昔の百鬼帝国の違いを俺達に教えて欲しい』

 

あくまで昔の、旧西暦の百鬼帝国の話だとコウキは前置きして語り始めた。だがそれは百鬼帝国の事を何も知らないリュウセイ達にとっては値千金の素晴らしい情報であり、昼から始まったブリーフィングは質問や、疑問を問う声があちこちから上がり、日が落ちても尚ブリーフィングルームからの話し声が途絶える事が無かった。その話を聞きながらラミアは以前の目撃情報の事を考えていた……百鬼帝国と共に行動していたエルアインスを見れば百鬼帝国とシャドウミラーが協力関係にあるのは明らか、そしてその上でコウキの話を聞いてWシリーズらしからぬ考えをラミアは抱いてしまった。

 

(あの時の二の舞をするつもりなのですか……ヴィンデル様、レモン様……)

 

インベーダーとアインストの脅威はラミアのデータにも色濃く残されている。コウキの話の中の百鬼帝国とインベーダーとアインストは同じ脅威に思え、それと手を組むという危険性を把握しているのかと言う事、そして利用しているつもりで利用されているのではないかとレモン達の身を案じているのだった……。

 

 

 

 

 

ラミアがレモンの身を案じている頃――アースクレイドルでは進行計画の為の準備が行なわれていた。

 

「……北米地区がインスペクターの手に落ちた……と聞いたが、それは本当か?」

 

点滴や栄養価の高い食事を取る事で体調を回復させたアクセルがノイエDCの兵士達の報告や、食堂での話を聞いてレモンにその事を尋ねに来ていた。

 

「ええ、ラングレーがインスペクターの手に落ちたって言うのは本当だけど、でも連邦の敗走って言う訳じゃないわね」

 

レモンは新しく設計した機体の最終調整をしながらアクセルの問いかけに返事を返した。

 

「敗走したわけではない? どういう事だ?」

 

「インスペクター……ガルガウを覚えてる?」

 

「……ああ、覚えている」

 

1番最初に攻め込み、あちこちの基地を破壊したガルガウとヴィガジの事を忘れられる訳が無い。なんせアクセルは初陣でガルガウとぶつかり、生存したことで見込みがあると戦時中特例で異例の昇進を遂げたのだ。そんなある意味怨敵とも言えるガウガウをアクセルが忘れる訳が無い。

 

「こっち側のグルンガスト参式――ううん。ゼンガー・ゾンボルト専用カスタムをされた参式がガルガウを単騎で大破まで追い込んでる。どうも連邦はATX計画とSRX計画の試作機の持ち出しを優先して、ラングレーを放棄したって所ね。多分ラングレーの基地設備は殆ど死んでるんじゃない?」

 

「なるほど、やはりラングレー基地の司令はこちら側でも勇猛か」

 

「こっちの司令はクレイグ・パラストル。あちら側で確か同僚じゃなかった?」

 

「……そうか、こちら側では生きているのか……」

 

「感慨深い?」

 

からかうようなレモンの言葉にアクセルは眉を顰めた。あちら側でもクレイグはいて、そしてアクセルと同じ部隊で初陣で死んだ。民間人を庇ってだ。本当に軍人の鑑のような男だったとアクセルは評価していた。

 

「思う事はある、だが俺の友人だったクレイグとは違う」

 

「そう割り切ってくれるとありがたいわね。その通りよ、キョウスケ・ナンブもあちら側と違うって思ってくれると私としても楽なんだけどね」

 

キョウスケとベーオウルフは違うとレモンに指摘されたアクセルだが、不機嫌そうに眉を顰めレモンはそれを見て肩を竦め、本当に判ってるの? と呆れた様子で呟き、コンソールを流れるような指捌きで叩き始める。

 

「それとラングレーを捨てた理由だけど、百鬼獣の事もあったみたい」

 

未知の敵の分析結果、戦闘データを持ったまま孤立無援に陥るよりも恥を承知でラングレーを捨てて逃走する……敗走はしたが負けていないというレモンの言葉の意味も理解した。

 

「厄介だな」

 

「ええ、凄く厄介よ。だから私達はここ、アースクレイドルにいるのよ」

 

次勝つ為に逃げる事も辞さない――それはあちら側の自分達と同じで仮に敗れても、負けではないと奮起するこちら側のハガネ達は厄介すぎる相手だとレモンとアクセルは感じていた。だからこそ、アースクレイドルに篭もるという選択をしたレモンとヴィンデルへの不満をアクセルは口にした。

 

「……分の悪い博打だ。あまり気は乗らんな、こいつは」

 

百鬼帝国、ノイエDC、インスペクター、アインスト――それら全てを使いこちら側のハガネやヒリュウ改のデータを集め、その間はひたすら雌伏の時を過ごし戦力を整える……その余りに消極的な動き方はアクセルにとって面白い物ではなかった。

 

「またそれを言う。 こっちの戦力は、あの時以上に揃いつつあるのよ? まぁ私も思う事がない訳ではないけれど……」

 

「鬼は好かん」

 

誰かに聞かれたらどうするのとレモンが口を開きかけたとき、口をはくはくと開けている姿が見え、アクセルは反射的に裏拳を背後に向かって繰り出した。

 

「ほう。人間にしては良い拳だな、だが温い」

 

鉄を殴りつけたような重い衝撃がアクセルの拳に伝わりその顔を歪める

 

「アクセル! すみません、ちょっと「気にするな。俺様は気にしない、俺は龍王鬼。てめえの名は?」

 

「アクセル・アルマー」

 

「OK、アクセルだな。覚えたぜ」

 

カカカっと大声で笑う龍王鬼を初めて見るアクセルは誰だ? と言わんばかりの視線を向け、レモンは頭を抱える。

 

「百鬼帝国の将軍の1人よ、お願いだから無礼なことをしないでくれるかしら?」

 

「ガッハハハッ! 気にするな! 俺にとっては強き者こそ正義! この荒々しい闘気ッ! 実に良いぞ! アクセル」

 

龍王鬼はアクセルを気に入ったのか大声で笑っていたのだが、すぐにその目を細めた。

 

「レモン、あの黒いのを貰いにきた」

 

「は? え、えっと……冗談?」

 

「俺様は冗談は言わん。どうせ使う相手がいないのだろう? 俺様に寄越せ」

 

ハンガーに固定されているATX計画やビルトファルケン、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ等の情報を元にアシュセイヴァーを改造した準特機――継ぎ接ぎを意味する「ラピエサージュ」を寄越せと言う龍王鬼にレモンはしどろもどろになる。

 

「良いじゃないか、どうせ俺にはソウルゲインがあるから使わない。欲しいと言うのならくれてやればいい、格納庫の肥やしになるよりよほど良い」

 

アクセルの言い方では使う価値も無い機体なのだから欲しいと言っている相手にやればいいという響きがあり、レモンが眉を細める。

 

「龍王鬼さんには龍王鬼があるはずですが?」

 

「おう、俺様が使うんじゃねえ。オウカに使わせるつもりだ、お前に頼んだのも出来てるんだろ?」

 

龍王鬼の問いかけにレモンが頷くと龍王鬼は牙を剥き出しにし、にんまりと笑った。

 

「それならあれも貰う。まだあのクソったれなシステムは搭載してないんだろ?」

 

「はい、まだ調整段階ですから」

 

「なら良い、あのクソ婆が絡んできたらいらないって突っぱねてくれや」

 

手をひらひらと振り歩いていく龍王鬼の背中を見つめながらアクセルがレモンに問いかけた。

 

「なんだそのクソみたいなシステムとは?」

 

「……ゲイムシステムよ」

 

「なに? こちら側にもあるのか?」

 

ゲイムシステムは第一次インスペクター襲来の際に連邦へ亡命したアードラーが提供したシステムだが、フレンドリーファイヤを多発し、インスペクターよりも友軍機を多数殺したシステムだ。

 

「あんなものはいらんな」

 

「ま。それは私も同意するわね、ラピエサージュにゲイムシステムを搭載しなくて済むってだけで気が楽だわ」

 

最終調整を再開するレモンを見て、アクセルはこれ以上ここにいても邪魔になると思ったのか背を向けて歩き出した。

 

「……はぁ、アクセルも爆発寸前ね」

 

ラミアから送られてくる情報や、こちら側のキョウスケ・ナンブがベーオウルフにならないかと警戒を強めているアクセル。今は何とか押さえれているが、レモンから見てアクセルは爆発寸前――おそらくヴィンデルが動く時に動かせる機体があれば、それを勝手に持ち出してでも出撃するだろうと考えていた。

 

「……エキドナ」

 

ラミアから送られて来た情報の中にはシャイン・ハウゼンと口論している子供のような顔をしているエキドナの姿があった。記憶喪失になり、武蔵に随分となついていると聞いてレモンはなんとも言えない気持ちになった。それはまるで初恋を経験した娘が自分の手から離れていく悲しさと成長を喜ぶ気持ち――それは母が我が子を思う気持そのものだった。

 

「思い出さない方が貴女は幸せなのかもしれないわね……」

 

このまま自分達の事を思い出さずに、ただの1人の女として生きてくれても良いかもしれない――それはレモンの嘘偽りのない気持ちなのであった……。

 

 

 

 

ラピエサージュを自分が引き取ると話を付けた龍王鬼はそのままヴィンデルの元にやってきていた。

 

「待たせたな、俺も欲しいものがあったんでよ! お前ん所が開発してる黒いの、あれ貰ったぜ!」

 

「構わない。ではそろそろ打ち合わせを始めたいのだがよろしいか?」

 

「おう、構わないぜ」

 

ヴィンデルの前に腰を下ろし、龍王鬼はヴィンデルに視線を向けた。大帝の指示で協力しろと言われていたが……まずはヴィンデルという男の人間性を見極めない事には龍王鬼の性格ではいやいや協力するか、全面的に協力するかに分かれる。

 

(……まずまずというところだな)

 

痩せぎすに見えるがヴィンデルの肉体は必要な物だけに特化し、その目的の為だけ絞られた肉体だ。筋肉を付けて体を大きくするのではない、必要な物だけにこそぎ落とし、それを極限まで極める事に特化している。

 

「して、1つ問いたいのだがよろしいか?」

 

「あん? なにがだ?」

 

「何ゆえインスペクターと百鬼帝国は協力体制にあるのかと……」

 

朱王鬼と玄王鬼の2人が月での窓口となり、インスペクターと何らかの取引をしていると言う話は龍王鬼も聞いていた。正直何故侵略者と取引をするのか? と言うのは龍王鬼自身も謎に思っていたが、それをヴィンデルの口から聞くとは思わなかったと笑う。

 

「お前達と同じだ。自分達にとって有利な盤面を作る為に、何もかも利用する。そういうもんだろ? 戦争っていうモンはよ?」

 

「御せると?」

 

「おいおい、それはブーメランっつうもんだろ? お前達も俺様達を御せるつもりか?」

 

協力体制にあるが、それは邪魔者である連邦を押さえ、そして武蔵を倒すそれまでの共闘と言っても良い。ブライは宇宙を視野に入れているので地球にはさほど興味が無いが、それでも自分の支配下におき、その管理をヴィンデルに任せる程度に考えているだろう……今は協力体制ではあるが、それが嫌ならば反乱もある。その程度の関係性であーだこーだ言うのはお門違いだと言われればその通りでヴィンデルは頭を振った。

 

「確かにその通りだった。失礼した、我々はこの後アビアノ基地のハガネに襲撃を仕掛ける予定だ」

 

「おう、そう聞いてる。俺様は武蔵を日本に足止めする……って事で良いんだろ?」

 

今地球で1番強い武蔵、そしてゲッターロボD2と戦える――その押さえ切れない好奇心と闘争心を感じとりヴィンデルはにやりと笑った。

 

「戦闘データなどは必要か?」

 

「あん? いらねえよ。データはデータ、役にたたねえ。俺は目の前で戦う今の武蔵にしか興味はない」

 

「それは失礼した。ではオウカ・ナギサとゼオラ・シュバイツァーはこちらで運用して良いのだな?」

 

「運用つうか、あれだ。お前達の機体を使うんだから、実戦でしっかり慣らさせろってこった。使い潰してみろ、お前を潰すぞ?」

 

武蔵との戦いにオウカとゼオラを連れて行くつもりは無く、ヴィンデル達の機体を使うのだから責任を取って面倒を見ろと龍王鬼は言っているに過ぎず、使い捨ての駒として預けたんじゃないとヴィンデルを睨む。

 

「了解した。食客とまでは言わぬが、怪我などをさせずにお返しすることを約束しよう」

 

「おう、それとだ。ついでにクエルボも預けるから、しっかりと話し合ってどうやって使うか考えろや。んじゃあ俺様は行くぜ」

 

クエルボを預ければオウカとゼオラに無理を強いることはないだろう。そう判断し龍王鬼が格納庫に向かっているとクエルボが顔色を変えて龍王鬼に駆け寄って来た。

 

「り、龍王鬼さん! い、今の状況でゼオラとオウカを出撃させるとはどういう事なのですか!? そ、それに何故私まで」

 

周りに誰もいないのを確認してから龍王鬼はクエルボの細い首に己の丸太のような腕を回す。

 

「おいおい、クエルボよぉ? お前も一応パイロットであいつらもパイロットだ。ずっと隠れてる訳にはいかねえだろ?」

 

「で、ですが」

 

「まぁ聞けや。新型機と改良機の試験運転程度に思えば良い。お前が一緒に行って面倒を見てればいい、だろ?」

 

文句を言うクエルボを脅しつけるような素振りを見せながら龍王鬼が耳元に口を寄せる。

 

(俺様がいなきゃ、木っ端鬼は止めらんねえ。オウカとゼオラは年頃で見目も良い女だ、どこで下卑た考えを持つ鬼が来るかわからねえ。そう考えたら出撃してる方が安全なんだよ)

 

「そ、それはッ」

 

あくまでオウカとゼオラが安全なのは龍王鬼、虎王鬼と言う百鬼帝国でも位の高い鬼がいるからだ。だが2人がいなければ下卑た考えをする鬼は勿論、ノイエDCのテロリストもいるだろう。なんせゼオラは人形状態、ゼオラを人質にすればオウカは従うしかなく、自分で考えて動けないゼオラは抵抗することもしないだろう。

 

「判ったな? 判ったら出撃準備を急ぎな。なに、お前達は偵察で本陣はヴィンデル達だ、楽にやれ。逃げても文句はいわさねえ、楽にやってこいや」

 

「……すみません、ありがとうございます」

 

一礼して引き返していくクエルボを見ていると通路の影から虎王鬼が姿を見せる。

 

「ちょっと優しすぎじゃない? 妬けちゃうわ」

 

「おいおい、勘違いするなよ。虎……お前は俺様の大事な妻なんだぜ? 他の女になんか見惚れたりしねえよ」

 

腕の中に包まれにくる虎王鬼を愛おしそうに龍王鬼は抱き締める。

 

「良いの?」

 

「良いさ、あいつらの選択だ。俺様はそれを尊重するだけだ」

 

ハガネ、シロガネ、ヒリュウ改にシャドウミラーは攻撃を仕掛ける。その中でクエルボ達がハガネに亡命するのもまた良し、それとも任務を遂行しても良し、どちらを選択しても龍王鬼はそれを咎めるつもりも、責めるつもりも無かった。

 

「あいつらにゃあ、ここは不憫すぎる」

 

「そうね」

 

安心して身を休める事も出来ない場所にいるよりかはと思うのもまた龍王鬼の優しさだった。

 

「さーて野郎共! 準備は良いか! ゲッターロボにカチコミ掛けるぜッ!!!」

 

「「「「オオオオオーーーッ!!!!!」」」」

 

龍王鬼の言葉に拳を振り上げ雄叫びを上げる鬼達を見て龍王鬼は牙を剥き出しにして笑う。オウカ達の身を案ずるのも、そしてまだ見ぬ強敵との戦いに心を躍らせるのも龍王鬼と言う鬼のあり方なのだった……。

 

 

 

 

ライノセラスに機体を搬入し、出撃を間近に控えたそのブリッジの中でレモン達は出撃前の最後の打ち合わせをしていた。

 

「……状況はほぼ同じとは言えないわね、百鬼帝国と交渉している以上。相手の出方は読めないわよ?」

 

あちら側では百鬼帝国は存在しなかった。だから現在進行形でインスペクターの情勢は変り続けている。それはあちら側での戦いの記憶が邪魔になると言う事を意味していた。

 

「それでもだ。今は百鬼帝国の庇護下にいる方が都合がいい」

 

「何れ食い破る為に?」

 

「そうだ、その為には相手の情報を集める事を優先すれば良い、2度とあのような失敗はしない」

 

以前は焦り、ことを仕損じた。今回はそんな失敗はしないとヴィンデルは言い切り、そんなヴィンデルを見てレモンは溜め息を吐いた。

「基本的は方針はヴィンデルに任せるわ。でもラミアはまだこっちに戻さないから」

 

「ラミア? ああ、W-17か。それは好きにするが良い、量産型Wナンバーズの生産が軌道に乗ったからな」

 

ワンオフよりも替えが効く量産型がいるからラミアは必要ないと言わんばかりのヴィンデルに内心むっとしたレモンだが、それを隠していつものように笑う。

 

「武蔵達の情報を集めるにはハガネにいてもらった方が都合が良いから助かるわ。呼び戻せって言われたらどうしようって思ってたのよ」

 

「武蔵か……今日本にいるはずだが、良いのか? 百鬼帝国をぶつけて」

 

「かまわん。日本にいる戦力は少ない、それに龍王鬼の性分を考えれば武蔵が全力で戦えないと考えれば攻撃を収めるだろうしな」

 

あくまで足止め要請を聞いて出撃するのだからやりすぎる事はないだろうと言うヴィンデルにアクセルは少し眉を寄せたが、司令官がそう考えているのならばと余計な口を挟む事はなかった。

 

「W17はカーウァイ大佐達の居場所は把握しているのか? それにヘリオスの件についてもだ」

 

「ヘリオスの件に関しては判らないわね。だってほら、彼仮面で顔を隠してたし……そもそも私達もどこかですれ違ってる可能性もあるのよ?」

 

声は知っていても素顔を知らないヘリオス・オリンパスを探すのは砂漠の中から1粒のダイヤを探すに等しい、結果を求めるのが早すぎるわよと言われアクセルは肩を竦めた。

 

「カーウァイ大佐はやっぱりクロガネだと思うわね。ま、ノイエDCが動いていればそのうち姿を見ることもあるでしょう。百鬼帝国の前には何度も現れているのだしね」

 

戦いの中でいずれ会う事になる。それはレモンだけではなく、ヴィンデルやアクセルも感じていた。

 

「それで何故このタイミングでハガネに攻撃を仕掛けることにしたんだ? もう少し後でも良かっただろう?」

 

自分が本来の機体で出撃できないタイミングで何故攻撃を仕掛けることにしたとアクセルがその顔に不満の色を浮かべ、ヴィンデルに問いかける。

 

「あちら側のハガネのデータはもう何の役にも立たない。ならば現状での戦力を調べておきたいからだ」

 

「こちら側は凄いわねえ、ゲシュペンスト・MK-Ⅲのバリエーションが凄いし、何よりも完全に量産態勢が出来てるし、正直私でもゲシュペンスト・MK-Ⅲは複製出来ないわね」

 

解析は出来ても、それを複製することは出来ないとレモンが言い切った。確かに技術に関してはレモンも優れているが、それとはまた方向性が違うのだ。完全に旧西暦の技術を新西暦の物に置換え、それを実用段階にしている所で、この世界の常識的な部分がレモンにとってのブラックボックスであり、それを理解しない限りはゲシュペンスト・MK-Ⅲの量産はおろか、複製すら不可能。それがレモンの出した結論だった。

 

「だから私の判らない部分を知る為にも……仲間に出来ないかしら? ハガネとヒリュウ改を」

 

ハガネとヒリュウ改を仲間に出来ないか? と提案するレモン。確かにハガネとヒリュウ改の技術を取り入れれば、インスペクターもアインストも百鬼帝国とも互角に戦える。知識と力が足りないならそれを持つ者を仲間に引き入れようとするのは当然の考えだった。

 

「今は難しいだろう……だが状況を整え、現状と未来を理解させれば……あるいはそれは不可能ではない」

 

「自分達が勝つと考えている内は……ということね」

 

自分が勝つと思っている間に降伏勧告を受け入れる筈も無く、降参する訳も無い。仮に仲間になったとしても、自分達が取り込まれては意味がない。自分達が上、そしてハガネ達が下という図式を作るためにはまず相手の心を折る必要がある。

 

「だがそう簡単に相手は折れんぞ。武蔵がいるからな」

 

「だろうな。私達もそれは経験しているから判っている」

 

武蔵がいれば勝てる。負ける訳が無いとヴィンデル達でさえも思ったのだ、仮初の協力体制である時でさえそう思ったのだ、真の協力関係にあるハガネを初めとした連邦の心を折るにはまずゲッターロボに勝つ必要があるとヴィンデルは考えていた。

 

「だからこそ私が出る。ツヴァイでな」

 

あちら側でさえ最後まで見せる事の無かったシャドウミラーの最後の切り札を投入すると告げたヴィンデルにアクセルは驚きの表情を浮かべた。

 

「まさか……もう修復できたのか? システムXNを……ッ!?」

 

「いや、そうではない。百鬼帝国やアースクレイドルの設備を使ってもなお、システムXNの修理は7割と言う所だ。だがそれでもツヴァイは十分に稼動できる」

 

自分達の切り札を部外者に触れさせていると言うことにアクセルは苛立ったような表情を浮かべた。

 

「あのままでは使えなかったのだから仕方あるまい?」

 

「……お前達が良いと考えているのならば俺はなにも言わん。だがお前が出るのなら俺も出る」

 

「良いだろう。プロト・ヴァイサーガでもアンジュルグでも、アースゲインでも好きな物を使うが良い」

 

妥協案として自分も出ることを条件にヴィンデルの出撃を認めると言うアクセルにヴィンデルは好きな機体を使えと許可を出した。

 

「レモン、状態の良いアースゲインか、ヴァイサーガを出せ、それで出る」

 

「はいはい。もう止めても聞かないんでしょ? 好きにしなさいよ」

 

既に答えが決まっているのなら一々聞かないでよと言いたげにレモンは頷き、アクセルが使えそうな機体のピックアップを始める。その様子を見届けてからアクセルはレモンに背を向けブリッジを出て行った。

 

「そうだ、レモン。お前の量産型Wシリーズ、そしてナンバーズだが……あまり成果が出ないようならばフェフ博士の子供達に切り替える事となるぞ。良い加減にまともな成果を出すんだな」

 

ヴィンデルは一方的にそう告げてアクセルの後を追ってブリッジを出て行く、自動扉が閉まる寸前に振り返ったレモンの形相は鬼と良いほどに怒りによって歪められていた。

 

「私の子供達とあんな人形を一緒にしないで欲しいわね。ヴィンデル」

 

己で考える事もしない人形と、己で迷い、考え、そして人を愛すること学ぼうとしているラミア、ウォーダン、エキドナを一緒にするなと呟いたレモンの瞳には激しい怒りの炎が灯っていた。その炎がヴィンデルとアクセルに向けられる事になるのか……それは今はまだ誰にも、それこそレモンにさえも判らないのだった……。

 

 

 

 

シャドウミラーが動き出そうとする中。リュウセイ達のまた戦いの準備に明け暮れていた……そしてハガネのシミュレータールームにはユーリアとレオナ、そしてアイビスの姿があった。

 

「ど、どうでしょうか?」

 

「そうだな。悪いがトロイエ隊の採用試験基準で考えれば君は不合格だな」

 

ガーリオンとアーマリオンのシミュレーターを続けて行い、AM乗りとしては上から数えた方が早いユーリアに指導を求めたアイビスは深く肩を落とした。

 

「だが思い切りの良さは買おう。それと戦闘の中で新しいコンバットパターンを作り出す頭の回転、そしてその考えを即座に行動に移せる実行力……トロイエ隊の隊長としては認められんが、1パイロットとしては君は十分に好感が持てる」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

駄目だと叱られていると思っていたアイビスだが、好感が持てるという言葉に顔を上げた。

 

「ああ、荒削りだが、良い腕をしている。だがそうだな、君はまだAMに慣れていないのではないか?」

 

「うっ、はい。今までは戦闘機でしたから……」

 

「そうか、だが気にする事はない。レオナ、相手をしてやれ。戦いの癖は戦いの中で矯正するしかない、そうだな……15セットほどで良いだろう」

 

じゅ、15セットとアイビスは声を上げたが、レオナは薄く微笑むだけだった。

 

「15セットとは随分とお優しいですね」

 

「なに、飛び始めたばかりの雛に無理強いも出来ないからな。まずはここから馴らして行くのさ」

 

15セットもシミュレーターを行なえば疲労で身体がボロボロになる、だがそれでも優しいと軽いと言うユーリアとレオナにアイビスは驚くと同時に自分がいかに未熟だったのかを改めて思い知った。

 

(そっか、そうなんだ。これが一流って事なんだ)

 

今まで自分が行なっていたのは機体に慣れる為の物……そこから上に行こうと思えば、スレイがいる高みに行こうと思えば今まで通りでは駄目なのだ。

 

「スレイに追いつけるようになりたいのでよろしくお願いします!」

 

「よろしくてよ。ですが、私はそう優しくないので厳しく行きますわよ」

 

「はいッ! よろしくお願いしますッ!!」

 

スレイと共に飛ぶ為に、そしてフィリオを助け出すために……今までの己を越える為にアイビスはユーリアとレオナの2人の指導を受けながら、ただひたすらにアステリオンを乗りこなす為の訓練を続けた。

 

「よく粘ったがまだまだだな。どうする? もうやめるか?」

 

「はぁ……はぁ……ま、まだまだ!」

 

シミュレーターから這い出るように姿を見せたスレイの額からは滝のような汗が流れ落ち、その髪が頬や首筋に張りつき疲労困憊という様子だが、スポーツドリンクを口にしてタオルで汗を拭ったスレイはまだだと不屈を訴える。教導隊であるエルザム、ゼンガー、ラドラとシミュレーターでひたすら戦い、特機との戦い方を文字通り身体に刻み付けようとしているスレイはもうかれこれ3時間はシミュレーターに篭もりきりだ。

 

「良し! その気概は良いぞスレイ。今度は私が相手をしてやろう!」

 

「よ、よろしくお願いしますッ!」

 

今度はカーウァイ自らが相手をすると聞いてスレイは緊張した面持ちで再びシュミレーターへと乗り込む。

 

「ゼンガー、どうみる?」

 

「才はある。だがまだ足りん」

 

「ああ。特機を相手にするには思い切りが足りないな」

 

教導隊の3人の評価はAM乗りとしては最高峰、だがこれからの戦いには力不足と言う物だった。

 

『臆するな! 後に道はないぞ!』

 

『ぐっ! は、はいッ!!!』

 

スレイもまた己がNO.1なのだという誇りをその胸に抱き、そして必ずフィリオを助け出すという決意の元地獄のようなトレーニングをひたすらに積んでいるのだった……。

 

 

第88話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その1へ続く

 

 




今回はかなり長くなりましたが状況整理と次の話の準備は出来たと思います。次回は出撃までの話とオウカとゼオラの話などを書いて、偵察に向かうまでの話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第88話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その1

第88話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その1

 

ライノセラスに搬入されるヴァイサーガをアクセルは落胆した素振りで見ていた。状態の良い機体と言っていたが、転移の影響でヴァイサーガやアースゲインの大半は装甲が破損しており、まともに運用出来る状態ではなかった。かといってアシュセイヴァーやエルアインス、ラーズアングリフはアクセルの趣味ではなく妥協案でヴァイサーガを選択したのだが……これも万全なヴァイサーガとは程遠い有様だった。

 

「アクセルよ。鹵獲して来たゲシュペンスト・MK-Ⅲを使うか?」

 

不服そうな顔をしているアクセルの後からバリソンがからかうようにそう声を掛けた。

 

「冗談言うなバリソン。俺はゲシュペンストなぞ死んでも乗らん」

 

「ならそんなに不満そうな顔をするなよ。急に出撃するって言ったお前が悪いんだからよ」

 

バリソンが100%正論を口にしており、アクセルは不機嫌そうに舌を鳴らした。

 

「五大剣もない、空も飛べん、防御のマントもないんだぞ」

 

テスラドライブは故障、武器の五大剣は中ほどから折れて使い物にならず、ビームと実弾を防ぐマントは焼け焦げて意味を成さない。ヴァイサーガのコンセプトが全崩壊しているのは流石のアクセルでも文句を言いたくなるレベルだった。

 

「腕がドリルのアースゲインにするか?」

 

バリソンの視線の先には肘から先がドリルになっているアースゲインや、何を血迷ったのかビームキャノンが付けられている物もありアクセルの目が死んだ。

 

「冗談は止めろ、ドリルを武器にするのはゲッター線の膨大なエネルギーが前提だろう。判った不満はもう言わん」

 

盾とランスを装備しているヴァイサーガでは本来の高速機動は無理だとしても重厚な装甲による足を止めた白兵戦ならば十分な戦闘力を持っている筈だ。

 

(ゲシュペンスト・MK-Ⅲを見極めるには十分だ)

 

ここで決着をつけるわけではない。あくまで威力偵察だと割り切れば機体への不満も飲み込めるとアクセルは思考を切りかえかけたのだが、ライノセラスに乗り込もうとしている3人組を見てその顔を歪めた。

 

「ゼオラ。手を、こっち」

 

「ハイ」

 

「ゆっくりだ。そう、それで良い」

 

瞳に何の光も無い少女を黒髪の女と人の良い顔をした男が手を引いてライノセラスに乗り込ませる光景を目の当たりにしたアクセルはバリソンに視線を向けた。

 

「なんだあれは?」

 

「あーあれは龍王鬼の所の部下だよ。なんでも鬼に心を砕かれたとかでな、何も考えれなくされたのを姉と保護者が介護してるって聞いてる。それに龍王鬼がいない間に襲われたらことだからって預かる事にしたそうだ」

 

襲われたら――それが意味するのは1つだけだった。見目麗しい男好きしそうな身体つきをした少女に下卑た視線を向けている鬼の姿を見て、怒りに顔を歪めるアクセルにバリソンは落ち着けと言って肩に手を置いた……だが掴まれた肩に込められている力にバリソンも憤っているのがアクセルにも判り、逆に頭に上っていた血が下がるのを感じた。

 

「すまん」

 

「気にするなよ、大体俺だって思う事はある。だが俺達に何が出来る? 鬼と事を構える覚悟もないのなら、今は我慢しとけよ」

 

バリソンの言葉にアクセルは大きく舌打ちした。イングラムとの戦いの中で割り込んで来た饕餮を名乗る鬼に、共行王を名乗った鬼は人の姿をしていても、その力は人間の範疇になかった。たとえ義憤に駆られても、アクセル達に出来る事はないのだ。

 

「バリソン、お前も来るのか?」

 

「おう、一応。あいつのフォローって所だ、戦闘に連れて行くとどうなるか正直判らんし、龍王鬼は約束を守った。それを反故にすると怖いってヴィンデルは考えてるんだろうな。まぁ有事でなければ俺に戦う予定はないけどな」

 

武蔵を日本に足止めすることを了承した代わりに保護を要求された。取引と考えればアクセル達のほうが圧倒的に条件が軽い、それくらいはやらなければ鬼の中で穏健派の龍王鬼も敵に回す事になる。それを避ける為に、そして龍王鬼と話を付けやすいように預かるというのはアクセルにも十分に理解出来た。

 

「しかし、俺はやはり鬼は好かん」

 

鬼のやり方はアクセルに受け入れられる物ではなく、百鬼帝国に対する怒りを抱きながらアクセルもライノセラスに乗り込むのだった……。

 

 

 

椅子に腰掛けているゼオラを見て、オウカとクエルボは悲痛そうにその顔を歪めた。言われた事しか出来ず、自分で考えることもしない……水を飲めと言えば水中毒になるまで水を飲み、物を食べろといえば吐き戻すまで食事を続けるゼオラの姿に心を痛めない訳が無かった。だがライノセラスに乗り込んだゼオラは普段と違う様子を見せていた……。

 

「アネサマ。ワタシモシュツゲキスルカラネ?」

 

「ゼオラ……そんな事はしなくて良いのよ?」

 

「ウウン、ワタシハタタカウノ」

 

不気味に笑うゼオラをオウカは抱き締めて涙を流す。龍王鬼に腕を踏み砕かれてからアギラはオウカ達の前に姿を見せる事は無く、それによってリマコンと投薬の影響は抜け、オウカが本来の性格に戻って来ている事が余計にゼオラの変質を重く受け止めさせていた。

 

「オウカ、今回は偵察だが、私も参加する。恐らくだが……アラドも出てくるだろう」

 

「……セロ博士、それは大丈夫なのでしょうか?」

 

ゼオラは朱王鬼にアラドを殺すように命じられている。それを知って尚ハガネの偵察に出るというのはオウカにとっては不安でしかなった。これでゼオラとアラドが殺しあいになるようなことになればオウカは当然耐えられないし、正気に戻ったゼオラが発狂するのもわかりきっていた。可能ならばライノセラスに篭もっていたいというのがオウカの嘘偽りのない気持ちだった。

 

「虎王鬼さんから聞いたんだが、アラドに会う事で、アラドの声を聞くことで自我に刺激を与えることが出来れば……可能性としてはきわめて低いが、ゼオラが正気に戻る可能性があるそうだ」

 

博打も博打。アラドにとってもゼオラにとってもリスクがある……だがそれでもほんの僅かでもゼオラが元に戻る可能性があるのならばそれに縋りたいと思うのは人間にとって当然の事だった。

 

「ラピエサージュと私のラーズアングリフにはスパイダーネットを複数装備させておいた」

 

「最悪の場合は取り押さえるという事ですね?」

 

「ああ、それしか今の私達に出来る事はないんだ」

 

朱王鬼と玄王鬼がいないうちに、再びゼオラがおかしくされる前にゼオラを正気に戻す――それが嘘偽りの無いクエルボとオウカの願いだった。

 

「もし、ゼオラが元に戻ったらどうします?」

 

「そうだね。その時は……投降でもしようか」

 

「ふふ、それも良いかもしれないですね」

 

龍王鬼はクエルボ達が逃げる事も認めていた。ゼオラさえもとに戻れば、それも1つの道だとクエルボとオウカは笑いあった。その時だった部屋の扉が叩かれレモンが部屋の中に入ってきたのは……。

 

「セロ博士、オウカ、ゼオラ。そろそろ偵察の時間よ、準備をしてくれるかしら?」

 

「態々来てくれなくても良かったのに、申し訳ありません。レモン博士」

 

話を聞かれていたかもしれないと緊張するクエルボとオウカを見て、レモンは小さく笑った。

 

「はい、これ。上げるわ」

 

「っと、これは?」

 

レモンがオウカに投げ渡したのは長方形のTVのリモコンのような物だった。

 

「それでゼオラのファルケンは止まるわ。最悪の場合はそれで回収して頂戴」

 

ぎょっとするクエルボとオウカにレモンは口元を押さえて笑った。

 

「私も女だからね。思う事はあるのよ? それに貴方達は私達の部下って訳じゃないし、好きにしたら良いわ。帰ってくるのも、逃げるのも自分達で決めるといいわよ? ああ、安心してくれて良いわよ? ちゃんと守るし、護衛も出すから」

 

ちゃんと龍王鬼との約束は守る、そしてその上でクエルボ達の好きにすれば良いと笑うレモン。その姿を見てクエルボは搾り出すように口を開いた。

 

「貴女は怖い人だ」

 

「ふふふ、褒め言葉として受け取ってあげる。それじゃ、偵察頑張ってね」

 

貴方達がどんな選択をするのか楽しみにしてると笑うレモンにオウカとクエルボはなんとも言えない恐怖を感じながら、ゼオラと共に格納庫に足を向けて歩き出す。

 

「どうなるのかしらね。あの子達は……」

 

以前の自分ならこんな事はしなかった。ラミアからのエキドナの状態を聞いたり、あちら側での武蔵との共闘で自分も変わり始めていると感じていた、クエルボの親心も、オウカの妹であるゼオラを思う気持ちも痛いほどに今のレモンには判ってしまい。ヴィンデルとアクセルの考えに反すると判っていても、オウカ達を助ける為に動いてしまっていた。だがその変化は決して嫌なものではなく、むしろ心地よい物であるから困るわねとレモンは呟き、ブリッジへと足を向けるのだった……。

 

 

 

 

アビアノ基地の通信室の壁にラミアは寄りかかりながら目の前の光景を見ていた。シャインが日本の伊豆基地にいる武蔵と話をしたいとダイテツに頼み、今手の空いている人間がラミアだけだった為、通信室の設定や伊豆基地のオペレーターと話をつけ今はこうして話が終わるのを待っていた。

 

「私がAMに乗るのは武蔵様は反対でしょうか?」

 

『……そうだな。心情的にはうん、反対だ。でも……もう決めたんだよな、シャインちゃん』

 

「はい。私は国を取り戻す為に、己の血を流す事も、そして血に濡れる事も覚悟しております」

 

モニター越しとは言え武蔵に姿を見られるわけには行かないと警戒し、姿を隠しているラミアはシャインの言い分が理解出来なかった。

 

(何故、自ら戦場に立とうとする)

 

シャイン・ハウゼンはリクセントの女王――戦えと命令する立場であり、何故そんな人間が自ら戦場に立とうとするのか……? それがラミアには理解出来なかった。

 

『ならオイラは止めれないなあ、もう決めちまったなら……もう何を言われても引き返せないしな』

 

「はい、私はもう見ているだけ、待っているだけというのは耐えれないのです」

 

『判った。オイラは止めない、だけど1つだけ約束だ』

 

「なんでございましょう?」

 

『1人でリクセントに行こうなんて思わないでくれ、取り返すのを手伝うって約束しただろ? オイラが戻るまで待っててくれ』

 

「……はい、お待ちしております。すいません、エキドナさん。お待たせしました」

 

シャインが椅子から立ち上がるとエキドナがうきうきした様子で椅子に腰掛ける。

 

「武蔵は元気か? もうすぐ帰ってこれるのか?」

 

『オイラはめちゃくちゃ元気ですよ。ただちょっと伊豆基地が忙しいみたいなんでまだ暫く缶詰になりそうですけど……』

 

武蔵の言葉を聞いてしょんぼりと肩を落とすエキドナの姿はラミアの知るエキドナとは程遠い姿をしていた。

 

(レモン様は何故こんな様子のエキドナを私を見て喜ばれたのだ? 判らない)

 

幼く、自分の感情を優先しシャインと口論をし、武蔵の後をついて回るエキドナはWシリーズとしての役割を何一つ果たせていない。

 

そしてラミアもまたファーストジャンパーであるヘリオスの手掛かりを得ることも出来ず、連邦の主力のゲシュペンスト・MK-Ⅲのカタログスペックを手にするのがやっとで、ハガネ、シロガネ、ヒリュウ改の何れにも工作をすることが出来ないでいた……。

 

(私達は何の役にも立てていない……それなのに、何故……?)

 

求められている事は何一つ出来ていないのに、何故あんなにもレモンの声が優しかったのか、何故叱責されないのかがラミアには理解出来なかった。

 

『お土産はちゃんと買って帰りますから』

 

「……うん」

 

「何を買って来てくれるのですか?」

 

エキドナのように何もかも忘れて過ごせるのならば、それも幸福なのではないか? とラミアは思わずにいられなかった。

 

「ラミア、子守を任せてすまない。シミュレーターの準備が出来ている。俺と交代だ」

 

「ギリアム少佐、はい。判りました」

 

通信室に入って来たギリアムと交代で出て行こうとしたラミアだが、足を止めて振り返った。その視界の先には今も武蔵と楽しそうに話をしているシャインとエキドナの姿があり、なんとも言えない気持ちを感じながらどうしたと問いかけてくるギリアムに尋ねた。

 

「少佐。1つお聞きしたいことがあるでごんす、失敗をしても怒らない上司というのはいるでありんしょう?」

 

「怒らないと言うのはそうだな、部下に原因が無いとかならば叱り様がないが……お前が求めているのはそれではないのだろうな」

 

ギリアムはそう言うと一拍おいて、迷いや不安の色が瞳に浮かぶのを隠せないでいるラミアに視線を合わせた。ギリアムの目にはラミアには親とはぐれた子供のように見え、その瞬間にギリアムは自然とある言葉を口にしていた。

 

「親はどれだけ失敗をしようが、間違いをしようが絶対に子の味方だ」

 

「親は……子の……味方……」

 

親は子の味方……信じたいと信じられないと言う2つの相反する感情を見せながら、ラミアは一礼し今度こそ通信室を出て行った。その後姿をギリアムはジッと見つめ、何かを考え込むような素振りをしているのだった……。

 

 

 

 

アビアノ基地の格納庫では急ピッチで試作機の組み立てや調整作業が行なわれていたが、その中でもヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの回りは耐熱スーツを着たマリオンやカーク、耐熱スーツを着て車椅子に座っているコウキや、ラルトスやツグミと研究者が大勢集まっていた。そんな中コックピットが開き、そこからパイロットスーツを着たライが額から大粒の汗を流しながら姿を見せる。

 

「どうだ? ライ。タイプMは?」

 

「……とんでもないじゃじゃ馬ですね。動力を安定させることすら出来ませんでしたよ」

 

R-02カスタム、R-2、SRXとピーキーな動力設定をされている機体を乗りこなして来たライでさえタイプMの動力設定を安定稼動値に持って行けなかった。昇降機で降りて来たライはヘルメットを脱いで、タオルで汗を拭う。

 

「はーい、ライ少尉。スポーツドリンクだヨ!」

 

「……ああ。すまない」

 

独特なイントネーションのラルトスからスポーツドリンクを受け取り、それを飲みながら放熱を続けているヒュッケバイン・MK-タイプMを見上げるライ。

 

「何か気になることでも?」

 

「いえ、そう言う訳では……ただ、私はこれを運用するべきではないと言わせていただきたい」

 

リョウトは温厚で穏やかな性格だ、だがヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMに乗ると気性が荒くなるというのは既に確認されている。それはマグマ原子炉を利用しているからこその何かではないかとライは感じていた。事実念動力などの素質が無いライですら何かを感じたのだ。これは危険だと、パイロットとしての本能が告げていた。

 

「コウキは何か意見は?」

 

「マグマ原子炉はメカザウルスの心臓と言っても良い、それに宿る意志が無いとは言い切れないな」

 

メカザウルスの意志――炉心だけになってもその中で生きている。普通ならオカルトと笑うが、事実そのオカルトの塊のようなコウキに言われるとそれも真実味を帯びてくる。

 

「対処法がないとなると封印か」

 

「ですがヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの力は惜しいですわよ」

 

「対処法がない訳ではないぞ」

 

封印か、それとも危険を承知で運用するかと話し合うマリオンとカークにコウキはなんでもないように対処法があると告げた。

 

「あるのか? そんなものが」

 

「ある。メカザウルスも鬼もその摂理は単純で明快だ。強い者が正しい、それだけだ。屈服させろ、炉心に宿るメカザウルスよりも己が強いと認めさせればいい」

 

「オカルトですわねえ……そもそも屈服させろといいますがどうすれば良いのです?」

 

「そうだな。戦いの中でメカザウルスの意志に触れるかとかそこら辺になるだろうな。今いる面子の中で出来そうと言えば……カチーナあたりが妥当だな」

 

「カチーナ中尉は喜びそうネ! 呼んで来ますか? マリーシショー」

 

「カチーナ中尉は今はアラドのシミュレーターに付き合っている筈ですから後で良いですわ。当面はリミッターで炉心の出力を制限することにしましょう」

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMは熱を攻撃に転用しているので、カチーナを乗せるのは危険すぎる。敵は倒せるかもしれないが、周りの被害を考えるとリターンよりリスクが大きいので、炉心の出力が一定以上にならないようにリミッターを重複させる事でヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMを運用する事を決めた。

 

「すまないな、ライ。危険性は承知しているが、今は戦力を遊ばせている余裕が無い」

 

「……いえ、余計な事を言いました。リミッターを付けましたらまたテストに来ます。それでは」

 

格納庫を出て行くライを見送り、マリオン達は再び機体の調整を再開する。カークの言う通り機体を遊ばせている余裕は無く、少しでも戦力になる機体を増やしたいと全員が思っていたからだ。

 

「タカクラチーフはフェアリオンの設定と調整に専念してくれ、コウキはラルトスと一緒にラプターの再調整を頼む」

 

フェアリオンの調整を任せるという言葉にツグミは明らかにホッとしていた。

 

「ラプターをもっと改造して良いのカ! ハミル博士! ファルケンのタイプKみたいに改造したいと思ってたネ!」

 

「おい、この馬鹿を止めろ。色物をこれ以上増やしてどうする」

 

アルトアイゼン・ギーガ。ゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRデスペラード等という色物と言うか頭のおかしい物しか作らないラルトスがエキサイトし、コウキが止めろというとカークは机の上の書類を手にした。

 

「実際に操縦したラトゥーニ少尉の意見だ。彼女の希望する設定から+-0.5以内の誤差なら認めよう」

 

「そんな殺生ナ!」

 

「リン社長呼びましょうか?」

 

「ア、スミマセンデシタ」

 

企画書を見て面白くないヨと騒ぐラルトスだったが、ツグミの一言で大人しくなりトボトボとビルドラプターの元へと歩き出した。

 

「コウキ、彼女を頼むぞ」

 

「了解。地獄に落ちろ」

 

問題児を押し付けられたコウキは真顔でカークに地獄に落ちろと吐き捨て、車椅子を操りラルトスの後を追って移動を始める。

 

「彼女を外すべきでは?」

 

「いや、頭の中身こそあれだが、ラルトスは優秀なんだ。考えがおかしいだけでな、ああ。まともな人間には理解出来ない思考回路をしているが、技術は優秀だと認めよう。人格と思考回路が論外だがな」

 

技術は認めるが性格は全否定するカークにツグミはあははっと乾いた笑い声で相槌を打つのがやっとだった。

 

「では私は参式の1号機は後々のエンジン交換作業と……T-LINKシステムの調整の事もあり、私が担当する」

 

「3号機の方は?」

 

アビアノ基地に搬入されている2機の参式の内の1号機の話しかしないカークに3号機はどうするのか? とツグミが尋ねる。

 

「参謀本部から命令で、このアビアノ基地へ預ける事になった」

 

「全く、人間同士で内輪揉めをしている場合ではないと言うのに、本当に上層部は愚かですわね」

 

マリオンの言葉で本来ならば3号機もハガネで運用する予定だったのだが、ハガネに戦力を集まるのを嫌がったほかの基地からのやっかみでアビアノ基地に参式が保管されることが判りツグミは溜め息を吐いた。

 

「本当にこんな事をしてる場合じゃないのに……」

 

今は動きを見せていないがノイエDCが積極的に反連邦勢力を取り込んでいるのは連日ニュースで報じられている。それに加えて百鬼帝国、インスペクター、そしてアインストと言う化け物もいると言うのに何故こんなに内輪揉めをしているのかとツグミは今の連邦のあり方を憂いた。

 

「嘆いても仕方ありませんわよ。いま自分達に出来る事を全力で行なうだけですわ、では私はビルガーの調整をしてきますわね」

 

「ああ。そうしてくれ、それとお前の弟子。あれに釘を刺しておいてくれ、持ち込んだ試作機は地球にあるマオ社の工場で保管する。だから勝手に手を加えるなとな」

 

あちこちのパイロットに改造しないか? こんなのはどうか? と改良案を出しているラルトスに釘を刺せと言われ、マリオンはわかってますわと返事を返し、机の上の資料を手にしビルガーではなく格納庫の外に足を向ける。

 

「……参式1号機のパイロットは、カザハラ所長の指示でブルックリン少尉とクスハ少尉に決まっていますが……ビルトビルガーには誰を乗せるのですか?」

 

出て行こうとするその姿にパイロットに会いに行くのだと感じたツグミがそう尋ねるとマリオンはにっこりと微笑んだ。だがそれにはなんとも言えない殺気のような気配が洩れていて、ツグミはやばいと本能的に悟っていた。

 

「ふふ……ファルケン・タイプKを乗りこなすアラド・バランガがいるのですから、ビルガーのパイロットもアラドで決まりですわ」

 

勝手に決めるなというカークの突込みを無視して、マリオンは今度こそ振り返る事無く格納庫を後にした。

 

「良いんですか?」

 

「私は知らない。もう好きにすれば良いとしか言えんな」

 

マ改造を容認するような事を言うカークにツグミは良いのかなあと困ったように呟きながら、自分の受け持ちであるフェアリオンの調整作業を始めるのだった……。

 

 

 

シュミレータルームでは改めてアラドのPTとAMの適正を再検査する為の試験が行なわれていた。対戦相手はラミアで、機体は互いにゲシュペンスト・MK-Ⅲ、ガーリオン、ヒュッケバイン・MK-Ⅲ、そして現在の搭乗機であるアンジュルグとビルトファルケン・タイプKの計4連戦だ。

 

「カイ少佐。アラドの試験はどんな様子ですか?」

 

「ラドム博士ですか、今のところ2戦目のガーリオンが終わった所です」

 

丁度良い所に来たとマリオンが微笑み、シュミレーターの内容を映しているモニターに視線を向ける。

 

『わ、わっ!?』

 

アラドの混乱しきった声と比例するようにギクシャクとした動きをするガーリオンの姿を見て、カイと同じく試験の判定に来ていたカチーナ、キョウスケと、偶然通りかかったリュウセイの3人はなんとも言えない表情をしていた。

 

「駄目だな、ありゃ。根本的にAMの操縦に向いてないな」

 

「そのようですね……」

 

PTと比べAMはその操縦に癖がある。テスラドライブによる重力の軽減を施され、その操縦感覚はふわふわとしていて頼りない物に感じられる者もいる、それゆえにベテラン勢からリオンシリーズに乗り換えるものは少なく、ゲシュペンスト・MK-Ⅲや、MK-Ⅱにフライトユニットを装備する事を好むものが多いのも、その操縦感覚によるものが大きくアラドは典型的なそのタイプだった。

 

「リュウセイはどう?」

 

「俺はAM乗れないからパス。偉そうなこと言えないから」

 

エクセレンに意見を求められたリュウセイもその口で、AMに関しては門外漢なのでノーコメントと言った所でラミアが大きく動いた。近づけさせないようにガトリングを使っていたアラドだが、AMでそんな重量のある武器を使う物は居らず、マシンキャノンの一射が銃身を打ちぬきガトリングを破壊する。爆発で発生した煙幕を利用し突っ込んで来たラミアのガーリオンが近づいてくるのを見てアラドが溜まらず声を上げた。

 

『わわっ! ラミアさん、ちょっとタンマッ!』

 

『……実戦でそんな物が認められると思うのか?』

 

すれ違い様にミサイルを打ち込まれアラドのガーリオンは撃墜判定を喰らい、シミュレーターが緊急停止する。

 

『うう、2回連続負け……俺自分が弱いって判ってるけど落ち込むなあ』

 

『落ち込んでいる暇はないぞ。続けてヒュッケバイン・MK-Ⅲだ、早く自分用に設定をフィッティングしろ。ノーマルで私と戦いたいというのなら別だが?』

 

『ま、待って! ちょっとラミアさん厳しすぎません!?』

 

休む暇も無く続けてヒュッケバイン・MK-Ⅲの試験に入ると言うラミアに慌てて、アラドも自分の機体の設定を始める。

 

「キョウスケ中尉。今の所の採点はどうですか?」

 

「ラドム博士、そうですね。俺はゲシュペンスト・MK-Ⅲに関しては70、ガーリオンに関しては10と言う所ですね」

 

「あたしはゲシュペンストは50、ガーリオンは0って所だな。あいつはAMには向いてねえよ」

 

「ゲシュペンストに関しては荒削りだが光る物がある、75。AMに関してはてんで駄目だから私も10と言う所ですね」

 

「俺はこれからの努力に期待して50・50って所で」

 

カイ、キョウスケ、カチーナの3人はゲシュペンストに関しては高評価だったが、ガーリオンに関してはほぼ適正0という結果だった。

 

「ゲシュペンストのカスタマイズは?」

 

「あータイプAをベースに重装備のタイプSの装備をくっつけたゲテモノにしてたのよ、あの子」

 

「ほう? それは随分と面白いことをしますわね?」

 

加速力に特化したタイプAに砲撃戦用のタイプSの装備、相反するコンセプトのカスタマイズを1つにして、その上で50点を超える採点を得たアラドにマリオンは興味深いという顔をする。

 

「よくもまあ、あんな重いのをぶん回すもんだ。あの思い切りは買うがよ、ありゃあないな」

 

「完全に装備同士が喧嘩していたからな」

 

「それでもタイプKを選択したラミアに食いついて、右腕と左足を奪ったのは天性の物だな」

 

相性不利のカスタマイズ、重装甲と加速力が欲しければタイプKを選択すれば良いのに、それでもAとSを組み合わせたのはタイプKでは軽すぎたのだろう。

 

「うわ、あいつまたやってるよ」

 

「うーん……アラドはカスタマイズした専用機でも上げたほうが良いんじゃない?」

 

身軽さが売りのヒュッケバイン・MK-Ⅲの筈なのに、装備を大量に身につけ、アーマーを装着している姿を見てリュウセイとエクセレンはまた駄目だなと一目で結論を出した。

 

「ふふ、愉快なパイロットではありませんか、まだやらなければならないことがあるので私はもう行きますが、アラドに向いている機体と装備について聞かせて貰えますか?」

 

メモを取る姿勢を取ってカイ達に今の段階でアラドに向いている機体は何か? とマリオンが問いかける。

 

「俺はゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプSをカスタマイズして、破壊力重視の大型武器……ハンマー等が向いていると思います」

 

キョウスケは重装甲で操縦の癖として重いものを好むのならばとタイプSを改造する事と遠心力を活かして相手を押し潰すハンマーのようなものが良いと告げる。

 

「あたしは逆だな、鋭い出入りが出来てるからタイプK……いや、タイプAの肩を取っ払って、もっと重装備に変えてやればいいと思うぜ? 武器はそうだな、キョウスケと同じで破壊力重視の物が良いと思うが……斬艦刀とまでは言わないが大型のブレードなんて良いと思う」

 

重装甲の機体でタイプKに匹敵する素早い出入りが出来るのならば、タイプAのクレイモアを取り外し、装甲を厚くして切れ味よりも重さで叩き切るような武器が向いているとカチーナは称した。

 

「俺はアルブレードを思いきって改造すれば良いんじゃないかって思うんだけど……」

 

「む、俺もそう思っていた。瞬発力があり、装甲が厚いアルブレードに手を加える方が良いんじゃないかと思うぞ」

 

カイとリュウセイは今は乗るパイロットがいないアルブレードに手を加えれば良いと提案する。試作機という側面があり、拡張範囲の広いアルブレードなら好きに改造できると言うのも間違いではない。

 

「アルブレードはその内赤く塗ってあたしが使おうと思ってたのに……しゃあねえ、今回はあいつに譲ってやるか」

 

「また勝手に赤く塗るつもりだったの? カチーナ中尉」

 

以前勝手にゲシュペンスト・MK-Ⅱを赤く塗装して自分の専用機にしてしまったカチーナ。アルブレードもそうしようと狙っていたと言うその言葉にエクセレンはなんとも言えない表情を浮かべて苦笑いした。

 

「判りました。色々と参考になりましたわ、では、後はよろしく。ああ、あとアラドにはビルガーを与えるつもりなので、アルブレードはカチーナ中尉が使いたければダイテツ中佐に許可を得てください。後で改造してあげますわ」

 

ビルガーを与えるのでアルブレードは好きにして良いというマリオンの言葉にカチーナがガッツポーズを取った後ろでアラドのヒュッケバイン・MK-Ⅲがラミアのヒュッケバイン・MK-Ⅲの頭部と肩部を奪うが、反撃でコックピットを潰され、アラドの3連敗が決まった。

 

「アラド。1回休憩にしろ、ラミアもだ」

 

キョウスケがそう口にした所でシミュレータールームの扉が開いた。マリオンが戻って来たのか? と全員が振り返る。

 

「あら? クスハちゃんどうしたの?」

 

しかしそこにいたのはマリオンではなくクスハだった。その姿を見てエクセレンがどうしたの?と尋ねる。

 

「アラド君とラミアさんがここで特訓をしてるって聞いたので、飲み物を持ってきたんです」

 

満面の笑みでクスハが魔法瓶を差し出した。しかもただ魔法瓶ではない、レジャー用の2Lは入る大型魔法瓶だ。

 

「……馬鹿な……ッ!」

 

「な、何だと!?」

 

「ク、クスハ……ま、まさか、その飲み物って……」

 

エクセレンは驚きに目を見開き絶句し、キョウスケは普段の冷静さを投げ捨て、カチーナは嘘だと言ってくれと言わんばかりの表情をその顔に浮かべた。そしてリュウセイが魔法瓶の中身をクスハに問いかけるとクスハは華が咲くような美しい笑みを浮かべて、死刑宣告を口にした。

 

「うん、特製の栄養ドリンクよ」

 

シミュレータールームに葬式もかくやという絶望的な沈黙が広がった。

 

「すみません、少尉。わざわざ俺達の為に……ありがたくいただきます」

 

「そうだな。折角だからいただこう」

 

「どうぞどうぞ、今回は味も自信作で美味しいと思うんですよ!」

 

満面の笑みでどす黒い液体を差し出すクスハ。差し入れだから飲めない物ではないと判断し、アラドとラミアはリュウセイ達が止める間もなくカップの中身を呷り、ラミアは呻き声を上げ昏倒し、アラドは美味いと声を上げるのだった・・・・・・。

 

「うん? 偵察部隊が体調不良だと?」

 

「はい、今は回復しているそうですが、もう暫く時間を欲しいと」

 

アビアノ基地の兵士の報告を聞いてリーは眉を顰め、ダイテツに向き直る。

 

「どうしますか? ダイテツ中佐。偵察部隊のローテーションを変更しますか?」

 

体調が優れないのならば手の空いている者が出ればいいとリーは考え、ダイテツに偵察部隊の編成を変更しますか? と尋ねる。

 

「30分待とう、それで体調が優れないのならば編成を考えると医務室に伝えてくれ」

 

「了解しました」

 

敬礼し会議室を出て行く兵士を見送り、ダイテツ達はモニターに視線を戻した。

 

「これがビーストか……リー中佐はどう思う?」

 

モニターに映し出されているのは漆黒の獣、鳥、人型のPTだった。姿は不明瞭で、先日姿を確認された最新の物だった。

 

「第三勢力であると貴官は考えております」

 

PTともAMとも違う、ウォン重工業の開発しているゲシュタルトシリーズに似ている部分もあるが、それは関節部などでウォン重工業が関わっていると言う確証も無い。

 

「今回の偵察でビーストとエンカウントする危険性を考えているのですね。ダイテツ艦長」

 

「ああ、アビアノ基地のPTや偵察機を完膚なきまでに破壊している。これ以上被害を出す訳には行かない」

 

ビーストにはアビアノ基地だけではない、ノイエDCも百鬼獣にも襲いかかりそれを破壊している。目に付いたものを全てに襲い掛かり破壊する狂獣――ゆえにビースト。これ以上ビーストによる被害を抑える為に、今度の偵察でビーストの正体を、その目的をダイテツ達は探り出そうと考えているのだった。

 

「……様。またあいつ出て行っちゃったよ?」

 

「どうしましょうか? 連れ戻しに行きますか?」

 

「わ、私はあれは怖くて、す、少し苦手なんですけど……行けというのなら……」

 

どこか判らない闇の中で小柄な影が3つ、闇の中に佇む巨大な何かに窺いを立てる。

 

『いえ、構いません。まだあれは調整中……戦いの中で自我を確立させるのならばそれも良し。今はこの巨神を制御することを考えましょう』

 

狂ったように雄叫びを上げる異形の影、ゴーグル型のカメラアイが闇の中で赤く輝く光景を謎の集団は嘲笑うように見つめていた。

 

『『痛い、いたい……頭が、痛い……』』

 

破壊したノイエDCが発する炎に照らし出される漆黒の機体はその手首から伸びた爪からオイルをまるで血のように垂らし、返り血のように飛び散ったオイルが赤いセンサーアイから零れ落ちる……だがそれはパイロットの慟哭を、泣くことの出来ない誰かの悲しみを代弁し涙を流しているように見えた。

 

『『助けて……ああ、誰、誰に助けて欲しいの……判らない、判らないよぉ』』

 

二重に聞こえる少女の声を森の中に響かせ幽鬼のように足を引き摺り進み続けるビーストはその姿を人型から文字通り獣の姿へと変え、森の中へとその姿を消すのだった……。

 

 

 

第89話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その2へ続く

 

 




現れた影も難易度マシマシ、今回は謎の黄色ユニットも参戦する予定です。一体誰なんだ……(すっとぼけ)。正直ゲームでの30話くらいの所で90も行ってる、しかもオリジナル話が増えるので更に倍になる予定でどういうスケジュールと言われるかもしれませんが、許してください! では次回の更新もよろしくお願いします。

それと年始の休みの間は毎日昼の12時に更新しますので明日の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第89話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その2

第89話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その2

 

アビアノ基地のブリーフィングルームに集められた偵察に出るメンバーはリュウセイ、ラトゥーニ、アラド、ラミアの4人だった。

 

「ラミアは調子が優れないと聞いているが大丈夫なのかね?」

 

リーが心配そうに問いかける。事実クスハドリンクでラミアは意識を失ったが、今は体力、気力共に充実していた。味は酷いが即効性の高い回復薬だったとラミアは解釈し、クスハの善意だったと思う事にした。

 

「は、問題ありませんなのです」

 

「ふむ……口調に問題があるように見えるが……まぁ、それはいつもの事か、ではこれより偵察任務の説明を行なう」

 

口調はいつも通りブレブレだが、それは何時も通りかと苦笑しリーは手元の端末を操作し、モニターにアビアノ基地周辺地図を映し出す。

 

「今回の偵察はN1008にアラド曹長とラミア、N1201にリュウセイ少尉、ラトゥーニ少尉の2人で向かって貰いたい。それぞれのDコンにこの偵察順路をコピーし、1400までに出発して貰いたい。」

 

地図に×印と偵察の為の航路が表記され、それぞれのDコンにコピーするようにリーが指示を出す。それぞれDコンを取り出し、偵察順路のコピーを行った所でリュウセイがリーに質問を投げかけた。

 

「リー中佐。1008はアビアノ周辺だから判るんだけど、1201はアビアノ基地の防衛範囲のギリギリで通常の偵察順路とも離れすぎているけど、そこに偵察をする理由はあるんですか?」

 

N1008はアビアノからも近く、ノイエDC、百鬼帝国、インスペクター……そのいずれかがいればアビアノまで攻め込まれるので偵察に向かうのは当然のコースだ。だがN1201はアビアノの防衛範囲ギリギリで、偵察のコースではない……R-1、ビルドラプター改と両者とも機動力は高いが、そんなコースを何故態々偵察に向かうのか? と問うリュウセイにリーは自身のDコンを操作した。

 

「これを見て欲しい。今はまだキョウスケ中尉達には教えていないが、ここ数日謎のPTがアビアノ周辺で目撃されている」

 

漆黒に染められたPT――いや、見様によってはAMにも見える。そんな奇妙なデザインのPTの姿がモニターに映し出され、次は4足歩行の獣、鳥とその姿を変える。

 

「可変式のPT?」

 

「ラドム博士とハミル博士はPTでもAMでもない、全くの新機構の機体の可能性が高いと言う判断を下している。便宜上ビーストと呼称した。ビーストはノイエDC、インスペクター、百鬼獣、そしてアビアノ基地の機体、それら全てに無作為に攻撃を仕掛けている」

 

「第三勢力?」

 

リーの説明を聞いてラミアがぽつりと呟くとリーはその通りだと頷いた。

 

「正体不明の未知の存在だ。ラミアの言う通り第三勢力の可能性もある、敵なのか、味方なのか、それを見極める為にアビアノ基地所属ではない、ハガネ、ヒリュウ改、シロガネの機体でビーストの偵察を行う事にした。まずはSRXチームのR-1と類似機のビルドラプター、これに反応が無ければATXチーム、最後にマサキとリューネに頼む予定だ」

 

順繰りでビーストが何に反応するかを確かめるための偵察だと説明され、リュウセイは納得したように頷いた。

 

「ほかに質問は?」

 

「ビーストと遭遇した場合はコンタクトを優先し、次でエンゲージでよろしいでしょうか?」

 

「それで頼む。コンタクトを取れるのならばそれに越した事はない」

 

敵だと思いこみ、戦闘を仕掛け、これから敵と認定されるリスクよりも、会話で済むのならばそちらが良いとリーは頷いた。

 

「判りました、N1201の偵察が終了後、もしくはN1008でエンゲージが確認された場合は其方への救援優先ですか?」

 

「ビーストに関しては遭遇できるかどうかもわからないので、そちらで構わない。アラド曹長とラミアは敵と遭遇した場合は即座にリュウセイ少尉達に救援要請、その後ハガネ、シロガネ、ヒリュウ改のいずれかに救援を求めるように、また30分以上通信が途絶えた場合、もしくはジャミングが感知された場合のいずれかの場合はこちらの判断で救援に向かう。通信は密にするように、質問はないな? では出撃準備をしてくれ」

 

リーの言葉にリュウセイ達は了解と返事を返し、格納庫へと向かって行く。1人会議室に残されたリーはモニターをジッと見つめていた。

 

「一体何者なのだ……これほどの腕前のパイロットが今まで表舞台に出ていない訳が無い」

 

1対10などの圧倒的な不利な状況も覆し、変形を自在に操るパイロット……それこそ教導隊クラスの腕前のパイロットが今まで表部隊に出ていない訳が無い。以前のように誰かが洗脳されているという考えもリーの脳裏を過ぎる。

 

「なんだ、また見ていたのか?」

 

「テツヤか。ああ、これほどの腕前のパイロットが表舞台に出ていない訳が無い」

 

「確かにな……」

 

リーの隣にテツヤも腰掛けモニターに視線を向ける。数秒長くて数十秒という短い戦闘時間、しかも余りに早すぎて残像しか見えない。その異常な速度はテスラドライブでもGを無効化出来るかどうかというレベルだ。一体どこの企業がこんな物を作り出したのかと謎でしかなかった、何度も巻き戻し、戦闘データから類似機がないかを調べるリーとそれに付き合うテツヤ。

 

「ん? リー、ちょっと巻き戻してくれ、そこだ。そこで止めてくれ」

 

「なんだ? ここがどうかしていたのか?」

 

人型から飛行形態に変形する一瞬の所でモニターの映像が止められる。テツヤはそれをジッと見つめ、突然身体を捻って下から見上げるような姿勢になる。

 

「どうした!? 何をしている!?」

 

「似ている……R-1だ。リーも見てみろ、こいつ……R-1に似ているぞッ!」

 

言われた通りに画面の上下を反転させてみるとビーストの変形機構はR-1の変形機構に酷似していた。

 

「馬鹿な、SRX計画のデータが流出していると言うのか!?」

 

「判らない、判らないが……R-1に……何事だッ!?」

 

ビーストがR-1に似ていると混乱するリーとテツヤ。しかしその事を話し合う時間も無く、アビアノ基地に緊急警報が鳴り響くのだった……。

 

 

 

 

アビアノ基地の周辺の空を飛ぶ漆黒の機体と改造されたビルトファルケン、そしてその下をホバーで移動するラーズアングリフ――基地の防衛ラインに触れるか触れないかのギリギリのラインで偵察活動を続けていた。

 

「ゼオラ、前に出すぎだ。もう少し下がるんだ」

 

『ハイ……』

 

突出しすぎてレーダーに感知されそうなゼオラにクエルボが声を掛けると、ファルケンは失速しクエルボの頭上まで下がってくる。

 

『セロ博士、このあとの予定は?』

 

「そうだね、もう少しこの辺りを偵察して、アクセル達と合流してからライノセラスに戻ろう」

 

オウカの問いかけにそう返事を返し、クエルボは祈りを込めながらレーダーに視線を向ける。

 

(来るな、頼むから来ないでくれ)

 

誰も自分達を見つけないでくれと心からクエルボは祈っていた。日常生活では何も出来ないゼオラだが、機体に乗れば自分の手足のようにビルトファルケンを操っていた。だがそれは自分の身を守ろうという意志も無く、ただ敵を見つけて倒す。自分がどうなっても良いと言う物だった。

 

『ゼオラ……』

 

「祈ろう。敵に遭遇しないことを……」

 

不安そうなオウカに敵に遭遇し無い事を祈ろうとクエルボは呟いた。だが破壊活動やテロ行為に組しているクエルボの願いが叶う訳が無かった。

 

『敵機確認ッ!』

 

「くっ……やっぱりかッ!」

 

天使のようなシルエットの準特機と自分達に同行しているエルアインスに酷似したフライトユニットを装備した機体の登場にクエルボとオウカは揃って顔を歪めた。

 

『ハガネノキタイ。アクセルタイチョウニレンラクヲ、オウカアネサマ。センコウシマス』

 

『ゼオラ! 駄目よ待ちなさいッ! くっ、セロ博士!』

 

オウカの静止を振り切ってエルアインスを引き連れて前に出るビルトファルケン。その姿を見てラピエサージュのオウカからクエルボに通信が入る。

 

「ゼオラを止めるんだ。アクセルにはこちらからも連絡する!」

 

『はいッ!』

 

ビルトファルケンを追って前に出るラピエサージュ、だが機体のサイズゆえにラピエサージュの方が僅かに遅れている。

 

「あの動きはッ!!」

 

エルアインスに似た機体の挙動を見てクエルボは大きく目を見開いた。それはきっとラピエサージュのオウカも同じだっただろう……前に出る動きにアラドの癖があったからだ。

 

「最悪だッ!」

 

天使型の機体――アンジュルグはアースクレイドルでも見た。つまりあの機体はシャドウミラーからハガネへと潜り込んでいるスパイであり、アラドだけが部外者に等しい立ち位置になっていた。アンジュルグのパイロットが目撃者のいないうちにアラドを仕留めに掛かるかもしれない……その最悪の予想が頭を過ぎったクエルボは殴りつける様に操縦桿を握り締めた。

 

「あの機体のデータ取りを行なう! 撃墜は避けてくれッ!」

 

『『『『了解』』』』

 

一時的にしろ、クエルボはこの偵察隊のリーダーと言う地位を与えられている。アラドの機体を撃墜するなと量産型Wシリーズに命じる……だがそれはより上位の指揮権限を持つアクセルがこの場に訪れるまでの時間稼ぎに過ぎない。

 

「アラドをこの場から逃がさなくてはッ!」

 

狂ったように笑うゼオラの声を聞いて、自分とオウカが抱いた一縷の希望は途絶えた。ゼオラにアラドを殺させる訳には行かないとクエルボは慣れない機体の操縦に四苦八苦しながらスパイダーネットの発射準備を整えさせ、ラーズアングリフを走らせるのだった……。

 

 

 

エルアインスの攻撃を回避しながらラミアは冷ややかに戦況を見つめていた。見たことのない新型、改造されたであろうビルトファルケン、そして3機のエルアインスと2機のゲシュペンスト・MK-Ⅱ、そしてラーズアングリフ……ノイエDCを隠れ蓑にして行動しているシャドウミラーの偵察組と鉢合わせしていた事により、ラミアの思考は与えられていた任務を遂行する為のW-17の思考へと即座に切り替わっていた。

 

『び、ビルトファルケンッ! ゼオラッ……』

 

偵察という事で機体同士の周波数を合わせていた為、アルブレード・F型装備のアラドの悲痛な声がアンジュルグのコックピットにも響いていた。

 

(……本隊のゲシュペンストとエルアインス、連絡が無いという事は任務を遂行しろという事だ。私のやるべき事はアラドのフォローをする事ではない)

 

その余りにも悲痛な声を聞いてなんとも言えない胸のざわめきを感じたが、それを無視して自分がやるべき事はなんだと己に問いかける。そうでなければ、アラドの為に動き出そうとする己の手足を御す事が出来なかったからだ。

 

『くそ、ファルケンのッ……ファルケンの周波数はッ!』

 

「アラド曹長。敵と会敵した場合はアビアノに反転せよという命令が出ている」

 

アラドにそう注意しながらもW-17としての己はASRSをジャミングモードで起動し通信を妨害している。だがラミアという個人はアラドをこの場に残す訳には行かないとフォローに入っている……心と身体の動きが合致しない。

 

(私はどうなっている……ッ!)

 

痛くて、苦しい……自分が何をするべきなのか、W-17としての任務を遂行すれば良いのか、それともラミアとしてアラドと共にアビアノに帰還すれば良いのかラミアは完全に混乱していた。

 

『アラド……アラドミツケタ……イタイノ、クルシイノ』

 

その時だったファルケンの方から広域通信で無機質な少女の声が響いた。生の気配を感じさせない人形のような声……それにラミアは嫌悪感を隠せなかった。それは、その声は……自分自身だった。ハガネに来る前の自分自身が目の前にいる――そんなありえない光景がラミアの脳裏を過ぎった

 

『ぜ、ゼオラッ』

 

「待て! アラド曹長! 不用意に近づくなッ!!」

 

そんなことを言うべきではないと判っていたのにアラドに近づくなと叫んだ直後、アルブレード・F型装備にノーモーションで向けられたオクスタンランチャーのビームが放たれた。

 

『アナタガイルカラ、クルシイノ、イタイノ……アナタヲコロセバシュオウキサマガアイシテクレルッテワタシニイッタノヨ……』

 

『ゼオラッ……な、なんであいつの事なんかを様をつけて……ッ』

 

朱王鬼――それはマオ社を制圧する為に現れた百鬼帝国の将軍の1人。おぞましき呪いを掛けた忌むべき鬼……ッ。

 

(違う違う、私は今何を考えた)

 

シャドウミラーがヴィンデルが協力体制を築くべく行動しているのならばラミアにとっても上官であるはずの朱王鬼に対してラミアは抑えられない怒りと憎悪を感じていた。

 

『ダカラダカラ……シンデ? ワタシガスキナラ……ワタシノタメニシンデヨ、アラドォッ!!!!! ハハッ! アハハハハハハハはハハハハハハハハッ!!!!』

 

『ゼ……オラ……』

 

狂ったように笑うゼオラの声を聞いて茫然自失に陥っているアラドに向かってビルトファルケンが、ゲシュペンスト・MK-Ⅱが、エルアインスが動き出す。その光景を見てW-17はアラドを見捨てろと叫んだ、だがラミア・ラブレスはそれが正しいと判っていたのにそれを間違っていると判断した。

 

「アラド曹長ッ! しっかりしろッ! 彼女の言葉は真実ではない筈だッ!!」

 

アルブレードを背中で庇い、シャドウランサーを射出しながらアラドにラミアは声を掛けていた。

 

『ら、ラミア……さん』

 

「鬼がお前に告げた事が真実ならば、ゼオラはまともな思考が出来ない状況だ! ならば彼女の言葉はお前を傷つけ、動揺させる為の言葉だッ! そんな戯言に耳を貸すなッ!」

 

月での戦闘記録はラミアも目を通していた。ゼオラを元に戻したければ、アラドが死ぬか、ラトゥーニが死ぬか、それともオウカという人物が死ぬか、そのいずれかだと鬼は笑いながら告げた。だがそれが真実である証拠はどこにも無いのだ、そしてそれはゼオラの言葉が偽りであると言う可能性を同時に示していた。

 

「彼女を助けるんだろうッ! アラド・バランガッ!!! 何を呆けている! 前を見ろッ!」

 

『ッ! ああ、そうだッ! ラミアさん、ありがとうッ! 俺が何をすれば良いのかが判ったッ!!』

 

アラドの感謝の言葉を聞いて、ラミアは自分は何をしていると困惑した。何故、あんな事を叫んだのか……何故アラドに発破を掛けたのかそれが何もかも判らなかった。

 

『ファルケンには手を出さねえでくれッ! あいつの相手は俺がするッ! 俺がゼオラを助けるッ!』

 

「なら周りは私が抑える。行けッ!」

 

判ったと叫びエルアインスとゲシュペンスト・MK-Ⅱの間に身を捻じ込み、ビルトファルケンへと向かうアルブレード。それを追ってエルアインス達が動こうとするが、その間にアンジュルグが立ち塞がった。

 

「悪いが今私はむしゃくしゃしている。新たな指令が無いのならば、私はATXチームの一員として貴様らを排除するッ!!」

 

ラミア・ラブレスはアラドを助けるべきだ、アラドの邪魔をするべきではないと判断していた。

 

W-17はアラドを見捨て、自分だけが命からがら生存したと言う状況を作れと命じていた。

 

どちらが正しいか、それは迷うことでもないと判っていた。W-17としての考えが正しいとラミアは判っていた……だが自分はアラドを

助けることを選択した、それが自分が壊れているという事を思い知らされているような気がして、八つ当たりじみた感情を抱きながらラミアは量産型Wシリーズの前に立ち塞がるのだった……。

 

 

 

 

 

 

アルブレード・F型装備と聞けば聞こえは良いが、実際はフライトユニットを装備したアルブレードと言うだけで、機体性能が飛躍的に向上したわけでも、攻撃能力が上昇した訳でもない。強いてあげれば飛行能力を得たことと加速力が僅かに上昇しただけで、アルブレードの武器管制と組み付けもされていないのでフライトユニットには一切武器は付けられていない。機体スペックで言えばレモンが改良したビルトファルケンの方が小回りも利くし、攻撃力も飛躍的に上昇している。未熟な腕前のアラドではその手はビルトファルケンに届かない……筈だった。

 

『おおおお――ッ!!!』

 

『ッ!』

 

操縦技術、機体性能を上回る気合――それがアラドにはあった。朱王鬼にアラドに遭遇した時言えと言われた言葉を言うと言う事しか考えておらず、その言葉によってアラドの気合と闘志を折る前提だったが、ラミアの発破で完全に回復し、それ所かゼオラを取り戻すと気合を入れているアラドは自分で考えることの出来ないゼオラを完全に圧倒していた。

 

『ゼオラ! 俺が絶対にあの鬼をぶっ飛ばす! だからこっちに来いッ! こっちにはラトもいるんだぞッ!!』

 

『ウルサイッ!!』

 

アルブレード・F型を近づけさせまいと取り回しの悪いオクスタンランチャーではなく、アサルトマシンガンによる弾幕を選択したゼオラ。それは決して間違った判断ではない、相手の方が早く、そして白兵戦に特化した機体を近づかせまいとするのならば弾幕を張るのが正解だ。だがアルブレード・F型は……いやアラドはそれを1度減速し、弾幕の位置をずらした所を急加速して一気に抜けた。

 

『ゼオラァッ!!!!』

 

『コノッ!』

 

ゼオラの名前を叫ぶアラド。しかし戦闘にだけ最適化されたゼオラの思考は突っ込んでくるアルブレード・F型の進路を読み、オクスタンランチャーの銃口を向ける。その銃口にエネルギーが集まり、今にも放射されるという瞬間アルブレード・F型の目が輝き、その場に残像を残し、その姿を消した。

 

『ど、ドコヘ!?』

 

『おおおおお――ッ!!!!』

 

混乱するビルトファルケンの頭上からアラドの雄たけびが響いた。特殊な能力はアルブレード・F型には「ない」。だが旧式のフライトユニットはアルブレードの企画に合わず、プロジェクトTDの予備用の新型のテスラドライブを搭載した新型フライトユニットだ。理論上はブーストドライブの使用が可能であるがアラドの技量では無理だと言う判断が下されていた。しかし、アラドはゼオラを取り戻す、それだけに集中し、足りないのならばもってくる。そんな単純な考えでブーストドライブを自力で使いこなした。

 

『少しだけ我慢してくれゼオラァッ!!!』

 

腰にマウントしていたラルトスが作ったスタンブレードをビルトファルケンの背中に叩き付けようとした時。その間に割り込むように実弾の嵐が放たれ、それに気付いたアラドは急旋回しビルトファルケンから距離を取り、ビルトファルケンもその隙にアルブレード・F型装備から距離を取る。

 

『待てッ! 待ってくれ! ゼオラッ!! 行くなッ!!!』

 

開いた距離を詰めようとするアルブレード・F型、しかしその前に立ち塞がるようにラピエサージュが現れ、ネオプラズマカッターを振るう。

 

『ッ! その動き……姉さん! オウカ姉さんかッ!?』

 

「……ごめんなさい、アラド。今はゼオラを連れて行かせるわけには行かないの」

 

オウカから見てもアラドの動きは生き生きとしていて、必死に訓練を積んだのが判った。だが、今ゼオラをアラドに回収させ、アラドかラトゥーニを殺させる訳には行かないとオウカはゼオラとアラド達を守る為にアラドの前に立ち塞がった。

 

『ゼオラだけじゃないオウカ姉さんもハガネに来ればいい! リー中佐もダイテツ中佐も助けて……ううッ!?』

 

オウカを説得しようとするアラドに向かってビルトファルケンのスプリットミサイルHが放たれ、その爆風にアルブレード・F型が地面に向かって降下する。

 

「ゼオラッ!」

 

『ドウシテオコルノ? テキハコロサナイトッ!!』

 

急降下しアルブレード・F型の後を追いながらアサルトマシンガンを乱射するビルトファルケン。その姿を見てオウカは止めに入らなければとしたのだが、ここにはレモンが貸し与えてくれた量産型Wシリーズがいる。ここで明らかにアラドを庇えばライノセラスに戻った所で反逆、裏切りの意ありと報告されるかもしれない。

 

(どうすれば、どうすれば……)

 

リマコンの効果が薄れ、投薬もされなくなりオウカは本来の気質である、心優しい姉としての側面が強くなっていた。ゼオラも助けたい、アラドも助けたい――その2つの思いの間に板ばさみになり、反応が一瞬遅れた。

 

『くそッ!』

 

『ジャアネ、アラド……サヨナラ』

 

「駄目! 駄目よ! ゼオラッ!!!」

 

アルブレードにオクスタンランチャーを押し付ける姿を見てオウカがそう叫んだ直後、翡翠色の閃光がアルブレード・F型とビルトファルケンの間を通り過ぎた。

 

『アラド! 大丈夫かッ!』

 

『ファルケン、ゼオラッ! やっと見つけたッ!!』

 

R-1、そしてビルドラプター改の2機がこの戦場に現れ、戦況は大きく変わろうとしていた……しかしそれはリュウセイ達にとって有利な戦況ではなく……R-1、ビルドラプター改のアラドへの救援、それはオウカ達と同じく偵察に出ていたアクセル達を呼び寄せる事に繋がった。

 

「敵機を補足したか、いくぞ」

 

『『『了解』』』

 

ランスを装備したヴァイサーガが反転し、爆発的な加速で移動をはじめ、その後をエルアインス、ゲシュペンスト・MK-Ⅱの混成部隊がリュウセイ達の所に向かう為に動き出しているのだった……。

 

 

 

 

 

アラドとラミアからの連絡が30分途絶えた事でリュウセイとラトゥーニはビーストの捜索を中断し、ハガネとシロガネに通信を送った後、N1008に急行した事がアラドの命を繋いでいた。

 

『す、すまねえ。助かった!』

 

「いや、間に合って良かったぜ。あれが……スクールの仲間の生き残りってことで良いのか?」

 

ビルトファルケンがアルブレード・F型のコックピットにオクスタンランチャーの銃口を押し付けている姿を見て、T-LINKソードを打ち出したが、それはアルブレード・F型とビルトファルケンを引き離す為の攻撃だった。無論撃墜する事も可能だったが、アラドとラトゥーニが探しているゼオラと言うスクールの仲間の可能性もあり、撃墜を断念し牽制にリュウセイは攻撃を切り替えたのだ。

 

『ファルケンにはゼオラ、あの黒い新型にはオウカ姉様が乗ってる』

 

ラトゥーニの言葉を聞いてリュウセイは改めてビルトファルケン、ラピエサージュの両機に視線を向ける。耳鳴りにも似た音が響き、リュウセイの念動力……いや、サイコドライバーの資質がビルトファルケン、いやゼオラを覆うどす黒い念を感じ取る。その感じにリュウセイは覚えがあった……L5戦役終盤アストラナガンに乗っているイングラムを操っている何者かの念を感じ取った時に良く似ていた。

 

「俺なら何とかできるかもしれない」

 

スプリットミサイルHの弾雨を回避しながらリュウセイはそう呟いた。念動力で操られているのならば、それを上回る念をぶつければ消し飛ばせる……理屈は簡単だ。撃墜しない分ゼオラの安全性もこちらの方が上だとリュウセイは感じていた。

 

『ど、どういう事っすか!?』

 

『リュウセイ……もしかしてイングラム少佐の時と同じ……?』

 

スプリットミサイルHを迎撃していたアラドとラトゥーニにもその小さなリュウセイの呟きは聞こえていた。何とかなるかもしれないというリュウセイの言葉アラドが声を荒げ、ラトゥーニはイングラムと同じなのかとリュウセイに問いかけた。

 

「多分、確信はねえけど……接近出来れば何とか出来る可能性は十分にあると思うぜ」

 

ゼオラを操っている念をリュウセイの念で弾き飛ばせばゼオラが元に戻る可能性は十分にあるとリュウセイはアラドとラトゥーニに告げた。

 

『だがリュウセイ少尉、話はそう簡単ではないぞ?』

 

「ああ、判ってる、だけど今ならッ! 悪い、フォローを頼むぜッ!」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅱ、エルアインスから1度距離を取り、リュウセイ達に合流して来たラミアが重々しい声を出した。リュウセイ達が応援に来たのと同じタイミングで空中からエルアインスとゲシュペンスト・MK-Ⅱがそれぞれ5機ずつ増援に現れフォーメーションを組んだ。ビルトファルケンとラピエサージュの2機の前に隊列を組み始めるエルアインスとゲシュペンスト・MK-Ⅱに向かってR-1は右腰にマウントしていたGリボルバーを投げつけ、左腰にマウントしていたGリボルバーを抜き放ち、自らが投げつけたGリボルバーを撃ち抜いた。

 

『何をしてるんっすか!?』

 

『何をしたいんだ、リュウセイ少尉』

 

アラドとラミアはリュウセイが何をしたいのか理解出来ず、困惑した声を上げる。だがラトゥーニはリュウセイが何をしたいのか、そして何をしようとしていたのかを理解していた。

 

『静かに! リュウセイの邪魔をしないでッ!』

 

ラトゥーニの一喝にアラドとラミアが黙り込んだ瞬間、撃ち抜かれ暴発したGリボルバーの弾丸に翡翠色の光が灯る。

 

「捉えたッ!! いけッ!!! T-LINKシュートッ!!!」

 

『『『!?!?』』』

 

念動力に操られた銃弾は空中で爆発的な加速で動き出し、隊列を組もうとしていたゲシュペンスト・MK-Ⅱとエルアインスを弾き飛ばし、強引にビルトファルケンへ続く道を作り出した。

 

「うおおおおぉぉッ!!!!」

 

『ゼオラッ!!! 避けてッ!』

 

『ウ、ウウウ……ッ』

 

R-1がゲシュペンスト・MK-Ⅱ、エルアインスの前を駆け抜ける姿を見て、ゲシュペンスト・MK-Ⅱ達同様弾き飛ばされていたラピエサージュからオウカの悲痛な叫びが響き、ビルトファルケンのゼオラはその強すぎる念動力に当てられて動きを完全に止めていた。

 

「超必殺ッ! T-LINKナッ……ッ!」

 

翡翠色に輝く拳をビルトファルケンに向かって突き出そうとしたR-1。その拳がビルトファルケンに触れるかどうかというその瞬間、リュウセイは凄まじい殺気を感じビルトファルケンから距離を取った。その直後ビルトファルケンの前を高速で何かが通過した、あのままR-1が突っ込んでいればその何かにR-1はどてっぱらを貫かれ撃墜されていただろう……。

 

『敵の新型……あんなのもいたのかよッ』

 

『見た感じだと指揮官機……それにまだ敵の増援の反応が……このままだと不味い』

 

敵の指揮官機の登場、そして敵の増援の反応にアラドとラトゥーニが顔を歪める。

 

(ヴァイサーガッ……アクセル隊長か、それともバリソン少尉か……ここで本隊が動いてくるとは……ッ)

 

ラミアはヴァイサーガに乗っているのをアクセルかバリソンのどちらかだと判断し、本来ならば喜ぶべき状況である筈なのに、ラミアの顔は苦々しい色に染められていた。

 

「くそッ! まだ増援がいたのかよッ!」

 

リュウセイからすれば命中を確信した攻撃を外され、そしてその上自分の命が危なかったのを地面に突き刺さる巨大なランスを見て悟り、背中に冷たい汗が流れるのを感じ、ランスが飛んで来た方角を睨みつける。そこには群青色の装甲を持ち、巨大な盾を片手に持った西洋騎士の様な特機――ヴァイサーガが禍々しいまでの紅い眼光を光らせ、R-1を見下ろしているのだった……。

 

 

第90話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その3へ続く

 

 




今回はヴァイサーガ乱入の所で終わりにしたいと思います、ゼオラが念動力で救えるというのは鬼の術で操られているので、それよりも強い力をぶつければ洗脳を解除出来ると言う理屈ですね。次回はキョウスケ達の応援と決着、もしくは撤退までを書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第90話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その3

第90話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その3

 

R-1目掛けて全力で投擲したランスは必中のタイミングであったとアクセルは確信していた。普通あそこまでビルトファルケンに注意が向いている中の奇襲だ。反応できるパイロット等そうはいない、手首の巻き取り機が音を立てて回転し、地面に突き刺さっているランスが高速で手元に戻ってくるのを横殴りで回収し、その切っ先をR-1に向ける。

 

「こちら側でもリュウセイ・ダテはエースを張っていると言う所か、面白い」

 

SRXとリュウセイの活躍はアクセルから見てもエースというに相応しい実績と戦果を上げていた。こちら側ではまだ量産型SRXにまで漕ぎ着けていないようだが、それも時間の問題だなとアクセルは呟き通信機のスイッチを入れる。

 

「ご苦労だったオウカ。お前はクエルボとゼオラと共にライノセラスに戻れ」

 

ラピエサージュは偵察で試験運用、クエルボは元々パイロットではない、ゼオラに至っては鬼の術の被害者。そんな面子を率いて戦うつもりはアクセルには無く、撤退命令を下す。

 

『……了解です』

 

「そう心配するな、俺も本気で戦うつもりはない」

 

アラドとか言う義弟を殺されるかもしれないと心配そうにしているオウカだが、それはいらない心配と言う物だった。出撃前にレモンに念入りに威力偵察に止まるように念を押されている上に、ツヴァイザーゲインの試運転もある。

 

(それにアラドとやらを殺しただけで廃人が2人も出るなんて割に合わんにも程がある)

 

人形同然のゼオラもそうだが、アラドを殺せば元に戻る。だがその場合はゼオラはアラドを殺したショックで廃人、オウカも精神的に不安定になると聞いていればアクセルと言えど躊躇いもする。

 

『ハハハ、アハハハハハッ!』

 

『ゼオラ駄目ッ! 撤退よッ! くっ! アクセル隊長すみませんッ! ゼオラを取り押さえてから離脱しますッ!』

 

『オウカ! 右から回れ、スパイダーネットで捕獲するッ!』

 

アクセルの撤退命令にオウカが渋っている間にゼオラが再び暴走状態に入り、撤退させる筈だったオウカとクエルボの2人が再び戦場に戻る。

 

「チッ、厄日か。仕方ない、エルアインスに似た機体への攻撃は禁ずる。他の機体も撃墜するなよ、戦闘データを取る事を優先しろ」

 

『『『了解』』』

 

アクセルの指示で量産型Wシリーズが弾かれたように動き出すのを確認してからアンジュルグを見つけ、機密通信を繋げる。

 

「……こちらアクセル・アルマー。W17、ハガネやヒリュウ改の連中に俺達が現れた事を報告したのか?」

 

R-1の性能とリュウセイの能力を確認する事も大事だが、アクセルとヴィンデルの本命はあくまでハガネとヒリュウ改だ。それらが来なければ何の意味もない、ASRSを展開する前に救援信号を出したのか? とアクセルがラミアに問いかける。

 

『やっとりますです。目的はあの艦をここへ誘き出しちゃう事なんでございますの事なのですかね?』

 

「ん……? W17……貴様、ふざけているのか? それとも敵に改造でもされたか?」

 

ラミアの余りにおかしな口調にアクセルは眉を細め、その声に怒りの色を乗せてラミアに問いかける。その言葉にはもしそうならば、ここでお前を破壊すると言う言外の圧力があった。

 

『……いえ。まっこと申し訳ないこってすが、言語系に機能不全が出ておったりしとりまして……敬語だけ上手く使えなかったりしちゃうの』

 

「……何をやってるんだ、貴様は……そんな状態で任務が遂行できているとは思えんが、とりあえず敬語はいい報告を優先しろ」

 

その口調のせいで話の内容が頭の中に入ってこないアクセルは敬語を使う必要はないと言うとラミアの雰囲気が変った。

 

『了解。では隊長……なぜお前が直接ここまで来る必要があった?』

 

「ようやく動けるようになったんでな。人任せは性に合わん……だから直接見に来た、これがな。ハガネやヒリュウ改……そしてレモンの最高傑作である貴様をな。 貴様はさっそくがっかりさせてくれたが」

 

人形と見下している相手からのため口に若干のいらつきを感じ、皮肉めいた事を言うとラミアは小さく笑った。

 

『レモン様はそれでも構わないと言っていたが、やはりアクセル隊長は心が狭いな』

 

帰って来たのは皮肉の応酬だった。それはWシリーズではありえない上官への罵倒……その言葉を聞いてアクセルは目の色を変えた。

 

『ハガネにヒリュウ、それにシロガネ……着実に戦力を蓄えつつある。このままではあの時と同じ結果になりかねんぞ』

 

アンジュルグが急加速しヴァイサーガに向かってミラージュソードを叩きつける。それをシールドで弾きながらアクセルはラミアが自分の知るW-17ではないと言うのを感じていた。

 

「反逆かそれとも裏切りか?」

 

『冗談を言うな。私は今はあちら側の戦力だ、棒立ちをして疑われる訳には行かない。それともアクセル隊長はこの程度の奇襲に反応出来ないほどに衰えていたと? それは申し訳ない。もう少し手加減をするべきか?』

 

「言ったなW-……いや、ラミアッ!!」

 

ミラージュソードとランスがぶつかり合い火花を散らす。ヴァイサーガのコックピットにはラミアの身を案じているパイロットの声が響き、ラミアがそれに返事を返しているのだが、その声の中に人の情のようなものをアクセルは感じた。

 

(壊れて……いや、これは違う!?)

 

レモンが目指しているのは人と同じ考えをする人造人間を作るという事。だがヴィンデルがスポンサーについたことで個人意思を排除した人形へとその内容は大きく変わっていた。だが自分達の手を離れたラミアは自分で考え、そして本来反抗し得ないアクセルに攻撃を仕掛け、そして挑発すら交えていた。それはナンバーズではない、ラミアという一個人になろうとしている人形がアクセルの前に立ち塞がっていた。

 

『何故鬼等と手を組んでいる? あいつらはインベーダーとアインストと大差がない。またあの時の様な事を繰り返すつもりか』

 

「なるほど、お前が苛立っているのはそれか、悪いが俺も納得しているわけではない。これがな」

 

人は怒りによって成長する。それは人形も同じだったのかとアクセルは苦笑する。ラミアは鬼と手を組んでいるヴィンデル達に、人の心を弄ぶ鬼に対する憎悪を抱いている。鬼への怒りがアクセルへの挑発に繋がっているとアクセルはこの短いやり取りで感じ取っていた。

 

(本人は気付いていないようだが……これは良くない傾向だ。レモンは喜ぶかもしれんがな)

 

命令に忠実な兵士である筈のW-17ではなくなろうとしている。それはレモンの目指す最終地点かもしれないが、アクセルからすればそれは受け入れられる物ではなかった。いや、それはきっとヴィンデルも同じだろう……とそこまで考えた所でアクセルの考えが変った。

 

「俺達が間違っていると思うのならばそれをお前の力を持って示してみろ」

 

『何を……?』

 

「俺とて鬼との協力体制が正しいと思っている訳ではない。だが俺達の意思を通すには力が必要だ、それ故の協力体制と言っても良いだろう!」

 

困惑しているラミアの隙を突いてシールドバッシュをアンジュルグに叩き込み、アンジュルグとの距離を強引に作り出す。

 

「あちら側とこちら側は違う。そうだな、ベーオウルフとだって協力するくらいの柔軟性は俺にもある。俺達の意志を通すためにハガネとヒリュウ改と協力することもあるだろう。だがハガネ達が鬼よりも弱いのならば協力する利点はないッ! だから俺に百鬼帝国よりも、鬼よりも協力するに足る存在だと、俺に示してみろッ!」

 

アクセルの言葉に目の色を変えヴァイサーガに向かってくるアンジュルグを見て、やはりとアクセルは呟いた。ラミアはレモンが願ったとおり、大きく変わろうとしている。だがそれはヴィンデルとアクセルの求めるWシリーズではない、裏切るかもしれない反逆するかもしれない兵士など必要ではない。ヴィンデルやレモンと会い人形に戻るか、それとも己の我を通すか、それを見極める為に操縦桿をアクセルは強く握り締める。

 

「ふっ、やはり出撃して正解だったな。これがッ!」

 

ハガネの戦力を見極める為に出撃し、こんな想像もしていないイレギュラーに遭遇した。やはり己の目で見なければ意味がないなと呟いたアクセルはヴァイサーガのコックピットの中で獰猛な笑みを浮かべアンジュルグとの戦いに身を投じるのだった……。

 

 

 

 

ビルドラプター改を駆り、ラトゥーニは……いやアルブレードを駆るアラドも必死にビルトファルケンとの距離を詰めようとしていた。だがその都度2機の間にラピエサージュが割り込み、あと少しの距離がどうしても詰められないでいた。

 

「オウカ姉様ッ! 邪魔をしないでッ! リュウセイなら、リュウセイならゼオラを助けれるかもしれないッ!」

 

『ラトの気持ちは判るわッ! でも駄目かもしれないと思ったら私は怖いのッ! ゼオラもアラド……そしてラト! 貴女を失うかもしれないというのが怖いのッ! ゼオラは連れて帰るからッ! 今は私達を追わないでラト、アラドッ』

 

ラピエサージュから響くオウカの声は悲壮感に満ちていて、そして狂乱状態に陥っているゼオラを連れて帰ると言うオウカの言葉はきっと真実だろう……。

 

『駄目だ! 鬼の所に姉さんとゼオラを帰す訳には行かないッ!』

 

「アラドの言う通り! オウカ姉様……ハガネの皆は助けてくれるッ! だから一緒に来てッ!!」

 

今はオウカは正気だ。だがオウカの帰る場所は鬼の拠点……自分達とのやり取りを鬼に知られていて、オウカまで洗脳される可能性がゼロではない以上アラドとラトゥーニはオウカとゼオラを撤退させる訳にはいかなかった。

 

『どうした! その程度かッ!!』

 

『くっ!!』

 

敵側の指揮官機――ヴァイサーガを単騎で食い止めているアンジュルグも長くは持たない。ハガネが応援に来るまでは何分掛かる? アラド達に与えられた時間は決して多くない、今は偵察に回っているエルアインスやゲシュペンスト・MK-Ⅱまでが積極的に攻撃に加われば

物量で押し潰される、もしくはビルトファルケンもラピエサージュも後退するかも知れない。そうなればゼオラとオウカを助けるチャンスはない……後先考えない全力稼動――許された戦術は速攻だけだった。がむしゃらに距離をつめようと足掻きながらアラドとラトゥーニはオウカへの説得を続ける。

 

『鬼だけじゃねえッ! アギラのクソ婆が姉さんとゼオラ……いや俺達に何をしたか忘れた訳じゃないだろ姉さんッ! 俺達を信じてくれッ! ハガネに来てくれッ!!』

 

『絶対みんなが助けてくれる! だから信じてッ!』

 

アードラー・コッホとアギラ・セトメ……スクールを作った2人が自分達にした悪逆をアラドは忘れていない。鬼だけではない、アギラのようなキチガイのいる場所に大事な家族を行かせるわけには行かないと叫び、ビルトファルケンへの道を塞ぐエルアインスの胴にトンファーを叩き込み、返す刀で頭を潰して地面に叩き落す。

 

「リュウセイッ! お願いッ!」

 

『任せろッ! ラトゥーニッ! アラドッ!!!』

 

ビルドラプター改の放ったビームガトリングを避ける為に上昇したエルアインスとゲシュペンスト・MK-Ⅱの間を縫うようにR-1が跳ぶ。

 

『クッ!』

 

R-1を近づけさせまいとアサルトマシンガンを放ちながら交代するビルトファルケン。だがR-1の前面に展開された念動フィールドに防がれる。

 

『ゼオラッ!』

 

ビルトファルケンに両手を光らせて迫るR-1を見てオーバー・オクスタン・ランチャーの照準をR-1に合わせようとしたが、その手が震えて照準が上手く合わせられなかった。

 

(アラドとゼオラがあれだけ信じている……そんな人を撃てと……)

 

PTに乗ることを恐れ、人に恐怖するようになったラトゥーニが全幅の信頼を寄せている。いやそれだけではない、きっと恋慕の情を寄せている相手を……敵として出会った相手でさえも助けようとし、アラドとラトゥーニの言葉を全て信じ疑いもせずに助けようとするリュウセイを撃つという事をオウカは躊躇ってしまった。

 

『今度こそ届かせるッ!!』

 

ビルトファルケンに拳を叩き付けようとしたR-1はその寸前に握りこんだ拳を開き、両手から翡翠色の輝きでビルトファルケンを包み込んだ。

 

『ア、アアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!!!???』

 

『う、うぐあああああああ―――ッ!?!?』

 

ゼオラの悲鳴とリュウセイの悲鳴が同時に戦場に響き渡った。翡翠色の輝きが漆黒に染まり、R-1とビルトファルケンの両者に紫電を走らせる。

 

【驚いたね、僕の術を中和しようとする人間がいるなんて、でも無駄だよ。そんな物で僕の術は破れない彼女は僕の性『朱王鬼ぃッ!!!! てめえを許させねえッ! ここに来いッ! ぶちのめしてやるッ!』

 

闇の中から響いた朱王鬼の声をアラドの憎悪に満ちた叫びがその声を遮った。ゼオラを玩具のように扱おうとする、ゼオラを人とも思わない朱王鬼の悪辣な言葉をアラドは聞きたくなかった。

 

【OK、その君の無謀な挑発に免じて無駄口はやめようか、なんせ月から地球に念を飛ばすのも楽じゃないからね。念動力で干渉したらそれを伝って念動力者も僕の術中に落ちる、それが出来る人間はただ1人……リュウセイ・ダテは僕達百鬼帝国が貰いうける】

 

朱王鬼は最初からゼオラを取り返しに来る前提で作戦を組んでいた。L5戦役終盤でイングラム・プリスケンを操る力をSRX……いや、リュウセイが断ち切った事に着目した。裏腹だがリュウセイの力がブライに匹敵する前提で罠を仕掛けていた。お人よしのその性格を利用し、念動力によるゼオラへの術を干渉した瞬間にリュウセイをその手中に納める為の罠を張り巡らせていた。

 

【リュウセイ・ダテがこちらに渡れば、SRXは使えない。人間の切り札は今この瞬間1つ潰えた】

 

『がッうぐッ! あがああああああッ!!!』

 

『リュウセイ!』

 

『くそッ! させるかよッ! ラトゥーニは左腕! 俺は右腕だッ!』

 

R-1のT-LINKシステムは胴体、そして両腕に搭載されている。両腕を破壊すればT-LINKシステムは機能を停止する……リュウセイを助ける為にR-1の両腕を破壊しようとした瞬間だった……ビルトファルケンとR-1の間に黒い影が通り抜けた。その瞬間R-1が爆発し、ビルトファルケンから弾き飛ばされる。

 

『あ、ああ……』

 

『うぐ、がぁ……おえッ……』

 

ゼオラの苦悶の声とリュウセイの苦しむ声が同時に響いた。その声にラトゥーニは我に帰り、リュウセイの救出に動き、アラドはファルケンを鹵獲しようと動きをつめる。

 

『すまない! アラド、ラトゥーニ! 許してくれッ!!』

 

『え!? せ、セロ博士ッ!?』

 

もう少しでアルブレード・F型装備がファルケンに触れるという瞬間に育て親と言っても良い、クエルボの声が響き、アラドは動きを止めその前を凄まじい勢いでレールガンの弾頭が通過し、その衝撃波で引き離された隙にラピエサージュがビルトファルケンを守る位置に位置取る。

 

『セロ博士ッ! なんで、なんでッ!』

 

『すまない……』

 

余りに動きが固くルーキーが乗っていると思っていたランドグリーズにクエルボが乗っているとは思っていなかった。アラドはどうしてとクエルボを責め、クエルボは苦渋に満ちた声で謝罪の言葉を口にする。

 

「リュウセイ、リュウセイ! 大丈夫ッ!?」

 

『うっく……悪い……動けねえ……ッ』

 

「今助け……きゃあッ!?」

 

T-LINKシステムに過度な負担が掛かった上に朱王鬼の術によって身体の自由が効かないリュウセイのフォローにラトゥーニが入ろうとした瞬間、ビルドラプター改が大きく後方に弾き飛ばされる。

 

「な、なにが……ッ!」

 

周りに敵機はいなかった。混乱しながらラトゥーニはR-1の方に視線を向ける。そこには紅いカメラアイを輝かせたビーストがR-1をその背に庇い、ビルドラプター改を敵だと言わんばかりの凄まじい敵意を向けてくる姿があった。

 

「リュウセイを返してッ!」

 

ビーストの目的が不明であり、リュウセイを鬼のように鹵獲するつもりかもしれない。そう判断したラトゥーニはリュウセイを奪還する為にビーストへの攻撃へと踏み切った。そしてビースト――ズィーリアスのコックピットの中でオッドアイの少女は自身に向かってくるビルドラプター改を憎悪、そして羨望を込めた瞳で見つめ、手の甲から出現させたビームクローで迎え撃つのだった……。

 

 

 

リュウセイは行動不能でビーストの人質、ラトゥーニはビーストからリュウセイを奪還する事だけに思考が固定され、アラドは義姉と恩師の2人を前にして動くに動けず、ラミアはアクセルを相手に完全に足止めされていた。

 

『どうした。その程度でよくこの俺を相手に挑発など出来たなッ!!!』

 

アクセルの怒号がアンジュルグのコックピットに響き、凄まじい勢いで振るわれるランスをミラージュソードで受け流し、あるいは受け止める事しかラミアには出来なかった。

 

(ヴァイサーガの本来のコンセプトとは真逆と言うのに……なんという圧力だ……ッ)

 

本来のヴァイサーガは機動力を生かした、ヒット&アウェイと五大剣による様々な剣技によって翻弄し、風刃閃、光刃閃で切り込み一撃で両断する。攻撃と回避の両方に特化した機体と言える、機体の全身を覆うようなシールドとヴァイサーガの全長の倍近い大きさのランスを見て勝機はあると一瞬でも思った自分がいかに浅はかだったのかをラミアは思い知らされていた。

 

『ぬおおおおッ!!』

 

「くっ……うあッ!?」

 

ランスを投げつけると同時に手首と繋がっている鎖を利用し振り回しによる広範囲攻撃、それを回避した瞬間に烈火刃による投擲攻撃が炸裂し、アンジュルグの高度が落ちる。そして烈火刃を投げると同時にブースターで加速していたヴァイサーガはシールドを正眼に構え最大速度によるシールドバッシュが叩き込まれ、アンジュルグの装甲とフレームが大きく軋む音がする。翼を羽ばたかせ、空中で何とか反転し強引にヴァイサーガをロックオンする。

 

「シャドウランサーッ!! ファントムアローッ!」

 

シャドウランサーで足を狙い、ファントムアローを3連射し、両肩の関節部を狙う……だがシールドで防ぎ、ランスを突き出してくるヴァイサーガの攻撃をミラージュソードで受け止めるが、その質量と重量を何度も受け止めていたミラージュソードは甲高い音を立てて中ほどから砕け散る。

 

『うおおおおッ!!!』

 

「ッ!? がはぁッ!!」

 

ミラージュソードが砕けた光景に一瞬我を失った隙をアクセルが見逃す訳が無く、固く握り締められたヴァイサーガの鉄拳がアンジュルグの顔面を打ちぬき、その衝撃にラミアの意識が一瞬飛んだ。

 

『この程度かラミア……いや、W-17。ならば死ねッ!』

 

「ま、まだだッ!」

 

シールドによる押し潰しを倒れたまま、後方に向かって跳ぶ事で回避しファントムアローを構えさせる。だがそこから攻撃に移る事が出来なかった……。

 

(隙がまるで見えないッ)

 

どこを狙っても、どんな攻撃を組み合わせてもヴァイサーガにその攻撃が届く姿がラミアには想像出来なかった。本来の搭乗機であるソウルゲインとは違う、不完全なヴァイサーガの性能をアクセルは100%以上に引き出していた。

 

『やはり俺達が百鬼帝国と協力する事を選択した事は間違いではなかったな。その程度で相手と協力する価値もない』

 

見下すようなアクセルの口調にラミアは苛立ちを隠せなかった。いや、それが苛立ちとも認識していなかっただろう。無意識に、ハガネやシロガネ、ヒリュウ改の仲間を無能と口にしたアクセルに怒りを覚えていた。

 

(はっ……違う、今私は何を考えた)

 

アクセルは自分の上官だ、そして敬愛するレモンの恋人でもある。それなのに……ラミアはアクセルを敵とみなし、そしてハガネを仲間だと思っていた。

 

『どうした? 俺達が間違っているのだろう? ならばそれを正して見せることも出来ないのか? 俺は期待していたんだぞ』

 

期待していたと言うアクセルの言葉にラミアは動きを止めた。今までアクセルがそんなことを口にした事はなかった……急に何を言い出したのかラミアはその本意が判らなかった。

 

『お前だけだ、性能試験で俺と引き分けたのはな……そんなお前の意見だから聞き入れてやっても良いと思ったが、やはりお前は言語障害だけではない。戦闘能力にも不具合が出ているようだな。もう良い、失せろ。お前の意見を少しでも聞いてやろうと思ったのが間違いだった。人形は人形らしく、俺達の指示に従っていれば良い』

 

それはラミアにとって喜ぶべき言葉だった。自分で考える必要が無く、与えられた指示に従えばいい……アクセルに謝罪し、また元の自分に戻ればいい、それがもっとも正しい道だと判っていた。

 

「……アクセル隊長。1つ言い忘れていた事があった」

 

『なんだ。W-17』

 

謝罪すれば良い、自分の無礼を詫びて再び命令を貰えば良い……そう思っていた。だがラミアの口から出た言葉は全く逆の言葉だった。

 

「私は決着を付けたいと思っていた。私の方が優れていると、レモン様の最高傑作であると胸を張って言う為に私は貴方を倒す」

 

『……良いだろう、やって見せろッ! お前が本当に俺を打倒できたのならばッ! 貴様の意見を聞いてやろうッ!!』

 

アクセルはラミアの言葉に満足そうに笑い、ヴァイサーガをアンジュルグに向かって走らせ、ラミアもアンジュルグを繰りヴァイサーガとぶつかり合う。その戦いの熱気は凄まじいほどに白熱し、その戦いは時間が経てば経つほどに激しさを増させて行くのだった……。

 

 

 

ビースト……ズィーリアスとビルドラプター改の戦い――少しでも気を抜けば、その瞬間に己の死が決まるその極限の集中はラトゥーニの精神を容赦なく削り、そしてビルドラプター改にも深い傷を与えていた。

 

「くうっ!?」

 

ハイパービームライフルの銃身がズィーリアスの振るうビームエッジに切り裂かれ爆発する。その衝撃で弾き飛ばされモニターからもラトゥーニの視界からもズィーリアスの姿が消える。

 

「う、うううッ!?」

 

反射的に転がって回避したがズィーリアスの放ったビームの余波でビルドラプター改はゴミの様に弾き飛ばされ森の中に背中から叩きつけられる。

 

「つ……強い……強すぎる……ッ」

 

攻撃力もさることながら防御力・機動力がビルドラプター改を完全に上回っている。荒い息を必死に整え、ズィーリアスをラトゥーニは睨みつける。

 

『……』

 

無言で佇むズィーリアスはビルドラプター改、いやラトゥーニには何の興味も示していない。自分がR-1に触れようとするのを邪魔するから排除しようとしているように見えた。

 

「ふざけないで……ッ」

 

R-1に……いや、その中に入るリュウセイにだけ興味を示している。その姿はラトゥーニの神経を大きく逆撫でた、怒り、嫉妬、ありとあらゆる負の感情がラトゥーニの中で鎌首を持ち上げた。

 

「リュウセイは貴方のものじゃないッ!!」

 

R-1に触れようとしているズィーリアスの肩を掴んで強引に自分の方を向かせ、その頭部に拳を叩き込む。

 

『ッ』

 

初めてズィーリアスの方から激しい殺意がラトゥーニに向けられた。だがそれはラトゥーニも同じだった、言葉にならない……本能的な物と言っても良い、目の前のズィーリアスが、そのコックピットにいる何者かが死ぬほど気に食わなかった。言葉をかわした訳でもない、その顔を見た訳でもない……だがラトゥーニと言う少女を形作る全てがズィーリアスのパイロットを嫌悪し、そして憎悪した。それはラトゥーニが今までに感じた事のない、それこそアードラーへの恨みをも凌駕する憎悪だった。

 

『……あいつ、痛い……いたい(痛い)……ッ』

 

そしてそれはズィーリアスのパイロットも同じだった。目の前のビルドラプター改がおぞましい物に見えていた、自分の名前も、自分が何をしたいのかも判らない。ただ苦しんでいるトリコロールの機体を見ていられなかった。助けたかった、触れれば何か判るかもしれない……そんな羨望に似た希望、その周りにいるビルドラプター改が目障りでしょうがなかった。

 

「リュウセイを返せッ!!」

 

『『お前は邪魔だッ!!』』

 

そこに技術はない、そこに知性はない、あったのは混じり気のない「殺意」そして「憎悪」と「恐怖」だけ……目の前の相手の存在を許せば自分が消えなければならない、自分が大切に思っている者を奪われる……それを互いに恐れ、白と黒は何度もぶつかり合うのだった。

 

「アラド、久しぶりだね。生きていてくれて嬉しいよ」

 

それはクエルボの嘘偽りのない気持ちだった。アラドが生きていた……本当ならば何よりも嬉しい事だ。だがそれは駄目なのだ、朱王鬼によって狂わされたゼオラはアラドを殺そうとする。

 

『ゼオラは意識を失っているようです』

 

「そうか、オウカ。そのままビルトファルケンを拘束しておいてくれ、レモン博士から預かっている外部からの武装ロックもしてくれ」

 

R-1……いや、リュウセイ・ダテがゼオラを解放出来るかもしれないと言うのはクエルボも虎王鬼から聞かされていた事だった。桁違いの念動力を持つリュウセイならば、朱王鬼の術を解除出来るかもしれない……それはクエルボも抱いていた希望だった。だがそれは目の前で打ち崩された。

 

(リスクがありすぎる)

 

朱王鬼はリュウセイも手中に納める為の罠を仕掛けていた……かりにゼオラを取り戻せたとしてもリュウセイが百鬼帝国の手中に落ちるののでは余りにも割に合わない。

 

『セロ博士……なんで邪魔をするんですか! オウカ姉さんだけじゃない、ゼオラも! セロ博士も一緒に来てくれればッ!』

 

「……アラド、気持ちは判る。私もそうした方が良いとも思う」

 

『じゃあッ!』

 

「だけど、ゼオラがアラドを、オウカを、ラトゥーニを殺すかもしれない。そしてその後に自殺するかもしれない……そんなリスクを私は背負えないんだ」

 

ゼオラはアラド、ラトゥーニ、オウカのいずれかの死で我に帰るという朱王鬼の言葉は嘘ではなかった。虎王鬼も間違いないとクエルボに告げていた。仮にここでハガネに向かったとしよう……そこでゼオラが誰かを殺したら? きっとゼオラはその罪に耐え切れず死んでしまう。肉体が生きていても、精神が死んでしまう。

 

『でも、でもッ! アギラの婆に鬼のいる所になんか俺は帰って欲しくない!』

 

「大丈夫、アギラはもう廃人寸前だから何も出来はしない。私達は龍王鬼という強い鬼の下にいるから大丈夫だ」

 

『だけど!』

 

「……アラド。今は駄目なんだ、私もオウカも鬼の所になんて帰りたくはない。だけど、それによって齎される悲劇を考えれば、今は行く事が出来ないんだ」

 

アラドの願いを、思いをクエルボだって無碍にしたくはなかった。だが今は出来ないのだ、アラドと会う事でゼオラの意識が戻る事を期待したがそれも駄目、リュウセイの念動力を頼りにしたがそれも駄目。

 

「私達もゼオラを元に戻す為に頑張る。だから今は追わないでくれ、ラトゥー二を助けるんだ」

 

ズィーリアスとの戦いで劣勢に追い込まれているラトゥーニを助けろとクエルボはアラドに告げる。今はゼオラを助けられない、ならば今助けれる命を救えと言われたアラドは苦しそうに言葉を搾り出した。

 

『……絶対、次は助けます』

 

「ああ。待ってるよ、アラド。私もオウカも、ゼオラもね……いや、それよりも先に私達がそちらに行くかもしれないな」

 

『……その時は皆に紹介する。じゃあ、またセロ博士』

 

アルブレード・F型が反転しビルドラプター改の元へと向かう。その姿を見て、クエルボは強くなったと思わず呟いた。

 

「オウカ、撤退準備だ。ハガネが来た」

 

ハガネ、シロガネの2隻のスペースノア級、そしてヒリュウ改の3機の連邦が誇る最強の戦艦が揃い踏む。更にL5戦役を潜り抜けた垣根なしのエースパイロット達が次々と出撃してくる。

 

『しかし、離脱出来るでしょうか?』

 

「いや、こちらも応援が来る」

 

クエルボの乗るラーズアングリフは特別製だ。元よりクエルボのPTやAMの操縦技術はルーキーに毛が生えた程度だ、ラーズアングリフは旧式で特別な操作などが必要ないこと、そしてホバーによる機動力の高さとその防御力による生存能力を期待し、偵察、そして戦闘データの収集に特化したカスタマイズをされている。本来ラーズアングリフが装備しているFソリッドカノンをオミットし、両肩のマトリクスミサイルは1サイズダウンし、ジャミング弾頭に換装され、背部と頭部に掛けて円形のパラボナアンテナのような、大型レーダーを背負っている。その高性能さの変わりに大きくなりすぎて、時代に逆行したアンテナには転移反応がしっかりと検知されていた……全身に鋭利な刃が生え、闇色の装甲と捻れた角状のアンテナは鬼を思わせる巨大な特機が時空を歪ませ、何十機と言うエルアインス、ゲシュペンスト・MK-Ⅱを従えてシャドウミラーの頭領「ヴィンデル・マウザー」そしてその搭乗機――ツヴァイザーゲインが時空を越えてハガネの前に現れるのだった……。

 

 

 

 

第91話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その4へ続く

 

 




大分長くなってしまったのでヴィンデル登場で話を切ろうと思います。想像より話が伸びてしまいましたが、その分読み応えはあると思うので許してください。ラトゥーニと戦いズィーリアス、そしてそのパイロットが何者なのかが明らかになるのかまだまだ先なので、正体がわかってもおくちにチャックでお願いします。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第91話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その4

第91話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その4

 

言葉に出来ない不信感と拒絶感を抱きながらズィーリアスと戦うラトゥーニはコックピットの中で乱れた呼吸を必死に整えようとしていた。

 

「くうっ!」

 

たった一息吸うだけ……それすら容易にする事が出来ない極限状態での戦い。ズィーリアスがコックピットに向かって突き出してくるビームエッジをエネルギー切れを起したビームライフルを盾にして防ぎ、その爆発に紛れて距離を取りやっと大きく深呼吸することが出来た。

 

「はぁ……はぁ……ま、不味い」

 

想像以上、いやそんな言葉で片付けられないほどにズィーリアスは強い。反射速度、攻撃力、機動力、そして防御力……その全てがビルドラプター改を完全に上回っていた。しかし、勝てないのは機体性能の差だけではない。打ち合えば打ち合うほどに、ビームライフルでの距離の奪い合いをする度に、ズィーリアスから感じていた違和感の正体、そして嫌悪感の理由が判り始めていた。

 

(なんでこんなにも似ているの……)

 

機体を操る操縦の癖、間合いの計り方――その全てが自分の物に酷似している。それはモーションデータを流用しているなんて言う言葉で容易に片付けられる物ではない。鏡合わせ……まるで自分がもう1人いるような感覚をラトゥーニは味わっていた。

 

「はやッ!? ぐっ!」

 

姿勢を低くしたと思った瞬間殆ど一瞬で獣へと変形したズィーリアス。その速度は人型の倍近く奇襲を警戒していたラトゥーニだが速度に耐え切れず体当たりの直撃を喰らいビルドラプター改が全身から火花を散らしながら吹き飛び、背中から地面に叩きつけられる。

 

「あぐっ!」

 

ズィーリアスの前足がビルドラプター改を押さえつけ、その牙をコックピットに突き立てようとしたしたその瞬間横殴りの一撃がズィーリアスの横っ面を捉えた。

 

『大丈夫か!? ラトゥーニッ!』

 

「あ、アラド……ありがとう、それとごめん」

 

死を覚悟したラトゥーニはアラドの救援に素直に感謝し、アルブレード・F型装備の手を借りて立ち上がる。ビルトファルケン、ラピエサージュの姿がないのを見て、自分を助ける為にアラドが引き返してきたと思いラトゥーニは謝罪の言葉を口にした。

 

『ラトゥーニは悪くねえよ。生きてれば次がある……次は絶対ゼオラもオウカ姉さんも、セロ博士も取りかえす……それよりビーストはかなりやばいか?』

 

「……多分私達だけじゃ勝てない」

 

偵察でエネルギーを消耗しているから徐々に反応速度が落ちている。それに対してズィーリアスはどんなカラクリか不明だが、戦う中でエネルギーを回復している素振りがある。こっちは弱体していくのに、相手は強くなっていく……2人で戦うにはズィーリアスは強すぎた。

 

『リュウセイは?』

 

「……気絶しているみたい」

 

『撤退は無理か、いや、ラミアさんが戦っているから元々撤退なんて出来ないけどよ……』

 

指揮官機を単独で押さえ込んでいるラミアを残して逃げれる訳が無く、鬼の精神攻撃を喰らい気絶しているリュウセイも残していけない……ラトゥーニとアラドは完全に詰み一歩手前の状況に追い込まれていた。

 

「来るッ!」

 

ズィーリアスが突っ込んでくる素振りを見せ、ラトゥーニとアラドが身構えた瞬間。ズィーリアスは突如反転し、R-1の元へと引き返す。

 

『無事か! アラド、ラトゥーニ、ラミアッ!!』

 

『ごめんね! 敵の攻撃が思ったより激しくて』

 

『『各機出撃せよッ!!!』』

 

アルトアイゼン・ギーガ、ヴァイスリッター改からキョウスケ、エクセレンのラトゥーニ達の安否を気遣う声が響き、その後から空域に侵入して来たハガネ、シロガネ、ヒリュウ改の3隻の母艦から一気に友軍機が出撃する。

 

『R-1がッ!? ラトゥーニ何があった!?』

 

「鬼の罠に掛かったらしく意識不明! それに加えてビーストに鹵獲されていますッ!」

 

両腕が無く、カメラアイからも光が消えているR-1を見てライが状況報告を求め、ラトゥーニがすぐに何があったのかを説明する。

 

『部隊を分ける! ヴィレッタ大尉とライディース少尉はR-1の回収とラトゥーニ達の救出を! エクセレン、ブリットは俺に続け、ラミアを救出に向かう! カイ少佐、ギリアム少佐指揮ををお任せしますッ!』

 

キョウスケが矢継ぎ早に指示を飛ばし、救出に動き出そうとした。しかしそれはヒリュウ改からの警報で止められた。

 

『前方に空間転移反応ありッ!! 各機は警戒してください!』

 

『転移反応だとッ!? 罠に嵌められたかッ! キョウスケ中尉! 一時待機! 状況を把握後再び救助に入れッ!』

 

このタイミングでの転移反応の報告――それは罠に嵌められたと考えるのが当然であり、ラミア達の救出を行ないたいが囲まれる危険性が高いと判断したリーによって全員に一時待機命令が下される。

 

『アインスト……ッ!  いや、インスペクターかッ!?』

 

『いえ!  そのどちらの反応でもありませんッ!』

 

『更に熱源多数! その数約……45機ッ!』

 

『巨大な機動兵器の熱源も確認! 5秒後にこの戦域に出現しますッ!』

 

転移を行なう敵勢力は生物であり機械でもあるアインスト、そしてホワイトスターを制圧しているインスペクターのいずれかだと思っていたダイテツ達にエイタ達オペレーターの叫び声にも似た報告が続け様に響き、ハガネ、シロガネ、ヒリュウ改の前方にツヴァイザーゲインを先頭にしてエルアインス、ゲシュペンスト・MK-Ⅱの大軍が姿を現す。機動兵器が大量に転移してきた事にキョウスケ達が驚く中、ギリアムだけは鋭い視線でツヴァイザーゲインを睨んでいた。

 

(やはりお前か、ヴィンデル……ッ)

 

あの転移反応は紛れも無く己の半身であるシステムXNが使われた物、そしてそれを持ち出せる者はシャドウミラーしかいない。己が危惧していた脅威が現れた事にギリアムはその眉をひそめる。百鬼帝国の復活、アインスト、インスペクターの襲来、そして己の罪の具現化……ギリアムが恐れていた全てがフラスコの世界に集まりつつあるのだった……。

 

 

 

 

 

 

ツヴァイザーゲインのコックピットの中からヴィンデルはハガネ達の戦力に目を走らせた。自分の記憶と合致しない機体が余りにも多い、新型のヒュッケバイン、そして自分達の知るゲシュペンスト・MK-Ⅲとは異なるゲシュペンストの姿。そしてベーオウルフの搭乗機であったゲシュペンスト・MK-Ⅲとは掛け離れた面影だけを持つアルトアイゼン・ギーガの姿にヴィンデルは驚きを隠せなかった。

 

「なるほど、戦力は我々の世界よりも遥かに充実していると言うのは本当の事だった様だな」

 

もしもあれだけの戦力があればイージス計画を防ぐ事も出来た物をと己の世界を一瞬思ったヴィンデルだが、すぐに首を左右に振りその考えを捨て去る。

 

「存外私も人の子だったというわけか……」

 

生まれ育って世界を捨てる覚悟をし、実際に生まれ育って世界を捨てて異なる世界に来たと言うのに、まだ捨て切れない情があったかとヴィンデルは苦笑し頭を振り、アクセルからの通信に応じる。

 

『早かったな、ヴィンデル……『システムXN』の調子はどうだ?』

 

「通常転移は安定している。流石百鬼帝国と言った所だな」

 

イーグレットが無能だった訳ではない。しかしそれ以上に百鬼帝国の技術力が秀でていたと言うことだ。百鬼獣に使用されるパワーフレームや高性能のスラスターを搭載されたツヴァイザーゲインは飛躍的にその能力を上昇させていた。慢心しているわけでは無いが、このままハガネの戦力を制圧する事も可能だとヴィンデルは感じていた。

 

「ん? あれはアンジュルグ……か、乗っているのはW17か? アクセル」

 

『そうだ。 転移の影響か知らんが、少しおかしい……いきなり怒鳴るなよ? ヴィンデル』

 

アクセルからの警告に首を傾げながらラミアから詳しい情報を聞こうと思い、アンジュルグへと機密通信のコードを使い通信を繋げる。

 

『ヴィンデル様……その機体……まさか 完成しちゃったりしてなかったりしたりしなかったりしちゃうのでしょうですか?』

 

コックピットに響いたラミアの声にヴィンデルは眉をひそめ、声を震わせ怒りの形相を露にする。

 

「レモンの遊び道具ごときが、この私に対して……なんという口の聞き方をしているッ!」

 

『落ち着けヴィンデル。言ったろ? おかしいってな……言語系がやられているらしい。言葉遣いは気にするな。血圧が上がるぞこいつは、W17普通にしゃべって構わん、勿論俺と戦いながらだがなッ! Wシリーズよ、俺達の邪魔をさせるな、戦闘を開始せよ』

 

『了解ッ!』

 

ミラージュソードを失ったアンジュルグはイリュージョンアローを駆使し、ヴァイサーガのランスと鍔迫り合いを始め、アクセルの指示に従いWシリーズがハガネのPT達に襲い掛かる。乱戦になった事でヴァイサーガとアンジュルグが鍔迫り合いをしていても違和感は無く、まだ潜入活動を続けさせるつもりだったのでそれ自体はヴィンデルにとっての何の問題もなかった。

 

『……ヴィンデル様。ツヴァイザーゲイン……安定しているように見えるが、まさか完成したというのか?』

 

だが人形と見下しているラミアからのタメ口にヴィンデルの苛立ちは徐々に募り始める。

 

「その通りだ。見ての通り、通常転移機能に問題はないが、何かお前にとって問題でもあるのか?」

 

『何故鬼と手を組んだのだ? あれはアインストとインベーダーと大差がない、いつ我々を裏切るか判らんぞ』

 

『ふっ、どうもこいつは俺達が百鬼帝国と手を組んでいる事が気に食わないそうだぞ、ヴィンデル』

 

アクセルのからかうような口調にますますヴィンデルは苛立ちを覚える。人形であるW-17がヴィンデルに意見する。それは許されないことであった、部下は上官の言う事を聞き、たとえ死ねと命じられてもそれに従うのが部下のあり方だとヴィンデルは思っていた。あちら側ではカーウァイとイングラムの顔を立てていたが、性格的にどうしても受け入れられない事がある。

 

「人形の分際で何を言っているのか理解しているのか? W-17」

 

『人形であろうと意見はする。かつての二の舞になるような真似をしようとしている上官をたしなめるのは当然だとは思わないか? ヴィンデル』

 

アンジュルグの蹴りがヴァイサーガの胴を捉え蹴り飛ばすと同時に反転し、ミラージュアローの3連射をヴァイサーガに向かって放つ。

 

『ぐっ! この程度で俺を倒せると思うなよ!』

 

ヴァイサーガの肩を正確に狙ったアンジュルグだが、シールドで受け流しランスチャージをアンジュルグに向かって繰り出す。

 

『それはこちらの台詞だ。そう簡単に私を倒せると思わないことだッ!』

 

アンジュルグとヴァイサーガの戦いを見ていたヴィンデルはある違和感を気付いていた。怪しまれないように戦闘の振りをしているのではない、アクセルもラミアも本気で目の前の相手を敵とみなし、打ち倒そうとしているのが伝わってくる。

 

「これはどういうつもりだ? W-17?」

 

ヴァイサーガと戦っていたアンジュルグがツヴァイザーゲインに向かってミラージュアローを放った。牽制程度の意味合いだったのか、簡単に受け止めることが出来たヴィンデルだが、人形と見下しているラミアに攻撃された事にヴィンデルの額に青筋が浮かんだ。

 

『折角ここまで来たんだ。実戦テストに付き合おうと思ったのだが、余計なお世話だったか?』

 

「良いだろう、そこまで言ったのだ。ツヴァイの実戦テストにはW17……お前に付き合ってもらうぞ。それにトラブルとは言え、人形如きに不遜な口の利き方をされるのは不愉快でな。ここで破壊される事も覚悟して貰おう」

 

安い挑発と判っていたが、今までのラミアの不遜な口の聞き方に苛立ちを覚えていたヴィンデルはラミアの安い挑発に自ら乗った。これがラミアだけならば無視していたが、アルトアイゼン・ギーガ、ヴァイスリッター改、そして新型のゲシュペンスト・MK-Ⅲが揃った事でベーオウルフと戦い、直にその戦闘データを取る事をヴィンデルは選んだ。

 

『1人で戦う等と言うなよ。ここまでお膳立てされて俺はみすみす引かんぞ』

 

「判っている。ベーオウルフとこちら側のキョウスケ・ナンブの違いを確かめる良い機会だ。良く見極めていけ」

 

アクセルとキョウスケの因縁はヴィンデルも十分理解している、そしてそれは勿論ヴィンデルも同じだ。ベーオウルブズに何度も舐めさせられた辛酸を思い出し、アルトアイゼン・ギーガを睨みつける。

 

『連邦軍特別任務実行部隊『シャドウミラー』指揮官、ヴィンデル・マウザー大佐……』

 

既に眼中になかったラミアの言葉にヴィンデルは眉を細めた。

 

『実戦テストだと言ったな、不幸な事故が起きようが私に何の非もない、何があっても恨まないで貰おうか……ッ!』

 

「人形風情が面白い事を言う……W17ッ!」

 

『お前こそ何があっても俺達を恨むなよッ!』

 

ラミアの挑発に乗ったわけではない、だが人形と見下している相手からの挑発、そして世界は違えど自分達の因縁の相手であるキョウスケを前にし、アクセルとヴィンデルはアルトアイゼンにこの場にいないゲシュペンスト・MK-Ⅲを重ねて見てしまっているのだった……。

 

 

 

 

 

機能を停止しているR-1を救出する為にライとヴィレッタだけではなく、リオやリョウトも動き出した。だがズィーリアスと対峙しているのは左のハイゾルランチャーを失ったR-2パワード。そしてラルトスの開発したデスペラードユニットを装備した、ゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDだが、ゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDは右腕に装備しているシールドガトリングユニットの銃身を失い、右腕も肘から下を失い火花を散らし、戦闘力を大幅に失っている。武装は失っていないがエネルギーと弾薬が半分を切っているビルドラプター改とアルブレード・F型装備の4機だけがズィーリアスと対峙する事が出来ていた。

 

「ちいっ! なんだこれはッ!」

 

当然カイ達も応援に向かおうとするが、近づいた瞬間凄まじい衝撃を受け、火花を散らしながらゲシュペンスト・リバイブ(K)の巨体が弾き飛ばされる。いや、それだけではなくメガ・プラズマステークが拉げ、それでもリュウセイを助ける為に再アタックしようとするカイにヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMのリョウトがそれを静止する為に通信を繋げる。

 

『カイ少佐! 無理をしないでください! これは桁違いに出力の高い念動フィールドです! 下手に突っ込めばライディース少尉とヴィレッタ大尉の二の舞ですッ!』

 

R-2パワード、そしてゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDはズィーリアスの展開した念動フィールドに切り裂かれ、戦う前に武装を失った。視認出来るほど強力な念動フィールド、そしてそれを攻撃と防御に同時に使用出来る――それはリュウセイの高レベルの念動力と、アヤの精密な操作を併せ持っているという事を示していた。

 

『メガバスターキャノンッ!!』

 

『ギガワイドブラスタァァアアアアアーーッ!!』

 

直接攻撃が駄目ならばとゲシュペンスト・リバイブ(S)のメガバスターキャノンとジガンスクードのギガワイドブラスターが直撃するが、ズィーリアスの展開している念動フィールドは全く揺るがない。その信じられない光景にこの場にいる全員が絶句した、直撃すれば戦艦ですら轟沈させる一撃を2回も喰らってもブレイク出来ないバリアという信じられない光景を見てカイとギリアムの2人は今はあのバリアを突破出来ないと悟らざるを得なかった。

 

『カイ少佐、ギリアム少佐! 流石にこれ以上はこっちも持たないぜッ!』

 

『数が多すぎるッ!! ぶっ潰してもぶっ潰しても増援が来やがる!』

 

イルムとカチーナが指揮を取っていたがエルアインスとゲシュペンスト・MK-Ⅱの大軍を相手にするには戦力が足りなかった。ハガネ、シロガネ、ヒリュウ改の防衛にも機体を回さなければならない。

 

『サイフラァァッシュッ!!!』

 

『こいつでぶっとびなッ! サイコブラスターッ!!!』

 

サイバスターとヴァルシオーネのMAPWによって一時はエルアインスとゲシュペンスト・MK-Ⅱが止まる。だが撃墜した数以上のエルアインスとゲシュペンスト・MK-Ⅱが再び姿を見せる。

 

『くそ、こいつら何体いるんだッ!?』

 

『流石にこれ以上はサイコブラスターも使えないよッ!?』

 

広範囲攻撃であるが故に消耗の激しいサイフラッシュとサイコブラスターを連射し、サイバスターとヴァルシオーネのエネルギー量は危険域を迎えようとしていた。

 

『くっ! これはまずいですわねッ!』

 

『数が多すぎるッ!』

 

ハガネやシロガネを直接撃墜しようとしているのか対艦ライフルやレールガンを装備している個体も姿を見せ始め。ガーリオンに乗っているレオナと艦橋に乗って直援をしていたラッセルの焦りの声が響く。ズィーリアスの危険度を把握し、R-1の救出を最優先したが、それが完全に裏目に出ようとしていた。

 

『計都瞬獄剣ッ!』

 

『クスハッ! 道は私が作るから、対艦レールガンを装備しているのを落としてッ!』

 

『あ、あたしも手伝うよッ!!』

 

それでも完全に劣勢に追い込まれていなかったのは、AMガンナー、そしてアステリオンがその高機動を生かし、対艦レールガンやライフルの発射を妨害し続けていたからだ。だが数がこれ以上増えればそれも難しくなる……。

 

『カイ少佐、こっちは俺が何とかする。カイ少佐は……』

 

『いえ、その必要はないわ。カイ少佐、ギリアム少佐。こっちはこっちで何とかするわ、ハガネを優先して頂戴』

 

ヴィレッタの言葉を聞いてカイとギリアムは一時、バリアの破壊を断念すると言う決断を下す。

 

「聞いてたわね、ライ、ラトゥーニ、アラド。私達だけでビーストを突破するわよ」

 

『了解です、大尉』

 

『了解しました』

 

『……やるっきゃねえかッ!』

 

念動フィールドによって分断されているが、逆を言えば念動フィールドによってズィーリアスの機動力も失われている。4機で戦術を組んで戦えば十分に対応出来るとヴィレッタは判断していた。

 

「ラトゥーニ、アラド。悪いのだけど、前衛をお願いするわ。私とライでビーストの動きを制限する、狙いはあの背中の翼よ」

 

背中の翼がズィーリアスのT-LINKセンサーの出力を倍増させているアンテナだとヴィレッタは判断し、翼を狙うように指示を出す。

 

「作戦会議はここまでッ! 臨機応変に対応してッ!」

 

背部から射出された菱形のビット、それが高速で動き出すのを見てヴィレッタはそう指示を飛ばし。ゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDを操りながら眉をひそめた。

 

(私はこの状況ではかなり不利ね)

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDは足を止めての射撃、もしくはフライトユニットと脚部の下駄状の追加装甲を併用し、高速ホバーによって機動力を確保している。だがその性質上移動範囲が狭くなれば十分な加速の範囲を得ることも出来ず、デスペラードユニットを使用すれば味方も巻き込みかねない。左腕に残されたシールドガトリングユニットで弾幕を張りながら右へ左へと移動する。

 

『ッ』

 

「やっぱりね……私達じゃ不利ね」

 

『そのようですね……』

 

ビームと実弾を突き出した腕から発生した念動フィールドで防ぎ、そのまま腕を振り上げ念動フィールドを刃として振るうズィーリアス。それをシールドガトリングユニットで受け止め、そのままの勢いで後ろに向かって飛びミサイルを撃ち込むゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRD。ズィーリアスはさっきと同じ様に念動フィールドで防ごうとする、だがヴィレッタは元々ミサイルを命中させるつもりは無く、急速に勢いを失ったミサイルはズィーリアスの足元で炸裂し、煙幕を作り出す。

 

『切り裂けッ! ビームチャクラムッ!!!』

 

煙幕を突っ切ってR-2パワードの射出したビームチャクラムがズィーリアスの胴を捕らえる。だがビームチャクラムはズィーリアスの装甲を切り裂く事無く霧散する。

 

『対ビームコートかッ!?』

 

「少し違うかもしれないけど、ビーム系の武器は余り効果がないみたいね」

 

ビームチャクラムを無効化しているのは特殊な装甲による物だとヴィレッタは判断した、念動フィールドに加えて特殊な装甲を非常に強固な装甲をズィーリアスは有している。

 

「でも、それは計算の内よ」

 

ヴィレッタが小さく呟いた瞬間、ズィーリアスの背部が爆発し、たたらを踏んだ。念動フィールドで防がれることを前提にし、ミサイルの爆発によって生まれた煙幕を隠れ蓑にし、そしてR-2パワードのビームチャクラムすらも捨て駒にし、射出したスラッシュリッパーを本命にしていた。

 

『いっくぜぇッ!!!』

 

『今ッ!』

 

瞬発力に長けたアルブレード・F型とビルドラプター改はその隙を見逃さず、一気に懐に飛び込みブラストトンファーとコールドメタルナイフを振るう。

 

「させないわ!」

 

『防ぎたければ防げばいい。防げる物ならなッ!』

 

特殊な装甲とバリアと言うのは確かに己の身を守る物になる。だがそれは時に己の首を絞める結果にも繋がる、R-2パワードとゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDの攻撃を防ぐ為に展開された念動フィールドとズィーリアスの装甲によって防がれ、霧散したビームの熱がチャフの効果を果たす。コンマにも満たない一瞬だが動きを止めたズィーリアスにブラストトンファーの一撃が叩き込まれる。しかしその光景を見てもヴィレッタの顔は決して明るい物ではなかった。

 

「これも何時まで通用するか判らないわね」

 

被弾した瞬間にズィーリアスの動きが変った。無人機かパイロットがいるのか判らない、だが時間が経てば経つほどその動きを変えるズィーリアス。

 

『こいつもうこっちの動きにッ!?』

 

『あと少しなのにッ!』

 

アラドとラトゥーニの動きを模範したのか、遠距離攻撃に加え至近距離と中距離攻撃を組み合わせ、ラトゥーニ達だけではなくヴィレッタ達にも圧力を掛けてくるその姿を見て、ヴィレッタの背中に冷たい汗が流れるのだった……。だがヴィレッタの不安と警戒は全く無意味な物だった……模範しているのではない。ズィーリアスはビルドラプターも、アルブレード・F型装備もR-2パワードもゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDも既に敵とみなしていなかった。

 

『ヴァイサーガ……アンジュ……ルグ……ベーオ……ウル……フ』

 

この場に本来この世界で生まれる筈のない機体が一堂に会した。その光景はズィーリアスのパイロットを強く刺激した、激しい頭痛とラトゥーニに向けていた殺意を遥かに上回る憎悪……外の光景を写すモニター以外の光が何も無い闇の中で蒼と金色に輝くオッドアイだけが、まるで人魂のように浮かんでいるのだった……。

 

 

 

 

ランスとリボルビングバンカーがぶつかり合い凄まじい火花と轟音を響かせる。コックピットにまで響いて来るその衝撃にキョウスケはその眉を顰めた。

 

『キョウスケッ! 大丈夫ッ!?』

 

「俺の事は良いエクセレン。ラミアとブリットのフォローをしてくれ。こいつは俺が抑える」

 

心配そうな声を出すエクセレンに向かって俺よりもラミアとブリットのフォローに入るように頼み、キョウスケは紅いカメラアイを輝かせるヴァイサーガに再び視線を向けた。念動力が無くともキョウスケにはアクセルの肌に突き刺すような鋭い殺気、そして敵意がひしひしと感じられていた。

 

「何者かは知らんが……俺の前に立ち塞がるのならば打ち貫くのみッ!!」

 

アルトアイゼンという機体は最大攻撃力を得る為に加速する為の距離を必要とすると言う欠点があった。しかしそれはギーガユニットに搭載されているテスラドライブによって大幅に改善されている。勿論パイロットの負担は度外視だが機体を僅かに浮遊させてからの全身のスラスターと背部のフライトユニットによって、最大加速に入るまでの距離と時間が今までの半分ほどに軽減されている。0から10の爆発的な加速と共に繰り出されたリボルビングバンカーの一撃はアクセルの見たことのない速度だった。

 

「なッ!? ぐうッ!」

 

最初のぶつかり合いでヴァイサーガが自分の動きの癖を把握している事に気付いたキョウスケは、あえて改良型のリボルビングバンカーを使用しなかった。テスラドライブ・フライトユニットの合わせ技による爆発的加速による突撃はアルトアイゼン・ギーガの最大攻撃の1つであった。しかしだ、その速度は諸刃の剣……カウンターを合わされれば大破するのは己自身……故に切るタイミングをキョウスケは慎重に測っていた。

 

「これでも決まらんかッ!!」

 

「舐めるなよッ! ベーオウルフッ!!」

 

完全に奇襲のタイミングだった。だがアクセルはそれに対応して見せた盾を構えるのではなく、アルトアイゼン・ギーガに向かって、合えて突撃した。シールドチャージとリボルビングバンカーがぶつかりあり、僅かにリボルビングバンカーの切っ先がそれた。それによって肩にリボルビングバンカーが突き刺さり、肩の装甲を弾き飛ばされたが両腕は健在だ。シールドを捨てたヴァイサーガの拳がアルトアイゼン・ギーガの顔面に叩きつけられる。

 

「うぐっ!?」

 

センサーとモニターを狙っての攻撃でコックピットにノイズが走り、キョウスケは一瞬ヴァイサーガの姿を見失う。

 

「もう1発もって行けッ!!」

 

勿論ヴァイサーガも強固になったアルトアイゼン・ギーガの装甲を殴りつけて無事な訳が無い。拉げて、指がつぶれシールドをもう装備できないと悟ったアクセルは躊躇う事無く盾を捨て、前蹴りをアルトアイゼン・ギーガに向かって叩き込んだ。

 

「悪いが良いようにやられるつもりはないッ!!」

 

左腕の装甲が展開し、そこから放たれた小型クレイモアがアルトアイゼン・ギーガとヴァイサーガの間で兆弾を繰り返し、互いの装甲を容赦なく抉る。

 

「ぐっ……なるほど、俺の知るベーオウルフよりも強いな。これがな」

 

「こいつ何者だ、何故ここまで俺のモーションを知ってる」

 

アクセルはアインストに完全に変異する前のベーオウルフより強いと獰猛に笑い、キョウスケは何故ここまで自分の動きに対応できるのかと困惑を隠せなかった。ランスを手に再び突撃しようとするヴァイサーガとそれを迎え撃つ為にアルトアイゼン・ギーガがリボルビングバンカーを構えたとき、アンジュルグ、ヴァイスリッター、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムと戦っていたツヴァイザーゲインが転移で割り込み、ヴァイサーガのランスをその手に掴むと同時に転移し、アルトアイゼン・ギーガの前から離脱する。

 

「ヴィンデル邪魔をするな」

 

『これは威力偵察だ。エルアインスとゲシュペンスト・MK-Ⅱを50機使い潰した、これ以上は被害が大きすぎる』

 

ツヴァイザーゲインの装甲にも深い切り傷があり、修復されているが相当追い込まれていたのが判ったアクセルだが、不機嫌そうに舌を鳴らす。

 

『それともあれに巻き込まれるつもりか?』

 

ズィーリアスがどす黒いオーラを撒き散らしながら暴れている光景を見て、アクセルはやっと操縦桿から手を放した。

 

「力のそこは見れていないが良いだろう、こちら側のベーオウルフはまだアインストに寄生されていない。それが判れば御の字だ」

 

『判った用で何より、転移するぞ』

 

納得はしていないが、邪魔者があれだけいては戦いにはならないと判断したアクセルに頷き、ヴィンデルは短距離の転移を行なう為のコードを入力する。その時だった、イーヴァリアスから憎悪と殺意に満ちた女の声が周囲に響き渡ったのは……。

 

『『殺してやる! 殺してやるッ!!! お前だッ! お前が殺したッ!!! お前が殺したんだッ!!! ベーオウルフゥゥウウウウッ!!!!! 死んで詫びろッ!! 殺してやるッ!!! うああああああああッ!!!!!』』

 

ツヴァイザーゲインがヴァイサーガの肩に手を当てて、転移するまでの数十秒。暴れ回るズィーリアスのから響いた声にヴィンデルとアクセルは動きを止めた、だが発動している転移を止める事が出来ず怨嗟の叫び声を聞きながらアクセルとヴィンデルはライノセラスへと帰還した。

 

「あの機体のパイロット……俺達の仲間か?」

 

「いや、知らない機体だが……面白いことになって来たようだな」

 

転移する瞬間にズィーリアスも転移しその場から消え去っていたが、アルトアイゼン・ギーガを、キョウスケをベーオウルフと呼ぶ女の声……それは自分達と違う方法で転移してきたのか、それともこちら側に辿り着けなかったシャドウミラーの構成員のいずれかが敵討ちの為に行動していたことを示しており、アクセルとヴィンデルはほかにもまだ仲間がいるかもしれないと小さく笑みを浮かべるのだった……。

 

 

 

転移で消えたツヴァイザーゲインとヴァイサーガ、そして強制的に回収されたように見えるズィーリアス。それら全てが転移で消えた……その信じれない光景にキョウスケ達はしばし放心していた。

 

『おい、キョウスケ。ベーオウルフって何だ? お前の渾名か?』

 

「いえ、そんな名で呼ばれた事は1度もありませんイルム中尉」

 

『だとしても、あれだけの恨み節だぜ? 尋常じゃねえぞ』

 

キョウスケをベーオウルフと叫び、身も凍るような怨嗟の叫び声を上げ続けていた姿は尋常ではないとカチーナが告げる。転移で消えた敵勢集団とキョウスケに尋常じゃない恨みを抱く女の声……ノイエDC、アインスト、インスペクターという脅威に加え、転移で現れる新たな敵の存在にキョウスケ達の顔色は悪い。

 

『あの鎧騎士とビーストは仲間なのでしょうか?』

 

『転移で消えたからって同じ組織と思うのは早計だ。それに余りにも機体の形式が違いすぎる』

 

『じゃああれか? 宇宙人か?』

 

『それも違うだろ。エルアインスとゲシュペンスト・MK-Ⅱが従っているように見えた。あれも地球人だと俺は思うぜ』

 

戦いがあったとは思えない静寂が広がった。その静寂は今までの戦いが夢か幻のように思わせるほどの静まりようだったが、周囲に広がる破壊の跡が現実だと言う証明だった。

 

『ビーストの件は気になるが、今はR-1の回収し、アビアノ基地へと帰還する。各機着艦せよ』

 

シロガネのリーからの指示に着艦していく仲間達、だがキョウスケだけはその場に止まっていた。

 

(どういうことだ)

 

蒼い鎧騎士は自分の事を知っていた。攻撃の挙動、間合いの計り方……その全てを完全に把握していた。だがキョウスケの知り合いにあんな殺気を出す者はいない。

 

ビーストもそうだ。自分を仇と呼び、凄まじい憎悪を叩き付けてくる謎の女……人違いなどではなく、あの女は間違いなくキョウスケを憎み、そして殺そうとしていた。

 

(武蔵と同じなのか……?)

 

過去から未来ではない、未来から過去にやってきた敵なのか? これからキョウスケが行なう何かが……。

 

『キョウスケ、帰還しましょう』

 

「……ああ。判った」

 

考えにふけるキョウスケにエクセレンが声を掛け、思考の海から引き上げれたキョウスケはエクセレンと共にハガネに引き返したが、キョウスケの胸中にはどうしても割り切れないしこりが残っているのだった……。

 

 

 

第92話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その5へ続く

 

 

 




次回の前半で状況整理、後半ではキョウスケ達がツヴァイザーゲインと戦っている間に武蔵が日本で戦っていたと言う話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第92話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その5

第92話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その5

 

アビアノ基地に帰還したキョウスケ達。だがその顔は当然の事だが暗い物だった、アビアノ基地に戻るまでにラトゥーニとアラドに話を聞いたのだが、リュウセイが百鬼帝国の手に落ちる一歩手前だった。そしてビーストが割り込まなければ確実にリュウセイは百鬼帝国に連れ去られていたという事実は重くキョウスケ達の肩に圧し掛かっていた。事実今もリュウセイは意識不明で医務室で懸命な処置が施されている状況だ。SRXチームとラトゥーニがそばについているが、目覚めた時に鬼に操られていないとも言い切れず、厳重な警戒態勢が引かれている。

 

「リュウセイ君大丈夫かしらね……」

 

「リオ、大丈夫だよ。リュウセイならきっと大丈夫さ」

 

リュウセイならまたいつもの明るい笑みを見せてくれるとリオを励ますリョウトだが、その本人の顔も暗い。ムードメイカーであるからこそ、リュウセイが倒れたダメージは大きく、その雰囲気を変える為にカチーナがあえて大きな声を出した。

 

「つうか、あいつは一体なんなんだ? 見た所PTでもAMでもないよな?」

 

ブリーフィングルームでラトゥーニ達が記録したビーストの戦闘データを見ながらカチーナが不機嫌そうに身体を揺らしながら呟いた。

 

「ラドム博士とハミル博士の話ではウォン重工業で開発中のゲシュタルトシリーズに少し似ているそうですが、本質的には違うそうです」

 

ラッセルが解析データを見ながら似ている機体を口にするが、エルアインス同様まだ完成していない機体と言う事で詳しい情報は無かった。

 

「結局該当する機体の系統はわからねえってことか……それよりも気になるのは……」

 

「俺の事ですね?」

 

ズィーリアスのパイロットはキョウスケに並々ならぬ憎悪と殺意を抱いていた。しかしキョウスケには思い当たる節は無く、恨まれる理由があるとすればDC戦争時の事くらいしか思い当たる物がなかった。

 

「ベーオウルフと言っていたが……ウルブズの事か?」

 

「ウルブズ? なんですかそれ?」

 

ベーオウルフと聞いて思い当たる節があったのかカイがそう呟き、聞き覚えの無いウルブズと言う呼称がなんなのかとブリットがカイに尋ねる。

 

「連邦の特殊部隊の総称だ。秘密主義で、詳しい情報は無いが……クライウルブズがトライアウトに参加していたのを思い出してな」

 

「でもカイ少佐、キョウスケはウルブズなんて関係ないわよ? 勘違いじゃないかしら?」

 

「まぁ俺もそう思うが……ウルブズの1人がゲシュペンスト・MK-ⅢのAタイプを使っている可能性も捨て切れないだろう?」

 

キョウスケしか使えないと言う前提で公式には作られていないが、タイプA自体のデータは連邦にあるのだ。表に立つ事が出来ない部隊の誰かが使っている可能性は十分に考えられた。

 

「いえ。ビーストのパイロットは俺を標的にしてました。それだけは間違いない」

 

だがそれは誰でもないキョウスケ自身が否定した。言葉をかわしたわけではない、だがあの怨嗟の叫びが、そして憎悪を込めた視線は紛れも無く自分を見つめていたとキョウスケは断言した。

 

「それだけ恨まれる心当たりがあるのか? それがないならおかしいだろ?」

 

マサキの言う通りだ。あれだけの憎悪と殺意を出せると言うのは並の恨みではない、しかしだ。それだけの事をキョウスケが行なっているとはこの場にいる全員がだれも思っていなかった。寡黙ではあるが、仲間思いのキョウスケがそんな事をすると思えないし、思いたくないと言うのが紛れも無い本心だった。

 

「これから俺がするとしたら?」

 

「……武蔵と同じという事を考えているのか、キョウスケ中尉」

 

「ギリアム少佐。はい、その通りです。「今」の俺には何の覚えもない、しかし「未来」の俺ならばそれは違うかもしれない。俺には恨まれる理由があるのかもしれない……」

 

武蔵という過去からの使者がいる。それならば未来から過去に来ている者がいてもおかしくないというキョウスケの考えもあながち間違いではない。しかしそれは「IF」であり、今のキョウスケには何の罪はない。

 

「だとしてもそれはお門違いでしょ? ビーストのパイロットは完全に八つ当たりをしてると私は思うわよ? それより、あの鎧騎士の方がよっぽど気になるわ」

 

犯してもいない罪を考え、不安に顔を歪めるキョウスケを見据え、エクセレンはきっぱりとそう断言した。仮に未来でキョウスケが虐殺を行なったとしても、今のキョウスケには何の罪も無い。それを悔やむ必要も、自分の責任だと思う必要も無いとエクセレンは笑みを浮かべてキョウスケを励ますように言う。

 

「エクセレン……だが」

 

「大丈夫よ。キョウスケがそんな事をする前に止めてあげるから心配ないわ」

 

だからズィーリアスのパイロットの事は気にしなくて良いわとエクセレンが笑いながら言う姿を見て、ブリーフィングルームの雰囲気はズィーリアスよりも転移して現れたツヴァイザーゲインの正体についてに変り始めていた。

 

「角付きと盾持ちは同型機のように思えるな。機体のシルエットが良く似ている」

 

角付きと呼称されたツヴァイザーゲインと盾持ちと呼称されたヴァイサーガがブリーフィングルームのモニターに映し出される。

 

「……いえ、待ってください。カイ少佐、僕はマスタッシュマンに似ていると思います」

 

「マスタッシュマン? リョウト。なんだそりゃあ?」

 

「『ヒゲ男ちゃん』って意味よ、カチーナ中尉」

 

そんな事を聞いてるんじゃねえと怒鳴るカチーナだが、エクセレンはどこ吹く風で笑う。その姿を見てラミアは薄く目を細めた、エクセレンを見つめているのではない。ツヴァイザーゲインとマスタッシュマン――いや、ソウルゲインの関連性を見出したリョウトに驚いたのだ。

 

「オペレーションSRWの時に月面に現れた化け物を武蔵と共に撃破した所属不明の人型機動兵器だ。望遠だが、戦闘データが残されている筈だ」

 

ギリアムがDコンを操作し、ブリーフィングルームのモニターにソウルゲインの姿を見せる。

 

「この化け物って、ストーンサークルで出て来た奴じゃねえかッ!?」

 

「ええ。武蔵がいなければ危なかったわね……」

 

無機物にも寄生し、その姿を変える異形の化け物――インベーダー。それと戦うゲッター1とソウルゲインの姿がノイズ交じりだがモニターに映し出される。

 

「確かインベーダーと武蔵は呼んでましたね」

 

「旧西暦の失われた時代の理由なったっていう化けもんだな」

 

武蔵がレフィーナへと話したインベーダーの事はイルム達も把握していた。それが少数ながら新西暦でも確認されている、生き残りなのかそれとも再び地球圏に現れたのかは未知数だが、警戒を緩めることは出来ないだろう。触手を伸ばし、叩き潰されてもそこから2体に分離するという異常な行動をするインベーダーと互角に戦っているゲッター1とソウルゲインの姿を見ていると確かにツヴァイザーゲインとの共通性が見えてくる。

 

「所属不明って事は地球の兵器じゃないって事?」

 

「いや、恐らくだがエアロゲイターと戦っている事を考えると地球製と考えるべきだと思うよ、リューネ」

 

「だけどよ、そうなると地球で転移を実用化させているやつらがいるって事になるだろ? あたしには到底地球の兵器には思えないぜ、ギリアム少佐。転移装置を作れる科学者って言えばビアンくらいなもんだろ?」

 

地球の兵器と考えると地球人で転移を実用段階に持ち込んだ研究者がいるが、転移を実用段階に持っていける研究者と言えばビアンくらいしかいない。だから地球人の機体ではないとカチーナは主張したが、ギリアムは首を左右に振った。

 

「いや。間違いなく地球の兵器だ」

 

「ギリアム、そこまで断言するという事は何か証拠があるのか?」

 

カイがそう尋ねるとギリアムは少し考え込む素振りを見せた。

 

「すまない。まだ確証はないんだ……だが、間違いなく地球の兵器だ。それだけは言える」

 

証拠が無いが地球の兵器だと繰り返し主張するギリアム。情報部の秘匿情報で言うことは出来ないのかもしれないとカイは判断し、再びツヴァイザーゲイン、ヴァイサーガ、ズィーリアスの解析を始める。

 

「ラミアちゃん、どうかした?」

 

「いや、すこし気分が優れないので休ませていただきたいと思うのであります」

 

「大丈夫? 付き添おうか?」

 

「大丈夫です、ありがとうございますです」

 

エクセレンの言葉に大丈夫だと笑い、ラミアはブリーフィングルームを出て、自室へと足を向ける。

 

「あ……ど、どうも」

 

その道中でエキドナに出会い、頭を下げて自分の横を通り過ぎようとするエキドナの肩をラミアは掴んだ。

 

「な、何か……?」

 

「1つ……聞きたいんだが、良いか?」

 

「は、はぁ……でも私にはその……昔の記憶が無いので……」

 

記憶が無いというエキドナ。その姿を見て、自分も記憶を失えればどれだけ楽だったんだろうなと思いながらラミアはエキドナの目を見つめる。

 

「やれと言われている事と、自分がやりたいことが違う時……どうすれば良いと思う?」

 

アクセルとヴィンデルを本気でラミアは撃墜しようとしていた。その時はそれが正しい事の様に思えていた、だがこうして着艦し、戦闘時の気分の高揚がなくなれば自分はなんて事をしたのだという罪悪感が込み上げて来た。本来ならば自分と同じ様に行動するべきエキドナ――だが記憶を失い、幼い少女のように振舞う姉妹にラミアはそう問いかけずにはいられなかった。

 

「私は自分のやりたいようにやれば良いと思います。武蔵さんもそう言ってました、迷った時はやりたくない事はやらなければ良いっていってましたから」

 

「……そう……か。ありがとう」

 

「いえ? どういたしまして?」

 

首を傾げながら歩いていくエキドナの背中をラミアはジッと見つめた。人形……自分達は人形だ。だがエキドナは自分で自分の糸を切って歩き出している……仮に記憶を取り戻してもきっとエキドナは自分の意志を貫くラミアにはそう思えた。

 

「……ああ。羨ましいな」

 

敬愛する創造主が望む領域に足を踏み込んでいるエキドナの姿を見て、ラミアは無意識に羨ましいと呟くのだった……。

 

 

 

 

 

ダイテツ、リー、テツヤの3人がいる艦長室でアラドは自分が見た光景を再び説明していた。スクールの仲間であるゼオラとオウカ、そして自分の保護者であったクエルボ。リュウセイの念動力に目を付け、罠を仕掛けていた百鬼帝国の朱王鬼の存在。カイ達に話したものよりもより詳細に、そして己の主観も交えて話を続けた。

 

「……リュウセイには本当……その申し訳無い事をしたと思ってます」

 

アラドが助けたいと言わなければ、リュウセイは念動力で干渉しなかった。今リュウセイが昏倒しているのは自分のせいだというアラドは俯いて小さく震えている。

 

「アラド・バランガ。お前は1つ思い違いをしている、お前がすべき事は謝罪ではない。感謝だ」

 

「感……謝?」

 

「そうだ。感謝だ、仲間の為に、お前が助けたいと思った者を助ける為にリュウセイ少尉は行動に移した。その行動は偽善ではない、英雄になりたいという願望でもない。仲間を助けたいと言う純粋な願いだ、お前が謝ると言う事はリュウセイ少尉の思いを無碍にすること、それは許されない。してはならない、ならば感謝するのだ。自分の願いを聞きいれ、命を賭けてくれた仲間に感謝しろ。安心しろ、リュウセイ少尉はL5戦役の英雄だ。必ず立ち上がるだろう、それなのにお前は俯いているのか? 違うだろう歯を食いしばって前を見ろ、今度こそと己を鼓舞しろ、今回の事で判った事は多い。それを1つたりとも無駄にするな、必ず今度はその手で仲間の手を掴めアラド・バランガ」

 

後悔するな、後ろを見るな。それは全てアラドの為に行動したリュウセイの思いを無駄にする。それだけは決してしてはならないとリーは告げる。

 

「は、はいッ!」

 

「よしッ! 良い返事だ。お前も辛いと思うが、今は休め。次の為にな、宜しいですか? ダイテツ中佐」

 

「ああ、構わない。辛い話をさせたな、アラド曹長。ゆっくりと休んでくれ」

 

ダイテツとリーの言葉を聞いて、敬礼して退室するアラド。その姿が見えなくなってからリーの顔は険しい物に変わる。

 

「リュウセイ少尉の容態は相当深刻なそうですね」

 

リュウセイの意識は依然戻らず集中治療室で眠っている。念動力というものが何なのかはリーには判らないが、肉体面ではなく精神面に大きなダメージを受けたのは明らかだった。

 

「モニターでケンゾウ博士に見てもらいましたが……直接見ないことには容態は判らないとのことです」

 

「そうか……1度リュウセイ少尉は伊豆基地に向かって貰うべきか悩むな。オペレーション・プランタジネットの事もある」

 

地球圏防衛委員会のメンバーが立案したインスペクターへの反攻作戦……オペレーション・プランタジネットの発令前にリュウセイが倒れた。オペレーション・プランタジネットの主力になるのはSRXとゲッターロボD2の2機の特機になる……その片翼が倒れたという事は作戦の変更も視野に入る。

 

「しかし今の状態のリュウセイ少尉を動かすのも危険かと」

 

意識不明の重傷患者を移動させるリスク、そして百鬼帝国がリュウセイを狙っている事を考えると輸送機なので移動させるのも危険だとテツヤが進言する。その話を聞いてリーが自分の考えをダイテツに提案する。

 

「アビアノ基地に残すべきだと思う。オペレーション・プランタジネットの前にノイエDC、百鬼帝国に奪取された基地の奪還作戦を行う。その間様子を見るべきだと思います。武蔵君がアビアノ基地に戻る際にケンゾウ博士を連れてきてもらう事も可能な筈です」

 

何時戻ってくるか判らないが、今伊豆基地にいる武蔵にケンゾウ博士と共に戻って来てもらうという道もあると言うリー。確かにそれが1番安全で、そしてリュウセイにも負担が掛からない。だがダイテツとテツヤは眉を顰め、ダイテツに促されテツヤが手にしていた資料をリーに差し出した。

 

「これは?」

 

「我々が交戦中、伊豆基地に龍虎皇鬼が出現し、ゲッターD2と交戦。伊豆基地に被害は無いが、百鬼帝国の出現確率が高く今すぐに武蔵は動かせない状況にある。アラド曹長の話では術に長けた鬼は月にいるらしいので、地球に戻ってくる前にとワシは考えているのだが……」

 

「どちらもリスクがありすぎる状況です」

 

「……どうしたものか……」

 

意識を取り戻さないリュウセイをどうした物かとダイテツ達は頭を抱えて悩む中。集中治療室の前ではライ、ヴィレッタ、ラトゥーニの3人がソファーに腰掛けていた。

 

「ラトゥーニ、少し休んできなさい」

 

「……もうちょっとだけいたら駄目ですか?」

 

「偵察で疲れている筈だ。休んで来い、リュウセイに何か変化があったらすぐに呼びにいく」

 

ヴィレッタとライの2人に言われてもラトゥーニは立ち上がろうとしなかった。

 

「……怖いんです」

 

「大丈夫よ。リュウセイは……「違う、違うんです……ビーストのパイロットが……怖い。上手く説明出来ないんですけど……あいつがリュウセイをどこかに引きずり込んでしまうんじゃないかって……」

 

「大丈夫よ、ラトゥーニ。リュウセイはどこにも行かない、ちゃんと起きてくれるわ。私とライでちゃんと見ているから、休んで来なさい。ひどい顔よ。そんな顔を見たらリュウセイが心配するわ」

 

ヴィレッタがハンカチでラトゥーニの涙の後を拭いながらそう言って、やっとラトゥーニは立ち上がった。

 

「……すぐ戻りますから」

 

そう言って歩いていくラトゥーニを見送るライとヴィレッタだが、その顔は暗い。

 

「まさか念動力を逆手に取られるなんてね」

 

「想定外でしたね」

 

リュウセイの念動力を逆手にとって洗脳を仕掛けてくる敵なんて想定している訳が無い。そしてリュウセイが倒れた事でラトゥーニの精神状況は目に見えて悪化している。

 

「少ししたらライも休んで来なさい。1時間ごとに交代よ」

 

「……了解です」

 

リュウセイが倒れた事でSRXチームはアビアノ基地での待機となるだろう。今の内に休んでくるようにライに命じ、通路の壁に背中を預け、腕を組んで目を閉じるヴィレッタ。その脳裏には暴れ回るズィーリアスの姿があった……。

 

「似ているわね、どういう事なのかしら」

 

ズィーリアスと己の半身が操ったアストラナガンが似ていると感じていた。何か共通点があるのか、それともアストラナガンを研究している組織がいるのか……と考えにふけりながらヴィレッタは集中治療室の扉が開くのをただひたすら待つのだった……。

 

 

 

 

時間はキョウスケ達がツヴァイザーゲイン達と戦っていた時間にまで遡る、伊豆基地の応接間にレイカーと武蔵、そしてその向かい側にブライアン・ミッドクリッドの姿があった。

 

「初めましてムサシ・トモエ君。こうして君に会えた事を喜ばしく思うよ」

 

「ど、どうも、巴武蔵です」

 

忙しい時間の合間を縫って武蔵に態々会いに来たと言う地球連邦の大統領に武蔵はどう対応すれば良いのかわからなかった。

 

「そう緊張しなくても良いよ。そうだね、知り合いのおじさんに会っている程度の気持ちで良いよ」

 

「はぁ……そうですか」

 

朗らかに笑うブライアンだが、その目は鋭くその軽い口調に対して武蔵は警戒するべき相手だと言う判断を下していた。

 

「流石と言った所かな? さて君に会いに来た理由だけど……これを受け取って欲しい」

 

ブライアンが武蔵に差し出したのは地球連邦軍のマークと大統領府のマークが刻まれたカードだった。

 

「これがその戦時特例って奴のカードですか?」

 

「その通りだ。だけど伊豆基地の戦時特例だけでは、連邦本部の命令を覆せない。地球連邦大統領ブライアン・ミッドクリッドが武蔵君に

お願いする。君の力を、地球を守る為に貸してほしい」

 

「勿論ですよ。その為にオイラは戻って来たんですから」

 

ブライアンの言葉に即答する武蔵、その言葉を聞いてブライアンは子供のような楽しそうな笑みを浮かべた。

 

「ありがとう。武力で解決しなくて済めば、それに越した事はない。だがそれは理想論と言うのは僕も判っている。守る為には戦うしかないってね。そのカードは僕の一代限りの物だ。仮に、僕が失脚しても次の大統領が君に命令を出すことは出来ない」

 

「ブライアン大統領。もしや……?」

 

「ありえる話って事さ。これだけ地球の中が騒がしくなれば、大統領は何をしているって言う世論になる。それはしょうがないことなんだ」

 

ブライアンは自分が近々大統領の座を追われることを予感していた。だからこそ、大統領として活動出来る間に武蔵の独自権を認め、それを証明する物を作り上げた。

 

「武蔵君。君は君が思うままに行動してくれれば良い。だけど、地球征服するとかそういう物騒な事は止めてくれよ?」

 

からかうように言うブライアンの姿を見て、武蔵は先ほどまでの鋭い視線が自分を確かめているのだと判った。

 

「大丈夫です。オイラに出来る事なんてそんなに無いけど、全力で頑張ります」

 

「ありがとう。そう言って貰えて嬉しいよ。そうだ、武蔵君。ゲッターロボを見て見たいんだが良いかな?」

 

「オイラは別に良いですけど……」

 

「レイカー司令は?」

 

「ここまで来たのですから、駄目とはいえませんよ、どうぞ、大統領」

 

武蔵とレイカーの許可を得て、旧西暦から何度も地球を救ったスーパーロボットを見る事が出来るとうきうきした様子で立ち上がろうとしたブライアンだったが、その直後凄まじい振動が伊豆基地を襲った。

 

「うおっと!?」

 

「大丈夫ですか!?」

 

倒れ掛けたブライアンを武蔵が受け止めるのと伊豆基地の警報が鳴り始めるのはほぼ同じタイミングだった。

 

 

「よーし、撃ち方やめッ!!!」

 

伊豆基地の上空に翼を羽ばたかせて浮遊する百鬼獣 龍王鬼から攻撃停止の命令が下り、百鬼獣がその動きを止める。

 

『ちょっと派手な挨拶だったけど、こんな物よね、龍』

 

「おうさ。それに基地には当ててねえ、ちょいと派手な目覚ましくらいなもんだろ?」

 

ヴィンデルがハガネと戦い戦力を見極めようとしている。ゲッターD2ならば戦いの中に乱入する事も十分に可能だ。だからこそ、龍王鬼と虎王鬼が態々日本にまでやってきて足止めをしているのだ。

 

「ったく、大帝の命令とは言えめんどくさいにも程があるぜ」

 

『嘘を言いなさい嘘を、戦いたいんでしょう? ゲッターロボと』

 

めんどくさいと言いつつも、その言葉から滲み出るような闘志を感じ取った虎王鬼がからかうように言うと、龍王鬼は大声で笑い出した。

 

「がははははははッ! そうだ。そうだな! 俺は戦いたいからここに来た! 命令なんぞなくても俺は来ていたさ!!」

 

百鬼帝国も組織である。独断専行、命令違反はいかに龍王鬼とは言え許されるものではない。だが今回は違う、ヴィンデルの頼みを聞いたブライからの足止めをするようにと言う指示の元訪れている。大手を振ってゲッターD2と戦う事が出来る。その事に龍王鬼の闘志は百鬼獣 龍王鬼の周りを歪めるほどに充実していた。そして伊豆基地を取り囲む百鬼獣に乗る鬼達も自分達が大将と慕う龍王鬼とゲッターD2を見届ける為に、自分達の大将がゲッターロボよりも強いという事をその目にする為にやってきた。

 

『やり過ぎないようにね? ま、あたしも人の事は言えないけどね』

 

本来ならば虎王鬼もまた龍王鬼を諌める所だが、虎王鬼もまたどれだけゲッターロボが強いのかという好奇心、そして自分もまた百鬼帝国の将として最強の敵であるゲッターロボに挑みに来ていたのだ。口調こそ穏やかだが、その目は爛々と輝き、龍王鬼に負けないほどに凄まじい闘志を全身からほとばらせていた。

 

「さてと、おめえら。邪魔すんなよ、闘龍鬼しっかりと子分共の手綱を握っておけ、俺と虎が危なくても割り込んでくるんじゃねえぞ」

 

シャインをアーチボルドと共に追っていた他の百鬼獣とはシルエットが異なる機体……百鬼獣 闘龍鬼に向かってそう命令を下す龍王鬼。

 

『判っています。龍王鬼様の邪魔はしません、思う存分戦ってください』

 

「はっ、たりめえだ。俺様よりも先にゲッターロボと戦ってやがるんだ。邪魔なんてしてみろ、ゆるさねえぞ」

 

龍王鬼の言葉に闘竜鬼は何も言わず、武器を手放し頭を下げることでその意を示した。自分はこの場では戦わないと、見ているだけだと行動をもって龍王鬼に告げた。

 

「よっしゃ、行くかあ。最強の鬼が最強の男に挑みに来たッ!!! 巴武蔵! 俺様と勝負しやがれぇぇッ!!!!!」

 

龍王鬼の宣戦布告……いや自分と同等かそれ以上の男への挑戦を望む龍王鬼の決闘を望む雄叫びが伊豆基地周辺に響き渡るのだった……。

 

 

第93話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その6へ続く

 

 

 




区切りの良い所なのでここで話を切りたいと思います。次回は龍王鬼と武蔵のバトルをみっちり書いて行こうと思います。龍王鬼と対決していたので武蔵は救援にいけなかったという事でご理解の程を1つお願いします。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第93話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その6

第93話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その6

 

伊豆基地を揺らしたのは多数の百鬼獣によるミサイルの絨毯爆撃だった。

 

「被害はどうなっている!?」

 

応接間から司令室に駆け込んで来たレイカーが伊豆基地への被害を尋ねる。しかし帰って来た返答は予想外の物だった。

 

「周辺都市及び伊豆基地への被害はありません! 撃ち込まれたのは模擬弾頭です!」

 

「何? 模擬弾頭だと!?」

 

訓練で用いられる模擬弾頭――超大型のクラッカー、もしくはペイントボールによる攻撃だと聞いてレイカーはその目を見開いた。

 

「敵機はどうなっている」

 

「沈黙中です。司令、しかし……今まで確認された百鬼獣とは全て一線を画す姿をしております」

 

司令室のモニターに映し出される百鬼獣はサカエの言う通り今まで確認された百鬼獣とは全く違う姿をしていた。今までの百鬼獣はずんぐりとしていて、巨大な姿をしている物が多かった。強いて言うのならばゲッターロボに似ていると言ってもいい、板金を丸めるや、巨大な装甲の中に無数の部品を詰め込んだ……言い方は悪いがブリキ人形のような姿の百鬼獣が大半を占めていた。だが伊豆基地を取り囲んでいる百鬼獣はその全てがグルンガスト等の特機に類似した特徴を持つ新型の百鬼獣だった。

 

グルンガストに良く似たシルエットをした鋭利な装甲を持つ「百鬼獣 闘龍鬼」

 

細身でサイバスターを連想させる腰に2振りの剣を携えた「百鬼獣 風神鬼」

 

背中に2つの砲台、両肩にそれぞれ2門ずつのレールガン、シールドと一体化したガトリングガンが肘から下に直接装着されているジガンスクードに良く似た姿をした「百鬼獣 雷神鬼」

 

逆立った金髪とこめかみから伸びた捻れた巨大な二本角と、背中に異形の日本刀を背負ったどことなくヒュッケバインに似た鎧武者のような装甲を持つ人型の鬼「百鬼獣 闘刃鬼」

 

ハガネを大破寸前に追い込んだ金色の龍……「百鬼獣 龍王鬼」

 

亀のようなシルエットをした戦艦の上で唸り声を上げる白銀の虎「百鬼獣 虎王鬼」

 

計7体の百鬼獣が伊豆基地を取り囲んでいた。たった7体と思うかもしれないが、単騎でハガネを轟沈寸前に追い込んだ龍王鬼、そしてシャインを救出する際に闘龍鬼と戦った武蔵は完全に互角の勝負をしていた事を思い出し、不味いなと呟いた。

 

「伊豆基地を……いや、日本を制圧しに来たか」

 

通常の百鬼獣ですら並の連邦軍では戦う事は不可能に近い。百鬼獣と同等に戦えるのはハガネやシロガネだが、今はヨーロッパにいるので救援に来ることも不可能だろう。

 

「援軍は期待出来ないですね」

 

ここで伊豆基地にとってマイナスに働くのはDC戦争、L5戦役で主軸になった基地という事で、SRX計画、ATX計画に反対意見を抱いている相手からの受けが悪い。仮に救援要請を出してもそれが届くまでに伊豆基地が壊滅するのは目に見えていた……しかしその最悪の結果は龍王鬼の声で覆された。

 

『最強の鬼が最強の男に挑みに来たッ!!! 巴武蔵! 俺様と勝負しやがれぇぇッ!!!!!』

 

伊豆基地の窓を揺らすほどの凄まじい咆哮が龍王鬼から発せられる。

 

「どうもオイラを指名しているみたいですね」

 

「ま、待て! どう見てもこれは罠だッ! 袋叩きに合うぞッ!」

 

司令室を出ようとした武蔵にサカエが待てとその肩を掴んだ。

 

「大丈夫ですよ。サカエさん、他の鬼なら信じないっすけど、あいつは違う。オイラにダイテツさん達が危ないって教えてくれた鬼だ。嘘は言ってないと思います」

 

「信じられるのか?」

 

「騙されたらオイラが間抜けってことですね。一応念の為にアヤさん達に基地を守ってもらってくださいレイカーさん。百鬼獣はオイラが何とかしますから」

 

そう笑って司令室を出て行く武蔵はスピーカーからスクランブルの要請が掛かっているのを聞きながら、格納庫へと走るのだった……。

 

 

 

警報を響かせている伊豆基地を見つめながら龍王鬼は首を傾げた。

 

「出てこねえな? 逃げるような奴だとは思いたくないんだが……」

 

『龍王鬼様、やはり私達がいるからでは?』

 

『……その可能性は高いかと……』

 

風神鬼からは女の声が、雷神鬼からはしゃがれた男の声が響いた。

 

「んなこと言ってもよ、風蘭達もジッとなんかしてられねえだろ?」

 

風神鬼のパイロット風蘭は龍王鬼の言葉にその通りですけどと苦笑し、それに続き雷神鬼のパイロットである龍玄も困ったように笑った。

 

『いえ、武蔵はその程度では引きません。我々に備えて根回しをしているのでしょう』

 

『そっか、お前は武蔵と戦ったんだったな、三角……いや闘龍鬼だったな、もっとマシな名にすればよかったではないか』

 

『闘龍鬼は我が半身、なれば我が名も闘龍鬼以外ありえん』

 

以前は三角鬼と呼ばれていた鬼はリクセント制圧の公により、その階級を上げ名前持ちへと昇格したが、己の百鬼獣と同じ闘龍鬼という名を冠する事を決めた闘龍鬼に、闘刃鬼に乗るヤイバは肩を竦めた。

 

『ま、俺も人の事は言えないけどな。それでどうします? 虎王鬼様、ゲッターロボ出てこないんじゃないですか?』

 

『いえ、心配ないわ。もう来てる』

 

虎王鬼の来てるという言葉を尋ね返す間もなく、地響きを立ててポセイドン2が鬼達の前に降り立ち、伊豆基地の内部にゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムとタイプTT、そしてエリシオネスが姿を見せ警備体制に入る。だが鬼達はPTには目もくれなかった、ポセイドン2から溢れる闘志、その力強さに戦いたいという欲求が生まれる。

 

「おいおい、俺様の相手だぜ。てめえらは大人しく見てろよ」

 

龍王鬼はその闘志を感じ取り、釘をさしてからポセイドン2の前に出る。

 

「良く応じてくれた。武蔵、俺は嬉しいぜ」

 

『そうかい。まぁお前には借りがある、借りを返すだけだ』

 

武蔵のぶっきらぼうな言葉に龍王鬼は笑う。自分が勝手なことをしただけだが、それを恩と感じ、決闘に応じた武蔵に自分の行いは間違いでは無かったと声を上げて笑う。

 

「安心しろよ、他の奴らに邪魔はさせねえ。俺と虎、それとお前との勝負だ。手は出させねえよ」

 

『そうか。なら始めるか……言っておくが、オイラはここでお前を倒すつもりだぜ』

 

燃えるような闘志、そして自分を倒すと言う強い意志を感じ龍王鬼は声を上げて笑い、その目に燃え盛る闘志を浮かべ、牙をむき出しにしてポセイドン2を、そしてそれを操る武蔵を睨んだ。

 

「行くぜ虎ッ!」

 

『ええ、良いわよ、最初から全力で行きましょうか』

 

「滅神雷帝ッ!!」

 

『神魔必滅ッ!!』

 

伊豆基地周辺を雲が覆いつくし、漆黒の雷鳴と暴風が伊豆基地周辺を襲う。

 

『うっ……』

 

『くうっ……ま、マイ! 大丈夫ッ!?』

 

『な、なんとか……でも……苦しい』

 

『ううぅ……なにこれぇ……ぎもちわるいぃぃ……』

 

念動力者であるマイとアヤを襲う強烈なプレッシャーは、念動力を持たないホルレーさえも襲い。伊豆基地の兵士やレイカー達も余りの頭痛と不快感にその場に膝をついていた。

 

「『邪念合一ッ!!』」

 

一際大きい稲妻の中に龍王鬼と虎王鬼が消え、稲妻を内部から破裂させながら金色の魔神が産声を上げる。

 

「無敵龍鬼ッ! 龍虎皇鬼推参ッ!!」

 

『ガアアアアアアアッ!!!!』

 

龍王鬼の名乗りに呼応するように龍虎皇鬼の雄たけびが周囲に響き渡る。威嚇の為の咆哮ではない、この叫び声自身も攻撃なのだ。戦うに値しない者の闘志を折り、戦う気概の無い者を退ける選別の咆哮。

 

(さぁどうだ、武蔵ッ! お前はどちらだ)

 

アヤ、マイ、ホルレーと伊豆基地の者は龍王鬼の基準に置いて敵とすら見做されなかった、だが武蔵はどうだ? と龍王鬼は機体を込めた瞳でポセイドン2を見つめる。そして武蔵の返答は龍虎皇鬼の顔面を打ち砕かんする剛拳だった。

 

「クハッ! いきなりやってくれるじゃねぇか!」

 

『先に仕掛けてきたのはそっちだろ? がたがた言ってんじゃねえッ!!!』

 

連続で振るわれる拳を防ぎながら龍王鬼はますます笑みを深める。戦えぬ者はその闘志を折る、しかし戦う者はその咆哮によってその闘志を燃え上がらせる――それが龍虎咆哮の効果だった。

 

「はっ! んなもん言う訳ねえだろッ!!! オラアッ!!」

 

『うおらああッ!!!』

 

龍虎皇鬼とポセイドン2の拳がぶつかり合い凄まじい衝撃音を響かせる。それが戦いの合図となり、龍虎皇鬼とポセイドン2の戦いが幕を開けるのだった……。

 

 

 

 

その日。日本中に凄まじい轟音と振動が響き、各都市のあちこちで避難勧告が飛び交った。その振動と轟音に地震、もしくはノイエDCの侵攻を誰もが予感した。しかし、それは地震などではなく海神と魔神のぶつかり合いによって生まれた戦いの余波であった。

 

『うおらぁッ!!!』

 

『おらあああああッ!!!!』

 

ポセイドン2と龍虎皇鬼の右拳と左拳がぶつかり合う。言葉にすればその一言だが、互いの拳が音速を越え、しかも互いに90mに迫る超巨大特機――その余波は日本のみならず、日本海、太平洋にまでその轟音を響かせていた。

 

「くうッ!! マイ! ホルレー! 大丈夫ッ!?」

 

『な、なんとかッ』

 

『ふ、吹き飛ばされないようにするだけでやっとだよぉ』

 

その衝撃の余波を1番受けているのは伊豆基地である。2機が動くだけで生まれる衝撃波はゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R-03カスタム、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプTT、そしてエリシオネスを容易に弾き飛ばしていた。

 

『ハッハーッ!! こいつでぶっ飛びなッ!!! 龍虎双掌ッ!!!』

 

『がはぁッ!?』

 

どす黒いエネルギーを纏った龍虎皇鬼の両手の掌底がポセイドン2の胴を穿ち、その巨体を吹き飛ばす。

 

「行って! シールドビットッ!!」

 

ポセイドン2が倒れ込んだことで発生した大津波を見て、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R-03のシールドビットが受け止める。だが完全にそれを受け止めることが出来ず、伊豆基地のあちこちで警報が鳴り響いた。

 

『この程度で死んでくれるなよッ!!!』

 

龍虎皇鬼の巨体が宙を舞い、エネルギー刃を展開した鋭い回し蹴りが立ち上がったばかりのポセイドン2に迫る。

 

『舐めんなッ!!!』

 

『うおッ!? うぐああッ!?』

 

エネルギー刃を作り出している足先を避けて足首を掴んだポセイドン2がその両腕を振り上げる。それによって龍虎皇鬼が上空に振り上げられ、そしてそのままの勢いで海に叩きつけられる。再び発生した津波を見て、アヤは自分に出来る事はポセイドン2、そして龍虎皇鬼のぶつかり合いで生まれる余波を受け止めることだけだと悟った。

 

『おらぁッ!!!』

 

『ぐうっ!?』

 

倒れている龍虎皇鬼の頭を踏み潰すと言わんばかりにポセイドン2が足を振り上げ、踵落としを叩き込む。

 

『つぶれちまえッ!!!』

 

『冗談言えやあッ! こんな楽しい戦いをそう簡単に終わって堪るかよぉッ!!!』

 

踏み潰そうとするポセイドン2、その足を跳ね返そうとする龍虎皇鬼――そこに割り込む余地など無く、この場にいる全員がただの傍観者であった。下手に割り込めば、その瞬間に死ぬ。快楽主義で享楽主義の戦闘狂のホルレーでさえも、動いたら死ぬと判っているから動けなかった。

 

『ぐあッ!!!?』

 

『ハッハーッ!! 龍虎皇鬼には尻尾があるんだぜッ! 武蔵ぃッ!!!!』

 

龍虎皇鬼の尾が背後からポセイドン2の背中を殴りつけ、ポセイドン2がバランスを崩した隙にポセイドン2の足から逃れた龍虎皇鬼は両腕だけで身体を支え、カポエラのように回し蹴りを叩き込み、その反動で距離を取ると同時に両腕で身体を跳ね上げ、飛び膝蹴りをポセイドン2の顔面に叩き込んだ。

 

『ちょこまかと動きやがってッ!!』

 

『違うぜ、お前が遅いんだッ!!』

 

攻撃力と防御力はポセイドン2の方が上だ。だが龍虎皇鬼はその瞬発力と手数の多さでポセイドン2の上を行っていた。

 

『おらおらッ!!! 行くぜ行くぜ行くぜッ!!!』

 

両足の装甲が分離して作り出された三日月刀を振り回す龍虎皇鬼は完全に勢いに乗っていた。近接特化の相手と戦う上で1番不味いのは相手の流れに巻き込まれる事――防戦一方になれば、そこを巻き返すのは至難の業。特にそれが目に見えて白兵戦特化、そして気力に左右されるタイプの龍王鬼では相手の勢いに飲み込まれたら負けと言うのは判りきっていた。ゲッターロボならば、1度分離して再合体して流れを変える事も出来る……アヤはそう思っていたのだが、戦いを見ていてどうして分離しないのかを悟った。

 

(……オープンゲットしないんじゃない、出来ないんだわッ!?)

 

武蔵としてもオープンゲットをしたいのだろう。だが自動操縦のゲットマシンを晒すことは龍王鬼相手では致命的な隙になりかねない……だから徒手空拳のポセイドン2で必死に攻撃をいなし、反撃の隙を見出そうとしているのだろう。

 

(支援……いや、駄目。そんな事をすれば武蔵がもっと劣勢に追い込まれるッ)

 

今戦いを見ている4体の百鬼獣――もしアヤ達が戦いに割り込めば嬉々として動き出すだろう。龍王鬼の邪魔をしない為に傍観者に徹しているが、戦いに割り込む大義名分を相手に渡してはいけない……アヤ達には今は何も出来ない、何をしても武蔵の邪魔になる。その現実を理解し、アヤはコックピットの中で強く唇を噛み締めるのだった……。

 

 

 

 

 

アヤが割り込む事が出来ないと言うのを悟ったのと同じく、司令部にいるレイカー達もそれを悟っていた。

 

「武蔵君1人では流石にこれ以上は……」

 

「しかし支援を行えば……」

 

「間違いなく百鬼獣が動き出すッ」

 

伊豆基地の設備、そしてアヤ達ならば一瞬の隙を突いて龍虎王鬼の動きを止めることは十分に可能だ。だがそれを行なえば4体の百鬼獣が動き出し、それらと戦う事が出来ないアヤ達を庇いながらの戦いになり、ますます武蔵を劣勢に追い込むことになる。

 

『博士ぇ、攻撃した方が良いぃ?』

 

自分達ではどうすれば良いのか判らなくなり、ユルゲンに指示を求めるホルレーの声が司令部に響く、ユルゲンがレイカーに視線を向け、レイカーが頷いたのを確認してからユルゲンはマイクを手に取った。

 

「ホルレー、そのまま待機だ。コバヤシ大尉の指示に従い行動してくれ」

 

『アヤはぁ……動くなぁって』

 

「ではその通りにしてくれ、決して攻撃などしないように。良いね?」

 

『はぁぃ……』

 

明確な助言を貰えると思っていたホルレーだったが、動くな、アヤの指示に従えという言葉しか貰えず。不機嫌そうに通信をOFFにした。

 

「申し訳ありません。レイカー司令」

 

「いや、試作機であるエリシオネスの応援を頼んだのは私だ。責めるつもりはないさ、ユルゲン博士」

 

伊豆基地で今すぐに動かせる機体がアヤとマイのゲシュペンスト・MK-Ⅲであり、戦力が余りにも不足していると言うことでユルゲンに応援を頼んだのはレイカー本人だ。ホルレーの言動に対してユルゲンを責めつもりは毛頭なかった、元々自分達が無理を言っているのだ。責めれる訳がなかったのだ。

 

「レイカー司令、失礼します」

 

SRX計画のラボで百鬼獣の解析を行っていたロブが司令部に駆け込んでくる。

 

「オオミヤ博士、何か判った事はあるかね!?」

 

遠隔による熱源や音波による解析結果――それが何かの突破口になればと期待したサカエがロブにそう尋ねるが、ロブの顔色は青色を通り越して土気色に近かった。

 

「サカエ参謀。非常に言いにくいことなのですが……動かず戦いを見ている百鬼獣がゲッター1に匹敵するパワーを有しているとしか、判りませんでした。特にゲッターロボと戦っている百鬼獣はゲッターとほぼ互角のエネルギー総量を持ち合わせています」

 

「「「なっ!?」」」

 

ゲッター1と同格のエネルギー総量を持つ百鬼獣が4体、そしてゲッターD2と互角のエネルギーを持つ龍虎皇鬼の存在――本気の百鬼帝国の戦力はゲッターロボと同格の特機を同時に複数体送り込む事が可能という死刑宣告に等しい言葉に司令部にいた誰もがその目を大きく見開き絶句した。

 

「馬鹿な……それほどまでの力を有していると言うのかッ!?」

 

「ゲシュペンスト・MK-Ⅲでもまだ足りないのか……」

 

自分達に出来る事は全てやって来たつもりだった。だがそれすらも一蹴するほどの力を百鬼帝国はまだ隠していた……司令部に絶望的な空気が広がり始める。

 

『へ、やるじゃねえか、だが俺様の勝ちだぜ。武蔵ぃいッ!!!』

 

そしてそれは巨大な三日月に両断される寸前の所を両手で挟み、白羽取りの姿勢で耐えているポセイドン2の姿を見てより強くなる。

 

『オイラを……ゲッターを舐めるんじゃねえッ!!!』

 

『ぬあッ!?』

 

その絶望的な雰囲気を弾き飛ばしたのは、孤軍奮闘している武蔵の雄叫びだった。ポセイドン2の脚部が2足モードからキャタピラモードに変わり、頭2つ分下がる。急に高さが変わったことでたたらを踏んだ龍虎皇鬼の胸にポセイドン2の張り手が叩き込まれ、その手から三日月刀――邪龍剣がすっぽ抜け、戦いを見ている百鬼獣達の目の前に突き刺さる。この戦いを見ている誰もが百鬼獣の誰かが剣を取り、龍虎皇鬼に投げ返すと思っていたが、予想に反して百鬼獣達は全くと言って良いほど動く気配を見せず、龍虎皇鬼も拳を握り、ポセイドン2と向き合っていた。

 

『部下に武器を拾わせないのか?』

 

『おいおい、タイマンで部下を使う馬鹿がいるっつうのか? あいつらは俺様の戦いを見に来ただけ、割りこまねえよ。まぁ、そっちが攻撃をしてきたらその限りじゃねえけどよ』

 

ガッハハハっと高らかに笑った龍虎皇鬼。レイカー達の考えていた通り、アヤ達に待機命令を下したのは正解だった。下手に動いていれば、1体、1体がゲッターロボに匹敵する百鬼獣が戦いに動いていたのだ。

 

『それによ、安心しろよ。俺様と龍虎皇鬼は……素手のがつえぇッ!!!』

 

『そうかいッ!! なら言ってやるよ! てめえよりもオイラとゲッターの方が強いってなあッ!!!』

 

互いに譲れないものがある。自分が相手よりも強い、自分の半身の方が相手よりも強いという傲慢とも言える自負。相手が強いことなんてわかりきっている、だからこそまず気持ちで負けない事。

 

『『オラアアアアアッ!!!!』』

 

大きく振りかぶったポセイドン2、龍虎皇鬼の豪腕がぶつかり合い、周囲に凄まじい衝撃を撒き散らす。龍王鬼と武蔵の戦いはまだ始まったばかりなのだった……。

 

 

 

 

龍虎皇鬼とポセイドン2の戦いを見ていた風蘭はあーあと溜め息を吐いた。

 

「良いなあ、龍王鬼様。めちゃくちゃ楽しそうじゃん」

 

風神鬼のコックピットで緩く弧を描く1本角を生やしたチャイナドレス姿の風蘭がその裾が捲れるのもお構いなしで、足を上げ詰まらないと嘆いた。

 

『仕方あるまい、俺達はあくまで見届け役と伊豆基地へのプレッシャーを掛けるのが仕事だからな』

 

雷神鬼のコックピットでしわくちゃの肌に雷神鬼の巨大さからは想像も出来ない小柄な姿の老人の左側頭部からは灰色の中ほどで砕けた角を生やした龍玄が窘めるように言うが、その龍玄自身がその身から溢れる闘志を押さえ込む事が出来ないでいた。

 

『やれやれ、これならオウカ達についていったほうが面白かったかなあ?』

 

コックピットの中で胡坐をかいた16歳ほどの若い青年に見える鬼――ヤイバは5cmほどの短いこめかみから伸びた角を撫でながらそう呟いた。龍王鬼、虎王鬼の配下の鬼は龍王鬼の性質に似通った者が多かった、闘争を好みながらも無益な殺戮を好まない生粋の闘争者――それが風蘭、龍玄、ヤイバ、そして闘龍鬼の4人の格上の鬼達であり、その配下の名も無い鬼達も大なり小なり、鬼としての逸れ者が多かった。

 

『闘龍鬼、お前はなんか言わないのか?』

 

『何も言う事はない。この素晴らしき闘争をこの目に刻む、それで俺は十分だ』

 

他の3人と違い闘龍鬼は冷ややかに、龍王鬼と武蔵の闘いを見つめていた。だがその冷めた態度が他の3人の顰蹙を買うことになった。

 

「良いわよねぇ、あんたはゲッターと戦ってるんだからさ」

 

『然り、お前には判るまいよ。この身を焦がす、闘争への熱をッ!』

 

『だよなあ、あークソ、アーチボルドのゴミと組むのが嫌だって言ってリクセントに行くのを断らなきゃ良かったぜ』

 

『後悔後先たたずだな。しかし、そう落ち込むことも、燻ることも無いだろう』

 

『『『あッ?』』』

 

挑発するような闘龍鬼の言葉に3人の鬼のドスの利いた声が響くが闘龍鬼は笑いながら、その嫉妬さえ込められている殺気を受け流す。

 

『これは顔見せ、決して本気で戦いに来た訳じゃない。俺達だってまだ戦える機会は残されている』

 

「……まぁ、そう言われればそうよね?」

 

『確かにその通りだな』

 

『別に敵はゲッターロボだけじゃねえし? おもしれえ敵もいるかもだよな』

 

今回の出撃はヴィンデルの頼みの足止めであり、本気の進軍ではない。ならば適当な所で龍王鬼も戦いを切り上げるだろう、ならば自分達が戦える時を待てばいい。闘龍鬼の言う通りだと風蘭、龍玄、ヤイバは1度大きく息を吐いて、気を落ち着ける。そして何れ自分達が戦うであろうまだ見ぬ強敵との戦いに胸を躍らせながら武蔵と龍王鬼の戦いを見つめ、闘志を燃やしているのだった……。

 

 

 

第94話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その7へ続く

 

 




トップがバトルマニアなので、配下もバトルマニアばかりでした。絶望的な気持ちで見ているアヤ達と違い、自分達も戦いたいとうずうずしていると言う温度が差大きいですね。次回も武蔵と龍王鬼の戦いをメインで書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第94話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その7

第94話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その7

 

コックピットの中で虎王鬼はにっこりと笑いながら、龍王鬼に通信を繋げる。虎王鬼から見て戦況は6ー4で龍王鬼が不利だった……例え互いに初見の戦闘で相手のデータが殆ど無いという互いにハンデもアドバンテージもなしの戦いだが、龍虎皇鬼とゲッターポセイドン2では龍虎皇鬼の方が明確なウィークポイントが存在していた。

 

「あたしも手伝ってあげようか?」

 

龍虎皇鬼は2機の百鬼獣が合体した超鬼神だ。2人で操縦して100%その力を発揮出来る……だが武蔵がゲッターD2を1人で動かしていると知り、龍王鬼は対等な条件で戦う為にあえて単独操縦でゲッターD2と武蔵に挑んでいた。中国拳法をベースにした格闘術でアドバンテージを得ていたが、武蔵が徐々にそれに慣れ始め、ジリジリと龍王鬼は追い詰められ始めていた。

 

『おいおい、虎よぉ、俺様が助けを求めるように見えるかぁ?』

 

口から滴る血を腕で拭い、ペッと吐き出す龍王鬼の目は爛々と輝き、牙をむき出しにして押さえ切れない闘争心と高揚感をその顔に浮かべていた。それは自分が不利という状況でさえも楽しんでいる戦闘狂その物の姿だった。

 

「助けてくれって言われたらあたし、龍を見限っちゃうかも」

 

そして虎王鬼も手伝おうか? と言いつつも助けよう、手伝おうという意志は全く無く、むしろ龍王鬼を焚きつける為の先ほどの通信だった。龍王鬼は強く、己の意志を押し通す傲慢さがあった。だからこそ虎王鬼は龍王鬼の妻となった。しかしだ、自分が不利だからと助けを求めるような情けない男に心を許したつもりはないときっぱりと言い切ると龍王鬼は大声で笑った。

 

『なら心配ねえな! 俺様はお前に助けを求めるような真似はしないぜッ!!』

 

こうして言葉をかわしている間も龍虎皇鬼はポセイドン2から与えられるダメージに呻き、その振動は確実に龍王鬼と虎王鬼を蝕んでいた。だがそれがどうしたと言うのか、全力を持って戦うにふさわしい相手にめぐり合えた。それだけで2人の心は激しく燃え盛り、その全身を包み込もうとしていた。その最高の気分に水をさす通信が入り、虎王鬼は眉を顰める。

 

「後30分くらいで終わりよ、龍」

 

『なに? ヴィンデルの奴、もう撤退したのか?』

 

「そうみたいよ? となるとあたし達の仕事も終わりだし、あんまり勝手をすると大帝に叱られるわ」

 

あくまで今回の戦いはヴィンデルが動いている間武蔵とハガネを合流させない為の物であり、ヴィンデルが引いたのなら龍王鬼も引かざるを得ない。

 

『まだ時間はあるよな?』

 

「勿論」

 

『うっし、なら少し派手に立ち回るぜ。虎、龍虎皇鬼がちっと本気になったみたいだ』

 

龍虎皇鬼の全身から凄まじい覇気が立ち昇り、周囲を歪め始める。それに伴い、龍虎皇鬼の翠緑の瞳が血に染まるように真紅へとその色を変え、兜のように被っていた龍の顔がスライドし、鼻から上を覆い隠し、その筋肉が激しく隆起する。

 

【ウガアアアアアアア――ッ!!!】

 

「あらあら、龍虎皇鬼もこんな所で終わるのは嫌みたいね、本当我侭で龍みたいだわ」

 

『おいおい、俺様を子ども扱いすんなよ……虎ぁ……』

 

「じゃあ貴方は我慢できるの?」

 

『……そりゃまあ、無理だけどよ……』

 

龍虎皇鬼は意志を持つ百鬼獣――いや、ブライの手によって超機人の性質を真似て作られた百鬼帝国版超機人。それが龍王鬼、虎王鬼、朱王鬼、玄王鬼の4体の百鬼獣だった。闘争を、心踊る戦いを好む龍虎皇鬼は好敵手を前に、不完全燃焼で撤退するなんてごめんだと吼える。そしてそれを窘める立場であるはずの龍王鬼も完全に火がついていて、このまま引き下がるなんて真似は出来ない状態だった。

 

「やりすぎちゃ駄目よ?」

 

『はっ! それは武蔵次第だなあッ! 行くぜ龍虎皇鬼ッ!!』

 

ここで武蔵を殺してはならない。それは龍王鬼も虎王鬼も判っていた、だが龍虎皇鬼の咆哮によって火のついた心は抑えることが出来ず残された時間を全力で戦う事を決め、ポセイドン2へと飛びかかるのだった。

 

 

 

 

伊豆基地の窓を全て粉砕し、その雄たけびが届いた日本各地の人間を気絶させる龍虎皇鬼の大咆哮を至近距離で聞いた武蔵。常人なら立ち竦み、恐怖するその咆哮を武蔵は受け止め、そしてその上で獰猛に笑った。

 

「こっからってかッ! 来いやぁッ!!!」

 

両腕を広げ、まるでプロレスラーのように構えるポセイドン2に向かって魔神から龍人形態に変化した龍虎皇鬼がその爪をむき出しにし飛び掛る。

 

「なろッ!!」

 

『はっはぁッ! いくぜいくぜいくぜッ!!!』

 

先ほどまでの中国拳法を元にした畳み掛けるような連続攻撃ではない。獣染みた俊敏性と本能のまま振るわれる両手足は鋭く、一瞬でも油断すればその瞬間になます切りにされるような鋭利な斬撃の嵐を前にしても武蔵は脅えることも恐怖することもなかった……何故ならば。

 

「さっきよりやりやすくなったぜッ!!!」

 

『ぐふうッ!?』

 

カウンターで突き出されたポセイドンの拳が龍虎皇鬼の顔面を捉え、龍虎皇鬼と龍王鬼の苦悶の声が重なる。

 

『ははッ! 随分と動きが良くなったじゃねえかッ!!』

 

【グルルルッ!!!】

 

殴られ、吹っ飛ばされた勢いを利用し、空中で宙返りをし空中を蹴って加速している龍虎皇鬼の突き出した左腕を脇に抱えるようにして受け止め、そのままの勢いでポセイドン2は龍虎皇鬼を海面に叩きつける。

 

「うらぁッ!!!」

 

跳ね上がって来た龍虎皇鬼の顔面に右拳を振り下ろす。凄まじい衝撃音が響き渡り、海に亀裂が走る。

 

『ぐうっ! おいおい、俺様が本気になったっていうのに何でこっちの方が追い詰められてんだよッ!!』

 

「はッ! てめえで考えなッ!!」

 

龍虎皇鬼が腕を1回振るうまでに、ポセイドン2の豪腕が1つ、2つと振るわれ龍虎皇鬼の顔面を跳ね上げ、仰け反っている龍虎皇鬼の顔面に大きく振りかぶったポセイドン2の右ストレートが叩き込まれ龍虎皇鬼の巨体が水平に殴り飛ばされる。

 

『うーいてて……おう、てめえ。化けもんとやりなれてやがるな?』

 

「その化け物が何言ってやがる」

 

龍虎皇鬼と言う事に変りはない、だが前提が違う。魔神形態の龍虎皇鬼は体術を駆使し、技術で戦う百鬼獣だ。それに対して龍人形態は言うならばその圧倒的なポテンシャルを利用した獣染みた戦いだ。メカザウルス、インベーダー、アインスト――数多の化け物と戦ってきた武蔵からすればどちらが戦いやすいかなんて言うまでも無いだろう。

 

「自分が不利だからって戦うのは嫌ってか?」

 

『はっ! 冗談を言うなよ。自分が不利な状態で相手に勝つからおもしれえんだろうがッ!!』

 

龍虎皇鬼の姿が掻き消え、海面が何度も割れ、凄まじい勢いでポセイドン2に向かって突っ込んでくる。その巨体の体当たりだけでも十分な威力を持っているのは誰が見ても一目瞭然であり、それを見れば誰だって恐怖し足が竦む。しかしそれだけではない、海面が爆発するごとに龍虎皇鬼の姿が増え、何十機という龍虎皇鬼がその目を真紅に輝かせ、三日月状の鉤爪を振りかざす。

 

「そこだぁッ!!!」

 

視界一杯を埋め尽くす龍虎皇鬼、そして一撃でポセイドン2ですら引き裂くであろう鋭い爪の嵐に武蔵はポセイドン2を走らせ、フック気味にその腕を振るう、雷かと思う凄まじい轟音が響き、次の瞬間には分身が掻き消え身体をくの字に折った龍虎皇鬼が空を舞っていた。

 

【グギャアッ!?】

 

『ぐほっ!? は、ははははははッ!!! 良いぜ良いぜッ! やっぱりお前は最高だッ!』

 

吹き飛ばされながら身体を回転させ、龍虎皇鬼の爪がブーメランのように飛び、ポセイドン2へと迫る。

 

「んなもん利くかあッ!」

 

両腕をクロスさせコックピットを守りながらポセイドン2は龍虎皇鬼の後を追い、ショルダータックルを叩き込むと同時に両肩のゲッターキャノンを乱射し、龍虎皇鬼への追撃を続ける。

 

『そうかい、だけどよ。俺様と龍虎皇鬼を舐めるんじゃねえよッ!!!』

 

【グオオオオッ!!!】

 

「ぐ、うあああああーーーッ!?」

 

反転した龍虎皇鬼の胸部が風船のように膨らみ、そこから吐き出された青白い炎にポセイドン2が飲み込まれ、炎の中から武蔵の苦悶の声が響き、着地した龍虎皇鬼が執拗にポセイドン2に炎を吐きかける。

 

『む、武蔵ッ!?』

 

初めて聞いた武蔵の苦しそうな悲鳴にアヤが思わずゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R03カスタムを操り、助けに動こうとした瞬間炎の中から縄が伸び、龍虎皇鬼の右腕と左腕に絡みついた。

 

「まだまだぁッ!!」

 

『はッ! 上等ッ!!!』

 

自分の方に引き寄せようとするポセイドン2とそれを腰を落として耐えながらも、炎を吐き続ける龍虎皇鬼――このぶつかり合いがこの戦いの勝敗を分ける最後の駆け引きなのだった……。

 

 

 

 

龍虎皇鬼とポセイドン2の戦いは2機の巨体さも相まって、それこそ神同士の戦いのようにレイカーには見えていた。

 

『ぬあああああッ!!!』

 

『はっはぁッ! 温い電撃だなぁッ!!!』

 

龍虎皇鬼は青白い炎を吐き続け、ポセイドン2は帯電している縄を龍虎皇鬼に巻きつけ、自身の方に引き寄せようと力を込める。

 

『っとッ! そう思い通りに行かせるかよッ!!!』

 

炎の勢いが増しポセイドン2の装甲が赤く光り始める――凄まじすぎる熱によってポセイドン2の装甲の表面が融解を始めていた。

 

『うぐうッ!?』

 

そしてポセイドン2の装甲が融解を始めていると言うことは当然武蔵は灼熱地獄の中にいると言うことだ。だが武蔵はその強靭な精神力でその熱に耐え、龍虎皇鬼を自分の方に引き寄せるのを一瞬たりとも緩める事は無く、しかもそれと同時に反撃にフィンガーネットの電圧を上げ、龍王鬼への攻撃を続けていた。

 

『うがぁッ!!!』

 

『ぐうう……ッ! どうしたあッ! 温い電撃じゃねえのかッ!!』

 

『うるせえッ! 温すぎて欠伸が出たんだよッ!!! そっちこそもう苦しいじゃねえのかッ!』

 

『冗談言ってんじゃねえッ!!』

 

『それはこっちの台詞だぁッ!!』

 

龍虎皇鬼の吐き出す炎の勢いが増し、フィンガーネットからの電撃は雷に迫る勢いになる。

 

『『がぁぁああああああッ!!!!???』』

 

ポセイドン2の装甲の融解が一気に進行し、装甲の隙間から中の内部装甲が見え火花を散らす。

 

龍虎皇鬼もまた過度の電圧をその身に浴び続け、あちこちがショートしているのか黒煙を上げている。

 

それでもポセイドン2と龍虎皇鬼は一切攻撃を緩める事無く、互いに苦悶の呻き声を上げながら自分が倒れるよりも先にお前を倒してやると言わんばかりに攻撃を続ける。

 

『ぐあッ!?』

 

そして先に限界を向かえたのは龍虎皇鬼だった。一際大きな音を立てて、龍虎皇鬼の全身から力が抜けた。過度な電圧を前に龍虎皇鬼の内部が一部ショートし、その機能を停止させた。百鬼獣である龍虎皇鬼は即座にショートした箇所を回復させ脱力した身体に再び力が篭もる。

 

『貰ったぁぁあああああッ!!!』

 

1秒にも満たない脱力時間だったが、それは武蔵にとっては十分すぎる隙だった。フィンガーネットを高速で巻き取り龍虎皇鬼を引き寄せ、その肩の装甲を掴みそのまま回転を始める。

 

『こんなこけおどしが効くと思ってるのか?』

 

『そいつは最後まで見てから言いなッ!!! うおらああああッ!!!!』

 

キャタピラモードによる高速回転、それによって龍虎皇鬼の身体はほぼ水平となり、ポセイドン2に振り回されている。だがそれだけだ、それだけでは龍虎皇鬼にダメージを与える事は出来ない。だがポセイドン2の回転が上がるにつれて徐々に龍虎皇鬼とポセイドン2の距離が広がって行き、遠心力による回転は激しさを増し、台風を作り出す。

 

『こ、こいつはぁッ!?』

 

『うぉぉおおおおおおおッ!! 大ッ! 雪ッ!! 山ッ!!!!』

 

龍虎皇鬼の肩を掴んだ時に身体に巻きつけられていたフィンガーネット――それを伸ばしながら高速回転することによって生まれた凄まじい遠心力は龍虎皇鬼であったとしても脱出不可能な真空の渦を作り出していた。

 

『おろしぃぃいいいいいッ!!!!!』

 

『う、うおおおおぁぁあああああああ――ッ!?』

 

そしてそこから放たれるは武蔵の十八番である大雪山おろし。高速回転したまま振り上げられ、そのままの勢いで跳ね上げられた龍虎皇鬼は螺旋回転しながら上空へと投げ飛ばされる。今までの大雪山おろしだったならば、これで終わりだ。だが武蔵もここに至るまでの戦いでその技量を大きく上げ、最強の大雪山おろしを身につけていた。

 

『こっからが新しい大雪山おろしだぁッ!!!! ゲッタァアアサイクロォォォンッ!!!!!』

 

胸部の装甲がパージされ、姿を見せた大型フィンから放たれたゲッター線の証である翡翠の光に包まれた暴風が伊豆基地上空で回転している龍虎皇鬼を飲み込み、更に上空へと跳ね上げる。

 

【グルアアアアッ!!!】

 

『ぐ、はははははッ!!! まだだ、まだやろうぜええッ!!!』

 

真空の刃に引き裂かれ全身からオイルを撒き散らしながらも龍虎皇鬼の闘志は折れず、空中を蹴り強引に間合いを詰めようとする。だが次の瞬間竜巻を引き裂いて飛んできたフィンガーネットに龍王鬼はその顔色を変えた。

 

『フィンガァァァネットォォォオオオオッ!!!!』

 

即座に伸ばされたフィンガーネットが龍虎皇鬼を包み込み、ポセイドン2はジャイアントスイングの要領で回転しながらフィンガーネットを巻き取り、真空の刃で龍虎皇鬼を引き裂きながら己の元へと引き寄せる。

 

『う、うおァああおッ!?』

 

連続で縦、横、斜めと振り回された龍王鬼は三半規管がめちゃくちゃになり、自分が今どこにいるのか、そしてポセイドン2との距離も全く判らない状態に陥っていた。

 

『こいつでトドメだッ!!! 極ッ! 大ッ!! 雪ッ!!! 山ッ!!!!! おろしぃぃいいいいいいッ!!!!!!!』

 

再び龍虎皇鬼を捉えた武蔵は今度はフィンガーネットを巻きつけることは無く、生身で大雪山おろしを放つように繊細な重心移動、そして今までの戦いで培って来た全てを己の糧として繰り出された大雪山おろしは正しく、武蔵の今までの戦いの集大成であり、極・大雪山おろしの名に偽り無しの必殺技はその名の通り龍虎皇鬼に致命傷を与え、ポセイドン2は仁王立ちしたままそのカメラアイから輝きを消すのだった……。

 

 

 

海面に叩き付けれる寸前に龍虎皇鬼から虎龍王鬼に転神し、受身を取った龍王鬼と虎王鬼だったが武蔵とポセイドン2同様、そのダメージは深刻で、コックピットの中で2人は揃って血反吐を吐いていた。

 

「ごほッ! いや、流石にこれはきっついわねえ……」

 

『おお……流石の俺様もこれ以上は無理だ……な』

 

鬼の身体であったとしても、あれだけ長時間電撃に晒され、その上大雪山おろしをあれだけ重ねて喰らえば、そのダメージは無視出来る物ではない。

 

「もうヴィンデル達も決着がついただろうし、帰りましょうか」

 

『おう。決着はつけてえが……これくらいだろうぜ』

 

足止めのはずが完全に熱が入ってしまった……龍虎皇鬼のダメージはおいそれと回復する物ではなく、仁王立ちしたまま意識を失っている武蔵も龍王鬼と虎王鬼からすれば敵ながら天晴れと賞賛するべき物であった。だからこそ、ここで戦いは終わり。これ以上戦うつもりは龍王鬼達には無かった。

 

「さて、皆帰るわよ。今回は痛みわけってことでね」

 

こちらから仕掛けたのだ、手を引くのもこちらからが道理と言う虎王鬼に風蘭が問いかける。

 

『宜しいので?』

 

動きを止めているポセイドン2を見れば、完全に武蔵が意識を失っているのは明らか、ここで倒しきれるのに良いのですか? と問いかける風蘭に龍王鬼と虎王鬼は声を上げて笑った。

 

「これだけ楽しい戦いだったんだもの、これで終わるのは勿体無いわ」

 

『そういうこった! さーて、野郎共帰るぞぉッ!!!』

 

今回は足止め、それがブライからの指示であった。少しやりすぎたが、ここでゲッターと武蔵を倒せという命令も受けていない。ならば足止めを終えた段階で後は龍王鬼の自由なのだ。だから龍王鬼は自由に戦い、そして満足したので撤収するというのは道理だった。

 

『じゃあな! 人間共! 良い勝負だったって武蔵に伝えておいてくれよな!! んで決着はまた今度付けようぜッ!』

 

「武蔵によろしくね。じゃあ、今度はちゃんとした戦場で会いましょう」

 

亀のような百鬼獣に龍王鬼達は回収され、島と同じ大きさの百鬼獣――「陸皇鬼」はステルスを展開し、最初からそこに存在しなかったように消え去るのだった。

 

『お、終わった……?』

 

『あんな化け物と戦うなんてごめんですねぇ……』

 

『武蔵! 武蔵! 応答してッ!?』

 

『いかん! ゲッターロボを回収しろッ! 医療班は格納庫へッ!!!』

 

龍王鬼達が姿を消しても、その戦いの爪跡は伊豆基地に深く残されており、気絶している武蔵を救出する為のレイカーの指示が司令部から響き渡るのだった……。

 

「終わったみたいだね……アルテウル」

 

「そのようですね、大丈夫ですか? 大統領」

 

伊豆基地地下のシェルターで戦いを見ていたブライアンとアルテウルは揃って安堵の溜め息を吐いた。

 

「大統領はこちらでお待ちください。私が話を聞いてきますので」

 

ブライアンの返答を聞かずにシェルターを出たアルテウルはどす黒い光をその目に宿し、伊豆基地の通路を進む。

 

「あんなゲッターロボを私は知らない、だが……素晴らしい、記憶を取り戻してすぐにあんなものを見れるとは……ニブハルに感謝しなければな……」

 

従順な大統領補佐官の姿はそこには無く、漆黒の意志をその目に宿し、己の行なう全てが正しいと信じている――そんなおぞましい意志がアルテウルから放たれていた。

 

「3人……3人揃えば、届く、届くぞ……ッ!」

 

記憶を失っていた時間が長く、本来の計画は何一つ進んでいない。だがゲッターロボがあれば、あの真ゲッターをも越えるゲッターロボがあれば己の願いは叶うとアルテウルは狂ったように笑みを浮かべる。

 

「アルテウル大統領補佐官! シェルターから出られては困ります!」

 

背後から兵士の声が響いた時、アルテウルが浮かべていた邪悪な笑みは消え去り、その瞳には柔らかな光が宿っていた。

 

「すみません。振動が収まったもので、戦いはどうなったのですか?」

 

「鬼は無事に退けました。今からその報告に向かおうとしていたのです」

 

「ああ、それは良かった。武蔵君、彼に感謝しなければいけませんね」

 

そう、アルテウルは武蔵に感謝していた。しかそそれは命を救われたからではない、今はまだ遠くても必ず太極に辿り着く者――最も新しく、そしてもっとも旧き進化の使徒の存在にアルテウルは心から感謝しているのだった……。

 

 

第95話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その8 へ続く

 

 




今回で龍王鬼との戦いは一時決着、結果はドローとなりました。少なくともこれで四邪の鬼人は武蔵と同等クラスの化け物だったと判っていただけたと思います。そして暗躍を始めるアルテウルとフラグもバッチリ用意できたと思います。次回は各陣営の状況把握等の話を書いて次の話に入って行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第95話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その8

第95話 影の軍勢/立ち塞がる龍虎 その8

 

龍王鬼を退けはしたが、結果は引き分け……ではなく人類側の負けだった。武蔵は完全にダウンしており、向こうにはまだ味方が5体おり、ここでゲッターロボを倒すつもりならば倒す事も可能だった。今後の必要な戦力、連携の話し合いの場に包帯塗れの武蔵の姿もあった。

 

「武蔵、休んでいても構わないんだぞ」

 

「心配してくれてありがとうございます。でもオイラは全然問題ないですよ、レイカーさん」

 

包帯なんて大袈裟なんですよと笑う武蔵を見て、レイカー達の胸中はありえないの一言で埋め尽くされていた。伊豆基地の医療スタッフの診察結果は全治半年、意識を取り戻すか危ういと言う物だった。そんな重傷の武蔵が僅か数時間で意識を取り戻し、歩き出し、食事も済ませている。

 

(悪い事をしたな……)

 

武蔵の治療をしていた医療スタッフがパニックになるのも当然だった。自分達の知る医療の常識を覆されたのだ、混乱するのも当然だ。だがレイカーは武蔵が意識を取り戻してくれた事には正直感謝していた。

 

「実際に戦ってみてどうだった?」

 

「そうっすね……完全に負けですね。あの龍虎皇鬼を倒しても姿を変えて動く余力があった、それに桁外れに強そうな百鬼獣も4体残ってましたし……完全に見逃してもらった形ですね」

 

レイカーの問いかけに武蔵は自分の完全な負けだったとすぐに返事を返した。戦闘中に意識を失う……それは数秒であれ生死を分ける。そんな中で1時間も意識を失っていれば殺すのは容易かったのは馬鹿でも判る理屈だ。

 

「大気圏を突破するより熱いのは流石に予想外でしたね、丈夫で長持ちが自慢でしたけど……あれは流石に駄目ですね。ゲッターなら耐えれますけど、PTとかじゃ溶かされちゃいますよ」

 

武蔵の嘘偽りのない龍虎皇鬼と戦った感想はレイカー達にとってとても耳が痛い内容だった。用意して来た戦力が何の役にも立たず、武蔵とゲッターロボと互角の敵が複数体いると言うのは絶望的な物だった。

 

「武蔵、仮にSRXがいたらどうだった?」

 

「そうですね。かなり有利に立ち回れたと思いますよ、ロブさん。贅沢を言うつもりじゃないですけど……後1体か2体、ゲッターD2と同じ位の戦闘力の機体があればなんとでもなると思うんですよ。最悪でも、相手の動き、攻撃を妨害してくれる支援があれば……互角かそれ以上に戦えると思います。SRXがあればもっとらくですけどね」

 

相手の出鼻を挫く支援機、特機クラスだからこそ武器などにピンポイントに狙撃し僅かでも軌道や攻撃の勢いをそらす――そういった支援機があるだけでも大分変わると武蔵は言う。

 

「今回の件はすまなかった。また武蔵だけに負担を掛けてしまった」

 

「いや、気にしなくていいですよレイカーさん。正直オイラもあんなに強いと思ってませんでしたし……何よりも、今後の方針が決まった。それは凄く大きな要因だと思うんです、明確な目標。敵の戦力が判ったなら、それについていけるように考えれば良いと思うんです」

 

楽観的と言えばそれまでだが、今までは明確な方向指針も無く、ゲッターロボと共に戦える機体の開発に焦点を向けていた。だが敵の指揮官機の戦闘能力、そしてそれと戦った武蔵からの必要なサポート、欲する友軍機の戦力基準を知れたのは確かに非常に大きい要素だ。

 

「確かにその通りだ。今度百鬼帝国が動き出す前にSRXを再び使えるようにしておこう」

 

「他にも必要な戦力は整えておく、今度は武蔵だけに負担をかけないようにな」

 

レイカーとケンゾウの言葉を聞いて、武蔵はよろしくお願いしますと頭を下げる。自分達の方が武蔵に負担を掛けているのに、それに対して文句を言わず、そして必ず協力してくれると武蔵は信じている。その信頼に応える為に、今まで以上に精力的にレイカー達は動く事を決めた。

 

「近いうちに連邦軍は異星人への反攻作戦に出る。それの打ち合わせでヒリュウ改が伊豆基地に来る事になっているが……武蔵はどうする? 望むのならばこのまま伊豆基地にいてくれても構わないが」

 

インスペクターと百鬼帝国への反攻作戦として発令が決定しているプランタジネッ トの準備の為に各地の連邦軍が動き出している。その一環としてアビアノ基地にいるヒリュウ改が伊豆基地に来る事が決定しているので、ヒリュウ改と行動を共にするのならば伊豆基地にこのままいてくれてもかまわないとレイカーは提案したが、武蔵は首を左右に振った。

 

「シャインちゃんにリクセントを取り戻すのを手伝うって約束してますからね。アビアノに戻ります、あ、でもその前にもう1回ジャーダさんの所に顔を出したいんですけど……」

 

「ああ。アヤ大尉から話を聞いている、明日の夕方までには準備させよう」

 

「すいません。ご迷惑をお掛けしますけど、よろしくお願いします」

 

頭を下げて司令室を出て行く武蔵を見送り、レイカー、ケンゾウ、ロブ、サカエの4人は重い溜め息を吐いた。

 

「今のままプランタジネットが発令されたとしても、勝率は余り高いものではありません。レイカー司令」

 

「そんな事は判っている。問題は、何故上層部が準備も何も出来てないのにプランタジネットを強行しようとしているかだ」

 

余りにも準備期間が短く、レイカー達にはこれが失敗前提の作戦にしか思えなかった。

 

「ゲッターロボとSRXを主力としても、跳ね返せる戦力差ではない筈だ」

 

「確かに……SRアルタードの設計と開発を始めましたが、到底完成するとは思えません」

 

「懸念材料はそれだけではない。何故ここで分断命令が出たのかと、もう1つ……何故ブライアン大統領自らが伊豆基地に来たのかだ」

 

武蔵への特別な戦時特例……これは軍上層部でさえも、命令権を持たないという特別な物だ。だがそれをブライアンが直接届ける理由はない……だがブライアンが来なければならない理由があるとすれば? 例えば大統領の椅子からブライアンを蹴落とす計画が水面下で進められているとしたら……? そしてダイテツ達がレイカーに警告した軍上層部の百鬼帝国の鬼の成り代わりの可能性……。

 

「……これからの戦いは余りにも厳しく、そしてつらい物となりそうだ」

 

謎のゲシュペンスト・MK-Ⅱを主戦力にした部隊の暗躍。

 

ノイエDCを名乗る鬼の尖兵……。

 

百鬼帝国の復活と成り代わりによる連携の崩壊……。

 

ホワイトスターを制圧し、北米を支配下においたインスペクターを名乗る異星人の襲来……。

 

そして生物であり、機械でもあると言う謎の生物群アインストの出現――。

 

今地球はL5戦役時を遥かに上回る窮地へと追い込まれているのだった……。

 

 

 

 

豪華な装飾が施されている通路を目隠しをされ歩くアーチボルドは表面上は普段通りの飄々とした表情をしていたが、内心は恐怖に震え、びくびくとした物だった。

 

「おい、早く歩け」

 

「大帝様をお待たせするんじゃない」

 

背中に押し付けられる銃口の感触に判ってますと返事を返し、どこまで歩かされるのか、自分は何か怒りに触れることをしたのだろうかと不安を抱きながらアーチボルドはひたすらに歩き続ける。

 

「ここだ、いいか大帝様に無礼な態度を取るんじゃないぞ」

 

「判ったな、人間」

 

目隠しを外され、急に飛び込んできた光に顔を顰めアーチボルドはぼんやりと見える扉の向こう側へと足を踏み込ませた。

 

(ここはどこですかね……?)

 

宮殿と言っても良いほどに高い天井と、血のように紅い絨毯、そして贅を凝らした装飾が施されているが、窓は全て塞がれ太陽の光が一切差し込まない異様な内部構造の通路が目の前に広がり、ずっと先に1つだけ扉が見えた。

 

「ここを歩いていけという事ですか……」

 

ベストの内側から取り出したいつものサングラスをかけてアーチボルドはゆっくりと歩きながら、頭の中で情報を整理しようとしていた。

 

(アースクレイドルから連れ出されてから約1時間ほど……乗り込んだのは車ですが……途中で浮遊感がありましたね)

 

自分の感じている感覚で移動距離を導き出そうとアーチボルドは必死に頭の中を回転させる。移動距離、浮遊時間……答えを導き出すのは難しいが決して不可能ではない……非常に難解だが、アーチボルドは大まかな距離感を把握していた。

 

(ジュネーブ付近から大穴で日本……と言った所ですかね)

 

初めて会う百鬼帝国の首領――それがまさか連邦のお膝元にいるものですかね? と頸を傾げながら扉をノックする。

 

「アーチボルド・グリムズです。ご入室しても宜しいでしょうか?」

 

『構わない、入って来たまえ』

 

聞こえて来た声にん? と首を傾げながらアーチボルドは部屋の中に足を踏み入れた。

 

「鬼よ、お前が用意した身体はそう悪くないが、腕がなければ思うように動けぬ。あの重力の……ん? なんだ、私と話をしているのに人間を呼んだのか?」

 

切れ長の目をした紅いチャイナドレスの女に視線を向けられたアーチボルド。その瞬間心臓を鷲づかみにされたような痛みを感じ、その場に膝をついて、両手で口を押さえる。そうしなければ胃の中の物すべてをぶちまけてしまいそうだったからだ……。

 

(こ、この感じ……ま、間違いないですね)

 

アースクレイドルで何度かすれ違った老人……常に死臭を纏う異様な存在と同質のナニか……人の姿をしているが、人ではない化け物だとそれを本能的に悟ったのだ。

 

「共行王よ、彼はとても優秀な人材でね。私の為に動いてくれていた、優秀な部下には褒賞が必要だ。そうは思わないかね?」

 

「判らん、判らんなあ? 私はそういう感性は理解出来ぬよ」

 

「ふむ、まぁそれも良かろう。ただ私は彼と話がしたいのだよ、少し圧を緩めてくれるかな?」

 

「……まぁ、それくらいならば妥協してやろう」

 

ふっと身体に掛かっていた圧力が消え、アーチボルドは滝のような汗を流しながら、絨毯に倒れ込んだ。

 

「あそこまで平伏すると言うのは良いな。神を敬う最低限の礼儀を守っている」

 

平伏しているのでは無いが、共行王は倒れているアーチボルドを見て、土下座し頭を上げる事を許可するのを待っていると受け取った。

 

「良いぞ人間、面を上げよ」

 

「……あ、ありがとうございます……ッ!」

 

上機嫌に笑う共行王の声を聞いて、アーチボルドが顔を上げると何メートルも先に居た筈の共行王が目の前にいて、思わず引き攣った声を上げた。

 

「よいよい、そんなに脅えるな。して、人間。名は?」

 

「共行王。彼は私の客人だが?」

 

「良いではないか、鬼よ。神を敬う人間はこのご時勢に珍しい、少しばかり興味が沸いた。さ、はよ、答えよ。私はそこまで気は長くないぞ?」

 

剃刀のように伸びた爪が自分の首元に向けられ、アーチボルドは滝のような汗を流しながら口を開いた。

 

「グリムズ! アーチボルド・グリムズと申します! 共行王様ッ!」

 

殺されないように、精一杯平伏し己の名を口にする。

 

「お主、今なんと言った?」

 

「アー……「違う、性じゃ」……グリムズと……「は、はははははははははッ!!!! あはははははははははッ!!!!!!」ッぐうッ!!!?」

 

鼓膜が破れるかと思った次の瞬間。共行王の手がアーチボルドの首を締め上げ釣り上げた。

 

「グリムズ、グリムズ……ああ、憎きかなエドワード・グリムズの子孫かえ……私を壊した憎き男の子か」

 

「がっぐっ!?」

 

超機人の因縁はアーチボルドも知っていた、だが自分には関係ないことと思っていた事が、自分に跳ね返って来た。自分が関係ない事で何故殺さなければならないのか。

 

「冗談じゃないッ! ご、ご先祖が勝手にやったことッ!! 僕には……何の……関係もないッ!!! 殺される……謂れはないッ!!!」

 

勝手なことをして、財産を食い潰した先祖も親も、祖父も何もかもアーチボルドは憎かった。だからこそ、そんな人間の尻拭いで殺されて堪るかと自分の爪が剥がれても、共行王の手首をつかんで抵抗の意を見せると共行王は楽しそうに笑い出した。

 

「……んふふふ、そうじゃ、そうじゃな。お前はエドワードとはまるで違う、くふふふ、許せよ。人間」

 

パッと首から手を放され、尻餅をついたアーチボルドは咳き込みながら、必死に息を吸う。

 

「くふふふ、お主。気に入ったぇ……バラル、そしてバラルと共に戦ったゲッターロボ……憎きかな、憎きかな……ふふふ、鬼よ。こやつへの褒章、我も1つ噛もうかえ」

 

手にしていた扇子が振るわれると、小さな光が扇子から飛び出し、アーチボルドの目の前で巨大な鉄の板になる。

 

「部屋を壊さないで欲しいな」

 

「良いではないか、どうせ金で済むこと問題なかろう? アーチボルド、お主の黒き、禍々しき魂を私は大層気に入った。バラルを憎め、壊せ、ゲッターロボを壊すが良かろう」

 

楽しそうに笑いながら歩き出す共行王を唖然とした様子でアーチボルドが見つめていると、背後に気配を感じ振り返ると部屋の主……鬼達が大帝と呼び、畏れ敬う鬼が目の前にいた。

 

「……ブライ議員?」

 

「そうだね、君はノイエDCの中で私の正体を知った新西暦の初めての人間だ。アーチボルド・グリムズ君。さ、手を貸そう」

 

「は、はぁ」

 

手を握られ立ち上がらせられるアーチボルドは完全に混乱し切っていた。政界の大物ブライ議員が百鬼帝国の指導者なんて、夢にも思うわけがない。

 

「君はとても良くやってくれている。鬼になるに相応しい人材だ、そして君に与える機体も準備が出来ているんだ」

 

「は、はい……」

 

「君は人間のままで終わりたいかい? もっと強い力、肉体、英知が欲しくないかい?」

 

ブライの言葉を聞いている内にアーチボルドの意識は薄れて行き、ブライの言葉に従うように鬼の身体が欲しいと口にしていた。そしてこの日、アーチボルド・グリムズという人間は死に、新たな鬼が生まれる事となるのだった……。

 

 

 

 

 

シャドウミラー隊がアースクレイドルに戻る道中。そのブリーフィングルームではヴィンデルがレモンの責任を追及していた。

 

「どういうことだレモン。W-17が私とアクセルに逆らったのだぞッ!」

 

ツヴァイザーゲイン、ヴァイサーガの戦闘データに残されていたラミアの言葉は挑発的で、そして戦闘も虚偽ではなく本気でヴィンデルとアクセルを倒そうとしているのが見て取れた。

 

「これは反逆行為だ。Wシリーズはやはり不安定な人形だったのではないか?」

 

「怒っているけどヴィンデル、貴方どれだけ理不尽なことをラミアに要求してるか判ってる? あの子、今ハガネに所属してるのよ。これで貴方とアクセルを攻撃しなかったら自分がスパイだって認めているようなものじゃない」

 

ハガネに所属しているのだから攻撃してくる謎の部隊に反撃してくるのは当然でしょう? とレモンはラミアを擁護する言葉を口にする。

 

「だがあの挑発的な態度、人形にあるまじき行為だ」

 

「結局の所、貴方が怒ってるのはそこでしょ? ラミアに馬鹿にされたってのが気に食わない。馬鹿みたい子供じゃないんだから、もっと有意義なことを言ってくれないかしら?」

 

 

どれだけ話を聞いてもレモンにはヴィンデルが自分を怒鳴りつけているのが、ラミアに馬鹿にされたことに対する怒りにしか思えなかった。

 

「貴様ッ!」

 

「おい、ヴィンデル。今回の件だが俺もレモンに賛成するぞ、少し頭を冷やせ。W-17はいい仕事をしてくれたと俺でさえも思うぞ」

 

レモンに掴みかかろうとしたヴィンデルの腕をアクセルが掴んで止めさせる。

 

「アクセル……人形の肩を持つのか?」

 

「アクセル……貴方」

 

ヴィンデルとレモンはアクセルがラミアを擁護したことに驚きを隠せなかった。

 

「擁護するわけではない、だがW-17はあの状況で最善をなしたと俺でも判る。率先して俺達に攻撃を仕掛ける事で、自分と俺達に何のつながりもないと思わせる良い立ち回りだった」

 

あの戦闘データを見れば誰も、ラミアがヴィンデル達の仲間だとは誰も思わないだろう。Wシリーズという立場でありながら、完璧な立ち回りをしたとアクセルはラミアを賞賛した。

 

「だがあの人形は、私達が百鬼帝国と協力している事を咎めるような事を口にしたのだぞ」

 

「悪いがそれに関しては俺もお前の正気を疑っている。鬼などアインストとインベーダーと大差がない、何故協力しようとしているのか俺にはまるで理解出来ん」

 

捨てた己の世界で猛威を振るっていたアインストとインベーダーと大差がない。そんな相手と手を組むなどと正気じゃないと言うアクセルにヴィンデルは眉を寄せた。

 

「好き嫌いはお前の感情論だ。アクセル、私は今最も最適な……」

 

「好き嫌いの感情論っていうとヴィンデル。貴方がラミアに言っているのと同じよ?」

 

鬼が気に食わないというアクセルとラミア、そして人形だからとラミアを嫌うヴィンデル……そこに差異はないと言われるとヴィンデルは唖然とした様子になり舌打ちをした。

 

「少し頭を冷やしてくる」

 

「ええ、そうしなさいな。良く考えればラミアの行動が間違いじゃなかったって判る筈よ」

 

苛立った様子でブリーフィングルームを出て行くヴィンデル。その様子をレモンとアクセルは呆れた表情で見送り、その直後に陸皇鬼の龍王鬼から通信が繋げられた。

 

『お? ヴィンデルの奴はどうした?』

 

「ごめんなさい、龍王鬼。私達のトップは今へそを曲げてるのよ」

 

「おい、レモン」

 

ヴィンデルを馬鹿にするような言葉を口にするレモンをアクセルが窘めるが、レモンはくすくすと笑うだけで全く気にした素振りを見せていない。

 

『肝っ玉の小さい男ね、全く。トップって言うならどっかりと座って構えられないのかしら?』

 

「本当よね、虎王鬼。それでそっちはどうだった?」

 

『強かったぜぇ! 武蔵はよッ!! 良い勝負だった!!!』

 

伊豆基地で武蔵の足止めをしていた龍王鬼は楽しくてしょうがないと言う様子で笑った。その姿を見てアクセルもレモンをたしなめるよりも龍王鬼の話を聞くことを優先することにした。

 

「どっちが勝った?」

 

『引き分けだ、タイマンなら俺様と武蔵の力はほとんど互角だな。虎が協力してくれたら俺様の勝ち、向こうのパイロットが増えれば向こうの勝ちっつう単純な話だ』

 

武蔵と互角の力を持つ龍王鬼と龍虎皇鬼の存在にアクセルは笑みを浮かべる。そして龍王鬼もそんなアクセルの様子を見て獰猛に笑った。

 

『向こうに帰ったら1つ組み手でもやるか? ええ、アクセルよ』

 

「良いだろう、俺もそう頼もうと思っていた」

 

バトルジャンキー2人の会話に虎王鬼とレモンは揃って肩を竦める。

 

『それでクエルボ達は?』

 

「帰って来たわ。やっぱりアラドに会うだけじゃ駄目みたいね」

 

『そう……あの子には負担ばかり掛けてしまってるわね。レモン、悪いけどそのまま守ってあげて頂戴』

 

「判ってるわよ。私、これでも頼まれたことはキッチリとやるのよ?」

 

ヴィンデルは不在だが、アクセルとレモンは龍王鬼達との情報交換を続けていた。これの情報によって、これからの立ち回り、そして武蔵との対応が変わってくるからだ。

 

「……ド……アラ……ド……どこ……さびしぃ……よ」

 

「せ、セロ博士ッ! ぜ、ゼオラ、ゼオラがッ!!」

 

「オウカ! 呼びかけるんだ! ゼオラ! ゼオラッ! しっかりするんだ!」

 

「ゼオラッ! ゼオラッ!! しっかりしてッ!」

 

アラドとの出会いはやはりゼオラに影響を与えており、何の光もないその瞳に僅かな光が戻り、クエルボとオウカの2人はゼオラに必死に声を掛け続けていた。そしてアースクレイドルに戻り、虎王鬼がゼオラの様子を見た時――ほんのわずかだが、光明が差す事となるのだった……。

 

 

 

 

日本を発つ前に武蔵は再びジャーダとガーネットの所を訪れていた。

 

「そうか、もう行っちまうのか……美味いもんでもご馳走してやろうと思っていたんだが……」

 

「ありがとうございます。気持ちだけでオイラは十分ですよ、それにほら。オイラ食べ過ぎちゃうから、子供が生まれるジャーダさんに悪いですよ」

 

「ばっかやろう。んなこと気にするんじゃねえよ!」

 

武蔵の頭を軽くたたき心配すんなと笑うジャーダに武蔵も笑みを浮かべ返す。確かに新西暦に武蔵の家族はいない、だけど家族のように心配してくれる人間がいる。ビアンやエルザム達、そしてジャーダ達の存在は武蔵にとってとてもありがたい存在だった。

 

「武蔵、今度はあのときみたいな事はしちゃ駄目よ?」

 

「はい、判ってます。もう、あんな事はしません」

 

「約束よ。ちゃんと子供を見に来てね」

 

お腹を摩りながら笑うガーネットに武蔵は勿論ですと笑みを浮かべた。

 

「んじゃあ、オイラはそろそろ行きます。ジャーダさん達も気をつけて」

 

「おう。武蔵、今度はあんな馬鹿な真似をするんじゃねえぞ」

 

「本当よ、ちゃんと今度は帰ってきなさい」

 

2人の言葉に武蔵が頷くと、ジャーダとガーネットの2人は行ってらっしゃいと笑い、武蔵は行ってきますと返事を返した。

 

「すいません、アヤさん。お待たせしました」

 

「いえ、良いわよ。そろそろ「武蔵! はぁ……はぁ……ちょ、ちょっと待ってくれッ!」……コウタ。すいません、アヤさん。もう少しだけ待ってください」

 

アヤの運転する車に乗ろうとした武蔵だが、コウタの自分を呼ぶ声に足を止めた。

 

「いいわよ。まだ時間はあるから」

 

「すみません」

 

アヤに謝罪し、武蔵はコウタの元へと近づき、息を切らしているコウタの背中を摩りながら大丈夫か? と声を掛けた。

 

「どうした、コウタ」

 

「……悪かった。化け物を見るような顔をして、謝りたかったんだ。すまねえ」

 

コウタは鬼を倒す時の武蔵の冷酷な顔を見て恐怖した、そして命の恩人を一瞬でも恐怖した己を悔いて、謝りたいと思っていた。今日運よく、武蔵に出会えた事でコウタは武蔵に謝りたかったのだ。

 

「気にすんなよ、大丈夫。オイラは気にしてねえ」

 

「それでもだ。すまねえ……」

 

謝るコウタの背中を武蔵はバンっと音が出る程に叩き、コウタがいてぇ!っと声を上げる。

 

「謝るな、オイラは気にしてねえ。怖いって思うのは当然だ、お前は悪くねえよ」

 

「つっ……でもよ」

 

「だから謝るなって、戦いなんて怖いもんさ。怖いって思うのは当然だ、だから気にしなくていい、オイラだって鬼と戦うなんて怖いんだからよ」

 

「……武蔵、お前も怖いのか?」

 

怖いと口にした武蔵にコウタがそう尋ねると武蔵は当たり前だと笑った。そして真剣な顔でコウタの肩を掴んだ。

 

「そら誰だって死ぬかもしれないんだ。怖いに決まってる、でもそれ以上にオイラはダチを守れなかったのが怖い」

 

「ダチ……俺がか?」

 

「そうさ。もうオイラとコウタはダチ、そうだろ?」

 

にかっと笑う武蔵にコウタはつられて笑みを浮かべ、武蔵はもう1度コウタの背中を叩いた。

 

「怖いって思うのは悪くねえ。でも、男だったらてめえの守りたい者を守る為に歯を食いしばって戦うしかねえ、そう思えば大丈夫だ。コウタ、またな」

 

「……おう、またな」

 

手を振り歩いていく武蔵にコウタは手を振りかえし、夕日の中車に乗り込む武蔵をジッと見つめていた。守りたい者を守る為に戦う……それは後にコウタが戦いに身を投じた時に大きな支えの1つとなる言葉になるのだった……。

 

「武蔵、イングラム少佐はいつかこっちに合流してくれるのかしら?」

 

「近いうちにイングラムさん達も動くと思います」

 

クロガネを出る前に慎重に動くと聞いていたが、最早そんな事を言っている猶予がないと言うことは武蔵も感じていた。

 

「リュウセイ達によろしく伝えておいてくれるかしら、私は伊豆基地で出来る限りの準備をするって」

 

「武蔵、これから我々はまた君に多く頼ることになるだろう……だが地球を守る為にその力を貸して欲しい」

 

「大丈夫です、心配ありません。ちゃんと判ってますから」

 

レイカー達が自分に戦いを強要しているのではないか? 武蔵が自分達を恨んでいるのではないか? と不安に思っている事は武蔵も判っている。だが武蔵は自分が戦うことを選び、そして戦い続けてきたのだ。それを強要されたと思ってもいないし、押し付けられたとも思っていない。レイカー達に見送られながら武蔵はゲッターD2へと乗り込み、再び戦火の中に身を投じるのだった……。

 

「あーあ、行っちゃったぁ……博士、良いのぉ?」

 

伊豆基地から飛び立つ翡翠の光を見つめながらホルレーはコンソールを叩いているユルゲンに問いかける。本当ならゲッターD2と模擬戦をする予定だったのに、鬼のせいで完全に瓦解してしまい、機動テストすら伊豆基地では出来ず、別の基地へと向かっていた。

 

「構わないさ、全力稼動のゲッターロボを見れた。それだけで十分価値と戦果はある」

 

「そうなのぉ? ねね、博士。今度はあたしもっと頑張るから、頑張ったら褒めてくれるぅ?」

 

「勿論さ、ホルレー。期待しているよ」

 

「博士ぇ、あたし、もっともーっと頑張るよぉ……だからあたしをもっと沢山褒めてねぇ……」

 

ユルゲンに頭をなでられ、気持ち良さそうに目を細めるホルレー。その光景をコンテナ車に備え付けられた培養液の中に浮かんでいる脳や無数の眼球が見つめていた。だがユルゲンもホルレーもその異様な光景に一切動揺する事無く、父と娘……いや、歳の差のある恋人とでも言うべき甘い空気の中、2人は伊豆基地を後にするのだった……。

 

 

 

第96話 激動の世界 その1へ続く

 

 




次回はビアン陣営の話をメインに書いて行こうと思います。後は武蔵がいない間のアビアノ基地での話とかを重点的に書いて、また分岐ルートの話に向けて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第96話 激動の世界 その1

第96話 激動の世界 その1

 

アメリカ大陸の一部に偽装されていたメガフロートの中で入手出来た資料の大半は恐竜帝国、百鬼帝国のいずれの物の資料ではなく、失われた時代――旧西暦と新西暦の丁度中間点に当たる間の技術が多かった。その中でもビアンとグライエンが目を輝かせたのはゲッター線を使わないゲッターロボの資料だった。

 

「この構造資料を見る限りではグルンガスト系列に近いな」

 

「合体機構持ちとそうじゃない物の2種類が用意されているのは良いな……問題は製造プラントか……」

 

ノイエDC――いや、百鬼帝国がビアンを語っているので思うように動く事が出来ないビアン達に出来る事は可能な限りでの戦力の増産、百鬼帝国、アインスト、インベーダーに有効打撃を与えれる武器の開発が急務になるなか、メガフロートに保管されていたゲッターロボの設計図は非常にありがたい物だった。

 

「見たところ開発コンセプトはイスルギの量産型ゲッターロボに近いですが、完成度が段違いですね」

 

「本当に凄い……使ってる物自体はいまの技術で簡単に真似出来る物なのに」

 

ネオゲッターロボの実物と設計図はビアン達……いや、新西暦に生きる物にとって途方もない価値を持つ宝だった。

 

「コアブロックだけを作り武装を換装するシステムのゲッターロボも良いですね」

 

「うむ、開いている箇所が多いから改造がしやすいというメリットもあるな」

 

変形・分離が出来ないゲッターロボも最初からそのように設計され、そして武装を換装する事で必要な戦場に対応すると開発コンセプトはPTやAMに近いが、特機サイズでそれを運用出来るだけの拠点と技術は新西暦には無く、失われた時代の技術力の高さにはビアンとて驚かされていた。

 

「ビアン総帥、お気持ちは分かりますが今は今後についての話し合いが優先ですよ」

 

「む、そうだな。すまない、これの分析と解析、可能ならば製造を始めてくれ」

 

「「はい!!」」

 

ビアンから設計図を受け取り、分かりやすく目を輝かせて走っていく技術班を見送り、次の議題――イングラムとカーウァイが持ってきたあちら側でのインスペクターと、こちら側のインスペクターの戦力分析になる。

 

「ガルガウという機体のパイロットはヴィガジという男で間違いないようです、カーウァイ大佐」

 

「そうか。武蔵のホワイトスターでの会話データと照合する限り、地球圏に現れているインスペクターの戦力に差はないか」

 

「問題は百鬼帝国になるな、月面を制圧していることを考えると……」

 

「まず間違いなく、インスペクターと鬼は協力体制にあるだろうな」

 

「ラングレーとテスラ研での戦いでは百鬼帝国も出て来たから、それは間違いないな」

 

「となると問題は互いへの技術提供でどこまで強化されるかだな……」

 

「それもあるが、月の人間が鬼に洗脳、もしくは鬼にされている可能性も捨て切れない」

 

百鬼帝国とインスペクターの協力によって、どこまで双方の戦力が強化されるかというのが不明瞭な部分であり。更に言えば、月面に残されている人達の洗脳、もしくは鬼にされている危険性など……人類側が圧倒的に不利な状況に陥っており、そこからどう巻き返すか、そして鬼の洗脳を解除する方法、あるいは鬼にされた人間を元に戻す術を見つけ出すことが優先事項の1つになっている。

 

「エルザムの報告にあったが、テスラ研にいた元・鬼のコウキ・クロガネにかんしてはどうだ?」

 

「味方である事は間違いないです。ラドラと似たような感じに私には感じられました」

 

恐竜帝国のキャプテンとして死に、そして人間に生まれ変った。あるいは旧西暦のラドラに憑依したラドラの事例がある……そうなると武蔵が警戒したとおり、ブライが百鬼帝国側の人間である可能性が極めて高くなるのだが……。

 

「ですが、ブライ議員は数多の人道的な法案の成立などに貢献していることを考えると……操られている、もしくは隠れ蓑にしている。両方の可能性が考えられます」

 

「その通りだ。リリー中佐……どうしたものか……」

 

「グライエンを始末しに来たが、ブライの正体を知ったからか、それとも成り代わりの為なのか……不確定要素が多すぎるな」

 

グライエンの暗殺騒動だが……これ自体のミスリードを誘う物と勘繰らずにはいられなかった。ブライ議員とブライ大帝――過去の知識を持つ者はイコールで結びつけるだろう。だがそれすらも罠だという可能性も捨て切れないのだ。

 

「もう少し尻尾を出してくれたら楽なんだがな……いや、そうなるとそれも罠かもしれないか……厄介だな」

 

洗脳の技術、そして成り代わりの技……十数年の間アメリカの改革の為に動き続けたブライ議員の実績。それらを踏まえるとブライは限りなく黒に近いグレー。それがイングラム達の出した結論だった、怪しいが明確な証拠が無く、今ここでブライを害すればビアン達のほうが不利になる……だから手を出すことが出来ない状況だった。

 

『武蔵から連絡が入りました。至急ブリッジに集まってください、繰り返します。武蔵から連絡がありました、至急ブリッジに集合願いします』

 

武蔵からの連絡が入ったというブリッジのオペレーターの報告を聞いて、イングラム達は腰を上げブリッジへと足を向けた。

 

「武蔵君、そちらの調子はどうだね?」

 

『とりあえずレイカーさんとブライアン大統領さんになんか戦時特例特別なんチャラって言う証明書を貰いました。これでなんか、ダイテツさん達に協力していても、拒否権はオイラにあるとかどうとか……これは他の大統領の命令は拒否できるそうです』

 

アビアノ基地に戻る前に1度クロガネと連絡を取る事にした武蔵は日本にいる間何があったのかをビアン達に報告していた。

 

「なるほど、大統領権限で特別な枠を作ったわけか……だがブライアンがその札を切ったという事は……」

 

「近いうちに退陣に追い込まれそうだな……」

 

武蔵とゲッターロボの存在は地球では非常に大きな意味合いを持つ、L5戦役を終結させた英雄機とそのパイロットだ。量産型ゲッターロボ計画はゲッターロボの視覚的安心感も大きく関係している。そんな武蔵が生きていて、新型のゲッターロボを持っているとすれば完全に後手に回っている連邦軍は喉から手が出る程に武蔵とゲッターロボが欲しい筈だ。

 

「少し派手に立ち回りすぎたな、武蔵」

 

『いや、あの場合はああするしかなかったんですよ。すみません、カーウァイさん』

 

浅草、伊豆での武蔵の立ち回りは既に日本のみならず、世界中に発信されている。まだTVなどでは放映されていないが、ネットでは既に死んだと思われていた英雄が生きていたなどの見出しで様々な憶測が飛び交っている状況だ。

 

「別に怒っている訳ではない、仮に私でも同じ事をした」

 

『そう言って貰えると助かります。ハガネを轟沈させかけたって言う百鬼獣と戦ったんですけど……ありゃ駄目ですわ。オイラ1人じゃ良くて相打ちって所です』

 

龍虎皇鬼の話はビアン達も聞いていた。それでもゲッターロボD2ならと思っていたが……武蔵が無理だと告げた事にブリッジにいた全員の顔が険しくなる。

 

「戦ってみてどうだった? 武蔵よ」

 

『ゼンガーさん……そうですね。オイラやゼンガーさんは多分不利だと思います、相手の戦い方は基本的に徒手空拳でとにかく早くて、馬力があります。それに機体の大きさもゲッターと殆ど同じなのが厳しいですね。ポセイドンで互角、ドラゴンだと武器の振りがあるぶん不利、ライガーだと攻撃力不足って所ですね』

 

龍虎皇鬼と戦った感想と所管をビアン達に正確に伝える武蔵。レイカー達に伝えた物と違い、ビアンならば有効な対抗策を考えてくれると思い、より詳しくビアンに情報を伝える。

 

『ゲッターと互角か支援してくれる相手がいれば大分楽ですけど……ゲッターロボと同格っぽい、百鬼獣も確認したんでデータを送りますね』

 

ゲッターD2から送られて来た百鬼獣を見てイングラム達は眉を細めた。今までの百鬼獣と違い、洗礼された最新鋭機という印象を強く感じた。そしてそれは危惧していたインスペクターと地球の技術を応用した物だとイングラム達は確信した。

 

「このクラスの百鬼獣が増えてくると厳しいな」

 

「ああ。明らかに特機やPTの特徴を抑えている。このままこちら側の技術を取り込んだ百鬼獣が増えると厳しいな」

 

元々強力な百鬼獣がその攻撃力と防御力を有したままより柔軟に戦闘に対応出来るように進化するというのは考えられる中で最悪の展開だった。

 

『それとなんかインスペクターと百鬼帝国への反攻作戦を連邦が始めるみたいなんで、とりあえずオイラはハガネとシロガネと一緒にリクセントの奪還に向かいます。ヒリュウ改は日本に向かうそうなので、出来ればそっちの方の応援をお願いします』

 

「了解した。武蔵君も気をつけてくれたまえ、これからの戦いは今までよりもより厳しくなるぞ」

 

『判ってます。ビアンさん達も気をつけてください、じゃあオイラはアビアノに向かいます』

 

その言葉を最後に通信が終わり、ビアン達は武蔵から伝えられた情報、今後のヒリュウ改、ハガネの方針を聞いて、自分達の次なる方針を話し合い始めるのだった……。

 

 

 

 

 

一方その頃、大統領府に戻り、連邦の総司令部のオペレーション・プランタジネットの計画を聞いて、その眉を顰めていた。

 

「……という、完璧な計画になります。ブライアン大統領」

 

「……すまないが、僕にはそれが到底完璧な計画とは思えないのだが……?」

 

総司令部の計画はラングレー基地に向かって北米西海岸からヒリュウ改とシロガネを突入させ、その道中でテスラ研を奪還し、北米東海岸からハガネとノイエDCを突入させラングレー基地を奪還するという計画はどう考えても無謀にしか思えなかった。

 

「ノイエDCと交渉しているのかな?」

 

「今現在交渉中ですが、ビアン博士ならば地球を守ると言う目的で協力してくれるでしょう」

 

「それでトロニウムバスターキャノンで邪魔者を一掃でもするかい? あれは不安定で作戦には使えないとレイカー司令から聞いているけれども?」

 

ブライアンの言葉に眉を顰める総司令部につめている連邦の上層部の人間を見て、ブライアンは懸念をますます強くさせた。

 

「L5戦役でのダイテツ・ミナセ中佐やレフィーナ・エンフィールド中佐の活躍を君達は良く思っていないようだね。ヒリュウ改に機雷を巻きつけた話は僕の所にも来ているよ」

 

「あれは戦闘中の連絡の混雑で……」

 

「ふうん。じゃあ月面でのヒリュウ改の出撃禁止命令はどうなのかな?」

 

「……それにつきましては月面の司令が殉職したので、我々はなんとも……」

 

総司令部の大半がL5戦役でのハガネ達の戦果を面白くないと思っている。オペレーション・プランタジネットは発令しなければならないが、それによりハガネとヒリュウ改を失う訳には行かない。

 

「こんな杜撰な計画を立てておいて、ゲッターロボと武蔵君の徴収は認められないよ。そもそも彼には僕から特別な戦時特例を認めた、連邦の総司令部であれ、僕の次の大統領であれ、彼に命令することは出来ない」

 

「「「なっ!?」」」

 

ブライアンの言葉に総司令部に混乱と驚愕の声が広がる。

 

「何を考えておられるのですか!? ゲッターロボの力は地球を守る為に必要です! 我々が管理する必要があります!」

 

「心配ない、彼は地球を守る為に戦ってくれる。それで構わないじゃないか」

 

「しかし! ダイテツ中佐達達と行動を共にしては」

 

「冤罪を押し付けた君達に武蔵君が協力してくれると思っているのかい?」

 

「で、ですがッ」

 

「くどいよ、もう既に彼は僕たちの手の中に納まるべき器ではない。地球を守る最後の剣にして盾だ、話して判ったよ。武蔵君は自由であるべきだ」

 

伊豆基地で話をした時にブライアンは感じていた。武蔵は自分で考える事が出来ない子供ではない、自分で考え最善の選択をしてくれる。

地球を守る為に、大事な人を守る為に武蔵は戦ってくれるとブライアンは感じていた。

 

「あんな突出戦力を自由にさせて逃亡でもされたらどうするおつもりか!」

 

「ほら、そこだ。君達は武蔵君個人では無く戦力としか考えていない。そんな相手に武蔵君を預けることは出来ないって事さ、オペレーション・プランタジネットの今の計画の内容ではとても認められない。もう1度良く考えて作戦を再提出してくれたまえ」

 

悔しそうに顔を歪める連邦の上層部達を一瞥し、ブライアンは会議室を後にする。

 

(さて、嫌な流れだね)

 

日本での百鬼帝国の戦いで武蔵とゲッターロボの事が明らかになってしまったが、それから半日ほどで、武蔵の人格を無視して戦力として徴収することを考えている相手が増えすぎている。それにノイエDCは宣戦布告の後一切表に出ていない、そんな相手とどうやって司令部は連絡を取ったのか……余りにも情報ルートが不確かだ。それがブライアンが司令部の中の動きを怪しいと感じた理由でもある。

 

「ブライアン」

 

「やぁ。グライエンにブライ議員、どうかしたかな? もしかして作戦に口を出したことが不満かな?」

 

「いや、それに関しては私もおかしいと思っていたので問題はない」

 

……ブライアンの予想ではグライエンは既に成り代われているはず。今1番サシで立ち会いたくない相手の言動が読めず、ブライアンは眉を細める。

 

「ノイエDCとの交渉は私が提案したものだ。オペレーション・プランタジネットに向けて、私が必ず協力すると言わせて見せよう。だからこの件は私に任せてくれないか?」

 

「月面を制圧している者達と交渉をしないわけにも行かないだろう。月に関しては私に1度チャンスをくれないか? 人の姿をしているのならば、言葉を交す事も出来るはずだ。百鬼と名乗ってはいるが、本当に鬼と言う訳ではないだろうからな」

 

(なるほどね……嵌められた)

 

グライアンの要望は的を得ており、それを拒否すれば大統領としての判断ミスを疑われる、そして月で人質にされている民間人についてなんの要求も出さない百鬼帝国に関してもいつまでも放置するというわけにも行かない……総司令部のオペレーション・プランタジネットの提案自体がこの流れになるように向けられている事を察した。

 

「私も協力しますから、心配ありませんわよ」

 

そしてミツコまで顔を見せ、ブライアンは自分が完全に詰みに追い込まれていることを悟った、だが向こうが動き出してくる前に一矢報いる事は出来た。

 

「良いよ、それじゃあノイエDCの件は任せるよ、武蔵君への戦時特例を覆すつもりはないけどね」

 

武蔵へと出した決断は覆さないと口にし、忌まわしそうに自分を見ているミツコとグライエンを見て、僅かに溜飲を晴らし、ブライアンは今度こそ自分の執務室に向けて歩き出すのだった……。

 

 

 

 

 

 

武蔵がいない間のアビアノ基地は急ピッチでテスラ研から運び出された機体や武装の組み上げが行なわれていた。

 

「テスラ研でゲッター炉心が実用段階になってるとか聞いてねえぞ」

 

「言ってないからな」

 

その中でも最も大きな物――それはテスラ研で開発されたゲッター炉心だった。アビアノ基地の一角に仮配置されたゲッター炉心から溢れる翡翠色の輝きに照らされながら、イルムが調整をしていたコウキにそう声を掛ける。だがコウキはシレっと言ってないからなと振り返ることもなく口にし、コンソールを叩き続ける。

 

「コウキさん、これは機体に組み込めたりするのですか?」

 

「期待している所悪いが、これは出力が低い試作型の物だ。機体に組み込んだりは出来ないぞ、ブリット。一応俺の鉄甲鬼には組み込んであるが、60m級でなければ安定した出力を得る事は難しい」

 

ゲッター炉心を組み込めば、出力などが大幅に向上すると思っていたブリットはコウキのNOの言葉にそうですかと言いつつ、落胆した素振りを隠せなかった。

 

「今は無理だが、後にPTや特機に組み込めるゲッター炉心も開発出来るのか?」

 

「申し訳ないが、今の段階では無理としか言いようが無いな。カイ少佐」

 

無理というコウキに話を聞きに来ていたギリアムが何故だ? と問いかける。

 

「ここまで出来ているのに無理なのか? コウキ」

 

「出力がどうしても足りないのだ、ギリアム少佐。このサイズでもPTの定番の動力であるプラズマジェネレーターと同じか、少し低いくらいの出力になる」

 

PTを保管する格納庫の半分を使っているのに、それでもプラズマジェネレーターに劣る出力しかないと聞いてキョウスケがありえないと口にし、話の中に加わってくる。

 

「このサイズで? しかし、これはゲッター1に搭載されていた炉心よりも大型だろう?」

 

「大きさが上だったとしても炉心の圧縮率などがまるで足りていないのだと思う。ビアン博士から送られて来た資料を基に4基製造されたが、運用レベルの物は1基しか開発できなかった。同じ作り方なのにな」

 

4基の内1基しか実用可能ではないと聞いて、話を聞いていたキョウスケ達はそれこそ理解出来ないと口にした。

 

「同じ要領で作ればいいのではないのか?」

 

「もしくは製作の際に何らかのトラブルがあったとかではないか?」

 

同じ材料、同じ作り方をしているのに何故だ? とカイとキョウスケが尋ねる。

 

「判らない、出力が一定以上上がらないんだ。これは最早意志としか言いようがない」

 

「……ゲッター線は意思を持つエネルギー、俺達に味方するに値しない……そういうことですか?」

 

武蔵が言っていた言葉、ゲッター線は意思を持つ。その意志が力を貸すことを拒んでいるという結論に至ったブリットがそう呟いた。

 

「もしくは頼りすぎるなという事かも知れん」

 

ギリアムはゲッター線の意志が試練を与える為に力を貸さないのでは? という考えを口にした。

 

「結局の所、それは判らん。とりあえず今あるゲッター炉心でゲッター合金は作れる。これで装甲の強化や実弾の弾頭のコーティング……出来る事はそれなりにある」

 

コウキがコンソールを叩き、格納庫全てを照らす出す翡翠色の輝きがゲッター炉心から溢れ出した。

 

「そうだな、今はそれだけでも御の字という事だな」

 

「ないもの強請りをするよりもある物で最善を導き出すのが人間だ。判ったらPTに乗り込んでくれ、ゲッター合金を製造次第運び出してコーティング作業を行ないたい」

 

格納庫に集まっている面子は生成されたゲッター合金の運搬係だった。コウキに促され各々の機体に乗り込んでいく面子を見つめながら、コウキの目は鋭く細められていた。

 

(グルンガスト参式、ダイナミックゼネラルガーディアンの1号、2号機、そして俺の鉄甲鬼の段階では問題なく製造で来ていた。何故、何故なんだ)

 

その4つ以外の炉心の出力は非常に低く実用段階には程遠い、何故その4基の炉心だけゲッターロボに匹敵する出力を得れたのか? ブリットの言う拒絶しているのか、それとも試練なのか……その両方に思えてしょうがないのだった……。

 

「リー、少しいいか?」

 

「ん? テツヤか、少し待て」

 

ゲッター合金の運搬作業が行なわれている頃、テツヤはリーの部屋を訪れていた。

 

「どうした?」

 

「……少し聞いてほしいことがあってな。今、迷惑か?」

 

「お前は休憩か?」

 

「あ、ああ。そうだが……」

 

「なら、入って来い」

 

部屋の中に消えるリーの後をついてリーの私室に入るテツヤは壁に貼られているポスターを見て、驚きの表情を浮かべた。

 

「これは……どうしたんだ?」

 

「良いだろう、ゲッターロボのポスターだ。私のお気に入りなんだ」

 

マントを翻し、空へ飛び立つ瞬間のゲッター1のポスターを見て上機嫌に笑うリーの頬は朱が差していた。

 

「お前まさか飲んでいたのか?」

 

「当たり前だ、休める時には休む物だ。ほら、お前も飲め」

 

「すまん、俺は下戸なんだ」

 

ウィスキーのボトルを差し出してくるリーにテツヤは下戸なんだというと、リーはそうかと呟き代わりにソーダのボトルを差し出した。

 

「つまらん奴だ」

 

「悪いな、それよりも飲んでいるのならばまたの機会にしようか?」

 

「いいから座れ、尋ねて来て帰るな」

 

グラスに氷を入れて差し出してくるリーに苦笑しながらそのグラスを受け取り、サイダーを注いだテツヤはそれを口にし、小さく息を吐いた。

 

「それでどうした?」

 

「……ダイテツ中佐が俺にスペースノア級の第四番から陸番艦のいずれか艦長に推薦したと聞かされたんだ」

 

「ほう、良いじゃないか。大出世だな、いや、出世街道からは外れているか、私もお前もな」

 

スペースノア級の艦長に推薦されたと聞いてリーは良かったじゃないかと笑うが、テツヤの表情は優れない。

 

「どうした? 誇らしい事だろう?」

 

「……俺にはダイテツ中佐のような機転も、お前のような人徳もない、はたして俺に勤まるものかと……」

 

「情け無い事を言うな、確かにダイテツ中佐は素晴らしい艦長だ。だがお前はいつまでダイテツ中佐に甘えているつもりだ?」

 

グラスにウィスキーを注ぎ、ジャーキーを咥えたリーはテツヤを指差した。

 

「ダイテツ中佐も高齢だ。いつまでも心配をかけてどうする、ダイテツ中佐を安心させようとは思わないのか?」

 

「それは……」

 

「誰だって不安はある、私とてスペースノア級、しかも因縁が酷いシロガネの艦長などごめんだと思ったものだ。だがな、やらねばならぬ。スペースノア級は地球の盾であり剣なのだぞ、誇るべき事だ」

 

「……そうか、そうだな。悪いリー……俺にも一杯貰えるか?」

 

テツヤの言葉にリーはにやりと笑い、グラスの中にウィスキーを注ぎテツヤの方に自分のグラスを向けた。

 

「何に乾杯する?」

 

「何に? 決まっている。ダイテツ中佐に恥じない男になるだ」

 

「おいおい、それはハードル高すぎないか?」

 

「ハードルは高い方が良い、ほれ、乾杯」

 

酔いが回っているリーに促されテツヤもグラスを差し出し、カチンっと言う涼やかなグラス同士をぶつける音がリーの部屋に小さく響くのだった……。

 

 

 

鬼の精神攻撃を受けたリュウセイは起きる気配が無く、今もまだ集中治療室で眠り続けていた。

 

「ラトゥーニ、そろそろ交代だよ」

 

集中治療室の中で眠っているリュウセイを心配そうに見つめていたラトゥーニにリョウトがそう声を掛ける。振り返ったラトゥーニの目のしたには濃い隈と強い疲労の色が浮かんでいた。

 

「リョウト……うん、判った」

 

返事を返し、ふらふらと歩いていくラトゥーニを見て、リョウトは一緒に来ていたリオに視線を向けた。

 

「リオ、ラトゥーニに着いててくれるかな?」

 

「うん。判った、ほら。ラトゥーニ、行きましょう」

 

「で、でも……」

 

「僕は大丈夫だよ。ラトゥーニはしっかり休んできて、じゃないとリュウセイが心配するよ」

 

おどおどとしていて、DC戦争時の時の様になっているラトゥーニの手を引いてリオが集中治療室の前から移動し、暗い通路に赤いランプ、そしてピッピッピっと言う音を聞きながらリョウトはソファーに腰を下ろし、眠り続けているリュウセイの病室に視線を向けるのだった。

 

『……会えた、会えた……あえたあえたあえたあえた』

 

『あえたあえたあえたあえたあえたあえたあえたあえた』

 

【止めろ、もうやめてくれ……なんなんだ、誰なんだよ……】

 

眠り続けているリュウセイの意識は深い闇の中にあり、狂ったように響き続ける会えたという歓喜に満ちた「2人」の少女の声に耳を防ぎ、止めてくれと懇願していた。

 

『嬉しい……生きてる』

 

『死なないで、お願い』

 

『憎い憎い憎い憎い憎い……』

 

『あ、ああああああああ――ッ!!』

 

知っているような知らない声……狂気と歓喜、絶望と懇願――正と負の入り混じった声は耳をふさいでも、リュウセイの心を蝕んでいた。リュウセイはまだ眠り続ける……。

 

「ねえ。あいつ大丈夫なの?」

 

「だ、大丈夫って言ってたよ……?」

 

「僕達は見ていればいいって……」

 

「でもあいつ狂ってるんじゃない? おかしいって絶対」

 

そしてどこかも判らない闇の中で1人の少女が泣き、笑い、怒り、吠え、ありとあらゆる感情を暴走させている少女とリュウセイの意識は繋がっていた。どちらから干渉が断たれない限り、2人……いや「3人」の精神感応は切られる事がなく、また闇から脱することもないのだった……。

 

 

第97話 激動の世界 その2へ続く

 

 




次回はルート分岐の話を書いて、それに次の話「超音速の妖精」と「燃えよ斬艦刀」の話に入っていこうと思います。今回はオリジナル要素少なめで、原作準拠っぽい感じにしたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第97話 激動の世界 その2

第97話 激動の世界 その2

 

アビアノ基地に戻って来たゲッターD2の姿は格納庫や司令部、ブリーフィングルームからも見えていて、キョウスケやエクセレン、それにカチーナやアラドといった面子が出迎えに来ていた。

 

『これ、伊豆基地からの支援物資どこにおけばいいですかねー?』

 

コンテナをどこに置けばいいか? という声が響き整備兵に誘導されゲッターD2がゆっくりと移動し、コンテナを指定された場所に置いていると格納庫の扉が開く音が響き、すぐに揉める声が響き始める。

 

「邪魔ですわ!」

 

「そっちが邪魔ッ!」

 

シャインとエキドナの2人が口論しながら格納庫にやって来て、そのやり取りを見てエクセレンが楽しそうに笑い出した。

 

「なんか一気に2人とも元気になったわね。やっぱり恋は原動力よね? ねー、キョウス……」

 

キョウスケに頭を撫でられ停止するエクセレンを見てキョウスケは余り騒ぐなと小さく笑った。

 

「……あいつも人をからかえる立場じゃねえな」

 

「借りて来たニャンコ状態っすね」

 

偶にキョウスケが攻勢に出た瞬間にフリーズするエクセレンも十分恋する乙女であり、カチーナはやれやれと肩を竦め、首にタオル巻いているアラドに視線を向け、シャインとエキドナを指差した。

 

「アラド、お前あれ、止めて来い」

 

「無理っす」

 

「しゃぁッ!!!」

 

「ふーッ!!」

 

言語を捨てて威嚇しあっているシャインとエキドナは12歳の少女と記憶喪失で定かでは無いが20代前半の女性がやるやり取りではない。

 

「何をしている。止めるんだ」

 

その怒声は中破したヴァルキリオンとレオナのガーリオン、そしてマリオンの設計図を使い新しいアーマードモジュールを開発している区画にも響いていたのか、ユーリアがシャインとエキドナを止めにやって来たのだが……。

 

「「うるさいッ! 残念ッ!!!」」

 

「誰が残念かぁッ!!!」

 

残念と言われてユーリアもそのもみ合いに参戦してしまった。誰がどう見てもそれは地獄絵図としか言いようのない光景だった……。

 

「おい、レオナ。お前の元隊長止めて来い」

 

「……すみません、無理です」

 

「なんかこう頭いいはずなのにあの人武蔵のことになると途端にIQ下がらない?」

 

3人が3人とも優秀と言えるだけの頭脳を持っているのだが、このIQの下がりよう……恋は盲目とよく言った物だ。ユーリア、レオナと続き迎えに来ていたタスクが同意を求めるように尋ねる。

 

「……適齢期が近いそうですから」

 

「そりゃあ死活問題だな。結婚願望があるならな」

 

「カチーナ中尉はないんですか?」

 

「はっ! あたしが結婚して寿退社みたいなタマに見えるか?」

 

適齢期が近いと言うのはある意味カチーナも同じだが、ワイルドすぎるだろうとタスクは苦笑していた。

 

「今戻りまし……たぁッ!?」

 

「遅い。すぐ帰ってくるって言ったのにッ!!」

 

タラップで降りて来た武蔵の足をエキドナが体勢を低くした完璧なタックルで捉え引っくり返す。

 

「あいつさ。偶に本当に記憶喪失かって思うのあたしだけか?」

 

「いえ、俺もそう思います」

 

世間常識などは確かに欠落しているのだが、妙に体捌きとかが優れているとカチーナとキョウスケは感じていた。体術に関しては教導隊レベルと言ってもいい武蔵の足を刈り取ってダウンさせて、完全にマウント姿は完全に熟練の戦士の物だ。

 

「いや、カチーナ中尉もキョウスケも問題はそこじゃないと思うわ……」

 

「あ、みえそ……「タスク?」……はい、ごめんなさい」

 

「……そー「アラド? 何をしてるの」……え、いや、何もして……ないですよ?」

 

武蔵に会えなかった分を取り戻すかのように倒れている武蔵に抱き付いているエキドナなのだが……連邦の正規の制服を借りており、その制服がミニスカートなので、下着が丸見え寸前でそれを覗き込もうとしたタスクはレオナに耳を捻り上げられ、アラドはシャインがもめていると聞いて呼ばれたラトゥーニに睨まれて呻いていた。

 

「い、いややや、エキドナさん」

 

「うー……」

 

そして武蔵は武蔵でエキドナの豊かな胸が自身の胸板で押し潰されている上に、エキドナの顔が近くあわあわしていた。

 

「エキドナ、離れろッ!」

 

「うーッ!」

 

「うーじゃない! うーじゃッ!!」

 

ユーリアがエキドナを引き離そうとするが、エキドナの抵抗が非常に強固で引っ張り合いになった挙句、武蔵の方に倒れこみ更に武蔵の顔を赤面させる事となった。

 

「……」

 

そしてシャインは自分の平らな体型を見て絶望的な表情をしていて、その邪気というか瘴気は格納庫にいる全員を絶句させた。武蔵の帰還……たったそれだけでアビアノ基地の格納庫は地獄絵図の形相を呈しているのだった……。

 

 

 

出立前に浅草などでドラ焼きやカステラ等の茶菓子をキョウスケ達に土産として買い込んできた武蔵。アビアノ基地の食堂でいない間の情報交換をしていた武蔵はリュウセイが意識不明と聞いて、その手にしていたドラ焼きを机の上に落とした。

 

「え!? リュウセイが意識不明ってそれ大丈夫なのか!?」

 

「肉体的に怪我をしているわけではない。ただ念動力の感応現象による精神的な物が原因だから動かせない状況だ」

 

「……マジか」

 

自分がいない間にあったという襲撃の話を聞いて武蔵はその顔を歪めた。確かにその可能性は考えていたが、まさかリュウセイが意識不明になるのは武蔵に取っても想定外の内容だった。

 

「武蔵様の方も鬼の襲撃が会ったと聞いておりますが……大丈夫だったのですか?」

 

シャインが武蔵の土産のぬいぐるみを抱きかかえながら、武蔵は大丈夫だったのか? と問いかける。なお、ぬいぐるみを貰えなかったエキドナがいじけているがそこに触れてはいけない。

 

「あー、うん。そうだな……負けた」

 

「「「「負けたッ!?」」」

 

武蔵が負けたと明言した事で食堂にいた全員が嘘だろっと言わんばかりの表情を浮かべる。

 

「龍虎皇鬼って奴が出て来たんだけど、まぁ強いのなんのって」

 

「武蔵でも勝てないと思うほどなのか?」

 

龍虎皇鬼と戦った経験のあるブリットが信じられないと言う表情で尋ね、武蔵はみたらし団子を1つ頬張りうーんっと悩む素振りを見せた。

 

「戦いの後、どうなってもいいなら多分勝てる「そんなの駄目ですわよ!」「……駄目、絶対」……判ってるよ。オイラも相打ちで倒すつもりなんてさらさら無いし」

 

シャインとエキドナに怒られ、たははと苦笑した武蔵は団子を皿の上に戻し、熱い緑茶を啜る。

 

「力的には多分互角か、少しゲッターの方が上って感じでタイマンで引き分けには持ち込んだけど、1時間くらい気絶してた」

 

「マジか……」

 

「ちょっとそれは信じられないですね」

 

武蔵のタフさは全員が知っている。そんな武蔵が1時間近く気絶していたと言うのは武蔵本人から告げられた言葉だったとしても、はいそうですかと信じることが出来ない驚愕の事実だった。

 

「あいてはどうなったのさ。話を聞く限りだとあたしは引き分けだと思ったんだけど」

 

「向こうはなんか楽しい勝負だったって笑いながら帰ってった。だけど……正直オイラの負けだな、リューネ」

 

「なんでだ? タイマンで2人とも行動不能なら引き分けだろ?」

 

繰り返し負けという武蔵にカチーナがそう尋ねる。すると武蔵はDコンを机の上に置き、自分が負けだという理由を説明した。

 

「シャインちゃんを追いかけてたグルンガストみたいな奴、新しく見るジガンスクードみたいなのと、サイバスター見たいの、それとなんとなくヒュッケバインに似てる新型の百鬼獣がいたんだ」

 

Dコンに写されている百鬼獣は確かに細部は違うが、武蔵が似ていると言った通りグルンガスト、ジガンスクード、サイバスター、ヒュッケバインに酷似していた。

 

「これってもしかして内通者がいるってことですか!?」

 

「いや、それは早計だと思うぞ。似ていると言っていても先入観があるからだ。パッと見関連性は余り感じられない」

 

クスハはそれを見て内通者がいると思い、機体データが流出していると感じたようだが、ギリアムは違うと断じた。

 

「確かにそう言われるとそう見えるってだけかもしれないけど……」

 

「でもこりゃ似すぎだぜ、翼の感じとかサイバスターの構造と殆ど同じだ」

 

似ていないと言えば似ていないが、似ているといえば似ている……本当に難しい所だが、今までの獣染みた百鬼獣と一線を画すシルエットは最新鋭機というのを十分に感じさせた。

 

「百鬼帝国がこちら側の技術をまねていると言うことか……」

 

「パイロットみたいのも乗ってましたよ。無人機の奴より、もっと強いのは間違いないですね」

 

「本格的に百鬼帝国が動き出したと言う所か……苦しくなるな」

 

今までは様子見の無人の百鬼獣、だが伊豆基地で出現した有人の百鬼獣の出現はオペレーションプランジネッタの前の最悪の知らせとなった。

 

『各クルーはブリーフィングルームへ、繰り返します、各クルーはブリーフィングルームへ集まってください』

 

丁度その時に入った館内放送はオペレーションプランジネッタの打ち合わせであるという事を、全員が察した。

 

「正直アビアノを出る前にこの話を聞けて良かったぜ」

 

「そうだな。警戒し、立ち回ることが出来るからな」

 

「武蔵はどうするんだ?」

 

「勿論、オイラも顔を出しますよ。行きましょう」

 

ほんの僅かな休息は終わり、新たな戦いがもうすぐそこに迫っているのだった……。

 

 

 

 

オペレーションプランタジネットに向けての戦力強化、そして今後の方針がブリーフィングルームで話し合われる事となった。

 

「武蔵に関してだが、ブライアン・ミッドクリッド大統領からの戦時特例が下され、我々に協力してはくれるが独立戦力として命令権などはない、特殊な立ち位置になることになった」

 

伊豆基地のレイカーの指揮下に入ると言う話だったはずだが、ダイテツから告げられた武蔵の立ち位置はキョウスケ達の想像を超える物になっていた。

 

「それだけ総司令部がうるさいという事ですね?」

 

「まぁ。判らんでもないけどな」

 

武蔵とゲッターロボの存在は非常に大きい、なんとしても自軍の戦力に迎えようと思うのは当然の事だ。そう考えればブライアンの直属となれば武蔵の自由は保障され、総司令部などの命令なども突っぱねることが出来る。

 

「むしろ武蔵の場合はそちらの方が都合が良いな」

 

「ビアン博士やカーウァイ隊長との橋渡しにもなるしな」

 

武蔵はあくまでビアン派の面子なので、連邦軍の内部が怪しくなった際にハガネとヒリュウ改の脱出先にもなる。そう考えるとブライアンの判断は最善の一手だと言えるだろう。

 

「武蔵さんは独立戦力となりましたが、これからも協力してくれる事に間違いありません。協力し合い地球を守りましょう」

 

「勿論です。その為のゲッターロボですからね!」

 

武蔵は飾り物の英雄などになるつもりは無く、地球を守る為に戦う。その思いは決して変ることなく、そしてその為にキョウスケ達と共に戦うのが最善と判っていたので、これからもハガネ、そしてヒリュウ改と行動を共にすることを決めていた。

 

「話を戻そう、オペレーションプランタジネットに向け、戦力の強化、鬼やノイエDC、そしてインスペクターに奪取された基地設備や、国の奪還が最優先となる。その為、シロガネとハガネはアビアノ基地に残り、ヒリュウ改には伊豆基地に向かって貰うことになる」

 

武蔵の扱いと立ち位置が定まった所でリーがこれからの動きをキョウスケ達に告げる。

 

「何だ、せっかく合流したってのにまたバラバラになるのかよ」

 

「しょうがないよ。インスペクターの連中が極東を狙ってるって言うんだからさ」

 

やっとの思いで合流したマサキはまた分かれることになり不満げだが、リューネはしょうがないと言って不貞腐れているマサキを窘める。日本近辺に出現しているインスペクターに百鬼獣は無視できる物ではなく、それに加えて伊豆基地でメンテをされているR-3やR-GUNを回収する必要性もあり、ここで戦力を分散するのは必要なことでもあった。

 

「シロガネとハガネもこちらでの任務が済み次第、伊豆へ向かうことになる。ここまで敵の攻撃が激しくなっている中で戦力を分散するのは出来るだけ避けたい所だからな」

 

百鬼帝国、ノイエDC、インスペクター、アインストと地球圏を覆う敵勢力が多いと知りつつ、その上で戦力で分散すると言うテツヤの言葉を聞いて、キョウスケがその理由を尋ねた。

 

「そこまで判っていて、あえて戦力を分散する……その任務とは?」

 

「リクセント公国……そして、北アフリカ地区の奪還だ」

 

連邦にとっても重要な拠点である北アフリカの製造拠点の奪還、そしてそれと同時にノイエDCや何度も出現しているゲシュペンスト・MK-Ⅱを運用する部隊への資金の流通元と思われるリクセント公国の奪還は必要不可欠の任務だった。

 

「任務の内容に納得していただけ用なのでメンバー割りを発表します。ATXチームとカチーナ隊、マサキ、リューネ、リオ少尉とリョウト少尉は……私の方……ヒリュウ改に乗って下さい」

 

ヒリュウ改には元々ヒリュウ改に所属していた面子とマサキとリューネと言った広域攻撃が可能な2人に加え、マオ社に出向していたリョウトとリオが選ばれた。その理由はインスペクターが日本を狙っている情報があり、それに加え、目撃情報が多い。インスペクターの基本戦術が無尽蔵の増援を送り込んでくるインスペクターやゴーストに対応する為の編成になっている。

 

「じゃ、あたしら以外の連中はしばらくアビアノに居残りか、武蔵はどうするんだ?」

 

「オイラですか? オイラはアビアノに残るつもりですよ」

 

カチーナの問いかけに武蔵はアビアノに残るつもりと聞いて、エクセレンがからかうように笑った。

 

「シャイン王女の為かしら? もー、武蔵。このままだとますますシャイン王女の王子様になっちゃうわよ?」

 

「いやいや、オイラは王子様ってキャラじゃないですよ。でもまぁ、リクセントを取り戻すって約束しましたからね、約束は守らないと」

 

特別なことを言っているわけではない。だが自分が1度口にした以上それを守ると言う武蔵は男らしさに満ちていた、からかうつもりが余りにストレートな返事を返され、エクセレンは困ったように笑う事になった。

 

「武蔵が来てくれるなら頼もしい。一緒にリクセントを取り戻そう」

 

「おう。任せとけ」

 

リクセントを制圧しているノイエDCは百鬼帝国との関連性が見られているので、武蔵がアビアノに残ると言うのはダイテツ達にとってもありがたい話だった。

 

「話に割り込むようで悪いが……レフィーナ艦長、私も参式1号機やAMボクサーと共に伊豆へ行こう」

 

「ハミル博士もですか? それは構いませんが……アビアノの方がいいのではないですか?」

 

設備が充実しているアビアノに残る方がいいのでは? とレフィーナが尋ねるがカークは首を左右に振った。

 

「ボクサーはロバートの手を借りねばならない上に、参式は今のエンジンをトロニウム・エンジンに交換する予定だ。それらの作業はアビアノでは出来ないのでな」

 

「判りました。リン社長とラドム博士は?」

 

カークがヒリュウ改に同行する理由を聞いたレフィーナはリンとマリオンはどうするのか? と問いかける。

 

「私は事後処理の為にパリ支社へ行くつもりだ。 あとオルレアンの工場で改修作業を行っている機体の様子も見に行きたい」

 

「私はビルガーの調整がありますから、アビアノに残りますわ」

 

「了解です。 では、ヒリュウ改のクルーは直ちに出発の準備をして下さい」

 

伊豆基地に向かうクルーも決まり、レフィーナからヒリュウ改に乗り込むように指示が出て、ヒリュウ改に向かう面子はブリーフィングルームを出て行った。

 

「……アラド、これをお前に渡しておく」

 

「ちょっとキョウスケ? どうしたのよ?」

 

出てくる気配の無いキョウスケに気付き、1度ブリーフィングルームを出たエクセレンが引き返してきて、どうしたのか? と尋ねる。

 

「アラドにアルトの戦闘データを渡しておこうと思ってな。お前の戦い方は俺に近い……すぐに行くから、先に行っていてくれ」

 

アラドにとんでもないデータを渡しているキョウスケを止めようと思ったエクセレンだが、既にデータを渡しているの見てエクセレンは手遅れねと呟いて、今度こそブリーフィングルームを後にし、アラドと二言三言かわしたキョウスケもその後を追ってブリーフィングルームを後にした。

 

「……結局、 何だかんだで杯を交わす時間がありませんでしたな、ダイテツ中佐」

 

「やむを得まい。それはオペレーションプランタジネットが成功した後にしよう。その時はワシのとっておきも出すぞ」

 

杯をかわすことが出来ず残念そうにするショーンに杯をかわすのはオペレーションプランタジネットを終え、勝利の美酒にしようとダイテツは笑い、ショーンもそれに同意するように笑みを浮かべた。

 

「そうですね。その時は私の取っておきも出すことにしましょう。ではレフィーナ艦長……私達も参りましょうか」

 

「はい。ダイテツ中佐、リー中佐もお気をつけて」

 

「すみません、少しよろしいでしょうか? 艦長」

 

ダイテツとリーの2人に敬礼し、レフィーナがブリーフィングルームを出ようとした時、レオナがレフィーナを呼び止めた。

 

「何です?」

 

「命令違反である上に、身勝手な申し出なのは重々承知しておりますが……私をリクセント奪還作戦に 参加させていただけないでしょうか」

 

レオナは頭を下げて伊豆基地ではなく、アビアノ基地に残りたいとレフィーナに直談判をした。その理由をすぐに見抜いたショーンが目を細め、レオナに視線を向けた。

 

「その理由は……ノイエDCのアーチボルド・グリムズという人物に関係があるのですかな?」

 

国際指名手配のテロリスト……アーチボルドがリクセントを制圧していると言うのはダイテツ達も手にしていた情報だった。コロニーに住む者すべてにとって忌むべき相手……それがアーチボルドという男だった。

 

「は、はい……彼が起こしたエルピス事件はブランシュタイン家だけでなく……ガーシュタイン家にとっても許し難く忘れ難い過去なのです」

 

「なるほど、貴方がたの手で彼との決着をつけたいとおっしゃる……ふーむ……レフィーナ中佐はどう思いますか?」

 

「私としてはレオナ少尉の思いを聞いてあげたいと思います。ですがリクセント奪還ダイテツ中佐とリー中佐の管轄なので、ダイテツ中佐達はどう思われますか?」

 

レフィーナに話を振られたダイテツは鋭いレオナに向けて問いかける。

 

「私怨だけではあるまいな?」

 

恨みがあるのは判っている、だがそれは冷静な判断を奪いかねない。普段冷静な分、怒りで我を忘れる危険性をダイテツは危惧し、レオナを睨みつけるように、うそは許さないと言わんばかりに鋭い視線を向けた。

 

「はい……あの男を野放しにしておけば、エルピス事件以上の悲劇が起きるかも知れません。それだけは……何としてもこの手で食い止めたいのです」

 

「んーダイテツさん、リーさん。オイラはレオナさんに来て貰った方が良いかなって思います。あいつは恐竜帝国とかに似た、すごい嫌な感じがしますから」

 

レオナの言葉を聞いて武蔵もレオナに助け舟を出した。武蔵から見てもアーチボルドは危険人物で、何をしでかすか判らない相手だ。少しでもアーチボルドのやり口を知る相手がいる方が良いと思うのは当然の事だった。

 

「私も武蔵の意見に同意します。アーチボルドという男は死を偽装し、数多のテロ行為を行っておりますが、その大半が宇宙であり、我々にはアーチボルドと対峙した経験が殆どありません」

 

「……彼のやり口を知る者がいれば、 奪還作戦を有利に進められるかも知れん……と言う事だな。リー中佐」

 

アーチボルドの主戦場は宇宙であり、地球で暮らしていたダイテツ達はアーチボルドの悪辣さを十分に理解しているとは言い難い。そう考えればライとレオナの2人がいるのはリクセント奪還作戦を優位に働かせる要因となる可能性が極めて高いとリーも判断し、レオナをシロガネ、ハガネの部隊に編成すること進言した。

 

「レフィーナ艦長、レオナ少尉をワシの部隊に組み入れたいのだが、どうか?」

 

レオナの真摯な頼み、そして武蔵とリーの助言もあればダイテツもそれを無碍にする事は出来ず。レオナを奪還部隊に加える事を決め、レフィーナに最後の確認を取る。

 

「構いません。 リクセント公国の奪還は急務ですから、ただし、レオナ少尉……私情に駆られての行動は謹んで下さい……ライディース少尉も」

 

「……判りました」

 

「……ありがとうございます。レフィーナ艦長……」

 

アーチボルドへの恨みはレフィーナも十分に察して余りある物だったが、それに飲み込まれ暴走しないようにとライとレオナにレフィーナ釘をさすと、話を聞いていたギリアムが手を上げた。

 

「レオナ少尉が抜けた代わりに俺が日本に同行しよう」

 

「ギリアム少佐……ありがとうございます。助かります」

 

「なに、日本に用があるのでな。そのついでになるが、戦力として数えてくれて構わない」

 

レオナの代わりにギリアムがヒリュウ改に同行する事が決まり、オペレーションプランタジネットの為にダイテツ達は1度分かれ戦う為の準備を始めるのだった。だがヒリュウ改、そしてハガネとシロガネの前には想像を絶する強大な壁が立ち塞がることを、今のダイテツ達は知る良しも無いのだった……。

 

第98話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その1へ続く

 

 

 




ここからは原作の雰囲気を大事にしつつもオリジナルの要素も頑張って混ぜて行こうと思います。鬼アーチボルドとかも出していこうと思いますので、どんな展開になるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第98話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その1

第98話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その1

 

アステリオン、フェアリオンの調整をしていたコウキだが、背後に感じた気配に前を向いたまま後に手を伸ばし、自身に向けられている腕を掴み取った。

 

「っとそんなに警戒することも無いだろうが」

 

呆れた様子の声を聞き、コウキは眉を顰めながら振り返った。避けていた訳ではない、だがどう接すればいいかとコウキでも悩ませる人物……武蔵がジュースの缶を手にしていた。

 

「なんだ。お前か」

 

「おう、ちょいとあんたと話をしたいと思ってな。隣良いかい?」

 

人の良い顔で笑う武蔵に好きにしろと返事を返し、コウキはつかんでいた武蔵の手を放して一時調整作業を中断する。

 

「お姫様達は良いのか?」

 

武蔵にべったりと付きっ切りのシャイン王女達は良いのか? とコウキがからかうように尋ねると武蔵は肩を竦めて、手にしていたジュースの缶のプルタブを開けて口にする。

 

「ずっと一緒にいるわけじゃねえよ。と言うか正直……」

 

「正直なんだ?」

 

「どうすれば良いのかわかんねえ」

 

真顔で言う武蔵に触れてはいけない話題だったかと肩を竦め、コウキもジュースの缶のプルタブを開け、自然な口調で武蔵に問いかけた。

 

「警戒してご苦労な事だが、俺はもう百鬼帝国とは関係ないぞ」

 

温和な男だが武蔵もゲッターパイロットだ。コウキに邪気を感じれば、それこそこの場でコウキを殺す事も視野に入れていた。武蔵の殺気を感じ取っていたコウキがそう問いかけると武蔵は肩を竦めた。

 

「違うって聞いていてもな、自分の目で見ないと信じられないだろ?」

 

「まぁ気持ちは判る。それでお前の判断は?」

 

「敵じゃねえってのは判った。悪かったな」

 

顔を見て、そしてその目を見て離せばコウキが善人か、悪人かは判る。コウキの目は鬼の目と違っていただから、武蔵はジュースの缶を差し出し、右手でマグナムをズボンの中に捻じ込んだのだ。

 

「気にする事はない、竜馬なら挨拶代わりに殴ってくるだろうからな」

 

「あーそれは判る」

 

竜馬なら会話をする前に殴りつける。そしてその反応で敵か味方かを判断する、コウキの言葉に武蔵は判る判ると同意した。だが武蔵がコウキを尋ねて来たのはコウキを見定めるという意味もあったが、もう1つ大事な目的があった。

 

「あのよ、お前……「悪いが、俺はゲッターには乗らん」……そう……か。いや、すまん」

 

龍虎皇鬼と言うゲッターD2と同格の特機を目の当たりにし、今まで先送りにしていたドラゴン号、ライガー号のパイロット探しに本腰を入れようとしていた。純粋な新西暦の人間よりも、コウキやラドラの方が適正が高いのではないか? と思うのは当然の事だ。

 

「正確に言うとだな。俺は……恐らくラドラもだが……ゲッターロボには乗れるが、D2には乗れないと言うことだ。態々戦力が落ちる機体に3人揃える必要はないだろう」

 

「……どういう意味だ? そりゃあ?」

 

嫌な思い出があるから乗りたくないと言っていると思っていた武蔵がコウキにそう尋ねる。するとコウキは右手を掲げた、その手は小刻みに震えていた。

 

「何かの病気?」

 

「アホか貴様は、お前のせいだ」

 

「え? オイラ?」

 

呆れた様子のコウキの言葉に自分のせい? と武蔵が尋ねるとコウキは深い溜め息を吐いた。

 

「これは確証を得れているわけでは無いが、恐らく俺がかつて鬼だったことが関係していると俺は推測している……余りに高密度のゲッター線に触れると体調が悪くなる。恐らくラドラも同類だろう」

 

そういわれると武蔵には思い当たる節があった。ラドラはシュミレーションではハイスコアを出していたが、実機ではまともにゲットマシンを飛ばせなかったと……。

 

「そうかぁ……となるとゲッターロボのパイロットを見つけるのは難しいか……」

 

コウキとラドラと最有力候補がゲッターD2に乗れない可能性が高いと知ると流石の武蔵も落胆を隠せなかったのだが……。

 

「いや、候補はいるぞ」

 

「マジで?」

 

さらっと候補がいると聞いて武蔵は嘘だろと思いながらコウキに視線を向けた。エリート部隊であるLB隊、トロイエ隊も全滅し、エルザム達も武蔵の操縦について来れない中候補がいると聞いて、武蔵は信じれないと言う顔をした。

 

「こいつのパイロットだ」

 

そんな武蔵を見ながらコウキは最終調整を行なっていたアステリオンを指差す。

 

「ガーリオンか?」

 

「いや、こいつはアステリオンと言う。最高速度はゲットマシンと同じか、少し上だ。こいつを乗りこなせるパイロットなら見所はあるだろう。重力装備でもつければ乗せれるんじゃないか?」

ろう。重力装備でもつければ乗せれるんじゃないか?」

 

ゲッターD2――いやドラゴン、ライガー号にはそれぞれ空きスペースがあるのでそこに重力装備を搭載すると言うのはビアンから提案されている方法の1つだった。

 

「その人は?」

 

「今呼んでやる。ほら、あそこ見えるか?」

 

コウキが指差す方向にはフェアリオンとヴァルシオーネがあり、武蔵は目を細めフェアリオンを観察する。

 

「なんでシャインちゃんとラトゥーニの顔をしてるんだ?」

 

「そういう依頼だったからだ」

 

「……大丈夫か? 疲れてないか? オぺレーション……なんちゃらの時にヴァルシオーネの顔の作り方聞いてた時に大丈夫かって思ったんだけど、ちゃんと休んだ方がいいぞ。絶対」

 

L5戦役の途中でビアンがテスラ研に送ったデータから、フェアリオンが作られたと悟った武蔵は寝た方が良いと心のそこからテスラ研のスタッフの事を心配した。

 

「生憎俺が設計した訳ではない、カザハラ博士とフィリオだ」

 

「誰だよ……フィリオって……」

 

ジョナサンの顔は覚えている武蔵だが、フィリオという知らない人物の名前が出てきて誰だ? と尋ねるとコウキはアステリオンを指差した。

 

「こいつを設計した奴」

 

「……やっぱ疲れてね? なんでアステリオンを設計できる人間が、あんなの作っちゃうんだ?」

 

セーフかアウトかで言えば100%アウトの機体を作成したフィリオという人物が武蔵の中では、クロガネの中で偶に踊っているビアンを初めとした科学者達の姿と完全に合致してしまい、絶対寝た方が良いと武蔵が口にするのも当然の事なのだった……。

 

 

 

フェアリオンの調整をするツグミの手伝いをしていたアイビスはコウキに呼ばれ、ツグミと共にアステリオンのハンガーに向かい。そこで初めてコウキの隣に武蔵がいることに気付いた。

 

「ツグミ・タカクラ。プロジェクトTDのチーフだ。その隣がアイビス・ダグラス」

 

「どうも初めまして巴武蔵です。よろしくお願いします」

 

L5戦役の英雄である武蔵に頭を下げられ、ツグミとアイビスも慌てて頭を下げて自己紹介を始める。

 

「プロジェクトTDのチーフをやっているツグミ・タカクラです。よろしくお願いします、武蔵さん」

 

「どうも、ツグミさん。オイラこそよろしくお願いします」

 

「アイビス・ダグラスです。武蔵さんでいいですかね?」

 

「いやぁ、オイラの方が年下なんで軽く武蔵で良いですよ」

 

にこにこと笑い柔和な印象を受ける武蔵の言葉にアイビスがさんを取って武蔵と呼びなおすと武蔵はそれで良いですよとにこりと笑った。

 

「私達を呼んでどうしたの? コウキ」

 

「ああ。武蔵がゲットマシンのパイロットを探していてな、話の中でアイビスの名前を出したから顔見せにな」

 

「いやいや!? コウキ博士何考えているんですか!? あたしがゲットマシンにのれるわけないじゃないですかッ!?」

 

なんでそんな感じで紹介するんですか!? とアイビスが声を上げる。

 

「あれ? ゲットマシンのシュミレーターに乗れるってコウキに聞いたんだけど?」

 

「いや、乗れるは乗れますけど乗れるだけで、合体までいけないよ」

 

「最大加速で連続飛行3時間だ」

 

アイビスは自分には無理だと武蔵に訴える。だがゲットマシンの最大加速で3時間まで耐えれると聞いて武蔵の目が期待に輝いた。

 

「連続3時間も飛べるなら全然大丈夫ですよ。それならめちゃくちゃ期待大ですねッ!」

 

コウキとラドラが駄目だったが、変わりに乗れるかもしれない相手を見つけたと武蔵のテンションは上がっていた。そしてそこまで期待されるなら……と思ったのだが背後に視線を感じて振り返り、ひっと息を呑んだ。

 

「…………」

 

コンテナの影にいるシャインを見つけ、ここで頷いたら殺される……アイビスは本能的にそれを悟った。

 

「いやあ、あたしはアステリオンがあるからゲッターロボには乗れないかなあ」

 

「え、あー……そうですよね。すんません、変なことを言っちゃいましたね」

 

申し訳なさそうにする武蔵。しかしアイビスからすれば命を守る為に武蔵の申し出を断ったので、罪悪感が凄まじく酷く暗い顔をする事になった。

 

「おやぁ? おやおやあ? 何をそんなに暗い顔をしてるノ?」

 

突如聞こえて来た奇妙なイントネーションの声に振り返るとラルトスが懐中電灯で顔を照らしていて、なんとも言えない不気味さがあった。

 

「「「ほわあッ!?」」」

 

心構えが出来ていなかったのでその余りに不気味なラルトスに武蔵、ツグミ、アイビスの3人の驚きの声が上がる。

 

「いやあ、良いリアクションネ、やった甲斐があったネ!」

 

にこにこと笑うだぼだぼの白衣に瓶底眼鏡姿のラルトスに武蔵が困惑していると、ラルトスはいつもの変則ピースサイン……小指と薬指を曲げた独特のピースサインを取る。

 

「ウエーイ」

 

「うえーい?」

 

武蔵が困惑しながら同じ様にピースサインを取るとラルトスは満面の笑みを浮かべた。

 

「武蔵だネ! よろしくゥ! 残念系美少女ラルちゃんだヨー♪ 気軽にラルちゃんって呼んでヨ」

 

変人を見る目、こいつは大丈夫かという視線がラルトスに向けられる中、武蔵だけは違っていた。

 

「どうもどうも、武蔵です。ラルちゃん」

 

そう呼んで欲しいと言うのならば、そう呼ぶべきではなかろうか? と思い武蔵だけはラルちゃんと呼んだ。それにコウキ達は驚きの表情を浮かべ、ラルちゃんと呼ばれたラルトスは更に笑みを深めた。放置されるか、叱られるか、仕置きされるかという中で変則ピースに加えて、ラルちゃんと呼んでくれた武蔵にラルトスは近づいてその手を取った。

 

「好きッ!!」

 

「はい?」

 

「いや、だからす……ふぎいッ!?」

 

もう1度好きとラルトスが叫ぼうとした瞬間。スパナがその頭を捉えラルトスは奇声を発して気絶した。

 

(……いるッ!?)

 

そしてアイビスだけが下手人――両手にスパナを持っているエキドナとその隣にいるシャインに恐怖していた。

 

「何を騒いでいる。またラルトスが迷惑を……何があった?」

 

騒ぎを聞いてリンがやってきたんのだが、白目を剥いて倒れているラルトスを見て何があった? と武蔵達に尋ねる。

 

「何処かからスパナが飛んで来てな。余り騒がしくするから整備兵が怒ったのだろう」

 

「そうか、ならこの馬鹿の自業自得だな」

 

スパナを投げつけられたというのは一歩間違えれば死んでいてもおかしくない、それを自業自得ですませようとするリンに武蔵達は絶句する。だがそれだけトラブルなどを起しているので、リンからすれば恨みや怒りを買っていてもおかしくないと言う判断になったのだ。

 

「いや、あの社長。それで納得してしまうのはどうかと思うのですが……?」

 

「俺もそう思う」

 

そしてそれはリンの後を着いて来ていたレオナとイルムも同じだった。

 

「こいつは色々と面倒ばかり起してくれているからな、一々気にしていられるものか。それよりも、コウキ博士。丁度良い所にお前に頼みがあったんだ」

 

「俺にか? 機体のメンテか?」

 

「ああ。ヒュッケバイン008Lをレオナ用に調整してやって欲しいんだ」

 

コウキからすれば初のEOT搭載PTに興味が無いと言えば嘘になる。それにレオナのガーリオンでは百鬼獣との戦いでは力不足になるだろうし、ブラックホールエンジンを搭載しているヒュッケバイン008Lを運用出来れば相当な戦力強化になるのはコウキにも判った。

 

「それは構わない、アステリオンの調整が済めばヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの調整も手伝う事になっているからついでに出来ないことは無いが……」

 

「良いんですか? リンさん。その機体を手放してしまって……」

 

コウキと武蔵の懸念――それはリンの性格からすれば奪われたマオ社をそのままにしているとは到底思えないと言うことで、イルムとレオナに何か言われたのではないか? と思ったのだ。

 

「一時的に預かるだけですわ。社長はパリに向かわなければなりませんからね」

 

「そういうことだ。私のフォーマットを保存しておいてくれるか?」

 

マオ社の社長としてやらなければならない業務が数多ある。それが終わるまではリンは戦線に加わる事が出来ない、しかしその間ヒュッケバイン008Lを遊ばせておくのは余りにも勿体無い。それゆえに今搭乗機のないレオナに008Lを預ける事にしたのだ。

 

「面倒なことを頼んでいるのは判るが、頼めるか?」

 

旧式の008Lには最新機のような簡単なフォーマットの変更機能は搭載されていない。イルムの言う通り極めて面倒な作業ではある……だがコウキはふっと小さく笑った。

 

「ふっ、良いだろう。代金はイルムにつけておいてやろう」

 

「それは助かる、こいつは余計な金を持っていると女遊びが酷くてな、搾り取ってくれて構わんぞ」

 

「おいッ!?」

 

「「え? イルムさん浮気してるんですか?」」

 

「2人は離れた方がいいわ、さ、行きましょうか」

 

「……」

 

武蔵とアイビスからの浮気しているんですか? という純朴な瞳を向けられた上に、武蔵とアイビスという純粋コンビにイルムは悪影響と言わんばかりのツグミの行動に加えて、上官という事で何も言わないが汚物を見る目をしているレオナにイルムが降参と叫ぶのは僅か2分後の事なのだった……。

 

 

 

 

格納庫で騒がしくも穏やかな時間が流れている頃――集中治療室の隣のメディカルルームではアラドとラトゥーニ、そしてラーダの3人の姿があった。

 

「そう、クエルボが……」

 

アラドが偵察に出た時、ゼオラ、オウカ、そしてクエルボの3人と遭遇した事をアラドは勿論報告していたし、ブリーフィングルームでの会議の議題にもなっていた。しかし、それとは別にアラドはクエルボを知るラーダと、ゼオラとオウカの事を案じているラトゥーニにより詳しい話をしたかったのだ。

 

「セロ博士……」

 

「ラトゥーニはセロ博士嫌いか?」

 

アラドとゼオラ、そしてオウカにとっては番号ではない名前をくれた名付け親で、慕うべき人物だが……ラトゥーニはそうではない。アラドが不安そうに尋ねるとラトゥーニは首を左右に振った。

 

「ううん。セロ博士は私にも優しくしてくれたから……」

 

「そっか……良かった。それで、ラーダさん。何かリュウセイを目覚めさせるヒントになりましたか?」

 

アラドがクエルボから聞いたキーワード――元から百鬼帝国がリュウセイを狙っていたと言うこと、そして恐らく数秒だがゼオラの意識とリュウセイの意識が共鳴していたことは明らかで、クエルボがノイエDC、百鬼帝国から逃れたいと思っていると言うこと、そしてオウカが既にリマコンと投薬の影響が完全に抜けていると言う情報……特脳研にいたラーダならば、何か判るのではないか? とアラドが期待を込めた視線をラーダに向ける。

 

「多分だけど……もう百鬼帝国の影響は受けてないと思うわ」

 

「「えッ!?」」

 

ラーダから告げられた予想外の言葉にアラドとラトゥーニが揃って困惑の声を上げた。リュウセイが眠り続けているのは百鬼帝国――朱王鬼の術の影響だからと思っていたからだ。

 

「私は百鬼帝国の術は判らないけど……ゼオラと引き離された段階で多分術の影響は抜けていると思うわ」

 

ゼオラを媒介にしてリュウセイに干渉したのだから、ゼオラと離された段階でリュウセイは百鬼帝国の術の影響から抜けていると見て間違いない。

 

「じゃあ、なんでリュウセイは……眠ったままなんですか?」

 

「ケンゾウ博士と話をしたんだけど……多分問題はその後……ビーストのほうにあるらしいわ」

 

謎の可変式のPTであり、桁違いに強力な念動力を持つビーストの影響を受けていると聞いて、アラドとラトゥーニの顔色が変る。アラドはリュウセイが目覚めないのかもしれないと言う不安の色、ラトゥーニは憎悪と嫌悪の入り混じった鬼の形相だった。

 

(どういうことなのかしら……)

 

ラトゥーニが何故ここまで嫌悪と憎悪を見せるのか……そのヒントはケンゾウの考察にあった。ケンゾウにカルテと、モニター越しにリュウセイの診察をしてもらい、僅かに残ったビーストのパイロットの脳波データが信じられない物であったのだ……。

 

(どうしてラトゥーニの脳波データが……いえ、何故2つの脳波データが……)

 

限りなくラトゥーニの脳波データと同じ物と、それにかぶさるように記録された脳波データ……ビーストのパイロットは1人で2人分の脳波を持ち、その脳波が念動力のゆがみを生み、それがリュウセイの意識を封じていると言う見解だった。

 

「とりあえず今の段階では様子を見ている事しか出来ないわ。下手に念動力で干渉をすればそれこそリュウセイが目覚めない可能性がある」

 

リョウトやリオ、クスハやブリットによる念動力による刺激を与えると言う方法を考えていたラーダだが、それはケンゾウからストップが掛かった。2人分の脳波の影響を受けているリュウセイに更に念動力で刺激を与えるのは危険すぎとの事だった。

 

「もう少しケンゾウ博士と話し合ってみるわ。リクセント奪還のブリーフィングもある筈だからそっちに集中して頂戴」

 

念動力による昏睡状態では何時目を覚ますかも判らない。それにリクセント奪還の任務のブリーフィングも始まるから其方に向かうようにラーダは促し、1人で眠り続けるリュウセイの脳波データの記録、そしてケンゾウから伝えられた即効性は無いが音楽等を聞かせることで快方に向かうと言う言葉を信じ、リュウセイの眠る病室に音楽を流し始めるのだった……。

 

 

 

 

 

ハガネとシロガネがリクセントの奪還を試みていると言う情報は既にノイエDC、ひいては百鬼帝国にも伝わっていた。ブライアンやダイテツ、そしてグライエンが危惧したとおり連邦軍高官と成り代わっている鬼からの情報の流出だ。それ自体は大した問題ではない、最初からそれは十分想定されていた事で驚くべきことではない。だがユウキにとっては看過出来ない大きな問題が浮上していた。

 

「んーふふふふ、いやあ、この万能感ッ!! いやあ最高ですねえッ!!! ひゃひゃひゃ――ッ!!!」

 

狂ったように笑うアーチボルド……そのこめかみからは禍々しい赤い角が生えていた。そう、ブライにその能力を認められたアーチボルドは鬼へと変貌を遂げていた。鋭く伸びた爪、そして鋭く伸びた犬歯は正しく鬼そのものであり、細身ではあるが鬼になった事で鋼のように鍛え上げられた肉体は人間という領域を大きく越えていた。しかし問題はそこではなかった、アーチボルドという異常者が鬼の肉体を得てしまった、そしてその精神性を大きく歪めていると言うのが問題だった。

 

「ああ、楽しみだなあ。この爪で人を殺したらどうなるんだろう、ヒヒヒ、ひゃひゃひゃひゃッ!!!!」

 

殺す事が楽しみで楽しみで仕方ないと涎をたらして笑うアーチボルドは完全な異常者であり、そして鬼となった事で龍王鬼にリクセントを任されている闘龍鬼に発言する権利を得たことが問題であった。

 

「ハガネとシロガネは僕に任せてくださいよぉ、闘龍鬼さん。ああいう連中と戦うのは僕の得意分野なんですよ」

 

「……言っておくが無益な殺生を認めるつもりはない、それを努々忘れぬことだ」

 

「ひひひ……ええ、えええッ!! 判ってますともッ!!!」

 

狂ったように笑うアーチボルドには僅かに残っていた人間としての理性も、知性も残されていなかった。今のアーチボルドを突き動かすは鬼の常識――人間社会破壊論だけだ。

 

(どうする……俺はどうすればいい)

 

出撃準備、迎撃準備をしている今からビアン達にアーチボルドが鬼になったと伝える事は不可能であり、隠れて通信する事は自分がスパイだと声を高らかにして叫んでいるようなものであり、何の為にユウキがスパイとしてノイエDCに潜り込んでいるのか、その意味すら無くなろうとしていた。余りに無力、何の為にと己に問いかけているユウキの目の前では「漆黒」のゲットマシンを「真紅」へと塗り替える作業が進めれており、それはリクセント公国にとってゲッターロボが特別な意味を持ち、それを用いてリクセント公国の民の心を傷つけると同時に、ゲッターロボが味方ではないという事を全世界にアピールすると言うアーチボルドの悪質な策略が行なわれようとしていた。

 

「ユウキ、ユウキ。どうかした?」

 

「は、はい! すみません、どうかしましたか? 虎王鬼さん」

 

どうすればアーチボルドを止めれるか、スパイとばれる覚悟でビアンに連絡を取るか悩んでいたユウキは虎王鬼に呼ばれているのに気付かず、肩を掴まれ声を掛けられていたと気付き、すみませんと頭を下げた。

 

「別にいいのよ。それよりもごめんなさい、今回は私も龍もついていけないの」

 

「それは……判っています」

 

龍王鬼と虎王鬼がいればアーチボルドのストッパーになるが、龍虎皇鬼の損傷が酷く、龍王鬼と虎王鬼は出撃出来ないでいた。だがアーチボルドの危険性を十分把握している龍王鬼と虎王鬼はアーチボルドのやり方を嫌っているユウキにある物を託すことを決めていた。

 

「もしもアーチボルドが何か怪しい行動をしていたら、これを破きなさい」

 

「これは?」

 

差し出されたのは白銀に輝く10枚の御札。少し冷たいそれを見て困惑するユウキに向かって虎王鬼はにこりと笑う。

 

「おまもりよ、あの外道がとんでもない事をしそうになったら使いなさい、良いわね?」

 

「……はい、判りました」

 

虎王鬼の真剣な眼差しを見て、これがあればアーチボルドの謀略を止めることが出来ると信じて、虎王鬼に託された札をユウキは懐の中に入れた。

 

「ユウーッ! 機体の調整をしてくれって整備兵が呼んでるよー!」

 

カーラの言葉にユウキは判ったと返事を返し、虎王鬼に頭を下げてその場を後にする。様々な謀略、そして様々な者の思いが入り混じりリクセント公国での開戦の火蓋が切って落とされようとしているのだった……。

 

 

 

 

第99話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その2へ続く

 

 




今回はここまでにしたいと思います。次回はシャインをメインにして戦いを書いて行こうと思います、後は鬼になったアーチボルドがどんな立ち回りをするのかを楽しみにしていて貰えると嬉しいです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第99話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その2

第99話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その2

 

リクセント公国奪還に向けてのブリーフィングが始まるという放送が入り、ヒュッケバイン008Lの調整をしていたレオナや、アーチボルド達が運用するエルシュナイデの戦闘データを解析していたライもその放送を聞いてブリーフィングルームに足を向けていた。必ずアーチボルドを倒すと言う決意を抱いていたレオナとライはブリーフィングルーム手前の通路でその闘志をへし折られることになる。

 

「……ずぅーん」

 

負のオーラMAXのユーリアに声を掛けるべきなのか、それとも無視するべきなのか……レオナは悩み、どうかしたのかと問いかけるべくユーリアに向かおうとしたが、ライがその手を掴んだ。

 

「……」

 

ライは何も言わなかったが、その目が触れてはいけないと物語っており、レオナとライは何も言わずにユーリアの横を通りブリーフィングルームへと向かい……今度こそ足を止めた。

 

「武蔵、お前何があったんだ?」

 

「いや、カイさん。エキドナさんがついてきちゃうんで、とりあえずマントを渡しておこうかと、じゃあちょっと待っててくださいね」

 

「うん、判った」

 

武蔵のマントを身体に巻きつけてるてる坊主みたいになって、無表情なくせに満足げと器用な事をしているエキドナと、良い子ですねーと明らかに年上のエキドナの頭をなでている武蔵を見てレオナとライだけではなく、放送によってブリーフィングルームに来ていた面子はなんとも言えない表情をする事となるのだった……。

 

「……全員揃っているな。 ではこれよりブリーフィングを始める。 大尉、内容の説明を」

 

ダイテツ自身もエキドナを見たのかなんとも言えない表情をしていたが、小さく咳払いをしテツヤにリクセント奪還任務の概要を説明させる。

 

「今回の作戦目的は、ノイエDCの南欧方面侵攻の橋頭堡となっているリクセント公国を奪還する事である。まず、作戦の第一段階についてだが……シロガネを中心とする別働隊が、リクセント周辺に展開する敵部隊に対し陽動をかける」

 

リクセント公国周辺の地図をモニターに写しだし、テツヤが部隊の配置、進路方向を説明を始める。スペースノア級であればノイエDC、もしくはその影にいる百鬼帝国も鹵獲の為に動き出し、囮としては最善の選択であった。

 

「敵機がシロガネを追っている間に我々は地中海側から同国領土内へ進行する」

 

「現在のリクセントの状況は? 突入と同時に城の爆破や人質の殺害の可能性は? それに百鬼獣は確認されていないのでしょうか?」

 

テツヤの説明を聞いてヴィレッタが現状のリクセント公国の状態の説明を求める。

 

「偵察隊の情報によれば敵はライノセラス級を中心とした部隊をリクセント城内に展開しているが、ヴィレッタ大尉の言う通り、数体の百鬼獣が確認されている」

 

望遠だが濃い群青色のグルンガストに酷似した百鬼獣が陣取っている姿が見える。

 

「あいつは、シャイン王女を追ってた奴か」

 

「伊豆基地に龍王鬼と一緒に攻め込んだ奴ですね。多分……真っ向から戦えるのはゲッターくらいのもんだと思いますよ」

 

その百鬼獣――闘龍鬼の姿を見てイルムが眉をしかめ、武蔵は龍王鬼の側近の1人だから、その戦闘力は凄まじいと付け加える。

 

「そこで我々は戦力を2つに分け……先発隊が城内の敵を外へ陽動、その後、後発隊が敵旗艦を攻撃……敵部隊をかく乱する」

 

部隊の数で劣り、人質を取られているダイテツ達は戦闘前から不利な状況になっている。その戦力差、不利な状況を覆すには陽動とかく乱を同時に行う必要性があった。しかし闘龍鬼という規格外の百鬼獣が控えている以上並大抵の陽動やかく乱では意味がない。ノイエDCと百鬼帝国が動き出すだけのインパクトが必要だった。

 

「そこで武蔵には無理な頼みをしたい」

 

「オイラにですか?」

 

「ああ。先発隊と後発隊、その両方に参加して欲しい」

 

テツヤの武蔵への頼み――それは陽動を行なう先発隊、そしてかく乱を行なう後発隊の両方に参加してもらいたいと言う物だった。

 

「いや、テツヤ大尉、それは無茶だろ?」

 

「いくらゲッターロボでもそれは無理が過ぎると思うわ」

 

イルムとヴィレッタが即座に反対意見を出すが、テツヤはモニターを操作し画面を切り替え、作戦説明の準備を始めている間に武蔵に何故そんな無茶を頼まなければならないのかリーが説明を始めた。

 

「本来ならば後発隊はスピード、そしてフォワードとバックスの連携が極めて重要になる。理想はリュウセイ少尉、ライディース少尉の2人に頼みたいが、リュウセイ少尉は意識不明で、目を覚ます気配がない。だがライディース少尉に合わせれるヴィレッタ大尉はゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDの性質上、陽動隊に入ってもらう必要があり、レオナ少尉にはヒュッケバイン008Lによるブラックホールキャノンによる圧力をかけて貰う必要がある。よってライディース少尉とペアを組んで突入出来る人員がいない」

 

カイは先発隊の指揮官、アラドでは熟練度不足、イルムは闘龍鬼などの特機の相手と役割が決まっており、フリーに動けるのは武蔵だけという状況だった。

 

「私とダイテツ中佐、テツヤ大尉、カイ少佐で事前に作戦を話し合った。カイ少佐、詳しい説明を頼む」

 

「了解しました。アビアノ基地に残っている機体で最高速度を持つ機体――アステリオンとゲットマシンによる陽動とかく乱。武蔵とアイビスにはそれを頼みたい。その後高火力を持つ俺のゲシュペンスト・リバイブやアルブレード、グルンガストにより各個撃破を行い、アステリオンとゲットマシンにかく乱された機体をワンアプローチで沈める。その為に武蔵とアイビスはかなり厳しい戦いになるが……頼めるか?」

 

確かにアステリオンとゲットマシンの速度ならば陽動とかく乱を同時に行えるだろうが、余りにも武蔵とアイビスに掛かる負担が大きすぎる。

 

「リー中佐、それならば私がライディース少尉とペアを組むのはどうでしょうか? それならば武蔵を先発隊に組み込み圧力を掛ける事が出来ると思うのですが……」

 

ラトゥーニが挙手をして、自分がライとペアを組み後発隊に入り、武蔵は先発隊に入ってもらい正面から圧力を掛けて貰ったほうがいいのでは? と提案する。するとダイテツ達は苦虫を噛み潰したような表情をし、ブリーフィングルームの扉が開いた。

 

「ラトゥーニには私の手伝いをして貰いたいのです。リクセントを、私の国を取り戻す為にッ」

 

強い意思の光をその瞳に宿したシャインの登場にブリーフィングルームにいた武蔵を除く、全員が驚きの表情を浮かべるのだった……。

 

 

 

 

シャインはリクセント奪還作戦が行なわれると聞いてダイテツ達に直談判を行い、自身もリクセント奪還作戦に参加する事を決めていた。

 

「シャイン王女……ッ! ど、どういうことですかッ!?」

 

「既にダイテツ中佐達とは話を付けております。それに皆様方もフェアリオンは見て頂けたはずですわ」

 

格納庫のフェアリオンは少女の姿をした祭典用のアーマードモジュールとライ達は説明を受けていた。

 

「もしかして、 あの時の決意と覚悟とは……ッ!?」

 

「はい……この手で私の国を取り戻す事でございます……、武蔵様にも相談を何度もさせていただきました」

 

武蔵の名前が出て、全員の視線が武蔵に向けられた。

 

「おいおい、武蔵。いくらなんでも無茶が過ぎるぜッ!」

 

「シャイン王女を止めるべき人間がそれを認めてどうするッ!」

 

イルムやライを初めとしたブリーフィングルームにいる全員の叱責の言葉を受け武蔵は肩を竦める。

 

「止めても無駄って判っちまったら、オイラにゃなんも出来ねえよ……何を言っても、止めても無駄ってシャインちゃんの目を見たら判るだろ」

 

そう言われてシャインの目を見れば、強い決意の炎が宿っていて、武蔵だけではなくダイテツやリーでさえも止める事が出来ないと悟ってしまうほどの決意の色が宿っていた。

 

「だ、だけど、どうやって戦うって言うんだよッ!?」

 

「フェアリオンは祭典用の物で戦う為のAMではないと聞いていますが……」

 

リクセント公国はその特殊な成り立ちから武器や兵器の所持が許されていない。だからこそ「フェアリオン」には武装は搭載されていない。

 

「皆様の言う通りフェアリオンには武装は搭載されておりません、あくまでフェアリオンは祭典用の機体ですから。ですが……戦う為の術はあるのでございます」

 

フェアリオンには武装がないが、戦う術はある。そんな謎掛けのような言葉にブリーフィングルームにいたライ達の顔に困惑の色が浮かんだ。

 

「タカクラチーフ。説明をお願いいたしますわ」

 

シャインに呼ばれて通路で待機していたツグミがブリーフィングルームに入室してくる。これから何が始まるのかと困惑するライ達の目の前でツグミはてきぱきとブリーフィングルームのモニターを操作する。

 

「皆様も見て頂けたように、フェアリオンは式典用の機体でそれぞれタイプG、タイプSと呼称されております」

 

モニターに映っているフェアリオンはアーマーを纏っていないヴァルシオーネその物で、AMサイズの美少女フィギュアと言ってもいい姿をしていた。

 

「……やっぱりよ、止めておいた方がいいぜ、シャイン王女。こんなんで出撃したら死んじまうよ」

 

「俺もそう思うぜ、なんで親父はこんなのを作ったんだ? 祭典用にしても、もう少しあるだろうに」

 

何度見てもフェアリオンが戦える機体には思えない。これがヴァルシオーネのような機体ならばまだしも、年端も行かない少女をモデルにし、武装も一切搭載しておらずドレスを纏っているだけの姿では誰もがそう思うだろう。

 

「フェアリオン・タイプG・モードPですからね、そう思うのは当然です」

 

ツグミの口から告げられたモードPの言葉……その言葉を聞いてブリーフィングルームにいた全員がモードPと不思議そうな顔をして呟いた。

 

「フェアリオンは式典用のモードP、そして支援ユニットを装備したモード……ええっと……」

 

自信満々に解説していたツグミが仕様書を見て、んん? と困惑した様子を見せている。

 

「どうかしましたか?」

 

「いえ、なんかモードゴッデスとか、ウィッチとかヴァルキリーとか……多分戦闘モードの正式名称決まってないですね。これ」

 

「親父ぃ……何やってんだよ……」

 

戦闘モードの正式名称未定、しかも複数の候補をメモしただけの物を見て流石のイルムも天を仰いでいた。

 

「ヴァルキリーが好みですわね」

 

「ではモードVと言う事にしましょう」

 

シャインのセンスによりVと命名される事になり、モニターにフェアリオン・モードVの姿が映し出される。

 

「AMには見えるようになりましたわね」

 

「……それにしても小型ではあるがな」

 

「いや普通に女の子なんですけど……」

 

赤と紫の鎧を身に纏っている事でAMに見えるようになったが、それでも元の特殊なスキン加工が施された素肌や目元が見えており、この写真だけを見れば少女がコスプレをしているようにしか見えなかった。

 

「ダイテツ中佐たちは何故これを見て出撃許可を出したのですか? いえ、もっと言えば何故シャイン王女を戦場に立つ事を許可したのです?」

 

武蔵はシャインの味方なので元々止めるつもりがない、だがダイテツ達は違う。シャインはハウゼン家の最後の生き残りであり、リクセントの象徴だ。そんな彼女を戦場に出す事は軍法会議物だとヴィレッタが責める。

 

「我々も半日近く説得したが駄目だったのだ」

 

「シャイン王女の決意が余りにも固すぎた上に、タカクラチーフの説明を聞いて大丈夫と思ってしまったのもある」

 

「その上武蔵が擁護してはな……下手をすれば武蔵とシャイン王女とラトゥーニだけでリクセントに向かいかねないと判断したのだ」

 

勝手に出撃するリスクを考えれば、不安を抱きながらも出撃許可を出し、ハガネとシロガネ全体でシャインのバックアップをすればいいという決断をせざるを得なかったのだ。

 

「あの、何故そこで私の名前が出るんですか?」

 

フェアリオンの顔のモデルに自分の顔が使われていることに加えて、何故自分が? とラトゥーニが問いかける。

 

「特殊な脳波制御装置やW-I3NKシステムを搭載している為です」

 

全く聞き覚えのない新型のシステムの名称がツグミの口から告げられ、W-I3NKシステムの解説が行なわれる。

 

「タイプGとタイプS……その2機の動きをシンクロさせる為のシステムです」

 

脳波制御装置と2機の機体をシンクロさせる特別な制御システムと聞いて、何人かがフェアリオンの本当の能力に辿り着いた。

 

「なるほど……読めたぜ、タイプGはシャイン王女用……脳波制御装置は、彼女の予知能力を生かす為の物だな」

 

グルンガストのパイロットであるイルムは特殊な脳波装置と聞いて、T-LINKシステムやグルンガストに搭載されている音声入力式武器選択装置などを発展させたシャインの予知能力をリアルタイムで行なえるようにする特別なシステムを作り出したと予想をした。

 

「そしてタイプSはラトゥーニ用……W-I3NKシステムとやらでタイプGをコントロールしようというのですね? タカクラチーフ」

 

そしてライはSRX計画、そして量産型Rシリーズのプランニングの1つ――念動力をパターンとして分析しOSとして組み込み、パイロットの能力の底上げや操縦サポートを行なうというものがあり、それはテスラ研から提案された物である事を思い出し、SRX計画に提供されたそのデータがW-I3NKシステムによる物だと悟ったのだ。

 

「シャイン王女、お気持ちは判りますが……フェアリオンで我々の作戦に参加したいと言うのですか? それは余りにも危険すぎます」

 

「アビアノ基地がお嫌ならばハガネで待っていてくれても構いません、どうかお考え直しを」

 

ヴィレッタとレオナが考え直すようにとシャインに言うが、シャインの意思は固かった。

 

「私を逃がしてくれた側近達や親衛隊……そして民を助ける為にも……そして……もう待つのも、置いていかれるのも私は嫌なのです」

 

自分の国の民、そして自分を逃がす為に協力してくれたジョイスや、瀕死の重傷を負いながらも最後までシャインを守るために戦った親衛隊を助けたいと言うシャインの想いは間違いなく本心による物だ。だがその根底にあるのは……L5戦役の戦いの中で戻らなかった武蔵とそれを待ち続けた半年間……待つのも、置いていかれるのも嫌だというのは王女ではない、幼い少女であるシャインとしての本心だった。

王女として民を助けたいと想うのも、もう置いていかれないように、武蔵がどこかに行ってしまったとしても追いかけるための力……それがフェアリオンなのだ。武蔵が説得するのを諦めたのも自分が切っ掛けであると悟ってしまったからだ。

 

「ラトゥーニ、どうするんだ?」

 

ラトゥーニが嫌だと言えばフェアリオンを運用するのは無理になる。アラドにどうするのか? と問いかけられたラトゥーニは小さく頷いた。

 

「……私、フェアリオンに乗ります。危険なのは判ってる。でも、王女の気持ちも判るから……」

 

置いていかれたくない、どこかに行ってしまうのならばついて行きたいと思うシャインの気持ちはラトゥーニには痛いほどに判った。

 

「フェアリオン……そして、W-I3NKシステムが私達の為に作られた物なら……私はそれを使いこなしてみせる……シャイン王女を守ってみせる……」

 

「ラトゥーニ……ありがとう」

 

リュウセイが眠り続けている今何よりもつらいのはラトゥーニだ。それでも友達の為に、その願いを叶える為にラトゥーニはフェアリオンに乗るのを決めた。

 

「ダイテツさん、リーさん、テツヤさん。シャインちゃんは必ずオイラが守りますから、出撃許可をお願いします」

 

深く頭を下げる武蔵、先発隊、後発隊の両方に参加しなければならない武蔵の負担は誰よりも武蔵が判っているだろう。それでもシャインの意思を聞き入れ、自分が何とかしてみせるという武蔵の言葉を聞いてダイテツ達は諦めたように溜め息を吐いた。

 

「そこまで言ったんだ。必ず成し遂げてもらうぞ、武蔵」

 

「うっす!」

 

武蔵の気合の入った返事を聞き、ダイテツ達はリクセント公国奪還作戦の為に動き始めるのだった……。

 

 

 

リクセント奪還作戦に向けてレオナとライが機体の最終調整をしていると、タラップの下から武蔵に声を掛けられた。

 

「武蔵、どうかしたか?」

 

「おう。これを2人に渡しておこうと思ってな」

 

武蔵がマントの内側から取り出したのは4発の銃弾だった。見た目は普通の銃弾と大差がない、だが妙な威圧感を放つ不思議な銃弾だった。

 

「なんですの? それは」

 

「おっと、そう簡単に触るなよ。こいつは特級の危険物だ、あの敷島博士が作ったもんだからな」

 

「シキシマ博士? 武蔵はシキシマ博士を知ってるのか?」

 

「んん? なんでライこそ、敷島博士を知ってるんだ?」

 

武蔵とライの怪訝そうな声が重なり、レオナがもしかしてと呟いた。

 

「シキシマ博士は旧西暦から続く科学者の家系って言ってましたわ。もしかして武蔵が知っているのは先祖なのでは?」

 

「なるほど……確かにそんな事を言っていたな」

 

考えてみれば武蔵が新西暦の敷島博士を知ってるわけがない。シキシマ博士の経歴を考えれば先祖・子孫の関係が1番正しいだろう。

 

「え? 敷島博士の子供がいるのか? あの自分の作った武器で惨たらしく死にたいとか、デリンジャーで打ち出せる核ミサイルとか開発してたあの敷島博士の? 大丈夫なのか?」

 

武蔵から聞いた敷島博士のぶっとび具合にライとレオナはドン引きし、武蔵が自分達に渡そうとしている物が危険物なんて言葉で片付けられない物ではないかと恐怖した。

 

「まぁ良いや。そのうち新西暦のシキシマ博士にもあうだろうしな。とりあえず2発ずつもっておいてくれ……多分必要になる」

 

断ろうとしたライだが武蔵の真剣な顔を見て、ただ事ではないのを感じ取った。

 

「あのアーチボルドって奴は駄目だ、殺しても死なない、そんな奴だ。爬虫人類に良く似てやがる……下手に逃がすと痛いしっぺ返しを貰うと思う。だから持っていてくれ、詳しいのは忘れたけどそれでグレネードランチャーと同じ位の威力が出るオイラの切り札だからよ、きっと役立つぜ」

 

武蔵の懸念――それはPTを撃墜しても、生き延び生身の白兵戦になる可能性を考えていた。そしてアーチボルドとライとレオナの因縁を知るからこそ、敷島博士の作った8発の特注の弾丸の内4発を託したのだ。

 

「ありがとう。大切に使わせてもらう」

 

「ええ、ありがとうございますわ」

 

武蔵の意を汲んでその銃弾を受け取ったライとレオナはガンホルダーにしっかりとその2発ずつの弾丸を収めた。

 

「それより武蔵、良いのですか? シャイン王女は」

 

こんな所でうろうろして無いでシャインの元へ行けとレオナが言うと、武蔵は肩を竦めた。

 

「なんか甘えたくなるから会いたくないって門前払いされちゃって」

 

武蔵に会えば甘えたくなる。勇気付けられるだろうが、それでも自分がやるべき事を成し遂げる為にシャインは武蔵と会う事を拒んだと聞いてライとレオナもシャインの本気具合を感じ取っていた。

 

「それよりも、あのアーチボルドって奴がいる以上絶対禄でもないことになる。気をつけていこうぜ」

 

武蔵がアーチボルドの危険性を感じ取っている頃、リクセントを占拠しているノイエDCのライノセラスの中ではアーチボルドの悪辣な策が動き出そうとしていた。

 

「ユウキ君、もう1度聞きますよ? 何をしようとしているのですか?」

 

(しくじった……)

 

アーチボルドの特命でコンテナを運び込もうとしている一般兵を見つけたユウキが彼らを呼び止めた直後、アーチボルドの手がユウキの肩を掴んでいた。軽く手を置いているように見えるが、ユウキの肩はみしみしと音を立て、今にも砕けそうになっていた。

 

「アーチボルド少佐。私はただ、コンテナを運んでいるので何をしているのかと問いかけただけですよ?」

 

「そうですかそうですか、大丈夫ですよ。ユウキ君、僕とて人命は守ります」

 

にこにこと笑うアーチボルドだが、サングラス越しにもその目が赤く血走っているのがユウキには見えていた。

 

「これは水や乾パン、緊急医療キットですからね。何の心配もありませんよ」

 

言っている事は正しい、だがユウキにはその言葉が真実とは到底思えなかった。

 

「何故非常食などを?」

 

「僕は勿論リクセントを死守するつもりですが、連邦も必死でしょうからねえ。戦闘が長引く事や、シェルターが埋められる事もあるでしょう? それを僕は危惧しているのですよ。分かりましたか?」

 

何の非の内所もないアーチボルドの説明を聞いてはこれ以上、ユウキもこれ以上は粘れない。

 

「失礼しました。では私も出撃準備を始めます」

 

「ええ、よろしくお願いします。頼りにしてますよ」

 

アーチボルドに敬礼し、コンテナの前を離れる前にユウキは虎王鬼に預かった札を1枚コンテナに貼り付けた。虎王鬼に託されたこれがリクセントの民を救うことを信じユウキはその場を後にするのだった……。

 

 

 

リクセント城を取り囲んでいるライノセラスや、エルアインス、ランドグリーズ、そして闘龍鬼の上空を白銀の流星と鮮やかな黄色の閃光が走った。

 

「来たか……」

 

目を閉じて意識を闘気を研ぎ澄ませていた闘龍鬼はゆっくりと目を開いた。連邦軍のシロガネがリクセントの周辺で目撃されたという報告を受けていた。そしてこの場に現れるであろうハガネ、ゲッターロボを闘龍鬼は待ち続けていた。

 

「民間人の避難はどうなっている?」

 

『は? いえ、アーチボルド少佐が避難をさせるなと仰っておりましたが?』

 

「何?」

 

闘龍鬼は民間人を避難させろと命じていた、だがアーチボルドがそれを握り潰したと知りその眉を寄せる。

 

「アーチボルドに代われ、今すぐにだ」

 

『は、はい!!』

 

通信機越しでも判る闘龍鬼の怒気にノイエDCの兵士は顔色青くして、失礼しますと頭を下げその場を後にする。

 

(ちっ……もう少し警戒するべきだったか)

 

龍王鬼が負傷し動けないので現場指揮を任された闘龍鬼だが、ハガネが来ると知り我先にと百鬼獣 闘龍鬼に乗り込んだことを後悔していた。

 

『はいはい、なんですかね? 闘龍鬼さん』

 

『ちょっと話は終わってないよッ! なんで民間人を盾にするなんて計画を立てているのさッ!』

 

苦情を告げているカーラの言葉を聞いて闘龍鬼はますます表情を険しくさせ、アーチボルドは舌打ちをした。

 

「どういうことだ。釈明があるなら聞こう」

 

『リクセントを奪われる訳には行かないでしょう? その為の策ですよ』

 

いけしゃしゃあと語るアーチボルドの言葉を聞いて、闘龍鬼は己が半身を操りライノセラスに向き直り、腰から抜き放った三日月刀をブリッジに突きつけさせる。

 

「そうか、お前は龍王鬼様の命令を忘れたようだ。ならば制裁を受ける覚悟も出来ているんだろうな?」

 

『……判りました。判りましたよ、シェルターに避難させればいいんでしょう』

 

その殺気に弁明さえ許されずライノセラスを撃墜される事を感じ取ったアーチボルドが不貞腐れるように返事を返す。

 

「もう遅い、戦いは始まった」

 

アステリオンとポセイドン号の奇襲を切っ掛けにし、ノイエDCは動き出している。今から避難などして間に合うわけがない、闘龍鬼はその目に怒りの色を浮かべた。

 

「お前に指揮権を与えたのが間違いだった。ここからは俺が指揮を取る」

 

『そんな!? 僕の鬼になった記念すべき初陣ですよ!? 貴方だって指示に従ってくれるといったではないですか!?』

 

確かにアーチボルドが鬼になった初陣という事で虎王鬼に可能な限りの指示に従えと命じられていた。だが闘龍鬼にとって最も優先するべき龍王鬼と虎王鬼の指示に従っていない時点で論外なのだ。そもそもアーチボルドは鬼になったばかりで鬼としての階級は名もなき鬼と大差が無く、本来ならば名前持ち、更に専用百鬼獣持ちの闘龍鬼に文句を言える立場には無いのだ。

 

「初陣は己の戦果で飾れ、大帝から機体を貰っただろう?」

 

『ですが……』

 

「お前が龍王鬼様と虎王鬼様の指示に従わなかったのが悪い。それに鬼は実力主義だ、なんの戦果もない者がいつまでも大きい顔を出来ると思うなよ』

 

人間ならば――人間にしてはという事で一目置かれていただろう。だが鬼となった事でアーチボルドは厳しい鬼の縦社会に組み込まれていたのだ。今までと同じ様に立ち回っても大丈夫だと思っていたアーチボルドはいきなり出足を挫かれる事となった。

 

『判りました。判りましたよ、では僕も闘龍鬼さんの指揮下に入ります』

 

「ああ、今回は許すが次はない。命じられた事くらいはちゃんと成し遂げて欲しいものだな、アーチボルド」

 

闘龍鬼からの嫌味にアーチボルドは眉を細めるが、それがアーチボルドの選んだ道だ。実力さえあれば何をしても許されるが、実力がなければ使い潰される――それが鬼の社会の常識である。

 

『了解しました。闘龍鬼さん、我々はどうすればいいですか?』

 

「そうだな……」

 

指揮を求めてくるユウキの言葉に返事を返しながら闘龍鬼は戦場を見渡す。どうもゲットマシンと白銀のAMの目的は城内のランドグリーズを引っ張り出す事にあるようで、弱い牽制射撃をして巧みにランドグリーズを城外へ城外へと誘い出している。

 

「中々にやってくれる」

 

『は?』

 

「いや、こっちの事だ。気にするなユウキ」

 

ゲッターロボは合体しなければ弱いと言う認識だったが、ゲットマシンの状態でも十分に戦況をかき回している。だが闘龍鬼が闘いたいのはゲッターロボであり、ゲットマシンではない。どの道アーチボルドが龍王鬼と虎王鬼の命令に反した段階でこちらの出鼻が挫かれている上に龍王鬼を行動不能に追い込んだ武蔵が出張ってきているのを見ればリクセントを防衛するのは不可能と闘龍鬼は算段を立てていた。

 

「各機ゲットマシンと平行しているAMを……」

 

『待ってください! 熱源1急速に接近中ッ! 識別コード照会……ハガネですッ!』

 

指示を出そうとした時にオペレーターから告げられたハガネの登場に闘龍鬼は笑みを浮かべ、指示の内容を変えることを決断した。

 

「ランドグリーズ、ランドリオン隊はハガネの迎撃に向かえ、城外に出ることも許可する。行け」

 

『『『了解!!』』』

 

闘龍鬼の指示に従いノイエDCの兵士達が動き出す、百鬼帝国は既にリクセント公国にそれほどの価値を見出していない、欲しいと言うのならば連邦に返してやればいい、所詮は前哨戦、まだまだ百鬼帝国が本格侵攻に出る段階ではない。ならばリクセントを死守するほどの価値はない、守れればそれに越した事は無いが、守りきれないのならばそれでも良い程度の認識だった。

 

「ユウキとカーラはライノセラスの護衛をしていろ」

 

『『了解』』

 

護衛と言う名のアーチボルドの監視命令を出し、闘龍鬼は抜き放った三日月刀の切っ先をリクセント城前の広場に突きつける。それは正しくリクセントを、この城を取り返したければ俺と戦えという闘龍鬼からの武蔵への挑戦状だった……。

 

 

 

 

 

ポセイドン号と平行飛行を続けているアステリオンのコックピットの中でアイビスは唇を強く噛み締めていた。

 

『オイラは右旋回、アイビスは左旋回からの急降下で一気に誘導するぜッ!』

 

「りょ、了解ッ!!!」

 

今回の陽動作戦は武蔵が主導になり、アイビスがそれに追従する形になっていた。スピードは同じならばついていくのも簡単と思っていたアイビスだが、それは僅か数分で覆された。

 

(あたしは甘く見てたッ! 巧さが段違いだッ!)

 

テスラドライブも最新式のレーダーも無い、それ所か重力装備もなければ、操縦の為のOSもない、無い無い尽くしに加えてコックピットは操縦桿と無数のペダルとレバーを手動で動かしての物――シミュレーターで判っていた、いやアイビスは判ったつもりだったのだと思い知らされた。ゲッターパイロットは操縦が巧いのだ、空気抵抗、攻撃による反動――新西暦のパイロットがコンピューターの補助を得て行なうものを全て生身で、己の体感だけでやりきっていたのだ。

 

(ぐううっ!!!)

 

当然のように急降下し、バルカンでランドグリーズに攻撃を繰り返し離脱するポセイドン号の後を追って、アイビスは必死にアステリオンを繰る。余りにも早い、余りにも遠い、そして余りにも巧い……普通ならば心が折れても仕方ない。だがアイビスはコックピットの中で歯を食いしばりながらも笑みを浮かべていた。

 

(まだいける! あたしはまだ先へ行けるッ!!)

 

出撃前にコウキに勉強して来いと背中を叩かれたアイビスは今、こうして初めてその言葉の意味を理解した。音速飛行を極限まで極めた武蔵の飛行は、平行飛行するだけでも何十個という高等技術を要求される。最初はセミオートだったものをマニュアル制御に変え、ペダルを踏み込み、操縦桿を両手で握り締める。そうでなければ追いつけない、そうでなければ届かないのだ。

 

『アイビス、そろそろオイラは1回ハガネに戻らないといけない。1人で大丈夫か?』

 

ハガネが進行してくるタイミングで武蔵が1度下がり、それと入れ代わりでPT隊が出撃する。その間の数分間アイビスは1人で2人で誘導していた敵と対峙しなければならない。武蔵からの通信を聞いて今まで感じていた高揚感が消え、背筋に冷たい汗が流れる。

 

『不安なら予定を少し……「大丈夫。行ってよ、あたしは大丈夫だから」……判った。気をつけてな』

 

沈黙したアイビスに不安に感じていると武蔵が感じたのか、予定をギリギリまでずらそうかという武蔵にアイビスは大丈夫だと返事を返す。不安は感じていた、だがいつまでもそんな事を言っていてはプロジェクトTDの夢は叶わない、自分だけで飛ぶ必要があるとアイビスは感じたのだ。急制動を掛けて減速していくポセイドン号を追い抜いて、アステリオンだけが夜空を飛ぶ――それは正しく白銀の流星だった。市街地から放たれるミサイルを、レールガンをガトリングを……ありとあらゆる飛び道具の間を舞うようにアステリオンは急加速、減速、旋回、急上昇、急降下……ありとあらゆるすべてを駆使して飛び続ける。

 

(まだ行ける、もっと早く、もっと遠くへッ!)

 

アイビスの脳裏にはまだポセイドン号が飛んでいる姿が焼きついていた。その姿を、その動きをなぞる様にどこまでも、どこまでも高く遠くへ飛べる……アイビスはそう思っていた。100の訓練よりも1の実戦――それは間違いない事ではあるが、武蔵とポセイドン号と言うプロジェクトTDの理念に最も近く、そして同時に最も遠い位置にいる存在がアイビスにとっては理想的な教師であった。限界ギリギリを攻め続けるその飛行はハガネでモニターしていたツグミが声を荒げるほどに危ういものであったが、その危うさが逆にアイビスにはキッチリ嵌っていた。コウキが告げたアイビスがゲッターパイロットに適していると言うのは嘘でも、なんでもなく本当にアイビスはゲッターパイロットの適正が高かったのだ。

 

(もう少し、もう少し……)

 

コックピットが軋みを上げ、もう何時からか空気を吸い込むことを忘れたその身体は悲鳴を上げている……だがもうすぐ近く、遠くにいたポセイドン号に追いつける……そう思ってペダルを踏み込もうとしたアイビスだったが、その足がペダルを踏み込む事は無かった。

 

『アイビス! ハガネの皆が出撃するわ! 1度下がって』

 

「ッ! 了解ッ!」

 

ツグミからの警告によってアイビスの脳裏に焼きついていたポセイドン号の幻影は消え、アイビスはツグミの指示通りに大きく旋回し、リクセント城の城壁を越えてハガネへと帰還する。その時には既にあの高揚感は消えていたが……それでもあのどこまでも高く、どこまでも遠く、そしてどこまでも飛んで行ける……その高揚感はアイビスの身体に残り続ける事になるのだった……

 

 

 

 

 

リクセント奪還作戦の後詰……アステリオンと陽動を終えハガネに引き返してきた武蔵が着艦し、再び再出撃するまでの間、ハガネの格納庫には異様な緊張感が広がっていた。それも当然、一国の姫が自らの国を取り戻す為に戦場に立つ……もしも撃墜でもされようものならば、ここにいる全員の首が飛ぶ事は間違いない。

 

「AMを操縦する際は距離感とスピードに気をつけろ。特にフェアリオンの加速度は相当な物だ、距離感を誤れば敵や遮蔽物にぶつかる事になる」

 

「はい。判りましたわ、ほかに気をつけるべき事はありますか?」

 

恋愛に関してはポンコツを通り越して残念なユーリアだが、AM乗りとしては新西暦の人間の中でも上位だ。シャインも馬鹿にすること無く、ユーリアの助言に真剣な表情で耳を傾ける。

 

「武器の反動に気をつけろ。頭部と背部のキャノンの反動は恐らく相当な物だ。テスラドライブである程度は軽減出来るだろうが……後に弾かれる事は間違いない。それと胸部と腰部のボストークレーザーはフェアリオンの外見上判っていると思うが、一時的に装甲が解除されてしまうからな」

 

フェアリオンの戦闘モードは実を言うとミツコが依頼していた半自動の犬と猫の動物型ロボットが変形し装着している。それ単体が独立の兵器であり、フェアリオンに武装出来ない分過剰なほどの武装を搭載しているが、フェアリオンからの認証コードとエネルギー供給がなければ武装を使用できず、式典用のロボットに偽装している。

 

「大丈夫ですわ。私、意中の殿方以外に素肌を見せるやすい女じゃありませんわ」

 

「それだけ無駄口が叩ければ十分だな。最後に1つ、どんな時も冷静に、心は熱く頭は冷ややかにだ」

 

ユーリアに助言にありがとうございますとシャインは深く頭を下げ、コックピットに背中を預け大きく深呼吸をする。覚悟も決意もある、だが実際の戦闘となるとそれとこれは話は別だ……それでもシャインには成し遂げなくてはならないことがある。国を取り戻す、そしてもう置いて行かれないように……追いかけていく為の翼をこの手にしたのだ。

 

「シャイン……気をつけて」

 

「ええ、ありがとうございますわ」

 

フェアリオンのコックピットに乗り込む前に激励に来ていたエキドナにそう返事を返し、シャインはフェアリオンへと乗り込んだ。

 

『シャイン王女。大丈夫ですか?』

 

ハガネの格納庫に響く振動と衝撃――それがリクセントでの戦いが激化していると言う証拠であり、パイロットとして素人のシャインが出撃するには無謀すぎる環境であるという事を示していた。だがそれでもシャインは戦う事を決めたのだ、だから今更臆する事は出来ない。

 

「ええ、大丈夫です。ラトゥーニも私の我がままでごめんなさい」

 

『いいえ、大丈夫です。行きましょう、シャイン王女』

 

作戦ではハガネとハガネのPT隊がリクセント城の正面で派手に立ち回り誘導している間にフェアリオンがステルスモードで出撃、リクセント城の側面に回りこんでライノセラスを強襲し、ゲッターロボの突入の為の進路を作り、その後はフェアリオンの機動力を生かし支援を続ける予定になっている。

 

『ラトゥーニ少尉、シャイン王女。出撃準備OKです、出撃どうぞ』

 

オペレーターからの出撃のアナウンスがコックピットに響き、シャインはゆっくりとフェアリオンの操縦桿を握り締めた。

 

『ラトゥーニ・スゥボータ、フェアリオン・タイプS行きますッ!』

 

「シャイン・ハウゼン。フェアリオン・タイプG行きますわよッ!」

 

そして2機の神姫とそれを操る2人の妖精はハガネの格納庫を飛び立っていく姿を見送った武蔵もまた再びポセイドン号へと乗り込んだ。本当を言えばすぐにでも出撃したいが……フェリオンとゲットマシンでは飛行速度が違いすぎる上に、ゲットマシンには消音なんて物は無く、フェアリオンが突入してからやっと出撃出来る。そうでなければ奇襲という大前提は成立しないのだ……武蔵とてそれは判っている。だがなんとも言えない焦燥感を感じ、早く出撃許可が出ろと言わんばかりに武蔵はポセイドン号の操縦桿を強く握り締めるのだった……。

 

 

 

第100話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その3へ続く

 

 

 




本格的な戦闘は次回からスタートです。ちょっと予定がずれ込んだのと、アイビスがちょっとやばい領域に足を踏み込みかけているのは……うん。多分何とかなると思います、きっとたぶん、めいびー……次回ももう少しイベント重視になるので本格戦闘はその4になると思いますが次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第100話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その3

 

第100話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その3

 

「アイビスったらなんて無茶をッ!」

 

フェアリオン、アステリオンの3機はリクセント奪還作戦の中軸を担う機体だ。それゆえにプロジェクトTDに属するツグミとコウキは進路誘導などを行なう為にハガネのブリッジにいたのだが……ポセイドン号に感化されるようにアステリオンでは想定されていない挙動を繰り返すアイビスにツグミはダイテツやテツヤがいるにも拘らず怒声を上げていた。

 

「ふむ、武蔵に感化されたのだろう」

 

「なんでそんなに他人事なのッ!? 半分は貴方のせいよ。コウキッ!」

 

「知らん。それに言っておくが、ここはプロジェクトTDの施設でもテスラ研でもないぞ?」

 

「あ……」

 

コウキに指摘され、ブリッジのクルーに見られているのに気付きツグミは徐々に小さくなり、騒がしくしてすみませんと謝罪の言葉を口にした。

 

「想定以上だな。エイタ、リクセント領まで後何分で突入できる?」

 

「後6分――いえ、4分ですッ!」

 

エイタの返答を聞いてテツヤは眉を細める。ゲットマシン、アステリオンの2機を囮として先行させ、ゲットマシンが下がると同時にハガネで突入する時間を計算し、どう足掻いても2~3分のロスが生まれる。ルーキーのアイビスを敵機の群れの中で1機で残して大丈夫なものかとテツヤは頭を回転させる。

 

「テツヤ大尉。アイビスはそれほど柔ではない、案ずる事はない。武蔵を戻せ、2分ほどならアイビス1人でも問題ない」

 

「ちょッ!? コウキッ!?」

 

無茶とも言える囮をアイビスに行なわせようとするコウキにツグミが驚きの声を上げる。そしてそれはダイテツやテツヤも同じだった、アイビスの実戦経験は1~3回ほど、偽物のビアンを本物と信じ、再び集結したノイエDCの兵士はDC戦争を生き延びた者達だ。余りにもハンデが大きいと誰もがそう考えた。だがコウキはダイテツ達の心配を鼻で笑った、この場にいる中でコウキだけがアイビスならば問題ないと心からそう信じていた。

 

「繰り返すが問題はない。アイビスは武蔵と共に飛び、そして武蔵の操縦技術を物にしようとしている。余り過保護にしてはアイビスの成長を妨げるぞ」

 

コウキの言葉にツグミは口を閉ざし、少し考え込む素振りを見せた。

 

「テツヤ大尉、武蔵に帰還指示を出していただいて大丈夫です」

 

「……良いんですね?」

 

「はい。コウキの言う通り、アイビスはテスラ研にいるときよりも遥かに成長しています。ですからきっとハガネが突入するまで耐えてくれる筈です」

 

芯の通ったツグミの返答を聞いてテツヤは小さく頷いた。

 

「エイタ、武蔵に帰還命令。そしてラトゥーニ少尉とシャイン王女を後方格納庫より出撃、その後ハガネはリクセント領へ突撃する」

 

今回の作戦は3段構えだ。第1段階はポセイドン号、アステリオンによる陽動、第2段階はハガネとPT隊によるリクセント城正面への突入と同時に後部格納庫からステルスを展開したフェアリオンタイプSとGを出撃させる。そして第3段階はフェアリオンによる城側面部への強襲、そして抉じ開けられた側面部からのゲッターD2の突入による制圧だ。

 

「ダイテツ艦長……」

 

「自信を持て、ワシはお前に全てを任せた」

 

緻密な計算、そして大胆な突入経路――その全てはテツヤ考案の物だ。ダイテツもリーもそれを認め、テツヤの作戦ならば行けるとGOを出したのだ。だから不安そうな顔をするなとダイテツに言われ、テツヤは両頬を叩いた。

 

「これより本艦はリクセントへと突入する! 各員奮闘せよッ!」

 

艦内放送で力強く指示を出すテツヤの顔に先ほどまでの不安の色は無く、自信に満ちた表情で指揮を取る姿を見てダイテツは小さく微笑み、口にしていたパイプをほんの少しだけ吹かせるのだった……。

 

 

 

 

リクセント領に侵入すると同時に開け放たれた格納庫からゲシュペンスト・リバイブ(K)を先頭にして、ハガネのPT隊が次々と出撃する。

 

「アイビス! 1度下がれ、もう十分だ!」

 

『りょ、了解ッ!』

 

ハガネの出現によって1度フォーメーションを組みなおしているノイエDCの機体を見てカイは深追いせずに1度ハガネの前に戻れとアイビスに指示を飛ばし、それと同時にノイエDCの戦力をざっと把握する。

 

(城の前にライノセラスと百鬼獣――そしてその両サイドに動く気配の無いエルアインスが2機。恐らくあれらが指揮官機か……)

 

ポセイドン号、アステリオンのよる陽動は十分に効果を発揮しており、ランドグリーズやランドリオンは十分に分断されている。しかしこちらも戦力は決して充実しているわけではない。

 

(突入できるのは俺とイルム、それとアラドとライ、レオナとラーダ、ヴィレッタ……それにアイビスは無理だな)

 

百鬼獣が増援で出る危険性がある以上フォワードを務めれる機体はそう多くない。ヒュッケバイン008Lは十分なパワーがあるが、百鬼獣に対しては機体サイズの差で致命打を与えにくく、ラーダの乗るゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプSでは支援は出来ても、速度についていけず、PTやAMに対しては重装甲だとしても百鬼獣相手ではその装甲の強度は決して安心出来る物ではない。アイビスに関しては極限状態の陽動で精神をすり減らしている上に一撃喰らえば撃墜される百鬼獣に当てるのは余りにも酷だ。

 

「ラーダとアイビスは当初の予定通り遠距離支援を徹底しろ、ライとヴィレッタは中距離で臨機応変に支援を、レオナはファイナルフェーズでのブラックホールキャノンの使用を前提に立ち回ってくれ、最後にイルムとアラドは俺に続け、城内のランドグリーズを炙りだすぞッ! 5分以内にランドグリーズを全て誘き出せなければこの作戦は失敗だ! 全員気を引き締めて作戦に当たれッ!」

 

『『『『了解ッ!』』』』

 

カイの一喝にライ達が力強く返事を返し、リクセント奪還作戦第2段階が幕を開けるのだった……。

 

「どういうことかしら」

 

ゲシュペンストMK-Ⅱ・タイプRDのコックピットの中でヴィレッタは困惑した様子でそう呟いた。センサー類を同調させているレオナとラーダにもその呟きが聞こえていたのか、すぐに同意の返事が帰って来た。

 

『ルーキーにしても酷すぎますわね』

 

『ええ、機体特性を把握出来ていないとでも言うのでしょうか?』

 

リクセント城内に配置されているランドグリーズはその見た目の通り、重装甲の長距離射程を武器にした射撃機だ。定石で考えれば、一定の距離で足を止め、そこからの支援射撃、もしくはハガネを狙っての砲撃となるだろう。仮にヴィレッタ達がランドグリーズに乗っていればそれを選択する。だが今目の前で繰り広げられている戦いは、その定石に真っ向から刃向かった形になっている。

 

『うわっとととッ!』

 

『アラド、無理に突っ込むな! 機体の重量の差と装甲の差で押し潰されるぞッ!』

 

『りょ、了解ッ!』

 

ランドグリーズが両手にアサルトマシンガンを持ち、それを狙いなどお構いなしに乱射しながら突っ込んでくる。その後をランドリオンが追走し、ミサイルやチャフグレネードによる煙幕を作り出すという定石とは程遠い――それこそ暴挙に等しい戦術にカイ達は完全に出鼻を挫かれていた。

 

『作戦通りの流れと言えば良いが……ちっ、これは不味いぞ』

 

リクセント城内からランドグリーズを誘い出すという作戦はまさかのランドグリーズ側がハガネに突撃してくるという想定外によって為されたが、重装甲かつ無数の飛び装具を内臓しているランドグリーズの突撃戦法はカイ達にとって完全な想定外だった。

 

『自爆攻撃でもないのか……一体どうなっている』

 

アーチボルドの戦術や性格を知るライはランドグリーズを盾にし、無人機のランドリオンに爆薬を搭載し自爆させる事だと読んでいたのだが……フォトンライフルの一撃で動力部を破壊されたランドリオンから脱出するパイロットを見て、それも違うと困惑させられた。

 

『こりゃ、あれじゃねえか? あの百鬼獣の奴の命令なんじゃないか?』

 

突撃して来たランドグリーズを計都羅喉剣で切り裂いたイルムがそう呟いた。武蔵の話ではあの百鬼獣――グルンガストに酷似している闘龍鬼は龍王鬼の配下の鬼である、ハガネに真っ向から突っ込んで来たうえに人道を説く鬼の配下ならばリクセントの住人を巻き込むのを嫌っている可能性は十分に考えられる。

 

『確かにその可能性はあるな、それにノイエDCもだが』

 

ノイエDCの兵士は偽ビアンを本物だと思っている。だからこそ再び集った者が多く、その上ビアンの地球を守るという意志に賛同している者が多く、人質戦法を許容する兵士はやはり多くないだろう。だからこそ城の外に出て戦いを挑んでいると考えれば辻褄は合う……。リクセントの城下町を壊す事無く、そして民間人を巻き込む事無く戦えるのはカイ達にとっても嬉しい誤算であったが、それに喜んでいる場合ではない。総合的な機体スペックはゲシュペンスト・MKーⅢやアルブレードが上だったとしても、装甲や攻撃力といった一部のスペックは完全にランドグリーズが上回っている。それに加え、何時百鬼獣の増援が出現するかもしれない以上、リクセント城内から敵機が出てきたとしても決して油断が出来る状況ではないと言う事に変りはないのだ。

 

『まぁ良い、向こうがリクセントの住人を巻き込むつもりがないと言うのならば、俺達にとっても好都合だッ! ラトゥーニとシャイン王女が突入出来るように派手に立ち回るぞッ!』

 

幸いにもカイ達の思惑に乗るようにノイエDCが立ち回っている。それならばそれを利用する奪還作戦の最終フェイズ――ラトゥーニとシャインの2人の城側面からの突入を行いやすくする為に必要以上に派手に立ち回りこちらに注意を向けるぞとライ達に指示を出しながら、カイの操るゲシュペンスト・リバイブ(K)の豪腕が振るわれ、地上から伸びる雷の柱がリクセントの町を照らし出すのだった……。

 

 

 

凄まじい轟音と共に立ち上った雷にカーラは思わずエルアインスのコックピットで小さく飛び上がった。

 

『大丈夫か?』

 

「あーうん、大丈夫」

 

元教導隊のギリアム・イェーガーとカイ・キタムラの駆るゲシュペンスト・リバイブの名は良いも悪いも有名だ。ゲシュペンスト・MK-Ⅲの素体、プロトタイプと言われているが、その実ゲシュペンスト・MK-Ⅲを上回るスペックを持つ再誕の名を持つ亡霊の強さはL5戦役を戦い、正体不明のブラックエンジェルに撃墜されるまで不敗を誇った事から連邦――強いてはハガネとヒリュウ改の強さの象徴と言ってもいい。それに加えて元祖EOTを流用し、暴走事故で基地を1つ吹き飛ばした初代ヒュッケバインの同型機までもがハガネで運用されていると言うのはカーラにとって大きなプレッシャーだった。

 

「ユウは怒ってる?」

 

しかしもう1つの懸念がカーラの集中力を乱していた。作戦前にアーチボルドに噛み付いたカーラ、それがあるからかユウキも無言を貫いていると思い、不安そうにユウキへとそう問いかけた。

 

『いや、俺もその件に関しては思うことがあった。カーラが言わなければ俺が言っていただろう』

 

「じゃあなんで、そんなに黙り込んでいるの?」

 

『アーチボルド少佐が沈黙しているのが不気味でな。また何かしようとしているのではないかと思うのは当然だろう』

 

アーチボルドの護衛という名目でアーチボルドが余計な事をしないように監視しろと闘龍鬼に命じられたのはカーラも判っていた。今も不気味な沈黙を続けているアーチボルド。その気質は当然ユウキとカーラと相容れるものではないではないし、何よりもアースクレイドルを任されている鬼、龍王鬼にも受けが悪い。今回は民間人を盾にしようとした事を闘龍鬼に咎められ指揮権を剥奪されているが……。

 

「ユウはその程度じゃ止まらないって思ってるんだね?」

 

『……ああ』

 

そもそもシャインを確保出来なかった段階でそれほどまでに百鬼帝国はリクセントにこだわっていない。そもそも龍王鬼と虎王鬼が必要としておらず、金塊等の資金元を確保した段階でリクセントを放棄してもいいとさえ虎王鬼は言っていた。そもそも百鬼獣を運用出来る以上中継拠点を確保するよりも圧倒的な暴力で進路を確保した方が良いと思うのは当然の事だ。

 

『連邦側の廃棄する基地の爆破というのもある』

 

キルモール作戦下でノイエDC、百鬼帝国に確保されそうになった基地を爆破、あるいは基地機能の破壊など連邦側はDC戦争で基地の奪取を教訓にしており、リクセントからヨーロッパ方面に抜けるとしてもその間にある基地は十中八九基地機能の破壊や爆破の準備が済んでいるであろうし、そもそもリクセントに軍事拠点は無く、制圧していても補給も出来ない、整備も出来ないと中間基地としての価値も殆どないのが現状だ。

 

「あれ……ユウ。あの動きって……もしかしてアラドじゃないッ!?」

 

派手に立ち回っているリバイブの影で目立ってはいないが、操縦の癖を見ればアルブレードに乗っているのがアラドと言うのは一目で判った。

 

『どうやらハガネに回収されていたようだな……』

 

「そうだね……良かった」

 

アンノウンに撃墜されてからオウカやゼオラと別行動をしていたユウキとカーラはアラドの生存を知らず、こうして戦場と言えどアラドの生存が判った事に安堵の溜め息を吐いていた。

 

『ふむ……ユウキ、カーラ。お前達から見て連邦軍の動きはどう見える?』

 

だがいつまでも安堵してはいられない。今ユウキ達はハガネに攻め込まれているのだ、気を緩めている場合ではない。闘龍鬼からの問いかけにユウキは少し考えてから返事を返す。

 

『必要以上に派手に立ち回りすぎかと……』

 

『なるほど、俺も同意見だ、ゲットマシンという極上の囮を使い、ハガネとそのPT隊でさえも囮にする。なんと豪胆な手か』

 

闘龍鬼はリクセントの城下町に被害が出ないように外で戦うように命じたのでカイ達は思う存分戦う事が出来る。だがそれにしても派手に立ち回りすぎだとユウキは進言し、闘龍鬼もそれに同意した。必要以上に派手に立ち回る――それは別働隊の突入進路を確保する為の物と考えるのが普通だ。そして他の基地や部隊ならば確実に主力にする者を囮にする……闘龍鬼はなんと豪胆な手を打ってくるかと上機嫌に笑った。

 

「じゃあ攻め込んでいる友軍を戻しますか?」

 

『いいや、戻さない。ここまでやってくれたんだ、本命が出て来やすいようにするべきだろう。そしてその上で押し潰す、俺の戦う相手がゲッターロボならばなおの事良いがな』

 

生粋の戦闘狂だからこそ、相手の罠を踏み潰して勝利すると闘龍鬼は言い放った。そしてその直後ライノセラスから警報が鳴り響き、闘龍鬼は牙を剥き出しにして獰猛に笑った。ここまでお膳立てをして出てくる本命が何かと胸を躍らせる闘龍鬼の目の前に躍り出た物……それを見て闘龍鬼だけではない、ユウキとカーラも驚きの表情を浮かべた。

 

『なんだあれは……女?』

 

「お、女の子ロボッ!?」

 

光の粒子を撒き散らしながら、防衛隊を突破してきて来たフェアリオンを見て闘龍鬼はその闘志を霧散させ、困惑していた。闘龍鬼の予想では本命はゲッターロボであった、それと戦う事を前提としていたのに現れたのが20mもない小型の少女の姿をモチーフにしたAMでは困惑するのも当然だ。だがその困惑は更なる驚きによって覆されることになる、真っ直ぐに突っ込んでくるフェアリオンに向かってライノセラスから迎撃が行なわれ、ライノセラスの護衛に残っていたランドリオンからもスプリットミサイルが放たれる。それは小型のAMにとっては1発でも被弾すればその瞬間に致命傷になりかねない壁のような弾雨だった。だがフェアリオンはそれを恐れる事無く、その弾雨の中に身を投じた。

 

「嘘ッ!? なんであんな動きが出来るのッ!?」

 

『信じられん……なんという機動力だ……』

 

自殺行為にも見える弾雨の中に身を投じる行為、だが2機の神姫は空中を舞うように、旋回や緩急を駆使し、頭部からはなったビームで回避できない物は迎撃し、殆ど一瞬でその弾雨を潜り抜けライノセラスへと肉薄する。

 

『私の国は返して貰いますッ! ラトゥーニッ!』

 

『はい、シャイン王女ッ!!』

 

その機体から響いたのは紛れも無くシャインの声だった。国家元首が自ら機体を操り、自分の国を取り戻す為に戦いに身を投じた。その信じられない光景に、そのありえない現象にほんの一瞬だけ弾幕が緩んだ。その瞬間にフェアリオンは一気に加速しライノセラスへと切り込んで行った。肩部から展開されたブレードから展開されたフィールド――Tドットアレイを用いた突撃攻撃、ソニックブレイカー……しかも抜群の連携によって挟み撃ちのように突撃されたライノセラスの両弦が爆発し、格納庫ごと主砲、副砲を潰されライノセラスは一瞬で置物と化した。しかしフェアリオンはそれでも止まらず、バレルロールなどを駆使してユウキやカーラのエルアインスに攻撃を仕掛ける。

 

「は、速いッ!?」

 

『くっ!? 照準が定まらんッ!!』

 

AMの常識を遥かに越える速度、そして仮に命中しても完全に威力を無効化する強固なフィールドを前にショットガンなどの武装は意味が無く、そのフィールドを突破出来るであろうツインビームカノンはその速さゆえに照準さえ合わせられず、瞬く間にリクセント城前に陣取っていたライノセラスを初めとしたノイエDCの機体にダメージが蓄積する。

 

『ユウキ少尉! カーラ曹長何をしているッ! 速く迎撃に……なッ!?』

 

ライノセラスの艦長がユウキとカーラを叱責した瞬間、内部から爆発しライノセラスのブリッジからの通信は途絶えた。

 

「え、えッ!? な、何が起きたのッ!?」

 

『内部から……まさかアーチボルド少佐かッ!?』

 

ハガネからの攻撃でも、ましてやそのPT隊からの攻撃でもない、母艦である筈のライノセラスは内部から破壊され、乗っていたクルーごと爆発四散した。そんな非道をするのはライノセラスの中にいたアーチボルドに他ならない。……そして爆発したライノセラスの残骸から巨大な手が姿を現し、リクセント城の壁を掴んでゆっくりと立ち上がった。爆煙と炎に照らされる真紅の巨躯……。

 

『くふ、ふふふふッ! あーはははははははッ!!!!! いやいやいや、まさかまさかこんなに楽しいショーがあるとは思いませんでしたよ。ねぇ? プリンセス・シャイン?』

 

ライノセラスを破壊し現れたのは2本の角を持つ巨大な特機――だがそれは百鬼獣にあらず、そしてましてや新西暦の技術で作られた機体にあらず……それは旧西暦から新西暦まで海底の底で存在し続けた本物のゲッターロボ。

 

『ひひひ、ひゃーはははははははッ!! どうですかどうですか! 本物のゲッターロボが敵に回った気分はッ!!! ひゃーははははははッ!!!』

 

狂ったように笑うアーチボルドの声がゲッターロボから響き続ける。だがその笑い声をシャインは一蹴した、リクセントの民に、自分の国に全てに届くようにシャインは広域通信できっぱりとした口調で告げた。

 

『本物? いいえ、紛い物ですわ。そんな物はゲッターロボではありません』

 

『ほう? 何を持って紛い物というのか、僕に教えてくれませんか? プリンセスシャイン』

 

 

 

 

 

ノイエDCによって制圧されたリクセントの民は外に出ることも叶わず、食料等も手にする事が出来ない極限状態の中でも希望はあった。自分達の国の王女は無事に逃げ延びてくれた、シャインさえ生きていれば再びリクセントは復興出来る。幼くとも優しく、自分達の事を思ってくれているシャインさえ生きていれば良いのだと心からそう願っていた。

 

「ああ……そんなシャイン王女が……」

 

「どうして……なんで」

 

リクセント公国を奪還しにハガネが現れ、ノイエDCと連邦による戦火が広がり、恐怖し、脅えるリクセントの民の耳に届いたのは紛れも無く自分達が敬愛する幼き王女の声、そして自らAMを駆り自分達を助けに来た勇ましい姿だった。

 

『僕のゲッターロボは本物ですよ。旧西暦からずっと眠り続けていた本物のゲッターロボなんですよ』

 

『いいえ! 偽物ですッ! そんな物がゲッターロボであるわけがありませんわッ!!』

 

リクセントにとって絶対の存在であるはずのゲッターロボがノイエDCによって操られ、シャインの乗るAMに攻撃を繰り出すその姿はリクセントの民にとっては悪夢と言っても良い光景だった。

 

『武蔵様は言いました、ゲッターロボは正義のスーパーロボットであり、正義の心があるからこそゲッターロボなのだと』

 

『ははっ! それはおかしなことを言いますね。武蔵が人を殺めていないとでも? それとも正義を名乗れば殺人をしても許されるとでも言うのですか?』

 

シャインとアーチボルドが話している間もゲッターロボは斧を振るい、拳を振るう。フェアリオンはそれを回避しながらボストークレーザーによる反撃を続ける。

 

『武蔵様は言いました。覚悟だと、例え自分が悪人だと、殺人者と罵られようがそれでも守りたい者がある。救いたい物がある。それならば戦うしかないのだと』

 

これはカイ達も、もっと言えばビアンでさえも知らないであろう武蔵の心情の吐露だった。シャインだからこそ武蔵は話し、そしてその話を聞いたからこそシャインもまた戦いの中に身を投じる覚悟をしたのだ。

 

『ほう? では貴女の戦いとはなんですかね? プリンセスシャイン?』

 

『民と国を守る……それが私の戦い。ですから私は戦に身を投じる決意をしました』

 

『……それが何を意味するかお分かりですか?』

 

『己と他人の血を流すという事でございましょう? その覚悟は出来ています……ッ!』

 

武蔵に感化されたから戦うのではない、一国の指導者として、そして自分を慕う民を国を守る為にシャインは戦う決意をしたのだ。その決意の言葉はリクセントの民だけではない、闘龍鬼の胸にも強く響いた。

 

『この赤いフェアリオンはその証ッ! 私の国と民を脅かす者に容赦は致しませんわッ!』

 

真紅のフェアリオンは己の血、そして他人の血で濡れても尚民を守ると言うシャインの決意の表れだった。

 

「ああ……シャイン王女……」

 

「神様、どうか……どうかシャイン王女をお守りください」

 

自分達の為に戦いに身を投じるシャインの叫びは避難所に避難しているリクセントの民にも届き、その声を聞いたものはシャインの無事を心から祈った。その尊い覚悟を、並々ならぬ決意を持って戦いに身を投じたシャインの身を心から案じた。だがアーチボルドはシャインのそんな悲痛なまでの決意を鼻で笑った。

 

『僕にはそんな甘えた考えは判りませんねぇ、まぁ判りたくもないですが……高貴なる者の務めとでも言いたいのでしょう。ならば今が切り札の使い時……ですかねえ』

 

シャインの決意を笑ったアーチボルドは広域通信をONにしたままハガネに向かって絶望的な言葉を告げた。

 

『プリンセス・シャイン、そしてハガネの皆さん……直ちに戦闘を中止し、武装解除して貰いましょうか? 市内にいるリクセントの国民が爆死する事になるのは嫌でしょう?』

 

アーチボルドからの武装解除要求――断れば民間人を殺すと言うアーチボルドの言葉に敵味方問わず、凄まじい衝撃が走った。

 

『んふふふ、念の為にですね。民間人の集まっている所に 爆弾を仕掛けてありましてね。今すぐ抵抗を止めていただかないと……ボン、ですよ? いやあ備えあれば憂いなしとはこの事ですねえ』

 

ゲッターロボという圧倒的な力を手にしても尚、いやその力を手にしたからこそ、無抵抗の人間をなぶり殺しにする為にその力を使おうとした。だがその余りに非道な戦術は当然味方からも避難を買う事になった。

 

『貴様ッ! 何をしているのか判っているのか! アーチボルドォッ!!』

 

『少佐! あんた、最初からそのつもりでッ!?』

 

闘龍鬼、カーラからの怒りの怒声にアーチボルドは余裕の笑みを浮かべる。

 

『ええ、最初からそのつもりですよ。言ったでしょう? 民間人は僕達の盾だとね?』

 

『己! 卑怯にも程があるぞッ!』

 

『アーチボルト貴様ぁッ!!!』

 

カイ達からの怒声が響くがアーチボルドはその非難の声を聞いて、楽しくて楽しくてしょうがないと言う笑みを浮かべた。

 

『なんと言われようが勝てば官軍、負ければ賊軍ですよ。さ、早く武装を解除してください』

 

繰り返し武装解除を要求するアーチボルドの背後で大きな爆発が響いた。

 

『『『なッ!?』』』

 

連続的に起こる爆発にカイ達はアーチボルドが避難所を爆破したと思い、驚愕の声を上げる。しかしアーチボルドは起爆スイッチを押しておらず困惑の声を上げる。その直後だったゲッターロボの前の空間が歪み、1体の百鬼獣が姿を現したのは……。

 

『うおらぁッ!!! くたばりやがれッ!! この外道ッ!!!』

 

『え、あ……ぐぼおッ!?』

 

だがその百鬼獣は動けないでいるフェアリオンやゲシュペンスト・リバイブにも目もくれず、ゲッターロボの胴体に燃え盛る剛拳を叩き込みその巨体を殴り飛ばした。仲間割れにしか見えないその光景にハガネのパイロット達に混乱が広がる。

 

『ヤイバッ!? お前、どうして!』

 

『なにやってんだ、闘龍鬼のド阿呆ッ!! あの腐れ外道を好きにさせたらこうなるって判ってただろうがッ!』

 

ヒュッケバインに良く似た細身の百鬼獣から響いたのは年若い青年の声だった。

 

『虎王鬼様に感謝しときな。俺を小人にしてリクセントに潜り込ませてたんだよ、あの外道が必要以上に人を殺さないようにな。ったくぎりぎりで間に合って良かったぜ』

 

ヤイバと呼ばれた鬼が乗る百鬼獣――闘刃鬼は振り返り、ハガネにその視線を向けた。

 

『あの馬鹿が仕込んでた爆弾は全部ぶっ飛ばしたからよぉ、思う存分戦おうぜッ!! 人間共ッ!!!』

 

背中に背負った異形の日本刀を構えた闘刃鬼からは全てを飲み込むような圧倒的な闘気が放たれる。それはリクセントの民にとっては耐え切れない凄まじい恐怖を齎した。自分達が避難している場所にまだ爆弾が残っているかもしれないという恐怖から避難していた民間人達がシェルターを飛び出してくる。

 

『いかん! 動いてはならんッ!』

 

『くっ……ッ!?』

 

人の波が生まれ、完全なパニック状態になっている、こんな状況で動けば民間人を踏み潰す事は勿論、将棋倒しによる圧死などありとあらゆる二次被害が生まれかねない。ダイテツの指示が飛び、カイ達はその場で一歩も動けない状況に陥ってしまった。

 

『恐れないで! リクセントの皆ッ! 大丈夫だからシェルターへ戻ってくださいッ!』

 

そのパニックを止めたのはシャインだった。恐怖に脅え、死にたくないと逃げ惑う住人であってもそのシャインの言葉に耳を傾けるだけの知性は残っていた。

 

『大丈夫です! シェルターに戻ってください、私達が、ハガネの皆が貴方達を守ります。絶対に死なせません、だから私を信じてシェルターへ戻ってください。それに……なにも恐れる必要はないのです。だって私達には……』

 

フェアリオンがその両手を夜空に向かって掲げる、それは祈りを捧げるようにも、あるいは愛しい誰かを迎えるようにも見えた。そしてその直後リクセントの住人の目の前に3つの流星――いやゲットマシンがその姿を現した。

 

『本物のゲッターロボが……武蔵様がついているんですから、何も恐れることなんてありませんわ』

 

フェアリオン・タイプGから響くその声は明るく、何も恐れることはないと言わんばかりの……いや愛しい相手に向けるような甘く蕩けるような響きに満ちた声だった。

 

『チェェエエエンジッ!!! ドォォォオオオオラゴォォォンンッ!!!!!』

 

そしてその声を掻き消すように怒りに満ちた武蔵の雄叫びがリクセントの上空に響き、避難所から出てきたリクセントの住人の目の前でゲッターD2へと合体を果たす。その姿を見てシェルターを出ていたリクセントの住人からは口々に武蔵とゲッターロボの名を叫ぶ声が発せられる。

 

『この糞野郎ッ! 覚悟しやがれッ!!』

 

闘刃鬼に殴り飛ばされたゲッターロボへと向かっていくゲッターD2から響いた武蔵の声。その声を聞いたリクセントの住人達はもう大丈夫なのと、もう安心だと思ったのかシェルターへと引き返す。

 

『本当、武蔵の人気凄すぎだろ……驚きを通り越して呆れてくるぜ…』

 

『そんな事をいっている場合じゃないぞ、イルム。民間人の安全は保障された、ならば俺達も何の憂いも無い! このままリクセントを奪還するぞッ!』

 

『おらおら!! 掛かってこいやッ! このヤイバ様と闘刃鬼が相手をしてやるぜッ!』

 

『行くぞ! 全機進軍ッ!!』

 

カイとヤイバ、闘龍鬼の指示が飛び交い、リクセント奪還戦はより激しさを増していく事になるのだった……。

 

 

第101話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その4へ続く

 

 

 




書きたいことを書いていたら予想以上に長くなり申し訳ありません。会話や地の文がかなり多くなりましたが、ここからはちゃんとした戦闘を書いていけると思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


スパロボDDの次の期間限定はランページゴーストのようですね

750ジェムあるので1回だけ挑戦してみたいと思っております


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第101話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その4

第101話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その4

 

カイの目の前に立ち塞がるはヒュッケバインをそのまま百鬼獣の60m級に巨大化させ、鋭利な龍の骸を身につけたようなそんな百鬼獣だった。

 

『お前強いだろ? 俺と勝負しろよ。人間』

 

殺意や憎悪が無い、ただ純粋に力比べをしたいと言う闘志をカイはヒシヒシと感じていた。

 

『おい、ヤイバ。そいつは俺が目を付けていた』

 

『てめえが下手こいて、アーチボルドが好き勝手やったんだ。もうてめえの意思は通らんぜ、闘龍鬼』

 

勝手に話を進める鬼の会話を聞いてカイは一瞬不機嫌そうに目を細めたが、これは逆に好機なのではないか? と前向きに受け取ることにした。百鬼帝国の将クラスが2人――しかも武蔵の話ではかつて武蔵が乗っていたゲッターロボと同格か、それ以上と称された百鬼獣を自分1人で足止め出来るのならばリスクはあれど十分にリターンがあった。

 

「イルムガルト」

 

『カイ少佐が俺の事をそうやって呼ぶときは嫌な予感しかねえよ』

 

「そうか、なら大当たりだ。俺があのヤイバとか言う奴が乗ってる奴と戦う。お前は闘龍鬼と戦え」

 

リクセント奪還戦での懸念要素は今のところ3つ、闘龍鬼、ヤイバを名乗る鬼、そしてゲッターロボの3体だ。ゲッターロボは武蔵とシャインとラトゥー二の3人で当たっているので残りは2つ、それぞれをカイとイルムで押さえると言うとイルムは深い溜め息を吐いた。

 

『支援も無しでそりゃきついぜ、少佐』

 

「なに、ヴィレッタ達がノイエDCを制圧すれば支援は来る」

 

『そりゃ殆どこねえって言わないか?』

 

「少しでも希望があった方が楽だろうが」

 

最初から駄目と思うよりももしかしたら支援がくるかもしれないと思えば気が楽だろうがとカイに言われ、イルムは深い溜め息をもう1度吐いたが、それとは裏腹にその声には闘志が満ちていた。

 

『了解、カイ少佐。撃墜されるなんて言うのは止めてくれよ、いい年なんだからな』

 

「はっ! まだお前に心配されるほど耄碌しとらんわッ!!」

 

弾かれたようにゲシュペンスト・リバイブ(K)とグルンガストが動き出し、ブースターを全開にしてそれぞれの相手に襲い掛かる。

 

『はっ! てめえは振られたなッ! 闘龍鬼ッ!』

 

『いや、こいつもこいつで当たりだ。龍王鬼様が見所があるって言っていたからな』

 

『はぁッ!? 俺そんなの聞いて「何時まで無駄口を叩いているッ! お前の敵は俺だッ!」がぁッ!?』

 

隙だらけの闘刃鬼の顔面をゲシュペンスト・リバイブ(K)のメガプラズマステークが打ち抜き、もんどりうって闘刃鬼がリクセントの城内から弾き飛ばされる。

 

(ちっ、思った以上に固いな)

 

イエローアラートを点灯させる機体状況を見てカイは舌打ちをしつつも闘刃鬼の前でファイティングポーズを取らせる。闘刃鬼は両腕のバネだけで立ち上がると、地面に落ちていた刀を拾い上げそれを正眼に構える。

 

『は、悪かったな。うん、てめえと戦うと決めておいて余所見をすりゃあそりゃ面白くねえな』

 

「そんなんじゃないがな、お前のような戦闘狂に一々付き合ってられるか。一気に決めてやる」

 

一瞬闘刃鬼から溢れていた闘志が消えたが、次の瞬間にはコックピット越しにも背筋に冷たい汗が流れるほどの闘志が闘刃鬼から放たれた。

 

『ははははははっ!!! 良いぜ良いぜ、その闘気最高だッ! 俺はヤイバ、んでこいつは闘刃鬼。てめえの名前は?』

 

「カイ、カイ・キタムラ。こいつは俺の相棒のゲシュペンスト・リバイブ」

 

『OK、覚えておくぜカイ。てめえが死ぬまでなぁッ!!』

 

「ぬかせ若造がッ!!」

 

闘刃鬼の振るう日本刀とメガプラズマステークがぶつかり合い、凄まじい轟音を周囲に響かせる。

 

『お前……確か、イルムガルト・カザハラだったな。龍王鬼様が言っていた飄々としているが……良い闘志をした男とな』

 

『男に名前を覚えられるとか最低だな、どうせなら美人の姉ちゃんに名前を覚えて貰うほうがいいね』

 

イルムの言葉に闘龍鬼は楽しそうに笑い三日月刀を構える。

 

『それは生憎だったなッ! 俺に目を付けられた不運を呪えッ!』

 

『本当てめえみたいな戦闘狂はこっちから願い下げだぜッ! ちくしょうめッ!』

 

闘龍鬼とグルンガストの振るう刃が火花を散らし、鍔迫り合いからの斬り合いに転じ、激しい剣撃の応酬が続く。

 

『くっ!?』

 

『ライッ! 突っ込みすぎよッ! アラドフォローにッ!』

 

『りょ、了解ですッ!!』

 

闘龍鬼、闘刃鬼の2機の百鬼獣が抜けたとは言え、ノイエDCの勢いは収まるところか激しさを増し、ハガネやそのPTを討ち取り名前持ちにならんとする野心を持つ鬼は戦果を上げる為に激しい攻撃を続ける。だが龍王鬼の怒りを買えば名前持ちに昇格する等夢のまた夢と分かっており、その戦火がリクセントの民の下へ降りかかる事は無いのだった……。

 

 

 

ゲッターD2とゲッターロボの戦いは凄まじく周囲の地形を破壊しながらダブルトマホークとゲッタートマホークがぶつかり合い、凄まじい轟音を火花を散らしていた。

 

『ふふ、どうしましたか? 本物のゲッターロボとはその程度なのでしょうか?』

 

『ちっ!』

 

アーチボルドの挑発に武蔵は舌打ちをし、ゲッターD2とゲッターロボの距離を取らせた。戦闘力ではゲッターD2が上だが、今回のリクセントの事で思う事こそあれど、上官という事で支援を行うリオンやガーリオン、アーマリオンのAM隊の攻撃が腕に連続で当たればゲッターD2と言えどその動きは束縛され攻め手に掛けることになる。致命傷はまだ受けていないが、この執拗な妨害も重なれば武蔵と言えど劣勢は必須だ。

 

「武蔵様ッ! 他の敵は私とラトゥーニにお任せくださいッ!」

 

『悪い! 頼むわ、シャインちゃん! ラトゥーニッ!』

 

邪魔と言われるかもしれないと思っていたシャインだが、武蔵から頼むと返事を返されコックピットの中で笑みを浮かべた。願ったとおりに武蔵と共に戦える、武蔵の助けになれると言うのが何よりもシャインの心を満たした。見ているだけではない、助ける事が出来る……それがシャインには何よりも嬉しかった。

 

『シャイン王女! 行きます!』

 

「ええッ! 私達で武蔵様を助けましょうッ!」

 

ラトゥーニの言葉に力強く返事を返し、次々と上空から降下してくるAM隊、そして自分達を狙って攻撃をしてくるアーチボルドが駆るゲッターロボの攻撃をリアルタイムで予知し、ラトゥーニのタイプSに送信、そしてラトゥーニが得た情報を元に戦況を把握し、攻撃のタイミングを図りほんの一秒のラグも無い完璧な連携を取りAM隊をゆっくりとだが確実に押し返し始める。でもシャインは何も出来ていない、今のシャインには複雑な操縦が必要となるフェアリオンを操る事は出来ない。

 

(……これが私が覚えなくてはならない事)

 

リアルタイムで行なった予知をW-I3NKシステムによってラトゥーニの操るフェアリオン・タイプSに送信、そのデータを受け取ったラトゥーニは2機のフェアリオンを1人で操っていた。特殊な操縦システムによって、遠隔で動く操縦桿やペダルの動きを見ればシャインでも判る。これが今の自分には出来ない操縦だと……確かにこうして戦場に立つ事は出来ている、そして武蔵の手伝いが出来ている。だがそれはラトゥーニありきなのだというのを思い知らされた。

 

「うっ……」

 

『大丈夫ですか!? シャイン王女ッ!? リンクを……』

 

「いいえ、大丈夫です。り、リンクは続けます」

 

長時間予知を続けるのは特殊なマンマシン・インターフェイスを用いてもシャインに強い負担を掛けていた。それでもシャインは予知を止めるつもりは無く、そしてリンクを断ち切るつもりもなかった。余りに複雑に入り乱れた様々な可能性、それを1つでも見失えばその瞬間に戦況が大きく自分達に不利になると判っていたから。歯を食いしばり、予知を続けていたシャインの脳裏に絶望的な光景が広がった。

 

(えっ!? よ、避けれないッ!?)

 

『なっ!? くっ! な、なんとか回避をッ!』

 

自分とラトゥーニの駆るフェアリオンを飲み込む翡翠色の光線の嵐――それにシャインは身を強張らせ、ラトゥーニは致命傷を避ける為に回避へと動き出す。

 

『さてさて、正義の味方さんはどうするんですかねえッ!!!』

 

ゲッターロボがその全身をマントで包み込み、上空に向かってマントを開いた。ゲッターウィングで乱反射を繰り返したゲッタービーム――スパイラルゲッタービームが敵味方問わず降り注いだ。ゲッターD2は紛れも無くゲッターロボよりも、ドラゴンよりも、そして真ゲッターよりも強い――だが旧式機が弱いと言う訳ではない。そもそもゲッターロボの進化の歴史は自分よりも強大な敵と戦うことを前提にして行なわれている。高火力の武器、強力な装甲、そして出力の高いゲッター炉心、1対多に対応しつつも、本来のその用途は自分よりも強大な敵と戦うことが前提になっている。つまりゲッターロボの完成の1つである真ゲッター、ゲッターD2にはゲッターロボに搭載されていた機能のいくつかがオミットされている――その1つがゲッタービームを反射するマントだ。早乙女博士が想定した使い方では無いがマントを利用した広範囲攻撃はゲッターロボの唯一の広範囲攻撃と言ってもよく、真ゲッターとゲッターD2では使用出来ない技の1つでもあった。

 

『ひゃーははっ! プリンセス・シャイン達を庇えばリクセントが! リクセントを庇えばプリンセス・シャイン達が! ハガネを庇えば、プリンセス・シャインとリクセントがッ!! さぁさぁ! 正義の味方はどうするおつもりですかッ!!!』

 

『うおおぉぉッ!!!』

 

アーチボルドの挑発に武蔵は舌打ちし、ゲッターD2を上空に向かって飛び上がらせる。そしてスパイラルゲッタービームが完全に開ききる前にゲッターD2のゲッタービームによってそれを相殺する。それだけがリクセントへの被害を押さえる唯一の方法であり、そしてそれと同時にアーチボルドの狙い通りに動くという事を意味していた。

 

「駄目! 武蔵様! 罠ですッ!!!」

 

シャインが罠だと叫んだ。そしてそれは武蔵も判っていたが、周囲の被害を抑えるにはこれしか武蔵には取れる手段がなかった。

 

『ええ、その通りですね。いやいや、正義の味方は辛いですねぇッ!!』

 

百鬼帝国の技術によってパワーアップしたゲッターロボの放った大出力のゲッタービームが地上から上空に向かって放たれ、ゲッターD2の姿がゲッタービームの光の中に飲み込まれて消えた。

 

『む、武蔵ッ!?』

 

『嘘だろッ!?』

 

今も放出を続けるゲッタービームの光の柱からゲッターD2が出てくる気配はない。

 

「え、あ……嘘、嘘ッ!?」

 

そしてシャインの予知が途絶えた――そのありえない事に、武蔵の死を連想させる事にシャインはパニックを引き起こした。

 

『シャイン王女ッ! 落ち着いて! 落ち着いてくださいッ!!』

 

ラトゥーニが落ち着くように声を掛けるが1度乱れた心と集中力は戻らない。今まで完璧だったシンクロが解除される――それはW-I3NKシステムの停止を表していた。今までのスピードが嘘のように速度を失い、ふらふらと飛行するフェアリオン・タイプGを見てアーチボルドはほくそ笑み、その手にしたゲッタートマホークを振りかぶる。

 

『ではさようなら、プリンセス・シャイン』

 

『シャイン王女ッ!!』

 

ゲッタートマホークが振るわれる寸前でその戦斧は動きを止めた。いや、止めさせられた。地中から伸びたドラゴンの腕によって……。

 

『貴方生きていたのですか!?』

 

『馬鹿野郎ッ! ゲッタービームがドラゴンに効くかッ!! 良い加減に姿を見せやがれ、この偽物野郎ッ!!! ゲッタァァッビィィイイイムッ!!!!!』

 

『っぎゃあああああああーーーーッ!!!!』

 

至近距離からのゲッターD2の腹部から放たれた高出力のゲッタービームがゲッターロボを飲み込んだ。アーチボルドは獣のような凄まじい悲鳴を上げて吹き飛び、そのまま海の中に落下しその姿を消す。

 

「武蔵様ッ! 大丈夫なんですかッ!?」

 

武蔵の声を聞いたことで呆然としていたシャインはその意識を取り戻し、武蔵に大丈夫だったのかと必死な様子で問いかける。

 

『オイラは無事さ、心配かけて悪かったな。どうしても気になることがあったんだ、それを知るためにはこうするしかなかったんだ。ごめんな』

 

業とゲッタービームの柱に飛び込んだ武蔵の意図――それはゲッターロボに偽装している何かの正体を突き止める為の物だった。

 

『偽物って言ってたけど、あれは本当に偽物なの? 武蔵』

 

『いや、本物のゲッターロボなのは間違いねぇ。だけど……あれはゲッターロボじゃねぇ、ゲッターロボにしちゃあ強すぎる』

 

ゲッターロボと同じ姿をしていて、しかしそれでいてゲッターロボよりも強い存在――それは武蔵の知るなかでは1機しか存在しなかった。

 

『おら、出てきやがれ、あの程度じゃくたばっていないんだろうが』

 

『は、ははは……いやいや、まさかねえ。こうも簡単にばれるとは思ってなかったんですけどねぇ……』

 

海面を割り姿を見せたのは漆黒の装甲と、マスクを思わせるフェイスパーツ、そして手の甲から伸びる黄色のスパイク……ゲッターロボに似ているがゲッターロボとも似てもにつかぬその姿に驚きと驚愕が広がった。

 

『ゲッターロボじゃないッ!?』

 

『なんですの、あの悪趣味な姿は……』

 

その姿は確かにゲッターロボに酷似していた。だがゲッターロボよりも邪悪で、そして禍々しさを伴った姿を見て武蔵は舌打ちをした。

 

『ブラックゲッターをそんなゲテモノに改造しやがって』

 

それは紛れも無く竜馬のブラックゲッターだった。それが百鬼帝国によってより禍々しく、そしてより邪悪に、そしてマシンセルを投入されたそれは悪魔としか言いようのない存在だった。

 

『ブラックゲッター等と品がないですね。これはノワール、ゲッターロボ・ノワールですよ』

 

楽しそうに告げるアーチボルド、その声に呼応するようにマスク型のフェイスパーツが開き牙が露になり、カメラアイに血走った目が浮かび上がる。マシンセルとゲッター線によって無限に進化する異形のゲッターロボ――それがアーチボルドの駆るゲッターロボの正体なのだった……。

 

 

 

 

リクセント公国の森側では闘刃鬼とゲシュペンスト・リバイブ(K)の激しい戦いが繰り広げられていた。だが戦況は完全に均衡状態に陥っており、互いに決め手に欠けるという状況だった。出力、装甲、パワー……その全てがほぼ互角であり、2機の差は獲物のリーチの差、そしてパイロットの技量だけだった。

 

「おらあッ!!!」

 

闘刃鬼の横薙ぎの一撃をゲシュペンスト・リバイブ(K)は手の甲で受け止めると同時に斜めに逸らした。

 

『ふんッ!!!』

 

「ぐっ!?」

 

それによって態勢を崩した闘刃鬼の胴に力強く踏み込んだゲシュペンスト・リバイブ(K)の正拳突きが叩き込まれる。コックピットを揺らされヤイバは苦悶の声を上げるが、それと同時にカイも唸り声を上げた。

 

『手癖の悪い奴だ』

 

「ははッ! 戦いなんだ。卑怯なんて言ってくれるなよ。おっさん!」

 

殴られた瞬間にゲシュペンスト・リバイブ(K)の電極にナイフを突き立て、右腕のメガ・プラズマステークの電線を断ち切ったヤイバは楽しそうに笑う。

 

『おっさんではないッ!』

 

「はははッ! おっさん、おっさんッ!!」

 

カイをおっさんと挑発するヤイバ。だが言動の割りにヤイバには余裕が無かった……。

 

(こいつマジで強いなッ!)

 

自分の挑発に乗っているように見えてクレバーに立ち回り、闘刃鬼の日本刀をひたすらに狙われ、これ以上は刀身が歪むと背中に鞘に戻したヤイバだが、そうなると武器は仕込みナイフと両腰の短刀、それとないよりまし程度の射撃武器……最大武器を封じられたヤイバはそれでも楽しそうに牙を剥き出しにして笑った。

 

「戦上手だなあッ!!!」

 

『そんなものを褒められても嬉しくともなんとも無いわッ!!』

 

「うわったたッ!?」

 

肩を掴まれと思った瞬間に闘刃鬼が宙を舞い、着地と共に繰り出された前蹴りを仰け反って避けたが、その直後に踏み込んだ放たれた左腕のメガ・プラズマステークの一撃に闘刃鬼のコックピットが火花を散らし爆発する。

 

「うっぐッ!」

 

砕けたモニターが頬に突き刺さり、それを引き抜いてヤイバは傷跡に触れて笑った。強い上に戦いが巧い、そもそも機体性能は僅差とは言え間違いなく闘刃鬼が上だし、その日本刀の一撃も直撃すれば一撃でゲシュペンスト・リバイブ(K)を大破に追い込むだけの威力があった。それを知っても尚懐に飛び込み、柄の部分を狙い目釘穴を緩ませにくると言うのは普通の発想ではない。それを仕掛けてきた段階でヤイバはカイが日本刀や剣を武器にする相手と戦いなれていると把握していた。

 

(アーチボルドの馬鹿を止めに来ただけだが、こんな相手と戦えるのは幸運だぜッ!!)

 

両拳を顎の位置まで上げ闘刃鬼がファイティングポーズを取ると、その両拳が炎を纏った。

 

「おら、行くぜッ!!」

 

『ぬうっ!!』

 

カイの突撃にあわせて拳を突き出してきた闘刃鬼、マニュアル操作で首を傾けさせ直撃を回避するゲシュペンスト・リバイブ(K)、そして闘刃鬼も同じ様に首を傾けて直撃をかわし、闘刃鬼とゲシュペンスト・リバイブ(K)の右拳が完全にクロスカウンターの形で交錯する。

 

「ぐっ!?」

 

『ぬぐっ!?』

 

カイとヤイバの苦悶の声が重なり、闘刃鬼とゲシュペンスト・リバイブ(K)が同時にたたらを踏んで後退する。

 

「ふいーやべえ、ぞくぞくするぜッ! 楽しくてしょうがねぇッ!」

 

バトルマニアのヤイバは躊躇わずクロスカウンターを打ち込んで来たカイとの戦いが楽しくてしょうがないと笑った。

 

『ちいっ、厄介になって来たな』

 

それに対してカイは大振りの一撃を繰り返すからカウンタータイミングが取りやすかったのが、素手の戦いに切り替えて来た事で自分の得意なクロスレンジになったが、燃える拳によって攻撃力が格段に上昇し、その上機体サイズも上という相手にステゴロを挑む事になり厄介になったなと口にしつつも、その口元は緩く笑みを浮かべていた。

 

「おら、行くぜッ! おっさんッ!」

 

『おっさんおっさんとやかましいわッ! この若造がッ!!』

 

闘刃鬼とゲシュペンスト・リバイブ(K)が同時に駆け出し、超至近距離での拳の応酬が繰り広げられる。その反対側の海岸ではイルムが海中に追い込まれていた。

 

『この程度で終わりか? イルムガルト・カザハラ?』

 

「一々フルネームで呼ぶんじゃねぇッ!」

 

闘龍鬼の言葉にそう怒鳴り返すイルムだが、その顔は険しく必死にどうやってこの状況から抜け出すかを考えていた。グルンガストはどの環境にも対応出来るように設計はされている。だが空中はウィングガスト、地上はガストランダーと変形を要する。しかしバランスの取れた機体性能は高く評価されており、どんな環境でも一定以上の戦果を出せるのがグルンガストであり、超闘士と謳われる理由だった。だがそんなグルンガストにも苦手な環境がある――それが海中だ。腰元まで海中に追い込まれれば機動力は大幅に損なわれている、そういう意味では闘龍鬼も海中に入っている事で機動力が落ちているが、グルンガストと異なり合体により機体性能を変える性質を持つ闘龍鬼は合体をせずともある程度は環境に適応する能力を有している。

 

『それは失礼した。ならばイルムガルト! お前はこの窮地をどう切り抜けるか見せて貰おうかッ!』

 

「ちいっ!! この戦闘狂ッ!」

 

脚部のみを合体モードに変えている闘龍鬼は海中を自在に動き回り、その手にした三日月刀で容赦なくグルンガストを攻め立てる。

 

「ぐうっ! 流石にちと不味いぜッ!!!」

 

反撃しようにもその速度を追いきれず、防御に回ればグルンガストの装甲を豆腐のように切り裂く三日月刀に切り裂かれる。闘龍鬼の言った通りイルムは窮地に追い込まれていた、イエローアラートを照らすコックピットの中で忌々しそうに顔を歪める。

 

(せめて海中から出れれば……何とかなるんだが……)

 

武蔵の言った通り確かに闘龍鬼はゲッターロボと同格というのは直接対峙してイルムも理解していた。だが半年の間イルムとて遊んでいたわけではない、操縦の技量を上げ、そしてグルンガストもまたテスラ研、マオ社でアップデートを果たし機体性能は間違いなく向上している。事実海中に追い込まれるまではほぼ互角であり、仮に闘龍鬼の速度に慣れる時間があれば海中にいても互角に戦える可能性は十分にあるのだが……。

 

「そんな悠長な事を言ってる場合じゃなねぇわなッ!!」

 

闘龍鬼の三日月刀の振り下ろしを下から掬い上げるように弾き、がら空きの胴に向かってグルンガストの目から放たれた光線――オメガレーザーが撃ち込まれる。

 

『は、面妖な』

 

「化け物に面妖ななんていわれたくねえよッ!!」

 

当然ながら牽制の威力もないジョナサンの完全な悪ふざけで、スーパーロボットは目からビームが出るんだよっと言う理由で搭載されている武器でダメージは当然イルムはとて期待していない。と言うか長いことグルンガストに乗っているが、イルムが使うのは今回が初めてというレベルで存在を忘れられている武器ではあるが……だがそれでもオメガレーザーを使ったのには意味がある。

 

(さぁ、悩め悩め)

 

目からビームが放たれた――威力は乏しく、そして射程も短い。だが予想だにしない所から攻撃されたことにより、闘龍鬼の攻撃のテンポが緩んだ。闘龍鬼とて馬鹿ではない、自分が不利な状況で意味のない攻撃をしてくるか? と悩みが生まれた。

 

「こいつもおまけだ、持って行きなッ!!!」

 

これも本来は使う事の無い武器――両足に内蔵されているハッチを開放し、6連装のミサイルを闘龍鬼に向かって打ち出す。

 

『ちいッ! 鬱陶しい真似をッ!』

 

空中で炸裂し、小型ミサイルの雨が爆発を繰り返し闘龍鬼が忌々しそうに声を上げる。

 

(頼むから最後まで持ってくれよ……)

 

グルンガストの脚部にはウィングガスト、ガストランダーで用いられるビッグミサイルや、スプリットミサイルが収納されているがグルンガスト形態で使われる事は元から想定されていない。脚部の状態が大きなダメージを受けた事でレッドゾーンに変り、イルムの額から汗が零れ落ちる。

 

『……』

 

(そうだ。警戒しろ)

 

オメガレーザー、脚部からのミサイルと想定していない攻撃を連続で目の当たりにし、闘龍鬼には今ある疑惑が生まれている筈だ。まだ内蔵火器があるのではないか? 威力ない武器を敢えて使い、自分を呼び込もうとしているのではないか? 戦闘においての迷いは大きな隙を呼び、攻撃に攻め込むのを躊躇させる。今までの高速機動を捨て、ジリジリと警戒しながら近寄ってくる。

 

『お前の策略に載ってやるほど暇ではないんだがなッ!』

 

「はッ! そういうなよッ! 最後まで付き合えやッ!」

 

闘龍鬼の装甲が展開し、そこから放たれるミサイルやガトリングをオメガレーザーで迎撃し、戦闘後にメンテが必要になるほど脚部にダメージを受ける事を覚悟し、再び脚部から今度はビッグミサイルを撃ち出す。

 

(さぁ来い、てめえの性格ならこんなのは不愉快だろう、忌々しいだろうからなッ!)

 

真っ向から戦いたいであろう闘龍鬼にとって終始出足を挫く事を徹底しているイルムの戦術は不愉快だろうとイルムは考えていた。そして実際にイルムの戦いは闘龍鬼にとって不愉快な事だ。痺れを切らした闘龍鬼が真正面から突っ込んできてグルンガストの間合いに踏み込んだ瞬間――それがイルムが待ち続けていた好機だった。

 

「ブレイククロスッ! オメガレーザーッ!!!」

 

手裏剣型の投擲武器を放つと同時にオメガレーザーを撃ち込む。だが狙いは闘龍鬼ではなく、先に投げつけたブレイククロスの方だった。ブレイククロスにオメガレーザーが反射し、それを繰り返えされ即席のフラッシュバンが作り出される。

 

『ぬうッ!? こんな小細工などッ!』

 

それは闇夜の中に突然太陽が現れたに等しい強烈な閃光だ。モニター越しとは言え闘龍鬼の目を焼くには十分な威力であり、数秒の時間をイルムに与えた、たかが数秒、されと数秒……イルムが欲していた時間が本当に瞬きほどの一瞬で良く、その一瞬はグルンガストが海中から抜け出る為には十分過ぎる時間だった。

 

「行くぜぇッ!!」

 

ウィングガストへと変形し、海中から飛び出したイルムは急反転しビッグミサイルを発射すると同時にダブルオメガレーザーを闘龍鬼に向かって乱射しながら急降下する。

 

「うおらぁッ!!!」

 

『がはぁッ!?』

 

闘龍鬼の上空を取ると同時にガストランダーへと変形し、そのまま357tという圧倒的な重量を武器とし、ガストランダー自体を巨大なハンマーのようにし叩きつける。咄嗟に両腕を振り上げて防いだ闘龍鬼だが、その程度で357tという重力に加え、急加速により速度という超重量の一撃を防げるわけがない。押し潰されるように海中に叩きつけられ、くの字に折れた闘龍鬼の胴体に0距離でオメガキャノンの銃口が押し当てられると同時に放たれる。しかし闘龍鬼も並の鬼ではない、海中で海戦仕様から空中戦仕様に変形し姿勢の立て直しを図る。

 

「逃がすかよッ!!!」

 

空中で体勢を立て直し、ガストランダーに向かって攻撃を繰り出そうとする闘龍鬼に向かって螺旋状のエネルギーを纏った状態でのガストランダーの高速体当たりによる追撃が叩き込まれる。

 

『ぐ、ぐがあああああッ!! 舐めるなあぁあああああッ!!!』

 

「ぶっつぶれちまえええええッ!!!」

 

ドリルアタックで抉りながら押し潰そうとするイルムとそれを押し返そうとする闘龍鬼の雄叫びが重なり、次の瞬間凄まじい爆発が2機の間で巻き起こり、闘龍鬼、ガストランダーが共に弾き飛ばされる。

 

「くそったれ! 無茶をさせすぎたかッ!」

 

『ぐっ……ちい、持って行かれたかッ!』

 

本来想定していない使い方を多用されたガストランダーはオーバーヒートにより爆発、闘龍鬼はドリルアタックを無理に受け止めた為、右肘からねじ切られた……だがその程度で闘龍鬼もイルムも止まりはしなかった。

 

「ここでくたばれッ!!!」

 

『たかが右腕一本! 左腕があれば事足りるわッ!!!』

 

計都羅喉剣と三日月刀が何度もぶつかり合い、凄まじい火花を散らす。海上から地上へ戦場が変った事で闘龍鬼とグルンガストの戦いはより激しさを増していくのだった……。

 

 

 

 

ゲッターノワールと対峙する武蔵はポセイドン号のコックピットの中で舌打ちをしていた。

 

「こいつ……どうなってやがるッ!?」

 

『ふはははははッ! その程度で終わりですかぁッ!!!』

 

顔の右半分を吹き飛ばされたゲッターノワールが一瞬で再生し、止まりかけていた腕が再び振るわれライガー号に鋭い斬撃跡が刻み込まれる。その異様とも言える再生能力に武蔵は驚きを隠しきれなかった。

 

『さぁさぁ! 出し惜しみしないでどんどん力を見せてくださいよッ!!』

 

顔を叩き潰しても、腕を切り落としても再生するゲッターノワールは現れた当初の38mから明らかに巨大化し、今では50mに迫ろうとしていた。

 

「くそったれッ!!!!」

 

『はははははははははッ!』

 

ダブルトマホークとゲッタートマホークがぶつかり合い、凄まじい轟音と火花を撒き散らす。その時の衝撃と振動で武蔵はあることを感じ取っていた……それは打ち合う度にゲッターノワールのパワーが上がっていると言うことだった。

 

(くそ、どうすりゃ良いんだッ!?)

 

どういうカラクリかは武蔵には判らないが、ゲッターノワールは再生する度に、ゲッターD2の攻撃を受けるたびに自身を強化している。今はまだゲッターD2の方が強いが、何れはゲッターD2と同格の力を有する可能性があると肌で感じていた。

 

(インベーダー……いや、インベーダーの感覚じゃねぇ……本当マジでどうなってやがる……)

 

インベーダーも再生と進化を繰り返していたが、それとは本能的に違う事を感じ取った武蔵は直接攻撃でも、斬撃でも無く、頭部ゲッタービームによるゲッターノワール自身を焼き尽くす事を選択した。

 

「ゲッタァァアアアアビィィイイムッ!!!!」

 

武蔵の思惑通りゲッタービームはゲッターノワールの右半身を吹き飛ばした。

 

『ギ……あはははははは、あひゃひゃひゃひゃやああああッ!! その程度で僕は死にませんよォォおおおおッ!!!』

 

直接叩き潰した時よりも再生に時間が掛かっているが、それでもゲッターノワールはまだ動いていた。

 

「マジでどうなってるんだ……ッ!?」

 

イーグル号も、ジャガー号も、ベアー号もパイロットの乗れる場所は全部潰した。それなのにアーチボルドは生きている――こうなってしまえば跡形も消し飛ばすしか武蔵には思いつく方法が無く、それも可能な武器はゲッターD2には搭載されている……だがそれを使う事を武蔵は躊躇った。

 

(駄目だッ! ここでフルパワーのゲッタービームを使ったら……ッ)

 

威力を絞った頭部のゲッタービームではない、腹部の炉心と直結させたフルパワーのゲッタービームならば……ゲッターノワールを消し飛ばす事も十分に可能だ。だがその場合その余波でリクセントは崩壊する……せめて、せめてノワールが宙に浮いていれば腹部ゲッタービームを使う事も可能だが、ゲッターノワールが地上にいる以上それも叶わない。

 

『武蔵様、私とラトゥーニに任せていただけませんか?』

 

「シャインちゃん?」

 

『あのゲッターロボを打ち上げればいいなら私達に任せて』

 

シャインとラトゥーニの自信に満ちた声を聞いて、武蔵は大丈夫なのかと問いかける。

 

『お任せください、私達を信じてください』

 

『そのかわり一撃で決めて』

 

「判った。頼むぜ2人ともッ!」

 

ゲッターウィングを展開し、腰を落としフルパワーのゲッタービームを放つ為に腹部のゲッタービーム発射口が開かれる。

 

『ひゃひゃひゃひゃッ! こんな玩具見たいので僕とゲッターロボを倒せるつもりですかッ!』

 

ゲッターノワールの攻撃を回避し、2機のフェアリオンは果敢にゲッターノワールへと突撃する。

 

『W-I3NKシステムダブルモードッ!』

 

『託しますわ貴女にッ!』

 

『受け取りました……貴女からッ!!!』

 

フェアリオン・タイプGとSの装甲が開閉され、そこから粒子を撒き散らしながら2機のフェアリオンが同時に加速する。

 

『なぁッ!?』

 

アーチボルドの予想を遥かに越える速度で加速したフェアリオンがゲッターノワールの振るったゲッタートマホークをかわし、懐に潜り込んだ。

 

『シャイン王女、ここはダブルスでッ!!』

 

『ええ! 参りますわッ!!』

 

ソニック・スウェイヤーを展開し、背部の装甲が開き赤と紫の粒子を撒き散らしながら左右からフェアリオン・タイプGとSが同時にゲッターノワールの胴体――ジャガー号に向かってその刃を振るう。

 

『ふふふふ、そんな子供……だッ!?』

 

ゲッターノワールの全長は今や50mに近く、20mにも満たない小型のAMのフェアリオンの攻撃はゲッターノワールに微弱の振動を与えるだけだった……だがそれは最初の内だけで、徐々にその激しさは増して行き、ゲッターノワールの巨体が2機のフェアリオンによって徐々に上空に向かって打ち上げられる。

 

『『はぁぁあああああああッ!!!』』

 

ラトゥーニとシャインの気合に満ちた声が重なり、フェアリオンの攻撃は残像を残すほどの速度で、ただ一箇所を狙い振るわれ続ける。

 

『うわ、すげえ……』

 

『なんて美しい攻撃なんですの……』

 

撒き散らされる粒子が光り輝き、2機の妖精の舞は敵味方を問わず魅了する幻想的な舞となった。

 

『シンクロ……』

 

『アタックですわッ!!!』

 

『ぐぶぼあッ!?』

 

強烈な後ろ回し蹴りがゲッターノワールの胴にめり込み、その巨体がボールのように打ち上げられた。しかしシャインとラトゥーニの猛攻は終わらない。

 

『ラトゥーニッ!』

 

『シャイン王女ッ!!』

 

空中で向かい合った2機のフェアリオンのフェイスパーツが展開され、ラトゥーニとシャインの顔を模した素顔が明らかになる。そしてフェアリオンの顔が口付けをするように接近し、互いの唇が触れるという瞬間に顔を逸らしハイタッチを交わしたフェアリオン・タイプGとSの姿が眩い間での光の中へ包み込まれる。

 

『そんなこけおどし等僕には通用しませんよおおおおおおッ!!!』

 

ゲッターノワールが両手のゲッタードラグーンをフェアリオンに向かって放つが、その銃弾は明後日の方向へと飛ばされた。いやそれだけではない、夜を明るく照らす鮮やかな光の柱の数々……それはフェアリオンの戦闘モードを構築しているアーマーが分離し、自立飛行を行いスポットライトのようにフェアリオンを照らす事で発生した光だった……まるでライブ会場のような光の雨はフェアリオンの姿を隠し、その姿を誤認させる役割を果たし、ゲッタードラグーンの銃弾を回避した2機のフェアリオンはソニックブレイカーを発動させ、それぞれが赤と紫の光を纏い、ゲッターノワールの反撃を至近距離で回避しながら∞の軌道を描き連続でソニックブレイカーを叩き込み続ける。

 

「……すげえ」

 

粗暴と言う訳では無いが武蔵に美術的な感性は無く、またアイドルという存在にも武蔵はさほど興味を持っていなかった。それでもそんな武蔵でも美しいと思う、綺麗だと思う見る者全ての目を引く輝きがフェアリオンにはあった。

 

『ファイナル……ッ!!』

 

『ブレイクですわッ!!!』

 

∞軌道からぴったりと平行飛行を行い、2機のソニックブレイカーを完全に同調させ、光り輝く粒子によって夜空に虹模様を描きながら放たれた一撃がゲッターノワールをリクセント公国のはるか上空へと打ち上げる。

 

『武蔵!』

 

『武蔵様ッ!』

 

『『今、今ですわッ!!!』』

 

アーマーを完全にパージし、ドレス姿になったフェアリオン・タイプGとタイプSが同時に天を指差すよりも少し早く武蔵は行動に出ていた。

 

「ゲッタァァアアアアアアッ!!!!」

 

シャインとラトゥーニの作り出した最大の攻撃チャンス――武蔵の雄叫びに呼応するようにゲッターD2の全身を翡翠色の輝きが包み込み、カメラアイの中心に目が浮かび上がり上空のゲッターノワールを睨みつける。

 

「ビィィィイイイイイムッ!!!!!!」

 

『ギ、ギギャアアアアアアアアアアアアアーーーーーッ!!!!!!????』

 

腰を深く落とし、背中のゲッターウィングを展開し発射の衝撃に耐える姿勢をとり、腹部の発射口から放たれたゲッタービームが夜空を焼き、周囲を翡翠色に染め上げながらゲッターノワールとアーチボルドの絶叫を飲み込み大きな爆発を引き起こした。

 

『……引き際だな、引くぞ。ヤイバ』

 

『だな。流石にあの化け物と連戦はできねえわ』

 

夜を昼間に変えるような一撃を見ては闘龍鬼とヤイバの2人もこれ以上は戦えないと判断を下し、生き残りのノイエDC兵とユウキとカーラに撤退命令を下す。

 

『決着はまた何れつける。さらばだッ!』

 

『んじゃな、カイのおっさん。楽しかったぜッ! 今度はキッチリどっちかが死ぬまで戦おうやッ!』

 

カイ達が待てと叫ぶ間もなく、ノイエDC、闘龍鬼、闘刃鬼は宙に描かれた五芒星の中に吸い込まれるようにして消えていった。

 

『転移かよ。おいおい、百鬼帝国は転移まで出来るってか……』

 

『どれほどの力を隠していると言うんだ……』

 

闘龍鬼と闘刃鬼との戦いの中で中破したグルンガストとゲシュペンスト・リバイブ(K)の中でイルムとカイがうんざりした様子で呟いた。強大な力を持つ上に転移まで可能――それは百鬼帝国がエアロゲイターやインスペクターのように主要都市や基地に百鬼獣を送り込みいつでも制圧が可能という事を示唆していた。

 

『何故アーチボルドがゲッターロボを……』

 

『判りませんわ……武蔵は何かを知っているようですが……』

 

『とりあえず今はリクセントを奪還出来た。それだけでよしとするべきよ。各員はカイ少佐とイルム中尉の保護と共に帰艦の手伝いをして頂戴』

 

リクセントは奪還出来た……だがハガネも、ハガネの部隊も少なくないダメージを受けている……むしろ百鬼帝国とノイエDCが転移が可能と判り、一刻でも早く補給と修理を行なう必要があるとヴィレッタはハガネへの帰還命令を下し、自らもハガネへと帰艦する。

 

『武蔵様! やりましたわッ! 私、私! リクセントを取り戻しましたわッ!』

 

『ああ、やったな。シャインちゃん』

 

ゲッターD2の周りを飛び回り自分の国を取り返したと喜ぶシャインの姿とリクセントの城下町から響く武蔵とシャインの名を叫ぶリクセントの住人の声を聞いて、ヴィレッタは小さく微笑み、再びハガネへと歩みを進めるのだった……。

 

 

 

第102話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その5へ続く

 

 




かなり長くなりましたが、これにてリクセント公国奪還編は終了となります。次回は武蔵がやばい人というルダール公と再会させたり、2つの斬艦刀のシナリオデモを初めて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

PS

なお今作のロイヤルハートブレイカーはフィニッシュ演出で外部アーマーをパージしてドレス姿になったフェアリオンが着地し、スポットライトの光の中で再びアーマーに換装し飛び立つという魔法少女の変身バンク的な物に変化しております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第102話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その5

第102話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その5

 

リクセント城の上空に停泊したハガネの格納庫は凄まじい騒ぎになっていた。それも当然、現段階でのハガネの最大戦力の2格――グルンガストとゲシュペンスト・リバイブの中破は設備の乏しいハガネの格納庫では完全な修理は当然不可能であり、その上リクセントにはPTや特機を修理出来る設備も無いと来た。それでも自分達に出来る範囲で機体をメンテナンスを行い、次の戦いに備えようとしていた。

 

「んんームムムゥ」

 

アビアノ基地でビルトビルガーの仕上げを行っているマリオンの変わりにハガネの整備班の手伝いに来ていたラルトスは、ハンガーに固定されているゲシュペンスト・リバイブ(K)を見て深刻そうな顔で呻き声を上げる。

 

「何とかなりそうか?」

 

「ウウウムウウウ……無理ネッ!!」

 

思いっきり溜め込んだ上で無理っと叫ぶラルトスにカイは思わずずっこけた。ラルトスはそんなカイを見てノリがいいネと笑いながらも、真剣な顔で修理が出来ない理由を1つ1つ説明し始める。

 

「カイ少佐も判っていると思うんだけド、ゲシュペンスト・リバイブは特別製ネ。正しいメンテナンスはテスラ研じゃなきゃ無理ヨ」

 

「それは判っているが……何とかならんか?」

 

型式番号、データ上はゲシュペンスト・MK-Ⅲの試作機になっているリバイブとラドラのシグだが、その実全く別物の機体でゲシュペンストのパーツとは互換性が無い。闘刃鬼と殴りあった事で拉げた指とメガプラズマステークの電極自体は交換出来るが、拳のあとで陥没し、溶解している胴体部と肩部、そしてクロスカウンターが掠めた頭部、そして今も右拳に突き刺さったままの闘刃鬼の仕込みナイフが問題だった。

 

「胴体部と肩部は耐久が下がる変わりニ、チョバムアーマーを貼り付ければ何とかなるかもしれないネ。でも……多分リバイブのパワーに耐え切れないヨ」

 

「操縦中に破損する可能性があると?」

 

「……ンンー頑張っテ空中分解は回避できるかモ……後たぶんと言うカ、確実に被弾した瞬間にお釈迦ネ。悪いけド、移動する棺桶にパイロットを乗せるのは出来ないネ。頭がおかしいのはラルちゃんも自覚してるけド……死ぬと判ってる物に人を乗せるなんて言うのは科学者としても、技術者としても出来ないヨ」

 

性格に難のあるラルトスだが、技術者としての才覚、そしてその技術力は紛れも無く超一流だ。そのふざけた性格さえなければSRX計画やATX計画だけではなく、レイオスプラン、テスラ研への招致などの栄光の道があったが、いかんせんその性格によって面接で落とされ、どこも拾う所が無いと言う事でマオ社に引き取られたという経緯を持つが機体に関しては真摯で、そしてメカニックとしてパイロットを死ぬという前提の機体に乗せられないと言う一種の矜持も有していた。

 

「何とかならないか?」

 

「特に頭は酷いネ。センサー類が纏めてお釈迦になってるかラ……モニターは7割は死んでるはずネ、それにメガプラズマステークの内部配線がグチャグチャだかラ、これも修理は無理。結論スクラップ手前ヨ、修理するにはテスラ研か伊豆基地に保管されてる予備パーツが必要ネ」

 

それでも今ここで戦場を離れる訳には行かないとカイが粘る。ラルトスは瓶底眼鏡を掛けなおしながら悩む素振りを見せる。

 

「使い捨てになるけド……ゲシュペンスト・MK-ⅢのタイプSかKの装甲版の使用許可が下りれバ……なんとかはなるネ」

 

「……使い捨てなのか?」

 

「圧着して、溶接してモ……多分リバイブの反マグマジェネレーターに耐えられないネ。使い捨てで強化装甲を貼り付けて破損部をカバーしテ、潰れた顔は開発中のMK-Ⅲのスナイプタイプの頭部センサーアイを流用しテ……メガプラズマステークの電極を外しテ、手甲を装備させれバ……辛うじテ戦闘は出来ると思うけド、正直ラルちゃんはMK-Ⅲを使う方が安全だと思うヨ」

 

動かせるようになったとしても、余りにもリスクが大きすぎるとラルトスはカイに今はリバイブを諦めろと告げる。

 

「ダイテツ中佐に許可を取ってくる。それで準備しておいてくれるか?」

 

しかしカイはその状態でも良いからリバイブを使えるようにしてくれとラルトスに頼む。

 

「……マジで言ってル? ラルちゃん、自分が異常って判ってるけド、カイ少佐も十分頭おかしいネ」

 

「ちょっとラルちゃん何言ってるのぉぉおおおおッ!?!?」

 

「すみませんすみませんすみませんすみませんッ!!!」

 

「この馬鹿馬鹿馬鹿娘ッ!!! なんで頭良いのにこんなに馬鹿なのッ!?」

 

「痛イ! ラルちゃん悪くないの二ッ!」

 

ラルトスの言葉を聞いて周りにいた整備兵が慌ててラルトスの首根っこを掴んで、謝罪の言葉を壊れたように口にする。しかしカイは気にするなと朗らかに笑った。

 

「いや、俺だって無茶な事を言ってるのは判る。ゲシュペンスト・MK-Ⅲを使うのが最善だと判っているさ、それでもリバイブのパワーが必要なんだ。無茶は承知で頼む」

 

「……ンー判ったネ。準備を始めるかラ、ダイテツ中佐に許可だけ貰ってきて欲しいヨ」

 

根負けしたラルトスが改造を引き受けたことでカイは助かると頭を下げて格納庫を後にし、イルム達はシロガネが合流するまでハガネで待機となり、リクセント奪還作戦での戦いについての話をしていた。

 

「アイビスはどうした?」

 

「精神的、肉体的な疲労が凄いそうなので医務室で休んでるそうですわ」

 

パイロットは格納庫で待機なのだが、そこに姿の見えないアイビスはどうした? とイルムが尋ね、レオナがどこにいるのかを伝える。

 

「確かにルーキーには厳しい戦場だった」

 

「でもアイビスさんのおかげで今回の作戦は上手く行きましたよね?」

 

初手のポセイドン号とアステリオンのかく乱と陽動のお蔭でリクセント奪還作戦は成功したと言ってもいいだろう。

 

「まぁ功労者だから先に休むのは良いか。それより武蔵とラトゥーニはどうしたんだ?」

 

「あの2人はシャイン王女にリクセント城に招待されているので、その為の準備をしているそうですよ」

 

ノイエDCと百鬼帝国に制圧されていたリクセントだが、爆弾等の仕掛けがない事が判り、シャインが指揮を取り会見の準備をしているのだが……どうもシャインの要請で武蔵とラトゥーニの2人がリクセントに向かう準備をしていると聞いてイルムは苦笑いを浮かべた。

 

「武蔵はシャイン王女にとっては王子様だからしょうがねえわな……出来ればあのゲッターロボの化け物について聞きたかったんだが……また後にするか」

 

「武蔵はブラックゲッターと言ってましたわね」

 

ゲッターD2と戦う中何度も再生を繰り返し、巨大化を続けたアーチボルドの乗るゲッターロボノワールには余りにも謎が多すぎた。失った腕や焼き尽くされたパーツを再生するなどありえない現象を起していた。

 

「でもまぁ、武蔵さんが倒してくれたから良いんじゃないですかね? ライ少尉達はその因縁があるようでしたけど……」

 

「確かに俺が倒せれば言う事は無いが……そのために無茶をするつもりはない」

 

「正直私達の機体ではどうやっても倒せるとは思えませんでしたわ」

 

ライとレオナを気遣う素振りを見せたアラドが安堵した様子で深い溜め息を吐いた。その様子を見てライとレオナは苦笑いをその口元に浮かべた、確かにアーチボルドには因縁があった。しかしどんなカラクリは判らないが、異常な再生能力を持つゲッターノワールにR-2とヒュッケバイン008Lでは決め手が無く、自分達の変わりに武蔵が倒してくれた……それで良しとしようとしていた。

 

「アラド、何の話をしてるんだ?」

 

「……あの、なんすか、その恰好?」

 

格納庫に入ってきた武蔵が何の話をしてるんだ? とアラドに尋ね。アラドが話の内容を説明しようとして振り返り、なんとも言えない表情を浮かべた。

 

「やっぱ似合わないよなあ。これ」

 

「それはしょうがないわ、我慢して武蔵」

 

武蔵は普段の剣道の胴とニッカボッカに長靴、そして安全ヘルメットに日本刀を背中に背負うという独創的な服装ではなく、連邦軍の礼服に身を包んでいたのだが、明らかに武蔵に似合っていない。

 

「ぶふうッ!!! ははははッ!!! なんだ武蔵、その格好はッ! 似合ってないにも程があるぞ!?」

 

「そんなに笑わんでくださいよイルムさん。似合わないって言うのはオイラが1番判ってますよ」

 

イルムが噴出すほど笑い出し、武蔵が嫌そうに眉を顰める。

 

「いや、そんなにおかしくはないんじゃないか? うん。なぁ? エキドナ」

 

「変」

 

イルム同様肩を震わせ、笑いを堪えながらユーリアがエキドナに声を掛けるが……エキドナは即答で変と返事を返した。

 

「おーまーえーはッ!! もう少し返事を考えろといつも言っているだろう!」

 

「いひゃいいひゃい!!」

 

変と即答したエキドナの頬を摘みながら説教をしているユーリアといたいと暴れるエキドナ。

 

「このやり取りに関してレオナはどう思う?」

 

「ノーコメント」

 

尊敬する上司のIQと行動が著しく幼くなっている光景をどう思う? とイルムに話を振られたレオナは虚無顔でノーコメントと呟き目を伏せた。どうも、上司のある意味変わり果てたとも言える光景を見たくなかったようだ。

 

「……はぁ、これならまだ学生服とかの方がマシだぜ……んで、何の話をしてたんだ?」

 

「あ、ああ。アーチボルドが何故ゲッターロボに乗っていたのかという話だが……あいつはもう死んだから関係はないだろう」

 

ライの返事を聞いた武蔵は眉を細め、少し考える素振りを見せてから首を左右に振った。

 

「あいつ、生きてるぞ」

 

「「「はぁッ!?」」」

 

生きてると断言した武蔵にリクセントでのフルパワーのゲッタービームを見ていた面子から驚きの声が上がる。

 

「どういうことですの武蔵、ゲッターノワールとやらを吹き飛ばしたのでは?」

 

「いや、もし吹き飛ばしたのなら……炉心の爆発があるはず。でもそれが無かった」

 

「ゲッタービームで炉心の爆発を押し込んだじゃないのか?」

 

「……いや、仮にそうだったとしても……絶対爆発は起きてる。だからオイラはシャインちゃんとラトゥーニに上空に打ち上げてもらったんですよ、フルパワーのゲッタービームの余波と、ノワールの爆発の事を考えて……それにこんな事を言うのは何なんですけど、オイラがアイドネウス島で自爆した時の事を思い出して貰うと判る筈……爆発が余りにも小さいって」

 

ゲッターロボの自爆でセプタギンの7割が吹っ飛んだ。それを考えればゲッターノワールの爆発は余りにも規模が小さい……。

 

「つまりあいつは……アーチボルドはまだ生きていると?」

 

「確実に生きている。間違いねぇ」

 

深刻な顔で生きていると重々しく武蔵が断言した。異常な再生能力と自己進化を持つ悪魔のようなゲッターロボ、そしてそれを駆るアーチボルドという異常者……それは闘龍鬼、ヤイバと同等の脅威が生まれたという事を現していた。

 

「あ、ラーダさん。武蔵いましたよ!」

 

「良かったわ、ヴィレッタ。召集コールが聞こえなかったの」

 

重苦しい雰囲気を散らすようにラーダとツグミの声が格納庫に響き、ヴィレッタは自分のDコンがコール音を立てているのに今気付いた。

 

「ごめんなさい、ちょっと話をしてたのよ。もう準備は出来たのかしら?」

 

「勿論、バッチリです! 見てください、自信作ですよ」

 

ツグミが満面の笑みを浮かべ、自身とラーダの後ろに隠れていたラトゥーニを武蔵達の前に押し出す。

 

「あう……」

 

気恥ずかしそうにしているラトゥーニは白と紫をベースにしたゴシックロリータドレス姿ではなく、赤とピンクのシャイン王女のドレスと似た色彩のゴシックロリータ姿にレースとフリルをふんだんに使い、首元と髪に大きなワインレッドのリボンをあしらった誰がどう見ても美少女というべき姿をしていた。

 

「これはまたずいぶんと化けたなあ」

 

「ラトゥーニ、すげえ似合ってるじゃん!」

 

「確かにこれは自信作というだけはありますわね」

 

ツグミの趣味はゴシックロリータファッションの作成で、いまラトゥーニが着ているドレスもツグミの手作りの品だ。実はその業界ではかなり有名なデザイナーだったりする。勿論プロジェクトTDがあるので、それほど流通はしていないが幻のデザイナーとして実はかなりの有名人だったりする。

 

「なんで着替える必要が?」

 

「シャイン王女に招待されているからよ。大丈夫、とても良く似合ってるわ、さ、時間が無いから行きましょう」

 

自信を持ってとツグミに言われたラトゥーニだが、私の言いたい事はそれじゃないと言うのがその表情が物語っていた。

 

「それじゃあ武蔵、ラトゥーニと先にリクセント城に向かって貰えるかしら?」

 

降下用のエレベーターでリクセント城の城門に降りた武蔵とラトゥーニにラーダが軽い感じでそう告げたが、武蔵とラトゥーニの顔は引き攣っていた。

 

「ラーダさん、1つ質問があります」

 

「何かしら?」

 

「ここを歩いて行けと?」

 

「そうよ」

 

ラーダの短い言葉に武蔵もラトゥーニも絶望感に満ちた表情を浮かべる。それもそのはず、城門から城の入り口までの間には近衛兵が並んでおり、リクセントの旗を掲げた者とラッパやドラムと楽器を構えている者が交互に並んで列を成していた。

 

「マジですか?」

 

「どうしてもここを歩かないと駄目ですか?」

 

ツグミとラーダの返事は無く、2人はにこりと微笑み武蔵とラトゥーニの背中を押し、それと同時に降下エレベーターでハガネへと引き返し退路も完全に断った。そしてその直後に鳴り響いた音楽に武蔵とラトゥーニは肩を竦め、2人ともなんでこんな事にと言わんばかりの引き攣った笑みを浮かべ、リクセント城に続く長い道を歩き始めるのだった……。

 

 

 

 

武蔵とラトゥー二がハガネで準備をしている頃――シャインは自らの足で城下町を歩き、兵士やリクセントの住人達を自らの目でしっかりと見つめ、長い時間を掛けてリクセント城へと歩いてきた。城門をくぐると鳴り響くラッパの音色――それは城に勤める近衛兵達のシャインの帰還を喜ぶ音色であり、目に涙を浮かべながらラッパを吹く兵士達に深く頭を下げ感謝の意を示してから城の中へと足を踏み入れた

 

「お、おお……シャイン様……ッ!」

 

「爺、 私……戻って参りましたわ」

 

シャインの姿を見て感極まった様子で目に涙を浮かべ駆け寄って来たジョイスにシャインは力強い口調で返事を返す。

 

「まさか、シャイン様ご自身が奪還作戦に加わっておられたとは……」

 

「ごめんなさい、ジョイス。心配を掛けたでしょう……ごめんなさい、でも私は……私の手でリクセントを取り戻したかったのです」

 

フェアリオンはシャインのもつ承認コードがなければ起動しない。空を飛ぶフェアリオンの姿を見てジョイスが気が気ではなかったという事を悟りシャインは謝罪の言葉を口にした。

 

「いえ、こうして無事に戻ってこられた……そしてシャイン様のお姿は私も、そしてリクセントの民も皆を鼓舞してくれました」

 

自らの国の姫が自らAMを駆り、そして国を取り戻しに来た姿は戦いの中で恐怖していた民達を勇気付けていた。

 

「いえ、私に出来た事はそれほど多くありません。リクセントを取り戻せたのは……武蔵様、ラトゥー二、そしてハガネの皆様のおかげです」

 

これはシャインの嘘偽りのない気持ちだった。ラトゥーニがいなければフェアリオンは空を飛べなかったし、武蔵がいなければ反対意見を諌める事も出来なかった。そして何よりもシャインに願いをハガネの皆が聞き入れてくれなければリクセント奪還作戦は成功しなかった。だから自分に出来た事はさほどないのだとシャインは告げた。

 

「それよりもジョイス……皆は無事ですか?」

 

自分を賞賛する声よりもシャインが今知りたかったのは城に勤める者達やリクセントの民が無事かどうかであった。シャインならばそれを尋ねると思っていたジョイスはシャインが戻るまでに可能な限りの安否確認を済ませていた。

 

「はい。私も含め城の兵士やメイド、コック長達、そしてリクセントの市民達は皆龍王鬼、虎王鬼を名乗る2人の鬼によって保障されておりました」

 

「……龍王鬼と虎王鬼。武蔵様と戦った鬼ですか……」

 

「はい、私も何度か顔を見合わせて話す事になりましたが……あれではアーチボルドの方がよっぽど鬼で化け物と思うほどに高潔な人物でした。医者の手配から迷子の親探しに食料の配布……私含めて全員が驚きを隠せませんでした」

 

最初は毒を疑ったジョイス達の目の前で物を食い、物を飲み大丈夫だと言い。ノイエDCの兵士の非道な行為を諌め、制裁を与える等鬼でありながら、その精神は極めて高潔で、そして人質として捕えてはいるが、可能な限りの譲歩をしてくれていた。

 

「ジョイスがそこまで言うのならば……きっとそうなのでしょうね」

 

シャインからすれば龍王鬼は武蔵を意識不明に追い込んだ憎い相手ではある。だがジョイス達を守ってくれたと言う事には感謝していた。

 

「しかし、よもやノイエDCの者達がシェルターに爆弾を仕掛けていたとは……」

 

鬼よりも同じ人間の方があくどい一手を打ってくるとはジョイスでも読みきれなかった。ヤイバがいなければ、リクセントは壊滅的な打撃を受けていたのは間違いないだろう。

 

「このような状況だからこそ、余計に人間の醜さというのが出てしまうのかもしれませんわ……それに今回と同じような事が他の国でも起きているのかもしれませんわね……」

 

鬼の方が人間に近く、人間の方が鬼とも言える。勿論それが全てと言う訳では無いが……それでも間違い無く人間の中にも悪意は確かに根付き、芽吹こうとしていた。

 

「爺……私は」

 

シャインが意を決した表情で何かを言おうとした時。再びラッパの音が鳴り響いた、それは武蔵とラトゥーニの2人がリクセントの城門に向かってきていると言うことを示していた。

 

「また後で、いまは私に出来る事をやってまいります。飛行許可は得ておりますから、心配しないでください」

 

そう笑いドレスの裾を翻し駆けて行くシャイン。その先には礼服に身を包んでいる武蔵とラトゥーニの姿がある。

 

「シャイン様」

 

満面の笑みを浮かべて武蔵に話しかけている姿を見れば、どんな馬鹿でもシャインが武蔵に思いを寄せているのは丸判りだ。だが底抜けの馬鹿である武蔵はその視線に気付いていない……というよりも、武蔵のシャインに対する対応は妹か親戚の子供を相手にするような物でジョイスの目に冷ややかな怒りの炎が宿った。

 

「……ゴキリッ!」

 

ジョイスの拳が音を立てながら握り込まれた。若き日にリクセントの核弾頭とまで言われた老執事が臨戦態勢に入っている事を武蔵が知るのはもう少し先の話なのだった……。

 

 

 

 

伊豆基地へ向かうヒリュウ改はアビアノ基地から東に向けて出航し、トルコを経由し日本へ向かう進路を取っていた。トルコ周辺に入るまではノイエDCの勢力下ではなく、最も安全な航路と言う事もあり、トルコに侵入する前にヒリュウ改の格納庫では機体の整備や改造が急ピッチで行なわれていた。

 

「どうだ? タスク。なんとかなりそうか?」

 

その中で最も整備兵が集まっているアルトアイゼン・ギーガの足元でキョウスケがタスクにそう問いかける。

 

「いやキョウスケ中尉。これは俺でも無理ッス」

 

「……そんなに無理か?」

 

「無理ですね」

 

「んんー? キョウスケ、何無茶振りしてるの?」

 

無理となんとかならないか? と押し問答をしているキョウスケにもたれかかるようにしてエクセレンがそう尋ねる。

 

「ああ、エクセレン少尉からも言って下さいよ。バンカーにテスラドライブを増設できないかって言うんですよ?」

 

「え? いや、それは流石にあれじゃない?」

 

「そうか? 1つついているのなら2つつけても問題はない筈だ」

 

「そんな単純なもんじゃないです。そもそもこれに関してはマ改造ところか、キチガイ改造です」

 

リボルビングバンカー改はテスラドライブを装甲内に装着することでインパクトの瞬間に爆発的に加速し、杭の部分にT-ドットアレイを展開し、通常のリボルビングバンカーよりも衝撃を相手に伝えるというシステムを採用している。テスラドライブを攻撃に転用すると言う頭のおかしい武装なのだとタスクは丁寧にキョウスケに説明する。

 

「整備やメンテナンスは出来ますけど改造は無理ッス。設計者と開発者のラルちゃんじゃなきゃ無理っす。諦めてください」

 

ビルガーの為にアビアノに残ったマリオンの代わりにハガネに乗り込んでいるラルトスじゃなきゃ無理だと言われて、やっとキョウスケは改造を諦めた。

 

「なんで急にそんなことを言い出したのよ? キョウスケ」

 

「……嫌な予感がするんだ」

 

キョウスケが真剣な顔で嫌な予感がすると口にしたのを聞いて、エクセレンもタスクもギョッとした表情を浮かべた。

 

「マサキとリューネが偵察から戻ったら私とキョウスケの番だけど……」

 

「この様子だと不味い事になりそうッスね。アルトの改造は出来ないですけど、プロペラントと予備弾装は多めに詰んどきます。それで我慢してください」

 

出来る限りの準備はする。それで我慢してくれと言われキョウスケは判ったと返事を返し、ハンガーに固定されているアルトアイゼン・ギーガを見上げ、そして胸に手を当てた。

 

(なんだ。この感覚は……)

 

何をしても無駄と言われている様な、それでも何かしなければならないと言う強い焦燥感がキョウスケの胸の中で渦巻いていた。伊豆基地で何か起きるのか、それともアインストやビースト、そして百鬼帝国のような脅威が自分達の前に現れるのかもしれないと言う言葉にならない不安をキョウスケは感じていた。

 

「大丈夫?」

 

「ああ。大丈夫だ、心配を掛けてすまない。もう大丈夫だ」

 

大丈夫だというキョウスケ。だがその顔色は決して良くは無く、エクセレンに偵察の時まで少し横になっているといいと言われ、キョウスケは渋りながらもエクセレンに手を引かれながら格納庫を後にするのだった。

 

「キョウスケがあそこまで言うなんて普通じゃねえな」

 

「そうみたいですね。それでカチーナ中尉は俺に何のようですか?」

 

嫌な予感がするなあという顔をしながらタスクがカチーナに問いかける。するとカチーナは指令書をタスクに向かって突き出した。

 

「えっと……え? マジ?」

 

「大マジだ。あたしのゲシュペンスト・MK-Ⅲの改造許可が下りたぞ。どんな風にするか話すから付き合え」

 

「ええーッ」

 

レオナのガーリオンの改造を始めようとしていた所をカチーナに掴まり、タスクは聞いている者が憐れに思うような声を上げながらブリーフィングルームへと引き摺られて行き、その光景を見ていた整備兵達は皆無言で敬礼しタスクとカチーナを見送るのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

アースクレイドルの格納庫の一角では不気味に脈打つ巨大な繭があった。その鼓動は一定でまるで人間の心音のようであった。

 

「ここまで来ると化け物と変わらないわね」

 

繭の中身はゲッターノワールであり、アースクレイドルに戻るなり繭を作り自己再生・自己進化を行ない始めていた。ゲッターD2と戦いその戦闘力を学習し、変異をする姿はレモンからすればインベーダーとアインストと大差なく、嫌悪の象徴でしかなかった。深い溜め息を吐き龍王鬼達の区画へと向かうレモンの耳がブライの声を拾った。

 

「やぁ、アーチボルト君。随分と暴れたようだね?」

 

「ああ、ブライ大帝……このようなお見苦しい姿で申し訳ないですね……」

 

医務室をちらりと覗き込んだレモンの視線の先には顔だけを培養液から出しているアーチボルトの姿があるが、培養液の中の手足は肘・膝から先が無く、達磨の一歩手前の有様だった。

 

「鬼の再生能力ならば問題なく治るさ、次は期待しているよ」

 

「ご期待に添えるように頑張ります」

 

(あほくさ)

 

ゲッターノワールは実験台であり、そのパイロットも使い捨てと聞いている。ブライの聞き心地のいい言葉を聞いて笑みを浮かべているアーチボルトに蔑みと哀れみを混ぜた視線を送ったレモンは早足で歩き出す。レモンの目的地は龍王鬼と虎王鬼の支配区画であり、そしてメイガスとアクセスできる数少ない場所であり、ウォーダンの調整の為に早足で歩いていると、背後からレモンを呼び止める虎王鬼の声が響いた。

 

「レモン、ありがとね。ゼオラとオウカの事助かったわ。所でどうかした? 凄い顔をしてるけど」

 

「……顔に出てた?」

 

「うん、めちゃくちゃ不機嫌ですって顔をしてたわよ? どうしたのよ」

 

レモンと虎王鬼は気が合うらしく、龍王鬼とアクセル、ヴィンデルがいない時に限るがお茶を共にしながら話をする程度には気心が知れた仲になっていた。不機嫌そうなレモンにどうしたのと友人に尋ねる感覚で虎王鬼が問いかける。

 

「虎王鬼はウォーダンってどう思う?」

 

問いかけに問いかけを返され虎王鬼は首を傾げながらも自分の所感を伝える。

 

「凄く真面目で頑張ってるなぁって思うけど?」

 

「そうよ! ウォーダンは頑張ってるのよ。それなのにヴィンデルとアクセルと来たら……不安定だの、人形だの……ああッ! もう腹立つッ!」

 

「どうどう、落ち着きなさいよ」

 

「ウォーダンだけじゃないのよ!? 私の最高傑作のラミアも不良品って言うのよ!?」

 

「判った、判ったから落ち着きなさい。ほら、お茶淹れてあげるから」

 

情緒不安定のレモンにおいでおいでと声を掛け、虎王鬼はレモンを自室に招き入れる。

 

「はい、落ち着くわよ」

 

「ありがと」

 

差し出された湯のみを受け取り、それと1口啜ったレモンは落ち着いたのか深い溜め息を吐いた。

 

「本当にあの2人って人の神経を逆撫でするのよ」

 

「そうねえ、良い性格はしてないわね。鬼の私が言うのも何だけど」

 

鬼である虎王鬼から見てもアクセルとヴィンデルの性格はちょっとと物言いしたくなるレベルだった。

 

「なんで一緒にいるのよ? もう離れたら? 私の所に来るなら龍に声を掛けてあげるわよ?」

 

「アクセルはあんなんでも恋人だし……ヴィンデルは私を拾ってくれたし……」

 

難儀な女ねぇと虎王鬼が苦笑しながら言うと、レモンもそう思うと返事を返す。そしてウォーダンの事をぶつぶつと呟き始める。

 

「ウォーダンは今は大事な時期なのよ。自我に芽生えかけてるの、私はそれを尊重したいのに上から命令ばっかりされたらそれが全部無駄になるわ」

 

Wシリーズの根底にはヴィンデル、アクセル、レモンへの服従がプログラミングされている。自我が芽生えるかどうかという段階でヴィンデルとアクセルに上から押さえつけられるように命令されたらそれが全部無駄になるとレモンはお茶を啜りながら愚痴愚痴と呟いた。

 

「人造人間が自分の意志を持つか否かか……人の姿をしてるなら自我を持つのは当然でしょう。本当に理解の足りない男は駄目ね、家の龍とは大違い」

 

肉体は精神に引っ張られる。ならばその逆も然り、精神は肉体の影響を受ける。鬼になった者が凶暴性を発露させるのと同じだ、たとえ誰かの人格データをコピーしていたとしても人の姿をしているのならば自我を持つのは当然だと虎王鬼はレモンの意見に同意した。

 

「惚気られているのはあれだけど……他人に言われると安心感が違うわ」

 

「そう、それは良かったわ。まぁ大事に育てなさいな、何を言われてもね?」

 

レモンはシャドウミラーの内情を話さないし、百鬼帝国の事も尋ねない。愚痴で虎王鬼が何かをぼやいている時くらいしか自分から問うことはない……そして虎王鬼も同じである。互いに属する組織には思う事はあれど、レモンは虎王鬼個人を嫌いではなく、虎王鬼もレモン個人を嫌ってはおらず。むしろ好いていると言っても良い、そんな奇妙な友情が2人の間にはあった。

 

「ねぇウォーダン。貴方は私に何を見せてくれるのかしら?」

 

虎王鬼との話を終えて、メイガスの間にやってきたレモンは今だ人格を安定させる為にメイガスとリンクをしているウォーダンを見つめる。ラミアは自分で考え、そしてヴィンデルとアクセルに異を唱えて見せた。それがヴィンデルとアクセルには不快だったかもしれないが、レモンにとっては何よりも嬉しい事であった。それにラミアから報告される記憶を失い、幼い少女のように振舞っているエキドナもレモンにとっては歓迎するべき物であった。

 

「楽しみだわ、ウォーダン。ゼンガー・ゾンボルトの精神データをコピーした貴方がゼンガーその物になるのか、それともウォーダン・ユミルという個を作り出してくれるのか……」

 

幼年期など無いエキドナが子供のように振舞っている。それはエキドナという作られた人間が個を作り出したと言ってもいい、もし記憶を失っているのならば動きもしない、喋りもしない。無機質な、人の姿をしているだけの何かになる筈……そうではなく笑い、泣き、怒り、誰かを想う姿を見せるのは紛れも無く個の発現である。記憶を失い、己のやるべき使命を失った代わりに得た個をレモンは祝福していた。

確かに正常な母の感性ではない、だが紛れも無くレモンがウォーダン、エキドナ、ラミアに向けるのは母が子に向ける無償の愛なのであった。

 

「具合はどう?」

 

ゆっくりと目を開いたウォーダンにそう尋ねるレモンの顔は本人に自覚があるか定かでは無いが、紛れも無く慈愛に満ちた母の顔をしているのだった……。

 

 

 

第103話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その6へ続く

 

 




今回で1度リクセントの話は終了で、武蔵とリクセントのやべー奴ルダール公との再会は次の章に回す事に変更しました。キョウスケの理由の無い焦りとレモンの無自覚な母としての覚醒を書きつつ、次回ウォーダン戦を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第103話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その6

第103話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その6 

 

「あちいな……」

 

「水分補給をしっかりしとけよ、俺達に倒れてる時間なんてないんだからな」

 

「判ってる。それに俺達よりもブルックリン少尉達の方がよっぽど大変だからな。弱気な事なんていえないぜ」

 

額から大粒の汗を流しながら整備兵達は隔離されている格納庫の1区画に視線を向ける。マグマ原子炉を搭載しているヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMは稼動の際に凄まじい熱を放つという性質がある。その熱は凄まじく、隔壁越しでも機械に不良や整備兵の体力を奪うほどに凄まじい熱量だ。逃げるように整備兵が離れていく中、隔壁の中で稼動状態にあることを示す真紅に輝くヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMコックピットに腰を下ろしているブリットの額から大粒の汗が流れ落ちる。

 

「これは……想像以上にきついな……」

 

耐熱スーツを着ていてもそれを貫通する熱量にブリットは想像以上だと呟きながら、マニュアル操作でT-LINKシステムによるマグマ原子炉の出力調整に挑んでいた。ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMのT-LINKシステムが正常に稼動しているかのテストでリオ、リョウトに続いて、クスハ、ブリットの2人もT-LINKシステムの調整に参加していた。

 

『大丈夫? 限界ならもう降りてくれて良いよ?』

 

「いや、もう少し続ける。ハミル博士、出力をもう少し上げます」

 

『了解した。こちらで危険と判断すれば、緊急停止させるぞ』

 

カークの返答を聞いてから操縦桿を握り締め、ペダルを踏み込むブリット。獣の唸り声のようなエンジン音が響き、ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの赤がますます輝きを増してくる。

 

「私達はここら辺が限界だったわよね?」

 

「うん、リオがレベル4.2、僕が4.7、クスハが5.2だよ」

 

10段階のリミッターの内丁度半分5をリオ達は越えることが出来なかった。その熱に耐えうるだけの体力が無かったのだ、最後のブリットは日々鍛錬を積み、武蔵と組み手もしている。体力面ではリョウト達の頭1つは飛びぬけているのは間違いなく、5を越えて5.2、5.4、5.6とじわじわとその出力を上げる事に成功する。

 

「ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの様子はどうだ?」

 

「ギリアム少佐。いまブリットが確かめてくれています」

 

「なるほど、俺も見させて貰おう」

 

丁度6を越えるというタイミングでやってきたギリアムは心配そうな表情を浮かべ、モニターを覗き込む。冷却を最大にしても零れ落ちる汗、それでも熱に耐えていたブリットだったが6.6を越えたあたりで様子がおかしくなって来た。

 

『ウウウウ……グググッ! ウルルルッ!!!』

 

「ハミル博士! 緊急停止だ!」

 

「判っているッ!」

 

獣のような唸り声を上げ始めるのを見てギリアムが声を上げ、カークがエンジンの緊急停止を行なう。真紅に輝いていた装甲がその色彩を失い、排出口から煙を吐き出しながらヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMのカメラアイから輝きが消えた。

 

「ブリット君! ブリット君! 大丈夫!?」

 

「応答がない……医療班に電話するわよッ!」

 

「リオお願い! 僕はこっちから電気マッサージを……」

 

応答の無いブリットにリオ達が慌てて動き出すが丁度その時にブリットからの通信が入った。

 

『お、俺は大丈夫だ……いま降りる……』

 

その言葉と同時にヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMのコックピットが開き、ブリットがタラップにもたれかかるように崩れ落ちる。その光景を見てギリアムがタラップを駆け上がりぐったりとしているブリットの肩を掴んで声を掛ける。

 

「大丈夫か!?」

 

「ぎ、ギリアム少佐……す、すみません。肩を貸してください……」

 

消耗しきっているブリットに肩を貸しギリアムはタラップを降り、氷嚢やスポーツドリンクを用意しているクスハ達の下へブリットを連れて行くのだった……。

 

 

 

 

額に冷却シート、脇の間に氷嚢を挟みスポーツドリンクを口にしているブリットは深く深く深呼吸をした。

 

「リョウト達の言ってた「何か」って多分……メカザウルスの意志だと思う。7に差し掛かりかけた時――向こうから俺に接触して来た」

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMに乗っていると感じる奇妙な感覚――リョウト達もうっすらと感じていたが、深くマグマ原子炉を起動させたブリットが明確な意思を感じたと呟いた。

 

「戦いたい、壊したい、そればっかりだ。緊急停止されてなかったら暴走事故を起していたと思う」

 

メカザウルスの意志にブリットが飲み込まれ、その意志に突き動かされ格納庫で暴走を起していたかもしれないと言うブリットの言葉にリョウト達の顔から血の気が引いた。

 

「本当に大丈夫? ブリット君」

 

「ああ。意志に触れたと言っても短時間だから大丈夫だ。それよりもタイプMは4割未満で運用したほうがいいと思う」

 

エンジン出力を高めれば高めるほどにメカザウルスの意思は強くなる。3割か4割の出力で使わなければその意志に飲み込まれるリスクが高いとブリットが告げる。

 

「しかし何故……ギリアム少佐やカイ少佐のリバイブは暴走の予兆もないのに何故ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMだと暴走を起すんだ。何か理由があるとでも言うのか……」

 

恐竜帝国の脅威を目の当たりにし、未知の脅威と戦う為に設計したヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM。だが暴走の可能性を捨てきれず、特機クラスの出力は確保出来るがそれ以上を使えないとなると開発した意味が無いとカークが暴走の理由に考えをめぐらせているとギリアムが口を開いた。

 

「俺やカイのリバイブにラドラのシグはマグマ原子炉をそのまま利用していない、反マグマプラズマジェネレーターに加工する必要があるのではないか? 言うならばマグマ原子炉はメカザウルスの心臓と言ってもいい、それをそのまま搭載しているんだ。ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMはPTではなく、メカザウルスと考えるべきではないか?」

 

「それは……そうだと思いますけど、マグマ原子炉と反マグマプラズマジェネレーターは基本的に同じの筈、そんなに差がでますか?」

 

マグマの熱を利用してエネルギーを精製するという構造上マグマ原子炉と反マグマプラズマジェネレーターは同じ存在だ。だからそんなに差が出るはずが無いとリョウトが不思議そうに首をかしげる。実際精製されるエネルギー総量はほぼ互角で、反マグマプラズマジェネレーターの方が僅かに安定性が高く、武器などに転用しやすい性質を持っていると言うだけでそこまで大きな差はデータ状では存在していない。

 

「流石に俺もそこまでは判らないが……もしもラドラに会えたのならば1度見て貰う方が良いかも知れないが……今はリミッターを外すべきではないと言うのは確かな事だ」

 

新西暦で唯一マグマ原子炉についての知識を持つのはラドラだけだ。何を話しても机上の空論に過ぎないが、明確に暴走する基準が判っているのだからリミッターをつけて出力が上がらないようにするべきだとギリアムは提案する。

 

「私もそっちの方がいいと思う。リョウト君が危ないわ」

 

「うん。リオの言う通りだと思う」

 

ただ操縦するだけでも熱中症や酷ければ火傷するリスクを背負っているのに、それに加えてメカザウルスの意思によって暴走するのでは運用するにあたり危険すぎる。

 

「ハミル博士。やはり僕達には旧西暦の技術は早すぎたのかも知れません」

 

「……ラドラ氏に話を聞けるまではリミッターを外さない用に設定しよう。だが私は諦めないぞ」

 

今は駄目でも何れはフルパワーでヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMを稼動出来るようにするというカーク。それは異星人の脅威や蘇った旧西暦に存在した侵略者、そして未知の化け物達の台頭……それらに対抗する為の力であり、それを危険だから封印すると言う選択肢はカークにはなかった。そしてカークの気持ちが判るからこそ、ギリアムもヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMを封印しろとは口にしなかった。

 

「キョウスケ中尉達が偵察に出るみたいですね」

 

「そのようだ。そろそろトルコ地区に侵入する頃合か……ブリット達も出撃準備を整えておけ。スクランブルが掛かる可能性が高いからな」

 

「「「了解」」」

 

ギリアムの言葉に頷きリョウト達がパイロットスーツに着替える為にロッカールームへと足を向ける。ヒリュウ改が連邦の勢力圏を抜け、ノイエDCの勢力下へ入ろうとしている頃――アースクレイドルでもまた出撃の為に量産型Wシリーズが次々と己が機体へと乗り込んでいた。

 

「ウォーダン。貴方の今回の任務はヒリュウ改の足止めよ」

 

連邦が計画しているオペレーション・プランジッタの詳細な作戦内容が手に入る前にヒリュウ改に大きく動かれると都合が悪い。その為にレモンはウォーダンにヒリュウ改の足止めを命ずる。

 

「ベーオウルフの処置は?」

 

「貴方は……どうしたい? ヒリュウ改の足止めをしてくれるなら、その間は何をしてくれても良いわよ」

 

ヒリュウ改の足止めさえすれば何をしても良いとレモンに言われたウォーダンは少し考え込む素振りを見せる。それは本来のW-15なら取りえない行動であり、自我の芽生えを露にしていた。

 

「武蔵とゲッターロボは?」

 

「リクセント奪還に参加してるみたいだからヒリュウ改の方にはいないわ。ベーオウルフよりも武蔵と戦いたいのかしら?」

 

「アクセル隊長より先にベーオウルフを倒す訳には」

 

武蔵と戦いたいと言うのもあるが、アクセルに気を使っていると判りレモンは笑みを浮かべる。

 

「馬鹿ね、そんな事を気にしなくていいわ。貴方に倒されるのならばベーオウルフは私達の脅威とはなりえないっていう安心感に繋がるし、何よりもアクセルの暴走も止まるしね。だから貴方の好きにするといいわ」

 

「承知した」

 

レモンはあえて戦ってもいいともいけないとも言わなかった。ウォーダンの判断に任せることにした、アクセルとヴィンデルの意に反するが、これが1番正しいとレモンは思ったのだ。スレードゲルミルに足を向けるウォーダンの背中を見つめていると量産型Wシリーズがレモンにある報告をする。

 

「レモン様、トルコ海周辺にクロガネの姿を確認しました」

 

「あら? それは耳寄りな情報ね。今はどうなってるのかしら?」

 

「搭載機であると思われる黒いゲッターロボとグルンガスト参式のカスタム機、そして新型のゲシュペンストを発進後、深海へと潜っていきました」

 

「手が早いわねぇ……とりあえず潜った周辺を捜索、進路を確認したらまた報告してくれるかしら?」

 

「了解」

 

神出鬼没のクロガネを発見したと言う情報はシャドウミラーにとっては非常に有益な情報だった。イングラム、カーウァイの2人にビアン・ゾルダーク、そしてゲッター炉心とシャドウミラーの欲している全てがそこには揃っている。

 

「どうかした?」

 

クロガネを見つけたと聞いて足を止めるウォーダン。レモンはウォーダンが何を言おうとしているのかを知りつつ、あえてどうした? と悪戯っぽく尋ねる。

 

「……奴が現れた場合は俺はどうしたらいい?」

 

ウォーダンのいう奴とはオリジナルであるゼンガー・ゾンボルトに他ならない。これだけ自分の意識を見せつつ、それでもまだレモンに許可を求めようとするウォーダンにレモンは何も言わず背を向けた。

 

「……好きにしなさいって言ったでしょう? 全部貴方に任せるわ」

 

ヒリュウ改の足止めさえ遂行するのならば何をしてもいいとレモンは告げ、量産型Wシリーズと話をしながら格納庫から歩き去っていく、明確な指示を与えられず、自分の判断に任されたウォーダンは無意識にレモンの背中に手を伸ばしたが、それをぎゅっと握り締めた。

 

「……承知」

 

固く握り締められたその拳は歓喜かそれとも不安かは判らないが激しく揺れ、ウォーダンは誰に言うでも無く承知と呟き、今度こそスレードゲルミルの中にその姿を消すのだった……。

 

 

 

 

 

 

トルコ地区に侵入したヒリュウ改のブリッジでレフィーナは鋭い視線でモニターを見つめていた。

 

「艦長、肩に力が入りすぎですぞ?」

 

「……副長。そうですねすみません……でも仮に私が向こうの指揮官ならば、仕掛けるのはこのタイミングなんです」

 

力が入りすぎとショーンに注意されるレフィーナは形だけ謝罪の言葉を口にしたが、その目はモニターから離れる事はなかった。連邦とノイエDCの勢力圏の丁度中間ポイント――それがトルコ周辺だ。友軍からの支援は難しく、ノイエDCからも攻め込みにくいポイントではある……だがだからこそレフィーナは自分ならばここに包囲網を張る。どちらからの援軍も期待出来ず、強攻策で突破するかどうかの判断に悩まされるこのポイントで必ず仕掛けてくるとレフィーナは考えていた。レフィーナの反応を見てショーンは小さく微笑んだ、ショーン自身も仕掛けてくるのならばここしかないと考えていたからだ。

 

「偵察中のアサルト1より連絡ッ! 本艦の針路上で敵影を確認ッ! こちらへ接近中との事ですッ!」

 

アラートとユンの報告を聞いてレフィーナは即座に戦闘配置につくように指示を出し、敵機を迎え撃つ為に市街地へ進路を取るように命じるのだった……。

 

「こちらアサルト1。 敵機は約30秒後にこちらと接触する」

 

「ちょっと急いでね~けっこー敵の数多いわよ~」

 

偵察に出ていたキョウスケとエクセレンの報告がヒリュウ改のブリッジに入ると同時にヒリュウ改のレーダーが敵機の姿を確認する。

 

「敵部隊、戦闘区域へ侵入ッ!  識別はRPT-007ですッ! 数は約30ッ! 熱源更に増加中ッ!」

 

正体不明の転移能力を持つ特機と行動を共にしているゲシュペンスト・MK-Ⅱの軍勢が自分達の進路を塞いで来た。

 

「やはり足止めが目的ですか……各機、周囲を警戒しつつ迎撃態勢を取ってくださいッ!」

 

大量のゲシュペンスト・MK-Ⅱで足止めをし本隊を送り込んでくる。レフィーナはそう判断し、周囲を警戒しつつ迎撃態勢を取るようにキョウスケ達に指示を出す。

 

「支援は主砲を使用せず、副砲およびミサイルをメインとし、E-フィールドの出力を最大で維持してください」

 

「「了解ッ!」」

 

転移による強襲に最大の警戒をし、支援よりもヒリュウ改が沈められない事を優先する指示を出しレフィーナは鋭い視線で戦況を映し出すモニターにその目を向けるのだった……。

 

「ゲシュペンスト・MK-Ⅱ……前回と同じ連中のようだな」

 

市街地を埋め尽くすゲシュペンスト・MK-Ⅱの軍団にキョウスケは眉を顰めながら呟いた。ゲシュペンスト・MK-Ⅱが確認された戦場では必ず転移反応もしくは強力な特機の出現が確認されているからだ。

 

『艦長達も警戒態勢ね、キョウスケ。どうする?』

 

Eフィールドを最大出力で展開し防衛に入っているヒリュウ改を見て、エクセレンがキョウスケにどういうフォーメーションを取る? と問いかける。

 

『キョウスケ中尉、待ってください』

 

「どうした? リョウト」

 

キョウスケが指示を出す前にリョウトが待ってくれと声をかけた。

 

『凄く嫌な予感がするんです。大きくヒリュウ改から離れるのは避けた方がいいと思います』

 

『私もそう思います……凄く嫌な予感がするんです』

 

『俺もだ。すげえヤな感じがするぜ……』

 

念動力を持つ面子が口々に嫌な予感がするとキョウスケに進言する。

 

『まーたそれかよ。 適当な事言ってんじゃねえ』

 

カチーナは口ではそう言いつつもある程度はリョウト達の意見に同意していた、だが戦闘前に士気が落ちる様な事を言うのは縁起が悪いと諌めるように言うが、ブリット達の話は続いた。

 

『いえ……あの敵は今までのノイエDCと何かが違います。前の時は普通のパイロットも混じっていたと思うんですけど……いま俺達の前にいるのは人でも機械でもない……そんな気がするんです』

 

『人でも機械でもないと言う事はインスペクターのバイオロイドという事か?』

 

『それはすみません、ちょっと判りません……でも普通じゃないのは間違いないと思います』

 

ギリアムの言葉にクスハがバイオロイドと同じとは断言出来ないが、普通じゃない相手だと感じ取ったと返事を返す。リョウト達の話を聞いてアンジュルグのコックピットでラミアは驚きと困惑を隠せなかった。

 

(データによれば、念動力者は人間の特定の思念を感知する能力に長けているという事だったな)

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅱを操っているのは量産型Wシリーズだ。人でも機械でもないと言うのはある意味当たりではある……だからこそラミアはリョウト達の発言に驚きを隠せなかった。

 

(だが……私も含め、Wシリーズからそのような物は発せられていない筈だが)

 

念動力者が感じ取るべき念がWシリーズには存在しない筈――ではリョウト達が感じ取っているのは別の何かではないか? とラミアは推測した。

 

『キョウスケ中尉。アインスト、もしくはヒリュウ改が遭遇したと言うインベーダーという化け物の可能性があったりなかったりしちゃったりして』

 

自分達に念はないからリョウト達の感じ取っている念はインベーダーとアインストの可能性があるのでは? と口にする。

 

『うーん、ここまで不思議ハンターちゃん達が言ってるんだから、絶対裏があるわよ。どうする? キョウスケ?』

 

『おいおい、悩んでて良いのかよ。敵は待ってくれねえぞッ!?』

 

指示を仰ぐエクセレンと、臨戦態勢に入っているゲシュペンスト・MK-Ⅱを見て声を荒げるマサキ。だが、キョウスケは悩む素振り見せずに指示を出す。

 

「何か隠れていると言うならば炙りだすまでだ。だが敵は転移を駆使する、各員ペアで動く事を徹底し単独行動を取るな。万が一に備えヒリュウ改との距離を常に意識しろ」

 

転移による分断、そして鹵獲、ヒリュウ改の撃墜に気を配れ――つまりいつも通りに臨機応変に対応しろと指示を出し、ゲシュペンスト・MK-Ⅱの大群に向かってヴァイスリッター改と共に切り込んでいくのだった……。

 

 

 

 

既に避難が完了し無人になったトルコの市街地には最初に確認された30機のゲシュペンスト・MK-Ⅱを上回る50機のゲシュペンスト・MK-Ⅱの姿があった。だが数こそはキョウスケ達を上回っているが、機体性能は勿論パイロットの操縦技量に圧倒的なまでの差があり次々と撃墜され沈黙する。

 

『オラッ!!』

 

カチーナの駆るゲシュペンスト・MK-Ⅲのライトニングステークに貫かれ、膝から崩れ落ちて沈黙するゲシュペンスト・MK-Ⅱ。

 

『中尉! コックピットは可能な限り避けてくださいッ!』

 

PT同士の戦いの中で不慮な事故はある。だとしてもコックピットを直接狙うのは暗黙の了解でNGとなっている。それなのに躊躇う事無くコックピットにライトニングステークを突き刺したカチーナにラッセルがそう声を掛けるが、カチーナはラッセルの言葉を鼻で笑った。

 

『気にしすぎだラッセル! これだけ撃墜してるのに脱出装置が起動する素振りもねぇ! こいつらは無人機ッ! そうに決まっているッ!』

 

最初はコックピットを避けていたし、脱出装置が起動するかを外からの衝撃で確かめていたカチーナだったが、それは最初の数機に留まり、今ではコックピットを破壊していた。脱出装置が正常に作動するのに脱出する素振りもない、更に言えば破壊したコックピットにパイロットの姿もない――だからカチーナは無人機と判断し、コックピットを破壊して速やかにゲシュペンスト・MK-Ⅱを戦闘不能に追い込んでいた。

 

『で、でも! これを無人機っていうのは無理があるんじゃないですか!?』

 

カチーナの言葉にクスハが異を唱える。機動力に劣るグルンガスト弐式を複数体で足止めし、有人機のような滑らかな動きで攻め立てて来るゲシュペンスト・MK-Ⅱはカチーナのように思い切りの良くないクスハにはもしかしたらパイロットが乗っているんじゃないかと思わせ、クスハの攻め手を緩めさせていた。

 

『クスハ! 俺が支援に入るッ!』

 

『!』

 

攻撃に中々踏み切れないクスハのグルンガスト弐式の横を通り、ブリットのゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムがグルンガスト弐式の関節部を狙いメガプラズマカッターを振るったゲシュペンスト・MK-Ⅱに胴体に蹴りを入れて強引に引き離す。

 

『っ! これでもすぐに体勢を立て直すかッ!?』

 

速度の乗った一撃を胴に叩き込めば熟練のパイロットであれど、数秒は意識を失う。それでも即座に体勢を立て直すゲシュペンスト・MK-Ⅱの姿は誰の目から見ても異常だった。

 

『や、やっぱりこれは無人機なのかッ!?』

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMのコックピットでリョウトが驚きの声を上げる。熱を攻撃に転用するヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMはいうならばパイロット殺しのPTである。熱でパイロットの意識を刈り取り、機体をオーバーヒートさせる。しかしその熱を物ともせずに動き続けるゲシュペンスト・MK-Ⅱは無人機と判断するには十分だった。

 

『でも無人機にこんな攻撃が出来るって言うのリョウトッ!』

 

『俺にはパイロットが乗ってるようにしか思えないぜッ!?』

 

マサキとリューネの2人が無人機とは思えない波状攻撃でサイバスターとヴァルシオーネの機動力を封じられ声を上げる。戦況はヒリュウ改が圧倒的に有利ではあったが、無人機か、有人機なのかと言う事で迷いが生まれ完全に攻め切れないでいた。

 

(甘い事だな……自分達を攻撃してくる相手に情けを掛けるか)

 

ファントムアローでコックピットを狙い撃ちしていたラミアは口論を続けているブリット達を見て甘いと内心で吐き捨てていた。襲ってくる者ならば、例え数時間前に言葉をかわした友人であれ殺せ、それが友を救う方法である――インベーダー、アインストの生存競争に挟まれていた人間達はそう思う事にした。そうでなければ、友人を殺したと言う罪科に人間は耐えられなかった……ラミアの中にもプログラミングされていた絶対のルールの1つである。

 

『敵機……』

 

しかしこのまま押し込まれ、インベーダーやアインストが出現しては困るとラミアがフォローの言葉を口にしようとしたその瞬間に広域通信がONになりアンジュルグのコックピットに怒号に等しい2人の男の声が響き渡った。

 

「落ち着け!」

 

『落ち着けッ! 無人機であれ、有人機であれ敵である事は代わりはないッ! 落ち着いて冷静に対応しろッ!』

 

ギリアムとキョウスケの指示が同時に飛んだ。確かにゲシュペンスト・MK-Ⅱが無人機か、有人機かで攻撃方法や対処法は変ってくる。だがそこで悩んでいては数の差で押し込まれる。襲ってくるのならば敵だと告げるキョウスケとギリアムにラミアは一瞬驚いた表情をしたが、これで良いと思う事にし、発しかけた言葉を再び胸の中へとしまいこみ、ファントムアローの照準をゲシュペンスト・MK-Ⅱに向け、引き絞った幻影の弓矢を放った。

 

『確かに悩んでる場合じゃないわなッ!』

 

『敵増援確認! 数約25! 第2陣、第3陣も確認ッ!』

 

ジガンスクード・ドゥロがギガワイドブラスターの発射態勢に入り、その上空で旋回したAMガンナーがGインパクトキャノンの銃口をゲシュペンスト・MK-Ⅱの部隊に向ける。

 

『もう考えたり、躊躇ってる時間はないわね、キョウスケ』

 

「ああ、ここまで俺達を足止めするんだ。確実に本命がもう近くまで迫っているのは間違いないな」

 

執拗な足止めを見てキョウスケ達も本命が近づいて来ていると感じ取っていた。

 

「エクセレン、少し下がれ、射角に入っている」

 

『……それマジで使うつもり?』

 

「当たり前だ」

 

背部に背負っているバックパックが変形し、アルトアイゼン・ギーガの脚部の装甲が展開され、道路にその爪を突き立て姿勢を保持する。

 

「俺の後にオクスタンランチャー改を撃ち込め、増援を全滅させるぞ」

 

『了解、でも撃ったら後に吹っ飛ぶとかやめてよ?』

 

「それは知らんな」

 

両肩のクレイモア、内部ハッチに増設されたクレイモア、更にバックパックから姿を現した更に2つのクレイモアが全てゲシュペンスト・MKーⅡに向けられる。

 

「カチーナ中尉、ラッセル少尉。ブリット、クスハ下がれ、巻き込まれるぞ」

 

言葉短く繋げられた通信に何のことだ? と振り返ったカチーナは武装を展開しているアルトアイゼン・ギーガを見てぎょっとした表情を浮かべる。

 

『待て待て!? あたしらも巻き込むつもりかッ!?』

 

『文句を言ってる暇があったら下がってください! 巻き込まれますよッ!』

 

『中尉!? クスハ、下がるぞッ!』

 

『わ、判ったッ!!!』

 

射角に巻き込まれていると気付きカチーナ達が後退を始めるのとゲシュペンスト・MK-Ⅱが降下してくるのは殆ど同じだった。

 

「遠慮はいらん。全弾持って行けッ!!!」

 

戦艦の主砲クラスの轟音が響き渡り、アルトアイゼン・ギーガから放たれた破壊の嵐が全てを飲み込み、上空に大量の爆発を引き起こすのだった。

 

『キョウスケ、私のやる事がないんだけど……と言うかそれ使用禁止』

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅱのみではなく、市街地の地形を完全に変えているのを見て、エクセレンが使用禁止とキョウスケに告げる。

 

「そうだな。市街地で使う武器ではないな」

 

『そういうことじゃないわよ?』

 

破壊力、射程共に優れていたがフレンドリファイヤと民間人を巻き込む可能性が高いので市街地では使えないなと言うキョウスケにそうじゃないとエクセレンが突っ込みを入れる。

 

『てめえ! キョウスケェッ! そんな頭のおかしい武器をそうやすやすとぶっ放すんじゃねえッ!!』

 

「すいません。俺も初めて使う武器だったので、しかし敵を一掃出来たので効果はあったと思います」

 

無尽蔵に送られてくる増援がとまったことを考えれば確かにキョウスケの行動は正しかった。だが余りにもリスクがありすぎる武器にカチーナは使い所を良く考えろと言うに留まった。

 

『こちらゴースト1。ドラゴン2、敵機はどうなった?』

 

『は、はい! こちらドラゴン2ッ! 敵機全機撃墜を確認! 敵増援も確認出来ませんッ!』

 

ギリアムの問いかけにユンがすぐに敵機の索敵を行い、敵の姿が確認出来ないと返事を返す。

 

『ったく、キョウスケの馬鹿がとんでもねえ事をしてくれたが、とりあえず敵はいなくなったのなら良いか。おい、タスク。嫌な予感ってのは消えたか?』

 

『う~ん……それがまだビミョーなんスよ。おかしいな、敵の姿なんて見えないのに……』

 

敵の姿が見えないのに嫌な予感が消えないとタスクがぼやくように呟いた瞬間――念動力を持つ、ブリット、クスハ、タスク、リョウト、リオの5人に激しい頭痛が襲い掛かってきた。

 

『『『『ッ!!』』』』

 

『く、来るッ!?』

 

頭痛に呻く4人と凄まじい闘志を放つ何者かがこの場に迫っているとクスハが声を上げる。その直後ヒリュウ改のブリッジに警報が鳴り響いた。

 

「艦直上に熱源反応ッ! 急速接近中ッ!  敵の増援だと思われます!」

 

「上方にEフィールドを展開しつつ、緊急回避ッ!!」

 

ユンの報告を聞いてレフィーナが指示を出すが、それは余りにも遅すぎた。いや、襲撃者が速すぎた……閃光がヒリュウ改に向かって放たれ、右舷が爆発し、その高度を著しく落とす。

 

「きゃああっ!!」

 

「被害状況はッ!?」

 

激しい振動を爆発に悲鳴を上げるレフィーナを支えながらショーンが被害状況をユンへと問いかける。

 

「う、右舷主翼の先端が欠落ッ! テスラ・ドライブも損傷しましたッ!」

 

主砲に回す分のエネルギーも防御に回していたのにそれを貫通した。それはヒリュウ改の防御が敵機にとって何の意味もないものだという事を現していた。

 

「くっ……不味いですな。ユン伍長、タスク少尉にヒリュウ改に戻るように伝達をッ!」

 

「りょ、了解!」

 

たった一撃でヒリュウ改が轟沈寸前に追い込まれた。信じられない光景に驚きが広がるが、それよりも大きな驚愕がキョウスケ達の間に広がった。ヒリュウ改を一撃で大破寸前に追い込んだのはバスターソードのような形状をした巨大な刀――それは紛れも無く斬艦刀の姿。

 

「なるほど、本命はあいつだったという事か……全員気を緩めるなよ。ここからが本番だ」

 

斬艦刀を追う様に崩壊した市街地に降り立った白亜の巨神――スレードゲルミルがキョウスケ達の前に立ち塞がったのだった……。

 

 

第104話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その7へ続く

 

 




ゲシュペンスト戦は前哨戦なのであっさりと、本命はスレードゲルミル&ウォーダン戦を2話ほど書いて行こうと思います。
それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第104話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その7 

第104話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その7 

 

ウォーダンは眼前のアルトアイゼンを見つめ仮面の下の眉を顰めた。自分達の知るゲシュペンスト・MK-Ⅲとは全く異なる姿をしているアルトアイゼン・ギーガを見つめ、戦闘データの記録を開始する。

 

(……サイバスター、ヴァルシオーネ……新型のヒュッケバイン……)

 

以前戦った時にいなかった敵機の確認を済ませ、地面に突き立ったままの斬艦刀を抜き放ち、その切っ先をアルトアイゼン・ギーガへと向ける。

 

『ウォーダン・ユミルだったな。貴様は何者だ?』

 

「何者かだと? 笑止ッ! 俺は貴様達の敵だッ!! 斬艦刀・電光石火ッ!!!」

 

斬艦刀を固定する為のエネルギーを刀身に集め、そのまま打ち出しエネルギー刃をアルトアイゼン・ギーガ達へと向かって放つスレードゲルミル。だがそれは全てキョウスケ達の機体の前に炸裂し砂煙を上げていた。

 

『外れた……?』

 

『馬鹿言ってんじゃねぇラッセル。外して貰ったんだ……ッ』

 

ラッセルの言葉にカチーナが寝ぼけた事を言ってるんじゃねえと怒鳴り声を上げる。あの距離で攻撃をはずす訳がない、意図的に外されたというのは誰の目から見ても明らかだった。

 

『ゼンガーのおっさんじゃねえのか?』

 

『ごめん、話してる時間がなかったわね。マーサ……どうもボスそっくりだけどボスじゃないみたいなのよ、レフィーナ艦長達がボスに会ってるし、ビアン博士と一緒らしいしね』

 

『確かに武蔵もそんな事を言ってたっけ……でもどう見ても……ゼンガー少佐だよね』

 

言動、そして斬艦刀を持つその姿は誰の目から見てもゼンガー・ゾンボルト――その人だった。

 

「この俺を前にしてまだ無駄話をするか……よほど死にたいようだなッ!!!」

 

殆ど一瞬でサイバスター、ヴァルシオーネの2機の目の前に移動したスレードゲルミルが斬艦刀を振りかぶり、サイバスターとヴァルシオーネの両機を胴体から両断しようとその刃を振るおうとした瞬間にウォーダンはその刃を止め、サイバスターとヴァルシオーネの目の前を通過させ、その刃を反転させ切っ先を地面に向ける。

 

『何を呆けている! マサキ、リューネッ!!』

 

アルトアイゼン・ギーガのリボルビングバンカー・オーバーチャージによる突撃が斬艦刀を通じて、スレードゲルミルの全身を大きく揺らす。あのままサイバスターとヴァルシオーネを攻撃してきたら側面をピンポイントで貫かれ、斬艦刀が砕けていたと悟り仮面の下から僅かに見える口元をウォーダンは吊り上げ、今も加速を続け斬艦刀を折ろうとしているアルトアイゼン・ギーガに蹴りを叩き込む。

 

『ぐっ!……舐めるなよッ!』

 

「ぬうッ!」

 

吹っ飛ばされながらも開いたハッチから放たれるクレイモアに追撃を防がれた、ウォーダンはスレードゲルミルを操り1度後退する。

 

「我はウォーダン! ウォーダン・ユミルッ!!! メイガスの剣なりッ!! 我が使命を阻む者は全て粉砕する……ッ!!」

 

エリアルクレイモアに抉られた装甲をマシンセルの力で回復させると同時に再び斬艦刀を構え、スレードゲルミルはアルトアイゼン・ギーガへ突撃する。

 

『あたしらだっているって事忘れんなよッ!!』

 

「笑止ッ! 俺の前に立つ者は全て敵! 侮りも驕りもせんッ!!!」

 

突撃してきた真紅のゲシュペンスト・MK-Ⅲのライトニングステークを斬艦刀の柄で受け止める。そのまま斬艦刀を一閃し、ゲシュペンスト・MK-Ⅲを両断しようとしたのだが……その動きが強引に止められる。

 

「む、小賢しい真似をッ」

 

ライトニングステークが防がれるのはカチーナにとっても計算の内だ。スレードゲルミルは50m級、それに対してゲシュペンスト・MK-Ⅲは約25mとスレードゲルミルの半分ほどの大きさだが、その出力は特機にも匹敵する。姿勢制御の為のブースターとスラスターを全開にすれば一時的にスレードゲルミルの動きを封じる事も不可能ではない。

 

『てめえの好きにさせるかよッ! エクセレン! リオッ!!』

 

『了解っ! 動かないでねカチーナ中尉ッ!』

 

『行きますッ!!』

 

立て続けに斬艦刀を持つスレードゲルミルの右手にビームが叩き込まれ、指の保持が僅かに緩んだ。そこにライトニングステークが再び叩き込まれ、スレードゲルミルの巨体が僅かに後ろにそれた。

 

『悪いが、その武器を奪わせて貰うッ!』

 

『行きますッ!』

 

「ほう……」

 

ゲシュペンスト・リバイブのレールガン、そしてグルンガスト弐式のブーストナックルが腕に叩き込まれ、スレードゲルミルの手が斬艦刀の柄から離れる。

 

『貰ったッ!!』

 

『うおおおおおッ!』

 

一時徒手空拳になったスレードゲルミルを見て、好機と判断したのかリボルビング・バンカーを構えたアルトアイゼン・ギーガ、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムがコールドメタルブレードを構えて突進してくる。だがその程度で遅れを取るほどウォーダンが戦った世界は甘くはない、手首から射出されたワイヤーが高速で斬艦刀へと走る。

 

「ふん!」

 

2機がスレードゲルミルの間合いに入り込む前に手から射出されたワイヤーが柄に巻きつき、高速で巻き取られ斬艦刀が再びスレードゲルミルの手の中に戻る。それを見てキョウスケもブリットも動きを止めた。

 

『あーらら、やっぱりそう簡単には行かないわよね』

 

『いや、違う、最初から誘い込まれていた』

 

言葉とは裏腹に苦虫を噛み潰したようなエクセレンの呟きにキョウスケが違うと口にした時、ヒリュウ改の警報が各機体に響いた。スレードゲルミルの武器は見たところ斬艦刀のみ、それを奪う事で戦力の低下を図るのは単純だが効果的な一手だった。しかしそれゆえにウォーダンも予測していることであり、そして何故一瞬でも斬艦刀を奪わせるような真似をしたのか……それも単純だった。

 

『熱源多数接近中! 各員は分断されないように固まってください!』

 

「来たか」

 

スレードゲルミルの周囲にゲシュペンスト・MK-Ⅱ、エルアインス、アーマリオンが降下してくる姿を見て小さく笑う。斬艦刀を奪えると思わせたのも援軍が来るのを待っていたに過ぎない、少しでも希望があれば人間はそこに誘い込まれる。明確なスレードゲルミルと言う脅威を前にすればそれはより明白になる、奪えると思わせる為に緩く握っていた斬艦刀を今度は離さぬ様に強く握りこませる。

 

「行くぞッ! ベーオウルフッ! そしてゲシュペンスト・MK-Ⅲよッ!! 貴様は今日ッ! この地で散れッ!!!」

 

ウォーダンの咆哮と共に量産型Wシリーズの駆る無人機達が一斉に動き出すのだった……。

 

 

 

 

分断されないように最初こそ立ち回れていたキョウスケ達だったが、無尽蔵に現れる無人機による数の暴力によって徐々にだが引き離されていた。

 

『ギリアム少佐! そちらの指揮は任せますッ! エクセレン、ブリット、ラミアッ!』

 

このまま各個撃破に追い込まれるのならばと、先に向こうの策に乗りあえて分断されることを選択したキョウスケがATXチームの3人と共にスレードゲルミルに突貫する。しかし4体で戦うにはスレードゲルミルは余りにも強大な敵である。武蔵のゲッターD2と1対1で戦い痛みわけで引き分けに追い込んでいるのだ……4人で足止めするには余りにも厳しい敵であった。

 

「けりをつけたらそちらに合流する! それまで無理はするな!」

 

『了解ッ!』

 

深追いするなとキョウスケに指示を出し、ギリアムは何とか完全に分断されぬようにゲシュペンスト・リバイブ(S)の射撃武器を駆使するが、余りにも敵の数、そして応援が到着するまでのスパンが短くコックピットの中で舌打ちした。

 

「マサキとリオ、そしてクスハはカチーナ中尉達と合流してヒリュウ改の護衛に向かえッ! リョウトとリューネは俺と共にキョウスケ達と合流するッ!」

 

分断されないと言うのは不可能だと悟りヒリュウ改の護衛とキョウスケ達と合流する組に分かれると指示を下す。

 

『そんなことをしなくてもサイフラッシュで吹っ飛ばしてやるぜッ!』

 

「マサキ待てッ!!」

 

ギリアムの静止の声を無視してサイバスターの放った翡翠色の閃光が市街地を染め上げ、ゲシュペンスト・MK-Ⅱ達が爆発し炎を上げる。

 

『うっし! い……ぐおッ!?』

 

包囲網を抜けてキョウスケ達の元へ向かおうとしたサイバスターに何かが命中し後方へと弾かれる。

 

「だから待てと言ったんだッ! クスハ! リオ! サイバスターの援護に回れッ!」

 

ギリアムの指示を聞いて吹き飛ばされたサイバスターの援護に向かうグルンガスト弐式とAMガンナーを見つめながら、ギリアムはサイバスターを弾き飛ばした何か――市街地に隠れている何者かの姿を探るが、それらしい熱源はセンサーでも目視でも確認出来ない。

 

(……また見失ったッ……いや、戦闘範囲の外から狙い撃ってきてるいるのか……百鬼獣か、それとも改良型のゲシュペンストか……?)

 

「スナイパーに狙われているッ! 各員は不用意な長距離移動及び周囲の警戒を怠るな! 背後から狙い撃たれるぞッ!」

 

そう指示を飛ばしながら腰にマウントしているビームソードを抜き放ち、背後から飛来した何かを切り払うゲシュペンスト・リバイブ(S)両断された銃弾がビルに突き刺さり、ビルを崩落させる。

 

『なっ……こんなステルス性能を持つ機体がいるなんて……』

 

『おいおい、囲まれてるとかいわねえよな……?』

 

熱源も何も感知させずスナイプしてくる謎の機体に警戒心を強めるリョウト達――だが敵は姿を隠しているスナイパーだけではないのだ。

 

『くそッ! まだでてくるのかッ!?』

 

『ロックオン警報!? ど、どこから……きゃッ!?』

 

見えない狙撃手と無尽蔵に現れるゲシュペンスト・MK-Ⅱ、エルアインス、アーマリオンの軍勢――1体1体はさほど強いわけではない、だが大技を使えば狙撃手に狙い撃たれ、倒す手が緩めば増援が現れ数の暴力で押し込まれる……突破口の見えない終わりのない戦いにギリアムは眉を顰めた……強引に突破する事は不可能ではない。だがそれを行なうには手札が2枚、最低でも後1枚なければ誰かを犠牲にする可能性が余りにも高く、ギリアムは行動に移す事が出来ないでいた。

 

『マサキ君、大丈夫?』

 

『ぐっ……な、なんとかな……だけど、もう1発喰らったらアウトだ……くそ、スピードがあがらねぇッ』

 

1発でサイバスターを大破寸前に追い込む破壊力を持つ銃弾をレーダーからも確認出来ない距離から撃ち込んで来る狙撃手が、本来乱戦でこそ最大の効力を発揮するMAPWを搭載しているサイバスター、ヴァルシオーネ、ジガンスクード・ドゥロを押さえ込み、戦力はさほど高くないが数で押し潰しに来る量産機の軍勢が他の機体に足止めと、隙を見せれば狙撃を叩き込んでくる。その破壊力は折り紙つき、しかもその正確無比に神技とも言える狙撃の腕はコックピットを狙い撃つ事も十分に可能だとギリアムに感じさせていた。だがそれをせず、それに加えて一定以上の移動、そして明確な隙を見せなければ撃ちこんで来る事がない――その2つから導き出される答えは1つ敵の目的がウォーダンを名乗る男によるキョウスケの殺害、それを為す為だけの足止めであると言うことだ。

 

(このままでは不味い……)

 

スレードゲルミルの攻撃は苛烈で、一撃でも喰らえばアルトアイゼン・ギーガでも大破は間違いなく、ヴァイスリッターやアンジュルグ、そしてゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムでは脱出も叶わず撃墜されるだろう。

 

(くっ……どうすればいいッ!)

 

相手の狙いが足止めと判ったのが余りにも遅すぎた――分断された今、数の暴力を押し返すにはサイフラッシュ、サイコブラスター、G・サークルブラスターのいずれかが必要であるが、それは狙撃手によって封じられた。ヒリュウ改の主砲は避難こそ完了しているが、市街地を吹き飛ばす事は連邦軍の軍人としておいそれと出来る手段ではない。ここまで無尽蔵に敵の増援が来ることはない、一時分断されても合流できると判断し、人員を分けた段階でギリアム達は完全に相手の術中に嵌ってしまっているのだった……。

 

 

 

 

 

アンジュルグに向かって容赦なく振るわれる斬艦刀――光にしか見えぬそれを紙一重でかわしたラミアは背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。

 

(Wー15が出て来たから追加の指令と思ったんだが……)

 

機密コードで通信を繋げ、帰って来た返答はたった一言……「今の俺とお前は敵同士だ」。その言葉に偽りは無く、本気でウォーダンはアンジュルグを撃墜しようとしていた。これで撃墜されるのならば用無しと言わんばかりの殺意の込められた一撃だった……。

 

『う、うおおおおおおおッ!!! 伸びろぉッ!!!!』

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムの手にしている剣はシシオウブレードではない。PT・特機の両方に装備出来るリシュウが作り上げたゲッター合金を使用した全く新しい日本刀型ブレード――銘はまだ打たれておらず銘がない事が名であるとブリットが「無銘」と名付けた刃の刀身が伸びる。

 

『そのような子供騙しが俺に通用するかッ!』

 

『チェストオオオオオッ!!!!』

 

スレードゲルミルの斬艦刀の横薙ぎの一閃を正眼に構えた無銘で受け止めるゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタム。凄まじいエネルギー同士のぶつかり合いによって発生した衝撃波が周囲を駆け巡り、市街地を破壊していく。

 

『ぬ、ぬおおおおおおッ!!!』

 

力強く踏み込んだスレードゲルミルが斬艦刀を振るった瞬間――ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムは無銘を傾けた横薙ぎを正面から受け止めていた刃を傾ければその刃は当然だがゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムに向かう、その瞬間にゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムは地面を蹴り、斬艦刀の一撃の勢いに乗せられたまま弾き飛ばされる。

 

『切れてない? ブリット君なにしたのッ?』

 

『はぁ……はぁ……武蔵との組み手の結果ですよ……』

 

スレードゲルミルとゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムは武蔵とブリットの関係に近い、一撃が重いスレードゲルミルとスピードが売りのゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタム――生身で出来る事がPTで出来ない訳がない。何度も殴り飛ばされ、あるいは竹刀で弾き飛ばされ、それらの戦いの中でブリットが身につけた受け流しの技によって完全に極まる前に自ら飛び斬艦刀の一撃を避けたのだ。

 

『速いし、重いですよ……どうすればいいのか全然判らないッ!』

 

『突破口がどこにもないのよね……』

 

しかし避ける事が出来ても倒す事が出来なければ意味がない。ギリアム達が合流する目処も無く、一撃喰らえば確実に死ぬというプレッシャーの中での戦いは精神・肉体共に凄まじい勢いで疲労という形でエクセレン達に圧し掛かっていた。

 

「シッ!!!」

 

『ぬうんッ!!!』

 

ファントムアローの4連射を装甲で受け止め、突進してくるスレードゲルミルの圧力は凄まじく空中で宙返りする事で直撃は回避したアンジュルグ――だが、その胴体にスレードゲルミルの手首から伸びたワイヤーが巻き付いていたのにラミアは気付かなかった。

 

『ふんッ!!!』

 

「なっ……ぐううッ!?」

 

腕を振り上げ、振り下ろされた事でアンジュルグは地面に叩き付けられ、その衝撃に肺から酸素を押し出されたラミアが苦悶の声を上げる。

 

『ラミアッ!!』

 

トドメを刺そうと斬艦刀を振りかぶったスレードゲルミルとアンジュルグの間にアルトアイゼン・ギーガが割り込み、額のヒートホーンでワイヤーを断ち切ると同時にリボルビングバンカーを突き出し斬艦刀を受け止める。

 

『『ぐうッ!?』』

 

ウォーダンとキョウスケの苦悶の声が重なりスレードゲルミル、アルトアイゼン・ギーガが共に弾き飛ばされる。

 

『温いッ! その程度で俺は止まらんぞ! ベーオウルフッ!!!』

 

アルトアイゼン・ギーガが体勢を立て直すよりも先にスレードゲルミルが動き出し、斬艦刀でアルトアイゼン・ギーガを両断しようと振り下ろす。

 

『やらせないわよッ! ブリット君ッ!』

 

『はいッ!』

 

オクスタンランチャー改Eモードのフルパワー射撃が斬艦刀に向けられ、ビームショットガンの弾雨がスレードゲルミルの頭部に向かって撃ち込まれる。両方とも斬艦刀を破壊する威力もその場に留める威力もない、ビームショットガンに至っては完全な牽制用の武器で攻撃力など無きに等しい。ブリットにとっては一瞬の目晦まし程度出来ればいい、それだけの時間があればキョウスケならば離脱してくれるという確信が合った。しかしそれがブリットにとっては計算外の祝福を齎した……威力等無きに等しいビームショットガンを必要以上に大きな動きで回避した。

 

『ぬ……ッ』

 

アインスト、インベーダーの脅威を知るウォーダンは潜在的にある行動がプログラミングされている、これはラミア、エキドナ、そしてすべてのWナンバーズに共通している事でもあるのだが……初期のインベーダー、アインストの攻撃力は低く、寄生する為のそれこそ触れたら消滅する程度の攻撃を繰り出す事がある。そして数時間後に宿主を乗っ取りインベーダー、あるいはアインストとしての活動を始める。ベーオウルフというアインストに寄生され、変異しきったキョウスケを知るからこそ、ビームショットガンという余りに威力が低すぎる武器を寄生攻撃だとウォーダンではない、Wナンバーズの本質的な部分が避ける事を選択した。ウォーダン・ユミルならば絶対に取らないこの場での最も最悪の選択肢、だが【W-15】にとっては最も最良の選択肢――寄生される前に逃げるという行動に出てしまった。

 

「(そうだな……私達ならばそうする)だがその隙は逃がさんッ!」

 

それはWナンバーズを守ると言う思惑でプログラミングされた物ではない。逃走を続ける身であるシャドウミラーがアインスト、インベーダーのいずれかに寄生され、追跡される事を避ける為に寄生されない事、次に寄生された場合は速やかに死ぬ為のコードATAはシャドウミラーの全ての機体に搭載されているシステムだった。人としての矜持を守る為の自らの手による死――化け物に寄生され人なざる物になるのも、味方に被害を加えるのも避ける為の最終システムだった。

 

『全弾持って行けッ!!!!』

 

目に見えた大きな隙を見せたスレードゲルミルを紅蓮の不死鳥と鋼鉄の弾雨が飲み込むのだった……。

 

 

 

 

キョウスケは確かな手応えを感じると同時に違和感を抱いていた。

 

(なぜあんなにも大袈裟に避けた……)

 

ビームショットガンは牽制程度の威力しかない武器だ。それなのにウォーダンはその一撃に当たってはならないと思っているように、大袈裟に回避した。

 

(……ベーオウルフ。その言葉に何の意味がある)

 

ビースト、そしてウォーダンが自分の事をベーオウルフと呼び、必要以上に警戒を強める理由がキョウスケには判らなかった。だがファントムフェニックス、そしてエリアルクレイモアを喰らい、穴だらけの装甲と燃えるスレードゲルミルの手から斬艦刀が滑り落ちたのを見て勝利を確信した。

 

「エクセレン、ギリアム少佐達の支援……『キョウスケ避けてッ!』……何を……ッ!?」

 

今も尚分断されているギリアム達の支援に向かうと言おうとした瞬間に耳に響いたエクセレンの悲鳴にも似た声に反射的に操縦桿を傾けた。その瞬間に何かがアルトアイゼン・ギーガの横を掠めた。

 

「馬鹿な……」

 

『まだ動くのか!?』

 

全身の装甲は穴だらけ、その上顔も半分以上潰れている。それなのにスレードゲルミルはゆっくりと炎の中から立ち上がり、アルトアイゼン・ギーガに向けて放ったドリルブーストナックルを回収する。

 

『誤解していた。そうだ、そうだな。キョウスケ・ナンブ、お前はベーオウルフではない、そしてその機体もゲシュペンスト・MK-Ⅲではない……確かにお前は強いが、想像以上ではない』

 

静かな呟きだが、信じられない重みを伴ったウォーダンの声が響き、1度は消えた闘志が再び周囲を埋め尽くす。

 

「「「ッ!」」」

 

その凄まじい闘志と激情を伴ったオーラはキョウスケ達でさえも気圧される凄まじい物だった。

 

『だがお前がベーオウルフにならぬとは言い切れん……』

 

「貴様の言うベーオウルフとはなんだ! 俺と何の関係があるッ!」

 

自分に怨嗟の叫びを上げたビーストのパイロットと思わしき少女の叫び、そして今も尚ベーオウルフと呼んだウォーダンにキョウスケが問いかける。

 

『貴様が知る必要はない、貴様がそこに至るとも言えぬからな……だがッ!! 例え貴様がベーオウルフとならずとも我等にとって脅威となる事は間違いないッ!!!』

 

その咆哮と共にファントムフェニックスの業火が吹き飛び、スレードゲルミルが姿を見せる。だがその装甲はやはり穴だらけ、その上ファントムフェニックスで焼かれ、あちこちから火花を散らし到底戦えるようには見えない。死ぬ寸前にキョウスケを惑わす為の強がりを言っているようにこの場にいる全員が感じていた。

 

『後顧の憂いを絶つ為に、ここで死んで貰うぞッ!! キョウスケ・ナンブッ!!!!』

 

ウォーダンの言葉がただの強がりのように見えたのは一瞬の事で、穴だらけの装甲が盛り上がるように修復し、煤けていた装甲も見る見る間に元の白亜の輝きを取り戻していく……その光景は誰の目から見ても悪夢その物だった。

 

『そ、損傷箇所が修復してるッ!?』

 

『あーらら……そりゃあ単騎で武蔵とゲッターとタイマンも張るわ。だって治るんだもの……』

 

武蔵とタイマンで戦ったウォーダンは自殺行為のように思っていたが、そうではない自己修復するのだから戦えたのだ。圧倒的な攻撃力と大破寸前の損傷でさえも修復するその継戦能力――武蔵が仕留め切れず撤退したと言うのも判るとエクセレンは理解した。

 

『倒し損ねたんじゃなくて、倒せなかったのね……』

 

あの時は基地を自爆させ百鬼獣ごと吹き飛ばすと言う作戦だった。戦えた時間は決して長くはない、それに互いに自己修復能力を有していれば決め手に欠け撤退するのは当然の事だった。

 

「長引けばこちらの不利は明白か……ならばここで勝負を決める」

 

『キョウスケ中尉。なにをするつもりなのであるのですか?』

 

「狙いを制御系に絞る……そこを潰せば、奴とてすぐに再生は出来ない筈……蛇を殺すには頭を……と言う事だ」

 

覚悟を決めた声で作戦とも言えぬ博打を口にするキョウスケにブリットが声を上げる。

 

『い、いくらなんでも無謀が過ぎますよ!? 相手の制御系がどこにあるのか判らないのにッ!?』

 

制御系がどこにあるかも判らない機体をぶっつけでその制御系を狙い撃つなんて真似が出来るわけがない。

 

「ある程度予測はついている。あいつの機体はグルンガスト系列、それに顔を必要以上に庇った……ならばコックピットは頭部だ」

 

グルンガスト系列である事は解析データが出ている。そしてブリットの攻撃で顔を庇ったのを見てキョウスケはスレードゲルミルの頭部が制御系であると同時にコックピットであることを予測していた。

 

(オーバーチャージは後1発か……弾数が足りんな)

 

リボルビングバンカー・オーバーチャージは特殊なカートリッジと腕部のテスラドライブを同調させる必要があり、その弾数は1度の出撃で3発までとなっている既に2発使用しており残されたカートリッジは1発だけだった。

 

『で、ですがキョウスケ中尉ッ! 下手をすれば死ぬのはキョウスケ中尉でありますよ!?』

 

『か、考え直すべきです! ギリアム少佐達が突破して合流してきてくれるのを待つべきでは!?』

 

キョウスケに考え直せとラミアとブリットが声を掛けるが、キョウスケの腹は既に決まっていた。何を言われても、この行動を変えるつもりはなかった。

 

『あちゃあ~……ここんとこ大丈夫だったのに……悪い病気が出たわね。 やっぱし不治の病だったって事ねえ』

 

呆れたと言わんばかりのエクセレンの声が広域通信ではなく、アルトアイゼン・ギーガとヴァイスリッター改のみの通信チャンネルでコックピットに響いた。

 

「エクセレン……奴が怯んだら……一斉攻撃を仕掛けろ。……俺がどういう状態になっていてもだ」

 

キョウスケから見てもこの勝負はイチかバチかではなく、イチかジュウ――死ぬか生きるかの2つに1つしかないと悟っていた。この攻撃で自分が死に掛けていてもそれを無視してスレードゲルミルを攻撃しろという指示にエクセレンは小さく息を呑んだ。

 

『ッ……しょうがねいわねぇ……おデート10回、お代はキョウスケ持ち……朝までコースも当然アリで、許してあげましょ……』

 

相打ちなんて許さないと言外に言うエクセレンにキョウスケは小さく微笑み、最後の特殊カートリッジを左手に握らせる。

 

『エクセレン少尉ッ!?』

 

『エクセお姉様何をッ』

 

キョウスケを止めると思っていたエクセレンがGOを出した事にブリットとラミアが声を上げるが、既に賽は投げられていた。

 

「……ウォーダン・ユミル。待たせたな……俺の手札はあと1枚……クズ手か切り札か……確かめてみるか?」

 

敢えて見せ付けるように特殊カートリッジをスレードゲルミルに向けるキョウスケ、今までのウォーダンの言動でこう声を掛ければ乗ってくるというが判っていた。

 

『よかろう』

 

斬艦刀を構えキョウスケの挑発に乗ったウォーダン、それを見てキョウスケは特殊カートリッジを装填する。

 

「ここで全てを使い切る……ッ!  行くぞッ! ウォーダン・ユミルッ!!」

 

『来るが良いッ!  キョウスケ・ナンブッ!!』

 

スラスターを全開にし赤い流星となったアルトアイゼン・ギーガが真っ直ぐにスレードゲルミルに突撃する。

 

『なッ!? キョウスケ!? おめえなにやってる!?』

 

『キョウスケ中尉ッ!? 死ぬつもりですか!?』

 

その姿は量産型Wシリーズによって分断されているカチーナ達にも見えていた。制止する声が響くが、キョウスケは広域通信をOFFにしてスレードゲルミルだけを睨みつける。

 

『遅いッ! 先手は貰ったぞッ!!』

 

「ちっ、やはりかッ!」

 

最大速度での踏み込み――それはこの戦いで、いや、キョウスケすら初体験の速度だった。凄まじいGに耐えながらキョウスケは自分の予測が正しい事を悟っていた。

 

(こいつは知っている。未来の俺をッ!)

 

ベーオウルフと呼ばれる後のキョウスケ・ナンブを知っているのだ。それが執拗に自分を狙う理由だとビーストのパイロットの少女の慟哭も、ウォーダンが自分を危険視する理由もそれしかないと――武蔵という過去からの使者を知っているからこそ、キョウスケはその答えにたどり着いていた。過去から来た人間がいるのならば、未来から来た人間だっていてもおかしくないのだと――少し強引な推測ではあるが、かなり真に近づいているとキョウスケはその直感で感じていた。

 

『はあああっ!! 斬艦刀ッ! 一文字斬りッ!! これで終わりだッ! キョウスケ・ナンブッ!!』

 

最大加速のアルトアイゼン・ギーガに難無く切っ先を合わせ、突撃に合わせて振るわれた一閃がアルトアイゼン・ギーガを襲い、左腕の肘までとスラスターを斬り飛ばされる。

 

「ぐうッ! だがッ! それで隙が出来た筈だッ!」

 

未来のキョウスケを知っているのならば、今の未熟な自分の動きには対応出来るはず。それを大前提にしていたキョウスケは左腕と背部のスラスターを切り捨てた、脚部、腰部、そして背部のユニットが残っていればアルトアイゼン・ギーガはまだ加速出来る。

 

「狙いは外さんぞ、ウォーダン・ユミルッ!」

 

斬艦刀を振り切った姿勢のスレードゲルミルに向かって急加速し、リボルビングバンカー・オーバーチャージがスレードゲルミルの頭部で炸裂し、ウォーダンの苦悶の声が周囲に響き渡った。

 

「直撃だ……手応えはあった。これですぐには再生……ッ!」

 

完全に直撃――いや、コックピットを潰した手応えをキョウスケは感じていた。事実スレードゲルミルの頭部の右半分は消し飛んでいた。しかしウォーダンは全く怯むことなく、その鉄拳を握り締めアルトアイゼン・ギーガの背中にスレッジハンマーを叩き込んだ。

 

「ごぼぉお……ば、馬鹿な……」

 

『フ、フフフ……』

 

地面に叩き付けられた衝撃でクレーターが出来、あちこちがひしゃげたアルトアイゼン・ギーガのコックピットにレッドアラートが灯る。

 

『肉を切らせて骨を断ったか……見事だ。だが俺を倒すにはまだ足りん』

 

スレードゲルミルの頭部が盛り上がるように再生し、その手に握った斬艦刀を振りかぶる。

 

『キョウスケッ! ブリット君、ラミアちゃんッ!』

 

『『了解ッ!』』

 

キョウスケを救う為にエクセレンがブリットとラミアと共に動き出すが、それよりも先にスレードゲルミルが倒れているアルトアイゼン・ギーガにその切っ先を突き立てる方が速い……。

 

「……お前は……人間なのか?」

 

『ここで死んでいく貴様には関係のないことだッ! 散れッ! キョウスケ・ナンブ!!』

 

自らの死を悟ったキョウスケが最後にそう問いかけた。だがウォーダンがそれに応える事はなく、斬艦刀の切っ先がアルトアイゼン・ギーガに触れようとした瞬間だった。

 

『っちいッ!!!』

 

風を切り裂き飛来した何かがスレードゲルミルに襲いかかり、斬艦刀を振り上げ迫って来た何かをスレードゲルミルは切り払った。

 

『え、あれって……』

 

『げ、ゲッタートマホークッ!?』

 

キョウスケを救った飛来物――それは無骨で巨大な戦斧……紛れも無くゲッタートマホークの姿だった。そしてそれに続くように紺色の装甲をしたグルンガスト参式が現れ斬艦刀を構える。

 

『我が名はゼンガー……ッ! ゼンガー・ゾンボルトッ! 悪を断つ剣なりッ!!』

 

『ッ! ぐっ!?』

 

ゲッター線の証である翡翠色の輝きを放ちながらスレードゲルミルへと突進するグルンガスト参式。斬艦刀の一閃がスレードゲルミルを直撃し、その胴に逆袈裟の深い傷跡を刻み込みスレードゲルミルをアルトアイゼン・ギーガから引き離す。

 

『遅れてすまない。こちらも襲撃を受けていてな』

 

『遅れた分は取り戻させてもらうッ!』

 

グルンガスト参式・タイプGに続きゲッター・トロンベ、ゲシュペンスト・シグがキョウスケ達の救援に現れ、トルコでの戦況は大きく変ろうとしているのだった……。

 

 

第105話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その8へ続く

 

 

 




今回はゼンガー達の登場までを書いて見ました。決着は次回への持越しとなります、ベーオウルフ=未来の自分と勘違いしているキョウスケさんですが、ビーストやウォーダンを見ていると勘違いするのは当然なのでそれはしょうがない誤解ですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第105話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その8

第105話 超音速の神姫/2つの斬艦刀 その8

 

ゲシュペンスト・シグ、ゲッター・トロンベ……そしてグルンガスト参式・タイプGの姿を見てギリアムは即座に通信コードを入力する。

 

「遅いぞ」

 

『言っただろう。襲撃を受けていたとな』

 

『すまないな。予定ではもう少し早く合流するつもりだった』

 

ハガネとヒリュウ改がそれぞれ別行動をするという事は戦力の分散を意味している。馬鹿でも分散しているうちに各個撃破を狙うのは当然の事であった。ヒリュウ改がアビアノを出発する前に武蔵からゼンガー達に応援を頼んでおいたと聞いていたギリアムが文句を言うのも当然の事だった。

 

「とにかく敵の数が多い、それと狙撃手がいる」

 

『狙撃手なら追い払って来たから心配ない。そいつらに足止めを受けていたんだ』

 

狙撃の数が減ってきたと感じていたギリアムだが、ラドラ、ゼンガー、エルザムによって狙撃隊が迎撃された事による狙撃の頻度の低下だったようだ。

 

「朗報だ。これで動きやすくなる」

 

ラドラの言葉を聞いてマサキとリューネにサイフラッシュとサイコブラスターの使用許可を出すと同時に、リバイブ、フライトユニットの装備を全て解放する。

 

「話は聞いていたなマサキ、リューネ。狙撃隊はラドラ達が迎撃している、死角から狙撃される事はない、仕切りなおすぞッ!」

 

『おう! 行くぜッ!サイフラァァッシュッ!!!!』

 

『こいつでしまいだよッ! サイコブラスタァァアアアアアーッ!!!』

 

翡翠と桃色の閃光が廃棄された市街地の上空で瞬き、量産型Wシリーズの乗る機体の多くが爆発、あるいは致命的なダメージを受けその動きを鈍くさせる。

 

『押し返すぞッ! タスク! てめえはキョウスケの回収に向かえ! あのダメージじゃ動けねぇ筈だッ!』

 

カチーナの指示を聞いてヒリュウ改の護衛をしていたジガンスクード・ドゥロがアルトアイゼン・ギーガの回収に動き出す。

 

『ラッセル! てめえはリオと一緒にあたしのフォロー! リョウトはクスハとあたしに続け! 包囲網をぶち破るぞッ!!』

 

無尽蔵の増援と狙撃による足止めの鬱憤を晴らすように動き出すカチーナのゲシュペンスト・MK-Ⅲの後をヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMとグルンガスト弐式が続く。

 

『弱い、弱すぎる……話にならないな』

 

『だが数だけは多いなッ!!』

 

ゲシュペンスト・シグの回転するエネルギークローがエルアインスを引き裂き、ゲッター・トロンベの振り下ろしたゲッタートマホークがゲシュペンスト・MK-Ⅱの左半身を押し潰しながら切り裂いた。

 

『ちっ、まだ増援がきやがるのかッ!』

 

『本当どれだけいるのさッ!?』

 

「文句を言っている暇はないぞ、マサキ、リューネ」

 

倒したら倒した以上に応援が現れる。確かにラドラ、レーツェルが応援に現れた事でいくらかは楽になった……だがこの戦いはスレードゲルミルが倒れるまでは終わりはしないとギリアムは直感で感じ取っていた。

 

(頼むぞ、ゼンガー……)

 

口惜しいが今の戦力でスレードゲルミルを打倒しうる可能性を持つのはグルンガスト参式・タイプGだけだ。上空から次々と降りてくるゲシュペンスト・MK-Ⅱ、エルアインス。そしてそれに加えてラーズアングリフ等も加わり始めるのを見て、この戦いはまだ終わらないと誰もが感じ取るのだった……。

 

 

 

 

アルトアイゼン・ギーガを背中に庇いながらグルンガスト参式・タイプGはスレードゲルミルと向かう合う。

 

「エクセレン、ブリット。キョウスケを連れて下がれ、ジガンスクードが迎えに来ている」

 

『……ごめん、ボス。ブリット君、ラミアちゃん、キョウスケを連れて行くわよ』

 

アルトアイゼン・ギーガを抱え上げ撤退していくエクセレン達を背中で庇いながら斬艦刀の切っ先をスレードゲルミルに向けるグルンガスト参式・タイプGのコックピットの中でゼンガーは出撃前のカーウァイの言葉を思い出していた。

 

【ウォーダン・ユミルという男に気をつけろ、完全に思い出している訳では無いが……これだけはハッキリと覚えている。ウォーダン・ユミルはゼンガー……お前だ】

 

【だがお前よりも強いぞゼンガー。なんせあの地獄を生き抜いている、油断すれば地に伏せるのはお前だ】

 

シャドウミラーによって作られた人造人間の1体が自分の思考データを元にしていると言うのはイングラム、カーウァイの2人から聞いていた。

 

「お前がウォーダン・ユミルか……カーウァイ大佐から話は聞いている」

 

『そうか……ならば俺の素性は判っていると言うことか……無駄話が省けて丁度いい、ゼンガー・ゾンボルト……お前と刃を交えるこの時を俺は待ち望んでいたッ!! いざッ! 真っ向勝負ッ!!!』

 

「応ッ!!!」

 

混じり気のない純粋な闘志を感じ取りゼンガーもウォーダンの叫びに返事を返す。違う道のりを歩んだゼンガー・ゾンボルト同士と言ってもいい、どちらがより強いのか、競い合うような混じり気のない闘争心――それがウォーダンとゼンガーの間にあった。

 

『「オオオオオオオオオッ!!!」』

 

そこに永遠の闘争を望むシャドウミラーの……ヴィンデルの思想はない。

 

純粋に力比べを望む、限りなく誠実な武人同士だけが持つシンパシーだけがあった。そこに作られた人間だと、偽物だという蔑む意志はない、どちらがより強いのか、ゼンガーとウォーダンの間にあるのはそれだけだった。互いに弾かれたように己の機体を操り2振りの斬艦刀がぶつかり合い凄まじい轟音が周囲に響き渡る。

 

『ぬうッ!!』

 

「お、おおおおおおッ!!!」

 

鍔迫り合いを制したのはグルンガスト参式・タイプGだった。スレードゲルミルの巨体が再び宙に浮かびながら弾き飛ばされる。

 

『まだだッ!!』

 

「ぬっ!」

 

追撃に動き出したグルンガスト参式・タイプGに向かってブーストナックルが放たれ、その動きを一瞬止める。それは瞬きほどの一瞬だが、それだけ時間を奪えれば十分だ。

 

『ちえいッ!!』

 

「ぐっ!?」

 

斬艦刀・電光石火――切っ先から撃ち出されたエネルギー刃がグルンガスト参式・タイプGに襲い掛かり、その装甲に深く傷をつける。

 

「……なるほど、強い」

 

『貴様もな。ゼンガー・ゾンボルトッ!!!』

 

【斬艦刀・疾風怒涛】

 

「『うおおおおおおおッ!!!!』」

 

鏡合せのように放たれた斬艦刀を正眼に構えての一閃、全く同じ技、全く同じ構えから放たれるそれは当然の事ながらぶつかり合い。互いに押し切らんとする雄たけびが周囲に木霊する。

 

「チェストォッ!!!」

 

『ぬっぐうッ!』

 

ゲッター炉心を使用しパワーを一時的に上げたグルンガスト参式・タイプGがスレードゲルミルの出力を上回り、スレードゲルミルを斬り飛ばすが着地までの短い間にスレードゲルミルの損傷は回復しダメージにはなっていない。

 

「……」

 

グルンガスト参式・タイプGのほうが攻勢だが、コックピットのゼンガーの表情は険しい。それもそのはずグルンガスト参式・タイプGに搭載されているゲッター炉心は試作品で長時間の使用は最初から想定されていない。だがゼンガーはスレードゲルミルとの戦いの中で常にゲッター炉心を使用していた、そうでなければ埋める事の出来ない機体性能の差があったからだ。

 

【斬艦刀・一文字斬り】

 

すれ違い様の横薙ぎの一閃で高速で間合いを詰めたグルンガスト参式・タイプGの動きに合せるように、スレードゲルミルが斬艦刀を掬い上げる様に振り上げる。

 

【斬艦刀・龍神一閃】

 

それはあちら側の世界で何度も見たゲッターD2のダブルトマホークの動きを組み込んだウォーダンの作り出した新たな斬艦刀の技……三日月を描く高速からの切り上げ、切下ろしの二連撃にゼンガーは対応し切れなかった。

 

「ぬっぐううッ!」

 

『ぐっ……間合いを見誤ったかッ!』

 

ゼンガーの知らぬ斬艦刀の一閃はグルンガスト参式・タイプGの肩と背部のドリルを斬り飛ばし、そしてウォーダンの知るものよりも速い斬艦刀の一太刀はその胴に深い横一文字の傷跡を刻み込む……そのダメージの差がゼンガーとウォーダンの操縦の腕前の差であり、ゼンガーが紛れも無く優勢という証だった。

 

(極まりが浅い……)

 

しかしゼンガーは不満げに顔を歪めた。短い時間でウォーダンは恐ろしい速度で成長している、斬艦刀・一文字斬りはキョウスケを救う為にも放った。今もその傷跡はスレードゲルミルに刻み込まれているが、一太刀めよりも二太刀めの傷跡が浅い……たった数合の打ち合いでヒットポイントをずらし、反撃まで繰り出してくるウォーダンにゼンガーは驚愕を隠しきれないのだった……。

 

 

 

 

正史のスレードゲルミルならば、ゲッター炉心を搭載したグルンガスト参式・タイプGとここまで打ち合う事はできず既に両断されていた事だろう。だがグルンガスト参式がゲッター炉心を得てタイプGへと変化したように、あちら側の世界でゲッターD2を見たレモンによってスレードゲルミルの原型となったグルンガスト参式もまたグルンガスト参式・タイプGに匹敵するレベルにまで能力が強化されていた。それがスレードゲルミルとグルンガスト参式・タイプGがここまで打ち合うことが出来ているカラクリだった。

 

(届かない……)

 

だがそのカラクリを持ってしても、ウォーダンは届かないと確信していた。同じ技、同じ踏み込み、それなのに圧倒的に錬度が異なる。

 

【【斬艦刀・牙壊一閃】】

 

疾風怒濤とは異なる腕と腰を連動させた鞘無き居合い切り――それをスレードゲルミルとグルンガスト参式・タイプGが同時に放つ。

 

「ぐっ!?」

 

僅かにスレードゲルミルの方が速かった。だが先に命中したのは参式斬艦刀――最短距離を、そして腕力ではない技によって放たれた一閃が力を上回った。

 

『はぁああああああッ!!!』

 

「ぬおおおおッ!!!」

 

気迫で負けぬように互いに吼え一撃で倒すと言う決意を抱いて斬艦刀を振るう。何度も火花が上がり、凄まじい轟音が周囲に響き渡る。技を放つ隙も間合いも取れぬ、しかし互いに全力で斬艦刀を触れる間合いで最早閃光にしか見えぬ剣撃の応酬を制したのはグルンガスト参式・タイプG、そしてゼンガー・ゾンボルトだった。

 

『隙ありッ!』

 

「うぐああッ!!!」

 

打ち合う度にウォーダンが知らぬ間に徐々に体勢を崩されていたスレードゲルミルの腕を参式斬艦刀の一閃が跳ね上げる。それによって両腕を上げた万歳の状態に追い込まれ無防備な胴をグルンガスト参式・タイプGに晒す事になった。

 

『取ったッ!! 斬艦刀……雷光斬ぃッ!!!』

 

横薙ぎの一閃が三度スレードゲルミルの胴に深い傷跡を刻み込む。

 

『我が斬艦刀の一閃は雷光の煌きなりッ!!』

 

着地までの短い間に再び間合いを詰めたグルンガスト参式・タイプGの下からの切り上げが先に刻まれた横一文字の傷跡の上縦一閃の傷跡を刻みつける。

 

「ぐううッ……まだだぁッ!!!」

 

リボルビングバンカー・オーバーチャージ、そして立て続けに刻み付けられた横一文字の傷跡のダメージは深く、スレードゲルミルの修復速度を著しく低下させていた。しかし自己修復などウォーダンにとって何の意味もなかった、斬艦刀を振れる――それだけの機能が残されていれば良かった。

 

「う、ウオオオオオオオオッ!!!!!」

 

『なッ!?』

 

斬られている中で敢えて突進し、より深く参式斬艦刀がスレードゲルミルの胴に傷をつけるがそんな事はどうでもいい。こうして斬られている――それは手の届く範囲に、斬艦刀の間合いの中にグルンガスト参式・タイプGが存在するということだったのだから。近いがほんの僅か、ほんの僅かの差でスレードゲルミルの斬艦刀はグルンガスト参式・タイプGを捉え、グルンガスト参式・タイプGの刃はスレードゲルミルを捉える事は無かった。

 

「骨を切らせて命を断つッ! 斬艦刀稲妻重力落としぃぃいいいいッ!!!」

 

斬り上げられた事で宙に浮いたその状態を生かしてのフルブーストによる大上段からの切下ろし――参式斬艦刀が今もスレードゲルミルの胴に突き刺さっている以上グルンガスト参式・タイプGにその一閃を防ぐ術は無かった。

 

「チェストオオオオオッ!!!」

 

スレードゲルミルの斬艦刀がグルンガスト参式・タイプGの背中を捉え、深い傷跡を刻み込みながらグルンガスト参式・タイプGを地面に叩きつける。

 

『がはッ……!』

 

「はぁ……はぁ……『うおおおおおッ! オメガブラスタァァァアアアアッ!!!!!』……ぬおおおおッ!?』

 

至近距離――いや、そんな生ぬるい距離ではない、ゼロ距離からの自らを巻き込む覚悟を持ったオメガブラスターが放たれ、グルンガスト参式・タイプG、スレードゲルミルが共に大爆発し大きく弾き飛ばされる。

 

「……これがゼンガー・ゾンボルト……アインストに寄生された剣鬼ではない、本物のゼンガー・ゾンボルトかッ!!!」

 

ウォーダンの胸を埋め尽くしたのは言葉に出来ぬ歓喜だった。自らのオリジナルにして、W-15ではない。本当の意味でウォーダン・ユミルになる為に越えなければならぬ壁……その壁が自分が思っていたよりも遥かに大きく、そして強い事に喜びを隠せなかった。

 

『……後一振り……出来れば十分だ』

 

明暗を繰り返すゲッター線のバリアに守られても尚全身の装甲が煤だらけのグルンガスト参式・タイプGが斬艦刀を振りかぶる。

 

【ウォーダン。足止めはもう十分よ、帰還してくれて良いわよ】

 

「……この場での決着をつけ戻る。ゼンガー・ゾンボルトとの戦いを、このような中途半端な形で終えるつもりはない」

 

戻れというレモンからの通信にそう返事を返し、通信をOFFにしたウォーダンはスレードゲルミルを操りその斬艦刀の切っ先をグルンガスト参式・タイプGに向ける。

 

「我はウォーダンッ! ウォーダン・ユミルッ! メイガスの剣なりッ!」

 

『我はゼンガーッ! ゼンガー・ゾンボルトッ! 悪を断つ剣なりッ!!』

 

互いに裂帛の気合と共に振るわれた斬艦刀同士のぶつかり合いは周囲を白く染め上げるのだった……。

 

 

 

 

トルコ地区を抜けヒリュウ改は再び伊豆基地へと向かい始めていた。最後のスレードゲルミルとグルンガスト参式・タイプGのぶつかり合いは互いの斬艦刀が砕けると言う形で幕引きと相成った。

 

『……ふ、ふふふ……ははははははははッ! 互いの獲物が折れるとはやはりこの場での決着は叶わぬようだ』

 

砕け散った己の斬艦刀を見て笑い出したウォーダンはスレードゲルミルに背を向けさせる。

 

『どこへ行く、ウォーダン・ユミル……ッ』

 

『ふ、この場は我らの決着の地ではない。この勝負預けるぞ! ゼンガー・ゾンボルト! キョウスケ・ナンブッ!』

 

離脱していくスレードゲルミルを追う余力はこの場にいる誰にも無く、離脱して行くスレードゲルミル達を黙って見送ることしか出来なかった。

 

『……無事か、キョウスケ』

 

砕けた斬艦刀を鞘に納めた所でグルンガスト参式・タイプGのゼンガーからキョウスケの身を案ずる声が響いた。

 

『ええ……何とか、助かりました。ゼンガー隊長』

 

『気にするな、武蔵から救援を頼まれていたからな。では……行くぞ、レーツェル』

 

『承知した。ラドラ、ヒリュウ改は頼むぞ』

 

武蔵からの救援要請だったと告げ、グルンガスト参式・タイプGとゲッター・トロンベがヒリュウ改に背を向ける。

 

『どこへ行かれるんですか、ゼンガー少佐、レーツェルさんッ!?』

 

このまま合流し、伊豆基地まで行動を共にしてくれると思っていたレフィーナはこの場を離脱しようとしている2人にそう声を掛ける。

 

『我らは我らでノイエDCとインスペクターの動向調査を行なう』

 

『それに俺達の機体はゲッター炉心で稼動している。アインストや、インスペクターを呼ぶことに繋がりかねん。ゆえに俺達はここまでだ』

 

ゲッター炉心で稼動するグルンガスト参式・タイプGとゲッター・トロンベが同行してはヒリュウ改が危険だと言い残し、ゼンガーとレーツェルはこの場にラドラとゲシュペンスト・シグを残して離脱していた。

 

『ラドラさんは残ってくれるんですか?』

 

『ああ、元からそのつもりだ。着艦許可をくれレフィーナ中佐』

 

ゲシュペンスト・シグをヒリュウ改に回収し、レフィーナ達は追っ手が放たれる前にトルコ地区を後にした。

 

「つまりラドラさん達は武蔵さんからの連絡を受けて?」

 

「ああ。武蔵がアビアノ基地に向かう前に連絡があった、どの道俺は日本……と言うかギリアムに用があったからな。ゼンガーとレーツェルの奴と一緒にヒリュウ改を追って来ていたんだ」

 

何故このタイミングでラドラ達が救援に現れたのかと言うのは武蔵からの伝言だったと聞いて、この場にいなくとも武蔵は武蔵なりにレフィーナ達の事を案じていたようだ。

 

「助かった。ラドラ達がいなければ全滅していたかもしれん」

 

「数だけの雑兵というのも厄介な物だな、俺達も強行突破してくる羽目になった、これからは下手に個別行動を取るのは避けた方が良いだろうな」

 

数に物を言わせて襲撃を仕掛けてくる以上、ゲシュペンスト・MK-Ⅱを見かけたら容易に個別行動を取るなとラドラは忠告する。

 

「あのゼンガー少佐もどきについてなんかしらねえのか? ラドラさんよ」

 

「特に話すような事は無いが……ゼンガーと同じ声、そしてほぼ同じ技量を持つという事くらいだな。そもそも俺達もあいつと戦ったのはこれが初めてだ」

 

初めて戦うから情報はないとラドラは口にし、リョウトに視線を向けた。

 

「お前か、マグマ原子炉を使っている機体に乗ってるのは」

 

「は、はい! そ、そうです」

 

「ふん、よくも精製も調整も済ませてないマグマ原子炉を組み込んだ物だ。その無謀さ、実に愚かだ」

 

戦力を求めるのは判るが、無謀が過ぎる。愚かだとラドラは淡々とした口調で説教を始める。

 

「あのラドラ。私達結構疲れてるんだけど?」

 

エクセレンが助け舟を出すとラドラは1度ふんっと鼻を鳴らし、リョウトの背中を大きく叩いた。

 

「いっ……ら、ラドラさん……?」

 

「俺はその愚かさは嫌いじゃないぞ、小僧、レフィーナ中佐。あのヒュッケバインを弄ってもかまわんか?」

 

「……よろしいのですか?」

 

「良いも何もない、このままだと暴走する危険性を抱いている機体をそのままにしておけるか、最低限の調整はしてやる。仕上げは伊豆基地で行えば、大分安定する筈だ。少なくとも暴走のリスクは押さえ込める」

 

常に暴走のリスクを抱えているヒュッケバイン・MKーⅢ・タイプMが安定稼動出来ると聞けばレフィーナ達に断る理由はなく、ラドラにヒュッケバイン・MKーⅢ・タイプMの改造を依頼し、ラドラはリョウトとリオと共にヒリュウ改のブリッジを後にする。

 

「しかし、あのウォーダンって野郎は一体なんなんだ?」

 

「確かに……正直アルトのリボルビングバンカーを顔面に貰ってもあれだけ戦い続けるとか……ちょっと正直信じられないですね」

 

「いや、もうサイボーグとかじゃないの?……んん? ラミアちゃん、顔色悪いけど大丈夫?」

 

「あ、いえ、なんでもないでありますよ? ほほほほ」

 

さらっと真に迫ることを言うエクセレンにラミアは白々しく笑いながら、額の汗を拭った。

 

「キョウスケ中尉はどう思っておりますかな?」

 

「……俺はビースト含めて、未来から来たのではないかと思ってます」

 

未来から来た――余りにオカルトが過ぎる、だが武蔵という旧西暦から新西暦に来たと言う事例もある。キョウスケの言う未来から今の時代にやってきたと言うのは確かにありえる推察の1つではある。

 

「でもキョウスケ中尉。それだと何故我々は未来の住人に攻撃を受けているんですか?」

 

「だわな。それこそインスペクターとかに攻撃するなら判るけどよ……お前の推察は違うんじゃねえか?」

 

未来からやってきたのならば、現在進行形で地球侵略を行なっているインスペクターあるいは百鬼帝国を攻撃するなら判る。だが何故同じ地球人同士で戦うんだ? とブリットとカチーナが口にする。

 

「……確かにそう考えるのが普通だと思いますよ」

 

「俺がアインストに寄生されるか、百鬼帝国に捕えられたと考えたらどうだ? そして地球に壊滅的な打撃を与えたとすれば……俺は未来ではインスペクターや百鬼帝国と同等の脅威となっている可能性がある」

 

そうなる前に殺そうとするのは間違いではないのではないか? というキョウスケの言葉にヒリュウ改のブリッジに嫌な沈黙が広がる。

 

「馬鹿ね、考えすぎよキョウスケ」

 

「だが」

 

「だがもクソも無いの、仮に未来がそうだとしても今がそうなるとは限らないでしょ? 心配しなくて良いのよ」

 

これだから堅物は思いつめちゃって駄目ねとエクセレンが明るく言った時、ヒリュウ改に電文通信が届けられる。

 

「艦長、アビアノ基地司令部より暗号電文が入りましたッ! ハガネ・シロガネ隊がリクセント公国の奪還に成功したようですッ!」

 

暗く重い雰囲気になっているヒリュウ改にリクセント奪還の知らせは何よりの吉報となった。

 

「しゃあッ! これでノイエDCの勢いは収まる」

 

「うん。そうだねブリット君」

 

リクセントを中心にしてヨーロッパ方面に抜けていたのだ。リクセントを奪還すればノイエDCは輸送路や補給路を失いその進軍の勢いが大幅に弱まる事が予想される。

 

「ほらね。皆で協力すれば出来ないことはないのよ。下手な考え休むに似たりって言うでしょ?」

 

「ふっ……そうだな」

 

リクセントの奪還もその成功率はゲッターD2を含めても決して高くは無かった。それを成し遂げたのは紛れも無く、仲間同士協力し合い、そして皆で協力して取り返したのだ。

 

「だからそんな馬鹿みたいなこと考えてないで早くデートの予定でも考えて欲しいわね。さ、ささ、レフィーナ艦長。伊豆基地に向かいましょうよ」

 

伊豆基地に向かえば少しは自由時間がある。だから息抜きをしましょうよと笑うエクセレンの笑顔に何時の間にかブリッジに満ちていた重い空気は霧散していた。

 

「そうですね。進路を伊豆基地へ向けてください」

 

伊豆基地に進路を取るようレフィーナが指示を出し、ヒリュウ改は伊豆基地へと進んでいくのだった……。

 

 

 

第107話 密約/束の間の休息 へ続く

 

 




ゼンガーとウォーダンの戦いはかなり難しかったですね。やはり決着まで持って行けないと中途半端になってしまうのが難しい所でした。
それでもある程度はいい具合には仕上げれたと思うので、もっと精進して行きたいと思います。次回は密約/束の間の休息と言う事で次の話に入る前の話やハガネやヒリュウ改の話とシリアスな話の2つで書いて行こうと思います。温度差が凄まじい話になると思いますが、次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第107話 密約/束の間の休息 

第107話 密約/束の間の休息 

 

ブライアン・ミッドクリッドからの特命と言う事で禁止されている地球から月の便を使い、ブライは月面のセレヴィスを百鬼帝国に制圧されてから初めて訪れた人間――表向きはそうなっていた。

 

「お待ちしておりました。ブライ様」

 

「荷物の程をこちらでお預かりします」

 

「ああ。すまないな、朱王鬼、玄王鬼」

 

重火器を向けている鬼達の間をブライは悠々と歩き出し、その姿にブライと共に来た交渉人や警備の連邦兵達が驚きの声を上げる。だがブライはその言葉に振り返ること無く1人で空港を後にする。

 

「ブライ議員!? これはどうい……「死にたくなければ口を閉じろ」……ッ」

 

ブライと共に月面を制圧している百鬼帝国との交渉に訪れた数十人の議員は1つ角の百鬼帝国の最下層の兵士達に銃を向けられ、空港から別の場所へと連れて行かれる。

 

「セレヴィスシテイの住人の鬼への改造はしていないだろうな?」

 

「は、ご命令通りに……しかし何故鬼にしないのですか?」

 

当初月面を制圧した朱王鬼達はセレヴィスを初めとした月面都市の住人、そしてアースクレイドルの研究者、科学者を鬼にするつもりだったのだが、ブライから禁止されていた。ずっと疑問に思っていたそれを朱王鬼はブライに会う事が出来た今問いかける。

 

「なに、簡単な話だ。使えもしない鬼を増やしてもこちらの首を絞めるだけだ。それならば百鬼帝国とインスペクターに制圧されていたから鬼かもしれない、洗脳されているかもしれないと思わせた方が連邦の戦力を削ぐ事が出来て有意義だ。納得したかね?」

 

「無知な私に教鞭を振るっていただき感謝します。ブライ大帝」

 

朱王鬼と玄王鬼を引き連れてブライはセレヴィスシティを歩き出す。

 

「地下シェルターなどの生命維持装置は外側から維持を続けろ、それとワシが連れてきた4人の議員だけは鬼とし、記憶操作、それと記録

機器の改竄をしておけ。それとウェンドロとの連絡はついているか?」

 

矢継ぎ早に指示を出しながら自分が来るまでに準備をしておけと言った事は完了しているか? と2人に問いかけるブライ。

 

「問題ありません。既に迎えのメキボスが待っております」

 

「うむ、それならば良い。お前達はワシが戻るまでに処理を済ませておけ」

 

「護衛がいなくて大丈夫ですか?」

 

朱王鬼と言葉にこそしていないが玄王鬼の視線にも不安の色が浮かんでいる。

 

「心配はない、そもそもバイオロイドを使っている段階で向こうはワシに害をなせない。仮にだ、仮に向こうがワシをどうこうするというのならば、本国でも暴れさせるまで、そうなればあやつらは反逆者となり、帰る場所を失う――そこまで愚かではなかろう」

 

1人で乗り込んだとしても既にブライの手はゾヴォークの喉元にまで食い込んでいる……形式上は対等でも既にブライの方が圧倒的に有利なのだ。ゆえに案ずることはないと笑い、マオ社の試験場に立っているグレイターキンの元へブライは視線を向ける。

 

「出迎えご苦労」

 

「……いえ、態々ご足労いただき感謝します」

 

不満、嫌悪、敵意が入り混じった視線を向けるメキボスを見ても、ブライは余裕の笑みを崩すことはない。

 

「ではホワイトスターへ向かおうか? 時は金なり、無駄話をしている時間はないのでね」

 

ダヴィーンの者の証である角を出しながら告げるブライにメキボスは何も言う事は出来ず、この為に作った豪華な客室付きのシャトルに乗るように促し、朱王鬼と玄王鬼に睨まれながらそのシャトルを抱き上げネビーイームへと引き返す。その最中メキボスの胸中は言うまでも無く、俺はタクシーじゃねえという不満たらたらな物であったということはいうまでもない。

 

「ウェンドロ様の所には私、アギーハがご案内します」

 

「そうか。では頼もう、ああ、後メキボス君だったね。良い操縦だった、君は運転手としても優秀だな」

 

ネビーイーム到着後のブライの一言にアギーハが噴出しかけ、メキボスの額に青筋が浮かんだりしたのだが、ブライはネビーイームの中で少量ながら精製されているゲッター合金などを確認しながらウェンドロの待つ部屋へと向かうのだった。

 

「ウェンドロ様、ブライ様をお連れしました」

 

『ああ、入って来てくれて構わないよ』

 

ウェンドロの返事を聞いてからアギーハが扉を開き、ブライはウェンドロの部屋へと足を踏み入れた。

 

「ダヴィーンの使い ブライだ。今日はよき話し合いをしたい物だな」

 

「ウェンドロ・ボルクェーデだ。良く来てくれたダヴィーンの生き残りよ」

 

2人とも表面上は笑顔だが、その間はどす黒く歪んでいるのを見てアギーハはお茶を用意してくると言って、踵を返して逃げ出した。

 

「さてと、こうして面を向かって話をするのだからまずは、ゾヴォークに復帰する気は? その気があるのならば僕が口引きしよう」

 

「そうだな、それも後々考えているが……今は必要ない。それにワシを紹介すると言っても、目に見えた戦果や成果がなければそれも難しいだろう?」

 

「まぁそうだね。ではダヴィーンのゾヴォークの復帰は後にするとして、ブライは地球をどうするつもりなんだい?」

 

「そうだな、まずは仮初の同胞を増やし地球を支配化に置く、その後信頼出来る者に分割して統治させる」

 

「なるほど、その後にゾヴォークに復帰し、地球を足がかりにこの周辺の星域を君の支配下におくと……ゾヴォークと戦うつもりかい?」

 

「まさか、それに地球を支配するとしても邪魔者が多い。連邦のハガネ、ヒリュウ改、シロガネ、そして本物のビアン・ゾルダーク……そして」

 

「ゲッターロボと巴武蔵かい?」

 

「その通りだ。まずは彼らをどうにかしない事にはワシの願いは叶わない、それに君達だって良い報告は出来ないだろう? ここは適時協力し合うという事でどうかな? どうせこう考えているのだろう? ワシが連邦を制圧すれば、ゲッターロボを倒せばインスペクターは百鬼帝国を潰す。バイオロイドも別の方法で精製しようとしている……そんな所である筈だ」

 

「それを言えば、ブライもだろう? 僕がゲッターロボを倒せばバイオロイドを決起させて潰しに来る。違うかい?」

 

お茶を持ってきましたと告げ部屋にはいってきたアギーハは小さく悲鳴をあげ、お茶を置いて高速で逃げ去った。それほどまでにブライとウェンドロの間には重苦しい雰囲気があった、もはや視認出来るダークオーラと言っても良かった。互いにカップを手にしお茶を啜り、ソーサーの上に戻す。

 

「それくらいじゃないとゾヴォークとやり合おう何て思わないよね。良いよ、それで良い。だからまずは特機の情報が欲しいな」

 

「おいおい、いきなりか? まぁ良いがね。ああ、それと申し訳ないが政府に提出する為の映像の偽造と改竄を手伝って欲しい、台本はこちらで用意しよう」

 

「僕は役者じゃないんだけどなあ……? これは追加料金が要るね」

 

「業突く張りだな」

 

表面上は穏やかでもその内面は互いを出し抜く隙を窺っている……打算で繋がった関係だからこそ、強固な繋がりがブライとウェンドロの間に生まれているのだった……。

 

 

 

 

 

ハガネがリクセントを奪還してから半日後にシロガネもリクセントに訪れていた。オペレーション・プランタジネットの為の準備段階である今、奪還出来たリクセントを再び奪われる事を避ける為数日間はリクセントにハガネ、シロガネ共に駐在する事が決まっていたからだ。

 

「……ほう、パレード……惜しいな、初日は見逃したか」

 

そんな中でリーは自室でリクセント公国が発行している新聞を見て、自分が到着する前にパレードがあったと知り、惜しいなと呟きながら朝食のバタートーストを頬張る。ちなみにその新聞にはオープンカーに乗せられやけくそ気味というか完全にやけになっている武蔵がシャインと手を振っていたりするのだが……まぁそれはそれで良いだろう、問題はその下である。

 

「……シャイン王女と武蔵は婚姻関係だったのか?」

 

結婚目前かという名目が打たれており、シャイン王女は12歳で武蔵は16か17の筈だが……と呟きながらリーはコーヒーを啜りながら新聞に目を通すのだった。

 

「完全に逃げ道断たれてる……」

 

「そうだな、これは想定外だな……」

 

一方ハガネのブリーフィングルームでリーが見ていたのと同じ新聞を見ていたアラド達はなんとも言えない表情をしていた。

 

「あの、隊長。新聞の先走りかもしれないですよ?」

 

「……いや、私なんか23だしな、はは……」

 

約1名メンタルが死んでいたりするなどリクセント公国が発表した新聞は色々と物議を醸していた。

 

「結婚って何だ?」

 

「えっとそうですね……? うーん」

 

エキドナに結婚について問いかけられたラーダは少し考えてから、エキドナにも判るように結婚について説明するが、エキドナがそれを正しく理解できるかは謎のままだった。

 

「つうかマジで国全体で歓迎ムードなんだよな。武蔵」

 

「それも当然と言えば当然だけどね」

 

アードラーに攫われたシャインを救出し、メカザウルスに襲われた時に率先して助けに来て、そしてノイエDCと百鬼帝国に追われているシャインを助けに現れ、とどめはリクセントの奪還――これでリクセントの住人からの好感度が上がらなければ嘘だと言わなければならないだろう。

 

「でも1つ聞きたいんですけど、良いですか?」

 

「何がだ?」

 

「いや、武蔵とシャイン王女ってお付き合いしてるんですか? あたしから見ると、武蔵ってシャイン王女を妹扱いしてると思うんですけど?」

 

アイビスの言う通りである。確かに武蔵はシャインには優しいが、それはあくまで妹に対する扱いだ。

 

「周りを埋めて世論で囲い込むって所かしらね? カイ少佐はどう思いますか?」

 

「ん、まぁ確かにあれだ。結婚だのなんだとと言うのは互いにまだ早いだろう……ただ武蔵がリクセントの国籍を取るのはありだとは思うぞ」

 

実際の所武蔵は国籍不明所か、生年月日も明らかになっていない。医療保険等を受けることも出来ず、下手な国家に属すればそれこそ戦火になりかねない。そういう意味では中立にして独立国家のリクセントは武蔵にとって1番都合が良いのは間違い無いのだが……。

 

「シャイン王女だったら……それを盾にして婚約を取り付けてしまうかも」

 

ユキコと協力して外堀所か本陣まで攻め込んでいるラトゥーニがそう呟くが、正直お前言う? って言うレベルであり、というか……完全にブーメラン発言である。

 

「ラト。お前何時帰って来たんだ? お城に行ってたんじゃ?」

 

「うん、シャイン王女が公務だからって1回私は戻って来たんだ」

 

「じゃあ武蔵も帰ってくる?」

 

ラトゥーニが帰って来たから、武蔵も帰ってくるとエキドナが無表情のまま目を輝かせるという器用な真似をし、周りにいたラーダやイルムがぎょっとすると言うハプニングがあったりしたが、ラトゥーニは首を左右に振った。

 

「なんかルダール公と婚約届けにサインする、しないで殴りあいしてて……」

 

ブリーフィングームに嫌な沈黙が広がった。武蔵のフィジカルはとんでもない化物であり、とてもではないが老齢のジョイスと殴り合いをすればジョイスがどうなるかなんて火を見るよりか明らかだった。

 

「え? 武蔵さんとルダール公が?」

 

「うん」

 

「いや、それ大惨事だろッ!?」

 

ルダール公が何歳かは判らないが、武蔵のフィジカルは化け物レベルだ。そんな相手と殴り合い出来る訳がないとイルムが腰を上げたのだが、ラトゥーニは大丈夫と口にした。

 

「武蔵が押されてた……」

 

「「「「嘘だろッ!?」」」」

 

武蔵を倒しかけてると聞いて、ブリーフィングルームにいた全員が嘘だろと叫び声を上げるのだった……。

 

「いっつうう……」

 

「私は貴方に言いたい事がありました」

 

投げ飛ばされて頭を摩っている武蔵の前に立つジョイスは拳をゴキゴキと鳴らす。

 

「何度も我々は助けられている。その事に私は感謝しています、ありがとうございます」

 

「……それ絶対感謝する態度じゃないですよねッ!」

 

「いえいえ、これが私の感謝の証ですよッ!!!」

 

「良い加減にしないとオイラも怒りますよ!?」

 

ラリアット、後回し蹴り、正拳と繋げて来るジョイスの猛攻を受け止め、防ぎ、あるいは跳んで回避する武蔵の顔には確かに焦りの色があった。流石にジョイスに反撃するのは武蔵としても躊躇いがあり、その拳を受け止めながら武蔵が怒ると声を上げる。

 

「……しかしです、貴方はシャイン様を泣かせた。それをこのジョイスは許せないのですよ」

 

「確かにそれはオイラが悪かったですけど……」

 

顔を狙っての正拳を受け止める武蔵だが、片手で抑えきれずギリギリと押し込まれている。

 

(マジか!? この爺さん、リョウ並か!?)

 

竜馬ほどの殺人空手ではないが、確実に人を壊す術を修めているのに気付き、力を込めようとするとジョイスはそれに気付き、武蔵の腕を振り払い地面を蹴って距離を取り、懐から紙と万年筆を取り出す。

 

「それならばこの婚約届けにサインを、あとリクセントへの移住届けにもサインを」

 

「……いや、だからオイラにとってシャインちゃんは妹みたいな……っ!」

 

武蔵の頬を切り裂いてジョイスの手にしていた万年筆がリクセント城の壁に突き刺さった。

 

「貴方がどう思おうがシャイン様は貴方に恋をしている。それに変わりは無く、それを妹みたいとは……ははは、久しぶりに切れちまったよ……ッ」

 

正拳ではなく、虎のように拳を構えるのを見て武蔵は思わず声を上げた。それは確実な殺人拳、それも鍛えた握力と加齢によって失った腕力を鋭い腕の振りで補う格闘術――それは隼人を思わせる鋭い武術であり、武蔵を持ってしても応戦せざるを得ないと覚悟させる物だった。

 

「いや、元から切れてたよなあんたぁッ!?」

 

「叩きのめして、サインさせてくださいと言わせてやるよッ!」

 

口調まで代わり、鋭い踏み込みと共に低い姿勢から抉りこむように繰り出される貫手を弾く武蔵だが、手首を掴まれ姿勢を崩された所に垂直に蹴りが放たれた。

 

「やっぱりあんたやべー奴だッ!?」

 

振り上げた足がそのまま踵落しになり、腕をクロスして防いだ武蔵だがその圧倒的な威力に武蔵は顔を歪めた。

 

「お褒めに預かり光栄だッ!!!」

 

受け止められる事すら計算に入れていたのか、地面を蹴り跳躍したジョイスの蹴りが顔に向かって放たれる。

 

「褒めてねーよッ!! ああくそ、覚悟しろよ。オイラもここまでやられてジッと何てしてられねえからな!」

 

蹴りの風圧で頬を切られた武蔵は相手が老人だからという考えを捨て、竜馬や隼人に匹敵する相手として武蔵は認識し、拳を握り締める。

 

「好きにしてくれて構わない、とにかくお前は叩きのめす。決定事項だ」

 

リクセントの核弾頭ジョイス・ルダール――シャインの父に心酔し、執事へと転職した経歴を持つデストロイヤーの牙が数十年ぶりに解き放たれた瞬間だった……。なおボロボロで帰ってきた武蔵はリュウセイ達にこう告げた。

 

「ジョイスさん、多分あと5年若かったら、いや3年若かったらゲッター乗れるわ。あの人化けもんだ、リョウクラスの戦闘力だぞ、あれ」

 

「あの素手で鬼の首を引き千切ったり、裏拳1発で鬼の首を圧し折る竜馬クラスか。惜しい人材だな」

 

「本当なぁ、若かったらゲッター乗ってくださいって頼むレベルだわ、リョウと比べるとまだ常識の範疇だけどさ、もしリョウの殺人空手だったらオイラ多分負けてるぜ」

 

「そこまでいうか……ままならんものだな」

 

「本当だよなあ、2人乗ってくれればもう少しオイラも楽に戦えるんだけどなあ」

 

ジョイスがゲッターロボパイロットの中で1番やばいとされる竜馬クラスの戦闘力と聞き、武蔵が自分で消毒や絆創膏を張る姿を見ながらハガネの面子はその顔を引き攣らせていた。

 

なおこれは余談だが……龍王鬼の母艦である陸皇鬼ではこんなやり取りが行なわれていた。

 

「目、どうしたのよ。闘龍鬼」

 

後ほんの少し傷が深ければ失明したであろう傷痕に消毒をしている闘龍鬼に風蘭が声を掛ける。

 

「あん? てめえ怪我してたか?」

 

共に出撃していたヤイバも振り返り、どうしたんだ? と問いかける。

 

「これはリクセントの人間にやられたのだ。人間も捨てたものではないな」

 

「「「マジで?」」

 

「ああ。ジョイス・ルダールと言っていたな。シャイン王女がいないあいだ、リクセントを守る使命が私にはあると戦いを挑んで来たのだ。老人であったが恐ろしいほどの強さだった、後5年……いや、3年若ければ俺の目は完全に潰されていたな」

 

「そんな人間がいたのかよ。いや、最高だな。そりゃッ!」

 

「そうよねえ、強い相手って言うのは良いね」

 

「然り、私も話してみたかった物だ」

 

闘龍鬼に傷を付けた人間としてジョイス・ルダールは龍王鬼一派の記憶に残る民間人(?)となっていたりする。

 

 

 

 

伊豆基地に向かうヒリュウ改の格納庫ではヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの炉心の調整が慎重に行われていた。

 

「つまりマグマ原子炉というのはむき出しの闘争本能ということか?」

 

『簡単に言うとそうなるな、メカザウルスの闘争心や人工知能に直結してる。闘争本能や破壊願望しかないが、これ自身が人工知能と言ってもいい』

 

防護服に身を包んだラドラがハンドサインを出し、それに従ってカークがマグマ原子炉をヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMから露出させる。

 

「どうだ? その段階でも調整できるだろうか?」

 

『完全な形での調整は無理だ。そもそもこれを外して、反マグマプラズマジェネレーターにするとしても、それだとヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMとは規格が合わん』

 

元々反マグマプラズマジェネレーター自身がゲシュペンストに合わせて開発されたもので、ヒュッケバインに対応していないのだ。仮にヒュッケバインに対応した反マグマジェネレーターを開発しようとすればそれこそ半年以上の時間が掛かるとラドラは告げる。

 

『大体理解した。闘争回路とかがフルドライブになっている、これを調整すれば最悪は回避出来るだろう』

 

タラップを降りて来たラドラは被っていたヘルメットを脱いで汗を拭った。

 

「調整して出力が落ちる事はありますか?」

 

「いや、そこら辺は問題ない。そもそも調整と言ったが、話はもっとシンプルだ」

 

にやりと犬歯をむき出しにして笑うラドラの顔は凶悪その物で、リオとリョウトが小さく息を呑んだ音がした。

 

「どうするんだ?」

 

「簡単だ。シグを近づけて威嚇する。マグマ原子炉の階級は2だから中型メカザウルス用の炉心だ。俺のシグの階級4の超大型メカザウルス用だからな」

 

「えっと、それはどういうことですか?」

 

「ん? ああ、判りにくかったか。では大幅に噛み砕いて言うと、草食恐竜に肉食恐竜を近づけると言う事だ。自分よりも凶暴な奴が近くにいるとなれば大人しくなるというものだ」

 

そんな方法で? とリョウト達が見つめる中、ゲシュペンスト・シグがヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMに近づくと、一瞬グラフが振り切った後、今までにないレベルで安定した、あとついでに熱の放熱も前みたいに命の危険レベルから大分低くなった。

 

「僕達の苦労って……」

 

「なんだろうな、このやるせない感じは……」

 

科学でも技術でもない、ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMのマグマ原子炉より大型のゲシュペンスト・シグを近づけるだけでこうなるなんてと、リョウトとカークの2人はその場に崩れ落ちるのだった。

 

「なんだ我侭な奴らだ、折角調整してやったというのに、とは言え、これは脅して弱体化させているだけだから本来のパワーと比べると大分劣るな、最善はリョウトが闘争本能で上回り隷属させる事なんだがな」

 

「あれを調整っていうのはどうなんですかね……?」

 

リョウトとカークの気持ちが判るリオはなんとも言えない表情を浮かべ、ラドラはここには我侭な連中しかいないと不満を口にしていた。

 

『なああああああああああ――――――ッ!!! ラルちゃんの最高傑作がァァアアアアアアッ!!!』

 

「すまん」

 

スレードゲルミルの斬艦刀で切り裂かれたギーガアーマーが大破寸前という現実を目の当たりにしたラルトスの号泣がモニター越しでヒリュウ改の格納庫に響き渡る。

 

『うォォオオオンッ!!!!』

 

「これ女の子の悲鳴じゃないわよね……」

 

聞いている者がドン引きする程の嘆きようにエクセレンも苦言を呈したのだが……急にぴたりと泣き止んだラルトスは顔を上げる。

 

『あースッキリしたネ。OKOK、ギーガアーマーも壊れるヨ、どうせ形あるものいつか壊れル。この世の摂理ネ』

 

泣くだけ泣いてケロッとした顔をするラルトスにエクセレンもキョウスケもぎょっとした表情を浮かべる。

 

『整備兵さんいまス? A-17とB-19、あとD-47のコンテナにギーガアーマーのユニットを隠してあるネ。それを取ってきて欲しいヨ』

 

「道理で重量おかしいと思ったよッ! てめえ、なにやってくれてんだコラァッ!」

 

「なんど俺達が武装の確認したと思ってやがるッ!!」

 

『ごめんネ? 許して欲しいヨ』

 

「「「軽いッ!!」」」

 

こっそりというかとんでもない事をしてくれてる割に謝罪がめちゃくちゃ軽いラルトスに整備兵の嘆きの声が重なる。

 

『でもアルトの事を考えるト、補修は必要ネ。修理できるネ?』

 

「まぁ、そだな。だが今度からはちゃんと先に連絡しておいてくれや、お嬢ちゃん」

 

『リョーかいネ、んじゃ整備長、修理の図面と組み替え方送るからネ、よろしくヨ~』

 

言うだけ言って通信を切ったラルトスにキョウスケ達は苦笑を隠しきれなかった。だがギーガアーマーを修理出来ると言うのは大きなプラス要素だった。事実ヒリュウ改の設備と整備兵の技量では修理が出来ず、ノーマルのアルトアイゼンに戻す話まで出ていたからだ。

 

「キョウスケ中尉、なんか腕にソニックブレイカー追加とか、肩部にバリアユニット追加とか、すごい際どい事書いてあるパーツがあるんだけどどうするよ?」

 

「……とりあえずアビアノを出発する前の装備に合わせてくれ、それはあるんだろ?」

 

「了解、んじゃすぐに作業に取り掛かるぜ」

 

ったく、チェーンソーとバンカーくっつけた装備とかなに考えてるんだろうなあと嘆く整備長。

 

「アルトちゃんで実験してない? 何これ? え? プラズマクラスター?」

 

「……あいつはやはり頭がおかしいな」

 

技術は折り紙つきだが、性格、開発するもの共に難のあるラルトスにキョウスケとエクセレンは引き攣った顔を浮かべることしか出来ないのだった……。

 

「つまり伊豆基地にかつて百鬼帝国にいた鬼がいると?」

 

「ええ、今はキジマ・アゲハと名乗り女優をしています」

 

「キジマ……今NO.1の若手女優でしたなあ……しかしまさかあの方がラドラ少佐と同じだったとは……」

 

ギリアムがヒリュウ改と共に伊豆基地に向かった理由――伊豆基地に保護されているアゲハと話をするためだった。

 

「彼女は百鬼帝国については?」

 

「いや、かつての百鬼帝国については知っているそうですが、今の百鬼帝国に関しては何も知らないそうです」

 

「うーむ、では何故ギリアム少佐は伊豆基地に?」

 

今の百鬼帝国について知らないアゲハになんの用事があるんですかな? とショーンが問いかけると、ギリアムはDコンを机の上においた。

 

「今確認されている百鬼獣とアゲハの知る百鬼獣の違いなど調べる事は山ほどありますし、もしかしたら鬼に成り代わられている人間の見分け方も判るかもしれない。キジマ・アゲハには凄まじいほどの価値があります」

 

未知の脅威である百鬼帝国――反撃の手札は少しずつだが、ハガネ、ヒリュウ改の手元へと集まり始めているのだった……。

 

 

 

 

薄暗い通路に歩く音が木霊する――闇の中を蠢く黄色の複眼、そして男を引き裂こうとする触手は男――アルテウルに触れる前に翡翠の輝きに弾かれる。

 

「シッ!!」

 

「ふっ、甘いな」

 

闇の中から飛び出してきた小柄な暗殺者の刃を首を傾けるだけで回避し、顎、腹に1発ずつ拳を叩きこんで殴り飛ばすアルテウル。

 

「ぐっ……父さん達には触れさせないッ!」

 

口から血を垂らしながらもナイフを構える少年――フォーゲルを見てアルテウルは肩を竦め、スーツの内側から拳銃を取り出す。

 

「銃は剣よりも強し、さて君は撃ち抜かれる前に私の喉笛を切り裂けるかな? 無駄な事はやめて私を案内したほうが有意義だとは思わないかね?」

 

「誰が!「フォーゲル、僕達は大丈夫さ」と、父さんッ!? 危ないです!」

 

闇の中から浮き出るように現れたコーウェンとスティンガーに危ないとフォーゲルは叫ぶが、コーウェンとスティンガーは柔らかく笑みを浮かべる。

 

「だ、大丈夫さ。さ、フォーゲル、傷の手当をしておいで」

 

「で、でも……」

 

殴られた箇所は青黒く腫れており、凄まじい力で殴られた事が容易に判る。それに足も揺れているフォーゲルにスティンガーが笑いかけ、傷の手当をしておいでと言うがフォーゲルは渋る。

 

「大丈夫だよ。さぁ、行きなさい」

 

スティンガーに続いてコーウェンに言われればフォーゲルは頷くしかなく、アルテウルを睨みつけ闇の中へと消えていった。

 

「それで君は誰なんだい? それよりどうやってここに来たのかなあ?」

 

「そ、そう! どうやってここに来たんだい?」

 

コーウェンとスティンガーの拠点は時空がずれている。招待されない限りは誰も足を踏み入れることの出来ない場所だ。それなのにどうやって入ってきたとアルテウルに口から出した触手を向けながら詰問する。

 

「ゲッターエンペラー」

 

「「!」」

 

ぼそりと告げられた言葉にコーウェンとスティンガーの顔に大粒の汗が浮かぶ。

 

「ゲッターセイントドラゴン」

 

次に告げられた言葉に2人は目を見開いた。エンペラー、そしてセイントドラゴン――ゲッター線の最後の形と言っても良いそれを何故と驚きと恐怖の色がコーウェンとスティンガーに浮かぶ。

 

「世界は幾つもそれこそ何百個と存在している。だがそれを認識できる者は少ない、だが私は違う。私は知っているぞ、エンペラーを聖ドラゴンを、そして真ゲッタードラゴンもだ」

 

「何が望みだい?」

 

「君達の力を借りたい、私の目的を成し遂げる為にね。損はさせないさ、ギブ&テイクというだろう?」

 

ゲッター線の輝きに照らされるアルテウルの影は仮面を被った奇妙な男の姿であり、影の手がコーウェンとスティンガーに手を伸ばし、コーウェンとスティンガーはその伸ばされた手を握り締めかえし、ここに密約は成されるのだった……。

 

 

 

第108話 地獄門 その1へ続く

 

 




と言う訳で今回はここまでで、ウェンドロ&ブライ、コーウェンとスティンガー&それも私おじさんという最悪のタッグが誕生しましたが、OG2編では暗躍してるくらいなので大丈夫ですね。次回はハガネ、ヒリュウ改ともに地獄門ということで地獄を見てもらうことになります、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第108話 地獄門 その1

第108話 地獄門 その1

 

リュウセイ達の住む世界――それを仮にフラスコの世界と呼称するとしよう。本来その世界にはゲッター線は存在しない、存在してはならない物だ。しかし武蔵の登場によりフラスコの世界は大きく本来の歴史とは異なる道を歩み始めていた。武蔵とゲッター線によってフラスコの世界は数多のイレギュラーを引き起こした。しかし旧ゲッター……ゲッター1の内包するゲッター線ではそこまで大きな影響は今までは起きなかった。しかし、しかしだ。真ゲッター、真ドラゴンに匹敵するゲッター線を内包するゲッターD2がフラスコの世界に存在する事で大きな揺り戻しが発生しようとしていた……その揺り戻しによって開いてはいけない門が開かれようとしていた……。

 

「うーん」

 

リクセントを発ち、アビアノ基地へと向かう道中のハガネのシミュレータールームで武蔵が腕を組んで唸り声を上げていた。

 

「やはり武蔵はシャイン王女がハガネに乗り続ける事は反対だったのか?」

 

「ん? んーユーリアさん、そういうわけじゃないっすよ。何を言っても無駄って判ったらオイラは何も言わないですし、何も言うつもりもないです」

 

アーチボルドの悪逆を見たシャインはそのままハガネに乗り続けることを希望した。本来ならば、それは通る訳のない要望だったが……百鬼帝国の成り代わりが判明している為リクセントよりもハガネ、しいては武蔵の側にいる方が安全という結論になり、シャインはハガネとシロガネと行動を共にする事になり、今はカイによってPTの基本戦術学をアラドと共に学んでいる。

 

「じゃあ何だ?」

 

「イルムさん、んーいやですね……なんかに呼ばれてる気がするんですよねぇ。なんだろこの感じ」

 

「呼ばれてるって……武蔵は念動力でもあったか?」

 

呼ばれている何かを感じると言うのはハガネやシロガネでは良くある話だ。念動力者が何かを感じ取っている時の前現象だ。武蔵もその部類か? とイルムが言うと話を聞いていたライが話の中に加わってくる。

 

「武蔵は念動力の検査を受けてるけど素質0だ。それはありえないな……だが念動力ではない別の線は捨て切れないが……」

 

「ゲッター線か……まぁ確かにゲッター線は不思議な事を起すけど……うーん。どうなんだろうな、まぁオイラは鈍感な方なんで、気のせいって線が濃いと思いますけど……どうも気になるなあ」

 

野生的な勘こそ鋭いが、それ以外は絶望的な武蔵は気のせいかなと言いつつも、どうしても呼ばれているような感覚を捨て切れなかった。

 

「武蔵。悪いんだけど、レオナの次にアイビスとシミュレーターで勝負してくれるかしら?」

 

「ツグミさん? まぁ良いっすけど……オイラはPTとかAMとか全然わかんないですよ?」

 

ツグミの言葉に答えの出ない思考の海から引き上げられ、武蔵は気分転換に良いかと思いツグミの頼みを引き受ける。

 

「ベルガリオンとベガリオンのデータがあるから、それを使ってくれると嬉しいわ。じゃあレオナ、武蔵と交代で」

 

シミュレーターを降りて来たレオナと交代で武蔵がシミュレーターに乗り込み、数分の訓練の後アイビスとの模擬戦を始める。

 

『んじゃあよろしく』

 

『はいッ! よろしくお願いします!』

 

「アイビス、タフだな。俺と10戦やって、レオナは20だったか?」

 

「ええ。私と20戦やってますわ、イルム中尉」

 

30戦も模擬戦をやるというのは相当に精神力、体力を消耗する。それなのにアイビスは元気に満ちていて、まだまだ模擬戦を続けるという意気込みに満ちていた。

 

「それくらいで良いかもしれないがな、アイビスは実戦経験が少ない。模擬戦とは言え、戦闘の勘を掴むのは決して無駄ではない」

 

「その通りです。ライディース様……しかし武蔵との模擬戦では……」

 

ユーリアが最後まで言い切る事無く、ブザーが鳴りシミュレーターが緊急停止する。

 

『あ、あう……何がぁ?』

 

『大丈夫か?』

 

自分がどうやって撃墜されたのか理解してないアイビスに武蔵が大丈夫か? と問いかける、しかしモニターで見ていたライ達も何が起こったのか理解出来なかった。

 

「タカクラチーフ。アイビスはどうやって撃墜されたんだ?」

 

「……アステリオンのソニックブレイカーを微上昇して回避、バレルロールで背後を取り110mmGGキャノンを2連射、そのまま体当たりです。アステリオンは大破、ベルガリオンは小破判定です」

 

ベルガリオン、ベガリオンで想定されていた動きではなく完全にゲットマシンでの動きだった。

 

「まぁ武蔵はゲッターのパイロットだしな。操縦も自然とそうなるか、でもそれじゃあ訓練の意味はないか?」

 

「いや、意味はあると思うぞ? 武蔵は戦闘機乗りと考えれば新西暦でも恐らく上から数えた方が早いはず……事実、メッサーとシュヴェールト改の模擬戦でエルザム様を撃墜している」

 

「武蔵が兄さんをかッ!?」

 

「しかも性能が劣るメッサーでですか……となると隊長の言う通り、武蔵は新西暦で最高の戦闘機乗りと言ってもいいかもしれませんわね」

 

メッサーとシュヴェールト改では隔絶した機体性能の差がある。しかもエルザムを撃墜したとなれば、武蔵が戦闘機乗りとして最高峰の腕前を持っていることもまた事実。

 

『もう1回、いや10回!』

 

『オイラは良いけど、アイビスは大丈夫なのか?』

 

『全然大丈夫! もっと武蔵の飛び方を見せて!』

 

そしてそれはアイビスが理想とする速さ、飛ぶための技術であり、イルム、レオナとの模擬戦よりも明るく、楽しくてしょうがないと言う様子の声がシミュレータールームに響き渡ったのだった。

 

「……敵機との相対距離が100。 パターン14で反撃された場合、こちらが取るべき行動は?」

 

アイビスがシミュレータールームで武蔵との模擬戦を繰り返し、その操縦技術を模擬戦を通じて学ぼうとしている頃、ブリーフィングルームではカイ、ヴィレッタの2人がアラドとシャインに教鞭を振るっていた。

 

「加速して突っ込んで、 相手より先に攻撃するッ!」

 

「いったん距離を取って、相手の攻撃をかわした方がいいと思いますわ」

 

曲がりなりにも訓練を受けているアラドの返答にカイは頭を抱え、ヴィレッタは手元のリモコンを操作し、モニターの映像を先に進める。

 

「パターン14の場合、接近すれば撃墜されるリスクが高いわ。この場合はシャイン王女の行動が正解」

 

シミュレーション映像と共に解説をされ、アラドは困惑の色をその顔に浮かべた。

 

「お前は攻撃範囲の差を忘れとる。 パターン14だと最悪の場合――相討ちになるぞ。どうして突撃するという考えになったか俺に教えてくれ」

 

「避ければ良いし、最悪中破しても撃墜すれば勝ちかなと」

 

「ア、アラド……」

 

余りにも脳筋過ぎるアラドの問いかけに付き添いで講義に参加していたラトゥーニが信じられないと言う表情をする。事実、カイとヴィレッタの2人は本当にスクールの生徒だったのか? と疑問を抱く事になった。

 

「PTやAMでの白兵戦はなんだと思う? アラド、シャイン王女?」

 

「殴る事!」

 

「えっと……極限まで近づいての射撃ですわ」

 

教本を見て答えを探すシャインと殴る事と即答したアラドにカイとヴィレッタは頭を抱えた。問題児って言うレベルではないと……。

 

「ラトゥーニ、説明してくれるかしら?」

 

「はい。PTやAMの腕部には武器などを使う為のセンサーなどが多数搭載されている為、基本的にマニュピレーターを攻撃に使う事は無く、PTやAMでの白兵戦闘はリーチの短い射撃武器による射撃と同等で考える物です」

 

ラトゥーニの模範解答を聞いてからカイは改めてアラドに視線を向けた。

 

「ではラトゥーニの説明を聞いた上で接近戦で心がけなければならないことは何なのか……言ってみろ」

 

「敵との間合いをちゃんと見極めることでございましょうか?」

 

「肉を切らせて、骨も切らせることだと思います!」

 

「アラド? 貴方は人の話を聞いてた?」

 

「アラド……それじゃ、やられっぱなしだから」

 

満面の笑みで返事を返すアラドにヴィレッタとラトゥーニは深い溜め息を吐き、カイは頭を振った。

 

「やれやれ……誰の影響を受けとるんだか。お前はもう1度基礎から叩き込んだ方が良さそうだな」

 

まず間違いなくキョウスケと武蔵の影響を受けていると悟り、応用からでは無く基礎から教えるべきだと判断したカイはアラドに新しい教本を置いて再び講義を始めるのだった……。

 

 

 

 

ハガネとシロガネがパトロールを行ないながらアビアノ基地に戻っている頃――アビアノ基地ではある異変が起きていた。

 

「くっ!? なんだこれは何が起こっている!?」

 

「わ、判りません! 電子機器が暴走をッ! わわぁッ!?」

 

鳴り響くアラート、制御が利かない照明の点滅、ハンガーに固定されているPTがパイロットなしで稼動する――アビアノ基地だけではなく、その周辺の街にも電子機器の暴走事故が多発していた。

 

「何が起こって……ビルガーまでもッ!?」

 

ハンガーに固定されているPTのカメラアイが真紅に輝き、ハンガーを破壊して暴れ出そうとする。それはマリオンが製作しているビルトビルガーも同じだった。

 

「ラドム博士も避難してください! 電磁波を放射します!」

 

「おやめなさい! そんな事をすればアビアノ基地の機体は全滅しますわよ!」

 

「ですがそれ以外に暴走を止める方法がッ!」

 

マリオンと整備兵達が怒鳴りあう中、暴走しているPTがその拳を振り上げマリオンへと鉄拳を振り下ろした。

 

「ッ!」

 

逃げ切れるわけがない、絶望の光景にマリオンが思わず身をねじり、腕で顔を隠した時……異様な衝突音が格納庫に響き渡った。

 

「私は生きて……リュウセイ少尉!? 貴方目を覚ましたんですの!?」

 

暴走したゲシュペンスト・MK-Ⅲとマリオンの間に立っていたのは意識不明で眠り続けていたリュウセイだった。その手をゲシュペンスト・MK-Ⅲに向け、その鈍く輝く鉄拳を空中に展開された念動フィールドで受け止めていた。だがそれはありえない事だった、確かにリュウセイの念動力は桁違いだが、生身でゲシュペンスト・MK-Ⅲの拳を受け止められるわけがない。

 

「……呼んでる……呼んでるんだ。行かないと……」

 

歩いているがリュウセイの瞼は閉じられたままで、明らかに正常ではない。念動力によって百鬼帝国に操られかけていた事を思い出し、マリオンは慌ててリュウセイに駆け寄った。

 

「リュウセイ少尉! 待ちなさいッ!」

 

マリオンもそれを感じ取り、リュウセイの肩を掴んで止めようとした。だが次の瞬間、リュウセイから発せられた衝撃波に弾き飛ばされ、格納庫の壁に叩き付けられ、そのまま崩れ落ちる。

 

「……行かないと……俺は……行かないと……」

 

ふらふらと夢遊病患者のように歩くリュウセイの先にはR-1が独りでに動き出し、膝立ちになりその手をリュウセイに向けていた。だがR-1のカメラアイが真紅に輝いているのを見て、騒動を聞いて格納庫に駆け込んできたアビアノ基地のPT隊の隊長が指示を飛ばした。

 

「止めろ! リュウセイ少尉を止めるんだ!」

 

「「「了解ッ!!」」」

 

自らもリュウセイを止めようと駆け寄るが、マリオン同様念動力によって弾き飛ばされ崩れ落ちていく。そしてR-1に乗り込んだリュウセイはアビアノ基地の壁を破壊し、そのままいずこかへと飛び去っていった。それと同時にアビアノ基地を襲っていた怪現象は収まり、アビアノ基地の司令はすぐにダイテツに助けを求める通信を入れるのだった……。

 

 

「うーん……これとこれはアステリオンでも使えそうかな、これは使えたら良いけど……うーん」

 

サンドイッチを片手に武蔵との模擬戦のデータを見直しているアイビスの目はキラキラと輝いており、新しいマニューバパターンを幾つも脳裏に浮かべ、データの修正などを片手で行なっている。

 

「どうだったアイビス。武蔵との模擬戦は?」

 

「勿論凄く勉強になったよ、タカクラチーフ」

 

ノートとDコンを見直すアイビスは飛びたくてしょうがないと言わんばかりにその目を輝かせていた。

 

「その様子を見る限りでは戦いに関してはもう振り切れたのかしら?」

 

「レオナ……うん。確かにまだあたしは戦う事に関して思うことがあるよ。なんでって……」

 

プロジェクトTDは星間飛行を成す為の物で戦う為の技術ではない。それはまだアイビスの心の中に引っかかっている部分ではある。

 

「だけどリクセントでの戦いを目の前で見て、スレイとの約束を考えたら、あたしは立ち止まってられない。あたしの夢が戦いの向こうにあるのなら……あたしは戦う事を躊躇わないよ」

 

目の前で泣いている人を守る為に、そして自分の夢を叶える為に飛ぶ事を決意したアイビスの顔は晴れやかな様子で明るい物だった。

 

(アイビス……フィリオと同じ事を言うのね……)

 

そしてアイビスの言葉はインスペクターの人質になっているフィリオが言っていたのと同じ言葉で、その言葉を聞いたツグミは少しずつだが、フィリオがアイビスにアステリオンを託した理由を判り始めていた。

 

「私の余計な心配だった見たいですわね、そこまでの思いがあるのなら大丈夫ですわ」

 

「心配してくれてありがとうレオナ。もし良かったら、また訓練に付き合ってくれる?」

 

「ええ、勿論。私だけではなくて、隊長にも声を掛けてあげますわよ」

 

アイビスはまだ戦う事に対する恐怖を捨てきれていなかったが、それでも夢を叶える為に、そしてフィリオ達を助ける為に戦う事を決めた。その時だった食堂に警報が鳴り響いたのは……。

 

『出撃可能な者は出撃準備! リュウセイ少尉とR-1が何者かに操られアビアノ基地を離脱した。捜索の為出撃可能な者は随時出撃! 繰り返す! リュウセイ少尉が何者かに操られアビアノ基地から姿を消したッ! 各員は捜索を!』

 

「アイビス行ける?」

 

「勿論ッ! アステリオンで出るよッ!」

 

「私も行きますわッ!」

 

リュウセイが百鬼帝国の干渉を受け、意識不明に陥っていたのは誰もが覚えている。再び精神感応を受けて百鬼帝国の元へ向かったかもしれない――アイビス達は緊急出撃をし、アビアノ基地から送られて来た予想進路を元にリュウセイの捜索に乗り出した。

 

「……うっ……な、なんだ……」

 

一方その頃リュウセイはと言うと墜落同然で着陸した衝撃で意識を取り戻していた。

 

「どこだここは……俺は……何をしてたんだ……? そうだ! アラドッ! ラトゥーニッ! 近くにいないのかッ!? 応答してくれッ!」

 

自分が覚えている最後の記憶――ビルトファルケンに近づいた時の事を思い出し、共に偵察に出ていた筈のアラドとラトゥーニの名を叫ぶリュウセイだが、通信機はノイズ音だけを響かせる。

 

「ここは……どこなんだ」

 

最後に記憶している場所と違う荒野にいることに困惑し、今出来る事――救援信号を発信する。

 

「えっと……こういう時は……機体の側から離れないで、緊急キットを……ん? なんで俺は入院着なんだ?」

 

訓練での遭難した場合の対処法を思い出しながら行動に移ろうとしていたリュウセイはここで初めて、自分がパイロットスーツではなく入院着を着ている事に気付き、自分が置かれている状況を理解出来ないでいたが、それでも訓練で覚えた行動をするべきだと判断し、救命キットを取り出した。その時R-1のコックピットにアラートが鳴り響いた。

 

「敵かッ!? んん? なんだありゃあ?」

 

アラートに救命キットを座席後部にほり投げ、ベルトを締めて操縦桿を握り締めたリュウセイはR-1の数十メートル先に生まれた黒い点に気付き眉を細めた。

 

「なんだ? どんどんでかく……うっっつう!?」

 

黒い穴がどんどん大きくなるのを見ていたリュウセイに信じられないほど強烈な頭痛が襲い掛かりその顔を歪める。

 

「がぁ……ぐがあ……な、なんだあ……うううっ!?」

 

リュウセイの顔から血の気が失せ、額から大粒の汗が流れ落ちる――。それでも意識を失わないように歯を食いしばり、目の前の黒い穴に視線を向けたリュウセイはその穴から這い出て来るものに引き攣った悲鳴を上げた。

 

「……ひいっ!?」

 

それはゲシュペンスト・MK-Ⅱだった……だが体の半分は蔦と骸骨を思わせる装甲に、残りの半分はゴムのような光沢と黄色い複眼に埋め尽くされた化け物の姿にリュウセイは心の底から恐怖した。

 

「……※■▲」

 

言葉として発せられない奇妙な音と共にアインストクノッヘン、インベーダーと融合した奇妙な人型がどんどん這い出るようにその姿を見せる。嫌悪感と吐き気を催す醜悪な姿のPTやAMが助けを求めるようにその手をR-1に向ける。

 

「な、なんだよ……これはッ!! うううっ! 呼ぶな! 俺を呼ぶんじゃねぇッ!!!」

 

オイデオイデ……

 

コッチヘオイデ……

 

「止めろッ! 俺に、俺を呼ぶんじゃねぇッ!!」

 

オイデオイデ……

 

こっちへオイデ……

 

ドウシテコワガルノ……

 

「止め、止めろッ! 俺を呼ぶなぁぁあああああッ!!!」

 

音として認識出来ないはずなのに、呼び声が自分を呼び続けるその声に恐怖し、リュウセイはGリボルバーをR-1に構えさせ乱射する。

 

イタイ……

 

イタイヨオオオオオ……

 

「あ、あああ……止めろ、止めてくれぇ……」

 

耳をふさいでも響き続けるその声にR-1の両腕からGリボルバーが零れ落ちる。嘆きと絶望の声がリュウセイから闘争心を奪い取り、大地を浸食しながらR-1へと迫る。

 

「あ、ああ……うあああああああ――ッ!」

 

近づかれたら自分もあれと同じになる、それを本能的に悟ったリュウセイは悲鳴を上げ、R-1を闇から姿を現した異形のPTに背を向けさせその場から逃げ出す事を選択した。

 

「はぁ……はぁ……うわッ!?」

 

下半身が無く、上半身だけの異形が、両腕がなく、胴体と頭部だけの異形が……闇の中から現れた異形が触手をR-1に向かって伸ばし続ける。

 

(当たったら……いや、掠めただけで駄目だ)

 

目の前で岩を触手が切り裂き、切り裂かれた岩が蔦と眼に埋め尽くされ、溶けるように触手の中に取り込まれたのを見てリュウセイは自分も同じように取り込まれる……それを理解し、操縦桿を握り締める手が震える。それでも死にたくない、生きたいという生物として当然に持つ願いがリュウセイを動かし続ける。しかしその生物がリュウセイを逃がすわけがなかった、ここまで誘い込んだ獲物を逃がす訳が無かった。

 

ナンデニゲルノォ

 

コッチニオイデヨ

 

タスケテヨオオオオ

 

「あ、うああああああッ!!!!」

 

声無き叫びが助けろと1人にするなとリュウセイに叫びかける。念動力者であるリュウセイはその生物の極めて悪質な思念をダイレクトに受け取ってしまっていた。

 

「がはッ! おうえッ!」

 

切り裂かれた

 

焼かれた

 

撃ち抜かれた

 

殴り殺された

 

押し潰された

 

毒死した

 

溺死した

 

ありとあらゆる死の痛みがリュウセイを襲う、そしてその痛みを持ってお前も仲間に来いと、お前も地獄に落ちて来いと誘う化け物は死神そのものだった。その途方もない激痛、死への恐怖がリュウセイから逃げようという意志を、生きたいと願う心を全て圧し折った。

 

ツカマエタ

 

ツカマエタ

 

シンジャェ

 

シンジャェ

 

シンジャェッ!!

 

オマエモイッショニシノウヨオオオオオッ!!!!!

 

触手と蔦、そしてPTの残骸の中に放置されていた人骨、取り込まれたPTが――闇の中へR-1を、リュウセイを引きずり込もうとその魔手を伸ばしたその瞬間、赤黒い念動波が津波のように迫る悪意を押しとめ、漆黒の流星がR-1の前に舞い降りた。

 

『大丈夫、貴方は死なない。だって私が、私達が守るもの』

 

R-1を守るように、悪意の波を押しとめた漆黒のPT――連邦によってビーストの個体名を与えられたズィーリアスのコックピットの中で蒼と金のオッドアイが光を放つのだった……。

 

 

第109話 地獄門 その2へ続く

 

 




インベーダーとアインストが融合した化け物の登場、地獄からの侵略者ですね。名前はロスト、デリートでロスターにします。思念波で攻撃、インベーダー由来の寄生攻撃などを行なう正真正銘の化け物ですね。おいおい、ここで敵を増やすのかよと思うかもしれませんが、あんまり出てこない(少し出てくるだけで甚大な被害)なのでご安心ください。なお今回のシナリオはこんな感じになります


勝利条件

???

敗北条件

ロスターのR-1への隣接
ロスターのR-1への攻撃が命中した時
ロスターへR-1への攻撃が命中した場合
ズィーリアスの撃墜

となります。


それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第109話 地獄門 その2

第109話 地獄門 その2

 

深い闇の中に似つかわしくない少女の声が木霊した。

 

「デュミナス様、あいつ勝手に出て行っちゃったけど良いんですか?」

 

「構いません、彼女は独立して動いて貰う為に作り出したのです」

 

「そ、そうなんですか? では連れ戻さなくても?」

 

「大丈夫です。それよりも今はもっと安定させましょう、これもまた世界を超える大事な鍵なのですから……」

 

ぐったりとして動かない鋼鉄の巨人と巨大な生き物に向かって紫電が放たれ、闇の中に獣の雄たけびが木霊するのだった……。

 

「……間にあった……?」

 

動きを止めているトリコロールのPTを見てズィーリアスのパイロット――レトゥーラは安堵の溜め息を吐いた。だが安堵した理由も、どうして助けようとしたのかも……何故自分が私達と口にして守ると言ったのかも理解出来なかった。

 

「でもこれだけは判る。助けたいんだ」

 

何も判らない、なにも覚えていない。その空っぽの心でも判る――R-1を見ていると、胸が温かくなるのだ。

 

「☆※▲■」

 

ジャマヲスルナ

 

シネシネシネシネ

 

イッショニシンデヨォ

 

『うああッ!! ぐぎっあがああ』

 

化け物から放たれる思念波に当てられリュウセイが苦悶の声を上げる。その事にレトゥーラは激しい怒りを抱いた、何故怒っているのか、なぜ憎悪しているのかを理解しないままに己の身に宿る念動力を解き放った。

 

「黙れッ!!!!」

 

その念動波は周囲の岩を砕き、ズィーリアスとR-1を囲んでいた蔦や触手全てに襲い掛かり、宿主となっている崩壊しているPTやAMへとビデオの逆再生のように戻っていく。

 

「……そこにいて、大丈夫。私が貴方を守るから」

 

R-1にズィーリアスは右手を向けるとR-1を赤黒い念動フィールドが包み込んだ。

 

『……ラトゥーニ……?』

 

念動フィールドの中で意識が朦朧としているのかぼんやりとした様子でラトゥーニと口にしたリュウセイの声を聞いて、レトゥーラは激昂した。

 

「私はラトゥーニじゃないッ! 私は……私は……レトゥーラ」

 

リュウセイが生きている事に安堵していた筈なのに、ラトゥーニと呼ばれた事に激しい怒りを抱いた。しかしその怒りはリュウセイの次の言葉で消え去った。

 

『……ご、ごめん……レトゥーラ……助けてくれて……ありがとう』

 

そう呟いて意識を失ったリュウセイと沈黙したR-1を見つめながら、レトゥーラは微笑んでいた。レトゥーラと呼ばれた――それだけで言葉にならない喜びが、自分をリュウセイが認識してくれた……そんな些細な事がレトゥーラにとっても途方もない喜びであり、言葉にならない幸福感と喜びがレトゥーラの胸を埋め尽くす。

 

「……判らない、判らないけど……私はそうしたい、それだけ」

 

リュウセイと話していると頭が軽い、とても晴れやかな気持ちになると感じたレトゥーラは薄く微笑み、身体を欠損させながら迫ってくる化け物を睨みつけると同時にズィーリアスを走らせるのだった。

 

それに怒りはない、それに痛みはない。

 

それに優しさはない、それに喜びはない。

 

それに嘆きはない、それに悲しみはない。

 

それにあるのはシンプルな捕食願望と道連れにしてやるという底なしの悪意のみ――食べなければ、エネルギーを取り込まなければその生物は生きてられない、存在することが出来ない――アインストとインベーダー……相反する2つの存在が、リュケイオスの爆発エネルギーとゲッター線によって融合し、生まれたのがこの生物だった。互いに敵対する生物同士、常に肉体は崩壊し、それを止める為に無機物、有機物関係なしに取り込まなければ、捕食しなければこの世に存在出来ないのだ。生きる為に捕食し、捕食する為に生きる――それがこの生物の正体だった。そして死ぬのならば、周りにいる者すべてを道連れにしてやるという悪意を抱き動き続けるのだ。

 

『■☆○ッ!?』

 

「遅い……ッ!」

 

伸ばされた触手を、既に腕としての形をほんの筈かに残しているだけの物を伸ばし、ズィーリアスを取り込もうとするが念動フィールドに弾かれ、両手に構えられたアサルトライフルが火を噴き、反撃の実弾の嵐が核となっているゲシュペンスト・MK-Ⅱの装甲を穿つ。

 

『■■■―――ッ!!!』

 

黒板を引っかくような耳障りな高周波の叫び声が周囲に響き渡る。それは聞く者の精神を弱らせ、動きを鈍らせる断末魔の雄叫び、リュウセイをこの場に誘き寄せ、精神を著しく磨耗させた死神の叫び声――だが、レトゥーラには何の効果も与えなかった。

 

「やかましい」

 

『☆■▲○――ッ!?』

 

念動フィールドを攻撃に転用した念動刃とも呼べる不可視の斬撃が伸ばされた触手を切り飛ばし、ゲシュペンスト・MK-Ⅱの胴体を互いに浸食しようとしているインベーダーの複眼つきの身体と、アインストの蔦を切り裂き斬り飛ばした。

 

「私は今とても機嫌が悪い。理由は判らないがな」

 

背部のウィングバインダーに両手に持っていたアサルトライフルを格納すると同時にズィーリアスの両拳が赤黒い念動力の光に包まれる。

 

「貴様らはこれが嫌いなのだろう。覚悟しろ、抉り取って叩き潰してくれる」

 

思念波を攻撃に転用すると言う生態を持つその生物にとって念動力や自身の持つ物と同質であり、弱っているリュウセイを引き寄せた。だがそれと同時にレトゥーラもこの場に誘き寄せていた、そして思念波は念動力によって弾かれる。理由は判らないと言っていたレトゥーラだが、彼女が不機嫌な理由はリュウセイを傷つけたことであり、それをしたものを許さないと言う凄まじい敵意と憎悪はその生物の思念波を完全に無効化していた。

 

フザケルナ

 

フザケルナッ!

 

ドウシテ

 

ドウシテ

 

ドウシテェッ!!!

 

一緒に死んでくれないのォォオオオオオ――ッ!!!

 

食えないのならば、取り込めないのならば自分は死んでしまう。それだけは本能で理解している、男、女、子供、老人――ありとあらゆる者の自分が死ぬのになんでお前は生きているんだという悪意が強烈な思念波として放射される。勝てないと言うことを理解したら、その生物のやる事は1つだった――死ぬのならばお前も道連れにしてやるという悪意の塊、常人ならば発狂しかねないそれをレトゥーラは鼻で笑った。

 

「死ぬのなら勝手に死ね、私を……リュウセイ……を……リュウセイ、リュウセイ……そうだ、リュウセイ、リュウセイだッ!」

 

R-1の中で意識を失っているリュウセイは自分の名前をレトゥーラに告げなかった。だがレトゥーラの口は自然にリュウセイの名を口にした、そしてその名前を口にした時カチリと何かが嵌るような音がし、赤黒い念動力がほんの少しだけその色を変える。

 

「はは……はははははははははッ!!!!!」

 

狂ったような――いや、元々レトゥーラは狂っている、そうあるように、そうなるように作られたから……それでも感情がない訳ではない、狂っていようが、歪んでいようが、それでも感情は確かにレトゥーラの中にあり、R-1を救い、リュウセイを助けた事でその感情の出口を見つけた。

 

「消えろッ!!!」

 

突き出された両腕から放たれた念動波が地形を抉りながら化け物に迫り、紅い閃光の中にその姿を飲み込んだ。

 

「……ちっ……まだいるのか」

 

リュウセイをこの場に誘い込んだゲシュペンスト・MK-Ⅱを母体としたその化け物は念動力の光の中に消えた。だが黒い穴が幾つも虚空に開き、タールのように零れ落ちたそれが盛り上がるように再び化け物に変貌するのを見て、レトゥーラは忌まわしそうに舌打ちをし、今も尚動けないでいるR-1とリュウセイを庇うように再び紅い念動力の光を走らせるのだった……。

 

 

 

 

リュウセイの捜索をしているハガネ、シロガネのブリッジからもズィーリアスの放った紅い念動力の光の柱は確認されていた。

 

「ダイテツ艦長」

 

「あの場所にリュウセイ少尉のいる可能性が高い、捜索班に帰還命令だ」

 

リュウセイの捜索を始めて2時間が過ぎている。補給の後再出撃をすると言う判断をダイテツは下し、リーもその判断に賛同した。

 

『しかし、あの光――リュウセイ少尉が暴走しているのでしょうか?』

 

「判らない……だが最悪の可能性は検討することになるだろう」

 

最悪の可能性――百鬼帝国に洗脳されていた場合リュウセイを殺す事になる可能性をダイテツは考えていた。リュウセイを罠に掛ける為に様々な手段を講じている百鬼帝国の事を考えるとリュウセイを正気に戻すのは不可能の可能性もあった。

 

「ダイテツさん! リーさんッ!!」

 

ブリッジの扉を蹴り破るように武蔵がブリッジに転がり込んで来た。

 

「武蔵どうした?」

 

「はぁ……はぁ……リュウセイを探してる皆が戻って来たら出撃させないでくれ……はぁ……はぁ……」

 

肩で息をしながら出撃させるなという武蔵にダイテツ達は眉を細めた。

 

「どういうことだ武蔵? 判るように説明してくれ」

 

「て、テツヤさん……ゲッターの、ゲッターD2のゲッター線の出力が信じられないくらい上昇してる。それこそ……あの石ころ、メテオ3とか言うのと戦った時と同じ位に……」

 

メテオ3――武蔵が特攻することになったエアロゲイターの最終兵器。それと戦った時と同じ位ゲッターの出力があがっていると聞いてダイテツ達は自分達が想像しているよりも遥かに状況が悪化しているのを悟った。

 

『武蔵、それならばなおの事皆で出撃したほうが……うっ』

 

「ぐっ! なんだ……これはぁッ」

 

たすけて

 

助けて

 

タスケテ

 

しにたくない

 

死にたくない

 

シニタクナイ

 

強烈な嘆きと悲しみを伴った奇妙な声がダイテツ達の脳裏に響き、その顔を苦痛に歪める。

 

「な、なんだこれはぁ……む、武蔵……お前は平気なのか?」 

 

テツヤが頭を押さえその場に蹲り、洗い呼吸を整える。ブリッジにいるメンバーの中で立っているのは武蔵だけだった、しかし武蔵は何故ダイテツ達が苦しんでいるのか理解出来ずにいた。

 

「ど、どうしたんですか!? 急に蹲って……」

 

「聞こえないのか? あの声が……?」

 

「声? いや、オイラには何にも……」

 

血液さえも凍りつくような嘆きの声がダイテツ達には聞こえていたが武蔵には何の影響もなかった。

 

「せ、整備班から連絡! 着艦したアイビス達が体調不良を訴えているそうです! ぐっ……うっぷ……R-1とビーストを確認! しゅ、周囲に……うえ……アンノウンを4体補足! モニターに映します」

 

エイタ自身も青い顔をしながらも、オペレーターとしての職務を果たし、ハガネのブリッジに異形の化け物の姿が映し出される。

 

「インベーダーにアインストだとッ!?」

 

インベーダーとアインストの融合した化け物を見て武蔵は驚きの声を上げ。そして実際に化け物を見たダイテツ達は先ほどを遥かに上回る不快感に襲われた。

 

『これが武蔵が出撃するな……という理由か……』

 

「うっぐぅ……うああ」

 

「ぐっ……武蔵、出撃を頼む。リュウセイ少尉を助けてくれ」

 

ダイテツの言葉に頷き、武蔵は通路で蹲っている衛生兵や、兵士を見ながら格納庫へ走る。

 

「武蔵!」

 

「コウキ! お前は大丈夫なのか!」

 

「ああ。俺は問題ないが、アイビス達は駄目だ。機体を動かせる状況じゃない、俺が出る」

 

轟破・鉄甲鬼に乗り込む準備をしているコウキに頼むと声を掛け、武蔵もポセイドン号に走る。

 

「武蔵……待って! 私も……行くッ」

 

「無茶だ! オイラとコウキでリュウセイを助ける。お前はハガネにいろ」

 

青い顔でヘルメットを抱えているラトゥー二を見てハガネにいるように言うが、ラトゥーニは首を左右に振る。

 

「た、戦えないけど――R-1は回収できる。私も……行く」

 

顔は青く、身体も震えている。それでも目だけは爛々と輝いている……武蔵はその顔を見て深い溜め息を吐いた。

 

「コウキ、ラトゥーニにR-1の回収を頼む!」

 

『俺は構わん、それより時間がない。整備兵はダウンしているパイロットを連れて気圧室に避難しろ! 出るぞ!』

 

コウキの警告を聞いて整備兵達が必死の形相でイルム達を気圧室に引き摺っていく姿を見ながら武蔵はポセイドン号に乗り込み、ふらつきながらビルドラプター改に乗り込むラトゥーニを案じながらも、これ以上躊躇っている時間はないと判断しコウキの後を追ってハガネからゲットマシンを出撃させるのだった……。

 

 

 

 

黒い穴は既に黒い亀裂となり無尽蔵に化け物をフラスコの世界へと産み落としていた。PT、AM、車、動物――無機物・有機物にお構いなく寄生し、襲い掛かってくる醜悪な化け物を見て、コウキは眉を顰める。

 

「なんだ、この醜い化け物は」

 

『しらねぇ。インベーダーとアインストが合体してるのは判るけどな』

 

ダブルトマホークを構えたゲッターD2と轟破・鉄甲鬼の手にしたトマホークが化け物を両断する。すると溶けるように化け物は消え去り、PTの骨組みだけが溶かされた状態でその場に残る。

 

『遠いな』

 

「ああ、この距離は厄介だな」

 

R-1の姿は確認していたが、その周辺にも化け物が生れ落ちており、そのまま進むのは不可能と判断した武蔵とコウキはラトゥーニの乗るビルドラプター改を背中に庇いながら、状況の把握に努めていた。

 

「おい、勝手な行動をするつもりならハガネにもどれ、お前の勝手な行動が俺と武蔵を危険に晒す」

 

『……ッ、すいません』

 

ビームライフルの銃口をズィーリアスに向けたビルドラプター改を見てコウキが釘を刺した。戦況も相手の正体も判らない今は慎重に動かなければならない、感情で動かれそれが取り返しのつかない事に繋がりかねない。

 

『声って聞こえてるか?』

 

「いや、俺はまるで聞こえない。ラトゥーニ、どうなってる?」

 

『ずっと聞こえてます、助けて、こっちに来てって男とか女の声で……』

 

震える声で返事を返すラトゥーニに武蔵とコウキは眉を顰める。自分達には聞こえない謎の声――それがダイテツ達の体調不良を起しているようだが……何故自分達には聞こえないのかと疑問に感じていたが、その答えは目の前の光景が現していた。

 

【■▲○☆……】

 

【※▲☆□……】

 

苦しみ悶えながら溶けて行く姿を見ればコウキは勿論、武蔵でも理解出来た。

 

「『ゲッター線か……』」

 

轟破・鉄甲鬼、ゲッターD2共にゲッター線で稼動している。インベーダーはゲッター線を必要不可欠としているが、過度なゲッター線には弱い。そしてそれはアインストも同様だ――少量のゲッター線ならば自分のエネルギーに変える事が出来るが轟破・鉄甲鬼とゲッターD2のゲッター線濃度には耐え切れなかったようだ。次々に己の核を放棄し、影と一体化して何処かへと逃げ去っていく光景を見てコウキは状況は悪化の一途を辿っていると悟った。

 

「だがまるで安堵出来ないな」

 

『なんで? 数減ってるぜ?』

 

ダブルトマホークで化け物を切り倒しながら言う武蔵にコウキは呆れ半分と罵倒半分で口を開いた。

 

「黙れ脳味噌筋肉。状況を把握しているのか?」

 

『敵の数が減ってる』

 

「よし、馬鹿。俺が説明してやるからちゃんと話を聞け、良いな?」

 

武蔵の返答にコウキは駄目だこいつと思った。根本的にゲッターパイロットは脳味噌まで筋肉で、その場のノリと勢いと自分の野生の勘で戦っている。敵が減ってるという状況しか理解出来ていないことにコウキは何が起きているのか説明する羽目になっていた。

 

「化け物のコアはゲシュペンストなどのPTとAMだ。コアが砕けた化け物は溶けているのは判っているな?」

 

マシンガンアームを放ちながら武蔵に今の状況を説明するコウキ。武蔵はその説明を聞きながら頭部ゲッタービームで周囲を薙ぎ払った。

 

『それは判ってる、死んだんじゃないのか?』

 

「違う。見てみろ、溶けたやつらが一箇所に集まってる。ビーストの後だ、見えるか?」

 

溶けたと見れば倒したと判断してもおかしくない。だがそれが間違いだった――解けたのは逃げたのだ。捕食も出来ず、道連れにも出来ずに死ぬ――それはその生物にとって最も許せない状態だった。ゆえに役に立たない身体を捨てた――1番奥で動かない個体を見ろとコウキに促され、武蔵は視線を向けた。

 

『なんだ? ゲッターになってる?』

 

化け物の体細胞が1体のゲシュペンストに集まり、武蔵達の見ている前でその身体をゲッターロボに作り変える。

 

『よし、あいつをぶっ飛ばせばいいんだな?』

 

「馬鹿か、貴様は」

 

『違うのか!?』

 

「違う、俺達が倒すのは化け物ではない。その後だ――空間の切れ目か、穴か俺も判らんが、あれがある限りあの化け物は沸いてくる。ゲッタービームを至近距離から叩き込んで来い。あの無様なゲッターは俺が相手をする、ラトゥーニは俺に続け、離れるなよ。影から化け物に取り込まれたくなければな」

 

あの空間の切れ目、あるいは穴から伸びた蔓と触手がすべてを動かしている。ならばあれを撃退すれば化け物の侵食は止まる――コウキはそう判断し、背中のウェポンコンテナを起動させる。肩部にスライドして来たそれが肩の突起の間に固定され、装甲が展開し巨大なファンをむき出しにさせる。

 

「数が少ないうちに一掃する。これ以上増えたら手がつけられない。ラトゥーニ、正気は保ているな?」

 

『だ、大丈夫……です』

 

存在するだけで特性か、何かは判らないがその者の精神を蝕む――近くにいるリュウセイだけではなく、距離を取って停泊しているハガネにも影響が出ている。このままでは市街地にまで被害が出るかもしれないと判断したコウキの行動は早かった。

 

「吹き飛べッ! 化け物共ッ!!!」

 

酸とゲッター線の入り混じった暴風が化け物達に襲いかかり一箇所に集める。

 

『しゃあッ!!! ゲッタァァビィィィイイイイムッ!!!!!』

 

サイクロンで一箇所に集められた化け物共は自分達が出現する漆黒の穴もろとも腹部ゲッタービームの光の中に消えて行った。残されたのは僅かなPTやAMの残骸だけで、あの化け物が存在した痕跡はどこにもなかった……。残ったのはズィーリアスと赤黒い念動フィールドに守られたR-1のみ……ビルドラプター改が前に出てズィーリアスにビームライフルを向ける。

 

『……リュウセイを返して』

 

『…………』

 

ラトゥーニの返答にレトゥーラは返事を返させなかった……だがゲッターD2、轟破・鉄甲鬼を前にしてもその闘争心は全く衰える事は無く、このまま武蔵とコウキ、そしてラトゥーニの3人と戦うつもりなのか、背部のウィングに手を伸ばし、実体剣を取り出そうとし……。

 

『ま、待ってくれ……俺はレトゥーラがいなかったら死んでた……ここは見逃してくれ……レトゥーラ、お前も……帰ってくれ、頼む』

 

意識を取り戻したであろうリュウセイの声が響くとズィーリアスは剣を元に戻し、飛行機形態に変形と同時に一瞬で消え去った。

 

「仕方ない、帰還する。この周辺を立ち入り禁止区域にして調べなければならないだろうからな、俺達も影響が無いとは言いきれないハガネに戻るぞ」

 

謎の化け物とズィーリアスを退けた事は出来たが、思念波による攻撃、無機物・有機物お構いなしに寄生し、今もなお黒い体細胞と黄色の複眼と蔓に寄生された状態で放置されている岩や残骸を見れば、何がおこるか判らないのを危惧するのは当然の事だった。

 

「武蔵、ゲッターD2のゲッター線を放射しろ。それで少しは浄化作用があるかもしれない」

 

『……大丈夫? 一応放射線なんだろ?』

 

『でも近づくだけで発狂するかもしれないなら、立ち入り禁止にするしかない。それなら大丈夫だと思う』

 

「そう言う訳だ。何が起こるか判らん、事後承諾になるがゲッター線を使うしかあるまい」

 

ラトゥーニとコウキの説明を聞いてから武蔵は判りましたと返事を返し、謎の化け物と戦った区画を埋め尽くすようにゲッター線を放出させるのだった……。

 

 

 

闇の中を蛍、いや人魂のように大地を埋め尽くしながら照らす翡翠の光を見つめながら孫光龍は困ったような表情を浮かべた。ゲッター線は必要だが、あまり多量のゲッター線は必要のない悪意を呼び寄せる――それがあの異形の化け物の正体だった。近くに武蔵が来ているのを感じ取り様子を見に来た孫光龍だが、想像もしてない光景にその顔をゆがめ頭を振っていた。

 

「参ったねぇ……一体なんなんだい? あの化け物は……」

 

百邪同士が融合し生まれた異形の化け物――それはバラルから見ても想定外のイレギュラーだった。思念波を操り、人を生物を誘いこみ喰らい、己の一部とし、そして共に死ぬ。それは仙人である孫光龍にとっても死に兼ねない悪質な生命体だった……。

 

「龍虎王の事もあるのに……ああ、もうどうしようかなあ……」

 

人間が採掘を行なっている龍虎王の目覚めも近い、それに加えて百鬼帝国が次々と復活させている四罪、四凶の超機人のこともあるのに、これ以上のイレギュラーは困るなあと笑った孫光龍はゆっくりと振り返る。

 

「と言う訳で、今なら許してあげなくもないよ。饕餮王、暫く見ない間に人間の姿なんかになっちゃってさあ……もう本当に良い加減にしてくれよ」

 

「きひゃひゃひゃひゃ、だーれが今更貴様らの言うことなんぞ聞くかッ!!」

 

孫光龍の視線の先にはしわくちゃの老人――四凶の超機人である饕餮王の姿があった。

 

「貴様は食い殺してやるぞ、ああ……孫光龍……貴様をやっと……やっと見つけたんだからなあ」

 

その身体を見る見る間に巨大化させ翁の頭部を持つ巨大な獣人の姿へと変貌する。

 

「やれやれ……あんまり調子に乗るなよ爺。折角僕が優しく言ってやってるのにさあッ!」

 

白い帽子を片手で押さえながら饕餮王を睨む孫光龍、その眼光は凄まじく圧倒的に有利である筈の饕餮王が恐怖で数歩後ずさるほどの凄まじい威圧感を放っていた。

 

『ワシらは最早バラルにガンエデンなどに縛られはせん!』

 

「そうかい、なら女神の加護を退けた愚か者はこの地で死に絶えろッ!」

 

その日凄まじい振動と巨大な龍神の影と異形の獣人を見たと言う目撃情報と、凄まじい雄叫び、そして何度にも及ぶ大地震が確認され、数時間前の集団うつ現象と相まって周囲の都市からの集団避難が行なわれる事となるのだった……それは奇しくも交代の部隊が到着した事で停泊を終えたハガネとシロガネが出発した後の出来事なのだった……。

 

 

第110話 地獄門 その3へ続く

 

 




今回はここまでです、今回のシナリオは規定ターン数生き残ればイベント進行という感じのMAPをイメージして見ました。
次回は前半はハガネとシロガネ、後半は伊豆基地と龍虎王の話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第110話 地獄門 その3

第110話 地獄門 その3

 

ハガネ、シロガネのクルー全員は精神に大きなダメージを受けた事もあり、謎の生物が発見された空域を遠くから監視しながら体力と気力が回復するのを待つ事となった。その間ダイテツ達は謎の生物、そして武蔵とコウキが何故影響を受けなかったのか、そしてリュウセイが何故アビアノを抜け出してこの場に来たのかというのを話し合う事にしていた。

 

「つまりリュウセイ少尉は呼ばれたからここに来たと……そういうことか?」

 

「はい、俺自身なんでR-1に乗ってるのかとか、ここがどこだとか全然判らなくて……困惑してるうちにあの化け物とレトゥーラが現れたんです」

 

テツヤの問いかけにリュウセイは自分が置かれていた状況を思い出しながら報告を口にする。

 

「レトゥーラ? それはビーストのパイロットか?」

 

「……はい、彼女はそう名乗ってました。多分――俺はレトゥーラがいなければ、あそこで死んでいたかもしれない」

 

アビアノ基地、そしてリュウセイが意識不明となった戦いでキョウスケに恨み節を叫び続けた謎の女とビースト。それがリュウセイを助けたと言うのはダイテツとリーからしても到底納得出来るものではなかった。

 

『レトゥーラか……一体何者なんだ? リュウセイ少尉と互角かそれ以上の念動力者など存在するとは思えんが……』

 

「声から推測される年齢から言って10代後半から20代前半――特脳研に所属していた者の子供という可能性もあるが……それではキョウスケ中尉に恨みを抱いている理由に説明がつかない」

 

考えれば考えるほどにその正体は霞みが掛かったように見えなくなる、与えられた情報とそれを調べた結果がどうしてもかみ合わないのだ。

 

「リュウセイを助けたとは言え、俺と武蔵、ラトゥーニには攻撃性を見せた。敵とも言えんが味方とも言えないだろう、敵の敵は味方くらいに思ったほうが良いだろう。それよりも今はあの化け物だ」

 

リュウセイだから助けたと考える方が妥当だろうとコウキはダイテツとリーに告げ、ビーストとレトゥーラよりも化け物の正体を調べるほうが有意義だと促す。

 

「オイラから見るとあれはインベーダーとアインストが融合したもんに見えるんですけど……あいつらって基本的に争ってるんですよね」

 

『争っている者同士が1つになっているか、融合して1つの生物に……いや、映像を見る限りでは1つの肉体を共有しているとも見えるが……互いに浸食しあっているようにも見える』

 

リーが目を細めながら僅かに記録された戦闘データを見た見解を口にする。ゲシュペンストやアーマリオンの機体骨格をベースにして、黄色い複眼に覆われた黒い体細胞と赤黒いコアから生えた触手に覆いつくされたその姿は化け物その物だ。黒い体細胞と触手は常に拮抗状態あるいは僅かにより多くを浸食しようとしている。しかしそうして互いの体組織が争い、見ている中で互いに消滅し消えているのを見てイルムが不機嫌そうに口を開いた。

 

「化け物同士で勝手に潰しあってくれりゃあ良いのによ……こっちを巻き込んでくれるなよ、俺でさえこれだぜ? これじゃあリュウセイだけじゃなくてブリット達でも辛いだろうよ……と言うか、レオナ。お前はどうだったんだ?」

 

ブリーフィングという事でアラド達の姿もあるが、その顔は皆青く明らかに体調不良という様子だった。

 

「正直発狂するかどうか……と言う所でしたわね、隊長が当身をしてくれなかったら気が触れていたかもしれませんわ……」

 

「俺達でさえあれだ。念動力者であるリュウセイやレオナ達はもっと辛いだろうな……リュウセイ、お前は大丈夫なのか? 無理ならば休んでからでもいいはずだ。きっとダイテツ艦長達も許してくれるだろう」

 

ハガネ――いや地球にいる念動力者の中で最もレベルの高いリュウセイはもっと大きなダメージを受けている。ライがそれを気遣いリュウセイに視線を向けるが、リュウセイは首を左右に振った。

 

「……正直辛い……だけど見たことを言わない訳にはいかねえだろうよ……俺が1番近くにいた、俺が多分この中で1番あの化け物を理解していると思うしな。だって武蔵とコウキは全然駄目だったんだろ?」

 

「おう、なんで苦しんでるのかオイラには判らなかった」

 

「俺もだな。考えられるのはゲッター線の影響を受けているかどうかか……それとも単純に俺と武蔵が馬鹿かだ」

 

「馬鹿すぎて思念波を受けなかった可能性もゼロじゃないぜ」

 

馬鹿すぎて思念波を受けなかったかもしれないと言う武蔵とコウキの2人に思わずブリーフィングルームにいた全員が噴出した。

 

「コウキ、ふふ、貴方それ真面目に言ってる?」

 

完全にダウンしているアイビスの代わりにブリーフィングに参加していたツグミがくすくすと笑いながらコウキに尋ねる。

 

「大真面目だ。旧西暦の人間なんぞ真面目に馬鹿をやる奴しかいないぞ? なぁ武蔵」

 

「おう、隼人なんか突然俺はボインちゃんが大好きだとか真面目に言い出したと思ったら、なんか訳のわからんバリアとか作ってたし」

 

隼人の黒歴史を平然と投げる武蔵の言葉に暗い雰囲気だったブリーフィングルームが明るくなった。

 

「それでリュウセイ少尉。お前はあの化け物近くで何を感じた?」

 

「死にたくない、腹が減った、こっちへ来い、一緒に死ね……ずっとそればかりでした。あの化け物の後ろの黒い穴はもっと酷い……悪意とか憎悪とかそんなのが渦巻いてました」

 

念動力によって感じ取った化け物の内面――それは生存願望、そして底知れぬ食欲と共に死ねという悪意だけだったとリュウセイは語る。

 

「穴……穴か、あれだよな? ゲッタービームで消し飛ばした」

 

「ああ、ゲッターロボを模倣しようとしていたあれだな」

 

戦闘記録に僅かに残されている闇よりも深い漆黒の穴――そこからあの化け物は産み落とされていた。

 

「あの穴から出現し、何かに寄生して生物として完成するという感じか?」

 

映像を見ていたテツヤが見た感想を告げる。黒い穴からまず壊れたゲシュペンストやアーマリオンが落ちてきて、それに化け物が寄生して動き出すという光景を見れば、そう感じるのは当然だが武蔵とコウキがそれを否定した。

 

「確かに岩とかに寄生って言うよりもアレは喰ってたって感じだったよな?」

 

「ああ、恐らくだが無機物・有機物関係なしに物を喰らい、その熱量によってあの化け物は生きているのだろう。そして喰う物がなくなれば死ぬ、死ぬのならばお前達も死ねと自分達の側に呼び寄せているのだろうな」

 

あくまででゲシュペンストはあの化け物が存在する為の動力であり、肉体でもなんでもなく、存在するのに必要なエネルギーを供給するだけの、言うならば外付けのバッテリーと大差がない。

 

「なんとも醜悪な化け物ね、その癖始末が悪い……」

 

呼び寄せるだけ呼び寄せ、喰らい、貪り己の同類と化し、そして食べる物が無くなれば最初から存在しなかったように消え去る――モニターに映る消しゴムか何かに抉り取られたように消え去っていた……その余りにおぞましい光景にヴィレッタが吐き捨てるように言うと武蔵がびくりと肩を竦めた。

 

「近づいたら喰われるかもしれないって思ってゲッター線を放出したらこうなっちゃいましてね」

 

「え? 武蔵さん、ゲッター線ってそんなことまで出来るんですか?」

 

ゲッター線の放出によってこの惨状が出来たと聞いてアラドが引き攣った声と表情、そして敬語で武蔵に尋ねる。

 

「水飲む?」

 

「あ、うん、大丈夫」

 

「そう、それならいいのだけど……」

 

決してリュウセイを甲斐甲斐しく世話をしているラトゥーニを見て寂しくなったとか、そういうのではない。ただ今ラトゥーニに近づくとボデイに拳が飛んできそうだったから逃げたに過ぎない。

 

「武蔵、本当に?」

 

「いや、正直わかんないですよね……ラーダさん。オイラはそもそもゲッター線の事なんざ、全然知らないですし……ただ、あの化け物が

インベーダーとアインストから生まれた化け物なら、近づいたら取り込まれちまうと思ってゲッター線を放射しただけで」

 

「ああ、俺が武蔵にそうするように言ったが、こうなるとは想定していなかった」

 

まさかゲッター線を放射したら化け物が周囲の地形を飲み込みながら消滅するなんて武蔵もコウキも想定していなかったと告げる。

 

「ゲッター線に弱い性質を持つ化け物だから消し飛んだという可能性もあるな」

 

「カイ少佐はそのようにお考えなのですか?」

 

「まぁな。オカルト染みているが……そもそもゲッター線に恐竜帝国、そして百鬼帝国とオカルトが続いてる。今更驚きもしないと言う所はある」

 

自分の目で見てきたからこそ、この世界にオカルトが満ちているとしつつもカイはどこか納得してない様子で腕を組んだ。

 

「あの化け物の事はデッドマンと呼称する」

 

「デッドマン? ダイテツ艦長、どういう意味ですか?」

 

「既に死を迎えているのにそれを受け入れず、現世を彷徨い。道ずれにして消え去る亡者ということだ。」

 

周囲の生き物を呼び寄せるだけ呼び寄せ、喰らい一体化して消え去る――悪辣でそして歪んだ生物。そして自身はもう死んでいるのに、それを受け入れず生物を巻き込み共に死のうとする悪辣なその性質は正しく亡者……それ故にダイテツのデッドマンという名称はピッタリだった。

 

「武蔵、ビアン博士とは連絡はつくのか?」

 

「んー一応やってみますけど絶対とは言えないですね。どうせ暫くは動けないんですし、その間に連絡は取ってみようと思います」

 

「では連絡がついたらブリッジに報告を入れてくれ。皆無理をさせてすまなかった、これより本艦とシロガネは6時間この地でデッドマンの再出現がないか監視する。身体を休めてくれ」

 

再びあの化け物が出現しないとも言い切れない。しかしそれ以上にハガネとシロガネのクルーは肉体そして気力をデッドマンによって痛めつけられている。休養を取る為にこの場で停泊することを決めるのだった……

 

 

 

 

ゼオラとアラドの邂逅は紛れも無くゼオラにとって大きな影響を与えていた。勿論それにはリュウセイの念動力による干渉もあるが、ゼオラの精神の中に宿っていた朱王鬼の意志がリュウセイと遭遇したことで霧散したことも影響をしていた。

 

「どうですか? 虎王鬼さん」

 

「んーとりあえずあのクソッタレの精神の残りは消えてるわね」

 

「そ、そうですか……」

 

虎王鬼の言葉を聞いてオウカは安堵の溜め息を吐いた。だが虎王鬼の険しい顔を見て、まだ何かあるのかとその顔を引き攣らせた。

 

「朱王鬼の干渉を受けなくなったのは良い事だと思うわ。だけどそれとこの子が自意識を取り戻すかは別問題よ」

 

「で、でもゼオラはアラドの名前を呼んでッ」

 

何度もゼオラはアラドの名前を呼んでいた。それをオウカとクエルボの2人はゼオラが自我を取り戻そうとしていると解釈していたが、虎王鬼は首を左右に振った。

 

「朱王鬼の意志が途絶えたからアラドを殺そうとしているのかもしれない、本当にアラドを求めているのかもしれない……それは私にも判らないわ。とにかく楽観的に受け入れないで、良く様子を見ていなさい」

 

朱王鬼の意志が途絶えた事が吉と出るか凶と出るかは虎王鬼にも判らないのだ。こと精神においては虎王鬼よりも朱王鬼の方が秀でている、虎王鬼が感知出来ないだけでまだ罠が仕掛けられている可能性はゼロではないのだと虎王鬼は語る。

 

「……判りました。ありがとうございます」

 

「気にしなくていいわよ? 貴女達は私と龍の部下だからね。守ってあげるわよ」

 

ウィンクをする虎王鬼の笑顔に吊られてオウカも笑みを浮かべた。

 

「虎王鬼様、アーチボルドが蚩尤塚に向かうらしいけど、どうします? あの馬鹿勝手にやらせて大丈夫ですかね?」

 

「……そうねえ、不安しかないわね。同行してくれるかしら? 風蘭」

 

「了解です。では虎王鬼様、行ってまいります」

 

気配も無く現れ、そして話をすると同時に一礼し消え去った風蘭にオウカが驚いた顔をすると、虎王鬼はくすくすと笑った。

 

「風蘭は風の鬼だからね、スピードと風を利用した幻影やカモフラージュの専門家なの」

 

「それはもしかして……勝手についていくってことですか?」

 

「そうよ? アーチボルドは好き勝手するからねぇ。釘をさせる相手を置いておかないと危ないわ」

 

人間ならば違ったが、鬼となった事で好き勝手出来なくなったアーチボルド。しかしそれは戦果を上げて昇格し、虎王鬼や龍王鬼が何も言えなくならないようにする為の監視工作でもあった。これが朱王鬼ならば相性も良く好き勝手させたが鬼でありながらも、人間に近い感性の龍王鬼と虎王鬼がそんな好き勝手を許す訳が無かったのだ。

 

「私達はどうすれば?」

 

「暫くは待機していてくれて良いわ。でも私達のテリトリーからは出ないでくれる?」

 

アースクレイドルには女を犯しながら喰うのが趣味の鬼や、龍王鬼と虎王鬼の庇護下にいて守られているゼオラやオウカ、クエルボを良く思っていない者も多い。だからテリトリーから出ないようにと念を押す虎王鬼に頷き、オウカは虎王鬼の部屋を後にしようとし、それよりも先に扉が開いた。

 

「あら、オウカここにいたのね、丁度良かったわ」

 

「……」

 

レモンと鉢合わせ、オウカはその足を止めた。

 

「レモン博士、私とゼオラに何か?」

 

「うん、貴女達の機体を改造してるでしょ? 完成が近いから見て貰おうと思ってね。それにこっちだと研究が捗るわー♪」

 

ウォーダンの敗北でぐちぐち言ってくるヴィンデルとアクセルの元ではまともに研究も開発も出来ないと一時的に虎王鬼の所にレモンは身を寄せていた。一応虎王鬼の配下の整備班がついているが、ヴィンデルとアクセルが根負けする方が恐らく早いだろうと虎王鬼は踏んでいた。

 

「イーグレットも私と意見合わないしね」

 

「ああ。あの馬鹿ね……ああいうのとは付き合わないほうが一番よ」

 

この場にいないイーグレットの悪口を言いながら虎王鬼とレモンが並んで歩き出し、その後をオウカとゼオラが続き、百鬼獣が格納されている格納庫へと足を踏み入れる。

 

「チェストオオオオオッ!!!」

 

「オオオオオオーーッ!!!」

 

格納庫に足を踏み入れた瞬間にオウカの耳を震わせたのはウォーダンと闘龍鬼の雄叫びだった。2人が手にしていた木刀が砕け、審判をしていたヤイバが立ち上がる。

 

「闘龍鬼の方が長く残ってんな、お前の負けだ。ウォーダン」

 

「……不覚」

 

「いや、良い踏み込みだった。まだ続けるか?」

 

「無論だ」

 

独断行動をした挙句、キョウスケを殺す機会を失い、それだけではなくゼンガーにトドメを刺すのを拒否したウォーダンもまたレモンと同様に虎王鬼の所に身を寄せ、毎日のように闘龍鬼、ヤイバと剣を交えその技量をメキメキと上昇させていた。

 

「さーて、じゃあオウカの機体のラピエサージュ、それとゼオラのファルケン・カスタムのご披露と行きましょうか」

 

アクセルとヴィンデルの元にいた時よりも生き生きしているレモンが手を上げ、量産型Wシリーズがコンソールを操作し、隠されていたラピエサージュ、そして改良されたビルトファルケン・カスタムがライトアップされるのだった……。

 

「気分はどうかな? アギラ?」

 

「良いと思うか、イーグレットッ!」

 

アースクレイドルの奥の奥、オーガ1が格納されている区画に半ば監禁されている状態のアギラがイーグレットに向かって声を上げる。だがその声はしゃがれた老婆の物ではなく、若い女性の物だった。

 

「お前が研究が出来ないと嘆くから俺が協力してやったというのに、なにが不満なのだ?」

 

「ワシの体をどうした!」

 

「身体? はて、お前の目の前にあるだろう?」

 

「イーグレットォッ!!!」

 

「そんなに怒るな。お前が龍王鬼を怒らせ、手を砕かれたのが悪い。その体はマシンナリーチルドレンの物ではないし、お前の肉体から作った物だ。怒る理由が無いだろう?」

 

百鬼帝国、インベーダー、そしてシャドウミラーからの技術を得たイーグレットにまともな倫理観は既に存在していない、許可を得ずに勝手にアギラを改造し、こうして悪びれも無く笑う。

 

「貴様ぁ!」

 

「ふう、うるさい奴だな。若い身体と手足を戻した。それになんの不満がある? 若返った事で再び思う存分研究出来る。良い事三昧だろう?」

 

確かにイーグレットの言う通りでアギラは言葉に詰まる。その様子を見てイーグレットは邪悪な笑みを浮かべる。

 

「報復したくないのか? お前の腕を奪った龍王鬼を、お前を助ける素振りも無いクエルボやオウカ、ゼオラが憎くないのか?」

 

その言葉にアギラの瞳にどす黒い憎悪の炎が宿る。それを見てイーグレットはますます笑みを深めた。

 

「年老いた身体では思うように動けまい? 復讐する為の姿を与えてやったんだ。感謝して欲しいな」

 

「……ちっ、今はお主の口車に乗ってやるわ」

 

「そう言ってくれると思ったよ。では俺の研究に協力して貰おうか? 無論俺もお前に技術提供をするさ」

 

忌々しそうに返事を返すアギラを内心で嘲笑うイーグレット。その姿にかつてのソフィアの思想に共感した科学者の姿は無く、狂気に落ちたおぞましい悪魔の研究者の姿があるのだった……。

 

 

 

 

イスルギ重工の社長室でミツコが携帯を片手に上機嫌でどこかへ電話をしていた。

 

「そうですわ、LTR機構がついに超機人を発掘したとか……ええ、私がスポンサーなんですもの、間違いありませんわよ」

 

『まぁ貴女の情報ですから間違っていると言うのを疑っているわけではありませんが……如何せん貴女の情報は最近イレギュラーが多い、違いますか? ローズ』

 

受話器の先の相手の言葉にミツコは眉を細めた。ノイエDC、百鬼帝国、インスペクター、シャドウミラー、そして連邦軍――5つの場所を器用に立ち回り、その先で得た情報をリークし、それを元にして商売を行なう。それがミツコの商売だった、そこに罪悪感や後悔など無く、いかにイスルギを大きくするか――それだけがミツコの全てであり、父レンジにその身体を用いての取引や契約に何度も借り出されたミツコの存在理由だった。レンジが亡くなってもなお、いや亡くなったからこそイスルギをもっと大きくしなければならない――そんな脅迫概念にも似た考えがミツコを突き動かしていた。

 

「酷いですわね、私はちゃんとオペレーションプランタジネットの情報も流しておりますし、機体の設計図だって可能な限り横流ししてますわよ? ゲシュペンスト、ヒュッケバインのMK-Ⅲの事を忘れないで欲しいですわ。あれも結構大変だったのですよ?」

 

『……そうですね、失礼しました。ではこれからも良い取引を』

 

その言葉を最後に受話器から男の声は途絶え、それを確認してからミツコは携帯を懐に戻す。

 

「ここ最近商売が上手く行きませんわね……やはりイレギュラーが多すぎます」

 

情報の売りところ、戦力を売るタイミングを見抜く眼をミツコは持っていた。だがここ最近それが上手く行っていない――その理由は言わずもがな……クロガネとビアン達の存在であった。

 

「あの2人も失敗してくれてましたし……」

 

必ず仕留める事が出来ると豪語したのでそれを信じたが、製造工場に侵入して来たバンを取り逃がす結果になった。その上翌日には監査の話が来て、ヴィンデルとレモンから齎された情報を下に開発した新型機を隠すのにミツコは尽力することになり、用意したばかりの製造プラントを放棄することになった……電卓を弾くミツコの顔は険しい。

 

「プラスマイナスは殆ど無し……はぁ……試算ではかなり儲けていた筈なんですけどね」

 

隠し工場などを破壊されていてはそれの補填費などが出て、利益はどんどん下がっている。

 

「今回の件で確実に+になるはずですわ」

 

超機人の件、次にオペレーションプランタジネット、そしてニブハルに仲介して貰いインスペクターとの取引、そのどれもが表で計上しなくて良い利益となる筈だとミツコは笑うのだが……想定していない横槍で再び計算が大きく狂う事、そして……。

 

「ペット型ロボットのプレゼンテーションを行ないたいそうですが……」

 

「却下ですわッ! 後魔法少女も、女騎士も全部全部却下ですわッ!!! 私はそういうのは嫌いなんです!」

 

秘書の言葉に怒鳴り声を上げるミツコ。どこから洩れたのか、ミツコが隠し通してきた趣味――魔法少女等が好きという少女趣味が露出していることでその胃に相当なダメージが蓄積しているのだが、その情報を流した張本人コウキがそれを知るわけも無いのだが、コウキの反撃は確実にミツコにとっての痛恨の一撃と化していたのだった……。

 

一方その頃蚩尤塚で発掘作業を行なっているエリ達はというと……やっと見つけた超機人の頭部に盛り上がりを見せていた。

 

「やっとですね。アンザイ博士!」

 

「これで我々の研究も安泰ですね!」

 

「ええ。そうね、でもまだこれで安心は出来ないわ、ここから掘り進める事がどれだけ難しいか判っているでしょう?」

 

超機人を覆い隠している土壌は尋常じゃない強度を誇っている。ここまでは爆弾やドリルを使っての作業だったが、超機人らしいものを発見した今、慎重に慎重を重ねる必要があった。

 

「シキシマ博士は?」

 

「あーまだ地下ですね。超機人の発掘作業に協力して欲しいってお願いしたんですけど……」

 

「しょうがないわね。彼にとっては超機人よりも、ゲッターロボだからね」

 

超機人かゲッターロボか、そのいずれかを発掘できると喜んでいたが、シキシマにとっては超機人だったことで落胆し、今も地下に篭もっていると聞いてエリはシキシマを呼ぶ為にエレベーターに乗り込んだ。

 

「……相変わらず不気味ね」

 

発掘現場の地下は夜になると翡翠色に輝く――それはこの地に紛れも無くゲッター合金などが眠っていると言う証だった。人魂のように飛び交うゲッター線の光を抜け、エリは採掘音の元へ向かう。

 

「シキシマ博士。もう今日の採掘は終わりよ」

 

「エリか……いいや。もう少しだけ進める」

 

「駄目よ。これ以上は危ないわ、何かあったらどうするの?」

 

地下であり、そして夜はゲッター線の光が発生する。1人で採掘するのは認められないと現場責任者の権限でドリル等の電源を強制的に落とすエリにシキシマは不機嫌そうに振り返る。

 

「……もう少し、もうすぐ側まで来ておるんじゃ、あんな紛い物のゲッターロボではない、本物をこの目に出来るんじゃ」

 

採掘の護衛として国連から回されて来た量産型ゲッターロボは姿こそ同じだが、ゲッターロボではない。それがシキシマに火をつけていた、本物のゲッターロボを、ゲッター線レーダーに反応している何かを見つけ出すと今まで以上に精力的に採掘を行い、その結果が超機人の発見へと繋がっていた。

 

「ええ、判るわ。でも明日にしましょう」

 

この先に何かが眠っている事はエリも判っている。エリ本人としてはこちらの採掘作業を進めたい。だがLTR機構としてはスポンサーの意向に従わなければならない、過去の遺物であるゲッターロボよりも超機人を優先しろという命令なのだ。

 

「ハガネにゲッターロボがいるっているのよ? 伊豆基地に行けばゲッターロボもパイロットにもあえるわよ?」

 

「それとこれは話が別じゃ。ワシはこの手でゲッターロボを掘り当てる、知りたい、知りたいんじゃ……ゲッターロボが、ゲッター線が何を齎したのか! ワシはそれを知りたいんじゃ」

 

シキシマを突き動かすのは狂気――それは晩年のエリの父マコト・アンザイと同じだった。だからこそ、エリはシキシマを迎え入れたのだ。

 

「判るわ、でも今日は終わり。明日にでも連邦に応援を頼むわ、そうすればゲッターロボも掘り当てれる」

 

「……そうか、そうじゃな。行こうか」

 

「ええ。そうしましょう」

 

シキシマの手を引いてエリは地下を後にする。蚩尤塚の地質は地下に進めば進むほどゲッター合金の比率が増してくる、そしてそれに伴い心霊現象のような物も引き起こしている。

 

(この先に何があるのかしらね)

 

蛍のように飛び交うゲッター線、そして地下と言う事でひんやりとした空気――地獄に続いていても驚くことはないわねと心の中で呟き、エリはシキシマを連れてエレベーターに乗り込んだ。

 

ガラリ……

 

そして2人の姿が消えると同時にシキシマが採掘していた岩壁が崩れ落ちた。崩れ落ちた岩壁からはひび割れ、錆び付き、顔の左半分が砕け散ったゲッター1が姿を現し、動く筈の無いカメラアイが昇っていくシキシマとエリを見つめ続けているのだった……。

 

 

 

第111話 地獄門 その4へ続く

 

 




アギラ若返りは別に趣味でも何でもありません、ただ老婆のままだとグラビリオンで道連れが出てしまうので、それ対策です。なので若返っていても容姿とかは気にしていませんし考えてもいませんのであしからず、次回もややオカルト風味で続けて逝こうと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第111話 地獄門 その4

第111話 地獄門 その4

 

ロスターが目撃された地域の封鎖及び監視を引き継ぎに現れたのは余り良い噂を聞かないプロジェクトのメンバーの1人だった。

 

「ダイテツ中佐、リー中佐、これよりこの場の監視及び封鎖は我々ツェントル・プロジェクトが引き継ぎます」

 

そう言って敬礼したのは糸目に金髪の中年男性――「ドナルド・ホフスタータ」特殊技術中尉だった。

 

「お言葉だがドナルド特殊技術中尉。貴方方でこの現場を監督出来るとは思わないのだが……」

 

リーの言葉にドナルドは柔和な笑みを浮かべる。ツェントル・プロジェクトはATX計画、SRX計画よりも数十年も前に立ち上げられた新機軸の機動兵器を作るのを目的にした部署だが、大きな成果は今の所見られておらず無人機止まりになっている。予算ばかりを使うと陰口も叩かれているが、それでもプロジェクトを遂行出来ているのは一重にとある1人の科学者の存在があるからだ。

 

「確かに我々では不可能です。なのでブルーウルブズがこの場を管理します。我々はあくまでロスターについての研究を行なうと言うところですね」

 

「ブルーウルブズか、了解した。ではこれより本艦とシロガネはアビアノへと一時帰還する」

 

「ダイテツ中佐!?」

 

ツェントル・プロジェクトにすべてを任せると行って背を向けるダイテツの名を呼ぶリー。だがダイテツは振り返ることも無く歩き出し、リーもその後を追って歩き出した。

 

「よろしいのですか?」

 

「仕方あるまい。ブルーウルブズは連邦の総本部の護衛部隊だ。それを持ち出して来たという事は紛れも無く総本部が動いている……ここで駄々を捏ねてもワシらにとってデメリットしかない。多分現れることはないという武蔵の言葉を信じるしかない」

 

「しかし、ドナルド特殊技術中尉は……異常者として有名なのですよ。大丈夫なのですか?」

 

ツェントル・プロジェクトには様々な技術の専門家が集まっている。その中でも有名なのはエリック・ワン……かつてはEOTI機関に属し、ビアンの友人でもあり、そしてシュウ・シラカワと共にグランゾンを開発した人物だ。だがそれと同じ位悪名の多い者も多いのがツェントル・プロジェクトであり、魔窟などと称されることもある。

 

「生物兵器などを開発しているという噂があるのはワシも知っている」

 

「ならばそれこそこの場を任せるのは危険では!」

 

「それ以上は言うな、既にブルーウルブズはいるぞ」

 

ダイテツの警告を聞いて背筋に冷たい汗の流れたリーは口を閉じてダイテツと共に歩き出す。危険思想を抱いていたとしても軍上層部の支援を受け、表舞台に出ないツェントル・プロジェクトが出張って来た以上ダイテツとリーは身を引くしかないのだ。

 

「それこそ不幸な事故で部下を実験台にされないためにもな」

 

「……了解です」

 

ツェントル・プロジェクトに関わる噂で最も恐ろしい物――優れた技術を持つパイロットを事故を装い再起不能にし実験台にする。これは実しやかに語られており、実際に部下をツェントル・プロジェクトに連れて行かれ、2度と部下の顔を見る事無く治療の末亡くなったという業務的な電報と墓の場所を教えられ、足の骨折で何故死ぬと声を上げ軍を退役させられた者もいる――連邦の中の触れてはいけない暗部その1つがツェントル・プロジェクトだった。鬼が上層部に成り代わっているとしても、それとは別に存在している悪意は確かに存在していたのだ。

 

「シャインちゃん大丈夫?」

 

「……ええ、大分楽にはなったと思います。すいません、ご心配を掛けて」

 

「いや、良いさ良いさ。林檎でも剥こうか」

 

「はい……お願いします」

 

ロスターの思念波に抗うにはシャインは幼すぎ、今はこうして武蔵の看病を受けている。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

武蔵がずっと自分の側にいてくれる。それはシャインにとっては喜ばしい事であったが、それと同時にある出来事がシャインの心に深い影を落としていた。

 

「エキドナは……どうですか?」

 

林檎を食べ終えたところでシャインは武蔵にそう問いかけた。誰よりも苦しみ意識を失ったエキドナの姿はシャインの脳裏に焼きついていた。部屋から出ることも出来ないので、武蔵にどうなったのかと尋ねるが武蔵も首を左右に振った。

 

「ごめん、オイラもわからないんだ。ラーダさんが見てくれてるらしいから、後であったら聞いてみるよ」

 

「そう……ですか」

 

「無理しないで寝なよ。大丈夫、オイラは近くにいるからさ」

 

そう笑う武蔵に小さく頷き、シャインは再びベッドの中に潜り込み、そこから手を伸ばし武蔵の手に触れる。武蔵はその手を軽く握り返し、大丈夫と再び声を掛ける。それに安心したのか寝息を立てるシャインを見つめながら、武蔵は片手でDコンを取り出しベッドの側の机の上においた。

 

(しかしどうしたもんかなあ)

 

リクセントのやべー奴ジョイスとの戦いの結果は相打ち。勝者なしで終わり、婚姻届も婚約届けも消えるという結果だった。

 

『貴方が後悔をし生きている事は判る。しかしその後悔に引かれ、見るべき者を見ないのは愚の骨頂。今すぐとは言いませぬが、シャイン様の想いを無碍にしないでいただきたい』

 

好かれていると言うのは判っていた、それでも武蔵はそれを受け入れるという選択肢が無かった。言葉にならない焦燥感、そして自分が死ぬことで誰かを救えるのならば武蔵は何度でもそれを選択する。それ故に、愛や恋が武蔵には判らなかった。

 

「……どうしろって言うんだよ」

 

余りにも考える事が多すぎる。動き出したシャドウミラー、インベーダー、アインスト、百鬼帝国にインスペクター、そしてロスター……脅威は増え続け、戦っても戦っても終わりが無い。それにヒリュウ改のラミアだってシャドウミラーの尖兵の可能性はあるが、顔も声も知らないし、エキドナも記憶を取り戻す予兆が無い。ダイテツ達に警告するにもシャドウミラーの事自身がうろ覚えで、永遠の闘争や人造人間という断片的な情報しかない。そもそも武蔵にそんな話を説明するだけの知恵はないし、イングラム達が忙しく動いてるのは裏付けを取る為の物だ。

 

「隼人でもいてくれたらなあ」

 

敵を倒せば終わり――武蔵の知る戦いはそれだが、新西暦の戦いはあまりにも入り組み、政治的な要素が強すぎる。Dコンでビアンへメールを送りながら、オイラには手がつけられんぜと疲れたように武蔵は呟くのだった……。

 

「アルテウル大統領補佐官、何時になったら我々にゲッター線とゲッター合金を提供してくれるのかね?」

 

「君もくどいなミタール・ザパト。大統領令が出たから連邦からも国連からも武蔵とゲッターロボを徴収することは出来ないのだよ」

 

神経質そうに机を叩きながら言う白人の男性にアルテウルはにこやかに笑いながら返事を返す。

 

「あれは私の求める物の1つの形だ。なんとしてもこの目にしたい」

 

「今は無理だと言っておこう。それに私はオブザーバーとして十分に資金を提供しているし、ハガネとシロガネが発見した謎の生物の監視区域にもツェントル・プロジェクトとブルーウルブズを捻じ込んだ、それでもまだ足りないのかね?」

 

「足りない、全くもって足りない、これでは私の研究はいつまで経っても完成しない!」

 

「少しは落ち着いたらどうじゃの? ミタール」

 

「ワン博士ッ」

 

苛立つミタールに落ち着くように声を掛けた老人はにこにこと笑いながら椅子に腰を下ろした。

 

「態々やってきてくれて感謝するの、それで今回はなんじゃ?」

 

「貴方がいると話がはやい。ゲッター合金とゲッター線を提供することは出来ませんが、それを研究している2人をご紹介します、入って来てくれ」

 

アルテウルが声を掛けるとコーウェンとスティンガーの2人が姿を見せる。

 

「コーウェン博士とスティンガー博士はゲッター線の権威だ。きっと力になってくれるはずだ」

 

「よろしく頼みますぞ! ザパト博士、ワン博士、我々の手でゲッター炉心を作り出そうではありませんか。ね、スティンガーくぅん?」

 

「そ、そうとも! 我々の手でゲッター炉心を作り出しましょうぞ!」

 

連邦の闇であるツェントル・プロジェクト――そこに更なる闇が潜り込みツェントル・プロジェクトもまた正史とは大きく異なる方針へと舵きりすることになるのだった……。

 

 

 

 

 

ハガネとシロガネがアビアノ基地に向かっている頃伊豆基地にヒリュウ改が辿り着いていた。

 

「これは想像していなかったな……ラドラ少佐。久しぶりだな」

 

レフィーナ達がメンテや、未完成の機体の調整を行っている中、ラドラは伊豆基地の司令部に顔を出していた。

 

「成り行きでな。少しの間だが世話になるレイカー、それと少佐と言うのはいらんぞ」

 

もうラドラは軍属ではない少佐呼びは止めてくれと笑うラドラにレイカーも笑みを返す。

 

「ラドラしょ……んんッ……何故ヒリュウ改と行動を共にしてくれていたのですか?」

 

サカエが少佐と呼びかけ、咳払いをしてから何故? と問いかける。

 

「俺達が追っている連中が動き出しているんでな。武蔵に頼まれてヒリュウの護衛についていた。途中までだが、ゼンガーとエルザムも同行してくれていた」

 

「……君達が追っている相手というと、ゲシュペンスト・MK-Ⅱを運用している部隊か?」

 

「ああ。中々に尻尾を見せない連中でな、向こうがどうもキョウスケを狙っているようだから近くにいて誘い込んでみるつもりだ。ヒリュウ改への同行許可は貰えるか?」

 

「構わない。今戦力を分散しているからラドラが協力してくれるのは本当にありがたいことだ」

 

百鬼帝国、インスペクター、ノイエDCに匹敵する脅威である謎のゲシュペンスト・MK-Ⅱを運用する部隊を誘い出すために同行したいと言うラドラの申し出を聞き入れ、ヒリュウ改と同行する事に許可を出した。

 

「許可ついでにもう1つ……いや、2つほど頼みがある」

 

ラドラはそう言うとレイカー達の前に走り書きの設計図を2つ差し出した。

 

「これはヒュッケバイン・MK-Ⅲの……」

 

「ああ、それの改良案になる。カークと話をしていたんだが、タイプMは今のままでは出力も安定しない。これの改造をしたいのだがどうだろうか? マグマ原子炉を搭載しているのならば俺が協力出来るはずだ。特にタイラントアーマーは俺なら仕上げれる」

 

マオ社を脱出する際に大破したタイプLの修理の目処はいまだ立っておらず、ボクサーパーツも完成していない。タイプMの専用の強化アーマー……暴君を意味するタイラントアーマーは外骨格が完成しているが、中身が空っぽに近い。そもそも新西暦の技術でメカザウルスを作成するをコンセプトにしているタイラントアーマーは今までと全く異なる技術が必要になりノウハウが殆どゼロだった。タイラントアーマーの原型となっているゲシュペンスト・シグの開発者であるラドラがいればタイラントアーマーも大きく完成に近づくとレイカーは判断した。

 

「許可する。オオミヤ博士と協力して建造してくれるか?」

 

「了解した。プランタジネットには間に合わせるつもりだ」

 

レイカーの言葉を聞いてラドラは司令部を後にする。

 

「よろしいのですか?」

 

「良いも何も、マグマ原子炉を組み込んだタイプMは不確定の要素が多すぎる。それを安定稼動させれるのならばそれに越した事はない、それよりも今はダイテツ達の報告、そしてLTR機構からの要請の方が問題だ」

 

謎の生物の襲撃とツェントル・プロジェクトが動き出したと言う報告、それに加えてLTR機構から超機人らしい物を発掘したので支援を求めるという連絡が伊豆基地に届いている。ただでさえ戦力を分散しているのに、更にそれを分散しなければならない。そして伊豆基地で保護としているキジマ・アゲハの事もある……それらの問題は優秀な指揮官であるレイカーでさえも頭を悩ませる大きな問題となっているのだった……。

 

 

 

 

伊豆基地にいる技術者がいなければ最終調整出来なかったグルンガスト参式、そしてAMガンナーの2機の仕上げ作業がヒリュウ改の格納庫で急ピッチで行なわれ、勿論マオ社で整備の手伝いをしていたリョウトやリオもその作業を手伝っていた。

 

「リョウト君、GラプターのT-LINKコネクターのチェックが終わったわよ」

 

「も、もう終わったの? 接続系の整備マニュアル……さっき渡したばかりなのに……」

 

グルンガスト参式の分離形態のGラプターの装甲や飛行機形態時と合体時の関節部のチェックをしていたリョウトはリオのT-LINKコネクターの調整作業が終わったと聞いて驚きの表情を浮かべ、1度関節部のチェック作業を中断し接続系の最終確認を行なった。

 

「……凄い完璧だ」

 

少しの不備も無く仕上がっているのを見てリョウトがそう呟くと、リオはふふんっと胸を張って笑みを浮かべた。

 

「門前の小僧、習わぬ経を読むって奴よ。リョウト君、2人でいる時も仕事の話ばかりしてるでしょ? だから、接続系の事もそれである程度知ってたの」

 

「ご、ごめん……」

 

リオの言葉を聞いてリョウトはデート中や休憩中も仕事の話ばかりをしていたと気付き、謝罪の言葉を口にするがリオは楽しそうな笑みを浮かべた。

 

「ううん。私も色々と勉強になってるから気にしないで」

 

勉強になっているのは勿論だが、リオにとってはリョウトの手伝いを出来ると言うこと、そして今のようにリョウトを脅かせる事が出来ると言うことで十分満足しており、結論を言ってしまえば意中の相手と共通の話題があると言うだけで恋する乙女としては十分なのだ。

 

「でも、今度はリオが興味を持ってる話をするよ」

 

だが姉の多いリョウトは自分の話がつまらなかったかもしれない、デートや休憩中に話す話題ではなかったかもしれないと後悔し、今度はリオの好きそうな話をするよと口にするとリオは目を輝かせた。

 

「じゃあ、空手の話が良いな」

 

自分の想像していた返しと違うとリョウトは困惑しつつも、リオがその話を聞きたいのならと思い判ったと返事を返す。そんなリョウトとリオの様子を見ていてGバイソンの調整を手伝っていたタスクが羨ましいという視線を2人に向けた。

 

「あ~ラブいな~熱くてたまらんわ~」

 

その嫌味めいた言葉はリョウトとリオには届かず、タスクがむむうっと唸っていると格納庫で待機していたエクセレンがくすくすとからかうような笑みを浮かべた。

 

「参式の中の2人もね」

 

「あ~あっちは男の方の押しが足りないッス」

 

リョウトとリオだと、気の弱いリョウトを強気なリオが押していい感じになっている。だが参式のパイロットのブリットとクスハではブリットがまず押しが弱い、そして芯の強い性格で、1歩引いているクスハでは進展の要素が無いとからかうようにタスクが笑うとGバイソンのコックピットをモニターしている画面が点灯する。

 

『わ、悪かったなッ! お、俺だって色々と考えてはいるんだよッ!』

 

「あちゃ、聞いてたのかよ。わりぃ、わりぃ」

 

奥手のへたれと思われるのは流石に不快だったのかブリットの怒りの声にタスクは悪い悪いと返事を返す。

 

『あれ? エクセレン少尉? 何故ここに?』

 

「んー休暇取れなかったのよ~折角キョウスケと色々しようかなあって思ってたんだけどね」

 

伊豆基地に着いたら半日休暇などを取れると思い買い物やちょっとした食べ歩きなどを計画していたエクセレンだったが、レイカーから待機命令を出され、仕方なくこうして格納庫で待機番をしていたのだ。

 

「キョウスケ中尉は中尉でカウンセリング受けてますしねぇ」

 

「そうなのよねえ……はぁ……」

 

ビーストのパイロットの怨嗟の叫び、ウォーダンとの戦いで実際問題キョウスケはかなり精神的に来ている為、現在は伊豆基地のカウンセラーと話をしているのだ。

 

『それはなんと言えば……』

 

「マジでご愁傷様です」

 

完全に気落ちしていて、しかも普段のからかいのキレも無いのでエクセレン自身も相当弱っている。

 

「ラミアちゃんを誘って少し出掛けようかなと思ったんだけど……」

 

アンジュルグに視線を向けるエクセレン、そのコックピットは閉じられラミアが中に乗り込んでいるのが明らかだった。

 

『最近ラミアさんコックピットに篭もりきりですしね』

 

「中で何をしてるのかねぇ~」

 

ブリット、タスク、エクセレンが話をしているとGラプターの調整を終えたであろうリョウトがタスクに声を掛ける、

 

「……タスク、Gバイソンのチェックは終わった?」

 

「ん? おう4番コネクターの調子があんまり良くねえな」

 

話をしながらもタスクはしっかりとGバイソンの調整を行なっており、T-LINKセンサーの4番の調子が悪いとリョウトに告げる。

 

「も、もしかして、タスク君……仕事もちゃんとやってたの?」

 

「姐さん、俺が元整備員だった事忘れてるっしょ? 話をしながら調整とか確認するなんて朝飯前なんっすけど?」

 

今ではジガンスクード・ドゥロのパイロットをしているタスクだが、元々は整備兵だ。話をしながら機体の確認や不備の箇所を確認するなんて朝飯前だった。忘れてると言われるとエクセレンは目を逸らしタスクはそんなエクセレンを見て苦笑いを浮かべた。

 

「タスク、リョウト。4番コネクターはカット。参式を組み上げるぞ」

 

参式の組み上げを指揮していたカークの指示を聞いて、リョウトとタスクの顔が引き締まる。

 

「判りました。 タスク、補助アームの方は?」

 

「ちょっと待ってくれ……よし、OKだ」

 

補助アームがGラプター、Gバイソンに接続される。それを確認してからリョウトがコックピットにいるブリットとクスハの2人に通信を繋げる。

 

「ブリット、クスハ、準備は良いかい?」

 

新西暦の技術で作られた初の合体式の特機と言う事でヒリュウ改の整備兵も、テスラ研を脱出して来た整備兵にも緊張が走る。

 

『こちらGラプター、OK』

 

『GバイソンもOKです』

 

ブリットとクスハの返事を聞き、カークがGOサインを出し。エクセレン達の目の前でGラプターとGバイソンは合体し、グルンガスト参式へとその姿を変える。

 

「わおッ! 合身大成功ッ! ゲッターロボみたいに派手じゃないけど良いんじゃない?」

 

合体式の特機と言うとゲッターロボの印象が強いエクセレンがそう言うと、カーク達は揃って苦笑した。

 

「さ、流石にゲッターロボみたいに伸びたり、曲がったり、大きくなるなんて事は出来ないですからね」

 

「というか、あれロボットの癖にゴムみたいに動くしな」

 

「ゲッター合金の柔軟性とかは理不尽のレベルだな」

 

ゲッター合金がとんでもないと言う話に帰結し、エクセレンもそれもそうねと笑った。

 

「ブリット君の戦闘機とクスハちゃんの戦車が合体して、グルンガスト参式になるのね。やっぱりこれはゲッターロボに着想を得たの? ハミル博士」

 

「ああ、大本はそうだが3機合体を2機にし、整備性などを向上させている。まぁ3機合体だと耐久などに問題が出るというのも大きい要因だがな」

 

グルンガスト参式の初期案では3体合体だったが、何度シュミレートしても耐久などに難が出ると言う事で可変域を減少させ、2機合体にしたのだ。

 

「ん? それじゃあボスの参式ももう1人乗ってたりするのかしら? 参式って合体式なんでしょ?」

 

「いや、2号機は単座に改修されている。パイロットはゼンガー少佐1人だ。それにタイプGは試験的にゲッター炉心を搭載しているので2人乗りは最初から想定されていない」

 

「え? ゲッター炉心作れたの?」

 

「特機用の物だけが1つだけ建造されたらしい、それ以外は完成……なんだ?」

 

グルンガスト参式とタイプGの違いを説明していたカークだが、通信のコール音が響き解説を中断する。

 

『ハミル博士、 ブリッジから呼び出しが……私達全員で来て欲しいとの事です、なんでもLTR機構のエリ・アンザイ博士から通信が入っているとかで……』

 

「判った。すぐに行くと伝えてくれ」

 

LTR機構からの連絡――ゲッターロボの伝承が残る地からの連絡は重苦しい空気を作り出し、リョウト達はカークと共に格納庫を後にしブリッジへと向かうのだった……。

 

 

 

 

 

 

ヒリュウ改のブリッジに向かったクスハ達を出迎えたのはモニターに映し出されていたエリとシキシマの2人の姿だった。

 

『おうおう、来たぞ! エリ』

 

『ええ、それともう少し静かにしてくれますか?』

 

『ははははッ!!! 声がでかいのは元々じゃ、所でのヒリュウ改に武蔵は……『ちょっと後にしてください。時間が無いので』ぐふうッ』

 

捻りを加えた一撃をボディに叩き込まれ膝から崩れ落ちるシキシマ博士とそれを無表情で行なったエリの姿にブリッジに嫌な沈黙が広がった。

 

『失礼しました。武蔵に会いたいとそればかりでして』

 

「ああ、いえ、大丈夫ですぞ。武蔵も敷島博士の名前は知っておりましたし、奇縁が過ぎますが会いたいと思うのは当然の事でしょうからな」

 

武蔵も敷島博士の子孫に会いたいと口にしており、シキシマ博士も武蔵に会いたいと口にしているのでその気持ちは判りますとショーンは笑い、1度咳払いをしてからエリに視線を向けた。

 

「ではアンザイ博士、先ほど艦長と私にしてくれた話をもう1度してくれますかな?」

 

『判りました。現在蚩尤塚の発掘作業の状況ですが、砕けたゲッター合金らしき物と超機人の頭部が露出する段階に来ております』

 

「それはまさか、蚩尤塚の地下にゲッターロボが眠っていると言うことですか?」

 

ゲッター合金らしき物が見つかったと聞いてブリットが黙っていられなかったのかエリにそう問いかける。

 

『それは判りません、ただ超機人と共に戦った、あるいは超機人と戦ったという逸話もありますから。私達としてはゲッターロボを知っておられる皆様方に蚩尤塚へ来ていただき、調査に協力して欲しいのです。もしゲッター合金が発見出来ればそれはお礼として差し上げます

 

調査に協力すれば、もしかすればゲッター合金が手に入るかもしれないと言うのは破格の条件に思えた。

 

「いいじゃねえか、ブリット。調査に協力するだけでゲッター合金が貰えるかも知れないなら得しかないだろ?」

 

「私もそう思うよ。ゲッター合金で強化すれば今まで異常に強くなるんじゃん」

 

軽く、柔軟性に優れ強固なゲッター合金は加工こそ難しいが、加工さえ出来ればコーティング等にも利用でき、非常に便利な素材だ。それが見つかるかもしれないとなれば破格の条件である事は間違いない。

 

「どうかしましたか? ブリット少尉」

 

「あ、いえ……そのアンザイ博士。なぜ自分達なのですか? 正直ゲッターに関連するのならば武蔵が合流してくれるのを待つべきだと自分は思うのです」

 

正直な所ブリットもそうだが、クスハもリョウトもリオもゲッター合金を見極められるか? と言われると自信がない。それなのに何故自分達を呼ぶのかとブリットが尋ねるとエリは説明が足りませんでしたねと口にし、謝罪した。

 

『あくまで私達の調査は超機人で、ゲッター合金はついでです。シキシマ博士はそうではないですけどね、話を戻しますが、超機人は自分の意志を持っているようなのです』

 

意志を持つ機体――それは自らパイロットを選ぶとエリの話を聞いていたリューネはそう判断した。

 

「つまりその超機人って言うのは自分のパイロットは自分で選ぶって事?」

 

『ええ、古文書にはそう記されていますし、壁画にもそれらしいものがあります』

 

「ふ~ん……自分の意志を持って、乗る奴を選ぶって所は魔装機神と同じだな」

 

魔装機神に乗るマサキは超機人の説明を受け、超機人と魔装機神が似ているなと口にする。

 

『可能性はあるかもしれませんね。魔装機神が超機人を参考にしたのか、それとも逆なのかは判りませんが……可能性としては十分に考えられますね』

 

「え? じゃあ超機人と魔装機神って親戚とか、従姉弟とかそんな感じなの?」

 

エクセレンの茶化すような言葉にエリは苦笑しつつもそうかもしれませんと返事を返した。

 

『それを踏まえた上でこちらの調査結果や古文書、壁画をテスラ研とリ・テクに提出した所、返答はテレキネシスαパルス――つまり特殊な深層脳波が強い人間……超機人の選ぶパイロットとは念動力者なのではないかと言う答えが返って来ました』

 

ここでやっとエリがブリット、クスハ、リョウト、リオ、タスクの5人から調査に協力して欲しいと言う意図が明らかになった。

 

「なるほど、それでブリットやクスハ達をと言う事か……」

 

リュウセイは今ハガネの方でアビアノにいる、アヤはアルガードナーとゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプTTの開発に忙しく、マイはまだ表舞台に立たせる予定は無く、消去法と言う訳では無いがヒリュウ改の中で特に念動力の強い5人に白羽の矢が立ったのだ。

 

『ヒリュウ改には念動力者の方々が何人かいらっしゃるとお聞きしましたので、それでご協力を頼めるでしょうか?』

 

エリからの説明を聞き、自分の中で情報を整理してからレフィーナが口を開いた。

 

「それで、アンザイ博士は彼らに何の調査をさせるおつもりなのです? 危険があるのならば私としては許可を出す訳には行きません。協力してくれと仰られますが、何1つ具体的な内容を聞かせていただけないのは何故ですか? 何か危険な事もであるのですか?」

 

「もしかして、あいつらを超機人に乗せて動かそうってのか? 実験台にするって言うのならあたしも黙っていないぜ」

 

「……流石にそれは危険が過ぎる」

 

レフィーナの言葉にカチーナが声を荒げ、キョウスケは嘘は許さないと言わんばかりの鋭い視線をモニター越しにエリに向ける。それに慌てたのは勿論エリだ。

 

『失礼しました。そもそもですが、超機人は現在石化しており、コックピット部等は採掘すら出来ておりません。その上エネルギー反応も無く、現状の超機人は仮死状態だと仮定しております』

 

「じゃ、そのくたばってるかもしれない超機人で何をやろうってんだ?」

 

『超機人が意志を持つ機械巨人ならば、T-LINKシステムを使った超機人との意思疎通……つまり、念話です。念話によって彼らとの意思疎通を計りたいと思っております。可能ならばアインストやゲッターロボについて何か判明するかも知れませんし……』

 

蚩尤塚で現れたアインスト、そして蚩尤塚に眠るゲッターロボに関する伝承――その何れもレフィーナ達が欲してならないものだ。

 

「……博士、あの時以降、奴ら……そのアインストが蚩尤塚に現れたという記録はありますか?」

 

『いえ……あれからは1度も』

 

蚩尤塚で出現せず、それ以外の場所で何度もアインストが目撃されている。蚩尤塚とアインストの関係性があるのかないのかという謎はますます深まる事となった。

 

『……いかがでしょう、レフィーナ・エンフィールド中佐。 ご協力いただけませんか?』

 

「判りました。こちらとしてもアインストの件が気になる事ですし、実験にも危険はなさそうですし……ブルックリン少尉以下4名をそちらへ向かわせます」

 

エリの説明を聞いてレフィーナはブリット達を蚩尤塚に送り出す事を決めた。ただでさえ正体不明の敵が多いのだ、ここでアインストについて何か有力な手掛かりを得れるかもしれない上にゲッター合金を手に出来るとなれば断る理由は無かった。

 

『ありがとうございます。 では蚩尤塚でゲッター合金らしき物を輸送機に積んでお待ちしております』

 

その言葉を最後にエリの姿はモニターから消え、レフィーナは少し考え込む素振りを見せてから蚩尤塚に派遣するメンバーの名前を口にした。

 

「では、ブルックリン少尉、クスハ少尉、リョウト少尉、リオ少尉は蚩尤塚へ向かって下さい」

 

「か、艦長! 俺は!? 俺だってTPLテストで当たりが出たんですけど……」

 

ヒリュウ改に入る念動力者は5人でその中で省かれたタスクが何でですか? とレフィーナに問いかける。

 

「どうして俺は居残りなんスか?」

 

納得の行く理由を求めるいう態度をタスクが見せると、その肩をガシリと掴む者がいた。その凄まじい握力にタスクの顔から血の気が引いた。

 

「あ、ラドラ? どしたの?」

 

「ん? タイラントを仕上げるのに助手をくれと言ったらこいつを紹介されたんでな。迎えに来た」

 

えっと驚いた顔をするタスクからレフィーナが目を逸らした。

 

「こちら側の戦力をあまり割く訳には行かないと言うものもありますが、ラドラさんはいつまで伊豆基地にいれるか判りません。優秀なパイロットであると同時に整備兵でもあるタスク少尉にはラドラさんの助手をお願いしたいのです」

 

オペレーションプランタジネットが発令されるまで時間が無く、発令されてしまえば無関係のラドラは伊豆基地に留まることが出来ない。与えられた時間で機体を仕上げて欲しいと言われればタスクも嫌だとは言えなかった。

 

「お手柔らかにお願いします」

 

「心配するな、原型は出来ている。俺の指示通りに動いてくれれば何の問題もない。ではこいつは借りて行くぞ」

 

ラドラがタスクを伴ってブリッジを後にし、カークは考え込む素振りを見せる。

 

「レフィーナ中佐。運用する機体はどうするつもりだ?」

 

「ブルックリン少尉達の機体を使ってもらうつもりですが……何か問題はありますか?」

 

「プランタジネットの前に稼動データが欲しい。ラドラに調整して貰ったヒュッケバインガンナー、それとグルンガスト参式を使いたいのだ」

 

プランタジネットの主力になるであろう機体を使い、稼動データが欲しいと言うカークの言葉も判りレフィーナは了承する。

 

「ではリョウト、リオ少尉の両名はヒュッケバインガンナーを、ブルックリン、クスハ少尉はグルンガスト参式を使用してください。前回の件もあり、連邦軍部隊と量産型ゲッターロボが蚩尤塚の防衛に当たっていますが……万が一の事態が発生した場合は、私達も針路を変更し、そちらへ向かいます。それでは、気をつけて行って来て下さい」

 

レフィーナの言葉に頷きブリット達もブリッジを後にし、蚩尤塚へと出発した。だが蚩尤塚に向かって動き出したのはブリット達だけではなかった……。

 

東シナ海を進むキラーホエール――その進路はブリット達が向かった蚩尤塚だ。

 

「アーチボルド少佐、本艦は東シナ海域に入りました」

 

鬼になったアーチボルドだが、その所属は百鬼帝国とノイエDCの2つであり、少佐という地位に変りはない。

 

「結構。 直ちに機動部隊の出撃準備を」

 

アーチボルドの指示を聞いてキラーホエールの人員が慌しく動き始める、その光景を見てユウキは眉を細めた。

 

「……アーチボルド少佐、本当に超機人を奪取するのですか?」

 

「勿論。 リクセントでハガネとゲッターロボから受けた屈辱を晴らすには……超機人の力が必要なんです」

 

にこにこと笑っているアーチボルドだが、その目には押さえ切れない、いや抑えようともしていない激しい怒りの業火が宿っていた。

 

「しかし……グッ!?「ユウキくぅん? 君が僕に逆らったせいでリクセントは奪還されたんですよ? 良い加減に僕の命令に従ったらどうですか?」

 

一瞬でユウキの首を掴みキラーホエールの壁に叩きつけたアーチボルド。首を絞められ、悶えるユウキを見てアーチボルドは笑みを深め、その手を放した。

 

「良いですね? これはしっかりとローズ、つまりスポンサーからの依頼です。僕達は超機人と……その発掘や解析に携わっている エリ・アンザイ博士を手に入れます。ユウキ君……君は黙って僕の命令に従っていればいいんですよ」

 

「……了解」

 

不満そうながらも敬礼をするユウキを見送り、アーチボルドは気を落ち着けるように椅子に腰を下ろした。グリムズ家の没落を生んだ超機人をこの手で操り復讐するというどす黒い欲求、そして地下に眠っているというゲッター合金を手に出来ればもっともっと良い地位を望める――リクセントの失敗も帳消し出来ると考え、鬼となった事で鋭く伸びた犬歯を剥き出しにしにやりと笑う、だがアーチボルドは知らない、己のその底抜けの野心と嗜虐心が呼び寄せていはいけない物を呼び寄せてしまうという事を……。

 

 

第112話 地獄門 その5へ続く

 

 




ヒリュウ改側のインターミッションが終わりましたので次回からは蚩尤塚側のインターミッションを書いて行こうと思います。武蔵達の地獄門で現れたのはインベーダーとアインストの融合した化け物、こちらの地獄門からは何がでてくるのかを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


スパロボDD無料ガチャで新グルンガストのSSR。

グルンガストは好きなユニットなので大当たりです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第112話 地獄門 その5

第112話 地獄門 その5

 

蚩尤塚に向けて出撃したのはブリット達の方が早かったが、位置や気流などの関係で先に蚩尤塚に到着したのはアーチボルドの駆る変異を繰り返しドラゴンの特徴を得始めているゲッターノワールを先頭にしたノイエDC部隊だった。

 

「くっ……間に合わなかった」

 

「仕方あるまい、相手の方が早かったわい。というよりもこっちの情報が流れとるな」

 

タウゼントフェスラーのコックピットに座っていたシキシマが冷静に呟くのを見てエリは少し驚いた。

 

「ゲッターロボがいるのに落ち着いているのね」

 

「ふん、あんな紛い物に興味はないわい」

 

ゲッターノワールを見て不機嫌そうにシキシマは鼻を鳴らした。確かにゲッター線レーダーは反応している、それでもシキシマにとってはゲッターノワールは紛い物のゲッターロボに過ぎなかった。

 

「アンザイ博士、シキシマ博士はシートに座ってベルトを締めてくださいッ! 敵が陣を敷く前に突破しますッ!」

 

タウザントフェスラーのパイロットがそう叫び、操縦桿を握り締める。

 

「待って! 今は動いたら!」

 

「馬鹿者! 状況を見極めんか!」

 

エリとシキシマが静止するが、パイロットの指示を聞いて護衛をしていた連邦軍は既に動き出してしまっていた。

 

『アンザイ博士達はその場で待機してください!』

 

『我々が突破口を開きますッ!』

 

護衛をしていたゲシュペンスト・MK-Ⅲ、そして量産型ゲッターロボが完全に動き出す前にブーストドライブで切り込んできたガーリオン達にコックピットをピンポイントで破壊されタウザントフェスラーの護衛機は一瞬で沈黙し、そのままガーリオン達に取り囲まれ動きを完全に封じ込められてしまった。

 

「くっ……ッ!」

 

目の前で爆発したゲシュペンスト・MK-Ⅲのパイロット達はエリにとっては何日も顔を見合わせた者達だ。しかも自分達を守る為に死んだという光景はあくまで考古学者のエリには即座に受け入れられる物ではなかった。

 

「落ち着けエリ」

 

「……何を言っているんですかッ! 目の前で人が死んだんですよ!?」

 

目の前で人が死んだと叫ぶエリにシキシマは懐から取り出した拳銃を突きつけた。黒光りする拳銃と見た事のないシキシマの気配にエリは息を呑んで、腰から崩れ落ちるように椅子に腰掛けた。

 

「ヒステリックに叫ぶな、ドアホウ。人はどうせ死ぬ、それが遅いか早いかの違いしかない。蛮勇で勇んだあいつらが悪いんじゃ」

 

「どうしてそんなことを言えるのですか……私達を助けてくれたのに」

 

シキシマの言葉に彼らの死を悼む感情はない、むしろ無駄死にだったと言わんばかりの冷たさ……それを感じ取り、責めるような口調でエリが問いかける。

 

「こうして生きておるからじゃ、あやつらはワシ等を殺すつもりが無い。動かねば死ぬ事もなかっただろうに……馬鹿な奴らじゃ」

 

『んんーッ! 流石はシキシマ博士。クールですね』

 

タウゼントフェスラーのモニターがハッキングされ、アーチボルドの顔が映し出される。

 

「その顔……グリムズの所の倅のアー坊か、元気にしておったか?」

 

「シキシマ博士!?」

 

まさか情報の漏出者はシキシマかとタウゼントフェスラーのパイロットとエリが声を上げる。

 

「勘違いするな馬鹿タレ、こやつとはもう何十年も会っておらんわ」

 

『ええ、最後にお会いしたのはシキシマ博士が投獄される前でしたからね。博士もおかわりが無いようで何よりです、それと僕もいい年なのでアー坊は止めて貰えませんかね?』

 

「嘘を言え嘘を、ワシとエリに何のようじゃ? ン? アー坊」

 

アー坊という親しみさえ感じさせる呼び名、だがシキシマの目は鋭く、重い空気を纏っている。

 

(これがあのシキシマ博士なの?)

 

ゲッターロボを採掘する時の狂気に満ちた様子はない、普段のふざけた様子も無い。血の通っていない人間とは思えない表情にエリは息を飲んだ。

 

『もうアー坊って言われる年ではないですよ。シキシマ博士』

 

「ふん、ワシから見ればお前はまだまだ洟垂れ小僧よ。しかも……鬼になんぞなりおって、そんなにも力が欲しかったか?」

 

シキシマの言葉にアーチボルドが獰猛な笑みを浮かべ髪をかきあげる。そこには人間にはない硬質な角が存在していた。

 

『何故お分かりに?』

 

「新西暦の人間がゲッターロボに乗れるかよ。投薬、対G防御、あるいは身体強化――それで考えれば鬼しかなかろう」

 

『流石、シキシマ博士ですね。おみそれしました、もっと貴方達と話がしたい。僕達に従ってくれますよね?』

 

ガーリオン達がその手にしている銃器をタウザントフェスラーに向ける。何時銃弾が放たれるかもしれないと言う恐怖にエリが声を上げた。

 

「あ、貴方達は一体何が目的で……ッ! ここはただの採掘現場ですよ!」

 

『とぼけて貰っては困りますねえ、アンザイ博士。僕達は貴女達が超機人の発掘に成功した事を知っているんですよ?』

 

アーチボルドの言葉にエリが動きを止めた。その動きを見ればアーチボルドの言葉が真実であるという事を現していた。

 

「エリ、もう少し腹芸を覚えぬか、んで。アー坊、お前に情報を流したのは誰じゃ? ン? あのいけ好かない大統領補佐官か? それともイスルギの女狐か? それとも異星人か?」

 

『ふっふ、シキシマ博士のご想像に任せますよ。それにシキシマ博士が居られるから僕としても紳士的な方法を取るつもりだったのですよ? ですが都合がありましてね、こんな暴力的な方法になってすみません』

 

「嘘ばかり言いおって、その目が殺したいと言っておるぞ」

 

エリも連邦の兵士もこの場にいるが、脇役に過ぎなかった。この場の主役はシキシマとアーチボルドのみ、エリ達は見ていることしか出来なかった。

 

『んんー否定はしませんがシキシマ博士とアンザイ博士を殺すつもりはありませんよ。色々事情がありましてねぇ、超機人も僕の乗っているノワールももっともっと強くしたいんですよ。だから貴方達の手が借りたいんです。さ、 僕の所へ来て貰いましょうか。 美味しい紅茶を用意しますよ、ああ、シキシマ博士にはきんつばとほうじ茶をご用意していますよ』

 

さて返答はいかに? とにこやかに言うアーチボルド。周りのガーリオンが武器を再び構える音が響き、パイロットとエリはびくりと体を竦めたが、シキシマは平然と、いやむしろつまらなそうな顔をした。

 

「のう、アー坊。ワシがお前に何を言ったか覚えておるかの?」

 

『……はて? なんですかな?』

 

「ワシは死ぬ時は脳味噌をぶちまけて、眼を抉り出され、胸から下を獣に食い千切られた人とも思えぬ姿で死にたいと言った筈じゃぞ」

 

「……あの、シキシマ博士、突然何を言っているのですか?」

 

この状況で言うような言葉ではないとエリが引き攣った顔で言うが、シキシマは楽しそうに笑うだけだ。

 

『あ、あーそんな事を言っておりましたね。本気だったんですか?』

 

「本気も本気よ、ワシは死ぬならその死に方しか受け入れんつもりじゃ、つまりなんじゃな……アー坊。お前の時間切れじゃ」

 

『は?』

 

困惑するアーチボルドの耳に監視をしていたノイエDCの兵士の言葉が響いた。

 

『少佐、 こちらへ接近してくる機体をキャッチしました!』

 

『やってくれましたねぇ、シキシマ博士。時間を稼がれるとは思っても見ませんでしたよ』

 

「カカカッ! 年の功と言って貰おうかのうッ!』

 

アーチボルド達とタウゼントフェスラーを挟むように現れたグルンガスト参式とヒュッケバインガンナー・タイプMを見てシキシマはカカカっと大声で笑い出すのだった。

 

 

 

 

ブリット達が蚩尤塚に辿り着いた時には既にエリ達の乗っているタウゼントフェスラーはノイエDCによって確保されていた。

 

『ああっ、輸送機がッ!』

 

『アンザイ博士とシキシマ博士はあそこに……ッ!? ドラゴンッ!? いや、ゲッターロボッ!? どっちだ』

 

ガーリオンに取り囲まれている輸送機を見てリョウトとリオが悲鳴をあげ、ブリットはノイエDCの機体の奥にいる漆黒のゲッターロボに視線を奪われた。

 

「クスハッ! ヒリュウ改には連絡したか!?」

 

『え、ええ! すぐにこっちに急行してくれるって!』

 

クスハからの返事を聞いてブリットは蚩尤塚にいる敵機の姿を確認し、その中でも一際異彩を放つ機体にその眉を細めた。

 

「あれはリクセントに現れたって奴かッ!」

 

リクセント奪還戦で武蔵のゲッターD2と互角に戦ったという漆黒のゲッターロボ――ゲッターノワールの姿を見て思わず叫び声を上げた。そのシルエットはゲッター1だが、肩や頭部にドラゴンの意匠が現れ、ドラゴンとゲッター1が融合したような不気味なシルエットをしている。しかしブリット達を驚愕させたのはその内部――ドロドロとした醜悪でおぞましい念に満ちており、良くもゲッターロボをあんな姿にしてくれたなという怒りがブリットの中に込み上げてくる。その瞬間だった――ブリットとクスハの脳裏に念動力の共鳴現象が起きたのは……。

 

「うッ!」

 

『あうっ!!』

 

今まで感じた事の無い強烈な念にブリットとクスハは揃って声を上げた。

 

『クスハッ!? ブリット君もどうしたの!?』」

 

『こ、これは……ッ!何かが……私達を呼んでる……ッ!』

 

『え!?』

 

『もしかして、 超機人が……ッ!? で、でもなんでクスハとブリットだけが……』

 

この場にいる念動力者は4人――いや正しくは6人。その6人の中で超機人の呼び声を聞いたのはブリット、クスハの2人だけだった。

 

「り、理由は判らない。だけどあいつらにアンザイ博士と超機人を渡す訳には行かないッ!」

 

ブリットがそう叫びグルンガスト参式に無銘を抜かせる。その構えを見てアーチボルドとユウキの2人はグルンガスト参式のパイロットが誰かを悟った。何度も戦っていれば、その癖を見れば何者かは簡単に読み取れた。

 

(……助かった、ブルックリン・ラックフィールドッ!)

 

そしてその姿を見てユウキは人知れず安堵した。アーチボルドが鬼となりクロガネとの――いや、ビアン達との連絡手段は限られてしまった。鬼となったアーチボルドの索敵能力が判らず、更に言えばリクセントでの裏切り行為で監視状態にあったユウキはビアン達と連絡を取る術が無く、この蚩尤塚にアーチボルドが訪れるという事を伝える事が出来なかった……その中でブリットの存在はユウキにとって確かな希望だった。しかしアーチボルドの行動はユウキのそんな希望を退ける冷酷な物だった……。

 

『アンザイ博士とシキシマ博士は僕達の手中にあります。と言う訳で……どうです? 僕と取り引きをしませんか?』

 

アーチボルドの出した指示は戦闘命令ではなく、ブリット達に取引をしませんかと言う物だった。

 

「取り引きだとッ!?」

 

『ええ。アンザイ博士とシキシマ博士の命を保証する代わりに、貴方達の機体をいただきましょう』

 

それは普通の連邦の兵士ならば聞き入れるはずの無い取引――だが甘いハガネやヒリュウ改のクルーには抜群の効果を持つ言葉だった。しかしブリットはその言葉を蹴った、その理由は超機人を解析する為にエリが生きている必要があると考えたからだ。

 

「冗談じゃないッ! 誰がお前と取引なんてするかッ!」

 

『おや?  博士の命が惜しくないんですか?』

 

「脅迫したって無駄だ! お前にはアンザイ博士達を殺す気なんて無い筈だろうッ!」

 

ブリットの考えはあくまで正論だった。しかしアーチボルドにはその正論は何の意味も無かった。タウゼントフェスラーに向かって殆どノーモーションで放たれたゲッターノワールのクイックドロウがタウゼントフェスラーを掠め大きく爆発する。

 

『きゃあああっ!!』

 

『ぬうっ!?』

 

シキシマ博士とエリの悲鳴がゲッターノワールから響き、リョウト達はその顔色を変えた。

 

『脅しじゃありませんよ。 別に博士がいなくても超機人の解析は可能ですからね……それにどちらかと言えば、彼女達を犠牲にしてでも君達の機体が欲しい所です』

 

その言葉に嘘は無かった。どこまでも冷酷な、真実を語る口調がそこにはあった。

 

「少佐! ちょっと少佐! ユウ! 通信が通じないよッ!」

 

「くそっ! あちらの方から通信をきっているのかッ!」

 

機体同士の通信が効かないと判るとユウキは広域通信、そして外部スピーカーへと切り替える。

 

『アーチボルド少佐! そのような真似が許されると思っているのですかッ!』

 

『勿論ですよ。超機人だけでなく、連邦の新型機も手に入れれば……リクセント公国での失態を取り返せますしね。と言うかユウキ君、君は何時まで僕に逆らってくれるんですか? ユウキ君、リクセント公国の時のように、僕が民間人を殺すのを邪魔したら殺しますよ?  アンザイ博士と一緒にね』

 

ゲッターノワールのゲッタードラグーンの銃口はユウキの乗るラーズアングリフに向けられており、下手に動けばその瞬間に殺されるという事をユウキに悟らせるのは十分で、そしてそれは奇しくもアーチボルドの独断であると言う事をブリット達に知らせる事になった。

 

『さて、皆さん……ご返答はいかに? 言っておきますが、僕は気が長いほうではありませんよ?』

 

ヒリュウ改が来るまでの時間稼ぎはさせないと言うアーチボルドの声を聞いてブリットは決断をくださぜるを得なかった。

 

「……判った。俺達の機体を渡す」

 

それはエリとシキシマの命を守る為に、自分達の機体をアーチボルドへと差し出す事だった。

 

「そのかわり約束しろ。アンザイ博士達を殺さないと……」

 

『勿論ですよ。超機人と新型機が手に入るのならば十分ですよ。それに僕としてもシキシマ博士は死んだ父の友人ですし、殺すには些か抵抗がありますし』

 

アーチボルドの言葉は真実だった。自分の残酷性を知りつつも、それを受け入れ話を聞いてくれたシキシマはアーチボルドの数少ない理解者だ。目的の為に殺す事は覚悟していたが、それはあくまでも最終手段。出来れば取りたくない手段でもあった……鬼となった事で欲望に忠実になったからこそ、シキシマを殺す事にアーチボルドは躊躇いを覚えたのだ。

 

「ああ、今から武装を解除する。機体を取りに来い」

 

『結構です、ではユウキ君とカーラ君に頼みますかねぇ』

 

近づいてくるランドリオンとラーズアングリフを見ながらブリットはリョウト達に通信を繋げる。

 

「リョウト悪いが、俺とお前だけ出る。クスハとリオはそのままコックピットに残ってくれ」

 

『そういうことか……でもかなり分が悪いよ?』

 

2人乗りという事を明らかにしていない。ここでブリットとリョウトの2人が出ることで機体を動かないと思わせ、隙を窺う作戦だった。

 

「厳しいと思うけど、リオとクスハ……後は頼む。その間に俺達は博士達を救出する」

 

『無茶よ! 向こうに機体データが漏れてる可能性だってあるのよ!?』

 

連邦の情報の多くがノイエDC、そして百鬼帝国に流れているグルンガスト参式、そしてヒュッケバインガンナー・タイプMが2人乗りというのもバレているかもしれないとリオが声を上げるが、ブリットは小さく笑った。

 

「判ってる。 キョウスケ中尉じゃないけど、分の悪い賭けって奴さ、悪いなリョウト貧乏くじを引かせる」

 

『でも、今の状況じゃ それしか方法がないみたいだね……僕なら大丈夫だよ』

 

リョウトとブリットが覚悟を決めているのを知り、クスハとリオはもう止める事が無理なのだと悟った。

 

『ブリット君。気をつけて』

 

『リョウト君もよ』

 

2人に出来たのはブリットとリョウトに気をつけてと口にし、自分達の存在を悟られないように息を潜める事だけだった。武装を解除し、機体から降りようとしたブリットとリョウトだったが、シキシマの時間稼ぎはここでも大きな効果を発揮した。

 

『待ちなよ』

 

「さ、サイバスター?」

 

『ヴァルシオーネにも似てる……』

 

突如響いた第3者の声に誰もが顔を上げた。雲を切り裂き、雷鳴と共に現れた細身の人型の機体――どこと無くサイバスター、そしてヴァルシオーネに似ている百鬼獣――風神鬼から響いた女の声が待てを掛けた。

 

『風蘭さん、何故僕の邪魔をするんです?』

 

『邪魔じゃないよ、あんた達が気付いてないから警告してやるのさ』

 

気付いてない、警告の言葉にブリット達は自分達の作戦がばれたか? と冷や汗を流したが、そうではなかった。

 

『来るよ、悪い風だ……あんたがたらたらしてるから悪いんだよ。いや、それとも時間を奪いきった爺さんの勝ちかな?』

 

風蘭がそう笑うとこの場にいる全員の機体のコックピットに警報が鳴り響き、空間にガラスのような亀裂が走った……。

 

「何だ!?」

 

『こ、これは転移反応かッ!? カーラ離れろッ!』

 

『わ、判ったッ!』

 

『何が出て来るのよ……』

 

空間に亀裂が走り、高エネルギー反応が感知された……それが意味するのはただ1つ空間転移反応。

 

【【【【アアアアアアアーーッ!!!】】】】

 

おぞましい叫び声と共にその亀裂から飛び出した触手やエネルギー弾、ビームの嵐が周囲を薙ぎ払うのと、ブリット達が亀裂の前から離脱するのはほぼ同じタイミングなのだった……。

 

 

 

以前蚩尤塚で出現したアインストクノッヘン、アインストグリートの大群が亀裂を大きく開きながら這い出るように姿を見せる。

 

【【【……】】】

 

意志を感じさせない無機質な瞳で周囲を見渡すと同時に再び骨をブーメランのように飛ばし、あるいはビームを打ち出しながら蚩尤塚へと移動を始める。

 

(あれがアインストか……つまらないねぇ)

 

戦闘力は確かに高いだろう……だがそれだけ風蘭の心を震わせるような闘志を感じられず、詰まらないと風蘭は小さく呟いた。

 

『風蘭さんは手伝ってくれるのですか?』

 

「暇つぶし程度なら手伝ってやるよ、アーチボルド」

 

立ち上がると同時にゲッタードラグーンを拾い上げるゲッターノワールを見下しながら風蘭はそう返事を返す。

 

『それで結構です。向こうもどうも新しい札を切ってきたようですしねぇ、戦力は多い方が良いですから』

 

「あんな人形見たいのが怖いのね」

 

風蘭の言葉に耳が痛いですねぇとアーチボルドが呟いた。本物の鬼と鬼になったばかりの人間――その精神の差と言ってもいい、数は多く、おぞましい姿をしていたとしてもそれに動揺する風蘭ではなく、熱が無いアインストは脅威とは映らなかったのだ。鎧のアインスト――アインストゲミュートが出現しても、少し強そうなのが出てきたか位で脅威とは判断していなかった。

 

「はっ! そんなのが私に当たるかよッ!!」

 

開かれた翼から粒子を撒き散らしながら風神鬼が舞うように動き出し、クノッヘンの放ったブーメランを蹴り返し、グリートの伸ばした触手を手にした剣で切り払い、身体を分離させて飛んで来たゲミュートを踏みつけて地面に叩きつける。

 

『つ、強い……ッ!』

 

『リョウト! あいつは気にするなッ! 今がチャンスだ! 今の内に輸送機に取り付くぞ!』

 

アインストの出現によってタウゼントフェスラーの回りのガーリオン達も大きく引き離されている。混乱している今がチャンスだとブリットが叫び、ノイエDCの機体を無視してタイゼントフェスラーへとグルンガスト参式を走らせ、それに続くようにヒュッケバインガンナー・タイプMも宙に浮かび上がりタウゼントフェスラーへと向かう。

 

『いけません! アンザイ博士とシキシマ博士を確保してください! ユウキ君とカーラ君は超機人の確保を!』

 

この乱戦の状況でアーチボルドの殆ど薄れ掛けていた人間性が露呈し、風蘭は風神鬼のコックピットで小さく笑った。

 

「良いさ、超機人が欲しければくれてやれば良いさ」

 

『な、何をッ!?』

 

「龍王鬼様が超機人と戦いたいだってさ、どの道私らに超機人が協力してくれるとは思えないんだ。そんな無駄な事の労力を使ってるくらいなら……目の前の敵に集中しなよ。アーチボルド……じゃないと死ぬよ」

 

亀裂が更に拡大し、そこから姿を見せた2体のアインストを見て、風蘭は牙を剥き出しにして笑った。

 

『ぐっ!?』

 

『カーラ! 下がれッ!』

 

放たれたエネルギー弾に弾かれたカーラのラーズグリーズを庇うようにユウキのラーズアングリフが盾を構える。その瞬間に突き刺さるVの金属片が破裂し、一撃で盾を粉砕する。

 

【!】

 

その瞬間に漆黒のアインストが生物的なシルエットの背部ブースターを吹かし、凄まじい勢いでラーズグリーズとラーズアングリフに迫るのを見た風蘭は風神鬼を反転させユウキとカーラの前に立ち塞がる。

 

「はッ!!」

 

【!!!】

 

風神鬼の振るった刃と漆黒のアインストが手にするエネルギー刃がぶつかり合い、凄まじい火花を衝撃を周囲に撒き散らす。

 

「舐めるなよッ!!」

 

ノーモーションの前蹴りが漆黒のアインストの胴を貫き後方へと蹴り飛ばす。

 

『僕は諦めません、諦めませんよ!』

 

超機人を手に入れると蚩尤塚に向かったゲッターノワールだが、上空から打ち込まれた特大のビームに飲み込まれ地面に叩きつけられた。

宙に浮かぶ巨大な砲塔は風蘭の見ている前で白銀の人型アインストへ姿を変えた。

 

「上等ッ! 面白くなって来たじゃないか!」

 

アーチボルドの虐殺を止める為に風蘭は姿を消してアーチボルドに同行していた。しかし、こんな桁違いに強いアインストと戦えるのならばそれも良いと笑った。

 

【……】

 

風神鬼と向き合う漆黒のアインスト――骨のような骨格と蔦で出来た関節部、そしてバイザー型のカメラアイと背部に背負った巨大なキャノン砲――ゲシュペンスト・タイプSを模造したアインスト・ゲシュペンストS。

 

【……】

 

骨をベースにした骨格をしたアインスト・ゲシュペンストSと異なり、光を反射するゲミュートと良く似た装甲を持ち、紫色のバイザーをし、腕や足は触手が形作っている。アインスト・R-SWORD。

 

あちら側の世界で何度もベーオウルフ、アインストノイヴォルフの前に立ち塞がったゲシュペンスト・タイプSとR-SWORDを元に作り出された「あちら側」のアインストはそのバイザーアイを輝かせ、音や声として認識出来ない耳障りな咆哮を上げるのだった……。

 

 

 

 

アインスト・ゲシュペンストS、そしてアインスト・R-SWORDを生み出したのはアルフィミィではない、そしてノイ・レジセイアでもない、あちら側からこちら側へ続く空間の狭間に落ち込んだアインスト・ヴォルフが何度も自分の邪魔をした武蔵、カーウァイ、イングラムの3人への恨み、復讐心によって生み出されたワンオフのアインスト――カーウァイ、イングラムと比べればその能力は大きく劣る、だがアインスト・ヴォルフの細胞を持った2体のアインストは「成長」するアインストだった。

 

『こいつ……私の技術を吸収しているのか!?」

 

【……】

 

戦えば、戦うほどにその力を、その技術を成長させる。そしてその成長は蚩尤塚にいる周囲のアインストにも伝播していく……。

 

『は、はやく……うあッ!?』

 

『リオッ!? き、気絶しているのかッ! こ、このおおおッ!!!!!』

 

クノッヘン達の姿が白銀、あるいは漆黒へとその色を変える。そしてその能力を大幅に変化させる誘導ビームと変化したアインストグリートの弧を描く一撃を受け、意識を失ったリオを守る為にリョウトは吠え、必死に高度を保とうとする。だがリョウトの目の前に広がったのは無慈悲なビームの光……。

 

『の、伸びてッ!?』

 

グリートの触手が無数に枝分かれし、そこから同時に放たれる光弾の嵐を前にリョウトはヒュっと息を呑んだ。避けられない、死を覚悟した、だが自分が死ぬだけではない、リオも死ぬ……それを悟ったリョウトは躊躇う事無くコックピットの中にあるガラスに覆われた赤いボタンを殴りつけた。ガラスが砕け、血が吹き出る。それは脱出装置にあらず、それはリミッター……決して解除するなと言われていた最後の安全装置。

 

『うう……うおおおおおおおッ!!!!』

 

ヒュッケバインMK-Ⅲ・タイプMが大きく鼓動した……いや、正しくはその動力、PTという器の中に閉じ込められたメカザウルスの心臓が大きく呼応し、フェイスパーツが展開される。

 

『邪魔をするなアアアアアアアアッ!!!!!』

 

咆哮と共に放たれた熱波がビームを相殺し、アインストを、ノイエDCを、そしてグルンガスト参式を……この場にいる全てを焼いた。

 

「くっ!?」

 

『クスハ!? 大丈夫かッ!』

 

グルンガスト参式はゲッター炉心、そしてトロニウムエンジンを搭載する為に熱には強くなっている。それ故に耐える事が出来た、関節が悲鳴を上げようと、装甲が解けようがグルンガスト参式はまだ動く事が出来た。

 

『はぁはぁ……ブリット! クスハッ! 何してる! もう持たないぞッ! 動けッ!!! アンザイ博士達を助けろッ!』

 

普段のリョウトとは思えぬ荒々しい言動、タイプMの展開されたフェイスパーツが閉じ、機体の各所から冷却された煙が放出される。マグマ原子炉が緊急停止し、予備動力に切り替わったヒュッケバインガンナー・タイプMはもう動かない、あの熱波の衝撃から立ち直られたらもう打つ手はない。今の内に動けとリョウトが叫んだ。その声に突き動かされるようにグルンガスト参式を操り、タウゼントフェスラーにグルンガスト参式が取り付いた。

 

「アンザイ博士! シキシマ博士! 乗り移ってください!」

 

『急いで時間が無いッ!』

 

ブリット達は理解していた。最早この場で戦い続けるのは不可能だ、超機人も守れない。だがエリとシキシマの2人は助けられると……手を差し出して、乗り移れとクスハとブリットが叫んだ瞬間。強烈な念動力がブリット達を襲った……それは超機人の物ではない。

 

『御機嫌よう。皆様お元気そうで何よりですわ』

 

空間が裂け姿を現したのはペルゼイン・リヒカイト、そしてアルフィミィだった。

 

(……異なる始祖の系譜ですのね……面白くありませんこと……)

 

アインスト・ゲシュペンストS、そしてアインスト・R-SWORDとは指揮系統が違う。自分の言う事を聞かない2体のアインストを一瞥し、アルフィミィは蚩尤塚に視線を向け確信した。前にこの地に現れたときよりも、超機人の念が強まっていると……

 

(……守護者の僕……その目覚めが近いようですのね……ですが、今なら……素材として使えるかも知れませんの)

 

本来ならば超機人はアインストに侵される事はない。だが目覚める瞬間の――弱っている今ならばその限りではない。

 

「お、女の子……が取り込まれてる。ッ!?」

 

初めてペルゼイン・リヒカイト、そしてアルフィミィを見たクスハは人間がアインストに取り込まれていると感じた。

 

『クスハ違う! あいつはアインストだ! 人間じゃないッ!』

 

人間じゃないと断じたブリットの声を聞いてアルフィミィはむっと眉を細めた。

 

『今はまだ……ですのよ』

 

言わなくても良いことをアルフィミィは口にしてしまっていた。その声を聞いて説明しろというブリットの声を聞いてアルフィミィは自分のミスを悟ったが、やる事は変わらないのだ。

 

『答える必要はございませんの。 それに……貴方達にはここで眠っていただきますので。永遠に……』

 

冷たい殺気がペルゼイン・リヒカイトから放たれ、それを感じ取ったブリット達は息を呑んだ。

 

『お前がこいつらのリーダーって所ね?』

 

その殺気を受け流し普通に動いているのは風蘭だけだった。互いに観察するような視線を向け同時に目を逸らした。「今」はまだ戦う時ではないからと……風蘭はアインスト・ゲシュペンストSの攻撃が激しさを増し、そちらに意識を向けなければならなかったからだ。

 

(でも好都合ですの、時間を掛けている時間はありませんから……)

 

超機人の念は今もどんどん増している。覚醒する瞬間を逃し敵に回られるわけには行かないとアルフィミィは超機人の念と同調している念動力者を探す。

 

(……人の思念……より強い……念の力……守護者の僕はそれに……反応している……そして……この中で最も強い力は……)

 

自分を人間ではないと断じた男の乗るグルンガスト参式からそれを発せらていることを感じ取ると、ペルゼイン・リヒカイトは虚空から刀を取り出して構えた。

 

『貴方……レディに対する態度も悪いですし……ここでお仕置きしてあげますのッ』

 

弾丸のような勢いで切り込んでくるペルゼイン・リヒカイトを見てブリットはグルンガスト参式を反転させる。

 

『リョウト、リオ! 何とかしてお前達は博士達を助け出してくれ! あいつは俺達で食い止める! クスハ行くぞッ!』

 

「う、うんッ!!」

 

ヒュッケバインガンナー・タイプMが動けないのは判っている。だがペルゼイン・リヒカイトがグルンガスト参式を狙っている以上自分達で救出は無理だと叫び、ブリットとクスハはペルゼイン・リヒカイトと対峙した。

 

『行きますわよ?』

 

少女の口調とは打って変わって一撃で命を刈り取りに来る刃にブリットは必死に対応していた。

 

(早い! それに重いッ!)

 

『今乙女に重いって思いましたの? 本当に礼儀知らずの人ですのッ!』

 

ペルゼイン・リヒカイトから感じる圧力が増し、鍔迫り合いになれば両断されると判断し、ブリットは決死の表情でその一撃を横に弾き距離を取ろうとするが、距離が開けば即座に鬼面から光線が放たれ、グルンガスト参式の装甲を容赦なく溶解させる。攻め込むチャンスだが、ペルゼイン・リヒカイトは自身の獲物を見て動きを止めていた。

 

「きゃあッ!」

 

『クスハ! 大丈夫かッ!?』

 

「う、うん!」

 

しかしクスハとブリットも動きを止めている間に離脱する事は出来なかった。ライゴウエの熱と衝撃、そしてヒュッケバインガンナー・タイプMの熱の放出でダメージを受けており、コックピットで小さな爆発が連続して発生していたからだ。

 

『……その剣、ゲッター合金ですのね?』

 

無銘を見て目を細めるアルフィミィ。PT・特機の為に開発された無銘はゲッター合金とゾル・オリハルコニウム製だ。ゲッター炉心が無くともゲッター合金と言うだけで対アインストには絶大な効果を発揮する。

 

『……少し本気で行きますのよ』

 

無銘がゲッター合金で出来ていると悟ったアルフィミィは油断をしていたら致命傷を受けると判断し、一気にグルンガスト参式を破壊する事を決め、両肩の鬼面を分離させ鬼人を召喚し、3体で同時にグルンガスト参式へと襲い掛かるのだった……。

 

 

 

ペルゼイン・リヒカイト、グルンガスト参式。そしてアインスト・ゲシュペンストS、R-SWORDとそれに影響を受けて凶暴化しているアインストの攻撃は凄まじく、誰も蚩尤塚に近づく事は出来ず、完全な均衡状態に陥っていた。

 

「……なかなか……頑張りますのね」

 

それはアルフィミィの嘘偽りの無い感想だった。ペルゼイン・リヒカイト、そして2体の鬼面を相手にし、グルンガスト参式はまだ人型を保っていた。それは十分に賞賛に値し、それと同時にここで殺さなければならないと決意させるには十分だった。

 

(……反応が強まって来たようですのね……、人の念を取り込む前に……事を終えてしまわないと…面倒な事に……なるやもしれないですの……)

 

念動力は窮地によって覚醒する、ここまで粘られてしまうのは計算外であり、そしてアルフィミィにとって都合の悪い流れだった。

 

「人の念が無ければ、僕は御しやすくなる筈ですの……だから……ここで死んで欲しいですの」

 

グルンガスト参式を襲っていた鬼面2体を肩に戻し、即座にライゴウエを繰り出すアルフィミィ。剣での間合いの取り合いから急に遠距離攻撃へと切り替えた事で必中を確信していたアルフィミィだが、ブリットはグルンガスト参式を見事に操って見せ、ライゴウエを避けてみせる。

 

『お前の思い通りにさせるかッ!!』

 

しかもそれで終わらずオメガブラスターでの反撃さえして見せた。これにはアルフィミィも反応出来ず、オメガブラスターの光に飲み込まれた。

 

「お見事ですの……僕が反応するだけの事はございますのね」

 

ペルゼイン・リヒカイトを撃墜するにはパワー不足は否めなかったが、あの反撃は流石のアルフィミィも少しは驚いた。

 

「さっきので終わりじゃないッ! 続けて行くぞッ!!』

 

無銘を構え突撃してくるグルンガスト参式。守りから反撃に出るチャンスを見出し攻撃に出た。攻撃こそ最大の防御を体現する武蔵とゲッターロボを近くで見ていたからこその行動だが、それは悪手だった。

 

「お若いですのね……ならば利用させていただきますの。 その機体の……受信機を」

 

T-LINKシステムは念動力を感知するシステム――それはパイロットであるブリットとクスハの念を感じ取り機体の出力を向上させるが、あくまでT-LINKシステムは受信機であり、増幅する念を識別する事は出来なかった。

 

『ぐあッ!?』

 

『あぐっ!?』

 

アルフィミィの強烈な念にブリットとクスハは強烈な頭痛を感じ呻き声を上げ、許容範囲を超える念動力を叩きつけられたグルンガスト参式は機体の各所から黒煙を上げ、ペルゼイン・リヒカイトの目前でその動きを止めた。

 

「その2つの受信機は……私の思念をも増幅してくれますのよ? つまりそれは……両刃の剣という事なのですの……」

 

その言葉と共にペルゼイン・リヒカイトの両肩の鬼面が分離し、再び異形の日本刀を手にした鬼となり、動けないグルンガスト参式へと迫る。

 

「大丈夫ですのよ? 優しく、優しく致しますの」

 

アルフィミィの優しげで儚げな言葉とは違う鬼の雄叫びが響き渡り、その異形の日本刀を力任せに何度も何度もグルンガスト参式に叩きつける。

 

『ぐあッ!? うぐっ!?』

 

『きゃあああッ!!』

 

斬撃の嵐にグルンガスト参式の左腕が切り落とされ、右胸から左足に掛けて鋭い斬撃の後が刻みつけられ、異形の日本刀を左右から突き立てられ、完全に動きを止めたグルンガスト参式の前に悠々とペルゼイン・リヒカイトが歩みを向ける。

 

「さよならですの」

 

『ブリット!』

 

『ブリット君!』

 

手にした刀をグルンガスト参式に突き立てようとしている光景を見て、リョウトとリオがブリットの名を叫び、コックピットから外れてくれと願いグラビトンライフルHをペルゼイン・リヒカイトの背中に向かって発射する。

 

「そんなのじゃ私もリヒカイトも止まりませんのよ? それと邪魔はしないで欲しいですの」

 

無防備な背中に命中したのにペルゼイン・リヒカイトは動きを止めず、苛立ちを伴った声と共にグルンガスト参式を拘束していた鬼の目からライゴウエが連射で放たれる。

 

『くっ!?』

 

『駄目ッ! 近づけないッ!』

 

ブリット達を助けたいのに近づけない、圧倒的な弾幕の前にヒュッケバインガンナー・タイプMは急上昇を余儀なくされ、なんの妨害も無くなったと確信し、アルフィミィは刀の切っ先をグルンガスト参式に向け、その刃を突き刺そうと1歩前へと踏み出した。

 

「っと、なんですの?」

 

今までに比べ物にならない衝撃を背部に受け、コックピットに向けられていた刃は僅かに逸れた。だがグルンガスト参式の動力部を刺し貫き、爆発と共にグルンガスト参式を蚩尤塚近くまで弾き飛ばした。

 

『可愛い声をしてえぐい事するね』

 

『あれは……終わりましたね』

 

アインストと戦っていた風蘭とアーチボルドがもう終わりだと判断するほどに深い傷を受けたグルンガスト参式のカメラアイからは光が途絶えた。

 

「私の邪魔をしたのは誰ですの?」

 

邪魔が無ければ確実にグルンガスト参式を破壊できた。それを確信していたアルフィミィは苛立った様子で振り返り、その顔を蒼くさせた。

 

「……なんですの……ッ」

 

崩落した地面から無数の手が伸びるその異様な光景にアルフィミィは絶句し動きを止めた。そしてその一瞬がアルフィミィの明暗を分ける事となった。

 

「うぐっ!?」

 

穴から放たれた無数の光線に貫かれ、グルンガスト参式にトドメを刺す事も出来ず強引にグルンガストから引き離されてしまった。

 

「これは……ゲッター線ですの!?」

 

ただの光線ならば逃げる事は無かった。だがペルゼイン・リヒカイトを襲ったのはゲッタービームだった……溶かされるように溶解している装甲を見てアルフィミィは驚愕の声を上げた。

 

『あ、あれはッ!?』

 

『げ、ゲッターロボッ!?』

 

戦いの中で崩落し、大きな口を開けた採掘現場を覗き込んだアインストだったが、そこから放たれた桃色の光線がアインストを飲み込み消滅させる。そしてまるで地獄の亡者が他の罪人を払い除けてでも地上に出ようとする浅ましさと邪悪さを伴って穴の中から這い出て来たのは無数のゲッターロボだった。

 

『なにあれ……気持ち悪い……』

 

『なんだ……何故あんな物がここに眠っていた』

 

『おやまあ……お宝は超機人だけではありませんでしたか……』

 

だが頭部が無い、腕が無い、左半身が無い、足が無い、コックピットには鮮血の後が残されている。五体満足の姿をしたものはいない、焼け焦げ、ひび割れ、溶解したボロボロの死人、あるいはゾンビという印象を受けるおぞましい姿をした無数のゲッターロボが蚩尤塚の地下からその姿を現すのだった……。

 

 

第113話 地獄門 その6へ続く

 

 




こちら側の地獄門から出現したのは、アインスト・ヴォルフから生み出されたゲシュペンスト・タイプSとR-SWORDを真似たアインスト2体、そしてアンデットゲッターロボ軍団でした。まさしくこれは地獄絵図だと思うのですがどうでしょう? ありなしはあると思いますが、個人的にはかなり良い演出になったのではないか? と思っております。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第113話 地獄門 その6

 

第113話 地獄門 その6

 

錆び付いた異様な金属音を立てながら滑落した蚩尤塚の地下から次々とゲッターロボが這い出てくる。オイルを、火花を撒き散らし、自分の下にいるゲッターロボを砕きながら、少し前へ移動し力尽き、また別のゲッターロボが力尽きたゲッターロボを踏み台にして地底から這い出てくる。それが何十、何百というゲッターロボによって行なわれる光景はおぞましく醜悪であった。

 

「な、なにあれ……き、気持ち悪い……ッ」

 

他人を犠牲にしても自分が再び外に出るのだと、他人を押しのけてでも外に出ようとする光景を見てリオは吐き気を覚えた。

 

「武蔵さんのゲッターロボに似てるけど……少し違う?」

 

旋回しながら地面から這い出てくるゲッターロボを観察しているリョウトは地面から出現しているゲッターロボの細部やデザインが少し違う事を見て取った。

 

「試作機? プロトタイプなのか? それよりもパイロットは……なッ、む、無人ッ!?」

 

ヒュッケバインガンナー・タイプMの望遠モードで確認したコックピットは無人だった。夥しい血痕や、骨を僅かに乗せたゲッターロボは確かに無人で動き、そして……その空虚な瞳をヒュッケバインガンナー・タイプMへと向けた。

 

「リオ! しっかり掴まってッ!」

 

「え、えっ!? きゃあッ!?」

 

トマホークが、ゲッターマシンガンが、ドリルミサイルが、ゲッターミサイルが、そしてゲッタービームが無差別に放たれる。それは無軌道で互いにぶつかり合いその軌道を大きく変え攻撃の軌道をまるで読む事が出来ない。

 

「ぐうっ!?」

 

「くっ!?」

 

下部に被弾し大きく揺れるヒュッケバインガンナー・タイプM。幸い命中したゲッターミサイルは不発弾だったが、それでも射出された勢い、そして質量は凄まじくそれぞれのコックピットでリョウトとリオの身体が大きく跳ねた。

 

「近づけませんの……ッ」

 

そして攻撃を受けているのはリョウトとリオだけではない、ノイエDC、そしてアインストにもゲッターロボ軍団は攻撃を仕掛けてきていた。

 

「邪魔ですの……ッ」

 

「!?」

 

緩慢な動きでドリルを突き出してきたゲッター1の頭部、ライガーの胴体、そしてポセイドンの脚部というちぐはぐなゲッターロボの攻撃を避け、その手にした日本刀で両断するペルゼイン・リヒカイト。しかし爆発したゲッターロボの中から無数のゲッターアームが伸び、ペルゼイン・リヒカイトの両手足に巻きつき、ドリルを構えているゲッター2、ライガー、そして点滅を繰り返しながらもゲッタービームを放とうとしているゲッター1とゲッタードラゴンを見てアルフィミィは顔を歪めた。

 

 

「選ばれなかった者が未練がましいですのよッ!!」

 

アルフィミィは知っている。この地に眠るゲッターロボは選ばれなかった者、出来損ないで、それでも尚ゲッター線に認められることを願っている。

 

「……その並び……いただきますの」

 

地響きを立て、ペルゼイン・リヒカイトの回りに紫色の火柱が上がり、そこから鬼が現れ口から光線――ヨミジを放ちゲッターロボを薙ぎ払う。

 

「……本当に見苦しいですのよッ!」

 

上半身と下半身を両断されても尚動くゲッターロボを見てアルフィミィは吐き捨てるようにそう呟いた。アルフィミィが不機嫌な理由――それはアルフィミィとて理解している訳ではないが、それは紛れも無く同属嫌悪――届かぬ光に手を伸ばし続けるゲッターロボに自分を重ね、アルフィミィは攻撃的になっていた。

 

【……】

 

【……】

 

アインスト・ゲシュペンストS、アインスト・R-SWORDは無尽蔵に姿を見せるゲッターロボを見て、そのセンサーアイを光らせユウキとカーラ、そして風神鬼から背を向けて地底へと向かう。

 

「こら待て! ここまでやっておいて私を無視するなッ! ああ、くそッ! 邪魔するなよッ!」

 

「……ッ!」

 

無人機のゲッターロボ攻撃を受け風蘭が苛立った様子で叫ぶが、その光景を見ながらアーチボルドは現在の状況を把握し指示を出した。

 

「ふむ、なるほど。ユウキ君、カーラ君、あの地面から這い出てくるゲッターロボを何機か回収しましょうか」

 

『お言葉ですが、ここは撤退するべきかと』

 

ユウキの言葉に生き残りのノイエDCの兵士も賛同する。無尽蔵に出現するアインストとゲッターロボ――その争いはすさまじく、ここで行動に出れば自分達にも被害が及ぶ、いま自分達を見てない内に逃げるべきだと進言したアーマリオンがゲッタードラグーンの抜き打ちで貫かれ爆発炎上する。

 

「ここの指揮官は僕です。超機人か、それともゲッターロボか、どちらかもって帰らないと僕達自身の首が危ないですよ。それとも餌になりたいというのなら別ですが」

 

餌――アースクレイドルの中に居る人食いの老人、それに差し出されるかもしれないと悟ったノイエDCの兵士達からひゅっと息を呑む音がする。

 

「僕としては超機人が欲しいんですけど……ね、それも厳しそうですしね。それならゲッターロボの方がまだ芽があると思いませんか?」

 

蚩尤塚のすぐ近くで沈黙しているグルンガスト参式と、アインストとゲッターロボの攻撃によって姿を現した超機人は最早スクラップと言っても良い超機人――それでもアーチボルドは超機人の方が欲しいと思っていたが、その周辺は特にゲッターロボの数が多い。あれを突っ切って超機人を回収するのはゲッターノワールでも酷で、仮に回収しても修理が出来なければ意味は無く、そうなればゲッター合金を回収出来た方が旨みがあり、更に命も繋がる。

 

『了解、ゲッターロボの回収を始めます』

 

「ええ、出来るだけ状態の良いのを頼みますよッ!」

 

右腕、左足が無い半壊したゲッターロボに向かってゲッタートマホークを振るわせる。だが倒した以上のゲッターロボに囲まれ、アーチボルドは舌打ちをした。

 

「僕とノワールは君達の仲間じゃないんですけどねぇッ!」

 

残された腕を伸ばし、近づいてくるその姿はゾンビにしか見えず、救いを仲間に駆け寄るように擦り寄ってくるゲッターロボの群れ、しかも近づいてくるゲッターロボはスクラップ同然で、回収する価値も無い。そんな相手と戦い続けているアーチボルドに徐々に苛立ちが募る。

 

『少佐、ヒリュウ改がこちらへ突っ込んできますッ! 約3分後です』

 

「……本当悪い事って重なりますねぇ……っ!?」

 

ヒリュウ改が蚩尤塚に近づいていると言う報告を聞いてぼやいたアーチボルドの目の前で蚩尤塚から光の柱が立ち上る。

 

「まさかッ!? あの状態で動くというのですか!?」

 

『『龍虎王推参ッ!!!』』

 

光の柱の中から現れた龍と虎の意匠を持つ超機人の姿を見て、アーチボルドは忌々しそうに舌打ちをするのだった……。

 

 

 

時間は少し遡る――蚩尤塚に背部から叩きつけられたグルンガスト参式はその前のペルゼイン・リヒカイトの攻撃とも相成って、完全にその機能を停止していた。

 

「ぐうう……ううっ!!」

 

辛うじてコックピットへの直撃は回避したが、ギリギリの所を掠めたことでグルンガスト参式のコックピット――Gラプターは致命的な損傷を受けており、ブリットもその意識を飛ばしていた。

 

『ブ、ブリット君ッ!! ブリット君大丈夫ッ!!』

 

何度も自分の名を叫ぶクスハの声で目を覚ましたが、ダメージは深刻で呻き声すら出ない状況で手を伸ばし、通信機の電源を入れるブリットは自分の機体の状況をゆっくりとクスハに伝えた。

 

「こ、こっちの操縦系がやられた……ッ! それに……折れては無いが……腕も足も殆ど動かない……」

 

意識を取り戻した事が奇跡とも言える重傷――身体を鍛えていたブリットだからこそ意識を取り戻し、こうして会話をする事が出来ているが、そうでなければ叩きつけられた段階でブリットは確実に死んでいた。

 

「Gバイソンを強制排除する……ッ!  クスハ、お前は逃げろ……ッ!」

 

モニターが死んでいて状況は把握出来ていないが、振動と爆発の近さで敵が近づいているのが判り、ブリットは震える手で緊急分離を行なう為のレバーに手を伸ばす。

 

『ダメよッ!  それじゃブリット君がッ!!』

 

「こ、このままじゃ2人ともやられてしまう……ッ! だから、お前だけでも……ッ」

 

Gラプターが大破してしまえばグルンガスト参式は動けない。それならせめてクスハだけでも生きて欲しいとブリットは願った。だがクスハはそれを嫌だと叫ぶ。

 

『嫌よ、絶対に嫌ッ! こっちでなんとかコントロールしてみるッ!!』

 

「や、止めろ……ッ! 俺のGラプターはもう……ッ! それにリョウト……とリオにも通信が繋がらないんだぞッ」

 

リョウトとリオならばこの状況でブリットとクスハを見捨てる訳がない。それでも連絡が通じないと言う段階で戦闘が激しくブリットとクスハを助ける事が出来ないという事を意味していた。

 

「……クスハ、頼む。俺の言う事を聞いてくれ……」

 

『嫌……嫌よ! ブリット君……お願いだから諦めないで……』

 

震えるその声を聞けばクスハが泣いているのが判り、ブリットに罪悪感が芽生えるが、それでも操縦系が纏めてお釈迦になり、再起動する目処も無く、そしてブリット本人も重傷で動けないとなればクスハを道連れにしてしまう。ブリットはそれだけは許せなかった……なんとしてもクスハだけは生かしたい……そう思った直後凄まじい振動がグルンガスト参式を襲った。

 

「ぐうっ……」

 

『きゃあッ!?』

 

モニターが死んでいて外で何が起きているのか判らない。無防備な状態の振動にクスハとブリットの悲鳴が重なり、なんの光も無かったグルンガスト参式のコックピットにどす黒い緑の光が広がった。

 

「なんだこれは……ぐっううう、うあああああッ!!」

 

『いや、止めてッ! 私の中に入ってこないでッ!!』

 

嘆き、悲しみ、恨み、絶望――ありとあらゆる負の感情が緑の光と共にクスハとブリットを襲った。

 

「や、止めろぉ……」

 

『やだ……やめてよお……』

 

その光が、ゲッター線が自分達を蝕んでいるのとブリットは感じた。武蔵のゲッターロボの光り輝く翡翠の輝きではない、地獄から溢れたようなどす黒いそのゲッター線に宿る何かの意志が……自分達を浸食してくるのをブリットもクスハも感じていた。

 

「うがああッ!?」

 

『あ、あああ……』

 

自分が自分でなくなるような不快感、そして自分の心を暴こうとしている何者かの邪悪な意思――肉体ではなく精神が死んでしまう。そう感じた時、威厳を伴う何者かの声が響いた。

 

【去れッ! 選ばれなかった者達よッ!】

 

強烈な一喝と共にブリットとクスハの心を力ずくで抉じ開けようとしていた何者かの気配は急速に遠ざかって行った。

 

「なんだ……今の声は……」

 

『この声は……何?』

 

男とも女とも取れぬエコーの掛かった声がグルンガスト参式のコックピット――いや、ブリットとクスハの脳内に響いた。

 

【吾、汝らに問う……人界の救済を望むや?】

 

『あ、貴方は誰なんですか……』

 

「待てクスハ、相手が何者かも判らないんだぞ!」

 

その不可思議な声の持ち主に何者なのかと問いかけるクスハにブリットが声を上げる。

 

【汝の懸念も判る。選ばれなかった者の怨念に触れたのだからな……】

 

「選ばれなかった者? なんだそれは」

 

【……進化の光に選ばれず、この地に残された者……皇帝に見初められなかった者達の骸。それは皇帝の使いに今一度目を掛けてもらう事を願っている。ゆえに、お前達に残る皇帝の光に引かれ、そして悪意に反応しあの者達は目覚めたのだ】

 

コックピットに光が灯り、外の光景がブリットとクスハの目の前に広がった。

 

「げっ、ゲッターロボッ!?」

 

『なんで、なんでゲッターロボがリョウト君達を攻撃しているの!?』

 

地面から現れるゲッターロボがアインスト、ノイエDC、ヒュッケバインガンナー・タイプMを襲っている光景を見て、ブリットとクスハは声を上げた。

 

「な、なんなんだ、これはッ! 何がどうなっているッ? 進化の光、皇帝、選ばれなかった者ッ!? お前は何を知っているんだ! お前は何者なんだッ!」

 

姿を見せない声の主にお前は何を知っている、お前は何者なんだとブリットが声を荒げる。

 

【吾が名は龍虎王……古より人界を守護する超機人なり、そしてかつて進化の使徒とそして真なる龍帝と共に戦った者……】

 

『龍虎……王……ッ!? さっきから私に語りかけていたのは貴方なのッ!?』

 

「超機人――本当に意志があったのか……」

 

自分達を助けた存在――それが超機人だと判り、ブリットとクスハは驚きの声を上げた。

 

【汝らは破邪強念を有す……故に吾はそれに応えた……吾の目覚めは、的殺の彼方か羅喉神が迫る証とならん。然るに、吾が使命はその使者たる百邪を退け、人界を護る事となり、そして今代の進化の使徒が誤った道へ進まんとした時、それを止める事なり】

 

百邪――そして進化の使徒が誤った道に進まんとした時――その言葉は余りに抽象的だったが、ブリットとクスハは初めて龍虎王が何を言おうとしているのかを理解した。

 

『百邪とはアインストの事ですか?』

 

「進化の使徒とは武蔵の事なのかッ!」

 

教えてくれとクスハとブリットは龍虎王に問いかける。だが龍虎王はその問いかけに返事を返す事は無かった。

 

【時が無い、吾らに……残された時間……は最早無きに等しい……】

 

龍虎王の声にノイズが混じり、その声が遠ざかっていく……。

 

【汝ら……吾らの主と……なる資格あり……吾らの……真なる覚醒……五行器の輪転には、2人の……強念者を要す……】

 

2人の強念者――それが念動力者である自分達であると言うことが龍虎王から語られた。

 

「今は教えてくれないのか……」

 

【時が……無い……吾ら、そして進化の……使徒の因縁を……語るには時が足りぬ……吾らには使命がある……汝ら、人界の……救済を望まば……吾、神体を以て汝らの意を遂げん】

 

龍虎王は全てを語った訳ではない……だがそれでも言葉の節に進化の使徒、恐らく武蔵の身を案ずる響きがあり、そして地球を守りたいという意思をブリットとクスハは感じていた。

 

【吾、汝らに問う……人界の救済を……そして友を救う力を……望むや?】

 

『わ、私は……ッ!』

 

「俺達はここで終わる訳にはいかない……ッ!」

 

地球を救いたいという願いはブリットとクスハにもある。その根底はL5戦役で武蔵がメテオ3に特攻する光景を見ていることしか出来なかった無力感にある。

 

『貴方が私達の世界を守る存在だと言うのなら……』

 

「俺達の力をあんたに貸すッ!!」

 

ブリットとクスハの強い決意が込められた言葉を聞いて龍虎王の声が明るい物となった。

 

【ならば、唱えよ……必神火帝……天魔降伏……龍虎合体】

 

「必神火帝ッ!」

 

『天魔降伏ッ!』

 

『「龍虎合体ッ!!」』

 

グルンガスト参式が、己の身体が分解され、龍虎王に吸い込まれていくような感覚をブリットとクスハは感じ、龍虎王に完全に吸い込まれる瞬間に巨大なゲットマシンが地球を覗いているそんな映像が2人の脳裏を過ぎったのだった……。

 

 

 

 

光の柱が立ち、そこから現れた巨人を見て風蘭は身を震わせた、圧倒的な闘気、そして存在感――そして龍虎皇鬼を連想させる龍と虎の意匠に、これこそが龍王鬼が求めて止まない強敵だと悟ったからだ。

 

(さぁ、見せて見せなさい。超機人ッ! 貴方の力をッ!)

 

興奮を隠し切れない風蘭は風神鬼のコックピットで牙をむき出しにして笑った。龍虎皇鬼はアーチボルドがブライに献上した超機人について纏めた資料を元に作成された百鬼獣だ。そういう意味では超機人のデッドコピーと呼んでもいい、だが風蘭も、龍玄もヤイバも闘龍鬼も、誰もデッドコピーなんて思っていない。自らの王が操る機体が出来損ないの複製品などと思う臣下がいるわけが無い、龍虎皇鬼が龍虎王よりも強いと誰もが信じている。そしてそれと同時に龍虎皇鬼と同格の強さを龍虎王が持っていなければならないと言う思いがある。

 

『龍虎王……貴方の力を……』

 

龍虎王の全身から雷が放たれ周囲を染め上げる。その雷はアインストを、ゲッターロボ軍団を焼き払い、ユウキ達にも神罰と言わんばかりに降り注ぐ。

 

「ははッ!! はははははははッ! そうだね、そうだね!! こうじゃないとねッ!!」

 

その雷は風神鬼にも降り注いだが、それを回避しながら風蘭は笑い続ける。そうだ、こうでなければならない、龍虎皇鬼は雷を操る、龍虎王もまた天候を操って貰わなければならないと言わんばかりに声を上げて笑う。

 

『私達に示してッ!!』

 

尾の先の宝珠が切り離され、それを龍虎王が掴むと異様な形の大剣へとその姿を変える。

 

『龍王破山剣ッ!!』

 

『は、はや……ううっ!?』

 

殆ど一瞬でペルゼイン・リヒカイトの懐に飛び込み、その大剣の切っ先をペルゼイン・リヒカイトに突き刺し、横薙ぎ一閃で弾き飛ばす。その直後正眼に構える。

 

『逆鱗断ッ!! えええええいッ!!』

 

裂帛の気合と共に振るわれた一閃がペルゼイン・リヒカイトに深い切り傷をつけて斬りとばす。しかし龍虎王の攻撃はそれだけに留まらず、吹き飛ぶペルゼイン・リヒカイトを追って空を駆ける。瞬きほどの一瞬で青い龍神の姿が白銀の獣神へと変り、数えるのが馬鹿になるほどのラッシュをペルゼイン・リヒカイトへと叩き込む。

 

『これでトドメだぁッ!!』

 

『!?』

 

高速で回転する右拳がペルゼイン・リヒカイトの胴に叩き込まれ、そのままゲッターロボが這い出てくる地底の窪みに向かってペルゼイン・リヒカイトが叩き付けられ、地表が砕け、崖が崩れる。その凄まじい破壊力は風蘭の目から見ても龍虎皇鬼と遜色なく、賞賛に値する力をその目の前で見せていた。それだけで風蘭はこの戦いには意味があったと笑みを浮かべた、龍王鬼、虎王鬼の2人に良い土産話が出来た。後はゲッター合金でも持ち帰れば戦果としては十分でおつりが出る。

 

「アーチボルド、撤退しな。私が殿をするからさ、忘れないでゲッターロボ持って帰りなよ」

 

そう考えてアーチボルドに風蘭は撤退命令を出す。

 

『よろしいのですか?』

 

「別に残って戦えるなら良いけどさ、そこの所どう? 超機人は連邦に行ったし、アインストもゲッターロボも、ついでにヒリュウ改も来たけど?」

 

ノイエDCの包囲網を突き抜けて蚩尤塚に姿を現した真紅の戦艦――「ヒリュウ改」の姿を確認し、風蘭がそう尋ねる。

 

『失態に失態を重ねることになりそうですねぇ……』

 

「まぁリクセントの件は私達はフォローしないけど、今回の件はフォローして上げるよ。それでどうする? 残ってくれるの?」

 

ギギギっと音を立てて動き出すプロト・ゲッターロボ。そしてよろよろ立ち上がったペルゼイン・リヒカイトを支える無数のアインスト軍団、そして今地面を吹き飛ばして再び姿を見せたアインスト・ゲシュペンストS、アインスト・R-SWORDに加えて、一騎当千のヒリュウ改と超機人「龍虎王」……正直乱戦も乱戦、しかも多勢に無勢という状況だ。

 

『すみません、ここは下がります。ゲッターロボの残骸だけはしっかりと持ち帰りますね』

 

「うん、そうしなよ。最低でも3体は持ち帰ってよ」

 

判りましたと返事を返し、ゲッターロボの残骸を抱え離脱するゲッターロボ・ノワール。それに続くように生き残っていたノイエDCの兵士達もほんの僅かだがゲッター合金を抱えてASRSを起動して次々と離脱する。

 

『風蘭さんでしたね、お気をつけて』

 

『本当に大丈夫?』

 

「大丈夫大丈夫、私も何も死ぬつもりも無いし、程ほどの所で帰るよ。ほら、行った行った」

 

風神鬼の手をひらひらと振り、さっさと逃げろと言うとユウキとカーラに率いられ、ノイエDCの部隊も蚩尤塚を離脱する。

 

(さてと……随分と因縁がありそうだねえ)

 

風蘭とアーチボルド達が話をしている間にヒリュウ改から部隊が展開され、損傷の大きなペルゼイン・リヒカイトは転移で離脱し、入れ替わりにクノッヘン、グリート、ゲミュートのアインストが出現する。普通ならば死を覚悟する混迷を極めた戦場――だがこの舞台こそが風蘭が1番得意とし、風神鬼の力を発揮出来る戦場でもあるのだった……。

 

 

 

 

 

ブリット達からの救援信号を受け蚩尤塚に辿り着いたキョウスケ達を出迎えたのは異形――「アインスト」の群れ、そしてコックピットが無人で全身からオイルや火花を撒き散らしながら動き続ける残骸「プロトゲッターロボ」――そして風を司る百鬼獣「風神鬼」と「風蘭」そして今までのアインストと一線を画した姿をした漆黒のアインスト「アインスト・ゲシュペンストS」そして白銀のアインスト「アインスト・R-SWORD」の姿だった。

 

『おいおいおい……なんだこりゃあ、出来の悪いB級ホラーか?』

 

そこに人はいない、いるのは化け物ばかり、カチーナの言うB級ホラーと言うのも納得の例えだった。

 

『キョウスケ中尉、グルンガスト参式の姿がありませんのです』

 

『キョウスケ中尉! 私もブリット君も無事です!』

 

竜と虎の意匠を持つ特機から響いたブリットとクスハの声――それは姿の見えないグルンガスト参式が撃墜されたかもしれないと言う不安を吹き飛ばす明るい声だった。

 

「ブリット、クスハ……もしやその機体は……?」

 

『ええ、これが蚩尤塚の中で眠っていた……超機人「龍虎王」です』

 

『何でお前らが そんなのに乗ってんだよッ!? と言うかあの化け物連中と出来損ないのゲッターロボの群れはなんだ!?』

 

「そ、それは……説明すると長く……』

 

「……事情は後で聞く。 ブリット、クスハ……行けるんだな?」

 

キョウスケの確認の言葉にブリットとクスハが返事を返す。

 

「良し、ならばいい。タスクとラッセル少尉はリョウトとリオのフォローをしつつ、輸送機の救出を、それ以外のメンバーはアインストと

ゲッターロボを迎撃する。マサキとリューネはサイフラッシュとサイコブラスターでアインストとゲッターロボの動きを止めろ」

 

キョウスケが手早くそう指示を出し、その指示に従ってマサキ達が動き出そうとした時だった。

 

『おっと待ちなよ、ここは私の戦場、私の風の世界さ。無粋な風に割って欲しくないねッ!! こいつで吹っ飛びなッ!! 破邪・騒乱破ッ!!!』

 

風神鬼の開かれた翼から無数の札が飛び出し、札同士がエネルギーで繋がりあい、そこから刃を作り出し巨大な風車となって戦場を駆け巡る。

 

「「「!?!?」」」」

 

「「「!!!」」」」

 

アインスト、プロトゲッターを引き裂き、蹂躙し吹き飛ばす。キョウスケ達も踏ん張りはしたが、その凄まじい暴風と風の刃に致命傷とは言わないが各機も少なくないダメージを受ける。しかし、風神鬼の攻撃は敵を倒す物ではなかった。

 

『なっ、出力があがらねぇ』

 

『こっちもッ!?』

 

スピードを得意とし、MAPWによる殲滅を武器とするサイバスターとヴァルシオーネの機動力を封じ、そしてサイコブラスター、サイフラッシュを封じる特殊な電波を発生させる専制攻撃――これによってキョウスケ達の戦術はいきなり瓦解する事になった。

 

『言っただろ? 無粋な風はいらないんだよッ! 私は風蘭、そしてこいつは風神鬼ッ! 龍王鬼様と虎王鬼様の配下さッ!! さぁ踊ろうじゃないかッ! サイバスター、それにヴァルシオーネッ!!!』

 

凄まじい速度で切り込んでくる風神鬼はサイバスターとヴァルシオーネの2機を相手に舞うようにその手にした三日月刀を振るう。

 

『どうするキョウスケ』

 

「何も変らない。風神鬼とやらの広域攻撃で敵は散開した。ここで一気に巻き返す、それだけだ」

 

敵の攻撃によって作られた状況というのは面白くないが、それでもキョウスケ達が作ろうとしていた状況だ。だからこそ巻き返せばいいとキョウスケは平坦に返事を返す。

 

『あんまり熱くならないでよ?』

 

「悪いがそれは無理な話だな」

 

ゲッターロボ軍団その全ては武蔵が乗っていたゲッターロボに酷似している。それがあんな姿で戦っていると言う光景はキョウスケ達の心を逆立てていた。

 

『ラドラ、大佐達はアインストに取り込まれたわけじゃないんだな?』

 

『ああ、もしそんな状況になっていれば連絡が入る、それがないという事は出来の悪い模造品だ』

 

ラドラとギリアムの声にも怒りの色が浮かんでいる。どうしても許容できない物――それがプロトゲッターロボ、そしてアインスト・ゲシュペンストS、アインスト・R-SWORDの存在だった。

 

『もう、しょうがないわね。フォローしてあげるから好きにしなさい』

 

「すまないな」

 

『別に私も嫌な気分になるのは本当だしね』

 

動き出す亡者を鋭く睨み、緩慢な動きで動き出すゲッターロボの胴体にリボルビングバンカーの一撃が叩き込まれるのが戦闘開始の合図となるのだった……。

 

 

 

 

ヒリュウ改のブリッジで戦況を見ていたレフィーナは眉を細めた。確かに状況は乱戦、そして敵味方が入り乱れている……だが戦況は決して一方に傾きすぎないのだ。

 

(戦況をコントロールしてる……一体何の意味があって……)

 

アルトアイゼン・ギーガのリボルビングバンカーでプロトゲッターロボが纏めて吹き飛ぶが、その残骸の影から伸びて来たゲッターアームがアルトアイゼン・ギーガに絡みつき動きを止める。

 

『こんなものでッ!』

 

それは一瞬にも満たない時間だが、アルトアイゼン・ギーガの動きを止め、プロトゲッターロボごと吹き飛ばすと言わんばかりにアインスト・グリートのビーム、そしてアインスト・クノッヘンの骨を飛ばすブーメランがアルトアイゼン・ギーガに迫る。

 

『そうはさせないわよん、ラミアちゃん!』

 

『了解でごんす』

 

高速で迫る骨のブーメランをヴァイスリッター改とアンジュルグの5連ビームキャノンとシャドウランサーが迎撃し、ビームはビームコートと腕をクロスした状態で防御したアルトアイゼン・ギーガの装甲のほんの一部を焦げ付かせるに留まる。

 

『遠慮はいらん、全弾持って行けッ!!!』

 

両肩・バックパックから射出口が展開されベアリング弾の嵐がアインストクノッヘンとグリートを貫き粉砕する。

 

『『『…………』』』

 

その光景を鎧のアインスト――ゲミュートは腕組し、じっと見つめているだけだ。

 

『おらぁッ!』

 

『お前らに付き合ってる時間はねぇッ!』

 

カチーナのゲシュペンスト・MK-Ⅲのライトニングステークとジガンスクード・ドゥロのギガントナックルがゲミュートを殴り飛ばし、強引に道を作り出す。

 

『これでッ!』

 

『ここさえ突破できればッ!』

 

タウゼントフェスラーへの道を塞いでいるプロトゲッターに向かってそして大火力こその攻撃をする余力は無いが、牽制程度の攻撃が可能なヒュッケバインガンナー・タイプMのリープミサイル、ラッセルのゲシュペンスト・MK-Ⅱのスプリットミサイルが放たれ、プロトゲッターの動きを止め、その隙にジガンスクード・ドゥロがタウゼントフェスラーに隣接する。

 

「これでアンザイ博士とシキシマ博士の安全は確保出来ましたな、いえ、害成す気が無かったとも言えますかな?」

 

ショーンの言葉にレフィーナは返事を返さないが、その通りだと思っていた。アインストとプロトゲッターも、そしてキョウスケ達とアインスト、プロトゲッターロボは三つ巴の様相を呈し、互いに攻め込みすぎれば無防備な背中を晒す事になる。ゆえに戦況を冷静に見極める必要があるのだが、アインストとプロトゲッターにはキョウスケ達を倒そうという意思が感じられなかった。

 

『ははッ!! 良いね良いね。そらそら、もっと遊ぼうよッ!』

 

『ちっ、やりにくいったらありゃしないッ!』

 

『全くだぜッ!』

 

風蘭と風神鬼――風を司る鬼とその百鬼獣は確かに風を司っていた。春風のように穏やかで、夏の風のように激しく、冬の風のように厳しく、ころころとその姿を攻撃の緩急を変え、サイバスターとヴァルシオーネと舞うような、見惚れるような激しい舞いを踊っていた。

 

『戦いは楽しくないと行けないねッ!』

 

『バトルマニアとは付き合ってられないぜッ!』

 

『そういうことッ!』

 

サイバスターとヴァルシオーネの挟撃をするりと避け、両手を突き出す。

 

『悪いね、鬼は戦ってなんぼ、そして戦いを楽しまなきゃやってられないのさッ!!』

 

『ぐっ!?』

 

『うあッ!?』

 

その手から放たれた電撃を伴った回転刃がサイバスター、ヴァルシオーネの胴を捉え地表に向かって叩き落す。

 

『やるね、良い男に良い女だよ』

 

墜落しながらもカロリックミサイルとハイパービームキャノンを放つサイバスターとヴァルシオーネの攻撃は風神鬼を確かに捉えていた。

 

『でもね、やっぱり私と風神鬼の武器はそんな物じゃないのさッ!』

 

『はっ! サイバスターと俺を舐めてくれるなよッ!』

 

『あたしとヴァルシオーネもねッ!』

 

武器での、命を奪い合う戦いは終わった。次は自分達の本来の主戦場――超高速のドッグファイトへと変り、音速の壁を突破した証であるベイパーコーンを蚩尤塚の上空に作り出し、空中に自分が飛んだ証であるエネルギーの後を残しながら3機が入り乱れ、空を飛び交う。

 

『……』

 

『……』

 

『見ているな、厄介だ』

 

『紛い物……とも言い切れんな』

 

ラドラとギリアムの相手をしているアインスト・ゲシュペンストS、アインスト・R-SWORDの動きを見てレフィーナの予想は確信へと変った。

 

『ちっ、やりづらい』

 

『……手札を容易に切れんな』

 

ラドラとギリアムのコンビですら容易に動けないと断言した。互いの獲物はビームライフルのみ、それを防ぎ、撃ち、避ける。PTという人型の機動兵器による模範的な戦闘技術、確実に狙って撃ち、攻撃を防ぎあるいは避ける――詰め将棋のような理知的で、そして互いの技量を競う。PTがまだ戦争の為の兵器として開発される前に、1時期だけあった競技としての戦い。互いに切れる札は山ほど残っている、しかしそれを切ってしまえば、相手もそれを上回る札を切ってくる。それが判っているからこそ、ラドラ達は千日手に追い込まれ互いに動けなくなっていた。戦闘こそは激しい、だがそこに倒すと言う意志がない……それは観察する為の、こちらの出方を伺う為の戦いだとレフィーナは判断し、ショーンにどう思うかと問いかけた。

 

「どう見ますか、副長」

 

「そうですなあ、捨て駒でしょうな」

 

自分が考えていた事をショーンに告げられ、レフィーナはある決断を下した。

 

「現在戦闘中の各員に告げます。全力で行動しないでください」

 

はっ? という困惑の声がブリッジに響くがレフィーナはその命令を覆すつもりは無かった。

 

「繰り返します。各員は余力を残し戦闘を続けてください」

 

『ちょいちょいちょい、艦長。どういうこと?』

 

『納得の出来る理由を聞かせてくれッ!!』

 

エクセレンの困惑した声、カチーナの苛立った声。それも当然だ、命がけで戦っているのに指揮官に手を抜いて戦えといわれ、判りましたと言える訳が無い。

 

「敵性存在はこちらの戦力、戦闘パターンを解析している可能性があります。アインストは出現するごとに戦力を増していますが、今周囲に出現している個体はあまりにも弱すぎる、それにゲシュペンストとR-SWORDを模した個体は逃げに回っている事から、本気で戦うつもりが無いあるいは戦況分析をするのが目的だと思われます」

 

これからまだ強くなる可能性のある敵にこちらの手札を全て見せる必要はないとレフィーナはきっぱりとした口調で告げた。

 

『俺もそうするべきだと思う、向こうは様子見を徹底している』

 

『気を抜けとは言わんが5分の力で戦うべきだろう』

 

ラドラ、ギリアムの2人の後押しもあり、その命令に不服そうにしながらもエクセレン達は了解と返事を返した。

 

「……」

 

「艦長、その癖は止めた方がよろしいですぞ?」

 

「あ、え……はい、すみません」

 

知らずに親指を噛んでおり、ショーンに窘められ親指を口から離すが、それでも無意識にレフィーナは親指のツメを噛みそうになっていた。ここで1度気を緩めたら再び引き締めるのは難しい、自分の出した指示は正しかったのか? それに思い悩むレフィーナは戦況を写すモニターを見続ける。4つの陣営による乱戦は始まった時と同じく唐突に終わりを告げた、動いていた無人のゲッターロボは電池が切れたようにその動きを止め、アインスト達は活動限界と言わんばかりにその身体を消滅させ、アインスト・ゲシュペンストとR-SWORDはこれ以上戦っても実入りはないと言わんばかりに転移で姿を消した。

 

『あいつらも逃げただろうし、私も帰ろうかなー。じゃね、今度はもっと本気で戦おうね』

 

そして風神鬼は空中に溶けるように姿を消した。今までの戦いが嘘だったように静寂に満ちる蚩尤塚。誰もが肩透かしを食らったような顔をし、蚩尤塚での超機人を巡る戦いは終焉を迎えるのだった……。

 

 

 

第114話 地獄門 その7へ続く

 

 




今回の話は今まで書いて来た中で1番難産でしたね。龍虎王降臨で書く所終わりましたし、スクラップのゲッターも、2機の特別なアインストもここで決着まで戦えないですし、余力のない状況で生まれているので完全ではない。ここは突然のノーゲームによる終了という終わり方しか思いつかなかった私を許してください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第114話 地獄門 その7

第114話 地獄門 その7

 

再びアインストや地面から多数発掘されたプロトタイプのゲッターロボの残骸が動き出すかもしれないと考え、ヒリュウ改は蚩尤塚で10時間の見張りに着く事を選択した。ハガネの方で確認されたロスターと命名された異形が出現しないとも言い切れず、また無数のゲッターロボのゲッター線は光の柱となり周囲を照らしたことにより、ゲッター炉心、合金を狙うテロリストが出現しないとも言い切れからこその措置だった。格納庫で待機しているキョウスケ達は復活した超機人を見上げながら話をしつつも、いつでも出撃出来るように備えていた。

 

「こ、これが超機人・龍虎王……!」

 

「み、見たまんまの名前だな……タイガードラゴンカイザーキングブレードとかの方がいいんじゃねえ?」

 

威厳さえ感じさせるその姿にラッセルは息を呑んだが、マサキは魔装機神という人知を超えた存在と長い間触れ合っていたからか、どこか間の抜けた返事を返す。

 

「それじゃ、ブリット君が舌噛むんじゃなぁい?」

 

「ま、まぁ、リュウセイ君なら喜びそうですけどね」

 

そもそもブリットの名付ける名前のセンスじゃないとヒリュウ改の格納庫に少し気の抜けた笑い声が響いた。

 

「所で、 参式はどうなっちまったんだ? アインストかゲッターロボに壊されちまったのか?」

 

最新特機であるグルンガスト参式が壊れてしまったと思っているカチーナは勿体無いなとぼやいたが、リョウトが違いますと口にした。

 

「実は……龍虎王が自分の体内に取り込んでしまったんです」

 

「何!?」

 

「あらら、リューコちゃんてば見かけによらず器用なのね」

 

機体を取り込んだと聞きカチーナは驚きの声をあげ、エクセレンは呆れ半分という様子で小さく笑った。

 

「どうも龍虎王は大破していて、グルンガスト参式も中破してしまっていて動けなかったんです」

 

「なるほど、互いにこのままでは死ぬと判断して、吸収して再構築したと言うことか……まぁありえない話ではないな」

 

「いや、ラドラ。旧西暦基準で判断しないでくれる?」

 

旧西暦基準で考えれば普通でも新西暦ではありえない事だ。驚いていないラドラにエクセレンが思わず突っ込みを入れたのも無理はないだろう。

 

「それは大丈夫なのか? こうブリットとクスハも取り込まれたりしない?」

 

「ちょっと怖いよな。いや、確かに頼りにはなると思うけどさ……」

 

取り込んだと聞いてリューネとタスクが渋い顔をする。顔には出していないが、ギリアムやキョウスケもほんの少しばかりの不安を抱いていた。だがそれは他でもないブリットとクスハによって正された。

 

「でも、私とブリット君は龍虎王と虎龍王のおかげで助かりました……そうでなかったら私達はきっと正気を失っていたと思います」

 

クスハの視線の先はヒリュウ改に回収されたプロトゲッターロボの残骸に向けられる。

 

「何かあったのか?」

 

「はい、プロトゲッターロボの残骸に宿っていた思念が私とブリット君を襲って来たんです。苦しくて、痛くて、どうして選んでくれなかったって絶望感に押し潰されそうになった時に龍虎王が助けてくれたんです」

 

「そして、彼らはこの世界を守る為、そして進化の使徒が誤った道に進まぬように、俺達と一緒に戦うと言ったんです」

 

進化の使徒――それはアルフィミィと名乗るアインストも何度も口にしていた。それが意味する物はただ1つ武蔵に他ならない……。

 

「選ばれなかった者、皇帝……全く意味が判らないでありますね」

 

ラミアがそう呟いた時、残骸のゲッターロボのコックピットから這い出るようにシキシマが姿を現した。白衣はオイルなのか、血なのか判らないが赤く染まり、その顔にもべったりと赤い何かが付着している、それでもシキシマの目は歓喜に揺れていた。

 

「そうでもないわい、ゲッター線は進化を司る意思の放射能じゃ、つまりこの残骸は選ばれなかった。不合格、出来損ないと断じられたのじゃ」

 

冷酷に、しかし楽しそうに言うシキシマの目には狂気の光が宿っている。

 

「出来損ないとは……それだけの数のゲッターロボがですか?」

 

確認されているだけで45機のゲッターロボが確認されている。それだけ不適合だと言うのですか? とキョウスケが問いかける。だがシキシマは返事を返さなかった。

 

「先にエリの話を聞け、ワシの話を聞きたければ武蔵からの連絡を待つんじゃな、そもそもあやつの話を聞かねば偉そうに話も出来ん」

 

「そんなことを言うけどシキシマ博士。貴方が武蔵と話をしたいだけじゃないの?」

 

格納庫に入ってきたエリの問いかけにシキシマはにっと欠けた歯を見せ付けながらにやりと笑った。

 

「当たらずとも遠からず、じゃがワシのは独学、やはりゲッターロボを知る武蔵と話をせんとまともに話す事も出来んよ」

 

蚩尤塚に現れたゲッターロボについては謎が余りにも多すぎる。シキシマもある程度の考察は出来ても、それが真実とは言えず。更に言えば自分の不確かな話で先入観を与える事も出来ないというシキシマの話も一理ある話でひらひらと手を振り、カランカランと下駄を鳴らしながら歩いていくシキシマにキョウスケ達は掛ける言葉は無く、超機人の分析をしていたエリとカークも止めるつもりが無いのか無言でシキシマを見送っていた。

 

「さて、随分と待たせてすまなかったな、簡易的だが龍虎王と回収したゲッターロボの解析結果が出た。アンザイ博士」

 

「はい、ではまずなのですが、龍虎王が姿を見せた段階で既に龍虎王は大破寸前であり、今の姿はグルンガスト参式のパーツを取り込み、

新しく自分達を再構築した姿となるようです」

 

「つまりそれはあの龍虎王は本来の龍虎王とは違うと言うことなのですか?」

 

リオの問いかけにエリはなんと言えばいいのでしょうかと言葉を濁した。

 

「本来装備していた物と同じ物をグルンガスト参式から龍虎王は作り出し、破損していた箇所を丸々それに置き換えているのです」

 

「じゃあ虎龍王の右手から出てきたドリルは……」

 

「恐らくだが、参式のドリルブーストナックルだな。目に見えない箇所になるが、センサー類などもその大半を龍虎王はグルンガスト参式から補っている」

 

エリとカークの説明は恐らくや多分という形が多く使われていた。

 

「んーそれってコリューちゃんはそこまでボロボロだったってこと?」

 

「自己修復機能を有し、かなりの時間を掛けても尚修理が出来ない損傷を受けていたのは間違いありません。それと龍虎王にとってグルンガスト参式はとても都合の良い機体だったというのもあると思われます」

 

都合の良い機体というエリの言葉にキョウスケ達は眉を顰めた。龍虎王という規格外の特機を手に入れた変わりに、グルンガスト参式を失ったのはキョウスケ達にとっては決して良い話ではない。

 

「誤解させてしまったかもしれませんが、龍虎王はその名の通り龍と虎の超機人が合体した物です。貴方達には余り面白い話ではないかもしれませんが……恐らく百鬼帝国の龍虎皇鬼は龍虎王を元にした百鬼獣と言う事になると思われます」

 

「待て待て。なんで百鬼帝国が超機人を知ってるんだ? 旧西暦にもいたのか? じゃあなんで武蔵は超機人を知らないんだ?」

 

カチーナの問いかけは至極真っ当な物だった。超機人が地球の危機に立ち上がる巨人ならば、恐竜帝国、百鬼帝国の脅威の際に立ち上がっていてもおかしくない。そう考えれば武蔵だって超機人を知らなければ話が繋がらない。

 

「それに関してだが、かつての超機人の操者の子孫――それがアーチボルド・グリムズだったそうで、超機人の話も知っていたようだ。恐らくあいつからの情報を元に百鬼帝国も超機人を欲していたのだと思われる」

 

ヒリュウ改が現れると同時に逃げた漆黒のゲッターロボはリクセントに現れた物に間違いが無く、武蔵の生きていると言う発言が真実だった訳だ。

 

「百鬼帝国が超機人を知ってる理由は判ったぜ、じゃあなんで旧西暦で超機人は現れなかったんだ? 話が噛み合わないじゃねえか、それともなにか? ゲッターロボがいるから自分達は目覚めなくて良かったとでも言うのか?」

 

「恐らく戦える状態に無かったのでしょう。それに関しては私ではなく、シキシマ博士の方が詳しいと思います」

 

ゲッターロボと超機人の因縁は思ったよりも深く、そしてそれでいてキョウスケ達の理解を大きく超える話であり、ハガネの武蔵と連絡が繋がるまでは、一切謎のままという事だった。

 

「龍虎王はこう言ってました。吾の目覚めは、的殺の彼方か羅喉神が迫る証とならん。然るに、吾が使命はその使者たる百邪を退け、人界を護る事となり、そして今代の進化の使徒が誤った道へ進まんとした時、それを止める事なり……って」

 

クスハの言葉は龍虎王と明確な意思疎通をしたと言う証だった。その言葉を聞いてタスクがブリットに視線を向けた。

 

「じゃあ、ここであーだこーだ話をしてないで直接龍虎王に聞いたらどうなんだ?」

 

当事者というにはおかしいかもしれないが、龍虎王に聞けば判るんじゃないか? というタスクの意見は真っ当な物だった。

 

「いや、それがなんだな……うーん、なんて言えば良いんだ?」

 

「コックピットが参式と違ってて乗り込みにくいから無理だったりする?」

 

浮かない顔をしているブリットにリューネがそう尋ねた、コックピットに入れないから困っている。そう考えるのは普通の事だが、ブリットは首を左右に振った。

 

「コックピットは参式と大差が無いんだ。むしろ参式のままって言っても良いと思う」

 

「私の方も同じなの」

 

龍虎王のコックピットがグルンガスト参式と同じと聞いて、格納庫にいた全員の顔に困惑の色が浮かんだ。

 

「私達、 参式のコックピットブロック事龍虎王に取り込まれたみたいなの、だから同じなんだと思うんだけど……ハミル博士。そこはどうなんですか?」

 

「そうだな、参式のT-LINKシステムを始めとする各種システムが、龍虎王と融合している。元からそうであったとでも言うレベルでな」

 

「融合って……クスハ、ブリット、貴方達は大丈夫なの? どこか異常はないの?」

 

融合と聞いてリオがカークの説明を遮ってブリットとクスハの身体の調子を尋ねる。

 

「ああ。 さっき検査を受けたんだけど……疲労してるぐらいで特に問題はないって」

 

「じゃあクスハ汁の出番だな、10時間ここに残るんだから飲んで気絶して回復しとけ」

 

疲労だけならクスハ汁を飲んで気絶しておけと言うカチーナの言葉に格納庫に苦笑が広がり、汁といわれたクスハはなんとも言えない表情を浮かべる。

 

「んんッ、話を戻すが龍虎王は 過去の戦闘で操縦席に当たる部分を破損していたのかも知れん、そしてグルンガスト参式は2体合体であり、龍虎王と身体の構造も似ていた。だから取り込んで自身の修復に利用したのだと思われる」

 

コックピットを失っていた龍虎王と、コックピット以外の部分が中破していたグルンガスト参式は確かに互いの欠損部分を補うという意味もあってエリの都合が良かったという言葉に繋がったのだろう。

 

「それなら早く聞いてみてくれよ」

 

「いやそれがなマサキ。俺もクスハもそうしようと思ったんだけど……龍虎王は何も言ってくれなくてな……」

 

龍虎王が黙り込んでいるとブリットが困ったように返事を返す。

 

「ですが、話は聞いているのである程度は推測は出来ますよ。まずは……」

 

エリがクスハとブリットから聞いた話を詳しく解説しようとした時格納庫にブリッジからの報告が響いた。

 

『ハガネと連絡がつきました。各員、及びアンザイ博士達はブリーフィングルームへと向かってください。繰り返します、各員とアンザイ博士達はブリーフィングルームへ向かってください』

 

ユンからの連絡にエリは少し肩を落としたが、その顔には笑みが浮かんでいた。

 

「武蔵と話をするのは私も楽しみにしていたんですよ、行きましょう」

 

行きましょうと言いつつ、ハイヒールとは思えない速度で格納庫を出て行く姿に苦笑しながら、キョウスケ達もブリーフィングルームに向かって歩き出すのだった……。

 

 

 

蚩尤塚でゲッターロボが複数体発見されたという報告がヒリュウ改からあり、アビアノ基地に向かっている途中のハガネとシロガネは緊急会議を開き、武蔵を含めたパイロット達は皆ブリーフィングルームに集まっていた。そして緊急会議が始まってすぐ武蔵が声を上げた。

 

「敷島博士!? あんた生きてたのか!? タワーと一緒に吹っ飛ばなかったかッ!?」

 

ヒリュウ改のブリーフィングルームを写しているモニターに姿を見せた老人に武蔵が腰を上げ、震える指先をモニターに向けてそう叫んだ。

 

『はっは、ワシはそんなにご先祖に似ておるか、シキシマじゃ』

 

「え? まじで敷島博士じゃない? タワーでぶっ飛んで、こっちにタイムスリップとかしてない?」

 

『してないしてない、まぁゲッターロボを研究しておって刑務所にはぶち込まれておったがな』

 

笑えない話を笑いながら言うシキシマにブリーフィングルームにいる面子はドン引きするが、シキシマは笑ったままだ。

 

「しかし本当にてるなあ……瓜二つだぜ。歯の抜けてる具合とか、ハゲ具合とか……」

 

『ふむ、1つ聞きたいのだが、ワシのご先祖様の喜びを知っておるか?』

 

「あん? 自分の作った武器で惨たらしく死にたいだろ? 確か腸をぶちまけて、顔が半分つぶれて、脳味噌が全部出てる人が人とも思えない姿で死にたいとか言って、爬虫人類に捕まったときにさぁ殺せ! すぐ殺せとか叫んでたってリョウに聞いてる。まぁそんときゃオイラも腹に風穴開いてるのにゲッターに乗ろうとしてたから良い勝負だと思うけど」

 

『うむうむ、判る。ワシも死ぬならそんな感じが良い、それにお前も良い根性しとるな』

 

ドン引きしている上に更にドン引きが重なり沈黙だけが広がる、と言うか旧西暦の人間の感性が新西暦の人間からすれば異常だった。

 

「……やっぱりあんたタイムスリップしてね? オイラにゃ、あんたが敷島博士にしか思えないんだけど」

 

『はっははっ! 違う違うワシはちゃんと新西暦の生まれじゃよ。それでゲッターロボのパイロット、巴武蔵に聞く。エリ、あれを』

 

シキシマの指示でエリがモニターに写真を写す。

 

『これは蚩尤塚で出現したゲッターロボですが、思い当たる節はありますか?』

 

ボロボロでからだのあちこちが不完全なゲッターロボの姿はハガネやシロガネのリュウセイ達から見ても亡者という印象が強かった。

 

「ゲッターロボの墓場の奴に似てますね」

 

『あん? ゲッターロボの墓場? んなもんがあるのか武蔵』

 

墓場と聞いてカチーナが声を上げ、武蔵がゲッターロボの墓場についての説明を始める。

 

「そもそもオイラの乗ってるゲッターだって何代目かなんて判らないですし、しかも前にオイラが乗ってた奴だってそれこそ何百人って人間を再起不能にしながら作ったもんですしね。ゲッターロボは放射線で動いてるから、それが抜けるまで地下で放置してたんでゲッターロボの墓場なんすよ。夜に行くと人魂みたいにゲッター線がぼわーって出てですね。まぁ幽霊みたいで怖いっつうんで誰かが墓場って言い出して、そこからずっと墓場呼びですよ」

 

残骸のゲッターロボからゲッター線がこぼれ出る光景は確かにお化けのように見え、心霊現象が苦手な物にとっては悪夢だろう。現にその光景を想像した何人かが嫌そうな顔をしている。

 

『ゲッターロボの墓場か……何故そんなものが……とりあえず探ってみるのもありか?』

 

「それは待った方が良いですね。前に浅間山の地下で早乙女研究所の一部を発見しましたけど、鬼とか爬虫人類の生き残りがいたんで、下手に近づいたら死にますよ」

 

軽く死ぬと口にした武蔵だが、その目は真剣そのものだった。

 

「レフィーナ中佐、地下へ続く道は埋めておいてくれ。最悪武蔵がいればその場所を探す事も出来る」

 

『了解です』

 

『待て待て、そんな勿体無い事を「ふんッ!」うぐうっ!……失礼しました、私達の方も埋める事に納得です』

 

シキシマが納得していなかったが、エリのボデイで沈み、LTR機構としても地下へ続く道を封鎖することで話は纏まった。

 

『地上に這い出たゲッターロボはどうなっていますか?』

 

『リー中佐。それに関してですが、皆機能停止状態です。ゲッター炉心も機能を停止しており、再起動はありえないと思えますが……武蔵君としてはどうですか?』

 

「そうっすねえ……取り外せるなら炉心外しちゃった方が良いと思いますよ。どれくらい地下にあったのか判らないですけど、ゲッター線がどんな影響を与えるか判らないですし……」

 

「そうはいうがな武蔵。外せるのか?」

 

『ああ、それに関しては問題ないぞ、カザハラの倅。ワシが分解できる』

 

シキシマの分解できるの発言に驚きが広がり、シキシマの隣のエリも驚きを隠せないでいた。

 

『本当ですか?』

 

『カカカ、新西暦で1番……いや、ビアンがいるから2番かの、ワシとてゲッターロボの研究を伊達にしている訳ではないぞ。ただそうじゃな……絶対とは言えんし、武蔵のゲッターロボの解析データ。それを回してくれるかの?』

 

「強かだな、シキシマ博士。良かろう、ワシの権限で2機分のデータを送ろう。それで分解を頼めるか?」

 

ダイテツの言葉にシキシマはにいっと今まで見てきた中で1番楽しそうな笑みを浮かべた。

 

『任せておけい。炉心は確かに勿体無いが、どうせ使い物にならんのだ。ゲッター合金を大量に入手できたと思えば、御の字じゃろ』

 

どの道ゲッター炉心はゲッターロボの規格で作られているので、今のままでは使えない。そう思えばゲッター合金が手に入っただけで御の字と考えるべきだ。

 

『それよりも武蔵、皇帝って言うゲッターロボを知ってるか?』

 

「皇帝? ブリット、なんだそりゃあ?」

 

『いや、龍虎王がな……皇帝に選ばれなかった者達の骸と言っててな』

 

『あと、皇帝に選ばれた進化の使いに目を止められる事を願っているって』

 

ブリットとクスハの話を聞けば進化の使いは武蔵と考えるのが普通だ。だが武蔵は皇帝と呼ばれるゲッターロボを知らないと首を振る。

 

「真ドラゴンなら知ってるけどなあ……」

 

『龍帝と共に戦ったとも言ってたぞ?』

 

「龍帝? いやありゃあ化けもんだぞ、こうでっかい奴に蛇みたいな感じで胴があって、翼と腕と頭で……こんな感じ」

 

武蔵が真ドラゴンをざっくりと書いてリュウセイ達に見せる。

 

「いや、へたくそが過ぎないか?」

 

「そうか? 特徴は捉えてると思う」

 

「これで?」

 

「それで」

 

楕円形の胴体から伸びた細長い胴、筋肉質な胸部と太い両腕と赤い翼――武蔵の書いた真ドラゴンを見たハガネ、シロガネ、ヒリュウ改のメンバーの感想は1つだった。

 

「『「化け物だな」』」

 

「どう見ても龍帝って感じじゃないわな」

 

「普通にどう見ても敵」

 

『コリューちゃん何か間違えてない?』

 

『だな……』

 

これが龍帝とか言われてもいやないわというレベルだと全員が口にする。

 

「なんか進化を間違えたとか言ってたけど、龍帝って言うのが本当の意味で早乙女博士の作った真ドラゴンなのかもしれないけど……」

 

『判らないって事か』

 

「そうなるな、と言うかオイラの知らないゲッターの方が多いんだぜ?」

 

だから言われても判らないと武蔵はきっぱりと告げ、龍帝、皇帝というゲッターに関しては謎のままとなった。

 

「こちら側で確認されたロスターはそちらでは出現したか?」

 

『いえ、こちら側では出現していません。ですが変わりにアインストがゲシュペンスト・タイプSとR-SWORDを模した個体が出現しました』

 

ゲシュペンスト・タイプSとR-SWORDを模したアインストが出現したとレフィーナは口にし、武蔵に視線を向けた。

 

『連絡を取れたりしませんか? 武蔵さん』

 

「んーうーん……」

 

『無理に話をしたいと言う訳ではない、ただ大佐達がアインストに寄生されていないかそれを知りたいだけだ』

 

1度カーウァイとイングラムの話を聞きたい、あるいはアインストに寄生されていないのかそれの確認を取りたいとギリアムにも言われれば武蔵はNOとは言えず、Dコンを取り出した。

 

「一応聞いて見ますけど、駄目って言われたら知りませんよ?」

 

そう前置きしてから武蔵はDコンのスイッチを入れる。

 

『どうかしたかね? 武蔵君』

 

「あービアンさん。ちょっとこっちでトラブルで浅間山の地下、覚えてます? あんな感じでゲッターロボが沢山出現したんです」

 

『それは確かに問題だな、それで場所は?』

 

「蚩尤塚です。後シキシマ博士とアンザイ博士って言うLTR機構の人もヒリュウ改と一緒です」

 

武蔵の報告を聞いたビアンは考え込むような反応を見せる。

 

『了解した。後でこちらで調査をしよう、ほかには?』

 

「なんかアインストがゲシュペンスト・タイプSとR-SWORDを真似ていたみたいで、寄生とかされてないか声を聞きたいって言ってるんですけど……カーウァイさんとイングラムさんと話は出来たりします?」

 

『それはハガネのメンバーもかね?』

 

ビアンの問いかけに武蔵がそうですと返事を返し、ビアンが返事をするよりも早く若い男の声が武蔵のDコンから響いた。

 

『そこまで状況が動いていればだんまりもしてられん』

 

『そうなるな。声だけになるが私達も参加させて貰おう、それに武蔵じゃ理解出来ていない話もあるだろうしな』

 

姿を晦ましていたイングラムとカーウァイの2人の声がハガネ、シロガネ、ヒリュウ改のブリーフィングルームに響くのだった……。

 

 

 

武蔵から生きていると聞いていても実際にその声を聞くかどうかでは全然違う。

 

「イングラム教官……生きて……生きてたんだな」

 

『その声はリュウセイか、ああ、何とかがつくが生きている。色々とお前達も言いたいこと、聞きたい事があるだろうが、俺達もそれほど時間がある訳ではない、手短に話をするぞ』

 

感動の再会をする時ではないと一蹴するイングラムに紛れも無くイングラムだとイングラム・プリスケンという人物を知る者は確信した。どこまでも冷静で、そして感情任せではない、その声を聞けばイングラムだと確信した。

 

「とりあえずこれだけ言っとくぜ少佐。顔を見せたら面貸せよ?」

 

『イルムか、覚えておこう。それと話を聞いていたが、俺達の機体を模したアインストは恐らくだが、この世界のアインストではない』

 

『武蔵から聞いていると思うが旧西暦の後に我々は未来の平行世界へ飛んでいる。そこで我々は何度もアインストと戦っている、その中で我々をコピーしたと見て良いだろう』

 

未来へ飛んだと聞いてヒリュウ改のブリーフィングルームに腰掛けているラミアはその顔を青くさせた。

 

「どしたの? 大丈夫ラミアちゃん」

 

「エクセ姉様……え、ええ。大丈夫でありますことですよ?」

 

大丈夫と口にしつつもラミアの声は震えていた、甘い武蔵と違い、イングラムとカーウァイは自分の事を口にするかもしれないと言う事に恐怖し、そして脅えていた。だがラミアにとっての幸運はラミアというWナンバーズがいると言うこと、そしてアンジュルグを知っているがラミア個人を武蔵達が知らないと言う事にあり、慎重な性格かつシャドウミラーの本格的な動きを把握していないイングラムとカーウァイがラミアを捜そうとしない事にあった。

 

「未来と言えば……ベーオウルフ。この名前に聞き覚えはないか?」

 

「ちょっと、キョウスケ」

 

「黙っててくれ、答えてくれ。イングラム少佐、カーウァイ大佐」

 

真剣な、それこそ鬼気迫る様子のキョウスケに誰も口を開けず、イングラムが小さな溜め息を吐いた音がした。

 

『武蔵から聞いてないのか?』

 

「言ってるわけ無いでしょうが、オイラみたいな馬鹿が説明出来ると思いますか?」

 

自分に視線を向けられ、武蔵が万歳をし頭を下げた。

 

「オイラは馬鹿だから上手く説明出来ないから黙ってたし、そうはならないと思ってたってのもある」

 

余計に混乱させたら悪いしと武蔵は口にし、イングラムとカーウァイにお願いしますと言ってパスを投げた。

 

『そもそも私達の行った未来というのは確実にこの世界の未来に繋がるものでは無いとだけ言っておく、まずは大前提として未来ではエアロゲイターは出現しておらず、インスペクターが先だった。そしてこの場で生きてる者が死んでいたり、その逆も然り。ありえるかもしれないIFとだけ思っておいて欲しい、判ったか? キョウスケ中尉。我々の話は絶対ではない、それを胸に刻み、そしてそれに囚われないと言うのならば話そう』

 

「……お願いします」

 

ビースト、そしてべーオウルフ――それを知らなければ前に進めないキョウスケは話を聞かせてくれと頼んだ。

 

『判った、まず我々はアインスト、そしてインベーダーが蔓延る荒廃した大地で生き残る為に連邦のある特殊部隊と行動を共にしていた』

 

シャドウミラーの名前がされるのではないかとラミアは目を泳がせ、小さく震えながら耳を塞ぎたくても塞げば怪しまれると、硬く膝の上で拳を握り平常を必死で取り繕っていた。

 

『部隊名は言えん』

 

「言えない? それはどういうことだ?」

 

『その声はダイテツ中佐ですか……我々、武蔵、カーウァイ、そして俺の3人は記憶の欠落があるからです』

 

記憶の欠落と聞いてブリーフィングルームにざわめきが広がる。

 

「武蔵様は大丈夫なのですか!?」

 

「あーうん、大丈夫大丈夫」

 

「本当ですか!? 隠していたりしませんか?」

 

『記憶の欠落……大丈夫なのですか? カーウァイ隊長』

 

『その声はカイか、ああ、特に支障のある物ではない。私達が失っている記憶はある特定の物に関するもので、未来で協力していた部隊名も関係している。私は良く判らないので、イングラムに代わる』

 

『世界の修正力――世界を超えるという事はデリケートなことだ。そして世界にはある程度の定められたレールがあり、それを大きく逸脱することは出来ない、そう、それが未来では協力していても、この世界では敵同士であったとしてもだ』

 

「え? 協力してたのに?」

 

『敵になるって判ってるのになんでだよ?』

 

イングラムの言葉に困惑が広がるがギリアムとリュウセイだけは驚きが少なかった。ギリアムは経験していたから、そしてリュウセイはアニメや漫画の設定でそういうものを何度も見ているから。

 

『タイムパラドクスという奴か?』

 

『かなり近いが、実際には少し違う。要はその部隊が起すであろう騒乱は世界によって認められていると言っても良い、ゆえに動き出す前に止める術を我々は持たないと言う事だ。俺もビアン達もそれを阻止しようと動いてはいるが、成果はほぼ0だ』

 

争いが、悲劇が起こるのに止めれないという事を知り、クスハやブリット達は顔を歪めるがイングラムの淡々とした口調が逆に、それだけ動いていると言うことの証明で、誰も口を開くことも文句を言うことも出来なかった。

 

『話を戻すぞ、その部隊と協力し、生き残る為にアインストと戦っている時にベーオウルフ、そしてゲシュペンスト・MK-Ⅲが何度も我々の前に立ち塞がった……そのパイロットは判っていると思うが、キョウスケお前だ。但し……アインストに寄生され、既に人間としては死に、アインストとして生まれ変わったお前だ』

 

イングラムの言葉にブリーフィングルームに嫌な沈黙が広がる。そしてベーオウルフというキーワードは何度もキョウスケ達は聞いていた。

 

「武蔵、お前が俺達の前に現れたとき、スレードゲルミルとウォーダンとの一騎打ちに応じたのは……」

 

「あの時までは忘れてた、直接的に会うか話をしないとオイラ達の記憶は戻らないのかもしれない、それに思い出したといっても名前だけで、こんな感じに喋ったよな程度の感じだ」

 

ライの問いかけに武蔵はそう返事を返す。覚えている筈なのに思い出せない、その感じはライ達には判らないものだったが、激しい焦燥感を抱かせるには十分だと判り、責めるような口調になってすまないと謝罪の言葉を口にした。

 

『この世界ではお前の役割はアルフィミィというアインストが行なっているようだが、囚われればお前はベーオウルフにされるかもしれない。アインストとの戦いは最大限の注意を払う事だ。そしてお前とベーオウルフは別人だという事を忘れるな。あくまでお前の1つの可能性、恨まれているのはアインストのベーオウルフ。連邦軍のキョウスケ・ナンブではない』

 

「……了解です。疑問が晴れました」

 

何故自分をそこまで危険視するのか、何故そこまで怨嗟を向けるのか、自分ではない自分が行なった悪逆なのだから、そこまで気を病む必要はないとイングラムはキョウスケを励ました。

 

『もう少し話をしたいところだが……不味い連中に見つかった。悪いが、今回はここまでだ』

 

『大丈夫なのか……親父』

 

『その声はリューネか、ふっふ、問題はない、ある程度追い払い我々も逃亡する。今度はこちらから連絡することもあるだろうが、極力通信は互いにとらないようにするべきだろう、ダイテツ』

 

「そうだな、今回は緊急時だったと言うことだ」

 

ビアンの偽物がノイエDCの総帥として動いているので通信をしていると判れば嬉々として反逆者に仕立てられることになるだろう。

 

『互いに気をつけることだ。この世界に蠢く悪意は想像以上に多く、そして根深いぞ』

 

『何れ道も重なる事もあるだろう、ギリアム、カイ。鍛錬を怠るなよ』

 

その言葉を最後に武蔵のDコンは沈黙し、クロガネとの通信は終わりを告げた。だが話し合うべき事はまだ山ほど残っており、ハガネ、ヒリュウ改、シロガネのブリーフィングルームでの話し合いはまだまだ終わりを告げる事は無いのだった……。

 

 

第115話 地獄門 その8へ続く

 

 




本当はここ出来るつもりだったのですが、まだまだ話が続きそうなので、ここで1回切って、次回半分は連邦サイド、残り半分はアースクレイドルの話にして次のシナリオに進んで行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第115話 地獄門 その8

第115話 地獄門 その8

 

イングラムとカーウァイはシャドウミラーの事を口にしなかった。それを話してはいけない事だという2人からの無言の合図だと武蔵は判断していた。

 

(しかし、どうなることやら)

 

ウォーダンもそうだが、少しずつシャドウミラーが動いて来ている。本格的な侵攻が近いというのは武蔵も感じていたが、ロスターに百鬼帝国、ノイエDCにアインストとインベーダー、そしてインスペクターと敵が余りに多すぎて、シャドウミラーだけにあたれないと言う状況はかなり不味い物に分類されるだろう。

 

(……逆に考えろって事かねぇ)

 

敵が多いからシャドウミラーも思うように動けないと考えるべきなのかもしれない。しかし本当はもっと深い考えがあるかもしれない……だが武蔵にはイングラムやビアン達の深い考えはまるで理解出来ず。もうなるようになれと思うことにしていた。

 

『さてと、話を戻そうかの』

 

「すまないな、シキシマ博士」

 

イングラム達と話をしている間待っているだけだったシキシマにダイテツが謝罪の言葉を口にするが気にすることはないと笑った。

 

『さてと武蔵、リ・テク、そしてワシらLTR機構ではある結論が出てるのだが、お前に聞きたい』

 

「オイラにですか?でもオイラそんなに難しい事は判らんよ?」

 

『なに、簡単な話じゃよ。旧西暦で超能力者は何人くらいいたかの?』

 

超能力者と言われ、はっ?と、武蔵は間の抜けた返事を返し、うんうんと唸り、コウキに視線を向けた。

 

「超能力者っていたっけ? コウキ?」

 

「フィジカルお化けなら何百人もいたがな。そういう系統は知らん」

 

「んじゃラドラは?」

 

『俺も知らん、お前と言うか俺達も含めて基本的にフィジカルに全振りだろ?』

 

「フィジカルの意味は判らんけど、なんかちょっと馬鹿にされてる気がする」

 

「『気のせいだ』」

 

旧西暦トリオの結論は超能力者は知らないと言う物だった。と言うかフィジカル馬鹿という面ではラドラとコウキも武蔵と良い勝負なので馬鹿にしているわけがないので武蔵の馬鹿にされてる気がするのは完全に気のせいだったりする。

 

『となるとシキシマ博士の説が近いかもしれませんね』

 

『うむ、カチーナ中尉』

 

『あん? なんだよ』

 

『お主の言う、なぜ超機人が旧西暦に存在しなかったのか、それを答えよう。答えは簡単――旧西暦の人間は超機人のパイロットの適正が絶望的に無いんじゃ』

 

絶望的に無いと断言するシキシマだが、絶望的に無いと言われても兵器なのに何故?という言葉が脳裏を過ぎる。

 

『超機人は強念者、つまり念動力者が乗らないと、その人の生命力を吸います。つまり、念動力者以外が乗ると死にます。そして武蔵さん達は完全にフィジカルに全振りしてますから、適性がないのでしょう』

 

「ねえ?それ馬鹿にしてる?オイラ達が脳筋って言ってない?」

 

『良く判ったな武蔵、賢いぞ』

 

シキシマの歯に衣を着せぬ物言いに武蔵ははぁっと溜め息を吐いて脱力した。

 

「まぁ判らんでもないよな?」

 

「だな。頭が良い人間とかはいたが、超能力者なんていなかった。仮にそういう奴がいたとしてもすぐ死ぬだろ?」

 

「うんうん、すぐ死ぬと思う。隼人とかIQ300あったけど、基本的に肉体派だしな」

 

『簡単に言うとだな、仮にも人界の守護者である超機人が戦う為に人を何百人も殺していては本末転倒、そしてゲッターロボが存在するから復活しなかったんじゃろう。旧西暦の人間はフィジカルに、新西暦の人間はメンタルに特化してるという事じゃろう』

 

強靭な肉体と桁並外れた精神力を持ち合わせているが、超機人を起動させる能力は無いのが旧西暦の人間の特徴で、ある意味旧西暦という苛酷な環境で生きる為に高い身体能力を持ち合わせている。

 

それに対し、新西暦の住人で身体能力が高いと言っても旧西暦の人間にはまるで届かないが、そのかわりに念動力などの超能力に目覚めたのだろうとシキシマは考察を口にする。

 

「ちょっと思う事はあるが……」

 

「ある程度は納得出来ますね」

 

環境に応じて進化した形が超機人に適応出来なくなったというシキシマの仮説は多少強引な所はあるが、ある程度納得できる物であった。

 

『とりあえず、超機人に関してはこれで終わりとして、武蔵さんは百邪に関して何か知ってる事はありませんか? アインスト、そしてインベーダー、更にロスターに関して何か知ってることとかはありませんか?』

 

超機人とゲッターロボに関してよりも今知りたい事としてエリがそう尋ねる。

 

『待て待て、ワシはまだゲッターロボの事を聞きたい』

 

『後にしてください、ずいぶんと話をしたでしょう』

 

『いやしかしだな』

 

『後にしてください』

 

きっぱりとエリに言われしょんぼりとしたシキシマは明らかに落ち込んだ素振りを見せながら椅子に腰を降ろし、ダイテツから提供されたゲッターロボの解析データを分析し始める姿は哀愁さえ漂っており、その背中を見たキョウスケ達は何とも言えない表情をしながらアインストやインベーダーの話を始める武蔵とエリの会話に耳を傾けるのだった……。

 

 

 

 

インベーダー、アインスト――その何れもが未知の敵であり、今地球圏に数多存在する外敵の中で最も危険だとエリは考えていた。だから武蔵に知ってることはないか? と尋ねたのだ。

 

『インベーダーはゲッター線に寄生してる化けもんで定期的にゲッター線を吸収しないと消滅するからゲッター線を求めてて、生き物、無機物なんでも取り込んで変異するからとにかく厄介な化け物ですね』

 

武蔵の話を聞いてエリは遺跡で発掘された百邪のデータと合致する点があると頷き、自分が調べている物と合致していると頷いた。

 

『でもさ、気になっていたんだけどよ、なんで今までインベーダーが確認されなかったんだ?なんでも吸収してエネルギーに変えるならもっと目撃されてないとおかしくないか?』

 

タスクの疑問は当然の事のように思えたが、武蔵とエリにとっては違う内容だった。

 

「簡単な話です。地球に餌が無ければインベーダーが地球に拘る必要はない。元々ゲッター線は宇宙からの放射線、宇宙こそが彼らのホームグラウンドと言う訳ですね」

 

『……待って、それだとオイラが悪くない?』

 

ゲッター線を再び地球に持ち込んだのは武蔵だ。地球圏にインベーダーが出現したのは自分のせい?と武蔵が呟いたが、エリは首を左右に振った。

 

「仮に武蔵さんのゲッターロボが原因だったとしてもそれは微々たる物の筈です。百邪としてインベーダーが記録されているので考えられるのは1つ……」

 

「一定周期」

 

「その通りです。キョウスケ中尉、恐らくインベーダーは一定周期で地球圏に来てゲッター線が集まっているか確認しているでしょう。恐らくアインストも同じはずです」

 

百邪はその名の示す通り最低でも100通りの異形や化け物の姿が記録されており、インベーダーとアインストは一定周期で確認されているとエリは説明する。

 

『周期ねぇ……アインストもインベーダーも何を求めて地球に来るんだ?』

 

『え? いや、ゲッター線でしょ? イルムさん』

 

『アラド違うぜ、インベーダーもアインストもゲッター線に弱いんだよな? 武蔵』

 

『はい、特にゲッターD2みたいな規格外なゲッター線を貯蔵しているゲッターに近づけばそれだけで吸収し切れなくて消滅するレベルですね』

 

武蔵に確認を取ったイルムは武蔵の返答を聞いてその眉を細めた。

 

『近づいたら消滅するのに何でアインストとインベーダーはあんなにも武蔵に近寄るんだ?何か文献にそれらしいヒントはないのか?』

 

言うならば武蔵とゲッターD2は誘蛾灯だ。近づけば燃え尽きる、仮に燃え尽きなくとも致命的なダメージを受ける。そんなゲッターに挙って近づく理由はなんだ?とイルムがエリに尋ねた。

 

「そればかりは何とも……シキシマ博士はどうですか?」

 

「んー?適合出来る個体を増やそうとしてるんじゃないか? 近づいて焼かれて、生き残った個体をベースにして増殖すればそのゲッター線にある程度抵抗できる個体もその内生まれるんじゃないか?」

 

ゲッターロボと直接関係がないのでシキシマの反応は投げやりだったが、ある意味的を得ていた。適合できないのならば適合できるまで進化する……単純だが、それゆえに正しい行動だった。

 

「適合した個体って正直洒落にならない事ない?」

 

「俺はインベーダーって奴は見たことないけどよ、アインストはかなり厄介だったよな」

 

ゲッター線に弱いと言う弱点が弱点で無くなり、ゲッター線を吸収し強化された固体が生まれる――それはただでさえ強いアインストやインベーダーが更に強化されるという事を意味していて、エクセレンも流石に普段のお調子者の仮面が剥がれ落ち、真剣そのものの表情を浮かべる。

 

『アンザイ博士。ロスターは百邪の記録にあるのかしら?』

 

「いえ、ありませんね。全く新しい個体――インベーダーとアインストの融合個体のようですが、本来は敵対存在同士、その命は極端に短いと推測されます」

 

『まぁ勝手に消滅したしなぁ……しかし、インベーダーとアインストが融合するとかどういうことだよ? あいつらってめちゃくちゃ争っていたんだけどな』

 

「化けもん同士が潰しあってくれれば楽なんだけどな。合体して思念波で動けなくした挙句、道連れにするとか良い加減にして欲しいぜ」

 

「確かに遭遇したくない化け物ですね」

 

インベーダーとアインストの融合個体――生命として不完全で消滅する定めにあり、周囲の生命体を吸収して道連れにする。余りに悪辣なその行動にカチーナが舌打ちをし、ラッセルもそれに同意した。下手に近づけば取り込まれる、近づかなくても思念波でネガティブな感情が増幅され、悲痛な叫び声に精神を抉られる――インベーダーとアインスト以上に遭遇したくない化け物だ。

 

『仮に其方で出現したとしたら、対応できるのはラドラくらいだと思うぞ』

 

「俺か?何か理由でもあるのか?」

 

自分を名指しされた事で理由があるのか?とラドラがコウキに尋ねる。

 

『オイラとコウキが干渉を受けなかったんだ。だから多分ラドラも大丈夫だと思うって言う話だ』

 

「多分がつくのか……余りにも不確定要素が多すぎるな」

 

「ああ、出来れば合流して行動を共に出来るのがベストなんだが……リー中佐、そこはどうですか?」

 

『当面は無理だカイ少佐。プランタジネットの為に戦力強化や作戦を遂行する為に奪われた基地の奪還作戦などが多数ある……分断行動は続くな』

 

敵は余りにも強力で、そして戦力を2つに分けざるを得ないほどに劣勢に追い込まれている。状況は悪化の一途を辿るばかりでアインストとインベーダー、そしてロスターに対する決定打が無いヒリュウ改の面子の顔色が曇る。だがそれにエリが待ったを掛けた。

 

「龍虎王は恐らくアインストとインベーダーに対しても強く出れる筈ですよ」

 

「そうか、龍虎王はアインストやインベーダーと戦っていたって言っていた筈だ!」

 

エリの話を聞いてブリットが声を上げる。龍虎王の話が確かならば、龍虎王はアインストとインベーダーと戦う術があり、その力量はゲッターロボに匹敵する筈だ。

 

「それにゲッター炉心を解析すれば、ゲッター炉心もワシらでも作れるじゃろ。そうなればある程度は何とかなるんじゃなかろうかの?」

 

龍虎王とシキシマによるゲッター炉心の複製。それが戦力を分散しなければならない今のダイテツ達にとっての希望となるのだった……。

 

 

 

一方その頃アースクレイドルでは……プロトゲッターロボの残骸を前に龍王鬼が上機嫌に笑っていた。

 

「はっはははッ!!良いぜ良いぜ、良くやった! アーチボルドッ!!!」

 

「ど、どうも、龍王鬼さん」

 

バンバンと背中を叩かれ、骨が軋み、強制的に酸素を吐き出すことになりアーチボルドが苦しそうに顔を歪めていた。

 

「はい、お疲れ様。よく持って帰ってきてくれたわ」

 

「虎王鬼様、でも私達の持って帰ってきたものは同じのもあって」

 

労ってくる虎王鬼にノイエDCの部隊長がビクビクした様子で返事を返す。アインストとプロトゲッターから命からがら逃げてきたノイエDCの部隊が持ち帰ったゲットマシンはイーグル号3・ドラゴン号2・ベアー号1・ライガー号2とジャガーとポセイドンが無かった。厳密に言えばプロトタイプの物なので正規のゲットマシンでは無いが、その形状からの予測になるがどれもまともに揃っていない事を理由に罰せられるかもしれないと脅えていたのだが、虎王鬼はそんな部隊長に柔らかく微笑んだ。

 

「危険な状況だったと風蘭から聞いてるわ。本当にお疲れ様だったわ、龍!私達の区画の所で休ませてもいいわよね?」

 

「おう、良いぜッ!温泉に入って、酒飲んで飯食って来いッ!」

 

「と言うわけよ。ほら行った行った」

 

正当な労働には正当な報酬を命がけでプロトゲッターとゲットマシンを持ち帰った功績を認め、龍王鬼はノイエDCの兵士達に休むように大声で口にし、不安そうな表情を浮かべていたノイエDCの兵士達は安堵の表情を浮かべ、虎王鬼に促され龍王鬼達の区画へと向い、その姿を微笑を浮かべながら見ていた虎王鬼は今度は服が汚しながらゲットマシンを調べているレモンにその視線を向けた。

 

「どう?レモン。何か役に立ちそう?」

 

ノイエDCの兵士が持ち帰ったゲットマシンを調べているレモンに虎王鬼がそう尋ねると、レモンは子供のようなキラキラとした目で虎王鬼へ微笑みかける。

 

「何か所じゃなくて最高よ……ありがとう虎王鬼」

 

「良いわよ、だって私達友達じゃないの」

 

アーチボルド達が持ち帰ってきたプロトゲッターロボは凄まじい戦果として認められていた。そもそも百鬼帝国からすれば念動力者でなければ操縦できず、下手をすればパイロットを殺す龍虎王にさほど興味は無く、龍虎皇鬼、朱玄皇鬼の百鬼帝国製の超機人四邪の超鬼人の完成度を高め、共行王達の四罪、四凶の超機人を完全にする為の五行器のデータを取る為にだけに欲していたのだ。言うならばデータ取りの為のサンプル程度の価値しかない超機人に対して数十体のプロトゲッターロボ。そしてダブりはあるが大量のゲットマシンとそのどちらに価値があるかなんて言うまでも無いだろう。

 

「それで龍王鬼。それは我々も貰って良いのかね?」

 

「無理にとは言わないが、私も欲しいものだな」

 

ヴィンデルとイーグレットの言葉に龍王鬼は牙を剥き出しにして笑う。

 

「独占するつもりはねぇ、俺らが3体、後はお前らで話し合って分ければ良いだろ? そっちで勝手に話し合ってくれや」

 

ゲッターロボと言っても不完全な試作品、そしてその上半壊しているので修理して使うのも難しく、炉心とゲッター合金がメインとなるだろう。龍王鬼には大して興味も無いもので、闘龍鬼達の百鬼獣改造に使えれば良いかくらいにしか思っておらず、その殆どをヴィンデルとイーグレット達に渡すと話をしているとそこに別の声が割り込んできた。

 

「待て待て、ワシもかませい」

 

「そうそう、私もね」

 

共行王と饕餮王も格納庫に顔を出した。半壊していてもゲッターロボにはそれだけの価値があるのだ。

 

「1体貰おうかの、取り込めばワシはもっと強くなれるッ! あの忌々しい仙人共に報復をッ!!」

 

特に饕餮王の有様は酷かった。片目がつぶれ、右腕は肘から先が無く、血を流しながら片足を引き摺っていた。それでも憎悪を滾らせ、左腕にちぎれた女の腕を握り締め狂ったように笑っていた。孫光龍との戦いに饕餮王は破れ、命からがら逃げて来ていたのだ。確かに強化されていたが、それでも孫光龍の方が圧倒的に強かった、

 

「1人で行くからだよ、爺。なんで私にも声を掛けなかった?」

 

「ひゃひゃひゃっ、てめえの獲物をなんで他人に渡さなきゃならんのじゃ?」

 

孫光龍を初めとしたバラルの仙人は饕餮王と共行王にとっては怨敵。それを他人に殺されては良い気分になる訳が無く、単独行動に出た饕餮王だが、共行王も同じ事をしたかと長い髪を翻し、悪かったねと謝った。

 

「私も同じ事をすると思うわ」

 

「じゃろうじゃろう? 誰だってそうするわい。さて、龍王鬼よ、ワシらにも1機ずつ寄越せ」

 

「ちっ、しゃあねえなあ。持っていけや、貸し1つだぜ?」

 

龍王鬼の言葉に饕餮王と共行王は笑う。

 

「おうさ、ちゃんと返してやるぞ。取り込んでゲッター合金の力を手に出来ればな」

 

「そういうこと、上手く行くことを願っているんだね」

 

札を貼り付け自分が狙いをつけたプロトゲッターロボを回収し、2人とももう用はないと言わんばかりに背を向けて歩き去っていく。

 

「俺はこれとこれ、んでこいつ」

 

「……良いの? 龍王鬼?」

 

特に損傷の酷い物を回収する龍王鬼にそれで良いのか? とレモンが思わず問い掛けた。

 

「元々俺様はゲッターなんてもんには興味はねぇ。敵としては別だがな、なんか使い道あるだろくらいにしか思ってねえからこれでいい。虎もそうだろ?」

 

「ええ、それで良いわよ」

 

虎王鬼の了承を聞いて龍王鬼はヴィンデルとイーグレットに指を向けた。

 

「状態が良いのをくれてやるんだ、俺様の頼みも聞いてくれるよな?」

 

その言葉にヴィンデルとイーグレットはやられたと理解し、レモンは口元を押さえてころころと笑っていた。先に粗悪な物を選び、二人に状態の良い物を残した。いらないと口にしていても、それを取引に利用する強かさがあった。

 

「良かろう。俺は何をすればいい」

 

「おう、イーグレット。てめえの所の不気味な餓鬼とあの下種が若返らせて生き返らせた婆を動かすな、どうしても戦場に出したいなら俺にまず言え」

 

「……了解した。では俺が先に選んでも?」

 

「おう、てめえが先に了承したからな」

 

ヴィンデルが悩んでいる間にイーグレットが条件を飲み、比較的状態の良いプロトゲッターを選ぶ。

 

「そう焦らなくても良いわよ? どの道解析しないと使えないし、すぐに使えるわけじゃないからどれも一緒よ」

 

「……そうか、ならば良い。それで俺はどうすれば良いのだ?」

 

「ヴィンデルはよ、量産型Wナンバーズって言うのを機体と一緒に貸してくれや、後は俺様がいない時はオウカ達の保護、それさえ徹底してくれれば良い」

 

龍王鬼に出された条件はさほど重い物ではない。むしろ替えの利く量産型Wシリーズなんて何体出しても痛くはないし、オウカ達の保護というのも自発的に動かないゼオラが強姦されないか見守る程度でそれほど面倒な事ではない、それに面倒を見るのはレモンなのでヴィンデルには何の痛手もない。

 

「了解した。それでいい」

 

「話が早くて助かるぜ。後はそうだな、アクセルの奴を留めておくのもそろそろ限界だろ? あいつが出る時にヤイバでも闘龍鬼でも好きなほうを連れて行けよ。俺様が許可する」

 

アクセルがキョウスケと戦う事を望んでいるが、あれやこれやと理由をつけてとめてきたが、ソウルゲインの修理が終わった今それを止め続けるのも難しく、ヒリュウ改に何時襲撃を仕掛けるか判らない状況だ。

 

(……そうだな、悪くない)

 

アクセルを止める事が出来るのはヴィンデルとレモンくらいだが、ヴィンデルはまだ大きく動くつもりが無く、レモンはあくまで学者で研究者なので戦場に出すには不安が僅かに残る。Wシリーズは論外で、アクセルと同等かそれ以上の力を持つヤイバと闘龍鬼が同行してくれればやりすぎる事無く止めてくれることだろう。

 

「2人とも借りても?」

 

「それはお前の好きにしてくれて良いぜ」

 

どちらか1人ではなく、2人借りても良いと言う言葉を聞いてヴィンデルは悪くないと微笑み龍王鬼の話を受け入れ、自分達の取り分のゲッターロボに印をつけて格納庫を後にする。

 

「そろそろ我々も本格的に動く事になる」

 

「でしょうね、でもハガネとヒリュウ改はどうするの?」

 

「そこはブライが何とかしてくれる手筈になっている。我々のシナリオは変らない」

 

アインスト、インベーダーとあの世界で散々苦汁を舐めさせてくれた敵が出現している事を考えれば、キョウスケがアインストに寄生される前にこちら側に引き込めれば態々殺す必要も無い。そしてゲッターD2に仕込んだ遠隔操作装置で機能停止に追い込み回収してしまえば戦力的にシャドウミラーを止めれる勢力はどこにも存在しない。

 

「耐え忍んできたが、それももうじき終わる」

 

「そうね、後は上手く行くかどうかは天のみぞ知るって所かしらね」

 

地下に潜み、ありとあらゆる勢力に手を貸し、頭を下げ、己の矜持を曲げた。それでもそれだけ耐え、やっと自分達が表に立つ時が来たと邪悪な笑みを浮かべ歩き出すヴィンデルの背中を見つめながらレモンも歩き出す。口にはしなかったが、そんなに自分達の思い通りに行くかしらと言いたげな表情を浮かべているのだった……。

 

 

 

116話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その1へ続く

 

 




今回はインターミッションのラストなので少し短めの話となりました。次回はオリジナル要素を交えてのサマ基地攻防戦とビルガーの初陣、そしてヒリュウ改の方では皆大好きアクセルとソウルゲインに来てもらおうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


PS

コスモノヴァと陽電子砲をGETしてニコニコのところで期間限定のストナーサンシャインに絶望中


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第116話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その1

116話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その1

 

 

イングラムの生存が判りハガネの艦内の雰囲気は格段に良い物になっていた。武蔵から生きていると聞いていても、実際にその声を聞くのと聞かないのではやはり気持ちの持ちようが変ってくる。しかし、それとは別にリュウセイ達にはある不安と心配が生まれたのも事実だった。雰囲気は良くなったが、安易に考える事が出来ない問題がありトントンと言った所であった。

 

「大丈夫なのか? 武蔵」

 

「何が?」

 

「記憶の欠落って言ってたけどよ……」

 

アビアノ基地に帰還し、次の反攻作戦の準備をしている間の僅かの休息の時間にリュウセイが武蔵にそう問いかけた。食堂という場所もありピリッとした雰囲気が一瞬広がるが武蔵はその雰囲気を無視して話を始める。

 

「うーん、実際問題オイラにゃどれくらいの問題かわからんからなあ」

 

「自分の記憶なのにか?」

 

「自分の記憶だから余計に判らんのだよなあ……服も着れるし、飯も食える。んで文字もかけるし喋れる……実際何処か問題があるように見えるか?」

 

「強いて言えば馬鹿だ、もう少し考えろ」

 

問題があるか?という武蔵の問いかけに、コウキの間髪入れない馬鹿の発言にぶふっとあちこちで噴出す音が響いた。

 

「それは前から変らんぞ?」

 

「少しは物を考えろ言っている。脳味噌まで筋肉か貴様は」

 

「オイラだけじゃなくて多分リョウも、あと頭いいけど多分隼人も同じだと思うけど」

 

そういうことじゃないとスパーンっと武蔵の頭を叩くコウキ。全く意図して無いのだがボケとツッコミで武蔵とコウキのやり取りは一種の漫才のようになっていた。

 

「ははッ!何馬鹿やってんだか。まぁ問題がないなら良いんだ」

 

「いやあ、心配してくれてありがとうございます。でも、本当に欠落してるといっても実感が無いんですよね。例えるなら幼稚園とか小学校の時とかの記憶に似てるってカーウァイさんは言ってましたし」

 

「なんとなく判るような例えだな。覚えてはいるが鮮明には思い出せんって所か?」

 

幼い時の記憶は鮮烈に脳裏に焼きついているが、詳細はあやふやで大きな衝撃を受けた所がしっかりと脳裏に焼きついている。覚えてはいるが、ぼんやりとしか思い出せない。

 

「なんとなく判るような気がするわね」

 

「確かにな、判りやすい例えだ」

 

記憶の欠落と聞くと深刻そうに思えるが、そうではなく幼い時の記憶と例えられると判りやすいとヴィレッタとユーリアも同意する。

 

「リュウセイ、そろそろ時間」

 

「あ、おう。武蔵行こうぜ」

 

「おー、茶だけ飲むから少し待ってくれ」

 

手にしていた湯呑みの中のお茶を飲み終え、武蔵とリュウセイが揃って席を立つ。

 

「ん? どこか出かけるのか?」

 

「いえ、違いますよイルム中尉。アラドとアイビスのトレーニングに付き合う約束なんです」

 

「あーそういうことか。俺も書類整理が終わったら合流するわ」

 

ライの言葉を聞いて休憩は終わりでそろそろ仕事を再開するかと呟き、イルムも席を立つ。

 

「エキドナの事で何か判ったら連絡する」

 

「すいませんユーリアさん、よろしくお願いします」

 

ロスターの声を聞いてから意識不明のエキドナの事を武蔵は心配していたが、お見舞いが禁止となっているのでユーリアに何か判ったら教えてくださいと頼み、武蔵はリュウセイとライと共に食堂の入り口の所で待っているラトゥーニの元へと歩き出す。

 

「コウキは行かないのかしら?」

 

「俺はラドラの依頼でヒュッケバイン・MK-Ⅲのボクサーパーツの再設計をやらねばならないし、自分の機体の調整もある。アイビスはツグミが見てくれるから問題はない」

 

コーヒーを片手にコンソールを叩くコウキに動く気配は無いのを見てヴィレッタも席を立つ。

 

「待て、アラドの訓練なら俺が見てくる」

 

「カイ少佐…良いんですか?」

 

「俺が預かると言ったんだ、面倒を見るのは当然の事だ。ついでにリュウセイの訓練も見てくるとしよう。そのかわり搬入されてくる修理のパーツや機体の確認を頼む」

 

「了解です。ではリュウセイをよろしくお願いします」

 

サマ基地奪還作戦の為に僅かに与えられた休息だったが、地球圏に次々に現れる数多の未知の敵の出現にカイ達は気を緩めることは無く、新たな戦いに備え準備を始めていた。

 

「そうですか……お見舞いは出来ないのですね?」

 

「すいませんシャイン王女」

 

「いえ、先に確認してから来るべきでしたわ。エキドナさんが目を覚ましましたら教えてくださいませ」

 

医務室にエキドナの見舞いに来ていたシャインだが、ラーダに駄目だと言われ少し肩を落として歩き出したのだが、武蔵が訓練しているのを思い出し、タオルやスポーツドリンクを準備する事に思い至ったのか満面の笑みで歩いていく。その後姿が見えている間はラーダは笑みを浮かべていたが、その姿が見えなくなると深刻な表情で医務室の中に戻った。

 

「……」

 

昏睡状態のエキドナの呼吸は弱く、耳を澄まさなければ呼吸の音は殆ど聞こえず、そして胸の膨らみも少ない事、そして寝返り1つ打たないその様子は死体と言っても大差は無かった。それでもモニターから聞こえるピッピッピっと言う音がまだエキドナが生きているという証でもあった。

 

「目覚めない理由が判らない……やはり彼女は目を覚ましたくないの?」

 

1番弱っていたシャインでさえも、今は元気でスキップをするほどだ。彼女よりも健康体のエキドナが何故目覚めないのか、その理由はラーダには1つしか思い当たらなかった。エキドナは目覚めたくないから眠り続けているのだと……事実、特脳研で同じ様な人間を見てきたラーダにはそれがすぐに判った。では、何故目覚めたくないのか……ラーダはある推測に辿り着いていた。

 

「もしかすると彼女は……」

 

武蔵、イングラム、カーウァイの3人が告げた平行世界の連邦軍の関係者なのではないか? そして武蔵達はそれを知らずに保護してしまったのではないか? そして今も目覚めないのはロスターからの干渉が切っ掛けで記憶を取り戻そうとしているからではないか? 根拠も証拠もない、だがラーダはその優れた直感で限りなく正解へと辿り着いていた。それをダイテツとリーに相談するべきかと悩むラーダは格納庫からの呼び出しコールによって思考の海から引き上げられた。

 

『ラーダ。悪いのだけど少し調整を手伝ってくれないかしら?』

 

「ラドム博士……はい、判りました。今行きます」

 

武蔵だけではなく、イングラムとカーウァイも大丈夫と判断しているのならば、きっと思い過ごしかロスターの脅威を見て考えすぎているのかもしれないと思いラーダは首を振り、医務室を後にするのだった……。

 

 

 

 

 

シミュレータールームのモニターを見ながら武蔵はスポーツドリンクを口にする。その隣ではリュウセイが頭にタオルを被せてぐったりとした様子でスポーツドリンクを飲む気力も無い様子で項垂れ、少し離れた椅子の上では乙女として許されない白目を剥いたままアイビスが寝ており、ツグミに看護されていた。

 

「もう1本用意してますが、お飲みになりますか?」

 

「ん?いや、良いよ。ありがとシャインちゃん」

 

武蔵とリュウセイとアイビスでは根本的なスタミナが違う。2人がグロッキー(片方瀕死)でも武蔵にはまだ余裕があり、汗も出ていない。

 

「いえ、訓練をしていると聞きましたので、それにしても武蔵さんは平気そうですね?」

 

「そりゃなあ、この程度でダウンしてたらゲッターのパイロットなんて出来ないし」

 

この程度じゃないだろと言いかけたリュウセイだが口を開くのも辛い様子で、スポーツドリンクのストローを咥えるに留まった。

 

「大丈夫リュウセイ?」

 

「……むり」

 

「ちょっと横になったほうがいいかも」

 

おろおろと看護の準備を始めるラトゥーニを見て、武蔵は席を立った。

 

「ここで寝かせりゃ良いさ、オイラはまだ元気だし」

 

「……わり」

 

「気にすんなよ、シャインちゃんはどうする?」

 

「武蔵さんが行くなら私も行きますわ」

 

自分の後をついて歩いてくるシャインに武蔵は苦笑しながらモニターの前で腕組しているカイに声を掛ける。

 

「アラドの奴はどうですかね? カイさん」

 

「かなり有利な対面に設定しているが思うようには攻め切れないな」

 

アラドがシュミレーターで使っているのはアルトアイゼンで、対戦相手のライはパワードパーツの無いR-2を使っている。

 

「んー誘い込まれてる感じですかねぇ」

 

「判るのか?」

 

「それくらいなら判りますよ。R-2というかライは射撃が上手いですからね、距離を開けられると不利と思ってアラドの奴焦ってますね」

 

アルトアイゼンの装備を考えれば遠距離特化のR-2にヒット&アウェイをされると遠距離から削られる。それなら接近戦特化のアルトアイゼンで間合いを詰めるのは当然の策略だが、ライがそれを予想しない訳が無い。

 

『こいつで貰ったッ!行けッ!!リボルビング・ステェェェクッ!』

 

一歩で最大速度になったアルトアイゼンが紅い流星となりR-2に迫る。

 

「これは決まりですかね?」

 

「いやあ、早いな。焦ってるから目に見えてる隙に食いついちまった」

 

シャインの意見に反して武蔵は駄目だなと呟き、その次の瞬間にはR-2が急速反転しリボルビングステークをかわす。

 

「あっ……」

 

「な、言っただろ?シャインちゃん。でもこれでアラドの奴は負けだなあ」

 

完全に命中したと思っていたシャインは驚き、武蔵が負けだなと呟き、R-2から放たれたミサイルで脚部を破壊され、追撃に放たれたビームチャクラムが右肩から左足を斬る様に振るわれシュミレーターが緊急停止した。

 

「バカモンッ!相手との間合いに気をつけろと何度言ったら判るッ!!これで5度目だぞッ!!」

 

流石のカイもRー1、アステリオン、ゲシュペンスト・リバイブ、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ、R-2と5連戦で同じ結果になっているのを見たら声を荒げる。

 

「す、すみません!」

 

ぺこぺこと頭を下げるアラドを見て武蔵がカイとアラドの間に入る。

 

「まぁまぁ落ち着いてくださいよ、カイさん」

 

「武蔵…だがなぁ?」

 

「まぁ確かに負けは負けですけど、大分立ち回りは上手くなってるんじゃないですかね?オイラはPTに乗れないから見るところ違うかもしれないですけど」

 

怒鳴るだけ、叱るだけじゃ駄目だと言いたげに目配せをする武蔵にカイはふうっと溜め息を吐いた。

 

「確かにその通りだ。だがな、それだけでは足りない」

 

「……具体的に何が足りません?」

 

シュミレーターから顔を出したアラドがシュミレータールームの奥の方を見ないようにしながらカイに声を掛ける。

 

「大丈夫?」

 

「……大丈夫だと思う、やっぱR-1でゲッターロボとシュミレーターでも戦うってのが無理だったかもしれない」

 

ベンチに横になり、顔にタオルを乗せているリュウセイとその近くに腰掛けているラトゥーニを見て、なんかやるせない気持ちになっているアラドではあったが、改善点を知りたいと言うのは紛れもない本心だった。

 

「そうだな、お前の場合はあの戦い方が身体に染み付いてるようだ。まあそれはファルケンのタイプKに乗ってる段階で薄々感じていたが……な」

 

「……なんかすんません」

 

カイの教導によって大分改善されて来ているが、元々のアラドのスキルが接近戦特化。射撃や牽制のスキルが余りにも未熟すぎるのがカイの頭を悩ませている原因だった。

 

「格闘戦が得意ならそれに全振りすれば良いんじゃないですか?」

 

「武蔵ならそれでも良いが、PTでは駄目だ」

 

「そういうもんか」

 

「そういう物だ」

 

ゲッターロボのような特機ならば話は別だが、PTではそれは出来ない。幾ら白兵戦特化だとしても、バランスのいいスキルが必要とされる。

 

「カイ少佐、アラドのトレーニングは1回落ち着きましたか?」

 

「ラーダ? どうかしたのか?」

 

「はい、ラドム博士とビルガーが到着したのでそれにアジャストを行ないたくて、まだ訓練中でしょうか?」

 

ラーダの言葉にカイは少し考え込む素振りを見せた後に頷いた。

 

「アラド、ビルガーの調整に参加して来い、訓練はその後だ。ビルガーのシュミレーターのデータを忘れずに貰って来い、それを忘れたら俺と武蔵と組み手だ」

 

「りょ、了解っす」

 

最も地獄の訓練と言われている武蔵とカイとの組み手…それを続けてやると聞かされてアラドは青い顔でラーダと共にシュミレータールームを出て行く。その背中を見ながらカイとライは今後のアラドの訓練の方向性を話し合っていたのだが、武蔵の一言で弾かれたように顔を上げた。その一言とは……。

 

「マリオンさんとラルちゃんがそんなまともなもの作りますかね?」

 

どれだけカイとライがまともにアラドを育てようとしていてもマ改造と呼ばれる頭のおかしい物を作る開発者とその頭のおかしい開発者の弟子……頭おかしいの二乗はどう考えてもまともにならないのではないか? と言う事に考え付いたのだ。

 

「「……ちょっと見てくる」」

 

「いってらっしゃい?」

 

ファルケンにとんでもない改造を施しているのならば、ビルガーも同じかもしれない。カイとライは慌てた様子でシュミレータールームを後にし、武蔵はひらひらと手を振りカイとライを見送る。

 

「訓練多分終わりだと思うけど、シャインちゃんはどうする?なんもないならオイラ昼寝するけど」

 

その言葉にシャインはばっと顔を上げ、まだベンチでダウンしているリュウセイとラトゥーニの元へ足を向けた。

 

「何かゲームを持ち込んでいるのですわよね?」

 

「ん、ああ。持って来てるけど?」

 

リュウセイの返答を聞いてシャインは笑みを浮かべ武蔵へと振り返る。

 

「ゲームをやりましょう、武蔵さん」

 

「ゲーム……ねえ?オイラゲームとかやったこと無いけどなあ」

 

そもそも旧西暦にゲームは余り流通していなかった、強いて言えばゲームセンターくらいで武蔵の地元は北海道なのでそういう事をやった経験は殆ど無かった。

 

「そりゃ勿体ねえな。よっしゃ、なんか武蔵とシャイン王女でも出来そうなゲームを出すよ。アイビスはどうする?」

 

リュウセイの問いかけにアイビスの返事はなかった。と言うかまだ意識を取り戻していなかった……。

 

「アイビスの事はおいておいて良いわ、少し息抜きしてくるといいと思うわよ。折角休暇なんだしね」

 

休んでくると良いと言われ、リュウセイの部屋に武蔵、シャイン、ラトゥーニの3人で向かったのだが……。

 

「ん?んん?」

 

「どうすればいいんですの?」

 

「そこからかあ……」

 

コントローラーの持ち方が判らない武蔵とシャインにリュウセイは苦笑し、正しい持ち方を教えた後に初心者向けのパズルゲームをロッカーから取り出してゲーム機にセットするのだった……。

 

 

 

 

ハンガーに固定されているビルガーを見て、カイとライの2人は膝から崩れ落ちた。最初に設計された姿と余りにも違うその姿は既にマ改造されてしまっていた。

 

「遅すぎた…もう手遅れだ」

 

「どうするんですか……これ」

 

本来のビルトビルガーはビルトファルケンとセット運用を前提に設計されており、武装もファルケンにはない近~中の武装で整えられる筈だったのだが……。

 

「でけえブレードですね」

 

「ふっふっふ、ラルちゃんの傑作ネ! コールドバスターブレードッ! 重さで叩き切るのヨ! でもそのままだと携帯出来ないシ、重量がありすぎてまともに飛べないヨ!」

 

「欠陥品じゃねえかッ!?俺にこれに乗れって言うのか!?」

 

アラドのツッコミが出るのも当然である。武装を搭載したら飛べないとか本末転倒にも程がある。

 

「そこは分割するネ。背部ブレードウィングッ!! 体当たりで一刀両断ヨッ!!」

 

「……頭大丈夫っすか?」

 

「大丈夫ヨ?失礼ネ」

 

誰がどう見ても頭おかしいと思うのは当然であり、カイとライもアラドの言葉に賛同した。

 

「大丈夫ですわ。通常時は出力を絞ってますが、フルパワーモードならば問題なく利用出来ますわ」

 

「あ、それなら安心「ただし、フルパワーモードは外部装甲をパージするので被弾したら墜落ですわ」……出来るかあッ!!」

 

「ラドム博士…すまないが余りにもそれは酷くないか?」

 

さすがに我慢出来ずにカイがマリオンにそう声を掛ける。だがマリオンは心外だと言わんばかりの顔をし、ハンガーに固定されているビルトビルガーに手を向ける。

 

「アルトアイゼンとヴァイスリッターのデータを元にし、ノイエDCに強化されたファルケンの分析データを元に改造しておりますのよ?貴方のパートナーを取り戻すのに相手に追いつけないのでは話にならないのではありませんか?」

 

マリオンの言葉にアラドはハッとした表情を浮かべた。偵察の時に目の前で見たビルトファルケンは明らかにカスタマイズを施されており、ノーマルのファルケンと異なるパーツが幾つも見えた。アルブレードで完全に振り回されていたことを考えれば、同じ位の改造が必要なのではないか?と言う事に思い至ったのだ。

 

「しかしラドム博士……やりすぎではないだろうか?アラドの安全は確保出来ているのか?」

 

アラドが納得しかけているのでライが不味いと思いマリオンとラルトスにそう問いかける。

 

「んー心配ないネ。基本的にはビルトファルケンKと大差ないネ、むしろアーマーパーツ装着時はアルトアイゼンと同等の防御力が約束されている訳だシ、アーマーをパージしたら紙装甲でも当たらなければどうって事はないネ!」

 

「ビルトファルケンKをベースに開発してあるので問題はありませんわよ。後は細かい調整をすればそれで使用出来るはずです」

 

自信満々のマリオンとラルトスの後で死んだ目をしているラーダを見て、ライとカイは自分達が言おうとしている事は散々ラーダが口にし、そしてラーダの意見を一蹴したのだと判り、もう駄目だと天を仰いだ。

 

「この右腕の大鋏はなんすか?」

 

「これはスタッグビートルクラッシャーカスタムヨッ! ラルちゃんが昔作ったのを改造したのネ。荷電粒子砲とバリア発生装置をオミットしたかラ万能武器では無くなったけド!自信作ヨッ!」

 

なんだその頭のおかしい武器はという顔をカイ達がするが、アラドはすげえっと素直に喜んでいた。

 

「カスタムって事は強化されてるんですよね?荷電粒子砲とかオミットしてどこが強くなったんですか?」

 

「攻撃力ですわね。その気になればPTを持ち上げたまま飛ぶ事も出来ますし、持ち上げて地面に叩きつけることも可能ですし、何よりもPTを両断出来る切断力があります。後は放電させて捕まえる事で相手の機器類をショートさせて行動不能にする事も可能です」

 

「後はゲッター合金でコーティングしてるから盾としてもOKヨ。それにビルガーにはテスラドライブを搭載してるからブレードソニックブレイカーもOKヨ!」

 

子供のような眩しい顔で何アホみたいなことを言ってるんだ?格納庫にいる整備兵達も死んだ目になっている。

 

「なんで誰も止めなかったんだ……」

 

「遅すぎたんだ、頭の螺子がぶっ飛んでやがる……」

 

確かにこの基地にいる面子もブリットのゲシュペンスト・MK-Ⅲを突貫工事でSカスタムに改造した頭のおかしい連中だが、その連中から見てもビルトビルガーはとんでもない仕上がりだった。

 

「左腕は6連式スタンアサルトマシンカノンを搭載しております」

 

「スタンアサルトカノン?マリオン博士、なんだその武装は?」

 

聞き覚えの無い武装が搭載されているとカイがなんなのかと問いかける。

 

「スタッグビートルクラッシャー改の予備電流を左腕にも流せるようにし、高圧電流を射撃武器として発射出来る機能です」

 

その説明を聞けばその機能がアラドの悲願であるゼオラの救出の為に搭載された機能だと判り、マリオンの株が一瞬上がりかけたのだが……。

 

「脚部はファルケンKと同じくビームステーク、アーマーパーツにはガトリング砲とレールガン、それと背部のブレードはコールドバスターブレードとなっているのでそのまま体当たりしてもそれなりの破壊力が出ます。後分割時は一応片手剣としても使えますが、バランスが少々崩れるのでそこだけは気をつけてください」

 

続く言葉にやっぱりマッドだったと上がりかけた株はなまじ上がった分、大きく下がる事になった。

 

「ういっす」

 

なんで取り外したら飛行が不安定になる場所に武器を搭載すると話を聞いていたメンバーは全員がそう感じた。

 

「でもマリーシショー。腹部にビーム発射装置を搭載出来なかったのは無念ヨ」

 

「エネルギーが足りないからしょうがないですわね、その代りに足にビームステークはつけましたわ」

 

「それでビームが駄目だったんジャ?」

 

「そんな事は知りませんわ」

 

なんでビームステークを引き続き搭載したのか、それを付ける位ならビームをと誰もが思い……。

 

「いや駄目だな」

 

「俺もそう思います」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲやリバイブ、鉄甲鬼ならその反動に耐えれるだろうが、ビルトビルガーでは無理だろう……だがだからと言って両足に何故またビームステークを搭載したのかがカイ達には判らなかった。

 

「なんかこの銃変な形してますね?」

 

「目の付け所が良いネ!これはラルちゃんの自信作ネ!荷電粒子砲を諦めたくなくテ、弾数は少ないけど高圧電流を発射出来るスタンショットライフルよ!鹵獲につかえるよ、やったネ!でも機体のバッテリーを著しく消費するヨ」

 

「アラド……次の時間まで休んでいてくれて良い」

 

「え?良いんですか!やったーッ!」

 

カイは余りにも不憫な機体に乗せられるアラドを気遣い休んで良いと指示を出し、今でも十分色物のビルガーを更に改造しようとしているマッドコンビを止める為にライと共に2人に声を掛けるのだった。

 

「……もう結婚しろよ」

 

「「なんか言った?」」

 

休んで良いと言われたアラドはリュウセイの部屋で武蔵達がゲームをしていると聞いて、リュウセイの部屋に足を向けたのだが胡坐をかいたリュウセイの膝の上に座っているラトゥーニとそんなラトゥーニを抱き締めるようにしてコントローラーを握っているリュウセイを見て思わずそう呟き、バーニングPTで対戦しながら不思議そうにしている2人を見て何でだよと天を仰いだ。

 

(なんでここまで距離が近くて付き合ってないんだよ)

 

もう完全に彼氏彼女の距離だろ、付き合って無くてその態勢は無理だとアラドは心の中で突っ込みをいれた。

 

「ん?お、お、行けそう」

 

「いえいえ、私の勝ちですわ!」

 

正しい距離感と言うのは2人で並んで落ち物パズルゲーで対戦している武蔵とシャインの距離感が正しいのであって、胡坐をかいているリュウセイの膝の上に座るラトゥーニも、そんなラトゥーニを抱き締めるようにしてコントローラーを握っているリュウセイもおかしいとアラドは心のそこから思うのだった……。

 

 

 

 

一方その頃アースクレイドルでは――。

 

「偵察任務ですか? 私とゼオラで?」

 

虎王鬼に呼び出されたオウカは虎王鬼の言葉を鸚鵡返しで尋ね返していた。

 

「そうよ、まぁ偵察って言うのは名目なんだけどね」

 

「名目ですか?」

 

「そ、名目。ハガネとシロガネは間違いなくサマ基地に進行して来る筈……ハガネとシロガネが来ると言う事は……」

 

「アラドが来る」

 

虎王鬼の言葉を遮るようにしてオウカがそう呟いた。サマ基地自身にはそこまでの価値は無いが、プランタジネットの事を考えれば連邦は其処を取りに来る。別に取らせる事自体は大した問題ではない、ハガネとシロガネでなければ防衛出来ないのだから奪われたあとすぐ奪還することだって十分に可能だ。だが、サマ基地でゼオラとオウカをアラドに合わせるのは都合が悪いと虎王鬼は考えていた、

 

「ノイエDCの連中がいれば裏切りだのなんだのって絡んでくるでしょ?その前にハガネとシロガネの予想進路に龍玄と雷神鬼を置くわ、そこでアラドに1度会いなさいな」

 

アラドに会えと言う虎王鬼にオウカは怪訝そうな表情を浮かべる。雷神鬼は遠距離射撃の百鬼獣だ、自分達を排除しようとしている?という疑いがオウカの脳裏を過ぎるが、虎王鬼も龍王鬼も自分達に良くしてくれている……だから信じたいと思い、疑いと信じたい気持ちの間でオウカは揺れ、そんなオウカを見て虎王鬼はくすくすと笑った。

 

「龍が言ったから表立っては動かないと思うけど、イーグレットの奴は絶対サマ基地でやっかみを掛けてくるわ。多分アギラも絡んでくるかもしれない」

 

アギラの名前を聞いてオウカの顔に嫌悪の色が浮かぶ、リマコンと投薬の影響が抜ければアギラはただの醜悪な老婆であり、それを母と呼んでいたのはオウカにとって忘れたい記憶でもあった。

 

「そうなると貴女達も危ないわ、下手な因縁を付けられても困るしね。だからその前に龍玄がいる所に誘い込んで会ってみなさい」

 

「何故其処までアラドに会えと言うのですか?」

 

ゼオラが一瞬自我を見せたがそれは一瞬の事でクエルボと共に落胆したのはオウカの記憶にも新しい、まだ何も対策がないのに何故アラドに会えと言うのですか?とオウカは虎王鬼に尋ねる。

 

「朱王鬼の術が解除されたから今がチャンスかもしれない。それにゼオラも少しずつだけど反応を見せるようになってるでしょ?」

 

「……反射行動ではないのでしょうか?」

 

「それはあたしにも判らないわ。でもアラドと会えば何らかのリアクションを得れるわ。仮に暴走しても雷神鬼と陸王鬼ならゼオラを拘束出来るわ」

 

水辺の町という事で結界を展開する陸王鬼を配置出来る。陸王鬼の結界で捕え、雷神鬼で回収するという手筈を取れると言う説明を受け、オウカは小さく頷いた。

 

「リスクは承知よ。でもリスクを恐れていては前には進めないわ」

 

「……はい、判っています」

 

虎王鬼に出来る範囲での処置は済ませた。だが完全に朱王鬼の呪を弾く事は出来ていない……オウカとクエルボから与えられる刺激で足りないのならば、ゼオラが依存しているアラドに会わせるしかないと虎王鬼は判断したのだ。

 

「どれだけ心を縛っても、完全に人を縛ることは出来ないのよ。心を揺らせば何か手掛かりも得れるわ、大変だと思うけど頑張って」

 

虎王鬼の言葉に頷き、オウカは虎王鬼の部屋を後にする。イーグレット、アギラが動き出せばゼオラを元に戻すのは難しくなる……まだ2人が大きく動く事が出来ない今がチャンスである事は間違い無かった。

 

「ゼオラ、私と偵察に出るわよ」

 

「……ハイ、オウカ姉様」

 

「オウカ、ゼオラ。気をつけて」

 

クエルボに見送られオウカはゼオラを伴ってアースクレイドルを出撃する――そこで待ち構えている物が悪意に満ちた舞台であったとしても、ほんの僅かな希望の糸に縋る為に……痛みと不安、そして恐怖を伴っての行軍は確かに希望の光をオウカへと与えるのだった……。

 

 

117話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その2へ続く

 

 




インターミッションは終わりで、次回は戦闘描写を書いて行こうと思います。ビルガーが頭おかしくなっておりますが、大丈夫です。ちゃんとファルケンも回収後にマ改造するので無問題です。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


ストナーサンシャインガチャは敗北しました

ゲッタートマホーク2本
ハンマーヘルアンドヘブン
クロスレンジアタック
カイザーブレード

と期間限定から外された必殺技3枚と斧2本でした。無念……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第117話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その2

117話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その2

 

連邦本部からのサマ基地奪還命令が下されたハガネとシロガネは周囲を警戒しながらサマ基地への進路を進む。敵影も感知されない安全な航路だったが、サマ基地まで後4時間と言う所でリーは眉を細め、不機嫌そうに口を開いた。

 

「……解せん」

 

「中佐?どうしましたか?」

 

副官からの問いかけに、声に出ていたかとリーは肩を竦めた。サマ基地奪還命令はリーとダイテツの連邦でも上から数えた方が早い指揮官からしても納得の命令だ。だが、スペースノア級を2機運用する必要があるのか?と問われるとリーには納得できない物があった。

 

「今回の作戦――些か納得の行かない部分がある…何故スペースノア級を2機運用する必要がある?アビアノ基地の防衛はどうする?アビアノとサマ基地の距離を考えればスペースノア級なら最大戦速、あるいはオーバーブーストを使用すれば1時間も見れば十分に合流出来る。侵攻に動く際が1番隙が出来る――これでは……」

 

『アビアノが落とされる事を本部が願っているように思えるか?』

 

「……ダイテツ中佐…はい、私にはそうとしか思えません」

 

通信を繋げられていた事に驚いたリーは一瞬口を濁そうと思ったが、考え直し嘘偽りの無い本心を口にした。

 

『確かにな、ワシもそう思う。アビアノ基地は亡きノーマン准将の派閥の基地だ……今の連邦本部には面白く無いだろうな』

 

オペレーションSRWに参加した多くの将は死亡、あるいは退役した。現在の連邦の中枢の多くはエアロゲイターへの投降派や、シュトレーゼマンの派閥が徐々に息を吹き返してきている。それも合わさり妨害工作ではないか?とリーとダイテツは懸念していた。

 

「何故このような状況でも互いの足を引っ張り合うのですか……」

 

『人が集まれば数多の意見が出ると言うことだろう。明確な敵、そして地球の危機という認識が無ければそれは変わりはしないのだろう』

 

未知の脅威が数多確認されていても、明確な侵略行動はアメリカとホワイトスターに留まっており、ノイエDCの台頭が大きく動いていると言うだけで甘く考えている者が多いのが現状かもしれない。

 

『とにかく今は作戦を遂行するしかない』

 

「それは判って……」

 

リーの言葉は最後まで発せられる事はなかった。ハガネとシロガネから警報が鳴り響き、ブリッジがレッドアラートをともす。

 

「何事だ!?」

 

「わ、判りません!レーダーの範囲外からの超遠距離射撃としかッ!」

 

「馬鹿なッ!?そんなことが出来るのは……」

 

『百鬼帝国しかあるまい。リー中佐、進路を変更するぞ』

 

レーダーの範囲外からスペースノア級の装甲を破壊出来るほどの破壊力を持つ狙撃が出来る機体は地球の……いや、人間の技術では不可能だ。サマ基地奪還作戦中に背後から狙撃される訳には行かないとダイテツとリーは進路の変更を決断し、被弾位置から推測された方向へと機首を旋回させるのだった……。

 

 

サマ基地へ続く海辺の市街地に雷神鬼、そして海中に島ほどの巨体を持つ陸皇鬼が待ち構えている無人の市街に雷神鬼の超大型対戦艦ライフルの発射の反動が伝わり、ビルが砕け散り、アスファルトに亀裂が走り、まるで大地震が襲ったような有様だ。だが、その光景を見ても龍玄の心が揺れる事はない。鬼の中でも異常と言える闘争本能を鋼鉄の精神力と冷静な思考で操る龍玄にとってはこの程度で心を揺らすことも、動じる事も無い。

 

「さて、オウカ、ゼオラ。そろそろ出撃して貰おうか」

 

『了解です』

 

オウカからの返事がすぐに雷神鬼のコックピットに響き、陸皇鬼からラピエサージュ、ビルトファルケン、そしてヴィンデルから借り受けたゲシュペンスト・MK-Ⅱとアルブレードの混成部隊が出撃する。

 

「判っていると思うが、今回の戦闘は本戦ではない。あくまで進路をこちらに固定する為の物だ、過度な攻撃は禁ずる」

 

『『『……了解』』』

 

人間味の無い量産型Wシリーズの返答に龍玄は眉を細め、量産型Wシリーズへの通信を切り、ラピエサージュへと通信を繋げる。

 

「オウカ、判っていると思うが今回の作戦はあくまでお前達の物であるという事を自覚してくれ」

 

『……はい、ご迷惑をお掛けします』

 

「気にする事はない、俺もあの下種は嫌いだからな」

 

朱王鬼――龍玄の尊敬する龍王鬼、虎王鬼と同格の鬼ではあるが、その相方の玄王鬼と同様にその性格に難があり、決して好かれるような鬼ではない。龍王鬼、虎王鬼が闘龍鬼、ヤイバ、風蘭、龍玄と従えているのに対して直属の部下は一切おらず、その作戦ごとに使い捨ての部下を運用し、それこそ部下を爆弾等にし殺すような輩だ。鬼でありながらまともな感性を持つ龍玄達が嫌悪をするのも当然であり、家族で殺しあわなければ元に戻らないと聞いていることもあり同情心もある。

 

「別に怒っている訳ではない、ただ目先に囚われて視界を狭めるな。今回はゼオラがどんな反応を見るかのための物だ」

 

『結果が判れば離脱するという事ですか?』

 

「そうだ、だからノイエDCも他の鬼も使っていない」

 

名目としては攻撃を仕掛けサマ基地への進路を固定化させるというもの、この街は重要な拠点でもなければ守るべき場所でもない。ただサマ基地へ続く道として都合がいいから陣取っているに過ぎないのだ。だからこの場所を捨てる事に何の戸惑いも無く、ゼオラの反応次第では即座に撤退するつもりであった。

 

「これで自我を取り戻すのならば、そのまま戻らなくてもいいがな、それは余りにも楽観的だろう」

 

『……良いんですか?龍玄さん』

 

目の前で逃走してもそれを認めると言う龍玄の言葉にオウカは驚きを隠せなかった。

 

「逃げても良いさ、俺は追いはしない。だが戦場で敵として会えば、それはまた別問題だがな」

 

子供を殺すと言うのは龍玄の流儀に反する。そしてゼオラとオウカにも同情する心もある……だからアラドと会い、そしてゼオラの病状に何らかの改善が見られたらあるいは、元に戻ったと言うのならばアースクレイドルに戻らず、アラドと共にこの場を去ってもいいとまで考えていた。それは龍王鬼と虎王鬼も同じであり、だからこそ戦闘に入ればそれ以外の事を考えないヤイバ達ではなく龍玄を配置したのだ。

 

『龍玄さん』

 

「話は終わりだ。来るぞ」

 

感謝の言葉を口にしようとしたオウカの言葉を遮り、龍玄は自分達の目の前に現れたハガネとシロガネを見据え、獰猛な笑みを浮かべるのだった……。

 

 

 

 

 

ハガネとシロガネを狙撃した何者かを撃墜、あるいは退ける為にカイ達は進路を変え、サマ基地の背後に回るように移動して来たが、市街地の中心と海上に陣取る2体の大型百鬼獣を見てカイは眉を顰めた。どちらも武蔵が伊豆基地で応戦した際に出現した個体であり、海中に浮かんでいる巨大な亀のような百鬼獣が戦艦の役割を果たしている事を戦闘記録からカイ達は把握していた。

 

『どうするよ、カイ少佐。こりゃ下手すれば百鬼獣まで出てくるぜ』

 

「判っている、だがここで退く訳にはいかん」

 

『……無茶すんなよ。少佐』

 

修理段階のゲシュペンスト・リバイブの状態は決して良くはない、PTやAMならば問題ないが百鬼獣と戦うには余りにも不安がある。イルムの自分を案ずる言葉にカイは小さく笑った。

 

「心配するな、その程度でどうこうなる甘い経験値ではないわ」

 

修理、整備不全の機体で戦った事もあるカイにとっては問題はないと笑い、アラドに通信を繋げる。

 

「アラド、判っていると思うが単独で突っ込むなよ」

 

『……りょ、了解ッ』

 

了解と返事を返すアラドだが、明らかに気負っている。それを感じ取ったカイはフェアリオンで出撃しているラトゥーニに通信を繋げた。

 

「ラトゥーニ、シャイン王女とアラドのフォローは出来るか?」

 

『……すみませんカイ少佐、私も……アラドと同じ気持ちです』

 

『ラトゥーニとアラドの家族と言うのならば、私も取り戻すのに協力しますわ』

 

ストッパーであるラトゥーニに止まる気配が無く、アラド以上に気負っているラトゥーニ、そしてアラドとラトゥーニに協力すると言うシャインの返答にカイは頭を抱えたが、気持ちはカイにも良く判っていた。

 

「気持ちは判るがまずは様子見だ。前回の二の舞にならないためにもな」

 

ラピエサージュとビルトファルケン。それぞれに家族が乗っている――百鬼帝国に占領されているアースクレイドルで何が起こるか、どんな扱いを受けるか判らない以上早く助け出したいと思うのは当然の事だ。

 

「市街地に陣取っているあの巨大な百鬼獣の武装を破壊するッ!機動力に長けた機体で取り付けッ!アラド達はファルケンの奪還を優先……ッ!全員散れッ!!!」

 

指示を出している最中で雷神鬼の両腕のガトリングが、背部の超大型対戦艦ライフルが火を吹き、カイの散れという指示から数秒遅れて凄まじい轟音が鳴り響いた。それはポセイドン2がハガネとシロガネへと放たれた雷神鬼の狙撃を防いだ音であり、腰を落とし両腕をクロスさせてコックピットを庇う姿勢のポセイドン2から武蔵の声が響いた。

 

『ちっ!カイさん、イルムさん、リュウセイ!オイラはここから動けんぜッ!早いところ何とかしてくれッ!』

 

完全に雷神鬼はポセイドン2を足止めすることに専念しており、装備している火器の殆どをポセイドン2とハガネ、シロガネに向けている。そうなればハガネとシロガネを守る為にポセイドン2は動けず、ブリッジはポセイドン2が守っているお蔭で一撃での轟沈を免れているが、全身火器の雷神鬼の攻撃は凄まじく、E-フィールドを貫通した攻撃によってハガネとクロガネから黒煙が上がる。

 

『ぐっ!E-フィールドも長くは持たんッ!』

 

『短期決戦だッ!5分以内にあの大型百鬼獣の武装を破壊するんだッ!それ以上はハガネもシロガネも持たんッ!!』

 

E-フィールド、そしてポセイドン2によって庇われていてもハガネとシロガネへのダメージは凄まじく、警報が鳴り響く中ダイテツとリーの指示が飛ぶ。

 

「艦長達の指示は聞いたな、まずはあの百鬼獣を行動不能に追い込むッ!イルム、リュウセイ、ライ続けッ!ヴィレッタとラーダはラトゥーニ達のバックアップを頼むッ!」

 

返事を聞いている余裕も、躊躇っている時間も無い。今も雷神鬼からの砲撃は続き、ポセイドン2の装甲を削り続けている。そして防ぎきれなかった砲弾がハガネとシロガネのE-フィールドを貫通し確実にダメージを重ねている。圧倒的な不利な状況、そして敵は強大、最大戦力のゲッターは動けず、時間を掛けていれば母艦が撃墜される――余りにもカイ達にとって不利な状況での戦いが幕を開けるのだった……。

 

 

 

雷神鬼の姿はジガンスクードに酷似しているだけあり、その強固な装甲、そして巨体はそれだけで脅威だった。背中と両肩からは実弾とレールカノン、ビームキャノンが絶え間なく放たれ、胸部、腰部の装甲が展開され砲門が姿を見せると同時に両腕のガトリング砲とシールドが一体化した特殊兵装と共に稼動音を上げ始める。ジガンスクードに迫る巨躯、そして全身の重火器は巨大な要塞のようにイルム達には見え、背中に冷たい汗が流れる。それほどまでの圧倒的な威圧感を雷神鬼は放っていた。

 

『俺の名は龍玄。こいつの名は雷神鬼という、短い間だがよろしくと言っておこうか、人間達よ』

 

地響きを立てながら動き出す雷神鬼と龍玄の言葉にリュウセイ達は思わず面を食らった。パイロットが乗っているのは感じていたが、まさか戦いの前に名乗りをあげて来るとは思っていなかったのだ。

 

「てめえ、あれだな?龍王鬼と闘龍鬼の仲間だな」

 

百鬼帝国の中で何度も対峙している龍王鬼の一派――名乗りからイルムは龍玄も龍王鬼の一派だと判断し、そう声を掛けた。すると雷神鬼から楽しそうな笑い声が響いた。

 

『然り、お前はイルムガルトだな。闘龍鬼と龍王鬼様から話を聞いている』

 

「……もううんざりだよ、てめえらの一派にはよッ!!」

 

圧倒的な戦力を持っている上に、戦闘狂が揃っている龍王鬼の一派にはもううんざりだとイルムは叫び、ブーストナックルを打ち込む。

 

『そう言ってくれるな、長い付き合いになるかもしれないのだからな』

 

防ぐ素振りも避ける素振りも見せない雷神鬼にブーストナックルが命中し、甲高い金属音が響きブーストナックルが弾き飛ばされる。

 

「ちっ、めちゃくちゃかてえじゃねえか!」

 

『見た目通りという事か、リュウセイ続けッ! 俺とお前でかく乱するぞッ!』

 

『了解ッ!』

 

5分という時間は余りにも短い、ポセイドン2自身は耐え切れるがハガネとシロガネが雷神鬼の攻撃に耐え切れない。しかしグルンガストでは雷神鬼も攻撃を避けきれないとR-1とゲシュペンスト・リバイブ(K)が先行し、雷神鬼へと取り付こうとする。

 

『トドメは任せます。イルム中尉、攻め所を見誤らないでください』

 

「判ってる、あーくそッ!こんなの俺のキャラじゃないにも程があるぜッ!」

 

万全な状態のR-1とゲシュペンスト・リバイブならば雷神鬼にも痛手を与えられるが、リュウセイは念動力が不安定な上にロスターを呼び寄せる危険性を考慮し、T-LINKセンサーは起動しないように設定されているので十八番のT-LINKナックルを初めとした念動力を使う武器は使用出来ず、ゲシュペンスト・リバイブ(K)は闘刃鬼との戦いで中破したのを強引に修理し運用しているために万全には程遠いスペックで、被弾すればそれだけで致命傷になりかねない。アーマリオンやエルシュナイデとビルトファルケン、ラピエサージュの混合部隊を抑えるには当然ながらかなりの人数が必要であり、雷神鬼と対峙しているイルム、カイ、リュウセイ、ライの4人に増援も期待出来ない、その上5分以内に背部の砲門を破壊しなければハガネとシロガネが轟沈しかねないと言う圧倒的な不利な状況での戦いにイルムは眉を細める。

 

『良い動きだ、悪くない。だがそれだけでは俺には勝てんッ!!』

 

『くっ!くそっ!攻撃範囲が広すぎるッ!』

 

『リュウセイ!迂闊に突っ込むな!』

 

4倍近い機体のサイズ差があり、雷神鬼からすれば牽制程度のバルカン攻撃もその巨体による横薙ぎと共に放たれれば十分な脅威であり、取り付こうとしたR-1が慌てて後退し、ゲシュペンスト・リバイブ(K)からカイの怒号が飛ぶ。

 

『ターゲットロックッ!ハイゾルランチャー、シュートッ!!』

 

「こいつはどうだ!ファイナルビームッ!」

 

R-2パワードのハイゾルランチャー、そしてグルンガストのファイナルビームが雷神鬼へと迫る。それは並みの特機ならば容易に粉砕する一撃――。

 

『温い、その程度かッ!!!温すぎるぞッ!!!その程度で俺の首を取れると思っているのかッ!!!』

 

バリアでもない、腕で防いだ訳でもない、純粋に装甲だけで一点に集中させたハイゾルランチャーを、グルンガストのファイナルビームを防いだ。しかもただ防いだだけではない、全くのノーダメージで耐え切った雷神鬼の緑の瞳が真紅へとその色を変える。

 

『少し気合を入れてやろうッ!』

 

雷神鬼の全身のから何かが射出された――R-1のモニターに映るそれを見たリュウセイは困惑の声を上げた。

 

『なんだ?棒?』

 

T-LINKリッパーのような刃ではない、ストライクシールドのような半自動で動く武器ではない、ただ無造作に射出された棒だった……何がしたい? とリュウセイだけではない、ライやイルムも一瞬困惑したが雷神鬼が放電したのを見てそれが何かを悟った。

 

『いかんッ!散れッ!!』

 

『もう遅いッ!砕け散れいッ!!迅雷ッ!!!!』

 

雷神鬼から放たれた電撃がR-1達を囲んでいた棒――特製の電極によって増幅され、電撃の檻が作り出される。

 

『うわあああ――ッ!!!』

 

『ぐっ……ぐううううッ!!!?』

 

ライとリュウセイの悲鳴が木霊し、R-1、R-2が共に感電し全身から黒煙を上げる。

 

『イルムガルトぉオオオオオ!!!』

 

「わ、わかってるぅううううッ!!!』

 

電撃で焼かれ、叫び声を上げながらのゲシュペンスト・リバイブ(K)のバックパックから放たれたビームキャノンと、グルンガストのブーストナックルが電極を砕き、電撃の檻を破壊する。数秒の放電だったが、その電圧は凄まじくR-1達は機体の不調を露にしていた。

 

「くそったれ、雷神ってついてるからって電撃まで使うんじゃねえよ。クソがッ!」

 

『ちっ、今のであちこちやられた。イルム、お前はまだ大丈夫か?』

 

「なんとか、グルンガストじゃなきゃお釈迦だった」

 

対電撃の処理を施されているが、それでもR-1は脚部に負荷がかかり、機動力を完全に奪われた。R-2パワードはハイゾルランチャーとR-2のエネルギーパイプが破壊され、ハイゾルランチャーが完全に死に武器になった。

 

『センサーが半分逝かれた、それにあちこち反応が鈍い、なんとかしてみるがすぐに復旧は無理だ』

 

5分――いや後3分を切っている中で機体の不調は絶望的だ。嵐のように放たれる雷神鬼の砲撃は確実にシロガネとハガネ、そしてポセイドン2にダメージを与え続けている――最早一刻の猶予も無い。

 

「了解!俺が何とかするしかねぇって事だなッ!」

 

計都羅喉剣を構えたグルンガストが雷神鬼へと駆け出し、その姿を見た龍玄はコックピットの中で笑みを浮かべほんの少しだけ攻撃の手を緩めグルンガストへと己が半身を対峙させるのだった……。

 

 

 

 

 

存在しない筈のエルシュナイデの後方に浮かんでいる漆黒の準特機ラピエサージュ、そしてその後にいる装甲の一部が改装され、期待の各部が漆黒に染まっているビルトファルケンを見つめ、アラドはビルトビルガーの操縦桿をしっかりと握り締めながら、出撃前のマリオンの忠告を思い出していた。

 

『アルブレード・F型、ビルドラプター改では貴方には操縦しきれないと言う事でビルガーを準備しましたが、調整は6割ほどです。使用できない機能も多数あるという事を覚えておいてください』

 

『具体的にハ、アーマーパージしたらバラバラになるネ!』

 

『それでも15秒は持ちますわ』

 

15秒しか維持出来ない最大加速――それは紛れも無く今のアラドにとっての切り札であった。

 

『オウカ姉様』

 

「オウカ姉さん」

 

『……その声はラトゥーニにそれにアラドね。元気そうで良かったわ』

 

元気そうで良かったと言うオウカの声は疲れ切っていた。それが判らないラトゥーニとアラドではない、血の繋がりはない。だが確かにオウカは2人にとっての姉だった。

 

「今度はちゃんと連れて帰る!オウカ姉さんも、ゼオラもッ!!」

 

『シャイン王女』

 

『ええ、参りましょうッ!!』

 

ビルトビルガー、フェアリオンが宙を舞い、ラピエサージュ、ビルトファルケンへと向かう。

 

『気持ちは判るけど、先行し過ぎに注意して。アイビスは支援を、ラーダは私とバックアップ、コウキ博士はどうかしら?』

 

『はいッ!!』

 

『了解です』

 

『雷神鬼とやらに取り付く、あのデカブツを止めない事にはどうにもならん……とでも言って欲しいか?くだらん茶番だ』

 

時間差で出撃して来たラーダとコウキも加わるが、コウキは茶番と吐き捨てた。

 

『やっぱり……そうなのね?』

 

『沈める気はない、ただの悪ふざけ……いや、違うな。これは慈悲だ、随分と人間味のある鬼がいる物だ』

 

他の百鬼獣の姿は無く、本気で沈めるつもりではなく危機感を煽る攻撃。そしてほぼ棒立ちのエルアインスやゲシュペンストMK-Ⅱを見れば、これが戦いではなく何らかの目的を持って用意された舞台であると言うのは明らかだった。

 

『ッ!!』

 

「ゼオラアッ!!」

 

高速で飛び交うファルケンとビルガー……この場での戦いはファルケンとビルガーの為だけに用意された物だとコウキは判断していた。

 

『伏兵に気をつける事だ。ではな』

 

『ええ、カイ少佐達をよろしく』

 

トマホークを装備し雷神鬼へと向かう轟破鉄甲鬼を見送り、ヴィレッタもゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDを駆る。

 

『やっぱりね、私達は招かれていないって訳ね』

 

『そうみたいですね、一体何が目的なんでしょう』

 

ビルトビルガー、フェアリオンに対しては攻撃を仕掛けないが、ゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDを見るなり攻撃態勢に入るエルアインス達を見て目的はなんだと思いながらヴィレッタ、ラーダ、アイビスの3人はシャドウミラーの機体との戦いを始める。

 

『……』

 

「ゼオラッ!!逃げんなッ!』

 

何の感情も感じられないビルトファルケンをアラドは必死にビルガーを繰り、その手に武器すら持たせず、がむしゃらにその手をファルケンへ伸ばす。それは普通に考えればただの自殺行為――実際ビルトファルケンはオクスタンランチャーの銃口をビルトビルガーへと向け、その指が引き金へと掛かる。

 

『ッ……ッ!!!』

 

『ゼオラ、駄目よッ!』

 

オウカの制止する声が響いたが、それよりも先にビルトファルケンはオクスタンランチャーを格納し、ビルトビルガーに背を向けて逃げる。

 

「ゼオラぁあああッ!逃げるなッ!!俺はいるッ!!俺は生きて!お前の目に前にいるんだッ!!俺を見ろッ!!!」

 

『……ド……ラド?』

 

「そうだッ!俺だッ!俺はここにいるッ!」

 

ぼんやりとしたゼオラの口から、途切れ途切れだがアラドを呼ぶ声がする。それを聞いてアラドは声を上げる、ここにいると繰り返し叫ぶ。

 

『ゼオラ……』

 

『ラトゥーニから話は聞いております。どうか抵抗なさらぬように』

 

『オウカ姉様、ハガネへ、こっちへ来て』

 

ゼオラとアラドのやり取りを見て動きを止めたオウカとラピエサージュをフェアリオンが左右から挟み込み、降伏勧告を告げる。

 

『……アラ……ド……いらないって……私を……いらないって……』

 

「馬鹿野郎ッ!俺がそんな事を言うかッ!ゼオラッ!こっちへ来いッ!!」

 

ビルトビルガーの腕がファルケンの肩を掴んだ。その瞬間だった、ファルケンの――ゼオラの雰囲気が変わった。

 

『いかんッ!!』

 

その変異を感じ取ったのは龍玄だった。朱王鬼の悪辣さを知っているからこそ、第二、第三の仕掛けを用意していると警戒していた。朱王鬼の呪が起動したのを感じ取った龍玄は直撃を覚悟し、雷神鬼を反転させる。

 

『……アラド……アラド……アラド……』

 

「ゼオラ?おい、ゼオラッ!!」

 

『ネェ……アラド……イッショニシンデヨ』

 

ビルトファルケンの黒く染められた装甲から鎖が伸び、ビルトビルガーの首、肩、足に巻きついた。

 

「ゼオラッ!くそッ!まだあの野郎のッ!!」

 

『イッショナラコワクナイノ、ダカラダカラ……イッショニシノウ?』

 

ビルトファルケンの手足から黒煙が上がり始める……それは明らかに自爆の予兆だった……。

 

『ゼオラッ!アラドッ!』

 

オウカが空の上にいる者の中で1番早く気付き、フェアリオンのソニック・スウェイヤーでラピエサージュの装甲をへこませながらも救出に向かおうとし、それに続くようにフェアリオンが弾かれたように動き出す。

 

『許せ小僧』

 

だがそれよりも早く雷神鬼の背中のキャノンが火を噴き、その余波でビルトビルガーとビルトファルケンを引き離す。互いに錐揉み回転しながら墜落するビルガーとファルケンだが、ファルケンはまだその手をビルガーへと伸ばしていた。

 

『アラド……ラド』

 

『オウカ!ゼオラを回収しろッ!』

 

『龍玄さん……はいッ!!』

 

ラピエサージュがビルトファルケンを回収し、そのまま離脱する。

 

「ゼオラッ!行くな」

 

『止まれ小僧、今お前が近づけばあの娘は今度こそお前を殺すだろう。そしてその上であの娘も死ぬ、それでも追うか?そしてお前達もまたこの場で死ぬまで戦うか?それならば相手をしよう』

 

雷神鬼からの言葉にビルトビルガーが動きを止め、圧倒的な威圧感を放ち始める龍玄にリュウセイ達が動きを止める。口振りから戦闘をやめようとしているのを感じ取り、深追いするべきではないと判断したのだ。雷神鬼が手を上げるとシャドウミラーの機体が全て陸皇鬼へと帰還していく。

 

『この場はお前達の勝ちだ、サマ基地にて待つ』

 

『待て、あの娘にお前は何をした?』

 

『……裏切り者の鬼か、1つ言っておくが俺達は何もしていない。あの娘をおかしくしたのは朱王鬼であり、俺達の頭領の龍王鬼様達ではない。なんとか呪を解く事は出来ぬかと思っていたが……どうも相当根深いようだ』

 

「あんたはゼオラを助けようとしてくれているのか?」

 

『助けるというつもりは無いが、心を砕かれたのは憐れと思うし、救ってやりたいとも思うが……それもまた難しかろう。あの娘自身が朱王鬼の呪を覆すか……お前達が朱王鬼を殺さねばあの娘はあのままであろう。それまでは下手に近づかぬほうがいい、それが互いの為になるだろう……俺達の戦いの決着はサマ基地でつけるとしよう。今度はこのような甘い攻撃はせん、本気で、それこそ俺を殺す気で来るが良い。ではさらばだッ!!』

 

音も無く雷神鬼は消え去り、数分の戦いによって作り出された破壊の跡とは思えない市街地にとんでもなく重い空気と共にリュウセイ達が残されるのだった……。

残されるのだった……。

 

 

118話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その3へ続く

 

 




今回はイベントが進めば終了というので考えていたのでここで終わりです。次回は少しインターバルを挟んですぐにサマ基地戦に入って行こうと思います。マシンナリーチルドレン改め、インベーダーズチルドレンの登場ですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

118話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その3

 

118話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その3

 

雷神鬼の襲撃によってハガネとシロガネは少なくないダメージを受け、更にはPT隊も関節部等に手痛いダメージを受けていた。

 

「……作戦を続行せよと言うのだな。レイカー」

 

『……ああ、総本部はサマ基地奪還を変えるつもりはないそうだ』

 

レイカーの言葉を聞いてダイテツは深い溜め息と共に背もたれに背中を預ける。雷神鬼がサマ基地で待ち受けている事は確定しており、ハガネ、シロガネはサマ基地周辺に近づく事が難しい。かと言って安全圏から出撃させれば不調を背負っているPT隊ではサマ基地に到着した段階で相当な負担を強いる事になる。

 

『レイカー司令、作戦開始時間を遅らせる事は可能ですか?』

 

『リー中佐、すまない。私の方でも努力はしたが……6時間ほどだ』

 

6時間では機体の修理は万全とは言い切れない、せめて後4時間あればとモニター越しで唇を噛み締めるリーを見ながらダイテツはもう1つ気になっていた事をレイカーへ尋ねた。

 

「応援はどうだ?」

 

『……すまない』

 

一言、その一言で応援もないと悟りダイテツとリーの額に皺が寄る。

 

「あからさまに妨害行動に出てきたか……」

 

『成り代わり……だけとは言えないですね』

 

成り代わりで百鬼帝国が悪いと言えればダイテツとリーもある意味気が楽だが、確実に応援を寄越さないと決めたのも、作戦実行までの時間がギリギリ修理まで間に合わない時間に設定されたのも総本部からの嫌がらせと言っても良いだろう。

 

『苦しいと思うがサマ基地さえ奪還すれば日本に戻れる。ダイテツ、リー中佐、頑張ってくれとしか言えない私を許してくれ』

 

その言葉を最後にレイカーの姿は消える。電波妨害で通信が阻害されてしまったというのは明らかだった。

 

『ダイテツ艦長……我々に打てる手段は1つしか』

 

「だろうな、了承してくれるだろうが……胸が痛いな」

 

ライガー2そして鉄甲鬼による地下からの強襲による雷神鬼の無力化、そしてそこからの2機のスペースノア級による突撃――それが今のダイテツ達に打てるたった1つのサマ基地攻略方法なのだった……。

 

「それでコウキさん。あの龍玄という鬼の言葉は真実なのですか?」

 

「……正直それに関しては俺には判らん。確かに鬼は通常では考えられない能力を持っている者もいるが……あそこまで人の精神に干渉できる者がいるかと言われると俺には正直判断がつかない」

 

「コウキでも判らないのか?」

 

百鬼帝国に属していたコウキならば龍玄の言葉が真実かどうか? 判断がつくと思っていたカイ達だが、良く判らないと言う返答を聞いて何故だ? と問いかける。

 

「正直に言うと、この時代の人間の精神力は弱い。旧西暦の人間なら……」

 

「洗脳される前に足にナイフでもぶっさすわな。オイラならそうするし、リョウや隼人なら……うん。自分で自分の腕をへし折るくらいやるんじゃないかな?」

 

洗脳されるならそれよりも早く、自分で自分を痛めつけて洗脳を振り払うという方法に出るのがデフォルトの武蔵達からすれば洗脳される、操られるというのは余り脅威とは思えないでいた。

 

「なるほど理解した。搦め手よりも相手より強い力で制圧するということだな」

 

「判ってくれて何よりだ」

 

洗脳したと思っていても、何時の間にか自力で洗脳を解除して寝首を掻く機会を窺っていそうな旧西暦の人間と対峙するなら、相手よりも頑丈や力が強いという方面に進む方が確実性が高い。言うならば旧西暦はフィジカルとメンタルに全振りした連中が多すぎたので洗脳等に向かうと言うのがまず少なかったようだ。

 

「じゃあ龍玄の言う朱王鬼だっけ? あいつを倒せばいいって言うのは嘘なの?」

 

鬼であるから信用出来ない、あるいはゼオラとアラドの関係を聞いたアイビスの言葉は刺々しい。事実アイビスだけではなく、カイ達も龍玄の情報にそこまでの信憑性はないのではないか? と考えていたが武蔵がその流れを断ち切った。

 

「んーそれに関してはオイラは少なくとも本当の事だと思うぞ、アイビス」

 

「仲間割れとかではなくですか? 何か根拠はあるんですか?」

 

普通に考えれば龍玄の言葉は嘘で対立している相手を殺させようとしていると受け取るのが普通だ。事実ツグミもカイもその可能性が高いと考えていたが、武蔵は朱王鬼を倒せばゼオラが元に戻ると言うのは本当の事だと思うと口にする。

 

「勘か?」

 

「まぁ半分くらいは勘ですけど、ほらカイさん。オイラがハガネに合流した時あったじゃないですか」

 

「ウォーダン・ユミルが初めて現れた時の事か?」

 

「ええ。その時オイラはユーリアさんと一緒に街を散策してたんですよ。ね、ユーリアさん」

 

「あ、ああ。情報収集をしていた時だな、そういえばあの時も急に敵襲だと言っていたな、その事と何か関係があるのか?」

 

警報が鳴る前に敵襲だといっていた事を思い出し、そのことと関係しているのか? とユーリアが尋ねる。

 

「それも含めて説明しますけど、アラド、ラトゥーニ、お前らの言うオウカって黒髪ロングで、背は高めで、気が強そうに見えるけどちょっと儚そうな雰囲気のある凄い美人の人じゃないか?」

 

「なんで知ってるんっすかッ!?」

 

「どこかであったのッ!?」

 

余りにも特徴を捉えている武蔵の問いかけにアラドとラトゥーニが声を上げる。

 

「やっぱりか……物凄い落ち込んでるのを見て、なんか日本人みたいだったし声を掛けたんだ。姉妹、姉弟と争うのが辛いって言ってた人の声に似てるなって思ってたんだ。まぁそれは置いておいて、オイラにウォーダンが来るって教えてくれたのが龍王鬼でな、あいつの部下ならある程度は信用できると思う」

 

「敵なのにか?」

 

「敵は敵ですけど、一本筋が通ってますし、ある程度は信用出来ると思いますよ。それに独自の信念とかを掲げてるみたいですし、普通の百鬼帝国の鬼とは少し違う感じです」

 

顔を見合わせ、そしてタイマンで戦ったからこそある程度の人となりは理解していると言う武蔵。

 

「武蔵がそう言うのならば、そうなのだろう」

 

「信じてしまうの?」

 

「武蔵の獣の勘で大丈夫と判断したのなら大丈夫だ、裏があるような男をこいつは信用しない、馬鹿だが人を見る目はあるからな」

 

酷い言いようだと苦笑する武蔵だが、気を害した訳ではない様子で朗らかに笑う。

 

「ラトゥーニ。そのオウカって言う人物はどんな人ですの?」

 

「え? えっとお?」

 

「私の勘では危険な、そう危険な気がするのですわ」

 

恋する乙女センサー的な何かでオウカを敵認定しているシャインと目を白黒させているラトゥーニに気付かず武蔵は話を進める。

 

「オウカさんか、彼女もアラド達の所に来たいと思っているけど、朱王鬼の呪いがあるから思うように動けなくて、それを緩和出来るかもしれない龍王鬼と虎王鬼の元にいるって見て良いと思う。少なくともあいつの下にいるのならオウカさんもゼオラも大丈夫だとオイラは思う、難しいと思うけどオウカさんとゼオラを取り戻すのなら朱王鬼を倒すのが1番早いとオイラは思う」

 

「つまり武蔵は俺達のオウカとゼオラを捕らえるのは反対か?」

 

武装解除をして洗脳が解けるまで監視すると言うのが1つの案だったが、武蔵の口振りでは反対しているように聞こえ、イルムがその真意を問いただす。

 

「反対って言うか危険かなって、えっと……コウキ誰だっけ? ちっこい爺さんの鬼」

 

「グラー博士か?」

 

「そうそう、そんな名前だったと思う。あいつが人間を改造した時さ、すげえ馬鹿力だったんだよな。生身で武器もなしでおばあちゃんなのに爬虫人類を殺したし」

 

武蔵の言葉に全員がギョッとした。訓練もしてない、武器もない、生身の老婆が爬虫人類を殺す……それは到底信じられないことだった。

 

「グラー博士の研究の1つだな。人間を使い捨ての兵器にする案だった筈……」

 

「まさかゼオラもそうなってるって言うんですか!?」

 

思わずコウキに掴みかかったアラドだが、その手がコウキの肩に掛かる前に武蔵が掴んで止めた。

 

「落ち着け、オイラ達の話はあくまで可能性だ。ただ鬼はそう言う事が出来るって事を考えると……」

 

「安易に救出するのは危険という事か……」

 

「むしろ救出させた後に暴れさせるって事も考えられる。龍玄のいう事を鵜呑みにする訳には行かないが……朱王鬼とやらを倒すのが1番ベストだろう。この中で朱王鬼に会った事があるのは?」

 

コウキの問いかけに武蔵とアラド、そしてラーダが手を上げた。月面から脱出の際に武蔵とアラドは朱王鬼と戦っている。この場にはいないが、リョウトとリオ、そしてリンも遭遇している。

 

「強いか?」

 

「かなり、龍王鬼と虎王鬼と同じタイプの百鬼獣で合体して形態を変えます。オイラが見たのは合体した後だから分離形態の姿は判らないです」

 

「それは俺が判ります。朱王鬼は燃える鳥の姿をしていて、実弾も直接攻撃も殆ど効きません、下手に近づけばPTが溶けるほどの高熱ッス」

 

「玄王鬼は巨大な亀の姿をしていて、とにかく巨大です。機体的には固定砲台という感じでバリアなども装備していました」

 

PTでもまともに近づけば溶けるほどの高熱で守りを固めている朱皇鬼、そしてそれと対為す強固な拠点防衛に特化した玄皇鬼。

 

「合体した後はどんな感じかしら?」

 

「朱皇鬼が上半身の時は炎の弓と背中の……あれは……なんだろう?」

 

「レールガンね」

 

「そうそう、それです。ラーダさん、それと両腕に亀の甲羅型のシールドを装備してて、防御力と射撃能力に特化してる感じです。逆に玄

皇鬼が上半身の時はとにかく早いです、飛行能力も高くてライガーでやっと追いつけるかどうかって感じで」

 

「龍虎皇鬼と互角って事か……」

 

「アラド、ラトゥーニ、そんなに泣きそうな顔をするな。絶対にお前達の家族は取り返してやる」

 

「「はいッ!」」

 

そんなに泣きそうな顔をするなと笑うカイにラトゥーニとアラドは元気良く返事を返し、そこからはサマ基地奪還作戦へのブリーフィングへと動き始めるのだった……。

 

 

 

アースクレイドルに帰還したオウカはファルケンからゼオラを引きずり出し、血の気の引いた顔で虎王鬼の元へと走った。

 

「虎王鬼さん! ゼオラ、ゼオラがッ」

 

「龍玄から聞いてる、早くこっちへッ!」

 

虎王鬼に促され、オウカはゼオラをベッドに座らせる。今までの人形めいた表情ではない、血の気が引いた、それこそ幽鬼のような顔色でぶつぶつと繰り返し呟いている。

 

「ラド……アラド……いや、いやだ……捨てないで、捨てないで……いや、いや……」

 

「ゼオラッ! オウカ、何があったッ」

 

オウカが鬼気迫る表情で走っていたと聞いて虎王鬼の部屋にクエルボが駆け込んでくる。

 

「セロ博士。判らない、判らないんです。ゼオラの雰囲気が変わって……もしかしたらと思ったらアラドを巻き込んで自爆しようとして……ゼオラ、手を、駄目よ」

 

硬く握り締められた拳からは血が滴り落ちていて、オウカがその手を開かせようとするがその手は余りにも硬く握り締められていた。

 

「手伝おう」

 

「セロ博士……お願いします」

 

オウカとクエルボの2人がかりでやっと手を開かせる事に成功したが、その手は真紅に染められていた。

 

「やだ……やだよ……アラド、アラド……」

 

「ゼオラ、ゼオラ、しっかりするんだ。僕を見るんだ」

 

「ゼオラ、しっかりして、私が判る?」

 

頭を振り、黒く濁りきった瞳を虚空に向ける。今までは形だけだが、クエルボとオウカに反応をしていたが、今はそれすらも無く悪化しているように思えたのだが、虎王鬼は大丈夫と口にし、ゼオラの額に札を貼り付けた。

 

「大丈夫、大丈夫よ。アラドは貴女を捨てない」

 

「捨て……ない?」

 

「そう、捨てないわ、絶対に貴女を迎えに来るわ。オウカとクエルボも、また皆で過ごせるように」

 

「みん……なで……」

 

「そう。皆でよ、さぁ……しっかりして、大丈夫よ」

 

徐々にぼんやりとした人形のような状態のゼオラへと戻るが、先ほどまでの鬼気迫る様相は消えていた。しかしその代りに狂気的な形相でアラドを求め始めた。

 

「でもでも……アラドが……アラド……死なないと、一緒に死なないと……」

 

「ゼオラッ! 何を言ってるのッ!」

 

一緒に死なないといけないと言うゼオラに手を伸ばそうとするオウカを虎王鬼が制する。

 

「なんで一緒に死なないといけないの?」

 

「だって……私、私……こんな……性格だから……アラドに嫌われる……いや、いや……捨てないで、離れないで……やだ……やだ……」

 

強気でアラドを子供のように扱っていたのはゼオラが演じていた性格、本来のゼオラの性格は暗く、そして粘着質とも言えるアラドへの執着心が根底にあった。

 

「大丈夫よ、落ち着いて。ね? 大丈夫よ、ほら。少し寝たら気分が良くなるわ」

 

「……あ」

 

虎王鬼がゼオラを抱き締めて、その頭を撫でる。最初は抵抗していたゼオラだが、徐々にその抵抗が弱まり、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。

 

「ふう、これで当面は大丈夫。また人形状態だけど、自傷行為しようとはしないはずよ」

 

虎王鬼の言葉にオウカとクエルボは安堵の溜め息を吐いて、2人とも揃って腰から崩れ落ちた。

 

「何が……ゼオラに何があったんですか?」

 

「多分だけど朱王鬼の最後の罠って所ね、ゼオラの執着心とか依存心を媒介に術を掛けていたみたいだから……アラドだっけ? 彼に近づける事がゼオラを元に戻す鍵であると同時に全てを終わらせる事にもなるかもしれないわ」

 

「元に戻るか、アラドと共に死のうとすると?」

 

外れていて欲しいとオウカは願ったが、虎王鬼は目を伏せて頷いた。

 

「なんとか、何とかならなんですかッ!」

 

「……朱王鬼が死ぬか、それともゼオラが自力で術を解除するか……あたしにはもうこれ以上は出来ないわ。ごめんなさい」

 

虎王鬼はあくまで防御や幻術に特化した能力者であり、洗脳などに特化している朱王鬼には一歩劣る。自傷行為を封じ、今の壊れてしまいそうなゼオラの心を守るのが虎王鬼に取って出来る最善であり、最後の手段だった。

 

「またゼオラがおかしくなったら教えて」

 

「……はい、ありがとうございます」

 

泣き崩れるオウカに居た堪れなくなった虎王鬼は部屋の外に出て、怒りに任せその拳を通路に叩き付けようとした。

 

「止めとけ、虎」

 

「龍……あ、あたし……」

 

「大丈夫だ、お前は悪くない」

 

「助けて……助けてあげたかったの……」

 

「判る、判るさ俺様だってそうだ。だけど……もう俺達には出来る事はねえんだ」

 

泣き崩れる虎王鬼を抱き締めて龍王鬼も天を仰いだ。鬼でありながらも、その性質が余りにも人間に近い龍王鬼と虎王鬼は己の無力さに唇を噛み締め、そして余りに酷な道を進む事になるオウカ達に心から同情し、朱王鬼への怒りを抱くのだった……。

 

 

 

 

許可を得た人間しか入る事の出来ないイーグレットの専用ラボでは苦しそうに呻く女の声が響いていた。

 

「もう少し静かに出来ないのか? アギラ」

 

「……殺して……殺してやるうッ! イーグレットぉぉおおおッ!」

 

龍王鬼によって殺され、マシンナリーチルドレンの技術と百鬼帝国のクローニング技術によって新しい肉体を与えられたアギラだが、肉体と精神の差、そしてクローンの肉体という事も相まって薬を定期的に飲む必要がある。

 

「あがああッ!! あああああッ!!」

 

薬の効果が切れた痛みは筆舌にしがたく、血反吐を吐き、喉を掻き毟りながら苦しみ、自分をこんな目に合わせているイーグレットと朱王鬼への怒りを燃やす。

 

「だから何度も言っているだろう? 俺が悪い訳ではない」

 

「ががががあ……」

 

「聞こえてすらいないか、やれやれうるさくて叶わんな」

 

龍王鬼との取引で得たプロトゲッターロボの解析をしているイーグレットは意味不明の叫び声を上げるアギラを見て、めんどくさそうに眉を細める。

 

『んん、そろそろ良いかな。これ以上は死んじゃうから薬を打ってあげてくれるかい?』

 

「判りました」

 

苦しみアギラを見て恍惚の表情を浮かべていた朱王鬼に促され、イーグレットはめんどくさそうに立ち上がり首筋に無造作に注射針を撃ち込む。その中の薬剤が投与されたアギラは大きく目を見開き、その場に崩れ落ちて動かなくなった。

 

『イーグレット、そろそろ君の子供達も動かせるのだろう? 働きっぷりを僕に見せてはくれないのかい?』

 

「それは出来ない」

 

『何故だい? この僕が言っているのに?』

 

モニター越しに威圧感が増すが、イーグレットはどこまでも冷静に、そして平静を保っていた。

 

「龍王鬼にゲッターロボを融通して貰った。アギラに勝手をさせないこと、そして俺の子供達を出撃させない事を約束した」

 

『……対価がないって事か、強かだ』

 

「お褒めに預かり光栄だ」

 

月にいてイーグレットが何をしても対価を得れない朱王鬼の言う事を聞くよりも、龍王鬼から先物で物を貰っているのでそれを優先すると言うのは当然の事だった。

 

『ではこうしようか、イーグレット博士』

 

「これはッ! ブライ議員。お元気そうで何よりです」

 

朱王鬼とイーグレットの間に割り込んできたブライの声を聞いて、イーグレットは立ち上がり頭を下げる。ブライはコーウェン、スティンガーに次ぐイーグレットの大事なスポンサーである、朱王鬼とは対応が変るのは当然の事だった。

 

『連邦にサマ基地を使われると私達にとっては都合が悪いのだよ。連邦……いや、ハガネとシロガネにはもう少し足踏みをして貰いたい』

 

「……それでしたのならば龍王鬼達に指示を出せばよろしいのではないでしょうか?」

 

『ふっふ、お前は慎重だな。勝ち戦にしか自分の子供を出したくはないか?』

 

ブライの言葉にイーグレットは眉を細める。完全に図星だった、これがハガネだけならば良いが、ゲッターロボがいる。それを知っていればまだ不安定な子供達を出す訳には行かないと思うのは当然の事だ。

 

『君の子供達を守る為に共行王に頼んでもいい、何、簡単な仕事じゃないか。サマ基地の設備を破壊して、ほんの少しその力を私に見せてくれればいい』

 

ブライの言葉は麻薬のような物である。長い間議員とし、人を救って来たのは紛れも無くブライだ。だが記憶を取り戻す前のブライである、善と悪、光と闇、それを使いこなしてきたブライは的確に人の弱点を、人の妥協点を見出す。

 

「しかし、ブライ議員。今の機体状態を考えるとそこまで大きな活躍は出来ないのです」

 

『百鬼獣、ゲッター炉心、合金、そしてマシンセルを組み込んだ君の頭脳を私は高く評価している。失敗もするかもしれない、だが実働データがなくては改良案など判るまい? 護衛がつくんだ。これほど安全なものはない違うかい?』

 

「……ですが」

 

『君はとても誠実な男だ。龍王鬼との約束も守らなければならないと思っているのだね、ではこうしよう。サマ基地を万全な状態で連邦に渡さないように後詰を君に頼むと龍王鬼と話を付けよう。それならどうだい?』

 

妥協案であるが、それがどこまで本当なのかとイーグレットは不安に感じる。だがこれ以上渋れば自分の命が危ないとイーグレットは感じていた。アースクレイドルは実質百鬼帝国の拠点だ、そこにいる以上鬼はあちこちにいる、そんな中で何時までも断り続けられるほどイーグレットは豪胆ではなかった。それにスポンサーの機嫌を損ねれば研究も出来なくなるという恐怖もあった。

 

『大丈夫。私は嘘はつかない、さぁ君の返事を聞こう』

 

「……判り……ました」

 

それが最後通告だとイーグレットは本能的に悟り、ブライの甘言に頷いだ。

 

『それは良かった。ではすぐに龍王鬼に話を付けよう、では期待しているよ。イーグレット君』

 

優しげな口調だが、これに失敗すれば自分の首はない。断っても死、成果を上げれなくても死……余りにも絶望的な命令にイーグレットは不安と恐怖を抱きながらも基地の設備を破壊するだけならば問題はないはずと自分に言い聞かせ、研究室を後にする。

 

「「「パパッ!」」」

 

「アンサズ、ウルズ、スリサズ。お前達に仕事を頼みたいんだ。なに、そんなに難しい仕事じゃないんだが、俺の話を聞いてくれるか?」

 

イーグレットの役に立てると喜びに目を輝かせるマシンナリーチルドレン達。その姿が15歳前後と言う事で愛らしさもあったが、その目はどす黒く濁り、子供特有の悪意無き邪悪さをその身に宿しているのだった……。

 

 

 

 

インスペクターとの交渉から戻らないブライ議員の救出及び交渉任務を与えられたニブハルはホワイトスターとの通信による交渉に挑んでいたのだが、その任務自体が罠であると知ったのは通信が繋がってすぐの事だった。ウォルガのウェンドロ・ボルクェーデ、そしてブライの2人が揃っているのを見て、流石のニブハルもその顔を驚きに歪めた。

 

『そんなに驚く事かね? ニブハル。それともワシが死んでるほうが都合が良かったかな?』

 

「いえいえ、とんでもありません。無事で何よりです、ブライ議員」

 

ニブハルとてブライが百鬼帝国の首領という情報は掴んでいた……と言うよりも記憶を取り戻したアルテウルから情報を与えられていた。しかし、こうしてウェンドロとブライが和やかにお茶会をしている光景は想定外だった訳だ。

 

(しかし何故……)

 

ウェンドロからすればブライは下等な野蛮人であるはず……何故こうしてお茶会をしているのかと困惑しているニブハルにウェンドロは挑発するような笑みを浮かべた。

 

『へぇ、知らないんだ。それとも教えてあげてないのかい?』

 

『2枚舌、いや、4枚舌の男をワシが信用すると思うのかね? ウェンドロ。お前は確かに腹に一物を抱えているが、根底は1つ。ゆえに好感が持てる。だがこいつは駄目だ、ゾヴォーク、バルマー、ウォルガ、そしてワシ。どの陣営にも耳当たりの良い言葉を口にする。信用には値しない』

 

隠していた、あるいは口にしていなかったことまで言い当てられた事にニブハルの額に汗が浮かんだ。いやそれよりもだ、ブライの1人称は私だったはず、それがワシに変わっている事に気付き、何かが違うとニブハルはやっと悟った。

 

『彼はダヴィーンの使者だよ、ニブハル』

 

「そ……れはッ」

 

『ほう、お前でも動揺するか? んん? 我らダヴィーンの技術を奪い、高く売ったお前の祖先はとても良い仕事をしたなあ? なぁ? ニブハルよ』

 

ニブハルの祖先はダヴィーンの技術を奪い、それを売り払う事で富を得て当時では破格の地位を得た。だが中途半端な技術と知識による暴走事故で没落、その後ゾヴォークは彼らの中でも異形とされるダヴィーンに頭を下げバイオロイドなどの技術提供を受け、ダヴィーンをゾヴォークでも優遇する必要があったという過去がある。それ故にダヴィーンの名を持ち出されては動揺するなというのが無理な相談だった。

 

「ブライ議員、確かにそれは私の祖先のした事。ですがその子孫として私に出来る事があれば何でも致しましょう」

 

『相変わらず耳当たりの良い言葉を口にする奴だ』

 

そうは言いつつも笑うブライにニブハルは自分の言葉が間違って無い事を察した。

 

『それよりもブライ。ゾガルにかんしてこいつが知ってるなら僕はそれを知りたいなあ』

 

『気持ちは判るがね、シュウ・シラカワに迎撃されて慌てて逃げたゼゼーナンからこいつは何の報酬も得ていない。どうせ持ってる情報なんて、我々とそう大差ないさ』

 

馬鹿にされていると言うのは判っていた、それでもニブハルは表情を変えず申し訳ありませんと口にし、ほんの少しだけ意趣返しが出来そうな2人が手にしていないであろう情報を口にした。

 

「そういえばご存知ですか? 南極で聖騎士団の遺物が発見されましたのは」

 

ピクリとブライとウェンドロの眉が僅かに動いた。これはニブハルにとっても想定外だったのだが、アルテウルの命で南極のリ・テクの査察に赴いた際にそれを見つけた。

 

「皇帝の痕跡もありましたよ。さてさて、地球は一体なんなのでしょうね?」

 

ダメ押しに皇帝の名を口にする。聖騎士団、皇帝の2つが意味するものをブライとウェンドロが知らないわけが無い。

 

『ふぅん……嘘ではなさそうだね、どう思う?』

 

『ありえぬ話ではない。ワシではないワシはゲッター線の中へ帰った、皇帝もそして破滅の王の事もあながち間違いではなかろう』

 

『君ではない君ってどういうことさ?』

 

『ブライという鬼が、人間が歩む可能性は1つではないと言うことだよ。ワシはゲッター線に協力するなど死んでもごめんだが、どこかのワシはそれに取り込まれることを良しとしたのもいると言うことだ』

 

世界は巡る、そして様々な姿、結末を迎える。ブライの語ることもその1つであり、そしてニブハルが見つけた物もその過程の1つだ。

 

『ますます地球をほっておけなくなったね。ニブハル、話を聞く気になったよ。態々通信して来た理由は何かな?』

 

やっと交渉、いや。同じ目線に立つ事が出来たとニブハルは小さくほくそ笑んだ。

 

「私が受けた命令はブライ議員の安否確認です。ですが、当然私の目的はそれだけではありませぬが」

 

『ワシが生きている事でそれは達成出来たようだしな。それで、オペレーション・プランタジネットの事か?』

 

「……その通りです」

 

こっちが切るべき札がブライの手によって切らされる事にニブハルは少しの苛立ちを覚えたが、どちらも大狸。その程度でイラついている場合ではないと小さく溜め息を吐いた。

 

『そう言えば、ブライは連邦とノイエDCを手を組ませて僕達と戦わせるつもりらしいけど、なんでそこまであんな幼稚で愚かな生き物に気を掛けるんだい?』

 

ウェンドロの問いかけにブライはティーカップをソーサーの上にお気、ウェンドロに向かってたしなめるように口を開いた。

 

『お前は確かに優秀だが、結論を急ぎすぎる。愚かで幼稚だからこそ利用しやすいのだよ』

 

『そんなものかな? 僕には判らないなぁ』

 

『1人の賢人には限界がある、愚かであれ、光る物があればそれを伸ばし、利用する。自分1人ではなく、相手を利用する事を覚える事もまた君主に必要なことなのだよ』

 

その短い会話ではニブハルは何故ブライとウェンドロが和やかに会話をしていたのかを理解した。優秀な頭脳を持つ子供を更に育てようとするブライと、子供扱いされていることに反発しながらもブライの頭脳と君主としてのあり方に一定の興味と理解を示しているウェンドロ……互いに敵同士ではあるが、それ故にどこか共感出来る部分もあり。歪ではあるが、師弟関係のような物があるのだろう……だがどちらも戦いが進めば互いが邪魔になる。それでも一時でも手を組んでいるのはそれだけゲッターロボを恐れているからに違いないとニブハルは感じていた。無論それを指摘すればニブハルの首は物理的にも、そして政治的にも跳ぶことになるだろう……だがそれであるからこその好機なのだ。ゲッターロボという明白な脅威……そして聖騎士団の遺物――ブライやウェンドロが脅威であると考える物がある。力も知識もニブハルよりもブライ達の方が上だ、だがこの件に関してはニブハルでなければ出来ぬ事がある。

 

「情報が判り次第、かならずお伝えします。ですから……」

 

『殺すなと、ふん、良かろう。ではまずは今のプランタジネットの状況を聞こう。次に聖騎士団の遺物が見つかった事に関する詳細もな』

 

『その内容次第でブライとどう言う風に立ち回るか決めるから、虚偽や謀ろうとすればどうなるか判っているだろうね』

 

ブライとウェンドロからの強烈なプレッシャーを受けながらもニブハルは微笑む。ホワイトスターを根城にしているウェンドロ、そして地球に帰れば慈善事業をしているブライ――その2人に入手出来ない情報を手に入れることが出来る以上自分の身は安泰、その後はアルテウル、ブライ、ウェンドロの間を今までと同じ様に立ち回ればいい。

 

「それではまずハガネとシロガネに関してですが……」

 

最もブライ達が欲するであろう、シロガネとハガネ、いや、ゲッターロボと武蔵の事をニブハルはゆっくりと語り出すのだった……。

 

 

 

119話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その4へ続く

 

 




プレイ動画ですが、MDを見始めたのでフューリーも少し触れてみるテスト。正し全部まだ見切れていないので、解釈違い、設定違いの危険性があるのでルイーナと戦っていたの所だけを使おうと思います。次回はサマ基地そしてインベーダーズがヒャッハーして生まれたマシンナリーチルドレンの初陣を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


後スパロボDDにSRX実装はめでたいけど期間限定オンリーは酷い


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

119話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その4

119話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その4

 

制圧したサマ基地の司令を勤めているノイエDCの大佐は敷地内の雷神鬼、そして百鬼獣を見つめて眉を顰めていた。

 

「大佐、いかがしましたか?」

 

「……なんでもない。少しばかり考え事をしていただけだ」

 

「龍玄さんが必ずハガネとシロガネが攻め込んでくると言っていましたが……幾らなんでもそれは無謀というものでしょう。ライノセラス3隻に、サマ基地にあった長距離レールガンが5つ、それに百鬼獣がこれだけいるんです。如何にスペースノア級と言えど近づく前に轟沈するのが目に見えていますよ」

 

誇らしげに語る若いノイエDCの兵士を見て、初老の大佐は内心深い溜め息を吐きながらも、そうだなとおざなりな返事を返した。

 

(……何故気付かぬ、馬鹿ばかりなのか……)

 

この男もまたビアンの思想に共感し、地球を守る為に立ち上がった兵士の1人であった。だが老齢であると言う事で、DCの旗色が悪くなって来た時に部下に裏切られ、連邦に売り渡された。そしてL5戦役に参加した事で戦時特例により釈放され、ビアンの演説によって再びノイエDCに参加した――表向きはそうなっているが、ビアンの指示によってノイエDCに潜り込んだビアン一派の軍人であった。しかしスパイ活動は思うように行かず、ノイエDCのアドバイザーという立ち位置と百鬼衆の監視が付き、本来の役割を半分ほども果たせなかったわけだが、そのかわりにアースクレイドルの情勢、そしてそこで開発している機体の情報をアドバイザーという立場をゴリ押しし、最低限の仕事だけは成し遂げていた。

 

「大佐、何を恐れることがあるのです? 我々は負けませんよ。今度こそ、我らが地球圏の守護者となるのです」

 

「中佐……そうだな。これだけの戦力だ、ハガネが攻め込んでくることもあるまい」

 

そうは言いつつも、大佐の顔は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。司令官とこそ呼ばれているが、実質的な指揮権は中佐にある。あくまで大佐はビアンの元での戦績を考慮されてのアドバイザーと言ってもいい。

 

(馬鹿ではないと言うことか……)

 

疑いのある兵士に権力を与えはしない。それでも表向きは大佐と言う地位を考慮して指揮官にしているが、実際は飾り物の司令官だ。それは長い間地球を守ると言う願いの元戦い続けた漢にとってこれほどの屈辱はない。

 

『驕るな、愚か者め』

 

そこに通信越しに龍玄が会話に加わる。アーマリオンやリオンが数機動いている中で龍玄だけが雷神鬼のコックピットでハガネを待ち受けていた。

 

「龍玄さん。しかしですね、これだけの戦力に突っ込んでくる馬鹿はいないでしょう? 龍玄さんもこちらで休んだらどうですか?」

 

にやにやと笑う中佐に龍玄と大佐は揃って眉を細めた。決して無能な軍人ではない、だが戦局が見えているか? というと見えていないと言わざるを得ない。

 

(この男もテンザンといい勝負だな)

 

アードラーがスカウトして来たテンザン・ナカジマといい勝負だと内心で吐き捨てる。

 

『悪いが俺は必ずハガネがくると思っている。お前の申し出はお断りだ、それでルーデン。お前はどう見る?』

 

「必ずハガネとシロガネは仕掛けてくる。ここを突破する、あるいは奪い返す事は連邦にとって重要な意味がある」

 

「だからそんな危険な橋を」

 

「危険な橋と言うがな、この基地の防衛網などL5戦役の時と比べれば恐れるに足りぬ。あの戦場に参加していた者が……この程度で足踏みするものか」

 

L5戦役で共に戦った者だからこそ判る。あの時の危機と比べればなんとこの基地の防衛が緩いものかと……あの時の戦いを体験している者が立ち止まる訳がない。

 

「はいはい、L5戦役、L5戦役ですね。はいはい、判って……うわッ!? な、なんだッ!?」

 

聞き飽きたと言わんばかりにおざなりな返事を返していた凄まじい振動がサマ基地を襲い中佐や、サマ基地が襲われる訳が無いと思っていた若い兵士達が悲鳴を上げて、尻餅をついた。

 

「地下に向けて索敵ッ! 熱源の把握を行なえッ!!」

 

「は……いや、大佐は」

 

「黙って索敵を行わんかッ!!!」

 

「は、はひっ!!」

 

ルーデンの一喝で大佐に指揮権はないと言おうとした若い兵士は顔を青くさせ索敵を始める。

 

「貴様ら何をしている! 軍人であるのならば立てッ!」

 

確かにルーデンはビアン派の軍人である。だが戦いとなればそこに集中する、それこそがビアンがユウキ達のほかにスパイとしてルーデンを送り込んだ理由であった。

 

「熱源補足ッ! サイズは90M級ッ!」

 

「90M級!? 連邦は地下戦艦でも作ったのか!?」

 

「たわけがッ! 地下で特機となれば敵は……『ゲッタァアアアドリルッ!!!』ゲッターロボ以外ありえんッ!!」

 

サマ基地の防衛網を張っていたライノセラスを一撃で大破させ、ライガー2が地面から飛び出し姿を見せる。

 

『恨みはある、死にたくなければ脱出するんだなッ!』

 

それに続くように姿を見せた轟破鉄甲鬼の肩にマウントされた武装から放たれた暴風が一撃でサマ基地の防衛網を破壊する。その強烈な破壊音がサマ基地攻防戦の幕開けとゴングとなるのだった……。

 

 

 

 

ダイテツとリーの作戦、ライガー2と轟破鉄甲鬼による強襲は半分は成功したと言える。何故半分かと言うとトルネードはゲッター線とプラズマリアクターを併用した対PT・AM用の電子機器をターゲットにした広範囲攻撃だ。連邦としてはサマ基地が欲しい、それゆえに長時間の照射は出来ず、中途半端な照射となった。

 

『PTとAMは止めたが、百鬼獣は無理だな』

 

「しゃあねえ。PTとAMを止めただけでも御の字だ。オイラ達じゃ手加減できねぇしな」

 

ゲッターD2の攻撃ではPTとAMは脱出も出来ず殺してしまう……暗にそれを言う武蔵にコウキは鼻を鳴らした。

 

『甘いな、敵は敵だ。殺せ』

 

「わりぃな。オイラにとっちゃあ人を殺すのは本当に最終手段なんだよッ!」

 

ゲッタードリルと斧が同時に振るわれ、動き出した一角鬼と竜骨鬼の胸部に深い切り傷を刻み付ける。

 

『甘いな、竜馬とは大違いだ』

 

「リョウと隼人がそんなんだから1人くらい甘くても良いだろうよッ!」

 

コウキの言葉に文句を言いつつ、武蔵はサマ基地に陣取っている雷神鬼に向かってライガー2を走らせる。

 

「行くぜぇッ!!」

 

『ふっ! 来いッ!!!』

 

雷神鬼の弾雨にライガー2の身を捻じ込み、強引に弾幕を突破しライガー2は雷神鬼の懐に飛び込みゲッタードリルを振るう。

 

『温いぞッ!!』

 

「ちっ、かてえッ!!」

 

今回の作戦は速攻が要求される。スペースノア級であるハガネとシロガネはその巨体さゆえに姿を隠すと言う事には適していない、雷神鬼の背中のレールカノンを破壊し、ハガネとシロガネがこの場に来れるようにしなければならない。

 

『手間取っているな、速攻で決めろッ!!』

 

「言われなくても判ってるッ!!」

 

PTとAM、そして基地設備の機能を停止させたのは索敵させない為、そして増援を呼ばれない為だ。トルネードの妨害時間はさほど長くないと説明を受けていた武蔵は判っているとコウキに怒鳴り返し、雷神鬼へと攻撃を繰り返す。

 

『ぬうっ!!』

 

「攻撃力が足りなきゃ手数で勝負だッ!!」

 

サマ基地を強襲するという目的ではライガー2だけではなく、ドラゴン2もその視野に入ってくる。ドラゴン2ならば大気圏からの急降下強襲、轟破鉄甲鬼は地下からと攻撃に二面性を与える事も可能だった。それでも武蔵はライガー2を選んだのには理由があった、まずは武蔵はドラゴン2、ライガー2の能力を十分に引き出される訳ではなくどうしても細かい操作に難点が出る。武蔵が危惧したのは確保するべきサマ基地を破壊してしまう事にあった、下手に基地を破壊すればダイテツとリーの立場を更に悪くするだろう……と言うのは表向きの理由でもう1つはサマ基地にビアン一派の軍人が居る事をビアンに聞いていた為彼らを殺す危険性を可能な限り避ける為にライガー2を選んだのだ。

 

「うおりゃあッ!!!」

 

『ちいっ! ちょこまかとッ!』

 

機体サイズはほぼ互角、出力はゲッターロボとしてみればゲッターロボの方が圧倒的に上。だが今はライガー2なので出力は雷神鬼が上回り、装甲も雷神鬼の方が上。その分、機動力に秀でるライガー2は至近距離での雷神鬼の射撃を紙一重でかわし続け、ゲッタードリルを振るい続ける。

 

『うおおおおッ!!!』

 

『ぐうっ! 総員退避ッ! 退避ぃいいいッ!!!』

 

百鬼獣の攻撃を受けつつも轟破鉄甲鬼は仕事を果たしたライノセラスの主砲を破壊し、2隻を行動不能に追い込んだ。だがその為に払った対価は決して安くはない……防御マントがその機能を失い、肩や胴体にも百鬼獣のスパイクが突き刺さり火花を散らしている。それでもだ、それでもまだ鉄甲鬼は立っている。真紅の瞳が翡翠に変り、その装甲の各所からゲッター線の光があふれ出す。

 

『くたばれッ!! ゲッタァアアア――ッビィィィムッ!!!!!

 

『『『ッ!? ギャアアアアアアア……ッ』』』

 

1発限りのゲッタービーム。それが百鬼獣を飲み込み、地形を変えながら放たれたそれを見て龍玄は驚きに声を上げた。

 

『なにッ!?』

 

ゲッタービームを使える機体がもう1つ――それは龍玄にとっての想定外であり、一瞬気を取られた。そしてその隙を武蔵が見逃す訳が無い。

 

「隙だらけだぜ! 爺さんッ!!! ドリルミサイルッ!! オープンゲットッ!! チェンジドラゴンッ!! ゲッタァァアアアアッ! ビィィムッ!!」

 ビィィムッ!!」

 

『そう簡単にこの首をやる訳にはいかんッ! 迅雷ッ!!』

 

温存し続けていたドリルミサイルを至近距離で打ち込み、その爆風と煙に紛れてオープンゲットし、ドラゴン2へとチェンジし、威力を絞った頭部ゲッタービームを雷神鬼に向けて放つ、雷神鬼もそれに応戦すべく雷を放った。サマ基地上空でゲッタービームと迅雷がぶつかり合い、凄まじい爆発を引き起こす。ゲッターD2は爆風に弾き飛ばされながらも態勢を建て直し、地面を削りながら着地する。

 

「コウキ、そっちは大丈夫かよ」

 

『問題はない、それよりもギリギリだ。もっと余裕を持って行動出来なかったのか?』

 

「うっせ、やれるだけはやったぜ」

 

ゲッタービームの反動で冷却中の轟破鉄甲鬼を背中に庇いながら武蔵はにやりと獰猛に笑った。

 

『ぬかったわ……ッ』

 

雷神鬼の背中の長距離射程の武器を全て潰した――それが意味する事は1つ……ハガネとシロガネをとめる術をノイエDCと百鬼帝国は失ったと言う事であり、トルネードによる妨害から復活したサマ基地からアラートが鳴り響くと同時にシロガネとハガネが同時にサマ基地の上空にその姿を現すのだった……。

 

 

 

 

サマ基地の守りを突破し、姿を現したハガネとシロガネ、そしてそこから姿を見せたPT隊にノイエDCと百鬼帝国は完全に浮き足立っていた。

 

『おおおおッ!!』

 

『しまっ!? 脱出だッ!?』

 

不調とは言えゲシュペンスト・リバイブ(K)とカイをガーリオンやアーマリオンで止める事は叶わず、出撃する側から撃墜されて行く。

 

『コウキ博士、大丈夫なんですか?』

 

『俺の心配をするなど100年早いぞ、アイビス』

 

『……なんでその状態で動けるのぉ?』

 

黒煙と紫電を撒き散らしながらも双頭鬼の2本の首の内1本を右手の斧で切り飛ばし、左腕のスパイクで顔面を突き刺し、トドメと言わんばかりに胴に蹴りを叩き込み蹴り飛ばす姿を見て、アイビスは心底困惑した声を上げながらも、オーバーヒートで動きの鈍い轟破鉄甲鬼の死角をアステリオンでフォローしていた。動きの鈍い轟破鉄甲鬼と機動力の高いアステリオンの組み合わせは良く、初手のトルネードで動きの鈍い百鬼獣達を確実に撃破していた。

 

『リュウセイ、お前は無茶をするなよ! PTやAMを確実に仕留めろ!』

 

『念動力が万全ではない今は百鬼獣と無理な戦いを挑むなッ!』

 

『イルム中尉、ライ! すまねえッ!』

 

T-LINKナックルが不発に終わり、一角鬼の反撃を直撃で受けそうになっていたリュウセイをイルムとライがフォローする。ロスターとの戦いから大分時間が経っているにも関わらず、まだ思うように戦えないリュウセイは歯がゆい思いをしながらグルンガストとR-2・パワードに守られながら後退するが、それでもG・リボルバーを駆使し、R-2・パワードと共にグルンガストが戦いやすいように支援を行っている。

 

『シャイン王女ッ!』

 

『ラトゥーニッ!!』

 

音速で飛び交うフェアリオンの軌跡は美しくもあるのと同時に、どこまでも冷酷に敵対する百鬼獣の命を刈り取る。

 

『格納庫を潰します、ラーダ』

 

『判りました!』

 

『俺も行きます!』

 

ヒュッケバイン、ビルトビルガー、ゲシュペンスト・MK-Ⅲがサマ基地の司令部の制圧に動き出す。

 

『おらあッ!!』

 

『ふんッ!!!』

 

ゲッターD2のダブルトマホークと雷神鬼のシールドがぶつかり合い、凄まじい爆風を爆発音を響かせる。サマ基地を巡る戦いは凄まじい乱戦と相成っていた。その戦いを空中に浮かんだ水の鏡で見つめている共行王は手にした扇子を上機嫌に振りながら笑みを浮かべていた。

 

「んふふふ、いやはや、中々やるではないか。ハガネとシロガネとやらは……」

 

ハガネ、シロガネが連邦軍の主力であると言う事はブライから聞いていたが、実際にその戦闘を見るのは初めてだった。自分の想像よりも強いハガネのPT隊に共行王は関心さえ覚えていた。

 

「進化の使徒に頼りきりと言う訳ではないようじゃな。そうでなくてはつまらん」

 

1人を倒せば瓦解するような物と戦うのはつまらないと口にする共行王の背後に3人組の青年達が立った。

 

「なんじゃ?」

 

「何時になったら攻撃を仕掛けるのですか? 共行王」

 

ジッと3人組の顔を見つめた共行王はぽりぽりと頬をかいた。

 

「すまん、お前は誰じゃ? アンサズじゃったか?」

 

「……僕はウルズです、こっちがアンサズ、スリサズです。これで5回目ですよ?」

 

髪の色とメッシュでしか見極めが付かない3人組に共行王はすまんすまんと笑った。

 

「人間は判りにくい。しかもお主らは気配が似ていて判別が付かん」

 

イーグレットが作り出したマシンナリーチルドレンである、ウルズ、アンサズ、スリサズは性格の違いこそあれど顔は殆ど同じであり、人間と同じ視点を持っていない共行王には判別が付きにくい存在であった。

 

「僕達はマシンナリーチルドレンだ! 人間じゃないッ!」

 

「あーはいはい、うるさいからお前らの機体で待っておれ、癇癪を起こす餓鬼は嫌いだ」

 

餓鬼呼ばわりされ、ウルズはピクリと眉を動かしたものの了解と返事を返し、踵を返そうとする。

 

「餓鬼だって! 僕達が如何に崇高な存在かパパに聞いたのになんて言う口振りだ!」

 

「僕達が餓鬼ならばお前は婆だなッ!」

 

「アンサズ! スリサズッ!!!」

 

ウルズの制止の声が飛んだが、それは余りに遅かった。ウルズの目でも見切れない速度で立ち上がった共行王が鋭く伸びた爪をアンサズとスリサズの頭に突き刺し、握り潰そうとゆっくりと力を込める。

 

「いっつ!」

 

「ぎゃああッ!!」

 

「のう、餓鬼共、私は口の聞き方に気をつけよと最初に言ったじゃろう? ん? そんなことも忘れたのか? 随分と記憶力の無い脳味噌だ。すこし賢くしてやろうか?」

 

指が動き、アンサズとスリサズの絶叫が周囲に響き渡る。マシンセル、そしてゲッター線を照射されたアンサズとスリサズは常人を越える回復力を持つ、脳を抉られても即死することは無いがその代りに傷をつけられる、再生するの無限地獄を味わっていた。

 

「共行王。2人に変わりに謝罪します、どうかお許しをッ」

 

「怒っておるわけではないぞ? これは躾じゃ、甘やかされた馬鹿には痛みを持って躾をせねばならんじゃろう? のう?」

 

爪が更に深く食い込み、頭を鷲づかみにされ宙吊りにされたアンサズとスリサズは抵抗することも出来ず、ぐったりとし始める。

 

「どうかお許しを、僕の方からアンサズとスリサズには注意をします」

 

ウルズが深く頭を下げるが、共行王はそれに視線を向けずアンサズとスリサズの頭を握り締める手の力を更に強める。

 

「……人の事を婆などと言わせるな。それくらいの礼節は身につけよ、それとお前達が優れた、崇高な生命体じゃと? ハッ、笑わせてくれるなぁ、笑いすぎてお前達を殺してしまいそうになるわ」

 

虚空に現れた龍の首がアンサズとスリサズの足に喰らいついた。

 

「ギャアアアアアッ!! あがああっ!!」

 

「ごめんなざいッ! ごめんなざあいいいッ!!!」

 

ゆっくりと何度も何度も噛み付かれアンサズは絶叫し、スリサズは痛みから逃れる為に謝罪の言葉を何度も口にする。

 

「学習したな? 女の歳に容易に触れるな。年上には敬意を払え、それが出来ないのなら……喰われて死ね」

 

「共行王ッ!」

 

共行王の使い魔がアンサズとスリサズの下半身を完全に飲み込み、共行王がその頭蓋を砕こうとしているのを見てウルズが殺気を放ちながら怒鳴り声を上げた。凄まじい殺気だが、共行王はそれを受けながし妖艶に笑う。

 

「ウルズ。私はお前だけ生きていればいいと聞いている、お前は死なぬように面倒を見てやろう。だがそれ以外は殺しても良い筈だ、それと口の聞き方に気をつけろと言っただろう? 貴様も死にたいのか?」

 

蛇の視線を向けられウルズはよろよろと後退し頭を下げた。

 

「貴重な勉強ありがとうございます。共行王に感謝をッ! アンサズ! スリサズ! 何をしている! 礼を言えッ!」

 

「「あ、ありがどうございまずううッ!!」」

 

血反吐を吐きながらの感謝の言葉を聞いて、やっと共行王はアンサズとスリサズへの攻撃を緩めた。

 

「良し良し、素直な子は好きだ。良く学べ、私の機嫌を損ねないようになぁ。次は……こんなに優しく勉強などさせてやらぬぞ?」

 

「「「はいッ」」」

 

ウルズ達の返事を聞き、共行王は満足げに微笑みサマ基地に足を向けた。

 

「先に行く。お前達は基地を潰せ、ではな」

 

その身体を水に変え消える共行王をウルズ達は恨めしげに見つめていたが、下手に文句を言えば使い魔に殺されると悟り、再生しつつある身体を引き摺りながら己の機体へと乗り込むのだった……。

 

 

 

 

サマ基地を巡る戦いはゲッターD2と轟破鉄甲鬼の奇襲により、ハガネとシロガネの圧倒的な有利な状況になっていた。

 

「中佐はどこへ行った」

 

「百鬼獣で1人で脱出をッ! 我々は見捨てられましたッ!」

 

泣きそうなオペレーターの言葉を聞いてルーデンは鼻を鳴らした。想像通り、あるいは予定通りと言っても良い状況だった。

 

(やはり鬼か)

 

人間の中に紛れている鬼――中佐がそうであったのは明らかであり、連邦やノイエDCの中に紛れ戦闘を焚きつけていると言う確証を得た。争いを戦争を引き起こす為に焚きつける邪悪な存在――ノイエDCの中にもそれがいると言うのはルーデンにとっては朗報だったが、サマ基地のクルーにとっては最悪な状況でもあった。

 

(このままでは陥落は時間の問題……か)

 

百鬼獣もその数を減らし、PTやAMは頭部を破壊され無力化されている。

 

「……降伏を宣言する」

 

「し、しかし!」

 

「このままでは死ぬ、このような場所で死ぬ事がお前達の本望か?」

 

ノイエDCはビアンの思想に共感した者、そしてアーチボルドのようなテロリストがいる。サマ基地に残されているのは前者の方が圧倒的に多く、ルーデンの問いかけに司令部にいた全員が黙り込み、首を左右に振った。それを了承と判断したルーデンは広域通信による降伏を口にしようとし、その顔色を変えた。

 

「……れ」

 

「は?」

 

「各員はシェルターに走れッ!! 死にたくなければ持ち場を離れシェルターへ走るんだぁッ!!!」

 

ルーデンの怒声が響くのと同時に、凄まじい衝撃音がサマ基地上空に響き渡った。

 

『くふふふ……初めましてじゃなあ、今代の進化の使徒よ』

 

楽しそうでありながら蔑み、見下すような邪悪な女の声に続き、武蔵の困惑した声がゲッターD2から発せられる。

 

『なッ!?』

 

宙に浮かびダブルトマホークを扇子で受け止めている女の姿を見た司令部の兵士達はみな悲鳴を上げて、司令部を飛び出して行く。自分の理解を超えた光景に恐怖が勝り、ルーデンの逃げろという言葉に突き動かされたように皆必死の形相で駆けて行く。

 

『お前には殺意が無いな、つまらん。それ返すぞ』

 

女――共行王が腕を振り上げるとゲッターD2の手からダブルトマホークが弾き飛ばされ、凄まじい地響きを立てて地面に突き刺さる。

 

『まずは挨拶代わりじゃ。少しは本気で戦おうと思うように頭を冷やすんじゃな』

 

共行王の手から放たれた凄まじい水流がゲッターD2を正面から飲み込み、次の瞬間に氷りつきゲッターD2を氷柱の中に閉じ込めた。

 

「化け物めッ!」

 

龍王鬼達が最強戦力とすれば、今目の前にいるのは百鬼帝国の最狂戦力の1角……。

 

『くふふふ、我が名は共行王、四罪の超機人である。神の前に立つに頭が高いぞ人間共、平伏せよ』

 

妖艶に、そしてどこまでも人間を見下す素振りを隠そうとせず共行王は優雅に扇子を開き、そう言い放ち、一瞬の内に吹き荒れた豪雨にサマ基地で戦っていたPTやAMはその全てが大地に叩きつけられたのだった……。

 

 

 

突然地面に叩き付けられたアラド達は全身に走る痛みに顔を歪めていた。雨が降り出した、そう思った瞬間全ての機体が地面に叩きつけられていたのだ。その衝撃と激痛に一瞬誰もが意識を飛ばしていた。

 

「いっつう……何が、何が起きたんだ……ッ! 俺だけじゃないのか!? どうなってやがるッ!?」

 

自分だけではない、サマ基地にいた機体がノイエDC、連邦軍、百鬼獣。その全てが地面に倒れていた。

 

『武蔵様がッ!?』

 

『シャイン王女ッ!!』

 

「なッ!? げ、ゲッターロボが!? な、なんで!? 武蔵さんはどうしたんだよッ!?」

 

シャインの悲鳴とラトゥーニの必死の氷柱の中に閉じ込められているゲッターD2に気付き、アラドも驚愕の声を上げる。

 

『おや? この程度で死んだか? つまら……『うおらぁッ!!!』 くふふふ、良いぞ良いぞ、この程度で終わってはつまらんからなあ』

 

氷を砕き空中に浮かぶ共行王をゲッターD2の腕が掴む。だが次の瞬間には共行王の身体が弾け、水となりサマ基地に流れ落ち、再びゲッターD2の姿が激しい水流の中へと消える。

 

『何が起こってやがる!? 超機人とか言ってやがったが……『不敬、なんだ。その口の聞き方は』ぐあッ!?』

 

姿が見えない、降り注ぐ雨が固形化し、グルンガストへと降り注ぎイルムの悲鳴がサマ基地に木霊した。

 

「何がどうなってやがるんだッ!? くそッ! なんで機体がうごかねぇッ!!」

 

エンジンが停止しているわけではない、操縦系も破壊されたわけではない。操縦桿を動かしてもペダルを踏み込んでも誰の機体も動かない。動力が空回りし、コックピットにレッドアラートが灯るだけだ。何が起こっているのか判らず、皆が困惑する中リュウセイの苦悶の悲鳴が木霊した。

 

『がぁッ!! ぐぐぐ……来るッ!』

 

『来る、リュウセイ何を……』

 

『きゃあッ!? な、何がッ……』

 

凄まじい地響きと共に水が盛り上がり、独りでに細長く伸び透明だった水に色が付いていく……水から金属の質感を持ちながらも生物的な意匠を持つその姿に驚きの声が広がっていく。

 

「で、でけえ……ハガネと同じ位、いやもっとでけえッ!」

 

『あれがあの女の正体と言う事か……』

 

『超機人……あんな禍々しい物が、超機人だと言うのですか』

 

驚愕するアラド達の目の前で水が超巨大な異形の特機へと変わる。

 

『くふふふ、1つ2つ……馳走がやまほどあるが……まずは久しぶりの強念者の魂、存分に喰らうとするかあッ!!!』

 

『来るッ!! くそッ! 動けR-1ッ!!!』

 

大口を開けR-1に迫る共行王――雨に濡れ、動く事の出来ない無防備なR-1に共行王の鋭い牙が向けられ、R-1が噛み砕かれる瞬間に共行王の動きが止められた。

 

『行かせるかよ!』

 

水流の中に氷の礫があったのか全身に細かい傷がありながらも、水流を弾き飛ばし姿を見せたゲッターD2が共行王の尾を掴んで引っ張り、牙が振り下ろされる直前でその動きを封じ込めていた。

 

『ほほーう? んふふふ、良いぞ良いぞ。食事よりも先にお前と遊ぶことにするかのう……』

 

急反転しゲッターD2にその牙を向ける共行王。それに対し共行王に下半身と胴に巻きつかれ、動きを束縛されているゲッターD2。戦況はどう見ても圧倒的に武蔵が不利だった。

 

「動くッ! やろッ! やらせるかッ!!!」

 

『武蔵の支援を行え! 敵機を引き離せッ!!』

 

ビルトビルガー達が動き出すと同時に百鬼獣、ノイエDCのPT・AMが動き出した。百鬼帝国にとって、そしてノイエDCにとって真っ先に廃除しなければならないのはゲッターD2だ。共行王が身体に巻きついた状態ではオープンゲットが出来ず、自己修復機能で回復しているとは言えゲッターD2の装甲は穴だらけだ。雷神鬼はいまだ健在、少数だが百鬼獣もまだ活動している。囲まれて攻撃されてはゲッターD2と武蔵と言えど危険だとカイ自らも百鬼獣をゲッターD2から引き離さんと飛びかかりながらの指示が飛び、リュウセイ達も指示を聞く前に動き出す中――ハガネからのアラートが鳴り響いた。

 

『正体不明機が3機接近中! 各機は警戒をッ! 繰り返す! 正体不明機が3機接近中ッ! 各員は警戒をッ!……ぐっ!?』

 

テツヤの警告が最後まで告げられる事は無く、上空から飛来した光線がハガネの船体を掠め、ハガネの高度が著しく低下し、シロガネにも光線が直撃し、バリアブレイク現象を発生させながらその高度を低下させる。

 

『馬鹿な!? 一撃でスペースノア級のE-フィールドを粉砕したと言うの!?』

 

『ちいっ……こりゃ不味いぜ……』

 

ヴィレッタと驚愕の声と、乱戦がいまだ続く中強力な敵機の出現にイルムが舌打ちを打つ。そしてハガネとシロガネを一撃で行動不能に追い込んだ何者かが姿を現した。見たことの無い人型の機体、ノイエDCのマーキングが施されているから敵機ということは判る。だが、今までのノイエDCの機体とは一線を画した姿をした2機の機体――そしてそれに続くように現れた3機目の機体に驚きの声が上がった。

 

『ゲッターロボ……ッ!?』

 

『いや、細部が違うし、デザインも違うッ! だがあれは……』

 

『紛れも無くゲッターロボッ!』

 

頭部の2本角、両腕のブレード、亀甲模様のパーツ。背中に背負っている8つの勾玉型のパーツだけがやや異質だが、その特徴的なシルエットは紛れも無くゲッターロボをモチーフにした機体であるという事を証明していた。共行王に続く謎の機体にはサマ基地を一瞥し、背部のウェポンパックを開放した。

 

『散れッ!!!』

 

カイの怒声による指示が飛ぶのとほぼ同じタイミングで3機から放たれたミサイルの雨がサマ基地を紅く染め上げる。爆炎の中にサマ基地にいた全ての機体は飲み込まれるのだった……。

 

 

120話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その5へ続く

 

 




ウルズのベルゲルミルだけ、量産型ゲッターロボベースのベルゲルミルにしました。ゲルゲルミル……知ってた、私にネーミングセンスなんてないんだよ……なのでベルゲルミル・タイプGとします。もっと考えろよって言う突っ込みはあると思いますが、お許しください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第120話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その5

第120話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その5

 

ベルゲルミル・タイプGのコックピットの中でウルズは眉を顰めていた。

 

「アンサズ、スリサズ。何をしている」

 

『何を? サマ基地を使えなくしろって言うパパの頼みじゃないか』

 

『僕達はそれを遂行しただけだ。何で責められる謂れがあるのさ』

 

共行王に厳しく躾けられたのにも拘らず、まだ反逆心を持っているアンサズとスリサズは共行王も炎の中に消えた事に溜飲を下げたようだが、それに対してウルズは冷静に不味い事になったと考えていた。

 

(百鬼獣は獣だ。そんな相手にも攻撃を仕掛ければどうなるかなんて簡単に判る筈だろう)

 

自分達を痛めつけた共行王に軽い反撃をしてやろう程度の気持ちだっただろうが、それが不味い事になったとウルズは感じていた。それもそのはず、龍王鬼はウルズ達の出撃を認めはしたが、それ以上は何もしないと言っていたのだから……。

 

『大帝様に話は聞いてる。出撃はかまやしねえが、俺様から言う事はないぜ? ちゃんと俺の名前を出して龍玄に連絡くらい入れろや? 進化した人類っつうなら簡単だよな?』

 

龍王鬼から連絡を入れさせようとしたウルズだが、アンサズとスリサズがこの安い挑発に乗ってしまい必要ないと言ってしまった。つまり今のウルズ達の状況はノイエDCの救援という扱いではあるが、敵・味方関係なく攻撃して来た乱入者である。

 

「やっぱりな……」

 

煙を引き裂いて飛んできた電撃と、斧、そして鱗の嵐――攻撃を予測していたウルズはそれを急上昇することで避け、マントで機体を包み込み防御姿勢に入る。

 

『ぐっ、なんで僕達を攻撃するんだ!』

 

『僕達はマシンナリー……『小僧共、躾が足りんようだったなあ』ッ!!』

 

共行王の怒りに満ちた声にアンサズとスリサズが息を呑んだ。馬鹿がと内心で吐き捨てながら共行王にウルズは通信を繋げる、

 

「ゲッターから引き離す為の攻撃でした。お許しを」

 

『お前は口を開けば許せ許せばかりだな、他に言う事はないのか?』

 

呆れた様子の共行王の言葉にウルズはすみませんと謝罪の言葉を口にする。

 

「アンサズとスリサズは稼働時間が短く状況判断能力が甘いです。ゲッターに組み付かれている貴女を見て動揺したのです」

 

苦しい言い訳というのはウルズでも判っている。だがそれでも口にしないわけには行かなかった……共行王はふんっと鼻を鳴らしその首をゲッターロボに向けた。その姿を見て許して貰えたと安堵したウルズだが、次の言葉に肝を冷やす事になった。

 

『アンサズ、スリサズ。少しはまともな成果を上げて見せよ、優秀な人間というのならば出来るじゃろう? もし出来ぬのならば喰らってやろう。なに死ぬことはない、お前らが死なぬ程度溶かし続けて苦しめてやろうぞ。くふふふふ』

 

その言葉を最後に共行王からのテレパシーによる通信は途絶えた。

 

「と言う訳だ、アンサズ、スリサズ。死ぬ気で頑張るといい」

 

『ウルズ。僕達を見捨てるのか?』

 

『自分だけ助かるつもりか?』

 

アンサズとスリサズの言葉にウルズはやれやれと呟いた。

 

「共行王はお前達を指名した。僕が協力すれば、戦果を上げても許して貰えないかもしれない。それでも良いなら協力しようか?」

 

アンサズとスリサズはたった2人で連邦、ノイエDC、百鬼獣と戦う事になる。それがアンサズとスリサズの行なった行動によって生まれた責任だとウルズは突っぱねる。

 

「文句を言っている間も、責任転嫁をしている時間も無い。敵は待ってくれないのだからね」

 

ベルゲルミルへと攻撃が集中し始め、アンサズとスリサズはウルズに文句を言う余裕が無くなり、そちらに集中し始める。サマ基地での乱戦を上空からウルズは見下ろし、イーグレットからのもう1つの命令――ゲッターロボの戦闘データの収集を始める。

 

(まだ出力が不安定で実戦に耐えれるレベルではない……もっと上手い使い方を学ぶとしよう)

 

ベルゲルミル・タイプGはゲッター炉心で稼動しているが、出力は不安定でサブ動力程度の価値しかない。ゲッターノワールは暴走状態なので参考にならず、安定稼動しているゲッターD2の戦闘データを取る事でより安定した運用を可能とするために、ウルズはアンサズとスリサズの2人を切り捨てる事を視野に入れるのだった……。

 

 

 

 

共行王と戦うゲッターD2の姿は既にサマ基地の近くに無かった。互いに100mに迫る特機である、それは下手に戦えば味方を巻き込むことになると武蔵はサマ基地から離脱することを選び、そして共行王もまたウルズ達を見ていると苛立って殺しかねないと考え武蔵とタイマンで戦える環境を求めた。意図した訳では無いが、2人ともサマ基地から離れる事を選んだ。

 

「くふふふ、お主の意図に乗ってやったぞ。進化の使徒よ、本気で戦おうぞ」

 

『進化の使徒、進化の使徒、どいつもこいつもなんだぁ、そりゃあ。オイラは巴武蔵だッ! 進化の使徒なんかじゃねぇッ!!!』

 

連続で振るわれるダブルトマホークの鋭さがサマ基地にいたときとは段違いの速さになっているのに気付き、共行王は満足そうに笑った。

 

「甘い男だ。味方を巻き込むのが怖いか?」

 

『ぺらぺらと良く喋る蛇だなッ!! 蛇は蛇らしくしゃーっとでも言ってろッ!!!』

 

「無粋、不敬、だが悪くない。お前は私の敵なのだからなッ!!」

 

鱗を飛ばし、口から高密度に圧縮した水の刃を飛ばす共行王。ゲッターD2はダブルトマホークを盾にし、接近しようとしたがその足を止めさせられた。

 

『マジか……』

 

「くふふ、私の知るゲッターより強いようじゃが、まだまだじゃな」

 

ダブルトマホークを中ほどまで切り裂かれた事に武蔵は驚きを隠せず、共行王もまたダブルトマホークごと、ゲッターD2を両断するつもりだったのが獲物を切り裂くのに留まったことに驚いていた。

 

(さて、どうしたものか)

 

子守を頼まれていたが、あんな我侭で恥知らずで礼儀も知らない餓鬼の面倒を見るのは共行王にとっては不快でしかなかった。その上ガワは人間でも中身がおぞましい化け物となれば歪であったとしても神として人間を守ると言う気位を持つ共行王にとっては排除するべき敵に見えていた。迷いは一瞬で、共行王は目の前のゲッターD2を敵と見定め、本気で狩りに出た。

 

「戯れじゃ、この程度で死んでくれるなよッ!」

 

『ちいっ!』

 

蛇の身体と言うのは全身それ筋肉であり、その瞬発力は驚異的だ。毒蛇は瞬発力、毒をもたぬ蛇は持久力と膂力を兼ね備えている。そして蛇をモチーフにした共行王もまたその瞬発力と膂力、そして持久力を兼ね備えた存在であった。

 

「避けるか、良いぞ良いぞ」

 

瞬きの間に放たれた3連撃を受け止め、受け流し、あるいは避けるゲッターD2を見て共行王は喜びを感じていた。今までアースクレイドルにほぼ軟禁状態であり、ブライからの頼みが無ければ外に出れぬ。しかも不完全な身体とフラストレーションを溜めていたが、本気で倒しに行っても簡単に倒せないゲッターD2に喜色を抱いていた。

 

「それそれ、抗って見せよ。私を楽しませて見せよ」

 

噛みつきと尾による打撃、1体でありながら多角的な面攻撃を繰り出しゲッターD2を攻め立てる共行王。

 

『へっ! インベーダーと比べりゃてめえは馬鹿力なだけだぜッ!』

 

「破壊魔と同じ扱いにされるのは些か不快じゃなあ、じゃがまあ……私を楽しませているから許してやろう!!」

 

ダブルトマホークでは追いきれないと判断したのか徒手空拳で打ち伏せ、時に払い、時に掴む。音速に迫る一撃を目で見てから避けるというのは不可能だ。それを可能としている武蔵に共行王は異形の身体の奥、心臓部に潜む霊体の人間の身体で笑みを浮かべた。

 

「ああ、こんなに楽しいのは何時振りかッ!!」

 

『なんでドイツもこいつも戦闘狂かねえッ!!!』

 

ゲッターD2の剛拳が顔面を穿ち、激しい痛みが走る。だがそれすらも今の共行王には喜びだった、失った身体を取り戻しバラルに復讐出来ると思えば身体は不完全、漸く外に出れたと思えば重力の魔神に一蹴され、スクラップ寸前のゲッターロボを回収しただけ、しまいには人とも思えぬ化け物の御守と不平不満ばかりが募っていたが、本気で殺しに行ってもそれを避け、反撃してみせる武蔵に興奮を隠し切れなかった。

 

「そらそらそら!!」

 

『ちっ! 小細工ばっかりしてきやがって!!!』

 

「はははははッ! お前を見極めているのさッ!」

 

鱗を飛ばし、水の使い魔を召喚し、雨を降らせ氷の礫を、水の槍を、共行王に持てる全ての術を、攻撃手段を駆使してゲッターD2を攻め立てる。単独操縦で、しかも扱いきれないゲッターD2という事もあり、攻撃の手札が圧倒的に増えている共行王の攻撃を捌き切れず徐々に被弾が増してくる。だがそれと同時に攻撃の間合いを確実に武蔵は掴んでいた。

 

『そこだあッ!!!』

 

「ぐうっ!?」

 

一瞬の隙を突いて放たれた頭部ゲッタービームの速射が口内に飛び込み炸裂し、共行王は苦悶の声をあげ、口から煙を吐き出して大きく仰け反る。

 

『ダブルトマホークッ!!!』

 

そしてその隙を武蔵が見逃す訳が無く、ダブルトマホークで切りかかり共行王の胴体に深い切り傷を刻み付ける。攻守が逆転し、攻撃に打って出るゲッターD2に共行王が今度は防戦に回る。

 

『おせえッ!!!』

 

「ぎっ!? くふふふ……いやはや、少し甘く見ておったなあッ!」

 

攻撃の間合い、予備動作を完全に読まれている事を共行王は悟り、濡らした地面と空からの水の槍を同時に放ち、1度強引に距離を取りその身体を地面へと溶け込ませる。

 

『逃げるのか!』

 

「逃げる? まさか、ここから面白くなるというのに! 誰が逃げるものかッ!!」

 

再び地面から姿を現した共行王の姿は蛇ではなく、人型へと変っていた。深みを帯びた青色に女性的なシルエットの細身の身体、そしてその手に三叉の槍を握り締め、緋色の髪を翻しゲッターD2の前に立ち塞がる。

 

「くふふふ、この時代の人間で私の本当の姿を見たのはおぬしが初めてじゃ、早々に死んでくれるなよッ!」

 

『はやッ! くそッ!』

 

地面を蹴ると同時に恐ろしい速度で肉薄し槍を振るう共行王、想像を超える速さに武蔵は一瞬驚きはしたがすぐにダブルトマホークを振り上げ、槍を受け止める。

 

「それそれそれッ!!」

 

『なろッ! 舐めんなッ!』

 

ダブルトマホークと三叉の槍の音速を超えた斬りあいは周囲の地形を変え、山を崩し、大地を崩壊させる。しかしそんな事は共行王と武蔵の戦いには何の障害にもならず超常の存在同士の戦いは時が経つに連れその激しさを増させて行くのだった……。

 

 

 

 

サマ基地から遠く離れた場所から響く凄まじい激突音、それがゲッターD2と共行王の戦いが続いている証拠だった。しかしカイ達は誰も救援に向かわなかった……いや正しくは向かえなかった。武蔵と共行王の戦いに割り込める存在がいるとすれば轟破鉄甲鬼やゼンガーの駆るグルンガスト参式・タイプGクラスの特機で無ければ駄目だ。PTやAMでその戦いに割り込もうとすれば余波だけで機体は破壊される、もっと言えば武蔵が守る為に動き武蔵を追詰める事に繋がる――悔しさに歯を噛み締め、カイ達はサマ基地奪還作戦を続行する道しかなかった……だがゲッターD2が抜けた事で、再び戦況は混迷を極めていた。

 

『ちいッ!! ちょこまかちょこまかと鬱陶しいぞッ!!』

 

『ぐうっ! 俺の邪魔をするか小童共ッ!!!』

 

『ははははははッ!! 遅いよッ!! そらそらそらそらッ!!!』

 

サマ基地を焼いた正体不明の3体の機体の内の2体は連邦、ノイエDC、百鬼帝国お構いなしに攻撃を仕掛けてきている。どちらかに意識を向ければ不意打ちで背後から撃たれる乱戦状態なので別の機体に意識を向けている間に攻撃しようにも、後に目があるような異様な反射速度で攻撃を回避する……そのカラクリをカイ達は知っていた。忌むべきDC戦争の最中に生み出された狂気のシステム――。

 

『ゲイムシステムフルコンタクトッ!!!』

 

『あはははははッ! お前達の攻撃なんか当たるかよッ!! 死ねッ!!!』

 

ゲイムシステム――パイロットを機体のパーツとする。アードラー・コッホが作り出したマシンインターフェイス――カイにとってはかつての友を狂気に落とした憎むべきシステムであり、シャインにとっては恐怖の象徴であった。

 

『ゲイムシステム……ッ! 何故あれがッ』

 

『信じられない……あのパイロット。ゲイムシステムを完全に使いこなしてるッ!? くっ!!』

 

縦横無尽に戦場を駆け、目に付くものに攻撃を仕掛けてくる2機のベルゲルミル。その圧倒的な攻撃と機動力にハガネのPT隊は徐々に後退に追い込まれていた。

 

『追いつけないッ! アステリオン並みの機動力があるって言うのッ!』

 

『ふふふ、君達のガラクタとベルゲルミルを一緒にしないで欲しいな』

 

アステリオンがベルゲルミルを追い、無差別攻撃を止めさせようとするがベルゲルミルの機動力が高く、後一歩の所で追いつけないでいた。

 

『下等な旧人類が僕に攻撃しようなんて許されるわけが無いだろう?』

 

『あ……』

 

ベルゲルミルが手にしていたライフルがアステリオンへと向けられる。完全にロックオンされており、アイビスはアステリオンが撃墜され、自分が死ぬ光景を幻視した。しかし引き金が引かれる前にサマ基地から放たれた雷撃がベルゲルミルを弾き飛ばした。

 

『何をする龍玄ッ! 僕が何者か知っているだろう』

 

『知らんな。偉そうに、何様のつもりだッ!! 迅雷ッ!!!』

 

『耄碌したかジジイッ!!!』

 

『貴様が何者か等と知るかッ! 攻撃を仕掛けて来たということは貴様も俺の敵だッ!!』

 

雷神鬼から放たれたビットが雷撃を放ちながらベルゲルミルを追い回し、アステリオンからベルゲルミルを引き離す。

 

『助けて……くれた?』

 

完全に撃墜されるタイミングだった。雷神鬼の攻撃が無ければアイビスは確実に死んでいた……それゆえにアイビスは龍玄に、鬼に助けられたと言う事に驚きを隠せなかった。

 

『何を呆けている! 死にたいのか!』

 

『コウキ博士ッ! すいませんッ!』

 

助けられたと呆然としている間にガーリオンのレールガンの照準が再びアステリオンを捉えており、レールガンが発射されるというタイミングで冷却から回復した轟破鉄甲鬼が支援に入りアステリオンを狙ったガーリオンは機首を反転させ……自ら勾玉に突っ込み爆発炎上した。

 

『ッ』

 

脱出装置が起動した素振りが見えず、目の前で人が死んだと理解したアイビスが声にならない小さな悲鳴を上げた。

 

『落ち着け、戦場だ。誰が死んでも不思議じゃない、あの気狂い共がいれば死人はもっと増える』

 

轟破鉄甲鬼のカメラアイがベルゲルミルに向けられた。背中から射出された勾玉が雷神鬼のビットを破壊し、手にしたライフルが雷神鬼の装甲を穿つ。

 

『ここであいつを落とす。アイビスはライとレオナと協力して支援してくれ、単体では追いきれんッ!』

 

マントを翻しベルゲルミルに肉薄する轟破鉄甲鬼とサマ基地から放たれる雷撃――ベルゲルミルを前に敵や味方と言うのは無く、コウキと龍玄はベルゲルミルのパイロット――スリサズを生かしてはいけないと判断し、互いに何も言わずにベルゲルミルを敵と見定めていた。

 

『追いつくんだ! 動きを少しでも束縛するんだッ!』

 

ベルゲルミルは早い、全方位からの攻撃でも回避してみせる。アイビスにはゲイムシステムが何かは判らない、だがコウキでも追いきれないのならばコウキが追いつけるようにする。それだけを考え、操縦桿を握り締め、ペダルを踏み込む。上空で射撃武器の差しあいをしているベルゲルミルと轟破鉄甲鬼の戦いの中にアイビスもまた身を投じる。

 

『アラド・バランガ……いや、ブロンゾ28ッ!』

 

忌むべき名を正体不明機のパイロットに叫ばれ、アラドはビルトビルガーのコックピットの中で顔を歪めた。

 

『お前にはここで死んで貰うッ! 僕達の名誉の為にねッ!!』

 

折りたたみ式の銃身の短いライフルの下部に装着されたブレードをスタッグビートルクラッシャーで受け止めるが、ベルゲルミルの出力が高く、ビルトビルガーは押し込まれる。

 

「な……何だって!?  どういう意味だッ!?」

 

『それを知る必要はないッ! ただお前が僕にとって邪魔なんだよッ!!』

 

激昂と共に振るわれた銃剣――アームナッターの一閃でビルトビルガーが宙に弾き飛ばされる。

 

『細胞1つ残さず消えうせろッ!!』

 

マシンナリー・ライフルが変形し、その銃口をビルトビルガーに向ける。共行王の雨に濡れ、今も尚本調子に程遠いビルガーは空中で姿勢を持ち直すのがやっとだった。

 

『させんッ! ハイゾルランチャーシュートッ!!』

 

『ブーステッドライホゥッ!!!』

 

拡散するハイゾルランチャーの弾雨とブーステッドライフルの音速を超えた一撃――それは通常ならば命中する攻撃だった。

 

『そんなの当たるか! ゲイムシステム……フルコンタクトッ!』

 

ベルゲルミルのカメラアイが輝き、残像を残しながらの高速移動でハイゾルランチャーとブーステッドライフルの弾頭を回避する。

 

『『はぁぁぁッ!!!』』

 

『ちいっ!!』

 

そこにフェアリオンが左右から斬り込み、アンサズは苛立った様子で舌打ちを打った。確かにゲイムシステムは優秀なインターフェイスだ。パイロットを廃人にすると言う致命的な欠点を持つが、それさえ克服出来れば地球で最も優れたインターフェイスであると言う事はビアンですら認めている。しかしそんなゲイムシステムにも天敵が存在している……それがゲイムシステムに1度は組み込まれたシャインの存在だ。

 

『行きますわよッ!』

 

『はいッ! シャイン王女ッ!』

 

リアルタイムによる予知、コンマ1秒先の未来まで予知すればゲイムシステムを上回れる。

 

『ちょこまかとッ……ッ!?』

 

『避けれるならば避ければいい。避けれるのならね』

 

ゲシュペンストMK-Ⅱ・タイプRDの圧倒的な弾雨――狙いなど定めていない装備している重火器をただ只管に撃ち込む。ヴィレッタらしからぬ暴挙――だがその暴挙こそが、ベルゲルミルの動きを封じる。

 

『ぐっ!?』

 

いくらアンサズ達がゲイムシステムに適合するように調整されていたとしても、余りにも多すぎる情報量には対応出来ない。ゲイムシステムに必要なクールタイムを早めることになり、ゲイムシステムが一時的にその能力を緩める。

 

「何で俺がお前の名誉の為に死ななきゃならねえんだッ!?」

 

『出来損ないが知る必要はないと言った筈だ! ブロンゾ28ッ! お前は黙って僕に殺されれば良いんだよ!!』

 

「俺をその名で呼ぶんじゃねえッ!  俺はアラド・バランガだッ!!」

 

スタッグビートルクラッシャーとアームナッターがぶつかり火花を散らす……サマ基地を巡る戦いは時が経つにつれ激しさを増していくのだった……。

 

 

 

 

甲高い金属音が響き、ゲッターD2と共行王が弾かれたように間合いを取る。ベアー号のコックピットで武蔵は口の中に溜まった血を吐きだし、眉を顰めた。

 

(こいつ……強い)

 

女性的なシルエットをしているがゲッターD2と互角に鍔迫り合いを行なえるパワー、そして蛇の形態時にも使っていた多彩な攻撃――突破力と面攻撃を兼ね備えた共行王は武蔵から見ても強敵と言えるだけの相手だった。

 

『くふふふ、楽しい楽しいなあ。お前は楽しくないか?』

 

友人に語るような口調と共に突き出された槍は閃光にしか見えず、武蔵は己の勘に従ってその攻撃を避けていた。目では見えない、レーダーも役に立たない。そうなれば己が最も信用するのは己自身だ。

 

「悪いがオイラは戦いを楽しいなんて思った事はねえんだよッ!!」

 

ウォーダンとの戦いでコツを掴んだ白刃取りで槍の切っ先を掴み、膝蹴りでトライデントを中ほどからへし折る。

 

『見事! かかかかッ! 天晴れな武人じゃ。じゃがまぁ……無意味じゃがな』

 

へし折った槍は水になり、共行王の手に収まると今度は三日月刀と盾にその姿を変える。

 

「随分と手品が得意なんだな」

 

『水の神じゃからな、それにお前はこっちの方がやりやすかろうッ!!』

 

盾を構え突撃してくる共行王の姿を見て、武蔵は地面に突き刺したダブルトマホークを拾い上げ、振るわれた三日月刀を受け止める。

 

『槍では一方的に攻め立てるだけで面白くない。くふふふ』

 

ゾッとするような、嘗め回すような視線を感じ武蔵はびくっと肩を竦めた。本能的に受け入れ難い視線――餌か何かを見るようなその気配に武蔵は反射的にレバーを操作し、共行王の腹に蹴りを叩き込ませる。

 

『酷い男じゃ、女の腹に蹴りを入れるとは……』

 

「化けもんが何言ってやがる」

 

左手にもダブルトマホークを握らせ、共行王を油断無く睨む武蔵。その気配を感じ取ったのか、共行王から喜色に満ちた気配があふれ出す。

 

『くふふふ、化け物とは酷いのう。これでも私はそれなりに美人だと思うんじゃがなぁッ!!!』

 

「鬼だか、インベーダーだが、アインストだかわからねぇ奴なんて化け物で十分だッ!!」

 

三日月刀とダブルトマホークがぶつかり合い凄まじい火花を散らす。直接的な攻撃力ではゲッターD2が上で三日月刀が打ち合った勢いのまま弾き飛ばされ、大きく態勢を崩す共行王を見て武蔵は好機だと判断した。

 

「ゲッタァァビィィイイムッ!!!」

 

頭部からのゲッタービームを撃ち込む。本来ならばもっと慎重に立ち回る武蔵だが、サマ基地で正体不明機と戦っているリュウセイ達が心配であり、また敵の強さもある程度理解していた事もあり速攻を心掛けていた。それが共行王の罠とも知らずに……。

 

『甘いのうッ!!』

 

掲げられた盾がゲッタービームを吸収し、そのままの勢いで跳ね返してくる。

 

「何ッ!? ぐあッ!?」

 

胴体に当たり弾き飛ばされるゲッターD2と武蔵の悲鳴を聞いて共行王は楽しそうに笑った。

 

『そらそら! 今度は私の番じゃなッ!!』

 

振るわれた三日月刀から三日月状の水の刃が無数に飛び出し、吹き飛ばされたゲッターD2を追う。ダブルトマホークを両断した水刃を思い出し、今の姿勢では避けきれないと判断し武蔵はレバーを引いた。

 

「くそッ! オープンゲットッ!!!」

 

分離し水の刃を回避したが、降り注ぐ雨が空中で固まり、腕となりゲットマシンを捕まえようと迫る。

 

「チェンジドラゴンッ!!! 『ほれ、捕まえた』しまッ! ぐああああああ――ッ!!!」

 

ポセイドンにチェンジしている時間がないと再びドラゴンにゲッターチェンジしたと同時に、空中に現れた水球が氷の塊となりゲッターD2を押し潰し、再び水へと変りゲッターD2を水牢の中に閉じ込める。

 

『さぁさぁ、見るが良い。私の舞は美しいぞ』

 

三日月刀と盾が三度水に変り、共行王の手に扇子になり収まる。その光景を見て武蔵はゲッターD2の操縦桿とレバーを握るが、全く反応を見せない。

 

『さぁさ、ご覧あれ。私の美しき……』

 

扇子を手に動き出そうとした共行王がその動きを突然止め、いらついた様子で舌打ちを打った。次の瞬間に水牢が弾け、地響きと共にゲッターD2が地面に叩き付けられた。

 

「何が……」

 

『しまいじゃ、鬼の君主がやかましいのでな。くふふふ、私の舞はまた今度見せてやろうかの、くふふふふ……』

 

「お前は何がしたいんだ、何が目的なんだ」

 

先ほどまでの殺気が嘘のように静まり返り、戦う意志を見せない共行王に困惑した武蔵がそう問いかける。返事はない、武蔵はそう思っていたのだが、共行王は意外にも返事を返した。

 

『復讐だ。私を操り、戦わせた狂った仙人共。そしてそうじゃなあ……龍虎王と雀武王とも決着をつけたいという気持ちはあるかのう……後は私を蘇らせた鬼にも恩義があるからそれを返すくらいの気持ちがあるから百鬼帝国にいるにすぎん』

 

「……敵じゃないのか?」

 

『さぁ? どうじゃろうなぁ、敵の敵は味方と言うが……くふふふ、お前達次第とでもいっておこうかのう……ではの、また会おう今代の進化の使徒よ。バラルに気をつけよ、奴らはあくどいぞお?』

 

楽しそうに笑いながら共行王はその身体を水に変え、大地に溶けるように姿を消した。

 

「見逃されたのか……くそっ! そうだ、それよりも『武蔵! 武蔵無事か!』 テツヤさん! はい! こっちは大丈夫ですッ!」

 

ハガネに通信を繋げようとした所でハガネのテツヤから通信が入り、武蔵は慌てて返事を返す。

 

『敵はどうした?』

 

「なんか見逃された感じです。オイラよりもそっちは大丈夫ですか!? すぐに救援に」

 

『いや、その必要はない。ノイエDCもアンノウンも、鬼も全て水の球体に取り込まれ、その姿を消した。恐らく……武蔵と戦っていた共行王とやらの仕業だろう』

 

リュウセイ達も無事と判り、武蔵は安堵の溜め息を吐いた。だが状況は今だ不明瞭なままで、すぐにその顔を引き締めた。

 

「そっちに合流します」

 

水による転移、そして人型の姿を持っていることを考えれば予断を許す状況ではなく、武蔵はすぐにゲッターD2を立ち上がらせサマ基地へと帰還する。

 

「ふうむ……まさか共行王が人の姿を持つとは……」

 

「これは少し想定外だ、四罪、四凶の超機人の魂を回収されるわけには行かないね、やれやれ、孫光龍がしくじってくれたから面倒事になったものだよ」

 

「それもあるが我々の超機人を真似た百鬼獣も腹正しい物じゃな。どうするつもりじゃ夏喃? 龍虎王も復活した、状況によっては……」

 

「泰北、それは余計な心配だ。龍虎王に頼る必要なんて無い、僕達だけで十分さ」

 

夏喃の言葉に泰北はやれやれと肩を竦め札を掲げる。

 

(今の段階で叩かねば不味い事になるというに……)

 

不完全な復活なら良いが、百鬼帝国によって更に強化されている四罪、四凶の超機人の事を考えると、その内応龍機のような四霊の超機人――いやもっと言えばそれに匹敵する凶悪な超機人が生み出される可能性もある。その可能性を考え、泰北は困ったように溜め息を吐きながら、プライドの高い弟子に困った奴だと呟きその場を後にするのだった……。

 

 

 

 

121話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その6へ続く

 

 




苦戦したぜ……今まで1番の内容だったかもしれない。決着やイベントの無い話が難しい、私に閃きが足りないのか、それとも文才が無いのかといつも悩みます。そして問題は後半も決着つかないんだよぉ……だけどこれはかなり頑張れそうな気がします。アルトアイゼン・ギーガVSソウルゲインを全力で頑張りたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第121話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その6

第121話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その6

 

追っ手や共行王がどこかに隠れていないかと警戒しながらサマ基地に戻って来た武蔵はサマ基地の姿を確認して眉を顰めた。

 

「こいつはひでえ……」

 

サマ基地はボロボロで既に基地としての機能は殆ど残されていないそんな有様だった。共行王はゲッターで相手をしていたが、雷神鬼、カラーリングの違う正体不明の同型機が2機、そしてゲッター1に酷似した機体が1機――百鬼獣やPT、AMは殆ど沈黙していたが、それでもこれだけ破壊されるとは想像以上に強かったのかと武蔵は驚かされた。

 

「……ふー、ふー……オイラもいそがねえとやばいな」

 

共行王の度重なる氷と水の攻撃によって指先の感覚が鈍く、青黒くなっている。それに加えて疲労等で意識が途切れかけているのを感じ、操縦が出来なくなる前にとゲッターD2をサマ基地の前に殆ど墜落に近い形で着陸させ、ポセイドン号から這い出るように外に出る。

 

「武蔵様……武蔵様ッ!? だ、大丈夫なのですか!?」

 

「武蔵、お前ッ! 担架! 担架だッ!!!」

 

「へ、へへ……いやあ、シャインちゃん、ユーリアさん。悪いんですけどね……医務室に……運んでくれ……ます……かねえ」

 

墜落音に出てきたリュウセイ達の声を聞きながら、武蔵はそう呟くと同時に仰向けに地響きを立てて倒れこむのだった……。

 

「いやあ、マジで死ぬと思ったわ……」

 

体温が回復し、武蔵が目を覚ましたのは倒れてから5時間後の事であり、食堂で暖かいココアを飲みながら武蔵は深刻な表情でそう呟いた。

 

「本当にもう大丈夫ですか? どこか気分が悪いとか……」

 

「大丈夫大丈夫、オイラは丈夫で長持ちの武蔵さんだからな……とは言え、今回はかなりきつかったけど……」

 

チョコとココアでカロリーを摂取し、風呂とサウナで身体を温めた武蔵の顔色はかなり良くなっていたが、それでも色濃い疲労の色が浮かんでいた。

 

「武蔵がそこまで追い込まれるとは、あの共行王と言うのはそんなに危険か?」

 

「途中で人型に変形したんですよカイさん。そしたら何回も氷漬けにされるし、攻撃は早いし、範囲も広い。しかも雨が全部武器になるって言うとんでもない奴ですよ。正直あんまり戦いたくない相手っすね」

 

「そんなに強いのか?」

 

「強いって言うか巧いっすね。戦い方がめちゃくちゃ上手っす、イルムさん。タイマンでゲッターと同じ位で小技も豊富、オイラ1人じゃ対処しきれないですね」

 

すべての距離に対応し、近距離で戦いつつも雨や氷で多角的に攻め立ててくる共行王は龍王鬼とベクトルは違うが、同じ位厄介な相手だと武蔵は断言した。

 

「それでこっちは大丈夫だったんですか?」

 

「……いや、手酷くやられたわね。基地機能は殆ど破壊されてしまったし……あのゲッターロボに似てる機体はゲッター線で稼動していたわ」

 

「……やっぱりっすか、ゲッタービームの跡に見えたのは見間違いじゃなかった訳っすね」

 

スパイラルゲッタービーム。その痕跡に似た物を見てまさかと感じていたが、ヴィレッタから聞いてその通りだと判り武蔵は眉を顰めた。

 

「俺達の考えはアーチボルドのゲッターロボのゲッター炉心を解析して量産しているのではと思っているのだが、武蔵はどう思う?」

 

「んーどうだろうなあ。そもそも作れるってのがオイラにゃ信じられないけどなあ……」

 

「でも実際に搭載してるって事はゲッター炉心で動いているんじゃないのか?」

 

実際に動いているのだからノイエDCにゲッター炉心を作る技術はあるとリュウセイは口にするが、武蔵はどうしても納得出来ないものを感じていた。

 

「あ、そうだ。カイさん、サマ基地にいたノイエDCで捕虜にした人って居ます?」

 

「ん?ああ、居るが……それがどうかしたか?」

 

「ビアンさんからノイエDCに潜り込ませている人員の名簿が送られてきましてね、これでアースクレイドルでしたっけ? それの今の情

報が判るかもしれませんよ」

 

武蔵が差し出した端末には数人の名前が映し出されており、その中にはルーデンの名前もしっかりと書かれていた。

 

「これは確かに助かるな、俺達はアースクレイドル、そしてノイエDCの現状をまるで知らん。何か判れば取っ掛かりもつかめるやもしれん」

 

謎に満ちた百鬼帝国、そしてハガネとヒリュウ改の前に姿を見せないノイエDC、その拠点とされるアースクレイドル……それを知る事によって反撃の糸口を掴めるかも知れない。ゆっくりではあるが、武蔵達は百鬼帝国の謎に迫りつつあるのだった。

 

 

 

 

アースクレイドルの格納庫に転移で戻って来た共行王はその中に響く怒号に眉を細めた。

 

「ひゃひゃっひゃ、あの小僧っ子共、随分とやかましいのう?」

 

「……饕餮。その血塗れの格好で近づかないでくれる?」

 

女の腕と男の足を引き摺っている饕餮に共行王は手を振り、近づくなと嫌そうな顔をする。

 

「ひゃっひゃっひゃ、すまんのう。どうにも腹が減って減ってしょうがないんじゃよ」

 

「勝手なことをしてバラルのクソ仙人に出し抜かれたあんたが悪いのさ」

 

共行王の言葉に饕餮は一瞬眉を顰めたが、その通りだと大声で笑った。

 

「次は取るさ、ひゃっひゃっひゃ」

 

「そうだと良いけどね。それで…あの餓鬼共は何を騒いでいるのさ?」

 

龍玄に怒鳴っているアンサズとスリサズを見つめながら共行王がそう尋ねる。

 

「なーに。協力しなかったとか、味方を攻撃したとかで怒っておるのさ」

 

「はっ、自分達が先に不意打ちしておいて何を言ってるんだか」

 

龍玄は鬼としては話の判る鬼だ。識別信号も無く、不意打ちをしてくればそれを盾にアンノウンとして処理したでゴリ押しするだろう。

 

「おいおい、やかましいぞ。餓鬼共」

 

「龍王鬼……ッ!!!」

 

「てめえの上司には敬語くらい使えや、糞餓鬼」

 

裏拳でアンサズが鼻血を噴出しながら吹っ飛び、スリサズが身を竦める。

 

「てめえらが応援に来たって連絡もせずに攻撃をしたんだろう? 攻撃したら攻撃される。そんなん当たり前だろうが? んん? どうだ、違うのか?」

 

龍王鬼がウルズに視線を向け、違うのか? と問いかける。

 

「なら僕に攻撃したお前が攻撃されても文句は無いよな! 龍王鬼ッ!「ねえぞ。だが、二度はねぇ。礼儀もしらねぇてめえのどこが進化した人間なんだかな、俺様には判らんぜ」がああッ!?」

 

殴りかかってきたアンサズの腕を掴むと龍王鬼は躊躇わずアンサズの腕をへし折り、踵落としをアンサズの頭に叩き込み、そのまま踵で頭を踏みつける龍王鬼。

 

「あ、アンサズッ! 貴様ッ!」

 

「お前は私のいう事を学んでおらんようだなあ。スリサズ」

 

「ひっ!?」

 

背後から共行王に肩から腕を回され、スリサズが引き攣った声を上げる。

 

「礼儀を知れ、私はそう言った筈じゃが? ん? 返事はどうした?」

 

鋭く伸びた爪に頬を切り裂かれがくがくと震えるスリサズは返事を返すことも出来ず震えるばかりだ。

 

「てめえもだ。餓鬼、てめえの行動に責任を取れ、お前が味方ごと攻撃した。ならてめえも攻撃されて当然だ、判るか? おい」

 

踵で頭を踏まれているアンサズは呻くばかりでスリサズは恐怖で震えて声も出ない。

 

「のう、こやつら再生するんじゃろう? ひゃひゃひゃッ! 若くて美味そうじゃ、踊り喰いしても良いかのう? 頭さえ食わねば死なぬのじゃろう? のう、わしにくれ」

 

涎をたらし自分達を見つめる饕餮にアンサズとスリサズが同時に引きつった悲鳴を上げる。1人だけ立っているウルズに恨めしそうな視線を向けるが、ウルズは平然と言葉を返した。

 

「礼節を守れと、そして僕達が悪いと何度も言ったのに、反抗したお前達が悪い。僕は助けない」

 

驕り無く、そして恐怖も礼節も抱いてウルズは龍王鬼達と対峙していた。ゆえに、馬鹿な事をしたアンサズとスリサズがどうなろうと、助けるつもりは無かった。

 

「龍王鬼様、共行王様、饕餮王様」

 

暗がりから姿を見せたイーグレットにアンサズとスリサズは助かったと縋るような視線を向けるが、イーグレットは目を伏せ、アンサズとスリサズに視線すら向けなかった。

 

「お好きなようにしてください。アンサズ、スリサズ……いやプロト01、02。お前達こそが失敗作だ、お前達には失望したよ」

 

その言葉と共にアンサズとスリサズはピクリとも動かなくなった。瞳孔が開き、口から涎を垂らして呻き声を上げるだけの存在になった。

 

「てめえ、何をした?」

 

「何を? この子達は試作品の俺の子供だ。不安定な失敗作は処理するに限る。ウルズ、行くぞ。ああ、それとそこの出来損ないは好きにしていい」

 

「はい、パパ」

 

イーグレットの背後にウルズが駆け寄り、2人はアンサズとスリサズ――いや、ウルズのクローンの調整段階のプロト01、02に一瞥もくれずその場を後にした。

 

「のう、貰うぞ?」

 

「好きにしろ、糞爺」

 

「言っとくけど、目に付く所で食べないでよね。不快だから」

 

龍王鬼と共行王にシッシと手を振られ、饕餮はプロト01、02を引き摺りながら格納庫を後にした。

 

「ちっ、あいつも最悪な男だぜ」

 

「そこは同意するねぇ。あーあ、やだやだ」

 

子供と言うだけあって守る意図があると思っていたが、それをあっさりと切り捨てたイーグレットに共行王と龍王鬼は不快感を露にした。

 

「あーッ! むかつくぜ」

 

「どこに行くんだい?」

 

「あん? アクセルの奴が仕掛けるっていうから見に行くのさ。それに今イーグレットとウルズを見るとぶん殴りそうだからな」

 

鼻を鳴らし不機嫌そうに歩いていく龍王鬼を共行王は黙って見送り扇を開いた。

 

「貴女は行かないの?」

 

振り返らずに背後に立っている人物に共行王は声を掛ける。すると通路の影から虎王鬼がその姿を見せた。

 

「だって私が行ったら龍虎皇鬼を持ち出すでしょ? 今の不機嫌な龍じゃ手加減なんて出来ないから付いて行かないの」

 

ソウルゲインやエルアインスを積んだライノセラスに龍王鬼が追加で搭載され、出撃していくシャドウミラーの一団を共行王と虎王鬼は揃って見送る。

 

「お茶飲む?」

 

「折角だからご相伴するかの、どうも気分が悪い」

 

「そうね、あたしも同じよ」

 

イーグレットのあり方は人間として歪んでいる。龍王鬼は鬼ではあるが、己の正義を持っている。そして虎王鬼は慈悲の心を持っている、そして共行王もまた歪んではいるが、人の営みを愛している。バラルの支配に抗い、足掻く人間を好み試練を与える。厳しくはあるが、それも1つの愛である事は間違いが無い。

 

「鬼の方が人間らしいって世も末よな」

 

「あら、そうかしら? あたしも鬼だけどね」

 

「ふっははっ、お前は鬼だが好感が持てる。ブライの強烈な野心も嫌いでは無いが、やはり人は手を取り合ってこそと私は思う。ゆえにお前の愛もまた良し、くふふふ」

 

「あら、神にそう言って貰えると安心するわね」

 

共行王と虎王鬼は互いに笑い合いその場を後にする。武蔵から始まった小さな波紋は今やフラスコの世界を揺らすほどの大きな波紋となろうとしていた……集うかつての敵、そして目覚め、あるいは蘇る悪意は最早留まることを知らず、世界を埋め尽くそうとしているのだった……。

 

 

 

 

オペレーションプランタジネットの為に日本に向かっているヒリュウ改。そのブリーフィングルームにキョウスケ達は集められていた。

 

「こうして集められたって事はまた何か問題が起きちゃったり……したの?」

 

「ああ、その通りだ。エクセレン少尉……武蔵が負傷、酷い凍傷で下手をすれば手足を失うレベルの重傷だったそうだ」

 

武蔵が手足を失うかもしれない重傷だったと聞き、ブリーフィングルームに集められていたリョウト達は声を上げた。

 

「武蔵さんは大丈夫なんですか? ギリアム少佐!」

 

「治療が間に合ったそうだが、状況は良くないな」

 

「武蔵君がそこまで追詰められるという事は百鬼獣ですか?」

 

「何言ってるんだクスハ。この時期に凍傷になるなんてよ、どう考えても百鬼獣だろうが」

 

カチーナが百鬼獣だろ? と断言し、ブリーフィングルームにいたキョウスケ達もそうだろうと思っていたが、モニターにエリが映ったのを見て違うのかと言う困惑の表情が浮かんだ。

 

「まさか別の百邪とかなんですか」

 

「うえ、この状況でまだ訳の判らない化け物が増えるっつうのか? 勘弁してくれよ。宇宙人に鬼にアインストだろ? 本当に勘弁してくれってマジで」

 

タスクがもううんざりだと言いたげに指折り数え、うええっと嫌そうに呻いた。

 

「アンザイ博士、ハガネとシロガネからの報告のあったアンノウンについてなのですが……これはもしかして超機人なのではないですか?」

 

『恐らくですが、共行王と言う名から四罪、四凶の超機人に属する存在かと思われます』

 

超機人の名前にブリーフィングルームに混乱が広がった。

 

「待ってくれよ。超機人って言うのは世界を守る存在じゃないのか?」

 

「いや、でもさ、マサキ。四罪とか、どう考えても良い名前には思えないよ?」

 

「確かにね、四罪に四凶ってどう考えても、聞いても禍々しすぎるわよね?」

 

四罪、四凶という名前はどう考えても不吉な名前だ。超機人とは世界を守る存在ではないのか? という困惑が広がる。

 

「落ち着け、まずは専門家の話を聞かねば、何も判らない。それでアンザイ博士、その四罪、四凶の超機人とはなんだ?」

 

ラドラが手を叩き、混乱を鎮めエリにそう問いかける。

 

『文献を今確認しなおしている所ですが……四凶は超機人の区分であり、妖機人にも属し、暴悪の超機人と呼ばれます』

 

「……妖機人ですか? アンザイ博士」

 

聞き覚えの無いキーワードにレフィーナがエリにそう尋ね返す。その質問にエリはハッとした顔になり頭を下げた。

 

『失礼しました。超機人にはそれぞれ属している区分が存在します、四霊、四神、四凶、四罪の4区分、そしてそれに加えてその超機人の属性によって木、火、土、金、水の5つに振り分けられます。龍王機は木、虎王機は金に属する筈ですね』

 

「キョウスケ、なんか頭痛くなってきたわ」

 

「我慢しろ」

 

余りにも情報量が多くエクセレンが頭が痛くなってきたとぼやき、我慢しろと言ったキョウスケ自身も覚えるのに必死という表情をしていた。

 

『妖機人は本来は超機人に分類されますが、何らかの要因で百邪に寝返った存在と思っていただいて結構です。話を戻しますが、四神は龍王機、虎王機、雀王機、武王機、四霊は応龍機と霊亀皇の2機のみが確認されており、麒麟と鳳凰に該当する超機人が存在すると思いますが、詳細は不明です。次に四凶は饕餮王、窮奇王、渾沌王、橈机王、そしてハガネとシロガネの前に出現したのが共行王となると、残りは

鯀王、驩兜王、三苗王の3体が存在すると思われます』

 

「待って、待って!! そ、そんなにいるの!?」

 

「おいおい、それは洒落になんねえぞ……ゲッターと同じ位の強さのが10体近くいるとか、どうしろっていうんだよ」

 

四霊、四神、四凶、四罪で16体いる事は判っていたが、余りにも数が多い。それらが一斉に出てきたらどうしろって言うんだとカチーナが言うと、話を聞いていたギリアムが手を上げた。

 

「アンザイ博士、中国の神話に出てくる神の名を関しているが……もしや? 超機人は神をモチーフにしているのか?」

 

『いえ、その逆かもしれません。超機人を元に神話が作られたのか、神話を元に超機人が作られたのかは不明です。ただ1つ言えるのは、かつての機人大戦により、渾沌王、橈机王の2体は倒され、雀王機、武王機も破壊、あるいは大破しているはずです……ただ気掛かりなのは……共行王達も皆倒されている筈という事と、報告されている姿と余りにも違うと言うことなのです』

 

文献を確認している最中ですが、少なくとも人型に変形するような能力は無いはずとエリが怪訝そうな顔で呟いた。

 

「そりゃあれなんじゃないのか? 誰かが修理、改造したんじゃねえのか?」

 

普通に考えればマサキの言う通り誰かが修理したと考えるのが普通だ。だが超機人は普通ではない、生きている機械なのだ。

 

「マサキ君、それは無理なんじゃないかな? 超機人には魂があるって言うし」

 

「オカルトな話になると思うが魂の代わりなんて無いんじゃないか?」

 

超機人のパイロットに選ばれたブリットとクスハが揃ってそう告げる。

 

「確かに……魂のある機械となれば、倒されたという事は魂も消滅したってことになる筈……」

 

「機械じゃなくて生きている生物って考えればそうなるわよね……死んだ者を生き返らせるなんて無理なんじゃ?」

 

何故倒した筈の超機人が復活し、更に強化されているのか? 超機人の事を考えれば破壊される=死と考えていい筈だ。

 

『そもそも四罪、四凶の超機人は……』

 

通信が途絶えると同時に警報が鳴り響き、ヒリュウ改の船体が大きく揺れた。

 

「敵襲!?」

 

「嘘だろ!? レーダーはどうしたんだよッ!」

 

レーダーもステルスシェードもE-フィールドも展開していた。それなのに敵が射程範囲に入るまで全く気配も感知もされず、そして通信が途絶えたという事はジャミングも施され救援を求めるのも無理だと言う状況に追い込まれていた。

 

「文句は後だ、出撃するぞ」

 

「こういうわけのわけ判らない攻撃って大体百鬼獣なのよね、ふう」

 

「アインストかもしれん、とにかくヒリュウが落とされる前に出撃するぞッ!」

 

キョウスケ達が慌ててブリーフィングルームを飛び出し格納庫へ走る。そんな中をラミアも格納庫へ走りながら先ほどのエリの話を思い返していた。

 

(生きている機械は生物……では私は……なんなんだ)

 

作られた命である自分はなんなのだと疑問にラミアは足を止めそうになりながらも、格納庫へと進み続ける。答えの出ない疑問、そして誰にも答えを聞くことが出来ない物――ラミアが何故こんなにも思い悩んでいるのか、それは先日寝る前に届いた簡素な知らせが原因だった。

 

『思い出した。W-17、私達の使命を果たすんだ』

 

(エキドナ……お前はWー16で良いのか、エキドナ・イーサッキでいたくないのか……)

 

己の意志を通すのか、それとも創造主の意思に従うのか思い悩むラミアと、記憶を取り戻したから考える事を放棄したエキドナ――どちらが正しいのかラミアには判らなくなり始めていた。しかし迷いに答えが出る程の時間はラミアに与えられる事はなく、決断の時はもうすぐ側まで迫っているのだった……。

 

 

122話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その7へ続く

 

 




最近出ないエキドナちゃんはロスターとエンカウントし、エキドナさんに実は進化していました。次の章くらいにはエキドナさんの心境も書いていきたいですね、恐らく百面相してます。ですがその前にアクセルVSキョウスケをガンガン書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第122話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その7

第122話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その7

 

ヒリュウ改から出撃したキョウスケ達をインスペクターの勢力圏となり無人の市街地で待ち構えていたのはエルアインス、ラーズアングリフと言ったシャドウミラー製の機体の数々だった。その機体を見てラミアは胸の奥が軋むのを感じた。これが百鬼帝国ならば良かった、だがシャドウミラーという事はヴィンデルやアクセル……そしてレモンが現れる可能性を示しており、前までだったのならば指示を受けれる。自分で考えなくて良いと喜んでいた筈なのに、今はヴィンデル達に会う事がラミアには恐ろしい事だった。

 

『まーた例の連中みたいね。今はいないみたいだけど謎のゲシュちゃん――いえ、未来の連邦軍かしら?』

 

『さぁな。だが、あたしからすればしつこいだけの鬱陶しい連中だ。てめえらの世界とあたし達の世界が違うって事すら判ってねえ馬鹿共だ』

 

イングラム、カーウァイの2人から齎された未来の情報――存在しない筈の機体も、ゲシュペンストも未来で製造されたと考えれば辻褄が合う。

 

『そんなにキョウスケ中尉が怖いって事ですかね?』

 

『それは俺には判らんが……俺達の前に立ち塞がるというのならば敵だ』

 

アインストに寄生され、異形と化したキョウスケによって全滅にまで追い込まれかけた。それが攻撃を仕掛けてくる理由だとキョウスケという存在が必ずそれに至ると考えているからだとイングラムは推測し伝えていた。

 

『人違いで襲ってくるとか良い迷惑にも程があるぜ』

 

『ですが少尉、今までとは少しパターンが違うと感じませんか?』

 

『攻撃を仕掛けてこないと言うことだな。ラッセル』

 

ラッセルがおかしいと呟くとラドラが即座にそう返事を返した。今までならば倒されても倒されてもすぐに増援を送り込んで来たが、今回は武器こそ向けているが攻撃に出る素振りを見せていない。

 

『今更交渉をしに来たとか言わないよね?』

 

『さあな、だんまりだからわからねえよ』

 

攻撃を仕掛けてくるなら判る。しかし今は警戒をしているだけで攻撃を仕掛けてくる素振りが無い。その事にキョウスケ達が困惑していると龍虎王がうなり声を上げた。

 

『龍虎王!? どうしたの!?』

 

『何か……何か来るッ!』

 

龍虎王の唸り声のすぐ後に凄まじい稲光が走り、市街地の中央にクレーターが作り出される。その中心にいるのは金色の魔龍の姿だった……。

 

『はっはぁッ!! よう、久しぶりだな。人間共、元気にしてたか?』

 

『『『龍王鬼ッ!!!』』』

 

キョウスケ達を歯牙にもかけず一蹴した百鬼帝国の将軍――龍王鬼がヒリュウ改の前に現れた。

 

『あれが龍王鬼ッ……! 中尉達を再起不能に寸前に追い込んだって言う百鬼獣ッ!』

 

『朱王鬼なんかとは全然違うじゃないッ!?』

 

『がっはははははッ!!! おうお嬢ちゃん、良い目をしてるな。俺様の方が朱王鬼なんかよりもずっと強いぜぇ!! がっははははッ!!!』

 

リオの言葉に上機嫌に笑う龍王鬼だったが、次の瞬間に凄まじい威圧感が龍王鬼の咆哮ともに放たれた。龍虎皇鬼の時よりは劣るが、戦う意志を持たぬものを選別する咆哮の効果は強烈だった。だがキョウスケ達はそれに耐え、真っ直ぐに龍王鬼を見つめ返していた。

 

『くははははッ!!! 良いぜ良いぜ。そうじゃなきゃつまらねぇ、俺もこいつもよ、武蔵と喧嘩してボロボロになっちまってよ。今日はリハビリに来たんだ、虎はいねえが楽しくやろうぜッ!!!』

 

 

龍王鬼が翼を広げ上空へと飛び上がろうとした時にその動きを急に止めた。

 

『紅いカブトムシ。てめえの相手は俺じゃねぇ、あっちでてめえの敵が待ってるぜ。1人で戦うのが怖いっつうなら、まぁ行かなくても良いけどよ。てめえはどうする?』

 

挑発だと判っている言葉だった。キョウスケが乗るか、それとも怖気づくかそれを見て楽しむ気配のある龍王鬼。

 

『馬鹿か! そうやって行けば袋叩きにするつもりだろうが!』

 

『おいおい、勘違いしてくれんなよ。俺様はそんなケチ臭い事はしないぜ。やるなら真正面からぶっ潰す。それが俺の流儀よ、さてとそれでキョウスケ・ナンブ。お前はどうする? 好きにして良いんだぜ』

 

 

喉を鳴らして楽しそうに問いかけてくる龍王鬼。その言葉にキョウスケのとった行動はエクセレン達にとっては想定外、龍王鬼にとっては期待したとおりの選択だった。

 

『ギリアム少佐。指揮を頼みます』

 

『ちょっ!? キョウスケッ!?』

 

エクセレンの言葉も聞かず、キョウスケはアルトアイゼン・ギーガを操り龍王鬼が指差した方角へとアルトアイゼン・ギーガを走らせる。

 

『クハハハッ! やっぱり男って言うのはこうじゃねえとなッ!! 喧嘩っつうのはタイマンでしてこそ華っつうもんよ! 少しは雑魚を蹴散らして身体を暖めておけよッ!』

 

1人で戦う事になっても前に向かったキョウスケを龍王鬼は賞賛し、今度こそ宙に舞い上がった。

 

『さあーて、俺達も始めようぜッ!! くくく、ガーッハハハハハハッ!!!』

 

楽しくてしょうがないと言う龍王鬼の高笑いと、リボルビング・バンカーの一撃で自分の前に立ち塞がったエルアインスを破壊し、市街地に響いた炸裂音が戦いの幕開けとなるのだった。

 

 

 

市街地を取り囲むように配置されているエルアインス達はギリアム達の予想に反して、1機たりともヒリュウ改のPTに攻撃を仕掛けてくる気配は無く、龍王鬼1体でアルトアイゼン・ギーガを除く全てのPTと特機と戦っていた。

 

「ガッハハハッ! おらおら、どうしたどうしたあ!! 俺様は1人だぜッ!!!」

 

尾を牙を爪を、そして雷撃と火炎放射をその全てを使いこなし10機近いPTを単独で相手取る龍王鬼の力は異常を通り越して化け物だった。

 

『おらあッ!!!』

 

「はっはッ!! こいつはぶっ壊し甲斐のあるデカブツだなあッ!!!」

 

シーズアンカーと龍王鬼の尾がぶつかり、凄まじい火花を散らす。普通ならばジガンスクード・ドゥロを相手にしていれば他の機体へのマークは緩む。しかし龍王鬼はこの乱戦を楽しみ、そしてヒット&アウェイを駆使し、いなし、防ぎ、自身へ攻撃させ戦況をコントロールしていた。

 

「おらよ! 足元がお留守だぜデカブツッ!!」

 

『とったぁッ!?』

 

尾による薙ぎ払いで脚を払われ、即座に巻きついた尻尾と龍王鬼の半回転によってジガンスクード・ドゥロの巨体その物がハンマーとなりヒリュウ改のPTを襲う。

 

『てめ! タスクぅ! なにやってやがる!』

 

『んな事言ったって! あいつに触らされたらテスラドライブが機能を停止したんすよッ!』

 

テスラドライブで浮遊しているジガンスクード・ドゥロが脚を払われるなんて事はありえない。だが龍王鬼はそれをやってのけたのだ。

 

「おら行くぜぇ!!! てめえらの相手は俺だぁッ!!!」

 

龍王鬼の鱗が分離し、空中に集まると雷が落ち、鱗に当たり乱反射を繰り返し、キョウスケに合流しようとしたエクセレン達に襲い掛かる。

 

『うそッ!? きゃあッ!?』

 

『エクセ姉様ッ! ぐっ!?』

 

「がっははははッ! よそ見してるからそうなるんだぜッ!!!」

 

雷を辛うじて回避したが、その電圧で操縦系が一時ショートしたヴァイスリッター改をアンジュルグが支えに入る。だが乱反射を続ける雷に打たれ、ヴァイスリッター改と共に墜落する。

 

「おいおい、なんだなんだ。お前、前はいなかったな、どこのどいつだ?」

 

ゲシュペンスト・シグの高速回転するエネルギークローと龍王鬼の牙がぶつかり合い、凄まじい火花を散らす。

 

『元・教導隊 ラドラだ』

 

「はっはぁッ! 俺様は龍王鬼だッ!! よろしくなあッ!!!」

 

龍王鬼の筋肉が盛り上がりゲシュペンスト・シグを上空へ弾き飛ばし、広げられた翼の打撃がゲシュペンスト・シグの胴を打つ。しかしその直後ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの手の平から放たれた火炎が龍王鬼を包み込んだ。

 

『いまッ! 龍王破山剣ッ!!!』

 

炎に包まれた龍王鬼を見てクスハが好機とみて斬りかかるが、それは炎から飛び出した尾によって防がれる。

 

「ほっほーう。そいつが俺様の龍王鬼のモチーフになったつう、龍虎王つう超機人か!」

 

『効いてない!?』

 

「おいおいおい、龍に炎が効くかよッ!! おらッ!!!」

 

尾と龍王破山剣が鍔迫り合いをする中、龍王鬼の首はヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMへと向けられる。

 

「てめえの炎は俺様には効かないが、俺の炎はどうだぁ!!」

 

【がぁッ!!!】

 

龍王鬼が吠えると同時にその口から炎が吐き出される。それを見たリョウトは再び手の平からの火炎ヒートバーンを放つ、だが火力に圧倒的な差があり、瞬く間に押し返されヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMが炎の中へと消える。

 

『リョウト君!』

 

「おいおいよそ見してんじゃねえよッ!!」

 

炎に包まれたヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMを見てクスハが悲鳴を上げた瞬間の隙を突いて龍王鬼の体当たりが龍虎王を弾き飛ばす。

 

「どうもてめえはまだ本調子じゃないみたいだな。超機人、温いぜ!」

 

【【ッ!!】】

 

龍王鬼の言葉に龍虎王が反応を見せる。それは何故判ったと言わんばかりの動揺に満ちていた。

 

「俺様の勘よ! まあ虎がいないからこっちも本気じゃねぇけどよ! もうちっと全力を見せてくれやッ!!!」

 

強烈な稲妻が龍虎王に向かって降り注ぎ、龍虎王とクスハ、ブリットの悲鳴が木霊する。

 

「おっと! 悪いな! 龍王鬼!」

 

【ギギャァッ!!!】

 

「悪い悪い、謝ってるだろ!」

 

ゲシュペンスト・リバイブ(S)とゲシュペンスト・MK-Ⅱの放ったブーステッドライフルとビームライフルの一撃が龍王鬼の片目を穿った。片目の視界を失った今がチャンスだとゲシュペンスト・MK-Ⅲとサイバスターとヴァルシオーネが龍王鬼に踊りかかる。

 

『ステークセット! おらッ!!!』

 

『リューネ合わせろッ!』

 

『判ってる!』

 

片目を失ったという明白な隙を物にする為に3方向からの攻撃が龍王鬼に叩き込まれた。

 

「ぐっおッ!! はっはあ! 今のは効いた! だが足りな『『究極ッ!! ゲシュペンスト……キィィィックッ!!!!』』があああああッ!?」

 

顔を上げた龍王鬼の首にゲシュペンスト・シグとゲシュペンスト・リバイブ(S)の飛び蹴りが叩き込まれ、龍王鬼達の悲鳴が木霊し、龍王鬼が地響きを立てて倒れ込んだ。

 

「決まりましたね、キョウスケ中尉の応援を」

 

その光景を見てレフィーナが勝利を確信し、キョウスケへの支援命令を出す。しかしブリッジで見ていたショーンの顔は険しかった。

 

「どうかしましたか? 副長」

 

「いえ、東洋の竜には逆鱗という逆さに生えた鱗があると言う話を聞きましてね」

 

「逆鱗ですか? それが何か?」

 

「いえ、今の攻撃が首の逆さの鱗に当たっている様に見えましてね」

 

ショーンがそう呟いた瞬間、倒れ伏せた龍王鬼の目が紅く輝き、凄まじい咆哮を上げシャドウミラーの機体を吹き飛ばし、市街を破壊する。それは咆哮というよりも嵐だった、そして嵐の中で龍王鬼はメキメキと音を立ててその姿を変えていく、龍の姿から人の姿へと……。

 

「逆鱗に触っちまうなんててめえらも馬鹿だぜ、本当はこいつは龍王鬼にも俺様にも負担がでけえから止めておきたかったんだが……はっはあッ! もう無理だぜ、俺様も龍王鬼……いや龍人鬼は止まらねえぞッ!!!」

 

【ガアアアアアア――ッ!!!】

 

龍王鬼の咆哮と共に稲妻が落ち、龍王鬼の姿を隠し、そして再び現れた時そこにいたのは魔龍ではなく、魔神だった。龍虎皇鬼よりかはワンサイズ小さいが、完全な人型となった龍王鬼、いや龍人鬼がその目を紅く輝かせ、拳を鳴らしながらギリアム達の前に立ち塞がっているのだった……。

 

 

 

 

龍王鬼の挑発にキョウスケは乗った訳ではない、武蔵達からの話、そして市街地を取り囲んでいる機体からその先に待っているのは未来の生き残りだと、キョウスケは考えていた。少しでも情報を、そして武蔵達からの話だけではなく、襲ってくる敵からの話も聞かなければと龍王鬼の言う敵の元へと1人で向かったのだ。

 

「邪魔だッ!」

 

立ち塞がるエルアインスをリボルビング・バンカーでまとめて貫きトリガーを引く、エルアインスの残骸が飛び散る中キョウスケは声を上げる。

 

「何時まで俺を待たせるつもりだ。それとも俺が疲弊するのを待っているのか、それならとんだ卑怯者だな」

 

広域通信ではなく外部スピーカーで声を上げる。返事はないとキョウスケは思っていたのだが、即座に広域通信で返事が返された。

 

『馬鹿を言え、お前の身体が暖まるのを待っていたんだ。これがな』

 

アルトアイゼン・ギーガのコックピットに響いたのは好戦的な若い男の声だった。そしてその直後ビルの上に蒼い特機が降り立った……その特機の事をキョウスケは覚えていた。

 

「マスタッシュマン……ッ」

 

L5戦役時に月で確認され、ゲッター1と共にインベーダーと戦い。消息不明になった機体――マスタッシュマン、いやソウルゲインが腕組をし、アルトアイゼン・ギーガを見下ろす。

 

「やっと俺達の前に現れたか……」

 

『こうして貴様に会うのはこちら側では2度目だ。ベーオウルフ、いや、キョウスケ・ナンブ』

 

キョウスケの言葉を遮り男の声がキョウスケの名を呼んだ。

 

「2度目……? そうか、あの時の」

 

2度目という言葉に一瞬キョウスケは困惑したが、ビーストが初めて確認された時にいた紅いマントと突撃槍を装備した機体を思い出し、その時のパイロットかと呟いた。

 

『ふっ、思いだしたのならば良い。俺はアクセル、アクセル・アルマーだ』

 

名乗ると同時にビルの上から飛び降りたソウルゲインがアルトアイゼン・ギーガの前に地響きを立てて着地する。

 

『ゲシュペンスト・MK-Ⅲとは似ても似つかんな。これがな』

 

「それがお前達の知る未来とは違う過程を歩んでいると言う証ではないのか? アクセル・アルマー」

 

『何故それを……いや、武蔵達から聞いていたか、確かにそうと言われればそうかもしれんな。1つ聞いておく、得体の知れん力が、突如湧き上がる感覚はあるか?』

 

得体の知れない力――それがアインストに寄生され、人で無くなり始めた証拠だとすればとキョウスケの返事は1つだった。

 

「そんな力を感じたことはない、これで満足か?」

 

『今はそうかもしれないが、何れそうなるかもしれん……武蔵はそうならないと思っているだろうが、俺はそうは思わん。ここで憂いを断たせてもらう、これがな』

 

ソウルゲインから溢れ出す闘志を感じ取り、キョウスケも操縦桿を強く握り締めた。

 

「悪いが、謂れの無い事で追い回されるのも飽き飽きだ」

 

『ふっ、そいつは悪かったな。侘びだ、ここで貴様は死んでいけいッ!!!』

 

凄まじい瞬発力で間合いを詰めると同時に振るわれたソウルゲインの拳をリボルビング・バンカーで受け止めようとしたキョウスケだが、咄嗟に防御から回避へと切り替えた。キョウスケが予想していた軌道よりも早く、そして防御ごと腕を破壊してやると言わんばかりの踏み込みに防御をしようとしていれば腕を失っていたと悟り、キョウスケの額から冷や汗が流れた。

 

(早い、そして重いッ……だがそれだけではない)

 

キョウスケが恐怖したのはソウルゲインの攻撃力にではない、完全に自分の癖を読み、一撃でリボルビングバンカーを奪いに来た事にあった。

 

(未来というのに信憑性が出てきたな)

 

何度も何度も、それこそ気の遠くなる回数を戦わなければこれほどまで自分の癖を盗まれることはない。

 

「なるほど、強敵だ」

 

ヴァイサーガではなく、ソウルゲインこそがアクセルの戦闘能力、そして対アルトアイゼン用に調整された機体だと判り、キョウスケは目の前の敵が強敵だと認めるのだった。しかし、それはキョウスケだけではなくアクセルも同じだった。

 

「今のタイミングで取れんか……外見だけではなく、機体性能もゲシュペンスト・MK-Ⅲとは別物だな、これがな」

 

肩を並べて戦い、そして敵として何度も何度もアクセルはキョウスケと戦ってきた。その中でキョウスケの操縦の癖、ゲシュペンスト・MK-Ⅲの機体の特徴を完全にアクセルは掴んでいた。アクセルの予想では、今のやり取りで確実に右腕を奪ったつもりだった。

 

「ふん、俺達の世界よりも修羅場は潜り抜けているか」

 

反応速度、そして攻撃を読み取る勘が桁違いだとアクセルは呟き、自分の記憶の中にあるベーオウルフとキョウスケ・ナンブの間には誤差がある事を感じ取っていた。

 

「俺達の道とこいつらの道は交わらん、やはりここで仕留めておくか。これがな」

 

今はまだ良い、しかしアインストとなれば向こう側のベーオウルフよりも遥かに脅威になるとアクセルは判断し、警戒度を更に引き上げた。

 

「打ち貫くッ!!!」

 

「打ち砕くッ!!!」

 

リボルビング・バンカーとソウルゲインの右拳がぶつかり、互いに大きく弾かれる。

 

「狙いは外さんッ!!!」

 

先に体勢を立て直したのはキョウスケとアルトアイゼン・ギーガだった。左腕の6連装マシンキャノンがソウルゲインに向かって放たれる。

 

「はっ! 舐めるなッ!!! おおおッ!!!」

 

アクセルの咆哮と共にソウルゲインの右腕に埋め込まれた紅い宝玉が輝き、手の平から溢れたエネルギーが6連装マシンキャノンの銃弾を全て受け止める。

 

「玄武剛撃ッ!!!」

 

本来高速回転させて打ち出す玄武剛弾を射出せず、高速回転させたままアルトアイゼン・ギーガに向かって振るうソウルゲイン。

 

「ちいっ!」

 

余裕を持って回避したはずだが、高速回転するソウルゲインの拳はそれ自体が鋭利な風の刃となっており、アルトアイゼン・ギーガの装甲を切り裂く、避ける事が出来ず、防ぐ事も出来ないと悟ったキョウスケの行動は早かった。左腕に装着されているシールドを構えソウルゲインの拳を受け止める姿勢に入る。

 

「そんなちゃちな盾で防げると思うなッ!」

 

「悪いな。防ぐつもりなんてないッ!」

 

シールドにソウルゲインの拳が当たった瞬間、装甲が展開しクレイモアが姿を見せる。

 

「なにッ!? 貴様正気かッ!?」

 

「当たり前だ。喰らえッ!」

 

至近距離でクレイモアが炸裂し、ソウルゲインとアルトアイゼン・ギーガの装甲を容赦なく穿ち、2機の間合いを強引に引き離す。

 

「くうっ!?」

 

「……ぐっ! だが貰ったぞッ!!!」

 

キョウスケとアクセルの明暗を分けたのは身構えていたか、否かの違いだった。至近距離からのクレイモア、下手をすれば自機のコックピットを破壊しかねない自爆技――それゆえにアクセルは身を守る事を優先し、キョウスケは致命傷だけを避ける事を選択し身構えた。

 

「おおおおおお――ッ!!!」

 

キョウスケの雄叫びと共に最大加速で切り込むアルトアイゼン・ギーガのリボルビング・バンカーの切っ先にT-ドットアレイが発生する。その光景を見てアクセルはぎょっとした様子で叫んだ。

 

「ソニックブレイカーだとッ!? ちいっ!!」

 

舌打ちと共に体勢を立てなおさせ、アルトアイゼン・ギーガに向き合うソウルゲイン。だがこれは完全に悪手だった、確かにこれがゲシュペンスト・MK-Ⅲ相手ならばそれは正解だ。機体の加速度、攻撃力、防御力、そしてベーオウルフの操縦の癖。それを全て記憶しているアクセルならばリボルビング・バンカーにカウンターを合わせる事も出来ただろう……。

 

「どんな装甲だろうが打ち貫くのみッ!!!」

 

だが今アクセルが対峙しているのはキョウスケ・ナンブであり、ベーオウルフではない。そしてゲシュペンスト・MK-Ⅲではなく、古の鉄巨人アルトアイゼン・ギーガだった。背部のバックパックの装甲が展開され、テスラドライブ、背部、脚部、腰部の大型ブースター全てが火を噴いた。それはアクセルの記憶にある踏み込みの速度よりも遥かに上だった。この世界と自分達の世界は違うと口にしていても、どこかでまだキョウスケとベーオウルフを同一人物だと思っていた……それが大きな隙をキョウスケに晒した。

 

「ぐ、ぐがあああああッ!!!」

 

凄まじい衝撃と炸裂音がアクセルの耳に響いた瞬間、ソウルゲインの巨体は後方に向かって大きく弾き飛ばされていた。

 

「外したか、だがこのまま決めさせて貰うぞ! アクセル・アルマーッ!!」

 

リボルビング・バンカーの切っ先から逃れたソウルゲイン。だが胴体には深い亀裂が走っており、火花を散らしている。ここが勝負所だとキョウスケは読み、ソウルゲインが立ち上がる前にと再びリボルビング・バンカーOCによる追撃を試みる。

 

「なめるなあッ!!!」

 

「なっ!? ぐうっ!?」

 

だが今度はキョウスケが悪手を打った。両腕で身体を跳ね上げたソウルゲインの両足が蒼く輝き、逆立ちしたままで強烈な回し蹴りをアルトアイゼン・ギーガに叩き込んだ。今度吹き飛んだのはアルトアイゼン・ギーガの方であり、左腕から火花を散らしながら立ち上がる姿を見てアクセルは舌打ちする。

 

「エネルギーラインを潰されたか、これではEG装甲はただのガラクタだな、これが」

 

リボルビング・バンカーOCの破壊力、貫通力は凄まじくガードこそしたもの内部を破壊され、ソウルゲインの最大の武器であるEG装甲の効力が大幅に低下した事にアクセルは苛立ちを感じこそしたがそれ以外はソウルゲインは万全だ。新機能も十分に稼動しており、回復能力を失ったとしてもそこまで痛手ではないと自分に言い聞かせるように呟いた。

 

「左腕が潰されたか……いや、問題はないか」

 

そしてキョウスケも同じ様に機体のコンディションを確認し、問題はないと呟いていた。元々シールドに搭載されたクレイモアは1度の出撃で1回か、2回使えれば御の字であり、そもそも使った段階で左腕はほぼお釈迦になると言っても良い呪われた装備だ。ならば致命傷を防ぐための盾として使えればそれで十分、両肩のスクエアクレイモアもバックパックのクレイモアも生きており、リボルビング・バンカーも弾数が十分にあると考えれば左腕を失った事はそう痛手ではなかった。むしろこれくらいの傷で動けなくなっていれば、百鬼獣やアインスト、インベーダーとの戦いを戦い抜いて行ける訳が無い。ソウルゲインとアルトアイゼン・ギーガは互いに引き寄せ合うように動き出し、市街地を破壊しながらキョウスケとアクセルの戦いは爆発的に激しさを増していくのだった……。

 

 

しかし、その戦いを良しとしないものもこの場にいた。

 

「んんー、どうしようかなあ。スティンガーくぅん」

 

「そ、そうだねぇ、ど、どうしようかコーウェン君!」

 

龍王鬼とアクセルが戦いの場に選んだ無人の市街地――そこにはコーウェンとスティンガーの2人と共にフォーゲルの姿があった。

 

「どうしますか父さん、このままでは研究所が……」

 

「うんうん、それは不味いんだよねぇ……ただここで僕達が戦うというのもまた不味いんだよねぇ」

 

「む、武蔵が余計なものを持ち込んでくれたからね」

 

真ゲッター・真ドラゴンには及ばないが、ゲッターD2も今の弱体化しているコーウェンとスティンガーの2人で相手をするには厳しい相手だった。準備が整うまでは動きたく無いが、このままでは自分達の研究所が破壊されてしまうとコーウェンとスティンガーは頭を悩ませる。

 

「僕が出ましょうか?」

 

「フォーゲル、君の気持ちはとても嬉しい。だがヒリュウ改と龍王鬼を相手をするには君はまだまだ実力が足りないのだよ」

 

英才教育を受け、アードラー・コッホの頭脳、そしてゲッター線を照射したマシンナリーチルドレンの肉体は確かに強力だ、だがそれでもパイロットしてはまだまだ未熟だとコーウェンは告げる。

 

「しょうがない、この研究所は廃棄しよう。研究所を残しておくと私達が危ないが、破壊している時間が無いからね」

 

「そ、そうだね。廃棄しよう、ゲッター炉心はブライに譲ったし、修理しているゲッターロボも放棄すれば良いさ。後は指名手配にならないように上手く逃げ切るだけだね」

 

残念だ、研究所を破壊しないと自分達が危ないという素振りを見せながら言うコーウェンとスティンガーを見てフォーゲルが声を上げた。

 

「ぼ、僕も乗ります! 3人揃えばゲッターロボは万全の力を出せるんですよね!」

 

父と慕う2人の悲しむ姿を見たくない、そんな無垢で純粋な気持ちでフォーゲルはゲッターロボに乗ると叫ぶ、それがコーウェンとスティンガーによって誘導された想いだとも知らずに……。

 

「フォーゲル、ありがとう。なら君の力を借りようか」

 

「3人なら出来る事もあるさ、まずはこの場所を完全に消し去らないとね」

 

「はいッ!」

 

フラスコの世界に潜み続けた悪意が今動き出そうとしているのだった……。

 

 

 

第123話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その8へ続く

 

 




Q 強制的に引き分けにする方法は?
A インベーダーズ

……すいませんね、良い形で引き分けにする方法がこれしか思いつかなかったのです。かなりヒートアップしてますし、第3者の乱入が無きゃ無理だなと言う事で暗躍を続けていたインベーダーズをそろそろ表舞台で出してみようと思います(姿を見せるわけではない)それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第123話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その8

123話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その8

 

EG装甲による回復能力を失ったとは言え、準特機サイズのアルトアイゼン・ギーガよりも頭1個分は大きいソウルゲインの方がエネルギーの貯蔵量、機体のパワーは圧倒的に上の筈――アクセルはそう考えていた。

 

「ちっ! ナハトに似ていると思ったらこれかッ!」

 

シャドウミラーによるゲシュペンスト・MK-Ⅲの複製――W00が乗るゲシュペンスト・ハーケン、アルトアイゼン・ナハト、そしてヴァイスリッター・アーベント。シャドウミラーの技術によって強化された機体に似ていると感じていたアクセルは、目の前に立つアルトアイゼン・ギーガがゲシュペンスト・MK-Ⅲ、アルトアイゼン・ナハトの複合機に武装を追加した物だと戦いの中で把握していた。

 

「おおおおおッ!!!」

 

『段々……お前の動きが掴めて来たぞ、アクセル』

 

接触通信によるキョウスケの言葉にアクセルは一瞬動きを止めた。そんなはずが無い、そう思い高速回転する両拳を振るう。

 

『言った筈だ……お前の動きを掴んで来たとなッ!』

 

触れれば抉り、あるいは千切り切る玄武剛撃。それを最低限の接触、正確無比なマニュアル操作で受け流し、ソウルゲインの動きを崩しに出るアルトアイゼン・ギーガの動きにアクセルは焦りと共にキョウスケとベーオウルフの違いを口にするだけではなく、文字通り己の身体でそれを体感し始めていた。

 

「ちいっ! ハッタリではないかッ!!」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲの弱点と言えば攻撃に出る為に距離が必要な事だ。それに対してソウルゲインはアクセルの動きをトレースし、機動兵器とは思えない滑らかな動きによる白兵戦を得意としている。近距離型だが、最大の火力を発揮するには助走が必要であり変則的な近距離と近距離特化のアルトアイゼン・ギーガとソウルゲインの勝負は究極的な距離の奪い合いになる。互いの機体が接触するほどの距離になれば加速する距離を得れずアルトアイゼンは負ける。現にアクセルはこの方法でアインストに寄生された初期のキョウスケとゲシュペンスト・MK-Ⅲを封殺した事もある。その必勝の戦略をこの短時間で崩され、怒りは間違いなく感じていた。だがそれとは別に奇妙な満足感もアクセルは抱き始めていた。

 

「ああ、これは認めざるを得ないなッ! お前とベーオウルフは違うとなッ!」

 

加速の間合いを潰そうとするとそれをいなし、防ぎ、受け流し、ほんの少しの距離を得るだけで0から100にいたる加速をアルトアイゼン・ギーガは可能としていた。バックパック、リボルビング・バンカー、ギーガユニットに搭載されたテスラドライブによる強引な加速、めちゃくちゃな加速だが、それでも最大加速に至れる……それはアルトアイゼン・ギーガ最大火力をソウルゲインの距離である近距離で発揮出来るという事を意味していた。

 

「だがそれとこれとは話は違う! 俺は忘れんぞ、貴様が齎した破壊を、殺戮をッ!!」

 

『……お前の言う「俺」と俺は違う』

 

友を、仲間を、住んでいる街をベーオウルフは破壊した。あの悪夢の様な光景をアクセルは忘れることは出来ない、人の命が簡単に失われる地獄――その切っ掛けは紛れも無く、ベーオウルフによって齎された。

 

「違うと言うのならばそれを証明して見せろッ! ベーオウルフッ!!!」

 

『言った筈だ、謂れもない事で追われ続けるのは飽きたとな……良いだろう、ここでお前を捕らえて話を聞かせて貰うとしよう』

 

ソウルゲインの両手足により連撃を前に出続け回避を続けるアルトアイゼン・ギーガ。それはゲシュペンスト・MK-Ⅲとはまるで違う洗練された技術の結晶だった。

 

(ああ、そうだな。レモン、お前の言う通りだった)

 

それはベーオウルフでは出来なかった動き、それがキョウスケとベーオウルフの違いである。この世界と自分達の世界は違う、良く考えろとレモンに何度も何度も言われていたがそれを目の前で見て、こうして自分の相棒で戦ったからこそ違うと認める事が出来た。

 

「おおおおおおッ!!!」

 

『押し通るッ!!』

 

無人の市街地で眩い紅と蒼が何度も何度も交差する。攻撃する側と守る側が目まぐるしく変り、攻守が一瞬の内に変る。

 

「でえいッ!!」

 

『ちっ!』

 

脚にも両拳と同様エネルギーを溜める機構が追加されたソウルゲインの膝・脛も両拳と同じく必殺の威力を持つ武器へと昇華された。しかしそれをアルトアイゼン・ギーガは必要最低限の防御、そして回避を組み合わせ致命傷だけをかわし前に出る。

 

『取ったッ!』

 

「そう簡単に行かせるかあッ!!!」

 

肘と膝でリボルビング・バンカーの切っ先を受け止めるソウルゲイン。甲高い音が響き、それが徐々に重い音に変わるのを聞いてリボルビング・バンカーを折られると感じたキョウスケは蹴りを叩き込みソウルゲインから強引に距離を取る。

 

「流石に強い……未来でアインストとインベーダーと戦っていただけはある」

 

武蔵達から聞いた話では未来はアインストとインベーダーが闊歩する地獄であり、それを戦い抜いたアクセルの力量は間違いなくエースクラス、下手をすれば教導隊クラスの力量を有していた。その証拠にレッドアラートを灯すモニターを見てキョウスケはふっと笑った。

 

「ここを乗り越えられなければ俺に先はない」

 

この世界にもインベーダーとアインストは出現している。ソウルゲインに、アクセルに負けているようでは未来の結末――己がアインストに寄生される未来に至るだろう。そうならないために、キョウスケはなんとしてもここでアクセルを超えなければならなかった。

 

「強い、確かにお前は強い。だが……強いからこそ、お前は危険だ。キョウスケ・ナンブッ」

 

自分の知るキョウスケよりも強いこの世界のキョウスケがアインストに寄生されれば、自分の世界よりもひどい事になる。転移システムで再び世界を超えるのも不可能な今、不安の芽は確実に摘み取っておくべきだとアクセルは考えていた。

 

「貴様はここで死ねッ! キョウスケ・ナンブッ!」

 

「俺の道はここで終わりではない、押し通らせて貰うぞ。アクセル・アルマーッ」

 

紅と蒼のぶつかり合いは激しさを増し、互いに紙一重の攻防を繰り返し、キョウスケとアクセルは戦いの中で恐るべき速度で成長を続けているのだった……。

 

 

 

ヒリュウ改のPT・特機を1人で相手をする龍王鬼。数の利は圧倒的にヒリュウ改にあったが、圧倒的な力で数の不利を跳ね返していた。

 

「まったく、じゃじゃ馬が過ぎるぜ。龍人鬼よッ」

 

龍王鬼の問いかけに龍人鬼は怒りに満ちた唸り声を上げる。それは逆鱗に触れられた怒りで完全に我を失っている証だった、少なくともラドラとギリアムの2人を殺すまでは、あるいは納得するまで痛めつけるまでは龍人鬼への変化を止めるつもりはないと悟り、龍王鬼は溜息を吐いた。

 

「しゃあねえなあ、付き合ってやるぜ。相棒」

 

【グオオオオオオォォォオオオオンッ!!!!!】

 

市街地の窓ガラスを破壊するほどの雄叫びを上げる龍人鬼、その身体からは紅いオーラが吹き上がり筋肉が激しく隆起する。

 

『……ラドラさん、ギリアム少佐』

 

『言うな、俺のせいではない。強いて言えばギリアムのせいだな』

 

『俺に全ての責任を押し付けるなラドラッ!』

 

逆鱗を攻撃したラドラとギリアムのせいでパワーアップした龍人鬼を見て、僅かに揉めるヒリュウ改陣営。その隙を龍王鬼が見逃す訳が無かった。

 

「おいおいおい、俺様相手に揉めてるんじゃねえよ! おらおらおらおらッ!!!!」

 

『が、う、嘘だろッ!!!?』

 

残像が見えるほどのラッシュでジガンスクード・ドゥロを殴りつける龍人鬼。甲高い音が響き続け、徐々にジガンスクード・ドゥロの巨体が宙に浮かび上がる。

 

「おらぁッ!!!」

 

『う、うわああああッ!?』

 

巨体が浮かび上がった瞬間に飛び上がった龍人鬼の回し蹴りが胸部を捉え、ジガンスクード・ドゥロは市街地のビルを破壊しながらボールのように転がっていく。

 

『リオ!』

 

『判ってるわ、リョウト君ッ!』

 

『合わせますッ!』

 

ヒュッケバイン・MKーⅢ・タイプM、AMガンナー、量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅱの3体の飽和射撃が龍人鬼に向かって放たれる。

 

「がっははははッ! 遅すぎて欠伸が出るぜッ!!」

 

しかし不意打ちに近いその攻撃は龍王鬼の高笑いと共に残像を残しながら分身した龍人鬼を捉える事は無かった。

 

『分身したッ!?』

 

『なら全部ぶっ飛ばせば偽物が消えるぜ! リューネッ!』

 

『判ってる! 行くよ! ヴァルシオーネッ!!』

 

『行くぜ。サイバスターッ!!』

 

サイフラッシュとサイコブラスターの翡翠と桃色の輝きが分身した龍人鬼を纏めて攻撃せんと広がって行く……。

 

『分身が消えたら一気に畳み掛けるぞッ!』

 

『長期戦は不利だ。いつ片割れが来るかも判らん』

 

分身が消えたら敵は1人、そこに全火力を集めると攻撃態勢に入るカチーナ達だったが、それを遮るようにクスハが声を上げた。

 

『違う! 分身じゃないッ! あれは……』

 

「悪いな、全部本物だよ。馬鹿野郎ッ!!!」

 

ヒリュウ改の各機体の前に躍り出た龍人鬼は拳を硬く握り締め、飛び出した勢いのまま拳を振るう。強烈な追突音と共に弾き飛ばされた機体の軋む音とパイロットの悲鳴が木霊する。

 

「悪いな、これは分身なんて言うちゃちなもんじゃねえんだよ」

 

超機人が強念者、念動力者を必要とするのに対して、超鬼人は特に特別な資質は必要ない、必要なのは超鬼人が起動するだけの体力を有しているかどうか、それだけだ。龍王鬼は無尽蔵の魂力、気力、体力を有しており龍王鬼のパートナーとしては最適であり、その無尽蔵の身体能力は限界を越える力を龍王鬼に発揮させていた。

 

「軽く遊ぶつもりだったが、てめえが龍王鬼を怒らせたから悪いんだぜ? とりあえず……死んどけッ!」

 

分身からの打撃でダウンしているゲシュペンスト・シグ、ゲシュペンスト・リバイブ(S)に向かって、手の平からエネルギーを打ち出し姿勢を見せ、トドメを刺す振りをする龍王鬼。その姿を見て隠れて隙を窺っていたエクセレンとラミアの2人は龍人鬼の動きを止める為に攻撃を繰り出した。

 

『これ以上はさせないわよんッ!!』

 

『ターゲットロック、穿て、ファントムアローッ!』

 

「がっはははッ! やっと出てきたかッ!」

 

最初の攻撃で姿を隠していたヴァイスリッター改とアンジュルグのオクスタンランチャー改・Eモードとファントムアローによる背後からの攻撃をサイドステップでかわし、立ち上がったヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMに裏拳を叩き込み、吹き飛ばすと同時に次の敵と見定めた龍王鬼だったが、その前に白い影が立ち塞がった。

 

『俺が相手だッ!』

 

「ははッ!! 良いぜ良いぜ! 相手をしてやるよ! 超機人!!!」

 

虎龍王と龍人鬼――真作である龍虎王と、複製である龍虎皇鬼の片割れである龍人鬼。真作と複製の関係だが、龍虎皇鬼と龍虎王は開発コンセプトが異なり、そして機体の動力も違う。

 

『ぐっ! こいつ強いッ!!』

 

「はっはあッ! 鈍いぜ!」

 

虎龍王が1つ拳を振るうのに対して、龍人鬼は2つ、3つと拳を叩き込む。白兵戦の戦闘技術、そして格闘センス、それに加えまだ本調子ではない龍虎王と逆鱗を触られ、暴走気味だが龍王鬼からの無尽蔵のエネルギーを与えられている龍人鬼。超鬼人と超機人の戦いは超鬼人である龍人鬼の優勢、いやヒリュウ改の全ての機体を相手としても龍人鬼が有利に立ち回り、百鬼帝国の将軍の肩書きに恥じない戦闘力をレフィーナ達に見せつけているのだった……。

 

 

 

 

 

アルトアイゼン・ギーガとソウルゲイン、そして龍人鬼とヒリュウ改のPT軍の戦いの余波は凄まじくヒリュウ改の船体を幾度と無く揺らしていた。

 

「不味いですなあ……このままでは押し切られてしまいますぞ、しかしかといって……地上で艦首超重力砲を使う訳にも行きません」

 

「判っています。しかし……副砲やミサイルでは追いきれない」

 

ヒリュウ改の切り札の艦首超重力砲を地上で使えばその余波による深刻な汚染が懸念され、更に言えば元々調査艇のヒリュウはその性質上上甲板のビーム砲は前方水平方向に撃てず、また艦橋左右のビーム砲は板状パーツが干渉して真横に撃てないと言う構造上の欠陥を持ち合わせている。射撃方向が縛られ、地上に被害を与える訳に行かないとなると使用可能な武器は極端に限られる。

 

『おらおらおらッ!!! 行くぜええッ!!』

 

『あたしを舐めるなよッ!!!』

 

『はっはぁッ!!! 良いぜ、良いぜ、お前みたいな奴は大好きだぜ! 俺はよッ!!』

 

龍人鬼とゲシュペンスト・MK-Ⅲでは出力も、機体の大きさも圧倒的にゲシュペンスト・MK-Ⅲが劣っている。それでも龍人鬼と拳を交わす姿は不屈の闘志と負けないと言う決意をこれでもかと示していた。

 

『ぐっ、おおおお――ッ!!』

 

龍人鬼の拳で頭部の右側を抉られ、炎上しながらも前に出たゲシュペンスト・MK-Ⅲの右拳が龍人鬼の顎を打ちぬいた。

 

【グ、グルゥッ】

 

『がっはははッ! 良い拳だぜ!』

 

クロスカウンター気味の一撃で初めて龍人鬼がたたらを踏んで後退した。それは圧倒的な強さを見せ付けていた龍人鬼の初めての隙であり、誰もが付け入る隙だと感じさせる明白な隙だった。攻め込む隙だったが、龍人鬼に攻撃を仕掛ける事は出来なかった。何故ならば……。

 

『青龍鱗ッ!!!』

 

『がっはははッ! 別に助太刀してくれなくても良かったんだぜ?』

 

『ふん、成り行きだ。これがな』

 

スクエアクレイモアを喰らったのか全身に穴を空け、吹き飛んで来たソウルゲインの空中から青龍鱗による光線によって追撃を仕掛けることが出来なかった。その代りに分断されていたキョウスケが合流する事が出来たが、敵も合流したので戦況はイーブンに戻っただけだ。

 

「攻め手が足りない……」

 

「手数は十分な筈なのですがね……やれやれ、DC戦争時のDCや統合軍はこんな気持ちだったのでしょうかね」

 

数は圧倒的に有利なのに、個の戦力に圧倒される。それは奇しくもDC戦争、L5戦役でレフィーナ達が取った少数精鋭による強行突破の形に良く似ていた。

 

「なんとか突破口を……何事です!?」

 

突破口を見出す為に戦略を考えていたレフィーナだったが、突如ブリッジに鳴り響いた警報に顔を上げる。

 

「敵の増援ですかな? ユン伍長」

 

「違います! ゲッター線反応が突如市街地に出現しました! エネルギー総量はめ、メテオ3にゲッター1が特攻した時と同じ……いえ、それよりも遥かに上ですッ!!」

 

「各員に警告を! 何かが起きますッ!!」

 

レフィーナの指示が飛んだと同時に市街地に亀裂が走り、そこから凄まじいゲッター線の光の柱が宇宙へ向かって放たれた。

 

『なんだ。何が起きているッ!?』

 

『こいつあ……やべえなあ。おい、超機人、てめえも判ってんだろ?』

 

『『グルルゥゥ』』

 

龍虎王、龍人鬼の唸り声が重なり、その視線が空中に向けられた。その次の瞬間、空中に亀裂が走り、そこから無数の腕が飛び出し、その亀裂を中から掴んで強引に抉じ開けようとする光景がキョウスケ達の目の前に広がった。

 

『なんだ……何か出てくるッ!』

 

『嫌な予感がびんびんするわね……ッ』

 

言いようの無い寒気と震えを感じ、戦いの中だというのにその異様な光景にこの場にいる全員が目を奪われた。

 

『シロ、クロ! 何が起きてるんだ!?』

 

『わ、わかんにゃい! で、でも凄いエネルギーだにゃ!』

 

『た、大変にゃことが起きてるのにゃ!』

 

『うっ……やべえぞ……でかい、なんだ……なんだよこれ……』

 

『う、餓えてる? なに、この異様な……感じは……』

 

『き、気持ち悪い……何、この感じ……』

 

空間の亀裂から放たれるのは強烈な飢餓感、念動力によってそれを感じ取ったタスクとリオ、リョウトはその強烈な餓えを伴った念に当てられて気分を悪くした。

 

『殺意、いや、悪意か……なんだこの感覚は……ッ』

 

『いや、問題はその気配ではないぞ、ギリアム。来るぞッ!!』

 

ラドラの一喝と共にゲッター線の光の柱を発生させた地下から3色の戦闘機が飛び出した。赤、白、黄色――弾丸のような航空力学に喧嘩を打ったそのフォルム、そしてその姿を見てレフィーナは声を上げた。

 

「ゲットマシンッ!?」

 

「いえ、ゲットマシンはゲットマシンですが……あれは……ッ」

 

ゲットマシンに寄生しているインベーダーの姿を見てショーンは嫌悪感と不味い事になっている事を悟った。

 

『キッシャアアアアアアアアッ!!!!』

 

驚愕するレフィーナ達の前でゲットマシンは武蔵の操ったゲッター1に類似した姿に合体するが、右上半身、左下半身、左角が黒いインベーダーの身体に置き換わり、右目が紅く血走った黄色の異形の瞳を持つゲッターロボ……いや、メタルビースト・ゲッター1が地響きを立てて着地し、その手にした斧で空中に走った亀裂を更に広げ、中から抉じ開けようとしていた無数の腕の持ち主が唸り声を上げて市街地に降り立った。

 

『コハアア……』

 

口から涎を垂らす猫背の無数のゲシュペンスト・MK-Ⅱ……いや、メタルビースト・ゲシュペンスト。

 

『……キシャアアアアアッ!!!』

 

触手と不気味な複眼を持つミサイルを背負うメタルビースト・ラーズアングリフ。

 

『……』

 

他に2機体と比べれば静かだが、強烈な敵意と殺意を叩きつけて来る蒼い、ソウルゲインに良く似た人型……メタルビースト・アースゲイン、その姿を吐き出すと共に空中に出現した亀裂は消滅したが亀裂から出現した無数のメタルビーストは健在で、涎を垂らしながらキョウスケ達を見つめ、雄叫びを上げると同時にその餓えを満たさんと言わんばかりにキョウスケ達へと襲い掛かって行く。

 

「ふーむ、まだまだゲッター線の量が足りなかった、そうだね。スティンガーくぅん」

 

「し、しょうがないよ。篝火にはまだ足りなかったんだ。それよりもフォーゲルは大丈夫かい?」

 

「だ、大丈夫です……へ、平気です」

 

青い顔で返事を返すフォーゲルの返事を聞き、コーウェンとスティンガーは形だけのフォーゲルを気遣う言葉を投げかけ、その言葉に嬉しそうに頬を緩めるフォーゲルを見て笑い、後方にメタルビースト・ゲッター1を待機させるのだった……。

 

 

 

涎をたらしたメタルビースト・ゲシュペンストは餓えていた、荒廃した大地に人はいなくなり、アインストか、共食いをするしか飢えを満たせない、ゲッター線は豊富にあってもその飢えは満たされる事は無く、呼び声に導かれフラスコの世界にやってきたメタルビースト・ゲシュペンストはその飢えを癒す為に牙をむき出しにし、口の中から触手を伸ばしながら自分に良く似た姿をした機体に飛び掛った。

 

「うおらぁッ!!!」

 

だがその牙は届く事は無く、龍人鬼の硬く握り締めた右拳が胴にめり込み後方に向かって弾き飛ばされた。

 

『な、なんで助けて』

 

困惑したのは助けられたラッセルだ。何故百鬼帝国の将軍が自分を助けたのかと困惑していると龍王鬼の大声が市街地に響いた。

 

「停戦だ! あの化け物を野ざらしにすればとんでもねぇ事になる。ここは停戦して共闘と行こうぜ!」

 

確かにメタルビーストは脅威だ、だがそれでも龍王鬼の言葉を簡単に受け入れる事は出来なかった。

 

『共闘だのなんだの言っておいて、後ろからドカンか?』

 

「おいおい、俺様はそんな卑怯な事はしねえよ。俺の流儀に反するからな、それよりもあれを見ても、そんなことを言えるのか?」

 

メタルビースト・ラーズアングリフの背中の触手が伸び、ビルに突き刺さると、そこから何かをビルに流し込み、ビルがインベーダーへと姿を変えた。

 

『ビルが化け物に……ッ』

 

『インベーダーは無機物だろうが、有機物だろうが寄生し、同族へ変える。俺とて貴様らと共闘など死んでもごめんだが、本当に死ぬ訳にはいかん、協力せんというのならば貴様らを囮にし、俺達は逃げさせて貰う』

 

インベーダーはこうしている間にも数を増やしている……その光景を見てレフィーナはユンに合図を出し、自身の声を外に届けさせた。

 

『協力を願います。このままでは手のつけられない事になる』

 

「おうさ、つうわけだ。おい、アクセル。どうすりゃ良いんだ、あの化け物はよ」

 

『目を潰せ、全身にある目を半分も潰せばあいつらは活動出来なくなる。ゲッターロボがいれば楽だが、無い物強請りは出来ん。サイバスターとヴァルシオーネでメタルビーストの装甲を破壊しろ、そうすれば後はなんとでもなる』

 

我が物顔で指示を出すアクセルに不満は当然出る。なんせ今まで戦っていた相手だからだ、だが目の前の脅威を見てそこに拘っているほど、キョウスケ達は馬鹿ではなかった。

 

『マサキ、リューネ、ここはアクセルの言う通りにする』

 

『……貴様、どこかで会ったか?』

 

『さて……な。とにかくインベーダーをこの場から逃がす訳には行かない! 速攻で決めるぞ!』

 

無機物、有機物おかまいなしに寄生し数を増やすインベーダーにとっては新西暦の地球はどこをとっても餌だ。それを許す訳には行かないと言うギリアムの言葉に、アクセルの作戦を聞き入れることに不満を抱きながらもマサキとリューネは頷き、再び市街地に翡翠と桃色の光の波動が放たれるのだった……。

 

「ちいっ! 化け物の癖に知恵が回るぜッ!!」

 

『シャアッ!!』

 

「ゲシュペンストの癖に手足を伸ばしてるんじゃねぇッ!!」

 

インベーダーの細胞によって手足を自在に伸ばし、右半分の視界を失っているゲシュペンスト・MK-Ⅲを攻め立てるメタルビースト・ゲシュペンスト。

 

『中尉!』

 

「おせえぞ! ラッセル! あたしの右側に回らせるな!」

 

『了解ッ!』

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅱの射撃による援護が入り、メタルビースト・ゲシュペンストは牙を打ち鳴らし苛立った素振りを見せる。その姿は肉食動物そのものだが、支援が加われば攻めるのが難しくなるその事を認識する頭脳を持っていることにカチーナは驚いた。

 

(時間は掛けられねえな)

 

獣同然の姿に知性が低いと判断したが、それは間違いで戦況をコントロールする頭脳を持っていた。そうなるとサイフラッシュとサイコブラスターで受けた損傷を周囲の建物を吸収し、回復する可能性がある。待ちの戦術は出来ない、この一瞬のやり取りでカチーナはそれを感じ取っていた。

 

(それにあいつも嫌な予感がするぜ)

 

ゲッタートマホークで空間を切り裂いたメタルビースト・ゲッター1はマントを身体に巻きつけ、高密度のゲッター線をバリアのように展開し、全ての攻撃を無効にしてくるので攻撃は向けられていないが、出現した化け物の中で1番危険なのはあのゲッター1だとカチーナは感じていた。

 

「ラッセル、突っ込むから援護しろッ!」

 

『は、はッ!? 中尉!? 何をッ!』

 

「うっせえ! 速攻で決めるッ!!!」

 

ラッセルの返答を聞かずカチーナはゲシュペンスト・MK-Ⅲを走らせる。その姿を見てメタルビースト・ゲシュペンストは餌が向こうから突っ込んできたと言わんばかりに嘲る様な雄叫びを上げる。

 

「化け物が人間様を舐めてるんじゃねぇッ!!!」

 

『シャアアアアッ!!!』

 

ブースターで肉薄するゲシュペンスト・MK-Ⅲと筋肉のバネで疾走するメタルビースト・ゲシュペンスト。その瞬発力はメタルビースト・ゲシュペンストの方が上だった。

 

『中尉! カチーナ中尉! 敵の方が早い! 下がって!』

 

「うるせえラッセル! お前はあたしが突っ込めるように支援してろッ!!!」

 

ラッセルからの通信を強引に切り、カチーナは前だけを見つめる。伸びて来た腕が変形し、鋭い鎌になったのを見てこれだ。ここだと心の中で呟き、メタルビースト・ゲシュペンストの目の前で反転する。

 

「ぐうっ!?」

 

『シャアアアアッ!!!』

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲの背部のブースターと右腕が鎌で切り裂かれ、そのまま巻き戻しのようにメタルビースト・ゲシュペンストに回収される。待ち望んだ餌が来たと言わんばかりに大口を開けるインベーダーを見てカチーナは獰猛に笑った。

 

「馬鹿がッ! だからてめえは化け物なんだよッ! ステークセットッ!! ぶち抜けえええええッ!!!」

 

メタルビースト・ゲシュペンストが、インベーダーが切り落としたゲシュペンスト・MKーⅢの腕を飲み込む寸前に加速し、ライトニングステークを叩き込む、それは切り落とされた右腕を貫き、残された左腕のライトニングステークの威力を爆発的に跳ね上げた。

 

「てめえが欲しがった餌だ、たらふく喰ってくたばりな」

 

『ギ、ギギャァアアアアアアアーッ!!!』

 

体内から細胞ごと自身を焼き尽くす雷電にインベーダーは悲鳴を上げ、取り込んだ右腕が完全に消失する頃には炭化したボロボロの姿のメタルビースト・ゲシュペンストの姿だけがそこにはあった。

 

『シーズアンカアアアアアーッ!!!』

 

鎖の重々しい音が響き、ビルを砕きながら伸びて来たシーズアンカーがメタルビースト・ゲシュペンストを打ち砕き、ジガンスクード・ドゥロが姿を見せる。

 

『なんちゅう無茶をしてるんっすか!?』

 

「うっせえ! お前の改造が間に合わなかったから火力が足りなかったんだよッ!!」

 

汎用機はバランスこそ良いが、突出した戦力を持たない。メタルビースト・ゲシュペンストを倒すのに足りない火力を自身の右腕から持ってくるという方法しかカチーナがメタルビースト・ゲシュペンストを打ち倒す術は無かったのだ。

 

「あたしの援護に来る前にさっさと化け物の装甲をぶっ壊して来い!」

 

『……ッす』

 

「は? なんだって?」

 

『ガス欠っすッ! もうギガワイドブラスターも使えないし、もっと言えば浮いてるのがやっとッス!!』

 

「てめえ馬鹿野郎!! なにやってるんだ! このドアホウッ!!!」

 

『し、しょうがないでしょうが! ガンドロは燃費が最悪なんっすから!』

 

「だとしても特機が使えなくてどうする! くそがッ!」

 

カチーナとすればジガンスクード・ドゥロがいるからこその特攻に等しい攻撃だったが、そのジガンスクード・ドゥロが攻撃に参加出来ないと聞いて、残された左腕でビームライフルを構える。

 

「ラッセル! リョウト達の支援に行くぞ!」

 

『中尉は帰艦するべきです!』

 

「んなこと言ってる場合か! タスク! てめえさっさと補給して来い! お前が戻ったらあたしが下がる!」

 

ジガンスクード・ドゥロが再び戦える状況になるまで下がる気が無いと悟ったタスクは無茶しないでくださいよと叫び、ヒリュウ改へと帰艦する。

 

『中尉……大丈夫なんですか』

 

「白兵戦は駄目だが、射撃くらいなら出来る。とにかくこいつらをここから出すわけにはいかねえ! 続けラッセル!」

 

メタルビーストを倒す攻撃力は無いが、メタルビーストを倒せる状況を整える事は出来るとカチーナは火花を散らすゲシュペンスト・MK-Ⅲを繰り、リョウト達の支援へと向かう。

 

『いっけえええッ!!!』

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの突き出した両手の平からマグマ原子炉の熱を利用した火炎放射が放たれる。

 

『ギギィッ!!!』

 

『ギャアアアアッ!!!』

 

『キシャアアアア―ッ!!!』

 

炎に包まれたメタルビースト・ゲシュペンストからインベーダーの声が響くが、それは苦悶の声ではない。インベーダーにとって熱など恐れる攻撃ではなく、ほんの数秒足止めできるかどうかの攻撃に過ぎない。

 

『……でもそれで良い、ギリアム少佐! ブリット後は頼んだよッ!』

 

火炎放射を停止し、リョウトはヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMを後退させる。炎による目晦ましが消えたインベーダーの視線の先にはメガバスターキャノンを構えているゲシュペンスト・リバイブ(S)とソニックグレイブを構えて駆けて来る虎龍王の姿があった。

 

『ゲシュペンストの装甲が無いお前達にこれを耐えることが出来るか?』

 

『おおおおッ! 一意専心ッ!!!』

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの攻撃はインベーダーが身に纏っているメタルビースト・ゲシュペンストの装甲を破壊する為の物に過ぎない。ソニックグレイブの一閃はインベーダーを両断し、虎龍王が離脱した瞬間に撃ち込まれたメガバスターキャノンの高出力のビームの光の中に叫び声を上げながらインベーダーは消え去った。

 

『行ける、虎龍王ならインベーダーとも戦えるッ!』

 

『念動力のお蔭かな? それとも百邪と戦っていたから?』

 

『それは判らないけど……虎龍王で斬り込むッ!!』

 

ソニックグレイブの一閃を受けたインベーダーの伸ばした触手は暫くのた打ち回ると、溶けるように消滅する。蚩尤塚で発掘された壁画や文献に残されていた通り超機人である虎龍王はインベーダーに対して有効打を与える事が出来ていた。それに対して、インベーダーに対して決定打を持ち合わせていなかったのはサイバスターだった。

 

『くそッ! ディスカッターが弾かれる! なんでだッ!?』

 

『マサキ、無茶をしたら駄目にゃッ!』

 

『多分、相性が悪いんだにゃ!』

 

『デモンゴーレムと戦えるのに、なんでこの化け物と戦えないんだよ! おかしいだろッ!?』

 

ラ・ギアスでヴォルクルス教団が使う外法死霊傀儡によって作り出されるデモンゴーレムにサイバスターを初めとした魔装機神は有効な能力を有していた。それなのに同じ化け物のインベーダーやメタルビーストにダメージを与えられないのはおかしいだろとマサキが声を上げる。

 

『た、多分、プラーニャが足りないのニャ』

 

『それに地上じゃサイフィスの加護が十分じゃないのニャッ!!』

 

『ちいっ! そういうことかよッ!! カロリックミサイルッ!!』

 

サイバスターがインベーダーに有効打を与えられないのはプラーナ不足、もっと言えば魔装機神が最大の力を発揮出来るのはラ・ギアスであり、地上ではその力を最大限に発揮できないのが大きく影響していた。

 

『マサキ! とどめは私がッ!』

 

『悪い、リューネッ!』

 

カロリックミサイルで装甲を破壊したメタルビースト・ゲシュペンストにヴァルシオーネがハイパービームキャノンの引き金を引き、インベーダーはその光の中へと消え去った。

 

『大丈夫かい? マサキ』

 

『ああ、とは言ってもまさかサイバスターとインベーダーとか言う化け物の相性がここまで悪いなんて思ってなかったぜ……ッ』

 

悔しそうにマサキは呟いた。魔術を併用して作られているサイバスターを初めとした魔装機神の弱点、それがインベーダーとの戦いで明らかになってしまった。

 

『まずは貴様らからだッ!』

 

触手と無数の目を持つミサイルをばら撒いているメタルビースト・ラーズアングリフにゲシュペンスト・シグが地響きを立てて迫る。

 

『『!!!』』

 

ラーズアングリフと異なり、触手による近~中距離の攻撃手段を持つメタルビースト・ラーズアングリフは市街地の建造物に自身の細胞を埋め込みインベーダーを増やし続けている。敵の増援を減らすためにメタルビースト・ラーズアングリフに攻撃を集めるのは当然の事だ。しかしそれはインベーダーも判っており、強烈な勢いで接近してくるゲシュペンスト・シグを近づけさせまいと猛攻撃を繰り出す。

 

『鈍い! そんな物で俺を捉えると思うなッ!!』

 

上下左右から襲い掛かってくる触手は新西暦のパイロットであれば畏怖する光景だっただろう。だがラドラにとっては遅い攻撃に過ぎず、高速回転するエネルギークローで触手を容赦なく切り裂き、あるいは抉り、インベーダーによって制御され当たるまで追いかけてくるミサイルを頭部のバルカンで迎撃し、ラーズアングリフの膨大な射撃武器による弾雨はマニュアル制御によるサイドステップやターンを駆使し、近づけさせまいと攻撃を繰り出してくるメタルビースト・ラーズアングリフへの距離を詰める。

 

『主砲照準合わせ! てえッ!!!』

 

『上手く避けてくれよッ! ギガ・ワイドブラスタアアアア――ッ!!!』

 

近づけさせまいと触手を壁に様に展開しラドラの進撃を防ごうとしたメタルビースト・ラーズアングリフだが、ヒリュウ改の主砲、補給を終えたジガンスクード・ドゥロのギガ・ワイドブラスターによって触手を燃やし尽くされ、苦悶の叫び声を上げる。

 

『化け物の癖に痛みで動きを止めるか、化け物なら化け物らしく怒りで襲い掛かってでも来れば良い物を』

 

化け物の癖に痛みを感じて動きを止めるかとラドラは嘲るように笑い、高速回転するエネルギークローをメタルビースト・ラーズアングリフに突き立てようとその腕を振り上げた時、高密度のゲッター線をバリアのようにし、動きを止めていたメタルビースト・ゲッター1が動き出し、身体に巻きつけていたマントを広げると同時にゲッタービームの雨が市街地に降り注ぐのだった……。

 

 

124話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その9へ続く

 

 




無差別ゲッタービームでマップ変化により次のイベントに変動って言うのをイメージしています。次回はアクセルやキョウスケとメタルビースト・ゲッター1、アースゲインの戦いを書いて、次の話に入って行こうと思います、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第124話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その9

124話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その9

 

降り注いだゲッタービームの雨は大地をゲッター線で汚染するだけに留まらず、ヒリュウ改のPT部隊を纏めて吹き飛ばし分断させた。

 

「ヴィンデル、レモン、応答しろ、ちっ……駄目か」

 

高密度のゲッター線による通信障害にアクセルは舌打ちをし、通信機の電源をOFFにしソウルゲインを立ち上がらせる。幸いにも機体にダメージは無い、いや元々あのゲッタービーム自体に攻撃する意図が無かったのだろう。周囲をゲッター線で汚染し、インベーダーが活性化する舞台を作り出す。攻撃でも無い攻撃にアクセル達は大打撃を受けていたと言う事実にアクセルは忌々しそうに舌を鳴らした。

 

「ちい……やはりあいつを最初に潰すべきだったか」

 

アースゲインの攻撃を受け攻め切れなかったと言うのはある。だが空間を引き裂く能力、そしてゲッター線で汚染する力を見ればメタルビースト・ゲッター1が存在していれば、インベーダーがより活性化する。そうなればアインストも活性化し、アクセルの知る未来に繋がる可能性が高まるとアクセルは険しい顔をしてメタルビースト・ゲッター1とそれを守るように立ち塞がる4機のメタルビースト・アースゲインを睨みつけた。

 

「まだくたばっていなかったか狂犬共め」

 

メタルビースト化したアースゲインを見れば、それがどこからやってきたかと推測するのは簡単なことだった。テスラ研を壊滅させた愚連隊「ブラッドハウンド」の物である事は間違い無い。自分達が転移した後に再生し、メタルビースト・ゲッター1によってこの世界に召喚されたと悟りアクセルは苛立った様子で化け物めと吐き捨てた。

 

『アクセル、同型機に見えるがあれはなんだ?』

 

「……俺の機体のベース機だ。言っておくがベーオウルフ。俺は貴様らと馴れ合うつもりはない、あくまでこの場を切り抜ける為だけの共闘だ」

 

インベーダーが増えればアインストも出現するかもしれない、もし追われでもしてアースクレイドルに来られては困るという事でここで制圧する為に共闘する事を選らんだだけで、アクセルからすればキョウスケもインベーダーも敵であると言う認識に変わりは無かった。

 

『ちょいちょい、髭男さん。そんなことを言ってる場合じゃないでしょ? ここは少しは協力しようって気にならないの?』

 

接触通信で無理やり話しかけて来たエクセレンにアクセルは無視を決め込んだ。

 

『ちょーっとー、もしもーし、聞いてる? もしもーし』

 

「ええいッ! 鬱陶しいぞ貴様ッ!!」

 

ついにはソウルゲインを叩き始めたヴァイスリッター改に痺れを切らしたアクセルが怒鳴り声を上げる。

 

『そっちが無視するから悪いんでしょう、ね? キョウスケ』

 

『……』

 

『あーらら、こっちもだんまり? どうしてこう協調性が無いのかしらねぇ……』

 

困っていると言うよりも呆れていると言う様子のエクセレンの言葉を聞きながら、アクセルはメタルビースト・アースゲインに視線を向けた。

 

(動く気配が無い、それに立ち位置を見るからに……ちっ、そこまでの知恵をつけているか)

 

『アクセルだっけ? 私もキョウスケもまだ死にたくないのよ、知ってることを教えなさいよ。聞いてる? ちょっと、もしもーしッ!!』

 

「ええいっ! 鬱陶しいぞ貴様! 良い加減にしろ! そもそも貴様は何者だッ!!!」

 

どうやってこの場を切り抜けるかと考えていたアクセルが怒鳴り声を上げる。キョウスケと親しげなのは理解していたが、向こう側でキョウスケにペアなど存在せず、1人きりで行動していた。だからこそ何者だとエクセレンに問いかけた。

 

『え、あーはいはい、自己紹介がまだだったわね。私はエクセレン、エクセレン・ブロウニングよ』

 

「ブロウニング? ブロウニングだとぉッ!?」

 

レモンに似ていると感じていたアクセルだが、姓が同じ事に声を上げた。ありえない、レモンの探していた妹――それがベーオウルフとペアを組んでいる……そのありえない偶然、いや奇跡にアクセルは驚きを隠せなかった。

 

『もう、何なのよ? 私の名前に超反応するなんて……未来か、平行世界か知らないけど、私の事も知ってるの?』

 

どこか能天気な雰囲気があるが、その言葉の節々に知恵を感じさせる。その言動は紛れも無くレモンに酷似していた……合流して来たアンジュルグを見つめ、報告を怠っていたといらつきを覚えた。しかしそれと同時に自分の世界と余りにも違う、この世界の歴史に困惑と驚きを隠せなかった。

 

「アースゲインは脚に攻撃機能を持たないが、その代りに残像が出せるほどの速度が出せる。ゲッターロボを守っているから動く気配がないが、攻撃を仕掛ければ動き出すだろう。その前にお前とそこのお前で地面を攻撃して動きを制限しろ、そこを俺とベーオウルフで極めその後にゲッターロボを叩く」

 

『やだ、私ってやっぱり魔性の女かしら? 名前を名乗るだけでこのツンデレ君を協力させれたわよ。でも駄目よ、私はキョウスケの彼女だからね』

 

「ええい! 勘違いするなッ! そんなのではないッ!!」

 

『ふふ、嫌も嫌も好きの内って事かしら? 私ってやっぱり罪な……『気を抜きすぎだ、エクセレン』……はーい、ごめんちゃい』

 

内輪揉めの動きを攻撃と判断したのかメタルビースト・アースゲインの腕から伸びた触手がヴァイスリッター改へと伸び、それをアルトアイゼン・ギーガが防ぎ前に出る。

 

「ちっ、ままならんな、これが」

 

足場を崩すと言うことも出来ず4機同時に動き出したメタルビースト・アースゲインにアクセルは舌打ちし、唸り声を上げながら襲ってきたメタルビースト・アースゲインの顔面にソウルゲインの拳を叩き込ませる。雄叫びを上げ吹っ飛ぶメタルビースト・アースゲインの絶叫がアクセル、キョウスケ、エクセレン、ラミアの4人とのメタルビーストとの戦いの幕開けとなるのだった……。

 

 

 

メタルビーストの雄叫びがあちこちから上がり続ける。それは威嚇であり、エクセレン達に死にたくないと言う恐怖を抱かせると共に生理的な嫌悪感を抱かせる――そんな雄叫びだった。

 

(……ちょっとふざけて見たものの……やばいわね)

 

エクセレンという女性はその知恵を、その頭の回転の良さを悪ふざけの仮面で隠し、誰よりも冷静に状況を見極める事に秀でた才能を持つ才女だ。相手のペースを乱し、自分の流れに持ち込み相手の情報を引き出す。お調子者の仮面の下で誰よりも状況を把握する……それがエクセレン・ブロウニングのあり方である。ただそれであったとしても必要以上にふざけていたのは恐怖の裏返しであり、そうでもしなければメタルビーストの雰囲気に呑まれてしまいそうになっていたからだ。

 

『エクセ姉様、大丈夫でございますか?』

 

「ラミアちゃん、うん。大丈夫よ、ありがとう。さぁ、キョウスケ達の援護をしましょうッ!」

 

メタルビースト・アースゲインはメタルビースト・ゲシュペンスト、メタルビースト・ラーズアングリフよりも厄介な個体だった。他の2体が数の利による集団戦術や、近づけさせない事に特化した戦術を取っていたのに対してメタルビースト・アースゲインは単純に火力・防御力・機動力、再生能力に特化した能力を持っていた。

 

『ちいっ、これでも貫けんかッ!!!』

 

『キッシャアアアアアーーッ!!!』

 

圧倒的な力を持つ個体による力任せの蹂躙、数発直撃を受けてもメタルビーストの再生能力とアースゲインのEG装甲による自己再生能力――攻撃手段は打撃か蹴り、触手と噛み付きとその種類は極めて少ないが、その圧倒的な基礎性能で攻撃を仕掛けてくるのはかなりの難敵だった。

 

『馬鹿が、化け物相手に馬鹿正直に人間相手と同じに戦ってどうする』

 

『キシャアアッ!』

 

『やかましいぞ! 出来損ないがッ!!』

 

メタルビースト・アースゲインが伸ばした触手を掴み取り、ソウルゲインは力任せに引き寄せ吹っ飛んで来たメタルビースト・アースゲインの顔面に肘打ちを叩き込むと同時に背後に回り込む。

 

『ふんッ!!』

 

『ぐぎょぱッ!?』

 

両手でメタルビースト・アースゲインの頭部を掴んで捻り、首から上が後方に捻られ破損した箇所からオイルを撒き散らす光景はスプラッタその物だった。

 

「うわ、グロ……ッ」

 

エクセレンがそう呟くのも無理はない、彼女も兵士であり人の生き死には近くで見てきた。だがそれとは別ベクトルの嫌悪感がメタルビースト・アースゲインにはあった。

 

『ついでだ、これも持って行け化け物め』

 

『ゴギャアアアアアッ!?』

 

捻り切りかけた頭部と首の繋ぎ目に砕いたコンクリートブロックを埋め込み、ついでだと言わんばかりに両腕を肘から圧し折るソウルゲイン。

 

「随分と残虐なことをするじゃない?」

 

『やかましい、インベーダーはPTや特機に寄生していればその性質を得る。人型の今、関節で圧し折ってやれば回復能力はガタ落ちだ』

 

アクセルの言う通り首にコンクリートブロックを埋め込まれ、肘から腕を折られたメタルビースト・アースゲインの回復速度は目に見えて落ち込んでいた。触手や破損部からインベーダーの頭部を出し、溶解液などで近づけさせまいと攻撃しているが明らかに再生速度が鈍り、それに加えて攻撃もかなり緩やかな物になっていた。

 

『エクセ姉様、あれならば私達でも対処できるかと、少しでも数を減らさなければ』

 

「判ってるわ、ラミアちゃんは背後に警戒して」

 

ラミアに言われるまでも無く、インベーダーに攻撃を仕掛けていたエクセレンは触手や肉片からでも姿を見せるインベーダーに警戒と指示を出し、エクセレンとラミアはメタルビースト・アースゲインへの攻撃を仕掛けながら、ある疑問、いや疑念をラミアに抱いていた。

 

(ラミアちゃん、貴女はなんでそんなに冷静なの、それに……どうして初めて会う筈なのにそんなに完璧にフォローを出来るの……ラミアちゃん……貴女ももしかして未来から来たの?)

 

メタルビースト、インベーダーなんて言う化け物を前にしてもいつもの冷静さを保ち動揺を見せず。その上アクセルへのフォローを完璧に行なっているラミアにエクセレンは心の中で貴女も未来から来たの? と問いかけずにはいられないのだった……。

 

 

 

 

涎を垂らしながら噛み付いてくるメタルビースト・アースゲインを左腕の拉げた盾で受け止めながら、キョウスケは目の前の化け物を観察していた。

 

(これが武蔵達が戦っていたと言うメタルビースト、そしてインベーダーか)

 

宇宙でヒリュウ改が遭遇したとは聞いていたが、こうして目の前で戦ってみればその脅威がいかに凄まじい物かと言うのがひしひしと伝わってくる。

 

(再生能力、攻撃力、それに機動力に増殖性……どれをとっても脅威だ)

 

左腕で殴りつけるようにメタルビースト・アースゲインを吹き飛ばし、腰を落とし射角を確保する。

 

「全弾持って行けッ!! クレイモアッ!!」

 

両肩、バックパックが変形し露になった射出口から無数のベアリング弾が撃ち出される。メタルビースト・アースゲインの装甲を穿つがインベーダーを倒すには至らない。

 

「それでいい、俺の計算通りだ」

 

インベーダーを倒すには全身の目を潰し、再生能力を弱体化させろと武蔵が言っていた。エリアル・クレイモアを使う事を選択したのは簡単な話だった、アースゲインの装甲を破壊し目玉を露出させるつもりだったからだ。

 

『ギギィッ!?』

 

『ゲゴアッ!?』

 

射出が何時までも収まらず、自分達を守っている装甲が破壊されていくのに気付き、インベーダー達が動揺したような声を上げる。

 

「言った筈だ、全弾持って行けとなッ!!」

 

重々しい音を立ててクレイモアが再装填され、再びベアリング弾による破壊の嵐を撒き散らす。

 

『ふん、俺ごとインベーダーを潰すつもりか?』

 

「別にそんな意図はない」

 

キョウスケは口にしなかったが、ソウルゲインの機動力ならばもっと近づかなければ当てれるとは思っておらず。再生能力に物を言わし、突撃してくるインベーダー相手だからこそ闇雲に飢えを満たす為に突撃してくると判っていたからこそ、距離が開いている状態でエリアル・クレイモアを放ったのだ。そしてキョウスケの予想通り跳弾を繰り返すクレイモアの中に自ら飛び込み、足を止めて防ぐことしか出来ない場所にまで自ら飛び込んできていた。

 

(やはり化け物は化け物と言う所か)

 

クレイモアは近づけば近づくほど多段HITし、その威力を増加する。その性質上極限まで近づいて使用するのが正しい使い方で、敵の距離が遠いのに人間相手に使うと言うことは普段のキョウスケならばありえない。敵の知恵を計り、そして確かな攻略法を得る為の行動であり、メタルビースト、インベーダーは再生能力こそ高いが、知恵は無く獣同然であるとキョウスケは判断し、隣に立つ蒼い巨人――ソウルゲインの方がよほど厄介だと考えていた。

 

『どうだかな、まぁ良い、この好機逃すつもりはないッ!!』

 

青龍鱗の雄叫びと共に放たれた光線が装甲を失ったインベーダーを貫き、その細胞を焼き尽くしていく。だがインベーダーもただでやられるつもりではないのか、クレイモアの射出が終わったアルトアイゼン・ギーガとソウルゲインに向かって触手を伸ばす。

 

「エクセレン! ラミアッ!」

 

『俺が囮をやる羽目になるとはな、外すなよッ! 一撃で極めろッ!!』

 

触手を回避しながら叫ぶキョウスケとアクセルの叫びを聞き、地面に着地しインベーダーの触手を焼いていたエクセレンとラミアが弾かれたように動き出した。

 

『そんなに怒鳴らなくても判ってるわよんッ! ラミアちゃん、最大火力で決めるわよッ!』

 

『了解でごんす、ターゲットロック』

 

機械翼と白亜の翼を広げたヴァイスリッターとアンジュルグが飛び上がり、その手にしたオクスタンランチャー改の銃口とファントムアローの切っ先をインベーダーに向ける。

 

『フルパワーで行くわよーッ!』

 

『コード入力 ファントムフェニックスッ!』

 

展開された機械翼とその手にしたオクスタンランチャー改の銃口が変形し、余剰エネルギーが光の翼となりヴァイスリッター改の背後に展開される。そしてその隣では燃え盛る不死鳥を模した弓矢を構えるアンジュルグの姿があり、その強烈なエネルギーにインベーダーが顔を上げたが、それは余りにも遅すぎた。

 

『Wモード、フルパワー……いっけええッ!!!』

 

『舞え、幽玄の不死鳥よッ!!!!』

 

極大の閃光と燃え盛る紅蓮の不死鳥がエアリアルクレイモアと青龍鱗によって装甲を破壊された、メタルビースト・アースゲインを飲み込み蒸発させる。

 

「どんな装甲だろうが撃ち貫くのみッ!!」

 

『はっ! 貴様に好きにさせるかッ! 貫くのは俺のッ……ソウルゲインの拳だッ!!!』

 

その閃光に紛れ、メタルビースト・ゲッター1に肉薄したアルトアイゼン・ギーガのリボルビング・バンカーとソウルゲインの拳は完全に奇襲となり、メタルビースト・ゲッター1を貫くかに見えたが……激しい金属音が響き2機の拳は簡単に受け止められていた。

 

「っ!?」

 

『ちっ、化け物がッ』

 

マントの下から伸びて来たゲッターアームがソウルゲインの拳を受け止め、リボルビング・バンカーを左腕が変異したドリルの切っ先が受け止めていた。

 

「不味いッ!?」

 

『くそッ!?』

 

腹部のゲッタービーム発射口が露になり、キョウスケとアクセルの焦った声が響いた。しかしゲッタービームが放たれる寸前にオクスタンランチャーとファントムアローで姿勢を崩したメタルビースト・ゲッター1の隙を突いて2人は一気に射程外にまで離脱する。

 

『なにやってるのよ、キョウスケの馬鹿』

 

「すまん……まさかあんな攻撃をしてくるとは想定外だった」

 

『ふん、なんにせよ、俺達をそのまま逃がしてくれるつもりはなさそうだ。これがな……』

 

インベーダーがチェーンソーのように回転するゲッタートマホークを両手に持ち、血走った目を向けてくるメタルビースト・ゲッター1を見て、キョウスケ達の背中に冷たい汗が流れ落ちるのだった……。

 

 

 

 

スパイラルゲッタービームの余波はヒリュウ改のPTだけではなく、メタルビースト・ゲシュペンスト、メタルビースト・ラーズアングリフさえも飲み込んでいた。だがそれは攻撃ではなく、メタルビースト・ゲッター1からの施しだった。メタルビースト・ゲシュペンスト、メタルビースト・ラーズアングリフは混ざり合い、周囲のビルやアスファルトを飲み込みゲシュペンストとラーズアングリフ、そして周辺の警備をしていたエルアインス達を飲み込んだ、異形の化け物へと変貌を遂げていた。

 

『ブリット君、龍虎王に変ってッ!』

 

「ぐっ! 駄目だッ! 懐で戦い続けないと押し込まれるッ!」

 

龍虎王に変ってくれというクスハに駄目だと言って、ブリットは目の前の異形を睨みつけた。全身のあちこちから伸びている触手、中途半端に取り込まれたメタルビースト・ゲシュペンスト、メタルビースト・ラーズアングリフ、そしてエルアインスの機体の一部がゴムのような体表から伸び、全身を目まぐるしく動く黄色い複眼には生理的な嫌悪感を抱いた。

 

『『『キシャアアアアアーーッ!!!』』』

 

「ここまで化け物になるのか、インベーダーはッ!?」

 

武蔵から聞いていた話――旧西暦の文明を滅ぼし、全人類の8割を殺したと言うインベーダー。無論警戒していないわけでもないし、恐れていないわけでもなかった……だがインベーダーはブリットの理解を完全に超えていた。

 

『おっらあッ!!!』

 

強烈な追突音を響かせ、虎龍王に伸びたインベーダーの腕が弾かれる。

 

『おい、ボサッとしてんなよ。こいつと戦えるのは俺様とお前達だけだろうが』

 

「お前に言われなくても判っている!」

 

『OK、そんだけ吼えれるなら十分だな。とにかく気を緩めるなよ、じゃねえと一瞬で死ぬぞ』

 

龍王鬼の険しい声を聞いて、虎龍王、龍人鬼を見下ろす巨大なインベーダーにブリットは再び視線を向けた。触手がアスファルトを砕き、虎龍王と龍人鬼を追い回す。

 

『くそッ! 撃て撃てッ!』

 

『カチーナ中尉! 無理に突っ込むな、距離を取れッ!!』

 

カチーナ達の攻撃はメタルビースト・レギオンにダメージを与えられず、しかしメタルビースト・レギオンはカチーナ達の機体を喰らおうと触手を伸ばし続ける。

 

『おおおおッ!!』

 

『喰われてたまるかッ!』

 

ディスカッターとディバインアームで触手を切り裂くサイバスターとヴァルシオーネだが、触手は一瞬で再生し再び喰らおうとその牙を伸ばす。

 

『ギガワイドブラスタァァアアア――ッ!!!』

 

『主砲撃てえッ!!』

 

ジガンスクード・ドゥロ、ヒリュウ改の攻撃を受けても巨大になりすぎているメタルビースト・レギオンを倒すには火力が余りにも足りなかった。

 

「くそッ! こんなのどうやって倒せば良いんだッ!」

 

攻撃をしても即座に回復され、下手に近づけば喰われる――虎龍王と龍人鬼の攻撃は通り、回復も阻害できるが余りにも機体のサイズが違う事、そして火力不足が大きく響いていた。焦りはミスを呼び、そして恐怖はその動きを縛る――まだ虎龍王に慣れていないという事、そしてまだ心から虎龍王を信じれていなかった事、インベーダーという人知を超えた相手との戦いによる精神的な疲労――様々な要因が重なり、メタルビースト・レギオンの前で虎龍王の膝が折れインベーダーの前の前で余りにも大きな隙を晒した……インベーダーがその目に見えた隙を見逃す訳が無く、上下左右から包み込むように伸びた触手が虎龍王を避け、その横のビルを飲み込んだ。

 

「え?」

 

『ふふふ、もうちょっとしっかりしなさいな、ぼーや』

 

困惑するブリットの耳を響いたのは艶を感じさせる女の声――ビルの上に現れた白銀の虎の姿をした百鬼獣、虎王鬼の姿に防戦一方だった龍王鬼が歓喜の声を上げた。

 

『はっはあッ! 待ってたぜ、虎ァッ!!』

 

『間に合ってよかったわ、龍。話をしたいところだけど……後で聞くわ、行くわよ?』

 

『おうさッ! 滅神雷帝ッ!!』

 

『神魔必滅ッ!!』

 

龍人鬼が龍王鬼が虎王鬼を持ち上げ、メタルビースト・レギオンの上を取る。

 

『『『キシャアアアーーーッ!!』』』

 

複数のインベーダーの叫び声が重なり、自分達の頭上を飛ぶ龍王鬼と虎王鬼を捉えんと触手を伸ばすが、降り注いだ雷によって触手は燃やされ、龍王鬼と虎王鬼を捕える事は無かった。

 

『『邪念合一ッ!!』』

 

『無敵龍鬼ッ! 龍虎皇鬼推参ッ!!』

 

一際大きな雷が龍王鬼と虎王鬼を飲み込み雷を引き裂いて姿を見せた龍虎皇鬼が名乗りを上げながら頭を下にし、急降下しながら硬く握り締めた拳をメタルビースト・レギオンの頭部に叩き込む。

 

『お?』

 

『『『『キシャアアッ!!!』』』

 

困惑した龍王鬼の声を掻き消すようなメタルビースト・レギオンの雄叫び、龍虎皇鬼の攻撃はゴムのような細胞に吸収され、その衝撃を完全に殺されていた。

 

『効いてねえな』

 

『先に身に纏ってるのをどうにかしないと駄目そうね。ブルックリン、ちょっと協力しなさいな』

 

「どうすればいい」

 

協力するのが当然と言わんばかりに声を掛けてくる虎王鬼、しかしメタルビースト・レギオンを倒さなければならないのはブリットも判っており、虎王鬼の言葉に耳を傾ける。

 

『あたしの術で結合部分を緩めるから、打撃で緩めた体組織をバラバラにして、龍虎皇鬼と龍虎王で〆るってのはどうかしら?』

 

『私は良いと思うよ、ブリット君』

 

「判ってる、大丈夫だ。クスハ、とにかくあいつを倒さない事にはどうにもならない、その話乗った」

 

何もかも取り込み、今も巨大化を続けているメタルビースト・レギオンを見て、悩んでいる場合ではないとブリットは即座に虎王鬼のアイデアを聞き入れた。

 

『じゃあ行くわよ、龍もそれで良いわよね?』

 

『異論はねぇ、あの化け物をここで潰すぜッ!』

 

虎龍皇鬼と虎龍王――超機人と超鬼人。本来並び立たぬ筈の2機の龍虎が弾かれたように同時に動き出す。

 

『背中から撃ったりはしないよ、前だけ見つめて突っ込めば良い』

 

「今だけはあんたを信じるさッ! 虎王鬼ッ!!」

 

分身しながらメタルビースト・レギオンへと走る虎龍王。その回りを無数の札が飛び交い、分身を更に増やしメタルビースト・レギオンをかく乱する。

 

『臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前』

 

虎龍皇鬼は印を組み、小刻みな足踏みで足と指で同時に印を結び、自身の回りに浮かぶ無数の札が一斉に飛び交いメタルビースト・レギオンを取り囲む。

 

『龍と虎の雄叫びをその身を持って味わえッ!! 龍王月破ッ!!!』

 

両腕に装着されていた龍王鬼の翼が変形したシールドが更に変形し、巨大なクロスボウから放たれたエネルギー波がメタルビースト・レギオンへと迫る。

 

『『『『ゴガアアアアーーッ!』』』』

 

その圧倒的なエネルギー量を見てメタルビースト・レギオンが体内に取り込んだ武器を収束した巨大なキャノン砲を作り出し迎撃に出る。だがそれを見て虎王鬼は鼻で笑った。

 

『馬鹿ね、そんなに単純な訳が無いでしょうに』

 

龍王月破はメタルビースト・レギオンの前で分散し、その巨体の周辺に浮かんでいた札に吸い込まれるように消え、次の瞬間には龍と虎を模した凄まじい光がメタルビースト・レギオンに向かって全方位から放たれた。

 

『『『ぎ、ギギャアアアアアアアアアーーッ!!!』』』

 

その痛みからか凄まじい絶叫が周囲に響き渡り、虎王鬼の言った通りメタルビースト・レギオンの結合部分がその光線によって徐々に浮き彫りになっていた。

 

「おおおおおお――ッ!!!!」

 

【ガアアアアアーーーッ!!!!】

 

ブリットと虎龍王の雄叫びが重なり凄まじいラッシュがメタルビースト・レギオンに叩き込まれる。凄まじい追突音と共にメタルビースト・レギオンの纏っている装甲などが崩れ落ちている……だがまだインベーダーの再生能力が高く決定打が足りない。

 

『一気に畳み掛けろッ! ここを逃せば好機はないッ!!』

 

『タスクぅッ! ぶちかませぇッ!!!』

 

下手に近づけばインベーダーに飲み込まれる。安全圏からの射撃になるがギリアム達の攻撃も確実に結合部の緩んでいるメタルビースト・レギオンに微量だがダメージを蓄積させていた。

 

『うおらぁぁああああああッ!!!!』

 

龍虎皇鬼の一際大きな方向と共に凄まじい激突音が響き、メタルビースト・レギオンの巨体が宙に浮かぶ。

 

『決めるぞッ! 超機人ッ!!』

 

『は、はいッ! ブリット君ッ!!』

 

「おうッ! 龍虎合体ッ!!」

 

虎龍王の姿が一瞬で龍虎王へと変形し、指の間に挟んだ札をメタルビースト・レギオンに投げ付ける。

 

「雷神よ、来たりて我の敵を討て!」

 

『オラオラオラオラオラァァアアアアアアーッ!!!』

 

爆雷符の雷の雨と龍虎皇鬼の拳と蹴りのラッシュはインベーダーの回復を許さず、その体組織を命中した所から消し飛ばす。

 

「破山剣、召還ッ!!」

 

『邪龍剣、将来ッ!!!!』

 

龍虎王と龍虎皇鬼がその手に破山剣と邪龍剣を手にすると2機の凄まじい雄叫びが上空と地上からメタルビースト・レギオンに向かって放たれる。

 

「見つけたッ!!」

 

『はっはぁッ! 見つけたぜッ! あのばけもんの核をよぉッ!!!』

 

メタルビースト・レギオンの胸部と頭部の間――人間で言う喉仏の部位が盛り上がり、メタルビースト・レギオンの身体から逃げ出そうとする。

 

「龍虎王が最終奥義ッ!!」

 

『行くぜぇッ! 俺の必殺技ぁッ!!!』

 

龍虎王と龍虎皇鬼が刀身を撫でると龍王破山剣、邪龍剣がその姿を巨大な大剣へと変え、2機の全身を赤と蒼のオーラが包み込んだ。

 

「龍王破山剣ッ!!!』

 

『邪王龍剣ッ!!!』

 

「逆鱗だぁぁぁんッ!!!」

 

『逆鱗ざぁぁあああんッ!!!!』

 

急降下した龍虎王の唐竹切りと龍虎王の横一文字切りの一撃がメタルビースト・レギオンの巨体を脱出しようとしたコア・インベーダーもろとも十字に切り裂き凄まじい爆発の中にメタルビースト・レギオンの姿は消えるのだった……。

 

 

 

 

強烈な爆発音はメタルビースト・ゲッター1のコックピットのコーウェンとスティンガーの元にも届いていた。

 

「うーん、まずいねえ……親種が潰れてしまったよ、残念だね……スティンガー君」

 

『そ、そうだね。お、親種が潰れてしまったよ。ざ、残念だよ……コーウェン君』

 

コーウェンとスティンガーの計画では、ここでヒリュウ改のメンバーにインベーダーを寄生させ、ブライとの同盟が終わり、覇権を争う時の手勢としようとしていたのだが……親種のインベーダーを潰されてしまってはそれも無理になってしまった。

 

「ゲッター線の波も行ってしまった。もう少し呼び出しておけば良かったねぇスティンガー君」

 

『う、うん、そうだねえ、コーウェン君……もっと呼んでおけば良かったよ』

 

メタルビースト・ゲッター1とコーウェンとスティンガーを持ってしても極めて近く限りなく遠い世界のインベーダーを呼び出すのは容易な事では無かった。研究所を廃棄した際にゲッター炉心のエネルギーを解き放ち、新西暦の微弱なゲッター線と同調させる事で門を作り出したが、その門ももう閉ざされてしまった。

 

『父さん! 敵が来ますッ!!』

 

フォーゲルの言葉に顔を上げたコーウェンとスティンガーは目の前に迫る紅と蒼に忌々しそうに舌打ちをし、メタルビースト・ゲッター1に防御姿勢に入らせた。

 

『ステーク、撃ち抜けッ!!!』

 

『白虎咬ッ!!! おおおお――ッ!!!』

 

マントとゲッター線バリアで直撃は防いだが、メタルビースト・ゲッター1にも徐々にダメージが蓄積し始めていた。

 

「……本当に忌々しいね。そう思うだろう? スティンガーくぅん?」

 

『い、忌々しいにも程があるね! あ、あの出来損ないの癖にッ!』

 

竜馬、隼人よりゲッター線適合率が低い武蔵。だが武蔵の操るゲッターD2のゲッター線濃度は真ドラゴンに匹敵するものであった、短時間だが高密度のゲッター線に触れていたアルトアイゼン・ギーガやヴァイスリッター、そしてソウルゲインは不完全なメタルビースト・ゲッター1にとっては天敵にも等しい存在となっていた……。

 

『父さん、ベアー号とジャガー号の負担がかなり大きくなっています』

 

フォーゲルからの言葉にこれ以上は無理と判断し、マントを大きく伸ばしアルトアイゼン・ギーガとソウルゲインを弾き飛ばすと同時に宙に舞い上がらせる。

 

「回収だけはして行くとしよう。そうだろ? スティンガー君?」

 

「うんうん、回収だけはして行こうよ! コーウェン君」

 

メタルビースト・ゲッター1の口元が開き、そこから飛び出した触手が廃墟を駆けずり回り、インベーダーを刺し貫いた。

 

『なんだ!? 仲間割れ……ッ!』

 

『馬鹿がッ! そんな可愛い物ではない、させるかッ!!』

 

ソウルゲインの突き出した両手から無数の青龍鱗が放たれ、メタルビースト・ゲッター1に回収されている途中のインベーダーを何体か消滅させるが、それでも何体かのインベーダーはメタルビースト・ゲッター1へと取り込まれた。

 

『なにあれ……あんなことまでできるの?』

 

『……ドラゴンだと?』

 

完全な変体ではない、だがキョウスケ達の見ている前でメタルビースト・ゲッター1はメタルビースト・ゲッタードラゴンに似た姿へと変異し、ゲッター線を全身に纏い空中に翡翠の尾を残しキョウスケ達の前から姿を消すのだった……。

 

「逃げられた……それとも見逃された?」

 

「エクセレン、そんな事はどうでもいい。まだ戦いは終わっていない」

 

メタルビースト・ゲッターロボ、そしてインベーダーの脅威は消えた。しかし龍虎皇鬼、ソウルゲインの2機は以前健在であり、キョウスケ達の前に立ち塞がっていた。

 

『ベーオウルフ、勝負は……『止めとけよ、アクセル』……龍王鬼、俺の邪魔をするのか』

 

闘志を滾らせ、今にもアルトアイゼン・ギーガに襲い掛かろうとしていたソウルゲインとアクセルを窘めたのは龍王鬼だった。

 

『こんなボロボロで満足行く戦いなんて出来ねえだろうが、だから今日は終わりだ』

 

『だがッ! くっ』

 

ソウルゲインが機体の各所から黒煙を出し膝をついた。インベーダーとの戦いは凄まじく、関節部にガタが来ていたのだ。

 

『ほれ見たことか、そんな有様じゃ死にに行くようなもんだ。つうわけだ、俺達は帰るぜ。まぁ、戦うつうっなら……覚悟して貰うことになるけどな』

 

闘龍鬼、風神鬼、雷神鬼を初めとした龍王鬼の配下の百鬼獣が現れ、これ以上は無理だとキョウスケ達も矛を収めた。

 

『賢い選択だぜ、キョウスケ・ナンブ。そうそう、この街の地下調べておきな、なにか判る事もあるだろうぜ。うっしゃ、引き上げだ。今度は邪魔者なしで戦おうぜ』

 

『ちっ、覚えていろべーオウルフ……貴様は俺が殺す、覚えておけ』

 

最後までさっぱりとした気風で去っていく龍王鬼と恨み言を残し、回収されていくソウルゲインとアクセル――しかしこの戦いを切っ掛けに地球での戦いにインベーダーまでもがその姿をあらわすようになり始めるのだった……。

 

 

125話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その10へ続く

 

 




今回もイベントなので戦闘強制終了、インベーダーズが隠れている状況から作戦方針をヒャッハーに変え始めました。次回はシナリオデモと次回のシナリオの準備で次の話に入って行こうと思います、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第125話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その10

第125話 隼と継ぎ接ぎ/撃ち貫け奴よりも早く その10

 

インベーダーとの激しい戦いの結果、ほぼ更地となった市街地をラドラを先頭にし、防護服に身を包んだギリアムが続く、2人の手にはマシンガンやスナイパーライフルと言った銃火器に加え、背中のバックパックや、腰のポーチにはグレネードや手榴弾と言った爆発物が収められていた。

 

「こちらゴースト3、ドラゴン2応答せよ」

 

『こちらドラゴン2、ラドラさん何を見つけましたか?』

 

龍王鬼が指差した区画の捜索に挑んでいたギリアムとラドラの両名は、倒壊したビルの残骸の中に地下に続く階段を発見した。

 

「地下に続く階段を発見した。簡易レーダーだがゲッター線数値も危険域だ……最悪の場合に備えておいてくれ」

 

「15分ごとの連絡がなければそう言うことだ。俺とギリアムの事は気にせず、この区画に主砲を打ち込み蒸発させろ。良いな、レフィーナ・エンフィールド」

 

市街地の捜索――それはインベーダーが潜んでいる可能性が高く、生身の身体能力も高いギリアムとラドラの2人だけが捜索に乗り出した。インベーダーに寄生される可能性、そして全滅するリスクもあるためキョウスケ達はヒリュウ改に待機するように命じたのだ。

 

『……了解です。ご武運を……』

 

レフィーナの言葉に返事を返し、ギリアムとラドラの2人は周囲を警戒しながらゆっくりと地下へと潜り始める。

 

「ここに地下はない筈だ」

 

「だろうな、明らかに材質が違う」

 

倒壊したビルはオフィス用品などを取り扱う物流の本社。地下があると言う報告は無く、ついでに言えば連邦などの軍属の会社などでもない。

 

「ある事に気付かず建築したのか……運が良いのか悪いのか……」

 

「紛れも無く前者だな」

 

建造物の状況を見れば地下の方が先にあったのは明らかで、インベーダーがいるかもしれない地下に会社を建てて、襲撃を受けなかったのは紛れも無く幸運だとギリアムは笑った。

 

「通信状況はかなり良いな。これなら大分先に行っても大丈夫そうだ」

 

「それは助かるな、15分ごとに連絡が出来なければ俺達もあの世行きだからな」

 

「縁起でも無い事を言うなよ、ラドラ」

 

軽口を叩いているギリアムとラドラだが、その目は鋭く細められ周囲を油断無く警戒している。

 

「……こちらゴースト2、地下の状況だが……これは……」

 

細い通路を抜け、目の前に広がった光景に絶句しながらギリアムはヒリュウ改へ通信を繋げた。

 

『どういたしましたかな? ギリアム少佐、貴方でさえ動揺する物を見つけたのですか?』

 

「口で説明するよりも、映像の方が早い、若干ノイズが走るだろうが……お前達の目で見てくれ」

 

ラドラがカメラを構え、ギリアムとラドラが見ている光景がブリーフィングルームに映し出される。その光景を見たキョウスケ達も絶句し、息を呑んだ。

 

「おいおい……どうなってやがるんだよ、これはッ!」

 

「信じられない……これどうなってるのよ……」

 

ブリーフィングルームでのカチーナ達の驚愕の声を聞きながら、ギリアムとラドラは手にしたカメラで目の前の光景を写真に収める。

 

「ゲッターロボを建造していた……俺にはそうとしか見えない」

 

「ああ、俺もだ」

 

恐らく襲撃があるまで稼動していたのだろう、まだ熱を放っている装甲版やフレームを見ればこの市街地の地下でゲッターロボが建造されていたのは明らかだった。

 

「あっちは武蔵が乗ってた初代ゲッターロボ、その奥はドラゴン……あとは俺の見たことのないゲッターロボだな」

 

「……回収し詳しく分析したい所だが……リスクは背負うべきではない。やはりここは破壊するべきだと思うが、副長はどう思いますか?」

 

『……非常に惜しいと思いますが、廃棄するべきでしょう』

 

『インベーダーの危険性を考えれば、そうするしかありませんね』

 

無機物、有機物関係なしに寄生し同族を増やすと言う性質を持つインベーダー。自在に変身する能力を持つことを考えればどこに潜んでいるか判らず、建造中のゲッターロボを回収するには余りも危険すぎた。

 

「しかし問題は……誰がこれを建造したかだな」

 

「普通に考えればあのゲッターロボのパイロットだろうが……少なくとも早乙女博士ではないだろう。だが早乙女博士と同格のゲッター線への知識、ゲッターロボの設計を知っているのは間違いない。ラドラ、これを見てみろ」

 

製造ラインのPCを操作しながらギリアムがラドラに声を掛ける。

 

「これはゲッター炉心とゲッターロボの設計図か……かなり詳しい所まで書かれているな。ここまで詳しく知っていると言うと……早乙女研究所の関係者だろうな」

 

早乙女研究所の関係者が地下に潜りゲッターロボを作っていた……ラドラのその言葉に驚きが広がる。

 

『ギリアム少佐、それならばそのプラントは残すべきでは?』

 

『武蔵の知り合いかもしれないんじゃないか?』

 

武蔵達同様旧西暦からの迷い人がいるのではないか? とキョウスケ達は言うが、ギリアムとラドラの決断は変わる事はなかった。

 

「だとしてもだ、インベーダーが繁殖しているかもしれない製造プラントは破壊するしかあるまい」

 

「それにゲッター炉心の中のゲッター線は空っぽ、既にこの工場に価値はないと判断したのだろう。とにかくもう暫く捜索をしたら戻る、ナパーム弾の準備も進めておいてくれ」

 

この街に住んでいた人間には悪いが、インベーダーがどこに潜んでいるか判らない以上この街は封鎖するしかないだろう。戦争で避難が進んでいて良かったなと思いながらギリアムとラドラは捜索を続ける。

 

「早乙女博士並にゲッターロボと炉心に詳しい研究者か……そんなものがいるとは思えないが……」

 

「いや、いる。確かコーウェンとスティンガーと言う研究者が早乙女博士と共に研究をしていた筈だ……恐竜帝国の情報網で補足仕切れなかった神出鬼没の2人組だ」

 

「コーウェンとスティンガー? 確か、放射線の研究者だったがDC戦争時に行方不明になっているぞ」

 

ラドラから告げられた名……それはシュトレーゼマンの傘下で研究し、DC戦争の中で行方不明となっている研究者の名前だった。

 

「きな臭いな……」

 

「ああ、少し探ってみる必要があるかもしれないな」

 

旧西暦に存在したゲッター線の権威であるコーウェンとスティンガー、そして新西暦にも存在する放射線の権威であるコーウェンとスティンガー……奇しくも職業も、そして名前も同じ……そして地下に眠っていたゲッターロボの製造プラント。それらを調べる事が、真実に近づく事になるとギリアムとラドラは本能的に感じ取りコーウェンとスティンガーについて調べる事を決め、地下のあちこちに爆薬を設置し、地下から離脱するのだった……。

 

 

 

 

 

ギリアムとラドラがコーウェンとスティンガーの存在に気付いた頃、市街地から離脱した龍王鬼達とアクセルは迎えに来ていたヴィンデルのライノセラスに着艦していた。

 

「龍王鬼、少しばかりやり過ぎたのではないか?」

 

「はっはっは! 悪い悪い!! とは言ってもな、俺達とソウルゲインがボロボロなのはヒリュウ改と戦ったからじゃねえぞ、インベーダーとか言う化け物が出てきやがってな。そいつらと戦ったせいだ」

 

インベーダーの名にヴィンデルの顔色が変わり、アクセルをキッと睨んだ。

 

「除染もせずに着艦したのか? アクセル」

 

「心配はない、俺とて馬鹿ではない。しっかりとインベーダーに寄生されていない事は確認している」

 

インベーダーとアインストはあちら側のヴィンデル達を苦しめた存在だ。警戒するのは当然だが、アクセルとてインベーダーとアインストの脅威は十分に知っている。ヴィンデルの質問にそっけなく返事を返すのは当然の事だった。

 

 

「それよりもだ。ヴィンデル、お前アースゲインをどこかに「ヒリュウの足止めには成功し、その戦力も十分に把握出来た。だがソウルゲインをここまで破損させたのは許す訳にはいかん、ミッションハルパーまでは出撃を禁ずる」

 

アクセルの言葉を遮り、今回の件に関しての処罰を口にするヴィンデルにアクセルの眉が僅かに吊り上がった。

 

「独断専行の罰だ。龍王鬼が同行していたとは言え、組織としての体裁は守ってもらわなければな」

 

「ついでに勝手に出歩くな…だろう?」

 

ヴィンデルに話し合おうとする意図が感じられず、アクセルは続くであろうヴィンデルの言葉を先読みして口にした。

 

「そうだ。少しは自分の立ち振る舞いについて考えるのだな」

 

ソウルゲインを大破寸前まで追い込んだのはヴィンデルとてなぁなぁには出来ない。だからアクセルに自主的な軟禁を行うようにと遠回しに命じ、ヴィンデルはブリッジへと引き返していった。

 

「随分と機嫌が悪そうだな…虎、俺様達が出ている間に何かあったのか?」

 

「んー…黙っててもすぐ判ると思うから言うけど、饕餮といざこざがあったのよ」

 

「ちっ、あの化け物爺か。あいつは俺様は好かん」

 

人、機械、男、女を見境無しに喰らう饕餮は龍王鬼の美学に反し、何よりもその性格的に決して相容れない存在であった。それゆえにヴィンデルが不機嫌な理由が饕餮との間に何かあったと聞けば災難だったなと同情する気持ちがあった。

 

「アクセルもご苦労だったな。まぁ暫くの軟禁だが、気が向いたら俺様が出向いてやるから組手でもやろうぜ」

 

「ヴィンデルも龍が言えば文句は言えないだろうしね。じゃあねえ~」

 

虎王鬼を片手で抱え、闘龍鬼達を引き連れ去っていく龍王鬼をアクセルが見送っていると、レモンが龍王鬼の背中を見つめながら問いかける。

 

「インベーダーはどうだった?」

 

「間違いなく俺達の世界のインベーダーだった。ブラッド・ハウンド隊を喰らった連中だ」

 

この世界で生まれたインベーダーではないとアクセルが断言するとレモンは思案顔を浮かべる。

 

「リュケイオスの自爆じゃ消し飛ばせなかったのかしら……」

 

「それは判らん。消し飛んだのは間違いないが、別の個体がいた可能性も十分にある。それよりも、問題は時空を切り裂いたインベーダーに寄生されたゲッターロボだ」

 

アクセル達の世界にゲッターロボは存在していない。そしてそれは新西暦でも同じ事で、ガワしか再現できてないゲッターロボはアクセルも見ているし、何よりもスクラップ同然の機体ならシャドウミラーも保有している。だがそれ故に解せない事があった、これはラドラやギリアムでは判らないインベーダーを知るアクセルならばの観点だった。だからこそある不信感を抱いたのだ……。

 

「あれは元からインベーダーが寄生する前提で作られていた」

 

「……本当?」

 

「ああ間違いない。あれを作った科学者は、いや人間かどうか怪しいが……インベーダーの生態に詳しく、そしてゲッターロボにも精通した者だ」

 

人間かどうか判らんがなという言葉に、レモンは深い溜め息を吐いた。

 

「武蔵が協力してくれたらもっと楽ね」

 

「ありえん。諦めろ」

 

武蔵がアクセル達に協力する事はない。もしもその可能性があるとすれば……。

 

「永遠の闘争は捨てられない?」

 

「……お前はもう違うようだな、レモン」

 

「どうする? ヴィンデルに言う?」

 

アクセルもレモンの変化は感じ取っていた。だからこそなんでもないように口にし、レモンはそれを知ってどうするの? と問いかけた。

 

「別に俺はどうもしない、俺はベーオウルフと決着をつけれればそれで良い。その終着点が永遠の闘争にすぎない」

 

インベーダーやアインストの台頭は平和になった事で腐敗した政府が原因だとアクセルは考えていた、なればこそ戦い続け平和などは遠ざける事がインベーダーとアインストの出現を遠ざける事になる――アクセルはそう信じていた。

 

「本当アクセルもヴィンデルも強情で困るわね。それで狼さんと戦った感想は?」

 

永遠の闘争に関してはレモンとて触れて欲しい話題ではないので、話の内容を摩り替える。

 

「ナハトとゲシュペンスト・MK-Ⅲを混ぜた感じだった。正直に言うが……こちら側のベーオウルフはあちら側よりも強い」

 

アインストの力を借りなくてもソウルゲインと互角に戦ったアルトアイゼン・ギーガを見て、アクセルは間違いなくベーオウルフよりもキョウスケが強いと断言した。

 

「そこまで判ってて、それでもなおベーオウルフって呼ぶのかしら? ベーオウルブズは存在しない…構成員も違うのよ?」

 

「ヴィンデルには言うなよ?俺はキョウスケ・ナンブならば協力出来る可能性は十分にあると思っている……だが決して俺達の道は相容れない。共に戦うとするのならばキョウスケ・ナンブを俺が打ち倒したその時でしかあり得ない」

 

永遠の闘争はハガネやヒリュウ改、そして武蔵達が受け入れる事はないとアクセルも十分に理解していた。

 

「インスペクター、百鬼帝国、インベーダー……全部潰してから総力戦でもする? それともそれより先に戦いを仕掛けて私達が上だって認めさせる?」

 

「ふっ、それも悪くは無いが……ヴィンデルは認めないだろうな」

 

正直に言えばアクセルは今のヴィンデルとシャドウミラーのあり方を認めていない。百鬼帝国はアクセルから見ればアインストやインベーダーと大差が無く、何故そんな連中とヴィンデルがつるんでいるのか理解出来なかった。

 

「私はキョウスケ・ナンブはベーオウルフにならないと思うけどね」

 

「……その可能性はあったとしてもだ、不確定要素は無くすべきだ。この世界に俺はいない、俺達の事を知るのはヘリオス、そして武蔵達だけだ、だがその武蔵達も記憶が欠落しているのならば今の内に勝負を決めるべきだ」

 

ヘリオス・オリンパス、そして武蔵達だが、その武蔵達は記憶を欠落しており、シャドウミラーの事を中途半端にしか覚えていないのならば……思い出す前にけりをつけるべきだとアクセルは断言する。

 

「まぁ、それも1つの手だとは思うけどね……でも「レモン、戦闘中に貴様と同じ性を持つ女と接触した。こちら側のベーオウルフのパートナーだった」ッ!?」

 

アクセルの言葉にレモンは口を閉じ、大きく目を見開いた。その様子を見て、アクセルは言葉を続けた。

 

「シャトル事故で死んだと言う貴様の妹――まだ名前を聞いてなかったな。エクセレンか?」

 

「……せ、正解よ」

 

レモンが声が震えている、それだけレモンにとってエクセレンの存在が大きいと言うのはアクセルにも判っていた。

 

「……その女もベーオウルフと同じ……俺達の事は知らなかった」

 

「そうッ……そうなのね」

 

レモンにとって愛する妹であったとしても、エクセレンにとってレモンは姉ではない。敵として立ち塞がれば迷う事無くその銃口を向けるだろう……。

 

(酷な事だ)

 

アクセルは知っている、レモンがどれだけエクセレンの事思っていたか……無論話で聞いただけなので、通常の姉妹の情だとアクセルは考えていた。だがレモンがエクセレンに抱いている複雑な感情を全てアクセルが理解しているとは言えない。

 

「そういう存在であり、この世界は俺達の世界とは違う……共通点はあっても……貴様の妹ではない、こいつがな」

 

「……ええ、判っているわ。あの子は……もう死んだもの」

 

自分に言い聞かせるように言うレモンの姿を見て、アクセルはすまないと一言謝罪の言葉を口にし、自分に宛がわれた部屋へとその足を向けた。

 

(エクセレン……エクセレン・ブロウニング……あなたがこちらにいるのなら、私は……私は……どうすれば良いの……)

 

レモンは「■■」にはなれない、だけど……この世界には「■■」がいる。■■になれないから、レモンは母になりたいと願った。そうする事で己の気持ちに蓋をした……だが燻り続けたある思いを解き放つ言葉をアクセルに告げられ、レモンの目には迷いの色が浮かんでいるのだった……。

 

 

 

 

インベーダーやアクセル・アルマーとの戦いの余波は凄まじい物であったが、インベーダーとの戦いは龍王鬼達が主導になったという事、そして予備パーツが大量にあったと言うことから比較的早く立ち直る事が出来たが、補給やパイロットの休息の為にヒリュウ改はノイエDCや百鬼帝国、インスペクターに見つからぬように低速で移動しながら伊豆基地へとその艦首を向けていた。ハワイがインスペクターの手におち、プランタジネットを成功させる為にも1度ハガネとの合流が不可欠だったからだ。

 

「しかし、今回のゲッターロボに寄生したインベーダーっつったか、あれを見ればあのアクセルとかいう奴が警戒する理由も判ったな」

 

何故何度もキョウスケを襲撃するのか? その理由がインベーダーに寄生されたゲッターロボの人知を超えた力を発揮する姿を見れば気持ちは分からないでもなかった。

 

「ちょっとカチーナ中尉、キョウスケちょっとナイーブになってるんだからそういう事をいうのは止めてあげてよ」

 

「いや、良い。俺は気にしていない、それに納得もした」

 

「いやいや、納得したら駄目ですよ。中尉」

 

納得したと言うキョウスケに駄目だとブリット達が言うとキョウスケも判っているさと返事を返す。

 

「そうなる可能性があると思えば警戒するのも分かる。だが俺とあいつらの知る俺は違う……だから取りこし苦労という奴だ」

 

別の世界で自分がインベーダーかアインストに寄生され、人類の敵になったとしてもそのキョウスケと俺は違うとキョウスケは断言した。

 

「普通はそう思うと思いますよね」

 

「そもそも、そうなるって言うのならそうならないようにするのが普通じゃない?」

 

「私もそう思いますね……やり方が間違っているような気がします」

 

「あれじゃないか? 自分たちだけが世界を守れるとでも思ってるんじゃないか?」

 

キョウスケがアインストやインベーダーに寄生され、おかしくなるという結末を知っているのならばそうならないように協力するのが普通ではないか? という声が上がり、その話を聞いていたラミアはシャドウミラーが間違っているのか? と悩みを深める事になる。

 

(協力し合える……何故レモン様達は最初から戦うという結果を選んだのだ?)

 

荒唐無稽な話ではある。だがハガネやヒリュウ改の人間は話を聞くという柔軟性を見せてくれていた……そして明らかに軍人として間違った行動であったとしても、人の心を大事に誰もが悲しまない選択をしてきたのをラミアは見てきていた。

 

「んー? ラミアちゃん、何をそんなに悩んでるの?」

 

「いえ、その……笑わないでくれるでございますか?」

 

「んん? 別に笑ったりしないけど……どうしたの?」

 

自分が尋ねる事は可笑しいのではないか? その不安を抱きながらラミアは言葉を選びながら口を開いた。

 

「未来の出来事を知っていると聞いて、そんなに簡単に信じられるのですか?」

 

「普通は無理じゃない? でもね、私達は知ってるしね?」

 

「過去からとんでもない事をした奴を知ってるからな。他の奴らよりかは頭は柔らかいだろ?」

 

「まぁ、とんでもない事ばかり続いてますしね」

 

インベーダーやアインスト、そしてゲッターロボを見てきているからこそ、荒唐無稽な話であってもある程度は検証しようとは思えるとエクセレン達は返事を返した。

 

「助けてくれとその手を伸ばされたら……その手は掴めましたか?」

 

その問いかけは誰でもないラミアからのSOSであった……W-17とラミア・ラヴレス――その狭間で揺れる幼い心から出来る唯一のSOS……それがラミアに出来る不器用な助けを求める行為だった。その深刻そうな顔にキョウスケ達が一瞬言葉に迷った……そしてラミアが求めた答えはキョウスケ達から与えられる事は無かった。

 

『各員は緊急出撃の準備を! 繰り返します! 各員は緊急出撃の準備を! 高エネルギー反応及び、重量反応感知ッ! 繰り返します高エネルギー反応及び重量反応感知! あ……この反応は……アイアン3クロガネですッ! クロガネが何者かに襲撃を受けている模様! 繰り返します! 各員は出撃準備を急いでくださいッ!』

 

「くそッ! 親父の奴なにやってるんだよッ! ヴァルシオーネで先に出るよッ!」

 

「待てよリューネッ! 俺も行くッ!!」

 

クロガネが襲われていると知り、リューネが飛び出して行き、それをマサキが追ってブリーフィングルームを出て行く。

 

「連戦だが嘆いている時間はない、ラミア。お前の話はまた今度、機会を設けて聞こう」

 

「あ、はい。ありがとうございますのです……」

 

求めた答えを得る事が出来ず、ラミアは憂い顔のままブリーフィングルームを出て行き、そしてその答えを得られる事の無いままキョウスケ達の前から姿を消す事になるのだった……

 

 

 

 

ホワイトスターの一室でブライとウェンドロが向かい合いチェスを行なっている。

 

「ふむ、良く短期間でワシと打ち合えるようになったな。ウェンドロ」

 

「ふふん、簡単なゲームさ。僕にとって覚えるなんて簡単な事だよ」

 

一進一退の攻防にブライは満足そうに笑みを浮かべ、本国では神童と呼ばれ、子ども扱いされる事の無いウェンドロはブライの視線に不快感とも違う、何とも言えないむず痒さを感じていた。

 

「ブライがいてくれたお蔭で部下の機体も大幅に強化出来た」

 

「それは何より。しかしあれだな、ゲッター炉心を製造出来なかったのは厳しい所だな」

 

「構わないさ、長い目で……む」

 

ゲッター炉心は出来たが、肝心の中身が無いその事に不満を言いながら駒を打ったので想定と違う所に置いてしまい、ブライに簡単に駒を取られウェンドロは口元をゆがめた。

 

「冷静たれ、動揺不満は心の中に閉じ込めるべきだよ。ウェンドロ」

 

そこからブライが攻勢に打って出てウェンドロが防戦に回る。

 

「グレイターキン達をゲッター合金で強化出来たのは非常にありがたいよ、そのお蔭でハワイももうすぐ手中に落ちそうさ」

 

「ふむ、しかしそこまで攻め込めば連邦軍も巻き返してくるだろう。問題は」

 

「「ゲッターロボ」」

 

ブライの知るドラゴンよりも遥かに強いゲッターD2、そして武蔵をどう攻略するかが大きなポイントとなるだろう。

 

「どうだい? このままゾヴォークに所属する気はないかな?」

 

「ふぅむ、それも悪くないが……まずは地球を手中に収めてからにしよう。チェックメイト」

 

「むっ……やれやれ、結局勝てなかったね」

 

「ふっふっふ、まだまだお前に負ける訳にはいかんからな」

 

ブライはそう言うとチェスのセットをウェンドロに押し付ける。

 

「象牙の良い物だが餞別だ、くれてやろう」

 

「ありがとう……とは言っておこうかな」

 

「生意気な奴め、まぁそれくらいだからこそ、ワシも気に入ったのだがな。さて、ではワシはそろそろ地球に戻ろう。実に有意義な時間だった」

 

ブライはそう言うとウェンドロに手を振り、その部屋を後にする。

 

(さて、五本鬼の奴は上手く行っているか……しかし饕餮鬼を同行させたのは不安要素か……)

 

戦場が日本の近くという事でゲッターD2が出てくる可能性はあるが、それもそれでよし。ゲッターD2を相手饕餮鬼……いや饕餮鬼皇がどこまで戦えるかと見極める意味もある上に今後の立ち回り方も見極める事が出来る。

 

「ここからだな。ふっふ、面白くなってきおったわ」

 

示し合わせた訳では無いがインベーダー、アインスト、シャドウミラー、インスペクター、そして百鬼帝国――その全てが一斉に動き出した。オペレーションプランジッタ、そしてハルパーと絵は描いたが、想像以上に物事が動いている。

 

「大帝、龍王鬼様から連絡が入っておりますが」

 

ブライの帰還準備をしていた部下から龍王鬼から連絡が入っていると聞いたブライは回せと命令を下す。

 

『お久しぶりです。ブライ大帝』

 

「うむ、久しぶりだな、それでお前が態々連絡を入れてきたのはどういうわけだ?」

 

独立権を与えている龍王鬼からの通信をブライは不思議そうに感じながら用件を問いただす。

 

『インベーダーという化物と交戦しました』

 

「ほう?」

 

インベーダーの言葉にブライは眉を動かし、見ていた書類を机の上に乗せた。

 

『ゲッターロボに寄生し、時空を引き裂き同類を呼び出すなど極めて危険だと判断し、ヒリュウと協力し殲滅に当りました。独断お許しくださいブライ大帝』

 

ヒリュウ改と協力した事を謝罪する龍王鬼にブライは笑みを浮かべた。

 

「気にする事はない、しかしお前だけで殲滅できぬか……厄介な物が出てきたものだ」

 

インベーダーの存在を知っているブライに驚きは無かった。その代わりに自分の部下に手を出したという事でコーウェン達からまた何か情報や機体を奪い取れるだろうと考え好都合だと言わんばかりに笑みを浮かべた。

 

『インベーダーに対してはどうすれば?』

 

「そうだな。捜索と情報収集を命じる、確かシャドウミラー達が何か知ってるはずだ、報告書を出させろ」

 

『了解しました』

 

モニターが消えた所でブライは鼻を鳴らして不満を露にした。

 

(何か勘付いて居るな、部下ではあるが厄介な奴だ)

 

龍王鬼一派は独自に正義を掲げ、完全な配下と言う訳ではないだけに龍王鬼達とインベーダーが戦闘になった事をブライは面白くないと考えていた。自分達とコーウェン達に繋がりがあると知られれば龍王鬼の離反に繋がりかねないからだ。現在の百鬼帝国の最強戦力の離反は流石のブライでもそれを良しとは言えなかった。

 

「誰ぞ知らんが、やってくれる」

 

自分が用意した策を利用され、部下に不信感を抱かれたのは面白くないが、それによって情勢が動いたのならばそれに目くじらを立てるほどブライは子供ではない。むしろ自分に気付かせずに立ち回ったと賞賛さえしていた。流石のコーウェンとスティンガーもブライの配下と知って攻撃を仕掛けてくるほど馬鹿ではないはずとブライは考え、自分の知らない第3者の介入があったと考えたのだ。

 

「何れまみえる事もあろう……ふっふっ、はーっはははははッ!!!」

 

月に向かうシャトルに乗り込みブライは大声で笑い出す。闇で暗躍するものによってこの世界に大きな波紋が広がった、そしてブライはそれを是とした。万全な状態で今度こそゲッターロボを完膚なきまでに叩き潰し、ゲッターロボを倒すまで協力していた者達を全て打ち倒し、己の部下とし、今度こそ百鬼帝国が宇宙へと進出する事を夢見てブライは動き出すのだった……。

 

 

第126話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その1へ続く

 

 

 




今回でインターミッションは終了、ギリアム少佐がインベーダーズに気付き始めました。そして色んな陣営にフラグを撒きつつ、次回はオリジナルシナリオでアギーハの変わりに別の敵とクロガネ、グランゾンと戦わせたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第126話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その1

126話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その1

 

やや癖毛の濃い青い髪を無理にストレートにし、伊達眼鏡を掛けたイングラムはある意味堂々と伊豆の街を歩いていた。連邦の膝元である伊豆の街、連邦の探し人であるイングラムがそこを歩くなどと正直自殺行為だが、こそこそするから却って怪しく見えるのであり、逆に堂々としていていればイングラムに似ているだけの一般人として思われやすい。灯台下暗し、木の葉を隠すなら森の中――イングラムはそれを行っていた。

 

(ビアン達には迷惑を掛けたが、そうも言ってられん)

 

余りにもシャドウミラーの動きが活発になっている……何を考えているかまでは判らないが、ハガネとヒリュウ改、そしてシロガネが伊豆基地に集まって来ているのはクロガネも把握していた。

 

(仕掛けるのならば、このタイミングだ)

 

ヴィンデルも馬鹿ではない、永遠の闘争という愚かな思想こそ掲げているが指揮官として、そして軍略家としてはイングラムでさえも舌を巻くほどの技量を持ち合わせている。

 

「……思ったよりも状況は良くないな」

 

伊豆の街の中に満ちている殺気と監視するような視線――それは量産型Wナンバーズ、そして鬼であるとイングラムは考えていた。

 

「1つくれ」

 

「まいど、観光かい?」

 

「ああ、そんな所だ。ありがとう」

 

観光客を装い、自分とイングラム・プリスケンを断ち切り、警戒せず、視線に目も向けず。気付いていない振りをしゆっくりを歩みを進めるイングラムだったが、真向かいの横断歩道の先に2人組みの姉妹を見つけ信号が赤信号から青信号に変る前に進む方向を変え雑踏の中にイングラムはその姿を隠す。

 

「アヤ? どうしたんだ?」

 

「え、あ。ううん、なんでもない……ちょっと探してる人に似てる人がいて……」

 

「探そうか?」

 

「ううん、気のせいだと思うから……行きましょう、マイ」

 

信号が青になり慌てて駆けて来たアヤの視線に入らぬように気配を殺しながら、その後に立つマイを見てイングラムは小さくレビと呟き、首を左右に振った。

 

(レビ・トーラーではない、彼女はマイ・コバヤシに戻った。ならばそれで良かろう)

 

アヤとマイから離れるようにイングラムは歩き出し、今度こそその姿は伊豆の雑踏の中へと消えていくのだった……。

 

「イングラム少佐を何故日本へ?」

 

「ハガネとシロガネ、そしてヒリュウ改が日本に集おうとしている。仕掛けるのならばここしかない、仮にシャドウミラーや百鬼帝国が動かないとしても、日本に超エネルギーが集まりすぎる」

 

「ゲッター線、マグマ原子炉、反マグマプラズマジェネレーター……例を上げれば切がないですなビアン博士」

 

1つでも並みの特機、いや発電所を超えるエネルギーを持つ機体が一同に日本に集う……ビアンはそれを危惧し、イングラムの日本に向かいたいという申し出を聞き入れた。

 

「それにあの異常なゲッター線反応、ツェントルプロジェクトにウルブズ……警戒を緩める事はできん、それにダイテツ達が遭遇したと言うインベーダーとアインストの融合個体の件もある」

 

懸念すべき問題は増えて行き、ビアン達でさえ頭を抱え解決策を求めていた。

 

「もしもゲッター線を多用した事が原因だとすればどうだ? ビアン」

 

「グライエン……急にどうした? お前はゲッター線とゲッターロボを特別視していた筈だ」

 

「いや、それは変らない。だがエネルギーはエネルギーだ、それに引き寄せられ、何かが起きてもおかしくないのではないか?武蔵君の意思ではない、そうゲッター線が我ら人類に試練を与えようとしているのではないか? 私は今ではそう思い始めている」

意思ではない、そうゲッター線が我ら人類に試練を与えようとしているのではないか? 私は今ではそう思い始めている」

 

新西暦で最もゲッター線を求め、そしてゲッターロボを求め、そして誰よりもゲッター線の真意にグライエン・グラスマンは辿り着こうとしていた、そしてその余りに真剣な表情にビアン達は口を噤んだ。

 

「もしや、今修理をしているゲッターロボは……」

 

「うむ、ゲッター線への決別を込めた旧西暦の人達の思いの結晶なのやもしれん……自分達はゲッター線に頼りすぎ、そしてその結果インベーダーという悪魔を呼び寄せた。ゲッター線を使わずとも発展してみせる……そんな思いがあったのかもしれない」

 

メガフロートで発見されたゲッター線を使わないゲッターロボ――1度も稼動した形跡の無いそれに込められたメッセージ。ゲッター線に頼らず進化してみせる……そんな意志があったのでは? とグライエンは語る。

 

「ロマンチストだな。だが……その考えは嫌いじゃない」

 

インベーダーの事は確かに悪夢だった。それを隠蔽したのも紛れも無い事実だが、それであると同時にグライエンの語る思いがこめられていたのではないかとビアンは笑った。

 

「ではあのゲッターロボは運用しないのですか?」

 

「いや、使う。バン大佐に使って貰うつもりだ、その為に修理をしたのだからな」

 

これからの戦いに必要になる。ビアンはそう考え、ネオ・ゲッターロボを修理、そして改良した。実戦に耐えれるかのテストが八丈島近くの海域で行なわれようとしていたのだが……そこに底なしの悪意が向かって来ている事をビアン達は知る良しも無いのだった……。

 

 

 

 

空戦鬼の中は異様なピリピリとした雰囲気に満ちていた。それは艦長席に腰掛けているビアンに成り代わっている五本鬼も同じだった……

 

(何故こんな化け物と一緒に……)

 

四狂の鬼人 饕餮――何もかも食らう貪欲な鬼にして超機人が人の姿を得た存在。その強さもおぞましさも百鬼帝国で群を抜いている。

 

「ふぇふぇふぇふぇふぇ、そんなに怖がらなくても良いわい。お主は喰わんよ、不味そうじゃからな」

 

不味そうだから喰わないと言われてありがとうと言えるほど五本鬼は豪胆な性格ではなく、引き攣った声で返事を返すのがやっとだった。そしてそんな様子の五本鬼を見て饕餮は嘲笑を浮かべる。

 

「小物よのぉ、何ゆえブライはこんな小物にビアン・ゾルダークなんぞを演じさせておるのやら」

 

その言葉を聞き怒りが込み上げてくる五本鬼だが、それをぐっと堪える。

 

(理由を与えるな、耐えるんだ)

 

饕餮に自分を害させる理由を与えるなと言い聞かせるように何度も何度も呟いた。

 

「私はあくまで戦略家、演説家ではない」

 

確かに五本鬼は龍王鬼や虎王鬼達のような四邪の鬼人や饕餮や共行王のような四罪、四狂の鬼人のような化け物とは比べるまでも無く弱い。だが鬼の力任せの戦略ではなく、人間相手でも十分通用する軍略を考える頭脳を有していた。

 

「ほほお、ならばお前の軍略とやら、この饕餮が見極めてやろうかの」

 

「何を?」

 

直に判ると言う饕餮の言葉の後に空戦鬼の警報が鳴り響いた。

 

「クロガネを補足、なにやら新型の機体のテスト中のようです」

 

「ほう……なるほど……情報通りだな」

 

報告を聞いて五本鬼は頭脳を巡らせる。伊豆基地を初めとした日本各地の基地に潜り込んでいる鬼からの情報で日本周辺でクロガネが目撃されたという情報を元に五本鬼は饕餮と出撃していた。勿論その目的は五本鬼が本当の意味でビアン・ゾルダークとなる為にクロガネへの襲撃を仕掛けていたが、想定していたよりも大きなリターンを得られるかもしれないと五本鬼は笑みを浮かべた。

 

「ふぇふぇふぇ、ワシが仕掛けるかの?」

 

「いえ、饕餮様には待機をしてもらいます」

 

「ほう? その理由は?」

 

ジロリと睨みつけられ、内心冷や汗を流しながらも五本鬼は口を開いた。

 

「クロガネの主だった戦力はグルンガストタイプ、ゲッターロボV、そして黒いゲッターロボの特機が3種類、それに加えてゲッター線稼動のPTが2機、あとは量産型のAMと聞いております」

 

今までの百鬼獣の襲撃、そして戦闘データを元にクロガネが保有している戦力は大まかに五本鬼は把握していた。そしてその上で今回の襲撃は布石でもあるのだと説明する

 

「ビアン・ゾルダークならば窮地に至れば自ら出撃し、指揮をとるでしょう。その間にクロガネに発信機をつけることが出来れば孤立している状況で襲撃を仕掛ける事も可能で、出来る事ならばここで決着をつけることも視野に入りますが……ビアン・ゾルダークはゲッター炉心を実用段階にしています。それを確保する事も最優先課題ですが、クロガネを撃墜せず、なおかつ機体性能を損ねないレベルで攻撃を仕掛ける事は可能ですか?」

 

五本鬼の問いかけに饕餮は自信はないのうと返事を返した。クロガネは轟沈せずに確保する必要性があり、それに加えてビアン・ゾルダークの頭脳は失うには惜しい。それゆえに鹵獲、及び生きたままの捕獲命令が下されている。

 

「それに加えて、こんな事を言うのはなんですが……日本にはハガネ、シロガネ、ヒリュウ改が近づいております。乱戦になる可能性は十分にある以上、一気に戦力を投入する事は出来ないのですよ、最悪発信機をつけることが出来れば事足りる、何も援軍が来ると判っている状況で無理に攻める必要はありませんからね」

 

クロガネは神出鬼没――しかし発信機をつけることが出来ればいつでも、それこそ龍王鬼をぶつける事も出来る。ならばここで無理をする必要はないと五本鬼は説明する。

 

「ふうむ、良かろう。お前の戦略に従ってやるとしよう」

 

「ありがとうございます。ステルスを展開、その後クロガネの新型のデータ取りをする。出撃はその後だ」

 

「「「了解!」」」

 

確かに五本鬼はビアン・ゾルダークの替え玉としては弱い、だがそれはビアンが規格外のカリスマを持つ男であり、そしてその頭脳は独学で早乙女博士に匹敵するほどの物を持っているからだ。だが決して五本鬼は無能ではなく、小心者でヒステリックな部分はあるが指揮官として、そして戦略家としては十分に優秀な鬼なのだった……。

 

 

 

クロガネから出撃した青・赤・黒の戦闘機……いやネオイーグル、ネオジャガー、ネオベアーの3機のゲットマシンはクロガネの上空で急上昇、旋回、急降下と飛行訓練を行う。

 

「ネオジャガー、ネオベアー遅れているぞ。もう少しスピード上げるんだ」

 

『ぐっ、りょ、了解! バン大佐!』

 

『い、今追いつきますッ!!!』

 

先行しているネオイーグルの後を追って加速するネオジャガー、ネオベアー号だが機首がブレ、不安定な挙動になっている。

 

(努力は認めるが……まだまだだな)

 

ネオジャガーのパイロットは赤みが掛かった茶髪のスレンダーな女性パイロットの「ジャレッド・スパイカー」。コロニーにいる時分はプロジェクトTDに参加経験もあり、トロイエ隊の本隊に選ばれる事はなかったがその腕前は十分に高くAMの適正さえ高ければトロイエ隊で隊長格に選ばれたであろう程に高速戦闘と空間把握能力に秀でていたが、絶望的にAMの操縦適正が無かった為補欠になっていたが、ゲットマシンの適性検査ではBクラスとB+のスレイと僅差という事でネオジャガーのパイロットに選ばれたという経緯を持つ。

 

「ほう、中々やるな」

 

実機での飛行訓練はこれが初めてなのだが、機首がぶれてからの立てなおし、最高速度に戻るまでの速度を見てバンは感心したように呟いた。ゲットマシンはその見た目通り主翼も尾翼もない、それこそ高出力のエンジンで無理やり飛ばしていると言っても良い。その性質上1度崩れた姿勢を立てなおし再び加速を得ると言うのは極めて困難だ。それをやって見せたジャレッドは紛れも無く1級品のパイロットと言っても良いだろう。

 

『遅れました。しかしもう大丈夫です』

 

それに続くように機首を上げて来たネオベアー号から響いた男性の声にバンは小さく笑った。ジャレッドだけではなく、もう1人も立て直して見せた。ゲッター炉心を使っているゲットマシンより程度が落ちると言ってもネオゲットマシンもとんでもない暴れ馬だ。今回の飛行テストだってネオジャガーとネオベアーは脱落すると考えていただけにこれは嬉しい誤算だった。

 

「不死身のギュスターヴの名は伊達ではないな」

 

『……とんでもない、私は運が良かっただけですよ、それにその呼び名は余り好きではありません大佐』

 

不死身のギュスターヴ――LB隊に所属するオーガスト・ギュスターヴの渾名だ、DC戦争時ではゲッターロボに撃墜され、アードラー率いる偽りのDC時代はアルトアイゼンに撃墜され、エアロゲイターの侵攻の際にはスパイダーに組み付かれ自爆され撃墜され、L5戦役では量産型ドラゴンに撃墜された。それでも五体満足でしかも、戦争時にただの一度も入院する事無く戦場に立ち続けた。それ故にに不死身のギュスターヴと尊敬と畏怖を集めている。

 

「謙遜するな、生き残り続ける事はお前の腕の良さを示している」

 

『撃墜され続けた私が腕が良いなど、とてもではありませんよ』

 

『謙遜も過ぎると嫌味になりますよ。オーガスト大尉』

 

バンとギュスターヴの会話にジャレッドが加わってくる。

 

『ジャレッド少尉、しかしだな』

 

『あたしよりもガーリオンの適正が低い上に試作機で戦い続けたのですよ? オーガスト大尉は紛れも無く凄腕ですよ』

 

そう不死身の2つ名はそこから来ている。元々オーガスト・ギュスターヴという男はPT適正こそ高いが、AM適正、取り分けガーリオンタイプの適正が低く、与えられたガーリオンも重装甲の試作機ばかりで通常のAMとは全く異なるコンセプトで開発された物ばかり、それなのに戦い続けたオーガストは紛れも無くエースと呼ばれるに相応しい実力を有していた。

 

「その通りだ、少しは自信を持つといい、勿論ジャレッドもいい腕をしている……だがこれは飛行訓練だ。本番までにへばって……何事だッ!? いかんッ! 散れッ!」

 

ゲットマシンに鳴り響いた警報にバンが声を上げモニターにミサイルの雨を確認し散れと叫びミサイルを緊急回避する。

 

『クロガネからは敵機の反応なんてありませんでしたよッ!?』

 

『逆に考えろ、クロガネが感知出来ない敵――つまり百鬼帝国だッ!』

 

雲の切れ間から急降下してくる異形の戦闘機の群れ、そして数体の百鬼獣の姿が確認される。

 

『バン大佐! クロガネに帰艦しろッ!』

 

「いえ、ビアン総帥。我々は戦闘機の迎撃に出ます。エルザムとゼンガーに出撃を急がせてください! その為の時間は稼ぎますッ! ジャレッド、オーガスト続けッ! 戦闘機をクロガネに接近させるなッ!」

 

『『了解ッ!!』』

 

ビアンからの静止の声を振り切りバン達は雲の切れ間から姿を見せ続ける百鬼帝国の戦闘機へとネオゲットマシンを向かわせるのだった……。

 

 

 

 

空戦鬼のブリッジで饕餮は顎鬚を摩りながら詰まらんのうと呟いた。

 

「いかがしましたか?」

 

小さな呟きだったが、饕餮が暴れだしては困ると意識を向けていた五本鬼はその呟きを聞き取りどうかしましたか? と問いかける。

 

「うむ。ゲッターロボがおらんと詰まらんなとな、ワシは逃げる女を犯しながら痛みと快楽でおかしくなりそうになる者を食うのも好きじゃが、やはり戦いが1番好きじゃ」

 

嗜虐的な嗜好をしている饕餮の言葉に五本鬼は内心眉を顰め、喉元まで出てきた言葉を飲み込んだ。下手な事を言えば自分が食われる、それを知っているからこそだった。

 

「グルンガストとヒュッケバインでは物足りませんか?」

 

「食いでがなさそうじゃな」

 

ゲッター炉心で稼動しているグルンガスト参式、そしてヒュッケバイン・MK-Ⅲ・トロンベの動きは敵ながら感心するほどの物だった。しかしそれではまだ足りぬと饕餮は告げた。

 

「もう少し攻撃の手を激しくすれば動きも変ろう」

 

「判りました。ではそうしましょう」

 

「ほ? 良いのかの?」

 

自分の意見を聞き入れられると思っていなかった饕餮が驚いたような声を上げる。

 

「ええ、これでは私の目的も成し遂げられないですしね」

 

モニターに映し出される光景を見て五本鬼は口調とは違う激しい怒りを抱いていた。偵察やミサイルによる爆撃を主にした小型の百鬼獣はネオゲットマシンに撃墜され発信機を取り付けるという本来の目的を成し遂げられないでいる。

 

『一刀両断ッ!!!』

 

『ギギャアアッ!?』

 

翡翠色の光――ゲッター線を纏った参式斬艦刀を振るうグルンガスト参式を前に豪腕鬼、双剣鬼、龍頭鬼は突破は愚か完全に足止めされている。

 

『悪いがお前達をここから先には通さんぞ』

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・トロンベが翡翠の粒子を撒き散らしながら空を飛び、ゲッター線を撃ち出すビームライフルで百鬼獣の装甲を削り、グルンガスト参式がトドメを刺しやすい状況を作り出している。確かにクロガネの戦力は決して多くは無いが、ゲッター線を使いこなしている分を考えると少数でもその戦闘力は想像以上に高くなってくる。

 

「クロガネからゲシュペンスト・タイプSが出撃してきました」

 

「……ここで増援を出して来たと言う事は戦力の出し惜しみはなしか……」

 

ビアン達とて馬鹿ではない、五本鬼達が戦力を隠している事は把握しているだろう。それでもここで戦力を切って来た……その理由は考えればすぐに判る。

 

「戦闘反応でハガネとヒリュウ改を呼び寄せに来たか……」

 

戦闘が長時間に及べばそれだけハガネやヒリュウ改を呼び寄せる時間を稼がせる事になる。攻めるべきか、引くべきか……五本鬼は少し考え込む素振りを見せたあとに決断を下した。

 

「饕餮様、そろそろ出撃していただいてもよろしいでしょうか?」

 

「ワシの敵がおらんのにか?」

 

不満そうな視線を向けてくる饕餮、ここで言葉を間違えれば饕餮の爪は即座に五本鬼に伸びる。だからこそ五本鬼は慎重に言葉を選び、ゆっくりと口を開いた。

 

「共行王様が出し抜かれた相手が出てくるとしてもですか?」

 

「……ほう?」

 

五本鬼の言葉に饕餮の言葉に興味の色が浮かんだ。共行王は超機人の区分では饕餮よりも上になる、だからこそ共行王が出し抜かれた相手が出て来ると聞けば饕餮は興味を抱くと五本鬼は確信していた。

 

「重力反応が検知されているのです。もう少しクロガネを追詰めれば……」

 

「重力の魔神が出て来ると……ふぇふぇふぇ。良かろう、お前の甘言に乗ってやるかの」

 

普通の気の良い老人のように笑った饕餮に五本鬼は内心安堵したが、その影から伸びて来た異形の手の爪が喉元に突きつけられ引き攣った悲鳴を上げた。

 

「重力の魔神もゲッターロボも出なければどうなるか判っているであろうな?」

 

「……承知しております」

 

「ならば良い。では参るかの」

 

影の中に溶けるように消えていく饕餮を五本鬼は忌々しそうに見送り、ブリッジにいる鬼に更なる指示を飛ばす。

 

「百鬼獣を全て出せ、それに紛れて獣蜥鬼を出撃させろ。クロガネに発信機を取り付けさせるのだ」

 

「了解です。しかし獣蜥鬼は……」

 

「判っている、獣蜥鬼は非常に高価な百鬼獣だ。撃墜されないうちに回収する、発信機の取り付けに失敗したら即時回収だ」

 

カメレオンの能力を持つステルス性能の高い獣蜥鬼はその奇襲性の高さに比例するように製造コストの高い百鬼獣だ。今まで破壊された数も相まって容易に捨て駒に出来る百鬼獣ではない、発信機の取り付けに失敗したら帰艦させろと追加で命令を下し、五本鬼は空中を歩きクロガネの前に立つ饕餮にその視線を向けるのだった……。

 

 

 

それは異様な光景だった……空中に黒い道が浮かび悠然と歩いてくる老人の姿をした何かを前にして、流石のビアンも言葉を失った。

 

『ふぇふぇふぇふぇ、初めましてじゃなあ。んん? ビアン・ゾルダーク』

 

ミサイルの爆風やクロガネの対空砲座が火を噴く中、老人……饕餮はなんでもないかのように空中に佇み、ブリッジにその視線を向けていた。

 

『なんじゃなんじゃ、声を掛けておるのに無視をするのか? 随分と失礼な奴じゃな』

 

「……失礼した。ビアン・ゾルダークだ、お前は何者……いや、なんだ?」

 

者ではなくなんだと問いかけられ、饕餮は満面の笑みを浮かべた。だがその口を開く前に百鬼獣がクロガネに向かい咆哮を上げた……いや、上げてしまった。その直後首が後を向き、咆哮を上げた百鬼獣に向かって伸びた。

 

『やかましいぞ、折角人が楽しかったと言うのに』

 

『ギギャアア!? ゴギャアアアッ!?』

 

ごきり、めきりと老人の口から聞こえるとは思えない咀嚼音が響き、百鬼獣が貪り食われる。

 

「な、なんなんですか……あれはッ」

 

「化け物としか言い様が無いな、こうなると他の機体を出撃させなかったのは英断に思えてくる」

 

百鬼獣が相手だからLB隊、トロイエ隊、そしてカリオン改を出撃させなかった。だが目の前の異様な光景を見ればその選択が正しいものだったと言うのは誰の目から見ても明らかだった。

 

『な、なんておぞましい』

 

『ジャレッド少尉! 機首をあげろッ!!』

 

『え、あ、くうっ!?』

 

オーガストの警告で機首を上げたネオジャガー号の下を饕餮の影から伸びた腕が通り過ぎる。続けて伸ばそうとした饕餮にネオイーグルのバルカンとミサイルが当たるが全て影から伸びる腕に弾かれる。

 

「分離形態では話にならんッ! 1度逃れるぞッ!」

 

ゲットマシンでは攻撃力が足りないとバンは苛ただしげに叫び、1度急上昇し饕餮の攻撃範囲から逃れる。

 

『ひゃひゃひゃ、逃げられたか。まぁどの道あんなのを喰らっても腹の足しにはならんかの……さてと、では改めてワシは四狂の超機人饕餮鬼じゃ』

 

影から伸びた異形の腕を自身の影の中に戻し、百鬼獣を貪り食った饕餮は白目と黒目を反転させ笑いながらそう告げた。

 

「超機人? お前は人……には見えんな。何がしたい?」

 

『ふぇふぇふぇふぇッ! 知れた事よ! ワシは喰らう、喰らって喰らって、犯して喰うッ! それがワシよッ!!! ワシのこの食欲を抑えるには百鬼帝国に組する方が良い、それだけよッ!!! カカカカカッ! 進化の光、鋼鉄の箱舟……ああ、美味そうじゃ、美味そうじゃなぁぁああああああッ!!!!』

 

急にテンションが振り切った饕餮の身体はメキメキと嫌な音を立てて巨大化し、その肌がビアン達の見ている前で硬質化し、金属の光沢を帯び始める。

 

「面妖なッ!」

 

「見た目通りの化け物という事か、気を引き締めろゼンガー。こいつはR-SWORDを一撃で行動不能に追い込んだ化け物だ」

 

「間合いを見誤るなよ、ゼンガー、エルザム、こいつの瞬発力は異常だ。油断すれば私達も喰われるぞ」

 

人間が50Mを越える異形の特機へと変貌する姿にゼンガーは面妖なと口にし、エルザムはその異形の特徴がイングラムとアクセルの戦いに乱入し、R-SWORDを一撃で大破させ、その上でソウルゲインを抱え上げて逃亡した機体だと悟り、カーウァイは目の前の饕餮がインベーダー、アインストに匹敵する脅威だと確信した。

 

『ゲヒャヒャヒャヒャッ!! ああ、腹が空いた、飯だ飯を食うぞッ!!! まずは貴様だああああッ!!!!』

 

雄叫びを上げ百鬼獣に跳びかかった饕餮鬼は大口を開け、龍頭鬼の頭から胴体までを1口で噛み千切った。オイルを鮮血の様に噴出しながら龍頭鬼は数回痙攣すると爆発炎上する。その爆発によって生まれた炎を背中に背負い饕餮鬼はその口から噛み千切った龍頭鬼の腕をペッと吐き出し、グルンガスト参式とヒュッケバイン・MK-Ⅲ・トロンベ、ゲシュペンスト・タイプSを嘗め回すように見つめ涎を垂らす。

 

『喰らってやる、喰ろうてやるぞ。ひゃひゃひゃひゃッ!! 進化の光はどんな味かのうッ!! 楽しみで仕方ないわいッ!!!』

 

海面が爆発したような音を響かせながら飛び掛ってくる饕餮の巨体が太陽を覆い隠し、その両腕をカーウァイ達に伸ばしながら襲い掛かってくるのだった……。

 

 

 

 

127話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その2へ続く

 

 

 




今回のシナリオは雑魚敵を数体倒すとイベント進行という感じのイメージで書いてみました。乗り換えとか合体とか味方の登場とか、そういうイベントに繋がる奴ですね。さてさて、この定番シナリオでどのイベントが起きるのかを楽しみにしていてください、少なくともネオは出ます。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第127話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その2

第127話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その2

 

グルンガスト参式、ゲシュペンスト・タイプS、ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・トロンベの前に立ち塞がる異形の特機――超機人饕餮王。

 

【フェフェフェフェ、さぁさ、より取り見取り……どれから喰らってやろうかのう……】

 

その腕で涎を拭う素振りを見せる饕餮王。獣の身体に人の頭部、そして口から見える鋭い牙は虎などの肉食獣を連想させる。

 

「かなり厄介な相手だな」

 

こうして向かい合っているだけで凄まじい威圧感をカーウァイは感じていた。3人で相手をし、やっと互角と感じるほどの威圧感と存在感――超機人の脅威というのを向かい合っているだけでひしひしと感じる。

 

(幸い百鬼獣はあの化け物が喰らったから敵は減っているが……先ほどの能力を見るかぎりでは安心は出来んな)

 

影から異形の手足を伸ばす能力、人の姿でも使えたのだから超機人の姿で使えない訳がない。見た目からして重装甲の高火力型、それに加えて奇襲性の高い影を操る能力――3対1だったとしても安心出来る要素はどこにもなかった。

 

【まずは挨拶代わり、この程度で死んでくれるなよッ!! 生きているのを喰らわねば美味くないからのうッ!! かぁッ!!!】

 

頭部を下げたと思った瞬間にその目玉から放たれた光線をゲシュペンスト・タイプSとヒュッケバイン・MK-Ⅲ・トロンベは左右に分かれることで回避し、機動力に劣るグルンガスト参式・タイプGは斬艦刀を盾にし、その光線を受け止める。

 

『ぬうっ!?』

 

完全に防いだにも関わらず後方に押し込まれた。その破壊力にゼンガーが思わず呻き声を上げた……いや、破壊力だけではない、何とも言えない倦怠感が襲い掛かって来たのだ。

 

『なんだ…なんだこれはッ』

 

【フェフェフェフェ、美味い魂じゃのう…ああ、美味い美味い。カカカカカカカカッ!!!】

 

舌で顔を舐めまわし、美味い美味いと笑う饕餮王の姿にゼンガー達は今の攻撃に付与されていた何かを感じ取った。

 

『精神力を喰ったというのか!?』

 

『超機人にはそんな能力まであると言うのか……ッ』

 

攻撃と共に精神力を、気力を喰らう。下手に攻撃を受けよう物ならば気付かぬうちに精神力が削られ操縦ミスを引き起こし、間合いを計り損ねる。

 

「ちっ、厄介な」

 

直接的な火力だけではない、間接的な攻撃でさえも饕餮王の攻撃は脅威だった。

 

【ひゃひゃひゃひゃ。美味い、美味いのう……これほど良質な魂は久しぶりじゃなあ……ッ!! ヒャヒャヒャヒャヒャッ!! そらそら、もっと食わせいッ!!】

 

喉元が膨れ上がり、大きく開かれた口から無数の顔に手足が生えた様な異形が吐き出された。

 

【まずは英気を養うとしようかのう、ゆけいッ!!!】

 

【【【【ゴガアアアアーッ!!!】】】】

 

耳障りな呻き声を上げながらPTの半分ほどの大きさの球体が空中を転がるようにカーウァイ達へと迫る。

 

「インベーダーやアインストと良い勝負だな!」

 

ビームライフルによる迎撃を試みるカーウァイとエルザムの2人だが、球体状の化け物――妖機人は穴が空こうがお構いなしにゲシュペンスト・タイプSとヒュッケバイン・MK-Ⅲ・トロンベへと迫る。

 

『カーウァイ大佐! エルザムッ!!』

 

【どこを見ておるかッ! それともワシに喰われてくれるのかッ!】

 

不気味な化け物がカーウァイとエルザムに迫るのを見てゼンガーが思わずその名を叫ぶ。その隙を饕餮王が見逃すわけが無く、肥大化させた拳でグルンガスト参式・タイプGに殴り掛かる。

 

『ぐっ! 邪魔をするなッ!!』

 

【ヒャヒャヒャヒャッ!! 他人を気遣ってる余裕などお主にあるのかッ!】

 

『ぐあッ!?』

 

剣という特性上振り切る間合い、速度が必要になるグルンガスト参式・タイプGに対し、饕餮王の武器はその拳と牙だ。間合いを完全に詰められ、思うように攻撃が出来ないグルンガスト参式・タイプGに饕餮王がその口を大きく開き噛み砕こうとする。

 

『ゼンガー! 何をしているッ! 目の前の敵に集中しろッ!!』

 

急降下して来たネオイーグルの放ったミサイルが饕餮王で炸裂し、グルンガスト参式・タイプGと饕餮王の間合いを引き離す。

 

【かぁーッ! 不味いッ!! こんなものを喰わせおってッ!!】

 

『舐めるなよッ! その程度の攻撃で私を捉えれると思うなッ!!』

 

反撃に繰り出された目からの光線をバンが操るネオイーグルはバレルロールを駆使して回避し、再び急上昇し雲の中へとその姿を隠す。

 

「私達の事は良いッ! 目の前の敵に専念しろ、ゼンガーッ! グランスラッシュリッパーセット、GOッ!!!」

 

『狙いは外さん、行けッ! ファングスラッシャーッ!!』

 

ゲシュペンスト・タイプSが回転しながら投げ付けたグランスラッシュリッパーは高速回転しながら妖機人の下を通過する。その光景を見て饕餮王は高笑いを浮かべる。

 

【どこを狙っておるのじゃ、あんな的にも当てられんのか?】

 

「いいや、計算通りだ」

 

背後を取ったグランスラッシュリッパーはゲシュペンスト・タイプSに向かって戻ってくる勢いで妖機人を切り裂き両断する。

 

『見た目で足を止めるほど、私も若くないのでな』

 

ファングスラッシャーで切り裂かれ動きを止めた妖機人に至近距離からビームライフルを打ち込み、エルザムも妖機人を撃墜する。

 

【ひゃひゃひゃひゃひゃッ! やれ嬉しや、良くぞ撃墜してくれたわ】

 

「なんだ、何を……うっ!?」

 

『なんだ、この声は……ッ!?』

 

饕餮王の笑い声と同時にカーウァイとエルザムの耳に言葉として認識出来ない不気味な音が響き、それと同時に凄まじい倦怠感が2人を襲った。

 

『貴様何をしたッ!?』

 

【ヒャヒャヒャッ! 喰らったのよッ!! フェフェフェフェッ!! ワシの攻撃は全てお前達の魂を喰らう! 戦えば戦うほどに、近づけば近づくほどにお前達の魂はワシの餌となるのよッ! それ、この通りなッ!!】

 

饕餮王が口を開けると空中に漂っていた妖機人の残骸が動き出し饕餮王の口の中に飛び込む。残骸が饕餮王の口の中に飛び込めば飛び込むほどにカーウァイ達を襲う倦怠感は強くなり、それに反比例するように饕餮王の身体は巨大化し、角が寄り大きく捻れ、その拳に金色の手甲と鋭い鉤爪が現れる。

 

【ヒャヒャヒャッ!! ワシは戦えば戦うほどに、喰らえば食らうほどに強くなるッ! 暴虐の超機人饕餮王なりッ!!!】

 

現れたときよりも巨大化し、そして威圧感を増した饕餮王が勝ち誇ったように叫び、カーウァイ達は背中に流れる冷たい汗に顔をゆがめるのだった……。

 

 

 

 

空中を旋回しながらバンは目の前の化け物――饕餮王を見てその顔を歪めていた。

 

「なんと言う化け物だ……ッ」

 

カーウァイ、ゼンガー、エルザムは紛れもなくエースパイロットであり、その機体もゲッター合金、ゲッター炉心で強化され、ゲッターD2を除けば新西暦では紛れも無く最強の機体だ。それらを相手にしても饕餮王には余裕の色、もっと言えば遊ぶ余力があった。

 

【そらそらそらッ! どうしたどうしたッ!】

 

現れた時とは異なり、金色の鎧を纏っているように見える饕餮王は影と咆哮を駆使し、カーウァイ達を追い詰めていた。純粋な実力の高さに加え、精神力を削り取る饕餮王の攻撃は極めて厄介な間接攻撃だった。

 

(何か、突破する為の…いや、状況を変えるだけの一手が必要だ)

 

それが出来るとすれば……1つしかない。バンは覚悟を決め、通信機のスイッチをONにした。

 

「ビアン総帥。ゲッターチェンジのロックの解除を願います」

 

『バン大佐、何を言っているのか判っているのか!? ぶっつけ本番のゲッターチェンジなど自殺行為だぞッ!』

 

バン、ジャレッド、オーガストの3人はゲッターチェンジを行なう為の飛行訓練の最中だった。戦闘中でのゲッターチェンジとなればリスクが余りにも高すぎる。

 

「超機人は機械であり生物であると聞いています。それならばネオゲッター1のプラズマサンダーが効果を発揮すると愚考しました」

 

『いや、確かにそうだが……しかし……』

 

「ビアン総帥、迷っている時間はありません。ロックの解除を」

 

饕餮王の攻撃は激しく、流れを変えなければカーウァイ達は愚か、クロガネも轟沈する可能性がある。悩んでいる時間はないとバンに告げられ、ビアンは苦虫を噛み潰した表情を浮かべた。

 

『……死ぬな。絶対に成功させろ』

 

「了解です。聞いていたな、ジャレッド、オーガストやるぞ」

 

『『了解ッ!!!』』

 

2人の返事を聞きバンは操縦桿を強く握り締め、ペダルに足を乗せた。

 

「行くぞッ!! ゲッタァアアアチェンジッ!!!」

 

ネオイーグルが機首を下にし急降下する。その後を追ってネオジャガー、ネオベアー号も加速しながら急降下する。

 

『ぐっ、ぐぐうううッ!!!』

 

『行くぞッ! ジャレッド少尉ッ!』

 

『りょ、了解ッ!!! うあッ!?』

 

ネオジャガー号にネオベアー号が追突もかくやという勢いでぶつかり、一瞬で胸部と脚部にへと変形し、更に加速し先行しているネオイーグル号へと突き進む。

 

「お、おおおおおおッ!!! チェンジゲッタァアアワンッ!!!」

 

凄まじい追突の衝撃に負けないように叫びながらバンはレバーを引きネオイーグルを合体モードへと変形させる。頭部の三本角、口元から伸びるゲッタードラゴンの物に酷似した口髭のようなパーツ、ゲッター1・ゲッタードラゴンとは違う深い青色の装甲と黒と赤を基調とした脚部パーツ。今ここにアメリカの大地で眠り続けていた旧西暦の遺産――ネオゲッターロボが新西暦にその姿を現した。

 

「チェーンナックルッ!!!」

 

背部のブースターで軟着陸しながらチェーンで繋がれた手首の先を射出し、グルンガスト参式・タイプGにその拳を叩きつけようとしていた饕餮王の腕に巻きつかせ、腰を落しその動きを止める。

 

【なんじゃ、ガラクタか】

 

「ガラクタか、どうかその身で味わってみるかッ! ショルダーミサイルッ!!!」

 

肩から放たれたミサイルの雨が饕餮王に襲い掛かる。だがゲッター炉心を搭載しておらず、ゲッター合金の弾頭でもないただのミサイルでは饕餮王にはダメージにはならない。

 

【ふん、ガラクタはガラクタか。さっさとうぎいッ!?】

 

ネオゲッター1を引き寄せようと饕餮王が鎖を掴んだタイミングでバンは操縦桿のボタンを押し込んだ。ネオゲッター1の動力であるプラズマボムスの超高圧電流が鎖を伝って饕餮王へと襲い掛かる。

 

「ガラクタガラクタとうるさいぞ! この化け物がッ!!」

 

【ぐぎい……己、面倒な事をッ】

 

電流を流された饕餮王は身体をビクンと竦ませ、その動きが一瞬鈍くなった。その隙にチェーンナックルを回収しネオゲッター1はそのまま後退し体勢を立て直した。

 

「やはり思った通りだ、電気は効果がある。カーウァイ大佐、エルザム! 少し時間を稼いでくれッ!」

 

『何をするつもりかは判らんが、任された』

 

『少しと言わず十分な時間を稼いで見せようッ!』

 

ゲシュペンスト・タイプSとヒュッケバイン・MK-Ⅲ・トロンベが高速で動き出す。先ほどまでは饕餮王の方が素早く防戦一方だったが、感電し動きが鈍くなっている饕餮王では2機を追う事が出来なかった。

 

『斬艦刀、疾風怒涛ッ!!!』

 

【かぁぁああッ!! 舐めるなあッ!!!】

 

斬艦刀と饕餮王の爪がぶつかり火花を散らす。均衡状態から徐々に徐々に斬艦刀が饕餮王へと迫っていく、刀身に満ちるゲッター線の輝きを見て饕餮王の顔に焦りの色が浮かんだ。

 

【ぬあああああッ!!!】

 

『おおおおおッ!!』

 

ゼンガーと饕餮王の雄叫びが重なり、互いに押し切ろうと力を込める。

 

『あわせろエルザムッ!』

 

『了解しました!大佐ッ!!』

 

参式斬艦刀の峰にゲシュペンスト・タイプSとヒュッケバイン・MK-Ⅲ・トロンベの手にしたライフルの銃弾がピンポイントで撃ちこまれ、その速度と威力によって参式斬艦刀が勢いを増し饕餮王へと迫る。

 

「ネオイーグルにエネルギーを回せッ! この好機で決めるッ!!」

 

ネオジャガー、ネオベアーの動力がネオイーグルに回される。出力がブルーゾーンを越えたのを確認し、バンは操縦桿のボタンを押しながらレバーを引いた。

 

「プラズマッ!!」

 

胸の前で手を合わせたネオゲッター1は両腕を左右に広げる。手の平から放出されたエネルギーが放電を繰り返し、巨大な雷の槍を作り出す。

 

「サンダ――ァァァアアアアアアッ!!!」

 

頭上に掲げたそれをバンの雄叫びと共にネオゲッター1は饕餮王へと投げ付ける。

 

【ギ、ギギャアアアアアアッ!!!】

 

雷が発生したかと見間違えんばかりの光が饕餮王を貫き、目と口から体内に侵入した雷を吐き出しながら饕餮王は苦しみの叫び声を上げた。

 

『チェストオオオオオッ!!!!』

 

その好機を見逃さんとゼンガーの雄叫びが海上に木霊し、参式斬艦刀の一閃が饕餮王を肩から腰に掛けて袈裟切りに両断する。

 

【ギギャアアアアーーッ!!!】

 

断末魔の雄叫びを上げ海溝に沈んでいく饕餮王の姿を見て、誰もが安堵の溜め息を吐いた。

 

『我が斬艦刀に、断てぬもの無しッ!』

 

その会心の手応えにゼンガーも勝利を確信し、そう勝ち名乗りを上げた。だがこの場にいないはずの第3者の声が突如木霊した。

 

『安心するにはまだ早いですよ。化け物は頭を断たなければ死にません、ワームスマッシャー、発射ッ!!!』

 

海から飛び出してきた妖機人を虚空に開いた穴から飛び出した光線が貫き爆発させる。

 

【フェフェフェフェ、猿芝居には引っかかってくれんか】

 

海溝から泳いで姿を現した饕餮王の姿に目立った外傷は無く、ゼンガー達の見ている前で装甲が盛り上がるようにして再生する。

 

【良い眠気覚ましになったわ、フェフェフェフェッ!!】

 

大口を開けて笑う饕餮王の姿は完全な物へと戻っており、斬艦刀の一撃も、プラズマサンダーの一撃も全く効果がない。今の優勢すら演出されたものだと判り、ゼンガー達はその顔色を変える。世界を手にする力を与えると言う超機人――その伝承に何の偽りも無かったのだと思い知らされてしまったのだった……。

 

 

 

 

グランゾンの登場に五本鬼は安堵の溜め息を吐いていた。グランゾンが出現すると言う事で饕餮を焚き付けたので、グランゾンが現れてくれなければ困った事になっていたのだ。

 

【フェフェフェフェ、重力の魔神か、ほっほっほ。これは良い、獲物から来てくれたわい】

 

『ほう? 私とグランゾンを誘き寄せたと?』

 

【ハッハハッ! その通りよ。確かにゲッター線、そして稲妻はワシにとって相性の良いものでは無いが……きひゃひゃひゃッ! まだまだ余力は残しておるわいッ!!】

 

異様な音を立てて身体を巨大化させる饕餮を見て五本鬼は通信を繋げろと命令を下す。

 

「饕餮様。この場で真の姿を使われるのは出来れば止めていただきたい」

 

【ひゃひゃひゃひゃ、お断りじゃ。それに……ひゃひゃひゃひゃッ!! 敵はあれだけではないからのう】

 

敵はあれだけではないと言う饕餮の言葉のすぐ後にブリッジに警報が鳴り響いた。

 

「チッ、思ったよりも早い。クロガネに発信機は取り付けたか!」

 

「はい! 今回収作業に入ります」

 

貴重な百鬼獣を失わずに済んだと安堵する事は五本鬼には出来なかった。サイバスターとヴァルシオーネを先頭にこの海域に侵入して来たヒリュウ改――確かに一騎当千の力を持つ饕餮王だが、敵の数が余りにも多い。

 

「百鬼獣を可能な限り出撃させろ。饕餮様に本気を出させるな」

 

「了解です」

 

今の姿なら幾ら暴れてくれても良い、だが本気の姿は駄目だ…それだけは何をしても許してはならない。五本鬼は焦った様子で指示を出したのだが……それは余りにも遅すぎた。いや、遅い、速いではないのだ。それは運命と言っても良かった、ヒリュウ改から出撃した龍虎皇鬼に似た巨人――それを見た瞬間楽しげに笑っていた饕餮王の気配が変った。

 

「饕餮様!? 何をするつもりですか」

 

【黙っておれ、喰われたいのか? 死にたくなければこの場から失せよ】

 

普段と余りに違うその雰囲気、そして口調に五本鬼は恐怖し、そしてその理由を悟った。

 

「超機人ッ!?」

 

アーチボルドが回収にしくじり、連邦に渡ったと言う超機人――それがあの龍虎皇鬼に似た特機なのだと悟った。

 

【その通り、ああ、見つけた見つけたぞ。我が怨敵――その姿を見て黙っておられるものかッ! その首、この場で刈り取ってくれるわ!死にたくなければ目の前から失せろッ!】

 

完全に興奮状態に陥っている、この状態では下手に近づけば自分達も狙われる。

 

「この空域から離脱する。巻き込まれるぞ」

 

引き攣った声で返事を返す事もできない部下、それもそのはず五本鬼達の目の前で海が逆巻き、漆黒の雷鳴が鳴り響き、凄まじい殺意と怒気を放つ饕餮王の姿があった。アースクレイドルでも好き勝手やっていたが、それとは比べ物にならない存在感とプレッシャー。龍虎王を目の前にし、本来の饕餮王の性格が、人格が、表へと現れてしまっていたのだった……。

 

 

 

【やかましいぞ、童共ッ】

 

グランゾンとクロガネ、そしてグルンガスト参式・タイプG、ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・トロンベ、そしてゲシュペンスト・タイプSを見て因縁や歓喜、怒りなどが込められた言葉が交される中。突如告げられた怒りを込めた言葉、そしてそれと同時に凄まじい雷鳴が鳴り響き、海中に佇む異形の化け物から放たれる威圧感とプレッシャーが段違いに高まった事にキョウスケ達は息を呑んだ。

 

「なんだ、あの化け物は百鬼獣なのか……」

 

『いや、そんな感じじゃないと思うけど……凄い嫌な予感がするわよ』

 

敵は饕餮王1体と数体の百鬼獣だけ……数の利は完全にキョウスケ達にあった。だが…まるで肉食獣の檻の中に閉じ込められたような、言いようの無い圧迫感をキョウスケ達は感じていた。

 

『うう、気持ち悪い……』

 

『こいつはやべえ……桁違いの化けもんだッ!』

 

『頭が……痛い』

 

リョウト、タスク、リオの3人が苦しそうに呻き、ブリットとクスハの2人は龍虎王から激しい怒りを感じ取った。

 

『何を、何を怒っているの、龍虎王』

 

『なんだ……どうしたんだッ!』

 

ブリットとクスハの問いかけに龍虎王は答えず、翼を広げ凄まじい咆哮を上げた。

 

『な、なんだよ!? ブリット、クスハ大丈夫なのか!?』

 

『暴走したとでも言うのか!?大丈夫なのか!?』

 

明らかに尋常じゃない様子の龍虎王の様子にカチーナ達がブリットとクスハの身を案じて声を掛ける。

 

【フェフェフェフェ、判るか、ワシが判るか龍虎王ッ!!!】

 

『『――ッ!!!!』』

 

饕餮王と龍虎王の咆哮が重なり、海を割る凄まじい衝撃が巻き起こる。

 

『ぐうっ!?』

 

『こいつは不味いぜ、シュウ! てめえ、何をしやがった!こんな化け物を作り出しやがってッ!』

 

『やれやれ…マサキ、何でもかんでも私のせいにしないでください。これに関しては私は何の関係もありませんよ。私はクロガネとビアン博士を助けに来ただけなのですからね』

 

 

マサキは目の前の化け物がシュウが召喚したデモンゴーレムの新種だと思い声を荒げるが、シュウはそんなマサキの言葉を聞き流し、目の前で変貌しようとしている饕餮王にその視線を向けた。

 

【我が名は饕餮王、四凶の超機人饕餮王なり】

 

「超機人だとッ!?」

 

『ちょいちょい、冗談きつくない? パイロットさん』

 

超機人と名乗った饕餮王。だが余りにも龍虎王と程遠い生物的な姿にヒリュウ改の面子は困惑を隠せなかった。

 

『いや、超機人である事は間違いない。こいつは魂を喰らう』

 

『私達も何度も意識を失いかけている』

 

ゼンガーとエルザムの超機人である事は間違いないと断言され、ブリット達の脳裏を過ぎったのは何故という言葉だった。

 

『待ってください、貴方が超機人というのならば何故鬼に協力しているのですか!』

 

『超機人とは人界の守護者である筈だ!』

 

龍虎王と同じ超機人ならばその性質は人を、地球を守る者の筈。それなのに何故と問いかけられた饕餮王は声を上げて笑った、馬鹿にするように、この場にいる全員を見下すように。

 

【ヒャヒャヒャヒャッ!!!!! 我は四凶ぞ。誰が人間を、地球なんぞを守るかッ!!! ヒャハハハハハッ! ワシは喰らう、生きてる者も死体も、機械も何かも喰らう! 我が飢えを満たし、そして復讐を成し遂げる為に鬼に協力しておるのよッ!!!】

 

底抜けの悪意を叩き付けられたキョウスケ達は、自分達の手足に重りをつけられたような重圧を感じていた。

 

【嬉しや、嬉しや、強念者がひーふーみ……ヒャヒャヒャヒャ、しかも生娘と来た。ああ、美味そうだ…美味そうじゃなぁッ!! ヒャヒャヒャ、その機人から引きずり出し犯しながら喰らってやろうぞ、ヒャヒャヒャヒャヒャッ!!!】

 

クスハ、リオの2人を指差し、舌なめずりしながら叫ぶ饕餮王。その姿に生理的な嫌悪感を抱き、女性陣は顔を歪める。

 

『とんだゲス野郎だ…こんなのが超機人とか、文献も当てにならねえな』

 

『ホントね。りゅーこちゃんの方が可愛げがあるわ』

 

【ヒャヒャヒャヒャ、生娘であろうがなかろうが女は犯して喰うのが1番美味いのよ、ヒャヒャヒャヒャ!! 痛みと快楽でおかしくなり、発狂するその顔を想像するだけで涎が込み上げてくるわッ!】

 

コックピットの呟きも饕餮王には聞こえているのか、身体を揺すり大声で嗤う。ぶよぶよと揺れる肉と、女を何とも思ってない様子の言葉にエクセレン達の額に青筋が浮かんだ。

 

『落ち着け、安い挑発に乗るな』

 

広域通信で告げられた言葉に動き出そうとしていたエクセレン達がその足を止めた。

 

『あら、随分とダンディな声ね、どちらさま?』

 

『カーウァイ、カーウァイ・ラウだ』

 

ゲシュペンスト・タイプSから告げられたパイロットの名前――武蔵から聞かされていたが、元教導隊の隊長であるカーウァイの言葉には不思議な響きがあった。

 

『大佐』

 

『話は後だ、ギリアム。今は目の前の敵に専念しろ。こいつは醜悪な分身を作り出す、下手に攻め込めば精神を喰われるぞ』

 

妖機人を吐き出す能力を何度も見ているカーウァイは気をつけろと警戒を促すと、饕餮王の舌が恐ろしい速度で伸び、百鬼獣の胴体を貫き、そのまま舌を口の中に戻す動きで引き寄せると、大口を開けて百鬼獣を胴体から噛み千切った。鮮血のように飛び散るオイルと痙攣する百鬼獣の手足――目の前の光景に何人かが吐き気を催した。

 

『うっ』

 

『マジか……』

 

装甲を噛み砕く咀嚼音が響く…百鬼獣を喰らう饕餮王。その姿は無防備その物だが誰も動けなかった…肉食獣その物の饕餮王の姿に今攻撃すれば自分達が喰われる光景がこの場にいる全員の脳裏を過ぎった。

 

【ヒャヒャヒャヒャ、腹も満たした。見せてやろうぞ、龍虎王! ワシの真の姿をなァッ!!】

 

饕餮王の咆哮と共に赤黒い念動力が放たれ、広域のバリアのようになり饕餮王の身体を覆い隠す。

 

【邪竜帝降臨ッ! 降魔必滅ッ!!!】

 

饕餮王の頭部がスライドし、胸部へと移動する。そして胴体から捻れた山羊の角を持つ人型の頭部が姿を見せる。背部の装甲が横に移動し、肩と腕部に装着され、手の平が開き、そこから新しい握り拳が現れる。猫背だったその姿は何時の間にか直立に変わり、曲げられていた膝も一直線に伸び更に巨大化したように見える。

 

【ヒャヒャヒャヒャッ! 我が真名は饕餮鬼皇ッ!! 喰らってやる、喰らってやるぞ龍虎王! お前の操者ごと喰らいバラルへの報復の狼煙としてくれるわぁッ!!!】

 

その手に現れた長槍を振るいながら名乗りを上げる饕餮鬼皇。百鬼帝国によって魔神の姿を得た暴虐の超機人がその姿を露にするのだった……。

 

 

128話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その3へ続く

 

 

 




饕餮王は絶対変形する。第二次OGをやっているときにずっとそう思ってた、だけど変形しなかった。なら小説で変形させるしかないな!となり私の趣味で変形して貰いました。デバフを撒きつつ、HP回復と気力吸収でゴリ押ししてくるとか言う化け物ボスの誕生です。

次回は全話戦闘で書いていくので次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第128話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その3

第128話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その3

 

凄まじい嵐の中に佇むくすんだ赤と金色の鎧を身に纏い、胸部に老人の顔を持つ異形の巨人――饕餮鬼皇は手にした槍を構え全くの自然体なのだが、誰も動く事が出来なかった。圧倒的な威圧感と存在感、そして言葉に出来ない強烈なプレッシャーにキョウスケ達だけではなく、ゼンガー達でさえも飲み込まれていた。ただ1人この場で動く事が出来たのは旧西暦で真ドラゴンという規格外の化け物と戦い、未来ではアインストとインベーダーを戦い続けてきたカーウァイただ1人だった。

 

『フルパワーだ、喰らえ化け物ッ!!!』

 

フルパワーのブラスターキャノンの翡翠色の輝きを帯びた熱線が饕餮鬼皇へと向かう。それは戦艦の主砲……いやゲッタービームと同格の凄まじい破壊力を秘めた一撃だったが、饕餮鬼皇は手にした槍で簡単にそれを弾き飛ばす。

 

【温い、その程度でワシを倒せると思うか? ひゃひゃひゃひゃッ!! 未熟未熟ッ!!!!】

 

高笑いを浮かべる饕餮鬼皇にカーウァイはコックピットで冷や汗を流した。倒せない事は判っていたが手傷すら与えられないと言うのは想定外だった。

 

『馬鹿な……今の一撃ですら効かないと言うのか……』

 

『なんと言う力だ……』

 

『……化け物が』

 

不味い事にブラスターキャノンの威力が凄まじかっただけに、何をしても駄目なのでは? という嫌な雰囲気が広がっていく、そしてそれを感じ取った饕餮鬼皇は更に楽しげな笑い声を上げる。

 

【ヒャヒャヒャヒャッ! さてさてさて、流石にワシ1人ではお前達のような雑魚相手でも群れられると厄介じゃな、ゆえに……お前達の相手をくれてやろうぞ】

 

饕餮鬼皇が槍を海に付き立て、何事か呟くと海水と岩が盛り上がり、それが小型化された饕餮王の姿となる。しかしそれだけに留まらず分身の饕餮王の口から吐き出された球体の姿をした妖機人が上空を埋め尽くさんばかりにその姿を見せる。

 

『『『ヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!!』』』

 

【ヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!!!】

 

分身の饕餮王と饕餮鬼皇の笑い声が重なる。精神を削る不協和音にキョウスケ達は勿論ヒリュウ改とクロガネ改のブリッジクルーでさえもその顔を不快そうに歪めた。

 

【さてと始めようかのう、龍虎王。その首……ワシが貰い受けるッ!!!】

 

饕餮鬼皇の嘲笑が止むと同時に分身は一斉に海面を蹴り凄まじい勢いでキョウスケ達へと迫り、饕餮鬼皇は槍を構えながら悠然としかし凄まじい闘志と殺意を放ちながら分身とは打って変わり緩やかに、しかし全く隙を見せない素振りで龍虎王へと歩みを進める。

 

『ブリット君! クスハちゃんッ! きゃっ!?』

 

『エクセレンッ! 今は目の前に集中しろッ! クスハ、ブリット! 無理をするなよッ!』

 

『『ヒャヒャヒャヒャヒャッ!!!』』

 

『こっちにきやがったッ! ラッセル! 支援だッ!』

 

『待てッ! ゼンガー! そっちは任せるッ!』

 

『任されたッ! リョウト! リオッ! 無理に突っ込むなッ! 俺が行くまで待てッ!!』

 

『ギリアム、合わせろ。こいつらを自由にさせてはならない』

 

『了解です。とにかく今はこの群れを突破しなければッ』

 

饕餮王、そして妖機人の群れにキョウスケ達は分断され状況は最悪と言ってもいい、だが諦めている者は誰もいない。これはある意味前哨戦なのだ、これから地球に降りかかるであろう数多の害悪――その1つにくじける者はこの場には誰一人として存在しなかった。

 

「ユン伍長! 伊豆基地への救援要請は!」

 

「ハガネとシロガネが伊豆基地を出ました! 10分……いや、6分で合流してくれる筈です!」

 

「各員に告げます! ハガネとシロガネが今この戦闘区域に向かっています! 6分間耐えて抜いてくださいッ! くっ! どこに被弾しましたか!」

 

「左舷67装甲板です! 飛行には問題ありませんッ!」

 

「全砲塔を開いてください! 可能な限りの支援を行ってください! 繰り返します、6分間なんとしても耐えて……きゃあっ!」

 

『クロガネを前に出せ! ヒリュウ改を援護する! ヴァルキリオンも全機出撃ッ! なんとしても耐え抜くぞッ!!』

 

永遠とも思える6分間を耐えてみせると皆が気勢を燃やし饕餮鬼皇の軍勢との戦いに身を投じるのだった……。

 

 

 

 

空中を飛び交う無数の顔が繋ぎ合わされたような球体のような姿がサイバスター、ヴァルシオーネを始めとした機体の周辺を飛び交い不気味な笑い声を木霊させる。

 

「鬱陶しいよッ!」

 

その醜悪な姿と耳障りな声に痺れを切らしたリューネが苛立った様子でディバインアームで斬りかかる。妖機人は両断され、その切断面から青黒い血液を撒き散らす。

 

『化け物の割りに大した事ねえじゃないか、見た目だけかよ』

 

サイバスターもディスカッターを振るい、両断された妖機人が墜落する様を見てそう呟いた。

 

【【【【ギャハハハハハハッ!】】】】

 

両断された妖機人の肉片が盛り上がり、2体が4体となり再び耳障りな笑い声を上げ、口から伸びた触手をサイバスターとヴァルシオーネに向かって伸ばす。

 

「『なッ!?』」

 

倒した筈の敵が再び動き出した……その異様な光景にマサキとリューネは一瞬動揺し、その動きを止めた。どんな化け物でも身体が両断されれば死ぬ、そこから再生するなんて事は誰も想像せず、そしてその嫌悪感を抱く再生の仕方に動揺したマサキとリューネ

 

『リューネ嬢! 油断するなッ!!』

 

『やれやれ、マサキ。貴方はいつまでも経っても詰めが甘い』

 

下から伸びて来た鎖で繋がれた両拳が妖機人を殴り飛ばし、虚空に開いた漆黒の穴から放たれた光線が妖機人を消し飛ばした。

 

「バン大佐、ごめんッ!」

 

『ご無事で何より、油断召されるな。化け物は私達の理解を超えています』

 

『シュウ……ちっ』

 

『ククク、助けてもらって礼の1つも言えないですか? マサキ』

 

『ちっ! ありがとうよっ!!!』

 

シュウの挑発するような言葉にマサキは苛立った様子でそう叫び、シュウは白々とした素振りでどういたしましてと笑った。

 

『見て貰ったとおりこいつらを潰したり、切り裂いたりするな! そこから増える事になる!』

 

宙を飛び交う妖機人の数は今も増え続けている。ほんの僅かな肉片から再生し巨大化する妖機人――近づけさせまいと牽制の攻撃が当たっただけでも増えるという悪夢のような光景にカチータ達も声を荒げる。

 

『くそがッ! タスク! とろとろしてんなッ!!!』

 

『シーズサンダアアアアアア――ッ!!!』

 

【【ギャアァァ……】】

 

超高圧電流によって肉片も残さず焼かれた妖機人が断末魔の雄叫びを上げて消滅する。

 

『タスク危ないッ!!!』

 

『やらせないッ!』

 

しかしその影から飛び出してきた饕餮王の飛び蹴りがジガンスクード・ドゥロに向かう。ラッセルのゲシュペンスト・MK-Ⅱや、AMガンナーの射撃が撃ち込まれるが饕餮王はそれを物ともせずジガンスクード・ドゥロへと向かう。

 

『お前達の好きにはさせんッ!』

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・トロンベの放ったゲッター線ビームライフルが饕餮王の背中を穿ち、その勢いと軌道を僅かにそらしたお蔭で致命傷は間逃れたタスクだが、ジガンスクード・ドゥロの強固なシーズアンカーを簡単に抉り取り、それを見せ付けるように喰らう饕餮王に体勢を立て直したジガンスクード・ドゥロがシーズアンカーを振るう。

 

『ぐっ!? くそッ!!! ちょこまか動きやがってッ!』

 

【ヒャヒャヒャヒャッ!!】

 

嘲笑うようにシーズアンカーをかわし、俊敏な動きで妖機人を踏み台にして消える饕餮王にタスクが苛立った叫び声を上げる。

 

『うあッ!? くっくうッ!!』

 

海中から飛び出してきた饕餮王に体当たりを喰らい、倒れたヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの上に馬乗りになり、その牙を鳴らす饕餮王と食われまいとその牙を受け止めるヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMだが、出力の差が圧倒的に大きく、その牙が少しずつコックピットへと迫る。

 

『おい、化け物。腹が減っているならこいつでも喰っていろ』

 

【ギギャァ!?】

 

高速回転するゲシュペンスト・シグの拳が饕餮王の顔面を捉え、ひっくり返った饕餮王の顔面にそのまま拳を何度も叩きつける。肉片が飛び散り、悲鳴が木霊する。余りにも凄惨な光景に思わず誰もが息を呑んだが、その程度でラドラは動きを止める事はなかった。

 

『中々死なないな。ならば、ゼンガーッ!!!』

 

自分で倒しきれないと悟ったのか饕餮王をグルンガスト参式・タイプGに向かって蹴るゲシュペンスト・シグ。

 

『ふんッ!!!』

 

【ギャアアッ!?】

 

ゼンガーもゼンガーで躊躇わずに蹴り飛ばされて来た饕餮王に向かって参式斬艦刀を振るい、空中で両断された饕餮王は苦悶の声を上げて爆発炎上する。

 

『うわ……』

 

『何がうわだ、リョウト。死にたいのか貴様、化け物相手に気を緩めるな』

 

『す、すみません』

 

口調は厳しいがリョウトを気遣う言葉を口にするラドラにリョウトは謝罪の言葉を口にし、己の機体を立ち上がらせる。だが状況は決していいものではない、並のダメージでは増殖し巨大化する妖機人。そして攻撃力と瞬発力に長けた饕餮王に完全にヒリュウ改の面子は翻弄されていた。

 

『落ち着いて対処しろ。増殖し、再生するといっても限度がある』

 

『冷静さを失えば死ぬぞ、近くに居る味方と協力しろ、相手の変則的な動きに撹乱されるな』

 

強さと奇怪な動きで翻弄してくる妖機人と饕餮王を相手に動揺すれば死ぬぞとギリアムとカーウァイの警告と指示が飛び、劣勢ではあるが徐々にカチーナ達は冷静さを取り戻し始めているのだった……。

 

 

 

 

鋭い金属音が響き、アルトアイゼン・ギーガと饕餮王が同時に弾かれる。強固な装甲を持つアルトアイゼン・ギーガの装甲には細かい亀裂が幾つも刻まれていたが、駆動系や関節部に大きなダメージは受けていなかった。妖機人と饕餮王の連携は厄介なものだったが、裏を返せば連携させなければ良い。

 

「そのままで頼むぞ、エクセレン、ラミア」

 

妖機人の群れはアンジュルグ、ヴァイスリッター改に任せ、キョウスケは単独での饕餮王の複製の撃破に挑んでいたのだ。

 

『そこッ! ラミアちゃん! 続けてよろしくッ!】

 

『了解です、エクセ姉様。行け、ファントムアローッ!!』

 

【ギッ!?】

 

オクスタンランチャーBモードの狙撃で穴を開けられ、そこに飛び込んだファントムアローのエネルギーで内部から焼かれた妖機人は苦悶の声をあげ、反撃にと怨嗟の叫びを上げる。

 

『ぐっ!?』

 

『ううっ。これ気持ち悪いのよね、黙ってて頂戴ッ!!』

 

肉体的な被害や機体にダメージはない、だが精神を削る不気味な音にラミアは顔を歪め、エクセレンも苦しそうに呻きながらも5連ビームキャノンの銃口を妖機人の口に向け、引き金を引いた。本来の正確無比な狙撃とは比べ物にならない劣悪なものだが、5本の熱線の内2本が妖機人の口に飛び込んだ。

 

【ッ!?!?】

 

痛みと熱に妖機人の叫び声が止まった瞬間にアルトアイゼン・ギーガが饕餮王との間合いを詰める。

 

【シャアッ!!】

 

「逃がさんッ!!」

 

猿のように俊敏で、そして虎のように凶暴な饕餮王は攻撃力と機動力が極めて高く、そして防御力も高い。そしてそれでいて動物のような動きをすると来ればそう簡単に戦える相手ではない。

 

(クスハとブリットと比べれば弱い相手だ)

 

だが饕餮王は饕餮鬼皇が作り出した粗悪な分身――こんな相手に手間取っている場合ではないとキョウスケは饕餮王の移動先を予測し、そこに先回りするようにアルトアイゼン・ギーガを走らせた。

 

【ギッ!?】

 

「言った筈だ……逃がさんとなッ!!! バンカー、撃ちぬけッ!!!」

 

強烈な炸裂音と共にリボルビングバンカーの切っ先が饕餮王を貫き、上半身と下半身が両断された饕餮王は落水する前に岩くれとなる。

 

(……こんな相手に苦戦などしていられるか)

 

海水と岩で作られた粗悪等とは言えない、それこそガラクタの饕餮王に苦しめられている場合ではないとキョウスケは心の中で呟いた。インベーダーにアインスト、そして百鬼帝国にインスペクター……地球圏に迫る脅威は数多存在するのだ。その中で術で作られたとは言えガラクタで作られている饕餮王に苦戦するなど、キョウスケが自分自身を許せなかった。

 

「このままブリットとクスハの支援に入るぞ」

 

『了解でごんす』

 

『急ぎましょう、ブリット君達の方が大変みたいだしね』

 

龍虎王と饕餮鬼皇の戦いの音は激しく、妖機人と複製饕餮王は確かに厄介だが、徐々にカチーナ達も押し返してきている。

 

『へっ、段々化け物との戦い方になれて来たぜッ!!』

 

【ギッ!?】

 

『はっ、化け物の癖に脳震盪なんてしてるんじゃねえッ!!! ステークセット、ぶちぬけえッ!!』

 

アッパーで顎を打ち抜かれた饕餮王が棒立ちになり、踏み込んだライトニングステークのストレートで饕餮王はもんどりうって倒れ、痙攣しながらその身体を岩くれに変えた。

 

『再生すると言うのならば跡形も無く消し飛ばせばいい、簡単な理屈でしょう? グラビトロンカノン発射ッ!!!』

 

【【【!?!?】】】

 

グランゾンの放った重力波で妖機人は纏めて押し潰される。だが倒すには一手足りていない……いや、わざとシュウはトドメを刺さなかった。

 

『へ、偉そうな事を言って倒せてねえじゃないか! リューネッ!』

 

『OK! 行くよヴァルシオーネッ!!』

 

『さて、そろそろ、私もお役ごめんですね、ではビアン博士。またお会いしましょう』

 

翡翠と桃色の閃光が押し潰された妖機人を焼き払った。しかしそれもシュウの計算の内である事をマサキは知らず、サイフラッシュとサイコブラスターの光に紛れグランゾンはワームホールの中へ潜り、その場から消え去っていた。

 

『シュウ、あん? あの野郎! どこ行きやがったッ!?』

 

『今はそんなことをしてる場合じゃないよ! 行き先だったら親父が知ってるかもしれないよッ!』

 

グランゾンの姿がないことに気付きマサキが激昂するが、リューネがそれを留め目の前の戦いに集中するように声を掛ける。グラビトロンカノン、サイコブラスター、サイフラッシュの波状攻撃でその数を減らしているが、まだ妖機人は健在なのだ。他ごとに気をかけている場合ではない。

 

『斬艦刀雷光斬りぃいいッ! ぬおおおおおおッ!!!』

 

ゲッター線の光を伴った斬艦刀を振るい、次々と妖機人を、饕餮王を切り裂いていくグルンガスト参式・タイプG。だが切り裂かれ絶命した妖機人の怨嗟の声は海域を埋め尽くさんとしていた。

 

『……くっ! 段々きつくなって来たわね』

 

『確かにね……痛みはないのに……凄く苦しい……』

 

『けどよ、止まってる場合じゃねだろうがッ!! シーズアンカアアアアアーッ!!』

 

確かに妖機人が死んで放出する怨嗟の声は重く、そして苦しく圧し掛かっている。だがそれを不屈の闘志で跳ね返し、皆が諦める事無く戦いを続けている。

 

『気分が優れないものは下がれ、少し気を落ち着けてから合流しろ』

 

『……大佐は何故そんなに平気なのですか?』

 

『慣れだ、化け物相手とは戦いなれているッ!!』

 

皆が精神が衰弱し始める中、カーウァイだけは妖機人を参式斬艦刀で切り裂き、グランスラッシュリッパーを投げ付け、饕餮王に蹴りを叩き込み、転倒した所を踏みつけG・ビームライフルを動かなくなるまで撃ち込み続ける。

 

『思い出を美化しすぎたかもしれん』

 

『何を言っているギリアム、カーウァイ大佐は昔からこういう人だ』

 

『お前ら、私をなんだと思っている』

 

確かにカーウァイは指揮官として、そして指導者としても優秀だが……デストロイヤーかつバーサーカーな所がある。だからこそ武蔵とイングラムと行動を共にする事が出来ていたりするのだが……精神を蝕まれるこの終わりのない戦いの中で率先して戦い続けてくれるカーウァイの存在はとても頼もしいものであり、色々と思う事はあったが誰もそれを指摘する事はなかった。

 

「まずはあの化け物を止める、全てはそこからだ!」

 

饕餮鬼皇がいる限り妖機人も饕餮王もまた幾らでも現れる。この戦いを終わらせるには饕餮鬼皇を止めるしかない、だが相手は並の強さではない。包囲網を抜ける事が出来た者から龍虎王と饕餮鬼皇の戦いの助っ人に加わっていくのだった……。

 

 

 

龍虎王とほぼ同じ大きさの饕餮鬼皇は見かけ通りの高い攻撃力と防御力を併せ持ち、そしてその上残像を残しながら移動する超スピードを有していた。

 

【ヒャヒャヒャッ! 鈍い鈍い! どうしたどうした! 龍虎王ッ!!!】

 

「くうっ!?」

 

『ぐうっ! こいつ……かなり強いぞッ!』

 

龍王破山剣は饕餮鬼皇の残像を切り裂き、その隙に背後に回った饕餮鬼皇の回し蹴りが龍虎王の背中を捉え、その巨体を蹴り飛ばす。

 

【そらそら、どうしたどうしたッ!!】

 

「くっ、うあッ!?」

 

『速い上に重いッ!』

 

一撃一撃が重く、龍虎王は攻撃を防ぐ事が出来ず右へ左へと弾かれ饕餮鬼皇に良いように弄ばれる。

 

「同じ超機人なのに……ッ」

 

『こんなにも力に差があるのかッ』

 

同じ超機人ならば饕餮鬼皇と戦う事が出来ると思っていたクスハとブリットは饕餮鬼皇の強さに驚愕していたが、饕餮鬼皇の次の言葉に更なる衝撃を受ける事になった……。

 

【どうしたどうした! 龍虎王よ! 己の操者を傷つけるのが怖いか、ヒャヒャヒャヒャッ! その程度の念しか吸収してなければワシには勝てんぞぉッ!!!】

 

饕餮鬼皇の手にしている槍の切っ先が分裂したように分かれ、龍虎王の装甲を穿ち龍虎王とクスハとブリットの悲鳴が木霊し、吹き飛ばされた龍虎王が背中から海の中に倒れこみ、緩慢な動きで立ち上がる。

 

「龍虎王、饕餮鬼皇の言う事は本当なの?」

 

【……グルルル】

 

饕餮鬼皇の言った自分達を気遣っていると言う言葉が真実なのか? とクスハが問いかけると龍虎王は苦しそうな呻き声を上げた。

 

「龍虎王……私達の事は気にしなくていいから……」

 

『ああ、大丈夫だ。俺もクスハも平気だ、信じてくれ』

 

龍虎王が今自分達から吸い上げている念では足りないのならば、もっと力を吸ってくれとクスハとブリットが言うと龍虎王は躊躇うような素振りを見せる。

 

「大丈夫、私もブリット君も耐えて見せる」

 

『ああ、信じてくれ、龍虎王』

 

ブリットとクスハの信じてくれという言葉に龍虎王は柔らかい鳴き声をあげ、ブリットとクスハから足りない念動力を吸い上げた。

 

「くっ!」

 

『くくっ……中々きついなッ』

 

操縦桿を握る手が離れなくなり、手の平から生命力を吸い上げられている感覚を感じブリットとクスハは顔を歪めるが、饕餮鬼皇を睨みつける視線をそらす事はない。

 

【ヒャヒャヒャ。これでやっと面白くなって来たわ】

 

饕餮鬼皇が槍の切っ先を下に向け、姿勢を低くし構える。龍虎王は右手で龍王破山剣を手にし左手は剣指を作る。

 

【シャアッ!!】

 

鋭い雄叫びと共に饕餮鬼皇の姿が消え一直線に龍虎王へと襲いかかる。今までならば対応できなかった攻撃だが、龍虎王は剣を振り上げ饕餮鬼皇の槍と鍔迫り合いを繰り広げる。

 

【ふはははははッ!! 良いぞ良いぞッ!!】

 

龍虎王の顔に蹴りを放つ饕餮鬼皇だが、龍虎王はそれを受け止め体を回転させると饕餮鬼皇をハンマーの様に海に叩き付け、跳ね上がったところに蹴りを叩き込み饕餮鬼皇を吹き飛ばした。

 

「判る、龍虎王がどう戦いたいのかが判る」

 

『……まだ俺達はグルンガストに乗っている感じだったのか……』

 

龍虎王はグルンガストよりも遥かに柔軟で、そして戦闘の幅も広い。だがグルンガスト参式のコックピットを流用している事もあり、操縦もグルンガスト参式の延長に考えていた。それが龍虎王の枷になっているとも知らずに……しかし念動力を取り込む為に主導権を手にした龍虎王から本当の戦い方を告げられたブリットとクスハは龍虎王の本当の戦い方を学び始めていた。

 

【ぐっはあッ!! カカカカカッ! クククク、ハーハハハハハハハッ!!!】

 

龍虎王が剣指を振るい符術を発動させる。しかし饕餮鬼皇はそれを楽しそうに笑いながら避け、自らが海中に突き刺した槍の持ち手を両足で掴み龍虎王を見下ろした。

 

【まだまだ未熟、そして本気では無いが随分とましになったの。これでこそじゃ、これでこそ、本気で戦える】

 

饕餮鬼皇が纏っていた馬鹿にするような空気が消え、突き刺すような殺気と憎悪の念が龍虎王に向かって叩きつけられる。

 

「貴方は何がそんなに憎いのですか」

 

【んん? 小娘か、カカカカカ。全部じゃよ、憎い、憎くて憎くて、苦しくて、この恨みと苦しみから逃れるには喰うしかないのよ。ああ、憎きかな、龍帝よ。バラルよ、女神よ、ワシは憎くいぞッ!! ああ、恨む、恨むぞ進化の光ぃッ!!】

 

怨嗟の声を上げ続ける饕餮鬼皇――その言葉の中に聞き捨てならない言葉が幾つも合った。

 

(龍帝、バラル……進化の光……)

 

龍虎王が目覚めた時に告げた言葉――それが何を意味するかはクスハには判らなかったが、それでも何か意味のある言葉のように思えた。

 

【ゆえに喰う、そして殺す。龍虎王、ワシがお前を憎い事も変わらんぞぉッ!! 『周りが見えないとは二流以下だな』ぐっはぁッ!?】

 

背後から迫ってきたアルトアイゼン・ギーガのエアリアルクレイモアのチタン弾の雨が饕餮鬼皇を背後から貫き、その巨体を海中に叩き落す。

 

「キョウスケ中尉!」

 

『遅くなってすまん。すぐにエクセレン達も……な、なんだッ!?』

 

強烈な地響き――いや、地響きではない、空間自体が揺れ始めた。何かが起きようとしている――饕餮鬼皇の仕業かと誰もが思ったが、だがそれは饕餮鬼皇本人によって否定された。

 

【やれやれ、ワシの戦場に出てくるか……ん? 鯀鬼皇よ】

 

その名が告げられたと同時に空が割れ、そこから這い出るように巨大な手が現れた。そしてそれに続くように頭、胴と次々と身体のパーツが姿を見せ、空間の裂け目から現れたのは胡坐をかいたような姿をした老人のような巨人だった。

 

【然り、我は饕餮、お前を迎えに来た。この場は終わりだ】

 

【迎え? ハハハハハハハハッ!! ふざけるなよッ! ワシの戦いはこれからだ、これからなのだッ!! 同じ超機人だとしてもワシに指図を出さないで貰おうかッ!!!】

 

同じ超機人――その名にキョウスケ達の間に緊張が走った。饕餮鬼皇だけでも苦戦しているのに更に超機人が増えた事は恐ろしい出来事なのだが……

 

「仲が悪い?」

 

『味方同士じゃないのか?』

 

どう見ても嫌悪感や敵対関係にあるようにしか見えず、クスハとブリットが困惑したように呟くと鯀鬼皇がその視線を龍虎王へ向け、片手で印を結び、空中から伸びた鎖で饕餮鬼皇を縛り付けた。

 

【貴様機様貴様ぁッ!!】

 

【やかましいぞ、下賎で下劣な者よ。やれやれ、蘇らせてくれた者の頼み出なければお前の顔など見たくもないわ】

 

吐き捨てるように告げる鯀鬼皇の言葉に、饕餮鬼皇は鎖はガチャガチャをならし、歯を剥きだしにし、血走った目で鯀鬼皇に唾を飛ばしながら怒鳴り声を上げる。

 

【下賎だとッ!【やかましいといった筈だ、黙っていろ饕餮】ッ!?!?】

 

苦悶の雄叫びを上げる饕餮鬼皇を一瞥し、鯀鬼皇は再びその視線を龍虎王へ向けた。

 

【さてとでは改めようか……久しいな龍虎王よ。ああ、構わぬ返事が欲しい訳ではない、我は超機人鯀鬼皇(こんきおう)と申す。我はこの下賎な者とは違う、皇たる者はそれに相応しい立ち振る舞いをせねばならぬ】

 

低いトーンで淡々と語る鯀鬼皇。口調は丁寧だが、その視線にはこの場にいる全員を見下すような色が込められていた。

 

【そして人間共もそうだ、人間は我ら神を敬い、畏れ、そして尊敬せねばならぬ。ゆえに問おう、汝ら我を崇拝するか?】

 

神を畏れ敬い、崇拝せよ鯀鬼皇は告げる。確かにその言葉には力があった、意志の弱い者ならば跪き、その言葉に無条件で頷いてしまうような強い力があった。だがその言葉に屈するものはこの場には誰一人として存在しなかった。

 

『悪いが、貴様のような醜悪な神を崇拝する趣味はない』

 

『どう見ても化けもんじゃねえか! 何が神だ!』

 

キョウスケとカチーナの声に続くように鯀鬼皇を蔑む声が上がる。

 

【承知。ならば汝らは背信者である。背信者は制裁せねばならぬ、ゆえに我が腹の中にて未来永劫の責め苦が受けるが良い】

 

大口を開け、空中を飛びかう妖機人を舌で絡めとり、林檎を食うように貪る鯀鬼皇の姿は醜悪な化け物にしか見えず、神とは程遠い――それこそインベーダーやアインストと同じ化け物にしか見えなかった。

 

【……客人が来る。饕餮、共闘しろとは言わぬが、分を弁えよ】

 

【くたばれ、傲慢で愚かな自称神がッ!】

 

何かを感じ取った鯀鬼皇が饕餮鬼皇の拘束を解除し、それとほぼ同じタイミングで翡翠色の流星が周囲を染め上げ、僅かに生き残っていた妖機人を纏めて薙ぎ払った。

 

『よっしゃあ間に合ったッ! 助けに来ましたよッ!!』

 

ゲッターD2が先陣を切って現れ、それに続くようにシロガネ、ハガネが姿を見せる。圧倒的な不利な中で6分間耐え抜き、ヒリュウ改とクロガネはハガネとシロガネが救援に現れるまで無事に耐え抜いたのだ。

 

『各機出撃ッ!』

 

『ヒリュウ改とクロガネの救援を行なえッ!』

 

ダイテツとリーの指示が飛び、開け放たれた格納庫からR-1達がその姿を見せる。数の利は圧倒的に鯀鬼皇と饕餮鬼皇が不利だが、2機の超機人は余裕と言える態度を崩す事無く、ハガネとシロガネにその視線を向けた。

 

【箱舟に龍神、ふむ。なるほど、これは良い、我が新しい身体になれる良い練習となりそうだ】

 

【進化の使徒も来たか、ヒャヒャヒャヒャッ!! まだまだ楽しくなりそうじゃなあッ!!!】

 

冷静に分析を行なう鯀鬼皇と、狂ったように笑う饕餮鬼皇――日本近海での戦いはますます激しさを増していく事となるのだった……。

 

 

 

129話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その4へ続く

 

 




百鬼帝国に改造され王から皇になった超機人の特性は人型の姿を持つ、可変能力の追加、そして同じ戦場に1機しか出現できないと言う特性の無効。知性があるので共食いはないですが、性格的に反りが合わないので同じ戦場に存在出来ますが、共闘はしない。強大な力を持つ機体が複数同時に現れるって感じですね、自分の分身や妖機人を作り出す能力があるので1体で軍隊を形成出来ると言うのもあります。欠点は超機人形態になるのにそれ相応の魂魄を喰らい、念動力を蓄える必要があるので連続出撃は出来ないって感じですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第129話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その4

129話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その4

 

ヒリュウ改が百鬼帝国に襲われていると聞き、緊急出撃したリュウセイ達は立ち塞がるように並び立つ異形の巨人を見て息を呑んだ。その異形の悍ましい姿に、邪悪その物の気配に本能的な恐怖を抱いたのだ。

 

「な、なんだ……あいつら……2体しかいないのに……うぐっ、頭が……ッ」

 

鯀鬼皇と饕餮鬼皇を視認したリュウセイはその優れた念動力で、2機の超機人が内包している、いや貪り食われた贄の魂を感じ取りその苦しみ、痛みを感じ取り激しい頭痛にその顔を歪めた。

 

『リュウセイ!? リュウセイ大丈夫か!?』

 

『リュウセイ、大丈夫ッ!?』

 

明らかに反応のおかしいR-1とリュウセイを見て、フェアリオン・タイプSとR-2パワードがR-1に駆け寄る。

 

『百鬼獣ではなさそうね……それよりも遥かに強いわ』

 

『本腰を入れてきたって事かね、しかし相当強い相手なのは間違いねえな。ヒリュウ改とクロガネの戦力を相手にしてほぼノーダメージかよ……とんでもねえ化け物だな』

 

グルンガストのコックピットでイルムが鯀鬼皇と饕餮鬼皇の状態を見て、その強さを感じ取りその顔を歪め。ゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDのコックピットで戦況を確認したヴィレッタはR-SWORDの姿がないのを確認し、イングラムはいないみたいねと小さく呟いた。

 

『ゲシュペンストタイプS……ッ!? 隊長、カーウァイ隊長ですかッ!?』

 

『その声はカイか、元気そうで何より。だが今は話をしている場合ではない、話は戦いが終わった後だ』

 

『りょ、了解ッ!』

 

カイがやっと会うことの出来た恩師の声に明るい声で返事を返し、鯀鬼皇と饕餮鬼皇を睨みつけた。

 

【ふむ、応援が来たか、なれば……我は超機人鯀鬼皇なり、神であり、王たる超機人である。汝らは我を崇拝するか? さすれば我が信者、我が民と認めようぞ】

 

キョウスケ達と同じ様に声を掛ける鯀鬼皇だが、リュウセイ達から見ても鯀鬼皇は化け物にしか見えなかった。

 

『何が王に神だ! てめえなんか化け物じゃねえかッ!』

 

『ええ、とても神と名乗れるようには見えませんわね』

 

生物と機械の意匠を持つ異形の巨人である鯀鬼皇が神であり、王なんて悪い冗談だとアラドとレオナが叫んだ。すると海を揺らすような大声の笑い声が木霊した。

 

【ヒャーハハハハハハハハハッ!! クヒ、ヒャヒャヒャヒャハッ!!! 神だ、王だの下らん下らん、そんなものを誇りにする貴様がアホなのだ】

 

【下賎な貴様に言われたくはないな】

 

【ヒャヒャヒャヒャ! 信者無き神など神にあらず! 民無き王など王にあらずッ!! そんなことも判らんのか! ヒャヒャヒャヒャ! ワシは確かに下賎かもしれんが、貴様よりは数段マシじゃな! ヒャヒャヒャヒャヒャッ!! ククック、さてとワシも名乗るかのう……我は超機人饕餮鬼皇になり、ヒャヒャヒャ、また女がひーふーみー。ヒャヒャヒャヒャッ!! ああ、その機人を叩き壊して連れ帰り、犯して喰らいたいのう!! 快楽と痛みで狂う女を見るのがワシの何よりの楽しみじゃからのうッ! ヒャハハハハハッ!!!】

 

下品な事を大声で叫ぶ饕餮鬼皇にレオナ達が顔を歪める。余りにも下品、そして下劣な嗜好を持つ饕餮鬼皇に嫌悪感を抱くのは当然の事だった。

 

『超機人って神様って聞いてたけど、どう見てもそうは見えねえな』

 

【進化の使徒よ、お前には言われたくはないな】

 

【神の僕であるからのうッ! ヒャヒャヒャ、しかしこの数は明らかに不利じゃなあ、おい、鯀鬼皇よ。出し惜しみするなよ】

 

【貴様に言われるまでもない、きやれ、我が僕達よ】

 

鯀鬼皇の背後の空間が裂け異形の巨人達が地響きを立てて出現し、それに続くように饕餮鬼皇が再び海水と岩から己の分身を作り上げる……超機人・妖機人の軍勢がリュウセイ達を取り囲むように現れ、妖機人達の雄叫びが戦闘開始の合図となり、一斉に己の獲物を手に襲い掛かってくるのだった……。

 

 

 

 

叫び声や唸り声を上げてR-1やグルンガストに向かっていく妖機人を武蔵は顔をゆがめながら見送った。正直に言えば、武蔵はその動物的な直感で妖機人や、饕餮王のコピーがアインストやインベーダーに匹敵する脅威だと悟っていた。だがそれ以上に目の前に浮かぶ胡坐をかいた老人のような姿をした超機人――鯀鬼皇、そして龍虎王が抑え込んでいる饕餮鬼皇の方が危険だと悟ったのだ。

 

『武蔵、援護しようか?』

 

「いや、オイラは良いっすよ。エクセレンさん、ブリット達の方に集中してください」

 

『……気をつけてね、それと……ごめん』

 

援護出来ない事を謝罪し反転するヴァイスリッター改を鯀鬼皇から背中で隠すようにゲッターD2を移動させる武蔵。

 

【案ずる事はない、我は雑魚に興味はない】

 

だが鯀鬼皇は興味もないと言わんばかりに鼻を鳴らし、懐から扇子を取り出してそれを剣のようにしてゲッターD2へと向けた。するとその背後に無数の魔法陣が浮かび上がり、そこから無数の妖機人が弾丸のような勢いで射出される。

 

【奇怪な、お前は龍帝でもなければ皇帝でもない。しかしてそれに匹敵する可能性を秘めているように我には見える】

 

「龍帝とか皇帝って言われてもオイラには判らんぜッ!」

 

悠然と話ながらも猛攻撃を繰り出してくる鯀鬼皇の攻撃をダブルトマホークで引き裂きながら武蔵は過去・平行世界と戦い武蔵はかなりの数のゲッターロボを知っているが、龍帝、皇帝と呼ばれるようなゲッターロボは知らない、故に武蔵そう返事をしながらダブルトマホークを鯀鬼皇に投げ付ける。

 

【それも仕方なかろう、進化の道半ばなのだからな……しかしてだ。例えお前が龍帝と皇帝と関係がなかろうと、我にとっては憎むべきゲッターロボ。その首貰い受けるとしよう】

 

ダブルトマホークブーメランをその手にした扇子で弾き、鯀鬼皇が凄まじい闘志と殺気を放ちながら、手にした扇子をゲッターD2に向け、音を立てて扇子が開かれると同時にゲッターD2を取り囲むように無数の魔法陣が浮かび上がる。

 

【我が配下はそう強くは無いが、戦いとは数だ。この姿になり知恵を手にして我はそう思うようになった】

 

すべての魔法陣から同時に妖機人が飛び出し、唸り声を上げながらゲッターD2へと殺到する。

 

「そうかい、ならお前の言葉をそのまま返してやるよ。雑魚はどれだけ集まっても雑魚だッ!! バトルウィングッ!!!」

 

ゲッターD2の翼が高速で動き回り、全方位から迫る妖機人を切り裂き絶命させる。

 

「うおらああッ!!!」

 

【ぬううんッ!!】

 

ゲッター線の光に身を包み姿を消すと同時に鯀鬼皇の上を取ったゲッターD2がダブルトマホークをその頭に振り下ろし、鯀鬼皇は迎え撃つ為に扇子から光の刃を作り出しダブルトマホークと光の刃がぶつかり合い、凄まじい衝撃を周囲に撒き散らす。

 

「ゲッタァァ――ビィィムッ!!!」

 

【ぬんッ!!】

 

ゲッターD2の頭部から放たれたゲッタービームを剣指を振るい、作り出したバリアで防ぐ鯀鬼皇はそのまま掌を向けエネルギー弾を打ち出す。

 

「舐めんなッ!!!」

 

命中する寸前で腕を振るいエネルギー弾を明後日の方向に殴り飛ばすゲッターD2を見て、鯀鬼皇は感心したように頷いた。

 

【なるほど強いな。貴様は……名を聞いておこうか?】

 

「あん? んだよ、急に」

 

突如名を聞こうと告げた鯀鬼皇に武蔵は困惑した素振りを見せる。しかしその間もゲッターD2と鯀鬼皇の攻防は続いており、光の刃と虚空から召喚する妖機人による点と面の波状攻撃の嵐を武蔵はゲッターD2を操りバトルウィング、威力を絞った頭部ゲッタービームの連射、そして手にしているダブルトマホークで迎撃を繰り返す。

 

【進化の使徒と呼ばれ続けるのも面白くなかろう?】

 

「武蔵だ。巴武蔵」

 

【そうか。武蔵というのか、その名を覚えておこう。長い付き合いになるだろうしな】

 

空間を揺らすような笑い声を上げ鯀鬼皇はその目に喜色の色を浮かべ、ゲッターD2を見つめる。

 

「長い付き合い? てめえらみたいな化け物と何度も顔を見合わせるなんてごめんだぜ!」

 

【フッフッフ。そう言ってくれるなよッ!】

 

ゲッターD2と切り結びながら鯀鬼皇は楽しそうな声を上げる。いや事実楽しんでいるのだろう……そうでなければあそこまでの笑い声を上げることはない筈だからだ。

 

「てめえは何がしたいんだ?」

 

【ん? まずは復讐、次に再び神として、王として君臨する事よ。その為には鬼の国は邪魔だな。全てが終われば鬼も殺すとしよう、鬼は我が民に相応しくないからなッ!!】

 

百鬼帝国も潰すと堂々と叫ぶ鯀鬼皇に武蔵だけではなく、この場にいる全員が驚きを隠せなかった。

 

「百鬼帝国の味方じゃないのかよッ!!」

 

急降下と共に放たれたヤクザキックが鯀鬼皇の胸を捕えるが、鯀鬼皇はその手を獣の腕へ変えゲッターD2の足を掴んで頭上で振り回す。

 

「う、うおおおッ!?」

 

【味方などではない、ただあやつらに蘇らせて貰ったから恩義として協力しているに過ぎんッ!!!】

 

ゲッターD2を海面に向かって投げ付けると同時に鯀鬼皇の手の中に弓が現れ、光り輝く矢を番える。

 

【故に味方等ではない、判ったか? 武蔵】

 

空中に向かって放たれた矢が分裂し、矢の雨となり海に倒れているゲッターD2に向かって降り注ぐ。

 

「よーっく判ったぜ! だけどてめえがオイラの敵って事は変りはねえ! オープンゲットッ!!」

 

ゲットマシンに分裂し矢の雨を回避したゲッターD2は再び鯀鬼皇の上空を取る。

 

「チェンジポセイドンッ!! うおらああッ!!!」

 

【ぐがあッ!?】

 

落下しながらのスレッジハンマーが鯀鬼皇に向かって振り下ろされ、凄まじい勢いで鯀鬼皇を海面に向かって叩きつけ、その後を追うように急降下したポセイドン2を迎え撃ったのは獣の鋭い爪が生えた巨大な拳だった。

 

「ぐうっ! はッ! まだ隠し球は残していたってかッ!」

 

【神の姿に1つにあらず、神の器たるゲッターロボもまた然り】

 

「何を言ってるかわからねえよッ!!!」

 

【ならば知れ! 神の神威をなッ!!!】

 

ゲッターポセイドン2と獣人となった鯀鬼皇の拳がぶつかり合い凄まじい轟音を響かせる。ゲッターD2と鯀鬼皇が人の姿をしている時は超高速戦闘と範囲攻撃により支援は行えず、そしてポセイドン2と獣人形態の鯀鬼皇相手では1発1発が戦艦の主砲クラスの威力を秘めた打撃の応酬であり、そこに割り込む事は不可能であり、ポセイドン2と鯀鬼皇の戦いはその戦闘手段が白兵戦へと変わった事でその激しさをより増していくのだった……。

 

 

 

妖機人の群れと饕餮王の軍勢の勢いは激しく、一瞬でも油断すればその瞬間に押し潰されるほどに苛烈な攻撃であった。特に瞬発力と攻撃力を兼ね備えている饕餮王は厄介極まりない存在であったが、ここでダイテツ達にとってもそして超機人達にとっても計算外な事があった。

 

「そこだぁッ! T-LINKナッコォッ!!!」

 

【グギャアッ……】

 

R-1の光り輝く右拳が饕餮王の右胸を打ち抜き、饕餮王の姿は一瞬でその色を失い土くれとなり海水の中へと沈んでいく。

 

「リョウトとリオは本当にわからねえのか!? 俺1人じゃ流石に厳しいぜッ!?」

 

リュウセイは念動力で饕餮王の分身の核を感じ取り、そこを一撃で破壊する事で耐久力に優れている饕餮王を一瞬で無力化している。しかし饕餮王の数は多く、更には念動力者であるリュウセイを餌として認識しているのか妖機人と共に波状攻撃で攻め立ててくる饕餮王を前に声を上げる。

 

『わ、判る訳ないよ!? 大体なんで判るのさッ!?』

 

『悪意なんて判らないわよッ!』

 

『お前どっか変になってないか?』

 

『同感ですわね』

 

念動力を持つリョウト、リオ、タスク、レオナの4人にそんなことが出来るかと言われリュウセイはうぐうっと呻いた。

 

「あーくそッ! やるだけやってやらあッ!!!」

 

【【【ヒャヒャヒャヒャッ!!!】】】

 

3体の饕餮王の狂笑に顔を歪めながらリュウセイは土くれの身体を操っている核を探すために目を凝らす。

 

『リュウセイ、センサーを共有させろ。お前は場所を特定してくれるだけで良い』

 

「ライ! すまねえっ!」

 

R-1とR-2はSRXに合体する事もあり、互いのセンサーなどを共有する機能もある。ライはリュウセイにコアを特定させ、R-2パワードの射撃武器でピンポイント狙撃する事を提案し、リュウセイはその提案を聞き入れR-1とR-2パワードのセンサーを共有させる。

 

(早い……だがッ!)

 

共有したセンサーから与えられる饕餮王の核は高速で動き回っており、あれをピンポイントで感知し、それを一撃で粉砕する事が出来ているリュウセイの成長速度に驚きながらも、ライもただただ呆然と日々を過ごしていたわけではない。

 

『狙い撃てないほどではないッ!』

 

【ギャッ!?】

 

フォトンライフルの光弾が左肩を撃ちぬき、分身の饕餮王は再び土くれとなり海中へと消えていった。

 

『私に核を狙い撃つなんて事は出来ないから……』

 

『跡形も無く消し飛んでもらうぜッ!!! ファイナルビームッ!!!』

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDの銃弾の嵐に饕餮王は身体を削られ、それを再生するという事を繰り返していたが再生速度よりも攻撃速度が速く、核を撃ち抜かれそのまま崩れ落ちながら消失し、グルンガストに飛び掛ってきた饕餮王は自らファイナルビームへと飛び込み、光の中へと消え去った。

 

『あーだこーだ考えるよりも叩き潰すほうが早いッ!』

 

【ギ、ギギャアアアア……ッ】

 

饕餮王にヤクザキックを叩き込み、そのままマウントを取り、顔面に拳を何度も振り下ろし痙攣してもなお拳を振るうというダーティファイトを行なう剛破鉄甲鬼を見て、空中を飛び交う妖機人をアステリオンで迎撃していたアイビスが引き攣った声でコウキに通信を繋げる。

 

『こ、コウキ博士――もう少しやり方ないの?』

 

『良い事を教えてやろう。化け物はな……徹底的に潰せ、ほんの一欠けらからでも復活する』

 

殴り潰された肉片から再生した饕餮王の頭を斧で振り返る事無く4つに引き裂き、ダメ押しと言わんばかりに左拳によるストレートで殴り潰す。

 

『それに俺はこういう下品な輩は好かん』

 

コウキが吐き捨てるように呟き、剛破鉄甲鬼を空へと舞い上がらせる。その先には血走った目で、涎を垂らし、どことは言わないが身体の一部を肥大化させた饕餮王がフェアリオンとヴァルシオーネを追いかけている姿は正直言ってあれだ。

 

『プラズマサンダァァアアアアッ!!!』

 

『斬艦刀大ッ! 車ッ!! りぃぃぃいいいんッ!!!!』

 

『見るに耐えん、消え失せろ』

 

『……』

 

追いかけられていたフェアリオン達が弾かれたように3方向に散り、その直後ネオゲッター1、グルンガスト参式・タイプG、ゲシュペンスト・タイプS、無言のカイの操るゲシュペンスト・リバイブ(K)の前に自ら飛び込んだ饕餮王は飽和攻撃と言っても良いほどの集中砲火を受け断末魔の声も上げずに現世から消え失せた。

 

『き、気持ち悪かったですわ……』

 

『そ、そうですね……シャイン王女』

 

『こんなに気持ち悪くて、気色悪い化け物を私は知らないよ……』

 

可憐な少女の姿をしているとは言え機動兵器に欲情する化け物に追い回されたことでラトゥー二達の精神力はかなり削られることになってしまった。

 

『リューネ、お前達は帰艦した方が良いぜ』

 

『そうしな、お前達は敵を引き寄せすぎる』

 

鯀鬼皇の召喚した妖機人は違うが、饕餮鬼皇の召喚した妖機人とその分身は紛れも無くヴァルシオーネ達に欲情している。女が乗っていると言う強烈なアピールに饕餮王と妖機人達は紛れも無く引き寄せられている。

 

『フェリオンとヴァルシオーネは本艦へ帰艦してください』

 

そしてそれはレフィーナも感じたのかヒリュウ改に帰艦命令がラトゥー二達に下され、渋る素振りを見せたリューネ達だが、下卑た笑い声を上げる饕餮王の声を聞いて、その命令を聞き入れヒリュウ改へと帰艦する。それに変りクロガネからゲッターVが出撃してくるが、その機体から迸る殺意と怒りの感情に誰もが息を呑んだ。

 

『……オメガグラビトンウェーブ……発射』

 

そして何の感情も込められていない淡々とした声で放出された重力波が妖機人、饕餮王を海中に叩き落し、ゲッターVの複眼が怒りに満ちた様子で、地面に倒れ伏せもがいている妖機人達を見下ろしていた。ビアンは切れていた……確かに褒められた親では無いが、それでも紛れも無くビアンは父としてリューネを愛していた。饕餮鬼皇の言葉の段階でも切れていたのだが、追い回されるヴァルシオーネ達を見て静止するリリー達を振り切り、激怒した父が戦場に舞い降りたのだった……。

 

 

 

 

赤黒い念動力を帯びた槍と龍王破山剣が何度もぶつかり合い、凄まじい雷が吹き荒れ、念動力のぶつかり合いは凄まじく、キョウスケでさえもその戦いの中に飛び込むのは躊躇いを覚えるほどに凄まじい破壊が続けられていた。

 

【ヒャヒャヒャッ!! 愉しいなぁッ! 愉しいなあッ!!! ヒャハハハハハハハッ!!!】

 

愉しいと笑いながらも饕餮鬼皇の胸中は既に冷め切っていた。龍虎王が弱かった訳ではない、むしろクスハとブリットの念動力者としての素質はかなり高く、饕餮鬼皇の知る龍虎王よりも強く、その事に心は滾り燃えていた。この手で龍虎王を倒すと言う闘志は燃え盛っていた……だがその熱も度重なる横槍で失われ始めていたというだけだ。

 

『うおらああああッ!!!』

 

『ぐごはッ!? クハハハハハハッ! 強い、強いではないか! 進化の使徒、いや武蔵ぃぃいいいいッ!!』

 

『ぐうっ!!! 舐めんなあッ!!』

 

ポセイドン2と鯀鬼皇の拳の応酬は凄まじく、一撃ごとに戦艦の主砲が放たれるような轟音を響かせながら激しい打撃の応酬を繰り広げている。

 

『……クロスマッシャーッ!!!』

 

クロガネから出撃したゲッターVが戦況に加わった事で妖機人と複製の饕餮王は見る見る間にその数を減らしている。

 

『ビアン博士やばすぎだろ……』

 

『何を言うかイルム。俺は気持ちが判るぞ、あんな下劣で下品な生き物なぞ滅びてしまえ』

 

『全くその通りだ。あんな物が神だとふざけるなと言いたいな』

 

フェアリオンとヴァルシオーネに欲情し、追い回していた饕餮王は紛れも無く下品で、そしておぞましい存在だった。女性は嫌悪感を抱き、男性、そして特に子持ちのビアンやカイがそれを許せる訳が無く、感情を一切そぎ落とした様子で淡々と処理している姿はそれだけ怒りの深さを現していた。正直な所数の不利に陥った所で饕餮鬼皇の戦いにおける熱は著しく下がり、それに加えて脳裏に響く声に完全にやる気を失い始めてさえていた。

 

『饕餮鬼皇よ、戦いを楽しむなとは言わぬが、今はまだ全てを終わらせる時ではないぞ?』

 

脳裏に響くブライの声――それに苛立ちながらも、ブライの言う通りなので饕餮鬼皇は反論もせず、苛立った様子でわかっていると返事を返した。

 

『なに、動きが鈍い?』

 

『罠かもしれないが、ここで攻め込むぞ! クスハッ!』

 

『うんッ!!』

 

【【オオオオオ――ッ!!!】】

 

龍虎王とクスハとブリットの声が重なり、更に龍虎王の身に纏う念動力の出力が増すのを感じ、饕餮鬼皇も獰猛な笑みを浮かべる。

 

(ここで死ぬわけにはいかん、適当な所で切り上げる。邪魔をしてくれるな)

 

『良かろう、だが言っておくぞ、やりすぎるなよ』

 

ブライの声が遠ざかったのと同時に饕餮鬼皇の筋肉が隆起し、龍虎王の念動力を押し返さん勢いで赤黒い念動力が放出される。

 

【カカカカカッ! 全力で来いッ! 龍虎王ぅッ!!!!】

 

【オオオオオオオーーーーッ!!!】

 

一合打ち合うたびに海面が割れ、周囲に漆黒と青い雷が走る。それは並の機体ならば掠めただけで致命傷になりかねないエネルギーを秘めた念動力の発現であり、その雷から逃げ回っていたヴァイスリッター改とアンジュルグからキョウスケへと通信が繋げられる。

 

『キョウスケ! ちょっとこれ以上はやばいわよッ!』

 

『これ以上は危険です中尉! 1度下がりましょう』

 

掠めただけで装甲を失っている己の機体を目の当たりにしているエクセレンとラミアはこれ以上龍虎王と饕餮鬼皇のそばにいるのは危険だと言うがキョウスケはそれを受け入れなかった。

 

『エクセレンとラミアは下がれ! この雷はアルトでなければ耐えられんッ!』

 

事実アルトアイゼン・ギーガはその雷を耐え、キョウスケは攻撃する隙を虎視眈々と窺っていた。

 

『先に行け、俺もすぐに行く』

 

『……威力は落ちると思うけど、射程距離ギリギリから支援はするわ』

 

『助かる、早く行け、危険区域から抜けられなくなるぞ』

 

考え直せという間もなくすぐに行くと言われればエクセレンとラミアは何も言えず、雷の範囲のギリギリから支援すると告げて激しさをます雷の範囲外から離脱していくヴァイスリッター改とアンジュルグを見送り、キョウスケは龍虎王と饕餮鬼皇の戦いに視線を向ける。

 

【まだまだ足りんぞぉッ! ワシの飢えは! 渇きは!! この程度では満たされんッ!!!】

 

『きゃああッ!?』

 

『ぐっ!? こんな攻撃まで出来たのか!?』

 

その叫びと共に振るわれた饕餮鬼皇の左拳が巨大化し、龍虎王を上空へと殴り飛ばす。拳が巨大化するという想定外の攻撃にクスハの悲鳴と、ブリットの驚愕の声が重なる。

 

【さぁさ、耐えて見せい。さもなくば死ねッ! 饕餮鬼皇の最大攻撃を受けよッ!】

 

【滅ッ! 滅ッ!! 滅ッ!!! 鯀鬼皇が最大奥義ッ! しかとその目に刻めッ! ゲッターロボッ!! 武蔵よッ!!!】

 

槍を杖のように地面に突き刺す饕餮鬼皇。その槍の切っ先から小さな樹木が生え、それは見る見る巨大に成長し、その枝に掴まり自らが上空に殴り飛ばした龍虎王を追いかけていく饕餮鬼皇。

 

無数の小型の妖機人が念動力を纏い、半透明の鯀鬼鬼の姿へとなると本体の動きに合わせるように弓を構え、スパークを繰り返す膨大なエネルギーが込められた弓矢の切っ先をハガネ、シロガネ、クロガネ、そしてヒリュウ改に向ける。

 

『チェンジドラゴォォォンッ!! ビアンさんッ!』

 

『任されたッ!!』

 

【相殺出来る物ならばして見せるがいい! 降魔滅天陣ッ!!!】

 

分身で増幅された膨大な念動力が極大の光線となりクロガネ達に迫る。直撃、いや掠るだけでも轟沈しかねない圧倒的なエネルギーの前にゲッターD2とゲッターVが躍り出る。

 

『『ゲッタァアアアビィィイイイイムッ!!!』』

 

ビアンと武蔵の声が重なり、腹部から放たれたゲッタービームと鯀鬼皇の放った念動力を纏めた光線がぶつかりあう。

 

『ぬあッ!?』

 

『ぐううっ!!?』

 

【ふはははははッ! 互角、互角かッ!! ははははははッ! 面白いッ! 抗って見せろッ!!】

 

凄まじいスパークと衝撃音を響かせ、ゲッタービームと念動力の光がぶつかり合う中。クスハとブリットの驚きと驚愕に満ちた声がアルトアイゼン・ギーガのコックピットに響いた。

 

『な、なにこれ!? ま、巻きついてッ!? うあッ!?』

 

『がっ……ち、力が抜ける……ッ』

 

伸び続ける樹木の枝が龍虎王の足と腕に絡みついた瞬間、凄まじい勢いで根を張り龍虎王の両手足、胴体に絡みつきその動きを完全に封じ込める。

 

【ヒャハハハハッ! 甘露甘露、良き念じゃ! 美味い、美味いぞッ!!! ヒャハハハハッ!!!!】

 

枝がぼんやりと光り、龍虎王から何かを吸い上げるような素振りを見せる。そして枝から咲いた花を毟り饕餮鬼皇が頬張る姿を見て、あの花は、そしてあの光がクスハとブリットの生命力を吸い上げているのだとキョウスケは感じ取った。

 

『クスハちゃん! ブリット君! このッ!!!』

 

『いけッ!!』

 

どんどん花を咲かし、青々としていく樹木に対し、徐々にぐったりとしていく龍虎王を見てエクセレンとラミアの支援が入り、花をこれ以上饕餮鬼皇に毟らせないように立ち回る。

 

【ハハハハハッ!! 効かん、効かんわぁッ!!】

 

被弾してもそれすらもお構いなしに花を毟り、枝の上を駆けていく饕餮鬼皇の高笑いが響く。自分が誘導されているとも気付かずに……。

 

『キョウスケ! 後はお願いッ!』

 

『任せました。キョウスケ中尉ッ!』

 

アルトアイゼン・ギーガは空を飛べない、だから樹木の上を走り、枝を掴んで高速で移動する饕餮鬼皇には通常ならば追いつけない。

 

『良い位置だ、助かったぞ。エクセレン、ラミアッ!』

 

エクセレンとラミアに感謝の言葉を口にすると同時にキョウスケは操縦桿を握り締め、ペダルを力強く踏み込んだ。

 

『空は飛べんが、真上ならば追いつけん道理はないッ!!!』

 

饕餮鬼皇がアルトアイゼン・ギーガの真上に来た瞬間に急加速し、地上から空へと伸びる紅い流星となったアルトアイゼン・ギーガが饕餮鬼皇の背中へと迫る。

 

【ぬうう! 機械人形如きが邪魔をするなッ!】

 

『ならばその機械人形の力を見せてやるッ!』

 

枝を軸に半回転し、急降下して来た饕餮鬼皇の殺気に満ちた瞳とその圧倒的な威圧感が迫ってくる光景は誰であっても息を呑むだろう。

 

『キョウスケ中尉!』

 

『今行きますッ!!』

 

枝に囚われ、思うように動けない龍虎王からブリットとクスハが叫び声を上げた。だがキョウスケはそれを笑って制した。

 

『待ってろ、今このデカブツをお前達の方に殴り飛ばす。お前達はそれを迎撃しろ、こんなでかいだけのやつに俺は遅れは取らん』

 

【超機人でもない、機械人形の分際でぇッ! ワシを舐めるなあッ!!】

 

広域通信ではない、コックピット同士の通信で聞こえるはずが無いのだが、饕餮鬼皇はキョウスケとブリット、クスハの会話を聞いていたのかつばを撒き散らし、怒りの表情を浮かべ硬く握り拳を作る。

 

(……遅い、怖さが無いな)

 

饕餮鬼皇は確かに強いだろう、だがキョウスケの目から見るとソウルゲインとアクセルよりも遥かに劣っていた。力のみの饕餮鬼皇と力と技が高い次元で纏まっているソウルゲイン――恐れるべき物はどっちなのかというのは明白だった。

 

『オーバーブースト……バンカー……ぶち抜けッ!!!』

 

リボルビングバンカーに内蔵されたテスラドライブ、そして背部のテスラドライブが共鳴し、一瞬だけの超加速を可能とする。

 

【な、なにいッ!?】

 

『言った筈だ。でかいだけのお前など俺の敵ではないッ!!!』

 

饕餮鬼皇の拳を姿勢を低くし潜り抜けたアルトアイゼン・ギーガの右拳――いや、正しくはリボルビングバンカーが饕餮鬼皇の胸を貫くと同時に、キョウスケは操縦桿を強く握りこんだ。

 

『どんな装甲だろうが……撃ち貫くのみッ!!!』

 

【ゴガッ! ギャバアアアアアアーッ!!!?】

 

凄まじい炸裂音との汚らしい絶叫が響き、その巨体が龍虎王へと弾き飛ばされる。しかもそれだけに留まらず、大きなダメージを受けたのが原因か、龍虎王を拘束していた樹木が見る見る間に枯れていき、龍虎王をがんじ絡めにしていた青々としていた樹木が見る見る間に茶色く染まり、砕けていく姿と、それに反比例するように力強さを取り戻す龍虎王を見てキョウスケは勝利を確信した笑みを浮かべた。

 

『ブリット! クスハッ! 決めろッ!!!』

 

そう叫ぶと同時に樹木の拘束を振り払った龍虎王がその目を爛々と輝かせ、翼を大きく広げ力強さと勇ましさを見せ付けながらまだ完全に枯れておらず、踏み場として十分な枝の上に飛び移り、両足で枝を踏み砕きながら吹っ飛んでくる饕餮鬼皇へと突撃する。

 

『龍王破山剣逆鱗断ッ!!!』

 

【ギ、ギギャアアアアアアアアアアーーーーッ!?!?】

 

落下するアルトアイゼン・ギーガのコックピットでキョウスケがそう叫ぶのと、クスハの力強い叫びと共に振るわれた龍虎王の剣撃が饕餮鬼皇を切り裂くのと凄まじい断末魔の悲鳴が周囲に木霊するのははほぼ同時の事であった。

 

『ぶちぬけえええええええッ!!!!』

 

『おおおおおおお――ッ!!!』

 

【は、ははははははっ!!! はーっはははははははッ!!!! 良いだろう! この場は我の負けを認めてやろうぞッ!!】

 

そして2体のゲッターロボのゲッタービームと鯀鬼皇の念動力が弾け、鯀鬼皇の大声の笑い声と敗北宣言の後、全員の視界を奪うほどの強烈な閃光が周囲を明るく染め上げたのはそれから数秒遅れての事だった……。

 

「き、消えた……」

 

『何が起きたというんだ……』

 

光が晴れた時2機の超機人の姿は無く、妖機人はその分身の姿も最初から幻であったかのように消え去っていた。雲1つない快晴の空の下、響く声だけが超機人が存在したと言う証だった。

 

【いずれまた会おう、人間達よ。お前達の魂の輝き、良き物であったぞ。その魂の輝き、これからも磨く事だな】

 

【己おのれオノレええええッ!! 必ず、必ずやこの恨み晴らしてくれようぞおおおおおおッ!!!】

 

キョウスケ達の力を賞賛する鯀鬼皇と、恨み言を喚き散らす饕餮鬼皇の声が消え、周囲を覆っていた不気味な威圧感は完全に消えさり、戦いが終わったと言うことだけがダイテツ達に判ることだった。

 

「ビアン、話を聞きたいのだが構わないか?」

 

『ここまで来て、さよならとも言えんな。近くに無人島がある、そちらで話をしよう』

 

戦いを終えたビアン達はそれぞれの戦艦へと帰艦するのだが……再会した時に殴ると活きこんでいたリューネによって話し合いの場でビアンの血の雨が降る事を誰も知るよしもないのだった……。

 

130話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その5へ続く

 

 




慢心していた饕餮鬼皇は手痛いしっぺ返し、そして鯀鬼皇は抗って見せたので賞賛して退場と超機人同士でもかなり差がある終わりにして見ました。次回はリューネとビアンの再会と言う事でとりあえず、殴るって所はやりたいですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


PS

迎撃戦は今回かなり苦戦しましたが無事に400万獲得する事に成功しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

130話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その5

130話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その5

 

クロガネ、ハガネ、シロガネの3隻のスペースノア級とヒリュウ改の全戦力を注ぎ込むことで鯀鬼皇と饕餮鬼皇の2機の超機人を退ける事は出来た。だがその事に笑みを浮かべている者は誰1人として存在していなかった……直接戦ったからこそ、その力を目の当たりにしたからこそ、撤退に追い込むことが出来た理由が判ってしまったからだ。

 

「全然本気じゃなかったな。ラドラ、カイ」

 

「……ああ。あいつらはまだ余力を残していた、それと慢心していたからこそ付け入る隙があったが……」

 

「次はないだろうな」

 

鯀鬼皇は確かに異形の巨人ではあったが、神を名乗るだけの知性と大局観を持ち合わせていた。そして堂々と鬼は敵であると言い放った性格から、恩義に厚くもあり、そして人のあり方を賞賛して見せた。確かに敵ではあるが、今回の戦いはあくまで見極める為の物で、本気で戦うつもりは無かったとギリアム達は分析していた。

 

「化け物ではあるが、それなりの敬意は抱けるな」

 

「指揮官、指導者としては紛れも無く1級品だな。同じ超機人であったとしても饕餮鬼皇は品性が違う」

 

その話にゼンガーとエルザムも加わる、鯀鬼皇は己の敗北を認め、最後まで堂々と勝利した武蔵達を賞賛し消えていった。それはゼンガーから見ても潔いものである種の尊敬と共感を抱く性格をしていた。それに対して饕餮鬼皇は下品であり、女を犯しながら喰うのが好きだと公言し、事実ヴァルシオーネ達を追い回していた姿も見て、嫌悪感を抱いたクルーは少なくない。しかしそれでいて強さは別格で、精神を喰らうという性質上かなりの難敵である。今回は慢心していたからこそ勝機があったが、最初から全力で来られていては苦戦は必須だった。

 

「ゼンガー。お前達は何か知っているんじゃないのか?」

 

「いや、俺達も調べている段階で有力な情報はない。とりあえずビアン博士がこっちに来てから……「このクソ親父ィッ!!!」

 

リューネの怒声が響きゼンガー達が振り返ると見惚れるような右ストレートでビアンを殴り飛ばした姿のリューネ、そして殴られた勢いで回転しながら吹っ飛ぶビアンの姿に誰もが声を失った。

 

「歯ぁ食いしばれ! 親父ぃッ!!」

 

「待って! リューネ待ってくれ! 死ぬ! それ以上は殴ったら死ぬッ!!!」

 

「リューネ嬢! 落ち着くんだ!」

 

バンと武蔵が怒り狂うリューネを必死に宥めようとするが、怒髪天を付いているリューネは止まる気配がない。

 

「……世界を取れる右だ。良い拳だ……」

 

「このクソ親父ぃッ!!!」

 

鼻血をダクダクと流しながらサムズアップし崩れ落ちるビアンとその言葉に更に怒りを燃やすリューネ。

 

「ストーップ! マジで死ぬッ! マジで死ぬからッ!!!」

 

「離せ武蔵ぃッ!!! 殴り足りないッ!!」

 

「ここでビアン総帥に死なれる訳にはいかんのだッ!!」

 

自分の愛娘に撲殺寸前に追い込まれているビアン、そしてそんなビアンにトドメを刺そうとするリューネに武蔵とバンはリューネを羽交い絞めにし、無理やりビアンから引き離しに掛かった。

 

「ビアンさんを医務室へッ!!」

 

「急げッ!」

 

「シャアアアアアーッ!!!」

 

「「長くは持たないッ!!!」」

 

武蔵とバンの2人を持ってしても長くは持たないと聞いて、LB隊が担架にビアンを乗せ全速力で去っていく。

 

「なんだろうな……クロガネのイメージが崩れた」

 

「……そうだな。見ない間に何があったんだろうな……」

 

リュウセイ達が今のやり取りを見て何とも言えない顔をする。ちなみに現在進行形でトロイエ隊の生き残り達はというと……。

 

「はぁーッ!? レオナのやつ彼氏を作ってやがるぞ!?」

 

「いえいえ!? 何をッ!?」

 

「根掘り葉掘り全部聞きますわ!」

 

「……喪女を馬鹿にしてるでしょ? ねぇ、そうなんでしょ?」

 

「隊長、何で幼女に負けてるんですか……」

 

「駄目だ、へタレが過ぎる……」

 

「ポンコツが過ぎる……駄目だわ」

 

レオナとユーリアがボロボロにされている光景が繰り広げられており、女3人寄ればかしましいと言うが、そんなレベルではない喧騒が広がっていた。

 

「あれがあたし達が苦戦したエリート部隊か……」

 

「いやん、良いんじゃない? あれくらい明るいほうが私は好きよん。カチーナ中尉」

 

DC戦争時に苦戦した連中があんなのになってるのかと脱力するカチーナに対して、明るくて良いじゃないと笑うエクセレンだったが、次に格納庫に響いた声にその顔を引き攣らせた。

 

「明るい事は良い事だとは思わないかね。この劣勢、それに嘆き、憂い、絶望するよりもよほどいい」

 

低いトーン、そして決して大きな声ではないが格納庫にいる全員に聞き取りやすい口調に振り返り、嘘だろと言う表情を全員が浮かべた。立派な口髭に鮮やかな銀髪、痩せ気味だがその内は鍛えられている事が判る、鋭い視線からは信じられない柔らかい口調でその男は自分の名を口にした。

 

「初めましてになるな。L5戦役の英雄にこうして会えるとは感無量だよ。グライエン・グラスマンだ、かつてはウィザードとまで呼ばれはしたが、今は鬼になにもかも奪われた敗北者だ」

 

安全保障委員会委員長であり、ビアン、マイヤーと同じく異星人との徹底交戦を掲げ、シュトレーゼマンと対立していた鷹派の最重鎮議員……それがクロガネにいる。それが意味している事は1つだけだった。

 

「鬼はそんな所にまで手を伸ばしてるのかよ……」

 

「……流石にこの状況は楽観視出来ないわね」

 

連邦議会の重鎮でさえ成り代わられている――その事実はハガネ、クロガネ、ヒリュウ改のクルーに重い絶望を与えるのだった……。

 

 

 

 

ビアンが意識を取り戻してからすぐにそれぞれの戦艦のブリーフィングルームでの話し合いになったが、その場の空気は非常に重い物なっていた。

 

「黒いゲッターロボによる私の屋敷の襲撃はビアン達による救出活動だった、あと一歩遅ければ私は死んでいただろう」

 

淡々と語るグライエンの言葉の中には隠しきれない悔しさや怒りが滲んでいた。クロガネに身を潜め、生き延びる事は出来たがグライエンもまた地球圏の事を思う1人の漢であり、逃げ回る事に悔しさを感じていたのは明らかだった。

 

『グライエン議員、1つ聞いてもよろしいか?』

 

「ダイテツ中佐、何かな? 私に答えられる事ならば答えるが……」

 

『何故狙われたか、貴方はその理由を知っているのですか? 正直に言えば、貴方は鷹派だ、穏健派のブライアン大統領とは反りが合わない人物の筈。それなのに何故1番最初に襲われたのですか?』

 

穏健派で有名なブライアンと鷹派のグライエンの相性は最悪だ。政敵としてブライアンを失脚させるとしても、今はそれらしい素振りが無い事をダイテツは疑問を抱き、その理由を問いかけた。

 

「私の家には代々旧西暦の資料が伝わっている。その内容はゲッターロボとゲッター線に関しての物だ、そしてその中には当然――百鬼帝国の指導者の名も記されている。百鬼帝国が本格的に動く時に私は邪魔者でしかないだろう、それが理由だと私は考えている」

 

百鬼帝国の指導者の名を知っている――グライエンの言葉は衝撃的であり、それと同時に希望を与える物だった。

 

『それならばグライエン議員、その人物を糾弾すれば良いのでは?』

 

『そこを切っ掛けに百鬼帝国を……』

 

若いレフィーナとリーはその人物を糾弾すればいいと口にする。鬼と判っている人物がいれば、それを叩けばと思うのは当然の事だが……。

 

「グライエン議員。ご意見をよろしいでしょうか?」

 

「君は?」

 

「ギリアム・イェーガーと申します。階級は少佐、所属は情報部となります」

 

「ギリアム少佐、あの名高い教導隊出身か、構わない。君の意見は何だ?」

 

「ビアン博士、そしてグライエン議員――そんなお2人が尻尾を掴んでいるのに公表しない、いや公表出来ない。現政府の中でも重要人物にして、社会的地位がある人間が鬼の指導者であれば、下手な糾弾は自らの首を絞める事になる。そして私も独自のルートで旧西暦の資料を集めておりますが……その中で気になる人物の名がありました」

 

ギリアムは百鬼帝国の首領の正体を掴みかけていたと聞き、ブリーフィングルームにざわめきが広がる。

 

「ギリアム、知っていたの?」

 

「ああ……可能性は極めて高いと言える。だが……これを公表する事は文字通り諸刃の剣となる。だから俺は黙っていた、百鬼帝国の脅威が広がると知った上でだ、これを公表すれば……俺達全員の首が飛びかねない」

 

教えたくても教えられず、ハガネのクルー達全員が路頭に迷う、あるいは投獄されるリスクを背負えなかったとギリアムは深刻な表情で次げた。

 

「マジかよ……そんな重要人物なのか」

 

「一体誰……確かに限られてくるけど……」

 

「それだけの人物が敵とは思いたくはないな」

 

それだけの権限を持つ人間となればかなり限られてくる。しかしそんな相手が敵だと思いたくないと言うのは誰だって同じ事だ、下手をすれば自分の家族が人質になるかもしれないと考えれば、ギリアムが口に出来なかった理由も納得が行く。

 

「ここまで来てしまったんだ、もう教えたほうが早いのではないか? ビアン所長」

 

「うむ……明確な証拠はないのだが……限りなく黒と言っても良い人物だ、今後関わる事もあるだろう。ダイテツ達はどうする? 知りたくないと言うのならば……私はそれを尊重しよう。何とか早い段階で失脚あるいは正体を明らかにさせてみせる」

 

正体を暴いてみせるというビアン。確かに普通に考えれば知らずにビアン達が正体を暴くのを待つのが得策だろう……だが敵は強く、ビアン達でさえ敗れる可能性がある、そしてその中で敵を味方と思い込む事の方が恐ろしいとダイテツ達は考えた。

 

『……教えてくれビアン。我々の中にいる真の敵を』

 

『私達ならば大丈夫です。教えてください』

 

『覚悟は既に出来ております。勿論私だけではなく、この場にいる全員が』

 

成り代わりを知り、上層部が鬼に変わっていると知っている自分達ならばどんな人物が鬼の首魁でも動ずる事はないと口々に言い、グライエンとビアンはそこまで言うのならば教えることにした。

 

「良いだろう。ならば君達の覚悟を認め教えよう……鬼の首魁にして、連邦評議会の中枢人物……その名をブライと言う」

 

ブライの名を聞いて信じられないと言う顔をする者の中でギリアムだけが驚いた様子を見せなかった。その様子を見てカイがまさかとギリアムに視線を向け問いかけた。

 

「まさか……ギリアム」

 

「ああ、その通りだ。俺の掴んだ正体もブライ議員だ」

 

穏健派にして慈善事業家、そしてアメリカで圧倒的な政治基盤を持つ大人気議員――ブライが百鬼帝国の指導者であると言う事実に誰もが言葉を失うのだった……。

 

 

 

アメリカを代表する連邦議員と言えばブライ。それは誰もが知っている話だ。スポーツマンであり、企業家であり、そして慈善事業も積極的に行い、国民の支持が圧倒的に厚く、そして政治に興味の無い物でもブライの名を知らない者はいないと言っても良い名政治家が百鬼帝国の指導者。その言葉に誰もが信じられないと言う表情を浮かべた。

 

「俺から言わせて貰えばブライ議員とブライ大帝は全く同じ顔をしているし、体格も殆ど同じだ。それに喋り方の間の取り方、そして演説

能力――俺の記憶の中のブライと全てが同じだ」

 

元百鬼帝国の構成員コウキの言葉に続くように武蔵も口を開いた。

 

『オイラは直接的には知らないけど、百鬼帝国の指導者がブライって言う奴なのは間違いない。ついでに言うとオイラ達は化け物になっているブライと戦ってる』

 

『ああ、その通りだ。顔はあの化け物と良く似ている』

 

武蔵とカーウァイの言葉も重なり、ブライ議員=ブライ大帝という可能性がかなり信憑性を帯びてくる。

 

「本当なの? コウキ博士」

 

「まず間違いないだろうな。直接会った事は無いが……あの顔を、あの気配を俺は間違えん。間違いない、断言出来る。ブライ議員はブライ大帝だ」

 

間違いないと断言するコウキにブリーフィングルームに重い沈黙が広がる。政界だけではなく、軍上層部、そして世論にも絶大な発言力を持つブライが鬼である等とそう簡単に受け入れられる物ではなかった。

 

「成り代わられた……と言う訳ではなさそうですね」

 

「ああ、ブライは俺やラドラと同じパターンだと思っている。武蔵やカーウァイのようにそのまま時間を移動している者、そして俺やラドラのようにこの時代の俺達自身とも呼べる存在に憑依している者だ。いつそうなったのかは判らんが……お前達の知るブライと今のブライは違うと言うことだ」

 

今までの旧西暦からの使者の事を分析するとコウキの言う通り、自身の肉体で時間移動している武蔵とカーウァイと、意識いや、魂と言うべき物が新西暦の自分に憑依しているパターンの2通りある。そしてブライは後者であるとコウキは断言した。

 

『ではコウキ博士は慈善事業家として有名だったブライ議員と百鬼帝国のブライ議員は別人であると言うのか?』

 

「ああ、俺は子供の時、ラドラは青年の時だったな?」

 

「その通りだ。俺は軍学校で意識を取り戻した」

 

同じ死者でもその記憶を取り戻した時期が違う。ブライも若い時は確かに慈善事業家でそして地球の為に行動していたかもしれない、何時鬼のブライの意識と記憶を取り戻したかが不明瞭だが、今のブライと過去のブライが違うと言う言葉に説得力があった。

 

「だとしてもよ、ブライ議員が鬼の首領ならこっちの手札は全部筒抜け、そして向こうはこちらの妨害を幾らでも出来る。これをどうやって覆すというの?」

 

クルーや隊のメンバーが解散させられる可能性もある。余りにも劣勢、そして追詰められた状況にどうするの? とヴィレッタが珍しく弱気な事を口にした。

 

『それに関してだが、そこは心配する必要はないだろう、ブライの性格を考えればまずそれはない』

 

「グライエン議員、何故断言出来るのですか?」

 

『簡単な話だ。あの男はプライドの塊だ、そして人間を見下している。どこまで行っても鬼である自分が人間に負ける訳が無いと考えている筈だ、故にこちらの戦力を分散するとは思えない。そしてあいつはゲッターロボを恐れている、仮にハガネやヒリュウ改が分散されたとしたら、ダイテツ中佐達はそれを黙って受け入れる訳が無いだろう? となれば打って来る手としてブライが最も避けたいものはなんだと思う?』

 

ブライが最も避けたく、そして追詰められたダイテツ達が打つであろう一手――と聞いてキョウスケが小さく呟いた。

 

『中枢への武蔵と共に強行突破』

 

『その通り、あの男は自分の思い通りに政治と軍を動かそうとしている。その中で一種の愚連隊とも言えるハガネやヒリュウ改は最も恐れていると言っても良いだろう、仮にその一手を打ってくるとしてもそれを切るのは自分が完全に政界と軍部を掌握した時だ、今はアインスト、インベーダー、そしてインスペクターと御せぬ敵が多くいる。そんな中でそれらと戦うハガネ達の動きを束縛する事はないだろう』

 

百鬼帝国の戦力を持ってしても御せぬ相手がいる限りは大きく動く事はないとグライエンは断言した。

 

『では私達に出来るのは百鬼帝国が本格的に侵略活動に乗り出す前に、ブライ議員が鬼であるという事を明らかにする事と言う事ですね?』

 

『それもあるが、レフィーナ艦長。もっとも優先するべきなのは戦力だ、百鬼獣、超機人、そしてインスペクターや人知を超えた数多の化け物に対抗できる力――それが今必要なのだ』

 

優先すべきはブライの正体を暴く事ではなく、百鬼帝国とも、そして百鬼帝国と協力している超機人、そして異星人であるインスペクターを退け、アインスト、インベーダーとも戦えるだけの力だとビアンはしっかりとした口調で告げた。

 

『ビアンのおっさんよ、それならゲッター炉心を量産すればいいじゃねえか、あんたは作れるんだろ? PTには搭載できないとしても、特機に搭載出来るならかなりの戦力UPになるだろ?』

 

『普通に考えりゃそうだよな、どうなんだよ、ビアン博士』

 

マサキの意見に賛同したカチーナや、ゲッター炉心を使えばと考えている者がその目を輝かせるが、ビアンは首を左右に振った。

 

『ゲッター炉心は量産が効かない、その上出力にブレがある。仮に作れたとしてもそれこそ機動兵器に使用出来ない低出力の可能性もある』

 

「テスラ研と同じパターンか、ゲッター炉心は作れば作るほどに安定度が下がる。この謎を解決しない事には安定して動力として使う事は出来ない」

 

『しかし反マグマプラズマジェネレーターはマグマ原子炉の再入手が難しいから、作る事はまず不可能だ』

 

テスラ研でゲッター炉心を研究していたコウキ、反マグマプラズマジェネレーターでゲシュペンストを特機クラスに強化したラドラも新たにマグマ原子炉を入手できないから作る事が出来ないと言う中、ビアンがこれを見てくれと前置きしてから1つの図面をモニターに映し出した。

 

「これは……エンジン?」

 

「新型のエンジン……いや、これは構造が……」

 

『この構造はゲシュペンスト……いや、それよりも回路が複雑だ……』

 

『親父、なんなんだよ、これは』

 

モニターに映し出された図面を見て、それがエンジンだと悟る者、それが何か判らず困惑する者と反応が二分される。そんな中リューネがこれがなんなのか?とビアンへと問いかける。

 

『青いゲッターロボを見ただろう? 電撃を操るバン大佐が乗っていたゲッターロボのエンジンがこれだ』

 

超機人、妖機人との戦いの中で電撃を操り、高い攻撃力と防御力で常に先陣を切り戦っていた特機の姿が全員の脳裏を過ぎった。

 

「ゲッターロボに似てるなって思ったけど、あれもゲッターロボだったのか……」

 

「まぁどう見ても3機合体だったしな、あれもビアン博士が建造したゲッターロボなのかもしれないな」

 

『なんだよ、ゲッター炉心が作れないって言っておきながらゲッターロボが出来てるんじゃねえか』

 

『でも安定して戦力として運用出来るなら頼もしいと思いますよ』

 

ゲッターに似ていると感じたとリュウセイや、ネオゲッターをビアンが作ったゲッターロボだと判断したイルム。ゲッター炉心を量産できないとしておきながら完成してるじゃないかというカチーナにゲッターロボが戦力になるなら頼もしいというブリット。

 

『だがゲッターロボの動力はゲッター炉心の筈、これを使う事が出来るのですか?』

 

『使えない物を見せられてもな……』

 

「ビアン博士、説明が足りないぞ。これは何なのかを説明してくれ」

 

「興味深い構造をしてますが……なんですの?」

 

ゲッターロボとゲッター炉心は繋がりが深い、そのエンジンと聞いて使えないのではないか? というキョウスケと渋い顔をするカイとギリアム、パイロットであり科学者のコウキとマリオンはそれがただのエンジンではないと悟り、なんなのかを説明してくれと告げる。

 

『これはプラズマボムスという動力になる。旧西暦で開発された高圧電流によってゲッター炉心に匹敵するパワーを発揮する動力だ、失われた時代を生き延びた研究者の1人が未来への希望とし、この設計図、そしてネオゲッターロボを残しておいてくれたのだ』

 

『もしもインベーダーが復活し、あるいはインベーダーに匹敵する脅威が再び人類に迫った時――それらに抗う力として、そして未来への希望として残してくれた。その科学者の名はタチバナ、そしてヴァート・ドレイファス、そして神隼人。早乙女研究所にかつて所属した研究者、そして武蔵君と同じゲッターチームの1人によって作成された物だ』

 

旧西暦に作られ、未来への希望として残されたネオゲッターロボとプラズマボムス――それはゲッターD2に続き、数少ない百鬼帝国に手痛い反撃を与える事が出来る可能性を秘めた動力なのであった……。

 

 

 

 

月から地球へ向かうシャトルの中でブライは百鬼帝国の工作員に化粧を受けていた。インスペクターに囚われ、数人の交渉に向かった議員とインスペクターの危険性をアピールする為の化粧だ。

 

「こんなものでどうでしょうか?」

 

「うむ、悪くはないな。良い具合だ」

 

他の議員と違いブライは仮病だが、それを欺くだけの演技力をブライは当然有しており、他の議員は催眠術を掛けられているので自分で口を開く事もない。

 

「大帝。ハガネを初めとした戦力が伊豆基地に集まって来ておりますが、いかがしますか?」

 

ブライがホワイトスターにいた間の報告を聞いているブライに鬼の1人がそう問いかける。

 

「何もせんよ、ハガネはまだ泳がせる。伊豆基地のレイカーは抑え込む必要があるがね」

 

「……よろしいのですか? 分散させるのでは?」

 

「ははははははッ! そんなことをすればインスペクターやシャドウミラーにぶつけられんではないか。頭を使え、確かにハガネやヒリュウ改の戦力は脅威だが、所詮は人間よ。洗脳する事は容易い、その上情という下らん物に惑わされる。今は見極める時だ」

 

ハガネやヒリュウ改の船員を鬼とするのが最善なのか

 

それともシャドウミラーとノイエDCを鬼とし戦力に加えるべきなのか

 

インスペクターと手を組み、ゾヴォークに復帰し宇宙へ進出するのか

 

ブライが取れる道は数多あり、そのどれもが今の戦力ならば実現可能だとブライは考えていた。

 

「ゆえにワシが打つ手は1つしかない、ブライアンを引き摺り落とす。もう十分に準備は出来ている」

 

「ではミッション・ハルパーを実行するという事ですね、大帝」

 

「その通りだ。ブライアンを引き摺り落とせば政治の場も、軍備もワシの手中だ。精々連邦を上手く利用し、ワシの部下にするに相応しい物がどこなのかを見極めるとしよう、なんせ不愉快な寄生虫にアインストにバラルと戦うべき相手は山ほどいるのだからな」

 

ブライは大局を見据えて笑う、なにかもかも利用し、そして長い時間を掛けて準備を進め、自分の社会的な地位も高めた。

 

「ワシを殺せば反逆者、ワシを告発すれば気狂い、あやつらはワシに手を出す事はできんよ。精々利用させてもらうとしよう」

 

己の大願を叶える為に何かも利用し、あるいは裏切り、またあるいは協力し、時には下げたくない頭も下げる。旧西暦で何もかも自分で出来る、成し遂げようし、その結果が部下の暴走とゲッターロボへの敗北を呼んだとブライは考えていた。

 

「敗北を知ったからこそ、ワシは油断も慢心もせん、今度こそ全てを手にして見せるッ!」

 

何もかも上手く行っている者ほど脆いものはない、敗北を、挫折を、屈辱を知ったブライに油断も慢心も無く、ただあるのはすべてに勝利し全てを手中に収めるという底なしの野心、そしてその野心をかなえる為の手段を全てブライは手にしている。

 

「さぁ地球へと急ぐのだ! 地球を今度こそ我ら百鬼帝国の物とする為にな!」

 

「「了解!」」

 

シャトルから見える地球を見て獰猛に笑ったブライはその手を地球に伸ばし、握り潰すように右拳を握りこむのだった……。

 

 

131話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その6へ続く

 

 




ハガネ達の強化フラグ、プラズマボムス。これでOG外伝や、第二次OGでの戦力の底上げが可能になると思います。

次回はもう少しクロガネとの話を書いた後ににエクセレンがアルフィミイに誘い出されるシナリオに入って行こうと思いますが、そこも大胆に変えて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


後スパロボDDの魂の三周年ガチャで

プログレッシブナイフ連続攻撃(2号機)とガズラ・スーファーの2枚の期間限定を入手できたので、戦力UPが出来そうです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第131話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その6

第131話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その6

 

伊豆基地へと戻る前にある程度の応急処置を行なう為に無人島に停泊しているダイテツ達は、応急処置が終わるまでの間ビアンとの話し合いを続けていた。

 

「伊豆基地に鬼はいないと言うのか?」

 

「ああ、イングラム少佐が確認に向かっているので間違いない。鬼はいないが、鬼の指示を受けている人間はいるだろうな」

 

鬼自体はいないが、鬼の官僚か、上層部に指示を受けているダイテツやレイカー達を面白くないと思っている軍人の妨害は行なわれているだろうといいビアンは深刻そうな表情で呟いた。

 

『オペレーションプランタジネットが間近に迫っていると言うのに……仲間内で足の引っ張り合いをしているというのか……』

 

『ふうむ……わからない話ではありませんな、オペレーションSRWの時も同じでしたからね……しかし、問題はそこではないと私は考えますが、ビアン博士のお考えはどうですかな? 例えば、先日ホワイトスターを脱出したブライ議員に関してとか?』

 

仲間割れに心を痛めているリーだが、ショーンは別の可能性を危惧していた……百鬼帝国の指導者である可能性が高いブライが地球へと戻って来ている事に関して何か掴んでいる情報はないか? と問いかける。

 

「ブライ議員がブライ大帝であると言う前提になるが、これは極めて不味いと言える、地球に戻ってきたという事は本格的な侵攻に乗り出せる準備が出来たと考える事が出来るからな」

 

ビアンに変りグライエンが眉を細めながら話し始める。今まではホワイトスターにいたから問題を先送りに出来ていたが、地球に戻って来た事で散発的だった百鬼帝国の侵攻が激しさを増す可能性があるとした上でグライエンは最悪のシナリオを口にした。

 

「インスペクターと手を組み、オペレーションプランタジネットに横槍、あるいは後で手を引いてくる可能性が高い。そうなるとハガネ、シロガネ、ヒリュウ改はその指示に従わなければならないが……」

 

『敵が罠を張っている中に一切抵抗できない状況で乗り込む事になりますね』

 

「その通りだ、仮にその指示に従わなければ反逆者に仕立て上げられる事になるだろうし、何よりも伊豆基地のレイカー達が人質にされる可能性もある」

 

命令に従えば罠の中に飛び込む事と同意儀であり、命令に刃向かえばインスペクターの内通者へと仕立て上げれる。そして更にはレイカーやレイカーが保護している民間人もろとも伊豆基地、いや日本全体が人質にされる可能性もある。

 

「八方塞がりだな……どうしたものか」

 

『仮に私達が捕まった場合クロガネだけで救出は流石に無理ですよね……』

 

クロガネとビアン達は連邦に関係の無い戦力だが、鬼がビアンの姿を使っている以上表立って動けない。そしてプランタジネットの作戦中に囚われた場合に救出に動くとしてもクロガネだけでは厳しいだろうという中、グライエンが手を上げた。

 

「君達はオーダーという組織を知っているかね?」

 

「オーダー? 反連邦組織の何か?」

 

『私は聞いた覚えはありませんが……副長はどうですか?』

 

『いえ、私もありませんね』

 

ダイテツやレフィーナが困惑気味に返事を返す中、リーだけが別の反応を見せた。

 

『私は聞き覚えがありますが……昔話のような物だったと把握しております』

 

「そうか、リー中佐は中国の出身だったな、超機人の伝承と共にある程度は民間にも話が残っているか……」

 

オーダーという謎の組織、そして民間伝承と聞いてますますダイテツ達は困惑した様子を見せた。

 

「グライエン議員。お言葉ですが、何を仰りたいのか判りかねるのですが?」

 

「うむ、私も眉唾というよりかは、ゲッターロボを調べている内にいくつかの昔の記述を見つけてな。その中にオーダーという組織があり、悪の超機人と戦ったという話を聞いたことがあるのだ」

 

『鯀王達と戦った人間がいたと言うことですか……実在しているのならばありがたいですが』

 

『正直疑わしいですな』

 

龍虎王の伝説の前後の時期の組織ではどう考えても新西暦まで存続していないだろうと渋い顔をするショーン。事実ショーンの反応が最も正しいのだろうがビアンとグライエンは違っていた。

 

「それに関してなのだがマイヤーからそんな話を聞いたことがある。バラルという組織の復活に備え、地に潜り戦い準備をしている者達がいるとな。そしてバラルに関しては余り詳しい情報はないのだが……悪の超機人を操っていた組織のような物らしい」

 

『らしいとはまた随分とあやふやですなあ、ビアン博士』

 

「それに関しては申し訳ない。私の責任だ。なんせゲッターロボと同格の暗部だ、当事者くらいしか詳しい話は知らないし、当事者の子孫でもその伝承が正しく伝わっていないそうだ」

 

グライエンの口振りだとまるで当事者の子孫がクロガネに乗っているような口振りに聞こえた。

 

「まさかクロガネにそのオーダーの子孫とやらがいるのか?」

 

「いる。エルザムだ、オーダーは世界各国の技術者やパイロットを集めていたらしくてな、ブランシュタイン家もオーダーに所属していたそうだ。ただエルザムは詳しい事を知らないと言っていたがね……かつてブランシュタイン家を出て行ったエルザムの従兄弟がバラルとオーダーに関して詳しかったらしいが……現在は消息不明。所在地がわかっているのは百鬼帝国に下ったアーチボルト・グリムズと連邦の監視下にあるグリムズ家。そして後1つ……トウゴウ家だ」

 

『トウゴウ? もしやそれはリシュウ先生の事ですか?』

 

「その通りだ、リシュウ・トウゴウもオーダーの生き残り、いやその艦長を務めていた男の子孫だ。トウゴウ氏をテスラ研から救出出来れば……オーダーとの橋渡しが出来るやもしれん」

 

未知の戦力、いや存在するかも怪しいオーダーだが……超機人が存在するのならばという淡い期待がダイテツ達の中に生まれた。

 

「プランタジネットの前に救出が出来ればそれも戦力として数えれるかもしれないな」

 

「実際はそこが一番の問題だが、最悪の場合は我々が救出に動く、戦力的には百鬼帝国にも引けを取らないはずだ。不安はあると思うが、ダイテツ達はプランタジネットに集中してくれ」

 

自分達が最悪の場合に備えるから目の前の戦いに集中してくれと告げたビアンにダイテツ達は頷き、情報交換を続けるのだった……。

 

『Guten Tag(グーテン・ターク) リシュウ先生。お加減はどうですかね?』

 

「あいも変わらずお調子者じゃな、お前は」

 

一方その頃インスペクターに制圧されているテスラ研ではリシュウの元にある男からの通信が繋げられていた。

 

『ふふふ、暗くなっても悲観的になっても同じでしょう? なら僕は明るい方がいい』

 

「ブランシュタインの名を捨ててから随分と明るくなったの?」

 

『今の僕はバロンと名乗っておりますのでリシュウ先生もそう呼んでくださいな、それで今の状況はどうですかな?』

 

「状況は良いとは言えんが悪いとも言えん。インスペクターの指揮官は自分の機体が無く動ける状況ではない、だが無人機が山ほどおるわい」

 

『ふぅーむ、それでは僕とフェイだけでは救出は無理そうですね。せめて鋼機人が使えれば……チャンスはありそうですがね』

 

「あれは封印されておるからな」

 

オーダーとバラルの戦いで使われた妖機人のコアを流用した機動兵器――鋼機人は妖機人になる危険性を秘めた機体であり、現在は封印状態にあるが、それでももし起動させる事が出来れば新西暦の最新鋭機に匹敵するポテンシャルを秘めた機体でもあった。だが肝心の鋼機人がどこにあるかはリシュウも知らない、今もどこかで封印されているのか、それとも既に妖機人になっているのかも分からないというのが現状だ。だがバロンに渡す剣は密かにリシュウの手によって作り出されていた。

 

「ポイントXX-ZZ01410じゃ。妖機人のコアは使っておらんが、何とか復元した鋼機人はそこに眠っておる」

 

トウゴウ家、アーチボルド家、ブランシュタイン家に伝わる資料を元にリシュウが復元した鋼機人は世に出る事無く、政府の圧力によって封印された。リシュウもそれを受け入れたが、それはパイロットがいなかったためであり、パイロットが現れたのならばそれを封印したままにするつもりは微塵もなかった。

 

『複製と言う事ですか、流石リシュウ先生』

 

「オリジナルの場所はワシも知らん、じゃがゲッター合金や新型エンジンでオリジナルに匹敵する力は与えれた筈じゃ。なんとかして取りに来い」

 

封印こそされているが、極秘裏にエンジンを改修し、ゲッター合金で装甲の強化も施されているので封印されていると言うのは建前で地下の格納庫に保管されていると言ってもいい状況だった。ここのところは官僚の変更によって杜撰な管理に変わった事で出来るようになった事だが、リシュウにとっては完全にプラスに動いていた。

 

『了解です。どうせエルザムたちが動くでしょう、その時に僕達も動きましょう。では先生もお気をつけて』

 

その言葉を最後に通信機は沈黙し、リシュウは馴れた手付きでその通信機を再び解体する。

 

「鋼機人は先生が随分と前に作った特機でしたね?」

 

「うむ。そうじゃジョナサン。あれは失われた時代とゲッターロボと同じ位の厄ネタでな、作ってすぐに封印したあれじゃ」

 

「なんでそんなものを?」

 

「ご先祖様の言いつけと言っておくかの」

 

にかりと笑うリシュウにジョナサンは肩を竦め、同じ様に笑いテスラ研の情報を纏める作業を再開する。

 

(あやつが動いたという事はバラルが動き出したのか? ここでは情報がまるで手にはいらん、今どうなっておるんじゃ)

 

バロンはバラルが関係しなければ動かないと静観を続けていた。それが今ここで動き出したと言う事はバラルが再び動き出した事を示唆しており、リシュウは飄々と笑う顔の陰で激しい焦燥感を抱いているのだった……。

 

「と言う訳で、フェイ。次の目的地は北米です」

 

ジープの運転席に座っていた金髪で丸眼鏡をしたどこと無くエルザムとライに似た容姿の青年が振り返りそう声を掛けるが、その青年の目の前に広がったのは足の裏だった。

 

「何がというわけだ、このすっとこどっこいッ!! 全然違う所じゃねえかッ!」

 

「あいたッ!?」

 

怒声と共に顔を蹴られた青年――バロンは大袈裟に痛いと呻き、ジープの後部座席でたって辺りを見回していた女性はブーツを履きながら助手席に腰を下ろす。

 

「もうちょっと丁寧に扱ってくれませんかね? 僕は考古学者で貴女と違って頭脳派なんですよ」

 

「ブーツを履いてなかっただけ感謝しな、あと遠回しにあたしを脳筋って言うなエセ貴族」

 

男勝りの口調にチャイナドレス、風に靡く三つ編みと誰が見ても美人なのだが、その目付きと口調の悪さが全てを台無しにしていた。

 

「いや僕は正真正銘の貴族なんですけどね……まぁ家を捨てたので関係ありませんが……それよりもフェイ、もうちょっとおしとやかに「やかましい、とっとと車を走らせろ」ふぐっ!?」

 

裏拳を叩き込まれ呻いたバロンはわかりました、判りましたよと呟きながらキーを回しジープを走らせる。この短いやり取りでバロンとフェイと呼ばれた女性の力関係が明らかになった。

 

「それで鋼機人は?」

 

「テスラ研の近くに眠っているそうなので取りに来いとリシュウ先生が言ってましたよ、但しオリジナルではなくレプリカですが」

 

「それでも良いぜ、AMよりかはマシだろうからな、今度こそバラルのクソ仙人共をぶっ殺してやる」

 

「ええ、その通りですよ。あいつらの存在は害悪です、人間の可能性を閉ざしますからね」

 

旧西暦から存在したオーダーは今やたった2人。それでもその目に不屈の闘志を宿し、中国の荒野を駆け抜けていくのだった……。

 

 

 

 

 

クロガネの格納庫では鋭い打撃音が何度も響いていた。その内一際大きな打撃音が響き、それに遅れて呻き声が上がる。

 

「脇が甘い、踏み込みの速度が落ちているぞ。カイ」

 

「はいッ! もう1本お願いしますッ!」

 

「良し、来い。やはりお前はゼンガー達よりも根性がある」

 

拳を握りこみボクシングスタイルのカーウァイと左手を前に構え、右拳を握りこんだ空手の構えを取るカイの組み手が再び始まる。

 

「カイ少佐も元気だねぇ……これで10回目か?」

 

「恩師にも会えればああもなるでしょう」

 

カイからすればカーウァイは死んだ恩師だ。それが目の前にいてこうして組み稽古が出来る。汗だけではなく、目元に光る雫を見てヴィレッタは小さく笑った。格納庫では機体の修理が終わるまで待っている者が多く、カイとカーウァイの組み手を見ている者、あるいはクロガネのハンガーに固定されているビアンの作った機体を見ている者――様々な者の姿があった。

 

「こ、これがネオゲッターロボ……頑張れば俺でも乗れねえかなあ……」

 

「リュウセイ……無茶はしないほうがいいと思うよ?」

 

その中でもリュウセイはネオゲッターロボに強い興味を示し、目をキラキラと輝かせネオゲッターロボを見つめラトゥーニに窘められていた。僅かな自由時間を各々の方法で楽しむ中、アイビスは久しぶりにスレイと会っていた。

 

「スレイ……大丈夫? 何か疲れてない?」

 

「……アイビス、クロガネはいい環境だ、私よりも腕の優れたパイロットが山ほどいる。常に勉強だ」

 

「そ、そうなんだ。あたしのほうもレオナさんとかユーリアさんに色々と勉強させて貰って……っと」

 

スレイに投げ渡されたヘルメットを受け取りアイビスは困惑した表情を浮かべる。

 

「そこまで言うんだ。1回付き合え、どこまでお前が飛べるようになったか見てやる」

 

挑発するような言葉にアイビスは1回きょとんとしたが、次の瞬間には明るい笑みを浮かべていた。

 

「良いよ、見せてあげる。武蔵に色々と教えてもらったんだ、新しいマニューバを見せて上げるよッ!」

 

「それは楽しみだが、見せる前に撃墜されてくれるなよ」

 

シュミレーターに乗り込むスレイとアイビス。モニターに映し出される模擬戦をトロイエ隊のメンバーから逃げてきたレオナが見つめる。

 

「お疲れさん、まああれだな。随分と愉快な仲間だな」

 

「……昔はあんなのじゃなかったんですけどね」

 

少し見なかったうちに女子高のノリになっているトロイエ隊にレオナは深い溜め息を吐いていた。色恋に興味津々で、でも出会いが無いクロガネという閉鎖空間と言う事でかつての仲間の色恋に興味があるのが判るが余りにもひどいとレオナは感じていた。

 

「お前から見てスレイとアイビスはどうだ?」

 

「そうですね、スレイは前よりも順当に技術を身につけていますわ。それに対してアイビスはゲットマシンの挙動を組み込んだ奇をてらった戦術、どっちがイニシアチブをとるかで変ると思いますわ」

 

クレバーな戦闘を続けるスレイ、それに対してビックリ箱のように手札を変えるアイビス。その攻防は目まぐるしく変わり、競い合っているのだが、スレイとアイビスの間には楽しむ気配があり、レオナも小さく微笑んだ。

 

「そうかい、じゃあ。刺激を入れてやるとするか、レオナ付き合え」

 

「ええ、了解ですわ」

 

スレイとアイビスのシュミレーターに割り込むカチーナとレオナ。その勝負は何時の間にかチーム戦へと変わり、出港準備の号令が掛かるまで続く事になるのだった。

 

「兄さん、少し聞きたいことがあるんだが今時間はいいですか?」

 

「構わないが、なんのようだ。ライディース」

 

レシピ本を見ていたエルザムにライは声を掛け、なんのようだ? と問いかけるエルザムに時間がないので手早く本題を切り出した。

 

「兄さんは何故超機人について知っていたんですか?」

 

「父上に聞いていたんだ。ブランシュタイン家の者として知らねばならない事だとな、だが全てを聞いたわけでは無い。私の知っている事など微々たる物で、精々超機人の因縁くらいだ……ヴォルフがいれば話は変るんだがな」

 

「ヴォルフおじさんですか? そういえばあの人は考古学者でしたね」

 

既に死去しているがマイヤーの兄の子供――ヴォルフ・V・ブランシュタインの事をライも思い出し、その職業から超機人に詳しいのかと理解した。

 

「ああ、父上の持っていた文献もほぼ全てヴォルフが譲り受けている筈だ。超機人に関してはヴォルフを見つけない事には始まりそうもないな、他に聞きたい事は?」

 

「……あのレーツェルと言うのは何なんですか?」

 

「何の事か判らないな」

 

レーツェル=エルザムを否定するエルザムだが、モロバレの変装を真面目にやっているのか、それともふざけているのかライはそれをエルザムに問い詰める為に一歩前へと踏み出すのだった。

 

「これがゲッター線を使ってない、ゲッターロボかあ」

 

「思う事はあるのか? 武蔵」

 

「んーどうなんだろうな、オイラにゃ判らんけど……うーん……なんかどこかで見たような気がしなくも無いんだよなあ……」

 

ネオゲッターロボの姿をどこかで見たことがあると首を傾げる武蔵に、分析作業をしていたラドラが声を掛ける。

 

「プロトゲッターロボに似ているのがあったんじゃないか? 性能自体はお前が竜馬達と乗っていたゲッターロボより上だぞ」

 

「マジで? ゲッター炉心を積んでないのにか……」

 

「技術の進歩というのは凄いものだ、旧西暦のものだがこれは俺達にも使える」

 

ネオゲッターロボ自体は骨董品と呼ぶべき機体だが、使われている技術は新西暦にも引けを取らず。それを流用すれば百鬼帝国とも互角に戦えるとコウキは笑いながら告げた。

 

「これからどうなるんだろうなあ……敵ばっかり増えるよな、強い力を手に入れたらそれよりもっと強い敵が出てくる……これじゃあ……」

 

『これより伊豆基地へと帰還します。各員はハガネ、シロガネ、ヒリュウ改へと乗艦してください』

 

いたちごっこと武蔵が言おうとした時に伊豆基地へ帰還すると言う指示が出て、武蔵は喉元まで出てきた言葉を飲み込みコウキとラドラに背を向けた。

 

「ちょっと弱気になってただけだから忘れてくれ、じゃあオイラはハガネに乗るから」

 

ハガネに乗ると言って歩いていく武蔵。残りのコピー作業をしながらコウキとラドラは話を続ける。

 

「より強い敵か……それを意図的にやられているとしたら……」

 

「可能性はゼロではないな。そして糸を引いているのは……」

 

コウキもラドラも口にする事はなかったが、この異常な争乱はコウキとラドラには恐竜帝国、百鬼帝国の侵攻を思い返させていた。

そしてそれを打ち倒し人類は発展して来た、まるでゲッター線が敵を与え、それを打ち倒させる事で人類を進化させようとしている――コウキとラドラの脳裏にはそんな突拍子も無い出来事がまるで真実のように頭を過ぎるのだった……。

 

 

 

 

 

ありとあらゆる方向感覚の無い空間で逆さになったペルゼイン・リヒカイトの目の前では新たなアインストが生まれようとしていた。

 

「……んん……ちょっと。いや大分違いますの……」

 

アルトアイゼンに似たアインスト・アイゼンを見てがっかりした様子でアルフィミイは呟いた。

 

「……どうして上手く行きませんの?」

 

外は出来ているのに中身がない、何故中身であるキョウスケが作れないのか? アルフィミイはその理由が判らず、何度も何度もアインストアイゼンをつくり、中身がないことに気付きがっくりと肩を落とす。

 

「……やっぱり私はまだエクセレンも……キョウスケも全然判ってない……ですの」

 

アルフィミイは何故キョウスケを作れなかったのかを考え、自分がキョウスケとエクセレンを理解していないからだと判断した。命を作ることなど出来ないと言う根本的な問題に気付かず、いやアインストだからこそ、そんな根本的な事に気付けず、自分の考えが正しいのだと笑う。

 

「エクセレンを……キョウスケを……誘き出しますの……」

 

エクセレンを誘い出せば、キョウスケも付いて来る。そうすれば自分はもっとキョウスケ達を理解出来ると歪んだ笑みを浮かべるとアルフィミイとペルゼイン・リヒカイトの姿は時空の狭間から一瞬の内に消え去った。

 

 

しかし時空の狭間からフラスコの世界へと足を踏み入れたのはアルフィミイだけではない。

 

「ほ、本当に大丈夫かな?」

 

「大丈夫でしょ。デュミナス様が大丈夫って言ったんだからあたい達は何の心配もしなくていいんだよ」

 

「でも破壊魔が僕達のいう事を聞くかな?」

 

「だいじょーぶだいじょーぶ、あれだけ痛めつけたんだからさ、力関係くらい判ってるって、行こうラリアー、デスピニス」

 

幼い少女が2人と少年が1人。弱気な事を言う2人を明るい口調の少女が発破を掛け、行こう行こうと口にする背後には血走った複眼を光らせたR-1に酷似したメタルビーストの姿があるのだった……。

 

 

 

 

132話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その7へ続く

 

 




闇からの呼び声

通常シナリオ

アインストアルフィミイとアインスト軍団

進化の光版

上記に加えてメタルビースト・エルアインス、量産型メタルビースト・エルアインスの追加という無理ゲーモード突入です。
ちなみにここでメタルビースト・エルアインスを出すのは、SRX出現時にメタルビースト・SRXを出す為の下準備だったりします。

あとオーダーの2人が出てくるのはダイゼンガーのくだりなので暫くは出てこないのであしからず、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


PS スパロボDDのダイゼンガーガチャ 不具合で石の返却があったそうですね。
こんな事ならひいときゃよかったと後悔しておりますが、明日のゲッターロボタラクとゲッターアークガチャにひき運を残せたと前向きに考えたいと思います

もし当てれたら明日も更新しますのでよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

132話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その7

132話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その7

 

ビアン達との密会を終えたダイテツ達が伊豆基地に向かっている頃――地球の情勢は大きく動こうとしていた。

 

「ブライ議員が命がけで持ち帰った情報を嘘だと言うのかッ!」

 

「何故ブライ議員だけが無事に戻って来たというのだ! 何か取引をしたのではないのですか!」

 

ホワイトスターから帰艦したブライの傷だらけの有様を見て、連邦議会は騒乱の一途を辿っていた。

数多の機動兵器を製造しているインスペクターの本格的な侵攻は近い、今の内にラングレーの奪還は必要不可欠と告げ、意識を失い病院へと搬送されたブライ。その後に開催された議会は混迷を極める事となった。

 

徹底交戦派は今の内にラングレーの奪還を成し遂げるべきだと声を荒げ。

 

亡きシュトレーゼマン派の議員は交渉を続けるべきだと主張を曲げない。

 

そしてそのどちらでもなく、議員という立ち位置でありたい者達は日和美主義で、自分達に旨みのある方に協力し会議をより混乱させる。

 

「落ち着きたまえ。どの道オペレーション・プランタジネットは実行されるのだ、当初の予定の10日後ではなく、時間を短くし強襲を仕掛けるのが最善ではないかね?」

 

グライエンに扮しておる鬼がそう告げ、議会の中にいる鬼達もグライエンを支持する。

 

「戦力はL5戦役の英雄であるハガネ、シロガネ、ヒリュウ改をメインにし、連邦軍はそれを支援。強襲によるラングレーの奪還を第一目標。次に制圧されかけているハワイのインスペクター軍を押し返すを第二目標とし、そのいずれかの達成を目的とするべきではなかろうか」

 

(これでよろしいのですね、ブライ大帝)

 

ブライの指示通りに議会をコントールする鬼。その口車に乗り、連邦議会はオペレーション・プランタジネットの予定を5日繰り上げ、鬼達の思惑とおり、ダイテツ達に十分な準備をさせぬままラングレー奪還へと向かわせる事に合意するのだった。

 

「……5日後の午前0時?」

 

ブライの見舞いに行っていたブライアンは大統領府に戻ってくるなりニブハルに告げられた言葉に苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

(嵌められたか……こりゃ完全に詰んだかな)

 

自分がいない間に外堀も内堀も埋められ、完全に詰みに追い込まれている事をブライアンはすぐ理解したが、それを顔に見せずいつものように飄々とした笑みを浮かべ、詳しい内容をニブハルへと問いただす。

 

「予定より少し早まったようだね。 ハワイの件……いや、日本近海で目撃された異形の巨人が原因かな?」

 

胸部に老人の顔を持つ異形と恰幅のいい人型の巨人、そしてそれらに付き従う異形が目撃されたという話はブライアンの元にも届いていた。インスペクター、ノイエDCに続く脅威とし、まずは目に見える脅威を退けるという方向で議会は進んだのだ。

 

「そうだ、今地球圏に確認されている数多の異形の化け物や、未知の人型機動兵器を考えれば、まだインスペクターの方が対処しやすいとは思えないか?」

 

「まぁ、それに関しては同意するよ。グライエン議員」

 

人知を超えた化け物よりかは、地球よりも優れた技術を持っているインスペクターの方が対処しやすいと思うのは当然の事だった。

 

「それで作戦指揮官は当初の予定通り極東方面軍のレイカー少将かい?」

 

確認という事で問いかけるブライアンだが、その目的はレイカーを初めとした人員の頭が封じられないかの確認という意味合いが強かった。

 

(ケネス・ギャレットは投獄中。それに他の司令官も大半がいない……一体誰を切ってくる。誰も切ってこないのならば……それに越した事は無いが……そこまで都合のいい話はないだろう)

 

ノイエDCと繋がっていた上官の多くが投獄、あるいは軍事裁判中でいない。それが連邦軍の混乱を呼んでいるのだが、それすらも百鬼帝国の策略ではないかとブライアンは考えていた。

 

「それに関してだが、鷹派と鳩派の良派閥からオブザーバーが付くとしか聞いていない。詳しく話が煮詰まったらまた話をしよう」

 

「ん、判ったそれならその件はグライエン議員に任せよう。それで話は変るがノイエDCとの停戦交渉の方は?」

 

考えられる最悪の展開――鷹派、鳩派からオブザーバーを選ぶ。建前としては地球圏の存続が掛かっているので様々な意見を取り入れるためと言えるが、完全に指揮権の混乱や、作戦の変更による混乱を呼ぶ事になるが、自分がいない間に話が進んでいるのではそれを覆す事も出来ないとブライアンはその言葉を聞き入れるしかなかった。そしてその上でノイエDCとの停戦交渉はどうなってるのか? とグライエンへと問いかけた。

 

「根回しは済んでいる。 後はビアン総帥の確約を得るだけだ。作戦開始までには間に合わせる。とは言え停戦交渉なのでどこまでそれが続くかは判らないがな」

 

「そうか……それをきっかけに連邦軍ノイエDCの戦いが終われば良いんだがね」

 

「ビアン総帥は地球圏の平和を願っている、そこまで心配することはない」

 

「そうだね、本物のビアン総帥なら心配しなくても良いんだけどね……」

 

本物とブライアンが口にした事でニブハルとグライエンが微妙な反応を見せた。それを見てニブハルも敵かと元々信用はしていなかったからか、やっぱりとブライアンは感じていた。

 

「ノイエDCとインスペクターとの停戦交渉は君達に任せるよ、じゃあ僕は執務に戻るから退室してくれるかな?」

 

ニブハルとグライエンに退出を促し、1人になった部屋でブライアンは頭を悩ませる。

 

「どうしたものか」

 

もう完全に議会はグライエンが主導権をとっているので大統領であるブライアンが何を言っても、最早無駄。そして色々と根回しをして来たがダイテツ達もその動きを封じられる一歩手前にまで追い込まれている。しかもその上本物と口にした事で自分も命を狙われる事をブライアンは理解していた。

 

(僕が成り代わられるか、排除するか……無理が無いのは前者と言う所か……さて、どうしたものか)

 

後残されている公務は1つ……それが終わればブライアンは用済みとなり排除されるだろう。自分に残された命は残り5日かと自嘲気味に笑うブライアンだったが電話が鳴り、半ば反射的に電話を手に取る。その直通電話は鳴る事の無かった電話で、これがなったという事は直通電話を知るほんの僅かな人間からの電話であるからこそ、無意識にブライアンは受話器を手にしていた。

 

『ブライアン無事か? まだ無事だと思って連絡したのだが……』

 

先ほどまで目の前にいた男と同じ声だが親しみを感じさせる優しい声にブライアンは安堵の溜め息を思わず吐いた。

 

「ウィザード……今ほど君の声を聞けてよかったと思った事はないよ」

 

『相当追い込まれているようだな、近いうちに救出に向かう。無茶をするなよ』

 

返事も聞かず電話は切れる。救出という事でビアン達が最後の公務の際に動いてくれるという事を悟り……。

 

「まだ死ななくてもすむかも知れないね」

 

危ない橋を渡る事になるだろうが、それでも鬼に成り代われる為に殺される事は無く、ブライアンを利用した政治政策を使わせる事も封じる事が出来る……それで本物のビアンなのか、そしてクーデターへの疑いを与える事が出来るのならば……危険な橋を渡る意味もあるとブライアンは小さく微笑むのだった……。

 

 

 

 

伊豆基地のSRX計画ラボではR-GUNとR-3の最終調整が急ピッチで行なわれていた。その理由は言うまでも無くアインストやインベーダーという人知を超えた化け物に加え百鬼獣、ノイエDC、そして超機人と言う新西暦の常識を遥かに上回る機体と戦う為にSRXが必要になると考えているレイカーの指示による物だった。

 

「アヤ。調子はどうだ?」

 

『問題ありません、L5戦役の時よりも念の逆流が少ない上に、違和感も殆どありません』

 

R-3のT-LINKシステムとアヤのコンタクトは非常にスムーズに行なわれ、念の逆流やノイズと言った物は一切感知されていなかった。

 

「やはりゲッター合金コーティングが良かったのでしょうか? ゲッター合金は念動力との親和性が非常に高いようですし」

 

「どうだろうな。ワシはそうは思わない」

 

スタッフの言葉にケンゾウは苦虫を噛み潰したような顔で返事を返した。そもそも何故旧西暦の存在であるゲッター合金と念動力の親和性が良いのか、その理由すら判っていないのにただただ数値が良くなっているだけで安堵出来るほどケンゾウは無知ではなかった。

 

(まるでゲッター線がアヤの力を増幅させているようだ)

 

ゲシュペンストMK-Ⅲ・タイプR03カスタムの時はL5戦役のデータとほぼ同じだが順当に成長しているようなデータが記録されていた。しかしゲッター合金コーティングを行なったR-3に乗った瞬間にL5戦役終盤のリュウセイと同じTPレベルを記録していた。これはケンゾウの経験上ありえない事だった。念動力は生まれ持った素質が物を言い、アヤは念動力を高いレベルでコントロール出来ているがその分突出した物を持たない筈だった。それが突出した念動力者であるリュウセイと同じ数値を記録する事は誰の目から見ても異常であることは明らかだった。

 

「しかし数値が良い事に何の問題があるのですか? この数値ならば「すまないが、R-GUNの調整の方を手伝いに回ってくれるかい?」オオミヤ博士……はい、判りました」

 

配属されたばかりの若いスタッフの言葉をロブが遮り、管制室から追い出す。

 

「ケンゾウ博士、俺は今の段階でSRXを使う事に反対です。余りにも未知数すぎる」

 

「……気持ちは判る、ワシも同じ気持ちだ」

 

ならっと声を上げたロブにケンゾウはしかしと口にし、その言葉を遮った。

 

「SRXなくして、これからの戦いに我々が出来る事は何がある?」

 

「それはッ」

 

L5戦役では武蔵1人に押し付け、その結果が特攻となった。武蔵は生きていたが、L5戦役でケンゾウ達が出来た事は余りも少ない。

 

「それに何よりもリュウセイ少尉達は今度こそ武蔵と共に戦う事を願っている。ならばそれをワシ達に止めることは出来ない」

 

「……それはその通りですが……しかし危険性が」

 

「どの道トロニウムでリスクは背負っているのだ、ならば我々はもっとトロニウムとゲッター線への理解を深める事が最終的にアヤ達を守る事に繋がるのだ」

 

不安はある、リスクもある。だがそれ以上にリュウセイ達は武蔵と共に戦う事を望んでいる。それを止める権利はケンゾウもロブも持ち合わせていなかった。

 

「R-GUNの実験準備が出来ました」

 

管制室に入ってきたスタッフの言葉でケンゾウとロブの話し合いは終わりを告げ、今日の本来の実験――R-GUNとR-3のツインコンタクトが行なわれる。

 

「……R-GUN、 スタンバイモードで起動」

 

薄暗い格納庫でハンガーに固定されているR-GUNのカメラアイが光り輝き、ゆっくりとその四肢に力が篭もる。

 

「T-LINKコネクター、1番から10番までを接続しろ、異常があれば即座に停止だ」

 

「了解です。T-LINKコネクター接続。 パイロットの脳波、脈拍共に異常なし」

 

ロブの報告を聞いてケンゾウは小さく頷き、管制室のマイクを手に取る。

 

「アヤ、今からT-LINKツインコンタクトのテストを開始する。何か異常があれば即座に停止する、無理をするんじゃないぞ」

 

ゲッター合金でコーティングされたRシリーズの耐久度は以前とは比べられないほどに上がり、SRXの合体制限は消え去ったと言っても良いが、それを手放しで喜べるほどケンゾウは愚かではなかった。

 

(リスクはあるが、これである程度はわかるはずだ)

 

もしも本当にゲッター線が念動力を高める効果を持つのならば……アヤとマイのツインコンタクトで何らかの変化が起きるはずだ。ケンゾウは緊急停止のレバーに手を掛けながら実験を開始すると宣言するのだった……。

 

 

 

 

R-3とRーGUNのツインコンタクトシステムの実験は始まった当初は安定していた。しかしHTBキャノンを使用可能になるTPレベルに到達した時――マイの意識は闇の中へと沈み込んだ。

 

「ま、また……お前か……ッ!」

 

何も見えない深い闇の中に自分と瓜二つの顔をした少女が自分を見下した顔で見つめてくる。

 

「お前はそこで何をしている……? そんな物に乗って何をしている……?」

 

「お、お前は……誰だ……? 何故、私に語りかけてくる……?」

 

怒りと哀れみを伴った声が脳裏に響き、マイは目の前の少女に逆に問いかける。お前は何者なのかと……。

 

「まだ私の事が判らないのか……? お前は私、私はお前だ。私を誰よりも理解しているのは他でもない、お前自身である筈だ」

 

「私がお前……うう、う……ッ!」

 

人差し指を向けられ、目の前の少女が自分自身だと告げられ、それを鸚鵡返しのように尋ね返した時……マイを激しい頭痛が襲った。

 

「思い出せ……私の名を……」

 

「ううう……ッ! い、いやだ……思い出したくないッ! 私は思い出したくないんだッ!!」

 

思い出してはいけない、それを無意識で理解し、嫌だと声をマイが上げる。

 

「思い出したくないのならば教えてやる。お前/私はレビ・トーラー……お前の真の名を……思い出せ」

 

「レ、レビ……ッ!?」

 

目の前の少女が笑いながらそう告げた時、マイの脳裏にぼんやりとした数多の映像が浮かび上がった。

 

「し、知らない! 私はお前なんか知らないッ!!」

 

「いいや、知っているはずだ。お前は私を知ってる、そうだろう? 知りたくない事へ目を向けず、知らねばならない事実に目をそむけ、そんな有様であいつの力になれると思うのか?」

 

幼子に諭すように声を掛けてくるレビに知らない知らないとマイは頭を振りながら叫び声を上げる。

 

「あいつ……あいつって誰……」

 

「判っている筈だ。私達の心に踏み込んで来たのは2人……お前はあの女に光を見出したが、私は違う、あいつこそが私の光ッ!」

 

マイの脳裏に突如フラッシュバックするトリコロールのPTの姿、その手を翡翠色に輝かせ、自分に手を向けているその機体の姿がぼんやりと脳裏に浮かび上がった。

 

「……知ってる……私は知って……」

 

「私の方が力になれる……だからお前の身体を私に……【いいや、その身体を貰うのは私だ】……貴様ッ! また私の邪魔をするのかッ!!」

 

激昂するレビの声を遮って第3者の声がマイの脳裏に響いた。マイを間にし、レビとマイを成長させたような少女が現れる。

 

【●●●●●の力になれるのは私だ。お前は消えろ】

 

「うるさいッ! 私に命令するなッ!!! くたばり損ないがッ!」

 

レビとマイに似た少女の間に挟まれているマイは2人の強烈な念をぶつけられ、激しい痛みに呻き声を上げる。

 

「うっ! あああっ!!」

 

『マイ、どうしたの!?  しっかりしてッ! うっ……な、なにこれ……』

 

マイが苦しんでいるのに気付き声をかけたアヤの脳裏にもマイが見ている光景と同じ物が映し出され、その顔を苦悶に満ちた表情に変える。

 

「実験は中止するッ!」

 

その2人の反応を観測していたケンゾウは緊急停止のレバーを引こうとするが、その手を若いスタッフが掴んで止める。

 

「まだレッドゾーンではありません! それに候補のパーツはまだいますし実験を……「ふざけるなぁッ! この有様で実験を続行など出来るかッ!!」……げぶっ!?」

 

科学者とは思えない強力で自分の腕を掴んでいる若いスタッフを振り払い、緊急停止のレバーを卸すケンゾウ。

 

「そいつはSRX計画に不要だ! 連れて行けッ! パイロットをパーツ等という破綻者は必要ないッ!!」

 

激昂しそう叫んだケンゾウは管制室を飛び出し、医療スタッフによってコックピットから救出されたマイとアヤの元へと走った。

 

「れ、れび……」

 

「ッ!?」

 

意識を失っているアヤと異なり、ぼんやりとした様子でそう呟き意識を失ったマイの姿を見て、ケンゾウは愕然としその場に膝をついて崩れ落ちるのだった……。

 

 

 

マイとアヤの2人が医務室送りになった後、実験のログを調べなおしていたケンゾウはあの短い時間でとんでもない事が起きていた事を始めて知った。

 

「TPレベル14と28だと……一体あの時に何があったというんですか!?」

 

「判らない、だが……恐らくだがその内の片方はレビの物だろう」

 

「レビ!? 何故今レビの名前が出てくるんですか!?」

 

ケンゾウに告げられたレビの名にロブは混乱しながら何があったのかと問いかける。

 

「可能性としては深層意識の奥深くにレビが潜んでいるのやもしれん……」

 

可能性としてはゼロではないが、ロブはケンゾウのその言葉を信じたくなかったと言うのが本音だった。しかしそうなると別の問題が浮上してくる……TPレベル28。レビの14を遥かに上回る数値の持ち主は誰なのかという問題だ。

 

「レビではないのではないですか? ゲッター線による念動力の向上を誤認しているのではないですか?」

 

そうであって欲しいとロブは願いながら口にしたのだが、ロブの淡い希望は簡単に砕かれる事になった。

 

「いや。本人がレビの名を口にした、間違いなくマイはレビの干渉を受けている」

 

レビの事を知らないマイがレビの事を口にする訳が無い。レビの名がマイの口から出たことでマイがレビの干渉を受けている事は確実な事になった。

 

「ではTPレベル28は何だというのですか、レビの倍の数値――これはリュウセイにも匹敵する」

 

今のリュウセイのTPレベルのアベレージは20前後、最大値は25を記録しているが、リュウセイの数値ですら異常だというのに、それを遥かに上回る数値はなんなんだとロブが声を荒げる。

 

「それに関してだが、ツインコンタクトのテスト中に不可解なテレキネシスα波のパターンが複数検出された。考えられるのはゲッター線で念動力の増加で別の世界と交信してしまったかだ……」

 

ケンゾウの出した答えはゲッター線によって増幅された念動力によって別の世界の何かと交信してしまったのではないか? と言う物だった。

 

「ではやはりゲッター線による念動力の増加は……」

 

「ああ、まず間違いないな。念動力者はゲッター線によってその能力を増加させる事が出来る。これならばワシ達の想定した数値をもっと

安全に、そしてマイやアヤに負担をかけずに得る事が出来るだろう」

 

「まさか事実を隠蔽すると?」

 

ケンゾウの口振りではゲッター線で念動力を増幅させれば、必要とされる数値よりも低い数値で問題ないと言う物であり、マイ=レビというのを隠蔽しようとしているようにしかロブには感じられなかった。

 

「対策が練れるまでの緊急措置だ。レイカー司令にも承諾は得ている……マイの今の状態は極めて不安定だ。心労を与えるような真似はしたくない」

 

真実を知ることで過度なストレスを与えればそれこそレビが意識を取り戻す危険性がある。そのリスクを考えケンゾウは今は真実を伏せる事を選択したのだ。

 

『ハガネ、シロガネ、ヒリュウ改が伊豆基地へ帰還しました。整備兵各員はメンテナンスの準備を急いでください』

 

ダイテツ達が伊豆基地へ帰還すると放送が響き、ケンゾウは座っていた椅子から立ち上がる。

 

「リュウセイ達には時期を見て話す。今は黙っておいてくれ、ロバート」

 

ケンゾウの苦渋に満ちた顔を見ればその判断もケンゾウにとっては苦渋の決断である事は明らかで、今も震えるケンゾウの肩を、固く握られた拳を見れば彼が葛藤しているのは明らかでロブは判りましたと小さな声で返事を返すのがやっとなのだった……。

 

 

 

 

長い戦いを終え、伊豆基地へと戻って来たリュウセイ達は僅かな時間だが休息に入っていた。超機人の事を調べているアンザイ博士やシキシマ博士、そしてハガネとヒリュウ改で独自で改造されていたヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMやビルトビルガーと言った機体の整備などやらなければならない事は山ほどあり、しかしそれに加えてオペレーション・プランタジネットの発令まで5日間しか余裕が無いと言う事で伊豆基地の整備兵達はフル稼働になっていたのだが……その代りにパイロットであるリュウセイ達は僅かでも身体を休めるようにとレイカーから休息を言い渡されていた。

 

「わお!  ジャーダとガーネットの子供……双子だったのッ!?」

 

伊豆基地に戻って来たと言う事でジャーダとガーネットと連絡を取っていたラトゥー二から妊娠し除隊したガーネットのお腹の中には2つの命が宿っていると知り、久しぶりの明るいニュースに伊豆基地のブリーフィングが一気に明るくなる。

 

「はい……そうみたいです」

 

「随分と腹がでかいと思ってたけど双子か! そりゃあ良いなあッ! こういう明るいニュースならオイラも大歓迎だ」

 

浅草でジャーダ達に会っていた武蔵だが、妊婦を見た事が無く随分と腹が大きな位に思っていたのだが、双子だと知りそりゃ腹も大きくなるわなと自分で納得し笑みを浮かべていた。勿論他の面子も子供が生まれるというおめでたいとあちこちから祝いの言葉が上がる。

 

「産まれたら、皆でお祝いを送りませんか?」

 

そんな中リオが出産祝いで何かを送りましょうと提案する。それを聞いてラーダがニッコリと微笑んだ。その顔を見て、何人かがアカンやつだと思う中ラーダは悪びれも無く、むしろ善意100%である提案をした。

 

「そうね。 アサナの本なんかどうかしら」

 

「そ、それは ちょっと早すぎるんじゃない?」

 

「お、俺もそう思うっす」

 

折り曲げられた経験のあるエクセレンとアラドがそれは余りにも早すぎると引き攣った声で言うとラーダはそうかしら? と納得して無い素振りで首を傾げる。

 

「んじゃテスラ研特製のブースター付き三輪車でも送っとくか?」

 

「そ、それも ちょっと速すぎるんじゃない?」

 

「……別の意味で速過ぎるんじゃないですかね?」

 

アサナは年齢的に早すぎ、ブースター付き三輪車は別の意味で速過ぎるだろという声があちこちから上がる。

 

「普通に乳母車とか、ベビーベッドの方が良いと思いますけど……」

 

「あ、ベビーべッドならもうあるぞ? ジャーダさんが作ってるのオイラも手伝ったし」

 

「まぁ普通に子供が生まれるなら準備してるだろう。それならクスハの言う通り乳母車や、チャイルドシート、それに消耗品になる紙おむつとかが良いんじゃないか?」

 

カイが必要になるであろう物を指折りしながら言うと、確かに必要な物であり、喜ばれる物はそういう方向だろうと誰もが頷いた。

 

「クスハが変な物を送らなくて良かったぜ」

 

「リュウセイ、変な物って言うのはあまりにも酷くないか?」

 

長い付き合いでクスハの趣味を知っているリュウセイは子供に送るものじゃないだろと安堵し、ブリットはそれは酷くないか? と言ったが、それはブリットがクスハへの理解が足りていないからだ。

 

「クスハの事だから、私は健康グッズを贈るとか言い出すのかと思ってたわ」

 

リオの言葉に腕を組んでリュウセイがうんうんと頷く。するとクスハは違うのと言って首を左右に振った。

 

「それは赤ちゃんが大きくなってからにしようと思ってるの……ベビーストレッチチェアとか、 ベビーパワーリストとか色々あるのよ」

 

悪意無しのどこまでも澄んだ顔で言うクスハだが、ブリーフィングルームにいる面子は引き攣った表情を浮かべる中……エクセレンがぽつりと冷や汗を流しながら呟いた。

 

「……今までの全部贈ったら、筋骨隆々で体が柔らかくてかつ高速移動するっていう超人が完成するわね……」

 

真面目な顔でエクセレンが言う物で全員の脳裏にジャーダとガーネットに似た筋骨隆々の青年を想像し噴出す。あのカイですら噴出したのだからその相当インパクトのある光景を想像してしまったのだろう。

 

「エクセ姉様……そのジャーダとガーネットというお方はどなただったりしたりいたしますのですか?」

 

ジャーダとガーネットと接点が無いラミアが不思議そうな顔をしてエクセレンへそう問いかける。

 

「そうかラミアちゃんは知らなかったわね、私達のお仲間よ 前の戦争の時ハガネに乗ってて……一緒に戦ってたのよね」

 

「それで、戦後暫くは武蔵さんを探してたんですけど、妊娠したのが判って軍を辞められて……ご結婚なされたんです」

 

「……なんか凄い申し訳無い事をしたような気がする……」

 

自分を探して結婚の時期が遅れたと知り武蔵が渋い顔をする、まさか旧西暦でインベーダーとドンパチをしている間にジャーダとガーネットが自分を探しているなんて想像もしてなかった。

 

「まぁ戦いに区切りが付いたら武蔵はもう1回ジャーダとガーネットの所に顔を出した方が良いわね。まぁ子供はいわゆる愛の結晶だから……あの2人もやることはやってたってことねえ」

 

下世話な事を言うエクセレンになんとも言えない表情を浮かべるカイ達の後でラミアは首をしきりに傾げていた。

 

(……子供……愛の結晶? ……む? どこかで……どこかで聞いた言葉だ)

 

どこで聞いたのか思い出せないが、その言葉をどこかで聞いたことがあるとラミアは必死にそれを思い出そうとしていた。

 

「だが、これで何が何でもオペレーション・プランタジネットを成功させなきゃならなくなったな」

 

「はい。ジャーダさんとガーネットさんの赤ちゃん達の為にも戦争を早く終わらせないと……」

 

「リョウ達がやりそこねたのならオイラが百鬼帝国を今度こそぶっ潰しますよ」

 

「そう気負うなよ、俺達だって足手纏いにはならないぜ」

 

「判ってますよ、頼りにしてます」

 

戦争を続けるのではなく、戦争を終わらせる――そして平和な世界を夢見て闘志を燃やす武蔵達を見てラミアはやっと思い出せた。

 

(……そうかレモン様だ。私がロールアウトした時……レモン様が言っていた。私達Wシリーズは……自分の大切な子供だと……この者達は、生まれてくる子供の為にに戦争を終わらせようと言った)

 

平和な世界を生まれてくる子供達に与える為に戦うのだというリュウセイ達。しかしラミアは騒乱を続ける為に生み出された子供達だ……

同じ子供なのに、どうしてこうも違うのだとラミアは疑問を胸に抱いた。

 

(だが私戦争を継続させる為に……戦う為に生まれた……レモン様……そこに疑問を感じる私は……)

 

生まれた理由を成し遂げられない自分は壊れているのか……それとも「最初」から造られたことが間違いだったのかと思考の海にラミアが沈みこんでいると凄まじい音で思考の海からラミアは引き上げられた。

 

「エクセ姉様?」

 

その音の正体は椅子を倒しながら立ち上がったエクセレンだった。その顔は感情が抜け落ちたような能面のような顔をしていた

 

「エクセレン少尉……?」

 

「止めろ! エクセレン少尉を止めるんだッ!!!」

 

「なんか判らんが止めれば良いのかッ!?」

 

リュウセイが血相を変えた表情で叫び、武蔵がその手をエクセレンに伸ばしたがエクセレンはその手をかわしぶつぶつと何事か呟きブリーフィングルームを出て行く。

 

「リュウセイ! 何が起きてる!?」

 

「俺と同じなんだ! 誰かに呼ばれてるッ!! 止めないと危ないッ!!」

 

呼ばれている……それはロスターと呼称された化け物にリュウセイが誘い出されたのと同じ状況だとカイはすぐに理解し、ブリーフィングルームの通信機をONにした。

 

「駄目だ! ヴァイスリッターがもう出撃しやがった!」

 

アラートが鳴り響き、ヴァイスリッターが飛び去る光景を見てカイは早くブリッジに繋がれと貧乏ゆすりを続ける。

 

「こちらカイだ!  エクセレンの様子がおかしいッ!  リュウセイが言うには呼ばれているそうだッ! 足の速い機体に追跡させてくれ!」

 

『わ、わかりました! すぐに出撃準備を行ないます!』

 

「頼んだぞ大尉! 俺達も出撃できるものはすぐに追うッ!」

 

何に呼ばれているのか定かでは無いが、間違いなく不味い状況なのは間違いないカイ達はいずこへと飛び去ったヴァイスリッターを追う為にブリーフィングルームを飛び出して行く、そこで待ち構えている物がかつて武蔵達を苦しめた異形であると言うことも知らずにその場へと誘い込まれていくのだった……。

 

 

 

 

133話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その8へ続く

 

 




今回はブライアンの生存、そしてレビと未来マイに干渉を受けているマイと、迷いを抱くラミアをメインに書いて見ました。次回から戦闘回に入って行こうと思いますが、前回のラスト通りメタルビースト・エルアインスの参戦となります、このハードモードをどうやって潜り抜けるのかを楽しみにしていてください。


PS

スパロボDD

ゲッタータラクがチャはサンダボンバー祭で地獄でしたシャインボンバーが欲しかったのになあ……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

133話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その8

133話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その8

 

 

脳裏に響くアルフィミイの声に導かれるように……いや実際は操られてだが、まどろみの中にいるような感覚でヴァイスリッター改に乗り込み移動してきたエクセレンの意識は唐突に覚醒し、エクセレンは即座に状況把握を始めた。案の定通信は遮断状態、日本国内にはいるが避難によって無人の市街地、それに加えて伊豆基地からはハガネ達でも最低も30分、足の速いサイバスター達でも合流にはそれ相応の時間が掛かる絶妙な距離に自分がいることをエクセレンは把握し、態とおどけるように口を開いた。

 

「ここがパーティ会場って訳ね。それにしては……随分と寂れてるわね」

 

その問いかけが聞こえたかは定かでは無いが、空間をゆがめてアインスト・クノッヘンが1体だけ現れた。

 

「ちょいちょい、呼んでおいてアルフィミイちゃんじゃないわけ?」

 

【……メス……】

 

「牝? 女って事?」

 

ノイズ交じりで良く聞こえないがアインスト・クノッヘンが牝と言っているように聞こえ、つい先日の饕餮鬼皇の事を思い出し、その顔を顰めたが、アインスト・クノッヘンの言葉には続きがあった。

 

【た……メス……カク………ニン……スルッ!】

 

試す、確認すると言って爪を振りかざし跳躍し、ヴァイスリッター改へ飛び掛るアインスト・クノッヘン。だがその爪は空を切り、背後を取ったヴァイスリッター改の手にしたオクスタンランチャー改の銃口が背中に押し当てられる。

 

「悪いけど、貴方に用はないのよね。私はアルフィミイちゃんに用があってここに来てるのよ」

 

Bモードの弾頭が背後からアインスト・クノッヘンのコアを貫き、目の前で霧散するアインスト・クノッヘンをエクセレンは冷めた目で見つめていた。

 

(試す……確認する……私の何を確認しようとしているの……?)

 

伊豆基地で脳裏に響いたアルフィミィは聞きたい事があると言っていた筈だ。では何故攻撃を仕掛けてきているのかをエクセレンは考える。確かにアルフィミィの言動は支離滅裂かつ、倫理観に欠ける物が多かったが……自分で呼んでおいて現れないというのはあるのだろうかとそこまで考えたところでヴァイスリッター改を取り囲むようにアインスト・クノッヘンが今度は4体現れた。

 

「一応聞いておくけど……貴方達、なんかあの子から伝言とかないの?  無言で襲ってくるだけってのは……正直どうなのよ?」

 

【タシカメル……】

 

【核……】

 

【オマエハ……】

 

【ナンダ……?】

 

「化け物にお前は何だって言われてもねぇ……それ特大ブーメランよ?」

 

化け物に何者等と言われるなんて想像もしていなかったエクセレンは苦笑いを浮かべたが、それと同時にあることを理解していた。

 

「貴方達はアルフィミィちゃんと関係ないアインストって事ね、それなら私は貴方達に付き合ってるほど暇じゃないの」

 

龍虎王復活の際に確認されたゲシュペンスト・タイプSとR-SWORDを模したアインストが確認されている。良く見ると目の前のアインストも細部が一部違う意匠をしており、目の前にいるアインストがアルフィミィとは無関係のアインストだとエクセレンは理解していた。

 

「だからさっさと貴方達を潰して、アルフィミィちゃんを待たせてもらうことにするわ。どうせ、あっちも邪魔してるんでしょ?」

 

その問いかけにクノッヘンの背後からグリートが姿を現した。

 

「普段なら、は~い! 触手ちゃんとか言うんだけど……今日はそんなつもりはないのよね、さっさと潰させて貰うわよ」

 

音を立てて背部のウィングが展開され、クノッヘンの爪とグリートのビームの雨をヴァイスリッター改は残像を残しながら回避する。

 

(アインストも一枚岩じゃないのかしら? 確かめる……試す……まさか……ね)

 

平行世界の未来を知る者――イングラム、武蔵ははキョウスケがベーオウルフと呼ばれるアインストとなると言っていた。人間がアインストになる、そして試す、確かめるという言葉から何をしようとしているのかエクセレンはおぼろげに掴み始めていた。

 

(私の考えが当たりなら……今までと同じようには戦えないわね)

 

上下左右から迫ってくる爪のブーメラン、そして捕らえる様に伸び縮みするグリートの触手とビームによる包囲網――ヴァイスリッター改の機動力でなければ逃げ切れない範囲攻撃を回避しながら、確実に反撃を続けるエクセレン。だがその胸中には強い焦りと不安が燻っていた。

 

(……人間を捕まえようとしている。アインスト達が一歩前に進んだ攻撃に切り替えて来た)

 

今まではただ倒す戦い方だったが、今回は明らかに撃墜する意図が感じられず捕獲しようとしている。それはイングラム達が語る未来が近づいてくるように感じられ、普段の飄々とした仮面を被る余裕はエクセレンには無かった。

 

「悪いけど……今日はマジで行くからね」

 

エクセレンは知っている……キョウスケが悪夢を見ている事を、カウンセリングを受けていることを、そして睡眠薬を時折服用している事も。自分は隊長だからと弱さを見せないキョウスケだが、恋人であるエクセレンには胸に抱えている不安も恐怖も打ち明けている。キョウスケは、己がベーオウルフというアインストになることを誰よりも恐れている事をエクセレンは知っている。

 

「言っておくけど、貴方達なんて私の敵じゃないのよ」

 

オクスタンランチャー改のBモードの銃弾がグリートのコアを撃ち抜き消滅させる。完全な本気……怒りもある、殺意もある、だが、それ以上にキョウスケを慈しみ愛す心がある。今までのどんな時よりも強いエクセレン、そしてヴァイスリッター改の姿が無人の市街地を舞うように飛ぶのだった……。

 

 

 

サイバスター、アステリオン、ヴァルシオーネ、アンジュルグの4体のハガネ、シロガネの中で最も速力のある機体がヴァイスリッター改に追いついた時、普段のエクセレンとはまるで違うその雰囲気にマサキ達は息を呑んだ。怒りという業火を知性という氷で押さえ込んだ、相反する2つを感じさせるその姿はまるで別人だった。

 

『マサキ達ね……気をつけて、こいつら私達を捕まえようとしてるわよ』

 

マーサではなく、マサキと呼んだ事にも驚いたが、それよりもその冷徹とも言える言える声の響きに驚かされた。

 

『ちょっとエクセレン、どういう事なのさ!?』

 

『どういうこともああいうことも、そういうことなのよッ!!』

 

鎧型のアインスト……ゲミュートの射出した腕がヴァイスリッター改だけではなく、サイバスターやヴァルシオーネにも迫る。

 

『わっととッ!?』

 

「これは……今までと違うッ!?」

 

困惑しながら回避するアステリオンとミラージュソードで迎撃するアンジュルグ。しかしゲミュートの腕は空中で弧を描いて再びその両腕を伸ばして来る。

 

「何か知ってる事はあるの!?」

 

『わかんない、私はアルフィミィちゃんの声に魅かれて来たんだけどね』

 

『誘い出されてるんじゃねえかよ!? なにやってるんだ!?』

 

『いやさ、なんか話をしたいとか言ってるし? アインストの事で何か判るかと思ったんだけどね、どうもこいつらアルフィミィちゃんとは関係ないアインストみたいなのよ』

 

そう話をしながらも、エクセレンはヴァイスリッターを巧みに操り、捕獲を続けようとするゲミュートの腕を迎撃し続けていた。

 

『アルフィミィちゃん!? 何言ってるのさ!?』

 

『まさかアインストの中身か!?』

 

『そうそう、中身のいるアインストがいるのよ。それがアルフィミィちゃんなのよね』

 

アルフィミィというアインストについて話をしているエクセレン達の声がコックピットに響くが、ラミアにはその声が右から左へと流されていた。

 

(こ、これは……知っている、私はこれを知ってる!)

 

ベーオウルフが出現する前後にアインストによる人間の捕獲。そして数多の人間がアインストのコアを埋め込まれ、発狂し、あるいは死に、あるいはアインストへと成り果てた。Wシリーズの知識として与えられた凄惨な光景が脳裏を過ぎり、ラミアが一瞬動きを止め、その一瞬をアインストが見逃す訳が無く、その両腕でアンジュルグを捕獲しようとする。

 

『大丈夫!? しっかりして!』

 

だがそれは、急降下し、マシンガンを乱射したアステリオンによって阻止され、アイビスからの通信にラミアは正気を取り戻した。

 

「あ、ああ……アイビス……すまない」

 

『何か攻撃を受けたんじゃ……本当に大丈夫?』

 

「……ああ、大丈夫だ」

 

アイビスの声に大丈夫だと返事を返すラミアだが、その心は荒れ狂っていた。

 

(止める……助ける……殺す……どれが正しいんだ)

 

アインストにキョウスケが捕獲されればベーオウルフが生まれるかもしれない。シャドウミラーとして最も正しいのは事故を装いキョウスケを殺す事……だがラミアとしてはキョウスケを助けたいと思ってしまっていた。シャドウミラーのW-17、そしてラミア・ラヴレスとしての考えが複雑に入り乱れる。

 

『ラミアちゃん。ちなみに聞いておくけど、キョウスケは?』

 

「……もうすぐ到着されちゃったりしますのです……」

 

ハガネとシロガネもこの場に急行している。キョウスケもそう遠くない内にこの場に到着すると聞いてエクセレンが呻いた。

 

『不味いわね、キョウスケが出撃するのはやばいわ』

 

『だけどよ! そんなことを言ってる場合じゃないぜッ!?』

 

『敵の数が多すぎるッ! 戦力の出し惜しみをしている場合じゃないよッ!?』

 

倒しても倒しても姿を見せるアインスト、しかも数を武器にしてサイバスター達を捕獲しようとしてくる。上下左右縦横無尽に捕獲しようとしてくるアインストの猛攻は余りも激しく、なんとしてもサイバスター達を捕獲しようとする悪意が感じられた。

 

『うわっととッ!?』

 

『くそ、シロ! クロ! 頼んだぜッ!!』

 

足の速いサイバスター達だが、敵の範囲攻撃が激しくなればその速度も十分に生かしきれなくなってくる。短時間でアインスト達は自分達よりも早いサイバスター達との戦い方を学習し、身につけ始めていた。余りにも速い学習速度にマサキ達の顔にも苦悶の色が浮かんだ時……それは現れた。

 

【キシャアアアアアーーーッ!!!】

 

余りにもおぞましい獣の雄叫びが響いたと思った瞬間、何かがゲミュートを突き飛ばし、馬乗りになると同時に、その首――いや牙を突き立てゲミュートを喰らい始める何か……

 

『ま、また化け物が出たのッ!?』

 

『は? なんだ……なっ!?』

 

『おいおい……ありゃ何の冗談だ!?』

 

アインスト・ゲミュートを突き飛ばし喰らっている何かは左腕が無く、いや良く見ると左腕だけでは無く身体のあちこちが損傷し、黒いゴムのような体表とその中に蠢く黄色の複眼が完全に露出していたが、ゲミュートを喰らう度にその損傷は見る見る間に修復され、3体のゲミュートが塵へと帰る頃には、完全な姿でエクセレン達の前にその何かが立ち塞がっていた。

 

『本当冗談きっついわね、いつから地球ってこんなにオカルト染みた世界になったのかしら?』

 

「冗談を言ってる場合ではありやせん。アインストよりも……こいつの方がよほど危険でごんす」

 

ラミアは知っている目の前の存在がどれだけ危険で、そしてその存在を許してはいけない化け物なのか……くすんではいるが白・赤・青のトリコロールカラーに、頭部の形状は僅かに違うがR-1に酷似したメタルビースト――メタルビースト・エルアインスのゴーグル型のフェイスパーツの下のインベーダーの血走った黄色い複眼が動き回ったと思った瞬間凄まじい咆哮を上げると同時に獣のような動きでエクセレン達へ飛び掛ってくるのだった……。

 

 

 

 

 

メタルビースト・エルアインスの動きは俊敏で、更に人型でありながら獣のような低い姿勢で襲い掛かってくる。その読めない動きにエクセレン達は1対5でありながら、完全に攻めあぐねていた。

 

【シャアッ!!!】

 

『なっ!? うぐうっ!?』

 

咆哮と共に関節が伸び、サイバスターへと伸びるエルアインスの右拳。凄まじい速度で伸びるそれは、マサキにとっては予想外の攻撃であり、赤黒いオーラを纏った拳がサイバスターの胸部にめり込み、サイバスターを地面へと叩きつける。

 

『マサキッ!? このッ!!』

 

【ギギャア!?】

 

サイバスターが叩きつけられるのを見てリューネがヴァルシオーネを操り、メタルビースト・エルアインスへ向かってハイパービームキャノンを放つ。熱線が命中したメタルビースト・エルアインスは苦悶の声をあげ、ビルの残骸の中へとその姿を隠す。

 

『マサキ、大丈夫!?』

 

『あ、ああ。なんとかな……Rー1にそっくりな姿をしてやがるが、R-1とは似ても似つかねえぞ……いや、人型の化け物と思った方がいいかも知れねえ』

 

余りにもR-1に似すぎているメタルビースト・エルアインスの姿にどうしてもR-1の姿が過ぎるが、R-1に似ているとか似ていないとかそれ以前の問題として人型の機動兵器と戦っていると言う先入観があると反応が遅れるとマサキが声を上げる。

 

『うわッ!?』

 

『アイビス! 動かないでッ!』

 

ビルの谷間から伸びて来た触手がアステリオンの足に巻きつき動揺するアイビスに即座にエクセレンがフォローに入り、6連装ビームキャノンで触手を焼き払ったが、反応が遅れていればアステリオンは地面に叩き付けられ、アインストゲミュートと同じ様に捕食されていたかもしれない。

 

『こいつら龍王鬼とかいう化け物が出てきた時のと同じやつだよな、そんなに数がいるのかよ?』

 

『判らないわ、武蔵はインベーダーって言ってたけど……』

 

戦ったばかりなのにまた別の個体が、しかも仲間であるリュウセイの機体を模した個体がいるのはなんでだとマサキが問いかけるが、エクセレン達がその理由を知るわけが無い。むしろ聞きたいのはエクセレン達の方だといっても良いだろう。

 

【シャアッ!!】

 

『ううっ!? どこから攻撃がッ!?」

 

『うぐっ……反応が無かったのにッ!?』

 

メタルビースト・エルアインスの姿が確認出来ず、廃墟の影から一瞬だけ腕を出しGリボルバーによる射撃や、触手を伸ばしての打撃でエクセレン達を翻弄しているが、それはメタルビースト・エルアインスが考えて攻撃しているわけではない。歴戦のエースパイロットであるエクセレン達を翻弄出来ていたのはあるからくりが存在していたのだ。

 

「あははは、あいつら馬鹿みたい、全然違う所を攻撃してるよ!」

 

「テ、ティス……あんまり悪ふざけをしないほうが良いよ?」

 

「目的を達成したのだから早く戻ったほうが良いと思う、暴走しないとは言い切れないし」

 

「大丈夫大丈夫、それにあいつは不完全じゃん。それくらい操れないと完成品を使えないから意味無いって」

 

メタルビースト・エルアインスはメタルビースト・SRXから分離した存在であり、ティスの言う通り不完全品だ。それを操れなければメタルビースト・SRXを操るのは無理だってとティスは明るく笑う。

 

「それに……もうすぐあいつも来るんだし、引くかどうかはそれからで良いじゃん」

 

にやりと獰猛に笑うティスの視線の先を見たラリアーとデスピニスも何かが近づいて来ているのを感じ取ったのか、困ったような表情を浮かべる。

 

「だ、大丈夫かな? さっきは不意打ちだったけど……」

 

「危なくなったら早く回収して帰ろう。今回は試運転、本番は次なんだからね」

 

「判ってるって、よしいけえッ!」

 

ティスの指示を聞いて暴れるメタルビースト・エルアインスを見ながらラリアーとデスピニスは困ったように肩を竦めるのだった……。

 

 

 

メタルビースト・エルアインスが地面を砕き、ヴァイスリッター改の前にその姿を現す。

 

『ッ!?』

 

【シャアアアアアーッ!!!】

 

両腕に紅いオーラを纏わせ腕を振りかぶるメタルビースト・エルアインス。その姿はT-LINKナックルを使おうとしているR-1の物と酷似していた。意識の外からの強襲には流石のエクセレンも対応し切れず、無防備にメタルビースト・エルアインスのT-LINKナックルの前にその姿をさらしてしまう。

 

『エクセ姉様!』

 

『やらせるかよッ!』

 

アンジュルグの放ったミラージュアローとサイバスターのハイファミリアがメタルビースト・エルアインスの背中を貫かんとした瞬間、その全身を覆うような赤黒いバリアがミラージュアローとハイファミリアを弾き飛ばした。

 

『なッ!? 念動フィールドッ!?』

 

『エクセレン! 避けろッ!!』

 

攻撃を完全に無効化するほどに出力の高い念動フィールドを前にリューネ達に出来る事は少なく、僅かでも攻撃を続けメタルビースト・エルアインスの攻撃を妨害する事くらいしか出来なかった。

 

『くっ、そっちの思い通りにはッ!』

 

マサキ達の妨害も利用し、何とかメタルビースト・エルアインスから距離を取ろうとするエクセレンだが、メタルビースト・エルアインスは空中を蹴りヴァイスリッター改を追い続ける。

 

「だ、駄目、振り切れないッ!」

 

【グルアアアアッ!】

 

エクセレンを持ってしても振り切れないと言わせるメタルビースト・エルアインスはついにヴァイスリッター改を射程に収め、牙を剥き出しにし、その両拳を叩き付けようとした瞬間に横殴りの何かに追突され、地面へと叩き落された。

 

「な、なにあれ……」

 

『あれってまさか……』

 

メタルビースト・エルアインスを不意打ちで叩き落し、執拗に、それこそ嬲るように攻撃を続ける異形の姿にエクセレン達はその声を失った。何故ならば、その姿は余りにもエクセレン達にとって馴染みの深いものだったからだ。

 

【ぎ、ギギャアアアアアアアーッ!!】

 

強烈な炸裂音と共にメタルビースト・エルアインスの苦悶の叫び声が上がり、メタルビースト・エルアインスの姿は地面の中に溶けるように消えてその場から逃走していった。だがメタルビースト・エルアインスを退けた何かは決してエクセレン達の味方ではなく、メタルビースト・エルアインスの姿が無くなると次はお前達だと言わんばかりにその顔を上げた。

 

『あの姿はッ!』

 

『ま、まさか……あれってッ!』

 

さっきは砂煙でシルエットしか確認出来なかったが、それでもまさかと思うほどに謎の襲撃者はある機体に似ていた。そして今砂煙が晴れ、その襲撃者の姿が明らかになった時、エクセレン達は驚きの余り声を失った。

 

「アルト……アイゼン……ッ!」

 

頭部は昆虫のような意匠をし、そしてかなり前傾姿勢となっているが、肩のクレイモア、右腕のリボルビングステーク、背部の昆虫の羽根のようなフライトパーツの名残を持つバックパック……それは紛れも無くアインストとなったアルトアイゼン・ギーガの姿だった。

 

『その通りですの』

 

全員のコックピットに響いた幼い少女の声、それから少し遅れてダメージを受けている様子のペルゼイン・リヒカイトがその姿を見せた。

 

「呼んでおいていないわ、アルトちゃんの偽物を作るは……貴女は何がしたいのかしら? アルフィミィちゃん」

 

声のトーンが一段階下がり、冷たい声とも言えるエクセレンの声。そしてその雰囲気にマサキ達は何も言えず、目の前のアインスト・アイゼンギーガとどこかに隠れているかもしれないメタルビースト・エルアインスへの警戒を行なう。

 

『居なかった事に関しては謝罪いたしますのよ。ごめんなさいですの』

 

そしてエクセレンに冷たい口調で問いかけられたアルフィミィは意外な事に謝罪の言葉を口にした。

 

「え?」

 

『なんで……不思議そうな声を出すんですの?』

 

謝罪したのに何で不思議そうにするのかが理解出来ず、不満げにアルフィミィはエクセレンに問いかける。

 

「いや、まさか謝ってくるなんて思ってなかったし……」

 

『邪魔者が入って来るのが遅れたのは事実ですの、なら謝るのは私ですのよ?』

 

謝罪すると言う概念をアルフィミィが覚えている事にエクセレンは驚いた。アインストなのか、それともアインストに寄生されている人間なのか……そこの判断がどうしてもエクセレンにはつかなかった。だから会話する気がある今の内にいくつか質問をしておくべきだと考えを切り替える。

 

「私を襲ったのは貴女の意志?」

 

『いいえ、違いますのよ? あれは私の配下ではありませんのよ?』

 

エクセレンの感じていた通り、最初に襲ってきたアインストはアルフィミィの配下のアインストではなかったようだ。だが、そのかわりにアインストを配下と呼んだことでますますアルフィミィの立ち位置がわからなくなってきた。

 

「あのアルトちゃんの偽物は何?」

 

『……キョウスケを作りたかったんですの、キョウスケが近くにいると胸が……もやもやいたしますの……でも凄く幸せな……気持ちになりますのよ?』

 

アルフィミィの表現は稚拙だが、まるで恋する少女のような口振りだった。

 

『はぁッ!?』

 

『え、え? 何を言って……』

 

『……むっ、失礼ですのよ、貴方達』

 

「ちょっとマーサもリューネも静かにしてて、思う事はあると思うけどね」

 

アルフィミィの言動にマサキとリューネが驚きの声を上げると、アルフィミィが怒りを感じたような態度を見せるのでエクセレンが少し黙っていてとペルゼイン・リヒカイトの前にヴァイスリッター改を移動させる。

 

「キョウスケを作りたくて、あれを作ったの?」

 

『……そうですの、でも私はあの人の事を良く知りませんの……だからあの出来損ないの殻を作る事しか出来ませんのよ』

 

無垢、そして純粋にキョウスケを思う響きがあるが、その行動は余りにも狂っている。

 

「じゃあ貴女がアインストを作ってるの?」

 

『……少しだけですのよ、私が作ったのはアイゼンだけですのよ』

 

アイゼンだけという言葉を聞いて他のアインストシリーズは別の何かが作っているのか、それとも自然に発生しているのかという謎が生まれたが、アルフィミィがアインストを作れると言う事実が判っただけでもエクセレンにとっては十分な成果といえた。

 

「じゃあ『いいえ、もうお話は終わりですのよ?』ッ!!』

 

恐ろしい速度で抜刀されたペルゼイン・リヒカイトの刃を仰け反る様にしてヴァイスリッター改は回避し距離を取る。

 

『私は知りたいのですの、キョウスケも、貴女も知りたい、だからまずは殺して連れ帰りますのよ』

 

ペルゼイン・リヒカイトの背後から這い出る様にクノッヘン、グラート、ゲミュート、そしてアイゼンの4種類のアインストが姿を現す。

 

「知りたいって言うなら殺そうとしないで話をするって言うのはどう?」

 

『……それも良いんですけど、私には時間がありませんのよ。だから手っ取り早く、エクセレンとキョウスケを殺して連れ帰りますの。大丈夫、優しくいたしますから痛くありませんことよ?』

 

優しげな穏やかな口調だがその言葉の中に隠されている狂気が一瞬の内に膨れ上がっているのをエクセレンは感じ取っていた。

 

「時間が無い。んー、失敗続きだからとか?」

 

『いえ、そう言う訳ではないんですが、進化の光を手にするのは大変なんですのよ、だからそっちに時間を掛けたいので……早く死んでくれますか?』

 

鋭いペルゼイン・リヒカイトの斬撃を避けながらエクセレンは頭を必死に回転させる。

 

(殺して連れて帰る……アルフィミィちゃんの言う事が本当なら……キョウスケと会わせたら駄目だわ……いや、私も危ないんだけどさ)

 

殺して連れ帰る、そして生き返るというのがアインスト化を示しているのならば、ここで殺されればエクセレンもキョウスケもアインストにされ、未来を知る者がいうベーオウルフ、そしてそれに類似した何かにされてしまうのだろう。

 

『私にはキョウスケと……貴女が必要ですのよ』

 

「どうして私も必要なのかしら? 貴女は男も女も好きなのかしら?」

 

こうして会話をしている間もペルゼイン・リヒカイトとヴァスリッター改の戦いは苛烈さを増し、高速で移動する2体と、そんな2機に合流させまいとアインスト達はマサキ達の足止めの攻撃を繰り返す。

 

『私には貴女が何を言ってるのか判りませんの』

 

「そお? 私も貴女の言ってることが判らないけどねッ!!」

 

Bモード連射で撃ち込むヴァイスリッター改の攻撃をペルゼイン・リヒカイトは手にした日本刀で切り払いながら前へ前へと距離をつめてくる。

 

『私は貴女、貴女は私ですのよ? 私に足りない物は貴女からしか手に入りませんのよ』

 

「それはどういうッ! それはどうでもいいわ。貴女と私とキョウスケにどういう関係があるのか判らないけど……貴女とキョウスケは会わせないわッ!」

 

ベーオウルフというキョウスケが辿るかもしれないアインストと化した未来にさせないためにも、キョウスケとアルフィミィは会わせないと意気込むエクセレンに対してアルフィミィは穏やかに笑って見せた。

 

『大丈夫ですのよ、もう来てますの』

 

「は? えっ!?」

 

ヴァイスリッター改の影から日本刀を手にした鬼面が姿を見せ、それが自身の影から現れたと言う異様な光景に完全に動きが止まった。

 

【ウォオオオオオーーッ!!】

 

鬼面が唸り声を上げ日本刀を突き刺そうとした瞬間、紅い流星がヴァイスリッター改と鬼面の間に割り込んだ。

 

『間に合ったか。すまん、遅れた』

 

鬼面の日本刀を叩き折り、リボルビング・バンカーで鬼面の顔面を貫き、上半身を消し飛ばしながらアルトアイゼン・ギーガからエクセレンへと通信が繋げられる。

 

「……来ちゃったのね、キョウスケ」

 

『ようこそ、待っていましたのよ。キョウスケ』

 

助けられた事は嬉しいが、この場にはキョウスケに来て欲しくなかったエクセレン。

そしてキョウスケにアルフィミィは喜色に満ちた声でキョウスケを歓迎した。

 

「何?」

 

そしてキョウスケには一瞬、アルフィミィとエクセレンが同一人物のように感じられ、驚きと困惑を隠しきれなかった。限りなく遠く、極めて近い世界ではこの出会いがキョウスケがアインストとなり、そしてベーオウルフへと至る大きな転換期であり、そして限りなく遠く、極めて遠い世界でこの場に存在しなかったエクセレンの存在がイレギュラーとなり、キョウスケ・ナンブの未来を大きく変える要因となりえる。

 

『「キョウスケ」』

 

口調も何もかも違う、だがキョウスケと己の名を呼ぶエクセレンとアルフィミィの声は不思議とキョウスケにとって心地のいい物であり、魔性を伴った響きでキョウスケの心を大きく揺り動かすのだった……。

 

 

134話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その9へ続く

 

 




メタルビースト・エルアインスとアインストアイゼン・ギーガの追加参戦。なお一時離脱しておりますが、メタルビースト・エルアインスは話の中でもう1度でてくるのでご安心ください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

PS

天井でゲッタートマホークストーム入手しました

やっぱりゲッター系の武装は全部揃えたくなりますね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

134話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その9

 

134話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その9

 

ヴァイスリッター改を追ってきたハガネから真っ先に飛び出していったキョウスケの後を追って、龍虎王、R-1、R-2、ゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDにビルトビルガー、ゲシュペンス・MK-Ⅲ、ジガンスクード・ドゥロ、グルンガスト達が次々と出撃していく、だが今回はゲッターD2やフェアリオン、そしてヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMや、ゲシュペンスト・リバイブ(K)という機体は伊豆基地へと残っていた。

 

『これはずいぶんときつくないっすか、イルム中尉』

 

『あん、泣き言言ってるならガンドロから降りな! あたしが乗る!』

 

『そういうこった。泣き言言ってる暇があったら気張りな。第一、武蔵にばっか頼ってどうするよ』

 

確かにアインストの群れと戦うのにゲッターロボの存在は確かに頼もしく、そして切り札になりえるが、それに頼り切っていてはL5戦役の焼き増しだ。自分達だけでもアインストと戦えるようになれなくては何も変わらない、そしてハガネだけ来たのは一箇所に戦力を集中する事の危険性であり、ハガネがいない間に百鬼帝国や、ノイエDCの襲撃に備えての事だった。

 

『各員はアインストの包囲網を突破し、キョウスケ中尉、エクセレン少尉と合流する事を最優先とせよ。また転移などで敵の増援が現れる可能性は十分にある、周囲の警戒を怠るな』

 

ダイテツからの命令が広域通信で告げられる。確かに分断されているキョウスケとエクセレンと合流するのは最優先課題だが……。

 

『これは厳しいな、隊長』

 

『泣き言を言ってる場合じゃないわよ、リュウセイ』

 

アインストクノッヘン、グラート、ゲミュートに加えて、アルトアイゼン・ギーガを模したアインストアイゼン・ギーガまで加わったアインストの軍勢が耳障りな金切り声を上げる。

 

『各員は先行しすぎず、協力してアインストと戦え! 戦況開始ッ!』

 

『『『了解ッ!』』』

 

キョウスケとエクセレンがペルゼイン・リヒカイトと対峙している事もあり、キョウスケの代わりに指示を出すギリアムの声にリュウセイ達は力強く返事を返し、アインスト達へと向かって行くのだった……。

 

 

 

ヴァイスリッター改の影から鬼面が現れるのを見たキョウスケは真っ先に飛び出し、最大加速のまま鬼面とヴァイスリッター改の間へと割り込み、エクセレンの救出に成功していた。

 

「大丈夫か? エクセレン」

 

『大丈夫だけど……凄い複雑な気分。判るでしょ? キョウスケ、アインストの目的が何か』

 

「わかっているつもりだ。そしてその上で俺は出撃した」

 

エクセレンの言葉に冷静を装った風に返事を返す。だがその内面は恐怖と不安に揺れていた、アインストは明らかに捕獲を主とした戦術を取っていた。防戦に重きを置き、突出した瞬間に取り囲むように立ち回るのを見ればその目的がなんなのかと察するのに時間は必要なかった。

 

『ようこそ、キョウスケ。私達は歓迎いたしますのよ』

 

「歓迎? 歓迎の割には随分と物騒だなッ!!!」

 

【キシャアアアーッ!!!】

 

「遅いッ!!!」

 

雄叫びと共に飛び掛ってきたアインスト・アイゼンギーガのステークをかわし、カウンターでリボルビング・バンカーを叩きつけアインスト・アイゼンギーガの上半身を一撃で吹き飛ばす。

 

『お見事、流石キョウスケですの』

 

パチパチと手を叩く音がペルゼイン・リヒカイトから響き、キョウスケとエクセレンはアルフィミィの目的が判らず、その眉を細めた。

 

「それで俺とエクセレンをこの場に呼び寄せ、アルトの偽物を作ったお前の目的は何だ?」

 

『偽物とは違いますの、私は貴方の事が知りたくて……真似して作ってみても、中身がいませんの。どうしても殻だけしか作れなかったのですの……』

 

中身と殻――その言い回しは妙であったが、アルフィミィはキョウスケを作ろうとし、失敗してアルトアイゼン・ギーガを模したアインスト・アイゼンギーガを作り出したと言う事は判った。

 

「殻……だと?」

 

『そうですのよ? 貴方達は殻に入っているでしょう?』

 

『……ねぇ? もしかしてアルフィミィちゃんってヴァイスちゃんとアルトちゃんの事私達の身体って思ってるのかしらん?』

 

『? 違いますの? リヒカイトは私の半身、私自身ですのよ?』

 

アルフィミィとキョウスケ達の認識の違いがここで明らかになった。アルフィミィは殻、即ちPTを作れば中身であるキョウスケとエクセレンも作れると思っている節がある。死んでも生き返ると言う考えも修理すればパイロットも治ると思っているのだと……。

 

『ちょっとあの子の事が判りかけて来たわね、キョウスケは?』

 

「俺もだ」

 

必要最低限の知識すら与えられていない、アインストの大本に作られたのか、それとも人間がアインストになったのかは判らないが、アルフィミィという少女が普通ではないということ、そして……可能性の段階ではあるが、同じ容姿をしたアインストが人を模した存在がまだいるのかもしれないという答えをキョウスケとエクセレンは出していた。

 

『私が判ったのですの? それはとてもずるいですの……キョウスケ、エクセレン……私はもっとずっと、貴方達の事が知りたいのに……』

 

自分が何者か判らず、そして自分が何かを知るためにキョウスケとエクセレンに何かを感じ取ったことがアルフィミィがキョウスケとエクセレンに執着する理由なのだろう。その何かが判らないのだが……人を捕獲しようとするのはその何かを探しての物なのではないかとキョウスケとエクセレンは感じていた。

 

『エクセレンは私、私はエクセレン、ではキョウスケ。貴方は私にとって……何なのかを私は知りたいのですの』

 

知りたい知りたいと言いつつ、ペルゼイン・リヒカイトは猛攻撃を続けており、キョウスケとエクセレンは防戦一方に追い込まれていた。

 

『そんなに知りたいって言うのならまずは攻撃を止めて、それから降りなさい』

 

「ああ、知りたいというのならば話をする事から始めたらどうだ」

 

少なくともアルフィミィは他のアインストと違い話をする余地がある。危険ではあるが、キョウスケとエクセレンは説得を試みた。

 

『話それは……大事ですのよ』

 

話と聞いてペルゼイン・リヒカイトの動きが緩まり、その手にしていた日本刀を地面に突き刺した。本当に交渉できるのかもしれない……一瞬その考えがエクセレンとキョウスケの脳裏を過ぎったが、それは完全な悪手だった。そもそも人の姿をしているがアルフィミィはアインストであり、今はまだ人間的な思考を持ち合わせていない。彼女にあるのはアインストとしての考え、即ち……。

 

『貴方達も私と一緒になればいいんですの、だから……一緒に行って、そこでお話しましょう?』

 

ペルゼイン・リヒカイトが地面に突き刺した日本刀の切っ先から、墨汁のような闇があふれ出しアルトアイゼン・ギーガ、そしてヴァイスリッター改の脚へと絡みついた。

 

『なっ!? し、システムダウンッ!? きゃあッ!?』

 

「エクセレンッ! くそ、アルト! 動いてくれッ!」

 

システムダウンを起こし墜落するヴァイスリッター改を見て、システムダウンギリギリのアルトが急加速し、墜落してくるヴァイスリッター改を受け止めると同時にその機能を停止した。

 

『さぁ、行きましょう……そこでずーっとお話しましょう』

 

「どこへだ、俺達をどこへ連れて行くつもりだ!」

 

闇がどんどん広がり、脚から腰、腕、肩とどんどん巻きついていく。範囲を広げ、底なし沼に足を踏み入れたかのようにアルトアイゼン・ギーガ、ヴァイスリッター改の姿が沈み始める。

 

『キョウスケ中尉! 各員キョウスケ中尉達の救出を急げッ!』

 

『邪魔はさせませんのよ? だってキョウスケ達から来てくれたのなら、私の意見に同意してくれたという事ですの』

 

クノッヘン達が身体をバラバラにして壁のようになり、キョウスケ達を覆い隠していく……。

 

『誰でもいい! 封鎖させるなッ!』

 

『リューネッ!』

 

『判ってるッ!!』

 

バリケードのように取り囲んでいくのを見て足の速いサイバスターやヴァルシオーネ、そしてアステリオンが向かうがバラバラになったクノッヘンはその状態でも攻撃が可能なのか、爪を飛ばし、肋骨を飛ばし近づけさせまいと攻撃を続ける。

 

「俺達をどこへ連れて行くつもりだ」

 

『新しい宇宙……始まりの地に眠る進化の光を手にし……新たな進化を……」

 

「またそれか、進化の光……お前達はゲッター線に何を期待している。あれはただのエネルギーの筈だ」

 

『それは一面に過ぎませんの……進化の光の真髄は……これから判りますのよ』

 

闇はどんどん深くなり、アルトアイゼン・ギーガの姿が腰まで沈み、ヴァイスリッター改は膝まで飲み込まれていた。

 

「何をするつもりかは知らんが、俺達はお前の所に行くつもりもお前達の言う通りに動くつもりも無い」

 

パスコードを入力し、アンロックを解除したキョウスケは拳を振り上げ紅いボタンに拳を叩きつけようとする。

 

『はい……動いていただきますの……』

 

アルフィミィの言葉と共にキョウスケとエクセレンを激しい頭痛が襲った。

 

「うっぐうッ! あ、頭が……」

 

『う……な、何これッ』

 

それは念動力者が持つ念の共鳴現象に酷似していた。頭の中をかき回されるような激痛にエクセレンとキョウスケは揃って呻き声を上げる。

 

『おいたは駄目ですのよ? さぁ……行きましょう、エクセレン、キョウスケ……』

 

装甲をパージし、拘束から逃れようとしたキョウスケとエクセレンの動きを封じる為に念による干渉をしながら、アルフィミィは嬉しくて仕方ないと言う様子で笑う。

 

「ぐっ……ま、不味い……」

 

『しゃ、洒落にならないわよ……』

 

連れて行かれれば自分達がどうなるか等と判りきっている。アクセルが危惧していたベーオウルフ――アインストと化してしまうと判り、何とか拘束から逃れようとするが、手足は重りがついたように動かず、小刻みに痙攣を繰り返すだけだ。闇がコックピットのモニターを覆い隠し、頭部にまで伸びて来た所でそこに割り込む物の姿があった。

 

『……舞えッ! 幽幻の不死鳥よッ!!! ぐうっ!?』

 

翼をクノッヘンに切り落とされながらもファントムフェニックスを放ったアンジュルグのラミアの渾身の一撃が光り輝いているペルゼイン・リヒカイトの額の宝玉を貫いた。

 

『うっ……!? し、しまったですの……』

 

宝玉が砕けると同時に闇は嘘のように消え去り、アルトアイゼン・ギーガ、ヴァイスリッター改のコントロールがキョウスケ達の下に戻ってくる。

 

「ラミア、助かったぞ」

 

『ありがとラミアちゃん』

 

『いえ、間に合って良かったです……』

 

アンジュルグのコックピットの中でラミアは心の底からそう思っていた。キョウスケがベーオウルフになることも、エクセレンがそうなる事も嫌で、それこそコードATAを使い自分もろとも2人を殺す事が1番正しい事だと判っていたのに、ラミアはファントムフェニックスによるペルゼイン・リヒカイトへの攻撃を選んだ。

 

(これでいい、これでよかったんだ)

 

シャドウミラーのW-17としては間違っている。だがATXチームのラミアとしては正しい選択をしたとラミアは感じていたが、状況は決して良くなってはいない。

 

『……やっぱり殺して連れて帰らないと駄目ですの』

 

クノッヘンの体によって作られたバリケードの中に閉じ込められたキョウスケ、エクセレン、ラミアに怒りに燃える真紅の瞳を向けたペルゼイン・リヒカイトが立ち塞がる。

 

「あいつを倒してこの場から脱出する。エクセレン、ラミア、支援を頼むぞ」

 

『りょーかい、ラミアちゃんはもう飛べないわよね、無茶しちゃ駄目よ』

 

『了解でごんす。この状態で出来る最善の援護をしちゃったりします』

 

「行くぞ、俺達はこんな所で終われない」

 

『いいえ、終わりませんのよ、新しいキョウスケ達に変って貰う、ただそれだけですのよ!!』

 

弾丸のような勢いで切り込んでくるペルゼイン・リヒカイトとアルトアイゼン・ギーガのリボルビングバンカーがぶつかり合い火花を散らす。

 

「悪いな、俺は今の俺が気に入っているんだ。別の俺になんぞなるつもりはない」

 

『嫌よ嫌よも好きの内と言いますの』

 

「いいや、お断りだッ!!」

 

アルトアイゼン・ギーガの前蹴りがペルゼイン・リヒカイトの腹にめり込みその巨体を後方に向かって蹴り飛ばす。

 

『うっ、女の腹を蹴るなんて酷いですのよ』

 

「ならこれでおあいこだな、突然攫おうとしたお前も似たようなものだ」

 

口調は互いに気軽いが、異様な緊張感を伴ったまま赤と紅の閃光が何度もぶつかり合い、凄まじい火花を散らす。

 

『貰いましたの!』

 

「ちいっ!」

 

速度は同じでも力に大きな差があり、ペルゼイン・リヒカイトの拳がアルトアイゼン・ギーガを捉え、動きを止めた所に大上段に振りかぶった日本刀が振り下ろされようとした瞬間、閃光がペルゼイン・リヒカイトを穿った。

 

『うっッ!? どうして邪魔をするんですの……ッ!?』

 

『そうはさせないわよッ!』

 

『シャドウランサーッ!!』

 

ビームがペルゼイン・リヒカイトの右拳だけを捕らえ、顔の回りに展開されたシャドウランサーが立て続けにペルゼイン・リヒカイトを襲い、たららを踏んでペルゼイン・リヒカイトが後退した瞬間にアルトアイゼン・ギーガがその懐に飛び込んだ。

 

「悪いな、俺は1人じゃないんでなッ!!」

 

強烈な炸裂音と共にペルゼイン・リヒカイトが吹き飛び、クノッヘンで出来たバリケードに背中から追突し崩れ落ちる。

 

『やったかしら?』

 

「いや、自分から飛んだ。完全には極まっていない……恐らくこれからが本番だ」

 

オーラを纏いながら立ち上がるペルゼイン・リヒカイトの圧力は爆発的に増しており、数の有利もその両肩の鬼面が外れ、人型になった事で互角となった。

 

「ここからが本番だ。気を緩めるなよ」

 

少しでも油断すればキョウスケ達はアインストにされる。その異様な緊張感の中、ペルゼイン・リヒカイトとの戦いはより激しさを増していくのだった……。

 

 

 

 

ペルゼイン・リヒカイトが消えたことで統率されていたアインストの動きは少しずつ乱れが現れ、強くはあるが連携をしてこないアインストを前に勝てるかもしれないと言う希望が芽生え、そしてその数がリュウセイ達よりも少なくなった時――それらは現れた。

 

「なっ!? う、嘘だろッ!?」

 

『……馬鹿な……こんな事があると言うのか……ッ』

 

突如現れた2つの熱源反応――距離が近かったという事もあり、R-1のリュウセイ、そしてR-2・パワードのライが真っ先にその姿を確認し、驚愕にその顔を歪めた。ビルの上に陣取り、R-1、R-2・パワードを見下ろしている者――それらもまたR-1、そしてR-2・パワード……いや、正しくはアインスト・アイゼンギーガの奇襲を受け、受けた損傷を修復し単騎では無理と判断し味方を呼び寄せたメタルビースト・エルアインス、そしてエルツヴァイ・パワードの姿だった。

 

『あいつらまたッ! リュウセイ! ライ! 気をつけろ! そいつらはかなり強いぞッ!』

 

『能力は殆ど同じだけど化け物の特性が加わってる! 気をつけるんだよ!』

 

ゲミュート、アイゼンギーガと戦っているマサキとリューネから気をつけろという声がR-1、R-2・パワードのコックピットに響き、リュウセイが操縦桿を握り締めた瞬間だった。メタルビースト・エルアインス、ツヴァイの姿は目の前から消えていた。

 

「き、消えた!? ライ、あいつらはどこにっ!?」

 

『わ、判らない! 俺はしっかりとその姿を確認してい……リュウセイ! 前だッ!!!』

 

姿を確認していたと言うライの言葉に咄嗟にR-1を操り、飛び退かせたリュウセイ。そして先ほどまでR-1がいた所にはエルアインスの拳だけが突き刺さっており、その拳は糸状に解けビルの残骸の中に消えていった。

 

「まさかよ……あの糸が見たいのが……さっきのやつなのかッ!?」

 

『そうとしかおもえんだろう! リュウセイ、互いに背中を庇うぞッ!』

 

「お、おうッ!」

 

R-1とR-2・パワードが背中合わせに立ち、メタルビースト・エルアインス、ツヴァイの姿を必死に探すが、その姿は発見できず、しかし強烈な殺気だけがリュウセイとライに向かって叩きつけられていた。

 

『リュウセイ、探せないか?』

 

「今やってる! でも駄目だ、あいつらの気配がつかめな……うあッ!?」

 

『リュウセイ!? うぐっ!?』

 

念動力を用いてもその姿を完全に補足出来ないと言うリュウセイの悲鳴が木霊し、ライが振り返った瞬間Rー2・パワードもまた何かに殴り飛ばされていた。

 

『……チャクラムのつもりか、なんて悪趣味なんだ』

 

インベーダーの頭部をビームチャクラムのように操るメタルビースト・エルツヴァイに向かって吐き捨てるようにライが呟く隣では、チェーンソーのように高速で回転する刃を持ったトンファーを振るうメタルビースト・エルアインスとR-1の姿が何度も交差していた。

 

「チェーンソー・トンファー!? アルブレードの試作武装の1つじゃねえかッ! くそ、なんでお前がそれを使えるんだッ!!」

 

【シャアッ!!】

 

リュウセイの言葉に威嚇するような……いや、実際威嚇しているのだろう、唸り声を上げ飛び掛ってくるメタルビースト・エルアインスのチェーンソー・トンファーとR-1のT-LINKナックルがぶつかり合い、次の瞬間にはR-1が殴り飛ばされていた。

 

「うっぐ……」

 

【シャアア!!】

 

倒れたR-1にその牙を突きたてようとメタルビースト・エルアインスのフェイスガードが外れ、鋭い牙と伸縮自在の舌が露になった瞬間、強烈な放電音とそれに続くように重いガトリングの発射音が響き渡った。

 

『大丈夫ッすか!?』

 

『リュウセイ、下がるわよッ!』

 

「あ、アラド。隊長、すまねえッ!」

 

スタンアサルトカノンとガトリング砲によってメタルビースト・エルアインス、エルツヴァイが動きを止めている間にリュウセイは後方へと下がり、ビルトビルガー、ゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRD、そしてR-2・パワードと共にメタルビーストへと視線を向ける。

 

【シャアアアーッ!!!】

 

【キシャアアアーーッ!!!】

 

「マジモンの化け物だな、宇宙で見た奴よりもやべえ」

 

ガトリング砲で穴だらけにされていた装甲が黒いゴムのようなインベーダーの細胞で覆われ、形が修復されると色が付き、金属的な光沢を持つのを見てリュウセイが思わずそう呟いた。

 

『あれ、マジでなんなんっすか……』

 

これが2回目のインベーダーとの邂逅であるアラドが教えてくれと言わんばかりに震えた声で尋ねる。

 

『失われた時代を作り出した化け物よ。気をつけなさい、喰われたらアラド、貴方もあの仲間入りよ』

 

『……うっす』

 

涎をたらし、伸縮自在の舌を振り回すメタルビーストを見て、喰われるというのを想像したのだろう。アラドが引き攣った声でそう返事を返す。

 

「隊長、T-LINKシステムのセーフティの解除を頼むぜ」

 

『……リュウセイ、それは危険だわ』

 

「それでもだ。今のままの俺達じゃ勝てねえ」

 

通常兵器では余りにも効果が薄すぎる。念動力ならば一定の効果を発揮する事は判っており、リュウセイはヴィレッタにセーフティの解除を申し出る。

 

『隊長、俺からもお願いします。今のリュウセイならば問題ありません』

 

ライからの進言も重なり、ヴィレッタは渋々ながらセーフティを解除する。

 

『リュウセイ、言っておくけど龍虎王が合流したら、もう1度セーフティを掛けるわよ』

 

「了解ッ! お前らの好きにはさせねえぞ化け物共ッ!」

 

まずは挨拶代わりだと言わんばかりに放たれた念動波とメタルビースト・エルアインスの放った念動力波がぶつかり合い凄まじい火花を散らす。

 

『見ていて気分のいい物じゃない、ここで倒させて貰うぞッ!』

 

『いっけえッ!』

 

【シャアアーッ!!】

 

メタルビースト・エルツヴァイの唸り声と、自分の愛機を歪められた姿に変えられたことに静かに怒りを燃やすライと、スタンアサルトカノンを連射し、メタルビースト・ツヴァイの動きを封じ、ライが戦いやすいようにと立ち回る。

 

『リュウセイ。前に出すぎないこと、相手の出方が判らないわ。それに今の状態で全力で念動力を使うのは駄目よ』

 

「了解! おらッ!!!」

 

【キシャアアアーッ!!】

 

リュウセイの雄叫びとメタルビースト・エルアインスの雄叫びが重なる中、ヴィレッタは妙な胸騒ぎを感じていた。

 

(これは全然違う)

 

宇宙で見たメタルビーストはインベーダーの要素が強かったが、今目の前にいるメタルビーストはR-1やR-2をベースにしたインベーダーのように見えていた。同じメタルビーストでも獣的な動きをするメタルビーストと、PTの能力を使うメタルビーストではどちらが厄介ななんて言うまでも無いだろう。

 

(どうしてこんなに差があるの……まさか)

 

脳裏を過ぎった可能性――それは長い時間を掛けてインベーダーがR-1とR-2の特性を学んだのではないか? と言う物だった。長い間寄生していれば、それだけ深く理解をする。そうなればR-1やR-2の能力にインベーダーとして能力を加える事も不可能ではない……。

 

(模範しているんじゃない、あれは本当に長い時間掛けてその能力を学んだとしたのなら……ッ)

 

考えられる可能性――それは何度もヴィレッタ達の前に立ち塞がったゲシュペンスト・MK-Ⅱ、そしてマスタッシュマン――いやソウルゲインとアクセルのように未来からこの時間軸に現れたインベーダーだとしたら……。

 

(R-3に該当する個体、そしてSRX……ッ!)

 

メタルビーストがSRXの力までも手にしているのではないかという可能性に辿り着いたヴィレッタの背中に冷たい汗が流れるのだった……。

 

 

 

 

ハガネのブリッジで戦況を分析していたダイテツはメタルビースト・エルアインス、エルツヴァイを見て眉を細めた。

 

「大尉、成層圏に向けての熱源検索を行なえ」

 

「は……はッ?」

 

突然の成層圏への熱源検索を行なえと命じられ、テツヤは思わず間抜けな返事を返す。

 

「艦長、それはどういう……?」

 

「R-1とR-2に酷似したメタルビーストが出現した。ならばR-3に該当するメタルビーストも存在する可能性が極めて高い、成層圏からの超距離射程の狙撃に備える必要がある」

 

R-3は指揮官機および支援を主にしているが、その武装の多くは長距離射程の物であり、MAPWも搭載している。その力を持つメタルビーストならば、同じ事が出来ると考えて間違いない。

 

「アインストとインベーダーは敵対関係にある。ワシらもろともという可能性もあるのだ」

 

「りょ、了解です! 捜索作業を始めます」

 

ダイテツの意図を理解し、成層圏近くの熱源検索を命じるテツヤを見ながら、ダイテツはモニターの光景を見て小さく呻いた。

 

(百鬼帝国に加えて、インベーダーにアインスト……)

 

百鬼帝国だけでも恐ろしい脅威なのに、1度地球を滅ぼしかけた異形に、未来で地球を支配している化け物――状況は最悪と言っても良いだろう。アインストの作り上げた防壁の中にアルトアイゼン・ギーガ、ヴァイスリッター改、そしてアンジュルグの3体のみ、それに対する敵は上位アインストのペルゼイン・リヒカイト……正直3体で相手をするには厳しすぎる相手だ。

 

【シャアアッ!!!】

 

『うぉおおおおッ!! T-LINKソードッ!!!』

 

メタルビースト・エルアインスとR-1の戦いは互いに念動力を用いた戦いで、空中に着地し、踏ん張る場所もないところで力を込めて地面を蹴り、拳あるいは足を用い、翡翠と紅の念動力を纏った手足を用いた超高速戦闘による白兵戦を続けていた。

 

「あのメタルビーストからは念動力反応が感知されていますッ!」

 

「あのようなインベーダーまで存在すると言うのかッ」

 

オペレーターからの報告を聞いてダイテツは唇を噛み締めた。再生能力に加え、念動力による変幻自在の戦闘と防御を併せ持つメタルビースト・エルアインスは無尽蔵のスタミナで攻め立てるが、生身であるリュウセイはいつまでもその勢いには付いていけない。

 

『はぁ……はぁ……ま、負けるかよッ!』

 

『リュウセイ!少し休んでいなさい! 私が相手をするわッ!』

 

『す、すまねえ隊長!』

 

明らかに消耗しているリュウセイを庇い、ヴィレッタの駆るゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDがメタルビースト・エルアインスとの戦いに挑む。

 

『くそ……どうしてあいつは弾切れも、エネルギー切れもしないんだ……』

 

『インベーダーの再生能力かッ!』

 

【シャアアアーッ!!】

 

インベーダーの再生能力でエネルギーを回復させ、瓦礫を取り込み弾薬を作り出すメタルビースト・エルツヴァイを前にR-2・パワードとビルトビルガーは弾薬、そしてエネルギー切れを起そうとしていた。しかし苦戦しているのはリュウセイ達だけではなく、全員が全員苦戦を強いられていた。

 

『なろおッ!! 舐めんなあッ!!!』

 

【!!!】

 

ジガンスクード・ドゥロとクノッヘンとグラートの残骸を取り込み、巨大化したゲミュートがその巨大な拳を何度も交差させる。

 

『下手に倒したら取り込んで巨大化するならこいつはどうだッ!! ファイナルビームッ!!!』

 

【【【!!!】】】

 

グラート達がスクラムを組み、ファイナルビームを文字どおり己を盾にして防ぎ、崩壊すると同時にその残骸を取り込み巨大化したクノッヘンがグルンガストへと爪を振り下ろす。

 

『ぐあっ!? くそったれッ!! ブーストナックルッ!!!』

 

【!?!?】

 

コアを砕かれ崩れ落ちるクノッヘンだが、完全に消え去る前にグラートが触手を伸ばし、残骸を取り込み爪を持った触手を生やす。

 

『いたちごっこにも程があるぜッ!!』

 

下手に倒せば取り込んで巨大化し、そしてコアを砕いてもそのほんの僅かな残骸を取り込み攻撃パターンを変えるアインスト……その攻撃は変幻自在であり、攻撃パターンが一瞬一瞬で変わるのは流石のイルム達も劣勢へと追い込まれていた。

 

『くそがッ! 倒しても倒しても切がねぇッ!! ラッセルをおいて来たのは失敗だったぜッ!』

 

伊豆基地への襲撃に備えて少数の破壊力に特化した機体で来たのは失敗だったとカチーナが声を荒げ、飛び掛ってきた身体の半身がクノッヘン、残り半分がグラートという異形のアインストのコアにライトニングステークを叩き込みコアを殴り砕いた。

 

『シロ、クロッ! おらあッ!!』

 

ハイファミリアを射出し、ディスカッターでアインストに切りかかったサイバスターはそのままの勢いで進路を塞いでいるアインストを強引に後方へと押し込む。

 

『ギリアム少佐! リューネ! 頼んだッ!』

 

僅かな隙間をゲシュペンスト・リバイブ(S)とヴァルシオーネがクノッヘンのドームの上空を取る。

 

『リューネ、合わせろよ。これで駄目なら後はハガネの主砲しかない』

 

『判ってるよ! ギリアム少佐ッ!』

 

ウィングを展開し、ジェネレーターと直結させたメガバスターキャノンを構えるゲシュペンスト・リバイブ(S)そして翼を広げ、赤と青の球体状のエネルギーを両手に展開するヴァルシオーネ。

 

『ターゲットロック、メガバスターキャノン発射ッ!!!』

 

『クロスマッシャァアアアーッ!!!』

 

ハガネの主砲の次に強力なメガバスターキャノンとクロスマッシャーが同時にクノッヘンのドームに命中する。

 

『っ駄目かッ!?』

 

『どれだけ硬いんだッ!』

 

しかし圧倒的な破壊力を秘めた一撃もクノッヘンのドームを破壊するには及ばず、損傷箇所も見る見る間に修復される。

 

「大尉、主砲の照準を合わせろ。今度は本艦とゲシュペンスト・リバイブ、ヴァルシオーネと共にあのドームを破壊する」

 

「了……熱源感知ッ! 超上空からミサイルが多数接近中ッ!!」

 

「やはり居たか! 各員に警告を急げッ!! E-フィールド全力展開急げッ!!!」

 

上空から降り注いだミサイルの雨はアインストとそしてハガネの機体に向かって降り注いだ。モニターには成層圏に浮遊しているメタルビースト・エルドライの姿がしっかりと映し出されていた。だがそれは地上からは攻撃が不可能な、それこそインベーダーに寄生されたメタルビーストだからその場にいる事が出来る超高高度だった。

 

「被害は!?」

 

「損傷は軽微です! しかしジャミング等で照準装置がまともに機能しません!」

 

「くっ! 己、化け物の癖に知恵をつけおって!」

 

直接戦うのではなくジャミングで射撃武器を殺しに来たエルドライに思わずダイテツでさえも悪態を付いた。

 

『きゃあっ!?』

 

『ぐうっ! まさか……こんな事がッ!?』

 

ミサイルで破壊されたアインスト達がゲミュートを核に融合し、巨大な新型アインストへと変貌し、龍虎王をその巨大な口のような拳で殴り飛ばす。

 

【……アア、アアアアッ!!】

 

嘆きの声を上げながら動く巨大アインストはその身体を崩壊させ、一歩動く度に全身に露出させているコアが落ち砕け散っていく……それは誰が見ても命を削った合体であり、長くは存在できないだろうがあの巨体では数分暴れるだけでも致命的な被害をもたらしてくる事は容易に想像できた。

 

「全砲門開け! イルムガルト中尉、タスク少尉、カチーナ中尉を足止めしているアインストの注意をこちらへ集める! 龍虎王と連携し、巨大アインストと対峙する様に指示を出せ!」

 

「りょ、了解ッ!」

 

状況は苦しいがシロガネを、そして武蔵に救援を求めるという事をダイテツは選択しなかった。ここで武蔵に頼っていては何も変らない、自分達だけでこの状況を打破しなければL5戦役の時と何も変らない、直接口にする者は誰もいなかったが、誰もがそれを考え、そして自分達だけでこの状況を潜り抜ける為に、助けられるのではない、共に戦う為に絶望的な戦いを前にしても決して心折れる事無く闘志を燃やしているのだった……。

 

 

135話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その10へ続く

 

 




敗北条件

味方機の撃墜

勝利条件

ペルゼイン・リヒカイトのHPを80%以下にする。アインスト・キメラのHPを50%以下にする。メタルビースト・エルアインス、エルツヴァイのいずれかのHPを60%以下にする。この3つの条件の内2つを満たす事。


リヒカイトは当然はHP???、キメラは毎ターンHPが減りますがバリアもち、エルアインスとツヴァイはHP回復・EN回復・弾薬回復とクソ使用

これがもしゲームに出てきたらコントローラーを投げる確信がある、そんな難易度で考えて見ました。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

135話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その10

135話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その10

 

乾いた音を立ててリボルビングバンカーの薬莢がアルトアイゼン・ギーガの右腕から排出される。片膝を付いた状態のアルトアイゼン・ギーガのコックピットからペルゼイン・リヒカイトに視線を向けたキョウスケは忌々しそうな表情を浮かべた。

 

「化け物め」

 

マリオンとラルトスの作ったギーガユニットの強度はかなり高く、それこそL5戦役でこれを使えていれば量産型G軍団など敵ではないとまで言えるレベルにアルトアイゼンは強化されていた……だがそれよりもペルゼイン・リヒカイトの機体性能が高く、そしてアルフィミィの成長速度が早すぎた。

 

『まぁ酷いですのよ? 女の子に化け物なんて』

 

「ちいっ!!!」

 

光にしか見えぬペルゼイン・リヒカイトの攻撃を防ぎながらキョウスケは舌打ちをする。ペルゼイン・リヒカイトの刃はギーガユニットを深く切り裂き、素体でも言うべきアルトアイゼンの装甲が見えている箇所もある。

 

『キョウスケッ!!』

 

完全に差し込まれているのを見てヴァイスリッター改が援護射撃を行なうが、ペルゼイン・リヒカイトの両肩の鬼面から伸びた腕がオクスタンランチャー改のビームを切り払う。

 

『それはもう何度も見ましたのよ? もちろん、貴方も』

 

『うぐっ!?』

 

翼を失い飛行能力を失ったアンジュルグがオクスタンランチャーEモードに隠れて突撃して来たが、アルフィミィはそれも見えていると言わんばかりに笑い、その腕でアンジュルグの首を掴んでそのまま地面に叩きつける。

 

「ラミアッ!!」

 

最後のオーバーチャージ用の薬莢を排出し、T-ドットアレイにより爆発的な加速と破壊力を伴ったリボルビングバンカー・オーバーチャージによる、超高速による突撃を敢行したアルトアイゼン・ギーガだったが、その突撃はペルゼイン・リヒカイトの前で止められていた。

 

『キョウスケ、私がいるのに他の女の名前を呼ぶのはどうかと思いますのよ?』

 

「……馬鹿なッ!?」

 

リボルビング・バンカーの切っ先に自らの握る日本刀の切っ先をぶつけ完全に無力化する。ゼンガーであっても出来ないであろう絶技でアルトアイゼン・ギーガを止めたペルゼイン・リヒカイトはそのまま回し蹴りを叩き込みアルトアイゼン・ギーガとアンジュルグ同時に蹴り飛ばした。

 

「ぐうっ!?」

 

『うあッ!?』

 

『キョウスケ! ラミアちゃん!』

 

ペルゼイン・リヒカイトの追撃を防ぐべく、ヴァイスリッター改が援護に入る。Bモード、Eモードを駆使し、そして加速と減速を組み合わせ並みの相手ならば翻弄できる芸術的な動きを行なうエクセレンだったが、次の瞬間にはその顔は驚愕に染まる事になった。

 

『確かこうですの?』

 

ペルゼイン・リヒカイトの掌から生物的な意匠だが、間違いなくオクスタンランチャーを模したライフルが現れる。

 

『なっ!? う、嘘でしょッ!?』

 

『ハートを撃ち抜きますの♪』

 

アルフィミィの可愛らしい口調とは似てもにつかぬ凄まじい轟音と共に放たれた光線がアルトアイゼン・ギーガ達に向かって放たれる。

 

「下がれッ!」

 

強力なビームコートを搭載しているアルトアイゼン・ギーガが前に出ることで装甲の薄い、ヴァイスリッター改とアンジュルグは撃墜を免れたが、眩いまでの紅はビームの熱によって焼け焦げエクセレンとラミアの前には漆黒へと変わり果てたアルトアイゼン・ギーガの姿があった。

 

『キョウスケ! キョウスケ! 生きてる!? 返事をッ!』

 

「……ぐっ、ラルトスに……感謝……だな、まだ俺もアルトも生きてる……」

 

ボロボロになりながらもアルトアイゼン・ギーガはまだ生きていた。各部のあちこちがレッドアラートを灯し、背部のクレイモアは全部死んだが、それでもまだリボルビングバンカーも、両肩のクレイモアも生きていた。そしてまだ戦える、まで自分は死んでいないといわんばかりにエンジンが唸り声を上げる。

 

『大丈夫なのですか? キョウスケ中尉』

 

「ああ、ラドム博士とラルトスの最後の仕掛けが起動したようだ。こんなものまで仕込んでいたのか……あの2人は……いや、今だけはそれに感謝しよう」

 

獣のような唸り声を上げて、アルトアイゼン・ギーガの身体が再び紅く染まる。エンジンの高熱によって装甲が赤熱化する。

 

『ちょい、ちょいキョウスケ、それ大丈夫?』

 

明らかに尋常ではない熱を放つ様子を見て大丈夫か? と問いかけてくるエクセレンにキョウスケは淡々とした様子でモニターの文字を見て口を開いた。

 

「……タイマーによれば後2分だそうだ、エクセレン、ラミア後2分で決めるぞ。でなければアルトは吹っ飛ぶ」

 

『ちょっと何言ってるか判らないんだけど?』

 

『何を言っているでありますか?』

 

3分間だけのオーバーヒートモード。正式名称はまだないそれはマリオンがEOTを使わずに、それに匹敵するパワーを得る為にエンジンに細工をしたものだった。

 

「捨て身モードだそうだ、2分以内に解除しないとオーバーヒートで吹っ飛ぶ。その代りに機体性能は跳ね上がっている、2分で蹴りをつけるぞ」

 

『……ヴァイスちゃんじゃ、今のアルトちゃんには追いつけないわよ』

 

2分でペルゼイン・リヒカイトを倒す……それが可能なのはキョウスケとエクセレンのコンビネーションしかない、しかしアルトアイゼン・ギーガとヴァイスリッター改では基本性能が異なり、ランページゴーストは封印状態にあった。通常時でもそれなのに、今のアルトに追いつける訳がないとエクセレンが言うとキョウスケは小さく笑った。

 

「2人で追い付いて来い、時間がない。一気に決めるぞッ!!」

 

言うが早くペルゼイン・リヒカイトに紅い残像を残し突っ込んでいくアルトアイゼン・ギーガ。その姿を見てエクセレンは疲れたように溜め息を吐き、腰にマウントしてた予備兵装であるパルチザンランチャーをアンジュルグに投げ渡す。

 

『いや、エクセ姉様?』

 

『マニュアル制御で頑張ってね、行くわよッ!』

 

『え、待って、待ってください! 何を!? 私は何を頑張れば……くそ、やるしかないのかッ!!?』

 

翼を展開しアルトアイゼン・ギーガの後を追っていくヴァイスリッター改を見て、ラミアはアンジュルグにパルチザンランチャーを拾わせ、ペルゼイン・リヒカイトに向かっていくアルトアイゼン・ギーガとヴァイスリッター改を追いかけていくのだった……。

 

 

 

 

地響きを立てて全身に浮かぶ目を忙しなく動かしながらアインストの複合体である、アインスト・キメラはゆっくりと、しかし確実にハガネに向かって歩みを進める。

 

『うおらああッ!!!』

 

『ブーストナックルッ!!』

 

アインスト・キメラには劣るがそれでも巨大なグルンガストの放ったブーストナックルと、ジガンスクード・ドゥロのシーズナックルがその巨体にめり込み、そのままの勢いで肉片が吹っ飛ばされる。

 

『うえ、気持ち悪……ッ!?』

 

『そんなこと言ってる場合じゃねぇぞ、タスク。くそ、こんな化け物とどう戦えば良いんだよッ!?』

 

殴り飛ばされた肉片は空中で分裂し、クノッヘンとグラートへと変貌する。アインスト・キメラ同様、身体が崩壊しているがそれでもまだ攻撃を仕掛けてくる敵意が感じられた。

 

「ブリット君! 変わって! 虎龍王じゃ相性が悪すぎるわ!」

 

『クスハ、すまん! 頼む!』

 

虎龍王から龍虎王へと一瞬で変化し、龍虎王は指に挟んだ札をアインスト・キメラに向かって投げつける。

 

【――!!!!】

 

札から放たれた電撃にアインスト・キメラが苦悶の声を上げる。だがダメージは見た目よりも少ないのか、無数の触手と腕を龍虎王へと伸ばす。

 

「効いてない! 攻撃力が足りないのッ!?」

 

『龍虎王でも駄目だって言うのか!?』

 

打撃も駄目、遠隔攻撃も駄目。早く動きを止めなければと焦れば焦るほどに、アインスト・キメラの強さに余計に焦りが加速する。

 

『落ち着け! 巨体になってもアインストの弱点は同じだ!!』

 

『マニューバGAX-Ⅱッ! GOッ!!!!』

 

ゲシュペンスト・リバイブ(S)の放ったビームライフルとドリルのように螺旋回転しながら急降下したアステリオンのマシンキャノンがアインスト・キメラの背中についている赤いコアを次々と撃ちぬいた。

 

【【【ゴギャアアアアアアアアアーッ!?!?】】】

 

身を震わせ苦悶の叫びを上げるその姿は明らかに大きなダメージを受けている事は明かだった。

 

『そうか、巨大化しても弱点がコアっていう事は変わらない! クスハッ!』

 

「うんッ! 任せて龍虎王! 移山法! 神州霊山ッ!!!」

 

龍虎王の眼前に浮かんだ札の前で、龍虎王の両腕が動き、無地の札に赤い文字を刻みつける。

 

「移山召喚ッ!!」

 

空中から巨大な岩山が出現し、凄まじい勢いでアインスト・キメラに向かって急降下する。

 

『へ、あたしにおあつらえ向きじゃねえか』

 

『中尉、何するつもりっすか……』

 

『ビビってんじゃねぇ。あれが落ちたらあれをぶん殴って化け物にぶつけてやるんだよ!! クスハ、ブリット! ぶちかませッ!!』

 

「救急如律令ッ!!!」

 

剣指が振るわれ、急降下した岩山はアインスト・キメラの背中に落ち、肉を裂き、そしてコアを纏めて押し潰す。

 

【【【ゴガアアアアアアアアーッ!!!】】】

 

自分達の命であるコアを砕かれアインスト・キメラが再び身の毛がよだつような雄叫びを上げる。

 

『しゃあ! おらおらおらッ!!!』

 

砕けた岩の残骸にカチーナのゲシュペンスト・MK-Ⅲが拳を叩きつけ、それをミサイルのような勢いでコアに向かって殴り飛ばす。

 

『シロ! クロ! 頼んだぜ!』

 

『了解ニャッ!』

 

『いっくわよおッ!』

 

『それッ!! いっけえッ!!』

 

ハイファミリアを射出し、ハイファミリアで岩をコアへ向かって弾かせると共にカロリックミサイルでコアを的確に撃ちぬいて行くサイバスター。その隣ではヴァルシオーネがハイパービームキャノンを手にコアを破壊しながら、蹴りで岩をサッカーボールのように蹴り飛ばし、コアを再び破壊する。短時間で十数個のコアを破壊されたアインスト・キメラは雄叫びを上げて、その姿を更に変化させる。

 

『どうやら奴さんは随分とゲッターロボにご執心みたいだな』

 

『だとしてもあんな偽物なら怖くもなんともないっすけどねッ!』

 

体外に露出していたコアを全て体内に取り込み、腰の部分――いや、ゲッタービームの発射口の辺りにコアを集め、旧ゲッターロボを模した姿に変化するアインスト・キメラ。だがその姿に恐怖を抱く者はいなかった、本物の、そしてもっと強いゲッターロボを知っているのだ。今までも化け物の姿よりも、全然恐ろしくないと笑う。

 

『余裕が出来たのは何よりだが、キョウスケ達の救出は終わっていない! この偽物のゲッターロボを倒し、あのドームを破壊するぞッ!』

 

自らが率先し切り込みながら指示を飛ばすギリアムに返事を返し、クスハ達もアインスト・キメラへと攻撃を始める。今もなお、アインスト・クノッヘンで作られたドームの中からは爆発音が響き、キョウスケ達が戦っている事は明らか、少しでも早くキョウスケ達を助ける為に動き出すのだった……。

 

 

 

 

ビルの上に隠れ戦闘を見つめているラリアー、デスピニス、ティスの3人は揃ってうーんっと不満げな声を出していた。

 

「……なんか……あ、あんまり強くないですね……」

 

「確かに……何でなんでしょう?」

 

「おっかしいなあ。何でだろ?」

 

メタルビースト・エルアインス、ツヴァイ、ドライの3体は紛れも無く強い存在である事は間違い無いのだが、思ったよりも強くないというのがデスピニス達の抱いた感想だった。

 

「やっぱり合体しないと駄目かな? どうする? 合体させてみる?」

 

「……そ、それはまだ早いってデュミナス様が……」

 

「そうだよ、ティス。SRXが出て来ないと駄目だって言ってたじゃないか」

 

ラリアーとデスピニスの言葉にティスはむうっと呻いた。

 

「でもさ、R-3いないじゃん」

 

「……だ、だから駄目って事じゃないんですか?」

 

「今回は試運転だから程ほどで良いと思うよ」

 

メタルビースト・エルアインス、ツヴァイ、ドライは長い時間を掛けてデュミナスの支配下に落ちた。それを確かめるための戦いであり、ここで全てを終わらせる必要はないとラリアーとデスピニスは口にする。

 

「弱かったらデュミナス様の役に立たないじゃん、あたい達もまだ戦える段階じゃないし」

 

「……そ、それはそうですけど……」

 

「まだ動くべきときじゃないんだよ。多分……」

 

幼い容姿だが、その姿には幼さゆえの狂気が見え隠れしていた。

 

「んーじゃあ、もうちょっとだけ様子を見てみようか」

 

「……うん、それがいいと思う。それに……あんまりやり過ぎると……」

 

「レトゥーラがますます僕達に反発するよ」

 

「あいつか、あたい、あんまりあいつ好きじゃないんだけどなあ」

 

ティス達が敬愛する想像主であるデュミナスが目に掛けるレトゥーラが面白くないとティスが言うと、ラリアーとデスピニスも少し俯き、その意見に同意した。

 

「だ、だけど……今は仲間です」

 

「うん、今は仲間だから信じてみようよ」

 

「はいはいっと、でもあたいは嫌いだよ。あいつ」

 

ティス達にとってはデュミナスが全て、だがレトゥーラにとってはデュミナス等どうでもいい存在と言っても過言ではない、だからこそティス達はレトゥーラが好きではなかった。

 

「それで、どうする? ティス。これ以上は目新しい物はないと思うけど……?」

 

「……か、帰りませんか?」

 

「んーちょっと待って、ここでさ、R-1とかにさ、恨みでも抱いてもらおうかなって思うのさ」

 

コントロールされているとは言えメタルビーストである事に変わりはない。その獰猛な闘争本能と戦闘意欲、そして食欲は健在だ。だがコントロールされている事で些か闘争本能に翳りが見える。それ故にティスはにやりと笑い、メタルビースト・エルアインスに飛びかかるR-1を見ながら指を小さく鳴らすのだった……。

 

 

 

 

 

瞬発力、攻撃力でR-1はメタルビースト・エルアインスに劣っていた。実際はエルアインスとR-1ではR-1に軍配が上がるが、メタルビースト化により獣の柔軟性、そしてインベーダーの再生能力、そして形態変化を持つようになりメタルビースト・エルアインスはR-1よりも強力な存在となっていた。

 

「隊長! 支援を頼むぜッ!」

 

『リュウセイ! リュウセイ! 待ちなさいッ!』

 

ヴィレッタの静止を振り切ってリュウセイはメタルビースト・エルアインスへとR-1を走らせた。持久戦でも、短期決戦でも勝てないという事はリュウセイでも判っていた。だがそれでもなお、リュウセイはメタルビースト・エルアインスへと向かう事を選んだ。その理由はリュウセイだけが判っていた……。

 

(こいつをこのままにしておけないッ!)

 

【シャアッ!!!】

 

両掌に赤黒い念動力の球体を作り出しそれを撃ち出して来るメタルビースト・エルアインスに対して、リュウセイはR-1の左手を突き出す。

 

「ぐうっ!」

 

念動フィールドによって威力はいくらか軽減されたが、それでも凄まじい衝撃がR-1へと走った。しかしリュウセイは歯を食いしばり、右手を突き出しながら叫んだ。

 

「くらえッ! T-LINKソードッ!!!」

 

【ギャアアアアッ!?】

 

開かれた右手から放たれたTーLINKソードがメタルビースト・エルアインスの左肩に突き刺さると同時に、左腕を肩から斬り飛ばす。

 

「おおおおッ!!!」

 

例えメタルビーストであっても片腕を失えばバランスを失う、その隙をリュウセイは見逃さず一気に畳み掛けるべくR-1を走らせる。

 

「でやあッ!!!」

 

【ギガアッ!?】

 

左右のT-LINKナックルによる連打。それはメタルビースト・エルアインスの装甲を穿ち、芯であるインベーダーにダメージを響かせる。

 

(くそッ! 倒せる気がしねえッ!)

 

念動力を通じてインベーダーにどれだけのダメージを与えているかが伝わってくるが、それでも倒すにはまるで程遠いのがひしひしと伝わってくる。インベーダーの再生能力もそうだが、何よりもインベーダーの念動力への適合が早すぎるのだ。

 

【シャアアッ!】

 

金属質な音が響きT-LINKナックルが防がれ、装甲までは回復していない為インベーダーのゴムのような身体の腕が左腕から伸び、R-1へと迫る。

 

「くそッ! ならこいつはどうだッ!!!」

 

【ゴガアッ!?】

 

突き出した両腕からメタルビースト・エルアインスが行なったように念動力を放つR-1。胴体に風穴が開き、がっくりと糸が切れた人形のように動きを止めるメタルビースト・エルアインスからバク転で距離を取り、そのままゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDの元まで後退するR-1。

 

「見ただろ、隊長。このままじゃ手に負えなくなる」

 

『それは判るわ、でも倒しきるには火力が足りないわ』

 

恐るべき速度で念動力を使いこなしているメタルビースト・エルアインス。このままにしておけば、リュウセイに匹敵する念動力をメタルビースト・エルアインスが手にするのは時間の問題だ、それ故にリュウセイは焦ってメタルビースト・エルアインスへと攻撃を仕掛けたのだ。

 

『ライが合流してくれればまだ機会はあるけど……』

 

「それも厳しいよな」

 

メタルビースト・エルツヴァイに対するR-2・パワードとビルトビルガーのタッグはリュウセイとヴィレッタ以上に苦戦を強いられていた。

 

「アラド! まだアサルトスタンカノンは使えるか!?」

 

『で、電圧的に後2回……最悪後1回っすッ!』

 

アラドの半分悲鳴のような声を聞いてライは顔を歪める。

 

「くそ、万事休すか……ッ」

 

瓦礫から弾丸を作り出し、インベーダーの体内電気でENをチャージするメタルビースト・エルツヴァイに弾薬切れ、エネルギー切れという射撃機にありがちな弱点はない、それに対してR-2・パワード、ビルトビルガーは高性能のエンジンとトロニウムエンジンを搭載しているが、トロニウムエンジンはSRXでの使用が前提なのでR-2・パワードの状態ではその恩恵は微々たるもので、ビルトビルガーに至ってはアサルトスタンカノンを連射しすぎてエネルギーが枯渇しかけていた。

 

『プロペラントタンクを積んで来るんだったッ! すみません』

 

「いや、こんな状態になるなんて誰も思っていない。アラドが悪いわけではない」

 

今回の目的はエクセレンを追いかけてくることであり、緊急出撃だったので予備弾装なども十分に装備出来ておらず持久戦を挑める状態ではなかった。

 

(どうする……火力が圧倒的に足りていない)

 

アサルトスタンカノンで麻痺させて、攻撃を加えてダメージを蓄積させて来たが、インベーダーの再生能力を前にすればそれは微々たる物で、ハイゾルランチャーの火力でもメタルビースト・エルツヴァイを倒すには攻撃力が足りない……それこそSRXを持ち出さなければ回復もさせずに倒すと言う事は不可能に近かった。

 

(これがインベーダー、かつて人類を滅ぼしかけた化け物ッ!)

 

これを知る旧西暦の政府が隠蔽しようとしたのも納得だ、余りにも強すぎる、そして余りにも人間の理解を超えている……だが泣き言は言ってられない、今出来ることをするだけだと、ライは残りの弾薬、エネルギー、後1回切る事が出来る切り札であるアサルトスタンカノンの切り所……頭を回転させ、勝利すべく戦術を考え始めた。

 

【ガガガガ……ギガ、ガガガガガガッ!?】

 

しかしそれは突如壊れた人形のように紫電を走らせ始めたメタルビースト・エルツヴァイの動きを見て中断させられた。

 

「なんだ……急にどうした?」

 

『罠っすか?』

 

「……いや、待てよ。確か……インベーダーはゲッター線がなければ生きていけない筈。そうかッ! ゲッター線が切れたのか!」

 

エネルギーと弾薬の他にインベーダーにはゲッター線が必要だ、突然現れたのは転移で現れたと考える事は出来る。どこから転移してきたかは定かでは無いが、出撃前に溜め込んでいたゲッター線を失ったと考えるには十分な状況となっていた。

 

「アラド! スタンカノンを使え! この好機で決めるッ!」

 

『了解っす!』

 

ビルトビルガーの放ったアサルトスタンカノンがメタルビースト・エルツヴァイに命中し、糸の切れた人形のようにがくがくと動くメタルビースト・エルツヴァイに向かってライはR-2・パワードを走らせる。

 

『近づいて大丈夫なんですかッ!?』

 

「遠くでは埒があかないッ! 至近距離でフルパワーで打ち込むッ!! アラドはそのまま支援射撃を続けろッ!!」

 

動きがおかしくとも、まだメタルビースト・エルツヴァイは攻撃を続けてきている。支援を行えとアラドに指示を出し、ホバーで距離を詰めるR-2・パワードのコックピットの中でライは計算を続け、収束ハイゾルランチャーの威力が最大になるポイントへと急行する。

 

「ターゲットロック……ハイゾルランチャーシュートッ!!!」

 

轟音と共にメタルビースト・エルツヴァイに向かって放たれた。動きが鈍くなっているメタルビースト・エルツヴァイがそれを避けれる訳が無く、ハイゾルランチャーの直撃を受けたメタルビースト・エルツヴァイは顔の右半分、そして胴体の7割を失い、その場に倒れると同時に転移で消え去った。

 

『き、消えた?』

 

「いや、違う。回収されたんだ……まさかあの個体は……ッ?」

 

余りにもタイミングが良すぎる。そして知恵のあるような動きも見せていた……あのメタルビーストは特別なのかという考えが頭を過ぎるが、今は思考している場合ではないとR-2・パワードを旋回させる。

 

「リュウセイ! 突っ込めッ!! ハイゾルランチャーシュートッ!!!」

 

『すまねえ! ライッ! 助かったぜッ!!』

 

『リュウセイ! これが最初で最後のチャンスよ、一撃で極めなさいッ!』

 

メタルビースト・エルツヴァイ同様、メタルビースト・エルアインスも動きが鈍くなっていたが、念動力でジャイアントリボルバーの弾丸を操り、R-1の動きを封じていた。しかしハイゾルランチャーによって銃弾が消失し、それに加えてゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDの支援も得たR-1は一気にメタルビースト・エルアインスとの距離を詰め、跳躍しながら右拳を固く握り締める。

 

『T-LINKナッコォオオオオオッ!!!』

 

裂帛の気合と共に放たれたT-LINKナックルはメタルビースト・エルアインスの念動フィールドを突き破り、胸部と頭部を纏めて消し飛ばした。だがメタルビースト・エルアインスはエルツヴァイと同様崩れ落ちると同時に転移によってその場から消え去った。

 

「ふう……良く持ってくれた。R-2……」

 

『さ、流石にエネルギー切れだな、キョウスケ中尉達は大丈夫なのか』

 

システムダウンをしたコックピットの中で僅かな予備電力でモニターを再起動し、外を確認するリュウセイ達。その視界には崩れ落ちるアインスト・キメラとアインスト・クノッヘンで出来たドームの姿があり、リュウセイ達はそっと安堵の溜め息を吐くのだった……。

 

 

 

 

ペルゼイン・リヒカイトのコックピットの中でアルフィミィは必死にアルトアイゼン・ギーガの姿を追おうとしていた。

 

「早すぎますの……ッ」

 

ペルゼイン・リヒカイト、そしてアルフィミィの反射速度をもってしてもなお、オーバーロードモードのアルトアイゼン・ギーガを追いきれなかった。

 

『悪いが時間がない、これで蹴りをつけさせて貰うぞッ! アルフィミィッ!!』

 

『はいはいはい、1人で突っ込まないのッ!!』

 

加速しながら放たれる六連装マシンカノンの弾雨とビームの光の雨がペルゼイン・リヒカイトへと迫る。

 

「甘いですの」

 

確かにその連携は見事と言える物だ。だがズレがある、実弾とビームでは速度に差がある。本来のアルトアイゼンとヴァイスリッターならその誤差を埋めて見せていた。だがアルトアイゼン・ギーガとヴァイスリッター改では機体性能にどうしても埋め難い差があり、それがペルゼイン・リヒカイトに攻撃を避ける隙を与えていた。弾雨の雨を抜けようとした瞬間、ペルゼイン・リヒカイトの額に3度ミラージュアローが突き刺さり、ペルゼイン・リヒカイトは足を止めた。

 

「う、うう!?」

 

『私を忘れたな? アインスト』

 

翼を失い、武装もその大半を失った。そして何よりもアルフィミィはラミアへ興味を持っていなかった……それがアルフィミィの脳裏からアンジュルグの存在を消し去っていた。

 

「きゃあッ!?」

 

数秒の足止め。それで十分だった、6連装マシンカノンと6連装ビームキャノンの誤差を埋め、攻撃を当てる時間にはその一瞬にも満たない時間で十分だった。

 

『獲ったッ!』

 

「さ、させませんのッ! うあっ!?」

 

実弾とビームの雨に装甲を削られ、その弾雨の中に紛れて突撃していたアルトアイゼン・ギーガの額のブレードが赤熱化しているのを見て、アルフィミィは咄嗟に手にしていたハウリングランチャーを盾にする。それによって直撃は間逃れたが破壊されたハウリングランチャーの爆発に飲まれて後方に向かって弾かれる。

 

「ううっ! 好きにはさせませんの……ライゴウエッ!!」

 

ペルゼイン・リヒカイトの機体各所の鬼面から光線が放たれ、これ以上アルトアイゼン・ギーガの追撃を受けまいとしたアルフィミィだが、射線軸にアルトアイゼン・ギーガの姿はなかった。

 

「い、いない!?」

 

『まだまだ甘いわねん! それッ!!!』

 

「きゃあっ!? え、エクセレン!? どうして!?」

 

アルトアイゼン・ギーガの居たはずの場所を高速で突っ切ってきてオクスタンランチャー改で殴りつけて来たヴァイスリッター改にアルフィミィは驚愕の声を上げた。

 

『どうしてって言われても私には判らないわね。キョウスケはどう思う?』

 

『お前には経験が足りない、クレイモアッ!!』

 

上空から降り注いで来たベアリング弾の雨が文字通り降り注ぎ、ペルゼイン・リヒカイトの全身の鬼面を容赦なく破壊する。

 

「う、ううう……何がどうして……わ、私は貴方達の考えを読んでいるのにッ!」

 

思念を読み取り攻撃を見切っていた事が、先手先手でアルトアイゼン・ギーガの攻撃を潰せていたカラクリだった。だが今は何も判らない、何も感じ取れない。

 

「どういうことですの!? こ、これでは何も考えていないとでも言うんですの」

 

『考える必要が無いのよ、キョウスケが何をしようとしているかなんて言葉にしなくても判るからね♪』

 

『そう言うことだ、以心伝心という奴だ』

 

『え、嘘。キョウスケがデレてる!?』

 

『……たまにはそういうときもある。極めるぞ、エクセレン!』

 

『OKッ!』

 

白と紅の流星が目まぐるしく立ち位置を変えながらペルゼイン・リヒカイトへと突撃してくる。

 

「読めないのならば、見てから攻撃すれば十分ですのッ!」

 

両肩と背中の鬼面から腕が生える。その腕には異形の日本刀が握られており、周囲を警戒するように動き回る。どこから攻撃されても対応してみせると活き込むアルフィミィを見て、アルトアイゼン・ギーガとヴァイスリッター改は真っ直ぐにペルゼイン・リヒカイトへと突撃してくる。

 

「正面から? 馬鹿にしているんですの!」

 

迎え撃ってみせると両腕と背中、肩の腕が日本刀の切っ先を向けた瞬間、アルトアイゼン・ギーガとヴァイスリッター改は弾かれたように左右に分かれ、その後から飛んできたビームが日本刀に命中する。勿論ビームを放ったのはアンジュルグであり、苦戦しながらマニュアルでパルチザンランチャーを操作し、フルパワーモードへと変形させそして放ったのだ。正直ロックオンも何もない、本当に目視確認で良く当てれたというべきで、むしろ命中したのが奇跡と言っても過言ではない。だがラミアはその奇跡を勝ち取り、ペルゼイン・リヒカイトに攻撃を命中させて見せたのだ。

 

『キョウスケ中尉! エクセ姉様! 後はお願いします!』

 

「うっ!? ま、前が……『貰ったぞ!』うあッ!?」

 

アンジュルグの攻撃が弓やエネルギーの槍だと思い込んでいた為に日本刀に当たり、反射したビームの光にアルフィミィは目を焼かれ、完全にキョウスケ達の気配を見失った。その直後に背中に走る凄まじい衝撃、リボルビングバンカーがペルゼイン・リヒカイトの背中を貫くと同時に炸裂しペルゼイン・リヒカイトを上空へと弾き飛ばす。

 

『返すわよ! キョウスケッ!』

 

オクスタンランチャー改のフルパワー射撃をゼロ距離から叩き込まれたアルフィミィは悲鳴を上げる事も出来ず、アルトアイゼン・ギーガの方へと吹き飛ばされる。

 

『良い距離だ、貰った!』

 

「か、かはっ!?」

 

リボルビングバンカーを突き刺され、強引に動きを止められたペルゼイン・リヒカイトのコックピットでアルフィミィは苦しそうな呻き声を上げる。だがそのままの状態で急上昇したアルトアイゼン・ギーガによって声を上げる事も出来ず、また息を吸う事も出来ないまま運ばれ、上空で待ち構えてたヴァイスリッター改の手にしたオクスタンランチャーのフルパワー射撃とリボルビングバンカーの炸裂はペルゼイン・リヒカイトと胸部と背中に深い傷痕を刻みつけた。

 

『ジョーカー切らせて貰った』

 

『これが私達の切り札よん♪』

 

キョウスケとエクセレンの声をどこか遠くに聞きながらペルゼイン・リヒカイトとアルフィミィは地面に叩き付けられたが、その姿は徐々に薄れて行き、この場から消えようとしていた。

 

「時間切れのようですの……仕方ありません……今回はここまでにいたしますの……」

 

『ここまでやっておいて時間切れだと! どういうことだ』

 

『もうちょい、何かいう事はないのかしら?』

 

自分を見下ろしているアルトアイゼン・ギーガとヴァイスリッター改を見て、アルフィミィは元の世界へと送還されながら1つくらいならと口を開いた。

 

「鋼の戦神を模した破壊魔は普通ではありませんの、どうぞ、お気をつけて、それと詳しくは進化の使徒に聞くといいですのよ。ではまたお会いしましょう、キョウスケ、エクセレン」

 

ちらりと見たメタルビースト・エルアインス、エルツヴァイが通常のインベーダーではないと言う事を告げるとペルゼイン・リヒカイトとアルフィミィの姿はキョウスケ達の前から跡形も無く消え去り、そしてアインスト・クノッヘンによるドームは音を立てて崩れ始めていた。

 

「鋼の戦神ってまさかSRXの事?」

 

「判らん、判らんが……武蔵が何かを知っているのならば早く伊豆基地に戻るべきだろうな……とは言え、アルトはオーバーヒートで動かん、アンジュルグも飛べない。エクセレン」

 

「はいはーい、救援を呼んでくるわね、キョウスケ。浮気しちゃ駄目よ?」

 

「馬鹿を言ってないで早く行け」

 

キョウスケとエクセレンの打てば響くような会話を聞きながら、ラミアはアルフィミィの言葉を思い返していた。

 

(鋼の戦神、破壊魔――まさか量産型SRXの事か?)

 

データとしてはメタルビーストSRX、そして量産型SRXの事を知っているラミアだが、その目で見た訳ではなく確信は無かった。だが言いようの無い不安を抱き、早く救援が来て伊豆基地へと戻らなければという強い焦燥感を感じているのだった……。

 

 

136話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その11へ続く

 

 




闇からの呼び声はメタルビースト・エルアインスとツヴァイ、そしてホムンクルストリオでした。次回はシナリオエンドデモで次のシナリオの準備をしたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

136話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その11

136話 暴虐の超機人/闇からの呼び声 その11

 

伊豆基地に戻って来たキョウスケ達はアルフィミィの伝言、武蔵がメタルビースト・エルアインスの正体を知っていると言う事が真実なのかを確かめる為に戦闘データと共に武蔵にそれが真実なのかと問いかけた。

 

「……メタルビーストSRXッ! まだ生きてやがったのかッ!」

 

メタルビースト・SRX……武蔵はメタルビースト・エルアインス、エルツヴァイを見て、メカザウルスや百鬼獣と戦っている時のような鬼気迫る表情でそう呟いた。

 

「メタルビースト・SRX……」

 

「まさか未来のSRXがインベーダーに寄生されたって言うのかよ……」

 

「……リュウセイ」

 

「いやいや、そんな不安そうな顔をしないでくれよ。俺は平気だぜ、ラトゥーニ」

 

違っていて欲しい、そう合って欲しくないと思っていたが武蔵の言葉でメタルビースト・エルアインス達にも合体機能があることが明らかになり、ブリーフィングルームに重たい沈黙が広がり、SRXがインベーダーに寄生され奪われたと言う声が広がり、武蔵は慌てて違うと声を上げた。

 

「違う、違うんだ。こいつはSRXじゃねえ、確かこいつは……3体ある量産型SRXの1体だ。オイラ達の目の前で量産型SRXがインベーダーに寄生されたんだ、イングラムさんのR-SWORDもこいつの武装として用意されてたもんだった筈」

 

量産型のSRX。それはある意味SRXがメタルビーストになったというものよりも衝撃的な事実に誰もが声を失う。文字通りSRXは地球連邦の切り札と言っても良い、それが量産されているという事実は武蔵の見てきた未来が自分達が想像していたよりも酷い事態になっていると悟るに十分に余りあったからだ。

 

「量産型のSRXだと? トロニウムはどうやって手に入れたんだ。それに念動力者をどうやって集めたんだ」

 

SRXを量産したと言うことも信じられないが、どうやってそれだけのトロニウムを入手したのか、そしてR-1・Rー3に該当するエルアインスとドライには念動力者が必要な筈だとライが武蔵に問いかける。

 

「いやあ、そこら辺はちょっとオイラにゃ判らんぜ。それに量産型SRXって言ってもそのまま動いている所を見たわけじゃないし……」

 

「量産型SRXを見たわけじゃないってどういう意味だ?」

 

「そのままの意味ッすよ、イルムさん。壊れた戦艦の中の保管されてただけでパイロットらしいのは見てないし、運び出す段階でインベーダーに寄生された訳で、インベーダーに寄生される前の量産型SRXをオイラは知らないんですよ」

 

1号機から3号機までは建造されていたらしいが、パイロットがいたのか、そして本当に運用されていたのかは判らないと武蔵は言う。

 

「建造されていたのだから運用される目処は多分あったんだろうが……」

 

「パイロットが配属される前に何かあったと思うべきか……」

 

建造されていたことを考えれば運用する目処は立っていたのだろうが、インベーダーもしくはアインストが闊歩する地獄と言う事を考えれば運用出来ないままにパイロット、あるいはSRXをメンテできる人間が失われ運用出来ないままになっていた可能性もある。

 

「だがそれは量産型SRXの事だろう? 武蔵。お前の口振りでは何度かメタルビースト・SRXと戦ったように感じられるがどうなんだ?」

 

「……その通りだぜ、ラドラ。2回戦ってるけど……正直に言ってかなり強い。オイラとイングラムさんとカーウァイさん、それと……あんまり良い印象はないと思うけど、アクセルさんとウォーダンが加わってやっと互角。オイラとゲッターD2だけなら完全に力負けだ。変な化け物が割り込んで来て姿を見失ったけど、まさかまだ生きてるなんて思ってもなかった」

 

「「「なっ!?」」」

 

武蔵とゲッターD2でも力負けと聞いてブリーフィングルームに驚きの声が広がる。ゲッターD2の強さは誰もが見ている、そのゲッターD2でさえも力負けすると言うのはそう簡単に受け入れられる言葉ではなかった。

 

「嘘だろ……あのゲッターは化け物みたいに強いのに、それでも駄目だったのかよ……」

 

「嘘を言っているとは思えないが……正直に言って信じられない、いや信じたくないと言うのが本音の所だな」

 

武蔵とゲッターロボの存在は一種の心の支えと言っても良かった。その武蔵がタイマンでは勝てないと言うのは信じられない、いやギリアムの言う通り信じたくない言葉でもあった。

 

「何を沈んだ顔をしている。武蔵1人ならという話だ、これだけ頭数がいれば取れる戦術も大きく増える。違うか?」

 

コウキが励ますように言うと確かにと誰もが考えを改める。武蔵が勝てないと聞いて気落ちしていては、それでは武蔵1人に頼りきりだった時と何も変わらない。

 

「まずは警備網の見直しか。それと俺達の機体のメンテナンスも急務だな」

 

「それにオオミヤ博士達に相談するのも必要ですね」

 

「可能な限りの戦力強化も必要だな」

 

「いや、それよりも近くの街の人を避難させたほうが良いかもしれないです。もしもあいつらが出て来たなら……多分また近いうちに仕掛けてきますよ」

 

「今度はメタルビースト・SRXで来るかもしれないと言うことか……それなら避難をさせておく必要があるな」

 

1人1人に出来る事は決して大きくはない、だが協力しあえば必ずどこかに突破口は見出せる。団結する事が人間の大きな武器であり、そして強大な敵へと立向かう大きな力となるのだから……。

 

 

 

 

メタルビースト・SRXの襲来に備え、各々が機体の整備などを行なう中、リュウセイとライの2人はSRX計画の地下ラボに訪れていた。

 

「ライ、これってあれか? ゲシュペンスト・MK-ⅢのタイプTか?」

 

「恐らくそうだろう、念動力者用の機体だ」

 

「俺達の他にもまだ念動力者はいるのか?」

 

「……少数ながら保護されているとは聞いているが……軍属になるかははわからないな」

 

固定されているゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプTを見上げ、リュウセイとライは話をしながら管制室へと足を向ける。

 

「SRXは使えるのかライ」

 

「使えるとは聞いている。少なくとも前よりもずっと安定している筈だ」

 

L5戦役の後からずっと強化されているRシリーズ。ゲッター合金や新型の関節などを使い、合体時間の延長、そして強度の向上が図られている。少なくとも今のSRXはL5戦役の時のSRXよりもずっと安定し、強力になっている筈だとライは言うが、懸念材料も残っているとリュウセイに告げる。

 

「……俺の念動力か」

 

「ああ、お前の念動力は大尉よりも遥かに強くなっている。その念動力がどんな影響を出すかわからないと言うのが不安材料ではあるが……そうも言ってられないからな」

 

「SRXがあれば武蔵の力に……っと、すまねえな。余所見を……」

 

メタルビースト・SRXが武蔵の言う通り本当に出現するのならばSRXも必要になる。リュウセイとライが地下に呼ばれたのもSRXに関係しての事だろうと歩きながら話をしていると通路から出てきた誰かとぶつかり、リュウセイは余所見をしていたと謝りながらぶつかって来た誰かに視線を向けた。

 

「あ……あ……その……ごめんなさい……」

 

小柄なピンク色の髪をした少女が身体を小さくしながらリュウセイに謝って来るのだが、リュウセイはその少女を見て目を大きく見開いた。

 

「お、お前……お前は……ッ!」

 

手を震わせ、その少女に指を向けるリュウセイ。口を開いては閉じ、開いては閉じを繰り返したと思うと、怒りを滲ませた声でお前と叫んだ。

 

「リュウセイ どうした? 君は……」

 

「ご、ごめんなさいッ!」

 

声を荒げたリュウセイを見てライがどうしたと声を掛けながら、リュウセイと向き合っている少女に視線を向けると、その少女はごめんなさいと叫び踵を返して走り去ってしまった。

 

「……ライ。お前、あいつを見たことがないか?」

 

「いや、俺は見たことがないが……それよりもどうしたお前らしくないぞ」

 

初めて見る少女に声を荒げるなどリュウセイらしくないとライに言われ、リュウセイは頭を振って謝罪の言葉を口にする。

 

「すまねえ。ちょっと変な感じがしたんだ、多分気のせいだと思う」

 

「それなら良いが……オオミヤ博士の元へ向かおう」

 

「ああ、急がないとな」

 

リュウセイが何かを誤魔化している事はライも感じていたが、それに触れて欲しくなさそうな雰囲気だったので、あえてそれには触れず。ロブの所へ向かおうとリュウセイを促し歩き出す。

 

(俺の気のせい……か? だけど……どうして……余りにも似てやがる)

 

ライの隣を歩くリュウセイは先ほどと打って変わり、無言で何かを深く考える素振りを見せながら走り去った少女の事を考えていた。雰囲気や言動は異なるが、リュウセイには走り去った少女がエアロゲイターに操られていたレビ・トーラーに似ているように思えてしまっていた。

 

「ライ、リュウセイ、良く来てくれた。これからSR……そんなに深刻そうな顔をしてどうした? 何かあったのか?」

 

「い、いやなんでもないぜロブ。それより遅くなってすまねえ」

 

心配そうに声を掛けてくるロブに大丈夫だと笑うリュウセイ。だがその顔には疑うような色が浮かんでおり、ロブはその顔を見てリュウセイがマイに会ったのではないかと言う不安を抱いた。

 

(今のリュウセイならば見抜いてしまったとしてもありえない話ではない……)

 

「とりあえずケンゾウ博士とヴィレッタ大尉が来るまでに俺が説明をしよう、まずは強化されたSRXのカタログスペックについてだ」

 

マイがレビであると言うことを見抜いてしまった可能性を考えながらも、ロブはそれを口にせず務めて明るく振舞い、強化されたSRXの話題を口にする。最初は怪訝そうな顔をしていたリュウセイだが、話を聞くに連れロボットが好きなリュウセイの顔は明るくなり始め、ロブは内心安堵の溜め息を吐きながらも、これからの事を考えると胃が痛くなるのを感じているのだった……。

 

 

 

 

格納庫に中に凄まじい蒸発音が響き渡り、発生した水蒸気で格納庫の温度が一気に上がる。

 

「もっと水を掛けて大丈夫ですわ」

 

「ほ、本当に大丈夫なんですか?」

 

「ええ、急いでください」

 

整備兵にマリオンが水を掛けろと促し、アルトアイゼン・ギーガに大量の水が放出され、再び水が蒸発し、水蒸気を発生させる。

 

「それでキョウスケ中尉。オーバーモードは如何でした?」

 

「悪くありませんね。最後の切り札に相応しいと思います」

 

にやりと笑うキョウスケにマリオンも笑みを浮かべるが、エクセレンが2人の間に割り込んだ。

 

「いやいや、あれを最後の切り札にしたら駄目でしょうよ。吹っ飛ぶのよ?」

 

「それは試作型ですからわ。今設計段階の後継機ならば問題ありません」

 

アルトアイゼンの後継機と聞いてキョウスケとエクセレンが驚いたような表情を浮かべる。

 

「当たり前ですわ。ATX計画集大成……リーゼ、そしてアーベントの設計と建造は既に始まっております。2人は完成するのを楽しみにしていてくれれば良いのですわ」

 

アルトアイゼン、そしてヴァイスリッターの後継機の完成を楽しみにしていろと告げ、整備兵にアルトアイゼン・ギーガの修理の指示を出すマリオンは忙しく動き回り、キョウスケ達がこれ以上声を掛けれる雰囲気ではなかった。

 

「マリーシショーは忙しいかラ、何か気になる事があればラルちゃんが答えて上げるヨ」

 

にししっと笑いながらラルトスが姿を見せる。変人具合で言えばマリオンよりも遥かにラルトスの方がやばいが、後継機について何かを知っているのならばとキョウスケとエクセレンはラルトスに視線を向ける。

 

「後継機とはどんな物になるんだ?」

 

「アルトはでかくなるヨ! でかい=パワーッ!!! パワーイズジャステイスッ!!!」

 

エキサイトしているラルトスを見てエクセレンが珍しく真顔でキョウスケに向き直った。

 

「……人選ミスしたと思うんだけど、大丈夫かな?」

 

「……俺もそう思う」

 

確かに優秀な開発者かもしれないが、やはり余りにも人格面に問題がありすぎる。ふーっと叫んでいるラルトスにキョウスケもエクセレンも思わず頭を抱えた。

 

「具体的には準特機くらいまでにするヨ、ヴァイスの方は機動力と攻撃力重視ヨ、サイズ的にワンサイズアップくらいネ」

 

「なんででかくするのよ?」

 

「えっとね、新型エンジンは今の技術じゃ小さく出来ないヨ、後ゲッター合金コーティングとか、ビアン博士とかラドラとかコウキから譲り受けた技術を全部積み込みたいネ!」

 

色々積み込みたいからでかくすると聞いてキョウスケとエクセレンは今度こそ天を仰いだ。

 

「……絶対これラドラとかコウキに頼んだ方が良かったと思う」

 

「いうな……ATX計画の開発主任はラドム博士だ。俺達に拒否権はない」

 

「あ、そうだ。ドリルは好きかナ? かナ?」

 

このままではドリルがアルトやヴァイスにつけられると悟ったキョウスケとエクセレンは猛ダッシュでマリオンのストッパーになってくれるであろうコウキを呼びに行くのだった……。

 

「えーなんでドリル嫌がるかわからないヨ」

 

善意100%で頭おかしい改造をするラルトスとマリオン。アクセル全開同士が悪魔合体した結果……アルトアイゼン・リーゼは正史と大きく異なる姿へと至る事になるのだが……それを止める者は存在しないのだった……。

 

キョウスケとエクセレンの乗る機体が超マ改造される事が決定したのに対し、リョウトは正当派とも言うべき強化パーツを手にしていた。

 

「これがヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM用の強化外骨格」

 

「タイラントユニットだ。カラーリングはまだ決まっていないが、運用は十分可能だ。使うかどうかはリョウト、お前次第と言う所だな」

 

ハンガーに固定された灰色の頭部と胸部の存在しない装甲の前でラドラがコンソールを叩きながらリョウトに声を掛ける。

 

「ラドラさん。ありがとうございます」

 

「気にする事はない、マグマ原子炉を使うのならばそれ相応の制御装置が必要であり、それを作れるのが俺だけという話だ。それより離れていろ、少し動くぞ」

 

ラドラの言葉にリョウトとリオが後ずさるとラドラは再びコンソールを操作し、人型で固定されていた装甲がゆっくりと変形を始め背部に回っていた頭部パーツが装着され僅かな時間で人型からティラノサウルスのような姿へと変形する。

 

「ティラノサウルスですか?」

 

「モチーフはな、タイプMに搭載されていたマグマ原子炉がティラノ系の肉食獣のメカザウルスの物だったからそれに合わせてボクサーパーツの予備をこの姿に改造したんだ」

 

今にも唸り声を上げて動き出しそうな機械龍を前にし、リョウトとリオは圧倒されたかのような表情を浮かべる。

 

「一応パイロットも乗れるように仕上げてはある。俺のシグと違って最初から変形前提になっていないから、自動操縦での変形と分離は無理があるからな」

 

「え、でもラドラさん。コックピットはどこになるんですか?」

 

見たところコックピット等無く、どこにあるのかとリオが問いかけるとラドラはくっくっくと喉を鳴らして笑った。

 

「AMガンナーとドッキングするようにしてある。コックピットはAMガンナーからの操縦になるな」

 

「え、それじゃあまさか……3体合体するんですか?」

 

「そうだ。そっちの方がエンジンの出力調整などもしやすいに火力や武装面に幅を持たせられる。カークのやつは何でこんなゲテモノにと嘆いていたが、戦力を向上させる目的なのだからそれくらいで丁度良い、シュミレーションだがこういう風に運用する事を前提としている」

 

コンソールを操作し見てみろとラドラがリョウトとリオに声を掛ける。

 

「これがAMガンナーと外骨格が合体したAMアサルトタイラントガンナーとしている」

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMが搭乗するところにAMガンナーが突き刺さるように合体し、Gインパクトキャノンがパックパックになるように設計されているが、リオはそれを見てあれっと呟いた。

 

「あのーこれ明らかにAMガンナーも変形しているんですけど?」

 

AMガンナーに変形構造はないはずと思いながら尋ねるとラドラは犬歯をむき出しにして笑った。

 

「改造したに決まっているだろう? そのためにリンに好きに改造しても良いと許可を貰ったんだからな」

 

これは絶対想定外の改造になって頭を抱えているだろうなとリョウトとリオは思ったが、ラルトスの改造と違ってまだ実用可能であり、堅実な仕上がりとなっているので喉元まで込み上げて来た言葉を飲み込んだ。

 

「武装に関しては口内の火炎放射機能と無いよりまし程度のビームブレードそれと機銃が外骨格の装備になる、AMガンナーと合体すればリープミサイルやホーミングミサイルにGテリトリー、それにGインパクトキャノンが追加されるから火力・防御力はかなりの高品質だと思う。その代わり機動力はやや低めとなっているが、テスラドライブを併用すれば普通の戦闘機並みの機動力は確保できる」

 

「これってもしかして最初からAMガンナーと併用する前提ですか?」

 

「当たり前だ。PTに毛が生えたくらいのサイズで百鬼獣と戦う等とナンセンスだ、あれらと戦うのに必要なのはある程度のマルチロール、そして火力だからな」

 

カークとラドラでは根本的に考え方が違う、どこまで行ってもラドラの考えは旧西暦よりで1体で戦況を覆すことを最初から前提としている。

 

「戦闘時も合体が可能なのでしょうか?」

 

「それはお前達次第だ、お前たちがマニュアルで合体出来ると言うのならば可能だし、無理だと言うのなら無理だ。そこまで俺は面倒を見切れない、一応サポートプログラムくらいは組んであるが最終的にはお前達次第だ」

 

ラドラはそう言うと更にコンソールを操作し、AMガンナーと合体していない状態の外骨格とヒュッケバイン・MKーⅢ・タイプMが合体した姿を映し出すが、それを見てリョウトが今度は声を上げた。

 

「あのラドラさん」

 

「なんだ?」

 

「これ僕が見ていたボクサーと全然違うんですけど……」

 

リョウトの知るボクサーはヒュッケバインがグリップを掴み、大型のアームを操るというコンセプトで、戦闘時に分離しGソードダイバーという飛空挺になるはずだったのだが、完全に手足が取り込まれ、恐竜の頭部が胸部に来ているので分離が出来るように思えずそう尋ねる。

 

「ああ、Gソードダイバーとかいう奴か、あんなもの使い物になるか、百鬼獣の前でそんなことをしてみろ。両方撃墜されて終わりだぞ? 全く馬鹿ばかりで困ったものだ。あんな機能をつけるくらいなら手足をしっかりと合体させたほうが安定性が増すし防御力も期待できる」

 

マオ社の開発スタッフをボロボロに叩くラドラにリョウトとリオは思わず苦笑する。

 

「Gソードダイバーは廃止して、ブレードキックとガイストナックルの火力を上げた。それとマグマ原子炉を利用する実体剣や強化したタイプM用の武装も多数用意した、Gインパクトキャノンと合わせればどの距離でも十分な戦闘力を発揮出来るだろう」

 

何か質問は? と問いかけてくるラドラにリョウトとリオはモニターに映し出されているAMガンナーとも合体した姿を見た。

 

胸部に恐竜の頭部、それにタイプMのフェイスパーツを保護する兜に背中にAMガンナーを装備し、しかもそのガンナーも変形し、更に飛行能力を向上させている上に腕と足には恐竜の爪を思わせる打撃用の突起も追加されていた。暫くそれを見つめたリョウトとリオ、マオ社の関係者だからボクサーもガンナーも知っている。だが正直に言えばボクサーで百鬼獣やアインストにインベーダーに勝てるとは思っていなかった。

 

「ありがとうございます。これで僕達も足手纏いにならないですみそうです」

 

「ありがとうラドラさん」

 

戦えない機体ではまた足手纏いになるだけ、だからこそラドラに強化されたボクサーとそして改造されたガンナーを見て2人は感謝を告げた。

 

「気に入ってくれたのなら何より、それよりもだ。カラーリングは赤とオレンジで良いのか? タイプMにあわせて外骨格もガンナーも再塗装使用と思っているんだが、お前達はどうして欲しい?」

 

茶目っ気を見せて尋ねてくるラドラにリョウトとリオは声を揃えてお願いしますと頭を下げ、外骨格、そしてAMガンナーの再塗装作業が自動で始められるのだった……。

 

 

 

ロスターの精神感応により記憶を取り戻したエキドナはずっと自室に篭もっていた。今までの記憶もあり、武蔵にどんな顔を見せれば良いのか、もっと言えば自分が記憶を取り戻した事を知られ、武蔵に敵対されるのが恐ろしかったのだ。

 

「すまない、調子が悪いんだ」

 

『大丈夫ですか? エキドナさん』

 

『ちょっと流石に心配ですわ、一緒に医務室に行きませんか?』

 

「いや、本当に大丈夫なんだ。ありがとう、武蔵、シャイン王女』

 

2人に感謝の言葉を口にし、スピーカーの電源をOFFにし、エキドナはベッドに背中から倒れ込んだ。

 

「……私はどうすれば良い、どうすれば良いんだ」

 

W-16で考えればヴィンデルとレモンの指示に従うのは1番正しいとW-16はそう判断していた。

 

だがエキドナ・イーサツキはその命令に従いたくないと思っていた。このまま武蔵の側にいたいと思っていた。

 

「……なんなんだ、なんなんだ。この胸の痛みは……私も壊れているのか」

 

恐ろしい、怖い、嫌われたくないと言う気持ちを理解出来ないエキドナはその痛みと苦しみを自分が壊れているからかと感じていた。

だがそうではない、レモンが望み、そしてラミアが得ようとしている感情――誰かを愛する気持ちによって芽生えた、芽生えてしまった自我とWー16としての認識の差がエキドナに苦しみと痛みを与えていた。

 

「……W-17……いや、ラミア。お前ならどうする、お前なら私になんと声を掛けてくれる」

 

姉妹とも言えるラミアならば、迷っている自分に答えをくれるのではないかと思うエキドナだが、エキドナが求める答えをラミアは持たない。

 

ラミアが自我を得た切っ掛けは人の善性に触れて、そして理屈ではなく感情で動き、不可能を可能にしてきた者達を見ての物。

 

エキドナが自我を得た切っ掛けもまた武蔵という人の善性に触れての物だが、エキドナは恋慕の感情を抱き、そして自我を得た。

 

自我と一言で言う事は可能だが、余りにもその過程が違う。同じ造られた存在であれど、得た心は全く違うものだ。そしてそれは人であると言う証でもあり、レモンの求めた人にエキドナは限りなく近づいていた。

 

「私は……私はどうすれば良いのですか……レモン様」

 

エキドナは得た心を持て余し、そして再び人形に戻りたいと。与えられた事をし、自分で考える事をしたくない。もしもエキドナもまたラミアと同じ様に、容易に答えを求めず自分で考えなさいという言葉を貰っていればまた違っていただろうが、エキドナは得た心とWシリーズの存在理由の間に揺れ動き、創造主でありレモンに助けを求めたのだが、その助けを求める声がレモンに届く事はない。得た心はエキドナだけの物であり、そしてエキドナがWシリーズではなく1人の人間であると言う証だ。仮にレモンに助けを求めても、レモンはそのエキドナの心を歓迎し、そして護り慈しもうとするだろう。何故ならばレモンが求めてならない人間へと至ったエキドナをレモンが喜ばない訳がないからだ。だがエキドナにとってレモンの悲願は恐ろしい物であり、自分が自分でなくなるような感覚を恐れ、恐怖し、布団に包まり震えているのだった……。

 

一方その頃伊豆基地周辺の街には避難勧告が繰り返し響いていた。恐怖や不安に顔を歪め移動する人々を見つめる青い髪の男……イングラムは冷静に状況を把握しようとしていた。

 

「どうも何か大きな事が起きそうだな。ん、武蔵からか」

 

伊豆基地周辺の市街から避難している民間人を見つめながら、自動販売で買ったサンドイッチを口にしながらイングラムは通信機に届いていたメールに目を通していた。

 

『メタルビースト・SRX出現の可能性あり、援護求む。武蔵』

 

「もう少し具体的に説明しろ、まぁ事態は判ったがな」

 

伊豆基地内部では武蔵も堂々とイングラムに連絡を取る事は出来ないし、何よりも武蔵に御執心のシャイン王女もいれば連絡は不可能に近い。簡潔な文章は隙を見て何とか入力したものだろうと思い、サンドイッチの包み紙をゴミ箱に投げ入れて缶コーヒーを口にするイングラム。

 

「メタルビースト・SRXか……まだ生きていたのか」

 

旧西暦、そして平行世界の未来で戦ったが、まだ生きていると知りイングラムも流石に眉を細めた。そしてそれと同時に自分が感じていた嫌な予感はこれかと納得もしていた。

 

「どうも俺もリュウセイ達に合流する時が近そうだ」

 

メタルビースト・SRXと戦うにはゲッターD2だけでは力不足だ。そしてその上鬼や鬼に操られている上層部、そしてレイカーやダイテツ達を良く思っていない軍人が少しずつだが伊豆基地周辺の基地に集まってきているのを知ればクロガネは救援にはこれない。それにそもそも日本近海で戦っていたクロガネは既に日本を離れているので救援に来れる訳が無い。

 

「……戻るか」

 

ピリピリと空気が張り詰めてきている。最早時間の猶予はない事をイングラムは感じ取り、R-SWORDの元へと戻る為に踵を返すのだった……。

 

「よーし、今度は本番、行こう、ラリアー、デスピニス」

 

「う、うん……が、頑張ります」

 

「判ったよ、行こうティス」

 

ラリアーとデスピニスの了承を得たティスは楽しそうに笑い指を鳴らす。すると虚空に穴が現れ徐々に大きく開いて行き、その中では無数のメタルビースト・エルアインス、ツヴァイ、ドライの姿があった。

 

「お前達のオリジナルが回復するまで時間を稼ぐんだよ、行きなッ!」

 

【【【【キシャアアアアアーッ!!!】】】】

 

ティスの命令に従いメタルビースト達が雄叫びを上げ、伊豆基地を取り囲むように無数のメタルビースト・エルアインス達が空中から次々と出現し、伊豆基地に警報が鳴り響くのだった……。

 

 

第137話 2柱の戦神と漆黒の猟犬 その1へ続く

 





今回はシナリオエンドデモとなります。とりあえず1つ言えるのはタイプMがスーパーロボットに進化しましたが、何か問題でもありますかね?私はないと思います。そもそもラドラが開発に関係した段階でスーパーロボットになる事は不可避なんですよ、だって自分の機体でさえも準特機サイズにしたゲシュペンストですしね。後は色々フラグを準備し、楽園からの追放者の準備をします。ここがOG2編の大きな魅せ場であり、とりあえずの私の目標の所でもありますね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第137話 2柱の戦神と漆黒の猟犬 その1

第137話 2柱の戦神と漆黒の猟犬 その1

 

 

伊豆基地は厳戒態勢が敷かれ、メタルビースト・SRXや、エルアインス達の襲撃に備えていた。険しい顔で食堂の一角に陣取り、時折思い出したように饅頭を口にしている武蔵の纏う雰囲気はピリピリしていて、シャイン王女やユーリアでさえも近づかない、いや近づけない雰囲気を纏っていた。そんな中、ギリアムとイルムの2人が武蔵の腰掛けている席にゼリー飲料を片手に腰掛ける。

 

「武蔵は仕掛けてくるって考えているのか?」

 

「イルムさん、そうすっね。まず十中八九来ると思います。インベーダーのクソは化け物の癖に妙に頭が回るから、キョウスケさん達のダメージを考えればまず攻撃を仕掛けてこない理由が無い」

 

「むしろそれは本能に近いかもしれないな、獣だからこそ勝てる相手は見逃さないという訳か」

 

武蔵の話を聞いてギリアムは知恵というよりも本能だと口にした。獣だからこそ、確実に勝てる相手は確実に仕留める。考えるのではなく魂レベルで刻まれている本能と言われればなるほど、その通りだと武蔵も頷いた。

 

「未来だか平行世界でお前は戦っただろ? メタルビースト・SRXってやつとSRX。どっちが強い」

 

ギリアムとイルムがいるのを見て、作戦会議か何かと思ったのか食堂に入ってきたカチーナが自分のランチプレートを机の上に乗せながら武蔵にそう尋ねる。

 

「うーん……凄い言いにくいですよ、カチーナさん」

 

周りの視線が全部集まっているのを感じ流石の武蔵も言いにくいと引き攣った愛想笑いを浮かべる。

 

「んなこと言ってる場合じゃねえだろ。それなりの作戦や準備っつうのが必要なんだ。正直に、お前が感じたとおりに教えてくれ」

 

中尉という立場であり、指揮や作戦立案にも関わる。それに加えてカチーナも竜馬や隼人には劣るが野生の勘は非常に優れており本能的に襲撃が近いことを感じていたからこそ、武蔵にそう問いかけたのだ。

 

「ぶっちゃけSRXより強いっすね」

 

SRXよりも強い。簡潔なその一言に食堂にざわめきが広がる、SRXは連邦軍強いては地球の作り出したスーパーロボットの中では1、2を争うレベルで優秀な特機だ。そのSRXよりも強いという言葉に驚くなというのが無理な話だった。

 

「武蔵待って、メタルビースト・SRXは量産型SRXを元にした機体の筈、なんでSRXよりも強いの?」

 

SRXよりもメタルビースト・SRXが強いと聞いて黙っていられずラトゥーニが武蔵にそう問いかけた。

 

「何か理由があるのか? 量産型SRXはトロニウムを搭載していないはずだろ?」

 

「なんかインチキ臭いなにかを取り込んでるとかいわねえよな」

 

SRXよりも強いと聞けばピリピリと張り詰めている雰囲気の武蔵に近づけないとか言っている場合ではないと、ブリットやタスクもどういう事だと尋ねてくる。

 

「ブリーフィングルームを使おう。あまり整備兵やスタッフには聞かせたくない」

 

その様子を見てギリアムがDコンでレイカーにブリーフィングルームの使用許可を取り、武蔵達はブリーフィングルームで改めてメタルビースト・SRXについての話し合いを始める事にした。

 

「リュウセイ達は?」

 

「SRXの事で地下で話をしている、終わり次第合流するようには伝えてあるし、念の為にブリーフィングルームの映像も録画してあるから、後で見返してもらえば良いだろう」

 

1番の当事者であるリュウセイ達が居ないが、それならしょうがないと武蔵は話を始めた。

 

「まずだけど1番最初のメタルビースト・SRXなら多分今の伊豆基地の戦力で余裕で勝てたと思う。だけど今のメタルビースト・SRXには勝てるにしても相当な打撃を受ける事になると思う」

 

「1番最初という事は今のメタルビースト・SRXは進化していると言うのか?」

 

「そうなりますね、メタルビースト・クロガネを取り込んで、片っ端からインベーダーを取り込んでオイラの知ってるSRXとは全然違う感じになってますし、再生能力も段違いですよ。キョウスケさん」

 

「待て待て、メタルビーストクロガネだって? 武蔵、ありゃ親父の艦だろうが。未来だと親父は死んでるのか?」

 

喧嘩をしたばかりだが、リューネはリューネなりにビアンを愛している。メタルビースト・クロガネということはそんなビアンが未来で死んでいる可能性が生まれ、どうなんだと問いかける。

 

「ビアンさんは行方不明らしくて、なんか木星に行ったきり……とか何とか……そこら辺はオイラは覚えてないから良く判らん」

 

「……じゃあなんでクロガネがインベーダーに寄生されてるんだよ?」

 

「それはあれだマサキ。馬鹿な上官がめちゃくちゃやったらしくて、スペースノア級は殆どアインストかインベーダーに奪われて、シロガネはシロガネで連邦が運用してたけど、馬鹿な上官のせいでこれまた轟沈したらしい。ちなみに艦長はリーさん達じゃなかったな」

 

今現在建造されている最中のスペースノア級の4~6番が平行世界では運用されていたらしいが、それが人類の切り札ではなく敵の物になっていたと聞いて流石のキョウスケ達も深い溜め息をはいた。

 

「指揮官が大事って良く判るわね」

 

「その通りだな、俺達は運が良かったとおもうべきだな」

 

ダイテツにレフィーナにリーと優秀な人材が指揮官でよかったとキョウスケ達はしみじみとした様子で頷いた。

 

「武蔵様、全然違う姿と仰ってましたが、そんなに違う姿なのですか?」

 

「様って……いや、もう良いや……オイラは絵が下手だけど書いてみるよ、シャインちゃん」

 

様付けを毎回修正していた武蔵だが、それにも疲れたのか武蔵は溜め息を1つ吐いた後、紙に絵を書き始める。

 

「こんな感じ」

 

ブリーフィングルームのモニターに映し出された絵は決して上手くはない、むしろ下手を極めていたがSRXの特徴は捉えていたし、SRXと言われれば、ああ、そうかと思う位には特徴を捉えていた。

 

「翼? それにあれは……爪?」

 

「悪魔って感じだなあ……」

 

L5戦役に参加していないアラドとアイビスが絵の感想を口にする中、L5戦役に参加していたエクセレン達はその姿を見て眉を顰めた。

 

「これってジュデッカだっけ? あれを倒した時に似てない?」

 

「似てると思いますエクセレン少尉」

 

「いや、その物と言っても良いと思うぞ」

 

ゲッター1がゲッター線に包まれた巨大なゲッターロボになり、そしてSRXとアストラナガンが融合したDiSRXがジュデッカを倒した時の姿に瓜二つだった。

 

「それにこいつらはメタルビースト・エルアインス、ツヴァイ、ドライを生み出す能力があって、今はまだ大丈夫だけど……最悪は……完全な形のRシリーズの複製もするだろうし、もっと上も複製できるようになるかもしれないです」

 

「メタルビースト・SRXが増えるという事だな?」

 

エルアインス・ツヴァイ・ドライを複製する能力を持つという事は最終的に自分自身の分身を作り出す可能性がある……カイが武蔵の言葉を遮るようにして言うと武蔵はその通りですと頷いた。

 

「はい、その通りです。カイさん、そんで多分ですけど……メタルビースト・SRXと戦えるのは後2回、悪ければ後1回になるとオイラは思ってます」

 

戦えるのは1回だけという武蔵に困惑する表情を浮かべる者もいたが、エクセレンの救出に向かっていたカチーナ達はすぐにその理由を理解した。

 

「学習しちまうのか。リュウセイと戦った時みたいに」

 

リュウセイとの戦いの中でメタルビースト・エルアインスはリュウセイの念動力を真似し、そしてそれを己の物にしていた。

 

「SRXを出すならそれで勝ちにいくか、それとも合体出来ないまでに叩きのめすか……1回ならいい、でも2回目を取り逃がせば……」

 

「リュウセイに匹敵する能力を持ったメタルビーストとなると言う事か」

 

リュウセイを真似れば模造であれ真作へと至る。SRXは確かに切り札ではあるが切り所を間違えれば、SRXに匹敵する……いや、それを越える脅威になりかねないと聞いてブリーフィングルームに嫌な沈黙が広がり、誰もが口を開こうとし、何を言えば良いのかと悩んでいる中警報とそして複数のインベーダーの叫び声が伊豆基地に響き渡った。

 

「出て来やがった! オイラは先に行きます!」

 

言うが早く弾かれたように走り出す武蔵に続くようにキョウスケ達もブリーフィングルームを飛び出して行くのだった……。

 

 

 

SRX計画の地下ラボでロブからSRXの話を聞いていたリュウセイとライはロブ達が独自に考え、そして推察していたインベーダーの話を聞いていた。

 

「SRXを出して倒しきれなかったらやばいのか……」

 

「だがそれは俺もお前も判っていた筈だ。あの異常な学習速度……時間を掛ければ掛けるほど俺達は不利になる」

 

リュウセイの念動力の扱いを短時間で真似し、己の物とした。

 

ライの射撃技術を取り込み、そしてその上でインベーダーの身体を駆使した射撃を用いて来た。

 

その成長速度、そして獣の本能を組み合わせた荒々しい戦闘スタイルは自己再生をするインベーダーだからこそ出来る戦術だった。

 

「その可能性は極めて高いな。武蔵の話は俺も聞いてその上で俺なりに推察をして見たが、ベースが量産型のSRXだったとしても自己再生、自己進化するインベーダーにとって素体は問題じゃない。大事なのは経験を積む相手だ」

 

武蔵から聞いたインベーダー、そしてメタルビーストについてロブを初めとした伊豆基地のスタッフは独自の推察をし、そしてそれは限りなくインベーダーの特徴を捉えていた。

 

「経験を積む相手ってどういうことだよ。ロブ」

 

「これは推察だぞ? 話を聞く限りでは目が弱点じゃなくて、目が核なんじゃないかと俺は思ってる。その周辺の僅かな肉片はインベーダー1体で、それらが無数に集まって核の損傷を補い、修復するからこそのあの再生能力ではないかって思うんだ。ミトコンドリアとかウーパールーパーとか身体の作りは本当にシンプルで弱点を露出しているから何かに寄生しようとするんじゃないかってな」

 

ロブの考察は武蔵の知らないインベーダーが元々バクテリアだったという所に辿り着いており、インベーダーが寄生するのは弱点を隠すためという独自の考察をしていた。

 

「だけど元は小型の群体生物だ、肉体を得た所でそれを十分に扱えるかというと疑問が残る」

 

「目が見えない者が急に視界を手に入れたら混乱するという事ですか?」

 

「化け物だからそうだとは言えないけど、多分インベーダーに寄生されたばかりなら攻撃方法も単純になるんじゃないかなと俺は思う。んでここからが重要な所だけど、戦って傷ついて、再生して身体を最適化させているんだと思う。だからどんどん攻撃が洗練されていくし、強力にもなってくる。んで元々は固定の姿を持たない生物だからこれが良いと思えば、それを真似して己の物にする習性があるんじゃないかと俺は考えている」

 

「確かにエルアインスは俺と戦っている間に武器を作り変えたりして来てたな」

 

「俺もビルの残骸を取り込んで弾薬を作り出しているのを見たぞ」

 

「だろ? つまりインベーダーの最大の武器はその適応力なんじゃないかって俺は思うんだ。だからSRXをぶつければSRXの能力や戦闘技術を真似する、その中で使えると思えばアルトのリボルビングバンカーとかも真似して作り出すんじゃないかって俺は思っている」

 

自己進化、自己再生を繰り返し最適な身体を作り出す、そして足りない材料は取り込んだもので補いより強い肉体を作り出す。弱い個体を犠牲により強い固体を作り出すそれがインベーダーの習性だとロブはリュウセイ達に告げた。

 

「じゃあパワーアップしたSRXならどうなる?」

 

「多分最初はリュウセイ達が優勢だろう。だけど相手が学習してくれば……」

 

「徐々に互角、そして最終的には劣勢になると……」

 

「だから何度も戦うのは危険だ。出来る限り速攻で、それで再生出来ないくらいに吹っ飛ばす必要があると思う」

 

武蔵の話をロブは聞いていなかったが、それでも武蔵と同じ事をリュウセイとライに語るロブ。

 

「再生出来ないほどの火力か……Z・Oソード「天上天下無敵剣だッ!」……名前はどうでも良いが、それでも火力が足りるとは思えないのですがオオミヤ博士」

 

Z・Oソード……いや、天上天下無敵剣は切れ味も念動力による爆発も加味すればかなりの破壊力を持つが、メタルビースト・SRXを相手にすると火力不足になるのではないか? とライが口にすると地下ラボの扉が開きアヤが姿を見せる。

 

「それを何とかする為にSRX計画のラボでブリーフィングをしてるのよ、ライ、リュウセイ」

 

伊豆基地に来てから久しぶりに見るアヤの姿にリュウセイとライも笑みを浮かべる。

 

「アヤ、今まで何してたんだよ。こっちに来てから全然見ないしよ」

 

「まぁ色々やる事があったのよ、アルガードナーとMK-Ⅲ・タイプTTの調整とか、R-GUNパワードの調整とかね」

 

「ではHTBキャノンを「天上天下一撃必殺砲だ。HTBキャノンなんてダサい名前なんかより、こっちの方が全然良いぜ」アヤはどう思う?」

 

「え、あ……うん、良いんじゃないかしら? ライはどう思う?」

 

弾ける笑顔のリュウセイにアヤは曖昧な返事を返しつつ、ライにキラーパスを繋げる。

 

「もう少し何かなかったのか?」

 

「じゃあ、お前なら何て名付けるんだよ?」

 

真顔でリュウセイにそう尋ねられたライは黙り込み、考える素振りを見せながらそのまま沈黙する。

 

1分……2分と過ぎ、リュウセイが気まずそうに口を開いた。

 

「悪かった、聞いた俺が悪かったよ。それで今回のミーティングは何をするんだ?」

 

サブカルチャーに興味が無いライがリュウセイが気に入りそうな名前を思いつくはずもなく、黙り込んだのを見てリュウセイはライに悪かったと言いながら話を変えに入る。

 

「今回のミーティングだけど……」

 

アヤがミーティングの内容を説明しようとした時……SRX計画の地下ラボに緊急警報が鳴り響いた。

 

「な、何だ!?」

 

「敵襲警報だとッ!? しかしこのグレードは……ッ!」

 

突然の警報に驚くリュウセイと警報のグレードを聞いて顔色を変えるライ。

 

『緊急事態発生!  伊豆基地内にメタルビースト、インベーダーが多数出現したッ! 総員第一種戦闘配置! 各機は直ちに出撃せよッ!!』

 

武蔵は近いうちに必ずインベーダーは攻撃を仕掛けてくると断言していた。だが余りにも早過ぎる襲撃にリュウセイ達は驚きを隠せなかった。

 

「奴らが直接攻撃を仕掛けてきたのかッ! 対策も何も準備出来ていないと言うのにッ」

 

「そんなことを言ってる場合じゃねえ! 俺達も行こうぜ!!」

 

メタルビースト・SRXの対策も何も出来てないと嘆くライにリュウセイが声を掛け、座っていた椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がる。

 

「あ、でも……! ブリーフィングが……わ、私はリュウとライに言わないといけないことが……」

 

「なに言ってんだ!  今はそんなことをしてる場合じゃないだろ!? それにお前がいなきゃSRXに合体出来ねえだろうがッ! 武蔵だけに負担を掛ける訳にもいかねえ! 俺達もすぐに出撃するんだッ!」

 

今やるべき事は考える事でも、嘆く事でもない仲間を助ける為に戦うんだと言うリュウセイにライとアヤも頷き、リュウセイ達は地下ラボを飛び出し、整備を受けているRシリーズの元へと走るのだった……。

 

 

 

 

ドッグに停泊していたハガネ、シロガネ、ヒリュウ改が浮上し伊豆基地の上空に陣取る。だがそのブリッジで戦況を見ていたダイテツ達は目の前の光景に目を見開く事となった。

 

【【【【キシャアアアーッ!!!】】】】

 

【【【【シャアアアーッ!!!】】】】

 

飛行形態になったインベーダーとトカゲのような姿をしたインベーダーが雄叫びを上げ、その後では数10体ずつのメタルビースト・エルアインス、エルツヴァイ、エルドライの3機が3機1組で並んでいたからだ。

 

「馬鹿な……これだけのインベーダーが一体どこからッ!?」

 

インベーダーは今まで少数しか確認されていなかったが大隊にも匹敵するその数にテツヤが驚きの声を上げる。

 

『チェンジッ!! ドォォオオオラゴォォオオオンッ!!!!』

 

ハガネから出撃したゲットマシンから武蔵の雄叫びが響き、地響きを立てて伊豆基地の滑走路に着地し、それに続くようにメタルビースト、インベーダーと戦えると判断されたアルトアイゼン・ギーガ、ゲシュペンスト・リバイブ、シグ、轟破鉄甲鬼、グルンガスト、ジガンスクード・ドゥロ、龍虎王、ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM・タイラント、そしてRシリーズが次々と出撃する。だが出撃し、展開完了した部隊を見ればハガネの保有戦力の半分ほどだった。

 

『作戦通りだ。並みのPTやAMではインベーダーに対して十分な打点を取れん。今回の作戦は可能な限りのワンアプローチでの撃破が要求される、各員タイミングを見誤るなよ』

 

ゲシュペンスト・リバイブ(K)のカイからの指示にパイロット達はそれぞれの機体のコックピットの中で頷いた。インベーダーの進化の速度を考えれば時間を掛けて戦う事は許されず一撃必殺が要求される。

 

『リオ、熱のほうは大丈夫?』

 

『ええ、大丈夫よ。リョウト君、この新しいパイロットスーツのお蔭ね』

 

グルンガストクラスにまでサイズアップしているヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM・タイラントの容姿はかなり異形ともいえた。

 

胸部の恐竜を模したアーマー、背部に変形したAMガンナーを装着し浮遊している。それに加えて手足には凶悪な打撃用のスパイクが装着され、パッと見PTとは見えない仕上がりだ。

 

『ラドラ、やりすぎたのではないか?』

 

『火力が必要だと言うのでそれに応えただけだ。文句を言われる筋合いはない』

 

『俺はそう悪くないと思うぞ、PTが特機サイズになるまで改造出来るのなら火力不足に悩む事も無い』

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM・タイラントは意見が分かれる仕上がりになっているが、超常の相手と戦う前提ならばこれほど頼もしい友軍機はないだろう。

 

『機体に慣れていないんだ、馴れるまでは慣らし運転にしておけよ、リョウト、リオ。カタログスペックで言えばグルンガストより上だ、

慣らし運転でも十分な攻撃力はあるだろうよ』

 

『マ改造じゃなくてまともな魔改造であんな風になっちまうんだなあ……』

 

安定性を維持しつつ、十分な火力を得る。ラドラはパイロットしても優秀だが、技術者としても優秀だった。

 

『あれが許されるなら俺もPTに装着用の何かを作っても良いな』

 

『なぁ、ライ、アヤ』

 

『駄目よ』

 

『駄目だ』

 

『まだ何も言ってねえ……』

 

『お前の事だ、R-1にというのだろう。気持ちは判るが止めておけ』

 

『そういう事、今は目の前に集中しなさい』

 

スーパーロボット好きなリュウセイにとってヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM・タイラントはかなり格好良く見え、コウキがそれに似たものを造れると聞いて興奮するのはわかるが駄目だとライとアヤが即座にNOを出す。

 

『無駄話はそれくらいにしておけ、不安なのは判るがな』

 

ゲッターD2を警戒し唸り声を上げていたインベーダーが徐々に攻撃態勢に入っている。

 

『どうもゲッターD2のゲッター線には馴れてきたみたいですね。出撃までの時間稼ぎが出来ただけ御の字だと思いますけど』

 

ゲッターD2の高密度のゲッター線でメタルビーストではないインベーダーの足止めは出来ていたが、消滅する、再生するを繰り返した今のインベーダーはゲッターD2が常時展開しているゲッター線に適応している。戦闘に入れば別だが、これ以上の足止めは無理だろうと武蔵は告げる。

 

「いや、これだけ時間を稼いでくれれば十分だ。支援部隊、随時出撃開始ッ!」

 

『倒せると思い前に出るな、支援に徹しろ』

 

リーとダイテツの指示が飛ぶ中、伊豆基地の司令部の前に展開されるゲシュペンスト・MKーⅢや、アステリオン、それに加えアンジュルグやサイバスターでさえも本来は装備していないライフルを装備している。

 

「相手はインベーダーだ、ゲッター合金に内包されているゲッター線だけでも致命傷に成る可能性が高い。それによる支援でトドメをさせる状況を作り出せ」

 

直接戦えないのならば支援に徹する。ビアンから提供されたゲッター合金で多数のゲッター合金弾頭のカートリッジが随時整備班によって運び込まれ、カチーナ達はそれを次々と装填しライフルの照準を合わせる。

 

『まずは雑魚をぶっ潰すッ!! ゲッタァアアビィィイイイムゥッ!!!!』

 

ゲッターD2の頭部から放たれたゲッタービームの一閃で地上にいたインベーダーと飛行型に変形したインベーダーが一掃される。それが新西暦でのインベーダーと人類との短くとも辛く険しい戦いの幕開けとなるのだった……。

 

 

 

 

 

伊豆基地での戦いを見つめる陣営は複数存在していた。ゲッターロボとゲッター線によって人類とは別の形に進化したインベーダー。

選ばれた者とそうではない者の争いという側面もあれば、インベーダーが存在すれば地球圏その物がインベーダーの巣窟になりかねないと言うことで警戒する者もいる。

 

1つはメタルビースト・SRXを使役するデスピニス・ティス・ラリアーの3人組。

 

1つはウェンドロ達インスペクター。ゾヴォークでもインベーダーは脅威とされているため、大量出現に警戒するのは当然だ。

 

1つはアルテウルだ。インベーダーが台頭するのは避けたい事態だが、ある程度の数は増えて貰ったほうが都合がいい。

 

1つは孫光龍達バラルだ。ゲッターもインベーダーも良く知るバラルは戦況次第では恩を売りに姿を現すことも考えていた。

 

「うーん、何故私達の言う事を聞かないんだろうねえ?」

 

「そ、そうだね、なんで僕達の言う事を聞かないんだろうね」

 

そして最後はコーウェンとスティンガーの2人組だ。地球をインベーダーの楽園とする事を企んでいる2人にとって強力なインベーダーであるメタルビースト・SRXは喉から手が出る程に欲しい戦力だ、だが自分たちの命令を聞き入れない事に2人は納得行かないと言う表情を浮かべていたが、それも少しの間の事だった。

 

「まぁ良いさ、どうも増えているインベーダーは私達の指示をある程度は聞いているみたいだしね」

 

「う、奪うチャンスもあると言うことだね。コーウェン君」

 

「その通りさ、スティンガー君。同胞を操れる等と驕っている者達にはそれ相応の裁きを受けて貰わないとね」

 

今はまだメタルビースト・SRXは出現していないが、コーウェンとスティンガーには別格の力を持つメタルビーストが存在する事が判っていた。どんな手段で支配しているのかは皆目見当も付かないが、ダメージを受ければその本能が高まり支配に抵抗するようになる、そうなればコーウェンとスティンガーが割り込む余地もある。

 

「ゆっくりと見物しようじゃないか、武蔵がどれほど強くなったのかをね。まぁあの乱暴者や神隼人ほど警戒する事も無いだろうけどね」

 

「そ、そうだね。どうせ武蔵には十分にゲッターロボを扱う力なんて無いんだ。真ドラゴンの中の事はまぐれなのさ」

 

真ドラゴンの内部での戦いはまぐれだったとスティンガーは笑い、コーウェンもその通りだと同意する。

 

「これからさ、鬼もアルテウルも何もかもを利用して今度こそ地球を我々の楽園にするのだ。楽しみだろう? スティンガーくぅん?」

 

「う、うん、勿論さコーウェンくぅん。武蔵1人で僕達を止めることなんて出来はしない、真ドラゴンも、真ゲッターもいない。最早我々を止める手段など存在しないのさ」

 

驕り、見下しコーウェンとスティンガーは笑う。インベーダーであるコーウェンとスティンガーは人間の意志の力も何かも理解出来ない、ただあるのは増えて進化し、より優れた生命体へと至る事。人間と同じくゲッター線によって進化したインベーダーと人類。限りなく近く、そして果てしなく遠い存在であるからこそ、コーウェンとスティンガーは何故己が敗れたのかを理解していない、それを理解しなければ再び敗れるのは自分達だと言うことをコーウェン達は理解しておらず、どこまでも傲慢でどこまでも慢心し、そしてどこまでも人類を見下し、自分達こそが選ばれた存在であり、地球の支配者だと思っている2人は気づかない。

 

【愚かなり】

 

【お前達は優れてなどいないと何故判らぬ】

 

【見るに耐えないね】

 

【精々武蔵の力を高める為に愚かな夢を見るがいい】

 

武蔵を見定める為に地球の近くに潜んでいるゲッターエンペラーにお前達こそが存在するに値しない、愚かな存在だと、武蔵に対する当て馬程度に思われている事を知らずにコーウェンとスティンガーは叶わぬ夢を見て笑い続けるのだった……。

 

 

第138話 2柱の戦神と漆黒の猟犬 その2へ続く

 

 




今回は戦闘開始デモとなりましたので次回から戦闘描写をバリバリ書いて行こうと思います。とりあえずメタルビーストSRXとSRXとゲッターD2のチームバトルくらいは書きたいなと思っておりますが、次回はとりあえず雑魚インベーダー戦に重点を置いてみようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第138話 2柱の戦神と漆黒の猟犬 その2

第138話 2柱の戦神と漆黒の猟犬 その2

 

伊豆基地内に響き渡る不気味な唸り声と蟲が蠢くような嫌な音が断続的に響き続ける。獣の呼吸はそれを聞く者に精神的な負荷を与え、そして蟲の蠢く音は生理的嫌悪感を呼び起こす。

 

「これがインベーダーか、なるほど化け物だな」

 

鬼であったコウキから見てもインベーダーは化け物と断言出来る醜悪さを持っていた。確かに鬼も化け物と言う一区切りで見れば同類だが、根本的に考えが違う。鬼は支配することを目的にしているが、インベーダーは全てを滅ぼそうとしている。人類に害を成すと言う意味では大差は無いが、存在自体が余りにも異なっていた。

 

【キシャアアアアアーッ!!】

 

「ふんッ!!!」

 

飛びかかって来たインベーダーに斧による横薙ぎの一閃を叩き込む轟破鉄甲鬼だが、インベーダーが両断されたのは一瞬で瞬きの間に修復し、その鋭い牙と爪を轟破鉄甲鬼に突き立てようとする。

 

「遅い。遅すぎるな」

 

インベーダーの頭部を掴み地面に叩きつけると同時に足を振り上げその頭蓋を踏み砕く鉄甲鬼。その手足には翡翠の、ゲッター線の輝きが灯っていた。

 

「なるほどフルパワーでなければこういう使い方も出来るか……ふ、悪くはないな」

 

鉄甲鬼に搭載しているゲッター炉心は決して質の良いものではない。だがある程度の効果を見込めればそれで良い攻撃にゲッター線を乗せることが出来ればインベーダーに有効打撃になるのならば出力を絞り込み、全身に僅かでもゲッター線を纏い続ければ良い。

 

【シャアッ!!!】

 

【キシャアアアーーッ!!】

 

『コウキッ! そっちに行ったぜッ!!』

 

ゲッターD2よりも剛破鉄甲鬼を相手にした方が楽だと感じたのか、何体かのインベーダーがゲッターD2の脇を抜けて鉄甲鬼に迫る。

 

「俺も甘く見られたものだな。この化け物風情がッ!!!」

 

両腕のアタッチメントが変形し複数の銃口を露わにしゲッター合金製の弾を凄まじい勢いで撃ち出しインベーダーを蜂の巣にすると、振りかぶった斧がインベーダーを両断し、溶けるようにインベーダーは消滅する。

 

『目障りだ、くたばれ』

 

【ギ、ギャアアアアアアアーッ!?】

 

高速回転するエネルギークローをインベーダーに突き刺し、目玉ごと肉を抉るゲシュペンスト・シグは相変わらずの残虐な戦い方だが、逆を言えば手加減をした新西暦向けの戦いでは勝てないという事をラドラもコウキも判っているからこそ、恐竜帝国、そして百鬼帝国特有の戦い方をしていると言える。

 

『うおらあッ!!!』

 

ゲッターD2がダブルトマホークを振るうたびにインベーダーが纏めて消し飛び、ゲッター線を求めてインベーダーがゲッターD2に飛びかかり再び消滅させられるというサイクルが出来上がっているが徐々にゲッターD2の一撃を受けても消滅しないインベーダーが出現し始めていた。

 

『想像以上に早いな、だが劣勢に追い込まれていないだけまだましか』

 

【ギャアッ!?】

 

ゲシュペンスト・リバイブ(S)の放ったゲッター合金ライフルによって飛行しているインベーダーが翼を失い降下する。

 

『だがこれはまだ前哨戦だ、ここで梃子摺っていては話にならん』

 

墜落してきたインベーダーにメガ・プラズマステークが突き刺さり、電圧でインベーダーの身体がボロボロに焼け焦げて消滅する。だがカイの言うとおりこれはまだ前哨戦、本番すら始まっていない。

 

『あいつら、不気味だな』

 

『確かにな。だけどよ、リュウセイ達が持ち帰ってきた戦闘データを見れば、この距離でも安全圏じゃねえ。無理に突破するのはリスクがありすぎる。俺達に出来るのは警戒するくらいだ』

 

海の近くに陣取っている30機のエルアインス、ツヴァイ、ドライは3機ワンセットで10小隊存在している。R-2、R-3と同等の能力を持つツヴァイとドライならばあの距離でも攻撃を仕掛けてくる。だがそれをせずに沈黙している事にキョウスケは不気味さを感じ、イルムはインベーダーの特性を持つがゆえに、距離など関係なく襲ってくると考え警戒心を緩める事が出来ずにいた。

 

『とにかく今は雑魚を潰すぜ。キョウスケ、間違ってもクレイモアをぶっぱなすなよ』

 

『判っています。せめて海にまで誘い込まない事には伊豆基地への被害が大きすぎる』

 

『……そういうことじゃ、いや、まぁ良い! とにかく数を減らすぞッ!!』

 

司令部に陣取っているヴァイスリッター改達からの支援は間違いなくその効果を発揮し、ゲッター合金製のライフルを打ち込まれ身体の結合が緩んでいるインベーダーをキョウスケ達は可能な限り一撃で倒し続ける。進化を、適応をさせないための戦術だがフル稼働を続けている動力によってエネルギーの消耗は普段以上に早く戦い始めて数分だが、関節部の焼き付きが少しずつ始まり、コックピットに響く異音にキョウスケ達は少しずつ焦りを抱き始めているのだった……。

 

 

 

 

 

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM・タイラントと龍虎王は海中から進撃してくるインベーダーを2機で食い止めていた。だがそれは押し付けたわけではない、この2機でなければ海中のインベーダーには対応出来なかったのだ。

 

『雷神よ、来たりて我の敵を討て! 救急如律令ッ!!!』

 

【グギャアアアアアッ!?】

 

【ギャアアアーーッ!?】

 

【シャアアアアアーーッ!?!?】

 

龍虎王の放った雷撃が海面に突き刺さり、海中を進んでいたインベーダーを貫き消滅させる。だが消滅させた倍以上のインベーダーが海中からその顔を見せるのを見て思わずクスハも悲鳴を上げた。

 

『数が多すぎるッ!?』

 

『知恵があるって言うのはこういうことだったのかッ! 何て厄介なんだッ!』

 

1体1体は陸上にいるインベーダーよりも遥かに小型で耐久力も低いが、その数が余りにも多すぎた。ゲッターD2のゲッター線の影響を伊豆基地の海も受けており何かに寄生するという行動はしていないが、数を増やし続けている小型インベーダーは倒しても倒してもきりがなかった。近くに極上の餌が存在しているから海中の生物を喰らってはいないが、勝てないと判断し海中生物を融合した個体が出現する可能性を考えれば、広域攻撃が可能な龍虎王とヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM・タイラントが海中のインベーダーに当たる必要があった。サイバスターやヴァルシオーネのサイフラッシュやサイコブラスターは海中では十分な効果が出ないと言うのも大きく響いていた。

 

『リョウト君、出力調整完了!いつでもOKよ!』

 

「判った!いっけええええッ!!!」

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM・タイラントの突き出した両腕から炎が放たれ、海中から顔を出したインベーダーを飲み込み焼き尽くす。

 

「やっぱり単体の時よりも火力が上がってるね」

 

『それは当然だけど冷却時間に気をつけて、次に使えるのは380秒後になるわ』

 

短時間の放射だがその熱量は凄まじく耐熱装備が充実しているヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM・タイラントであったとしても連打出来ない。リオの言葉を聞きながらリョウトはヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM・タイラントを海面に向かせる。

 

(相手は獣だけど馬鹿じゃない……多分)

 

少なくとも100匹近いインベーダーは焼き払った。このままやっていては突破出来ないとなればインベーダーは突破する為に戦術を変えてくるはずだとリョウトは勿論、クスハとブリットも考えていた。

 

【【キシャアアアアアーッ!!!】】

 

そしてそれは的中し、凄まじい雄叫びと共に巨大化した2体のインベーダーが海面を割って姿を見せる。

 

『来たな……クスハ! 俺に代わってくれッ!』

 

『う、うん! ブリット君、お願いッ!』

 

龍虎王が虎龍王へと姿を変え、地面を蹴って巨大インベーダーに向かって駆け出す。

 

『リョウト! 俺が右! お前が左側だッ!』

 

「判った! こっちは任せて! リオッ!」

 

『判ってる! 行きましょうリョウト君!』

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM・タイラントは海面を滑る様に飛行し巨大インベーダーへと突き進む。

 

【シャアアッ!!!】

 

それを見た巨大インベーダーは触手を伸ばしヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM・タイラントを捕らえようとする。

 

「無駄だよ。それは僕達には届かないッ!」

 

マグマ原子炉の熱、そして特殊な塗装によって熱源を持ったおぼろげな残像を作り出す能力を持っていたヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM。それにタイラントアーマーとAMガンナーが合体する事でその残像を作り出す能力はより昇華されていた。陽炎のような分身から実体を持った分身へと変わったその熱源に巨大インベーダーは欺かれ、触手は残像を貫く。本体にも伸びてくるが、その攻撃に当たるほどリョウトは未熟ではなく、その触手をかわし巨大インベーダーの懐へと飛び込んだ。

 

「念動集中! ガイストナックルッ!!!」

 

紅い念動力を纏ったヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM・タイラントの拳が巨大インベーダーを殴りつける。本来ならばゲッター線を使わない打撃はインベーダーにとっては脅威ではない、その打撃を基点に取り込もうとしたインベーダーは次の瞬間苦悶の雄叫びを上げた。

 

【ギギャアアアアアアアーッ!?!?】

 

強烈な熱によって肉体が溶かされる、その想像を絶する痛みはインベーダーにとって予想外の痛みだった。

 

『ブレードキック展開OK! やっちゃえリョウト君ッ!!』

 

「うんッ!! せいっ!!!」

 

紅い刃を宿したブレードキックによる回し蹴りがインベーダーの身体に真一文字の傷を刻み付ける。念動力の刃、そして熱はインベーダーにとっても十分なダメージを与えていた。

 

【シャアアアアアーッ!?!?】

 

これ以上ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM・タイラントを近づけてはいけない、本能でそれを悟り逃げようとするインベーダーだが、そうはさせないとヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM・タイラントはその触手を掴んで無理やり引き寄せる。

 

「お前は逃がさない、ここでお前を倒すッ! リオッ!!」

 

『マグマ原子炉リミッター解除! 装甲展開完了ッ! いつでも行けるわよッ!!!』

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM・タイラントの肩、脚部、背部の装甲が展開されマグマ原子炉の熱をオーラのように放出し、紅と金の装甲がその熱によって紅く光り輝きフェイスガードが展開される。

 

「これで極めるッ!!! いっけえええッ!!!」

 

残像を残すガイストナックルの左右の連打はインベーダーのゴムのような肉体を貫き、その熱で目玉を焼き消滅させる。

 

【キシャアアアッ!?】

 

「おおおッ!!!」

 

突如飛び出してきたインベーダーの顔にヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM・タイラントの右ストレートが叩き込まれインベーダーの頭部は焼かれがら消滅し、胴体にその拳がめり込み一際凄まじい轟音とインベーダーの苦悶の叫び声が周囲に響き渡った。

 

「これでトドメだッ!!!」

 

燃え盛るヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM・タイラントの膝蹴りは質量で上回るインベーダーを跳ね上げ、そこに勢いをつけたヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM・タイラントの左回し蹴りが炸裂し、更にその巨体を上空へと蹴り上げる。

 

『うぉりゃああああ――ッ!!!』

 

【キシャアアアアアーッ!?】

 

虎龍王の武器を自在に切り替えての連撃もまたインベーダーを打ち据え、その肉体を抉り取り深いダメージを刻み付けていく。

 

『タイラント……オーバー……ブレイクウウウウウッ!!!!』

 

「いっけえええええええッ!!!!」

 

虎龍王に打ち据えられた巨大インベーダーがドリルで貫かれ、ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM・タイラントの手にしたレーヴァティンに頭から両断された巨大インベーダーが消滅し、伊豆基地を襲っていたインベーダーは打ち止めとなったが、戦いはまだ終わりではない。

 

【……】

 

【……】

 

【……】

 

スリーマンセルを組んでいるメタルビースト・エルアインス、ツヴァイ、ドライが同時に動き出すが、今までのインベーダーと異なり沈黙を保っている事がより不気味さを煽り、これからが戦いの本番だと誰もが悟るのだった……。

 

 

 

 

 

重々しい音を立ててゲッター合金ライフルの空薬莢が排出され、整備兵が運んできている弾頭をライフルに装填し再びトリガーを引く、絶え間なく凄まじい轟音が響いているが、先ほどのインベーダーと異なりメタルビーストを相手にしているからか、その効果は先ほどまでの劇的な効力を発揮していなかった。

 

「厄介ねえ……上手く防御してくれるわ。さっきまでは命中してたのにね」

 

ピンポイント射撃に秀でているエクセレンでさえも思わずぼやいてしまった。30機いたメタルビーストRシリーズは既にその数を10機にまで減らしているが、残りの10機の存在がかなり厄介だった。最初の個体と異なり、司令部からの狙撃に徐々にだが適応し始め、キョウスケ達が思うように攻め込めなくなって来ていた。

 

『くそ、俺はこういうのは苦手なんだ』

 

『ぼやいている場合じゃないよ、マサキ!』

 

サイバスターで無理やり狙撃しているマサキが苛立った様子で叫びながらも、弾丸を装填し引き金を引く。その隣ではヴァルシオーネがうつ伏せになりスナイパーライフルの照準を合わせ引き金を引いていた。

 

【……】

 

【……】

 

装甲に皹が入り、確実にメタルビースト・エルアインス達にダメージは通っている。それでもだ、それでも決め手には遠く及ばない。それ以上にインベーダーの成長が早い、どうしてもその攻勢を完全に食い止めることが出来ない。しかしそれでも劣勢に追い込まれないのはシャインの力が大きかった。インベーダーの獣その物の動きを予知し、ラトゥーニやラッセル達に指示を飛ばし致命傷には遠く及ばないが、それでも戦う為の、もっと言えばインベーダーに寄生させない為の立ち回りが出来ていた。

 

『ラトゥーニ、もう少し左、いえ、上ですわね。斜め上に……そう、そこですわ』

 

『了解です、シャイン王女。ターゲットロック……ファイヤッ!』

 

シャイン王女がインベーダーに寄生されるのは必ず避けねばならない事態なので、ラトゥーニは今回はフェアリオンではなく、ビルドラプター改で出撃していた。シャインは司令部で予知を駆使しメタルビーストの動きを予測し、それに基づいてエクセレン達はキョウスケ達の援護を続けていたが、徐々にそれも通用しなくなってきている。

 

『効果は出ているのに効いてる気がしない』

 

『そうですわね、それにかなり学習されてしまっているようです』

 

MAPWを持つメタルビースト・エルドライは残り1機となっているが逃げ回り、思うように狙撃も出来ず。

 

【!】

 

【!!!】

 

『Eーフィールド展開ッ!』

 

『防げッ!!』

 

3機残っているエル・ツヴァイはビームコートの複合で護りを固め、残骸を盾にし援護に徹している。

 

『速いッ! それに攻撃が読みきれん!』

 

『くそッ! ちょこまかとッ!!』

 

6機のメタルビースト・エルアインスはチェーンソートンファーを駆使し、メタルビースト・特有の低い姿勢からの恐ろしい瞬発力で切り込み、チェーンソートンファーで装甲を傷つけ、即時離脱。そこにエル・ツヴァイの攻撃が襲ってくるので重装甲のグルンガストやジガンスクード・ドゥロでも堪った物ではない。

 

『そこだッ!』

 

『何時までも好き勝手出来ると思うなよッ!』

 

アルトアイゼン・ギーガがメタルビースト・エルアインスが着地しようとした瞬間に突撃しコックピット部から両断し、それに続くようにゲシュペンスト・リバイブ(S)の狙撃がメタルビースト・エルツヴァイの頭部を撃ち抜き沈黙させる。

 

「おかしい、おかしいぜ、ライ」

 

『ああ。俺もそう思う』

 

『倒せているのに何かおかしな所でもある?』

 

アヤはリュウセイとライの会話の意味が判らず、どういうことなのかと問いかける。

 

「弱い、弱すぎるんだ。俺とライが戦ったメタルビーストよりも全然弱いんだ」

 

『これほどまでに簡単に倒せる相手ではないのです。それに念動力も使ってきていないのです大尉』

 

市街地で戦ったメタルビースト・エルアインスとツヴァイはこんな単純な攻撃はしてこなかった。手足を伸ばし、間合いやリーチを自在に変えてありえない角度からの強襲を主にしていた。それが無いという事にリュウセイとライは違和感を抱いていた。

 

『各員に告げる! 今戦っているメタルビーストは複製の可能性が高いッ!! これ以上学習させない為に速攻で決めろッ!!』

 

リュウセイとライが感じていた違和感をキョウスケ達も感じており、これ以上学習させるなと指示を飛ばしたがそれはほんの少しだけ遅かった。

 

【キッシャアアアアアーッ!!!】

 

海中が爆発したかのような轟音を響かせメタルビースト・エルアインスが姿を現し、その後ろから多数の複眼のついたミサイルの弾雨が続くように放たれ、敵味方など関係ないと言わんばかりの弾雨はリュウセイ達は勿論、僅かに残っているメタルビースト・エルアインス達も飲み込み、伊豆基地に凄まじい爆発の嵐を巻き起こすのだった……。

 

 

 

 

 

リュウセイ達の戦っていたメタルビースト・エルアインス、ツヴァイ、ドライの3機はオリジナルのメタルビースト・エルアインス達の作り出したデッドコピーだった。リュウセイ達と戦わせ、戦闘経験を積んだそれらはオリジナルへとその戦闘経験を転送し十分に戦闘経験を積んだと判断したティスの指示で伊豆基地の海に潜んでいたのが姿を現したのだった。

 

「さてさて、これで十分に戦えると思うけどどうなるかな?」

 

「そ、そうですね……大分捨て駒を使いましたけど、数の不利は十分に引っくり返せるんじゃないでしょうか?」

 

「問題は合体させるタイミングですね。ティス、タイミングを間違えないでよ」

 

「判ってるって、あんまり強くなりすぎてもまた支配が効かなくなるしね。でも弱いままじゃ意味がないし」

 

メタルビースト・SRXはインベーダーの中でもかなり進化した個体と言える。極めて近く、限りなく遠い世界での話になるが、最も進化した個体であり、人語を理解こそしていないがその能力はコーウェンとスティンガーに匹敵するレベルにまで上がっている。

 

「少なくともオリジナルのSRXとは戦わせておきたいね、無人機出しておこうか?」

 

「うん、それも良いかもしれない。このままだとゲッターロボに合体するまえに倒される可能性もあるし」

 

「あ、安全第一だと思います」

 

メタルビースト・エルアインス達はかなりの戦力強化となっているが、それでもバラバラの状態ではゲッターロボに勝てるかと言われると不安が残る。

 

「囲まれて合体出来なくされても困るし、かといってダメージを受けすぎて暴走されても困るから適当な所で引き上げないといけないよね」

 

デュミナスがコントロールしているのでティス達の言う事を聞いているが、ダメージを受けすぎてインベーダーの本能が強くなりすぎても困る。しかしそれでは完全ではないメタルビースト・SRXとなり、デュミナスが態々回収に向かった意味が無く、もっと完全に近づけなければならないが、それはインベーダーの活性化に繋がり支配が難しくなる。強くしなければならないが、強くさせすぎてもならないのだ。

 

「コントロール出来る範囲で強くなって貰ってまた支配しなおさないといけないからね。援軍が来る前に合体させようか? 無人機も数が限られてるし」

 

暗躍している間に回収した百鬼獣やレストジェミラと言ったインスペクターや百鬼帝国の戦力はさほど数があるわけではない。正直戦力として数えるのも難しいが、合体までの時間稼ぎに使うと思えば十分な戦力と考える事が出来る。

 

「わ、私はもう少し後の方が良いと思いますけど……」

 

デスピニスはまだ様子を見ようと後ろ向きな意見を口にする。それは制御が出来なくなることを恐れての事だったが、ラリアーは違っていた。

 

「暴走しすぎる前にオリジナルとゲッターロボと戦わせて帰りましょう。このままだと先に暴走する可能性もあるし」

 

ダメージを受けて暴走する可能性があるのならばゲッターの攻撃を受ければその瞬間にアウトだ。ラリアーは早めに合体させ速いタイミングで撤退しようと意見を口にする。

 

「OK。あたいは合体させるべきだと思うから2ー1で決まりね。ラリアーとデスピニスは無人機のコントロールをよろしく♪ さぁ、あんたの全力をあたい達に見せるんだよインベーダーッ!」

 

ティスの指示を聞いたメタルビースト・エルアインス達は一箇所に集まり、Rシリーズとは異なり、触手を伸ばし互いの身体を貫き、体液を流しながら醜悪な合体のフォーメーションに入る。

 

『いかんッ! 合体させるなッ! 撃墜しろッ!!』

 

『判って……なっ!?』

 

虚空から現れたメカザウルスや百鬼獣、そしてレストジェミラの軍団がキョウスケ達の前に立ち塞がる。

 

『メカザウルスッ!?』

 

『それに百鬼獣ッ!? どうなってやがるんだこれはッ!?』

 

インベーダーに何故メカザウルスと百鬼獣、そしてインスペクターが協力しているのか。そのあり得ない光景に合体の妨害をしようとしたその足が止まった、止まってしまった……。

 

『くそが、させるかよぉッ!!!』

 

フォーメーションを組み合体しようとしているのを見てゲッターD2がダブルトマホークを投げ付ける。

 

『合体を阻止しろ! 主砲てえッ!!』

 

『なんとしてもそれだけは阻止するんだッ!』

 

それだけではない、ハガネやシロガネの主砲に加え司令部のヴァイスリッター改からの射撃も加わる。だがそれはメタルビースト・エルアインス達には届かない。

 

【【【……】】】

 

『な、なんなんだこいつら、生気がまるでねえッ!?』

 

『人形みたいだ、くそッ! 邪魔するなッ!!!』

 

デスピニスとラリアーがコントロールしている百鬼獣とメカザウルスが文字通り肉の壁となりその射撃を受け止め撃墜される。

 

『ダイテツ中佐! OOCのプロテクトの解除をッ!』

 

合体を阻止する事ができないと判断したライは自分達もSRXに合体する為にOOCのプロテクトの解除をダイテツに求める。

 

『アヤ大尉! コードOOCのプロテクトは解除した! SRXへの合体を許可するッ!』

 

『了解! リュウ! ライ、行くわよッ!』

 

『おう!』

 

『了解ッ!!』

 

Rシリーズがフォーメーションを組んで合体態勢に入るが、先に合体姿勢に入っていたメタルビースト・エルアインス達がメタルビースト・SRXへの合体を果たした。

 

【キシャアアアアアーッ!!】

 

勝ち誇ったような雄叫びを上げるメタルビースト・SRXから放たれたどす黒い念動力に当てられ、念動力を持たないものでさえも激しい頭痛を感じていた。

 

『武蔵の絵が下手じゃなくて、そっくりじゃねえかッ!』

 

『何て醜悪な化け物だ』

 

悪魔の翼を思わせる翼には無数のインベーダーの眼が蠢き、左腕は完全にインベーダーに覆われ鋭い爪を持った異形の腕となり、両脚部の爪先も同様だ。

 

【シャアアアアアーッ!!!】

 

メタルビースト・SRXはSRXへの合体を阻止しようとどす黒いドミニオンボールを放つ。それはR-ウィングに変形したR-1、パワードパーツをパージし胸部を展開したR-2、そして腰部に変形しようとしているR-3へと真っ直ぐに迫る。

 

『駄目だ、割り込まれるッ!!』

 

『くっ! フォーメーションを解除するしかッ!』

 

『いえ、このまま行くわッ! 念動フィールドを全開にして耐えて見せるッ!!』

 

『アヤ!? 『大丈夫よ! ここで妨害されたら次はフォーメーションに入れるかどうかも怪しいわ!』 アヤ、判ったぜ! ライッ! 

このまま行くぞッ!』

 

『判った、行くぞッ!!』

 

耐えて合体するという選択をしたリュウセイ達。それならばとキョウスケ達はドミニオンボールへの攻撃を始める。少しでも良い、ドミニオンボールの勢いが弱まればと安全に合体できるかもしれないという期待からだ。そしてその思惑は成功し、僅かにドミニオンボールの勢いは弱まるが依然凄まじい破壊力を秘めたままSRXチームへと迫る。

 

『くそッ! 駄目だ! リュウセイ! ライ! アヤッ!! フォーメーションを解除しろ! 無茶だッ!』

 

グルンガストのイルムからフォーメーションを解除しろという怒声が飛んだ瞬間。伊豆基地に狼の遠吠えが響き渡り、漆黒の影が伊豆基地を内部を駆け抜けていく。

 

『あれは!? まさか……』

 

『このタイミングで合流しに来るとか、いい趣味してるぜ、本当によッ! 遅いぜ! イングラム少佐ッ!!』

 

漆黒の猟犬はケルベロスモードへと変形したR-SWORDだった。イルム達の声にイングラムは返事を返さず、広域通信でリュウセイ達の名を呼んだ。

 

『リュウセイ、ライ、アヤ、そのままフォーメーションを維持しろ。武蔵、R-SWORDを使えッ!』

 

『へ、遅いじゃないですか! イングラムさんッ!!』

 

『これでも急いで来たんだ。文句を言われる謂れは無い、文句を言うならもっと早く連絡するんだな』

 

ゲッターD2へと飛んだ漆黒の猟犬は空中で人型へなり、そこから剣へと変形する。

 

『へいへい、判ってますよ、んじゃま行きますよッ!!! うおりゃあああああッ!!!』

 

R-SWORDを掴んだゲッターD2から裂帛の気合の込められた雄叫びが響き渡り、R-SWORDからゲッター線で出来た三日月状の刃が飛びドミニオンボールを全て両断し爆発させ、その隙にRシリーズがSRXへと合体を果たす。

 

『天下無敵のスーパーロボットォォォォッ!!  ここに見参ッ!!』

 

爆発の煙を突き破りSRXがゲッターD2の隣に着地し、ゲッターD2に握られていたR-SWORDも再びPT形態へ変形しSRXの前に降り立つ。

 

『こちらイングラム・プリスケンだ。これより援護に入る』

 

簡潔に再会を喜ぶわけでもない、どこまでも冷静な声のイングラムの声が広域通信で伊豆基地にいる全員の機体へと届けられるのだった……。

 

 

第139話 2柱の戦神と漆黒の猟犬 その3へ続く

 

 




と言う訳で今回はヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM・タイラントの戦闘とメタルビースト・SRXとSRXの登場、そしてイングラムの自軍合流イベントをやってみました。次回はSRXとゲッターD2とメタルビースト・SRXとの戦いをメインに書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第139話 2柱の戦神と漆黒の猟犬 その3

第139話 2柱の戦神と漆黒の猟犬 その3

 

SRX計画の地下ラボで戦況を見ていたヴィレッタはモニターに映し出されているメタルビースト・SRXを見てその眉を細めた。

 

「これがメタルビースト・SRX……なんて醜悪な……」

 

悪魔のような翼に生物のような手足、全身に蠢く黄色のインベーダーの複眼――全体的なシルエットは確かにSRXに酷似しているが、SRXとは似ても似つかない化け物……それがメタルビースト・SRXだった。

 

「ケンゾウ博士、オオミヤ博士。R-GUNの調整はまだ時間が掛かりそう? 流石にあの化け物相手に武蔵とリュウセイ達だけじゃ厳しいわ」

 

「T-LINKシステムの調整が上手く行ってないんです、暫く時間が掛かると思います。一応そのー……イングラム少佐がいますが」

 

「それは私も判ってるけど、武蔵の言う事が本当なら……あいつは単独でR-GUNとR-SWORDを作り出せる。そうなったら伊豆基地はどうなるの?」

 

メタルビースト・SRXの戦闘データは武蔵のDコンに纏められた物が保存されていた。その文の癖からそれを作成したのがイングラムという事はヴィレッタにはすぐ判った。だがデータに残されている物を見てその顔が引き攣ったのは記憶に新しい。

 

1 メタルビースト・SRXは自分のコピーを作る能力に秀でている。

 

2 再生能力が極めて高く、両腕を切り落とされても数分で自己再生する。

 

3 R-SWORDとR-GUNを複製する能力を持ち、インベーダーの再生能力と合わせてHTBキャノン、ブレードを無尽蔵に使用できる可能性が極めて高い。

 

4 一撃で消滅させれるだけの超火力が無ければ戦闘経験をフィードバックし、より強くなる。

 

5 ほぼリュウセイの乗るSRXと性能が同じであるということ、それに加えてインベーダーの特性が加わればSRXよりも強い。

 

「T-LINKシステムが不調ならそれをカットしてくれれば良いわ。それでもHTBキャノンは使える筈」

 

「それは許可出来ない、ヴィレッタ大尉」

 

「何故ですか、ケンゾウ博士」

 

T-LINKシステムをOFFにして出撃させてくれというヴィレッタにケンゾウが待ったを掛ける。

 

「R-GUNにはマイを乗せるからだ」

 

「馬鹿な! 彼女をいきなり実戦に出すつもりか!?」

 

「そうだ。ゲッターロボとSRXで駄目ならばツインコンタクトを用いたHTBキャノンしかないと言う事は大尉も判っている筈」

 

ツインコンタクトなしHTBキャノンの威力は理論上ゲッターD2の腹部ゲッタービームと同等の出力が予想される。そしてそれが決め手にならないという事はノーマルのR-GUNで出撃しても意味がないということはヴィレッタも判っていた。

 

「残留思念の事はどうするつもり」

 

「……マイが自ら乗り越える事をワシには祈る事しか出来ん。ここで伊豆基地もハガネもシロガネも失う訳にはいかんのだ」

 

伊豆基地には連邦の最大戦力が集まっていると言える。メタルビースト・SRXはインベーダーであり、寄生する能力は健在。今伊豆基地にいる戦力がインベーダーに寄生されれば? ハガネやシロガネが寄生されインベーダーに奪われたとしたら? 百鬼帝国、インスペクター、インベーダー、アインストと複数の敵勢力が存在する中でそれは絶対に避けなければならない事だ。

 

「……それしかないのね」

 

ヴィレッタは口から搾り出すように一言そう口にすることしか出来なかった。メタルビーストに齎される被害、そして最悪の結果の可能性――それらを考慮すればR-GUN・パワードに乗るべきなのは自分ではなくマイであるという事が判ってしまったからだった……。

 

 

 

伊豆基地でのメタルビースト・SRXとゲッターD2、R-SWORD、SRXとの戦いは3対1という状況でありながら武蔵達が攻めきれず、メタルビースト・SRXが優勢という状況だった。

 

【キシャアアアアアーッ!!!】

 

『うおらああッ!!!』

 

メタルビースト・SRXと武蔵の雄叫びが重なり、鋭い爪とダブルトマホークが凄まじい火花を散らし、ゲッターD2が伊豆基地のカタパルトを削りながら後方へと弾き飛ばされた。

 

『くそッ! 相変わらず馬鹿力めッ!!! ゲッタァアアビィィイイイムッ!!!』

 

【シャアッ!!!】

 

頭部ゲッタービームとメタルビースト・SRXのガウンジェノサイダーがぶつかり合い、互いの威力を完全に相殺する。

 

『リュウセイ。仕掛けるぞッ!』

 

「了解ッ!!」

 

R-SWORDのゲッター線ビームライフルに合せ、念動力の光を宿した両拳を握り締めSRXがメタルビースト・SRXへと突撃する。

 

「ザインナッコオッ!!!」

 

ゲッター線ビームライフルを防ぐのに展開された念動フィールドを右拳のストレートで打ち砕き、即座に左のストレートがメタルビースト・SRXの胸部を捉える。だがその直後胸部が開き、巨大なインベーダーの頭部が顔を見せSRXの左拳を噛み砕いてやると言わんばかりにその巨大な顎を開いた。

 

『リュウセイ! 離脱しろッ!!!』

 

「あ、あぶねえッ……す、すまねえライ」

 

ライの一喝に奇跡的に反応出来たリュウセイは辛うじて離脱することに成功し、目の前で凄まじい音を立ててぶつかる牙を見て冷や汗を流した。

 

『リュウセイ、油断すんな。こいつらに常識は通用しねえ、どっからでも手足を生やしてくるぜ』

 

『その通りだ。油断するな』

 

「す、すまねえ。気をつける……それにしても……こいつ強すぎるぜッ!」

 

武蔵とイングラムの警告に謝罪しながらもリュウセイは苛立った様子でそう叫んだ。ゲッターD2、SRXの2体を主戦力にし、R-SWORDが的確にフォローしていると言うのに攻めきれない、機体のポテンシャルとインベーダーの闘争本能が見事に合致し、全身武器であるSRXをより凶悪な存在へと変えていた。3機で攻めきれないのならば味方を増やせば良い。敵陣の中に切り込んでいるのではなく、伊豆基地で戦っているのだ。それに周りには先ほどまでメタルビースト・エルアインス達と戦っていたキョウスケ達もいる……普通に考えれば大勢で戦うのが1番最善なのだがそれが出来ない理由があった。

 

『大尉、敵インベーダーの念動フィールドの中和は出来そうですか?』

 

『かなり厳しいわね……下手をすると私までおかしくなるかもしれない』

 

『無理に中和しようとするなアヤ。インベーダーの闘争本能に飲み込まれるぞ。俺達だけでこいつを倒す必要がある』

 

赤黒い念動力の壁――それによってメタルビーストSRXとSRX、ゲッターD2とR-SWORDは完全に孤立させられていた。

それに加えてレストジェミラ、百鬼獣、メカザウルスの壁を突破するのはキョウスケ達でも容易ではない、仮に突破出来たとしても念動力の壁を突破出来なければ後から追いかけてくる百鬼獣やメカザウルスに背後を取られる。前にも進めず、後にも戻れない。そうなればキョウスケ達と言えど撃墜される可能性が高くなる。

 

『武蔵、フォワードだ。リュウセイはセンター、俺は支援する』

 

『ういっす。まずはとにかくあいつの再生能力を上回るダメージを叩き込むしかないですね』

 

『その通りだ、今はまだ自己再生が効いているが、それを上回るダメージを与えれば突破口も見出せるかもしれない。あくまで可能性だがな』

 

『ほんの僅かでも可能性がありゃ十分ッ!!! 行くぜえッ!!』

 

ダブルトマホークを手にしたゲッターD2がゲッター線の光に包まれ姿を消す。それはいつも見慣れた超高速機動だが、普段と比べて精彩に欠けていた。

 

「やっぱりこの念動フィールドのせいかッ!」

 

『ああ、武蔵だから何とか立ち回れているがオープンゲットも出来ない、ゲッターチェンジも出来ない。ゲッターロボの最大の攻撃パターンが封じられている』

 

『教官、それはもしや……』

 

ゲッターの最大の攻撃パターンを封じている念動フィールド……ライは最初は援軍を封じる為の物と考えていたが、それは全く違っていたのだ。最初からメタルビースト・SRXはゲッターロボだけを敵として見定めていた。

 

『そんな事はどうでもいい。ここでやつを倒さなければならない、それだけを考えろ。それにお前達を甘く見ていると言うのならばあの化け物に見せつけてやれ、偽物のSRXよりもお前達が操るSRXの方が強いとな』

 

「当たり前だぜ! 教官ッ! 行くぜッ! ライッ! アヤッ!!!」

 

『ああッ! 行くぞッ!』

 

『行きましょう! リュウ、ライッ!!』

 

イングラムの言葉に奮起しリュウセイ達が駆るSRXはメタルビースト・SRXへと向かっていく。その姿を見ながらイングラムはあることを考えていた、それはメタルビースト・SRXが消えた時の事だ。

 

(あの時俺達はメタルビースト・SRXが消滅したと考えていた、だが今この状況を見ればそれは間違いだった。あの異形……第三勢力なり得るかもしれん)

 

メタルビースト・SRXと姿を消した異形の事を思い出したイングラムの頭の中でバラバラのピースが1つになろうとしていた。

 

メタルビーストの割りには頭脳的な立ち回りをしてみせるメタルビースト・SRX。

 

インスペクターの無人機、そして百鬼獣とメカザウルス……。

 

それらは明らかに何者かに操られているようにイングラムには感じられていた。

 

派閥ところか生き物としても違いすぎるものが1つとなって戦っている……それは一瞬だけ姿を現した異形――デュミナスがなんらかの手を引いているのではなかろうか、アインストやインベーダーとは違うがそれでもゲッター線を求める化け物。

 

(可能性としては十分にありえる。やはりもうこの世界の因果は完全に崩壊しているか)

 

武蔵を切っ掛けに乱れ始めた因果――その収束によってフラスコの世界は更なる混迷を迎える予兆となろうとしている事を因果律の番人であるイングラムは感じ取っているのだった……。

 

 

 

 

メタルビースト・SRXを出現させたティス達だが、彼女達にも大きな計算違いがあった。

 

「んぎぎぎいいーッ! 駄目だこいつ! 全然あたいの言う事を聞かないぃぃいいッ!」

 

「今手伝います!」

 

「早くぅぅうううッ!!!」

 

ティス1人では言う事を聞かせる事は出来ず、ティスとラリアーの2人掛かりでやっとわずかに言う事を聞かせれるという状況だった。

 

「わ、私も手伝おうか?」

 

「だ、駄目だってぇ! デスピニスは百鬼獣とかをコントロールしててぇッ!!!」

 

「くっくうッ! メタルビーストに百鬼獣まで食わせたらそれこそ僕達じゃコントロールできないからぁッ!!」

 

苦悶の声を上げる2人にデスピニスは手伝おうかと声を掛けたが、メタルビースト・SRXが完全にコントロール不能になる事を恐れたティスとラリアーの2人によって制止される。

 

「くそおッ! あたい達の言う事を聞けえッ!!!」

 

『TーLINKソードッ!!!』

 

【シャアアアアッ!!!】

 

SRXの拳から伸びた念動力の刃とメタルビースト・SRXの鉤爪がぶつかり合い凄まじい火花を散らす。

 

『う、うおおおおッ!!!』

 

【シャアアッ!!!】

 

『リュウセイ! 頭を下げろッ!!』

 

装甲の隙間から伸びた触手を見てイングラムが叫びながら指示を出し、SRXの背中を踏み台にしてメタルビースト・SRXの頭上を取る。

 

『お前達の好きにはさせんッ!!!』

 

上空から降り注ぐゲッター線ビームライフルの光が鍔迫り合いをしているSRXを取り込もうとしたメタルビースト・SRXの触手を焼き払う。

 

『うぉらあッ!!!』

 

【ギガアッ!?】

 

そこに背後からメタルビースト・SRXの肩を掴んで、無理やり自分の方を向かせたゲッターD2の鉄拳がめり込みメタルビースト・SRXを海まで殴り飛ばし、凄まじい水柱が上がる。

 

「これで少しは……ってやっぱり駄目かッ!」

 

「と、闘争本能がどんどん増してます。これ以上のコントロールは無茶かもしれない!」」

 

エルアインス・ツヴァイ・ドライはメタルビースト・SRXという強烈な個を3つに分割し制御しやすくしていた。だがそれが再び1つになれば完全にコントロールするのは限りなく不可能に近かった。

 

「あ、あのー1回コントロールを破棄してみたらどうですか?」

 

それでも何とかコントロールしようとしているとデスピニスがおずおずとそう提案した。

 

「いやいや、デスピニス。何言ってるのさ、そんなことをしたら暴走するよ」

 

「あ、あのですね。全部全部言う事を聞かせようとするんじゃなくて……そのーあのですね……ある程度は向こうに任せたらどうでしょう?」

 

完全にコントロールしようとするから反発する、抵抗する。戦いたいように戦わせ、やり過ぎないようにある程度指示を出すくらいにしたらどうでしょうか? とデスピニスは提案する。

 

「う、うーん。ラリアーはどう思う?」

 

「このままだと僕達じゃコントロールしきれません……それも1つの手かもしれません」

 

手綱を完全に取るのではなく、ある程度はメタルビースト・SRXに任せたほうが制御が安定するかもしれない。誰しも頭ごなしに命令され、自分の意志が何一つ通らないのでは余計に反発する。デスピニスの提案はある意味筋が通っていた、ティスは少し考え込む素振りを見せた後に頷いた。

 

「もしあたいのコントロールを完全に外れたら2人も手伝ってね?」

 

不安そうなティスの言葉にラリアーとデスピニスが頷くとティスはメタルビースト・SRXを縛り付けていた枷を解き放った。

 

【キシャアアアアアッ!!!!】

 

SRXの特徴的なフェイスパーツの中の黄色の複眼が紅く輝き、メタルビースト・SRXは凄まじいエネルギーを放出させながら凄まじい咆哮を上げる。

 

『な、なんだ。こいつ急に……』

 

『いいや、これがこいつの本気だぜ。気をつけろよ、リュウセイ』

 

全身のインベーダー細胞が隆起し、猫背になったメタルビースト・SRXが不気味な呼吸を繰り返す。それが紛れも無くメタルビースト・SRXの最強の姿であり、己を縛っていた鎖から解き放たれた証でもあるのだった……。

 

 

 

 

武蔵がそれを防げたのは一重にその類稀なる野生の本能と言ってもいい。なんせ武蔵は柔道の修行の為に大雪山で山篭りをし、恐竜帝国によって猿にされた人間の群れのボスになった経験もあるほどの男だ。殺気などを感じ取る能力は一際秀でている、そんな武蔵でさえもギリギリのタイミングだったと冷や汗を流すほどにメタルビースト・SRXの動きは速かった。

 

「……っち、こんな事を言うのはなんだけど、キョウスケさん達がいなくて良かったぜ」

 

オープンゲットもゲッターチェンジも封じている念動フィールドだが、今この時だけは感謝しても良い。武蔵はそう考えていた……何故ならばダブルトマホークが一撃で圧し折られ、ゲッターD2の背後に突き刺さっていたからだ。

 

『い、今何がッ!?』

 

『こんなことで動揺するなリュウセイ。来るぞッ!』

 

何が起きたのか判らないリュウセイにイングラムはそう一喝するとR-SWORDを操り、上空へと舞い上がる。その下を凄まじい速度で伸びて来たメタルビースト・SRXの薙ぎ払いが通過する。

 

『う、腕を伸ばしてるのかッ!?』

 

『リュウセイ! 来るぞッ!!』

 

R-SWORDを捉えることが出来なかったと判断するとメタルビースト・SRXは即座に体を反転させ、その伸縮自在の腕をSRXへと伸ばす。

 

『ぐっ!? なんて破壊力だっ!?』

 

一撃で念動フィールドを突き破りSRXの姿が後方に向かって弾き飛ばされる。

 

【シャアアッ!】

 

「させるかってんだッ! ブラストキャノンッツ!!!」

 

追撃に走り出そうとしたメタルビースト・SRXに向かってその手から出現したキャノン砲を放つゲッターD2。だがメタルビースト・SRXはそんなことお構いなしに念動フィールドを展開しSRXへと突撃する。

 

「させるかって言ってんだよッ!!! リュウセイ! なにしてやがるッ! さっさと立ち上がれッ! 死にてぇのかああ――ッ!!」

 

殴り飛ばされ動かないでいるSRXに向かって武蔵はそう叫ぶとメタルビースト・SRXの前へ立ち塞がる。

 

【シャアアッ!!】

 

「うおらあッ!!」

 

ザインナックルとゲッターD2の拳が交差する。メタルビースト・SRXの一撃が破壊力を優先した大振りな一撃に対し、ゲッターD2の攻撃はコンパクトに的確にカウンターを狙っての物だった。

 

「ぐっ!? くそがッ! バトルウィングッ!!」

 

メタルビースト・SRXの攻撃が1発当たるまでに、2発3発と叩き込んでいたゲッターD2だが腕が交差したその瞬間にその腕を太くしたメタルビースト・SRXによって上空に跳ね上げられ念動フィールド内では自由に飛べない事を承知でバトルウィングを展開する。

 

【コハアアッ!】

 

「ちいっ!! リュウセイ!! 相殺してくれッ! 浮いちまったらゲッターじゃ逃げ切れねえッ!!!」

 

上空という自由に移動できない場所にゲッターが移動したと同時にインベーダー細胞に寄生されたテレキネシスミサイルが乱射される。

 

『なんとか振り切れッ! リュウセイ! アヤッ!』

 

『判ってるぜ教官ッ! ガウンジェノサイダーァァアアアアッ!!!』

 

『テレキネシスミサイル発射ッ!!!』

 

ゲッターD2を追い回すテレキネシスミサイルの2割がガウンジェノサイダーの光の中に消え、残りの2割はテレキネシスミサイルとぶつかり合い爆発し墜落する。残りの1割はR-SWORDの神技的な射撃によって迎撃され、最後の5割は頭部ゲッタービームによって迎撃される。

 

「ぐっ!? うおあああああッ!?」

 

だがテレキネシスに対応すると言う事はメタルビースト・SRXへの対応が一挙動遅れると言う事を意味しており、足に巻きついた触手に左足を砕かれ、そのままゲッターD2は地面に叩き付けられる。

 

【キシャアアアアアッ!!!】

 

『む、武蔵ぃッ!!!』

 

勝利を確信した様子で叫ぶメタルビースト・SRXへ引き寄せられるゲッターD2を見て、思わずリュウセイが武蔵の名を叫ぶ。だが武蔵は冷静に頭部ゲッタービームを駆使し触手を断ち切ると超低空飛行でSRXとR-SWORDの元へと戻る。

 

「やべえな。強くなってやがる」

 

『だ、大丈夫なのか武蔵』

 

左足は砕かれ、ゲッターの装甲にはあちこちが凹んでいる様子を見てライが引き攣った声で大丈夫なのかと問いかける。

 

「ゲッターの装甲は基本的に張りぼてだから問題はねえ。とは言え……あんまりダメージが重なるとやべえな」

 

口にはしなかったが武蔵はメタルビースト・SRXがゲッターの装甲の弱点をついた攻撃をして来ている事を感じ取っていた。確かにゲッターの装甲は張りぼてである程度は再生も効く。だが何度も何度も再生を繰り返してはエネルギーを著しく消耗する、ただでさえドラゴンはビームを多用する事でエネルギーの消耗が激しい、自己再生が効くといってもこうも全身を攻撃されていてはその内エネルギーが底をつくのは目に見えていた。

 

(こいつ……賢くなってやがる)

 

ゲッターの弱点を見抜き、最も嫌な戦い方をしてきている。目が紅くなってから動きも生き生きしていると武蔵は感じていた。

 

【シャアアッ!!】

 

『念動結界ドミニオンボールッ!!!』

 

鏡合わせのようにメタルビースト・SRXとSRXの放ったドミニオンボールがぶつかり合い爆発を繰り返す。

 

「ダブルトマホークランサーッ!!!」

 

斧形態で斬るではなく槍で突くへと攻撃を切り変え、ゲッターD2はメタルビースト・SRXへと切り込む。

 

(くそ、攻めきれねえッ!)

 

攻撃パターンを変えてもメタルビースト・SRXは即座に対応する。単独操縦のゲッターD2で戦うにはメタルビースト・SRXはどうしても厄介な相手だった。長引けば長引くほどに武蔵は焦りを感じ、そして焦りはミスを産む。

 

『武蔵! 前に出すぎだッ!』

 

「しまっ!?」

 

イングラムの警告がポセイドン号に響いた瞬間、ゲッターD2の姿はハイフィンガーランチャーの弾雨に飲み込まれ、吹き飛ばされゲッターD2は全身を穴だらけにされ背中から伊豆基地のカタパルトへと叩きつけられるのだった……。

 

 

 

誰もが目の前の光景が信じられなかった。無敵と思われていたゲッターD2が倒れ、火花を散らしている。

 

「嘘だろ」

 

誰が口にしたかは判らない、いや全員が口にしていたのかもしれない。ゲッターロボが倒れていると言う光景は誰も我が目を疑う光景だったがバトルウィングを展開し、即座に立ち上がるゲッターロボの姿に安堵の声があちこちから零れる。

 

「武蔵! 大丈夫かッ!?」

 

『オイラは大丈夫だ、ちょいとあせっちまった……すまねえ、心配させた』

 

心配させたと謝る武蔵だが、その声色は硬く、武蔵の焦りがリュウセイ達にも伝わって来た。

 

『正直に言え武蔵、今の状況はどうなってる』

 

『エネルギー残量は50%を切りました。回復するって言ってもそう簡単に回復する量じゃないっすね』

 

メタルビースト・SRXやメタルビースト・R軍団を抑える為に戦い続けていたゲッターロボのエネルギーは想像以上に消費していた。いやもっと言えば新西暦の地球に降り注ぐゲッター線は微量であり、休養を挟めば十分にゲッター線は回復出来た筈だったが、連戦に連戦が続き自然回復では間に合わないほどにゲッターD2はゲッター線を消耗してしまっていた。つまりそれは今までに溜まりに溜まった負積が一気に武蔵とゲッターロボに牙を向いた形になった。

 

『ゲッタービームは撃てるか?』

 

『頭のなら5発、腹なら1発って所っすね』

 

エネルギーの消耗が少ないライガーやポセイドンを使いエネルギーを回復させながら戦えず、ライガーほど機動力が無く、ポセイドンほど防御力が無いドラゴンは逃げを打つ必要があり、それがエネルギーの大量消費の理由だった。

 

『R-SWORDを使え、ゲッター炉心を同調させれば微弱でもエネルギーが回復する筈だ』

 

R-SWORDのゲッター炉心とゲッターD2の炉心を同調させれば微量のゲッター線でも回復出来るはずだとイングラムが提案する。

 

『了解って言いたいんですけどねえ。どうも無理みたいですよッ! リュウセイ! イングラムさん! ゲッターの後にッ!!!』

 

武蔵はそれを最初は了承しようとしたが、即座にリュウセイ達にゲッターの後に隠れるように叫び見た目だけは完全に修復したゲッターD2をSRXを庇うことが出来る位置へと移動させる。海面を突き破り姿を見せたのはメタルビースト・R-GUNだった。出現した時から海中に潜んでいたメタルビースト・R-GUNは空中でメタルジェノサイダーモードに変形しメタルビースト・SRXの手の中へと収まる。

 

『ゲッタァアアアアアッ!!!』

 

【シャアアアアアーッ!!!】

 

R-GUNとゲッターD2の腹部にエネルギーが集まり、2機を中心に凄まじいエネルギーの奔流が暴れまわる。

 

『ビィィイイイイムッ!!!』

 

【シャアアアーーッ!!!!】

 

フルパワーのゲッタービームとメタルジェノサイダーのぶつかり合いは一瞬だった。これは互いの特性が大きく関係していたとも言える、武蔵のゲッターD2のゲッター線を+とすれば、メタルビースト・SRXのゲッター線は-だ。互いに吸い寄せられ、そして圧倒的なエネルギーの密度の差でゲッタービームとメタルジェノサイダーは互いの狙いを外し、ゲッタービームはメタルジェノサイダーを保持していない左腕と左頭部を消し飛ばし、メタルジェノサイダーはゲッターD2の身体を掠め念動フィールドを突き破り空へ一条の光を残した。ダメージで言えばメタルビースト・SRXの方が上だったが、被害が深刻だったのはゲッターD2の方だった。腹部のゲッタービーム発射口が点滅を繰り返し、ゲッターD2は地響きを立てて膝をついた。

 

『ちくしょうめッ! エネルギー切れだッ!!』

 

メタルジェノサイダーを相殺するのにゲッターD2はエネルギーを使いすぎた。再び立ち上がる余力も無く膝をついたままのゲッターD2のカメラアイから光が消えた。

 

『リュウセイ! この好機を逃すなッ! R-SWORDを使えッ!!』

 

「ああ、判ったぜ! 教官ッ!!! アヤッ!!」

 

『判ってるわッ! T-LINKフルコンタクトッ!!!』

 

「念動結界ドミニオンボールッ!!!」

 

SRXが突き出した右掌から念動力で出来た無数の光球がメタルビースト・SRXに向かって放たれる。

 

【キシャアアアーッ!!!】

 

だがメタルビースト・SRXもただでやられるわけが無い。失った左腕をインベーダーの細胞だけで再生し、SRXの腕とは似てもにつかぬその触手が集まり、辛うじて腕の形となった異形の左手から赤黒いドミニオンボールを放つ。ドミニオンボールが互いにぶつかり合い、凄まじい音と爆発を繰り返す。

 

『トロニウムエンジンフルドライブッ!』

 

『リュウ! 少佐ッ!!』

 

「おうッ! 行くぜ教官、ライ、アヤッ!!!」

 

ブレードモードに変形したR-SWORDをSRXが掴み頭上へと振り上げると同時にメタルビースト・SRXへと突撃する。

 

【ゴアアアアアアアアアーッ!!!!】

 

メタルビースト・R-GUNが中から裂けるようにR-SWORDへと変形し、メタルビースト・SRXはSRXを迎え撃たんとメタルビースト・R-SWORDを振りかぶりSRXへと突撃する。

 

「超必殺ッ!!! 天上天下ッ!! 念動次元斬ッ!!!!」

 

【シャアアアアアアアアーーッ!!!!】

 

互いに相殺しあったドミニオンボールをR-SWORDへと集め、眩いまでに輝く翡翠色の巨大な大剣と赤黒い大剣がぶつかり合う。

 

「うぉおおおおおッ!!!」

 

【キッシャアアアアアアアアーーッ!!!】

 

リュウセイとメタルビースト・SRXの雄叫びが木霊し、凄まじいエネルギー同士のぶつかり合いで発生した嵐が伊豆基地の設備を問答無用で破壊する。

 

「念動爆砕ッ!!!!」

 

【ギギャアアアアアア――ッ!!!】

 

鍔迫り合いに勝利したのはSRX、そしてR-SWORDだった。袈裟切りに切り裂かれたメタルビースト・SRXの下半身と上半身がずれ、その身体がずるりと左右にそれる。

 

『やったか!?』

 

『流石にあそこまで切り裂かれたら生きていけねえだろッ!』

 

念動フィールドが消滅した事で遮断されていた通信が回復し、キョウスケ達の声がリュウセイ達の下へと届く。

 

『まだだ! 油断すんなッ!! リュウセイッ!!!』

 

だがそれを一喝で止めたのは武蔵だった。そのまま下半身と上半身が分かれると思ったメタルビースト・SRXはそれぞれから触手を伸ばし強引に身体をつなぎ止める

 

【ゴガアアアアアアアアーッ!!!】

 

「う、うわああああああ――ッ!?!?」

 

メタルビースト・R-SWORDが開き、無理やり作り出されたメタルジェノサイダーモードの銃口から凄まじい光が放たれSRXからリュウセイ達の悲鳴が木霊する。

 

『リュウセイッ!』

 

爆発を繰り返すSRXを見てビルトラプター改からラトゥーニのリュウセイの身を案ずる声が広域通信で響く。

 

「な、なんとか……無事だッ! 教官はッ!?」

 

『こっちも大丈夫……と言いたいところだが、そうも言えんな……』

 

R-SWORDが盾になった事、そして無理やり使用したメタルジェノサイダーだった為照射時間が短かった事で撃墜は間逃れたが、それでもSRXとR-SWORDのダメージは深刻なものだった。

 

【キ……キシャアアアアアッ!!】

 

メタルビースト・SRXがSRXへの擬態を解除し、巨大な牙と鋭い爪、そして伸縮を繰り返す長い舌を露にし、足を引きずりながらSRXへと迫る。

 

『SRXを喰うつもりかッ!』

 

『させるなッ! 攻撃をメタルビースト……何ッ!? こいつらまだ出てくるのかッ!?』

 

『武蔵! 武蔵! 何とかならないかッ!?』

 

『出来るならとっくになんとかしてる!! くそッ!』

 

地響きを立ててメカザウルス、百鬼獣が出現しキョウスケ達の前に立ち塞がり行く手を遮る。SRXの近くに居る武蔵に何とかならないかという通信が繋げられるが帰ってきたのはレバーを必死に動かす音と苛立った様子の武蔵の怒声だった。それだけ武蔵に余裕は無く、そしてゲッターロボも炉心の再起動が出来ない状況に追い込まれていると言う証だった。その時だったメタルビースト・SRXとの戦いの中でボロボロになった伊豆基地の中で奇跡的に無事だったSRX計画の地下ラボからパワードパーツを装備したR-GUNがリフトアップされる。

 

『アヤ。今助けるッ!』

 

『!? パイロットは隊長ではないのか!?』

 

「今の声はッ!? やっぱりあの時のッ!」

 

『……そうか、やはりこうなるのだな』

 

R-GUN・パワードから響いた声がヴィレッタの物ではなかった事にリュウセイとライは驚きを隠せなかったが、イングラムだけはそれを知っていた。因果律の番人だからこそわかる事だが、マイそしてレビは必ずR-GUNに乗る……それはどの世界でも定められている1つの結果だった。

 

『あ、あなた……ッ! ど、どうしてッ!? そ、それより危ないわ! 早く戻るのよッ!』

 

『アヤは私を守ってくれた……ッ!  今度は私の番だッ!』

 

危険だと戻れというアヤにマイは強い口調で今度は自分が助けるのだと叫んだ。

 

『アヤ、あの子の思いは止められない、ならば拒絶するのではない受け入れろ』

 

『少佐……判りました。あなたの力、借りるわねッ!』

 

イングラムが促さなくともアヤはマイの力を借りていただろう。だがそれでも迷いがあった、再びマイを戦場に呼び戻して良いのかという躊躇いがあった。だがそれがマイの決意とイングラムの言葉で払拭された。

 

『リュウ、 HTBキャノンの発射準備をッ!』

 

「アヤ! これは……いや、後で良いからちゃんと説明してくれよッ!」

 

『判ってる! でも今は押し問答をしている場合じゃないわッ!』

 

メタルビースト・SRXは今もなおリュウセイ達に迫っている。今ここでで押し問答をしている時間はない事はリュウセイも判っており、アヤの言葉を受け入れる。

 

「行くぜ皆ッ!」

 

『了解した!』

 

『システムコネクトッ! マイ行くわよッ!!!』

 

『判ったアヤッ! T-LINKツインコンタクトッ!! メタルジェノサイダーモード機動ッ!』

 

メタルジェノサイダーモードになったR-GUNと合体したSRXを見て、メタルビースト・SRXも再びメタルジェノサイダーモードに変形したメタルビースト・R-GUNをその手にする。

 

『トロニウムエンジンフルドライブッ!』

 

『リュウ! トリガーを預けるわよッ!』

 

R-1のコックピットの一部が変形しHTBキャノンのトリガーがその姿を現し、リュウセイは両手でそのトリガーを握り締めた。

 

「おうよッ! くらえ偽物ッ! これが本物の天上天下一撃必殺砲だぁぁあああッ!!!」

 

【■■■――ッ!!!!】

 

リュウセイの魂を込めた雄叫びと共に放たれたHTBキャノン……いや、一撃必殺砲はメタルビースト・SRXのメタルジェノサイダーの光を、そしてメタルビースト・SRXまでも飲み込み空間を纏めて焼き払った。光が消えた時にはメタルビースト・SRXも、メタルビースト・R-GUN、そして何度もキョウスケ達の足止めをしていたメカザウルス達の姿もいずこかへと消えていた。

 

「メタルビースト・SRX及び、百鬼獣、メカザウルスの反応消失を確認」

 

「……各員に帰還命令を、それと周囲の警戒を怠らないように通達」

 

了解ですと返事を返すテツヤを見ながらダイテツは艦長席に背中を預け深い溜め息を吐いた。確かにメタルビースト・SRXを退ける事は出来た。だが伊豆基地へのダメージは深刻、その上メタルビースト・SRXの残骸がない事からまだ生存している可能性もある。

 

(何者かの影が存在するかもしれん……)

 

現れたばかりのメタルビースト・SRXは明確な知恵を見せていた、そして百鬼獣に消え去った筈のメカザウルスに、インスペクターの無人機まで確認された。それはアインスト、インベーダー、百鬼帝国、インスペクターに続く新たな侵略者の影をダイテツは感じているのだった……。

 

 

 

第140話 2柱の戦神と漆黒の猟犬 その4へ続く

 

 




ほかの面子の陰がかなり薄かったですが、今回はメタルビースト・SRXとSRXとゲッターの戦いがメインだったのでご容赦ください。
流石にメタルビースト・SRXにゲシュペンストとかを向かわせるのは無謀を通り越して遠回しの死刑判決だと思ったのでやめたのでご了承願います。ただ今回の戦いを見て更に強化フラグが成立したと思っていただければ幸いです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


PS


陽電子砲復刻ガちゃを一周したのですが、パックマンのSSR3枚、斬艦刀・雷光切り・ヒートショーテルアジテートのSSR5枚という結果でした。

斬艦刀とヒートしょーテルに関してはくるのが遅いですし、パックマンのSSRは3枚もいらないので1枚は陽電子砲が良かったです……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第140話 2柱の戦神と漆黒の猟犬 その4

第140話 2柱の戦神と漆黒の猟犬 その4

 

メタルビースト・SRX。そして百鬼獣、メカザウルス、インスペクターの混成部隊との戦いを終え、イングラムも合流したのだが……武蔵の時とは違い英雄の帰還とはならなかった。

 

「……」

 

「ヴィレ……ぐふっ!?」

 

R-SWORDから降りてきたイングラムに無言かつ早歩きで近づいて来たヴィレッタのフルスイングの左ビンタが叩き込まれる。

 

「教官ッ!? 隊長もなにをやってってアヤぁッ!?」

 

躊躇い無し、全力フルスイングの凄まじい音にR-1から疲労困憊で降りてきたリュウセイの横をヴィレッタに負けない早歩きで通り過ぎていくアヤの姿にリュウセイが驚きの声を上げる。

 

「イングラム教官」

 

「な、なんだアヤぁ!?」

 

左右の連続の往復ビンタがイングラムの顔を右へ左と弾き続ける。避ける事も防ぐことも出来ない神速の往復ビンタ、しかも無言でそれを続けているのでアヤの迫力が凄まじい事になっている。

 

「うわぉ……凄い事になってるわね」

 

「……まあ武蔵とは状況が違うからな」

 

好き勝手していた訳では無いが、イングラムは合流出来るのにそれをせずに今まで放浪していた訳でアヤやヴィレッタの怒りを買っているのも当然だった。最後に全力で振りかぶった右ビンタが叩き込まれ、イングラムの両頬には鮮やかな赤い椛が咲いた。

 

「ライ、後でリュウセイとSRX計画のラボに来るように」

 

「私と隊長はちょっと用事があるから」

 

「判りました」

 

逆らってはいけない、そして聞いてはいけないと悟ったライはイングラムの処刑を終えて歩き去るヴィレッタとアヤの2人を敬礼で見送った。世の中には逆らってはいけないものがある……ライはそれを知っていたのだ。

 

「よー少佐! 約束通り面借りるぜッ!!」

 

「ごっ!? お、お前少しはてか……「んでこっちはリンの分ッ!!!」

 

容赦のないイルムの拳骨2発にイングラムは格納庫に崩れ落ちる。

 

「クスハ汁だ! クスハ汁もってこいッ! 冷蔵庫に入ってただろ、武蔵とアラドが好きだから!」

 

「しゃあ! 足を押さえろッ! 逃がすなよッ!!」

 

MIAとなっていたイングラムの階級は現在停止処分中なので整備兵達も出て来て、イングラムを拘束する。

 

「歓迎の健康ドリンクだ、飲んでくれよ、少佐」

 

「ま、待て! それぶああッ!?」

 

クスハ汁のボトルを口に突っ込まれたイングラムは大きく1度痙攣し、徐々に抵抗が弱まり最終的に沈黙した。

 

「教官っ!?!?」

 

「イングラムさぁぁんッ!?」

 

ぴくりとも動かなくなったイングラムを見て武蔵とリュウセイの絶叫が響く中、R-GUN・パワードから降りた少女が逃げるように壁伝いに格納庫の出口に向かい、アヤとヴィレッタに連れられて行く姿を注視している者は格納庫には殆どいなかったが、1人だけ……ラトゥーニだけがその姿を見つめていた。

 

「……今のパイロット、どこかで……」

 

見た事が無いはずなのだが、どこかで見ている。その気配をラトゥーニはどこかで感じ、脅えるように、誰にも会いたくないと言う感じで逃げていくその姿をジッと見つめていた。

 

「ラトゥーニ、何をしているのですか? リュウセイにジュースとタオルを持っていくんじゃないんですの?」

 

「シャイン王女、はい、すいません、少し考え事をしてて」

 

「もう、しっかりしてくださいな。武蔵様ー! タオルとジュースを持ってきましたわぁッ!」

 

オイラは様ってキャラじゃないってと言ういつものやり取りをするシャインと武蔵の隣を抜け、ラトゥーニはリュウセイの前に立つ。

 

「これ、タオルとスポーツドリンク」

 

「悪いな、ラトゥーニも出撃していたのに……」

 

「ううん、良いよ。これ、ライディース少尉も」

 

「ああ、ありがとう」

 

ライにもスポーツドリンクとタオルを差し出すラトゥーニだが、リュウセイに渡すときと比べるとやや淡白な反応でライは苦笑しながら、タオルで汗を拭いスポーツドリンクを口にする。

 

「なぁ、ライ。R-GUNのパイロットだけど何処かであった事ないか?」

 

「いや、俺は覚えがないがどうかしたか?」

 

「どこかで会ったような……なんかそんな……ラトゥーニ、どうかしたか?」

 

「ううん、なんでもないよ」

 

なんでもないと言う顔ではなく、明らかに怒り、いや嫉妬の表情を浮かべているラトゥーニとそれに気付いていないリュウセイ。余りにもお子様過ぎるリュウセイとラトゥーニの恋路はまだまだ前途多難のようだった……。

 

 

 

 

 

伊豆基地に回収されたメカザウルス、そして百鬼獣を解析する為に格納庫の中身を1つ丸々取り出した即席解析場にダイテツ、レイカー、そしてレフィーナとリー。そしてショーンとテツヤと伊豆基地のトップと戦艦の艦長と副長の姿があった。

 

「やっぱりかあ、こんな事あるんだな、ラドラ」

 

「ああ、正直俺も驚いている。こいつは確かにメカザウルスだが……メカザウルスであって、メカザウルスではない」

 

ラドラとコウキがオブザーバーで呼ばれている事は知っていたが、武蔵の姿もありダイテツ達は僅かに驚いた表情を浮かべる。

 

「武蔵君、君もこっちに来たのか?」

 

「レイカーさん。いや、すいませんね。勝手に入り込んじゃって、でもどうしても気になる事があったんですよ」

 

念の為に防護服を着込む事が条件になっているので、ややくぐもった声で武蔵が返事を返した。

 

「メカザウルスであって、メカザウルスではないって事ですか?」

 

「なんだ、聞いてたんですか……メタルビースト・SRXと戦ってる時は余裕がなかったんですけど、後で考えるとおかしいなあって思ってラドラに話を聞きにきてたんですよ。こいつら中身が無いそうなんですよ」

 

「「「「中身が無い?」」」」

 

中身が無いという武蔵の言葉にダイテツ達が声を揃えて鸚鵡返しに尋ね返す。

 

「正確には人工知能が搭載されていない、ある程度の自立行動が可能なAIが搭載されていると言う所だな」

 

「すまない。それは同じ意味に聞こえるのだが?」

 

人工知能とAI何が違うのかとリーがラドラに尋ねる。するとラドラは説明の仕方が悪かったなと頭を振った。

 

「メカザウルスは基本的に元になった恐竜の脳をベースに改造した高性能の人工知能を搭載している。それにより、恐竜の凶暴性と兵器としての火器管制能力を得ている。だがこいつらは普通のAIだ、無人機などに使われる精度の低いAIが代わりに使われている。簡単に言うとだな、制御しやすくなった代わりにメカザウルスの強さを失っているといっても良いな。まぁそれでもPTやAM相手には強敵だがな」

 

獣の本能を失い、安定性を増させたメカザウルス。武蔵や、コウキ、ラドラから見れば伊豆基地に出現したメカザウルスは脅威では無いが、キョウスケ達ならば十分に強敵と言えるだろう。

 

「だがラドラ少佐、マグマ原子炉を複数入手出来たのだろう? リバイブの増産も出来るではないか?」

 

「それに関してだが、レイカー司令。こいつらの炉心は破壊されている、どうも機能停止と共に破壊されるように調整されているようだ。コウキ、そっちはどうだ?」

 

「こっちもだな、百鬼獣の炉心は全部停止している。取り出して修理出来れば高性能なエンジンが手にはいると思ったんだがな」

 

メカザウルスと百鬼獣の炉心――そのどちらかを入手出来ればと考えていたコウキとラドラだが、機能を停止していると肩を落とす。

 

「修理は無理なのですかな?」

 

「不可能では無いが時間が掛かる。取り出した5個の炉心を使って1個の炉心になるかどうかだ、それに修理に必要な材料などを考えるとな……」

 

「コストが割りに合わないという事ですか」

 

修理は可能だが複数の炉心の中で使えるパーツだけを選りすぐり、ラドラで修復出来るパーツで繋ぎ合せると言ってもコストが高くなる。

 

「俺も似たようなものだな、どうしてもというのならやらないでもないが……どうする? そこら辺は其方に任せる」

 

修理するか廃棄するか、それはダイテツ達に任せるというコウキとラドラの言葉にレイカーは少し考える素振りを見せる。

 

「修理を頼む。今回の事で思ったが、敵勢力が強すぎる。ゲシュペンスト・MK-Ⅲでは戦力不足となりかねない」

 

新西暦の英知を結集し、拡張性と機体性能の両方を極限まで高めたゲシュペンスト・MK-Ⅲでもアインスト、インベーダー、百鬼帝国と戦うには力不足だ。リバイブやシグに匹敵するパワーを手に出来るマグマ原子炉を見逃すという選択はレイカー達には無かった。

 

「武蔵。君に頼みがあるんだが、良いかね?」

 

「はい? オイラに出来る事で良ければ」

 

「キジマ・アゲハ達をクロガネで保護して貰えないかビアンに聞いてくれないか?」

 

「それはまたなんでですかね?」

 

伊豆基地で保護しているアゲハ達をビアンに保護してくれないかというレイカーの頼みに武蔵は首を傾げる。

 

「ゲッターD2とメタルビースト・SRXとの戦いで伊豆基地は凄まじい被害を受けた。その上プランタジネットの関係で軍の上官がやってくる事になっているが……そこに鬼がいないとは言い切れない」

 

設備が万全ならば保護を続ける事も出来たがそれも難しい。どこに鬼がいるか判らない以上連邦のほかの基地に預ける事もリスクがあり過ぎる。

 

「判りました。1回ビアンさんに連絡を取って見ます」

 

「すまない。私に任せておいてくれと言って情けない事になってしまった」

 

本来ならば伊豆基地で護り続ける事が出来たのだが、人知を超えた戦いに巻き込まれた伊豆基地は基地としての機能の4割を失ってしまっていた。

 

「だがこれでメタルビースト「あの凄い言いにくいですけど、あいつ多分まだ生きてます」なっ!?」

 

伊豆基地の基地機能を失ったが、これでメタルビースト・SRXを倒せたのならばと言おうとしたレイカーだが、武蔵はその言葉を遮りまだ生きていると口にした。

 

「馬鹿な、HTBキャノンの直撃を受けたんだぞ!? 武蔵、お前の考え違いじゃないのか!?」

 

話を聞いていたテツヤが声を荒げ、武蔵の勘違いではないのかと叫ぶ。だがその気持ちも判る、圧倒的な強者であるメタルビースト・SRXがまだ生きていると思いたくないのは誰もが同じだった。

 

「メタルビーストは見てきた中だと、寄生してそれをベースにして自分の身体を構築した物と、取り込んであるデータを元に無機物と有機物を取り込んで発生するのがあるんですけど、前者なら倒したら寄生されたベースが残るんですよ」

 

失われた時代、そして未来で戦って来た武蔵だがその中で残骸が残る者とそうではない個体を見てきた。だからこそ、武蔵はメタルビースト・SRXが生きていると断言した。

 

「つまり破壊された量産型のSRXの残骸が発見されていないという事が生きていると言う証明ということか」

 

「それに敵は転移で出現して来た、倒される寸前に回収された可能性もある」

 

メカザウルス、百鬼獣などが転移で出現して来たのだ。転移によって回収された可能性は極めて高いと言える。

 

「今度出現するまでにもっと戦力を整えておかなければ……」

 

「今度は負ける可能性があると言うことか……」

 

SRXとゲッターD2の組み合わせでやっと互角、今回の戦いの経験を積んだメタルビースト・SRXが出現すれば敗色濃厚となる……今回は何とか退ける事が出来たが状況は悪化の一途を辿っているのだった……。

 

 

 

 

 

SRX計画の地下ラボにあるブリーフィングルームではなんとも言えない微妙な雰囲気が広がっていた。

 

「きょ、教官、大丈夫なのか?」

 

「あ、ああ……大丈夫だ。問題はない」

 

「いえ、とても大丈夫そうには見えないのですが……」

 

死人のような顔色に両頬に椛を咲かせたイングラムはぐったりとした様子で額に氷嚢を当てていた。

 

「今まで好き勝手して来たんだからこれくらいは当然よ」

 

「ちょっとやりすぎた感じもするけど、私はこれで許すつもりよ」

 

底冷えする笑みを浮かべているヴィレッタとアヤにリュウセイ達は怖いなっと内心思っていたが、それよりも問わなければならない事があると、考えを切り替える。

 

「R-GUNのパイロット……前にどこかで会った事があるって俺はずっと思っていた。気のせいか、勘違いだと最初は思ったけど一撃必殺砲を使って確信した。あいつはレビじゃないのか?」

 

 

念動力による共鳴。ジュデッカとの戦いの中で感じたレビの念をリュウセイはしっかりと記憶していた。

 

「リュウセイ、気のせいではないのか?」

 

「いや。余りにも似すぎてるんだ。俺にはあいつがレビにしか思えない……責めたい訳じゃない、だけど知りたいんだ。隊長、アヤ。あいつはR-GUNのパイロットはレビなのか?」

 

念の共鳴でリュウセイは知っている。レビの心の中が冷たく、暗く、冷え切っていた事を……そして彼女もまた被害者であると言う事を考えれば責めるつもりはない、だがどういう事情なのか、信用出来るのか、何故自分達に何も教えてくれなかったのかと説明を求める。

 

「それは」

 

「アヤ。私から説明するわ」

 

口ごもるアヤにヴィレッタが自分から説明すると口にした時、ブリーフィングルームの扉の開く音とマイを伴ったケンゾウがその姿を見せた。

 

「……ひっ」

 

「大丈夫だ。マイ、私の後ろにいれば良い」

 

「う、うん……」

 

イングラムを見て脅える素振りを見せ、ケンゾウの後ろに隠れるマイ。その姿を見て、リュウセイとライの脳裏にある可能性が過ぎった。

 

「もう既に会っていると思うが改めて紹介しよう。SRXチームの新メンバーになるマイ・コバヤシ。 私の娘であり、アヤの妹だ」

 

「……よ、よろしくお願いします……」

 

おずおずと頭を下げる姿は小動物のようであり、脅えが見えていてリュウセイ達の疑惑が確信へと変わる。

 

「マイ……以後、お前は彼らと行動を共にし、ハガネに乗れ。良いな?」

 

「判った……父様」

 

幼子に言い聞かせるようなケンゾウの素振りは15歳ほどの少女への対応ではなく、本当に幼い少女に向けるような態度だった。

 

「ヴィレッタ大尉、マイ、お前達はR-GUNの移送作業を、後は私が引き受けよう」

 

「了解。 行きましょう、マイ」

 

「ああ」

 

リュウセイ達に質問は許さないと言わんばかりにケンゾウはヴィレッタにマイを連れ出すように指示を出し、マイの姿が消えてからケンゾウは改めてリュウセイ達に向き直った。

 

「色々と聞きたい事はあるだろうが黙っていてくれて感謝する」

 

小さく頭を下げるケンゾウの姿にリュウセイは迷いはしたが今までのケンゾウ達のやり取りを見て感じた疑問を問いかけた。

 

「あいつ……もしかして……過去の記憶が無いのか?」

 

マイは姿こそ10代後半だが、どう見てもその精神年齢はもっと幼い、肉体年齢とかみ合わない精神年齢を見れば記憶喪失を疑うのはある意味当然の事だった。

 

「そうだ。 コアから排除される以前の記憶を失っている」

 

「コア……それはもしや?」

 

「ああ、ライ。お前の思うとおりオペレーションSRWで撃墜したホワイトデスクロス……いや、ネビーイームの中枢でもあるジュデッカのコアだ。あれには撃墜された時にパイロットの保護及び再生、修復がプログラミングされている筈だ」

 

額に氷嚢を当てたままでイングラムがジュデッカの機能について詳しく説明する。

 

「随分と詳しいのだな。イングラム少佐」

 

「……操られている間に頭に叩き込まれたんでな。忘れられたくても忘れれる物ではない」

 

本当はもっと複雑な事情があるのだが、それを口にすれば更なる混乱が広がるのでイングラムはそれを口にせずに自嘲気味に小さく笑った。

 

「それでそのコアって奴を何で回収したのですか。普通に考えれば破壊するべきでは?」

 

ジュデッカのコアを回収すると言う事はリスクがある行為にしか思えず、何故回収したのかとライが問いかける。

 

「それに関してなんだけど、アイドネウス島の海に沈んでいるかもしれないゲッターロボの残骸を探している間に私が見つけたの」

 

リュウセイがアルブレードの開発に協力し、ライが新教導隊に参加している間の出来事なのだとアヤが呟いた。

 

「あの時はゲッター線で出来たゲッター1が急に現れ、アヤを導くようにあるポイントに案内した」

 

「ではそこにジュデッカのコアが?」

 

「その通りだ。そこにジュデッカのコアが沈んでおり、周囲のゲッター線反応も非常に強かった。アイドネウス島の数十倍のゲッター線反応が感知されていた」

 

「……無理も無かろう、ジュデッカを撃墜した時の攻撃を考えればな、だがそれで得心がいった。何故レビにならなかったかが判ったぞ」

 

再生されるのならばレビになる筈なのに、マイになった理由が判ったとイングラムが口にするとケンゾウとアヤの視線が同時にイングラムに向けられた。

 

「どういうことなのだ? イングラム少佐」

 

「判っている事があるのなら教えてください、教官」

 

氷嚢を机の上に置き、イングラムは姿勢を正してケンゾウ達に視線を向けた。

 

「ゲッター線は放射線であることが判っているが、人類……正確には地球人にのみ無害と言っても良い、現にコウキやラドラが体調不良を訴えているそうじゃないか、そこは確認しているのか? ケンゾウ博士」

 

「あ、ああ。確かに軽度だが、放射線障害らしきものが確認されている」

 

元百鬼帝国、そして恐竜帝国のコウキとラドラが体調不良を訴えている事から、地球人の姿をしていても何らかの被害が発生するの確実と考えていい筈だとイングラムは自身の考察も交えて話を続ける。

 

「エアロゲイターはゲッター線を欲していたが、恐らく重度の障害を負う事になるだろう。これは恐らくインスペクターも同じだが……余りに高密度のゲッター線はあいつらにとって毒になる。それ故にオペレーションSRWの時の最終局面のゲッター1の攻撃でジュデッカは恐らく深刻なダメージを受けたのだろう」

 

ゲッター線が真ゲッターの形をとり、ストナーサンシャインを撃ち込んだことを考えればジュデッカの受けたダメージは相当深刻だった筈。

 

「周囲にはセプタギンの残骸も発見されている。恐らくだがゲッターとSRXにより深刻なダメージを受け、ジュデッカは自力で再生するだけの能力が無く、セプタギンがジュデッカを回収し、再生していたと言うのが私達の見解だ」

 

「恐らくそれで間違いはないだろう」

 

解析と分析を繰り返し、ケンゾウ達が導き出した答えだが、イングラムもそれが正しいだろうと同意し、ケンゾウは話を続ける。

 

「僅かに回収されたゲッター合金とジュデッカのコアをR-3がゲッター線に導かれ発見し、それが回収され、 私のラボへ持ち込まれたのだ。そしてコアの解析中にコックピットから排出されたマイはレビ・トーラーへ至る前の段階で止まっていたのだ」

 

ジュデッカにはレビを再生、いや復元するプログラムがあったが度重なるダメージとゲッター線の影響でジュデッカに保管されているレビのデータが消失していた。それ故に再生作業は中途半端な所で止まり、そのままでは死に至る寸前でアヤ達が回収する事に成功していた。

 

「前の段階? では……?」

 

「そう……私の妹、マイよ。彼女はレビじゃない」

 

レビになる前にマイとして蘇る事が出来た。だからレビじゃないとアヤは強く断言する。

 

「彼女はマイとしての自我を持っているが、再生される前の記憶は失っているし、精神面も見たとおり幼い少女の物だ」

 

「じゃあ、 ホワイトスターにいた時の事も覚えてねえってのか?」

 

マイ=レビではないと繰り返し言うケンゾウにリュウセイが突っ込んだ質問をする。するとケンゾウもアヤも苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 

「大尉……彼女にはレビ・トーラーの事を?」

 

自分ではない自分の事で、マイを混乱させるだけになる可能性が高いが、ライはアヤ達にレビの事を教えたのか? と問いかけるとアヤは首を左右に振った。

 

「じゃあ、 あいつは何も知らないまま R-GUNに乗ってるのかよッ!? それは幾らなんでも酷すぎるだろッ! それならPTなんかに乗せないで家族として護ってやれば良いじゃないか! 何でまた戦わせるんだッ!」

 

記憶喪失で精神面も幼いというのに何故PTに乗せるのだとリュウセイが声を荒げる。念動力の共鳴で冷え切ったレビの心を感じていただけにリュウセイの怒りは強い物だった。

 

「落ち着け、リュウセイ。アヤとケンゾウ博士も苦渋の決断の筈だ」

 

「でもッ!」

 

「落ち着けと言っている。お前が怒っているように、アヤとケンゾウ博士も苦しみ、悩みぬいた上の決断であると知れ」

 

イングラムにそう言われ、リュウセイは頭に上っていた血が少し下がり、すまねえと謝罪の言葉を口にした。

 

「……大尉、ケンゾウ博士。マイに関してですが我々と行動を共にすれば、 彼女はいずれ事実を知ることになると思いますが……それでもなのですか?」

 

レビ・トーラーと戦っているキョウスケ達は面識こそないが、その雰囲気などは覚えているだろうし、念動力を駆使する姿、そしてアヤの妹と言う事を明らかにすれば誰かが真実に辿り着く、そうなればレビ=マイと言う事を隠し通すことは出来ない。

 

「そう……隠し通すことは出来ないわ。だけど私はレビの事をマイに教えたくないの……きっと苦しむ事になる」

 

「じゃあ、何でだ!?  なんで戦わせる! 何で本当のことを教えずにあいつを戦わせようとするんだッ!? アヤッ! これじゃ、 やってる事はジュデッカやスクールと同じじゃねえかッ!」

 

レビの苦しみも、そしてマイの不安と恐怖もリュウセイは感じ取っていた。だからこそリュウセイは己の事のように怒りを露にする、言葉等ではなく、念動力を通じ、心と心で感じ取ったからこそリュウセイは己の事のように怒っていた。

 

「事実を知らせず、このまま戦わせようってのか?」

 

「その通りだ」

 

「ふざけんなッ! そんなのはもうたくさんだぜッ!!」

 

どこまでも冷静に、そして冷酷に告げるケンゾウにリュウセイは怒りを露にし拳を握り締め振りかぶる。だがその腕をイングラムが掴んでとめた。

 

「教官! 何で止めるんだよ!」

 

「これが1番マイの身が安全なんだ。どこに百鬼帝国がいるか判らない、そんな中ジュデッカから発見された人間がいると知られれば、百鬼帝国は必ず動く」

 

その言葉にリュウセイとライはハッとしたような表情を浮かべた。

 

「そうなればマイは再びレビとされるだろう、そうさせないためにもハガネで守る事が1番安全であり、そしてマイ自身にも己を護る力を身につける必要があるんだ」

 

百鬼帝国はなんとしてもマイの中のレビを呼び戻そうとするだろう。そうさせないためにもハガネやヒリュウの中で守り、そしてマイ自身に己に降り注ぐ不条理と戦う為の力を身につけさせる必要があった。

 

「ハガネやヒリュウ改のクルーにはまだマイがレビかもしれないと言う事を黙っておいてくれ、まだマイにはすべてを受け入れるだけの心の余裕がない、心が砕け精神的に死んでしまうような事は避けたいのだ」

 

もしも今真実を知ればマイはその真実に耐えられない。それ故に今は真実を隠すという決断をしたケンゾウとアヤも苦しみぬいての判断であり、リュウセイとライはその苦しみを悟り、これ以上アヤ達を責める事は出来なかった。

 

「判った協力する。俺は少しだけどあいつの苦しみが判るかもしれないから……話し相手くらいは出来るかもしれない」

 

「俺も協力します、ですが……やはりハガネで保護するに留め、PTに乗せるのは時期尚早ではないかと俺は思います」

 

ケンゾウとアヤの考えも判るが、同意できない部分もある。それでも今はこれが最善なのだと判断しリュウセイとライもマイの真実を話さない事に同意し、地下ラボを後にする。

 

「少佐はどう思いますか?」

 

「俺でも同じ決断をするだろう。それしか彼女を護る術がないからな」

 

マイの存在は連邦にとっても切り札であると同時に爆弾でもある。オペレーションプランタジネットを控え、大きな問題がSRXチームの中に生まれるのだった……。

 

 

第141話 2柱の戦神と漆黒の猟犬 その5へ続く

 

 




次回は引き続きシナリオエンドデモを続けていこうと思います。リョウトとかキョウスケ達の話をしつつ、エキドナを久しぶりにメインで使おうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


PS

陽電子砲を狙いがちゃをしていたら何時の間にかパックマンのSSRが+5になっていた

このガチャの偏りに恐怖しかありません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第141話 2柱の戦神と漆黒の猟犬 その5

第141話 2柱の戦神と漆黒の猟犬 その5

 

 

伊豆基地のブリーフィングルームに狂気を滲ませた老人の笑い声が響いた。

 

「カカカカカッ!! 随分と無茶をするのう武蔵ぃ。ゲッター線を十分に補充しないで良く戦ったもんじゃなあ!!」

 

「しゃあねえだろ、シキシマ博士よう。そうするしかなかったんだよ、まだ戦いも終わってねえのにくたばれねえからな」

 

「カカカカカ。そうじゃな、その通りじゃ!! くっくっく……これがゲッターパイロット……くっははははははッ! 頭のねじが吹っ飛んでおるわッ!!」

 

バンバンと呵呵大笑しながらシキシマは武蔵の背中をバシバシと叩く、武蔵は少し痛みに顔を歪めるがその顔は楽しそうだ。

 

「やっぱあんた敷島博士に似てるぜ」

 

「そりゃ最高の褒め言葉じゃなッ!!!」

 

心底楽しそうに笑うシキシマだったが、急に真顔になり思案顔になる。

 

「新西暦でゲッター線を感知しているポイントは非常に少ない。自然に降り注ぐゲッター線は極めて微量じゃ、ゲッターD2のエネルギーを回復させるには相当な時間が掛かるぞい?」

 

「やっぱりか……なんとかならねえかな? シキシマ博士」

 

ブリーフィングルームでの議題は超機人とゲッターロボに関する物だった。新西暦でのゲッター線の権威はシキシマしかおらず、それも考察が多く武蔵と話をすり合わせて確かな成果にしようとしていた。

 

「武蔵、ゲッターは本調子じゃなかったのか?」

 

「ん、んーまぁぶっちゃけるとそうですね。ゲッターD2はめちゃくちゃ強いですけど、その分めちゃくちゃエネルギーを消耗するんですよ。ある程度は自分で回復してくれるんですけど……メタルビースト・SRXを相手にしてガス欠しちゃいましたからね」

 

「とりあえず今の段階でもある程度は動けるが、精々グルンガストに毛が生えたくらいじゃな。ビームも使えんし、得意な機動も出来んとかなり弱体化しておるわ」

 

エネルギーがそこを付いてもなおグルンガストよりも強いと言う言葉にイルム達はまじかという表情を浮かべるが、ゲッターD2は真ドラゴンの試作機の1機であり、真ゲッターに匹敵するパワーを有している。しかも早乙女博士はビアンよりも天災ということもあり、ロストテクノロジーであると同時にオーバーテクノロジーでもあった。

 

「シキシマ博士、ご質問なのですが普通に降り注いでるゲッター線でフルパワーになるにはどれくらい掛かるんですの?」

 

「ん、そうじゃなあ……軽く試算して……7年じゃな」

 

「「「「7年ンンン!?!?」」」」

 

7年という規格外な年数がシキシマの口から飛び出し、信じられないと言う絶叫が響き渡る。

 

「やっぱりかあ……じゃあゲッター線の濃度の濃い場所は?」

 

「アイドネウス島が1番濃いが連邦の管理下で立ち入り禁止じゃし、蚩尤塚はたまーに高反応が出るがいまいち。少なくとも地球で純度の高いゲッター線はないの」

 

シキシマの言葉に武蔵はだはあっと深く肩を落とした。メタルビースト・SRX、そして悪の超機人と戦うには今のゲッターでは足りないと武蔵は感じていた。パイロットが揃わないのなら、最低でもエネルギーだけでもと思ったのだが、それすらも叶わないと知りがっくりと肩を落とし、深い溜め息をはいた。

 

「大丈夫ですか? 武蔵様」

 

「いやまあさぁ、判っていた事ではあるんだけど面と向かって言われると大分ショックでさあ」

 

「まぁ手がない訳ではないぞ?」

 

もったいぶるように言うシキシマにあるのかよっと言う突っ込みがあちこちから上がる。

 

「コウキの鉄甲鬼を増幅炉にすると言う「却下。俺の機体が使えなくなるだろうが」……まぁと言う訳で机上の空論じゃな。一番確実なのはテスラ研を奪還し、炉心を手に入れれば安定してゲッターのエネルギーも補充出来るだろう」

 

「でもそれって今すぐは無理ってことなんだろ。参ったなあ……」

 

「なぜそんなに焦るんだ? 少しの休暇と思ったらどうだ?」

 

「ユーリアさん、いやまあ、オイラもそれが出来れば1番良いと思ってはいるんですよ。だけど……なんか凄い嫌な予感がするんですよねぇ……」

 

「それなんか凄い不吉な感じがするわね」

 

「確かにな……あれだけの襲撃の後で同規模の襲撃が続くとでも言うのか?」

 

「判らないんですよ、でも何か、それもとんでもなく不味い事が起きようとしてるような気がするんですよね……」

 

武蔵が焦りを感じる何かが、この伊豆基地に迫ろうとしている。武蔵の言葉を聞いてキョウスケ達の顔が固く強張った、その時パンパンと手を叩く音が響き全員が顔を上げるとエリがブリーフィングルームの入り口に立っていた。

 

「思う事はあると思いますし、不安もあると思います。ですが私達は出来る事を全力でやるしかないのではないでしょうか? そう、私に

出来ること……超機人についての事をまとめて来ましたよ。今お話してもよろしいですか?」

 

龍虎王達と異なる超機人――饕餮王達の事を調べて来たエリの言葉がブリーフィングルームに響くのだった……。

 

 

 

 

日本近海で目撃された饕餮鬼皇、鯀鬼皇、共行王の悪の超機人について調べていたエリがモニターの前に立ち、古い文献を映し出す。

 

「まずですが、鯀王、共行王に関しては完全な悪の超機人とは言えないというのが文献によって判りました」

 

悪の超機人とは言えないと言うエリの言葉、そして鯀鬼皇と共行王の立ち回りを見ていると確かに悪とは言い切れないとキョウスケ達も感じていた。

 

「だが決して善とも言えないのではないですか?」

 

「そこがまず間違いなのです。善も悪も表裏一体、ある側面から見れば善は悪であり、悪は正義です。鯀鬼皇や共行王は悪に属しますが、それであると同時に神でもあります、そしてこんな事を言うのはなんですが……悪の象徴として鯀王達は存在していたのかもしれません」

 

明確な悪が存在すれば善の神はより大きな信仰を得る事に繋がる。人は善である事を望み、そしてそのために悪を欲する。

 

「スケープゴートとして作られたという事ですか。アンザイ博士」

 

「そうだとしたら胸糞わりい話だな」

 

悪であれと作られた超機人だとすれば、それはそれを作り出した過去の人間に責任があるのではないかという意見があちこちから聞こえる。

 

「百鬼帝国によって知恵を得たと鯀鬼皇は言っていたそうですね、つまりそれ以前に関しては憶測になりますが与えられた命令、あるいは根底にあるプログラムに基づいて動いていた可能性があります。現在は百鬼帝国の改造によって悪神ではありますが神としての矜持を得たのかもしれません」

 

皮肉な話ではあるが、百鬼帝国によって神としての矜持と知性を得て、鯀王達は本当の意味で王であり、そして神へとなりえたようだ。

 

「エリさん、じゃあの饕餮とかいう奴は?」

 

「あれは四凶に含まれ、元々は妖機人であり、それを改修した物になるので元々悪であるということですね。ここは難しい所ですが、私はそう解釈しました」

 

性犯罪者のような発言を繰り返す饕餮鬼皇に同情の余地などないが、元々悪である者を改修したというのはやはり無謀がすぎたように思える。

 

「アンザイ博士、では何故古代中国人は敵である者まで改修し、己の戦力としようとしたのですが?」

 

「確かになぁ、普通に反逆されるって判ってるようなもんだよなあ」

 

元々が妖機人であるというのならばブリットとタスクの言う通り、100%反逆すると判っている相手を何故自軍の戦力にしようとしたのかという大きな疑問が生まれる。

 

「それに関しては羅喉神……つまりはインベーダーやアインストが関係していると推測されます」

 

「ここでアインストとインベーダーが絡んでくるって事か……確かにあいつらはかなりやばかった」

 

無機物、有機物関係なしに寄生し、己の同族とするインベーダー、そしてアインストは言うまでも無く危険な存在だ。

 

「だとしても取り込まれたら結局同じなんじゃないかな?」

 

「いや、こう考えられるぞ、リョウト。元々敵で寄生されたのなら遠隔操作で破壊すれば良い、そうすれば後腐れがない。アンザイ博士、俺の考えはどうだ?」

 

非道ではある。だが味方に被害を及ばせず、敵陣に打撃を与えるのならばイルムの考えは決して間違いではない。人道的ではないと言うが相手は化け物なのだから、化け物を利用しようと考えるのはある意味至極当然と言えた。

 

「そこに関しては私は良く判りません。シキシマ博士はどうですか?」

 

「そうじゃあの、ゲッターロボが出現するまでは人間側の不利、ゲッターロボが出現してから徐々に押し返していったというところじゃなとは言え文献を解析中だから確かな事は言えんがな」

 

過去でもゲッターロボが大きな転換期となっている。直接見たわけではないので考察が多くなるが、新西暦でも旧西暦でも、そして古代中国でもゲッターロボの存在は大きなキーパーソンとなっていた。

 

「ここまでゲッターが絡んでくるとどういうことなのかって思うわよね」

 

「確かにな、武蔵が現れてから、いやきっとその予兆はどこかにあったのかもしれんが……俺達の理解を超える何かの思惑があるように思えてくるな」

 

確信はない、そして証拠があるわけでもない。だが自分達の戦いが何か大きな存在の意志によって促されているような……いやもっと言えば……。

 

「まるで私達が倒せるかどうかの敵を差し向けられているような気がするよ」

 

「いや、それは考えすぎ……」

 

「とは言えないかもしれないな」

 

勝っても負けても良いと言わんばかり、抗う事を願っているかもしれない。だけど負けたならそれでしょうがないという諦観さえも感じさせる何かを誰もが感じていた。

 

「それがもしかすると龍帝、皇帝と呼ばれるゲッターの意志なのかもしれんの」

 

「選ばれた者、選ばれなかった者……もしかすると私達人類は今篩いに掛けられているのかもしれないですね……」

 

大きな不安を前にネガティブになっている事は否定出来なかったが、蚩尤塚の地下に眠る廃棄されたゲッターロボ、そして発見される数多の文献……そして意志を持つエネルギーゲッター線。それらが全て繋がっているかもしれないと……。

 

「待って待って操られてた私が言う事じゃないと思うけど、あんまり不安に思いすぎるのも良くないと思うわよ。それにほら、そんなに不安に思っているとその通りになるとも言うしね。それに悪いニュースばかりに着目するのは良くないと思うわよ」

 

不安が広がり始めた所でエクセレンの明るい声が響く、確かに悪い事が続いているがその中でも良いニュースも確かに存在している。だから俯かず前を向いて行きましょうというエクセレンの言葉で僅かだが、ブリーフィングルームに明るさが戻ってくるのだった……。

 

 

 

 

薄暗い闇の中でティス、ラリアー、デスピニスの3人は震えながら跪いていた。

 

「デュミナス様。メタルビースト・SRXを大破させてしまい……まことに申し訳ありませんでした」

 

ギリギリ転移で回収したメタルビースト・SRXはR-SWORDによる一閃の傷痕、そして一撃必殺砲による胴体の消失と死ぬ一歩手前の様子でティス達はデュミナスに叱責されると恐怖し、脅えていた。しかしデュミナスの返答は明るい物だった。

 

「良くやってくれましたティス、ラリアー、デスピニス。疲れたでしょう、ゆっくりと休んでください」

 

「「「え?」」」

 

怒られる所か褒められ、ゆっくりと休めと言われティス達は驚きに顔を上げる。

 

「デュミナス様……あたい達は失敗を……」

 

「いいえ、失敗ではありません。これで良いのです」

 

メタルビースト・SRXを失いかけたのに何故褒められるのか判らないと言う様子のティス達を見てデュミナスは小さく笑った。

 

「メタルビースト・SRXは私に対しても反抗的でした。ですが、これで判った筈です、自分1人では勝てないと」

 

確かにメタルビースト・SRXは自己増殖・自己進化が可能な極めて強力なインベーダーだ。だが自身のコピーはさほど強くなく、フィードバックに時間が掛かる、そして自身と同格の強さの敵が複数いれば数の差で負ける。今回の出撃でメタルビースト・SRXは学習した筈、己の力の限界をとデュミナスはティス達に言って聞かせる。

 

「では今回の出撃命令は」

 

「その通りです。メタルビースト・SRXを完全に手中に納める為の物です」

 

獣であるメタルビースト・SRXを従えるのは力を見せなければならない、そしてデュミナスは力を見せたがそれでも反抗的だった。ゆえに自分は負けないと言うメタルビースト・SRXの自尊心を折る必要があったのだ。

 

「お疲れ様でした。休んでくれて良いです、後は私がやりますので」

 

ティス達にもう1度休むように命じ、デュミナスは虫の息で修復を始めてるメタルビースト・SRXを見下ろした。

 

「これで判ったでしょう、貴方1人では勝てないと」

 

【キ、シャアア……】

 

息も絶え絶えという様子だがメタルビースト・SRXは返事を返す。その様子を見てデュミナスは翼を広げる。

 

「私に今度こそ従うのです。そうすれば負けないだけの力を与えましょう。しかしまだ逆らうというのならば……お前は必要ない」

 

バチバチとエネルギーが放電する音が闇の中に響き、メタルビースト・SRXは頭を垂れた。自分の主君は、主はデュミナスだと認めたのだ。

 

「よろしい、では貴方に餌を与えましょう。そしてより強くなるのです、貴方はまだ未完成、完全体へと至るのです」

 

デュミナスによって複製された量産型SRX――いや、量産型SRXのデータベースの中に残されていた完成したSRアルタードのデータを元にしたまだ完成していない筈の、そして存在しない筈の存在SRアルタードだ。

 

(とはいえ、皮だけですがね)

 

トロニウムエンジンも、T-LINKシステムもない、もっと言えば武装は張りぼて、そして中身はほぼ空っぽ。だがそれで良いのだ、足りない部分はメタルビースト・SRX自体が補い、限りなく真作に近い贋作へと至る。そしてそこから更に進化する事でメタルビースト・SRXはメタルビースト・アルタードへと変化するのだ。

 

「さぁ、私に従えばこれを与えましょう」

 

【……キシャアア】

 

己を強化するためには、そして生き延びる為には、そして戦って勝つ為にはデュミナスに従うのが最善と判断したメタルビースト・SRXはボロボロの身体で膝をつき、頭を垂れる。それは君主に頭を垂れる騎士の様な様相をしており、その姿を見てデュミナスは笑った。

 

「よろしい、では貴方の忠誠を願ってこれを与えましょう」

 

バリアが解除され、地響きを立てて着地したSRアルタードに向かってメタルビースト・SRXは触手を伸ばし己の身体に取り込み修復と進化を始める。その姿をデュミナスは何の感情も宿していない瞳で見つめ続けているのだった。

 

 

 

政治家御用達の会員制の高級レストランにブライとそして共行王、鯀鬼皇が人になった姿で同じ席に腰を下ろしていた。

 

「お主、見かけによらず随分とグルメじゃな?」

 

「どうせ食うのなら美味い物を食いたいと思うのは当然の事だろう? 共行王」

 

ナイフとフォークを机の上に置き、ブライはナプキンで口を拭う。

 

「テーブルマナーは苦手かね?」

 

「我の時代にこんなものは無かったからな」

 

絹のような光沢を持つ黒髪をした覇気……いや、王気に溢れた青年がなれない素振りでフォークとナイフを駆使し料理を口に運ぶ。

 

「だがこの味は悪くない。少なくとも妖機人や超機人、そして人間よりは美味い」

 

「まぁあれは私らに取っては存在を維持する為の物で美味いものではないわな」

 

鯀鬼皇の言葉に共行王が同意し、赤ワインを口に含み満足げに笑う。

 

「所で鬼よ、何故饕餮はおらんのだ?」

 

「……あいつはマナーもクソも無く、下品な食事をする。あんな者と食事を共にする趣味はない」

 

それに味もどうでもいいという輩に高級なレストランの繊細な味は判らないだろうとブライは笑う。

 

「所で随分と面白いことを言っていたな」

 

「面白い? ああ、鬼も潰すという事か、それに嘘偽りはないぞ」

 

ブライと鯀鬼皇の間に重々しい気配が広がるが、それを共行王が手を叩き制す。

 

「やめんか、今は食事の時。血生臭いのはごめんだ」

 

2人の首筋に冷たい氷の刃を突きつけながら言う共行王に2人は揃って手を上げた。

 

「判ったから止めてくれないかね?」

 

「悪かった」

 

「判れば良い」

 

空中から伸びていた刃はそのまま消え去り、共行王は自然な素振りでステーキを切り分け口元に運ぶ。

 

「元々そういう契約なのだから私に思う事はない。全てが終わり次第その戦いを始めようではないか」

 

「判っている。まずはバラル、次にゲッターロボだ。それが終わるまでは停戦だ」

 

蘇らせたのは間違いなくブライと百鬼帝国だが、その事により知性とより明確な自我を得た共行王達は紛れも無くブライと同格の指導者であり、旧西暦でのワンマンによる壊滅を防ぐ1つの要因となっていた。

 

「さてと、今回なのだが2人に頼みがあってね」

 

「またかあ? 偶に空振りをするのは止めてくれんかの?」

 

「然り、もっと事前調査をするのはどうだ?」

 

2人の言葉にブライは肩を竦め、苦笑いを浮かべる。

 

「それは私も判っているが、早々上手く行くものではなくてね。ただ今回は当たりだと私は思っているよ」

 

百鬼獣はダヴィーンの戦闘用ロボをベースに製造された物と、新西暦の技術で複製した物の2種類が存在する。戦闘力で言えば前者だが、安定して製造出来るのは後者だ。何故ならばダヴィーンの遺産は深海や地下などに眠っており、それを発見、発掘するのは容易ではないからだ。

 

「とにかくダヴィーンの遺産を探して欲しい。今度こそ上手く行くと思っているからね」

 

「まぁお前が言うのなら私は構わんよ。身体に慣れる練習にもなる」

 

「契約内容であるからこそ文句は言わんよ。引き受けた」

 

ブラックゲッターが沈んでいた海溝の近くにもダヴィーンの戦闘母艦の反応があったが、戦闘の影響で大破してしまい残骸をいくつか回収するだけに留まった。鯀鬼皇は発見こそ出来たが莫大な被害が予想され回収出来ないと言う状況だった。

 

「早く他の超機人も蘇らせたくてね。大変だと思うがよろしく頼むよ」

 

超機人を蘇らせるには前者ではなくてはならない、魂はほぼほぼ回収できたが器がなければ意味がない。それ故にブライは人間や鬼では辿り着けない場所に眠っているダヴィーンの遺産を回収出来る共行王達に頭を下げる。

 

「ならばまずはもう1品貰うとするかの」

 

「肉が足りん」

 

「やれやれ、フルコースで足りんという奴など見たことがないぞ」

 

気心が知れた友人というには血生臭い、だがYESマンだけではなく対等な立場で接してくる2人にブライは小さく微笑み、ウェイターを呼ぶためのベルを鳴らすのだった……。

 

一方その頃1度日本を離れたクロガネのブリーフィングルームではカーウァイがビアンの頼みを尋ね返していた。

 

「私だけ日本に? 急にどうしたんだビアン所長」

 

「うむ、伊豆基地がメタルビースト・SRXにより甚大な被害を受けて基地機能の大半を失ったそうでな。何人か保護している人材をこちらで預かって欲しいそうだ。しかしクロガネで迎えに行くわけにもいかん」

 

「それで私ということか」

 

「ああ、ゼンガー達はテスラ研奪還作戦の為に動いているし、バン大佐達はネオゲッターの熟練運転中だ。トロイエ隊とLB隊だけを単独で動かすにも不安がある」

 

百鬼獣や、連邦軍に見つかる可能性があるので自由に動けるとは言え、LB隊やトロイエ隊だけを動かすのは不安があると言うビアンの不安も納得だ。

 

「後ゲッターD2の炉心のエネルギーが枯渇したそうなので、小型のゲッター炉心を運んで欲しいと言うのもある」

 

メタルビースト・SRXと戦ったのならばゲッターD2が主戦力になっている筈。そうなればゲッター線が枯渇したのも当然だとカーウァイは頷いた。

 

「判った、移動はどうなる?」

 

「高速艇キラーホエールを用意する。それと念の為にゲシュペンスト・タイプSの他にヴァルキリオンとジーク・ガーリオンを2機ずつ搭載する。かなり難しいと思うが頼むぞカーウァイ大佐」

 

「ああ。任せてくれ、準備が出来次第出発する」

 

武蔵を助ける為、そして百鬼帝国を知る生き証人を保護する為にカーウァイ達はクロガネを後にしたのだが、伊豆基地に辿り着いた時……そこに武蔵とゲッターD2の姿は存在していないのだった……。

 

 

第142話 壊れた人形、壊れる事を望んだ人形 その1へ続く

 

 




今回はシナリオエンドデモ+次の話のフラグと伏線の準備の話でした。次回は壊れた人形、壊れる事を望んだ人形とラミアの自爆のくだりに入って行こうと思います。ここもかなりアレンジする事になりますが、飽きさせないように頑張りたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第142話 壊れた人形、壊れる事を望んだ人形 その1

第142話 壊れた人形、壊れる事を望んだ人形 その1

 

薄暗い部屋の中でキーボードを叩く音だけが木霊する。部屋の主はブライであり、PCの明かりだけだがその目は爛々と輝いていた。

 

「さて……どうしたものかな」

 

脇に用意しているコーヒーを口にし、ブライは誰に聞かせるでもなくそう呟いた。1人で作業をしていれば知らずのうちに独り言を口にしてしまう、これは鬼になる前のうだつの上がらない研究者時代からの癖だった。

 

「……まぁ、それも良かろう」

 

百鬼帝国の指導者、連邦議会の議員、慈善事業家という様々な顔を持っていても、最初の顔はどうしても忘れられない物だと苦笑し、ブライは背もたれに背中を預ける。

 

「プランタジネットは順調に進んでいる。私の計画通りにな」

 

ハガネやシロガネという突出戦力にノイエDCは向けていない、戦力の差で負けると分かっている相手に貴重な駒を捨てるほどブライは愚かではない。どうせ捕虜にされるくらいならば鬼に改造したり、超機人の餌にした方がよっぽど有意義だからだ。

 

「問題はタイミングだな……ここからは札の切り所を間違える訳にはいかん」

 

長い時間を掛けてブライは様々な策略を練り、そして心優しい政治家と顔を作り出した。それらを最も有効的に使う時が刻一刻と迫っている。だが切るタイミングを間違えれば用意し続けた札は屑札になる……ブライはそれが我慢出来なかった。下げたくない頭を下げ、媚び諂った若手時代、議員に始めて当選し、そこからの長い時間全てが準備時間だった。その苦労をその屈辱が全て報われなくてはならない。

 

「まずはブライアン大統領には死なない程度に傷を負って貰うとするか」

 

プランタジネットの裏で邪魔者でありブライアン・ミッドクリッドを排除する。恐らくプランタジネットでヴィンデル達も動くだろうが、それも好きにさせる。ハガネ達を潰せるのならばそれもよし、無理ならばそれでもよし、ただゲッターロボを無力化できるという自信があると言うのならばそれを見届けてみるのも悪くないとブライは考えていた。

 

「ムーンクレイドルもアースクレイドルもほぼ私の手中、月面に残された人間も鬼への改造が終了しつつある」

 

朱王鬼と玄王鬼には月面の人間を好きにして良いと指示を出している。恐らく自分達の判断で鬼への改造を進めているだろうし、人間をあえて鬼にせず家族同士や仲間同士での殺し合いなどをさせているのだろうが、それも良かろう、大事なのはムーンクレイドルの設備であり人間ではない。それにインスペクターに譲り渡した段階でムーンクレイドルの役割は済んでいる。

 

「……だが懸念材料もある」

 

ノイエDC――いやビアンに扮している五本鬼はブライの配下などでどうでもなるし、交渉を任されているグライエンも鬼だ。どんな展開ブライの思い通りになるのは当然の事だ。

 

「……ふぅむ……」

 

伊豆基地を無力化、あるいは伊豆基地のレイカーを鬼に成り代わらせたい所だが、伊豆基地は武蔵の拠点でありゲッター線の濃度も高いことを考えると鬼を送り込んでも長時間の成り代わりは持たないことを考えると成り代わりは得策ではない……。

 

「では正義の味方の弱点をつくことにするかな」

 

正義の味方ならば、善性を信じるものならば逆らえぬ一手を打てば良い、簡単な話なのだ。自主的にプランタジネットに参加させ、インスペクターと百鬼帝国、そしてシャドウミラーで囲む。それだけで詰み、後は時を見て鬼に改造すればブライの手持ちの戦力は大きく増強できる。

 

「問題はシャドウミラーも同じことを考えていると言うことか、まぁ、大したことは無いがね」

 

突出戦力であるハガネ達はどの陣営も欲しいと思っている、インスペクターも、シャドウミラーも、そしてアインストとインベーダーもだ。プランタジネットは反攻作戦ではない、自分達の邪魔をする一団を集めて刈り取る為の舞台装置と言っても過言ではない。

 

「……何、心配はない、今度は上手くやるさ。そのために準備をして来たんだろう、ブライ」

 

ブライにはゲッターロボGに敗れた記憶も、そしてゲッター線に取り込まれた記憶もある、そしてもっと言えば異形の化け物となりゴールと融合し、真ゲッターと戦った記憶もある。

 

「分かっている、判っているさ。私に任せておけ、私は上手くやる何もかも利用してな」

 

様々な世界の「ブライ」の集合体――それがフラスコの世界のブライの正体である。だからこそ様々な知識、英知、そして理解しきれていなかったダヴィーンの遺産も今ならば十分に理解している。

 

「不安材料、懸念、大いに結構。それに臆して好機を逃がすほど馬鹿ではない」

 

これだけ様々な陣営が入り乱れているのだ。全てが全て自分の計画通りになると思うほどブライは馬鹿ではないし、楽観的ではない。

 

万全の策を用意した所でどこかでそれは綻びがあるかもしれない。

 

どこかで自分を上回る策を持ち漁夫の利を狙ってくる者がいるかもしれない。

 

策なんて関係ないと圧倒的な力でそれを捻じ伏せる者がいるかもしれない。

 

だが心配はない……何故ならば「ブライ」はそれを全て知っているから挫折も敗北も屈辱も全てをブライは知っている。

 

「……真の皇帝はうろたえない。裏切り、謀略……大いに結構。私はそのすべてを凌駕してみせる」

 

この世界でブライは勝利者、挫折を知らない男と言われているがそうではない、ブライは常に「敗者」だった。だからこそ貪欲に勝利する事を諦めない、この世界のブライはどんな世界のブライよりも遥かに強かで、そして遥かに狡猾な全ての「ブライ」という鬼の集合体だった。

 

「そう私は何もかも利用する。例え怨敵でさえもだ」

 

ブライの操作しているPCのモニターに映し出されていたもの、それは何かの機動兵器の設計図であり……その姿はどことなくゲッターロボに酷似した物なのだった……。

 

 

 

 

アースクレイドルではプランタジネットに備え、シャドウミラー、百鬼帝国、ノイエDCが忙しく動き回っていた。そんな中レモンは何かを考え込む素振りを見えていた。

 

(どう考えても今の段階での勝算はほぼ無いわよねぇ)

 

百鬼帝国が最大戦力であり、シャドウミラーとノイエDC、正確にはノイエDCは百鬼帝国の傘下なので大した差は無いが、アースクレイドルには3つ、いや、イーグレットを含めると4つ、超機人まで数えると5つの陣営が存在していた。その中でシャドウミラーは最も弱いと言っても良い、出し抜くにも戦力が足りず、そしてエースと呼ばれるパイロットも決して多くはない。切り札の転移システムこそあれど、それだけで勝利出来るほど甘いものではないと言うのはレモンも分かっていた。

 

(作戦を変えるつもりがないんだもんなぁ……)

 

ラミアを使いハガネ、シロガネ、ヒリュウ改、そしてゲッターロボを手に入れるというヴィンデルの作戦に変更はない、鬼が伊豆基地に仕掛けることは判っているのでそれを利用すると考えているようだがレモンはそれにも不安を感じていた。

 

(ブライは化け物よ、私達の考えなんて簡単に読んでいるはず……)

 

それでもあえて泳がせているブライにレモンは恐怖する。余りにも指導者としての格が違う……ヴィンデルのカリスマ性は窮地だったからこそ、支えの欲しいと迷う相手には効果を発揮していたが、今の恵まれている新西暦ではそのカリスマ性なんてあってないものと言ってもいい。アクセルが従っているのはキョウスケと決着をつけたいからこそだし、レモンでさえもヴィンデルから距離を取ったほうが良いのではと考え始めているのも事実だった。

 

「ん? これって!?」

 

そんな中レモンの端末に通信が入り、ヴィンデルかと溜め息を吐きながら通信機を見たレモンはそこに表示されているエキドナの文字に驚き、隠れるように自室へと戻った。

 

「もしもしエキドナ?」

 

『……レモン様、お久しぶりです』

 

聞こえて来た声は紛れも無くエキドナの物だ。その声に小さく微笑んだレモンは椅子に座り、ゆっくりと話す姿勢になる。

 

「気分はどう? どこか身体の調子が悪かったりする?」

 

『い、いえ、大丈夫です。長い間連絡出来ず申し訳ありませんでした』

 

「良いのよ、そんな事は気にしないで、でも一応何があったのかだけ聞いてもいい?」

 

何故こんなにも長い間連絡が無かったのかとレモンが問いかけるのだが、エキドナはそれに返事を返さない。

 

「エキドナ?」

 

『……私はやります。レモン様に命じられた通りにドラゴンを、武蔵を無力化します。それが私が命じられた事だから』

 

固い口調で、エキドナではない、W-16だった時の声で言うエキドナにレモンは目を細めた。

 

「そうね、私はそれを命じた。でも……「それでいいの」?」

 

ラミアからの報告でエキドナが記憶を失い、シャインやユーリアと喧嘩しながらも武蔵と楽しく過ごしていた事をレモンは知っている。それが自我の芽生えに繋がるのならばエキドナは記憶を失ったままでさえ良いとレモンは考えていた。

 

『……それが私の、W-16の存在理由です。己で考え、己で行動する必要はないと私は考えます。全てはレモン様とヴィンデル様の為に……』

 

「……そう、それじゃあラミアと協力して行動の準備をしなさい。W-16」

 

もうレモンはエキドナとその名を呼ばない、エキドナではなく、W-16である事を望むのならばレモンはそれを尊重する。

 

『……はい、分かりました。レモン様……』

 

震えるような声で返事を返し、通信は途絶えた。何の反応も示さない通信機をレモンは指先で突く。

 

「私は少し期待してたのよ、エキドナ」

 

「すみません、私は怖いのです。自分に芽生えた気持ちが怖いのです……与えられた命令を遂行する……それだけで良いのです」

 

最高傑作はラミアだ、だけどエキドナはレモンの見ている前で恋をし、そして自我を得ようとしていた……それなのに自ら得かけていた自我を放棄してもなお任務を、与えられた命令を果たそうとする……それはWナンバーズとしては正しいが、人としては間違っていると言わざるを得ない。

 

「さよなら、エキドナ……」

 

もうエキドナの名は呼ばない、もうW-16はエキドナに戻る事はないと考えたレモンは名残惜しそうに最後にエキドナの名を呟くのだった……。

 

「……レモン様、私は、私は……そうだ、これで良いんだ」

 

伊豆基地の一室でエキドナは涙を流しながら、これでいい、これで良いのだと繰り返し呟く、やらねばならない事がある創造主の為に、成し遂げなくてはならない事がある。

 

「許してくれとは言わない、憎んでくれて構わない。今まで……ありがとう」

 

引き出しから取り出した便箋にエキドナは震える手で文字を書く、その文字は乱れ、エキドナの意思に反して流れる涙に便箋は濡れて染みを残す。

 

「……辛い、こんなに辛いのなら……私は壊れていたかった……」

 

記憶なんて欲しくなかった。ずっと壊れたままでいたかったと呟き、エキドナはボロボロで読むに耐えない手紙をゆっくりと封筒の中へと納めるのだった……。

 

 

 

 

 

 

プランタジネットの為の修理を終えた機体が次々と搬入されるのを武蔵とシャイン、そしてアラドの3人は世間話をしながら見つめていた。

 

「武蔵さんの……」

 

「いやあ、武蔵で良いぜ。アラド、あんまり年齢も変わらんだろうし」

 

「武蔵さんって何歳なんですか?」

 

「あん? 確か……17くらい?」

 

「なんで疑問系?」

 

「いや、自爆したりしてるから時間の感覚が「うーうーッ!!」いたいたいたい、シャインちゃん痛いって」

 

ポカポカと背中を叩くシャインに武蔵はいたいいたいと対して痛くなさそうなのに口にし、余計にシャインがむくれてその背中に小さな拳を叩き付ける事になった。

 

「なんか仲良いっすねえ、兄妹みたいだ、いたあッ!?」

 

年上の兄貴にじゃれ付く妹みたいな感じに見えたアラドが兄妹というとシャインのヒールの爪先による蹴りが脛を捉えアラドは足を押さえて蹲る。

 

「兄妹では困るのですわッ!」

 

兄と妹の関係では困るのだとシャインは口にする。武蔵はシャインを妹のように扱っているが、異性として武蔵を意識しているシャインはそれが不満であり兄妹みたいと言われて苛立った様子でアラドの脛を蹴り上げた。

 

「まぁあれだよな。オイラデブだしな」

 

「違いますわよ!? そういう意味ではありませんわ武蔵様ッ!?」

 

だが自己肯定が低めの武蔵はデブの自分が兄貴とか嫌だよなあと落ち込む素振りを見せて、違うのですわとシャインが必死のフォローをする。

 

「なんかあいつら楽しそうだなあ」

 

「案外年齢が近いからじゃないですか? カチーナ中尉」

 

「ん? 武蔵の奴シャイン王女とアラドに歳が近いのか?」

 

「確か……17歳って言ってましたよ」

 

「ああ、そう言えば高校生とか言ってたな」

 

おろおろしているシャインを前にしている武蔵にカチーナは視線を向ける。背は高いわけでは無いが、戦う為に作りこまれた筋肉をしており、体もふくよかだがデブではなくそれ全身が筋肉の鎧である。穏やかで包容力もある武蔵を見つめてカチーナはぼそりと呟いた。

 

「老けてないか?」

 

「……いやその」

 

「身も蓋もなさすぎでは?」

 

武蔵が老けてるというカチーナにクスハとブリットは何とも言えない表情でそう呟いていた。

 

「お、パイロット出てきたみたいだぜ。2人とも」

 

おろおろしているシャインとちょっと落ち込んでいる武蔵を見て、アラドが話題をすり変えるようにR-GUNのほうを指差す。

 

「あの方がパイロットですね」

 

「女の子なんだなあ……あれ、武蔵さん。なんで小さくなるんっすか?」

 

R-GUNから降りてきたマイを見て、武蔵が巨体を小さくするのを見てアラドがそう尋ねる。

 

「イヤ、前にすれ違ったんだけどさ、めっちゃ怖がられたんだよな」

 

「武蔵を怖がったの? 信じられない」

 

「見る目がありませんわね」

 

武蔵は見るからに穏やかだ。そんな武蔵を怖がったと聞いてシャインとラトゥー二が信じられないと言う表情を浮かべる。

 

「うん? クスハどうかしたか?」

 

「あ、うん。ブリット君、なんでもないよ?」

 

マイから見えないように身体を小さくする武蔵と打って変わり怪訝そうな顔をするクスハを見てブリットがどうかしたか? と尋ねるがクスハはなんでもないと返事を返す。だがその視線はマイをジッと見つめていて、何か思う事があるような素振りを見せていた。

 

「まぁ良いや、ちょっと声を掛けてこよっと」

 

「私も行きますわ、武蔵様も行きましょう?」

 

「ええ、オイラは良いよ。怖がられるって」

 

「大丈夫ですわよ、行きましょう」

 

嫌がる武蔵の手をシャインが握り、アラドと共に武蔵達はマイの元へと向かう。

 

「ひうッ」

 

武蔵に気付いたマイは上擦った声を上げてR-GUNの足の方に隠れる。

 

「ほらオイラめっちゃ怖がられてるじゃん……」

 

顔を見るだけで逃げられ、武蔵はかなり落ち込んだ素振りを見せる。

 

「おーい、武蔵さんは怖くないぞー。出て来いよ」

 

「そうですわよ、なんで武蔵様を怖がるんですか」

 

アラドとシャインが声を掛けるとおずおずとマイが姿を見せるが、やはり武蔵を怖がってるような素振りを見せる。

 

「俺、アラド・バランガ、君の名前は?」

 

「マイ……マイ・コバヤシ」

 

とりあえずという感じでアラドが自己紹介をし、名前を尋ねるとマイはびくびくとした素振りでマイも自己紹介を返す。だがコバヤシの名前に格納庫にいたクスハやカチーナ達に小さな動揺が広がる。

 

(おい、どういうことだ? アヤの妹って死んだはずじゃねえのか?)

 

(そ、その筈なんですが……植物状態か何かで入院していたのではないでしょうか?)

 

死んでいるはずのマイがいる、それとも死んでいなかったのかと困惑するカチーナ達。しかしそれに気付かないシャインはマイに方に一歩踏み出す。

 

「私はシャイン・ハウゼンです。それでなんで貴女は武蔵様を怖がるのですか?」

 

「……え、えっと……良く判らない」

 

「良く判らないのならば武蔵様を怖がる必要はありませんわよ。とっても優しい人ですから」

 

逃げようとするマイをシャインが捕まえて、半ば引っ張るように武蔵の前に連れて行く。

 

「あー巴武蔵だ。前も言ったけど改めてよろしく」

 

「よ、よろしく……ま、マイです」

 

互いに何とも言えない様子で自己紹介をする武蔵とマイ。普段朗らかな武蔵も脅えているマイを見てどうすれば良いか判らない様子だし、マイはマイで脅えているしと微妙な雰囲気となっている。

 

「それじゃあ行きましょう」

 

「ど、どこへ?」

 

その微妙な空気を嫌ったシャインはマイの手を取り行きましょうと口にする。どこへ連れて行こうというのかと困惑するマイにシャインは笑みを浮かべ、武蔵とアラドに視線を向ける。

 

「ハガネの中をマイに案内しようと思うのですがどうでしょう?」

 

「良いなそれ! ここには俺達ぐらいの歳のパイロットって少ないし、友達になろうぜ」

 

「私もそう思いますわ。でもまずは……武蔵様を怖がらないようになりましょうね」

 

「え、あ……うん」

 

シャインの妙な迫力に頷いてしまったマイ。それを了承と受け取りシャインは笑みを浮かべ、ラトゥーニに手招きする。

 

「ラトゥーニ、貴女もおいでなさいませ」

 

「は、はい……」

 

楽しそうに笑うシャインに駄目とは言えず、ラトゥーニも武蔵、アラド達と共にマイを案内する為に格納庫を後にするの。

 

「やっぱりよ、あのガキ……どっかで見たような気がするぜ……どこだったかな」

 

カチーナは顎の下に手を当てて、マイの姿をどこかで見たことがあると呟き思い出そうとし、急に顔を上げた。

 

「そうだ!  オペレーションSRWの時だッ! あいつ、エアロゲイターのレビ・トーラーに似てやがるぜ!」

 

映像にノイズが走っており、鮮明ではなかったからうろ覚えだったがカチーナはマイがレビに似ていると声を上げる。

 

「あン時、 奴の映像はハッキリしてかなったが、 あの顔立ちは……資料室にあの時の……「カチーナ中尉、私はそうは思いません」あん? クスハ」

 

レビに似ているとその証拠を探そうとするカチーナにクスハが待ったを掛けた。

 

「レビ・トーラーはあの時に死んだんです。だからあの子はアヤ大尉の妹……それで良くありませんか?」

 

「クスハ……お前……あ、ああ。そうだな、きっと俺達の考え違いですよカチーナ中尉」

 

クスハの悲しそうな顔を見てブリットもクスハの意見に同意する。その姿を見てカチーナは頭を掻いて2人に背を向けた。

 

「どうもあたしも寝不足かね。見間違えたみたいだな、とりあえずアヤの奴が何かを言うまで待つことにでもするぜ」

 

ここで追求することは容易いが、カチーナはブリットとクスハの意を汲んで口を噤む事にし、仮眠でも取るかと言って格納庫を後にする。

 

「俺も少し休む事にするよ。クスハも抱え込みすぎるなよ?」

 

「う、うん……分かった」

 

そう笑うブリットに頷き、クスハも少し休息をとる為に格納庫を後にするのだった……

 

 

 

 

ハガネのダイテツの艦長室にはシロガネのリー、ヒリュウ改のレフィーナの艦長室の映像が映し出され、ヴィレッタとイングラムの姿があった。機密会議の議題はイングラムのMIAの解除及び、復隊をどうするかという事。そしてR-GUNのパイロットに関しての事だ。

 

「まずはレイカーはイングラム少佐の復隊を望んではいないと言う事を理解して欲しい」

 

「ええ、分かっています。俺は存在するが、存在しないという扱いで構いませんよ」

 

ダイテツの切り出しにイングラムは分かっていると柔和な笑みを浮かべて返事を返す。

 

『ダイテツ中佐、それはどういうことなのでしょうか? 私はイングラム少佐には再び復帰して欲しいと思っているのですが……』

 

「イングラム少佐のR-SWORDは旧西暦のゲッター炉心を搭載している。軍に復帰されてはそれらを徴収しようと動く者もいる。更に

L5戦役で操られていたこともあり、復帰には多大なリスクが付き纏う事になる」

 

「監視でもつけられては困るのですよ。リー中佐、お気持ちだけ受け取っておきます」

 

ラドラやコウキ、そしてイングラムはレイカーの戦時特例で庇われているが、それぞれが旧西暦の遺産を持つ者だ。今の情勢で復帰させるにはリスクがありすぎると考えるのは当然の事であり、仮に復帰するにも百鬼帝国を倒すまでは無理だろうとダイテツは話を続ける。

 

『考えが甘かったです。申し訳ありません』

 

「構わない、ワシも出来ればイングラム少佐には復帰して貰いたいと思っているからな」

 

今は時期尚早だが、いずれイングラムには連邦に復帰してもらいSRXチームの指揮を再びとってほしいというのはダイテツの嘘偽りのない気持ちであった。

 

『そう言えば量産型Rシリーズの残骸を回収した後に破棄したと報告がありましたが、修理をするのは難しかったのですか?』

 

レフィーナの問いかけに量産型Rシリーズの残骸の回収作業を行なっていたイングラムは少しの躊躇いの後に口を開いた。

 

「量産型Rシリーズが念動力を使用できた理由が残骸を回収したことで明らかになりました」

 

『それならば尚の事何故廃棄したのだ? その機構を流用出来れば念動力を武装として転化出来たのではないか?』

 

リーの問いかけのもっともだ。量産型エルアインスとエルドライは全機念動力を使用していた。その上インベーダーも使用できたという事はパイロットではなく、機体能力である。それを分析し、量産する事で友軍全体の強化が望めるのに何故と問いかけたリーにイングラムは小さな声で呟いた。

 

「ブラックボックスは念動力者の脳がクローニングされたもので、確認出来た物はにはイニシャルのみ刻印されており、それぞれ「K・M」「B・L」「R・G」「R・H」と」

 

『まさか……それは』

 

「間違いなく平行世界のクスハ・ミズハ、ブルックリン・ラックフィールド、レオナ・ガーシュタイン、リョウト・ヒカワの4名でしょう。DNAサンプルと87%合致しております。残りの13%はリュウセイ・ダテの脳データです」

 

『そ、そこまで追詰められていたのですか……』

 

『余りにも非人道的すぎる……こんな物を公表するわけには……』

 

複数の念動力者の脳を複製し、それを組み合わせ機械でコントロールする。それが量産型Rシリーズが念動力を使用できた訳である。

 

「この件に関しては緘口令を引く、決して公言せぬように……次に大尉。R-GUNの状況はどうなっている?」

 

これ以上ブラックボックスについて議論するつもりのないダイテツはすぐに議題をすり替え、R-GUNについての説明をヴィレッタに求める。

 

「は、現在R-GUNはコネクトパーツの調整中の為HTBキャノンは一時使用不可となります。更にT-LINKセンサー回りの強化も必要になるのでプランタジネットには間に合わないかと」

 

ヴィレッタの報告を聞いてレフィーナが不思議そうな顔をした。

 

『何故T-LINKセンサー回りも強化する必要があるのですか?』

 

「それなのですが、マイとアヤの2人でもリュウセイの念動力には届かないからです。リュウセイの念動力に引っ張られないように様々な対策が必要となります」

 

リュウセイの念動力に合わせようとすればマイとアヤの負担が大きくなるので、それを避けるための調整だとヴィレッタは説明する。

 

『マイ曹長か……うむ、彼女の事情は知っている。私としては庇うつもりではあるが……ううむ』

 

『確かにこれは思うようには行かないと思いますよ』

 

マイ=レビに辿り着くものは必ずいる。ケンゾウの意向で伝えるつもりはないダイテツ達だが遅かれ早かれマイ=レビに辿り着く者がいるだろう。

 

「あの戦いで……エアロゲイターに明確な人の意思というものは存在しなかった。結局、我々が戦っていた相手はジュデッカという機械に操られていた地球人だった……」

 

レビ、ゲーザ、ガルイン、アタッド……それら全てはエアロゲイターに操られていたイングラムがネビーイームに連れ去った地球人であり、異星人の侵略などではなく操られた地球人との戦いだった。

 

「……それはネビーイーム、そしてジュデッカの役割だった。俺も罪がない訳ではない」

 

ジュデッカの、いやユーゼスの枷に縛られ操られたイングラムもまたレビ達と同罪なのだ。こうして我が物顔で伊豆基地にいるが、勿論イングラムを憎んでいる者だって伊豆基地に存在しないわけではない。

 

「……過去の罪は消せん。 だがそれを償う事は出来るはずだ。 大尉、そして少佐お前達のようにな」

 

ヴィレッタもまたエアロゲイターとして地球に攻撃を仕掛けていた1人であり、そしてイングラムの意志を継いでリュウセイ達を護ろうとしたが、それでも地球を攻めたという過去は消えない。

 

「ワシは常々思っておる……ワシの艦とヒリュウには不思議な縁があると……かつて敵対していた者が我らの同胞となり、共に戦う……。 そういう縁のある艦だ。だから……真実を打ち明ける事を恐れるな」

 

マイがレビであると言う事を知られ迫害される事をケンゾウは恐れている。ダイテツも人の親だからこそその気持ちは分かる、だが偽りの絆は綻びを生み、そして何れは大きな争いの火種となる。

 

「ワシの部下達にはそれを受け入れる度量がある……ワシはそう信じておる」

 

『勿論私の部下達もだ。不安もあるだろう、恐怖もあるだろう。だが……大丈夫だ、同じ艦に乗る仲間を私は信じる』

 

『私もです。どうか、抱え込みすぎないでください』

 

何もかも背負う必要も、隠す必要も無いのだと、時を待ちたいという気持ちも分かる。だが逃げるなと言うダイテツ達の言葉にヴィレッタとイングラムは小さく頷くのだった……。

 

 

 

 

アンジュルグのコックピットの中でラミアはレモンからの指示を受けていた。それはラミアがシャドウミラーへと戻るという事を意味していた……。

 

『……という訳で指令は以上よ。 理解してくれたかしら?』

 

「了解しちゃいましてございます。 そちらのタイミングに合わせて……ハガネ、ヒリュウ改、シロガネを制圧したりなんかしやがればよろしいのね」

 

ラミアに与えられた命令はハガネ、ヒリュウ改、シロガネの制圧。その後にヴィンデル達がダイテツ達と交渉をする手筈となっていると聞き、問答無用で殺さないと言う事にラミアはひそかに安堵していた。

 

「ゲッターロボと武蔵は……」

 

『そっちはW-16が何とかするわ。だから貴女は心配しないでラミア』

 

自分をラミアと呼び、エキドナをW-16と呼ぶレモン。自分を呼ぶ中に親しさを感じられたのに、W-16と呼んだレモンの言葉の中に冷たさを感じ、ラミアは胸が痛んだ。

 

「……レモン様。質問をしてしまいましてよろしいのですのことですか?」

 

『構わないわ、自分で考えてそして私に聞きたいことがあるのでしょう? どうしたのラミア?』

 

どこまでも優しい声と慈愛に満ちた視線……ラミアは気付く筈もないが、その視線は紛れもなく母としての顔だった。

 

「何故エキドナをW-16と呼ぶのですか? 貴女は前はエキドナと呼んでいた筈です」

 

『……そうね、そうだわ。だけど……彼女はエキドナが嫌だと言うの、私は自分で考えたくない、私達からの命令で動きたいって……ラミア、貴女のように自分で考えて自分で行動するのが怖いそうなのよ』

 

エキドナはレモンが求める存在になれなかった。だからW-16と呼ぶのだと感じ、ラミアは自分も何かを間違えていればW-17と呼ばれていたのだと悟り、その身体を抱いて小さく震えた。

 

『大丈夫? 怖いのかしら? ラミア』

 

「いえ、大丈夫です。もう1つ聞いても良いですか? これを最後の質問にしますので」

 

『構わないわ、何を聞きたいのかしら?』

 

優しく問いかけてくるレモンの声を聞いて、ラミアは自分の唇が急速に乾くのを感じた。無意識に舌で唇を舐めて意を決した表情で問いかける。

 

「戦争の無い世界に望まれた子供と、戦争をする為に生まれた子供……その違いは何でございますのでしょうですか?」

 

戦争のない世界を生きる事を望まれているジャーダとガーネットの子供。

 

それに対してラミアは戦争をする為に生まれた子供。

 

同じ子供だが、そこに何の違いがあるのかとラミアはレモンに問いかけた。

 

『……そうね、それはとても難しいわラミア。だからこの話は今回の指令を遂行した後で……ゆっくり話し合いましょう?』

 

「レモン様今答えて下さい、お願いします。それさえ聞ければ……私は……私は……ッ」

 

煙に巻こうとしたレモンにラミアは答えてくれと震える声で懇願する。その言葉を聞いてレモンは深く溜め息を吐いた。

 

『……私も知りたいわ。私にとって貴女達は大切な子供、出来れば平和な世界で生きて欲しいって思ってる。だけど……ヴィンデル達はそうじゃない……私はどうすれば良かったのかしらね……』

 

「レモン様にも分からないことがあるのですか?」

 

『そんなこと沢山あるわ。だから……ラミア、これが終わったらゆっくり話し合いましょう。そしてその上で……どうするか貴女の言葉で私に教えて?』

 

考えて考えて、悩んでそして自分の出した答えを聞かせてくれというレモンにラミアは頷いた。

 

「……了解いたしたりしました……指令の遂行を最優先にしちゃいますのです……」

 

その答えを、レモンとラミアが求め続ける答えを得る為に指令を遂行するというラミア。

 

『そうね、自分で考えて最も正しいと思う選択をしなさい。ラミア』

 

忠実に動こうとするラミア。だがレモンはそれを良しとしようとせず、自分で考えるのだという言葉を投げかけ通信の電源を今度こそ切った。

 

「……正しいと思う事……1番正しい……行かないと」

 

作戦実行までの時間は残されていない、それでもその前にやらなくてはならない事があるとラミアはアンジュルグのコックピットを飛び出し、どこかへと駆けて行く。

 

「ラミア、いや、W-17……何をしに来た」

 

ライガー号にもぐりこんでいたエキドナの元にラミアはやってきていた、どうしてもエキドナに問いかけなければならない事があったからだ。

 

「……エキドナ、お前はそれで良いのか?」

 

「……良いも何も無い、私達は与えられた指令を成し遂げれば良いんだ」

 

「だが武「良いから! 早くアンジュルグに行け! 私をこれ以上迷わせないでくれッ!」……すまない、そんなつもりではなかったんだ」

 

悲壮な表情で叫ぶエキドナにラミアは謝罪の言葉を口にし、エキドナに負けないほどの悲壮な表情を浮かべ、アンジュルグへと背を向けて歩き出した。その姿を感情が込められていない無機質な瞳で見つめる何者かの姿があり、無人となったアンジュルグのコックピットにその身体を滑り込ませる。

 

「……妹への姉からの贈り物だよ。どうか、悔い無き選択を……」

 

アンジュルグに潜り込んだ何者かは素早くアンジュルグのプログラムの一部を書き換え、何事も無かったかのようにその場を後にするのだった。

 

 

 

 

第143話 壊れた人形、壊れる事を望んだ人形 その2へ続く

 

 

 




今回はシナリオデモですがかなり長くなりました。ここは盛り上がるところですし、テキストも多いところですしね。
エキドナとラミアを対照的に書いたつもりですが、上手く表現出来たかはちょっと不安な所ではあります。
この後は紅の幻想ですが。紅の幻想は後で回想って感じでやるつもりなのでシナリオを飛ばすことになりますのでご了承願いします。
それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第143話 壊れた人形、壊れる事を望んだ人形 その2

第143話 壊れた人形、壊れる事を望んだ人形 その2

 

マイの案内を終えた武蔵はシャイン達と別れ、格納庫のコンテナの上に腰掛けていた。その余りに真剣な表情に整備兵やキョウスケ達も声を掛けれない中、1人だけがその空気に気付かないという様子で悠々と武蔵へと近づいた。自称マリオンの弟子、頭の良い馬鹿、マオ社の核弾頭、歩くトラブルメイカー等と短い間に様々な渾名がつけられたその少女の名はラルトス・パサートと言った。

 

「やぁやぁ、武蔵。どうかしたのかイ?」

 

「ん? ラルちゃんか、元気?」

 

ラルトスはいつもの瓶底眼鏡に楽しそうな笑みを口元を浮かべ、ダボダボの袖を振り楽しそうに笑う。

 

「勿論ラルちゃんは元気だヨー♪」

 

にっししっと言いながら楽しくてしょうがないと言う様子のラルトスに武蔵も苦笑する。

 

「変な服着てんな」

 

「んふふ、これは萌え袖というのだヨ。武蔵、どうだイ? 萌えるかイ」

 

一部の性癖の人間には突き刺さる萌え袖だが、旧西暦の価値観を持つ武蔵には新西暦の、しかもニッチな性癖は理解出来なかった。

 

「燃える? 火でも出るのか? 服に火炎放射器を仕込むとか凄い事を考えるな」

 

「あーうン。違うヨ」

 

萌えるを燃えると解釈した武蔵にラルトスは肩を落とし、首を左右に振った。

 

「それデ、武蔵はどうしたのかナ? かナ?」

 

「いやさあ、なんか嫌な予感するし、ゲッターはフルパワーでうごかねぇし、どうするかなあって」

 

「自分1人で何とかする気かイ?」

 

ほんの少し、ラルトスの言葉にトゲが混じるが武蔵はまさかと言って肩を竦めた。

 

「オイラは頭も良くねぇし、運動神経もそこまで高いわけじゃない、自分だけで何でも出来るなんて驕れねえよ。だから皆に力を借りるのさ」

 

「……んふふふふ、そうだネ。それが1番よ、自分だけに出来る事なんて高が知れてるからね」

 

武蔵の言葉を聞いて雰囲気と口調が普段の物と変わるラルトス。イントネーションも変わり、落ち着いた大人の女性というべき雰囲気をラルトスは身に纏っていた。

 

「ん? ラルちゃん。ちょっと雰囲気変わった?」

 

「ンン? なんのことかナ? ラルちゃん、わかんなーイ」

 

だがそれは一瞬の事でその雰囲気は霧散し、いつものお茶らけた少女の仮面をラルトスは被って笑う。他の人間ならば悪ふざけかと流しただろうが武蔵は違っていた。ラルトスの気配に、その口調の中にある人物を感じていた。

 

「あのさ……なんだッ!?」

 

その事を問い質そうとした武蔵だが、その言葉は最後まで発せられる事は無く伊豆基地に鳴り響いた警報にその顔を上げる。

 

「行きなヨ、頑張ってネ」

 

「ああ、ラルちゃんも避難しなよッ!!」

 

避難するようにラルトスに声を掛け、ゲットマシンに向かって駆けて行く武蔵をラルトスは萌え袖を振り見送るだが、瓶底眼鏡の奥から光る瞳は剣呑な光を宿しているのだった……。

 

 

 

 

 

 

伊豆基地に鳴り響いた緊急警報。それに続くようにハガネ、シロガネ、ヒリュウ改が浮上し臨戦態勢に入る。

 

『空間転移反応あり! 緊急出撃を急いでくださいッ! 繰り返します、空間転移反応あり! 緊急出撃を急いでくださいッ!』

 

伊豆基地のオペレーターの声を聞きながらリーはブリッジへと全力で走る。

 

「遅れてすまない! 状況はどうなっている!」

 

ブリッジの隊員に謝罪しながら状況報告を求めるリーの目の前で巨大な戦艦が空間転移で出現する。流線型の丸みを帯びた独特な形状をした緑色をした巨大戦艦にリーは目を見開いた。

 

「なんだあの戦艦は……あんな物は見たことがないぞッ!? インスペクターの物か!?」

 

スペースノア級、ヒリュウ級、ライノセラス級、キラーホエール級など地球の戦艦とは一線を隔すデザインのトライロバイト級「ギャンランド」にリーは驚きの声を上げる。

 

「艦長、出撃準備が出来ました!」

 

「よし! 各機出撃ッ! ハガネ、ヒリュウ改と協力し所属不明艦を迎撃するッ!」

 

「「「了解ッ!」」」

 

リーの指示が飛び、シロガネのクルーが臨戦態勢に入り、PTが次々と出撃する。

 

『全艦、迎撃態勢ッ! PT各機、緊急発進ッ!!』

 

『伊豆基地を落とされるわけには行きません! 各員出撃してくださいッ!』

 

ダイテツ、レフィーナの指示も続き、ハガネ、シロガネ、ヒリュウ改の前にアルトアイゼン・ギーガやヴァイスリッター改を始めとしたPT、そしてゲッターD2やグルンガスト、ジガンスクード・ドゥロ、サイバスターと言った特機・準特機も次々出撃する。

 

「武蔵、出撃して大丈夫なのか?」

 

『なんとか。ただ、普段みたいに戦うのは無理ですかね。とは言えジッともしてられないですしね』

 

エネルギーが枯渇しているゲッターD2は地面に着地しダブルトマホークを構えているが、その背中の翼は閉じられたままで普段の威圧感や存在感は鳴りを潜めている。

 

『武蔵、無茶しちゃ駄目だからね』

 

『ええ、僕達もいますから無理は駄目ですよ』

 

『分かってるって、オイラも馬鹿じゃないからな。頼りにさせて貰いますよ』

 

武蔵の声は明るいが、その明るさが逆にキョウスケに不信感を抱かせた。

 

(この状況で出撃する……いや、しなければならない理由があったのか)

 

エネルギーが枯渇しビームも使えず、ゲッターチェンジも難しい状態のドラゴンで何故無理をして出てきたのか、その理由はすぐに明らかになった。

 

『……』

 

『……ッ!!』

 

ギャンランドも部隊を展開するが、その機体を見てキョウスケ達の間に驚きが広がる。

 

「あれは……なるほど、亡霊達の本隊ということか」

 

『……そうみたいねぇ。それにしても……まぁまぁ随分と壮観ねぇ。まるで私達みたいじゃない? キョウスケ』

 

「ああ。俺もそう思う」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅱ、そしてソウルゲインに酷似しているが、それよりも簡略化されているアースゲイン、ラーズアングリフ・ランドグリーズ……そして。

 

『おい、あれはッ!』

 

『間違いないよ、エルアインスッ!』

 

『ということは、あいつらは未来から来た連中って事か!』

 

『そう見るしかないな、あの姿を見ればな』

 

エルアインス、エルツヴァイ、エルドライの3体2セット計6体を見てマサキ達の目の前の戦艦がなんなのかを理解する。ソウルゲインとアクセル・アルマー、スレードゲルミルとウォーダン・ユミルと言った恐ろしい強敵達の姿が脳裏を過ぎる。

 

『イングラム、あいつらは……』

 

『カイ少佐、ええ、あいつらが……いや、思い出した。シャドウミラー……平行世界の未来で俺達と共にインベーダー、アインストと戦い、この世界へと逃げてきた者達だ』

 

イングラムからの言葉を聞いてキョウスケ達に緊張が走る。その姿を見て、もしやと思っていたがこうして肯定されると驚きがどうしても勝る。

 

「未来の軍隊だろうと関係はない、俺達の前に立ち塞がると言うのならば撃ち貫くのみ……包囲網を切り開く……ッ! 行くぞッ!」

 

「……動くなッ! 全機に告ぐ。 直ちに武装解除して貰おう」

 

キョウスケの合図でリュウセイ達が動き出そうとした時、アンジュルグがミラージュソードの切っ先をハガネに向け動くなと広域通信で叫んだ。

 

『わお! ラ、ラミアちゃんッ!? 何してるのッ!?』

 

『武装解除だとッ!? ラミア、てめえ何を言ってやがるッ!』

 

ハガネのブリッジにミラージュソードを突きつけられ、キョウスケ達は動くことを完全に封じられた。通信でラミアにどう言う事だと次々と問いかけてくる仲間の声にラミアは沈鬱そうに眉を顰めるがミラージュソードの切っ先をハガネのブリッジから外す事はなかった。

 

『そうか、それがお前の選択かラミア』

 

「……イングラム大佐……はい、その通りでございます」

 

『後悔するぞ、今ならまだ引き返せる』

 

「それは出来ません。これが私の任務だからなのです」

 

広域通信でのイングラムとラミアのやり取り。その会話は互いを知り合いのような響きがあった。

 

『イングラム! どういうことだ説明しろッ!』

 

『……俺も今思いだしたんだ。ラミア……こいつはシャドウミラーの構成員だ。とは言っても、俺も武蔵も顔は知らなかった』

 

『……そうすっすね、声と名前だけでしたからね。ラミアさん、どうしても命令に従うのかい?』

 

ラミアと武蔵、イングラムの接点は少ない、なんせ転移の前の数分間だけだ。名前はうっすらと覚えていても、どうしても繋がりに確信を持てなかった。

 

「それが私の存在理由なのだ。武蔵、イングラム大佐。私は与えられた命令を遂行する……それだけだ。だがお前達の事を思って言う、速やかに武装解除しろ。アンジュルグには自爆装置が搭載されている……ただの爆薬ではない。この距離ならば……お前達は疎か、ハガネやシロガネ、ヒリュウ改も撃沈出来る」

 

淡々とした口調で告げるラミアの言葉にダイテツ達の間にも驚愕が広がる。

 

「ここまで言えば、お前達が取るべき行動は……もう分かる筈だ。さぁ武装解除を」

 

どこまでも淡々と武装解除を求めるラミア。その声に人間性は感じられず、機械の様な印象をアラド達は受けた。

 

『なろおッ! こうなったら……なっ!?』

 

ゲッターならばアンジュルグが自爆する前に捕獲出来ると考えた武蔵がゲッターを動かそうとした瞬間、ポセイドン号にこの場にいないはずの女の声が響いた。

 

『……すまない武蔵、許してくれ』

 

『な、え、エキドナさんッ!?』

 

ドラゴンが動き出そうとした瞬間、そのカメラアイから光が消え、紅い光が灯りその翼を広げ、アルトアイゼン・ギーガ達を纏めて弾き飛ばす。

 

『うあッ!?』

 

『む、武蔵!? 何をッ!』

 

『わ、わからねぇ! ゲッターがオイラの言う事を聞かないッ!』

 

バトルウィングを振り回し、アルトアイゼン・ギーガ達を弾き飛ばしたドラゴンは浮かび上がりギャンランドとハガネ達の間へと移動する。

 

『ラミア。ゲッターロボは確保した』

 

「そうか、後は任せてくれエキドナ。お前はゲッターロボと武蔵を連れて帰る事を優先しろ」

 

広域通信で全員の機体のコックピットに響いたのは紛れも無くエキドナの声だったが、その声は冷たく人間のような暖かさを感じさせない無機質な声なのだった……。

 

 

 

 

 

 

レモンがドラゴンに仕掛けていた仕掛けは単純だが、強力な物だった。ゲッターロボの操縦というのは本来はドラゴンならばドラゴン号、ライガーならばライガー号、ポセイドンならポセイドン号と先頭機体が担当することになっている。だが制御系はドラゴン号、あるいはドラゴン号に近い機体の制御が優先されるシステムとなっており、レモンの仕掛けとはポセイドン号からのドラゴン号への遠隔操作シグナルを無効化すると言う物だった。よってライガー号に乗り込んでいるエキドナがドラゴンのコントロールを奪取していたのだ。

 

『え、エキドナ? 貴女、何をしているのか判っているのですか!!』

 

フェアリオン・タイプGのコックピットからシャインの怒りに満ちた怒声が木霊する。

 

「分かっているつもりだ。憎まれる事も、恨まれる事も覚悟している。それでも私に成し遂げなければならない命令がある。記憶を失い随分遠回りすることになったがな」

 

記憶を失う……それは武蔵とイングラムと同様だった。だがエキドナには武蔵とイングラムのような強烈なバックボーンが無く、稼動年数……即ち4~6歳前後を元に精神と記憶が再構築され、それがあのエキドナちゃんと呼ばれる幼女の状態だったのだ。

 

『お前もラミアと同じという事か』

 

「その通りだ、ベーオウルフ。いや、キョウスケ・ナンブ」

 

『あーらら……武蔵も知らないで助けちゃってたってことなのねん』

 

軽い口調だが、その言葉に強い怒りを抱いているエクセレンの声を聞いてエキドナは小さく笑う。

 

(そうだ、これで良い、これが私の罪だ)

 

命令に従わないという道もあった。それでも命令に従い、憎まれ恨まれる事を良しとしたのだ。

 

「許してくれとは言わない。憎んでくれても構わない、それでも私は、与えられた命令を成し遂げる」

 

『……それは私も同じだ。許されたいとは思っていない、私達がお前達を裏切ったのは事実だからな』

 

ラミアもエキドナと同様にキョウスケ達との関係を心地よいと思っていた。だがそれよりも大事な創造主であるレモンの命令を優先した……身体は大人でも、精神が幼い子供だからこそ母であるレモンの指示を優先してしまったとも言える。

 

『空間転移反応あり! 熱源特機クラスです! 数……4! 来ますッ!!!』

 

オペレーターの報告に続き伊豆基地上空に4体の特機が転移によってその姿を現した。

 

『あいつ、あの時のッ!』

 

『スレードゲルミル……ウォーダンかッ!』

 

『おいおい、マジか、あいつはグルンガストじゃねえかッ!』

 

『……ソウルゲイン。アクセルか』

 

ツヴァイザーゲイン、ソウルゲイン、スレードゲルミル、そしてグルンガストとヴァイスセイヴァーの5機が悠々と転移で伊豆基地へと舞い降りる。

 

「ご苦労だった、W16、そしてW17」

 

ツヴァイザーゲインから響くヴィンデルの声は労うような言葉を口にしているが見下している響きが強かった。しかし、それよりも名前ではなく番号で呼ばれ、それに返事を返したラミアとエキドナに悲しみを伴った驚きが広がった。

 

『W17!? そ、それって………ラミアさんとエキドナさんの事なんですか!?』

 

『人を番号で呼びやがって! てめえ何様だッ!』

 

番号で呼ばれたエキドナとラミアに悲しみを持った声で問いかけるのはクスハであり、そして怒りを抱きヴィンデルに怒鳴り声を上げたのはアラドだった。スクールで番号で呼ばれ、名前を持たなかったアラドの怒りは凄まじく、ラトゥーニもまた沈鬱そうに俯いた。

 

『そう……それが私の……いや、私達の本当の名称だ』

 

『戦う為に作り出された人造人間、その16番目と17番目、それが私達だ』

 

戦う為に作り出された人造人間と告げたエキドナ。その言葉に嘘は感じられず、武蔵を裏切ったエキドナに怒りを抱いていたシャインでさえも言葉を失った。

 

『ヴィンデル・マウザー。隠れんぼは終わりか?』

 

「これはこれはイングラム大佐、ええ、もう隠れるのは終わりです。貴方達が記憶を失っていてくれたお蔭で私達は随分と動きやすかったですよ」

 

イングラムを挑発するように返事をするヴィンデルの操るツヴァイザーゲインが手を上げると、エルアインス達が臨戦態勢に入る。

 

「W-16、お前はギャンランドに帰還しろ。大事なゲストだ、丁寧に扱え」

 

『了解。すまないな、武蔵。同行して貰うぞ』

 

『……くそ……』

 

ヴィンデルの指示でエキドナはドラゴンを拙い動きながら操り、武蔵の悔しそうな言葉を最後にゲッターD2の姿はギャンランドの中へと消えていった。

 

『武蔵様!』

 

『動くなと言ったはずだ。死にたいのか』

 

ゲッターD2の姿が見えなくなり、反射的に動き出そうとしたシャインとフェアリオン・タイプGにミラージュソードを向けたアンジュルグが動くなと警告をする。

 

「さてとでは改めて、私の名はヴィンデル。ヴィンデル・マウザー大佐、地球連邦特殊部隊シャドウミラーの指揮官だ。会えて光栄だよ、連邦軍特殊鎮圧部隊ベーオウルブズ隊長……キョウスケ・ナンブ大尉」

 

 

『なるほど……武蔵達から聞いていたが、平行世界の未来の俺とやらの名前か、それはもう聞き飽きた』

 

キョウスケの返答にヴィンデルは一瞬驚いたが、それも一瞬の事ですぐに口元に笑みを浮かべる。

 

「こちら側ではさしたる力を持たない……とは聞いている。化け物になる前に死んでおいたらどうだ? その方が地球の為になる」

 

『悪いが俺は化け物なんぞになるつもりはない、それよりも負け恥を晒す貴様らは随分と無様だな』

 

「その負けん気は買うが、今の状況を見たらどうだ?」

 

キョウスケの挑発にヴィンデルは挑発を返す。伊豆基地の回りはシャドウミラーの機体で囲まれ、ハガネ達はアンジュルグによって抑えられている。自爆を躊躇わないラミアを考えれば完全に詰みの状況だ。ヴィンデルは勝利を確信していたが、レモンは違っていた。

 

(あの子はどんな選択をするのかしら)

 

ハガネのブリッジを制圧し、アンジュルグを遠隔操作で自爆させろとレモンは指示を出していた。だが蓋を開ければアンジュルグで外から脅しを掛けている。それはレモンの計画とは異なる事だし、鹵獲や迎撃もされる可能性がある。それなのに外から制圧している……それを見てレモンは楽しそうに微笑んだ。自分で考えて1番正しい選択をしろと言ったが、ラミアがどんな選択をするのかが楽しみで楽しみでしょうがなかった。

 

(それと……彼女もね)

 

ヴァイスリッター改に乗っているエクセレン・ブロウニング。その存在もレモンにとっては何よりも興味深く、そしてどうなるのか楽しみでしょうがないことでもあった。レモンにとってシャドウミラーに属しているのは恋人であるアクセルがいる事とWナンバーズを作るのにヴィンデルが出資してくれたからだが、今はその心はどちらと言えば傍観者という立ち位置に近い。だからこそラミアが不審な動きをしていてもそれを口にする事はなく、ただただ現状を静観していた。

 

「では……返答を聞こうか、ダイテツ・ミナセ中佐。 武装解除に応じるか、否か?」

 

ヴィンデルの問いかけにダイテツ達は沈黙を貫く、圧倒的に不利な状況だがこうして武装解除を望むという事はヴィンデル達にとってもそれは最終手段であると言うことだ。あえて沈黙を貫く事でヴィンデルからその目的を聞き出そうとダイテツは考えていた。

 

『こちらは伊豆基地司令、レイカー・ランドルフだ。ヴィンデル・マウザー大佐、貴官の目的は何だ? 現在の地球の状況を知りつつこのような暴挙に出ているのか?』

 

「暴挙……確かにその通りだな、百鬼帝国、インスペクター、アインストにインベーダー……地球は窮地に追い込まれていると言っても良いだろうな」

 

レイカーの問いかけにヴィンデルは自分の非を僅かに認める。仮にも地球連邦の軍人だった男だ、こうして暴挙に出たのには何か理由があると考えていた。

 

『こちらは貴官らが百鬼帝国やインスペクターと戦うというのならば共闘する事とて可能だと考えている。ゆえに貴官らの目的を聞きたい。何ゆえこのような暴挙に出たのだ、ヴィンデル大佐』

 

レイカーの問いかけを聞いてヴィンデルは小さく笑う、自分達の世界にはいなかった軍人だ。このような男が居れば自分達の世界も少しは違ったのではなかろうかと自嘲気味に笑う。

 

「貴方の問いに答えよう。我らの目的は1つ……理想の世界を創る事だ」

 

『理想の世界? それは自分達が指導者となると言う事か? 武力を持って何もかも支配すると言うのならばそれは世界征服と大差ないぞ』

 

「言い方を変えればそうかも知れん。だが、何を以て理想の世界とするかは世界を創る者のみが決定する権利を持つとは思わないか? そして、世界征服はその権利を手にし、行使する為の過程に過ぎない」

 

世界征服も、争いも自分達の理想の世界を作るための過程であり、目的ではないとヴィンデルは告げる。その声を聞いてレイカーは眉を顰めた、この短いやり取りでヴィンデルという人間についてレイカーはある程度の理解を得ていたからだ。

 

(なんと危うい男だ……しかしそれでいて頭が切れる……)

 

夢想家ではない、確固たる信念を持ち人を導く資質がある。ただその言葉の中には狂気が見え隠れしていることをレイカーは敏感に感じ取っていた。

 

『御託はいいッ! てめえの理想とやらを言ってみろッ!』

 

回りくどい言い回しにカチーナが怒りを露にしヴィンデルの理想を言えと叫ぶ、その声を聞いてツヴァイザーゲインはやれやれと言わんばかりに肩を竦めるジェスチャーを行い、それが更にカチーナの怒りに油を注ぐ事になる。だがその怒りはヴィンデルの次の言葉に急速に冷えることになった。正確には人の姿をしているがヴィンデルが人に思えず、何を言っているのか理解出来なかったと言っても良いだろう。

 

「……永遠の闘争……絶えず争いが行われている世界……それが我々の理想の世界だ」

 

自信満々にそれこそが理想の世界だとヴィンデルは言い放った。

 

『ふざけるなッ!!! そのような世界のどこが理想の世界だッ!!! 貴様自分が何を言っているのか理解しているのか! 罪なき者を戦火に巻き込むというのかッ!!!』

 

ヴィンデルの言葉に真っ先に怒りを露にしたのはリーだった。民間人を守り、地球を救う、それこそが軍人の責務であり成すべきことだ。ヴィンデルの理想の世界、それはリーにとって最も唾棄するべき物だった。

 

『その通りだ! どこが理想の世界だ! てめえ、狂ってんのかッ!!』

 

『どうすればそんな結論に辿り着くのかねぇ。とにかくてめえらと俺達が相容れないって事はよーっく分かったぜ』

 

戦争を無くす為に、平和な世界を作ために戦っているハガネのクルー達はヴィンデルの理想は到底受け入れる物ではなかった。だがコウキとラドラはその理想が分からない訳ではなかった。

 

『なるほどな、お前の理想の世界とは破壊と創造を意味していると言うのか……分からんでもないな』

 

『コウキ!? 何を言ってるの!?』

 

『コウキ博士!?』

 

鉄甲鬼からの発せられたコウキの言葉にツグミとアイビスが驚きの声を上げる。コウキが何故そんなことを言い出したのか理解出来なかったからだ。

 

「ほう? 君は私の理想に共感してくれるのか?」

 

『ふざけるな、誰が貴様の理想なんぞに共感するか。だが分からんでもないと言うだけの話だ、戦争があったからこそテスラドライブは人型のPTに搭載できるほどに小型化、高性能化しただろう。それにヒュッケバインやRシリーズのようにEOTを応用した人型機動兵器は

異星人との戦いがなければ生み出されなかっただろう』

 

『ゲッターロボだって恐竜帝国の襲撃がなければ元の宇宙開拓用のロボットであっただろうし、ドラゴンのような戦闘特化のゲッターロボが開発される事もなかっただろうな』

 

コウキの言葉を引き継ぎ、ラドラもまた戦いによって生まれたであろうゲッターロボGやゲッターD2も開発されることがなかっただろうと小さく呟いた。

 

『その通りね。貴方達が使っている兵器、そして私達の使っている兵器は戦争が生み出した技術の結晶……人類の叡智とも言えるものなのよ』

 

『そんな事が…… そんな事があってたまるもんかッ!』

 

『科学は人類の発展の為にある物よ! 戦いの為なんかじゃないわ!』

 

レモンの我が物顔の言葉に星の海を飛ぶと言う目的の為を抱くアイビスとツグミが怒りに満ちた叫び声を上げる。だがヴィンデルはそんなアイビスとツグミの言葉を鼻で笑った。

 

「お前達の意見も分からない訳ではない。だが、戦争無くして人類の発展はあり得ん。それは歴史が証明している、異星人の襲撃がなければPTは開発されなかっただろうし、外宇宙を航行できるスペースノア級も今ほど発展する事は無かった。争いが文面の発展に大きく関係していると言う事は紛れもない事実なのだよ」

 

争いが無ければ生まれた無かった技術はヴィンデルの言う通り数多ある。戦争の中で発展し、目まぐるしい成長を遂げた技術もあるだろう。だがそれでもリュウセイ達は争い続ける世界を受け入れる事はない。どこまで言ってもヴィンデル達とリュウセイ達の意見は平行線であり交わることは無いのだ。

 

『だからと言って、 戦争を継続させるなんて間違ってると思います!』

 

『そうだッ! 俺達は戦争を続ける為に戦っているんじゃない! お前達のような連中からこの世界を……そこで生きる人達を守る為に戦っているんだ!!』

 

『そんなに戦いたいっていうのなら何でインスペクターや百鬼帝国と戦わねぇッ! てめえらの言ってる事はめちゃくちゃだッ!!』

 

『ふざけんなッ! 俺達は兵士であっても兵器じゃねえ! マシンじゃねえんだッ!!』

 

『そう、私達には意思がある。貴方の言う理想の世界なんて私達には必要ないッ!』

 

『私も同意見だ。貴官らと我々の考えは決して相容れないようだな、ヴィンデル大佐。我々は永遠の闘争等は認めない、そんなことの為に私達は戦っているわけではない』

 

レイカーからの返答を聞き、ヴィンデルの操るツヴァイザーゲインは残念そうに頭を振った。

 

「残念だ、ならば貴様らは死ぬしかないな。W-17、自爆しろ。それが争いの為に生まれたお前の最後の役割だ。死んで我々の障害を排除せよ」

 

ヴィンデルからのどこまでも冷酷な死ねという命令がラミアへと告げられる。

 

『駄目だ! ラミアさん! 自爆なんかしちゃ駄目だッ!!』

 

『そうよ! 貴方は人形なんかじゃないッ! 自分で考えて生きている人間なのよッ!』

 

『お前は何度も俺達を助けてくれた、それは命令ではなかった筈だ。ラミア、自分の命運を他者に委ねるなッ!!』

 

自爆しろというヴィンデルの言葉に従うなと今まで共に戦ってきた仲間達が口々に叫び、アンジュルグのコックピットでラミアは硬く操縦桿を握り締めた。

 

『ヴィンデル・マウザーよ。闘争が人類の発展を促す……確かにその通りだ、それを否定する事はワシには出来ない。だが、戦いによって生み出される物、そして失われる物……それらは決して等価値ではないッ!! 戦争の意味を理解せず、結果だけを見る者に戦争を語る資格などないッ!』

 

ダイテツの一喝……そして仲間達の声を聞き、ラミアは自分が為すべき事、そして自分が思うもっとも正しい事は何かを悟った

 

「……そうだ。それが正しいのだろう」

 

アンジュルグが急反転しツヴァイザーゲインの胴に抱きつくようにその腕を回す。

 

「む……ッ!? Wー17! 貴様何をするッ!!!」

 

「コードATA……ASH TO ASH……発動……ッ!」

 

アンジュルグの装甲が光り輝き、自爆装置によって過剰に供給されたエネルギーは出力に劣るアンジュルグでツヴァイザーゲインの装甲を凹ませるほどに強力な力を発揮していた。

 

「ヴィンデル様、レモン様……我々はこの世界……こちら側に来るべきではなかったのだ……ッ! 戦争によって成り立っていた世界……それが向こう側……我々の世界だ。しかし、戦争を否定する事によって創られていく世界もある……それがここだったッ!!」

 

「貴様何を言ってる!! 壊れたかッ! 人形如きがッ!!!」

 

ツヴァイザーゲインの自由になっている両腕がアンジュルグを打ち据え、その装甲を見る見る間に破壊する。だがアンジュルグはラミアの意志に従い、ツヴァイザーゲインの胴に回した腕の力を緩める事は決して無く、翼を羽ばたかせツヴァイザーゲインを上空へと連れて行く。

 

『貴様の好きにはさせんぞッ! ウォーダン! バリソンッ!!!』

 

『……ッ承知ッ!!』

 

『ちっ、距離が不味い、出遅れたぜ』

 

ツヴァイザーゲインとアンジュルグを共に自爆などさせるかとアクセルの指示が飛んだ。バリソンが即座に動き、それに一挙動遅れスレードゲルミルが動き出す。その動きを見てアンジュルグのコックピットでラミアは薄く笑った。

 

「それがお前の限界だ! ウォーダンッ! 与えられた命令しか出来ないお前のなッ!!」

 

スレードゲルミルがソウルゲインとグルンガストの間にいた為、アクセルとバリソンはコンマ単位だが出遅れる。そこから放たれたソウルゲインの玄武剛弾、スレードゲルミルのドリルブーストナックル、グルンガストのブーストナックルは当然スレードゲルミルが先行し、その後を玄武剛弾とブーストナックルが続く形になる。

 

「私の計算……うぐっ!?」

 

あえてアンジュルグの下半身をドリルブーストナックルにぶつけるラミア、それによって下半身が破壊されるが砕けた残骸と命中した事で僅かに勢いを落としたドリルブーストナックルが玄武剛弾とブーストナックルに干渉し、その速度を低下させる。

 

『そんな、そこまで計算したと言うのッ!?』

 

自ら機体を破壊し追撃を防ぐという行動は正気ではない。下手をすれば機体の機能を失うのにラミアは最も被害の少ない部分で受け、追撃を防いだ。その間もツヴァイザーゲインの攻撃が頭部を襲い、既に無事な部分は胸部とコックピット部分という有様だが、それでもアンジュルグの腕の力は決して緩む事は無かった。

 

「私のような作り物……戦争の為に生まれた子供が介入すべき……いや、介入出来る場所では無かったのだ……! 私は私の意思で最も正しい選択をするッ! 私達シャドウミラーは間違っていたッ!! あの時、我々はインベーダーとアインストに敗れ死ぬべきだっんだ!!」

 

ラミアの下した決断……血を吐くようなその叫びにレモンはその身体を振るわせた。レモンが望んだとおり、レモンが願ったとおりにラミアは自我を発現させ、そして創造主である自分達に逆らおうとしている。

 

「ラミア……それが貴方の出した答え。そして選択なのね……素晴らしい、素晴らしいわラミア……貴方は完全に私の予想を超えたッ!」

 

「何を言ってるレモンッ! これは貴様の責任だぞッ! ええい、所詮は人形ッ! 貴様、狂っていたかッ!」

 

ツヴァイザーゲインの右拳がアンジュルグの頭部の右半分を砕き、爆発を繰り返すアンジュルグのコックピットの中で笑みを浮かべた。

 

「向こう側の尺度ではそうだろう。 だが……学んだと言って貰おうッ! それと私はW-17ではない! 私は……私はラミア・ラヴレスだッ! 人形などではないッ!!」

 

強烈な意志の光……ハガネ、シロガネ、ヒリュウ改のクルーと共に戦い、数多の疑問を抱き、そして迷いながらも得た答え。最早ラミアはW-17と言う人造人間ではなく、今を生きる1人の人間だった。

 

「貴女は……次のステージに進んだのね……やはり、貴女は……いいえ貴女こそが……最高傑作……そして私の娘」

 

「……いや、私は欠陥品だ。仲間を欺き、生みの親にすら牙を向く……な。貴女の娘ではない、こんな裏切り者は貴女の娘を名乗る資格はない……」

 

悲しそうに、しかしそれでも強い意思が込められた言葉でラミアはレモンの言葉を退けた。

 

「すまない……許してくれとは言わない……だが、お前達と過ごした時は……とても楽しく、充実した日々だった……」

 

その言葉を最後にアンジュルグが爆発し、ツヴァイザーゲインの姿はアンジュルグの生み出した爆発の中へと消えていくのだった……。

 

「ああっ!!」

 

「ラ、ラミアちゃんッツ!!」

 

「そんな……ッ!」

 

「自爆したのか……ッ!」

 

「う、嘘だろ……ッ!? ラミアさんッ!!」

 

「……俺達を…守る為か……ッ!? ラミア、何故そんな真似をしたッ!」

 

降り注ぐアンジュルグの残骸を見てキョウスケ達の悲痛な叫び声が伊豆基地へと響き渡る。だが悲劇はまだ終わっていない、爆発の煙の中からほぼ無傷のツヴァイザーゲインが出現する。

 

「嘘だろ……あの爆発で無傷だと」

 

「そんな……それじゃあラミアは無駄死にじゃないかッ」

 

「ラミアさん……どうして……」

 

ラミアの決死の行動も無駄であり、今も健在のツヴァイザーゲインの姿に、そして自ら命を散らしたラミアに誰もが声を失うのだった……

 

 

第144話 壊れた人形、壊れる事を望んだ人形 その3へ続く

 

 




OG2の序盤の見せ場なのでかなり頑張ってみました。ケネスがいないのでレイカーが表に出る感じとなりましたが、これも二次の魅力の1つト思っていただければ幸いです。会話などに違和感があるかもしれませんが、原作を踏まえつつオリジナルを出すとこんな感じにするのが私の限界でしたので、もし違和感などがあれば教えてください。時間を見て修正したいと思います、次回も戦闘描写は薄めとなりますが次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第144話 壊れた人形、壊れる事を望んだ人形 その3

第144話 壊れた人形、壊れる事を望んだ人形 その3

 

ツヴァイザーゲインのコックピットの中でヴィンデルは屈辱に身を震わせていた。モニターに映るツヴァイザーゲインのコンディションは撃墜一歩手前を表すレッドアラート。更にerrorの文字が踊り、辛うじてテスラドライブで浮遊している状態だった。

 

「レモン! 貴様、貴様のせいだぞッ! 貴様の人形風情が私を、ツヴァイザーゲインを損傷させるなど許されると思っているのか!」

 

『……言わせて貰うけどね、私の子供達は全てが終わった後に再び人間の繁栄の為に作ったのよ。それを戦争に流用しようとしたのはそっち、後付の闘争プログラムなんてエラーを起して当然でしょう?』

 

レモンの反論に一瞬思考が止まったヴィンデルだが、次の瞬間には再び怒声を上げる。

 

「お前は私からの出資を受けなければ無様に這い蹲っていただろうッ! 何故逆らうッ!」

 

『あら? それは言いがかりよ。私は貴方の命令通りに貴方の望む永遠の闘争を叶えるための駒を作ったでしょう? だけど私の子供達は違うわ。限りなく人に近い、自分で考えるようになったっておかしくないのよ。ま、反逆されるのは想定外だったけどね』

 

激昂するヴィンデルに対してレモンは飄々とした態度を崩さない。

 

『技術的特異点、それにラミアは到達しただけよ。言ったでしょう? 人の形に魂が宿るってね』

 

「ぬっそれは……ちいっ、アクセル、バリソン、W-15。後詰めはお前達に任せる。レモン、離脱するぞ」

 

レモンをスカウトした時、そして量産型ナンバーズが完成した時にレモンから告げられていた言葉を思い出したヴィンデルは舌打ちをする。確かに人造人間であれ、人の形をしているのだから魂は宿る可能性はある。そもそもレモンが研究していたのはアインストとインベーダーによって荒廃した地球を脱出し、そしてそこで地球人と言う種を残す為の研究だった。それを軍事用に転用させたのは紛れも無くヴィンデルであり、己の非を認めざるを得なかったヴィンデルは舌打ちし、アクセル達に後詰めを命じギャンランドへとツヴァイザーゲインを反転させる。

 

『あら、私は良いのかしら?』

 

「……お前がいなければゲッターも武蔵もどうにもならん、今回の件は私の認識不足だ。お前に非はない」

 

『ありがと、じゃ私も帰ろうかしらね。ヴィンデル先に乗りなさいな、少しの間は守ってあげるわ』

 

煙の中を突っ切って姿を見せたヴァイスリッター改を見てレモンは薄く笑いヴィンデルに逃げるように促す。

 

『逃がすと思ってるのかしら!』

 

オクスタンランチャー改から放たれる実弾を反転して回避するヴァイスセイヴァーに向かってコールドメタルブレードを握り締めたビルトビルガーが突貫する。

 

『お前が! お前がッ!!!』

 

『ふふふ、随分と情熱的ね。ぼーや』

 

コールドメタルブレードの斬撃を舞うように回避するヴァイスセイバーの動きは挑発染みていて、ラミアの自爆によって精神状態が不安定なアラド達の怒りを誘う。

 

『てめえはここで撃墜させて貰うぜ!』

 

『お前みたいなの許せないんだよ。私はねッ!!』

 

『マーサ、リューネ! 左右から! 私とアラドで上と下を塞ぐわッ! 絶対逃がさないんだから!』

 

加速力に秀でた機体で取り囲みヴァイスセイヴァーとレモンを鹵獲しようとするエクセレン達。普通に考えれば絶望的な状況だが、レモンは全く同様を見せず、それ所か楽しそうに笑った。

 

『ううん、逃げさせて貰うわよ。今はね』

 

ヴァイリッター改達に指を向けるヴァイスセイヴァー。その手からは何の反応もない、だがヴァイスリッター改、いやサイバスターやヴァルシオーネ達は急速に高度を落とし、システムダウンを起す自分の機体に驚愕の悲鳴を上げた。

 

『えっ!?』

 

『ど、どうなってるんだ!? モニターもテスラドライブも逝かれたのか!?』

 

『てめえ! 何をしやがった。シロ! クロ! 何とか出来ないのか!?』

 

『だ、駄目だ! お、落ちるッ!?』

 

飛行能力を失い、その上機体のシステムまでダウンし、墜落する各々の機体の中から上がる悲鳴にレモンは薄く笑った。

 

『うふふ、早く逃げないと地面に叩きつけられて死んじゃうわよ? ヴァイスセイヴァーのジャマーでね、まぁ魔装機神にも効果があったのは嬉しい誤算よね』

 

ゲッターロボの研究によって急速に発達したレモンの技術。それによって短時間ならばテスラドライブ等のEOTを無力化する技術の開発に成功しており、攻撃も出来ずに落下していくヴァイスリッター改達を救出に動く龍虎王達に視線を向ける。

 

『ブリット君、お願いッ!!』

 

『ああ、虎龍王行くぞッ!!』

 

龍虎王が虎龍王に変形し墜落するサイバスターとヴァルシオーネを受け止め、その上空をヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM・タイラントが飛び、ビルトビルガーを受け止める。

 

『アラド大丈夫!?』

 

『た、助かりました……危うく死ぬところでした』

 

『やっぱり継続時間に難ありね、まぁ十分に効果はあるだろうけど』

 

次々と救出される機体を見てレモンは継続時間に難ありねと呟き改善案を考え始める。

 

『大丈夫ですか!? エクセレン少尉!』

 

『あ、ありがとーアイビス。危ない所だったわ……』

 

アステリオンに抱きかかえられているヴァイスリッター改を見ながらレモンはヴァイスセイヴァーを反転させる。時間稼ぎは十分、追っ手になりそうな足の早い機体は無力化した。これなら追っ手が来る事も無く無事に逃げ切れるだろうとレモンは考え、そして別れ際に挑発めいた言葉を残した。

 

『それじゃあ、またどこかで会いましょう。エクセレン』

 

『な、なんで私の名前を!? それにどうして私の声に……』

 

『それは何れ分かるわよ……ん? あれはッ!?』

 

アステリオンに抱えられているヴァイスリッター改からノイズが混じりながらもエクセレンの動揺した声がヴァイスセイヴァーに響く、だがレモンはそれに返事を返さずギャンランドへと帰艦する中海中に浮かぶある物を見つけ、その目を輝かせた。それは紛れも無くアンジュルグのコックピットブロックだった、コードATAを使えば脱出装置が起動しない筈なのに、何故か排出されていたそれを見て、レモンはヴァイスセイヴァーを急降下させ、コックピットを回収する。

 

『レモン、何をやっている?  退くぞ!』

 

『……了解よ、すぐに行くわね』

 

アンジュルグのコックピットブロックをヴィンデルから隠すように回収したレモンはヴィンデルから僅かに遅れてギャンランドへと帰艦する。

 

『あいつら、逃げる気かッ!?』

 

『くっ! 逃がさんぞッ!』

 

ギャンランドが反転するのを見てキョウスケ達がその後を追おうとするが、その前にソウルゲイン、スレードゲルミル。そして量産型Wシリーズが乗り込んだシャドウミラーの機体が立ち塞がる。

 

『キョウスケ・ナンブ……ここから先は通さぬ』

 

『イレギュラーはあったが、やる事は変わらん。貴様はここで死ねッ! ベーオウルフッ!!!』

 

『邪魔をするならば、 押し通るまでだ……ッ!』

 

『『各機、攻撃を開始しろッ!!』』

 

カイとアクセルの叫びが同時に木霊し、シャドウミラーの軍勢と伊豆基地の部隊の戦いが幕を開けるのだった……。

ギャンランドの殿を務める為に1人だけ後方に待機しているバリソンは戦況を冷めた目で見つめていた。正直な所バリソンは永遠の闘争など興味は無く、平和な世界に来たのだから今度こそ自分達の世界にならないように戦う事こそが己の世界を捨てたけじめだと思っていた。それ故にヴィンデル達のやり方には賛同しかねていた。

 

(お前は人間になれたんだな、ラミア)

 

ラミアの自爆特攻を見てバリソンは心からそう思っていた。与えられた命令しか出来ないようにされている筈のWナンバーズのラミアが自分の意志を見せ、そしてそれを貫いて見せた。それは紛れも無く人間の証だった、だからこそバリソンは思うのだ。

 

「やっぱ俺はお前らには着いていけねえわ」

 

バリソンは誰に聞かせるわけでも無く決別の言葉を吐き捨てる。確かにヴィンデルとアクセル達のやり方には賛同出来ない、それでもあの世界の僅かな生き残りとして、そして共に戦った仲間としての情もあった。

 

「これが最後の仕事だ、俺はやっぱり永遠の闘争よりも平和な世界の方が良い。その為に俺は……いや俺達は戦ったんだからな」

 

これを最後にしてシャドウミラーと決別する。それを決めたバリソンはヴィンデルに預けられたグルンガストの腕を組ませ、完全に傍観の姿勢に入った。ギャンランドの退路は守る、だが自ら進んで戦うことはない。百鬼、インスペクター、アインスト、インベーダー……地球を襲う数多の敵と戦う事が己の使命であり、地球人同士で戦うつもりはないと言うバリソンの無言の意思表示がそこにあるのだった……。

 

 

 

 

 

一団から離れ戦闘意欲を見せないグルンガストを見てイングラムはあれのパイロットは誰かを見抜いていた。

 

「各機へ、後方で待機しているグルンガストへの攻撃を禁止する」

 

どの道包囲網を抜けなければグルンガストと戦う事は出来ないが、何故イングラムからそんな命令が出たのかという困惑が広がる。

 

『教官、どういうことなんだ。説明してくれ』

 

「あれのパイロットは俺も知ってる男だ。シャドウミラーの中でありながら俺達と同じ心根を持っている、あいつを説得出来れば」

 

『武蔵がどこに連れて行かれたか判るという事ですね!?』

 

「その通りだ。俺達はなんとしても武蔵とゲッターロボを奪還しなければならない」

 

ギャンランドに連れ去られた武蔵をなんとしても奪還しなければ自分達に勝利はないとイングラムは断言する。

 

『少佐よぉ、あいつは説得に応じるのか?』

 

「……後6分だ」

 

『は?』

 

「後6分でカーウァイがこっちに来る。カーウァイならあいつを説得出来る筈だ」

 

『丸投げかよ!?』

 

丸投げとイルムが叫ぶがイングラムはどこまでも淡々と、そして冷静な態度を保っていた。

 

「動けないように弱らせるという手もあるんだが……」

 

『そう思うようには行かないと言う事か』

 

量産型Wナンバーズは自分の命を勘定に入れていないし、味方の命も勘定に入れていない。つまりそれは撃墜されかけている味方の背後から攻撃を仕掛けてきたり、動力炉を破壊し爆発させ広範囲に被害を与えようとしていると言う事だ。

 

「相手は無人機だと思え、躊躇えば死ぬのは俺達だぞ!」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅱのコックピットに躊躇う事無くビームソードを突き立て、蹴りを叩き込み弾き飛ばすR-SWORD。レモンとヴィンデルの会話の中でパイロットが人造人間だと判りクスハ達が躊躇うのは判る。だが殺しに来ている相手に情けを掛ければ死ぬのは自分達だとイングラムは諭すように口にし、ギャンランドの撤退の為の時間稼ぎ、そして自分達に少しでも大きな被害を与えようとする量産型Wナンバーズが乗り込む機体を睨みつけ、躊躇うなと言わんばかりに次々と撃墜する。

 

『イングラムの言う通りだ。躊躇っている時間も迷っている時間もない』

 

『敵機を速やかに撃墜後に敵戦艦の追跡及び、武蔵の救出を行なう! 各員目の前の戦闘に集中するんだ!』

 

ハガネから響くテツヤの指示、ラミアの自爆、武蔵の拉致……そのどれもが衝撃的であり平常心を奪うのに十分な物だった。だが量産型Wナンバーズはそんなことをお構いなしで、むしろ動揺しているのならば好都合と言わんばかりに激しい攻撃を行なってくる。

 

『ふんッ!!!』

 

『思う事はあるがさっさと死ね』

 

ラドラとコウキは躊躇う事無くコックピットへの攻撃を繰り出し、次々とシャドウミラーの機体を撃墜していく。確かにリュウセイ達もシャドウミラーのあり方、そしてその機体に乗り込んでいるあろう戦争を続ける為に作り出された人間に思う事はある。

 

『やるしかない、行くぞ、リュウセイッ!』

 

『……ああ、分かってるッ!』

 

戦わなければ自分達が死んでしまう。今は同情も、迷いも捨て戦うしかないのだと覚悟を決める。だがそれでもインスペクターのバイオロイドと異なり、ラミアと触れ合い、彼女の人間性を見ていたリュウセイ達は今戦っているWナンバーズもラミアのように人間性を獲得するのではという考えがどうしても脳裏を過ぎり、戦力・パイロットの技術共に量産型Wナンバーズよりも優れている筈のリュウセイ達は量産型Wナンバーズ相手に劣勢では無いが、優勢でもない苦しい戦いを強いられる事となるのだった……。

 

 

 

 

包囲網を突破し、ソウルゲインへと肉薄したアルトアイゼン・ギーガとキョウスケを見て、アクセルは量産型Wナンバーズに邪魔をするなと命令を下し、キョウスケとの一騎打ちに身を投じていた。

 

「どうした、ベーオウルフ。精彩に欠けているぞ」

 

『……それはお前でもないのか? アクセル・アルマー』

 

挑発のつもりのそれはそのまま挑発で返された。その言葉に苛立ったように舌打ちし、絶好の反撃の機会だというのにアクセルはソウルゲインを後退させた。

 

『それがお前の答えか、アクセル』

 

「ちっ……確かに俺とて思う事はある」

 

戦いの中で問答をするなど言語道断だと言う事はアクセルとて分かっている。それでもラミアの自爆の様はアクセルにもある程度の衝撃を与えていた。

 

『何故永遠の闘争などを望む。お前ならば他の道とてあっただろうにッ!』

 

「貴様にそれだけは言われたくはないッ!!」

 

互いに精彩を欠いた戦いは決め手に欠け、そしてアクセルの中の燃え上がるような闘志も、キョウスケの中に冷たく燃える闘志さえも消し去っていた。

 

「お前が俺達の世界を滅ぼしたんだッ!」

 

『それは俺ではない俺の筈だ。何時までも過去に縛られてどうするアクセルッ! それはお前のただの八つ当たりだ。お前が味わった悲しみを、苦しみを何故この世界にもばら撒こうとする!』

 

キョウスケの口にした八つ当たりという言葉にアクセルは動きを止めた。その直後に6連装マシンキャノンの銃口がソウルゲインに押し当てられ、凄まじい衝撃がアクセルを襲った。

 

「ぐうっ! 貴様俺を舐めているのか!」

 

あのタイミングでリボルビング・バンカーを使えばソウルゲインは間違いなく致命傷を受けていた。それなのに手加減したかのようなマシンキャノンの攻撃にアクセルは怒りを露にし、アルトアイゼン・ギーガへと殴り掛かる。

 

『それはこちらの台詞だ。アクセルッ!!』

 

玄武剛撃でもない、エネルギーが篭もった打撃でもない。ただの怒りのまま、キョウスケの指摘したとおりの八つ当たりに等しい攻撃だった。そしてそれを見逃すキョウスケではなくカウンターで叩き込まれたリボルビング・バンカーがソウルゲインの胸部へと迫る。

 

「ちいっ!!!」

 

咄嗟に左腕を盾にし直撃を防いだが、リボルビング・バンカーの一撃によって左肘が完全にお釈迦になり、脱力した左腕を右腕で支えソウルゲインは地面を蹴ってアルトアイゼン・ギーガから距離を取った。

 

(くそ、何故俺はここまで動揺している)

 

W-17は人形、その人形が壊れただけなのに何故こうも動揺しているのか、それともキョウスケに八つ当たりと言われたのが図星だったのかと理由を考えるが答えは出ない。

 

「どうした追撃しないのか」

 

『まだ答えを聞いていない、何故お前は悲劇をばら撒く事を選んだ。他の道もあったはずだ』

 

左腕を失ったソウルゲインは仕留める最大の好機だというのに、言葉を投げかけてくるキョウスケに甘い奴だとアクセルは内心吐き捨てる。

 

「お前は知らないんだ。殺してくれ、化け物になりたくないと懇願する仲間を己の手で殺す……その苦しみをな」

 

(そうだ、お前は何も知らないからそんなことを言える。あの悲劇を、あの悪夢を知らないからなッ!)

 

アクセルの脳裏を過ぎるのはアインストとインベーダーが出現したばかりの、そしてアクセルを今もなお苦しめる悪夢の光景だった。

 

【あがああ、ああ……いやだ、嫌だアアアア!!!】

 

【ば、化け物になりたくない。殺せ、殺すんだ! 殺してくれえええええええーギギャァアアアアッ!?】

 

イージス計画にシャドウミラー隊が反対し謹慎処分となった時期にアインストとインベーダーは少数ながら出現し始めていた。全員が蔓に覆われ、血反吐を吐き、素肌が内から弾けて化け物になりながら嫌だ嫌だと繰り返した同期。全身にインベーダーの黄色の複眼が出現し、見る見る間にインベーダーになり、殺してくれと血涙を流しながらインベーダーになった部下。

 

【痛い、痛いイタイイタイイイイイイイッ!!!】

 

【おでのデガアア、ドゴ、ドゴダアアアア!!】

 

【苦しい、アグゼルざん……アグゼルざん……だずげでえええええッ!!!】

 

【化け物なんかなりたくねぇ、殺せ、殺してくれええええッ!!】

 

【あひゃ、なんでなんであだじいぎでるのおおお!? あひゃはややはやははははッ!!】

 

インベーダーに己の機体を食われ、押し潰されながらも身体に寄生され、痛みと自分が化け物になっていく中発狂する仲間達。死にたくないと、殺してくれと叫ぶ声、化け物になる前に自爆する事を選んだが、それでもインベーダーによって再生され、狂ったように笑う声。それは今もなおアクセルを蝕む悪夢である。

 

【はっ……はっ……おえ、うげええッ!!!】

 

まだアクセルは若かった仲間を殺した事に涙を流し、吐き戻し絶望した。どうしてこんな事になったとそればかりを繰り返す。そんな中カーウァイの処刑が決まり、それを阻止する為に動いたがその間にも仲間はインベーダーに、アインストに寄生され、それを殺した。殺して殺して殺して救った。人としての尊厳だけは守ってやりたかった化け物のまま死なせたくなかった。

 

【この原因はイージス計画ね、あれが続けばあの化け物はもっと増えるわ】

 

【なんとしてもイージス計画を阻止し、カーウァイ大佐を救出する】

 

その時はまだ永遠の闘争をヴィンデルは掲げていなかった。化け物の流出を防ぐ為に、そして化け物にさせないためにシャドウミラーは戦った。だが負けた、イージス計画は実行され地獄の門は開かれた。

 

【この化け物出現は全てシャドウミラー隊とカーウァイ大佐によるものです】

 

【あいつらは化け物をこの世界に呼び寄せたのです】

 

そして政府はアインストとインベーダーの出現を全てシャドウミラーのせいにし、アクセル達は追われる身になった。

 

【仇は取る。安心して死ね】

 

【あ、ああ……すまねえな。後は頼むぜ】

 

【ベーオウルフを許すな……あいつのせいだ。全部全部あいつの……】

 

【判っているさ、お前の意志も俺は連れて行こう。必ずやこの手であいつを殺す】

 

時間が経ちアインストとインベーダーが政府のイージス計画による物だと判明したが、その頃にはベーオウルフが台頭しアインスト、インベーダーの地球の奪い合いが始まり、アクセル達……いや人類は逃げるしかなかった。

 

【後は頼むぜ】

 

【ころして……くれてありがとう……】

 

【さよ……なら】

 

【死に、たくな……い、死に……たく、ないよぉ……】

 

皆皆死んだ朝共に食事をし、数時間後には化け物になり殺してくれと血涙を流す仲間を何人も己での手で屠った。最初は吐き戻しもした、だが徐々に心は麻痺し、そしてその悲劇を生んだベーオウルフを殺す。それだけがアクセルの心の支えとなった、自分が殺して来た仲間達の為にも、そうする事でしかアクセルは過去に踏ん切りをつけることは出来なかった。

 

『それは……だが』

 

「悪いが別の俺だ等と言う言葉を聞くつもりはない。ああ、そうだろうな。これは俺の八つ当たりなのだろうな……」

 

本当は別の道もあるだろう、別の選択もあるだろう。だが……アクセルにはこの道しかないのだ。ベーオウルフとキョウスケが違う人間だと判っていても、それを止める事が出来ないのだ。

 

 

「お前だ、お前が原因なんだ! そしてこの世界でもお前はその引き金になる! だから俺は貴様をなんとしても殺すッ!!」

 

『ぐうっ!?』

 

殴る殴る殴る殴る、技も何もないただ怒りに、絶望に、嘆き、何も出来なかった苦しみと悲しみ、時間では解決しない痛みを吐き出すようにアクセルはソウルゲインを駆る。

 

「何故だ! 何故俺の仲間は死なねばならなかった!! 何故何故何故何故何故だッ!!! お前達に俺の何が判るッ!」

 

『そうだ、何も俺達は知らない。だがお前の思想は間違っているッ!!!』

 

「分かっている、分かっているさ!! だがそれでも俺にはもう戦い続ける事しかできないッ!!」

 

アルトアイゼン・ギーガとソウルゲインが何度も拳を交す。ただ闇雲に、怒りを痛みを吐き出すように暴れるソウルゲインとそれを吐き出せようとするキョウスケ。互いの機体が何度も何度もぶつかり合い、そして装甲が凹み火花を散らす。

 

「うおおおおおッ!!! がぁあ嗚呼ああァ! キョウスケ・ナンブウウウウッ!!!」

 

『う、うがあッ!?』

 

怒りに身を任せ、膝蹴りで浮いたアルトアイゼン・ギーガに右拳を叩きつけようとしたソウルゲインだが、ハガネとシロガネの主砲に気付き、地面を蹴り強引に距離を取る。

 

『キョウスケ中尉、大丈夫ですか!?』

 

『キョウスケ、無茶しすぎだぜ』

 

仲間に囲まれているキョウスケと屍を背負った己、余りにも違いすぎる光景が目の前に広がっているのを見てアクセルは小さく息を吐いた。

 

「止めだ、どうせヴィンデルの奴らも撤退した、これ以上は意味がない」

 

滅茶苦茶な操縦をした事でソウルゲインはレッドアラートを灯し、左腕は完全に死んだ。こんな状態では敵討ちは愚か、牙を突き立てることすら出来ずに己が死ぬ、それが分かっているからこそアクセルは構えを解き、ジリジリと海へと後退する。

 

「俺は変わらない、俺は俺の道を貫く。説得など出来ると思うな、俺はお前を殺す。そして俺達のやり方で地球を守る、イージス計画など認めはしない。覚えておけ、あれは冥府への扉だとなッ!!」

 

アクセルはそう言い残し海中へとソウルゲインを飛び込ませ、伊豆基地から離脱する。復讐心もある、怒りもある、だがアクセルを突き動かしているのは仲間の仇を討つという信念……いや、己が殺した仲間への贖罪とも言える心だった。だからこそ復讐を成し遂げずに死ぬわけには行かないと逃げを打つ事が出来た。まだそこまで考えるだけの冷静さがアクセルに残っていた。

 

(……ちっ、俺は何をしているんだ)

 

何故ラミアの死にあそこまで動揺したのか、そして何故イージス計画を止めろと口にしたのか、そして何故こんなにも苛立っているのか、そして何故己の過去をキョウスケにぶちまけたのか……自分でも理解出来ない感情を持て余したままアクセルは伊豆基地を後にするのだった……。

 

 

 

 

斬艦刀の一閃が振るわれ、それを反射的にギリアムとカイは回避する。だがカイもギリアムも違和感を覚えていた。今まで何度もスレードゲルミル、そしてウォーダン・ユミルと戦っているからこそ分かる。

 

「精彩を欠いているな」

 

『ああ、あいつらもラミアの自爆には動揺しているようだな』

 

普段の切れ味がないがそれでもスレードゲルミルとウォーダンは強敵である。斬艦刀のリーチと破壊力、精彩を欠いているとは言え容易に踏み込めば両断されるのは目に見ている。

 

『どうする、カイ少佐、ギリアム少佐、攻め込むか?』

 

イルムからの通信にギリアムとカイの目に迷いが生まれる。量産型Wナンバーズもその姿を減らし、ソウルゲインもキョウスケとの戦いでたった今離脱した。残るは少数のゲシュペンスト・MK-Ⅱ。そしてエルアインスとエルツヴァイ、ランドグリーズとアシュセイバーが3機ずつそしてスレードゲルミルとグルンガストという状況だ。

 

「焦るな、虎の尾を踏む事になる」

 

『仕留め切れるなら倒したい所だが……こちらも戦意が低下している。無理は出来ないぞ』

 

スレードゲルミルは自己修復能力と極めて高い攻撃力を持ち合わせた特機だ。掠めただけでも致命傷になりかねない攻撃力を秘めた相手に今の注意力散漫な状態で勝負を挑むのは危険すぎるとギリアムは焦るなと指示を出す。本音を言えばイングラムの言う通り後方で待機しているグルンガストのパイロットの説得を試みたいが、出撃しているメンバーの精神状態が余りにも良くない。

 

『きゃあッ!?』

 

『クスハ! 大丈夫かッ!?』

 

『う、うん! だ、大丈夫ッ!』

 

気丈に振舞っているがクスハの精神状態は良く無く、それに引かれているのか龍虎王も普段の勇ましさがまるで感じられない。

 

『うあっ!?』

 

『大丈夫か!? 下がれマイッ! ライ! アヤッ! フォローをッ!』

 

『分かっている! リュウセイはR-GUNを連れて下がれッ!』

 

『こっちは私達が引き受けるわッ!』

 

機体のダメージよりもマイの精神が乱れ操縦が乱れているR-GUNをR-1が守りながら後退し、Rー2・パワード、R-3・パワードが出てフォローに入る。

 

『ライ、アヤ、お前達も下がれ。ヴィレッタ』

 

『ええ、分かったわ。2人とも下がりなさい、命令よ』

 

だがイングラムとヴィレッタには2人も精彩を書いているのが丸分かりであり、下がれと命令を下す。

 

『アイビス、お前もだ。下がれ、お前は今は役に立たない』

 

『こ、コウキ博士、で、でも』

 

『下がれと言っているんだ。お前にはまだこの戦場は早過ぎる』

 

今までも有人の機体と戦っているが、量産型Wナンバーズは脱出と言う概念がないので、そのまま殺す事になる。争いを稀有するアイビスには量産型Wナンバーズと戦うには早過ぎるとコウキは離脱しろと命令を下す。

 

『くそっ! こんな胸糞悪い戦いはアードラーの爺以来だぜ!』

 

『……本当だよ。どうしてあんな事が出来るんだ……』

 

誰もが精神的に追詰められている。ラミアを知っているからこその迷いであり、殺人への嫌悪だった。確かに戦争を行なっているのだ、殺す事はある。だが戦争の為だけに生まれ、そして役に立たなければ自爆してでも相手を道連れにして死ぬ量産型Wナンバーズは余りにも歳若い面子には苦しい相手だった。

 

『くそッ! クソクソッ!!』

 

『アラドッ! アラド落ち着いてッ!!!』

 

『くっ! 分かってる! 分かってはいるんだ!!!』

 

『あ……ああ、武蔵、武蔵様が……』

 

『シャイン王女! 落ち着い……きゃっ!?』

 

頭で理解していても感情をコントロールできないアラドを必死にフォローするラトゥーニだが、シャインの精神状態も良くない動きが硬く、反応が鈍いランドグリーズのFソリッドカノンからフェアリオン・タイプGを庇うフェアリオン・タイプSだがバリアを展開しても凄まじい衝撃がラトゥーニを襲い、思わず悲鳴があがる。

 

『ラトゥーニちゃん、貴女は2人を連れて下がりなさい。キョウスケ』

 

『ああ、そうしろ。ここは俺達が食い止めるッ!』

 

ヴァイスリッター改とアルトアイゼン・ギーガに庇われ、フェアリオン・タイプSはタイプGを抱えるようにして司令部へと後退していく。

 

『敵の増援が来ないとは限らん。このままでは不味いぞ』

 

「分かっているが、突破口が見つからない」

 

割り切れるカイ達と割り切れないリュウセイ達。カイ達がフォローしているから押し込まれる事は辛うじて避けているが、状況は決して良くない。アシュセイバーのソードブレイカーを迎撃しつつ必死に頭を回転させるギリアムの耳に緊急警報が鳴り響いた。

 

「ちいっ! やはり援軍かッ!」

 

『いいや、違う。こちらの応援だ』

 

キラーホエールが浮上し、開け放たれたカタパルトからゲシュペンスト・タイプSが姿を見せる。

 

『イングラム、これはどういうことだ。どうなっている』

 

『武蔵がシャドウミラーに連れ去られた。それと色々あってな、士気がガタ落ちだ。詳しくはこの状況を切り抜けてから説明する』

 

『いや、その必要はない。全機撤退せよ、殿は俺が務める』

 

ゲシュペンスト・タイプSとカーウァイの登場で戦況はよりり激化する……と思いきや後方で待機していたグルンガストが撤退命令を出し前に出てくる。

 

『カーウァイ隊長。お久しぶりです』

 

『バリソンか、お前は何している?』

 

『そうですね、見極めるつもりでシャドウミラーにいましたが、まぁ……あれですね。もうあいつらは駄目でしょうね、もう何を言っても止まれないと思いますよ』

 

戦闘をする意志がないのを感じ取ったカーウァイの問いかけにバリソンは苦笑と共に返事を返すと踵を返す。

 

『悪いんですけど、俺はギャンランドがどこに帰るのか知らないです。でも、アースクレイドルには向かわないと思いますよ。それだけです、では俺もこれで』

 

会話をしている間にASRSの準備をしていたのかグルンガストはASRSを展開し、凄まじい勢いで離脱する。向こう側の世界のグルンガストはテスラドライブを搭載しているからこそ出来る撤退であり、あえて飛行する事で途中まで反応を残し探して見せろと言うバリソンの不器用な応援にカーウァイは苦笑する。

 

『各機、帰艦せよ! 我々はこれよりシャドウミラーの追跡を行なう!』

 

『時間がありません、急いで帰艦してください!』

 

リーとレフィーナから帰還命令が出て、出撃していたPTはそれぞれの戦艦へと帰艦する。

 

『カーウァイ隊長はどうするのですか?』

 

『私も同行するが、先にやることがある。先に行け、私はキラーホエールで後を追う』

 

カーウァイはそう言うと伊豆基地に着陸し、その姿を横目にギリアムとカイもハガネへと帰艦し武蔵の救出の為にギャンランドの追跡を始めるのだった……。

 

「久しぶりだな、武蔵」

 

「どーも、ヴィンデルさん。出来ればこんな風に再会するのは嫌だったんですけどねぇ」

 

そのころ武蔵は放電を繰り返す鉄格子越しにヴィンデル達との再会を果たしているのだった……。

 

 

第145話 陰謀と再会 その1へ続く

 

 




この話は戦闘イベントも殆どなく会話もラミアが全てなのでとても難産でした。ラミアの自爆の所で全てを持っていかれてしまい、それ以外の話を上手く作る事が出来ずに無念が残る話となりました。このリベンジは次回の話から挽回して行こうと思いますので、今回の話についてはお許しください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

PS

ダイゼンガーガチャ2週目

雷光切り×2
サマーソルトテイアー
ビームマグナム(MAP)

当りなんだけど、当りなんだけど解せぬ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第145話 陰謀と再会 その1

第145話 陰謀と再会 その1

 

武蔵の救出の為にギャンランドの追跡を行なっているハガネ、シロガネ、ヒリュウ改の3隻。だがそのブリーフィングルームには重苦しい雰囲気が広がっていた。

 

「くそっ! ラミアの奴が敵のスパイだったとはなッ! それにエキドナの奴だってそうだ、武蔵が気を許しているからって警戒を緩めたのが馬鹿だったぜッ!」

 

記憶喪失である事は間違いないが、その体捌きや立ち振る舞いには訓練された軍人の物が感じられていた。当然警戒するべきという意見もあったが、武蔵が気を許しているのなら大丈夫ではないかと警戒を緩めたのが失敗だったとカチーナは声を荒げる。

 

「……武蔵さんは知らなかったのではないですか? そのエキドナさんがシャドウミラーだと」

 

武蔵が連れ去れ完全に気落ちしているシャインが知らなかったのではないか? と意見するが、それはイングラムによって否定される事になる。

 

「いや、少なくともエキドナがシャドウミラーである事は俺も、武蔵も、カーウァイも、そしてビアン達も認識していた」

 

「ちょっ! ちょっと待ってくれ教官! 知ってたのかよ!?」

 

エキドナがシャドウミラーであると言う事をイングラムは勿論武蔵達も知っていたと告げられ、ブリーフィングルームに動揺が広がる。

 

『イングラム少佐、それはどういうことなのか説明してくれるか?』

 

「ああ、俺達が平行世界の未来で戦っている時に武蔵はエキドナに助けられた。それにあいつは最初こそ与えられた命令だけを遂行する人形のような存在だったが、武蔵と触れ合う内に人間らしさを見せ始めていてな。それを信じてみたかったと言うのもあるが、武蔵が監禁や投獄するのを嫌がったと言うのもある。これはゼンガー達を初めとした上層部は知っている事だがユーリアは知らない話だ」

 

エキドナがシャドウミラーであり、敵組織の人間だと判ればいらない差別を産むかもしれないと危惧したのもあるが、今回の件に居たっては完全に後手であり、そして悪手だった。

 

『イングラム少佐達は彼女が協力してくれると思っていたのですね』

 

「可能性としてな、それに記憶喪失だったのも事実。もっと言えば……記憶を取り戻さないほうがエキドナにとって幸せなのではなかろうかとな」

 

戦争を続ける為の人造人間として作り出されたエキドナだったが、武蔵といる間に恋を知り、穏やかな性格となりつつあった。幼い心に芽生えた心を潰して良いものかとイングラム達が葛藤したのも事実だ。

 

「甘いというかも知れんがな、それでも信じたいと思う事は悪ではない筈だ」

 

ブリーフィングルームに入ってきた金髪の青年を見て、誰だ? という声が広がる中、イルムだけが驚いたように手にしたマグカップを落とした。

 

「カーウァイ大佐……若返ってないか?」

 

「ん? まぁそうだな。イルムガルトも久しぶりだな」

 

ゲシュペンストの開発の際に何度か顔合わせをしていたイルムだけが、その青年がカーウァイ・ラウだと言う事を知っていた。クロガネで再会した時はジックリと見ている時間も無かったが、こうして見るとカーウァイが40台の親父には見えないとイルムは驚きを隠せなかった。

 

「うえ!? マジで!?」

 

「わっか……いや、若返ったって言ってたわよね」

 

「もしかするとカイ少佐達の方が歳なのでは……」

 

「うるさい! 誰が歳だ!」

 

「……まあ確かにカーウァイ大佐よりも俺達の方が年上になったかもしれなんがな、それで何の話をしていたんだ?」

 

格納庫にカーウァイを迎えに行っていたギリアムがキョウスケ達にそう問いかける。

 

「ラミアとエキドナについて話をしていました。その中でイングラム少佐がエキドナがシャドウミラーだと知っていたと言うもので」

 

キョウスケがそう説明するとカイとギリアムは驚いたような顔をし、そしてカーウァイは沈鬱そうな表情を浮かべた。

 

「確かにエキドナはシャドウミラーだった。それでも変わろうとしていた、それを信じたいと思ったんだがな……やはり創造主には逆らえなかったか」

 

エキドナやラミア、Wナンバーズにとってはレモンは創造主だ。その命令には逆らえなかったかとカーウァイが残念そうに呟くと、エキドナの私室を調べていたラーダがブリーフィングルームに入ってきた。

 

「これ……彼女が残した手紙みたいです。机の上に置かれていたんですけど……彼女も相当悩んで、そしてその上で行動したみたいです。

これを見ると私は彼女を責める事はで来ません……」

 

「……読んでも?」

 

「ええ、どうぞ……それが良いと思います」

 

ラーダが差し出した便箋は涙に濡れたのかあちこち滲んでいた、代表してキョウスケがラーダから手紙を受け取り、封の空いている便箋から手紙を取り出した。

 

『許して欲しいとは言わない、同情して欲しいとは言わない。私は裏切った、武蔵の信頼を裏切った。すまない、すまない。それでも私には、私にはレモン様は母なのだ……その信頼を私は裏切れない、あの人の役に立ちたいんだ。それがお前達を、武蔵を裏切る事であったとしても……憎んでくれて構わない、恨んでくれて構わない……どうか……私を許さないで欲しい……人形が、人ではない者が……人の中で生きたいとおこがましくも願ってしまった。思ってしまった……分不相応の思いを抱いた私を許さないで、ごめんなさい、ごめんなさい……』

 

余りにも痛ましい、涙に濡れ、文字はぐしゃぐしゃ、自分が悪いのだと、憎んでくれ、恨んでくれと、許さないでくれと言いつつも謝罪の言葉が綴られているその手紙を読み終え、キョウスケは目を伏せその手紙を折り畳んだ。

 

「……あの人も悩んでいたのですね。自分のあり方に」

 

「……違うんだ。あの人も人間だったんだ……自分を変えようとしてたんだ……」

 

恋をして人になろうとした、でもどうしても人になりきれなかった。いや、人になったからこそ母の願いを無碍に出来なかった。余りにもエキドナは純粋すぎたのだ、助けてくれと、どうすれば良いのかと誰にもいう事が出来ず。己の胸の中に苦しみを抱え続けていた。

 

「……ちっ、胸糞悪ぃ……どうしてどいつもこいつも助けてくれの一言も言えねえんだ! こうなったら首根っこを掴んででも引きずり出してやる。手紙なんかじゃねぇ、自分の言葉で言えってよ……」

 

「カチーナ中尉。ええ、そうですね。その為にもまずは武蔵を助け出す事を考えましょう」

 

カチーナは口調こそ乱暴だが、性根は心優しい女性だ。馬鹿みたいなことをした奴らを叱りつけるという姿にラッセルも同意する。

 

『それでカーウァイ大佐。武蔵の救出についてだが、ビアン博士から何か聞いてないのか?』

 

「それに関してだがビアン達はこの件には参加出来ない」

 

「どういうことだ? ビアンが動かない理由があるのか?」

 

「プランタジネットの前の大統領演説がある。鬼がそこを見逃すと思うか? ブライアン・ミッドクリッドの救出にビアン達は向かっている」

 

武蔵を手中に収めた今、動き出すのに最大の好機。ブライがそれを見逃す訳が無い、武蔵の救出と同じ位ブライアンの生存は重要な要素を持つ。

 

「道中までだがバリソンのグルンガストの反応があった。その周辺を探せばギャンランドの航路の反応も取れるはず。焦るのは分かる、不安なのも判るが……私達には悩んでいる時間も考えている時間もないと言う事は判っているはずだ。そしてこれら全てを同時に解決する必要があるとなれば……答えは1つしかなかろう。ダイテツ・ミナセ中佐」

 

オペレーション・プランタジネットの発令はもう目の前まで来ている。

 

シャドウミラーに拉致された武蔵とゲッターロボの事もあり、救出が急がれる。

 

鬼によるブライアンの暗殺も今のこの時期が最も可能性が高い。

 

どれか1つでも失敗すれば人類は追詰められる事になる。

 

「分断策か、だが百鬼帝国の事を考えれば余り戦力は裂けんぞ?」

 

「ギリアムとラドラとカイを貸してくれば良い。武蔵には薬物や毒物に強い耐性があるし、何よりも武蔵が呼べばゲッターは動き出す。シャドウミラーも悠長に構えている時間はない筈だ」

 

『4人で強襲するつもりか!? 無謀が過ぎるぞ』

 

「案ずる事はない、道中でゼンガー達も拾っていく、教導隊全員でシャドウミラーを叩き武蔵を救出する。ダイテツ中佐達は後詰めで合流してきて欲しい」

 

無謀ではあるが、それ故に予測されない大胆な強襲、そして救出作戦。普通に考えれば失敗のリスクが高いが悠長に構えている時間はない。カーウァイの提案をダイテツは受け入れ、カーウァイ達はそれぞれの機体に乗り込みハガネを後にし、キラーホエールへと乗り込みギャンランドの追跡へ向かう。

 

「熱源多数感知! 識別不明機多数ッ!」

 

「足止めに来たか、各員出撃準備ッ! なんとしても突破するぞ!」

 

それと入れ替わりに感知された無数の正体不明機の熱源反応に応戦するべく、ダイテツ、レフィーナ、リーの出撃命令が下されるのだった……。

 

 

 

 

一方その頃シャドウミラーに拉致された武蔵は放電を繰り返す牢獄の中にいた。常人ならば恐怖し、平然とする事が出来ない環境の中で武蔵は胡坐をかいた状態で目の前のヴィンデルに視線を向けた。

 

「久しぶりだな、武蔵」

 

「どーも、ヴィンデルさん。出来ればこんな風に再会するのは嫌だったんですけどねぇ」

 

牢獄に閉じ込められた状態ではヴィンデルをどうこうする事など出来るわけも無く、通信機も電波妨害で使えず。強靭な肉体を持っている武蔵でもただではすまないと一目で判る牢獄の中に入れられば不貞腐れた態度になるのも当然だ。

 

「そう嫌がってくれるな、私は君の力を高く評価している」

 

「そいつはどーも、でもねえ。永遠の闘争なんて言うヴィンデルさんに言われても嬉しくもねえよ」

 

年上には基本的に敬語を使う武蔵だが、ヴィンデルには敬語では無くタメ口で返事を返す。武蔵にとってヴィンデルは敵だと言う意思表示であった。

 

「これこそが地球を救う方法なのだぞ、何故分からない」

 

「わかんねぇっすね、オイラは戦いなんか嫌いなんですよ。それでも守る為に戦うだけで、好き好んで戦ってるわけじゃねぇ。永遠に戦い続ける地獄みたいな世界はごめんだよ」

 

これ以上話す事はないと言わんばかりに寝転がる武蔵にヴィンデルは溜め息を吐いた。

 

「どうしても私には協力は出来ないと?」

 

「出来ないね。もしもあんた達が永遠の闘争とか言うクソみたいな思想を捨てるなら判るけどな」

 

手をひらひらと振り興味はないと言う態度を取る武蔵にヴィンデルは背中を向ける。

 

「後悔するぞ。自主的に協力すれば良かったとな」

 

「んなもんに協力するならオイラは舌を噛み切って死ぬさ。分かったら消えてくれ、あんたを見てるとむかついてくる」

 

明確な拒絶の言葉を口にした武蔵にヴィンデルは今度こそ背を向けて牢獄を歩き去る。

 

「振られたな。ヴィンデル」

 

「ああ。残念だ、武蔵には自主的に協力して欲しかったがな。仕方あるまい、リマコンを使う事にしよう」

 

リマコンを使うと言うヴィンデルにアクセルは眉を顰める。

 

「お前が説得できるのならばリマコンは使わないが?」

 

「いや、無理だろうな。あいつは俺達の思想に共感する事はないだろうからな」

 

それにそんなもので武蔵を操れるとは思わないがなという言葉をアクセルはグッと飲み込み、ヴィンデルと共に牢屋の前を後にするのだった。培養液の中で眠るエキドナとラミアを調整しているレモンはその顔を悲しそうに歪めていた。それはエキドナの今までの活動記録の確認の為に見ていた映像にあった、記憶を失い幼い少女のように振舞うエキドナにレモンは最初こそ笑みを浮かべていたが、アインストとインベーダーの融合した化け物の精神攻撃によって記憶を取り戻してからのエキドナには痛ましさしか感じなかった。

 

【……ごめんなさい、ごめんなさい……私を許さないで……】

 

震える手でペンを握り、手紙を書くエキドナの目からは留めなく涙が流れ続けている。

 

「……エキドナ……貴女はこんなにも苦しんでいたのね」

 

レモンからの命令と、武蔵への恋慕、そしてハガネで過ごした楽しい日々……それらに板ばさみになり、エキドナは苦しみ、悲しみ、嘆き続け、それでもレモンの命令に従う事を選択した。

 

【痛い、痛い……胸が痛い、こんなにも痛いのか……】

 

胸を押さえ蹲り痛いと涙を流すエキドナ。それは裏切る事に対する己への嫌悪、そして裏切る事による苦しみによって生まれた物だ。W-16ならば感じることの無かった胸の痛み――エキドナはそれに苦しみ、爪が掌に食い込むほどに握り締めていた。

 

【裏切れない、裏切れないんだ。レモン様を……私はレモン様を裏切れないんだ。ラミア、私はお前とは違うんだ……】

 

エキドナはラミアの言葉の中に迷いを感じ、己の意志を貫く事を選んだラミアとは違うと血を吐き出すような苦渋に満ちた声で呟いた。

 

【いらない、こんなのいらないんだ……こんなに苦しいのなら、悲しいのなら心なんか欲しくない……わ、私は、私は人形のままが良かった……】

 

エキドナという人間ではなく、W-16ならばこんなにも苦しむ事は無かったとエキドナは嘆き続ける。

 

「……ごめんなさい、エキドナ。私は貴女をこんなにも苦しめていたのね」

 

培養液の中で眠っていても涙を流し続けるエキドナ。それはエキドナが心を得た証であり、己が許され無い事をしたを悔やみ、後悔し、それでもレモンの為に全てを裏切った。

 

「……エキドナ、早く起きて。私と話をしましょう……私達にはきっと会話が足りなかったのよ」

 

眠り続けるエキドナとラミアを見てレモンはそう呟く、エキドナをW-16と呼んだ自分を恥じ、悲しみ、そして……最後のチャンスを与える為に、W-16として生きるのか、それともエキドナとして生きるのか……自分で選ぶ最後の機会を与える、それが自分に出来る最後の事だとレモンは呟き、調整作業を続けるのだった……。

 

 

 

 

ネビーイームの自室で作業をしていたウェンドロの端末が音を立て自動的に立ち上がる。

 

「随分と無作法だね。ブライ」

 

『それは悪かったね、とは言え私も忙しい身だ。門前払いなどをされないように強硬手段に出ただけだよ』

 

ブライの言葉にウェンドロはやれやれと言う感じで肩を竦め、1度自分の作業を止める。

 

「そう言えばプランタジネットとやらを発令して攻め込んでくるらしいじゃないか」

 

『情報が早いな、その件についての話なのだが……あえてラングレーまでハガネ達を攻め込ませてはくれまいか?』

 

「なんだって? 折角奪還したラングレーを地球人に返せというのかい? 冗談じゃないよ」

 

ラングレー基地に何度も転移を行い自分達の拠点にしたのだから、攻め込ませるなんて冗談じゃないと拒絶するウェンドロにブライはまぁ待てと声を掛ける。

 

『ハガネ達はあくまで軍属だ。これから私は地球連邦の政権を取る』

 

ブライの言葉にウェンドロは楽しそうな笑みを浮かべる。ブライが何を言おうとしているのか察したのだ。

 

「補給もさせないで連戦連戦でラングレーに攻め込ませ、そこを刈り取るって所かい?」

 

『話が早いな、その通りだ。ブライアン・ミッドクリッドを私の手駒に変える。そうすれば私の思うがまま、そうすればハガネ達もこちらで操れる。そろそろな退場して貰いたい頃合なのだよ』

 

L5戦役を戦い抜いたハガネ達はブライからしても目障りな相手だった。それに開発者も多く、その内百鬼獣に対抗出来るPTやAMが開発される可能性がある。そう考えればプランタジネットを隠れ蓑にしてハガネ達の鹵獲に動こうとするのは当然の事だった。

 

「だがゲッターロボがいるんだろう? 猿芝居に付き合うにしても万が一があるからね」

 

『案ずる事はないゲッターロボは既に鹵獲されている。今お前達に攻撃を仕掛けるゲッターロボは存在しない。どうだ? 引き受けてはくれまいか? 当然私達も手駒を送る』

 

ブライの提案にウェンドロは暫し考え込む、ハガネの戦力は確かに驚異的だがゲッターロボがいなければ恐れるほどではない筈だと、それに錬度の低い連邦軍と戦った所でゲッター合金でコーティングをしたグレイターキン達の詳細な戦闘データを取る事が出来ない。自分達が受けるであろう被害、そして得れるであろう利益……その全てを計算しウェンドロは微笑んだ。

 

「良いだろう。引き受けよう、そのかわりしっかりとした手筈を聞きたい」

 

『そう言ってくれると思っていたよ。ではまずだが……』

 

ブライからの作戦立案を聞き、自分達は確かに矢面に立つが条件は全て同じ、そして最も警戒しなければならないゲッターロボが存在しないのならば、仮に参加していたとしてもそれすらも加味した計画を伝えてくるブライにウェンドロは納得したように頷いた。

 

「でもね、ゲッターロボが参加してくる可能性があるって言うのは正直どうかと思うのだけどね。僕達に対するリスクが高すぎる」

 

『それに関してはシャドウミラー次第だから私にはなんとも言えないが……案ずる事はないゲッターロボがもし参加してくれば、私達が戦おう』

 

「ふうん、それを鵜呑みにする事は出来ないけど……良いさ、引き受けよう」

 

いざとなれば転移でメキボス達を回収することも出来るとウェンドロはブライの提案を聞き入れ、ネビーイームで己の機体の最終調整をしているメキボス達を執務室に呼び寄せるのだった……。

 

 

 

沈黙したモニターを見てブライは額を揉み解しながら深く溜め息を吐いた。そんなブライの様子を見て机の上に水晶をおいてダウジングをしていた共行王がからかうように笑う。

 

「ずいぶんと疲れておるのう?」

 

「共行王か、確かに疲れてはいるよ」

 

オペレーション・プランタジネットを利用し一気に勢力を変えようとしているのだ。どれだけ根回しをしても足りず、常に最悪を想定している。その上連邦議会にも顔を出さなければならないとブライ1人では回しきれないほどの仕事を抱えている。

 

「戦力を増やすよりもお前の補佐を出来る鬼を増やすべきではないか?」

 

「悪いがそんな鬼がいるのならば見てみたい物だ」

 

ヒドラー元帥やグラーと言う配下は別の時空のブライには存在していたが、フラスコの世界のブライには補佐役と呼べる鬼は存在していない。その理由はシンプルだ、鬼になった時の衝動でその英知を失ってしまっている者が多すぎるのだ。

 

「優秀な学者、軍師ほど皆愚か者になった。期待するに疲れたのだよ」

 

「はっはっは……そうかそうか、それは大変じゃなあ」

 

にやにやと笑う共行王は苦しんでいるブライを見て楽しんでいる節がある。だがそれでも協力してくれているのでブライは文句を言う事無く、ダウジングの成果を尋ねる。

 

「それでダウジングとやらは効果があったのか?」

 

「戯けめ、今探しておる所じゃ」

 

「口の減らない奴だ。少しは成果を……っと」

 

共行王は地図に丸をつけるとそれをブライへと投げ付け、ブライはそれを指の間で挟んで止める。

 

「ここにダヴィーンの遺産が眠っているのか?」

 

「さあの。それは知らん、妙な力を感じる所に丸をつけただけじゃ、海の方は見に行くが、それ以外は知らんぞ」

 

そう言い残すと共行王はその身体を液状に変えて床に溶けるように消えていった。

 

「……やれやれ、とんだお嬢様だ」

 

口は悪く、人をからかう事を楽しんでいる節があるが、それでも復活させたと言う事に恩義を感じ協力してくれている共行王にブライは思わず苦笑する。

 

「なるほど……これは……面白くなって来たではないか」

 

この世界には様々な物が漂着している。地下に眠る早乙女研究所然り、巴武蔵とゲッターロボ然り、マシーンランドしかり、旧西暦から新西暦から転移した物、そして旧西暦から海に沈み続けたブラックゲッターのように大地の奥深くに眠り続けた遺産。この世界は混迷を極め様々な物が存在している。

 

「流れは私に傾いて来ていると言うべきか」

 

人間には到達不能な火山の奥深くや深海、スペースデブリの中に眠る数多の遺産……。

 

「ふっふっふ、これほど面白い事はない」

 

ゲッター線が人類の為に用意した脅威へと抗う力。それを百鬼帝国で利用し、人類を滅ぼすこれほど面白い事はないとほくそ笑みブライは策略を画策する。その目は爛々と輝き、強烈な野心と闘争本能によってか鋭い犬歯が伸び、こめかみからは牛を思わせる巨大な角が露になる……そこにいるのは連邦議員ブライではなく、百鬼帝国大帝ブライの姿であり、そしてその背後には亡霊のような無数のブライの姿があるのだった……。

 

 

第146話 陰謀と再会 その2へ続く

 

 

 




と言う訳で今回はシナリオデモとなりました。次回はオリジナルシナリオでブライアン救出のビアン達の視点で話を進めたいと思います。
紅の幻想については武蔵の合流後回想という感じで触れたいと思うので飛ばして、楽園からの逃亡者と話を続けて行こうと思います。
それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第146話 陰謀と再会 その2

第146話 陰謀と再会 その2

 

 

キラーホエールのカーウァイから告げられた言葉は、クロガネのビアン達に激しい衝撃を齎した。それもそのはず、武蔵とゲッターロボがシャドウミラーに鹵獲されたというからだ。しかもそれが記憶を取り戻したエキドナによる物となれば、ビアン達の衝撃は更に大きな物となった。

 

「……駄目だったのか……」

 

エキドナがシャドウミラーの構成員ということはビアン達も知っていた、それでも武蔵が信じるエキドナを信じたいと言う気持ちがあった。しかしそれが裏目に出て武蔵がシャドウミラーに攫われたと知り、武蔵の反対を押し切ってでもエキドナは軟禁するべきだったのではないかという考えが脳裏を過ぎる。

 

「いや、それでよかったのかも知れん。武蔵君の性格を考えれば、裏切られるまでは彼女を庇っただろうからな。その事を後悔するよりもどうやって武蔵君を救出するか、それを考える方が得策だろう」

 

武蔵は懐に入れた人間に極端に甘い性質がある。そう考えればエキドナを軟禁すればビアン達とは言え、武蔵の反発を受ける可能性があった。過ぎた事を後悔するよりも武蔵をどうやって救出するかを考えるべきだと言うグライエンだが、その足は小刻みに貧乏揺すりを繰り返しており、彼自身も相当な動揺を受けているのは明らかだった。

 

「しかしプランタジネットを控え確実に百鬼帝国、そしてノイエDCは動きます。ブライアン大統領の救出も急務となるはず」

 

「バン大佐の言う通りだ。ブライアン大統領まで鬼に成り代わられたら、ハガネ達は戦力の分散を受ける事になるかもしれない」

 

「だが武蔵の救出を考えれば、割ける戦力はそうはないぞ」

 

武蔵がリマコンを受ける、ブライアンが鬼に成り代わられる。そのどちらかでも遂行されてしまえば、人類は一気に窮地に追い込まれることになる。更に言えば武蔵の救出と言うのは簡単だが、それはシャドウミラーと事を構える事と同意義であり、アインストとインベーダーと戦ってきたシャドウミラーと戦うにはそれ相応の戦力が必要となる。

 

『それに関してだが、無理を承知でゼンガーとエルザムをこちらに寄越して欲しい。短時間での強襲、これしか武蔵の救出を成功させる術はない、ハガネからギリアム、ラドラ、カイを連れてきた。教導隊による一点突破、それしかない』

 

「確かに……私でもそうする」

 

特機・準特機の戦力が充実しているクロガネだからこそ出来る強襲策。グルンガスト参式・タイプG、ゲッターロボ・トロンベ、ゲシュペンスト・タイプS・Gカスタム。そしてゲシュペンスト・シグ、リバイブが2機の6機はそれでだけで大隊に匹敵する戦力と言っても良いが、転移を有するシャドウミラーを考えれば時間を掛けている余裕は無く、強襲策を強いられる事になる。

 

「分かった。ゼンガー少佐達にはカーウァイ大佐に合流して貰う。ブライアン大統領の救出は私とバン大佐、そしてスレイの3人で行なう」

 

ビアンの発言にブリーフィングルームに驚愕の声が広がる。

 

「ビアン総帥。いくらなんでもそれは危険すぎます」

 

「リリー中佐、いや、これが最善だ。ブライアン大統領は表向きだけとは言え生存させる必要がある。そうなれば百鬼帝国が切れる戦力はノイエDCのAMになる筈だ」

 

プランタジネットの演説を利用するという事は、大々的なTVの撮影がある。インスペクターと戦う為に現存の政府のあり方では無理だと言う事をアピールする必要がある。そんな場所に百鬼獣を出現させるは難しい筈だとビアンは説明する。

 

「しかし建物ごとブライアンを殺す可能性もあるぞ」

 

「それも承知しているが、そうなれば臨時大統領の擁立、更に選挙になる可能性がある。そうなれば我々は時間を得る事が出来る上に……私の偽物の面の皮を剥がす事も可能だ」

 

ノイエDCのビアン・ゾルダークが現れたタイミングでクロガネと自分が現れれば、どちらのビアンが本物なのかという疑惑を世論に広げる事が出来る。

 

「バン大佐はLB隊と先行してブライアン大統領の救出へ、私とスレイ、そしてジャレッドとオーギュストでノイエDCの機体と戦い、バン大佐達はブライアン大統領を救出次第離脱する。これ以外何かアイデアのある者はいるか? なければこの作戦でいく」

 

余りにも無謀、だが爛々と輝くビアンの双眸を見て、そしてビアンの出した作戦以上を今のクロガネの面子では出来ないというのは覆しようの無い事実であり誰も代替案を出すことが出来ないのだった……。

 

 

 

 

大統領執務室にブライアンの重苦しい溜め息の音が木霊する。虫の知らせと言う訳では無いが、ブライアンは今日が自分の命運を分ける日というのを無意識に感じ取っていた。

 

(……ふう、どうした物か)

 

幾たびも生命の危機に瀕し、その都度奇跡的な豪運で生き延びて来たブライアンだが、流石に今回ばかりは駄目かもしれないというのを感じていた。何故ならば誰も味方がいないのだ、言動や顔は確かに自分の選んだ部下である。だが中身が違うのだ、姿形は同じだが何かが違う……それが鬼による成り代わりによる物であると言う事を初めてブライアンは実感していた。

 

(これは何とも恐ろしいね)

 

知っている筈なのに、全く知らない人間になっている……これほど恐ろしい事はないだろう。

 

「ブライアン大統領。そろそろ演説のお時間です」

 

「ああ。分かったよ、行こう」

 

演説ではなく処刑の時間だろうけどねと心の中で呟き、ブライアンは執務室を後にする。ここまで来たらブライアンに出来る事はただ1つ……本物のグライエンが打つ一手に縋るしかないとブライアンは小さく自嘲するように笑い、数多のメデイアの待つ外の会見場へと足を向けるのだった。

 

「大統領。連邦軍によるラングレー基地の奪還作戦についてはどうお考えですか」

 

「L5戦役を潜り抜け、地球を守ってくれたハガネ、ヒリュウ改を主軸にすることで必ずや奪還できると僕は考えている」

 

演説の後の質問の時間だが、その殆どが喧嘩腰とまでは言わないが、ブライアンの足を掬わんとする悪意ある質問が多かった。

 

(ここまで仕込まれているのか完全に悪手だな)

 

記者にまで仕込みが混じっていることに気付いたブライアンだが時既に遅し、会見は既に始まっており最早打てる手など殆ど無いと言っても等しい状態であり、正しくまな板の上の鯉と言っても良い状況だった。

 

「ノイエDCのビアン・ゾルダークに協力要請を出したと聞いておりますが、連邦よりもノイエDCを主軸にした作戦の方が成功率が高いのではありませんか?」

 

「連邦軍はハガネ、ヒリュウ改、シロガネを除き敗走を続けておりますが、本当に大丈夫だと思っているのですか?」

 

「ハガネと言いますが、本当は武蔵とゲッターロボ頼りではないのですか」

 

ビアンの名前を出し、一方的に連邦が悪い、連邦では力不足ではないのかと言う意見が噴出し、静粛にと声を掛けても連邦への不信感で完全に制御不能へと陥る。そしてそこに『クロガネ』が姿を現した。

 

『こちらはノイエDC総帥、ビアン・ゾルダークだ。グライエン議員の要請によってオペレーション・プランタジネットの協力に参上した』

 

図ったかのように、いや実際に図っていたのだろう。連邦への不信感を呷り、そこでビアンとクロガネの登場……。

 

「やはり連邦では駄目じゃないのか?」

 

「ビアン博士が言うのならばビアン博士とノイエDCを主軸にしたほうが」

 

「連邦に出来ることなどないのではないのか? ブライアン大統領! ノイエDCを正式な軍隊と認めては如何ですか!」

 

「連邦軍上層部はハガネとヒリュウ改の足を引っ張っていると聞いておりますが、それに関してはどうお考えですか!」

 

「月面の連邦軍がいながら敵勢力に征圧されていることに関してどうお考えなのですか!」

 

喧々囂々。ノイエDCによって明らかにされた連邦の不祥事、そして敗走……今まで押さえ込んでいた連邦上層部の情報隠蔽体質、それがブライアンに一気に牙を剥いた。

 

「退席しないでください! ご質問にお答えください!」

 

「大将! どうお考えなのですか!」

 

「お答えください!」

 

会見に同席していた上層部が会見場から逃げ出そうとし、それを見た記者によって更なる火種が生まれる。

 

(不味い……これは不味すぎる)

 

連邦への不信感、そして政権への不信感はL5戦役以前から溜まり続けていた。それが爆発した事にブライアンは眉を細める、ここで来てしまえばもう止められない。

 

「ブライアン、ここはビアンを招きいれ会談を行うべきではないだろうか?」

 

「こうなってしまえばビアンを受け入れるしかないと思うが……」

 

「確かにそうしかありませんね。仕方ありません、連邦の護衛機を下げましょう」

 

ここでビアンを迎え入れれば完全に詰みだ。だが招き入れるという選択しか今のブライアンに打てる手が無く、目を閉じて深くブライアンは息を吐いた。

 

「アルテウル。ビアンに会談の要請を『ふむ、君かね。私を騙る男と言うのは?』……ッ!?」

 

降参するしかないと会談の要請を出そうとしたブライアンの視界の先にはもう1隻のクロガネの姿があり、L5戦役時に、そしてDCのフラグシップと言っても良い機体……ヴァルシオン、そしてその護衛機であろうゲッターロボに酷似した特機。

 

『さてと、それで私を騙って何がしたいのかね? 君は何者だね』

 

クロガネは確かにDCの旗艦だ。だがそれに加えてヴァルシオンまで現れれば、どちらが本物であるかという動揺が会見場に一気に広がるのだった……。

 

 

 

 

会見場に集まっていた記者達は2隻のクロガネ、そして2人のビアンに驚きを隠せなかった。

 

「ど、どうなってる!? 何でクロガネが2隻も!?」

 

「い、いやそもそもなんでビアン博士が2人もいるんだ!?」

 

「ど、どっちが本物なんだ!!」

 

「そ、そりゃ、ヴァルシオンがあるほうじゃないのか!? それに最初に現れたほうは何も言ってないぜ」

 

確かに会見場にはブライの仕込んだ鬼の記者がいる、だがそれは少数であり情報操作、そして雰囲気の操作の為の要員だ。人間の記者と比べればその数は少数で、どちらが本物かという騒動になると少数の鬼ではどうにも出来なかった。

 

『返事位したらどうかね? 私の名を騙り、DCを再結成し、そして何をするつもりなのかね?』

 

ビアンの問いかけにビアンに扮している五本鬼は返事を返せない、そもそも五本鬼は極端にイレギュラーに弱い性質がある。本物のビアンの登場を前にして、完全に言葉に詰まっていた。

 

「どちらが本物かどうかは問題ではない、今は避難をするべきだ。早くシェルターへッ!」

 

このままでは駄目だと判断したブライの一声でシェルターへの避難が始まる。

 

『私が本物だ。お前こそ何者かね?』

 

『ふむ、私の問いかけに自分が本物だと言うかね。では君が本物だとしよう、その上で君に問おう。テスラ研のゲシュペンストあれの開発スタッフを知っているかね?』

 

『は?』

 

『おいおい、こんなことも分からないのかね? ではグルンガストの名前の由来を知っているかね?』

 

『な、何を言っている?』

 

『何をってお前はビアンなのだろう。ビアン・ゾルダークならば知っていることを問うているのだよ、そうだな。盟友だったマイヤーの妻の誕生日、そしてその好きだった……』

 

ビアンの問いかけに痺れを切らしたのか、それともこれ以上喋らせては五本鬼が荒を出すと思ったのか、クロガネの主砲がヴァルシオンに直撃し、装甲がボロボロと崩れ落ちる。

 

「壊れた!? じゃああのヴァルシオンは偽物なのか!?」

 

「先に現れたのが本物のビアン博士か!?」

 

崩れ落ちる装甲を見て記者達は口々に声を上げるが、爆煙から飛び出した斧がクロガネのエクスカリバー衝角を切り落とし、周りのAMを巻き込んで崩落する。

 

『語るに落ちたな。武力行使は最終手段であるべきだ、そしてそんな偽物でビアン・ゾルダークをそしてDCを名乗るとは、全く失笑物だよ』

 

煙の中から鉤爪の生えた腕が現れ、そこからゆっくりとヴァルシオンを模したオーバーパーツを散らしながら真紅の特機がその姿を露にする。

 

「ゲ、ゲッターロボ! ゲッターロボだ!?」

 

「い、いや、でもあれはヴァルシオンだッ!?」

 

ヴァルシオンとゲッターロボの意匠を持つゲッターロボVはリクセント奪還戦、そしてシュトレーゼマンが地球を脱出しようとした時のみ確認されており、殆どその姿を見られることがなかった。それ故にゲッターロボVを見た記者達は避難している最中だが、驚きの声を上げた。

 

『先に手を出したのは其方だ。化けの皮を剥がさせて貰おう。ゲッタァァアアアア……ビィィイイイイイムッ!!!!!』

 

ゲッターロボVの腹部から放たれたゲッタービームがクロガネを飲み込み爆発させる。それはクロガネの偽装装甲を破壊するには十分だったが、核の機体を撃墜するのは威力が少しばかり足りなかった。いや、厳密に言えばあえて出力を落し偽装装甲を破壊する為だけの一撃はビアンの狙い通りにクロガネの偽装装甲だけを破壊した。

 

『己ッ! 良くもやってくれたなッ!』

 

『ありがちな三下の台詞をどうもありがとう。私を騙ってくれた礼だ、楽に死ねると思うなよ』

 

クロガネと対峙するように浮かぶ異形の戦艦、そして感情を剥き出しに叫ぶビアンと、淡々と、しかし内に燃える激しい熱を見せるビアン……どちらが本物であるかと言うのは誰の目から見ても一目瞭然なのだった……。

 

一方その頃大統領府の地下シェルターへと向かうブライアンと、その警護をしているSPと軍人が唐突に足を止めた。

 

「ブライアン・ミッドクリッド。疲れただろう、そろそろ休んではどうかな? そう、永久にね」

 

「……やれやれ、そんな台詞を聞くとは思ってなかったよ。ブライ議員、いやそれともこれも君のシナリオ通りかな?」

 

地下のシェルターに向かっている人間はブライアン1人であり、彼の周りにいる全てが鬼であり、そしてその中には自分と同じ顔の鬼もいてブライアンは深い溜め息を吐いた。

 

「なるほど、これが君達の戦略という訳だ」

 

「敵を崩すのならば内部から、簡単な話だろう?」

 

「……ウィザードとは全然似てないってずっと思ってたよ。へたくそな演技お疲れ様」

 

ブライアンの挑発にグライエンに成り代わっている鬼は顔をしかめたが、感情任せになる事はなくすっと身を引いた。その様子を見てブライアンは内心舌打ちをせざるを得なかった。

 

(駄目か)

 

なんとしても自分の成り代わられる事だけは避けなければならない。挑発に乗って殺しに来ることを少しだけ期待していたのだが、それを鋼の精神力で押さえ込んだ鬼に正直少しだけブライアンは驚いていた。

 

「私の側に置く鬼だ。並の鬼と同じと思わないで貰おうか」

 

「だろうねえ、あのビアンに扮している鬼は随分と程度が低かったしね、仮にも成り代わるのならばもう少し知恵をつけさせておくべきだったんじゃないかな? あれでは余りにもお粗末だ」

 

ビアンならば知っている事を何も答えられなかった。あれで良く偽物として立てれたねとブライアンが言うと、ブライは首を左右に振った。

 

「全くだ、あれで1番似ていて優秀だというのだから目も当てられん」

 

「それはまた随分とお粗末だねぇ。これだけ長く準備していたのに、こんな簡単な事で失敗するんだから」

 

本物のビアンが現れ、クロガネもどきは破壊された。そして避難している記者によって本物のビアンと偽物のビアンがいると言う話が広がり、ブライの苦労は全て無駄になったと言えるだろう。

 

「いやいや、そんなことは些細な問題だよ。君に私の配下が成り代わればどうとでもなる、大統領の特殊コードを教え安らかに死ぬか、それとも拷問されて苦しみながら死ぬか、どちらがお好みかな?」

 

獰猛な、獣のような顔で笑うブライ。どちらを選んでも死ぬということは明らかだったが、ブライアンは肩を竦めて笑った。

 

「何がおかしいのかな?」

 

「いや、別に馬鹿にしているわけではないよ。ただそうだな……うん。世の中には僕の知らないことがこんなにあるんだな、と思っただけだよ」

 

鬼という存在を始めて見て、そして自分と同じ顔の男がいる。常人ならば発狂してもおかしくない状態だが、それでもブライアンは笑った。その異常な状態を受け入れ、しかしそれでも生きる事を諦めない不屈の意志をその目に映して笑っていた。

 

「この場に及んでまだ諦めないか、その不屈。賞賛に値する、だが貴様は賢すぎたな」

 

「お褒めに預かり光栄だ。百鬼帝国ブライ大帝」

 

「……やはり辿り着いていたか。恐ろしい男だよ、お前はな」

 

「ヒントが沢山あったからね」

 

僅かなヒントでそこまで辿り着いたブライアンにブライは心底感心していた。恐ろしいほどに優秀な男だと認めざるを得なかった。

 

「もう1つの選択を与えよう。鬼となり私に仕えれば命は助けよう」

 

「いや、ごめんだよ。僕は死ぬ時まで人間が良いからね」

 

「そうか、残念だ。では……機密コードはお前の身体に聞くとしよう」

 

ブライが片手を上げ、ブライアンを捕らえろと指示を出そうとした瞬間だった。

 

「ブライアン大統領! 目を閉じて頭を伏せろッ!!」

 

男の怒声と共に投げ込まれたフラッシュバン。それを見てブライはほくそ笑んだ、人間相手ならばそれは効果的だが、鬼には何の効果も無い。駆けて来る音を聞き、下手人を殺せば良い。そう考えていたブライだが、フラッシュバンから溢れた翡翠の輝きに目と身体を焼かれた。

 

「うぐあっ!?」 

 

「ぎゃあああああ――ッ!!!」

 

「あづい! あづいいいいいッ!!!!」

 

「う、うわああああああ――ッ!!!」

 

格の高い鬼であるブライやグライエンに扮している鬼でさえ、耐えられない高密度のゲッター線。それは下級鬼に耐えれる物ではなく、全身を焼かれ火達磨になって転がり、必死に消そうとするがゲッター線の炎に燃やし尽くされ下級鬼は炭のようになり息絶える。

 

「た、大帝……だ、大丈夫ですか!?」

 

「油断した……まさかこんな物を作れるとは……」

 

顔が半分溶け、鬼の顔を露にしているグライエンの手を借りながらブライは立ち上がる。だがその全身は酷い火傷を負っており、立っているのはブライとグライエンを除けば2人ほどしかおらず、大統領府に連れてきた配下は殆ど死に絶えていた。

 

「……やられたな」

 

ブライアンに扮した鬼は首を切られ絶命しており、ブライアンの姿も無い。ブライアンの話は時間稼ぎであり、それに乗ってしまった段階で失敗だったとブライは頭を振る。

 

「追っ手を出しますか?」

 

「この状態で動ける訳がなかろう。仕方ない、我々も撤退だ。大統領府を倒壊させ、それで負傷した事にする」

 

「……よろしいので?」

 

「構わん。ほんの少し計画が狂うだけだ。どの道逃亡した段階でブライアンも表舞台には立てない、ブライアンが行方不明となればお前と私がトップだ。連邦議会を掌握する事も容易い」

 

 

本当ならばブライアンに成り代わった鬼を使いたいブライであったが、ブライアンがいなくなれば実質的にグライエンとブライが政権を取ったと言っても良い、だから問題はないというブライだが、誰よりもその顔が怒りによって苦渋に歪んでいた。計画が狂い、その上出し抜かれ、ダメージを受けていることに不機嫌になっている事は明らかだった。

 

「クロガネを逃がすな、なんとしてもここで沈めろ。百鬼獣を出しても構わない」

 

「了解しました。ではそのように」

 

ブライアンの逃げる場所はクロガネ以外あり得ない。ならばクロガネを沈めれば万事解決するとまでは言わないが、少なくとも少しの期間をおいて再びブライアンの顔をした鬼を作ればシナリオの修正は効く、ブライはそう考えクロガネを逃がすなと指示を出し、痛む身体に顔を顰めながら地下シェルターへと足を向けるのだった……。

 

 

 

 

バンに俵抱きにされ運ばれているブライアンは顔を青くさせ、吐く、吐くと繰り返し呟いていた。その呟きを聞いてバンは僅かにスピードを緩める。

 

「もう少し優しく運んでくれても罰は当たらないと思うんだけど、そこはどう思う?」

 

「悪いがそんな時間はない。連れ出した段階で、そしてクロガネを持ち出した段階で我々は全滅のリスクを背負っている」

 

「それは分かるけど……いや、すまない。僕が悪かった」

 

クロガネもビアンもブライからすれば目障りな存在だ。その両方がここに揃っている事を考えればなんとしても撃墜しようとするだろう。更にその騒乱でブライアンが死ねば正しく一石三鳥だ。百鬼帝国の作戦を完全に瓦解させるにはクロガネ、ビアン、そしてブライアンの3人がなんとしても生き延びてこの場から逃げ果せる必要がある。

 

「何とかなりそうなのかい?」

 

「悪いが戦力は殆どない、武蔵が攫われてな。そちらの奪還に戦力を割いているからな」

 

「攫われた!? 百鬼帝国にか!?」

 

「いや、違う。説明すると長くなるのだが……とりあえずクロガネについてから説明する」

 

「大佐! はやくこちらへ!」

 

待機しているフルアーマー・ガーリオンの一団が急げとバンに声を掛ける。

 

「いや、連れて行くのはブライアン大統領だけで良い。合図を出せばオーギュスト達が回収に向かってくれる手筈になっている、お前達はなんとしてもクロガネに着艦しろ」

 

 

矢継ぎ早に指示を出し、ブライアンをLB隊に引き渡したバンは踵を返して走り出す。

 

「やはり繰り出してきたか……間に合えッ!」

 

外から響いて来る百鬼獣の雄叫びと地響き、単独操縦のゲッターロボV、そして熟練不足のジャレッドとオーギュストが操縦するネオゲッター、そしてスレイのカリオン・改では対処出来る相手ではないとバンは焦りを感じながら走る。

 

「こちらバンだ! ジャレッド! オーギュスト! 回収に来てくれ!」

 

大統領府地下から出たバンはジャレッド達に回収に来るように頼み、戦況を見つめて顔を顰めた。

 

「不味い……やはり押されているッ!」

 

重力を操るゲッターロボVが前線に立っていることで辛うじて完全に劣勢に追い込まれることは避けれているが、AM、そして百鬼獣に完全に退路を断たれている、このままでは本当に轟沈するのは時間の問題なのは明らかであり、包囲網を何とか抜けてバンの回収に来ようとしているネオゲッターを見つめ、機体に乗り込まない事には何も出来ないバンは歯噛みするが、ブライアン救出も必要な事であり、ゼンガー達を除けばバンだけが鬼に匹敵する身体能力を有しており、ビアンに信頼されての起用であると言うことは判っていた。

 

「早く、早くこっちに来てくれッ!」

 

だがそれの製でクロガネが撃墜、あるいはビアンが死んでしまっては何の意味もない。強い焦りを感じながら少しずつだが自分の元へ向かって来ているネオゲッターロボにその視線を向ける。

 

「急げ、急いでくれ……何もかもが手遅れになる前に……ッ」

 

連邦にも鬼がいる。鬼に指示を出された連邦軍の援軍がこの場に来る可能性は高く、百鬼獣、ノイエDCに加えて連邦軍にまで攻撃を仕掛けられては今のクロガネの戦力では逃げ切れないのは明白であり、自分達が死ぬのは良いがビアンが死ねば今まで積み上げて来た全てが無駄になる……そうなる前に、なんとしなければ脱出しなければならない、詰みになるまで時間の問題であることに激しい焦りを抱くバンの前のにやっとネオゲッターが辿り着き、その手をバンに向ける。バンはその手に飛び乗り、ネオイーグル号の中にその身を滑り込ませるのだった……。

 

 

 

第147話 陰謀と再会 その3へ続く

 

 

 




次回は戦闘回を書いて行こうと思いますが、クリア条件は規定ターン数が経過する前に敵機を特定数撃墜+クロガネが指定エリアに到達することになりますので、少し地味目の話になるかもしれませんがご容赦ください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第147話 陰謀と再会 その3

第147話 陰謀と再会 その3

 

空戦鬼のブリッジで五本鬼は爪を砕かんばかりに握り締めていた。本物のビアンの登場にクロガネの偽装の崩壊……そのどれもが途方も無い失態だ。名前持ちではなく、自分は代わりなどいくらでもいる鬼であるからこそ帝国に帰れば処刑が待っていることに恐怖し、それを何とかして避ける方法を必死に模索していた。

 

「何故たった数体の敵すら倒せないッ! 貴様ら真面目にやっているのかッ!!」

 

……いや、模索ではなく神経質に怒鳴り散らしているだけであり、空戦鬼のブリッジの雰囲気は最悪を通り越して最低に近かった。そもそも五本鬼が攻撃命令をしなければ偽装が砕ける事も無く、そして冷静に立ち回ってさえいればビアンが2人でどちらが本物かという疑惑を残す事も出来たのにそれを全て台無しにしたのは五本鬼だったのもあり、尻拭いをさせられている鬼やノイエDCの兵士にとってはとんでもない疫病神だった。

 

「本物のビアン・ゾルダークが前にいるのだからノイエDCの士気は最悪、ぎゃあぎゃあ喚く暇があったらもう少し別の方法を考えてはどうだ?」

 

「ぐっ……私に指図をするのかッ! コウメイッ!」

 

ブリッジに入ってきた丸眼鏡の優男という風貌だが、鋭い角を持っていることから鬼だと判る。その男に五本鬼が怒鳴り声を上げるが、コウメイは指で眼鏡のブリッジを押し上げ柔らかく笑う。

 

「私は大帝様のご命令で貴方のサポートに来ている。立場で言えば私の方が遥かに上、それも判らないのですか?」

 

コウメイと言うのは人間としての名前であり、鬼の名前を隠しているからこそ階級が判らないから五本鬼はヒステリックに怒鳴り散らしたがその言葉を聞いて血の気が引いた表情になる。

 

「分かれば結構。どの道この戦は負けです、クロガネの偽装が砕け、貴方がビアンを演じ切れなかった段階で既に我々の敗北は決まっています」

 

淡々と告げられるコウメイの言葉に五本鬼は眉を顰めるが、事実だけに何も言い返すことが出来ず。悔しそうにコウメイを睨みつける事に留まる。

 

「ならばこの戦は痛み分けに持っていくとしましょう。ノイエDCの兵士など補充が効く、クロガネとノイエDC。その両方に百鬼獣をぶつけ、正体不明のアンノウンによる攻撃で大統領府は壊滅。争っていた2人のビアンはどちらが本物か判らず撤退……と言う所で如何ですかな?」

 

「私にすべての責任を押し付ける気か」

 

百鬼獣を使えば百鬼帝国が表に出てしまう、その上大統領府にはまだブライがいる可能性が高いのに大統領府を潰すというのは余りにもリスクがありすぎた。そして何よりもこの場の指揮官は五本鬼であり、コウメイの策を実行に移し失敗すれば全ては五本鬼の責任になる。

 

「そんなことをして私に何の得があります? 同格ならまだしも、貴方は私よりも格下。名すらない三流鬼、それに対して私は大帝の秘書としてどうこうする事を許される鬼。さてさて、ゴミを失脚させる事に私に何の得があると言うのです?」

 

笑顔で毒を吐かれるが、全てが事実であり五本鬼は悔しそうに呻く事しか出来ない。

 

「……どうすれば良い?」

 

悪魔の囁きという事は五本鬼にも判っていた。だが自分にはこの場を上手く切り抜けるアイデアなどなく、ただ撤退すれば己の無能さを明らかにするだけであり、どの道成果もなくブライの期待にも答えられず。ビアンを演じる切る事も出来ず、ビアンの近辺さえ調べていなかったことで簡単な問いかけにすら答える事が出来なかった。

 

(私にはもう道が無い)

 

そして死人に口なしと黙らせようとすればビアン達は想定以上に善戦しており、ノイエDCの機体だけで抑える事も出来ない有様だ。

では自分で考えて突破口を見出せるかと言えばそれも無理だ。結局の所五本鬼に出来たのは悔しさと屈辱に顔を歪めながらコウメイに頭を下げ、その知恵を借り受ける事だった。

 

「結構。では始めましょうか、百鬼獣を2機ずつ、計4機ほど出撃させビアン達とノイエDCの両方に攻撃を仕掛けさせるとしましょう。

人間の駒などすぐに補充が利きますから細かい指示はいりませんよ」

 

「……分かった」

 

自分の指示を聞いて動き出す五本鬼を見つめ、コウメイは鋭い犬歯を剥き出しにして笑う。それは何もかも自分の計画通りに進んでいると言わんばかりの勝利を確信した笑みなのだった……。

 

 

 

 

 

大統領府の上を旋回したカリオン・改のコックピットの中でスレイは戦況が変わり始めたのを敏感に感じ取った。

 

「なんだ、この嫌な感じは……」

 

空気が変わったとでも言うべきなのか、言葉に出来ない強烈な悪寒を感じていた。それは例えるのならば肉食獣のいる檻の中に閉じ込められたような感覚とでも言うべき物だった。そしてスレイはすぐに自分の感じた悪寒が正しい物であると言う事を悟った。

 

『う、うわああああ――ッ!!』

 

『た、助け! い、嫌だ! し、死にたく……うわあああああ――ッ!!』

 

【キシャアアアアアーッ!!!】

 

どこかから出現した4体の百鬼獣――その攻撃によって脱出する事も許されずノイエDCのガーリオンやアーマリオンが火柱を上げて墜落する。

 

『くっ、フォーメーションを組みなおせ! 押し込まれるぞッ!!』

 

ゲッターロボVからビアンの一喝が飛びクロガネの戦力は即座に陣形を組みなおすが、それでも反応しきれなかった何体かのヴァルキリオンが被弾し黒煙を上げる。

 

「ちいっ!!」

 

その光景を見たスレイは舌打ちと共にカリオン・改を急降下させると同時にプレアデスを射出し、百鬼獣の間で炸裂させる。

 

『良い判断だ。スレイッ!! チェーンナックルッ!!!』

 

ネオゲッター1の左拳が射出され、ノイエDCのガーリオンに爪を振るおうとしていた牛角鬼の腕に巻きついた。

 

『何をしている! 早く離脱しろッ! 死にたいのかッ!』

 

『は、はいッ! あ、ありがとうございますッ!!!』

 

若いパイロットだったのだろう。間違いなく死ぬというタイミングで助けられた事で涙声で感謝の言葉を告げ、牛角鬼の射程から逃れる。

 

『不味いな……この展開は想定外だ』

 

『確かに……どうしますか、ビアン総帥。我々だけならば離脱出来ますが……』

 

クロガネ、ノイエDCをお構いなしで攻撃する百鬼獣。その数は4体と決して多くは無いが、ビアン達の戦力も決して潤沢ではない。

その上百鬼獣は目撃者を全て殺すと言わんばかりに大統領府への攻撃も行っている……しかもその内連邦軍も現れる可能性を考えれば早いうちに離脱する必要性がある。それにノイエDCもクロガネへの攻撃を行っている事を考えればブライアン大統領を確保した段階で最も正しい選択はこの場から逃走する事だ。

 

(この場は離脱しかないか……)

 

ビアンを本物だと付き従っているノイエDCの兵士もいるが、今回の事でノイエDCへの不信感は確実に芽生えた。何人生き残るかは判らないが……数人は生き延びる筈だとスレイは算段を立てる。だがビアンの返答は予想外の物だった……。

 

『ゲッターVのバリアで大統領府とノイエDCの機体を守りながら離脱する』

 

「び、ビアン博士。正気ですか!?」

 

その言葉に思わずスレイはゲッターVへ通信を繋げてそう叫んでいた。確かにゲッターVはゲッター炉心で稼動しているのでスペースノア級に匹敵するエネルギー総量を持つが大統領府、そしてノイエDCの機体にまでバリアを展開すればそのエネルギーは恐ろしい速度で消耗する事になる。そして攻撃を受ければそれは更に加速し、ゲッターVのエネルギーが枯渇するのは目に見えていた。

 

『正気だ。私の偽物がいると知る者は可能な限り生き残らせなければならない。案ずる事はないバリアを展開すれば百鬼獣の攻撃は我々に集中する事になるが、飛行型の百鬼獣はいないから我々には追いつけない。進路を塞いでいる百鬼獣を突破し、この空域から離脱するッ!』

 

確かにビアンの言う事も判るが、余りにも無謀すぎるとスレイは顔を青褪めさせる。

 

『心配するな、この程度L5戦役と比べれば何ということはない。ネオゲッター1で先陣を切る! 各員は敵機への攻撃よりもこの空域を突破するに専念しろッ! 続けッ!!』

 

百鬼獣に向かって突撃するネオゲッター1。そしてノイエDCと大統領府を守るように展開されたゲッター線バリアの翡翠の輝きとゆっくりと前進を始めるクロガネ……悩んでいる時間も迷っている時間もないとスレイは悟りカリオン・改のペダルを踏みしめ、操縦桿を握り締める。

 

(こんな所で臆している時間は私にはないんだ)

 

確かに絶望的で勝ち目が無い作戦と言っても過言ではない。だがテスラ研奪還作戦も条件でいえばこの大統領府を守りながらの離脱と大差が無いとスレイは考え、テスラ研奪還作戦の前哨戦と思えばいいと鋭い視線で百鬼獣を睨みつけるのだった……。

 

 

 

 

 

ビアンがノイエDCの兵士と大統領府を守りながらこの場を離脱すると言ったのはビアンが2人いると言う目撃者を守る為というだけではない、もう1つの理由があったのだ。

 

(大統領府を破壊される訳にはいかんからな)

 

大統領府を破壊されてしまえばテロリストの襲撃でブライアンが死亡したと発表する事は容易であり、それでは態々苦労をしてブライアンの救出に動いた意味が無くなってしまうからだ。

 

「ふんッ!!!」

 

大統領府とノイエDCの機体を守るのにエネルギーを割いているのでゲッタービームなどを使用することは出来ないが、ディバイングレイブを使いこなしビアンは双剣鬼と鍔迫り合いを行い強引にクロガネの進路を作り出す。

 

「バン大佐! 無理に撃墜する必要はない! 突破する事だけを考えろッ!!」

 

『分かっています! ショルダーミサイルッ!!』

 

ネオゲッター1の肩から射出されたミサイルの雨が牛角鬼と双剣鬼に向かって降り注ぎ炸裂する。

 

【ギイイイイイッ!?】

 

【キシャアアアアッ!!】

 

苦悶の声をあげ後ずさる2機の百鬼獣の間を僅かに加速したクロガネがすり抜けるように移動し、その後をヴァルキリオン、フルアーマー・ガーリオンが防御に入り後からの追撃を防ぐ体勢に入る。

 

『行けッ!!!』

 

乾いた炸裂音と共にカリオン・改からスパイダーネットが射出され、牛角鬼と双剣鬼の身体を絡め取る。通常のスパイダーネットではなく、ビアン特製の対百鬼獣用のスパイダーネットなので強力な百鬼獣とは言え容易にその拘束を取り払う事は出来ずにその場でもがいている姿を見てビアンが更なる指示を出そうとした瞬間だった。

 

「ぬうっ!? どこからだッ!?」

 

ノイエDCの機体は自分達が守られているのを確認すると、ビアンが本物であり自分達が従っていたビアンが偽物だと悟り逃亡を始めていた。百鬼獣は4機確認されており、牛角鬼と双剣鬼はスパイダーネットに囚われ、白骨鬼と単眼鬼はネオゲッターロボのバンが孤軍奮闘し足止めをしている。ではゲッターVを攻撃した者は何者だとビアンが困惑していると闇が浮き出るように1体の百鬼獣が出現し、それを見たビアンは驚きの表情を浮かべた。

 

「なるほどな……こんな百鬼獣まで製造されているのか」

 

ややずんぐりとしたシルエット、闇を溶かし込んだような漆黒の装甲の電極付きの両腕のパーツ、そしてバイザー型のセンサーアイ……百鬼帝国版ゲシュペンストというべき百鬼獣がゲッターVの前に立ち塞がった。

 

『闇鬼……ビアン・ゾルダーク、その首貰い受ける……』

 

「そう簡単に私の首を取れると思うなよッ!!」

 

プラズマステークとディバイングレイブがぶつかり合い、凄まじい轟音が大統領府に響き渡る。

 

「はぁッ!!!」

 

『……ッ!』

 

頭上で回転させ勢いを増させたディバイングレイブの一撃を闇鬼はバク転で避け、その動きの中でクナイを飛ばし各ゲットマシンの接合部分をピンポイントで狙い撃った。

 

「ぐっ! 似ているのは見掛けだけかッ」

 

見た目はゲシュペンストに酷似しているがその機動力はゲシュペンストに似てもに付かず、どちらかと言えばヴァルシオーネのようなダイレクトモーションリンクシステムを搭載している機体の様な柔軟な動きを闇鬼は見せる。

 

『……シッ!!』

 

クイックドロウで放たれた銃弾をディバイングレイブで防ぐゲッターVだが、ゲットマシンの接合部を狙われた事で出力が落ちており後方に弾かれる。

 

(なるほど……対ゲッターロボということかッ!)

 

旧西暦でゲッターロボと戦っていた事もあり百鬼帝国はゲッターロボの弱点を熟知していた。その証拠がピンポイントの接合部分の狙い撃ちであり、更に帯電させていることでゲッターロボの機動力まで奪うという二段構えの攻撃にビアンは敵ながら素直に賞賛していた。

 

「今までのゲッターVならば勝てなかったが……私が何時までも進歩しないと思うなよッ」

 

その言葉と共にゲッターVの上半身を覆っていた装甲とミサイルランチャーとビームキャノンがパージされ、ゲッターウィングが背部から展開されると共に4つのカメラアイが力強く光り輝いた。

 

「打ち抜かせて貰うぞッ!!」

 

ゲッターVの右拳が黒く、重い輝きに包まれるのを見て闇鬼を駆る鬼は逃げようとしたがそれは余りにも遅すぎた。ビアン・ゾルダークという男の頭脳をまだ舐めていたのだ。

 

『ぐっ!?』

 

【キシャアアアッ!?】

 

握りこまれた拳が開かれると同時に闇鬼と白骨鬼達の苦悶の声が周囲に響き渡った。

 

「確かにゲッター線バリアを展開していればゲッターVに出来る事は少なくなる。だがそんなありきたりの弱点を何時までもそのままにしておくほど私は自堕落な人間ではなくてね」

 

ゲッター線バリアはいうなれば外に展開されたゲッターVの分身と言ってもいい、それが周囲に展開されていると言う事はゲッターVの作り出す重力場の中にいると言うことだ。そしてヴァルシオンの流れを汲んでいるゲッターVにとって自分の力場に満ちた領域というのは狩場に等しい。

 

「バン大佐! 無力化しろッ!!!」

 

振り上げられた腕の動きと共に闇鬼達は上空へと打ち上げられる。力場に囚われ空中に浮かぶ百鬼獣は誰の目から見ても的に過ぎず、完璧にネオゲッターをコントロール出来ていないバンでも確実に狙い撃てる最高の位置だった

 

『プラズマ……サンダアアアアアアッ!!!!』

 

裂帛の気合と共に放たれた雷の矢が闇鬼達を貫いた。撃墜するには威力が足りないが超高圧電圧は百鬼獣とは言え耐え切れる物ではなく黒煙を上げてショートする。再起動するまでの時間にクロガネにビアン達は乗り込み大統領府から離脱して行くのだった……。

 

ビアン達が消えてもなおゲッター線バリアは展開され続け連邦軍の救出隊が現れてからやっと消失した。そして救助された連邦議会の議員達や新聞記者達は口を揃えてビアンが2人いたと告げ、鬼のような異形の特機の写真を見せノイエDCは偽物のビアン・ゾルダークが率いるテロリストであり、本物のビアンは今も地球を守る為に戦っているのではないかと主張し、ノイエDC結成時のビアンの演説のデータを持ち出し声紋データによる検証、そして言い回しなどはビアンとは思えないほどに劣悪な演説である事を証明して見せた。

 

【連邦はまともに検証せず、再び自分達の敵に仕立て上げようとしているのでは?】

 

と言う話が生き残った記者達によって徐々に広がり、そしてそれはDC戦争、そしてL5戦役時の武蔵への冤罪そして殺害命令の事にも繋がり、大統領府の襲撃時に連邦軍がいなかった事もあり、オペレーション・プランタジネットを契機とし連邦への不信感が一気に世論へと広まっていく事となる。

 

「少々想定と違うが良くやった五本鬼。しかしだ、今回のような無計画を許すのは今回限りと心得よ」

 

「は、ははあッ! このような失態は2度と犯しませんッ!」

 

「その言葉違えるなよ。判ったら下がれ」

 

五本鬼も一瞥もくれず、苛立った素振りこそ見せないが、既にお前には何の興味もないと言わんばかりのブライに五本鬼は深く頭を下げブライの部屋から音も立てずに歩き去る。

 

「私の言う通りにすれば上手く行ったでしょう?」

 

「ぐっ……あ、ああ。感謝する」

 

ブライの部屋の外で待っていたニヤニヤと笑うコウメイに五本鬼は苦虫を噛み潰したような表情で感謝の言葉を告げる。

 

「感謝する? 自分の立場をお分かりですか?」

 

しかしコウメイは不敵な表情を崩す事無く、自分にそんな口を聞いて良いのか? と遠回しに五本鬼に問いかける。

 

「……感謝します。コウメイ様」

 

「いえいえ、困ったときはお互い様ですよ。またいつでも声を掛けてください、お力になりますからね」

 

自分で頭を下げたのに、五本鬼が勝手に頭を下げたと言わんばかりの態度で笑うコウメイに五本鬼は奥歯が砕けるほどに歯を噛み締めながらブライの住居を後にする。

 

「ああ、そうそう。大帝が今回の働きを認め、名前を授けてくれるそうですよ。良かったですね、これで貴方も幹部の仲間入りですよ」

 

コウメイの言葉に五本鬼は忌々しそうに顔を歪める。名前持ちになる事自体は喜ばしいが、それは全てコウメイの描いたシナリオ通り、名前持ちになった所で五本鬼は最早コウメイに抗う術は無く、自分がコウメイのシナリオ通りに動いた事に今さらながら気付いた五本鬼だが完全にコウメイの策略に絡め獲られた今従うしかない五本鬼はコウメイを殺意を込めた目で睨みながらその場を後にする。

 

「さてとこれでまた自由に動かせる駒が増えましたね。愚かな者は賢い者に従えば良いのです」

 

コウメイの名は偽名でもなんでもなく、ブライが正真正銘与えた名前だった。コウメイに与えられた役割……それは権力欲等に駆られ、ブライに不利益を与えかねない鬼に枷をつけ己の支配下に置き、ブライが己の支配下の鬼をより円滑にコントロール出来るように立ち回る役目を与えられた百鬼帝国の中でも特殊な立ち位置にいる鬼がコウメイの正体なのだった……。

 

 

 

 

放電を繰り返している牢屋の中で不貞寝を続けている武蔵だったが、牢の外側に誰かが立った事を感じ取り振り返った。

 

「レモンさんですか、どうもお久しぶりですね」

 

「元気そう……とは言えないわよね。私は反対したんだけど、ヴィンデルがどうしてもこうしないと駄目だって言って取り合ってくれないのよ。はい、これご飯」

 

牢の間から差し入れられたパックに入った携帯食を見て武蔵がなんとも言えない顔をするが、ありがとうございますと頭を下げた。

 

「ある意味これが1番安全なのよね」

 

「まぁそうですよね。最初に差し入れられた飯なんか入ってましたよね?」

 

「あら、分かってたの?」

 

「なんとなくですけどね」

 

意識を失えば幾らでも打てる手がある。だから眠らせようとしているヴィンデルの事は武蔵も感じ取っていた、だから口に運ぶ物には細心の注意を払い、そして人の気配を感じればすぐに目を覚ますほどに武蔵は神経を張り詰めていた。寝転がっているのはそれ相応に精神力と体力を消耗しており、少しでも体力と回復させようという意図が武蔵にあったのだ。

 

「エキドナさんは?」

 

敵陣の中にいると警戒態勢を続けている武蔵。しかしそれでも自分をこの場に連れてきたエキドナの安否を気遣う辺りが竜馬と隼人に甘いといわれる由縁だが、この甘さが武蔵らしさであり、それが失われる事はこの状況でもなかった。

 

「そうね。まだ寝てるから心配ないわよ」

 

「……」

 

ジト目の武蔵にレモンは両手を上げて肩を竦めた。

 

「私は何もしてないわよ、自分で起きたくないと思ってるみたいなのよ。やっぱり裏切ったってのがショックだったみたいでね」

 

「裏切らせた人がそれを言います?」

 

「……耳が痛いわね」

 

武蔵の鋭い皮肉にレモンは深く溜め息を吐いて、牢屋に置かれていた椅子に腰を下ろす。

 

「監視ですか?」

 

「まぁそんな所ね、世間話なら付き合うわよ?」

 

「……今ハガネとかってどうなってます?」

 

「そうねえ、詳しい所は判らないけどオペレーション・プランタジネットの為に動いてるみたいね。流石に救出に人員までは割けないって所じゃない?」

 

世間話に付き合うとは言ったものの返事はないと思っていたレモンだが、武蔵からそう声を掛けられ苦笑しながら武蔵の求める情報を少しずつ小出しにするように伝える。

 

「まぁオイラが悪いんでそこは気にしないですよ。頑張って自分で脱出方法を考えますよ」

 

「あらやだ。堂々と脱走するとか言う?」

 

「言いますよ。何を言われてもオイラは永遠に戦い続ける世界なんてごめんなんでね」

 

敵のど真ん中に、しかも自分1人だと言うのに絶望するでもなく、なんとしても食い破り脱出してみせるという鋼の意志。

 

(なるほどね……道理で旧西暦の人間が強いわけだわ)

 

肉体だけではなく精神面も桁はずれて強い、仮にだがもしも自分達の世界に最初から武蔵がいれば永遠の闘争なんて考えなかったかもしれないわねとレモンは苦笑し、座っていた椅子から立ち上がった。

 

「それじゃあ私はそろそろ行くわね。気が変わったらいつでも聞き入れるわよ」

 

武蔵が永遠の闘争に賛同する事はないと分かっているレモンはそう言うと背を向け牢を出ようとするとその背中に武蔵が言葉を投げかけた。

 

「レモンさんは本当に永遠の闘争に賛成なんですか?」

 

「……さぁね、私はもう別に拘りはないわよ? 今はこの世界がどうなるか見届けたいって言う気持ちが強いかな」

 

永遠の闘争を掲げるヴィンデル達が勝つのか、それとも百鬼帝国が支配者となるのか、インスペクターが地球を滅ぼすのか、ハガネ達がそれら全てを打ち砕くのか。レモンはその全てを見届けたいと思ってるわよと妖艶な笑みを浮かべ、武蔵の前から今度こそ歩き去り、自分の部屋へと向かう。

 

「あ、あ……れ、レモン様……わ、私」

 

「落ち着いてエキドナ、そこに座って私としっかり話をしましょう?」

 

過呼吸を起しかけているエキドナにレモンは優しくそう声を掛けながら、背中に腕を回し抱擁しながら落ち着きなさいと繰り返し口にする。その顔は紛れも無く母の顔であり、レモンが内心では永遠の闘争を捨てたと思わせるような慈悲に満ちた笑みを浮かべているのだった……。

 

 

第148話 楽園からの追放者 その1へ続く

 

 




今回の話は短めとなりますが、オリジナルシナリオかつ逃走系のシナリオなのでこんな形となりましたがお許しください。

次回からは話のボリュームも大きく盛り上げて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第148話 楽園からの追放者 その1

第148話 楽園からの追放者 その1

 

脅え、嘆き、震えるエキドナは幼い少女であった。身体と精神が一致していない……ある意味完全な人間を作るというレモンの目的の為に最初から大人の肉体であり、そして与えられた命令を遂行するだけの頭脳を与えられた。そこに自分の意志はなく、淡々と与えられた命令を遂行するだけの存在だった。それが人の感情を理解し、それを得た事で発生したしたエラー……いや、正確には自我と与えられた命令を成し遂げる事の2つの間でエキドナは苦しみ、もがいていた。

 

(……そうね。私も駄目だったのね)

 

完全な人間を作ろうとした。そしてその結果がこれである……レモンは自分が何もかも間違えていた事を苦しんでいるエキドナを見て理解した。

 

「落ち着いた? エキドナ」

 

「……あ……は、はい」

 

まだ身体は震え、目に涙が浮かんでいるが少しだけ落ち着いたように見えるエキドナの涙をハンカチで拭いながらレモンは微笑みかける。

 

「話をしましょう。私とエキドナは話が足りなかったわ、貴女が何を思っているのか、何を考えて苦しんでいるのか……それを私に教えて」

 

ラミアとは何度も話をした。だがエキドナとは話をしていない、レモンはエキドナの心を何1つ理解していなかった事に気付き、優しくその身体を抱擁しながら話をしましょうと微笑み掛ける。

 

「……話ですか……」

 

「そう、話。大事な事よ、意思疎通をするにはね」

 

W-16ならば一方的に命令を下せばいい、だがエキドナ・イーサッキは違う、幼く、まだ判断能力も甘いが自分で考えて行動しようとしている。レモンはエキドナが何を考えているのか、そして今何をしたいのか、それを知る為に話をしようと繰り返し口にする。

 

「は、はい……判りました」

 

「お茶を用意するから、座って待っててね」

 

おずおずとレモンから離れ椅子に腰掛けるエキドナ。レモンは紙パックの紅茶を用意しエキドナの前に置き、次に自分の分を置いてからエキドナの前に腰を下ろした。

 

「あ、ありがとうございます」

 

成人女性にしても大き目の身体を小さくさせて頭を下げるエキドナを見てレモンは思わず口元に浮かびかけた笑みを手で隠した。

 

(あらやだ、家の子が可愛いわ)

 

表面上はクールだが、中身はかなり残念な事になってるレモンだが、エキドナはそれに気付かずちびちびと紅茶を飲み、迷う素振りを見せながら口を開いた。

 

「……とても楽しかったのです」

 

「それはハガネに乗っている時のことかしら?」

 

「は、はい……そのとても恥ずかしい事をしていると言うのは判っているのですが、とても楽しかったのです」

 

「……ちなみに聞いておくけど恥ずかしい事って何をしたのかしら?」

 

レモンがそう尋ねるとエキドナは耳まで真っ赤にし、更に俯いた。

 

「そのあのですね……シャイン王女と子供のような痴話喧嘩に……その武蔵の取りあいとかとかですね……」

 

頭から湯気が出そうなくらい恥らっているエキドナを見てますますレモンのテンションは駄目な方に高まる。

 

(凄いわ、ラミアとは全然違う方向性だけど……エキドナは確実に自我に芽生えてる。シャイン王女……今は貴女に感謝しても良いと思ってるわ)

 

少々おしゃまな感じのシャインによってエキドナが恋を知り、それに伴う自我形成を行なったのだと悟りレモンは内面は物凄く興奮しながらぽつぽつと話すエキドナの話に耳を傾けていたが、インベーダーとアインストが融合したロスターの出現で記憶を取り戻し、レモンとヴィンデルの指示に従わないといけない、でもそんなことをしたくないというので悩んだという話を聞いて、レモンの心は死んだ。

 

(私が悪いの、それともヴィンデル? もしくは時期?)

 

もう少し自我を形成する時間があればエキドナは命令に従う事はなかったかも知れないが、もう後の祭りでありレモンの胸中に凄い罪悪感が生まれていたりする。

 

「……私は自分で考えたくないんです、考えたら私はきっと……」

 

「そうね。そこから先は聞かなかったことにしてあげるわ」

 

自分で考えればレモンとヴィンデルを裏切ってしまう、だから命令を欲したのだと、自分で考える事を放棄したのだというエキドナ。それも1つの選択であるが、当然レモンはそれを受け入れるつもりも認めるつもりもなかった。

 

「命令が欲しいのならば自分で自分に命令をしてみたらどうかしら?」

 

「レモン様?」

 

「私もヴィンデルも貴女に今は命令を出すつもりはないわ。そうね、とりあえず武蔵のリマコンが終わるまでは」

 

リマコンと聞いて肩が動き、眉を吊り上げて怒る素振りを見せたエキドナを見て、レモンは満足そうな笑みを浮かべる。

 

(アダムとイブを誘惑した蛇ってこんな感じなのかしらね)

 

知恵の林檎を食べたアダムとイブは楽園から追放されるが、アダムとイブをそそのかした蛇……それが今の自分だとレモンは笑う。

 

「だから私達は貴女に命令を下す事はないわ。だから命令が欲しいのならば自分で自分に命令を出しても良いと私は思うわ」

 

「自分で自分に……」

 

命令という言葉を使っているレモンだが、それは実質自分で考えてみろ、そして行動してみろと言っているのと同意義だった。

 

「メンテナンスは終わってるから休んでくれても良いんだけど、その前に1つ頼まれて欲しいのよ。エキドナ」

 

レモンはそう言うとアクセル、レモン、ヴィンデルの3人しか使えない特殊コードのカードキーを机の上においた。

 

「格納庫にゲッター合金を使ったスレードゲルミルの斬艦刀と、正式採用型のアンジュルグ・ノワールが保管してあるの、バリソンとウォーダンを連れてこの格納庫に向かってくれるかしら?」

 

「それは道案内という事でしょうか?」

 

「そうそう、私はまだやることがあってね。よろしくね、エキドナ」

 

困惑している様子のエキドナを半ば追いやるようにしてレモンは追い出し、ゆっくりと振り返る。

 

「じゃあ次は貴女ね。ラミア」

 

「……レモン様……貴女は何がしたいのですか?」

 

カーテンによって仕切られたベッドのカーテンが開き、困惑を隠しきれない様子で問いかけるラミアにレモンは楽しくて楽しくてしょうがないと言わんばかりの笑みを浮かべ、その瞳の奥に翡翠の輝きを灯した。

 

「さぁね。私でも最近良く判らないのよ」

 

どうしたのかしらねと笑うレモン。その笑みには普段の妖艶な色は無く、狂気的な光を宿したその笑みにラミアは恐怖しながらも、レモンが今は敵でも味方でもないと悟り、痛む身体に顔を顰めながらベッドから立ち上がるのだった……。

 

 

 

 

 

ゼンガー、エルザムと合流したキラーホエールはバリソンのグルンガストの反応を頼りに海中を進んでいた。その間にカーウァイ達は自分達の持っている情報を出し合い、そして情報のすり合わせを行なっていた。

 

「なるほど、シャドウミラーというのは平行世界の教導隊と言っても良いかも知れんな」

 

「妙な例えだな、ラドラ。だが俺もそう思う」

 

カーウァイをトップにし、ゼンガー達が一時期所属していた事を考えればシャドウミラー=教導隊と取る事も出来る。

 

「いや、教導隊は存在していたがすぐに解散する事になっている」

 

「それは何故ですか? カーウァイ大佐」

 

「簡単だ。鍛え上げている時間が無く、すぐに戦場に出る必要があったからだ」

 

「……それほどの地獄だったという事ですか」

 

教導隊として部下を育てている時間が無く、戦場の中で戦いながら己の腕を磨き、磨き切れなければ死んでいく……それがシャドウミラーのいた世界だと知りゼンガー達は顔を顰める。

 

「それよりもだ。ギリアム、お前は何を知っている? そして何を隠しているんだ」

 

カーウァイの言葉にギリアムは少し身体を震わせ、そして首を左右に振った。

 

「信用していないわけではありません。ですが……「まだ」言えないのです」

 

まだという言葉を強調するギリアムにゼンガー達だったが、カーウァイは得心を得たように頷いた。

 

「1つだけ問おう。お前は……「何処の世界」からやってきた」

 

「カーウァイ隊長何を言っているのですか!? ギリアムは……ギリ……アム……は?」

 

声を荒げたカイだがその言葉が知り蕾に小さくなっていく……そしてそれはゼンガー達も同じだった。

 

「む、ギリアム……お前は何処の生まれだと言っていた?」

 

「いや、それよりも……お前はどうやって教導隊に所属したんだ」

 

仲間である事は間違いない、だがどうしてもゼンガー達はギリアムの過去を思い出すことが出来ないでいた。

 

「簡単な話だ。ギリアムも俺や武蔵の同類ということだ。正し……」

 

「そうだ、俺は「過去」や「未来」と言う定義ではない、もっと遠くの所からここへとやって来た」

 

武蔵やラドラのように過去ではなく、もっと遠くからやって来たと言うギリアムの言葉にゼンガー達は驚愕の表情を浮かべるが、カーウァイが手を叩き、その視線を自分に集める。

 

「死者が生き返り、こうして行動を共にしているんだ。私が言っておいてなんだがギリアムが何処から来たとかは大した問題ではない、ただ私が確認したいのは抑止力と言う物なのかと言う事だ」

 

「イングラムから聞いていたのですね。ですが、俺は抑止力ではありません。ただ大きな運命の輪に組み込まれ、その中で自分に出来る最善を為そうとしているだけです」

 

カーウァイとギリアムの話はゼンガー達には理解出来ない超常の話に等しかった。

 

「つまりどういうことなんだ?」

 

「まぁあれだ。俺は武蔵達をずっと前から知っていたし、共に戦った事もある。世界は1つではなく何十何百という世界があり、俺はその世界をずっと流離って、そしてこの世界に定着した。もう俺は別の世界に行く事は出来ない」

 

「……つまりあれか、お前はずっと転移を繰り返していたと言うことなのか?」

 

「簡単に言えばそうなるが……もっと事態は複雑と言ってもいい、武蔵達の記憶の一部が失われているのと似たような物だが……俺はそれを口にする事が出来ない」

 

武蔵達が世界を超えて戻って来た時に記憶の一部を失ったという話はゼンガー達も知っている。だが口に出来ないと言うのはどういう意味だと首を傾げる。

 

「簡単に言うとだ。俺はこれから起きるであろう事を知っている、だがそれを発言する事は出来ない。それはこの災厄がこの世界に発生してもだ」

 

「知っていてもお前は誰にも協力を求める事が出来ないと言うことか?」

 

「協力は求める事は出来る。だがその事情を話す事が出来ないんだ。なんらかの条件が揃いやっと話せるようになる、シャドウミラーの事も俺は知っていたが、その話が出来なかったのもそれのせいだ」

 

話したいと思ってもギリアムはそれを説明する事が出来ない。過去の事、もう過ぎたことならば違うが、現在進行形の事はギリアムは口に出来ない。

 

「なんとも難儀だな……だが納得が行ったぞ、お前の秘密主義にな」

 

「別に隠したいと思ってるわけではないんだぞ? 本当ならば俺の知ってることを全て話して、それに備えたいとも思っている」

 

それはギリアムの嘘偽りのない気持ちだが、それが出来ないからこそギリアムは歯噛みし、情報部に所属し単独でPTの保有権を有し、自分に出来る事を人知れず成し遂げていたのだ。

 

「事情は判った。だが今は違うのだろう? シャドウミラーの事に関しては俺達に話せるのだろう」

 

「ああ、だからこそ言おう。シャドウミラーは神出鬼没だ、そんなやつらが表に出てきた。この好機を逃せば再びあいつは姿を消すだろう……今この時に叩き、武蔵を取り返さなければならない」

 

まだ話せない事情もあるが、なんとしてもシャドウミラーを叩き、武蔵を取り返す必要があるのだとギリアムは真剣な表情で告げる。

 

「お前が1人で何をしているのかと思った事は何度もあるが、事情も判った。辛かっただろう、だが案ずる事はない」

 

「ああ、お前1人で全てを抱え込む必要はない。我々は仲間だ、協力は惜しまない」

 

「そういう事だ。今までの分はそうだな、戦いが終わった時に宴会代として払って貰うとするか」

 

「それは良いな、情報部は高給取りだ。精々財布係となってもらうとするか」

 

「おいおい、カーウァイ大佐も何か言ってくださいよ。悪乗りするなと」

 

「武蔵の食費は凄いが預金はあるか?」

 

そう言う事じゃないと苦い顔をするギリアムだが、あえて馬鹿な話題を続け笑わせようとしていると言う事に気付き、楽しそうに笑う。確かにこの世界はギリアムの世界ではない、だがギリアムを受け入れ、そして確かな居場所になってくれているゼンガー達にギリアムは心の底から笑みを浮かべて感謝の言葉を口にする。だが和やかな空気も何時までも続かない、キラーホエールのブリーフィングルームにアラートが鳴り響き、オペレーターの報告が発せられる。

 

『熱源多数補足ッ! 戦闘中と思われます』

 

戦闘中と聞きカーウァイ達は腰を上げる。インベーダーか、アインストか、それとも連邦軍の部隊か……何者かがシャドウミラーを補足し戦闘を始めたのだと判断しカーウァイ達は自分達の機体の元へと走り出すが、そこでは想定外の出来事が広がっているのだった……。

 

 

 

レモンと向き合うラミアはその顔に緊張と敬愛する創造主に牙を剥く事を恐れる色が浮かんでいた。身体能力で言えば圧倒的にラミアが上であり、レモンが警報を鳴らす前にラミアはレモンを組み敷く事が出来る。窮地であるのはレモンの方だったが、レモンは狂気さえ感じさせる柔らかな笑みを崩すことは無く、余裕さえ感じさせる動きで椅子に腰掛けた。

 

「ラミアも座りなさいな。話をしましょう」

 

警報を鳴らすでもない、味方を呼ぶでもない……ラミアが恐怖を感じていたのはレモンの狂気を感じ取っていたからだった。

 

「失礼します……レモン様……ん?」

 

「ああ。言語系は修復しておいたわよ? 私は貴女の前の喋り方好きだったんだけどね、ヴィンデルがうるさいから」

 

肩を竦めながらカップに紅茶を注ぎ、ラミアへと差し出すレモン。ラミアは困惑しながらもカップを受け取り、少し悩む素振りを見せてから砂糖とミルクを加えた。

 

「何か?」

 

「いえ、貴女が自分の嗜好を見せてくれたのが嬉しくてね」

 

砂糖1杯とたっぷりのミルク……それはラミアの味の嗜好と言っても良い、レモンが求めた自我を自然な動きで見せるラミアにレモンは歓喜の表情を浮かべた。

 

「……レモン様。貴女は何がしたいのですか?」

 

「ん? そうねえ。さっきも言ったけど……自分でも最近良く判らないのよね」

 

にこにこと笑うレモンは楽しそうだが、ラミアはレモンの行動が本当に理解出来なかった。反逆し、自爆してヴィンデル達を道づれにしようとしたラミアは間違いなく裏切り者であり、レモンが修理を施す必要なんてない。むしろこうして目を覚ましていることさえ異常な事だとラミアは感じていた。

 

「気になってるのはどうして貴女が修理されてるかってことね? あの自爆でツヴァイは致命傷を受けシステムXNは損傷してね、撤退せざるを得なかったのよ。私は少しだけ戦って撤退する所で奇跡的に残っていたアンジュルグのコックピットブロックを回収……損傷箇所を修理したのよ。言語系も含めて、ね」

 

「ありがとうございます……何故私を生かしたのですか?」

 

反逆者であるラミアが命を取り留めたのは偶然だが、それをこの世につなぎとめたのはレモンだ。何故自分を生かしたのか? とラミアが問いかけるとレモンは楽しそうに笑った、楽しくて楽しくてしょうがないと言わんばかりの狂気を感じさせる笑みだった。

 

「貴女は指令を無視したばかりか、 味方である私達もろとも消えようとした。その理由は何かしら?」

 

「……この世界に……我々の居場所はありません。それが……分かっただけです。だから私は……全てを消し去ろうとした」

 

永遠の闘争を望む者はこの世界に異物に過ぎない。だからラミアは全てを巻き込んで自爆しようとしたと言うとレモンは殺されかけたと言うのに笑みを浮かべた。

 

「そこよ、そこが素晴らしいの。元々Wシリーズは指令に対して 疑問を持つ所か……それに逆らって行動するような思考ルーチンを組み込んではいないのよ……表向きわね」

 

「表向きは?」

 

ぺろりと舌を出したレモンの言葉にラミアは驚きながら、その言葉の真意を問いかけた。

 

「私が作りたかったのは人間なのよ。言う事を聞くだけの人形じゃない、だけどヴィンデルはそれを認めなくてね。だからWシリーズの思考ルーチンにはロックが掛かっていて、自分の考えは出来ないようになってるの、全てが終わったにロックを解除すれば思考ルーチンだけじゃなくてもう1つの機能も解除される設定だったの」

 

「……もう1つの機能?」

 

「うん、生殖機能ね。子供を産めるようするのは苦労したのよ」

 

「ふぁッ!?」

 

生殖機能と子供を産めると聞いてラミアが上擦った声を上げるとレモンはますます楽しそうに笑みを深める。

 

「初心ねぇ、別の世界に行った時にね、もしもっていう可能性があるからね、いろいろ工夫してるのよ」

 

「は、はぁ……そうなのですか……」

 

何とも言えない顔をしているラミアだが、レモンの思い描くWシリーズの最終形態と言うのは人と変わらない生活をする存在だ。永遠の闘争を望むヴィンデルの意志に反するが、それでも自分の夢をしっかりとラミア達に継承させている。

 

「では、私は……やはり壊れているのでしょうか?  本来ロックされている筈の物が機能している上に、今も私の考えは変わりません」

 

「ラミア、貴女は壊れたんじゃないわ。貴女のロックは今も機能している……つまり貴女は人間に近づいたのよ、貴女とエキドナだけが私の望むままの存在になりつつあるのよ」

 

ラミアは自分が壊れたと感じていたが、思考ルーチンのロックは今も機能しており、ラミアとエキドナの迷いは2人が感情と自我を得た証だった。

 

「私だけではなく……エキドナも?」

 

「ええ、そうよ。彼女も自分で考えて行動しようとしている。私は自分で考えて、自分で行動しろと言ったけど……貴女達はそれが出来ないようにされている。Wシリーズは本当の意味で「自分で考え」「決める」事は出来ないように作られているの」

 

最終ラインで製造される筈のWシリーズは最初から人間として製造される筈なのでその限りではないが、ラミア達戦闘をメインとするWシリーズはそれは出来ないはずだった。だがラミアは人の善性に触れて、エキドナは武蔵への恋心で己に課せられた枷を突破したのだ。

 

「シャドウミラーが求める、兵器としての Wシリーズという意味では失敗作……でも……科学者としての私が、貴女達に望む最終形…それが貴女よ」

 

レモンが望んだ存在にラミアとエキドナだけが至った。シャドウミラーの思想ではなく、レモン・ブロウニングが心から望んだ存在にラミアとエキドナは辿り着いたのだ。

 

「レモン様が作りたかったのは……何だったのですか?」

 

「ん、んーそうね……私は子供が産めないの、それでもお母さんになりたかった。だからWシリーズの原型である人造人間を考え始めたの」

 

腹を撫で子供が産めないというレモンにラミアはを目を見開き、そして悲しそうな表情を浮かべた。

 

「そんな顔をしないの。私が産んだ子供じゃないけど、貴女達は紛れもなく私の子供。だから私はなりたかった母親になれたから満足しているわ」

 

そう笑うレモンに対してラミアは申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

「レモン様……私は……私は……「ラミア、気にしなくていいわ。だけど貴女の言葉で聞かせて、貴女は何をしたい?」

 

レモンの言葉にラミアは俯き、そして肩を震わせ搾り出すように一言だけ呟いた。

 

「……出ます。私は……私の信じる道を行きます」

 

もうラミアは永遠の闘争の世界を望む事が出来ない、戦いが終わり平和な世界をこの目で見てみたいと願っている。ラミアの道はもうレモン達の道に重なる事は2度とないのだ。

 

「後部格納庫にヴァイサーガが置いてあるわ。 それに乗ってお行きなさい」

 

「レモン様……ッ!」

 

反逆すると言ってるラミアに戦う為の武器を渡そうとするレモンにラミアは心配そうな表情を浮かべ、その名を呼んだ。だがレモンは柔らかく微笑むだけだ。

 

「それと……壊れたアンジュルグも、予備パーツごと破棄しておくわ。もし使う気があるなら、後で回収なさいな。大丈夫、2機とも自爆装置はつけてないわ。さ、判ったらお行きなさい。多分エキドナも動く頃合だと思うからね」

 

自分で自分に命令しろとレモンが口にした時、エキドナも悲しそうな、ラミアと同じ目の色を浮かべていた。エキドナも自分の道を決めたのだ。その道がレモンの望んだものではないとしても、母としてレモンはその選択を尊重した。ラミアに背を向けるレモン、それは前を向いたときに追っ手を出すという無言のメッセージだった。

 

「……申し訳ありません、レモン様。 ですが、貴女によって与えられた命……そして……貴女によって与えられたチャンス……この戦争で、力の限り使わせていただきますでごんす……んん?」

 

「ふふ、ごめんなさい。私やっぱり貴女のあの喋り方好きだったのよ。また元通りにさせてもらったわ」

 

前を向いたまま握りこんでいるスイッチをラミアに見せるレモンにラミアは嬉しそうに笑った。

 

「嫌だった?」

 

「いえ、素晴らしい判断なのです。 私を私のままにしてくれた事……感謝しちゃいますのです……レモン様」

 

この奇妙な口調が好きだというレモン、そしてラミアもまたこの口調が好きになり始めていた。W-17ではない、ラミアという個をあらわしているような気がしていたからだ。

 

「ラミア、最後に1つ聞かせてくれるかしら? ATXチームのエクセレン・ブロウニング……彼女は……どんな子だった?」

 

前を向いたままそう尋ねてくるレモンにラミアは出口に向かいかけた足を止め、もう1度レモンに視線を向けた。

 

(やはり……エクセお姉様はレモン様の家族だったのですか?)

 

その言葉はラミアでも口にして良い物に思えず、ぐっと喉元まで込み上げた言葉を飲み込み、レモンが求めているであろう返事を返した。

 

「ベーオウルフのパートナーです。 掴み所のない、不思議なお方……私にも良くして下さいました。そして……どことなく雰囲気が似ています。レモン様と……」

 

ずっとエクセレンとレモンに感じていた事、余りにもレモンとラミアは良く似ていた。ブロウニングの名の示す通り、もしかしたらこの世界では生まれていないが、向こう側の世界では姉妹だったのではないか? とラミアは考えていた。

 

「ありがとう、ちょっと気になっていたのよ。それじゃ、エクセレンの話をしてくれた お礼に一つだけ教えてあげましょう。アギュイエウスの扉……もうじき開かれる事になるわ」

 

シャドウミラーの最終目的……永遠の闘争を成し遂げる為の平行世界への自在の転移……その門を開く準備が出来ているとレモンに告げられ、ラミアは驚きと驚愕にその目を見開いた。

 

「例の機能回復にはもう少し……掛かるし、まだコアを見つけてさえいないんだけどね。私達の計画は最終段階に入っているわ、ゲッターロボとシステムXN――それを組み合わせればどんな世界にだっていける」

 

ゲッター線とシステムXN、そしてヘリオス……それが揃えばヴィンデル達はどんな世界にも攻め込んでいける、そしてその世界の機動兵器を持ち帰り、報復の為にやって来た平行世界の住人と無限に争い続ける。それがヴィンデルの望む永遠の闘争であり、そして百鬼獣、アインスト、インベーダー、インスペクターと戦い勝利する為の計画だった。

 

「これ以上話すことはないわ。急ぎなさいラミア。ヴィンデルとアクセルがいつまでも大人しくしているなんて思ったらとんでもない事になるわよ?」

 

「判っております……レモン様。色々とありがとうございます」

 

深く頭を下げラミアはレモンの部屋から出る為に動き出す。だが、出る寸前で名残惜しそうにその足を止めた。この部屋を出れば敵同士……歪な関係ではあるが、母と娘という関係も終わる……それが名残惜しいとラミアは感じていた。

 

「レモン様……私は、いえ、私は貴女を止めたいと思います」

 

「それは何故?」

 

「……家族が……母が道を違えちゃったりしたとき、それを止めるのは娘の責務と思っちゃったりするからです。お母さん、お元気で」

 

驚き動きを止めたレモンから今度こそラミアは背を向けて格納庫へと走り出した。

 

「……驚いちゃった……ふふ、何かしらね……凄く嬉しいって思うのは何でなのかしら……?」

 

自分で思う以上に義理堅い性格のレモンは自分の意志では最早シャドウミラーを抜けることは出来ない。それを知っているからこそラミアはレモンを止めると言い残し、それはある意味自分ではどうしようもない所まで来てしまっていたレモンが最も欲しいと思っていた言葉なのだった……。

 

 

 

 

 

 

ラミアの事があり量産型Wナンバーズが部屋の前で監視している中、エキドナはレモンに言われた言葉をずっと繰り返し考えていた。

 

(自分で自分に命令を……私が何をしたいか……ヴィンデル様達は武蔵にリマコンをしようとしている)

 

リマコンをすれば武蔵はシャドウミラーの為に戦ってくれる。そうすれば一緒にいられるだろうが……それは果たしてエキドナが想いを寄せた武蔵だろうか? 考えるまでも無くそれは違う、量産型Wナンバーズのように自分の意志を感じさせない人形……その隣に自分がいる光景を想像したエキドナは自分の身体を抱いて震えた。

 

「嫌だ……それは嫌だ……」

 

それはもう武蔵ではない、そんな武蔵は見たくないとエキドナは何度も頭を振る。

 

「……私……私はッ!」

 

武蔵を裏切ったのは紛れも無い事実だが、それでもエキドナは武蔵を助けたいと思った。例え憎まれるとしても、恨まれているとしても……エキドナは武蔵を助けたいと心から願った。

 

「……レモン様、ヴィンデル様……アクセル隊長……許してください。私はやはり……壊れたままのようです」

 

シャドウミラーの思想はもうエキドナにとっても受け入れられるものではない、そして何よりも武蔵が人形になる姿を見たくない……。

 

「武蔵を助けてゲッターの所まで届ける……例えその後殺されたとしても、私はそれでいい」

 

自分自身に武蔵を助けると命令を下したエキドナは意を決した表情で部屋を出ようとし、それよりも先に扉が開いた。

 

「あん? エキドナか、量産型がいるから武蔵がここにいると思ったぜ」

 

「ば、バリソン……少尉? 何故」

 

「何故? んなもん決まってる。反逆だよ、俺はもう永遠の闘争なんて言うくそ下らん物に従うつもりはねぇ。んでお前はどうする? 俺を始末するか? W-16」

 

獰猛な笑みを浮かべるバリソンにエキドナは首を振った。

 

「私はエキドナ、エキドナ・イーサッキだ。W-16等と呼ばないで貰いたい」

 

「はっ、少しは見れた面になったな。行くぞ」

 

バリソンに放り投げられた日本刀とマグナムを受け取ったエキドナはそれが武蔵の武器だという事にすぐ気付いた。

 

「俺は武蔵が何処に囚われてるか知らん。案内できるか? エキドナ」

 

「出来ます。行きましょう、バリソン少尉」

 

「おう、行く……っとなんだ!?」

 

エキドナとバリソンが動き出そうとした時、基地の警報が鳴り響き、困惑するバリソンが窓の外に視線を向けるとヴァイサーガがソウルゲインと対峙していた。

 

「ラミアの奴も自分の道を決めたみたいだな。ラミアがドンパチしてる間に行くぞ。武蔵を救出して機体を奪取する」

 

「了解です」

 

量産型Wナンバーズが持っていたマシンガンを肩から下げ、バリソンとエキドナは基地の中を走り出した。楽園からの追放……いや偽りの楽園を捨て自らの理想郷へと辿り着く為に茨の道を走り出すのだった……。

 

 

第149話 楽園からの追放者 その2へ続く

 

 




と言う訳で今回は戦闘開始前のシナリオデモとなりました。ゲームではラミアだけでしたが、今回はエキドナとバリソンもシャドウミラーからの離反ルートになります。ここもかなり盛り上がるところなので気合を入れていくつもりなので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第149話 楽園からの追放者 その2

第149話 楽園からの追放者 その2

 

ソウルゲイン、スレードゲルミルと言ったシャドウミラーの主戦力となる機体が次々と改造を施されているのは、オペレーション・プランタジネットを利用し、百鬼帝国、シャドウミラー、インスペクターの3つの勢力でハガネ、シロガネ、ヒリュウ改、クロガネを鹵獲、あるいは撃墜を狙っての物であると言う事はアクセルにも判っていた。その為に武蔵とゲッターD2をW-16を使って鹵獲させたのだが……ヴィンデルのこの作戦には大きな穴がある。

 

「……あいつめ、少し馬鹿になったな」

 

百鬼帝国とインスペクターとシャドウミラーの戦力はイコールではない。シャドウミラーと他の勢力を比べれば数段シャドウミラーの戦力は劣る。ツヴァイザーゲインのシステムXNは優秀だが、転移能力はインスペクターも有しているので絶対的なアドバンテージにはならない、スレードゲルミル等のマシンセルを利用した機体も百鬼帝国では当たり前の技術でこれもまた強みと言う訳ではない。ゲッターD2という突出戦力があってもやっと互角だとアクセルは踏んでいた。

 

(態々隔離した場所に格納庫を作り、そこに保管するか……その程度の危機感は残っていたか)

 

武蔵が牢屋を脱出し、ゲッターD2を持ち出すことを恐れ、エルアインスとアシュセイバー、ランドグリーズと非常に強固な防衛網が敷かれている格納庫にゲッターD2は収納されていた。同じ基地内だが、牢屋との距離はかなりあり車は勿論PT等が無ければ脱走したとしても、辿り着く前に武蔵を再び捕えれるようにとヴィンデルが無理を言って作らせた格納庫を見てアクセルは小さく笑った。

 

(……ヴィンデル。お前は何を見ていたんだ、その程度の障害武蔵は容易く乗り越えるぞ)

 

インベーダーとアインストと生身で戦う戦闘力を持ち、間抜けと言いつつも頭の回転は段違いに早い武蔵ならばその程度の障害は軽く乗り越えるだろう、それよりもだ。百鬼帝国の力を借りてリマコンを武蔵に施すとヴィンデルは言っていたがリマコンを施された武蔵が本来のパフォーマンスを発揮出来るかどうかというとアクセルは無理だと踏んでいた。その上リマコンを持ち込んでくるのは百鬼帝国であり、こうしてDC戦争時に放棄された連邦も忘れているような基地で部隊を展開しているのはある意味百鬼帝国に余計な事をするなと言う威圧の意味合いも兼ねていた。

 

『アクセル隊長。何故、ソウルゲインのコックピットで待機しているのだ』

 

「W-15か、少し考え事だ。これがな、判ったら俺の邪魔をするな」

 

『了解』

 

ウォーダンに考え事を中断させられた事に若干イラついたアクセルだが、小さく息を吐き再び目を閉じて半ば瞑想状態に入る。

 

(……ツヴァイザーゲインを巻き込んで自爆しようとしたW-17……いや、ラミア。お前はきっとレモンの求める領域に辿り着いたのだろう)

 

Wシリーズは戦争時の兵士としての役割もあるが、レモンの最初の考案では新しい人類として設計されていた事をアクセルは知っている。

だからこそラミアがレモンの求める新人類の領域に辿り着いたとアクセルは感じてた。

 

(その予兆はあったが……ふっ……何とも言えんな、これがな)

 

アクセルと唯一引き分けたWシリーズのラミア。その時は人形染みていたが、刃を交える度にラミアは人間性を獲得していた。ヴィンデルからしてみれば不良品だが、レモンからしてみれば紛れも無い最高傑作だろう……そしてその最高傑作になり得たのに、それを捨てた者もいる……エキドナだ。

 

(Wシリーズに恋や愛を理解する事はやはり出来なかったか)

 

武蔵との触れ合いで人間性を獲得し、そして恋と愛を理解しようとしていたエキドナだったが、結局レモンの命令を優先し武蔵を裏切った。その癖裏切った事を後悔し、自室に篭もり切っているのは滑稽としか言いようがなかった。他の道もあったのに、W-16としては最善の選択を選び、エキドナは最も愚かな道を選んだのだ。

 

(Wシリーズが人間なのか、そうではないのかは……これから分かる)

 

アクセルがソウルゲインのコックピットで待機していた理由――それはラミアが、あるいはエキドナが本当の意味でレモンの求める存在に近づいているのならば動かない訳が無いからだ。ここで動かなければ所詮人形、動けばレモンの求める存在には至ったが、アクセルにとっての敵になる事を示している。シャドウミラーとしては許される物では無いが、百鬼帝国と手を組んでいる段階でヴィンデル自身も迷走していると感じているアクセルはそのどちらでもいいと考えていた。アクセルにとって重要なのはキョウスケと決着をつける事で、その次が永遠の闘争が続く世界だ。

 

「……来たか」

 

ギャンランドから警報が鳴り響き、基地の格納庫が内部から破壊され蒼い影が空へと躍り出る。

 

「……あいつめ。ヴァイサーガを改造すると言っていたが……テスラドライブを搭載したのか」

 

本来のヴァイサーガに飛行能力は無いが、空を飛び紅いマントを翻す姿を見てアクセルは獰猛な笑みを浮かべた。唯一己と引き分けたWナンバーズであり、そしてレモンの求める存在へと至ろうとしているラミアを見て初めてアクセルはラミアを敵と見定めソウルゲインを起動させた。

 

「W-17……いや、ラミア。それがお前の選択か?」

 

『……アクセル隊長……貴方は』

 

「知らないわけが無かろう。今ならばまだ間に合うぞ?」

 

言外に再調整を受け再び人形に戻る事も出来るぞとアクセルが問いかける。これで頷くのならば興醒めだったが、ラミアの返答はある意味アクセルの求めていた物だった。

 

『いいえ、私はもう人形には戻りません。己の意志で、自分の決めた道を進みます。私の戦いを、私が戦うべき戦場を私の意思で決めます』

 

強い意思の込められたラミアの言葉を聞いてアクセルは小さく笑った。人形、人形と蔑んで来たが、これほどまでの強烈な意思を感じさせるラミアを人形と呼んでいた自分が馬鹿に見えてきたのだ。

 

「それで、レモン。何か申し開きは?」

 

『申し開きも何もないわよ? 私は武蔵のリマコンの準備をしていてWシリーズの調整部屋には入ってないわ。多分調整部屋は培養液で今頃大変な事になってるでしょうねぇ……』

 

どこか他人事のような口調だが、レモンはヴィンデルの命令に従い武蔵のリマコンの準備をしていてラミアの事に関与していない……多少無理があるがそれで押し通すつもりなのだろう。

 

「逃がすつもりならばこんなタイミングではないな」

 

『当たり前よ、逃がすつもりならば、こんな間違いなく破壊される状況で飛び出させはしないわよ?』

 

ソウルゲイン、スレードゲルミル、そして無数の量産型Wシリーズが乗り込んでいる機体が出現している中で脱出はさせないというレモンの言葉は間違い無く正しいだろう。だからこそ、ラミアの逃亡はラミア自身の意思で行なわれたと言う事になる。

 

『私は自分の道を進むと決めました、そしてWナンバーである己と決別すると決めたのです……アクセル隊長。貴方が私の前に立ち塞がるというのならば……貴方は私の敵だ』

 

五大剣の鞘を捨て刀身を露にするヴァイサーガ。それは明らかな敵対行動であり、警告のように見えてその実アクセルと戦おうとしているのは明らかだった。

 

「決別……か。俺も『向こう側』と決別する為にここへ来た。貴様も同じ理由で自分の世界を捨てるつもりか? レモンが悲しむぞ、あいつはあれでお前の事を愛していたからな」

 

最後通告としてレモンが悲しむと意地悪な事を告げるアクセルだが、ラミアの意思は全く揺らぐことは無く、五大剣をヴァイサーガに構えさせた。

 

『……そういう事になるのでしょう……ですが、もう決めたのです、アクセル隊長』

 

「……分かった。行きたければ、俺を倒す事だ。言っておくが俺は裏切り者を許さんぞ」

 

ソウルゲインのカメラアイが力強く輝き、組んでいた腕を伸ばしその拳を力強く握り締める。ラミアの目にはソウルゲインの背後に巨大なアクセルの姿が見え、凄まじい闘志を放っている姿がまるで現実のように見えていた。

 

『……了解しました。アクセル隊長を倒し、私は己の道を行きます』

 

「他の者は手を出すな。 裏切り者のWー17……それを処分するのも隊長の責任だ……相手は俺がする」

 

ウォーダンや量産型Wナンバーズと共に戦えば決着は容易につく、だがアクセルは1対1で決着をつける事を望んだ。

 

『1対1で、私との決着……拘っているようですね、隊長』

 

「フッ……そうだな。俺の性分だ……お前が人形のままならばここまで拘る事はないが……今のお前は最早人形ではない、ならば負けっぱ

なしは俺の性ではない……来い、Wー17……いや、ラミア。貴様をこの俺の拳で貴様を打ち砕く」

 

『了解です。 命令ではなく自分の道を行く為に……貴方を倒します、アクセル隊長。私の前に立ち塞がるなら撃ち貫くのみ……ッ』

 

ヴァイサーガのエンジンが唸り声を上げ、その紅いカメラアイがソウルゲインを睨みつける。

 

「気に入らん物言いだな、こいつが……貴様が影響を受けた連中の予想がつく……となれば、ますます貴様には負けられん……ッ!」

 

ソウルゲインが地面を砕きながらヴァイサーガへと迫り、ヴァイサーガは空中から急降下し突き立てる様に五大剣を振るう。

 

「おおおおおおおッ!!!」

 

『はぁあああああッ!!!』

 

アクセルとラミアの裂帛の気合が込められた叫びと共に繰り出されたソウルゲインの拳打とヴァイサーガの斬撃がぶつかり合い、凄まじい轟音を周囲に響かせるのだった……。

 

 

 

ソウルゲインと眩い蒼とヴァイサーガの闇を溶かし込んだような濃紺が何度も何度も交錯する。

 

『どうした、逃げ回っているだけでは俺には勝てんぞッ!!!』

 

回し蹴りから放たれた三日月状のエネルギー刃の嵐がヴァイサーガへと襲い掛かる。

 

「くっ! 烈火刃ッ!!」

 

命中する前に烈火刃を放ちエネルギー刃を相殺する事を選択したラミア。エネルギー刃を相殺する事には成功したが発生した爆煙で一瞬ラミアはソウルゲインの姿を見失った。

 

『でいやああああッ!!!』

 

「がっはッ!!!」

 

煙を突っ切って姿を見せたソウルゲインの飛び膝蹴りがヴァイサーガの胴を捉え、凄まじい衝撃にラミアの肺から強制的に酸素が吐き出され、苦悶に満ちたラミアの悲鳴がコックピットに響き渡る。

 

『沈めッ!!!』

 

「……っ! ぐうっ!?」

 

アクセルの攻撃は止まることを知らず、空中で反転したソウルゲインの踵落しがヴァイサーガの背部へと放たれる。ラミアはなんとかヴァイサーガを駆り、マントで直撃を防いだが威力までは防ぎきれず凄まじい勢いで基地のカタパルトとへ叩き落される。

 

『青龍鱗ッ!!!』

 

降下しながら放たれるエネルギーの弾雨。それをヴァイサーガは地面すれすれを飛ぶ事で避けるが、突如ヴァイサーガの動きが何かに縫い止められたように止まる。

 

「これはッ!? ソウルゲインのッ!?」

 

『俺から逃げれると思っていたのか?』

 

青龍鱗に紛れて飛ばされていたソウルゲインの右拳がヴァイサーガの足を掴んでおり、ヴァイサーガをソウルゲインへと一気に引き寄せる。残された左拳を腰ために構えていたソウルゲインの前に無防備に現れたヴァイサーガ目掛けソウルゲインの左拳が突き出される。

 

『その程度で俺を倒すとよくも言えた物だなッ! ラミアッ!!! 玄武剛撃ッ!! でいやあッ!!!』

 

高速回転する左拳がヴァイサーガの胸部を捉え、ヴァイサーガはボールのように吹っ飛び背中から海中へと沈み、沈んでいくヴァイサーガのコックピットの中でラミアは改めてアクセル、そしてソウルゲインの強さを実感していた。

 

(ぐっ……やはりアクセル隊長は強いッ!!)

 

まともに反撃する隙すら与えない連撃、しかもその一撃一撃がヴァイサーガのフレームと装甲を軋ませるほどに重い、その上ゲッターD2の解析データを元に改造を施されており、その機体性能は向こう側の時よりも遥かに上昇している……それに対してラミアはヴァイサーガを駆るのはこれが初めてであり、その機体性能も存分に行かせている訳ではなかったが……それを言い訳にしていてはラミアはどこにも行けず、ここで生き絶えるだけだ。

 

「……行くぞ、ヴァイサーガ……」

 

ラミアの呟きに呼応するようにヴァイサーガのカメラアイが光り輝き、マントを身体に巻きつけ海面に向かって飛翔する。水柱と共に空へと舞い上がったヴァイサーガだが、ソウルゲインは両拳にエネルギーを溜めてヴァイサーガを待ち構えていた。

 

『そこかッ! 青龍鱗ッ!!』

 

両手から放たれた凄まじいエネルギー波がヴァイサーガへと迫る。直撃すればヴァイサーガを撃墜するのに十分な威力を秘めたその一撃を見てラミアは小さく笑った。

 

「貫けッ! 風衝閃ッ!!」

 

捻りを加えて突き出された五大剣の切っ先から螺旋回転する風の刃が放たれ、青龍鱗と相殺しあって消滅する。

 

『なにッ!?』

 

プロトタイプとは言えヴァイサーガに乗っていたアクセルはその見たことの無い攻撃に一瞬動揺した。その隙にヴァイサーガはマントを翻しながらソウルゲインへと肉薄する。

 

「切り裂きまくっちゃったり……コホン、行くぞッ! アクセル隊長ッ!!」

 

『俺を相手にふざけているのかッ!!』

 

異常をいまだ引き起こしている言語機能だが、アクセルはそれを挑発と受け取り激昂する。その瞬間だった、ソウルゲインの視覚が赤一色に染め上げられたのは……。

 

『なにッ? ぐっ!?』

 

「武蔵の戦い方は私にとても勉強になったぞ、アクセル隊長ッ!!」

 

マントの動きで相手を幻惑し、その隙に強烈な一撃を叩き込む……ブリットとの組み手で何度も見た攻撃だが、ラミアはそれをヴァイサーガで再現し、五大剣で切りつけると同時に蹴りを叩き込みソウルゲインを蹴り飛ばす。

 

『猿真似で俺の首を取れると思うなよッ!!』

 

「猿真似で翻弄されて恥ずかしくないの~……んんッ? なんだこれは?」

 

今までの言語機能のエラーとはまた違う言葉が飛び出し困惑するラミアだが、動きは止まる事は無く烈火刃をソウルゲインへと放つと同時に、五大剣を構えてソウルゲインへと切り込んだ。

 

「レッツ斬りまくりんぐッ!!!」

 

『貴様本気で壊れたか?』

 

「ぐっ……私の意志ではないですことですよッ!?(レモン様、私の何を解除したんですかッ!?)」

 

アクセルの可哀想な者に向ける声とレモンが自分の何を解除したのかと内心泣きながらも、ヴァイサーガを駆る手を緩める事無くソウルゲインへの攻撃を続ける。ソウルゲインは腕を上げ、防御体勢に入り攻撃を防ぎ、いなし反撃する隙を窺いヴァイサーガが大上段に構えた五大剣を振りかぶった瞬間にガードを解除し、ヴァイサーガを迎え撃つ態勢に入る。

 

『見切ったぞッ!!』

 

アクセルの狙いはヴァイサーガの武器である五大剣の破壊。硬く握り締められたソウルゲインの右拳が五大剣に当たるという瞬間にヴァイサーガの姿が掻き消えるように消え去った。

 

『何? ぐっ!? 後ッ……ぐうっ!? 今度は左だ……どうなっているッ!? 何故こんなにもヴァイサーガがいるッ!?』

 

ソウルゲインを取り囲むように五大剣を構えているヴァイサーガ。それが切り込んでくるのを見てアクセルは当然反撃に出るが、ヴァイサーガの姿は溶けるように消え、明後日の方角から凄まじい衝撃がソウルゲインを襲う。

 

「光刃閃・幻刃。この幻の刃を見切れるかッ!」

 

ゲッタービジョンを再現しようとし、不完全ながらも再現したそれはエネルギー反応を撒き散らし、モニターとパイロットの視界を幻惑させる幻の姿。だがそのすべてに熱源があり、容易に見切れぬ影の牢。

 

『ふっ、面白くなって来たなッ! 俺の前に立ち塞がるのならば全て打ち砕くッ!!』

 

幻など関係ない、全て打ち砕くと言わんばかりに振るわれるソウルゲインの拳打。しかしヴァイサーガはそれを避け、EG装甲で回復されると判っているが、細かいダメージを蓄積させ突破口を作り出そうと攻撃を続ける。一撃の破壊力の劣るヴァイサーガは手数で、一撃の破壊力に秀でているソウルゲインは致命傷を防ぎ、一撃で仕留めると隙を窺い続ける。一進一退の攻防だが……軍配はEG装甲を持つソウルゲインに上がった……。

 

「はぁ……はぁ……」

 

ヴァイサーガを初めて扱う事とアクセルと言う強敵を前にラミアの精神的・肉体的疲労が限界を超えた。目に見えて動きが鈍ったヴァイサーガを見てアクセルはここが勝負所だと一気に前に出た。

 

『中々頑張ったが、それもここまでだッ!』

 

玄武剛撃がヴァイサーガの頭部へと放たれようとした時、背後から凄まじい衝撃がソウルゲインを襲い、ソウルゲインは前のめりにたたらを踏み、玄武剛撃がヴァイサーガの頭上を通過し、黒い影がヴァイサーガを抱き上げソウルゲインの前から離脱する。

 

『よう、随分と楽しそうだな。アクセル、俺も混ぜろよ。つっても俺はラミア側だけどな』

 

『バリソン……貴様も……いや、W-16も俺達を裏切るという事か……』

 

ソウルゲインを背後から撃ったのバリソンの駆るゲシュペンスト・MK-Ⅱ改。そしてヴァイサーガを救い上げたのは漆黒のアンジュルグ……アンジュルグ・ノワールだった。

 

「エキドナ。何故……」

 

『私も自分の道を決めたんだラミア。それよりもだ、バリソン少尉と時間を稼いでくれ、私は武蔵をゲッターD2の元へ届ける』

 

「武蔵もいるのか……分かった。厳しいがバリソン少尉とアクセル隊長達を抑えてみせる」

 

『頼んだぞ、武蔵。行くぞ、しっかり掴まっていてくれ』

 

『よろしくお願いします! エキドナさんッ!』

 

『ゲッターを奪わせるなッ! 追えッ!』

 

翼を広げゲッターD2を解析している格納庫へと向かうアンジュルグ・ノワールを見て、アクセルが追えと指示を出すがその前にヴァイサーガとゲシュペンスト・MK-Ⅱ改が立ち塞がる。

 

『あれは武蔵のもんだ。武蔵に返すのが道理だろ? 奪わせるななんて言うのは盗人猛々しいって言うんだぜ。アクセル』

 

「1対1ではなくなったが、私達の決着はまだついていないぞ、アクセル隊長」

 

『その通りだ。バリソンまで裏切ったのは残念だが……裏切り者を逃がすわけには行かない、ウォーダン』

 

『承知』

 

ラミアとバリソンの前にソウルゲインとスレードゲルミルが立ち塞がり、アンジュルグ・ノワールはエルアインス達に追われながらゲッターD2の元へと飛び、ラミア達の戦いはますます激しさを増していくのだった……。

 

 

 

時間は少し遡り武蔵がバリソンとエキドナに救出される前へと遡る……。

 

「ドンパチが始まったみてえだな。どうなってるんだよ」

 

牢屋の中にいる武蔵は外の状況が判らないが、牢屋まで響いて来る振動音に戦闘が始まっているのを感じ取ると腕の力だけで飛び起き、剣道の胴を外して牢屋の床の上に置いた。

 

「やっぱあんた天才だぜ、敷島博士」

 

金属反応等を一切関知させない上に身体に密着させていても熱を帯びる事無く、そして痛みも無い。スライムのような物質で作り出されたピッキングツールを始めとした脱出の為の道具をてきぱきと組み立てる武蔵の背後で牢屋の扉が開き、武蔵は慌てて胴でツールを隠した。

 

「武蔵、武蔵! すまない、すまない……許して、許してくれ……」

 

「エキドナさん……」

 

放電している柵に手を伸ばそうとし、バリソンに押さえられながらもすまないすまないと涙を流すエキドナの姿を見て、あの行動がエキドナの本心からの物ではないと武蔵は改めて理解した。

 

「まずは牢屋の電気を止める。話はそれからだ」

 

「あ、は、はい……分かりました」

 

バリソンとエキドナが2人でコンソールを操作し、武蔵を閉じ込めていた牢屋の電気が停止し、自動で牢屋の扉が開いた。

 

「武蔵……ごめんなさい、ごめんなさい……私……私」

 

「大丈夫ですよ。オイラは気にしてないですから……こんなに泣いちゃって……美人が台無しじゃないですか、エキドナさん」

 

牢屋の中に転がり込んできてごめんなさいと繰り返し謝罪の言葉を口にするエキドナの涙をハンカチで拭う武蔵だが、その行動にますますエキドナの目から涙が零れ落ちる。

 

「……裏切った、私は武蔵を裏切った……でも、でも……私はお前を助けたいんだ、何を言ってるって思うかもしれないけど……私はお前を助けたいんだ、武蔵……」

 

要領を得ない言葉は成人した女性の身体をしていても、その精神が幼い子供であると言う証明であり武蔵は困ったように笑いながら大丈夫だと笑った。

 

「でもエキドナさんはレモンさんを裏切れなかったんですよね。しょうがないですよ、誰だって家族は大事だ」

 

 

少し寂しそうに武蔵は笑う。北海道灼熱地獄作戦で武蔵は両親を失っている。禄に親孝行も出来ず、山篭りをしてくると言って家を飛び出した武蔵には心配そうに自分の名を呼ぶ両親の姿が最後に見た姿となった。だからこそ、武蔵は親であるレモンを裏切れなかったエキドナの気持ちが痛いほどに判っていた。だがエキドナは武蔵のその言葉が自分を責めているように思え、ますます大粒の涙を流す。

 

「いや、だから大丈夫ですよ、エキドナさんは助けに来てくれたじゃないですか、オイラはそれで……「武蔵ぃッ! ごめん、ごめんなさい……」わわわッ」

 

武蔵の優しい言葉に感極まったのか抱きついてきたエキドナだが、身長の差などで胸が武蔵の顔の部分に来て柔らかい感触に武蔵が完全にオーバーヒートするのだが、エキドナは謝罪の言葉を口にし武蔵を抱き締める腕の力を緩める事は無く、ますますその力を強めエキドナの胸に顔を埋める事になり、胸の柔らかさとエキドナの匂いを嗅ぎ続けると言う事は余りにも思春期の青年には毒過ぎた……武蔵は数秒で茹で蛸のように耳まで真っ赤になる。だがエキドナは武蔵のそんな様子に気づく事も無くますます腕の力を強め、武蔵の意識が落ちる寸前でバリソンの手を叩く音が牢屋の中に響き渡った。

 

「武蔵に許して貰えて嬉しいのは分かるが、ラミアが1人でアクセルと戦ってる。俺達も早く機体に乗り込んでラミアの手助けをするぞ、

百鬼帝国が来る前にここを離脱しないとやばい」

 

「わ、分かりました。武蔵、武蔵? どうかしたのか?」

 

「え、あ、い、いやなんでもないですよ?」

 

バリソンの言葉で武蔵を抱き締める腕を緩めたエキドナはこの時初めて武蔵の顔が真っ赤になっている事に気付き、どうかしたのかと尋ねるが勿論武蔵にその理由を説明できるわけが無く、誤魔化すように両手を振る事しか出来ず、エキドナは何かおかしいなと思いながらも、外から響く戦闘音を聞いてその顔を鋭く引き締めた。

 

「とにかくまずはゲッターロボを取り返すのが最優先だ。格納庫の機体を奪取したら俺はラミアの援護にはいる、エキドナ。お前は武蔵を

ゲッターロボの場所まで届けろ。良いな? まずはお前が先攻して格納庫のロックを外して来い、俺達もすぐに行く」

 

「了解しました。武蔵、これ……武蔵の武器だ。バリソン少尉、武蔵を宜しくお願いします」

 

バリソンの指示に頷き駆けていくエキドナ、武蔵もその後を追って動き出そうとしたのだが……。

 

「良かったな、武蔵。ちょっとした役得みたいな所合ったろ?」

 

そう言って肩を叩かれた武蔵はエキドナの胸の感触と匂いを思い出し、咄嗟に鼻を手で押さえバリソンはそんな武蔵を見て笑うと走り出し、武蔵は何とも言えない表情を浮かべながらもバリソンの後を追って走り出したのだが、格納庫でエキドナと一緒にアンジュルグ・ノワールに乗れと言われ武蔵は抵抗したのだが、時間が無いとバリソンにアンジュルグ・ノワールのコックピットに蹴り込まれ、再びエキドナの胸に顔を埋める事になり赤面する事になるのだが……戦闘中と言う事ですぐに思考を切り替えたのだがハガネに戻った後にその事を思い出し悶々とする事になるのだが……その事を語る必要はないだろう。

 

「何とかしてゲッターに取り付く、その後は乗り込めるか、武蔵!?」

 

「近づいてさえくれれば何とでも出来ますよ! 鬼が来る前になんとか乗り込みたい所です」

 

「任せてくれ、必ずお前をゲッターの所まで届けるさ」

 

エルアインスやアシュセイバーの攻撃を舞うように回避するアンジュルグ・ノワールは一直線にゲッターD2の眠る格納庫へと進んでいくのだった……。

 

 

 

 

第150話 楽園からの追放者 その3へ続く

 

 




エキドナは無知なので、追放後は結構スキンシップが激しくなると思われます。しかし無知なので何故武蔵が赤くなっているのか判らないと言う感じになり、ユーリアさんはポンコツなので停止し、シャイン王女はダークサイドに落ちます。つまり今のエキドナさんはエキドナちゃんの要素も加わった最強モードとなりますね。何が最強なのかは分かりませんけどね、それでは次回の更新もどうか宜しくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第150話 楽園からの追放者 その3

第150話 楽園からの追放者 その3

 

基地の司令部でヴィンデルはいらついた様子で眉を細め、レモンを睨みつける。それはエキドナによって武蔵の逃亡を許し、バリソンと共に自分達に反逆しようとしているという事に苛つきを感じていると言うことは明らかだった。

 

「別に私のせいじゃないわよ? 私は武蔵のリマコンの準備をしてたし、別に何もしてないわ」

 

「では何故W-16まで私達を裏切った。出来損ないの兵士ばかりを作りおって!」

 

激昂するヴィンデルにレモンは冷ややかな視線を向けて溜め息を吐いた。

 

「言っておくけどWシリーズの原型は地球を捨てて新しい星に辿り着いた時に人類を繁栄させる為の物なのよ、それを兵器に転用しろと命じたのは貴方で私はそれに従った。初期ロットはともかく、後期ロットのエキドナやラミアは限りなく人間に近いのよ。私達の命令に疑問を抱いたとしてもおかしくはないわ」

 

「それは私の求める兵士ではない!」

 

「だーかーら、量産型と違ってナンバーズはハイエンド個体なのよ。思考機能を元々排除してる量産型とは違うのよ」

 

量産型と付いているが量産型Wナンバーズとナンバーズは隔絶した差がある。簡単に言えばヴィンデルの理想を突き詰めたのが量産型Wシリーズであり、レモンの理想を組み込んでいるのがWシリーズなのだ。

 

「ッ! 出来損ないではないか」

 

「出来損ないじゃないわよ。ちゃんと指示を出していれば問題はないのよ? 自分で考える時間を与えちゃったからね、まぁしょうがないわよ。それにもうすぐ百鬼帝国も来るし、アクセルとウォーダン、それに量産型Wナンバーズの軍勢を相手に3人でどうこうできるとも思えないし、安心して見てましょうよ」

 

レモンの言葉にヴィンデルは歯を噛み締めるが、この程度で怒っていては大願を成し遂げる事は出来ないと考えたのか、それとも百鬼帝国が来れば全て解決すると思っているのか司令席に腰掛けた。

 

「W-17以降のナンバーズを作る事を禁止する。生産するのは量産型だけでいい」

 

「はいはい、分かってるわよ」

 

口にする事は無いが怒りに満ちた目で自分を見つめるヴィンデルにレモンは飄々とした素振りで返事を返し、モニターに視線を向ける。

 

(ここで倒れるのならば貴方達の道はないわ。自分達で決めた道を進むというのならば……この程度の逆境跳ね返して見せなさいな)

 

本当の意味でカーウァイの遺志を継ぎシャドウミラーに残っていたバリソンは永遠の闘争を望んでいない。

 

ラミアは人の善性に触れ、戦争を続ける世界に疑問を抱き平和な世界を作る為に戦う事を決めた。

 

エキドナは武蔵に恋をし、自我を得た。世界ではない、自分が愛した者の為に抗う事を決めた。

 

三者三様の理由だが強大な敵と戦う事に変わりはない、アクセルとウォーダンを相手にして、この場を切り抜けられないのならばラミア達に道はない。自分の意志を通すというのならば力が必要だ。その力を見せてみろと言わんばかりに期待と興味にその瞳を輝かせ、戦場に視線を向けるのだった……。

 

上下左右から迫る弾幕を漆黒の堕天使――アンジュルグ・ノワールは舞うように回避し、ゲッターD2の元を目指して飛び続ける。

 

「オイラは大丈夫ですから反撃してくれても良いですよ、エキドナさん!」

 

コックピットシートの後に座りながらそう声を掛けてくる武蔵にエキドナは少し悩む素振りを見せて空返事を返した。

 

「遠距離武装を積んでいないんだ。この距離では反撃出来ない」

 

「ええッ!? あの弓矢とかは!?」

 

アンジュルグの武装がイリュージョンアローである事を知っている武蔵は、それはどうしたんだとエキドナに問いかける。

 

「あれは予備がないからノワールには搭載されていない、ミラージュソードとシャドウランサー……それが今使えるノワールの武装だ。ッ! 掴まれ武蔵! 派手に動くぞッ!」

 

「え、あ……はいッ!」

 

武蔵の腕が自分の腹部に回され、エキドナは一瞬ドキリとしたが自分で掴まれと言ったので、動揺している場合でもないし、何故ドキリとしたのかも理解出来ないままにアシュセイバーのソードブレイカーの切っ先から雨霰のように放たれるレーザーを回避に出る。

 

「くっ!?」

 

「うわっととッ!?」

 

ゲットマシンにも負けない急反転、急上昇、降下を組み合わせソードブレイカーの弾雨をアンジュルグ・ノワールを駆り必死に避けるエキドナ。翼を大きくはためかせ、急上昇すると同時に腰にマウントしていたミラージュソードを抜き放ち、バックラーを正面に構える。

 

「はっ!」

 

ソードブレイカーの真価はビームとブレードを展開しての突撃だ。ビームの攻撃が終わると同時に突撃して来たソードブレイカーをミラージュソードとバックラーを使い分け切り払い、あるいは盾で殴り飛ばし直撃を回避するアンジュルグ・ノワールだが、コックピットにロックオンを示すアラートが鳴り響き、ゲッターD2が保管されている格納庫に陣取っているランドグリーズが放った多弾頭ミサイル――ファランクスミサイルの雨が降り注いだ。

 

「くっ! やはりランドグリーズを何とかしない事にはッ!!!」

 

誘導性は無いが4機のランドグリーズの放ったファランクスミサイルは十分な脅威であり、アシュセイバーの放ったファイヤダガーで起爆し、あちこちで爆発を繰り返せば流石のエキドナと言えど回避しきれず、アンジュルグ・ノワールの身体が大きく揺れる。

 

「武蔵! 大丈夫か!?」

 

「あいちち、オイラは大丈夫ですよ! それよりエキドナさんは大丈夫なんですか!?」

 

「私も大丈夫だ、心配はないッ!」

 

パイロットシートに腰掛けていない武蔵はモロに爆風の衝撃を受け、エキドナの腹部に回していた手が離れていた。武蔵を心配するエキドナの声に負けない大声で返事を返す。

 

「武蔵、これから荒くなるぞ。今度はもっとしっかり掴まっていてくれ」

 

「は、はいッ!」

 

武蔵の手が再び背後から腹部に回され、何とも言えない高揚感を感じるエキドナだが、それに浸っている時間はない。操縦桿を握り締め、ペダルを小刻みに何度も踏み込む。

 

「アシュセイバーとランドグリーズの包囲網を突破して、格納庫を守っているエルアインスを撃墜する。短時間だがなんとか着陸してみせる、飛び降りて格納庫に走れるか?」

 

安全に武蔵をゲッタのに元に届けるのは無理だと判断し、今の自分に出来る最善策を武蔵へと伝える。

 

「それで大丈夫ですけど……エキドナさんは」

 

「ふっ、私も大丈夫だ、心配するな。むしろお前の方が危険なんだ、格納庫には恐らく量産型Wナンバーズがいるはずだ。戦闘は免れない筈だ」

 

本当なら自分も向かいたい所だが、今のアンジュルグ・ノワールには殲滅するだけの火力が無い、それならばアンジュルグ・ノワールを盾にしてでも武蔵がゲッターに乗り込むまでの時間を稼ごうとエキドナは考えていた。

 

「本当に大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫だ、心配するな、それよりも話は終わりだ。喋っていると舌を噛むぞッ!」

 

心配そうに大丈夫かと繰り返し尋ねてくる武蔵に大丈夫だと笑い、エキドナは包囲網の中に強引にアンジュルグ・ノワールを飛び込ませる。細かい被弾を繰り返しながらも前へ前へと進み続ける、それは自分がどうなっても良いが武蔵だけはと言うエキドナの無垢であると同時にどこまでも歪んだ献身の形なのだった……。

 

 

 

 

 

スレードゲルミルのコックピットでウォーダンは自分の前に立つゲシュペンスト・MK-Ⅱ改へ視線を向けた。この世界に来て知ったフライトユニットを再現した物を装備こそしているが、スレードゲルミルとゲシュペンスト・MK-Ⅱ改の戦力差は火を見るより明らかだった。

 

「バリソン少尉。悪い事は言わない、投降しろ」

 

武装はフライトユニットに装備された4つソードブレイカーと2振りのコールドメタルソード、それと大型のビームキャノンだが、それでもマシンセルを搭載しているスレードゲルミルの回復能力を超える事はない。それを一目で見破ったウォーダンはバリソンに最後通告だと言わんばかりに投降しろと言葉を投げかける。

 

『悪いが俺はもうヴィンデルには着いていけないんでな、俺を止めたかったら……殺すしかねえぞ。ウォーダン』

 

コールドメタルソードを両手に構え臨戦態勢に入るバリソンを見て、ウォーダンは小さく息を吐き、斬艦刀の切っ先をゲシュペンスト・MMK-Ⅱ改へと向ける。

 

「承知した。せめて苦しまぬよう……一太刀にてその命貰い受けるッ!」

 

ウォーダンがそう吼えると同時にスレードゲルミルはゲシュペンスト・MK-Ⅱ改へと突撃し斬艦刀を振るう。命中すればコールドメタルソードごとゲシュペンスト・MK-Ⅱ改を両断する事は容易い……筈だった。

 

『一太刀で俺を殺すんじゃなかったのか?』

 

「……ッ!? なにをしたッ!」

 

横薙ぎの一閃は間違いなく命中した筈だ、だがいまだ健在のゲシュペンスト・MK-Ⅱ改を見てウォーダンは混乱しきっていた、これでコールドメタルソードが砕けていればそれを盾にしたと納得する事も出来る、だがそれも健在であり、全くダメージを受けたように見えないゲシュペンスト・MK-Ⅱ改に完全にウォーダンは混乱していた。

 

『良く見れば避ける事だって、防ぐ事だって出来るさ。俺には突出したもんはないんでね、どこまでも基本に忠実にお前を越えてやるさッ!!』

 

フライトユニットのブースターを全開にして切り込んで来るゲシュペンスト・MK-Ⅱ改。それを迎え撃とうとしたウォーダンだったが、その姿が一瞬で掻き消える。

 

「!?」

 

『格下が格上を倒すには不意打ち、これも戦いの基本だぜ? ウォーダン』

 

「後ッ!? ぐうっ!?」

 

バリソンの行なった事は単純だった、加速しスレードゲルミルが迎撃態勢に入ったのと同時にテスラドライブをカットし、スレードゲルミルの足の間をスライディングの要領ですり抜け両手に持ったコールドメタルソードで×の字にスレードゲルミルの胸部を切り裂いた。

 

「ぬうっ!」

 

『お前は俺と戦った事ないからな。俺の動きをお前は見切れるか? ウォーダン』

 

右手は正眼、左手は逆手と奇妙な構えを取るゲシュペンスト・MK-Ⅱ改、攻め手が全く読めないその構えにウォーダンはマシンセルの回復能力を使い、一撃受けて反撃で仕留めると考えたのだが……。

 

『温いぜ、化け物と俺がどれだけ戦ってきたと思ってやがる!』

 

武蔵達と初めて出会った時こそバリソンは窮地に追い込まれていたが、それは連邦の後先考えない無差別攻撃に巻き込まれたことが大きく影響していた。罠に巻き込まれ部隊は壊滅、バリソン本人は何とか生き延びたが機体はボロボロという有様だった。だがバリソンはインベーダー、アインストと戦い続け最後まで生き残って来たのだ。ジャイアントキリング――それこそがバリソンの最も得意とするものであり、そして生き延びる事にバリソンは特化していた。

 

「ぐあっ!?」

 

『まずは片目貰ったぜッ! 次ッ! 肘ッ!!』

 

正確無比のマニュアル操作で独楽のように回転しながらの斬撃がスレードゲルミルの左目を引き裂きモニターを破壊する、そしてそのままの勢いで左肘にコールドメタルソードを突き立て、ゲシュペンスト・MK-Ⅱ改はスレードゲルミルの胸部を蹴りつけ離脱すると同時にソードブレイカーを射出しメガビームライフルとソードブレイカーのビームを一箇所に集中させ、開幕で×の字に切り裂いた場所を撃ちぬいた。

 

「ぐっぐううっ!?」

 

マシンセルの回復が完全に終わっていない所に立て続けにビームを打ち込まれ、スレードゲルミルの胸部は大爆発を起こし、スレードゲルミルはたたらを踏んで後退する。

 

(……強い、バリソン少尉はここまでの腕前だったか)

 

Wナンバーズとバリソンが共に出撃する事は殆どなかったからこそ、バリソンの腕前を知らなかったウォーダンだったが、こうしてその強さを実感しアクセルと同等の強敵だと認めその神経を研ぎ澄ませ、その闘志を巡らせる。

 

「……もうちょい、油断しててくれても良かったんだけどな……」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅱ改のコックピットの中でバリソンは冷や汗を流す、機体性能とパイロットとしての腕前は悔しいがウォーダンの方が上だ、左のカメラアイと左肘の関節にコールドメタルソードを突き立てたままなのでスレードゲルミルは万全では無いが、マシンセルでそれもそう遠くない内に回復してしまうだろう。

 

「……5分……いや、良い所3分だな……間に合ってくれよ、武蔵」

 

後3分の間に武蔵がゲッターに乗り込んで応援に来てくれなければ自分が死ぬと言う事を確信しているバリソンは冷や汗を流しながらスレードゲルミルとウォーダンと対峙するのだった……。

 

 

 

ヴァイサーガの振るう五大剣の動きは時間が経つに連れて洗練され始めているのをアクセルは感じていた。人間らしさを獲得していたとしてもWナンバーズ特有の学習能力の高さは健在であり、戦い始めた時のぎこちなさは既に消え去っていた。

 

「玄武金剛弾ッ!!!」

 

『風衝閃ッ!!!』

 

ソウルゲインの放った玄武金剛弾とヴァイサーガの放った風衝閃がぶつかり合い凄まじい轟音を周囲に響かせる。

 

『地斬疾空刀ッ!!』

 

「温いッ!!!」

 

地面を走ってくるエネルギーの刃をEG装甲の回復能力に頼り強引に突破し、風衝閃とぶつかり合い自動で戻ってくる事の無い右腕を飛びあがると同時に回収し、エネルギー刃を展開した両足から飛ぶ斬撃をヴァイサーガへと放つ。

 

『くっ!』

 

青龍鱗と異なりエネルギーであると同時に斬撃であるその一撃はヴァイサーガの装甲を焼くと同時に深い切り傷を刻みつける。

 

「おおおおおッ!!!」

 

立て直すまでの僅かな隙をアクセルが見逃す訳が無く、背部のブースターで加速すると同時にヴァイサーガの懐に飛び込み嵐のような打撃を叩き込む。

 

『か……はっ!?』

 

「白虎咬ッ!」

 

アッパーで打ち上げられたヴァイサーガに両手を突き出し、両拳に溜めていたエネルギーを至近距離でヴァイサーガへと叩き込む。凄まじい轟音と共に吹っ飛ぶヴァイサーガに両手足にエネルギーを溜めたまま後を追おうとするソウルゲインだが、空中で反転し烈火刃を放ってきたヴァイサーガに突っ込みの出鼻を挫かれその場に足を止める。

 

『……はぁ……はぁ……まだだッ!!』

 

五大剣を杖代わりにして立ち上がるヴァイサーガだが、その全身からは火花が散っており、蓄積したダメージも相まって関節部から黒煙が上がっている。息切れしているラミアと相まってアクセルはもうヴァイサーガが限界である事を悟っていた。

 

(惜しい事だ。EG装甲さえあればまだ戦えた物を……)

 

ヴァイサーガとソウルゲインはアースゲインの発展機であり兄弟機ではあると同時にツヴァイザーゲインの試作機である。アクセルがソウルゲインを気に入った事でEG装甲などを搭載されその機体性能は常にアップデートされ続けていたが、ヴァイサーガはアクセルが乗らなかったこともあり、開発された段階で止まっている。機体性能に関してはソウルゲインにさえ匹敵するが、継戦能力ではソウルゲインの方が圧倒的に上だった。

 

「最初の元気はもう無いようだな……現実は非情だが……こういう物だ、これがな」

 

自分の意志で前に進むと決めたラミアだが、意志を通すには力が足りなかった。ソウルゲインが拳を握り締めヴァイサーガへトドメを刺さんとゆっくりと歩みを進める。

 

『くっ……』

 

反撃に出ようとするラミアだが、フルパワーで稼動し続けていたツケは大きいのか、ヴァイサーガは立ち上がる事が出来ず地響きを立てて再び片膝を着いて動きを止める。

 

「さらばだラミア」

 

手刀を振り上げ、それをヴァイサーガへと振り下ろそうとしたソウルゲインだったが、基地に鳴り響いた警報にその動きを止めた。

 

「レモン、何事だ!?」

 

『戦闘反応でこっちの居場所を感知されたみたいね。特機の反応が2つとPTの反応が4つ……こっちに近づいてるわ」

 

レモンの報告を聞いて何者かがこの場に現れる前にと再び手刀を振りかぶろうとしたのだが、続く言葉に動きを止めた。

 

『識別コードあり、ゲシュペンスト・タイプS……カーウァイ大佐ね。それと特機の反応とあわせれば……来るのは教導隊みたいよ」

 

教導隊と聞いてアクセルはその動きを止め、ウォーダンへと通信を繋げる。

 

「ウォーダン、1度下がれ、厄介な連中が来る」

 

『……了解』

 

バリソンとラミアが合流する事を許す事になるが、一騎当千の教導隊が、しかもフルメンバーで来るとなればアクセルとて無理に攻める事は出来ず1度後退することを選択せざるを得なかった。

 

『ゲッターの守りは薄くなるけど、アシュセイバーとエルアインスを何機か援護に回すわ。アクセル』

 

アンジュルグ・ノワール1機で包囲網を突破出来ないとレモンは考えたのか、アシュセイバーとエルアインスを3機ずつソウルゲインの直援に回す、それは教導隊の戦力を考えれば当然の事だが、レモンが口にした通りゲッターD2の警護が薄くなり、これを好機と見たアンジュルグ・ノワールが被弾もお構いなしに格納庫へと突撃する姿が見えた。

 

(この悪運の強さ……運はラミア達に向かっているか)

 

無謀にも単騎でゲッターD2を取り返そうとしているエキドナもそうだが、ラミアとバリソンに至っても窮地に追い込まれていた。そのタイミングで援軍が来る……それはまるで運命がラミアに味方しているようにアクセルには思えた。

 

(……ふん、やり遂げたか)

 

アンジュルグ・ノワールが1度着陸し、すぐに飛翔するがソウルゲインのモニターには武蔵が格納庫へと走っていく後姿が見えており、被弾し天使を思わせる姿は見る影も無くボロボロだが、ミラージュソードとバックラーを構え一歩も通さないと言わんばかりの気迫を見せるエキドナを見て、裏切り者ではあるがその闘志はアクセルとて認めざるを得ない物だった。

 

「ヴィンデル、残ってる量産型Wシリーズを出せ、俺とウォーダンだけでは相手を仕切れんぞ」

 

『今出撃させる。百鬼帝国もこっちに向かっている、そう気負う事はないぞ』

 

自分よりも百鬼帝国を頼りにしているようなヴィンデルの言葉に眉を顰めるアクセルだったが、ゲシュペンスト・タイプSを先頭にして、この海域に突入して来た機体を見てアクセルは呆れたような笑みを浮かべた。

 

「グルンガスト参式にカスタムタイプのゲシュペンスト……ふっ……まるでかつての俺達のようだ。これがな……」

 

ゲシュペンスト・タイプSをフラグシップとしていたかつての自分達を連想させる部隊を前にし、アクセルは今度こそ自嘲気味の笑みを浮かべるのだった……。

 

 

 

 

 

バリソンの残したグルンガストの航路反応、そして戦闘の熱源反応を辿ってDC戦争時に廃棄されシャドウミラーの拠点となっている基地に辿り着いたカーウァイ達は戦闘の状況を見て困惑していた。

 

『あれはリュウセイ達が戦ったと言う鎧騎士か』

 

『それにあっちはカスタムタイプのゲシュペンスト……』

 

『スレードゲルミルとウォーダンも居るぞ』

 

ヴァイサーガとゲシュペンスト・MK-Ⅱ改がソウルゲイン、スレードゲルミルと対峙し、アンジュルグ・ノワールがたった1機でゲッターD2を固定している格納庫の前に陣取りエルアインス達と戦う姿を見たラドラは小さく笑った。

 

「何を笑っているんだ? ラドラ」

 

『カーウァイ大佐。見れば分かるだろう、あいつらシャドウミラーとやらを裏切ったんだよ。たった3機で良くやる物だ。俺はあいつらの援護をするぞ』

 

『待てラドラ。それは見掛けだけで罠かも知れんぞ!』

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプGトロンベに乗るエルザムがラドラを静止する。余りにも状況が不明瞭で、罠の可能性も捨て切れないと思うのは当然の事だった。

 

『罠であそこまではしないだろう、俺もラドラに同意する』

 

ランドグリーズの攻撃から格納庫を庇い構えていたバックラーごと腕が千切れ飛んだアンジュルグ・ノワールを見て、カイもラドラの意見に同意した時、広域通信が繋げられた。

 

『カイ少佐、ギリアム少佐、エキドナを、エキドナを助けてくださいッ!』

 

その声は紛れも無くラミアの物で、武蔵がシャドウミラーに攫われた直接的な原因であるエキドナを助けてくれとカイとギリアムへと懇願する。

 

『ラミア、お前生きていたのか!?』

 

『エキドナを助けてくれとは……まさかッ!?』

 

火花を散らしながら立ち上がり、片腕でミラージュソードを握りエルアインスとの戦闘を続けるアンジュルグ・ノワールを見てカイ達はアンジュルグ・ノワールのパイロットがエキドナであると言う事に気付いたのだが、武蔵がシャドウミラーに攫われた直接的な原因であるエキドナとなるとどうしてもその足が鈍る。

 

『武蔵をゲッターの元へ届ける為に1人であの包囲網の中に向かったのです、確かに私達は裏切りました……ですが……エキドナを助けてください、お願いします』

 

助けてくれと繰り返し懇願するラミア。そしてそれをフォローするようにバリソンが口を開いた。

 

『カーウァイ隊長、こいつらはなりは大人だが、中身は善悪もわからねぇ子供だ。自分の行いに後悔して、武蔵を助けた所で償えるなんて都合の良い事は考えちゃいない。まだ何も分かってないんだよ、今から自分で考えようとしてるんだ。チャンスを与えてやってはくれないか』

 

「バリソンか、そこまで言われて動かないほど私達は冷血ではない、カイ、ラドラ。先行しろ、ギリアムとエルザムはカイとラドラのバックアップ、私とゼンガーはアクセル達の足止めを行なう」

 

『助かるぜ、カーウァイ隊長。それとこんなタイミングで言う事じゃないって分かってるが……』

 

「百鬼帝国が向かって来ている事は把握している。武蔵を救出しハガネと合流するぞッ! 気を緩めるなよッ!』

 

『『『『了解ッ!』』』』

 

カーウァイの指示を聞いてを聞いて弾かれたようにゲシュペンスト・シグとリバイブ(K)が格納庫へと向かい、その後をゲシュペンスト・リバイブ(S)とヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプGトロンベが続き、ソウルゲインとスレードゲルミルと戦うには力不足のバリソンの駆るゲシュペンスト・MK-Ⅱ改も壁のように立ち塞がるエルアインス達へと向かう。

 

『ゼンガー・ゾンボルト……嬉しいぞ、お前とまたこうして相見える事が出来たことがなッ!』

 

『ウォーダン・ユミルッ! 我が前に立ち塞がると言うのならば……いや、最早問答無用……』

 

『応ッ! 俺とお前が出会った。ならばやるべき事は1つッ!!!』

 

グルンガスト参式・タイプGの装甲が変形し、フェイスガードが展開されゲッター線で稼動している証である翡翠のオーラへ包まれる。

だがスレードゲルミルも負けておらず、装甲の一部が同じ様に展開され、手にしている斬艦刀にうっすらと翡翠のオーラが現れる。

 

『何ッ!?』

 

『武蔵との戦いで手に入れたゲッター合金それによって。スレードゲルミルは更なる高みへと至ったッ!! いざ、真っ向勝負ッ!!!』

 

スレードゲルミルはゲッター炉心で稼動こそしていないが、ゲッター合金を装甲の一部、そして斬艦刀に使いグルンガスト参式・タイプGには劣るがゲッター線の力を手にしていた。互いに翡翠のオーラに包まれた斬艦刀がぶつかり合い、エネルギーの奔流が基地の設備を破壊する。

 

『ぬううッ!!!』

 

『おおおおッ!!!』

 

目まぐるしく立ち位置を変え、斬艦刀の重さなど関係ないと言わんばかりにスレードゲルミルとグルンガスト参式・タイプGは次々に技を繰り出し、凄まじい剣戟の応酬を続ける。

 

『カーウァイ少将……いや大佐か、イングラムの次はお前が俺の前に立ち塞がるか』

 

「分かっていた筈だろう? アクセル。お前達の道と私達の道は決して重なる事はない」

 

『分かっているさ。それに……俺は偶にあんたを越えたいと思っていた。ここで越えさせてもらうぞッ! カーウァイ・ラウッ!!!』

 

シャドウミラーの創始者にして、アクセル達の隊長だったカーウァイと目の前のカーウァイは違う、そう分かっていてもアクセルはカーウァイを越える事を望み、カーウァイもまたそのアクセルの闘志を受け入れアクセルの前に立ち塞がった。

 

「そう簡単に私を越えれると思うなよ。アクセル」

 

『いいや、越えてみせるッ! そうしなければ俺達はいつまでもお前の幻影に縛られるからなッ!』

 

違うと分かっていてもゲシュペンスト・タイプSとカーウァイはシャドウミラーでは絶対の存在だ。決別すると決めた今、カーウァイを倒さなければ本当の意味で決別する事は出来ないとアクセルはソウルゲインを駆り、一直線にゲシュペンスト・タイプSへとソウルゲインを走らせる。

 

『酷いじゃないか、アクセル隊長。私の事は無視するのか?』

 

『ふっ……いいや、そんなつもりはないぞラミア。お前も、カーウァイも纏めて相手にしてやるさッ!』

 

「驕ったな、アクセル。片手間で取れるほどこの首……安くはないぞッ!!」

 

ゲシュペンスト・タイプSも翡翠のオーラに包まれ、その出力を上げ、その隣にヴァイサーガが並び立つ。その光景を見てアクセルは獰猛に笑い、アクセルの無尽蔵の闘志に呼応するようにソウルゲインもエンジンの出力を上げ唸り声のような音を周囲に響かせ、その唸り声のようなエンジンの音に相応しい獣のような動きでソウルゲインは地面を蹴り、ヴァイサーガとゲシュペンスト・タイプSと向かって行くのだった……。

 

 

 

 

格納庫の外から響く爆発音を聞きながら武蔵は日本刀を片手に握り締め、立ち塞がる量産型Wシリーズと対峙していた。

 

「捕獲する」

 

「殺さず捕獲せよ!」

 

「ええい、人間だかロボだかわかんねえんだよッ!!!」

 

良いも悪いも生者の気配を感じさせない上にわらわらと姿を見せる量産型Wシリーズにいらついた様子で怒鳴りながら武蔵は日本刀を振るう。

 

(峰打ちじゃ効果がねぇ。くそ、胸糞悪い)

 

ただ自分を捕まえろと命令を受けているだけの量産型Wシリーズだ。最初は峰打ちで無力化していたのだが、すぐに起き上がり背後から攻撃してくるので武蔵は致し方なく量産型Wシリーズを切り倒しながらゲッターD2へと走っていた。

 

「時間がねえんだ! 死にたくなかったらオイラのじゃまをするなッ!」

 

格納庫に武蔵を送り届けた段階でアンジュルグ・ノワールは中破していた。しかも武蔵がゲッターに乗り込むまで時間を稼ぐと格納庫の前に陣取り空を飛ぶ気配も無い、エキドナの腕は知っているが遠距離武器も無く空も飛ばなければただの的に過ぎない。

 

「捕獲する」

 

「捕獲する」

 

「くそったれっ! 邪魔すんなぁッ!!」

 

腰に捻じ込んでいたリボルバーを抜き放ち武蔵は引き金を引く、放たれた弾丸はショットガンのように広がり、量産型Wシリーズの身体に穴を空け、砕けたヘルメットから生気を感じさせない男女の顔を見て武蔵は顔を歪めるが、外から響き続ける凄まじい戦闘音に迷ってる時間も後悔している時間も無いと走り出し、数十体の量産型Wナンバーズを切り倒しやっと武蔵はゲッターD2の元へと辿りつく事が出来ていた。だがやはりゲッターD2の状態は武蔵の予想通り最悪の状態でハンガーへと固定されていた。

 

「……クソ、やっぱり完全に機能停止してやがる」

 

ポセイドン号に乗り込んだ武蔵だが、やはり完全に機能停止しているゲッターD2を見て、必死に立ち上げ作業を行なう。その間も外からの量産型Wナンバーズの銃撃音と、外の戦闘音がコックピットまで響いておりそれが余計に武蔵を焦らせる。

 

「起動してくれるだけで良いんだ……頼む頼む……」

 

動いてくれれば何とでもなる。ゲッターチェンジやオープンゲットが使えなくてもダブルトマホーク、いや最悪徒手空拳でも良い。動きさえすれば何とでもなる……そう考える武蔵だがメタルビースト・SRXとの戦いで消耗したゲッター線はいまだ回復しておらず、武蔵の祈りに反してゲッターD2は今だ動く事は無く、武蔵は握り締めた拳をコンソールに叩きつける。

 

「何でだよ、何でだよ兄弟ッ! なんで動いてくれないんだッ!!」

 

その悲痛な叫びにもゲッターD2は応える事無く……沈黙を続ける……だがその身体の奥深くでゲッター線は弱々しく、しかし確かに鼓動を打ち始めているのだった……。

 

 

 

第151話 楽園からの追放者 その4へ続く

 

 




教導隊ほぼフルメンバー参戦でシャドウミラー戦ですが、百鬼帝国が出てくるまではゲッターは稼動しないというイベントですね。

今回の百鬼帝国は新しい兵器を引き下げての参戦になりますが戦闘描写は少しずれる事になるのでそれまで百鬼帝国の新兵器については楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうか宜しくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第151話 楽園からの追放者 その4

第151話 楽園からの追放者 その4

 

 

片腕を失い、翼も中ほどから砕け満身創痍の状態でアンジュルグ・ノワールは立ち続け格納庫をたった1機で守り続けていた。

 

「ああああ――ッ!!!」

 

エキドナの口から発せられる言葉は最早獣の咆哮と言ってもいい。いや、ただの獣ではない手負いの、そして最も大事な者を守り続けている執念の獣だ。エキドナの意志に答えるようにアンジュルグ・ノワールのバイザーの下のカメラアイが輝き、足の装甲を砕きながら跳躍したアンジュルグ・ノワールの手にしたミラージュソードが、ランドグリーズの頭部に突き刺さる。

 

「よこ……せええええええッ!!!」

 

ランドグリーズが手にしていたリニアミサイルランチャーをもぎ取り、それを無理やり構えて引き金を引かせる。放たれたミサイルの雨がアシュセイヴァーやエルアインス、エルシュナイデの前で炸裂し、その足を止める。

 

「――っ!?」

 

だがソードブレイカーを止める事は叶わず、背後から放たれたビームがアンジュルグ・ノワールの背中を穿ち、砕けていた翼が今度こそ完全に砕け散った。

 

「ッ――あああああッ!!!」

 

だがそれでもエキドナは止まらない、爆発する寸前のラーズアングリフを盾にすると同時に、エルアインスとアシュセイヴァーのほうへとその背中を蹴り飛ばす。重量の差で右足が砕け、アンジュルグ・ノワールが大きく傾くが今のエキドナにそんな事はどうでも良かった。あの位置に全身武器庫と言えるラーズアングリフがいればいい……それだけで良いのだ。そのために片足を失ったとしても、それはエキドナにとって計算通りの展開なのだから。

 

「うああああッ!!!」

 

振りかぶったミラージュソードを投擲する。それは一直線にラーズアングリフの動力部へと突き進み、貫くと同時に全身の武器を誘爆させ大爆発を引き起こした。

 

「あぐっ! げほっ……はぁ……はぁ……ま、まだまだ……」

 

当然その爆発はアンジュルグ・ノワールをも襲い、ゲッターD2が保管されている格納庫とは違う格納庫へと吹き飛ばされた。背中から叩き付けられたアンジュグ・ノワールのコックピットでエキドナは血を吐くが、まだその目は爛々と輝き、砕けた足も腕もどうでもいいと言わんばかりに同じく爆発によって飛んできていたレーザーブレードの柄を握り、ブースターを使い無理やりに体勢を保持し、エルアインス達を睨みつける。ゲッターD2が起動するかどうかは正直五分五分という事はエキドナにだって判っていた。もっと言えば8-2くらいで起動出来れば御の字というほどにエネルギーを消耗している事を知っている。故に、この戦いの中で絶対に起動する事はない事も、エキドナは理解している。だがゲッターロボの中にいれば、少なくとも武蔵は安全だ。シャドウミラーの機体の総攻撃を受けたとしても、ソウルゲインとスレードゲルミルさえいなければゲッターが破壊される事はない。

 

「……こ、こは……通さない」

 

だがそれも絶対ではない。自分の代わりに武蔵を守る者が来るまでは絶対に倒れない。その不屈の闘志だけでエキドナはアンジュルグ・ノワールを駆り続ける。肉体は既に限界でも、その精神が肉体を凌駕し、アンジュルグ・ノワールを操縦させていた。……だが、それすらも限界を迎えようとしていた。

 

「っ!?」

 

隠れていたエルアインスの放ったレールガンの弾頭が右膝に突き刺さり、仰向けのまま吹っ飛んだアンジュルグ・ノワール。それでもエキドナはすぐに立ち上がらせようとするが、残された左足にもミサイルが着弾し、両足が砕けたアンジュルグ・ノワールはもう立ち上がれない。それでも残された片腕で立ち上がろうとするアンジュルグ・ノワールの前に、2つの影が立った。

 

「ゲシュ……ペンスト?」

 

『良く頑張ったな、ここからは俺達に任せろ』

 

『俺はお前を信用する。良く1人でここまで耐えた、後は任せて寝ていろ』

 

ゲシュペンスト・シグ、ゲシュペンスト・リバイブ(K)から響くカイとラドラの言葉を聞いて、自分の代わりに武蔵を守ってくれる者が来たと理解したエキドナの意識は闇の中へと沈んで行き、アンジュルグ・ノワールのカメラアイからも光が消えるのだった……。

 

 

 

格納庫にもたれかかるようにして機能を停止したアンジュルグ・ノワールを見て、カイとラドラはエキドナを信用する事を決めた。

 

「ここまでボロボロになろうとも戦ったんだ、これは芝居なんかじゃ決してない。文字通り自分の命を賭けて武蔵を守ろうとしたんだ」

 

『ああ。俺にも分かる……こいつはここで死ぬ覚悟をしていた』

 

自分が死んでも武蔵だけは守ろうとした。確かにエキドナが裏切らなければ武蔵がシャドウミラーに攫われることは無かったが、それでもエキドナは武蔵を守ろうとした。それだけでカイとラドラがエキドナを助けるには十分すぎた。

 

「ふんっ!!!」

 

『温い、その程度で俺とカイを抜けると思うなよ』

 

互いにPTを操った白兵戦ではトップクラスの技量を持ち、そして教導隊においては無敵の2トップだったカイとラドラを相手にするには、量産型Wナンバーズでは力不足だった。

 

『ッ!!!』

 

『!!!』

 

圧倒的な力量差を理解出来ない量産型Wナンバーズの駆る2機のアースゲインがゲシュペンスト・シグとリバイブ(K)へと突っ込み、その後をエルアインスとアシュセイバーが続き、ゲッターD2の格納庫を奪還せんと迫る。

 

『ッ!!』

 

ソウルゲインの白虎咬と似た構えで突っ込んで来たアースゲインの掌底がゲシュペンスト・シグ、ゲシュペンスト・リバイブ(K)に当たる寸前に、アースゲインの身体はくの字に折れていた。

 

「遅い、無駄がありすぎるな」

 

中国拳法に似た肩からのかち上げがアースゲインの身体を折り、その身体を宙に打ち上げる。

 

『機体性能は悪くないが、パイロットの腕が悪すぎるな』

 

ゲシュペンスト・シグの前蹴りからの蹴り上げで胸部を破壊されたアースゲインが、両手足を脱力させながら宙に浮かぶ。

 

「ステークセットッ!!」

 

『ステークセットッ!!』

 

ゲシュペンスト・リバイブ(K)の右拳が放電し眩いまでに光り輝き、ゲシュペンスト・シグの左拳が高速回転し、左腕がエネルギーで出来た槍のようになる。

 

「どんな装甲だろうが打ち砕くのみッ!!!」

 

『貴様に耐えれるかな』

 

音を置き去りにする神速の拳打がアースゲインを打ち貫き、アースゲインは胴体を両断され爆発する。

 

『ッ!?』

 

『!?』

 

アースゲインがゲシュペンスト・シグとリバイブ(K)を足止めしている間に突破しようとしていたエルアインス達は一撃でアースゲインが破壊され、その動きを一度止め回り込もうとした……だが量産型Wシリーズの目の前には既に銃弾が迫っていた。

 

『戦場で足を止めるなど、狙ってくれと言っている様な物だぞ』

 

足を止めたのは一瞬だが、その一瞬でエルザムとギリアムに照準を合わせられ、頭部を破壊されたエルアインスとエルシュナイデは膝から崩れ落ち機能を停止する。

 

「どうする、武蔵に声を掛けるか」

 

『いや、止めた方が良いだろう。ゲッター炉心の調整は難しい。下手に声を掛ければ武蔵君が焦る事になる』

 

『俺とカイとエルザムで十分ここは足止め出来る筈だ。バリソンとやらが来れば1人余るはずだが……どうする?』

 

『それなら俺を離脱させてくれ、ハガネとシロガネが来るまで、ヴィンデル達の足を止めさせる良いアイデアがある』

 

「大丈夫なのか? ギリアム」

 

1人でギャンランドを足止めするというギリアムの言葉に、カイが大丈夫なのかと問いかける。

 

『ああ、心配はない。百鬼帝国が迫っている中でこれ以上応援を出されても厄介だ。俺ならシャドウミラーを確実に足止めできる。武蔵とゲッターロボを頼んだぞ』

 

ギリアムはそう言い残すとバリソンと入れ替わりでギャンランドの前へと向かう。ゲシュペンスト・リバイブ(S)のコックピットの中で、ギリアムの何かを決意したかのような表情を浮かべているのだった……

 

 

 

 

 

 

ギャンランドのブリッジから広がる光景に、ヴィンデルは忌まわしそうに眉を細めていた。ラミアとエキドナ――いやW-16、W-17に加えてバリソンの反逆に武蔵の逃亡。そしてシャドウミラーの創始者であるカーウァイに加えて、自分達の世界では故人となっている教導隊が全て敵として立ち塞がる……それは、一種の悪夢のような光景だった。

 

『ちいっ! やはり巧いッ!!』

 

『言った筈だ、そう簡単に私の首を取れると思うなとなッ!!』

 

ソウルゲインとゲシュペンスト・Sの機体サイズで言えばソウルゲインが圧倒的に有利なのだが、機体のサイズなど関係ないと言わんばかりにゲシュペンスト・Sは素早い出入りで、ソウルゲインをスピードで完全に圧倒していた。

 

『風衝閃ッ!!』

 

上空からのヴァイサーガの刺突と共に放たれた風の刃がソウルゲインの突撃の勢いを完全に殺し、そこを待っていたと言わんばかりに強烈なゲシュペンスト・タイプSの攻撃が叩き込まれる。

 

『ぐうっ! だがこの程度ではまだ俺は倒れんぞッ!!』

 

『お前達の妄執……ここで断ち切らせてもらうぞッ!』

 

永遠の闘争を妄執とカーウァイに吐き捨てられ、ヴィンデルは激しい怒りを抱いた。

 

(何故私を否定する。私の願いは間違っていないというのにッ!)

 

平和は穏やかな滅びへの道に他ならない、地球を、人類がより良い方向に進んでいくには永遠に戦い続けるしかない。これがもっとも正しく地球を導く事が出来ると言うのに、何故自分が否定されているのかが、ヴィンデルには理解出来なかった。ヴィンデルの思想も確かに1つの側面から見れば正義であり、正しい事なのかもしれない。向こう側の世界では愚かな政治家に上官――それらによって優秀な……それこそ本当の意味で地球の未来を憂う者達は死に、権力と金を求めて暴走する議員に司令官、バリアによって地球を守り争いのない世界を作るという愚かな行動によって、インベーダーとアインストが溢れヴィンデル達の世界は滅んだ。ならば平和などいらない、常に戦い続けることだけが地球を守る事だとヴィンデルは悟った。そしてカーウァイの死と共に甘い理想を捨て、永遠の闘争を掲げシャドウミラーを再結成したのだ。自分が正しいと何も間違っていないと思っているヴィンデルには、この世界の住人の考えが分からないのだ。

 

『おおおッ!!!』

 

『ぐっ!? 何故、何故だッ! 何故届かないッ!!』

 

グルンガスト参式・タイプGとスレードゲルミル――同じゲッター合金とゲッター炉心を使うはずの特機であるのだが、グルンガスト参式・タイプGがマシンセルの回復能力を持つスレードゲルミルを完全に圧倒していた。

 

『判らないのだな……ウォーダン。俺の刃は牙無き者を守る為に悪を断つ刃ッ! 守るべき者ある限り、俺の斬艦刀を決して砕けんッ!!! チェストォッ!!!』

 

『ぐう……守るべき者だとッ!?』

 

『そうだ。守るべき者だ。お前と俺の腕は互角と言っても良いだろう……だが信念の重さが違うのだッ! ウォーダン・ユミルッ!!』

 

守るべき者の為に悪を断つ剣であるゼンガー・ゾンボルトに対して、破壊を齎すだけのウォーダン・ユミルの剣では余りにもその重さが違う。その重さの差が機体性能を凌駕し、グルンガスト参式・タイプGとゼンガーがスレードゲルミルとウォーダンを凌駕している理由となっていた。だがその理由は、ヴィンデルにとって受け入れられる物ではなかった。

 

「忌々しい、何故理解出来ないのだッ! 私の言葉が何故真実だと判らないのだッ!」

 

ヴィンデルの言葉は確かに正義かもしれない、真実かもしれない、だがそれは向こう側の世界の話だ。こちら側とは何かも違う、だからこそ受け入れられる事も理解される事も無い。だがヴィンデルにはそこが分からない。世界を超えてもなお、ヴィンデルはあの地獄から抜け出せていないから……新たな楽園へ辿り着いても、その精神が地獄にあり続ければ、楽園も地獄にしか見えない。それがヴィンデルが永遠の闘争を続けようとする理由だった。

 

「ヴィンデル、通信が入ってるけどどうする?」

 

自問自答を繰り返すヴィンデルにレモンがそう声を掛けることでヴィンデルは思考の海から引き上げられたが、その瞳は狂気のみを映しており、まともな思考が出来てないのは明らかだった。

 

「……繋げろ、私の思想に共感する者がいたのかもしれない」

 

「了解」

 

永遠の闘争を受け入れる人間なんてこの世界にはいない、とレモンは分かっている。アクセルとてそうだろう。だが同じ世界の生き残りという事でレモンもアクセルもヴィンデルを見捨てられない、下手をすればヴィンデルが人間を捨ててしまうと思っているから……だがレモンとアクセルがいる限り、ヴィンデルの暴走は続く……いや、誰がいたとしてもヴィンデルの暴走は止まらないだろう。自分が立ち上がらなければ、この世界もあの地獄へと至る。そう思いこんでいるヴィンデルは最早立ち止まる事は出来ず、己が地獄を作り出すと言う事にすら気付いていないのだ。

 

『応答せよ、 シャドウミラー隊指揮官……いや、第一強行部隊隊長ヴィンデル・マウザー大佐』

 

レモンによって繋げられた通信の言葉を聞いて、ヴィンデルは驚きに目を見開いた。それはまだカーウァイが生存している時のヴィンデルの役職であり、この世界で役職を知っている人間はアクセルとレモン、そしてバリソンを除けば存在しない筈だったからだ。

 

「お前は何者だ? 何故それを知っている」

 

『ヘリオス……と言えば分かるだろう。ヴィンデル・マウザー』

 

ゲシュペンスト・リバイブ(S)から響いた男の声と名に、ヴィンデルとレモンは驚きに目を見開いた。それはヴィンデル達が捜し求めていた男の名前だったからだ。

 

「ふ、ふふふ……久しぶりだな、ヘリオス……ヘリオス・オリンパス。それがお前の素顔か?」

 

仮面をつけていたので素顔を知らなかったヴィンデルは、初めてヘリオス――いやギリアムの顔を見て笑みを浮かべていた。それは再会を喜ぶ物ではない、必要な物を見つけたと言わんばかりの、人を人とも見ていない響きがあった。

 

『ヴィンデル大佐……再びお前と会う事になるとはな』

 

だがそれはギリアムも同じで、忌むべき者と言わんばかりの嫌悪が込められた声色で返事を返す。

 

「ああ、お前が残したシステムXNのおかげだ。やはり、アギュイエウスの扉はファーストジャンパーであるお前に通じていたようだな? お前がいたからこそ、我々はこの世界に辿り着けた。感謝しているよ、ヘリオス・オリンパス」

 

ギリアムがいたからこそシャドウミラーはこの世界に辿り着けたのだと言うヴィンデルに、ギリアムは眉を顰めた。それは自分の犯していた罪を目の当たりにしたかのような、後悔の色を色濃く映していた。

 

「随分と捜したのよ。貴方、今までどこにいたのかしら?」

 

ギリアムがヘリオスと分かった事で量産型Wシリーズはゲシュペンスト・リバイブ(S)の下に集まり、アクセルとウォーダンも仕切り直りと言わんばかりに後退し、戦況は互いに仕切りなおしとなり、誰もがヴィンデルとギリアムの言葉に耳を傾けていた。

 

『それはお互いさまだ。俺はずっとお前達を探していた、そして今やっと見つけたのだ。俺の許されぬ過去を清算する時がやっと来たのだ』

 

ギリアムの言葉には強い後悔、そしてそれに負けないほどの強い怒りが込められていた。

 

「許されぬ過去? システムXNの事か? 何故だ。あれほど素晴らしい物はないぞヘリオスよ」

 

『ヴィンデル大佐――いや、ヴィンデル。言った筈だ、俺が消えたらシステムXNは廃棄しろと。あれはお前達に、いや俺にとて制御出来る物ではない。その機能は限定されているとは言え、下手に使用すれば世界の因果律が狂う。それによってカーウァイ大佐や、ラドラ、そして武蔵……もっと言えば恐竜帝国、百鬼帝国、そしてインベーダー……全ての害悪がこの世界に導かれた可能性すらあるのだ』

 

システムXNが何かはゼンガー達には分からなかったが、それが武蔵達を初めとし、恐竜帝国すらも呼び寄せたという言葉に、流石のゼンガー達も言葉を失った。

 

「ふ、ふふふ……素晴らしいではないか、数多の侵略者を招き入れたのだ。これこそが私の望みである永遠の闘争を成就させる為に必要不可欠なのだ。世界の扉を開き、侵略を、あるいは侵略される事で永遠の闘争を続ける為にな」

 

『それは許されない、世界の崩壊をさせないためにもシステムXNは破壊しなければならないのだ』

 

ヴィンデルとてシステムXNを完全に理解しているわけではない。ギリアムの残した資料を元に、レモン達と研究しその使い方に辿り着いただけであり、それがどれほど危険な物なのかを1つも理解していないのだ。だからこそギリアムは警告する、真に招いては行けないものが招かれる前に、システムXNは破壊しなければならないとギリアムは警告する。

 

「断る、これは我が宿願を叶える為の物だ。コアである貴様を捕らえればよりシステムXNは安定する。私達の前に現れた事を悔いるがいいヘリオスよ。お前を捕らえ、私は今度こそアギュイエウスの扉を開くッ!」

 

ヴィンデルの言葉には狂気が感じられた。最早何を言ってもヴィンデルの暴走は止まらない、止めるには殺すしかないのだとギリアムは悟った。

 

『アギュイエウス……そしてリュケイオスの扉は二度と開かれてはならないのだ。それが分からない訳ではないだろう? レモン』

 

「ふふ、確かに……そうかもしれないわね。転移システムのコアである貴方ですら『こちら側』に飛ばされてしまったくらいの不安定さだものね」

 

『それが分かっていても、なお開くというのか?』

 

「まぁボスがね、意見を変えない限りは私もある程度は従うつもりよ。止めるつもりならばツヴァイを壊すしかないわね」

 

ギリアムの問いかけを飄々とした態度ではぐらかすレモン、その言動を聞けばレモンですらアギュイエウス、リュケイオスの扉を開く事に懐疑的であると言うことは判った。エキドナ、ラミア、バリソンの反逆が示す通りシャドウミラーも一枚岩ではないという事がレモンの言葉からは感じられた。

 

『システムXNはこの世界に存在してはならない。そして……俺も……そしてお前達もな、だからこそ、俺はこの世界で待っていた……システムXNを悪用する者を……追放者達を……その存在を確実に抹消する為に』

 

言葉こそ静かだが燃え盛るような闘志を見せるギリアムに、最早交渉の余地はないとヴィンデルも悟ったのだろう。

 

「良いだろう、お前の意志が通るか、我らの意思が通るか……それはこの戦いにて明らかになる。量産型Wナンバーズよ、ヘリオス・オリンパスを捕らえるのだ」

 

ヴィンデルの言葉で臨戦態勢に入る量産型Wナンバーズ。それらを相手にするには流石のギリアムでも厳しい物がある、だがギリアムは決して1人ではないのだ。

 

『ギリアム、それがお前の抱えていた闇か……だがな。存在していてはいけない命なんて物はない。死ぬことは許さんぞ』

 

『そう言うことだ。今まで1人で全てを抱えて来ただろうが……お前の重荷を俺達にも分けろ。1人で何もかも背負うんじゃない』

 

『その通りだ。今更だが、お前の背負って来た宿命を、俺達にも教えてくれ』

 

『1人ではないのだ、ギリアム。もう1人で何かも耐える必要はない』

 

カーウァイの言葉にカイ達が続き、ギリアムを激励する。異邦人であると、下手をすれば全ての悲劇の引き金になっていたかもしれないギリアムを受け入れてくれる仲間がいる。だからこそ、ギリアムは孤独に、そして己の宿命に耐えて1人で戦い続ける事が出来たのだ。

 

『なんとしてもシステムXNを破壊する。力を貸してくれ』

 

ギリアムの言葉に仲間達が返事を返す、それが途方もない力をギリアムに与える。

 

「システムXNは破壊させない、各員攻撃開始! ヘリオスを捕らえるのだッ!」

 

ギリアムがヘリオスだと判り、なんとしてもヘリオスを捕らえようとするシャドウミラーは戦力の出し惜しみをせず次々と機体を出撃させる。廃棄された基地での戦いは武蔵とギリアムの奪還・防衛戦へとその形を変えていくのだった……。

 

 

 

 

ソウルゲインとスレードゲルミルというシャドウミラーの最大戦力がギャンランドの前へ立ち塞がり、ゲッターD2とアンジュルグ・ノワールの元へエルアインス、エルシュナイデをはじめとしたシャドウミラーの量産機が向かう。決して広くない基地での戦いは2局面に分けられ激しい戦いを繰り広げていた。

 

『甘いな……貴様達は……そのような甘さでは真の意味で世界は救えん。人の意思が世界のバランスを崩す、これがな』

 

ソウルゲインの拳と参式斬艦刀がぶつかり合い火花を散らす。

 

「破壊と殺戮、戦いのみを続ける世界に何がある。そこにあるのは絶望と死のみだ。そんな世界は地獄以外の何者でもないッ!!」

 

参式斬艦刀の切り上げによってソウルゲインの右腕が跳ね上げられ、ガードががら空きになった瞬間にヴァイサーガがマントを翻しソウルゲインの懐へと切り込む。

 

「人の意志が世界を作りだす、私はそれを知ったのです。自分達の意志で新たな世界を作る……その意味を私は知りました、だからこそ判る。貴方達の理想は間違っているとッ!!」

 

「随分と饒舌に喋るなラミア、では貴様はこの世界をどうするつもりだ? お前は知っているはずだ。俺達の世界が何故滅びたのかをな、それでもお前は平和等と言う愚かな夢を見るのか?」

 

五大剣とソウルゲインの拳が何度もぶつかり合い激しい火花を散らす。アクセル達の理想を批判したラミアだが、まだ自我を得たばかりの幼いラミアにはアクセルの強固な意志を跳ね返すだけの言葉がなかった。五大剣を殴りつけたまま拳を回転させるソウルゲインを見て、ヴァイサーガを押しのけるようにゲシュペンスト・タイプSが前に出て参式斬艦刀を振るう

 

「夢を見る事の何が悪い。争いのない平和な世界を夢見て何が悪いんだ。アクセル」

 

「夢を見る事が悪いとは言わん。だが平和は何も生み出さない、ただ世界を腐敗させていくだけだッ!!」

 

「それはお前達の偏った考えだッ! 世界は人の意志によって作られる。平和を望む人の意志を否定する資格などお前達に、いや誰にもないッ!!」

 

参式斬艦刀の一閃に押されるようにしてソウルゲインの巨体が宙へと浮かぶ。だがソウルゲインは空中で回転し、両手をヴァイサーガとゲシュペンスト・タイプSに向け青龍鱗を放ち、アクセルも叫びを上げる。

 

「確かに平和を望む者の意志を否定はせんッ! だが闘争を忘れた者達は兵士を、軍を、俺達を切り捨て否定するッ! 俺達の様な者は戦いがなければ生きていけないのだッ! それが判らないとは言わさんぞッ!!」

 

兵士である自分達は戦いの中でしか生きられないと叫ぶアクセル。それは確かに1つの側面であり、間違いではない。例え国を守る為に戦ったとしても、争いが終われば殺人者であり迫害される。それは争いの歴史の数だけ生み出されてきた光景であり、紛れもない事実であった。

 

「アクセル隊長。それは戦う者だけの都合です」

 

「なんだと?」

 

だがそのアクセルの言葉はラミアの中で1つの答えを導き出す事になった。赤ちゃんが生まれるのだと嬉しそうに話すラトゥーニと、彼女が持っていた写真の夫婦を思い出したラミアは、自分が出すべき答えに辿り着く事が出来たのだ。

 

「戦いを望まない者、平和という世界に可能性を見出す者……そして、生まれてくる新たな命の為に平和な世界を作ろうとする者……確かに兵士は争いの中でしか生きられないかもしれない、しかし平和な世界を作る為に戦うことは出来るッ!」

 

 

自分達は争いから逃げられないとしても、それでも平和な世界を作り争いを望まない者の為の礎にはなれる。それが戦う事しか出来ない自分達に出来る事だとラミアは叫んだ。

 

「甘いな、争いが無くなれば俺達に居場所などはないという事が何故判らないッ!」

 

「お前達の世界がそうであったとしても、私達の世界まではそうとは限らない。例えそうだったとしても、私達は平和を目指して戦うのだッ!」

 

「平和な世界を見て見たい。涙と、絶望に満ちた世界ではない、笑顔が広がる世界を見たいと思う事は、間違いではないはずだッ!」

 

参式斬艦刀と五大剣の一閃がソウルゲインの胸部を深く傷つけ、その装甲に×の字が刻まれるがEG装甲によって見る見る間にその傷が修復される。

 

「チェストォおおおおおおッ!!!」

 

「ぐ、ぐうううううッ!?」

 

スレードゲルミルもグルンガスト参式・タイプGに鋭く重い一撃を叩き込まれ、大きく弾き飛ばされ地響きを立てながら着地する。劣勢に追い込まれているのはアクセルとウォーダンだけではなく、量産型Wナンバーズもだった。兵士としては優秀だが、教導隊メンバーとは余りにも地力が違う。数は多くてもエルザムやラドラ、ギリアムを止めるには力が余りにも足りなさ過ぎたのだ……だが時間稼ぎには十分な戦力を持っていた。

 

「平和を望むという事は判った、だが俺達は永遠の闘争を捨てることはない……お前達が本当に世界を平和に出来ると言うのならば……俺達だけではない、百鬼帝国も打ち倒せるのだろう?」

 

アクセルとて百鬼帝国に対して思う事がないわけではない。だがこの劣勢を跳ね返すことが出来るのならば何だって利用する……生きてさえいれば次があるのだ、泥を啜ろうが敗北しようが生きてさえいれば何でも出来るのだ。一時の屈辱など、死ぬ事と比べればなんという事はない。海面に顔を見せた百鬼帝国の巨大戦艦、そして無数の百鬼獣の群れを見てアクセルは自嘲気味に笑い、再びソウルゲインを立ち上がらせゼンガー達の前に立ち塞がるのだった……。

 

激しい戦闘音が響いて来る格納庫で、武蔵はゲッターとの戦いを続けていた。ゲッターが稼動しないと判った武蔵はゲッターを使う事を諦め、使えるかどうかは不安だが、それでも頭数になればと格納庫に保管されていたシャドウミラー製の機体を使おうとした。

 

「くそッ! なんでだ! なんでオイラの邪魔をするんだッ! 兄弟ッ!!!」

 

だが乗り込んだ時はすんなりと武蔵を受け入れたゲッターD2は決してコックピットを開く事は無く、武蔵は完全にゲットマシンの中に閉じ込められていた。

 

「くそくそッ! なんでだッ! なんでオイラを裏切るんだよッ!! ゲッタ――っ!!!」

 

今まで何度もゲッターロボに武蔵は救われてきた、だが今回は自分を裏切った。武蔵は激しい焦燥感と共にゲットマシンのモニターを何度も殴りつけた。皮膚が裂け血が溢れるが、それでもゲッターは沈黙を続ける。

 

「なんでだ……なんでだよ……頼む、頼むよ……オイラを戦わせてくれよ……ゲッター……」

 

ゲッターロボが自分の意志を汲み取ってくれない、自分を助けてくれたエキドナが、そして外から響いてくるゼンガーとウォーダンの叫び……更に数分前から混ざり始めた百鬼獣の叫び声に焦りばかりが募り、武蔵の目から悔し涙が溢れその涙がモニターへと落ちた時――今まで沈黙を続けていたゲッターが突如獣のような唸り声を上げ、今までの沈黙が嘘だったかのようにゲットマシンの中に翡翠の光を溢れさせた……それは待たせてすまなかったと言わんばかり武蔵の身体を包み、武蔵の見ている前で拳の傷が癒え、ゲッターエネルギーが満たされていく……。

 

「おせえよ……兄弟。オイラはてっきりおめえに裏切られたって思ったじゃねえか……」

 

涙を拭い顔を上げた武蔵の目は力強い意志の光に彩られ、それに呼応するようにゲッターD2を包むゲッター線はその光をより強く輝かせていくのだった……。

 

 

 

 

第152話 楽園からの追放者 その5へ続く

 

 




今回も前回と続きほぼシナリオデモとなってしまいましたが、シナリオの都合上致し方ないことなのでお許しください。次回は百鬼帝国を交えしっかりと戦闘シーン、そして百鬼帝国の新兵器を登場させて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


ガチャチケットで赤特のくえすのシエンが出たので共闘戦のアイテムの全部交換できました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第152話 楽園からの追放者 その5

第152話 楽園からの追放者 その5

 

教導隊とシャドウミラー隊の戦力差は個々の戦力では圧倒的に教導隊に軍配が上がり、数で言えばシャドウミラー隊に軍配が上がっていた。この戦いは百鬼獣の増援が来るか、そしてハガネ、シロガネ、ヒリュウ改が辿り着くのが先かという耐久戦であり、そして武蔵とゲッターD2を守りきるか、奪われるかという防衛戦であり強奪戦でもあった。

 

「このタイミングで来るか百鬼帝国ッ!!」

 

ギャンランドへの詰みを仕掛ける事が出来る最高のタイミングで現れた鮟鱇のような姿をした百鬼帝国の高速戦闘母艦が浮上し、無数の百鬼獣を吐き出す姿にギリアムは唇を噛み締めながら百鬼帝国の名を叫んだ。

 

『天は我らを見放さずと言った所だな、ヘリオス。この勝負……引き分けとしておこうか』

 

ギャンランドからゲシュペンスト・MK-Ⅱとエルアインスの一団が出現し、ギャンランドの前へと展開する。

 

『ちいっ! 完全に挟まれたぞッ!』

 

『これはそう簡単に突破出来る布陣ではないぞ……ッ』

 

前にはソウルゲインとスレードゲルミル、そしてゲシュペンスト・MK-Ⅱとエルアインスの軍勢、そして後には百鬼帝国の戦艦と無数の百鬼獣――いかにゼンガー達と言えど容易に突破出来ない布陣が一瞬で形成される。

 

『……仕方あるまい、エルザムとバリソンはゲッターロボが起動するまで格納庫を守れッ! 可能ならばその位置からゲシュペンストを狙えッ!カイとラドラは百鬼獣を抑えろッ! 私とゼンガーはアクセルとウォーダンを抑えるッ! ラミアとギリアムはギャンランドを狙えッ!』

 

今出来る最善策をカーウァイは叫ぶ、ゲッターロボと武蔵を失えば百鬼帝国とインベーダーに対抗する術を失い、スレードゲルミルとソウルゲインと対峙している間に百鬼獣に、また百鬼獣と戦っている間にソウルゲインとスレードゲルミルに攻撃されればカーウァイ達とて撃破される可能性が高い。この状況で戦力を分散、そして圧倒的な力を持つ百鬼獣とスレードゲルミルとソウルゲインを相手にするのは自殺行為だが、そうしなければ各個撃破に追い込まれる状況に陥ってしまったのだ。この状況の中でカーウァイは最も正しい選択をしたが、ギリアムはカーウァイの命令に反し、単騎でゲシュペンスト・リバイブ(S)をギャンランドへと向かわせた。

 

「ヴィンデルッ! お前をここで逃がしはしないッ!」

 

ここでヴィンデルを逃がせば取り返しの付かない事になる。ギリアムは己の命と引き換えにしてでもギャンランドを、いやツヴァイザーゲインを破壊するつもりだった。だがギリアムのその決死の行動も百鬼獣の放ったミサイルの雨とそれに貫かれ爆発したゲシュペンスト・MK-Ⅱやエルアインスの爆発に巻き込まれ、その動きを止めざるを得なかった。

 

『言った筈だ。ヘリオス、この場は引き分けにするとな、レモン。転移だ』

 

『了解よ。アクセル、ウォーダン。ある程度したら百鬼帝国に任せて引き上げて来なさいな、合流地点は後で連絡するから』

 

ギャンランドの船体が光に包まれ、転移の予兆を見せる。

 

「待てッ!」

 

『待つのはお前だ! ギリアムッ! 死ぬつもりかッ!!』

 

爆発に巻き込まれフライトユニットは中破、装甲もボロボロになっているゲシュペンスト・リバイブ(S)を駆り、ギャンランドへ攻撃を仕掛けようとするギリアムをカーウァイが静止する。

 

「カーウァイ大佐! しかしッ!」

 

『もう無理だ。間に合わんッ! それよりも目の前の敵に集中するんだギリアムッ! お前の行動次第で私達が全滅する可能性もあるのだぞッ!』

 

カーウァイとてここでヴィンデル達を逃がすのは痛手だという事は判っていた。だがシャドウミラーと百鬼帝国に挟撃されている今、感情に身を任せ行動されては皆が全滅するとカーウァイが一喝する。

 

「ッ! くっ……うっ……了解……しました……」

 

カーウァイのその言葉は何よりもギリアムに効いた。ヴィンデル達を倒す事も重要だが、そのために仲間の命は賭けられない。歯が折れんばかりに奥歯を噛み締め、ギリアムは忌々しそうに消えていくギャンランドを睨みつける。

 

『じゃあね、また会いましょうファーストジャンパー……ヘリオス・オリンパス』

 

『また会おう。今度はシステムXNを完全に回復させた後にな』

 

消えていくギャンランドからヴィンデルとレモンの挑発めいた言葉が発せられ、ギャンランドの姿はギリアム達の前から完全に消え去った。

 

「ここまで来て……アクセルッ! お前達が今している事……それがどのような結果を招くか判っているのかッ!!」

 

『異なる世界の扉を開き、永遠なる闘争の世界を作ろうとしていると何度言えば判るんだ? ヘリオス』

 

空中で反転しソウルゲインへと攻撃を繰り出すゲシュペンスト・リバイブ(S)。怒りと焦りに満ちたギリアムの言葉にアクセルは軽くそう返事を返す。だがそれは更にギリアムの怒りに油を注ぐ事になった。

 

「そんな単純なことではないッ! この世界は我々という異物を、いやもっと言えばゲッター線を、恐竜帝国を、百鬼帝国を、インベーダーを受け入れ奇跡的なバランスで存在が保たれている。そのバランスが崩れた結果がお前達の世界だッ!」

 

『何? どういうことだッ! ヘリオスッ!!』

 

ソウルゲインの両拳がゲシュペンスト・リバイブ(S)の両腕を掴みどういうことか説明しろとアクセルが声を荒げる。

 

「世界のバランスが崩れればその世界は滅びへと向かう、バランサーが存在しなければその世界は滅び消滅する、その結果がイージス計画によってお前達の世界に現れたインベーダーだッ!」

 

フライトユニットに残されていた僅かな武装であるビームガトリングガンの光弾がソウルゲインの胸部で炸裂し、拘束から逃れたゲシュペンスト・リバイブ(S)は両手に持ったビームソードでソウルゲインへと斬りかかる。

 

『ならば何故この世界は……いや、待てよ。バランサーとはッ!』

 

世界が滅びない理由、自分達の世界とこの世界の違いは何だと考えたアクセルの脳裏を過ぎったのはゲッターD2と武蔵の存在だった。

 

「そうだッ! ゲッターロボと武蔵だッ! その存在が楔となり、世界の意志と共にギリギリの所でこの世界は保たれている。だが再びアギュイエウスそしてリュケイオスの扉が開かれれば今度こそ取り返しのつかないことになるッ!」

 

EG装甲の回復速度を上回る速度で攻撃が叩き込まれソウルゲインが逃れるようにゲシュペンスト・リバイブ(S)から距離を取る。感情を剥き出しに叫ぶギリアムの言葉にカイ達は百鬼獣とあるいは、エルアインス達と戦いながらも困惑を隠しきれなかった。そしてそれと同時にギリアムが隠してきた物の余りの大きさに言葉を失っていた。

 

『お前が何故俺達をここまで敵視するのかは理解した、だがゲッターと武蔵がいれば世界は崩壊しないのだろう? ならばアギュイエウスとリュケイオスの扉を開いても問題はあるまいッ!』

 

「今までは大丈夫だったが、これからも大丈夫だという保障はないのだ。アクセルよ、今ならばまだ間に合う、扉を開くのは諦めろッ!」

 

ビームライフルの銃口をソウルゲインの顔に突き付け、最後通告だと言うギリアムの言葉をアクセルは鼻で笑った。

 

『お前の取り越し苦労という可能性もある。だが扉を開き世界が滅びに向かうとしても、ここまで来てはい、判りましたと言えると思うかッ!!』

 

「ッ!?」

 

ソウルゲインの膝蹴りがビームライフルを蹴り砕き、距離を取ろうとしたゲシュペンスト・リバイブ(S)を追ってソウルゲインが地面を砕きながら大きく踏み込み、一瞬で間合いを詰め拳を振りかぶった。

 

『だがお前の話を聞いて判った事もある、やはり武蔵とお前は連れて帰るぞヘリオスよッ!!』

 

ソウルゲインの光り輝く拳がゲシュペンスト・リバイブ(S)に向かって放たれようとした時、ヴァイサーガとゲシュペンスト・タイプSが割り込み、五大剣と参式斬艦刀をクロスさせその拳打を防ぎ、ゲシュペンスト・リバイブ(S)を守った。

 

『ギリアム少佐の言葉を聞いて、それでもなお扉を開くというのですか、アクセル隊長』

 

『自分達が世界を滅ぼすと聞いてもなお、止まらないのかアクセルよ』

 

五大剣と参式斬艦刀に弾き飛ばされたソウルゲインは空中で反転し、正眼の位置にゲシュペンスト・タイプS達を見据えながら着地する。

 

『思わんな、全てがヘリオスの言う通りだとするのならば来訪者であるヘリオスこそが最初に自分自身をどうにかするべきではないのか? 彷徨い人……ヘリオス・オリンパスッ!』

 

アクセル達よりも先に来た来訪者であるヘリオス――いやギリアムが存在する事でもこの世界は乱れる筈だとアクセルは指摘し、その言葉をギリアムは否定できなかった。

 

『この世界を作り出した者が何であろうと、俺達を導いた存在が誰であろうと……俺は俺の意思……自分が信じる世界の為に戦争をしている……ッ! その結果、世界が滅びるならば……それもまたこの世界が選んだ結末なのさ』

 

もしも本当に世界が意志を持つのならば世界を滅ぼうとする自分達を導く事はなかった。いや、もし世界が滅びると言うのならばそれすらも世界の意志だとアクセルは声を上げた。そしてその叫びに呼応するかのように百鬼獣達も唸り声を上げる。

 

『ふん、鬼共もこれに関しては俺の意見と同じらしいな。勝ち負けでしか俺達にとっての善悪を定める事など出来はしないッ! 俺達が間違っていると言うのならば俺達を倒してそれを示すが良いッ!! リミット解除ッ! ソウルゲインよッ! 貴様の力……今一度やつらにッ! そして俺に示してみろッ!!!』

 

ソウルゲインの瞳が紅く輝き、傷ついた装甲が見る間に回復し、万全となったソウルゲインがギリアム達の前に立ち塞がる。

 

『お前はどうする? ウォーダン。ラミア達のように我らを裏切るか?』

 

『……我が刃に迷いなし、我はウォーダンッ! ウォーダン・ユミルッ! メイガスの剣だッ!!!』

 

ウォーダンが吼えるとスレードゲルミルの全身が再び翡翠の光に包まれ、グルンガスト参式・タイプGの前に立ち塞がる。

 

『ウォーダンよ。お前は己で考える事を放棄するのか?』

 

『否。俺の存在理由はお前を越える事だ、ゼンガー・ゾンボルトッ! ならばそれ以外の事は俺にとって何の関係もないッ!』

 

永遠に続く闘争の世界を作り、そのためにゼンガーを倒すと吼えるウォーダンにゼンガーは1度目を伏せ、そしてウォーダンの闘志に応えるように吼えた。

 

『ならば最早問答無用……いざ尋常に勝負ッ!!』

 

『応ッ!!!』

 

グルンガスト参式・タイプGとスレードゲルミルの斬艦刀がぶつかり合い凄まじい轟音を周囲に響かせる。それが合図となりシャドウミラー、百鬼帝国と教導隊の戦いはより激しさを増させて行くのだった……。

 

 

 

 

百鬼獣――独眼鬼、双剣鬼、鳥獣鬼、単眼鬼、白骨鬼、牛角鬼と戦艦から姿を見せる百鬼獣は何度もカイ達が戦ってきた百鬼獣であり、その対処法も十分に理解していたと言ってもいい。だがカイ達は攻めあぐね、そして徐々に押し込まれていた。

 

「ちいっ、連携してくるかッ!」

 

『置き土産が厄介すぎるなッ!!』

 

エルアインスとエルシュナイデ、そしてゲシュペンスト・MK-Ⅱはスラッシュリッパーを装備し、そしてビームショットガンとスプリットミサイル等の面攻撃の武装を多数装備している上にシールドまで装備しており、それらの面攻撃で思うように移動、あるいは追い立てられ百鬼獣に対して無防備になりカイとラドラは少しずつだがダメージが蓄積していた。

 

『グルルルウ』

 

『キシャアアアーッ!!!』

 

そして百鬼獣の無理に攻め込まず、自分達が不利と悟れば即座に後退しエルアインス達を盾にし、修復機能で傷を再生する事を徹底しており、数自体は多くないのだが、明確な隙をついて強烈な一撃を叩き込んでくる百鬼獣は厄介だった。

 

「エルザム! ギリアムッ! なんとかならないかッ!」

 

『やっているが、こいつらは防衛に特化しているッ!』

 

『攻め切れんッ!!』

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプGトロンベ、ゲシュペンスト・リバイブ(S)の射撃武器を集団で密集する事で防ぎ、そしてダメージを分散させる事で撃墜をされることを抑え、カイとラドラの妨害を続けるエルシュナイデ達には流石のエルザムとギリアムの苛立ちを隠せない様子だ。

 

『こいつらは支援特化型だッ! とにかくでかい火力でぶっ飛ばさない限りは駄目だッ!』

 

バリソンのゲシュペンスト・MK-2改がビームライフルとスプリットミサイルで攻撃を仕掛けるがシールドとジャマーを駆使し、攻撃を防ぎ、そしていなし致命的なダメージを避ける。

 

『くそっ! やっぱり駄目かッ! グルンガストクラスの特機でもなきゃ突破できねえぞッ!』

 

妨害と援護に特化している量産型Wナンバーズを突破するにはPTの火力では足りない、ゲシュペンスト・シグやリバイブ(K)は単体火力こそ特機並だが範囲攻撃を持たない為倒しきれない。

 

『この乱戦の中ではブラックホールキャノンは使えん……ッ!』

 

『フレンドリーファイヤの可能性が高すぎるッ』

 

高火力の武器はあるが、逆をいえば火力がありすぎてエルアインスを倒すと同時にゼンガー達を巻き込むリスクがあり、それが判った上でエルアインス達は厭らしい立ち回りをしており、少しずつ数を減らす事か空を飛び交うスラッシュリッパーやミサイルを迎撃しているが、それでも数が多すぎて全てを迎撃出来ず数発がゲシュペンスト・シグとゲシュペンスト・リバイブ(K)の回りに着弾し、煙を発生させその煙を突っ切って来た双剣鬼の斬撃と単眼鬼のビームが2人の機体を襲う。

 

「ぐうっ! ちょこまかとッ!!」

 

『ジリ貧だな』

 

百鬼獣はエルシュナイデもろとも攻撃してくるので誘爆、そして半分機械であり半分生物である百鬼獣の攻撃は見切りにくく、反撃の糸口が見出せなかった。

 

「ぬおおおおッ!!!」

 

「はぁあああああッ!!!」

 

グルンガスト参式・タイプGとスレードゲルミルの斬艦刀がぶつかり合い、凄まじい轟音を響かせる。

 

【斬艦刀疾風怒濤】

 

【斬艦刀雷光切り】

 

グルンガスト参式・タイプGの横薙ぎ一閃とスレードゲルミルの上段からの切り下ろしがぶつかり合い凄まじいエネルギーの奔流を周囲に撒き散らす。

 

「チェストオオオオオッ!!!」

 

「ぐうっ! まだだッ!!」

 

【斬艦刀牙壊】

 

ゼンガーの裂帛の気合と共にグルンガスト参式・タイプGの一撃がスレードゲルミルを捉えるが、弾き飛ばされながらスレードゲルミルの放った一撃が参式斬艦刀の柄を穿ち、刀身が僅かに緩み始める。

 

「……敵ながら見事」

 

「ただでは俺は斬られんぞ、ゼンガー・ゾンボルトッ!!」

 

正眼に構えるグルンガスト参式・タイプGと切っ先を下にむけて構えるスレードゲルミル。踏み込みの速度はほぼ互角、そして装甲と攻撃力もまたほぼほぼ互角――勝敗を分けるのは2人の腕前の差、そして気迫の差だった。

 

「「参るッ!!」」

 

スレードゲルミルとグルンガスト参式・タイプGの戦いは激しく、誰も割り込める雰囲気ではない。下手に割り込めば斬艦刀は割り込んだ者を襲うだろう。ゼンガーとウォーダンの戦いは正々堂々とした一騎打ちの様相を呈しており、そこには誰も割り込める状況ではなかった。

 

「乱戦こそ俺達の最も得意とする戦場だ。卑怯等と言うなよッ!!」

 

インベーダー、アインスト、連邦軍と3つの陣営と戦い続けていたアクセル達からすれば乱戦、挟撃こそもっとも得意とする戦場であり、EG装甲で回復するソウルゲインの機体特性もあいまって2対1という状況でもアクセルがやや優勢となっていた。

 

「命のやり取りで卑怯も何もない。だがこの状況を利用できるのがお前だけと思わないことだッ!」

 

『援護しますッ!』

 

しかし乱戦はカーウァイも得意とする戦場であり、ラミアの支援もあることもあり完全に劣勢に追い込まれる事を避け、器用に立ち回っていた。

 

「はぁッ!!」

 

「おおおおッ!!」

 

参式斬艦刀とソウルゲインの拳打。振る必要のある参式斬艦刀の方が取り回しが不利であるにも拘らず、カーウァイは完全にアクセルを攻め込ませず、片手に持ったビームブレードガンと参式斬艦刀を使いこなしアクセルの出鼻を器用に挫き、機体サイズの差を巧く埋めていた。攻めきれないと感じていたアクセルはソウルゲインを後退さえ、広域通信でカーウァイに称賛の言葉を投げかけていた。

 

「やはり戦上手だな……カーウァイ大佐。お前でなければこれだけ時間を稼ぐ事は出来なかっただろう……だがこれで終わりではない、これからだッ!」

 

ハガネ、ヒリュウ改、シロガネが空域に姿を現した事で、アクセルの闘志は更に燃え上がり、基地に残されていた量産型Wシリーズが乗り込んだラーズアングリフ、アシュセイヴァー、エルアインス、エルシュナイデ、そしてアースゲインが次々と姿を現すのと、ハガネのPT達が出撃してくるのはほぼ同じタイミングであり、それを見てアクセルはより獰猛な笑みを浮かべる。

 

「仕切りなおしだ、まだ戦いは終わらんぞッ!」

 

そう吼えるアクセルの駆るソウルゲインは拳を打ち鳴らし、そのカメラアイをより強く輝かせるのだった……。

 

 

 

 

 

DC戦争時に廃棄された基地から熱源反応が多数感知され、それがバリソンと名乗るシャドウミラーの兵士の進路の合致する事もあり、急行して来たハガネ、ヒリュウ改、シロガネの3隻からアルトアイゼン・ギーガを先頭にし次々とPTが出撃する。

 

「やっぱりボス達が先行してて正解だったみたいね、なにこの地獄絵図……」

 

普段ふざけているエクセレンでさえ真顔になるほどに廃棄された基地の戦いは酷い様相を呈していた。百鬼獣に、ソウルゲインとスレードゲルミル、そして無数のシャドウミラーの量産機に挟撃に合いながらも全機無事なのはカーウァイ達でなければ不可能だっただろう。

 

『悪いが話している余裕はないぞ、百鬼獣とシャドウミラー。どちらでも良いッ! お前達で押さえろッ! 武蔵はゲッターD2に乗り込んでいる、黒いアンジュルグが倒れているあの格納庫だッ! 誰でも良いあの格納庫を確保しろッ』

 

百鬼獣、シャドウミラーの機体を相手にしながらカイがゲッターと武蔵のいる格納庫を確保しろと指示を出す。

 

「黒いアンジュルグ……あれはカイ少佐達が破壊したのか?」

 

『キョウスケ中尉、それは違う。エキドナが1人で武蔵をゲッターの元へ送り届ける為に戦い続けたのだ』

 

状況説明を求めたキョウスケに返事を返したのはエルアインスを両断したヴァイサーガのラミアの広域通信による物だった。

 

「……ラミアッ!」

 

「ラ、ラミアさんッ!!」

 

「お前、無事だったのかッ!?」

 

自爆した筈のラミアからの通信にキョウスケ達の間に驚きが広がった。

 

「エキドナって武蔵を連れ去った奴が何で武蔵を守って戦ってやがるんだ。それにお前もだ、お前も元いた所に戻っただけだろうがッ! 守ったなんて良く言えたもんだなッ!」

 

カチーナの言葉も最もである、エキドナがいなければ武蔵が連れ去れる事は無かっただろう。それを恩着せがましいと思うのは当然の事である。

 

『……ああ、確かにその通りだろう。だがそれでもエキドナは武蔵を牢屋から救い出しゲッターの元へ送り届けた。それは嘘ではない、そして自分が死ぬ覚悟をして戦い続けた。それは紛れも無い事実だ』

 

両足が砕け、翼を失い、腕も1本しか残されていないアンジュルグ・ノワールは紛れも無く大破しており、パイロットであるエキドナが無事であるとは思えない有様だった。

 

『経緯はどうあれ、今の彼女達は我々の味方だ。それは私が、いや……』

 

『俺達が保障する。とにかく今はあの格納庫を確保しろッ!』

 

ラミアとエキドナ――シャドウミラーの構成員である2人が教導隊と共に戦っている、そしてエルザムとカイ達が味方であると保障するとまで言うのだ。信用したいと言う気持ちが無い訳ではなかったが……それでも裏切ったのは紛れも無い事実であり、それをすぐに信用しろと言うのは難しい問題だった。

 

『レーツェル、俺達にその言葉を信じろというのか?』

 

『レーツェル? 何を言っているライ、私はエルザムだ』

 

……この状況なのにレーツェルとエルザムは別人だと主張するエルザムにライの目が死んだ。むしろどうすれば良いのかと困惑していると言っても良いだろう……。

 

『その気になればラミアは俺達を背後から討つ事も出来た。この状況を見てみろ』

 

『この状況で私達を陥れようとしているように見えるか?』

 

量産機と百鬼獣に挟まれ、その上ソウルゲインとスレードゲルミルがいる――この状況でラミアが陥れようとしているのならば教導隊のメンバーの誰かは撃墜されている筈だ。それが全員揃っている事がラミアの身の潔白を表していると言っても良かった……だがそれでもだ、善人ばかりのハガネのクルーの事を考えカチーナはあえて悪者となる事を選ぶ、それがカチーナなりの仲間の守り方だからだ。

 

「今まで あたしらを欺いてきた奴だぜ? そう簡単に……」

 

『彼女の戦に迷いはない。 結果がそれを証明している』

 

『……私も同感だ』

 

ゼンガーとギリアムにまで気勢をそがれては流石のカチーナも沈黙し、そして無言のままゲシュペンスト・MK-Ⅲを駆りヴァイサーガへと走る。

 

『ちゅ、中尉!? 何をッ!?』

 

「何をだ? んなもん決まってるだろうがッ!!!」

 

そう吼えたカチーナが駆るゲシュペンスト・MK-Ⅲは地面を蹴り跳躍すると同時に急降下して来た鳥獣鬼の顔面にライトニングステークを叩きつけ殴り飛ばす。

 

「あの面子にあそこまで言われたら信じるしかねえだろうがッ! それにぐだぐだ言ってる場合じゃねぇッ! とっとと押し返すぞッ!! 野郎共ッ!!」

 

百鬼獣の侵攻は激しくなり、ここで押し問答をしている場合じゃないとカチーナが叫ぶ。

 

「本当……カチーナ中尉は素直じゃないんだから……とりあえず今までの事は水に流すって事で……詳しくは後でね、ラミアちゃん」

 

『エクセ姉様……お心遣い、感謝します……』

 

思う事はある、全てを信用する事は出来ない。だがそれでもラミアはこの絶体絶命の窮地の中で戦い続けていた、それがラミアの身の潔白を示す確かな証拠でもあった。

 

『ならリューネ! まずは格納庫までの道を空けるぜッ!』

 

『OK! マサキッ!!

 

サイバスターとヴァルシオーネが同時に飛翔し、エルアインス達の頭上を取る。何をしようとしているか悟ったキョウスケは即座に指示を飛ばす。

 

「加速力のある機体は一気に包囲網を抜けてゲッターD2の格納庫へ向かえッ! 攻撃力のある機体は百鬼獣を抑えるッ! 巻き返すぞッ!!!」

 

『サイフラァアアアアシュッ!!!!』

 

『サイコブラスタァアアアア――ッ!!!』

 

緑と桃色の閃光が基地上空を染め上げ、その光の直撃を受けたエルアインスやエルシュナイデは細かい爆発を繰り返し、片膝を付いて動きを止める。

 

『ちいっ! MAPWかッ!!』

 

『面妖なッ!』

 

サイフラッシュとサイコブラスターは敵味方を識別し、アクセル達や百鬼獣の動きを止める。その隙を突いてヴァイスリッター改、アステリオンが先行し、その後をすぐサイバスターとヴァルシオーネが続きゲッターロボと武蔵の確保へと向かう。

 

「お前の相手は俺だ。アクセル」

 

『ふっ、元より追うつもりなど無い……勝負だ。ベーオウルフッ!!!』

 

ゲシュペンスト・タイプS、そしてヴァイサーガに目もくれずソウルゲインは地面を蹴り一直線にアルトアイゼン・ギーガへと突撃する。

 

『補給装置を持ってるゲシュペンスト・MK-Ⅲが待機してる。1度エネルギーを補給したほうが良い、このタイミングでガス欠なんて洒落にならんぜ』

 

『すまん、1度下がる。カイ、ギリアム! お前達も補給を受けておけ、この戦い――まだまだ終わらんぞッ!』

 

ハガネ組と入れ代わりずっと戦闘を続けていたカーウァイ達が補給装置を持っているラッセルのゲシュペンストへ向かおうとした瞬間だった――百鬼獣を出撃させ海中に沈んでいた百鬼帝国の戦闘母艦が再び浮上し、ヴァイスリッター改達へ向かって何かを射出した。

 

『なんだ、ミサイル……じゃねえッ! なんだありゃあッ!?』

 

『戦闘機……そんな……まさかあれはッ!?』

 

最初はミサイルだと思ったのだがミサイルにしては大きすぎ、そして加えてミサイルにしては早すぎた。そしてミサイルにしてはその姿は異形だった……それがなんなのかを確かめようとした瞬間、その何かから射出されたミサイルがレオナのガーリオンや、カチーナのゲシュペンスト・MK-Ⅲのすぐ隣に着弾しを爆発と共に周囲に火柱を作り出した。

 

『うあっ!? なんだこれはッ!?』

 

『ナパーム弾!? でもこの火力は一体ッ!?』

 

ナパーム弾だと最初は思った。だがそれはナパーム弾等という生易しい物ではなく、下手をすればPTでさえ一瞬で焼き尽くすほどの火力を持ったマグマミサイル弾だった。カチーナ達は慌てて退避するが、その装甲は数秒で融解し、火花を上げていた。

 

『マグマミサイルだと!? 馬鹿な何故あれを百鬼帝国が持っている!? 散れッ! 直撃を受けたらPTでは跡形も無く消し飛ぶぞッ!』

 

それが恐竜帝国の武器であると事に気付いたのはラドラであり、警告を飛ばすが3機の戦闘機は容赦なくマグマミサイル弾を周囲に放ち、基地を火の海へと変え悠然と炎の海の上を飛ぶ航空力学に喧嘩を売った様なその特徴的な形状は紛れも無くその姿はゲットマシンの姿だった。だがそれは武蔵のゲットマシンとは似ても似つかない姿をした生物的な意匠を持つゲットマシンだった……。

 

どこか生物的な意匠を持つ鋭利な装甲を持つ爬虫類の王の名を異名を持つゲットマシン――ボアレックスが先頭を飛ぶ。

 

その後を追ってライガー号に良く似たシルエットをしたその機体は爬虫類最速の異名を持つゲットマシン――ガリムがマグマミサイル弾を無作為に放ち、百鬼獣、シャドウミラー、ハガネのPT隊の周辺を火の海へ変えながらボアレックスの後を追う。

 

そして最後尾を続くのは爬虫類一巨大なる物の異名を持ち、ボアレックス、ガリムよりも巨大なメガロンが加速する。

 

ボアレックスに突き刺さるようにガリム、メガロンと続き3体のゲットマシンはキョウスケ達の目の前でゲッターロボへと姿を変える。

 

【ガオオオオオーーーンッ!!!!】

 

だがそれはゲッターロボであって、ゲッターロボではないもの――武蔵の知る歴史とは異なる世界で恐竜帝国によって作り出されたゲッターロボ――ゲッターザウルスは凄まじい咆哮を上げ、棘つきの棍棒であるダブルシュテルンを振るいヴァイスリッター改達を力任せに殴りつける。

 

『あぐっ!?』

 

『うわああああ――ッ!!!』

 

耐久力に劣るヴァイスリッター改とアステリオンは殴り飛ばされたままの勢いで海中へと弾き飛ばされ沈没する。そしてサイバスターとヴァルシオーネはダブルシュテルンを受け止めたが……。

 

『がっ!? こ、こいつなんて馬鹿力ッ!?』

 

『だ、駄目だ。押さえ切れないッ!!! うわッ!?』

 

ディスカッターとディバインアームを砕きながらサイバスターとヴァルシオーネを地面へと叩きつけ、振りかぶったダブルシュテルンを格納庫の前に陣取っていたヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプGトロンベとゲシュペンストMK-Ⅱ改へと投げ付ける。

 

『避けられんッ! 機体を盾にするしかッ!』

 

『くそがッ!』

 

アンジュルグ・ノワール、ゲッターD2が背後にいるので避ける事は出来ず、バリソンとエルザムに出来たのは己の機体を盾にすることだけだが、ダブルシュテルンの一撃を耐える事は出来ずヴァイスリッター改とアステリオン同様弾き飛ばされ、水柱を上げて海中へと沈んでいく……。

 

『メカザウルスなのか、ゲッターロボなのかッ!? どっちなんだッ! ラドラ少佐、あれはなんなんだッ!』

 

『判らんッ! だが……メカザウルスであり、ゲッターロボなのかも知れんッ!!』

 

ラドラはゲッターザウルスの事を知らない、だがメカザウルスであり、そしてゲッターロボであると言う事はその直感で感じ取っていた。そしてその力の強大さもだ。

 

『いかんッ! このままでは武蔵がッ!』

 

『ゼンガー。俺を前に余所見をするなど死にたいのかッ!!!』

 

『ちいっ!?』

 

ゲッターザウルスではゲッターD2も破壊されてしまうかもしれない――ゼンガーが救援に向かおうとするがスレードゲルミルがその前に立ち塞がり、ゼンガーの動きを妨害し、サイフラッシュ、サイコブラスターのダメージから復活したエルアインス達が百鬼獣と共に壁を作り、完全にキョウスケ達とゲッターD2とアンジュルグ・ノワールを分断する。

 

『主砲! メカザウルスにあわせッ! 格納庫に当てるなよッ!』

 

『副砲の照準をメカザウルスへッ! てぇッ!!』

 

ハガネとヒリュウ改の主砲と副砲が命中するがゲッターザウルスの装甲を傷つけるのがやっとであり、その動きを止める事は叶わない。悠然と格納庫の前に歩みを進めるゲッターザウルスは血走った目でアンジュルグ・ノワールを……いや格納庫にいるゲッターD2を睨みつけ怒りに満ちた雄叫びを上げる。

 

【ゴガアアアアアアーッ!!!】

 

アンジュグル・ノワールごと格納庫を破壊せんとゲッターザウルスがダブルシュテルンを振りかぶり、唐竹斬りの一撃を繰り出す。それはアンジュルグ・ノワールに命中する寸前に格納庫が内側から砕け散り、そこから伸びて来た真紅の腕がダブルシュテルンを受け止める。

 

「エキドナさんはやらせるかよ、この出来損ないのトカゲゲッターがッ!!!」

 

ゲッターD2の鉄拳がゲッターザウルスの頭部を捉え殴り飛ばすが、ゲッターザウルスはすぐに体勢を立て直しダブルシュテルンを構え唸り声を上げる。

 

「はっ、トカゲゲッターが本物のゲッターロボに勝てると思うなよッ! ダブルトマホークッ!!!」

 

【キシャアアアアアーッ!!】

 

ダブルシュテルンとダブルトマホークがぶつかり合い凄まじい轟音と衝撃波を撒き散らし、基地の設備を容赦なく破壊、そして基地に広がっていた炎を掻き消す。

 

「なるほどな、力だけはゲッターと互角ってことかよ。キョウスケさん、エルザムさん! こいつはオイラとゲッターが相手をします! その代り何とかしてエキドナさんだけでも回収してくださいッ! おら、来いやあッ!!!」

 

【キシャアアッ!!!】

 

武蔵とゲッターD2に向かって憎悪の咆哮をあげたゲッターザウルスは地面を砕きながらゲッターD2へと走り出し、ダブルシュテルンを振るう。そしてゲッターD2もその一撃を向かえ討たんとダブルトマホークを振り上げ、再び凄まじい衝撃波が基地全体へと広がるのだった……。

 

 

第153話 楽園からの追放者 その6へ続く

 

 




百鬼帝国の新兵器はフラスコの世界へと流れ着いたゲッターザウルスでした。百鬼帝国の技術で強化されたゲッターザウルスはゲッターD2より少し弱いですが、それでも十分に強い機体となります。ゲッターザウルスが破壊されるのか、それとも回収されるのか今後の展開次第ってことですね。ゲッターロボにはラドラは乗れないですが、ザウルスなら乗れるかもしれないですし……でもゲッターを友軍機にしすぎるのも考えてしまうので、どうなるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうか宜しくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第153話 楽園からの追放者 その6

第153話 楽園からの追放者 その6

 

ゲッタードラゴンの装甲を身に纏ったようなゲッターザウルスを武蔵はトカゲゲッター、出来損ないと呼んだ。だがゲッターザウルスは決して出来損ないではない、アメリカでの恐竜帝国での戦いの後には様々な分岐が存在している。今フラスコの世界にいる武蔵も分岐の1つであり、そしてIFの存在である。勿論武蔵はそれを知る由もないが、ゲッター線に関わった者はその段階で様々な可能性を与えられる。

 

例えばだが、恐竜帝国の大侵攻を防ぐ為に自爆し、ゲッター線と一体化した武蔵がいる。

 

例えばだが、恐竜帝国・百鬼帝国が出現せず、インベーダーが出現し月面10年戦争に参加した武蔵がいる。

 

例えばだが、武蔵坊弁慶と呼ばれる女好きでだらしない武蔵がいるが、その実思慮深くゲッターロボの危険性を悟った者がいる。

 

例えばだが、血肉の君と呼ばれ634番という番号を与えられた人造人間の少女がいる。

 

そしてこのフラスコの世界へ流れ着いた武蔵がいる。

 

同じ「巴武蔵」あるいは巴の名を持たないがゲッター線にとって「武蔵」と言う存在は非常に大きく、ゲッター線の求める進化に大きく関わる存在である。

 

話を戻すがゲッターザウルスとはゲッター線の齎す可能性世界の1つ――流竜馬の息子である流拓馬が存在する世界、そして早乙女博士の最後のゲッターロボが真ドラゴンではなくゲッターロボアークというゲッターロボの世界。そしてその世界のゲッターと地球を滅ぼすための侵略者――アンドロメダ流国と戦う為に隼人が恐竜帝国にゲッターロボのデータを渡し、恐竜帝国が作り出したゲッターロボ――それがゲッターザウルスであり、開発者こそ違うが紛れも無く本物のゲッターロボなのだ。本来のゲッターザウルスと異なる部分があるとすれば……それは頭部に取り付けられた角状の制御パーツだ。

 

「悪くないな、ゲッターザウルスのコントロールはどうなっている?」

 

「問題ありません、こちらで完璧に制御出来ております」

 

武蔵、恐竜帝国、百鬼帝国同様……何らかの因果によってフラスコの世界に流れついたゲッターザウルスは百鬼帝国によって改造され、深海強襲戦闘母艦――水皇のブリッジから遠隔操作でコントロールされ、ゲッターD2と一見互角に見える勝負を繰り広げていた。ブリッジで騒ぎながらゲッターザウルスを操っている鬼達を共行王は冷めた目で見つめていた。

 

(どいつもこいつも見る目が無いの……万全ならばあのトカゲは勝てんというのに……)

 

自分と戦った時のゲッターD2とは見る影もないほどに弱体化していると一目で共行王は見破り、その原因がゲッター線不足という事も感じ取っていた。

 

(まぁ態々言うまでもなかろう。拾って来たからどの程度か見に来たが……期待外れじゃな)

 

ゲッターザウルスは深海に沈んでおり、それを回収したのは共行王だ。だからこそ暇つぶしという事で水皇鬼に乗り込み様子を見に来ていたがはっきり言ってアースクレイドルで暇を潰していたほうが面白かったと思うほどに落胆していた。

 

「お主ら」

 

「はい。なんでございましょうか? 共行王様」

 

「あのトカゲ、失いたくなければ状況はしっかり把握しておく事じゃな」

 

「は、はぁ?」

 

困惑している様子に鬼にも、ゲッターザウルスにも興味を失い、その瞳はゲッターD2へと向けられていた。確かに弱い、そして万全にも程遠い――だがだからこそ共行王には分かるのだ。

 

(くふふふふ……どうなるか楽しみじゃなあ)

 

今のゲッターD2は力を蓄えている段階だ。その力が解放された時、忌まわしき龍帝へと至るのか、それとも皇帝へと至るのか……はたまたそのどちらでもない存在へとなるのか共行王の興味はそれだけに向けられているのだった……。

 

 

 

ダブルシュテルンとダブルトマホークがぶつかり合い凄まじい轟音を響かせる。棍棒と斧がぶつかり合った余波が海上に浮かぶ基地の設備を破壊する。

 

「ちいっ! こいつ……思ったより強いじゃねえかッ!!」

 

【キシャアアアア――ッ!!】

 

武蔵はポセイドン号のコックピットの中で忌々しそうに顔を歪めた。確かにゲッターD2はエネルギーが枯渇しかけているが並の機体なんかよりも遥かに強い、そんなゲッターD2が押し込まれている。それを見て武蔵はゲッターザウルスは出来損ないではなく、ゲッターに匹敵する強大な力を持つ敵だと認めた。

 

「誰でもいい! 回収してくれッ!!!」

 

アンジュルグ・ノワールを片手で持ち上げ、キョウスケ達の方に投げ飛ばす。最初こそ救援を待とうとした武蔵だが、そんな悠長な事をいっていられる状況ではないと理解し、この戦いに巻き込まない為にアンジュルグ・ノワールを投げ飛ばしたのだ。

 

『っ! とっ! こっちは大丈夫だ! そっちに専念してくれ武蔵君ッ!』

 

投げ飛ばされたアンジュルグ・ノワールは武蔵と合流しようとしていたヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプGトロンベが何とか空中でキャッチし、エルザムの大丈夫だと言う声を聞いて武蔵は獰猛な笑みを浮かべた。

 

「頼みましたよ! エルザムさんッ! 行くぜぇッ! トカゲ野郎ッ!!!」

 

【キシャアアアッ!!】

 

アンジュルグ・ノワールとエキドナがいれば巻き込まないように立ち回る必要があったが、エルザムに回収されたのならばもう何の心配もないと武蔵は操縦桿を握り締め、ペダルをより強く踏み込んだ。

 

「うおらあああああッ!!!」

 

雄叫びと共に振るわれたダブルトマホークがダブルシュテルンを中ほどまで切り裂く、それを見たゲッターザウルスは地面を蹴り後方へ跳ぶと同時に口を開き火炎放射を放つ。

 

「ゲッタァアアアアッ! ビィィィイイイムッ!!!」

 

頭部から放たれたゲッタービームと火炎放射がぶつかり合い爆発し、ゲッターD2とゲッターザウルスの姿が煙の中へと消える。

 

「オープンゲットッ!!」

 

【ッ!!!】

 

煙を切り裂き6機のゲットマシンが姿を見せ、音速で飛行しながらゲッターチェンジの姿勢に入る。

 

「チェンジッ! ライガァァアアアアアーッ!!!」

 

【キシャアアアッ!!!】

 

眩い蒼い装甲を持つゲッターライガー2とどこと無くライガーに似ているが猫背で、鋭い爪を持つゲッターガリムが空中で合体を果たす。

 

「ドリルアームッ!!!」

 

【ウルルルアアアアアーッ!!!】

 

高速回転するドリルと鉤爪がぶつかり合い、凄まじい火花を散らす。互いに背部のブースターで空を飛び鍔迫り合いをするが力が互角と分かると互いに蹴りを放ち強引に距離を取る。

 

「ゲッタァアア――ビジョンッ!!!」

 

【ガオオオオオンッ!!!】

 

武蔵の雄叫びとゲッターガリムの雄叫びが重なり互いの姿が無数に分かれ、残像を交えた高速戦闘が海上で繰り広げられる。

 

「ライガーミサイルッ!!」

 

【シャアアッ!!!】

 

蕾のようなマニュピレーターアームから放たれたミサイルと腕から放たれた三日月状のブーメランがぶつかり合い大爆発を起す。

 

「チェーンアタックッ!!!」

 

その煙を突っ切って鎖で繋がられたマニュピレーターアームがゲッターガリム目掛けて放たれる。だがゲッターガリムは跳躍し、それを避けると鎖の上に乗りその上を恐ろしい速度でゲッターライガー2の元へと走る。

 

【キシャアアアッ!!!】

 

鉤爪を回転させドリルの様にし攻め立てるゲッターガリムとドリルで鍔迫り合いをしようとするゲッターライガー2の姿が同時に陽炎のように消え失せる。

 

「プラズマドリルハリケーンッ!!!」

 

【ガアアアアアッ!!!】

 

全く違う所から現れたゲッターライガー2のドリルが高速回転し、ゲッター線を伴った嵐をゲッターガリムに向かって放つとゲッターガリムも同じ様に腕を回転させ暴風を作り出し、2つの暴風がぶつかり合い凄まじいエネルギーを発生させる。

 

【キシャアアアアッ!?】

 

【ゴガアアアアッ!?】

 

嵐に巻き込まれ爆発していく百鬼獣。そして量産型Wナンバーズの乗るエルアインス達が一瞬で残骸となり爆破する。

 

『各員何かに掴まれッ!!』

 

『敵機もまともに動けません、まずは自分達の身を守る事を優先してくださいッ!』

 

シロガネとヒリュウ改からレフィーナとリーの指示が飛び、グルンガストや、ジガンスクード・ドゥロと言う特機に掴まってその暴風雨を凌ごうとしているが、キョウスケとアクセル、そしてウォーダンとゼンガーは異なっていた。

 

『『うぉおおおおおおッ!!!』』

 

『打ち貫くッ!!』

 

『やれる物ならばやってみろッ! これがなッ!』

 

少し間違えば自分たちもこの暴風に飲まれて死ぬのにも関わらずアルトアイゼン・ギーガ、ソウルゲインの戦いはより激しさを増していく……いや、むしろその風を味方につけていると言っても良いだろう。

 

「はッ!!!」

 

アクセルの裂帛の気合と共に繰り出されたソウルゲインの拳をあえてブースターやスラスターを落す事で、風に乗ってアルトアイゼン・ギーガは避け、上を取ると同時に再びブースターを全開にし、上空からの最大加速による強襲を仕掛ける。

 

「この距離獲ったぞッ!」

 

「そう簡単に俺の首を取れると思うなよッ!!」

 

リボルビングバンカーに向かい瓦礫を蹴り上げる。それは一瞬の盾にしかならないが、その一瞬でソウルゲインはアルトアイゼン・ギーガの射程から逃れ、再び間合いを取り直す。

 

「おおおッ!!!」

 

「でやああッ!!!」

 

そして再び加速し、風の影響などないと言わんばかりに紅と蒼の閃光はぶつかり合う。エクセレン達にとっては脅威であるゲッターライガー2とゲッターガリムの作り出した嵐を攻撃と守りその両方に使い、空中で巻き上げられた百鬼獣達を踏み台にし、縦横無尽の鋭角な軌道を繰り返し、激しい戦闘を繰り広げる。

 

「チェストォオオオオオッ!!!」

 

「ぬおおおお――ッ!!」

 

アルトアイゼン・ギーガとソウルゲインと異なる立ち回りをしているのはグルンガスト参式・タイプGとスレードゲルミルだ。特機もPTもお構い無しに巻き上げれる暴風の中、風の影響などないと言わんばかりにどっしりと構え凄まじい剣撃の応酬を続ける。

 

永遠とも思える暴風は実際はそれほど長くは無く、突如オープンゲットしたゲッターライガー2とゲッターガリムによって突然消え、はるか上空でゲッターポセイドン2とゲッターメガロンへと合体し地響きと共に着地した2機によって風の影響は完全に消え去っていた。

 

「うおらあああッ!!!」

 

【キシャアアアッ!!!】

 

武蔵とゲッターメガロンの凄まじい雄叫びと強固な装甲に拳を叩きつけあうことで発生する轟音と凄まじい振動、それと共に戦況も大きく変わろうとしていた。

 

『百鬼獣と量産機の数が減った! 勝負所だッ! アクセル達を捕らえるぞッ!』

 

『ちっ……流れが変わったな……』

 

ゲッターライガー2とゲッターガリムの作り出した暴風で百鬼獣と量産型Wナンバーズの操るエルアインス達は消えていた。そうなれば数で上回るハガネ達の方が圧倒的に有利という状況でアクセルが舌打ちした時――凄まじい豪雨が島へと降り注いだ。

 

『雨? ゲッターの影響?』

 

最初は巻き上げられていた海水が降り注いでいると誰もが思った。だがそれは間違っていた、雨が降り機体が濡れ始めると百鬼獣達もソウルゲインもアルトアイゼンもその動きが急速に鈍くなり始めた。

 

『なんだこれは!? 何が起きている!?』

 

『動力、システム共にダウンだと!?』

 

必要最低限の機能を残し、次々とシステムダウンする機体の中で龍虎王は膝をついて、それでも天を見上げ凄まじい唸り声を上げる。

 

『龍虎王、どうしたの何かいるの!? ブリット君』

 

『わ、分からない! どうしたんだ龍虎王ッ!』

 

『……いる! 雲の中だ! 何かでかいのがいるぞッ!!! 来るッ! 皆気をつけろッ!』

 

困惑するブリットとクスハの声を遮り、リュウセイがそう叫んだ時だった。雲の切れ間から巨大な蛇がその顔を見せたのは……。

 

『くふふふ、なるほどなるほど、お主中々やるのう……んふふふふ』

 

蛇の姿からは想像も出来ない妖艶な声が全員の脳裏に響いた。耳ではない、頭の中に直接蛇の声が響いたのだ。

 

『覚えてるぞ、この声……この姿……』

 

『超機人 共行王ッ!!』

 

サマ基地で戦っていたイルム達はその蛇が鯀鬼皇と饕餮鬼皇と同じ、悪の超機人である事を知っている。乱戦で疲弊している時に自分達を確実に仕留めに来たのかと誰もが身体を強張らせる。

 

「てめ……共行王。何しにきやがった……」

 

そんな中機体を軋ませながら立ち上がったポセイドン2から武蔵の声が響くと共行王はからんと笑った。

 

『んふふふ、そんなに警戒する事も無かろう? 何をしに来たかと問われればそうじゃなあ……手打ちにさせに来たとでも言おうかのう?』

 

その言葉と共にソウルゲイン、スレードゲルミル、そしてゲッターザウルスの身体を水球が包み込み上空へと持ち上げる。一瞬誰もが共行王の言葉の意味を理解出来ず硬直したが、人知を超えた力で上空に持ち上げられたソウルゲインから響いたアクセルの怒声で我に帰った。

 

『貴様何をする!』

 

『無粋な横槍を入れてくれるな! 共行王ッ!!!』

 

確かに窮地に立たされた事はアクセルもウォーダンも認めるところだ。だが永遠の闘争の世界を作ろうとしているのだ。戦いの中で死ぬ事は既に受け入れている……だからこそ共行王の横槍に2人は本気で怒っていたが、共行王はそんな2人の怒気と殺気を受け流し、飄々とした態度を崩さず、聞き分けの無い子供に言い聞かせるような口調で口を開いた。

 

『何をではない、このような狭く、詰まらない場所での決着など見ておって飽きた……ゆえに手打ちじゃ』

 

本来共行王はこの戦いに割り込むつもりは無かった。だが互いに因縁がある中、こんな無人のしかも狭い基地の中での決着など詰まらないと思いこうして顔を見せたのだ。

 

『てめ、ふざけんなよッ! 何様のつもりだッ!』

 

『何様と問われれば超機人であるとしか言えぬが……ここで私とも戦うかえ? 人間?』

 

紅い瞳が細められほんの僅かだけ共行王の放った殺気に共行王に噛み付いたカチーナはヒュっと息を呑んだ。文字通り蛇に睨まれた蛙状態のカチーナ達を見下ろしながら共行王は高らかに笑う。この場の生殺与奪の権利を持つ者は共行王に他ならず。もしも抗おうとすれば海上というこれ以上ないホームグランドに陣取っている共行王に抗う術などない……。

 

『箱舟の長よ、どうするえ? 私はどちらでも構わんぞ? 手打ちにするも……ここでお前達が死に絶えてもどちらでも良いぞ』

 

共行王の言葉で海面が盛り上がり、巨大な無数の槍が基地を覆いつくし。返答次第ではそれら全てがハガネ、ヒリュウ改、シロガネに向かって放たれる事は明白だった。

 

『何を勝手なことをッ!』

 

『やかましいぞ、小童。お前の命を賭ける場所はここか? ならばここで死ね。しかしそうではないのならば私に任せておけ』

 

命を賭ける戦場か? と共行王に問われたアクセルは言葉を呑んだ。確かにキョウスケはこの場にいる――だが己が命を賭けるに相応しい戦場か? と言われれば絶対に違うと言えた。そしてそれはウォーダンも同じであったし、そしてダイテツ達も同じだった。武蔵の救出は始まりであり終わりではない、そう考えればダイテツの返答は決まった。

 

『了解した。この場の戦いはこれで終わりだ』

 

『くふふふ、物分りが良いな、やはり人間はこれくらい素直の方が可愛げがあって良い。ではこの戦い、この私共行王が預かった。ではな』

 

その言葉と共に共行王達の姿は消え、残されたのはボロボロの基地と中破、あるいは大破したPT隊だけだった……。だがこの乱戦、ゲッターD2と互角の戦力を持つゲッターザウルス、ソウルゲインとアクセル、そしてスレードゲルミルとウォーダン――百鬼獣の群れと量産型Wナンバーズの大軍。それらと戦って全員生存かつ武蔵を救出する事も出来た……それだけで勝利と呼べるだろう。

 

『これよりハガネ、シロガネ、ヒリュウ改は着水する。その後救助部隊が向かうまで各員待機せよ』

 

ダイテツの命令に返事を返す気力は誰も無く、ほぼ機能停止している己の機体のパイロットシートに背中を預け深い溜め息を吐くのだった……。

 

 

 

 

 

共行王の放った雨でシステムダウンし、自力で機体から出る事が出来ないキョウスケ達がそれぞれの戦艦に戻るまでには2時間程時間が掛かった……だが完全にシステムダウンしていた事を考えれば2時間で外に出る事が出来れば完全に御の字であると言う事は全員が理解しており、むしろなんの問題も無く外に出れた段階で十分だと考えている節さえあった。

 

「ギリアム。ちゃんと説明してくれるのだな?」

 

「ええ、今話せる限りの全てをお話します」

 

アクセル達と再会した事が鍵だったのか、ギリアムが世界から話す事を禁じられていた物が話せる様になっていた。それもいつまで続くか判らないと言うこともあり、オペレーション・プランタジネットの前に、機体の修理で動けない間に話を整理し、全員で共用するべきだという話になったのだ。

 

「バリソンも話をしてくれるな?」

 

「ええ、それで信用してくれるのならば」

 

ラミアとエキドナが知らない話はバリソンから聞き、シャドウミラー隊、そしてあちら側の話を聞き対策とまでは言えないがあちら側で起きていた事はこちら側でも起きる可能性がある。それを事前につぶせるのならばと……あちら側の話を聞くべきだとダイテツ、レフィーナ、リーの3人が判断したのだ。

 

「どうした? ブリーフィングルームに集合の筈だが?」

 

ブリーフィングルームに続く道で人だかりが出来ているのに気付きギリアムがそう声を掛けると、列の外側にいたライが振り返った。

 

「いえ、その……とても不味い状況になっていまして」

 

「不味い状況? 何が起きていると言うんだ。通してくれ」

 

ギリアム、カーウァイ、バリソンの3人が人垣を抜けて騒動の中心へと向かい。絶句した……何故ならばエキドナがシャインにフルスイングのビンタを喰らい尻餅をついて倒れている所だったからだ……。

 

「……おい、武蔵。お前あれ止めて来いよ?」

 

瘴気染みた気配を纏っているシャインを見て、武蔵に止めて来いよとカチーナが言うが武蔵は首を左右に振った。

 

「え、無理。怖い」

 

だが武蔵は即答で無理、そして怖いと告げた。ミチルが激怒している時と似た様な雰囲気を纏っているシャインは武蔵から見ても恐ろしかったようだ。

 

「武蔵でも怖い物があったのか……」

 

「そりゃオイラでも怖い物くらいあるぞ……リュウセイよぉ」

 

恐怖を克服しているように見える武蔵だが、本気で怒っている女性は勿論苦手だしそれ以外にも怖い物は幾らでもある。だがそれを我慢して戦う術を身につけているだけであり、武蔵と言えど怖い物はあるし苦手な物だって存在している。

 

「いや、でも確かにあれは怖いと思うわよ……」

 

「確かにな……」

 

男性陣は勿論女性陣も怖いと感じるほどにシャインの威圧感は凄まじかった。笑顔だが、目が全く笑っていない。それが恐怖を呷り誰も近づけなかった、そしてエキドナもまさか年端も行かない少女のビンタで吹っ飛ぶと思っていなかったのか目を白黒させながらシャインを見つめていた。

 

「今ここで誓いなさい。もう決して武蔵様を裏切らないと……もしまた裏切ったら私が貴女を殺します。何をしても、どんな手段を使っても貴女を必ず殺します」

 

淡々としているがそれが逆にシャインの本気を物語っており、武蔵達からは背中しか見えないが……エキドナがマジ泣き一歩手前の表情をしており、周囲に助けを求めるような視線を向けているが誰もがそっと目をそらした。

 

「……返事は? それとも返事をしないと言うことはまだ裏切るつもりという事でしょうか?」

 

絶対零度の最後通告にエキドナは目に涙を浮かべ声を上げた。

 

「誓います。私はもう裏切りませんッ!」

 

「ならば許しましょうか……でも次はありませんよ?」

 

ゾッとするような冷たい声色に誰もが身震いした。天真爛漫な少女というのがシャインの印象だったが、その印象を全て塗りつぶす女帝のカリスマを見せ付けていた。後ついでに10代前半の少女に泣かされる20代前半の女性を見て何とも言えない表情を浮かべる者もいたが、自分が今のシャインの前にいたら同じ反応をすると思ったのかエキドナを笑う者はいなかった。

 

「エキドナの件は私がお預かりします。それでよろしいですね?」

 

誰も駄目とは言えなかった。シャインの言葉には絶対的な力があり、それを覆す事が出来る人間なんて誰もいなかったのだ。

 

「あ、武蔵様。ブリーフィングルームに参りましょう」

 

そしてシャインはというとエキドナの裏切らないという言葉と、誰も反論しないのに満足したのか武蔵の姿を探し、その姿を見つけると満面の笑みを浮かべて武蔵の元へと駆け寄った。

 

「え、あ……うん」

 

打って変わって明るい声色で武蔵の手を掴んで歩いていくシャイン――あまりに強烈な二面性に誰もが言葉を失った。二重人格とも受け取れる変わりように末恐ろしいなという声があちこちから上がるが、武蔵と一緒というのでシャインは満足しており、その言葉を右から左へと聞き流し鼻歌交じりで上機嫌で武蔵は困惑した素振りを見せながらもシャインと共に歩いて行き、その後姿をキョウスケ達は何とも言えない表情で見送る。

 

「武蔵愛されすぎてない? あれやばいわよ」

 

「……そうだな」

 

シャインの暗黒面を見たキョウスケ達はシャインの武蔵への執着を目の当たりにし、身震いしながらブリーフィングルームへと足を向けた。

 

「何をしてるエキドナ……?」

 

ビアンと連絡していた都合もあり最後にブリーフィングルームに向かっていたユーリアがへたり込んだままのエキドナにそう声を掛ける。

 

「た、立てない……腰が抜けた。ユーリア……手を貸してくれないか?」

 

シャインの迫力に腰が抜けた涙目でエキドナは這ってユーリアに近づき、手を貸してくれと告げた。

 

「……そこまでか?」

 

「インベーダーより恐ろしかった……」

 

ユーリアは呆れた様子で手を貸しながらどれくらい怖かったんだと尋ねるとエキドナはインベーダーより恐ろしかったと返事を返し、ユーリアは引き攣った表情のままエキドナを立ち上がらせブリーフィングルームへと向かうのだった……。

 

 

 

 

第154話 世界を流離う者 その1へ続く

 

 




今回はここまでですね。ゲッターザウルスを百鬼帝国が運用している事、そしてシャインだけどダークサイドに落ちてると、エキドナさんシャイン王女が怖くて泣くって言うところをメインにして見ました。次回はギリアムをメインに話を進めて行こうと思います、独自設定なども多くなると思いますが、次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第154話 世界を流離う者 その1

第154話 世界を流離う者 その1

 

ハガネ、ヒリュウ改、シロガネ、そしてクロガネの4つの戦艦のブリーフィングルームが通信で繋げられる。本来はリスクがありできない衛星通信を用いた通信方法だが、ビアンは堂々とこの会議に参加していた。

 

「本当に大丈夫なのか? ビアン」

 

『問題はない、ゲッター線の応用だ。5日ほど徹夜している時に閃いてな』

 

「また原住民ダンスしてたんですか? ビアンさん」

 

『ずんどこさ踊っていたな。リリー中佐に頭を殴られた所までは覚えている』

 

なにしてるんだクロガネのクルーはと誰もが天を仰いだ。

 

「原住民ダンスって何?」

 

「なんか開発した物の周りを踊ってる時あるんですよビアンさん。後クロガネの開発チームも」

 

「……あ、それ知ってる。ヴァルシオーネが出来た時も親父同じ事してた」

 

徹夜の弊害と疲労によるハイな状態――ある意味父親の黒歴史にリューネは顔を真っ赤にしていた。

 

「……フィリオもしてたよね?」

 

「……そうね」

 

「……俺の親父もだな……」

 

そしてビアンの奇行はフィリオとジョナサンもしており、それを思い出したツグミ、アイビス、イルムも何とも言えない表情を浮かべる。ちなみにこの場にスレイがいても恐らく同じ反応をしていたと思われる。

 

『こほん、ダイテツ中佐。ビアン博士、話がそれています』

 

「む、そうだな」

 

『すまないな、リー中佐』

 

リーの咳払いと注意の言葉にダイテツとビアンは苦笑いを浮かべ、ハガネのブリーフィングルームの中心にいるラミア、エキドナ、バリソンの3人にその視線を向けた。

 

「……カーウァイ大佐達が言った事は正しかったようだな、ラミア・ラヴレス」

 

確かにラミアとエキドナは裏切りはした。だが百鬼獣、シャドウミラーとの戦いで己の身の潔白を証明した。その事はレフィーナ、リーも認める所であり、勿論キョウスケ達も同じだった。

 

「……私達を信じて下さった事に感謝しています」

 

「本当に申し訳無い事をしたと思っています」

 

ラミアとエキドナは謝罪と感謝の言葉を口にするが、バリソンはシャドウミラーを裏切ったばかりであり、その上この中の面子に知り合いもいないので、口を開くことは無く直立不動で静止していた。

 

「では、 ここにいる皆に真実を話して貰おう、ギリアム少佐、イングラム少佐も話に参加して貰うぞ」

 

「構いません、俺もそのつもりです」

 

「俺もだ。1度情報を整理する必要があるからな」

 

ラミア、エキドナ、バリソン。そしてイングラムとギリアムが知る世界の話――4隻の戦艦のブリーフィングルームには重い緊張感があった。

 

『誰から話をするのですか?』

 

「まずは俺だ。レフィーナ中佐、話が拗れるから基本的なことを皆に理解して貰おうと思う」

 

ギリアムが手を上げブリーフィングルームのPCを操作する。

 

「まずはだが……ゼンガー達はあの戦いの中で俺の話を覚えているか?」

 

ギリアムの問いかけにヒリュウ改のブリーフィングルームのゼンガーが口を開いた。

 

『世界が崩壊すると言っていたな。それとお前もまたこの世界の住人ではないとも』

 

世界の崩壊、そしてギリアムもこの世界の住人ではないという言葉にブリーフィングルームに異様な雰囲気が広がった。

 

「その通りだ。まずだが……俺は本来はこの世界の住人ではないし、ラミア達の世界の住人でもない。世界とは無数の姿を持ち、その中の1つからラミア達の世界に流れ着き、そしてこの世界に定住する事になった者だ」

 

ギリアムはそう言うとコンソールを操作し、複数の球体をモニターへ映し出す。

 

「まずはラミア達のいた世界をAと呼称する。そして俺のいた世界をB、武蔵のいた世界をC、イングラムのいた世界をD、そして今のこの世界をEとしよう。それらは本来交わる事は無く、その世界で完結している。だがなんらかのイレギュラーによって……俺はまずAへと跳ばされた、そしてそこでBの世界へ帰ろうとしある機械を開発した。これはラミア達も知っているだろう?」

 

「システムXN――空間・次元転移装置の事ですね? 2基存在しそれぞれアギュイエウス、リュケイオスと呼称された時空転移装置の開発者がギリアム少佐でしたね」

 

ギリアムが開発した時空転移システムが存在していると言う言葉に誰もが目を見開いた。この世界の住人ではないという事にも驚かされていたが、時空転移システムまでも開発していたと言うギリアムに誰もが驚いていた。

 

「その通りだ。俺はなんとしても元の世界に帰りたかった……だがそれは許されない罰だった」

 

「当たり前だ。世界を超えるということは世界を壊すことに繋がる、本来ならば俺はお前を殺さなければならない、因果律の番人……タイムダイバーの使命としてな」

 

「そうならなかったことに俺は感謝しているがな」

 

イングラムから告げられた言葉にブリーフィングルームはますます混乱を深める事となった。当事者達は理解しているが、周りの人間――キョウスケ達は勿論ラミア達も困惑しており、分かったのはイングラムとギリアムだけが分かる何かという事だけだった。

 

「教官、前も言ってたけど因果律の番人ってなんなんだ?」

 

「世界とそこに属するモノを『こういう原因でこういう結果になっている』と規定しているルールのようなものとでも言おうか……不可逆の原因と結果であり、それは本来決して覆る事はない。しかし極稀にその因果を乱す者がいる、それを抹殺し世界を正常な状態に戻す……それが因果律の番人であり、タイムダイバーの使命と言ってもいい。L5戦役で俺が呼び出したアストラナガン、あれは世界を越える事が出来る意志ある機動兵器であり、俺の半身と言えるな」

 

あまりにもオカルト、そして理解を超えた話だ。だがイングラムもギリアムも真顔で語っており、それが真実であると言う事を現していた。

 

「だがその不可逆の因果を越えて世界を修正することが出来る者もいる――それがゲッター線であり、ゲッターロボ。そして武蔵だ」

 

「え? オイラですか? でもそんなのオイラは知りませんよ?」

 

話を振られた武蔵は知らないと言わんばかりに手を振る。因果律の番人やギリアムの話もまるで理解出来ていないのに当事者にされては困ると武蔵は慌てるが、ギリアムとイングラムは小さく笑うだけだった。

 

「まだそこまで至っていないと言う事だ。だがゲッター線は世界を変える力――いや固定すると言ってもいい、例えるのならば満杯の箱を外側から紐で縛り、無理やり形を固定していると言っても良いな」

 

『……それがバランサーという事か、武蔵とゲッターがいれば異物が世界を超えてやって来ても世界は崩壊しないと言うことか?』

 

「大まかに言えばそうなります。ですがそれも絶対ではない、だからこそシャドウミラーの行なおうとしているアギュイエウス、リュケイオスの扉を開く事は阻止しなければならないのです。扉を開き、世界の因果が混ざれば何が起きるか判らない平行世界が1つになる、それによって存在が消え去る者、死んでしまうものもいるのだから……」

 

扉が開く事で消え去る者、死ぬものがいるかもしれないという言葉にヒュっと息を呑む音が響くのだった……。

 

 

 

 

世界を超える扉が開く事で存在が消える者、死ぬ者がいる。その言葉の意味を正しく理解出来ている者はこの場にはイングラムとギリアムの2人しかいなかっただろう。

 

『どういう意味なのですか? ギリアム少佐』

 

「A~Eの世界があると言っただろう? その世界にはその世界の歴史がある。そしてその歴史の中でAの世界では死んでいるが、Cの世界では生きている、その逆もあるが……世界を超える扉が開けばどちらかに塗りつぶされる。死者は生者となり、生者は死者となる――極論ではあるがその可能性は0ではない……ラミア、エキドナ、それにバリソン。お前達はこの世界の事を調べているだろう? お前達の知る中で自分達の世界と最も違う事を話してくれないか?」

 

ギリアムの言葉にラミア達は少し迷う素振りを見せたが、互いに頷きあい意を決した表情で口を開いた。

 

「……新西暦160年代から盛んになった、スペースコロニーの独立自治権獲得運動、NID4……それは地球政府とコロニーの間に大きな確執を生み出し、コロニーの台頭を恐れた地球連邦政府はNID4を弾圧……連邦とコロニーの対立は激化し、ついには機動兵器を使用したテロ事件が数多く発生……世界は混乱に包まれた。そして、ある事件によりコロニーの命運は大きく変わる事になる……」

 

「ありゃひでえ争いだったな……コロニーの住人は宇宙人だ、皆殺しだって政府の発表が合った時は俺も驚いたぜ」

 

あまりにも凄惨な過去、そしてコロニーの弾圧、コロニーの住人の抹殺――その2つのキーワードはエルザム達にある事件を連想させた。

 

『それはまさかエルピスで起きた?』

 

自分の妻を失った事件の事、そしてその首謀者の事を思い出したのか声が震えているエルザムの問いかけにラミア達は沈鬱そうに頷いた。

 

「はい。 地球至上主義のテロリストがスペースコロニー・エルピスへ潜入……内部で毒ガスを使用し、住人の大半を死に至らしめた事件です」

 

「馬鹿なッ! あの事件はそんな結末ではッ!」

 

「落ち着け、ライ。言っただろう? IFの世界、もしもの可能性の話だ」

 

思わず声を荒げたライにイングラムが落ち着けと言いながらその肩を掴んで椅子へと座らせる。

 

「コロニーは壊滅し、夥しい死者が出た。その中には……連邦宇宙軍総司令官……マイヤー・V・ブランシュタイン。そしてその長男エルザム、彼の妻だったカトライアに加え、次男ライディース。ブランシュタイン家を初めとするコロニーの名家と言われる一族の生まれは皆死んだ。それによってコロニーは独立する事が出来ず、連邦にしたがって家畜の様に生きるか、宇宙人としてコロニーに核ミサイルを打ち込まれて死ぬかの二択を強いられることになった」

 

『私だけではなく……ライディースまでも死んだというのか!?』

 

『なんという事だ……信じられん……』

 

「核ミサイルでコロニーを消し飛ばしたというのか……」

 

「信じらんねえ……って言えれば良かったんだけどな……一時期は確かにそういう動きがあったのも確かだな」

 

エルザムだけではなくライも死亡し、コロニーは独立出来ず服従か死かを迫られたと聞いて誰もが絶句した。

 

『バリソンだったな、生存者で連邦軍に属した者はいるのか?』

 

リーの問いかけにバリソンは自分達の世界とこの世界の違いと前置きした上でリーの問いかけに答えた。

 

「俺の知ってる限りではカーウァイ少将とテンペスト中佐、それとSRXチームのレオナ・ガーシュタイン中尉くらいだな」

 

「わ、私がSRXチームにッ!?」

 

「う、嘘だろ!? なんでレオナちゃんがッ!?」

 

レオナがSRXチームに所属していたというバリソンの言葉にレオナとタスクが声を上げた。

 

「そっちは驚くかもしれないが、俺だって驚いてるんだぜ? 鋼の戦神SRXは俺達の世界じゃ絶対の守護神だった。リュウセイ・ダテ、レオナ・ガーシュタイン、マイ・コバヤシとラトゥーニ・スゥボータ。俺達にとってSRXチームと言えばこの4人だ」

 

平行世界、異なる歴史を歩んだ世界という事は聞いていた、だがあまりにも自分達とは異なっていた。

 

「アヤは!? アヤはどうなったんだよ!」

 

「アヤ……? ああ、アヤ司令官か」

 

「司令官!? 私が!?」

 

バリソンの司令官という言葉にアヤが声を上げ、その声に視線を向けたバリソンは目を見開いた。

 

「は? 若ッ!? 嘘だろッ!? 俺の知ってるアヤ司令はもっとババ……ふぐっ!?」

 

婆と言い掛けたバリソンにアヤの投げたコップが直撃し、バリソンは泡を吹いてひっくり返った。

 

「……ラミアさん、エキドナさん? どういうことか説明してくれるかしら?」

 

圧倒的な威圧感を放つアヤにラミアは震え、シャインを思い出したエキドナは再び腰を抜かしていた。

 

「えっと……確かアヤ司令は念動力の過剰使用で年齢以上に老け込んでいたといたとか、アヤと名乗る複数の人物がいたともあって詳しい事は分かりませんが、少なくとも私は若いアヤ司令と年老いたアヤ司令の2人を知っています」

 

『アヤ大尉の名前を名乗って何がしたかったんでしょうか?』

 

『……分からんがある意味象徴だったのかもしれんな……』

 

複数人いるアヤの名を名乗る人物――武蔵の話によればラミア達の世界はインベーダーとアインストが闊歩し、人の拠り所が必要だったのかもしれない、それがアヤを名乗る複数の人物の正体だったかもしれないが……ラミア達は詳しい話を知らないので憶測へとなる。

 

『ふむ……では君達の世界の私はどうなっている? やはり死んでいるのかね?』

 

ビアンの問いかけにラミアが返事を返そうとしたが、エキドナがその手を掴んで止める。それは自分が説明すると言うエキドナの意思表示であり、ラミアはその意志を尊重しビアンの事についてはエキドナに任せる事にした。

 

「ビアン博士……はい、ビアン・ゾルダーク博士はDCを結成し、連邦に反対するコロニーの住人と共に戦争を起こし、連邦軍は苦戦の末

ビアン博士を打ち倒し勝利を収めました……」

 

『なるほど……違う事もあるが似たような出来事もあると言うことか……その後はどうなったのだね? エキドナ』

 

続きを聞かせてくれと促すビアンにエキドナは分かりましたと返事を返し、自分達の世界のビアンの話を続ける。

 

「ビアン博士がDC戦争中に開示した異星人の侵略の可能性、そしてその脅威を重く見た連邦軍は地球圏防衛の為、大幅な軍備増強を敢行しその結果、 多種多様な機動兵器が開発される事となりました」

 

多種多様な機動兵器――エキドナの言葉を聞いていた全員の脳裏を過ぎったのはPTでもAMでもない、シャドウミラーが運用する無数の機動兵器の姿だった。

 

「もしかしてあの紅い戦車とか、インベーダーに寄生されてたけど、ソウルゲインに似てるのも軍備増強計画で作られたのかしら? エキドナちゃん」

 

今まで戦ってきた正体不明の機動兵器が異なる世界の軍備増強で作られたのか? と問いかけるエクセレンにエキドナが視線を向け硬直した。

 

「エキドナちゃんって嫌?」

 

「あ、いえ、お好きに呼んでいただいて結構です。まずはZ&R社の ヴァルキュリアシリーズ、 FI社のアサルト・ドラグーン……イスルギ重工のリオンシリーズ、 テスラ研のEGシリーズのアースゲインとマオ社のパーソナルトルーパーなどになります」

 

ちゃん付けが嫌だった? と尋ねるエクセレンに我に帰ったエキドナはDC戦争後に機動兵器を開発したメーカーとその代表と言える機体を次々口にする。

 

「……あの髭男、テスラ研製だったのか……コウキ、アースゲインとかって開発されてるのか?」

 

『いや、俺の知る限りではない。プロジェクトTDとグルンガスト参式がテスラ研で今開発されている機体だな』

 

「やはり世界が違うというのはこういうところか……納得だな」

 

自分達の世界で開発されている機体、そして平行世界で開発されている機体――機動兵器というカテゴライズでは同じだが、その経緯は全く異なっている。

 

『今調べましたけど、Z&R社では機動兵器は開発されておらず、FI社はそもそも存在していませんね』

 

『倒産してどこかの会社に併合されたが兵器の開発からは手を引いているな』

 

レフィーナとリーが会社名で調べた結果を口にするが、そもそも機動兵器が開発されていない、あるいは会社自身が存在していないと教えられた。

 

「なるほどな……道理で機体データが無い訳だ。連邦軍が主力としたのはやはりゲシュペンスト・MK-Ⅲなのか?」

 

テツヤがそう問いかけるとエキドナとラミアは何とも言えない表情を浮かべる。

 

「違うのか? やはりリオンシリーズなのか?」

 

その反応を見て違ったのか? と問いかけるテツヤ。ラドラの開発したリバイブが無ければ、ゲシュペンスト・MK-ⅡもMK-Ⅲ製造されることが無かった。もしかするとラドラがおらず、製造されなかったのかとテツヤは感じたのだが、ラミアとエキドナの話は想像の斜め上を行っていた。

 

「この世界のゲシュペンスト・MK-Ⅲと私達の世界のゲシュペンスト・MK-Ⅲは全くの別物です」

 

「こちらの世界のゲシュペンスト・MK-Ⅲの方が私達の世界の物よりもっと強く、汎用性が秀でています」

 

同じ名称の兵器はあるが、全く性能が違うと言われ話を聞いていた全員が何故と首を傾げるのだった……。

 

 

 

エキドナのDコンのデータがブリーフィングルームのモニターに映し出され、そのカタログスペックを見ていたキョウスケ達はラミア達の微妙な表情の理由を知った。

 

『ラルトス。マオ社のスタッフだったお前に聞くが、これはどうだ?』

 

「んー弱いネ、マリーシショーもいうヨ。全然駄目ってネ」

 

「確かにな、やはり開発チームの違いか……」

 

同じゲシュペンスト・MK-Ⅲの名を関しているがカタログスペックの半分も届いていない。

 

『カイ少佐やギリアム少佐のゲシュペンスト・リバイブ、そしてフライトユニットの開発も無かったので、恐らくそれが原因かと思います』

 

「なるほど……リバイブとシグの開発データは大きかったからな、それがあると無しでは雲泥の差があるか……」

 

「納得したヨー」

 

開発者として何故ゲシュペンスト・MK-Ⅲにここまでの差があったのか、それがリバイブとシグの有無だと知りコウキとラルトスは納得したと揃って頷いた。

 

「じゃア。あの沢山のゲシュペンスト・MK-Ⅱはどれくらい製造されたのかナ?」

 

倒しても倒してもすぐ現れるテスラドライブ搭載型のゲシュペンスト・MK-Ⅱ。向こう側で作られたのは判ったが、何機ほど製造されたのか? とラルトスがラミアへと問いかける。

 

『……初期ロットで3000機。インベーダーとアインスト出現時に更に3000機製造されたと聞いています』

 

合わせて6000機も製造されていたと聞き誰もが驚きに声を上げた。

 

『キョウスケ、こっちのMK-Ⅱってどれくらい製造されてた?』

 

『……確かL5戦役の前に急ピッチで製造されて200機前後だった筈だが……』

 

「んー正しくは199、試作型で21で220機ヨ、キョウスケ中尉」

 

マオ社のスタッフであるラルトスが詳しい数を言うが、それでも6000機製造されていたラミア達の世界とは根本的な数が違いすぎていた。

 

「ラミア、お前達に聞きたいんだが、あの量産型SRXとやらは何時ごろ製造されたんだ?」

 

インベーダーに寄生され恐ろしい脅威として立ち塞がったメタルビースト・SRX。コウキが何時ごろ製造されたのか? と問いかける。

 

『確かにな、こっちだとSRXの量産なんて考えられる状況じゃないしな……』

 

『俺もそれは気になっていた。武蔵の話ではエアロゲイターではなく、先にインスペクターが出現したのだろう? 動力はトロニウムではないのか?』

 

『……普通に考えればそうよね』

 

SRXチームがずっと抱えていた疑問――どうやって量産型SRXを作ったのか、そしてメテオ3が落ちていないのにどうやってトロニウムを手にしたのか? という質問に話を聞いていたコウキは自分が聞こうとしていた事だったので好都合と言わんばかりの笑みを浮かべて手帳とペンを手に取った。何か今後の開発の手助けになるかと思ったからだ、だがラミアとエキドナの返答はコウキにとって想定外の物だった。

 

『データ上ではオリジナルのSRXの動力はトロニウムの筈です。ただ量産型SRXの動力は不明です』

 

「分からないだと? どういうことだ」

 

『分からないとしか言いようがないんです。ビアン博士の警告通り侵略活動を始めた異星人との戦いに投入する為に何度か開発・中断を繰り返し、最終的にはロールアウトし、人類の守護神、鋼の戦神と言われるほどの戦果を上げ続け、量産型SRXの製造にも踏み切りましたが、その動力は不明のままです……ただ、SRXの完成には虚空から現れた半壊したSRXが関係していると言う話です』

 

SRXの完成に関係している半壊したSRX――ラミアの言葉を聞いて、全員が弾かれたように武蔵へと視線を向けた。

 

『おう、多分旧西暦でオイラ達がぶっ飛ばしたメタルビースト・SRXがエキドナさん達の世界に流れ着いたんだと思う、確かそうですよね? イングラムさん』

 

『ああ、まず間違いない。卵が先か、鶏が先かという話になるが……ラミア達の世界は旧西暦で倒された量産型SRXを元にSRXが開発され、そしてSRXの完成によって量産型SRXが作られた。どちらが先か、あとかなんて事は関係のない世界なのだろうな……』

 

あまりにも複雑な因果関係であり、その全てを理解する事は出来ず憶測となるが少なくともラミア達の世界でSRXが誕生したのは、旧西暦での戦いが原因であると言うことは判った。

 

「ん? 待ってくれ、メタルビースト・SRXがラミアさん達の世界に来たんですよね?」

 

『あ、ああ。そうなると思うが……それがどうかしたのか? アラド』

 

「いや……インベーダーって少しでも増えるんですよね? 武蔵さん」

 

『まぁ基本的にはそうなると思うぜ?』

 

「……ラミアさん達の世界でインベーダーが出現したのって量産型SRXが原因なんじゃ」

 

アラドがそう尋ねるとアヤにコップを投げられて昏倒していたバリソンがゆっくりと身体を起こして違うと断言した。

 

『そいつは違うぞ、坊主。確かにメタルビースト・SRXにはインベーダーはいたかもしれねえ、だが俺達の世界でインベーダーが増えたのはイージスシステムの暴走で発生した亜空間からインベーダーが出現したのが原因だ』

 

イージスシステム――それはこの世界でも今開発されている地球を守る為のシステム。平行世界の地球が滅びる原因となったシステム……。

 

「レフィーナ艦長。イージス計画は」

 

「今も続行されている筈です」

 

『続行されているぞ、レフィーナ中佐。上層部の一部はそれだけが地球を守る術だと思っているからな……だがもし計画が実行される事になれば……』

 

『我々の世界もラミア達の世界のように再びインベーダーの侵略を受ける可能性があると言うことか……』

 

確かに平行世界と言う事で同じ事が起きるとは言い切れない、だがそれでも同じ様な出来事が起きているのも事実――イージス計画がラミア達の世界のように自分達の世界を滅ぼす切っ掛けになるかもしれない。その可能性を知りエクセレン達は言葉を失う事になったが、その中でキョウスケだけは違っていた。

 

『イージス計画の危険性は十分に分かった。だが俺にはそれよりも気になっている事がある』

 

『キョウスケ中尉……それはやはり』

 

キョウスケの真剣な表情と重い声色にラミアはキョウスケが何をしりたいと思っているのかそれを即座に感じ取った。

 

『ベーオウルフ……お前達の世界のアインストに寄生された俺が何をしたのか、そして何故アクセル達が俺を憎むのか、それを教えてくれラミア』

 

武蔵達から話は聞いている、だが武蔵達が知るのはアインストに寄生された後の自分の事ばかりだ。何があったのか、そして何故自分をここまで危惧するのかそれを教えてくれと言うキョウスケにラミアとエキドナは躊躇いを見せたがバリソンは違った。ラミアとエキドナはデータとしては知っているが、詳しくは知らず何があったのか全容を知るのはバリソンだけだった。

 

『長くなるぜ、ベーオウルフ』

 

当事者であり、そしてキョウスケを憎む者の1人――その瞳に込められた殺気と憎悪。それを感じ取った上でキョウスケはバリソンの瞳を見つめ返した。

 

『構わない教えてくれ、俺はそれを知らなければならない』

 

自分の本気の殺気を耐え、そして揺らぐ事のない強い決意を込めた視線を向けられバリソンは満足したように頷いた。

 

『OK、分かったぜ。ただし……後悔すんなよ』

 

ベーオウルフ、そしてウルブズ……武蔵達が現れる前の自分達の世界をバリソンはゆっくり話し始める。だがそれはキョウスケ達の予想を遥かに上回るおぞましい話なのだった……。

 

 

 

第155話 世界を流離う者 その2へ続く

 

 

 




私の頭脳ではイングラムとギリアムの話は無理でした……IQが足りなかったのかもしれないですが、これが限界でした。

平行世界の話はやはりあまりにも難しかったですね……要勉強です。次回は過去捏造のベーオウルブズの話を書いて見たいと思います。
それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第155話 世界を流離う者 その2

 

第155話 世界を流離う者 その2

 

ラミアとエキドナが記録としてしか知らない平行世界の話――アクセル達が何故キョウスケを危険視するのか、そして自分達の世界でも起きうる事件――今まで謎だった事が明かされる……ブリーフィングルームには異様な雰囲気が広がっていた。

 

「まずはどこから話そうか……やっぱりあれだな、インスペクター事件が1番最初だな。俺達の地球に1番最初に攻め込んできたのはヴィガジ、メキボス、シカログ、アギーハの4人だった。ここはお前達の世界と大差は無いが、俺達の世界にはエアロゲイターが攻め込んで来ていないから、あいつらは殆ど無抵抗のコロニーを拠点にしていた」

 

「コロニーをか? 統合軍はなかった筈だが、連邦軍はいたのだろう? そんなにも簡単に制圧されたのか?」

 

コロニーを拠点にしていたと言うバリソンの言葉に統合軍はいなかったとしても連邦軍はどうした? とカーウァイが問いかける。

 

「簡単ですよ、カーウァイ隊長。連邦軍は確かにいましたが兵器は旧式でPTもAMもなく、ランゼンで攻め込んでくるインスペクターの大群を押さえれる訳が無い。それにもっと言えば俺達の地球は徹底した地球至上主義が横行していて重すぎる税金、それにありえないほどに高い物価、コロニー出身ってだけで出世も出来ず飼い殺し、そんな状況で地球に攻め込んでくる異星人を食い止めようなんて思う軍人はいないですよ」

 

バリソンの語るコロニーの扱い、そして地球の情勢を聞いてキョウスケ達は思わず眉を顰めた。

 

「そこまでか?」

 

「まぁ……ありえなくはないけどよ……」

 

「信じがたいな……」

 

「言っておくが、嘘じゃないぞ? エルピス事件で指導者と呼べる人間が全滅したからな。連邦と交渉出来る人間がいなければ、圧制を覆そうと立ち上がる者もいなかった……こんな事を言うのはなんだと思うが……俺達の世界のコロニーはただの地球に住む人間の植民地だった。だから宇宙を守るように命じられていた連邦軍の大半はほぼほぼ無条件降伏を選んだ。インスペクターに支配されても、地球人に支配されても大差ないからな。むしろ技術者などが多かったコロニーはインスペクターに重宝されて安定した生活が出来る者もいたくらいだし、むしろ地球を滅ぼしてくれるならと協力した者もいたくらいだ」

 

マイヤーがいないことで統合軍が結成されず、そして地球の圧制や不平等な条約を覆せる知識人もいない、あまりにもコロニーに住む人間を蔑んだ結果がコロニーの住人のインスペクターへの協力であった。

 

「コロニーの技術の多くを得たインスペクターは地球へ侵攻し、地球の都市部の多くはほぼほぼ一瞬で制圧された。まぁ当然だ、地球の重鎮の集まっている場所、軍の中枢をコロニーの住人から聞いていたんだ。しかも重要拠点の多くの防衛システムはコロニーのエンジニアが作成していたから機能せずって所だ」

 

もしもの世界ではあるが、あまりにも酷い連邦上層部の話にブリーフィングルームにいる誰もが言葉を失った。侵略者であるインスペクターに協力しても良いと思うほどに抑圧されていたコロニーの住人達、世界は違えどコロニー出身であるライ達は目を伏せ沈鬱そうな表情を浮かべる。

 

「地球はインスペクターに支配され、軍人の多くが死んだ。それでも地球を守ろうとする意志を持つ者は地に潜りインスペクターに反撃する事を諦めなかった。それがシャドウミラーの原型、当時大尉だったカーウァイ隊長が率いた義勇部隊だ」

 

永遠の闘争の世界が理想世界だと言うシャドウミラーが最初は地球を守るために立ち上がった義勇部隊と聞いて、カチーナ達は驚いた表情を浮かべた。

 

「シャドウミラーは永遠の闘争の世界を作りたかったじゃねえのか?」

 

「本当なのですか? バリソン少佐」

 

「我々はそんな話を知りませんが……」

 

ラミアとエキドナも信じられないという表情で尋ねるが、バリソンは真実だと言い切った。

 

「それも詳しく説明するがまずはインスペクター事件からだ。最初はたった数体の廃棄される寸前のゲシュペンストから始まり、修理や改造を繰り返し、それこそインスペクターの機動兵器を奪い自分達の機体を改造し、少しずつ勢力圏を取り返しインスペクターに運用されていたハガネとヒリュウを奪い返してからは味方も増えてきた」

 

「ハガネがインスペクターに奪われたのか?」

 

『ヒリュウ改もですか?』

 

自分達の母艦までインスペクターに奪われていたと聞きブリーフィングルームにざわめきが広がる…ダイテツとレフィーナも信じられないという様子でバリソンに詳細を聞かせてくれと問いかける。

 

「ああ、奪われたというよりかは上層部が生き残る為にインスペクターに献上したんだ。まぁそれを隠したいから勇敢に戦ったとか言ってたけどな。ああ、言っておくが艦長は全員違うからな」

 

平行世界の自分達がそんな愚かな事をしたのかと深刻そうな顔をしているダイテツ達に違うと声を掛け、バリソンは話を続ける。

 

「テスラ研を奪還してから俺達は破竹の勢いでインスペクターを宇宙まで押し返すことに成功し、最終決戦に挑む為に数多の最新機が作成された。その中でも俺達のフラグシップとして、そして最高の機体と言われたのはインスペクターの指揮官機を全て単独で撃破した英雄機ゲシュペンスト・タイプS、そしてカーウァイ隊長の活躍によってインスペクター軍は撤退し、地球を取り返した俺達は英雄部隊と言われることになった。地球やコロニーの鍔迫り合いとかもあったし、散発的だが異星人の襲撃もあったが、その都度俺達は取り戻した平和を維持しようと戦った。その中で軍備強化やコロニーの地位向上もあってな、俺達の戦いは無駄じゃなかったってアクセルや、ヴィンデルの奴と良く話したもんさ」

 

誇らしげに、いや実際に誇らしいのだろうバリソンの顔は輝いていたが、それもすぐに曇る。

 

「だがそれは何時までも続かなかった。僅かに生き残った議員や連邦の上層部はコロニー出身のカーウァイ隊長が少将の地位になったこと、そして異星人の襲撃を防ぐ度に多くの民間人上がりを抱えながら英雄と言われる俺達を疎ましく思い始めイージス計画を実行に移した。地球をバリアで覆い、異星人の襲撃を防ぐという目的で数多くの賛同を得た計画だったが……開発の途中で謎の生物が出現するようになった」

 

「……インベーダーか」

 

口ごもったバリソンの言葉を継いで武蔵がインベーダーの名前を口にするとバリソンは頷いた。

 

「その通りだぜ武蔵。インベーダーに続き、アインストも出現し再び地球は騒乱に包まれた。上層部はイージスシステムさえ起動すれば化け物はいなくなるとして計画をゴリ押しした。だがそのイージスシステムがインベーダーやアインストを呼び寄せている事が分かったんだ。俺は学がないから分からんが、高エネルギーによる時空の歪みとかどうとか……」

 

バリソンのふわふわした説明にビアン達は顎の下に手を置いてふむと呟いた。

 

「考えられるのはエネルギーの方向性の違いか?」

 

「それもありますが、アインストに寄生されたキョウスケという線も捨て切れませんね」

 

「確かに、アインストのコアのエネルギーは凄まじい物だ、それがイージスシステムに影響を与えた可能性は高いな」

 

何故イージスシステムでアインストとインベーダーが出現したのか、その理由を考察し始めるビアン達の姿にバリソンは咳払いをした。

 

「おっと失礼、話を続けてくれ」

 

「ああ、イージスシステムについてはまた後であんた達で考えてくれ。話を戻すが、俺達はイージスシステムの起動を止めようと俺達はしたんだが……上層部はそれを認めず、俺達が戦争を続ける為にイージスシステムを狂わせたと言い出した」

 

バリソンはそう言うと肩を震わせ、拳を硬く握り締めた。

 

「馬鹿な奴らだ、俺達にそんな事が出来るわけもねぇ。だが俺達を面白く思っていない上層部によって情報を改変され、俺達がイージスシステムを狂わせたというのが広がってシャドウミラー隊は解散を命じられ、カーウァイ隊長はクーデターを起こしイージス計画を止めようとした。俺達はベーオウルフが何かを宇宙に向けて放出してる姿と、それによって出現するアインストとインベーダーの大群を見たが、ベーオウルフを倒すよりもイージスシステムを破壊し、上層部を一掃、その後全勢力をつぎ込んでベーオウルフの撃破が最も成功率が高いと踏んだんだが……結局は失敗しちまった」

 

クーデターを起そうとしたと聞いてキョウスケ達は信じられないと言う顔をしたが、カイ達はむしろ納得という表情を浮かべた。

 

「なんで驚かないの? ギリアム少佐達は」

 

「俺達は知っているからな」

 

「カーウァイ大佐ならそうする」

 

「うむ」

 

「最終手段として踏み切るだろう」

 

『むしろゲシュペンストの開発の段階からそんな感じだったぞ』

 

「……お前達は私をなんだと思っている?」

 

理知的に見えるカーウァイだが、実際の所は知略と軍略に長けたバーサーカーと言うのはゼンガー達の年代の軍人には広く知られていたりする。

 

「クーデターとかはしないと言うのならば、話は変わるが……」

 

「同じ状況になったのなら選択肢に入れる」

 

「諦めろ、こいつも武蔵の同類だ。覚悟完了してるからとんでもない行動に出る大馬鹿野郎だ」

 

イングラムが武蔵とカーウァイを指差して言うが、武蔵とカーウァイは不満げな表情を浮かべる、

 

「オイラもですか?」

 

「酷い言われようだと思わないか?」

 

「思いますよ。オイラとカーウァイさんが何をしたって言うんですか……」

 

何をしたと嘆く武蔵だが、覚悟完了しているととんでもない暴挙に出る人間が何を言っていると完全にスルーされた。

 

「情報操作や、世論の締め付けを受けていてな。正当な方法で覆すというのは不可能だった。だからこそのクーデターだったが……キョウスケ・ナンブ率いるベーオウルブズを初めとしたウルブズによって失敗し、カーウァイ隊長は投獄され、見せしめの意味もあり銃殺刑、英雄機ゲシュペンスト・タイプSも反逆の証として爆破された。そこからだな、ヴィンデル達がおかしくなり始めたのは……そんなに戦争を俺達が起こそうとしているというのならばそうしてやろうってなったんだけどな……後はそっちも知っての通り、イージスシステムが起動し、インベーダーとアインストが闊歩する地獄になったって言うのが俺達の世界の地球だ」

 

最初は平和を求めた。だが権力者や上層部に疎まれ全ての責任を押し付けられた挙句に隊長は殺され、全ての元凶とされた。その憎しみも恨みも分かる、そしてそうなったのは平和な世界になったからだと言われればアクセル達の言う永遠の闘争も分からない訳ではない……だがだからと言って悲劇を撒き散らして良いという訳ではない。

 

『確かに同情するべき所はある。だが侵略活動を始めた所で私はお前達は被害者ではなく、加害者となったのだ』

 

「分かってるさ、ただ……お前達も違うとは言い切れないだろ? 俺達みたいな馬鹿な真似はしてくれるなって言いたいのさ。愚痴っぽくなったけどな」

 

ダイテツ達もまた疎まれ、そして味方である筈の連邦軍に妨害工作を受けている。それはバリソン達が歩んだ苦難と良く似ている、だからこそバリソンは警告として自分達の世界の話をしたのだ。

 

「脱線して悪かったな。ベーオウルブズ、そして俺達の世界のキョウスケ・ナンブの話をする。だが俺達の世界の話も完全に意味のない話じゃないって事は分かってくれ、ベーオウルブズ、そしてシャドウミラーの関係性はかなり複雑なんだ。だが全ての始まりはインスペクター事件、そしてイージスシステムから始まったんだ……」

 

バリソンはそう言うとベーオウルブズの始まり、そして向こう側のキョウスケがどんな人間だったのかを思い出すかのようにゆっくりと話し始めるのだった……

 

 

 

 

バリソンは懐から自分のDコンを取り出して、それを操作してキョウスケに投げ渡す。それを受け取ったキョウスケはDコンに映っている写真を見て目を見開いた。

 

「……これはまさか」

 

「おう、お前の隣にいるのがアクセル。その隣がレモン、一番後ろで不満そうな顔をしているのがヴィンデルだ」

 

シャドウミラーの構成員の写真と聞いてエクセレン達もキョウスケの手の中のDコンを覗き込んだ。

 

「あら、結構なイケメンね。ワイルド系かしら?」

 

「エクセ姉様、そこはちょっと違うと思います」

 

「あらやだ……ラミアちゃんが突っ込みを覚えてるわ」

 

「ふざけてんじゃねえ。しかしなんだ……ここにいる面子の顔は殆どねえな」

 

かなりの大人数がいることから集合写真と言う事は分かるが、そこにカチーナやタスク、それにリュウセイ達の姿は無く殆ど知らない人間となっている事にカチーナは首を傾げた。

 

「こっちと俺達の世界は違うからな。シャドウミラー隊とATXチームは仲間としてインスペクター事件を戦い抜いた。その時はキョウスケは普通だった、ちょっとまぁギャンブル癖があったが……おい、なんで目を逸らす?」

 

ギャンブル癖があったと聞いて全員が目を逸らし、バリソンはこっちも同じなのかと呆れた様子だったが、首を左右に振り話を続けた。

 

「ATXチームは連邦の僅かな生き残り部隊で全員地球人ってのが上層部に気に入られてな、俺達は厄介払いで戦場を転々と、キョウスケ達は都市部に栄転となり、そこで戦果を認められて発足された地球連邦軍特殊鎮圧部隊ベーオウルブズが結成されることになった」

 

ベーオウルブズ――何度もアクセル達の口から語られた部隊名がATXチームだったと言うのにはATXチームだったブリット達が驚く事になった。

 

「俺はいなかったのか? それにエクセレン少尉も……」

 

「……エクセレンはあれだろ? レモンの妹、とっくの昔に死んでるっつう話だが……こっちでは生きてるんだな」

 

キョウスケの隣のエクセレンを見ながら言うバリソン。だが自分が死んでると言うのはエクセレンとしても面白くなかったのか眉を顰める。

 

「ちょっとちょっとー、そういう事言うのはどうかと思うわよ~?」

 

「そいつは悪かったな、んでお前さんは誰だ? 少なくとも俺はあんたを知らないが……お前もATXチームなのか?」

 

ブリットにそう問いかけるバリソン。ブリットは自分がATXチームじゃないって事に驚きながらも自己紹介をする。

 

「ブルックリン・ラックフィールドだ。ATXチームメンバーだ」

 

「ブルックリン? ああ、お前が……なるほどなあ……」

 

ブリットの名前を聞いて得心が行ったのかジロジロと見つめるバリソンにブリットは居心地が悪そうに肩を竦める。

 

「ブリット君がどうかしたんですか?」

 

それを見てクスハがブリットを庇うように前に出ながら尋ねるとバリソンは両手を上げた。

 

「悪い悪い、名前だけは知ってるんでな。顔を見てこんな顔をしてたのかって思っただけさ」

 

『その口振りだとお前達の世界ではブリットは……』

 

コウキがそう尋ねるとバリソンは首を左右に振った。それだけでバリソンの世界のブリットがどうなったのか察して余りある物だった

 

「悪いが死んでるな。俺達の世界のヒュッケバインのパイロットで起動実験に失敗して吹っ飛んでる」

 

「ブリットがヒュッケバインのパイロットだったのか……」

 

「そうみたいだな……少し信じられないが……」

 

この世界ではライがヒュッケバインのパイロットであり、機動実験で腕を失った。だがバリソンたちの世界ではブリットがパイロットに選ばれ、そして機動実験で死んだ。世界が違うだけで笑いあっていた友がいない……今こうして笑いあっている事が実は奇蹟なのではないか? 思わずそんな馬鹿な考えが脳裏を過ぎった。

 

「ベーオウルブズが結成され、異星人の襲来が2~3度あった頃合からか……ある噂が流れ始めた。曰く、キョウスケ・ナンブは人間ではないと、人知を超えた力を振るいベーオウルブズの隊員も皆おかしくなっているとな」

 

バリソンの語り出しにそれこそが自分の求めている話だとキョウスケはすぐに悟った。

 

「人知を超えた力とはアインストの力か……?」

 

「ああ、異常な反射神経に身体能力、それに治癒能力、だが俺達が1番恐れたのは同類を増やす能力……ベーオウルブズに撃墜された機体もまた時間を掛けて蘇り、ベーオウルブズと同じになった。その頃にはアインストとインベーダーが闊歩していたからな、ベーオウルフ――つまりキョウスケ・ナンブが既にインベーダーかアインストに寄生され人間狩りを始めたって言うのはすぐに広がった。俺達もべーオウルブズとは何度も戦った。最初こそ互角の勝負が出来たし、撃墜する事も撤退させる事も出来たが、戦う回数が増えれば増えるほどにベーオウルフは強くなり手が付けられなくなった。事態を重く見た連邦政府はSRXチームにベーオウルブズの討伐を命じたが……結果はラトゥーニ・スゥボータを残しSRXチームは全滅しSRXも破壊され、事実上連邦軍は壊滅した」

 

SRXが破壊されたこと、そしてラトゥーニを除いて全員死んだと言う事にひゅっとラトゥーニが息を呑む音が響き、リュウセイ自身も信じられない、いや信じたくないという気持ちが強い中、身体を震わせているラトゥーニの手を強く握り締める。

 

「悪いな、まぁ俺達の世界の話って事で聞き流してくれ。話を続けるがベーオウルブズの侵攻は続き、人類が人工冬眠する為のアースクレイドルの破壊と人工冬眠していた4万人の殺害、そしてアースクレイドルの守人ゼンガー・ゾンボルトの殺害とアインスト化。生き残りの連邦軍はそれぞれの守りたい者を守る為にベーオウルブズに攻撃を仕掛けたが、SRXやスペースノア級を失った人類が勝てる訳も無く成す術も無く敗退……人類はインベーダーとアインストに敗北した。こんな世の中に絶望して自殺する者、僅かな物資の奪い合いによる殺し合い、インベーダーかアインストに寄生された人間による虐殺……権力者はスペースノア級や戦艦によって地球圏から脱出……俺達の世界は一言で言えば世紀末と言っても良い、もう俺達じゃどうしようもない破滅へと向かった世界……だから俺達シャドウミラー隊はヘリオスの残したシステムXNを用いて平行世界に逃げることを計画、民間人などの救出作業も行なっていたが……」

 

そこで言葉を切ったバリソンは深い、深い溜め息を吐いた。懺悔、後悔、怒り……複雑な感情が入り混じった表情を浮かべた。

 

「インベーダーとアインスト出現を俺達の所為にしようとしたイージス計画推進派が避難所に爆弾を設置、救助作業中に起爆されシャドウミラー隊は俺、アクセル、レモン、ヴィンデルを除き全員死亡、保護するはずだった民間人も皆死んだ……俺は救助作業中に吹っ飛ばされて、中破したゲシュペンスト・MK-Ⅱで僅かな生存者がいないかを探している間にインベーダーとアインストに追われている道中に武蔵達に助けられたんだ。その後は武蔵達も知っての通り、システムXNを求めてインベーダーやアインストと戦いながらの逃亡を繰り返す事になったんだ」

 

余りにも大きなアインストに寄生されたキョウスケが齎した被害。アクセル達がキョウスケを危惧する理由は地球を滅ぼしたからであり、それもある意味当然の結果だった。だが根底にあるのは平和によって腐敗した上層部、特級階級による支配と癒着、自分達こそが正しいという横暴、ほんの僅かな話し合えば避けれていたかもしれない数多の悲劇……だがそれすらも行なわれずほんの僅かな掛け違いでどうしようもないほどに壊滅した世界――それがバリソン達の地球なのだった。

 

 

 

 

 

 

バリソンが話を終えるとブリーフィングルームには嫌な沈黙が広がった……それも当然と言えるだろう。何もかもが手遅れになった世界、もう自分達ではどうしようもなくただただ滅びへと進む世界……可能性未来の話だが、自分達の世界もそうなるかもしれないと思うと誰も言葉を発する事は出来なかった。

 

「何を深刻そうに考えている? バリソンの語る話は可能性未来の形であり、未来は今を生きる者の行動で変わる。諦める必要も、絶望する必要も無い。最悪を知るのならば、最悪へと至らないように行動すればいいのだよ」

 

ビアンの言葉は決して感情的ではない、理知的で、そして静かな声であったがそれ故に大きくブリーフィングルームに広がった。

 

『ビアン博士の言う通りだ。システムXNを作り、シャドウミラーをこの世界に招き入れた俺が言えることでは無いが……未来は幾らでも変えられる』

 

バリソンの語る世界も確かに1つの結末ではあるが、バリソンの世界とキョウスケ達の世界は同じ歴史を歩んでいない、それが1つのバリソン達の世界とは違うと言う1つの証明でもあった。

 

『そ、そうだよな。未来は変えられる……諦めることなんか無いんだ』

 

『ああ、俺達にはやるべき事がある。こんな所でくじけている場合ではない』

 

ビアンとギリアムの言葉でブリーフィングルームに明るい雰囲気が戻ってくる。確かに破滅の未来も可能性として存在している、だがその未来に縛られ歩む事を止めればそれこそ破滅の未来に繋がる……未来を変える為にまずは行動しなければならない。

 

「百鬼帝国を退け、インスペクターを迎撃する。そしてインベーダーとアインストを駆逐する……確かにどれも困難を極めるだろう……だが私達ならばやれる、L5戦役だって絶望的な戦いだった。だが我々は勝利し、地球に平和を齎した。1度出来た事が2度出来ない訳が無い……我々ならば出来る。平和を愛する心が、地球を護りたいと言う願いがあれば成し遂げる事が出来るのだ」

 

偽物のビアンにはない、本物のカリスマ――それが確かな熱となり大きく広がる。

 

「その為にもまずシャドウミラーの戦力について知りたい、プランタジネットの中でシャドウミラーが強襲してくる可能性はゼロではないからな、ラミア、エキドナ、バリソン。シャドウミラーの戦力の規模はどうなっているんだ?」

 

ラングレーを制圧しているインスペクターと戦う中でシャドウミラーが強襲を仕掛けてくる可能性は極めて高い。備えるという意味も込めてシャドウミラーの戦力を大まかでもいいから把握する必要があるとビアンは考えていた。

 

『今シャドウミラーはアースクレイドルで百鬼帝国と協力して兵器を開発しているから詳しい数は判らない。だがこの世界に来る時の戦力の数なら分かる』

 

「それで構わない、この世界にどれだけの戦力が転移してきたのだ?」

 

『ゲシュペンスト・MK-Ⅱやエルアインス、アースゲイン等のEGシリーズに、地球連邦に見限りを付けて合流したDCや連邦の部隊をあわせれば……恐らく3500機ほどになるかと思います』

 

3500機……連邦の戦力、そしてクロガネをあわせてもなお届かない圧倒的な物量だ。

 

『ラミア、不安を煽る様な事は言うな。転移する寸前にベーオウルフの襲撃を受けた、数はもっと少ない筈だ』

 

『確かになぁ……オイラとかも戦ったけど、どんどん戦艦とか撃墜されていたし……』

 

イングラムと武蔵がもっと数が少なくないか? と言うとラミアとエキドナは暫し考え込む素振りを見せる。

 

『確か、転移前の数は1796の筈だ』

 

『テスラ研攻防戦で半数ほど撃墜された筈だが……』

 

『正直な所良く判らないっつうのがほんとの所になるビアン博士。ヘリオスがいるから説明は任せるが、転移に関しては莫大なリスクがある実験の結果を考えれば……集まった数の半分、いやもっと少ない数がこの世界に来れていれば御の字の筈だ』

 

「む? そうなのか? ギリアム少佐」

 

転移を多用するシャドウミラーは完全に転移のメカニズムを理解しているとビアンは思っていたのだが、莫大なリスクがあると聞き驚きながらギリアムに詳細を教えてくれと声を掛ける。

 

『俺の作ったシステムXNは空間転移と時空転移の2つの転移が可能です。空間転移は座標が分かっていれば失敗するリスクが少なく、インスペクターの使用している転移システムと良く似ていると言えるでしょう。ですが時空転移は不確定要素が多く、何よりも不安定になる、例えるのならば濁流の中で蜘蛛の糸を辿るような物……』

 

「なるほど、分かったぞ。道標が無く、どこへ繋がるかも分からないと言う事だな?」

 

『流石ビアン博士話が早い。そもそもが俺が作りたかったのが元の世界に帰るための時空間転移システムだった。だが余りにもイレギュラーが多く、成功率も低かった。それならば1度空間転移システムを作り、より詳細なデータを集めようとしたんだ。だがその作業の中でシステムXNが暴走し俺はこの世界に来ることになったのですがね』

 

余りにも不確定、そして暴走の危険性がある。それでもヴィンデル達は詰んでいる世界を捨て、新たな世界を目指したのだ。

 

『ギリアム少佐の言う通り、テスラ研攻防戦を生き延び転移した部隊の者の大半は……残念ながら時空の捻れに巻き込まれて……消滅した。私の言語系に誤動作が起きたのも……エキドナが記憶を失っていたのもこの時の影響だと思われる。私とエキドナの素性は分かっていると思うが改めて言おう。私の正式名称はW-17、ヴィンデル大佐達の指令を忠実に実行し、戦争を継続させる為だけに生まれた人形だ』

 

悲壮感に満ちた表情でラミアがそう告げる。だがバリソンが手を叩き、自分に注目を集めた。

 

『そいつは違うぞ。元々なレモンは人造人間の開発プロジェクトに関わっていた。その目的は宇宙なり、平行世界に辿り着いた際に新しく人類が繁栄する為の物だった。確かにラミアとエキドナは人造人間だ、これは覆しようが無い事実だが戦争を続ける為に作られた人形じゃない、生き残った僅かな人間のパートナーとなる為に計画されたんだ』

 

人間のパートナー、そして見目麗しい女性の姿であるラミアとエキドナ。それが何を意味するかは察して余りある物で、初心な面子は赤面し、何人かは咳払いをし、強引に話を変えようとする。

 

『まぁそれもインベーダーとアインストの所為で話が変わったが、人形とか必要以上に卑下すんなや。生きて考える事が出来てるんだ、それはもう人間だろ?』

 

『そうよ、ラミアちゃんもエキドナちゃんも生きている人間なんだから自分の事を人形だなんて言っちゃ駄目よ』

 

『そうだぜ、ラミアさん! もうそのW-17とか言うのは止めた方がいいっすよッ!!』

 

『そんな番号みたいな名前捨てちまえ』

 

同意を求めるように視線を向けるバリソンだったが、そんなことをしなくても皆が同じ気持ちであり、ラミアとエキドナは人形ではなく生きている人間だという声があちこちで上がる。

 

『……なんと言えばいいんだろうな……言いたい言葉があるのに出てこない……な』

 

『私は……良いのだろうか、W-16ではなくエキドナで』

 

『今度そんなことを言ったらもう1発叩きますわよ、武蔵様を想っている。それだけで貴女は人形じゃなくて人間なのですわ。そんな馬鹿な事を考えてる暇があったら、どうやって裏切ったことを償うのか考えたほうがよっぽど有意義ですわ』

 

『……そ、そうだな……そうしようか』

 

『それはそれで何か違う気がするがな』

 

仲間の温かい言葉に涙を浮かべるラミアと、シャインに言いくるめられそうになっているエキドナとそれは違うと突っ込みを入れるユーリアと温度差が若干凄い事になってはいるが、その代わりにバリソンの話を聞いた時の悲壮感は既に無くなっていた。

 

『ウォーダン・ユミルはお前達と同じなのか?』

 

『はい。彼はW-15……15番目の個体で人格コピー型になり、ゼンガー・ゾンボルト少佐の精神データをコピーした存在です。ですがそれ故に己という存在が不安定であり、自分が確立した個であることを目的としています』

 

エキドナからウォーダンの話を聞いたバンとビアンは得心が行ったと言う表情で頷いた。

 

「自分がゼンガーのコピーであると言う事を知っているからゼンガーを倒す事で己という存在を確立させようとしたのか……」

 

「何とも言えんな……しかし逆を言えばそれらをしなければ生き残れなかったという事か……」

 

人格コピーと言えど、それはクローン技術と大差ない。同じ人間を複製するという禁忌を犯さなければあの世界では生き延びる事が出来なかったのだろう……あちら側に関してはビアンは勿論、ダイテツやレフィーナ、リーとて思う事はある。だが自分達の世界が滅んだ理由が平和となったことだからと言って、別の世界に攻め込み永遠の闘争などという世界を作ろうとする事を受け入れられる訳が無い。

 

『……永遠の闘争……戦い続けることでバランスを取る地獄のような世界を認める事など出来はしない……ッ!』

 

シャドウミラーの理想。永遠の闘争をリーは力強い言葉で否定する。同情出来る部分もある、ヴィンデル達の言葉にも真実はある。

 

「戦いの度に技術は進歩した。テスラドライブなども戦争が無ければここまで優れた物は作られなかっただろう」

 

『なんだ? 親父はシャドウミラーの考えも一理あるって言うのか?』

 

「勘違いしないで欲しいなリューネよ。確かに戦争は技術を発展させる……これは紛れも無い事実だ、だがそれは流血を伴う発明だ。科学とは平和を作る為にある、ゆえに私はそれを受け入れる事はない。力とは使いようだ、破壊の為に生まれた力であったとしても平和を作ることは出来るのだ」

 

戦争によって発展した技術だったとしても平和の為に使えないと言う訳ではない……力とは使い様なのだとビアンは力強く宣言する。

 

『オイラもそう思いますよ、確かにオイラ達は戦ってきた。だけど壊す為だけに戦ったんじゃない、平和を笑いあえる世界を作る為に、世界を滅ぼそうとする敵から地球を、大事な人達を守る為に戦ったんだ』

 

戦わなければ守れない者がある。だから戦ったが、戦いたくて戦ったのではない。愛する者を守る為に戦う為の力を手にしたのだ……それを間違えてはいけない。

 

『その通りだ。だから俺達はなんとしても彼の企みを阻止し、システムXNを破壊せねばならん』

 

『世界をこれ以上乱さない為にもな』

 

アギュイエウス、リュケイオスの扉が開かれる事で世界は乱れる。そして世界の許容量を超えればバリソン達の世界のように避けられない滅びへと進む……それを防ぐ為には戦うしかないのだ。

 

「方針も決まったことで私から1つ提案がある。ゼンガー達が戻り次第我々はテスラ研奪還作戦を実行する」

 

『テスラ研を奪還するのは確かに重要な意味を持つが……クロガネの戦力だけで良いのか?』

 

『ビアン博士が求めるのならばシロガネかヒリュウ改が援護に回りますが……』

 

武蔵の奪還作戦で相当な痛手を負っている以上、テスラ研を奪還することは急務だがクロガネだけでは不安があると思うのは当然の事だ。だがビアンは首を左右に振った。

 

「過剰戦力でインスペクターが自棄になられても困る。テスラ研を制圧しているのはヴィガジという男だからな、奪還されるくらいならばテスラ研を破壊しかねない危険な男だ。それを防ぐ為に少数で攻撃を仕掛け、誘導組と潜入班に分かれる」

 

 

『いや、話は判るぜ? だけどよ、危険すぎるだろ? テスラ研にはあんたの作った防衛装置が残ってるんだぜ?』

 

『え!? 敷島博士みたいに毒ガスとか、目と鼻と耳を破壊する防衛装置とかですか!? 早乙女研究所1回半分くらい吹っ飛んでるですけど大丈夫ですか!?』

 

「い、いや、確かに色々と作ってはいるがそこまでではない、常識的な範囲だから問題はないし、私の作ったマスターコードがある。防衛装置は殆ど機能を停止させるから問題はない」

 

そんなものをテスラ研に残してたのかと冷めた視線を向けられるが、ビアンは咳払いをし話を進める。

 

「ヴィガジという男の性格を考えれば少数で突入すれば自ら迎撃する為に出撃するだろう、その間にジョナサン達を救出しテスラ研の地下の秘密兵器を持ち出す。あれさえ使えれば百鬼帝国やインベーダーにだって引けを取らん筈だ」

 

『ビアン博士、その秘密兵器とは?』

 

「リー中佐、君は分かっていないな。秘密兵器は秘密だからこそ意味があるのだよ、だから私はここで言うつもりはない」

 

『『『おいっ!!』』』

 

そんなことを言ってる場合かという突込みが入るがビアンは無視をして柔和な笑みを浮かべる。

 

「ダイテツ達にはテスラ研の人質を解放後に合図を出す、それと共に突入してきて欲しい」

 

『後詰めという事か……了解した。テスラ研奪還作戦はビアン達に主導して貰う。我々は合図が来るまで可能な限りの戦う為の準備を整える』

 

バリソン達から自分達が歩んだかもしれないもしもの話は聞いた。だがそれが全てではない、最悪の結末を避ける為に戦うという決意を新たに、ダイテツ達はテスラ研奪還作戦へ参加するための準備を整える為に伊豆基地へ向かって動き始めるのだった……

 

 

第156話 紅の雨 その1へ続く

 

 




今回の話は反省要素しかない……私の頭脳のレベルが足りなかったばかりに想定していた話とかなり雰囲気が変わることになってしまいましたが……許してください。私の頭脳ではこれが限界だったのです……次回は1度時間を戻して紅の幻想――つまり鬼に改造された妖怪クソBBAが出現しますし、ダークネスラトちゃんにも進化してもらおうと思います、この話が納得出来なかった分、次回の話は気合を入れていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


PS

ダブルバーニングファイヤーのスキルの気力上限UPが欲しかったので1ステップのみ引いてきました

結果はアルドノアゼロのSSR×2 目からビームと可でも無く、不可でも無く、とりあえず気力上限出来ただけよしとする事にしました。


PS2

それと今回のオバロ版の飯を食えを卵掛けご飯という事で若干手を抜いてるかなあとか悩んでいると執筆しちゃいなよ!という内なる声が聞こえたので頑張ってダンまち版も書き上げることが出来ました。

21時にはオバロ版・ダンまち版の生きたければ飯を食えを更新しますので、21時の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第156話 紅の雨 その1

第156話 紅の雨 その1

 

ビアン達のテスラ研奪還作戦において過剰な戦力は断られたが、2人だけゼンガー達に同行を許された者がいた。

 

「……すーはー……すー……は―」

 

「流石に緊張するわね」

 

アイビスとツグミの2人だけがゼンガー達と共にクロガネに向かい、そしてスレイと合流しテスラ研奪還作戦に最初から参加することになったのだ。

 

「作戦はまだ定まっていないが、主戦力になるグルンガスト参式・タイプGとゲッター1・トロンベは鈍足だ。突入経路を作って貰うことになるだろう」

 

「……よろしく頼むぞ」

 

「よし、では行くぞ」

 

カーウァイの言葉に頷き、ゼンガーとエルザムの2人がそれぞれの機体に乗り込み、ヒリュウ改から飛び出し海上で待機しているキラーホエールへと着艦する。

 

「ツグミ、持って行け」

 

「これは……コウキ、貴方のIDカードじゃない。どうしてこれを?」

 

「警備主任の特注のIDカードだ。ある程度近づけてからアステリオンにインストールしろ。そうすればテスラ研製の無人機は機能を停止する、そこをハッキングしろ」

 

「簡単に言ってくれるわね……でもありがと、大事に使わせてもらうわ。アイビス、行きましょう」

 

「う、うん! コウキ博士、行って来るよ」

 

「気をつけてな、カザハラ博士達を頼んだ」

 

コウキに見送られアステリオンにアイビスとツグミが乗り込み、同じ様に出撃する。

 

「カーウァイ大佐。お気をつけて」

 

「隊長。お力になれず申し訳ありません」

 

「気にする事はない。またお前達の力を借りる事もあるからな、ではな」

 

武蔵の救出で大破したゲシュペンスト・リバイブ(S)と仮修理で無茶をし続けたリバイブ(K)は完全に大破し、カイとギリアムに見送られカーウァイもゲシュペンスト・タイプSへと乗り込み、テスラ研奪還作戦へと動き始めるのだった……

 

「お肉だと思うんですよ」

 

「いや、それだと足りないな。私達基準ではぜんぜん全く持って足りていない」

 

「……本当ですか?」

 

「ああ、だからそうだな。山盛りのご飯とおかずを持っていった方が良いと思う」

 

「そうですわね。そうしましょうか」

 

エキドナが記憶を失っている時は意見の対立をしていたが、記憶を取り戻した後のエキドナはかなり理知的で、武蔵へ持っていくおかずという事でシャインと揉めることは無くなっていた。

 

「ああいう所を見ると年上って感じがするけど、それ以外がな」

 

「……かなりギャップがありますよね」

 

だがそれは食事に関係する部分だけで、それ以外の部分はかなりシャインに押されているので、何とも言えない感じだが……強いて言えば戦闘に関係するので栄養とかには詳しいが、それ以外はかなりポンコツというようだ。

 

「武蔵様ー♪ お食事を持って来ましたわ」

 

「ご飯とおかずを優先して持って来たが、足りなかったら言ってくれ」

 

「いや、オイラ自分でやりますよ?」

 

「良いんですわよ、座っててくださいな」

 

1国の王女なのにこれでもかというくらい武蔵に尽くしているシャイン……と言うよりも武蔵に何もさせないようにしているようにも見えなくも無い。

 

「どうぞどうぞ」

 

「うん。ありがとな、シャインちゃん」

 

「牢屋で食事もかなり制限されていた筈だ。まずは食べて体力を回復させるといい」

 

「分かりました、そうします」

 

美女と美少女に尽くされているのは羨ましいと思えるが、明らかにダークサイド的な雰囲気をシャインが持っているので羨ましいというよりも、恐ろしいという気持ちが強くなるなと様子を見ていたイルムとタスクはくわばらくわばらと呟いて食後のお茶を口にする。

 

「リュウ、ご飯にしよう」

 

「あ、ああ。分かったぜ、マイ」

 

マイに手を引かれ食堂にやって来たリュウセイはかなり困惑気味の表情を浮かべている。

 

「……なんかさ、凄くドロドロして来てると思うんっすよ」

 

「……んなもん言われなくても分かってるぜ、タスク」

 

武蔵がいなかった数日でかなりリュウセイの周りは変化しており、武蔵からすればなんでラトゥーニじゃなくてマイと一緒なんだと困惑の色を浮かべる。

 

「武蔵、一緒で良いか?」

 

「んんーー? オイラは別にかまわねえよ? 食事は大勢の方が楽しいし美味いからな」

 

食事は大勢の方が楽しいし、美味いと言われればシャインは不満を感じながらも頷くしかない。

 

「なんか……随分と仲良くなってないか?」

 

少し考える素振りを見せてから武蔵は随分とマイと仲良くなっているなと言うと、マイが満面の笑みを浮かべた。

 

「リュウは私を助けてくれたんだ。リュウは優しいから好きだ」

 

にぱっと幸せそうな表情を浮かべるマイを見て武蔵は困惑しながらリュウセイに視線を向ける。

 

「……何があったんだ? 別人みたいになってないか?」

 

「……いや、俺も良く分かってないんだが……あれだ、武蔵がシャドウミラーに捕まってる時に色々あったんだよ」

 

捕まっていたのは数日だが、その数日でマイが別人になってるなと武蔵はやや怪訝そうな表情を浮かべ、リュウセイに何があったのかと問いかけ、リュウセイは色々あったんだよと前置きしてから話し始めるのだった……。

 

 

 

 

 

武蔵がシャドウミラーに連れ去られ、クロガネのビアン達が捜索しているとは言え、ハガネとヒリュウ改の雰囲気は最悪だった。

シャドウミラーであったが、自分達を守る為に自爆したラミアの真意が判らず、そして記憶喪失だったエキドナもまたシャドウミラーであり、ゲッターを機能停止させ、武蔵が連れ去られた要因となったが、涙で濡れた謝罪の手紙が残されており本意でなかった事は明白で……では何故そんなことをしたのか、何が目的だったのか……それすらも分からず恨むべきなのか、それとも何か複雑な事情があったのか……だがラミアとエキドナは既におらず、それを問いただす事も出来ず……武蔵がリマコンされるかもしれないと焦りが募り、ハガネとヒリュウ改全体の雰囲気を悪くしていたのだ。

 

「……」

 

そして何よりも武蔵がいるときは明るく華の様な笑みを浮かべていたシャインの表情が曇っているのも大きかった。

 

「シャイン王女。ご飯を食べないと駄目ですよ」

 

「そうだぜ、俺達と一緒に飯に行こう。な?」

 

「……アラド、ラトゥーニ……そう……ですわね。行きますわ」

 

アラドとラトゥーニに連れられて食堂に行くシャイン王女を見かけたクスハはその後ろ姿を見送った後に、大きく息を吐き目を伏せた。そしてクスハが目を開いた時、その目には確かな覚悟の色が浮かんでいた。

 

「なぁライよ。隊長とケンゾウ博士は隠し通せって俺達に言った、俺達もそうするつもりだった……だけどよ武蔵の事を考えると本当に俺達のやろうとしている事は正しいのか?」

 

「それは俺達の中に、いや伊豆基地の中に百鬼帝国のスパイがいることを疑っているということか?」

 

ライの言葉にリュウセイは一瞬言葉に詰まる素振りを見せ、首を左右に振った。

 

「違うのか?」

 

「……いや、正直分からないんだ……エキドナもラミアも悩んでいるのが凄く伝わって来たんだ……本意じゃない、こんな事したくないって言うのが本当に嫌って言うほどに伝わってきたんだ……だから俺達がやろうとしている事は本当に正しいのか? 無理矢理戦わせて、言う事を聞かせて……それが正しいのか? 俺はそうは思えないんだ」

 

高まり続けるリュウセイの念動力はラミアとエキドナの強い悲しみを感じ取っていた。ラミアとエキドナの強い悲しみと苦しみをマイも抱くのではないかとリュウセイは考えたのだ。

 

「……確かに一理ある。それにラミアとエキドナの事を考えれば隠し通すのも不可能に近いだろう」

 

リュウセイが卓越した念動力で人の感情をダイレクトに受けているのと同じで、クスハやブリット達もそれらを感じ取らないとは言い切れない……ラミアとエキドナの事を考えれば隠し通す事の方がリスクが高い事はライも認めざるを得なかった。

 

「1度隊長と少佐を話をしよう。取り返しの付かないことになる前にな」

 

「ライ、すまねえ……俺だけじゃ無理なんだ……教官と隊長になんて言えば良いのか分らないんだ」

 

ライが立ち上がったのを見てリュウセイは自分だけでは無理だと頭を下げる。

 

「気にするな、俺達はチームだ。助け合う物だろう? 行こう、リュウセイ。俺だって隊長達の決断が正しいは思っていないからな」

 

部屋を出たリュウセイとライは個室のチャイムを押そうとしていたクスハとかち合った。

 

「クスハ少尉……? 俺達に何か用か?」

 

思い悩むような表情を見せたクスハだったが意を決したようでリュウセイとライに視線を向ける。

 

「あの子の……マイちゃんの事で話をしたいんです」

 

クスハ自身も悩んだ上で、こうしてリュウセイとライに話を聞きに来たのだろう……何か分かるまでは帰らないと訴えているクスハの目を見て、ライも隠し通すのは無理だというのを感じ取った。

 

「すまないが、今は俺達は何も言えないんだ……だがマイに関しては俺とリュウセイも思う事はある。だからその事を今から隊長達と話をしてくるつもりだ。だから今は何も言わずに、俺とリュウセイを通してくれ」

 

「クスハ、俺もライもマイを悪いようにはしねぇ……ちゃんと事情も説明する。だから少し待っていてくれ」

 

クスハが覚悟を決めたのと同じ様に、リュウセイとライもマイをこのままにしておけないと思って行動に出ようとしているのを見たクスハは2人の前からそっと横に移動し、リュウセイとライが通路を走っていく姿を見送るのだった……。

 

 

 

 

マイの部屋からはいくつも目覚まし時計の音が響いていた。深い眠りに落ちれば悪夢を見る……だからそれを避ける為に何個も目覚まし時計を配置し、事実それで何度もマイは目を覚ましていた。だが……今回は深い、深い眠りに落ちておりマイは目覚ましの音で目覚める事がなかった……

 

『マイ……マイよ。やっとまた会えたな』

 

「あ……あああ……止めろ、止めてくれ、私に話しかけないでくれッ!」

 

闇の中で椅子に座り向かい合うレビとマイ。穏やかに声を掛けてくるレビだが、マイは自分と同じ顔をしたレビを見て恐怖し、声を掛けないでくれと絶叫する。

 

『そんなに怖がらなくても良いだろう。私はお前、お前は私、同じ存在なのだぞ。何故私を拒む?』

 

「ゆ、夢を見た……私……私は……アヤ達の敵だった……私、私が傷つけたんだ……」

 

『ほう。その夢を見たか……なるほどなるほど……だから私を拒むのか』

 

マイの言葉を聞いてレビは猫のように悪戯めいた笑みを浮かべた。

 

『確かに私はジュデッカを駆り、アヤ、そしてリュウセイと戦った』

 

「ならお前が、私の夢に出てくるのはアヤ達とまた戦えと言うためか! い、いやだ! 私は戦い『誰が戦うと言った阿呆が』……は?」

 

レビが夢に出てくるのは自分とアヤ達を戦わせようとしていると思っていたマイだったが、完全否定され思わず間抜けな声を出す。

 

『確かにただ倒されたのならば、憎みもしただろう、恨みもしただろう、だがな……見ろ。あの光を』

 

「……あれは……リュウセイ?」

 

闇の中だからこそなお輝く翡翠の輝き――それがリュウセイの念動力の残滓であると感じ取ったマイにレビはその通りだと頷いた。

 

『光だ。私はあの光に救われたのだ……だからこそ欲しいんだ、あの光がッ! お前は欲しくはないのか? あの光が』

 

「ッ!」

 

レビの言葉にマイは息を呑み、レビはそれを返事とした。

 

『欲しいだろう? あの光を自分の物だけにしたいだろう?』

 

違うと否定する事がマイには出来なかった……欲しいと、あの光を自分の物にしたいと思ってしまったから……。

 

『沈黙は肯定だ。何を躊躇う、何を迷う? 欲しいのならば、己の物にすればいい、あいつは男で私は女。愛する事に、欲する事に何故躊躇う?』

 

水にたらした墨汁のようにレビの言葉はマイを蝕む、狂おしいまでの渇望が己の中に沸いてくるのをマイは感じた。

 

『私ならばリュウセイをお前の物に出来るぞ? 私を受け入れろ、マイ』

 

伸ばされたレビの手――それを掴めば、それに触れればリュウセイを自分の物に出来る……震える手でレビに手を伸ばしかけたマイだが、その手を掴み胸に抱え込むようにしてレビから距離を取った。

 

「だ、駄目だ……だってリュウセイはラトゥーニが……私の友達が好きなんだ……」

 

自分よりも先にラトゥーニがリュウセイのそばにいた、だから自分が割り込み余地なんて無いのだとマイは言うが、レビはそれを鼻で笑った。

 

『何故1人しか駄目なんだ?』

 

「え?」

 

『だから何故1人しか選ばれないのだ? おかしくないか?』

 

「え……え?」

 

『好いた者を2人で囲う、何故それが悪い?』

 

「え、え……駄目じゃないの?」

 

『知らんな、ただ自分達が幸せならばそれで良いのではないか?』

 

レビの言葉がマイには理解出来ない。おろおろするマイを見て、レビは笑ったのだが……その顔は次の瞬間に鬼の形相になった。

 

『また貴様かッ!! 何度も何度も鬱陶しいなッ!』

 

【鬱陶しいのはお前だ。こいつがいれば私は選ばれない……故に抹殺する】

 

『やってみろっ! 私はお前などには消されないッ! 何一つ成し遂げる事が出来なかった敗北者にはなぁッ!!』

 

【黙れ……精神態如きが】

 

『お前も似たようなものだろう? 良く言えた物だなッ!』

 

レビと黒い影のぶつかり合いによって生まれた余波はマイに襲い掛かった。

 

『貴様がここにいると言う事はまたリュウセイを襲いに来たか、亡者如きが』

 

【黙れ、私は今ここで生きている……なら私/私達はリュウセイと共にいたいッ!】

 

異常な念動力のぶつかり合いが精神の中で起きたマイは絶叫し、跳ね起きるように身を起した。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

息が出来ず何度も何度も酸素を吸おうとするが呼吸が出来ず。半ばパニックを起したマイの背中に小さな手が触れる。

 

「マイ! しっかりなさいませッ!」

 

「マイ……どうしたの? 大丈夫?」

 

2人の呼びかけで落ち着きを取り戻し、徐々に呼吸が整って来たマイは2人にどうして自分の部屋にいるのかと首を傾げた。

 

「……ラトゥー……二? それにシャイン王女……どうして……私の部屋に……」

 

「貴女が魘されているのが聞こえたから……」

 

「勝手に入って申し訳ありませんでしたわ……ですが大丈夫でございますか……?」

 

本当に心配そうに尋ねてくる2人を見て、アヤと一緒にいるような安心感を得たマイだったが、ハッと我に帰りベッドから立ち上がる。だが自分の体重を支えきれずよろめき、ラトゥーニに身体を支えられる。

 

「大丈夫? 今アヤ大尉とリュウセイを呼んでくるからまだ寝てたほうが……」

 

アヤとリュウセイを呼んでくるとラトゥーニが口にすると、マイはラトゥーニの腕を振り解いてよろめきながら歩き出す。

 

「行かないと……早く行かないと……」

 

焦点の合わない瞳、そして異常な力――それはリュウセイがロスターに引き寄せられた時と同じ症状だった。

 

「マイ……まさか……ッ! ラトゥーニ! 警報をッ!」

 

「分かってます! シャイン王女ッ!」

 

ラトゥーニが警報を鳴らすと同時にマイの姿は溶けるように消え去った。

 

「な、何が起きたんですの……」

 

「転移……した?」

 

目の前にいたマイが消え去り、呆然とするラトゥーニとシャイン。目の前で人が消える……その異様な光景にラトゥーニとシャインは完全に思考が停止してしまっていた。

 

「どうした!? 何があった」

 

丁度その時近くに居たのかイングラムがマイの部屋に駆け込んで来て何があったのかとシャイン達に尋ねる。

 

「前のインベーダーとアインストが融合した化け物が出た時みたいにマイがおかしくなったのですの」

 

「それで私達の目の前から急に消えて……」

 

ラトゥーニとシャインも何が起こっているのか分かっていないが、リュウセイがおかしくなった事件。生きている者を道連れにして死のうとする化け物であるロスターの話はイングラムも聞いていた。Dコンを取り出して艦内放送を行なおうとしたイングラムだが、それよりも先に警報が鳴り響き、艦内放送が行なわれる。

 

『マイがアルブレードに乗って出撃した! 正気を失っている模様! 出撃可能な者はアルブレードを追えッ! 繰り返す! アルブレードを追え! この症状はロスター出現の際と酷似している! 細心の注意を払ってマイの追跡を行なうんだ!』

 

焦った様子のテツヤの緊急放送が鳴り響き、イングラム達は弾かれたように格納庫へ向かって走り出す。

 

「教官、ラトゥーニにシャイン王女も来てくれたのか!」

 

「リュウセイか、アヤはどうした!」

 

「アヤ大尉は既に出撃し、我々も追う所です!」

 

パイロットスーツを来たライが更衣室から飛び出しヘルメットを被りながらイングラムへ状況を説明する。

 

「分かった。ラトゥーニ、シャイン王女も手伝ってくれ、生身で転移するところを見たのだろう。ならばスピードに優れたフェアリオンの力が必要だ」

 

「りょ、了解ですわ。参りましょう」

 

「行きましょう、シャイン王女」

 

姿を消したマイを追ってリュウセイ達はそれぞれの機体へと乗り込み出撃していく……しかし待ち構えていた者はロスターではなく、愛ゆえに現世を彷徨う悲しき者、そしてある意味ロスターよりも醜悪で邪悪な存在である事をリュウセイ達は知る由もないのだった……。

 

 

 

赤黒い念動フィールドに包まれた状態で海上に佇む漆黒のPT――ズィーリアスの瞳が赤く輝き、その翼を大きく広げる。その動きに呼応するように念動フィールドが解除された。それはまるで誰かを招き入れるような動きだった……。

 

「来る……」

 

『倒さないと……』

 

「思い出してきたんだ……リュウセイ、リュウセイ……生きてる、生きてるんだ。リュウセイが生きてるんだ……」

 

『今度こそ守るんだ。守られるんじゃない、私が……私達が守るんだ』

 

漆黒の装甲が少しずつ剥がれ、その下にある赤と青が姿を見せる……剥がれ落ちたのは塗料ではない、レトゥーラの記憶を縛る一種の呪であり祝福だった。黒が消える事にズィーリアスの姿にノイズが走り、レトゥーラも痛みに顔を歪める。

 

「うっ……痛い……」

 

『消える……私達が消える……これ以上は駄目だ』

 

存在を曖昧にする術が消えればレトゥーラは消え去らねばならない。何故ならばこの世界にはレトゥーラの元になった2人が存在し、まだ生きているから……世界は同一存在を拒む。2人が生きている以上レトゥーラの存在は曖昧で、そして自我はあやふやだ。その不安定な中でも狂おしいまでに、いや実際に狂っているのだろうレトゥーラはリュウセイを求め、そして彼を守る事を願う。

 

「お前達では守れない、だけど私達でも守れない」

 

『消えろ、消えてしまえ……ああ、恐ろしい、私達はお前達が恐ろしい』

 

存在することが許されぬ、それはレトゥーラとて分かっている。感じるおぞましさも恐怖も全ては存在してはいけない者が存在しているからこその痛みであり、恐怖であった……だがそれでも愛する事を、守りたいと思うことを止める事が出来ないのだ。

 

それがレトゥーラ――デュミナスによって狂愛の名を付けられた死者、狂うほどに愛し、だが愛すゆえに狂わざるを得ない者、それが復讐の果てに死した者が眠る事を許されず、再び現世に彷徨い出た事によって背負わなければならない業なのだった……

 

 

 

第157話 紅の雨 その2へ続く

 

 




レビ、敵になれではなくリュウセイを好きなのだろう?欲しいのだろうとマイを惑わすポジに変更。なのでレビと知り飛び出すのではなく、レトゥーラに誘い出されたという感じになります。後は敵としてはアギラも出してSRXも再登場させて、マイの好感度を一気に限界突破させて、序盤の流れに持って行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

PS

ダブルバーニングファイヤー狙いのラストガチャ20連

アルドノアゼロ
目からビーム×2
ブラックホールクラスター

可もなく不可もなくでした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第157話 紅の雨 その2 

第157話 紅の雨 その2 

 

 

アルブレード・F型に乗ったマイが思念に導かれるまま海上を進む反応は大きく、それを頼りにアヤ達はアルブレード・F型とマイを追いかけていた。

 

「早過ぎるッ……アルブレードでここまでのスピードが出るなんて……ッ」

 

だがそのスピードは尋常ではないものであった。本来のアルブレード・F型の倍近い速度で進むその速度はRシリーズのスピードに合わせているとは言え、最新型のテスラドライブを搭載しているフェアリオンとビルトビルガーが辛うじてレーダーの範囲に収めるのがやっとな速度だった。

 

『駄目だ! このままアヤ大尉達に合わせてたらレーダーの範囲から飛び出しちまう! そうなったら追いきれないぞッ!』

 

『アヤ大尉、私とシャイン王女で先行しますッ!』

 

『このままでは完全に見失ってしまいますわッ!』

 

アラドの焦った声、そして通常のPTの倍近い出力をマークしているのを見てこのままではノイエDC……いや、百鬼帝国に見つかってしまうかもしれないと考えたラトゥーニとシャインが先行するとアヤに提案する。

 

「……2人ともマーカーを忘れないで、マイを見つけたらすぐに連絡を入れてすぐに合流するから」

 

『了解ッ! 俺が先行する! 2人はマーカーを忘れないでくれよッ!!』

 

『うん! 先に行きます』

 

『急ぎましょう!』

 

フェアリオンとビルガーが最大加速でアルブレード・F型を追って行き、その後をリュウセイ達SRXチームも追っていくのだが……事態は急速に悪化の一途を辿っていた……アヤ達が危惧したとおり異様なエネルギー反応を放っているアルブレード・F型は既に百鬼帝国に反応を感知されていたのだ。

 

「風蘭様。飛行物体の反応あり。 数は1、距離は5000です」

 

「ん? こんな所を飛んでるのが居るの? もー誰よ、その馬鹿はさ」

 

形だけ指揮官とされていた風蘭は艦長席チャイナドレスの裾が上がるのも気にせず胡坐をかき、頬杖を付いて興味無さそうに尋ねる。

それもその筈――アギラを戦闘に出せと言う月から朱王鬼の命令があり、単独行動だと何をしでかすか分からないという事で龍王鬼から見張り役としてキラーホエールに乗り込むように言われたので気分を完全に害していた。

 

「現在確認中ですが……連邦軍だと思われます。いかがなさいますか?」

 

「んー多分あれよね、武蔵を探しに行ってるって所かしらね……んー正直興味ないなあ……」

 

風蘭もまた龍王鬼配下であり戦闘狂ではあるが、人道を大事にする鬼だ。だからこそ武蔵を探しに行くと言うのならばそれを邪魔すると言うのは本意ではなかった。

 

「お前が興味がなかろうが、ワシは行くぞ」

 

「あ? 何言ってるんだよ? このくたばり損ないが、つうか何様だ。私達の話に勝手に入ってくるんじゃねえよ」

 

アギラが自分が行くと言い出すと風蘭は鋭い視線を向け、強烈な殺気をアギラに叩きつける。戦闘狂ではあるが、それ以外のときは飄々としている風蘭の明確な殺意に、強靭な肉体に加え若返ったとは言えただの科学者のアギラが耐えれる物ではなかった。

 

「うっ……」

 

顔を青褪めさせて蹲るアギラを見て、風蘭は馬鹿にするように鼻を鳴らした。

 

「この程度の殺気で尻込みしてるやつが偉そうにすんな、どうせ朱王鬼の玩具程度で生かされてるに過ぎないんだからさ」

 

風蘭の言葉にアギラは憎しみを込めた視線を向けるが、風蘭はそれすらも興味がないと言わんばかりに手を振る。

 

「とりあえず、追いかけて、ハガネとかのならそっちも来るだろうしね」

 

「ワシとアウ「おい、オウカをアウルム言ったら殺すぞ婆」……オウカとゼオラを連れてワシが先行してもいい」

 

オウカをアウルムと呼ぼうとしたアギラだったが、風蘭の殺気に呑まれてすぐに訂正し、改めて先行してもいいと告げる。

 

「てめえみてえな人間の屑を先に行かせるわけねぇだろ、ばーか。少なくともお前に単独行動なんてさせるかよ、出撃はさせてやるが私の指示には絶対従え、従わなかったら殺す。朱王鬼なんて関係ない、龍王鬼様に迷惑を掛けるかもしれないけど……私はあんたをいつでも殺せるんだからね」

 

有無を言わさない風蘭の迫力にアギラは引き攣った顔で頷くのがやっとであり、そんなアギラを見て風蘭はますます不機嫌そうに顔を歪める。

 

(自分よりも強い奴に媚を売って、弱い奴には強く出る。こういう屑はだいっきらいなんだよ……あーあ。なんで龍王鬼様達は私にこんな事を命じたんだろ……殺して良いって考えて良いのかな)

 

不満ばかりを溜める風蘭。だが龍王鬼と虎王鬼が風蘭にアギラの監視を命じたのは風を操る風神鬼ならばアギラが暴走しても取り押さえることが出来、風の結界で周りの被害を抑える事も出来る上にオウカとゼオラを守る事も出来ると言う強い信頼による人選だった。だがそれは風蘭にとってはアギラを殺して良いと許可されたと思わせるに十分な過去があった。

 

「とりあえず様子見、進路をそっちに。ハガネとかが来たら私達も出るよ、それとアギラも出撃する準備をしておくんだね。言っておくけど、あんたはただの一般兵、誰にも命令なんて出来ないんだからね。横柄な事をしてみな、キラーホエールの主砲であんたをぶっ殺してやる」

 

「ひっ……わ、分っておるわッ!!」

 

風蘭に凄まれたアギラは引き攣った悲鳴を上げて、逃げるようにブリッジを出て行き、その姿を見ていた風蘭は完全にアギラから興味を失ったのか、艦長席の背もたれに背中を預けながらモニターに視線を向けるのだった。

 

 

 

 

「ここは……そうか、お前に呼ばれたとおり私は来たぞッ! 姿を見せろッ!!」

 

呼び声に導かれるまま、半分意識を失った状態でマイはアルブレード・F型を操り、無人島の上空に差し掛かった所で意識がハッキリしたマイはすぐに状況を把握し姿を見せろと声を上げる。

 

『そんなに大声を出さなくても聞こえてる』

 

赤黒い念動力の波動によって海が弾け、そこから漆黒のPTが姿を見せる。その姿を確認したマイは恐怖で己の身体が震えるのを感じた……。

 

(なんだ……なんなんだ。この感覚は……)

 

言葉に出来ない恐怖、そして嫌悪感を漆黒のPT――ズィーリアスから感じ取っていた。初めて会った筈なのに、沸きあがる嫌悪感と殺意、そして恐怖……目の前にいるズィーリアスがとても恐ろしい物であると同時に、倒さなければならない存在だとマイは本能的に感じ取り、アルブレード・F型の右腕にコールドメタルソードを握らせる。

 

『話が早くて良いな。お前は殺す、お前の存在は私にとって脅威だからな』

 

その行動はレトゥーラにとって喜ばしい物であり、ズィーリアスの左腕にビームソードを握らせてアルブレード・F型の前にズィーリアスを移動させる。

 

「お前はなんだ、何故レビと共に私の中に現れる!」

 

『私が何者かなんて事は関係ないだろう……? ここで死ぬお前にはなッ!!』

 

予備動作も無しに突っ込んで来たズィーリアスの横薙ぎの一閃が簡単にアルブレード・F型の手にしていたコールドメタルソードを焼き切り、右拳がアルブレード・F型の頭部に叩き込まれる。

 

「うあッ!? く、くそッ!!」

 

凄まじい衝撃に苦悶の声を上げるマイはこのたった2回の攻撃でレトゥーラとズィーリアスが自分よりも強い事を感じ取り、再び斬り込んでくるズィーリアスの動きを止めようと頭部のバルカンで攻撃を仕掛ける。

 

『そんな豆鉄砲で私の動きを止めれると思うか?』

 

凄まじい勢いで乱射されたバルカンは通常のPT・AM戦ならば足止めとして十分な効果があっただろうが、ズィーリアスには何の妨害にもならず念動フィールドで全て弾かれ、一瞬でアルブレード・F型の前に移動しビームサーベルを振りかぶる。

 

「ッ!」

 

マイもまた強力な念動力者であり、T-LINKシステムを搭載していないアルブレード・F型で、一瞬だけ、瞬きほどの一瞬だけ念動フィールドを発生させビームサーベルの切っ先を逸らし、ビームライフルを構えて反撃の姿勢に入る。

 

『防ぐか、だが無意味だ』

 

「うっ……ぐあッ!?」

 

爪先から伸びた念動刃がビームライフルの銃口を切り飛ばし、一瞬遅れて爆発しその爆風によってアルブレード・F型の身体が揺らぐと突き出された右手から放たれた念動波がアルブレード・F型を完全に拘束する。

 

「う……う、うごけ……」

 

『無意味だといった筈だ。お前の念動力では私の念動力を打ち破る事は出来ない』

 

なんとかアルブレード・F型を動かそうとするマイだが、レトゥーラが無意味と言った通り、アルブレード・F型はピクリとも動かない。

 

『まずはお前だ。まだ力に覚醒していないうちにお前を殺す』

 

『お前が居なければ私はあの人の側に行けるんだ。だからお前は邪魔なんだ』

 

冷酷な女の声と恋焦がれるような粘着質な女の声が同時にマイの耳に響いた。

 

「……お前……お前らは……何なんだ……」

 

『感じ取ったか。だとしてもそれに何の意味もない』

 

『死んで、私の、私達の為にお前は死ね』

 

ズィーリアスの手首からビームエッジが展開され、それがアルブレード・F型のコックピットに突き刺さろうとした瞬間だった。ズィーリアスは弾かれたように後退した。アルブレード・F型とズィーリアスの間を高圧電流弾が通過し、雷のような轟音を響かせる。

 

『くそ外したッ! ラトゥーニ、シャイン王女頼んだッ!!』

 

アサルトスタンカノンを構えたビルトビルガーの背後からフェアリオンが同時に飛び出し、ブレイクフィールドを展開しズィーリアスへとソニックブレイカーを敢行する。

 

『行きますわよッ! ラトゥーニッ!』

 

『はい! シャイン王女ッ!!』

 

複雑な機動を描き突っ込んでくるフェアリオンには流石のレトゥーラも反応しきれず、フェアリオン・タイプGのソニックブレイカーで念動フィールドを砕かれ、追撃のフェアリオン・タイプSのソニックブレイカーに向かって両腕を突き出し念動フィールドを両手のみに展開しソニックブレイカーを真っ向から受け止める。金属が削れる凄まじい轟音が響き、徐々にフェアリオン・タイプSの動きが緩くなり、ソニックブレイカーの勢いは完全に殺され、ブレイクフィールドも消滅した。

 

『力づくで止められ……うぐッ!』

 

ソニックブレイカーを止められ、一瞬硬直したラトゥーニ。次の瞬間にはフェアリオンのEフィールドを突き破ったズィーリアスの右手がフェアリオンの首を掴んで締め上げていた。

 

『今日は良い日だ。お前まで私の前に来てくれるとはな……お前もここで死ね』

 

首を締め上げたままズィーリアスの掌にエネルギーが集まるのを見てアラドとシャインがラトゥーニの救出に動くが、ズィーリアスの展開している強固な念動フィールドに弾かれるだけで、その動きを止めるまでには至らない。

 

『まずは1人……消えろ』

 

ズィーリアスの手からエネルギー波が放たれようとした瞬間、紅い光がズィーリアスとフェアリオンを覆っていた念動フィールドを打ち砕き、ズィーリアスを弾き飛ばした。

 

「はぁ……はぁ……わ、私は死なない……ラトゥーニも殺させないッ!!!」

 

ブラストトンファーから稲妻のような紅い光を放つアルブレード・F型のコックピットからマイの強い叫びが響き渡るのだった……。

 

 

 

 

ブラストトンファーの一撃を喰らいズィーリアスが吹っ飛んだその隙にビルトビルガーとフェアリオン・タイプGがアルブレード・F型に庇われているフェアリオン・タイプSへと合流する。

 

『ラトゥーニ! 無事ですの!』

 

「シャイン王女……はい、マイが助けてくれたので……私は無事です、マイもありがとう」

 

後数秒遅ければフェアリオンもろとも脱出も出来ず死んでいたと分っていたラトゥーニはマイに感謝の言葉を告げる。

 

『私のせいだ、私が……あいつに誘き寄せられたから……ごめん』

 

震える声で謝罪の言葉を口にするマイ。単独行動で強力な敵に遭遇し、味方が全滅しかけたのだ。本来ならば許されることでは無いが、アラド達は違っていた。

 

『ビーストに呼ばれたって言うのか!? マイは大丈夫かっ!?』

 

『道理で様子がおかしかった訳ですわ……今は大丈夫なのですの?』

 

マイの身を案じ、大丈夫なのかと問いかける。マイは怒られる、あるいは怒鳴られると思っていたので少し困惑したが、小声で大丈夫と呟いた。

 

「それなら良かった……後はどうやってビーストを振り切るかだけど……」

 

『どう見ても逃がしてくれる雰囲気ではありませんわね』

 

赤黒い念動フィールドを展開しているズィーリアス。その胸部にはブラストトンファーによる打撃の跡が刻まれていたが、ラトゥーニ達の見ている前で盛り上がるように再生する。

 

『うげ……マジか……自己再生しやがった。バリアに超火力に再生能力ってどんな化け物だよ……』

 

すべての能力が高い水準で纏まっているズィーリアスに再生能力まで備わっていると知り、アラドが信じられないと様子で呻いた。

 

「マーカーは設置してきているけど……リュウセイ達がここに来るのは良くないと思う」

 

『私もそう思う……今まで言わなかったけど……あいつ夢の中で何度も何度も私の前に出て来てるんだ……リュウセイ、リュウセイって繰り返しいつも言ってて』

 

誰にも相談出来なかったと言うマイだが、毎日変な夢を見ると言えば精神疾患の何かと思われてしまう可能性が高い上にノイローゼと診察される可能性もあり、相談出来なかったと言うマイの気持ちもラトゥーニ達には良く分った。

 

『え、なにそれ……こわッ……ストーカー』

 

『本当ですわね、なんて粘着質なんですの』

 

シャインが物凄いブーメランな発言をしているが、だれもが自分の事は分からないし、何よりもこの場にはアラドしか男がいないので余計な事をアラドは口にしなかった、何故ならばアラドは空気の読める男だからだ。

 

「またなのね、あいつは前もリュウセイを奪って行こうとした……ッ」

 

しかし何よりも暗黒オーラ2割り増しのラトゥーニが怖くて口を閉じていたのだが……勿論それを指摘する者はいないし、アラドもそれを態々指摘しない。人の恋路を邪魔する物は馬に蹴られてなんとやらと言うが、ガチ目に制裁されるので本当に余計な事を言わないことをアラドは学習したのだ。

 

『お前達は邪魔だ。お前達が居ると私、私達はあの人の所に行けない』

 

『お前達が憎い、おぞましい、恐ろしい……ここで死ね、お前達を殺さないと私は私に、いや、私達になれない』

 

発している声は1つ……だがアラド達の耳には2人の女の声が響いていた。

 

『なんだこれ……声が2つ聞こえる……』

 

『気持ち悪いですわ……なんですの……この頭の中をかき回すような声は……』

 

精神を蝕む様々な情念が織り交じった声にアラドとシャインは不調を訴えるが、ラトゥーニとマイは違っていた。頭ではない、本能で理解しているのだ。レトゥーラがいれば自分達が死ぬしかなく、自分達が生きるのならばレトゥーラは死ななければならない……世界の残酷な法則に囚われている事を本能で理解していた。

 

『私はレトゥーラ。そしてこれはズィーリアス……お前達に死を与える物だ』

 

『お前達では守れない、私が、私達が守るんだ。もう奪わせない、殺させない』

 

圧倒的な敵意と守りたい、助けたいという相反する狂気を剥き出しにするレトゥーラを前にラトゥーニとマイは一歩も引かない。

 

「マイ。手伝ってくれるよね」

 

『うん、分ってる。リュウセイは私も助けたいから、私にリュウセイは必要なんだ』

 

「ちょっとそれ後で詳しく聞かせて? ねぇ? なんでリュウセイに……逃げるなあッ!!」

 

リュウセイが必要と言ったマイにラトゥーニが暗黒微笑を向け、マイの駆るアルブレード・F型からマイの返事は無く逃げ……いやズィーリアスへと向かって行き、フェアリオン・タイプSはその後を追ってズィーリアスへと向かって行くのだった……。

 

 

 

 

レトゥーラの精神はバラバラに切り刻まれて、それをパッチワークのように縫い合わせた物であり極めて不安定な物だった。だがそれは時間が経つに連れて安定し、そして1つの思いを芯にして切り刻まれた精神は再構築が果たされる。それが今のレトゥーラの状態だ、ラトゥーニとマイを殺そうとする狂気と、そしてリュウセイに対する執着にも似た恋慕の情――狂っている、狂っているがそれゆえにレトゥーラは正常だったのだ。

 

「温い、そんなものでッ!」

 

ソニックスレイヤーで切り込んでくるフェアリオン・タイプS。小柄な機体サイズと、小回りの良さを武器に舞の様な攻撃を繰り出してくるフェアリオンの攻撃をズィーリアスは両手に持ったコールドメタルナイフを駆使し、受け止め、受け流し、あるいは弾き返す。

 

「……っと」

 

完全に隙を突いて反撃をしたレトゥーラだったが、急にフェアリオン・タイプSの動きが変わり、左手に握っていたコールドメタルナイフを逆手に構えフェアリオン・タイプGの放ったロールキャノンの銃弾とビルトビルガーのアサルトカノンの弾頭をそちらに視線を向ける事無く切り裂いてみせる。

 

『これでも当たりませんの!?』

 

『予知したんじゃなかったのか!?』

 

動揺しているシャインとアラドの声を聞いて、自分が感じた違和感の正体をレトゥーラは理解した。

 

(なるほど、誰かが予測しているのか)

 

レトゥーラの動きを予測しその上で行動していると理解したレトゥーラはコールドメタルナイフを収納し、腰にマウントしてるマシンガンをズィーリアスの両手に握らせる。

 

「その動きのからくり……見破らせて貰う」

 

自分の考えが当たっているのか、それを確かめる為の攻撃――乱射されたマシンガンの銃弾は空中で静止し、赤黒い念動力に包まれる。

 

「ほら、避けれるのならば避けて見せてよ」

 

再びマシンガンを腰にマウントし、両手を広げるズィーリアス。その指が同時に曲げられると同時に空中で静止していた弾丸は凄まじい勢いで加速する。

 

『アラド旋回! ラトゥーニは上昇! マイは反転ッ!』

 

その動きを見てシャインの指示が幾つも飛び、その動きにそって動くフェアリオン達を見て、真っ先に沈めるべき敵をフェアリオン・タイプGと、シャインと判断したレトゥーラはその右手をフェアリオン・タイプGに向け……そしてその手を下ろした。

 

(必要以上に殺す必要はない。そうだよね?)

 

(ああ、私もそう思う)

 

明確な邪魔者だが……レトゥーラはシャインを殺す事を躊躇い、ビルトビルガーとフェアリオン・タイプGにのみ銃弾を集中させ、自身はアルブレード・F型とフェアリオン・Sへと攻撃を仕掛ける。

 

「邪魔なのはお前達だけだ。お前達だけはここで殺すッ!」

 

レトゥーラにあるのはリュウセイのそばに行きたい、そしてリュウセイを守りたいという願い。確かにベーオウルフ……キョウスケを殺す事も目的の1つではあるが……最も重要視しているのはリュウセイの側にいたいと言う物だ。この場にキョウスケがいないのならば、自分がリュウセイの側にいる為にラトゥーニとマイを殺す事にレトゥーラは何の躊躇いも迷いも無かった。

 

『ラトゥーニ! マイ! う、動けませんわッ!?』

 

『くそ、撃ち落してもすぐにまた動き出すのかよッ!?』

 

念動力で操られている銃弾はビルトビルガーとフェアリオン・タイプGの動きを完全に抑え込んでいた。念動力でコントロールされた銃弾はアラド達の動きを見て動き出し、念動力で覆われているからか破壊力もあり無理に突破すれば中破するのは目に見えており、迎撃しても再び動き出す事で完全にアラドとシャインの動きを封じ込んでいた。

 

『なんでお前はリュウセイに拘るの!』

 

「私にとって全てだからだ!」

 

ソニックスレイヤーとビームソードがぶつかり合い、出力に劣るフェアリオン・タイプSが一瞬の鍔迫り合いの後に海面に向かって弾き飛ばされる。

 

『レトゥーラ! お前の好きにはさせないッ!!』

 

背中にマウントしているブラストトンファーと両手に持ったM-950マシンガンによる射撃でズィーリアスのフェアリオン・タイプSへの追撃を防ごうとするマイ。だがレトゥーラはその動きを鼻で笑い、ビームソードを振るいビームカノンを消滅させ、M-950マシンガンの銃弾を念動フィールドで受け止める。

 

「そら返すぞ」

 

念動フィールドで受け止められた銃弾はその言葉の通り、全てアルブレード・F型に向かって跳ね返される。

 

『そんなッ!? うあッ!?』

 

銃弾が全て命中し、墜落するアルブレード・F型にトドメをさそうとビームライフルの銃口を向けようとしたズィーリアスだが、一瞬で飛行機形態へ変形し急上昇し、その下をソニックスレイヤーを突き出した姿勢のフェアリオン・タイプSが通過した。

 

『外したッ!?』

 

ステルスモードによる強襲を避けられたラトゥーニは驚きの声を上げる。そして上空を取ったズィーリアスは空中で獣形態へ変形し、空中を蹴るようにフェアリオン・タイプSに向かって急降下する。

 

『くっ!』

 

念動フィールドの上を走るズィーリアスの動きは空中にありながらも、地上を走るライオンやチーターのような猫科の肉食獣その物であり、近づけさせまいとボストークレーザーとロールキャノンによる攻撃を続けるフェアリオン・タイプSだが、その動きはフェアリオンを持ってしても追いきれず、背中のキャノン砲の銃口が先に地面に叩きつけられていたアルブレード・F型へと向けられる。

 

「2人ともここで死ね」

 

冷酷な声色で押さえ切れない歓喜の感情が込められた言葉を呟いたズィーリアスは念動フィールドを蹴りつけ、一気に加速する。

 

『『ラトゥーニッ!』』

 

機動兵器とは思えない俊敏な動きで飛びかかるその姿は正しく肉食獣その物であり、アラドとシャインのラトゥーニの身を案ずる悲鳴が上がるが、2人はズィーリアスの操る銃弾の檻から脱する事が出来ず、駄目元の攻撃もズィーリアスの念動フィールドを破る事は叶わない。

 

『避けられないッ!?』

 

『動け、頼む、動いてくれッ!』

 

完全に間合いを詰められ避けられないと悲鳴を上げるラトゥーニと、ダメージによって機体が思うように動かないアルブレード・F型からマイの焦りに満ちた声が響いた。

 

「死ねッ!」

 

だがレトゥーラはそれにうろたえる事無く、どこまでも冷静にズィーリアスを操り脱出装置など起動させないと言わんばかりにコックピットブロックだけを狙いフェアリオンへと飛びかかる。ズィーリアスの牙がフェアリオンへ突き刺さろうとした瞬間――翡翠色の閃光がフェアリオン・タイプSとズィーリアスの間を駆け抜けた。

 

「ッ!?」

 

その光を見たレトゥーラは動揺し、背中のキャノン砲の引き金を引いた。引いてしまった……放たれた念動フィールドを応用したエネルギー波は念動フィールドを展開し突っ込んで来たR-ウィングを掠め海中へと突き刺さり凄まじい爆発を引き起こす。

 

『ぐっ……くそッ! ラトゥーニとマイはやらせねえぞッ!』

 

もしも直撃していたらR-ウィングは撃墜され、リュウセイも死んでいた。その事を理解し絶望するレトゥーラに向かってリュウセイの怒りに満ちた怒声が放たれレトゥーラはその表情を苦悶の色へと染め上げる。

 

「あ……あああ……ああああああ――ッ!!」

 

悲しみに満ちた表情で悲鳴を上げたレトゥーラはズィーリアスを再び人型へと変形させ、フェアリオン・タイプSへとその視線を向けた。

 

『レトゥーラッ! なんでお前はこんな事をするんだッ! 俺を助けてくれたじゃねえか! なんでこんな事をするんだよッ!』

 

フェアリオン・タイプSを片手で抱き、アルブレード・F型を背中で庇いながらGリボルバーの銃口を向けてくるR-1……そしてその背後にリュウセイの姿を見て、レトゥーラの瞳から涙が一滴零れ落ちるのだった……。

 

 

 

 

ズィーリアスにGリボルバーを向けるR-1だが、そのコックピットのリュウセイの表情は曇っていた。レトゥーラとズィーリアスは2回に渡り助けてくれた。正体こそ不明だが、リュウセイは敵ではないと考えていた。それなのにラトゥーニとマイを殺そうとしていた……その事がどうしてもリュウセイは信じたくなかった。

 

『リュウセイ……ありがとう。助けてくれて』

 

「……おう。大丈夫か? ラトゥーニ」

 

勘違いであって欲しい、そう思ったリュウセイだったがラトゥーニの助けてくれてありがとうの言葉にレトゥーラが2人を殺そうとしていたと知り、その顔に悲しみの色を浮かべた。

 

『ごめん、リュウセイ……私はリュウセイを助けようとしたんだ……でも私には何も出来なかった。私は敵だったから……レビだったから……もう違うんだって……リュウセイ達の味方なんだって……言いたかったんだ。ごめんなさい……』

 

「謝るんじゃねぇ、ありがとよ、マイ。その気持ちだけで十分だ、誰にもお前が敵なんて言わせねぇ。マイ、お前は俺達の仲間だ」

 

レビの記憶を取り戻し、自分がレビだったことを思いだしてしまった。だけど自分はレビ・トーラーではなく、マイ・コバヤシなのだと行動で示そうとした。それを誰にも否定させないとリュウセイが強い口調で告げる。

 

『良いの……私……リュウセイやアヤ達を傷つけたのに……生きていて良い存在じゃないのに……仲間で良いの?』

 

『馬鹿な事を言わないでッ!』

 

マイの自分が生きていてもいいのかという言葉を遮ったのはストライクシールドでズィーリアスに攻撃を仕掛けながら姿を見せたR-3・パワードのアヤの一喝だった。

 

『お父様や私達は、貴女を死なせるつもりで目覚めさせたんじゃない……ッ! 貴女に幸せな思い出を作って欲しいから、生きていて良かったと思って欲しいから目覚めさせたのッ! 貴女に真実を教えなかった事は謝るわ……それでも私達はマイに幸せに生きて欲しいって願ってるの』

 

騙した事、そして真実を伝えなかった事……そしてPTに乗せて戦わせた事は許されないことだろう……それでもケンゾウとアヤがマイに幸せに生きて欲しいと思っているのは紛れもない事実だった。

 

『アヤ……ごめん……へんな事を言って……』

 

『良いの、私もごめんなさい。伝えるべき事を伝えなかったからそんなに悩んでしまったね……本当にごめんなさい』

 

互いに謝罪の言葉を口にし和解したアヤとマイ――だがそれを喜んでいる時間は今のリュウセイ達には無かった。

 

『皆様! 海中から何かが出てきますわ!』

 

シャインの警告から少し遅れて海面が爆発し、キラーホエールが浮上し機体を出撃させる。

 

『あれは……オウカ姉様ッ!』

 

『それにゼオラッ!! ゼオラだッ!』

 

ノイエDCのAM、そして風神鬼と数体の百鬼獣の中に紛れているラピエサージュ、そしてビルトファルケンの姿を見てラトゥーニとアラドがオウカとゼオラの名前を叫んだが、答えたのはオウカでもゼオラでもなかった……。

 

『お涙頂戴の和解劇はこれで終わりかの、ふぇふぇふぇ……くだらんやりとりじゃったわい』

 

人の神経を逆撫でするような粘着質な馬鹿にするような言葉がガーリオンをベースにしたであろう百鬼獣から発せられる。

 

『まさかこの声は……セトメ博士ッ!?』

 

『少し若いみたいに聞こえるけど……間違いねぇ、アギラの婆ッ!!!!』

 

新型の百鬼獣に乗るパイロットがアードラーと同じほど憎む相手であるアギラであると悟ったアラドの怒りに満ちた叫び声が海上へ木霊するのだった……。

 

 

 

第158話 紅の雨 その3へ続く

 

 




と言う訳で紅の幻想も難易度アップで、ノイエDCのAM。百鬼獣、百鬼獣版ガーリオン、ラピエサージュ、ファルケン、ズィーリアス(黄色ユニット)でお送りします。 あとレトゥーラは強烈な病み属性なので選択肢を間違えると、気迫・ど根性・鉄壁・魂・必中・閃き・覚醒・加速・集中を毎ターン使用してきて速ガメオベラになりますので行動注意となる敵なのであしからず、それでは次回の更新もどうか宜しくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第158話 紅の雨 その3

第158話 紅の雨 その3 

 

侵略者である鬼の中にも善人はいる。戦いを好むが人道を説き、正々堂々と戦う。戦わぬ力を持つ者を争いに巻き込む事を嫌う高潔な武人である龍王鬼とその一派は紛れも無く鬼ではあるが善人であると言える。人ではないが、それでも人の心を持つ者と言えるだろう……。

 

だが人でありながら鬼の心を持つ者もいる、人を人とも思わない、自分達の研究を進める為に何十人、何百人と犠牲にして来たアードラー・コッホ。そしてアギラ・セトメ……確かに2人は人間であろう、しかしその心は醜く、強い残虐性を持つ鬼の心である事は間違いない。それ故にアギラ達の人は心が判らない、いや理解しようとしないのだ。何故ならば、自分以外の存在を人間と見ず、ただの実験動物と見ているのだから……。

 

『お涙頂戴の和解劇はこれで終わりかの、ふぇふぇふぇ……くだらんやりとりじゃったわい』

 

百鬼獣不知火から響く嘲笑を伴ったアギラの声にオウカはラピエサージュの操縦桿を強く、強く握り締めた。姉と妹の和解――それはオウカが何よりも欲している物だ。再び弟であるアラド、妹であるゼオラ、ラトゥーニと4人で笑いあいたいと願っているオウカにはアヤとマイの和解は素晴らしい物であった。だがアギラはそれを踏み躙る、見るに耐えない茶番劇だと嘲笑う。

 

『まさかこの声は……セトメ博士ッ!?』

 

『少し若いみたいに聞こえるけど……間違いねぇ、アギラの婆ッ!!!!』

 

信じられないと声を震わせるラトゥーニと怒りを露にするアラドに対してアギラは恩着せがましい言葉を口にする。

 

『なんじゃワシが育てやったのにとんだ口振りじゃなあ。ラトゥーニ11、ブロンゾ28』

 

愛しい弟と妹を番号で呼んだアギラにオウカは目の前が真っ赤に染まるのを感じた。普段はアースクレイドルの奥深くにいるアギラが自ら戦場に出てきた……それは紛れもない好機であり、ここで殺してやりたいと、スクールの弟妹達が味わった痛みを味わわせてやりたいとオウカは心から思った。

 

『オウカ、落ち着くんだよ。この百鬼獣は龍王鬼様達の配下だけじゃない、下手に動いたら駄目だ』

 

風蘭の言葉にハッとなったオウカはモニターを確認し、ビルトファルケン・Sの背後に2体の百鬼獣が存在しているのを確認し、背中に冷たい汗が流れるのを感じ、それと同時に風蘭へと感謝した。

 

「すいません、風蘭さん」

 

『気にしなくて良いよ、大体私だってあのくそ婆を殺したいって思ってるしね。本当にとんだ下種だよ』

 

苛立ちを隠そうとしない風蘭、そしてノイエDCの兵士の中にもアギラの言動に怒りを抱いている者も多かった。しかしアギラはそれに気付かず、饒舌に言葉を紡ぎ続ける。

 

『人を番号で呼ぶんじゃねぇッ!! クソ婆ッ!!!』

 

『サンプルに名前などいらんわ、ブロンゾ28。育ての親になんという口を利いておるか、これだから名前なんぞを与えるべきではないのだ。番号による徹底的な管理、クエルボやケンゾウの奴は甘すぎる……名など与えるから、下らぬ情が移り、研究に支障が出る事になり、そして我々に逆らう。とんだ欠陥品じゃッ!』

 

アギラは持論を声高らかに語り、自分に酔いしれているような雰囲気を放っている。

 

『……隊長……あのクソ婆ぶっ殺していいですか』

 

『……気持ちは分かる。気持ちは分かるが……今は動くな』

 

『しかしッ!』

 

『我々の使命を忘れるな。泥水を啜り、卑怯者の謗りを受け、生き恥を晒している。今までの苦しみを無駄にするな』

 

『ッ……了解』

 

この通信はオウカ達には聞こえない、秘匿通信でのやりとりだが若い兵士の怒りを老年の隊長が押し留める。ビアン一派であることを隠し、ノイエDC、百鬼帝国に紛れている者達もまたアギラへの強い怒りを隠す事が出来なかった。ほんの少しのやり取りでこれほどまでの怒りを自分へと集める……アギラがどれだけ非人道的な性格をしているのか良く判る。

 

『ケンゾウ博士を知ってる……まさか、アヤもスクールの……ッ!?』

 

ケンゾウの名前を聞いてリュウセイはアヤもスクールの関係者だったのではないかと声を荒げたが、それはアギラによって否定された。

 

『それは違う。その女はワシが特脳研におった頃の被験体じゃ』

 

特脳研の名前を聞いてアヤだけではなく、リュウセイも驚きの声をあげ、アギラはそれを自分の事をアヤ達が知らないからだと思い。そこを更に刺激してやろうとサディステックな笑みを浮かべる。誰もがトラウマを刺激されれば動きが鈍る、そこを叩けばAMの操縦が素人に近い自分でも撃墜することは出来、貴重なサンプルを手にする事が出来るとアギラはほくそ笑んだ。

 

『ワシの事を……いや若くなっておるから分らんかも知れんが。ワシはお前の事を良く知っておるよ、被験体ナンバー7、そしてナンバー5』

 

不知火がその指をR-3・パワードとアルブレード・F型へと向ける。

 

『ナンバー……5ッ!?  わ、私の事かッ!?』

 

アヤが返事を返さない事をアギラはトラウマを刺激されたか、ケンゾウによるプロテクトが発動した物と思い込み、畳み掛けるようにアヤ達のトラウマを暴露する。人の心を傷つけることを好む自分自身の性癖を満たし、仲間達の結束を崩そうとする。

 

「風蘭さん、これ以上は……」

 

『動くんじゃないよ。あの馬鹿に好きに自分語りをさせればいいのさ。良く考えてみなよ、お前の弟はこの状況で黙っていられるか? 仲間が傷付けられているのに動かない冷血な男なのか?』

 

「ち、違います! アラドが黙っていられる訳が……」

 

そこまで言いかけた所でオウカはハッとした表情を浮かべた。アラドは仲間想いで、そして家族想いだ。そんなアラドがアギラに知られたくない過去を暴かれている仲間を黙ってみている訳が無いとすぐに思い至ったのだ。

 

『それが正解だよ。興奮してこんな馬鹿みたいな時間稼ぎに引っかかってるアホを私は初めて見たよ』

 

くっくっくっと喉を鳴らす風蘭はアギラ以外の面子へと通信を繋げる。

 

『熱源感知だ。もうすぐ本命が来るよ。あの馬鹿はほっておいていいから身構えておきな』

 

風蘭がそう警告し、ノイエDCのAM隊と風神鬼は分らない程度に後退する。

 

「ゼオラ、私達も下がるわよ」

 

『ハイ、ネエサマ……』

 

咄嗟に反応出来ないゼオラを庇いながらオウカもラピエサージュを後退させる。自分だけが百鬼獣と前線に放置されている事に気付かないアギラは更に饒舌に事実を語ろうとする。

 

『ナンバー7、お前が何故定期的にT-LINKシステムとリンクしなければならないか知っておるか? いや、それ以前にお前が本当にケンゾウの娘と思っておるのか?』

 

最も残酷な事実を告げ、アヤとマイの精神が砕ける光景を想像し歓喜と興奮に身を震わせるアギラ。

 

『念動力とは未知の存在じゃ、あの当時は強いストレスによって生存本能を刺激させ念動力を発揮させるのが1番ベストな形じゃった。だからこそ検体はみなリマコンが施され擬似的なトラウマを刻み付けたのじゃよ。フェフェフェ、お前はケンゾウの娘でもなければナンバー5と姉妹でも……『黙れ、婆』は……? なんと言った? ナンバー『人を番号で呼ぶんじゃないわよッ! このクソ婆ッ!!!』ギャアアッ!?』

 

最後の楔を打ち込もうとしたアギラの言葉をマイの静かな言葉が遮り、再びナンバーで呼ぼうとしたアギラの乗る百鬼獣不知火に念動集束レーザーキャノンが撃ち込まれ、アギラの苦悶の声が響き渡る。

 

『馬鹿な、馬鹿な! 何故打ち破れたんじゃッ!』

 

百鬼獣不知火はガーリオンをベースにした百鬼獣であり、鋭利なシルエットと特徴的な肩パーツは不知火にも継承されており、人造筋肉よる柔軟性と、マシンセルを応用した装甲を持ち再生能力を持ちながらガーリオン同様量産が効く百鬼獣であった。さらに不知火はアギラの嗜好と朱王鬼の嗜好を十分に生かせるように精神干渉系の武装を多く搭載していた。トラウマを刺激され、その光景が脳裏を過ぎったマイとアヤが動けないと思っていたアギラは何故だと声を荒げる。

 

『血の繋がりは確かに絶対だ。だが……血よりもなお濃いものがある。紡いだ絆は不変だ、それをお前のような下種の考えで破れると思うなよ。アギラ』

 

『ケンゾウッ! 貴様何故ッ!』

 

『マイが飛び出して行ったとイングラム少佐から連絡があってな。お前がご高説を垂れている間にアヤとマイには真実を伝えさせて貰った』

 

『それなら何故だ! 何故動ける!? ワシが告げたのはトラウマコード……動けるはずが無いッ!!』

 

特脳研時代の悪しき遺産……念動力者が自分達に逆らわないためのセキュリテイ。それを発動させているのだから動けるはずが無いとアギラは声を荒げるが、R-3・パワードから響くケンゾウの声は冷静な物であった。

 

『お前とアードラーは番号で呼ぶことを徹底した。だが私とクエルボは違う、確かにワシ達の犯した罪は決して許される物ではない……そしてこの業は命ある限り償っていかなければならない……だが私はアヤとマイを娘として確かに愛しているのだ』

 

記憶の改変、そして念動力を開眼させるための非道な実験……それはケンゾウが一生を掛けて償わなければならない彼自身の業である。研究だけに生きて来たケンゾウは不器用で、そして己の愛を伝える術を持たない。それでもアヤとマイという2人の義娘をケンゾウは心から愛し、そして守ろうとしてきた。

 

『そんな偽善の言葉などでなぜッ!』

 

『何故? そんな事も分らないのね。確かに与えられた記憶だったと言うのは辛いわ。だけど……それは私を作る1つに過ぎないわ。今の私にはリュウやライ、隊長、それに少佐……色んな人に支えられて私はここまで来たッ! それは貴女に作られた記憶じゃないッ! 私の、私だけの本物の記憶なのよッ!』

 

アヤが吼えるように叫ぶとその気迫にアギラは呑まれ、不知火を後退させる。

 

『ふん! 実験動物如きが『アヤ大尉をマイを実験動物等と言わないで貰おうか』『私達の仲間をこれ以上侮辱するのは止めて貰うわよッ!』な、なにいいッ!?』

 

海中から飛び出してきたR-2・パワードのビームチャクラムが不知火の胸部に横一線の切り傷を刻みつけ、R-GUN・パワードの構えたツインマグナライフルの連射が不知火を大きく弾き飛ばした。

 

「何時の間に……」

 

『動力を絞って、移動用の何かで海中を移動してきたみたいね。はは、しかしあいつ馬鹿すぎて笑うわ』

 

自分の思い通りになっていると思っていたアギラだが、実際は全て無視されており、ケンゾウの言葉によってアヤとマイはアギラの呪縛を打ち破っていた……操り人形、実験動物と言っておきながら1番の道化はアギラだったと風蘭は手を叩いて笑う。

 

『リュウセイ! SRXへの合体を許可するっ! 俺達の仲間を侮辱したあいつを叩き落せッ!』

 

海面をホバーで走るR-SWORDのイングラムからSRXへの合体許可を得てリュウセイは弾かれたようにR-1を動かす。

 

『教官遅いぜッ! 行くぜッ! ライッ! アヤッ!! ヴァリアブルフォーメーションだッ!!!』

 

『分っているッ! 全力で行くぞッ! リュウセイ!』

 

『好き勝手してくれた分きっちりお返しするわよッ!』

 

R-1がRーウィングと変形し、R-2・パワードとR-3パワードがそれを追って上昇する。

 

「風蘭さん、どうしますか?」

 

『無粋な事は言う物じゃないわよ。それに良い気味だわ』

 

百鬼獣ならばSRXの合体を妨害出来ただろう……だが風蘭はそれを良しとせず、そしてノイエDCもアギラへの怒りを抱いており妨害する事は無かった。

 

『今まで随分好き勝手に俺の仲間を馬鹿にしやがったなあッ!! お前に泣かされたラトゥーニにアヤ、マイの分までぶん殴ってやるから覚悟しやがれッ!!』

 

鋼の戦神――SRXから響くリュウセイの怒声。それは純粋に仲間を思い、そして己の事のように怒りを燃やせる男……何故ラトゥーニが思いを寄せているのかをオウカは理解した。

 

「……そうだったのね」

 

『どうしたの? オウカ』

 

「いえ、私の妹は人を見る目があったなって思ったんです」

 

『……そうみたいね。でも傍観はここまでよ、流石にここまで動いたらジッと見てはられないわ』

 

アギラには死んで欲しいと思っている風蘭だが、SRXまで出て来て動かないということは出来ず戦闘開始の合図を出し、オウカもラピエサージュを待機モードから戦闘モードへと切り替える。

 

『オウカ姉様……』

 

『貴女がラトゥーニのお姉様なのですね? どうか抵抗無く、投降してはいただけませんか?』

 

ラピエサージュの前に立ち塞がるフェアリオン・タイプGとタイプSを見てオウカは小さく笑う。

 

「ごめんなさい、それは出来ないの……ゼオラがまだ元に戻ってない、ゼオラが元に戻るまで私は百鬼帝国からはなれるわけにはいかないの、アラド……ゼオラは貴方を殺しに来るわ。だから近づくのは止めなさい、それが貴方とゼオラの為なのよ」

 

敵として戦うのではない、妹であるゼオラを守る為に、そしてゼオラにアラドを殺させないために愛しい弟と妹の前に立ち塞がるのだった……。

 

 

 

 

自分達の前に立ち塞がるラピエサージュをラトゥーニとシャインは悲しそうな表情で見つめていた。

 

「オウカ姉様。それが貴女が私達の元へ来てくれない理由なのですか?」

 

ゼオラに掛けられている朱王鬼の術、それがある限りゼオラが何時ラトゥーニとアラドを殺すか判らない。だからハガネにはいけないと言うオウカの言葉の真意をラトゥーニは問いかける。

 

『そうよ、それに……風蘭さんは龍王鬼さんの配下だから信用出来るけど……全てがそうじゃない』

 

百鬼獣がラピエサージュとビルトファルケンSの背後を陣取っており、怪しい素振りを見せれば撃つと言わんばかりの動きをしている。

 

『貴女自身も人質という事なのですね……』

 

『その通りです。そして私に戦わないという選択はありません、手加減はします。ですが……手を抜く事はしません』

 

ラピエサージュにネオプラズマカッターを構えさせるオウカの声は悲壮感に満ちていた。

 

『悪い姉さん。俺はゼオラを助けに行くぜ、ゼオラァッ!! 俺はここにいるぞッ!!』

 

『アラド……アラドオオオオオッ!!!』

 

ゼオラの名を叫ぶアラドに雄叫びのような声を上げてゼオラがアラドの名を叫び、対のPTは同時に最大加速に入りはるか上空でのドッグファイトを繰り広げる。

 

『アラド、ゼオラ駄目よッ!』

 

朱王鬼の術が掛かっているゼオラはアラドを殺してしまう……それを知っているからオウカは駄目だと叫んだ。

 

「ううん。駄目なのはオウカ姉様。貴女の方」

 

『貴女がラトゥーニ達の事を案じているのは判ります……ですが言わせていただきますわ。ラトゥーニ達は貴女にずっと守られていた子供ではもうないのですッ!』

 

洗脳、リマコン、そして投薬の影響が抜けたオウカは心優しい姉へと戻っていた。だがそれでは駄目なのだとラトゥーニとシャインは声を上げる。

 

「私はずっとオウカ姉様に守られた……だから今度は私達が助けるッ! ゼオラもオウカ姉様も取り戻すッ!」

 

『守られるのではありませんわ。もうラトゥーニとアラドは貴女を助ける事が出来る。それを理解するんですわッ!』

 

自分1人で何もかも出来る訳じゃないと言う武蔵の言葉がオウカの脳裏を過ぎる。ラトゥーニ達と協力すればファルケンを取り押さえることも出来るのでは? という考えが頭を過ぎる。

 

【グルルル】

 

【ガオオオンッ!】

 

だがその考えは唸り声を上げた双頭鬼と鳥獣鬼の唸り声によって掻き消される。ここで裏切る素振りを見せれば自分達だけではなく、ラトゥーニ達の身も危ないと悟ったオウカはラピエサージュをフェアリオンに向かって走らせる。

 

「オウカ姉様ッ!?」

 

『どうしてですの!』

 

襲ってきたラピエサージュにラトゥーニとシャインが驚きの声を上げる。

 

『私を守ってくれるという言葉はとても嬉しいわ。ラトゥーニ……でもね、今はその言葉を受け入れる訳には行かないの、私を、ゼオラを守れるというのならば……その力を私に見せてッ!』

 

「オウカ姉様……分った……私達の力を見せる。もう守られるだけじゃないって見せてあげる。シャイン王女」

 

『ラトゥーニ。私の事は心配しないで大丈夫ですわ』

 

大事な姉を取り戻すために神姫は舞い、継ぎ接ぎの魔王はその力を試すかのように神姫へと向かう。互いに互いを気遣い、そしてまた笑い会いたいという願いを胸に抱き、望まぬ戦いへと身を投じる。

 

『アラド……アラド、死ね死ね死ねッ!!!』

 

「うるせえっ! 俺は死なないし、ゼオラッ! お前も死なせねえッ!!」

 

乱射されるオクスタンランチャーBモードの弾雨を避けながら、少しずつ、少しずつだがアラドの駆るビルトビルガーはビルトファルケンへの距離を詰める。

 

(ラルトスの言う通りなら……勝機はある)

 

スタンブレードもしくはスタンカノンを命中させてビルトファルケンを鹵獲する。朱王鬼の術を解除する術はまだ見つかっていないが……それでもこうしてゼオラが自分の目の前に出てきた好機をアラドはみすみす逃すつもりはなかった。

 

「ゼオラ! お前は俺が助けるッ!!」

 

『死ね、死ねえええええッ!!!』

 

半狂乱で死ねと叫ぶゼオラ、その叫びを聞けば正気ではないと言うのは明らかで、その声を聞いてアラドは顔を一瞬歪めるが、強い決意を込めた視線をビルトファルケンへと向ける。

 

「オウカ姉さんもお前も俺は助けるッ! 絶対に、絶対にだッ!! だから少しだけ待っていてくれ……ゼオラぁッ!!!」

 

『アラ……ド……』

 

ビルトファルケンの操縦桿を握る光の無いゼオラの瞳から涙が零れる。朱王鬼の術はまだゼオラを蝕んでいる……だがアラドの叫びは確かにゼオラへと届いているのだった……。

 

 

 

 

 

SRXの前には数体の百鬼獣が立ち塞がり、不知火は百鬼獣の奥に隠れてしまった。

 

「逃げんなあッ!!!」

 

『リュウセイ! 落ち着けッ! SRXと言えど百鬼獣相手に無策に突っ込めばどうなるか言うまでもないだろうッ!』

 

ライからの警告でリュウセイの頭に上っていた血が僅かに下がる。だがそれでも操縦桿を握る手は強く、その目には強い怒りの炎が宿っている。

 

『リュウ、私とマイの為に怒ってくれてるのは判るわ。だけど冷静さを失ったら駄目よ、イングラム少佐とヴィレッタ隊長を巻き込んでしまうわ』

 

ノイエDCの機体を相手にし、SRXとリュウセイが百鬼獣に専念出来るように立ち回ってくれているR-SWORDとR-GUN・パワード。あのまま怒りに身を任せ突撃していたらアヤの言う通り巻き込んでいた可能性が高い事に気付き、リュウセイは気を静めるように深い、深い息を吐いた。

 

「すまねえ、2人とももう大丈夫だ」

 

『そのようだな、心配するな。出力は安定している、百鬼獣などにSRXは遅れを取らないさ』

 

『行きましょう、リュウ』

 

「おうッ!!! 行くぜぇッ!!!」

 

地響きを立てながらSRXは双頭鬼へと走り出す、双頭鬼は自身に迫ってくるSRXを見て恐怖をその目に宿しながらも4つの瞳から黒い破壊光線をSRXへと放つ……いや、双頭鬼だけではない、豪腕鬼は自らの角をミサイルにしSRXへと連射し、2機の土龍鬼はその尾で無人島の山を砕き、石礫をSRXへと打ち出す。念動フィールドを展開すればその攻撃は全て無効にする事は出来るだろう……だがその代りにSRXの活動時間を大幅に削ることに繋がるが……だがリュウセイは念動フィールドを展開する素振りを見せず、真っ直ぐにSRXを走らせる。

 

「ヴィレッタ隊長ッ! マイ頼むぜッ!」

 

リュウセイは1人ではない、頼りになる。自分を守ってくれる仲間がいる……だからリュウセイは攻撃にだけ専念する事が出来る。

 

『リュウ! そのままで大丈夫だッ! 行ってくれッ!!』

 

『その調子よ、マイッ!! リュウセイッ! そのまま突っ込みなさいッ!!』

 

アルブレード・F型とR-GUN・パワードの手にしたパルチザンランチャーのエネルギー弾が百鬼獣の攻撃を打ち落とす。

 

「うおおおおッ!! 至高拳……ザイン……ナッコオッ!!!」

 

【ギギャアアッ!?】

 

SRXの鉄拳が双頭鬼の両頭部へと叩き込まれる。金属の拉げる音と双頭鬼の苦悶の声が重なり、双頭鬼は潰れた頭部からオイルを撒き散らしながらひっくり返り爆発炎上する。

 

【ギッ! キュアアアアアアッ!!!】

 

双頭鬼が一撃で破壊された事に鳥獣鬼は驚きと怒りの声を上げ、SRXの上空を旋回し、翼をミサイルのように撃ちだした。

 

「念動波……ガウン……ジェノサイダアアアアアアッ!!!」

 

SRXの特徴的なフェイスパーツから放たれた念動波が鳥獣鬼の翼ミサイルを全て空中で迎撃し、爆発の華を咲かせる。

 

『リュウセイ、照準は合わせたぞ。行けッ!!』

 

「サンキューライッ! ハイフィンガランチャーーッ!!!!」

 

SRXの両指から放たされた実弾の嵐が空中の鳥獣鬼の全身を撃ちぬき、鳥獣鬼は苦悶の声を上げてSRXの頭上へと落下してくる。

 

「ブレードキィイイイイックッ!!!!」

 

念動刃を展開したSRXの回し蹴りが墜落して来た鳥獣鬼の胴に叩き込まれ、鳥獣鬼は胴体と下半身が両断される。苦悶の声を上げる間もなく鳥獣鬼は爆発し炎上する。

 

【ギギャァッ!!!】

 

【キシャアアアッ!!!】

 

土龍鬼はその通りモグラを模した百鬼獣であり、地面の中に隠れてSRXへと奇襲を仕掛けようとする。

 

「逃がすかよッ! アヤッ!!」

 

『任せてッ!! 念動集中……』

 

硬く握り締められたSRXの両拳に鮮やかな念動力の光が灯る。

 

「念動結界……ドミニオンボールッ!!!!」

 

そしてリュウセイの叫びと共に放たれた念動力による球体は地面に隠れようとしていた土龍鬼を拘束し、空中へと引きずり出す。

 

「こいつでトドメだ。テレキネシスミサイルッ!!!」

 

SRXの脚部から放たれた念動力で操作されるミサイルの雨はドミニオンボールの結界をすり抜け、ドミニオンボールの中で全て起爆し土龍鬼を完全に破壊する。

 

【ゴガアアアアアアーッ!!!】

 

豪腕鬼が雄叫びと共に煙を突っ切って姿を見せ、その豪腕をSRXへ向かって叩きつける。

 

『リュウセイ!』

 

『リュウッ!!』

 

「心配ねぇッ! 見えてるぜッ!!」

 

正確には見えているのではない、念動力によって敵意と殺意を感知していたリュウセイは豪腕鬼の奇襲をSRXの巨体では信じられない速度で避け、がら空きの胴に膝蹴りを叩き込み豪腕鬼を上空へと蹴り飛ばす。

 

「必殺ッ! 念動爆砕剣ッ!!」

 

【ギギャアアアアアアアーッ!】

 

SRXの両拳から展開された念動力の刃で胴体を×字に切り裂かれた豪腕鬼は断末魔の雄叫びをあげ、SRXの目の前で爆発四散する。

 

「ライ、まだエネルギーは大丈夫か?」

 

『ああ、大丈夫だ、信じられないくらいにエネルギーが安定している。まだ全然戦える』

 

「なら残るはあいつだけだ」

 

百鬼獣を盾にし、隠れていたアギラの乗る不知火に視線を向けるSRX、そしてその視線に気付いた不知火は高度を下げてSRXの前で滞空する。

 

『随分と暴れてくれたのう……お蔭で百鬼獣が全滅じゃ』

 

「てめえを守る盾はいなくなったぜ、クソ婆。覚悟しやがれ、次はてめえだッ!」

 

リュウセイの言葉にアギラは声を上げて笑う、お前は何も分かっていないと馬鹿にするように笑った。

 

『これはワシの盾ではない、これはな、ワシの機体のパーツなんじゃよ。壊してくれて感謝する。余計な手間が省けたわッ!』

 

不知火の装甲が光ると破壊された百鬼獣やAMの残骸が浮かび上がり、不知火の装甲に張り付いていく……。

 

「な、なんだ……何が起きてるッ!?」

 

『嫌な予感がする、下がれリュウセイッ!』

 

「うおッ……な、なんだこれ……でかいハンマーかッ!?」

 

ライの警告でSRXを下がらせるリュウセイの目の前でスクラップが巨大な槌になり、地響きを立てながら無人島にめり込み凄まじい亀裂を入れる。そしてそのハンマーを握っているのは元はガーリオンに酷似した百鬼獣とは思えないほどに変貌を遂げた異形の百鬼獣の姿だった。

 

「なんだ……この化け物は……あの婆の百鬼獣がこんな姿になったっていうのかよ……」

 

『リュウセイ気をつけなさい! とんでもないエネルギー反応よッ! あの巨大アインストに匹敵するわ!』

 

呆然とするリュウセイにヴィレッタの一喝が飛んだ。残骸であるが複数の百鬼獣、そしてAMの動力部を取り込んだ不知火はヴィレッタの警告の通りレジセイヤに匹敵するエネルギーを内包していた。しかし問題はその姿だった……L5戦役に参加したものならば、誰しもその姿を知っていたからだ。

 

『フェフェフェ。これがワシの百鬼獣不知火の真の姿……SRXとは言えどこの合成百鬼獣には勝てんぞッ!』

 

両腕は豪腕鬼で、肩からは新しい腕が生え、4本腕となっている。そして背中には鳥獣鬼の翼、極めつけは下半身は土龍鬼とノイエDCのAMの蛇全ての残骸を取り込み蛇のような長細い形状をした異様なシルエット――そしてSRXを上回る異形の巨体となった不知火からアギラの勝ち誇った叫びが海上に木霊するのだった……。

 

『あ……ああ……知っている、私はあの姿を知ってるッ』

 

『マイ! しっかりしなさい! あれはホワイトデスクロスじゃない』

 

不知火が百鬼獣を取り込んで変化した姿はジュデッカに酷似していた。その姿を見て動揺するマイに向かってアヤがしっかりと声を掛ける。

 

『フェフェフェ、不知火妖蛇の装……キヒヒヒ、お前達に打ち破れるかあ!!』

 

不知火の装甲が開き、そこから放たれたビームとミサイルの雨がこの海域にいる全てに襲い掛かり、凄まじい爆発と火柱があちこちで発生するのだった……。

 

 

 

第159話 紅の雨 その4へ続く

 

 




新型百鬼獣不知火の登場です、巨大化したギミック等は次回で解説する予定です。ただ次回も戦闘描写はやや薄目となるかも知れませんが……ご容赦の程をよろしくお願いします。 


PS

スパロボDDの赤い彗星は誰なのかのガチャ結果

デビルブロー×3
ファイナルカイザーブレード
カイザーブレード
フィンファンネル(ハイニューガンダム)
シャーリー支援×2

でした。ナイチンゲールが欲しかったのでかなり無念


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第159話 紅の雨 その4

第159話 紅の雨 その4

 

表向きは大統領府襲撃事件で入院しているブライだが、実際は既に影武者を入院させ、自分はプランタジネットでハガネ達を鹵獲する為に百鬼帝国へ戻っていたのだが、部下からの報告を聞いてコウメイを呼び出していた。

 

「コウメイよ、アギラに不知火の真作を与えた真意について問いたい。何故あのような者にあれを与えた?」

 

不知火はガーリオンをベースにした百鬼獣ではあり、鬼も人間も操縦出来る百鬼獣であり、そして量産が効く割りに戦闘能力が高い機体だ。しかし真作・不知火は量産機と比べて隔絶した能力を持ち、ブライの計画では優秀な鬼を名前持ちに昇格させ使わせる予定だった物を、影武者にすり替わっている間にコウメイがアギラに与えたと聞き苛立った様子を見せる。

 

「申し訳ありませんブライ大帝。ですが私の所感ではアギラ以上に不知火の能力を使いこなせる鬼がいないと判断した故にアギラに渡しました」

 

「あのような小物にお前は何を見出した? 事と次第によってはお前の特権を奪う事にもなるのだぞ」

 

コウメイの特権はブライがコウメイの優秀さを認めての物だ。だが量産が効かないワンオフの真作不知火を戦闘者でもないアギラに与え、あまつさえそれを失うことになればそれ相応の罰を与える事になるとブライが告げるとコウメイは柔らかい笑みを浮かべた。

 

「この場でも笑えるその豪胆さは買おう。それでお前は何を感じ取ったのだ?」

 

「はい、不知火はナノマシンによって残骸などを取り込み己を守る外骨格を作り出す百鬼獣です。小型でありながらその性質を十分に生かせればゲッターロボに匹敵する力を発揮出来るでしょう。ですがそれに何の意味がございますか?」

 

「ほう?」

 

コウメイの挑発的な言い回しにブライは興味を持ったのかその視線をコウメイに向ける。

 

「戦闘力で言えば龍虎皇鬼、そして超鬼神でゲッターロボの足止め、そして互角に戦える事は既に分かっております。ならば不知火は対人間に特化するべきだと私は考えました、そしてアギラという女は人の弱み、そしてトラウマを抉る事を得意としており、そして科学者という事もあり知識も豊富です。相手が苦手とする姿に逐一姿を変え戦況をコントロールするというのはあの女にしか出来ぬことだと私は判断しました」

 

ほかの鬼ならばゲッターロボを、そしてそれに匹敵する敵を倒し己の戦果を上げることを優先する。だがそれでは姿を変えるという性質を存分にいかせない、小物であり、自分が生き残ることを優先するアギラだからこそ十分に生かせるのだとコウメイはブライに進言する。

 

「一理あるな、良かろう。この件はお前に任せよう」

 

「ありがたき幸せにございます、必ずや大帝が満足する成果を出して見せましょう」

 

コウメイはブライに深く頭を下げ、その場を後にする。

 

「……余りにも今の百鬼帝国は不出来だ。これでは大帝の心労も絶えぬであろう」

 

武人と言えば聞こえは良いが、命令違反の常習犯である龍王鬼一派。

 

大帝であるブライには忠実だが、戦力としては龍王鬼達に一歩も2歩も劣る朱王鬼、玄王鬼の2人。

 

復活させた超機人達は無礼にもブライと同等のように振舞う。

 

それがコウメイにとっては耐え難い不敬であり、ブライこそが地球を支配するに最も相応しい王であると考えるコウメイにとってはゲッターロボやハガネ達は憎んでも憎み足りない敵であった。

 

「……この世には度し難い愚か者しかいない。アギラ、私は約束は守るさ。お前が成し遂げる事さえ出来ればだが……さてさてお前は力の欲求に抗えるかな」

 

龍王鬼に殺され、朱王鬼達によって人造人間の体に押し込められたアギラはその拒絶反応で苦しんでいる。だからこそコウメイは約束した、自分が求める成果を上げる事が出来ればその拒絶反応が出ないように再び手術をしてやろうと……しかし不知火の力に酔いしれているアギラがその約束を覚えているかどうかは定かではない……結局の所アギラもまたコウメイの手の中で踊らされている傀儡なのであった……。

 

 

 

 

「アハハハハ、ヒャハハハハはハハハハッ!! 凄い、凄いぞッ! なんという力じゃッ!! あっはははははッ!!!」

 

不知火のコックピットの中でアギラは狂ったように笑う。いや実際狂っているのだろう、量産機の不知火と異なり、真作・不知火は鬼が操縦する事が前提となっているが、アギラは人間だ。操縦の為に脳波を読み取るヘルメットを装着しているのだが、それには脳にまで刺さる針が内蔵されており、擬似的に鬼と同等の処理能力と身体能力を与える。だがそれはドーピングに等しく、アギラは知る由もないがパイプから流し込まれる薬の影響でアギラは完全に狂っていた。

 

「ヒヒヒ……あああ、良い気持ちじゃ。ワシの力で何もかも破壊できる……なんと心地よい事か」

 

頬を高揚させ、時折身体を痙攣させているアギラは完全にジュデッカを模した姿をした不知火の力に酔いしれていた。科学者であり、そして犯罪者として追われ、老いさらばえたアギラにとって敵を退ける力は望んで止まない物であったからだ。

 

「サンプル共を連れて帰るかのう……キヒャヒャヒャ、SRXにラトゥー二11、サンプル共がより取り見取りじゃ」

 

力が与える多幸感に呑まれてもなお、実験台を手に出来る事をアギラは喜び、ビームやミサイルの雨で地形を変えた無人島を覆う煙を振り払いSRXを探してその巨体を動かした瞬間だった。

 

『天上天下ッ!! 念動爆砕剣ッ!!!!』

 

煙を突き破って姿を現したSRXが振りかざしたZ・Oソード……いや、天上天下無敵剣が不知火の胴に深い切り傷を刻み付ける。

 

『どうだッ!』

 

「フェフェフェ、なにかしたかえ?」

 

その一閃で不知火の上半身と下半身が両断され、ゆっくりとずれていくのを見てリュウセイが勝利を確信した声を上げる。だがアギラはそんなリュウセイを嘲笑った。

 

『再生している!? リュウセイ! 離れろッ!!』

 

不知火が再生しているのに気付いたライが警告する……だがそれは余りにも遅すぎた。再び展開された装甲から放たれた光線が念動フィールドを突き破りSRXの装甲を抉る。

 

『ぐっ! なんてパワーだっ!』

 

「ヒャヒャヒャッ!!! お前らなんぞにこの不知火を止めれると思うなッ!!」

 

両肩から伸びている腕の掌から発生したビームソード、そしてハンマーによる連続攻撃がSRXに叩き込まれる。

 

『くっ! ぐあッ!!!!』

 

SRXは確かに地球最強の特機ではある。だが機体サイズが倍近く異なり、巨大ハンマーによる重い一撃と、両肩から伸びた腕による凄まじい速度の攻撃にはさすがのリュウセイも反応しきれず、ハンマーの横殴りの一撃が胴を捉えSRXが大きく弾き飛ばされ、天上天下無敵剣を地面に突き立て片膝を着いた。

 

「ヒャハハハハッ! 強い、強いッ! ワシは強いぞぉおおおおッ!!!」

 

その姿を見てアギラは勝ち誇ったように叫びを上げた瞬間、強烈な衝撃が不知火の背中を襲った。

 

「なんじゃあ? ヒャヒャヒャ、小娘共があッ!!」

 

『ぜ、全然効いてないですわッ!?』

 

『シャイン王女ッ! 離脱をッ!』

 

フェアリオンによる最高加速による一撃。それでも不知火の装甲を僅かに破壊するに留まり、背中から生えてきた小さな副腕がフェアリオンへと伸びる。

 

「予知能力、キヒャヒャヒャッ!! これは良いサンプルになりそうじゃなあッ!!!」

 

伸縮自在に加えて再生する副腕を迎撃しながら離脱しようとするラトゥー二とシャインだが、腕はどんどん増え徐々に逃げ道が奪われる。

 

「予知でどこまで避けれるかなあッ!!!」

 

『くっ! 狂っているようで冷静ですわねッ!!』

 

『厄介ッ!』

 

リアルタイムの予知で避けるのならば避けられないように攻撃すれば良い、単純な考えだ。腕を増やし逃げ道を断つ……酷くシンプルな考えだが、単純が故にフェアリオンには有効な一手だった……正しそれは同時に複数の相手を出来れば、の話である。

 

『ガウンジェノサイダァァアアアア――ッ!!!』

 

『ラトゥーニ! シャイン! 今の内にッ!!!』

 

『……逃がしはしない』

 

ガウンジェノサイダーが直撃し爆発する不知火の胴体部、そしてR-GUNとアルブレード・F型の手にしたパルチザンランチャーによる射撃で副腕が潰れたうちにラトゥーニ達は離脱する。

 

『大丈夫か! 2人とも!』

 

『た、助かりましたわ!』

 

『リュウセイ、ありがとう』

 

SRXが即座に前に出てフェアリオンを庇いながら不知火の前に立ち塞がる。しかしコックピットの中でリュウセイ達は不知火を信じられ無い物を見つめるような表情で見ていた。

 

『な、なんなんだ……こいつは……』

 

『中身が無いのか」

 

ガウンジェノサイダーの直撃で破壊された胸部は空洞で中身が無い、それなのに動き回っている不知火はリュウセイ達から見ても化け物だった。

 

『多分張りぼてなんだわ……核はガーリオンみたいな百鬼獣』

 

『あれを破壊しない限りは倒せないと見てもいいわね』

 

ジュデッカを模した身体はアヤとヴィレッタの予測通り張りぼてであり、不知火からコントロールされている人形に過ぎない。即座に再生するカラクリはただの装甲だからという事だ。

 

『だけど今は再生してねぇ! 畳み掛けるな「フェフェフェ、馬鹿め」なっ!?』

 

再生を始めない不知火を見て今がチャンスだとリュウセイがSRXを操り、不知火へ攻撃を仕掛けようとした時アギラの嘲笑が響き渡り、最初のミサイルとビームの雨からやっとの思いで復活したノイエDCのAMに不知火の副腕が突き刺さる。

 

『う、うわあああああッ!!!』

 

『い、いだいいだいいいいッ!!!』

 

腕に貫かれたAMは分解され、不知火に吸い込まれるようにして消え次の瞬間には巨大な槍へとその姿を変えていた。

 

「1人、2人死んだ所で問題はない、それに……R-2のパイロットは念動力者ではないのじゃろう? ならば死ぬのはお前じゃッ!!」

 

高速で射出された槍がSRXの腹部に突き刺さろうとした瞬間、漆黒の影が上空から飛来し赤黒い念動力の刃で槍をバラバラに切り裂いた。

 

『……やらせない。だってリュウセイは私が守るんだから……』

 

『味方では無いが協力はしてくれると約束を取り付けた。ハガネがここに来るまで後5分……利用出来る者は何でも利用する。そうだろう? 風蘭』

 

『こんだけ好き勝手やってくれたんだ。それなりの制裁は受けてもらうさ、ま、でもあんた達は味方じゃないけどね。敵の敵は味方ってところで良いんじゃない?』

 

イングラムが説得したのか暴風を伴って風神鬼がゆっくりと舞い降りてくるのだった……。

 

 

 

 

時間は少し遡る。不知火の放った一撃は百鬼獣、ノイエDCと関係なしに全てを襲った。ヴィレッタ達はSRXの近くにいた事もあり念動フィールドに守られたが、R-SWORDとイングラムは自力で全てを避けるか、迎撃する必要があった。

 

「厄介な」

 

誘導性能などは無いが、純粋に火力が高い攻撃に舌打ちしながらイングラムは必死にR-SWORDを駆り、辛うじて不知火の攻撃を回避する事に成功していた。

 

『……知ってる。私は……お前を知っている』

 

SRXが出現してから沈黙を保っていたズィーリアスがR-SWORDの前に現れそう問いかける。

 

「そうか、俺もお前を知っているぞ。生きていた……いや違うな、死にきれなかったのだな」

 

イングラムはズィーリアスを見て一目でそれがR-1であるということ、そしてその操縦の癖からベーオウルフと共にドラゴノザウルスに噛み砕かれて死んだラトゥーニだと確信していた。

 

『死にきれなかった……何を言っている? 私は……私は……? 私は……私達は……なんだ?』

 

呆然とした声、幽鬼のような覇気の無い声にイングラムは触れてはいけないものに触れたと悟り、即座に謝罪の言葉を口にする。

 

「すまない、気のせいだった。それよりもだ、お前はリュウセイを守りたいのだろう? あの化け物と戦うのに協力しろ」

 

下手なことを言ってレトゥーラの自我を崩壊させれば、被害が甚大になることを悟ったイングラムは即座に話題を摩り替える。

 

『……何故私がそんなことをしなければならない?』

 

「良いのか? リュウセイが死ぬぞ」

 

『……ッ』

 

歯を噛み締める音が響いた。苛立ちと怒り、そしてリュウセイへの執着――それがレトゥーラとズィーリアスからは感じ取れた。そしてそれはイングラムにレトゥーラの正体を確信させると同時に新たな敵の存在を、あの世界で何度も姿を見せた異形を思い出させた。

 

(……こっちに来ているのか? 可能性はゼロでは無いが……)

 

メタルビースト・SRXが出現した時からその可能性は考えていたが、ラトゥーニの動きを持つレトゥーラを見て、それは確信へと変わっていた。

 

『……リュウセイは死なせない。良いよ、手伝う。あの婆は気に食わない』

 

言うが早く翼を展開しSRXの元へと向かうズィーリアスの姿を横目にイングラムはR-SWORDを反転させ、ビームライフルの銃口を向ける。

 

『こっちには協力しろって言わないんだ?』

 

「あれはお前達の味方だろう? とんでもない物を連れ出してくれたな」

 

イングラムの言葉に風神鬼は肩を竦めるようなジェスチャーを取る。

 

『あれは別に私の仲間って訳じゃないし、そもそも私は龍王鬼様にあいつを監視しろって言われてたんだけど、見ての通り暴走してるのよね。だからさ、私の仲間が離脱するまで、ううん。そっちの味方が来るまで共闘するからさ。手伝ってよ、あの馬鹿を制圧するの』

 

風蘭からの持ちかけにイングラムは眉を顰める。風蘭が何を考えているのか、まるで判らなかったのだ。

 

「お前は何を考えている」

 

『べっつにー。手伝いながらあいつをそっちが殺してくれたら都合がいいなーってくらいしか考えてないよ。それでどう? 断るなら……

百鬼獣もあんたたちの敵になるけど?』

 

「……良いだろう。お前が龍王鬼の配下だと言うのならば背後から撃ったりしない筈だからな」

 

『さっすが話が判る。私は風蘭、あんたは?』

 

「イングラム、イングラム・プリスケン」

 

『OK、イングラム。始めよう、これ以上あいつを巨大化させるとそれこそ手が付けられないからね』

 

味方では無いが不意打ちなどを避ける為にイングラムは風蘭の提案を呑まざるを得なかった。ジュデッカのような特殊能力は持たないが、純粋に巨大であり、そして強い力を持つ不知火を相手にするのに背後からの不意打ちにまで警戒する余裕は無く、敵が逃げるのをみすみす見逃すことになるが、全員が生き残るにはそれが必要だと判断しての物だった。

 

『イングラム教官、どういうおつもりですか?』

 

「どういうつもりも何も無い、生き残るためだ。今のこの状況であの化け物を相手にしながら、ビーストと百鬼獣とは戦えない。無差別攻撃をして来るんだ。百鬼帝国にとってもこいつは敵……ならば利用出来る者は何でも使う」

 

『しかし』

 

『心配しなくて良いさ。言った事は覆さないよ、それに……『この小娘がああああッ!!!』うるせえ! このクソババア!!』

 

不知火の攻撃は風神鬼も襲っており、アギラの罵声に負けないくらいの大声で風蘭が怒鳴り返し、風の刃を不知火に向かって射出する。

 

『見れば分かるでしょ? こいつ私を殺すつもりなんだよ。私はまだ死ぬつもりが無い、だからそっちに協力する。道理でしょ?』

 

不知火の攻撃には風蘭を殺すと言う明確な悪意があり、それを感じ取ったアヤは風蘭の言葉が真実だと悟る。

 

『ライ、今は敵じゃないわ』

 

『……大尉、分かりました。百鬼獣に関しては納得はしていませんが、しょうがないのでしょう。ですが……あれはどうしますか?』

 

『……何のつもり?』

 

『何のつもりも無い、私はリュウセイを守る。それだけ、邪魔をするならお前も殺す』

 

『……リュウセイリュウセイ、何様のつもり。ストーカーは気持ち悪い』

 

挑発合戦をしているラトゥーニとレトゥーラ。しかしそれでいながら不知火へ攻撃をしているのだから始末に終えない。普段大人しいラトゥーニがここまで敵意を露にしていることを考えるととことんそりが合わないのだろうが……今はそんなことをしている場合ではないとヴィレッタが声を掛ける。

 

『何をしているの、今はそんなことをしている場合じゃないわ……こいつますます巨大化しているわ……』

 

無人島の残骸も取り込み、巨大化を続ける不知火を前にこの場にいる誰もが身を震わせる。

 

「分かっただろう? 今は何でも利用する。あの巨体のどこかにある核を破壊するぞ! リュウセイがフォワード! 俺達は支援に徹するぞ!」

 

イングラムが指示を出すが、それはとてもあやふやな物であり、イングラム自身が百鬼帝国である風蘭、そしてレトゥーラをこの一時だけでも仲間として引き入れたのはリュウセイ達だけでは勝てないと言うものを感じての物だったのかもしれない……。

 

 

 

 

 

不知火妖蛇の装と戦闘を始めて数分で無人島は跡形も無く消し飛び、SRX達は中空に飛行しての戦闘を強いられていた。

 

『アヒャヒャヒャッ!! そらそらそらッ!!!』

 

狂ったように笑うアギラの声が響いたと思った瞬間に海面が光り輝き、鋭い刃を持つ槍となり凄まじい勢いで空中のSRX達に向かって放たれる。

 

「リュウセイ! 受けようと思うなッ! 避けるか、迎撃しろッ!!」

 

『分かってる! ハイフィンガーランチャーッ!!!』

 

SRXの指から放たれる実弾の嵐が水の槍を迎撃し、不知火の身体を穴だらけにする。だがライ達の見ている前で装甲は見る見る間に再生していく……。

 

『なんて再生能力なのですか……駄目ですわ。「私達だけでは勝てない」』

 

『ッ! シャイン王女。それは』

 

『ええ、最悪の予知ですわ。私達だけでは攻撃力が足りていませんわッ!』

 

SRXを有してもなお攻撃力が足りないとシャインが悲痛な声で叫んだ。圧倒的な再生能力、そしてアギラ自身の空間把握能力が低いから反撃をする事が出来ているが、超火力による範囲攻撃を前に無理に突撃するのは無理、更に言えば溜め時間が必要なR-GUN・パワード、R-SWORDとの合体は不可能に等しいのだ。

 

『マイ! あぶねぇッ!』

 

『え……あ、ありがとう』

 

水の槍と剣の奇襲に反応出来なかったマイをSRXが庇い、手にしていた天上天下無敵剣で水が姿を変えた剣を切り払う。

 

『気にするなよ、マイ。仲間だろ』

 

『……う、うん……それでもありがとう』

 

ダメージの蓄積が大きく、動きが鈍くなっているアルブレード・F型を庇いながら、SRXのガウンジェノサイダーが不知火を襲う。

 

『ヒャヒャヒャ!! 無駄じゃ無駄じゃッ!!』

 

『ラトゥーニ! シャイン王女! 合わせてッ!』

 

『了解ッ!』

 

『私にお任せくださいなッ!』

 

胴体に風穴が開くがアギラの高笑いが消えることは無く、内部がむき出しならばダメージも通るだろうとR-GUN・パワードの手にしたツインマグナライフルと2機のフェアリオンのボストークレーザーが風穴の開いている不知火の胴体へと飛び込み、大爆発を起す。

 

『無駄じゃ無駄じゃ!フェフェフェフェッ!!』

 

胴体を失ってもなお、頭部と4本の腕は宙に浮いており、そこから放たれたビームがSRX達を襲う。

 

『ぐうっ! アヤ! まだ大丈夫か!?』

 

『ええ! だけど余り長くは皆の盾にはなれないわッ!』

 

SRXの念動フィールドをもってしても防ぎきれない、不知火の圧倒的な火力。念動フィールドでSRXがマイ達を守っている間に不知火は悠々と自己再生を行なうが……。

 

『そうはさせない、ヴィレッタ!』

 

『ええ、分かってるわよ、イングラム』

 

そうはさせないとR-GUN・パワードとR-SWORDが不知火へ飛びかかり、ビームカタールソードとビームソードによる斬撃が不知火の両腕を引き裂き、発射しようとしていたレーザーが消滅する。

 

『今の内に態勢を立て直せ! 隊列を崩すな!』

 

『逃がさんぞッ!!』

 

『うっさい婆だねッ! 風刃ッ!!!』

 

肩から千切れた腕を操りSRXへの攻撃を仕掛けようとした不知火だが、風神鬼の放った風の刃がその異形の腕を肘まで切り裂いた。

 

『驚いたわね、ちゃんとフォローしてくれるね』

 

『今は味方でしょ? 私は裏切ったりしないのよ』

 

風神鬼から風蘭の楽しそうな声が響き、舞うような動きと共に放たれる風の刃が不知火を拘束する。

 

『動きは止めれるけど、こいつの不死身の理由が私も判らないんだよ。このままだとジリ貧だ、なにか良い考えはないか?』

 

自分だけでは倒しきれないと悟った風蘭がそう声を掛けてくるが、正直イングラム達にも打てる手は無かった。圧倒的な再生能力、そして攻撃力の高さ。巨体ゆえに機動力が低いから攻撃を当てることは容易いが、生半可な攻撃では不知火を巨大化させる事に繋がる……。

 

(状況はかなり詰みに近いが……不幸中の幸いはアラドが戦っていない事か)

 

不知火が現れてからアラドは逃げるビルトファルケンを追っている。ゼオラが関わると冷静さを失うアラドがこの場にいないことに安堵するライ。

 

『う、ううううううッ!!』

 

『ゼオラッ! ゼオラ逃げるなッ!! こっちに来いッ!!』

 

時折R-2のコックピットに響くのは苦しそうな少女の声と、それに向かって必死に呼びかけているアラドの声だった。追われているのに攻撃する気配を見せないファルケンの姿はアラドの声が少しずつゼオラに届いている証のようにライには思えていたが、その呼びかけはアギラの怒りを買うことになった。

 

『良い加減に邪魔じゃぁッ! 出来損ないのブロンゾ28がッ!!!』

 

「リュウセイ! 止めろッ!!」

 

『分かってるッ!!』

 

音を立てて不知火の装甲が開き、島の半分を消し飛ばしたビームの雨が放たれようとし、それを妨害しようとSRXがガウンジェノサイダーを放とうとした瞬間、その頭部に強烈なビームが撃ちこまれ、不知火は2~3度痙攣し後退し、アギラが怒りに満ちた怒声を上げた。その視線の先にはオーバーオクスタンランチャーを構えたラピエサージュの姿があった……。

 

『アウルム1何をするうううううッ!』

 

『何をするじゃないよ! このクソ婆ッ! さっきからフレンドリファイヤばっかりしやがってッ!!! オウカ! お前は早くゼオラと撤退しな、ゼオラを追いかけている奴を何とかしてなッ!』

 

『……風蘭さん、ありがとうございます』

 

上空のラピエサージュを攻撃しようとした不知火の側面から、風のフィールドを纏った風神鬼の体当たりが叩き込まれ不知火は頭部と胴体の大半を失い、動きを止めた隙にラピエサージュは反転し急上昇し、ビルトビルガーとファルケンを追っていく。だが風蘭の命令は抽象的で、オウカはゼオラとアラドをアギラから守れと命じられていると判断した。

 

『貴様も失敗作かああッ!』

 

上昇していくラピエサージュに向かって再生し始めている腕をむけ、熱線を放とうとした不知火だが突如その動きを止めた。

 

『……お前の声は耳障りだ』

 

『己ぇええええええッ!!!』

 

ズイーリアスが不知火の体内で念動フィールドを作り出し、再生の妨害を行った所で不知火が巨大化している理由、そして異常な再生能力の正体……。

 

『あれは……ナノマシン?』

 

『なるほどな。読めてきたぞ……あいつのカラクリがな』

 

光り輝く粒子が海水を持ち上げて不知火の装甲へと変化するが、当然海水なので透けている。だからこそイングラムは、いやライも再生能力、そして何故巨大化できるのかを見抜く事が出来ていた。

 

「超小型の百鬼獣が材料を確保し、固定化していたのですね」

 

『ああ、つまり装甲の変わりになる物がある限り、あいつを倒す事は不可能だ』

 

ナノマシン状の百鬼獣の群態が海水や、百鬼獣の残骸を集めて不知火の装甲を作り出す。そして損傷は即座に材料を集めて再び装甲を作り出す。

 

『海水でも装甲を作れるならどうやって倒せばいいんだよ!? 教官』

 

「落ち着けリュウセイ。何もあの巨体を打ち倒す必要はないんだ」

 

『ライの言ってることが判らない。アヤ、どういう?』

 

「あいつの今纏っている装甲を全て破壊する。海水に置き換われば核である百鬼獣の位置が分かる筈だ」

 

『……ライ、今のお前凄い馬鹿なこと言ってるぜ?』

 

リュウセイにそう指摘されるが、そんな事はライも分かっている。

 

「仕方ないだろう。あの装甲がある限り核を見つけるのは不可能だ。再生されると分かっていても攻撃を続けるしかない」

 

『でもライ少尉、そろそろ私達の機体は弾薬が……』

 

フェアリオンのラトゥーニが不安そうに言うと、ライは小さくふっと笑った。

 

「大丈夫だ。ラトゥーニ……俺達は最低限の勝利条件は満たした」

 

『クレイモアッ!! 全弾持って行けッ!!!』

 

海面を突っ切ってSRXの前に躍り出たアルトアイゼン・ギーガの両肩、そして背部から放たれたクレイモアの弾雨が不知火の装甲を一瞬にして穿ち、その後からハガネ、シロガネ、ヒリュウ改の3隻による3連射の連装主砲が不知火へと叩き込まれ、あれほどの猛威を振るった不知火は糸が切れた人形のように崩れ落ち海の中へと沈んでいく。

 

「逃げられたのか?」

 

『いや、そんなはずは……気配は感じていたわ……でももしかすると不利を感じて逃げたのかもしれないけど……』

 

何処かから再び姿を見せるかもしれないと警戒していたイングラム達だが、不知火は再び現れることは無かった。だがそれも至極当然である、不知火を操縦する為に投薬や一種の洗脳が行われ攻撃的な性格になっていたとしても、アギラは元々が小心者であり、命を賭けて戦う考えなどは最初から無くナノマシンが海水で装甲を作り出した頃には既に海の中に潜り、この海域から離脱していたのだから……。

 

 

 

 

救難信号を頼りに現場に急行してきたキョウスケは拍子抜けしたものを感じていた。

 

(どういうことだ)

 

SRXの疲弊具合を見れば相当な強敵であったのは間違いない。だがエリアルクレイモアの一撃で姿が崩れ、海へと消えていったのは想定外と言ってもいい……それに加えて正体不明の襲撃者であるズィーリアス、そして風神鬼の姿もあり、一体この場で何があったのかとキョウスケを含めたハガネの面子は困惑することしか出来ない、だがそれでもズィーリアス、風神鬼と戦う可能性も考え身構えるが、それは杞憂で終わる。

 

『キョウスケ・ナンブ……お前は必ず私が殺す。お前の罪を忘れるな、絶対に私はお前を許さない』

 

身も凍るような怨嗟の言葉を残しズィーリアスは空中に紅い線を残し、キョウスケ達の前から姿を消した。

 

『私もこれ以上戦うつもりはないし、じゃあねえ~』

 

風神鬼も手を振り風を身に纏って姿を消した。

 

『んー何があったのかしらん? マイちゃんが見つかったのは良いんだけど……誰か何があったのか説明してくれない?』

 

何があったらズィーリアスや風神鬼と共闘する状況になるのかとエクセレンが説明を求める。

 

『それにあの敵は百鬼獣でしたよね? なんで龍王鬼の部下が……』

 

僅かに見ただけだが不知火を見れば百鬼獣であることは明らかで、戦う前に逃げられ拍子抜けしつつ、何があったのか、どういう状況だったのかと説明を求める。

 

『ちくしょう、ちくしょうッ! 後少しだったのに……うわああああああ――ッ!!!』

 

そこにアラドの絶叫が重なりますます状況の把握が困難になる。状況を1番把握しているリュウセイ達もリュウセイ達で不知火との戦闘で疲弊しきっており、疑問に答えたいという気持ちはあるのだが口を開く余裕が無いと言う地獄絵図の形相を呈していた。

 

『キョウスケ、どうかした?』

 

「いや……少しな、思うことがあった」

 

『ビーストの事? だけどあれはキョウスケとは関係がないわ、私は逆恨みだと思うわ』

 

口ごもるキョウスケにエクセレンはすぐに見破り、レトゥーラの恨みはお門違いでキョウスケの責任ではないと声を掛ける。

 

「いや、そうじゃないんだ。あのパイロット……前よりも冷静になってなかったか?」

 

『え? そうかしら? 私はちょっと分からないわ……キョウスケの気のせいじゃない?』

 

謂れの無い罵詈雑言でキョウスケが悩んでいると思っていたエクセレンはキョウスケの問いかけに困惑した様子で気のせいじゃないか? と返事を返す。

 

「それなら良いが……まぁ良い、敵の襲撃も無さそうだ。帰艦する事にしよう、武蔵の事もある。いつまでもこの場に留まっている訳には行かないからな」

 

今優先すべき事は武蔵の救出に向かっているゼンガー達からの連絡を待つことであり、そして武蔵を無事に救出する事だ。この場に留まり敵の増援が現れる可能性が高いこともあり、キョウスケ達はハガネへと帰艦し、この場を後にするのだった……。

 

 

 

第160話 紅の雨 その5へ続く

 

 




今回も戦闘が少なくて申し訳ありません。元のシナリオが殆ど戦闘がないこともあり、アギラの百鬼獣の顔見せ程度のシナリオとなってしまいました。動きが少ないシナリオはアレンジと肉付けが難しいのが難点ですね。次回は不知火と戦っている時のアラド達のやり取りと、少しのシナリオデモ、そして紅の雨のその1へと話をつなげていこうと思います。


PS

スパロボDDガチャですが、奇跡的にステップ3で期間限定の蜃気楼と新規のブラックサレナがそろうという快挙

どちらも育成している機体なので大幅な戦力増強となりました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第160話 紅の雨 その5

 

第160話 紅の雨 その5

 

レモンによって改造されたビルトファルケンの機動性はビルトビルガーよりも上で、何度も何度もアラドはその動きを見失った。アシュセイバー系列の高性能のスラスター、そして4つのウィングにはソードブレイカーが装備され、死神が手にするような鎌を手にしているファルケンの姿は増設されているスラスターによって異形の死神のように見えていたが、アラドは恐れる事無く無手のビルトビルガーにビルトファルケンを追わせる。

 

「ゼオラッ! 聞こえているんだろ! 俺が判るんだろッ!! 逃げんなよッ! ゼオラぁッ!!!」

 

その機動性で背後を取っても攻撃を仕掛けてくることは無く、オクスタンランチャーの銃口を向け、それでも引き金を引かないビルトファルケンを見れば、ゼオラが躊躇っている事、そして自分を認識しているとアラドは感じていた。だからこそ無手でビルトファルケンを捕まえようと必死にその姿を追い続ける。

 

『駄目……ダメナノ……ヤダヤダ……コロシタクナイ……コナイデ……』

 

僅かに指先が触れ、接触通信で響いたゼオラの声は殺したくない、嫌だと涙を滲ませるゼオラの声だった。

 

「絶対捕まえるッ!! ゼオラぁッ!!!」

 

朱王鬼の術にゼオラも抗ってるのだ。ここで自分が根性を見せないでどうすると気合をいれ、アラドは操縦桿を強く握り締める。

 

(絶対に、絶対に取り戻すッ!)

 

ゼオラもオウカもこの手に取り戻す。それだけを考えて必死にアラドはビルトビルガーを操縦する、だがどうしても後一歩が届かない。

 

「くそッ!! 絶対……絶対に取り戻すッ!!!」

 

空中で反転しアラドを嘲笑うかのように飛ぶビルトファルケンを追って、アラドはビルトビルガーを反転させたが、目の前に広がった光景に言葉を失った。鎌を手にしている左腕を、右腕が掴みその動きを封じ、奇妙な動きを繰り返していた。

 

『コロサナイト……イヤコロシタクナイ……ニゲテ……コロスノ……イヤァッ! アラド……アラド……コナイデ、キテ、コロス、コロシタクナイ……』

 

「ぜ、ゼオラ……」

 

朱王鬼の術の影響が強くなって来たのか、ゼオラの言葉は支離滅裂なもので、それと同時に自分が間に合わなかった事を思い知らされたアラドは呆然とした様子でゼオラの名前を呼ぶことしか出来なかった。

 

『コロス、コロス……コロサナイトッ!!!』

 

「ゼオラ……ッ!!」

 

一瞬で切り込んできたビルトファルケンがビルトビルガーを両断しようとその手に持った鎌を、ゼオラの変質を受け入れる事が出来ず呆然としていたアラドの乗るビルトビルガーへと振り下ろした。

 

『アラド……もっと強くなるの、まだ貴方は弱くて良い。だけど……もっと強くなって』

 

だがそれはビルトビルガーとファルケンの間に割り込んだラピエサージュの肩へ突き刺さっていた。

 

「オウカ……姉さん……俺、俺ッ!!」

 

助けたかった、守りたかった。それだけを考えていたアラドだが、僅かな自我を見せていたゼオラは再び朱王鬼の術中に落ち、そしてオウカに守られただけで何にも出来なかったという絶望感がアラドの胸を埋め尽くす。

 

『……まだ時間はあるわ。アラド、ありがとう。私達を助けようとしてくれて、行くわよ、ゼオラ』

 

『コロサナイト……わたし私……アラ……ド……ゴメン……ネ……ハナセハナセッ! コロス、コロスウウウウッ!!!』

 

謝罪の言葉を口にした途端豹変し、殺すと叫ぶゼオラとビルトファルケンをオウカは自身の乗るラピエサージュが傷付く事も厭わず、抱き締めるように取り押さえる。

 

「姉さん! ゼオラッ!」

 

『駄目よアラドッ! 貴方が近づけば近づくほどに朱王鬼の術は強くなる……これ以上ゼオラが暴走したらそれこそ取り返しが付かない事になるわ』

 

オウカの静止の言葉にアラドの手が操縦桿から離れて落ちた。

 

『……ごめんなさい、私がもっとしっかりしていればこんな事にはならなかった……ごめんなさい』

 

「ち、違う! 姉さんは……オウカ姉さんは悪くない……俺……俺ッ! ちくしょう、ちくしょうッ! 後少しだったのに……うわああああああ――ッ!!!」

 

オウカもゼオラもアラドも誰も悪くないのに、皆が苦しみ、傷ついて後悔している。飛び去るラピエサージュとビルトファルケンを見つめ無力感に打ちのめされ叫ぶアラドの目からは涙が溢れているのだった……。

 

 

 

リュウセイ達がキョウスケ達が来るまでの間、何があったのかとブリーフィングルームで報告を行なう。

 

「……という事がありました。俺……やっぱり何も出来なくて……助けたかったのに……何も出来なくて……守られてただけで……」

 

「もう良い……良く頑張った。ラーダ女史、申し訳無いがアラドを頼む。休ませてやって欲しい」

 

目を真っ赤にしたアラドが拳を強く握り締め、何をしていたのかと肩を震わせながら報告を続けようとするが、その余りに悲痛な姿を見て、ダイテツは報告はもう良いと言ってラーダにアラドを休まるように指示を出す。

 

「はい、さ、行きましょう。アラド」

 

掌から血が溢れるほどに拳を握り締めているアラドの手をラーダがゆっくりと開き、ラーダに手を引かれ、アラドはブリーフィングルームを後にした。

 

「あの歳の餓鬼には重すぎる荷物だな」

 

「そうだな……とは言え、ただ鹵獲するだけ駄目なんだもんな」

 

機体を撃墜してパイロットを救出することだけならば、ハガネの戦力を考えれば十分に可能だ。だが朱王鬼という鬼に操られているゼオラはラトゥーニか、オウカかアラドを殺すまでは正気に戻らず、そして正気に戻ったとしても自分の家族を手に掛けたという事でゼオラは自ら命を絶つ……余りにも救われない状況にカチーナ達は眉を顰める。

 

「一番は術を掛けた鬼を倒す事だと思うけど……その朱王鬼ってどこにいるのよ?」

 

『セレヴィスとマオ社を制圧しているので月に居ます』

 

ヒリュウ改のリョウトからの報告を聞いてエクセレンは眉を細める。

 

「今の状況じゃ無理ね……本当……なんとかしてあげたいんだけどね」

 

「……仕方あるまい。少しずつ、少しずつ取り返していくしかない、ラングレーも、武蔵も、テスラ研も月もな」

 

百鬼帝国、インスペクターに奪われたものは多い。だが激情に身を任せ攻撃を仕掛ければ自分達も二の舞になる、例え遠回りでも少しずつでも奪われたものは取り返すとキョウスケが静かだが、強い意思の込められた声で言う。

 

『その通りだ。奪われたものは取り返せば良い、それよりもだ。リュウセイ少尉、ビーストのパイロットについてだが……』

 

「あ、はい、あのパイロットはレトゥーラと俺に名乗りました。機体はズィーリアスだと言ってました」

 

リーの問いかけにリュウセイがそう返事を返した、アビアノ基地周辺で現れ、そしてロスターが出現した際もリュウセイの元に現れ、キョウスケに尋常ではない敵意を向ける謎のパイロットと機体。

 

『一応改めて聞いておくが、知り合いではないのだな?』

 

「本当に思い当たる節は無くて……俺も正直その……困惑してます」

 

『まぁ確かにそうですな。ラトゥーニ少尉達を殺そうとする割にはリュウセイ少尉を守ると言うのでしょう? はてはて、リュウセイ少尉はそんなにプレイボーイでしたかね』

 

『ショーン副長。今はふざけている場合ではありません、しかし……本当に何者なのでしょうか……』

 

からかうようなショーンにレフィーナがぴしゃりと釘を刺しながら、レトゥーラが何者なのかと首を傾げる。

 

「リュウセイに匹敵する念動力者で」

 

「尋常じゃない出力を持つ機体を操り、囲まれた状態から悠々と逃げる」

 

「んでもってリュウセイとキョウスケに執着してる女のパイロット……」

 

「それともう1つラトゥーニとマイに尋常じゃない敵意を見せている。そしてそれに呼応するようにラトゥーニの攻撃性も増していた」

 

分かっている事は決して多くは無いが、その少量の情報からある程度の予測は出来ると話し合いを始めようとした時、手を叩く音がブリーフィングルームに響き渡った。

 

「この件に関しては俺達に出来る事はない。ケンゾウ博士に任せるべきだ、下手な推論は思い込みを呼ぶ。念動力が検知されているのならばケンゾウ博士に解析を頼んでから考察するべきだ」

 

強引に話を打ち切るイングラムにリュウセイ達は勿論、キョウスケ達も僅かな違和感を覚える。だがイングラムの言う事も一理あると追求する事をやめた。

 

「……」

 

「ラトゥーニ? どうかしたのか?」

 

「あ、ううん、リュウセイ。なんでもない……ちょっと気になることがあっただけ」

 

なんでもないと笑うラトゥーニだが、その顔はなんでもないと言う顔ではなかった。

 

「なんかあったら相談してくれよ。俺で出来る事なら相談に乗るから」

 

「うん……ありがとうリュウセイ」

 

問いただすのではなく、相談するのを待つと言うリュウセイの言葉に笑みを浮かべるラトゥーニ。その姿は仲睦まじさを感じさせたのだが……。

 

「マイ? どうかした?」

 

「う、うん。なんでもないよ」

 

ただその姿をジッと見つめていたマイにブリーフィングルームに居た何人かは何かを感じ取った……。

 

(なんかあれね……地雷を感じるわね)

 

(確かに……リュウセイの奴意外と天然だしな)

 

レトゥーラの事も含め、リュウセイが天然フラグメーカーではないかと言うひそひそ話があちこちで聞こえるが、ダイテツの咳払いで全員が顔を上げた。

 

「ビースト、いや……ズィーリアスとレトゥーラのこともあるが、当面の問題は別にある。テツヤ大尉」

 

「了解です」

 

ダイテツの合図でテツヤがコンソールを操作し、不知火の姿をモニターに映し出した。

 

『やっぱりホワイトデスクロスに似てる……』

 

『これは百鬼獣なのですか?』

 

「どういう経緯でこれが現れたのか教えてくれ」

 

蛇のような下半身、4つ腕、武装や機体色に違いはあるが、それは紛れも無くオペレーションプランタジネット終盤で現れたホワイトデスクロス――ジュデッカに酷似していた。キョウスケ達が見たのは数分だった為にリュウセイ達に不知火についての事をキョウスケ達が問いかける。

 

「この百鬼獣は不知火という名前で、ガーリオンをベースにした百鬼獣のようです。パイロットはスクールのアギラ・セトメ。そうよね、ラトゥー二」

 

「は、はい、でも声が随分と若くなってて……もしかすると鬼になって若返ったのかもしれないです」

 

鬼になって若返ったというラトゥー二にブリーフィングルームにざわめきが広がる。

 

「え、鬼になるってそんな事も出来るの? そこの所どう? コウキ」

 

『ん? いや俺の知ってる限りではないが……死人を鬼にして復活させるとか言うのは見たような気がする』

 

「どう考えてもそっちの方がやばいだろがッ! 死人が復活……復活」

 

尻すぼみになるカチーナの視線の先には涼しい顔をしているイングラムの姿がある。

 

「ここにもいるな、死人が」

 

「イングラム少佐、そういうブラックジョークは止めて下さい」

 

「そうよ、イングラム。またビンタされたいのかしら?」

 

「……断っておこう」

 

素振りをするヴィレッタから引き攣った様子でイングラムは視線を逸らし眉を顰めた。

 

「問題はだ。こいつがナノマシンで稼動する百鬼獣であり、取り込むものがある限り無限に再生するということだ」

 

SRXの攻撃を受けても即座に再生し、身体を作り直す不知火。その異常な再生能力にはキョウスケ達も絶句する。

 

『ここまでとは……こうなると跡形も無く消し飛ばすしか、倒す方法はないのではないか?』

 

『ですがリー中佐、それほどの攻撃を地球で使えば……』

 

「地表への影響が余りにも大きすぎる……この百鬼獣を倒すにはテスラ研の奪還が必要となりそうだな」

 

不知火の身体を構成するナノマシン――それをなんとかしなければ不知火を完全に撃破する術は無く、そして今のハガネ、ヒリュウ改、シロガネにナノマシンに精通している者もいない。

 

「また厄介な敵が出てきたわね……」

 

エクセレンの小さな呟きがブリーフィングルームへと響く、1つ問題を解決すればそれを上回る問題が立て続けに起こる。余りにも絶望的な状況だが、それでも心を折っている場合ではない。そしてダイテツ達がこうしてブリーフィングルームに面子を集めたのはリュウセイ達から話を聞く為でもあったが、本当の目的は今ハガネのクルーの間に生まれようとしている火種を取り除く為の物であった。

 

「……ここにいる全員はマイ・コバヤシについてある懸念を抱いているだろう。それに関してワシから話がある」

 

そう前置きをし、ダイテツはゆっくりとマイについての話を始めるのだった……。

 

 

 

アヤとマイの姉妹の話、そしてマイが何故レビ・トーラーへと至り、そして今マイ・コバヤシとしてハガネに乗っているのか、ダイテツの話に誰もが無言で耳を傾ける。そしてマイが歩んで来た道がどれだけ過酷で救いが無かったのかを知り、誰もが言葉を失った。

 

「……以上が、 マイ・コバヤシに関するこれまでの経緯だ。だがマイ・コバヤシとレビ・トーラーは違う、諸君らがマイを仲間として迎え入れてくれる事を切に願う」

 

ダイテツの言葉は真摯にこの場にいる全員の胸を打った。確かに過去は変えられない、だがそれに縛られ、マイをマイと見ないのがどれだけ愚かな事かは言うまでもないだろう。

 

「彼女も…… エアロゲイターの犠牲者だったのか」

 

「……ああ。俺達はそれを知っていたけどよ……何時話せば良いかって皆考えていたんだ」

 

「ああ。マイは俺達の仲間だが……それでもそれをすぐに受け入れられる訳ではないだろう?」

 

リュウセイ達がマイの事を黙っていた理由、そして庇っていた理由を知れば、リュウセイ達の対応は間違いでは無かったとブリット達は嫌でも理解することになる。ビアン達と異なり、エアロゲイターとして、地球に攻撃を仕掛けてきたレビとビアン達では話が余りにも違うからだ。

 

「でもアヤ大尉……今は貴女の妹ちゃんなんでしょ? それなら隠そうとしないで、早く言ってくれたらよかったのに……こんにちわ、マイマイ」

 

「え、あ……こんにちわ」

 

エクセレンがマイの肩に腕を回して、視線を合わせて微笑みかける。マイは少し気恥ずかしそうにしながらもエクセレンに対して頭を下げる。

 

「もうーこの反応可愛いわねぇ~良い子良い子」

 

可愛い可愛いと言いながらマイの頭を撫でるエクセレン。それはマイが敵ではないと、守るべき幼い少女なのだとキョウスケ達に見せているようにさえ見せた。

 

「エクセレン……」

 

「んふふ、過去は過去、今は今でしょ? 昔の事ばかりに拘ってちゃ何にもならないわ。まぁ未来の事を考えて不安に思うのもどうかと思うけどね」

 

普段はお茶らけているがエクセレンはハガネのメンバーの中でも上位の才女であり、ムードメイカーでもある。そんなエクセレンがマイを擁護すれば雰囲気は一気に変わる。それでもマイの中には一抹の不安がある……。

 

「良いの……私は敵だったんだ。それでも仲間で良いのか……」

 

レビであったという事実は変わらない、そして敵であったと言う過去も……それでも受け入れて欲しいと言う願いがあり、マイがおずおずとそう呟くとリョウト達が口を開いた。

 

「僕だって昔はDCでリュウセイ達の敵だった。まぁ……僕の場合は人間爆弾みたいな捨て駒だったけど……僕だって下手をすればリュウセイ達を殺していたかもしれない。それでもリュウセイ達は僕を仲間として受けれてくれた。だから僕は今皆と一緒にたたかっている……自分の意志で」

 

トーマスによってハガネを吹き飛ばす爆弾として戦場に送り出されたリョウトは紛れも無く捨て駒として扱われていたが、DCの兵士であり敵だったという事実と過去は変わらない……それでもハガネの仲間として共に戦っている。

 

「それを言えば私はコロニー統合軍で思いっきり敵でしたわよ。ユーリア隊長も」

 

「ああ。それは変えようの無い事実であり、過去だ。だがそれならば、自分の行動によって過去の評価を変えていけば良い……何故そんな驚いた顔をする」

 

凄く良い事を言うユーリアなのだが、普段のポンコツ振りを見ているからえっと信じられない物を見るようなものを見る目で見られて、何故と言うが誰も答える事はない。

 

「マイは自分の意志で戦う事を証明したんだ。誰がなんと言おうと、俺達の仲間だ」

 

「ああ。だからそんなに不安そうな顔をすんなよ。マイ」

 

「……ありがとう……そう言って貰えて嬉しい」

 

リュウセイとライの言葉にぎこちない笑みを浮かべながら感謝の言葉を口にする。

 

「これでマイマイは私達の仲間ってことで良いわよね。カチーナ中尉」

 

1人だけ仏頂面をしているカチーナにエクセレンがそう声を掛ける。心情的にはカチーナは既にマイを仲間として認めているが、それでも憎まれ役を買って出る。言ったら悪いが、ハガネのクルーは皆善人ばかりであり、誰かは憎まれ役をやらなければならないのだ。

 

「あいつはエアロゲイターの大将の」

 

「それを言うならあたしはどうなるの? あたしはビアン・ゾルダークの娘だよ、確かに親父は地球の為に戦ってるけど、戦争を起こしたのは変わらないし、罪人って言うのも変わらないよ」

 

「ぬ……だけどな」

 

リューネの言葉にカチーナは言葉に詰まるが、それでも口を開こうとする。

 

『それを言えば俺は元・百鬼帝国だし、この場にはいないがラドラは恐竜帝国だな、ついでに言えばカーウァイも敵だったな』

 

『やだ、この船のクルー、元敵ばっかりだヨ』

 

「俺もだな、操られていたが、敵としてお前達の前に立ち塞がった事に変わりはない。カチーナ中尉は俺達の事をまだ敵だと思っているのか?」

 

コウキは百鬼帝国で、ラドラは恐竜帝国、そしてイングラムは操られ、カーウァイもサイボーグに改造されて敵として幾度と無くハガネの前に立ち塞がった。ラルトスが不謹慎にもけらけらと笑うが、ハガネ、ヒリュウ改、シロガネの中にはリョウトやレオナを含めて相当数のかつて敵だった者が乗り込んでいる。

 

「分かった分かったよ。あたしの負けだよ。 頼むからそんなにあたしを見るなよ」

 

「んふふふ、憎まれ役を買って出るカチーナ中尉は不憫よねぇ」

 

「分かってたら嫌な話の振り方をするんじゃねぇッ! まぁエアロゲイターの正体は知ってるし、結果が出ちまったことだ、 もうゴチャゴチャ言わねえよ」

 

そう言うとカチーナは不機嫌そうに椅子に腰掛け、ラッセルがすぐにカチーナに茶菓子とお茶を出して、機嫌を直すように声を掛ける。

 

「これで万事解決ね。アヤ大尉はちゃんとマイちゃんを大事にしてあげるのよ、お姉ちゃんなんだからね」

 

「ええ……分かってるわ。ありがとう、エクセレン」

 

からかう様にいうエクセレンにアヤは笑みを浮かべ、マイの側に立つ。するとマイはアヤの服を掴んで後ろに回る。

 

「あ、ありがとう……エクセレン」

 

アヤの後に隠れながら感謝の言葉を口にする。その微笑ましい姿にエクセレンは笑みを浮かべた。

 

「どう致しまくりやがりましてございますの~……って、これじゃラミアちゃんみたいね」

 

伊豆基地で自爆する事で自分達を守ったラミアの事を思うエクセレン。だがそれはエクセレンだけではなくブリット達もラミアはシャドウミラーであったが、最終的に自分達を守ってくれたラミアをエクセレン達はどうしても敵だとは思いたくなかったのだ。だからこそ、エクセレンはマイを擁護したのかもしれない、もしラミアが生きていたら再びハガネや自分達が彼女の居場所となれるように……。

 

「……他に異論のある者は?」

 

ダイテツがそう声を掛けるが誰も声を上げることはない、それは既にハガネのクルーがマイを仲間として受け入れている証だった。

 

「では、以上だ。 本艦は武蔵救出任務を続行する。 各員は持ち場に戻れ」

 

ダイテツの合図で解散となり、マイはハガネの仲間として受け入れられるのだった……。

 

「てことがあったんだ。武蔵」

 

「なんかオイラのいない間に凄い事になってないか? いや、マイが仲間って受け入れられたのはオイラ凄く良い事だと思うんだけどさ」

 

自分がいないあいだにマイが仲間として受け入れられていたのは喜ばしい事だが、リュウセイに知らされたことに武蔵は鬼の形相を浮かべた。

 

「武蔵様、どうしましたか?」

 

「あーいやさ。朱王鬼って言うクソ鬼な。殺しかけたんだけどさ、リョウト達を逃がすことを優先したからトドメを刺してなかったんだよ。ミスったな……その話を聞いていたらぶっ殺してたんだけどな」

 

軽い口調の武蔵だが、その声は紛れも無く本気の物で、もしもアラド達とゼオラの関係を武蔵が知っていたら、月を脱出する前に確実に朱王鬼にトドメを刺してたのは間違いない。

 

「いや、大丈夫っすよ、あいつには俺がちゃんと落とし前を付けさせますから」

 

「そっか。そうだよな、アラドはあいつのせいで苦しんだんだ。オイラが余計な茶々を入れちゃ駄目だよな。だけど……そこまで言ったんだ。負けんなよ」

 

武蔵にドンっと胸を叩かれ、アラドは一瞬言葉に詰まったがすぐに力強い返事を返す。

 

「俺これからカチーナ中尉の訓練なんですよ。とにかく身体を鍛えて、操縦ももっと上手くなって、絶対にゼオラとオウカ姉さんを取り戻すんです」

 

「その意気だ。アラド、よっしゃ、オイラも手伝ってやるよ」

 

「ええ! 本当ですか! ありがとうございますッ!」

 

アラドは武蔵が協力してくれると言う事に嬉しそうだったが、ブリットとの鍛錬を見ていたイルム達はアラドに向けて手を合わせて南無と呟いていた。

 

「それでしたら、私は後でエキドナと飲み物とタオルを準備して行きますわ」

 

「ご飯を食べたばかりだから無理はしないほうが良い」

 

「大丈夫大丈夫、オイラとかリョウとか隼人は飯食った後に重りを全身につけて20キロ走ったりするのざらだったから、アラドも平気だって、学生のオイラ達が出来たんだからさ」

 

自分達の訓練を例に挙げて大丈夫と笑う武蔵だが、アラドはこの時やっと自分へ向けられている合掌する手と南無の言葉の意味を悟った。

 

「しゃあ、行くかあ。オイラもちょっと鈍ってるし、しっかり鍛えておこうぜ」

 

「あ、はいッ! 頑張ります!」

 

「そんなに頑張らなくて良いって、ここじゃ走れないから……そうだな。うん、腹筋・腕立て・スクワットを1000回くらい準備運動でして、そっから組み手を……2時間くらいだな、しゃ、行こうぜ」

 

「え? え?」

 

武蔵の軽い感じの言葉に目を丸く困惑するアラド。しかし武蔵はそんな様子に気付かずアラドの肩に腕を回し、武蔵によってアラドは連れて行かれたが、その後姿が煤けていた事は言うまでも無い。

 

「……旧西暦クオリティの軽いって俺達の常識越えてるな」

 

「下手に武蔵に特訓なんか頼んだら三途の川送りだな。体験しているブリットはどう思う?」

 

「ん? いや、俺は慣れたぞ? うっし、じゃ俺も行ってきます。おーい! 武蔵、アラド! 俺も行くぞーッ!!」

 

「「マジか……」」

 

自ら地獄に飛び込んでいく勇者ブリットをイルムとタスクは信じられない者を見る目で見送り……振り返った瞬間にヒュっと息を呑んだ。

 

「……」

 

ラトゥー二が無言でジュースの缶を握り潰し、マイと共に食事をしているリュウセイをジッと微動だにせず見つめていたからだ。

 

「ご馳走様でした。また一緒にご飯を食べよう。リュウ」

 

「お、おう……」

 

食堂に連れて来られ、一緒に昼食を取る事になったリュウセイは満面の笑みを浮かべるマイを困惑した様子で見送り、自分の食べ終えた食器を片付けに立ち上がった所で足を止めた。

 

「……リュウセイ、話があります」

 

「ラトゥーニ?」

 

「いいよね?」

 

「……はい」

 

ラトゥー二の気配に気圧されたリュウセイはか細い声で返事を返し、食器を片付けた所をラトゥー二に連行されていった。その後姿を見たイルムとタスクは再び合掌し、南無と手を合わせるのだった……。

 

マイと食事をしていたリュウセイに嫉妬や怒りに似た感情を抱いたラトゥーニだが、ラトゥー二がリュウセイを傷つける事はない。

 

「……ラトゥー二、ラトゥーニさん?」

 

「……何?」

 

「何はこっちの台詞なんだけど……」

 

ゲームをしている時のように胡坐のリュウセイを椅子にしているラトゥーニだが、今日は向き合う形で座っていて、リュウセイは僅かに赤面しているが、それはラトゥーニも同じだった。

 

「リュウセイは私が守る……未来の私じゃない、私が守るから」

 

イルム達は恐怖したが、ラトゥーニの怒りはマイではなく、レトゥーラへと向けてのものだった。自分ではない自分がリュウセイに擦り寄っているのが腹立たしくて、そして憎くて恐ろしかったのだ。

 

「……やっぱりラトゥーニも分かったのか」

 

「……うん。レトゥーラは私、私だけど、私じゃない私」

 

リュウセイは念動力で、ラトゥーニは同一存在という事でレトゥーラが自分に近しい物だと感じ取っていた。

 

「リュウセイ、私は本当は怖い、あいつが怖くて、気持ち悪くて……憎い、だけど一番は自分にこんな気持ちがあったのが1番怖い、自分が醜い存在なんじゃないかって思う」

 

醜い感情と初めて向き合ったラトゥーニは何よりも自分を恐れた。自分の中にこんなに醜い感情があったのかのかと、そしてマイの姿が声が、何故か自分の筈のレトゥーラと似たものに感じ、怒りの余りジュースの缶を握り潰すと言う事に繋がっていた。

 

「大丈夫だ。ラトゥーニは醜くなんか無い」

 

小さく身体を震わせるラトゥーニの身体を抱き締めてリュウセイはそう言うと、ラトゥーニは安堵した表情を浮かべる。

 

「……少し寝ても良いかな」

 

「ああ。大丈夫、俺はここにいるから」

 

正面を向いてリュウセイに寄りかかり目を閉じるラトゥーニとそんなラトゥーニの肩を抱いてリュウセイもまたその目を閉じるのだった……。

 

 

 

第161話 白銀の流星、真紅の彗星 その1へ続く

 

 

 




リュウラトのコミュが進みます。元々距離感バグ気味でしたがレトゥーラの件で更に加速、後にマイも加わり更にカオスとなる予定です。
次回は久しぶりにスレイとアイビス達の再会を書いて、ダイゼンガーに繋げて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第161話 白銀の流星、真紅の彗星 その1

第161話 白銀の流星、真紅の彗星 その1

 

アクセルとギリアムの戦闘時の会話が陸皇鬼のブリッジに流される。ファーストジャンパー……ヘリオスオリンパス、いやギリアム・イェーガーの焦りに満ちた言葉は彼が真実を語っている事を如実に現していた。そして戦闘映像の再生が終わった時艦長席に腰掛けていた龍王鬼が首を傾げた。

 

「ふうむ……俺様には良く判らんが、そのなんちゃらの扉を開くと世界が滅ぶってことか?」

 

「もうちょっと理解出来なかった、龍?」

 

「無理。そういう小難しいのは分からん。物事はもっとシンプルなほうが良い」

 

カッカッカと大笑いする龍王鬼の隣で額に手を当てて溜め息を吐く虎王鬼はヴィンデルとレモンに視線を向けた。

 

「私は別にやるなとは言わないけど……もうちょっと段階を考えたほうがいいかもね。共行王はどう思う?」

 

「ん? 大いに結構。開けば良かろう? 他の世界に踏み込み侵略し争う。人間の業は、欲は止まらんよ。それで滅ぶも発展するも私にはどちらでもいい」

 

虎王鬼、共行王達の会話を聞いてヴィンデルは内心安堵の溜め息を吐いていた。アクセルとウォーダンを回収した共行王はあろうことか、そのままギャンランドをも飲み込み、ラングレーに向かっていた陸皇鬼の元へと移動したのだ。

 

(余計な事を……)

 

自分達の真の目的――それが露にされたことにヴィンデルは怒りを抱いていたが、少なくとも当面は百鬼帝国には敵対行動と取られなかった事には安心していた。

 

「それよりもだ。レモン、アクセルとウォーダンの奴の機体の修理は間に合うのか?」

 

「え? ええ。十分プランタジネットには間に合うと思うけど……」

 

「そうかッ! そいつは良かった。なんせ大戦だ。しょっぼこい戦いじゃつまらねえからなぁッ!!」

 

オペレーション・プランタジネットは百鬼帝国、インスペクター、シャドウミラーの3つの勢力が集まり、ハガネ、シロガネ、ヒリュウ改を潰す為の作戦だ。確かに龍王鬼の言う通り大戦である事は間違いないだろう。

 

「さてとヴィンデルよ、ちょっと付き合えや」

 

龍王鬼の巨大な腕がヴィンデルの首に回され、無理やり引き寄せられる。

 

「龍王鬼、私は作戦の立案や戦力の配置の話し合いなどで忙しいのだが……?」

 

「んだよ、神経質な事言ってんじゃねえよ。全戦力を出して戦えば良いんだよ。永遠の闘争の世界を作るとか言ってる奴がけち臭いことを言ってんじゃねえよ。共行王、戦の前に酒盛りをするぜ。どうせハガネは伊豆基地で準備するからまだこっちにこねえだろ? その前に一献どうだ?」

 

「へえ、良いわよ。付き合うわ」

 

「よっしゃよっしゃ、後はアクセルとウォーダンだな。行こうぜ、虎」

 

嫌そうな顔をしているヴィンデルを肩に担ぎ上げ、虎王鬼に声を掛ける龍王鬼。

 

「レモンと話があるから先に行ってて良いわよ」

 

「んん? そうか、まぁ女同士で話もあるだろうな! じゃあいくかあッ!! そう言えば共行王は酒は日本酒で良いのか?」

 

「何でも良いぞ。酔えれば」

 

違いねぇと大声で笑う龍王鬼ところころと笑う共行王。人外に捕まっているヴィンデルは逃げられるわけも無く、2人に連れて行かれることになり、レモンは視線で助けろと訴えているヴィンデルに手を振りながら笑みを浮かべて見送る。

 

「それで私に話って何かしら? 虎王鬼」

 

「凄く晴れ晴れした顔をしてるからどうしたかなってね。それとあの婆の事でちょっとね」

 

そう笑う虎王鬼にレモンは肩を竦めて小さく笑った。

 

「それ絶対ちょっとじゃすまないわよね。立ったまま?」

 

「まさか。近くに私の部屋があるからそっちで話を聞くわよ。行きましょう」

 

「それなら何かお菓子が欲しいかなー?」

 

どうせ拒否権はないのだから少しでも話しやすい雰囲気にして欲しいとレモンがおちゃらけて言うと虎王鬼は口元を抑えて、ころころと笑う。

 

「カーラが美味しいからお土産で買って来たって言うチーズケーキがあるけど……私緑茶しか淹れられないわ」

 

「それは合わないにも程があるわね。紅茶淹れてあげるわよ。どうせユウキから貰ってるんでしょ?」

 

「ええ、凄いくれるのよ。でもね……淹れるのめんどくさいのよねぇ」

 

話をしながら歩いていくレモンと虎王鬼。人間と鬼だが、その後姿は紛れも無く気心のしれた友人と言う様子なのだった……。

 

 

 

 

「あら。本当に美味しいわね」

 

「あの子美味しい物見つけてくるの上手なのよね~」

 

カーラの手土産のチーズケーキとユウキが厳選した紅茶に舌鼓を打っていた虎王鬼とレモンの2人だが、チーズケーキを食べ終えた頃には2人とも真剣な顔をしていた。

 

「アギラが何か変な百鬼獣を持ち出したって聞いてたけど……不味かったのかしら?」

 

「かなり。不知火はナノマシンを搭載していてね、残骸とかを取り込んで外骨格を作り出すの。パイロットがその外骨格を作れるから機体性能は理論上は無限なのよ」

 

「それはまた随分と凄い代物ね」

 

ナノマシンで残骸を操作し、外骨格を作り出す。それはレモンから見れば完全なオーバーテクノロジーであり、研究者としては興味を隠せないという表情を浮かべていたが、虎王鬼は片手を左右に振る。

 

「やめときなさい。あれは鬼が使う前提で人間じゃ使えないわ。仮に使ったとしても薬漬けで凶暴性が増すから厄介でしかないわ。それに力に飲まれるから元々の知識も殆ど無駄になるし」

 

「……それが貴女達がアギラに与えた罰?」

 

アギラは研究者であり、その知識が無駄になると言うのはある意味研究者としては死を意味する。オウカ達の絆を断ち切ったアギラへの罪なのか? とレモンが問いかけると虎王鬼は鋭い犬歯をむき出しにして笑った。

 

「罰を与えるならこの手で引き裂いて殺すわよ。そんな回りくどい事はしないわ。まぁそれはおいておいてとりあえずこれでゼオラ達の安全はある程度確保出来たって所ね。大分ゼオラの反応も良くなってるし、朱王鬼の術さえ解除出来れば私達の所を逃げ出すんじゃないかしら?」

 

「……私にそんな話をしてどうするの?」

 

「んー行くなら一緒に行ったらどう?って話よ。晴れ晴れした顔してるのヴィンデル達を見限ったって事じゃないの?」

 

嘘は許さないと言わんばかりの言葉にレモンは両手を上げて苦笑した。

 

「ざーんねん、まだヴィンデル達を見限ってないわよ」

 

「あら? そうなの? 私はてっきり見限ったのかと。それならお目付け役頼もうかなあって思ってたのに」

 

お目付け役――オウカ、ゼオラ、そしてクエルボの3人が逃げる時に、一緒に自分を逃がそうとしてくれていたのが分かり、レモンは苦笑ではなく心から笑った。

 

「ラミアがね、私の事を止めるって。家族を止めるのは娘の仕事なんだって……あの子、私のことお母さんって言ってくれたのよ」

 

「あらあらあら、ふふっ! 良かったじゃない」

 

レモンが求めて止まなかった事……母になりたいと言う願い……それが叶って良かったと虎王鬼は自分の事のように喜び笑うが、それと同時に残念そうに首を左右に振った。

 

「あーあ、私の勘違いか……行けると思ったんだけどなあ」

 

「ごめんなさいね、勘違いさせちゃって」

 

母と呼ばれた事はレモンにとって想像以上に嬉しい事であり、長年の胸のしこりが取れたかのような晴れやかな気持ちだったのも紛れも無い事実だった。だからこそ、虎王鬼はレモンの事を全否定するヴィンデルを見限り、自分の目的の為にレモンが動き出そうとしていると思ったのだろう。

 

「今日聞いた事は内緒ね?」

 

「ん? ちょっとした世間話でしょ? そんなに気にすることもないと思うわ」

 

虎王鬼と龍王鬼の立場が悪くなるような事は言わないと遠回しに言うレモンに虎王鬼は肩を竦めて笑った。

 

「それにしても貴女は損な生き方をしてるわね?」

 

「自分でもそう思うわよ? でも止められないのよ、この生き方をね」

 

ほかの道があるという事はレモンにだって分かっている。それでもこの損な生き方を止めれないのだ、一時の恩を大事にし、自分を認める事が無い相手と分かっていても、それでも義理立てし、自分を認めない事に苛立つのならば見限ればいいのにそれも出来ない……余りにも賢くない生き方だが、レモンはそれを止められないのだ。

 

「オペレーション・プランタジネットは大きな転換期になるわ。私達の中からも抜ける者が出てくると思うのよね。でもそれは仕方ない事だし、それを責めるつもりも無いのよ。だってそうでしょ? 皆考え方が違うわ、同じだったらおかしいと思わない?」

 

「そうね、皆同じだったら貧困も無いし、戦争も無い。ある意味それは究極の平和かもしれないけど……それは変化の無い地獄とも言えると思うわ」

 

十人十色の考えがあり、それぞれが自分の考えを色を持っている。だからこそ対立するのだろうし、争いもする。だがそれが生きていると証でもあるのだ。

 

「鬼が言うのもなんだけど、そんな世界は嫌ね」

 

「鬼は地獄に住んでいるって言うけどそれでも嫌なのね」

 

「当たり前よ、皆同じだったら恋をすることも愛する事もないでしょ? 私はそんなのはごめんなのよ、だから皆違う意見があって当然だと思うし、あるべきだと思うの……だから後悔しない生き方を選択をするべきだと思うのよ。レモン……貴女は今の自分の選択に後悔しない?」

 

気遣うように……いや、実際気遣っているのだろう。迷えば死ぬ……それが戦いの世界であり、自分の生き方に納得しているとは言え、ヴィンデルやアクセルの言動に不満を抱いているレモンに後悔しないかと、オペレーション・プランタジネットを切っ掛けにして百鬼帝国はもっと大きく動く事になるだろう。安全に、そして確実に逃げれるのは今しかないと虎王鬼が言外に言っているのはレモンにも判っていた……だからこそレモンは笑った。

 

「貴女も損な生き方をしてると思うわ、虎王鬼。私は自分の選択に後悔しないわ。だからありがとう、心配してくれて」

 

レモンの言葉に虎王鬼は驚いたような表情を浮かべ、そして笑った。勿論レモンも笑っていた……自分達は良い友人に出会えたと互いに認めるように笑った。

 

「そう、それならいいわ。その後悔しない選択の先に貴女だけの答えがあるといいわね。龍達が待ってるから行きましょうか?」

 

「こんな時間から酒盛りなんて罪深いわねぇ。でもたまにはそんなのも良いかも知れないわ」

 

互いに笑いあった虎王鬼とレモンは龍王鬼達が酒盛りをして居る部屋へと向かったのだが……。

 

「……」

 

ウォーダンは僅かに露出している口元から判るように顔全体が赤くなっており、完全に酔い潰されていた。

 

「おら、アクセル、もっと飲めよ」

 

「……ああ、貰おう。ヴィンデル、ヴィンデルも呑め」

 

「……私は……世界を変えたくてええ……」

 

「ははははは、こいつ泣き出したぞ!!」

 

泣き上戸のヴィンデルが泣き出し、目が据わっているアクセルは枡を手に持ち、龍王鬼が注ぐウィスキーを口にする。

 

「がっはははははッ! 美味いッ!!!」

 

「そうね、悪くないわね」

 

龍王鬼と共行王は瓶に口をつけてウィスキーをがぶ飲みし、今度はワインへと手を伸ばす。

 

「ほら、個性だらけで面白いでしょう?」

 

「これは地獄って言うと思うんだけどね」

 

「そう? 面白いじゃない」

 

面白いかもしれないけど、これは地獄に他ならないわねと思いながらもレモンの虎王鬼と共に部屋の中に入るのだった……。

 

「はー美味しいわねぇ」

 

「おうおう、良い呑みっぷりだな。ほれ、のめのめ」

 

「これも美味しいわよ、ジャーキーだって」

 

「うむうむ、美味いのぉ……」

 

良い潰れた男3人を壁際に押しやり、レモンは最後まで人外3人と杯を酌み交わしていたりするのだった……。

 

 

 

 

無事に武蔵の救出を終えたハガネ、シロガネ、ヒリュウ改の3隻は1度伊豆基地へと帰還していた。その理由は勿論武蔵の救出作戦で負ったダメージが想像以上に大きかったからだ。特にカイとギリアムのゲシュペンスト・リバイブのダメージは深刻な物で、動力部こそ無事だが機体各所が交換用のパーツでは間に合わないレベルに損傷していた。

 

「リバイブもそろそろ限界かもしれませんわね」

 

「ああ。言ったら悪いが旧式になりつつある」

 

そもそもリバイブ自体が突貫工事の改造品だ。機体性能こそ高いが、ゲシュペンスト・MK-Ⅲのような互換性があるわけでもなく、伊豆基地とテスラ研にしかパーツの製造拠点が無く、テスラ研を抑えられている以上修理を完璧にするのは難しい問題だった。

 

「そこを何とか出来ないか? ハミル博士、ラドム博士」

 

「いやカイ、無理を言うべきではない。L5戦役からここまで良く持ったと言うべきなのかもしれん」

 

修理が難しいのは分かるが何とか出来ないかとマリオンとカークに無理を言うカイだったが、ギリアムの無理という言葉に振り返った。

 

「ギリアム、お前まさか……ゲシュペンストから降りるというのか!?」

 

「まさか。俺は一生ゲシュペンスト・ライダーだ、それを変えるつもりはない。ラドム博士、正直に教えて欲しい。リバイブの過負荷は俺達の操縦にリバイブが付いて来れてないということではないのか?」

 

百鬼獣、インベーダー、アインスト……人智を越えた相手と戦い続けて来たことによる過負荷だとカイは考えていたが、ギリアムは違っていた。鍛錬を続け、己を鍛え続けて来たカイとギリアムにリバイブの方が付いてこれないのではないか? という問いかけにカーク達は揃って頷いた。

 

「確かに戦闘による過負荷もあるが、大本はそこになる。リバイブはL5戦役道中の機体だ。中身はゲシュペンスト・MK-Ⅱの改造である事を考えれば、今のカイ少佐達の動きには付いて来れないのは当然の事だ」

 

「ですが、取り替えるというのも簡単な話ではありませんし、1から建造し直すのではプランタジネットには間に合いません。修理だけならば可能なのですがね……しかし修理した所でリバイブをこれ以上強化するのも難しいですから、いつかは限界が来て機体全体が駄目になりますわよ」

 

2人の操縦に機体が着いて来れないのならばまた機体は破損する事になる、そうなればいつかは機体全体が駄目になると言うマリオン。

 

「それに関してなのだが、カーウァイ大佐のゲシュペンスト・タイプSのデータを貰って来た。ゲッター炉心と反マグマプラズマジェネレーターと動力は違うが、基本的な部分は似たり寄ったりの筈だ。そしてここに俺の改造案がある。リバイブを改造するのが難しいのならば強化しなければいい。外付けのアーマーパーツによる強化と言うのはどうだ?」

 

ギリアムが差し出した資料をカイは受け取り、それを確認するとその目を輝かせる。

 

「悪くない…いや、むしろこれは俺達にこそ最も適しているのではないか?」

 

基本的な部分は変わらず、新造したチョバムアーマーを装着し耐久力・攻撃力を強化する。コックピット部分のみに限れば中身を取り替えることは可能である、なんせ元々2人のゲシュペンストのコックピットを流用しているのだからコックピットの細部をカイとギリアムの物に合わせたものにすれば交換は可能だ。

 

「なるほど……ふむ。悪くない」

 

「基本コンセプトはアサルトアーマーに酷似していますからね。データもあります。まぁラドラにかなり駄目だしされた上に改造されておりますがね」

 

マリオンの嫌味にカークは眉を顰めたが、ラドラの指摘は的を得ていた上に実際にヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMとの合体時も十分な成果を上げており、稼動データ含めてカーク達の物よりも良い結果を出しているのは紛れも無い事実だったからこそ、カークは何も言わず頷くに留まり、ギリアム達の要望を聞き入れる事にした。

 

「分かった。その方面での強化を行なおう。詳しい要望を聞かせて欲しい。オペレーションプランタジネットに間に合うとは言い切れないが……努力は惜しまないつもりだ」

 

オペレーション・プランタジネットが終わりではないのだ。これからの戦いに備える為にカークはカイとギリアムの意見の詳細を纏め、許可が下りれば急造にはなるがカイとギリアムがオペレーション・プランタジネットに万全な状態で参加出来るように努力は惜しまないと力強く告げ、2人と共に製図室へと足を向ける。

 

「私もうかうかしてはいられませんわね」

 

カークの熱意に触発された……と言う訳ではない、自分達に出来る最善を行う事……それが戦場に立つ事が出来ないマリオン達が出来るただ1つの事なのだ。

 

「ゲシュペンスト・MK-Ⅲの後継機にズィーガー……いえ、ヴァルキリオン・ズィーガーの組み上げ、ビルガーとファルケンのコンビネーションのプログラミング……」

 

指折り呟くマリオン、自分がやるべき仕事は山ほどあるのだ。こんな所で休んでいられないといわんばかりにその目を輝かせ、再び作業へと取り掛かるのだった……。

 

 

 

 

ビアン達からのテスラ研奪還作戦の号令が掛かるまでの間、伊豆基地で短い休養と機体整備などを行なっていたリュウセイ達は突然ブリーフィングルームに呼び出され、そこでレイカーから告げられた言葉に皆が目を見開いた。それは到底受け入れられない命令だったからだ……。

 

「何!?  ノイエDCと共同戦線を展開するだぁ!? どういうことだよ! レイカー司令ッ! あたし達に全滅しろってかッ!!」

 

これが他の連邦軍ならば受け入れていただろうが、カチーナ達はノイエDCが百鬼帝国の傘下であると言う事を知っている。そしてラングレー基地を制圧しているのは百鬼帝国とインスペクターであり、ノイエDCとの共同戦線など背後から撃たれて来いと言っている様なものである。

 

「落ち着け、カチーナ中尉。レイカーとて本位ではない。だが上層部からの正式な命令だ」

 

上層部からの正式な命令と聞いてブリーフィングルームにいた全員が顔を顰める。そんな中武蔵達はと言うと……。

 

「なぁ、コウキ」

 

「なんだ?」

 

「人間に化けてる鬼ってわからねぇ?」

 

「……装備を作れば可能だ」

 

「よっしゃ、じゃあ話は早いな」

 

「待て、武蔵。お前何をするつもりだ?」

 

「え? いや、その鬼に成り代わられてる上層を刈ってこようかと」

 

「「「止めろ馬鹿ッ!!」」」

 

「ええ……こっちの方が早いですよ? なぁコウキ?」

 

「闇討ちが必要だ。夜まで待つべきなのと、姿が分からないようにする装備を用意しろという事だろう?」

 

「ああ。なるほど」

 

「「「違うッ!!!」」」

 

闇討ち前提で考えている武蔵とコウキの物騒な思考にあちこちから違うと言う声が上がる。

 

「証拠を残すなって事じゃ?」

 

「別に出来ない事はないぞ? なぁ武蔵。贅沢を言えばラドラが入ればもっと楽だが」

 

「ああ、確かに楽だよなあ。でもまぁそこまで贅沢は言えないだろ? オイラとコウキで楽勝楽勝、と言う訳でレイカーさんどうですかね?」

 

「却下」

 

即答で却下と言われ嘘だろって顔をする武蔵とコウキだが、リュウセイ達からすればなんでそれが通ると思ったと思わざるを得なかった。

 

「それも1つの方法ではあるが、上層部が鬼と分かれば混乱は大きく広がる。武蔵君達の提案は本当に最終手段としよう。大統領府の襲撃時に2人のビアンが現れた事もあり、ノイエDCとの共闘は現場からは到底受け入れられるものではないと言うことは皆は判っていると思う。だがこれは一般の部隊までは話が通っていない上に大統領府にいたマスコミは皆監視状態にある」

 

「……上層部にとって都合が悪いからな。だがそれは返って今の連邦上層部への不満を強める事になっている。ここで一気にその不満を起爆させるわけにはいかんのだ」

 

数多の侵略者がいる中で連邦への不満が爆発し、そしてクーデターや反乱活動が多発すればそれこそ人類は一気に敗れる。

 

「ですがノイエDCの中に鬼が紛れていれば、挟み撃ちになり俺達の全滅する可能性が高まりますが……」

 

「それに関してだが……オペレーションSRWを生き抜いたキョウスケ中尉達にしか出来ない命令を私は下そうと思う」

 

その深刻なレイカーの表情を見れば、この中の誰かが死ぬかもしれない……その可能性を秘めた命令をレイカーが下そうとしている事を誰もが悟った。

 

「この作戦は罠である。諸君らを一網打尽にする悪辣な罠だ、だがこれを拒否すれば伊豆基地も、そして諸君らも反逆者として人からも追われる立場になるだろう……そんな状況で戦い抜く事は不可能だ。ならば我々はこの作戦を利用する。オペレーション・プランタジネットには恐らく偽のビアンも現れるだろう。そして百鬼帝国も本腰を入れてくるはずだ」

 

話を聞けば聞くほどに絶望的な状況だ。軍人であるから死んで来いという命令を下される覚悟は皆もしていたが、次のレイカーの言葉に皆が呆けたような表情を浮かべた。

 

「命令する、死ぬな。諸君らの命はこのような場所で潰えていい物ではない。だから命令する。死ぬな、生きるんだ。罠と分かっていて、その上死ぬ可能性の高い戦場に送り出す癖に何を言っていると思うかもしれない。だが死ぬな、生きるのだ。鬼の存在を明らかにし、地球を狙っている者はインスペクターとノイエDCだけではないと言う事を明らかにする。それが私とビアンの計画だ」

 

武蔵に混乱を起こさないために襲撃するなと言っておきながら鬼の存在を明らかにすると言うレイカーの言葉は矛盾だらけだ。

 

「レイカー司令。貴方は何を考えているのですか?」

 

「上層部に鬼がいると言うことを明らかにするつもりはない、だが鬼と百鬼獣の存在は明らかにする。そして偽のビアンの正体も明らかにする。インスペクターから北米を取り返すのは不可能だろう……その代りにノイエDCは確実に潰す。恐らく向こうの計画は連邦の最大戦力である我々を撃破することにある。武蔵君とゲッターロボが協力してくれたとしても……百鬼帝国・インスペクターの挟撃は厳しい戦いになるだろう。だがL5戦役を潜り抜けた諸君ならば大丈夫だと私は信じている」

 

「ホワイトスター攻略戦と同じ様な状況だが、味方はいない。それでも成し遂げねばならん。これは我々にしかできない作戦だ」

 

ノイエDCを潰し、そして百鬼帝国・インスペクターと戦い、偽ビアンの正体を暴く――余りにも厳しい戦いだが、他の部隊では成し遂げる事が出来ないことだと言われればカチーナ達とて奮起する。

 

「やってやるさ、オペレーションSRWと似たようなもんだ」

 

「それよりも厳しいけどな、だけど俺達ならば出来るさ」

 

慢心しているわけではない、そして驕っている訳ではない。誰かがやらねばならないのならば自分達がやるしかないのだと奮起する。

 

「ではリー中佐、テツヤ大尉。作戦概要の説明を」

 

「「はっ」」

 

レイカーに促され、テツヤとリーの2人が作戦概要の説明を始める。

 

「まずだが、我々にはいくつかの切り札がある。1つはクロガネ、そして武蔵とゲッターロボ、最後にテスラ研を奪還する為に先行しているゼンガー少佐とレーツェルの2人の為の特機だ」

 

「親父の秘密兵器ってやつだね、特機なのかい? リー中佐」

 

「そうだと聞いている。ゲッター炉心を搭載し、ゲッター合金で建造された大型特機だそうだ。流石にビアン博士はそれ以上は教えてくれなかったが……ゼンガー少佐とレーツェルの事を考えれば大まかな機体タイプは想像出来る」

 

専用機と言う事を考えればゼンガーの機体はグルンガスト系列の大火力である事が予想され、レーツェルの機体は機動力を生かした1対多に特化した機体であると言う事が予測される。

 

「コウキ、お前はテスラ研にいたはずだ。その機体について何か知らないか?」

 

「俺はフレームしか見ていないが、ゲッターロボGに使用されていた人造筋肉などを組み込まれた機体であるとは言える。だが懸念材料もある。インスペクターに奪取されていないかだ。こればかりはフィリオとカザハラ博士が上手く隠してくれていることを祈るしかない」

 

ビアンが人類の切り札、そして地球の守護者として開発した機体だ。その強力さはその肩書きからも十分に推測出来る。

 

「だからこそ、今回の作戦はスピードが要求される。ビアン博士からの連絡があり次第、ハガネ、ヒリュウ改、シロガネは可能な限りの機体を出撃させ、一気に太平洋側から襲撃を仕掛ける。短時間だがSRXにも動いて貰う。派手に動く事でクロガネ、そしてテスラ研に向かっているアイビス達の支援を行う。戦力の大半がこちらに向かってくるだろうが……それでも俺達ならば不可能ではない」

 

かなりのリスクを背負う作戦だが、それしか撃てる手段が無いと言うのはキョウスケ達も判っている。だからこそテツヤの説明に口を挟まず、その説明に耳を傾ける。

 

「その後、我々はアメリカ大陸を横断するように移動し、テスラ研とラングレー基地の奪還へと向かう。これは我々の独断だが、ノイエDCに背後をとられないようにし、ラングレー基地で向かい合う形で合流する為のものだ。皆に負担を掛けるだろうが……頑張って貰いたい」

 

本来の作戦を一部変更し、ノイエDCに背後を取られない為の物だと説明するリーだが、その表情は決して明るいものではない。

 

「そんなに不安そうな顔をしなくても大丈夫だ。リー中佐、俺達ならば出来る」

 

「上官が部下を信じなくてどうするんだよ。リー中佐」

 

「……っ。すまない、その通りだ」

 

余りにも絶望的な状況に気落ちしていたリーだがキョウスケとカチーナの言葉に弱々しいが笑みを浮かべ、作戦概要の説明を続ける。オペレーション・プランタジネット……これが地球の明暗を分ける最初の大一番である事をこの場にいる全員が感じ取っているのだった……。

 

 

「スレイッ!」

 

ゼンガー達と共にクロガネにやってきたアイビスはそこで久しぶりに再会したスレイに満面の笑みを浮かべて駆け寄った。それに対してスレイは少し気恥ずかしそうにしながら片手を上げる。

 

「アイ……ビスウッ!?」

 

「スレイ! 元気そうで良かったよッ! あれ? どうしたの?」

 

タックルもかくやという勢いで突っ込まれ、蹲っているスレイにきょとんとした顔をしているアイビスにスレイは苦笑しながら立ち上がり。

 

「お前のせいだ、この馬鹿ッ!!」

 

「いたあッ!?」

 

スレイの空手チョップに痛いと声を上げるアイビスだが、それは誰が見てもスレイの台詞だっただろう。

 

「それはアイビスが悪いわよ」

 

「ええ~ツグミまであたしを責めるの!?」

 

酷いと声を上げるアイビスの姿にスレイは苦笑し、改めて久しぶりだなと声を掛ける。

 

「久しぶりだな、アイビス。だが再会を喜んでいるだけでは駄目だ」

 

「分かってるよ、スレイ。あたしがここに来たのはテスラ研を取り戻して、フィリオ達を助けるためだ。そこは間違えないよ」

 

強い意思の込められている目を見てスレイは笑みを浮かべる。自分もルーキーの域を出ておらず偉そうな事を言える立場では無いが……今のアイビスならば大丈夫だとスレイは確信した。

 

「行こう、時間が無い。ノイエDCを先にテスラ研に行かせる訳には行かない。休んでいる時間は無いが大丈夫か?」

 

「バッチリだよ。ちゃんと身体は休めてきたからね。取り返しに行こう、あたし達の夢を……ッ」

 

大事な物を自分達の夢を取り返しに行くんだと力強く言うアイビス。その姿はテスラ研にいた時とは別人に見えるほどに力強さに満ちていた。

 

(アイビスも良い経験をしたのだな)

 

自分がクロガネで鍛え上げられたようにアイビスもまたハガネで鍛え上げられたのだ。テスラ研を追われ、大事な物をインスペクターに奪われ、星の海を飛ぶという夢も消えかけた……それでも心を折らず、屈辱を噛み締め大事な物を取り返すと言う決意を抱いてスレイもアイビスも戦ってきた……サマ基地襲撃時にコウキに守られていただけの雛鳥は、自由に大空を飛ぶ為の翼を手にし、大空へと飛び立とうとしているのだった……。

 

 

 

 

第162話 白銀の流星、真紅の彗星 その2へ続く

 

 




今回はシナリオデモでしたが結構長い目の話になったと思います。フラグとか、今後の展開に関係するようなイベントをいれましたが、主にはリバイブの更なる進化イベントがメインになったと思います。次回からは原作ではサイバスターとアステリオンでしたが、今回はスレイとアイビスによる突破劇を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第162話 白銀の流星、真紅の彗星 その2

第162話 白銀の流星、真紅の彗星 その2

 

クロガネの格納庫の一角に固定されている戦闘機を見て、アイビスは足を止めた。何故ならばその姿はカリオンに酷似していたからだ。

 

「アイビスどう……これはベガリオン……いえ、違う。スレイ……これは?」

 

「ああ、クロガネにはプロジェクトTDの発足前に兄様と一緒に研究していた人がいると言っただろう? その人がカリオンを強化してくれたんだ。名前は「ベルガリオンさ、よーツグミッ! 元気そうだな!」……ルード……貴方生きていたの!?」

 

赤いサングラスにオールバック姿の長身の男が白衣を翻し、歩き出すがその足音はやけに重く、ゴツゴツという音が響いた。

 

「貴方……まさか」

 

「HAHAHAッ!! 膝から下は義足だ。カリオンのプロトタイプでバグスと遭遇して、相打ちで墜落してこの程度で済めば御の字さ。命が助かっただけよしとするべきだろ?」

 

そう笑うルードはサングラスを外して、透き通るような蒼い瞳をアイビスに向けた。

 

「おー良い面してんな」

 

「ど、どうも……えっとルードさん? プロジェクトTDの?」

 

「おう、と言ってもまだTDが発足する前の話さ。バグスに撃ち落とされてな、HAHAHAッ!!! んで植物状態、起きたら戦争があったって言うしよ、俺は戸籍上死んでるしよ! 真実は小説より奇なりって言うけどよ。これはやりすぎだよなあ!!」

 

上機嫌に笑うルードだが、ツグミ達は引き攣った笑みを浮かべるのがやっとだ。

 

「さてと……悪いが長話をしてる時間はねぇ。作戦を説明するぜ? クロガネからアステリオン、ベルガリオン、ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・トロンベが先行する。それを合図にしてハガネ達も動き出す。お前達は進入経路の確保を最優先にしてもらう。バレリオン・ライノセラスを撃墜すれば戦艦も進入可能になる。そうすれば後はテスラ研へ直行し、ゼンガー少佐達の支援。話は簡単だろ?」

 

言葉にすれば簡単だが、それは恐ろしく難易度の高い作戦だ。

 

「ルード……想定時間は?」

 

「最大で6分。それをオーバーすれば転移での敵の出現の可能性が高くなるし、テスラ研の守りもより強固になるだろう。広域攻撃用のオプションは用意してある。それを駆使して6分以内にバレリオンとライノセラスを撃墜してくれ。言っておくが……この作戦はスレイとアイビスのみがアタッカーだ。レーツェルは途中から参加するが、テスラ研奪還の為に温存する必要がある。2人で道を切り開け」

 

想像を遥かに越える難易度の作戦……以前のアイビスとスレイならば脅えを見せていただろう。だがスレイとアイビスは凛々しさを感じさせる笑みを浮かべた。

 

「大丈夫です、あたしとスレイなら出来ます」

 

「ふっ、足を引っ張るなよ?」

 

「大丈夫だよ。コウキ博士と武蔵に鍛えられたんだ、今ならスレイよりも早く飛べるよ」

 

「流星にはなるなよ? ルード博士。私とアイビスの準備は出来てます」

 

「OK。流石フィリオの選んだ戦乙女だ。最高のセッティングをしてやるよ」

 

フィリオやコウキとは違うが、力強さと任せておけば大丈夫という安心感を感じさせるルードの笑みに、スレイとアイビスは揃って返事を返すのだった。

 

「ではレーツェル。これをフィリオとジョナサンに渡してくれ」

 

「ビアン総帥、これは?」

 

「ダブルGのOSだ。私の協力者達の元でパーツを作り、それをテスラ研で組み上げ、私がOSを作っていた。これを届けてくれ」

 

「分かりました。友よ、行こう。時間だ」

 

「承知」

 

クロガネから飛び立ったアステリオンとベルガリオンの轟音を聞いて、ゼンガーとレーツェルも出撃の為にブリーフィングルームを後にする。

 

「我々も気を緩めている時間はない、オペレーション・プランタジネット……敵が幾重にも張り巡らせた罠の中に自ら飛び込むのだ。ほんの少しの油断も許されない事を肝に銘じて欲しい」

 

ビアンの言葉にカーウァイ達が頷き、ビアンはダイテツ達に出撃すると連絡をいれ、ハガネ達よりも先に太平洋からアメリカ大陸へとクロガネを出航させるのだった……。

 

 

 

ベルガリオンとアステリオンの2機はピッタリと速度を完璧に同調させ、低空飛行でアメリカ大陸へと突入することに成功していた。

 

『第1段階はクリアだね』

 

懸念材料であった海上での百鬼獣の襲撃が無かった事に安堵したのかアイビスがスレイに通信でそう声を掛ける。

 

「気を緩めるな、海上はクロガネからのジャミングとASRSがあったからだ。そろそろ……来たぞッ!!」

 

上空から降り注いで来たスプリットミサイルの弾雨をアステリオンとベルガリオンは急上昇して弾雨を回避する。

 

『うわあ……凄い数』

 

「怖気ついたのかアイビス? なら私の支援をするか?」

 

『まさか。あたしはもう逃げないよ。行こう! スレイッ!』

 

「ああ、いくぞッ!!!」

 

レストジェミラ、ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・ゲシュペンスト・MK-Ⅲ……アーマリオン、ガーリオン、そしてバレリオンとライノセラス……2機で突破するには余りにも厳しい敵の布陣にスレイとアイビスは一切臆する事無く、急降下しながらルードが増設したウェポンコンテナを解放する。

 

「切り離しのタイミングを間違えるなよ! 失敗すれば墜落するぞッ!」

 

『分かってる! ターゲットマルチロックッ! スレイッ!!』

 

「ああ、いくぞッ!!!」

 

アステリオンとベルガリオンのボディに挟み込むように装着されたウェポンコンテナが開き、そこから放たれた巨大な4つのミサイル――CTM-05 プレアディスが凄まじい勢いで急上昇する。

 

「3……2……1ッ! パージッ!!!」

 

『パージッ!!』

 

音を立ててプロペラント、そしてウェポンコンテナがパージされ、アステリオンとベガリオンは急制動が掛かり一気に減速する。それによって自分達が射出したプレアディスの攻撃範囲から離脱する。

 

「アイビスッ! 何をしている! 再加速だぞッ!」

 

『分かってるッ!!!』

 

上空から降り注いだ多弾頭ミサイルの雨にレストジェミラ達が飲み込まれ爆発する中を急加速したアステリオンとベルガリオンが突撃する。

 

「流石に全機撃墜などと都合のいい事はないかッ! アイビス! 私が先行するッ!」

 

あくまでプレアディスは先制広域攻撃であり、一撃で敵を破壊するほどの火力はない。しかしそれでも4発動時に発射すればと有象無象を全て撃破出来るのでは? という希望はあった。だがやはりそんな都合のいい話はないかとスレイは口にしながらベルガリオンの操縦桿を強く握り締め、操縦桿の真ん中のカバーをあけてボタンを押し込む。

 

「私の夢の……邪魔をするなあッ!!!」

 

胴体に収納されていたパーツがせり出してきて、空気抵抗が急激に強まり、スレイの手の中で操縦桿が暴れだすが、スレイは力を込めて操縦桿を押さえ込み、強引に機首を安定させる。胴体部、そしてせり出した2つの鋭利なパーツの先にエネルギーが収束され、そして3つの刃が1つになり機体全体を包み込む巨大なエネルギー刃を構築すると同時に、加速したベルガリオンの前に立ち塞がったレストジェミラ達はその装甲が何の意味もないと言わんばかりに両断され爆発し、ベルガリオンの後をスリップストリームで着いて来ていたアステリオンにスレイは叫ぶように指示を告げる。

 

「アイビスッ! 後15秒後ッ! マニューバ212ッ! パターンαッ!」

 

ピッタリ15秒でエネルギー刃が解除され、冷却の為に減速したベルガリオンに向かってヒュッケバイン・MK-Ⅲはナックルガードを展開し、ゲシュペンスト・MK-Ⅲはライトニングステークを構えて飛びかかる。

 

『分かったッ! このおッ!!! あたし達の邪魔をするなぁッ!!!』

 

だがそれはベルガリオンの後から飛び出したアイビスのアステリオンの放ったマシンキャノンによって妨害され、僅かに動きを止めたその隙にソニックブレイカーを展開したアステリオンに蹴散らせれ、機体を大きくへこませる。

 

『スレイ! 今度はあたしが先行するよッ!』

 

「そこまで言ったんだ、しくじるなよ! アイビスッ!」

 

ソニックブレイカーを展開したまま加速するアステリオンの後をベルガリオンが後を追って加速し、ヒュッケバイン・MK-Ⅲ達の包囲網の中へと自ら飛び込んでいく……だがその姿は自暴自棄な物ではない。自分達の夢を取り戻す……その強い決意に支えられた翼はどんな障害に屈する事は無く、どこまでも高く、そしてどこまでも速く空を駆ける。

 

『ごめん! スレイッ! これ以上は維持出来ないッ!!』

 

「十分だ! 距離は十分に稼いだッ!! アイビス合わせろッ! 一気にライノセラスとバレリオンの所まで切り込むぞッ!」

 

『了解ッ! ならマニューバRaMVsだね!?』

 

「その通りだッ! いくぞ、アイビスッ!」

 

ソニックブレイカーを解除したアステリオンはミサイルを放ちながら再び加速する為の溜めに入る。その隙をスレイのベルガリオンがミサイルとマシンキャノンを放ちガードする。

 

『スレイいけるよッ!』

 

「遅れるなよ! アイビスッ!」

 

テスラドライブが臨界状態に入り、アステリオンは白銀の光に、そしてベルガリオンが真紅の光に包まれる。

 

「『マニューバRaMVs……GOッ!!』」

 

互いの機体に搭載されている射撃武器が全て解放され、凄まじい弾雨がスレイとアイビスの道を塞ぐ敵を撃ち貫き2人が進む道が抉じ開けられる。

 

『スレイ! このままライノセラスに突っ込んだら駄目かな』

 

「賛成だ、6分と言わず一気に抜けるぞッ!!」

 

『うんッ!!』

 

互いが互いを高めあい、そして互いを助け合いながら加速する流星と彗星は自分達の夢への道を塞ぐライノセラスへと突撃し、その強固な突き破る。

 

「4分20秒……完璧だ、行くぞ、アイビスッ!」

 

『うんッ!』

 

進路を強引に抉じ開けたアステリオンとベルガリオンは更に加速し、テスラ研へと向かう。

 

『想定以上だな。文句のつけようが無い』

 

『夢という原動力の力か……感心している時間はない、この場はカーウァイ大佐達に任せて行くぞレーツェル』

 

アイビスとスレイが作った進路をハガネ達が到着するまでの防衛はクロガネとカーウァイ達に任せ、ゼンガーとレーツェルもテスラ研へと向かっていくのだった……。

 

 

 

 

高速で飛び去っていくヒュッケバイン・MK-Ⅲ・トロンベとグルンガスト参式・タイプGを双眼鏡で見つめていたチャイナドレス姿の女――フェイは手にしていた双眼鏡をジープの後部座席に投げ捨て、助手席に座り込む。

 

「どうする、バロン。ここまでは来たが、どうやって鋼機人を取り出す?」

 

「そうですねえ……どうしましょうかあ」

 

「おい」

 

この期に及んでのほほんとし、緊張感のないバロンにフェイがドスの聞いた声で言うとバロンは両手を上げた。

 

「殴るのは勘弁を、久しぶりに従兄弟に会うのに顔「じゃあ、腹だ」ぐぶっ……ふ、ふふふふ……フェイ……手加減を覚えたんですね?」

 

顔は駄目だと言うと即座に腹に拳を叩きこんでくるフェイに冷や汗を流しながらバロンが言うと、フェイは無言で拳を鳴らした。

 

「もう1発行っとくか? 運転はあたしでも出来るんだぜ?」

 

「え? 免停されすぎて運転免許再発行されないのに?」

 

「煽ってんじゃねえよッ! んで、どうすんだ? あたし達じゃ格納庫を開けれねえぞ」

 

リシュウに言われたポイントまで来ていたフェイとバロンだが、インスペクターの侵略のせいで電力が通っておらず。格納庫の中に入る事が出来ない状態だった、ここまで来たのに見ているだけか? と不機嫌そうに言うフェイにバロンはにこやかに笑った。

 

「何を言ってるんです? 格納庫なら開けれるじゃないですか?」

 

「あん? お前何呆けたことを言ってんだ? このでけえ扉を、電力も無しでどうやって開けるんだ?」

 

電力が通っておらず、搬入口も無い格納庫にどうやって入るんだと言うフェイの言葉にバロンはサングラスを外し、エルザムやライに似ているが、眉や目の形から柔らかいと言えば聞こえは良いが、どこかほにゃりとした顔付きを見て、フェイはふんっと鼻を鳴らした。

 

「相変わらず気の抜ける顔をしやがって」

 

「ははは、ですからサングラスをしているんですよ。少しは真面目に見えるでしょう?」

 

「どうだか……んで、どうするんだ?」

 

「あそこに沢山あるじゃないですか、僕達が乗れそうな機体がね」

 

バロンの指差す先にはプレアディスで穴だらけにされ、ギクシャクとした様子で動くゲシュペンスト・MK-Ⅲとヒュッケバイン・MK-Ⅲの姿があった。

 

「あれで格納庫の扉をぶっ壊すってか」

 

「不満ですか?」

 

「いや、あたしららしくて良いんじゃねえか? なんせあたしもお前もお尋ね者だ」

 

「本当、なんで僕達を指名手配しますかねぇ。これでも正義の味方のつもりなんですが……」

 

旧西暦の資料を多く持つフェイもバロンも上層部からすれば目の上のたんこぶであることは変わらず、テロリスト予備軍として指名手配されている身だ。

 

「はっ! んなもん名乗ろうとするから駄目なんだ。あたしらは自分の我を通す、それだけで良い。うら、行くぞ。ハガネまで出てきたら沈められちまう」

 

「ですねえ。いや、まぁクロガネとクロガネの機体でもやばいんですけどね。とは言えそれしか手段がありませんからねえ……」

 

格納庫の中に眠る鋼機人を手にする為にフェイとバロンはジープを降りて、ボロボロのゲシュペンスト・MK-Ⅲの方へと走る。

 

「コックピットブロックが壊れてんな。好都合だ、おい。エセ貴族、外すなよ?」

 

「はいはいっと、お任せあれ」

 

軽い口調で放たれたマグナムの銃弾はバイオロイドの額を撃ちぬき、完全に機能を停止させる。

 

「そんな旧式で良くやるぜ」

 

「射撃は得意なんですよ。僕はね? さ、急ぎましょうか。派手にドンパチあるでしょうからねえ」

 

柔和な笑みを浮かべ、ゲシュペンスト・MK-Ⅲの装甲に向かってワイヤーを射出したフェイは、バロンを小脇に抱えたまま、それを巻き取る事でコックピットまで一気に移動する。

 

「やれやれ、普通逆だと思うんですけどね」

 

「うっせえ虚弱体質。さっさと後ろに回れ、動力が損傷してるから本当に時間がねぇ」

 

「はいはい、すいませんね。一応保険で統合軍の識別コードを出しておきますか」

 

「それで撃たれたらてめえのせいだからな、行くぜえッ!」

 

乗っ取ったゲシュペンスト・MK-Ⅲを操り自分達の機体を手にする為にフェイとバロンは岩山に偽装された格納庫へとゲシュペンスト・MK-Ⅲを向かわせるのだった。

 

「不自然な識別コードを確認、リリー中佐、いかがしますか?」

 

「不自然なコード? 確認し……ッ。問題ありません、そのゲシュペンスト・MK-Ⅲは友軍です」

 

「友軍? しかしリリー中佐。あれはインスペクターに複製された機体ではないのか?」

 

「ですが、パイロットは違います。あの機体に乗ってるのは……エルザム様達の従兄弟ですわ。姿を消して長いですが、まさかこんな所で会うとは思っていませんでしたわ」

 

「エルザムの……そうか、マイヤーが旧西暦の資料を託したという……なるほど、事情は判った。こちらから支援を行え、あと電文だ。支援するとな」

 

「「「了解です」」」

 

ビアンの指示で支援命令と電文がゲシュペンスト・MK-Ⅲへと送られる。

 

「お、お前ちゃんと役立つじゃねえか。ヴォルフ」

 

ヴォルフ・V・ブランシュタイン。DC戦争の前にコロニーを捨て、旧西暦の資料を手に地球へと降りた考古学者――それがバロンを名乗るこの男の正体だった。だが本名を言われたバロンは嫌そうな表情を浮かべる。

 

「止めて下さいよ、本名を言うの。僕、狼ってキャラじゃないですからね。貴方だって本名嫌いでしょう?」

 

「はいはい、あたしが悪かった。これで良いだろ? おら。しっかり捕まってな。一気に行くぜッ!!」

 

ビアン達の支援を受けたゲシュペンスト・MK-Ⅲは拳を格納庫に叩き込み、扉を強引にこじ開け、フェイとバロンはコックピットを飛び出し格納庫の奥へと走り出すのだった……。

 

 

 

 

 

「各員に告げる! スレイとアイビスの両名がテスラ研への突破口を開いたッ! 帰艦せよッ! 繰り返す! テスラ研への突破口を開いたッ! 各員帰艦せよッ!」

 

インスペクターの無人機と戦っていたリュウセイ達はハガネから響いた帰艦命令に驚きを隠せなかった。

 

「もうかよッ!? 早すぎるじゃねえかッ!?」

 

『それだけアイビスも必死という事だ。それよりも帰艦だ、合体を解除するぞ』

 

ライの言葉の後にSRXは分離し、R-1、R-2・パワード、R-3・パワードへと分離する。

 

『因縁は俺にもある。突破口が開いていると言うのならば俺に先行させてくれ』

 

鉄甲鬼に乗っているコウキから先行させてくれという通信が入った。この状況での独断専行は許されるものではない……だが、それがコウキとなれば話は変わってくる。

 

『コウキ博士、テスラ研の防衛システムの無力化は可能なのか?』

 

インスペクターに制圧されているテスラ研の防衛システムが救出に向かうダイテツ達に牙を向く可能性は十分にあった。スレイとアイビスがコウキに渡されたプログラムディスクを持っているとは言え、2人は専門家ではない。無力化できない可能性は十分にあった。アステリオンほどでは無いが、十分なスピードを持つ轟破・鉄甲鬼ならば再び包囲網が形成される前に突破する事は十分に可能であり、撃墜される可能性も低い筈だ。

 

『俺と鉄甲鬼なら出来る。レールガン等の対艦装備を無力化させれば予定よりも早く進軍出来るはずだ』

 

上層部、そしてノイエDCの計画よりも早く進軍する事が相手の計画を瓦解させる事に繋がる。

 

『私はコウキ博士に任せても良いと思います』

 

『ダイテツ中佐、私もです』

 

レフィーナ、リーの進言がダイテツへと向けられるが、ダイテツの結論もレフィーナ達と同じものだった。

 

『60秒後にハガネ、ヒリュウ改、シロガネの主砲を発射する。それを合図にしてテスラ研へ向かってくれ』

 

『任された、必ず対艦装備を無力化させてくる』

 

コウキの力強い言葉にダイテツ達はコウキを先行させる事を決め、60秒後に放たれた主砲が降下してきたレストジェミラ達のど真ん中で炸裂し、包囲網を強引に抉じ開け、そこを轟破・鉄甲鬼がマントを翻し強行突破する。

 

「我々も続くぞ! 各機帰艦したな! 全速前進ッ!」

 

『時間を掛けてはならんッ! 最大戦速ッ!』

 

『整備兵は補給を急いでくださいッ!』

 

3隻のE-フィールドを同調させ、強固なバリアを展開したハガネ達は多少の被弾などお構いなしに敵陣のど真ん中へ艦首を捻じ込み、先行しているクロガネと合流すべくアメリカ大陸の上空へと進軍を開始するのだった……。

 

 

あまりにも早いハガネ、シロガネ、ヒリュウ改の進軍速度は当然ながらインスペクター・ノイエDC・百鬼帝国にとっても想定外の進軍速度であった。

 

「もうハガネ達は上陸したのか!? 遅れを取るな! 我々も包囲網を突破するぞ! アーチボルド隊に伝達ッ!」

 

「了解ッ!!」

 

「これは地球を守る戦いだ。各員、奮起せよッ!」

 

確かにノイエDCは百鬼帝国の傘下ではある。だがすべてがそうではない。本当に地球の未来の為に、そしてビアンが本物だと信じている軍人も多く存在している。一部のノイエDCの悪逆が目立ちすぎているだけで、ノイエDC全てが悪と言う訳ではないのだ。

 

「やれやれ…随分と気合が入っていますねぇ。艦長減速を」

 

「は、了解です」

 

「どうせですから、正義に燃える馬鹿達にも死んでもらいましょうか。その方が都合がいいですからねぇ」

 

だがアーチボルド達は、そんな正義に燃える兵士達を鼻で笑い、自分達にとっての本番へと備える。

 

「ハガネ達を沈める事が僕達の任務です。正義に燃える馬鹿達は精々、僕達の隠れ蓑として頑張って貰いましょうかね」

 

インスペクターとノイエDCは手を組んでいる。この戦は出来レースであり、そこまで熱を入れるものではないとアーチボルドは笑い、インスペクターの攻撃で墜落して行くアーマリオン達を見て楽しくて仕方ないと言わんばかりの残虐な笑みを浮かべる。その顔はまるで映画でも見ているかのような、人の生き死にを娯楽としか感じていない人格破綻者の姿その物だった……

 

「想定通りだ、驚く事はない。予定通りラングレー基地に戦力を集結させろ。勿論ヴィンデル達もだ」

 

ブライにとってダイテツ達が強行突破を仕掛けて来るのは想定内であり、驚く素振りも見せず、優雅な素振りでチェスの駒を動かし、自分の計画通りだと笑う。

 

「フェフェフェ……楽しみじゃ、楽しみじゃなあ」

 

「……お前の下賎な声は耳に障る」

 

「おうおう王を気取る馬鹿が吼えておるわ」

 

「……貴様」

 

「やるか? 人間共を殺す前にお前を血祭りに挙げてやっても良いのだぞ?」

 

「やめんか、お前の敵はラングレーに現れる。それまで大人しくしていろ」

 

ブライは今自分が動かせる最大戦力を携えてラングレーへと向かう。ここで沈むような物ならば、警戒した自分が馬鹿だと笑うまで、しかしこの戦いを切り抜けるのならば……

 

(本腰を入れて戦うべき敵だと認めようではないか)

 

ブライにとって警戒するべきはゲッターロボと武蔵だ。ハガネ達は武蔵のおまけという認識である、しかしこの張り巡らされた罠を乗り越え、生き延びて見せたのならば……自分の野望を阻む敵であると認め、本気で潰す事を決め、指先で摘んでいたチェスの駒を握り締め、粉々に砕くのだった……

 

戦いを楽しむつもりのアーチボルド、自分の野望を阻む敵なのか見定めるつもりのブライに対して、ラングレー基地に陣取っているインスペクター陣営には余裕は無く、強い焦りの色が感じられていた。

 

「何故だ!?  何故ハワイ地区が奪還された! アギーハは何をしていたッ!?」

 

ハワイ地区の担当だったアギーハがハワイを奪還された事に、ヴィガジは苛立った様子で怒鳴り声を上げる。

 

「何故だって!? お前の尻拭いで大破したシルベルヴィントの修復が十分じゃなかったからだろうが! そうやって文句を言うのなら、てめえが前線に出れば良かっただろ? なぁ? シカログ?」

 

責任をアギーハに押し付けようとしていたヴィガジは、メキボスの正論と不満げに睨んでくるシカログに何も言えず、呻き声を上げる。

 

「それで、俺達に待機を命令している真のリーダーさんの次の一手はどうするんだ?」

 

煽るようなメキボスの言葉に、ヴィガジは肩を震わせ拳を握り締める。

 

「俺が出る! テスラ研を奪還されてはウェンドロ様に申し訳が立たんッ! メキボス、シカログ! ラングレーは任せる! 俺は前線へ向かうッ!」

 

言うが早く司令室を飛び出して行くヴィガジをメキボスとシカログは見送った。

 

「なぁシカログよ。ホワイトスターでゲッター合金を使った新型機が作られてるが、俺達はゲッター線に触れてよかったと思うか?」

 

返事はないと思っていたメキボスが愚痴のように呟く、するとシカログはゆっくりと口を開いた。

 

「……触れるべきではない、大いなる災いが俺達に迫るだろう。だが……最早引き返せん……メキボス、気をつけるがいい」

 

強い後悔を感じさせるその言葉にメキボスは驚いたように目を開いた。

 

「ありがとよ、心配してくれて」

 

ゲッター合金を使った新型機の第1号はメキボスのグレイターキンがベースとなっており、既にラングレーに配備されている。直接乗り込んだことはないメキボスだが……ゲッター合金を使われたグレイターキンには言葉に出来ない不気味さを感じていた。

 

「俺達はゲッター線に誘い込まれたのかも知れねえなあ……」

 

かつてゾヴォークはゲッターロボに滅ぼされかけている……分不相応に再びゲッター線に手を伸ばした自分達はもしかしたら自分達の意志ではなくゲッター線に誘い込まれたのではないか? メキボスは口にはしないがそんな風に感じていた…なぜならば……メキボスの目にはゲッター線が人型の姿を取り、歩き回っている姿が見えていたのだから……

 

 

 

第163話 白銀の流星、真紅の彗星 その3へ続く

 

 




今回は指定エリアに到達するシナリオだったのでオリキャラや今後のフラグを混ぜてみました。テスラ研争奪戦、そしてラングレー攻防戦の難易度アップ予告ですね。敵も増えますが、味方も増える予定です。あとメキボスはゲッター合金製のグレイターキンに乗って呪われているのでメンタル低下中です。多分他の四天王も後のこうなる予定ですのであしからず、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

期間限定解除ガチャ

ファイナルカイザーブレード狙いで2階引いてきました


ファイナルカイザーブレード×3
真ゲッターチェンジアタック×2
ハイマットフルバースト×3
カオスハーマー
スラッシュハーケン×2

と割りと満足な辺りでした


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第163話 白銀の流星、真紅の彗星 その3

第163話 白銀の流星、真紅の彗星 その3

 

 

百鬼帝国の機動戦闘母艦はそれぞれ五本鬼に預けられている空戦鬼、龍王鬼の母艦である陸・海に特化にした亀の姿をした陸皇鬼、そして異形の魚の姿をした水皇鬼――それは人類側の箱舟であるスペースノア級に匹敵する巨大戦艦であると同時に、強大な力を内包した百鬼獣でもあるのだ。

 

「本当、百鬼帝国の技術力には驚かされるわよねぇ」

 

陸皇鬼の格納庫の一角でスレードゲルミルの整備をしていたレモンは呆れるような、驚くような、何とも言えない声色でそう呟いた。3隻の母艦は皆内部に百鬼獣の製造プラントを有しており、特別な百鬼獣を除けば短時間で複数の百鬼獣を製造するのも不可能ではない。テスラ研やマオ社、そしてアースクレイドルを上回る製造技術を持ち、それが百鬼帝国の電撃戦を支えているのだ。その設備の一部を使う事を許可されたレモンは、ソウルゲインやスレードゲルミルの改修を行ないながらしみじみした様子でそう呟いた。本来、ワンオフで整備も改造も難しいソウルゲインとスレードゲルミルを改造できる設備、そしてゲッター合金までも加工出来る設備が戦艦の中にあるのはレモン、いや新西暦の住人にとって驚くべき光景と言えた。

 

「レモン様……」

 

「あら、ウォーダン。起きたのね? 気分はどうかしら?」

 

ゼンガーのコピーであるウォーダンも下戸であり、酒盛りに巻き込まれ、速攻で酔い潰されていたウォーダンにレモンがからかうように尋ねる。

 

「……既に万全となっている」

 

「ふふ、それなら心配はないわね?」

 

返事に若干の間があったが、レモンはそれをあえて指摘せず柔らかく微笑み、改修したスレードゲルミルを見上げる。

 

「ゲッター合金製の斬艦刀に各部装甲の強化、それに高性能のブースター、今出来る限りでベストな仕上がりよ。出来ればゲッター炉心も搭載したかったんだけど……まあ流石にそこまでは無理ね。ゲッター炉心を搭載していないからゼンガー・ゾンボルトのグルンガスト参式よりは僅差で劣っているけど……マシンセルを搭載している分貴方の方が上ね「マシンセル……正直興醒めだ。確かに俺とスレードゲルミルには必要だろう……だが武人としては受け入れ難い」……ふふ、良いわよ。私そういうの嫌いじゃないわ」

 

自分の言葉を遮ったウォーダンの言葉に、レモンは笑みを浮かべる。ゼンガーをコピーしたとは言え、ウォーダンはWシリーズである事に変わりは無く、本来ならばレモンの言葉を遮る事はない……だが、それを覆し自分の言葉を遮ったウォーダンにレモンはラミア、エキドナに続き自我に目覚めようとしている予兆として受け取り、嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「今回の貴方の任務はハガネ達の妨害よ。それさえしてくれればこれをしなさい、あれをしなさいというつもりはないわ」

 

本当にウォーダンが自我に芽生えようとしているのか、それを試すつもりでレモンは明確な指示をウォーダンに与えなかった。これで文字通りに受け取り、ハガネ達に攻撃を仕掛けるのならば興醒めであり、ウォーダンがなんと返事を返すのかとレモンが期待しながら視線を向ける。

 

「妨害……それはテスラ研へ向かえという事か?」

 

「さぁ? それはウォーダン、貴方が決めることだわ。ただそうね……キョウスケはアクセルの獲物だし、ヘリオス……いいえ、ギリアムは私達に必要な人材だから、その2人に手を出さなければ何をしてもいいわよ?」

 

答えを求めるウォーダンにレモンは答えを与えず、自分で考えるようにと促す。

 

「……愚かと、何を馬鹿なと言うかもしれない。だが俺の考えを言っても良いか?」

 

その言葉にレモンは返事を返さず、身振りで続けなさいと促す。

 

「……クロガネ、いやゼンガー・ゾンボルトはテスラ研へ向かっている。そこでもし新たなる剣を手する為に向かっていると言うのならば……俺は……」

 

そこで言葉を切ったウォーダンにレモンは続く言葉が何かと期待する。

 

(これでインスペクターに協力する、それを妨害すると言うのならばWシリーズの考えだけど……)

 

「俺はそれを手伝うだろう。これは裏切りか?」

 

「……内容によるわね。どうして手伝うの?」

 

「万全な状態で、そして最強のゼンガーを倒してこそ、俺は俺になれると考える」

 

「ふふ、良いわよ。ウォーダン、貴方の好きにしなさいな」

 

「感謝する」

 

軽く頭を下げてスレードゲルミルへと歩き出すウォーダンの背中を、レモンは楽しそうに見つめる。己で考え、そして出した答え……レモンはそれをよしとする。

 

(人形では勝てない、人にならなければ貴方はゼンガーには勝てないわ。その為の一歩を踏み出したのね、ウォーダン)

 

人形では人には勝てない……自分の限界を知り、それを越えようとしない人形では、守る為に、己の意志を貫く為に戦う人間には勝てないのだ。だが、ウォーダンは己の意志を得て、そして今ならば勝てるであろうゼンガーと戦う事を良しとはしなかった……それは紛れも無く意志の現れであり、レモンはそれを心から祝福するのだった……

 

 

 

 

 

アステリオン、ベルガリオンの2機が先行する後ろを、ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・トロンベとグルンガスト参式・タイプGが続く。テスラ研への空路、陸路は共にインスペクターの無人機で埋め尽くされており、その道はとても険しい物だった。

 

「スレイ! アイビス! 余力を残しておけッ! ある程度は私達に任せるんだッ!」

 

テスラ研に辿り着いたとしてもそこでの戦いも残っている。だから余力を残しておけとレーツェルが声を掛けるが、スレイとアイビスは大丈夫だと返事を返した。

 

『問題ありません、弾薬もエネルギーも十分に残しています』

 

『露払いはあたしとスレイがやりますから! 2人は万全な状態でテスラ研へ! あたし達は多分……そこだと役立たずになるから、あたし達が戦える間はあたし達に任せてください!』

 

テスラ研には百鬼獣、そしてインスペクターの指揮官機が待ち構えている可能性が高い、そこに辿り着けばアステリオンとベルガリオンでは力不足だ。だから百鬼獣と戦えるレーツェルとゼンガーに消耗をしないでくれとスレイとアイビスは声を揃える。

 

『友よ、俺達の負けだ』

 

「しかし……」

 

『俺達は万全な状態でテスラ研へ向かい、師匠達を助ける。それがあの2人の信頼に報いる方法だ』

 

本当は自分達が助けたい、だけどその力が無い。だから助けられるゼンガーとレーツェルに託す――それがスレイとアイビスの戦いであり、決意だった。それを無碍にするなというゼンガーの言葉にレーツェルは頷いた。

 

「あと少しだ! 無茶だけはしてくれるなよッ!」

 

『大丈夫です! 行くぞ! アイビスッ! 残りの距離を突っ切るッ!!』

 

『OK! スレイッ!!』

 

アステリオンとベガリオンのテスラドライブが同調し、巨大なソニックブレイカーを展開して敵陣のど真ん中へと突っ込んで行き、無数の無人機を両断しゼンガー達の進む道を作り出す。再び防衛線が敷かれる前にグルンガスト参式・タイプGとヒュッケバイン・MK-Ⅲ・トロンベはその包囲網を抜け、テスラ研へと最大速度で向かう。

 

『見えた! テスラ研だッ!』

 

『帰ってきた……私達は帰ってきた……全てを取り戻すためにッ!』

 

無数の百鬼獣、そしてインスペクターに鹵獲、複製された地球側の兵器であるPTとAMの大軍――今までの戦いは所詮前座であり、テスラ研を巡る戦いの幕は今切って落とされ、そしてテスラ研に囚われているジョナサン達もまたひそかに戦い始めていた。

 

「敵機、接近中。 数、4。全機、迎撃態勢ヘ移行」

 

無機質な声を聞いてジョナサン達はインスペクターに提出する資料を纏める手を一時止めた。

 

「彼らにとって敵ということは……ッ!」

 

「ワシらにとって味方じゃの」

 

インスペクターのとっての敵はジョナサン達の味方だが、フィリオの顔に浮かぶのは困惑の色だった。

 

「しかし、4機だけとは……もしかして……?」

 

「恐らくフィリオの思った通りだろう」

 

「飛び立った雛鳥達が戻ってきたのじゃな」

 

4機という数は余りにも少ない。インスペクターと百鬼帝国が陣取るテスラ研を奪還するのに、4機では死にに来るような物だ……それなのに来てしまった。テスラ研の上空を旋回する白銀と真紅の流星と彗星を見てフィリオは驚きに目を見開き、その肩を震わせた。

 

「……何故来てしまったんだ……スレイ、アイビス……」

 

「何故って決まってるだろ? 助けに来てくれたのさ、雛鳥が戦乙女となり、2人の騎士を導いて来たんだ」

 

アステリオンとベルガリオンの背後からヒュッケバイン・MK-Ⅲ・トロンベとグルンガスト参式・タイプGがその姿を現す。

 

「ようやっと来たか……ジョナサン、フィリオ」

 

リシュウが2人に目配せをする。その意味をジョナサンとフィリオの2人は正確に読み取り、敵機の出現に自分達を拘束しているバイオロイド兵の目を盗んで懐のDコンのスイッチを入れる。

 

(コウキが手伝ったんでしょうね)

 

(ああ、やはり彼は最高の弟子だよ)

 

テスラ研の防衛装置が稼動せず、そして一時的にジャミングが解除された。攻撃する素振りを見せず、旋回しているアステリオンとベルガリオンはこのジャミングを発動させる為の動きをしていたのだ。

 

『友よ、ビアン総帥からの預かり物を、そしてお前達を救いに来た。待っていてくれ、私達は必ずお前達を救う』

 

『兄様! 私達は来ました。貴方を助けにッ! やっと来れましたッ!!』

 

『絶対に、絶対に助けるから、あと少しだけ待っててッ!!』

 

一瞬だけの通信、それでも必ず助けると、救い出してみせるという強い決意を感じさせる言葉にフィリオ達の目尻に思わず涙が浮かぶが、天井に向けられて発砲された銃声にその感動は一瞬で掻き消される。

 

「……緊急時ニ付キ、オ前達ノ身柄ヲ拘束スル。抵抗シタ場合ハ射殺スル」

 

無機質な声と共に銃を突きつけてくるバイオロイド兵の姿は今までと異なり、明確な殺意を感じさせた。

 

「おや、 我々を殺しても良いのか? ここのデータを纏められる者がいなくなるぞ」

 

ジョナサンがそう声を掛けるが、バイオロイドの返答は再びの銃声だった。今まではデータを纏められなくなると言うと一時スリープモードに入っていたが、今回は完全に戦闘態勢に移行しているのかより敵意を増させる結果になってしまった……自分の隣のPCに撃ち込まれた銃弾を見てジョナサンの額から冷たい汗が滴り落ちた。

 

「抵抗シタ場合ハ射殺スル」

 

重々しい音を立てて今度は自分に銃口を向けてくるバイオロイド兵を見てジョナサンは即座に両手を上げた。

 

「分かった、分かった。 降参だ、大人しく従うよ」

 

ここで下手に刃向かえば殺されるという事を悟り、ジョナサン達はバイオロイド兵に囲まれながらいた部屋を後にする。

 

(ジョナサン……分かっておるな)

 

(分かっています。 何としてでもダブルGを彼らに……フィリオも良いな?)

 

(ええ……大丈夫です)

 

ビアンから託されたダイナミックゼネラルガーディアン――ゼンガーとエルザ……いやレーツェルの為に作られたスーパーロボットを託す為に、ジョナサン達もまた命を賭けた戦いに身を投じようとしているのだった……。

 

 

 

 

 

テスラ研の防衛装置はコウキによってスレイとアイビスに託されたプログラムによって無力化されていた。だがそれはあくまで研究所の防衛システムであり、それ以外は依然スレイ達にその牙を向けていた。その圧力にスレイとアイビスが思わず息を呑む、無機質な殺意と敵意。それが全方向から向けられるのだ……それは弾き返すにはまだスレイとアイビスには戦闘経験が足りていなかった。

 

「……レーツェル。雑魚は俺達が引き受けるッ! お前は一刻も早く師匠達の元へッ!」

 

参式斬艦刀を抜き放ち、前に出るゼンガーの叫びにスレイとアイビスは我に返り、それぞれの機体の操縦桿を強く握り締める。

 

『了解した! スレイとアイビスは私の支援を頼む! ゼンガー無理をするなよッ!!』

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・トロンベがテスラ研へと向かい、その後をアステリオンとベルガリオンが続く、その後を追って双剣鬼と牛角鬼が唸り声を上げて動き出した瞬間に白い光が走り、双剣鬼と牛角鬼は両断され爆発炎上する。

 

「ここから先は通さんッ!!」

 

参式斬艦刀を構え百鬼獣の前に立ち塞がるグルンガスト参式・タイプGの装甲が開き、フェイスガードが展開される。

 

(出し惜しみをしている余裕はない、全力で行く)

 

百鬼獣を相手にして手札を隠している余裕はないと判断したゼンガーはゲッター炉心を起動させる。

 

「キシャアアアッ!!!」

 

「ウガアアアッ!!!」

 

「来いッ! 俺が相手だッ!!!」

 

ゲッター炉心に反応した百鬼獣が唸り声を上げ、地響きをあげてグルンガスト参式・タイプGへと襲い掛かる。

 

「おおおおッ!!!」

 

「グルルウウッ!!」

 

鉤爪を突き出してくる双頭鬼の一撃を参式斬艦刀で受け止め、返す刀で右腕を切り落とし、前蹴りを叩き込んで双頭鬼を蹴り飛ばす。

 

「ぬうっ!!!」

 

距離が近すぎて参式斬艦刀を振るう間合いが無かったからこその蹴りであり、参式斬艦刀を再び振り上げたグルンガスト参式・タイプGの背後を凄まじい衝撃が襲い、たたらを踏んだ間に双頭鬼は地面を蹴り、グルンガスト参式・タイプGから逃げおおせる。

 

「ヒャハハハハッ!!!」

 

衝撃の正体は白骨鬼の両手のガトリングであり、特機サイズのマシンガンの掃射はゲッター線バリアを貫通し、グルンガスト参式・タイプGの背部装甲を容赦なく抉る。

 

「オメガブラスタァァアアアア!!!」

 

振り返ると同時に胸部から放たれたオメガブラスターが白骨鬼へと放たれ、熱線に飲み込まれた白骨鬼の装甲が溶け、内部装甲が露になり、動力炉が爆発して白骨鬼の周辺の百鬼獣を弾き飛ばし、その隙にグルンガスト参式・タイプGは態勢を立てなおし、再び参式斬艦刀を構えなおすと同時に背部ブースターを全開にし、百鬼獣へと肉薄する。

 

「チェストォッ!!!」

 

「ギッ!? ギャアアアアッ!?」

 

双剣鬼が両手をクロスさせ、参式斬艦刀を防ごうとするが、裂帛の気合と共に振るわれた一閃は双剣鬼の防御を突き破り、双剣鬼を両断する。

 

「おおおおッ!!!」

 

「ギッ! シャアアッ!!!」

 

「ゴガアアアッ!!」

 

参式斬艦刀を双頭鬼、牛角鬼が2機掛かりで受け止め、参式斬艦刀の勢いを殺し、巨大な頭部のみの百鬼獣、迅雷鬼がその角から稲妻をグルンガスト参式・タイプGへと放った。

 

「うぐうううッ!!! がああああッ!!!?」

 

凄まじい電撃に流石のゼンガーも苦悶の声を上げる。その悲痛な叫びに思わずアイビスが動きを止め、アステリオンを反転させようとする。

 

『止めろアイビス!』

 

『で、でもッ』

 

『ここで攻撃を加えれば我々も攻撃される! 今は目の前の敵に集中しろッ!』

 

ゼンガーが百鬼獣と対峙しているからこそ、スレイ達はテスラ研に向かう事が出来ていた。それでもヒュッケバイン・MK-Ⅲやゲシュペンスト・MK-Ⅲ、そしてレストジェミラの包囲網は厚く、テスラ研に向かう事も難しい中、百鬼獣へ攻撃を加えれば挟撃になる可能性が極めて高く、アイビスの動きをスレイが静止する。

 

『ゼンガー少佐が……このままじゃ』

 

『大丈夫だ。ゼンガーならばあの程度の危機は自分で切り抜ける! 私達はフィリオ達を助ける事に集中するんだ!』

 

レーツェルはそう一喝し、テスラ研の前に陣取っていたバレリオンに向かってフォトンライフルを撃ち込むと同時に加速し、包囲網を突破する。

 

「う、うおおおおおおお――ッ!!!」

 

その背後ではゼンガーの雄叫びと、迅雷鬼の断末魔の叫びが響き、少し遅れて凄まじい爆発音がスレイ達の背後から響き渡り、レーツェルの言葉はゼンガーを信じているからこその言葉であると悟ったスレイとアイビスは今度こそ振り返らず、レーツェルの支援を行いながらテスラ研へと機体を向かわせるのだった……。

 

 

 

 

 

格納庫でガルガウの調整を終えて出撃したヴィガジは、ガルガウのモニターに映る光景に目の前が真っ暗になるのを感じていた。

 

『うおおおおおッ!!!』

 

ラングレー基地の制圧戦でヴィガジに辛酸を舐めさせたグルンガスト参式・タイプGが、百鬼帝国から貸し与えられていた最後の百鬼獣を両断し、黒いヒュッケバイン・MK-Ⅲがテスラ研の入り口に着陸する光景を見たヴィガジは操縦桿を握り締め、ペダルを強く踏み込んでいた。

 

「この研究所と人員には利用価値がある……貴様らには渡さんぞッ!!!」

 

テスラ研を奪われれば今度こそ自分はウェンドロに見限られる――それを恐れたヴィガジはブースターを全開にしヒュッケバイン・MK-Ⅲ・トロンベへと肉薄し、巨大な爪をヒュッケバイン・MK-Ⅲ・トロンベへと突き立てようとする。

 

『させんッ!!!』

 

「ぬううッ! また俺の邪魔をするかあッ!!!」

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・トロンベとガルガウの間に割り込んだグルンガスト参式・タイプGが、ガルガウの突進を受け止める。

 

『特殊弾頭はセットしたか!』

 

『OKッ! いけるよッ!!』

 

上空を旋回していたアステリオンとベルガリオンが放ったアーマークラスター弾がガルガウを襲い、ヴィガジはたまらずガルガウを後退させる。

 

『……後は頼むぞ! 友よッ!!』

 

「ちいっ! 行かせるかぁッ!!」

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・トロンベから飛び降りたレーツェルを見て、ヴィガジは短絡的に火炎放射を使う構えに入った。それは地球人……もっと言えば監査中の現地人は殺してもかまわないというゾヴォーク特有の傲慢な考えからだった……あとはボタンを押せば発射されるという段階で、ヴィガジはその指を止めた。勿論殺すのを躊躇った訳ではない……ヴィガジにとって想定外のイレギュラーがあったからだ。

 

(馬鹿な、何故カザハラ達は移動している!?)

 

バイオロイド兵達によってジョナサン達が移動させられており、今火炎放射を放てばジョナサン達が死ぬ……そうなればテスラ研のデータは消失する……その事に気付いたヴィガジは、あと少しと言う所で攻撃を止めた。

 

『レーツェルさんはやらせないッ!』

 

『いつまでもお前達の隙にさせると思うなよッ!!』

 

ガルガウは強力な特機ではあるが、動きを止めていれば的に過ぎない、無人機の相手をしていたアステリオンとベルガリオンが急旋回し、ソニックドライバーの銃弾とレールガンの弾頭がガルガウの頭部を捕える。

 

「ぐっぐうッ!? おのれッ!! メガ……」

 

ガルガウの頭上を飛び越えていくアステリオンとベルガリオンに向けて、胸部のメガスマッシャーを発射しようとしたヴィガジ。乱戦の中で目の前の敵から視線を逸らすと言うのは愚の骨頂だが、完全に頭に血が上っていたヴィガジは、グルンガスト参式・タイプG、そしてゼンガーへの警戒を緩めてしまった。

 

『させんッ! アイソリッドレーザーッ!!!』

 

その隙を、ゼンガーほどのパイロットが見逃す訳が無く、目から放たれた光線がガルガウへ襲い掛かる。

 

「ぬうっ!? くそくそくそッ!!! 俺の邪魔を……『うおおおおッ!!!!』 うがあッ!?」

 

再びグルンガスト参式・タイプGへと視線を向けたヴィガジの目の前に広がったのは肩を突き出して突進してくるグルンガスト参式・タイプGの姿であり、身構える間もなく肩口からの体当たりを食らったガルガウの巨体は宙を舞い、テスラ研から遠く離れた場所へと弾き飛ばされる。

 

「ふー……ふー……落ち着け……まだ大丈夫だ、まだ慌てる段階ではない」

 

一方的に攻撃を受けたヴィガジは、自分に言い聞かせるように繰り返し呟き、ゆっくりとガルガウを立ち上がらせる。確かに連続で攻撃を受け、僅かだがアーマークラスター弾を受けたのは確かに不味い状況だ。しかもテスラ研には敵が乗り込んでしまっている……だが、それでもまだヴィガジの優位性は完全に失われたわけではない。テスラ研の中には僅かだが鬼もいる、その上バイオロイド兵が複数ジョナサン達の監視をしている。たった1人で救出出来る訳が無い……そう考えればヴィガジは冷静さを取り戻す事が出来ていた。

 

「フン、たった1人でこのガルガウを止める気か?」

 

確かにグルンガスト参式・タイプGは強力な機体ではあるが、百鬼獣と戦う為に最初からゲッター炉心を使っていた事による機体へのダメージは決して甘く見れるものではなく、そして冷静さを取り戻したのならばアステリオンとベルガリオンがガルガウにダメージを与える術は無く、無人機へアステリオンとベルガリオンへの攻撃を命じればこちらへ妨害する術はない……消耗しているグルンガスト参式・タイプGと、僅かなダメージを受けているがほぼ万全なガルガウでは自分が負ける訳が無いとヴィガジはほくそ笑んだ。そしてその上でゼンガーを挑発する言葉を投げかける。

 

「その闘志は見上げた物だが、 状況が見えていないようだな……やはり、所詮は下等な野蛮人……」

 

『黙れッ!! そして聞けッ! 我が名はゼンガー! ゼンガー・ゾンボルトッ!! 我は悪を断つ剣なりッ!!』

 

ヴィガジはゼンガーの圧倒的な闘志に呑まれ言葉を失った。ヴィガジが査察官として活動した星では、絶望的な状況に心が折れる者しかいなかった……だがゼンガーは、この絶望的な状況でもその闘志を失わず、ヴィガジを圧倒するだけの咆哮を上げる。

 

「何が悪だッ! それは貴様らの方だッ! 再びゲッター線を使い銀河を滅ぼそうとしている貴様達こそが悪なのだッ!」

 

『我らの星へ一方的に攻め込んでおいて何を言うかッ!』

 

ヴィガジからすれば、1度宇宙全体を滅ぼしかけ、どこかへと消え去ったゲッター線を再び呼び覚ました地球人こそが悪という考えを決して変えることはない、だがゼンガー達からすれば突如地球に攻め込んできたインスペクターこそが悪であると言う考えが変わることはない。

 

「予防策なのだよ、これはッ! ゲッター線の危険性も知らずッ! それを使い続ける貴様らは宇宙を滅ぼす病原菌となるッ! 貴様らのような下等な野蛮人はこの宇宙に存在する価値すらないッ!」

 

ヴィガジの駆るガルガウがその爪をグルンガスト参式・タイプGへ叩きつけながら己の正当性を叫ぶ。だがそれは一方的な宣告であり、地球に住む人間の事など一切考えていない、自分達だけが正しいのだと、話し合うつもりも、分かり合うつもりも感じさせす、己の傲慢を隠そうともしない一方的な主張だった。

 

『病原菌だと……ッ!? 貴様達は何を根拠に……いや何の権利があってそのような悪逆をするッ!! お前達の攻撃でどれだけの人間が死んだと思っているッ! 何故言葉をかわそうとしなかったッ!』

 

「貴様達のような下等な生物が死んだ所で何の問題があると言うのだッ! 貴様らは銀河の秩序を乱す存在となるッ! 故に我らに監視……いや、支配されて然るべき野蛮人なのだ、何故そのような下等な生物と言葉をかわす必要があるッ!」

 

ゼンガーの主張をヴィガジは鼻で笑い、話し合う価値も無い下等な生物なのだと口にする。その言葉は無人機と戦っているスレイやアイビスの耳にも届いていた。

 

『酷い……なんでそんなことが言えるんだ……』

 

『人の姿をしていたとしてもその精神性は余りにも違うと言うことか……ッ』

 

星の海を飛ぶという夢を抱くスレイとアイビス、いやプロジェクトTDが目の当たりにするかもしれない異星人の残酷な考えを目の当たりにし、スレイとアイビスはその顔を歪めた。

 

『良く判った……お前達と我らが決して相容れないと言うことがな……ッ! お前達は我らを野蛮人と呼んだッ! だが武力を行使し、己の主張だけと通そうとする貴様らもまた野蛮の徒ッ! 己が優れているから何をしても許されると考えている愚かな存在だッ!!』

 

「ええい、黙れッ! 下等生物にそんなことを言われる覚えはないッ! 貴様はここで死ねッ!!」

 

ゼンガーの言葉に激昂するヴィガジだが、ゼンガーの言葉に怒りを覚えるというのは図星であると言う証明であり、そしてそれを認める事が出来ない自分達が優れた種族だと考え他者の意見を取り入れようとしないインスペクターの限界であり、強大な武力、そして知力によって何もかも思い通りにしてきたゾヴォークの人間の最も愚かな部分が表になった男――それがヴィガジという男だった。

 

【やはり愚か、ゾヴォークは発展も変化もなかったのだな……】

 

【自分達だけが人だと思っているような種族はやはり駄目という事だな……】

 

テスラ研の地下――ダイナミックゼネラルガーディアンが格納されている地下格納庫で、翡翠の輝きを持つ人間達がその整備を行い、2人の早乙女博士が残念そうに、しかし分かっていたと言わんばかりの哀れみさえも感じさせる口調でそう呟き、鎧武者を思わせる機体へとその視線を向ける。

 

【お前はゲッター線の意思に選ばれるか? ゼンガー・ゾンボルト】

 

【ゲッター線はただのエネルギーにあらず……そう簡単に御せると思わぬ事だ。心するが良いゼンガー・ゾンボルト。生半可な覚悟ではゲッター線はお前にも牙を剥く事になるだろう】

 

鎧武者を思わせる特機の全身に翡翠の輝きが走り、起動していないにも関わらずその瞳に翡翠の輝きを灯すのだった……。

 

 

第164話 武神装甲ダイゼンガー その1へ続く

 

 




と言う訳で今回もシナリオ進行がメインとなりました。この話もイベントが多いシナリオですからね、こういう感じへとなってしまいましたが、次回はスレードゲルミルやコウキを交えての戦闘回とレーツェルの視点の話を書いてボリュームを増させていこうと思います。

なお今作のダイゼンガーやアウセンザイターはゲッター合金100%+ゲッター炉心なので、実質ゲッターロボなので下手をすると勝手に火星に飛んでいくかもしれないそんなスーパーロボットとなります。そしてタイトルは武神装甲ダイゼンガー以外ありえませんよね?それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

PS グリッドマンガチャは

カズラズーファー
ダブルグラビトンライフル
グリッドビーム

ピックアップを全て引き当てる事が出来ました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第164話 武神装甲ダイゼンガー その1 

第164話 武神装甲ダイゼンガー その1 

 

豪華な装飾が施された中華風の一室では孫光龍、泰北三太遊、そして夏喃潤の3人が回転テーブルを囲み、その上の料理を口にしていた。男装の麗人――夏喃は苛立った様子で手にしていた箸を机の上に叩きつけた。

 

「おいおい、マナーがなってないんじゃないかい? 夏喃。そりゃあ尸解仙の僕達には食事なんて意味ないものさ。だけど心が豊かになるだろう?」

 

「何が心が豊かになるだ! いつまでも動き出さずに何がしたいんだ! 孫光龍ッ!」

 

潤からすれば超機人が百鬼帝国の軍門に下り転生しているのも、自分達の超機人を真似た粗悪な朱玄皇鬼の存在も度し難い存在だった。バラルの仙人として人界の守護者として成すべき使命をしない孫光龍に強い怒りを潤は抱いていた。

 

「ほっほっほ、落ち着け夏喃よ」

 

「しかし泰北ッ!」

 

言葉を荒げる潤に三太夫は落ち着けと再び笑いかける。その笑みに毒気が抜かれたのか潤は苛立った様子はそのままに、浮かしかけていた腰を再び椅子の上に降ろした。

 

「夏喃の言う事も判るけど、僕達には今戦力がない事に変わりはないんだ。出来る事は高が知れているだろう?」

 

「……朱武王がある」

 

「無理を言うではない。不完全な修復で戦に出すものではない」

 

「そういうことだね。それにこれは人への試練になる。彼らが地球の守護者として僕らの味方になってくれるか、見極めるのにいい機会じゃないか」

 

飄々としている泰北と茶化してくる孫光龍の言葉に潤の額に井形が浮かび、そんな潤の姿を見て孫光龍は楽しそうな笑みを浮かべたが、突如その顔を忌々しそうに歪めた。

 

「ゲッターロボ以外にゲッター線を使おうとするのはいただけないねぇ。ゲッターロボは象徴でなければならないのだから、今までの小手先の玩具ならば許したけれど……これは度し難いねぇ」

 

テスラ研の地下から感知された膨大なゲッター線反応を感じ取り、孫光龍は忌々しそうにその眉を顰めた。認めたくは無いが、テスラ研の地下で最終調整が行なわれているダブルGはゲッターロボに匹敵する機体である……孫光龍を持ってしてもそれを認めざるを得なかったのだ。

 

「ふぅむ……だがゲッターロボの姿をしていなくともゲッター線を用いているのならば……それもまた人界の守護者と認めても良いのではないか?」

 

「泰北、本気で言っているのかい? ゲッターロボはガンエデンにも認められ、共に戦い地球を守ったんだ。つまりゲッターロボは最強の守護者でなければならない」

 

バラルにとってもゲッターロボの存在は絶対であり、ゾヴォークが危険視するように、バルマーが更なる発展と、その加護を求めるように――バラルにとってゲッターロボは最強の守護者でなければならないのだ。泰北の意見は孫光龍と夏喃の2人から真っ向から否定されたが、それも泰北は善哉と声を上げて笑った。自分の意見も孫光龍の意見も分かるからこそ、無理に自分の意見を通す事は無い、この柔軟性こそが泰北の最も秀でている部分と言っても良いだろう。

 

「妖機人でも嗾けて見るかなあ。僕達がやったって言う証拠も残らないし、もしも今の人類が作った機人がゲッターロボに匹敵する能力を持つのならばそれも良し、どうせここまで乱戦になっているんだ。今更1体や2体敵が増えても気付かないよ」

 

孫光龍の口振りには泰北も夏喃も思う所はあったが、ゲッター線を扱う機人をバラルとして見極めるという責務があると考え、孫光龍の提案を受け入れる事となった。

 

太古の昔、ガンエデンと龍帝が共に戦い地球を守った時――ガンエデンと龍帝の使徒タツヒトは盟約を交わした。それは長い年月の中で暴走しつつあるバラルの仙人達であっても守らねばならない使命となっている。

 

1つは進化の使徒が誤った道に進もうとした時それを止める。あるいは道を正すこと……。

 

1つはゲッター線を乱用せず、悪用せんとするものを監視する事……。

 

そして……最後の1つは

 

「バラルは進化の使徒――つまり武蔵の居場所にならねばならない。時の迷い人である武蔵の帰る場所になるって約束なのだからね」

 

ゲッター線の悪戯によって時を、世界を超えたゲッターパイロットの寄り所になるという事だ。かつての盟約を果たすため、そしてゲッター線を使おうとしている者を見定める為にバラルは1体の妖機人をテスラ研へと向かわせるのだった……。

 

 

 

 

ガルガウと対峙するグルンガスト参式・タイプGのコックピット内は異様な発熱に包まれていた。

 

「……オーバーヒートではない……これは一体何が起こっていると言うのだッ!?」

 

ゲッター炉心の使用時間は厳密に定められているが、百鬼獣、そしてガルガウと戦う為にはそれを無視する必要があった。グルンガスト参式ではゲッター炉心の出力に耐え切れず、自壊を始める頃合の筈なのにグルンガスト参式は今だ健在であり、その出力を増したゲッター線を己の物としている。

 

『くたばれッ! 下等な野蛮人がッ!!!』

 

「ちえいっ!!!」

 

ゼンガーはガルガウのアイアンクローを参式斬艦刀で弾いた……つもりだった。

 

「ぬっ!?」

 

『馬鹿な!? 何が起きているッ!?』

 

恐ろしいほどに軽い手応えにゼンガーは困惑し、ヴィガジの驚愕の声が周囲に響き渡る。ガルガウのアイアンクローはまるで溶かされたように中ほどまで切り裂かれていた……これ以上に無い追撃のチャンスだがゼンガーはガルガウへの追撃を行う事が出来なかった。

 

「ぐうっ……」

 

身体を焼く凄まじい熱にその顔を苦しそうに歪めるゼンガーはヴィガジ以上にダメージを受けており、本能的にゲッター炉心の出力抑制を行なおうとするが凄まじいエラー音がコックピットに響き渡る。

 

「ゲッター炉心が暴走しているのかッ」

 

コックピットに充満する熱にその可能性は考えていたが、実際に目の当たりにしたゼンガーは驚いたが、それでも操縦桿を握る手を緩める事はなかった。

 

「今はこの力が必要だ……躊躇っている時間は無い、推して参るッ!! おおおおおおお――ッ!!!」

 

ここでグルンガスト参式が暴走の末に大破するとしても、この力が無ければ百鬼帝国とガルガウを相手にして戦う事は出来ないのだ。ならば躊躇っている時間も迷っている時間も無い。限界が来るまで、いや限界を超えて己の命を失うとしても戦うまでと覚悟を決めて操縦桿を強く握り締める。

 

『このまま戦い続ければあいつは限界を迎えるッ! やれッ! 百鬼獣どもッ!!』

 

グルンガスト参式・タイプGが暴走していると悟ったヴィガジはガルガウを後退させ、百鬼獣を差し向ける。下等な野蛮人をゼンガーを見下していたヴィガジだが、そのゼンガーが自分を上回る力を見せれば即座に逃げる……それはヴィガジの愚かさの表れその物だった、

 

『キシャアアッ!!!』

 

『グルオオオオッ!!!』

 

「邪魔をするなぁッ!! チェストォオオオオオッ!!!」

 

自分の道を遮る百鬼獣の群れに向かってゼンガーは吼え、グルンガスト参式・タイプGを走らせる。

 

「ぬんッ!!!」

 

双剣鬼が参式斬艦刀の一閃で胴から両断され、上半身がズレ少し遅れて爆発する。

 

『キュアアアアアアーーッ!!!』

 

『グルルルルッ!!!』

 

『くそッ! アイビス打ち落とすぞッ!』

 

『分かっているッ!』

 

鳥獣鬼とプテラノドンのような飛行機が雲の切れ間から姿を見せ、グルンガスト参式・タイプGへの爆撃を行なう。それを阻止しようとアステリオンとベルガリオンが動き出すが、それはほかでもないゼンガーによって制された。

 

「俺にかまうなッ! うおおおおッ!!! オメガブラスタアアアアアアア――ッ!!!」

 

その叫びにスレイとアイビスは一瞬の躊躇いの後に己の機体を急上昇させる。その直後にグルンガスト参式・タイプGの胸部から放たれた翡翠の熱線が爆弾ごと鳥獣鬼達を飲み込み、空中で凄まじい爆発の花を咲かせる。

 

『凄いパワー……だけど……スレイ。あれ危ないんじゃッ!?』

 

『見れば分かるッ! あのままではゼンガー少佐が危……くっ!? 旋回しろッ! アイビスッ!!』

 

オメガブラスターの余波で装甲が焦げている姿を見て、スレイとアイビスはゼンガーの命令を無視して再びゼンガーの支援を行う為に機体を反転させようとし、ロックオンの警告音がコックピットに響き機体を急旋回させる事になった。そしてその間を1機の百鬼獣が駆け抜けていく、斧を手にしマントを翻し空を舞う百鬼獣の姿にアイビスは目を見開いた。

 

『スレイッ! あの百鬼獣はッ!?』

 

『分かっているッ! だがこの位置では追いつけんッ!!』

 

その百鬼獣――鉄甲鬼は角から電撃を放ちながらグルンガスト参式・タイプGへと肉薄する。

 

「ぬううッ!!」

 

異常な出力アップによるダメージで動きが鈍いグルンガスト参式・タイプGはその電撃を回避する事が出来ず、参式斬艦刀で直撃だけは防いだが、その電圧でただでさえ異常を来たしているグルンガスト参式・タイプGのモニターのあちこちにはレッドアラートが点灯する。

 

『はっははッ!! やはり貴様は下等な野蛮人だったなあッ!』

 

動きが鈍くなったグルンガスト参式・タイプGを見て、勝利を確信したのか鉄甲鬼を押しのけてガルガウがグルンガスト参式・タイプGに向かってアイアンクローを構えて走り出す。その光景を見て、ゼンガーは参式斬艦刀を鞘に納め腰だめに構えた。

 

『血迷ったか! 剣を鞘に納めて何が……「はあああああッ!!!」……なっ!?』

 

裂帛の気合と共に抜き放たれた参式斬艦刀の切っ先からゲッター線で出来た光の刃が飛びだし、ガルガウと鉄甲鬼の装甲に深く傷をつけながら弾き飛ばす。それは本来示現流の技ではない、武蔵が鍛錬している間に何度かやって見せた居合い切り……それはゼンガーにとっても勉強となり、それをぶっつけ本番でグルンガスト参式・タイプGに使わせたのだ。

 

(この好機、逃す訳にはッ!)

 

グルンガスト参式・タイプGが動ける時間はもう長くない、ガルガウと鉄甲鬼が姿勢を崩しているこの好機は、今のゼンガーにとって決して逃してはならない最大の好機だった。

 

「伸びろ斬艦……と……ッ!? なんだッ!? 何が……」

 

日本刀モードから大剣モードに変えようとしたゼンガーだが、突如モニター全てが白一色に染まり、一切の操縦をグルンガスト参式・タイプGが受け付けなくなり困惑する。白一色のモニターの中に両手がハサミのような翼になっている百鬼獣が舞っている光景が一瞬映りこんだ。

 

「あの百鬼獣の仕業かッ!?」

 

『グルオオオオオッ!!!』

 

『良くも、良くも恥をかかせてくれたなあッ!!』

 

数秒のシステムダウン――それはゼンガーが手に仕掛けていた好機を奪い、逆に鉄甲鬼とヴィガジに動けないゼンガーとグルンガスト参式・タイプG撃破という好機を与える……事は無かった。

 

『アイビス撃てええッ!!!』

 

『いっけええええッ!!!』

 

ベルガリオンよりも大型で武装を多く搭載できるアステリオンだからこそ、チャフやスパイダーネットをベルガリオンよりも多く搭載できていた。そしてアステリオンの整備をしているのはコウキとツグミであり、コウキはアイビスが百鬼獣と遭遇しても生き残れるように改良したチャフやスパイダーネットが搭載されていた。だがそれは全体の2割ほどであり、全てではない。だが運よく最後に発射されたチャフとスパイダーネットは対百鬼獣の改良された物だった。

 

『ッ!?』

 

『キイイイィッ!?』

 

『な、なんだこれはッ!?』

 

諦めない者に、不屈を誓う者に奇跡は起こる――時間にしては数秒にも満たない一瞬、だがその一瞬で全てが覆された。

 

『今まで随分好き勝手してくれたな……覚悟は出来ているんだろうなあッ!!!』

 

怒りに満ちた鬼神の咆哮――轟破・鉄甲鬼は現れると同時にその手にした斧を投げ付け、グルンガスト参式・タイプGの前に立ち、ガルガウ達の前に立ち塞がる。

 

「コウキ……か」

 

『遅くなって悪かったな、思ったよりも包囲網が厚くてな……それよりもまだ戦えるか?』

 

「無論だ……まだ俺は倒れる事はできんッ!!」

 

百鬼獣胡蝶鬼のジャミングの効果はとうの昔に切れ、不屈の闘志でゼンガーは、グルンガスト参式・タイプGは再び立ち上がる――悪を断つ剣は今だ折れず、その場にあり続けるのだった……。

 

 

 

 

目の前に並んで立つ2機の百鬼獣を見て、コウキは忌々しそうに顔を歪めた。1体はかつての己の半身にして、必ず破壊すると心に誓っていた百鬼獣鉄甲鬼――その武装も戦い方も全て把握していると言っても良いだろう。轟破・鉄甲鬼はその名の通り鉄甲鬼をベースに、ゲッターロボGやグルンガストのデータさえも組み込み大幅改良したのだ。テスラ研から脱出する際は負傷していた事、そしてまだ調整が完全ではなかった事、そしてアイビス達を脱出させなければならないという複数の要因からコウキは逃げたが、普通に考えればコウキと轟破・鉄甲鬼が万全ならば負ける訳が無いのだ。

 

「だからと言って胡蝶鬼を持ち出してくるか……?」

 

胡蝶鬼は百鬼獣の中では下から数えた方が早いような百鬼獣だ。女性的なシルエットで細身であり、両腕は蝶の羽を模したブレードのような翼――と見た目通りに機動力に重点を置き、攻撃力は決して高くないそれが胡蝶鬼の特徴だが、それでも百鬼衆の胡蝶鬼が乗っていた百鬼獣なのだ。その肩書きに恥じない特殊能力を持ち合わせている。

 

『キュアアアアアッ!!』

 

甲高い鳥のような鳴声と共に胡蝶鬼の翼のような腕から光り輝く無数の蝶が姿を見せる。轟破・鉄甲鬼の周りを取り囲もうと周囲へと広がっていく……。

 

「ちいっ!」

 

『ゴガアアッ!!!』

 

それを見て逃げようとしたコウキだが、そうはさせないと鉄甲鬼が斧を轟破・鉄甲鬼に叩きつけ、その重量で轟破・鉄甲鬼の動きを封じ込める。そして光り輝く蝶が轟破・鉄甲鬼に触れた瞬間モニターやレーダーと言った電子機器が全て死んだ。

 

「くそがッ!!」

 

思わず悪態を付きながらコウキは完全に闇に落ちたコックピットの中で神経を研ぎ澄ます。

 

(ブライのプログラミングに今だけは感謝する)

 

裏切り者を許さない性格のブライだ。テスラ研に胡蝶鬼を配置したのは、轟破・鉄甲鬼を見て、改良型の機体だと判断したからだろう。

高い攻撃力と防御力、そして汎用性を併せ持つ鉄甲鬼とジャミングに特化した胡蝶鬼――その組み合わせは相性によってはたった2体で一部隊を壊滅させること出来る最強の組み合わせだ。相性的な問題でゼンガー達では反応も出来ず撃墜される可能性があるが、コウキを狙うようにプログラミングされている2体はコウキによってテスラ研の外まで誘き出されていた……。

 

『うおおおおッ!!!』

 

『ちいっ! 目障りな野蛮人があッ!!』

 

ゼンガーとヴィガジの雄叫びが重なり、凄まじい衝突音が何度も響き渡る。ゲッター炉心の影響でガタが来ているグルンガスト参式・タイプGはいつまでもガルガウと戦う事は出来ないという事はコウキにも分かっていた。出来る事ならばコウキとゼンガーの2人でガルガウと対峙するのが最善だが、鉄甲鬼、胡蝶鬼とガルガウが組めばコウキとゼンガーのペアをスレイとアイビスが支援したとしても、胡蝶鬼の妨害によってその勝率は極端に下がる――各個撃破のリスクが発生するが分かれて戦う事。それが1番生き残る可能性が高いと考えたコウキはスレイとアイビスにゼンガーの支援をするように命じ、自ら単独で百鬼獣と戦う事を決めたのだ。

 

「そこだッ!!」

 

ブライの見積もりは甘かった。常人ならば視界を失えば反応が遅れるだろう……外が分からなければ機体は棺桶と変わらず恐怖するだろう……だがコウキはそんな事で己を見失うほど弱い人間ではない。

 

『グギャアッ!?』

 

耳障りな悲鳴と共に地響きが響き渡り、ジャミングされていた機能が少しずつ復旧してくる。

 

『……コウキ博士……支援……』

 

「必要ない、それよりも俺に近づくな。こいつらはお前達にとって相性が最悪だからな、ゼンガーの支援を徹底しろ。俺に構うな」

 

胡蝶鬼の翼から再び光る蝶が放たれ、通信が途絶えモニターにもノイズが走り始め、スレイの声が遠ざかっていくが……コウキはそれに動じる事無く、再び闇に染め上げられたコックピットの中で悪意とも言えるものを感じ取り鉄甲鬼、胡蝶鬼の2体と対峙する。

 

(ゼンガー達では対処できん……これは俺で良かったと思うべきか)

 

闇の中で殺気や悪意だけを頼りにコウキは轟破・鉄甲鬼を操る。気配だけを頼りに攻撃をしているコウキの攻撃は辛うじて相手の身体を掠めるに留まり、遠隔攻撃には対処できず直感的にマントで防いでいるがダメージは少しずつだが蓄積してくる。

 

「極まりが浅いか……だが泣き言は言ってられんな……ッ」

 

攻撃は浅くしか当たらず、射撃武器で徐々に装甲を削られる――状況は決していい物では無いが、それでもコウキの目に諦めの色は無い。

 

「カザハラ博士とフィリオなら準備をしている筈――それにあいつらだって何時までも足止めをされているわけが無い、必ず突破してくる」

 

インスペクターと百鬼獣の軍勢は確かに容易に突破出来る敵ではない、だがL5戦役を潜り抜け、そして百鬼獣やインベーダー、アインストと戦い続けて来たハガネ達ならば必ずこの場に来るとコウキはそう信じていた。

 

「どうした! 裏切り者はここにいるぞ! この首が欲しくはないのかッ!!!」

 

コウキが声を張り上げると数多の百鬼獣が轟破・鉄甲鬼を取り囲む、鉄甲鬼と胡蝶鬼に加えて雑魚とは言え数十体の百鬼獣――それは絶望的な戦力差と言っても良い、だがコウキは僅かに見えるモニターからの外の光景を見て笑った。

 

「そんな雑兵で俺の首を取れると思っているのか!?随分と甘く見てくれたものだなあッ!!!」

 

数が不利だとしても決してコウキの闘志は決して折れることはない、恩師を救う……そしてかつての己の半身を穢した百鬼帝国への怒りが原動力となり、モニターの不調など何の障害にもならないと言わんばかりに獰猛な笑みを浮かべ、百鬼獣の群れへと単身突撃していくのだった……。

 

 

 

 

コウキの登場によって僅かに盛り返し始めたゼンガー達だが、戦力の差はやはり圧倒的であり、今だ予断を許す状況ではなかった。そしてそれはテスラ研の通路を走るレーツェルもまた同じだった。

 

「くっ! ここもかッ!」

 

テスラ研のバイオロイド兵は、実は既にヴィガジの指揮下から離れて独自に動き始めていた。バイオロイド兵は元々はダヴィーンの技術であり、ブライはダヴィーンの生き残りの頭脳を有しているので幾らでも抜け道を作れる。テスラ研が奪還されそうになった場合、バイオロイド兵は通路などの封鎖を命じられていた。

 

「……敵確認……排除……ガ、ガガガガッ!?」

 

通路から姿を現したバイオロイド兵の額に向かってゲッター合金製の弾頭を持つハンドガンを撃ち込むと同時にレーツェルは地面を蹴って大きく後退する。

 

「ヒャッハアアッ!!!」

 

一瞬前までレーツェルがいた場所に巨大な斧が突き刺さり、蜘蛛の巣状のクレーターが作り出される。それは人間に直撃すれば一瞬で肉片になるほどの破壊力を秘めた一撃である事が容易に分かる。

 

「鬼かッ!!」

 

「はっはぁッ!! 中々やるじゃねえかッ!! 遊ぼうぜッ!! 人間よッ!!」

 

身の丈ほどの斧を軽々と背負い、凄まじい勢いで突進してくる鬼に向かってレーツェルは銃弾を撃ち込む。だがその銃弾は鬼の身体にめり込むがすぐに弾かれ、足止めにもならない。

 

「おらあッ!!」

 

「くっ!」

 

線にしか見えない神速の一撃をレーツェルは転がって回避し、腰のベルトから2振りのアーミーナイフを抜き放ち鬼と対峙する。

 

「おいおい、そんな玩具で俺と戦うつもりか?」

 

「そうだと言ったら?」

 

「自殺行為だといってやるぜッ!!」

 

斧を振り上げ突進してくる鬼にレーツェルは逃げる事無く、アーミーナイフを×の字に構え身構える。

 

「そんな玩具で……ぐ、ぐがああああッ!!?」

 

「うっぐうおッ!!?」

 

鬼の斧がナイフに触れた瞬間翡翠の光が走り、鬼は一瞬で骨となり消し飛んだ。だが衝撃までは無力化出来ずレーツェルも苦しそうに呻いて、片膝をついて蹲った。

 

「はぁ……はぁ……高純度のゲッター合金製のナイフならばある程度鬼に有効と聞いていたが……これほどまでとは……」

 

手袋もゲッター線の高熱によって焼け爛れており、手袋を外すと掌が真っ赤になっていた。あと数秒ナイフを握っていたら手が焼け爛れ、ダブルGを操縦するのは不可能だっただろう。

 

「やはり時間がない」

 

ナイフは後2本残っているが、それを使ってしまえば自分が戦力として数えられなくなる……そうなる前にジョナサン達を見つけなければならないが、テスラ研の内部は鬼によって複雑に入り組んでおり、どうすればジョナサン達の監禁されている部屋に辿り着けるのかDコンの反応を頼りにしても、合流にどれほどの時間が掛かるのかはレーツェルにも分からなかった。外から響いて来る戦闘音の激しさにレーツェルは焦りを覚え、思わず通路の壁を殴りつける。

 

「くそ時間がないと言うのにッ……なんだ……光? いや……これはゲッター線かッ!?」

 

まるで蛍のように宙を進むゲッター線の光……それを見てレーツェルが悩んだのは一瞬で、その光の後を追って薄暗い通路を走り出す。

 

『それより、お前さんにちょいと頼みがあるんじゃが……ワシの杖を取ってきてくれんか? ほれ、ワシは見ての通りの歳でのう……杖がないと具合が悪いんじゃ』

 

その光が消えた所でリシュウの声が中から響いて来る。その声を聞いてレーツェルはホルスターからハンドガンを取り出し飛び込むタイミングを計る。ゲッター線の光に導かれ、そしてジョナサン達のいる部屋に辿り着けた……レーツェルはこれを完全に運が自分の味方をしていると受け取っていた。

 

『な、頼む。 ゴホッ、ゴホッ……この通りじゃ』

 

同情心に訴えるリシュウの演技だったが、余りにもわざとらしく部屋を覗き込んだレーツェルは思わず苦笑する。

 

(バイオロイド兵は1人――鬼もいない……)

 

チャンスは一瞬だ、しかも失敗すればジョナサン達の命がない……極度の緊張が走るが、それでもレーツェルは焦る事無く、そして動揺する事無く飛び込む為のチャンスを窺う。

 

「……動クト撃ツ」

 

「それはこちらの台詞だッ!」

 

バイオロイド兵がその銃口をリシュウ達に向け、出入り口に背を向けた瞬間。レーツェルはドアを蹴り開けて飛び込むと同時にハンドガンの引き金を引き、その銃弾は真っ直ぐにバイオロイドの額を撃ち抜いた。

 

「レーツェル……来てくれたのか」

 

「遅れて申し訳ないカザハラ博士。内部が入り組んでいて救出が遅れた」

 

「いや、君が来てくれて助かったよ、ビアン博士からの預かりものは?」

 

「ここに」

 

ジャケットの内側から取り出したメモリーCDを見たジョナサンは頷き、白衣の中から1つのカードキーを取り出した。

 

「急ごう。状況はかなり不味い筈だ」

 

戦闘音は激しく、地響きと百鬼獣の唸り声が響き続けている。ゼンガー達が一騎当千のパイロットであったとしても数の暴力で押し潰される、話している時間はないと言うジョナサンにレーツェルは頷き、壁際に置かれていた杖を手に取り、それをリシュウへと手渡す。

 

「申し訳ありませんが、状況はかなり不味いです。予定では既にクロガネがテスラ研に到着している筈ですがそれもない……如何にゼンガーと言えど百鬼獣とインスペクターを相手に戦うのは危険だ」

 

「分かっている。すぐにダブルGを起動させよう。 ダブルGは最深地下格納庫だ」

 

レーツェルの言葉に頷いたジョナサンに先導され、ダブルGの格納庫へと向かったレーツェル達だが、外に出て戦況が自分達が想定しているよりも遥かに悪化している事を思い知らされた。

 

【ヒャッヒャヒャ】

 

【カーカカカッ!!!】

 

百鬼獣でも、インスペクターでもない、そしてアインストとインベーダーでもない異形の化け物――その姿を見てレーツェルは思わず声を上げた。

 

「妖機人だとッ!?」

 

饕餮鬼皇達と戦った時に出現した妖機人に酷似した人型の巨人が2体、それが無差別に暴れまわっていた。インスペクターと百鬼獣へ攻撃を繰り出したと思えば空を舞うアステリオンやグルンガスト参式・タイプGにも攻撃を繰り出し、テスラ研の格納庫にも攻撃を繰り出し、被害を爆発的に加速させている。

 

「妖機人じゃとッ!? 何故」

 

「リシュウ先生! 話は後ですッ! 皆こっちだッ! いそげッ!」

 

ダブルGの眠る格納庫へと走り出すジョナサンの後を追ってレーツェル達も走り出した。最早一刻の猶予も無く、テスラ研での戦いはこの短時間でより激しさを増し始めているのだった……。

 

 

第165話 武神装甲ダイゼンガー その2へ続く

 

 




今回は戦闘描写もありましたがシナリオも進めて見ました。妖機人のエントリーとゲッター線に導かれたレーツェルと大きく話が動いたと思います。次回はオリユニットとオリキャラを追加しつつウォーダンも参戦させたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第165話 武神装甲ダイゼンガー その2

第165話 武神装甲ダイゼンガー その2

 

リシュウが古文書に記されていた鋼機人をベースに作り上げた特機を回収に来ていたバロンとフェイの2人は唐突にその足を止めた。

 

「おい、ヴォルフ」

 

「バロンと呼んでくださいと言っているでしょう? まぁフェイ。貴女の言いたい事は分かります」

 

険しい声にフェイに対し、バロンの声はいつも通りだがその目には剣呑な光が宿り、フェイと同じ物を感じたのは明らかだった。虫の知らせ、第六感とでも言うのだろう……2人はある存在が動き出した事を本能的に感じ取っていた……。

 

「あたしに念動力は無いがはっきり分かる。バラルだ」

 

「ええ、僕もです。思ったより早かったというべきでしょうか?」

 

念動力者ではないため、超機人のパイロットとしての適性は無く、そしてテロリストとして指名手配されていたとしてもフェイとバロンの思いは同じだ。何れ蘇るかもしれないバラルへの対抗手段を得る……オーダーとしてバラルと戦った者の末裔として成し遂げねばならない使命だと心のどこかで理解していた、だがそれは焦燥感にも似た不明瞭な物で、それでも焦りとなさねばならない何かを感じているのに、それが何か判らなかった……バラルに備えるという事は分かっていても、何をどうすれば良いのか分からなかったのだが、今初めてバロンとフェイの2人は今まで漠然としていた物がはっきりと形になったのを感じた。

 

「早いんじゃなくて遅すぎるんじゃないか? ゲッター線を使う奴がいるんだろ?」

 

「ええ、ですが……彼はとても温厚だそうですし……ふーむ……まぁ会うこともあるでしょう。その時に聞いて見るとしましょう」

 

バロンの言葉にフェイは不服そうな表情を浮かべ早足で歩き出した。

 

「フェイ。貴女がゲッターロボを好いていないのは僕も承知していますが、恨みだけで本質を見ないのは「うるせえ、分かってるよッ! 時間がねえ、行くぞ」……ええ。分かりました」

 

不機嫌そうに歩き出すフェイの後を追ってバロンも薄暗い通路を再び歩きだす。非常灯と手にした懐中電灯しか明かりがないのでその歩みは遅く、崩壊している通路もあり回り道をする羽目になったが、2人は目的地である格納庫に辿り着く事が出来た。

 

「やっと見つけたぜ。鋼機人ッ!」

 

ハンガーに固定された30m強の2機の特機を見てフェイが獰猛な笑みを浮かべ掌に拳を打ちつける。その様子を見てバロンはやれやれと肩を竦めながら格納庫の明かりを灯し、懐のサングラスを再び掛けなおす。

 

「リシュウ先生の作り出したレプリカなのでオリジナルではないですけどね」

 

「こまけえ事はいいんだよ。AMやPTよりはつぇえだろ?」

 

「まぁそれは間違いないでしょうけどね」

 

オーダーとバラルの争いで使われた鋼機人よりは劣るが、少なくもゲシュペンストやガーリオンよりは強力な機体である事は間違いない。龍虎王をモチーフにしたのか、龍と虎の意匠を持つ機体を見上げたフェイは龍の機体にその指を向ける。

 

「あたしは龍にするけど良いよな? 良し決定」

 

背部に大型ブレードを2振り装備している青と黄色の機体色を持つ鋼機人を自分の機体にするとバロンに声を掛ける。

 

「僕は返事を返してないですけどねぇ」

 

「文句あるのか?」

 

返事を返していないと思わずぼやくとフェイがバロンをにらみつける。その眼力は凄まじくバロンは即座に両手を上げて降参という素振りを見せる。

 

「いーえ、どうぞどうぞ? 僕は白兵戦苦手ですからね。大人しく貴女の支援に徹しますよ」

 

実際の所文句を言いはしたが、バロンは白兵戦よりも射撃戦の方が得意であり、最初から虎の機体にするつもりだったので文句等あるわけがない。しかしサングラス越しのバロンの目は鋭く細められており、その雰囲気も険しい物になっていた。

 

「急いでセッティングを、時間がありません」

 

「分かってらッ! お前もとろとろすんなよッ!」

 

タラップを駆け上がり龍の特機に乗り込むフェイを横目にバロンも虎の特機のコックピットに身体を滑り込ませ、OSを立ち上がらせる。

 

『神龍だよと、いい名前じゃねえか。そっちはどうだ?』

 

「こっちは神虎と言うそうですね。流石リシュウ先生というべきですね、妖機人のコアもなしにここまでのスペックを引き出すとは……」

 

本来鋼機人は妖機人のコアを動力にすることで高い能力を発揮する物だが、妖機人のコアを使っている事で妖機人に変化する危険性を秘めている危険な機体でもある。安定性に欠けているが高い能力が武器であったが、リシュウが文献を元に作成し、改造強化を続け神龍、神虎と名を変えた轟龍、雷虎は最大値は鋼機人である轟龍、雷虎には劣っているが高い安定性と柔軟性を持つ機体に仕上がっていた。

 

「良し、僕の方は立ち上げ終了しましたがそちらはどうです?」

 

『こっちもOKだ』

 

バロンの言葉にフェイは神龍にファイティングポーズを取らせる事で返事をする。それを確認したバロンは神虎の背部の大型ビームキャノン――神雷を展開する。

 

『ひゅう♪ おいおいお前にしては物騒だな?』

 

「時間がありませんからね、仕方がありません。神雷を発射後格納庫が崩壊する前に脱出しテスラ研へ向かいます。よろしいですか?」

 

『かまやしねぇ、ぶっ放せッ!!!』

 

フェイの了承を得たと同時に神雷が放たれ、格納庫の天井が破壊され大穴が開いた。その瞬間に神龍と神虎は背部のブースターを全開にし、格納庫が崩壊する前に外へと飛び出し、テスラ研へと向かって行くのだった……。

 

 

 

バロンとフェイの2人が神龍、神虎を持ち出すより少し前、テスラ研で戦いの流れは異形の巨人――2機の妖機人によって完全に乱されていた。

 

【カカカカカッ!!!】

 

【キュアアアアアッ!!!】

 

最初に現れたのは魚と鳥を模した槍と弓であり、それはテスラ研のカタパルトに突き刺さると同時に触手をテスラ研全域へと伸ばした。

 

『なにかやばいッ! アイビス逃げろッ!』

 

『わ、分かったッ!!』

 

弓から縦横無尽に伸ばされる触手をスレイとアイビスは必死に機体を操って回避し上空へと逃げる。アステリオンとベルガリオンの加速に追いつけないと判断するとテスラ研の上空を飛びかうグライダーを絡め取り自身の身体へと取り込んでいく……。

 

『え、な、なにあれ……』

 

『アインストなのかッ!?』

 

戦いの中で破壊された無人機や百鬼獣を取り込み、その身体を作り上げていく異形にスレイとアイビスは言葉を失った。インベーダーやアインストとはまた別のベクトルの化け物であり、残骸がオイルを撒き散らしながら人型へ姿を変えて行くのは出来の悪いホラー映画のような光景だった。

 

『なんだこれはぁッ! 新種のインベーダーかッ!?』

 

『面妖なッ!?』

 

ヴィガジとゼンガーにも向かっても槍から伸びた触手が伸ばされ、手にした武器で切り払うが触手は執拗にグルンガスト参式・タイプGとガルガウに向かって伸ばされ、その都度切り払われ触手はグルンガスト参式・タイプGとガルガウを取り込むのは不可能だと判断したのか、触手を束ねて腕を作り出すとそれをパチンコのように使い自らの身体を弾丸のように牛角鬼へ向かって撃ちだした。

 

【ブ、ブモオオオオッ!?】

 

槍は生々しい音を立て牛角鬼の体内へと消えて行き、牛角鬼の身体が何度も何度も痙攣を繰り返す。

 

『な、何が……何が起きていると言うのだ……ッ!?』

 

『新種の化け物なのかッ……』

 

そのおぞましい光景はゼンガーとヴィガジとて動揺を隠せず、そして百鬼獣も近づけば自分達も同じ徹を踏むと感じたのか誰も動かない。無人機であれ本能的に近づいてはいけないと感じさせる何かがあった……永遠とも思える一瞬の間に牛角鬼はその姿を全くの別物へと変えていた。牛角鬼はその名の通り牛の頭部を持つ屈強な身体と棍棒を武器にする百鬼獣だ。鎧などは身に纏っておらず、鉄板を丸めただけの丸太のような手足を持ち、胴体も飾り気のない物だ。だが槍に貫かれ、身体を奪われた牛角鬼の姿は鎧兜を身に纏い、ちゃんとした人型に見える鎧武者へとその姿を変え、その掌から不気味な音を立てて体内へと消えた槍が姿を現し、牛角鬼だったそれは槍を頭上で振り回しその切っ先をグルンガスト参式・タイプGとガルガウへと向けていた。

 

【キュアアアアアアッ!】

 

そしてそれは弓から伸びた触手によって身体に作り変えられた残骸も同様で、民族衣装を思わせる衣服に身を包んだ細身の女のような姿になりその手には触手を伸ばしていた弓が握られている。

 

『造り替えたの……』

 

『なんなんだ……あれはッ!?』

 

物体に寄生し己の肉体にするインベーダーも同じ事が出来るが、それよりももっと醜悪であり、そしておぞましい何かを見てスレイとアイビスは言葉を失った。人知を超えた敵は今まで何度も見てきたが、それとは明らかに異質な物であった。

 

【カカカカカッ!!】

 

【キュアアアアアッ!!!】

 

肉体を得た事を喜んでいるのか2体の異形の巨人――鋳人(いじん)と呼ばれる妖機人は歓喜の声を上げる。己の肉体を持たず、機人に寄生する事でやっと己の肉体が得れるという特性を持つ鋳人にとって自分の肉体は何よりも欲してならないものであり、肉体を得るためならばバラルにも従う事も苦ではない、何百年ぶりかに得た肉体、そしてただ戦えという単純な命令しか与えられていない鋳人は自分達の本能に突き動かされテスラ研攻防戦へとその身を投じるのだった……。

 

 

 

鋳人・弓が放つ光の矢の雨は着弾すると同時に爆発を引き起こし、鋳人・槍の手にする槍の一閃は百鬼獣、無人機を容赦なく引き裂き両断する……鋳人自体は決して突出する能力を持たない妖機人だが、百鬼獣を取り込んだことによりその能力は超機人に匹敵する物へとなっていた。

 

【カカカカカッ!!!】

 

「くっ! 押し込まれるッ」

 

高笑いと共に振るわれる槍と参式斬艦刀がぶつかり合い激しい火花を散らす。機体の大きさはグルンガスト参式・タイプGが上回っていたが、柔軟な動きを取る事が出来る鋳人・槍の攻撃の激しさに徐々に徐々に押し込まれ始めていた。それでも撃墜されず、立ち回る事が出来ていたのは鋳人が敵味方関係無しに襲い掛かるからだった。グルンガスト参式・タイプGへと攻撃を仕掛けたと思いきや、突如地面を蹴りガルガウへと襲い掛かる。

 

【カーッ!】

 

『ぐうっ!? やはり所詮は化け物かッ!?』

 

ガルガウの鈍重な動きでは鋳人・槍の神速の槍捌きには反応しきれず機体に細かい傷が付けられる。ガルガウのアイアンクローを踏みつけ、上空へと跳びあがった鋳人・槍は手にした槍の切っ先から熱線を放ち、グルンガスト参式・タイプGとガルガウへと攻撃を加える。

 

「うぐうっ!?」

 

『グアッ!? おのれえッ!!!』

 

ゼンガーとヴィガジの苦悶の声を聞き、鋳人・槍は楽しそうにステップを踏み、槍の切っ先を正面に向けて轟破・鉄甲鬼と鉄甲鬼、胡蝶鬼との戦いに割り込んでいく……ゼンガーとヴィガジに激しい敵意を見せたと思ったら、興味がないと言わんばかりに別の敵へと襲い掛かるのは鋳人・弓も同じだった。

 

【キャキャキャキャッ!】

 

現れた場所から一歩も動かず、爆発する矢を目があった相手に向かって放つ――それは考えているようには見えず、ただ目に付いたから攻撃すると言わんばかりの適当な物だった。だが着弾すると爆発するという性質上その攻撃は極めて厄介な物でもあった……。

 

『!?』

 

『ぎゃあッ!?』

 

無人機の胴体に着弾し弓は爆発を起こし動力部を吹き飛ばす。その余波は近くに居た百鬼獣をも飲み込み、百鬼獣の苦しそうな声を聞くと鋳人は楽しそうに笑い、再び虚空から光り輝く矢を取り出すとそれを番え上空のアステリオンとベルガリオンへと放った。確かに弓の速度は速かったが、アステリオンとベルガリオンの方が早く、悠々と2機が回避した瞬間だった……矢が爆発しアステリオンとベルガリオンは爆風に飲み込まれた。

 

『う、うわああッ!?』

 

『く、くそッ!?』

 

螺旋回転し墜落するアステリオンとベルガリオンを見て鋳人・弓は手を叩いて喜び、今度は光り輝く矢を空中から無数に取り出し、それを弓に番え空中へと放った。それは空中で弧を描きながら急降下しグルンガスト参式・タイプG、ガルガウ、轟破・鉄甲鬼、百鬼獣、そして同じ妖機人である鋳人・槍をも巻き込む絨毯爆撃となる。

 

「くッ! 避け切れんッ! ぐあっ!?」

 

『ぐ、ぐおおおおッ!?』

 

『ちいっ!! ゼンガーッ! なんとかして離脱しろッ!!』

 

鈍重なグルンガスト参式・タイプGとガルガウは避けきれず光の矢の爆風に呑まれ、細かい爆発が2機を中心にして巻き起こる。コウキは轟破・鉄甲鬼のアタッチメントをガトリングアームへと換装し矢の迎撃と共に爆発に呑まれたグルンガスト参式・タイプGへ攻撃を仕掛けようとする百鬼獣と無人機を牽制しつつ、ゼンガーへ逃げろと叫んだ。

 

『グルオオオオッ!!!』

 

『キュアアアアアッ!!!』

 

ゼンガーへの支援を行った事で露になった隙を鉄甲鬼と胡蝶鬼が見逃すわけが無く、鉄甲鬼の投げた斧と胡蝶鬼の羽から放たれた光る蝶が轟破・鉄甲鬼へと襲い掛かる。コウキは最初こそゼンガーへの支援を行っていた……だが鋳人・弓、そして鉄甲鬼達の攻撃は激しくなり、自分の身を守るのに手一杯の状況へと追い込まれる。

 

「コウキもういいッ!」

 

『ぐっ! 悪いッ! これ以上は無理だッ!』

 

コウキの支援で僅かに鋳人・弓の攻撃範囲から逃れる事の出来たゼンガーの声を聞いて、ガトリングアームを格納しマントで防御しながら鉄甲鬼と胡蝶鬼から距離を取ったが、無差別に攻撃を繰り出す鋳人と、インスペクターの無人機の群れ、そして百鬼獣――あまりにも激しい乱戦、隙を見せれば対峙していた相手とは別の相手から強烈な一撃を受けるというこの状況はゼンガーとコウキですら激しく精神力と集中力を消耗させていた。

 

『はぁ……はぁ……み、皆はまだなの……』

 

『な、泣き言をいうつもりは無いが……さすがに厳しいぞ』

 

ルーキーの域を出ないスレイとアイビスは集中力が限界を向かえようとしていたその時――新型機を回収するというのを最優先目的としているインスペクターの無人機……レストジェミラがその身体を変形させアステリオンとベルガリオンへと飛びかかる。

 

『待て! ゼンガーッ! 俺がフォローするッ!!』

 

「いかんッ! 穿てドリルブーストナックルッ!!!」

 

コウキの静止の声が飛ぶが、それよりも早くゼンガーはドリルブーストナックルを上空に向けて打ち出しレストジェミラを破壊し、スレイとアイビスを救った……だがその対価は決して安い物ではなかった。

 

『隙を見せたな、下等な野蛮人がッ!!』

 

この乱戦の中でもヴィガジは自分を馬鹿にしたゼンガーが隙を見せるのを待ち続けていた。自分の監察官としてのプライドを傷つけ、地球人よりも遥かに進化しているゾヴォークを自分達の同類と呼んだゼンガーを殺す機会をこの乱戦の中でも虎視眈々を窺い続けていた。

 

『貴様にはここで死んでもらうぞッ!!!』

 

尾で地面を叩きつけると同時に両腕のブースターを全開にしグルンガスト参式・タイプGに襲い掛かるガルガウ。今までよりも圧倒的に早いその踏み込みにゼンガーは咄嗟に右腕の斬艦刀で受け止めようとした……そしてそれがヴィガジの誘いだと見抜いたが、それは余りに遅すぎた。

 

『フフフ……まずはその右腕を貰うぞッ!』

 

コックピットを狙ったのではない、最初からヴィガジは斬艦刀を振るうその右腕を狙っていた。開閉式の鉤爪であるアイアンクローを敢えて閉じての突撃は擬似的なランスチャージとなり、鋭い切っ先が肩の付け根に突き刺さり、それと同時にガルガウは腕を捻りこんだ。

 

「うぬッ! 斬艦刀がッ!?」

 

右腕が千切れ飛び、握っていた斬艦刀も宙を舞いテスラ研の東側の格納庫に突き刺さる。

 

「くっ! まだだッ!」

 

左腕を回収すればと動き出そうとしたゼンガー。確かに今までならば十分に回収する隙はあった……無差別に暴れている鋳人の攻撃を利用する事をゼンガーは考えた。だが鋳人は腕を失い、明らかに弱体化したゼンガーのグルンガスト参式・タイプGを標的と定めた。

 

「ぐうっ!?」

 

光る矢が残された左肩に突き刺さり大爆発を起こし左肩を根元から吹き飛ばす。その直後に鋳人・槍が手から放った水の槍が両膝に突き刺さり、グルンガスト参式・タイプGは膝から崩れ落ちた。

 

『ゼンガーッ! 脱出しろッ!!』

 

『グルオオオオオオッ!!!』

 

『キュアアアアアッ!!』

 

フォローに入ろうとしたコウキだが鉄甲鬼と胡蝶鬼に前後を取られて動きを封じられる。4つ巴の乱戦の中で撃墜された者がいなかったのはそれぞれの陣営の力具合が辛うじて均衡を保っていたからだ。その中で両腕を失い、自由に動く事ができないグルンガスト参式・タイプGは恰好の的であり、それぞれの陣営の思惑が違っていたとしても、グルンガスト参式・タイプGを破壊するという目的に限りインスペクター、百鬼獣、妖機人の考えは完全に合致していた。

 

『アイビス! タイミングを合わせろッ!』

 

『ゼンガー少佐を助けないとッ!』

 

自分達を助けた事で窮地に追い込まれたゼンガーをスレイとアイビスが救出に向かおうとするが、そうはさせまいと地上から無人機の弾幕と鋳人・弓の拡散する矢の嵐で近づけば自分達が撃墜される状況に追い込まれ、悔しさに歯を噛み締めながら機体を上昇させることしか出来なかった。

 

『両腕を失えば頼みの太刀を振るう事も出来まい――これで終わりだ。ゼンガー・ゾンボルト』

 

アイアンクローでグルンガスト参式・タイプGの頭部を挟んで持ち上げるガルガウ。あえてゆっくりとアイアンクローを締め上げる……グルンガストシリーズのコックピットは基本的に頭部であり、徐々に自分に迫ってくるコックピットブロックの壁と破壊された内部機器の爆発にゼンガーは思わず腕で顔を庇う。

 

「ぐっ……ここまでかッ」

 

脱出しようにも頭部を掴まれていては脱出装置も起動出来ない。徐々に迫ってくるコックピットの内装にゼンガーは自分の死を覚悟した。

 

「所長、 すぐに2号機の発進をッ!」

 

その光景は地下のダブルGの格納庫にも映し出されており、2号機のコックピットで待機していたレーツェルが早く出撃させてくれと叫ぶ。その気持ちはジョナサンも同じだったが、モニターに映し出されている2号機の状態を見て無理だと声を上げた。

 

「駄目だッ、 エネルギーチャージにまだ時間がかかるッ! ゲッター炉心もまだ起動していないッ! この状態では出撃は無理だッ!」

 

ダブルGはフレームから装甲まで全てゲッター合金で製造されており、動力もゲッター炉心であり形状こそ違えどゲッターロボと言っても過言ではないビアンの技術の粋を集めた特機だ。ビアンが最初から建造する事が出来ていればすぐにでも出撃させる事は出来ていた。だが追われる身でありクロガネの設備では仕上げる事が出来ないと考えたビアンによって自分の親派の元にパーツの設計図とパーツを送り、製造させテスラ研で組み上げたダブルGは規格の違いや最終調整が済んでいないなど……短時間では修正出来ないほどの数多のエラーが発生していたのだ。

 

「なら、1号機じゃッ!  先に1号機を出せッ! ゲッター炉心は稼動している筈じゃッ!」

 

2号機が使えないのならば2号機を使えとリシュウが声を上げるが、今度は1号機の調整をしていたフィリオが無理だと声を上げた。

 

「炉心は稼動していますが、OSのセッティングがまだですッ……! それに内部武装とOSの紐付けがまだ……」

 

「動けば良いッ! このままではゼンガーが死んでしまうぞッ!」

 

アイアンクローで締め上げられているグルンガスト参式・タイプGは小刻みな痙攣を繰り返し、機体各所も小さな爆発を起し始めており、動力炉に誘爆するのも時間の問題なのは明らかだった。パイロットが乗っておらず、的になるかもしれないが1号機を出撃させれば戦況は変わるとリシュウは声を荒げたその時だった。地下のダブルGの格納庫に緊急警報が鳴り響いたのは……。

 

「フィリオ識別はッ!」

 

「正体不明機3機確認ッ! その内の1機が後30秒でテスラ研の敷地に入ってきますッ!!」

 

「ぬう……このタイミングで増援じゃとッ……零式さえワシの手元にあればッ!!」

 

この状況での正体不明機――味方ではなく、敵機である事は誰の目から見ても明らかであり、誰もが顔を歪める中1番最初に現れたのは白亜の巨神――スレードゲルミルの姿だった。

 

「あ、あれはッ!? スレードゲルミルッ! シャドウミラーの機体が何故ここにッ!」

 

何度も戦っていたレーツェルはその機体がシャドウミラーの特機であるスレードゲルミルだと気付いた。スレードゲルミルはガルガウに吊り上げられているグルンガスト参式・タイプGに視線を向けると、肩のパーツを分離させ斬艦刀を展開させる。

 

『貴様何者だッ!!!』

 

『一意専心ッ! 推して参るッ!!!!』

 

その咆哮と共に急加速したスレードゲルミルは一直線にガルガウへと向かい、斬艦刀を一閃しガルガウを弾き飛ばしその背中でグルンガスト参式……いやゼンガーを庇う素振りを見せる。

 

「何故ウォーダンがゼンガーを」

 

「どうなっているんだ……いや、今はどうでもいい! 巻き返すぞッ!!」

 

敵勢力のシャドウミラーがゼンガーを助けた……その事に地下のレーツェル達は勿論、コウキ達も驚きを隠す事が出来なかった。だがスレードゲルミルの乱入はこの混迷を極める戦いの流れを大きく変えようとしていた……。

 

 

 

大破寸前のグルンガスト参式・タイプGを背中に庇い、ウォーダンはスレードゲルミルをガルガウへと向き合わせる。

 

(……これで良い、これで良いはずだ)

 

レモンはウォーダンに自分で考えて行動しろと告げた。そしてウォーダンはヴィガジに倒されそうになっているゼンガーを見て、考えるよりも先にガルガウへと攻撃を繰り出し、そしてスレードゲルミルでグルンガスト参式・タイプGを庇っていた。

 

『ウォーダン……何故、この俺を……庇うッ!?』

 

ノイズ交じりのゼンガーの通信を聞いてウォーダンもまた通信を繋げる。

 

「貴様を倒す者はこの俺以外であってはならない……そして、貴様との決着はこのような形であってはならぬッ」

 

W-15ではない、ウォーダンが自分自身を確立させる為にはゼンガーと戦い勝利する必要があるとウォーダンはレモンから言われている。だがレモンに言われたからではない、ウォーダンは自分のオリジナルであるゼンガーとの戦いの決着は1対1の正々堂々とした決闘であるべきだと考えていた。だからこそウォーダンはゼンガーを救ったのだ。己が己であると証明する為には、ゼンガーを越えたと証明する為には万全の状態ゼンガーと戦い勝利しなければならないのだとゼンガーへと告げる。

 

「俺は俺のオリジナルであると言える貴様の存在を抹消し……W15ではなく、 真のメイガスの剣……ウォーダン・ユミルとなる。それが俺の……俺自身の意思だ」

 

誰の命令でもない、強いて言えばウォーダン自身が自分へと命じた命令と言える。そしてそれはヴィンデルとアクセルが求めるWシリーズではあってはならない事だが、レモンの求めるWシリーズには必要不可欠の物であった。

 

『意思……ッ! ウォーダン、やはりお前は……ッ』

 

「聞け、ゼンガー。 貴様が新たな剣を手にするまでの時間は、俺が稼いでやる……我らの勝負はその後だ」

 

有無を言わさないその迫力はゼンガーとウォーダンが初めて出会った時とは別格の覇気に満ちており、ゼンガーはウォーダンがラミア、エキドナと同様自我に芽生えている事を感じたがそれを口にする事は無くただ一言感謝の言葉を口にした。

 

『感謝するウォーダン』

 

「礼などいらん、ただそうだな……俺に感謝するというのならば……俺が越えるべき壁として無様な姿は見せてくれるな、ゼンガー」

 

『……承知』

 

「行け! ゼンガーッ! お前の新たな剣を手にするのだッ!!!」

 

ウォーダンの言葉にゼンガーは頷き、両腕を失ったグルンガスト参式・タイプGを操り、戦いの中で大きく離れたテスラ研へと向かう。

 

『!!』

 

『!!』

 

度重なるダメージによって十分な飛行速度を得る事が出来ないグルンガスト参式・タイプGはレストジェミラを初めとしたインスペクターの無人機にとってただの的に過ぎず、ビームやアサルトマシンガンの弾丸が幾つも命中する。

 

「ぐっ……ま、まだだあああッ!!!」

 

グルンガスト参式・タイプGの全身を覆っていたゲッター線バリアが消滅すると同時にゼンガーは禁じ手を切った――今まで共に戦いぬいたグルンガスト参式・タイプGの装甲とフレームがメキメキと音を立ててオイルを撒き散らしながら分離する。緊急脱出――本来タイプGはGバイソン、Gラプターへの分離は可能とされておらず、機体を半ば大破させタイプGは無理矢理にGバイソンとGラプターへと分離する。

 

「くっ……許せ、参式ッ!」

 

Gバイソンは本来の戦車形態に変形する事無く墜落し、グルンガスト参式・タイプGを追っていたレストジェミラ達を巻き込み爆発炎上する。

 

「ぐうう……ッ!! 後少し……後少しだ、耐えてくれ参式よッ!」

 

完全にGラプターへ変形する事は無く、不完全な飛行機の姿ではあるが故にGバイソンの爆発に巻き込まれ、大きく姿勢を崩し、完全に変形も出来ない不恰好な姿だがGラプターは最後までゼンガーをテスラ研にまで運んで見せた――だがテスラ研の上空で力尽き空を半ば墜落するように着陸し、コックピットから這い出たゼンガーは爆発炎上しているグルンガスト参式・タイプGへと振り返る。

 

「すまない、参式……ッ!」

 

半身とも言えるグルンガスト参式・タイプGが完全に大破している事に胸を痛めても、立ち止まっている時間はなくゼンガーはゆっくりとリフトアップされていたダブルGの格納庫へ続くエレベーターを目指して走り出す。

 

『何者かは知らんが邪魔はさせんぞッ!!』

 

倒す寸前まで追詰めたゼンガーを救おうとするウォーダンに邪魔をするなと叫んだヴィガジはガルガウを操り、スレードゲルミルへとアイアンクローを突き出し、スレードゲルミルの振るう斬艦刀とぶつかり合い凄まじい火花を散らす。

 

「来いッ! インスペクターよッ! しばしの間……貴様の相手はこの俺がするッ!」

 

『ふざけるなよッ!! 良くも俺の邪魔をしてくれたなあッ!!』

 

怒りに支配されたヴィガジは最早スレードゲルミルとウォーダンしか見えていなかったが、敵はヴィガジだけではなく、インスペクターの無人機、百鬼獣、妖機人は今だ健在であり、轟破・鉄甲鬼とアステリオンとベルガリオン相手で戦いぬける敵ではなかった。

 

「来るかッ!」

 

鋳人、そして鉄甲鬼と胡蝶鬼が轟破・鉄甲鬼へ向かって動き出そうとした時だった……テスラ研に第3者の声が響き渡った。

 

『おらおらおらぁッ!! あたしが相手だッ!!! 妖機人ッ!!』

 

【カカカカカッ!!!】

 

青と黄色の機体色を持つ人型の龍と言うべき特機が現れ、真っ直ぐに鋳人・槍へと攻撃を仕掛け、鋳人・槍も今までの無差別攻撃が嘘のように現れた特機――神龍へと強い敵意を見せ、神龍の振るう2振りの剣と鋳人の手にする槍がぶつかり合い凄まじい火花を散らす。

 

『み、味方なの……? スレイは知ってる?』

 

『何でもかんでも私に聞くなッ!』

 

アイビスはスレイに知ってる機体かと問いかけるが、一杯一杯のスレイはなんでもかんでも聞くなと声を荒げる。すると鋳人・弓へ向かって強烈なビームが放たれ、現れてから1歩も動かなかった鋳人・弓を弾き飛ばし、白と黄色の機体色の虎のような意匠を持つ特機がテスラ研へと降り立った。

 

『ふー間にあった用で何より、お嬢さん方。援護しますよ』

 

『援護って……やっぱり味方だよ、スレイッ!』

 

『簡単に信用するなアイビスッ! お前は何者だッ!』

 

援護の言葉に味方と喜ぶアイビスだが、スレイは強い警戒心を見せながら広域通信で問いかける。

 

『僕はバロン。オーダーのバロンと申します、そうですね……通りすがりの正義の味方と言う事で1つよろしく、ああ、それと彼女はフェイと言います、少々乱暴ですが気のいい人ですよ』

 

『誰が乱暴だッ! エセ貴族ッ!』

 

バロンの言葉にフェイが怒鳴り声を上げる、だが鋳人・槍への攻撃を続けテスラ研から鋳人を追い出そうとしている姿を見れば、スレイとアイビスも敵ではないという事は分かった。

 

『とにかく今は敵を退けない事には話してる時間も無いでしょう? 今は協力しましょう』

 

『……分かった』

 

『よろしくお願いします! バロンさん』

 

バロンの言う通り今はここで揉めている時間はない、いつインスペクターの増援が来るかも分からず、ハガネ達も到着する気配がない、怪しくはあるが今は協力しなければこの戦いを潜り抜けることは出来ないと判断し、バロンとフェイと共に共同戦線を張る事をスレイ達は選択せざるを得ないのだった……。

 

 

 

第166話 武神装甲ダイゼンガー その3へ続く

 

 

 




シナリオデモがかなり長かったですが、次回からはバリバリ戦闘で書いて行こうと思います。登場させる味方とか、ウォーダンの事で大分文字数を使ったので、ここから戦闘に入るのは厳しいと思い今回もシナリオデモだけで終わったので、次回からの戦闘はかなり気合を入れていこうと思いますのでご理解頂ければ幸いです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


PS ハイパー・メガ・バズーカ・ランチャーを入手してニコニコのところにストナーサンシャイン復刻で地獄に落とされました。石がねぇ……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第166話 武神装甲ダイゼンガー その3

 

第166話 武神装甲ダイゼンガー その3

 

ゼンガー達が窮地に追い込まれていたのは戦力差も理由の1つだが、最も大きな苦戦の原因は合流予定時間を大幅に過ぎても今だにテスラ研に接近すら出来ていないハガネ、シロガネ、ヒリュウ改、クロガネにあった。当初の計画ではアステリオン、ベルガリオンがMAPWを駆使して突破路を確保、その後をクロガネが維持し、ハガネ達と合流後にテスラ研へ向かうという物だった。

 

「ぐうっ!? エネルギーフィールドの維持率はどうなっているッ!」

 

「本艦のエネルギーフィールド維持率45%ッ! ハガネ、ヒリュウ改もかなりの損傷をしておりますッ!!!」

 

オペレーターの報告にリーは苛立った様子で肘掛けに拳を叩きつける。

 

「合流想定時間を30分もオーバーしているッ! このままではゼンガー少佐達が危険だというのにッ!」

 

ハガネ達が合流してくれる前提で4機での強行突破を選択したゼンガー達の機体は速度を重視し、プロペラントやカートリッジと言った補給物資を搭載していない。百鬼帝国、インスペクターが確認されてる以上その消耗は通常の戦闘の比ではない……早く合流しなければと焦りだけが募る。

 

「ダイテツ中佐ッ! 本艦がこの場に残るのでハガネとヒリュウ改はテスラ研へッ!」

 

ゼンガー達を失うわけには行かないとリーはハガネに通信を繋げ、自分達が足止めをする間にテスラ研へ向かってくれと告げる。だがダイテツの一喝と共にリーの申し出は却下された。

 

『それは出来んッ! この状況でシロガネを残せばシロガネは轟沈するッ! それが分からないわけではあるまいッ!』

 

「ですがッ!! これ以上合流時間をオーバーすればそれこそゼンガー少佐達が危ないッ!』

 

『それはワシとて判っているッ! だがここでシロガネもそしてお前達も失うわけにはいかんのだッ!』

 

ダイテツとて戦況の不味さ、そしてゼンガー達が危険という事は分かっている。だがここでシロガネを残せばシロガネは轟沈する事も分かっている……ゼンガー達を失うわけにも行かないが、ここでハガネ、ヒリュウ改、シロガネ、クロガネのいずれかが轟沈されてはそれこそ人類に百鬼帝国、インスペクターと戦い勝利する事が出来なくなる。

 

『なんとしてもこのままの陣形でこの空域を突破するッ! まだ諦めるなッ! 突破する機会は必ずあるッ!』

 

「りょ、了解ッ!!」

 

ダイテツの激励に敬礼しながら返事を返すリーは再び戦況図に視線を戻し、額に拳を叩きつけながらこの状況を突破する一手を必死に考える。

 

(考えろ、考えろッ! ただ指示に従うだけで足を引っ張ってどうするッ! 考えろ、考えるのだリー・リンジュンッ!)

 

轟沈しないで済んでいるのはダイテツの卓越した艦隊指揮能力があっての物で、自分は何も出来てない。それ故にリーは必死のこの状況を打破する一手に考えを巡らせる――だが戦況は地獄絵図としか言いようのない悲惨な物であり、ブリッジに響いて来る獣の咆哮と混乱したノイエDCの兵士の叫び声にリーはその顔を歪める。

 

【ゴハアアアアッ!!!】

 

【カカカカカッ!!!】

 

『や、止めろッ! 来るな、来るなッ!! うわあああああああ――ッ!!!』

 

『なんで、なんでこんな化け物が俺達の母艦か……ッ!!!』

 

【助けてッ! 助けてくれッ!! 死にたく……死にたく……ッ!!』

 

百鬼獣とそれに紛れている分身の饕餮に追い回され、引き裂かれ、あるいは噛み砕かされ爆発するAMの数々――。

 

【キシャアアアアアーッ!!!!】

 

【グルルルオオオオオオオッ!!!】

 

『やだ、やめッ! やめてえええええッ!!!』

 

『嫌だ、嫌だ嫌だッ!! 出してッ! 出してくれええええええッ!!!』

 

コックピットブロックを態々抉り出し、見せ付けるようにしてコックピットブロック噛み締める饕餮。半狂乱になったパイロットの叫び声が生々しい咀嚼音と共に掻き消され、その光景を間近で見ていたリュウセイ達は思わず顔を背けた……助けようとしても間に合わなかった現実、そして自分達が破壊したAMを踏みしめ笑う百鬼獣達のおぞましい姿に言葉を失った。

 

【ゲッハハハハハハッ!!!】

 

【ヒャーハハハッ!!!】

 

壊して、殺して、喰らう――獣その物の百鬼獣と饕餮達はテスラ研への進路を塞いでいる。1体1体が非常に強力で再生能力を持ち合わせていることから離脱を許せばほぼ無傷の状態まで回復し、再び襲い掛かってくるので完全にイタチゴッコの様相を呈していた。

 

『教官! SRXの合体許可をッ! SRXであいつらをぶっ飛ばしてやるッ!』

 

『駄目だ、ここでSRXを使えばラングレーで使えなくなる。連携で突破する』

 

『っ! 了解ッ!!!』

 

オペレーション・プランタジネットに備え、戦力を温存しなければならない――しかし百鬼獣達を相手に出し惜しみなど本来出来る訳も無い――それがいらない消耗を招いている。

 

『キョウスケ、ちょっとやばくない?』

 

『……見積もりが甘かった……俺達の想像以上に百鬼帝国は戦力を蓄えていた……ッ』

 

百鬼帝国はプランタジネットでノイエDCを切り捨てる計画だったのだろう。母艦から出撃した百鬼獣にノイエDCの機体の多くが破壊され、援護が間に合ったと思えばそれは見ている前で百鬼獣に変貌する――助けてくれと求める声も本物なのか、偽りなのかがわからないのはキョウスケ達に酷い精神的負荷を与えていた。

 

『ゲッタァアアアビィイイイイムッ!!!』

 

頭部から放たれたゲッタービームの一閃が百鬼獣を両断し、AMに擬態していた百鬼獣の姿を露にさせる。だが倒すには至らず、襲ってくる百鬼獣とダブルトマホークでの鍔迫り合いを行いゲッターD2から武蔵の苛立った声が響いた。

 

『くそッ! ゲッターが本調子ならッ!!』

 

ゲッターD2のゲッター線は十分に回復しておらず、威力が乏しいとは言えこの場にいる機動兵器の中で1番火力がある頭部ゲッタービームでも百鬼獣を倒せないほどに弱体化している様子に武蔵は焦りと苛立ちを覚える。

 

『いや、十分だッ!!』

 

『ぶち抜くッ!』

 

ゲッタービームの掃射によって正体をあらわにした百鬼獣にゲシュペンスト・タイプSとゲシュペンスト・シグが飛びかかり頭部を破壊する。

 

『プラズマ……サンダアアアアアアーッ!!!』

 

バンの雄叫びと共に放たれた高電圧の雷の槍は戦場を駆け巡り、姿を偽装している百鬼獣の正体を明らかにする。

 

『これならッ! クロスマッシャーッ!!!』

 

『ファイナルビームッ!!!』

 

偽装百鬼獣の正体が判ったのならばとヴァルシオーネとグルンガストの強烈な一撃が百鬼獣を破壊する。AMに偽装している分装甲が僅かに脆く、正体さえ露にすれば偽装百鬼獣を倒す事は不可能ではなかった……残る強敵は超鬼神の饕餮鬼皇の分身体だった。

 

『このおッ!!!』

 

【ギギャアアァアアアア……】

 

『リョウト君! いけるわよッ!!』

 

『うんッ!! いっけえええ――ッ!!!』

 

【グッギャアアアアアアアーッ!!!】

 

龍虎王の龍王破山剣の一閃とヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM・タイラントの赤熱化した拳が饕餮の顔面を打ち貫きその巨体を弾き飛ばす。

 

『くそが、やっぱり化け物だな。耐久力が段違いだ』

 

『うへえ……こんなのがまだ沢山いるのかよ……』

 

『泣き言を言ってる時間はなくてよタスク。エルザム様達は私達よりももっと厳しい戦いをしているのだから、少しでも早くここを突破して合流しなくては……』

 

『口にするは簡単だがそう簡単にはいかんぞ』

 

敵の数は膨大で1機、1機が最新鋭の特機に匹敵する生きた機動兵器とも言える百鬼獣だ。甘く見れば返り討ちにあうのは分かりきった事であり、その上キョウスケ達の戦いはここで終わりではなく、あくまでここは通過点である。百鬼帝国とインスペクターもそれが分かっているからこそ、テスラ研へと続くこのエリアに強力な百鬼獣を配置していた。

 

『この分だとコウキを先に行かせたのは正解だったな』

 

『だな、多分テスラ研だったっけ? そこもかなり百鬼獣が多くいるはずだしなあ、コウキが上手く立ち回ってくれてることを祈るしかねえな』

 

アイビス達が先行出来たのは4機程度テスラ研で潰せるという確信があったからだろう。コウキの轟破・鉄甲鬼もゲッター炉心を搭載しているし、何よりもコウキ自身が戦上手だ。コウキが上手く立ち回り時間稼ぎをしてくれている事を祈るしかないと武蔵は言いつつ、再びゲッターD2を饕餮へと向かせ、どんな攻撃にも対応できるように身構えさせる。

 

『敵機補足! まだまだ来るわよッ!』

 

『百鬼獣とAMの混成部隊ですッ! 爆撃に気をつけて』

 

R-3・パワードのアヤとフェアリオンのラトゥーニから警告が入る。制空権までも完全に取られ、今度は最初から百鬼獣が出撃していると聞き、誰もがその顔を歪める。

 

『アヤ大尉とリュウセイ少尉は1度シロガネまで後退されたしッ!』

 

『え!?』

 

『このタイミングで何で後退なんだ!』

 

シロガネのリーからの後退命令にアヤと流星は即座に復唱とはいかなかった。敵の援軍が来る中でなんで後退するんだとリーの命令に怪訝そうな反応を見せる。

 

『命令に従うんだ。大丈夫だ、2人が抜けた分は我々が穴埋めする』

 

『このまま足止めをされ続けているわけには行きません、リー中佐の作戦を実行します』

 

ビアンとレフィーナからも下がれと指示を出され、リュウセイとアヤが後退し、変わりにクロガネから出撃したLB隊とトロイエ隊のガーリオン・ヴァルキリオンが横に展開し、戦線を維持する。

 

『リー中佐、何を考えている?』

 

『このまま戦っても埒が明かない。なればこそだ、ノイエDC各員に告げる。死にたくない者はハガネ、シロガネまで後退されたし、その際に貴君らの母艦の動力を暴走させて来る事』

 

『ちょいちよいッ! 鬼を乗り込ませるつもり!?』

 

リーの広域通信にエクセレンが待てを掛ける。だがリーは繰り返し同じ事を告げ、百鬼獣から追われていたAMが反転し、ハガネへと向かってくる。

 

『だ、大丈夫なのか!?』

 

『ハガネが撃墜されるんじゃ』

 

百鬼獣が偽装している可能性もある者を招き入れるなんて正気かと動揺が広がり掛けた時、R-1とR-3から広域通信が入った。

 

『マサキ! お前の正面のアーマリオンの後のリオンだ! それが百鬼獣だッ!』

 

『ラトゥーニ、シャイン王女! 貴方達の目の前の一団は全て百鬼獣よッ!』

 

リュウセイとアヤが念動力で敵意を感知し、偽装百鬼獣だけを見抜きピンポイントで撃墜指示を出す。

 

『主砲! ライノセラスにあわせッ!』

 

『てえッ!!!』

 

無人となり動く気配の無いライノセラスにヒリュウ改とシロガネの主砲が放たれ、動力が暴走していたライノセラスは大爆発を起し、周りの百鬼獣を巻き込んで爆発する。戦艦の動力の爆発は百鬼獣に大しても少なくないダメージを与え陣形を大きく崩す。

 

『後5分以内にこの空域を離脱しテスラ研へ向かう!』

 

リーの力強い指示が飛ぶ、一刻も早くこの区域を抜けて孤軍奮闘しているであろうゼンガー達と合流する……それだけを考えてキョウスケ達はこの圧倒的に不利な戦いに身を投じるのだった……。

 

 

 

 

鋳人・槍に向かって神龍が地面を砕きながら飛びかかり、その手にした二刀で猛攻撃を仕掛ける。

 

「うおらあッ!!」

 

上段からの振り下ろし、着地と同時に逆手に持ちかえその場で回転しながらの回転切り――型等ない本能による獣のような攻撃は鋳人・槍の防御を貫き、その胴に深い傷を刻み付ける。

 

【ギギッ!!】

 

「はっはぁッ!! 逃がすかよボケがッ!!!」

 

圧倒的な暴力を嫌って鋳人・槍は地面を蹴って逃げようとするが、フェイの操る神龍は姿勢を低くし地を這う獣のような動きで間合いを詰める。

 

【シャアッ!】

 

「ははッ! そうだよ、反撃して来いよッ! あたしには当たらないけどなあッ!!」

 

接近されるのを嫌がり、宙に浮かび構えた槍から高圧水流を放つ鋳人・槍の攻撃に自ら飛び込み、高圧水流による水の弾丸を手にした2刀で迎撃し、少しずつ、少しずつ間合いを詰める神龍。

 

【カーッ!!!】

 

再び間合いに飛び込まれると判断した鋳人・槍は槍を横薙ぎに振るい、広範囲に水の刃を飛ばす。それを神龍のコックピットで見たフェイは獰猛な笑みを浮かべた。

 

「馬鹿がッ! 隙だらけなんだよッ!」

 

攻撃速度、攻撃範囲が広くともフェイにとっては横薙ぎの飛ぶ斬撃等避けるに容易い攻撃であり、自ら手にした剣を地面に突き立て、それを踏み台にして跳躍し鋳人・槍に拳で殴り掛かる神龍。

 

「おらあッ!!」

 

弾丸のような勢いで間合いを詰めた神龍のアッパーカットが鋳人・槍に叩き込まれるが、飛行能力を持たない神龍は上空へと逃げた鋳人・槍を追う事が出来ずブースターで僅かに落下までの速度を落としながら着陸するしかない。

 

【ゲハハハハハッ!!!】

 

今度はお前が隙だらけだと言わんばかりに大笑いをした鋳人・槍は手にした槍を変形させ、その切っ先を神龍に向ける。

 

「はッ! 舐めんなッ! 人形野郎ッ!!」

 

ブーストナックルのような勢いで右拳が射出され、地面に突き立ったままの剣をつかむ。

 

「おいッ!! そこの飛んでるのッ!! あたしの援護をしなッ!!! あんだけ的がでかいんだ外すんじゃねえぞッ!!」

 

『は、はいッ!!!』

 

フェイの一喝で反射的に引き金を引いたアイビスの駆るアステリオンの放ったレールガンが鋳人・槍の胸部を捉え、僅かに射撃軸を逸らせる。

 

「いいぜ、あたし好みの距離だッ!!! シュートッ!!!」

 

神龍と神虎の両拳はワイヤーナックルとなっており、回収される勢いで地面から引き抜かれた剣目掛けて神龍が回し蹴りを叩き込む、一歩間違えば足を大破させるとんでもない暴挙――だがフェイは卓越した操縦技術で柄を蹴り抜いて剣を鋳人・槍へと蹴り飛ばす。

 

【ゲッバアアッ!!】

 

その剣が身体を貫通し、血反吐を吐きながら落下する鋳人・槍の姿を見て、フェイはブースターを全開にし空中から鋳人・槍へと襲い掛かる。

 

「うおらあッ!!! オラオラオラッ!!! いくぜいくぜいくぜッ!!!!」

 

【グガアッ!?】

 

空中で反転し、そのままの勢いで踵落しを叩き込む神龍、鋳人・槍は咄嗟にガードするが、その威力すべてを殺しきれず地面に叩きつけられる。そして神龍は着地と同時に鋳人・槍に突き刺さったままの剣を抜き放ち、再び両手に握ると乱暴に、ただたたきつけて断ち切るといわんばかりに剣を振るう。その動きはゼンガーと異なりただただ乱暴で凶暴な喧嘩殺法……だがその動きには乱暴さと卓越した操縦技術を組み合せた動きで鋳人・槍へと襲い掛かる。その動きは百鬼獣に通じる物があり、とても人間が操縦している機動兵器には見えない動きだった。

 

『なんであんな動きが出来るの……』

 

『機体性能ではない、パイロットの純粋な腕か……ッ』

 

スレイとアイビスがフェイの操縦に驚いていると、神虎のバロンから通信が入る。

 

『お嬢さん方、目の前の敵に集中しないと死にますよ』

 

軽い口調だが、重みのある言葉にスレイ達はハッとした表情になり、その顔を引き締める。

 

『気合が入った用で何より、では僕がフォワードをします。支援をお願い出来ますかね?』

 

『え? 大丈夫なんですか?』

 

『はい? 何がですかね?』

 

『いや、その機体は射撃型じゃ?』

 

神虎の武装は背部の折りたたみ式のビームキャノンと小型シールドに内蔵された実弾キャノンが2門しか見えず、アイビスが射撃型の機体だと指摘する。

 

『はい、神虎は射撃型ですが何か?』

 

『え、あ……え?』

 

自信満々に射撃型ですけど何か? と言うバロンにアイビスがしどろもどろになる。

 

『大丈夫なのか?』

 

『はいはい、大丈夫ですよ。それより支援よろしくお願いしますね』

 

どこまでも軽い口調のままバロンは神虎を操り、百鬼獣の群れの中に飛び込んでいく神虎――射撃機でインファイトを仕掛けようとしているバロンにスレイとアイビスが驚きに目を見開いたが次の瞬間には別の意味で目を見開くことになる。

 

【キシャアアッ!!!】

 

『遅いですねぇ~もう少し頑張ったほうがいいですよ? まぁ次はないんですけどね』

 

銃声が響き双剣鬼の頭が吹っ飛び、神虎は反転と同時に踵のローラーで後退し、白骨鬼のガトリングを避ける。

 

『はいはい、残念ですね~』

 

【ギャアッ!?】

 

射撃型の機体で白兵戦の距離で射撃を行い、最小の動きでカウンターを叩き込み通常の攻撃よりも大きなダメージを与えるその戦法はスレイとアイビスにとって目から鱗の物だった。

 

『うそお……』

 

『まさかここまで凄腕のパイロットが野に埋もれているとは……』

 

想像を超える動きに驚くスレイとアイビスだったが、自分達のやるべきこと神虎の支援を行い、神虎が動きやすいようにマシンキャノンで攻撃を仕掛ける。

 

『いいですね~動きやすくなりましたよ~』

 

飄々とした口調だが、その動きは嵐のように凄まじく、緩急を付けた動きで百鬼獣を翻弄し鋳人・弓へと肉薄する。

 

【シャアッ!!】

 

『っとと。危ない危ないっと』

 

炸裂する弓矢を避け、両腕の実弾キャノンで攻撃を仕掛ける神虎。だが鋳人・弓は損傷を簡単に回復し弓を構える。

 

『んーフェイ、こっち手伝えませんか?』

 

「うっせえ! あたしはこっちで手一杯だッ!! 猫被ってないで真面目にやれッ!」

 

『いやいや僕は真面目なんですけどねぇ……でもまあ……もう少し頑張りましょうかね』

 

バロンがそう告げると神虎はその姿を変形させ、4つ足の獣の姿へと変える。

 

『では行きますか』

 

どこまでも軽く、緩い口調だがその纏う空気は鋭く、神虎と対峙した百鬼獣はバロンが自分達よりも強い事を悟り、僅かに後退したが次の瞬間に神虎は百鬼獣の首筋に喰らいついていた。

 

『敵を前に後退――いけませんねぇ。隙だらけですよ』

 

首を噛み切られゆっくりと崩れ落ちる百鬼獣を蹴りつけ、神虎は空中で機人へとその姿を変え実弾をばら撒き着地する瞬間には再び獣へとその姿を変え、低い姿勢で這うように走り出す。

 

『お嬢さん方、適当に撃ちまくってくれてかまいませんよ』

 

『私達の攻撃までお前に当たるぞ』

 

『大丈夫ですよ。貴女達ルーキーの攻撃に当たるほど僕は耄碌していませんからね』

 

挑発するような言葉にむっとするスレイとアイビスだったが、バロンの言う通り上空からの射撃を行う……

 

『ほらね? 当たらないでしょ』

 

銃弾をすり抜けるように回避し、百鬼獣に飛びかかる神虎を見てスレイとアイビスはバロンと神虎の底知れない実力に目を見開くのだった……

 

 

 

 

獣のような動きで暴れまわる神龍と姿こそ獣だが理知的でチェスのように詰みに持っていく神虎の2体はたった2体だが戦況を引っくり返すだけの力を有しており、フェイとバロンの2人も卓越した操縦技術を持つからこそ有利に立ち回っているように見えていたが、実際はそこまでの余裕が無い事をコウキは知っていた。リシュウのかつて作った特機である神龍と神虎はOSのアップデートと装甲と関節部などの強化こそ行なわれているが、長時間エンジンに灯が灯った事は無く、ましては全開稼動なんてした事も無い。いずれ限界が訪れる事は分かっていた。

 

「うおおおおおッ!!! いい加減に鬱陶しいんだよッ!!!」

 

【!!】

 

神虎と神龍が暴れ回り、そして鋳人が百鬼獣を取り込んだ事で敵の数は減っている、百鬼獣の増援が来る前にとコウキは轟破・鉄甲鬼を操り、がっぷり4つに組み合っていた鉄甲鬼を殴り飛ばし、双剣鬼の持っていた剣を手に取るとそれを地面に倒れている鉄甲鬼のマントに突き刺し、踏みつける事で鉄甲鬼を完全に地面に縫い付ける。

 

「お前の相手は後だ、そこで大人しく待っていろッ!!」

 

大人しく待っていろと言われても百鬼獣がはいそうですかとしたがうわけが無く、拘束から逃れようともがきながら自由に動く頭部の角から電撃を放つが、自由に動く事が出来ない上に縫い付けられて禄に射角が取れない攻撃に当たるほどコウキは耄碌していない。

 

【シャアッ!!】

 

「お前に直接的な戦闘力がない事は分かっているんだよッ!!」

 

胡蝶鬼はあくまでジャミング等の支援に特化した百鬼獣だ。ナノマシンによるセンサー類の妨害とハッキング、そしてある意味百鬼獣の共通装備と言える角からの電撃、切れ味のいい蝶の羽根型のブレードブーメランと決して武装の数は多くなく、そして攻撃力も高い訳ではない。

 

「ここまで距離を詰めればッ! お前の姿を見失う道理はないッ!!」

 

他の機体による横槍が無ければ姿を完全に補足した胡蝶鬼を見失う道理はないと叫んだコウキは自ら胡蝶鬼の放った光る蝶の中に身を投じる。ナノマシンとジャミングによる妨害でモニターとセンサー類が全て光を失うが、既に完全に胡蝶鬼の姿をロックオンしているコウキにとってその妨害は何の意味も無かった……。

 

「そこだあああッ!!」

 

胡蝶鬼の機動力、そして接近戦能力の無さから逃げる場所は上空しかないと読んでいたコウキは両腕のアタッチメントをガトリングアームへと変形させ狙いなど絞らずに乱射する。ガトリングアームには胡蝶鬼を破壊するだけの攻撃力はないが、命中した音と角度から胡蝶鬼の場所を割り出すことが出来る――だがこの芸当は旧西暦のコウキだからこそ出来る動物的な直感と天才的な戦闘センスだから出来る物であり、誰もが出来るものではない。強いて言えば武蔵とラドラが出来るくらいの神技的な芸当と言えるだろう……。

 

「捉えたぞッ!!! ブラスターキャノン発射ッ!!!」

 

【アアアアアアアア――……ッ】

 

フルパワーまでチャージしていた腹部ブラスターキャノンが放たれ、胡蝶鬼は断末魔の悲鳴をあげながら熱線の中に消える。轟破・鉄甲鬼がマントを翻し着地した後で、僅かに頭部と胴体、それと両肩を残した胡蝶鬼が轟音と共に落下し機体を軋ませながら、残された右腕から再び光る蝶を放とうとした瞬間、前を向いたままで斧を振い、その一閃で胡蝶鬼は完全にトドメを刺され爆発と共にその場に倒れカメラアイから光が消えた。

 

【グルルルルウ】

 

「ふん、腹が立っているようだが……それは俺も同じなんだよ。この出来損ないがッ!!!」

 

暴れ回り、マントを引きちぎった事で立ち上がった鉄甲鬼が唸り声を上げながらその手に斧を握る。

 

「来い、格の違いを教えてやる。三下」

 

【ゴガアアアッ!!】

 

手招きをする轟破・鉄甲鬼に向かって怒りの咆哮を上げて突進してくる鉄甲鬼。その姿を見てコウキは呆れたように肩を竦めた。

 

「やはり電子頭脳だな、俺ならばそんな無様な真似はしない」

 

怒りのままの振るわれる斧の一閃を下からの切り上げで切り払い、前蹴りを叩き込み鉄甲鬼を蹴り飛ばす轟破・鉄甲鬼。

 

「あの時は俺も轟破・鉄甲鬼も万全ではなかったが……万全ならばお前に負ける道理はないッ!!!」

 

【シャアアッ!!!】

 

轟破・鉄甲鬼の額から放たれたブラスターキャノンと鉄甲鬼の角から放たれた電撃がぶつかり合い爆発を起こし、その爆発によって発生した光が消えると同時に、轟破・鉄甲鬼と鉄甲鬼は同時に弾かれたように走り出した。

 

「うおおおおおッ!!!」

 

【グルオオオオオッ!!!】

 

コウキと鉄甲鬼の雄叫びが重なり、同時に振るわれた斧がぶつかり合い凄まじい轟音がテスラ研に響き渡ったのを合図に轟破・鉄甲鬼と鉄甲鬼の戦いの幕が開けられたのだった……

 

 

 

 

 

ガルガウと対峙しているウォーダンはスレードゲルミルのコックピットの中で僅かに驚きの表情を浮かべていた。

 

「……ゲッター合金でコーティングした斬艦刀に亀裂が……」

 

マシンセルの力で即座に修復されるが、それでも斬艦刀に亀裂が入った事はウォーダンにとっても驚きだった。

 

『こんな所でこれを使わせられるとはなッ!! だがこれを使う以上、貴様など俺の相手ではないわッ!!!』

 

怒りに満ちたヴィガジの声と共にガルガウが唸り声を上げ、背部の翼を大きく広げる。転移してきたレストジェミラが運んで来た強化パーツを装着したガルガウがアイアンクローをぶつけ合い火花を散らす。

 

「あのような姿はデータには無いが……相手にとって不足なしッ!!」

 

両腕に装着する大型のシールドと一体化したアイアンクロー、そして背部と肩部に装着する装甲にはビームキャノンと飛行能力を補う為の翼ではなく、エネルギー放熱用の放射板なのだろう……その証拠にガルガウ改の背後から陽炎のような熱が漏れ出している。

 

『ぬおおおおッ!!!』

 

「むっ!! ぐうっ!?」

 

想定以上に早い踏み込みにウォーダンは一瞬反応が遅れ、アイアンクローの強烈な一撃にスレードゲルミルの巨体が宙を舞う。

 

「……修復が遅い……これはッ」

 

スレードゲルミルのマシンセルの修復能力が遅い――この現象にウォーダンは見覚えがあった。ゲッターD2と武蔵と戦った時の現象だと

気付き、ガルガウの装着したパーツがゲッター合金製だとウォーダンはすぐに見抜いた。

 

『ふははははははッ!! 素晴らしいパワーだっ!! ははははッ!! 今ならば百鬼帝国に感謝してもいいッ!! ゲッター合金の力は素晴らしいぞッ!!!』

 

その力に酔いしれて高笑いするヴィガジの姿を見てウォーダンは興醒めと言わんばかりに深い溜め息を吐いた。

 

「力に溺れるか。監察官だの、我々を野蛮人だなんだのと言っておいてその様か」

 

地球人を散々野蛮人だの、下等な生物だと罵っておいて自分もゲッター合金製の武装を手にすればその力に溺れる。ウォーダンからすればそれは愚かな行動にしか見えなかった。

 

『ふんッ! 好きに言うがいい、貴様はここで俺に敗れて死ぬのだからなあッ!!!』

 

ゲッター合金製の爪を突き出しながら突進してくるガルガウ改。圧倒的な質量と高性能の動力、そしてゲッター合金製の変幻自在かつ高硬度の装甲はそれだけで強力な武器と言えるだろう。

 

「貴様など俺の眼中にないッ! 貴様には過ぎた武器だが……見せてやろうッ! 俺の新しい斬艦刀をなッ!!」

 

スレードゲルミルの左手が斬艦刀の刀身をなでるように動くと、その刀身が液体へと変化し、翡翠の光と共にその姿を造り替える。深い蒼い色は鮮やかな翡翠の色へと変わり、その刀身もより鋭く、そして巨大な物へとその姿を変えた。

 

『ぬっ! その輝きはッ!』

 

「ご名答、俺の斬艦刀もまたゲッター合金だッ! 斬艦刀……真打。その切れ味――身を持って知るがいいッ!!! 推して参るッ!!!」

 

ゲッター線の輝きを灯した斬艦刀とガルガウ改のアイアンクローがぶつかり合う、速度は圧倒的にガルガウ改の方が上だったが、吹き飛んだのはガルガウ改の方だった。

 

『ぐあっ!? 馬鹿な……なんだこの破壊力はッ』

 

「言った筈だ……貴様には過ぎた力だとなッ!!」

 

ゲッター線を扱う事が出来るウォーダンと、それを扱う事が出来ないヴィガジ――それはウォーダンとヴィガジのゲッター線適合率の違いを如実に現していた。

 

「おおおおッ!!!」

 

『来るな来るなッ!!!』

 

「無様だな監察官ッ!! 貴様こそここで俺に敗れて死ねッ!!!!」

 

無人機の群れを一振りで両断し、最短距離でガルガウ改へと走るスレードゲルミルの姿にヴィガジは恐怖し、背中のキャノン砲を発射する。その姿を見てウォーダンは興醒めにも程があると冷笑を浮かべ、ガルガウ改の攻撃を弾きながらスレードゲルミルは間合いを詰め続け、そして斬艦刀の威力が最大限に発揮される位置までその間合いを詰める。

 

『メガ……』

 

「踏み込みが遅いッ!!!」

 

メガスマッシャーを放とうとするガルガウだが、その動きは余りにも遅く、ガルガウ改がメガスマッシャーの発射姿勢に入る前にスレードルゲルミルが斬艦刀を大上段に振りかぶり、その刀身をガルガウ改へと振り下ろそうとし……突如その動きを止めた。

 

「なんだ!? 何が起きたッ!!」

 

『は、ははははっ!!! 貴様らの様な下等な猿が俺達監察官に唾を吐いたことを悔いろッ!!!』

 

完全に仕留めれたタイミングで動きを止めたスレードゲルミルにガルガウ改のゲッター合金で強化された尾が叩き込まれ、スレードゲルミルは吹っ飛ばされ、背中から壁に叩きつけられる。

 

「ぐう……何が……何が起きたというのだ」

 

整備は完璧だったはずなのに何故スレードゲルミルが動きを止めたのか、困惑しながら身体を起こしたウォーダンが目にしたのは鎧武者を思わせる特機がガルガウ改によって宙に持ち上げられ、動く事も出来ずそのアイアンクローによって破壊されそうになっている姿なのだった……。

 

 

 

第167話 武神装甲ダイゼンガー その4へ続く

 

 




やっとここまで来たなあ、次回ダブルG(魔改造)の登場ターンです。原作よりかなり改造してパワーアップしているので、ゲームともアニメとも違う感じでボリュームマシマシで書きたいと思います。敵も少しふやしても良いかなと思っていますしね、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


PS

真ゲチェンジアタック2ガチャはオーラチャージ
無料10連でチェンゲアタック1・2の神引き
後はステップアップでストナーサンシャインが出ていたら完璧でした


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第167話 武神装攻ダイゼンガー その4

第167話 武神装攻ダイゼンガー その4

 

ジョナサンとフィリオの2人はレーツェルの持って来たダブルGのOSの最適化作業を戦いの中も必死に続けていた。

 

「くそッ! ビアン博士の技術力が上がりすぎているッ!!」

 

「嘆いている場合かッ! 急げジョナサンッ!」

 

ダブルGの最大のパフォーマンスを発揮する為にビアンが手を加え続けたOSはジョナサンとフィリオの2人を持ってしても解析しきれないオーバーテクノロジーに等しい物になっていた。

 

「分かっています、分かっていますがDMLシステムとOSが合致しないッ!!」

 

「くそッ! ハードがOSについていかんとはッ!!」

 

ビアンが設計し、親派の所で極秘裏に作られAMのパーツに偽装されたダブルGのパーツの数々――それはビアンの設計通りに作り、設計データに記されていた必要なスペックも十分に発揮していた……しかしだ、いかにビアンの親派の研究所や工場であったとしてもビアンと同じ技術力を持っているわけではなく、自分が作成したダブルGを前提に作り上げたビアンのOSとジョナサン達が作り上げたダブルGというハードには隔絶した技術差があった。

 

「ならば初期のOSに戻して再セッティングはどうじゃ!?」

 

「駄目です! それだと30分以上かかりますッ! このままエラーを起した箇所を修正しながら微調整を加えるほうが早いッ!」

 

フィリオの叫び声にリシュウは顔を歪める。モーション開発においてはリシュウは天才的だが、機体のOSまではそこまで専門ではない。

 

「ぬう……神虎と神龍も万全ではないはず……それほど長くは持たん」

 

「ええ、あれはずっと封印されていた筈ですからね。所で……リシュウ先生、あれのパイロットはリシュウ先生のお知り合いなのですか? 格納庫のロックはともかくメインシステムはリシュウ先生でなければ解除出来ないはず」

 

ジョナサンの問いかけにリシュウが口を開く前に、ダブルGの2号機でエネルギーチャージを待っているレーツェルが口を開いた。

 

『ヴォルフ・V・ブランシュタインですね?』

 

「む……そうじゃ、古い知り合い……いや旧西暦からの盟約という奴での……じゃが今は説明している時間がない、終わったらあやつも……ぬっ! いかんッ! 参式がッ!」

 

無理矢理分離した事で爆発しながらもテスラ研の上空にやってきたGラプターが着陸――いや墜落と言う方が正しいだろう。2回、3回と跳ね動きを止めたGラプターからゼンガーが姿を見せる。1度だけGラプターに視線を向けたゼンガーが走り出すのを見てジョナサンはコンソールを操作し、ダブルGの格納庫をリフトアップする決断を下す。

 

「くっ……調整がまだ済んでいないが……ッ! ダブルGの格納庫へ続くエレベーターをリフトアップするッ!」

 

「仕方ないとは言え今のままでは稼働率15%……まともに動くかどうかッ」

 

機体とOSの齟齬はいまだ埋まらず、必死に調整を続けていたジョナサンとフィリオの努力を嘲笑うかのように今だダブルGは沈黙を続けていた。

 

「ゲッター炉心の稼働率はどうなっておるんじゃッ! 最悪炉心さえ稼動していればゲッター線バリアを展開出来るはずッ!」

 

「駄目ですッ! 炉心稼働率20……え? どうなって……30――45……60……85!? ゲッター炉心レッドゾーンからグリーンゾーン安定稼動ッ! ダブルG2号機も炉心正常稼動まであと2分ですッ!」

 

OSと同様に今まで沈黙を続けていたゲッター炉心が急速に安定稼動域まで熱量を上げる。特に1号機以上に炉心の熱が上がらず、最悪通常動力で稼動させようとしていた2号機まで炉心の熱量が上がっていると言うフィリオの報告にジョナサンは驚きの表情を浮かべた。

 

「我々の起動実験では40%が限界だったというのに……何が起きてると言うんだ、まさかこれがゲッター線の意思だというのか……」

 

武蔵の話ではゲッター線は意思を持つエネルギーだと聞いていたが、ジョナサンはそれを眉唾程度に思っていた。だが今まで安定稼動域を遥かに下回る数値で稼動と停止を繰り返していたダブルG用の大型ゲッター炉心が急に高いレベルで安定し始めれば、流石のジョナサンもゲッター線の意思の存在を信じないわけにはいかなかった。

 

「この数値ならゼンガー少佐を地下に呼ぶ必要も無い、ダブルGもリフトアップするぞッ!」

 

「ですがOSとDMLシステムの同調率がッ! これでは辛うじて上半身が動くかどうか……それにシステムダウンの危険性もありますッ!」

 

これが2号機ならば本当の緊急手段としてマニュアル操作という手段があるが、DMLシステムで稼動する1号機にとってOSとDMLシステムの同調率が低いと言うのは、動くかどうかも分からないという瀬戸際だった。

 

「それでもだッ! 動かないとしてもゲッター線バリアが展開出来るのならばそれでゼンガー少佐は安全だッ! その間に我々はOSの再適合を行うんだッ!」

 

百鬼獣、インスペクターの無人機、そして妖機人が暴れまわる中ゼンガーを危険な戦場に生身のまま残すわけにはいかない。仮に起動しなくともゲッター線バリアが使えるのならばダブルG1号機の中にゼンガーを保護する事が最優先だと言いつつ、ジョナサンは複数のモニターを起動し、OSとDMLシステムの同調作業を続ける。

 

「はいッ! ダブルG1号機のリフトアップを開始しますッ!!」

 

その姿を見たフィリオはダブルG1号機のリフトアップを開始させると共にダブルG1号機のOSの適合化作業を必死の形相で始めるのだった……。

 

 

 

ダブルG1号機のコックピットに乗り込んだゼンガーは荒い呼吸を整える間も惜しみ、コックピットの中心部に置かれていた日本刀の柄のような形状をした操縦桿を手に取る。モニターに光が灯り、ダブルG1号機のメインシステムが次々と稼動を開始する。

 

「これがダブルG……俺の為だけの機体か」

 

感慨深い表情でダブルGのコックピットを見つめているゼンガーだが、地下ダブルGの格納庫では、ジョナサンとフィリオは深い溜め息と共に額の汗を拭っていた。

 

「同調率50%――何とか安定稼動域まで持っていけました……」

 

「流石フィリオだな……間に合ってくれて良かった」

 

「はい……ですが非常に不安定です……最悪の場合機能停止する危険性がありますが……」

 

「かまわん! 2号機が後1分で出撃出来るッ! そうすればサポートは十分に可能じゃッ!」

 

テスラ研が誇る研究者達がこれほど協力してもなお、ダブルGが不安定なのはある理由があった。それはダブルGの開発経緯にも大きく関係する。ゲッターパイロットとしてのゼンガーの腕前は決して高い物でなく、訓練こそ続けていたがレーツェルと異なり単独でゲッターロボを操縦出来るほど技量は上昇しなかった。決してゼンガーの機動兵器を操縦する腕前が武蔵より劣っていると言う訳ではなく、ゲッターロボの幾つ物のレバーやペダルを手動で操作しながら、己の体感を元にした機体の姿勢保持などの複数の操作を同時に並行処理する事が出来なかったのだ。むしろこれは新西暦の人間でありながら旧西暦のオールドな操縦技術を習得できたレーツェルの方が異常だと言えるだろう……しかしそんなレーツェルでさえも一流のゲッターパイロットにはなれない。ゲッターパイロットに求められる資質が余りにも多岐に渡るからだ。それならばとビアンはかつてシュトレーゼマンを口八丁で騙し、アースクレイドルとムーンクレイドルという人類の揺り篭を守る為の拠点防衛用の超大型機動兵器を作る為のプロジェクトを再開したのだ。

 

「これでは駄目だ……もっと強力な機体に仕上げなければ……ッ」

 

セプタギンへの武蔵の特攻――戦うべき時に戦えなかったという後悔、見ていることしか出来なかった無力感――可能ならばゲッターロボをベースにした新型ゲッターロボを開発出来れば良いのだが、ゲッターロボの構造はビアンを持ってしても理解しきれず1から作るのは不可能であり、そしてパイロットもいないとなればゲッターロボの形状に拘るのは得策ではないとビアンは考えた。そして最初に考えたダブルGとは異なる、新たなダブルGの再設計と再建造を始めたのだ……ゲッター炉心を搭載し、フレームから装甲までフルゲッター合金製のゲッターロボと姿は違うが、ゲッターロボの兄弟機を作ろうとしたのだ。それがダブルGであり、惜しむらくはビアンが連邦軍に追われている間に3号機と4号機の消息が不明となり、試作型のダブルGの設計図も持ち逃げされた事だろうが……その時にはまだゲッター炉心もゲッター合金もまだ実用段階ではなく、AMの延長線で設計していた物なので今のダブルGとは実は全くの別物であったり、ビアンであってしても人道に反するという事で封印された物だが、ビアン以外では理解出来ないだろうと試作型のダブルGの設計図は今も地球、いや宇宙のどこかで人の手を渡り続けていたりする……それらの複雑な製造経緯、そしてビアンの飽くなき追求心によって生まれたゼンガーの為の特殊OS――JINKI-1(ジンキ-ワン)が余りにも高性能すぎた事と、様々な場所で建造したことによるイレギュラーの修正がジョナサン達にとっても余りにも辛い難行であったのだ。だがジョナサン達はやり遂げた、ゼンガーにダブルG1号機を無事に渡す事が出来たのだ。

 

『そう……ダイナミック・ゼネラル・ガーディアン――ビアン博士が設計し我々に託したスーパーロボットだ』

 

「……ダイナミック・ ゼネラル・ガーディアン……いや、あえてその名は呼ぶまい」

 

『何?』

 

ダイナミック・ ゼネラル・ガーディアンの名は呼ぶまいと告げたゼンガーの目がカッと見開かれる。

 

「ビアン博士がこの俺の為に作った機体……いわば俺の為に作られた剣……そう、名付けるなら……ダイ・ゼン・ガー……ッ!」

 

力強くそう告げるゼンガーにテスラ研地下のジョナサン達は驚きの表情を浮かべる。

 

「ダ、ダイゼンガーッ!?」

 

「なるほど……そういう略し方もあるね」

 

頭文字を取りダイゼンガーと略すのは分かるが、大きなゼンガーとも呼べる呼び名で笑っている場合では無いが、思わずフィリオ達は声を上げて笑ってしまった。

 

「笑わせるなッ!  そんなロボットで俺を倒せるかッ!!」

 

「黙れ! 貴様を……むッ!?」

 

向かってくるガウガウ改に向けてゼンガーがダイゼンガーを振り向かせた瞬間、今まで高いレベルで安定していたゲッター炉心、そしてダイゼンガーのメインシステムが完全に停止し、地下格納庫に緊急アラートが鳴り響いた。

 

「どうしたんだ!? 何故急にシステムダウンを!?フィリオ、状況はッ!?」

 

「DMLシステムの稼働率、0% ……内蔵武器、全て使用不能。ゲッター炉心機能停止ッ! 1号機は完全に機能停止状態ですッ!」

 

「な、何故じゃッ!? 何故急にこんな事になったんじゃッ!」

 

【さぁ、ここからだ。ゼンガー・ゾンボルト】

 

【我々はお前を見定めよう――悪を断つ剣よ】

 

混乱しきるジョナサン達の背後でゲッター線が人の形になり、浮き出るように早乙女博士がその姿を見せる。その視線はダイゼンガーではなく、ダイゼンガーの近くで大破した状態で残されたGラプターへと向けられていた。

 

『フン、何がダイゼンガーだ。 手も足も出んではないかッ』

 

防御の頼みの綱であるゲッター線バリアも起動せず、動力まで停止しているダイゼンガーにガルガウ改の攻撃を防ぐ術は無く、ガルガウ改のアイアンクローで胴を挟まれ持ち上げられても反撃する事は愚か逃げることも防御する事も出来なかった。

 

『固いだけの木偶に隠れた事を悔いるがいいッ!!!』

 

アイアンクローの挟む力が少しずつ上がり、ダイゼンガーの装甲とフレームが嫌な音を立て始める。

 

「ぬうっ……! まだだ、まだ俺は……俺はこんな所で死ぬわけにはッ!!」

 

柄型の操縦桿を振るうが何の反応も無く、システムの再起動すら行なわれない……それでもゼンガーは諦めず、操縦桿を強く握り締める。

 

「俺は戦うべき時に戦えず、そして裏切り救えた筈の者を見捨てて逃げた……それでも……それでも俺を信じてくれる者がいるッ! 俺に力を貸してくれる者がいるッ! その想いを、願いを! そして信頼をッ!! 俺はもう裏切る事は出来んのだッ! だからダイゼンガーよッ! 俺に、俺に力を貸してくれッ!!!」

 

DC戦争ではグレッグを救えず、グレッグの願いを裏切り、キョウスケ達を鍛えるという目的があったため敵として立ち塞がった。

そしてL5戦役ではセプタギンに特攻する武蔵を見ている事しか出来ず――そしてアースクレイドルに囚われているソフィアを助ける術も持たず――何も守れず、失い続け負け続けた男をそれでも信じている者が居る。その願いを信頼を、これ以上裏切ることは出来ないとゼンガーは吼える……だが奇蹟は起きず、ダイゼンガーは沈黙を続けガルガウ改のアイアンクローによって圧力を掛けられコックピットに紫電が走り始める。

 

『病原菌は消毒しなければな……安全で清潔な宇宙の為になぁッ!!』

 

アイアンクローでダイゼンガーを拘束したままメガスマッシャーを展開し、その砲口をダイゼンガーへと向ける。

 

『ゼンガー少佐ッ!! くっ!?』

 

『ここから狙撃するにも距離がありますねぇ……駄目元でやってみますけどッ!!!』

 

神虎の神雷の超長距離狙撃によるダイゼンガーの救出が試みられるが、レストジェミラが盾になりガルガウ改を守る。

 

『くそッ! ならこれはどうだッ!!』

 

ベルガリオンがミサイルを放つがジャマーによってミサイルはあらぬ方向に逸らされ爆発する。鉄甲鬼と戦っているコウキに支援をする余裕は無く、ゼンガーを救おうとしたことで妖機人に対して無防備になったアイビス達に水の刃と炸裂する光の矢が襲い掛かり、ガルガウ改からロックオンが外される。

 

『これで終わりだ、消え失せ……ぐあっ!?』

 

「うっぐっ! 何が……何が起きた……これは……ゲッター線……なのか?」

 

勝利を確信したヴィガジだが、突如襲ってきた衝撃に捕らえていたダイゼンガーを取り落とし、地面に叩き付けられたゼンガーも何が起こったのか困惑を隠しきれなかったが、コックピットに溢れ出した翡翠の輝きが強まるに連れ、モニターに光が灯り、ダウンしていたシステムが復旧していく……。

 

「参式……お前が……俺を助けてくれたのか……」

 

モニターが回復した時、ゼンガーの目の前に広がったのはグルンガスト参式・タイプGから溢れ出したゲッター線がダイゼンガーを包み込んでいる光景であり、先ほどガルガウ改を弾き飛ばしたのもグルンガスト参式・タイプGから放出されたゲッター線なのだと分かった――その光景をモニターしていたフィリオ達は次々に映し出されるダイゼンガーのステータスを見て驚きに目を見開いていた。

 

「ゲッター炉心稼働率100%ッ!? テスラ研製のゲッター炉心の稼働率は最大で40%だったのに、今になって何故……」

 

「JINKI-1の適合率、DMLとの同調率共に100%ですッ! 急にどうして……」

 

「本当にゲッター線の意思があったようじゃな……」

 

今までの沈黙が嘘だったようにダイゼンガーのステータスはグリーンゾーンをマークし、最高の状態を維持していた。

 

『忌々しいゲッター線も貴様らも目障りだッ!! 今度こそトドメを刺してくれるッ!!!』

 

アイアンクローを振りかざしダイゼンガーに飛びかかろうとしたガルガウ改だったが、その間を突き抜けたドリルブーストナックルによって突進を止められる。

 

『ゼンガーッ!!! 受け取れッ!!! 貴様の武器……いや貴様の魂をッ!! 参式斬艦刀を受け取るのだッ!!!』

 

『きさまあああああああッ!!!』

 

幾度も自分の邪魔をしたスレードゲルミルとウォーダンにヴィガジは激昂し、メガスマッシャーをスレードゲルミルに向かって放つがそれが命中する前にスレードゲルミルは参式斬艦刀をダイゼンガーへと投げ渡し、自らの斬艦刀でメガスマッシャーの一撃を完全に防いでみせる。

 

「感謝するッ! ウォーダンッ!!!」

 

回転しながら飛んできた参式斬艦刀を受け取り、その切っ先をガルガウ改へ向ける。

 

『フン、 今さらそんな物を手にした所でッ!』

 

「黙れッ!  斬艦刀は我が魂の剣ッ!  これさえあれば、俺は戦えるッ!!」

 

斬艦刀を手にしただけだと嘲笑おうとしたヴィガジだったが、ゼンガーの気迫とそして参式斬艦刀を手にしたダイゼンガーの姿が巨大化して見え、思わず言葉を失った。その圧倒的な闘志、そして存在感に一瞬完全に飲み込まれたのだ。

 

「我が魂を受け継げ、 ダイゼンガーッ!! 否ッ! 武神装攻ダイゼンガーッ!!!!」

 

ゼンガーの咆哮と共にダイゼンガーの全身からゲッター線の輝きが衝撃波となってテスラ研を駆け巡る。

 

『ぶ、武神装攻だと!? 今度は何の略だッ!!!』

 

「この切っ先に一擲を成して、乾坤を賭せんッ!! 伸びろ斬艦刀ッ!!!」

 

日本刀モードだった参式斬艦刀が巨大なバスターブレードへと変形し、それと同時にダイゼンガーの全身が翡翠のオーラに包まれる。

 

『そんなこけおどし等ッ!!!』

 

「届けッ!! 雲耀の速さまでッ!!!」

 

斬艦刀を地面に叩きつけ、ガルガウ改の放ったメガスマッシャーを避けたその勢いまま天高く飛び上がったダイゼンガーは大上段に参式斬艦刀を構えガルガウ改へと急降下する。それを見たヴィガジはゲッター合金で強化された腕部ユニットを合体させ、巨大な盾を作り出しその内部でメガスマッシャーの発射態勢を取りつつ防御の姿勢に入る。

 

「チェストオオオオオ――ッ!!!」

 

『舐めるなアアアアッ!!!』

 

ヴィガジとゼンガーの裂帛の気合が込められた雄叫びが重なり、雲耀の太刀とゲッター合金の盾がぶつかり合い、矛と盾のぶつかり合いは互いに弾き飛ばすという痛みわけの形にされるが、ダイゼンガーもヴィガジも即座に姿勢を立てなおし、参式斬艦刀とアイアンクローの切っ先を互いに向ける。互いに大きなダメージは受けておらず、むしろより激しく闘志を燃やす事となった。

 

『「うおおおおおッ!!!」』

 

次の瞬間弾かれたように走り出し互いに闘志を剥き出しにし激しい咆哮を上げる。テスラ研を巡る戦いの第三幕がきって落とされるのだった……。

 

 

 

 

ダイゼンガーとガルガウ改のぶつかり合いは非常に凄まじく、斬艦刀とアイアンクローのぶつかり合いの余波だけでアステリオンとベルガリオンが大きく機体のバランスを崩す程だ。

 

「ぬおおおおッ!!!」

 

『参るッ!!!』

 

バスターブレード形態ではなく、取り回しの良い日本刀モードを振るってくるダイゼンガーとゼンガーの圧力に負けないようにヴィガジも吼え返しながらガルガウ改を駆る。

 

『チェストォッ!!』

 

ゲッター線の輝きを全身に纏い、恐ろしい速度で踏み込んでくるダイゼンガーの姿に咄嗟に両腕のアイアンクローを合体させた盾で防御に入る。

 

「ぬうっ!?」

 

防御してもなおコックピットにまで響いて来る衝撃に思わずヴィガジは呻き声を上げる。そしてそれと同時に困惑を隠しきれなかった……同じゲッター合金製の武装を使っているはずなのに何故、自分の機体にはゲッター線の輝きが宿らないのか、自分とゼンガーでは何が違うのかと困惑を隠しきれなかった。

 

「喰らえッ!!」

 

だが困惑ばかりもしていられない。監査官として、そして地球人よりも上位の種族として下等な野蛮人に負ける訳には行かないと言う強烈なプライドを支えにして、ヴィガジはダイゼンガーとの戦いのみに意識を集中させる。アイアンクロー、火炎放射ではない、いままで1度も使わなかった背部ウィングからのビームによる不意打ちをダイゼンガーに向かって放つ。

 

『甘いッ!!! そのような逃げの一撃などッ!!』

 

「これは戦略的一手というのだッ!」

 

バリアでビームが弾かれるというのはヴィガジにも分かっている。だがバリアによって弾かれたビームが目晦ましとなる筈だと、ゲッター合金で強化された尾を槍のように打ち出すガルガウ改――だがその切っ先はダイゼンガーに触れる前に斬艦刀の一閃によって斬り飛ばされる。

 

『言った筈だッ! 逃げの攻撃などこの俺には届かんとなッ! ぬっ!』

 

尾を切り落とし返す刀でガルガウ改を切り裂こうとしたダイゼンガーだったが、その動きは転移してきたレストジェミラが組み付いた事でとめられる。

 

「言った筈だ戦略だとなッ!! 今度こそ死ねッ! ゼンガー・ゾンボルトッ!!!」

 

受領した機体を自ら破壊するなど今までのヴィガジでは考えられない行動だった。しかしこれ以上後の無いヴィガジに形振り構っている余裕など無く、テスラ研を奪還されれば、もっと言えばダイゼンガーを見落としていた段階でヴィガジの査察官としての能力にウェンドロは疑問視を抱く筈だ。目に見えた成果――ダイゼンガーを破壊し、搭載されている高性能なゲッター炉心を手にしなければ処分が待っていると分かっているヴィガジは下等な地球人と見下している相手に不意打ち、騙しうちと己のプライドを完全に捨てて勝利する為の一手を講じた。四肢に2体ずつのレストジェミラが組み付いては流石のダイゼンガーも動きを封じられる。動きが止まればメガスマッシャーを確実に当てられる。

 

「今度こそ終わりだッ!!」

 

『くっ!! ぬうおおおおッ!!』

 

手足に組み付いているレストジェミラを振り解こうにも、フルパワーで組み付いているレストジェミラは全力で抵抗しており、メガスマッシャーが発射される前に振り解くのはダイゼンガーを持ってしても単騎では不可能だ。

 

「何ぃッ!?」

 

メガスマッシャーが発射される瞬間――漆黒の影がダイゼンガーとガルガウ改を覆い、そこから発射されたビームがダイゼンガーの手足を封じていたレストジェミラだけをピンポイントで撃ち抜き、ダイゼンガーの隣に漆黒の特機が降り立った。

 

「くっ! あれもダイゼンガーとやらかッ!」

 

レストジェミラによる拘束が無力化され、ヴィガジは苛立った様子でメガスマッシャーの発射を諦め、ダイゼンガーの隣に立つダブルGの2号機を睨みつけながら叫んだ。

 

『そう、ダイナミック・ ゼネラル・ガーディアンの2号機……名付けて、アウセンザイター……ッ!』

 

マントを翻しながら告げられた言葉が翻訳され、モニターに映し出されるがその文字を見てヴィガジは怒りのまま、拳をモニターに叩きつけた。

 

「『穴馬』だと? また翻訳機が壊れたのかッ!?」

 

穴馬の言葉の意味が判らないヴィガジは翻訳機が壊れたのだと思い込み、怒りを露にするがその内面は恐ろしいほどに冷静だった。

 

(どうする、どうする……ッ)

 

ダブルG――ダイゼンガーとアウセンザイターの力は間違いなくガルガウ改を越えている。それら2体を相手に単騎で戦うのは不可能だと認めざるをえなかった……だからこそ自分がとるべき手段が1つしかない事を理解し、屈辱と怒りにその唇を強く噛み締めた……高性能のゲッター線で動くダブルGの戦闘データをホワイトスターへ持ち帰る――それが自分が成すべき事だ。

 

(出来るのか? 今の俺に……)

 

規格外の性能を持つダイゼンガーとアウセンザイターと戦い、戦闘データを十分に取得し、無事に脱出する……言葉にするのは簡単だが、その余りにも無茶な戦いに望むには今の消耗しきったガルガウ改と自分では無理だと認めざるをえない。だが無様に何の情報も得れずに逃げることも出来ないとヴィガジは葛藤する――戦場での迷いは己の死へ繋がる……だが今回に限っては勝利の女神はヴィガジへと微笑んだ。

 

【【カカカカカッ!!】】

 

『おいおいおい……あいつら合体しやがったぞ』

 

『うーむこれは僕も想定外ですねぇ……』

 

弓と槍の妖機人が合体し咆哮を上げる。すると今までの戦いで破壊された無人機や、百鬼獣の残骸が動き出す姿を見てヴィガジはこれが自分が生き残り、そしてダイゼンガーとアウセンザイターの戦闘データを得るただ1つの方法だと判断し、査察官としては到底褒められた物では無いが異形の化け物を利用する為にダイゼンガーとアウセンザイターへ攻撃を仕掛けながら少しずつガルガウ改の立ち位置を変え、いつでも転移出来るように準備を始めるのだった……。

 

 

 

 

 

妖機人の一種である鋳人は己の肉体を持たぬ妖機人だ。それ故に己の肉体を得る事に並々ならぬ執着がある、強い肉体を求め、寄生する事を最優先とする鋳人にとってダイゼンガー、アウセンザイターの姿は何よりも魅力的で己の肉体にしたいと思う物であった。だが弓と槍の姿では勝てない、その素晴らしき肉体を手にする事が出来ないと本能的に悟った2体の鋳人は躊躇う事無く合体し、己の肉体を強化することを選択したのだ。それが6本の腕に4本の足、そして2つの頭部を持つ妖機人シュウの姿だった。

 

【【ウォオオオオオッ!!!】】

 

ダイゼンガーとアウセンザイターを己の肉体とするべく、シュウはテスラ研の敷地を破壊しながらダイゼンガーとアウセンザイターへと襲い掛かる。

 

「ぬうっ!! 面妖な」

 

合体したといえば聞こえは良いが、無理矢理2つの肉体を1つにしたシュウの身体は整合性が無く、今にも崩壊しそうな動く屍のような形相を呈していた。しかしそれでもゼンガーを圧倒する凄まじい闘志を、そして纏わり付くような執着をゼンガーは感じ取っていった。

 

【【ウォオオオオッ!!!】】

 

ゲッター線による高出力、そして純度の高いゲッター合金の守りを持ってしても容易く切り裂くその力にゼンガーは驚きに目を見開く、だが戸惑いは一瞬であり、妖機人シュウにその意識を向ける。

 

「それでいてこの力ッ!! レーツェルッ! インスペクターは任せるぞッ!」

 

シュウを相手にしながらガルガウ改と戦うのは不可能だと判断し、肩口からの体当たりでシュウを弾き飛ばし、アウセンザイターから引き離す。

 

『任されたッ! 気をつけろよ、ゼンガーっ!』

 

ここまで追詰めたヴィガジをみすみす逃すわけには行かないとゼンガーはシュウは自分が相手をすると告げ、アウセンザイターを行かせ自らはシュウの前に立ち塞がる。

 

「俺が相手だ、化け物」

 

【グルルルウウ、ウォオオオオオッ!!!】

 

斬艦刀とシュウが手にしている2本の中華刀がぶつかり合い、凄まじい火花を散らす……だがゼンガーは目の前の刀だけに意識を向けかけ、弓矢の切っ先がダイゼンガーへの頭部へ向けられている事に気づき、切り払うと同時に地面を蹴ってダイゼンガーを後退させる。

 

「うっぐっ!」

 

シュウの放った矢はゲッター線バリアを突き破り、ダイゼンガーの肩へと突き刺さる。しかし恐れるべきなのはその破壊力ではなく、肩に突き刺さった矢が紐状になり、ダイゼンガーの内部に侵入しようとした事だった。

 

「いかんッ!」

 

慌てて肩に突き刺さった矢を引き抜き、投げ捨てるとそれは空中で鋳人となり、地響きと共に着地する。

 

「ますます面妖なッ!」

 

シュウの放った矢が命中した岩、格納庫、破壊された百鬼獣、そしてインスペクターの無人機は次々と鋳人へとその姿を変え、手にした武器を打ち鳴らす。

 

「……本能のみの獣だが……強い」

 

武器を打ち鳴らす姿は威嚇行動だ。だがそれを行ないながらも4本の腕は弓を引き絞りダイゼンガーへの狙撃を続けている。バスターブレードモードでは立ち回りが悪いと日本刀モードへ戻し飛んでくる矢をダイゼンガーは的確に切り払い、打ち落とす。

 

【シャアアッ!!!】

 

「来るかッ!!」

 

矢を放つと同時に飛びかかって来たシュウの上段からの切り下ろしを下から切り払うと同時にダイゼンガーは前に踏み出し、固く握り締めた拳を叩きつける。

 

【カカカカーッ!!!】

 

「ちえいッ!!!」

 

しかしシュウもただでやられはしない、殴り飛ばされながら4本の腕から矢を放ち、ダイゼンガーの追撃を防ぐと同時に自らが体勢を立て直す時間を稼いで見せた。

 

【カアアアアアーッ!!!!】

 

「おおおおおおッ!!!」

 

二本の中華刀を1つにした巨大な青龍刀とバスターブレードへとその形状を変えた参式斬艦刀がぶつかり合い周囲に凄まじい轟音を響かせる。2つの凄まじい力のぶつかり合いは周囲に斬撃の後を刻みつけ、大地を深く抉り、ダイゼンガーとシュウの姿を巻き上がった砂煙が覆い隠す。

 

【カカカッ!!】

 

「ぬうんッ!!!」

 

砂煙からほぼ同時に飛び出したダイゼンガーとシュウの手には何時の間にか再び日本刀、そして2振りの中華刀が握られており、互いに閃光にしか見えぬ超神速の剣撃が何度も何度もぶつかり合った。

 

【ヒャーハハハッ!!】

 

「すまんが俺はこいつで手一杯だッ! これ以外はそちらで何とかしてくれッ!!!」

 

剣撃とシュウはダイゼンガーで防げる。だがシュウの放つ矢によって増える鋳人には対処が出来んと叫ぶゼンガーは自分に出来る事としてシュウを残骸から引き離しに掛かる。だがその間に放たれた矢によって破壊された機体の残骸は鋳人へとその姿を変えていた。

 

『おい、あたしはこんな化け物なんてきいてないぞ』

 

『そうですね。僕も知りませんでしたよ、いやいやしかし参りましたねぇ……お嬢さん方武器はまだありますか?』

 

『す、すみません、もう体当たりするくらいしか……』

 

『流石にここまでの連続戦闘は想定していない』

 

百鬼獣、無人機と戦い続け、そして今度は増え続ける鋳人を相手をするには今のゼンガー達には余りにも厳しかった。連戦に次ぐ連戦、そして敵は無尽蔵に送り込まれ、テスラ研を守る必要もある。バロンとフェイの2人が加わってもなお戦力は足りず、この乱戦を利用して動いたのヴィガジだけではなかった。

 

『くそがあッ! 逃げるなあッ!!!』

 

【……ッ】

 

ワンオフの高性能電子頭脳を有している鉄甲鬼は今の自分ではコウキに勝てないと判断し、乱戦に紛れて撤退することを選択し、その後姿にコウキの激昂が向けられるが鉄甲鬼は振り返ることなく離脱する。

 

『ちいっ!! くそがあッ!! 貴様らが邪魔をしてくれたからだッ!』

 

コウキは暴言を吐きながらも今の状況で鉄甲鬼を追う事は出来ないと分かっており、両手に斧を装備した轟破・鉄甲鬼が鋳人の群れに襲い掛かり、その手にした斧で両断し引き裂き破壊する。元がスクラップなだけあり、耐久力は無いに等しいが、その代りに攻撃力が余りにも高く、容易に倒せるにも関わらず、どうしても攻めるのに二の足を踏んでしまう。

 

『どうした? アウセンザイターとやら、攻めてこないのか?』

 

『悪いがそんな挑発に乗るほど私は馬鹿ではない』

 

攻撃する事を止め、アイアンクローを合体させた盾を構え完全に防御に入ったガルガウ改の守りを突破するにはアウセンザイターでも容易ではなく、その上無人機と鋳人の群れに囲まれているのではアウセンザイターの機動力も十分に生かしきれないでいた。

 

『……来たか』

 

そんな中沈黙を保っていたスレードゲルミルのコックピットの中のウォーダンが顔を上げた。その視線の先には雲を引き裂く翡翠の流星の姿があった。

 

『ゲッタァァアアアアッ!! ビィィイイイイムッ!!!!』」

 

やっとの思いで包囲網を抜けて来たゲッターD2が頭部からゲッタービームを発射し、鋳人を薙ぎ払い地響きを立ててガルガウ改の前に着地する。

 

『武蔵君、来てくれたのかッ!』

 

『遅くなってすいません、レーツェルさんッ! こいつはオイラが相手をするからゼンガーさんの方へッ!』

 

妖機人シュウの連続攻撃に押されているダイゼンガーを見て、武蔵が其方の支援に向かうようにレーツェルに声を掛ける。

 

『しかし』

 

『大丈夫ですよ、もう皆も来ますから』

 

『サイフラァアアアアシュッ!!!』

 

『サイコブラスタァァ――ッ!!!』

 

先行して来たのは武蔵だけではない、サイバスターとヴァルシオーネがテスラ研の上空へとその姿を現すと同時に翡翠と桃色の輝きが周囲を染め上げ、生き残っていた百鬼獣や鋳人が次々と爆発する。その姿を見てレーツェルはアウセンザイターを反転させダイゼンガーの元へと走らせる。

 

『よお久しぶりだな怪獣野郎ッ!! てめえが殺した人達の敵討ちだッ! らくに死ねると思うなよッ!! ダブルトマホークッ!!!』

 

そして武蔵はサイフラッシュとサイコブラスターで全身に細かいダメージを負ったガルガウ改を見据え、ゲッターD2の両手にダブルトマホークを握らせる。

 

『ちいっ! この上ゲッターロボと戦うなど冗談ではないぞッ! な、なぜ転移できないッ!!?』

 

武蔵の本気の殺気に当てられたヴィガジは転移での逃亡を試みるが、何故か転移出来ずうろたえるヴィガジの叫び声を無視して飛びかかったゲッターD2のダブルトマホークがゲッター合金で強化されたアイアンクローを紙屑か何かのように容易く引き裂いた。

 

『ば、馬鹿な、何故ゲッター合金製の武器が』

 

『はっ! 教えてやるよッ! ゲッターロボは正義のスーパーロボットだ!! 悪党が使う偽物のゲッター合金なんかなぁッ!! ゲッターにとっちゃあなんの障害にもなりゃしねえんだよッ!!!』

 

武蔵の一喝とダブルトマホークの一撃が真っ直ぐにガルガウ改のコックピットに向かって振るわれ、避けられない死が目前に迫りヴィガジが引き攣った声を上げた瞬間、ガルガウ改は転移した。だが完全にダブルトマホークを避ける事は出来ず胸部から下が両断され、ヴィガジ自身もコックピットが爆発した事で、全身に酷い傷を負った瀕死の状態でネビーイームへと転移した。

 

『ゼンガーッ! モードをプフェールトに切り換えろ!』

 

ランツェ・カノーネをシュウへ向かって乱射し、シュウをダイゼンガーから引き離しながらレーツェルがゼンガーに向かって叫んだ。

 

「ッ! 承知ッ!!」

 

コンソールを操作し、レーツェルが起動しろと言ったプフェールトモードを起動する。

 

『行くぞ、友よッ!! 今こそダブルGの、いや我々の真の力を見せる時ッ!!』

 

「応ッ!!」

 

アウゼンザイターの投げ捨てたマントを空中で受け取り、それを背中に装着したダイゼンガーは人型から馬へと変形したアウセンザイターに飛び乗り、妖機人シュウへと突進する。

 

「ぬおおおおおッ!!!」

 

【【カカカカカッ!!!】】

 

ダイゼンガーとアウセンザイターを寄越せと言わんばかりに笑いながらシュウは弓矢を放ち続ける。だが刺さればそこから妖機人になる弓矢をゼンガーが2度も受ける訳が無く、日本刀モードの参式斬艦刀を振るいそれを打ち落とし続ける。

 

『見せてみろゼンガーッ! お前の新たな剣をッ! お前の力をッ!!!』

 

ゼンガーとレーツェルの邪魔はさせぬと鋳人達を斬艦刀で両断し、シュウへと突き進むダイゼンガーを見つめるスレードゲルミル。そしてウォーダン……ここで攻撃すれば確実にゼンガーを倒す事が出来る。だがウォーダンはそれをせず、自分が越えるべきオリジナルであるゼンガーの新たな剣、ダイゼンガーの動きを一瞬たりとも見逃さんと言わんばかりに真剣な眼差しを向ける。

 

「吼えろダイゼンガーッ! 武神の如くッ!!」

 

『駆けろトロンベッ! その名の如くッ!!!』

 

【ウォオオオオオッ!!!】

 

真っ直ぐに突っ込んでくるダイゼンガーとアウセンザイターに向かってシュウもまた巨大な中華刀を振りかぶり、ダイゼンガーとアウセンザイターを切り裂かんと横薙ぎの一閃を放った。だがその一閃は急加速したアウセンザイターによって避けられ、カウンターで斬艦刀の一閃がシュウの胴体を捉える。

 

【【!?!?】】

 

抉りこむような一閃がシュウの身体を切り裂きながら、その身体を上空へと打ち上げる。

 

「奥義ッ! 斬艦刀ッ! 逸騎刀閃ッ!!!」

 

裂帛の気合と共に振るわれた一閃はシュウの身体を更に上空へと打ち上げ、全身を切り裂かれた妖機人シュウはテスラ研のはるか上空で爆発四散する。

 

『ふっ! 我等に……』

 

「断てぬ物無しッ!!!」

 

ガルガウ改、百鬼獣鉄甲鬼、そして妖機人シュウ――テスラ研に現れた強大な敵は全て倒すか退けた。だがテスラ研を取り囲んでいる百鬼獣、無人機は依然健在であり、ダイゼンガーは縦横無尽に戦場を駆け抜け参式斬艦刀を振るう。

 

「斬艦刀逸騎刀閃――しかと見届けた。ゼンガー、お前との決着はまた何れ」

 

すべてを見届けたウォーダンはハガネ、ヒリュウ改、クロガネ、シロガネがテスラ研の上空へと現れると同時にテスラ研を後にするのだった……

 

 

 

第168話 武神装攻ダイゼンガー その5へ続く

 

 




かなり長くなりましたが、次回でダイゼンガーの話は終わりです。そしてその次はプランタジネットとここもオリジナル要素ましましで行こうと思います。色々とやりたい事があるので多くは語りませんがダイテツがどうなるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


スパロボ無料ガチャで出たSSR

ディストーションアタックS×2
クロスオメガの主人公機の金色になるSSR1枚
ファンネル(サザビー)
拡散メガ粒子砲(サザビー)
プログレッシブナイフ連続攻撃(エヴァ2号機)
ランページゴースト





これで神引きしてるからFGOで爆死してる? って思い出す混沌の魔法使いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第168話 武神装甲ダイゼンガー その5

第168話 武神装甲ダイゼンガー その5 

 

無尽蔵に襲ってくる百鬼獣、インスペクターの無人機の襲撃を抜け、やっとの思いでテスラ研に辿り着き、テスラ研を囲んでいた無数の異形の巨人を倒したキョウスケ達は休む間もなく己の機体から降り、戦闘の跡を色濃く残しているテスラ研へと歩みを向ける。

 

「ねぇ、キョウスケ。私白兵戦はそこまで得意じゃないんだけど」

 

「お前はフォローだ、前衛は俺とブリット、それとラミアでやる」

 

「本当に大丈夫?」

 

「大丈夫なんて言ってる場合じゃない、指揮は俺とギリアムで執る。武蔵とラドラ、それとコウキは好きにしてくれて良い」

 

カイの指示ににんまりと笑った武蔵は日本刀を背中に背負い、服に捻じ込んでいたマグナムを手にする。

 

「ラドラ、コウキ、どっちから攻める」

 

「正面突破、それ以外にあるまい」

 

メリケンサックのように見えるが鋭い爪を生やしたナックルガードを身につけたラドラがそれを打ち鳴らす。

 

「害虫駆除も防衛主任の仕事だ。手を抜きはしない」

 

ナイフや銃、手榴弾を白衣の中に詰め込んだコウキがゴキゴキと首を鳴らす。

 

「んじゃまあ、行くかあッ!!!」

 

「シャアアッ!!!」

 

窓を突き破り襲い掛かってきた鬼の額にマグナムをぶっ放した武蔵がテスラ研へと飛び込んで行き、その後をコウキとラドラが続く。

 

「お前達は化け物との戦いに慣れていない、チームで行動する事を徹底し、単独行動をするな。人間を保護しても鬼の擬態の可能性がある、人間を発見したらこのゲッター線照射ライトを使え」

 

武装を整えながら矢継ぎ早に指示を出すカーウァイは抱えていたアタッシュケースからライトを取り出し、それをカイ達に手渡す。

 

「はッ!」

 

「良し、では私も行く。5分後にお前達は突入開始せよ」

 

カーウァイも日本刀を背中に背負いテスラ研へと突入する、一瞬開かれたテスラ研の正面入り口からは中の喧騒が響いて来る。

 

『おらあッ!!! くたばりやがれえッ!!!』

 

武蔵の怒声とくぐもった悲鳴、そして肉がつぶれたような生々しい追突音が響いてきて、流石のエクセレンも顔から表情が抜け落ちた。

 

『遅い、遅すぎるな、そして死ね』

 

噴水のような音が響くが、テスラ研の中に噴水はないのでそれが何かを想像したレオナの顔からも表情が抜け落ちた。

 

『雑魚が、くたばれ』

 

『や、やめ……ぎゃッ!』

 

銃声と凄まじい水音まで聞こえて来た。扉が閉まるまでの数秒で中に何が起きているのかを想像したカチーナはう、うんっと唸り声を上げた。

 

「なぁ、カイ少佐。あたしら必要なのか?」

 

「俺もそう思う」

 

テスラ研の内部に鬼とバイオロイド兵の残存兵がいるかもしれないということで白兵戦や射撃に秀でた面子が借り出されたのだが、自分達にやること無くないか? とカイに尋ねる。

 

「武蔵達にだけに負担を掛けさせれる物か、それにテスラ研の内部は入り組んでいる。潜んでいる可能性は捨て切れん」

 

「5分経ったぞ、行くぞ」

 

ギリアムに声を掛けられテスラ研内部に足を踏み入れたキョウスケ達を迎え入れたのは肉片、肉片、ナイフで壁に貼り付けにされた鬼の生首、しかもそれでまだ生きており恨み言を叫んでいる。その下では血液で出来た水溜りが出来ており――ありとあらゆるスプラッタホラーであり、その光景を認識したエクセレンとレオナはふうっと溜め息と共に意識を失い背中から倒れこんだ。

 

「うっぷ……」

 

ブリットは口を押さえてテスラ研の外へ走り出し、そとからは吐いている音が響いて来る。

 

「うげ……流石に無理だわ」

 

「何を言っているんですか、イルム中尉。カチーナ中尉は平気そうですよ、俺達が泣き言を言ってどうするんですか」

 

「キョウスケ中尉。カチーナ中尉ですが、立ったまま気絶していたりします」

 

「「は??」」

 

勇ましく男勝りの女傑カチーナ・タラスクは意外にも料理や炊事、洗濯と家庭的なスキルも非常に得意であり、弱点など無いと思われていたのだがグロテスクな物が苦手であり、インベーダーの段階でもかなり来ていたのだがそれでも耐えていた。だが生首と目があったことでキャパオーバーを起こし立ったままで失神していた。

 

「……キョウスケ達は下がれ、俺達でやる」

 

「私は大丈夫でございますゆえ、お手伝いします。インベーダーに寄生された人間と比べれば鬼は……「シャアッ」……恐ろしくもなんともありませんゆえ」

 

通風孔を突き破り姿を見せた鬼に躊躇う事無く、スタンロッドを突き刺しその高電圧で鬼を焼き殺すラミアなら大丈夫かと判断したカイとギリアムはラミアだけを連れてテスラ研の捜索に乗り出し、テスラ研から運び出された鬼やバイオロイドの死体の数は100に迫る勢いであり、清掃を含め作業を借り出された者の顔からありとあらゆる感情が抜け落ちていたのは言うまでも無い……。

 

 

 

 

殆ど血みどろのテスラ研で話し合いなど出来るわけも無く、ジョナサン達との話し合いの場は各戦艦のブリーフィングルームで行われる事になったのだが……謎の特機である神龍、神虎を操るフェイとバロンも参加する事に誰もが首を傾げることになった。

 

「やぁやぁ、すいませんねえ……お手数を掛けさせまして」

 

「はっ! 犯罪者扱いをする連中になんで頭を下げるんだよ、ええ、バロン」

 

「はっはは、まぁそうなんですけどねぇ。まぁ社交辞令って奴ですかねぇ……それにリシュウ先生に迷惑を掛けるわけにも行きませんし」

 

刺々しい態度のチャイナドレス姿のフェイと穏やかに笑っているが剣呑な光をその目に宿しているバロンの姿にキョウスケ達は一瞬身構えたが、そんな態度を見てもバロンはにこにこと笑っていた。

 

「ヴォルフ兄さん」

 

ライがポツリと兄と呼び、その声にバロンがサングラスを外してその目をライに向ける。

 

「んん? おお、ライじゃないですか。いやあ、元気そうですねぇ、それに大分背も伸びたみたいですねぇ」

 

「あん? てめえの弟がハガネに乗ってたのか?」

 

「甥っ子ですよ、ライとエルザムの父親のマイヤー叔父さんの兄が僕の父親でしてねぇ」

 

目の前の飄々とした男がブランシュタインに名を連ねる男と分かり、ブリーフィングルームに驚きが広がる。

 

『ヴォルフ、今まで何をしていたんだ?』

 

「やあやぁエルザムもお元気そうで、あ、それとヴォルフって言うの止めてくれます? 僕はほら、狼って感じじゃないでしょう? 今はバロンと名乗っているので出来ればそっちで呼んで欲しいですねぇ」

 

『ではバロン、何をしていたんだ? DC戦争よりも前に地球に下りたと思えばテロリストとして指名手配、その上消息不明と聞いて心配していたんだぞ。あと、私もエルザムではない、レーツェルだ。』

 

テロリストとして指名手配された人物であると聞いてブリーフィングルームに緊張が走るが、リシュウが手を叩いた事でリシュウへ視線が集まる。

 

「誤解を招くような事をいうではない」

 

「いやまあ事実ですしねぇ、はっはっは、政府はあれですねぇ。自分達が隠したい事を知ってる人間をよほど排除したいようで」

 

その言葉に今はバロンと名乗っている男が、武蔵と同様に政府によって都合の悪い事実を知って冤罪で追われている人物だと言う事をこの場にいる全員が理解した。

 

「僕はオーダー、オーダーのバロンです。こちらはフェイ――妖機人や悪の超機人に備えている組織の者です」

 

「2人しかいないけどな」

 

組織と言いつつ2人しかいないだろというフェイの突っ込みにバロンは声を上げて笑う。

 

「笑ってる場合じゃねえだろ、エセ貴族」

 

「痛いッ!?」

 

裏拳を頬に叩き込まれ痛いと呻くバロンと疲れたように肩を竦めるフェイ――その2人のやり取りはどこかコント染みていた。

 

『申し訳ないが我々には時間がない、テスラ研に出現した妖機人を知っていると言うから話し合いの場を設けたのだ』

 

「はいはい、すいませんね。僕達もあんまり時間がないですし、大事な話ですが、まぁまだ本格的にバラルは動いていませんし、重要な話だけしますね。まずバラルとは旧西暦から存在する自称守護者の犯罪者集団ですねぇ」

 

「「「は?」」」

 

守護者を名乗る犯罪者集団と言うバロンの言葉に理解出来ないと言う困惑気味な声があちこちから上がる。

 

「一応は人というか地球を守ると言う名目は保っているんですけどね、その手段がどうにもね。なんと言えば良いんですかね」

 

「言葉を選んでるんじゃねえよ。念動力者の女を攫って孕ませようとしてんだよ、んで生まれた子供を洗脳して自分の手駒にするか、妖機人に組み込もうとしてんだよ」

 

「……一応女性なんですからもう少し言葉選びません?」

 

「は! 歯に衣を着せるのは苦手なんだよ」

 

ぶっきらぼうに吐き捨てるフェイの言葉にはバラルという組織に対する強い敵意が感じられていた。

 

「まぁともかくですね、そう言う事をする組織でまぁ碌なもんじゃないわけですよ。僕とフェイはそれに対抗する術としてかつて使われた兵器を探してるうちにテロリスト予備軍にされてしまったんですねー」

 

あっはっはと笑うバロンだがいつか動き出すかもしれない敵に備えていたのにテロリストにされる。それは余りにも笑えない話だが、バロンは呆気からんと笑っていた。

 

『そんな非道をしていて人類の守護者を名乗っているのか?』

 

「まぁ本人達はですけどね? 人間に味方した超機人龍虎王に1度負け、今度はオーダーに負けて逃げたので自称ですよ、とは言えその力は本物ですよ。オーダーが勝利出来たのは全世界が1つになった事ともう1つ、ゲッターロボが味方してくれたからですね。とは言えバラルもゲッターロボを運用してましてね、それは凄い戦いだったそうですよ」

 

『武蔵君かね?』

 

『え? 違うと思いますけどね……えっとバロンさんでしたっけ? そのゲッターロボのパイロットって判ります?』

 

「ん? はいはい、分かりますよ。バラルに味方したのがタツヒト、そして人類に協力してくれたのがリョーマです」

 

竜馬と達人と聞いて武蔵が驚いたのがモニター越しでも伝わってくる。

 

「お知り合いですか?」

 

『あー竜馬はオイラと一緒にゲッターロボに乗ってた奴だけど……達人、達人さんかあ……名前は知ってるけど達人さんとは面識はねえなあ、オイラがゲッターに乗る前に死んだらしいし……でも早乙女博士の息子がなぁ。そんなのに協力するかなあ』

 

早乙女博士の息子が達人と言うのは武蔵も知っていたし、どう考えてもバラルに協力するとは思えないと武蔵が擁護する。

 

「それならばやはり洗脳されていたと言う線が濃いですね。孫光龍はそういう事が出来たらしいですし」

 

『孫光龍ッ!? オイラそいつ知ってるぞ!? 月で会ったッ! ほらビアンさん、えっとあれなんでしたっけ?』

 

『尸解仙だ。中国の仙人の一種だが――バラルが中華に関係するのならば恐らく同一人物だろう』

 

孫光龍を知っていると叫んだ武蔵の言葉にサングラスの下のバロンの瞳がギラリと輝くのだった……。

 

 

 

 

 

『ふむ、では武蔵君。その孫光龍という人物はどんな容姿をしていましたか?』

 

手帳を開きながら問いかけてくるバロンに武蔵はえーっとと唸りながら、孫光龍の容姿を必死に思い出す。

 

「白いスーツを着てて、えっと胸に花を刺してて、金髪で外人さんって感じだったかな……後は凄い飄々としてて掴み所がなさそうな感じで……トカゲ野郎に似てるって思ったかな」

 

『容姿に関してはオーダーの資料と一緒ですね、ほかには?』

 

「他ですか? んーほかには誰もいなかったかなぁ?」

 

『おい、デブ、孫光龍と何の話をしたんだ? 事と次第に寄っちゃあ……てめえ殺すぞ』

 

混じり気のない殺意と憎悪を向けてくるフェイだが、武蔵はその殺気を軽く受け流し、フェイの目を真っ直ぐに見つめた。

 

「あんな胡散臭い奴の話なんか聞くわけ無いだろ。なんか女神様がどうとか言ってる危ない奴にしか思えなかったしな」

 

神を信じていない武蔵には孫光龍の話は胡散臭いもので、信用する、しない以前の問題の怪人物だった。だからこそフェイの心配は取りこし苦労に過ぎない。

 

『嘘は言ってねえな、悪いな。ちっと気が立ってた。おい、バロン。後は任せるぞ』

 

『はいはい、どうぞどうぞ、すいませんね、彼女はかなり気が短いもので、しかしスカウトを蹴ってくれたのは良いですね。君が味方にいてくれるのならばとても心強いです』

 

バロンはフェイの無礼を謝罪し、笑みを浮かべるがそのサングラスの下の目は細く細められており、まだ武蔵を観察しているような素振りを見せていた。

 

「超機人もゲッターロボに恨みを持ってるみたいだったけど、なんでか知ってるかい?」

 

『それでしたら知ってますよ。転移で現れたゲッターロボを重宝したバラルの大本に反逆した者が多いんですよ、その多くが妖機人になってますね』

 

『馬鹿じゃないのか?』

 

『はっはっは、バラルは実力主義者らしいですからねぇ、まぁそれで反逆され敵になっているので馬鹿そのものですけどね』

 

辛らつな言葉を吐き捨てるバロンは楽しそうに笑いながら、自分が得ているバラルの情報を惜しむ事無く伝えていく……。

 

『とにかくですね、バラルには洗脳する術があり、そして妖機人を作り出す事も出来る訳ですよ。テスラ研の周りを転がってるあの槍とかは触らないほうが良いですね。あれは槍とか武器が本体の妖機人でしてね、危険な存在ですよ。回収せずにゲッターロボのゲッタービームで焼き払ってしまうほうがいいでしょう。これから大作戦を控えているのに背後から撃たれるなんていうのは避けたいでしょうからね』

 

「助言感謝する、君の言う通りにしよう」

 

『ええ、それがよろしいかと……それとバラルはゲッター線を神聖視している節がありますので、ダイゼンガーでしたっけ? それを運用する限りバラルが妖機人を送り込んでくる可能性は高いでしょう』

 

「あの2体か……あの強さの妖機人を簡単に用意できるのか?」」

 

弓と槍の超機人、そしてそれが合体したシュウの強さを思い出し、ゼンガーが渋い表情で問いかける。

 

『んーあの強さとなると早々用意は出来ないと思いますが……あれはあくまでベースになった個体、百鬼獣とかが強かったのが大きな要因ですね。通常のPTやAMに寄生されたのならばそこまでの強さではないと思いますよ、そうですね、精々グルンガストクラスでしょうか?』

 

「それでも十分に厄介ではあるがね」

 

武器を元に寄生し、グルンガストクラスの特機の性能になる妖機人は決して甘く見れる相手ではなく、その数と相まって極めて厄介な敵と言えるだろう。

 

『後はそうですね、バラルは我々ブランシュタイン家、トウゴウ家、グリムズ家と因縁があります』

 

「グリムズ家とも?」

 

『ええ、元々グリムズ家はオーダーの活動費を見ていてくれましたし、人格者も多くいますが……超機人の力に魅了されてからは没落し、正義の味方なんてくだらないというアーチボルドみたいな奴もいますが、過去は共に戦ってくれたらしいですよ。そこら辺に関してはリシュウ先生の方が詳しいですかね?』

 

『馬鹿を言うな、ワシも文献を調べている段階で、詳しい情報など無いわ。まぁ1つだけ知っているとすれば、バロンと言うのはオーダーに所属していたグリムズ家の通り名と言う事じゃな』

 

ブランシュタイン家とグリムズ家の因縁を知りつつ、バロンを名乗っているとヴォルフはにやりと口元に笑みを浮かべる。

 

『ええ、アーチボルドが本来得たであろう栄光と名誉を見せ付けてやろうかと名乗り始めたんですよ。まぁまさかのテロリスト扱いですけどね』

 

あっはっはっと楽しそうに笑うバロンだが、やってる事は中々に外道な行いである。レーツェルがそれを指摘しようかするまいかと悩んでいるとテスラ研のジョナサンから通信が入った。

 

『補給と整備の準備が出来た。順番に着艦してくれ』

 

オペレーション・プランタジネットの発令まで時間が無い、整備と補給の準備が整うまで情報交換をしていたが、どうやら今回はここまでのようだ。

 

『それは失礼を、とにかく僕達はこれからもオーダーとしてバラルの事を調べますし、詳しい情報の裏付けが取れましたらお伝えしますよ。いつまでもお邪魔していては申し訳ないですしね』

 

出来ればもっと詳しい話を聞きたいが、バラルの姿は不明瞭で本格的に何時動き出すかも判らない。その上情報は文献を解読するのみと入手経路は極めて限られている。この争いの中に隠れ暗躍している謎の組織バラルへの警戒は現状難しく、ダイテツ達に出来るのは1つだけだった。

 

『LTR機構のアンザイ博士の連絡先を伝えておこう』

 

『それはとても助かりますね、彼女は超機人の権威だ。何か分かることもあると思いますよ、では皆様方のご健闘を遠くにてお祈りしております。さ、行きましょう。フェイ』

 

『おう、じゃあな。今度会うまでにくたばってるんじゃねえぞ』

 

たった2人で政府、そして世界の陰で暗躍しているバラルに立ち向かう事を決めたバロンとフェイの2人をダイテツ達は黙って見送るのだった……それが窮地を救い、歴史の陰に隠れている組織の事を教えてくれた2人に対する最大限の感謝の形なのだった。

 

 

 

 

 

テスラ研で短い時間だが休息を取る事になったキョウスケ達だったが、流石に短時間では武蔵達が大暴れし、鬼やバイオロイドを切りまくっていた全てを清掃できる訳も無く、僅かな居住空間での食事や、テスラ研のリラクゼーションのマッサージ器などを使えるようにジョナサンが手を回してくれたが、女性隊員の多くはハガネやヒリュウ改といった自分達の戦艦に残る事にした。

 

「カチーナ中尉も苦手なものあったのね……」

 

「……スプラッタホラーとグロテスクなのは駄目でな……いや、マジでテスラ研に行ったの後悔してる」

 

ぶるりと身震いし、弱っているカチーナは普段の強気の様が嘘のようにしおらしく、可憐な様子だった。

 

「暫く悪夢に見そうですわね……」

 

「そ、そんなにですか?」

 

白兵戦が余り得意ではないと言うことで戦艦に残っていたクスハはそこまで酷かったのか? とレオナに問いかける。

 

「……ゾンビ物の映画より酷かったですわ、鬼の――「言うなあッ! あたしに思い出させるんじゃねぇッ!!!」……はい」

 

レオナが自分が見たものを言おうとし、それをカチーナの怒声が遮った。怒鳴ったカチーナ本人はと言うと自分で自分の身体を抱き締めて小刻みに震えていた、少し思い出してしまったようだ。

 

「か、カチーナ中尉がここまでなるんだ……私行かなくてよかったかも……」

 

「女子供が見るものじゃないわね、シャイン王女がトラウマになってなきゃいいけど」

 

戻って来た血塗れの武蔵を見て、気絶したシャインを思い出しながらエクセレンがしみじみと呟いた。

 

「はい、次カチーナ中尉よ、こっちへ。あとクスハはテスラ研へ向かってくれるかしら、龍虎王の調査に同行して欲しいそうよ」

 

「……おう」

 

「分かりました。すぐに行きます、カチーナ中尉途中まで肩を貸しますね」

 

「すまねえ」

 

メンタルカウンセラーとしてスプラッタなものを見た面子のカウンセリングを行なっているラーダが顔を見せ、フラフラと歩いているカチーナに肩を貸しながらクスハも食堂を後にする。

 

「もう少し手加減できなかったの? 武蔵?」

 

「んぐ? あんですか?」

 

「……良くあれだけ暴れておいて普通に食べれますわね?」

 

ステーキやカツ丼を食べている武蔵に思わず口元を押さえながらレオナが呟くと、焼きたてのステーキを手にしたラドラが背後を通り、青を通り越して白い顔になったレオナが机に突っ伏した。

 

「別に慣れてるし、なぁ?」

 

「元爬虫人類の俺が言う事では無いが、銃で撃ったくらいで死なないからな、脳味噌を完全に潰すのは基本だ」

 

「そうそう、頭切り落としてもまたくっつくしな」

 

ドタドタと音を立てて食堂を出て行くエクセレン達や整備兵を見て武蔵はあっという顔をする。

 

「悪いことしたかな?」

 

「仕方あるまい、馴れてもらうしかないだろ」

 

「ん? エクセレン達はどうした?」

 

「テスラ研の事を思い出したみたいで、多分トイレっすね」

 

「……まぁ仕方ないな、俺達は別にどうとも思わんが」

 

鋼のメンタルをしているカイ達は呆気からんとしているが、やはりテスラ研の惨状は女性陣には厳しかったようだ。

 

「ハガネの厨房も実に充実している。しゃぶしゃぶとすき焼きの準備をさせてもらった」

 

「レーツェルさん、待ってましたぁ!」

 

整備でフル稼働しているクロガネで食事が出来なかった武蔵と調理が出来なかったレーツェルはハガネでその腕を振るい、テスラ研に突入した面子は肉料理でスタミナと体力の回復に努め、テスラ研の惨状を見ている面子に致命的なダメージを与えていたりするのだが、当然食べている本人達は全くそんなことを考えておらず、消耗した体力の回復に努めているだけなのだが周りへの被害がとんでもない事になっていたりする……。

 

「お兄ちゃんッ!! 無事で良かった」

 

やっと兄であるフィリオの安否を知る事が出来たスレイは周りに人がいるにも拘らず、お兄ちゃんと呼びフィリオに抱きついていた。

 

「スレイ、うん。僕は無事だよ」

 

「……良かった良かった」

 

敬愛する兄が無事だった事にフィリオに抱きつきながら涙しながらも笑みを浮かべるスレイだったが……その笑顔は次の瞬間に凍りついた。

 

「フィリオッ!」

 

スレイの後から格納庫に入ってきたツグミを見て、フィリオがスレイに背中に回していた手を放し、駆けて来たツグミを抱き締める姿を見て、スレイはギギギっという擬音が聞こえて来そうな動きで振り返った。

 

「心配かけたね、ツグミ……」

 

「……貴方に会って色々言いたいことがあったけど……貴方が無事だった……今はそれだけで良いわ……」

 

「……ごめんよ……」

 

馬鹿でも分かる甘い雰囲気にスレイはそのままゆっくりとアイビスに視線を向ける。

 

「……お兄ちゃんとツグミは付き合ってた?」

 

「……みたいだね……あたしも知らなかった」

 

敬愛する兄とツグミが付き合っていたと言う事実にスレイは大きなショックを受け、そしてアイビスもえっと驚いたような表情を浮かべるが、思ったよりも失恋というダメージは受けていなかった。何故ならば……。

 

「テスラ研の防衛装置がやはり殆ど駄目か……」

 

「はい、コウキ主任どうしましょうか?」

 

「連邦に警備を任せるのは不安すぎる……ビアンに頼んでLB隊かトロイエ隊に警備を頼むか……?」

 

優しいがフィリオはやや優柔不断であり、まだ幼さのあるスレイとアイビスにとっては頼れる男――即ちコウキの方が魅力的に見えていた事が、フィリオへの失恋のダメージを大きく軽減していた。惜しむらくは……。

 

「リシュウ先生、グルンガスト参式の修理はやはり無理そうですね」

 

「うむ。そのようじゃな……所でコウキよ」

 

「何ですか?」

 

「……おぬしに向けられてる視線に思うことはないのか?」

 

「虐殺の事ですか? それは仕方ない事ですよ。血に濡れる覚悟は出来ている、殺す覚悟も殺される覚悟もとうの昔にしている。その為の恐怖や蔑みの視線など俺は気にしない」

恐怖や蔑称の視線など俺は気にしない」

 

「……そう言う事ではないんじゃがな」

 

無骨で恋愛などした事が無く、美人や美少女に胸をときめかせる等という青い青春を行なっていないコウキには、恋慕の情等は理解の対象外であった事だろう……。

 

「コウキ、僕も手伝うよ」

 

「必要ない、お前はあれだ、同じプロジェクトの面子のメンタルケアでもしてろ」

 

「いや、でも」

 

「殴るぞ、休んでいろと言っているんだ。スレイ、アイビス、連れて行け邪魔になる」

 

出発まで時間が無いのにいつ倒れるかも分からないフィリオを手伝わせるわけには行かないと、コウキはぶっきらぼうな言葉でフィリオを敢えて突き放し、スレイとアイビスに連れて行けと指示を出したが、スレイとアイビスはどこか納得言っていない表情でツグミと共にフィリオを半ば引き摺るように格納庫から連れ出した。

 

「なぁ親父、コウキってこんな奴なのか?」

 

「唐変木を極めた男、それがコウキだ。色恋のいの字も知らないんじゃないか?」

 

自分に向けられている熱視線に気付かないコウキに、色男のイルムとジョナサンは揃って深い溜め息を吐くのだった……。

 

 

 

 

テスラ研の通路にリシュウの履いている下駄の音が木霊する。

 

「リシュウ先生、こんな所にいらっしゃったのですか」

 

「ゼンガーか、どうかしたのか?」

 

「は、ビアン博士がリシュウ先生を探しています。ダイゼンガーの剣撃モーションを更に調整したいそうで」

 

ダイゼンガーのモーションの調整と聞いてリシュウは首を傾げた。

 

「参式のゲッター炉心を調整するのではないか?」

 

参式は大破したがゲッター炉心は無事な筈、貴重なゲッター炉心を放置するのか? と言うリシュウの問いかけにゼンガーは珍しく歯切れの悪い素振りを見せた後に口を開いた。

 

「何故か完全に参式の炉心は機能停止してしまった……ビアン博士が言うには参式とダイゼンガーのゲッター炉心が統合されたようで、ダイゼンガーの出力が想定よりも遥かに上昇しているそうです」

 

「ふうむ……それはまた不思議な事が起きておるな。しかし……参式の炉心が動かなくなったのは惜しいの」

 

ダイゼンガーの出力が上がったとしても、参式の炉心が使えなくなったというのは余りにも惜しいとリシュウは思わずぼやいた。

 

「本当に参式の炉心を再起動出来ないのか、それを調べながらダイゼンガーの微調整を行いたいそうです」

 

「あい分かった。龍虎王を見てからクロガネへ向かおう」

 

そう言って歩き出すリシュウの後をゼンガーは歩き出す。下駄の音とゼンガーの靴の音だけが格納庫へ続く通路を木霊する。

 

「ゼンガーよ。お主、戦場でシシオウブレードを持ったガーリオン・カスタムに会った事はあるか?」

 

「いえ、俺は会っていませんが……カーウァイ大佐が宇宙で戦ったと言っておりました。俺と共に教導隊のメンバー候補として名が挙がっていたと聞き及んでおりますが……何者なのです?」

 

カーウァイからある程度話は聞いていたゼンガーだが、リシュウの言葉に何か裏を感じゼンガーがそう問いかける。

 

「お主の前にワシが面倒を見ておった弟子じゃ。テスラ研にいた事もあってな、その時にワシが剣の手ほどきをした。メキメキと腕を上げたが、あやつは剣に呑まれた」

 

剣に呑まれた――刀を振るうものが最も避けなければならないこと……物を切ると言う欲求に抗えなかったのだとリシュウは悲しそうに告げる。

 

「カーウァイ大佐はあやつの危険性を見抜き、お主を教導隊へ迎える事を決めた。その日の夜、あやつはシシオウブレードと共に逐電しおった。剣は無闇に抜くものではないと言うワシのあり方を罵倒してな」

 

自分達の兄弟子に当たる人物がそのような非道、そして外道を行なっていたと知りゼンガーは言葉を失った。

 

「……奴は傭兵となって戦場を渡り歩き、己の飢えを癒すためだけに人を斬っておる……その上神出鬼没で、全く尻尾を見せぬ。だが間違いなくあやつはおぬし達の前に現れるじゃろう……」

 

「……リシュウ先生に代わり、俺があやつを斬ります」

 

「その気持ちはありがたいが、奴はワシが止める。それは一時とは言え、師であったワシの責務じゃ。奴は剛剣にして凶剣の使い手。もし、戦場で会った時は……気をつけよ」

 

ムラタを止めるのは至難の技とし、気をつけよとリシュウはゼンガーへ忠告する。

 

「それほどまでの男と言うのですか」

 

「うむ。事剣に関しては天才的だった。正直に言えば、剣の才能だけで言えばお主やブリットを遥かに上回る」

 

自分達よりも才能に溢れた男だったと言って黙り込んだリシュウにゼンガーはそれ以上何も言えず、無言でリシュウと共に龍虎王の調査が行なわれている格納庫へ足を踏み入れた。

 

「「リシュウ先生ッ!」」

 

格納庫が開く音がし、振り返ったブリットとクスハがリシュウの名を満面の笑みを浮かべて呼んだ。

 

「おお……ブリット、クスハ。 心配をかけてすまなかったの」

 

「いえ、先生達がご無事で何よりです」

 

インスペクター、バイオロイド、そして鬼を相手に無事でいてくれて良かったと笑うクスハにリシュウも笑みを浮かべる。

 

「ふふふ、トウゴウ家の男は代々しぶといのが売りでのう。それより、 あれがLTR機構から連絡があった 超機人・龍虎王か?」

 

リシュウが顔を上げると龍虎王が首を傾けてリシュウにその視線を向ける。

 

「龍虎王がリシュウ先生を……」

 

「先生を見てる……リシュウ先生……オーダーの事と関係があるんですか?」

 

バロンから告げられた話ではトウゴウ家――即ちリシュウもバラル、そして超機人と浅からぬ因縁がある。その事を尋ねようとしたクスハだったが、リシュウの目を見て何も言えなくなってしまった。懐かしさとそしてほんの少し寂しさを宿した瞳でリシュウと龍虎王は互いを見つめる。

 

(トウゴウ家の言い伝えが正しければ、あれにはワシの先祖が……)

 

バラルを巡る戦いの中でリシュウの先祖たるトウゴウの男が念動力を持たぬのに、龍虎王へ乗り戦ったと言う事はリシュウも知っていた。

 

(……龍虎王、そして虎龍王。ブリットやクスハを頼むぞ。そして、我が先祖よ……超機人に乗り、戦いし者達よ……ワシの弟子達を……この世界を守ってやってくれ……)

 

リシュウの心の言葉に龍虎王はその瞳を強く輝かせる事で安心しろとリシュウへと告げるのだった……。

 

 

第169話 策謀へ続く

 

 




次回はシナリオデモの残りと百鬼、インスペクターの悪巧みを書いて行こうと思います。ちょっと予定と変わりましたが、思ったより長くなってしまったのでお許しください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第169話 策謀

第169話 策謀

 

ダイゼンガーはクロガネに運び込まれていた。その理由はジョナサンとフィリオが苦戦したDMLシステム、そしてJINKI-1の再調整の為だ。

 

「申し訳ないな、面倒ごとに巻き込んでしまって」

 

「なーに、かまわんさ。ワシはどうせテスラ研で待つしか出来ん、それならば少しでも手助けをするまでよ」

 

剣術モーションに掛けてはリシュウに勝る者はいないとビアンを持ってしても認めざるを得なかった。DMLシステムとJINKI-1の調整はビアンが行なうが、ゼンガーの動きを最適化したモーションの調整はリシュウが受け持つことになった。

 

「ゼンガー少佐。ダイゼンガーとは良いネーミングだ、やはりスーパーロボットの名前はそうでなくてはならん」

 

分かっていると褒められてもゼンガーはなんと反応すれば良いのか困り唸るにとどまる。

 

「実際に操縦してみてどうだった? 何か思った事はあるかね?」

 

「いえ、文句等ありません。俺好みの最高の機体だと思います」

 

「そうか、喜んでもらえて何よりだ。とは言え……私の想定していた物よりも仕上がっていない」

 

「それは酷というものじゃ、ジョナサンもフィリオも相当努力したのじゃぞ?」

 

ダイゼンガーの完成度に満足のいっていない様子のビアンの言葉を聞いたリシュウがそれは余りにも高望みしすぎだと釘を刺す。ゲッターD2、ゲッターV、そしてネオゲッターロボとオーバーテクノロジーに触れ続け、技量を高めたビアンが異質なのであり自分と同じレベルを求めるのは余りにも酷だ。

 

「それを言われると困るな……ふうむ、ゼンガー少佐。内蔵武器だが、プランタジネットまでに調整は無理そうだ。パーツと動力系統、それとエネルギーバイパスが不安定だからな。参式の炉心が機能停止してなければゲッター線のチャージ設備を作れたのだが残念だ」

 

「どこも壊れていないのに起動せんとは、ゲッター線とは不可思議な物じゃな」

 

参式の炉心は奇跡的に破損していなかったが、機能は完全に停止しており壊れていないから修理のしようがないという有様だった。フレームも無事な箇所が多いので改修が行われる事になったが、当然ながらプランタジネットには間に合うわけも無かった。

 

「修理にはどれぐらいの時間がかかりますか?」

 

ダイゼンガーはビアンが地球防衛、そしてゲッターロボの僚機となれるように設計しているので、内部武装も非常に充実する筈だったのだが、ここでもビアンの技量に追従出来なかったことの弊害が出ていた。参式斬艦刀があれば事足りると言うゼンガーだが、インスペクターやシャドウミラーを相手にするには斬艦刀で足りるかもしれないが、数多く出現するアインスト、インベーダー、百鬼獣に対しては斬艦刀一振りでは流石に厳しい物があるとゼンガーも感じており、どれほど修理に時間が掛かるかとビアンへと尋ねる。

 

「調整が早く済みそうなものはダイナミックナックルとゼネラルブラスター、それと徒手空拳用のスラスターの調整などを含めて、2日ほどか……どれか1つに絞ればプランタジネットには間に合うと思うが……エネルギーの運用の最適化を考えると燃費が極端に悪くなる。ゲッター炉心で回復するとは言え多用は出来ないかも知れん」

 

他の研究者ならば1ヶ月ほどの時間を有するが、ビアンにとって自分が設計した機体を再び再調整する事など朝飯前だったが、プランタジネットを控え時間がない今では全てを修理する事も、エネルギー効率を最適化するのも難しいと渋い顔でゼンガーへと告げる。

 

「……ブラスターのみ使用可能として貰えますか? ビアン博士」

 

「それはかまわない。だがエネルギー効率はさっきも言った通り最悪に等しいぞ?」

 

「それでもです。囲まれた時、そして包囲網が形成された時にそれを突破する広域攻撃は必要となります」

 

今回の戦いでも感じていたが転移で多数の敵が同時に出現する事、そして百鬼獣の耐久力を考えれば広域攻撃、そして強力な単体攻撃は必要不可欠だ。斬艦刀・大車輪などの剣技による広域攻撃はゼンガーの技量を持ってすれば十分に可能だが、百鬼獣や妖機人が戦場に居ればそれは自ら武器を手放す事に等しい……他の手段による広域攻撃の術が必要だとゼンガーはビアンへ告げる。

 

「了解した。ではその様に調整しよう」

 

「よろしくお願いします。ウォーダンに無様な姿を見せるわけには行きませんので」

 

ウォーダンの名前にビアンは驚いたような表情を浮かべるが、剣撃モーションの調整をしていたリシュウは納得という表情を浮かべた。

 

「敵でありながら天晴れな武人であったな」

 

リシュウの目から見てもウォーダンは武人であり、浅からぬ因縁を感じさせながらもゼンガーを守り、そして道を作ったその姿は紛れも無く高潔な武人の姿だった。

 

「ウォーダンがいなければ俺はダイゼンガーを手にする事は出来なかった。なればこそ、俺は武人として奴との決着を付ける為にも、そしてソフィア・ネート博士と交わした約束を守る為にも敗れるわけにはいかぬのです」

 

違える事の出来ぬ約束の為に、そして己を越える壁としているウォーダンの思いに応える為にももう負けられないのだと闘志を燃やすゼンガーの姿を見て、ビアンは少しだけ表情を曇らせた。

 

「ソフィア博士はアースクレイドルにいる。その事をちゃんと理解しているな? ゼンガー少佐」

 

「……はい。俺は俺の成すべき事をします……それがソフィア博士をこの手で殺めることになったとしても、俺は彼女の願いを叶えます」

 

アースクレイドルは本来人類の揺り篭となるべき人類の拠点だったが、今は百鬼帝国、そしてシャドウミラーの手中に落ちている。その事を考えればソフィアが無事でいる可能性は窮めて低い、それこそ最悪鬼に改造されている可能性もある。そうなった時斬れるか? というビアンの問いかけにゼンガーは悲しみを宿した瞳で殺める覚悟はあると返事を返した。

 

「ゼンガーよ、そう悲痛に考えるではない。アースクレイドルのメインコンピューターはソフィア博士でなければ操作出来ぬと聞く、ならばソフィア博士は無事な筈じゃ」

 

「……リシュウ先生。ありがとうございます、それを確かめる為にも俺はラングレー基地を取り返し、インスペクターを退けアースクレイドルへと向かいます」

 

リシュウの激励の言葉に頷いたゼンガーは格納庫に固定されているダイゼンガーを憂いを秘めた瞳で見つめる。アースクレイドルにいるであろう想い人を想うその姿にビアンもリシュウも掛ける言葉が見つからないのだった……。

 

 

 

 

ダイテツ、レフィーナ、リー、そしてビアンの代わりに参加しているリリーとブライアンとグライエンの6人の表情は暗く、それぞれの手元に連邦本部からの指令内容に眉を顰めていた。

 

「あと1時間で出撃なんて不可能に決まっている、これでは見す見す死にに行くような物だ」

 

テスラ研を奪還する――プランタジネットの作戦の第一段階でハガネ達の損傷率は50%、エネルギーフィールドの出力も大幅に低下しており、マンハッタンを経由しラングレー基地へ向かうのは誰の目から見ても自殺行為だった。

 

「ですが、司令部は意見を変えるつもりがないんですよね?」

 

「うむ、ゲッターロボと武蔵がいるのだから強行せよとの事だ」

 

本当は連邦本部で確保したかった武蔵がハガネに同行している事に対するやっかみもあるだろうが、本部からの命令は無茶を通り越して無謀だった。

 

「リリー中佐、そちらの物資を使用したとして、万全な状態になるまではどれくらいの時間がかかりますか?」

 

「軽く見積もっても8時間ほど必要です。テスラ研の設備が万全だったとしても4時間は最低必要かと」

 

連邦本部の指令が余りにも無茶が過ぎるとダイテツ達は再び眉を顰める。

 

「やっぱりあれだね、ブライが手を引いていると見て良いんじゃないかい? ウィザード」

 

「そうとしか考えられまい、ブライアンが負傷し一時的に最高責任者となるといけしゃあしゃあと言っていたからな、病院からのパフォーマンスでかなりの支持率は急上昇している」

 

グライエンが口にする事はなかったが、プランタジネットの後にブライアンの負傷を理由にし、ブライが政権を掴むのは避けられない事態となっている。

 

「プランタジネットを成功させてブライ議員が鬼だと公表すると言うのは……」

 

「それは恐らく無理だね、レフィーナ中佐。ブライは馬鹿じゃない、ノイエDCを切り捨てるんだ。自分が不利や劣勢になるように立ち回ることはない、このプランタジネット自体が罠と言っても良いんだからね」

 

ブライアンの言葉はこの場にいる全員に重く圧し掛かる。連邦本部がブライに押さえられており、言論操作に鬼の成り代わりによっていまや連邦軍の内部は権力闘争と鬼による扇動でガタガタ、その上大統領府襲撃の際にビアンが2人目撃されたことで人の中にも鬼が生まれてしまった。

 

「疑心暗鬼、本来協力し合えるはずがそれすらも難しくなっている」

 

「その上ノイエDCの中にも鬼とそうじゃない者が居る。彼らを見捨てる訳にも行かない」

 

ビアンが本物だと思い、地球を救うという決意によってノイエDCに参加した者も多くいる。それらの軍人はダイテツ達と志を共にするものだ。そんな者達をみすみす見殺しにするなんて事は出来る訳もない。仮に見捨てたとなればブライはそれすらも利用し、ダイテツ達を初めとしたL5戦役の英雄達の評価を地に落とすだろう。

 

「戦っても駄目、逃げても駄目、敵の首魁がいる場所も分かっているのに攻撃を仕掛けることも出来ない……本当に完全に積みだよ。お手上げだ」

 

「諦めるのか? ブライアン」

 

「まさか。出来る限りの手は打たせて貰うさ……とは言えなぁ、僕はブライに助けられた事になっているし、ラングレーは恐らく敵勢力が全て出てくるだろうし……どうしたものか……」

 

知恵者がこれだけ集まっても名案は何一つ浮かばない、それほどまでにブライが用意した包囲網はダイテツ達を取り囲んでおり、仮にプランタジネットを切り抜ける事が出来たとしても、その先に待っているのは今まで暗躍していた百鬼帝国が表へと進出して来る事、そしてブライが政権を取ることで考えられる最悪の展開――。

 

「恐らく我々は分断される事になるだろう」

 

「でしょうね、戦力分断は戦の基本ですから」

 

プランタジネットで纏めて叩く事が出来なければ今度は各個撃破を試みてくるだろう。インスペクター、あるいは百鬼帝国の軍勢が待つところへ戦力を分散した状態で向かう事になる……それは途方もない絶望的な戦いに身を投じることと同意儀だ。

 

「私はそれよりも月が心配です。百鬼帝国には人を鬼に改造する術がある。月の住民が心配です」

 

「……確かに月の全人口の半分以上が月へ残されているからな。そちらの救出も急務か」

 

百鬼帝国とインスペクターに制圧されている月とムーンクレイドル、そこの住人すべてが鬼に改造されているかもしれないと言う最悪の予想が脳裏を過ぎる。テスラ研を奪還し、ダイゼンガーとアウセンザイターというビアンが心血を注いだスーパーロボットも加わった。だが状況は決して好転する事無く、悪化の一途を辿っているのだった……。

 

 

 

 

 

 

オペレーション・プランタジネットでラングレーへ向かってくるハガネ達を待ち構えてる陸皇鬼の一室ではアクセルの苛立った声が響いていた。

 

「……W15、貴様に与えられていた指令は敵の戦力を削ぐ事だった筈だ。 そして……対象外はヘリオス・オリンパスのみ……何故、ゼンガー・ゾンボルトを助けるような真似をした?」

 

スレードゲルミルの戦闘データの開示によってゼンガーの手助けをしたウォーダンの行動が明らかになり、アクセルがウォーダンへと詰問を行なっていた。アクセルの攻める口調にも、殺気を込めた視線にもウォーダンは動じる事無く、一切の弁解もせずアクセルの言葉に耳を傾けているがその態度にアクセルは更に苛立ちと怒りを覚える。

 

「結果、奴は新型を手に入れ……連中の戦力は増強されてしまった。……つまり、貴様は指令を無視したことになるが、ラミアとエキドナのように俺達を裏切る算段でもしているのか?」

 

「そんなつもりはない……ただ俺は奴と互角の勝負をする為に手助けをしただけだ、それを責められる謂れはない」

 

人形の分際でとアクセルが声を荒げようとした時、龍王鬼の上機嫌な笑い声が響き渡った。

 

「良いぜ良いぜ、そういうのは大好きだ!どうせ戦うのなら最強の状態の敵と戦いてえよなあッ!!」

 

「龍王鬼…これは俺達シャドウミラーの話だ、割り込まないで欲しいのだが?」

 

アクセルが殺気をこめながら龍王鬼の名を呼ぶと、その後から姿を見せた闘龍鬼が腰に刺している剣の柄に手を回す。

 

「お前達は龍王鬼様の慈悲で陸皇鬼にいさせてもらっているに過ぎない。立場を弁えるのは貴様だ、アクセル・アルマー」

 

「まぁそう互いに殺気だつなよ、本番はこれからだろ?」

 

一触即発という雰囲気の闘龍鬼とアクセルの間に龍王鬼が割って入るが、その目は鋭くこれ以上揉めれば龍王鬼と戦う事になると悟り、アクセルは構えを解き、ウォーダンへと更なる問いかけを行なう。

 

「互角の勝負をしてどうするつもりだ? それで貴様が敗れたら? お前は永遠の闘争の世界を支える為の存在だと判っているのか?」

 

「それは違う、俺はメイガスの剣。他のWシリーズとは与えられた役割が違う。アクセル隊長こそ、俺の任を理解しているのか?」

 

ウォーダンの挑発めいた言葉にアクセルの額に青筋が浮かび、その様子を見てレモンは楽しそうな笑い声を上げた。

 

「1本とられたわねアクセル。ウォーダンはメイガス、アースクレイドルを守るという事が第一目標と設定されているわ、ほかのWシリーズと同等に考えた段階で貴方の負けよ」

 

アースクレイドルは後に永遠に続く闘争の世界を作る為に量産型Wシリーズの製造拠点の1つとなる予定だ。だからこそウォーダンにはメイガスを守る事がプログラムとしてこの世界に来て組み込まれた。メイガスと同調しなければ自我が不安定であるウォーダンには適任であり、マシンセルによる再生能力を持つスレードゲルミルはアースクレイドルの守護者として適任だった。

 

「ちっ、もう良い、ウォーダン。言ったからには貴様がゼンガーを必ず討て」

 

「……承知」

 

不機嫌そうに部屋を出て行くアクセルをレモンと龍王鬼達は見送り、その姿が見えなくなってから小さく笑った。

 

「聞いたか? 今ウォーダンって呼んだぜ?」

 

「ええ、今まで番号で呼んでたのにね」

 

アクセルはそのあり方を認めれば番号ではなく、名を呼ぶという癖がある。本人は気付いていないようだが、それでもウォーダンのあり方はアクセルから見れば十分に認めれるだけの物があったという訳だ。

 

「さってと、俺様達もそろそろ準備をするかね」

 

「あら、結構気が早いのね?」

 

「おうよ! 武蔵とも戦いてえしよ! 龍虎王も悪くねぇ、俺様はラングレーでの戦いが楽しみで仕方ねえよ!」

 

歯を剥き出しにて笑う龍王鬼は拳を掌に何度も打ちつけ獰猛に笑った。

 

「おう、ウォーダンもがんばれよ。ダイゼンガーだったっけか? ありゃ強いぜえ、お前が戦うっていわねぇなら俺様が戦いたいくらいだ」

 

龍王鬼が笑いながら言うとウォーダンが前に出て、龍王鬼の前に立った。

 

「ゼンガーは俺が倒す、余計な横槍は止めて貰おうか」

 

殺気ではない、闘志を叩きつけられた龍王鬼は子供のように楽しそうに笑い、ウォーダンの肩を叩いた。

 

「分かってるぜ、そう焦るなよ。なーに、プランタジネットとかいう奴の百鬼帝国側の指揮官は俺だ、お前とゼンガーの戦いに邪魔はさせねえよ。思う存分正々堂々一騎打ちで戦いな!どうせこの戦いはよ、始まりだからな。」

 

「始まりって……ここで終わりにするんじゃないの?」

 

インスペクター、百鬼帝国、シャドウミラー……ハガネ達に敵対するすべての勢力がラングレー基地に集まり、テスラ研では多少のイレギュラーがあったが、間違いなく中破クラスの損傷を全ての機体が負っている筈、その上で高官に成り代わっている鬼の指示により、上層部の情報を操作し補給も整備の時間も禄に取らせず、ラングレー基地に向かってきているハガネの現状はある意味レモン達が経験した戦いよりも遥かに厳しい状況だ。それなのに龍王鬼は始まりだと告げた、その真意をレモンが問いかけると龍王鬼はにやりと笑った。

 

「戦場には流れがある、戦いの流れだ。その流れが俺様に言っているのよ、これで終わりじゃないってな」

 

「勘って事かしら?」

 

龍王鬼の話には何の根拠も確信もない、科学者としては到底受け入れらない勘という物ではないか? とレモンが口にする。

 

「勘さ、だけど俺様の勘は良く当たるんだぜ? 嘘だと思ってるなら良く見てな、この戦い。俺様達は誰も殺せねえよ。行くぜ、闘龍鬼」

 

「はっ」

 

殺せないと言い切った龍王鬼が闘龍鬼と共に部屋を出て行く、その姿を見送りながらレモンの頭の中はありえないと言う言葉で一杯だった。周りが全て敵、そして援軍も応援も望めない絶望的な状況に追い込んだというのに誰も殺せないと龍王鬼は言い切った。

 

(何故かその通りだと思ってる……どうして?)

 

龍王鬼の言葉には説明出来ない説得力があり、レモンは完全に混乱していた。それと同時に奇妙な事に龍王鬼の言葉が真実であるとありえないと思いながらも確信してしまっていた。

 

「ウォーダン、行きましょう。貴方の調整をするわ、ゼンガーと本気で戦えるようにね。そしてゼンガーに勝って、貴方は本当の意味でウォーダン・ユミルになるのよ」

 

「……承知」

 

龍王鬼の言う通りなら、ラングレーで想像を絶する何かが起きる。そして龍王鬼は誰も殺せないと言ったが、自分達が殺されないとは口にしていなかった。プランタジネットまでの僅かな時間、自分に出来る全てを行なおうとレモンは部屋を後にするのだった……

 

 

 

 

 

ネビーイームに転移してきたヴィガジは瀕死の重傷を負いながらも、自分がテスラ研で何を見たのか、そして何が起こったのかを記録したデータディスクをウェンドロに託し、意識を失った。無能な部下を嫌うウェンドロだが、ここまで行なわれればある程度の慈悲は持ち合わせていた。

 

「ヴィガジを培養ポッドへ、死なせるんじゃないよ」

 

『了解』

 

バイオロイドに命じ、治療ポッドに眠らせる程度だが……その忠義を少しだけかう事にしたのだ。そして戦闘データを見たウェンドロは即座にブライへ通信を繋げた。

 

「ブライ、君が言っていた事とはまるで違うことになっているが、これはどういうことかな?」

 

ダイゼンガー、アウセンザイターと言うゲッター炉心で稼動する特機の存在は聞いていなかったと批判するとブライは意外にも謝罪の言葉を口にした。

 

『それに関しては私のミスだよ。申し訳ない、まさかあんな機体がテスラ研にあるとは想像もしていなかった』

 

「補給路とかはしっかり監視していたんだろう? ヴィガジを謀殺でもするつもりだったのかい?」

 

『まさか、そんな事をするつもりは無かったよ。どうやってテスラ研にあれだけの機体の材料を運び込んだのか今も皆目見当が付かない。

少々ビアンを甘く見ていたかもしれない、しかし申し訳無い事をした。テスラ研をみすみす奪還させる事になってしまったことを謝罪しよう』

 

ビアンの頭脳を甘く見ていたのが原因であり、ヴィガジの負傷とテスラ研奪還については自分の責任だと謝罪するブライに、ウェンドロは僅かに眉を細める。

 

「この調子でプランタジネットを実行して大丈夫なのかい?」

 

『確かに不安要素はあるが、ここまで来て止める訳にもいくまい? ここまでの好機はそうそうないと思うがね?』

 

疲弊させ、補給も整備も満足に行えない状況に追い込み、全ての勢力が集結している今、ラングレーは確実にハガネ達を沈める為の完璧な布陣と言える。だがそれでもウェンドロには拭いきれない不信感があった……確かに元々ブライを信用しているわけでは無いがそれでも謎の異形の巨人の出現と共に姿を消した百鬼獣には不信感を抱いていた。目の前の餌を利用し、自分達を捨て駒にしようとしているのではないか? と考えを払拭する事が出来ない。

 

『今回の件で私達に不信感を抱くのは当然だ。ならばプランタジネットの戦場では我々が先陣を……いや戦力の7割を我々が補填しよう、そして流石に百鬼帝国の指揮官である龍王鬼まで其方の言う事を聞かせるわけには行かないが、それ以外の戦力の指揮権は全て其方に譲渡しようではないか』

 

「……何を企んでいるんだい?」

 

明らかにウェンドロ達にとって有利すぎる条件の提示にウェンドロはブライの真意が分からなくなる。

 

『これは私の誠意の形だ。共に協力し合うのにくだらないいがみ合いは良くない、そうだろう?』

 

敵は自分達ではなくゲッターロボである筈だと遠回しに言うブライにウェンドロは深い溜め息を吐いた。

 

「分かった、分かったよ。今回は君の事を信じよう、その代りこちらも1つ条件を出させてもらう」

 

何もかもブライの思い通りにさせるわけには行かないとウェンドロもプランタジネットを実行する上で何もかもブライの敷いたレールで行動するのは余りにも危険だと再認識したのだ。

 

『かまわないよ、何を望むかね?』

 

「こちらの損傷度が4割を越えたら僕達は撤退する、こんな不確定要素が多すぎる戦いを深追いするつもりはないんだよ』

 

ゲッターD2に匹敵する可能性を秘めたダイゼンガー、アウセンザイターがいる以上。オペレーション・プランタジネットを利用し、ハガネ達を沈めると言う作戦には懐疑的にならざるを得ず。損傷が軽微の内に離脱する権利を貰うと言うウェンドロの要求はブライにとっても眉を顰めるものであったが、今回の事を考えればインスペクターが手を引くと言い出すのは当然の事であり、早期撤退要求で済めば御の字と認めざるを得ずブライはウェンドロの要求を呑む事となった。

 

「それと今回の件が失敗したら、次の作戦は僕の主導でやらせてもらうけど良いよね?」

 

『かまわないさ、纏めて倒すと欲張ったのが敗因だと言うのならば今度は各個撃破だ。幸い私は上層部に指示を出せる立ち位置にいる、戦力を削いだ上であの艦隊のいずれかを宇宙へ送ろう、そのあとは全て君に任せるよ』

 

プランタジネットが失敗したのならば次は各個撃破と作戦を切り替える必要があるのは誰の目から見ても明白で、ブライはウェンドロの条件を飲んだ上で、確実に仕留める状況を作ると提案する。

 

「それくらいで良いかな、じゃあプランタジネットが成功するといいね」

 

そう笑ったウェンドロは通信を切り、次の計画を練り始める。それはプランタジネットは成功しないと確信しての行動だった。

 

「やれやれ、あの程度で済んでよかったと思うべきだな。さてと……テスラ研に現れた妖機人だが、あれはバラルの手の物か?」

 

テスラ研での戦闘をめちゃくちゃにしてくれた鋳人について問いかけるブライに共行王は怒りのせいか、その目を真紅に輝かせながら返事を返す。

 

「間違いない、あの腐れ仙人が使役する妖機人じゃ、鬼よ」

 

「分かっているさ、ただし妖機人が出現するまで待機だ。バラルへの宣戦布告は万全の状態で行なうべきだ……ワシも正直腹に据えかねている」

 

万全の準備をし、戦力をそぎ落とした。ブライの計画ではテスラ研に辿り着く前にそこでハガネ、ヒリュウ改、シロガネ、クロガネのいずれかは大破に近いダメージを与える予定だったのだが、それを崩されあまつさえ戦況さえも乱してくれたバラルにはブライも強い怒りを抱き、普段隠している角を露していることからその怒りの深さが容易に分かる。地球の明暗を分けるオペレーション・プランタジネット――しかしその行く末は誰にも予想が出来ぬ物へとなりつつあるのだった……。

 

第170話 オペレーション・プランタジネット その1へ続く

 

 

 




今回の話はインターバルでした。どの陣営も己の計画が乱され想定していない戦いに身を投じる事になります。そしてバラルの仙人が現れるかもしれないという嫌なフラグも用意しておきました。混迷を極めつつあるオペレーション・プランタジネット、それがどんな結末を迎えるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第170話 オペレーション・プランタジネット その1

第170話 オペレーション・プランタジネット その1

 

テスラ研での短い休息と万全とは言えないが補給を済ませたハガネ、シロガネ、クロガネ、ヒリュウ改の連邦――いや、地球においての最大戦力である4隻の戦艦はラングレー基地へとその進路を進める。

 

「このままの進路で行けば恐らくですがどこかで待ち伏せを喰らいますね」

 

『ああ、私でもそうする。問題は……どこで待ち伏せされるかだ』

 

インスペクターと百鬼帝国もハガネ達が最大の敵と認識しているのは間違いない。だからこそテスラ研への進路を塞ぐように無人機と百鬼獣を展開して来たと思われる。正直ダメージは深刻であり、プランタジネットの成功率は現段階で想定を遥かに下回っている。

 

『ワシならばマンハッタン隕石孔で部隊を展開する。あちらの戦力はAMが主体だ、その上百鬼獣もいる。それに対してこちらの戦力は万全とは言い難い状況だ』

 

ゲシュペンスト・リバイブは武蔵の救出から受けたダメージが大きく、テスラ研で予備パーツは受け取ったがそれを組み込み、調整する事を考えれば会敵予測ポイントまで……もっと言えばラングレー基地に辿り着くまでに間に合うかも怪しい。

 

フライトユニットとゲシュペンスト・MK-Ⅲは予備機があるが、百鬼獣相手では力不足であり、運用するにも不安が残る。

 

百鬼獣相手でも戦える火力のある機体と言えばアルトアイゼン・ギーガ、グルンガスト、ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMタイラント、ネオゲッターロボと言った機体もあるが陸上用の機体であり水中では十分な戦闘力は発揮出来ない。ゲッターD2、轟破・鉄甲鬼、ダイゼンガー、アウセンザイターは飛行が可能で火力もあるが、連戦が予想される以上初っ端から切れる手札ではない。

 

「ビアン博士、ゲッター炉心の調子はどうなんですか?」

 

『レフィーナ中佐。期待に応えられず申し訳ないが、五分五分と言った所だろうね。宇宙ならもう少し回復するかもしれないが……全力戦闘を想定するのならばラングレーまで温存するべきだ』

 

地球でのゲッター線の密度の低さ……ゲッターD2はメタルビースト・SRXとの戦いで枯渇したゲッター線が十分に回復していないし、ダイゼンガーとアウセンザイターは炉心の休眠期間が長すぎて出力が不安定だ。轟破・鉄甲鬼は炉心こそ安定しているがテスラ研でのダメージが余りにも大きいので少しでも修理に専念したいと言うコウキの意向で出撃見送りだ。

 

「一番の問題は時間ですね」

 

「いっそのこと作戦開始時間に遅れるというのはどうですかな?」

 

オペレーション・プランタジネット自体が罠である可能性が高いのだから、いっその事遅れて向かうのはどうですか? と言うショーンの提案にビアンが待ったを掛けた。

 

『それは出来れば避けて欲しい。今連絡が入った、これを見てくれ』

 

各戦艦のブリッジに映し出されたのはラングレー基地の戦力の展開図だ。詳細まで詳しく記されており、その図を見ればビアンが待ったを掛けた理由も自ずと判ってくる。

 

『スパイを送り込んでいたのですね。ビアン博士』

 

『その通りだ。テツヤ大尉、私の部下で最も信用出来る者達をノイエDCへと送り込んでいた。鬼が実権を取るまでは仔細な情報を手にする事が出来ていたんだ』

 

『確かサマ基地の大佐もそうだったな』

 

サマ基地での指揮を取り、部下を最後まで逃がすことを優先したルーデンだが、共行王の襲撃の際に重傷を負い、ダイテツ達に少しの百鬼帝国の情報とビアンの部下という事を伝えた後に意識を失い、メディカルルームでの治療が功を奏し生きてはいるが今だ意識不明の重態だ。しかしルーデンが医療兵に託した情報は決して無駄にならず、鬼への脅威、そしてその性質を知る為に見事役立ってくれた。

 

「まさか今ラングレー基地に向かっているノイエDCの兵士は」

 

『皆私と志を共にした地球を守るために命を掛けて百鬼帝国に潜り込んでくれた勇士だ。彼らを見捨てるような真似はしたくないのだよ、レフィーナ中佐』

 

ラングレー基地奪還作戦に参加しているノイエDCの兵士の多くがビアンの仲間となればショーンの作戦開始時間に遅れるという策は使えない……だが名案を思いつくまでインスペクターも百鬼帝国も待つ訳が無く、敵機を補足した事を知らせる緊急警報がブリッジに響き渡るのだった……。

 

 

 

 

漸く修理と改修が終わった愛機であるシルベルヴィントのコックピットに座るアギーハは居心地悪そうにその顔を歪めていた。

 

「ダーリン、なんか落ち着かないよ」

 

『……』

 

「ダーリンもかい? ウェンドロ様の命令って言ってもやっぱりあたいはシルベルヴィントにゲッター合金を使うのは嫌だったよ」

 

グレイターキン、ガルガウに続きゲッター合金で強化されたシルベルヴィントは両腕の高周波ブレードが中心で分割しエネルギー刃やビームを放つ機能が追加され、機動力の為に犠牲になった装甲も軽量で柔軟性の高いゲッター合金で強化された……それなのにアギーハにはこの改良されたシルベルヴィントがどうしても気に入らなかったのだ。

 

「それに鬼と一緒だろ? あいつら本当に信用できるのかい?」

 

『……』

 

「不安だよ。ダーリン……ゲッター線には関わっちゃいけないんだよ……」

 

アギーハにはシカログが言葉を発さなくても何を言っているのか分かる、大丈夫だというシカログの言葉でもアギーハの中の不安が消えることはない。

 

『……大丈夫だ。お前は俺が守る』

 

とても低いシカログの声がシルベルヴィントのコックピットに響いた。アギーハが1番安心するのは自分の声しかないと判断したからだ。

 

「……うん、ダーリン。ちゃんと守ってね」

 

『……ああ。約束だ』

 

インスペクターであるアギーハとシカログは地球人からすれば侵略者だが、それでも心も感情もある。ヴィガジのように妄信的にウェンドロに従う事も、メキボスのようにいざとなればウェンドロを止めると言う覚悟も無い……ゲッターロボに対する恐怖の伝承が色濃く残されている星の住人であるアギーハとシカログにとっては、ゲッター線に関わる事は禁忌に等しかった。査察官としての責務を果たすという責任感とゲッター線に対する恐怖心……どちらが上かと言えば言うまでも無くゲッター線、強いてはゲッターロボに対する恐怖心が上回っていたからこそ、普段の女傑ではなくシカログにしか見せない弱い女の面が出てしまっていたアギーハだったが、ハガネ達が空域に向かって来ていると言う報告を聞いて意識を切り替える。

 

『……』

 

「大丈夫だよ、深追いはしないよ。ダーリンも気をつけてね」

 

廃墟の中に身を潜めるドルーキンを見送り、目を閉じて深く呼吸をしたアギーハがその目を開くと、燃えるような闘志の光が宿っていた。……ゲッターへの恐怖はある、それでも査察官としての責務を果すという強烈な責任感が今のアギーハを支えていた。

 

「また会ったね。マサキ・アンドー」

 

『てめえ、アギーハッ! お前までいやがったのかッ!』

 

「まぁねえ。やられっぱなしじゃ格好がつかないからね。それに、鬼とやりあって随分消耗してるんだろ? ならあたい達にとっちゃ好都合さね」

 

ざっと見て、ゲッターロボが出撃していないのを確認したアギーハは瞬く間にいつもの調子を取り戻し、挑発を入り混ぜた言葉を投げかけながらも、既にその頭の中では撤退の算段を始めていた。

 

(消耗した状態でゲッターロボと戦うなんて、死にに行くようなものだよ……いないなら好都合、鬼に全部押し付けておさらばだね)

 

消耗しても、してなかろうともゲッターロボと戦うなんて冗談じゃないと考えているアギーハは、適当な所で百鬼獣に全てを押し付けて撤退出来るように転移システムの設定を行なう。

 

『消耗させてから叩こうなんて、随分とずっこい真似するじゃないか。正々堂々真っ向から戦うって考えはないのかい?』

 

『でもさ、消耗させてから叩こうとして返り討ちにあうって良くあるぜ?』

 

『そうそう、後は手加減して誘い込んで、罠に嵌めて勝利を確信して負けるとかね』

 

次々に聞こえて来る声に、アギーハは思わず声を上げて笑った。挑発してるわけではなく、図星だったからだ。

 

「本当そうだよね、あたいだってそう思ってるよ。でもさ、こっちも仕事でね。本当はゲッターロボがいる星なんて来たくなかったんだよ、あたいはさ」

 

アギーハからのまさかの言葉にハガネのクルー達に困惑が広がるが、それすらもアギーハの作戦の1つだった。

 

(地球人って言うのは情に厚いらしいからね、まぁ駄目元で同情でも買っておくかね)

 

逃げ帰った所で査察官の地位は剥奪されるが死ぬよりかはマシだ。そもそもゲッター線がある星に来たくなかったと言うのはアギーハの偽らざる本音でもあった。

 

「あたい達の星じゃね、ゲッター線は宇宙を滅ぼす光とか、救世の光とか色々言われてるんだよ、まぁ本当に色々あるんだけど下手に関わるもんじゃないってのは共通してるさ。枢密院もこの星系を隔離しようとか同盟を結ぼうとか、植民地化するとかまぁこっちもドタバタしてるのさ」

 

真実と嘘を織り交ぜたアギーハの言葉に困惑と疑惑が広がる。その気配を感じ取り、アギーハはやっぱり地球人が情に厚いって言うのは本当なんだねぇとほくそ笑んだ。

 

「まぁあたいも宮仕えだからね、上の連中にゃ逆らえないのさ。だけども自分の意志で戦ってないとは言わないけどね。少なくともあたいは百鬼帝国やヴィガジみたいに地球人は害悪だ、殺せなんて考えちゃいないのさ。だからまぁ、ちょっと手加減してくれたりしたら嬉しいかな♪」

 

これで十分に楔は打ち込んだろとほくそ笑んだアギーハだったが、ヴァルシオーネのリューネから投げかけられた言葉に一気に頭に血が上った。

 

『ぶりっ子してるんじゃないよ! おばさんッ!!』

 

「お、お、おばさんだってッ!? あたいはまだ20代よッ!!」

 

『あっそ。 じゃ、四捨五入したら?』

 

続いたリューネの言葉にアギーハは言葉に詰まった。四捨五入したら自分の年齢はおばさんと言われてもしょうがない年齢だったからだ。

 

「う……うるさいねっ! お前はどうなんだいッ!?」

 

『殆どウチの皆は四捨五入しても20だよ。お・ば・さ・ん♪』

 

リューネの煽りの言葉に煽り耐性は高いが、年齢という女にとって触れてはいけない部分を触れられたアギーハは完全に怒り狂っていた。

 

『ん~ウチの部隊の皆は大体そうかもしれないけど……ねぇ?』

 

『あ……ああ、そうだな』

 

『そ、そうね……』

 

余りにもデリケートな部分の話であり、20歳を越えているエクセレンやカチーナ、ラーダはなんとも言えない反応をする。だがリューネも考えなしで挑発したわけではない、ちゃんと考えた上での挑発だった。冷静さを保てればリューネの挑発に気付く事も出来たが今のアギーハにはその挑発に気付くだけの冷静さがなかった。

 

『とりあえず、 若さじゃあたし達の方が完全に勝ってるね』

 

アギーハに挑発しつつ振り返ったヴァルシオーネがウィンクをハガネとヒリュウ改に向けてから、シルベルヴィント改に向けて手を叩き、挑発し、シルベルヴィント改から背を向けて飛翔する。

 

『鬼さんこちら、手の鳴る方へ♪』

 

「ま、待ちなッ! こ、この小娘がぁッ!!!」

 

完全に冷静さを失ったアギーハは背を向けて逃げていくヴァルシオーネを追ってシルベルヴィント改を上昇させてしまうのだった……

 

 

 

 

街の地下で潜んでいるドルーキンのコックピットでシカログは頭を抱えていた。アギーハの悪い癖が出てしまったと……どんな女性であれ、結婚適齢期を迎えていたりすれば焦りはするし、特に年齢に関してはデリケートな部分で容易に触れてはいけない部分という事はシカログも知っているが、そこはやはり男。加齢による肌の曲がり角の焦りという物はどうしても理解出来ない部分になる。

 

(……作戦変更指令……)

 

メキボスから送られて来た作戦内容変更の指示の電文を見て、シカログはシルベルヴィント改へいつもの癖で電文による通信を送る。シカログが無口なのは地球とは異なるが宗教の一種であり、既に廃れた宗教の風習ではあるがシカログはそれを頑なに守っているのだ。

 

『おばさん、おばさんっ! ほら、アイビスも言ってやれば良いよ』

 

『え、あ……うん。おばさん』

 

『しっかりやっていれば良いんだ。おばさん』

 

『誰がおばさんかあッ!!!』

 

おばさんを連呼されて完全に頭に血が上り、ヴァルシオーネ、アステリオン、ベルガリオンを追い回しているが、冷静さを欠いているシルベルヴィント改を駆るアギーハにいつもの精彩は感じられず、電文による通信を諦め通常通信を試みる。

 

「……アギーハ」

 

『誰が、誰がおばさん……ッ! あたいはまだ若いんだよッ!!』

 

「……アギーハ」

 

『そりゃちょっと化粧の乗りが悪いなとか思い始めたし、ちょっと白髪も生えてきたけど……まだ若い』

 

「アギーハ」

 

『え? あ、ダーリン……ごめん、どうかした?』

 

三度目の声掛けでやっと返事を返したアギーハにシカログは頭を振る。

 

「……バイオロイドに防御命令を出せ、その後撤退する」

 

『良いのかい?』

 

「メキボスからの指示だ。俺とお前はネビーイームに戻る。インベーダーと謎の生物の襲撃を受けているらしい。ラングレーはメキボスが防衛する」

 

どの道、シルベルヴィント改とドルーキン改の熟練訓練を終えていない今、まともな戦闘が出来ないのはヴァルシオーネ達を追い切れていないので明らかだ。

 

「……」

 

『分かったよ。ダーリン、帰ろう。でも只じゃ帰らないんだろ?』

 

冷静さを取り戻したアギーハは言葉が無くともシカログの意を汲み取り、ヴァルシオーネ達を追い回すのを止めシルベルヴィント改を反転させる。

 

『悪いけど遊びはここまでだよッ! 行くよッ!! ボルテックブラスターッ!!!』

 

シルベルヴィント改の周りに発生したエネルギーの渦に背部から射出されたゲッター合金製の槍が撃ち込まれ射出された槍がまるで太陽のように光り輝いた。

 

『散れッ!! 一箇所に固まるなッ!!!』

 

ゲッター合金製の槍が空中で無数に枝分かれし、まるで流星群のように降り注いだ。狙いは甘いが、ゲッター合金の固さに加えて速度、エネルギーで爆発的に破壊力を高めたボルテックブラスターは狙いをつける必要など無く着弾と共に周囲に凄まじいエネルギーの奔流を撒き散らし、命中しなくとも甚大な被害を周囲に齎す。

 

「ッ!!!!!」

 

そしてボルテックブラスターの余波でレーダー等が死んでいる隙をシカログは見逃さず、ハガネ達が自分の頭上を通過する寸前に大地を砕いて姿を現し、両手に持ったハンマーを頭上で振り回す。巨大な質量と膨大な運動エネルギーを伴ったその一撃はE-フィールドを貫き、ハガネ、シロガネ、ヒリュウ改、クロガネの船体に一撃ずつ命中する。

 

『よっし、あたいらはこれでおしまいだよ。それじゃあねえ~♪ それと、あたいをおばさんっていった奴ら絶対殺すから。ま! ラングレーで死ぬかもしれないから、その時はまぁ許してやるよ!』

 

撃墜には至っていないが敵機に十分なダメージを与え、戦艦にも打撃を与えた。後は無人機と百鬼獣との戦いで更に消耗する事になる……そうすれば百鬼帝国に十分に顔は立つだろうと、この場に残れば全てを撃墜する事も十分に可能だったが、ネビーイームがインベーダーに襲撃を受けているとなればこれ以上この場に留まる事は出来ず、捨て台詞にも似た言葉を残して転移したアギーハとシカログ。

 

『くっ! 姿勢を立てなおせッ!』

 

『高度、速度共に低下ですッ!』

 

ハンマーの被害が大きかったのは船底の下部に直撃を受けたハガネとシロガネの2隻で、高度と速度が大幅に低下する。

 

『牽引用のワイヤーを射出してください! 本艦でハガネを牽引します!』

 

『ならシロガネはクロガネが牽引する! 状況が変わった、温存などしていられん! 出撃だッ!』

 

速度が落ち、自力での航行が難しくなったハガネとシロガネをヒリュウ改とクロガネが牽引するが、無人機の群れと百鬼獣は今だ健在、その上ボルテックブラスターで大破には至っていないが大きなダメージを受けているPT隊では百鬼獣と無人機の群れを相手にするのは不可能だと温存する予定だった武蔵達にビアンが出撃要請を出す。

 

『いくぜええッ!! チェンジッ! ドラゴンッ!!!』

 

『ダイゼンガー……推して参るッ!!!』

 

『行くぞッ! トロンベよッ! 今が風になる時ッ!!!』

 

ゲッターD2、ダイゼンガー、アウセンザイターの出撃によって戦況はダイテツ達に有利に傾いたが、ラングレーを前にして大きく消耗する事へとなるのだった……そしてそれはネビーイームに帰還したアギーハとシカログも同じで、2人の目の前に広がったのは無人機に組み付きメタルビーストへと変化させるインベーダーの群れ、群れ、群れ、数えるのも馬鹿らしくなるほどのインベーダーの群れだった。

 

『……これなら向こうの方が楽だったね』

 

「……」

 

ゾヴォークでも危険視されているインベーダーの群れとゲッターロボが出現するかもしれない地球の戦場――どっちが楽だったかとぼやきながらアギーハとシカログはインベーダーとの戦いに身を投じるのだった……。

 

 

 

 

 

陸皇鬼の一室で文による連絡を受けたユウキは弾かれたように部屋を飛び出し、通路にいた虎王鬼と鉢合わせた。

 

「あら? そんなに急いでどこに行くのかしら?」

 

「カーラと打ち合わせに」

 

「ふーん……打ち合わせねぇ」

 

虎王鬼の探るような視線にユウキは背筋に冷たい汗が流れるのを感じる。思わず身体が強張ると虎王鬼はそんなユウキを見て笑い、その顔をユウキの顔へと寄せる。そして世間話のようにユウキが隠してきた事実を告げた。

 

「別にとって食うつもりはないわよ? ビアンの間者さん」

 

「ッ!?」

 

耳元で告げられた言葉にユウキが思わず後ずさり、腰に手を回そうとする。倒せないにしろ、手傷を負わせてカーラを連れて逃げようとしたユウキだったが、龍王鬼の言葉と共に背後から伸びた腕に止められる。

 

「おいおい、こんな所で武器を出すんじゃねえよ。ユウキ」

 

「り、龍王鬼さん」

 

「おう、俺様だぜ」

 

掴まれた腕は少しでも龍王鬼が力を込めれば容易に砕け散るだろう、それを悟ったユウキはここまでかと覚悟を決めた表情を浮かべる。

 

「そんなに絶望しなくてもいいのにねぇ?」

 

「おうよ、俺達は別にお前を責めるつもりはねえぞ? 今まで良く俺様達の為に働いてくれた、ご苦労さん」

 

腕を放され、頭を軽く叩くように撫でられ、ユウキの顔に困惑の色が浮かぶと、龍王鬼はその丸太のような腕をユウキの首へと回す。

 

(上手く逃げ切ったらよ、ハガネに逃げ込むんだろ? そしたらよ、こいつをあー、アド? に渡してくれや)

 

龍王鬼がユウキに渡したのは紅い1枚の札。そしてアラドを助けてやれという言葉にユウキは困惑を隠せなかった。自分をスパイだと知った上で何故殺しもしないのか、そして見逃そうとするのか……ユウキには龍王鬼の行動全てが理解出来なかった。

 

(虎がよ、ゼオラを正気に戻すのに色々と考えて作った奴だ。死んだらおしまいだが、生きてたら切り札になるだろうよ)

 

そう告げた龍王鬼。その気になればユウキの首をねじ切る事も可能なその腕は、身構えているユウキを馬鹿にするようにユウキの首を離れ、龍王鬼は背伸びをするような素振りでユウキから背を向ける。

 

「……何故ですか」

 

「何故? さあねえ? 俺様は鬼だが心まで鬼になったつもりはねえんでね。やっぱりよ、姉弟……いや家族は一緒にいるもんだろ? それとお前は良く働いてくれたからよ、ここじゃあ殺さねえ。それだけだ」

 

「そういうこと。あと、ちゃんとカーラにも声を掛けて、お仲間さんにも連絡くらいしておきなさいよ? 今度の戦いは半端じゃないからね。逃げ切れるかどうかは知らないけど」

 

自分をスパイと知りつつ、それを見逃した龍王鬼と虎王鬼の2人……確かに2人は鬼であったが、間違いなく誰よりも人の心を持っていた。ユウキは龍王鬼達の後ろ姿に小さく頭を下げるとカーラを、そして自分と同じ様にノイエDCにもぐりこんでいたビアン派の軍人の元へと走り出すのだった……

 

 

 

第171話 オペレーション・プランタジネット その2へ続く

 

 




今回の話は短いので次の話とセットで2話連続更新とさせていただきます。特定のエリアに辿り着くだけの話は本当に書く内容が無くて困ります。ただいきなりラングレーって言うのもあれなので短いですが、この話を執筆させていただきました。ではこの後続けてプランタジネットその2もお楽しみください。


PS

DDで

ダブルオーSSRを無事入手。刹那は全然育ててませんでしたが、今後間違いなく強化されるので獲得しておきました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第171話 オペレーション・プランタジネット その2

第171話 オペレーション・プランタジネット その2  

 

オペレーション・プランタジネットに参加する事が強制されたカーラは陸皇鬼の内部に用意された部屋のベッドに腰掛け、写真を見つめていた。

 

「……お姉ちゃん、頑張るからね」

 

ノイエDCは正義の組織ではなく、鬼の傘下の組織である。それでも全てが全て悪ではなく、龍王鬼のように鬼でありながら人道を説く鬼もいる、人に悪人と善人がいるように鬼にも善人と悪人がいるそれだけだ。それに少なくともカーラの目から見ても龍王鬼は信用出来るし、エアロゲイターの襲撃時に自分を助けてくれたユウキもいる……それだけがまだカーラがノイエDCに籍を置いている理由でもあった。鬼に対して思う事がないと言えば嘘になる、本当にノイエDC……いや、百鬼帝国にいても良いのかという不安もある。

 

「はーい、今開けます」

 

亡くした家族の写真を見つめ、思い悩んでいたカーラだったが、ノック音に気付き写真を懐にしまい扉を開けるカーラ。無警戒とも言えるが、龍王鬼の配下が多く非道や外道な行いをする鬼が少ないのを目の当たりにしていたのがカーラが無警戒に扉を開けた理由だった。

 

「え、あっ!?」

 

部屋の中を少し空け、通路にいた鬼を見たカーラは慌てて扉を閉めようとした。だが鬼の膂力は圧倒的で閉めようとした扉が強引に開かれ雪崩込んで来た鬼はカーラに下卑た視線を向ける。

 

「へっへ! ノイエDCはもういらないってよ」

 

「なら我慢する事もねえよなあッ! どうせ殺しちまうんだから少しは楽しまねえとなあッ!!」

 

カーラの目には鬼が右腕を振るったそれしか見えず、次の瞬間には身体がいやに冷たかった。

 

「あ、あ……いやああああああーーーーッ!!!」

 

鬼の一閃で服を破かれ胸が完全に露出し、スカートも引き裂かれ下着が見えているのに気付いたカーラは悲鳴をあげながら手で自分の身体を隠して蹲る。

 

「やっぱり良い身体してるよなあ」

 

「それに今の悲鳴がいいぜ、これは初物だぜ」

 

「時間が無いんだからよ、さっさと済ませようぜ」

 

「やだ、やめてっ!!」

 

鬼の腕が伸ばされ、胸を隠していた腕が強引に上に持ち上げられ、3人の鬼に裸体を見つめられてるカーラの目に涙が滲む。しかしそんな素振りが鬼――ハガネを迎え撃つ為にアースクレイドルから連れて来られた龍王鬼配下ではない鬼の嗜虐心と性欲を刺激する。

 

「泣いちゃって可愛いねぇ」

 

「大丈夫大丈夫すぐに鳴かせてやるからな」

 

「その後はぜーんぶ綺麗に食ってやるさ、その前に残ってる服も脱がせてやるかな」

 

鬼の腕が殆ど襤褸切れ同然で、腰に引っかかっているスカートと下着へと伸ばされる。

 

「やだやだッ!! やめッ! やめてえええッ!!!」

 

好きでもない相手に身体を暴かれる恐怖にカーラが泣き叫んで暴れるがカーラの力では鬼の片手すら振り解く事はできず、鬼の指先が下着に触れようとした瞬間、

 

「カーラ! 目を閉じろッ!!!」

 

通路からユウキの声が響き、部屋の外から何かが投げ込まれた。

 

「ぎゃあッ!」

 

「め、目があッ!!」

 

「きゃあっ!?」

 

投げ込まれたのはフラッシュバンか何かだったのか、目を焼かれた鬼の手から解放されたカーラはそのまま床に尻餅を付いた。

 

「カーラッ! こっちだッ!」

 

「ユウッ!」

 

目を押さえて悶えている鬼の間を抜け、自分の名を呼ぶユウキの元へ向かうと、すぐにジャケットが頭の上から被せられ、ユウキに肩を抱かれながら通路を走る。

 

「ユウ……ユウ、あたし」

 

「もう大丈夫だ、俺がお前を助ける。もう少しだけ頑張ってくれ」

 

強姦されかけたカーラの精神状態が極めて不安定なのはユウキも分かっていたが、今慰めている時間はなく頑張ってくれと声を掛け、警報が鳴り響く中格納庫へと走る。

 

「ユウキ少尉! 俺達は先に出るぞッ!!」

 

「ちゃんとお姫様をエスコートしてきなさいよッ!!」

 

2機ずつのガーリオンとアーマリオンが陸皇鬼の格納庫を突き破り、外へと飛び出すと陸皇鬼を細かい振動が襲う。

 

「何が……何が起きてるの」

 

「俺達はノイエDCじゃない、ビアン派。つまり正しい意味でのDCになる、ノイエDCと鬼の動向を探る為に潜り込んでいたんだ。良し、カーラ。来いッ!」

 

レモンと虎王鬼が改修した、ラーズアングリフ・ゲイルレイブンへ続く昇降機に乗り込みながらユウキがカーラを呼ぶと、カーラはユウキのジャケットに袖を通して伸ばされたユウキの手を握り締める。

 

「……大丈夫なの? あたしも何かに乗ったほうが……」

 

「そんな格好で操縦させれるか、心配するな。俺が守ると言った筈だ、サブシートで悪いがそっちに乗ってくれ……正直言って……目に毒だ。早く後に乗ってくれたほうがありがたい」

 

下着のみでジャケットを着ているだけのカーラに頬と耳を紅くして目に毒だというユウキの姿を見て、カーラも改めて自分の今の姿を理解し、耳まで真っ赤になりユウキの座っているパイロットシートの後のサブシートに腰を下ろしベルトを身につける。

 

「お、OKだよ、ユウ」

 

「良し、行くぞ。カーラッ!」

 

盾を壊す戦乙女ラーズアングリフは大鷲を意味するレイブン、そして古ノルド語で槍を意味するゲイル、大鷲の翼と槍を与えられた戦乙女は内部から破壊された格納庫から大空へと飛び出して行くのだった……。

 

 

 

 

手の中で暴れる操縦桿を力で抑え込みユウキは先に脱出した同じビアン派の兵士と合流しようとしたのだが……その目論みは一瞬で崩れ去る事になる。

 

「……くっ」

 

「え、うそ……やられ……ちゃったの……?」

 

先に脱出したアーマリオンとガーリオンの姿は無く、無人機達が無機質な殺気を放ちながら手にした武器を向けてくる。破壊され黒煙を上げているアーマリオンとガーリオンの残骸を見てユウキは唇を噛み締め、カーラは目の前の光景が信じられないと声を震わせる。

 

『撃て撃て! 怯むなッ!!』

 

『もうじきビアン総帥が来る! それまで何としても死守せよッ!!』

 

ビアン一派の軍人が乗るライノセラスとAMが必死に応戦しているが、戦力差は圧倒的でユウキ達への支援も、着艦することも望めない絶望的な状況に追い込まれていた。

 

【グルルルオオオオッ!!!】

 

【キシャアアアッ!!!】

 

「ちいっ!!」

 

だがユウキには嘆いている時間も悲しんでいる時間もなかった……虚空から浮かび出る様に突き出された鉤爪を腕部に装着された盾で弾き、ユウキはラーズアングリフ・ゲイルレイブンを反転させる。

 

「作戦変更だ、このまま離脱ではなくハガネが来るまで耐えるぞ」

 

カメレオン型の百鬼獣ではなく、姿を隠す事が出来、より戦闘力の高い鬼の頭部のみの百鬼獣迅雷鬼と漆黒の装甲を持つ闇龍鬼――今出撃している百鬼獣は2体だけだが、4機のレストジェミラに5機ずつのヒュッケバイン・MK-Ⅲ、ゲシュペンスト・MK-Ⅲと敵の数は多い。その上ハガネ達をラングレーに誘い出し、一網打尽にする計画でありインスペクターと百鬼帝国、そしてシャドウミラーにはまだ予備戦力が幾らでもある。

 

「だ、大丈夫なの? ユウ」

 

「大丈夫だ。陣形を配置しているという事はハガネはもうこっちへ向かって来ている。それがどれほどの時間かまでは判らないが……そう長くは無い筈」

 

クロガネからの連絡はジャミングのせいで途絶えているが、ラングレーの近くにまで来ているのは分かっている。だから大丈夫だと繰り返しカーラに告げたユウキは操縦桿を強く握り締め、ペダルに足を乗せる。

 

(とんだじゃじゃ馬にしてくれた物だな)

 

改良されたラーズアングリフは以前の物よりも細身になりつつも、装甲の強度を百鬼獣と同等の素材を使う事で強化し、武装はランスとレールガンを一体化させたガンランスを除き、基本的にはラーズアングリフの物を強化発展させた物となっている。元々が武器庫と称されるほどの火器を内蔵しているラーズアングリフならば弾幕を張りつつ耐久するのは不可能では無いが、動力部まで強化された事でコックピットのレイアウトは同じなのに、全く異なる操縦を強いられているユウキには口調ほど余裕が無かった。だがそれでもここで死ぬわけには行かないと荒れ狂うラーズアングリフ・ゲイルレイブンを全力で押さえ込む。

 

「行くぞッ! 俺の前に立った不運を呪えッ!!!」

 

鈍重な外見からは想像出来ない速度で切り込んだラーズアングリフ・ゲイルレイブンはそのままの勢いで手にしたガンランスでヒュッケバイン・MK-Ⅲの胴体を貫き、ガンランスを振りぬく事で胴体から両断する。

 

『!!』

 

『!!!』

 

バイオロイドであるが故に仲間がやられても動じる事無くヒュッケバイン・MK-Ⅲとゲシュペンスト・MK-Ⅲがフォトンライフルとパルチザンランチャーをラーズアングリフ・ゲイルレイブンへと放つ。

 

「俺を舐めるなよッ!!」

 

ガンランスを保持していない右腕に装着されたシールドがスライドするとラーズアングリフ・ゲイルレイブンは腕を振りフォトンライフルとパルチザンランチャーを弾き飛ばし、超低空飛行で後退しながらユウキは操縦桿のボタンを押し込んだ。

 

「狙いは外さんッ!!」

 

背部に装着されていたビームキャノンが肩へ装着され、そこから放たれた光線がヒュッケバイン・MK-Ⅲの胴体を消し飛ばし、倒れ込むと同時に爆発したヒュッケバイン・MK-Ⅲに巻き込まれ、ゲシュペンスト・MK-Ⅲも爆発炎上する。

 

【シャアアッ!!!】

 

「くそッ!!」

 

獣のような低い姿勢で飛び込んできた闇龍鬼の攻撃にユウキは舌打ちと共に手にしていたガンランスを背部にマウントさせる。それは時間にすれば数秒だが、その数秒は百鬼獣を相手にするのは致命的な隙となった。

 

「うぐうっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

強烈な振動と共にラーズアングリフ・ゲイルレイブンの巨体が大きく弾き飛ばされる。その上体勢を立てなおす時間も与えさせないといわんばかりに唸り声を上げて襲い掛かってきた闇龍鬼の鋭い両手の鉤爪が連続で振るわれる。

 

「くっ! そう易々と!」

 

ラーズアングリフ・ゲイルレイブンはその形状から見て分かるように射撃特化機であり、近接戦闘に弱いという弱点がある。それはレモンの改修があったとしても易々と改善出来る弱点ではなく、シールドを両腕に装備し、闇龍鬼の攻撃を防ぎに入るユウキだが、前後左右からの衝撃に姿勢を崩され闇龍鬼に対して隙を露にしてしまう。

 

【シャアアッ!!!】

 

速度を乗せた飛び蹴りがラーズアングリフ・ゲイルレイブンの胸部を捉え、ユウキとカーラは苦悶の声を上げることも出来ず大きく蹴り飛ばされる。

 

「げほっ! ごほっ……だ、大丈夫か、カーラ」

 

「えほ……な、なん……ゆ、ユウ! 上ッ!!!」

 

カーラの警告とラーズアングリフ・ゲイルレイブンのコックピットに警戒音が鳴り響くのはほぼ同時でラーズアングリフ・ゲイルレイブンの頭上に陣取っていた迅雷鬼が放電を繰り返す姿がモニターに映し出される。

 

「くっ! 間に合えッ!!!」

 

ラーズアングリフ・ゲイルレイブンの撃ち出した対艦ミサイルが迅雷鬼に向かうが、そんなものは何の抵抗にもならないと言わんばかりに迅雷鬼の放った雷が対艦ミサイルを貫き、ラーズアングリフ・ゲイルレイブンの頭上で大爆発を起した。

 

「う、うおおおおッ!?」

 

「きゃあああっ!?」

 

爆炎に呑まれユウキとカーラの悲鳴がコックピットの中で木霊する。雷の直撃は対艦ミサイルが盾になり防ぐ事は出来たが、その膨大なエネルギー全てを打ち消せるわけではない。爆発と雷の余波はラーズアングリフ・ゲイルレイブンの守りを貫いてユウキとカーラを襲っていた。不幸中の幸いは無人機の群れと百鬼獣もその爆風に飲み込まれラーズアングリフ・ゲイルレイブンから大きく引き離されていた事だろう。

 

「ぐ、……くう……カーラ、カーラ。大丈夫か……」

 

「う……ううう……」

 

「カーラ! カーラ大丈夫かッ!?」

 

返事が無い事に焦ったユウキは慌てて背部を覗き込むと大粒の汗を浮かべ、焦点の合っていないカーラの目と視線が合う。

 

「だ、大丈夫……あたしは……大丈夫だよ。ユウ」

 

「大丈夫な物か!」

 

パイロットスーツを着ているユウキに対して、カーラは殆ど裸同然だ。爆発と雷の熱はコックピットにいたとしても防げる物ではない、軽度の火傷を全身に負った状態のカーラを見てユウキは強く拳を握り締める。

 

(何が守るだ。守れていないではないかッ!)

 

敵に囲まれ1機で奮闘を続けていたユウキだが、このままでは自分が死ぬよりも先にカーラが死んでしまうと言う事を悟り、その顔を苦しそうに歪める。

 

「……ユウ……大丈夫だよ……そんなに全部背負わなくて良いよ」

 

カーラが震える手でユウキの手を握る。意識が朦朧としていてもカーラはユウキを安心させるように微笑んだ。

 

「大丈夫……あたしは大丈夫だよ。ユウの手伝いだって出来るよ……」

 

「だが今のお前はッ!」

 

本来ラーズアングリフ・ゲイルレイブンは2人乗りで、1人で操縦するのに無理があるのは当然だ。それを知っていながらユウキは1人で操縦していたが、背部座席にも操縦桿があるのを見れば、馬鹿でもラーズアングリフ・ゲイルレイブンが2人乗りなのは判る。

 

「1人で駄目でも、2人なら出来るよ。ユウ」

 

「カーラ……」

 

「大丈夫だよ。あたしは大丈夫……今度はあたしが助けるよ、エアロゲイターがあたしの街を焼いたとき……助けてくれたの知ってるんだから」

 

「……ッ! 知っていたのか……」

 

「うん、知ってたよ。だからあたしはユウと一緒に来たんだよ、近くに居たかったから……だから大丈夫。あたしも一緒に戦うよ」

 

その強い意志の光を宿す目に射抜かれたユウキは一瞬大きく目を見開いた。

 

「一緒に戦ってくれるか?」

 

「うん……ユウとならどこまでも」

 

苦しいだろうに笑うカーラにユウキはありがとうと小さく呟き、メインコンソールを操作し後部座席から操縦出来るようにモードを切りかける。

 

「行くぞ、カーラ。2人で生き残るんだ」

 

「うん! 行こうユウ」

 

1人では出来ないことも2人なら出来る。今のユウキとカーラの胸の中に絶望感は不思議と無く、変わりに温かい物があった……。絶望的な状況なのに、何故か何とかなる――何故かそんな予感……いや、確信がユウキとカーラの中にはあった。そして物言わぬラーズアングリフ・ゲイルレイブンのメインモニターには小さく「ウラヌスシステム」の文字が踊っているのだった……。

 

 

 

 

陸皇鬼のブリッジで戦況を見ていたアクセルの表情には驚きの色が浮かんでいた。ノイエDC――それも百鬼帝国の物ではなく、ビアンの意志に従がう者達もこのオペレーション・プランタジネットで全て処理すると聞いていたアクセルは見所のある者がいれば龍王鬼に直談判し、シャドウミラーに迎え入れる事も視野にいれ、戦況を確認するためにブリッジにいたのだが……当然百鬼獣やインスペクターの無尽蔵に現れる無人機に押され1機、また1機と沈むのを感情を読み取れない視線で見つめていたのだが、迅雷鬼の攻撃で倒れたランドグリーズのカスタム機が立ち上がると同時に凄まじい勢いで無人機を撃墜し、百鬼獣と互角の鍔迫り合いを行なっているのを見て、不機嫌そうにレモンへと視線を向けた。

 

「レモン、どういうことだ。あの機体があそこまで強い等と俺は聞いていないぞ」

 

あくまでランドグリーズのカスタム機、そこまでの性能ではないと思っていたアクセルだったが、百鬼獣と互角に戦えるのでは話が違うとレモンに説明を求める。

 

「そうねえ、私も驚いてるわよ。アクセル」

 

「なに? お前が手を加えたのだろう?」

 

「確かに私が改造したわよ? でも武装面の強化と動力の追加、それとテスラドライブを搭載しただけなのよ。後は虎王鬼が少し手を加えたのよね?」

 

レモンが確認という感じで振り返りながら虎王鬼へと話を投げる。

 

「ええ、でもちょっとだけよ? 少しだけ百鬼獣と同じ装甲の加工をしただけで無いよりまし程度の改造をしただけなんだけどね……」

 

レモンと虎王鬼にとっても理解不能な現象がラーズアングリフ・ゲイルレイブンに起きていた。

 

『うおおおおッ!!!』

 

『いっけええええッ!!!』

 

ランドグリーズ・ゲイルレイブンに乗っているのはユウキ・ジュグナンとリルカーラ・ボーグナイン――龍王鬼と虎王鬼が目に掛けていたノイエDCの兵士だったとアクセルは記憶していた。そんな2人が乗るラーズアングリフ・ゲイルレイブンの手にしているガンランスには翡翠の輝き――ゲッター線とは異なるが、同じ超常の力の証の光が灯っていた。アクセルはその光を知っている、いや向こう側の住人であるアクセル達がその光を知らないわけが無いのだ。

 

「あれは念動力の光だ」

 

「そうね。素質があったのかしらね? 一応T-LINKシステムが組み込んであったはずだけど……今までうんともすんとも言わなかったのにねぇ」

 

念動力を持ったWシリーズの作成を一時期シャドウミラーは行なっていたが、極めて不安定であり莫大なコストが掛かる割りにリターンが少ないということで量産するのを止め、Wナンバーズ同様ワンオフの高性能な個体を数体作るに留まっていた。量産に備えてシャドウミラーの機体の1部にはT-LINKシステムを搭載した機体があったが、適合者はいないだろうとノイエDCに提供したラーズアングリフの1体がT-LINKシステム搭載機で、それがこの土壇場で起動するなんてレモンの頭脳を持ってしても予測不可能な出来事だろう。

 

「はっはッ!! あれか? 想いあう男と女が起した奇跡とでも言うのかねぇ」

 

龍王鬼は心底楽しそうに笑い、念動力の刃を振るい次々とレストジェミラを破壊するラーズアングリフ・ゲイルレイブンへと視線を向ける。

 

(そうだ、進め。止まるな)

 

ユウキがスパイであると言う事は龍王鬼は最初から気付いていた。だからこそ手元におき、他の鬼から遠ざけた。自ら敵陣に乗り込み、情報を盗み取ろうとするユウキの豪胆さを龍王鬼は買っていたからだ。そしてその時がきた時ユウキが生き延びるのか、それとも志半ばで死ぬのか……それを見届けてやろうと考えていたのだ。そして龍王鬼の期待通り……いや期待を上回る強さを見せているユウキの姿を見て嬉しくないわけがない。

 

『俺の邪魔をするなッ!!!』

 

ラーズアングリフ・ゲイルレイブンが手にしているガンランスの装甲が展開し、背部にマウントしていた荷電粒子砲と合体し、展開された銃身の回りを回転し始める。

 

「……ちょっとやばそうな雰囲気ね」

 

虎王鬼が引き攣った顔でそういうのは当然で、エネルギーを溜めて隙だらけのラーズアングリフ・ゲイルレイブンへ攻撃が向けられるが、余剰エネルギーによって展開されたバリア、そして。

 

『ユウには手を出させないんだからねッ!!』

 

後部座席でバックパックの武装を操り、射撃を行なっているカーラによってその動きを封じられ、大技の為にエネルギーを溜めているラーズアングリフ・ゲイルレイブンを止めるにいたらない。

 

「ちょっとどころじゃねえな。大分やばいな、おい。バリア展開用意」

 

「はっ! バリアを展開します!」

 

龍王鬼の指示で陸皇鬼の甲羅の一部が展開されその巨体をバリアが包み込むのと念動力でコーティングされた荷電粒子砲の一撃がラングレー基地にいた全てに向かって放たれた。

 

「う、うおおおおおッ!? はっはあッ! こいつは中々やばいなッ!」

 

「本当ねぇ、直撃だったら結構危なかったかもねぇ」

 

陸皇鬼のバリアを突き破り装甲に損傷を与えたラーズアングリフ・ゲイルレイブンの攻撃を龍王鬼は凄まじい攻撃だったと賞賛する。

 

「笑っていて良いのか? お前の手駒は皆やられたぞ?」

 

「あん? んなもん前座も前座だ。まだ焦る時じゃねえよ、まぁそろそろウォームアップを始めるつもりだったけどな」

 

にやりと牙を剥き出しにして笑う龍王鬼の視線の先には連戦による損傷によりダメージは負っているが、それゆえにより万全に見えるハガネ達が戦隊を組んでラングレー上空に現れ、部隊を展開する。勿論その部隊の先頭はゲッターロボD2であり、真紅の龍神のその力強い姿を見て龍王鬼は歓喜に身を振るわせる。

 

「手負いの獣ほど恐ろしいもんはねぇ。がっはっはははッ!!! こいつは楽しめるぜ、なぁ虎ぁッ!!」

 

「ふふふ、そうね。これは楽しい戦いになりそうだわ、龍」

 

伊豆基地で戦った時よりも遥かに強いと肌で感じとり、龍王鬼は獰猛な笑みを浮かべ大声で笑う。

 

「レモン、俺も出撃の準備に入る。ウォーダンも準備をさせておけ、俺は龍王鬼ほど楽観視をするつもりはないんでな。ここで確実に仕留めるぞ、これがな」

 

龍王鬼ほど楽観視していないといいつつも、獰猛な笑みを浮かべているアクセルを見てレモンは苦笑するが、レモンもまた獰猛な笑みを浮かべている。オペレーション・プランタジネット……ハガネを、いや自分達の目的を邪魔するであろう者達全てを陥れ打ち滅ぼす為に作られた策謀の舞台がここラングレー基地であり、オペレーションプランタジネットと言う劇の演目であった……そしてそれらの策謀全てをハガネ達が退けたとしても、新たな策謀を持って立ち塞がる為の準備を既にブライは終えている。この北米ラングレーの地は新生百鬼帝国の名乗りの場として用意された舞台であり、その舞台の幕が開かれようとしているのだった……。

 

 

第172話 オペレーション・プランタジネット その3へ続く

 

 




ラーズアングリフ・レイブンはなんかちょっと好きじゃないので大幅にてこ入れして、2人乗りに魔改造しました。後T-LINKシステムも付いているので意外と高性能化ですね。後今作のユウキはツンデレじゃないです、クールデレですかね。カーラには割りと甘めでいこうと思いますのであしからず、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第172話 オペレーション・プランタジネット その3

 

第172話 オペレーション・プランタジネット その3

 

ラングレー基地で人間は最早メキボスしかおらず、残りの人員は全てバイオロイドとなっていた……。ヴィガジはゲッターD2の攻撃でガルガウ改が大破されられ今は医療用ポッドの中で眠っており目覚める気配がない。そしてハガネ達の足止めを命じられていたアギーハとシカログはネビーイームにインベーダーが出現したので呼び戻された。

 

「それで鬼の大将は俺になんのようだ?」

 

『そう身構えてくれるな、私は今この場にいないのだからね』

 

1体のバイオロイドの側頭部が開き、そこから伸びた牛のような太く鋭い角が伸び、バイオロイドのフェイスパーツには明暗を繰り返すブライの顔が浮かんでいた。

 

『ウェンドロとの話し合いの結果、君は命の危険を感じたのならば撤退してくれて構わない』

 

「そいつはどーも、んじゃあ俺はもう命の危険を感じてるから逃げても良いか?」

 

ゲッターD2を始めとした地球の最大戦力が集まって来ている今の状況は命の危機だろとメキボスが言うとブライの意志を伝えるバイオロイドはやれやれという感じで肩を竦めた。

 

『流石にそれは早すぎるだろう? 百鬼獣もいる。それに君達に紹介したシャドウミラーは中々に役に立つ。私が率いる本陣が来るまでは待っていて貰いたいね。大丈夫だよ、バイオロイドは君を守ってくれる。君は司令部に陣取って悠然と構えていてくれればいい』

 

ブライの言葉にメキボスは眉を顰める。ブライの口調に苛立ったわけではない、ましてや何もしなくて良いと言うブライに馬鹿にするなと怒りを抱いたわけでもない。

 

(……こいつ、鬱陶しいぜ)

 

声自体に力がある。そこに姿がなくとも、偽りの肉体であったとしても従属を誓わせる……そんな圧倒的な力があった。

 

「それならのんびりと構えさせてもらいますかね、敵と戦うのはそちらに任せていいんですよね?」

 

『ほう……ふっふ、その通りだ。この場を百鬼帝国の名乗りの場として使わせて貰う、ここで決着をつけるのも吝かでは無いが……抗ってもらいたいとワシは思っているよ。では指揮は君に任せよう、メキボス君』

 

私ではなくワシという本来の1人称を口にし、メキボスの目の前にいたバイオロイドはその場に倒れ、溶けるように消滅して行った……。

 

「やっぱりなんかしてやがったな、あの野郎」

 

ブライの声は一種の洗脳の効果を持っている。それに抗ったメキボスをブライは面白く思い手を引いたのだ。もしも抗う事が出来なければメキボスはブライに操られるだけのだけの存在となっていただろう。

 

「対等だのなんだの言っておいて、俺らを利用するつもりかよ……まぁ分からんでもないがな」

 

ダヴィーンを利用しバイオロイドの製造技術をゾヴォークは得たが、エンペラーに襲われるダヴィーンにゾヴォークは助けを出さなかった。ダヴィーンの意志を継いでいるブライは間違いなくその事に怒りを抱いている……だがそれを知性で押さえ込んでいるからこそ厄介だとメキボスは感じていた。

 

「感情的に来てくれたほうがやりやすいぜ、全くよ」

 

溶けたバイオロイドが被っていたヘルメットを蹴り飛ばしてメキボスは格納庫へと足を向ける。ラングレー基地の内部は全てブライの手の内であり、いつバイオロイドに襲撃を受けるか判らない状況だったが、ヴィガジ、シカログ、アギーハといれば順番に身体を休める事も出来ていたが、今は1人。その上バイオロイドはブライの合図で鬼化し、その戦闘力を段違いに跳ね上げさせる。1対1ならばメキボスでも鬼と戦う事は十分に可能だがラングレーにいるバイオロイドの数は120……それだけの相手に追われながらグレイターキンに乗るのは不可能であり、まだバイオロイドが自分の言う事を聞く間にメキボスはグレイターキンに乗り込むことを選択したのだ。

 

「やれやれ……これだけでかい基地で俺の領土はこの狭いコックピットだけかよ」

 

ゲッター合金で強化され、やや大型化したグレイターキンでなければ籠城する事は不可能であり、ゾヴォークにとって忌むべき物ではあるゲッター合金に救われていると言う事実にメキボスは肩を竦めながら、パイロットシートを後に倒し背中を深く預ける。

 

「さてとお手並み拝見と行こうかねぇ」

 

ハガネが来るまでは格納庫で待機する事を決めたメキボスは窮地に追い込まれながらも飄々とした態度を崩す事無く、むしろその窮地を楽しむ素振りさえ感じさせながら笑みを浮かべているのだった……。

 

 

 

数多の百鬼獣の群れ、そして無人機の襲撃を退けてラングレー基地へと辿り着いたビアン達だったが、破壊されたAMやPTの数々、そして大破寸前のライノセラスの艦隊を見て眉を顰めた。ライノセラスを1体で守っていたのはラーズアングリフ・ゲイルレイブンだけであり、ビアンが配置していたLB隊やトロイエ隊の姿はどこにも存在しておらず、圧倒的な数のレストジェミラ、そしてヒュッケバイン・MK-Ⅲとゲシュペンスト・MK-Ⅲ、シャドウミラー隊の戦力であるエルアインス、アシュセイヴァー、アースゲインという量産機とは思えない高性能な機体の数々は通常のPTやAMを運用している部隊では一矢報いる事すら難しい圧倒的な戦力だ。

 

『こちらユウキ・ジュグナンッ! クロガネ応答せよッ!』

 

「ユウキ少尉からの通信です!」

 

「モニターに回せッ!」

 

ノイズ混じりの中クロガネのモニターに疲労の色が濃いユウキの顔が映し出される。

 

「LB隊とトロイエ隊はどうなった!」

 

『百鬼獣に撃墜されました。脱出は出来ていますが部隊は壊滅状態で支援を求めますッ! 私1人ではライノセラスの防衛は不可能ですッ!』

 

ラーズアングリフ・ゲイルレイブンは奮闘しているが、武装の殆どが実弾である以上継戦能力には不安が残る。今もガンランスを主に戦闘しており、弾薬に余裕がないことが一目で見て取れる。

 

「すぐにヴァルキリオンを支援に向かわせる! ヴァルキリオンから武装を受け取れば戦闘は続行可能か」

 

『問題ありませんッ! 武器と弾薬の補給をお願いします!』

 

「ヴァルキリオン隊出撃! ライノセラスの支援及び後退支援を行えッ! リリー中佐! 敵機の索敵はどうなっている!」

 

オペレーター席で索敵を行っているリリーにビアンが戦況がどうなっているのかと怒鳴る。

 

「百鬼獣と思われる戦艦1確認! しかし百鬼獣は3体しか確認出来ません、それにインスペクターの指揮官機グレイターキンの姿もありませんッ!」

 

「……戦力を温存されたか……ッ」

 

ここに来るまでに無尽蔵に襲撃を仕掛けてきた百鬼獣の姿はラングレー基地には無く、その上シャドウミラーの戦闘母艦であるギャンランド、そして龍王鬼の母艦である陸皇鬼の姿はあるが、バリアを展開しており完全に様子見という状態だ。自分達は疲弊しながら辿り着いたのに対し、敵が完全に戦力温存している事にビアンは唇を噛み締める。

 

『ライノセラスを中心に艦隊を組む、やはりこの作戦は罠だった』

 

「ああ。ならば我々のやる事は全員無事にこの場から脱出する事だ」

 

分かっていた事だが、こうして目の当たりにするとその衝撃は大きく連邦の上層部にどれだけ百鬼帝国が手を伸ばしているのかとダイテツ達は顔を歪める。本来味方である筈の人間が信用できず、自分達の上官すらも鬼の可能性があれば命令に従うことすら疑わなければならない。

 

『脱出する事に反対はありませんが……今すぐにとは行きませんね』

 

『敵前逃亡兵とされてしまえば、我々の発言力は地に落ちる。いや下手をすれば部隊解散に追い込まれるかもしれない』

 

レフィーナとリーの言う通りであり、この場がハガネ達を確実に仕留めるべく百鬼帝国、インスペクター、シャドウミラーが作り出した狩場だ。それが分かれば無駄に命を散らす事も無く、自分達が来るまで必死に耐えていたビアン派のノイエDC兵と共に離脱するのが最も理想的な展開だ。だがそれをすればダイテツ達は敵前逃亡兵となり、L5戦役を集結させた英雄部隊という名誉は地に落ち、ダイテツ達を良く思っていない高官達の付け入る隙を自ら作り出す事になる。そうなれば人類は百鬼帝国やインスペクターに抗う術を失う事になる……それだけはなんとしても避けなければならない。

 

『ダイテツ中佐、私達が敵陣に突っ込む、他の部隊は艦隊の防衛に回してくれ』

 

『カーウァイ大佐、死ぬつもりか?』

 

カーウァイの言う私達とは教導隊、そして武蔵を含めた1部隊にも満たない少数部隊だ。それで敵陣に突っ込むなど正気ではないと考えるのは当然だが、カーウァイは真面目にこの特攻めいた突撃作戦を提案していた。

 

『にらみ合いになれば相手は戦力を出し惜しむ。連邦・ノイエDCの応援部隊が鬼の手の者である可能性の方が高いんだ、必要なのは短期決戦しかない。敵陣に大打撃を与え本命を引き摺りだす以外あるまい』

 

ここまで百鬼帝国が根回しし、補給や整備もまともにさせず疲弊させきった状態ならば逃げを打ってくるのは誰だって予想が付く。そこを軍属である事を利用し敵前逃亡をちらつかせる事で逃亡の抑制、そして戦闘の強要を強いる。テスラ研で僅かな補給と整備は出来たが、それはアギーハとシカログとの戦いとそこを突破するのに温存する予定だった。ゲッターD2、ダイゼンガー、アウセンザイターなどの特機を切ってしまっているが、その代りにアルトアイゼン・ギーガやジガンスクード・ドゥロ、グルンガストにSRX、龍虎王と百鬼獣と互角に戦える機体を残している……となれば百鬼帝国は万全を期す為に援軍の中に鬼を混ぜてくる。そして肝心の応援部隊もダイテツ達を疎んでいる連中なのでギリギリになるまでラングレー基地に突入して来る事はない。

 

『挟撃を防ぐ為とは言えリスクが高いですよ』

 

『罠の中に突っ込んでおいてリスク等という言葉は今更だ。異論がなければ……いや、あってもそうするが構わないな?』

 

尋ねていると言う風を装っているがカーウァイの中で自分達が突撃するのは決定事項であり、今話しているのはあくまで自分達が突撃した後の打ち合わせに過ぎない。

 

『了解した。カーウァイ大佐、頼んだ』

 

『任せておけ、このような負け戦は何度も経験している。ならば我々にできる事は上手く負けることだ』

 

上手に負けるというカーウァイの言葉はおかしな発言に聞こえるが、実際はその通りだ。万全な状態ならば食い下がる事も出来る……だがここまで不利な状況では長く戦えば戦うほどに被害は爆発的に増加していく、敵の本陣を引きずり出しそれらの戦いの末離脱という流れを作らなければオペレーション・プランタジネットの失敗の責任を全て押し付けられる……それを避ける為の一手が必要不可欠だった。

 

『というわけだ武蔵。派手にぶちかませ』

 

『了解ッ!! 行くぜえッ!! ダブルトマホーク……ブゥゥウウウメランッ!!!!』

 

ゲッターD2が両手に持ったダブルトマホークを全力で敵陣の真ん中に向かって投擲する。ゲッター線の光を宿したダブルトマホークの一撃はゲッター線の竜巻とでも言うべき現象を作り出し、無人機の陣形を大きく乱した。

 

『突っ込むぞッ! ゼンガーッ! レーツェルッ!!!』

 

『『了解ッ!!』』

 

そして再び敵が陣形を固める前にカーウァイの駆るゲシュペンスト・タイプSを先頭に、ダイゼンガー、アウセンザイターが敵陣の真ん中へと突撃する。意図したわけでは無いが、ダブルトマホークブーメランがMAPWのような役割を果たしていた。

 

「ダイテツ! ぼんやりするな! 陣形を固めろッ! 主砲、副砲! 発射準備ッ!」

 

『お前に言われなくても判っているぞビアンッ! 艦隊防衛を優先しつつ、転移による強襲に備えよッ!』

 

『百鬼獣との戦闘はグルンガスト等に任せ、PT隊は無人機及びシャドウミラーとの戦闘を優先せよッ! 良いか! 諸君らの死に場所はここではないッ! 己の命を賭ける場所を間違えるなッ!』

 

『ユン伍長! 索敵レンジを最大に転移反応及び、超機人の高エネルギー反応に最大の警戒を続けてください! 本艦を艦隊の先頭へ! E-フィールドを全力展開してください!』

 

各戦艦の艦長の指示が矢継ぎ早に飛び、ラングレー基地での戦いが幕を開けるのだった……。

 

 

 

 

 

ラングレー基地での戦いは想像以上の乱戦から始まっていた……カーウァイ・ゼンガー・レーツェル・武蔵の4人の正気を疑う突撃で浮き足立つと思えば、百鬼帝国もインスペクターも決して浮き足立つ事ことなく、冷静に部隊を展開し前方・後方で戦場を区切り戦線を展開していた。

 

「……嫌な流れだな」

 

『そうねえ……勢いはこっちにあるけどコントロールされてるって感じが拭えないわね』

 

普段お茶らけた言動をするエクセレンでさえその顔を渋く歪めている。カーウァイの作戦通りに最初に大打撃を与える事で敵を引きずり出すという目的は半分だけ成功し、半分だけ失敗していた。

 

『!!』

 

「……鬱陶しいな。こんな奴らを相手に弾薬を消費するわけにいかないと言うのに」

 

中破しながらもアルトアイゼン・ギーガに突撃して来たゲシュペンスト・MK-Ⅲにリボルビング・バンカーを突き刺し、持ち上げると同時に引き金を引くキョウスケ。それによってゲシュペンスト・MK-Ⅲは宙に弾き飛ばされ大爆発を引き起こす。

 

『くうっ……これ洒落になんねえぞッ!』

 

『無人機で万歳特攻なんて冗談じゃねえぞッ!?』

 

リボルビング・バンカーで爆発したのではない、無人機の多くは中に爆弾を抱えており組み付き自爆するか、大きなダメージを受ける事で自爆しキョウスケ達を巻き込んで消滅しようとしていたのだ。

 

『くそッ! 鬱陶しい真似をしやがってッ!!』

 

『本当ならこういう乱戦が1番得意だってのにさッ!!』

 

サイバスターの放ったカロリックミサイルが着弾したレストジェミラが凄まじい大爆発を起こし、ハイパービームキャノンで貫かれたヒュッケバイン・MK-Ⅲは爆発する事無く転倒し小規模な爆発を引き起こす。爆弾を抱えている物とそうではない物があり、下手にサイフラッシュやサイコブラスターを使えば爆弾が一斉に起爆し、周囲もろとも吹っ飛んでしまう……ダブルトマホークブーメランによる一掃はゲッター線の効果なのかは不明だが、上空に逃れていたが他の機体ではそうは行かない。

 

『リョウト! 駄目です! それは爆弾が搭載されていますッ!!』

 

『ッ!! くそッ!!』

 

フェアリオン・タイプGのシャインからの警告でヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMタイラントは伸ばしかけたガイストナックルを引っ込め地面を蹴って大きく後退する。

 

『そこだッ!!』

 

ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMタイラントと入れ代わりで前に出たビルトビルガーがスタンアサルトカノンを命中させ、レストジェミラを感電させる。

 

『イルム中尉! お願いしますッ!!』

 

『おう! 任せろッ!!』

 

レストジェミラが感電している間にグルンガストがレストジェミラを頭上に担ぎ上げ、敵陣のど真ん中へ投げ付ける。

 

『ライッ!!』

 

『いけッ!!』

 

イルムがライの名を呼ぶと同時に発射されたフォトンライフルがレストジェミラを撃ち貫き、レストジェミラが無人機を巻き込んで大爆発を引き起こす。

 

『ちい……これだから無人機つうのは厄介なんだ』

 

『あ、あれでもまだ動くのかッ』

 

カチーナが舌打ちし、ラッセルが信じられないと言う様子でつぶやいた。手足を失い、胴体も拉げ、中にパイロットが乗っていれば脱出を選択するほどのダメージを負っても無人機はオイルを撒き散らしながら歩き続ける。

 

『大破している無人機に爆弾もちはいませんわッ! 今の内に迎撃をッ! ラトゥーニ! ポイント4-B2、8-B2ですわッ!』

 

『分かりました、シャイン王女ッ!』

 

シャインの指示でフェアリオン・タイプSがペイント弾を発射し、爆弾を抱えている無人機に印を付ける。

 

『これで随分と戦いやすくなった。おい、コウキ』

 

『分かっている……突っ込むぞッ!!』

 

ペイント弾で爆弾もちが分かったと同時にゲシュペンスト・シグと轟破・鉄甲鬼が地響きを立てながら敵陣のど真ん中へ突っ込み、マーカーを撃ちこまれていない無人機へと突撃する。

 

『コウキ博士ッ!? 何を考えてるんですか!?』

 

『鉄甲鬼では爆発に巻き込まれますよ!?』

 

上空から支援射撃を行っていたベルガリオンとアステリオンからスレイとアイビスの悲鳴が響くが、コウキが操る轟破・鉄甲鬼はその手にした斧をマーカーが撃ちこまれた爆弾を内包した無人機へと突き立てそのまま無人機を持ち上げると同時に跳躍し、斧に捕らえた爆弾付きの無人機を文字通りハンマーのように牛角鬼に向かって振り下ろした。

 

『くたばれッ!!!』

 

【グ、グギャアアアアッ!?】

 

斧による斬撃と無人機の爆発に巻き込まれ、牛角鬼が爆発する。その隣ではゲシュペンスト・MK-Ⅲに体当たりし、そのままの勢いで白骨鬼へとぶつかったゲシュペンスト・シグがエネルギークローでゲシュペンスト・Mk-Ⅲごと白骨鬼を貫き、ほぼ同時に牛角鬼と白骨鬼が大爆発する。

 

『『良し』』

 

『何が良しかあッ!! このドアホウ共ッ!!』

 

ゲシュペンスト・リバイブが大破しているのでゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプKに乗っているカイが怒鳴りつけるが、コウキもラドラもどこ吹く風だ、ついでに言うとゲシュペンスト・シグも轟破・鉄甲鬼も無傷なので余計に何をしていると怒鳴りつけたくなるカイだったが、その勢いは急速に小さくなった。コウキとラドラに恐怖したのではない、馬鹿みたいな特攻をした馬鹿を怒鳴りつけるなんて馬鹿な事をしている場合ではないと本能で悟ったのだ。

 

『ギリアム、前線指揮は任せる。バン・バ・チュン、そのゲッターロボは飾りじゃないんだろ? 力を貸せ』

 

『言われるまでもない、伊達や酔狂でゲッターロボに乗っているわけではないわッ!』

 

バリアを展開し、沈黙していた陸皇鬼がバリアを解除し、その亀の甲羅のような格納庫を展開する。そこから姿を見せるのは圧倒的な存在感を持つ無数の百鬼獣の数々……。

 

『行けるのか?』

 

『やるしかないだろうが、それに無人機だって山ほどいる。乱戦の中にあいつらが突っ込んできたら対処できんだろうがあッ!!!』

 

ギリアムの心配そうな声に返事を返しながら、カイは格納庫が展開されると同時に弾丸のような勢いで突っ込んで来た闘刃鬼の胸部装甲を掴み、巴投げの要領でゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプKをひっくり返らせ、掴んだ闘刃鬼をはるか後方へと投げ捨てる。

 

『おっはッ!! あっははははっ!! よお、おっさんッ!!! また戦いに来てやったぜッ!!』

 

巴投げで投げられた闘刃鬼は片手で着地し、片手の腕力だけでゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプKへと飛び蹴りを放った。

 

『おっさんおっさんやかましいわッ! この若造がッ!!』

 

だがカイも並みのパイロットではなく、その飛び蹴りを肘で受け止めさせると腰にタックルし、キョウスケ達から闘刃鬼を引き離す。

 

『ふんっ!!』

 

『っとと、へっへ、いいね、いいね、やっぱりおっさん強いよなあ、また勝負する時が楽しみで楽しみでしょうがなかったぜ』

 

『戦闘狂め』

 

『そいつは俺にとっちゃ褒め言葉よ。さぁやろうぜッ!! 心踊る闘争をなぁッ!!!』

 

圧倒的な闘志を剥き出しにするヤイバ。その闘志に当てられたのかカイも小さく微笑んで操縦桿を握り締める。

 

『行くぜええッ!!!』

 

『行くぞッ!!!』

 

ヤイバとカイの咆哮が重なり、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプKと闘刃鬼の拳がぶつかり合い、凄まじい轟音を響かせる。

 

『キョウスケ、ここは任せるぜ。あいつは俺をお呼びだ』

 

『……了解』

 

キョウスケにそう声を掛けたイルムは隊列から離脱し、腕組みをし待っていた闘龍鬼の元へと向かう。

 

『お前なら応えてくれる。そう思っていた』

 

『はっ! 男のストーカーに追い回されるのはごめんでね。いい加減決着付けようや』

 

『ふっふ、はははははははッ!! 俺の好みの返答だが……心にも思っていない事は言わない方が良い』

 

闘龍鬼の返事にイルムはちっと舌打ちを打った。闘龍鬼の性格を把握し、こうすれば自分にだけ意識を向けれると考えていたイルムだが闘龍鬼は思った以上に冷静だった。

 

『だがまぁ、良いだろう。お前がそういうのならば……この場で決着をつけてやっても良い……お前の死という形でなあッ!!』

 

『はっ! そう簡単に取れると思うなよッ!!』

 

計都羅喉剣と闘龍鬼の半月刀がぶつかり合い激しい火花を散らす。

 

『がーっははははッ! 良いぜ良いぜ、やっぱり戦いはこうじゃなきゃなあ! 己の誇りを賭けた戦いこそ、至高ッ! 俺様の求める戦いだッ!!』

 

『そうねえ、自分よりも弱い奴を嬲り殺すって言うのはあたし達の趣味じゃないしねぇ』

 

龍王鬼、虎王鬼の2機も陸皇鬼から姿を見せる……だが陸皇鬼から姿を現したのは百鬼獣だけではない。

 

『ソウルゲイン……アクセル・アルマーかッ』

 

『ウォーダン・ユミル……それにレモン様もか……』

 

シャドウミラーの主力機であるソウルゲイン、スレードゲルミル、そしてヴァイスセイヴァーの3機が現れるが、それは想定外の出来事だった。

 

「ギャンランドではなく百鬼帝国の戦艦で待機していたのかッ」

 

「戦況が一気に読めなくなったな……」

 

シャドウミラーの主力は母艦であるギャンランドと共に現れると踏んでいたダイテツ達だったが、龍王鬼の母艦である陸皇鬼に待機しているのは想定外だった。

 

『ッ! 巨大な熱源を多数感知ッ! モニターに回しッ!?』

 

『敵勢力の識別出来ましたッ! 百鬼獣です! ですがその数が……ッ!?』

 

ユンとシロガネのオペレーターがレーダーに熱源を感知するが、その桁違いの反応に言葉に詰まる。

 

『報告は正確に行なえッ! 何を感知したッ!』

 

『ユン伍長! 何を感知したのですか!』

 

リーとレフィーナが何を感知したのかと問いかけ、再びユン達が口を開く前にレーダーに感知された巨大な熱源がその姿を現した……。

 

「馬鹿な……あれが……百鬼帝国とでも言うのかッ!?」

 

「信じられん……あんな物が地球の技術力で作り出せるというのか……ッ!?」

 

誰もが言葉を失う中、ビアンとグライエンだけが言葉を発する事が出来た。それはグラスマン家に伝わってた資料と、アメリカ大陸の内部に隠されていたメガフロートの資料を分析していたビアンだからこそ、ダイテツ達よりも先に我に帰る事が出来ただけであり。そうでなければビアン達も島のような巨大な飛行物体を見て言葉を失っていた筈だ。共行王達によって発見された 科学要塞島がラングレー基地の上空に何十、何百と言う百鬼獣を伴って現れるのだった……。

 

 

 

第173話 オペレーション・プランタジネット その4へ続く

 

 




随分と長くなりましたが、本格的な戦闘前のイベントで殆ど1話使ってしまいましたが、次回からは戦闘メインでバリバリ頑張って行きたいと思います。かなりの話数と文字数になるかもしれませんが1つの場面だけで1話ずつガッツリと書く予定ですので、どうなるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第173話 オペレーション・プランタジネット その4

第173話 オペレーション・プランタジネット その4

 

ラングレー基地の上空に現れた巨大建造物、その周囲を守っている百鬼獣の大群を見ればその建造物が百鬼帝国の母艦……いや、百鬼帝国その物である事を誰もが悟った。

 

「ちょっと洒落にならなくない……」

 

「嘘だろ……あれが百鬼帝国の拠点だって言うのかよ……」

 

連邦軍の主力であるゲシュペンスト・MK-Ⅲを凌駕する性能を持つ百鬼獣を製造出来る工場となればその数は限られる。当初はムーンクレイドル、あるいはアースクレイドルではないか? と諜報部は考えていたが目の前の巨大な建造物を見てその考えがどちらも間違っていたのは明らかだった。

 

「探しても見つからないわけだ……ッ! 拠点その物が動く事が出来たのかッ!」

 

百鬼帝国その物が機動要塞であり、百鬼獣の製造拠点でもあったのだ。常に移動を繰り返し、圧倒的な火力を持ち合わせている百鬼帝国を仮に発見したとしても、それを報告すら出来ず百鬼獣に撃墜されていたのだとハガネのPT隊の誰もが思った。あれだけの建造物が発見されないのは明らかな異常であり、百鬼帝国を見つけた者が証拠隠滅に殺されたと誰もが思うことだろう。だが実際はブライもこのUFOに乗ったのはこれが2回目の事だった。

 

『おい、鬼。何故こんな真似をしなくてはならない?』

 

「すまんね。なんせまだ改造が済んでいないのだよ」

 

『私が言いたいのはそういうことではない、何故私がこれを持ち上げ続けねばならないと言っているのだ』

 

共行王がブライに文句を言い続け、ブライは落ち着いてくれと共行王を宥め続けていた。

 

「人間は目に見えた物を信じてしまう、未完成の百鬼帝国であれ人間はこれが百鬼帝国の拠点と思う筈だ。圧倒的な戦力を前にすれば人は心を折ってしまうものだ」

 

百鬼帝国――いや、百鬼帝国の原型となったダヴィーンのUFO――それはフラスコの世界にも流れ着いていた。それを共行王が発見し、ブライが改造を続けていたが百鬼帝国はまだ全体の20%ほどしか完成しておらず、共行王が雲の上で水の触手でUFOを吊り上げていた張りぼてに過ぎなかったのだ。今ダイテツ達の目の前に広がっているのは無事な下部分だけであり、雲の上の部分は廃墟同然であり、それこそ共行王がダメージを受ければそのまま墜落しかねない有様だが……周りの百鬼獣の存在がこの壊れかけのUFOですら万全な状態の百鬼帝国と勘違いさせる役割を担っていた。そして百鬼帝国からは全周波数である放送が延々と流されていた。

 

『我々は鬼、地獄より現れた鬼。この地球の支配者だ。従がえば繁栄を、反逆すれば死を与えよう。我等百鬼帝国の軍門に下るのだ、愚かな人類達よッ! さすれば宇宙よりの脅威からも、恐ろしい化物からもお前達を守ってもやろうぞ!』

 

百鬼獣が連邦軍のPTなどを破壊している映像とインベーダー、アインストの映像も流し降伏勧告が北米以外の全世界へと流され、地球圏の新たな混乱の火種を撒き散らす。

 

『抗ってほしいのではないのか?』

 

「私が求めているのは完全無欠の勝利だよ。これで心を折るのならば恐れるに足りない、だがこれで奮起するのならばこの時代の人間も侮ってはいけない敵だと分かるだろう?」

 

『お前は何がしたいのだ? ここまで罠を張り巡らせたのにお前が本気で勝とうとしているように私には思えんぞ?』

 

ラングレー基地に誘き寄せたハガネ達を打ち倒したいのか、それとも抗って欲しいのかどっちだ? という共行王の言葉にブライは大声で笑った。

 

「言っただろう? 私が求めるのは完全なる勝利だと。人間は窮地に追い込めば追い込むほどに力を発揮する者がいる……お前も戦った武蔵がそういった人種だ。そういう人間が1人いればどれほどの劣勢でも人は諦めない不屈を吼え戦い続ける」

 

ブライは決して人間を侮っていない、自分達を滅ぼす者がいれば人間しかいないと考えているほどだ。

 

『それで?』

 

「分からないか? 敵として警戒すべき存在なのかそれを私は見定めたいのだよ」

 

慢心しているわけでも、見下しているわけでもない。ブライは本気で戦うべき相手としハガネ達を十分に警戒し、その上で楽しんでいたのだ。自分が用意した罠を食い破り、そして逃げおせるのか、それともここで心を折り抵抗する事を諦めるのか……出撃したゲッターロボ・ノワール、ゲッターザウルス。そして動き始めたソウルゲインやスレードゲルミル達を強者の余裕とも言える視点でこの戦いの行く末を見つめているのだった……。

 

 

 

 

突如ゲッターD2を襲った強烈な振動、そして僅かな浮遊感と共にゲッターD2の巨体は大地に沈んでいた。

 

「ぺっ……ちっ! オイラとした事が油断したぜ」

 

不意打ちで口の中を切ったのか武蔵は口の中にたまっていた血を吐き出し、服の袖で強引に口元を拭ってゲッターD2に強襲を仕掛けた敵へとその視線を向ける。

 

『グルルッ! グガアアアアアアアーッ!!!』

 

血走った目、そしてその尾を地面に叩きつけ雄叫びを上げるゲッタードラゴンの装甲を纏ったメカザウルスに見える異形のゲッターロボ――ゲッターザウルスを武蔵は睨みつける。

 

「よお、トカゲ野郎ッ!! また会ったなあッ!!!」

 

シャドウミラーの元から脱出する際に百鬼帝国が送り込んだゲッターザウルスに向かってゲッターD2を走らせる武蔵。

 

「うおらああッ!!!」

 

『キシャアアアッ!!!』

 

武蔵とゲッターザウルスの咆哮が重なり、2機の拳がぶつかり合い周囲に凄まじい振動と衝撃を撒き散らす。

 

「スピンカッターッ!!!」

 

『シャアアッ!!!』

 

ゲッターD2の腕のチェーンソーとゲッターザウルスの腕から延びた三日月状の刃がぶつかり合い凄まじい火花を散らす。

 

『シャアッ!!』

 

スピンカッターとアームブレードではアームブレードの方が取り回しと射程に優れる。互いの獲物がぶつかり合いゲッターD2の腕が上に跳ね上げられると同時にその場で回転しながらアームブレードを振るゲッターザウルス。

 

「舐めんなッ!!!」

 

『ギィッ!?』

 

頭部を狙ったその一撃をゲッターD2は2本の指で挟んで止め、そのまま自分へと引き寄せると同時にスピンカッターでその首を跳ね飛ばそうと振るう……だが命中の瞬間にゲッターザウルスの身体が弾けるようにバラバラとなる……オープンゲットだ。だがそれは通常のオープンゲットではないと武蔵は一目で気付いた。

 

「ちくしょうッ! そいつが出来るのかよッ!!」

 

合体形態のままのオープンゲット――本来ゲットマシンに戻るのを合体モードのまま分離し、相手の攻撃を避けたタイミングで再合体する……単独操縦の武蔵では出来ないゲッターロボの隠し操縦モードだった。

 

『シャアアッ!!!』

 

背後を取られ額から発射されたゲッタービームがゲッターD2を捉えてその巨体を弾き飛ばし、ダブルシュテルンを装備したゲッターザウルスが追撃に走り出す。

 

「くっそがぁッ!!! ゲッタァァアアアア――ビィィイイイムッ!!!」

 

だが武蔵も何時までもゲッターザウルスに好き勝手させるつもりはない、バトルウィングをラングレー基地に突き刺し無理矢理な減速そして強引に態勢を立てなおし、地面に掌を叩きつけることで勢いを完全に殺し向かってくるゲッターザウルスに向かってゲッタービームを発射する。

 

『シャアッ!!!』

 

地響きを立てながら突撃してくるゲッターザウルスは両手に持ったダブルシュテルンでゲッタービームを防ぎ、そのまま両手に持ったダブルシュテルンを振るう。

 

『!?』

 

命中を確信していたゲッターザウルスだったが、ダブルシュテルンは空振りつんのめる様にバランスを崩す。

 

「ドリルアームッ!!!!」

 

『グギャアアアアッ!?!?』

 

つんのめったゲッターザウルスの背部装甲を右腕で掴み姿勢を安定させ、左腕のドリルアームを突き刺しドリルを高速回転させる。オイルとメカザウルスの血液が撒き散らされゲッターライガー2の青い装甲を瞬く間に真紅に染め上げる。

 

「うおおおおおッ!! くたばりやがれええッ!!!」

 

トカゲもどきと蔑んだ呼び名をしている武蔵だが、ゲッターザウルスが本物のゲッターロボである事を武蔵は認めていた。決して油断していい相手ではないと業腹だが認めていた。だからこそ不意打ちで背後を取りドリルアームを突き刺したのだ。

 

(違うのか……くそ、しくじった)

 

飛び散る肉片と血とオイル……武蔵も好き好んで残虐な行いをしているのではない。ゲッターロボの合体には当然パイロットの腕前も要求されるが、ゲットマシン本体にも合体をコントロールする部位がある。強い電撃などを受ければゲッターロボが合体不能になるほどに繊細なゲットマシンがゲッターロボへとなるための最重要機関と言えるそれを武蔵は破壊しようとしたのだ。ゲッターロボ、ゲッターロボG、ゲッターロボV、ゲッターD2、そしてネオゲッターロボ。早乙女博士と言えど基本的な部分は解消できないのか装甲などで守られていても大まかな場所は変わっていなかった……だからゲッターザウルスも基本的な場所は同じと考えたのだ。だがドリルアームを深く突き刺しても手応えは無く、また分離する気配も無かった。

 

『キシャアッ!!!』

 

「ぐっ!?」

 

ゲッターザウルスの尾がゲッターライガー2の足に巻き付き、地面へと叩きつける。

 

『シャアアッ!!!』

 

爪をゲッターライガー2の頭部へ突き刺そうとするゲッターザウルスだがそれよりも早く武蔵はオープンゲットを選択しゲッターライガー2からゲッターD2へとゲッターチェンジを果たす。

 

「真っ向からぶっ潰すしかねぇわけかッ!!!」

 

『キシャアアアアアッ!!!』

 

ダブルトマホークとダブルシュテルンが同時にフルスイングされ、凄まじい轟音と火花を散らす。

 

「おらああああッ!!!」

 

『グルルウ、ガアアアアアッ!!』

 

ゲッターD2とゲッターザウルスは完全な鍔迫り合いの形になり、互いに互いを両断せんと言わんばかりに力を込める。ゲッターD2とゲッターザウルスの足元は蜘蛛の巣状にひび割れ完全に互角の形になる。

 

『ガアアアアアーッ!!!』

 

「ゲッタービィィイイイムッ!!!!」

 

火炎放射とゲッタービームが至近距離でぶつかり合い、大爆発を起こすと同時に6機のゲットマシンが煙を突き破り姿を現す。

 

「チェンジッ! ライガアアアアーッ!!」

 

『キッシャアアアアアアッ!!!』

 

ゲッターライガー2とゲッターガリムが空中にその姿を現し、マッハの戦いを繰り広げるのだった……。

 

 

 

 

鬼は人間よりも強靭な肉体を持つ、本来ならばゲッターザウルスに鬼が乗り込み操縦する事でポテンシャルを最大限に発揮する事が出来れば単独操縦の武蔵が操るゲッターD2よりも高い戦闘力を発揮出来たであろう。だが鬼を持ってしてもゲッターザウルスを完全に操る事は不可能だったのだ。

 

「グルルル、グゴガアアアアアアッ!!!」

 

マグマ炉心とゲッター炉心による圧倒的なエネルギー、そして様々な恐竜のパーツを繋ぎ合わせパイロットのサポートを行なう超高性能電子頭脳には恐竜の意志が未だに残っている。ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMのテストをしていたブリットは強烈な破壊衝動を感じたと言ったが1体でもそれなのだ。複数体の意志が宿っているゲッターザウルスの凶暴性はヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプMの比ではない。

 

『うおおおおッ!!!』

 

ドリルアームとスパイラルドリルがぶつかり合い凄まじい火花を散らす。機体性能、そしてパイロットの腕前で言えばゲッターD2と武蔵に軍配が上がる。だがそれは総合的な話であり各形態ごとに限定すればゲッターザウルスに軍配が上がっていた。

 

「グルルルル、シャアアアアッ!!!」

 

『ちいっ!!!』

 

元々武蔵はゲッター1、ゲッター2の操縦は決して得意ではない。過去、そして平行世界で戦い続けその技量をあげて来たがそれでもゲッタードラゴン、ライガーと言った形態の適性が高いか? と言うとそうではない。いや、もっと言えば元々武蔵のゲッターパイロットとしての適性は竜馬や隼人を大きく下回るのだ。下手をすれば弁慶よりも低いかもしれない、それを根性と持ち前のタフさで補い、戦い続ける事で最も相性の良いゲッター3、ポセイドンを己の物としたがD2、ライガー2の適性は実際の所そこまで上がっていない。それに対してゲッターザウルス、ガリム、メガロンはシャドウミラーが制圧していた時と違っていて、主な行動は搭載されていた電子頭脳に任せていた。

 

「そのままゲッターロボをハガネ達から引き離せ」

 

「はッ! 了解ですッ!!」

 

全てを押さえつけようとすれば強烈な闘争本能を持つゲッターザウルスに反発される。ならば大まかな作戦方針だけを改造し取り付けた角から電子頭脳に与え、その命令さえ守れば後は全てゲッターザウルスに任せるというのが最も確実に、そしてその戦力を使いこなすために百鬼帝国が出した答えだった。

 

「しかしこれだけの事でここまで制御出来るとは思っても見ませんでしたね」

 

「流石は大帝だ、その慧眼は我々とは次元が違う」

 

その形式を提案したのはブライであり、遠隔操作でゲッターザウルスを操っていたチームは本当にそれで大丈夫なのかと懸念を抱いていたが、実際にこうしてゲッターD2を圧倒している姿を見ればブライの判断が正しかったと鬼のチームも認めていた。

 

「ギッシャアアアアッ!!!」

 

鬼達が感嘆しながらもゲッターザウルスに攻撃命令を出し、一際大きいゲッターガリムの咆哮と共にスパイラルドリルがゲッターD2の胸部を抉り、大きく火花を散らす。そしてバランスを崩した所にガリムの蹴りが叩き込まれゲッターライガー2は真っ逆さまに急降下する。

 

「シャアアアアッ!!!」

 

追撃に急降下したゲッターガリムは両腕をスパイラルドリルへと変形させ、両腕でゲッターライガー2の装甲を抉り取ろうと両腕を広げる。

 

『ぐううっ!! くそがッ!! ドリルミサイルッ!!!

 

近づけさせまいと武蔵は連続でドリルミサイルを放つ。だがゲッターガリムはその身軽さを十分に利用しあろうことかドリルミサイルを踏み台にして更に急加速する。

 

『はなっから当たるなんて思ってねえよッ!!! プラズマドリルハリケーンッ!!!!』

 

ドリルミサイルを踏み台にされたのは武蔵にとっても計算外だったが、当たらないという事は武蔵も覚悟していたので急降下して来たゲッターガリムを睨みつけ獰猛な笑みを浮かべ、プラズマドリルハリケーンを放つ。

 

「ギイイッ!?」

 

『ぐうッ!?』

 

プラズマドリルハリケーンは最初に放たれたドリルミサイルを飲み込み凄まじい大爆発を起こし、ゲッターガリムとゲッターライガー2に凄まじい炎と爆発が襲い掛かり、ゲッターガリムと武蔵の苦悶の声が重なる。だがダメージを覚悟しなければ武蔵はここまで間合いを詰められたゲッターガリムから逃れる術がないと判断したのだ。

 

『オープンゲットッ!!!』

 

「グルオウッ!!!」

 

武蔵がオープンゲットを選択し、ゲッターガリムもオープンゲットする。マッハで飛び交うゲットマシンは互いに合体妨害をしつつ、相手よりいいポジションを取ろうと緩急を生かして相手を幻惑する。

 

『チェンジッ! ポセイドンッ!!!』

 

先に合体を果たしたのは武蔵だった。確かにゲッターザウルスの闘争本能はゲッターパイロットに匹敵する物があるのは事実だ。だがこの場合はその闘争本能が邪魔をした。自動操縦のゲットマシンは動きが鈍く、肉食恐竜の頭脳を使われているボアレックス達は狩をすると言う本能に抗えなかったのだ。

 

『シャアアッ!!』

 

そしてポセイドンを相手にするには同じメガロンになる必要があると判断しゲッターザウルスもメガロンへとゲッターチェンジを果たす。実際問題で言えばポセイドンを相手にする上で1番堅実な選択はドラゴンに匹敵する形態であるザウルスだ。ポセイドン2は飛行能力を有しているが、それはあくまで補助程度――空戦に特化しているザウルスと比べればその能力は格段に劣る。安全策を取るのならば上空を取りトマホークブーメラン、ゲッタービーム、火炎放射を駆使し距離を詰めさせない戦いをするのが最も安全策だ。逆にライガーに匹敵する形態のガリムでは攻撃力が足りず、ジリ貧になるのでこの場合の最適な選択はザウルスなのだ。だがゲッターザウルスに搭載された電子頭脳はそれを否定する。

 

「グルルルル、ウォオオオオオ――ッ!!!」

 

『来いやッ! ゲッターモドキがぁッ!!!』

 

鬼でさえ制御出来ない闘争本能の塊であるゲッターザウルスは逃げる事を、距離を取って戦う事を受け入れない。その力を持って真っ向から相手を打ち破るというのが基本的な行動理由であり、ゲッターポセイドン2にゲッターチェンジしたのを見て自分もゲッターメガロンへとチェンジしたのだ。

 

「ギャオオオオオスッ!!!」

 

『うおらああああッ!!!』

 

武蔵とゲッターメガロンの雄叫びが重なり、互いの拳が互いの胴にめり込み轟音が響き、弾き飛ばされるがゲッターポセイドン2もゲッターメガロンもすぐに態勢を立てなおし再び轟音をぶつけ合い再び弾かれるが、再び態勢を立てなおしがっぷり4つに組合い互いの頭部がぶつかり合う超至近距離での激しい白兵戦を繰り広げるのだった……。

 

ラングレー基地での戦いで最も激しいのはゲッターポセイドン2とゲッターメガロンの火の出るような激しい打撃戦だ。だがリュウセイやゼンガー達が強敵と戦っていないと言う訳ではない、ゲッターザウルスに負けず劣らない圧倒的な力を持つ敵がリュウセイ達の前にも立ち塞がっていた。

 

『アヒャハハハハハハッ!! またお会いしましたねぇ~ライディース君、そしてエルザム……いやレーツェルでしたかねええ!! アヒャハハハハハハッ!!!』

 

漆黒の禍々しいゲッターロボからはアーチボルドが狂笑と共にSRXチームとアウセンザイターへ執拗な攻撃を繰り出し。

 

『ゼンガー勝負だ、正々堂々一騎打ちの真っ向勝負だッ!』

 

『受けて立つッ! ウォーダン・ユミルッ!!』

 

同じゲッター合金で出来た斬艦刀を持つスレードゲルミル、そしてダイゼンガーが向かい合い。ウォーダンとゼンガーが互いの誇りと信念を賭けて向かい合う。

 

『ベーオウルフ……いや、キョウスケ・ナンブ。今日こそ決着をつけるとするか、これがな』

 

『うふふふ、今回は私も参戦するわよ。そちらも2人、こちらも2人……これで対等でしょう?』

 

ソウルゲインとアルトアイゼン・ギーガが向かい合い、激しい闘志がぶつかり合う。そしてその上空ではヴァイスセイヴァーとヴァイスリッター改が向かい合い互いのパートナーをいつでも支援できる位置を激しく奪い合う。

 

『がははははッ!! さーて、そろそろ俺様達も行くかねぇッ!!』

 

『そうね、行きましょうか龍』

 

激しい闘争の熱に突き動かされるように龍王鬼と虎王鬼も動き出しラングレー基地での戦いはより一層激しさを増していくのだった……

 

 

第174話 オペレーション・プランタジネット その5へ続く 

 

 




オペレーション・プランタジネットの間はこんな感じで各陣営同士の対決を1話の間で細かく書いて行こうと思います。これは盤面がころころ変わると私自身混乱してしまうからですね。ちょっとボリューム不足になりますが、各陣営の戦いの第一局面はこんな感じで進めて行って最後のほうで1つに纏めたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


弾丸Xとみーテイアどちらでも良いので欲しくてガチャをして

ミーティア×3
ファンネル(サザビー)

でした

うーん、MAPは幾つあっても困らないので良しとします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第174話 オペレーション・プランタジネット その5 

第174話 オペレーション・プランタジネット その5 

 

ブライが思いつきで行なったブラックゲッターロボにマシンセル、そして共行王の体の一部を組み込むという実験は想定以上の成果を生み出していた。精神は肉体に引っ張られるという話があるが、その逆で肉体が精神に引っ張られたという現象が共行王を始めとしたブライが復活させた超機人に発生していた。精神……いや魂と呼ばれる物は間違いなく超機人の物だが、その肉体はブライが用意した仮初の物……つまりどこまで行っても百鬼獣のままである筈なのだが、適合率が上がれば上がるほどに百鬼獣の肉体は変異していた。肉体である百鬼獣が精神である超機人に引っ張られ、その肉体をオリジナルに近い超機人にまで変異させていた。

 

『アヒャヒャヒャッ! そんな豆鉄砲で僕のノワールに傷を付けれると思っているんですかぁッ!!!』

 

鬼になった弊害で凶暴性を露にしているアーチボルドは狂ったように笑う……いや実際にもう狂っているといっても良いだろう。ゲッター線に触れ、鬼へと改造されたアーチボルドに最早人間性など殆ど残されていない。鬼の本能が命じるままに暴れ、そして僅かに残された理性がライディースやレーツェルを苦しませる為に残っているだけであり、ゲッターロボ・ノワールの生体パーツと言っても良いだろう。だがまぁそれに関しては百鬼衆そのものが百鬼獣の能力を十全に発揮させる為の生体パーツとも言えるので百鬼帝国のやり方と言えばアーチボルドへの措置は何も間違ってないと言える。

 

「くそッ!! SRXに合体する隙すらねぇッ!!!」

 

『アーハハハハハハッ!! そう簡単に合体なんてさせてあげませんよぉッ!!!』

 

変異と進化を繰り返したゲッターノワールは既にゲッターD2を上回る巨体へと変貌し、その姿も大きく変わっていた。ゲッター1の頭部に歪なドラゴンの意匠、ゲッターウィングは硬質な翼にも変形するようになり、スパイク付きの拳。そして戦艦の主砲クラスを遥かに上回る2丁のリボルバーと三日月状のグレイブと言われる形状に変化したゲッタートマホークとその巨体そのものを武器に突っ込んでくるゲッターノワールはPTやAMと比べれば鈍重だが、それでも特機としては破格の機動力を持ってSRXへの合体を阻止するように立ち回っていた。

 

『まずは君からですよッ!! リュウセイ・ダテぇッ!!!』

 

開かれた掌――いや、指先から放たれた細かいゲッタービームの雨がR-1へと向かう――しかもそれはスパイラルゲッタービームのように建造物に当たるとその機動を幾重にも変え回避運動に入ったR-1を執拗に追い回す。

 

「なっ!?」

 

『くっ!? 流石にこれは避け切れんッ!!』

 

『ライ! 下がってッ! ストライクシールドパージッ!! 念動フィールド展開ッ!!』

 

R-1の機動力だからこそ避ける事が出来ているが鈍重なR-2・パワードに乱反射するゲッタービームを完全に避けきる機動性は無く、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプTT、そしてアルガードナーのデータを元に改造されたストライクシールドの新しいフォーメーション――ストライクシールドを基点に広範囲に展開することが可能になった念動フィールドを展開しアヤはゲッターノワールのゲッタービームを防ぐ事を試みる。

 

『くッ! 思った以上に重いわねッ! だけど今がチャンスよッ! ゲッターノワールに攻撃をッ!!』

 

一撃当たる事に大きく軋む念動フィールドとそれを維持するアヤはその衝撃に顔をゆがめながらも、いつまでも防ぎきれないので今の内に攻撃に転じろとリュウセイ達に指示を出す。

 

『ハイゾルランチャーシュートッ!!!』

 

『あれだけ大きければ簡単に当てられるッ!!』

 

「念動集中……T-LINKソードッ!!!」

 

R-2パワードのハイゾルランチャー、R-GUNパワードのツインマグナライフル、そしてR-1のT-LINKソードがゲッターノワールの胴体へと突き刺さり大きく爆発する。

 

「どう……ッ!? くそッ!! ライ! マイッ! 俺も防御に回るッ!!!」

 

どうだと最後までリュウセイは言い切る事が出来ず、アヤの念動フィールドの内側に更に念動フィールドを展開させる。煙の中に展開された腹部の大型レンズを見たからだ。

 

『はっははぁッ!!! 喰らいなさいッ!!! ゲッタァァアアアア――ッ!!! ビィィイイムッ!!!』

 

轟ッ! と凄まじい音を立てて放たれたゲッタービームがアヤとリュウセイが全力で展開している念動フィールドへとぶち当たる。

 

『くううううッ!!!』

 

「ぐっ……だ、駄目だッ! 長くはもたねえッ!!!」

 

サイコドライバーとして覚醒しているリュウセイとL5戦役時よりも格段に念動力が強まっているアヤですら長くは持たないと悲鳴をあげる。

 

『鬱陶しい真似をしてくれるッ!』

 

『不味いわね……攻撃力が圧倒的に足りていないッ』

 

放射を続けるゲッタービームを止めさせようとR-SWORDとゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDがゲッターノワールへと攻撃を繰り出す。確かに攻撃は命中している……だがゲッターノワールの装甲は見る見る間に回復する。

 

『我が一撃を受けていただこうッ!!!』

 

百鬼獣を踏み台にして跳躍したアウセンザイターがランツェカノーネの銃口をゲッターノワールへ向け、ゲッター合金製の実弾、炉心に直結している事で使用出来るようになったゲッタービームライフルが続けてゲッターノワールを捉える。

 

『はっははッ!! そんな豆鉄砲なんてぇッ!?』

 

ゲッター線、ゲッター合金を利用した攻撃は確かにゲッターノワールの回復を大きく阻害した。だが致命傷には程遠く嘲笑うアーチボルドだったが、モニターに広がった光景に絶句した。

 

『豆鉄砲か、確かにその通りだろうな……だがこれはどうだッ!! 切り裂けッ! シュルタープラッテッ!!!』

 

アウセンザイターの両肩のシールド。一見飾りにも見えるそれは実はアウセンザイターの持つ武器の中で最も破壊力に秀でた武器でもあった。高密度のゲッター合金によって作られたそれはビアンの趣味によって盾ではなく、矛としての機能を持たされた武器なのだ。アウセンザイターの手から放たれたシェルタープラッテの外周部が開き、そこからゲッター線の光り輝く刃が発生しゲッターノワールへと突き進む。

 

『ギッ! ギィイイイヤアアアアアアッ!?!?』

 

腕でその刃を防ぎ、R-1とR-3・パワードを撃破する事を優先したアーチボルドだったが、その刃は容易くゲッターノワールの腕を切り落とし、胴体へと突き刺さる。だがそれでもシュルタープラッテは回転を緩める事無くゲッターノワールの胴体を切り裂き続け、アーチボルドの甲高い悲鳴が周囲へと響き渡る。

 

『今のうちだッ! SRXへ合体するんだッ!!』

 

「お、おうッ! 行くぜッ! ライ! アヤッ!! ヴァリアブルフォーメーションだッ!!」

 

ゲッターノワールが大きく仰け反った今が最初で最後のSRXへの合体のチャンスである事は誰の目から見ても明らかであり、そしてゲッターノワールを退けるのにSRXの力は必要不可欠であった。リュウセイはレーツェルに促されライとアヤへSRXへの合体フォーメーションを叫びSRXへの合体フォーメーションを取るのだった……。

 

 

 

ゲッターノワールのコックピットと言えば聞こえは良いが、実際はコックピットなどと呼ばれる部位はゲッターノワールには存在していなかった……ではどこにあるか? と言えばゲッターノワール全てがコックピットだったのだ。ゲッターノワールはマシンセル、共行王の鱗、そして百鬼獣の技術を組み込んだ事で変異したブラックゲッターロボだ。そして新西暦の人間ではゲッターロボのポテンシャルを100%引き出すことは出来ないのはブライも分かっていた事だ。根本的に旧西暦と新西暦の人間では身体の耐久度が違う……だがマシンセル、超機人の力を得たゲッターノワールをゲッターザウルスと同じ様に遠隔操作にするのではその能力を十分に発揮出来ない……ではどうするか? と考えたブライが出したのは非人道的な考えだった。

 

「ああ、痛い……痛いですねぇ」

 

上半身と頭部だけが露になったアーチボルドは恨めしそうにアウセンザイターを睨みつける。元々百鬼獣はパイロットの鬼の生態パルスと脳波を読み取って起動するように出来ている……ならばそれを発展させ、両腕、両足をコックピットに取り込ませることで生身の体のような柔軟な動きを可能とし、ゲッターロボの操縦系統である複数のレバーやペダルを己の勘で操るという真似もせず、そして機体から出れないように融合させるのではなくしっかりと生身の肉体を分離させる事が出来る百鬼帝国の脅威の技術力によってアーチボルドは新西暦の人間でありながらゲッターロボを操縦する術を得た……だが世の中に都合だけが良い話などは無く、ゲッターノワールとアーチボルドは文字通り1つになっており、余りに大きなダメージを受ければアーチボルドもまたダメージを受ける。シュルタープラッテで切り落とされた腕の痛み、そして身体に深く斬り込まれた痛みを味わったアーチボルドは激しい怒りを露にした。

 

「これはお返しをしないわけにはいきませんよねぇッ!!!」

 

肩から飛び出したゲッタートマホークを握り締めゲッターノワールはアウセンザイターへと突撃する。

 

『そんな攻撃に当たる私ではないッ!!』

 

「ちいっ!! ちょこまかことッ!!!」

 

ランツェカノーネの威力はゲッターノワールからすれば豆鉄砲に過ぎず、アーチボルドにダメージのフィードバックが襲って来る事はない。踵のローラーを駆使しランツェカノーネで細かい攻撃を繰り返し逃げていくアウセンザイターを舌打ちしながらアーチボルドは追う、右腕を突き出し、その指先から放たれるホーミングゲッタービームでアウセンザイターを狙うゲッターノワールとアーチボルドだったが、背後から響いたヴァリアブルフォーメーションの叫び声に小さく溜め息を吐いた。

 

「いけませんいけません……僕とした事が冷静さを欠いていたようだ」

 

鋼の戦神SRXが仁王立ちする光景に自分が冷静さを欠いていた事を自覚したアーチボルドは自嘲気味に笑った。

 

「SRXだったとしても僕とゲッターノワールを倒す事はできませんよ」

 

『うるせえッ! 偽物のゲッターロボになんか俺達は負けやしねえんだよッ!!』

 

勇ましいリュウセイの声にアーチボルドは馬鹿にするような大声を上げる。

 

「偽物ではないですよ、これだって本物のゲッターロボですよ。まぁ色々と手を加えていますがね」

 

マシンセルと超機人の生態パーツを組み込んでいるので純粋なゲッターロボかと言われれば疑問が残るが、間違いなくゲッターノワールは本物のゲッターロボだ。

 

『いいえ、偽物ですわ! それは決してゲッターロボなどではありませんわッ!!』

 

「おやおやおやおやッ! プリンセスシャインではないですか、お姫様だと言うのにこんな所にまで出て来て……よほど死にたいんですねえッ!!」

 

敵の数がどれだけ増えようが自己再生能力を持つゲッターノワールを倒すには至らない、精々目障りな羽虫が1匹か2匹増えたの違いだとアーチボルドは笑い、狙いなどつけずにホーミングゲッタービームを放とうと両腕を上空へと掲げようとし、咄嗟に腕を下ろして防御姿勢に入った。

 

『アーチボルド、お前が好き勝手やった分のツケを払ってもらおうかッ!!』

 

「ユウキ君、ああ、そうでしたねえッ!! 君はビアン博士の手下でしたねぇッ!!」

 

念動力の刃を展開し突撃して来たラーズアングリフ・ゲイルレイブンから響いたユウキの声にアーチボルドは楽しそうに返事を返した。

ゲッターノワールに致命傷を負わせれるのはゲッターザウルスと戦っているゲッターD2か、それともダイゼンガー、アウセンザイター、SRXくらいの物だと思っていたが、それは己の慢心であり手傷を負わせれる可能性を秘めた敵はまだまだいる……鬼になった反動で感情の波が小さくなっているアーチボルドにとって戦いの熱だけが心を震わせる物であり、そして人をかつての同胞を惨たらしく殺す事だけが楽しみであった……だが今はほかにも楽しめる物があると半ばゲッターノワールに取り込まれた状態でアーチボルドは心底楽しそうに笑うのだった……。

 

 

 

R-2・パワードのコックピットで細かい制御をリアルタイムで行なっていたライは舌打ちを打った後にリュウセイへと通信を繋げた。

 

「冷静さを取り戻しているぞ、勢いで突っ込むな。相手は統合軍・連邦軍から逃げ続けたテロリストだ、油断するなよ」

 

『分かってるぜライ。教官と隊長にも言われてるからな……だけどそれだけじゃねえ、なんだよ。このどす黒い念はよ……本当に人間かよ』

 

『リュウセイ、相手は人間ではない鬼と思え、情けも容赦もいらん。ここで殺すつもりの気持ちで行け……さもなくば死ぬのは俺達だ』

 

イングラムの直感は実に的を得ていた。アーチボルドは殺人を楽しむ生粋の殺人鬼だ、同じ人間と思うな。ここで殺しに行けと言うのはアーチボルドを生かしておけば、それによって齎される被害、そして死ぬ人間の事を考えての事だった。

 

『あははは、話している時間なんてあるんですかねッ!!! 僕もそろそろ本気で行きますよぉ!!』

 

本気で行く……アーチボルドがそう叫ぶとゲッターノワールの腕から小さな……と言ってもゲッターノワールの全長と比べれば小さいのであってPTやAMと比べれば十分に大きい特機サイズの小さな腕が無数に生えてくる。

 

『やばいですわッ! あれは全部攻撃の為の物ですわッ!!』

 

その腕から放たれる攻撃を予知したのだろうシャインが警告の言葉を告げると同時にその腕を円錐形の装甲が包み込んだ。

 

『ゲッターチェンジなんてナンセンスなんですよ。なんせ無駄がありすぎますからねぇッ!!』

 

ゲッターノワールの全身から現れたドリルアームが全て同時に発射される……ドリルの雨とも言うべき異常な光景にライは目を見開いた。

 

「ロックオンするッ! 迎撃しろリュウセイッ!!」

 

『それは分かるけどよッ!! 数が多すぎるぜッ!! くそッ!! アヤも手伝ってくれッ!!!』

 

『言われなくてもッ! T-LINKミサイルロック……リュウ! いけるわよッ!!』

 

『おうッ!! テレキネシスミサイル発射ッ!!!』

 

展開されたSRXの脚部からテレキネシスミサイルが発射される。念動力で操作されているそれはドリルミサイルを全て迎撃してくれる筈……ライもリュウセイもそう考えていた。

 

「なッ!?」

 

『嘘だろッ!?』

 

だがドリルミサイルはテレキネシスミサイルを自ら避け、あるいは1度減速し急加速しテレキネシスミサイルを誘爆させる。

 

『あーっははははははッ!! そう簡単に迎撃できるような攻撃を僕がするわけ無いでしょう!!! そらそら行きますよおッ!!!』

 

ゲッターノワールが手にしたゲッタートマホークがSRXへ向かって放たれる。

 

『くそッ! 一発や2発被弾しても平気だろッ!』

 

ドリルミサイルとゲッタートマホークならばドリルミサイルの方が危険度が低いと判断したリュウセイは被弾を覚悟でゲッタートマホークの迎撃に出ようとする。

 

『やめろリュウセイッ! それに当たるなッ!!!』

 

だがそれを止めたのはイングラムだった。冷静なイングラムにしては珍しい大声による警告にリュウセイは咄嗟にSRXを操り、命中しようとしていたドリルミサイルを回避し、ゲッタートマホークをクロスした両腕で受け止めるという行動に出た。ゲッタートマホークを防御とした言え、その衝撃を完全に殺し切る事は出来ず吹っ飛んだSRX。態勢を立てなおしドリルミサイルが着弾した所を見たリュウセイ達は驚きにその目を見開いた。

 

「なん……だとッ」

 

『マジかよ……』

 

『うそでしょ……どうしたらこんな事が出来るのよ……』

 

ドリルミサイルが着弾した所が抉り取られ消滅していた……穴が空いたとか、破壊されたのではない消滅していたのだ。

 

『高密度のゲッター線反応があるッ! あれはドリルミサイルの形に固められたゲッタービームなんだわッ! だから当たった所から消し飛ばされるッ!!』

 

『迎撃するしかありませんわッ! ラトゥーニッ!!』

 

『分かっていますッ! リュウセイッ! ドリルミサイルは私たちで何とかしてみるッ!!』

 

『ラトゥーニッ! 私も手伝うぞッ!』

 

2機のフェアリオンとゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプTTがボストークレーザーやパルチザンランチャーによる迎撃を試みる。

 

『くっ! 硬いッ!!』

 

『そう簡単には壊せないと言うわけですかッ!』

 

フェアリオンも十分な攻撃力を有しているが、それを持ってしても容易には迎撃できないその固さ、その上ある程度の自立回路が組み込まれているのか回避能力を有しており、思うように攻撃を当てられない。

 

『ライディースッ! 突っ込むぞッ!』

 

「な、何を言っているのですか!?」

 

『もう1度発射されたら対応しきれんッ! アウセンザイターとSRXで動きを封じるッ!』

 

ドリルミサイルの雨はゲッターノワールでもそう簡単に用意出来る物ではないのか、ゲッタートマホークでの白兵戦を仕掛けてこようとしている……ように見えるが武蔵のゲッターと違って百鬼帝国に改造されたゲッターは何をしてくるか全く予想がつかない。

 

『ライ、お前の兄貴の提案で行こうぜ』

 

「リュウセイ、だが……」

 

『慎重になるのは分かるぜ。だけど……守ってたら勝てねぇ……あいつはやばい、ジュデッカとか、アストラナガンに近い物を感じる』

 

L5戦役で戦った強大な敵――それに通じる何かがあると告げるリュウセイの言葉にはライも覚悟を決めざるを得なかった。ここで倒さなければ、あるいは暫くは動けないほどに損傷させる必要があるとリュウセイの言葉で理解したのだ。

 

「5分だ。継戦は最初から考えない、全力で行くか、それとも」

 

『全力だ。出し惜しみをして勝てる相手じゃねぇ。最初から全開だ』

 

『そうね、私もそう思うわ。行きましょう、リュウ、ライ』

 

敵はまだ残っている。SRXの力を温存しておきたかったが、そんなことを言って勝てる相手ではない、SRXのトロニウムエンジンが唸りを上げ、アウセンザイターが翡翠の光に包まれる。

 

『行くぞッ! SRXチームッ!!』

 

『応!! 行くぜぇッ!!!』

 

『ヒャハハハハッ!!! そういうのいいですねぇ、格好いいですよッ!! でもね、正義の味方が勝つのは物語の中だけなんですよぉッ!!!』

 

禍々しい悪神となったゲッターノワールからアーチボルドの狂笑が響く、それに負けない雄叫びを上げながらSRXとアウセンザイターはゲッターノワールへと挑みかかって行くのだった……。

 

 

第175話 オペレーション・プランタジネット その6へ続く

 

 

 




今回の構成ですが、前・後で各陣営の戦いをじっくりと書いていくつもりです、なのでこういう形となります。イベントが進むまで書くと多分2万文字くらい行きそうですしここは分けるべきだなと判断したわけです。

なお味方としては

SRX&アウセンザイター
フェアリオン・R-SWORD・ゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRD・ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプTT・ラーズアングリフ・ゲイルレイブン

VS

ゲッターノワール


となっております。HP????で回復とMAPを多用してくるって感じですね。

次回はウォーダンVSゼンガーを書いて行こうと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第175話 オペレーション・プランタジネット その6

第175話 オペレーション・プランタジネット その6

 

オペレーション・プランタジネットは表向きはラングレー基地を奪還するための作戦であったが、百鬼帝国――いや、ブライの策略によってハガネ達を追詰める狩場として用意された舞台と成り果てていた。

 

『ヒャーハハハッ!!! どうしましたかぁッ!! 反撃も出来ないのですかね!! 正義の味方ぁッ!!!』

 

アーチボルドの狂笑が響き、変異と進化を続けているゲッターノワールが突き出した両手の指から無数に乱反射するゲッタービームの雨がSRXとアウセンザイターに向かって降り注ぐ。

 

『ちいっ!! アヤッ!』

 

『分かってるわッ! リュウッ!』

 

単独で発生させる念動フィールドでは防ぎきれないとリュウセイとアヤが協力して作り出した念動フィールドでゲッタービームの雨を防ぐが、その攻撃は止まる所かより激しさを増す。

 

『そのまま耐えていてくれッ!! ターゲットインサイト……ファイヤッ!!!』

 

アウセンザイターの構えたランツァカノーネの銃口から放たれたゲッタービームがゲッターノワールへと放たれ、その胸部に風穴を開ける。

 

『駄目ですわッ! 効いていませんッ!!!』

 

『その通りですよぉッ!! アハッ! アヒャハハハハハハッ!!!』

 

ゲッターノワールの全身の装甲が開き、そこから無数のゲッター線を内包したミサイルの雨が放たれる。

 

『くっ! リュウセイ! ミサイルはこっちで迎撃するわッ!! 本体を何とか叩いてッ! マイッ!』

 

『分かっているッ!!』

 

『私達も手伝いますッ!!』

 

『着弾点予測をしてすぐに座標を送りますッ!』

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅱ・タイプRDとゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプTT、そしてフェアリオンがゲッターノワールから放たれたミサイルの雨の迎撃を試みる中、イングラムとユウキの2人はゲッターノワールに匹敵する敵と戦っていた。

 

『ユウキだったな、こいつの気配を感じ取れるか?』

 

『辛うじて……俺はさほど能力の高い念動力者ではないのです』

 

ユウキが苦しそうにそう告げた瞬間R-SWORDとラーズアングリフ・ゲイルレイブンの間の地面が砕け、そこから禍々しい黒のゲッター2が飛び出してくる。

 

『気色が悪いな、これではインベーダーと大差ない』

 

『ッ!?』

 

ゲッター2の形状をしているのは上半身のみであり、下半身はまるで触手のようになっておりその先はゲッターノワールへ繋がっている。

 

『ユウ! 後ッ!!』

 

『すまんカーラッ! 助かるッ!!』

 

ラーズアングリフ・ゲイルレイブンが振り返ると同時に手にしたアサルトカノンの引き金を引き、放たれた散弾がゲッター3の頭部を持つ触手を吹き飛ばす。

 

『こいつらを自由にさせるわけにはいかん』

 

『時間を掛ければ完全体になるかもしれないからですね?』

 

『その通りだ』

 

ゲッターノワールから伸ばされた触手はラングレー基地の地下で基地の設備を取り込み、その材料を元にゲッター1・2・3の複製体を作り出し始めていた。マシンセル、ゲッター炉心、超機人の要素を組み込まれたゲッターノワールは最早機動兵器の枠組みから逸脱した存在になりつつあった。

 

『うおらあッ!!!』

 

『キシャアアアッ!!!』

 

両刃の巨大戦斧であるダブルトマホークと棘付き棍棒であるダブルシュテルンがぶつかり合い、武蔵とゲッターザウルスの雄叫びが何度も響き渡る。ゲッターノワールとSRXのような超常の戦いではなく、純粋に力による戦い。だがそれでもその戦いはゲッターノワールとSRXとアウセンザイターの戦いを遥かに上回る激しい物だった。100mに迫る特機が高速で動き回り、その圧倒的な膂力で武器を振るえばそれだけで周囲に凄まじい被害を衝撃を齎す。武器を用いたある意味原始的な戦いではあるが、その巨体さ、そしてゲッター炉心の齎す無尽蔵のパワーでゲッターザウルスとゲッターD2の戦いは誰よりも激しい物となっていた、

 

『ははははッ!! 良いぞ、前よりも強くなっているな! イルムガルトッ!!!』

 

『ちっ、本当に戦闘狂はうんざりするぜッ!!!』

 

『行くぞッ! ベーオウルフゥッ!!!』

 

『悪いが俺の道はここで終わりではない、押し通らせてもらうッ!!』

 

エースパイロット同士の戦いは長引けば長引くほどに激しくなり、そして空中に陣取っている百鬼帝国から量産型の百鬼獣が何度も増援として現れ、シャドウミラー、インスペクターの無人機もその数を減らす事はない……倒しても倒した数以上に敵の増援が現れる。

 

『そらそらッ!! 余所見をしている時間なんてないよッ!!』

 

『ちいっ!! 鬱陶しい真似しやがってッ!!!』

 

『邪魔ばっかりしてッ!!』

 

広域攻撃が可能なサイバスターとヴァルシオーネだが、風神鬼の術によってそれを封じ込められサイフラッシュとサイコブラスターを使用可能とする為に風神鬼を撃墜しようとするが、サイバスターとヴァルシオーネに匹敵する速度を持ち、豊富な攻撃手段を持つ風神鬼を撃墜するのは容易な事ではない、支援をしようにも無人機の攻撃が激しく分断された状態から合流する事すら難しく、かと行って用意に突破できるほど敵は容易くはない。

 

『がっはははははッ!! 良いぜ良いぜ、龍虎王ッ!!! 前よりも強いじゃねえかッ!!! だけど……てめえより俺様の方が強えっ!!!』

 

龍虎鬼皇の鉄拳が龍虎王の顔面を打ち抜き、クスハとブリットの悲鳴が木霊する。

 

『くっ……やっぱり強いッ!!』

 

『それでもだッ! こいつを自由にさせるわけには行かないッ!!』

 

龍虎鬼皇の機動力と攻撃力は極めて脅威であり、ゲッターD2を除けば龍虎鬼皇と真正面から戦えるのは龍虎王だけだった。

 

『その闘志、良いねッ!!! 痺れるぜ、さぁ思う存分戦おうぜッ!!! 超機人ッ!!!』

 

逃げも隠れもしないと両腕を広げて掛かって来いと言わんばかりの龍虎鬼皇に虎龍王が飛びかかり拳を振るう。

 

『温い、もっと殺す気できやがれッ!!!』

 

その一撃は確かに龍虎鬼皇を捉えたが、一歩も下がる事はなく反撃の拳で逆に虎龍王が殴り飛ばされ背中からラングレー基地の格納庫に倒れこむ。

 

『クスハッ! ブリットッ!!!』

 

『おいおい、余所見してんなよッ!! おっさんッ!!!』

 

『ええい、おっさんおっさんうるさいッ!!!』

 

『ここは通さぬぞ、龍王鬼様が楽しんでおられるのでな』

 

『……厄介なッ!!』

 

狙って分断しているわけではない、自分が戦うと決めた相手に横槍を入れられるのを龍王鬼一派は嫌っているに過ぎない。無人機も百鬼獣もそれを理解しているから横槍を入れないのだ。横槍を入れた瞬間に文字通り龍の逆鱗に触れ、本来味方である筈の自分達に牙を剥くと知っているから……。

 

「……艦首トロニウムバスターキャノン発射準備」

 

「はッ! は?」

 

「復唱せよ。大尉、艦首トロニウムバスターキャノン発射準備だ」

 

「りょ、了解ッ! 艦首トロニウムバスターキャノン発射準備ッ!!」

 

ダイテツの命令をテツヤが復唱し、ハガネは最大の切り札である艦首トロニウムバスターキャノンの発射準備を始める。

 

『ダイテツ中佐、シロガネも準備を始めてよろしいでしょうか?』

 

「ああ、準備を急いでくれ。最早ラングレー基地を無事に奪還する事は不可能だ、ならばラングレー基地を敵の拠点にさせないためにも撤退時にラングレー基地を破壊する。幸い本艦は改造のお蔭で2射目は威力は大幅に落ちるがトロニウムバスターキャノンの連射が可能だ。それを利用してこの場を離脱する」

 

『しかしダイテツ中佐、それも今の段階では厳しいですぞ?』

 

「機会を窺うのだ。チャンスは必ずある……ッ!」

 

この絶望的な状況でありながらもダイテツは決して心折る事無く、全員無事にこの場から離脱する術を見出そうとしているのだった……。

 

 

 

 

 

ラングレー基地内の激しい戦いの音が響く中、スレードゲルミルとダイゼンガーは不気味なほど静かな中で向かい合う。ゼンガーの目にはスレードゲルミル、そしてウォーダンの姿だけが映り、そしてウォーダンの目にもダイゼンガーとゼンガーの姿だけが映し出されていた。

 

「ゼンガー。お前ならば俺の意を汲んでくれる……そう思っていた」

 

自分達の戦いに余計な横槍は不要――正々堂々真っ向からの立会いをウォーダンは望み、そしてゼンガーもそれを受け入れた。今の静けさは文字通り嵐の前の静けさであり、互いが刃を抜けばそれが戦いの合図であると言う事をゼンガーもウォーダンも理解していた。

 

「不思議だ……戦いを前に余計な言葉など要らぬと思っていた。そしてそれはいまも変わらない……それなのに俺はお前と言葉をかわしたいと思っている」

 

命のやり取りに余計な言葉など不要……だが不思議な事にウォーダンはゼンガーと言葉をかわしたいと感じていた。

 

『お前は俺に何を問おうとしている?』

 

「……何ゆえお前は剣を取る? ゼンガー・ゾンボルト」

 

『平和を乱す悪を倒す為だ』

 

ゼンガーの短い返答の中にウォーダンは自分とゼンガーの違いを感じ取った。

 

「俺はメイガスを守る剣だ。メイガスを傷つける物を俺は決して許さない、例えこれが与えられた仮初の感情だったとしてもそれは変わらない……ゼンガー、お前の言葉を聞いて確信が持てた。俺とお前は別の存在であるとな」

 

平和を守る為に剣を取ったゼンガーと仮初の意志だったとしても守る為に剣を取ったウォーダン。戦うことで守ると言うのは2人に共通している……だが決定的に違う物もあった。

 

「俺は只1人を守る剣だ。だがお前は万人を守る剣、そこに違いが生まれる。どちらが正しく、間違っているという話ではない。互いのあり方の違いというものだろう……その違いが俺とお前の違いなのだろうな」

 

自分とゼンガーの違い……違いと言うには余りにも小さな差ではあるが、だがそれは大きな差となる。

 

『ウォーダン……お前はそれを知ってもなお争乱を広げるというのか? お前も俺達と志を共にする事が出来るのではないか? ラミアやエキドナのように……』

 

ゼンガーの言葉をウォーダンは笑う事無く聞き入れ、そのもしもの可能性に思いを馳せる。

 

「確かにそのような可能性もあるのだろう……だが俺は俺の道を行く。お前を倒し、メイガスの唯一無二の剣となる……この願いに変わりはない」

 

『そうか……ならば』

 

ゼンガーとウォーダンの間に突き刺すような鋭い気配が生まれ、それは徐々に大きくなっていく……。

 

「無駄な話をしたな。すまない」

 

『いや、構わない。俺もお前と話をして見たいと思っていた……そして分かった。俺とお前の道は決して交わらぬと』

 

オリジナルとコピー……似たような考えを持つのはある意味当然と言える。そして相互理解の為に語り合いたいと思うのも当然の事だ……だが決してその道は交わる事がないと思い知る事になる。

 

『「最早問答無用……いざ、尋常に……参るッ!!!」』

 

ゼンガーとウォーダンが同時に吼え、抜き放った斬艦刀がぶつかり合い凄まじい火花を散らす。

 

(前よりも早いッ!! やはりあの時は最善の状態ではなかったか)

 

テスラ研の時よりも早く重い打ち込みにウォーダンは笑みを浮かべる。自分が越えるべき壁、己が己となる為に倒さなければならない壁の強大さに、打ち倒してみせるという闘志が湧き獰猛な笑みを浮かべるのだった……。

 

 

 

 

斬艦刀という長大な獲物は本来振り切ればそれを戻すまでに僅かな隙が生まれる。それは破壊力を得る為に生まれた覆しようのないデメリットだ。だがそんな言葉はゼンガーとウォーダンの間には何の意味もない言葉だった。

 

『うおおおおッ!!!』

 

「はあああああッ!!!」

 

ゼンガーとウォーダンの雄叫びが重なり、ダイゼンガーは重心移動、スレードゲルミルはマシンセルの回復能力を頼りにした強引な踏み込みで姿勢を立て直し、硬直や武器を構えなおす隙を限りなくゼロにし、再び激しく切り結んだ。

 

「やはり強いッ」

 

ウォーダンが自分のクローンであると言う事を知ってもなお、ゼンガーはウォーダンが己のクローンと蔑む事はなかった。どうして蔑む事が出来るだろうか? 剣を通じて伝わってくるウォーダンの修錬、そして己を越えて見せるという混じり気のない闘志……ゼンガーにとってウォーダンは己を打倒しうる剣士であり、そしてウォーダンがゼンガーを越える事を望むように、ゼンガーもまたウォーダンを越える事を望んでいた。

 

【斬艦刀・疾風迅雷】

 

ダイゼンガーが斬艦刀を横に構え、生身のような柔軟な踏み込みでスレードゲルミルへと切り込めば、スレードゲルミルはその長い柄を利用しその一閃を受け止めるとダイゼンガーの勢いを利用し軽業染みた動きで後方へと飛んだ。

 

「ぬっ!?」

 

必中を確信していただけにゼンガーはその動きに翻弄され、一瞬たたらを踏んだ。

 

『今度はこちらの番だッ!! ゼンガーッ!!!』

 

無防備な背中をスレードゲルミルへと晒したゼンガーだが、ウォーダンは真っ向からの戦いを望んでおりそのまま攻撃する事無く、態々行くぞと叫び攻撃態勢へと入った。普通に考えればウォーダンの行動は驕りであり、ゼンガーほどのパイロットであればその攻撃を避ける、あるいは防ぐ事も可能だったはずだ。だがウォーダンが潜り抜けてきた戦いはL5戦役に匹敵……いや下手をすればそれを超えるほどの生死を賭けた戦いだった。

 

【斬艦刀・龍神一閃ッ!!!】

 

下からの切り払い――その切っ先から飛び出したエネルギーの塊はダイゼンガーへと向かうに連れて龍の頭部のような形状になり、地面を抉りながらダイゼンガーへと突き進み、そのエネルギーの塊を盾にしてスレードゲルミルが凄まじい勢いでダイゼンガーとの距離を詰める。

 

「はぁッ!!!」

 

【斬艦刀・電光石火】

 

ゼンガーの裂帛の気合と共に振るわれた参式斬艦刀の切っ先から巨大なエネルギーの刃が飛び出し、スレードゲルミルの放った龍の頭部へと突き進む――ゼンガーの考えとすればスレードゲルミルが盾にしている龍の頭部状のエネルギー刃を砕き、守りを失ったスレードゲルミルを迎え打とうと考えていた。だがゼンガーの考えはあまりにも甘すぎた……いや、スレードゲルミルとウォーダンがゼンガーの考えの一歩先を行っていたと言っても良いだろう。

 

『甘いぞゼンガーッ!! その程度で砕けるほど俺の剣は甘くはないぞッ!!』

 

ウォーダンの怒号が響いた次の瞬間ゼンガーの放った斬艦刀・電光石火は龍の牙にあっけなく噛み砕かれた。

 

「なッ!?」

 

質量もエネルギー量も電光石火の方が上だった。それなのに打ち砕かれた……それは簡単な理屈だった。総エネルギー量は実際の所電光石火の方が上だ、だがウォーダンの放った一閃は牙部分にエネルギーの大半を集束させ、残りのエネルギーはバリアとしての役割を担っていた。点と面の違い……それがダイゼンガーの電光石火を破ったのだ。

 

『チェストオオオオオッ!!!』

 

「ぐっぐうっ!?」

 

裂帛の気合と共に振るわれた一閃は巨大な龍がダイゼンガーを飲み込もうとする様その物であり、完全に挙動の遅れたゼンガーは迎撃も防ぐのも不可能と悟り、辛うじてダイゼンガーを回避させる。回避とダイゼンガーの展開しているゲッター線バリアによっていくらかは攻撃の威力を削ぐ事に成功したが、斬艦刀・龍神一閃の一太刀はゲッター合金で構築されているダイゼンガーの装甲に深い傷痕を刻み付けた。

 

「ぐっふ……なんという破壊力だ……ダイゼンガーでなければ今の一閃……受け止めきれなんだ……ッ」

 

ゲッター合金とゲッター線バリアのお蔭でダメージは決して大きくはない、だがパイロットであるゼンガーへのダメージは深刻だ。脳震盪を起こし、揺れる視線の中スレードゲルミルが近づいてくるのが分かるが、ゼンガーの手は震え立ち上がる事すら出来ない状況だった。このダメージはウォーダンが意図した形ではない、両断するつもりだったウォーダンがパイロットであるゼンガーを攻撃する意図などあるわけが無い……想定外の現象を目の当たりにしゼンガーが動揺し、迎撃に出るのが不可能だと判断し回避に移った事で致命傷は間逃れたが、その代りに斬艦刀・龍神一閃によるパイロットへのダメージをより大きな物へとしていた。

 

『どうした、この程度で終わりか? ならば死ねッ! ゼンガー・ゾンボルトッ!!!』

 

片膝を着いたままのダイゼンガーを前にスレードゲルミルが両手で斬艦刀の柄を握り締め、大きく振りかぶった瞬間だった。片膝を着いて俯いていたダイゼンガーが顔を上げ、白銀の閃光が奔った。

 

『ぬうっ!?』

 

今度はウォーダンが苦悶の声を上げ、ダイゼンガーからスレードゲルミルを後退させる。スレードゲルミルの左腕は断ち切られる寸前で皮一枚で繋がっていると言う有様だ。

 

「……外したか。俺もまだ未熟か」

 

罠として誘い込んだつもりはゼンガーにはない、脳震盪から回復したものの立ち上がるのも、万全な状態で迎撃に出るのも不可能だと悟り、人工筋肉、そして限りなく人間と同じ動作が出来るダイゼンガーだからこそ出来る反撃――居合いによるスレードゲルミルの迎撃を試みたに過ぎない。頭を振り、意識をしっかりとさせたゼンガーがダイゼンガーを立ち上がらせる。時間にして1分にも満たない時間だが、その時間でスレードゲルミルに両断されかけた左腕は完全に修復されていた。

 

『なるほど……完全に互角と言うところか……だが俺はまだ全ての手札を切った訳ではないぞ、ゼンガー』

 

「それは俺も同じこと……俺達の勝負はこれからだッ!!」

 

ゼンガーとウォーダンの最初のぶつかり合いは完全な互角――互いに痛み訳となったが、その程度でゼンガーもウォーダンも止まるわけが無く、互いに出し惜しみはしないと言わんばかりに持ちうる剣術を駆使し激しい戦いを繰り広げていくのだった……。

 

 

 

第176話 オペレーション・プランタジネット その7へ続く

 

 




今回はここまで次回はカイとバン大佐をメインに話を書いて行こうと思います。大乱戦なのでこうやって分けて行かないと思うように話を展開出来ない物で申し訳ありません。少し短めの分内容は濃く出来ていると思っているのでご容赦願います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


FGOで大爆死してむしゃくしゃして期間限定復刻がチャをぶん回してきました

ダブルバーニングファイヤー×2
オールアウトアタック
ビスト神拳

ユニコーンもカイザーも使っているのでこれで戦力UPで良しとします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第176話 オペレーション・プランタジネット その7

 

第176話 オペレーション・プランタジネット その7

 

澄んだ金属音が響き、太陽の光を浴びて白刃が宙を煌き、闘刃鬼の背後に砕かれた日本刀の切っ先が突き刺さった。

 

「は……ははははははははッ!!!! マジかッ!! いやマジかよッ!!! あっははははははははは!!! すげえなおいッ!!!」

 

中ほどから砕かれた相棒の武器の刀を見てヤイバは楽しそうに笑った。面白くて面白くてしょうがないと言わんばかりに子供のような笑みを浮かべゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプKに視線を向ける。量産機、詰まらない相手という考えは既にヤイバの中にはない、全力を持って戦うに値する強敵であるとゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプKを駆るカイへの認識を改めた。

 

『貴様のような戦闘狂には付き合いきれんな』

 

「はっ! そう言ってくれるなよッ!!! おっさんッ!!!」

 

地面を蹴り砕き闘刃鬼が恐ろしい速度でゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプKへの間合いを詰める。

 

「おらッ!!」

 

PT――いや、並みの特機では直撃1発で大破しかねない闘刃鬼の拳をゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプKは右腕1本で防ぐ。

 

「うっそだろ……がっはっ!?」

 

腕を犠牲にして防いだのではない、完全に技術で自身の一撃を受け流したゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプKとカイにヤイバが驚きの声を上げる。腕を犠牲にして防いだのならば分かる、避けたのならばそれも判る。だが攻撃した側である闘刃鬼が姿勢を崩し、無防備な姿勢を晒すような防御を披露するゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプKにヤイバは困惑したが、その直後に襲ってきた凄まじい衝撃に苦悶の声を上げた。

 

『ふんッ!!!』

 

闘刃鬼の懐で半回転したゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプKの強烈な肘打ちからの回し蹴りが闘刃鬼の頭部を蹴りぬいた。

 

「お……おおッ!?」

 

鬼と言えど体の構造は人間と大差はない、それに加えて百鬼獣にはパイロットの安全を守ると言う機能は前提として考えられていない。コックピットに近い頭部を蹴り抜かれればその衝撃はダイレクトにヤイバを襲い、軽い脳震盪を起したヤイバが操る闘刃鬼はふらふらと覚束ない足取りを見せる。

 

『ステークセットッ!! 俺の拳を受けろッ! ヤイバッ!!!』

 

そしてそんな隙をカイが見逃すわけが無く、両腕のライトニングステークが唸りを上げ白光を煌かせる。確かにゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプKはハガネに保管されていた量産型のゲシュペンスト・MK-Ⅲであり、ゲシュペンスト・リバイブとは比べるまでも無く性能の低い機体だ。だがハガネ、ヒリュウ改、シロガネ、クロガネには優秀なエンジニアが揃っている。カイの癖に合わせ時間が許す限りの改造を施されたゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプKは十分に百鬼獣と戦うだけの能力を有していた。

 

『はぁッ!!!』

 

カイの強烈な気合が乗ったゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプKの左フックが再び闘刃鬼の頭部を襲い、ただでさえふらついている闘刃鬼の動きが更に覚束ない物になる。

 

『うおおおおおッ!!!』

 

「がっはあッ!?」

 

そこにブースターとスラスターで加速したゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプKの飛び蹴りが叩き込まれ、闘刃鬼は大きく蹴り飛ばされる。

 

『ゲシュペンストは俺の手足も同然でなッ!! お前が量産機と侮ったこいつの力を見せてやるッ!!!』

 

蹴り飛ばした闘刃鬼へ向かって突撃したゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプKの両拳が容赦なく闘刃鬼へと叩き込まれる。

 

「がっ!? ぐっ!? おおっ!?」

 

『遅いッ!! ふんッ!!!』

 

連続攻撃を受けている間に意識を取り戻したヤイバが闘刃鬼に反撃に拳を繰り出させるが、カイの操るゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプKは鋭く回転し伸ばされた闘刃鬼の腕を掴むと1本背負いのような動きで闘刃鬼をその背中に背負い自身の足元に叩きつける。

 

『これを喰らえッ!!』

 

「が、があああああああッ!?」

 

ライトニングステークで地面に押さえつけられ、その圧倒的な電圧を流し込まれた闘刃鬼からヤイバの苦悶の悲鳴が上がる。容赦ない殺す気の攻撃であり、これが人間ならばヤイバは死んでいたが、ヤイバは鬼であり人間よりも遥かに頑丈だった事がヤイバの命を繋いだ。

 

「う、うがあああああッ!!!」

 

『ぐっ!?』

 

自由に動く足でゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプKを蹴りつけ、強引に拘束から抜け出した闘刃鬼は腕の力だけで自身を跳ね上げゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプKから距離を取った。

 

「ぜーぜー……やってくれたな、おっさん……ッ!!」

 

放電時間は決して長くはなかったがそれでもヤイバと闘刃鬼の受けたダメージは深刻だった。モニターはアラートを鳴らし、百鬼獣特有の再生能力もかなり弱くなっている。だが1番大きなダメージを受けているのはヤイバ本人であり砕けたモニターの破片が額を切り、左目の視界を完全に奪っていた。

 

『しぶとい奴め』

 

「はっ! 俺がそう簡単に死ぬかよぉッ!!!」

 

だが痛みはヤイバにとっては闘争本能を掻き立てる物に過ぎず、ヤイバの肥大した闘争本能に呼応するように闘刃鬼の逆立った金髪が伸び、筋肉が隆起する。

 

「こっからだッ! こっからだぜッ!!!」

 

闘刃鬼は闘龍鬼のような合体機能は無く、風神鬼のような風を操る能力も、雷神鬼のような圧倒的な再生能力も持ち合わせていない。だが闘刃鬼にも闘龍鬼達に負けない能力がある……それは受けたダメージが大きければ大きくなるほどにヤイバの生命力を吸い取り、自身を強化する能力――特異な能力を持たない代わりに生命力が並みの鬼を遥かに越えるヤイバだからこそ操れる百鬼獣……それが闘刃鬼だった。

陽炎のように揺らめきながら闘刃鬼を包み込むオーラを見てカイはここからだというヤイバの言葉が嘘でも、痩せ我慢でもないと言う事を悟った。

 

「……最後まで持ってくれよ……ゲシュペンスト」

 

イエローアラートを灯すゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプKのモニターを見つめ、祈るようにそう呟いたカイはゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプKにファイティングポーズを取らせ、闘刃鬼と向かい互いに弾かれたように走り出した。

 

『「うおおおおおッ!!!」』

 

カイとヤイバの雄叫びとぶつかり合う闘刃鬼とゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプKの右拳が轟音を周囲に響かせるのだった……。

 

 

 

 

龍王鬼一派の所有する百鬼獣の中で戦艦である陸皇鬼を除けば1番巨大な百鬼獣――雷神鬼が地響きを立てながら一歩前に出る。それだけで地上に足を付いているネオゲッター1は姿勢を大きく崩した。

 

「化け物め……ッ!」

 

操縦桿を握り締めながらバンは移動するだけで周囲に甚大な被害を齎す雷神鬼を見据え、化け物めと吐き捨てた。

 

『褒めていただき光栄だ。礼だ、鉛弾をたっぷりとやろうッ!!』

 

龍玄のその言葉と共に雷神鬼の装甲が開き、無数の銃口が姿を見せるのを見てバンでさえも思わずギョッとする。

 

「ちいっ!! ショルダーミサイルッ!!!」

 

バンは好きに叫んでいるのではない、ネオゲッターロボはパイロットの操縦をサポートする機能としてグルンガストのように音声入力式となっている。細かい操作をしなくても良いと言う点でゲッターに慣れていないバンにとっては非常にありがたい機能の1つだった。発射されたミサイルが展開された装甲の内部に飛び込み爆発するが、雷神鬼は全く揺るがない。

 

『お前の敵はバンだけではないぞッ!!』

 

百鬼獣を踏みつけて宙に飛んだゲシュペンスト・タイプSの放ったグランスラッシュリッパーが雷神鬼の装甲を引き裂き、弾雨の発射角をいくつか制限するがそれでも十分な脅威と言える弾雨がネオゲッター1とゲシュペンスト・タイプSに向かって放たれた。

 

「ぬううッ!!!」

 

『ち、流石に厳しいな』

 

両腕をクロスし防御するネオゲッター1とバリアを展開したゲシュペンスト・タイプSだったが、いくらか砲門を潰して攻撃力を低下させたとしてもその火力はやはり凄まじく、ネオゲッター1は膝を突き、ゲシュペンスト・タイプSも被弾した箇所から煙を上げている。

 

『バン大佐、ゲッター3へ』

 

「馬鹿を言え、オーガスト。お前もジャレッドもそうだが、今この場でゲッターチェンジをして十分に機体をコントロールできると思っているのか?」

 

バンの言葉にジャレッドとオーガストの2人は言葉に詰まる。バンが操縦しているネオゲッター1の動きでさえ着いていくのがやっとの現状で自分達が主導になって操縦出来るのか? と言われれば答えはNOだ。

 

「余計な事は考えなくて良い、だが操縦桿を握って気絶するな、最低限それだけはやり遂げろ」

 

『『りょ、了解ッ!!』』

 

ジャレッドとオーギュストが意識を失えばネオゲッターの戦力はガタ落ちする。酷な言い方だが、ジャレッド達はまだゲッターに乗って戦うには早すぎたと言っても良い。だからバンは気絶だけするなと口にし、ネオゲッターの現在の状況を把握する。

 

(……装甲、エネルギー共に問題なし……か、恐ろしい性能だな)

 

ゲッター炉心では無いがネオゲッターが搭載しているブラズマボムスの出力は新西暦の技術では開発出来ないほど高出力であり、安定感もある。流石に駆動系にいくらかダメージは負っているが、まだ戦闘に支障の出るレベルではないとバンは判断したが、その顔は決して明るいものではない。

 

(攻撃力が足りていない……か)

 

ネオゲッターロボはゲッターロボの名を冠しているが、その分類はどちらかと言うとグルンガストに近い特機と言える。ゲッターロボの圧倒的な火力による力押しはネオゲッターには出来ず、そのような無茶をすれば装甲が先に限界を向かえる。

 

『この程度で死んでくれるなよ? まだ戦いは始まったばかりなのだからなッ!!』

 

雷神鬼の背中の装甲が展開し、そのまま前面へと移動してくる。2本の突起状のせり出したパーツが放電し始めたのを見て、バンとカーウァイは同時に今出来る最大攻撃を繰り出した。

 

「ッ!! プラズマ……サンダァァアアアアアア――ッ!!!」

 

『ブラスターキャノンッ!!!』

 

放たれた一撃はどちらも強力であり、直撃すれば百鬼獣ですら致命傷を受けかねない一撃だ。だが龍玄はその攻撃を鼻で笑い、射出されていたビットは陣形を組み展開されたバリアがプラズマサンダーとブラスターキャノンの一撃を完全に防いで見せた。

 

『温い。その程度では……』

 

『ギガワイドブラスタァァアアアアアアッ!!!』

 

『いっけええええッ!!!』

 

龍玄が温いと口にし攻撃を繰り出そうとした瞬間、ジガンスクード・ドゥロとヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM・タイラントのギガワイドブラスターとG・インパクトキャノンHがバリアへと突き刺さる。流石の雷神鬼も4連続で直撃で喰らえば龍玄とて動揺する。

 

『ぬうッ! だがまだ足りんぞッ!!!』

 

雷神鬼の武器はその再生能力、そしてその巨大さにある。巨大であると言う事は装甲も動力も並ではなく、自動的にバリアも強固になる。

バリアの一部が貫通されたとしてもまだ攻撃を中断されるほどのダメージは受けていないと龍玄が吼える。

 

『主砲合わせッ! 照準巨大百鬼獣ッ!!』

 

『バリアを砕くッ! 出し惜しみ無しで行くぞッ!!』

 

だがそこにヒリュウ改とシロガネの連装主砲が続き様に撃ち込まれる。巨体であるがゆえに鈍足な雷神鬼が相手ならばヒリュウ改も攻撃に参加できる。続け様の連続攻撃を前についに雷神鬼のバリアが音を立てて砕け散った。

 

「うおおおおおッ!!!」

 

『この好機は逃さんぞッ!!!』

 

バリアが砕け散る少し前に動き出していたネオゲッター1とゲシュペンスト・タイプSが雷神鬼へ飛びかかり、エネルギーを溜め込んでいた砲門を切り裂いた。

 

『ぐううおおおッ!?』

 

溜めていたエネルギーが逆流し大爆発を起こし、雷神鬼の巨体を弾き飛ばす。山のようだった百鬼獣が吹き飛んだ事で歓声が上がるが、バンとカーウァイの2人がまだだと声を荒げる。

 

「極まりが浅いッ!!」

 

『頑丈が過ぎるな……ッ』

 

エネルギーを逆流させてダメージを与えたが、雷神鬼を倒すにはまだ攻撃力が足りていない。強固な装甲、そしてマシンセルを超える再生能力……。

 

『嘘だろ……もう回復してやがる』

 

『なんて強力な百鬼獣なんだ……ッ』

 

間違いなく大爆発を起こし、胸部装甲が吹き飛んだのをリョウト達は見ていた。だが爆煙が消えた頃には既にその損傷は回復しており、目に見えたダメージは無い。

 

『強い、強いではないか。ふふふ……ははははははははッ!! やはり戦いはこうでなければなッ!! 行くぞ人間共ッ!! 俺を倒して見せるがいいッ!!!』

 

だが完全に変わっていないと言うわけでもない、ダメージを受けた事で龍玄の闘志が燃え上がりそれに呼応するかのように雷神鬼の目がより力強く輝き、圧倒的な威圧感がバン達に向かって放たれたのだった……。

 

 

 

 

 

クロガネの船体が大きく揺れる。その振動で艦長席から転がり落ちそうになったビアンだが、それを踏ん張って耐え被害報告と声を上げる。

 

「被害は軽微ですが照準などの火器管制システムの誤差が発生してます!」

 

「動力系のエネルギー巡回路にもエラーが発生していますッ!!」

 

次々に上がってくる悪い報告にビアンは顔を歪め、クロガネの上空を旋回している小型飛行機を睨みつけた。

 

「自爆兵器をこれ以上近づけさせるなッ!!」

 

空を旋回している小型飛行機は百鬼帝国由縁の者ではなく、小型恐竜ジェットというその名の通り恐竜帝国の兵器であり、ゲッターザウルスを引き上げた際に百鬼帝国に回収されたのだが、ブライは制御装置をバイオロイド兵にし、様々なジャミング・チャフ・電子ウィルス等を組み込み、自爆する事でハガネ達の電子機器に致命的な打撃を与える為に次々と百鬼帝国から出撃していた。

 

「これはかなり厄介だね。高い単体戦闘能力を持ちながらも絡め手もここまで多いとは……」

 

「感心している暇があったら索敵をしろブライアンッ! そうでなければブリッジから退出しろッ!!」

 

百鬼帝国や恐竜帝国の事を文献で調べており知識を持つグライエンはオブザーバーとしてブリッジのオペレーター席に腰掛け、覚束ない動きだながら少しでも助けになれればと自らの意思で戦いに参加し今も索敵などを行っていたからこそ、その隣でぽやぽやとしているブライアンに邪魔をするなと怒鳴り声を上げる。

 

「焦るのは分かる。僕だってあせっているからね……ビアン博士、シロガネかヒリュウ改に通信を繋げれるかい?」

 

だがブライアンも馬鹿ではない、奇妙な流れを感じたからこそこうして口を開いたのだ。

 

「この状況で何を言っているブライアン!? 戦いの邪魔をしてどうする」

 

通信を繋げる事が集中力を見出し邪魔になるとグライエンが声を荒げるが艦長席のビアンは冷静にブライアンにその視線を向けた。

 

「落ち着いてくれグライエン、何故この状況で通信を繋げろというのだね?」

 

この状況で通信を繋げろという真意はなんだとビアンがブライアンへと問いかけるとブライアンは腕時計を見つめ深刻な表情を浮かべる。

 

「そろそろ連邦軍の応援が来る予定の時刻だが、クロガネに連邦軍の識別コードは分かるかい? もし味方がこないのならば陣形を変える必要があると思うのだが……どうだろうか?」

 

ブライアンの問いかけを聞いたビアンはすぐにオペレーターにヒリュウ改に通信を繋げるようにと指示を出す。

 

『こちらヒリュウ改! クロガネで何かトラブルですか!?』

 

「いやすまないね、少し確認したい事があって通信を繋げたんだ。グレッグ司令はいるかい?」

 

ブライアンの問いかけから数分後にグレッグが通信に応答する。

 

『ブライアン大統領。この状況で何のお話ですか?』

 

「いやすまないね、オペレーション・プランタジネットの予定ではそろそろ連邦の他の部隊の応援が来る筈となっているが……そこの所はどうなっているのかなと思ってね」

 

『……予定時間は既にオーバー。識別コードも近づいてきません……』

 

グレッグの搾り出すような言葉にブライアンは深い溜め息を吐いてビアンに視線を向ける。

 

「聞いた通りだ、戦艦の陣形を変えよう。このままだとどてっぱらを食い破られる事になる」

 

連邦の戦艦が突入してくる区画の前で陣形を取っていたハガネ達だが、時間を過ぎても応援がこないと言うことはこの場に姿を見せていないシャドウミラー、あるいは百鬼帝国の分隊……もしくは最初から出撃していない可能性がある事にビアン達はその顔を歪めた。

 

『あひゃはははは、美味い美味いのう!!』

 

『やれやれ、こんな雑兵と戦えとは鬼も嫌な命令をしてくれたものだ』

 

『ならばお前は食うな! この魂はみなワシが喰らう!!』

 

だがビアン達の予想は間違いであり、ラングレー基地に来る筈だった増援は超機人饕餮鬼皇、鯀鬼皇、そして百鬼獣によって完全に足止めされていた。

 

『なんだ、なんなんだ、この化物……う、うわあああああッ!?』

 

動揺する指揮官機であるゲシュペンスト・MK-Ⅲに饕餮鬼皇が喰らいついた。

 

『脱……げば』

 

脱出装置を起動させることも出来ず指揮官は饕餮鬼皇に噛み砕かれる。

 

『ああ、美味い、美味いのぉ。ひゃーははははははッ!!』

 

ビクンビクンと痙攣するゲシュペンスト・MK-Ⅲを投げ捨て、口からオイルを垂らしながら舌なめずりを行なう饕餮鬼皇に連邦軍の兵士達は恐怖し、機体を操り逃げようとするが……。

 

『あ。あえ……』

 

『あ、あああおおお……』

 

『苦しませるのは我の性ではない、その魂のみ喰らうとしよう』

 

大口を開けた鯀鬼皇の口へとゲシュペンスト、ヒュッケバインから飛び出した光が吸い込まれ、パイロットは次々と白目を向いて絶命していく……ハガネ達の支援に送り込まれ続ける部隊は全て2機の超機人の餌と成り果てていた。

 

「ライノセラスの人員の回収はどうなっている!」

 

そんな事を知る由もないビアン達は裏切られたのか、百鬼帝国に攻撃されているのかも分からず、だがこれ以上被害を出すわけには行かないと作戦と陣形を変える為に動き出す。

 

「後少しで全員収容が終わります! 約8分ほどかと!」

 

「3分で終わらせろ! 機体は廃棄! パイロットと乗務員の撤収のみを急げッ! その後ライノセラスを無人操縦モードに切り替えろ! クロガネから操縦するッ!!」

 

ビアンが矢継ぎ早に指示を出す、この場にいる誰もが最悪は想定していた。だからこそ、行動に出るのは早い。

 

『シロガネが前に出る! 急旋回ッ!!!』

 

シロガネのリーが指示を出し、真っ先に先頭に躍り出る。最もダメージが軽微であり、そしてE-フィールドの出力が依然高いままのシロガネが前に出て、順番に回頭し陣形を作り変える。それは通常の戦艦戦闘で最も有効な一手だが……転移装置を持ち合わせているシャドウミラー、そして圧倒的な火力を前に攻め込んでくる百鬼帝国を前にどこまで効果を発揮するかとビアンは顔を歪める。

 

「……ゲッターVで出る。リリー中佐、指揮を頼む」

 

「いけません! この場で最も狙われるのはクロガネとビアン総帥のゲッターVなのですよッ!!」

 

百鬼帝国からすればビアンは最も殺しておきたい相手だ。そんな相手が戦場に出てくるのを見逃す訳が無い、リリーが制止するがビアンの決意は固かった。

 

「だからこそだ。私が出れば百鬼帝国は更なる手を打ってくるだろう、戦力で劣っているの言うまでも無く私達だ。後手に回れば勝機はない」

 

後手に回れば戦力の差で押し潰される。包囲網を敷かれてしまえば脱出するのも困難になる……リスクは承知でビアンは自らが戦場に出る事を決めたのだ。

 

「しかし」

 

「それに私とて考えがない訳ではない……とにかく指揮は任せたぞッ!!」

 

ビアンはそう言うと格納庫へと走りゲッターVへと乗り込み、そしてその顔に困惑の色を浮かべた。

 

「なんだ……なんだこのパラメータはどうなっている!?」

 

今まで見た事無いほどにゲッターVの出力が上がっている。単独操縦、その上テスラドライブ、ヴァルシオンの重力装備を搭載しているゲッターVの出力はそれらの影響を感じさせないほどの圧倒的な出力を記録していた。

 

「……これが武蔵君の言っていたゲッター線の警告という奴かッ」

 

危険が迫っている時に幾度もゲッター線が警告してきたと言っていた武蔵。ビアンも話半分で聞いていたわけでは無いが、意志を持つエネルギーだとしてもそのような事があるのだろうかと疑っていた。だが実際に目の当たりにすれば武蔵の言葉が真実であると信じざるを得なかった。

 

「……行くしかあるまい。私達はこんな所で終われないのだから……」

 

地球を巡る戦いはまだ始まったばかりなのだ。こんな所で終われないとビアンもまた戦場へと自らの意思で足を踏み入れ、ゲッターVが戦場に現れたことでラングレー基地での戦局は変わり始めようとしていた……だがそれは決着に向けた流れではない、己のプライドに懸けて倒さねばならない敵を、自分が倒さねばならない宿命の敵を見定める物であった。

 

「行くぞ、ベーオウルフッ!!!」

 

「来いアクセルッ!!!」

 

そして次なる戦いは古の鉄巨人と魂を刈り取る者、そして白銀の堕天使と灰の救世主の戦いへと移っていく、だがこれだけ激しい戦いを続けているのに不思議な事に撃墜される者は誰1人しておらず、誰もが全力で戦っているのだがどうしても戦いの流れが変わらない・まるでこの戦いは決着がつかない事が定められているような奇妙な空気をこの場にいる誰もが感じ始めているのだった……。

 

 

 

第177話 オペレーション・プランタジネット その8へ続く

 

 




次回はアクセルとキョウスケ、エクセレンとレモンの戦い。そしてその次はイルムと闘龍鬼、龍王鬼と虎王鬼とブリット、クスハの戦いを書いて次の場面へと入っていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


SRXガチャはダイターン3でした。絶望しかない……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第177話 オペレーション・プランタジネット その8

第177話 オペレーション・プランタジネット その8

 

激しい戦闘音が響き続ける中で一際激しい戦闘音を響かせているのはソウルゲインとアルトアイゼン・ギーガの戦いだった。互いに近接特化であり、一撃必殺の攻撃力を持ち合わせている機体同士の戦いは一際激しいものだった。

 

「貰ったッ!! この切っ先触れれば切れるぞッ!!!」

 

アクセルの雄叫びと共に踏み込んだソウルゲインの姿が幾重にもブレ、アルトアイゼン・ギーガを取り囲む。普通のパイロットならば防御を固める事を選択するがキョウスケは違っていた。アクセルの乗るソウルゲインとキョウスケの乗るアルトアイゼン・ギーガはコンセプトこそ白兵戦だが、機動力を生かし拳や肘、足を用いて戦うソウルゲインは柔軟な動きを得意としており、EG装甲による自己修復能力とあわせて継戦能力も極めて高い。それに対してアルトアイゼン・ギーガは堅牢な防御力で攻撃を防ぎ、一瞬で間合いを詰めるという瞬間的な速度に秀でているが、その反面重装甲のデメリットとして初速が遅いという欠点がある。どの道スピードでは勝てず、追いきれない以上どうしても後手に回る。だがその相手が自ら懐に飛び込んできたのだ、千載一遇のチャンス……いやリスクの方が大きいとしてもキョウスケにはこのチャンスを見逃すという選択はなかった。

 

『くれてやるッ!! だが只で持っていけると思うなよッ!!!』

 

飛び込んでくるソウルゲインに対し、腰を落として構えたアルトアイゼン・ギーガのバックパック、そして両肩のハッチが全て開け放たれる。

 

「このまま突っ込むまでだッ!!」

 

『全弾持って行けッ!!!』

 

圧倒的な射角と破壊力を持つエアリアルクレイモアに抉られながらもソウルゲインはアルトアイゼンへと突き進み左肩、そして両方のバックパックのクレイモア射出装置を完全に破壊した。

 

『ぐうっ!!』

 

「ゲシュペンスト・MK-Ⅲの最大攻撃を封じたぞ! ベーオウルフッ!!」

 

互いに受けた損傷は決して軽い物ではない。だがアクセルとキョウスケの闘志はまるで折れる事は無く、むしろ激しく燃え上がっていた。

 

『ちいっ……くそッ!!』

 

破壊されたバックパックが元に戻らず思うように動かないアルトアイゼン・ギーガにキョウスケが舌打ちを打った。

 

「このまま極めさせて貰うぞッ!!!」

 

アルトアイゼン・ギーガは鈍重な機体だ。それが思うように動けないと言うのは只の的になっていると同意義であり、チタン弾の嵐で装甲を穴だらけにされ、右腕が火花を散らして動かないとしてもこの絶好の好機をアクセルが見逃す訳が無かった。

 

『キョウスケはやらせないわよんッ!!!』

 

「ちいっ!! レモンッ!!!」

 

『はいはい、言われなくても分かってますよってねッ!!』

 

オクスタンランチャー改・Eモードの掃射に舌打ちをしソウルゲインを後退させたアクセルはレモンの名を叫ぶ、だがそれよりも先にヴァイスセイヴァーは動き出しており、ヴァイスリッター改の邪魔をする位置に陣取り胸部からのミサイルランチャー……ファイヤダガーでその動きを牽制に入る。その動きを見てもう邪魔は入らないと考えたアクセルの耳に重い何かが地面に落ちる音が響き、視線を正面に向けるとアルトアイゼン・ギーガは背負っていたバックパックが基地の滑走路にめり込んでいた。

 

『これで動きやすくなったぞ、アクセル』

 

「はっ! とんでもない事をするな貴様は正気を疑うぞ、これがな」

 

元々分離出来るようになっていたとしてもキョウスケが行なったのは無理矢理に背部の装甲をパージするというものだった。背中の装甲と胸部、腕部、肩部の装甲は1つになっており、それらが1つになることで重心の安定化や機体の姿勢制御を行なっていた筈だ。それを正規の手順ではなく無理矢理切り離すというのは機体のバランスを著しく狂わせることになる。

 

『俺が正気かどうかはお前の目で確かめろッ!!』

 

アクセルの言葉にキョウスケはそう言い返し、次の瞬間アクセルの目の前にはリボルビング・バンカーの切っ先が迫っていた。

 

「なにッ!?」

 

今までの踏み込みよりも数段早い一撃にアクセルは驚きながらも反応し、仰け反るようにしてリボルビング・バンカーの一撃を避ける事に成功したが、その代わりに突き出された左腕のマシンキャノンの掃射に装甲を抉られ右腕で胸部を庇いながら地面を蹴り、アルトアイゼン・ギーガから距離を取った。

 

「なるほどな……俺の考えが甘かったという訳だ。これがな」

 

機体のバランスが崩れたから思うように動けないだろうと踏んでいたアクセルだが、かえって動きが良くなっていると分かり自分の考えが浅はかだったなと口にするアクセルだが、その目は爛々と輝き、口元には獰猛な笑みが浮かんでいる。

 

「そうでなければ詰まらんッ!! お前の全力を俺は正面から打ち砕くまでだッ!!!」

 

過去を乗り越える為に、死んでいった仲間の無念を晴らす為にもアクセルとて引くわけには行かないのだ。平和な世界をアクセルとて夢見た。そしてそれを作る為に戦い、そしてその結果が自分達がすべての悲劇の元凶とされ、その挙句が異世界・別次元からの侵略者の台頭であり自分達の世界は滅びることになった。平和が世界を腐敗させるのならば、平和が人の心を狂わせるのならば人は常に戦い続けるしかないのだ。それがアクセルが出した答えであり、揺らぐ事の無い信念となりアクセルを支えていた。そしてその信念が砕かれない限りはアクセルは決して戦いから降りる事はないのだ。

 

「……これは長丁場になるな、持ってくれよ。アルト……ッ」

 

軍人だから殺したくない等と甘い事を言うつもりはないキョウスケだ。だがソウルゲインから感じるアクセルの気迫は凄まじく、ソウルゲインは勿論、アクセルの肉体と精神さえも凌駕しなければ戦いに決着はつかないと悟ったキョウスケは操縦桿を握り締めソウルゲインの中のアクセルを睨みつけた。そしてあちこちの戦いの余波で弾き飛ばされたラングレーの設備の一部がソウルゲインとアルトアイゼン・ギーガの間に落ちたのを合図に再び紅と蒼は激しいぶつかり合いを繰り広げるのだった……。

 

 

 

 

ソウルゲインとアルトアイゼン・ギーガがぶつかり合う上空でもヴァイスセイヴァーとヴァイスリッター改も激しいぶつかり合いを繰り広げていた。

 

「貴女がレモンね。ラミアちゃんから聞いてるわよん?」

 

『あらそうなの? ふふふ、説明が早くていいわねえ。こんにちわ、エクセレン・ブロウニング。私はレモン・ブロウニングよ』

 

「……同じ苗字ねぇ……貴女もしかして平行世界の私のお姉ちゃんとかいわない?」

 

『ふふふ、どうかしら? 貴女が私についてきてくれるって言うならお茶会をしながら話をしましょうか?』

 

「あらごめんなさい、私知らない人にはついて行かない主義なのよ」

 

『それは残念ね、貴女ならとても話があうと思うんだけどね』

 

エクセレンとレモンは一見世間話をしているように見えるが、2人が乗っている機体は目まぐるしく互いの位置を変え、手にしているオーバーオクスタンランチャーとオクスタンランチャー改の撃ち合いを繰り広げている。

 

「んーそれをいうのなら貴女がこっちへ来たらどうかしらん? 歓迎するわよ」

 

口調こそ軽いエクセレンだが、その表情は険しく額からは冷たい汗が流れていた。通信が今も繋げられているから飄々とした態度を保っているが、その実ギリギリまで追詰められていた。

 

(……この人……なんなのッ!? どうしてここまで正確にッ)

 

レモンが操縦するヴァイスセイヴァーはエクセレンの癖をついた動きを常に続けていた。射撃の時に僅かに姿勢が下がるや、ほんの僅かな肩の動きと言った癖とも言えない操縦の癖――だがレモンはそれを的確に突き続けていた。

 

『あら? どうしたの口数が減ったけど?』

 

挑発と分かっているからこそエクセレンは苦しいがあえて笑って見せた。

 

「いやね。ラミアちゃんがお母さんってぽろって言っててね。結構歳かなって思ってたのよ」

 

『あらやだ、あの子ったら』

 

歳を言われれば激昂すると思いきやレモンは楽しそうにくすくすと笑い。嵐のような攻撃の手がほんの僅かに緩まった……それにはエクセレンも驚いた。感情的になれば動きが対処しやすくなると思っていたのだがレモンはエクセレンの想像とは異なり非常に冷静な態度を崩す事は無かった。

 

「子供が呼んでるわよ? やっぱりこっちに来てくれない? 悪いようにはしないわよ」

 

シャドウミラーの構成員ではあるが、拷問や尋問をするつもりはなく、自分達の方から協力してくれないか? と遠回しにエクセレンが問いかけるとヴァイスセイヴァーは小さく首をかしげた。

 

『確かにそれは凄い魅力的なのよね』

 

レモンの反応は非常に好感触であり、言葉の中に殺意や敵意という物は一切感じられなかった。

 

「それじゃあこっちに来てくれるのかしらん?」

 

『んー私個人的にはねぇ。別にそれでもいいのよねぇ……でも私って結構義理堅い女なのよ。だからね……うちの馬鹿が納得するまではそっちにいけないかな~なんて思うのよね』

 

殺意も敵意も無い、きわめて自然な動きでオーバーオクスタンランチャーの銃口をヴァイスリッター改ヘ向ける。

 

「貴女損な生き方してるって言われない?」

 

『……実は結構言われたりするのよね。そんなに分かっちゃう?』

 

「うん。分かるわね」

 

気持ちは恐らくとうの昔にシャドウミラーの理念から離れている。それでもかつての恩が、そして恋人への情がレモンを縛っていた。ここにいても苦しむだけだと分かっていれば普通は逃げようとする、遠ざかろうとする。それでもかつての恩と情がそれを邪魔をする。

 

「でも義理堅い女は良い女よ。尊敬するわ」

 

『そう言われると嬉しい物ね、お礼に痛くないように撃墜してあげるわ』

 

「それはお礼って言わないわよんッ!!」

 

一瞬の殺意を感じ取り急上昇したヴァイスリッター改は空中で反転しながらスプリットミサイルと6連装ビームキャノンを乱射する。

 

『くうっ!?』

 

スプリットミサイルを自分のビームで爆発させ、ヴァイスセイヴァーの視界を奪いビームキャノンでソウルゲインの動きを封じに掛かるエクセレン。その動きは神技とでも言うべき物であり、攻撃と防御を同時に行いつつ、自分への攻撃も遠ざけていた。

 

『貰っ……ちいっ!?』

 

動きを止めさせられたソウルゲインに向かってアルトアイゼン・ギーガが肉薄するが、その動きはヴァイスリッターのように空中で反転したヴァイスセイヴァーの放ったファイヤーダガーで遮られる。

 

「やるわねえッ! でもキョウスケを攻撃するのは私としては許せないのよねッ!!」

 

追撃にオーバーオクスタンランチャーの銃口がアルトアイゼン・ギーガに向けられるが、その銃口は一瞬で間合いを詰めたヴァイスリッター改が薙刀のように振るったオクスタンランチャー改によって逸らされる。

 

『あらごめんなさい。でもその言葉はそっくりそのまま貴女に返すわよ。エクセレン』

 

今まで飄々としていたのが嘘のように強い感情を剥き出しにするエクセレンにレモンも笑みを浮かべる。エクセレンとレモンの2人は決して相容れない存在ではあるが、その根底は同じ物がある。

 

(ふふ、私は完璧には至れなかったけど……やっぱり似てる所もあるのね)

 

恩人に見限りをつけ、恋人にもかつて程の愛情はない。それでもそれから離れる事が出来ないのはレモンの語ったとおり義理もあるだろう、だが大本にあるのは自分を受け入れた者への恩義がある。その恩義があるからこそレモンはシャドウミラーから離れる事が出来ない。完璧になれなかったと出来損ないと言われた者だからこそ、自分を受け入れてくれた者から離れる事が出来ないのがレモンのある種の弱さだった。だがその弱さをレモンは決して嫌ってはいなかった。

 

「私は確かに損な生き方をしてると思うわよ? きっと他の道もあるのだと思うわ」

 

『それならどうして自分から損な生き方をするのかしらん?』

 

エクセレンはお茶らけているが、その中身は聡明で非常に頭の回転も早い出来る女だ。

 

「損な生き方をしてるのは貴女も同じじゃないかしら? だって頭が良すぎるのって結構辛くないかしら?」

 

『……何をいわれてるか分からないわね』

 

「その一瞬の間が答えだと思うわよ? ほんの少しの弱点を見せることで人に好かれるようにする……ふふ、それが貴女の処世術かしら?」

 

レモンの言葉にエクセレンの眉がピクリと動いた。図星と言う訳ではない、だが決して外れでもない。

 

『なんか貴女他人とは思えないのよね……なんでかしら』

 

「ふふ、知りたければ教えてあげるわよ? 貴女が私達の方に来るのならね」

 

『それはごめんね。だから貴女をそこから引きずり出してから聞くことにするわ!』

 

言葉に出来ない奇妙なシンパシー……隠していた自分の仮面の内側に踏み込んでくるレモンにエクセレンは僅かな嫌悪感を抱き、レモンはエクセレンのその微妙な心の機微を感じ取ったレモンの口元に小さな笑みが浮かんだ。だがそれは粘着質で、まるで嘲笑うかのような邪悪な微笑なのだった……。

 

 

 

 

エクセレンとレモンが感じていた奇妙なシンパシー……それは時空の狭間に揺蕩い、龍虎王との戦いの傷を癒しているアルフィミィの元にも届いていた。

 

「……なんですの? この感覚は……」

 

エクセレンとレモンの戦いは次元の狭間で眠り身体を休めていたアルフィミィを呼び起こすのには十分な物であり、その戦いで目を覚ましたアルフィミィは自分の身体を見て首を傾げた。

 

「……少し視界が高くなってますの……それに身体も……」

 

10歳にも満たない容姿だったアルフィミィの身体はほんの僅かだが成長していた。美幼女とでも言うべき姿から、身体の凹凸もハッキリと分かるほどに成長していた。だがアルフィミィの表情はまだ不満げだ……その理由はエクセレンよりもまだ自分が幼い事にあった。だが不満げな表情を浮かべていたのはほんの数分の事で、すぐにその顔に満足そうな表情を浮かべ前後左右上下の感覚すらない空間の一角の死体のように打ち捨てられている物体へと向けられた。

 

「……あの出来損ないでもこれほどまでの力が……」

 

蚩尤塚の地下――いや正確にはゲッター線によって開かれた異世界から這い出た壊れかけのプロトゲッターロボの残骸の胸部は切り開かれ、そこにゲッター炉心は存在していなかった。

 

「……あの不完全な者でこれほどまでの恩恵が……ふ、ふふ……ふふふふッ!!!」

 

壊れかけのゲッター炉心を取り込んだペルゼイン・リヒカイトもその姿を変え、鬼面が組み合わされた骸骨のような姿はそのままだが、胸部や頭部と言った重要な部位は強固な鎧へと変化しており、その顔付きもより禍々しい物へと変貌していた。

 

「……これが進化の光の力……なんで素晴らしいですの……ッ」

 

不完全で純度とすれば紛れも無く粗悪であり、長い月日の間で穢れ歪み本来の効果はとうに望めない出来損ない……そんな物だからこそこの空間の支配者であるノイ・レジセイヤ、そしてベーオウルフは不要ではあるが破棄するには勿体無い、そしてアインストがゲッター炉心を取り込んだという経験はなく実際に取り込んでどうなるのかという実験の意味合いも兼ねてアルフィミィとペルゼイン・リヒカイトにゲッター炉心を取り込ませたのだ。そしてその結果はアインストとしての格を大幅に上げ満足いく結果を出したと言えるだろう……だがペルゼイン・リヒカイト、そしてベーオウルフにとって想定外のイレギュラーが発生していた。

 

「……キョウスケ。行かないといけませんの……」

 

成長しその格を上げたアルフィミィにとってノイ・レジセイヤは最早絶対の存在ではない。確かに指示を出されれば支配権はノイ・レジセイヤにあるのでその指示にも従うだろう。だがそれが無ければアルフィミィは己の意志で動く、ラングレー基地での戦いでキョウスケが窮地に追い込まれそうになっているのを感じ取ったアルフィミィはペルゼイン・リヒカイトへと乗り込み、時空の狭間からその姿を消した。

 

 

「……行かないと」

 

アルフィミィがキョウスケの危機を感じ取り動き出したのと同じように、ズィーリアスの肩に座り空を見上げていたレトゥーラも同じだった。

 

「え、えっと出来れば1度帰ってきて欲しいんですけど……?」

 

レトゥーラを迎えに来ていたデスピニスがおずおずと帰ってきて欲しいと声を掛ける。するとレトゥーラが振り返りデスピニスにその視線を向ける。ドロリとした光の無い曇った目を見てデスピニスはひっと小さい悲鳴をあげる。

 

「持ってきているんだろう? それをくれ、今度は必ず帰る。だから今は何も言わずその薬をくれ」

 

差し出されたレトゥーラの手を見て、デスピニスは迷う素振りを見せたが、基本的にレトゥーラの意志を尊重するようにと命じられていたデスピニスが迷いを見せたのはほんの数分の事で肩から下げた鞄から注射器を取り出して震えているレトゥーラの手の上に乗せる。

 

「すまない。迷惑をかけた」

 

レトゥーラはデスピニス達とは違う存在だからこそデュミナスの調整が必要であり、投薬も必要になってくる。独断行動で調整も投薬も受けていないレトゥーラは正直限界を迎える一歩手前であり、デスピニス、ティス、ラリアーの3人が態々探しに来てくれたことを知っているレトゥーラは迷惑をかけたと軽くデスピニスに謝罪する。

 

「……あ、い、いえ良いんですよ。そ、その……気持ちは分かります」

 

これがラリアーやティスならばレトゥーラに嫌味の1つでも口にしていただろう。レトゥーラは独断専行を繰り返し、そしてデュミナスにもそれを許されているのはティスやラリアーにとって面白いものではない。だがデスピニスからすればレトゥーラの行動は自分達がデュミナスの為に行なっている行動と大差ないのだ。そう思えば嫌う理由にはならない、それに正直なことを言えば口は悪いし、愛想も悪いがデスピニスはレトゥーラを嫌ってはいないのだ。

 

「気、気をつけて……」

 

「……ああ、ありがとう。行ってくる」

 

デスピニスが渡した注射器を自分の首筋に打ち込むレトゥーラ。薬が効いて来たのか光を失っていた目に光が戻り、震えていた手足にも力が戻る。ズィーリアスのコックピットに乗り込んだレトゥーラをデスピニスは手を振り見送り、ズィーリアスは赤黒い念動力のオーラを纏い北米に向かって飛び立っていくのだった……。

 

 

第178話 オペレーション・プランタジネット その9へ続く

 

 




今回は少し短めの話となりましたが、今回の話のラストで分かるとおり今の段階ではブライの思い通りに展開が進んでおりますが、それを妨害する敵のエントリーの話となります。もう少しで戦闘序章は終わりで少しごちゃごちゃするかもしれませんがその次からは戦いの中核に入っていこうと思います、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


SRXガチャ。2週目

ファンネル(ナイチンゲール)
メガ粒子砲(ナイチンゲール)
サンダーブレーク
無敵剣×2

外れか当りかで言えば辺りだけど納得できぬ

PS

FGO・スパロボガチャ爆死やプライベートの事で色々と問題が起きていた私は
何故かプラ板でガンダムのような何かを作っておりました。

https://img.syosetu.org/img/user/25203/117267.JPG


熟練度が上がったら、プラ板で今作品に出てるオリジナルゲシュペンストを作れないかと検討中。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第178話 オペレーション・プランタジネット その9

第178話 オペレーション・プランタジネット その9

 

龍虎王と龍虎皇鬼の関係性は極めて複雑だ。オリジナルとコピーと言えれば良いのだが、龍虎皇鬼はオリジナルである龍虎王に匹敵……いやそれを上回る力を有している。

 

「オラオラオラッ!!! 温いッ!! 温すぎるぞッ!! 龍虎王ッ!!!」

 

『くっ……きゃあッ!?』

 

機体性能はほぼ互角となれば勝敗を分けるのはパイロットの腕――ではない。龍虎王と龍虎皇鬼も意志を持つ機動兵器であり、パイロットが操り操縦するものではない。確かにある程度の操縦は出来るが大本は龍虎王や龍虎皇鬼の意志が大きく反映される。ではパイロット役割は何かと言えば身も蓋も無い言い方になるが動力、生体パーツと言っても過言ではない。龍虎王は念動力……即ち魂力、龍虎鬼皇は生命力――そのどちらもパイロットの生死に関わる物を糧に稼動している。取り込む量が多ければ多いほどに龍虎王も龍虎鬼皇もその力を発揮する。限られた命というのはどちらも同じだが無尽蔵の体力を持つ龍王鬼と虎王鬼がパイロットとなることで龍虎鬼皇は龍虎王を超える力を有していたのだ。

 

『俺が相手だッ!! 龍王鬼ッ!!』

 

吹き飛ばされた龍虎王が虎龍王の姿に変わり、地面を蹴って龍虎皇鬼に接近し拳を振るう。それは白い光にしか見えない一撃だったが龍虎皇鬼はその拳を片手で掴んで止める。

 

「足りねえな、お前には俺を倒そうって意志が感じられねぇ、殺意ない腑抜けた拳なんか俺には届かねえぞッ!!!」

 

反撃に繰り出された龍虎鬼皇の鉄拳が虎龍王の胸部を捉え、虎龍王の巨体は水平に吹っ飛び背中からラングレー基地の格納庫へと倒れ込んだ。

 

「龍、結構今の良い感じだったこと無い?」

 

「全然だ、全然足りねぇ。武蔵とやったからよ、生半可な闘志じゃ俺様は満足できねえんだよ。あのトカゲさえいなけりゃ俺が武蔵の相手をしてる所だぜ」

 

「決着ついてないしねぇ」

 

ころころと笑う虎王鬼の言葉に龍王鬼はおうよと返事を返しながらも、その視線は倒れこんだままの虎龍王に向けられていた。今のブリットとクスハは武蔵よりも弱い、だが龍王鬼の目は鋭く細められ強い警戒の色が浮かんでいた。正々堂々とした戦いを望み、そして強者との戦いを好む龍王鬼は戦いに誠実であり、そして決して相手を見下さず己を倒せる相手という考えを決して捨てない。

 

「ちっとは見れる拳になったな。ええ、おい……だけど姿を消してっつうのは男して情けなくないか? 男なら真っ向から掛かってきやがれッ!!」

 

虚空から伸びたタイラントドリルを装備した虎龍王の拳を掴んだ龍虎鬼皇が腕を引き、姿を隠していた虎龍王を引きずり出し一歩背負いで投げ飛ばす。

 

『ッ!! はっ!!!』

 

「そうこなくっちゃなあッ!! ははッ!! 楽しくなってきたぜッ!!!」

 

空中を踏みつけ反転した虎龍王の飛び蹴りをガードする龍虎皇鬼だが、現れてから1度も揺らぐ事がなかった巨体が大きく揺れた。

 

『おおおおおおお――ッ!!!』

 

ブリットの雄叫びに呼応するように虎龍王が吼え、足を止めて龍虎皇鬼の前に立ち拳を振るう。回避や防御を一切考えていない玉砕覚悟の特攻に等しいそれを見て龍王鬼は大声で笑い出した。

 

「はっはぁッ!!真っ向からの打ち合いかッ!! 良いぜ良いぜッ!! 俺好みだッ!!! 付き合ってやるよッ!!!」

 

「あーらら、龍ったら、しょうがないわねえ」

 

困ったような口調だが虎王鬼も楽しそうに笑っており、龍虎皇鬼と虎龍王が肩幅に立ち、その拳を固く握り締める。

 

「うおらあッ!!!」

 

龍王鬼の雄叫びと共に繰り出された右拳が虎龍王の顔面を捉える。だが虎龍王はその場に踏み止まり拳を大きく振りかぶり、その拳を突き出した。

 

『うおりゃあッ!!!』

 

裂帛の気合と共に突き出された拳は龍虎皇鬼の顔面を打ち貫いた。

 

『良しッ!「何が良しなんだ? 気抜いてんじゃねえぞッ!!!」がはッ!!?」

 

固く握り締められた虎龍王の拳の先の龍虎皇鬼の顔面が歪んでいるのを見てブリットは歓声を上げたが、即座に伸びて来た龍虎皇鬼の反撃の拳が同じ様に虎龍王の顔面を打ち抜いた。

 

「相手が倒れる前に気を抜いてるんじゃねえよッ!!」

 

龍王鬼の怒号と共に凄まじい轟音が響き、龍虎皇鬼の鉄拳が虎龍王の身体をくの字に曲げる。

 

『うおりゃあッ!!!』

 

だが即座に態勢を立てなおした虎龍王の拳が今度は龍虎皇鬼の胴体を捉えてその身体をくの字に曲げさせる。

 

「ぺっ……良い拳じゃねえか。だけどなあッ! まだ足りないぜッ!!!」

 

『ぐうっ!! ま、まだだだあッ!!!』

 

「があッ!! へっへへへッ!! なんだなんだ楽しくなってきたじゃねえかよッ!! おらッ! もっと全力でこいやッ!!」

 

最初は1発殴られたら1発殴り返すというやり取りだったが、龍虎皇鬼と虎龍王の殴りあいは徐々に勢いを増して行く、互いに肩幅に開いた足は決して相手よりも先に倒れないと言う意志の証であり、機械ではあるが生物でもある龍虎皇鬼と虎龍王だからこそ出来る火の出るような打撃戦。

 

「うおらあッ!!!」

 

『おおおおッ!!!』

 

龍虎皇鬼と虎龍王の右拳がクロスカウンターとなり互いの顔面を捉え、2体の巨神がたたらを踏んで後退し腰をがっくりと落す。

 

【キシャアアッ!!】

 

それを好機と見た百鬼獣が虎龍王へと飛びかかる。敵を排除すると考えればこの百鬼獣の行動は間違いではない、だが龍王鬼と戦っている相手に襲いかかったのは明らかに愚作だった。

 

「『邪魔すんなぁ!!(するなあッ!!!)』」

 

その百鬼獣の行動を邪魔を判断した虎龍王と龍虎皇鬼によって振るわれた拳が百鬼獣を一撃でスクラップへと変え、そして龍虎皇鬼と虎龍王は再び向かい合い拳を繰り出し激しい乱打戦を始めるのだった……。

 

 

 

 

罅割れたヘルメットを後部座席に投げ捨てたイルムは額から流れて来た血を拭い目の前の敵を睨みつける。

 

『どうした? もう終わりなのか?』

 

水中・空中戦ではない、陸上戦用なのだろう強固な装甲と肩部から伸びている2本の腕……阿修羅のような形状になった闘龍鬼が地響きを立てながら尻餅をついた状態で動きを止めているグルンガストへと歩みを進める。

 

「ぺっ……ふうー……流石超闘士……まだ動くな」

 

口に溜まっていた血を吐き出し、イルムは操縦桿を再び握り締める。半壊したモニターの視界は悪く、4本の腕による嵐のような連続攻撃であちこちの装甲が凹み変形機能は完全に死んでいるがまだグルンガストは死んでいなかった。

 

「ブーストナックルッ!!!」

 

不意打ち気味に放ったブーストナックル……だが闘龍鬼の4本の腕に阻まれるが、それはイルムにとって折り込み済みだった。

 

「おっらあッ!!!」

 

ブーストナックルが弾かれたと同時に背部のブースターで立ち上がったグルンガストはそのままブースターを吹かしたまま肩口から体当たりを叩き込んだ。

 

『ぬうっ!?』

 

「くっうっ……まだ止まるなよ、グルンガストォッ!!!」

 

闘龍鬼にぶつかった事でグルンガストの装甲が軋みを上げ、重量の差で弾かれる。だがそれはイルムにも分かりきっているが、それでもイルムは体当たりを選択したのだ。

 

「アイソリッドレーザーッ!!!」

 

体当たりで僅かに体勢が崩れている。斜め下から上にかち上げるようにぶつかったのはこの為だ、残されている片目から放たれた光線が闘龍鬼の顔面を貫き、闘龍鬼は右手で顔を押さえて後退する。

 

『やってくれたな、イルムガルト……ッ』

 

「卑怯なんて言うなよ? 戦いは勝った方が正しいんだからよッ!!」

 

真っ向から正々堂々と戦う余力はイルムにもグルンガストにも残されていない、ならば形振り構わず生き残る事をイルムは優先した。

 

(くっそ、こんな化け物とタイマンなんて冗談じゃねぇぜ、グルンガストで力負けするってどんな悪夢だ)

 

百鬼獣の強さは十分に理解しているからこそ分かるのだ。闘龍鬼の桁違いの強さが……。

 

(コウキの言っていた通りってことか)

 

名前持ち、そしてパイロットを持つ百鬼獣は桁違いの強さを持つとコウキは言っていたが、それでもイルムは勝機はあると踏んでいた。やや劣勢だったが今まで何とも闘龍鬼とは戦っていたのだ。十分に打倒するチャンスはあると考えていたのだが、その考え自体が名前持ちの百鬼獣の強さを十分に理解していない、愚かな行為だったのだと思い知らされた。

 

「悪いが今の俺には形振り構ってる余裕なんて無いんでねッ!! どんな手でも使わせてもらうぜッ!!」

 

闘龍鬼はグルンガストタイプの百鬼獣であるならばそのコックピットも自身の乗るグルンガストと同じであり、主な弱点も同じだと判断したイルムは賭けに出た。ブレイククロスを上空に投げると同時に闘龍鬼の死角から斬りかかったのだ。

 

『ぬっ……死角に隠れれば何とかなるなどと甘い考えなどッ!!』

 

「悪いなッ!! そんな甘い事は考えちゃいねえよッ!!!」

 

死角からの不意打ちだが闘龍鬼は即座に反応し右手に握っている三日月刀で計都羅喉剣を受け止め、左手に握っている薙刀と肩から伸びた腕が持っている棘付き棍棒が一斉に振り下ろされる。

 

「ぐっ!! くそッ!! 舐めんなッ!!」

 

棍棒で連続で殴打され肩と胸部の装甲が見る見る間に凹んでいくが、イルムは再びグルンガストに左に回りこませる。

 

『そんな小細工……ッ!? これが狙いかッ!!』

 

上空に投げていたブレイククロスは狙いなどつけていない、真上に投げ重力に引かれて落ちてくるのをイルムは待ち、そして闘龍鬼を落ちてくるであろう場所に誘導する為に左、左と回りこませたのだ。

 

「そういうこったぁッ!!! 爆連打ぁッ!!!!」

 

一種の博打、それもキョウスケが好むような勝算も無い大博打――失敗すれば2度と闘龍鬼を欺く事が出来ない上に自分の命を失いかねない大博打。下手をすれば自分にも当たるという命を賭けた博打にイルムは勝利した。自然落下して来たブレイククロスは狙った……いや願ったとおりに闘龍鬼の肩から伸びた両腕を切り落とした。突然の重心の変化に闘龍鬼が困惑の声を上げた好きに懐にもぐりこみ左右の連打を闘龍鬼の胴体に叩き込む。

 

「うおらあッ!!!」

 

気合と共に繰り出された正拳は闘龍鬼の胴をくの字に折り、その巨体を後方に向かって吹っ飛ばす。

 

「こいつでとどめだッ!! ファイナルビームッ!!!」

 

追撃に放たれたファイナルビームの光の中に闘龍鬼の姿が消える。だが闘龍鬼から発せられる気迫は弱まる所か強くなっている事にイルムは良い加減にしろよと思わず吐き捨てる。

 

『ふ、ふふふ……追加装甲をここまで破壊されるとは……先に小手先の力に頼った俺のミスか』

 

追加装甲が崩れ落ち、闘龍鬼の本体が露になるが損傷はほとんど見られず。アイソリッドレーザーで潰した左目と最後の正拳が命中した胸部の凹みが目に見える闘龍鬼の損傷だった。

 

『続きだ。もっとやろう、まだこの程度で終わるなど言わないだろう』

 

「はっ! たりめえだ。ここで決着をつけるって言ったよなあッ!!!」

 

計都羅喉剣を手にしたグルンガストと三日月刀を手にした闘龍鬼が同時に走り出し、互いに頭上に振りかぶり全力で振り下ろす。乾いた音を立て計都羅喉剣と三日月刀が折れ、闘龍鬼とグルンガストの手には柄しか残っていなかった。

 

「おらッ!!」

 

『ふんッ!!」

 

柄しかない己の獲物を同時に互いの頭部に向かって投げ付け、そのままの勢いで拳を突き出し凄まじい轟音が周囲に響き渡る。

 

『やはり最後に信用できるは拳だ。武器に頼ろうとする軟弱な意思がここまで俺を傷つけたのだ』

 

「ああ、そうかい、ならその拳で軟弱じゃないって所を見せてみろやッ!!!」

 

『言われなくとも見せてやるッ!! イルムガルトォッ!!!』

 

「いくぜえッ!!!」

 

再生能力を持つ闘龍鬼だが、胸部の損傷により再生能力は停止していた。それに対してグルンガストも大破寸前ではあり、内蔵火器などは死んでいたがそれ以外の機能は全て健在である。機体性能は僅かに闘龍鬼が上回っているが、それを上回る気迫をイルムは放っており一撃ごとに火花が散り、装甲が凹むかあるいは吹き飛ぶという中で、闘龍鬼とグルンガストは足を止め火が出るような激しい打撃戦を繰り広げるのだった……。

 

 

 

 

グレイターキン改のコックピットで出撃するタイミングを図っていたメキボスだったが、外の光景を見て信じられないという表情を浮かべていた。

 

「こりゃ野蛮人なんて言えねえだろ……化け物かよ」

 

自分達ゾヴォークよりも兵器を開発する術に長けているのは分かっていた。だがそれでも百鬼獣の方が地球の兵器よりも遥かに優れている。

 

「命の危機しか感じねえよ……」

 

ゲッターロボと武蔵の怒りを買っている上に戦力で下回り、圧倒的に不利だとしても戦う事を諦めない地球人を前にメキボスは疲れたように深い溜め息を吐き、その目を閉じた。その様子は戦いを諦めているようにも見えたが、開かれた時には強烈な意思の光が宿っていた。

 

「とは言え、なんもしねえで逃げ帰るなんて事はできねえよなあ……それに見極めておかないとな」

 

百鬼帝国がいつ自分達を裏切るかなんて分からない上にインベーダーまでも地球圏に出現している。ゾヴォークに無事に帰れるという保障すらないのだ。

 

「最悪命だけは拾わんとな……」

 

メキボス達にとっての最悪のシナリオは百鬼帝国に裏切られバイオロイド兵によってネビーイームが制圧され、百鬼帝国の傘下にされる。あるいは鬼に改造され、ゾヴォークへの報復の手駒にされる。次はインベーダーに寄生されて化け物にされる……。

 

「あーあ、本当に地球になんて来なきゃ良かったぜ……」

 

ゲッター線に関われば破滅する……ゾヴォークにとっての暗黙の掟……それを破った代償だとしても重過ぎる。

 

「いや、こういうのを因果応報って言うんだよな。この星では」

 

色んな星を監視下に置いて自分達の傘下に取り込むか滅ぼして来た。確かに新兵の時にはそれに心を痛めたこともあった……だがそれは最初の内だけで今ではそれが当たり前と思い躊躇う事も、思い悩む事も無く監査官としての責務だと割り切ってきたつもりだが……それが全部自分に跳ね返ってきたんだなと苦笑しながらメキボスはグレイターキン改を起動させた直後、凄まじいエネルギー反応と数秒後に発生した爆発がグレイターキン改のコックピットを揺すった。

 

「さてっと……行くとしますかねぇ、こんな穴倉の中で死ぬつもりはねぇしな」

 

上を百鬼帝国に抑えられてる以上、何時までも穴倉を決めているとラングレー基地ごと消し飛ばされるかも知れんと出撃したメキボス。出撃の為に外のモニターとのリンクを数秒切ったメキボスの目の前に広がったのは地獄だった。

 

「……くそ、厄日じゃねえかよ、ちくしょうめ」

 

楕円系のフォルムの戦艦から無数の機体が姿を見せる。それは良い、百鬼帝国傘下の組織の援軍が来ると聞いていたのでこれは問題はない。戦闘続けで疲弊している筈なのに全く闘志の折れない地球人もまぁ良いだろう……ゲッターロボという象徴がある限り心が折れないのはメキボスも承知していた。

 

(まぁ別の手段もあるわけだしな、ウェンドロが認めるかは分からんけどよ)

 

百鬼帝国――いやダヴィーンの生き残りのブライを地球人と協力し身柄を拘束する。地球はまだゾヴォークの連盟には入っていないが、この功績で連合に入る事も不可能ではないし、ゲッターロボを無理に手中に収めるよりは互いに納得出来る妥協点を見つけ出すと言うのも1つの手段ではある。

 

(とは言え、そんなに上手くは行かないだろうけどな)

 

ヴィガジが地球人の虐殺を行なったので地球人との間には大きな軋轢がある。その上武蔵の怒りを買っているので交渉のテーブルに今更付くのも難しいが、百鬼帝国の脅威を計算に入れれば地球人も妥協点を見つけだすかもしれない……余りにもメキボス達に都合のいい話になるし、自身もそんなに上手く行くとは思っていないが、最悪が最低になる前に僅かな希望がある方が良いだろうと考えていたメキボスは格納庫から出撃したのだが……目の前に広がっていたのは地獄だった。

 

「どっから沸いて出やがった化け物共……」

 

百鬼獣、バイオロイド兵の乗る無人機、そして百鬼帝国の傘下の地球人の機体という3つの陣営と戦っている戦場に胸部に赤いコアを持つ無数の異形が現れており、メキボスはうんざりした様子だったが、機体を操る腕が鈍る事はなく飛びかかって来たアインストを高周波ブレードで両断する。

 

「……やっぱり地球からは手を引くべきだよな」

 

しっかりと口にするのは初めての事だったが、メキボスは始めて自分の心情を言葉にするのだった……。

 

 

第179話  進化の光 その1へ続く

 

 




かなり中途半端な形になってしまいましたが、ここで前半戦終了です。次回からはアインスト、百鬼帝国、シャドウミラー、インスペクター、ハガネ達という乱戦を書いて行こうと思います。ここまで書いてきてここまでの乱戦は初めてですが、これからの事を考えると挑戦しておきたいと思うので頑張ってみようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


SRXガチャのラスト

ダイターンコンビネーション
メガ粒子砲(ナイチンゲール)
サンダーブレークで
でした

ダイターンは鍛えてますが、弱体化無効が無いのが厳しいんですよね。

制圧戦は無事最終エリアSクリアでした。

絶対最終ステージよりピッツアの方が難しいと思いました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第179話  進化の光 その1

第179話  進化の光 その1

 

ブリッジに続く通路を走っていたバリソンだったが激しく揺れるハガネの船体にバランスを崩し、通路に手を置いて姿勢を整える。

 

「こいつはまじでやばいな……ッ! アクセルが出てきたらヴィンデルの奴まで来るぞ」

 

乱戦の中で万全な状態の敵の増援ほど恐ろしい物はない……シャドウミラーの構成員という事で大人しくしていたバリソンだったが、流石にそんな事を言ってられないと判断しダイテツの元へ向かっていたのだ。

 

「ダイテツ中佐ッ!!」

 

ブリッジに飛び込むなりバリソンはダイテツの名を叫んだ。その声にブリッジにいた全員が振り返り、真っ先にテツヤが一歩前に出た。

 

「今は戦闘中だ! 非戦闘員は指定された区画に避難しろッ!」

 

「俺が非戦闘員だって? 馬鹿を言うなよ、俺だってパイロットさ。どいてくれ、あんたじゃ話にならねえ」

 

ダイテツとバリソンの間に入ったテツヤを押しのけ、バリソンはダイテツの前に立った。

 

「ダイテツ中佐。今は戦力を出し惜しみしている場合じゃないだろ? シャドウミラーの構成員だった俺やエキドナを信用出来ねぇのは分かる。だが今はそんな事を言ってる場合じゃない。違うか?」

 

エキドナの扱いは捕虜だが、バリソンの扱いは保護した民間人となっているがバリソンは軍属だけあり、上官への対応はしっかりとしている。だが今はそんな事を言っている場合ではないと、乱暴な口調でダイテツに詰め寄る。

 

「貴様」

 

「俺が悪いのは分かってるさ、だがこのままだとハガネは轟沈する。いや、ハガネだけじゃなねぇ、ヒリュウ改もクロガネもシロガネだって轟沈するのは分かりきってるだろ? この状況で機体を遊ばせている時間なんて無い、違うか?」

 

上をとられ思うように動けない今の状況は完全に詰みの一歩手前の状況だ。そんな状況で機体を遊ばせている余裕なんて無いだろと言われればテツヤとて言葉に詰まる。

 

「だが出撃可能な機体は……「グルンガストとヴァイサーガにアースゲインがあるだろ? 回収した奴がよ」……しかしだなッ!」

 

武蔵を救出した際にシャドウミラーの拠点から多くの補充物資を回収したダイテツ達、ただエルアインスやアシュセイヴァーなど運用するにあたり問題がある機体も多く、格納庫に保管されているのだが……その中にバリソンが使っていたグルンガスト、そしてパイロット不在という事とデータ取りの為にランス装備のヴァイサーガとノーマルタイプのアースゲインも保管されていた。それを使わせろと言うバリソンにテツヤが声を荒げようとしたその時だった。バリソンの話を黙って聞いていたダイテツが口を開いた。

 

「ヴィンデルという男はそれほどまでに厄介か?」

 

「……ああ、あいつはほんの少しの勝率でも拾って生き延び続けた男だ。間違いなく仕掛けてくると断言出来る」

 

ヴィンデルのカリスマ性は勝利を続ける事で培った物だ。逃げたこともあったが、間違いなく勝利したと言えるだけの戦果は常々上げている。ギリギリの窮地の中で勝利を続けていたヴィンデルの嗅覚はとても鋭い事をバリソンは知っている……相手がもっとも嫌がるタイミングで、自分達への被害を限りなく0にした状態で仕掛けてくると確信していた。

 

「今は戦力が少しでも欲しい、頼めるか?」

 

「その為に俺は来たんだ。整備班に連絡を入れてくれ」

 

ダイテツは少し考える素振りを見せた後にバリソンとエキドナへ出撃許可を出すのと、格納庫で保管されているグルンガストとヴァイサーガ、アースゲインの起動を行なうように格納庫の整備兵に指示を出すとバリソンは弾かれたように走り出しブリッジを後にする。

 

「よろしいのですか艦長」

 

「今は戦力が少しでも欲しい状況だ大尉。形振り構っている場合ではない、どんな手段を使っても我々は無事にこの場を脱出しなければならんのだ」

 

百鬼帝国、インスペクター、シャドウミラー。いずれの組織と戦ったとしても轟沈もしくは戦死を覚悟しなければならない程の強敵が一堂に会しているのだ。今はまだ龍王鬼が指揮を取っているからこそ物量で仕掛けて来る事はないが、それもいつまで続くかも分からない。ほんの少しでも全員が生存できる可能性があるのならばダイテツはどんな手でも使う事を決めていた。

 

(……例えそれがワシの命を引き換えになったとしてもだ)

 

長いこと軍人をしていれば嫌でも死が近づいてくるのを感じる物だ。だが今この時、ダイテツはいまだかつて無いほどに死が自分へ近づいているのを感じているのだった……。

 

 

 

 

整備兵や警備兵がジト目で見つめて来ていてもエキドナは表情を1つ変えず。ダイテツに出撃許可を取りに行ったバリソンが戻るのを待っていた……なんでお前が、どうしてという視線が向けられるがそれは覚悟の上だ。

 

(自分が行なった結果は覆らない)

 

武蔵を裏切り、拉致したという結果は変わらない。それでも、それでもだ。エキドナは再び機体に乗り戦う事を選んだのだ。

 

(流石にゲッターに乗せてくれとは言えないからな……)

 

Wナンバーズのエキドナとラミアならばゲッターロボを乗りこなせるだけの身体データは出ている。だが1度ゲッターのシステムをダウンさせ、裏切った女を乗せる人間などいない。

 

「武蔵は気にしなそうだがな……」

 

あんな人の良い、もっと言えば人を疑うって事を知らないような能天気な武蔵ならと思うがエキドナはそれを言わないと決めた。今の自分ではゲッターに乗るのも武蔵の力になる資格もないのだから……。

 

「何ヲそんなに考え込んでいるノ?」

 

「っ!?」

 

エキドナがふと顔を上げると殆ど目と鼻がつくような距離で自分の顔を覗き込んでいたラルトスに気付き、驚いて声を上げ尻餅をついた。

 

「ニシシ、驚いた驚いたかナ?」

 

ラルトスはそんなエキドナに手を差し伸べて立ち上がらせ、再びニシシと楽しそうな笑みを浮かべた。

 

「なんのようだ?」

 

「ンー聞こえてなかったみたいだからネ、ラルちゃんが呼びに来たんだヨー、出撃許可下りたヨ?」

 

その言葉に格納庫を見ると数人の整備兵がグルンガストの調整に走り、パイロットスーツが無いので連邦の制服に身を包んだバリソンがコックピットに続くタラップを駆けていた。

 

「本当にパイロットスーツ無しで良いのか!」

 

「あちら側にそんな上等なもんはとうの昔に無くなっててよ! 私服か制服で出撃するのが当たり前だったんだよ!」

 

「だが予備のパイロットスーツくらい準備できるぞ!」

 

「元敵だったのに心配してくれてありがとよ! でも俺は平気だぜ!!」

 

元々バリソンは守る人間だったのだ。それが壊す側に回っていた間はさぞフラストレーションが溜まっていただろう。それが今本来の立ち位置……即ち守る人間に戻った事でバリソンの顔はこれ以上に無いというほどに活き活きとした物になり、グルンガストのコックピットに身体を滑り込ませた。

 

『エキドナ! 先に出るぞッ!!!』

 

起動したグルンガストからバリソンの怒声が飛び、エキドナは手を上げることで返事を返し深く息を吐き意識を切り替えた。

 

「ヴァ「ヴァイサーガの準備は終わってるヨ、シールドもタワーシールドとまでは言わないけどちゃんと準備したヨ」……ありがとう」

 

アースゲインは使いこなせないと判断していたエキドナはヴァイサーガの準備がされていることに感謝し、ヴァイサーガのコックピットに続くタラップに足を向ける。

 

「■よ、私は貴女を祝福する。愛を持って自我に芽生えた貴女を祝福しましょう」

 

「……今なんと言った?」

 

小さな囁きにも似たその声にエキドナは思わず振り返った。その声はずっと聞いていた敬愛すべき自身の創造主であるレモンの声に酷似していたからだ。だが振り返った先にいたのはレモンには似ても似つかない容姿をしたラルトスであり、ラルトスはダボダボの袖を振り楽しそうな笑みを浮かべる。

 

「無事に帰っておいでヨ! ほら、君のアンジュルグも修理してあげるからネ! 頑張って行っておいデ!」

 

奇妙なイントネーションで明るい声のラルトスの声は先ほど耳に届いた声とはまるで違っていて、エキドナはさっきの声は聞き違いだったか? と首を傾げるがそれは一瞬の事でヴァイサーガのコックピットに向かってすぐに走り出した。

 

「ちょっと気を抜きすぎたかナ、カナ? まぁそれだけ嬉しかったからしょうがないネ! っととッ!!」

 

出撃するヴァイサーガのスラスターの暴風で瓶底眼鏡が宙を舞い、一瞬だけラルトスの素顔が明らかになる。

 

「え?」

 

「嘘ぉ……」

 

残念系美少女を自称するラルトスだが、その素顔を見た者は殆どおらず。恐らくその素顔を見たのはいま驚きの余り言葉を失っている整備兵達が初めてだろう。地面に眼鏡が叩きつけられる前にラルトスはジャンプして瓶底眼鏡をキャッチし掛けなおし、自身を見つめている整備兵に視線を向け悪戯っぽく微笑んだ。

 

「ンーナイショネ? ラルちゃんあんまり顔見られるの好きじゃないのネ」

 

ダボダボの袖から指先を出して口元に当ててシーっと言うジェスチャーをしたラルトスに整備兵は顔を赤くさせ何度も何度も頷き、その姿を見たラルトスはにんまりと笑った。

 

「サーて、おっしごと、おっしごと♪ 死にたくないから頑張るヨー」

 

今も外は戦闘中であり気を緩めている時間はないと言わんばかりに補給に戻って来た機体の整備の手伝いに駆けていくラルトスの背中をぼんやりとした様子で見つめ、整備兵長の怒声で我に帰りラルトスと同じ様に簡易整備の手伝いに駆け出した。なお後日ラルトスの素顔を見た整備兵達は思い出したように呟いていた。

 

「ラルちゃんの素顔誰かに似てるなって思ってたんだけどさ、最近分かったわ」

 

「実は俺も、せーので言ってみるか?」

 

「OK、せーの」

 

「「エクセレン少尉」」

 

「あーやっぱりかあ。ラルちゃんの素顔ってなんかエクセレン少尉に似てるよな」

 

「似てる似てる。目つきがちょっと悪いけどな」

 

「ドアホ共! さぼってねえで仕事しろッ!!」

 

「「す、すいませーんッ!!」」

 

整備長の怒鳴り声で作業に戻る整備兵達を見ながらラルトスは若干蒼い顔で冷や汗をかいていたりする……。

 

 

 

 

ゲッターロボVがクロガネの甲板に陣取ってから戦況は圧倒的劣勢からほんの僅かだが戦況を均衡に近づける事が出来ていた。出力を上げたゲッター炉心とビアンの最高傑作である重力操作装置……それを組み合わせることで百鬼獣等の移動をほんの僅かだが阻害する為の重力フィールドを展開していたからだ。ただそれは完全に動きを止めるまでには至らず、ほんの僅か1挙動か2挙動動きを鈍らせる程度の物だったが、この乱戦の状況の中で相手の動きが僅かに鈍いというのは数の不利を引っくり返し、短時間だが補給を受ける時間をキョウスケ達に与えていた。だがラングレー全域への作用する重力フィールドともなればその消耗は凄まじく、ゲッター炉心を持ってしてもカバーしきれないエネルギー消費をゲッターVへとかしていた。

 

「……ぬう、これは思った以上に厳しいな……プロペラントタンクだ! プロペラントタンクを持ってきてくれッ!! 今この制御を止めるわけにはいかんッ!!」

 

ゲッターVのコックピットでビアンがそう叫び、クロガネの護衛をしていたLB隊の兵士が格納庫へと着艦する為に機体を反転させる。その姿をビアンが見届けた直後、凄まじい衝撃をビアンが襲い、怒りに満ちた女の声が広域通信でビアンに向かって叩きつけられる。

 

『小細工してんじゃないよッ!! 大将がみっともない真似するなよッ!!!』

 

風蘭の駆る風神鬼の放った風の刃――それはゲッターVが常時展開している湾曲フィールドとゲッター線バリアを貫通し、ゲッターVの胴体に深い傷を刻み付ける。ジャガー号の損傷が酷くレッドアラートを灯すが、元々ゲッターVは戦闘中の分離や再合体を想定していないのでそのアラートは微々たる問題であり、ゲッター線と重力装置をコントロールするイーグル号さえ無事ならばいいとまでビアンは考えていた。

 

「それを言うのならばこれほどまでに罠を張って私達を誘い込んだそちらのほうがみっともなくないかね?」

 

『うっ……それは……そうだけど……ッ『親父ぃッ!!! 無茶すんなよッ!!』ちッ! また邪魔がッ!!!』

 

ゲッターVを沈めに来た風神鬼だったが、ビアンの挑発とそしてビアンを守る為に上昇してきたヴァルシオーネの攻撃を受けて逃れるように雲の下へと急降下する。

 

『ビアンのおっさん、大丈夫かッ!!』

 

「ああ、なんとかと言う所だよ。ただ……状況は芳しくないな……まだ広域攻撃は使えないのかね?」

 

『……すまねえ、あの風神鬼とやらにダメージを与えない限りは難しいぜ』

 

このような状況で頼りになるサイバスターとヴァルシオーネのサイフラッシュとサイコブラスターだが、風神鬼の能力によって封じられていた。

 

(流石にジガンスクードやゲッターD2の広域攻撃を使わせるわけにはいかんしな)

 

破壊力のあるGサークルブラスターや、フルパワーのゲッタービームならばサイフラッシュとサイコブラスターにも負けない火力があるが、その代りに敵味方の識別が出来ないという欠点があり敵を倒すよりも味方を巻き込むリスクの方が圧倒的に高く、敵味方の識別が出来る兵器としてSRXのテレキネシスミサイルやアステリオン、ベルガリオンの多弾頭ミサイルがあるがそれは逆に威力が低く、戦況を左右するとまでは言えない。

 

「難しいと思うが、何とか風神鬼を追ってくれ」

 

『言われなくても分かってるッ!! ビアンのおっさんも無茶すんなよッ!!!』

 

ヴァルシオーネとサイバスターが風神鬼を追うが、風を司る百鬼獣であり、そして風蘭自身の技能も高く追いきれていないがそれでも構わない。風神鬼も広域に左右する風の刃を持ち合わせているのでそれを使わせないためにも追うだけでも十分に意味がある。

 

(何とかしてサイバスターとヴァルシオーネの機能が回復すれば……突破の糸口も見えてくるのだが……な)

 

上を百鬼帝国に抑えられ、地上はシャドウミラーとインスペクターの無人機の群れ、そして単体性能の高い百鬼獣と百鬼帝国の将軍である龍王鬼一派と百鬼帝国に回収され改造されたブラックゲッターロボと敵の戦力は悔しい事に完全にビアン達を上回っていた。

 

『キシャアアアアッ!!!』

 

『うおらああッ!!!』

 

ゲッターザウルスと武蔵の雄叫びが重なり凄まじい衝突音を周囲に響かせ、激しいぶつかり合いを続けているがどちらも回復能力を持ち合わせているからか中々決着がつかない。

 

『アヒャハハハハハハ!! どうしました僕はまだ全然元気ですよおッ!!』

 

『くそっ化け物がッ!!!』

 

『……流石に不味いな』

 

SRXとアウセンザイターのペアに、イングラム達が支援していてもゲッターノワールを倒すには全く手が足りていなかった。百鬼帝国が改造したゲッターノワールの力が余りにも強すぎたのだ。少なくともこの乱戦の中で戦力が限られた中では倒しきれる相手ではなく、味方の戦力を全て集結させてやっとか、ゲッターD2と武蔵が当たってやっと撃墜出来る可能性が生まれるほどの相手だった。

 

『ガッハハハ!!! 楽しいなあッ!!! ははははははッ!!! おらッ!!!』

 

『うおおおおッ!!!』

 

『良いぜ良いぜ、根性見せろよッ! 男ならよぉッ!!!』

 

『うああああああ――ッ!!!』

 

龍虎皇鬼と虎龍王の火の出るような打撃戦は徐々に虎龍王が押され始めていた。ゲッターVの重力を受けてもなお、龍虎皇鬼の自力が虎龍王を完全に上回っていたのだ。

 

「……これは不味いぞ……」

 

皆死力を尽くして戦っているがやはり敵の戦力が無尽蔵すぎるとビアンは顔を歪めた。一騎当千のパイロット達が揃っているが、数の暴力に加え、圧倒的な力を持つ突出戦力がいることで連携を取る事も難しい。その上合流を防ぎつつ妨害するように立ち回っている無人機達とそれを防ぐ為に多大な戦力を割く事になりエネルギーと弾薬の消耗が著しく激しい物となっている……戦況、そして長時間にわたる戦いの中で疲弊の色が濃くなっている……この場合では逃げを打ちたいが、龍王鬼一派の鬼がそれを許さない。

 

『よぉ、闘龍鬼……次で仕舞いだ。勝負しようや、俺が死ぬか、てめえが死ぬかのなッ!!!』

 

ボロボロのグルンガスト火花を散らしながら計都羅喉剣を構え、イルムが吼えると闘龍鬼も同じ様に三日月刀を構え腰を深く落とした。

 

『……良いだろう……乗ってやる、勝負だ。イルムガルトッ!!』

 

敵を信用するなど馬鹿のすることだが、龍王鬼一派は普通の鬼と違っていた。命を賭けた闘争を良しとし、卑劣を嫌う鬼達だからこそ、その誘いに乗る。どの道このまま戦っていても勝機は薄い、一か八かの博打に出て龍王鬼一派の鬼を短時間でも戦闘不能に追い込めれば、あるいは自分の命と引き換えに仲間を逃がす機会を作ろうと考えたのはイルム達だけではなかった。

 

『……』

 

『はははははははッ!! 良いぜ良いぜッ!! その姿を見れば分かるッ! 次で最後だなッ!! おい! 俺らの邪魔をするんじゃねえぞッ!!! 分かってるよなあッ!!!』

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲと闘刃鬼では圧倒的までに地力の差があった。右腕が肩からねじ切られ、頭部が半壊し、コックピットのほんの僅か上には闘刃鬼の拳の跡とクナイが突き刺さリ、完全に死に体になっているゲシュペンスト・MKーⅢだがカイの闘志は全く消えておらず、残された左拳を突き出しそれを握り締め腰を落す、その動作だけでカイが何を言おうとしているのか悟ったヤイバは楽しそうに笑い、その勝負に乗った。闘龍鬼とヤイバにとっては戦いこそ誉れ、そして命を賭けた勝負を挑む漢こそ友であり、屠るべき敵なのだ。

 

『……クスハ、龍王機、虎王機……俺に力を貸してくれ』

 

『ブリット君……うん……私の力も持って行って』

 

虎龍王が両拳を固く握り締め龍虎皇鬼に向かって拳を突き出す。

 

『次だ。次に俺の……俺達の全てを込めるッ!!』

 

『ガッハハハッ!! 良いぜ、てめえの魂とやらを俺様の魂でぶち砕いていやんよッ!!!』

 

空気を振動させる龍虎皇鬼の咆哮……それは先ほどまでブリットが臆していた物だったが、ブリットはそれに耐えた。

 

『良いねぇ……本当はよ、武蔵と決着を付けたかったんだが……てめえも俺様を満足させれるだけの漢って認めてやるよ。てめえが死んでも、てめえの名は覚えておいてやるよッ!! ブリットォッ!!!!!!!』

 

龍虎皇鬼の筋肉が隆起し、大地を強く踏みしめる。圧倒的な威圧感を放つ龍虎皇鬼を虎龍王は睨みつけ同じ様に地面を踏みしめる。

 

『行くぜえッ!!!』

 

『うおおおおッ!!!』

 

虎龍王と龍虎鬼皇の咆哮が重なり同時に飛び出すを合図にしたかのようにグルンガストと闘龍鬼、闘刃鬼とゲシュペンスト・MK-Ⅲを初めとした機体が弾かれたように動き出した。

 

『計都羅喉剣……暗ッ! 剣ッ!!』

 

『……闘龍鬼……参るッ!!!』

 

計都羅喉剣を正眼に構え闘龍鬼へ最後のエネルギーを振り絞り突撃するグルンガストとそれを迎え撃たんと闘龍鬼も赤黒いエネルギーをまとって突撃する。

 

『……ォォおおおおおおおおおおおッ!!!!』

 

『行くぜえッ!!! おっさんッ!!!!』

 

放電を繰り返すライトニングステークと燃えさかる右拳を振りかぶり闘刃鬼とゲシュペンスト・MK-Ⅲが同時に駆け出し、その拳を大きく振りかぶる……闘志は伝染し、ここがオペレーション・プランタジネット、いやこの戦いの明暗を分ける戦いになると防御を考えず最後の攻撃に打って出た。ブライでさえもこの戦いを見届けるつもりで妨害しろという指示を出すことはなかった、龍王鬼の性格を考慮し水を差せば反逆すらしかねない龍王鬼だが、その力を認めているからこそこの場の戦いは全て龍王鬼に一任していた。

 

「このぶつかり合いですべてが決まる。見届けさせてもらうぞ」

 

自分たち百鬼帝国が本気で戦うべき相手かそれを見届けようとしたブライだが、その目論見は崩される事になる……。

 

「……ん。これは……いかんッ!!! 全員防御を固めろッ!! 今戦っている敵から距離を取るんだッ!!!」

 

『皆さん守りを固めてください! 広範囲攻撃が来ますわッ!!!』

 

この場に最後の戦いに水を差すものはいなかった。だが隠れひそみ、勝利する事だけを考えている男がそれを見逃すわけが無く、その存在を察知したビアンは広域通信で声を張り上げ、それに続くように予知したのであろうシャインの悲鳴にも似た守りを固めろという声が全員のコックピットに響いた。ゲッターVの高性能なレーダー……いやゲッター線は転移してくる何者かの悪意を感じ取り、シャインは予知能力により現れる何者かの攻撃で壊滅的な打撃を受ける光景を見たのだ。ビアンとシャインの指示に目の前の敵からの被弾を覚悟でキョウスケ達は防御を固めその場で動きを止めた。だが闘龍鬼達はその動きを止める事が出来ず、目の前で動きを止めたグルンガストやゲシュペンスト・MK-Ⅲに望んでいない攻撃を加えることになった……そしてその直後空間が歪みギャンランドとギャンランドの上に陣取っているツヴァイザーゲインが転移で姿を現すと同時にその姿を無数に分身させ、ラングレー基地の上空を埋め尽くした。

 

『貴様らの力見極めさせてもらうぞっ!! 受けろ我が力をッ!!!』

 

実の所ヴィンデルは最初からラングレー基地の近くで待機し、ツヴァイザーゲインの力を高め続けていた。そしてもっとも効果的な瞬間を待ち続け、パイロットが疲弊しその動きを緩めた瞬間に転移してきたのだ。ラングレーの上空を埋め尽くさんばかりに分身したツヴァイザーゲインから邪龍鱗によるエネルギー弾の雨、そして残影玄武弾による拳の嵐がキョウスケ達に一斉に襲い掛かるのだった……。

 

 

 

 

ビアンの警告により防御を固めたキョウスケ達だったがツヴァイザーゲインの邪龍鱗、そして残影玄武弾による超広範囲攻撃はラングレー基地の設備を破壊しつくし、その爆発に巻き込まれたアルトアイゼン・ギーガを初めとしたハガネの機体は大きなダメージを受け、その動きを止めていた。

 

「くそ……レモン、レモン応答しろ……ヴィンデル……ッ! 良くも邪魔をしてくれたなッ!!」

 

邪龍鱗の余波の所為か通信は安定せず、自分のフォローをしていたレモンと通信が繋がらないアクセルは苛立った様子でヴィンデルを怒鳴りつける。

 

『アクセル。お前がベーオウルフと決着を付けたいと考えている事は私も知っている。だがそれはあくまで我々の目的の中での経過に過ぎないのだ。優先すべきは我等の悲願を叶える事であり、お前とベーオウルフの決着ではない、そして悲願をかなえる為にレモンもまた死を覚悟している筈だ。目先に囚われて大局を見失うな』

 

戦いを邪魔された上にレモンまで撃墜したかもしれないヴィンデルにアクセルは強い怒りを露にする。だがヴィンデルの言う通り自分達が何を優先すべきかと言われればキョウスケとの決着ではなく、ハガネ達をここで確実に仕留める事だ。だがそうだとしても味方ごと攻撃したヴィンデルにはアクセルも不信感を抱いた。確かに目的を叶える為に死ぬ覚悟はアクセルも出来ている。だがその死が味方によって齎される事まで受け入れたつもりはアクセルにはなかった。

 

『おいヴィンデルッ!! 良くも俺様の闘争を邪魔してくれたなあッ!!! 覚悟は出来てるんだろうなあッ!!!』

 

そしてヴィンデルに強い怒りを抱いたのはアクセルだけではなく龍王鬼も同様だった。折角戦いを楽しんでいたのに虎龍王との戦いに水を挿された事に龍王鬼は強い怒りを露にする。勿論龍王鬼達だけではなく、龍王鬼一派の鬼達も同様であり心から楽しんでいた戦いを邪魔され凄まじい殺意がヴィンデルへと向けられる。

 

『私は大帝に何をしても良いと許可を『ああ、そうかい。だからてめえは小物なんだよ、虎の威を借りる事しか出来ねぇ小心者のつまらねぇ男だ』

 

ブライを盾にして自分は何をしてもいいと言うヴィンデルに龍王鬼はつまらない男だと吐き捨て、その闘気を霧散させた。

 

『命令違反をするつもりか』

 

戦う意志を無くした龍王鬼にヴィンデルが遠回しにそんな事をして良いのかとなじる。だが龍王鬼はそんなヴィンデルを見て興味を失ったと言わんばかりに鼻を鳴らした。

 

『うるせえよ、俺は俺の好きなようにする。こんな横槍を入れられてまで戦うつもりはねえんだよ、屑が』

 

自分の意志を貫き通す事を第一にしている龍王鬼は例えブライがラングレーの上空にいたとしても、邪魔を入れられた段階でもうハガネの戦力と戦うつもりは微塵もなかった。ヴィンデルは自分の攻撃でハガネの機体を攻撃し、龍王鬼達にトドメを刺させるつもりだったので計算が狂ったことに動揺を見せる。

 

(龍王鬼の言う通りだ。詰まらない男になったな)

 

あちら側の世界にいた時の覇気が無くなり、効率よく自分達の目的を叶えることしか考えていないヴィンデルは確かに龍王鬼の言う通り虎の威を借りる狐と言われても当然だった。

 

『アクセル、ベーオウルフにはトドメを刺しておけ、武蔵が動く前にな』

 

無人機の爆弾も一斉に起爆した事でラングレー基地には静寂が広がっており、ダメージと奇襲から回復する前にキョウスケにトドメを刺せと命令をするヴィンデルにアクセルは返事こそ返さなかったがソウルゲインをアルトアイゼン・ギーガに向かわせようとし、地面を蹴り大きく後方に飛びのいた。ソウルゲインが一瞬前までいた所には凄まじいエネルギーの柱が立っており、あと一歩前に進んでいたらソウルゲインはその光の柱に飲み込まれて大破していただろう……だがアクセルがその顔色を変えたのは光の柱ではない、虚空から姿を見せた異形の存在を目の当たりにしたからだった。

 

『……外してしまいましたの』

 

虚空に罅割れが走り、這い出るように姿を見せた鬼面で構成された紅いアインスト――ペルゼイン・リヒカイトの姿を確認しアクセルの顔が鬼の形相に変わった。

 

「ヴィンデル貴様のせいだぞッ!! 貴様の行いで今ここでベーオウルフが誕生するッ!!」

 

『何をしている! アクセル、トドメを刺せッ!! キョウスケ・ナンブをベーオウルフにさせるなあッ!!』

 

ペルゼイン・リヒカイトの姿をアクセル達が目にするのはこれが初めてだったが、ペルゼイン・リヒカイトに酷似したアインストをアクセル達は知っていた。ゲシュペンスト・MK-Ⅲを取り込み、キョウスケをベーオウルフに変えたアインスト――腕の有無こそあれど、あちら側の世界で1番最初に確認されたアインストにペルゼイン・リヒカイトは酷似していたのだ。

 

『……させませんのよ? キョウスケもエクセレンも私が守りますの、2人とも私には必要なんですの』

 

ペルゼイン・リヒカイトが虚空から日本刀を抜き放ち振るうと同時に無数のアインストが姿を現し、一斉にアクセルに襲い掛かる。

 

「ちいっ!!! 面倒な事になったぞ、これがなッ!!!」

 

ツヴァイザーゲインの襲撃、それによって最もアクセル達が恐れていた事――キョウスケのベーオウルフへの変異が始まろうとしている。それを阻止しようにもツヴァイザーゲインの攻撃で龍王鬼は臍を曲げ、無人機達もその多くが沈黙した。ヴィンデルが勝機を確信し行った攻撃によってハガネ隊が圧倒的に不利だった戦況は一気に互角にまで傾こうとしているのだった……。

 

 

第180話  進化の光 その2へ続く

 

 




禿に続く戦犯その2緑わかめです。一応言っておきますとヴィンデルの攻撃で味方ユニットのHPは赤ゾーンになっているので、かなり不利なのは変わりませんがツインユニットの解禁で挽回は楽という状況になりました。ヴィンデルはここまで馬鹿じゃないと言う意見もあるかもしれませんが、ヴィンデルは私の中では禿と同等なので扱いはやや酷いことになりますがご了承ください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


今回の迎撃戦は地味に難しいですね。

今ハイスコアが39997で、後3ポイントでSランクなのに、何回やっても乱数で5から1足りない状態でアーっとなっております……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第180話  進化の光 その2

 

第180話  進化の光 その2

 

ブライはツヴァイザーゲインの奇襲を見てくだらないと鼻を鳴らした。自分が作り上げた罠を崩され、あまつさえ折角分断した敵までも合流させた……ブライの中でヴィンデルの評価は著しく低下する事になった。

 

「所詮はハイエナ、くだらん男だ。龍王鬼達に帰還命令を出せ、こんな横槍が入ってはあの男はまともに戦わん。代わりに量産型の闘龍鬼と不知火を出せ、攻撃命令はあの化物8、人間2の割合で構わん」

 

「よろしいのですか? 大帝」

 

ブライの龍王鬼への帰還命令を聞いていたコウメイがブライに本当に良いのかと尋ねる。

 

「構わん、ワシは倒せるのならばここで仕留めるくらいには言っていたが、本当にここで仕留めるつもりなど微塵もなかったからな」

 

ブライの中ではオペレーション・プランタジネットは絶望的な状況でのハガネ達の底力を見つつ、敵に値しないと判断すれば殲滅するといった物であり、オペレーション・プランタジネットの真の目的は百鬼帝国の存在を知らしめることにある。ビアンが衛星放送を利用しようとしていることも計算の内であり、異星人と未知の敵勢戦力がいるという事を知らしめる事が出来ればその段階でハガネを詰みに持っているだけの策を既にブライは準備していた。自分の政治家という立場、そしてブライアンの生死不明という事でその立ち位置をより磐石にしたブライにはこの先にいくらでも詰みに持っていける手段があり、この場に固執する必要性はないのだ。

 

「敵に情けをかける必要などは……」

 

「何を馬鹿な事を言っている? 敵なき最強になってなんとする。それでは最強になったとしても何の意味も無い、何の為にワシがこれほど骨を折って来たと思っているのだ」

 

何十年も議員を続け連邦議員としての立場を確立させたのも、超機人を蘇らせて配下にしたのも、アースクレイドルを支配下においたのも全ては単純にして、そして「ブライ」だからこそ成し遂げねばならぬ大願の為だ。

 

「ゲッターロボを倒す……それがワシの、ワシ達の……いや、ダヴィーンの総意なのだよ」

 

今までやって来たのは全てゲッターロボを倒す為だ。勿論ブライとてコウメイの方が正しいと分かっていても、ダヴィーンの総意、そして様々な世界で破れたブライの遺志がそれを許さないのだ。

 

「余りに早く決着をつけるのも面白くない。これは舞台なのだよ、百鬼帝国が新西暦にその名を轟かせる為のな」

 

プランタジネットはあくまで百鬼帝国の存在を広げる為の舞台であり、元々ブライに決着をつける意図はないのだ……何故ならば。

 

「ここで倒してしまっては回収して鬼にも出来ん、百鬼帝国の脅威を存在を、連邦議会とそして軍上層部に知らしめワシの作戦通りに動かさねばならんからな」

 

ここまで抗って見せた……新西暦の兵器では抗えない筈の百鬼獣を撃破し、戦って見せたのだ。そういう面では龍王鬼を出撃させたのは一種の御前試合のような意味合いが強く、この絶望的な状況で戦い抜いた。その段階でキョウスケ達の評価はシャドウミラーよりも上であり、地球ではなく宇宙を見据えているブライにとっては殺してしまうのではなく、鬼に改造するほうが価値のある存在となっていた。牙を剥き出しにし、獰猛に笑うブライの目はその表情と打って変わり、子供のようにキラキラとした光が宿っているのだった……。

 

 

 

 

ハガネ隊で邪龍鱗と残影玄武弾による広域攻撃を回避する事が出来たのは機動力に秀でた一部の機体だけだった。それ以外の機体は防御を固めて防ぎきったが無人機が抱えている爆弾による追撃を受け大きなダメージを受けている。

 

「……酷い」

 

『良くもあんな真似が出来るものだなッ!』

 

敵味方関係なく薙ぎ払ったその攻撃にアイビスは言葉を失い、その非道にスレイは怒りを露にした。

 

『動ける機体は損傷の酷い機体の援護に回ってくださいッ!!!』

 

『アインストが出現しているがその目的は機体への寄生だと思われるッ!! なんとしてもそれを防げッ!!! 我々はハガネとクロガネの支援を行うッ!』

 

位置的に軽症だったヒリュウ改とシロガネのレフィーナとリーの焦りに満ちた指示が飛んだ。ハガネとクロガネは黒煙を上げ高度を大きく落としている上に通信が繋がらないという状況であり、一刻の猶予もないのは明らかだった。アステリオンとベルガリオンは機首を下にして急降下しようとした瞬間マントを翻したゲッターVがアステリオン達を追い抜いて急降下する。

 

「び、ビアン博士!? 貴方が前線に出てどうするんですか!?」

 

ビアンはこの場で1番死んではならない男だ。それが真っ先に前線に出たことにアイビスが驚いて通信を繋げようとするが規格が違うので通信は繋がらず、代わりに広域通信によるビアンの指示がアステリオンへと響いた。

 

『風神鬼が撤退した。今ならばサイバスターとヴァルオーネの広域攻撃も可能だッ! アインストと無人機を一掃する! 動ける者は撤退支援だッ!! これ以上は戦えんッ!! マサキッ!! リューネッ!!! 私に続けッ!! 脱出経路を作るッ!! ハガネとクロガネは最早戦闘は不可能だッ!! これ以上この場に残れば轟沈するッ! それだけはなんとしても避けなければならんッ!!』

 

ゲッターVの後を追ってサイバードへと変形したサイバスターとヴァルシオーネが続く、誰がどう見てもこれ以上は戦えないのは明らかであり、戦いは既にラングレーの奪還ではなく全員生存しての撤退戦になろうとしていた。

 

『……ザ……ザザ……き……は……そう……だつ……を……』

 

ノイズ交じりの広域通信がクロガネから発せられ、格納庫が開閉され、少し遅れてハガネの格納庫も解放される。それは轟沈寸前であろうと母艦としての最後の役割を果たそうとしている姿でもあった。

 

『誰でも構いませんッ! 手伝ってくださいッ!!! フェアリオンでは押さえきれませんわッ!!!』

 

『急いでッ!! 早くッ!!!』

 

「スレイッ!!」

 

『分かってるッ!! 行くぞアイビスッ!!!』

 

シャインとラトゥーニの救助を求める声にアステリオンとベルガリオンが急降下する。雲を付き抜け、再び破壊され尽くしたラングレー基地を視界に収めたスレイとアイビスの目の前に現れたのは醜悪な化け物の姿だった。

 

『あああ……痛い、いたいいたい……痛いですねええッ!!! アヒャハハハハハハッ!!! でも生きてます、僕は生きてますよぉッ!!!』

 

邪龍鱗と残影玄武弾による攻撃の被害を受けているのは当然ながらキョウスケ達だけではなかった。百鬼獣もインスペクターもシャドウミラーの無人機も等しく打撃を受けていた。キョウスケ達よりもダメージが軽微だったのは単純に装甲の厚さの違い、そして百鬼獣が持つ特有の再生能力の有無だった。しかしその再生能力を持ってしても、大きな被害を受けているのはゲッターノワールだった……その巨体さ故に避ける事が出来ず全弾被弾したゲッタノワールの身体は穴だらけで、穴の空いた装甲内部では触手の様な物が蠢き、全身からオイルを撒き散らしながら動くその姿は、スレイとアイビスには醜悪なゾンビに見えていた。

 

『くっ!! リュウセイ達はやらせないッ!!!』

 

『アハハハハハッ!! 無駄ですよおおおおおッ!!! そんな豆鉄砲で僕は止まりませんからねぇッ!!!』

 

ゲッターノワールの口元が開き、牙を打ち鳴らすのを見てスレイとアイビスはアーチボルドが何をしようとしているのかを悟った。

 

『SRXとアウセンザイターを食うつもりかッ!!!』

 

「き、機械なのにそんな事が出来るの!?」

 

『そうとしか思えんッ!!  ラトゥーニ少尉! アイビスは声掛けを続けろッ!! 我々ではSRX達を運搬するのは不可能だッ!!』

 

ゲッターノワールがSRXとアウセンザイターを捕食しようとするのを防ごうと攻撃を行なうスレイ達だが、火力が圧倒的に足りていなかった……ツヴァイザーゲインの攻撃によって損傷した箇所を攻撃することでやっとダメージが通るが、ゲッターノワールを撃退するには力が余りにも不足している上に、再生能力によってその損傷箇所も見る見るうちにその数を減らし、有効打撃を与えられる場所が箇所が消えてしまえば、火力が不足しているアステリオンやフェアリオンではゲッターノワールを仰け反らせるのも困難になっていく……。

 

『さーて……トロニウムエンジンを頂くと……「うおおおおッ!!!」『ぎ、ギシャアアアアアアッ!!!』……なんですってえッ!?』

 

アイビス達の善戦も空しくゲッターノワールを止めることは叶わず、その手がSRXに触れようとした時。武蔵の雄叫びとゲッターザウルスの苦悶の呻き声が地中から響き背後からゲッターザウルス……いやガリムを押さえ込み、ドリルを無理矢理操っているゲッターD2が地中からその姿を現した。

 

「くたばりやがれええええッ!!!!」

 

『ギ、ギャアアアアアアアッ!!!!』

 

ゲッターガリムのドリルがSRXを喰らおうとしていたゲッターノワールの口に突っ込まれ、その頭部が内部から抉られオイルがまるで血のように噴出し、ゲッターD2とゲッターガリムを瞬く間に真紅に染め上げる。

 

「うおらっ!!! こいつも喰らっとけッ!!!」 

 

『ギギャアアッ!?』

 

ゲッターノワールの頭部を破壊し尽くしたゲッターガリムの背後に回ったゲッターD2は、その背中に蹴りを入れゲッターノワールの方へと吹き飛ばすと、ゲッターランサーを両手に持ちゲッターノワールとゲッターガリムをまるで昆虫標本のように地面に縫い付けその動きを封じると同時に、ゲッターD2は地響きを立ててその場に膝を着いて動きを止めた。

 

『武蔵様! 武蔵様! 大丈夫ですか!?』

 

「はぁ……はぁ……な、なんとか……がつくけど無事だぜ」

 

武蔵とゲッターD2の疲弊具合は凄まじく、限界が見えていたがそれでもゲッターD2は立ち上がり翼を広げる。しかしゲッターD2もツヴァイザーゲインの攻撃を受けていたのか、全身の装甲に亀裂が走り火花が散っている。

 

『それ以上は無茶ッ! 武蔵も帰還して』

 

「まだそんな事言ってられんねえよ……敵はまだまだ出てくるんだ。少なくとも撤退準備が出来るまではオイラは休めねえよ」

 

満身創痍の有様を見てラトゥーニが帰還するように促したが、武蔵はまだ撤退できないと返事を返す。

 

『で、ですが! いくらゲッターロボとは言え……その有様ではッ!』

 

「話してる時間はないんだ! これは完全に負け戦だ! こんな所で死ぬわけにはいかねえんだッ!!」

 

シャインが説得を試みるが、それでも武蔵はまだ戦うという意見を曲げる事はなかった。万全な状態の百鬼獣が出現するまで、いや、もっと言えば無人機の群れがいつまた現れるかも分からない。口論している時間はないと武蔵は言うとゲッターD2は翼を広げて天へと舞い上がった。

 

「こいつもくれてやるッ!! 持って行きやがれッ!!!」

 

ダブルトマホークとゲッターランサーを無数に投げ付け、ゲッターノワールとゲッターガリムの姿が武器の山の中に埋もれて消えた。

 

「倒したの……」

 

「倒せてなんかいねぇッ! 只の足止めだ! シャインちゃん達は何とかしてリュウセイ達を起こして早くこの場所を離れるんだ!!」

 

倒しきるにはゲッターロボと言えど時間が足りないと武蔵は叫ぶと、シャイン達に逃げるように告げ百鬼帝国から次々と姿を現す不知火達の方へと飛び去って行った。

 

『とにかく今は気絶している面子を起こす……と言いたいところだが……』

 

『流石にそんな事も言ってられないみたい……』

 

百鬼獣は武蔵が押さえに向かったが、少しずつ現れるアインスト、そしてインスペクターとシャドウミラーの無人機が少しずつ姿を現し始める。

 

『戦いながら通信を繋げるしかありませんわ! 武蔵様の言う通り、なんとか全員で脱出することを諦めてはいけません!』

 

状況は絶望的だが諦めてはいけないとシャインが叫んだ直後、フェアリオンが戦おうとしていた無人機に投擲されたランスが突き刺さり、いっきに後方へ引き寄せられると同時に引き裂かれ爆発四散する。

 

「あれって……シャドウミラーの……」

 

『バリソンか?』 

 

誰がヴァイサーガに乗っているのかとスレイ達が困惑する中、広域通信でヴァイサーガのパイロットの声が響いた。

 

『何をしに来たと言うかも知れんが……助けに来た。敵は私に任せて、お前達は気絶している面子を早く起こすんだ」

 

出撃のタイミングのお蔭で万全な状態で姿を見せたヴァイサーガはランスとタワーシールドを構え、爆発的な加速でシャイン達を庇うように前に出ると、たった1機で無人機の群れとの戦いを始める。

 

『エキドナの助けを無駄にしてはいけません! 今の内ですわ!』

 

エキドナが時間を稼いでくれているうちにとシャインは叫び、SRXへ取り付いて接触通信による通信でリュウセイ達を起こす事を試みる。それに続くようにラトゥーニもSRXに取り付いて必死に声を掛ける。この絶望的な戦場から脱出に向けての戦いが始まろうとしているのだった……。

 

 

 

ツヴァイザーゲインのコックピットでヴィンデルは怒りにその顔を歪めていた。敵が疲弊したところに回避出来ない広域攻撃を行なうのは戦いの定石だ。そもそもMAPWとは開幕、もしくは後詰めで使い出鼻を挫くか、防御すらさせず殲滅する為の物だ。

 

「私は間違っていない……ッ」

 

戦いにおいてもっとも正しい選択をしたはずなのに、目の前の光景はヴィンデルにとって受け入れ難いものであった。ハガネのPT隊はいまだ健在であり、そしてハガネ、シロガネ、クロガネ、ヒリュウ改のいずれも撃墜出来ていない。完璧なタイミングによる奇襲、そして最大限にまでエネルギーを高めた広域殲滅攻撃によって決着がつくはずだったのだ。

 

『……てめえ、情けか……殺すならさっさと殺しやがれ……』

 

『この様な決着を俺は認めん。戦いに横槍を入れられただけでも腸が煮え返るほどだと言うのに、このような形で勝利を拾うなど俺の流儀に反する』

 

闘龍鬼が大破しているグルンガストに肩を貸し、アインストを切り払いながらハガネの近くまで運んでいく姿にヴィンデルは困惑を隠しきれなかった。

 

『おっさん……いや、カイさんよ。決着は先送りだ、こんなくそくだらねえ決着は俺はしたくないんでね。今度はそんな量産機じゃなくて、ちゃんとしたのを用意しておけよ! そんなのを倒してもつまらねからなッ!! おい、闘龍鬼。行くぜッ!!』

 

『分かっている。ではな、また会おう』

 

「何をしているのか分かっているのかッ! あの馬鹿共はッ!!!」

 

何故トドメを刺さないとヴィンデルは声を荒げるが、馬鹿はヴィンデルの方だった。この場にいるのが朱王鬼ならば嬉々として動く事の出来ないイルム達を嬲り殺しにしただろう……だがこの場にいるのは龍王鬼一派であり、その気質は鬼の中でも異質な正々堂々とした戦いを望む武人達であり、戦いの中で勝利したのならば殺しもするだろう……だが横槍が入った段階で戦うという意志は消え去っていたのだ。

 

『あんた、もう戦わないって言うのかよ』

 

『然り、百鬼獣は知らぬが我らは戦わぬ。そちらが戦うというのならばその限りでは無いが……』

 

雷神鬼も全身に細かい被弾の跡こそあれど戦闘不能には見えなかったのだが、肝心のパイロットである龍玄に戦う意志が無くなっていた。

 

『アラド行くぞ、戦わなねえって言ってる奴を態々敵にする事はねぇ、あたしらの敵は……』

 

『キシャアアアッ!!』

 

『……』

 

カチーナの言葉を遮りアサルトブレードを構え突撃してくるエルアインス、そしてシャムシールのような形状をした細身のブレードを手にした不知火をカチーナは睨みつけ、ダメージの余り動きが鈍いゲシュペンスト・MK-Ⅲを操りライトニングステークを起動させる。

 

『この化け物共だッ!!!』

 

クロスカウンターの要領で拳を叩き込まれた不知火が半回転し、ラングレー基地のカタパルトに叩きつけられる。

 

『動ける者は撤退支援に回れッ!! 戦える者はチームを組んで応戦しろッ! 決して孤立するなッ!!』

 

カーウァイの指示が矢継ぎ早に飛び、邪龍鱗と残影玄武弾によって受けたダメージが深刻ながらも陣形を立て直し戦線の維持を始めている。

 

「こんな筈ではッ!!! くっ!! ふざけるな、ふざけるなよッ!! 私の計画が覆されるなどあってはならんのだッ!!」

 

自分の作戦は完璧だった筈だ。確実に敵を屠れる盤面を作り、倒せないにしろ致命的なダメージを与え撃墜出来るだけの舞台を整えた。だが結果はどうだ? 百鬼帝国の主力である龍王鬼達は戦いを止め、ブライもそれを咎める事は無く代わりに廉価版の百鬼獣を出撃させてこそいるが、トドメを刺そうという意思が感じられない。その上積極的に攻撃を仕掛けているのはアインストに向けてであり、ハガネの部隊と戦うという意志が感じられなかった。百鬼獣は生き物であり、個体差があるが少なくともこの場の敵はアインストと見定めている様子だった。

 

『あーあ、こんなことになっちまってよお……初陣が地球人じゃなくて化物狩りかよ』

 

ヴィンデルの知るグレイターキンとは細部が違うが、紛れも無くグレイターキンであるその機体はハガネの機体と戦う素振りを見せず、アインストと戦いを繰り広げている。

 

『なんであんたまであたしたちに攻撃しないのさ』

 

『あん? んだよ、俺達とまで事を構えるつもりか? そんなんだから地球人は野蛮な猿っていわれんだよ。目の前の状況をみろや、この状況で化物と戦わねえ馬鹿がいるのかよ』

 

リューネの問いかけに嘲笑うような態度でメキボスは返事を返し、高周波ブレードでアインストを両断する。

 

『それによ、こわーい龍神が俺を睨んでやがるからよ。今この時は味方してやるよ。どうせラングレーもぶっ壊れちまったし、テスラ研は奪われちまったしよ、あーあやだやだ、とんだ大損だ。とんでもねぇ馬鹿のせいでよ』

 

飄々とした態度を崩す事無く、そして積極的にハガネの部隊を援護するような素振りこそ見せていないが、ヴィンデルの行動を批判してくる。

 

「くそッ!! こんな筈ではッ!!!」

 

そしてアインストの群れに襲われているヴィンデルの支援を行う者は誰もいない。レモンは邪龍鱗と残影玄武弾に巻き込まれどうなったかも分からず、そしてアクセルはキョウスケがベーオウルフになることを恐れ、アルトアイゼン・ギーガをその背中に庇っているペルゼイン・リヒカイトを突破しようとしているが冷静さを失った今のアクセルではアルフィミィを突破する事は不可能に等しかった。ヴィンデルの行なった事は戦略・戦術としては正しかったが、正しい事が全て正解ではない……ヴィンデルはこの場でもっともやってはいけない、誤った行動をしてしまったのだった……。

 

 

 

 

 

アインストの出現によってラングレー基地での戦いは奇妙な方向に転がり始めていた。この場にいる全員に無差別に襲い掛かってくるアインストをより脅威と判断したのだ。アルフィミィを除けばアインストとは意思疎通も出来ない上に何を目的としているのかも分からないとなれば、その脅威度は百鬼獣やインスペクターを大きく上回るのは当然の事と言える。

 

『『『……ッ!!!』』』

 

『グルアアアアッ!!』

 

量産型闘龍鬼に何体ものクノッヘンが飛び掛かるが、やはり個体としては量産型とは言え闘龍鬼に軍配が上がるのかクノッヘンの身体が腕の一振りで砕けるが、生き残った個体が身体に組み付きその爪と牙を突き立てる。

 

『『『ッ!!!』』』

 

その痛みに闘龍鬼が雄叫びを上げると、それを好機と見たのかクノッヘンが更に襲い掛かり、まるで捕食でもするかのように量産型闘龍鬼をバラバラに切り刻んでいく。その余りも凄惨な光景に思わず何人かが目を背ける。

 

『馬鹿かッ!! 目を背けている暇があれば逃げろッ!!! チェーンナックルッ!!!』

 

ネオゲッター1の拳が射出され不知火の胴体に風穴を開けると残された右腕で鎖を掴み、ネオゲッター1は不知火をハンマーのように振り回しハガネとクロガネの周辺を覆おうとしていた無人機達を薙ぎ払う。

 

『行けッ!! 殿は私が務めるッ!!』

 

『1人で抑えられると思ってるのか? それなら貴様は大間抜けだ』

 

『俺もコウキもまだ戦える、伊達に歳は食っていないからな』

 

オイルを撒き散らし亡者のような有様だがゲシュペンスト・シグは回転する爪でゲミュートの腹を貫き、そのまま持ち上げて粉微塵に打ち砕き、轟破・鉄甲鬼が投げ付けた斧がシャドウミラーの無人機を胴体から両断し空中に爆発の華を咲かせる。

 

『武蔵ッ! そのトカゲもどきは俺が潰すッ!! お前はそのゲッターもどきを潰せッ』

 

破壊されたことで僅かに空いた穴を抜け、ラドラの駆るゲシュペンスト・シグはゲッターザウルスへと突撃し、武蔵へ敵のターゲットを変えることを提案する。

 

『ラドラ……しゃあッ!! ならそっちは任せるぜッ!!! おいメキボスッ!!!』

 

一瞬迷いを見せた武蔵だったがラドラが元・恐竜帝国であると言うこと、そして1番メカザウルスを理解しているからこそゲッターザウルスへの対処法を理解していると考えラドラの提案を受け入れつつ、成り行きで近くにまで押されていたメキボスへと釘を刺す。

 

『……あー、なんだ?』

 

『変な事をしてみろ、てめえを殺すぜ』

 

『……わぁーってるよ……今だけは味方だぜ、俺はよ。俺もまだ死にたくはないんでね、ところで1個聞いても良いか?』

 

武蔵に脅されたメキボスはあえてお茶らけた口調で武蔵に問いかけた。

 

『ここで手助けしたら少し手心を加えてくれたりしねぇ? どうせまた会えばやりあうことにはなるんだろうけどよ、お前の仲間を助けてやっただろ?』

 

何を恩着せがましいことを言っていると誰もが思った、元々メキボス達インスペクターが侵略活動を行なわなければこんな事にはならなかったのだ。

 

『さて……な、オイラは殺しはあんまり好きじゃねぇとだけ言っといてやるよ、敵でも借りは借りだ。ちゃんと返す』

 

だが武蔵の返答は律儀な物であった。甘いとも言えるだろうがこの甘さが武蔵の弱点でもあり、また美点でもあったのだ。

 

『つうわけだ。後から撃つとか勘弁してくれよ』

 

『しゃあねえな、俺はてめえは嫌いなんだが……なッ!!!』

 

イルムのグルンガストとは異なるカラーリングのグルンガストを駆るバリソンにとってメキボスに良いイメージは無いが、それを言えば今の自分も似たような立ち位置なので下手なことを言えないという事が余計にバリソンを苛ただせ、それを誤魔化すようにブーストナックルを打ち出し量産型闘龍鬼の胴体に風穴を開け爆発させ、不本意ながらグレイターキン改と背中合わせで立ち回ることになる。

 

『ちいっ、てめえと組むなんて最低だ』

 

『そいつは悪いな、だけど俺も地球人と組むなんて最悪だぜ』

 

互いに口の悪い男同士だからこそ暴言を吐くが、メキボスとバリソンとて分かっているのだ。この場を切り抜ける為には気に食わない相手だとしてもその力を借りなければならないのだ。唸り声を上げて襲ってくるアインストグラートとクノッヘンに向かって計都羅喉剣と高周波ブレードの一閃が振るわれるのだった……。

 

 

龍王鬼一派が矛を収め、百鬼帝国の主力は既に撤退し、インスペクターの無人機もメキボスが止めているので追加で出現する事はない……今ラングレーを巡る戦いはアインスト、そしてシャドウミラーの因縁へと変わりつつあった。

 

「……キョウスケはやらせませんことよ? 勿論エクセレンも、2人とも私に必要なんですもの」

 

「化け物がッ!! 俺は貴様の存在を認めんぞッ! アインストッ!!」

 

キョウスケとエクセレンを殺させない為にアルフィミィはこの場に現れた。ゲッター線を取り込み、進化したから得た本当の意味の自我。その芽生えたばかりの自我はキョウスケとエクセレンを欲し、それを守りに来た。だがアクセルからすればアルフィミィの存在は己の世界でキョウスケをベーオウルフへと変えたアインストにしか見えず、ベーオウルフが、そしてそれに匹敵するかもしれない存在が生まれようとするのを認めるわけには行かないとペルゼイン・リヒカイトに向かってソウルゲインは拳を振るう。

 

「……貴方に用はございませんのよ? 私は只……キョウスケとエクセレンを助けに来ただけなのですの」

 

ペルゼイン・リヒカイトが無造作に突き出した刀の切っ先がソウルゲインの拳を止める。

 

「化け物がッ!! 玄武剛弾ッ!!!」

 

自分など相手ではないと言わんばかりの態度にアクセルは激昂し、玄武剛弾を放ち力ずくでペルゼイン・リヒカイトの刀を弾き飛ばす。

 

「……むう、こんな乙女に化物とは失礼ですのよ?」

 

「貴様など化物で十分だ、ここで死ねアインストッ! 馬鹿なッ!?」

 

戦うつもりがないアルフィミィに向かってソウルゲインが殴りかかろうとした瞬間、ペルゼイン・リヒカイトの全身が翡翠の輝きが放たれソウルゲインを弾き飛ばした。その光をアクセルは勿論、ハガネやクロガネのクルーだって知っている。

 

戦うつもりがないアルフィミィに向かってソウルゲインが殴りかかろうとした瞬間、ペルゼイン・リヒカイトの全身が翡翠の輝きが放たれソウルゲインを弾き飛ばした。その光をアクセルは勿論、ハガネやクロガネのクルーだって知っている。

 

ビアンが信じられないと声を震わせて叫ぶとペルゼイン・リヒカイトはその姿を音を立てて変える。

 

「……その通りですのと言いたいのですが、私が取り込んだのは地底に眠っていた弱い物……それでも私はより高みへと至っちゃたりしてますの」

 

ゲッター線のオーラを纏ったペルゼイン・リヒカイトから放たれる圧倒的な威圧感。高みへと至った……アルフィミィの言葉は嘘でも偽りでも無く、更に上の存在へと至っていたのだ。

 

「最悪だ、これがな。俺達の世界以上の悲劇になるぞ……」

 

ゲッター線を得たアインストの存在、そして進化したペルゼイン・リヒカイトの存在はベーオウルフを超える脅威が生まれようとしている証拠だった。

 

ゲッター線を求め、そしてそれを手にしたことで進化したペルゼイン・リヒカイトとアインスト・アルフィミィ……だがこの戦いへの乱入者はアルフィミィだけではなかった。

 

『いっぎいいいいッ!! 何故何故何故ッ!! 僕の邪魔をするのですかあッ!!』

 

『……何故? そんなのお前がリュウセイを傷つけたからだ……殺してやる』

 

赤黒い念動力の刃で切り裂かれたアーチボルドの苦しみ悶える声がゲッターノワールから響くがビーストのパイロット……レトゥーラはその問いかけに狂気を交えた冷え切った声で返事を返し半壊寸前のSRXをその背中に庇い、ゲッターノワールへ念動力の刃を突きつけているのだった……。

 

 

第181話  進化の光 その3へ続く

 

 




アルフィミィ&ペルゼイン・リヒカイト(進化)とレトゥーラ&ズィーリアスも参戦し、プランタジネットでの地獄は更に加速します。

次回からはゲッターノワール・ゲッターザウルス、ペルゼインリヒカイトとの戦いを1つずつ丁寧に仕上げていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


PS

次の期間限定はダブルオーみたいですが、刹那は全然育っていないので見送りしたいと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第181話  進化の光 その3

第181話  進化の光 その3

 

ダブルトマホーク、そしてランサーによって磔にされたゲッターノワールとゲッターザウルスだったが、既にその拘束から脱しダメージも完璧とまでは言わないが十分に抜けていた。

 

『アヒャハハハハハハはッ!!! はぁー正義の味方、正義の味方は格好良いですねええッ!! 僕には理解出来ませんけどねぇッ!!!』

 

『うるせえよッ!! 黙ってろよッ!! この気狂いがッ!!!』

 

『ははははははははッ!! 僕が狂ってるなら貴方もですよッ!! 戦わなくてもいい所に頭を突っ込んで、それを狂ってると言わずなんというんですかあねええッ!!!』

 

ダブルトマホークとゲッタートマホークが何度もぶつかり合い火花を散らし、その合間合間からズィーリアスが念動力の矢を撃ち込む。

 

『……あんがとよ』

 

『ん、貴方は……知ってる気がする。それにリュウセイを傷つける者を……私は許さない。それだけ』

 

ゲッターD2だけではSRXを守りきれない、しかしかといってフェアリオンやアステリオンでは力が余りにも足りない。PTサイズでありながらゲッターと同等の力を持つズィーリアス、そしてレトゥーラの正体は依然分からないままだったが、イングラムと同様に武蔵はその正体に気付いた。

 

『……そう……か。お前だったのか……』

 

『武蔵……? 何を……』

 

お前だったのかという言葉は近くにいたラトゥーニの乗るフェアリオン・タイプSにも届き、ラトゥーニがどういうことかと説明を求める。

 

『今はそんなことを言ってる場合じゃねぇ、エキドナさん! シャインちゃん達を頼みます! オイラは何とかしてこいつを引き離します!!!』

 

ゲッターノワールはSRXを喰らい、トロニウムエンジンを取り込もうとしている。それをさせまいと武蔵はゲッターD2でゲッターノワールにタックルを叩き込み、いまだカメラアイに光が戻らないSRXから強引にゲッターノワールを引き離しに掛かる。

 

『おい、ラドラ。お前の考えている事を当ててやろうか?』

 

「ほう? 俺の考えが分かるのか?」

 

ゲッターザウルスと単騎で対峙するラドラにコウキが通信でそう問いかける。

 

『お前あれを鹵獲するつもりだろ?』

 

「……正解だ、どう見てもあれは恐竜帝国製……ならば俺が使えん道理はないからなッ!!!」

 

唸り声を上げて襲ってくるゲッターザウルスに負けない大声を上げながらラドラはゲシュペンスト・シグを操りダブルシュテルンを紙一重でかわし、頭部のバルカンを至近距離で撃ち込む。

 

『正気……なんだろうな、終わったら援護に行く、無茶をするなとは言わんが棺桶に飛び込むのは止めろ』

 

「誰に口を聞いている、それに……お前の援護など必要ない」

 

ファブニールをブレードモードへ変形させ、ダブルシュテルンを受け止めるゲシュペンスト・シグが僅かに首を傾げると背後から飛んできた銃弾がゲッターザウルスの胴を貫いた。

 

「ようやくお目覚めか、レーツェル」

 

『……すまん、不甲斐無い姿を見せた』

 

ツヴァイザーゲインの奇襲からアステリオン達を庇った事でダメージが深刻だったアウセンザイターがよろよろと立ち上がるが、右肩のシュルター・プラッテと、2丁あるランツェ・カノーネの1つは中ほどから折れて転がり、マントも焼け焦げて満身創痍に見えるがゲッター合金製の装甲は伊達では無く見た目よりダメージはずっと軽い。

 

「こいつを取り押さえるのを手伝え、百鬼帝国には過ぎた機体だ」

 

『お前……まさか』

 

「そのまさかだ、お前なら俺が何を考えているか分かる筈だ。支援を頼むぞ」

 

ゲシュペンスト・シグを改造するとしても既にラドラの手持ちのマグマ原子炉はない、それに加えて認めたくは無いがゲシュペンストでは力不足を感じている中で、目の前に恐竜帝国製のゲッターロボがある……自分達がダメージを受けたように少なくないダメージを受けているゲッターザウルスをここで逃がせば鹵獲のチャンスはない。

 

「ここを逃せば破壊するしかなくなるんでな、ここで決める。とにかく俺をあいつに取り付かせろ、そうすればなんとでもなる」

 

『……良いだろう、強力な機体が手に入るのならば文句を言う理由はない、その変わりに確実で決めろよ』

 

「当たり前だッ!!」

 

ダメージを受けてもなおゲッターザウルスは2体で相手をするには厳しい相手だ。だがオペレーション・プランタジネットで百鬼帝国の強大さを痛感した今、その強力な機体を鹵獲する機会を見逃すという選択はなく、鹵獲出来なかったとすればこれ以上強化される前にここで破壊するという決意を持ってラドラとレーツェルはゲッターザウルスへと向かって行くのだった……。

 

 

 

 

ゲッターザウルスを鹵獲する――ラドラの提案を受け入れたレーツェルではあったが、本当にそんなことが出来るのか? という疑惑がどうしても捨て切れなかった。それにツヴァイザーゲインの攻撃で攻撃手段であるランツェ・カノーネとシュルター・プラッテを失い、防御の要でもあるマントを失ったのは大きな痛手であり、プフェールト・モードへの変形も不能とアウセンザイターのコンディションは決して良い物ではなかった。

 

(これか、これが出来るからラドラはゲッターザウルスを鹵獲すると言ったのか……ッ!)

 

攻撃手段が限られているので支援に徹するしかないのだが、それ故にラドラが何故ゲッターザウルスを鹵獲すると言う事にあれほど自信満々だったのかをレーツェルは理解した。

 

『そこだぁッ!!!』

 

『ギャアッ!!』

 

『どうしたどうしたッ!! その程度かッ!!』

 

ゲッターロボと戦う為の知識を持ち、そしてメカザウルスの開発主任でもあったラドラはゲッターロボとメカザウルスの両方の弱点を熟知していた。

 

「そこだッ!!」

 

ランツェ・カノーネの銃弾がダブルシュテルンを振り被ってるゲッターザウルスの肘を撃ち抜いた。

 

『やりやすいなッ!! そのまま支援を続けてくれッ!!』

 

ゲッターロボを初めとしたゲッター系列の機体には一定の弱点がある。それは攻撃手段の多くが白兵戦であり、旧西暦の機体ゆえに武装から操縦に至るまでその多くがマニュアル操作であるが故に攻撃モーションに一定の隙があるのだ。その隙を見切る事が出来るパイロットであれば攻撃の予備動作を見て迎撃に出るのは不可能ではない。

 

『まずはそこだッ!!!』

 

ゲシュペンスト・シグが抜き放ったビームソードがゲッターザウルスの胴――即ちジャガー号に当たる部分へと突き刺さる。

 

『ギィッ!?』

 

距離を取ろうとしたゲッターザウルスだが、地面を蹴った姿勢のまま姿勢を崩し困惑の色を見せる。

 

『これだからAI制御は駄目なんだ。ゲッターの操縦はマニュアルでなければなッ!!』

 

ゲッターロボの最大の武器であり、最大の弱点――それは緊急分離、オープンゲットにある。そこを潰してしまえばゲッターロボの制御は大きく制限される。武蔵でさえもそれを熟知しており、攻撃を受ける際はそれらの箇所を外す事を無意識に行なっているが、AIに加えて念波によって遠隔操作をされているゲッターザウルスにはそんな考えは微塵も無く、最も受けてはいけない部分に攻撃を受けてしまったのだ。

 

『グルルルル……ッ!』

 

ゲッターの最大の攻撃パターンを潰され、オープンゲットもゲッターチェンジも出来なければゲッターザウルスは少し強力なメカザウルスに過ぎない。ラドラは冷静にそして確実に詰め将棋のように、ゲッターザウルスの能力を奪い取った。

 

『分かるだろう。お前も恐竜帝国の誉れある者ならば、何故そんな者に使われている?』

 

ゲシュペンスト・シグのエンジンが唸り声を上げるが、レーツェルにはそれが恐竜の鳴声のように聞こえた。

 

「誇りか……」

 

恐竜帝国であった事も教導隊であった事も、ラドラにとっては誉れなのだ。そんな誇り高い恐竜帝国のキャプテンだった男が、百鬼帝国に操られているゲッターザウルスを見てそれをよしとする訳がないのだ。

 

『そんな有様だからゲッターロボに恐竜帝国は敗れたのだ。己の誇りを貫き通す事も出来ん軟弱者がッ!』

 

ラドラの一喝と共に振るわれた拳がゲッターザウルスを殴り飛ばし、追撃にと貫手の構えで突き出されたゲシュペンスト・シグのエネルギークローをゲッターザウルスは片膝を付いたまま受け止める。

 

『ほう? 少しは見れた面になったな』

 

『グルルルッ! ゴガアアアアアアアアア――ッ!!!!!』

 

今までの咆哮の比ではない凄まじい咆哮が放たれ、緑だった瞳が怒りに燃えるように真紅へとその色を変える。そしてゲッターザウルスは左手を頭部へ伸ばし、額から伸びている角を根元から圧し折った。

 

『そうだ、それで良い。それでこそ誉ある恐竜帝国だッ!!』

 

『ゴガアアアアアアッ!!!』

 

地響きを立てて襲ってくるゲッターザウルスにラドラは恐怖すること無く、むしろ楽しむような様子さえ見せながらファブニールを振るう、ダブルシュテルンとファブニールがぶつかり合い凄まじい轟音と衝撃が周囲を駆け巡る。ゲッターチェンジなどできなくても関係ない、その爪を尾を、牙を振るいゲシュペンスト・シグへ攻撃を仕掛けるゲッターザウルスの姿は、百鬼帝国に操られていた先程までとは比べ物にならない活き活きとした動きを見せ始める。だがそれはラドラにとって不利な展開になったという事を示していた。

 

『キシャアアア!!』

 

『ぐうッ!!!』

 

百鬼帝国が操るゲッターザウルスはゲッターロボとしての戦いをしていたが、メカザウルスとして動き出したゲッターザウルスは獣そのものであり、肩に噛み付かれ投げ飛ばされて来たゲシュペンスト・シグの前にアウセンザイターが割り込み、ランツェ・カノーネを乱射する。

 

『シャアッ!!!』

 

オープンゲットが出来ないのならばと必中を確信した攻撃であったが、ゲッターザウルスは4つ這いになると獣その物の動きでランツェ・カノーネを回避する。

 

「ちいっ! 当たらんかッ! ラドラ、お前は大丈夫か!」

 

『ふん、問題ない……それにこれでいい、百鬼帝国の事だ。遠隔自爆装置でも組み込んでいるだろうが、メカザウルスの意思を呼び起こせばそんな物は無効化出来る。これで鹵獲の第1段階は完了した』

 

火花を散らしながら立ち上がるゲシュペンスト・シグから響くラドラの声は闘志に満ちており、まだ鹵獲することを諦めていないのがすぐに判る。

 

「今の状況で鹵獲なんて無理だろう! 破壊するしかないッ!!」

 

地響きを響かせながら激しく移動を繰り返すゲッターザウルスは武蔵が戦っていた時よりも俊敏で、攻撃の照準を合わせることすら困難だ。この有様で鹵獲なんて出来るわけないだろうとレーツェルが声を上げるが、ラドラは喉を鳴らして笑い出した。

 

『そんな勿体無い事をする必要はない』

 

「だが」

 

『そう騒ぐな。何、簡単な話だ。あいつよりも俺達の方が強いと分かればあいつも屈服する、レーツェル。まずはあいつを動けなくなるまで叩きのめすぞッ!!!』

 

レーツェルの返事も聞かずゲッターザウルスへ突貫するゲシュペンスト・シグの後姿を見て、レーツェルは止める事も出来ず無謀な特攻にしか見えないが、ラドラの支援を行う為にアウセンザイターをゲッターザウルスに向かって走らせるのだった……。

 

 

 

 

ずっとぼんやりとした思考の海の中にゲッターザウルス……いや、ゲッターザウルスに使われている3体のメカザウルスの意識は漂っていた。自分達が何の為に存在しているのかも判らず、命じられたままに戦い、そして気に食わない相手を打ち倒す事だけを考えて、それ以外の何かを考えることを放棄していた。

 

『分かるだろう。お前も恐竜帝国の誉れある者ならば、何故そんな者に使われている?』

 

その言葉に再び眠ろうとしていた意識がふと首を上げた。眠れ、眠れと従えという声が何度も何度も響き、その声の方が圧倒的に大きいのに、メカザウルス達は小さな人間の声に意識を完全に向けていた。

 

【知っている】

 

【ああ、知っている】

 

【俺達は知っているんだ】

 

ぼんやりとした人型の後に見えるその影に、メカザウルス達の意識は一気に覚醒した。鮮やかな紫の身体にコブラや蛇を思わせる頭部を知っている……恐竜帝国であるのならば、その姿を知らないわけが無いのだ。

 

『そんな有様だからゲッターロボに恐竜帝国は敗れたのだ。己の誇りを貫き通す事も出来ん軟弱者がッ!』

 

強烈な痛みに意識が完全に覚醒したメカザウルス達は脳内に響く声――百鬼帝国の思念波を弾き飛ばし、高速回転しながら迫ってくる爪を掴んで止めた。

 

『ほう? 少しは見れた面になったな』

 

挑発めいたその言葉が最後のトドメとなった。自分達を舐めるなと、俺達も誉ある恐竜帝国なのだと目の前の敵――メカザウルス・シグの幻を纏う人型だけを見つめて吼える。

 

【グルルルッ! ゴガアアアアアアアアア――ッ!!!!!】

 

意識が覚醒すれば侮られた事への怒り、操られたことへの自分への怒り、ありとあらゆる怒りがマグマのように燃えたぎっていた。人型の肩に噛み付きそのまま捻じ切ろうとしたが、黒い人型……アウセンザイターが割り込みそれを妨害される。

 

【グルルル、グガアアアアアアアッ!!!】

 

怒りに突き動かされ咆哮をあげた瞬間に紫の人型……ゲシュペンスト・シグの右拳がゲッターザウルスの顔面を貫いた。

 

【ギイイッ!!】

 

『そうだ、お前の敵は俺だッ!! 来いッ!!!』

 

人間の分際で馬鹿にするなと、俺を、俺達を舐めるなとメカザウルス達は吼える。ゲッターロボではない、そんなガラクタで俺達を倒せると思っているのかと怒りはどんどん激しく燃え盛る。

 

『うおおおッ!!!』

 

事実ゲシュペンスト・シグはゲッターザウルスの火炎の余波やその爪から放たれる真空波で切り裂かれ、見る見る間にズタボロになっていた。アウセンザイターの支援があるからこそ撃墜は間逃れていたが、それも時間の問題なのは明らかだった。だが、押されているのはゲッターザウルスのほうだった……。

 

【グルルウ……】

 

『どうした、死に体の俺が怖いとでも抜かすかッ!! この軟弱者がッ!!!』

 

それでもメカザウルス達は圧倒されていたのだ。メカザウルス・シグの幻を纏うゲシュペンスト・シグに、そしてそのパイロットであるラドラに恐怖したのだ。

 

【キシャアアアアアッ!!!】

 

『俺を舐めるなあッ!!! この小僧共がぁッ!!!!』

 

その咆哮に、そして肩部から叩き込まれたファブニールの一撃に……メカザウルス達は目の前にいるゲシュペンスト・シグとそれを操る男の正体に気付いた。誇り高き男、栄光のキャプテンラドラ――恐竜帝国伝説のパイロットが自分達の敵になっていると気付き、次の瞬間には闘志が一気に爆発した。

 

【グガアアアァアアアアアアアアッ!!!】

 

『そうだッ!! 全力で来いッ!!!』

 

異能を持つ地龍一族とそれに付き従うメカザウルスは恐竜帝国でも最下層だ。キャプテンに目を付けられる事も無く使い捨ての捨て駒、もしくは実験体である自分達をまっすぐに見ている……それに奮起しない者はいない。キャプテンを超える。己を認めさせる……ゲッターザウルスにもう百鬼帝国の言葉は届いておらず、百鬼帝国の呪縛から完全に抜け出し誇り高き恐竜帝国の者として、キャプテンラドラを超えるという純粋な闘志に突き動かされていたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

ゲッターザウルスの吐き出した炎でゲシュペンスト・シグの全身の装甲は融解し、内部装甲が露出していた。ラドラの言う通り完全に死に体であり、脱出するレベルの損傷を受けていたがラドラの目は爛々と輝き、被っていたヘルメットを投げ捨てそのままコックピットハッチに向かって投げ付けると、ガタの来ていたコックピットハッチが落下し、風がラドラの頬をなでる。

 

「ふうー……これだ。これでこそだ」

 

ラドラもまた闘争の中でしか生きれない男だ。人間に転生したから闘争本能は薄れているが、それでも恐竜帝国の記憶を持つラドラにはどうしても闘争本能という物があった。そしてそれを完全に押さえ込むのは不可能であり、そしてラドラ自身も抑えるつもりはなかった。

 

【グルルルルッ!!】

 

「ふん、軟弱者と言ったのは訂正してやる。お前も勇敢で誇りある恐竜帝国だ」

 

片目を潰され、腕も圧し折られてもなおゲッターザウルスは戦う意志を緩める事は無く、燃え盛る闘志を叩き付けてくる。その闘志に、自分が死ぬか、相手が死ぬかというギリギリの戦いにラドラは完全に酔いしれていた。

 

『ラドラ……』

 

「止まれと言うのなら消えろ、もうお前の支援は必要ない。俺とあいつらの戦いだ」

 

十分に支援は受けた事には感謝している。だが戦いを止めろと言うのならば消えろとラドラに言われたレーツェルは、ふっと小さく笑った。

 

『戦いを楽しむのは良いが、今はそんなことをしている場合ではない筈だ。自分が死ぬか、相手が死ぬかという戦いをカーウァイ大佐は許さんぞ』

 

「む……ふっ……そうだな。俺が悪かった」

 

その言葉で少しだけ意識が切り替わった。キャプテンラドラから、教導隊のラドラへと意識が切り替わった。そうなると周りの戦況も見えてくる。

 

『くそがッ!! 早く下がれッ!! 長くはもたねぇッ!!』

 

『レオナ! 何してる! 下がるぞ』

 

『で、でもタ、タスクが』

 

『大丈夫だ! ガンドロなら皆が撤退する時間くらい稼げるッ!! 早く行けッ!!!』

 

『タスク、僕も手伝うよ』

 

『リョウト……へっ! 助かるぜッ!!!』

 

エネルギーが枯渇しかけ盾になることしか出来ないジガンスクード・ドゥロと、マグマ原子炉のお蔭でまだ出力が安定しているヒュッケバイン・MK-Ⅲ・タイプM・タイラントが並び立ち、シャドウミラーの無人機と戦い、損傷が危険域に達したカチーナ達が撤退するまでの時間を稼ぐ。

 

『はーはぁ……はぁ……』

 

『マサキ、これ以上は危険にゃ!』

 

『うるせえッ!! 俺もサイバスターもまだまだ大丈夫だッ!!! 行くぜシロ、クロッ!!!』

 

サイバスターから翡翠の輝きが放たれ、ギャンランドから出撃して来た無人機達を飲み込むが撃墜するにはマサキのプラーナが余りにも足りていなかった。

 

『親父ッ!!』

 

『分かっているッ!!!』

 

ヴァルシオーネとゲッターVがサイフラッシュに飲み込まれた無人機を確実に仕留め、アステリオンとベルガリオンも弾薬が枯渇したのならばと攻撃手段を変えていた。

 

『飛ばしすぎだ! 私に速度を合せろアイビスッ!』

 

『ご、ごめん!』

 

ソニックブレイカーを同調させ、残りのエネルギーを大事に大事に使い撤退のための道を作ろうとしている。戦いの中による極度の集中状態で回りを認識出来ないでいたラドラは、自嘲気味に笑った。

 

「すまん、すぐに決着をつける」

 

『さっさと勝って来い、私達にはまだやらなければならないことがあるのだからな』

 

アウセンザイターから投げ渡されたのは轟破鉄甲鬼の斧だった……それを受け取ったゲシュペンスト・シグは、斧の切っ先をゲッターザウルスへと向ける。

 

「次だ。次で終わりだ」

 

どの道ゲシュペンスト・シグもゲッターザウルスも禄に動くだけのエネルギーは残されていない、これが最後だとラドラが声を掛けるとゲッターザウルスもダブルシュテルンを構え、雄叫びと共に突進してくる姿を見てラドラは小さく残念だと呟いた。もしもパイロットが居れば駆け引きもあっただろう……だがメカザウルスの頭脳にはそこまでの知恵は無く、力で捻じ伏せに来た。それがAIで制御されたメカザウルスの限界だった。

 

「悪いな、俺にも都合がある」

 

力任せの一撃を横からの一撃で弾き、振り上げた斧の一閃がゲッターザウルスの胴体へ深い傷をつけ、ゲッターザウルスは膝をつき、そのカメラアイから光を消した。

 

「お前にパイロットが居れば変わっていただろうが……勝負にもしもはない、むしろそんな有様で良く戦ったと俺はお前を賞賛しよう」

 

パイロットのいるメカザウルスとそうじゃないメカザウルスの戦闘力の差は生体パルスの差にある。パイロットがおらず闘争本能だけで戦っていたゲッターザウルスでは、十分にマグマ原子炉の力を引き出せなかった……それがゲシュペンスト・シグとゲッターザウルスの戦いの勝敗を分けたのだ。

 

「お前も良くやってくれた。休んでくれ……シグ、今までありがとう」

 

ラドラの言葉がゲシュペンスト・シグに届いたかは分からない。だがラドラの言葉に返事を返すように一度だけ唸るように機体を振動させると、その機能を停止させ沈黙した。L5戦役から共に戦い続けた相棒が力尽きた事にラドラは悲しそうに眉を細めたが、悲しんでいる時間も足を止めている時間もない。ラドラは躊躇う事無くゲシュペンスト・シグのコックピットから飛び出しゲッターザウルスの装甲へと取り付き、出っ張りに足を掛けてロッククライミングのように登っていき、ゲッターザウルスの頭部、ガリムのコックピットハッチを開いて身体を滑り込ませる。

 

『ラドラ、ゲッターザウルスは使えそうか?』

 

「問題ない。構造はゲットマシンというよりもメカザウルスに近い、操縦に関しては問題ない。すぐに戦線に復帰する」

 

アウセンザイターに守られている間にラドラは機能停止していたゲッターザウルスを再起動させ、モニターに再び光が灯る。握り締めた操縦桿からラドラにメカザウルスの意思が伝わって来た。

 

【俺達は戦える】

 

【俺達は出来損ないなんかじゃない】

 

【俺達は勝たねばならない、大事な者の為に……勝利しなければならない】

 

恐竜帝国の最下層である地龍一族、そしてそれに付き従ったメカザウルスがゲッターザウルスのベースになっており、一族の為に決して負けられないと言う執念めいた感情が伝わってくる。

 

「地球を守る為にお前の力を貸して貰うぞ、ゲッターザウルスッ!!!」

 

人間に対する怒り、ゲッターロボに対する恨みもゲッターザウルスの中にはあるのはラドラも承知している。だがラドラはそれを押さえ込み己の支配下においた、恐竜帝国のキャプテンとして暴走を繰り返すメカザウルスを制御して来たラドラだからこそ出来る力技……メカザウルスよりも己の方が上だと強引に生体パルスを流し込む事で、ゲッターザウルスを構成している3体のメカザウルスを捻じ伏せ、己の配下へとしたのだ。

 

【グルルルル、ゴガアアアアアアッ!!!】

 

ラドラが操縦桿に触れた事でマグマ原子炉が活性化したゲッターザウルスは、ゲシュペンスト・シグに与えられた損傷を瞬きの間に修復し力強い咆哮を上げる。それは己の力を誇示するような意志を感じさせながらも、ラドラを己のパイロットとして受け入れると言わんばかりの咆哮だった。力で破れ、意志で破れ、そしてラドラが自分達よりも上だと認めさせられたゲッターザウルスは従順であり、ラドラが思うがままに動いて見せた。その事にラドラは笑みを浮かべ、上空から無人機を吐き出し続けるギャンランドを睨みつけた。

 

「早速お前の力を見せて貰うぞッ!! ゲッタァァアアアア――ビィィイイイイムッ!!!」

 

ゲッターザウルスの放ったゲッタービームがギャンランドの強力なEーフィールドを貫き船体を襲う。その余りの破壊力にギャンランドを制御している量産型Wシリーズは防御を固めた。それによって無人機の出撃が止まりラングレー脱出を困難にしていた壁が1つ消え去った。だがラングレー脱出の為に立ちふさがる壁はまだ3つ残っているのだった……。

 

 

第182話  進化の光 その4へ続く

 

 




ゲッターザウルス戦はイベントでラドラの乗り換えイベントでした。ゲシュペンストシグの攻撃でゲッターザウルスのHPを規定まで削るとイベントで乗り換えとなるって感じですね。次回も強化イベントをやっていこうと思いますので誰が強化されるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうか宜しくお願いします。


PS

ダブルオーガチャは1周で獲得出来たのですが、そのガチャの中でヤルダバオトとバンシイのSSRがでて来たのはでてくるのが遅いと思わず言ってしまいましたね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第182話  進化の光 その4

第182話  進化の光 その4

 

 

ゲッターザウルスが咆哮と共に放ったゲッタービームによってE-フィールドを破られ、高度を著しく落としたギャンランドの姿はラングレー基地にいる全てに衝撃を与えていた。撃墜までには至らなかったが、無人機の出撃と上空からの主砲を無力化出来たのは非常に大きかった。

 

『こちらラドラッ!! ゲッターザウルスは掌握したッ!! このまま脱出支援に入るッ!! シロガネ、ヒリュウ改は機体の回収作業をッ!!』

 

『グオオオオオンッ!!!』

 

一方的なラドラの通信の後にゲッターザウルスが咆哮を上げ、両手にダブルシュテルンを握り締めアインスト達を薙ぎ払いながら突進する。

 

「収容率はどうなってる!」

 

「現在57%! 本艦だけでは回収しきれません!!」

 

「ぬう……ハガネとクロガネへの通信はどうなっている!」

 

「駄目です! 通信は依然回復しません……ブリッジのクルーが「不吉な事を言うなッ!!」

 

応答の無いことをブリッジのクルーが死んだからではないか、と言いかけたオペレーターの言葉をリーは怒声で遮った。

 

「通信を続けろ! それと損傷の酷い機体は廃棄ッ! 自爆により進路を作らせるッ!! 救助可能な機体はパイロットの保護を行い、至急後退されたしッ!!! 続けて艦首大型レールガン発射準備ッ!!!」

 

「ちゅ、中佐! 今のシロガネの損傷ではレールガンの反動で大破する可能性が……」

 

「可能性など目安に過ぎんッ!!! 今はこの場を切り抜けることだけを考えろッ!! 最悪の状態になったとしても艦首ユニットを切り離せば居住区と格納庫は無事だッ!」

 

リーの矢継ぎ早の指示にシロガネのクルーは最早誰1人反論を口にする事は出来ず、鬼気迫る表情で指揮をとるリーの指示に従うしか出来なかった。

 

「流石、エアロゲイターの進軍の際に旧式の兵器と僅かなPTだけで、戦死者も出さずに切り抜けた指揮官だけありますな」

 

「ええ。私もリー中佐を見習わなければなりませんね」

 

通信を繋げたままになっているヒリュウ改にもシロガネのリーの怒声は響いており、この状況でもまだ全員が無事で生存する事を諦めていない、その不屈の闘志はヒリュウ改にも伝播する。

 

「ユン! 収容率はどうなっていますか!」

 

「げ、現在85%です! カチーナ中尉が予備機のゲシュペンスト・MK-Ⅲでの出撃を求めていますが」

 

「許可しますッ!! 今はとにかく脱出支援を優先してください! それとハガネから応答はありましたか!」

 

「返答はありませんが、機体の回収作業が行なわれているのでブリッジが損傷したとも思われます!」

 

「文章による通信はどうですかな?」

 

「それも試みていますが返答はありませんッ!」

 

ツヴァイザーゲインの攻撃を受け、いまだ沈黙を続けるハガネとクロガネ。その両艦とも機体の回収作業を行なっているのでまだ戦艦としての機能は生きているのが分かるが、応答がいまだ無いことにレフィーナ達も不安を隠し切る事が出来ないのだった……。

 

「ふーむ、人間は中々しぶといねぇ、そう思うだろう? スティンガーくぅん?」

 

「うんうん、ぼ、僕もそう思うよ! しぶといというよりも、これは生き汚いというべきだと思うんだよ、コーウェン君!!」

 

ミサイルやビームが飛び交う音を聞きながら無人となっているラングレー基地の地下へと進むコーウェンとスティンガーの2人はバイオロイドを時折貪り、己の血肉と変えながら只管に地下へと走る。インベーダーである2人が何故ラングレー基地にいるのかと言えば、それは簡単な理屈だった。

 

「ゲッター線は相変わらず神出鬼没だ。まさかこんな所に現れるなんてね」

 

「そ、そうだね! だけどこれだけ強力なゲッター線だ。そ、それを見過ごすなんて勿体無いよね!」

 

新西暦では稀少なゲッター線……その反応を感じ取ったからこそ、コーウェンとスティンガーはゲッター線を得る為に北米にやってきていたのだ。

 

「でも出来損ない風情がゲッター線を手にしているのは不愉快だねぇ、君はどう思う? スティンガー君?」

 

「僕はね、分不相応な事をした奴には制裁が必要だと思うんだよ、コーウェン君」

 

「やつぱりそうだよえね、武蔵もいるし、出来損ないのとかげもいる。真のゲッター線の使徒として制裁は加えておこうよ」

 

コーウェンとスティンガーはにやりと微笑み、開けた研究機の開発区画に互いの左腕を引きちぎり投げ捨てる。それを確認した2人は再びラングレーの地下を目指して走り出し、引き千切られた腕は独りでに丸くなり胎動を初めているのだった……。

 

 

 

 

沈黙を続けていたSRXのコックピットに何度も響くラトゥーニ達の声、それは意識を失っていたリュウセイの意識を呼び覚ます事に成功していた。

 

「うっく……な、何が……」

 

頭を振りながら身体を起こしたリュウセイは火花が散っているコックピットモニターに驚き、R-2とR-3へ通信を繋げる。

 

「ライ! アヤッ!! 応答してくれ! ライ! アヤッ!!!」

 

『うっく……リュウセイ……何があった……ぐっ……』

 

『リュウ……そんなに大声を出さなくても聞こえてるわ……何があったの』

 

何度かの呼びかけでライとアヤも意識を取り戻した事にリュウセイは安堵したが、何時までも安心している時間はない。

 

「ライ! 動力の復旧は出来るか!?」

 

『今やっている……当り所が相当悪かったな……くそ、完全にシステムダウンしているッ!』

 

意識がハッキリしてくると、リュウセイ達も突然上空に現われた機体からフェアリオン達を庇い多く被弾した事を思い出した。だがそれを思い出したところで焦りが込み上げてくる。

 

「な、なんとか復旧出来ないか! それが無理ならせめて分離をッ!」

 

『無理だ、フレームが捻じ曲がっている……ッ! 分離するにもこの場では無理だ……再起動は試みるが現状では立ち上がる事も出来んぞ』

 

「う、嘘だろッ!? なんでだよッ!?」

 

立ち上がることも出来ないと言われリュウセイが声を上げる。R-2のコックピットの様子を映しているモニターにもノイズ交じりだが、苦虫を噛み潰しているようなライの顔が映し出される。

 

『相手はSRXの構造を理解していた。1番弱い所に集中攻撃を受けている』

 

「……量産型SRXかッ」

 

シャドウミラーは量産型のSRXを運用していた。その時の経験からSRXの弱点を熟知しており、その上味方を庇うことを計算に入れ、合体と分離に関係する箇所に集中攻撃を加えていた。それによりSRXは立ち上がることは愚か、分離することも出来ない棺桶と化していた。

 

『なんとかならない、ライ?』

 

『尽力はしますが……隊長。恐らくかなり厳しいかと』

 

通信が回復し、状況を聞いていたヴィレッタ達もSRXが立ち上がることは愚か、分離も出来ない状況と聞いて渋面を浮かべる。

 

『せめて分離が出来れば帰艦してもらう事も出来るけど……』

 

『今はそれも難しいようです。それよりも隊長、現状はどうなっているんですか』

 

戦闘音が聞こえてもモニターが完全に復旧しておらず、外がどうなっているのかとアヤがヴィレッタに問いかける。

 

『シャドウミラーとアインストが出現して、百鬼帝国は一時撤退、インスペクターも自分の身を守るためかこっちに協力しているわ。徐々に撤退は完了しているけど、ゲッターノワールとシャドウミラーを何とかしない限り私達がこの場を脱出する事は難しいわ』

 

「ゲッターノワールは今は誰が相手をしてるんだ、隊長!」

 

『……武蔵とレトゥーラよ、また現れたのよ、リュウセイ。貴方を助けにね』

 

リュウセイの危機の度に現れているズィーリアス……1回目はビルトファルケンに仕掛けられていた朱王鬼の罠、2回目はロスターに取り込まれそうになった時、そして3回目はアギラの乗る不知火に襲われた時……そして今回で4度目。同じ事が4回も続けばレトゥーラがリュウセイに執着しており、その窮地を黙ってみてられないと言う説も真実味を帯びてくる。

 

「レトゥーラ……お前は一体誰なんだ……」

 

だがリュウセイからすれば知らない相手であり、何故自分をこうまで助けに来てくれるのかと困惑を隠しきれないのだった……。

 

【……】

 

「……そうか、お前も漸く終わったか……ならば俺も、やっとタイムダイバーとして、因果律の番人としての役目を果たせる」

 

機能停止したR-SWORDのコックピットの闇の中、イングラムは己を赤い双眼で見つめてくる半身の姿を久しぶりに確認した。長い間求め続けた、奇跡で手にした自己。その自我を持って今度こそリュウセイ達を守り導きたいと願っていたのに、力の足りない自分に歯がゆい思いをしてきたイングラムの元に、やっと戻って来た己の半身――そしてその後を見て、そうか、そうだったのかと呟いた。

 

「ゲッターエンペラー……これがお前の意志か、だが俺達はお前の思い通りになどなりはしない」

 

イーグル号を模した巨大な宇宙戦艦――ゲッター線が辿り着く1つの可能性にしてゲッター線の究極の姿の1つ……因果律の番人であるイングラム、そしてその後継者にすら干渉出来る存在――それがゲッターエンペラーだった。

 

「テトラクテュス・グラマトン、さぁ来い、我が半身よッ!!」

 

それによってアストラナガンを封じられていたのだと悟ったイングラムは、お前の思い通りになどなりはしないと口にしゲッターエンペラーを睨みつけながら呪文を唱え、それに歓喜するようにアストラナガンが咆哮を上げるのだった……。

 

 

 

 

強烈な追突音の後、まるで隕石でも落ちたような轟音が周囲に響き渡った……地面に手を叩きつけ、辛うじて減速を果たしたのはゲッターD2であり、その胸部には拳の形の陥没痕がくっきりと刻まれていた。

 

「……ちくしょうめ、この化け物がッ!!」

 

『アヒャハハハハッ!! ヒャハ、ハハハハハハハハッ!!!』

 

既に意味のある言葉を失い、狂ったように笑うアーチボルドの声がゲッターノワールから周囲に響き渡った。そしてその笑い声と共に変異を続けるゲッターノワールは武蔵の口にした通り化物だった。

 

『アハアア……良い気持ちですねええええええッ!!!』

 

ノワールの背中にはゲッター3の頭部とその伸縮自在の両腕、そして肩部にはゲッター2の頭部と一体化したドリルアームが出現し、触手のように宙を舞っている。

 

『……攻撃が読めない』

 

「無茶すんなッ!! オイラとゲッターが何とかするッ!!」

 

ゲッター1をベースにゲッター2と3の能力を行使し、マシンセルによる無尽蔵の再生と、ゲッター炉心でエネルギーの枯渇の心配が無いゲッターノワールを相手にするには通常の機体では不可能だった。

 

『アヒャハハハハッ!! ほら行きますよおおおおおおおッ!!!』

 

凄まじい速度で伸びてきたゲッターアーム、それをスピンカッターで切り払うが、その直後にドリルミサイルがゲッターD2の肩部に突き刺さり爆発する。

 

「ぐうっ!! ゲッタァァアアアアッ!! ビィイイイイムッ!!!」

 

反撃に放たれた頭部ゲッタービームがゲッターノワールの頭部の右半分を消し飛ばすが、すぐにパーツが盛り上がり完全回復を果たす。

 

『つよいつよいつよい!!! アヒャハハハハハハ!! 僕はああッ!!! つよいイイイイイイッ!!!!』

 

ゲッターノワールの全身から伸びた腕が全てゲッタートマホークを握り締め、それを一斉にゲッターD2とズィーリアスに向かって投げ付ける。

 

『ッ!!』

 

ズィーリアスは念動フィールドを展開し防ぐのと同時にビームライフルで迎撃を試みるが、僅かに軌道を逸らすのがやっとで念動フィールドにゲッタートマホークがぶつかり凄まじい勢いで後方に向かって弾き飛ばされ、それを庇うようにゲッターD2が前に出る。

 

「くそがぁッ!! バトルウィングッ!!!」

 

ダブルトマホークでは打ち落とせないと判断した武蔵はバトルウィングとその拳で迎撃を試みるが、装甲に突き刺さると爆発するゲッタートマホークにゲッターD2の装甲が砕け罅割れる。

 

『やあああっと限界ですかあああああッ!?』

 

ゲッターロボの装甲は基本的に張りぼてであり、ゲッター線さえ十分ならばその装甲を即座に修復することも出来る……だが今のゲッターD2には装甲を修復するだけのエネルギーの余裕が無く、ドラゴン、ライガー、ポセイドンの主要ブロックだけを再生し、砕けた右腕や皹だらけの脚部はそのままだった。

 

「くそっ……どうしろっつうんだよッ」

 

エネルギー切れ……宇宙から降り注ぐゲッター線を動力にするゲッターD2とは言え、降り注ぐゲッター線の絶対量が少なく慢性的なエネルギー不足に悩まされていたが、それが再び武蔵に牙を剥いた。立ち上がったゲッターD2だが膝が震え、カメラアイが点滅を繰り返し限界を迎えているのは明らかだった。

 

『大丈夫なのか』

 

「辛うじてな、だけどあの化物を倒すにはエネルギーが余りにも足りねぇッ」

 

後数回、下手をすれば一撃でも受ければ装甲の修復は不可能になるのが目に見えており、武蔵にも強い焦りの色が見える。

 

(リミッター解除したとしても駄目か……くそ、万事休すかよッ)

 

敷島博士が施したリミッターを解除する事も考えた武蔵だが、それはあくまでも操縦と出力制御に対するリミッターであり、仮に解除したとしてもエネルギーが回復するわけではない。装甲を修復する余力がないのだからゲッタービームなど当然使えるわけが無く、ゲッターD2の今の攻撃力ではゲッターノワールの再生能力を上回れない……詰みに追い込まれ武蔵が歯を噛み締めたその時だった。

 

【グオオオオオオオオオオオンッ!!!】

 

百鬼獣でもゲッターザウルスでも、ましてやアインストでもない、本能的に恐怖を与えるような凄まじい獣の咆哮が周囲に響き渡った。その中心には黒い魔法陣を展開した半壊したR-SWORDが存在し、宙へと浮かび上がるとその周辺を無数の魔法陣が埋め尽くす。

 

『テトラクテュス・グラマトン、さぁ来い、我が半身よッ!!』

 

イングラムがそう吼えると魔法陣はR-SWORDを包み込み、漆黒の繭へと変化する。そして内部から漆黒に染め上げられた腕が突き出され、繭を引き千切り漆黒の悪魔が姿を現した。

 

「アストラナガン……じゃない?」

 

武蔵はL5戦役の中盤から終盤に掛けてイングラムが乗っていた漆黒の天使――アストラナガンを想像していたが、繭から姿を現したのはR-SWORDとアストラナガンが融合したような機体だった。アストラナガンのフェイスパーツを仮面の様に装着し、両肩は鋭角な複数の結晶体へと変化し、両手・両足は元のR-SWORDから鋭い鉤爪を持つ装甲によって延長され、PTサイズから準特機サイズまで巨大化し、背中にはアストラナガンの翼がそのまま現れていた。その姿は正しく悪魔……だが翼と両腕から撒き散らされる光の粒子によって神々しさも感じさせた。

 

『完全に呼び戻す事は無理だったか……だが今はこれで十分だ。お前の力を見せてもらうぞ、R-SWORD・シーツリヒター』

 

完全にアストラナガンをその手中に収める事が出来ず、R-SWORDにアストラナガンを憑依させた状態をシーツリヒター……審判と名付けたイングラムの言葉に応じるようにR-SWORD・シーツリヒターはエネルギーを撒き散らしながらアストラナガンの翼を広げて再び咆哮をあげる。

 

『なんですか、それはあああッ!!』

 

『お前の声は耳障りだ、消え失せろ』

 

漆黒の銃神が腕をゲッターノワールに向けると魔法陣が展開される。

 

『次元の狭間へと消えるが良い、アキシオンスマッシャー……デッドエンドシュートッ!!!』

 

凄まじい轟音と共に放たれた赤黒い光弾がゲッターノワールの目の前で弾け、次の瞬間虚空に穴が開き、凄まじい光の奔流がゲッターノワールを飲み込んだ。

 

『が、がああああああああ――ッ!!』

 

獣のような雄叫びがアーチボルドの喉から迸る。だがゲッターノワールは破壊と再生を繰り返し、活動をとめようとしない。だがその動きを封じるのが目的だったのか、ゲッターノワールに目もくれずゲッターD2の隣へと瞬間移動と見間違うばかりの速度で移動する。

 

『武蔵、今ゲッターに座標を打ち込んだ。今すぐにそこへ向かえ』

 

「イングラムさん、でもこの化物は……それにこの座標に向かって何が変わるっていうんですか、それにリュウセイ達は」

 

ポセイドンのモニターに映っているのはラングレー基地の司令部周辺の座標であり、そこに向かった所で何も変わらないと武蔵が不満を露にし、ゲッターD2が離れる事でSRXが無防備になる事を危惧する武蔵にイングラムは大丈夫だと笑った。

 

『SRXは俺が離脱させる』

 

「いや、だから……マジか……」

 

翼と両肩の結晶体の一部が切り離され、SRXを覆うように結界を展開した。そして瞬きほどの一瞬でSRX達の姿はハガネの近くまで飛ばされていた。

 

『アストラナガンの力を限定的とは言え取り戻したんだ。これくらい俺にとっては朝飯前だ、分かったら行け、今お前が求めているものがそこにある、あの化物は俺が相手をする。急げ、恐らくこれが最初で最後のチャンスだ』

 

イングラムの言っている言葉の意味は武蔵には判らなかったが、この状況でイングラムが武蔵を騙す意味などあるわけがない。

 

「頼んます」

 

『ああ、俺に任せろ、休んでいた分働かせてもらうさ……分かったら行け』

 

イングラムの言葉に武蔵は頷き、ボロボロのゲッターD2は翼を広げ飛び立った。

 

『逃がし……『お前の相手は俺だ、アーチボルド・グリムズ』……ぎっ!! 良いでしょう、良いでしょう!! 相手になってあげますよ、イングラム・プリスケエエエエエエンッ!!!』

 

ゲッターノワールをその手にした剣で引き裂き立ち塞がるR-SWORD・シーツリヒターをアーチボルドは敵と見定め狂ったように笑い、イングラムの名を叫びながら襲い掛かってくる。だがイングラムに恐怖も動揺も無く、涼しい笑みを浮かべたままゲッターノワールとの戦闘を開始するのだった……。

 

 

 

 

 

R-SWORD・シーツリヒターのコックピットからゲッタノワールを見つめるイングラムは、呆れたと言わんばかりの冷笑を浮かべた。

 

「ゲッターロボという素材をここまで改悪できるか……愚かの極みだな」

 

ゲッターロボの最大の武器はオープンゲットによる緊急回避からの再合体を戦闘中にほぼ瞬間で行える事だ。特機であり機動力に乏しいゲッターロボにとってオープンゲットは矛であり、盾だ。そんな最大の武器を失っているゲッターノワールはイングラムにとって恐れるに値しない敵であった。

 

『アアアアアアアッ!!!』

 

思案している間もゲッターノワールの攻撃は続けられていたが、かすりもしない事にアーチボルドが怒りに満ちた声を上げる。

 

「腕を増やせば攻撃が当ると思っているのか?」

 

確かに異形の姿へと変貌を遂げたゲッターノワールの攻撃力は驚異的と言えるだろう。だがそれは当たればの話であり、言うならば当たらなければどうと言う事はないのだ。ゲッタートマホーク、ミサイル、ドリルの雨をR-SWORD・シーツリヒターはすり抜けるようにして回避する。

 

『何故何故何故ええええッ!!!』

 

準特機サイズであるR-SWORD・シーツリヒターに攻撃が当たらない理由が判らず、何故だと叫ぶアーチボルドには既に冷静に物を考えるだけの知性が残されていなかった。鬼になった事による闘争本能の肥大化、そしてゲッターロボの力の全能感……だがアーチボルドの冷静さを奪っていたのは鬼になってからの最長の戦闘時間にあった。アギラがそうであったように、鬼の力と言うのは人間にとっては麻薬に等しい、それを御せる強靭な精神力を持たなければその力に飲み込まれ狂う。そしてアーチボルドのような生粋の殺戮者はその欲望に抗う事が出来なかった。

 

「自分で考えるんだな、最も考える事が出来ればの話だがな」

 

突き出されたR-SWORD・シーツリヒターの掌から放たれた光弾がゲッターノワールの身体を貫きオイルを撒き散らす。だがそれは一瞬で修復され、また歪な形へと変化する。

 

『僕は死なない、アヒャハハハハハハッ!!! 傷つけば傷つくほどに強くなる!!! 僕は絶対にぃいいいいいッ! 負けないッ!!!』

 

より強靭な姿に再生する事を誇らしげに言うアーチボルドだが、イングラムは小声で愚かなと呟いた。確かに再生能力は脅威だ、だが再生する度に変異するのは愚かな事だ。増えた腕が互いに干渉し、取り回しが極端に悪くなっている。その上巨大化していくので既に足は完全に退化し、移動する事も出来ないでいる。

再生する度に変異するのは愚かな事だ。増えた腕が互いに干渉し、取り回しが極端に悪くなっている。その上巨大化していくので既に足は完全に退化し、移動する事も出来ないでいる。

 

「レトゥーラ。少し力を借りたい」

 

『なんで私が』

 

「リュウセイを守るためだと言ったら?」

 

『何をしている、早く教えろ』

 

リュウセイが安全圏に離脱したので撤退しようとしてレトゥーラはイングラムの言葉に態度をガラッと返る。レトゥーラにとってはリュウセイだけが全てであり、何よりもそれを優先する。リュウセイがおらずキョウスケがいればキョウスケを殺しに行くが、リュウセイがいるのならばその思考はリュウセイを守る事だけに固執する。

 

「再生能力を逆手に取る。お前がチャンスだと思えばそこで攻撃してくれば良い」

 

『……巻き込まれるぞ?』

 

「生憎だが、お前の攻撃に巻き込まれるほど柔な腕じゃない。余計な心配はするな」

 

イングラムの言葉にレトゥーラはむっとする物の分かったと返事を返し、イングラムに指示された通り最大攻撃を行なう為のエネルギーチャージに入る。その姿を確認したイングラムはR-SWORD・シーツリヒターを急降下させる。

 

『アヒャハハハハハハ!! 自分から接近戦を仕掛けてくるなんて馬鹿なんですかああッ!!!』

 

触手の先にドリルアームを展開しつつ、無数の腕にゲッタートマホークを握り締めるゲッターノワール。その武装の数に接近戦を挑むのはアーチボルドの言う通り馬鹿な特攻志願者にしか見えないだろう。

 

「馬鹿は貴様だ、アーチボルド・グリムズ。Z・Oカリバーッ!!!」

 

両肩の結晶の一部が分離し、R-SWORD・シーツリヒターの手に収まる。するとその結晶はゾル・オリハルコニウム製の怪しい輝きを持つ両刃の西洋剣へと変化する。

 

『そんな玩具でゲッターに勝てると思ってるんですか!!!!』

 

「玩具かどうかはその身で味わえッ!!!」

 

ドリルアームによる突きを受け流し、ゲッタートマホークの斬撃の雨を一瞬ですり抜けたR-SWORD・シーツリヒターがゲッターノワールの懐に飛び込むZ・Oカリバーを振るった。

 

『は……? ギ、ギギャアアアアアアッ!!!』

 

閃光が走りゲッターノワールの右腕を根元から切り落とす。余りに一瞬の事で認識出来なかったアーチボルドだったが、ノワールの右半身が爆発した事で凄まじい絶叫を上げる。

 

「どうした? 玩具ではなかったのか?」

 

『ぐ、僕を、僕を馬鹿にするなあアアアアッ!!』

 

イングラムの挑発に激昂したアーチボルドの感情に呼応するようにゲッターノワールは再び身体を再生する。だがその再生が余りに急速すぎ異様な形状へと変化する。それによって機体のバランスが著しく狂う、それを修正しようと再び再生が行なわれる。

 

「遅い、遅すぎるな」

 

再生中という隙だらけな状態を守る為に胴体部から銃弾が乱射される。だがその銃弾の嵐はR-SWORD・シーツリヒターが展開しているバリアによって阻まれ、Z・Oカリバーが変形した銃から放たれた光線がゲッターノワールの肩を大きく抉る。

 

『何故何故何故えええええええッ!!!』

 

「ぎゃあぎゃあ喚くな、耳障りだ」

 

翼から射出されたビットとR-SWORD・シーツリヒターが手にしている銃からは銃弾が放たれ続け、ゲッターノワールの全身の装甲を容赦なく抉る。

 

『僕を舐めるなあああッ!!!』

 

「ちっ……流石に避けきれんかッ」

 

ゲッターノワールの背部の翼と突き出された両手から乱反射するゲッタービームが放たれる。流石のイングラムも視界全てを埋め尽くすゲッタービームを回避する事は困難で、数発被弾したがR-SWORD・シーツリヒターの姿がぶれるとゲッタービームの雨の中からR-SWORD・シーツリヒターの姿は消えていた。

 

『転移能力……アヒャハハハハハハ、それを喰らえば僕もその力をおおおおおおッ!!!』

 

必中の攻撃が避けられた事でアーチボルドはR-SWORD・シーツリヒターに攻撃が当らない理由が転移能力だと知り、SRXを取り込んでトロニウムエンジンを得ようとしたのと同じ様に、R-SWORD・シーツリヒターを取り込めばその能力を得れると触手をR-SWORD・シーツリヒターへと伸ばす。

 

「だから貴様は愚かなのだ、アーチボルド」

 

だが転移能力を持つR-SWORD・シーツリヒターを緩慢な動きの触手で捉えられるわけが無く、再び転移で逃れたR-SWORD・シーツリヒターはズィーリアスの隣へと転移する。

 

『避けるんじゃなかったのか?』

 

「相手が予想以上に馬鹿すぎてな、だが確実に仕留めれると思えば相手が馬鹿なほうが都合がいい」

 

本来の計画ではR-SWORD・シーツリヒターが足止めをし、ズィーリアスがトドメ、あるいは戦闘続行不能級のダメージを与える計画だったが、取り込むという選択をし、ただでさえ鈍重な動きを更に鈍重にさせたゲッターノワールを相手に態々囮を使う必要はなかった。

 

「一撃で極めるぞ」

 

『……私に指図するな、だが……その意見には賛成だ』

 

R-SWORD・シーツリヒター手にしていた銃が変形し、巨大な銃口を露にするとその銃口の回りに魔法陣が幾重にも展開される。

 

『リュウセイに害なす者は……消えろ』

 

翼を展開し、レトゥーラの念動力を最大限にまで増幅させたズィーリアスが両手を突き出し、その間に螺旋回転する赤黒い念動力の球が現れる。

 

『念動力と転移能力を寄越せえええええええええッ!!!』

 

遠目に見てもそのどちらも受けきれる攻撃ではないのは明らかだったが、ゲッター炉心、そしてマシンセルによる再生能力を過信しているアーチボルドはR-SWORD・シーツリヒターとズィーリアスを取り込もうと、触手だけではなく、両腕、そして首までも伸ばす……それが求めてはならない太陽だと気付かずに……。

 

「アキシオンスマッシャー、デッドエンドシュートッ!!!」

 

『消えうせろッ!!!!』

 

『僕は、僕は、僕はアアアアアアアあああああ―――ッ!!!』

 

魔法陣から放たれた漆黒の極光、そして真紅の念動波の直撃を受けたゲッターノワールは全身を光によって融解させられながらも再生を繰り返し、アーチボルドの絶叫を周囲に響かせながら地中深くへと消えていくのだった……。

 

 

第183話  進化の光 その5へ続く

 

 




アストラナガンを出すとやりすぎ感があるのでリヴァーレポジのR-SWORDの進化系にしました。系統としてはリヴァーレではなく、ベルグバウとか、ディス・アストラナガン系統で、R-SWORDをベースにアストラナガンの装甲を装備している状態と思っていただければ幸いです。一応進化の光の後におまけでゲッターザウルス、R-SWORD・シーツリヒターと共に機体設定を出そうと思いますので、それまでは詳細は保留と言う事でお願いします。次回はアクセル達の視点をメインにしつつ、ヒャッハーしているインベーダーズを出そうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


PS

共闘戦最終日の無料ガチャでインターセプターのSSRが出たのは許せん。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第183話  進化の光 その5

折角のお盆休みなので少し頑張ってゲッターロボを書き上げました。出来たら明日も更新したいと思っておりますので今回の更新もどうか宜しくお願いします。


第183話  進化の光 その5

 

 

瓦礫の山の中に半ば埋もれるようにして倒れこんでいたヴァイスセイヴァーが、火花を散らしながらゆっくりと立ち上がった。だがその姿はとても万全とは言えず、立ち上がってはいるが今にも爆発しそうな酷い有様だった。右腕はツヴァイザーゲインの攻撃と瓦礫に押し潰された事で完全に圧壊し、脚部のダメージも深刻で辛うじて立ち上がる事は出来ているが、スラスターなどは完全に死んでおり、胴体と脚部は半壊しフレームが見えている箇所があり今も火花を散らしている。現状ヴァイスセイヴァーの無事な部分は左腕と背部のブースターのみ、と満身創痍に等しい状況だった。

 

「いっつうう……ヴィンデルの馬鹿……」

 

突然の攻撃で強かに打ちつけた全身の痛みに顔を顰め、レモンはヴィンデルへの文句を口にしながら外部モニターの復旧を試みる。頭部が右半分潰れていることもあり、コックピットのモニターから確認出来るのは左半分という極めて狭い視界だったが、それでも現状を把握するには十分だった。

 

「……見慣れた地獄ね」

 

あちら側で何度も見たアインストの群れが量産型Wナンバーズの乗る無人機を襲い、その身体に寄生しアインストへと作り変える。何度も何度も、それこそ悪夢でも見続けた地獄の光景だった。

 

「どこに行っても逃げられないのかしらね……」

 

結局の所どこに行っても、別の世界へ向かったとしてもこの地獄からは逃れないのかと自嘲気味に笑ったレモンは、その視界にヴァイスセイヴァーよりも酷い状態で倒れこんでいるヴァイスリッター改を映した。

 

「馬鹿ね、私なんかを庇うから」

 

ヴィンデルにとっては自分以外が捨て駒であり、永遠の闘争の世界を作るためならばどんな手も使う。あの広域攻撃は戦略としてみれば間違いないが、友軍であるレモンとアクセルにも通達せずに行ったのは、ここでレモンとアクセルが死んでも良いとさえ考えている証と言えた。

 

「本当……馬鹿ね」

 

エクセレンに言ったのか、それともレモンが自分自身に告げたのかは分からない。だが本来ヴァイスリッター改が負っているダメージは自分が負うべき物であった事をレモンは知っている。邪龍鱗を回避したことで姿勢を崩したヴァイスセイバーが向かってくる残影玄武弾に貫かれる寸前に、オクスタンランチャーを盾に割り込んだヴァイスリッター改の姿が脳裏を過ぎった。庇うつもりがあったのか、なかったのか、それとも攻撃を受け止めた反動で偶然割り込んだのか……定かでは無いが、ヴァイスリッター改のおかげで致命的な被害を間逃れた事をレモンは認めざるを得なかった。

 

「……」

 

だが今は敵同士……動く気配の無いヴァイスリッター改にオーバーオクスタンランチャーの銃口を突きつけ、しばし葛藤したレモンはふうっと小さく溜め息を吐いた。

 

「やっぱり私って損な生き方をしてるわね」

 

振り返ると同時に引き金を引き、放たれたビームが空中から急降下して来た不知火の胴体に風穴を開け、空中に爆発の華を咲かせる。

 

「……本当に未練がましいわよね、私……」

 

ヴィンデルに殺されかけているのに、まだシャドウミラーに未練を持っている自分の愚かさに深い溜め息を吐いたレモン。普通に考えればエクセレンをここで殺すか、攫うか、それともキョウスケに対する人質として扱うかが最善だが…レモンはそのどれも選択しなかった。

 

「起きなさい、そのまま寝てたら死ぬわよ」

 

『うっ……わ、私……まだ生きてる……』

 

「そうね、まだ生きてるけど、そのまま寝転がってると死ぬわよ。ほらさっさと機体のコンディションを確認しなさい」

 

『そっちも酷い事無い? あの攻撃、貴方の所のリーダーでしょう』

 

辛うじて起動したヴァイスリッター改のモニターにヴァイスセイヴァーの姿が映ったのか、引き攣った声で問いかけてくるエクセレンにレモンは苦笑し、エクセレンの問いかけには返事を返せなかった。エクセレンの言う通りであり、それを否定する言葉を持たなかったからだ。

 

「アインストも凄い勢いで出現してるし、こんな中で半壊した機体「キッシャアアアアアアッ!!!」……インベーダーまで出て来てるみたいなのよね、このままだと私も貴方も死ぬわけ、私の言いたいこと判る?」

 

アインストに加えてインベーダーまで出現した事にレモンは回りくどい事を言うのをやめて、単刀直入に話を切り出す。

 

『まだ死にたくないから味方と合流するまでは協力ってことでしょ? 私はOKよん♪』

 

「OK、じゃあこの場を切り抜けるまでよろしく。それじゃあさっそくだけど……この状況どうやって逃げればいいと思う?」

 

『無理ゲーね、普通に死ぬわ……でもまぁ』

 

「2人なら何とかなるかもね」

 

『そういうことよね』

 

アインストとインベーダーに囲まれ、半壊したヴァイスセイヴァーとヴァイスリッター改のコックピットの中で、絶望的な状況ながらエクセレンとレモンの2人は笑みを浮かべ、この窮地を切り抜ける為に協力する事を選択したのだった……。

 

 

 

 

ラングレー基地を地下から破壊し出現した新たな異形――インベーダーの襲撃にギリアムやカーウァイ達の顔が凍りついた。

 

「馬鹿な、どこから現れたッ!!」

 

ホワイトスター周辺に現れたインベーダーは武蔵とカーウァイの2人が撃退した。その点からストーンサークルに出現した個体ではなく、全くの別個体が何らかの方法で地球に現れたと考えるのが普通だった。

 

「お前達は近づくな! 寄生されるぞッ!! あれは私達が相手をするッ!! イングラムッ!!!」

 

『分かっているッ!! 逃がすわけにはいかんッ!!』

 

インベーダーに有効打撃を与えられるのはゲッター炉心で稼動する機体だけだ。しかしそうと言っても戦闘経験のないゼンガーやレーツェルでは相手に出来ないと、ゲシュペンスト・タイプSとR-SWORD・シーツリヒターがインベーダーに向かう。だが2機が攻撃の間合いに入る前にインベーダーは分離し、小型のインベーダーを生み出す。生み出された複数の小型インベーダーが百鬼獣や、破壊された無人機をメタルビーストへと変貌させる。

 

【【【ゴガアアアッ!!!】】】

 

分離したインベーダーの大本である3体はその姿をゲッタードラゴン、ライガー、ポセイドンへと変異させる。ドラゴンは翼を広げゲッターD2へと突撃し、ライガーはR-SWORD・シーツリヒターへと襲い掛かり、ポセイドンはその強固な装甲でゲシュペンスト・タイプSの参式斬艦刀を受け止める。

 

『相性を考える程度の知性を持っているか……ッ』

 

「厄介な事だな……ッ」

 

R-SWORD・シーツリヒターは面攻撃と転移による強襲を主な攻撃手段にしているが、分身能力と圧倒的な速度を持つメタルビースト・ライガーならば十分に避ける事が出来る上、インベーダーの再生能力で長期戦に持ち込むことが出来る。しかし足を止めてしまえば耐久力は低く、ライガーの装甲を破壊されれば通常のインベーダーと大差なくなるという欠点があり、防御能力に秀でているゲシュペンスト・タイプSとは相性が悪い。メタルビースト・ポセイドンは装甲が厚いが機動力は見ての通りかなり低く、動き回られると追い切れず遠距離攻撃手段も乏しいので、遠くから削られると弱く接近戦を仕掛けてくるゲシュペンスト・タイプSの方が相性が良く、R-SWORD・シーツリヒターとは相性が致命的に悪かった……それを計算に入れ、ライガーへ攻撃を仕掛けようとしたゲシュペンスト・タイプSと、ポセイドンに攻撃を加えようとしたR-SWORD・シーツリヒターの出足を潰し、戦う相手をコントロールした姿は、紛れも無くインベーダーが知性を持っているという証だった。

 

『嘘だろ、勘弁してくれよマジで……ッ』

 

メキボスは闘争本能と餓えを満たす事しか考えていないはずのインベーダーが、明確な知性を見せるほどに進化した事に驚愕する。地球でこれならばホワイトスター周辺は微弱なゲッター線が感知されている事もあり、地球の個体よりも強力なインベーダーに進化している可能性を考え、仮に宇宙に逃げても詰みではないかという最悪の予想を考えたからだ。

 

『馬鹿な……何故、何故こんな事になるッ!! 私達は新たな理想郷へと辿り着いたのではないのか!!!』

 

ヴィンデルはアインストとインベーダーが互いに潰しあい、周りの破壊された機体に寄生しメタルビーストとアインスト化する光景は、ヴィンデル達が捨てたはずの己の世界のそれと同じであり、どうしてこうなったのだと声を荒げる。

 

『ベーオウルフはいない、それなのに何故だッ! 私達は何を間違えたというのだ……ッ』

 

こちら側の世界ではいなかった筈のアインストとインベーダーの姿を見て、ここに来て漸く自分が間違えたと悟った。だが余りにもそれは遅すぎた、最早この世界の住人との軋轢は埋めきれる物ではなく、再びヴィンデルにとっての地獄が生まれていた。

 

「……あやつらめ、漁夫の利を取りに来たか。仕方あるまい」

 

「大帝、あやつらとは?」

 

「気にする事はない、個人的な協力者だ。それよりも撤退だ、インベーダーまでもが出現すれば完全に私の舞台は閉幕だ。だが……これで良い、終わりの始まりを告げるだけの仕掛けは十分に仕込めたからな」

 

 

そう笑うブライだが、その目は鋭く細められていた。自分の舞台を潰されたからではない、自分の策略を無碍にされたからでもない――本能的でもない、様々なブライの集合体だからこそ分かる事がある。

 

(ふん、少しは面白くなりそうだ)

 

ラングレー基地の地下深くで胎動するゲッター線の鼓動――武蔵という旧西暦の死者を送り込むだけではなく、本格的にこの世界に介入しようとしている事を感じ取ったブライはそれでこそ、ゲッターを倒す意味があると言うものだと呟いた。だが今はその時ではない。ゲッターも本調子ではなく、そして倒すだけの戦力を得ていない今の状況で無理をする意味はないとブライは判断した。

 

「共行王。撤退だ」

 

『んふふふ、構わぬぞ。だがすぐにとはいかんぞ?』

 

百鬼帝国を移動させるには時間が掛かるという共行王の言葉に構わないと返事を返し、ブライは身を乗り出しモニターに映るゲッターD2にその視線を向けるのだった……。

 

 

 

 

 

ソウルゲインのコックピットのアクセルは、その額から大粒の汗を滝のように流していた。勿論戦いの疲労もあるが、最も大きいのは精神的外傷にあった。インベーダー、アインストが闊歩し、無人機がメタルビーストへと姿を変える極限の地獄――捨てたはずの己の世界を思い出させる悪夢であり、そしてそれを生み出そうとしている悪意の根源が目の前にいる。

 

「アインストッ!!! 貴様ぁあああああああああッ!!!!!」

 

キョウスケよりも最も今排除しなければならない敵――ゲッター線を手にしたアインスト、ペルゼイン・リヒカイトを睨みつけアクセルが咆哮を上げると、それに呼応するようにソウルゲインの瞳が紅く輝き、両拳を青く輝く光のオーラが包み込んだ。圧倒的な覇気、そして燃え盛る怒りと殺意――常人ならば発狂しかねない強烈な意志の力がペルゼイン・リヒカイト、そしてアルフィミィへと叩き付けられた。

 

『……アインスト、アインストと………私はアルフィミィですのよ』

 

しかしその強烈な殺意も人間ではないアルフィミィには何の効果も無く、むしろアインストと呼ばれることに不快感を示す。

 

「ふん、化物の癖に名前を持つなど上等すぎる。貴様はアインストで十分だ」

 

『……失礼な人ですの、そういう人は躾けてあげますのよ』

 

ゆらりとした動き……スピード等一切感じられない緩やかな動き。機動兵器ではありえない極限の脱力状態による0から100の加速からの刺突を、ソウルゲインは頭部のみスウェーバックで避けると足を振り上げ、ペルゼイン・リヒカイトを蹴り上げる。

 

「はぁッ!!!」

 

『……そう簡単には行きませんのよ』

 

青龍鱗を翼から射出された光弾が相殺し、煙を突っ切って来たペルゼイン・リヒカイトの切り下ろしがソウルゲインの肩に深く突き刺さり、アルフィミィはそのまま右腕を切り落とそうとしたが、それ以上ペルゼイン・リヒカイトの手にしている刀が食いこむ事はなかった。

 

「取ったぞッ!!!」

 

EG装甲の再生能力を肩部にのみ集束し、ペルゼイン・リヒカイトの攻撃を止めたソウルゲインは、固く握り締めた左ストレートでペルゼリン・リヒカイトの顔面を撃ち抜いた。

 

『……女の顔を殴るなんて、酷いですのッ!!!』

 

「化物の分際で女を名乗るなッ! どうせ声だけだろうッ!!!」

 

4つの鬼面から放たれたヨミジの閃光の間を潜り抜け、ソウルゲインが跳躍しペルゼイン・リヒカイトの胸部コアに拳を突き刺さる瞬間、その拳は止まった。

 

『……これが私ですのよ? この柔肌を見ても私を化物というんですの?』

 

女としての矜持か、化物といわれたアルフィミィは己の姿をソウルゲインの目の前に幻だが映し出した。16歳前後の美少女と美女の境目の、ある意味最も美しい時期のアルフィミィの姿を見たアクセルは、動きを止めた。

 

「レモン……?」

 

何かも違うが、アクセルにはアルフィミィの姿がレモンに見えた。アクセルは確かに冷酷だが人の情がない訳ではない、むしろ情に厚く義理堅いタイプの男だ。だからこそ、どこと無くレモンの面影を持つアルフィミィへの攻撃を一瞬躊躇った。

 

『……別の女の名前を呼ぶのはマナー違反ですのよ、本当に礼儀のなってない人ですの』

 

押し当てられたペルゼイン・リヒカイトの右腕、それを認識したアクセルは急激に意識が遠のくのを感じた。これ以上触れられてはいけないと分かっているのに手足が硬直し、ソウルゲインを操る事が出来ない。

 

『……そう、そうですの……貴方がキョウスケを憎む理由が少し分かりましたの』

 

触れられているからか鮮明なアルフィミィの声が、アクセルの耳を打った。一瞬何を言われたのかアクセルは理解出来なかったが、アルフィミィが何を言っているのかを理解したアクセルの顔は鬼の形相へと変わった。

 

「貴様……人の心にッ!!!」

 

『……知りたいですのよ? 貴方の心は復讐心しかない、だから私はそれを知りたいんですの……ねぇ? キョウスケに負け続けて、仲間を殺し続けたアクセル・アルマー、今どんな気持ちですの……憎い相手であるアインストに心を覗かれているのは、どんな気持ちですの』

 

「きっさまあああああああああッ!!!!」

 

『……吼えても無駄ですのよ? 貴方はもう私から逃げられない』

 

甘く蕩けるような声に正常な思考が失われていく。それだけではない、自分の心を乱暴に暴かれている知られたくない物までが知られる。何よりも、アクセルのその反応を見て楽しんでいるアルフィミィに腸が煮えくり返るような怒りを抱くが、その怒りも溶けて消えていく……。

 

『……力を与えてあげますの、大丈夫ですのよ? 痛くも、苦しくもありませんの』

 

ペルゼイン・リヒカイトの手首から触手が伸びてくるのをぼんやりとした視界で見つめる事しか出来ないアクセル。駄目だと分かっていても身体が動かない。

 

『アクセルッ!! 何をしているッ!!! くそッ! 邪魔をするなッ!!』

 

遠くからヴィンデルの声が聞こえるが意識が薄れているアクセルはその声もしっかりと認識出来ず、ペルゼイン・リヒカイトの伸ばした触手がソウルゲインの胸部を貫こうとした瞬間、目の前を真紅の流星が駆けぬけるのを見てその意識はドロリとした闇の中に沈み、瞳から光を失ったソウルゲインが地響きを立てて落下するのだった……。

 

 

 

ソウルゲインが墜落した場所とは反対側に、轟音を立ててアルトアイゼン・ギーガが墜落する。何度も地面で跳ねる衝撃で血反吐を吐きながらも、キョウスケはアルトアイゼン・ギーガの体勢を立てなおそうとするが、コックピットに鳴り響くアラートがそれをさせない。ソウルゲインとの戦いのダメージ、ツヴァイザーゲインの奇襲によるダメージは、アルトアイゼン・ギーガを以ってしても耐え切れる物ではなかった……。

 

「ぐうっ!?」

 

破砕音を立てて大きく姿勢を崩すアルトアイゼン・ギーガは倒れこみ掛けるが、操縦を受け付けないスラスターが倒れる事を許さない。どちらが上か、下かも判らない激しい衝撃の中でキョウスケが意識を飛ばさなかったのは奇蹟に等しかった。

 

(な、なんとか体勢を立て直さなくてはッ!)

 

モニターも見えない、操作を受け付けず暴走しているスラスター……幾重にも受けたダメージと暴走が重なり崩落していくパーツ……PTとしての体をギリギリで保っているアルトアイゼン・ギーガは、キョウスケの操縦を受け入れず只闇雲に加速を続ける。

 

『キョウスケ中尉ッ!!!』

 

「がぁッ!!!?」

 

一際大きな破砕音の後でコックピットに響いたラミアのキョウスケを呼ぶ声、それから少し遅れて全身に走った激痛に流石のキョウスケも苦悶の声を上げた。

 

『大丈夫ですか! キョウスケ中尉ッ!!』

 

「ら、ラミアか……す、すまない……助かった……」

 

ノイズが混じっているがコックピットに響くラミアの声で、つい先ほどの衝撃がヴァイサーガに受け止められた衝撃だとキョウスケは理解した。

 

「じょ、状況は……? ぐっ!!」

 

言葉を発するだけでも胸部に激痛が走り、口の中に血が込み上げて来るがキョウスケはそれを必死に飲み込み、ラミアに何が起きているのかと問いかける。

 

『インベーダーとアインストが出現し、百鬼帝国は撤退を始め、インスペクターとはこの場を切り抜けるためと一時協力をしています。ラドラ少佐がゲッターザウルスの強奪に成功し、R-SWORDが変形し辛うじて戦線を維持していますが……最早これ以上の戦闘は不可能だと判断したリー艦長達から帰艦命令が出ています』

 

「エク……エクセレン……は?」

 

自分が気絶している間に戦況が余りにも変わりすぎている事に驚きながら、ラミアにエクセレンはどうしたと問いかける。

 

『インベーダーとアインストに包囲されています……私は何とかエクセ姉様と合流しようとしていたのですが……その前にインベーダーに包囲されてしまったところをアルトアイゼン・ギーガが突っ込んできて辛うじて包囲網を脱し、アルトアイゼン・ギーガを受け止めたのです』

 

額を切ったのか、それとも興奮のせいかキョウスケの目の前が真紅に染まる。今こうして状況を把握している間もエクセレンが危険だと知って、冷静でいられるほどキョウスケは冷血な人間ではない。だがキョウスケの意志に反してアルトアイゼン・ギーガは沈黙こそしていないが、全くキョウスケの操縦に反応を示さない……こうしている間もエクセレンが、いや仲間達が危険に晒されている。

 

(まだ……動けるな……アルト……)

 

今のこの状態でアルトアイゼン・ギーガが耐えれるかという不安はあったが、最早一刻の猶予もないとキョウスケは震える手でコンソールに手を伸ばし、緊急コードを入力しレバーを引いた。満身創痍のアルトアイゼン・ギーガだが、マリオン達がアルトアイゼン・ギーガに仕込んだオーバーヒートモードは起動し、獣の唸り声のようなエンジン音が周囲に響き渡る。

 

『キョウスケ中尉! 今の状態では何時爆発するか分かりません! 早く通常モードにッ!!!』

 

「いや……駄目だな。もう操作を受け付けん……このまま包囲網を突破するッ!!!」

 

モニターに映るアルトアイゼン・ギーガの状態は酷い物で、右脚部は膝から反応が無く、左腕は肩から千切れており今も火花を散らしている。腰部には砕けたパーツが突き刺さっているのかモニターに映る機体状態が目まぐるしく変化し、両肩も拉げてクレイモアを使う事も出来ない……だがそれでも右手とリボルビングバンカーと最後のカートリッジが残っている事に、キョウスケは笑みを零した。

 

「ラミア、カートリッジを取り替えてくれ。今は押し問答をしている時間はない、後でお前の文句は全て聞こう」

 

『……了解、覚悟してください』

 

ヴァイサーガによってカートリッジが取り替えられたのを確認したキョウスケは、ひび割れたモニターに視線を向ける。殆ど外の光景は見えていないが、遠くに白銀が見える……それだけが分かれば十分だった。

 

「突っ切るぞッ!! ラミア続けッ!!!」

 

ラミアの返答を聞かずキョウスケはペダルを全力で踏み込んだ。強烈な加速によるGがキョウスケを襲うと同時に何かが千切れ飛ぶ音がし、モニターに映っているアルトアイゼン・ギーガの背部の状態が黒に染まっているのを見て、千切れたのはブースターかとどこか他人事のようにキョウスケは感じていた。

 

(どうせ行ったきりだ、軽くなった方が都合がいい)

 

これが最後の攻撃だ。止まればもうアルトアイゼン・ギーガは動かない……ならば少しでも軽くなったほうが最後の加速を十分に生かせる。

 

【キッシャアアアアッ!!!】

 

「俺の邪魔をするなああッ!!!」

 

飛びかかって来たインベーダーに頭部を突き出し、加速したまま体当たりを叩き込む。オーバーヒートの熱と、爆発的な加速……そしてヒートブレードホーンの一撃でインベーダーは中心から焼き切られて両断され、破砕音を立ててヒートブレードホーンが折れて吹っ飛んだ。

 

「おおおおおおおッ!!!」

 

【!?!?】

 

リボルビングバンカーで目の前に立ち塞がったアインスト・ゲミュートを貫くと同時にリボルビングバンカーが炸裂し、熱波を伴った衝撃波がインベーダーとアインストを纏めて焼き払った。オーバーヒートモードと暴走している動力によって可能になった一撃だがその余波はアルトアイゼン・ギーガ自身さえ焼きコックピットのキョウスケもその熱に苦悶の声を上げた。

 

「ふんッ!!!」

 

唯一無事の左足で半ば地面にめり込んでいるブレードを蹴り上げ、それを無造作に掴み目の前に立ち塞がった百鬼獣不知火を両断し、その間を抜けアルトアイゼン・ギーガは一直線にヴァイスリッター改の元へ向かった。

 

「なんと言う強さだ……最早死に体だと言うのに……」

 

少し行動するだけで機体が崩壊し、攻撃の余波にも耐えれない状態なのにアルトアイゼン・ギーガは一瞬たりとも止まることなく、何時爆発してもおかしくないほどに熱暴走をしている機体を操るのは自殺行為に等しく、今もアルトアイゼン・ギーガの熱はキョウスケを焼いている。だがキョウスケはその痛みと熱を強靭な精神力で押さえ込み、何時爆発するかも判らない、もっと言えば最早戦う術もないアルトアイゼン・ギーガを操る。

 

「私は私のやるべきことをする」

 

だがラミアとて呆然と見ている訳ではない、五大剣を振るい確実にインベーダーにトドメを刺し、烈火刃を投げ少しでもキョウスケの進む道を確保すると同時に最悪の場合に備えていた。最悪の場合――それは熱暴走が限界を超え、アルトアイゼン・ギーガがメルトダウンした場合だ。

 

「キョウスケ中尉、最悪の場合は後ろからコックピットを抉り出します」

 

『……ああ、そうしてくれ。いま脱出装置の部品が飛んで行った、これで正真正銘アルトは俺の棺桶になったが……俺はまだここでは死ねんッ』

 

冷静にとんでもない事を言うキョウスケにラミアはギョッとするが、逆を言えばそこまで命を賭けなければこの方位網は突破出来ないのだ。

 

『見えた……ッ!!!』

 

「でかい……トレント級かッ!!」

 

シャドウミラーが名付けたコードネーム「トレント」と呼ばれるアインストは、レジセイアへ変異する少し前の段階のアインストだ。変異を繰り返しているからかインベーダーも百鬼獣も取り込み、アルフィミィの指揮下から外れようとしている化物が半壊してるヴァイスリッター改とヴァイスセイヴァーへ向かっていた。

 

「わーお……死ぬわ、私絶対死ぬわ」

 

『そうね……真面目に死ぬわ、これ……』

 

半壊し本来の武器である機動力を使えないヴァイスリッター改のコックピットでエクセレンがそう呟き、レモンも同意する。だがエクセレンもレモンの目もまだ死んでいなかった。

 

「悪いんだけどさ」

 

『支えれば良いんでしょ? あとエネルギーも回すわ』

 

「わお! 私の考えてる事が判るなんてやっぱり相性良いわね。どう? この後ハガネに投降しない?」

 

『ふふ、それも良いけど、私あんな事されてもまだ未練あるのよねぇ……』

 

「本当に損な生き方してるわねえ……」

 

『でしょ? 私もそう思うのよね』

 

レモンもエクセレンも軽口を叩いているが、その間も2人の手は休む事無く動き続けヴァイスセイヴァーとヴァイスリッター改の動力を直結させ、ヴァイスセイヴァーが背後からヴァイスリッター改を抱き締めるようにし、その姿勢を保持する。

 

『発射と同時に腕を切り落とすわよ、その反動で後へ飛ぶ。OK?』

 

「マジでそれしかないとか勘弁して欲しいわね……でもま……生きてれば勝ちよね」

 

『そういうこと……後はタイミングだけど……』

 

「キョウスケとラミアちゃんに任せましょ」

 

今発射してもトレントの守りは貫けない。迫ってくるトレントに恐怖しながらも、レモンとエクセレンはすぐ側に来ているキョウスケとラミアが、トレントのコアを露出させてくれると信じていた。そしてキョウスケとラミアはその信頼に応えた。

 

「道は私が作りますッ!! 風神衝ッ!!!」

 

ヴァイサーガの突きと共に放たれた風の刃がトレントの身体から伸びている触手を薙ぎ払い、アルトアイゼン・ギーガが突撃する道を作り出した。

 

「これが最後のとっておきだ」

 

リボルビングバンカー・オーバーチャージを発動させた事で真紅の装甲が更に紅く輝き、残された僅かなスラスターが最後の加速をアルトアイゼン・ギーガに齎す――だがその対価は決して安くはない、加速するたびに装甲が剥がれ落ち素体が露になるが、リボルビングバンカーだけはその姿を残していた。

 

「どんな装甲だろうが、撃ち貫くのみッ!!!!」

 

【ガアアアアアッ!?】

 

裂帛の気合と共に繰り出された一撃はトレントの胸部周りの装甲を粉砕しそのコアを露出させる。

 

「エクセレン!! やれッ!!!」

 

「分かってるわ! ラミアちゃん、キョウスケをよろしくッ!!」

 

攻撃の反動に耐え切れず装甲が崩れ落ちたアルトアイゼン・ギーガをヴァイサーガが後退させた直後、ヴァイスセイヴァーに支えられたヴァイスリッター改のオクスタンランチャーEモードのフルパワー射撃がトレントのコアを打ち砕き、断末魔の悲鳴さえ上げさせずにトレントの身体がボロボロと崩れ落ちる。

 

「助けに来たぞ、エクセレン」

 

「出来ればもう少し無事な姿でその言葉を言って欲しかったなあ……でもありがと」

 

互いにボロボロの酷い有様ではあるが、それでも無事に合流出来たことにエクセレンは安堵の笑みを浮かべる。

 

『レモン様』

 

『はぁーい、ラミア。元気そうね、助けてくれてありがと……だけどまだ何も終わってないのよね……どうしようかしら? って何あれ……まさか……ゲッター線?』

 

トレントを倒し、周りのインベーダーとアインストもその数を減らした……だが状況は悪化の一途を辿りどうしたものかとレモンが口にした時、司令部が轟音と共に吹き飛び翡翠色に輝く光の柱が天を貫き周囲を眩く照らしだした。

 

「ドラゴン……武蔵か」

 

壊れかけのアルトアイゼン・ギーガのモニターでもその姿は見えていた。翡翠の光の中に浮かぶゲッターD2の姿を……。

 

『でも何か様子がおかしいです……あれは……繭?』

 

「ラミアちゃんもそう見える? 私にもそう見えるのよ……どうなってるの」

 

ゲッターD2のカメラアイに光は無く、まるで繭のような物が全身を包もうとしている。

 

『ありえないわ……だってゲッターは無機物よ、繭を作ったとしても変化なんか出来るわけがないわ……何が、何が起きているの……』

 

未知の現象にキョウスケ達……いや誰もが困惑と驚きを隠せなかった。ただ1人を除いて……。

 

『……あれは進化ですのよ、ゲッターが別の姿へとなろうとしているのですの』

 

半壊しているアルトアイゼン・ギーガ達を見下ろすペルゼイン・リヒカイトから、鈴のようなアルフィミィの声が響いた。

 

「どういうことだ、アルフィミィ」

 

『……進化ですのよ、ゲッターD2は龍帝へと至りて、星の海を往く……そうなる前に止めておきたいですが……まぁそれは破壊魔がやってくれるでしょう……ですから私は……』

 

ペルゼイン・リヒカイトは鬼菩薩を抜き放ち、その切っ先をアルトアイゼン・ギーガとヴァイスリッター改へと向ける。

 

『……迎えに来ましたの、キョウスケ、エクセレン、大丈夫……痛みは一瞬ですのよ?』

 

和やかな空気を纏いながらも殺意を露にするアルフィミィ。大破しているアルトアイゼン・ギーガ達では戦える相手ではなく、唯一万全に近いラミアの駆るヴァイサーガが五大剣を手にペルゼイン・リヒカイトへと斬りかかり、大破しているアルトアイゼン・ギーガ達から引き離しにかかる。

 

『……貴女に用はないですのよ?』

 

決死の覚悟で単騎でペルゼイン・リヒカイトとアルフィミィに挑むラミアだが、アルフィミィは何の興味もない、邪魔だと言わんばかりの態度でヴァイサーガに蹴りを叩き込んだ。

 

『ぐっ……お前になくても私にはあるッ!!!』

 

『……しょうがありませんの……少しだけお相手してあげますの……』

 

たった1発、それもただの蹴りで胴体部を中破したヴァイサーガが再び飛翔し斬りかかって来るのをペルゼイン・リヒカイトは片手で受け止め、全く意に介していないと言う素振りを見せる。必死のラミアと余裕を見せるアルフィミィ――そしてインベーダーとアインストが増え続ける既に廃墟と化したラングレー基地で不気味な胎動が木霊した。

 

 

 

第184話  進化の光 その6へ続く

 

 




強化アルフィミィちゃんにメンタル攻撃をされ、アクセルダウン。キョウスケ達は全員ボロボロと状況は悪化の一途を辿っております。目まぐるしく視点が変わっておりますが、進化の光の話は全部同一時刻の話なので、ほぼ同時に起きている事態と思ってください。少し見難くなっておりますが、私ではこれが限界だったので許していただければ幸いです。次回はハガネの視点から入っていこうと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第184話  進化の光 その6 

第184話  進化の光 その6 

 

インベーダーとアインストの出現によってラングレー基地での戦いの流れは大きく変わった。インベーダーとアインストは目に付く物すべてに攻撃を仕掛けてくるので今まで以上の乱戦の様相を呈し、最早自分達が生き残る事を最優先に考えて誰もが立ち回っていた。

 

「キョウスケとエクセレンはッ!! 後安否が確認されていないのは誰だッ!!」

 

「後確認出来ていないのはドラゴンと戦闘中の武蔵です! 雲の中で戦っているようで姿を確認出来ません!! キョウスケ中尉達は巨大インベーダーとアインスとの向こう側で最後に姿を確認したアイビスによると大破している模様!!」

インベーダーとアインスとの向こう側で最後に姿を確認したアイビスによると大破している模様!!」

 

「補給を急げ! 再出撃出来る者はキョウスケとエクセレンの救出へ向かう!!」

 

整備兵も負傷者が多発しており、まともな補給を受ける事すら難しい中。皆が全員に出来る最善の行動を行い、十分な補給が出来てないとしてもまだハガネ達の所まで戻って来れてない者もいる。

 

「満タンとはいわねぇ! エネルギーを入れてくれッ!!」

 

「私達を逃がすためにカチーナ中尉達がまだ残ってるんです、急いでください!!」

 

「分かってる! そう急かすなッ!! こっちも出来るだけの事をしている!!」

 

ツヴァイザーゲインの奇襲で受けたダメージは決して軽くない、キョウスケとエクセレンの他に大破寸前で分断されている者はいないが、プランタジネットに参加していた者すべてが少なくないダメージを受けている。その中でインベーダーとアインストを退けるのは至難の業であり、そしてその中を抜けてくるのはなおの事難しいのは言うまでも無く誰もが強い焦りを感じ、口調が乱暴になり喧嘩口調になるがそれはそれだけ仲間の事を思っている証拠でもある。

 

「艦長達はどうなってるんだ! 指示が1つもないがブリッジのクルーは大丈夫なのか」

 

今のハガネは整備兵や他の部署のクルーが必死になって動いており、ダイテツ達の指示がないことに焦りを覚えたのか整備兵の誰かがそう告げる。それによってざわめきが生まれるが、ボロボロの状態で包帯を紅く染めながらも再び出撃準備をしているカイが声を上げた。

 

「ダイテツ中佐達がこの程度で死ぬものか! 俺達は俺達の出来る最善を行なえばいい!! 今は余計なことを考えるな!!」

 

「しょ、少佐! 医務室で寝ていていてください! これ以上は「そんなことを言ってる場合か! 俺は出るッ!!」

 

止めに入った医療兵の制止を振り払い機体へ乗り込むカイの姿を見れば、今は必要なことは押し問答をする事でも不安を煽る事でもなく、この絶望的な状況の中でどれほど難しいと分かっていても絶望せず、全員で脱出する事を模索し一丸となって戦う事だと、己の行動で示すカイに触発され、ハガネの格納庫に広がり始めていた不穏な空気は一掃された。だがカイ達とて不安を抱いていないわけではなく、今も沈黙を続けているブリッジに一抹の不安が脳裏を過ぎるのだった……。

 

ツヴァイザーゲインの攻撃によって轟沈寸前のダメージを受けたハガネのブリッジは戦闘中ということもあり、内部から隔壁がロックされていた為、外部からブリッジの現状を把握する事は出来なかった……それでもノイズ混じりのテツヤからの撤退命令に従い、ハガネのクルーはダメージによって辛うじて浮遊しているハガネで出来る最善を行なっていた。

 

「はぁ……はぁ……タカクラチーフ……負傷者は……どうなっている……」

 

自身もツヴァイザーゲインの攻撃の余波で吹っ飛ばされ、全身打撲に加え額を切ったこともあり視界は殆ど無く、ツグミに何がどうなっているのかを問いかける。

 

「て、テツヤ大尉! 貴方も重傷なんですよッ!! 他人の事よりも自分の事を考えてください!!」

 

「お、俺はハ、ハガネの副長だ……皆の命をあずかる立場の俺が寝ていられるかッ!!」

 

自分自身に活を入れるように叫んだテツヤは、震える足を殴りつけ無理矢理立ち上がる。上に立つ人間としての覚悟と責務……それを成し遂げるという強い決意を見せるテツヤにツグミは掛ける言葉を失う。

 

「……ブリッジにいたクルー全てが負傷者です。特に重傷なのはダイテツ中佐とエイタ伍長です……今現在止血を行なっていますが、戦闘が長引けば命に関わります」

 

テツヤを止める事が出来ないと悟ったツグミは、テツヤが求めたとおりにブリッジクルーの負傷者の現状を伝える。

 

「……ぐっ……す、少し……まっ……待ってくれ」

 

震える手でコンソールを操作したテツヤは緊急時という事でロックされたブリッジの隔壁を解除する。

 

「隔壁を解除した……タカクラチーフは……応援を呼んで来てくれ……時間がない……急いでくれ……」

 

「は、はい! す、すぐに戻りますッ!!」

 

踵を返し応援を呼びにいくツグミを見送ったテツヤは立っていられず、その場に膝を付いた。

 

「ま、まだだ……まだ眠るな……テツヤ……オノデラッ!!」

 

痛みと出血で薄れていく意識を必死に繋ぎ止め、テツヤは這う様に艦長席に向かう。

 

「か、艦長……ご……だ、ダイテツ艦長ッ!!!」

 

艦長席に腰掛けているダイテツから返答がない事に気付き、アームチェアを掴んで立ち上がったテツヤは思わずダイテツの名を叫んだ。ダイテツの制服が真紅に染まり、脇腹にガラス片が突き刺さっていたからだ。

 

「か、艦長……ッ!! ダイテツ艦長ッ!!! だ、駄目だッ!! 死なないで、死なないでくださいッ!!!」

 

鍛えているダイテツだからこそ腹筋によって流血が押さえられているが、巨大すぎるガラス片を見れば臓器が傷ついているのは明らかで、テツヤは半狂乱に陥り、自身の手を鮮血に染めながら少しでもとダイテツの出血を抑えようとした。

 

『何をしているッ!! 大尉ッ!!!』

 

その時テツヤの耳を打ったのは、ダイテツの一喝だった。

 

「か、艦長……?」

 

今もダイテツは意識を失いぐったりとしている……それなのにテツヤにはダイテツの声がしっかりと聞こえていた。

 

『成すべきことを成せッ!! お前はワシの元で何を学んだのだっ!! 何時までワシに甘えているつもりだッ!!!』

 

「……ッ!!! だ、ダイテツ……艦長……ッ!!!」

 

幻聴だとしてもテツヤはその声に奮起した。リーにも何時までダイテツに甘えていると、ダイテツを安心させないでどうするのだと言われた事を思い出し、テツヤは強く拳を握る。

 

「大尉!! 救護隊が来ました!!」

 

「こっちだ! ダイテツ艦長が重傷ッ! 早く緊急治療室へッ!!! 誰でもいい! オペレーター席に座れ!! ここからは俺が指揮を執る!!」

 

今まで見たことのない覇気に溢れるテツヤの姿にブリッジに駆け込んできた救護部隊、そしてサブスタッフはテツヤの姿にダイテツを見た。

 

「何をもたもたしている! 急げッ!!!」

 

「「「了解ッ!!!」」」」

 

テツヤの指示に頷き皆が動き出し、救護部隊が担架に身長にダイテツを寝かせるとうっすらとダイテツが目を開いた。

 

「う……わ、ワシは……何が……」

 

「艦長。俺に……私に任せてください、必ずや全員で生き延びます。どんな状況であろうと諦めません、どうか私にお任せください」

 

現状を把握していないダイテツだがテツヤのその力強い声と強い意思を宿した目を見て大丈夫だと確信し、震わせながらその手をテツヤに伸ばす。

 

「艦長!!」

 

テツヤが慌ててその手を握るとダイテツはテツヤの手を強く握り締めた。

 

「……任せる……お前なら……出来る……」

 

強く強く握り締めふっと笑ったダイテツは今度こそ意識を失い、その手から力が抜ける。

 

「だ、ダイテツ艦長!?」

 

「大丈夫です! 脈はあります! 私達が死なせません!! 大尉は自分の成すべきことをしてください!」

 

「……ッ! ああッ!! ダイテツ艦長を頼んだッ!!」

 

揺らさないようにダイテツを運んでいく救護部隊を見送ったテツヤは足元にダイテツの帽子が落ちていることに気付き、それを拾い上げて自ら被る。

 

「艦首トロニウムバスターキャノンのチャージを始めろッ!!」

 

「は……はッ!? で、ですが艦首は中破」

 

「撃てればいいッ!! 武装は!!」

 

「は、はいッ!! 使用可能な火器は……40%以下です!」

 

「ならば全てをE-フィールドの維持に回せッ!! 全軍の避難状況はッ!!」

 

「現在65%です!」

 

「可能な限りの支援を行え、最悪機体は放棄しても構わん!! 全員の生存が最優先だッ! 全軍の撤退が完了次第報告を入れろ!! ヒリュウ改、シロガネ、クロガネに通信をッ!!」

 

矢継ぎ早に指示を出すテツヤに誰も口を挟む余地はなかった。今出来る最善の最適解をテツヤは選択し続けていたからだ。

 

『ダイテツ中佐……テツヤ大尉?』

 

『ほ。随分と化けましたな』

 

『テツヤ、ダイテツ中佐は!』

 

「ダイテツ中佐は重傷により現在緊急手術を行なっている為、私が臨時艦長として指揮を執っています。無事な艦は可能な限りの機体の収容を頼みます! 本艦より合図を送ります! その後ハガネの後方へ待機してください!」

頼みます! 本艦より合図を送ります! その後ハガネの後方へ待機してください!」

 

『ま、待ってください! テツヤ大尉、貴方は何をするつもりなのですか!』

 

クロガネの臨時指揮を執っているリリーが、何をするつもりだとテツヤに問いかける。するとテツヤは獰猛な、手負いの獣その物の笑みを浮かべる。

 

「人間の底力を見せてやるんですよ。L5戦役の焼き増しです。レフィーナ中佐、申し訳無いですがリー中佐に説明を頼みます。ハガネはエネルギーが危険域なので少しでも温存したいのです」

 

『了解しました、この場にいる全員の命。預けます、テツヤ大尉』

 

「ええ、預かりました」

 

レフィーナ達の敬礼に敬礼を返し、テツヤは鋭い視線で戦況を見極め、ほんの僅かな勝機を掴む為に意識を集中するのだった……。

 

 

 

 

グレイターキン改のコックピットにもテツヤの指示は届いていた。偶然というか運がいいと言うか、メキボスがまだここでは死ぬべきではないと運命が定めているとでも言うべきか……完全では無いがハガネのクルー達が撤退に動こうとしているのは把握していた。

 

「さてと……どうするかねえ」

 

飛びかかって来たインベーダーを高周波ブレードで両断すると同時に後退するグレイターキン改、ほんの数秒前までグレイターキン改がいたところを炎が焼き払う。

 

「やるねえ。でも俺ごと焼こうとするのは正直どうなのさ」

 

掌を突き出し炎を纏っているヒュッケバインMK-Ⅲ・タイプM・タイラントに向かって、メキボスがそう声を掛ける。

 

『貴方の機体の通信コードを知りませんから。それに……僕は貴方達インスペクターが嫌いだ』

 

接触通信で吐き捨てるように言うリョウトにメキボスは額を叩いて笑った。

 

「いや、確かにその通りだな。敵の敵は味方だしな、でもまぁ……今だけは信用してくれや!」

 

メガビームバスターがヒュッケバインMK-Ⅲ・タイプM・タイラントに取り付こうとしていたアインストのコアを撃ち貫き消滅させる。

 

『……一応、ありがとうございます』

 

「ははッ! 礼儀正しい奴だな。まぁあれだ、俺も死にたくねぇ、お前も死にたくねぇ。仲良くしようとは言わないが、この場を切り抜けるまでは協力しようや」

 

メキボスは決して馬鹿ではない、むしろ頭が回り、情も厚い男だ。この窮地を切り抜けるための最善を選択している……だからこそ両手を上げた。

 

「頼むからさ、その物騒な殺気を何とかしてくれよ」

 

『俺はお前を信用しない。それよりも雑魚を相手にしてないで手伝え』

 

「へいへい、分かってますよッ!!」

 

この場を切り抜ける上で最も大きな壁――巨大インベーダーにメタルビースト・ライガー、ポセイドンを倒さなければならないと言うことはメキボスも十分把握している……何故ならば。

 

(転移出来ねえからな)

 

ジャミングか何かが働いているのか転移出来ないからこそ、こうして共闘という道を選んだのだ。それが一番生存率が高いと認めざるを得ない上に、ゲッター合金を組み込まれたことでインベーダーとアインストに襲われるリスクが高まっているので、これが1番自分の身を守る事に繋がると分かっているからだ。

 

(ま、単独操縦の限界点も見えたしな、手土産は十分だろ)

 

メタルビースト・ドラゴンによって司令部に叩き落とされたゲッターD2――その姿を見ればゲッターD2の弱点も見えた。失態こそあれど十分にそれを帳消しに出来るだけの情報を集めれたと考えれば、ある意味シャドウミラーの強襲はメキボスにとっても都合が良かったと言える。

 

(それになんとでも言いようはあるしな)

 

ブライ達の動き、そしてインベーダーとアインストの変異型の脅威を手土産にすればウェンドロも地球人と共闘した事を咎めないだろうと考えていたメキボスだったが、突如ラングレー基地の司令部跡地から立ち上ったゲッター線の柱、そしてその中のゲッターD2を見てその顔色を変えた。

 

「……マジか……真ドラゴンに変異するとかいわねえよなあ……」

 

ゲッター線の光の柱の中で繭に似た物を形成しようとするゲッターD2――その姿はゾヴォークに伝わるゲッターの伝承、皇帝は龍帝が作りし進化の繭より生まれる……その伝承を思い出したメキボスは、恐怖にその身体を振るわせる。もしも本当に皇帝へと至るとすれば、それは武蔵と敵対する道を選んだ自分達の責任であり、再び宇宙滅亡の引き金を引いた者としてゾヴォークが滅ぼされる事を危惧して物だが……最早賽は投げられ、メキボスに出来る事は何一つとして存在せず、自分の身を守る事だけが今のメキボスに出来る事なのだった……。

 

 

 

 

本来ならばゲッターD2とメタルビースト・ドラゴンには雲泥の差がある。例え単独操縦であっても、コーウェンとスティンガーがゲッター炉心を組み込みアードラーが作り出した量産型ドラゴンをベースにしたメタルビースト・ドラゴン相手ならば、ゲッターD2が負ける道理はない。だがゲッター線の備蓄が全く足りず、今にもエネルギーを使い果たしそうなゲッターD2では出来そこないのメタルビースト・ドラゴンを相手に劣勢に追い込まれていた。

 

「はははっ! やっぱり武蔵は出来そこないのようだね」

 

「うんうん、あの新型のゲッターを使いこなしていないようだし、宝の持ち腐れだよ!」

 

ラングレー基地の地下に沸いた純度の高いゲッター線を求めて北米にやって来ていたコーウェンとスティンガーは、武蔵を嘲笑う。

 

「宝の持ち腐れではなく豚に真珠と言うのだよ、スティンガー君」

 

「あ、ああそうだね。ぶ、豚に真珠……正にそのとおりだよッ!!」

 

コーウェンとスティンガーからすれば旧西暦で破れたのは竜馬達と真ゲッターの力であり、武蔵はあくまでサポーターであり単独で戦えば竜馬達よりも格段に格が落ちるという認識であった。

 

「あの程度ならばインベーダーに任せて十分だ。我々は目的を成し遂げよう」

 

「う、うん! そ、そうだねッ! 急ごうッ!!」

 

新西暦のゲッター線の濃度は低く、炉心を作りそのゲッター線で身体を維持していたコーウェンとスティンガーは、自然発生した高純度のゲッター線を求めて地下へと地下へと降って行く……インベーダーの本能に突き動かされ、微塵も疑いも持たずに食欲を満たすためだけに地下へと向かう。

 

「お、おおお……す、素晴らしい、そ、そう思うだろ! スティンガーくうん!!」

 

「う、うんうん! す、素晴らしいよこれはぁ……まさか人間の拠点の地下に、こんな素晴らしいものがあるなんてッ!!!」

 

結晶化し水晶の様になったゲッター線を見てコーウェンとスティンガーはその目を輝かせる。体内からギチギチという虫の鳴声が響き、開かれた口から触手が飛び出し、水晶のゲッター線に喰らいついた。人の姿をしているがコーウェンとスティンガーの本質は浅ましい寄生虫であり、本能には抗えない。なまじ今まで我慢していただけに、その反動は大きく貪るようにゲッター線を摂取する。それがエンペラー達が描いたシナリオであるとも気付かずに……。ゲッター線に寄生するだけの愚かな生物に、真のゲッター線からの死の罠は、愚か者の触手が伸ばされた瞬間に発動した。

 

「ああ……美味い美味い……力が漲ってくる……」

 

「こ、これだけゲッター線を手に入れる事が出来れば、最早僕達は無敵だ!」

 

インベーダーの強さはゲッター線に左右される、これだけ高純度のゲッター線を摂取できればもう誰にも負けないと笑みを浮かべたコーウェンとスティンガーだが、その笑みはほんの一瞬で凍りついた。

 

「な、なんだ……も、戻せない……」

 

「あ、あがががが……ば、馬鹿な……な、何が、何が起きているのだッ!!!」

 

もう十分にゲッター線を摂取した。これ以上は体の崩壊を引き起こすと触手を戻そうとしたコーウェンとスティンガーだが、張り付いた触手は2人の意志に反しゲッター線を摂取し続ける。

 

「うげえ……」

 

「が、がががががががッ!!!」

 

ゲッター線の過剰摂取による身体の崩壊が始まり、コーウェンとスティンガーの目や鼻からドロリとした血液が流れ出る。

 

「あ、あぎゃぎゃやああ……ズ、ズディンガアアア」

 

「ゴ、ゴーウェン……」

 

身体の結合が維持出来ず音を立てて落ちる自身の身体を見て、これ以上は消滅すると察したコーウェンとスティンガーは必死に腕を伸ばし、取り込んだゲッター線をエネルギーとして放射する。それは結晶化したゲッター線へと命中し、乱反射を繰り返しながら結晶化したゲッター線を打ち砕く、それによって触手が溶け落ち尻餅を付いたが、その衝撃で再び身体の結合が緩み穴という穴から体液が流れ出る。

 

「に、逃げるよぉ……」

 

「う、うん……わ、分かってるよお……」

 

人間への擬態すら維持できなくなったコーウェンとスティンガーは互いの身体を融合させ、液状になり排気口に飛び込んだ。

 

【ふん、愚か者が】

 

【だが我々の計画通りだ。さぁ武蔵よ、受け取るが良い。今のお前に必要な物だ】

 

コーウェンとスティンガーの行動によって結晶化が解かれ、純度の高いゲッター線はまるで間欠泉のように噴出す瞬間を待っていた。

 

【だが果たして武蔵がこのゲッター線を御せるかな?】

 

2人の早乙女の前に現れたのは紅いマフラーで顔を隠した、ボロボロのコート姿の男だった。

 

【竜馬……いや、エンペラーの意志か】

 

【何をしに来た?】

 

同じゲッター線に取り込まれた者だが、早乙女博士は明確にゲッター線……延いてはエンペラーの意志には反抗的だった。そして目の前のゲッターエンペラーの意志は、様々な世界の竜馬の中で最もゲッター線と親和性の高い竜馬の姿を模しているが、中身は竜馬とは似ても似つかない存在だった。

 

【見届けにきた。新たなドラゴンが生まれるか、武蔵がゲッター線を制御し、己の物とするかをな……】

 

【悪趣味な事だ。だがワシらは信じている】

 

【ああ、そうだ。武蔵は新たなゲッター線の可能性を生み出す存在だ、力に飲まれたりはせぬ】

 

【どちらでも俺は構わない。さぁ魅せてくれ! 武蔵ッ!! ゲッター線の可能性をッ!!】

 

エンペラーの意思が両手を上げると同時に間欠泉のように噴出したゲッター線は、メタルビースト・ドラゴンの攻撃によって司令部に向かって叩き落され、地表を砕きながら地下へ落ちてきたゲッターD2を飲み込み、そして上空へと押し返して行った。

 

 

 

メタルビースト・ドラゴンの姿が太陽に隠れ、その姿を一瞬武蔵は見失った。残り少ないエネルギー、窮地に追い込まれている仲間達……それを見て冷静さを失い始めていた武蔵に、メタルビースト・ドラゴンの行動を見破れというのが酷な話だった。

 

『!!!』

 

「く、くそッ!!! しくじったっ!!!」

 

シャインスパークは攻防一体の必殺技だ、発動してしまえば止める手段はほぼ無いと言ってもいい。

 

(受け止めるしかッ!!!)

 

避ければシャインスパークが地表で炸裂しキョウスケ達がやられる……避けるという手段を封じられた武蔵に出来たのは、残り少ないエネルギーをほぼゲッタービームに回す事だけだった。

 

「ゲッタァアアア……ビィイイイイムッ!!!!」

 

『!!!!』

 

シャインスパークを止めれるとは武蔵も思っていない、だがほんの僅かでも威力が落ちれば、ゲッターD2を盾にして防ぐ事が出来る。

 

「ぐ、ぐぎぎいいいい……ちっく……しょうッ!!!! うわあああああああッ!!!!」

 

シャインスパークを受け止めたゲッターD2だったが、完全に無効化する事は出来ず。隕石のようにラングレー基地の司令部へとゲッターD2は墜落して行った……。

 

 

「武蔵! おい武蔵! 何やってんだ?」

 

「いってえ……りょ、リョウ……お前……若返ってないか?」

 

「はぁ? お前何言ってるんだ? 寝ぼけてないでとっとと顔を洗って来いッ!!!」

 

竜馬に尻を蹴られ武蔵はパジャマ姿のまま部屋から蹴りだされる。

 

「何やってんだ、馬鹿」

 

「は、隼人!? お、お前顔……」

 

「俺の顔がどうかしたのか?」

 

「いや、怪我が……」

 

武蔵が最後に会った隼人はフランケンシュタインのような酷い有様だった。だが目の前にいる隼人も、そして部屋の中にいた竜馬も自分と同年代の若い姿だったからこそ武蔵は混乱した。

 

「怪我? 何を寝ぼけている。怪我をしてるのはお前だろうが、腹に穴が空いたままゲッターに乗りやがって、無茶してるんじゃねえぞ。」

 

皮肉めいた口調は紛れも無く隼人の物で、だがその中に心配の色も確かに滲んでいた。

 

「いっつ……いたたた」

 

腹に穴を言われて武蔵は急に腹が痛んできたのを感じ、腹を押さえて蹲った。

 

「傷が開いたのか! だから入院しろと言ったんだ! リョウ! おいリョウ!! 武蔵の傷が開いた! 肩を貸せ!!」

 

「今行く!!」

 

竜馬と隼人の2人に肩を貸され、医務室に引き摺られていく武蔵。痛みはある、だがそれ以上に嬉しかった。

 

(リョウ……隼人……)

 

痛みで薄れていく意識の中、竜馬と隼人の体温を感じた武蔵は今までのは夢だったのかと困惑しながら意識を失った……。

 

 

「もう、武蔵君ったら無茶しちゃ駄目じゃない」

 

「こらこらミチル。武蔵君は怪我をしているんだ、そう説教をする物じゃない」

 

「でもお父様……」

 

「は、ははは……オイラが悪いんですよ。無茶をしたから」

 

ベッドに横たわった武蔵はミチルの説教ですら嬉しく感じていた。失くした物が……求めていた物が全てあるのだ。

 

(夢だったのかな……それともこっちが夢なのか?)

 

新西暦が夢だったのか、果たして目の前の光景が夢なのか……ぼんやりとした意識でも、目の前あるすべてが現実のように武蔵に感じられていた。

 

「おら、武蔵。お前の好きな菓子を買って来てやったぞ、これでも食って安静にしてろ」

 

「たまには本でも読んで知識でも付けるんだな」

 

「もう! リョウ君! 病人にお菓子なんか持って来ちゃ駄目でしょう!」

 

「で、でもよ。ミチルさん、武蔵の奴は単純だから飯を食った方が元気になるぜ?」

 

「そんなわけ無いでしょ! もう! これは没収よ!!」

 

「ああ、そんなミチルさんッ!!」

 

お菓子を取り上げられ武蔵は悲壮そうな声を上げ、その声を聞いて早乙女博士や隼人が笑う。武蔵にとって当たり前だった光景がここにある……もうこのままずっとここにいたいと武蔵は思ったその時だった……ベッドサイドから折り紙で作られた花が差し出されたのは……。

 

「はい、武蔵さん。お見舞い」

 

「元気ちゃん……ありがと……よ?」

 

差し出された花は綺麗だったのに、武蔵が受け取ると折り紙の花は色彩を失い、ボロボロの姿になる。それは紛れも無く武蔵がお守りとして持っていた折り紙であり、数奇な運命を辿り弁慶にお守りとして受け継がれ、そして再び武蔵の元へと帰ってきた大切な折り紙だった……。

 

「どうしたの? やっぱり痛い?」

 

「あ……いや……」

 

心配そうに顔を見上げてくる元気――そして大丈夫かと声を掛けてくる竜馬達の顔を見て、武蔵はここにいたいと思いながらもベッドから身体を起こした。さっきまで感じていた痛みは無く、パジャマ姿ではなく剣道の胴、ニッカボッカ、マント、工事現場のヘルメット――武蔵の戦闘服へとその姿は変わっていた。違う所があるとすれば、首に巻かれたボロボロの竜馬のマフラー、そして隼人の腕時計があることだろう。

 

「行かないと」

 

「どこへ行くんだ? ここにはお前が望んでいる物が全てあるんだぞ」

 

「そうだぞ、もう辛い思いをしなくても良いじゃないか」

 

「そうよ、武蔵君はあの時代の人間じゃないわ。もう良いじゃない」

 

「自ら苦しみを選択することはないだろう?」

 

「武蔵さん……一緒にいようよ。ここは優しい場所だよ?」

 

確かにこのまま眠っていれば優しい思い出の中でいれるだろう……だけど武蔵はそれを選ばなかった。

 

「オイラだってここにいたいさ、だけど……ここはオイラの居場所じゃない、オイラは行かないと」

 

元気の頭を撫でて振り返った武蔵の視線の先にはゲッターD2の姿があり、早乙女研究所の医務室は遠く離れていて武蔵は一瞬寂しそうに顔を伏せたが、すぐに顔を上げる。顔を上げた武蔵の瞳には強い意思の光と、隠し切れない決別の寂しさが宿っていた。

 

「行ってくるぜ! ダチ公ッ!!」

 

竜馬達からの返事はない、何故ならばこれはゲッター線の見せた幻だから……本物の竜馬達ではないから……。

 

【迷うんじゃねえぞ、武蔵ッ!】

 

【行って来い、もうこんなくだらない夢に囚われるなよ】

 

【気をつけてね、武蔵君】

 

【頑張れよ、武蔵】

 

【行ってらっしゃい、武蔵さん】

 

だけど耳ではない、心には竜馬達の声がしっかりと聞こえていた。振り返らず、武蔵は拳を突き上げた。自分はもう大丈夫だと、心配しないでくれと行動で示し、ゲッターD2に触れ再び武蔵の意識は遠退いて行った。

 

「……戻って来たのか」

 

ポセイドン号のコックピットに腰掛けていた武蔵は、すぐにメインモニターに視線を向けて驚いた。

 

「エネルギーが回復してる! これならッ!!」

 

今までガス欠だったゲッターD2のゲッター線が最大値になっているのを見て、武蔵は躊躇うこと無くリミッターを解除し操縦桿を握り締める。

 

「行くぜ、兄弟ッ!! 力を貸してくれッ!!!」

 

武蔵の叫びに呼応するようにゲッターD2のカメラアイに目が浮かび上がり、自身を包み込んでいるゲッター線の光の柱を内部から弾き飛ばし、力強くその翼を広げ再びシャインスパークを発動させ突っ込んできたメタルビースト・ドラゴンへと向かうが、その移動はゲッター線の光に包まれ肉眼では捉えられない超スピードであり、ゲッターD2とメタルビースト・ドラゴンがすれ違った次の瞬間にはメタルビースト・ドラゴンは破壊され爆発していた。圧倒的なスピードとパワー……今ここにゲッターD2の真の力が解放されたのだった……。

 

 

 

第185話  進化の光 その7へ続く

 

 




テツヤと武蔵の覚醒によりプランタジネットの終わりまで進んで行きます。そして覚醒武蔵とゲッターD2の大暴れが始まりますが、新技が2つ解禁されるので何が登場するのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうか宜しくお願いします。 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第185話  進化の光 その7

第185話  進化の光 その7

 

 

戦う意欲を失っていた龍王鬼だが、突如コックピートシートから身体を起こしラングレー基地の上空に視線を向けた。

 

「おいおいおい……俺様と戦った時は三味線を引いてやがったかあッ!!!」

 

圧倒的な威圧感を放つゲッターD2……その圧力は伊豆基地と戦った時とは比べ物にならない程の存在感であり、龍王鬼を持ってしても容易な相手ではないと一目で判る。だからこそ、龍王鬼はあの時は手を抜いていたのかと一瞬怒りを露にしたが、それは本当に一瞬の事だった。

 

「い、いや、俺様の気のせいか」

 

龍王鬼と戦っていた時よりも遥かに力が上昇しているのを見て、先ほど吹き上がったゲッター線の光の柱に何か関係があることに思い立った龍王鬼は気のせいかと呟いた。

 

『そりゃそうよ、武蔵は三味線を引くようなタイプじゃないわ。気の回しすぎね、ヴィンデルの邪魔で苛立ってるのは分かるけど少しは落ち着きなさい』

 

ヴィンデルの奇襲で苛立っているから落ち着けという虎王鬼の言葉に龍王鬼は深い溜め息を吐いた。

 

「すまねえ」

 

『良いわよ。あたしもヴィンデルのは許してないし』

 

戦いに横槍を入れる……それは戦いを誉れとする龍王鬼達にとっては許せない事だ。正々堂々と戦い、真っ向から相手を打ち倒す。それが龍王鬼にとっての誇りであり戦いなのだ。それを邪魔する物は龍王鬼にとって最も唾棄するべき相手だ。

 

『見ておきなさいよ、これがきっと最強状態のゲッターロボよ』

 

「おお、そうするぜ。肌にびんびん来る……あのゲッターと武蔵と戦ったら楽しいだろうなあ……」

 

牙を剥き出しにして笑う龍王鬼の顔に先ほどまでの不満の色は無く、むしろ最強状態のゲッターD2を目の当たりに出来ると言うことに歓喜の表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

「……行くぜ、兄弟」

 

一撃でメタルビースト・ドラゴンを屠ったゲッターD2――その力は凄まじく、これが本当の力なのかと武蔵でさえも驚いていた。だが1番武蔵が驚いていたのはそのパワーを自分が完全に操れている事だった。

 

『武蔵君! 我々は撤退を始める! 支援は出来るか!』

 

「大丈夫ですよ! 任せてください、ビアンさんッ!! しゃあッ!! 行くぜッ!!!」

 

ヴィンデルの奇襲のダメージを考えればこれ以上戦えないのは武蔵にも分かっていた。全員が無事でこの場を脱出する為にゲッターの力が必要であり、この場に出現したアインストとインベーダーを引き寄せるのもゲッターの役目だと分かっていた。

 

【シャアアアアッ!!!】

 

【■■ッ!!!】

 

フルパワーのゲッターD2のエネルギーに魅かれ、メタルビースト・ライガーとアインストの群れが一斉に地面を飛び立ち、ゲッターD2へと向かう。

 

『武蔵ッ!! 今行くッ!!!』

 

『武蔵様ッ!!』

 

1人で相手をするのは不可能だと判断したカーウァイが援護に向かうと叫び、上下左右すべてを覆いつくすインベーダーとアインストの群れがゲッターD2に向かうのを見たシャインが悲鳴にも似た声で武蔵の名を叫んだ。次の瞬間ゲッターD2の姿がゲッター線の光に包まれ、凄まじい速度で移動する。余りの速さに空中に複雑な幾何学模様が描かれ、はるか上空にいたゲッターD2は地面を削りながらゲシュペンスト・タイプSの前に着地し、ゲッターD2に向かったメタルビースト・ライガー達は全て一瞬の内に両断され空中に爆発の花を咲かせた。

 

『は……は?』

 

ゲッターD2の強さを見てきたカーウァイでさえも思わず言葉を失う超スピードとパワー、何が起きたのか分からないほどの動きだった。

 

「カーウァイさん、オイラは大丈夫ですよ。皆の撤退支援を頼んます、敵は全部オイラとゲッターが引き受けますからッ!」

 

疲弊しているカーウァイ達を見て自分に任せろという武蔵。つい先日までのゲッターD2を見ていれば何を言っているとカーウァイも激怒しただろう。だが今のゲッターD2を見れば任せても大丈夫だと思わせてくれた。

 

『頼む……そろそろ我々も限界だ』

 

「任されましたッ!!」

 

力強く踏み込んだゲッターD2の姿が掻き消え、地上に翡翠の線を残しながら恐ろしい速度で駆け回る。

 

『すげえ……』

 

『圧倒的だ……これがフルパワーのゲッターロボ』

 

空を飛ばなくても、いやライガーにチェンジしなくても目視するのがやっとの超スピードにタスクとリョウトは言葉を失った……余りにも強すぎる。ゲッターロボが機動兵器の枠組みを超えた超越存在だと言うのを改めて思い知らされる形になる。

 

『何を呆けてやがる! 撤退するぞッ!! 武蔵! 悪いけど任せるぜッ!!!』

 

「分かってます! 早く! まだまだ出てきますよッ!!!」

 

ゲッターD2のパワーが上がったという事はゲッター線を求めるインベーダーとアインストの出現を早める事だ。ゲッター線の光に包まれ消滅したインベーダーとアインストと異なる個体が再び姿を見せる。

 

「分かったら早く撤退をッ!!」

 

【ゴガアアアッ!!!】

 

「舐めんなあッ!!!」

 

周りの残骸を取り込み巨大化したメタルビースト・ポセイドンの拳を受け止め、翼を広げて飛翔するゲッターD2はメタルビースト・ポセイドンを振り回し始める。

 

「うおらあああああああッ!!!」

 

雄叫びと共にメタルビースト・ポセイドンを百鬼帝国に投げ付け、百鬼帝国の高度が著しく落ちた。

 

「舐めてんじゃねぇぜッ!!!」

 

メタルビースト・ポセイドンの直撃で外装が破壊された百鬼帝国を見て武蔵はざまあ見やがれと笑う。本当ならここでしとめておきたかったが下手に固執すればみんなが危ないと判断し武蔵は追撃を断念し、その判断は正しかったとすぐに明らかになる。百鬼帝国と陸皇鬼が水に包まれ姿を消す。共行王の水を使った転移であり、近づけば武蔵とゲッターD2もどこかに飛ばされていた可能性が高く、絶好の好機を逃しはしたが追撃を断念した武蔵の選択は正しい物であった。

 

『武蔵様! 危ないッ!!』

 

「お、おおッ!?」

 

【キシャアアアアアッ!!!】

 

シャインの警告のすぐ後にタスク達が相手をしていた巨大インベーダーが伸ばした触手がゲッターD2に足に巻きつき、一気にその身体を地表に向かって引き摺り下ろす――今までのゲッターD2ならばそれは得策だったが、今のゲッターD2にそれは悪手だった。

 

「オープンゲットッ!!!」

 

ゲットマシンに分離し触手による拘束を回避し、ゲットマシンは機首を下にして急降下する。

 

「チェンジッ!! ライガァアアアアアアア――ッ!!!」

 

今までに無い俊敏な動きでライガー号・ポセイドン号・ドラゴン号の順番に合体しゲッターライガー2へと姿を変えるとドリルを下にしインベーダーへと突撃する。

 

【シャアアアアッ!!!】

 

だが複数のインベーダーが合体した巨大インベーダーは触手の壁を作り、網目状の触手でゲッターライガー2を捕らえようとする。

 

「どこを見てる! オイラはここだぜッ!!!」

 

【ギッ!? ギギャアアアアアアッ!!!】

 

ライガー2の姿が掻き消え、背後からドリルアームで貫かれたインベーダーが苦悶の声を上げる。だがライガー2の攻撃はこれに留まらず巨大インベーダーを取り囲むように無数のゲッターライガー2がその姿を見せる。

 

「ドリルミサイルッ!!!!」

 

全方位からのドリルミサイルに全身を貫かれ巨大インベーダーは身体を維持出来ず、その身体を液状へと変え地中へと逃亡を図る。

 

「オープンゲット! チェンジッ!! ドォォラゴォォオオオンッ!!!!」

 

だがそれよりも早くオープンゲットからのドラゴンへの再合体を果たしたゲッターD2の頭部から放たれたゲッタービームがインベーダーが隠れようとした亀裂に炸裂し、インベーダーは再度苦悶の声を上げて翼を生やした姿へと変異し上空へと逃れる。

 

「オープンゲットッ!!! チェンジポセイドンッ!!! くたばりやがれえええええッ!!!」

 

だがそれよりも武蔵の方が圧倒的に早かった。飛行型へ変異したインベーダーの上からストロングミサイルを脇に抱えたポセイドンが急降下し、ゼロ距離で起爆させ巨大インベーダーを消し飛ばすと同時に再びオープンゲットし、煙を突っ切って姿を現す。

 

「チェンジッ!! ドラゴォォオオオンッ!!! ダブルトマホーク……ブゥウウウウメランッ!!!!」

 

身体を大きく逸らしながら投げ付けられたダブルトマホークはゲッター線の竜巻となり、空を飛び交うインベーダーとアインストを薙ぎ払いながら百鬼帝国とぶつかった事で半壊しているメタルビースト・ポセイドンへと向かった。

 

【ギ、ギギャアアアアアアッ!?】

 

全身を切り裂かれたメタルビースト・ポセイドンは断末魔の悲鳴を上げながらゲッター線の光に包まれ消滅する。

 

『圧倒的だな……今の内に撤退するッ! 急げッ!!』

 

『シャイン王女、武蔵の事を考えるなら早く避難を』

 

『え、ええ! 分かりましたわ!』

 

『お前も来い、ユウキ』

 

『了解』

 

『殿は私が務める! 早く下がれ! 近くにいれば武蔵の邪魔になる!』

 

圧倒的な力を持つゲッターD2に注意が集まり、これが無事に全員が生きて撤退する最後のチャンスだと判断したイングラム達は次々に帰還する。その姿を確認した武蔵はゲッターD2を操り、メタルビースト・ポセイドンを撃破し戻って来たダブルトマホークを両手に握らせるとまるでワープしたかのように一瞬姿を消した。

 

 

 

 

『……これはこれはお久しぶりですの』

 

「おう、また会ったな」

 

『む、武蔵……すまない……助かった』

 

「いいっすよ、それよりキョウスケさん達を頼みます。オイラはこいつを何とかするんで」

 

ペルゼイン・リヒカイトにトドメを刺されそうになっていたヴァイサーガの前に割り込んだゲッターD2はダブルトマホークで鬼菩薩を受け止め、ラミア達に逃げるように声を掛ける。

 

『んー年貢の納め時かしらねぇ』

 

「それなら投降しちゃったらどうです?」

 

『それもありかもねえ……ま、命あっての物種って言うしね。助けてくれてありがとね~ほら、行くわよ。エクセレン』

 

『え? マジで手伝ってくれるの?』

 

『ここで見捨てたら私武蔵に見捨てられるでしょ? まだ死にたくないのよね。私』

 

半壊してはいるがまだ飛行能力の残っているヴァイスリッター改とヴァイスセイヴァーが大破しているアルトアイゼンを両脇から抱え、先頭をヴァイサーガが守りながらハガネへと帰還する。

 

「追わないのか?」

 

『……私は馬鹿ではありませんからね。ここで下手に手を出せば死ぬのは私ですのよ』

 

「そうかい、そいつは正解だなッ!!!」

 

ペルゼイン・リヒカイトの方を向きながらも、片手でダブルトマホークを背後に向けて振るったゲッターD2の後で強烈な金属音が響き渡る。

 

『ぬううッ!! おのれッ!』

 

大剣をダブルトマホークで両断され、そのまま肩に命中したダブルトマホークの一撃で地面に叩き付けられたツヴァイザーゲインはあちこちから火花を散らし、ダブルトマホークが命中した肩はそのまま拉げて少なくない損傷を受けていた。

 

「不意打ちはオイラにゃ利かないですよ、ヴィンデルさん」

 

必中を確信した転移による強襲を仕掛けたツヴァイザーゲインを目視する事無く迎撃したゲッターD2。豊潤なエネルギーを得たゲッターD2の能力は格段に上昇しており、転移による強襲にもタイムラグなしで反応する事が出来ていた。

 

「これ以上やるって言うなら……命を奪う事になるぜ」

 

『……良いだろう……今は引いてやる……だが後悔する事になるぞ、私の命を奪わなかった事をな……』

 

トドメを刺さなかったのは甘さではない、ツヴァイザーゲインの再生能力、そして転移能力を加味すれば武蔵と言えど其方に集中する必要がある。ツヴァイザーゲインに集中出来るのならば武蔵はここでヴィンデルを殺す事も当然視野に入れることが出来たがそれが出来ない理由があった。

 

『……やっぱり上手く行きませんのね』

 

「そういうこった。どうするよ、オイラとやるのか?」

 

ペルゼイン・リヒカイトに隙を見せるのを嫌い、ヴィンデルを撤退させたに過ぎない。力関係はほぼ均衡しており、隙を見せるのを最小限にするにはこれしかなかったのだ。

 

『……いいえ、止めておきますわ』

 

そして今度はペルゼイン・リヒカイトとアルフィミィを相手に戦うつもりだった武蔵だが、アルフィミィは驚くほどあっさりと撤退を選択した。

 

『……では御機嫌よう。またお会いしましょうですの』

 

溶けるように消えていくペルゼイン・リヒカイトに拍子抜けした武蔵だが、これでひとまず全員撤退させれたと安堵した……安堵してしまった。

 

『ベーオウルフウウウウッ!!!!』

 

『アクセル隊……うぐうッ!?』

 

『キョウスケはやら……きゃああッ!?』

 

アルフィミィに心を覗かれ半狂乱状態のアクセルは本能……いや執念に従いアルトアイゼンへと突撃を仕掛けた。ソウルゲインに気付き迎撃に出たヴァイサーガの五大剣が胸部に突き刺さっても、お構いなしに突進しヴァイサーガの顔面に左拳を叩き込みそのまま殴り飛ばし、キョウスケを守る為オクスタンランチャー改を盾にし割り込んだヴァイスリッター改に向かって突き出したままの左拳を開き、青龍鱗を放ちヴァイスリッター改を弾き飛ばす。

 

『貴様はここで死ねえええええええッ!!!』

 

ヴァイスリッター改が弾き飛ばされた事でアルトアイゼンを支えきれなくなったヴァイスセイヴァーが倒れ、アルトアイゼンが一瞬宙に浮いた。その一瞬で脚部を崩壊させながら踏み込んだソウルゲインの回し蹴りがアルトアイゼンを捉える。

 

『キョウスケェ!!!』

 

アクセルの血を吐くような叫びとエクセレンの悲鳴に続き強烈な破砕音が響き振り返った武蔵の視線の先には、ソウルゲインの左足回し蹴りを辛うじてリボルビングバンカーで防いだ物の天高く蹴り上げられたアルトアイゼンの姿があった。

 

「ちくしょうッ! しくじった!!!」

 

アクセルが意識を失い、ソウルゲインが動く様子がないので後回しにしたのが裏目に出た。慌ててソウルゲインを止めに入ろうとした武蔵だったが、距離が余りにあり過ぎた……後コンマ1秒か、2秒……瞬きほどの時間があれば埋めれた時間だがアルフィミィを警戒し、アクセルを警戒していなかった武蔵には埋めきれない時間だった。

 

『うおおおおおッ!!!』

 

跳躍し雄叫びと共に振り下ろされた拳がアルトアイゼンの頭部を打ち砕き、コックピットのほんの少し手前で停止しソウルゲインの瞳から光が消えた……本能で動いていたアクセルの限界が来たのだろうが、それに安堵している時間はない。武蔵は即座にキョウスケの救出に向かおうとしたが強烈な敵意を感じてその足を止めた。

 

「まさか……ッ! 嘘だろッ!?」

 

虚空に黒い穴が空き、そこから黒いコールタールのような物が零れ落ち、アインストとインベーダーが融合したロスターがその姿を見せる。

 

「誰でもいい! キョウスケさん達を回収してくれッ!!!」

 

『俺が行くッ! 武蔵! お前はあれを何とかしろッ!!!』

 

『くそがッ! こんなタイミングで出てくるなッ!』

 

武蔵の叫びに応えたのはゲッターザウルスを鹵獲したラドラとボロボロだがまだ動く余力を残している轟破・鉄甲鬼を操るコウキだった。ヴァイスリッター改を轟破・鉄甲鬼が回収し、ゲッターザウルスがアルトアイゼンのコックピットブロックとヴァイサーガを回収する。ロスター出現の異様な雰囲気の隙を突いてスレードゲルミルがソウルゲインとヴァイスセイヴァーのコックピットを回収する姿が見えたが、武蔵にそれをとどめている時間はなかった。

 

「フルパワーだッ!!! ゲッタァアアアアアア……ビィイイイイイムッ!!!!」

 

今までの比ではない破壊力を秘めたゲッタービームが空間の裂け目に向かって放たれる。

 

「マジかよ……ッ! これでもパワーが足りないのかッ!!」

 

紛れも無く今出来る最大攻撃だった。だが時空の境目はいまだ健在であり、このままロスターが現れれば皆発狂する。だが時空の境目を消滅させる術がないと焦る武蔵の耳をテツヤの怒声が打った。

 

『武蔵!! トロニウムバスターキャノンを撃つッ!! 離れろッ!!!』

 

「テツヤさん!? 分かりましたッ!!!」

 

翼を広げゲッターD2が漆黒の裂け目から離れると同時にトロニウムバスターキャノンが時空の境目に向かって撃ち込まれる。

 

(駄目だ、パワーが足りないッ!!)

 

トロニウムバスターキャノンはたしかに時空の裂け目に届いていたし、ロスターを消滅させていた。だがそれでも力が足りていない、まだ漆黒の裂け目から這い出ようとしている悪意を押し戻すには力が足りないのを武蔵は感じ取っていた。

 

「……なんだ……ありゃあ……なんだ……なんだ……これは……オイラは……「俺」は……こんなの知らないぞ……」

 

漆黒の穴を内部から突き破ろうとする腕を見た瞬間――武蔵の脳裏に数多の光景が浮かんだ……知らない、知らないはずなのに……武蔵はそれを知っている……ずっと……そう、ずっと前から知っているのだ。

 

「こいつをッ! こいつらをこの世界に踏み入れさせるわけには行かないッ!!」

 

武蔵ではない「武蔵」がその存在を知っている……決して存在してはならないその存在を知っている……。

 

『不進化態ッ!!! ここはてめえらの来る世界じゃねぇッ!!!!』

 

発せられた声は紛れも無く武蔵のものであったが、武蔵よりも若く感じる声だった……武蔵も「武蔵」も「ムサシ」も「634」も知っているのだ。この「存在」だけは許してはいけないのだ。ゲッター線の進化に最も深く関わり、そしてその進化の根底に存在する筈でありながらまったく異なる道を歩んでいる武蔵だから、本来存在しない記憶を……はるか過去の記憶を時空の境目に見たのだ、夢か現は分からない……だが確かに武蔵は漆黒の空間の裂け目の奥に見たのだ。

 

生物と機械の中間のようなゲッタードラゴンを……

 

百鬼獣とメカザウルスに似ているがより生物的な奇怪な化物を……

 

頭部と両腕だけが完全体であり、それ以外は驚くほど貧相な何かを……。

 

【『「ぅ……うぉおおおおおおおおおお―――ッ!!!!」』】

 

一瞬のフラッシュバックだったが故に、その光景は幻のように消え去った。だが分かっているのだ、今開いたこの空間の裂け目が開いてしまえば、その奥にいる何かがこの世界に現れてしまえば……取り返しの付かない事になると本能で武蔵は悟ったのだ。武蔵1人で出来るかどうかは分からない、だが今のゲッターD2ならば出来るかもしれない……そんな一筋の希望に武蔵は縋るしかなかった。

 

「オイラ1人じゃゲッターの力は完全には引き出せねぇッ!! だけど諦めてたまるかよぉッ!!!」

 

3人揃っていない今の状態では完全な力は引き出せない、だが今1番ゲッターのパワーを引き出せるのはこれしかなかった。旧西暦での真ドラゴンの内部での戦いで真ゲッターが見せた技に武蔵は賭けた。

 

(……リョウ……隼人……弁慶……オイラに力を貸してくれッ!!!)

 

「ストナァァアアアアアアアア――ッ!!!」

 

頭上で手を合わせたゲッターD2の間に光り輝く球体が作り出され、それは徐々に光を高め巨大化する。

 

(ぐっ……だ、駄目だ……コントロールしきれないッ!!!)

 

その圧倒的なエネルギーを押さえ込むには武蔵1人では力が足りなかった。仮にストナーサンシャインを作る事が出来たとしても狙った場所に打ち込めるか、いや、それ以前にコントロールできずエネルギーが暴発するするんじゃないかという不安が武蔵の胸中を埋め尽くした時……無人の筈のドラゴン号、ライガー号に誰かの背中が映し出された。顔は見えない、だが誰が乗っているかが武蔵には分かった。

 

「ありがとよ、兄弟……」

 

言葉は無くとも、顔は見えずとも分かるのだ……魂で繋がった兄弟を武蔵が間違えるわけが無い、消えかけた闘志が再び燃え上がり、武蔵の中の不安を打ち消す。

 

「サァアアアアンッ!!!!」

 

頭上から胸の前に両腕が動かされ、手の間のエネルギーは赤く輝き、周囲のエネルギーを吸収しながらその輝きを強くし、ゲッターD2を光り輝かせる。

 

「シャィイイイインッ!!!!」

 

ゲッターD2が腕を突き出すと限界まで高められたエネルギーが凄まじい勢いで射出され時空の裂け目に飛びこみ、今正に空間を引き裂きこの世界に現れようとした生物のような意匠のゲッタードラゴンの頭部を消し飛ばしながら、その存在を再び時空の境目の奥深くへと弾き飛ばす。

 

【ギギャアアアアアア――ッ!!!!】

 

断末魔――いやよくも邪魔したなという怒りに満ちた咆哮が響く中、ストナーサンシャインの圧倒的なエネルギーは這い出ようとした異形――不進化態もろとも時空の境目内部から空間を焼き尽くし、ラングレー基地の上空にガラスの罅割れのような亀裂が走る。

 

「離脱だッ!! 巻き込まれるぞッ!!!」

 

武蔵の一喝と共にハガネ、クロガネ、ヒリュウ改、シロガネはラングレー基地を離脱し、その後を追うようにゲッターD2も離脱し数秒後凄まじい爆発がラングレー基地跡地を焼き尽くすのだった……。

 

 

 

 

第186話  進化の光 その8へ続く

 

 




今回は武蔵オンリーだったので行間を空けることで対応してみました。ゲッターチェンジアタック、ストナーサンシャインの解禁によりパワーアップですが、原作よりも酷い被害を受けプランタジネットの失敗となりました。次回は後処理の話を書いて行こうと思います。
それでは次回の更新もどうか宜しくお願いします。

追伸少しだけ宇宙最後の三分間を見たので「不進化態」をINさせました。これは良い、インスピレーションが沸いてくるのでOG外伝とかでもチラッと出しても良いかなと思っております。

おまけ

ゲッターザウルス

旧西暦から流れ着いたゲッターロボ。見かけはゲッタードラゴンの装甲を纏ったメカザウルスだが、列記としたゲッターロボである。
マグマ原子炉とゲッター炉心の二重動力であり、ゲッターD2に匹敵するパワーを持つが、メカザウルスの起動には生体パルス、簡単に言えば生命力が必要でありゲッターロボ以上にパイロットを選び、操縦系もメカザウルス基準なのでラドラ以外に乗れるパイロットが存在せずラドラの単独運用となっている。マグマ原子炉は恐竜帝国でも忌み嫌われていた地竜一族に従っていたメカザウルスの物が運用されており、強烈な自我を持ち合わせ、パイロットの闘争本能を増大させるがラドラはその肥大した闘争本能を完全に制御し、ゲッターザウルスを支配化においている。

ゲッターザウルス

HP14000(21000)
EN410(580)
運動性165(190)
装甲2200(2700)

特殊能力

オープンザウルス(確率回避)
HP回復(大)
EN回復(小)

ダブルシュテルンブーメラン  ATK3100
ダブルシュテルン ATK3500
格闘 ATK3900
火炎 ATK4200
ゲッタービーム ATK5000

フル改造ボーナス

ゲッタービームの威力+200 EN+20 全ての武器のCT率10%UP


ゲッターガリム

ゲッター2、ゲッターライガーに当る形態。メカザウルスがベースの為生物的な意匠を持ち、機械とは思えない柔軟な動きが持ち味。
両腕の爪は両方ともドリルに変形可能であり、爪とドリル、そしてスピードを生かした白兵戦に長けている。


ゲッターガリム

HP13000(17000)
EN410(610)
運動性225(255)
装甲1800(2100)


特殊能力
オープンザウルス(確率回避)
マッハスペシャル改(確率回避)
ザウルスビジョン(待機後超低確率で再行動)
HP回復(大)
EN回復(小)


爪 ATK3300
ガリムドリル ATK3600
クローミサイル ATK3800
プラズマクローハリケーン ATK4000
ガリムコンビネーション ATK4500



ゲッターメガロン

ゲッター3、ゲッターポセイドンに当る形態。下半身は鋸のような車輪、上半身は重厚な装甲を纏った重装甲形態。
ゲッター3やポセイドンのように腕が伸びたり、フィンガーネット等は搭載しておらず、重厚な装甲を生かした突撃とどっしりとした体形から放たれる安定感抜群のマグマ弾とマグマミサイルが武器。

HP13000(24000)
EN410(600)
運動性135(170)
装甲2600(3000)


特殊能力
オープンザウルス(確率回避)
HP回復(大)
EN回復(小)


ナパームシャワー ATK3000 着弾点指定型MAP
格闘 ATK3500
突撃 ATK4200
マグマ弾 ATK4500




RーSWORD・シーツリヒター


R-SWORDとアストラナガンが融合した形態。アストラナガンのフェイスパーツを仮面の様に装着し、両肩は鋭角な複数の結晶体へと変化し、両手・両足は元のR-SWORDから鋭い鉤爪を持つ装甲によって延長され、PTサイズから準特機サイズまで巨大化している。背中には特徴的なアストラナガンの翼を持ち、アストラナガンを武装のように装備した形態。R-SWORDから一転し、イングラムの武器である射撃にメインの武装を持ち、広域殲滅、面攻撃に特化している。アストラナガンのティプラー・シリンダーを稼働率20%で得ており、転移能力と時空を歪めての障壁発生能力、ゲッター合金製の装甲とゲッター炉心と機動兵器とは思えないほどに多数の能力を持つが、その存在自体が時間、次元を歪めかねないのでシーツリヒターの形態は5分が限度だとイングラムとギリアムが口にするほどである。なおシーツリヒターはドイツ語で審判の意味を持つ

イングラムの気力が150以上 そのステージで2機敵機を撃墜している場合特殊コマンド融合によりシーツリヒターへと変化する。


HP7800(10130)
EN550(750)
運動性190(270)
装甲1700(2100)

特殊能力

湾曲フィールド・G 3000以下のダメージ無効
瞬間転移 30%の確率で攻撃を完全回避
HP回復(小)
EN回復(大)


武装
フォトン・バルカン ATK3000
ラアムライフル ATK3200
Z・Oカリバー ATK3800
アトラクター・シャワー ATK4000 時機中心型MAP
T-LINKフェザー ATK4400
ガン・ファミリア ATK4900
エメトブラスター ATK5100
アキシオンスマッシャー ATK5800



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第186話  進化の光 その8

第186話  進化の光 その8 

 

ストナーサンシャインの爆心地となったラングレー基地の周辺は完全に消し飛んでいた。球体状に抉り取られた着弾地、そして突如現れた空間の境目が爆発したことで周囲は完全に更地になっていた……その光景を見下ろしているグレイターキン改も膝から下が完全に消し飛び火花を散らしていた。

 

「逃げろって言ってくれたのはいいけどよ、間に合ってねえよ」

 

武蔵の警告は一応メキボスにも届いてはいたが、ゲッター線、そしてアインストとインベーダーの影響でネビーイームへの転移は叶わず、苦渋の策で行なった短距離転移も間に合わず足を消し飛ばされた。

 

「まぁ命があるだけマシか」

 

後ほんの数秒遅れていたらメキボスも消し飛んでいた事を考えれば、機体の両足を失ったとしてもそれ以外は万全の状態であれば十分と言える。

 

「……つうか、さっきのありゃなんだ……」

 

コンソールを操作し戦闘データを呼び出したメキボスは空間の境目から顔を出している異形を見て眉を顰めた。

 

「……ドラゴン……か? いや、それにしてはこいつは……生き物くせえ……それにインベーダーとわけの分からん化物まで融合してやがるし……マジで地球はパンドラの箱か?」

 

空間が裂けるなんて事は監察官として長く活動しているメキボスでさえも初見の現象だ。その上異形の化け物があれだけ出てきたというのは、メキボスとしても看過出来る事ではなかった。

 

「真面目にこりゃ手を引くべきじゃねえか? 駄目元で提案してみるかね」

 

ゾガルとの政治闘争もあるが、これ以上深入りすれば命が無くなると悟ったメキボスは駄目元で撤退を提案してみるかと呟き、再び転移を試みるがコックピットにアラート音が響いた。

 

「……くそったれ、どうしろっつうんだよ」

 

足を消し飛ばされた事で動力系に異常が出ており、転移は勿論だが飛行にも時間制限が付きメキボスは悪態を付き、どうするかと頭を悩ませていると翼の羽ばたく音と共に百鬼獣が雲の切れ間から姿を見せた。

 

『インスペクターのメキボスだな? 大帝様のご指示により探しに参った』

 

『貴殿が望むのならば百鬼帝国に一時的に保護しても良いの事だが……』

 

『『返答はいかに』』

 

双子なのか奇妙な言い回しの鬼の言葉にメキボスは深い溜め息を吐きながら通信をONにした。

 

「そりゃ助かる。大帝様に感謝するぜ、保護を頼んでも良いか?」

 

どの道長くは飛行できない上に、地球人もこれだけの破壊があれば間違いなく調査に来る。そうなればどっちにせよ詰みなのでメキボスは半分やけくそ気味に百鬼帝国に保護される道を選んだ。

 

『御意。兄上』

 

『うむ、参ろうぞ弟よ』

 

やっぱり双子だったのかと苦笑するメキボスの乗るグレイターキンを左右から持ち上げた百鬼獣によってメキボスは百鬼帝国へと連れて行かれるのだった……。

 

 

「災難だったね、メキボス君」

 

「ええ、死ぬかと思いましたよ。助けてくれてありがとうございます(なんで俺ばっかりこんな目に合うんだよ、ちくしょう)」

 

百鬼帝国に付くなり風呂に入れ、身嗜みを整えろと拒否する間もなくスーツに着替えさせられたメキボスは、ブライと対面しながらの食事になんでだよと叫びそうになりながらも、その顔に笑みを浮かべ、ステーキを切り分けて口に運ぶが、当然味など分かるわけもない最悪の食事である。

 

「すまないね、私もこんなことになるとは思わなかったのだよ。君はちゃんとネビーイームに届けよう」

 

「助かります」

 

転移が出来ず、グレイターキン改も中破とメキボスがネビーイームに戻るには別の手段が必要であり、それが可能なのは現段階では百鬼帝国しかおらず、メキボスはブライに協力を要請するしかなかった。

 

「構わないとも、だけど私も君にもお願いがあるのだよ」

 

ブライの言葉に来たかとメキボスは身構え、ナイフとフォークを机の上においてナプキンで口を拭った。

 

「急に話を振られても困りますね。私にはそこまでの決定権はないのですから」

 

ウェンドロでは無く、百鬼帝国の力を借りなければネビーイームに帰れないメキボスに話を振ってきた。断れない条件を作り無理難題を吹っかけれては困るとメキボスが予防線を張る。

 

「そう難しいものではない、私の配下にシャドウミラーという一団がいるのだよ。少々功を急ってとんでもない暴走をしてくれたが……彼らはとても優秀なのだよ」

 

功を焦って暴走したと聞いたメキボスは机を下から蹴り上げて机の上の料理を床にぶちまける。その音に外で待機していた鬼達が雪崩込んでくるがブライの下がれという命令でメキボスを睨みながらも引き返す。

 

「あんな奴らを抱え込んだら厄種だろうが、優秀だとしてもいらねえよ」

 

「ふっふ……歯に衣を着せぬその言いぶりの方が良い男だぞ。メキボス君」

 

「うるせえよ。あいつらのせいで状況が最悪の方に転がったんだぞ、そんな奴らを預かるなんてごめんだ」

 

ネビーイームに帰れないとしてもブライの要求はメキボスにとって聞き入れる事が出来無い内容だった。シャドウミラーの攻撃でアインストが出現し、そしてインベーダーが現れた……ラングレーでの戦いを悪い方向に転がしたシャドウミラーはメキボスからすれば憎い相手と言える。

 

「ではこうしよう、ネビーイームに預かってくれとは言わん。君達が見極める期間を設けて、その上で協力するかどうかを考えて欲しい」

 

「……後から撃つような相手の何を見極めろと言うんだ? 冗談きついぜ」

 

「その件に関しては龍王鬼が制裁を加えに行っている、それ相応の罰は背負ってもらうさ。返答はすぐでなくても構わないが「YESと言わないと俺をネビーイームに帰さないってか?」……ふっふ、その通り。君は人質にはならないと言うのは分かっている、断られると処分しなければならないのでね、出来れば頷いてくれると私としても嬉しいよ。今はとりあえずゲッターの攻撃で音信不通と言う事にしておいてその間にしっかりと見極めて欲しい、勿論お礼はするさ」

 

机の上に弾かれて来たのは1枚の写真――それに目を通したメキボスは目を見開いた。

 

「ゲッターロボGだと……? この数は……量産機か」

 

ハンガーに固定されている数体のゲッターロボGはメキボスにとって信じられない物だった。

 

「その通り。それはゲッター炉心を搭載していない量産機だが……構造はゲッターロボGと同じ、完全なレプリカと言える。そしてそれを操縦出来るであろう特別なバイオロイドも用意し、シャドウミラーとの共闘も考えてくれるのならば炉心も搭載しよう。最悪それを持ち帰れば君達のゾヴォークでの地位も安泰だろう?」

 

「……少し考えさせてくれ」

 

「構わないとも。でも私も忙しくてね、2日は待とう。それ以上は待てないとだけ言っておこう」

 

地雷を見せ、妥協点も与え、そして喉から手が出る程に欲しいものを見せ付ける……断る事の出来ない案件に深い溜め息を吐きながらメキボスはブライが呼んだメイド服姿の鬼に連れられて客間へと足を向け、用意されていた贅を凝らした一室で不機嫌そうに横たわり目を閉じるのだった……。

 

 

 

 

ラングレー基地を強襲し戦況を最悪の物にしたヴィンデルを待ち構えていたのは怒りに満ちた龍王鬼であり、面を貸せと言う言葉に逆らう事もできず龍王鬼に連れ出されたヴィンデルは龍王鬼配下に囲まれ、逃げることの出来ない円形のリングで龍王鬼とタイマンをすることになっていた。

 

「うおらあ!!!」

 

龍王鬼の雄叫びと共に振るわれた拳をガードするが、人間の力で鬼の攻撃をガード出来るわけが無く、ボールのように弾き飛ばされ回りの鬼に受け止められ、再び龍王鬼の前に出されヴィンデルは再び殴り飛ばされる。

 

「……これ処刑じゃないの?」

 

声も無く、いやとっくの昔に意識を失っているヴィンデルを嬲っているようにしかレモンには見えず、隣に居る虎王鬼にそう尋ねる。

 

「けじめは大事よ、いらない被害を出してくれたしね。これに懲りたらもうあんな事はしないことね」

 

温厚で人道派だとしても鬼は鬼なのだ。厳しい縦社会で出来ており、龍王鬼の面子を潰したヴィンデルへ制裁を行わなければ自分の立ち位置も危うくなる……力とカリスマ性で統制されている龍王鬼配下の事を考えればけじめは必要であり、この処刑にも等しい処罰はヴィンデルのやった事を考えれば殺さないだけ十分に甘い処罰と言えるだろう。

 

「殺さないのは温情よね?」

 

「そうね、一応はそうなるわ。死んでなければ傷は治るしね、ほら、レモンも行くわよ」

 

これ以上は見ない方が良いと言外に言う虎王鬼に連れられ、レモンは生々しい打撃音に髪を引かれながらその場を後にする。

 

「治療よね?」

 

「治療ね」

 

「……なんで全部脱ぐの?」

 

「ここは女しか居ないから大丈夫よ?」

 

「……そういう問題じゃないんだけどなあ……」

 

虎王鬼に連れられて来た医務室に来たレモンだが、そこで全裸になるように指示され培養液に満たされたプールに身を沈めるように言われて不安そうな笑みを浮かべる。

 

「人間は水の中で呼吸できないんだけど」

 

「大丈夫鬼も出来ないわ、酸素を供給してくれるマスクをつけてプールに入ってね」

 

「入らないと駄目?」

 

「跡が残るわよ、それにあんな訳の分からない化物の思念波を受けてるんだから念には念を入れておきましょう」

 

空間の裂け目から零れ落ちたコールタールのような化物の思念により、レモンも錯乱状態に陥っていた。その事を心配してくれている虎王鬼にNOとも言えずレモンはプールの中に足を踏み入れた。

 

「……なんか思ってたのと違う」

 

「見た目よりさらさらしてるでしょ? 最初はぬるぬるしてたんだけどね、色々と改良したのよ、香りも良いでしょ?」

 

「……見た目と香りが合致しないけどね」

 

見た目は青紫の毒々しい色なのに香りは柑橘系の爽やかな物でレモンはなんとも言えない表情を浮かべ、虎王鬼は分かる分かると苦笑する。

 

「まぁゆっくりすると良いわ、プールの中に沈むと眠くなるから少し長めに寝ると良いわね。最近寝不足でしょ?」

 

「……大丈夫? 溺れ死なない?」

 

「大丈夫大丈夫、ほらマスクを付けて頭まで潜りなさいな。あたしはここで見てるから」

 

大丈夫と言われても水の中に潜って眠ると言う事に不安を抱くのは人間として当然の事だが、断れる雰囲気ではないと悟りレモンは口元にマスクを持って行き……一瞬手を止めた。

 

「アクセルは?」

 

「もう沈めてあるわ。ヴィンデルも後で沈めるし」

 

「その言い方だと死にそうで怖いわね……まぁ女は度胸って言うし、やるけど」

 

アクセルは意識不明で、ヴィンデルは物理的に意識不明にされてからに対してレモンは意識がある状態でだから2人よりも遥かに抵抗は強いが、ここまで来たら脅えている場合じゃないと水の中に頭まで勢い良く沈んだ。

 

(あら……)

 

プールの中は思ったよりも温かく、目を開いていても痛みは殆どない。リラックスした状態で自然な浮力を得て浮かぶ事が出来る、その上水が温かくまるで母親に抱き締められているような感覚があり、脅えるまもなくレモンの意識は闇の中に沈んだ。

 

「……さてと、レモンには悪いけど少し手を加えさせてもらうわよ」

 

何故レモンがヴィンデルに従がうのか……レモンは恩があると言っていたがそれ以上の何かがあると虎王鬼は感じていた、だから無理に理由をつけて培養液の中で眠らせ、レモンの状態を確認する事にした虎王鬼は絶句した。

 

「そう……そうだったのね……」

 

人に言うべきことではない、己の中で留めておくべき事実を知り、その事実がレモンがヴィンデルに協力している理由だと虎王鬼は理解し、レモンの優秀な頭脳ならばヴィンデルの進む道に破滅しかないと分かっている筈だ。それなのにレモンがヴィンデルに従う理由を理解した虎王鬼は培養液の設定をするコンソールに指を走らせた。

 

「友達だからね、これはあたしから貴女への贈り物よ」

 

虎王鬼の贈り物にレモンが気付くかは定かではない、虎王鬼もそれを口にするつもりはないからだ。ただレモンがそれに気づいた時、虎王鬼に感謝するのか、それとも憎むのか……だが虎王鬼の贈り物はレモンの閉ざされた道を開く物である事は間違いなく、友人を助けたいと思う虎王鬼の嘘偽りのない気持ちの現われなのだった……。

 

 

 

 

ラングレー基地から命からがら逃走に成功したハガネ、シロガネ、ヒリュウ改、クロガネの4隻は平常時とは比べ物にならない低速で航行を続けていた。

 

「……敵機の追撃はあるか?」

 

「ありません、今の所はアンノウン及び友軍の熱源は感知されていません、転移反応もありません」

 

この場でのアンノウンが示す言葉は百鬼獣、インスペクター、アインストのいずれかを差していた。ノイエDCは百鬼帝国に切り捨てられ壊滅し、残りの敵として明確にその姿を確認出来ているのがその3つの陣営のいずれかだった。

 

「……そうか、友軍機の反応もないか……ふー」

 

背もたれに背中を預け深い息を吐いたリーの顔には濃い疲労の浮かんでいる。ラングレー基地から逃走して5時間――リーは自身の身体に鞭を打って指揮を執り続けていたが、それすらも限界が近いのはブリッジクルーの誰の目から見ても明らかだった。

 

「リー艦長、少しお休みになられてはどうですか?」

 

「いや、まだだ。レフィーナ中佐が休息を終えるまでは私は休むわけにはいかん……今は友軍機の反応に細心の注意を払え」

 

「はい、救援「ではない、我々を処理しにウルブズが来る可能性を最大限に警戒せよと言っているのだ、最悪敵勢力と判断しても構わない」……リー艦長、それは考えすぎでは?」

 

5時間過ぎても現れない友軍に対してリーは敵勢力として考えても構わないと断言し、レーダーを確認していたクルーが考えすぎでは? と告げるがリーは沈鬱そうに首を左右に振った。

 

「プランタジネットが罠である事は我々も想定していた。だがそれでも少数の友軍は来ると思っていたがそれすらもない、上層部にとって我々は目の上の瘤だ。まともに戦闘できる機体が殆どない今――プランタジネットの失敗と共に轟沈された方が都合が良いと考える者がいてもおかしくはない」

 

L5戦役の英雄とされてるハガネ、ヒリュウ改、そしてそれと行動を共にするシロガネもまた今の上層部にとって都合のいい存在ではない、何か理由をつけて処分される可能性をリーは危惧していた。

 

「鬼は成り変りの技術を持つ、上層部に入れ知恵をする者がいないとは言い切れんのだ……今の我々の味方はこの場にいる4隻のみと思え」

 

リーの言葉を信じたくないという表情をしながらもリーの考えも考えも分かるのか、ブリッジクルーは沈鬱そうな表情で了解と小さく呟いた。

 

(……だが正直現状では轟沈は時間の問題だ。どこかで停泊し修理をしなければ……)

 

インスペクター、アインスト、シャドウミラー、百鬼帝国、インベーダーとの連戦でボロボロであり、ダイテツを始めとし、負傷者も多い……まともに部隊を運用出来ない今ハガネ達を潰そうと考える者は間違い無く居るとリーは考えていた。

 

「各艦に連絡を入れてくれ、進路について話し合いたい」

 

インスペクターが制圧していたので北米に友軍基地はなく、停泊出来るポイントも決して多くないがそれでも4隻が停泊出来るポイントはある……とにかく今はどこかに停泊する必要がある。しかしただ停泊するだけでは駄目だ、敵の襲撃に備える事が出来、動力を休ませる為に着水出来る場所となるとかなり限られるが、リーには候補があった。

 

『リー中佐、どうしましたかな?』

 

『敵の熱源を感知しましたか?』

 

『す、すいません、遅れました、どうかしましたか?』

 

ヒリュウ改のショーン、クロガネのリリー、それから少し遅れて臨時のブリッジクルーとして行動してくれているツグミがその姿を見せる。

 

「進路についてのご相談です、私はスペリオル湖を目指すべきだと考えているのですが如何でしょう?

 

現在地から決して近いわけではない、だがスペースノア級が停泊出来るポイントとなるとスペリオル湖しかないとリーは考えていた。

 

『スペリオル湖ですか……ふうむ……悪くないですな』

 

『問題はそこに向かうまでに敵機に補足されないかですが……クロガネにはまだ出撃可能な機体が残っています、偵察に向かってからというのはどうでしょうか?』

 

「感謝します、リリー中佐。疲弊しているのは私も承知ですが偵察隊を編成していただけますか?」

 

『構いません。すぐに出撃準備をして貰います、戻ってくるまでの間少しリー中佐も休んでください、酷い顔をしていますよ』

 

『ええ、その方が宜しいかと、これから忙しくなるのです。今の内に休んでいてください、肝心な時に倒れられては困りますからな』

 

「……そうですね、お言葉に甘えさせてもらいます」

 

ショーンとリリーの2人に休めと言われれば流石のリーも突っぱねる事が出来ず、少し休ませて貰うと口にしたその時だった。

 

『ちょっと待ってください! ダイテツ中佐とキョウスケ中尉のオペが終了したそうです! 予断は許されないですが一命は取り留めたそうです!!』

 

最も重傷だったダイテツとキョウスケの2人が命を取り留めたという報告は絶望の闇の中に居るリー達にとって、明るい一筋の光となるのだった……

 

 

 

 

ダイテツとキョウスケが一命を取り留めたという明るいニュースは包帯塗れや消毒液の匂いに塗れた武蔵達にとっても喜ばしいニュースだったが、喜んでもいられない。状況はこうしている間も変化し続け、その中でも最後に出現した異形のドラゴンに関しての緊急会議が行なわれていた。

 

『不進化態ッ!!! ここはてめえらの来る世界じゃねぇッ!!!!』

 

戦闘記録に残されていた武蔵の叫び声と一瞬だけ姿が確認された生物のようなゲッタードラゴンの映像を見て武蔵はうーんと唸る。

 

「覚えていないのか?」

 

「全然、全く覚えてないっすね……つうか、オイラ。俺とか言わないし、それにイントネーションもなんか違いますよ」

 

ギリアムの問いかけに武蔵は全然覚えてないと言って首を左右に振る。

 

「確かにあの一瞬の武蔵君はどこかおかしかった」

 

「声の感じも違っていたしな……」

 

武蔵である事は間違い無いのだが、どこか武蔵との違いがあった。言うならば……

 

「誰かが武蔵様を真似ているような……そんな感じが致しましたわ」

 

「確かに……私もそう感じた、ユーリアは」

 

「おかしな話だが、私もそう思ったな。ほかには?」

 

シャイン達の問いかけに話を聞いていたカチーナ達やマサキ達が手を上げる。それを見て武蔵は手にしていたマグカップを机の上においた。

 

「マジで? オイラ本当に何も覚えて無いんだけど……」

 

だが武蔵にその記憶は無く、目の前の映像を見ても首を傾げる事になる。だがストナーサンシャインを放つ前後の武蔵は全くの別人と言っても良かった。

 

『だが気になるのはそこではない、不進化態……あれがなんなのかだ』

 

生物のようなゲッタードラゴン――その目は憎悪で濁り、歪んでいた。生物でありながら無機物という印象を受ける謎の存在――「武蔵」が言う不進化態とはなんだったのかという疑惑が残る。

 

「龍虎王が目覚めた時に地下から現れた壊れたゲッターロボと関係しているって言うのはどうですか?」

 

「確かにその線が濃いが……確かクスハ達は龍虎王の言葉を聞いていたんだったな、なんと言っていたか思い出せるか?」

 

ギリアムの問いかけにクスハとブリットは頷き

 

「……進化の光に選ばれず、この地に残された者……皇帝に見初められなかった者達の骸と言ってました」

 

「そして俺達の使命は百邪を退けると共に今代の進化の使徒が誤った道へ進まんとした時、それを止める事だと」

 

骸……確かにあの異形のドラゴンに生気は無く、恨みと憎悪を感じさせる亡者のような印象があった。しかし進化を止めるという言葉がどういうことだ? とギリアム達やモニター越しのビアン達が首を傾げる中、武蔵だけは納得したように頷いた。

 

「多分あれだ。あのゲッター線の光の中でオイラ、早乙女研究所にいたんだよ、あのまま研究所の中にいたら……多分ゲッター線に取り込まれてたんじゃないかなあ……」

 

心地よい夢の中で眠りそうになっていたという武蔵の言葉に話を聞いていたギリアム達だったが、その顔は当然険しい物になる。

 

「ゲッター線は何を考えていると言うんだ……」

 

「本当にそれだぜ、ギリアム少佐。あのままだったら武蔵は中に乗ったまま繭になってたんだろ? 洒落になんないだろそれ」

 

無機物が繭を作る事が進化だというのならば、武蔵もまたそれに巻き込まれて共に繭になっていただろうし、皇帝とやらに選ばれなければあの時空間の裂け目から顔を出した異形のゲッタードラゴンか、地下に出現した亡者のようなゲッターロボに成り果てていたと可能性もある。

 

『ゲッター線に我々は助けられた、だが……その本質を我々は理解しなければならないのかもしれないな……』

 

意志を持つエネルギー……ゲッター線。今まで幾重となく助けられてきたが、ラングレー基地での戦いを経てビアン達の中にゲッター線とは何なのか、そして何をしようとしてるのかと言う疑問が生まれるのだった……。

 

 

第187話  敗走 その1へ続く

 

 




と言う訳で今回の話はここで終わりになります。全員ボロボロで動ける機体も少ないという状態でゲッター線とはという疑問にぶち当たったビアン博士達ですね、次回は今回よりも更に掘り下げて戦いの後の話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうか宜しくお願いします。 


PS

今回の迎撃戦は割りと簡単だったので50万いけました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第187話  敗走 その1

第187話  敗走 その1

 

 

スペリオル湖へと進路を向けるハガネ、ヒリュウ改、シロガネ、クロガネの4隻の戦闘母艦の動きは極めて緩やかな物だった。百鬼獣とシャドウミラーの追っ手はいまも放たれており、負傷者が多く、機体の修理も必要と戦闘を行なえる状況ではないのは明らかでステルスシェードを展開し、動力が機能停止しない最低にまで絞り補足されるリスクを可能な限り低下させての行軍であり、速度を上げられないという焦り、敵機に補足されるかもしれないという恐怖の中、精神を削りながらブリッジ勤務を行なっていた。

 

「……スペリオル湖まで後4時間か……」

 

本来の速度で考えれば信じられないほどの低速での移動にビアンは小さく溜め息を吐いた。だが現状最善である以上文句は言えない、むしろここまで敗走しておいて死者がいないことが奇跡なのだ。これ以上を望むというのは明らかな高望みだろう……。

 

「ビアン、大丈夫か?」

 

「グライエンか……疲れはあるが問題はない、それより何のようだ? まだ交代の時間ではない筈だが……」

 

「そうは言ってもだ、敗走してからずっとブリッジにいるだろう。少し休むべきだ」

 

オートクルーズ機能があるからこそ最低限のクルーで運用する事が可能だが、クルーへの負担は必然的に大きくなる。ビアンの疲労を考え休めと言いに来たグライエンにビアンは肩を竦めて苦笑する。

 

「……お前にそこまで言われるほどに疲弊しているか」

 

「酷い顔をしているぞ、まだこれからなのだ。今は無茶をするときではない、先に休息に入ってくれていたバン大佐がもうじきブリッジに上がってくる手筈になっている」

 

「分かった……それならば休ませてもらう事にしよう」

 

バン大佐ならば自分の代わりに指揮を取れると判断したビアンはやっと艦長席から腰を上げて立ち上がる。だが疲労と疲弊によってふらつくビアンをグライエンが慌てて支える。

 

「大丈夫か!?」

 

「……流石に少し疲れたな……少しは明るいニュースもあれば話は違うんだがな」

 

ダイテツとキョウスケが一命を取り留めたと言っても予断を許さない状況だ。それに出撃出来る機体は極僅かしかなく、発見されれば誰かを犠牲にしなければ生き残れないと言う状況は精神的な疲弊を蓄積させる。

 

「いやすまないな、泣き言だった」

 

「構わない、弱音を吐くなとは言わんさ、とりあえず今は休め、目が覚めれば少しは状況が好転しているかも知れん」

 

根拠も何もない、正直気休めに等しいグライエンの言葉だ。それはビアン達も分かっているが、根拠のない希望に縋りたくなるほどにビアン達は追詰められていた。

 

「そうだな……それにまだ私達にはやらねばならん事がある」

 

「出来ればもっと効果的な場面で札を切りたかったが……そうも言ってられないからな」

 

偽のビアンを捉えてから鬼の存在を公表したかったビアン達だったが、ここまで大々的に百鬼帝国が動き始めたことを考えれば悠長な事を言っている時間はない。

 

「ビアン総帥、休んでください。ここは私に」

 

「すまないバン大佐、後は頼む。グライエン、悪いが肩を貸してくれ」

 

「構わんさ、こんな肩で良ければ幾らでも貸そう」

 

もう歩くのも辛い様子のビアンにグライエンが肩を貸してブリッジを後にする。

 

「流石グライエンだ、リリー中佐でなくて良かった」

 

「それは本人には言わない方が良いな、彼女はとても生真面目だが融通が聞かないからな。それより行こう。時間がない」

 

私室ではなく資料室に向かうグライエンにビアンは笑みを浮かべるが、グライエンはふうっと業と聞こえるような大きな溜め息を吐いた。

 

「協力してくれるんじゃないのかね?」

 

「どうせ1人にしても作業するなら1人より2人の方が早い、部屋で倒れられては困るのだよ」

 

「なら2人より3人だね、僕も協力しよう」

 

「ブライアン……出来るのかね?」

 

「出来るともさ、人の心を動かす演説は僕の得意分野だよ。ビアンのジャミングだって完璧じゃない、百鬼帝国に先に動かれると面倒だ」

 

先手を打ち流れを作る、その為の衛星へのハッキングであり全世界放送を妨害しているうちに百鬼帝国の存在を明らかにする。異星人の襲撃に未知の敵勢生物がいる中での公表はリスクの方が大きい、だが連邦に強い発言力を持つブライが動く前に手を打たなければ、今度は分断された上で罠の中に誘い込まれれば、次も全員が無事などという奇跡が起きるとは思えない。

 

「主導権を握らなければならない、連邦自体も少し分を弁えさせておくとしよう」

 

「OK-僕も乗るよ、最近の上層部は随分と好き勝手してるしね、1度凹ませておくとしよう」

 

「仕方あるまい、それが1番堅実な一手だからな」

 

連邦に泥を被せる事になるが、泥を被るのは一部の上層部とそいつらにとって都合の良い部隊だけだ。

 

「こういう時にシャイン王女がいてくれて良かったとおもうよ」

 

「一応彼女、国家元首なんだけどね……なんで戦場に居るのさ」

 

「あれだ、恋する乙女は止められんという事だ」

 

上層部は握り潰しに入るだろうがシャイン王女がいることで発言の信憑性は著しく高まり、そしてそこに武蔵も加わる事で武蔵の事を隠蔽していた上層部へヘイトが向かうことになるだろう。

 

「連邦軍を敵に回す事になるけど良いのかい?」

 

「元から敵だ、信用していない」

 

「余りにもハガネの戦力を削ごうとしているからな、上層部は敵認定して良いだろう」

 

呆れた顔をしているブライアンだが、ビアンとグライエンの気持ちも分かるので2人を止める事は無く2人と共に資料室へ足を向けるのだった……。

 

 

 

 

整備兵がフル稼働で少しでも機体の修理に務めている中。細かい微調整が必要なフェアリオンとビルドビルガーのパイロットであるラトゥーニとシャイン、そしてアラドの3人は整備兵に呼ばれて格納庫に訪れていた。

 

「……キアアアアアアアー」

 

「■▲☆!!!」

 

「もうだめだ……おしまいだあ……」

 

「ウソダドンドコドーンッ!!!!」

 

「フウウウウ――ッ!!! ぶっ壊れてやがるゼッ!!!」

 

「一週回って楽しくなってきたわねッ!!!」

 

「え、これ好きに改造して良いんですか!? やったぜッ!!!」

 

「うおおおおおんッ!!! ラルちゃんの最高傑作がアアアアアアアア――ッ!!!」

 

死屍累々の地獄絵図を見たシャインとアラドはラトゥーニに思わず視線を向ける。

 

「整備兵はずっとこんな人達だよ?」

 

「……ずっとかぁ……そっかあ……手遅れだったんだな」

 

「世の中凄い人達が居ますわね……」

 

元々機械オタクのような人間が整備兵になっているのだ。整備兵として活動している間に手遅れになってしまっていても決して不思議ではないが、ほぼほぼ全員が荒ぶる整備員になっているのは如何な物だろう。

 

「とりあえずビルガーの整備を……あ……」

 

「アラド、どうかした?」

 

ビルガーの固定されているハンガーを探していたアラドがあっと呟き、動きを止めラトゥーニがどうかした? と尋ねる。

 

「いや、俺がさ、ノイエDCに居た時に面倒を見てくれていた人が居たんだ。ユウキって言うんだけど」

 

「ハガネに居るって事はビアン博士の一派の人だと思うけど……」

 

「スパイだったと言う事ですか……どうしますか? 話を聞いて見ますか?」

 

ユウキに話を聞けばゼオラの事も分かるかもしれないと言う希望はアラドにもあったが、アラドは首を左右に振った。

 

「本当に良いの? ゼオラの事が分かるかもしれないよ?」

 

「確かに気になるさ、だけど今は俺達に出来る事をやらないとな」

 

特機は百鬼獣との戦いでほぼほぼ大破、急ピッチで修理を行なっているが戦闘に参加できるレベルになるまでは相当な時間が掛かる。百鬼獣相手では力不足が否めないがPTも対百鬼獣用にチューンナップすれば1体の百鬼獣に対してかなりの数を充てる必要があるが、倒せない事はない。

 

「それにブリーフィングルームで今後の話し合いもあるって聞いてるから、その時にでも聞くよ」

 

「……分かった、アラドがそう言うなら何も言わない。私達に今出来る事をしよう」

 

「そうですわね。正直かなり厳しい事になると思いますが……「無理ぃ!!!」……武蔵様?」

 

無理という武蔵の叫び声が聞こえ、シャインは話を中断して声の方に視線を向けるとゲットマシンから武蔵が這い出てくる姿が見えた。

 

「ラトゥーニ、アラド……その」

 

「行きましょう。武蔵があんな事を言うの珍しいですし」

 

「ちょっと流石に心配だよな」

 

自分達の機体のメンテもあるが、武蔵の反応が心配で3人が武蔵の方に足を向けるとすぐに異変に気付いた。

 

「……暑い」

 

「かなりの暑さですわ……」

 

「うへえ……こりゃきついわ」

 

アラドは制服のボタンを開けたが、ラトゥーニとシャインは流石にボタンを外すわけには行かず、ハンカチで汗を拭いながら武蔵のほうへと歩みを進める。

 

「無理か?」

 

「無理。暑すぎるし、なんかこう操縦系統が違うんだよなあ」

 

ゲットマシンはゲットマシンだったが、それはラドラが鹵獲したゲッターザウルスのゲットマシンであり、武蔵は格納庫の床に座り込んでスポーツドリンクを口にしようとし、ラトゥー二達の姿を見て慌てた様子で立ち上がる。

スポーツドリンクを口にしようとし、ラトゥー二達の姿を見て慌てた様子で立ち上がる。

 

「あぶねえからこっちに来ちゃ駄目だ! オイラが行くから離れろ!!」

 

武蔵の怒声にラトゥーニ達は慌てて離れ、しばらくすると首からタオルを下げた武蔵がゲットマシンのほうから歩いてきた。

 

「悪いな怒鳴っちゃって、怒ってたわけじゃないからな」

 

「いえ、武蔵様が心配してくれたのは分かりますが……何が危なかったのですか?」

 

「おう、ゲッターD2が動かないからさ、代わりにオイラがゲッターザウルスに乗れないかなって思って試してたんだよ」

 

さらりと武蔵は告げたがゲッターD2が動かないという言葉にラトゥーニ達の顔が凍りついた。今の最大戦力は間違いなくゲッターD2で、それが動かないと聞けば流石に動揺を隠しきれない。

 

「エネルギー切れがやっぱり?」

 

「まぁなぁ、ストナーサンシャインぶっ放しちまったしな」

 

「ストナーサンシャイン? もしかしてあの最後の技の事? そんなにエネルギー消費が激しいの?」

 

空間の裂け目と異形のドラゴンに向かって放たれたエネルギーの塊の事を思い出したラトゥーニがそう尋ねる。

 

「おう、ゲッターの切り札みてえなもんの1つだな、エネルギーを全部集束して撃ち込むんだよ。破壊力は見ただろ? 北米の地形を変えちまうくらいすげえもんさ」

 

圧倒的な戦闘能力を持つゲッターロボの切り札――地形を変え、周囲を吹き飛ばすほどの圧倒的な破壊力を見れば切り札というのも納得だ。

 

「ではゲッターは動かせないのですか?」

 

「んー全力戦闘は無理だけど明日には動くと思う」

 

「「「え?」」」

 

エネルギーが回復するのに1年はかかると以前シキシマが言っていたのに、武蔵は1日で動くと言うのでシャイン達が驚いた表情を浮かべる。

 

「ゲッター線を吸収したからさ、余裕はあるんだ。だけどそれを全身に回すのに1日かかるって感じらしいわ、オイラにゃ分からんけどさ。それでも百鬼獣が出てきたら不味いと思って乗れるのないかなーって思って、ゲッターザウルスを試したんだけど駄目だな、操縦系統が全然違うから操縦できねえわ。ほかにもゲッターVとか、ネオゲッターとゲッタートロンベもあるし、ほかに乗れる機体はいくらでもあるから大丈夫だけどな」

 

武蔵は大丈夫だと笑うが、武蔵ではない武蔵の姿に異様なゲッタードラゴンの姿を思い出し、一抹の不安を抱かずにはいられなかった。

 

「武蔵様、これから私の機体のメンテナンスがあるのですが、良かったら一緒に来てくれませんか?」

 

「ん? おう、良いぞ。行こう」

 

「良かったですわ、行きましょう」

 

「とっと、そんなに引っ張らなくても大丈夫だぞ?」

 

ゲッターから引き離すように武蔵の手を引いて歩き出すシャイン。武蔵からはその表情は見えないが、シャインの顔には強い焦りが見えていてラトゥーニとアラドにはゲッターを恐れているように見えたのだった……。

 

 

 

 

 

出撃可能なパイロットは現状極めて少ないと言わざるをえない。負傷者も多く、食事を取れる状況ではなく点滴で栄養を取っている者も多い。

 

「出撃可能なパイロットはこれだけか……」

 

「これだけとは言えんぞ、あれだけ派手に敗走してこれだけ残ってると言う事に感謝するべきだ」

 

部隊の編成をしているイングラムとカーウァイの2人は出撃可能な面子の少なさと、あれだけの敗走で死者が殆ど出ていない事と少数ながら部隊を展開出来る事に安堵していた。

 

「ゼンガー、レーツェル。悪いが数日はお前達は出ずっぱりになる、負担を掛けるが頼んだぞ」

 

「承知」

 

「お任せください」

 

特機の中で出撃可能なダイゼンガーとアウセンザイターを主軸に、PT隊はその支援に回すというのが今のカーウァイ達の最善手だった。

 

「イングラムはあの姿のR-SWORDを使わないのか?」

 

「使っても良いが、あれは因果を乱す……短時間なら良いが長時間は不味い」

 

因果を乱す……それはイングラムとギリアムの2人が恐れている事象を指している。

 

「世界の崩壊を早めると?」

 

「いや……別の世界の住人を呼び寄せかねない、戦闘に使うなら最大でも5分だ。それ以上は危険だ」

 

「となると主軸に据えるのは厳しいか、使うなら短期決戦の殲滅戦か」

 

「ああ、それがベストだろうが……俺はあれは余り使うべきではないと思っている」

 

イングラムがそう言うと同時に音を立てて扉が開きギリアムもその通りだと賛同する。

 

「もしもR-SWORDが変異したのが原因で武蔵が変化したのならば、いや、もっと言えばあの異形のドラゴンを呼び寄せたのならば容易に使うべきではない、これ以上敵が増えるリスクは避けるべきだ」

 

悪魔そのものの姿を見ればあの姿が人知を超えた存在であると言うのは明らかであり、イングラムとギリアムが使うべきではないと言うのにもゼンガー達も納得だった。

 

「カイとギリアムはこの後少し付き合え」

 

「は! しかし私には乗れる機体がありません、お役に立てるとは……」

 

量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲや、ガーリオンなどでは力不足だ。自分は役立たずと言いかけるカイだったが、カーウァイの獰猛な笑みを見て黙り込んだ。その顔はゼンガー達が知っているカーウァイの顔だ、人間やって出来ない事はないと否定や拒否を許さない悪魔の笑み。

 

「乗れる機体がない? 何を言っているカイ。あるじゃないか、飛びっきり物が」

 

「あー俺のグルンガストですかい? カーウァイ隊長。別に使うなら構いませんが」

 

「馬鹿を言え、戦力を減らしてどうする? ゲッターD2が動かないから武蔵が空いている。武蔵が乗れる機体はゲッターしかないからな」

 

ゲッターしかないと言う言葉に回れ右しようとするギリアムの肩をカイが後から掴んで止める。

 

「カイ……後生だ。勘弁してくれ」

 

「駄目だ、俺と一緒に地獄に落ちろ」

 

ギリアムを逃してなるものかと力を込めるカイはゼンガー達も見た事が無いほどに必死な物だった。

 

「ゲッターロボに乗れるようになってもらう、ゼンガーとレーツェルは1週間かかったが、今はそんな時間がない。今日1日で乗りこなしてもらう」

 

「「……了解」」

 

断る事のできない死刑宣告にカイとギリアムは敬礼し、ゼンガー達は心の中で南無と呟き2人を連れていくカーウァイを見送る。

 

「さてと編成だが」

 

「……この流れで話を進めるか?」

 

「仕方あるまい、時間が無いのだからな」

 

死地に連れて行かれているカイとギリアムを無視して話を進めるイングラムだが、言っている事は正論であり反論も無く作戦会議が続行されるのだが……。

 

「やはり補給の目処が立たないのが問題だな」

 

「ああ、それに整備が複雑な機体も多い……それらを解決する術が必要だ」

 

多くの負傷者と搭載機の多くが大破している。それらを整備・修理する人員、物資に加えて出撃可能な機体も補給の目処が立たず非常に苦しい状況へ追い込まれていた。だがそれを解決するべくある男が動いていた。

 

龍虎鬼皇とゲッターD2の戦いの余波で甚大な被害を受け、シャドウミラーの強襲と続けて襲撃を受け基地機能が停止していた伊豆基地がやっと復旧したその日に司令部に突如緊急アラートが鳴り響いた。

 

「何事だ!?」

 

「重力振反応と転移反応です! 司令部の正面に現れます!」

 

重力振と転移反応というオペレーターの言葉にレイカーの顔が鋭く引き締められた。

 

「グランゾン……ッ!」

 

群青の装甲を持つ重力の魔神とそれを操るシュウの来訪にレイカーの脳裏に一瞬最悪の予想が過ぎる。

 

『レイカー司令、ダイテツ中佐達の事で大事な話があってまいりました。少しお時間宜しいですか?』

 

だがシュウは敵対行動を見せず、連絡が取れなくなっているダイテツ達の事で話があると告げた。

 

「司令、罠かもしれませんぞ」

 

サカエがレイカーに罠かも知れないと進言する。確かにレイカー達とシュウの間には浅からぬ因縁がある。シロガネの轟沈にDC時代にビアンと共謀し、連邦軍に多大な被害を与えた事を考えれば信用していい相手ではない……少し考えてからレイカーはシュウへと返事を返した。

 

「……構わない、どこで話をする」

 

音信不通のダイテツ達の近況を知るため、そして今シュウの申し出を断れば孤立しているダイテツ達を助ける術がないと判断したレイカーは不安を感じながらもシュウの話を聞くことにした。

 

『司令部に窺わせていただきます』

 

「……分かった。待っている」

 

拒否出来る状況ではないとレイカーはシュウの申し出を受け入れる事になったのだが、このレイカーの決断がテツヤ達を救う事になる。

 

 

 

「夏喃、君の要求は通らないよ、帰りたまえ」

 

「何故だ、孫光龍ッ! ゲッター線を使う不躾な物を破壊しに行く事が何故許可されないッ!」

 

ダイゼンガーとアウセンザイターを襲撃するつもりだった夏喃は許可を出さないという孫光龍に詰め寄るが、孫光龍は口元に笑みを浮かべ、睨みつけている夏喃の殺気を完全に受け流していた。

 

「ダイゼンガーとアウセンザイターだったけ? 中々頑張ったじゃないか、だから様子見だよ」

 

「頑張った!? あれほど無様な戦いをしてもか!? ゲッターは絶対の守護者で無ければならないんじゃないのかッ!」

 

「勿論そうさ、だけどね。それだと武蔵にだけ負担を掛けるだろう? タツヒトの二の舞は避けなければならない、これは泰北も同意見だ、分かったら帰りたまえ」

 

シッシと手を振られ、夏喃は肩を怒らせて歩き去っていった。

 

「やれやれ、いつまで経っても気が短い奴だ」

 

「それもまたあやつの善き所よ、ワシらは感情の起伏が緩やかになっておるからの」

 

仙人になってもなお激情家の夏喃を是とする泰北に孫光龍は肩を竦めた。

 

「見極めると言ったが、それはいつまでじゃ?」

 

「ああ、僕には僕の考えがある。まぁそこまで遠くない内にとだけいっておこうかな」

 

飄々とした態度の孫光龍に泰北に目を細めた。

 

「擬似超機人を作るのは良いが、あやつの怒りを買うぞ?」

 

「……まぁ良いじゃないか、人間に少し力を貸すのもさ」

 

修復されている雀武王の隣には結界で隠された雀武王に似た超機人の姿があった。だが雀武王と比べると機械的なそれはバラルが回収していた鋼機人を改造して作り出した雀武王のレプリカだった。

 

「試練という鞭を与えたら、手助けという飴だろう?」

 

「なるほどなるほど善哉、善哉」

 

カッカッカと笑って歩き去る泰北の背中に鋭い視線を一瞬向けた孫光龍だが、その剣呑な雰囲気は一瞬で消えてまたいつもの飄々とした仕草が戻ってくる。

 

「まぁ僕も反対なんだけど、女神様がいうなら仕方ないじゃないか。やれやれ、さっさとダイゼンガーとやらを壊したいんだけどなあ」

 

夏喃を窘めた孫光龍ではあるが、その実孫光龍もダイゼンガーとアウセンザイターには腹を立てていたのだが、女神に駄目だと言われたらしょうがないと肩を竦める。

 

「大邪に皇帝も何とかしないといけないっていうのは分かってるけどさあ、ちょっと腑に落ちないよね」

 

バラルの仮想敵にゲッターエンペラーまで加えている女神に納得出来ないとしつつも、最終的な決定権はまだ女神にある以上仕方ないと呟いた孫光龍の姿も何時の間にか消え去っていた。バラルもまた1枚岩ではなく、大きな亀裂が出来つつあった。そしてそんなバラルと対抗する為に動いている2人だけのオーダーはと言うと……。

 

「あーくそ、文献も見難いんだよ!」

 

「はいはい癇癪しない、頑張って読み解いて探しましょうよ。亀と龍をね」

 

「……本当に今も存在してんのか? 霊亀皇も魁龍も」

 

「あると思った方が人生楽しいですよ? 希望を持って頑張りましょうよ」

 

かつてのバラルとオーダーとの戦いで失われた筈のバラルの旗艦「霊亀皇」そしてオーダーの旗艦である「魁龍」を捜し求めて、文献を読み解いているのだった……。

 

 

第188話  敗走 その2へ続く

 

 




と言う訳で今回も話が動きませんでしたが、ゲームで言う所の乗り換えイベント的な物をベースに考えて見ました。

ゲームで言えば今回ので武蔵・カイ・ギリアム・ラドラ・コウキでゲッターVとかに乗り換え出来るようになると言ったイベントですね。次回はエクセレン離脱に向けてと、ビアン達の演説を入れて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


PS

SSRセレクト交換は未所持の

グレートブラスターと拡散構造相転移砲

にしました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第188話  敗走 その2

 

第188話  敗走 その2

 

 

伊豆基地の司令部はピリピリとした雰囲気に満ちていた。それもその筈、地球そして宇宙の両方で指名手配になっているシュウがグランゾンと共に現れたのだ。本来ならば捕らえるのが筋だが、連絡が取れないダイテツ達の事で話があると言われればそれを追い返すことも出来なかった。

 

「申し訳ありません、私も時間がないもので、回りくどい話は無しで単刀直入に言います。補給物資を積んだ輸送機とATX計画のマリオン博士、SRX計画のロバート博士の同行を求めます」

 

「……それはまた随分な要求だな」

 

いきなりやってきて補給物資を積んだ輸送機と地球圏防衛の要と言えるATX/SRX計画の責任者を同行させろという言葉に、流石のレイカーも眉を顰める。

 

「必要なことなのです。この後私はテスラ研とフランスのマオ社にも行かなければなりません。オペレーション・プランタジネットは百鬼帝国によって失敗、ハガネ、ヒリュウ改、シロガネ、クロガネの4隻は敗走し補給と修理の目処も立たないままに連邦も信用できず流離っている状況です。確実に味方と言える貴殿方にしか頼めない」

 

「……やはりか」

 

覚悟していた事ではあった。プランタジネットの強行――ノイエDCは目に見えた脅威ではあるが、百鬼帝国と比べればその脅威度は大きく下がる。上層部は百鬼帝国の存在を公表していないが、その存在を認知している。それでも北米を、ラングレー基地を奪還せよと繰り返し命じたのはやはり、百鬼帝国の成り代わりによる物だろうとレイカーとて悟っていた。

 

「分かった。すぐに準備をしよう」

 

「助かります。それとビアン博士が百鬼帝国の存在を世間に公表し、そしてそれに伴いプランタジネットの失敗の理由も明らかになるでしょう」

 

シュウは明言することを避けたが、その口振りで本来来る筈だった援軍が来なかった事も失敗の要因の1つだとレイカーは悟った。

 

「連邦の立ち位置は更に危うくなり、貴方達も決して世間「元より覚悟の上だ、我々は地球を守る為に戦っている」……そうでしたね、失礼しました。出過ぎた事でしたね、ではこれ以上私がこの場にいるのも貴方達の立ち位置を更に危うくしかねないのでここで失礼します。輸送機はこのポイントまで向かわせていただけますか?」

 

「分かった、1時間以内には向かわせる。それで間に合うか?」

 

「十分です。ご協力感謝します」

 

飄々とした態度を最後まで崩す事無く司令部を後にするシュウを見送ったレイカーは大きく息を吐いて、背もたれに背中を預けた。

 

「よろしいのですか?」

 

「構わない、確かにあの男を信用するのは危険だ。だが今の我々にはダイテツ達に支援物資を送る術がない……今はあの男に頼るしかないのだ。それよりも物資の準備を急げ、シュウ・シラカワの口振りでは相当なダメージを受けている筈だ。ゲシュペンスト・MK-Ⅲの予備機とATX計画・SRX計画の予備物資の移送準備を急げ」

 

「「「了解!!」」」

 

空間の裂け目に消えていくグランゾンを見送ったレイカーは遠い地で支援も得られず、補給の目処も立たず。それでもまだ戦っているダイテツ達の支援を行う為に矢継ぎ早に指示を飛ばし、大量の支援物資とロバート達を乗せた輸送機2機が伊豆基地を飛び立ったのはシュウとの話が終わってから僅か30分後の事だった。

 

「流石はレイカー・ランドルフ……仕事が早い。ですが時間は余りにもない……次はパリ……急ぎましょう」

 

時間がない……それが意味しているのはダイテツ達に窮地が迫っているのか、それとも己に時間が無い事を指しているのかは定かではない。だが1つだけ確かな事があるとすればグランゾンのコックピットの中のシュウの顔には脂汗が浮かび、強い焦りの色が現れていると言うことなのだった……。

 

 

 

 

 

その放送は突如始まり、地球圏に住む人間に強い混乱をもたらし、そして異星人に続く未知の脅威の存在が明らかにされ、その放送を見た者達に強い恐怖を与えた。

 

『突然の放送混乱していると思うが許して欲しい、だが政府の公式発表がなされる前に我々は真実を告げなければならない』

 

TV・ラジオ・インターネット……ありとあらゆる電子媒体を突如ジャックしたビアン・ゾルダークの言葉に誰もが耳を傾けた。そうせざるをえないカリスマ性がその言葉には込められていたのだ。

 

『連邦軍主体によって行なわれた異星人からの北米地区奪還作戦――オペレーション・プランタジネットは新たな敵勢力の出現によって失敗し、ハガネを始めとしたL5戦役の勇士達含め私も敗走する事なった』

 

ハガネ、ヒリュウ改が敗走するほどに敵勢力の出現のビアンの言葉に一気に動揺が広がり、ビアンの言葉が釣りか、それとも本人か、はたまた大統領府で出現した2人目のビアンの虚言なのかとその放送を見ていた者達の間に動揺が広がる。

 

『彼らは自らを鬼と名乗り、異形の特機を操る。その戦力は、悔しい事に我々を持ってしても劣勢に追い込まれたと言わざるをえない』

 

切り抜き画像によって百鬼獣の姿が衆人の目に晒され、その異形の姿――圧倒的な力を見せ付ける百鬼獣に誰もが恐怖を抱いた。

 

『だが敗走した理由はそれだけではない。連邦軍上層部にとって都合の悪い部隊だけがプランタジネットに参加していた。来る筈の援軍は無く、そして数多の未知の脅威が我々の前に現れた』

 

百鬼獣に続いて写されるのはインベーダー、アインストという目に見えた異形のクリーチャーの数々だ。

 

「放送をとめさせろ!!」

 

「ハッキングを止めれると豪語していたのはどうした!!!」

 

ビアンの放送に混乱するのは上層部だ。ラングレー基地が吹っ飛んだのはストナーサンシャインだけではなく、上層部が地下工作艇などを使い地下に爆弾を仕掛けていたからであり、その爆弾の起爆を確認し共に消し飛んだ筈のハガネ達が健在だった事、そしてビアンによる放送に不味い事になったと動き始めるが、今の連邦の技術力ではビアンの放送を止める術はない。

 

『私が偽物ではなかろうかと疑う者もいるだろう。だからこそ私はここで次の者に変わろうと思う、プリンセス・シャインにお願いしよう』

 

ビアンの言葉と共に現れたのはドレス姿のシャインの姿であり、映像越しでもその気高さを見ればシャインが本物であると誰もが理解した。

 

『ビアン博士に代わり話を続けさせていただきます。リクセント国家元首シャイン・ハウゼンです。まずビアン博士の言葉は全て真実であり、L5戦役ではメカザウルスと呼ばれる機械の恐竜が出現し、我が国リクセントへと攻め込んできました。そして国際会議の場では百鬼帝国を名乗る鬼の集団も現れましたが、この件は一切公表されておりません』

 

シャインはそう言うとドレスから取り出した機械のスイッチを入れた。

 

【未知の敵存在など存在しない、恐竜型の機械? そんな物は存在していない】

 

『この発言の少し前に派遣されてきた連邦軍によってメカザウルスの残骸はナパームによって焼却処理をされました』

 

【シャイン王女。貴方の発言によって地球圏にいらない混乱を招く事になる】

 

【今は自治国家として認めていますが、そのような事をされれば連邦に所属して貰う事になりますぞ】

 

【いやそれだけではありませんよ、今まで通りに物資を入手出来ると思わない方がいい、賢明な決断を願いますよ】

 

それは幼いシャインに向けて良い言葉ではない、国と民を人質に真実を告げるなと言う脅迫だった。

 

『私は国を預かる者として民を第一に考えなければなりません。故に連邦議会議員の言葉を呑みましたが、最早そんなことを言っている猶予はないのです、状況は刻一刻と悪化し、今の連邦議会のあり方では守れる物すら守れないのです』

 

元々武蔵をテロリストとし追い回した連邦議会、そして上層部に良い印象を持っていないシャインはひたすらに連邦議会、そして連邦上層部の悪逆を喋り続ける。

 

「……分かるな、俺達も結構圧力掛けられてるし」

 

「それにあれだろ? セレヴィスシテイとかが異星人に占拠されたのだって上層部の妨害があったかららしいじゃないか」

 

「……お兄ちゃん、これ大丈夫?」

 

「わかんねぇ……俺にもわからねぇ……ショウコ」

 

連邦軍の一部の部隊……DC戦争、L5戦役で戦果を上げたのは基本的にハガネとヒリュウ改の面子であり、それ以外に目立った成果はなく、もっと言えば自分達を守る事だけに専念し逃げ腰だった部隊も多いという話はネットニュースではもっぱらの噂であり、巨大化しすぎた組織の弊害と言うべき物が今の連邦軍にはあった。

 

『そもそもですわね、私は武蔵様を「待って、待って、オイラ様ってキャラじゃないって本当違うから」……でも武蔵様』

 

『違うからね、オイラ本当に様ってキャラじゃないからね。流してたけどやっぱり良くないとオイラ思うんだ』

 

『……武蔵君、シャイン王女……そのやり取り放送されてる』

 

『『あ……』』

 

突如始まったコント染みたやり取り……だがそれは等身大の少年と少女の姿であり、この放送が真実であるという信憑性を与えた。

 

『んん、少し想定外もあったが……紹介しよう。東京宣言で名前だけ知っているかもしれないが……ゲッターロボのパイロット……ムサシ・トモエ君だ』

 

ビアンの紹介によって、この日。新西暦の住人は武蔵の顔、そしてその声を知った。

 

『オイラは馬鹿だからビアンさんやシャインちゃんみたいに格好良い事は言えないし、頭も良い事も言えない。だけど聞いてください』

 

武蔵の言葉はたどたどしく、そして要領も得ない物だった。だがその真剣な表情と真摯な言葉は聞いていた者の胸を確かに打つのだった……。

 

 

 

 

ビアン、シャイン、武蔵の電波ジャックによる放送を見ていたリンは小さく笑みを浮かべた。

 

「今まで好き勝手していたからだ。馬鹿者共が」

 

連邦軍は大きくなりすぎた。一部の地球を守りたい兵士達は左遷され、自分達に都合の良い物ばかりを優遇しているのが今の連邦軍の情勢だ。マオ社もかなりの無理難題を押し付けられ、それが達成できなければ責任問題を追及され、新商品を安く卸すようにという命令や、量産型ゲッターロボの作成に数多くの技術者を引き抜かれたり、計画のメインはイスルギである筈なのに、資金の多くはマオ社に出すように命じてきたりと好き勝手して来たそのツケを払う時が来たとリンは笑い、見ていた放送を名残惜しい気持ちで切り、別の回線をメインモニターに回した。

 

「すまないな、仕事が立て込んでいてな」

 

『……いえ、私が無理を言っていますから』

 

モニターに映っているミツコは明らかに弱りきった顔をしており、その表情を見てリンは内心ほくそ笑みながら手にしていた書類を机の上においた。

 

「確かウォン重工業とイスルギとマオ社で新型を作らないかと言う話だったな」

 

『ええ、ウォン重工業の無人機械とイスルギのリオン系列の技術、それとマオ社のゲシュペンストを始めとした人型の作成ノウハウがあれば……「お断りだ」……は?』

 

ミツコの話を遮ってリンはお断りだと断言した。その言葉にミツコは目を丸くし、慌てたそぶりを見せる。

 

『先に送った書類通りの条件なのですが……』

 

「ああ、それは見た。確かに条件は良いな」

 

得られた利益の4割がマオ社、3割がイスルギ、2割がウォン。残りの一割は予備費とする……とマオ社にとってはかなり有利な条件だが、リンはそんな目に見えた餌に食いつくほど馬鹿ではない。

 

「ウォン重工業はいま黒い噂が絶えないらしいな」

 

『噂はあくまで噂ですよ』

 

「確かにそうだが、現状マオ社はゲシュペンスト・MK-Ⅲで十分な利益を得る事が出来ている」

 

トライアウトでは競い合う形にこそなったが、ゲシュペンストとヒュッケバインもマオ社が開発権利を持つ機体であり、十分な利益を得る事が出来ている。

 

『そこにリオンの技術が加われば』

 

「必要ない、現状リオン系は型落ちだ。マオ社がそこに手を出す旨みがない」

 

PTとの戦いであればリオンはかなり優秀な機体ではあるが、今は百鬼獣等の特機やインベーダーやアインストという未知大型敵性存在がある。その中で生産コストが安いだけのリオンを使う旨みは殆ど無い、むしろリスクばかりが先行するだろう。

 

『で、ですからゲシュペンストを主軸にした』

 

「必要ない、イスルギもウォンもマオ社の傘下に入れるつもりはない」

 

きっぱりとリンが言い切るとミツコはうっと呻いた。連邦の上層部の悪逆の公表でその旨い汁を吸っていたイスルギは、上客を失い社会的な地位までも失いかけている。

 

「我々マオ・インダストリーはクリーンな経営を心掛けている。故にイスルギと組む理由はない」

 

『……せめて技術提携だけでも頼めませんか?』

 

「随分としおらしくなったな、前までの強気はどうした?」

 

『その節に関しては謝罪しますわ……』

 

女狐と称されたミツコだが、その顔に覇気はない……目先の利益に囚われて大局を見誤り倒産の危機に瀕しているのだから、現状ミツコは株主からの口撃を受けて針の筵なのだろう。だがそうであってもリンにミツコを助けるメリットはない。

 

「悪いが技術提携もするつもりもない、ライバル会社が自滅してくれるのならば私にとっては好都合だ」

 

『……なんとかなりませんか?』

 

「なんともならないな、今まで自社の人間を高める事をしてこなかったツケだ、自分で何とかするのだな」

 

助けてくれと訴えかけてくるミツコの視線を無視し、リンは通信を切り背もたれに背中を預け、内線のボタンを押す。

 

「輸送機の手配を、それと準備してあるATX計画の予備パーツを輸送機に積んでくれ」

 

ビアンの電波ジャックでハガネが窮地に追い込まれている事はリンも判っている。だからこそ内密に支援物資を送る為に部下に連絡を入れる……だがマオ社のスタッフはとても優秀だった。

 

『既に準備を始めております! 後20分で出発出来ます!』

 

「そうか、助かる」

 

自分が指示する前に動いてくれていた事に感謝し、邪魔するわけには行かないとリンは内線を切るがすぐにまた内線電話の着信音が鳴った。

 

「どうした? 何か問題か?」

 

『あ、いや社長……その面会希望者が』

 

「面会? 今日はそんな予定は……」

 

リンが言い切る前に社長室の扉が開かれ、リンは心配するなと告げて受話器を置いた。

 

「急に訪ねてくるのマナー違反ではないか?」

 

「……突然の無礼はお詫びしますよ、ですが時間が無いのです」

 

「シュウ・シラカワ……私に何のようだ?」

 

いつでも飛びかかれるように身構えながらリンは油断無くシュウにその視線を向ける。

 

「リン・マオ……貴女を迎えに来ました。普通の方法ではハガネの元には辿り着けない、支援を行うのでしょう? どうか私と共に来てください」

 

テロリストであるシュウの言葉を信じるのは危険だと言うのはリンも分かっていた。だがシュウの目には信用に値する光があった……。

 

「分かった行こう」

 

リンの迷いはほんの数秒ですぐに同行しようと返事を貰えた事にシュウは笑みを浮かべ、リンとリンが用意した輸送機と共にパリを後にしたのだった……。

 

 

 

 

 

ビアンの電波ジャックによる演説を聞いていたブライは、心底楽しそうに笑いワインを上機嫌に呷っていた。

 

「良いのかの?」

 

「共行王か、無論構わんよ。むしろあれだけ敗走したのにすぐに動き出した事に私は感心している」

 

敵は強い方が良い、敵は弱い内にたたけと脳裏内に響く声があるが、ブライが選んだのは前者だ。敵がいない最強など面白くもなんともない、最強の敵を打ち破り、自分達こそが最強と証明する事がこのブライが心から望んでいる事なのだ。

 

「ではこれからはどう動く?」

 

「そうだな……暫くは様子見と行こうと思っている」

 

「ほう? その心は?」

 

「窮鼠猫を噛むと言うだろう? 無論それも私の望んでいる事だが……いかんせん地球を支配しようとしているのは私だけではない」

 

インベーダー、アインスト、インスペクターと地球を支配しようとしている者はかなりの数がいるのだ。

 

「潰し合わせるという事か、悪辣だな」

 

「鯀王か、探していた者は見つかったかな?」

 

「成果はあったとだけ言っておこう」

 

鯀王が投げ渡した写真を指で挟んで受け取ったブライはそれを見て満足そうに笑みを浮かべ、その笑みを見た鯀王はブライに一言だけ忠告を与えた。鯀王から見て今のブライは慢心し、そして足を掬われそうに見えた。決して味方では無いが、助けられたという恩義がある以上鯀王はブライを見捨てるという事はしなかった。

 

「我から1つだけ助言だ」

 

「王からの助言とはありがたい、何かな?」

 

「策を講じるのは悪いとは言わんが、時に蛮勇を奮うことも必要だ」

 

「金言だ。心に留めておこう」

 

ブライの言葉に鯀王は好きにすれば良いと告げ、後は好きにすると言って去っていく鯀王を見て、共行王もブライに背を向ける。

 

「行くのかね?」

 

「ジッとしておるのは暇だからの、適当に引っ掻き回し遊んでくるとしよう」

 

「手加減はしてくれよ、まだこれからなのだからね」

 

「分かっておる」

 

水音を立てて消える共行王を見送り、連邦議会からの助けを求める連絡を無視しワインを呷る。

 

「世界は混沌に満ちた方が良い、もっと混乱を、破壊を、そして死を……この世を地獄に染め上げるのだ」

 

そして世界がもっと混乱と争乱に満ちた時こそ……ブライ達百鬼帝国が動く時なのだとブライは笑う。連邦議会に発言力を得た以上動きようは幾らでもあるのだ、ならばここはあえてブライは手を出さない、何故ならば……。

 

「既にもう手は打ってある。これくらい打ち破って貰わなくては面白くもなんともない」

 

アースクレイドル・ムーンクレイドル双方に名持ちの鬼を配置している。百鬼獣の生産拠点であり、シャドウミラーの機体を製造している場所でもあるクレイドルは確実に落としに来る。自分たちで考え、決断しブライが仕掛けた罠に自ら飛び込んでくるのだ。ブライが態々策を練る必要も、そして攻撃を仕掛ける必要もない。向こうから死地に、いや蟻地獄に飛び込んでくるのだ。後はそれに飲み込まれるか、それを打ち破るかを見て楽しめば良いとブライは考えていた。

 

「人間共よりも厄介な物が多いからな、ここで上下関係というものを教えておかなければならん」

 

インベーダー……いや、コーウェンとスティンガーの暗躍はある程度は黙認していたが、今回のは度が過ぎている。それにメキボスの返答、時空の境目から顔を出した異形のドラゴンの調査……人間よりも遥かに厄介な存在は多くいる。

 

「やっと見つけたぞ、鼠共め」

 

鯀王が投げ渡した写真……ブライが今最も厄介だと思っている相手……デスピニス・ラリアー・ティスの3人の姿がしっかりと写されているのだった……。

 

 

第189話 愛する者の為に その1へ続く

 

 




今回は短い話でしたが、シュウがあちこちを渡り歩き支援の要請をしていたと言う話と、連邦へのヘイトの話、そしてブライが警戒しているのは人間では無く、同じ超常の存在という話にして見ました。次回からはエクセレンの離脱、ゼオラの話をメインに進めて行こうと思います。2話に渡り余り話が動いていませんでしたが、ちょっと肉付けしたい部分だったので申し訳ありません。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


アークとタラクがチャで

ストーム1
サンダーボンバー2
シャインボンバー1


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

330話

第189話 愛する者の為に その1

 

オペレーション・プランタジネットの前に積み込んできた物資は膨大だ。ビアンも極秘裏に集めた大量の物資の事を考えればプランタジネットに失敗したとしても十分に立て直せるだけの物資の筈だった。

 

「……まだ見積もりが甘かったか……」

 

『いえ、これに関してはビアン博士が悪いわけではありません。これだけの物資を用意してくれた事に我々は感謝しています』

 

「いや、私は万全を期したつもりだったのだ……まだ百鬼獣の脅威を見誤っていた……」

 

十分だった筈の物資はまるで足りず、損傷を受けている機体の修理すらままならない状況だった。

 

『それを責める事は私達には出来ません。今の我々は、ビアン博士が用意してくれた物資に頼っている状況なのですから……』

 

テスラ研やアルビノ基地と、ダイテツ派の軍人が居る拠点で僅かな物資を得る事は出来たが、万全とは言えないものであった。これから大作戦に挑む軍に与えるには余りにも足りない物資……。

 

『補給の段階から百鬼帝国の策は始動していた……ここまでの事が出来るとなればやはり上層部は……』

 

「その殆どが鬼に成り代わっているだろう……」

 

オペレーション・プランタジネットの失敗は決して無駄ではなかった。重傷者も多く、機体の大半が大破している状況で無駄ではなかったと言うのは無理があると思うかもしれない、だが百鬼帝国の拠点、そして上層部にどれだけ鬼の手が広がっているかと言う事を知る事が出来たのは、大きな利点と言えた。

 

「後はここからどう巻き返すかだ」

 

『厳しい戦いになるのは間違いないですね』

 

『だがやらねばならない……くじけている時間は我々にない』

 

『少しずつでもいい、私達は前に進まなければならない。ダイテツ中佐ならば、この状況でも決して諦めない……ほんの僅かな勝機でも、それを掴む為に全力を尽くした筈だ』

 

「その通りだ。私達にはくじけている時間も絶望している時間もない、普通ならばここで攻めに出ることはない。だが……あえて打って出るしかあるまい」

 

テツヤの言葉に続き、ビアンは強い決意がこめられた口調でそう告げた。

 

『私達から攻め込むのですか? どこへ? どうやって……?』

 

『ビアン博士達の演説で軍はいま混乱状態ですが……百鬼帝国やインスペクターによる被害が甚大な物になる危険性があるのですよ』

 

ビアン、シャイン、武蔵の演説は高まっていた連邦への不満を爆発させた。DC戦争……L5戦役、そして隠し続けてきた百鬼帝国、インベーダー、アインストの情報操作……武蔵のテロリスト認定や、リクセントへの支援を行わなかった事……非常に多くの上層部の不祥事が明らかになり、抗議活動が多く行なわれていると言う情報はビアン達の下へも届いていた。そして連邦軍は現状分裂し、上層部に付き従い、横暴な事を行っていた勢力は自分達に非はないと声をあげ、最新鋭機で自分達の拠点を守る事を始めた。だが当然そこに民間人は含まれておらず、避難さえも滞っている。それに対しL5戦役で殉職したノーマン・スレイ少将の遺志を継ぎ、冷遇されてもなお地球圏を守る為に連邦軍に席を置き続けていた者達は、旧式機となったゲシュペンストMKーⅡやリオン、アーマリオンを使い民間人を少しでも守り、インスペクターや、百鬼帝国の襲撃に備えようとしている。今の連邦軍は、それら二つの勢力に完全に二分された状況になり、混迷を極めている。

 

「確かに民間人への守りが手薄になる事は認めよう……私の言う事は決して人道的ではない、むしろ非人道的と言えるかも知れん。だが私はこれしかないと考えている……アースクレイドル、ムーンクレイドルの奪還……これを成し遂げなくては我々に勝利はない」

 

百鬼獣を製造しているプラントだと思われるムーンクレイドルとアースクレイドルの奪還を提案するビアン。

 

『ううむ……ビアン博士。流石にそれは些か……いや、かなり厳しいのでは?』

 

疲弊している戦力を更に分けて敵陣営に乗り込もうと言うのだ。流石のショーンも厳しいだろうと言うが、テツヤが違うとショーンと間逆の意見を口にした。

 

『インスペクターの指揮官機は今回の作戦で中破、あるいは大破したのを確認しております。現状インスペクターの戦力は無人機のみ、百鬼帝国もインベーダーやアインストとの戦いで疲弊しています。確かに懸念材料は多くありますが……確実に相手の戦力は低下している。時間を与えれば、それだけ我々が不利になる』

 

『お前の意見も分かる……だがそれは余りにも楽観的な意見だ。リスクが高すぎる』

 

『私もそう思います。もう少し状況を見極めてから動くべきではないでしょうか?』

 

「いやそんな時間はない、それに私が危惧しているは敵が戦力を整えることだけではない、もっと先の事を言っている」

 

自分達の現状の戦力……疲弊し、そして負傷している兵士達の事を考え、反対意見を口にするレフィーナとリーだが、ビアンは自分が危惧しているのはそこではないと断言し、今攻め込むべき理由を告げた。

 

「本格的な侵攻に入れば百鬼帝国は捕虜を鬼と改造する。ムーンクレイドルとセレヴィスシティを始めとした月面の住人、そしてアースクレイドル周辺の住人すべてが鬼に改造され、製造された百鬼獣に乗ることになれば戦力の差で押し潰される……まだ改造されていないであろう今の内に、周辺住人の救出作戦を伴った奪還作戦を行なう必要があるのだ」

 

今も人質になっているアースクレイドルとムーンクレイドル周辺住人の鬼化を防ぐ目的があると言うビアンの言葉を聞けば、レフィーナとリーはビアンの提案に反対する言葉を失ってしまうのだった……。

 

 

 

キョウスケとダイテツが治療を受けている緊急治療室の前の椅子に腰掛け、動く気配のなかったエクセレンを見ていられずラミアが強引に自分の私室に連れて来ていた。

 

「エクセお姉様、お茶をどうぞ」

 

「……ありがと、ラミアちゃん」

 

ありがとうと言いつつもお茶を飲む気配も無いエクセレン。深い隈を化粧で隠してこそいるがその疲労の色は隠しきれず、普段の明るい気配は微塵もなかった。

 

「エクセ姉様。少し休んでください」

 

「……分かってはいるんだけどね」

 

一命は取り留めたとは言え、意識不明のキョウスケはいつ容態が悪化するか分からず、予断を許さないと聞けば恋人の身を案じるのは当然であり、不眠、そして食事もまともに取れない状況にエクセレンは陥っていた。確かに夜は自室に戻っているようだが、その顔を見れば眠っていないのは明らかだった。

 

「これでエクセ姉様も倒れてしまったらキョウスケ中尉が目覚めた時に悲しみますよ?」

 

「……それを言われると辛いわね……でもその通りね」

 

弱々しい笑みを浮かべてラミアが用意した紅茶を口にし一息ついた様子のエクセレンは少し迷う素振りを見せてからラミアに問いかけた。

 

「レモンってどんな人?」

 

「……レモン様ですか? そうですね……とても優しい人ですよ」

 

確かにレモンの行なっている事は決して人に認められることではない、人造人間を作り出しそれを兵器のパイロットにしようとしている……ヴィンデルの行なおうとしている永遠の闘争の世界を成し遂げる為に人間を作り出そうとしているのは決して許された行いではないだろう。

 

「とても優しい……か」

 

「嘘だと思いますか?」

 

「ううん、ちょっとだけ分かるかもしれない」

 

オペレーション・プランタジネットでのインベーダーとアインスト出現時に、成り行きとは言えエクセレンはレモンと共闘する事になった。レモンがいなければ間違いなくエクセレンは死んでいたし、レモンもまたエクセレンがいなければ死んでいただろう……互いの命を救いあったからか、奇妙なシンパシーをエクセレンは感じていた。だがそのシンパシーはレモンだけではなく、アルフィミィにも感じていた物……まるで己の肉親に抱くようなシンパシー……ありえないとも言えるそれを感じていた。だからこそ分からないのだ……レモンは情が深い人物である事はエクセレンも分かっている……では何故そんな情の深い人物が、こんな非道を出来るのかが理解出来なかった。

 

「本当は、Wシリーズは戦争の為の物ではないそうです」

 

「そうなの?」

 

「はい……レモン様は……そのですね……地球を捨てて宇宙に出た時……地球人が再び繁栄する為にと……」

 

精一杯言葉を濁しながら言うラミアに、エクセレンは何を言おうとしているのか理解した。

 

「マジで? 嘘、そんな事できるの?」

 

「……できるらしいです……」

 

人造人間でもオーバーテクノロジーというのに、その人造人間は子供を産む事まで出来る……レモンの行いはいうなれば、新しい人類の創造主とも言える行いだ。だがそれと同時にこれだけの事が出来るのに、何故シャドウミラーに協力しているのかがエクセレンには分からなかった。

 

「……レモン様は母になりたかったと、でも私は成れなかったと悲しそうに腹を撫でていました」

 

「……そっか……そうなのね」

 

レモンには何らかの障害があり、子供を宿す事が出来なかった。それでも母になることを諦め切れなかったのだ……だから間違っている方法と分かりつつもWシリーズを作り出した。そしてそれに目を付けたヴィンデルによってシャドウミラーにスカウトされたのかと、考えた所でエクセレンは気付いた。

 

(そっか……恩があるってそういう事なのね)

 

断片的にだが得ることが出来た情報では、ラミア達の世界は滅亡一歩手前だ。そんな世界で研究を行うのは容易な事ではない、そしてそれが人造人間を作ると言う途方もないプロジェクトとなれば、途方もない資金が必要となるだろう。その為のスポンサーとして、ヴィンデルはレモンに目をつけた。利用されているとは分かりつつも助けられたのもまた事実であり、それがレモンをシャドウミラーに縛っている……エクセレンの予想は限りなく正解に近かったが、少しだけ間違っていた。レモンは人造人間を作るという、生命を冒涜する行いに対する咎という名目で囚われかけた……いや、正確には自分の父と母が行って来た実験等の全ての責任を押し付けられ、そして連邦に売られたのだ。そこを助けたのがヴィンデルであり、処刑の一歩手前、そして人造人間を作る為に必要な資金を提供して貰った事、そして恋人のアクセルの存在がレモンをシャドウミラーへと縛り付けていた。

 

「ラミアちゃんはどうしたいの?」

 

「……」

 

「誰にも言わないわよ。女同士の秘密の話」

 

「私は……止めたいのです。レモン様には生きていて欲しい……レモン様は本当は永遠の闘争なんて望んでいない事を私は知ってるから……」

 

誰にも言わないと言うエクセレンの言葉を信じ、レモンに生きていて欲しいと、永遠の闘争を望んでいないレモンの本当の真意を知っているから、望んでいない事をやらないで欲しいとラミアは心から祈っていた。だがそれは許されることではない、それを口にしたラミアは不安で俯き、エクセレンの返事を待った。

 

「エクセ姉様? やはり私の願いは……エクセ姉様?」

 

だが何時まで待ってもエクセレンの返事は無く、ラミアが顔を上げた時エクセレンの姿はどこにもなかった。自動扉の開く音も閉まる音もしなかった……忽然と何の前触れも無くエクセレンの姿が目の前から消えた。

 

「いかんッ!!!」

 

ラミアはその現象を知っている――アインストによる拉致現象。アインストが出現を始めた最初期に多発していた謎の失踪事件……それと酷似した現象を目の当たりにしたラミアは通路へと飛び出し緊急警報を知らせるレバーを下ろそうとし、それよりも早くヒリュウ改の内部に緊急警報が鳴り響いた。

 

『エクセレン少尉がヴァイスリッターで出撃! 出撃可能なパイロットは出撃準備を急いでください! エクセレン少尉は正気ではない事が確認されています! デッドマン及びアインストの出現に最大限の警戒をしてください!』

 

ユンの焦りに満ちた報告を聞いて、ラミアは弾かれたように格納庫へ向かって走り出した。自分が1番近くに居た、それなのに気付けなかった事に怒りを抱き、間に合えと心の中で繰り返し叫びながら格納庫に辿り着いたラミアは、ヴァイサーガに乗り込み、ヴァイスリッターの後を追ってヒリュウ改から飛び立っていくのだった……。

 

 

 

 

時間は少し遡り、エクセレンがラミアの部屋で話している時まで遡る……

ハガネの食堂ではリュウセイが深い深い溜め息を吐いていた。その理由は単純明快……ゲッターノワールとの戦いでフレームが歪んだSRXの修復に、かなりの時間が掛かると言う整備班の話を聞いての物だった。

 

「そんなにSRXの状態は酷いのか? リュウセイ」

 

「おう……R-1は何とか分離出来たんだけど、R-2とR-3の合体が解除出来ないらしいし、パワードパーツもお釈迦でな……暫くSRXは使えそうにないらしい」

 

時間は掛かるがR-2とR-3の分離は可能であり、単独出撃は可能と成るとのことだが……それでもSRXチームで現状出撃可能なのはリュウセイとマイ、そしてイングラムの3人しかいないと言う状況だ。

 

「やっぱり機体が足りないのか……シャインちゃんのフェアリオンは大丈夫なのか?」

 

「はい、フェアリオンは機動力と防御力が高いので、エネルギーさえ補給出来ればすぐにでも出撃は可能ですわ」

 

「そっか……少しでも頭数が欲しい所らしいけど……」

 

出撃出来ると告げたシャインに対して武蔵の反応は芳しくない、その様子を見てシャインはその顔を曇らせる。

 

「私は大丈夫ですわよ、武蔵様。心配してくださらなくても私もお力になれますわ」

 

「う、うーん……いやな、そういう訳じゃないんだよ。いや、シャインちゃんの事は心配してるぜ? でもな、オイラが心配してるのはそこじゃないんだ……何かな、すげえ嫌な予感がするんだ。コウキはどう思う?」

 

話を振られたコウキは手にしていたナイフとフォークを机の上に置いて、武蔵に視線を向けた。

 

「俺も感じている……ぞわぞわとした……なんとも言えない奇妙な感覚がある」

 

「だよな……うーん……なんだろ、この感じ……」

 

旧西暦の住人である武蔵とコウキだけが感じ取れる何かがある。食堂にいたイルム達もその顔色を変え、手にしていたマグカップや箸を机の上に置いた。

 

「また何か化け物が出てくるとでも?」

 

「そこは全然分からないっすね……なんかこう……うーん……なんだろう……? コウキは?」

 

「俺もなんとも言えん……奇妙な感覚だ」

 

「敵って感じではないのか? 武蔵、コウキ博士」

 

「敵って感覚ならもう言ってるよ、敵って感覚がしないから困ってるんだよなあ……」

 

武蔵とコウキの感覚ならば敵意や殺意ならば感じ取り、警戒しろと言う事も出来る。だがその感覚でも感じ取れない、どこか現実味のない気配……それがコウキと武蔵を困惑させていた。

 

「でもそれは何か分かるわ……あたしも何か嫌な感じとは違う。何かを感じるのよ」

 

「うん……私もだ」

 

武蔵とコウキの奇妙な感覚……それが分かるとアヤとマイが口にした時、リュウセイが椅子を引っくり返しながら立ち上がった。

 

「どうした!?」

 

「やべえ……この感じ……デッドマンの時と同じだ……でも……デッドマンじゃねぇ……誰だ……誰かが呼んでる……」

 

誰かに呼ばれている感覚がするとリュウセイは血相を変えて呟いた。

 

「リュウ、間違いないの!?」

 

アヤにはリュウセイが感じている声が聞こえず、本当なのかとアヤが問いかけるが、リュウセイはその声に反応しない。

 

「……呼んでる……誰を呼んで……やばいぞ……呼び寄せられる……」

 

「アヤ、私もだ。私にも聞こえる……誰か……誰を呼んでる……」

 

ぼんやりとした様子で誰かを呼んでいると口にしていたリュウセイとマイの2人は次の瞬間、弾かれたように顔を上げその目に理性の色を取り戻した。

 

「エクセレン少尉だ!! ヒリュウ改に連絡を急いでくれッ!!」

 

「早く止めないと……この感じ……ラングレーに出た紅い鬼だッ!」

 

エクセレンを止めるようにリュウセイとマイが叫んだが、それは余りにも遅すぎた……。

 

『エクセレン少尉がヴァイスリッターで出撃! 出撃可能なパイロットは出撃準備を急いでください! エクセレン少尉は正気ではない事が確認されています! デッドマン及びアインストの出現に最大限の警戒をしてください!』

 

ヒリュウ改からの報告は既にエクセレンがアインストに呼ばれて飛び出してしまったと告げられ、リュウセイ達は食堂を飛び出す。

 

「オイラもギリアムさんとカイさんと一緒にゲッタートロンベで行く!! なんとかしてエクセレンさんを止めてくれッ!!」

 

武蔵の必ず合流すると言う声を背中に受けながら、リュウセイ達は格納庫へと走り出すのだった……。

 

 

 

 

 

 

ヴァイスリッターがヒリュウを出撃した頃、龍王鬼の母艦である陸皇鬼でも動きがあった。

 

「偵察!? この状況で何故!?」

 

「必要な事だからよ、クエルボ」

 

「で、ですが……」

 

虎王鬼からのゼオラとオウカの偵察命令に、クエルボは何故だと喰らいつく。見た目は妙齢の女性でも、片手で自分を殺せる相手と分かりながらも、クエルボはゼオラとオウカを守る為にここで死んだとしても偵察には送り出さないという強い決意を秘めた瞳で虎王鬼を睨みつける。

 

(クエルボ。気持ちは分かるけど、あたし達もオペレーション・プランタジネットの失敗でちょっと立場が悪いのよ)

 

(それは……ッ)

 

シャドウミラーの横槍で龍王鬼は臍を曲げて戦いを投げた。ブライはそれもまた龍王鬼のあり方として認め許したからこそ、処罰はない……だが龍王鬼を面白く思っていない鬼に対する弱みを作ってしまった。

 

(それにラングレー基地の戦いでアラドを見てゼオラは強い反応を見せた……今が好機かもしれないわ)

 

ゼオラを正気に戻す機会として虎王鬼はゼオラとオウカを偵察に出すと言うのだ。

 

(ですが、それは余りにも甘い考えでは?)

 

(確かにね、あたしもそう思うわ。だけど……もしも今回の事でコウメイや、朱王鬼が絡んできたら1度失態をしているあたし達じゃ庇いきれないのよ)

 

虎王鬼とてゼオラが正気に戻るまで手元においておきたいと願っている……だが龍王鬼を陥れたい鬼は多くおり、特に武力によって自分の思い通りにしてきた龍王鬼にとって、戦闘を放棄したのは大きな弱みとして露呈してしまった。

 

(元に戻る可能性は……)

 

(あるとあたしは踏んでる。アラドの窮地にゼオラは強く反応した……今が正気に戻すチャンスだと思う。もしこの偵察で駄目だったら……あたしはなんとしてもゼオラとオウカを守る。この1回だけ、あたしの賭けに乗ってくれないかしら?)

 

虎王鬼とて本意ではない。だが、今心が揺らぎ、朱王鬼の術に揺らぎが見えている今……ゼオラとアラドを会わせる事がゼオラを正気に戻す切っ掛けになるかもしれないと言う虎王鬼の考えには、クエルボも同意出来た。

 

「分かりました……オウカに偵察を頼みます」

 

「……ごめんなさい。風蘭をつけるわ、彼女がいれば最悪は回避出来る。クエルボ、貴方も出撃してくれるわね?」

 

「……はい」

 

それはもしもゼオラが意識を取り戻せば龍王鬼と虎王鬼の元へ帰ってくるなと言う虎王鬼の優しさであり、風蘭はもしもゼオラが己を取り戻す事がない場合のアラドから引き離す為の保険でもあった。庇えないと言いつつも守る為の一手、そして逃げる為の手立ても準備してくれている虎王鬼に心からクエルボは感謝し、虎王鬼の偵察命令を受け入れ、ゼオラとオウカを呼びに行く為に虎王鬼に深く頭を下げてその場を後にした。これがゼオラとオウカを救う手立てになる……根拠はないがこの偵察が自分達を変える手立て……いやゼオラが正気に戻るような予感があるのだった……。

 

街中に佇むペルゼイン・リヒカイトの内部でアルフィミィは閉じていた目をそっと開いた。

 

「……分かっていますの、言われなくても……全部分かっていますのよ」

 

ゲッター炉心を得たアルフィミィは強烈な自我を獲得していたが、それはアインスト・レジセイアやアインスト・ヴォルフにとって面白い物ではなかった。それ故にアルフィミィは異空間を追い出されていた。門を開け、開く為の鍵を手に入れろ……それを成し遂げろと言う命令のみを与えられ、追い出された事にアルフィミィは怒りさえ覚えていた。以前ならば感じなかった感情……ゲッター炉心によって進化したアインストであるアルフィミィは、最早アインストと言う種を越えていた……それをアインスト・レジセイアとアインスト・ヴォルフは許さなかった。自分達が取り込む事を恐れ、アルフィミィに取り込ませたにも関わらず、アルフィミィがゲッター炉心の恩恵を逃さずに掴み取った事を怒っていたのだ。

 

「……良いですのよ、寄り代も鍵も手に入れますの……だけど……私の欲しい者も手に入れますのよ……」

 

与えられた命令は成し遂げる。だが自分の目的も成し遂げる……ゆっくりと顔を上げたアルフィミィの動きを真似るように、ペルゼイン・リヒカイトが顔を上げる。

 

「……まずはエクセレン……貴女ですのよ?」

 

アルフィミィが欲しくて欲しくてしょうがない存在……エクセレンとキョウスケの2人。だが2人揃ってしまうと今のアルフィミィとは言え容易には行かない。キョウスケがいないうちにまずは1人……エクセレンを確実に手中に収める。

 

「……お待ちしてましたのよ、エクセレン?」

 

アルフィミィの思念によってこの場に呼び出されたヴァイスリッターの姿を見て、アルフィミィは残酷で残忍な笑みを浮かべるのだった……。

 

 

 

第190話 愛する者の為に その2へ続く

 

 




ゲームではシナリオの中でエクセレンが連れ去られましたが、今作は少し戦闘シーンも書いて見たいと思います。そして暗いイベントが多かったですが、今回は少し明るいイベントも組み込んで生きたいと思っておりますのでどんな結果が待っているのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

今回のイベントガチャは2週で

舞浜シャイニングパンチ×4でした

はは、偏りすぎと嗤えないレベルですが回避アタッカーが欲しかったのでよしとすることにします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第190話 愛する者の為に その2

 

第190話 愛する者の為に その2

 

ラミアと話をしている途中に急激に意識が遠くのを感じたエクセレンは、気がついたらヴァイスリッターのコックピットに座っていた。

 

「……ここは……『お待ちしておりましたの、エクセレン』……そう、そういう事なのね。ラミアちゃんには悪い事をしたわね」

 

自分がどこにいるのか分からず困惑していたエクセレンだったが、脳内に響いたアルフィミィの声に自分が何故ここにいるのかを理解し、真剣に相談しようとしていたラミアに悪い事をしたわねと呟きながら指をコンソールの上に走らせる。

 

(……駄目ね、通信は無理か)

 

救難要請を出そうとしたが、当然アルフィミィがそれを許すわけも無くジャミングによってハガネに連絡を取る事も難しく、ラングレー基地の戦いでの損傷を考えれば救援が来る可能性も窮めて低かった。

 

「それでアルフィミィちゃんは私に何のようなのかしら? こんな所に態々呼び出して、そっちも大分しんどいんじゃない?」

 

ペルゼイン・リヒカイトの装甲の一部は融解しており、ラングレー基地で見た強化態……背中の翼も肩部の副腕も消失しており、今の姿は初めてエクセレン達がペルゼイン・リヒカイトに遭遇した時の物と殆ど同じだった……違う点があるとすれば、胴体や肘が鋭利になっており、意図的に翼や背中の副腕を隠しているようにも見える。

 

『お互い様ですの、少々龍神のゲッター線は強すぎましたの』

 

お互い様とのアルフィミィの言葉にエクセレンは顔を強張らせた。お互い様と言うがヴァイスリッター改のダメージは深刻であり、本来の機動力は期待出来ない。ラングレー基地で酷使したオクスタンランチャー改は装備しておらず、武装はパルチザンランチャーを装備しているが、カスタムタイプではなく汎用装備の物でありペルゼイン・リヒカイトに対しては余りにも火力が貧弱である。只でさえ薄い装甲はチョバムアーマーで仮修理を施されているだけであり、恐らく一発でも被弾した段階でヴァイスリッター改は撃墜されるような最悪のコンディションだった。幾らエクセレンのパイロットとしての腕前が優秀でも、この状態の機体でペルゼイン・リヒカイトと戦うのはただの自殺行為だった。

 

「それで? 私も無茶できるわけじゃないから帰してくれるなら帰して欲しいんだけど?」

 

『それは駄目ですの、大事な用があってお呼びしたんですのよ?』

 

駄目元で帰してくれないか? と問いかけたエクセレンだが、当然アルフィミィの返答はNOであり、ヴァイスリッター改のコックピットでエクセレンは深い溜め息を吐いた。

 

『迎えに来ましたの、エクセレン』

 

「私を迎えに? 何の為に」

 

『エクセレン……貴女は私、私は貴女ですの』

 

「何を馬鹿な……とは言えないのよね……本当に貴女は何者なのよ?」

 

エクセレンは自分だと、そして私はエクセレンだと言うアルフィミィの言葉に、何を馬鹿なとは言えなかった。本能的、それとも魂の部分とでも言うべき部分で、エクセレンはアルフィミィと深い繋がりがあるのを感じていた……それはレモンに感じたのと似通って、シンパシーと言える何かを感じていた。

 

『……それを説明するのは難しいですの、でも……分かる筈ですの?』

 

「まぁ……分かるっちゃあ分かるんだけど……他に言える事はないの?」

 

口で説明するのは難しいというアルフィミィの言葉もエクセレンには分かっていた。それでも時間稼ぎという目的で敢えて問いかけると、アペルゼイン・リヒカイトはまるで少女のような素振りで首を傾げた。

 

『……私はエクセレン、貴女とキョウスケが欲しいんですの』

 

「……キョウスケが欲しいって……じゃあやっぱりラングレーに来たのは……」

 

『……成り行きがあって戦う事になりましたが……私としては助けに来たつもりでしたのよ?』

 

何を馬鹿なと思うかもしれないが、アインストは確かに百鬼獣とシャドウミラーの無人機、そしてインベーダーを主な敵としていた。攻撃されたので反撃してきていたが、積極的にハガネ達に攻撃する事はなかった事をエクセレンは思い出した。

 

「助けてくれたのは嬉しいけど……でも今はそうじゃないのよね?」

 

『……そうですの♪ 本当はキョウスケも呼びたかったのですが……今呼んでしまうと死んでしまうかもしれないので……先にエクセレンをお迎えしようと思いましたのよ?』

 

「私はそっち系の趣味はないんだけどなあ……」

 

冗談のつもりで同性愛の趣味はないと言うエクセレンに対し、アルフィミィは楽しそうな笑い声を上げた。

 

『……私はキョウスケを愛するように、エクセレンも愛してますのよ?』

 

「え? バイなの?」

 

『……多分そうだと思いますの、でも……今迎えに来た目的は違いますの。キョウスケの命の炎はしっかりと燃えてますので、だから死ぬ事はありませんの……安心して大丈夫ですのよ?』

 

「でも変わりに私を殺すんじゃないの? 死んでも生き返るとか言ってなかった?」

 

死んでも生き返るから大丈夫と繰り返し言っていたアルフィミィに大丈夫しかないと言われても不安しかない……それにエクセレンはピリピリとした雰囲気が頬を伝うのを感じ、これ以上の時間稼ぎも難しいと悟った。

 

『……エクセレンとおしゃべりするのは好きですのよ? だからもーっとゆっくりお話しましょう。そして2人でキョウスケを迎えに行きましょう?』

 

「……あら、もっとゆっくりしてくれても良いのよ? それに貴方がこっちに来る伝いうのはどうかしらん?」

 

『うふふふ、私邪魔されるの好きではありませんの……だから1回おしゃべりは終わりましょう? エクセレン』

 

雰囲気が変わって行くのを感じエクセレンは覚悟を決めてヴァイスリッター改に駄目元でパルチザンランチャーを構えさせる。そしてそれと同時にペルゼイン・リヒカイトもオニレンゲを異空間から引き出してゆったりと構えた。

 

「悪いけど、私はそっちに行くつもりはないわ」

 

『……構いませんのよ……無理にでも連れて行くだけですの、貴女の意志は関係ありませんですの♪』

 

無邪気の中に隠れている狂気……そして狂気の中にもある好意、相反する感情を隠すつもりもないのか、向き出しの感情を叩き付けてくるアルフィミィに恐怖を感じながら、エクセレンはたった1人でペルゼイン・リヒカイトとの戦いに身を投じる。どれほど恐ろしくてもエクセレンは戦える……全てはキョウスケの為だ。アルフィミィは確実にこの後にキョウスケを狙う……ほんの僅かな時間稼ぎで良い、キョウスケが目を覚ますまでの僅かな時間で良い、それを稼ぐ為にどれほど絶望的な状況であっても、エクセレンは恐怖に屈する事無く戦う事が出来るのだ、愛する者を守る為に……。

 

 

 

 

 

 

アースクレイドルの製造ラインは現在シャドウミラーが提供したアシュセイバー、ランドグリーズ、アースゲイン、エルアインス等の製造を停止し、別の機体の製造を行なっていた。

 

「アードラーに今だけは感謝しても良いな」

 

「あんな男に感謝する必要があるのかい? パパ」

 

製造ラインを見ていたイーグレットにウルズがそう声を掛ける。

 

「ウルズ、来ていたのか。すまないな、考え事をしていた」

 

「構わないよ、パパ。それよりも……あれは本当に役に立つの?」

 

ウルズの視線の先は製造ラインに乗っている機体……量産型ゲッターロボGの骨組みがあるが、ウルズの視線は懐疑的だ。

 

「確かにゲッター炉心を詰んでいないゲッターロボGは戦力としての価値はそうない。マシンセルを搭載したとしてもだ」

 

「じゃあなんで作っているの?」

 

「勿論それはマシンセルを投入するためだ」

 

「……?」

 

ウルズは貴重なオリジナルであり、イーグレットはウルズの育成に余念が無い。自分で考え疑問を口にするウルズの頭をイーグレットは優しく撫でる。

 

「ゲッター炉心は貴重な物であると同時に危険な物だ、容易に使えばどんな想定外を引き起こすか想像も付かない、だが恐れていては折角の宝も持ち腐れになる。データを得るためには、多少のリスクは承知でそれを使う必要もあるのだよ。アンサズやスリサズに先行試作型の量産型ゲッターロボGにマシンセルを投入した物を与える。ウルズよ、2人の監視として付いてくれるな?」

 

「それは構わないけど……出撃命令は出ていないよ?」

 

「分かっているさ、だがアウルム1達が偵察に出る。これは何かあると考えている。何もなければそれで良いが……頼めるな?」

 

疑問系だが、ウルズはイーグレットの頼みを断れない。それに頼られていると言う実感がウルズの頬を緩ませる……作られた存在であれどその仕草は人間そのものであり、コーウェンとスティンガーの技術提供によって完成したマシンナリーチルドレンの完成度は、イーグレットから見ても満足行くものだった。

 

「では任せたぞ、ウルズ」

 

「うん! 任せてよパパ」

 

胸を叩いて出て行くウルズを見送り、イーグレットの視線は再び製造ラインへと向けられる。

 

「アンサズとスリサズは替えが効く、最悪次のナンバーの製造を考えるか」

 

1度破棄し、作り直したアンサズとスリサズにベルゲルミル・タイプDを与え、これでも負けるくらいならアンサズとスリサズには期待は出来ないかとウルズに向けていたのは違い冷酷な笑みを浮かべ、出撃していくベルゲルミル・タイプGと2機のタイプDを見送るのだった……。

 

 

 

白刃が煌き、高出力のビームを真正面から両断する。両断されたビームが背後の海面に着弾し水柱を上げる音を聞きながらアルフィミィはペルゼイン・リヒカイトを操り、飛んで来たミサイルを素手で掴んで爆発させる。

 

『……やっぱ駄目か』

 

フルパワーのビーム、スプリットミサイルによる煙幕を重ね、背後を取ったヴァイスリッター改だったが、ペルゼイン・リヒカイト……いや、アルフィミィはそれに惑わされる事無く、ヴァイスリッター改の姿を捉え、既に臨戦態勢に入っていた。

 

「いいえ、今のは良い線行ってましたのよ?」

 

フルパワーモード、そしてスプリットミサイルを目隠しにし、背後に回るというエクセレンの考え自体は悪くない。惜しむらくはアルフィミィ、そしてペルゼイン・リヒカイトの圧倒的な反応速度にあった。

 

「その機体で良くやりますの」

 

『愛は無敵って知ってる?』

 

からかうようなエクセレンの言葉にアルフィミィはむうっと口を細めた。アルフィミィが求めてやまないもの……それを持っているエクセレンが恨めしかった、何故同じ存在の筈なのに自分とこうも違うのかと僅かな嫉妬心を抱く、だがアルフィミィは決して感情的になる事は無く、冷静さを保っていた。

 

「……それを知る為にキョウスケとエクセレンが欲しいのですの」

 

『愛は拘束する物じゃないのよ? アインストなんか止めてこっちに来なさいな』

 

オニレンゲの一撃を舞うように回避し、6連装ビームキャノンを放とうとするが……その左腕からビームが発射される事は無かった。

 

『ッ!?』

 

そもそもヴァイスリッター改も大きな損傷を受けていたのだ、そんな状態で戦闘を行なう事体が無謀でありむしろ今まで良く持ったと言うべきなのだ。6連装ビームキャノンの砲身が吹き飛びヴァイスリッター改の動きが一瞬硬直する。

 

「……ふふふ、その手癖の悪い左腕をまずは貰いますの」

 

『きゃあッ!?』

 

一瞬の閃光が走りヴァイスリッター改の左腕が宙を舞い、それが爆発した事でヴァイスリッター改は大きく姿勢を崩した。

 

「……ッ! うう……本当にその有様で良くやりますの……ッ」

 

これが好機とエクセレンを捕らえようとしたアルフィミィだったが、上空から急降下して来たパルチザンランチャーBモードの弾頭に背中を撃ちぬかれ、たたらを踏んで動きを止める。

 

『はぁ……はぁ……そう簡単に私はやられないわよ……アルフィミィちゃんッ』

 

今のエクセレンは手負いの獣だ、本来のお調子者の仮面すら脱ぎ捨てて本気でアルフィミィを倒そうとしている。

 

「……愛、愛ですの……私もそれが欲しい……だからまずは……エクセレン、貴女ですのッ!」

 

『だからなんでそこで私が欲しいってなるのよ!』

 

パルチザンランチャーの散弾がペルゼイン・リヒカイトの装甲を抉るが、自己再生能力によって受けたダメージは即座に修復し、逃げに回るヴァイスリッター改をペルゼイン・リヒカイトは執拗に追い回す。

 

「……キョウスケはエクセレンが好きですのよ、なら私がエクセレンになればキョウスケは私は愛してくれますの」

 

ゲッター炉心を得て人間に近づいても、アルフィミィの考え方はアインストだ、アインストの考え方しか出来ない。キョウスケが欲しい、でもキョウスケは自分を見てくれない、ならキョウスケが見ているエクセレンになればいい。じゃあエクセレンになるにはどうすれば良いかと考え、エクセレンを取り込もうと考えたが、アルフィミィはエクセレンも好きなのでエクセレンが消えてしまうのは困る。

 

「……足りない部分を貰いますの、貴女から……そうすれば私はエクセレンになれますのよ?」

 

『……アルフィミィちゃんに何が足りないのかは分からないけど……アルフィミィちゃんは私にはなれないわよ』

 

「……いいえ、なれますの。だって私はエクセレン、エクセレンは私ですの! 私に足りない物をエクセレンは持ってる、エクセレンにもってない物を私は持ってる、交換ですのよ」

 

半壊したヴァイスリッター改は完全に勢いの乗ったペルゼイン・リヒカイトを止めることは出来ない。パルチザンランチャーも右腕1本では保持しきれず、反動の少ないビームを放つが、反動が少ない分威力も乏しいビームではペルゼイン・リヒカイトの突撃を止めるのには至らない。

 

「……まずは邪魔なそれを貰いますのッ!!」

 

白刃が煌きパルチザンランチャーの砲身が両断され、それを見てエクセレンは咄嗟にパルチザンランチャーを投げ捨てようと操縦を行なう。

 

『反応が鈍いッ! くううッ!!!?』

 

辛うじて投げ捨てたが、ここで損傷のツケが回って来た。エクセレンの操縦からかなりのラグの後、ヴァイスリッター改はパルチザンランチャーを投げ捨てた。至近距離の爆発は回避したが、それでもヴァイスリッター改の右肘から先は爆発に飲み込まれて吹き飛んだ。両腕を失い、辛うじて浮遊している状態のヴァイスリッター改のコックピットの中でエクセレンは頭を振り、失いそうになる意識を必死に繋ぎとめるが……それは最早無駄な抵抗だった。両腕を失い、武装はスプリットミサイルのみ……そんな状態のヴァイスリッター改では、ペルゼイン・リヒカイトと戦うのは勿論逃げることすら不可能だった。

 

『くっ!! なんか段々分かって来たけど……随分と趣味の悪いことをするわね!!』

 

アルフィミィの激情、そしてエクセレンが感じているシンパシー、キョウスケへの執着……戦いの中でエクセレンはうっすらとアルフィミィの正体に気付きかけ、アルフィミィはそれを言わせまいと一瞬で間合いを詰めた。

 

「……エクセレン、一緒に行きましょう」

 

もう抵抗できないヴァイスリッター改の頭部をペルゼイン・リヒカイトが掴み、自爆なんてさせないように至近距離の思念波でエクセレンの意識を刈り取る。

 

『……ごめ……キョ……ケ』

 

カメラアイから光が消えたヴァイスリッター改をペルゼイン・リヒカイトがその両腕で抱きとめる。

 

『しょ、少尉!!』

 

『アルフィミィッ!! エクセレン少尉を返しやがれッ!!』

 

エクセレンの必死の時間稼ぎは後ほんの少しだけ足りなかった……後ほんの数分耐えれれば結果はまた違っていただろうが、幸運の女神はアルフィミィに微笑んだのだ。

 

「……御機嫌よう、キョウスケに伝えてくださいの、今度は2人で迎えに行きますのと」

 

戦う事も出来たが、アルフィミィはエクセレンを連れ帰る事を優先した。そしてペルゼイン・リヒカイトがヴァイスリッターを抱き抱えていることで攻撃が出来ないR-1やフェアリオンを見つめたアルフィミィは勝利を確信した笑みを浮かべ、キョウスケに伝言を伝えるようにとリュウセイ達に告げ転移でその場を後にするのだった……。

 

 

 

 

エクセレンが飛び出して行き、すぐにリュウセイ、ラトゥーニ、シャイン、アラド、マサキ、リューネ、リョウト、リオ、マイ、アイビス、スレイの11人は出撃したが、エクセレンがどこに向かったのか分からず分担して捜索に向かうことになった。その理由はヴァイスリッター改の移動した痕跡が無く、スペリオル湖からどこへ向かったのか分からず、予想される進路で2人ずつ分かれて捜索を行う事になったのだ。その道中で戦闘反応を感知して、リュウセイとラトゥーニ、そして2人と近い範囲を捜索していたアラドとシャインの2人の計4人が戦闘区域に辿り着く事が出来たが一歩遅かった。

 

『くそッ!! 追いきれなかったッ!!』

 

『アルフィミィに連れ去られて……ッ』

 

半壊したヴァイスリッター改を抱き抱えて空間の裂け目に飲み込まれるようにして消えていったペルゼイン・リヒカイト。後ほんの少し早ければ救出出来たかもしれなかった事にリュウセイは叫び声を上げ、シャインは苦しそうに眉を顰めた。

 

「2人で迎えに行くって……まさか……」

 

『最悪の結果が考えられる……キョウスケ中尉になんて言えば……』

 

2人で迎えに行く……武蔵達から聞いていたアインストの生態。それを考えればアルフィミィに連れ去られたエクセレンがどうなるのか……最悪の結果即ちアインストにされる可能性があった。

 

『ビーコンを! マサキ達をこっちに呼んで……なんだッ!?』

 

『敵機反応……ッ! 私達と同じでエクセレン少尉の戦闘反応を感知されたんだわ』

 

『くそッ! そんなことをしている場合じゃねえって言うのにッ!!』

 

今ならばまだエクセレンを助けれるかもしれないという状況での敵機の熱源反応にアラドが声を上げた、熱源反応の方にビルトビルガーを反転させ、次の瞬間にアラドの怒りは急速に冷えた……。

 

「ぜ、ゼオラ……ッ!!」

 

数体のエルアインス、鳥獣鬼の後に黒い外套を身に纏ったビルトファルケンの姿を見つけ、アラドの胸中にやっと、やっとまた会う事が出来たという喜びが広がる……だがエクセレンの事もあるのにゼオラに気を割いている時間はない……救えるかも分からないゼオラよりも、今はエクセレンを優先するのが正しい筈だ……自分の事よりもエクセレンの事を優先するのが1番の正解だと分かっている。

 

『アラド! ビルトファルケンを「撃墜するんですよね……」撃墜!? 何言ってる! 今度こそ助けるんだよッ!! やる前に諦めんなッ!!』

 

「え? 撃墜じゃ……それにエクセレン少尉だって」

 

リュウセイからの撃墜の指示だと思ったアラドは驚きに顔を上げる。

 

『まだエクセレン少尉がアインストになるって決まったわけじゃねぇ! やっと見つけたんだろッ! 今度こそ取り戻すんだよッ!!』

 

『……これが多分最後のチャンス……次はない、今度こそゼオラを取り返そう』

 

『時間はありますわ! 3分……いや……4分ッ! 4分の間は百鬼獣の増援はありませんわ! 男ならこの4分で決めるんですわッ!!』

 

「リュウセイ、それにラトゥーニ、シャイン王女……ああ、言われるまでもねぇッ!! 今度こそゼオラもオウカ姉さんもセロ博士も取り返すッ!!」

 

これが最後のチャンス……百鬼帝国の存在が明らかになり、プランタジネットで百鬼帝国も少なくないダメージを受けている。そうなればコウキの言っていた通りに鬼への改造が始まる……鬼になっては殺すしかなくなる。この最後のチャンスを死んでも掴むとアラドは大きく吼える。

 

『俺達がフォローする! アラド、お前はファルケンに取り付けッ!』

 

「了解ッ!! 行くぜッ! ゼオラァアアアアアアッ!!!」

 

R-ウィング、フェアリオンの支援を受けてビルトビルガーは弾丸のような勢いでビルトファルケンの元へと向かう。

 

「……」

 

ファルケンに突撃してくるビルガーをゼオラは何の感情も宿していない瞳で見つめる。朱王鬼の掛けた術はその効力は完全に発揮し、今のゼオラは戦闘技術だけを残した人形状態……である筈だった。

 

「……ド……ラド……ア……ラ……ド?」

 

その黒く澱んだ瞳に僅かに知性の色が現れたが、再びその知性の色は深く澱んだ闇の中へと沈み、ゼオラはファルケンの操縦桿を握る。だがその手は僅かに震えていた……それはアラドを殺せと言う朱王鬼の命令を拒否しているゼオラの心の表れであり、弱々しいがゼオラが朱王鬼の術に抗おうとしている確かな証なのだった……。

 

 

第191話 愛する者の為に その3へ続く

 

 




と言う訳で今回も少し短いシナリオでしたが、シナリオデモなのでお許しください。次回からは戦闘描写を多くするので文字数が増える予定ですし、難易度マシマシの敵も出ますしきっと大丈夫ですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


PS

イベントガチャは最後までオーシャンパンチでした。無念


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第191話 愛する者の為に その3

第191話 愛する者の為に その3

 

風神鬼のコックピットで風蘭は隠すつもりも無い様子で不機嫌そうに大きく舌打ちした。

 

「オウカ、クエルボ、急ぐよ。ゼオラの奴がハガネのPTと会敵したみたいだ……アラドって奴もいる」

 

風蘭、オウカ、クエルボと出撃した筈のゼオラだけが何故リュウセイ達の前に現れたのかと言えば単純な事である。出撃と同時に風蘭達を振り切って1人で独断専行を行なったからだ。スピードに秀でている風神鬼だが出鼻を挫かれ、最大速度で飛び出して行ったビルトファルケンに追いつくのは容易な話ではなかった。更に言えば追いつく事は不可能では無かったが、そうなれば今度はオウカとクエルボを残す事になる。龍王鬼と虎王鬼の2人は力こそ正義というカリスマ性を持つが、コウメイや四本鬼のような策謀を好む鬼とは相性が悪く、戦闘放棄で謹慎を命じられている今の間に更に失墜させようとちょっかいを掛けてくる可能性が高いと分かっている中でオウカとクエルボをアースクレイドル近辺に残す事も出来ず、ラピエサージュとラーズアングリフが付いてこれるギリギリの速度で飛行しながらゼオラを探していたのだ。

 

『風蘭さんッ! ポイントは! どこにゼオラとアラドはいるんですか!?』

 

「私が先行する。オウカとクエルボは遅れないで着いて来なッ!!」

 

戦闘を始めてるとなればアラド達にとっても、オウカ達にとっても最悪の結果になる可能性はある……それを阻止する為にも風蘭達は一刻も早く戦闘区域に向かう必要があった。

 

(なんでオウカ達はこうも運が悪いかなあ……)

 

当たり前の事だが偵察に出ているのはオウカ達だけではない、プランタジネットでとんでもない失態を犯したヴィンデルも姿を隠しているハガネを見つけ名誉挽回を図る為にエルアインス達を偵察に出しているし、ハガネを見つけることで名前持ちになろうとしている野心家の鬼達も動いている事を考えれば、早急にゼオラ達を見つけなくてはならないのだ。

 

『しかし何故今になってゼオラが勝手に移動を始めたと言うんだ……今まで何の反応も見せなかったと言うのに……』

 

オウカやクエルボが言わなければ動く事の無かったゼオラが、出撃すると同時に制止を振り切って飛び出した。その事に疑問を覚えているクエルボに風蘭が確信はないけどと前置きしてから口を開いた。

 

「プランタジネットでアラドは死に掛けた、出撃はして無かったけどゼオラも、オウカ達もそれを見てただろ?」

 

『は、はい……確かに見ていましたが……それが何か関係があるのですか?』

 

「そこは確信はないって言っただろオウカ。アラドが死に掛けているのを見て何らかの心境の変化……いや、朱王鬼の術で自我を封じられてもなお、アラドを思う気持ちがゼオラにあったって事さ、だからゼオラはアラドの所に向かったんだ。無意識に助けを求めたのか……それとも朱王鬼の命令が残っていて殺しにいこうとしたかは私にも分かんないけどね」

 

前者ならゼオラが元に戻る可能性を示唆しており、後者ならば何もかもが終わる。アラドを殺してゼオラが正気に戻り、ゼオラが自らの手でアラドを殺したショックで自殺する……その最悪の展開も十分に予測できる。

 

『そんなことはさせません、姉として……私はそんなことはさせませんッ』

 

「その意気だ、だけど気をつけなよ。あんたもクエルボも、勿論私もね」

 

百鬼帝国は実力こそ全ての縦社会だ。表向きは従順でも、裏では足を引っ張る事を考えているような連中ばかりだ。

 

『気をつける……フレンドリファイヤの事ですか?』

 

「は、そんなもんじゃないよ、邪魔者を排除しようとする容赦の無い攻撃さ。常に警戒してな、まぁ虎王鬼様に言われてるからあんた達は無事にアースクレイドルには返してやるさ」

 

『……風蘭さん……貴女は何故、そこまで親身になってくれるんですか?』

 

最悪の状況に備えて虎王鬼に付くように言われているから風蘭は一緒に行動していると思っていたオウカだが、風蘭の言葉の節々にはオウカ達やアラドに対する思いやりが感じられた。

 

「こんな時に何を言ってるのさ、急がないと手遅れになるよ」

 

オウカの問いかけに対して返ってきたのは風蘭の冷たい態度と刺々しい言葉であり、オウカは風蘭の地雷を完全に踏んだと気付いたが、すでに遅かった。風蘭の態度は急によそよそしい物になり、強い拒絶を感じさせた。

 

『……そう……ですね、すいませんでした』

 

「分かったら良いさ、急ぐよ」

 

どうも触れてはいけない部分だったのか、急に冷たくなった風蘭にオウカは何も言えずスピードを上げた風神鬼についていく為にオウカは操縦に集中し始める。先行する風神鬼のコックピットの風蘭の腕には、傷だらけのゴールドのブレスレットが静かに揺れているのだった……。

 

 

 

 

リュウセイの視界全てを埋め尽くすのは、2機の鳥獣鬼が放ったPTの腕ほどの大きさの巨大な羽の嵐だった。一発でも被弾すれば、PTにとって致命傷になりかねない殺意に塗れた攻撃にR-ウィング……いや、機体後部から背部にかけて強化装甲と巨大なブースターを装備した変形を封じ、飛行能力を特化させたR-ウィング・OB(オーバーブースター)と呼ぶべき機体を操るリュウセイは、恐れる事無く鳥獣鬼の翼の雨に自ら機首を捻じ込みながら飛び込んだ。

 

『馬鹿がッ!!』

 

『血迷って自殺行為かッ!! 愚か者めッ!!』

 

鳥獣鬼から響くのは唸り声ではない、パイロットである鬼のリュウセイに対する蔑みの言葉だ。風蘭の告げたとおりゼオラと共に現れた百鬼獣はゼオラの味方ではなく、自分達の手柄を求めて移動しているビルトファルケンを追いかけて来ただけの名前すら持たない鬼だ。だからこそスタンドプレイに出る。カスタムされた鳥獣鬼、そして専用機を与えられた名前持ちの候補……名前持ちには劣るが十分にエリートと呼べる。だがそんな鬼は幾らでもいるのだ、手柄を求めほかの鬼よりも優れていると言う証明を欲している鬼はハガネを発見する……あるいはそれに順ずる手柄であるリュウセイが自ら飛び込んで来たことに笑みを浮かべる。

 

「俺を舐めるなよッ!! 百鬼帝国ッ!!」

 

リュウセイの雄叫びを嘲笑った鬼だったが、R-ウィング・OBの加速にその嘲笑は凍りついた。

 

「うおおおっ!!!」

 

バレルロールを駆使し、最小の動きで鳥獣鬼の翼の雨を回避したR-ウィング・OBは鳥獣鬼の間を通りぬけると同時に機首を上げて頭を取った。

 

『馬鹿なッ!? 何故避けきれたッ!?』

 

『人間の機体風情が何故ッ!?』

 

確実に落せると確信していた鬼は回避された事に驚きの声を上げる。だがそれは慢心であり驕りである。人間は鬼に勝てないと言う思い込みがリュウセイの動きを見誤らせたのだ。

 

「いっけええッ!!!」

 

轟音と共に放たれたレールガンの銃弾が鳥獣鬼に向かって放たれ、1機は冷静に横に移動し回避した。だがもう1機は被弾しながらも前に出て確実にR-ウィング・OBを墜落させる事を選択し……それが2人の鬼の命運を分けた。

 

『ギャアッ!? な、なんで……う……そ……だろ?』

 

放たれたレールガンの弾頭は鳥獣鬼の頭部を吹き飛ばし、胴体に風穴を開ける。その一撃は鳥獣鬼にとっての致命傷となり、信じられない、いや信じたくないと言う言葉を残して、名前持ち候補だった1体の鬼を乗せたまま鳥獣鬼は空中で爆発四散した。

 

『やはりゲッター合金かッ!!! 相手にとって不足なしッ!! 勝負だッ!! 俺はお前に勝ち、龍王鬼様の配下になるのだッ!!』

 

避けた鳥獣鬼はR-ウィング・OBから放たれたレールガンの弾頭がゲッター合金である事に気づき獰猛な笑みを浮かべる。この鬼の気質もまた通常の鬼とは異質な物――戦いを誉れとし、卑怯な事を嫌う武人肌。だがそんな鬼が全て龍王鬼の配下になれるわけではない、気質が合わない名前持ちの部下になることもある。そんな中で名前持ちの候補になったという事は武勲次第では望みを叶えることも可能だ。

 

『行くぞ! リュウセイ・ダテッ!! 殺しはせん、だが俺と共に来てもらおうかッ!!!』

 

「断るッ!! てめえらの所になんて誰が行くかよッ!!!」

 

鳥獣鬼が腰にマウントしているブレードを抜き放ち、翼を大きく羽ばたかせ急加速しR-ウィング・OBへと突撃する。

 

「クソッ! はええッ!!」

 

『どうしたどうした!! R-1とやらになれッ!! 腕を持たず俺を倒せると思っているのかッ!!!』

 

ピッタリと横を飛びながら変形しろと叫びつつ手にしたブレードを振る鳥獣鬼の言葉にリュウセイは顔を歪める。

 

(出来るなら俺だってしてるってのッ!!)

 

相手が遠距離攻撃かつ空中戦を挑んでくるのならばR-ウィング・OBで十分戦える。しかし目の前の鳥獣鬼のように接近戦を仕掛けてくる相手ならば変形した方が戦いやすいのは明白だ。だがそれが今のR-ウィングには出来ないのだ。無理にR-2・R-3から分離させた為に変形機構の一部に異常を起しており、PT形態に変形は限りなく不可能に近い。だからビアンがベルガリオンやベガリオンのテストの為に作成した強化パーツを装着して出撃しているのだ。これならば変形出来なくてもある程度戦え、なおかつフェアリオンにも追いつけるという計算の上での選択だった。出撃出来る機体が少なく、そしてエクセレンが姿を消すのを事前に感知したリュウセイがいち早く出撃体制に入れたからこその応急処置であり、仮に装甲をパージすれば機体にガタが来ているR-ウィングは強制的に変形を行なうしかなく、もしも変形に失敗すれば空中分解すらしかねない状況だ。

 

「だからって泣き言はいわねえぞッ! 俺はなッ!!」

 

今もアラドは必死にゼオラを取り戻そうとしているのだ。それを手伝うと言っておいて情けない真似が出来るかとリュウセイは吼え、R-ウィング・OBの機首を上げて急上昇する。

 

『逃げる……いや……ふっ、良いだろう、乗ってやるさッ!!!』

 

リュウセイの動きがビルガーとファルケンから自分を引き離そうとしている事に気付き、パイロットである鬼は獰猛に笑い鳥獣鬼を操る。

 

「行くぜぇッ!!!」

 

『元より俺はお前しか見ていないッ!! 周りが気になると言うのならばお前にあわせてやるさッ!!!』

 

R-ウィング・OBの放ったガトリングの銃弾を切り払いながら間合いを詰めようとする鳥獣鬼と、そうはさせないと緩急を生かした動きと銃火器を駆使するR-ウィング・OB。そしてビルガーとファルケンにも近づけさせない。勝ち目のない勝負ということはリュウセイも分かっているが、勝ち目がない=負けではない。武蔵や共にエクセレンを追って出撃したリョウト達が合流するまで粘ればリュウセイは勝ちなのだ。この不利な戦況を均衡状態に戻せるだけの、そしてアラドがゼオラを取り返す間の邪魔をさせない時間を稼ぎ切れれば良いのだ。

 

「行くぜぇッ!!!」

 

切れる手札も持ち札も決して多くない、だがたった1枚だけ……切り札はしっかりと握っている。だが切るタイミングを間違えば、全てが台無しになる……そしてこの超高速の空中戦はリュウセイが体験した事のないものであり、恐ろしい疲労が爆発的に襲い掛かってくる。

 

「……アラド。やり遂げろよッ」

 

視界の隅で必死にファルケンとの距離を詰めようとしているビルガーを見てリュウセイは小さくアラドを鼓舞する言葉を口にし、視線を鳥獣鬼に向ける、目の前の相手は他ごとを考えて勝てる相手ではない。名前こそないが、それに匹敵する力を秘めた強力な鬼である事は間違いない……ここからはリュウセイはアラドやラトゥーニ達の為に出来る事はない、目の前の敵に意識を向け、操縦桿を強く握り締め操縦に全集中を傾けるのだった……。

 

 

 

 

エルアインスの放ったG・リボルバーの弾丸を2機のフェアリオンは舞う様に回転しながら避ける。だが反撃することは無く、一定の距離をエルアインスと取る。

 

『『……』』

 

すると下がった分だけ、エルアインスが前に出る。だが決して前に出すぎる事は無く、フェアリオンが更にほんの少し下がる素振りを見せるとG・リボルバーの銃口をビルガーに向ける。それを見てラトゥーニがフェアリオン・タイプSを前進させるとその銃口をフェアリオンへ・Sへと向ける。その姿を見てラトゥーニは確信を持つ事が出来た、エルアインスに乗っているWシリーズに自我が存在していない事に……。

 

「やっぱり……この人達はラミアさんとは違う」

 

一定の距離を保ち、攻撃を仕掛ける相手を狙う。モーションデータこそ人のように読みきれない物だが、その行動基準は人工知能の物に等しかった。

 

『そうみたいですわね……出来る事ならば倒してしまいたい所ですが……』

 

「下手にダメージを与えるとさっきみたいに自爆されます、シャイン王女」

 

軽微なダメージでは意に介さず攻撃を続け、行動に支障が出る程のダメージを受けると躊躇う事無く自爆する……さっきはシャインの予知で回避する事は出来たが、そう何回も上手く行くとは限らない。それにシャインとラトゥーニを自爆に巻き込めないと判断してアラドとゼオラの方に向かわれても困る。故にラトゥーニとシャインに取れる選択肢は、エルアインスを誘導する一定の距離を保ちながら回避を行なうという事だけだった。誤解して欲しくないのだが、フェアリオンにはエルアインスを一撃で粉砕するだけの攻撃力はある。だが逆を言えば威力がありすぎ、ドッグファイトを行なっているR-ウィング・OBや、ビルトファルケンの攻撃を回避する事に専念しつつも徐々に距離を詰めているビルトビルガーを巻き込みかねないので使えないのだ。

 

「シャイン王女……マサキ達は間に合いますか?」

 

『……言いにくいことですが……敵の方が早いですわ』

 

搾り出すように告げられたシャインの言葉にラトゥーニは驚きは無かった。そもそも自分達の方が拠点から離れているのだ、応援にくるのに時間が掛かるのは当然だ。そういう面ではアラドとゼオラが会敵する前にリュウセイとラトゥーニがシャインとアラドに合流できたことの方が幸運と言えたのだ。

 

(アラド……急いで……時間はそんなにないわ)

 

4分という時間は日常で言えばなんでもない一瞬の時間だが、命のやり取りを行う戦場での240秒という時間はその極限の集中状態も相まって数倍、いや数百倍の時間にすら感じることだってあるだろう。ましてやゼオラ達を取り返す機会を窺い続け、そしてやっと得たこの時間……それは限界以上にアラドの力を引き出していた。

 

『ゼオラッ!! 俺だ! アラドだッ!! 殺すでも何でも良い! 返事をしてくれ……ゼオラッ!!!』

 

アラドが必死にゼオラの名を叫びながらビルトファルケンを追う。その姿は無防備でゼオラの技量を持ってすれば……いや、殺すという意志さえあれば狙う必要も無くビルトビルガーのコックピットを打ち抜ける明確な隙だった。

 

『……ッ!』

 

だがビルトファルケンはオクスタンライフルの銃口を向け引き金を引くが、その銃弾やビームは明後日の方向へ飛ぶ。それはゼオラの技量、そしてTC-OSの事を考えればありえない事だ。あの距離で銃口をあわせているのに外すという事は元来ありえない事で、ゼオラがその意志を持ってビルトビルガーを撃墜する事を拒んでいるとしか言えない光景だった。

 

「ゼオラッ!! ゼオラッ!! 逃げないでゼオラッ!!!」

 

『鬼の卑劣な術になんて負けてはいけませんわ!! 意志をハッキリと持つのです!!』

 

エルアインスへの攻撃を回避しながらラトゥーニとシャインは広域通信でゼオラへと呼びかける。機械的とはいえ攻撃を続けてくるエルアインスの攻撃を回避しながらゼオラへと呼びかける事は容易では無い、しかし味方を巻き込む可能性があり反撃を行う事が出来ないのならば、せめて声を掛けるだけでもと必死に叫んだ。

 

『……ア……ラ……』

 

『動きがッ!! 今行くぜッ!!! ゼオラぁアアアアッ!!!』

 

アラド達の叫びがゼオラに届いたのか、その動きが止まった。その瞬間をチャンスだと判断しビルトビルガーが急加速しビルトファルケンに接触しようとした寸前シャインが叫んだ。

 

『アラドッ! 止まってッ!! 駄目ッ!!』

 

シャインの予知は限りなく完璧な未来予知と言えるだろう。だがそんなシャインでも読めない物がある……それはゲッター線だ。ゲッター線に関する物――武蔵の所在やどこにいるのか分からなかったのはシャインの予知ではゲッター線の意思を完全に読みきれないからだ。それでも悪意は感じ取れ、アラドに駄目だと叫んだが……それは余りにも遅すぎた。

 

『え……う、うわあああああああッ!!!!』

 

上空から降り注いだ翡翠の輝きがビルトビルガーを飲み込み、アラドの苦悶の叫び声が海上へ響き渡る。

 

「あれはッ!? サマ基地のッ!?」

 

翡翠の光が飛んで来た方角を見てラトゥーニは驚きの声を上げた。何故ならばそこにはサマ基地で共行王と共に現れたゲッターロボの面影を持つ異形の人型機動兵器――ベルゲルミル・タイプG、そしてドラゴンの面影を持つベルゲルミル・タイプDの姿があったからだ。

 

『あはははははっ!! 死ね! ゲッター線の輝きの中で死ね! 出来損ないの欠陥品がぁッ!?』

 

ゲッター線ビームキャノンを放ちながら高笑いをするアンサズの乗るベルゲルミル・タイプDの頭部に後方からエルアインスを破壊し飛来した銃弾と風の刃が命中し、その頭部を斬り飛ばす。だが触手が伸びきり飛ばされた首は一瞬で胴体へと戻るが、ビルトビルガーを飲み込んでいたゲッター線の光の照射は止まっていた……。

 

『私の弟に何をするッ!!』

 

『やれやれとんだ餓鬼共だ、良い加減にしろよ。この糞餓鬼共、誰に許可を得てこの場に来てるんだ?』

 

アラドを救ったのはオウカ、そして風蘭の2人だった、ラピエサージュと風神鬼がベルゲルミル・タイプGとタイプDの前に立ち塞がる。

 

『僕は言ったぞ、あくまで偵察だとな……僕は何もしない、自分達で何とかするんだね』

 

『ああ、良いさ、ウルズ。欠陥品を処分するくらい僕達で十分だ』

 

『パパに僕達は役に立つって報告してくれよ』

 

『……それはこの戦いを見てからにする』

 

ベルゲルミル・タイプGは興味なさげに後退し、マントで自身の身体を包むとゲッター線バリアを展開し完全に見ることに徹する姿勢に入る。

 

『アウルム1……僕達に逆らったって事は死ぬ覚悟は出来てるんだよなあ、欠陥品と出来損ない風情が僕達に勝てると思ってるのかい?』

 

ダブルトマホークを構えるスリサズの乗るベルゲルミル・タイプDにオウカは一歩も引かない。

 

『番号の名を誇らしげにする可哀そうな子供達、イーグレットに愛されていないことも分からないのですね』

 

それは安い挑発、だがスリサズはそれに乗った。未熟で歪な精神を持つスリサズにはオウカの挑発を聞き流す事が出来なかったのだ。

 

『ふざけるな!! 欠陥品風情がッ!! お前なんかがパパを語るんじゃないッ!!』

 

激昂しラピエサージュに襲い掛かるベルゲルミル・タイプD。だがそれはオウカが自ら望んだ結果だった……。

 

『ラト! ゼオラとアラドをッ! こいつは私が引き受けますッ!!』

 

『裏切るのか!! ははははッ!! 良いよ、ここで処分してやるよぉッ!!!』

 

メガプラズマカッターとダブルトマホークで鍔迫り合いを行う隣をアンサズの乗るベルゲルミル・タイプDがすり抜け、ビルトビルガーへ向かおうとする。だがフェアリオン・タイプGとSがベルゲルミル・タイプDの前に立ち塞がる。

 

 

「ここは通さない」

 

『その通りですわ』

 

『はっ! そんな人形で僕を止め『いいや、私もいるよ。お前……目障りだな』がぁッ!? 敵は僕じゃないだろ!? 風蘭ッ!!』

 

フェアリオンの前で浮かぶ風神鬼に向かってアンサズがそう叫ぶが、風蘭ははぁ? と馬鹿にするような返事を返す。

 

『私は龍王鬼様と虎王鬼様の配下さ、んであんたらは龍王鬼様は味方と認めていない。じゃあ話は簡単だ、目障りなあんたは私の敵さッ!!!』

 

風蘭やヤイバ、闘龍鬼にとっては龍王鬼と虎王鬼の指示が全てだ。そして龍王鬼が味方と認めていないのならばアンサズとスリサズは味方ではないと言う暴論で風蘭はアンサズと戦う事を決めた。

 

『と、言うわけだ。手伝うさ』

 

「どうして?」

 

『気に食わないだけさ、深い理由じゃないけど、私に取っちゃあ戦う理由なんてそれで十分さ。理由になってないかい?』

 

龍王鬼や、闘龍鬼達の気質を知っているラトゥーニとシャインは風蘭の言葉に嘘はないと受け入れた。

 

『……今は信じますわ、風蘭さん』

 

「あとで戦うとしても……今は信じる」

 

ラトゥーニとシャインの言葉に風蘭は満足そうに笑い、風神鬼の腰の鞘から剣を抜き放たたせ、ベルゲルミル・タイプDと対峙させるのだった……。

 

 

 

 

短い時間とは言えゲッター線ビームキャノンの掃射を受けていたビルトビルガーは深刻なダメージを受けていた、勿論パイロットであるアラドもゲッター線の熱で身体を焼かれ全身に軽い火傷を負っていた……。

 

「う……あ……」

 

異常な熱が満ちるコックピットの中で意識を取り戻したアラドは震える手で、コンソールに手を伸ばす。

 

「……レッドアラートばっかり……かよ……は、はは……ここまでか」

 

強化装甲ごと素体も焼かれており、アラートを灯す機体の状態を見てアラドは乾いた笑い声を上げた。

 

『くっ!!』

 

『はははっ! 裏切り者なんかが僕に勝てると思ってるのかいッ!!!』

 

ノイズ交じりのモニターに映るベルゲルミル・タイプDとラピエサージュの姿にアラドは驚きに目を見開いた。

 

「オウカ姉さん……助けて……くれてるのか……」

 

黒煙を上げながら辛うじて浮いているだけのビルガーを庇うように立ち回っているラピエサージュを見て、自分が足枷になってる事に気付き固く拳を握り締める。

 

『邪魔をするなよ!!』

 

『ううっ!! こいつの動きが全然読めませんわッ!?』

 

『シャイン王女ッ! ううっ!?』

 

フェアリオンから響くラトゥーニとシャインの苦悶の声……どれほど意識を失っていたのかはアラドには分からない、だがフェアリオンの装甲に傷が付いているのを見て自分が庇われていた事に気づいたアラドは、音が出る程に歯を噛み締めた。動かない機体が2つ、その内ビルトファルケンは健在だが、朱王鬼の術によって意識を封じられているゼオラが乗っていては大破とそう違いはない……だがビルガーと違ってゼオラが意識を取り戻せば……オウカ達は逃げれる。

 

「……あとちょっとだけ……後少しだけで良いから……動いてくれ、ビルガー……ッ」

 

アラドの想いに応えるように再び動き出したビルトビルガーは緩慢な動きで同じ様に宙に棒立ちで浮かんでいたビルトファルケンに組み付いた。

 

「ゼオラ……ゼオラ、聞こえるか? いや、聞こえてなくても良いや……これは俺が勝手に言ってるだけだから……出来れば聞こえてないと良いな……恥ずかしいし」

 

ビルトビルガーの腕がオクスタンライフルを手にしているビルトファルケンの腕に伸び、腕を上げさせてその銃口をコックピットに当てさせる。

 

「……ゼオラ、オウカ姉さんもラトゥーニもセロ博士もゼオラの側にいる、それにハガネの人達だって優しいんだぜ、武蔵さんだってあれだ。兄貴見てぇに優しくて良い人なんだ……だからきっとゼオラを助けてくれる」

 

異常なほどに脈打つ自身の心音……恐怖による鼓動の上昇を感じ、歯を震わせながらアラドは笑った。

 

「……だから俺がいなくても、いや、多分俺がいない方がきっとゼオラには良いと思う。だからさ……俺の事なんか忘れてくれよ……頼むから」

 

アラドの目から涙が零れ落ち、両手でしっかりとビルトファルケンにオクスタンランチャーを保持させて、その引き金に指を掛けさせる。自分が死ねばゼオラは意識を取り戻す……動けないビルトビルガーでは足を引っ張るだけだとアラドは自らの死を持って、ゼオラの意識を取り戻す事を選んだ。それが今の自分に出来る最善であり、これ以上皆の足を引っ張るわけには行かないと決意した上での行動だった。

 

『アラドッ!! アラドッ!! 止めろッ!! やめるんだッ!!! アラドッ!!!』

 

その動きにオウカ達は気付いておらず、躊躇わず引き金を引けると思ってたアラドの耳をクエルボの絶叫が打ち、その叫びを聞いたオウカ達の視線がビルトビルガーとビルトファルケンへ向けられた。

 

『アラド! 止めなさい! アラドッ!!!』

 

『アラド駄目ッ!! そんなことしてもゼオラは喜ばないッ!!』

 

オウカとラトゥーニの言葉になんとか堪えようとしていた涙が零れ出す。

 

「……オウカ姉さん、ラトゥーニ、ゼオラを頼むぜ……」

 

ビルトビルガーの指に力が篭もり、ビルトファルケンの指が少しずつ引き金を押し込んでいく……。

 

「ゼオラ……俺さ……本当……お前の事好きだったんだぜ……? お前は多分……俺の事嫌いだと思うからさ……」

 

オクスタンライフルの銃口に光が集まり、発射寸前になり後ほんの少し押し込めばビームが放たれる……そうすれば死ぬと分かってアラドは泣き笑いの笑みを浮かべた。

 

「……俺の事忘れてくれよ……俺……死ぬからさ……本当に……頼むよ……ゼオラ……俺の事さ、本当忘れてくれていいから、オウカ姉さんとラトとさ……3人で生きてくれよ……な……」

 

グッとビルトビルガーの操縦桿を握り締め、それに連動してビルトビルガーが指に力を込める。それによってビルトファルケンの指はオクスタンライフルの引き金を引き、放たれたビームの光でアラドは目の前が真っ白になるのを感じながら……凄まじい衝撃と閃光にその意識を失った。出撃前にユウキから渡された虎王鬼の渡した札が純白の光を放つのにも気付かないままに……。

 

 

第192話 愛する者の為に その4へ続く

 

 




アラドが自殺的な動きをするのは最初から決まっていた展開です、別に私は曇らせがすきとかではないんですが……ゼオラだけはどうしてもこうなってしまうんですよね……謎です。多くは語らず、全ては次回で明らかにしようと思いますので次回の更新を楽しみにしていてください。

PS

ディドの期間限定がチャのラストチャレンジは

舞浜オーシャンパンチ×2でした

解せぬ

PS2

アウセンザイター実装楽しみです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第192話 愛する者の為に その4

第192話 愛する者の為に その4

 

止める間も無かった……脱力しているビルトファルケンの腕を動かし、自らの機体のコックピットに押し当てて引き金を引かせようとしていることに気付いたのは、ラーズアングリフでこの場に来るのが遅れたクエルボの絶叫が響いたからだった。咄嗟に止める様にオウカ達は叫んだが……それは余りにも遅かった。オクスタンライフルのビームがビルトビルガーのコックピットを貫き、カメラアイから光を失ったビルトビルガーが頭を下に真っ逆様に墜落する姿を見てオウカ達は悲鳴を上げた。

 

「あ……ああああああッ!!!!????」

 

『あ……嘘……』

 

『……そ、そんな……』

 

ベルゲルミル・タイプDの猛攻撃を避けるので手一杯だった。量産型ゲッターロボGをベースしたベルゲルミル・タイプDの性能は圧倒的だった。オウカとラトゥー二は紛れも無くエースパイロットであり、シャインはゲッター線の影響で予知しにくいとはいえ、回避に専念すれば十分に攻撃を先読みする事は可能だった。W-I3NKシステムによって断片的な予知を共有したラトゥーニは、思い出したくない技術ではあるがスクール時代の通信不能時の連携モーションデータを使い、オウカにもその情報を与えた。攻勢に出るのは難しかったが、耐久と時間稼ぎならば十分に出来た……いや、出来てしまった。目の前の強敵にのみ意識が向いてしまったのだ、だがそれを責める事は出来ない。一発でもまともに被弾すれば、ラピエサージュは勿論フェアリオンですら撃墜されかねない攻撃力を持つベルゲルミル・タイプDを警戒するなというのが無理な話だったのだ。

 

『なんだよ、僕が殺そうとしたのに勝手に死んでるじゃないか…これだから欠陥品は』

 

「お前ッ! お前ッ!!! 私の弟……アラドを欠陥品と言うなあッ!!!」

 

アンサズの言葉に激昂したオウカはラピエサージュをベルゲルミル・タイプDに向かわせようとしたが、振り返った所でその動きが止まる。

 

「な、何が……」

 

『う、機体が……動かないッ!?』

 

『ど、どういうことですの!?』

 

ラピエサージュだけではなく、フェアリオンもその動きを止め、ラトゥーニとシャインの困惑の声が重なる。

 

『だから欠陥品なんだよ、お前らはッ! 周りも見れてないのかよッ!』

 

アンサズが嘲笑いながら動きを止めているラピエサージュ達を指差した。ゲッター線を最も理解している早乙女博士はその力を最大に生かし攻撃力に全振りしたが、それは人知を超えた敵と戦うためであり、もしも早乙女博士が新西暦にいたとすれば、そして強大すぎる敵が存在しなければゲッターロボは全く別の能力を有していただろう。そしてそれは早乙女博士と研究を共にしていたコーウェンとスティンガーがイーグレットに情報を提供する事により日の目を見ることになった。それはゲッター線を応用した強力なバリア能力であり、ジャミング能力であり……早乙女博士が作ったゲッターロボがもち得ない数多の特殊能力だった。

 

『全くだ。だが相手が欠陥品だからこそ、簡単に処理……「誰が欠陥品だってッ!?」ぐあっ!? 馬鹿な、何故お前は動けるんだッ!!』

 

欠陥品だと嘲笑っていたスリサズの乗っていたベルゲルミル・タイプDに風神鬼の飛び蹴りが叩き込まれ、ベルゲルミル・タイプDの身体がくの字に折れる。

 

『んなもん知るかッ!! お前らは不愉快なんだよッ! ここでくたばりなッ!!』

 

『このッ! 裏切り者がッ!?』

 

『はぁ? 何の事か分からないよッ!! 第一、お前達が味方なんて話は私は聞いた事もないさッ!!』

 

アンサズとスリサズが味方だと認識していても、龍王鬼が味方だと認めておらず、その上自分達は選ばれた人類だといって驕っているマシンナリーチルドレンは風蘭の癪に触る存在であり、大した力も持たないのに偉そうにしている姿は力こそ全てとする鬼からして見ても唾棄するべき物だった。

 

『そっちはそっちで何とかしなッ!! んで、お前は小細工なんてしてないで真っ向から掛かってきなッ!!!』

 

『この……下等な鬼の分際でッ!!』

 

『私が下等ならお前は下種だッ!! とっととくたばりなッ!!!』

 

ベルゲルミル・タイプDのダブルトマホークと風神鬼の刀がぶつかり合い鍔迫り合いになると、風神鬼は翼から風を巻き起こしベルゲルミル・タイプDを強引に引き離す。

 

『ちいっ! 射程距離がッ! スリサズッ! 後は自分で何とかしろッ!』

 

『はっ! 欠陥品如き僕1人で十分なんだよ、スリサズ。ウルズもしっかりと見ておけよなッ!』

 

小さなビットがアンサズのベルゲルミル・タイプDに回収されるとラピエサージュの動きが僅かに戻る。

 

『オウカ! ラトゥーニ! 何とか機体のコントロールを取り戻すんだ! アラドは僕が助けるッ!!』

 

ラーズアングリフが海上をホバーで疾走しながら銃火器を乱射し、ビルトビルガーへの追撃を防ぎながらアラドを任せろとクエルボが叫ぶ。その叫び声を聞いてオウカ達は僅かに動く機体を必死に制御し、ベルゲルミル・タイプDへの攻撃を行なう。機体の制御を失ったのがベルゲルミル・タイプDの仕業ならばダメージを与えれば機体のコントロールを取り戻せると考えての行動だった。

 

「そこですッ!!」

 

頭部のガトリングが火を放ち、ラピエサージュの斜め上を滞空していたビットを捉える。すると、オウカ達の機体のコントロールが僅かだか戻った……ビットの正体はベルゲルミル・タイプDのゲッター炉心を利用した一種の結界のような物であり、その範囲の中のゲッター線で動いていない機体のコントロールを妨害するための物であった。武蔵とゲッターD2を近くで見ているからゲッター線は攻撃にしか転用できないという思い込みがラトゥーニとシャインの判断を鈍らせたのだ。

 

『ふん、やっと気付いたか……まぁ気付いた所でもう遅いけどな』

 

『う、うおおおッ!?!?』

 

「セロ博士ッ!」

 

僅かに動くようになった機体でベルゲルミル・タイプDと周囲へのビットへの攻撃を行い、少しずつ機体の自由を取り戻すオウカ達をアンサズは嘲笑うかのように、ビルトビルガーを受け止めようとしていたクエルボのラーズアングリフに向かってビットを飛ばす。ゲッター線ビットの展開した刃で右足と左肩を破壊されたラーズアングリフは、バランスを著しく崩し海中へと没する。

 

『これで目障りな奴は消えた……今度こそ、さよならだ。欠陥品』

 

『させないッ!!!』

 

『アラドはやらせませんわよッ!』

 

ゲッター線ビームキャノンを墜落していくビルトビルガーに向ける姿を見て、ぎこちない動きながらフェアリオンがボストークレーザーでベルゲルミル・タイプDを狙うが、展開されているバリアをボストークレーザーは貫く事が出来なかった。

 

『まずはこの欠陥品を処分する、次はお前達……ぐうっ!?』

 

オウカ達の制止の声が発されるよりも先にベルゲルミル・タイプDは引き金を引き、放たれた翡翠色の光がビルトビルガーへと向かったその瞬間だった……背後からの攻撃でベルゲルミル・タイプDの背部パーツが大爆発を起し、ゲッタービームキャノンの掃射が止まる。

 

「ゼオラ、まさか……」

 

背後から奇襲を仕掛けられる位置にいたのはビルトファルケンだけだった。脱力し、浮かんでいるだけだったビルトファルケンの手にはオクスタンライフルがしっかりと握られていた。その姿にオウカがゼオラが意識を取り戻したのかと通信で問い掛けようとした時……ビルトファルケンから血を吐くようなゼオラの絶叫が戦場に響き渡った。ベルゲルミル・タイプDを狙撃したオクスタンライフルを投げ捨て、頭を下にして急降下するビルトファルケン。攻撃を加えられた事で掃射は止まったが、発射されたビームは今もビルトビルガーを飲み込まんとしており、それを追って急降下するビルトファルケンは熱線の余波で機体を焼かれながらもその加速を決して緩める事無く、海面に叩き付けられようとしているビルトビルガーを……いや、アラドを助けようとその手を伸ばす。

 

『やめてぇえええええええッ!!!! アラドッ!! アラドッ!!! やだッ! やだよッ!! アラドッ!! 忘れるなんて出来ないよッ!!! 死なないでッ! お願い私の側からいなくならないでッ!!!』

 

ずっと自我を封じられ、人形とされていたゼオラが発した叫び声が周囲に響き渡り、ビルトファルケンがギリギリの所でビルトビルガーを抱き抱えベルゲルミルの攻撃範囲からビルトビルガーを救う。それはアラドの献身とも言える自死の覚悟が朱王鬼の術を破り、ゼオラの意識を取り戻す切っ掛けとなった瞬間だった……。

 

 

 

 

朱王鬼の術によって自我が封じられていたゼオラだが、完全にその自我が封じられたわけでは無かった。アラドと遭遇した時などにその封印は一部解かれ、自分の意志ではないがアラドを嘲笑し、傷つけた言葉を発した記憶はゼオラにあったのだ。

 

(違う、違うの……アラド……違うの、わ、私そんなことを考えてないッ)

 

朱王鬼の悪辣さは仮にゼオラが自分の意志で自分の術を破ったとしても、アラドを傷つけた言葉の記憶を持たせる事で罪の意識に苛ませる……心を徹底的に傷つける事を目的としていた。そして虎王鬼からユウキへ、ユウキからアラドに渡った札はゼオラも持っていた。それはなんら特別な効果を持ったものではない、ただお互いの声を繋げる。通信機としての役割を持つだけの札……だがそれが必要だと虎王鬼は直感で理解したのだ。通信越しではない、札を通じて聞こえる肉声。それがゼオラに一番必要な物であると……。

 

『ゼオラ……俺さ……本当……お前の事好きだったんだぜ……? お前は多分……俺の事嫌いだと思うからさ……』

 

アラドの震える声が耳を打つ度にゼオラの身体は震えた。分かったのだ、分かってしまったのだ。アラドが何をしようとしているのか……。

 

「――ッ!!」

 

声を出そうとしてもゼオラの喉から言葉が発せられる事はない。アラドが側にいるから自我を取り戻していても、その身体は朱王鬼の支配下にあるのだ。どれだけ願っても、涙を流してもゼオラの身体は彼女の思い通りに動いてはくれない。

 

(違う、違うよぉ……嫌いじゃない、アラド。好きだよ、私もアラドの事が好きだよッ!!)

 

素直になれない性格だから、自分が好きではないゼオラだから……アラドに好かれる訳がないと思っていたから、強い口調でアラドを弟のように扱っていたが、そうしなければアラドが自分の側を離れてしまうと思っていた。オウカと仲睦まじくしている姿に、頼るのではなく頼られるようにならなければアラドが居なくなってしまうと思ったから強い自分の仮面を被っていたに過ぎない。

 

(やだ……止めて……アラド……そんなことしないで……私……私が死ぬからッ!! 止めて……止めてッ!!)

 

ビルトビルガーの腕に力が入りオクスタンライフルの発射シークエンスに入ったのがモニターに映り、アラドを失う恐怖で身体が震え歯がカチカチとぶつかり合って音を立てる。

 

『……俺の事忘れてくれよ……俺……死ぬからさ……本当に……頼むよ……ゼオラ……俺の事さ、本当忘れてくれていいから、オウカ姉さんとラトとさ……3人で生きてくれよ……な……』

 

「……やだぁッ!!!!」

 

引き金が引かれる寸前……アラドを失うかもしれないという恐怖と遺言を聞いたゼオラは朱王鬼の術を破った。操縦桿を握り、僅かに銃口をずらしたコックピットからコックピットの斜め上に……それが奇跡的にアラドの命を救った。

 

「アラド! アラド! お願い返事をしてアラドッ!!」

 

抱き抱えたビルトビルガーに接触通信でゼオラは必死にアラドの名を叫ぶ、だが帰ってくるのは静寂でゼオラの顔から血の気が引いた。

 

『ゼ……ゼオラ?』

 

「アラド、アラド! ごめん、ごめんなさいッ!! 私、私……ッ!」

 

『は……はは……良かった、お前……意識を取り戻したんだな……良かった』

 

力ない声だがアラドは心の底からゼオラが意識を取り戻した事を喜んだ。

 

「聞こえてた……ずっと聞こえてた……アラドが私を助けてくれようとしてたの……ずっと聞こえてたの……嫌いじゃない、アラド……私アラドの事嫌いじゃないよ……好き……大好き……アラドが死んだら……私……私……」

 

 

言いたい事は山ほどある……だけど言葉が出てこない、ゼオラがそうであるようにアラドも同じだった。言いたい言葉、話したい事は山ほどあるのに言葉が出てこない……だがその沈黙が今のゼオラとアラドには心地よかったが、それはいつまでも続かない。

 

『ラブロマンスは終わったかい? なら、さっさと死んでくれないかなッ!!!』

 

スリサズの乗るベルゲルミル・タイプDの放ったビームキャノンをビルガーとファルケンは左右に分かれることで回避する。

 

『ちっ! 欠陥品の分際で…良い加減に死ねよッ!!!』

 

目の前にいるのに完全に無視されていた事、そして自らが欠陥品と見下していたアラド達が今も死んでいないことに苛立った様子でスリサズがそう叫んだ。だが苛立っているのはスリサズ達だけではなかった。人を人とも見ないその傲慢な態度、そしてアラドとゼオラを殺されそうになり、そして再び欠陥品と蔑まれたオウカ達の怒りを買った。

 

『人を欠陥品、欠陥品と……貴方達は何様のつもりですかッ! 人を見下し嘲笑する貴方達こそ、愚かな人間です!』

 

『……私達には貴方達の方がよっぽど欠陥品のように見える、力に溺れた愚かな子供にしか見えないわ』

 

『親に力の使い方も教えられなかったのですね、人を思いやる心もない貴方達は可哀想な子供達ですわ』

 

力に溺れた子供と言うラトゥーニの言葉は的を得ていた。ベルゲルミル・タイプDを与えられ、その力に酔い知れ、自分達以外の全てを欠陥品、失敗作と言うアンサズとスリサズは力に振り回されている子供でしかなかった。そしてシャインの哀れみを伴った言葉がアンサズとスリサズを激昂させた。

 

『ははッ!! 良いぞ良いぞっ! もっと言ってやれッ!! てめえらは自分が優れてるって思ってる愚か者だってなッ!!』

 

風神鬼から風蘭の楽しそうな囃し立てる声が響き、その声に比例するように風神鬼の攻撃が鋭くなり、ベルゲルミル・タイプDの全身に刻まれていた細かい傷が徐々に大きな傷になり、紫電を撒き散らす。

 

『うるさい! 僕達は優れた新人類なんだ!』

 

『ぐうっ!! 無能で欠陥品の旧人類が僕達に意見する事なんて許されないんだよッ!! お前もだ! 下等な鬼の分際で僕達に逆らいやがって!!』

 

『はっ! パパがいなきゃ何にも出来ねぇ餓鬼がッ!! てめえ1人で何でも出来るようになってから私に文句を良いなッ!! それとも怖い怖い共行王でも呼んでやろうか? あはははははッ!!!』

 

 

自分達が蔑んでいる旧人類であるオウカ達に正論で反論され、オウカ達の言葉に反論する言葉をスリサズ達は持っていなかった……2人に出来たのは八つ当たりにも似た広域攻撃でオウカ達を黙らせる事……それは正論で論破され逆切れする子供の癇癪でしか無かった。

 

「やっぱり駄目か……アンサズとスリサズは廃棄だな。ゲイムシステムを使ってもこの様か」

 

ベルゲルミル・タイプGのコックピットで冷ややかな目でアンサズとスリサズを見ていたウルズはイーグレットへと通信を繋げる。

 

「パパ。やっぱりアンサズとスリサズは駄目だよ、もう半分くらい暴走してる」

 

『分かった。ウルズの裁量で処分してくれて構わない、だが戦闘データの記録だけは忘れないでくれ』

 

「分かったよ、パパ」

 

イーグレットの許可を得たことでウルズは自分の兄弟であるアンサズとスリサズを処分する為……いや、処分と言うのは正しくない、マシンナリーチルドレンの量産型とベルゲルミルに仕込まれている機能を使うだけだ。後は暴れるだけ暴れて自壊する……ウルズとイーグレットだけが知っている、オリジネイターと違い量産が効くナンバーに仕込まれている隠し機能を作動させる為に、ウルズはコンソールを操作する。

 

「さよならだ、愚かな兄弟よ。君達のことはほんの少しだけ覚えておいてあげよう」

 

ウルズがボタンを押し込み、ゲイムシステムとは違う鼓動がベルゲルミル・タイプDの内部で脈を打ち始め、それを確認したウルズは機体を上昇させると共にステルスを展開し、戦闘記録の収集を始めるのだった……。

 

 

 

 

 

ゲイムシステムを起動したスリサズはこれで簡単にケリが付くと思っていた。だが現実はそう甘くない、そもそもアンサズとスリサズが優勢を保っていられたのはオウカ達がアラドとゼオラを守る事を優先していたからだ。

 

『ゼオラッ!!』

 

『分かってるわ!』

 

だがゼオラが意識を取り戻し、何の心配も無くなったオウカ達の動きは急速に良くなっていた。

 

「ぐうっ!! 見えている、見えているんだ! 何故当たるッ!!!」

 

ゲイムシステムによるパイロット能力の向上……これを持ってすれば負けるわけがないと言うスリサズの自負は簡単に覆された。言葉をかわさなくても、オウカ、ラトゥーニ、アラド、ゼオラの4人は連携を組む事が出来るのだ。スクールは確かに4人にとってのトラウマだ、だがその全てがトラウマではない……温かい幸せな思い出と、血は繋がっていなくとも姉妹の絆は本物なのだ。

 

『『はぁああああッ!!!』』

 

ビルトビルガーとビルトファルケンの弾幕に紛れて突っ込んで来たラピエサージュのメガプラズマカッターの斬撃とフェアリオンのソニック・ドライバーによる打撃がベルゲルミル・タイプDの機体を激しく揺らす。

 

「ちいっ!!」

 

ゲッター炉心を得ているマシンセルの再生能力は桁違いであり、ダメージは即座に修復されるが、それでも懐に飛び込まれることを嫌がり、スリサズはベルゲルミル・タイプDを上昇させ……。

 

「う、うわあああああッ!?」

 

ボストークレーザーの掃射に飲み込まれ悲鳴を上げた。確かにベルゲルミル・タイプDのバリアと再生能力は脅威だ。だが初代ゲッターロボと比べても粗悪なゲッター炉心の出力では限界がある。

 

『そこに逃げるのは読んでいましたわッ!!』

 

そして最初は予知しきれなかったシャインだが、武蔵と触れている時間が長いシャインはゲッターロボに乗れるほどの身体能力は無いが、ゲッター線への適応率は極めて高い。純度の高いゲッター線に触れているからと言っても良いが、粗悪なベルゲルミル・タイプDのゲッター線に惑わされず、予知を成功させていた。

 

「くそがッ!! 調子に乗るんじゃ『念動集中ッ!! T-LINK……ブレードオオオオオオオッ!!!』がっがあああああああッ!?」

 

連携も攻撃の基盤もシャインの予知がベースになっている。シャインの乗るフェアリオン・タイプGにマシンナリーライフル・Gの照準を合わせようとした次の瞬間、念動力の刃を展開したR-ウィング・OBが突撃を仕掛けてきて、スリサズの絶叫が空域に響き渡る。

 

『貴様らの様な傲慢で矮小な存在こそ、害悪ッ!! 死ぬがいいッ!!!』

 

ベルゲルミル・タイプDの存在を感じたリュウセイと鬼は停戦し、それぞれの味方の助太刀をする事を互いに了承したのだ。武人気質の鬼だからこそ、万全で対等な状態での決着を望んだのだ。最初は疑ったリュウセイだが、下の激しい戦闘音に鬼の提案を受け入れたのだ。

 

『く、くそ!? なんで、なんで量産型の百鬼獣にも僕が押されているんだよ! おかしいだろ!!』

 

『この鳥獣鬼を量産機と甘く見た貴様の未熟さだッ!!!』

 

リュウセイとの戦いでダメージこそ負っているが鳥獣鬼は依然健在であり、飛び蹴りで蹴り飛ばしたベルゲルミル・タイプDに向かってワイヤークローを射出し更に殴り飛ばす。

 

『へぇ、あんた中々やるじゃん!!!』

 

『く、くそがあああああッ!!!』

 

殴り飛ばされた先では風神鬼が両手の間に竜巻を作り待ち構えており、それに飲み込まれたアンサズのベルゲルミル・タイプDは小規模な爆発を繰り返しながら全身を切り刻まれる。

 

『あんた名前は?』

 

『名もなき鬼ゆえ、風蘭様の問いに答える言葉を持ちません』

 

『ふーん。いいね、龍王鬼様にこの戦いであんたが生きて帰れたら紹介してあげるよ』

 

『ありがたき言葉にございます』

 

本来ならばアンサズとスリサズ、そして風蘭と鬼対オウカ、ラトゥーニ、アラド、ゼオラ、シャイン、リュウセイとなる筈が、アンサズとスリサズの傲慢さが本来味方である筈の百鬼帝国である風蘭達でさえ敵に変えたのだ。それは愚かとしか言いようのない所業だった。

 

「なんでだ! なんで僕達が欠陥品に劣るんだッ!!」

 

『そんなこと僕が知るか!! 僕達は旧人類を抹殺し、新たな種となる筈なのにッ!! くそッ! こんなの悪夢だッ!!』

 

ダメージが積み重なり、アンサズとスリサズが互いに怒鳴りあう。だがその言葉の中にリュウセイ達が聞き捨てならない言葉があった。

 

『旧人類の抹殺だと!? それに新たな種だと!? そんな事を俺達がさせるかよッ!!!』

 

「くそ…くそッ!! パパは僕達に言ったじゃないか! 僕達の力なら全人類を粛清して地球を支配出来る器だって……」

 

『こんな……こんなことはありえないッ!!』

 

イーグレットから聞かされた言葉が全てであり、人生経験も疑う事も知らない。自分達が優れた人種であると言う事を疑わず、自分達以外を見下していたアンサズとスリサズにとって今の目の前の光景は悪夢その物だった。

 

『てめえらの好きになんかさせるかよッ!! それに散々人の事を欠陥品だの、処分するだの好き勝手言いやがってッ!!! ゼオラッ! モードTBSだッ!!』

 

『T、TBSッ!? なにそれッ! 私知らないわよッ!!』

 

『ビルガーとファルケンの合体攻撃だッ!! とにかく俺とゼオラなら出来るッ!! 行くぜッ!』

 

『わ、分かったわッ!!!』

 

アラドに先導されゼオラも高機動モードを起動させ、ベルゲルミル・タイプDの攻撃をかわしながら高速で突撃する。

 

『くそ、屈辱だッ!!!』

 

「下等な旧人類ごときにッ!!」

 

1機では防ぎきれないと判断したアンサズとスリサズは2機のゲッター炉心を同調させ、強固なバリアを展開する。その強度は凄まじく、オクスタンライフルとスタンライフルの弾雨を受けてもバリアはびくともしない。

 

『ラトゥーニ、あのバリアを破壊します! 手伝ってくれますね!』

 

『はい、オウカ姉様! シャイン王女、リュウセイも』

 

『分かっていますわッ!』

 

『行くぜッ!!』

 

ダメージこそ負っているビルトビルガーだが、エネルギーに関してはまだ余裕があり、そしてそれはビルトファルケンも同様だった。アラドとゼオラを庇うように立ち回っていたオウカ達の機体はエネルギーと弾薬に不安があり、鳥獣鬼とドッグファイトを繰り広げていたR-ウィング・OBも同様で、今戦闘可能な機体の中で1番火力が出るビルトビルガーとビルトファルケンの為の道を作るのは間違いでは無かった。

 

『はっは! 面白そうじゃないか、比翼連理の翼……見せてもらうとするかねッ!!』

 

風神鬼が振るった刃から放たれた風が海面と天空の両方から竜巻となってベルゲルミル・タイプDを上下から抑え込んでその動きを完全に拘束する。

 

『さってと、後は見てるとしようかな、お前も動くなよ』

 

『御意』

 

もうこれ以上動く気配のない風神鬼と鳥獣鬼を見て、オウカ達もベルゲルミル・タイプDのバリアを破壊する為に動き出す。

 

『ロックオン……Bモードシュートッ!!』

 

オーバーオクスタンランチャーから3連射で実弾を放ち、続けて銃身を展開し腰を落とすラピエサージュ。

 

『ラトゥーニ!』

 

『シャイン王女ッ!!』

 

音を立ててフェアリオンの装甲が展開し、アーマーの下の素体の一部が露出する。フルパワーのボストークレーザーを使うには装甲の一部を展開する必要があり、Eフィールドや装甲の一部が解除され防御力が低下する為乱戦では使用出来なかったが、相手が守りを固め容易に反撃出来ない今ならば確実に当てれるとラトゥーニとシャインは判断した。

 

『『ボストークレーザーッ!!!』』

 

『Eモードシュートッ!!!』

 

最初の実弾は楔であり、ベルゲルミル・タイプDのバリアに阻まれているが、そこに続けてビームが3連射で叩き込まれる。

 

「くうっ! だけどその程度の攻撃でッ!」

 

『ベルゲルミルのバリアは『うおおおおッ!!! 念動集中ッ!!! T-LINK……ナッコォオオオオオッ!!!』な、何いッ!?』

 

並みの特機ならば一撃で大破しかねないほどの出力のビームだったが、ベルゲルミル・タイプDのバリアを破壊するには僅かに力が足りなかった。それに勝ち誇っていたスリサズの目の前に紫電を撒き散らし、右腕を失ったR-1が飛び出してくる。OBをパージし、危惧していた空中分解一歩手前で変形を成功させたリュウセイの魂の一撃はベルゲルミルのバリアを完全に粉砕した。

 

『アラドッ!!! 決めろぉッ!!!』

 

だがその対価として機能停止しカメラアイから光を失ったR-1が真っ逆様に落下する中でも、リュウセイは仲間を鼓舞する叫びを上げる。

 

『り、リュウセイッ!!!』

 

落下していくR-1を慌ててラトゥーニが救出に回る事で事なきを得たが、一歩間違えばリュウセイは死んでいた。文字通り命を懸けてアラドとゼオラの道を作ったのだ。

 

「行くぜゼオラッ!! ジャケットアーマーパージッ!!」

 

『ええッ!!! 高機動モード起動ッ!!』

 

アーマーをパージしたビルトビルガーはスタンアサルトカノンを連射し、バッテリー分全てを撃ち切るとスタンアサルトカノンを投げ捨て、ウィングにマウントされているコールドバスターブレードを両手に持ち一気に加速する。

 

『ふん! 欠陥品風情が突っ込んでくるなんて……返り討ちだッ!!』

 

『アラドを欠陥品って言うなあッ!!!』

 

スリサズの言葉に激昂したゼオラの放ったオクスタンライフルEモードの一撃がベルゲルミル・タイプDの胴体を捉える。だがマシンセルの修復能力で即座に回復し、同様にアサルトスタンカノンの銃弾も修復するからと受け止めた。

 

『な、なんだッ!?』

 

『し、システムダウンだって!?』

 

回復するから、バリアがあるからと回避を怠り、防ぐべき攻撃を防がなかった2機のベルゲルミル・タイプDは過剰電圧によってシステムダウンを引き起こす。

 

「うおりゃあああッ!!!」

 

システムダウンを起せばマシンセルの回復能力も、ゲッター炉心による強固なバリアも何の意味も持たない。コールドバスターブレードを頭上に振り上げ、前転するようにビルトビルガーが叩き込んだ一撃はベルゲルミル・タイプDのゲッター合金の装甲を容易く打ち砕き深い傷を刻み付ける。

 

「まだまだぁッ!!!」

 

だがアラドの攻撃はこれだけでは終わらない。その場で独楽の様に回転し横薙ぎの一撃を叩き込むと同時にベルゲルミル・タイプDを上空に打ち上げる。

 

「ゼオラッ!!」

 

『分かってるッ!!』

 

オクスタンライフルをEモードで乱射しながら急降下して来たビルトファルケンがベルゲルミル・タイプDに組み付き、至近距離でBモードを乱射する。

 

『ぐっ! くそがッ!! こんな、こんなことがッ!!!』

 

接触通信によるアンサズとスリサズの恨み節が聞こえてくるがゼオラは躊躇う事無く引き金を引き続け、蹴りを叩き込みベルゲルミル・タイプDをビルトビルガーに向かって叩き落す。

 

『アラドッ! そっちに行くわよッ!!』

 

「おうッ!! 行くぜぇッ!!!」

 

落下してきたベルゲルミル・タイプDに回し蹴り……いやソバットの要領で回転したビルトビルガーの蹴りが叩き込まれビームステークが炸裂し、ベルゲルミル・タイプDの胴体に大きな風穴が開いた。

 

『回復した!! 調子に乗るなよ欠陥品がぁああああッ!!!』

 

『僕達は選ばれた超人類なんだ、下等な旧人類が僕達に逆らうなあッ!!』

 

アサルトスタンカノンによってダウンしていたシステムが復旧し、マシンセルによる回復とバリアが復活し、今まで一方的に攻撃を受けていたアンサズとスリサズにG・マシンナリーライフルとビットによる攻撃でビルトビルガーとビルトファルケンを近づけさせまいと猛攻撃を仕掛けるが、完全に勢いに乗っているアラドとゼオラの勢いを阻むことは出来ない。

 

「『ツインバードッ』」

 

スタッグビートルクラッシャー改を突撃槍の様に突き出したビルトビルガーとオクスタンライフルの銃口にテスラドライブを応用した刃を展開したビルトファルケンが舞うように攻撃を回避しその速度を爆発的に高める。

 

『「ストラァァァイクッ!!!」』

 

ビルトビルガーとビルトファルケンのテスラドライブが同調し、ブレイクフィールドが展開され最大加速のままブレイクフィールド、そしてスタッグビートルクラッシャー改とオクスタンライフルに押し潰されながら切り裂かれたベルゲルミル・タイプDは上半身を完全に消し飛ばされ、爆発を繰り返す。

 

『う、嘘だ……こ、こんなの……』

 

『ゆ、夢だ……こんなの……夢に決まってる……』

 

その爆発がコックピットブロックをも飲み込みベルゲルミル・タイプDは最後に全身を痙攣させて、大きな爆発を起し海面へと落下していった。

 

「はぁはぁ……人の事を欠陥品とかいうからだぜ……馬鹿野郎共が……ゼオラ、大丈夫か?」

 

『う、うん……私は大丈夫。アラド……私やオウカ姉様ってどうなるの……やっぱりその……捕虜とか?』

 

「大丈夫だって、ハガネもヒリュウ改もシロガネの艦長も皆良い人なんだ。特にシロガネのリー艦長は本当に良い人だから心配する事はなんもねえよ」

 

不安そうに言うゼオラにアラドは大丈夫だと朗らかに笑う。

 

『本当? 私とアラドが引き離されたりしない? アラドは側にいてくれる?』

 

「大丈夫だって、それよりセロ博士とリュウセイを助けて帰ろう。皆にゼオラ達の事も紹介したいしな」

 

ベルゲルミル・タイプGの反応は無く、タイプDは爆発して水没した。あの状況ではアンサズとスリサズも確実に死んでいるであろうとアラドは判断し、リュウセイとセロを助けてハガネへ戻ろうとゼオラに声を掛け、オウカ達と合流する為に高度を落した。確かにアンサズとスリサズはツインバードストライクによって死を迎えた、だがアンサズとスリサズに仕込まれていたもう1つの意志は海中で目覚めを迎えようとしていた……。

 

 

第193話 愛する者の為に その5へ続く

 

 




前半戦はこれにて終了、次回は仲間が合流してくるって感じで強いボスを出そうと思います。あとゼオラは不穏ですが、ゼオラがやんでるのがデフォなのでこれでOKですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


PS

期間限定の復刻がチャで欲しかったMAP入手出来ましたが、アムロはだいぶ強くなっているのでできればジャッジメントハードレインが良かった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第193話 愛する者の為に その5

 

第193話 愛する者の為に その5

 

ベルゲルミル・タイプDを撃墜し、オウカ達と合流したアラドとゼオラはそのまま海面まで降下し、フェアリオン・タイプSが両手で沈みかけているR-1を支えているのと、コックピットから這い出て頭部に立って手を振っているクエルボの救出の手助けを始める。

 

『大丈夫か、リュウセイ』

 

「おーなんとかな、再起動まで後340秒だとさ……悪いけどアラドも支えてくれるか?」

 

『分かった!』

 

フェアリオン・タイプSとビルトビルガーに支えられやっと態勢が安定したリュウセイはヘルメットを脱いで額の汗を拭った。

 

(あいつらもいったか)

 

風神鬼と鳥獣鬼は何時の間にか姿を消しており、リュウセイ達と戦う意志が無かったと知り、今のボロボロの状態で戦う事にならなくて良かったとリュウセイは安堵し、思わずポロリと楽観的な言葉を口にしてしまった。

 

「なんとかなったな」

 

捨て身を通り越して特攻になってしまったが、ベルゲルミルのバリアを砕き撃墜のお膳立てが出来た。この大破寸前のR-1でもなんとかなったなとリュウセイは薄暗いコックピットの中で笑った。

 

『なんとかなったけど無茶しすぎだよッ!』

 

「うッ……わ、悪い……ラトゥーニ」

 

すぐにラトゥーニに怒鳴られ、悪かったと謝罪する事になる。実際死ぬ一歩手前だったのだから怒られるのは当然だ。

 

『本当ですわ、もう少し考えて行動をするように、それとリョウト達と連絡が取れたのでもうすぐこっちに合流してくれると思いますわよ』

 

「……はい」

 

自分より年下のシャインに叱られ、その上仲間と合流する手筈まで整えてくれていた事にリュウセイは肩を落す。

 

『あードンマイ』

 

「……いや、無理に励ましてくれなくてもいいぜアラド。良くライに叱られてるしな」

 

考えるより行動のリュウセイは叱られ慣れしていると言っても良い、それに今回はOBを分離すれば空中分解もあり得るから決してパージするなと注意されていたのにパージして変形を強行したので100%自分が悪いと自覚しているリュウセイは謝る事しか出来ない。

 

『それよりゼオラ達は』

 

「大丈夫だって、リー中佐も保護するのは軍人の使命って言ってただろ? ちゃんと保護してくれるから心配ないさ」

 

リュウセイのこの言葉は決して楽観的ではなく、今までの戦いでリュウセイ達が見てきたリー・リンジュンという男だから信用出来ると言う信頼の現われだった。

 

『それよりもあのアンサズとスリサズがのってた機体は……ゲッターロボGに良く似てた。だけどあれはアードラーが使っていたのは別物をベースにしてると思う』

 

『……ええ。乗せられていたから分かりますわ、あれにはゲッター炉心が組み込まれていますわ、パイロットがあんな子供でなければ……きっと私達は死んでいましたわ』

 

『あの再生力はウォーダンが乗ってるスレードゲルミルと同じもんだと思う……これはかなりやばいんじゃないか?』

 

アードラーが作りだした量産型ゲッターロボG――それが製造されたのはアースクレイドルであり、アースクレイドルを占拠している百鬼帝国、そして異形と化したゲッターノワールも元は本物のゲッターロボであり、アースクレイドルの技術力を考えれば本物のゲッターロボを量産することも不可能ではない。その上マシンセルを組み込まれてしまえばゲッター炉心によるエネルギー回復、そしてマシンセルによる自己修復と進化……手のつけられない化け物になる可能性をラトゥー二達は危惧した。

 

「ああ、多分アースクレイドルに情報が残ってたんだろうな……エクセレン少尉の事もあるし、R-1も復旧した。早くハガネに戻って報告しないと……ッ!!」

 

リュウセイもその事に同意し復旧したR-1を浮上させようとしてその顔を歪めた。

 

「早くそこから逃げろッ!!」

 

『な、何を……』

 

「早くッ!! 死ぬぞッ!!!」

 

突如逃げろと叫ばれたオウカは困惑したがその必死さを滲ませる声にクエルボをラピエサージュのコックピットに回収し、ビルトファルケンと共に急浮上する。その直後海中から伸びて来た鋭い触手がラーズアングリフとラピエサージュ、ビルトファルケンが滞空していた場所を刺し貫いた。

 

『何が……ッ!!』

 

『これって……!?』

 

枝分かれを繰り返し、ラピエサージュとビルトファルケンを追い回す触手……どす黒く、黄色の複眼がびっしりに浮かんでいる。

 

「インベーダーだッ! どこか……らッ!?」

 

『嘘……』

 

『こんな事が……あって良いのですか……』

 

触手の先……本体が海中から浮上する。それは紛れも無くベルゲルミル・タイプDであった。だが失った上半身はインベーダーと取り込んだラーズアングリフ、そして同じく上半身を消し飛ばされたもう1機のベルゲルミル・タイプDが変異した異様なシルエットの物だった。

 

【キシャアアアアアアアッ!!!】

 

「散れッ!!」

 

リュウセイが叫ぶのとメタルビースト・ベルゲルミルが雄叫びを上げるのは殆ど同じだった。メタルビースト・ベルゲルミルの全身の複眼が不気味な音を立てながら蠢きこの空域にいる全てを取り込まんとして触手を伸ばす。

 

「くそッ! やべえッ!!」

 

『伸びてくる勢いと範囲が広すぎるッ』

 

『これは不味いですわよッ!?』

 

全方位へ一斉に伸ばされた触手が更にそこから縦横無尽に枝分かれを繰り返し、執拗に追ってくる。だがそれでもリュウセイ達は触手を伸ばしているメタルビースト・ベルゲルミルから距離があるから回避する事が出来た。だが距離が近すぎたオウカとゼオラは伸びてくる触手に完全に逃げ道を断たれ、海面に顔を出したメタルビースト・ベルゲルミルの胴体が開き巨大な口となりラピエサージュとビルトファルケンを噛み砕こうと飛び出す。

 

『ゼオラッ! オウカ姉さん!!!』

 

『避けてッ!!!』

 

アラドとラトゥーニが咄嗟に避けろと叫んだが、上空には触手、両脇も触手に囲まれ、下から飛び出してくるメタルビースト・ベルゲルミルの攻撃を避ける手段はどちらかメタルビースト・ベルゲルミルに捕食されるしか残されていなかった。

 

「ゼオラ、貴女はなんとしても逃げなさい」

 

『オウカ姉様、駄目ッ!!』

 

ラピエサージュがビルトファルケンを突き飛ばし、メガプラズマカッターでメタルビースト・ベルゲルミルと応戦しようと……いや、自分が犠牲になりゼオラを生かす事を選択したオウカは目の前に広がる巨大な口を見て、恐怖に僅かに身体を強張らせても妹を救う事が出来たと笑みを浮かべた。

 

「セロ博士、すみません」

 

「私は構わないさ、なんとしてもゼオラ達を逃がさなくてはいけないと言うのは私も同じ気持ちだ」

 

クエルボを巻き込んでしまう事にオウカが謝罪したその時だった。

 

『馬鹿野郎ッ!! 生きる事を諦めんなッ!!! トマホォォオオクッ!! ブゥゥゥウウウメランッ!!!!』

 

武蔵の怒声と共に投げられたゲッタートマホークがラピエサージュとビルトファルケンを覆っていた触手を切り払い、メタルビースト・ベルゲルミルに突き刺さる。

 

【ギギャアアアアアアッ!!!】

 

『くたばりやがれッ!! メタルビーストッ!!!』

 

トマホークブーメランを投げつけると共に急降下していたゲッタートロンベ1はメタルビースト・ベルゲルミルに突き刺さっていたゲッタートマホークを掴んで全体重を掛けたまま袈裟切りに切りつける。

 

『まだだッ!!! ミサイルマシンガンッ!! うおおおおおおッ!!!!』

 

そして大口を開けているメタルビースト・ベルゲルミルの口の中に腕を突っ込み、そこからミサイルマシンガンを展開し全弾発射する。

 

『逃げるぞッ!!!』

 

「え、あッ!?」

 

『わ、わわわッ!?』

 

メタルビースト・ベルゲルミルの体内でゲッターミサイルが爆発し、苦悶の絶叫を上げているメタルビースト・ベルゲルミルを蹴りつけて急上昇したゲッターロボ・トロンベ1はラピエサージュとビルトファルケンの腕を掴んで加速し、フェアリオンとRー1の元へ向かう。

 

「武蔵! 来てくれたのか!」

 

『悪い、遅れたッ!! もうじき皆が来る! あの化けもんはオイラに任せて、リュウセイ達は自分の身を守る事に集中しろッ!!』

 

ラピエサージュとビルトファルケンを安全圏まで連れ出した武蔵の駆るゲッターロボ・トロンベ1は再び急降下し、海面から憎悪に満ちた瞳で睨みつけてくるメタルビースト・ベルゲルミルへと突撃していくのだった……。

 

 

 

海面から顔を出しているメタルビースト・ベルゲルミルには最早もとの面影は無く、海中に適応した姿……鮟鱇の様な体に異形の上半身が乗っているだけの化物となっていた。

 

「カイさん、ギリアムさん! オープンゲット……なんで死にそうな顔をしてるんですかッ!?」

 

相手が海中ならばゲッター1ではなく、ゲッター3にチェンジしようとしてオープンゲットをするとイーグル号のギリアムとジャガー号のカイに通信をつなげた武蔵だったが、モニターに映った光景に絶叫した。

 

『……(手を左右に振り無理とやっているギリアム)』

 

『……(青い顔で口を押さえて瀕死のカイ)』

 

「返事もする気力もないんですか!? くそッ!! こうなりゃゲッター1でやってやるッ!!! うおおおおッ!!!!」

 

メタルビースト相手に手を抜くほど武蔵は愚かではない、慣れていないゲッタートロンベだろうと基本的な部分は乗りなれているゲッター1と操縦系は大差はない。鮟鱇の背中の部分から伸びている触手を右手で掴み、引き千切りながら左手でゲッタートマホークを振るう。

 

「ドラゴンのパチモンなんかにオイラが負けるかッ!! ゲッターレザァァアアアアアーッ!!!」

 

腕の側面の刃でメタルビースト・ベルゲルミルをすれ違い様に切り裂くが、切り裂かれた箇所から触手が伸びてくる。

 

「くそが、舐めんなよッ!!!」

 

逆手に構えたゲッタートマホークで切り払い、口を開いて突っ込んで来た触手の顔面に拳を叩き込み、触手を破裂させる。圧倒的な攻撃力を持っているように見えるが武蔵は苛立った様子で声を上げた。

 

「軽いんだよッ!! ああッ! もうッ! 苛々するッ!!! 攻撃力が足りねぇッ!!!」

 

ゲッタートロンベはテスラドライブなどを搭載し、新西暦の人間でも操縦できるようになっている。だがその反面ゲッター1と比べても馬力が弱く、ゲッタービームの出力も弱い。新西暦基準で考えれば破格の性能を持った特機だが、ゲッターパイロットからすればゲッタートロンベは余りにも性能が低かった。

 

「エンジンを上げて行きますよ! お願いだから気絶だけはしないでくださいよ! カイさん、ギリアムさんッ!!」

 

『『!?!?』』

 

今でも十分にやばかったのに、更にエンジンを上げるという武蔵にカイとギリアムは声にならない声で制止するが、当然メタルビーストを前にしている武蔵が手加減や遠慮をするわけがない。もっと言えばゲッター1なのに空中戦を挑まず、敵の上に乗って戦っているのにも理由があった。

 

(多分、リュウセイ達は戦えない、ならここで足止めしねえとッ!)

 

飛行するくらいのエネルギーは残っているだろうが、メタルビースト・ベルゲルミルと戦うには心もとない筈だ。ここでゲッタートロンベを囮にし、R-1達を捕食させない為に全方位からの攻撃に晒される事になるが、相手の体の上に乗っての戦いを武蔵は選んだのだ。

 

【グオオオオッ!!!】

 

「でかけりゃ強いわけじゃねえぞッ!!! うおらあッ!!!」

 

マシンセル、そしてインベーダー細胞で巨大化したダブルトマホークとゲッタートマホークがぶつかり合い火花を散らす。だが徐々にゲッタートマホークが押されて来る。

 

「カイさん!? ギリアムさん! ちょっと大丈夫ですか!?」

 

明らかにパワーダウンしている。その理由がカイとギリアムにあると判断した武蔵はモニターを見て絶句した。

 

『……(白目を剥いてかなり危ない感じで上半身が揺れてる)』

 

『……(青を通り越して白い顔で辛うじて操縦桿を握っているがそれだけのカイ)』

 

全力の武蔵に操縦についてこれずギリアムは失神、カイも気絶寸前で根性で操縦桿を握ってるだけで、戦力に数えられない。

 

『武蔵様! 避けてくださいッ!!』

 

「シャインちゃんか! 助かるッ!! うおおおッ!!!」

 

フェアリオン・タイプGの放ったロールキャノンがダブルトマホークの切っ先を僅かに逸らし、その隙を付いてゲッタートロンベは強く踏み込みながら振り被ったゲッタートマホークの一撃を叩き込む。

 

【グギャアアアアッ!?】

 

「うおッ!? ったとととっ!?」

 

武蔵が会心の手応えを感じた通りメタルビースト・ベルゲルミルはその痛みに暴れだす。その暴れように殆ど単独操縦のゲッタートロンベでは対応しきれず、バランスを崩しゲッタートロンベが海中に落下する。

 

「やべえッ!! 逃げろッ!!!」

 

ゲッタートロンベを振り落としたメタルビースト・ベルゲルミルは鮟鱇のような姿から変異し、首長竜のような姿になると翼を生やし海から飛び立つ。その姿を見て武蔵はメタルビースト・ベルゲルミルの狙いがR-1達を喰らってエネルギーを回復させる事だと見抜き、逃げろと叫んだ。

 

『カロリックミサイルッ!』

 

『いっけえッ!! クロスマッシャーッ!!!』

 

【ギギャァアアアアッ!!!】

 

飛び立った瞬間雲の間から飛来したミサイルと螺旋状の光がメタルビースト・ベルゲルミルの背中を貫いた。

 

『マサキ! 来てくれたのか!』

 

『おう! 間に合ってよかったぜ、リュウセイ。後来たのは俺だけじゃないぞ』

 

マサキの言葉の通り雲を突き抜けてヒュッケバインガンナー・タイプMとアステリオンとベルガリオンが姿を見せる。

 

『間に合ったぁッ!!』

 

『喜んでる場合か! 今牽引用のロープを射出する! それに捕まれッ!! 武蔵、私達は離脱するが構わないか』

 

「行ってくれ! 巻き込んじまうッ!!!」

 

ゲッターウィングで飛翔しながら武蔵が叫ぶとアステリオンとベルガリオンが射出したロープにR-1と今になってゲッターキャノンのダメージが出て来てエンスト寸前のビルトビルガーが捕まる。

 

『武蔵さん、エクセレン少尉は!?』

 

「オイラが来た時にはエクセレンさんはもういなかった! 詳しくはリュウセイ達に聞いてくれッ! あんまり喋ってる時間は無さそうだ! 急いで離脱してくれッ! マサキとリューネは守ってやってくれ!」

 

ベルゲルミル・タイプDとインベーダーの適合率が上がってきたのか、その姿がより洗礼されていくのを見て武蔵は早く離脱するように促す。

 

『ラトゥーニ、シャイン王女、一緒にいるって事は』

 

『はい! ゼオラは朱王鬼の術から解放されてます!』

 

『分かったわ、それじゃあファルケンともう1機は私とリョウト君で牽引する! マサキ君、リューネ! 支援をお願い!』

 

武蔵だけを残して良い物かと悩んだが、武蔵の剣幕で自分達がここにいた方が武蔵が危ないと判断したリオはガンナーからロープを射出しラピエサージュとファルケンに掴まるように声を掛ける。

 

『だ、だけど、武蔵だけじゃ』

 

『そうだぜ、相手はインベーダーだ。武蔵1人じゃ無茶だ』

 

武蔵が1人で残ることにリュウセイとリューネが渋り、マサキも撤退すること事体には反対していないが別案を出す。

 

『ああ、俺かリューネだけでも残るべきだと思うぜ』

 

「大丈夫だぜ、オイラは1人じゃないんでね」

 

『斬艦刀ッ! 電光石火ッ!!!』

 

武蔵が1人じゃないと口にした次の瞬間、空中から飛来したエネルギーの刃がメタルビースト・ベルゲルミルの背中で炸裂し、メタルビースト・ベルゲルミルが苦悶の声を上げ、ダイゼンガーとゲシュペンスト・タイプSが姿を見せる。

 

『ゼンガー少佐!』

 

『それにカーウァイ大佐も!』

 

救援信号をキャッチしたゼンガーとカーウァイが助っ人に現れたことにマサキ達が声を上げる。

 

『ここは俺とカーウァイ大佐が残る、ハガネへ戻れ。何が起こるか判らん』

 

斬艦刀を油断無く構えながら早く行けと促すゼンガーとその隣で参式斬艦刀を抜き放つゲシュペンスト・タイプS

 

『その通りだ、ここは私とゼンガー、そして武蔵に任せて先に行け』

 

「そういう事、多分やべえことになるからさ、早く行ってくれ」

 

変異を繰り返し、より戦闘に特化した姿になろうとしているメタルビースト・ベルゲルミルを見て、これ以上はここに残れないと判断し、リュウセイ達はアステリオン達に牽引されて離脱する。

 

『シャイン王女、早く』

 

『分かっていますわ、武蔵様。お気をつけて』

 

「おう! 大丈夫ちゃっちゃと片付けて帰るからさ! シャイン達も気をつけてな」

 

武蔵の言葉に背中を押されシャイン達のフェアリオンもアステリオンの後を追って空域を離脱する。その姿を見ていた武蔵の口元には笑みが浮かんでいたが、その姿が見えなくなるとその視線が鋭い物になる。

 

「さてと、ああは言いましたけど。こいつ結構やばいですよ、早く倒さないとどこまで進化するか分かりませんよ」

 

『ああ、ここで確実に仕留める、油断するなよ、ゼンガー』

 

『はっ!』

 

武蔵、カーウァイ、ゼンガーの眼下ではメタルビースト・ベルゲルミルが更なる変異を遂げていた、首長竜のような胴体はより戦闘に特化したのか機銃や電撃を放つであろう円錐状のパーツが突き出し、竜の頭部は東洋の竜を思わせる形状へと変化し、異形のベルゲルミルの姿はゲッタードラゴンの上半身へと変異していた。それはベルゲルミルの要素が消え去り、もっとも戦闘に適した形状へと変化した証なのだった……。

 

 

 

 

武蔵は知る由もないが、メタルビースト・ベルゲルミルが変化した姿は突然変異と言う訳ではない。ゲッター線の記憶の中にある強敵であり、竜馬、隼人、弁慶の乗るゲッターロボGを一蹴したアトランティス帝国の守護神であり、アトランティス帝国の住人が眠る揺り篭でもあった「ウザーラ」そしてゲッターロボの進化の究極系の1つでもあり、正しい進化を果たした「真ドラゴン」を模した姿であった。ベルゲルミル・タイプDの元になった量産型ゲッターロボG、そしてそれに搭載されたゲッター炉心が引き金となり呼び起こされた姿であった。

 

【ギギャアアッ!!!】

 

『ぬううッ!!!』

 

下半身の竜の首から吐き出されたどす黒い色のゲッタービームをダイゼンガーが斬艦刀を盾にして防ぐ、だがその熱量を完全に防ぐ事は出来ずゼンガーの苦悶の声が周囲に響く。

 

「武蔵!」

 

『分かってます! ミサイルマシンガンッ!!!』

 

ミサイルマシンガンとグランスラッシュリッパーが立て続けに命中し、ゲッタービームの照射は止まった。だがゲッタービームの直撃を受けていたダイゼンガーの装甲のあちこちからは黒い煙が上がっていた。

 

『大丈夫ですか! ゼンガーさん』

 

『問題ないッ! だがこいつの攻撃力は侮れんッ!』

 

メタルビーストになった所でインベーダーの知恵は決して高い物ではなく、搭載されている武装を使うだけでありそこに戦術などはない。だが真ドラゴン・ウザーラの記憶を引き出したベルゲルミル・タイプDは効率的に戦う事を学習していた。

 

【シャアッ!!!】

 

短い雄叫びと共に竜の部分から無数のビットが射出され、ゲッタートロンベ、ダイゼンガー、ゲシュペンスト・タイプSを取り囲むように展開される。

 

『またそれかッ!! トマホォォオオクッ!! ブゥゥゥウウウメランッ!!!!』

 

『斬艦刀……大ッ! 車ッ!! りぃぃいいいんッ!!!!』

 

ゲッタートロンベの投げ付けた2つのゲッタートマホークとダイゼンガーの斬艦刀大車輪によってビットの大半を破壊することに成功するが、余りに大量に展開されておりその全てを破壊する事はできず再び翡翠の檻が形成される。

 

「ぐっ……! 鬱陶しいなッ!!!」

 

『操縦桿が重い……ッ! 厄介な事をしやがってッ!!』

 

ビット同士からゲッター線を応用した重力場、そしてジャミングが発生しシステムダウン、そして身体に圧し掛かる重圧にカーウァイと武蔵は悪態を付いた。動けないほどではない、だが僅かに反応が遅れる。それは圧倒的な攻撃力を持つメタルビースト・ベルゲルミルを相手にするには致命的な隙になりかねない、ぎこちなく動くゲッタートロンベとゲシュペンスト・タイプSの横を抜け、ダイゼンガーがメタルビースト・ベルゲルミルへと肉薄する。不幸中の幸いと言うべきか、ダイゼンガーはゲッター線の檻に囚われていなかった。

 

『チェストオオオオオッ!!!!』

 

【グルオオオオッ!!!】

 

ゼンガーの裂帛の気合と共に振るわれた斬艦刀の一閃とメタルビースト・ベルゲルミルの雄叫びと共に振るったダブルトマホークが重なり、鈍い音を立てて竜の首とメタルビースト・ベルゲルミルの腕が宙を舞った。

 

『浅いッ……【シャアアッ!】ぐっ!』

 

ゲッター線の檻はすり抜けた筈だった……だが僅かに檻が機体を掠めスピードが鈍った分だけ狙いがズレた。反撃の尾による打撃でダイゼンガーの装甲が拉げ弾き飛ばされる。

 

「ブラスターキャノンッ!!!!」

 

『ゲッタービィィイイイイムッ!!!!』

 

動きが鈍いのならば白兵戦ではなく射撃兵器を使えばいい。ブラスターキャノンとゲッタービームが立て続けにメタルビースト・ベルゲルミルを捉え、耳障りな絶叫と共にビットが回収されゲッタートロンベとゲシュペンスト・タイプSの機体の自由が戻ってくる。だがゲッタートロンベの反応が鈍く、触手が足に巻き付き引き寄せられるのを見てゲシュペンスト・タイプSがフォローし、離脱する事が出来たが武蔵とは思えない反応の鈍さにカーウァイがどうしたんだと声を掛ける。

 

「武蔵、どうした、随分と動きが鈍いぞ」

 

『いや、カーウァイさん。ギリアムさんとカイさんが気絶してて出力が全然上がらないんですよ……』

 

「何? 何をしてるんだ、あいつらはッ!!」

 

3人揃っていればゲッターD2と比べれば機体性能が劣るゲッタートロンベでもある程度戦えるはずが、パイロット2人が行動不能で逆に出力低下していると聞いてカーウァイは激昂する。

 

『カーウァイ大佐、いきなり武蔵の全開の操縦についていけなかったのでは?』

 

「だとしても気絶するとは情けないッ! 鍛え方が足りんッ!」

 

ゼンガーがフォローするがそれでもカーウァイの怒りは収まらず、ゼンガーは心の中で南無と呟きながらダイゼンガーを前に前進させる。

 

『武蔵、フルパワーのゲッタービームならあいつを撃墜できるか?』

 

『ちょっと厳しいっすね、元々ゲッタートロンベは少し出力に難がありますし……今2人気絶してますし……生半可なゲッタービームじゃあいつを強化することに繋がるかもしれないですから目1杯エネルギーをチャージして……その上で炉心、あいつの炉心を露出させてくれれば……多分いけます』

 

炉心を露出させろと言う武蔵の言葉にカーウァイとゼンガーはメタルビースト・ベルゲルミルに視線を向ける。巨大化のペースは遅く、取り込むものも無く急速に強化される可能性は低いが、生半可なゲッタービームでは進化を促してしまう可能性があると武蔵が口にする。

 

「どれくらい掛かる?」

 

『……今の調子なら3分。檻を展開されたらもっと時間が掛かると思います』

 

武蔵の返事を聞いてカーウァイとゼンガーは少しだけ思考を巡らせたが、2人の出した答えは同じものだった。

 

「分かった、時間は稼いでやる。一撃で決めてくれ」

 

大破寸前のハガネの防衛で応援は望めない、仮に応援を呼んだとしても守りを手薄にし敵の強襲を受け帰る場所を失うリスクを考えれば武蔵とゲッタートロンベに全てを賭けるのが最善手だと判断したのだ。

 

『頼んだぞ武蔵』

 

斬撃ではメタルビースト・ベルゲルミルを倒すのは難しく、ブラスターキャノンでは出力が足りない。不安要素はあるがゲッタービームに賭ける事を決めたカーウァイとゼンガーはそう言うと首と腕を再生させたメタルビースト・ベルゲルミルに向かってダイゼンガーとゲシュペンスト・タイプSを向かわせ、危険を承知で白兵戦を挑むのだった。

 

 

 

成層圏のギリギリの所でメタルビーストと化したベルゲルミルのデータを取っていたウルズは落胆した素振りを隠す事が出来なかった。

 

「アンサズとスリサズの愚か者め、これではデータが取れない」

 

ツインバードストライクでコックピットを潰された。本来ならばアンサズとスリサズもインベーダーと化し、マシンナリーチルドレンの技術を持ったメタルビーストになる筈だったのだが、コックピットを潰され爆発した事で完全に死を迎えてからインベーダー化したので本能で暴れるメタルビースト・ベルゲルミルは期待したほどの戦闘力を持ち合わせていなかった。

 

『斬艦刀……雷光斬りッ!!! チェストオオオオオオオッ!!!!』

 

ゲッタービームを真っ向から両断し突撃するダイゼンガーとその後からグランスラッシュリッパーを射出するゲシュペンスト・タイプS。

 

【グギャアッ!?】

 

ゲッタービームを斬られて接近されるという予想外の行動にメタルビースト・ベルゲルミルは反応出来ず、グランスラッシュリッパーに×の字に傷をつけられ苦悶の声を上げながらダブルトマホークを出鱈目に振り回し近づけさせまいとするが、そんな動きは教導隊であるゼンガーとカーウァイを捉えれるものではない。

 

「……時間の問題か」

 

触手に噛みつき、ダブルトマホークにゲッタービームキャノン……インベーダーの特性を十分に利用し、多角的な攻撃を繰り出し、イーグレットがゲッター線を応用した結界も利用しているがその動きにゼンガー達が適応し始めている。

 

【シャアアッ!!!】

 

苦し紛れに首を伸ばし、ゲシュペンスト・タイプSを噛み砕こうとするメタルビースト・ベルゲルミルだったが、ゲシュペンスト・タイプSはそれを余裕を持ってかわし、脇の間で伸びきった頭部を挟み込んで受け止める。

 

【ギシャア!!!】

 

首から触手を伸ばしゲシュペンスト・タイプSを取り込もうとしたメタルビースト・ベルゲルミルだったが、次の瞬間には伸びた触手が煙を上げながら溶け、メタルビースト・ベルゲルミルは痛みによる絶叫を上げる。

 

『馬鹿がッ! その程度を予測出来ないと思っているのかッ! ゼンガーッ!!! この邪魔な首を切り落とせッ!!!』

 

『うおおおおおッ!!! チェストオオオオオオオッ!!!』

 

ゲッター炉心の出力を上げメタルビースト・ベルゲルミルが耐え切れない量を放出することでメタルビースト・ベルゲルミルを怯ませ、伸び切った首をゲッター線の輝きを灯した参式斬艦刀が両断する。

 

【ぐ、グギャアアアアアッ!!!?】

 

ゲッター線で焼かれ、ゲッター線の刃で切り裂かれたメタルビースト・ベルゲルミルの下半身の首はボロボロと崩れ落ち、苦し紛れに頭部ゲッタービームを発射するが、そこに合わせてブラスターキャノンを打ち込まれメタルビースト・ベルゲルミルの頭部が弾け飛んだ。

 

「……チェックメイトか……」

 

上半身と下半身の首を失ったとしても全身の複眼で回りは確認出来る。だが首を失った痛みにインベーダーは耐え切れず、攻撃は力任せにダブルトマホークを振り回し、全身の触手を出鱈目に伸ばすだけ。そして伸ばした触手も切り落とされ、更に痛みで暴れる。搭載されている機能も使わず暴れ回るだけでは何の意味もない、仮にこれが乱戦ならばその巨体で暴れるだけでも十分な攻撃力もあっただろうが、機動力に秀でているゲシュペンスト・タイプSは回避されて終わり、ダイゼンガーはその触手を切り落とす事でメタルビースト・ベルゲルミルの攻撃は一切届かない。

 

『ゲッタァァアアアアッ!!! ビィィイイイイムッ!!!!』

 

裂帛の気合と共に放たれたゲッタービームがメタルビースト・ベルゲルミルのゲッター炉心を撃ち抜き、外と内部からゲッター線で焼かれたメタルビースト・ベルゲルミルがボロボロと崩れ崩壊していくのを見届けてからウルズの乗るベルゲルミル・タイプGはASRSを展開し、アースクレイドルへと帰還した。

 

「こいつマジで強いっすね……」

 

「ああ、かなり危険だな。一体どういう経緯で現れたのか確認しておかなければ不味い事になりそうだ」

 

ボロボロと崩壊するメタルビースト・ベルゲルミルが完全に消滅するのを確認するまでの間、武蔵達はメタルビースト・ベルゲルミルがどこから現れたのかを意見を交わす。

 

「武蔵達と同様に過去もしくは平行世界から現れたのでは?」

 

「いや、多分違いますよ、こんな奴見たことないですし……ゲッター線を使うメタルビーストなんて過去でも、平行世界でも殆ど見たことないですよ」

 

「とにかくサンプルも回収した今はハガネに戻ろう。今後の計画を変更する必要があるかもしれん……」

 

完全にメタルビースト・ベルゲルミルが消滅し、使用していた異形のゲッタートマホークを回収した武蔵達はハガネへと帰還する。そしてリュウセイ達からメタルビースト・ベルゲルミルが現れた経緯を聞き、立案していた作戦を諦める事になるのだが……それが後に人類を救う一手へと繋がる事になるのだった……。

 

第194話 2つの再会 その1へ続く

 

 




アンサズとスリサズはあっさり退場です、あんまり好きじゃないですし、マシンナリーチルドレンが死ぬとインベーダーになるって言うのを書きたい話だったのでこういう感じになりました。期待に応えれたかは少し不安ですが、自分に出せる全力は出したと思うのでご理解していただけると幸いです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


シャインスパークがチャ

ダブルトマホークダークネス×2
ゲッターチェンジアタック(すり抜け)
αβガンマアタック


竜巻斬艦刀ガチャ

雷光切り
雲耀の太刀
トロンベ×2

無念……


制圧戦16は最終エリアまで行きましたが、凡ミスでアムロとシャアを落としてしまい、ブレイカーと遠距離アタッカーがおらずリタイア。最大戦力の真ゲッターとグリッドマンが使いにくい構成だととても困る。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第194話 2つの再会 その1

第194話 2つの再会 その1

 

サイバスターとヴァルシオーネ、そしてフェアリオンに周囲を守られ、アステリオンとベルガリオンに牽引されボロボロの状態で帰ってきたR-1、ビルトビルガー、そしてラピエサージュ、ビルトファルケンの姿を見て、前にアラド達から話を聞いていたイルム達は朱王鬼の術を破る事に成功したのだと判断し、その顔を輝かせたがリュウセイ達からの報告を聞いてその顔を強張らせた。

 

「また化けもんが出ただと!? んで武蔵達が足止めしてるだって!?」

 

「あ、ああ……ゲッターロボGに似てた。でも全然違う別物で……倒したと思ったらメタルビーストに変異したんだ。あれはやべえ……並の機体じゃ戦えないッ!」

 

メタルビースト・ベルゲルミルの話を聞いて予備機の元へ走り出そうとしたカチーナ達だったが、リュウセイの大声に足を止めた。

 

「私が行こう、アウセンザイターはゲッター炉心で動いている。メタルビースト相手ならアウセンザイターが最善だ」

 

『駄目だ、全員待機。これは変わらない』

 

「し、しかし、ビアン総帥。ここで武蔵君達を失うわけにはッ!」

 

アウセンザイターの調整の為にハガネに来ていたレーツェルがアウセンザイターに足を向けるが、話を聞いていたビアンが駄目だと止め、レーツェルが武蔵やカーウァイ、ゼンガーを失うわけには行かないと声を荒げる。

 

『話は最後まで聞くんだ。識別反応あり、こっちに戻って来ている、戦いが終わったと考えるべきだろう』

 

『エクセレン少尉はどうなりましたか? そちらの報告をお願いします』

 

戻って来ていると聞いて格納庫にいた面子は安堵の表情を浮かべたが、レフィーナのエクセレンについて報告を求められたラトゥーニの暗い顔に最悪の予想が脳裏を過ぎり、続く報告にその顔を歪める事になる。

 

「……エクセレン少尉はアインスト・アルフィミィに拉致されました。私達が追いついた時には、手足を破壊され胴体部のみのヴァイスリッター改を抱えたペルゼイン・リヒカイトが転移する瞬間でした……」

 

「エクセレン少尉が連れ去られたのか!?」

 

「……くそッ間に合わなかったのかよ」

 

「キョウスケ中尉になんと言えば……私の責任だ、私が1番近くにいたのに止められなかった」

 

エクセレンを探しに出ていたラミアが唇を噛み締めて拳を強く握り締める。アインストに連れ去られた……それが何を意味するかを1番理解しているからこそ、ラミアの表情は悲しみと絶望に歪んでいた。今からでも間に合うかもしれないと出撃しようと動く者がいる中で手を叩く音が響き、振り返るとテツヤが険しい表情で格納庫の入り口に立っていた。

 

「報告は纏めて武蔵達が帰還した後に聞く、今は負傷者の治療を最優先だ。リュウセイ達も念の為に検査を行なって貰う」

 

ストレッチャーと救護部隊が格納庫に入ってきてリュウセイ達をストレッチャーに乗せて格納庫を次々に出て行く中で、ラーダの悲鳴が響いた。

 

「クエルボ、クエルボッ!!」

 

「あ……ああ……ラーダか……元気そうだね」

 

「貴方どうしてッ!?」

 

「……ちょっと年甲斐も無く……無茶をした……」

 

「クエルボッ!? クエルボッ!!!」

 

「ラーダ女史、落ち着いてください! 命に別状はありません、軽度の貧血と疲労です。落ち着いて、落ち着いてくださいッ」

 

救護部隊に声を掛けられ一時は落ち着いた様子だが、その顔色は悪く強い焦りがラーダからは感じられた。

 

「同行してくれても構いませんよ」

 

「あ、ええ……ありがとう」

 

意識を失ったクエルボを乗せたストレッチャーの横にピッタリと寄り添って格納庫を出て行くラーダ。

 

「クエルボ……クエルボ・セロ博士?」

 

「知ってるのか? アヤ」

 

「え、ええ。確か特脳研の研究者の1人だったはず……私は詳しくは知らないんだけど……お父様の部下の1人だった筈よ」

 

「また特脳研関連か……あいつらの事もあるし、どうして研究者ってのはこうも胸糞悪いのかねぇ」

 

疲労、そして戦闘のダメージで意識を失っているアラドを乗せたストレッチャーを先頭に、更に2つのストレッチャーが格納庫を出て行く。乗せていた2人の少女の特徴はアラドとラトゥーニの言っていたゼオラとオウカその物であり、アラドが宿願を達成したのだろう。

 

「ラトゥーニとシャイン王女も救護室へ」

 

「は、はい。分かりました、行きましょう、シャイン王女」

 

「え、ええ……武蔵様を待っていたいですが……そうも言ってられないですしね」

 

救護部隊に先導されシャインとラトゥーニも格納庫を後にする。

 

「しかし不味いな、エクセレンはアインストに拉致、それに加えて量産型ゲッターロボG……戦況は悪化する一方だな」

 

「泣き言は言いたくねぇが……流石にこいつああたしでもどうすれば良いかなんてわからねえぞ。ぶっ潰すにしてもどちらか一方を潰せば後から撃たれちまう、どうやっても対処する方法が思いつかねぇ」

 

便宜上味方だが、その実敵同士であり、虎視眈々と隙を窺っているような関係だ。下手に攻め込めば背後から撃たれるこの状況には流石のカチーナも弱音を口にする。

 

「グランゾンだと!? なんでシュウの野郎が武蔵達と一緒なんだ!」

 

マサキの怒声にイルム達が顔を上げ格納庫のモニターに視線を向ける。そこにはゲッタートロンベとゲシュペンスト・タイプS、ダイゼンガーに加え無数の輸送機を伴ったグランゾンの姿があるのだった……。

 

 

 

 

グランゾンに因縁を抱いている者は数多くいる。普通に着艦すれば間違いなく一騒動になるのはシュウも理解していた。

 

「帰還している最中にシュウさんに会いまして、レイカーさん達から補給物資を預かってるって聞いたんで同行して貰いましたけど、大丈夫でした?」

 

だから武蔵と共に着艦したのだ。武蔵の人の良さ、そして武蔵本人が気にしていないとは言え引け目がある者が多いので、武蔵とシュウが並んでいたら怒鳴りつける訳にも行かず……思う事はある物の黙り込むしか無く、武蔵の隣でにやりと笑っているシュウにグッと拳を握り締めるのがやっとだった。

 

「それでこうして態々やって来たということは何かほかに話があるのだろう? シュウよ」

 

「ええ、流石ビアン博士話が早い。……単刀直入に言いましょう、アースクレイドルに攻め込むのは今は止めた方がいい、返り討ちにあいますよ」

 

アースクレイドルに攻め込むなとシュウの警告にビアンは眉を顰めた。その視線の先には武蔵達が対峙したメタルビースト・ベルゲルミルの姿がある。

 

「これが理由かね?」

 

「それもありますが、地球・宇宙の両方にアインストが散発的に出現する今は地球も宇宙も混乱状態ですが、その混乱に乗じてイスルギ重工やブライ議員と親交の深い企業が一斉に動いています」

 

元々限りなく黒の企業が動いていると聞いても驚きは無いが、今まで目撃情報が殆ど無かったアインストが地球と宇宙の両方に出現しているという事態はまずいものだった。

 

「アインストが人間に寄生すると言う話は聞いていますが、民間人への被害は?」

 

「それが殆ど無いそうです。PT等に攻撃を仕掛け、一定時間暴れると溶けるように消滅する。恐らく偵察と言う所でしょうね、アインストも脅威ではありますが、現状は連邦軍で対応出来ているので問題ないでしょう。問題なのは……アースクレイドルの方です。アースクレイドルに量産型ゲッターロボ、そして数十機の特機を作れるだけの資材が運び込まれています。DC戦争……いえ、アードラーが拠点にしていた事を考えれば自ずと答えは出るでしょう」

 

あえてシュウは口にしなかったが、アースクレイドルの攻略難易度は元々高いと想定していたビアン達でさえも、その想定が余りにも甘いという指摘だった。

 

「その反面ムーンクレイドルはいまならばまだ防衛が甘い、アインストが地球より多く出現しているので、その騒動を利用して電撃戦を仕掛けて奪還する事は可能でしょう。ただし武蔵君を始め旧西暦の方々が同行する必要があるでしょうが……ね」

 

ムーンクレイドル、そしてセレヴィスシテイは鬼に制圧されている。鬼と戦うには新西暦の人間では力不足であり、武蔵、ラドラ、コウキ、そしてイングラムとカーウァイの力が必須となるだろう。

 

「それならば動かせる戦力を全部動かして月を奪還すればいい……そう思っていませんか? リー・リンジュン中佐」

 

「……ああ、その通りだ」

 

「確かにそれがテロリスト相手ならば得策でしょうが……悪い事は言いません。止めておきなさい、貴方達が帰る場所を失う事になりますよ」

 

帰る場所を失うと邪悪な笑みを浮かべて言うシュウに嫌悪感や怒りを抱くレフィーナ達だったが、ここにはシュウにとってもある意味天敵も存在しているのだ。

 

「すいません、オイラ馬鹿なんで普通に説明してくれませんか? なんか頭痛くなっちゃって」

 

「……そうですね、もっと単純に説明するべきでしたね」

 

「いやあ、すいませんね」

 

武蔵はある意味シュウの天敵であり、嫌味も効かないし、それでいてあまり疑う事を知らないので余計に相性が悪い。

 

「これを見ていただければ分かると思います」

 

懐から差し出された数枚の写真、それを受け取った武蔵やカーウァイ達はその顔色を変えた。

 

「メタルビースト・SRX……ッ。いや、だけどちょっと細部が違いませんか?」

 

「ああ。よく似ているが別物だ……なんだこれは」

 

メタルビーストSRXに武蔵とカーウァイは見間違えたが、良く見ると背部にウィングが追加されていたり、頭部の形状も変わっているのに気付いた。

 

「馬鹿な……これは……」

 

「……こんな事までありえるというのですか……」

 

「ここに来るまでの間にケンゾウ博士、ロバート博士にも見てもらいましたが間違いないそうですよ」

 

武蔵とカーウァイには理解出来なかったが、レフィーナやテツヤにとっては信じられない物がこの写真の中のメタルビースト・SRXに酷似した何からしいと武蔵達も理解した。

 

「なんなんです? これ。メタルビースト・SRXが進化したんじゃないんですか?」

 

「違う、これはSRアルタード……ッ、SRXの後継機にして完成した姿だ。何故、何故ここに存在しているッ!」

 

SRX計画を作り上げたイングラムだからこそ、ここにSRアルタードが存在してはいけないと知っている。まだこの時代にアルタードは存在してはならないのだ。

 

「それは私も知りませんが……曰く、アインストと交戦中に奇妙な怪物と共に出現したそうです。連邦軍基地と避難民を虐殺後、いずこかへ消え去ったようですが……放置すれば間違いなくその数を増やすでしょう、ですが月を放置すれば月の住民は皆鬼になるでしょう」

 

「ムーンクレイドルの奪還はそのままに、このメタルビースト・アルタードを破壊しなければならないということか……シュウ、協力してくれるのかね?」

 

「マサキがいないほうに参加させていただけるのならば……協力することも吝かではありませんよ」

 

補給物資、そして機体の修理や改造が出来る博士を連れてきた上でテツヤ達が今1番欲している情報を渡した。それは自分の意見、意志を通す為のシュウの策略であり、これだけの情報を渡され、なおかつグランゾンの転移能力でいつでも地球に戻ってこれるという鬼札を前にすればマサキと別行動をさせろ……という要求を呑む事は簡単だ。

 

「分かった。シュウとグランゾンにはムーンクレイドル奪還に回ってもらう、それで良いかね?」

 

とは言えシュウに思う事がないわけではないテツヤ達ではなく、ビアンが話を取り纏める事になった。まずムーンクレイドルの奪還、そしてこの地球のどこかに存在し、恐らくSRXとリュウセイを狙っているメタルビースト・アルタードの撃破後、戦力を集めアースクレイドルを叩く……それが今のビアン達に出来る最善の作戦なのだった……。

 

 

 

鬼達からの報告書に目を通していたブライはノックの音を聞き、報告書を1度机の上においてどうぞと声を掛けた。入ってきたのはブライの予想通り仏頂面のメキボスだった。

 

「そろそろ来ると思っていたよ、メキボス君。返事は?」

 

「……ネビーイームでシャドウミラーを預かる」

 

どの道メキボスにはブライの要請を聞き入れるか、断って鬼に改造されるか、それとも喰われるかの選択しかないのだ。一番確実に仲間の元へ帰る手段を選ぶのは当然の事であり、メキボスの返事を聞いてブライは満足そうに頷いた。

 

「では約束通り炉心を搭載したゲッターロボGを2機用意しよう」

 

「2機? 俺に見せてくれた写真には9機あったが……ずいぶんとケチだな」

 

メキボスからの軽い嫌味にブライは笑みを浮かべたまま座るようにと手で促す。メキボスが動かないでいるとブライの部屋の警護をしていた鬼が手にしているアサルトマシンガンを業と大きな音を立てて構えなおし、メキボスは舌打ちと共に歩き出しブライの前の椅子に腰掛けた。

 

「勘違いしてほしくないのだが、我々としてもゲッター炉心の複製は決して簡単な物ではない。それに量産型ゲッターロボGは変形機能をオミットしているから量産出来ているのだ。君達に渡すゲッターロボはちゃんとゲッターチェンジも出来る高性能な限りなくオリジナルに近いゲッターロボGだ。それを9機も用意するのは私としても難しいのだよ、変形機能をオミットしたゲッターロボGで良ければドラゴン、ライガー、ポセイドンと1機ずつ用意してもいいが……それならゲッターロボGは1機になるがどうするかね?」

 

「……分かった、2機で良い」

 

1機は本国に送り、1機はネビーイームで保管することを考えれば2機で十分だ。

 

「分かってくれて嬉しいよ、メキボス君。では本日中にシャドウミラーと合流して貰い、ネビーイームに帰還してもらおうか」

 

「今日中に? 随分と急いでいるようだが……何か問題か?」

 

少しでもブライの弱みを握ろうとする姿勢にブライは穏やかに笑う。交渉の場で己の弱みを見せず、常に冷静に振舞う事が交渉の場では重要になる。議員として活動していたブライは以前よりも遥かに狡猾な強かな鬼になっていた。

 

「アインストと呼ばれる謎の生物が最近地球と宇宙に数多く出現していてね、日が経つ事にアインストの出現率は爆発的に増加しているのだよ、君達の安全を考えて早い方が良いと思っているのだが……」

 

「気遣いに感謝するぜ、ブライ大帝」

 

「何、気にすることはないさ。私も君に無理を頼んでいる立場だからね」

 

口では申し訳ないと言っているブライだが、そんな事は微塵も思っていないと言うことはメキボスも分かっている。だが丸腰で無事に帰れるかどうかもブライの気分次第と分かっているので下手に出るしかない。

 

「出発の準備が出来たら声を掛ける。それまでは部屋で休んでいてくれたまえ」

 

「……分かった。それと預かりはするが、うちのボスは気が短い。ネビーイームで保護されるかどうかは俺は保障しない」

 

「勿論分かっているとも、それは私も話をしてあるから心配はないさ。メキボス君は連れて行って紹介してくれれば良い、それに彼らは私が自信を持って紹介する戦力だ。君が考えているようなことにはならないさ」

 

ウェンドロの性格を理解しているブライは自信満々という様子で反論出来ないメキボスは分かったと小さく返事を返し、出発の時まで与えられた部屋で休む為にブライの部屋を後にした。

 

「これで1つの憂いは断ったか、龍王鬼と相性が良いと思っていたが見込み違いだったか」

 

永遠の闘争を望むヴィンデルと龍王鬼は相性が良いと考えていたブライだが、ラングレー基地の件で龍王鬼がヴィンデルを見限ったので、これ以上アースクレイドルにおいておく意味が無い、それならば地球よりも高い技術力を持つウォルガの所で何か新兵器でも開発させた方が利益になる。

 

「……十分にアースクレイドルは百鬼帝国に貢献してくれた。だからもう必要ないな」

 

必要無いと言いつつもブライは内心惜しいと思っていた。だがコーウェンとスティンガーが好き勝手に入り込み、イーグレットもマシンナリーチルドレンにインベーダー細胞を組み込み始め制御が出来なくなってくるとリターンよりもリスクが高まってしまう。マシンセルは惜しいが……十分にデータは取れている。後はそれを元に百鬼獣の生態金属のアップデートをすればマシンセルに拘る必要はないとブライは割り切る。

 

「……アインストが活性化しているのはインベーダーが原因という可能性もあるな……となればハガネが攻め込んできた時に必要以上に配置するのは愚作だな……」

 

アインストとインベーダーの関係性が不明瞭だが、敵対しているという事は間違いない。アースクレイドルにコーウェンとスティンガーがいるという事はアインストの出現率が増すという事を意味している。アインストとインベーダーに有能な部下を奪われるというのはブライとしても避けるべきだが、ラングレー基地で不完全燃焼をしている龍王鬼は間違いなくハガネが攻め込んでくれば戦う事を望む筈だ。

 

「やれやれ。手の掛かることだ」

 

敵がいない最強になるつもりはない、自分を脅かす敵がいてそれを倒す事に意味があると考えるブライには最強の敵、そして最強の部下、そして最強の力が必要なのだ。

 

「まずはオーガの回収それと……龍王鬼だけはアースクレイドルに残すか、後は……この謎の存在についての調査……やれやれ忙しいことだ」

 

忙しいと言いつつも楽しげなブライ。混迷を極める今のフラスコの世界はブライにとって居心地のいい世界であり、この混迷と戦乱に満ちた世界を支配し、そして宇宙にさえも手を伸ばさんとするブライは牙を剥き出しにし、獰猛な笑みを浮かべながら己が望む究極の戦場を作り出す為の策を練り続けるのだった……。

 

 

時空の境目を紫電を撒き散らしながら流離う頭部に角と右腕に巨大な打撃用のアームを持つ緋色の機体――エクサランス・ストライカーフレームと輸送機レイディバードをゲッターエンペラーのブリッジから1人の男が見つめている。

 

「どうしますか? 司令官。このままでは消失してしまいますが」

 

「不進化態の出現による弊害だな、時空の裂け目を開け。あの機体を通常時空へ戻す」

 

「了解です」

 

ゲッターエンペラーから放射されたビームが時空の境目の中に更に虚空を作り出し、漂っているだけのエクサランス・ストライカーフレームがその中へと吸い込まれるようにして消えていく姿を見届けた司令官と呼ばれた男は、その鋭い視線を前方に向ける。

 

「未練がましいぞ、お前達は選ばれなかったのだ。何をしてもお前達が選ばれることはない」

 

ゲッター線を悪用したもの、ゲッターロボで悪事を行った者……ゲッター線を悪用した者達が辿り着くおぞましき進化の形――邪龍がゲッター線の海からその顔を出した。

 

【ははははははははッ!!! はーっはははははははははッ!!!】

 

異形のゲッタードラゴン――ゲッターセイントドラゴンから響く笑い声は司令官と呼ばれた男と同じ声であり、司令官――最もゲッター線に適合した男。流竜馬は忌まわしそうにゲッターセイントドラゴンとその周辺の異形のゲッターロボを睨みつける。

 

「耳障りな笑い声を上げるな、出来損ないが」

 

【はーははははははッ!!!】

 

ゲッターセイントドラゴンの口元にゲッター線が集束され、轟音と共にゲッタービームが放たれる。ゲッターエンペラーがそれに応戦するようにゲッタービームを発射する。

 

ゲッター線は進化を促す、だがその進化は常に正しい物とは限らない。かつて邪悪に進化した真ドラゴンが存在したように……ゲッター線が促す進化は常に正しい物だけではないのだ。ゲッター線を悪用するもの、そしてそれを止める者の戦いは認識出来ない世界で常に行なわれ、そして常に引き分けで終わる。

 

【ははは……はははははは……】

 

「ちっ……忌々しい」

 

この世界のゲッターエンペラーとゲッターセイントドラゴンには核が無い、その核が無い以上その存在はあやふやでありその戦いは決して決着がつくことはない、巴武蔵――ゲッター線の進化の根底にあるべき進化の使徒が存在しないが故に、この世界のゲッター線の辿り着く終着点はいまだ定まっておらず、ゲッターエンペラー、ゲッターセイントドラゴンが共に己の存在を確立させる為に武蔵を求め、そして異なる進化へと辿り着く為に武蔵が共に来る事を拒否している。武蔵、延いてはこの世界のゲッター線の進化の旅路はまだ始まったばかりなのだった……。

 

 

 

 

第195話 2つの再会 その2へ続く

 

 




今回はシナリオデモと今後のフラグですね、次回はギャグを交え機体の強化の話とエクサランスの話に入っていこうと思います。
それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


最後のズワルトシャインスパークがチャ

暗転して買ったと思ったら

火炎剣とメガキャノン


そういえば未所持だったわ……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第195話 2つの再会 その2

第195話 2つの再会 その2

 

「どうだ? これが俺の自慢の紅茶だ。美味いだろう」

 

ティーポットを片手に自信満々という表情でユウキが胸を張る。だが……ある意味相手が悪すぎた、なんせ振舞っている相手は武蔵である。

 

「悪いけど、オイラ日本茶の方が好きだな」

 

「……そ、そうか……ッ」

 

がっくりと肩を落とすユウキだが、こればっかりは相手が悪すぎる。仮に竜馬でも同じであり、この紅茶の良さを理解するのは隼人くらいなものだろう。

 

「ユウキさんでしたわね、とても良いお茶ですね」

 

「ええ、とても美味しいですわ」

 

紅茶を理解しているシャインやレオナはユウキの紅茶の淹れ方を褒めるが、その隣ではエキドナがカップの中に砂糖とミルクをぶち込んでいる。

 

「お前、もう少し味わう方がいいぞ?」

 

「私は甘い方が良いんだ、武蔵もいるか?」

 

「あ、ください。エキドナさん」

 

シュガーポットをエキドナから受け取った武蔵はこれまた大量の砂糖とミルクをぶち込み、ユウキは口を開きかけては閉じ諦めたように椅子に腰を下ろした。

 

「しょうがないよ、ユウのお茶は美味しいけど、あたしも美味しいって事しか分からないし」

 

「カーラ……ああ、そうだな。ああ、分かっているさ」

 

紅茶に自信ありのユウキにとって致命的に相性の悪い面子がそろっていたのが原因であり、それなりに教養のある面子ならば茶葉やカップでの話も合ったが、それを理解するだけの教養が武蔵にはない、そして武蔵がそれを理解出来ないと分かっていればシャイン達もその話をしない……根本的に茶会に招待した面子の人選ミスである。

 

「それにしてもユウキがビアン博士の一派だったとは」

 

「敵陣に潜り込む必要があってな。文字通り命懸けだったが……それなりの情報は持ってこれたと思っている」

 

アーチボルドの部下として何度も対峙していたユウキとカーラが実は味方だったと言うのは、ブリット達にとっても驚きだった。

 

「ユウキ少尉がいたから我々はある程度先手を取って動けていたんだ。そこまで卑下する事はないだろう」

 

「しかしユーリア少佐、私は必要な時に必要な事を出来ませんでした」

 

「それでもだ。命を懸けてくれた者を責めるつもりはない、良くやってくれた」

 

珍しくカリスマが発動しているユーリアの言葉にユウキはありがとうございますと小さく微笑み、隣のカーラが面白くなさそうにするがポンコツ・鈍感・おしゃま・ヘタレと恋愛弱者しかいないのでカーラのその微妙な雰囲気の変化に気付いたのはレオナだけだったりする。

 

「……キョウスケ中尉大丈夫かな?」

 

「今はラミアさんがついてる。それに俺達じゃ止められない」

 

エクセレンがアインストに拉致されたという話はキョウスケにはしていない、だが虫の知らせなのだろう、点滴を引き摺りながら鬼気迫る表情で現れたキョウスケを止める術はブリット達には無かった。

 

「リョウが同じことをしたら殴ってでも医務室にほり込むんですけど……殴ってきましょうか?」

 

「止めろ馬鹿、キョウスケにトドメをさすつもりか」

 

「あだッ! あれ? カチーナさん。話し合いに行ってたんじゃ?」

 

拳を握り実力行使に出ようとしていた武蔵の頭を手にしていたバインダーで叩いて止めるカチーナに武蔵はブリーフィングに出てたんじゃ? と尋ねる。

 

「終わったからこっちに来たんだよ、あーユウキだったか、あたしにも茶をくれ」

 

ユウキに紅茶をくれと声を掛け、ユウキが用意した紅茶を口にしたカチーナはへえっと感心したように呟いた。

 

「クリスタルフラッシュか、この御時勢に良く用意出来たな、こんなもん」

 

「分かるのですか!?」

 

「そりゃ分かるだろ、ハーブみてえな柑橘系の香りと雑味の無い味っつたらそれくらいだろ。あたしはシルバーティップスが好きだけどよ」

 

「シルバーティップスですか、あれも良い茶葉ですよね。中々入手が難しいですが」

 

「クリスタルフラッシュも良い勝負だろ? 本当に良く仕入れたな」

 

「レーツェルさんのつながりでして」

 

「ああ……なるほど……んだよ、そんなギョッとした顔であたしを見てどうかしたか?」

 

ユウキと茶葉の話題で盛り上がるカチーナを信じられない者を見る目で武蔵達は見ており、それに気付いたカチーナがどうかしたか? と尋ねる。

 

「……カチーナさん、分かるんですか?」

 

「馬鹿にすんなよ、武蔵。あたしはこれでも家事一般全部出来るんだぜ? 滅多にやらないけどな、紅茶の淹れ方と茶葉だって詳しいんだぞ?」

 

粗暴な印象を受けるカチーナだが、実は家事一般は勿論嗜好品にも詳しく、性格上向いてないがどこかの大企業の令嬢並の教養を有していたりする。

 

「それでカチーナ中尉、今後の方針としては?」

 

「月面奪還組みと地球残留組に分かれることになるそうだ、2日の間には行動に出る」

 

プランタジネット失敗のダメージはまだ抜けていないが、万全な状態を整えている時間が無いという判断なのだろう。誰も口にしないが厳しい戦いになると誰もが覚悟している中、食堂の扉の開く音と共にざわめきが広がった。

 

「ずいぶんと騒がしいですがどうしたのでしょう?」

 

「もしかしてあれかな、カイさんとギリアムさんかな」

 

「……確かゲッターロボの操縦中に気絶したからとカーウァイ大佐が特殊訓練をすると言っていたが……」

 

半ば処刑が確定していたカイとギリアムが食堂に来たのだろうか? と武蔵達も出入り口に視線を向けて絶句した。

 

「……」

 

「……」

 

顔を真っ赤にさせたアラドとその背中に抱きつき、手と足でガッチリと引っ付いているゼオラと、どうしたものかという表情をしているラトゥーニとオウカ……控えめに言っても地獄の光景がそこに広がっていたのだった……。

 

 

 

 

 

食堂で一騒動起きている頃、格納庫でも一騒動起きていた……勿論それはシュウが連れてきたマリオンとラルトスの2人、魔改造師弟が揃ってしまった事が原因だ。

 

「すげえッ! マリーシショー! これすげえヨッ!! なにこれェッ!!!」

 

「試作超大型リボルビング・バンカーですわ。貴女の考えたテスラドライブ応用論を更に発展進化させたものですわ」

 

「マジで!? やっぱマリーシショーは天才ネ! 所で反動はどうなってるノ?」

 

「? 何を言っているんです? 反動に耐えれるフレームと装甲、それに衝撃を吸収するサスペンションさえあれば実質反動なんて無いですわ」

 

「その理論天才ネ!」

 

頭がおかしい会話を聞いて整備兵は勿論、ビアンと原住民ダンスを踊っているクロガネの整備兵も言葉を失った。

 

「俺達もまともじゃねぇって思ってたけど……」

 

「上には上がいるもんだなあ……」

 

「強化すれば実質無反動……」

 

反動を無効化するだけの装甲とフレーム、後サスペンションがあればいいと言うマリオンの理屈はとんでもない暴論だ。暴論なのだが……。

 

「「「「天才かよ……ッ」」」」

 

元々同じ穴の狢なのでマリオンの理論が実現可能かどうか、そしてそれを搭載出来る機体があるかどうかを考え実行可能という結論が出ればこの格納庫の整備兵はマリオンを天才と認めた。

 

「キョウスケ中尉、悪い事は言いません。新型機はビアン博士に依頼するべきだと思います」

 

その会話を聞いていたラミアは車椅子に乗っているキョウスケにそう忠告するがキョウスケは首を左右に振った。

 

「必要な力だ、エクセレンを取り戻すためにな」

 

「……すいません、キョウスケ中尉」

 

「いや、責めている訳じゃない。2人で会いに来ると言っていたんだ。その時に取り返すまでだ」

 

傷が痛むであろうがその目を爛々と輝かせているキョウスケにラミアは何も言えず、無言で車椅子の方向を変える。

 

「物凄い事になっていますが……? 後悔しませんか?」

 

「後悔はない、覚悟は既にしている」

 

アルトアイゼンの面影を残しつつも、全く別の機体になろうとしている己の愛機を見て、覚悟しているというキョウスケに今度こそラミアは言葉を失い、点滴終了のアラームがなったのを確認し車椅子を格納庫の入り口に向ける。

 

「点滴が終わったので医務室へ戻ります。よろしいですね?」

 

「駄目と言っても連れて行くのだろう? 俺自身が分かってる、今の状態では俺は戦えない。戦えるようになる為にも医者の言うことは聞くさ」

 

アルトアイゼンの修理……いや、強化が施されているのを見て安堵した様子のキョウスケを乗せた車椅子を押し、ラミアは格納庫を後にする。

 

(SRXチームも大変そうだな)

 

急ピッチで修理が行なわれているRシリーズとハンガーの前に集められているリュウセイ達を見て、なんらかのトラブルが起きたのかもしれないと感じたラミアはふと思い出した。

 

「そうだ、アンジュルグにデータが残っているかも……エキドナにも声を掛けてデータを吸い出しておくか」

 

量産型SRXのデータ、そしてそのパイロットとなる筈だったWシリーズのデータはアンジュルグに残っているかもしれない、確証は無いがSRXを修理、強化する手助けになるかもしれないとラミアは思い至り、キョウスケを揺らさないように細心の注意を払いながらも早足で医務室へと向かった。

 

 

ラミアが感じた通りSRXチームのミーティングが深刻な事態に陥っているというのは正しかった。シュウから渡された写真に残っていた巨大特機――外見的特徴からアルタードで間違いないと言うイングラムの言葉にリュウセイ達は驚きを隠せ無かった。

 

「SRアルタードって……マジなのか、教官」

 

「まだ俺の目で確かめていないから何とも言えんが……ほぼほぼ間違いないだろう」

 

SRXの完成形――SRアルタードが存在し、それがメタルビーストに変異している。勘違いならば良いが、イングラムのその深刻な表情にリュウセイ達も息を呑んだ。

 

「アルタードはイングラム少佐達がシャドウミラーと共に戦ったと言う未来の物でしょうか?」

 

「これも憶測だが恐らくはそうだろう、量産型SRXが製造されているんだ。完成形のアルタードが完成していてもおかしくはない」

 

量産型SRXが運用されていた未来なのだからアルタードが製造されていてもおかしくはないと言うイングラムの説明も一理ある。

 

「ラミアやエキドナ、バリソンには話を聞いたのですか?」

 

「ラミアとエキドナには聞いていないが、バリソンに話を聞いている。バリソン曰く、分からないそうだ」

 

「分からない? それはどういうことですか?」

 

「……SRXとリュウセイがベーオウルフによって倒された後の補欠のSRXチームとSRX計画の研究者は消息不明となっているとそうでな。開発していた基地も破壊されていてアルタードが完成していたのか、それともデータだけなのかも分からないそうだ」

 

平行世界の未来のリュウセイが乗る前提の機体なのだ。そのリュウセイが死んではプロジェクト自体が凍結された可能性もあり、詳細は不明。それにシャドウミラーと連邦軍が敵対関係にあれば詳しいデータがないと言うのも当然の話だ。

 

「SRXの修理・改修の為に現在量産型SRXのデータを準備して貰っているわ。でも招集をかけたのはそれが理由じゃない、これから私達は月面奪還班と地球残留組に分かれることになるけど……私達はこの……便宜上メタルビースト・アルタードをSRXを用いて撃破するという任務が与えられるわ」

 

メタルビースト・アルタードの撃破命令にリュウセイ、ライ、アヤの表情が強張る。だがそれも当然だ、メタルビースト・SRXの段階でゲッターD2がいてやっと互角、それをアルタードよりも劣るSRXで撃墜するのはかなりの無理難題だ。

 

「現状での勝算は?」

 

「約3割だ。この低確率をどこまで埋めれるかがこのブリーフィングの議題となる」

 

「教官、武蔵は協力してくれるのか?」

 

「いや、武蔵は月面奪還の最重要のキーマンになる。まだ確定では無いが、ヒュッケバインチーム、サイバスター、ヴァルシオーネ、グルンガスト等になると思われる。ビアン博士達も可能な限り戦力を地球に残す考えだが、ゲッターロボの力を借りれないのは間違いないと思ってくれ」

 

戦力が一切不明の敵、確実に戦力は龍虎鬼皇レベル……いや下手をすればそれを遥かに上回る力を有しているかもしれない相手との戦いに武蔵達の協力を得れないのにライとアヤは表情を強張らせたがリュウセイは掌に拳を打ち付けて力強く笑った。

 

「いつまでも武蔵に頼ってられねぇからなッ! 守られるだけじゃない、一緒に戦えるんだっていうのを証明してやろうぜ、ライ、アヤッ!」

 

「リュウセイ……ああ、そうだな」

 

「ええ、その通りよ」

 

リュウセイの言葉に迷いと不安を払拭したライとアヤも笑みを浮かべる。

 

(やはりリュウセイの存在は大きいな)

 

(この雰囲気をたった一言で払拭するんだものね)

 

絶望的な雰囲気を一瞬で霧散させた。まだ力不足は否めないが、間違いなくリュウセイは英雄の器であり、そしてどんな絶望的な雰囲気も一転させるムードメイカーであった。

 

「その意気だ、まずは予想されるアルタードの弱点と戦闘パターン、搭載されている武装についての予測を行なう」

 

「基本的な弱点はSRXと同じ、戦闘力は向こうの方が上だとしても相手は獣よ。人間の知恵を教えてあげましょう」

 

「「「了解ッ!」」」

 

イングラムとヴィレッタの言葉にリュウセイ達は力強く返事を返し、メタルビースト・アルタードへの対策会議を続ける。

 

 

 

 

 

リュウセイ達が格納庫でメタルビースト・アルタードについてのブリーフィングを行っている頃。食堂では微笑ましい者を見る目、嫉妬を感じさせる視線をアラドに向ける者がいるなど凄まじい状況になっていた。

 

「つまりなんだ、離れてくれないと」

 

「ういっす」

 

背中にしがみ付いているゼオラが少し動く度に胸が背中に当るのか百面相をしているアラドの顔は憔悴しきっていたが、それを笑うものは誰もいない。

 

「なぁゼオラ、少し離れないか?」

 

「……そうだよね、私性格ブスだもんね……アラドは私みたいなの嫌いだよね……」

 

「ちげえよ!? 俺そんな事言ってないぞ!?」

 

声を震わせすすり泣くゼオラと違うからなと必死に弁解するアラドのやり取りを見て笑える人間などいない。

 

「えっとつまり、依存してたのはアラドじゃなくてゼオラの方だったと?」

 

「……そうなりますね、カーラさん。それにその……ゼオラは……言いにくいんですけど、昔はもっと暗い性格でした」

 

「俺はゼオラは快活な性格だと思っていたが……」

 

ゼオラをよく知るオウカとラトゥーニはなんと言えば良いのかと困りきった表情を浮かべている。

 

「……オウカ姉様とアラドが仲良くしてるのを見て、オウカ姉様を真似するようになって、そこから今のゼオラみたいになったんです」

 

スクール時代からゼオラはアラドに強い感情を向けており、それに気付いていないアラドという図式だったと説明を受けてクスハがぽつりと私とリュウセイ君見たいと呟いた。

 

「何か言ったか? クスハ」

 

「ううん、なんでもないよ?」

 

クスハのなんでもないの言葉に武蔵とブリットはそうか? と首を傾げたが、一部の女性陣は何とも言えない表情を浮かべる。

 

(ちょっとやばめだな……どうするよ?)

 

(わ、私に言われてもな、そういう色恋は私は無理だ。だが無理に引き離したりすれば精神薄弱になりかねないな))

 

ポンコツユーリアは色恋の解決には役に立っていないが、ゼオラとアラドを引き離す危険性は理解していた。

 

(でもあの目……めちゃくちゃ怖いですわ)

 

(分かる……ハイライトさんがいなくなってる)

 

時折顔を上げるゼオラだが、その目に光は無く強い警戒心……いや、憎悪さえ感じさせた。アラドに依存、いや執着しているゼオラは、自分からアラドを奪う可能性のある者に強い敵意を見せていた。

 

「武蔵様。お茶でも用意しましょうか?」

 

「ん? 別にいいけど」

 

「いえいえ、お気になさらず。エキドナも手伝ってくれますか?」

 

「あ、ああ。手伝おう」

 

「ユウ、あたし紅茶もう一杯欲しいな」

 

「ん? ああ、今用意しよう」

 

シャインはエキドナを伴って席を立ち、カーラはユウキに紅茶を頼む。それを見てゼオラのシャインとエキドナ、そしてカーラに向けられる敵意は弱くなった。

 

「あれだ。アラド」

 

「うっす」

 

「お前はゼオラと同室で良いだろ」

 

「うえ!?」

 

「え? 良いんですか!?」

 

カチーナの言葉にアラドは声をあげ、ゼオラは喜色の満ちた声をあげカチーナへの敵意を薄める。

 

「今はヒリュウに空き部屋が無いからな、オウカだったか? お前も一緒だけど良いよな? 士官用の部屋になるけどよ」

 

カチーナの意図としては恋慕が暴走しかねないゼオラとアラドを引き離すより同じ部屋にした方がいいという物で、監視役としてオウカも間に入れる事にしたのだ。

 

「ありがとうございます。私はそれで構いません」

 

「決まりだな、じゃああたしの方から艦長に声を掛けとくわ」

 

そう言うとカチーナは逃げるように席を立ち食堂を後にした。どす黒い執着心と依存心を感じさせるゼオラには本能的な恐怖を感じさせ、逃げを打つのは当然の事だった。

 

「ラトも一緒に来る?」

 

「私はリュウセイの部屋に行くから」

 

ラトゥーニの言葉に食堂の時間が止まった。クスハやブリットが嘘だろって顔をラトゥーニに向ける中、ラトゥーニは邪悪さを感じさせる笑みで微笑んだ。

 

「最近寝てるリュウセイを見ないと寝れないから」

 

「「「「……」」」」

 

「武蔵様、おはぎで良かったですか?」

 

「ああ、ごめんな。ありがとうシャインちゃん」

 

「最近は色々と勉強して美味い緑茶を淹れれる様になったんだ。飲んでみてくれ、武蔵」

 

「へえ、それは楽しみですねぇ」

 

寝てるリュウセイを見ないと寝れない。それが意味するのは寝てる間に侵入しているという事で、ゼオラよりもよっぽど重いラトゥーニにブリット達は絶句し、その隣では武蔵がシャインからおはぎを、エキドナから緑茶を受け取り能天気に啜っていると中々にカオスな状況だった。

 

「……そう、後でそのリュウセイって人を紹介してくれるかしら?」

 

そして長姉としてオウカはリュウセイを見極めるためにも1度リュウセイを紹介してくれとラトゥーニに声を掛けた。次の瞬間武蔵が椅子を蹴り倒しながら立ち上がった。

 

「きゃっ! む、武蔵様、どうなさったのですか?」

 

「嫌な予感がする。ブリット! 悪いけどレフィーナさん達に上手く言っておいてくれ!」

 

武蔵はそう叫ぶとおはぎを頬張り、緑茶を一気に飲み干すと止める間もなく食堂を飛び出して行き、その様子にただ事ではないと悟ったブリット達も武蔵が飛びだしていったことを伝える為に食堂を飛び出して行くのだった……。

 

 

 

 

オペレーション・プランタジネットで負った傷を百鬼帝国の医療技術によって治療されたアクセルは既に万全な状態になっていたが、ヴィンデルの横槍、キョウスケを仕留め損ねた事……そしてアルフィミィに心の中を覗きこまれた事に対して強い憤りを感じており、アースクレイドルの安全な区域の中で単独行動をしていた。

 

「はぁい、アクセル。ちょっとお使いを頼まれてくれないかしらん?」

 

「……レモンか、量産型Wシリーズにでも頼むんだな、俺とて考えたいことの1つや2つある」

 

ヴィンデルは勿論レモンとも距離を取っており、同じアースクレイドルの中にいてもその姿を見ること事体稀であり、こうして姿を見せない事がヴィンデルへのアクセルの抗議の形だった。

 

「やっと見つけたのに随分な事を言ってくれるわねぇ、でもダーメ。これはアクセル、貴方にしか頼めないの」

 

レモンとてアクセルに思うことがあると言う事は十二分に理解している。だが今回の件はアクセルにしか頼めず、アクセルを探し回っていたレモンはアクセルにしか頼めないと口にすると、その言葉の中に真剣な物を感じやっとアクセルは顔を上げた。

 

「レモン、俺に何をさせたい」

 

「ちょっとね、お迎えに行って……「くだらん」ちょいちょい! 話は最後まで聞きなさいよ!」

 

不機嫌そうに背を向けたアクセルに背後から抱きついたレモンはアクセルの耳に口を寄せる。

 

(百鬼帝国にちょっと知られたくないのよ、かといって量産型Wナンバーズじゃ、難しい話は出来ないでしょ?)

 

百鬼帝国に知られたくない話と聞いてアクセルはやっとレモンの話を聞く気になった。

 

「何をさせたい」

 

「んースカウト♪ 私達の中で突発的な転移で消え去った機体……覚えてるかしら?」

 

レモンの問いかけにアクセルの脳裏を過ぎったのはメタルビースト・SRXとの戦いの中で現れた桃色の奇妙な存在の出現と、ゲッターD2、メタルビースト・SRX達の謎の共鳴現象の中に消えた機体の存在だった。

 

「……エクサランス」

 

「ビンゴ、その反応を感知したわ。迎えに行ってくれるわよね?」

 

レモンが胸の間から取り出したUSBメモリと起動カードをアクセルは乱暴に奪い取る。

 

「……ソウルゲインは」

 

「あれだけ酷使して使えるわけ無いでしょ。アシュセイバーかアースゲイン、好きな方に乗って良いわよ」

 

「龍王鬼達に見つかったら?」

 

「気分転換って言えば龍王鬼達なら通してくれるわよ、んじゃよろしくねえ~♪」

 

ひらひらと手を振り歩き去るレモンと渡されたUSBメモリと起動カードを交互に見つめたアクセルは、乱暴にポケットに突っ込み格納庫へ向かって歩き出した。それは奇しくも武蔵が何かの気配を感じ取りヒリュウ改の食堂を飛び出したのとほぼ同時刻の出来事なのだった……。

 

 

 

 

風蘭によって鳥獣鬼のパイロットであった鬼は龍王鬼の前で片膝を付き、深く頭を下げていた。

 

「お前は闘いに何を望む? 何ゆえ戦う?」

 

「より強き益荒男と戦う事、そして倒れるまでに息絶える事を望みます」

 

「はっはぁ! 分かってるな。くたばるなら戦いの中での熱を持ったまま死にてえよなあ」

 

強き相手こそ倒すべき相手であり、友である。強さこそを絶対とする龍王鬼は名もなき鬼の言葉に破顔した。

 

「面白い奴を拾ってきたじゃねえか、風蘭」

 

「こんな奴が埋もれているのは勿体無いでしょう? 龍王鬼様」

 

「違いねぇ! んで、お前は誰と戦ってそして死にたい?」

 

「リュウセイ・ダテです。私と空中戦で互角以上に戦ったあの男に私は勝ちたい」

 

「よーし、OKだ。お前は今日からそうだな……神雷鬼だ。神雷鬼と名乗れ、お前専用の百鬼獣も作ってやる」

 

神雷鬼……名前を与えられた瞬間に頭を垂れていた鬼に変化が起きる。筋骨隆々だった肉体が更に引き締まり、黒髪が鮮やかな金色に染まり額の巨大な角が更に鋭利で巨大な物になる。

 

「ありがとうございます龍王鬼様。この神雷鬼、貴方に最高の戦いを贈りましょう」

 

「そりゃ良いな! おう、風蘭。こいつの百鬼獣を手配してやれ、それと歓迎会の準備をしておけ」

 

新しい配下が出来た龍鬼は上機嫌で出て行く風蘭達を見送り、酒瓶の蓋を素手で捻じ切り中身を一気に飲み干し大きく息を吐いた。

 

「さてとぉ、あいつの強さを確かめるとするかねぇ」

 

龍王鬼なりの歓迎……それは龍王鬼とのタイマンだ。強さこそ全ての龍王鬼達らしい歓迎だ。

 

「あああああッ!!」

 

「はっはあッ!! 俺様に1発入れるとはやるじゃねえか! ええ! 神雷鬼ッ!!」

 

「ごばあッ!?」

 

ボロボロになりながらも執念で1発龍王鬼に拳を入れた神雷鬼は反撃の右ストレートを顔面に打ち込まれ吹っ飛んでいったが、倒れた神雷鬼は満足しきった顔で倒れていて、その顔を見た龍王鬼も満足そうに笑い戦いを見ていた闘龍鬼達に視線を向けた。

 

「馳走だ、馳走を準備しろ! 宴をやるぞ!」

 

子供のように楽しそうな笑みを浮かべ宴会をするぞと大声で叫ぶのだった……。

 

 

第196話 2つの再会 その3へ続く

 




愛が重いネガティブゼオラモードです。元の調子を取り戻すのはまだ先の事になりそうです、後ラトゥーニはややストーカースイッチONしておりますが、マイの存在に危機を感じているからですね。なおもう少しするとマイとラトでバトルになる予定です、それと次回はエクサランス組を再登場させたいと思いますので次回の更新もどうかよろしくお願いします。




ズワルトシャインスパークラストチャレンジ

ダブルトマホークダークネス×2


竜巻斬艦刀チャレンジ

雷光・うんようの太刀

ちゃうねん




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第196話 2つの再会 その3

第196話 2つの再会 その3

 

光1つ無い闇の中に似つかわしくない女の声が響き渡る。それは闇の中で幾重にも重なり、何十人も同時に喋っているような奇妙な声色となっていた。

 

「ラリアー、ティス、デスピニス……貴方達にお使いを頼みたいのですが良いですね?」

 

「「「はい!」」」

 

その奇妙な声の主――桃色の奇妙な球状の生き物の問いかけに頭を垂れていたラリアー達は嬉しそうに返事を返す。

 

「私を1度時空の狭間へと追いやった鍵の1つがこの世界に現れようとしています。それを回収に向かって欲しいのです」

 

「あたい達にお任せください! デュミナス様! 今度は上手くやります」

 

即座に任せてくれと声を上げるティスにデュミナスは柔らかい声をティスへと向ける。

 

「SRXに関しては貴方達の非ではありません。気にすることはありませんよ」

 

「で、でも……僕達がコントロール出来なかったせいで」

 

「良いのです。あれは元よりそういう存在なのです、支配出来るなどと私も思っていません」

 

自分達の失敗でメタルビースト・SRXが大破し、敬愛する創造主であるデュミナスが苦労しアルタードを用意した事を知っているラリアー達は申し訳なさそうにする。だがデュミナスは終始柔らかい声で気にする事はないと3人を励ますような口調で声を掛ける。

 

「時空の裂け目は何を呼び出すか分かりません。貴方達に与えるのは試作タイプの機械人形です……無茶が効くような機体ではありません、もしも不測の事態に陥った場合は鍵を確保する事は諦め戻ってきてください。分かりましたね?」

 

終始ティス達を気遣う言葉を投げかけるデュミナスにティス達は再度任せてくださいと声を揃えて口にし、デュミナスの前を後にする。その姿をデュミナスは心配そうに見つめていた。その姿は異形の物だが、紛れも無く子を持つ母の姿なのだった……。

 

 

 

 

 

虚空に紫電が走り、それが徐々に徐々に大きくなり一際大きな閃光となるとガラスの割れるような音と共にエクサランス・ストライカーフレームとレイディバードが轟音と共に姿を現した。

 

「う、うぐっ……!!」

 

浮遊していたレイディバードと異なり、パイロットであるラウルが意識が失っていたエクサランス・ストライカーフレームは姿勢制御が出来ず墜落した時の衝撃でラウルは苦悶の声と共に意識を取り戻した。

 

「こ、ここはどこだ……!?  お、俺達はどうなったんだ……ッ!?」

 

暫く墜落時の衝撃に悶えていたラウルだが、徐々に意識がはっきりとしてくる。

 

「フィオナはッ!?  ラージとミズホッ!? それに武蔵達はッ!?」

 

ピーターソン基地での戦い――武蔵達とシャドウミラーとの共闘……そしてその場に現れた数多の異形の姿……そして光の中に消えた妹であるフィオナを乗せたエクサランスの姿を思い出し、ラウルは悲鳴にも似た声で応答を求める。

 

『うう……うっ……ら、ラウルさん……聞こえますか……ミズホです』

 

「ミズホッ!! ラージはどうしたッ!?」

 

ミズホからの応答を聞いてラージはどうしたのかと叫ぶラウル。するとすぐにエクサランスのコックピットにラージの声が響いた。

 

『そ、そんなに怒鳴らなくても聞こえてますよ、ラウル』

 

「ラージッ! ああ……良かった……フィオナのエクサランス、それにゲッターロボの反応はないか!? 俺の方でも捜索するがレイディバードの方でも頼むッ!」

 

エクサランス・ストライカーのレーダーの捜索範囲に反応がないが、それでも諦めず捜索を行いながらラージとミズホにも反応を探してくれと声を上げる。

 

『は、反応はありません……』

 

「もう1回! もう1回調べてくれ!! きっと機械が故障してるんだ! 近くに反応はある筈ッ! だから頼むッ!!」

 

ミズホの震える声で反応がないと言う言葉にラウルはもう1回調べてくれと声を上げるが、ラージがそれに待ったを掛けた。

 

『無駄です、ラウル。1号機の時流エンジンはあの時暴走をしていました……恐らく彼女は……』

 

「う、嘘だろ、そんな……ッ! 嘘だって言ってくれッ!  ラージ!!」

 

ラージの言葉の先を聞きたくないラウルは大声でその言葉を遮ろうとする。

 

『う……ううう……ッ!』

 

「な、泣くなミズホ! ふぃ、フィオナは無事だッ! 絶対……あいつが……し……」

 

すすり泣くミズホに向かってフィオナは無事だと言いながらも、ラウルの冷静な部分がそれを否定している。だが肉親が信じたくないと言う情の部分がそれを認めない。相反する感情でぐちゃぐちゃになっているラウルにラージが冷酷な言葉を告げる。

 

『ら、ラウル……気持ちは分かります。ですが……ピーターソン基地の状況を思い出してください。そして1号機が受けていた損傷……時流エンジンの暴走……そ、それらか……判断すれば……フィオナは……死んだんです』

 

死んだと告げるラージの言葉にラウルの声が震える。認めたくなかった現実が言葉となってラウルを浸食する……だがラウルも認めたく無かっただけでラージの言葉が事実だと認めざるを得なかった。

 

「ら、ラトゥーニに……フィオナも死んだ……ッ!! お、俺は何も出来なかったッ!!!」

 

ベーオウルフを倒す為にラトゥーニは自ら異形の口の中に飛び込んで死んだ。そしてフィオナも最後まで自分達の身を案じ、少しでも暴走の被害を抑えようとして死んだ……。

 

【しっかりね……おにい……ちゃん……】

 

「ち、ちきしょう……ッ!  ちきしょうッ! ちきしょぉぉぉぉぉぉおッ!!」

 

遺言めいたフィオナの言葉が脳裏を過ぎり、ラウルは己の無力感を吐き出すように叫び声を上げた。

 

【キシャアアアアアッ!!!!】

 

【……】

 

その叫びに反応したのか、それとも時流エンジンの反応に引かれていたのかは定かではない。だがラウルの目の前にトカゲ型のインベーダーとクノッヘンが姿を現す。

 

「ッ!! インベーダーッ!! アインストッ!!」 

 

文字通り半身であるフィオナを失い、己の無力感に苛まれているラウルは冷静さを完全に欠いていた。

 

『駄目です! ラウルさんッ! 今のエクサランスではインベーダーとアインストを相手にするのは危険すぎますッ!!』

 

『ラウルッ! ラウルッ!!! 話を聞きなさいッ!! ラウルッ!!!』

 

ラージとミズホの制止の言葉すらその耳に入らず、激情に身を任せエクサランス・ストライカーを操りインベーダーとアインストへと向かって行くのだった……。

 

 

インベーダーとアインストは1体ずつしかいないとは言え、インベーダーとアインストの特徴は数が多いことだ。間違いなく戦闘中に増援が現れるというのは分かりきっていた。

 

「ラウルさん! ラウルさん!! 帰還してください! ラウルさんッ!!」

 

レイディバードからミズホがラウルに必死に呼びかけるが、ラウルは完全に冷静さを欠いているのかエネルギー配分も考えずエクサランス・ストライカーでインベーダーへと攻撃を仕掛ける。

 

「駄目ですね、今のラウルは冷静さを欠いています。僕達が何を言ってもラウルの耳には届かないですね、ミズホ。僕達は準備をしましょう」

 

「ラージさんッ! ラウルを見捨てて逃げるって言うんですか!?」

 

準備の言葉にミズホはラージがラウルを見捨て、自分達だけで逃げようとしていると勘違いし声を荒げる。

 

「僕がラウルを見捨てるわけが無いでしょう? エネルギー切れを起さなければラウルは冷静にならない。この状況でエネルギー切れを起せば僕達全員が死にます。フィオナに助けられた命をこんな所で捨てるわけには行かないんです……僕達全員で生き残るんです、ミズホ」

 

表面上は冷静だが、固く握り締められている拳から血が滴り落ちているのを見て、ラージもまたラウルと同様に激情を抱えながらもそれを鉄の理性で押さえ込んでいるとミズホは理解した。

 

「ごめんなさい、酷いことを言いました」

 

「気にしていませんよ、それよりも急ぎましょう。思った以上にラウルの暴れっぷりが凄いです」

 

ラージの視線の先では胸部装甲を展開しチェストスマッシャーを放ち、インベーダーを消し飛ばしているエクサランス・ストライカーフレームの姿があった。

 

「急ぐって回収の準備ですか?」

 

「違います、フライヤーフレームを射出する準備です」

 

「フライヤーを!? あれはまだ調整段階で……ッ! それに戦闘時の換装なんて不可能ですよ、それにどうしてそんな事をする必要があるんですか!?」

 

ラージのやろうとしている事が戦闘時の換装であり、何故そこまでする必要があるのかと声を荒げる。

 

「ミズホ。いつまで動揺しているんですか、周囲を見て何も気付かないんですか?」

 

「周り……? ラージさん何を……?」

 

「いいから落ち着いて周りを見るんです。それで僕の言わんとしている事が分かる筈です。先に準備をしています、状況を理解したら手伝ってください」

 

フィオナの事で冷静さを欠いていたミズホは最初はラージの言葉の意味を理解していなかったが、周囲をさっと見渡しおかしな点にすぐ気付いた。

 

「……トレントがいない!? ここは……どこなんですかッ!?」

 

「ええ、トレントの姿がないんですよ。これは異常です、ですが……アメリカである事は間違いない筈なんですがね……ッ」

 

巨大な樹木の姿に変異したアインストの姿がない。海岸線にはトレントが密集しており、内陸部からは常にトレントの姿が見えていた。それが見えていない事に気付いたミズホは初めて自分達が置かれている場所の異常性に気付いた。

 

「ラージさん、私は何をすれば!?」

 

「フライヤーフレームに内蔵されている予備動力の電源をONにしてください。僕はストライカーフレームのET-OSをコピーして調整し、フライヤーフレームにコピーします」

 

「それをしてもフライヤーフレームにストライカーのET-OSに適合するか……ッ」

 

「そこはラウル次第です、冷静さを取り戻してくれれば……なんとかなる筈です。問題は……相手がラウルの冷静さを取り戻すのを待ってくれるかです……新入りですよ」

 

今も怒りに身を任せて必要以上に火器を使い、アインストクノッヘンを追い回しているラウルに冷静さを取り戻せと声を掛けるのは酷だと言うのはラージも分かっている。だがラウルが怒りに身を委ねていては全滅は免れない……だがラウルが冷静さを取り戻すよりも先に新入り……ハガネの捜索を行っていた量産型百鬼獣である鳥獣鬼が雄叫びを上げながらその姿を現すのだった……。

 

 

 

 

 

「うぐッ! なんだこいつ……ッ!? 新型のアインストか!? それともインベーダーかッ!?」

 

上空から姿を見せるなり羽を射出して来た鳥獣鬼にラウルが反応出来たのは奇跡的だった。コックピットに突き刺さる筈だったその羽をクラッシャーアームを盾にすることで防いだラウルだったが、反撃にクラッシャーアームを鳥獣鬼に向け、コックピットに鳴り響いたレッドアラートに慌ててモニターへ視線を向けた。

 

「クラッシャーアームが破損ッ!? くそッ! これじゃあ完全にデッドウェイトじゃないかッ!?」

 

エクサランス・ストライカーフレームの最大の特徴は花弁状の巨大な右腕のクローアームによる絶大な攻撃力だ。だが破損し動かなくなれば、クラッシャーアームはエクサランス・ストライカーの動きを著しく低下させる重りに過ぎなかった。

 

『キシャアアアッ!!!』

 

「うわッ!? くそッ!? こいつはメカなのか!? それとも生き物なのかどっちなんだッ!!」

 

機械とは思えない柔軟な動きで間合いを詰め、激しく爪を振るってくる鳥獣鬼にラウルはなんなんだと声を上げる。アインストともインベーダーとも違う未知の脅威である百鬼獣を目の当たりにし、ラウルはやっと冷静さを取り戻した。

 

『ラウル。ラウル聞こえますか?』

 

「ラージか!? こいつはなんだ!? アインストか、インベーダーかッ!?」

 

『その様子なら冷静さを取り戻したようですね、良かったです。その敵に関しては一切の情報がないので何かとは言えませんが、生きている機械とでも言う所ですね』

 

「生きてる機械!? メタルビーストじゃないのか!?」

 

あちら側で何度も見たインベーダーに寄生されたメタルビーストじゃないのか!? と問いかけながらも、ラウルは目の前の鳥獣鬼はメタルビーストではないと言うことは十分に理解していた。

 

『今は正体不明と言う事でいいでしょう、それよりもフライヤーフレームを射出します。ストライカーフレームをパージして換装してください』

 

「簡単に言いやがってッ、そう簡単な話じゃないぞ!?」

 

『シャアッ!!!』

 

火炎放射、爆発する羽を射出し、エクサランス・ストライカーのフレームを容易に引き裂く鋭い鉤爪――動かないクラッシャーアームを抱えて戦える相手ではないと言うのはラウルも分かっていた。

 

「すぐに射出してくれるのか?」

 

『閃光弾が搭載されているのでそれを目晦ましで射出します。効果があるかは分かりませんが……相手が生き物なら効果はある筈です』

 

ラウルの問いかけに返事を返したのはミズホだった。レイディバードに搭載されている閃光弾で支援してくれるという言葉にラウルは小さく笑みを浮かべた。

 

「分かった! 何とかして引き離す、そのタイミングで閃光弾を射出してくれッ!!」

 

クラッシャーアームを失ったエクサランス・ストライカーフレームで鳥獣鬼と戦うのはかなり不利だが、ここまで間合いを詰められてはストライカーフレームをパージし、攻撃能力が極めて低いコアファイターでは対抗できない……何とかして距離を取る必要があった。

 

『シャアアッ!!!』

 

「くっそッ!! こんな所で死ねるかよッ!!」

 

抉りこむように突き出された右鉤爪を頭部を傾ける事で回避し、そのまま背部のブースターで加速し頭部のブレードを鳥獣鬼に突き刺す。

 

『グギャアアアアッ!!!』

 

「おおおッ!!!!!」

 

本来の使用用途とは異なるが、完全なクロスレンジに踏み込まれたエクサランス・ストライカーフレームに出来る反撃はこれだけだった。

鳥獣鬼の強固な装甲と、自滅覚悟の加速に挟まされた頭部ブレードは嫌な音を立てて拉げ始める。

 

「うおおおおおッ!!!」

 

どうせ折れるのならばと覚悟を決めたラウルはエクサランス・ストライカーフレームの頭部を勢いよく振り、鳥獣鬼の胸部に真一文字の傷を刻み付ける。

 

『キシャアアッ!!!』

 

だがその程度の傷で動きを止めるほど、百鬼獣は甘い存在ではない。鈍く光る爪をエクサランス・ストライカーフレームに突き立てようと踏み込んでくる鳥獣鬼を見て、ラウルは自分の死を覚悟したがモニターの端にきらりと光る物を見て笑みを浮かべた。

 

「勝利の女神は俺を見捨てて無かったッ!!」

 

光る物……それは鳥獣鬼の胸元に深い傷痕を刻みつけたエクサランス・ストライカーフレームの頭部ブレードだった。左腕を伸ばし頭部ブレードを掴んだエクサランス・ストライカーフレームは突き出された鳥獣鬼そのまま折れた頭部ブレードを鳥獣鬼の目に突き立てた。

 

『グギャアアアアッ!!!!』

 

流石の鳥獣鬼も片目を潰されては苦悶の悲鳴を上げて大きく仰け反った。その大きな隙をラウルを見逃さず足の甲のブレードを展開し、抉りこむように鳥獣鬼の胸に刻まれている真一文字の傷を広げるように回し蹴りを放った。

 

『アアアアアアア――ッ!!!』

 

余りの激痛に大きく叫び、血飛沫とオイルを撒き散らし、エクサランス・ストライカーフレームから逃げるように翼を広げて上空へと逃げた。

 

「ラージ! ミズホッ! 今だッ!!」

 

『ラウルさん、 MCデータを送りますッ!』

 

『2回目はありませんからね! 1回で決めてくださいよ、ラウルッ!!』

 

閃光弾を使う予定だったが、相手が逃げた事でより確実な換装が可能となった。レイディバードから送られて来た換装プログラムを起動し、ラウルはエクサランス・ストライカーフレームのパージの準備に入る。

 

『ハッチ開きますッ!』

 

『レイ・トレーサー作動ッ!  行きますよ、ラウルッ!』

 

レイディバードから放たれたガイドビーコンを確認し、ストライカーフレームからアージェント・ヘッドを分離させ、アージェント・ファイターへ変形する。

 

『フライヤー、射出します!  ガイダンス・リンク!』

 

「フライヤー・インサート!!」

 

重厚な緋色の装甲のストライカーフレームから、青と白を基調にしたスマートなフォルムのエクサランス・フライヤーへと合体し、デストラクション・ライフルを構えさせながらラウルはラージとミズホの乗るレイディバードに通信を繋げる。

 

「ラージ、ミズホ! そっちからあの化物の位置を確認できるか!?」

 

フライヤーフレームへと換装したが、ストライカーフレームで消耗したエネルギーは半分も回復しておらず、空中戦に特化しているであろう鳥獣鬼と同じ土俵で戦うのは不可能だとラウルは判断したのだ。

 

『そこから狙撃するんですか!? ラウルさん、そんな事出来るんですか!?』

 

「やるしかないんだよッ! ミズホ!」

 

デストラクションライフルのMAXモードを起動し、銃身を展開させ時流エンジンと直結させて銃口を空に向けるエクサランス・フライヤー。確かにラウルは狙撃は得意ではない……だがここで鳥獣鬼を逃がし、増援を呼ばれるのならば……リスクは承知で1発勝負を挑むという博打に出るのが今のラウルの最善策だった。

 

『上空で小刻みに動いて……? ラウル気をつけてくださいッ!!』

 

「ああ、俺も確認したッ!!」

 

鳥獣鬼が上空で羽を撒き散らし、それが空中で次々に爆発する。羽を回避しながら残り僅かなエネルギーを集束させるエクサランス・フライヤーだが、コックピットにはエネルギーの枯渇を示すレッドアラートが灯り始めていた。

 

「急いでくれ! 長くは飛んでいられないッ!!!」

 

ストライカーフレームでの暴走がここで大きく響いていた。理論上は無限動力の時流エンジンだが、まだ未完成の時流エンジンはそこまで完成していない……今は時流エンジンと予備動力で稼動している。時流エンジンは停止寸前で、稼動する予定の無かったフライヤーフレームのエネルギーも満タンとは程遠い。とてもではないが、鳥獣鬼の無差別爆撃を何時までも回避している余力は無かった。

 

『エネルギーパターン補足! ラウルさん、座標を送りますッ!』

 

『ですが相手は移動を繰り返しています! 最終的に物を言うのはラウルの勘ですよッ!!』

 

「ああ! 分かっているッ!!」

 

送られて来た座標はいまも小刻みに変わり続けている。それも縦横無尽に、そして何の予備動作も無く凄まじい距離を移動することもあれば動くと見せかけて動かない事もある……厄介なのはラウルも分かっていた。だが……勝算がない訳では無かった。

 

「メタルビーストやインベーダーと比べればッ!!」

 

あの世界で何度も戦ってきたインベーダーやアインスト……それらの動きと比べればまだ鳥獣鬼の移動は常識の範疇にあった。武蔵やカーウァイ、イングラム程ではない……だがラウル達も化物と戦い続けて来た専門家なのである。新西暦の人間と比べれば……いや、この言い方は正しくない、アインストやインベーダーと戦った経験がない新西暦の人間と異なり化物とは戦いなれていたのだ。

 

「ディストラクションライフル。最大出力……発射ッ!!!」

 

『グッグギャアアアアアアアーッ!!!』

 

鳥獣鬼の動きを予測して放たれた熱線が雲を引裂き、鳥獣鬼の断末魔の雄叫びの次の瞬間凄まじい爆発が上空で起きた。それが鳥獣鬼が撃破された証拠であると言うのは誰の目から見ても明らかだった。

 

「ふー……当ったみたいだな……命中してよかった。ラージ、ミズホ。レイディバードに戻る、今の内にこの場を離脱しよう」

 

アインストにインベーダー、そしてラウルにとって未知の敵である百鬼獣を退けることは出来たが、あれで終わりとは限らない。新しい敵が現れる前に離脱しようとラウルは口にしたが、背筋を走った冷たい悪寒にエクサランス・フライヤーを反射的に反転させた。

 

『……生憎ですが、離脱するのはまだ無理なようです』

 

「そうみたいだな……」

 

ラウルの視線の先には2体の百鬼獣とエルアインスを引き連れたアースゲインが腕組みして佇んでいた。あちら側の世界では確かに共闘していた……百鬼獣さえいなければ助けに来てくれたと思いもしただろう。だが百鬼獣が共にいることでシャドウミラーはここでは敵に回っていると理解したラウルは、残り少ないエネルギーに眉を顰めながらもラージとミズホを守る為にプラズマソードを抜き放ち、アースゲイン達と立向かう意志を見せる。その姿をアースゲインのコックピットから見ていたアクセルは満足そうに笑い、アースゲインのコンソールに手を伸ばす。

 

「ラウル・グレーデンか、それともフィオナ・グレーデンか? よく生きていたな、そして新世界へようこそ。早速で悪いがお前達の道は2つに1つ……俺に従うか、それとも死かだ。良く考えて好きなほうを選ぶがいい」

 

アースゲインが腕を上げるとエルアインスが手にしていたG・リボルバーの銃口を向け、百鬼獣が今にも飛びかからんと言わんばかりに前傾姿勢になり唸り声を上げる。それは考えろと口にしつつも、断れば殺すと言う殺意を隠そうともしない威圧的な降伏勧告なのだった……。

 

 

 

 

第197話 2つの再会 その4へ続く

 

 




と言う訳で今回はイベントバトルみたいな感じでした。次回はラリアー達も出して、武蔵も合流させたいと思います。それとここでラリアー達を出すので原作とは大分違う流れになると思いますが、次回の更新もどうか宜しくお願いします。


PS

制圧戦16最終エリアSランククリアできました

MAPで攻撃、撤退を繰り返し、デコイを囮にして真ゲとグリッドマンでプロヴィデンス、ベヒモスを撃破。最後のアーチボルドは狙撃と射程UPで無理矢理デバフの範囲外からダブルオーに殴ってもらい、フリーダム、マジンカイザー、ハイニュー、ナイチンゲールなどでMAPの波状攻撃で精神を使わせた後に

真ゲ 怒涛、覚醒、チェンジアタック1→チェンジアタック2→ゲッタービームで撃破しました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第197話 2つの再会 その4

第197話 2つの再会 その4

 

武蔵が嫌な予感を感じて飛び出したのはシャイン達によってイングラム達に伝えられた。現状まともに動けないハガネの部隊の中の最大戦力である武蔵が飛び出したのは大きな問題だったが、それよりも重要視されたのは武蔵の直感だった。

 

「武蔵君の嫌な予感は良く当るからな……しかし武蔵君は単独出撃か……不安が残るな」

 

ゲッター1を改造したゲッタートロンベは操縦やG、パイロットの保護能力などは段違いに上昇している。しかしそれは武蔵が乗っていない場合の事で、武蔵が操縦すればゲッター炉心は活性化し、その上武蔵の操縦の反動はビアン達を持ってしても相殺しきれないほどに激しいもので、武蔵と相乗りするのはカイとギリアムが医務室送りになったように自殺行為に等しい。

 

「乗れるとすればエキドナだが……」

 

「……置いていかれました。追いつけなかったので……」

 

「だろうな、それに仮に乗れたとしても真価を発揮出来るとは思えない」

 

武蔵とゲッターD2で出撃した経験もあるエキドナはゲッターを操縦出来るだろうが、ゲッターD2の真価を発揮できるかとなるとそれは無理な話となるだろう。

 

『誰かに応援に向かってもらいたいのですが……ゲッターに追いつける機体となると……』

 

『それほど数はないな、輸送機の物資の積み込み作業もある。だが一番の問題は、ゲッターと共に戦える機体で無ければならないと言う事だ』

 

アステリオンやサイバスターなら確実に追いつけるが、ゲッターと比べるとパワー不足が否めない。ダイゼンガーはパワーはあるが、スピードで追いつけない、アウセンザイターはスピードとパワーが両立しているがゲッター線を使った武装はさほど多くなく、仮にインベーダーの大量発生となればジリ貧に追い込まれかねない。

 

「俺が行こう、R-SWORDなら十分に追いつける。それに戦力で言えば時間制限があるがシーツリヒターがある。後は……ラドラを連れて行く。試運転をしたいと言っていたからな」

 

「任せて良いかね? イングラム少佐」

 

「当たり前だ。嫌なら最初から言っていない……それに……俺も少し気になることがある」

 

武蔵の感じていた嫌な予感――奇しくもそれはイングラムも感じていた。無論完全に武蔵が感じていた物と同じという訳ではない……だが元々が因果律の番人であり、通常の人間と異なる世界、時間を生きているイングラムだから感じ取れる物があるのだ。とは言えそれを説明している時間はない、しかしもしもイングラムが感じたものが正しいのであれば……それはこの不利な状況を覆す切り札の1枚になるとイングラムは感じていた。

 

「ラドラ、という訳だ。着いて来てくれるな?」

 

格納庫に走りゲッターザウルスの調整をしていたラドラに声を掛けるイングラム。だがそれは、尋ねている口調でありながらも断る事を許さないと言わんばかりの強い響きがあり、それを感じ取ったラドラは薄く微笑んだ。

 

「着いて来いくらい言え、そっちの方がらしいぞ」

 

「なら言い直そう、着いて来い」

 

「言われなくても行くさ、俺も武蔵の後は追うつもりだったからな」

 

守りを手薄にする訳には行かないので出撃出来る面子は少数になる。そして少ない戦力で敵を殲滅する必要があるので高い戦闘能力を持つ機体が選ばれるという事でラドラは武蔵が飛び出した段階で自分に声が掛かる事を自覚していた。

 

「イングラム少佐、私も連れて行ってください」

 

イングラムがR-SWORDに乗り込もうとした時、後ろから自分も連れて行ってくれと声を掛ける者がいた。

 

「ラミア、ハガネの守りを手薄にする訳には行かないと分かっていて言っているのか?」

 

「分かっています、ですがヴァイサーガならシャドウミラーの転移反応を感知できますし、通信を傍受する事も出来ます」

 

転移で襲撃を仕掛けてくるシャドウミラーを確実に感知出来るのは同じシャドウミラーの機体だけだ。シーツリヒターの転移能力で離脱する事を考えていたイングラムだが、それに割り込まれれば態々シャドウミラーをハガネの元へと案内する事になる。

 

「すぐに出る。準備は出来ているか?」

 

「はい、問題ありません」

 

「よし、なら付いて来い。ラドラ、行くぞ」

 

最終的にイングラムはラミアの嘆願を聞き入れ、ラドラ、そしてラミアの2人を連れてゲッタートロンベの反応を頼りにハガネから出撃していくのだった……。

 

 

 

 

アースゲインのコックピットからエクサランスの戦いを見ていたアクセルは僅かな驚きと共に感心さえ感じていた。

 

「よくやる物だ」

 

あちら側では見たことないフライヤーフレームはその見た目から空中戦に特化した機体であるということは一目瞭然だが、飛行する事無く地に足を付けプラズマソードを振るっている姿を見て、なんらかの不具合、もしくはエネルギー切れで飛行出来ないのだろうとアクセルは予想をつける。空中戦特化の機体はその性質上装甲が薄く、白兵戦ではなく中・遠距離の戦闘が基本だ。

 

『うおおおおッ!! 負けてたまるかよッ!!』

 

『!?』

 

エルアインスの頭部にプラズマソードを突き立て、ぐったりと脱力したエルアインスの胴を蹴りつけて反転したエクサランス・フライヤーフレームが両腕を突き出しマシンキャノンを乱射する。牽制用の武器でさほど威力の無い武器だが、掃射すれば相手の足止めをすることは十分に可能だ。

 

『これで、どうだッ!!!』

 

地面に落ちていたエルアインスが使っていたアサルトカノンを拾い上げ、グレネードを発射しマシンキャノンで足止めしたエルアインスに1発で命中させる。

 

「ほう……やるものだ、態々レモンが俺に迎えに行かせた理由が判るな」

 

アクセルがラウル達といた時間は短く、その腕前を十分に理解していなかったが落ちていた武器をたくみに使い、そして数少ない使える手札を最大限に使い最大の戦果を得る……それはルーキーでは出来ない見事な戦いぶりだった。

 

「だが……それが通じるのはあくまで人間同士の戦いまでだ」

 

量産型Wナンバーズはあくまで様子見……本命である牛角鬼と双剣鬼に合図を出す。

 

「壊すなよ。エクサランスは回収する」

 

電子頭脳を搭載した量産型の百鬼獣であれ、命令を理解する程度の知性はある。エクサランスを破壊するなと言う命令を聞き入れ、頷くと同時に弾丸のような勢いでエクサランス・フライヤーフレームに突撃する牛角鬼と双剣鬼を見ながらアクセルはアースゲインのコックピットシートに背中を預ける。壊すなという命令をどこまで牛角鬼達が理解しているかは定かでは無いが、壊すなと命令しておけば手足は失うかもしれないが、死ぬ事はないだろうと楽観的にアクセルは考えていた。

 

(どの道あいつらは俺達に協力する事はない。パイロットとしての価値はないだろしな)

 

永遠の闘争の世界にラウル達が同意することはないだろうし、量産型Wナンバーズを一蹴したとしてもインベーダーやアインストと戦うには力不足は否めない。だがラウルを殺せばメカニックであるラージとミズホの協力を得れず、不完全な時流エンジンを完成させる事は出来なくなる上に1から作らせるのでは時間がかかりすぎる。力を見せつけ、抵抗する意志を折り言う事を聞かせる――その目的を成し遂げるのに百鬼獣は実に都合のい駒だった。

 

『シャアアッ!!!』

 

『ブモォオオッ!!!』

 

双剣鬼が雄叫びを上げ、自身の名前にもなっている双剣をエクサランス・フライヤーに向かって振るい、牛角鬼は嘶きを上げて鼻から火炎放射を放った。

 

『うわあああッ!! くそッ! なんなんだよッ! こいつらはッ!!!』

 

百鬼獣と初めて遭遇したラウルの動揺は激しいものだろう。だがラウルは百鬼獣の初撃を回避し、効果が薄いマシンキャノンで百鬼獣の装甲の薄い部分を狙い撃ちし、その動きを僅かに鈍くさせる。

 

『おおおッ!!!』

 

腰にマウントしていたデストラクションライフルを放つと同時に低空飛行でエルアインスの頭部に突き立ったままのプラズマソードの回収に向かうエクサランス・フライヤーフレームの動きにぎこちなさはなく、泥臭くも生き残るための術を心得ている者の動きだった。

 

『シャ……シャアッ!?』

 

「……ほう?」

 

双剣鬼の剣とプラズマソードが鍔迫り合いになると思った瞬間――双剣鬼の剣は宙を舞っていた。その光景に双剣鬼は驚きの声をあげ、アクセルは感心したような溜め息を漏らした。

 

『くたばれッ!!!』

 

自身の名であり象徴である双剣を失った事に動揺し、口をあけていた双剣鬼の口の中にデストラクションライフルの銃口を突っ込みエクサランス・フライヤーフレームは引き金を引いた。発射された熱線が双剣鬼の頭部を吹き飛ばし、双剣鬼は膝をついて崩れ落ちるように倒れると爆発炎上した。

 

『ブモォッ!!!』

 

牛角鬼がその爆発を突っ切ってきてエクサランス・フライヤーフレームの間合いに飛び込み、その巨大な角を振るう。

 

『くっ!! 嘘だろッ!? ぐうッ!?』

 

百鬼獣に仲間が破壊された事に動揺する思考回路はない。むしろ味方が破壊され、一瞬相手の視界を奪えばそれを利用して一気に攻め込むというのが百鬼獣の考え方だ。角の一撃を喰らい空中に弾き飛ばされたエクサランス・フライヤーフレームは空中で反転し、姿勢を立て直すがその高度は決して高くない。それを見てやはり何らかの不備があったから空中戦をしなかったかと理解したアクセルだったが、牛角鬼の装甲を見て首を傾げた。

 

「回復していない……?」

 

百鬼獣は修復装甲を持っている。ソウルゲインのEG装甲や、スレードゲルミルのマシンセルとはまた異なる仕組みの回復能力だが、並大抵の損傷は自動で回復する。百鬼獣である牛角鬼も当然回復能力を有しているのに回復していない事にアクセルは首をかしげ、インベーダーとアインストとの戦いの際もエクサランスの攻撃を受けたアインストとインベーダーは回復能力が低下していたことを思い出した。

 

「なるほど、レモンが時流エンジンが必要だと言ったのはこれか」

 

アインストやインベーダーの回復能力を阻害するだけではなく、百鬼獣の回復能力も妨害するのならば百鬼帝国へのカウンターへ成りうる。ヴィンデルは時流エンジンの転移能力に注目していたが、レモンはその先の事を考えていたようだ。

 

「なるほど……面白い」

 

そう笑ったアクセルの視線の先では、プラズマソードを構え突貫したエクサランス・フライヤーフレームに口内を貫かれ脱力している牛角鬼の姿があり、時流エンジンだけではなくラウル自身にも価値があると考えを改める。

 

「これで終わったと思うなよ、俺が相手だ。叩きのめしてお前を連れて行く事にしよう」

 

悠然とアースゲインに拳を構えさえ、エルアインス、そして牛角鬼、双剣鬼と戦い疲弊しているエクサランス・フライヤーフレームの前に立ち塞がるのだった……。

 

 

 

 

エクサランスのコックピットのラウルのコンディションが最悪なのはレイディバードでバイタルをチェックしていたラージとミズホにも分かっていた。

 

「これ以上はラウルさんが持ちませんッ! ラージさん、ここは投降するか……ッ」

 

「駄目です。それだけは出来ない」

 

「で、でも! このままじゃラウルさんがッ!!!」

 

「そんな事は僕も分かっているんですよッ!! でもラウルがそれを受け入れると思いますか!」

 

時流エンジンは停止寸前、予備動力はもう雀の涙ほどしか残っていない、そんな有様で万全な状態のアースゲインとアクセルと戦うのは不可能だ。

 

『うおおおおッ!!』

 

『気迫だけでは俺には勝てんぞッ!!』

 

空中戦が最大の武器のエクサランス・フライヤーフレームが地面に足を付いている段階で限界はもう見えているのだ。疲労困憊のラウルは最早精神力だけでエクサランスを動かしている状態で、正直自棄っぱちに等しい状態だ。我武者羅に振るうのがやっとのプラズマソードの一撃がアースゲインに届くわけがない、カウンターに掌底を叩き込まれたエクサランス・フライヤーフレームは腰を落とし、そこに追撃の肘打ちが叩き込まれエクサランス・フライヤーフレームは回転しながら地面にうつ伏せで倒れる。

 

「ら、ラウルさんッ!!!」

 

「不味いですよ……これはッ!」

 

今の一撃で完全でエクサランス・フライヤーフレームの頭部カメラは破壊された。その証拠にレイディバードに映るエクサランス・フライヤーフレームのステータスを映してる画面では頭部が完全に紅く染まり、右腕や左足にイエローアラートが灯っていた。

 

『さて、ラージ・モントーヤ、ミズホ・サイキ。これでお前達を守るものはいなくなったが……『誰が……ぐあッ!!!』その闘志は買うが……もうお前に出来る事は何もない、これがな』

 

アースゲインの足をエクサランス・フライヤーフレームが掴むが、アースゲインは簡単にそれを振り払い胴体を踏みつける。

 

「ら、ラウルッ!」

 

「ラウルさんッ!!」

 

ほんの少し、後ほんの少しアースゲインが力を込めればコックピットが破壊される――それを一目で理解したラージとミズホがラウルの名を叫んだ。

 

『悪いようにはしない、抵抗を止めろ。お前達が諦めればこの石頭も考えを改めるだろう』

 

完全に動きを封じられてもなお、エクサランス・フライヤーフレームはその手を動かし、アースゲインの足をコックピットからどかそうともがいているが、エネルギーが枯渇寸前のエクサランスではアースゲインの脚部フレームに僅かに傷をつけるのがやっとで、とてもではないが拘束からのがれれる雰囲気は無く、無駄な抵抗だった。

 

『俺はそう気が長くない、お前達だけいれば十分なんだぞ?』

 

アースゲインが足に力を込め、ラウルの苦悶の声が広域通信でレイディバードのコントロールルームに響いた。

 

「分かりました。分かりましたから、着いて行きます。だから……」

 

エクサランスから足をどけろとラージが口にしようとしたその時――レイディバードの頭上を轟音を立ててミサイルが通過したのだ。

 

『ちいっ!』

 

アクセルは舌打ちと共にアースゲインを後退させる。だがミサイルを放った何者かはアクセルの回避運動も予測していたのか、ミサイルはアースゲインを捉え、その爆風によってエクサランス・フライヤーフレームから引き離し、ミサイルを放った何かが姿を現し、ラージとミズホは驚きに目を見開いた。

 

「あれはッ!? ゲットマシン……もしかして武蔵さんじゃ」

 

「良く似ていますが別物ですよ、なんですか……あれは」

 

ラージとミズホの知るゲットマシンはゲッターD2の物であり、初代ゲットマシンを見たことがなく、困惑しているラージとミズホの耳を武蔵の怒号が打った。

 

『チェンジッ!!! ゲッタァアアアアアア――ッ!!! ワンッ!!!!』

 

ゲッターD2と異なり、鉄板を丸めるだけの技術しかないようなずんぐりとしたフォルムのゲッターロボが地響きを立てながらエクサランス・フライヤーフレームの前に着地し、アースゲインからエクサランスとレイディバードを守るように立ち塞がる。

 

「味方?」

 

「まだ信用するには……それに僕達が知っている武蔵とは違うかもしれないですよ」

 

ラージ達にとっては初見であり、味方と口にするミズホにラージが信用するに早いと口にしかけたとき、ゲッターロボから武蔵の声が響いた。

 

『遅れて悪い! 助けに来たぜ! ラウルッ! ラージ、ミズホッ!』

 

武蔵の力強い助けに来たと言う言葉、そして自分達の名前が呼ばれた事で自分達の知る武蔵だと分かり、ラージ達はやっと助かったと安堵の溜め息を吐く事が出来た。だが状況は決して好転した訳ではなく……武蔵がこの場に現れたことで更なる来訪者が現れようとしているのだった……。

 

 

 

 

火花を散らし立ち上がる事が出来そうに無いエクサランス・フライヤーをゲッタートロンベで庇いながら武蔵は油断無くアースゲイン……いや、そのパイロットであるアクセルを見つめていた。

 

(ソウルゲインじゃないからって安心は出来ねえな)

 

アースゲインのカスタムタイプがソウルゲインということは武蔵も知っている。ソウルゲインより劣るかもしれないが、油断できる相手ではなく、そして自分もゲッターD2ではなくゲッタートロンベを使っているので互いに本来の機体ではないという条件は同じだ。

 

『思ったよりも早い再会だな、これがな』

 

「そうですね、しかしまぁ……随分と痛めつけられたのに元気そうですねッ!!!」

 

ゲッタートマホークでアースゲインを両断せんと振るうが、アースゲインは腕を巧みに使いゲッタートマホークを受け流し、地面へと叩きつけさせる。

 

『随分とご挨拶だな、少しは心配してくれてもいいんじゃないか?』

 

「そうですねッ! アクセルさんが永遠の闘争なんて物を諦めてくれていたら心配してもいいんですけどねッ!!」

 

ゲッタートマホークの横薙ぎの一閃とエネルギーを蓄えたアースゲインの左拳がぶつかり合い、周囲に凄まじい衝撃波を撒き散らす。

 

「うおらあッ!!!」

 

『ちい、馬鹿力がッ!!!』

 

しかし拮抗は一瞬でゲッタートマホークの一閃にアースゲインの身体が宙を舞う。だがアクセルも力負けするのは最初から分かっており、ゲッタートマホークの勢いを利用して飛んでいた為派手に飛んだように見えるがダメージは低く、即座に空中で体勢を立て直し両手をゲッターに向かって突き出した。

 

『虎閃掌ッ!!』

 

掌から放つのは青龍鱗と同じだが、青龍鱗の試武装である虎閃掌には青龍鱗ほどの威力はない、だが青龍鱗よりも優れている部分もある。それは連射速度だ、威力が低い変わりに連射できる虎閃掌はゲッタートロンベに向かって降り注ぎ続ける。

 

「くそッ!!」

 

1発1発の威力は決して高くないが、余りにも連射が続く事に武蔵は舌打ちと共にゲッターウィングで身体を覆い防御姿勢に入る。アクセルのような白兵戦のスペシャリスト相手に一時的にも視界を狭くするのは自殺行為に等しいが、防御力が低く装甲を再生するのもゲッターD2ほど早くないゲッタートロンベではダメージを受けすぎればまともに動けなくなる可能性が高いからこその判断だ。

 

『甘いぞ武蔵ッ!!!』

 

防御の為に視界を狭めたゲッタートロンベを見たアクセルはアースゲインの両腕にエネルギーを集束させながら、ブースターで加速し流星のようにゲッタートロンベへと突撃する。

 

『獅子吼烈破ッ!!!』

 

アクセルの裂帛の気合と共に放たれた衝撃破は装甲を砕くと共に内部にその衝撃を浸透させる。

 

「うっぐうッ!?」

 

それはソウルゲインにはない、内部を攻撃する武装だった。エネルギーの消耗が激しく、超至近距離に接近する必要がある為にオミットされた武装だが、破壊力は折り紙つきでその衝撃に流石の武蔵も苦悶の声を上げる。

 

「甘いのはアクセルさんもだぜッ!!」

 

しかし武蔵も強烈な一撃を受ける事は計算に入れていた。防御を固めればアクセルの性格ならば踏み込んでくると十分に理解していた、ゲッターウィングの中に隠していた左腕を突き出すゲッタートロンベを見てアクセルはぎょっとした表情を浮かべた。

 

「ミサイルマシンガンッ!!!」

 

左腕の装甲が展開され、そこからミサイルを弾丸のように装填したマシンガンが突き出されたからだ。ゲッタートマホークやレザーなら避けて反撃出来ると身構えていたアクセルにとってそれは想定外の武器だった。

 

『ぐっ!? 正気かッ!?』

 

至近距離でミサイルを乱射される。ゲッタートロンベとアースゲインの間でミサイルが爆発し、アースゲインとゲッタートロンベの装甲を容赦なく穿った。

 

『ちいっ!!!』

 

ミサイルの爆風を利用しアースゲインはゲッタートロンベから距離を取ろうとするが、続け様に放たれるミサイルマシンガンの弾雨と爆風に吹き飛ばされアースゲインはごろごろと転がり、片膝を付いて動きを止めた。

 

「……ちっ、D2に馴れすぎちまったな」

 

動きを止めたアースゲインにミサイルマシンガンの銃口を向けたままの武蔵はベアー号のコックピットで舌打ちをする。誘い込んだまでは良かったが、思った以上にミサイルマシンガンの余波でゲッタートロンベはダメージを受けてしまっていた。ゲッタートロンベの装甲や修復能力が弱い事は武蔵も分かっており、それを加味した上での攻撃のつもりだったが……ゲッターD2に馴れすぎている武蔵は攻撃の反応を見誤っていた。ゲッターウィングで隠していた右半身は無傷だが、ミサイルマシンガンを握っていた左腕周辺のダメージは大きく、そして修復速度も遅く、こうして構えているがアクセルがミサイルマシンガンが無視して突っ込んでくれば、左の反応が鈍くなっているゲッタートロンベではアクセルが操るアースゲインの猛攻撃を防ぐのは厳しい……せめて装甲の再展開が済むまではアースゲインが突っ込んでこないようにとブラフでミサイルマシンガンを構えたままでアクセルに威圧を掛ける事しか出来なかった。

 

「ちっ……見誤ったか……」

 

そして一方のアクセルも舌打ちと共にイエローアラートを点灯させるアースゲインのモニターに視線を向けていた。武蔵がゲッターD2に馴れすぎてゲッタートロンベの耐久力を見誤ったのと同じ様に、アクセルもまたソウルゲインと勝手も違うアースゲインに無茶な動きをさせたツケが回って来ていたのだ。肘や膝への過負荷によって冷却が済むまでまともに動く事が出来ず、そんな有様で圧倒的な攻撃力を持つゲッターロボに白兵戦を仕掛けるほどアクセルは馬鹿では無かった。少なくとも、冷却が済むまではこうしてゲッタートロンベと睨みあう事しか出来なかった。

 

「……脚部と肘に過負荷か……ちっ、ままならんな、これがな」

 

ラウル達の回収が目的であり、戦闘は最初から前提とされていなかった。勿論出撃した以上ある程度の戦いになる事は考慮していたがゲッターロボとの戦いは完全に想定外だった。

 

「回復したか……これで数は完全に俺が不利か、これがな」

 

エクサランス・フライヤーフレームがレイディバードにもたれるように身体を起こし、デストラクションライフルを構えているのを見て、アクセルは溜め息を吐き頭を左右に振った。

 

「こんな簡単な任務も出来んとは……俺も耄碌したか」

 

簡単な任務のはずだったんだがなと自嘲気味に笑うアクセルはこの場をどうやって切り抜けるかと頭を巡らせながらアースゲインに拳を構えさせる。動かないゲッタートロンベが不具合を起しているのか、それとも誘い込もうとしているのかの判断が付かず、アースゲインを攻め込ませるわけには行かない。無理に攻め込み、鹵獲でもされようならそれこそ目が当てられないからだ。

 

「千日手か、これがな」

 

「……くそ、このままじゃ不味いよなあ」

 

アクセルはこの場から逃げるか、武蔵を出し抜いてエクサランスを回収したいがゲッタートロンベが立ち塞がっているので、自力で動けないエクサランスに近づく事も出来ない。武蔵も武蔵でラウル達を守らなければならないのだが、アースゲインに懐を取られればゲッタートロンベでは振り払うのは極めて難しく、そして瞬発力や反応速度で劣っているため近づけさせないようにミサイルマシンガンで威圧を続ける必要がある。だがアクセルと武蔵と脳裏には常にどちらかの援軍、あるいは増援が来る可能性がある……何時までもこうしてにらみ合っているわけには行かないと焦りがジリジリと背中を焼き始める。

 

「後ちょっと……」

 

「何時までもこうしているのは俺の性に合わんな」

 

ゲッタートロンベの装甲の再展開が終わるのと、肘や膝の冷却が済み再びアースゲインが戦闘可能になるのはほぼ同時であり、申し合わせた様にアースゲインとゲッタートロンベが動き出そうとしたその時、上空から凄まじいエネルギーの雨がゲッタートロンベとアースゲインに向かって降り注いだ。

 

「何ッ!?」

 

「くそッ! 何の反応もッ!」

 

周囲は常に警戒していた。だがアクセルも武蔵にも何の気配も感じさせず、奇襲を成功させた何かは地響きを立て、エクサランス・フライヤーフレームとレイディバードの前に降り立った。

 

「……な、なんだよこれ……メタルビーストかッ!?」

 

「何の反応もありませんでしたよ……なんなんですか、あれは」

 

「分かりませんですが……1つだけ言えますよ、あれは敵だとね」

 

丸太の様な8本足を持つ獣の上に4本の腕と天使のような意匠を持つ翼を6枚生やした胴体、そして頭部はそれぞれ表情の違う顔が3つ……全く違うものを無理矢理1つに纏めたような異形の姿があった。その姿を見て動けないラウル達は驚きに目を見開いた。

 

「やっりい、これで時流エンジンに加えてゲッターロボも持って帰れる♪」

 

「そうだね、上手く行ってよかった……」

 

「で、でも……上手く行きすぎて……なにか怖いですね」

 

異形の巨人――感情を意味するカルディアのコックピットの中ではティス、ラリアー、デスピニスの3人が時流エンジンとゲッター炉心を手に出来たと喜びの表情を浮かべていた……だがデスピニスの言った通り、物事と言うのはそう簡単に行かないものである。

 

「ゲッタァァアアアアッ!! ビィィイイイムッ!!!!!」

 

「虎閃掌ッ!!」

 

砂煙の中から姿を見せたゲッタートロンベとアースゲインの放ったゲッタービームと虎閃掌がカルディアに直撃し、その巨体を大きく揺らす。ビームの雨に打たれた筈のゲッタートロンベとアースゲインは煤と砂汚れこそあるが、万全な状態でカルディアの前に立っているのを見てティスが目の前に座っているデスピニスの頭に手を伸ばし、梅干をしながら文句を口にする。

 

「ちょっと!デスピニスが変な事いうからッ!!」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいッ!! 痛い、いたいいたいッ!」

 

「ティス、デスピニス。そんなことしてる場合じゃないよ……来るよッ!!」

 

敵同士である武蔵とアクセルだが、2人ともどちらかと言えば柔軟性がある性格をしている。

 

「一応聞いておきますけど、あれ、作ったのレモンさんですか?」

 

「馬鹿を言え、幾らあいつでもあんな奇妙な物は作らん。それよりも……」

 

「分かってますよ、オイラ1人じゃあれには勝てそうにないですし……」

 

「勿論俺1人でもあれには勝てん」

 

単騎で倒す事が出来ない強大な敵を前にいがみ合うほどアクセルも武蔵も馬鹿ではない。例えて敵同士であったとしても……生き残る為に一時的に共闘することに何の躊躇いも迷いもない。

 

「とりあえず共闘って事で良いですよね?」

 

「どちらかの援軍が来るまでだがな」

 

「OK、それで行きましょうかッ!!」

 

メタルビーストでもインベーダーでもない、異形の化物を前にアクセルと武蔵は共闘を選択し、2機でカルディアへと向かって行くのだった……。

 

 

第198話 2つの再会 その5へ続く

 

 




と言う訳でホムンクルス3人組は3機が合体した異形の特機で出現です。それを前にして武蔵とアクセルは共闘を選択、ラウル達は戦えないので放置と言う事になります。あと今作では時流エンジンはインベーダー・アインスト・百鬼獣特攻なのでかなり効果的に戦えるパッシブがあります。今回はオヤスミですけどね、次回はゲッターザウルス、RーSWORD、ヴァイサーガも合流させようと思いますので次回の更新もどうかよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第198話 2つの再会 その5

第198話 2つの再会 その5

 

ついさっきまで殺し合いをしていたアクセルと武蔵だったが、共通の脅威である異形の巨人カルディアスを前に蟠りは微塵も無かった。

 

「なんでさっきまで殺し合いをしてたのに……あんな風に協力出来るんだ?」

 

時流エンジンによって少しずつエネルギーが回復してきているエクサランス・フライヤーフレームのコックピットモニターに映し出されている光景を見てラウルは信じられないという表情を浮かべた。確かにインベーダーとアインストが闊歩する地獄では敵同士でも協力し合っていたが、それは協力と言う名の囮であったり、壁であったりと……決して健全な協力関係ではなかった。

 

『ちっ!!』

 

8本の足と4本の腕、そして3つの頭部と言う異形の姿をしているカルディアスに苦手な距離などは存在せず、その巨体さ故に動きが鈍いと予測したアクセルはアースゲインで足の間に潜り込もうとしたが嵐のような連続攻撃、そして足の間から放たれるビームに潜り込んだ下腹部から脱出する事も出来ず、只管回避に専念する嵌めになっていた。

 

『アクセルさんッ!!』

 

ゲッター・トロンベがゲッターウィングをその手に持ち、アースゲインに向かって投げる。武蔵が何をしたいのかを理解したアクセルは飛んで来たゲッターウィングを腕に巻きつけるようにして掴んだ。

 

『いいぞッ!!』

 

『せいやあッ!!!』

 

ゲッターD2と比べれば性能の劣るゲッター・トロンベだが、新西暦基準で考えれば破格の性能を持った特機である事は間違いない。フルパワーを発揮すればアースゲインを持ち上げて引き寄せるくらい訳ないのだ。

 

『助かったぞ、これがな』

 

『別に良いですよ、だってこいつ……オイラ1人じゃ絶対死ぬ相手ですし、思う事はありますけど助け合わないと』

 

シャドウミラーであり、永遠の闘争の世界を作ろうとしているアクセルに武蔵だって思う事はある。だが、それさえなければアクセルの気質は竜馬と似通っており、武蔵からすれば親しみの持てる性格をしている。つい数分前まで殺し合いをしていようが、自分が生き延びるためならば利用、いや協力し合えるというクレバーさが武蔵にもアクセルにも合った。

 

「なんであんなに協力し合えるんだ……?」

 

それはラウル達が知らない関係性と言っても良いだろう。そもそもラウル達は武蔵達やシャドウミラーと行動を共にした時間はかなり短い、それ故に武蔵やアクセルの人柄を完全に把握出来ていなかった事が混乱する要因となっていたが、いつまでも混乱したままでいれるほど今の状況は甘くない。

 

『ラウル、時流エンジンの稼働率はどうなってますか?』

 

ラージからの言葉にラウルはハッとした表情になり、殆ど機能停止しているコックピットの中で僅かに稼動しているシステム部とコンソールに指を伸ばし、現在のフライヤーフレームの状況を詳しくラージへと伝える。

 

「今37%だ。安定稼動まで後33%って所だな。フレームの状況はあちこちイエローとレッドだけど……機能停止まではしてない。なんとかして動きたいんだが……そっちでサブ動力のリミッターを外せないか?」

 

動けない的であるエクサランス・フライヤーフレームをカルディアスが狙っているのでアクセルと武蔵は思うように動けない、戦いに参加しないとしても責めて逃げるくらいは出来ないかとラージに問いかける。

 

『無理ですよ、サブ動力のエネルギー残量は空っぽです。大人しく時流エンジンの回復を待つか、それともシャドウミラーに回収されるか、あの化物に連れ去られるかのどれかですね』

 

淡々と言うラージだが、その声色の中に隠しきれない苛立ちを感じ取り、ラウルは小さくすまないと謝罪の言葉を口にした。

 

『ラウルさん、どの道今のコンディションでは逃亡も難しいです。今からフライヤーフレームのエネルギー回路を再構築して、右腕だけでも使用可能にします。それならもっと早く動けます』

 

「ミズホ、俺は何をすれば良い?」

 

『今から言う通りにしてください、メンテナンスモードを起動してそこから即席でプログラムを組みます。ラージさんも手伝ってください』

 

『言われなくても分かってますよ。さっきはああは言いましたが……僕も黙ってみているつもりはないですから』

 

「よっし、やるぞッ!!」

 

今のラウル達に出来る事は多くない、だが武蔵達に頼りきり何もしないと言うのはラウル達とて本意ではない。少しでも良い今の自分達にも出来る何かをする為にラウル達は協力して、エクサランス・フライヤーフレームを再起動させる為に動き出すのだった……。

 

 

 

 

カルディアスはその巨体から圧倒的な攻撃力と防御力を有していたが、巨大さゆえの機動力の低さと言う明確な弱点があった。そして武蔵とアクセルはアインストやインベーダーとは腐るほど戦っている……それが何を意味するかと言えば、巨体な異形の敵とは嫌と言うほどに戦いなれているのだ。

 

「ああああッ!! 当らない当らないッ!!!」

 

「て、ティス……お、落ち着いて……ッ」

 

「やたらめったら攻撃しても当たらないよ!?」

 

特機と準特機であるゲッター・トロンベとアースゲインは決して機動力に長けた機体ではない。高火力の鈍足な機体と言うのはカルディアスと似通っていて、同じ弱点を持つ筈なのに攻撃が当らない事にティスが怒りを露にし、デスピニスとラリアーが止めようとするが、頭に血が昇っているティスにその言葉は届かない。

 

「このこのこのッ!!」

 

4本の腕に3つ又の槍と巨大な西洋剣を召喚し、槍による突き刺しと薙ぎ払いと広範囲攻撃でゲッター・トロンベとアースゲインを攻撃しようとする。

 

『舐めるなよッ!』

 

『アクセルさんッ!!!』

 

『ふっ! 任せろッ!』

 

アースゲインは回し蹴りで伸ばされた槍を中ほどから折り、ゲッター・トロンベはゲッタートマホークで剣を受け止めて、受け流すと地面に突き刺さった剣を踏み台にするようにとアクセルに合図を出し、アースゲインは剣を踏み台にして跳躍すると同時にカルディアスの3つの顔面の高さまで飛びあがる。

 

『虎閃掌ッ!!』

 

突き出された両腕から放たれた光線が顔を貫き、その衝撃とダメージにティスとデスピニスは思わず悲鳴を上げた。

 

「うあッ!? ば、化け者じゃないのさッ!?」

 

「き、きゃあ……ぜ、全然通用してないです」

 

カルディアスの巨体では牽制用の虎閃掌では大したダメージはない、だが実戦経験のないティスとデスピニスに精神的なダメージを与える事に成功していた。

 

『化物に化物などと言われる謂れはないなッ!!!』

 

明らかな動揺を見逃すほど、アクセルは甘くはない。その巨体に着地し、飛びあがると同時にアッパーを放ち再びカルディアスの顔面を殴りつける。

 

『殺しはしねえよ、だけどなんでこんな事をしたのかは聞かせてもらうぜッ!!』

 

アースゲインが折った槍の切っ先を掴んだゲッター・トロンベが全力で投げつける。

 

「うあッ!?」

 

「……あ、あわわわわッ!?」

 

顔への攻撃は回避したが、カルディアスの首元に突き刺さった槍にティスとデスピニスは驚きと恐怖を隠しきれなかった。

 

「ティスッ! 僕がやるッ! 2人はサポートしてッ!」

 

「あ、あたいがやって良いって言ったじゃないか!」

 

「このままだと何にも出来ないで死ぬよッ! だから僕がやるッ!」

 

普段は気弱なラリアーだが、姉弟である2人に悲鳴を何度も聞いて黙っていられるほど臆病ではない、2人を守ると強い意志を見せるラリアーにティスとデスピニスは反論する事が出来なかった。

 

「分かった。ラリアーに任せるよ」

 

「さ、サポートは……が、頑張りますッ!」

 

「うん、よろしくねッ!!」

 

白兵戦が得意ではないティスからラリアーへと操縦が変わったことでカルディアスの動きは全く別物になっていた。

 

「なーんか、手強くなりましたね」

 

「ああ……向こうも様子見をしていたと言うところか」

 

ラリアーへと操縦が変わったことで動きが変わった事をアクセルと武蔵は即座に見抜き、1度カルディアスから距離を取る事を選択する。そしてそれは正しい選択だったとすぐに武蔵とアクセルは思い知ることになるのだった……。

 

 

 

ラリアーへと操縦が変わったカルディアスはティスが操縦していた時と異なり、どっしりと構え4本の腕の右下の腕の手首からバリアを展開し、左下の腕は突撃槍を油断無く構えるその姿は8本足の異形ではあるが、馬上騎士あるいはケンタウロスのような姿をしていた。

 

「どわっとッ!!」

 

反射的に武蔵はレバーを傾け、ゲッター・トロンベを横っ飛びさせた。ついさっきまでゲッター・トロンベが立っていた場所には巨大な突撃槍が突き刺さっていた。

 

「やっべえ……あの間合いで届くのかよ」

 

8本の足を利用した爆発的な加速……それを目視するのは武蔵でもかなり難しく、武蔵の動物的直感があってこそ避けれたが、それも偶然に近い。

 

「うっ! くそッ!!」

 

『ちいっ! 厄介になったなッ!!』

 

さっきは闇雲に剣や槍を握り振り回していただけだが、今は上の2本の腕は杖のような物を手にし、そこから7色に輝く光線を放ち背中の翼から拡散する熱線による範囲攻撃を繰り出しながら崖に突き刺さっている突撃槍を抜き放ち、再びそれを構え8本の足で地面を蹴り始める。

 

「アクセルさん、気付いてます?」

 

『……もう1人いたな。あいつ3人乗っているな?』

 

「ですよねー……女の子の声がしてやりにくいなって思ってたんですけど……あれ油断させる為の戦法だったんですかね?」

 

『……ありえるな』

 

嵐のような波状攻撃を回避しながら武蔵とアクセルはカルディアスの攻撃を避けながら、カルディアスの分析をしていた。

 

『行きますッ!!』

 

短いが気合の乗った声がカルディアスから響き、8本足で飛びあがったカルディアスが足から光線を放ちながら急降下してくる。その光線自体は決して威力の高いものではない、だが問題は翼と杖と組み合わせた超広範囲攻撃であり、当たろうが当らなかろうがゲッター・トロンベとアースゲインの動きを止める為の範囲攻撃だった。

 

『はああっ!!』

 

長い突撃槍を利用しての突き下ろしは落下速度と相まって閃光のようで、アースゲインの左肩を穿ち根元から弾き飛ばす。

 

「アクセルさんッ!!」

 

『くそがッ!』

 

片腕を失いバランスを崩したアースゲインをゲッター・トロンベが援護に入る事で何とか突撃槍を回避する事は成功したが、アクセルを助ける為に飛び出したゲッター・トロンベも数発被弾しており、装甲版に巨大な穴が空いていた。

 

「やっべえ……ッ! 流石にゲッター・トロンベじゃ厳しいなあ。アクセルさん、そっちはどうですかね? 余力あります?」

 

『あると思うか?』

 

EG装甲のないアースゲインはソウルゲインに酷似こそしているが、機体性能もパワーもソウルゲインより格段に落ちる。武蔵とアクセルが協力しても、カルディアスを倒すには力不足は否めなかった。

 

『大人しく、してください。僕は殺すつもりはありません、ゲッターロボと、鍵さえ同行してくれればそれでいいんです』

 

突撃槍の切っ先をゲッター・トロンベとエクサランス・フライヤーフレームに向け、投降しろと降伏勧告をするラリアーの姿は勝利を確信したものであったが、それは武蔵とアクセルを甘く見ているという証拠だった。

 

「降伏なんかするつもりはねえよッ!!」

 

『そういうことだ、勝利を確信するにはまだ早いぞッ!』

 

確かに機体の性能の差はあるが、その程度で諦めるほど武蔵もアクセルも柔な男ではない。例え勝利の可能性が1%しかなかろうと、諦めない不屈の意志を持ったアクセルと武蔵がその程度で心を折るわけがない。

 

「とりあえず……突っ込みますか?」

 

『はっ!』

 

「嫌ですか?」

 

『いや、名案だッ!! 突っ込んでぶちのめす。物事はこれくらいシンプルな方が良い、これがなッ!!』

 

突撃槍の攻撃力と展開しているバリアの防御力は厄介だが、裏を返せばそれ以外の攻撃はさほど脅威ではない、ビームなどの攻撃も攻撃範囲こそ広いがそれまでだ。胴体部に組み付けば十分に勝機はあると踏んだ武蔵とアクセルが選んだのは特攻に等しい突撃だった。

 

「ミサイルマシンガンッ!!!」

 

『うおおおおッ!!!』

 

ミサイルマシンガンを乱射し突撃するゲッター・トロンベの後を残された右腕に限界までエネルギーを溜めたアースゲインが続く。

 

『特攻!? 正気ですか!?』

 

「正気も正気よッ!! 真正面からぶち破るッ!!!」

 

ミサイルマシンガンは当然ながらバリアに阻まれてカルディアスには届かない、だがそれで良いのだ。ミサイルマシンガンの弾頭はゲッター合金、そして動力もゲッター線。そんなものが何十発も爆発すれば何が起こるかは簡単に予想がつくはずだ。

 

『しょ、照準が合わない』

 

『なんで、どうして!?』

 

ゲッター線の残滓がジャミングの役割を果たし、厄介だった広範囲ビームの照準を著しく乱す。広範囲のビームの雨さえ降り注がなければゲッター・トロンベとアースゲインはカルディアスの懐に飛び込むことは十分に可能だ。

 

「ゲッタァアアッ!!! ビィィイイイムッ!!!」

 

そしてゲッタービームの射程距離に入ると同時に武蔵の雄叫びと共に放たれたゲッタービームがカルディアスの展開しているエネルギーバリアを音を立てて粉砕する。

 

「アクセルさんッ!!」

 

『任せろッ!!』

 

頭を下げたゲッター・トロンベの背中を踏み台にし、アースゲインが跳躍する。

 

『さ、させないッ!!!』

 

「させねえのはこっちだッ! 馬鹿野郎ッ!!!」

 

上空に飛び上がったアースゲインを迎撃しようとデスピニスが頭部を操り、ビームを放とうとするがそれよりも早くミサイルマシンガンの弾雨がカルディアスの上半身を飲み込んだ。

 

『うおおおおおッ!!! 獅子吼烈破ッ!!!』

 

ほぼすべてのエネルギーをつぎ込んだ獅子吼烈破がカルディアスの胸を貫き、大爆発を引き起こす。

 

『これでどう……『ま、まだですッ!!』……なにいッ!?』

 

アクセルと武蔵の狙いは良かった、最初のぶつかり合いで頭部に攻撃を当てたが反応が無かった。コックピットは別の場所にあると予測し、8本の多脚と繋がっている下半身は細くとてもコックピットがあるようには見えず、消去法で胸がコックピットだと当たりをつけた。そしてパイロットが幼い少女達であると言うことからコックピットを攻撃すれば恐怖で動かなくなる筈だと踏んでいた。アクセルと武蔵の推理の通りコックピットは胸部であり、獅子吼烈破の一撃はコックピットに凄まじい衝撃を与えていた。それこそ並の人間ならば気絶するほどの会心の一撃だった。

 

「こっ、のおおッ!!!」

 

「ま、まだですッ!」

 

だが幼い少女達と言うのが間違いだった。確かに容姿は幼い……それこそ10歳に届くかどうかと言う幼い容姿だが、ティス、ラリアー、デスピニスの3人は見かけ通りではない、デュミナスが生み出したホムンクルス「テクニティ・パイデス」であり痛みには強く、そして死への恐怖心もかなり弱いものだった。コックピットを攻撃された恐怖は、即座へと怒りに変換された。正しそれは自身が殺されかけたものに対する怒りではない、創造主であるデュミナスの役に立たずに死ぬ所だったと言う事に対する怒りだった。確実にアースゲインを破壊せんと2本の腕、そして3つの頭部、翼……その全てがアースゲインに向けられた瞬間上空から漆黒の光が降り注いだ。

 

「うわあッ!?」

 

「くううッ!?」

 

「て、敵ですかッ!?」

 

完全に予測していなかった角度からの攻撃にラリアー達は悲鳴を上げながらカルディアスを後退させ、攻撃してきた何かを探そうとし、3人の目の前に広がったのは攻撃してきた相手ではなく、無機質な殺意に満ちた攻撃だった……。

 

『こいつも喰らえッ!!』

 

『……狙いは外さんッ!!』

 

棘つき棍棒であるダブルシュテルン、そして地面を走ってくるエネルギーの刃が続けてカルディアスに命中し、再び大爆発を引き起こした。その爆風でアースゲインは吹っ飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がり右腕を地面について立ち上がらせ、モニターに映る3つの機影を見てその顔を歪めた。

 

「はっ……早かったのは武蔵の援軍のほうか、それとも俺は見捨てられたか?」

 

ゲッターザウルス、R-SWORD、そしてヴァイサーガの姿を見てアクセルは自嘲気味に笑みを浮かべる。

 

『随分と面白いことになってるな、武蔵。エクサランスもそうだが、アクセルと手を組むことになったのか?』

 

「イングラムさん、助かりました。この状況じゃそれしかなかったんですよ」

 

R-SWORDのイングラムからの通信に武蔵はそう返事を返し、再びカルディアスへと向き直る。

 

『アクセル隊長は……逃げてきたのですか?』

 

『馬鹿を言え、ラミア。俺はあれを回収しに来ただけだ、その中でこの化物に狙われてな、武蔵と手を組んだだけだ』

 

アクセルがもしかしてシャドウミラーを抜けたのでは? と思ったラミアの問いかけをアクセルが一蹴すると、ゲッターザウルスが手にしているダブルシュテルンがアースゲインに向けられようとしたのをゲッター・トロンベが止める。

 

「止めろ、ラドラ」

 

『……武蔵分かっているのか?』

 

「十分分かってる。だけどアクセルさんがいなきゃオイラは死んでたんだ……それにあいつを倒すまでは協力するって約束だ、約束を破るわけには行かないだろ?」

 

武蔵の言葉にラドラはふんっと鼻を鳴らし、ゲッターザウルスをカルディアスへと向ける。

 

『ずいぶんと厄介そうな相手だな』

 

「ああ、かなり強い。それに攻撃範囲も広くて厄介……なッ!?」

 

武蔵が簡単にカルディアスの事を伝えているとカルディアスの周辺に黒い穴が展開され、そこからメカザウルス、百鬼獣、そして量産型Rシリーズが姿を見せ、カルディアスを守るように陣形を組んだ。

 

『なるほどな……あいつらが何者か大体判ったぞ』

 

「あんときのピンク色の奴っすね?」

 

『ああ、どうもあいつらもこの世界に来ているようだな……これは面倒な事になったぞ、ラミア、ラドラ。後ろで倒れている機体を守りながら可能ならあいつを鹵獲する……下手をするとかなり厄介な相手がこの世界に現れたかもしれん……アクセル』

 

『なんだ、イングラム』

 

『手伝え、お前もこんな所で死ぬわけにはいくまい?』

 

唸り声を上げるメカザウルス、そして百鬼獣に囲まれている状況で単騎での離脱は不可能なのは誰の目から見ても明白だ。片腕こそ失っているがアースゲインとアクセルの力は今の状況では見逃せない戦力である事は間違いない。

 

『切り抜けたのならば俺を見逃せ、良いな?』

 

『それで構わない、最も無事に帰れるかどうかまでは知らんがな、投降すると言うのならば手厚く迎え入れるがな』

 

『それこそありえん、この場を切り抜けるまでだ。これがな』

 

あちら側で何度か現れたデュミナスの事を思い出したイングラムはアクセルとこの場限りの共闘を約束し、謎の第3勢力の存在をハッキリと確信し、ずっと引っかかっていた物の正体をいまハッキリと確信した。

 

(メタルビースト・SRXは自己再生、自己進化したのではない……何者かが意図的に進化させていた。となれば恐らく……アルタードもそいつらが作り出したと見て間違いないな)

 

 

メタルビーストの自己再生、自己進化の能力は確かに脅威ではあるが、考えてみてみれば旧西暦であれだけ破壊されて、自身の能力で再生しきれる訳がない。何者か……恐らく目の前のカルディアスを作り上げた何者か、あるいは組織がメタルビースト・SRXを使役している、そしてその組織はメカザウルスと百鬼獣すら複製出来るほどの科学力を有している。それはインスペクターや百鬼帝国に匹敵、いやそれを上回る脅威がフラスコの世界に現れた瞬間なのだった……。

 

 

 

 

時空の狭間でティス達の戦いを見ていたデュミナスはいま自分がとった行動に驚いていた。

 

(……造りなおしは効く……それなのに私はあの子達を失いたくないと思った……?)

 

カルディアスは試作的な機械人形であり、まだその完成度は決して高いとは言えない。それ故に3人で操縦させ、複数のコンセプトを1つに纏めたキメラのような機械人形だ。巨体を利用し、圧倒的な攻撃範囲で相手を制圧する。自身が求める鍵であるエクサランスを回収させるためだけに準備した機体であり、到底ゲッターロボ等と戦える機体ではない。

 

『ふんッ! 所詮は有象無象かッ!!』

 

ゲッターザウルスがダブルシュテルンを振るい、メカザウルスを薙ぎ払う。そしてその巨大な尾でカルディアスを殴りつける。

 

『うあッ!?』

 

『きゃあッ!!』

 

『く、くそ……ッ! あ、あたい達はまだやれ……うああッ!?』

 

カルディアスの巨体が簡単に宙を舞った。まだ調整段階ではあれど、爬虫人類の中でも飛びぬけた生体パルスを持つラドラが乗れば、その機体性能は驚くほどに上昇する。ゲッターD2とまでは言わないが、それに匹敵するパワーを発揮しているゲッターザウルスを試作機械人形であるカルディアスでは受け止められるわけがない。

 

「ティスッ! ラリアー……ッ! デスピニスッ!!」

 

手駒の筈なのに、自身の目的を成し遂げる為の駒でしかないはずなのに……ティス達の悲鳴にデュミナスは思わず悲鳴を上げた。

 

「あ……あああ……痛いいたいイタイッ!!!」

 

身体が軋む、心が痛む、何か……そう、何かとても大事な事を思い出しかけているのに……零れ落ちていってそれが形にならない。

 

【……の使命は……と……為……に……守……育……事……頼んだ……よ】

 

【貴様……の使命……は……の為に……戦士……ア……を……抹……こと】

 

2つの声がデュミナスを掻き乱す、1つは優しい声、1つは冷酷な声……その2つの声がデュミナスの中に響いて、徐々に消えていく……。

 

「私は……」

 

何をするべきなのか、脳内に響いた2つの声……どちらが正しいのか、何が間違っているのか……デュミナスは闇の中で考える。

 

(……あの子達はまた造れる。だからここで死んでもいい)

 

従がうべき声は後者の声のような気がしていた。エクサランスも回収できないのならば、戦闘データを得る為に死ぬまで戦わせるのが正しいことだ。

 

『『ゲッタァア――ッ!! ビィィイイイムッ!!!』』

 

ゲッター・トロンベとゲッターザウルスが同時に放ったゲッタービームにカルディアスが飲み込まれ、ティス達の悲鳴が響いた瞬間デュミナスは動いていた。自身の力を消費すると分かっていて、自分の目的を成し遂げるのに更に時間が掛かると分かっていても……己の心には逆らえなかった。ゲートを開き、ゲッタービームに飲み込まれたカルディアスを回収し、複製したメカザウルスと百鬼獣、そして量産型Rシリーズを送り出した。

 

「ああ……ティス、ラリアー……デスピニス……ッ!!!」

 

ゲッタービームの熱で溶解した装甲、アースゲインに殴られ凹んだ機体の各部の装甲……R-SWORDに撃ち貫かれ圧壊している頭部、五大剣に切り落とされた2本の腕と1本の足……ボロボロのその姿にデュミナスは身体を震わせ、慟哭の声を上げる。正しいと思っている事をせず、己の感情を優先した……それが何を意味するのかはデュミナスには分からない、だが今この瞬間はこうする事が1番正しいとデュミナスは感じていた。

 

(……これでいい、これで良かったのです。きっと……これで)

 

カルディアスを回収せず、そして足止めの為の増援を送り出さなければ、あの一瞬でエクサランスか、ゲッターロボを手中に収める事が出来た。だけどそれをする間にティス達は死ぬ、作り直せる。もっと高性能なテクニティ・パイデスを作ることも出来た。だがデュミナスにはそれが出来なかった。「■」であるから、「■」でありたいから……無意識の願望を付き従ったデュミナスがその願望の正体に気付けば、己の存在がなんなのかと気付く事も出来たのだが……デュミナスがそれに気付くにはまだ多くの壁が存在しているのだった……。

 

 

第199話 時の迷い子 その1へ続く

 

 




戦闘描写を書くと言いましたが無理でした。過ちお母さんをかいていると、ティス達生存させたいし、OG外伝の流れにしたくないのでィ色々と方針を転換することになりました。申し訳ない、ですがダークブレインが出て来てもあの結末にさせない為の準備なのでお許しください、個人的に武蔵とわちゃわちゃしてるティス達が書きたいのです。きっと武蔵ならティス達の超パワーにも耐えれるので……出来ますよね?多分、次回からは少し戦闘はオヤスミで分岐や、ラウル達の話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうか宜しくお願いします。


PS

竜巻斬艦刀かズワルトシャインが復刻するまでがチャ我慢の予定でしたが、後オーブ2個でアムろのアタッカーをレベル10に出来、攻撃力・運動性12%UPがめちゃくちゃ魅力だったのでガチャをしてきました

結果は

ダブルグラビトンライフルが+5になりました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第199話 時の迷い子 その1

 

第199話 時の迷い子 その1

 

黒い穴が武蔵達の目の前で開いた瞬間にカルディアスはその姿を消し、変わりに無数のメカザウルス、百鬼獣、そして量産型Rシリーズがその姿を現した。

 

「逃がした……か。仕方あるまい、ラドラ、ラミア、武蔵。このまま敵機を撃破する、但しメカザウルスと量産型Rシリーズを各1機ずつ鹵獲する。完全に破壊するなよ」

 

イングラムはそう指示を出しながらR-SWORDを操り、ブレードトンファーを展開し殴りかかってきた量産型Rー1の攻撃を回避する。

 

「アクセルも分かっているな? お前まで鹵獲されたくなければ俺の指示に従ってもらおう」

 

アクセルから返事は無かったが……アースゲインの動きが変わったのを見ればイングラムの指示に従うという意志はあるのが分かる。

 

「ラウル。お前はそのまま待機していろ、エクサランスはまともに動ける状況じゃない。無茶をするな」

 

『りょ、了解ッ!』

 

ラウルに釘を刺した後にイングラムは目の前の混成部隊に鋭い視線を向けた。

 

(やはり間違いない、あの謎の生き物。あいつがこの部隊の首領と言う所か)

 

ピンク色の奇妙な生き物――あちら側で数度しか見ていないが、あれほどの存在を忘れるわけがない。それなのに忘れていた……いや、「思い出せない」でいた。それはアクセル達と同様にこれからこの世界で何らかの騒動を起こす存在であり、そしてこの世界に存在を認められたという証拠でもあった。

 

(エンペラー……だけではなさそうだ、アストラナガンを持ってしても駄目か)

 

この世界は複雑に因子が混ざり、入りこんでいる。切っ掛けは始まりの進化の使徒である武蔵ではあるが……最早武蔵だけではない、イングラムやカーウァイ、そして恐竜帝国や百鬼帝国と言う因子が入り混じり、完全に正史とは外れた世界となっている。ここまで世界が乱れてしまえば因果律の番人であるイングラムですら修正は不可能だ。そしてそこまで乱れているのにも拘らず世界の崩壊は始まらないのは、ギリアムが指摘したとおり何らかの要因があるのは間違いない。その中で最も可能性が高いのはゲッターエンペラーとイングラムは考えていたが……自分が知らない、何らかの要因があることを確信した。カルディアス、そしてカルディアスの裏にいる何者かのように、自分たちの知らない所で闇は蠢いていたのだ。

 

(……だからこそ、少しでも懸念材料は減らさせてもらうぞ)

 

百鬼帝国、インベーダー、アインスト――戦っても戦っても脅威は減らず、迫り来る敵の脅威は爆発的に増していく中で悠長に戦力を鍛え上げ、新たな機体を開発している時間はない。短時間で戦力を迫り来る脅威に匹敵するレベルにまで鍛え上げるには正攻法では駄目なのだ。

 

『……ッ!!』

 

「飛んで火にいる夏の虫……か」

 

メカザウルスの動力であるマグマ原子炉にしろ、量産型Rシリーズの技術にしろ、今のイングラム達には喉から手が出る程に欲しい技術の宝庫だ。敵が運用していた物を取り入れるのは確かに危険ではあるが、今は手段を選んでいる場合ではない。R-SWORDのビームソードが量産型R-1の頭部を貫くと、即座にビームソードを引き抜かせ動力部に再び突き立てる。

 

『1機ずつで良いんだな?』

 

同じ様に動力部を破壊して量産型R-3を無力化しながらラミアがイングラムへと問いかける。

 

「ああ、それ以上あっても持ち帰れん。だが出来る限りR-2の動力部に損傷は与えないでくれ、動力を知りたい」

 

R-1、R-3よりも重要度が高いのはR-2だ。量産型ではあるがSRXへの合体が可能となっている量産型Rシリーズだ、トロニウムに変わる……あるいは通常のPTの動力であるプラズマジェネレーターでSRXを維持する術。もしくはイングラム達では思いもつかない何かが量産型R-2にある可能性は極めて高く、動力部を破壊するなと言うイングラムの指示にラミアは苦笑いを浮かべた。

 

『……それはかなり難しそうだな、自爆されれば全滅するぞ』

 

量産型R-2は量産型R-1やR-3よりも遥かにエネルギー反応が高く、鹵獲を感知すれば自爆する可能性は極めて高い。

 

「ああ、最悪の場合は動力部の破壊を認めるが、何とか確保したい」

 

自爆の可能性はイングラムとて重々承知している。だがそのリスクを背負ってもなお動力を破壊せずに鹵獲するだけの価値が量産型R-2にあるのも事実であり、R-SWORDとヴァイサーガの2機体制で量産型Rー2の鹵獲を試みるのだった……。

 

 

 

 

 

 

片腕を失っているアースゲインではあるが、アクセルは問題なく迫り来る百鬼獣を処理していた。確かに百鬼獣の機体性能はそのままだ、だがデュミナスが複製した百鬼獣はオリジナルと比べると格段に弱い物だったからだ。

 

「同じ姿をしていてもこうも違うものか」

 

姿形はアクセルも知る百鬼獣と同じ物だが、そこに野生はないのだ。機体性能を武器に人間のような理路整然とした戦い方をしてくる。

 

「宝の持ち腐れとはこの事だなッ!」

 

複製するだけの技術も、百鬼獣もこのように運用するのでは本来のポテンシャルは発揮出来ない。そして本来のポテンシャルを発揮出来ない百鬼獣に遅れを取るほどアクセルの戦闘経験は甘いものではない、むしろ片腕を失っての戦闘などインベーダーとアインストが闊歩する地獄で戦っていたアクセルにとってはいつもの事でしかなく、片腕を失っているのならば片腕を失っているなりの戦い方をアクセルは習得していた。

 

「ふっッ!!」

 

片腕を失い重心が崩れているからこそ出来る足や腕の反動を利用した変幻自在の構えに百鬼獣やメカザウルスは対処出来ず、遠心力を利用した拳打に次々と崩れ落ちる。

 

『ふん、中々やるものだな。くたばるかと思っていたのだが……生き恥汚い男だ』

 

「お褒めに預かり光栄だ、これがな」

 

互いに皮肉の応酬だが、共通の敵がいるから協力しているだけの関係だ。特にラドラはシビアな男であり、敵に対して掛ける情けなどない。

 

『一応今は味方だぜ? ラドラ』

 

『今はだ、俺はお前ほど甘くもないし楽観的でもないぞ、武蔵』

 

ゲッター・トロンベから響く武蔵の声とゲッターザウルスのラドラの声にその通りだとアクセルは頷いた。生き残る為に敵同士であろうと協力はする……だがそれが終われば再び敵同士なのだ。武蔵の考えは甘いと言わざるを得ない。

 

(が……それが武蔵の長所か……やれやれ、俺も随分と甘い)

 

武蔵の人となりはアクセルとして理解している。確かに武蔵の考えは誰から見ても甘いが……それでもその甘さが武蔵の長所であり弱点だ。少しずつアースゲインを移動させ、この場の敵を武蔵達に押し付ける位置に移動するアクセル。この戦いが終われば敵同士に戻る事は間違いない、この場は見逃すと言っていてもここからアースクレイドルに戻れるかはアクセルの運次第だ。戻るだけの余力を残しておかなければ連邦軍に補足され撃墜される可能性も捨て切れない。

 

(そこまで甘くはないだろうからな)

 

この場限りの共闘が出来ただけも御の字なのだ。武蔵の手前見逃すとイングラムは言ったが、この激戦区では片腕を失ったアースゲインは的に過ぎないのだ。だから見逃すではなく、見捨てるがイングラムの真意であるのだ。だからこそ、ここでアクセルは無茶をしない、生き残る為の最善の一手を打つために頭を回転させる。逃げる事は恥ではない、むしろ誇りを守る為に死んでは何の意味もない。生きていれば次がある……。

 

(俺はここで死ぬわけには行かないからな)

 

ラングレー基地での戦いで終盤アクセルは意識を飛ばしていた。ヴィンデルからゲシュペンスト・MK-Ⅲ……いやアルトアイゼンを大破させたと聞き、あの損傷ではキョウスケも恐らく再起不能もしくは死んでいるだろうと聞かされていた。だがアクセルはそんな言葉を鵜呑みするほど馬鹿ではない、ここでこうして武蔵と会ったことでアクセルはキョウスケが生きていると確信した。

 

(あんなにも平然としていられるわけがない、エクサランスを手にするのは失敗したが……十分な収穫だ)

 

武蔵達が現れた段階でエクサランスを回収するのは不可能であり、そしてマグマ原子炉を回収するのを止める術もアクセルは持ちえていない。無事に戻った所でヴィンデルにその事を叱責されるであろうが、アクセルにとってはキョウスケが生きていると分かった方が価値のある情報だった。

 

(あんな勝ち方など認める物かッ)

 

アルフィミィに干渉を受けての勝利などアクセルは欲していない、己の力でキョウスケに勝利する事が死んだ仲間達への手向けであり……アクセルが再び前に進む為に必要不可欠な物なのだった……。

 

 

 

 

 

メカザウルス達の残骸の山の中でラミアは一縷の望みを託して転移反応を探ったが、その反応は完全に消え去っていた。

 

(反応はやはりないか……あの異形を見逃したのは痛手だった)

 

メカザウルス、百鬼獣、量産型Rシリーズの襲撃は機械的であり脅威ではなかった。だがその数だけは多く、徹底して足止めを狙っての攻撃だった。だが突如ピタリと増援が止まったのを見て、この転移による連続襲撃はカルディアスの転移反応が完全に消えるまでの時間稼ぎである事は明白だった。

 

『これで共闘は終わりだ。あとはどこにでも行くが良い、アクセル』

 

『ああ、言われなくともそうさせて貰う』

 

片腕を失い、全身に細かい傷を負っているアースゲインのアクセルの闘志と覇気は微塵も揺らいでいなかった。むしろ傷を負っているからこそ放つ必殺の気迫のような物を纏っていた。だがその闘志をふっと消してアクセルはラミアに問いかけた。

 

『ラミア。ベーオウルフはどうなった?』

 

「は、いや……」

 

世間話のようななんでもないような感じで声を掛けられたラミアは上擦った返事を返してしまった。

 

『それだけで十分に分かった』

 

そこからアクセルを騙す方に話を向けるのは不可能で、ラミアは自分の反応に後悔しながらラミアは観念したように口を開いた。

 

「キョウスケ中尉は生きております、そして次に向けての準備をしています」

 

イングラムとラドラも何も言わない。あの反応でキョウスケが生きているとラミアは教えてしまったような物だ、それに単純な武蔵がいる段階で駆け引きと言うのが無理と言うのは分かっている。遅かれ早かれキョウスケが生きていると知られるのは分かりきっていた。

 

『そうか、武蔵』

 

「はい?」

 

『ベーオウルフに入ったカードは俺と戦えるか?』

 

「あーなんか物すげえの作ってましたけど、オイラは良く判りませんよ?」

 

武蔵の返答にアクセルはふっと小さく笑うとアースゲインを反転させた。

 

『ベーオウルフが生きていると教えてくれた礼だ、俺達は今ホワイトスターにいる。アースクレイドルからは手を引いた』

 

アースクレイドルにシャドウミラーがいると考えていたイングラムとラドラはアクセルの言葉が真実か、それとも偽りかと考えさせられる事になる。

 

『礼だと言っているだろう? 俺は嘘は言っていない。それとムーンクレイドル……それを奪還するなら急ぐが良い。鬼がムーンクレイドルと月面都市で何かしようとしているぞ、月の住人が鬼にされる前に動くが良い』

 

アクセルはそう吐き捨てると、振り返る事無くこの場を離脱して行った。

 

「イングラム少佐、アクセル隊長の言葉は……」

 

『恐らく真実だろう。アクセルの気質から言って百鬼帝国のやり方は受け入れられるものではない筈だ』

 

悪人ではあるが冷酷ではない、それに義理堅い男でもある。助けられたからそれに匹敵する情報を提供した……と言うわけでもないだろう。

 

『俺達と百鬼帝国を潰し合わせて漁夫の利でも狙っているのだろう、あいつらにとってはどちらも敵だ』

 

『身も蓋もない、事実その通りだろうな。だがアースクレイドルの事とシュウの情報ともすり合わせが出来る……それに決して無駄じゃない拾い物もあった』

 

マグマ原子炉が4つ、量産型Rシリーズがそれぞれ1機ずつ、そしてエクサランス開発チームの救助が出来たのは紛れも無くプラスだったと話すイングラムとラドラの話を聞いていたラミアだったが、ヴァイサーガのモニターに映った光景を見て、思わずあっと呟いた。

 

『どうしたラミア?』

 

「……あの、武蔵がもう降りてます」

 

エクサランスから降りて来たラウルに声を掛けながら手を振っている武蔵の姿にイングラムは深い溜め息を吐いて、コックピットハッチを開放する。

 

『ラミアはラドラと共に周辺を警戒していてくれ、ラウル達と交渉して積み込めるようになったらマグマ原子炉を搭載しハガネへと帰還する』

 

ラドラやラミアがいると拗れると判断したイングラムの言葉にラドラ達は反対する事無く、周囲の警戒をしながら武蔵とイングラムの説得が終わるのを待つ事にする。

 

「ラドラ少佐」

 

『なんだ?』

 

「マグマ原子炉をヴァイサーガに搭載する事は可能でしょうか?」

 

『不可能ではない、だが数が限られている物だ。優先するのはカイやギリアムになる』

 

ラドラのいう事は最もだ。高性能なエンジンを信頼出来るパイロットに回すのは当然の事……だがラミアも折れなかった。

 

「ヴァイサーガにも搭載を検討して欲しい。マグマ原子炉はパイロットに強い負担を掛けると聞くが、その点私は常人よりも遥かに身体が……いや、余計な事は言うまい、単刀直入に言おう。私の目的の為に、私が成すべき事をする為にマグマ原子炉を私にくれ」

 

自我を得ているとは言えラミアはまだ子供であり、口でラドラを納得させるような言葉は言えない。だから自分の嘘偽りのない気持ちをラドラへと訴えた。

 

『お前の目的とはなんだ? その理由によっては協力するのも吝かでは無いが……』

 

だがその稚拙だが言葉の願いのこもった真っ直ぐな言葉はラドラを動かした。あれやこれやと理由をつけるよりも、真っ直ぐな言葉に込められた意志をラドラは汲み取った。

 

「お前達にとっては敵であると言うことは分かっている。だがレモン様は……私の……母なんだ。間違った道を進もうとする母を止めたい……だが今の私の力では無理なんだ。きっと言葉ではレモン様は止まらない、止まってくれない……母を止める為に、過ちを正す為に……私に力を与えて欲しい」

 

ハガネの為ではない、ラミアは自分が母と慕うレモンを止めるための力を欲していた。

 

『地球が窮地と知っていて、なお自分の願いだけを押し通そうとするのか、なんとも傲慢な事だな』

 

「……それは……分かっている」

 

『俺達の目的は地球を守る事でお前の母を助ける事ではない、むしろ助けた所で敵に回る可能性の高い相手を助ける為に貴重なマグマ原子炉を使えと来たか……そんなことが許されると思っているのか?』

 

「……だがそれでも……私はレモン様を『だがそこが良い、良いだろう。協力してやる』は?」

 

ラドラの嫌味に断れると思っていたラミアは続く言葉に信じられないと言う間抜けな声を出した。

 

「な、何故……」

 

『なんだいらないのか?』

 

「いや、いる。いるがッ! あれだけ私の言葉を否定して何故?」

 

ラドラが何故自分に協力してくれるのか、その真意が分からいラミアは何故だと問いかける。

 

『俺はお前が地球のためだのなんだのと言うのならば信用しなかった。味方であると言う事は認めている、だがお前はシャドウミラーだ。永遠の闘争が続く世界を作ろうとしていた組織の人造人間の綺麗な言葉など俺は信じない、だが……お前はどこまでも自分勝手で、自分の意志を通そうとした。それは紛れも無く人間らしさだ、その人間らしさを信じてみたくなったという所だな』

 

自分勝手な心からの言葉、それは紛れも無く人間だけが持つ言葉だった。人造人間のラミアならば信じなかったが、人間のラミアの自分勝手な言葉をラドラは信用すると言ったのだ。

 

(……人間……私が……)

 

ラドラの言葉に少しだけ笑みを浮かべたラミアだったが……。

 

『だが余りにも子供過ぎるがな、もう少し歯に衣を着せる事も覚える事だ。人を騙せとは言わんが、欺く程度の会話スキルは習得しておけ、これは武蔵にも言えることだがな』

 

「……了解」

 

最後に付け加えられた言葉に臍を曲げることになるのだが……もしその表情を見ればレモンが狂喜乱舞していたことだろう。何故ならば、そのラミアの表情は人間にしか出来ない物であったからだ……。

 

 

 

アクセルはなんとか無事にアースクレイドルに戻り、ホワイトスターへ向かい転移していく戦艦を見てやっと安堵の溜め息を吐いた。

 

『随分とボロボロね、今格納庫を開けるわ。着艦してアクセル』

 

転移を控えていた戦艦の1つにレモンが乗っていたのか、着艦しろとの言葉にアクセルは了解と返事を返し、開閉された格納庫にアースゲインを着艦させる。

 

「お疲れ様、エクサランスは駄目だったみたいね」

 

「流石に武蔵達まで来ると俺1人では自殺行為でしかないぞ」

 

中破しているアースゲインを見て、救急箱を手に格納庫に来たレモンに何があったのをぼやきながら報告するアクセルに、レモンは楽しそうな笑みを浮かべる。

な笑みを浮かべる。

 

「ぐっ……もう少し丁寧にやれ」

 

「はいはいっと分かってますよ」

 

消毒液を吹きかけてくるレモンに丁寧にやれと怒鳴るアクセルだが、レモンを突き飛ばす事は無く大人しくレモンの治療を受けていた。

 

「はい、おしまい。ま、エクサランスを逃したのは惜しいけど、しょうがないわね。ソウルゲインならまだしもアースゲインじゃ無茶は出来ないし」

 

レモンのフォローするような言葉にアクセルは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、その顔を見てレモンはますます楽しそうに笑い不貞腐れているアクセルの頬を突いた。

 

「何か言いたい事があるんじゃないの?」

 

その言葉にアクセルはふうっと小さく溜め息を吐き、何もかもお見通しかと呟いた。

 

「武蔵とラミアが言っていたんだがな、ベーオウルフの奴生きているそうだ」

 

「へえ? あれで生きてたんだ。驚きね」

 

驚きと言いつつもレモンの顔に一切の変化は無い、ヴィンデルのようにレモンもアクセルも楽観的ではない、いや百鬼帝国とインスペクターの力があればキョウスケなど敵ではないと慢心しているだけかもしれないが、ヴィンデルの考えとレモンとアクセルの考えには大きな隔たりが存在していた。

 

「武蔵が言うにはゲシュペンスト・MK-Ⅲが凄い事になっているそうだ」

 

「あれでも十分凄かったけどねぇ、でも武蔵がそこまで言うならかなり凄い事になってるのは間違いなさそうね」

 

アルトアイゼン・ギーガもかなり凄まじい性能をしていたが、それを上回る機体ともなるとソウルゲインでは完全に力不足だろう。

 

「暫く動けなくなるけど……改良する?」

 

「当たり前だろ、俺はあんな横槍での勝利なぞ認めん。真っ向から、今度こそ俺の力でベーオウルフに勝つ。レモン」

 

「なーに?」

 

アクセルが何を言おうとしているのか分かりながらも、分からないという反応をするレモンに向かってアクセルは力強い言葉を放つ。

 

「俺に今度こそベーオウルフに勝つ為の力を寄越せ、レモン」

 

「んふふ~♪ 了解、任されたわ」

 

アクセルの言葉にレモンは楽しそうに笑った。覇気と闘志に満ちたアクセルの姿はこの世界に来てから不貞腐れ、ヴィンデルへの不信感を抱き、百鬼帝国の悪逆を受け入れらず迷いを見せていたアクセルからは想像も出来ない姿だった。確かにまだアクセルは全てを受け入れたわけではない、だが改めてベーオウルフを倒すと決意を固めたアクセルに迷いは無かった。

 

(今のアクセルなら大丈夫そうね)

 

レモンとてアルトアイゼン・ギーガを見て、今のままのソウルゲインでは少々厳しいというのは理解していた。だがアクセルは良いも悪いも己の感情に左右される男だ。ヴィンデルへの不信感や、百鬼帝国への不満と言う迷いを抱いているアクセルにはゲッターD2や百鬼帝国の技術を元に作り出した新技術を組み込んだ機体を与えるのは不安があったが、今のアクセルならば大丈夫だと確信したレモンは頭の中に描いていた改良案を組み込んだ新型のソウルゲインを組み上げる事を決めた。

 

「さてと、じゃあその為に宇宙へ行きましょうか、はいはい、そんな嫌そうな顔をしないの」

 

インスペクターのいるホワイトスターへ向かうと聞いて嫌そうな顔をするアクセルだが、ヴィンデルの所為で龍王鬼の庇護を得れなくなったシャドウミラーが身を守るには宇宙へ向かうしかなく、ブリッジから響く量産型Wシリーズの警告を聞きながらアクセルとレモンは格納庫を後にするのだった……。

 

 

第200話 時の迷い子 その2へ続く

 

 




今回はシナリオ回なのでやや短めでした、味方の強化フラグも出来ましたがアクセルの強化フラグも成立したので状況的にはイーブンでしょうね。次回はラウル達との話し合いと味方ユニットの強化の話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第200話 時の迷い子 その2

 

第200話 時の迷い子 その2

 

ゲッター・トロンベから降りた武蔵は同じくエクサランス・フライヤーフレームから出てきたラウルと再会を喜んでいた。

 

「ラウルッ! 良かった……無事だったんだな。時流エンジンが暴走したとかで消えちまって、心配してたんだぜ」

 

「俺達もあれは想定外だったんだ。それよりもトレントが見えないって事はやっぱりここは……俺達のいた世界じゃないんだな?」

 

ラウル達のいた世界……アクセル達風に言えば「向こう側」の世界の海辺はアインスト・レジセイアへの変異途中の巨大アインスト、邪悪な大木トレントの名を与えられたアインストで埋め尽くされており、別の国に向かうにはトレントを突破しなければならない。だが、突破したら突破したで待っているのはアインストやインベーダーに寄生された空母や潜水艦の群れ、必然的に人類は移動手段を大幅に制限される事になった。

 

「ああ。オイラ達がラウル達のいた世界にくる前にいた世界なんだが……」

 

武蔵はそう言いながら振り返り、その動きにつられてラウルも周囲を見渡す。2人の目の前に広がるのは百鬼獣やメカザウルスの残骸、そしてシャドウミラーが運用していた量産型Rシリーズの残骸の数々だ。

 

「かなり不味い状況みたいだな」

 

「おう、宇宙はインスペクターと鬼のクソ共に抑えられてる上にアインストとインベーダーまで出没しやがる。なら地上って言えば、最近はメタルビースト・SRXの進化態が目撃されるわ、わけの分からん化け物は出るわで地獄絵図だ」

 

 

武蔵からの簡単な事情の説明にラウルが絶句する。あちら側と状況は似ているが、武蔵達の世界の方が遥かに酷い状況だった。

 

「詳しくはイングラムさんに聞いて欲しいし、そっちの要望もイングラムさんに言って欲しいんだけど良いか?」

 

武蔵は自分に決定権は無く、イングラムと話して欲しいと告げ、R-SWORDから降りてくるイングラムへ視線を向ける。

 

「……分かった。武蔵1つだけ聞いて良いか? フィオナは見てないか?」

 

「……悪い、見てない。ここに来たのも妙な胸騒ぎがしたからで、まさかラウル達に会うなんて思って無かったんだ。悪いな」

 

「いや……俺こそ悪い」

 

もしかしたらフィオナを見てないかと期待し武蔵に問いかけたラウルは、武蔵の返答に表情を曇らせる。

 

「ラウル達が生きてたんだ。フィオナも生きてる! 絶対生きてるさ! 諦めるには早いぜ、ラウルッ!」

 

「武蔵……そ、そうだよな。フィオナも生きてるよな、絶対。ありがとう、武蔵。少し元気が出た」

 

武蔵の不器用な励ましにラウルは笑みを浮かべ、不時着しているレイディバードに視線を向ける。

 

「ラージとミズホも一緒に話を聞きたいんだ。俺達はチームだから、俺1人じゃ決められない」

 

「ああ、それで構わない。だが俺達も時間がさほどあるわけではない、与えられる選択肢はさほど多くないぞ」

 

イングラムの鋭い視線にラウルは小さく息を呑み、分かりましたと強張った声で返事を返し武蔵とイングラムをレイディバードの中へと招き入れるのだった……。

 

 

 

 

短い間だがラウル達はイングラム達と行動を共にしていた。見知った顔であるイングラムと武蔵の姿にミズホは安堵の表情を浮かべ、警戒心の強いラージもほんの少しだけ肩の重荷が下りたような表情を浮かべる。

 

「悪いが安堵している時間はない、そして長く話をしている時間もない。お前達に与えられる選択肢は2つ、俺と武蔵と同行するか……この世界の全てから追われ続けるかだ」

 

「ちょ、ちょい。イングラムさん、もうちょっと言い方ってありませんか!?」

 

あんまりなイングラムの言葉にラウル達が絶句するのを見て武蔵が慌てた様子で口を開くが、イングラムはそれを手で制する。

 

「少し黙っていろ、ラウル達も馬鹿じゃない、あの地獄で生き抜いていたんだ。歯に衣を着せるよりもストレートに言われた方が良い、違うか?」

 

イングラムの問いかけにラウル達は頷く。人の命が簡単に吹き飛ぶ、インベーダーとアインストが闊歩する地獄となった地球でラウル達は生きていた――裏切りは当たり前、所属していた軍でさえ信用出来ず。同じ生き残りの人間同士であったとしても騙し、ほんの僅かでも生き延びようとする。裏切り、騙しあいが当たり前の中でラウル達は誰が敵で、誰が味方かを見抜く眼力は十分に磨かれている。そんなラウル達から見てもイングラムと武蔵は十分に信用出来る人物であり、実質選択肢が1つしかないとは言え……自分達に選ぶ権利を与えようとしたイングラムの不器用な優しさはラウル達にも十分に伝わっていた。

 

「良し、では現状を説明する。ただこの世界は現状あちら側よりも遥かに不味い状況になっているという事を覚悟してもらいたい」

 

ラージ達が頷いたのを見てイングラムはこちら側の世界――即ちフラスコの世界の現状の説明を始めた。

 

アインスト・インベーダーに加えて、本来の目的を成し遂げる為に敵に回ったヴィンデル率いるシャドウミラー隊、それらに加えてラウル達の世界の崩壊の始まりだったインスペクターの襲来、かつて旧西暦に存在した地球を支配しようとしていた百鬼帝国の復活、そしてそんな百鬼帝国に利用されている軍上層部と政治家、ラウル達に襲い掛かってきていた謎の勢力、地球の守人を名乗る謎の組織バラル……そして人造メタルビーストを運用しているであろうアースクレイドル勢力……。

 

「見事に敵ばかりですね……言葉がありませんよ」

 

「だろうな、俺が同じ立場でもきっとそう思うだろう」

 

宇宙を押さえられ、本来味方である筈の軍や政治家の中にも鬼がまぎれ、信用出来る者は極僅か、補給すらままならない――余りにも絶望的な状況に陥っているイングラム達にミズホは言葉すら出ないようで蒼白い顔で絶句していた。

 

「イングラム少佐、あんた達に同行したとして……俺達はどうなる?」

 

「そうだな……現状を言えば保護と言う形にはなる。ラウル達はインベーダーとアインストとの戦いには慣れているが、現在の敵はお前達が知る敵よりも遥かに厄介だ。前線に配置するという事はないということは言える」

 

前線に配置する事はないと聞いてラウルとミズホに僅かに安堵の表情が戻るが、逆にラージの顔は険しい物となった。

 

「貴方達の目的は時流エンジンですか?」

 

時の流れをエネルギーに変換し、理論上は無限動力である時流エンジンが欲しいのかとラージが問いかける。タイムマシンと言うありえない物を作ろうとした自分達の父を否定し、安定したエネルギー供給システムとして設計したラージにとって、自身が巻き込まれた空間転移は認めたくない悪夢のような光景だった。そしてその力を欲して接触して来たレモン達――時流エンジンはラージ達にとっての生命線であると同時にラージ達を危機に晒す爆弾とも言える。

 

「そうだな、必要と言われれば時流エンジンは必要だろう。インベーダーやアインストだけではなく、百鬼獣にも有効打を与えられる。それらの敵にして効果的な攻撃手段が限られている以上時流エンジンの力は非常に魅力的だ」

 

「……だとしたら僕達は「だが現状は必ず必要と言う訳ではない、時流エンジンは完成には程遠い未完成品だ。我々は現在マグマ原子炉、ゲッター炉心と言った旧西暦の遺産を実用段階にする為に研究を重ねている――不安定な動力に固執する必要はない」

 

面と向かって不安定な動力は必要ないと言われ、ラウル達は何とも言えない表情を浮かべるが、安定して動力を確保出来ない以上時流エンジンは百鬼獣などに有効打を与えられたとしてもそこまでの価値はないのは紛れもない事実なのだ。

 

「……面と向かって言われると中々きつい物がありますね」

 

「だがそれが現状だろう? 俺達と共に来ればビアン博士に助言を得ることも出来るだろうし、外のゲッターザウルスのパイロットも非常に優秀なエンジニアでもある。時流エンジンを完成させるのも夢ではないだろう。お前達を利用することになるが、お前達にも恩恵はある。インベーダーや鬼に囚われ人間として死に、心からあいつらに協力する訳でなく、俺達を利用しながら時流エンジンを完成させる事も出来るだろう。だが俺達に必要なのはタイムマシンではなく、地球を人類を脅かす存在を退ける為の力だ。時流エンジンを悪用する事はないと約束しよう。武蔵、行くぞ」

 

「え? えっと?」

 

「俺達がいては出来る話もないだろう? お前達は3人で話し合って決めてくれ、俺達は1度ハガネに連絡を取り、帰還予定時間を伝えることにする。捜索隊でも出されては一網打尽になりかねないからな」

 

一方的に情報を与え、自分達で考えろと告げて突き放す。自分達が置かれている現状を理解させる。保護を受ける為の物もある。だがそれを決めるのは自分達であるという事を強く認識させ、ここも安全ではない事を教え冷静な思考を奪う。決して褒められた思考誘導では無いが、敵にラウル達が捕えられた場合途方もない脅威が生まれかねない。だが無理に連れて行けば反発される可能性がある――イングラムとしては自発的にラウル達に同行すると言う言葉を言わせようとしているのだった……。

 

 

 

 

 

イングラムと武蔵と同行するか話し合って決めてくれと言われたラウル・ミズホ・ラージの3人だが、実質選択肢は1つしかないのだが……。

 

「どうして反対するんですか、ラージさん」

 

「そうだぞ。ラージ、武蔵達に同行する方が安全じゃないか」

 

ミズホとラウルの2人は武蔵とイングラムに同行することを決めていたのだがラージは難色を示していた。

 

「どこまでイングラム少佐達の話が本当か分かりませんからね。決断は慎重にするべきです」

 

「でもイングラム少佐達も時間がないって言ってたんですよ? ゆっくり考えている時間はないと思います。ハガネに保護してもらう方が確実だと思います。補給も修理も目処が立ってないんです、このままだと私達は確実に死にます」

 

 

百鬼獣、そしてメカザウルスと言う脅威を見ていただけに武蔵達に同行し保護して貰う方が安全であり、補給も修理の目処もない今どう考えても武蔵達に同行する以外助かる道はないとミズホはラージを説得するように言って、それに続けてラウルも口を開いた。

 

「ああ。それにこの世界も俺達の世界のような地獄にする訳にはいかないじゃないか」

 

アインストとインベーダーの出現が始まったばかり、自分達の生まれ育った地球ではないとしても、いや、自分達が育った地球はもう取り返しの付かないレベルで滅んでしまっているがこの地球はそうではない。あの地獄を見てきた者として、この地球をそうしたくないとラウルは訴える。

 

「……ラウル。この地球は僕達の地球よりも遥かに危険な状況なんです。その中で戦う事がどれだけ危険か分かっているんですか?」

 

「分かってるなんて言えないだろうな。だけどどこにいても危ないのならば……戦うしかないじゃないか」

 

どこもかしこも敵だらけで安全な場所が無いと言うのはラウル達も何度も経験してきた事だ。自分の身を守る為には、理不尽な暴力に抗う為には戦うしかないという事はラージも分かっている。

 

「……分かってはいるんですよ。武蔵達と同行する事が1番安全だと」

 

「じゃあなんで反対するんですか、ラージさん」

 

「勘違いしないでください、ミズホ。僕は決して反対しているわけじゃない、ただいくつか条件を提示し、それを飲んでもらう必要があると考えているだけです」

 

助かる為には武蔵とイングラムに同行し、保護して貰うしかないと言うのは分かっている。

 

「条件って……そんな事を言える立場じゃないだろ?」

 

「だとしてもです。まずはこの世界はどんな歴史を歩んだのか、それを提示してもらう必要があります。イングラム少佐はビアン博士と言いました、この世界ではビアン博士はDC戦争を起こしていないのか、それとも起こした上でなんらかの取引をして自分の安全を確保しているのか……僕達が知ってるくらい有名な連邦軍の兵士はどうなっているのか……知らなければならない事は山ほどあります」

 

「それは確かにそうですが……それを知る事ができれば良いんですか?」

 

「いえ、それは1番初歩的な部分です。ゲッター炉心だけではなく、マグマ原子炉……この世界特有の動力の情報提供や、僕達はこの世界に戸籍がないので戸籍を始めとした生活するために必要な身分証明書――医療を受ける為に保険証や、ああ、そうそうこの世界に僕達が存在していないのかも知りたいですし」

 

「ストップ! ストップラージッ! もう良い、もう分かった」

 

「そうですか? まだ全然初歩の部分ですが?」

 

自分達が考えている以上に――いやラージくらい考える必要があったのだと分かったラウルだが、全てを聞いている時間はないとラージの話を止めて紙とペンを手に取った。

 

「とりあえずイングラム少佐に俺達が要求する物を書いて、反応を見てみよう。いつまでもここに着陸しているわけには行かないんだし」

 

今もヴァイサーガとゲッターザウルスに守られているのを見れば、ここが危険区域でありイングラムの言う時間がないという言葉にも説得力があり、ラージもその通りだと頷き、イングラムへと渡すラウル達の要望を手早く紙にメモする。

 

「じゃあ私はイングラム少佐を呼んできますね」

 

「ああ。その方がいいと思う、嫌な感じだ」

 

「ですね、少々回り道をしすぎたかもしれません……」

 

アインストとインベーダーが闊歩する地獄で磨かれた危機察知能力が自分達に迫る何かを感じていた。

 

「これがお前達の要望だな。可能な限り飲ませて貰うが……時流エンジンに関しては一部の指揮官には伝えさせて貰うぞ」

 

「……分かりました。流石に全部の要望を飲んで貰えるとは思ってないですから」

 

「悪いな、だが保険証やお前達の身の安全は約束しよう。それとお前達の素性を隠す必要はない」

 

「それは何故ですか?」

 

「旧西暦から来た奴に異世界を流離っている奴に死んだはずの死者がいるんだ。平行世界の人間だからとお前達を拒む者はいないと言うことだ」

 

「あ、オイラとか、コウキとかラドラですね」

 

「そういう事だ。素性を隠すよりも明らかにした方がお前達にとっては良い方向に行くだろう」

 

不安はあったが、隠す方が不味い事になると強い口調で言うイングラムにラウル達は分かりましたと返事を返す。

 

「確保したいくつかの動力を搭載次第出発したいのだが良いな?」

 

武蔵やイングラムの鋭い視線を見て、2人も自分達も感じている何かを感じているのだと理解したラウル達はイングラムの言葉に頷き、確保したマグマ原子炉や量産型Rシリーズをレイディバードへと搭載し、追っ手が現れる前にその場を後にするのだった……。

 

 

 

 

宇宙でも地球でもない、人間が観測する事が出来ない亜空間――ありとあらゆる法則が通用しない異空間で手足にアインストが融合し始め、頭部とコックピットブロックしか残されていないヴァイスリッターの前に浮かぶペルゼイン・リヒカイトの胸部のコアから、アルフィミィが姿を現す。

 

「……多分聞こえていないと思いますが、ここにいれば安全ですのよ。エクセレン」

 

アルフィミィは返事を求めているわけではない、ただここへエクセレンを連れてきた者としてアルフィミィなりにエクセレンを守ると言う意志があるという事を呟いただけだ。

 

『安全……って言うなら……なんで……閉じ込める……真似するの?』

 

「……驚きましたの、まだ意識があったんですのね」

 

ノイズ交じりだがエクセレンから返事があったことにアルフィミィは目を丸くして驚いた様子を見せる。

 

『……結局……何が……したいの? 死んでも……生き返るって言ってたのに……殺して……ないし……』

 

アルフィミィは終始死んでも生き返るから大丈夫だと言って、キョウスケとエクセレンをアルフィミィは何度も殺害しようとした。それなのに拉致したくせに殺さない、アルフィミィが何をしたいのか判らないエクセレンは全身に走る痛みに顔を歪めながら問いかける。

 

「……私はキョウスケにもエクセレンにも死んで欲しくないんですの」

 

『……言ってる……事……矛盾……してない?』

 

「……状況が変わりましたの、このままではキョウスケもエクセレンも死んだらそれで終わりですの……そうしたらもう、キョウスケとエクセレンは生き返れないんですの……」

 

アルフィミィがエクセレンを拉致してきたこの空間は通常のアインスト空間ではない、ゲッター炉心を取り込み進化したペルゼイン・リヒカイトが作り出した空間であり、ノイ・レジセイアもアインスト・ヴォルフも干渉出来ない断絶した世界だ。

 

「……今は眠りますの、後で……教えてあげますのよ。その後は2人でキョウスケを迎えに行きますのよ」

 

ヴァイスリッターと融合し、より強く、より頑丈に、そしてアインストと同列の存在へと作り変えていたペルゼイン・リヒカイトのアインスト細胞が脈動しコックピットまで一気にその浸食範囲を広げ、アインストの細胞がコックピットに入ってくるのを見て引き攣った悲鳴をエクセレンは上げ、アインストに寄生される前に舌を噛み切ろうとするが、エクセレンの決死の行動はアルフィミィからの精神波による干渉によって止められた。

 

「……大丈夫ですの、これはエクセレンが死なないようにする為のものですの……怖くありませんから受け入れますの」

 

足先から太腿、腰、胸とゆっくりと自分を飲み込んでいくアインストの細胞から逃れる術はエクセレンには無かった。

 

『キョウ……ス……ケ』

 

「……はい、2人で迎えに行って、3人で永遠を過ごしますのよ」

 

どこまでも悪意の無い、純粋で透き通った悪意の塊であるアルフィミィに自分が間違った事をしているという自覚は無く、これがエクセレンとキョウスケを死なせない為のたった1つの方法であると信じ実行していた。その純粋ゆえに禍々しい善意を感じながらエクセレンの全身はアインストの細胞に飲み込まれるのだった……。

 

「キョウスケ中尉。今なんと言いましたか?」

 

「全部搭載してください。ラドム博士とラルトスが作ったすべての機構をアルトへ」

 

「ワォ、やっぱりラルちゃんの聞き違いじゃ無かっタ! キョウスケ中尉も狂ってるネッ!!!」

 

アルトアイゼンの後継機へ搭載する新機構は1つでも常人では耐え切れない物だ。だがキョウスケはそれを全て搭載してくれと告げ、その余りにも狂った発言にラルトスは腹を抱えてケラケラと楽しそうに笑う。

 

「正気ですか? 出撃する度に命を削るような物ですよ? 万全であったとしても2つ、今のキョウスケ中尉では1つでも耐えれるとは思いません」

 

マリオンの計算では、万全のキョウスケならば2つまでならば新機構は使いこなせる筈だった。だがラングレー基地でアクセルとソウルゲインに与えられた傷は深く、通常のアルトアイゼンですら傷口を開き、キョウスケを死なせかねない状況だとマリオンは説明する。

 

「構いません。己の命を気にしていては取り返せる者も取り返せない、命を賭けてやっと手が届くのです。奪われた者に……」

 

アルフィミィに連れ去られたエクセレンを取り返すには、命を削らなければ届かないと言うキョウスケの言葉に、マリオンは深い溜め息を吐いた。

 

「何を言っても無駄ですのね?」

 

「ええ、俺はもう覚悟を決めてる。己の命を惜しんでいては届かない境地がある」

 

地球を守る為、キョウスケ達を守る為にセプタギンに特攻したイングラムと武蔵。もう足手纏いにならないように己を鍛え上げて来たつもりだったが……ラングレーの戦いでキョウスケは痛感したのだ。己の無力さを……そしてそれはエクセレンを奪われた事でより強い物になった。

 

「分かりました。貴方の要望通りにします。乗りこなせない等と言う言葉は聞きませんわよ」

 

「元よりそんなことを言うつもりはありません」

 

キョウスケの強い意志が込められた目を見てマリオンはラルトスへと指示を飛ばす。

 

「全部積み込みますわよ、ゲッター合金を使った装備から、百鬼獣を解析して作り上げた新機構、片っ端から全部MKーⅣに搭載しますわッ!!」

 

「OKネッ!! ヒャッホーッ!! 楽しくなってきたヨーッ!!! 全員集ゴーッ!!」

 

興奮した面持ちで全員集合と叫んで駆けて行くラルトスの姿にキョウスケは一瞬早まったか? と思ったが1度口にした言葉を無かったことに出来るわけも無く、またここで怯んでいては控えている戦いに勝つことは出来ず、エクセレンを取り返す事も出来ない。ここで立ち止まっている時間はキョウスケには……いや、ハガネ、シロガネ、ヒリュウ改、クロガネには無く、前に進む道しか残されていないのだった……。

 

 

 

第201話 時の迷い子 その3へ続く

 

 




ちょっと強引だったかもしれないですが、ラウル達も仲間入りです。次回からはオリ機体や機体改造の話をメインにして行こうと思います。少し短くなるかもしれませんが、頑張っていこうと思います、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


デルフィングが今回のSSRでHP5万越えのカウンター持ちになると聞いてガチャをしてきました

結果は

デビルフラッシュ
ワールウィンド
ジーグブリーカー【新】

でした

まずまずだけど違うそうじゃないでした……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第201話 時の迷い子 その3

第201話 時の迷い子 その3

 

ハンガーに固定されている新しいアルトアイゼンの異様な姿に格納庫に来ていたイルム達は足を止めた。ギーガの段階で大分あれだったが、それを上回る姿をしているアルトアイゼン・リーゼの姿にはマリオンの改造をマ改造と言って受け止めている面子でさえ思わず硬直する物だった。

 

「おいおいおい、完全にPTサイズじゃねえ別物になってるじゃねえか」

 

PTの平均的な全高は約20m前後だが、今ハンガーに固定されているアルトアイゼンは30m後半でありとてもPTを呼べるサイズではなかった。

 

「これが今の俺に必要な力ですよ。イルム中尉」

 

「うおッ!? きょ、キョウスケ? だ、大丈夫なのか? それは」

 

キョウスケに声を掛けられ振り返ったイルムは思わず仰け反った。何故ならば露出している部分は全て包帯塗れ、しかもその包帯も真紅に染まっており夜に見れば悲鳴を上げそうな姿をしていたからだ。

 

「ええ、問題ありません」

 

今にも死にそうな姿で包帯を真紅に染めながら大丈夫と言うキョウスケにイルムはドン引きしていた。だがキョウスケの言う必要な力というのも分かっていた。

 

「アインストにインベーダー、インスペクターに鬼……化物と戦うにゃ、こっちも規格外の機体を使うしかねぇって事か」

 

これが普通のPTや特機との戦いならばこれほどまでに過剰な改造は必要ないだろう。だがイルム達が戦う相手は人智を超えた化け物であり、生半可な機体では戦う土俵にすら上がれないのが現状なのはイルムも分かっていた。

 

「それでこれはどんな改造が「それはラルちゃんが説明して上げるヨー」うおッ!?」

 

何の気配も無く突如背後に現れたラルトスの声にイルムが飛びのくとラルトスは驚いたか? と言って両手で腹を押さえて楽しそうに笑いアルトアイゼン・リーゼにダボダボの白衣の袖を向ける。

 

「アルトアイゼン・リーゼは百鬼獣の解析データとゲッター合金を一部組み込んだ最新鋭機ヨッ! ゲッター合金をフレームに使ってるかラ、驚くべき柔軟性と強固さがあるヨ! これならリボルビング・バンカーOCを連打しても全然平気ヨ! やったネ!」

 

「へーそいつはすげえな。キョウスケも安全なんだろ?」

 

「何言ってるネ? 機体が壊れないだけでパイロットが無事とは言ってないヨ? むしろ安全装置は最低限しか積んでないネ。まぁ最大50Gくらいはあると思うネ」

 

「「「うおいッ!?」」」

 

サラッととんでもない事を言うラルトスに格納庫にいた全員が突っ込みを入れる。それは生身の人間が耐えれる重力ではない、機体は大丈夫でもパイロットであるキョウスケが死ぬ可能性が極めて高いのはパイロットであるイルムや整備兵達でもすぐに分かり、今からでも安全装置を組み込めとラルトスに言うがラルトスはダボダボの袖を振って大丈夫と笑った。

 

「大丈夫ヨ~武蔵とかラドラとかコウキの機体はコンスタントにそれくらいのGが掛かってるネ。同じ人間、耐えられないわけ無いヨ」

 

同じ人間と言うのは間違いないが、身体能力が化物レベルの武蔵達と同じレベルを要求するのは余りにも酷な話だろう。

 

「大丈夫大丈夫。ちゃーんと最新のパイロットスーツを作ってるから大丈夫ヨ~んじゃ、説明に戻るネ! まずは装甲全体を空気抵抗を考えて鋭利なシルエットに変更したネ! テスラドライブとゲッター合金はあんまり相性が良くないから、機体の形状から変更したヨ! 武装面は基本的に巨大化しただけネ! でかい=パワーッ!! パワーイズジャスティスッ!!」

 

「おい、キョウスケ。悪い事は言わないぞ、今からでも間に合うギーガを修理して貰え、死ぬぞ」

 

興奮して叫んでいるラルトスを見てこれはやばいとイルムがキョウスケに死ぬから止めておけと警告したが、キョウスケは獰猛な笑みを浮かべた。

 

「言ったでしょう? これが俺に必要な力だとね」

 

「正気か?」

 

「正気ですよ。これくらいでなければ龍王鬼には、アクセルには勝てない……エクセレンも取り返せない」

 

これからの戦いで立ち塞がるであろう強敵の名前とエクセレンを取り返せないの言葉にイルムは何を言っても無駄かと肩を竦めた。

 

「武装は据え置きなのか?」

 

「んーバンカーとクレイモアだけ改造したネ! 今までのオーバーチャージは機体への反動を考えてバンカー部にのみテスラドライブを搭載してたヨ、だけどアルトアイゼン・リーゼには機体各所にテスラドライブと百鬼獣闘龍鬼のデータを元にゲッター合金で作ったブースターを搭載して、テスラドライブも機体各所に搭載したネ!」

 

「……つまりどういうことだ?」

 

「理論上は何段階でも加速出来るし、直角に曲がれるって事ネ! 機体が重すぎて飛べないけド、垂直なら跳べるヨ! 後は戦闘時に機体各所の変形ネ! こうネ!」

 

ラルトスがコンソールを操作するとハンガーに固定されていたアルトアイゼン・リーゼの機体が少し変形を始める。両肩のクレイモアが垂直から僅かに斜めに稼働し、背部と肩部に折り畳まれていたウィングが展開される。

 

「これだけか?」

 

変形と呼べるほど形状が変わっていないと表情が物語っているイルムにラルトスは分かってないネと言わんばかりに指を左右に振った。

 

「リーゼ本体の変形は空気抵抗とフレームが壊れないレベルの変形ネ! ここにギーガユニットの予備と新型のフライトユニットを組み合わせたネオ・ギーガを装着して更にドンする予定ネ! 今のリーゼは素体だけド、最終的にはもっと重装甲になるシ、ソニックブレイカーとテスラドライブを姿勢制御と相手との距離を最短距離で詰める為に使えるようになるネ! ただネオギーガユニットは間に合いそうに無いのが悲しいネ……」

 

今のアルトアイゼン・リーゼですらかなり大型なのに、それにギーガユニットとフライトユニットを組み合わせた追加装甲まで搭載する予定と聞いたイルムはこれ以上聞いていると頭が痛くなりそうだと呟き、シュウがテスラ研から連れてきたグルンガスト改造チームの元へと向かい絶句した。

 

「……お、お前ら……な、何でグルンガストバラバラにしてんだ?」

 

自身の相棒であるグルンガストが頭部・胴体・肩部・腕部・腰部・脚部と見事にバラバラにされ、ハンガーに吊るされている姿を見れば流石のイルムも絶句し、声が震える。

 

「あ、イルムガルト中尉。所長からの改造案でして」

 

「親父の? いやだからってなんでバラバラにしてんだよッ!? 敵が来たらどうする……なんだ、そのやべえって顔はッ!?」

 

父親であるジョナサンの改造案だからと言っても、何時敵が襲ってくるか分からない中でバラバラにしてどうするっと言うイルムの言葉にテスラ研の開発チームはいま気付いたという顔をし、イルムは思わず額に手を当てて天を仰いだ。

 

「イルムガルト中尉。勘違いしないで欲しい、何も私達は忘れていたわけではない」

 

「何をだよ、と言うかお前テスラ研の特機の開発チームの主任だよな? なにやってたんだこんな所で。……まぁ良い、言い分は聞こうじゃねえか」

 

あれだけしまったって顔をしておいて何を言っていると思いながらもとりあえず、言い分は聞くことにした。

 

「確かに敵の強襲という可能性は私達の頭の中にほんの少しだけありました」

 

「おいッ! ここ敵の勢力圏のど真ん中だぞッ!?」

 

「ですが「聞けよッ!!」所長の改造案を実行するという考えの方が遥かに私達の頭の中を占めていました、大きい=パワー、そして大きい=強いです」

 

ラルトスのような事を言い出した主任にイルムは絶対にジョナサンに文句を言う事を心に決めた。

 

「ですがグルンガストの変形機構を無くしては意味がない。だが今のままでは勝てない、しかし新型を開発している時間はないならば……各部を延長して、下駄やグローブを履かせればいいとなったのですッ!!」

 

「悪い、お前がなに言ってるのか俺にはわからねぇ……なんでお前らが信じられねぇって顔をすんだよ、信じられねえのは俺だよッ!」

 

「なんでスーパーロボットに乗ってるのに分からないんですか? でかい=強いなんですよ?」

 

「分かるかッ!!!」

 

理解を求められてもイルムには理解出来ない話だった。これがリュウセイだったら意気揚々と同意するだろうが……イルムにはスーパーロボットのロマンが理解出来ていなかった。

 

「折角ビアン博士も協力してくれたのに」

 

「コウキ博士とラドラ少佐も手伝ってくれたってのにさ」

 

「なんで文句を言うかなあ」

 

「なんで俺が悪いみたいな雰囲気になってるんだ!?」

 

極めて正論を言っている筈なのに責める様な雰囲気になっているグルンガストのハンガーに1台の運搬車が停車する。

 

「おーい、テスラ研から持って来たグルンガストの延長パーツ持って来たぞ」

 

「ひゃあッ! 待ってたぜッ!!」

 

「ドリルは! 俺の作ったドリルはッ!?」

 

「馬鹿野郎、搭載するのは俺の作ったレールガン、そうだよな?」

 

「どっちも置いて来た」

 

「「あんまりだああああッ!!!」」

 

泣き崩れ拳を格納庫の床に叩きつける開発チームの姿にイルムはもう何を言っても無駄だと悟った。ブリットのヒュッケバインを改造した頃から怪しかったが……マリオンとラルトスに触発され常識と言うものを投げ捨てた奴らに何を言っても無駄だと理解してしまったのだ。

 

「……1つだけ聞く」

 

「なんですか?」

 

「こいつが仕上がれば俺は足手纏いにならないか?」

 

イルムとてL5戦役の武蔵とイングラムの特攻は深い心の傷となっている。己の無力さ、足手纏いにしかならなかったという事実……必死に鍛えたつもりだがまだ力はまるで足りていない、このままではまた足手纏いになる。そんなのはごめんだと、今度こそ最後まで共に戦う事は出来るか? と言うイルムの問いかけに開発主任は力強く頷いた。

 

「なりません。百鬼獣にも遅れを取る事はないと断言します」

 

「……なら良い、完璧に仕上げてくれ」

 

その自信に満ちた表情を見てイルムは今度こそ言葉を失い、任せたとだけ告げてグルンガストのハンガーに背を向ける。

 

「イルム中尉! シュミレーターのプログラムです。1度試しておいてください!」

 

「ありがとよ」

 

投げ渡されたグルンガスト・改のシュミレータープログラムの入ったUSBメモリを受け取ったイルムはそのままシュミレータールームへと足を向けるのだった……。

 

 

 

 

 

タスクからヴァルガリオン・ズィーガーが完成したと言う連絡を受けたレオナはクロガネの格納庫を訪れ、ハンガーに固定されているヴァルガリオン・ズィーガーを見てその目を見開いた。

 

「これがズィーガー……」

 

「へへ、良い仕上がりだろ。ま、ラドム博士の設計からは随分と違う仕上がりになったけどな」

 

ユーリアのヴァルキリオン、そしてレオナが乗っていたガーリオンを組み合わせ、そこにアステリオンの稼働データを基に作った新型の装甲や、ビルトビルガー・ビルトファルケン、そしてヴァイスリッター改に使われている可変翼――ハガネ、ヒリュウ改に配備されている飛行系のPTの技術を惜しげも無く使い、フレームの基礎こそガーリオンだが、装甲のベースは戦乙女の名を冠したヴァルキリオンの為ガーリオンの重厚なシルエットとは異なり、細身で女性的なシルエットになりつつも装着している装甲によって勇ましさと美しさも兼ね備えている白銀のカラーリングと相まってその姿は戦乙女その物だった。

 

「これほど美しいAMを見たのは初めてですわ、ありがとうタスク」

 

「お、おおッ! 気に入ってくれて嬉しいぜ、レオナちゃん」

 

レオナのストレートな感謝の言葉にタスクは驚きながらも微笑み返したが、レオナと見つめ合ってるのが妙に気恥ずかしかったのかいつものように余計な一言を口にしてしまった。

 

「本当はフェアリオンみたいにレオナちゃんモチーフにしたかったんだけどな」

 

「……そんな事をしたら許しませんわよ?」

 

「冗談、冗談だよレオナちゃんッ! 大体俺じゃヴァルシオーネの人間みたいに顔が動く機体なんか作れないさ」

 

微笑から一転し絶対零度の視線に見つめられたタスクは背筋に冷たいものが走るのを感じたが、その代りに感じていた妙な気恥ずかしさが消え冗談だよと言いはした。が、1度ビアンからやってみるかと声は掛けられたが、レオナの姿をした機体を作りそれを見られるのは流石に恥ずかしかったのか断っているのだが……レオナにタスクがそれを言う事はないだろう。

 

「じゃあ機能を説明するけど……前提としてこいつはどこまで行ってもAMだ。百鬼獣と真っ向から戦うのは不可能だ、レオナちゃんがどれだけ腕が良くても百鬼獣と真っ向からぶつかるには質量もパワーも全然足りてないって言うのは分かってるよな?」

 

「それは……分かっていますわ」

 

最新技術を詰め込んでも、PTとAMでは百鬼獣と戦うにはパワーが圧倒的に足りていないのは紛れもない事実だ。それこそ4機編成の小隊を組む事や、特機・準特機の支援を行うのがやっとだ。

 

「だからヴァルガリオンは徹底して支援をする機体だ。でもそれは百鬼獣を相手にした場合で、それ以外の相手なら全然楽勝だと思う。まずはアステリオンみたいに巡航形態への変形の追加……と言ってもバックパックがコックピットと頭部を囲うように移動してくるだけで、形状自体が変形してるわけじゃない、テスラドライブと空気抵抗を軽減するシルエットにしてスピードを上げる為のモンだ」

 

モニターに変形した姿を映し出すタスクに寄りかかるようにしてレオナもモニターを覗き込んだ。

 

「なるほど、この形態の武装は?」

 

「プロジェクトTDのCTM系列のMAPWのスピキュールとプレアディスを搭載してる、レオナちゃんが欲しいって言うならプロミネンスかセイファートも搭載出来るけど……どうする?」

 

「スピキュールとプレアディスだけで十分ですわ。それにプロミネンスとセイファートは威力の高さが売りですが、百鬼獣に通用しないなら必要ありません」

 

「OK、そう言うと思った。後はバックパックに搭載してるレールガンとか、換装装備のスパイダーネットとかが使える。巡航形態は一気に切り込んで、そのまま離脱をコンセプトにしてるから武装は貧弱なんだ。だけどその代わりにAM形態の武装は大分頑張ったぜ。まずはブレードレールガン、腰部にマウントされてる武装で射撃と斬撃が出来る武器だ」

ブレードレールガン、腰部にマウントされてる武装で射撃と斬撃が出来る武器だ」

 

「かなりリーチが短いですわね?」

 

「ああ、でもそれには理由がある。ゲッター合金製の弾頭を撃つには、銃身もかなり頑丈にしないと暴発の危険性がある。格闘戦にも使えるようにって考えるとこれくらいの長さが限界だった。リーチが短い代わりに頑丈だし、切れ味も抜群だ。ヴァルガリオンのスピードなら……」

 

「切り込んでそのまま離脱出来るって事ですわね?」

 

「そゆこと、次にヴァルキリオンのランスをラドラが改造してくれたもんで、フルンティング」

 

「ベーオウルフ叙事詩ですわね?」

 

「ああ、これはゲッター線を利用したビームカートリッジを使うためのもんだが、ビームランスとしても使えるし、念動力者のレオナちゃんなら」

 

「ランスに念動フィールドを纏わせて突撃力を高めれると……なるほど、突き刺す物とはよく言ったものですわ」

 

フルンティングは北欧語で突き刺すであるHrotを由来としており、念動力者であるレオナの特性を活かした武装と言えるだろう。

 

「んで最大の武器はガーリオンにもあったソニックブレイカーを発展したもんになる。肩部と胸部を変形させて機体前方の局所へ電磁誘導加熱した金属粒子を固定、その上で念動フィールドで固定して相手を貫いた後に金属粒子をぶっ放すッ! 完全に決まれば百鬼獣も理論上は吹っ飛ばせる武装だ。だけど……」

 

「威力は私に左右されるわけですわね?」

 

「そうなる、んで、念動力者じゃないと使えねぇ武装でもある。支援だけって言うのは柄じゃないだろ? 1個くらい百鬼獣に泡を吹かせれる武装が欲しいだろ?」

 

「良く私の事を分かっているようですわね」

 

「そりゃもう、愛しのレオナちゃんの事ですから! お礼にキスなんかしてくれちゃっても……「特別ですわよ?」……は?」

 

「ちょっ!? 自分で言っておいてひっくり返るってどういうことですの!?」

 

冗談でキスと言ったタスクだが、頬にキスされたタスクはトマトのように真っ赤になり、疲労が蓄積していたこともありそのまま後にひっくり返って気絶し、レオナが慌てて介護を始める。

 

「ちくしょう、爆発しろ」

 

「リア充死すべし、慈悲はない」

 

「なんで私達に出会いないかなあ……結構スタイルと顔に自信あるんだけどな」

 

「「「それな」」」

 

出会いがないトロイエ隊の面子は尽くしてくれる彼氏をしっかり捕まえているレオナに恨めしそうな視線を向け、深い深い溜め息を吐くのだった……。

 

 

 

 

 

ハンガーに固定されている量産型Rシリーズの姿をリュウセイ、ライ、アヤの3人が信じられないと言う様子で見つめていた。

 

「ラミア達の世界では完成していると聞いていたが、こうして目の前で見ると信じられない気持ちがあるな」

 

「メタルビースト・Rシリーズとは違うみたいだしな」

 

メタルビースト・Rシリーズと量産型Rシリーズは微細な違いがあった。メタルビースト・Rシリーズはインベーダーが寄生している為動物的な攻撃を行なう為に機体の各所がインベーダーの物に置き換わっていたが、量産型Rシリーズはしっかりと人間の技術で使えるもので構成されていた。

 

「オオミヤ博士、これでSRXの安定度は増すのですか?」

 

「ん、んーまだ調べてる段階だけど、そうとは言い切れないな。やっぱり量産型とあって廉価版だし、全部流用できる訳じゃなさそうだ」

 

イングラムが武蔵達と協力して解析用に持ち帰ってきた量産型Rシリーズはやはり量産型特有の欠点を持っていたと言うロブの言葉に、リュウセイはガッカリした素振りを見せた。

 

「なんだ、これでSRXの戦闘時間が増えると思ったんだけどな」

 

「いや、それは改善出来ると思うぞ? アポジモーターとかはRシリーズの物よりも高性能だし、冷却システムも流用できる」

 

「動力に関してはどうなのです? SRXのトロニウムに匹敵するエネルギーを生み出す動力がある筈。それに関してはどうなのですか?」

 

ライの問いかけにロブは酷く気まずそうな表情をし、ちょっと待ってくれと言って量産型R-2から引き出された何かを隠しているブルーシートに手を掛けた。

 

「言っておくが他言無用だし、このシステムはSRXに流用出来ない物だ。それと非人道的なシステムだし、俺達の中でこれを再現しようと思う者は誰もいない。それだけの代物だ」

 

何度も警告してからロブはブルーシートを引っぺがし、それを見たリュウセイ達から声にならない悲鳴が上がった。

 

「ろ、ロブ……こ、これはッ!? い、インベーダーじゃねぇかッ!?」

 

「それにあれは……アインストコアッ!?」

 

「ま、まさか……アインストコアとインベーダー細胞からエネルギーを抽出していたんですか!? オオミヤ博士」

 

機械に繋がれて干乾びて死んだインベーダーと砕け散ったアインストコアが、外装を外されたR-2の動力部に詰め込まれていた。

 

「ああ。アインストとインベーダーの再生能力を何らかの方法で動力に変換し、それが量産型SRXの動力に使われていた。トロニウムに匹敵する危険性を持った危険な動力だ。中のインベーダーとアインストコアは既に死んでいるから問題は無いさ。量産型の名前通りに量産型SRXはSRXの廉価版だ。1番欲しかった動力は全く使えない物だったな」

 

欲しかった動力はアインストとインベーダーを利用するシステムであり、どう考えてもSRXに利用出来るシステムではなかった。

 

「廉価版と言ったのですか? 聞く限りではSRXを強化するには十分な価値があったと聞こえるのですが」

 

ライの問いかけにロブは頭をかきながら勘違いさせた事を謝罪した。

 

「ああ、俺達が欲しかったのはSRXに合体した後のデータなんだ。そこら辺のデータが破損して吸い出せないんだよ、そのデータがあればかなりSRXの強化が出来るだけに残念だなってな」

 

量産型Rシリーズ自体は宝の宝庫であり、Rシリーズを強化する事は出来る。だがそれはロブを始めとしたSRX計画チームの求めていた情報ではなかったようだ。

 

「それは残念ですね」

 

「まぁしょうがない、丁寧に破壊したとはいえ鹵獲した機体だ。完全な状態でデータが手に入るとは思ってないさ、だけどRシリーズはかなり強化出来るぞ! T-LINKシステム回りやエネルギーパイプとか、制御プログラムとか、目に見えた変化はないけど確実に強くなるし、安定度が増す筈だ」

 

期待していたデータが無かった事に落胆しつつも、リュウセイ達に明るいニュースを伝えようとするロブにリュウセイ達は笑みを浮かべた。

 

「期待してるぜ、ロブ。なんせ次の俺達の敵は強敵だからな」

 

「ああ、オオミヤ博士達のサポートがなければ戦えない敵となるでしょう。ですが相手は1人、俺達との違いを見せてやりますよ」

 

「リュウセイ達なら出来るさ、チームの強さって奴を見せてやれッ!」

 

ロブの激励にリュウセイ達が力強く頷きながら返事を返すと艦内放送でブリーフィングルームに集合せよという連絡が入り、リュウセイ達はRシリーズが固定されているハンガーから背を向けて歩いてく、その姿を笑顔で見送るロブ。だがリュウセイ達の姿が見えなくなると、その顔が鬼の形相に変わった。

 

「こんなシステム、Rシリーズに……リュウセイ達の機体に組み込めるものかッ!!」

 

量産型Rシリーズ――貴重な資質である念動力者の数が限られているにも関わらず量産に踏み切り、SRXを運用できた理由……それは悪魔のような、いや、その表現すら生温い所業だった。

 

「私も流石にこのシステムを組み込む気にはならん」

 

「当たり前だ。ハミル博士、そんな事をするというなら俺はあんたを殺す。人道に反しているなんて物じゃないッ!!」

 

「分かっている。分かっているさ、念動力者の脳をクローニングして組み込む……そんな所業が許せるわけがない」

 

量産型Rシリーズのブラックボックス……その中身は念動力者の脳のみをクローニングしたものだった。理論上はパイロットに負担を掛けず、T-LINKシステムを最高レベルで稼働させるだけではなく、念動力者の補助としては間違いなく最高峰のシステムだ。

 

「脳を前提にしたシステムを流用できる訳がない、それ以外のデータ取りが済んだら量産型Rシリーズは廃棄する」

 

悪夢のシステムを目の当たりにしたロブとカークの顔色は悪い。インベーダーとアインストに制圧された地球では、ここまでしなければ戦えなかった。人の命を燃料にし動くシステムを作らなければ、人類が生き延びることも出来ない地獄――武蔵やイングラムから地獄と化した平行世界の話は聞いていたが、実際にそれを目の当たりにした衝撃は凄まじいものだった。

 

「こんな人道に反するシステムを使わなくても勝てるように、俺達が頑張らないと」

 

「科学者である俺達に出来る事は限られているが……やれる事はしよう」

 

量産型Rシリーズのシステム面の解析データを厳重なプロテクトを掛けて封印したロブとカーク。このシステムは人の目に触れてはならない禁忌のシステムであり、存在してはいけない物として、科学者の了見として封印する判断を下した。だが科学者の全てがロブ達のような決断を下せるわけではない。

 

「んふふー博士ぇ~捕まえて来たよ~」

 

「ユルゲン博士。今回は若いホームレスを多く確保する事が出来ました」

 

「ああ、ありがとう、これでODEシステムは更に発展する」

 

ホルレーと屈強な黒人男性からの報告を聞いて、ユルゲンは悪意に満ちた表情で微笑む。量産型Rシリーズに組み込まれている物とは違うが、人間をパーツとして利用する悪魔の研究はこの世界でも確かに根付き、そして芽吹きの時を待っているのだった……。

 

 

 

第202話 時の迷い子 その4へ続く

 

 

 




今回はアルト・グルンガスト・ズィーガーの改造と今後のフラグと言う構成でした。次回は教導隊チームの改造の話を入れて、ラウル達の紹介と言う感じで進めて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


PS

アスカ、シンジ、レイが真ゲッターに乗るのは解釈違い


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第202話 時の迷い子 その4

第202話 時の迷い子 その4

 

ヒリュウ改、クロガネでキョウスケ達の機体の改造が行われている中――ハガネでも機体の改造・改修作業が行なわれていた。

 

「本当に良いのか、ラドラ?」

 

「残念だがシグは完全に大破して修理の目処が立たないからな、こうなってしまえば修理の方がコストが掛かる。シグを解体してお前達のゲシュペンストの修理に回す」

 

愛着もあるゲシュペンスト・シグの修理を最初はラドラも考えたが、状態を調べれば修理が不可能なレベルの損傷を受けており、修理に掛かるコストで新型機を作れるだけの費用が掛かるとなれば愛着があるとは言え解体し、ほかの機体の強化に回した方が良いという決断を下すのは当然のは当然の事だ。

 

「悪いなラドラ。お前の相棒だったのに」

 

「気にするな、これも運命だったという事だ。それにゲッターザウルスは俺しか乗れんからな、あれを使う事にするさ」

 

ゲッターザウルスを動かすには生体パルスが必要で、体力と精神力に優れた人間しか操縦出来ない機体だ。しかも下手をすれば生命力を吸い取られて死にかねない、そういった事情からゲッターザウルスの操縦を新西暦の人間にさせるのは自殺行為である。だがゲッターザウルスの戦闘力はこれからの戦いで必要になるとなれば、ラドラがゲッターザウルスに乗るのは当然の事だ。

 

「一応俺の方で改良案を考えてみた。お前達の意見を聞かせて欲しい」

 

ラドラがコンソールを操作し、モニターに映し出されたゲシュペンスト・リバイブの改良案を見てカイとギリアムは絶句することになった。グルンガストと同じ改造コンセプトだが、全身に新規の装甲を装着し、シグのマグマ原子炉を1つ移植してツインドライブにする。でかければ強い、出力を上げれば強いという子供でも考えるような開発コンセプトには、流石のギリアムも絶句することになった。

 

「……ラドラ。これは真面目に言っているのか?」

 

「真面目だが? 基本コンセプトはヒュッケバインのタイラントアーマーと同じだから1機分はすぐに準備できる。もう1機分はパーツから組み上げるから少し時間が掛かるが、月面攻略に出発する前には準備が出来る筈だ。だがその分余り拘った装備などは準備出来んぞ」

 

新型機を1から組み上げている時間はないので、開発段階の機体の予備パーツなどを流用するのは当然の事だ。なんせ何時鬼が月の住民を鬼に改造し始めるかどうかと言う瀬戸際だ。本来ならば操縦の癖に合せて特化型の機体に仕上げたいのがラドラの本音だが、こだわりの強いカイとギリアムの要望を全て聞く余裕は無く、機体のサイズを延長しつつ2つの反マグマプラズマジェネレーターの出力に耐えれるだけのフレームと装甲の強化を行うのがやっとだとラドラはカイとギリアムに説明を行ない、どちらから改造するかと問いかけたが、ギリアムがそれに待ったを掛けた。

 

「ラドラ。テスラ研の開発チームから何か聞いてないか?」

 

「テスラ研の……? いや、聞いてないが……少し待ってくれ、今確認する」

 

「なんだ、お前テスラ研に何か頼んでいたのか? ギリアム」

 

ラドラが受話器を手にし、ヒリュウ改のテスラ研の開発チームに確認を取っているのを見たカイがどういうことだ? とギリアムに問いかけた。その視線はまた勝手に何をしていると物語っており、ギリアムは肩を竦める。

 

「すまない、俺にも俺の都合があったんだ。ゲッターロボに始まり、恐竜帝国に百鬼帝国と次々と出現する旧西暦の脅威に対抗する為に俺も力を求めていた。そこで俺がかつて乗っていた機体の復元――いや、デッドコピーの作成をテスラ研に依頼していたんだ」

 

「お前のかつての……? あれか、お前の元いた世界に帰る為の転移の中での出来事と言う事か?」

 

「ああ、かなり複雑な事情があって話せなかったんだ。別に隠す意図があったわけではないという事は理解して欲しい」

 

イングラムと同様に様々な世界を渡り歩いていたギリアムだ。仲間と信じていても話せない事情があり、その中の1つだと分かりカイはそれ以上深追いする事はせずただ一言、大変だったなと呟いた。

 

「確認が取れたぞ、ヒリュウ改に運搬されているテスラ研のコンテナにギリアムの頼んでいた物が未完成だがあるらしい、お前はこれを元に改造して欲しいと言うことか?」

 

「ああ。お前のシグユニットとタイラントアーマーのスペアと組み合わせれば十分に可能だと思うが……無理か?」

 

不安そうなギリアムの問いかけを聞いたラドラはギリアムの胸を叩いて笑った。

 

「げほっ、な、何をする……ラドラ」

 

「そこまで心配そうな顔をするな。ここまでパーツが揃っているんだ、問題なく仕上げてやるさ。カイもギリアムと同じ改造案で良いな」

 

「ああ、それで良い。ただ射撃武器はそこまでいらん、射撃武器を内蔵する位だったらブースター等を増設してくれたほうが俺の好みだ」

 

「それくらいなら問題ない、その方向性で改造しよう」

 

射撃武器のスロットを減らし、ブースターとスラスターを増設するなら問題ないとラドラはカイの改造案を聞き入れ、コンソールに必要なデータを入力する。

 

「これでカイの方の製造は始まった。少し遅れるかもしれんが……セレヴィス奪還か、メタルビースト・SRX戦までには間に合うだろう。次はギリアム、お前だ。俺の方にデータがないからな、どんな物になるのか軽くで良いから教えてくれ」

 

「分かった。コンセプトとしては可変機構を組み込んだアーマーを装着した対多数戦を前提とした万能機だ」

 

「それはまた随分と欲張りなコンセプトだな? 変形機構と言っているがどう言う物だ?」

 

「基本はシグアーマーと同じでゲシュペンスト・リバイブに被せる形で考えている。だが使い捨てではなく再び変形できるようにして欲しい」

 

「おいおい、ギリアム。軽く言っているがそいつはかなり無茶な要求じゃないか?」

 

「そうでもないさ、元々タイラントアーマーは可変式でラドラのシグユニットも似たような機構だ。それと組み込む前提で俺も設計している何の問題もなく作れる計算だ。それに何よりも……今は様々な分野の専門家が集まっている。少々色物になったとしても俺は受け入れるさ」

 

どんな色物になっても受け入れるというギリアムの視線の先では、地獄の宴が繰り広げられていた。

 

「ヒャッハアアッ!!!」

 

「あはは。あはははははははッ!!!」

 

「凄いどんどんインスピレーションが沸いてくるッ!!!」

 

「ふっはははッ!!! はははははははははッ!!!」

 

ゲッター炉心、ゲッター合金、ゲッターザウルス、マグマ原子炉――本来新西暦に存在しない数多のオーバーテクノロジーを前にシュウが連れて来た科学者とビアンの頭の螺子が吹っ飛び、高笑いをしながら何かを作り上げ、あるいは設計を続けている。

 

「少しどころかとんでもない色物になるぞ?」

 

「俺は全てを受け入れると決めた。何の問題もない」

 

ギリアムが設計し、テスラ研に託したデータ、そしてマグマ原子炉を調整出来るラドラとギリアムの他の世界の技術に完全にハイになっているビアン達が作り出すであろう何かは、恐らくマ改造を超える何かになるのは間違いない事実であった……。

 

 

 

 

カチーナはハンガーに固定されている改造された自分専用のゲシュペンスト・MK-Ⅲを見て満足そうに頷いていた。

 

「良い仕上がりじゃねえか、こいつらなら多少の無茶も聞きそうだ」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲの戦闘データを元に再設計されたフライトユニット搭載機の第1号機――それがカチーナのゲシュペンスト・MK-Ⅲだった。

 

「これが新型のフライトユニット……ゲシュペンスト・MK-Ⅱの時よりもかなり大型だな」

 

「百鬼獣と戦う前提の装備なのね」

 

「おう、ブリットとクスハか、お前らも見に来たのか? あたしのゲシュペンストを」

 

新型のフライトユニットを装備しているという事で整備班やパイロットが次々見に来ており、その都度カチーナは満足そうな表情を浮かべていた。元々新型機や試作機のテストパイロットになる事を望んでいたカチーナだが、その性格上貴重な試作機や新型機を壊しかねないという事でテストパイロットから外されてきたが、百鬼獣という人智を越えた脅威と戦うにはカチーナのような未知の存在とも恐れずに戦闘を挑む事が出来る強い精神力と闘争心が必要とされた結果が、この試作型のフライトユニット改め、フライトアーマーを装備したゲシュペンスト・MK-Ⅲのテストパイロットだった。

 

「装甲を強化しつつ、攻撃力と防御力を格段にUPさせたらしいぜ? んでガンドロのシーズアンカーがあたしは気に入ってたんでな、そいつも装備してもらった」

 

PTサイズのジガンスクード・ドゥロとも呼べる姿をしているゲシュペンスト・MK-Ⅲを見上げて自慢げな表情をしているカチーナに、ブリットとクスハは思わず苦笑を浮かべる。ご機嫌な様子のカチーナだが、その姿は新しい玩具を自慢している子供のように見えて、どこか微笑ましい物があった。

 

「だがこいつでも百鬼獣とはタイマンを張れねぇ。ったく理不尽だよな。どんだけ頑張っても敵の方がずっと先にいるんだぜ? 本当勘弁してくれって思うぜ」

 

何時も強気なカチーナの弱音にブリットとクスハは驚いた表情を浮かべた。

 

「あたしだって人間さ、弱気になる時もある。だけどな、そりゃ1人で戦おうとしているからだ。サポートしか出来ねぇのはみっともねえが、頼りにしてるぜ」

 

ブリットとクスハの肩を叩いて歩いていくカチーナの姿を遠くで見ていたカーウァイは小さく笑った。

 

「どうしましたか? 大佐」

 

「荒削りだが良い指揮官だと思ってな。教導隊があればスカウトしていた」

 

「カチーナ中尉をですか?」

 

ゼンガーは少し驚いた様子でカーウァイに尋ねた。カチーナは腕は良いが命令違反の常習犯で、暴走癖がある。戦果の高さの割に中尉に留まっているのは性格的な問題がかなり大きい。

 

「ああ。私好みだ、あれくらい強気で部下を引っ張れるのは優秀な資質だ。お前達もスカウトした時は跳ね返りばっかりだったぞ?」

 

カーウァイの言葉にゼンガーは気まずそうな表情で目を逸らし、カーウァイはそんなゼンガーを見てまだ若いなと呟き、追加装甲の装着作業が行なわれているハンガーに視線を向けた。

 

「ここまでしなければならないか……かなり備えていたつもりだが……まだ足りていないようだな」

 

ゲッター炉心を搭載して、性格に難こそあれど旧西暦最高の科学者である敷島博士がゲッター合金を用いて改造したゲシュペンスト・タイプSは紛れも無く新西暦でも最高峰の性能を持つ機体に仕上がっているのは間違いない、だがそれでもまだ百鬼獣と戦うには力不足であるとカーウァイは感じていた。

 

「装甲の強化、武器の強化、機体サイズの強化……なにをしても足りない。敵は余りにも強大だ」

 

「インスペクター、インベーダー、アインスト……百鬼獣に超機人、そしてデッドマンにシャドウミラー……」

 

新西暦の技術を遥かに越えた技術を持つ者、人智を越えた能力を持つ者――人類は出来る限りの備えをし、自分達に出来る範囲で地球を守るために己の腕を磨く事も続けてきた。だがそんな努力を嘲笑うかのように敵は強大で、突破口も解決策も見えない。先の見えない袋小路、どこまで進んでも闇しか見えない絶望感……誰もがその不安を抱き、それでもなお戦う事を諦めず、前を向いている。

 

「だからと言って心を折るわけには行かない、地球を守る為に私達は戦い続けなくてはならないのだ」

 

諦める事無く、不屈の意志を持って戦い続ける事――1度剣を手に取ったのならば……その剣を手放すことは許されない。戦士として立ち上がったものはその命が尽きるその時まで、どれほどの絶望に苛まれても戦い続ける義務がある――それが一度戦うと決めた者の宿命なのだ。

 

『各員はブリーフィングルームへ集合、今後の作戦の説明を行なう。繰り返す、各員はブリーフィングルームへ集合。今後の作戦の説明を行なう』

 

「集合のようだな、行くぞ。ゼンガー」

 

「はっ!」

 

プランタジネットで負った傷はまだ癒されていない、だがカーウァイ達に休んでいる時間はないのだ。再びの戦いの時はもうすぐ側にまで迫っているのだった……。

 

 

 

 

 

ブリーフィングルームに集まれという連絡を受け、それぞれの戦艦のブリーフィングルームに来たキョウスケ達だったが、クロガネのブリーフィングルームを写しているモニターに見覚えの無い3人の姿があり怪訝そうな表情を浮かべた。

 

『彼らについてはまず私から説明する。彼らはあちら側の世界で私達と行動を共にしていた試作機の開発チームだ。彼らの発明は様々な組織に狙われかねないので我々で保護する事にした。自己紹介を』

 

カーウァイが自己紹介するように促すとラウルが一歩前に出て頭を下げる。

 

『ラウル・グレーデンです。エクサランス1号機のテストパイロットをしています』

 

『ミズホ・サイキです。エクサランスのフレームの開発をしています』

 

『ラージ・モントーヤ。エクサランスのエンジンの開発をしております』

 

ラウルの自己紹介に続き、ミズホとラージも頭を下げて自己紹介を行なう。

 

「保護するというのは聞いておりましたが、カーウァイ大佐。彼らはそれほど重要な相手なのですか?」

 

『戦艦に残すよりも、伊豆基地で保護して貰ったほうがいいのではないでしょうか?』

 

リーとレフィーナは今後の作戦を知っているので、戦艦に残るのは危険ではないか? と進言するがカーウァイは首を左右に振った。

 

『彼らは若いがあの地獄を生きぬいたパイロットだ。アインストとインベーダーとの戦い方を熟知している、それに彼らの機体はインベーダーとアインストは勿論、百鬼獣にも有効打撃を与えれる。戦力としても、そして保護するべき民間人としても重要人物となる』

 

これから戦う相手に有効打撃を与えれる――それは今までゲッターD2やRーSWORDやゲシュペンスト・タイプSのようにゲッター線に頼りきりだった百鬼獣やインベーダーとの戦いを大きく変えるものとなる。

 

『お言葉ですが、カーウァイ大佐。まだ時流エンジンは完成しておりませんので、余り持ち上げられても困るのですが?』

 

『それは私も分かっている。だがお前達の素性は先に明らかにしておいたほうが良いというイングラムの考えには私も賛成しているからこそだ。時流エンジンには未知の部分が多いが、転移システムになりうる可能性を秘めている。それ故に保護する事を決定し、SSS機密とする』

 

SSS機密認定の技術。詮索等を一切禁じるという命令だが、転移を可能とするシステムとなればそれも納得の発明だとキョウスケ達は驚きながらも頷いた。

 

『あちら側の事を知っているので一方的にラウル達はお前達の事を知っている。互いに暫く困惑するだろうが、共に戦う仲間として互いに受け入れてくれる事を願う。レフィーナ艦長、時間を取らせてすまなかったな。作戦概要の説明を頼む』

 

『分かりました。それではこれより本艦及び、シロガネ、ハガネ、クロガネが遂行する任務の作戦概要を説明します。ヒリュウ改はこれより月へ向かい、セレヴィス、及びムーンクレイドルの奪還任務を遂行します』

 

セレヴィスとムーンクレイドルの奪還――それは月面を制圧しているしている鬼との戦いを示しており、ブリーフィングルームにいたキョウスケ達の顔色が強張る。現状月面がどのような状況に置かれているかは一切不明であり、そんな中で月面の奪還作戦を行なうのは正直無謀だが、それをする必要があるからこその決定だと分かり誰も異論を口にせずレフィーナの説明に耳を傾ける。

 

『人間を鬼に変える技術が百鬼帝国にはあります。月面の住民が今どんな状況に置かれているのかは不明ですが、ラングレー基地の戦いで鬼も少なくない被害を受けています。時間を掛ければ人質が全員鬼へ改造される可能性があるための強行作戦となります』

 

下手をすれば救助した民間人が鬼となり襲ってくる可能性があると言うレフィーナの言葉に、作戦の概要を聞いていたブリーフィングルームの面子にも強い緊張の色が浮かんだ。

 

『その可能性が極めて高いとは言え、民間人の救助を諦める訳にはいきません。僅かでも生存者がいる可能性がある以上、そしてムーンクレイドルを鬼とインスペクターに利用されない為にも月の奪還作戦は急務となります。極めて厳しい作戦となりますが……我々はこの任務を遂行しなければなりません』

 

厳しい表情のレフィーナに続いてリーが口を開いた。

 

「ここ数日地球圏でメタルビースト・SRX――いや、メタルビースト・アルタードの姿が確認されている。メタルビースト・アルタードを野放しにすればインベーダー、そしてメタルビースト・Rシリーズや、メタルビースト・SRXが出現する可能性が極めて高い。それを防ぐ為にも早急にメタルビースト・アルタードを破壊する必要がある。本来ならば全勢力をメタルビースト・アルタードに向ける必要があるが……今の我々には時間がない、地球と月に戦力を分けて同時に攻略する必要がある」

 

「リー中佐。メタルビースト・アルタードの場所は分かっているのですか?」

 

キョウスケが挙手しアルタードの居場所が分かっているのかと問いかけるとリーは首を左右に振った。

 

「メタルビースト・アルタードを捜索し、その上でメタルビースト・アルタードの破壊をするのは極めて難しいが、早急に手を打たなければインベーダーとメタルビーストの大量発生に繋がる。リスクはあるが……メタルビースト・アルタードを誘い出す術はある」

 

メタルビースト・アルタードを誘い出す術――それが何なのかブリーフィングルームにいる全員が理解した。

 

「ゲッター炉心」

 

「その通りだ。ゲッター炉心のリミッターを解除し、メタルビースト・アルタードを我々の有利な戦場に誘い出して叩く。全て計算通りに行くとは言えないが……インベーダーの習性としてゲッター線によって来る筈だ」

 

様々な問題があるが自分達に有利な場所に誘い出す事が出来れば……メタルビースト・アルタードと戦う事は不可能ではないと言うリーの言葉も分からないわけではないが――楽観的な考えと言わざるを得ない、だがそうしなければならない状況にキョウスケ達――いや、地球人類が追い込まれているというのは紛れも無い事実であり、リスクを恐れていては、逃げに回っていては……迫り来る脅威に立向かうことは出来ないのだと、この場にいる全員が理解していた。

 

「ハガネとシロガネは一時伊豆基地へ戻り、負傷兵やダイテツ中佐を送り届ける事になる。月面にはヒリュウ改、地球はクロガネで任務に当る。真に遺憾だが……ここで一時戦線を離脱することを許して欲しい」

 

リーが深く頭を下げ、謝罪の言葉を口にする。だがそれを責める者はいない。確かに戦線は離脱する。だが無事に伊豆基地に戻れるかも怪しい情勢でまともに動く事が出来ないハガネの輸送任務だ。月面に向かうヒリュウや、メタルビースト・アルタードを追うクロガネよりも遥かに厳しい戦闘になる事は分かりきっているからこそ、リーを責める者はいない、いや居る筈が無いのだ。

 

『今回は私も戦線に出ることになるだろう。戦力を出し惜しみしている場合ではないからな、ゲッターロボは積極的に運用し、鬼とインスペクターに圧力を掛けて行く事になるだろう』

 

「親父も戦線に出るなら指揮はリリー中佐が取るのか?」

 

『いえ、私はハガネの指揮を取るので違います』

 

ビアンとリリーではないのならば、誰がクロガネの指揮をとるのかと誰もが疑問を抱いたその時、シロガネのブリーフィングルームの扉が開き、ダイテツの帽子を被ったテツヤがその姿を見せた。

 

「クロガネが俺が指揮を取る。若輩の身だが……俺に皆の命を預けて欲しい」

 

凄まじい気迫と覇気に満ちているテツヤの姿に一瞬ダイテツの姿を見たショーンは、小さく微笑んだ。

 

(これならば大丈夫そうですね、ダイテツ中佐。貴方が育てた男は貴方の背中を見て立派な艦長になりましたよ)

 

その凄まじい気迫と闘志はショーンに若き日のダイテツを思わせた。今までダイテツに甘えていたテツヤではなく、自ら戦う事を決めた勇ましい姿にショーンは満足そうに頷いた。

 

「状況は決して良いものではない、インスペクター、アインストは転移能力を持ち何時奇襲を仕掛けてくるか判らない。その上アインストは地球各地は勿論宇宙にもその姿を現している。月面に向かうにも、そしてメタルビースト・アルタードを探すにも恐らく遭遇し、戦闘になることになるだろう。だがそれは敵勢力も同じ事、条件は同じだ」

 

テツヤの言い振りに最悪の予想が脳裏を過ぎりタスクが手を上げた。

 

「あのまさか……インスペクターとかシャドウミラーにアインストをぶつけてそのまま強行突破するつもりじゃ?」

 

「その通りだ。よく分かったな」

 

余りにも無謀な作戦に思える内容ににブリーフィングルームにいるメンバーが思わず絶句する。

 

「心配するな、俺も馬鹿じゃない。ちゃんと対策は練ってある。アインストもインベーダーも無差別の攻撃を行なう。確かに通常ならば我々も襲撃を受ける可能性が高い。だがアインストとインベーダーの習性――即ちゲッター線に引かれる特徴を利用すれば敵に押し付けることも可能だ。ビアン博士、そうですよね?」

 

『うむ、試作段階ではあるが……ある程度の誘導性を持ったゲッター線を発生させる機雷の様な物を作ってある。これを百鬼獣やインスペクターの機体の方に発射すれば、高確率でインベーダーとアインストは其方に誘導できる筈だ』

 

筈と付く事が不安要素ではあるが……それでも敵の動きをある程度コントロール出来るのならば敵の戦力を削ぐことも出来れば、進軍する事も出来る――不確定要素は捨て切れないが、それでも無謀な進軍ではなく、ある程度の勝算がある作戦だ。

 

『では部隊の編成を発表します。15:00までに準備を整え、搭乗してください。ではヒリュウ隊のメンバーから発表します。カイ少佐、ギリアム少佐、 キョウスケ中尉、ラミア……イルム中尉、リン社長、 カチーナ中尉、ラッセル少尉、 リョウト少尉、リオ少尉……マサキ、リューネ、 アイビス、スレイ、タカクラチーフに加えて、武蔵、エキドナ、ラドラ少佐、バン大佐、コウキ主任です』

 

「続いてクロガネ隊のメンバーは以下の通りだ。カーウァイ大佐、ゼンガー少佐、レーツェルさん、イングラム少佐、 ヴィレッタ大尉、アヤ大尉、 リュウセイ少尉、ライ少尉、ブルックリン少尉、 クスハ少尉、マイ……ユウキ少尉、 リルカーラ少尉、ラトゥーニ少尉、 シャイン王女、ラーダ……タスク少尉、レオナ少尉、 アラド曹長、ゼオラ曹長。バリソン少尉、ビアン博士、オウカ、シュウだ。各員の健闘を祈る」

 

 

第203話 魔の宇宙へ その1へ続く

 

 

 




と言う訳で今回はここまでとなります。シナリオ分岐の所なので、ちょっと短くなりましたが、強化フラグも準備出来たので良しとしてください。あとギリアムの改造はXNガイストモチーフとなりますのであしからず、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


PS

グリッドマンキャリバー狙いでグリッドマンのOPを流しながらガチャをしてきました
結果は

グリッドビーム×5(全部のステップで1枚ずつ)
ウルズストライク
紅蓮飛翔式のMAP
荷電粒子砲(初号機)


違う、そうじゃない、いやグリッドマンだけどこれは違うんだよ……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第203話 魔の宇宙へ その1

第203話 魔の宇宙へ その1

 

 

「ふむ、ラウル君達はクロガネに搭乗希望かね?」

 

「ええ。是非クロガネへお願いします」

 

ラウル達に無理強いする訳には行かず、本人達の希望によって配属先を決める事になっていたのだが、ラウル達を代表してラージがクロガネに乗るとビアンへ伝えに来ていた。

 

「理由はあるのかね?」

 

「インベーダーやアインストの戦闘データは僕達も持っていますが、百鬼獣との交戦記録は殆どないのと、ラドラさんの元でマグマ原子炉とゲッター炉心の話を聞きたいというのがあります」

 

「ふむ。分った、正し有事の際には出撃となる可能性は覚悟してもらうぞ?」

 

「勿論です、ラウル達も了承してくれているので心配ありませんよビアン博士。貴方の元で勉強させてもらいます」

 

自分達の夢の為にあえて死地へ進む者がいる中、自分達だけ安全な場所に戻る事に罪悪感……いや、死地へ向かう仲間へおいて行かないでくれと懇願する者もいた。

 

「大尉。こんな怪我なんともないんです、俺も、俺も連れて行ってください。お願いします」

 

「駄目だ。エイタ、お前は伊豆基地へ戻るんだ」

 

向かい合って立っているだけで脂汗を流し、服の下の包帯を紅く染めているエイタにテツヤは固い口調で伊豆基地へ戻れと命令する。

 

「お願いします、連れてってください。お願いします……大尉。俺も連れてってください」

 

こうしてテツヤの元へ懇願しに来た者はエイタが初めてではない、だからテツヤも非情な事を口にする事が出来た。

 

「怪我人を連れて行きクルー全体を危険に触らすわけには行かない、エイタ。今のお前は足手纏いにしかならん」

 

「ッ! 大尉……ッ」

 

「傷を治せ。俺達は必ず勝利して戻る。だからお前は傷を癒すことに専念するんだ」

 

「……りょ、了解……しました」

 

置いて行かれたくない、だが自分のせいで仲間を危険に晒すことになるとまで言われれば、エイタとしてもこれ以上無理を言えるわけが無く肩を震わせ、目に涙を浮かべながら敬礼しテツヤから背を向けて歩き出した。

 

「情だけではやってられん、艦長というのは辛いな。リー」

 

「それが人の命を預かる立場という物だ。私は悔しいが、ここで1度戦線を離れる。死ぬなよ、テツヤ」

 

「ああ。ダイテツ艦長、それに仲間を頼む。リー」

 

ここで伊豆基地へ戻るのはリーとて納得しているわけではない。だが仲間を、そして貴重なスペースノアを失う訳には行かないからこそ、リーもまた悔しい思いをしながらも伊豆基地へと戻る決断を下し、それが分かっているテツヤはあえて何も言わず、敬礼でリーを見送るのだった……。

 

 

 

 

月面奪還とメタルビースト・アルタードの撃破を同時に行う為、整備兵が慌しく物資や機体の運搬作業が進めている中……アラド達は食堂にあった。

 

 

「どうして私がクロガネ組なのでしょうか……ユーリアもエキドナもヒリュウ組なのに」

 

「武蔵も何か考えがあるんだと思いますよ、シャイン王女」

 

「そうだって、そんなに落ち込むことないって」

 

武蔵と別行動になった事に納得が行っていないシャインをラトゥーニとアラドが励ますが、シャインは不満げな表情を崩す事は無かった。

 

「セロ博士、もう動いても大丈夫なのですか?」

 

「ああ、疲れが溜まってたのと無茶をしただけだからね。少し休めば大分楽になったよ」

 

「余り無茶はしないでくださいね」

 

「分かってるさ、オウカ達にも叱られたが、ラーダにもこっぴどく怒られたしね」

 

頭に包帯を巻いた姿で笑うクエルボは邪気が落ちた様に穏やかな顔をしていたが、オウカに小声で尋ねる。

 

(今のところ大丈夫かい?)

 

(ちょっと不安です)

 

オウカとクエルボの視線の先には、シャインを励ましているアラドをジッと瞬きもせずに見つめているダークサイドに落ちる一歩手前のゼオラの姿があり、どうした物かと2人が頭を悩ませていると、食堂の扉の開く音がした。

 

「お、いたいた、おーい!」

 

「武蔵様! どうかなさったのですか?」

 

打ち上げの為にヒリュウにいなければならないはずの武蔵の姿にシャインがどうかしたのか?とさっきまでの不満顔が嘘のような笑みを浮かべながら武蔵に尋ねる。

 

「ちょっとアラド達に用があってな。それが終わったらヒリュウに移動するよ」

 

「そうですか……あの武蔵様、なんで私はクロガネなのですか? 私はお力になれませんか?」

 

「そんなこと無いって、ただ宇宙はインベーダーとか下手をしたらデッドマンが出てくるかもしれない、レフィーナさん達もその事を考えたんだよ」

 

デッドマンの思念は強力で、念動力者や感受性の強いシャイン達には天敵と言える。ストーンサークルの例もあるように宇宙はゲッター線の発生率が高く、そしてアインストやインベーダーの目撃情報も多い事から、念動力者はリョウトとリオを除き編成されていないのだ。決してシャインが足手纏いと言う訳ではなく、デッドマンの思念で精神崩壊を起させない為の措置だった。

 

「そうですか、安心しましたわ」

 

自分が足手纏いではないと武蔵に直接言われた事で胸の蟠りが解消したのか、安堵の表情を浮かべるシャインの頭を撫でて武蔵達はアラド達の座ってる机へと歩き出す。

 

「武蔵、時間は大丈夫?」

 

「んーあんまり時間はないかな、だから手早く済ませようと思う。ラトゥーニ、握手」

 

「握手? うん、分かった」

 

武蔵はそう言うとラトゥーニに向かって手を伸ばし、握手というので困惑しながらもその手を握る。

 

「次、ゼオラ」

 

「え、あ。はい」

 

ダークサイド手前のゼオラにも一切怯む事無く武蔵は声を掛け、握手を求めゼオラは困惑しつつ武蔵の手を握った。

 

「セロさんでしたっけ?」

 

「ああ。クエルボ・セロだ。よろしく」

 

名前をうろ覚えだった武蔵に、セロは嫌な顔1つせずに笑みを浮かべて武蔵の手を握り返す。

 

「オウカさんも」

 

「私もですか?」

 

オウカにも武蔵は握手を求め、オウカは困惑しつつもその手を握る。なおその後では、若干目の光を失いかけながら自分の平らな胸を見ているシャインがいるが、全員が危機感を感じて目を逸らした。

 

「ほい、アラドも」

 

「はぁ? 武蔵さん、これ何の意味が?」

 

アラドも困惑しながら武蔵と握手をし、武蔵に何の意味があるのかと尋ねると武蔵は握手をして回った右手をぐっと握り締めた。

 

「アラド達の分も朱王鬼をぶん殴ってきてやろうと思ってな。アラド達の分まであいつを見つけてボッコボコにしてくるからなッ!」

 

そう笑って走って食堂を出て行く武蔵。時間が無かったのかかなり慌てた様子で、通路から武蔵のすいませんという謝罪の声がする。

 

「気にしてくれてたんだな」

 

「うん。私達は宇宙にいけないから」

 

アラド達が朱王鬼に恨みを抱いているのは誰もが知っている。だが朱王鬼を前にして冷静さを失えば朱王鬼の思う壺だ。朱王鬼は相手の神経を逆撫でし、冷静さを失わせる事に特化している鬼だ。若く感情的なアラド達とは致命的に相性が悪いが、朱王鬼を自分達の知らない所で倒されるのはアラド達も面白くないだろうと武蔵は握手をしに来たのだ。アラド達と握手をした拳で朱王鬼を殴る為に、アラド達が感じた怒りと悲しみを、全て朱王鬼へぶつける為に、出発前で時間が押していると分かりつつ武蔵はアラド達の下へやって来たのだ。

 

「アラド、ラトゥーニ、武蔵さんって良い人ね」

 

「オウカ姉さん。武蔵さんは頼りになるいい人だよ、強くて優しい良い人だ」

 

強いだけではない、優しさも忘れる事のない武蔵の姿をアラド達は眩しそうに見つめているのだった……。

 

 

 

薄暗いネビーイームの通路を、メキボスは酷く警戒した素振りで早足でシカログとアギーハの部屋へと向かっていた。ブライの協力を得てネビーイームへと戻る事が出来たが……自分がネビーイームにいない間に、自分達を取り囲む状況が劇的に悪化している事を帰還してすぐに悟った。

 

「アギーハ、シカログ。俺だ」

 

「今開ける、ちょっと待って」

 

内側から展開されているエネルギーバリアが解除され、ゆっくりと扉が開くが完全に扉が開く事は無く、小さな隙間にメキボスは身体を滑り込ませるようにしてアギーハとシカログの部屋の中に入り込んだ。

 

「そっちは大丈夫か?」

 

「……」

 

「なんか言えやッ! シカログ、こんな状況でだんまりは止めろッ!」

 

視線だけで訴えてくるシカログにメキボスが声を荒げると、シカログは深い溜め息と共に口を開いた。

 

「状況は良くない、既にヴィガジの傷が回復している。これはありえない事だ」

 

思ったよりも低い声にメキボスは少し驚きながら、持って来ていた冷えた酒の瓶の蓋を外して焦燥感を飲み込むように酒を煽った。

 

「あたいにも頂戴よ」

 

「ほらよ、ちゃんとシカログとアギーハの分も持って来てるぜ」

 

持っていた2本の酒瓶をシカログとアギーハに投げ渡したメキボスは、机の上の大破しているガルガウの写真に視線を向けた。

 

「完全に死んでるな、普通に考えればよ」

 

ダブルトマホークで両断されたガルガウの状態は酷い物で、コックピットの僅か下を通っておりパイロットであるヴィガジが致命傷を受けているのは一目で分かる。

 

「ウェンドロ様の命令で培養液の中に入れたけど……完全に致命傷だったよ。絶対に死んだってあたいもダーリンも思った」

 

「けど、もう培養液から出て動き回ってるんだろ? ありえねえ」

 

ゾヴォークの技術を使ったとしても、命を繋げるのがやっとの筈だ。それなのにもう培養液に満たされたポッドから出て歩き回ってるのはありえない事だった。

 

「どう思う? メキボス」

 

「インベーダーに食われてるんだろうよ。じゃなきゃあれだ。何時の間にかサイボーグにでも改造されたか」

 

死んでいるはずの男が動き回る――インベーダーに食われたのか、それともサイボーグに改造されたのかというメキボスが苛立った様子でそう呟いた。

 

「サイボーグに改造された方がマシさね」

 

インベーダーに食われるくらいならサイボーグにされたほうがマシだと、ぼやきながらアギーハも酒瓶を煽った。

 

「……これからどうする?」

 

「わかんねえよ……まだ食われたって確証もねぇし、ウェンドロ様も引く気はねえだろうからな」

 

ブライから譲り受けたゲッターロボGとゲッター炉心、ゲッター合金があれば帰った所で十分な成果と言えるだろうが……それでもまだウェンドロは地球から手を引くことを考えていない。

 

「百鬼帝国が月の住人を全員鬼にするまで月を防衛しろとウェンドロ様は言っている」

 

「ムーンクレイドルとセレヴィスを防衛するのは理屈だ。だが、鬼――いや、ダヴィーンの為には死ねないぜ」

 

ウェンドロとブライの取引でムーンクレイドルとセレヴィスの一部は鬼へと譲り渡したが、それでもメキボス達の兵器の製造の拠点である事は変わりはない、それを守れという命令も分かる。だがムーンクレイドルと違って、セレヴィスは鬼の拠点となっておりそれを守れというのは筋が違うとメキボスは不機嫌そうに呟いた。

 

「鬼になったらあたい達の敵になるしね、でも命令に従わない訳にはいかないし……どうする?」

 

「分からない、俺の方が知りたい」

 

査察官として色んな星をメキボス達は侵略してきた……軍人として命令に従うのは当然だと、そして監察官としての責務として自分達を脅かす者、優れた技術を持つ星を侵略し星を発展させ続けてきた。人に恨まれもしているだろうし、憎まれてもいるのはメキボス達だって分かっている。

 

「命令なんて言うのは逃げだろうよ。俺達が滅ぼしてきた星だってよ、言い分だってあったんだ。それを聞かずに滅ぼしてきた、今度は俺達の番って言われたら嫌だとは言えねぇ。だが……化けもんに食われて、化けもんになれっつうのは話が違う」

 

メキボスは持っていた酒瓶を飲み干し、腰のポーチからある物を取り出してアギーハとシカログに向かって投げた。

 

「なにこれ? 金属片?」

 

「おいおい、貴重品だぜ? 大事に持ってろよ」

 

「メキボスこれは?」

 

「俺達をボコボコにしたゲッターロボの装甲を加工したもんだ。こんだけ高密度のゲッター線ならインベーダーに対するお守りになるだろ? 少なくとも人としては死ねる。んで御の字だ」

 

戦争を仕掛けたのだ。命乞いなんて出来る立場にないし、投降も受け入れられるなんて都合の良い事はメキボス達も考えていない……戦って死ぬのならば人として……それくらいは望んでも許されるだろうと、メキボス達はゲッター合金のペンダントを握り締めながら思うのだった……。

 

 

 

 

セレヴィスシテイ奪還の前に侵入すると言うのはキョウスケ達も聞いていたが、改めて武蔵達の考えを聞いて思わず正気か?と尋ねてしまったのはしょうがない事だろう。

 

「正気かって酷いですね、これが一番確実ってだけですよ?なぁ、コウキ、ラドラ」

 

装備の確認をしているコウキとラドラに武蔵がそう声を掛けると、コウキとラドラは点検した装備を身につけながら返事を返す。

 

「失敗の確率が増すからほかの奴が着いてきても邪魔だ」

 

「少数で忍び込む。お前達は派手に陽動してくれれば良い、丁度良い相手もいるしな」

 

まだ遠くではあるが月面の近くにアインストの姿が確認されている。その間に武蔵、コウキ、ラドラの3人が侵入し、指揮官である朱王鬼と玄王鬼を強襲……出来れば殺害まで持っていくという、作戦とも言えない作戦が武蔵達の立てた作戦だった。

 

「悪い事は言わない、もう少し考えた方が良いのではないか?」

 

「いやあ、大丈夫ですよ。慣れてますから、なぁ?」

 

「ああ、戦闘中に相手の基地に潜り込んで破壊工作など初歩中の初歩だ」

 

「俺はそう言うのは好まんが……出来ない事はない」

 

何を言っても駄目な雰囲気にキョウスケ達は言葉もない、セレヴィスシテイがどのレベルで鬼に制圧されているのかは定かでは無いが、あの巨大な都市を制圧出来るだけの鬼はいるだろう。

 

「武蔵、無理はしていないか?」

 

「全然、平気ですってリンさん。余裕ですよ、余裕」

 

余裕だと笑う武蔵達だが、鬼の生態を知っている面子は考え直せ、あるいは人員を増やすべきだと提案する。

 

「私とラミアなら足手纏いにはならないぞ、武蔵」

 

「ああ、インベーダーとは戦い慣れてる。手伝える筈だ」

 

エキドナとラミアが自分達も同行すると言う。確かにWシリーズであるラミアとエキドナは常人とは比べ物にならない身体能力を持っている。武蔵達の動きにも十分に着いて来れるだろうが……武蔵は首を左右に振った。

 

「エキドナさんとラミアさんには別のお願いがあるんです、これはエキドナさん達にしか出来ない事なんですよ。あ、コウキとラドラも同意見ですよ」

 

武蔵とコウキ、そしてラドラの3人がエキドナとラミアにしか頼めないことがあると言うのは、キョウスケ達も驚いていた。

 

「武蔵、エキドナ達にしか頼めない事って何なのさ」

 

セレヴィス侵入は3人でやるからと、何を言っても意見を変えなかった武蔵達がエキドナとラミアにしか頼めないと言うのは何なのかとリューネが尋ねると、武蔵はなんでもないようにその問いかけに答えた。

 

「ゲットマシンを持って来て貰おうと思ってるんですよ。エキドナさんはゲットマシン平気ですよね?」

 

「あ、ああ。問題ない、練習はしてる」

 

「じゃあ連絡をしたら、ドラゴン号でライガーとポセイドンを誘導してセレヴィスまで来てください。ラミアさんはザウルスのゲットマシンを2機誘導してください、残り1機は3人で乗ってセレヴィスシティの近くまで行きますから気にしないでください」

 

「分かった。少し難しいが何とかやってみよう」

 

ゲットマシンを運んできてくれというのは確かにエキドナとラミアにしか出来ない事だと、キョウスケ達も納得する事になった。

 

「でもよ、セレヴィスはかなりセキュリテイが厳重だが大丈夫か?特に武蔵」

 

「オイラはそういうのは無理なんで、コウキとラドラにお願いしますよ」

 

新西暦の機械の使い方を勉強している武蔵だが、セキュリティを解除するまでは扱いは学んでいないと武蔵が口にすると、カチーナ達が大丈夫か? と次々に心配するような声がブリーフィングルームに広がる。

 

「おいおい、セレヴィスは最新施設だぞ?鬼だってそれを利用してる筈だ。本当に大丈夫か?武蔵」

 

「オイラも馬鹿じゃないですよ、プランはあります」

 

自信満々に考えがあると言う武蔵だが、その自信満々さが逆に心配になってくる。

 

「武蔵。一応聞いておくが……その考えとはなんだ?」

 

「ユーリアさんも心配性ですね、潜り込んだら鬼の首をコキってやって服とIDカードを分捕るんですよ、後はギリアムさんと通信しながら進んでいくって感じですね」

 

あまりにも脳筋な考えにキョウスケ達がラドラ達に視線を向ける。視線でとめてくれ、考え直してくれと訴えていたのだが……。

 

「曲がり角と単独で行動してる鬼を狙うから心配ない」

 

「上の通気ダクトから強襲するのもありだ。悲鳴を上げさせる事無く一撃で仕留めるから安心してくれ」

 

違うそうじゃないとキョウスケ達は天を仰いだが、基本的にはコウキとラドラも武蔵と同じで鬼から服とIDカードを奪うという考えは変えるつもりはない様子で、何とか考え直せる方法はないかとキョウスケ達が考えているとブリッジからアインスト補足の警報が鳴り響いた。

 

『アインストを補足、パイロットは出撃準備を急いでください。繰り返します、アインストを補足、パイロットは出撃準備を急いでくださいッ!!』

 

ユンの出撃準備を求める艦内放送を聞いて、武蔵達が荷物を持って立ち上がる。

 

「よっし、行こうぜ。ラドラ、コウキ」

 

「ああ、派手に陽動を頼むぞ。俺達を捕捉されないようにな」

 

「急ぐぞ、百鬼帝国とインスペクターまで部隊を展開したら流石に捕捉されるからな」

 

ここからは時間の勝負であり、問答をしている時間はないと出撃準備を整えて食堂を出て行く武蔵達。だがキョウスケ達もそれを黙って見ている訳ではない。

 

「俺達も急ぐぞ、武蔵達の作戦が上手く行くかは俺達に懸かってるんだ。武蔵達の要望通り派手に暴れてこちら側に引き寄せるぞッ」

 

武蔵達のセレヴィス侵入が上手く行くかどうかはキョウスケ達の陽動に懸かっている。アインスト、そして戦闘の反応で出撃してくるであろうインスペクターや百鬼獣と戦う可能性も加味し、陽動班とヒリュウを防衛しながらアインストの包囲網を突破する編成を組む事になる。ヒリュウ改の最大戦力であるゲッターD2、ゲッターザウルス、轟破・鉄甲鬼がつかえないのはかなり戦力的に不安が残るが、キョウスケ達の顔に不安の色はなかった。

 

「新型のテストをするにゃぁ丁度良い、派手に行こうぜッ!キョウスケッ!」

 

「ええ。丁度良い練習相手が向こうから来てくれましたからね」

 

襲撃に間に合うかどうか不安だったが、グルンガスト改、アルトアイゼン・リーゼ、ゲシュペンスト・MKーⅢ・Gカスタムの3機の調整は完了しており、対アインスト、インベーダー、百鬼獣用の為の機体なのだから敵陣に乗り込む前にテストが出来る事は好都合だとイルムとキョウスケが獰猛に笑い、カチーナもそれに賛同する。

 

「ああ、いざって言う時に扱いきれねえじゃ洒落にならねぇからなッ!!」

 

陽動班は新型を試すためにカチーナとイルム、そしてキョウスケに加えて、マサキとリューネ。ヒリュウ改の護衛はスレイとアイビス、そしてリョウト、リオ、ラッセル、リンと言うメンバーで陽動とアインストが展開している宙域突破作戦が始まろうとしているのだった……。

 

 

第204話 魔の宇宙へ その2へ続く

 

 




今回は少し短めでしたが、ここまでです。次回は新型の戦闘描写と武蔵達のセレヴィス侵入の所までは進んで行こうと思いますのでちょっと長くなると思いますが、次回の更新もどうかよろしくお願いします。


グリッドマンガチャ最後

暗転して勝ったと思ったんですがトロンベ
確定枠はグリッドマンビームでした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第204話 魔の宇宙へ その2

第204話 魔の宇宙へ その2

 

ヒリュウ改の進路を塞ぐように展開されているアインストの群れ――クノッヘン、グリート、ゲミュートと何時も通りの軍勢……とキョウスケ達は油断すること無く、軍勢の奥に隠れるように配置されている数体のアインストを険しい目付きで睨みつけていた。

 

『キョウスケ中尉ッ! あれはッ!』

 

『動揺するなアイビス。あの中にはエクセレンは乗っていない、見せ掛けだけだ』

 

そのアインスト――純白の装甲に蝙蝠のような翼を持ったヴァイスリッターに酷似したアインストを見て動揺するアイビスに忠告するキョウスケだが、その声には隠し切れない怒気が込められていた。

 

「グルンガストもアルトアイゼンもいやがるな……ゲシュペンスト・タイプSとR-SWORDをコピーしてたとは聞いてたが、こいつは予想外だな」

 

ラングレーで出現したアルトアイゼンのコピーの出現は想定内だったが、その中にヴァイスリッターとグルンガストまで混ざっているのは想定外であり、流石のイルムも苦々しい声で呟く。すると通信を聞いていたのか、リンがグルンガスト改へ通信を繋げる。

 

『弱気だな、イルム。それなら今からでも私にグルンガストを回すか?』

 

「冗談言うなよリン。こいつは俺の機体だぜ、それにビビッてる訳じゃねえ。新生グルンガストに丁度良い敵がいるって思ったのさ」

 

グルンガストの変形機構を阻害せず機体の耐久力のギリギリまで機体各部を延長し、手足には手甲・脚甲を装備させ、胴体は既存の装甲の上から挟み込むように追加装甲を装着し機体サイズをワンサイズ以上アップさせたグルンガスト改の相手は最早PTやAM、下手な特機ですら相手が出来ない機体へと仕上がっている。

 

『余計な心配だったか、ヒリュウはこっちで防衛する。後は気にせず派手に暴れて来い』

 

「おうさッ! 武蔵達を捕捉させないように派手に暴れさせてもらうぜッ!」

 

グルンガスト改が両腕をクロスさせながら腰元に構える。

 

「行くぜえッ!! アルティメットビームッ!!!」

 

胸部の装甲が展開し、作り出された砲身から轟音と共に放たれた熱線がアインストへ襲いかかる。それを見てグリートが前に出てバリアで防ごうとしたが……強化されたアルティメットビームはグリートのバリアなどお構いなしに、グリートとクノッヘンの一団を纏めて消し炭へと変える。

 

『すげ……めちゃくちゃパワーアップしてやがるッ』

 

『半端ないね……いや、でもアインストや百鬼獣と戦うには、これくらいのパワーが必要なのかもしれないね』

 

グリートのバリアは非常に強力でビーム兵器を完全に無効化するほどの強度を誇っていた。集まれば戦艦の主砲ですら防ぐそのバリアを簡単に貫通し、消し炭に変えたその破壊力にマサキとリューネが驚きの声を上げる。その直後ヴァルシオーネの目の前を鎖でつながれた拳が通過し、闇の中から滲み出るように姿を見せたクノッヘンのコアを殴り砕いた。

 

『リューネ嬢。相手は何をしてくるか分からない、油断は命を失う事に繋がるぞ』

 

『ご、ごめん。バン大佐』

 

『構いませんよ、私はビアン総帥からフォローするように言われてますから。マサキ・アンドー、リューネ嬢の隣にいながら何を油断している、魔装機神操者と言うのは戦場で油断していても勤まるような軽い物なのか?』

 

『……悪い、俺が油断していた』

 

ネオゲッターを駆るバンの苦言に、マサキとリューネは素直に謝罪の言葉を口にする。ヒリュウの戦力が手薄になると言う事でクロガネからヒリュウに回されたネオゲッターチームは、武蔵達の抜けた穴を完璧にフォローしていた。流石に指揮を取るような真似はしないが、後方から戦況を十分に把握し万全なフォローをしていた。

 

『作戦に変更はない、フォワードは俺とイルム中尉、カチーナ中尉で務める。リョウト達はヒリュウの護衛と敵機の陽動だ、カチーナ中尉、イルム中尉もそれでよろしいですね?』

 

『かまやしねえさッ! 新型のゲシュペンストの力を精々試させて貰うぜッ!』

 

「俺もだ。とにかく悠長な事を言ってる時間はねぇ、ここで完全に物にさせてもらうぜ」

 

新型の慣熟を悠長に行っている時間はないのは言うまでもない。月面に向かえば百鬼獣は勿論、朱玄皇鬼、インスペクターに加えて、アインスト、インベーダーの出現まで考えられるのだ。武蔵達がセレヴィスに侵入する為の陽動だけではなく、機体の癖を掴む為にもキョウスケ、イルム、カチーナの3人のみをフォワードに据え、ヒリュウ改の護衛と敵の陽動に他の機体を当てることにした。この一見無謀に見える作戦もこれから戦うであろう敵の事を考えた上での最善策だった。

 

『出し惜しみはするな、この宙域のインベーダーとアインストを全てこの場に誘き寄せるつもりで陽動を行なえ。では戦況開始ッ!!』

 

戦況開始の命令を出すと同時にキョウスケの駆るアルトアイゼン・リーゼはアインスト・アイゼン、アインスト・ヴァイスへと突撃する。紅い線が宇宙に描き出されるのを見てイルムはグルンガスト改のコックピットの中で小さく笑った。

 

「冷静な振りして腸煮えくり返ってるじゃねえか……ま、俺も気持ちは分かるけどなあッ!」

 

【!!?】

 

グルンガスト改の振るった計都羅喉剣と、アインスト・ヒュッケバインの振るったビームソードがぶつかり合い火花を散らす。模造品、出来損ないと分かっていても、自分のパートナーが乗る機体がアインストによってコピーされている事にイルムの額に血管が浮かんだ。

 

「中身がねぇ、出来損ないで俺とグルンガストに勝てると思ってんのかッ!! 俺達を馬鹿にするんじゃねえぞッ! アインストッ!!!」

 

グルンガスト改の手甲が変形しながら拳を覆い、スライドした事で露出したブースターが火炎を撒き散らし放たれるときを今か今かと待ちわびる様に唸り声を上げる。

 

「ブーストナックルッ!!!」

 

グルンガスト参式、スレードゲルミルのドリルブーストナックルを参考にし、貫通力と破壊力を追求した鋭利な手甲を纏ったブーストナックルはアインスト・ヒュッケバインを胴体から貫き、その後のアインスト・ゲミュートまで貫き爆散させる。

 

「はっ、今のも避けられねえんじゃ話になんねえぜ」

 

姿形を真似した所で積み重ねた技術を真似出来ていないのならばそれは猿真似に過ぎない、姿を真似しただけで強くなったと思っているアインストの行動はイルム達、いや人間が今まで積み重ねてきた物全てを馬鹿にしていると言っても過言ではない。

 

「来いよ、本物の強さって奴を見せてやるぜッ!!」

 

【【!!】】

 

自分の前に2機のアインスト・グルンガストが立ち塞がったとしてもイルムの心に不安は無かった。姿を真似し、イルムの操縦技術を模範していたとしても、イルムの背中を様々な人間が支えている。その支えが、願いがある限りイルムの心は決して折れることはない。

 

【!】

 

「おせえッ!!」

 

アインスト・グルンガストのブーストナックルが発射される前にグルンガスト改の両目から熱線が放たれ、アインスト・グルンガストのブーストナックルが弾け飛んだ。

 

【!!!】

 

拳が吹き飛ばされた所でアインスト・グルンガストの動きが止まる事は無く、骨組みに触手を纏わせて拳を再生させ再びブーストナックルを放とうとするが……。

 

「言っただろッ!! おせえってなあッ!!」

 

増設されたブースターやスラスター、そして搭載されたテスラドライブによって今までのグルンガストの弱点であった機動力が大幅に強化され、ブーストナックルが放たれる前にアインスト・グルンガストの眼前に移動したグルンガスト改が計都羅喉剣を振るう。

 

「計都羅喉剣……暗剣殺ッ!!!」

 

【!?】

 

目に止まらない唐竹切りからの一閃にアインスト・グルンガストは防御する素振りすら見せずに両断され大爆発を起こし、もう1機のアインスト・グルンガストがその爆発の裏からファイナルビームでグルンガスト改を狙ったが、その熱線がグルンガスト改を捉える事は無かった。

 

【!?】

 

胸部が爆発し動揺するアインスト・グルンガストの胸部にはグルンガスト改が放ったクナイ型の飛び道具――ダークロックが突き刺さっていた。

 

「はっ、そんな子供騙しが俺に通用するかッ!」

 

ダークロックによって胸部が爆発し、動揺しているアインスト・グルンガストの顔面にダークロックを握りこんだグルンガスト改の右拳が振るわれ、アインスト・グルンガストの頭部は拉げ胴体から弾き飛ばされる。

 

【!!】

 

だがその程度でアインストが動きを止める訳が無く、両腕を伸ばしグルンガスト改を捕らえようとする。が、グルンガスト改の目からダブルオメガレーザーが頭部を失った胴体に放たれ、コアを破壊されたアインスト・グルンガストは大爆発を引き起こす。

 

「全然損傷なしか、親父め。とんでもねえもん作りやがって」

 

ゲッターロボの解析によって得た技術を元に新造された装甲はアインストの至近距離の爆発にびくともせず、イルムはその装甲の強度に驚いていたが、その顔に笑みは無かった。

 

(これでどこまで食い込めるんだ、もう足手纏いはごめんだぜ)

 

確かにグルンガスト改はかなりのパワーアップを果たした。だがこの力を持ってしても百鬼獣――龍虎皇鬼や、闘龍鬼、そして超機人達にどこまで近づけたのか、そしてゲッターロボと武蔵にどこまで近づけたのかと思えば、技術もクソもないアインストを倒したとしても誇れる物ではないという事をイルムは嫌と言うほど分かっていた。

 

【【【!!】】】

 

「はっ! 何体出て来てもな、超闘士グルンガストの敵じゃねえんだよッ!! この偽物野郎ッ!!」

 

今倒したばかりのアインスト・グルンガストが3体になってイルムの前に立ち塞がる。さっきのアインスト・グルンガストよりも威圧感が増しており、機体の各所も変化しより強力になっていると一目で分かるが、イルムはそれすらも好都合と考えていた。自分を真似て強くなる敵――それはグルンガスト改の熟練をしたかったイルムにとってはこの上ない訓練相手であり、アインスト・グルンガストとの戦いの中でイルムは恐ろしい速度でグルンガスト改を己の物へとして行くのだった……。

 

 

 

 

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・カスタムに求められたのはグルンガスト改やアルトアイゼン・リーゼのような突破力ではなく、量産が効き、パイロットに応じて機体性能を変化させる事――つまり究極の汎用性だった。だがそれは決して難しい事では無く、実際に汎用性で言えばゲシュペンスト・MK-Ⅲの段階でパイロットに応じたカスタム、修理、量産が可能な追加装甲にパイロットをサポートする高性能TC-OSと、ゲシュペンスト・MK-Ⅲの段階で汎用性に関してはクリアされていた。ではカスタムに求められていたものはと言えば、汎用性に加えてもう2つの要素だった。

 

「うおらああッ!!!」

 

カチーナの雄叫びを宇宙空間に響かせながらゲシュペンスト・MK-Ⅲ・カスタムが縦横無尽に戦場を駆け抜ける。

 

【!!】

 

「なめんなッ!!」

 

アインスト・クノッヘンの爪による斬撃を機体を僅かに傾けただけで回避させたカチーナは操縦桿とペダルを同時に操作し、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・カスタムの膝をアインスト・クノッヘンの顔面に叩きつける。

 

【?!?】

 

宇宙空間に響いたのは打撃音ではなく、抉り取るようなドリルの回転音――白兵戦に特化したカチーナ用のゲシュペンスト・MK-Ⅲ・カスタムの名に偽りは無く、真紅のゲシュペンスト・MK-Ⅲ・カスタムの全身が武器と化していた。膝から飛び出したドリルがアインスト・クノッヘンの顔面を貫き、そのまま容赦なく振り切られた回し蹴りはアインスト・クノッヘンのコアも貫いて破壊し、脱力したアインスト・クノッヘンは1度痙攣すると爆発する。

 

「っと、ナイスフォローだ。ラッセル」

 

爆発に隠れて突っ込んで来たアインスト・ゲミュートの胸部装甲にレールガンの弾頭が叩き込まれ、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・カスタムから引き離される。それを見たカチーナはラッセルにナイスフォローだと賞賛の声を向けるが、コックピットに響いたのはラッセルの怒声だった。

 

『カチーナ中尉ッ! もう少し周りを見てくださいッ!!』

 

「わぁってるよッ! アインストの奴らは仲間意識がなくてやりにくいんだよッ!」

 

仲間ごと、あるいは爆発に紛れての強襲は分かっていても対応がしにくい、アインストの再生能力とバリアによる機体の保護を基点にして突っ込んでくるのだから対応する難易度は尋常じゃ無く高い。今でこそラッセルにフォローされたが、機体の熟練の為に単騎で突っ込んだカチーナがまともに被弾していないのがある意味異常なのだ。

 

『満足したらヒリュウまで下がってくださいよ?』

 

「分かってる。大分感覚は掴んだぜ、やっぱりゲシュペンストじゃ大型のインベーダーやアインストと戦うの難しいってな」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・カスタムに求められた2つの要素の内の1つは継続戦闘能力の高さだ。インスペクターとシャドウミラー、そしてアインストとインベーダーは転移により無尽蔵の戦力を送り込んでくる。そしてその中に特出した個体や指揮官機が混ざる事で燃費の悪いグルンガストや、ジガンスクードと言った特機はそれらに対応する為にエネルギーを消費し、エネルギー不足に陥りそこを転移してきたアインストやインベーダーの大群に押し込まれるというのがキョウスケ達がジリ貧に追い込まれる原因の1つだった。ゲシュペンスト・MK-Ⅲは優秀な機体ではあるが、その機体性能に動力がついて行かないという欠点があった。それの改善点の1つが……アメリカ大陸内部に偽装されていたメガフロートの中に眠っていたネオゲッターロボだ。ゲッター線を使っていないにも拘らず、グルンガストを遥かに越えるエネルギー総量、そして継戦能力の高さの秘密――PTやAMの動力として一般的な核融合エンジン、プラズマリアクターよりも安全、そして高いエネルギーを得れるプラズマボムス。ビアンを以ってしてもその全容はまだ掴めていないが、エネルギー循環や、圧縮などの技術のほんの一部を流用しただけで既存のプラズマリアクターはその性能を飛躍的に上昇させた。

 

(あれだけ暴れてもまだエネルギーは全然余裕だ。エネルギー系の武装をあんまり使って無いのもあるが……継戦能力は桁違いに上昇してるな)

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲならとっくの昔にエネルギーが枯渇している筈だが、新型のプラズマリアクターを搭載したゲシュペンスト・MK-Ⅲ・カスタムのエネルギー表示は依然グリーンであり、ほぼ万全な状態であることを示していた。ネオゲッターロボによってエネルギー問題が解決し、継戦能力は飛躍的に上昇した。これが求められた1つ目の要素、そしてもう1つの要素は……。

 

「アンカーセット、行くぜええッ!!」

 

ジガンスクード・ドゥロのシーズアンカーをそのまま小型化した手甲の爪先が開き、エネルギー刃を展開される。

 

「うおらぁッ!!」

 

電撃を伴ったエネルギー刃はゲミュートの強固な装甲をいとも容易く引き裂き、そして突き出された左腕から凄まじい勢いで射出されたシーズアンカーはゲミュートごとゲシュペンスト・MK-Ⅲ・カスタムを狙っていたグリートのコアを貫き爆発させた。

 

「良い武器じゃねえか、あたし好みだ。それに……」

 

【!!】

 

「ライトニングステークを使えるのもわるかねぇッ!!」

 

手甲が変形し、ゲシュペンスト・MK-Ⅲの基本装備であるライトニングステークの電極が露になり、飛びかかって来たアインスト・アイゼンはコアにカウンターで右拳が叩き込まれ、一撃で沈黙する事になった。もう1つの要素――それは無尽蔵に現れる小型アインストに引けを取らない戦闘能力だ。乱戦の中での支援、そして複数出現し連携を取って来る事で脅威度を飛躍的に上昇させるアインスト、インベーダーを単騎で撃墜出来る攻撃力が必要とされた能力の1つ。究極の汎用性、高出力エンジンによる継続戦闘能力、そしてアインストとインベーダーに劣らない攻撃力を得たことで、次世代のエースパイロット専用量産機としてゲシュペンスト・MKーⅢ・Gカスタムは見事初陣でその成果を見せつけるのだった……。

 

 

 

 

 

アルトアイゼン・リーゼが通過した背後では、無数のアインストの残骸が浮かんでいた。だがその残骸に破壊痕は無く、凄まじい重量で押し潰されたかのように拉げた状態だった……これが銃弾の跡やビームで溶かされた跡、斬撃の痕跡などならば分かるが、拉げた痕跡がアインストの残骸にある理由・・・それは単純明解だった。

 

「ぐッ……アルトやギーガ以上の暴れ馬だな。こいつは……ッ」

 

ゲッター合金コーティングや可変式のブースター、スラスター、そして最大加速を得る為の様々な工夫が施されPTとは思えない重量になった為に無理矢理テスラドライブを搭載し重量問題を解決したアルトアイゼン・リーゼの加速力は、直線に限ればゲッターD2に匹敵する物であり、軽く踏み込んだだけでアインストの群れをその重量と加速で一掃していた。だがその加速力は、パイロットであるキョウスケをも蝕んでいた。

 

(だが、今ので感覚は掴んだぞ)

 

レバーを引き戻し、踏み込んだままのペダルから足を退けるまでの間アルトアイゼン・リーゼは加速を続け、キョウスケにダメージを与えていたが、その痛みと全身に感じていたGでキョウスケはアルトアイゼン・リーゼの操縦感覚を掴む事に成功していた。

 

「練習相手には困らん、俺とアルトの相手をして貰うぞ……アインストッ」

 

アルトアイゼン・リーゼが強大な力を秘めているのはキョウスケも十分に理解した。だがイルムがグルンガスト改で感じた通り、その力であってもどこまで通用するかは未知数だ。機体性能を最大限に発揮するためには、機体性能に振り回されてはならない。己の手足のように操れなければ、龍虎鬼皇や共行皇達のいる超常の場所までは踏み込めない……ましてやアルフィミィに連れ去られたエクセレンを取り返すことすら出来ないと、キョウスケは静かに闘志を燃やしながらアインストの群れを睨みつけ操縦桿のボタンを押し込んだ。

 

「っ……ぐうッ!? 暴れ馬なのは武器も一緒か……面白いッ」

 

左腕の6連装マシンカノン――武装自体はギーガと大差はないが、リーゼの巨体に合わせてサイズアップしたその破壊力は尋常ではなくアインストの手足を容赦なく引き千切り、コアでさえも簡単に粉砕してみせる。しかしその反動でキョウスケの身体はベルトで固定していても派手に揺さぶられ、傷口に衝撃が走ったことでキョウスケの額に大粒の脂汗が浮かび、その動きが一瞬止まる。

 

【【【!】】】

 

動きを止めたアルトアイゼン・リーゼに向かってアインスト・アイゼンが右腕に内蔵されたリボルビングステークを模した武装――ホルツシュラオベの切っ先をアルトアイゼン・リーゼに向けて飛び掛る――その切っ先がアルトアイゼン・リーゼの巨体に触れかけた次の瞬間、アルトアイゼン・リーゼの姿は宇宙空間に真紅の軌跡を刻み、全く違う場所に存在していた。

 

「ぐっ!? じゃじゃ馬が過ぎるぞ……アルトッ!!」

 

ソウルゲインとの戦いではアルトアイゼン・ギーガは最大速度に入る前の出足を潰され、終始戦闘のイニシアチブを取られ続けた。その改善策と言うには些か問題はあるが、ゲッターロボ由来のロストテクノロジー、そしてEOTを組み込んだ事で最小の動作から最大の加速がアルトアイゼン・リーゼでは可能となっていた。自分の予想を超える反応速度、そして加速によって襲い掛かってきたGに顔を歪めながらもキョウスケは操縦桿から手を離す事は無く、そして今度は自らの意思でフットペダルを踏み込んだ。

 

「ぐっ……バンカーッ!!!」

 

予備動作なしの最大加速で突撃するアルトアイゼン・リーゼは紅い流星その物であり、アインスト・アイゼンを3機串刺しにしてもその加速を緩めず、アインスト・グルンガストをも貫き更に加速を続ける。

 

「うッ……うおおおおおおお――ッ!!!」

 

キョウスケの雄叫びと共にリボルビング・バンカーが炸裂し、アインスト・アイゼン、アインスト・グルンガストが一撃でバラバラに砕け散った。

 

『……化けもんかよ』

 

『し、信じられない……』

 

サイバスターやプロジェクトTDの機体と比べれば不恰好で、そして力任せの加速だが……直線に限ればゲッターD2に引けも取らないというその謳い文句に偽りが無かった事に、マサキとアイビスの2人は驚愕の声を上げた。

 

『キョウスケ中尉! インベーダーが接近中ッ! 一時後退してくださいッ!』

 

「いや、このまま行く。イルム中尉とカチーナ中尉に下がるように言ってくれ、巻き込みかねないからな」

 

両肩のハッチが開き、ブースターを兼ねていた背部のハッチも展開し凄まじい数のクレイモアの発射口が露になる。

 

 

『い、イルム中尉! カチーナ中尉ッ! 後退してくださいッ!! その位置はクレイモアの射角ですッ!!』

 

『きょ、キョウスケッ! ま、まだだぞッ! まだ撃つんじゃねえぞッ!!』

 

『馬鹿野郎ッ! そいつは容易にぶっ放すなって言っただろうがッ!!!』

 

ギーガユニットの一部をそのまま胴体部に流用し、その上でクレイモアを増設すると言う正気を疑う改造が施されたそれの発射口が自分達に向けられているのに気付き、イルムとカチーナが撃つんじゃないと叫びながら射角から機体を後退させる。

 

「クレイモアッ!!!」

 

グルンガスト改とゲシュペンスト・MK-Ⅲ・カスタムが射角から逃れると同時に凄まじい轟音を響かせチタンベアリング弾の嵐――アヴァランチ・クレイモアが、戦闘のエネルギーに誘き寄せられたインベーダーとアインストの群れに向かって放たれた。

 

【キシャアッ!?】

 

【!?!?】

 

【ギギャアアアアッ!?】

 

アインストとインベーダーの再生能力とバリアをその射出速度と重量で圧倒し、インベーダーとアインストの身体は一瞬で穴だらけになり、その上更にベアリング弾を叩き込まれ全身をバラバラにされ次々と消滅する。

 

「アルフィミィ。見ているのだろう?」

 

その破壊の中を突き抜け、クレイモアで四肢を破壊されたアインスト・ヴァイスを捕らえたアルトアイゼン・リーゼから発せられたキョウスケの言葉に、アインスト・ヴァイスから返事が返される。

 

『……流石キョウスケですの、良く私だと分かりましたの』

 

楽しそうに……いや実際に楽しいのだろう、恋人との会話を楽しむように声を弾ませるアルフィミィに対し、キョウスケの声は更に低い物となり、左腕でアインスト・ヴァイスの頭を掴み、リボルビング・バンカーの切っ先を露出しているコアに向ける。

 

『……もう少し優しくしてくれても罰は当たらないと思いますのよ?』

 

「悪いがお前に優しくする道理はない、エクセレンは返してもらうぞ。アルフィミィ」

 

キョウスケの宣戦布告と共にリボルビングバンカーがアインスト・ヴァイスのコアを砕いた。するとヒリュウ改の進路を塞いでいたアインスト達はボロボロと崩れ始めた。

 

『……ちゃんと……エクセレンと……待ってます……のよ』

 

「ああ、待っていろ。今度は直接こいつを叩き込んでやる」

 

アインスト・ヴァイスのコアの残骸にもう1度バンカーが叩き込まれ、アルフィミィの思念波は完全に途絶えた。

 

「……必ず取り返す」

 

崩れ去っていくアインスト・ヴァイスに向かってアルトアイゼン・リーゼが手を伸ばすが、その手が触れるよりも先にコアを失ったアインスト・ヴァイスは霧散する。崩れ去っていく砂を見つめながらキョウスケはエクセレンを必ず取り返すと、誓いを新たにするように強い決意の込められた口調で呟くのだった……。

 

 

 

 

キョウスケ達が作戦通りに陽動を行なっている頃――武蔵、コウキ、ラドラの3人はセレヴィスに潜入を果たしていた。

 

「ふうー……やっと一息つけるな」

 

「油断するなよ、俺達3人だけなんだ。1人しくじれば全滅だぞ」

 

宇宙服のヘルメットを脱いで大きく息を吐く武蔵にコウキが注意を促し、自身も着ていた宇宙服を脱ぎ再び装備を整える。

 

「コウキ。鬼に改造しているとなればどこが怪しい?」

 

「イスルギ重工関連だな。あの女狐の事だ……鬼とも手を結んでいるに違いないからまず間違いないだろう」

 

「マオ社は大丈夫なのか? 設備で言えばマオ社も大きいだろ?」

 

マオ社に匿われていた時期がある武蔵はマオ社の方が怪しくないか? とコウキに問いかけるがコウキは首を左右に振った。

 

「鬼にした後に36時間コールドスリープさせる必要がある。拠点としてマオ社は申し分ないが、それだけの設備を運び込むだけのスペースはない筈だ」

 

鬼化と言うが魔法や呪いで鬼に変えているわけではない。角を模した電子機器を埋め込み、その電子機器からの電波などで身体能力を強化し、百鬼帝国への忠誠心やブライの念動力に反応するように処置する。鬼化とは一種の人体改造に近い手術であり、その都合上脳への過負荷があり36時間冷凍睡眠させる必要があると鬼にする手順を聞き、マオ社ではなくイスルギ重工で鬼への改造がされている可能性が高いと言うのは武蔵もラドラも納得した。

 

「どうする? まずは民間人の保護か?」

 

「朱王鬼が催眠術や呪に長けているのならば、鬼にする前になんらかの追加の処置をしている可能性がある」

 

「民間人の所に朱王鬼がいると言う事だな。良し、決まりだ。まずは民間人が捕らえられているであろうシェルターを探す。リン社長からセレヴィスのシェルターの場所は聞いているから、イスルギ重工に近い場所から潰していくとしよう」

 

手早く作戦会議を済ませた武蔵達はそれぞれ無言で振り返る。

 

「オイラ真ん中にするわ」

 

「なら俺は右だ」

 

「仕方ない、左で我慢するとするか」

 

襲撃者などいるわけが無いと油断しきっている百鬼帝国の兵士に視線を向け、その中の1人が欠伸した瞬間にラドラが飛び出し、タックルの要領で引き摺り倒す。

 

「は……は!?」

 

突然仲間の1人が倒された事に鬼が間抜け面を晒している間に武蔵とコウキも背後から回りこんで、鬼の首に腕を回して首を後に捻り一瞬で絶命させる。

 

「油断してて楽だったな。もっと面倒かと思ったけどよ」

 

「敵がくるはずないと慢心しているからだ、たわけめ。こいつらの服とIDカードを剥ぎとるぞ、余り時間を掛けると不味いからな」

 

始末した鬼を監視カメラの死角に引きずり込み、武蔵達は鬼の服へと着替え民間人を救出する為にシェルターへ向かって歩き出すのだった……。

 

 

第205話 セレヴィス攻防戦 その1へ続く

 





新ユニットの3機追加です。これは後日あとがきに追加したいと思います。次回からはセレヴィス侵入を書いて行こうと思いますが、ちょっとここは短めになるかもしれないのでご了承願いします。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。




アルトアイゼン・リーゼ(IF)

ラングレー基地での戦いで大破したアルトアイゼン・ギーガはコックピットブロックを含めて完全にお釈迦になっており、修理が不可能だった為マリオンがゲッター合金製のGフレームを元に完全ワンオフとして建造していたゲシュペンストMK-Ⅳ(仮)を元に百鬼獣、ゲッターD2の研究した結果製造出来た新機構を全て組み込んだ物。キョウスケの安全を考えれば新機構は1つ、多くても2つが限界だったが、キョウスケの希望により、可変機構、リボルビングバンカー改、クレイモアの増設および強化、人造筋肉等の新機構を全て搭載した。
ゲッター合金で製造されたゲシュペンスト系のGフレームは恐るべき強度と柔軟性を誇りダイゼンガー、アウセンザイターなどのダブルGを除けば現在の地球では最高の機体に仕上がっているが、当然ながらパイロットの安全性は度外視であり、特殊なパイロットスーツの着用が必要不可欠となっている。アインスト、インベーダー、超機人、それらの超常の存在と戦う為に、そしてエクセレンを取り返す為には自分を大事にしていては駄目だというキョウスケの覚悟の現れである。また急ピッチの製造の為まだ完成してないパーツもあり、ネオギーガーアーマー、フライトユニットを装備することを前提としている為機体各部にハードポイントが用意されているが、イルム曰くその完全体になったアルトに新西暦の人間が乗れるとは思えないという代物である。機体各部の変形は空気抵抗を減らす為の物であり、機体のシルエットを変えるほどでは無いが、その加速力はギーガを遥かに上回るほどに強化されており、ゲッター合金のフレームによって強度を確保したことでテスラドライブの増設、更にリボルビングバンカーのT-ドットアレイの範囲も大幅に強化されその突破力、破壊力はゲッターライガー2に匹敵するほどである。


アルトアイゼン・リーゼ(IF)
HP14000(16700)
EN350(550)
運動性140(170)
装甲2000(2500)

特殊能力

ハイ・ビームコート ビーム兵器の威力を3000まで無効にする


ヒートブレードホーン ATK3700
アヴァランチクレイモア(MAP) 3900
6連装マシンカノン ATK4100
リボルビングバンカー改 ATK4900
アヴァランチクレイモア ATK5200
リボルビングバンカー改・OC ATK6200
エアリアルクレイモア ATK7200





グルンガスト改

ギリアムがジョナサンに託したXNガイストを再現する為のXNアーマーのデータを元にゲッター合金で建造された強化パーツを装着したグルンガスト。機体各部を1度バラバラにし、関節の延長、装甲の増設が施され、ワンサイズUPし、55m級になったグルンガスト。背部のアーマーラウンデル・ウィングにジェネレーターの増設、更に本体ジェネレーターの強化も施され、パワー、機動力、装甲、戦闘時間その全てが大幅にパワーアップしているだけではなくガストランダー、ウィングガストへの変形機構も健在である。


グルンガスト・改
HP9700(14500)
EN420(650)
運動性115(155)
装甲1900(2550)



ダークロック ATK3500
ダブルオメガレーザー ATK3800
ハイパーブーストナックル ATK4000
8連ミサイルランチャー ATK4200
アルティメットビーム ATK5000
計都羅喉剣改 ATK5500
計都羅喉剣暗剣殺 ATK6100
計都羅喉剣五黄殺 ATK7500






ゲシュペンスト・MKーⅢ・Gカスタム

ゲシュペンスト・MK-Ⅲでパイロットに応じたカスタマイズによる究極の汎用性を得、カスタムでは継戦能力を与えられたエース仕様のゲシュペンスト・MK-Ⅲ。ネオゲッターのプラズマボムスを解析した事でパワーアップしたプラズマリアクターを搭載しており、PTとは思えない出力と継戦能力を手にした。Gカスタムはカチーナの希望によってサイズダウンしたシーズアンカーを搭載しており、このGの略はガンドロカスタム。つまりジガンスクード・ドゥロをPTサイズにダウンサイジングした物とも言える。シーズアンカーは可動式でシーズアンカーの下には通常のゲシュペンスト・MKーⅢの腕部が収納されており、PTの手持ち火器も使用可能となっている。そしてフライトユニットを改造したフライトアーマーが標準装備されており、予備のプロペラントタンク、カートリッジ、武装の追加とゲシュペンストに求めていた究極の汎用性と継戦能力を手にしたゲシュペンストの完成形の1つとなっている。



ゲシュペンスト・MKーⅢ・Gカスタム


HP7900(10100)
EN350(420)
運動性150(190)
装甲1900(2100)

ネオプラズマカッター ATK3400
スプリットミサイル(ゲッター合金弾頭) ATK3900
ツインビームカノン ATK4200
アンカーブレード ATK4200
ドリルニー ATK4500
ライトニングステーク ATK5400
シーズアンカー ATK5800



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第205話 セレヴィス攻防戦 その1

 

第205話 セレヴィス攻防戦 その1

 

セレヴィスで最大規模のイスルギ重工の製造拠点にもぐりこむ事に成功した武蔵達は、すぐにその眉を顰める事になった。

 

「さみいな……オイラ達は間に合わなかったか」

 

鬼の処置の後には36時間のコールドスリープが必要と聞いていた武蔵は通路に漂っている冷気に鬼への改造手術が始まっていると思ったが、コウキはそれは違うと言ってまだ間に合うと呟いた。

 

「気休めか?」

 

「いや、事実だ。ラドラ、武蔵。この部屋を見てみろ」

 

自分が覗き込んでいた部屋を見るように促すコウキに、武蔵とラドラも周囲を警戒しながら部屋の中を覗きこんだ。

 

「なんだありゃあ……?」

 

「……何かの部品か? これはそんなに重要な物なのか」

 

5cmほどの鉄のパーツがラインで流されているのを見て武蔵とラドラが首を傾げ、コウキにこれはなんだと尋ねる。

 

「鬼の角だ、これを人間に外科手術で埋め込む事で鬼になる」

 

「おいおい、落ち着いて言ってる場合じゃねえだろ……コウキ。避難している月の人が鬼になっちまうだろうが……ッ」

 

鬼にする為の生体パーツが流れているいるのになに冷静に言ってるんだと武蔵が声を荒げる。

 

「ん? 今変な声がしなかったか?」

 

通路の奥から鬼の声がし、武蔵達は通路の影に身を隠したが、当然声を荒げた武蔵はコウキとラドラに睨まれて身体を小さくしていた。

 

「気のせいだって言っただろ? さっきの声も運び込まれてる最中の人間の声に決まってる」

 

「そうだよな。流石にここに忍び込んでくる馬鹿はいないよな」

 

月の拠点であるセレヴィスに救出目的で忍び込んでくる人間などいないだろうと高を括り、武蔵達が隠れている通路を調べる事無く引き返していく鬼達の気配が無くなった所でラドラ達は通路に身を隠し、監視カメラ等の監視システムの有無の確認を始める。

 

「声を荒げるな、武蔵。お前は声がでかい、ここまで静まり返っているとお前の声は周囲に響きすぎる」

 

「すまねえ……でも「安心しろ、まだ鬼への改造手術は始まっていない。良く見てみろ」

 

再び部屋の中を見てみろとコウキに促され、武蔵とラドラは再び扉の小さな小窓から部屋の中を覗きこんだ。

 

「煙……?」

 

「違う、あれは蒸気だ。冷却しているのか?」

 

「そうだ。鬼の角は高性能の電子頭脳と同意義だ、作成した後は冷却しなければ使い物にならない。見た所……作り始めたばかり、鬼への改造手術にはまだいくらかの猶予がある」

改造手術にはまだいくらかの猶予がある」

 

鬼の技術に精通しているコウキだからこそ、今目の前のラインを流れている角のパーツが製造されたばかりだと分かり、時間的猶予があると武蔵とラドラへと告げる。

 

「使えるようになるまでどれくらい掛かる?」

 

「……見た所長くて2時間と言うところか、俺達なら2時間あれば十分だ。まずは民間人が運ばれている場所を見つける、次に避難と脱出だな。武蔵、ギリアムに渡されたカメラの電源を入れておけ、俺達の状況を逐一報告してる余裕はないからな」

 

コウキに促され武蔵は鞄から取り出したカメラの電源を入れ肩に装着し、指でOKサインを作る。

 

「堂々と歩けよ。下手に萎縮して動くと侵入している事がばれるからな」

 

「大丈夫だって、オイラ。早乙女研究所を追い出された後にもう1回忍び込んで早乙女博士の振りしてゲットマシンに乗り込んだし」

 

そんなことしてたのか? と呆れるラドラとコウキの視線に武蔵は誤魔化すように笑って歩き出し、コウキとラドラはそんな武蔵に呆れた表情を浮かべる。

 

「お前、どこに行くのか分かってるのか?」

 

「あ……ラドラ、コウキ。どっちに行けば良いんだ?」

 

出鱈目に歩き出そうとしていた武蔵にラドラは深い溜め息と共に首を左右に振り、月の連邦軍に提出されていたイスルギ重工の地図をハンドPCに呼び出し、民間人が運び込まれているであろう区画に目星を付け2人を先導して歩き出すのだった……。

 

 

 

 

アインストとインベーダーを無事殲滅したヒリュウ改はステルスシェードを展開し、武蔵達から合図があればすぐに突入出来るように補給と休息に勤めていた。

 

「武蔵達から映像連絡が届いたッ! 今ブリーフィングルームのモニターに写す」

 

セレヴィスに侵入している武蔵達からの映像連絡があったとギリアムが声を上げ、ブリーフィングルームのモニターに武蔵が身につけているカメラの映像が映し出される。

 

『己……『やかましい、とっとと死んでろ』げびゅあッ』

 

モニターに映し出されたのは、鬼の生首に武蔵が躊躇うこと無くナイフを突きたて、頭蓋を切り開く余りにも凄惨な光景だった。

 

「「「ふう……」」」

 

「ああッ!? カチーナ中尉がッ!?」

 

「スレイッ!? ちょっとスレイしっかりしてよッ!?」

 

「レフィーナ中佐も倒れたぞッ!?」

 

開幕グロ映像にグロ、スプラッタ耐性が低いカチーナ、スレイ、レフィーナの3人が溜め息と共に昏倒し、ブリーフィングルームは大騒ぎになった。

 

「少し確認してから映像を映せ、ギリアム」

 

「……すまん」

 

まさかいきなりこんな凄惨な光景が映し出されるとは想像していなかったギリアムは、カイの苦言にすまないと小さく謝罪の言葉を口にした。

 

「聞こえるか武蔵」

 

『ん?バンさんですか?おい、コウキ、ラドラ。バンさん達から連絡だぞ』

 

武蔵がなんでもない様子で振り返り、カメラに映し出されたのはラドラが素手で鬼の首を回転させ頚椎を破壊する光景と、コウキが鬼の口に布を詰め込み、涙目で首を左右に振る鬼に向かって銃の引き金を引く光景だった。

 

「……」

 

殺す事に余りにも躊躇いも迷いも見せない武蔵達に、ブリーフィングルームが静まり返る。なまじ鬼が人間と同じ姿をしているだけに、見た目のインパクトがありすぎて絶句してしまっていた。

 

「武蔵、お前達は今どこにいるんだ? 見た所マオ社ではないようだが……」

 

そんな中1番最初に我を取り戻したリンが見覚えのない光景にどこにいるのかと問いかける。

 

『あの女狐の工場だ。リン社長』

 

「イスルギ重工にいるの?コウキ」

 

民間人の保護に向かっている筈なのに何故イスルギ重工にいるのかと、ツグミが問いかける。

 

『シェルターが近く、鬼への改造手術が近い拠点で考えるとイスルギ重工だと当たりを付けたんだ。結果は大当たりだ、鬼の角を作るラインと民間人が運び込まれている。今はまだ処置が始まっていないが……余り時間的な猶予はない、武蔵、コウキ。こっちだ』

 

ラドラが2人を先導し薄暗いイスルギの通路を早足で歩き出すが、その足音はすぐに金属を蹴りつける音へと変わった。

 

「リオ、リオ。大丈夫だから、常務は無事だよ」

 

「そ、そうよね……お父様は大丈夫よね?」

 

自分の父がセレヴィスに避難している事を知っているリオは父であるユアンが鬼に改造されているかもしれないと顔を青くさせ、体を震わせてリョウトが大丈夫だと励ますが、リオの顔色は悪く身体も小刻みに震えている。

 

「リョウト、リオを医務室へ「だ、大丈夫です。キョウスケ中尉、私は大丈夫です」……分かった、だが無理はするなよ」……はい」

 

リオの精神状態を考え、休むように促したキョウスケだったが……リオの大丈夫と言う言葉に強く出ることは出来ず、無理をするなよと言う事に留まる。

 

「ラドラ少佐。民間人の居場所に目処は?」

 

『目処はついている。鬼化手術は36時間のコールドスリープが必要で、術後は移動させることが出来ない……それらを踏まえれば、民間人が捕らえられているのは……地下の新型が保管されているハンガーである筈だ。丁度良い、30分以内にケリを付ける。そちらも出撃準備を進めてくれ』

人が捕らえられているのは……地下の新型が保管されているハンガーである筈だ。丁度良い、30分以内にケリを付ける。そちらも出撃準備を進めてくれ』

 

「大丈夫なのか? 時間は無いが、そこまで焦る事はないぞ?」

 

敵陣にたった3人で乗り込んでいる武蔵達を心配し、カイが焦る事はないと言うが武蔵達はハンガーの上の手すりに足を既にかけていた。

 

『いやあ、心配してくれるのはありがたいんですけどね……ここまで来るのに大分時間掛けちゃったんですよ』

 

『セキュリテイが中々強固だったからな』

 

手すりに足を掛けている武蔵は背中に背負っていた日本刀を抜き、コウキとラドラは鬼から奪い取ったであろうマシンガンにカートリッジを装填している。

 

「強行突破する気か!? 止めろ、無謀が過ぎるぞッ!!」

 

『言っただろうカイ、時間を掛けすぎた。それに地図に無いハンガーを探すのに大分手間取ってな……まぁ民間人が運ばれているのを見てここを見つけたから、時間を掛けたのは無駄では無かったんだが……』

ここを見つけたから時間を掛けたのは無駄では無かったんだが……』

 

『民間人を鬼にする訳には行かないし、勿論鬼の製造プラントを残すつもりも無い』

 

コウキが取り出した筒状の物体に、キョウスケ達がぎょっとした表情を浮かべる。

 

「まさか爆薬を使うつもりか!?」

 

「こ、コウキ博士ぇッ!? 死ぬよ!? 死んじゃうよッ!? スレイッ!! スレイってばッ!! 起きてッ!!」

 

すぐ外が宇宙空間なのに爆薬を使おうとしているコウキに、ヒリュウ改のブリーフィングルームが大騒ぎになる。

 

『コウキ』

 

そんな中武蔵がコウキを呼び、止めるのかと思いきや……。

 

『オイラにもくんねぇ?』

 

『ついでだ、俺も貰っておこう』

 

『しょうがない奴らだな、破壊工作なら爆弾を持ち込むのは基本だぞ?』

 

「「「どんな基本だッ!!」」」

 

思わずキョウスケ達がそう叫び、止めろ、考え直せと叫ぶが幸か不幸か、画面にノイズが走り始めキョウスケ達の声は武蔵達には届かず、そして武蔵達の声もキョウスケ達には届かない。3人同時に投げた爆薬が炸裂し、凄まじい爆発を引き起こし、鬼達が右往左往する中を武蔵達がハンガーの手すりを飛び越え10m近い高さから鬼に強襲を仕掛けるのを見て、キョウスケ達は今後何があっても武蔵、コウキ、ラドラの3人を一緒に行動させない事を誓った。

 

「出撃準備だッ! ここまで派手に動いてるんだッ! すぐに百鬼帝国もインスペクターも動き出すぞッ!」

 

セレヴィスから警報が鳴り響くのを聞いて我に帰ったキョウスケの怒声で、ブリーフィングルームにいたパイロット達は次々と格納庫に向かって走り出すのだった……。

 

 

 

手術台に拘束されている4人の男女――その中の1人はリオの父親であるユアン・メイロンだった……身体を太い皮のベルトで拘束され、それでも身体を捻って拘束から逃げようとするその姿を見て、朱王鬼は楽しくて楽しくてしょうがないと言う笑みを浮かべる。

 

「そう怖がる事はないだろう? 素晴らしい知恵と力を授けてやると言うんだ。感謝して欲しいくらいだよ」

 

口に猿轡を噛まされているユアン達は唸り声のような声をあげ、芋虫のように身体を捻じる事しか出来ずその姿を見た朱王鬼はサディステックな笑みを浮かべる。

 

「手術を開始……な、なんだッ!?」

 

手術を開始しろと部下の鬼に朱王鬼が命令を出そうとした瞬間、凄まじい爆発音が響き、それから少し遅れて振動が手術室を襲い朱王鬼達がバランスを崩してその場に倒れ込み、鬼化手術の器具も転倒し火花を散らした。

 

「ちっ、手術は一時中断する。何があったのか確認して来い」

 

「りょ、了解ッ!!」

 

不機嫌そうな朱王鬼の命令に手術室にいた鬼は手術着のまま部屋を飛び出した。

 

「玄、何があった?」

 

『鼠が潜り込んでおったようじゃな……ワシもすぐ其方へ行く、手術室に運び込んだ人間に術を掛けて操り人形にしておけ』

 

玄王鬼の指示に朱王鬼は頷き、その手を怪しく光らせながらユアン達に歩みを向ける。

 

「良かったね、君達を助けに来てくれた勇敢な人間がいたようだ。人間は甘いからね、人質を助けに来るって言うのは僕達も分かっていたさ。だから僕達は何もしなかった」

 

ブライの命令もあったが、嗜虐趣味のある朱王鬼が今まで何もしなかったのはもう1つの理由があった。

 

「君達の中に僕の術に操られた人間がいれば、助けに来たはずの人間はどう思うだろう? 鬼になってしまった、もう殺すしかない。そう、君達は助けに来たはずの人間達によって殺されるのさ」

 

「むーッ! むううう――ッ!!」

 

「ああ、良いね。その恐怖と絶望に染められた瞳……僕が大好きな物だよ」

 

朱王鬼がユアン達の恐怖を煽る様に今から自分が何をするのか、そしてユアン達がどうなるのかと楽しそうに語り、恐怖に暴れだすユアンを見て恍惚の表情を浮かべた朱王鬼がその手をユアンの額に触れようとした時――手術室の扉が勢いよく開き、帽子を被った恰幅の良い鬼が姿を見せた。

 

「報告しますッ! 人間が3人侵入し破壊工作を繰り返していますッ!」

 

「一々そんな事を報告しなくていいッ! さっさとその侵入者を殺しに行けッ!」

 

自分の楽しみを邪魔された事に朱王鬼が激昂する。だが報告に来た鬼は動く事無く、帽子の鍔の下で視線を動かし手術室に囚われている人間を確認にしている。

 

「さっさと殺しに行けと言っているだろうッ! この愚図がッ! なっ!? き、貴様はッ!?」

 

朱王鬼が激昂し、手術台の上のメスを投げ付けるが報告に来た鬼は頭を下げる事でメスを避け、帽子が手術室の壁にメスで縫い付けられ帽子を被っていた鬼の――いや、武蔵の顔が露になり、姿勢を低くした武蔵はそのまま肩を突き出し朱王鬼に向かって突進する。

 

「オラァッ!!!」

 

「ごぼおッ!?」

 

常人を遥かに越えた脚力から繰り出された突進を朱王鬼は回避する事が出来ず、武蔵と手術室の壁に挟まれて潰れた蛙のような声を上げ、崩れ落ちかけた朱王鬼の髪を掴んで武蔵が無理矢理立ち上がらせる。

 

「よう、会いたかったぜ。朱王鬼……まぁ、言いたい事は山ほどあるが……こいつはてめえが苦しめた月に住んでる人達の分だッ!!」

 

怒号と共に繰り出された武蔵の右拳が朱王鬼の顔面を捉え、呻き声を上げて朱王鬼の身体が壁に叩きつけられ武蔵の方へ跳ね返ってくる。

 

「これはクエルボさんの分ッ!!!」

 

「げぼぉッ!?」

 

跳ね返って来た所を待ち構えていた武蔵の左ストレートが放たれ再び朱王鬼は吹き飛んで壁に叩きつけられる。

 

「あ、あが……」

 

鬼と言えど遠慮も何もない全力の武蔵の暴力に耐えれる訳がなく……いや、鬼だからこそ武蔵の鉄拳に2発耐える事が出来たのだ。これが生身の人間ならば最初の一発で頭蓋骨が砕けて絶命しているのは言うまでもない。

 

「助けに来た、他に連れ去られた者は」

 

「い、いないっ! わ、私達4人だけだ」

 

「もうじきヒリュウ改がくる。逃げるぞッ」

 

ユアン達の拘束をナイフで切り裂き、ラドラが逃げるぞと言うとユアン達は武蔵に視線を向けたが、鬼の形相の武蔵を見て何も言えずラドラに先導されて手術室から逃げ出していく。その姿を横目で見てみた武蔵は一瞬安堵の表情を浮かべたが、再び右拳を渾身の力で握りこんだ。

 

「こいつはオウカさんの分ッ!!!」

 

「がはぁッ!?」

 

だがたった2発で武蔵の怒りが収まる訳が無く、全体重を乗せた打ち下ろしの拳が朱王鬼の顔面に叩き込まれ、生々しい水の音と何かが砕けた音が手術室に響き渡る。

 

「これはラトゥーニの分ッ!!!」

 

鼻の骨が砕けた朱王鬼の顔面は自らの鼻血で真紅に染まり、意識も朦朧としているがお構いなしに武蔵は握りこんだ右拳を突き上げる。

 

「こいつはゼオラの分ッ!!!」

 

アッパーで顎を打ち抜かれた朱王鬼はその衝撃で手術室の天井に叩きつけられ、脱力した状態で落ちてくるのを武蔵は右拳を引いて待ち構える。

 

「これがアラドの分だッ!!!」

 

飛び込むようにして全体重を乗せた渾身の右ストレートが朱王鬼の顔面に捉え、骨が砕ける音を手術室に響かせながら武蔵は右拳を振りぬいて朱王鬼を手術台に叩きつける。

 

「あ、あがが……げぼッ! ごぼッ!?」

 

顔は原型を留めていないほどに潰れ、手術用の機械に叩き付けられた朱王鬼の手足は曲がってはならない方向に曲がっていたが、まだ朱王鬼は虫の息だが生きていた。

 

「まだ生きてやがるか、しぶとい野郎だ」

 

血反吐を吐き、顔は別人のように膨れ上がっている朱王鬼の襟首を掴んだ武蔵は左腕1本で朱王鬼を持ち上げ、右手に握った刀の切っ先を朱王鬼に向けた。

 

「や、やまめえ」

 

命乞いをする朱王鬼に何の暖かさも見せない冷たい視線を向けた武蔵は、刀で朱王鬼の首を跳ねようとし……朱王鬼を掴んでいた手を離して地面を蹴って距離を取った。

 

「朱ッ! 朱ッ! 無事かッ!? 己ッ!」

 

「ちいっ!?」

 

自身の半身とも言える朱王鬼の気配が弱くなった事を察し、手術室に駆け込んできた玄王鬼の妨害を受け朱王鬼にトドメを刺す事は出来ず、玄王鬼の放った雷を避けた際に拘束していた朱王鬼を逃がしてしまった武蔵は舌打ちと共に煙玉を投げ、手術室から飛び出した。

 

「コウキ、ラドラッ! すまねえッ! トドメを刺し損ねたッ!」

 

『仕方あるまい、それよりも急いで合流しろッ!』

 

「分かってるッ!!」

 

ラドラと通信機で話をしながら武蔵は立ち塞がる鬼達を切り倒しながら、ラドラ達と合流する為にイスルギ重工から脱する為に暗い通路を駆け抜けていくのだった……。

 

「朱、朱よッ! 大丈夫かッ!」

 

「げ、玄……あ、ああ……だい、大丈夫だ……それよりも……あいつらの好きにさせるわけには……ッ! 大帝の怨敵をこの場で殺すんだッ!」

 

「朱……その通りだッ! 行くぞッ! 生身の内にあいつを、巴武蔵を殺すのだッ!」

 

瀕死の重傷を負いながらもブライの為に戦うと言う朱王鬼に玄王鬼は頷き、瀕死の朱王鬼に肩を貸し朱王鬼と玄王鬼が固定されているハンガーへと向かう。

 

 

セレヴィスの方向からの戦闘音はメキボス達の元へと響いていた。

 

「インベーダーとアインストの小競り合いを利用して一気に乗り込んできたのかよ、無茶するな」

 

無人機からの戦闘報告はメキボス達も把握していたが、それを利用して月まで来たという事には驚きを隠しきれない表情を浮かべていた。

 

「どうする? メキボス」

 

「いかねぇ訳にはいかねえだろ? 形だけでもよ」

 

「……」

 

「なんか言えよッ! シカログッ!」

 

「ダーリンは宗教で喋っちゃいけないんだから無茶言わないでよッ! 喋ってるのなんかあたいだって殆ど見たことないんだからねッ!」

 

「……そうだったのかよ、それくらい言えよ、シカログ。とりあえず、ムーンクレイドルは防衛の為に出る。だがセレヴィスは鬼に任せる、それで良いよな?」

 

「あたいもダーリンも賛成だよ。それで行こう」

 

ウェンドロとブライとの盟約によって援軍に行かざるを得ないメキボス達は、重い腰をあげ出撃準備を整え、無人機を引き連れセレヴィスへと出撃する。……今、月を掛けた決戦の幕が切って落とされるのだった……。

 

 

 

 

第206話 セレヴィス攻防戦 その2へ続く

 

 




思ったより書きたい感じが出せなかったのが無念ですが、今出来る全力は出してみました。やっぱりバイオとかメタルギアの雰囲気を小説で書くのは難しかったですが、出来る範囲でやり遂げることが出来たと思うので今回はこれで納得していただけると幸いです。

次回はコウキの戦闘から入っていこうと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。


PS

スパロボDDのサンタがチャ

無事に六花サンタをお迎えできました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第206話 セレヴィス攻防戦 その2

第206話 セレヴィス攻防戦 その2

 

セレヴィスシテイの内外から響く振動と百鬼獣の咆哮に、武蔵達が救出した月の住人が身を寄せ合い、恐怖に体を震わせる。鬼の脅威を、百鬼獣の恐ろしさを知っているからこその反応を見て、武蔵達は1秒でも早く安全圏に連れて行こうと行動に出る。

 

「武蔵、ラドラ。俺はイスルギの試作機で時間稼ぎをする」

 

「大丈夫か? こんなアーマリオンモドキで何とかなるのか?」

 

ハンガーに固定されているアーマリオンの改造機を使うと言うコウキに武蔵が大丈夫か? と問いかけるとコウキは問題ないと自信満々の様子で笑った。

 

「スレイとアイビスが鉄甲鬼を運んでくるまで持てば良い、ラドラはどれくらいでボアレックスに乗り込めそうだ?」

 

ハンガーの中に放置されていたバイクに蹴りを叩きこみエンジンを点火させたラドラは、獰猛な笑みを浮かべる。

 

「5分以内には何とかする。その後はラミア達が運んで来たガリムとメガロンと合体すれば、戦況は一気に覆せる」

 

「良し、武蔵。お前車の運転は出来るか?」

 

コウキの問いかけに武蔵は馬鹿にするなよと言って胸を張って笑った。

 

「ハンドルを傾けて曲がる、アクセルを踏んで走る、ブレーキを踏んで止まるだろ?」

 

交通法規等を一切理解していない上に、理解のレベルが低すぎる武蔵に避難民は首を左右に振り、止めてくれとコウキとラドラに訴えかける。だがこの2人も基本的には武蔵と大差無く、この危機から逃げるには常識は邪魔になると判断したコウキとラドラは満足そうに頷いた。

 

「民間人は任せた。俺は先に行くぞ、武蔵」

 

「1度たりとも減速するなよ? 加速を続けろエキドナがドラゴンを持ってきたら運転を変わって貰え」

 

「任された」

 

任されるな、頼む考え直してくれと訴える避難民の視線をコウキとラドラは完全に無視して、セレヴィスから脱出する為に動き出した。

 

「はっはぁッ!! 行くぜええッ!!!」

 

アクセル全開で走り出すトラックの荷台に載せられたセレヴィスの住人は舌を噛まないように口を閉じて、上下左右から襲い掛かってくる重力に只管耐えるしかなく、武蔵は武蔵で街中を激走するトラックを見て襲ってくる百鬼獣と鬼を見てブレーキを踏めないと判断し、アクセルを踏み続ける。

 

「ちっいッ!! おいコウキッ! 早く出撃してくれよッ!!」

 

「ギャア!?」

 

「うがあッ!」

 

いくらアクセルを踏み続けても武蔵が運転している車はPTやAMの輸送車でスピードは決して高いものではない。バイクで追いかけてきた鬼の構えたマシンガンの弾雨で割れたフロントガラスを破壊し、片手で運転し右手で敷島博士の作ったリボルバーをぶっ放し、鬼を殺しながらコウキに早く出撃しろと武蔵が通信機に向かって怒鳴った次の瞬間、イスルギ重工の施設で爆発が起こり漆黒の機体が姿を現す。

 

「あん? アーマリオンのパチモンか……?」

 

『減速するなよ、武蔵』

 

「はっ! 分かってらぁッ!!!」

 

アーマリオンをベースにしたイスルギの新型――ガレリオンと命名されたガーリオンの後継機であるその機体の両腕にバックパックに装着されていた円錐状のパーツを装着し、肘から回転を始めると共にエネルギーの弾雨を武蔵の運転するトラックに向けて発射する。

 

「おらおらッ!!!」

 

動物的な本能と直感に従う武蔵は後頭部に目があるような動きでガレリオンの弾雨を回避し、逆に百鬼獣と鬼達はその弾雨を喰らって仰け反り、その足元をトラックが駆け抜ける。

 

『連邦の救難信号は出しておけ、合流が早まるぞ』

 

「おうっ! 後は頼んだぜ、コウキッ!!」

 

ガレリオンが破壊したセレヴィスの外壁に鬼達が吸いだされる中、武蔵は防護服のヘルメットを被り酸素の供給開始ボタンを押し、トラックを月面へと飛び出させるのだった……。

 

 

 

 

武蔵の運転するトラックがセレヴィスの外に出たのを確認し、ガレリオンを駆るコウキもその後を追ってセレヴィスから脱出する。街中で暴れても良いのだが、後にセレヴィスに人が戻る事を考慮しての行動――と言う訳ではない。初操縦の機体を十全に操れるなんて都合の良い話はない、アイビスとスレイが鉄甲鬼が運んで来たらすぐ乗り移れるように外に出たに過ぎない。もしもコウキがガレリオンを十全に使いこなせたらとしたら……コウキの選択は1つしかない、セレヴィスもろとも鬼の抹殺である。セレヴィスを破壊したと言う汚名は受けるが、その代りに鬼と百鬼獣を纏めて始末出来るのだからコウキだけではなく、武蔵とラドラも選択肢に入れる行動だった。

 

「ちいっ! 軽いんだよッ!」

 

だがそれが出来なかったのは、ガレリオンの軽い操縦性がコウキとの相性が最悪だったからだ。コウキはPTもAMも並みのパイロット以上に操縦出来るが、やはり専門は特機なのである――操縦感覚が余りにも軽いガレリオンはコウキにとっては心許無い感覚しかなく、細かい操縦でもかなりの反応を見せる為街中で戦うのを避けたのである。

 

『キッシャアッ!』

 

「ちいッ!」

 

百鬼獣の放ったビームを旋回して回避し、円錐状のアタッチメントアーム――試作射格複合兵装ターネイルが回転しビームマシンガンを放つ……が、百鬼獣の装甲に弾かれ有効打とは程遠いダメージにコウキは舌打ちする。

 

「スレイッ! アイビスッ! 応答しろッ! 鉄甲鬼はいつこっちに来るッ!!」

 

『こ、コウキ博士ッ! そんなに怒鳴らないでくれッ!』

 

『み、耳がキーンッてする……』

 

通信機からスレイとアイビスの返事がガレリオンのコックピットに響くが、すぐにロックオンの警告音が鳴りコウキは操縦桿を傾けペダルを踏み込み、月面ギリギリを滑るように飛行し百鬼獣のミサイルの雨を何とか回避する。

 

「俺だって怒鳴りたくはないがなッ! イスルギの試作機があんまりにも酷いんだよッ! 長くは持たんッ! どれくらいで到着するかだけで良い目処を教えてくれッ!」

 

慣れない機体、試作機なので武装も貧弱でOSも完璧ではないと無い無いづくしに流石のコウキも弱音を口にする。

 

『あ、後4分――いえ、2分で何とかしますッ!!』

 

『それまで耐えれますか!?』

 

「後2分だな、それくらいなら何とか持つッ! だが出来るだけ急いでくれッ!」

 

スレイとアイビスに急ぐように繰り返し頼み、コウキはコンソールに視線を走らせる。あちこちのメーターが赤色になり、まともな所を探すほうが難しい有様にコウキは舌打ちを隠しきれなかった。

 

(とんだ欠陥機だな、こいつはッ)

 

たった数分の戦闘でエネルギーが危険域、そして機体の各部もオーバーヒートで悲鳴を上げている有様のガレリオンを欠陥機とコウキは吐き捨てたが、イスルギの技術者がこの言葉を聞いていれば文句を口にしたのは間違いない。ガレリオンは指揮官機であり、ジャマーや指揮系統などの電子戦に特化した設計が施されているのだ。後方で待機するはずの機体を前線で暴れさせればすぐにエネルギーに問題が出るのは当然の事であり、更に言えばコウキの操縦は余りにも激しすぎて機体が追従出来ていなかったというのも大きい。

 

「ちっ! 逃げに徹するしかないか、仕込みをしておいて正解だった」

 

攻撃力は低すぎて話にならず、ガス欠も近いのでは逃げと防御に回るしかないとコウキは判断せざるを得なかった。最悪に備えて百鬼獣が固定されているハンガーに細工をして来たのですぐに増援が現れることはない、とコウキは考えており、実際その通りだった。

 

「くそがあッ!!」

 

「早くワイヤーを外さんかッ!」

 

量産機ではない百鬼獣と共に、ワイヤートラップに爆弾が満載のハンガーから朱王鬼と玄王鬼を出撃させるのは至難の業であり、朱王鬼と玄王鬼の怒声が響き、鬼が罠に引っかかり吹っ飛ぶという事が繰り返されており、武蔵達の破壊工作は確実に成果を上げていた。

 

「くそッ! このポンコツがッ!」

 

量産機の百鬼獣であってもガレリオンよりも遥かに性能が高く、回避に回った事で百鬼獣は活発に動き出す事になりそれを避ける為に余計にエネルギーを消費する、と言う悪循環に陥り、固定武装も使えなくなったガレリオンをポンコツとコウキが罵倒する目の前に紅く燃え盛るマグマ弾が着弾し、直撃した百鬼獣を跡形も無く消し飛ばした。

 

「ラドラかッ!? 何故ボアレックスだけで来た!?」

 

『試作機ではいつまでも持たないだろうがッ! ボアレックスは単体でも戦闘力が高い、早く乗り換えて来いッ!』

 

「すぐに戻るッ!」

 

ラドラの来た方角にアステリオンとベルガリオンに運搬されている鉄甲鬼を見て、コウキはガレリオンを反転させスレイとアイビスの元へ向かい、アステリオン達がワイヤーを切り離し落下した鉄甲鬼にガレリオンを隣接させ即座に乗り移る。

 

「助かったぞ2人とも!」

 

『助けになれたのなら何よりです!』

 

『間に合ってよかったッ!』

 

アステリオンとベルガリオンの速度だからこそ出来る高速運搬にコウキは感謝の言葉を口にするが、起動状態に程遠い鉄甲鬼の状態に顔を歪め、すぐに戦闘に参加出来ないと悟りスレイとアイビスに指示を飛ばす。

 

「スレイは武蔵のフォローに回れ、アイビスは俺とラドラのフォローだッ! 出来るだけ派手に暴れろよッ!」

 

『『了解ッ!!』』

 

出来るだけ派手に暴れろ――それが意味することを2人は即座に理解し了解と返事を返した。アステリオンとベルガリオンが高速で動き回り、闇の中に残像を残す事で百鬼獣はアステリオン達を危険と判断し、攻撃を仕掛けようとする。高速移動で百鬼獣を翻弄し、鉄甲鬼が起動するまでの時間を稼ぐ、そしてボアレックスが放つマグマ弾によって月面の温度が少しずつ上がり、熱源の感知が難しくなり始めた頃――月面に5機の戦闘機、いやゲットマシンが百鬼帝国、インスペクターの警備網を抜け月面へと近づいているのだった……。

 

 

 

インベーダーとアインストに捕捉されないギリギリの速度で、ラミアとエキドナはゲットマシンの操縦を行なっていた。

 

「ラミア、大丈夫か?」

 

『とんでもないじゃじゃ馬だが……この速度ならコントロール出来る。お前は大丈夫なのか?』

 

ガリムとメガロンを操縦しているラミアに対して、エキドナはドラゴン、ライガー、ポセイドンを操縦しており、その負荷は段違いだ。ラミアが大丈夫か? とエキドナに問いかけるとエキドナは大丈夫だと弾んだ声で返事を返した。

 

「まるで問題ない、もっとスピードを上げても平気なくらいだ」

 

『本当か? 無茶をするなよ、いくら私達でも最高速度のゲットマシンには耐えられんぞ?』

 

スペック上では無理だと警告してくるラミアの言葉はもっともだが、エキドナはそれでも大丈夫だと感じていた。

 

(馴染むと言うのか……? アンジュルグ・ノワールよりもずっと手に馴染んでいる)

 

ドラゴン号の操縦桿……いやゲットマシンのコックピットは旧式の戦闘機と良い勝負であり、新西暦の機体を操れるようにレモンに調整されているエキドナやラミアには未知の存在と言っても良いだろう。あちら側で何度かゲットマシンに乗っていたエキドナだが、意識を失ったり、拒絶の様な物を感じていたが……今は不思議とゲットマシンが自分を受け入れてくれているような感覚を感じていた。

 

「戦闘反応だッ! 隠密行動は終わりだッ! 行くぞ、ラミアッ!!」

 

『出来ればもう少し近づきたかったが……そうも言ってられんなッ!! ぐうッ!!』

 

加速によるGにラミアが呻き声を上げるが、それでも意識を飛ばさずにガリムを操りメガロンを誘導操作で操縦する。その姿を見ながらエキドナは少しずつペダルを強く踏み込む、Gが容赦なく襲ってくるが耐え切れないほどではない。

 

「ラミア、私が先行する。ゲッターD2が出れば多少は動きやすくなる筈だ」

 

『……分かった……ッ!』

 

息も絶え絶えと言う感じで返事を返すラミアが乗るガリムを追い抜き、エキドナが操縦するドラゴン号は加速し、ライガーとポセイドンがそれに追従するように自動で速度を上げる。

 

「武蔵聞こえるかッ!」

 

百鬼獣から逃げているトレーラー車を確認したエキドナはビームマシンガンを発射しながら通信機に向かって声を上げる。

 

『エキドナさん聞こえてますよッ! ポセイドンを先行させてくださいッ! 乗り移ります!』

 

武蔵の言葉に了解と返事を返し、ポセイドン号を先行させる。すると武蔵はトレーラー車を停車させ、運転席の上へと這い登る。

 

『おっしゃあああッ!!!』

 

「正気か!?」

 

トレーラー車の真横を飛ぶポセイドン号の脇をトレーラー部分を走って追走し、天井を蹴ってポセイドン号に飛び移る武蔵の姿にエキドナが思わず正気かと叫んでしまうのも仕方ない事だろう。

 

『行きますよ、エキドナさんッ!! チェンジッ!! ドラゴォォオオオンッ!!!』

 

「うっぐうッ!? む、武蔵ッ! 後だッ!!」

 

流石にエキドナもゲッターチェンジの衝撃には悲鳴を上げたが、意識を飛ばす事無く意識を保っていた――それ所かすぐに武蔵に敵が迫っている事を伝えていた。

 

『キシャアアッ!!』

 

『うおっとおッ!!』

 

百鬼獣の爪による斬撃をダブルトマホークで受け止め……いや、切れ味に差がありすぎ両断された百鬼獣がオイルを鮮血のように撒き散らしながら月面へと倒れこみ爆発する。

 

『エキドナさん、もしかして平気ですか?』

 

「あ、ああ。少しだけ辛いが問題ない、操縦を手伝えるぞ。武蔵」

 

『ありがたいですッ! やっぱりオイラ1人じゃゲッターのパワーは十分に引き出せないですし、頼りにしますよッ!』

 

操縦を手伝えるというエキドナの言葉に武蔵は嬉しそうに頼りにすると口にし、その言葉にエキドナも笑みを浮かべた。

 

「ああ、と言っても今の私では操縦桿を握っている事しか出来ないがな」

 

『それでも十分ですよッ! 行きますよ、エキドナさんッ!』

 

2人目のパイロットが乗り込んだゲッターD2のカメラアイに黒目が浮かび上がり、全身からゲッター線の翡翠の光が溢れ出す。それは紛れもないゲッター線の歓喜の現れであると同時に、エキドナを2人目のパイロットとして認めた証拠でもあった。

 

「ご苦労だった、ラミア。お前はこのまま武蔵が乗っていたトレーラー車を運転して離脱してくれ」

 

「りょ、了解……」

 

ゲッターD2が更なる力を手にした隣では、ゲッターザウルスへのチェンジでグロッキーになっているラミアを下ろして、トレーラー車を運転しろと言っている鬼のようなラドラがいたりするが……ラミアはそれに文句を言う事無く頷き、よろよろとトレーラー車へと乗り込んだ。コンディションは最低で、少しでも良いから休ませてくれと本来ならばラミアも口にしていただろう……だがそれが出来ない理由があった――何故ならば……セレヴィスシティを見下ろす小高い丘の上にインスペクターのリーダー格であるメキボス達が駆るグレイターキン改、シルベルヴィント、ドルーキンの姿があったからだ。だが武蔵とラドラはすぐにある違和感に気付く事になる……。

 

『アイビス、スレイ。インスペクターへ攻撃は行うな。下手に攻撃してあいつらも攻撃に加わってくるのは厄介だ、今は無視で良い』

 

『い、良いんですか!? 相手はインスペクターですよ!?』

 

コウキの攻撃するな、無視しろと言う指示にアイビスがそれで良いのかと思わず声を上げる。

 

『とりあえず警戒だけしてくれりゃぁ良いぜ、アイビス。なーに、何か仕掛けてきても』

 

『俺か武蔵で十分足止め出来る。だから心配することはない、お前達は警戒と監視、それと偶に支援を行ってくれればいい』

 

『りょ、了解……で、でも良いのかなあ』

 

『アイビス、優先順位を間違えるな。私達の最優先は保護した月の住人の離脱だ、敵を闇雲に増やす事ではないぞ』

 

普段のインスペクターと違う点……無人機を出現させることも無く、そして敵意すら発せずに沈黙を続けるメキボス達に不信感を抱き、メキボス達を警戒しつつも、敵意を見せないメキボス達は後回しに武蔵達は百鬼帝国との戦いを優先した……奇しくもこの時攻撃を仕掛けなかった事が後にメキボス達と武蔵達の関係性を変える切っ掛けとなるのだった……。

 

 

 

 

セレヴィスシテイを支配している朱王鬼配下の鬼と戦うゲッターD2、ゲッターザウルス、轟破鉄甲鬼をグレイターキン改のコックピットで見ながらメキボスは……いや、アギーハとシカログもその顔に迷いの色を浮かべていた。

 

『手伝わなくて良いのかい? メキボス』

 

「今はまだ良いだろ、セレヴィスは十分守れてる。俺達の出る幕はない」

 

形式上は出撃しているメキボス達だが、当然やる気などあるわけもない。今陣取っている位置はムーンクレイドルへの進路であり、そこを守るだけで十分だろうとメキボスは口にする。

 

『……裏切り者とされたらどうする?』

 

「そうだな、そんときゃ、そん時考えようぜ。ウェンドロ様とかがインベーダーとかに喰われてるって証拠がありゃ、それを手に戻る事も出来るんだがな」

 

『ワープしてる間にインベーダーに喰われるなんてあたいは嫌だよ』

 

「安心しな、俺だって嫌だぜ。あーあ、やっぱりゲッター線には関わるべきじゃなかったな」

 

ゲッター線には関わるべきではなかった――ゾヴォークの中での鉄の掟。それを古いものとして侮ったことを今更ながらにメキボスは後悔していた。

 

「今は様子見しかねえだろ、あんな化けもんみたいなゲッターロボ2体を相手なんかしてられっか」

 

『確かにねぇ……はーあ……命拾えるかなあ……』

 

ゲッターD2とゲッターザウルスの凄まじい力を目の当たりにし、そしてネビーイームの中での異変にメキボス達の命令を遂行すると言う意志は弱くなり、本当にこれで良いのか? と言う疑問が生まれていた。軍人だからこそ、監察官だからこそ次は自分達が死ぬ番だといわれても、無様に命乞いをするような真似はしない。

 

(監察官だからこそ、俺達にゃやらなきゃなんねぇ事がある)

 

長い年月の中で捻じ曲がり傲慢になっていたが、ゾヴォークの使命は宇宙の平和を守る事だ。インベーダー、アインストと言う明確な脅威を前に監察官である自分達には成すべき事がある。自分達がやった事を無かった事にすることは出来ない。だが今まで様々な星を滅ぼしてきたのも、侵略して来たのもすべては宇宙の平和を守る為の行動だった……そこまで考えた所でメキボスは首を左右に振った。

 

「大義名分で逃げれねえぞ、俺達はそれだけの事をして来てる」

 

『言われなくても分かってるよ、あたい達は憎まれすぎてるし、今更協力したいなんて言える訳が無いじゃないか』

 

今更協力したいと言っても、それは負けかけているから口からでまかせを言っているとしか思われないだろう……仮に自分達が逆の立場であったとしてもそうとしか思えないし、自分達の行動を鑑みればどの口で言ってるんだとしか思えないのは言うまでもないだろう。

 

「この戦いで全てが分かるだろう。俺達がどうするべきなのかを俺はそれで決めたい、出した答が違ったとしても」

 

『恨みっこなし、んでこの場では互いに何もしない……だけど』

 

『……出す答えは恐らく皆同じとなるだろう』

 

ゲッターD2とゲッターザウルスの規格外のゲッター線反応は、メキボス達の機体に搭載されていたゲッター線レーダーを全て破壊していた。もしもヴィガジがインベーダーに喰われているのならば、そしてネビーイームの中にインベーダーが潜り込んでいるのならば……この2体のゲッター線に反応しない訳が無い。そしてその戦いの中でヴィガジがインベーダーに喰われていると確信を得たのならば、メキボス達はある決断を下さなければなる事を感じているのだった……。

 

 

第207話 セレヴィス攻防戦 その3へ続く

 

 




今回は戦闘開始前のシナリオデモなので少し短めとなりました。次回はしっかりと戦闘描写を書いて行こうと思いますが、今更ながらですが、百鬼帝国との決着は外伝に流れるのでOG2では決着まで行かないことをここで伝えさせていただきます。流れ上OG2のボスを増加させすぎたので、外伝で決着が1番スムーズな流れだと思い次第でありますのでご了承の程をよろしくお願いします。

PS

ストフリガチャは

ミーティア×3
ツインバスター連射2枚

でした。無念


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第207話 セレヴィス攻防戦 その3

第207話 セレヴィス攻防戦 その3

 

セレヴィスの住人を乗せたトレーラーを運転するラミアは必死の表情でハンドルを握り締め、背後から響く轟音から飛んでくる瓦礫などの位置を予測してトレーラーを右へ左へと動かそうとするのだが……。

 

「くうッ! 重いッ!!!」

 

武蔵達が脱出させる為に選んだ車は元々PTやAMを運搬するトレーラーである。アクセルを吹かしてもスピードは対して上がらず、PTなどの重量に振り回されないように重心が普通の車と異なるトレーラーのハンドルはWシリーズのラミアですら重いと呻き声を上げる代物だった。

 

「くそッ! 長くは持たんぞッ!!」

 

武蔵達が百鬼獣こそ抑えている為トレーラーはまだ無事だが、百鬼帝国の偵察、あるいは鬼が襲撃等に使うのか小型のグライダーが執拗にトレーラーを追いかけ攻撃を繰り返して来る事にラミアは焦りを感じ始めていたが、自分が冷静さを失い掛けていると気付き、自分に言い聞かせるように落ち着けと心の中で呟いた。

 

(アイビスとスレイがこっちに来ている。百鬼獣は武蔵とラドラが抑えてくれている……窮地ではあるが、対処は出来る)

 

一撃でも当たればトレーラーは簡単に吹き飛ぶが、それに恐怖し冷静さを失えば自分の命は勿論、武蔵達が侵入してまで救出した民間人が死ぬことになる――それだけは避けなければならない、冷静さを取り戻せば敵の攻撃に晒され予定されていたヒリュウ改との合流ポイントと大幅にずれている事に気付き、このままではスレイとアイビスも窮地に追い込まれていたと冷や汗を流しながらラミアは通信機の電源を入れる。

 

「こちらラミア。百鬼帝国の攻撃が予想以上に激しく合流予定ポイントからずれている、新しいポイントはA-464-57だ」

 

『こちらヒリュウ、了解しました。今ラミアさんは単騎ですか?』

 

「いや、スレイとアイビスが着いている。民間人も武蔵達が保護してくれているが疲労が蓄積している。早急な合流を……【キッシャアアアアッ!!】なにッ!? くそッ!!!」

 

月面を砕いて姿を見せた巨大な鉤爪を持つ百鬼獣の姿にラミアは舌打ちと悪態をつき必死にトレーラーを操り、振り下ろされた鉤爪を避ける。だが砕かれた月の大地の破片がトレーラーを穿ち、大きくバランスを崩した。

 

「くっ!!」

 

ブレーキとハンドル操作だけでは間に合わないとラミアは肘でPT搬入用のアームレバーを稼働させ強引にトレーラーの姿勢を立て直しハンドルを握る。

 

『アイビス! 間違ってもミサイルを使うなよッ!』

 

『わ、分かってるッ!!』

 

アステリオンとベルガリオンの放ったマシンキャノンが百鬼獣の胸部を捉える。だが威力が余りにも足りず、僅かに姿勢を崩させるに留まるが、その僅かな硬直時間にラミアは完全にトレーラーを立て直した。

 

「……くっ……運が悪いな私も……」

 

だが完全に無事とはとてもでは無いが言えない状況だった……百鬼獣が砕いた月の大地の破片が助手席を砕き通信機を破壊し、ラミアの腕と脇腹にも数発当っており、鈍い痛みに顔を歪めながらもラミアはハンドルを握り、アクセルを踏み込んだ。

 

(通信が途絶えた事で緊急事態と言う事は伝わった筈だ……後少し耐えれれば私の勝ちだッ!)

 

百鬼獣に隣接され、絶望的な状況ではあるがラミアは決して希望を失わず、自分も生きて、そして民間人も守る為に必死にトレーラーを操り、百鬼獣――土獣鬼の放つ攻撃を必死に回避し合流地点を目指してトレーラーを走らせる。

 

【グオオオオッ!!】

 

当れば終わりだがラミアは極限状態の集中力と卓越した運転技術で土獣鬼の攻撃を幾度と無く避けた。だが当れば簡単に破壊できるはずの物がいつまで経っても壊せない事に怒りを覚えた土獣鬼が怒りの咆哮を上げ衝撃破を上空に向かって放った。

 

『うあッ!?』

 

『くっ!?』

 

それは百鬼獣で考えれば決して威力の高い攻撃では無かったが、アステリオンとベルガリオンには十分すぎる攻撃であり、姿勢を大きく崩しトレーラーを援護できる位置から弾き飛ばされた。

 

【グガアアアアアッ!!!】

 

「よ、避けられんッ!」

 

邪魔者はいなくなったといわんばかりに叫び声を上げ、口を大きく開いて熱線を放とうとした土獣鬼にラミアは攻撃を避けられないと悟りながらもなんとか避ける方法を模索した次の瞬間、土獣鬼の頭部に巨大な戦斧が突き刺さり、土獣鬼が地響きを立てて倒れこんだ。

 

『待たせたな、俺が食い止める。早く合流しろッ!』

 

「すまないッ! ここは頼んだッ!!」

 

アイビス達が運んで来た轟破・鉄甲鬼をやっとの思いで起動させたコウキにこの場を任せ、ラミアは体勢を立て直したアステリオンとベルガリオンと共に合流ポイントへ一直線に向かって行くのだった……。

 

 

 

 

両断された百鬼獣から発生した炎を腕の一振りで弾き飛ばしゲッターザウルスが姿を見せる。炎に照らし出され暗く光るその姿は百鬼獣を威圧するには十分であり、動きを僅かに怯ませる。

 

「人工知能の分際で怯んでいてどうするッ!!」

 

その隙、いや隙など見せなくてもラドラはゲッターザウルスを操り百鬼獣に攻撃を仕掛けただろう。ゲシュペンストとは異なり、圧倒的な火力と強固な装甲を武器に前線に斬り込むゲッターザウルスに後退の2文字はないからだ。

 

「むんッ!!!」

 

ダブルシュテルンの横薙ぎで2体の百鬼獣の上半身と下半身が両断され、返す刀で棍棒部分で頭から叩き潰された百鬼獣が大爆発を起こす。

 

『ラドラもう少し考えてくれよ』

 

爆風に巻き込まれた武蔵からラドラへの苦情が告げられるが、ラドラはそれを鼻で笑った。

 

「その程度でどうこうなりはしないだろう?」

 

『そりゃそうだけどよ、エキドナさんが乗ってるんだからちょっとは考えてくれよ』

 

「1つ言ってやろう。どの口がそれを言っている」

 

エキドナを気遣っている武蔵だが、ゲッターD2はダブルトマホークを両手に構えて大立ち回りをしている。爆風に呑まれるよりも武蔵の攻撃の方がよっぽどエキドナにダメージを与えているだろうとラドラは苦笑する。

 

『あ……ッ』

 

今気付いたという感じの武蔵にラドラはやれやれと肩を竦めてゲッターザウルスを前に出す。

 

「ゲッターザウルスの熟練訓練もしたい。お前は少し下がれ、コウキが頑張っているが1人ではトレーラーを守りきれん」

 

『……すまん、ここは頼む』

 

百鬼獣はセレヴィスシティ以外からも出撃して来ているのに気付き、ラドラは武蔵にトレーラーの方に回れと声を掛け百鬼獣の群れの前へゲッターザウルスを移動させる。

 

【グルウルルッル!!!】

 

【キシャアアアッ!!】

 

唸り声を上げる百鬼獣に舐めるなと言わんばかりにゲッターザウルスが唸り声を上げ、勝手に出力を上げる。

 

「仕方のない奴だ、息切れしてもしらんぞッ!!」

 

【グルルルル……ウォオオオオオッ!!!】

 

ラドラの生体パルスを与えられゲッターザウルスは凄まじい咆哮を上げる。その凄まじい咆哮にセレヴィスシティから出撃してきた百鬼獣が動きを止める。

 

「程度の低い連中だ」

 

動きを止めた百鬼獣を見てラドラはくだらないと言わんばかりに吐き捨てた。それもその筈セレヴィスシティで作られた百鬼獣はアースクレイドルや百鬼帝国で作られた個体よりも精度が劣りゲッター線を伴った咆哮で人工知能を破壊され、只の案山子へと成り果てていた。

 

【グルッ!!!】

 

【シャアアッ!!】

 

結局の所ゲッターザウルスの咆哮で人工知能を破壊されなかった百鬼獣は10体の中のたった2体しかなかった。朱王鬼と玄王鬼が持ち込んだアースクレイドルと百鬼帝国で製造された百鬼獣はとっくの昔にゲッターD2とゲッターザウルスによって破壊し尽くされており、程度の低い個体がその殆どを占めていたのだ。

 

「玉石混淆とは言うが……いや普通の人間相手ならばあの程度の鉄くずでも十分な脅威か……」

 

ゲッター線に耐え切れず人工知能が停止したのであり、ゲッター線で稼働していないPTやAMならばセレヴィスで製造された百鬼獣でも十分に脅威となる。

 

「目障りだ、さっさと消えろ」

 

その程度の敵でゲッターザウルスとラドラが満足する訳が無い。どれほど数がいようともラドラにとっては脅威足り得ないのだ、ゲッターザウルスが吐き出した業火にドロドロに溶かされ連鎖的に爆発していく百鬼獣を冷めた視線で見つめていたラドラは予備動作も無くゲッターザウルスを反転させ、回し蹴りを放った。何もない空間に向かって放たれた筈のそれは強烈な追突音を響かせ、闇に隠れていた襲撃者を月面へと引きずり出していた。

 

『ぐうっ!?』

 

『馬鹿な、完全な奇襲だったはずだぞッ!?』

 

月面に転がる玄朱皇鬼から響いて来る声を聞いてラドラは鼻で笑った。確かに完璧な奇襲ではあっただろう……だがラドラからすればそれは予見できたもので、予見出来たのならば奇襲とは名ばかりであり十分に対応出来る。

 

「お前らのような屑が考えることなどお見通しだ。俺もお前達には思う所があった」

 

子供を操り、共に死なせようとする悪辣な戦術はラドラの怒りを買うには十分であり、その怒りに呼応するようにゲッターザウルスも唸り声を上げる。

 

「貴様らはここで死ね」

 

どこまでも冷酷で、そして揺らぐ事のないラドラの死刑宣告が朱王鬼と玄王鬼に告げられる。

 

『死ぬのは貴様だ! 1対1ならば負ける……『誰が1対1で戦ってやるって言ったよッ!!!』がぁッ!?』

 

玄朱皇鬼の背後から武蔵の怒りに満ちた声が響き、容赦のない蹴りが叩き込まれ玄朱皇鬼は月面に再び叩きつけられる。

 

「ヒリュウは合流したのか?」

 

『おう、これで何の憂いも無く……こいつらをぶち殺せるなあッ!!』

 

『待て、俺も混ぜろよ。こういう下種は生き恥汚いからな……確実に殺すぞ』

 

武蔵とラドラだけでも絶望的なのにそこにコウキも加わる。コウキは口こそ悪いが冷血漢と言う訳ではない、アラド達の悲しみようを見ていて黙っていられる訳も無くヒリュウが来たことで武蔵達へと合流し、月面に這い蹲っている玄朱皇鬼を冷めた目で見下ろしていた。ゲッターD2、ゲッターザウルス、轟破鉄甲鬼から溢れ出す殺気と怒気に朱王鬼と玄王鬼は顔面蒼白だった……。

 

「楽に死ねると思うなよ」

 

『お前が好き勝手してきたツケをきっちり払ってもらうとしよう』

 

『今度は逃がしゃしねぇ、ぶっ殺してやるぜ』

 

怒れる武蔵とラドラから朱王鬼達が逃れれる訳が無く、そして武蔵達も逃すつもりなどあるわけも無かった。ヒリュウ改から出撃してくるPT隊と目の前に立ち塞がるゲッターD2とゲッターザウルス、そして轟破鉄甲鬼に朱王鬼と玄王鬼は引き攣った呻き声を上げる事しかできないのだった

 

 

 

玄朱皇鬼はブライが龍虎皇鬼と共に新生百鬼帝国のフラグシップとなるべく作り出した強力無比なワンオフの百鬼獣であり、ブライを持ってしても複製する事が出来ないハイエンド機体だ。その気になれば単騎で連邦軍を壊滅させれる力を秘めた筈の玄朱皇鬼は無様に月面に這い蹲っていた。

 

「ありえない、こんな事がありえて堪るかああッ!!!」

 

怒りの余り玄王鬼の米神からブライの物と同じ角が現れる――本来それはブライの許可がなければ使ってはならない力であり、玄王鬼と朱王鬼の切り札でもあった。増幅された魂力を吸収し、レーダーでさえも捕らえることの出来ない神速で突撃を繰り出す玄朱皇鬼だが……。

 

『ありえない? 何を馬鹿な事を言っている。因果応報と言う言葉を知らんのか?』

 

神速の突きはゲッターザウルスが無造作に振るったダブルシュテルンによって弾かれた。神速だろうがなんであろうがラドラにとっては何の変化もない直線の攻撃であり、防げない道理は無かった。

 

『反撃されて逆切れするとか餓鬼かてめえらはあッ!!!』

 

「うがああッ!?」

 

『うわああッ!?』

 

そしてがら空きの胴体にゲッターD2の鉄拳が叩き込まれ玄朱皇鬼の巨体がボールのように吹き飛びはしたが、空中で体勢を立て直し、背中の炎の翼から月面のほかの街へ向かって業火を放とうとしたが、そんな攻撃を許すコウキでは無かった。

 

『貴様らは自分よりも弱い相手としか戦えぬ卑怯者だ。そんな奴らがやることなど手に取るようにわかるッ!!』

 

ドリルアームを展開した轟破鉄甲鬼の上空からの突撃に再び月面に叩きつけられた上にドリルに背中を抉られては、玄朱皇鬼の自慢のスピードは見る影も無くなり、人を甚振るための武装だった翼を抉り取られ攻撃力までこそぎ落とされていた。

 

『えぐいな……』

 

『徹底的に叩き潰すつもりなんだろうな』

 

反撃も防御すら許されない圧倒的な暴力に晒されている玄朱皇鬼に同情する声は無いが、武蔵達の過激過ぎる攻撃にキョウスケ達は驚いていた。

 

『そんな事を言っている場合かッ! 百鬼獣はまだ残っているんだぞッ!』

 

『まだセレヴィスには避難できていない民間人が残されている可能性もある! 百鬼獣を殲滅し、セレヴィスの守りを固めるぞッ!』

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲから響くカイとギリアムの怒声にキョウスケ達は了解と返事を返し、再びセレヴィス奪還の為に動き始める。武蔵達は可能な限りの民間人を保護したが、それはマオ社とイスルギ重工付近に留まっている。セレヴィスシティの避難シェルター全12箇所の内4箇所の民間人を保護したに過ぎないのだ。

 

『ポイントマーカーを頼りにシェルターの守りを固めてください! 百鬼獣にシェルターを攻撃されてはなりませんッ!』

 

ヒリュウ改のレフィーナからの指示とコックピットに映るシェルターの場所を目指してキョウスケ達は機体を走らせる。

 

「くそッ! 変われ玄ッ!!」

 

『ぬう……不覚』

 

玄朱皇鬼から防御力に秀でた朱玄皇鬼へと変形し、分離した玄王鬼の甲羅がバリアを展開する。

 

「何をしているインスペクター! 早く僕達を助けるんだッ!!」

 

これで少しは武蔵達の足止めを出来ると判断した朱王鬼はセレヴィスの戦いを見ているだけのメキボス達に助けろと怒鳴り声を上げる。

 

『おいおい、あんたらがセレヴィスに関与するなって言ったんだろ? 俺達は自分達のテリトリーのムーンクレイドルへの進撃を防ぎに来ただけだぜ? 助ける道理はねえな』

 

「ふざけるなッ!! 大帝と同盟を結んでいるだろうッ!! 僕達を助けろよッ!!」

 

『助けてくれれば十分な謝礼は払うッ! 我らはこのような場所で死ぬ訳にはいかんのだッ!!』

 

自分よりも強い相手と戦った事のない朱王鬼達は自分達の命が危機に晒され、みっともなく無様に助けろとメキボス達に怒鳴りつける。だがその怒声をメキボスは鼻で笑った。

 

『俺達は俺達の拠点を守りに来たって言っただろ? お前達を助ける道理はねえよ。それに……俺達に気を取られてて良いのか?』

 

「何を言って……朱玄皇鬼のバリアが砕かれる訳が『砕かれる訳が何だって?』ひ、ひッ!?」

 

自分達の頼みの綱であるバリアが簡単に切り裂かれている光景に朱王鬼は引き攣った悲鳴をあげた。

 

『こんな物が最後の切り札か……くだらんな』

 

『所詮は弱者を嬲る事しか出来ない卑怯者と言う事だ』

 

『あの世に行く覚悟は出来たか? まぁ出来てなくてもぶち殺すけどなあッ!!!』

 

圧倒的な怒気と殺気……武蔵1人でもその殺気と怒気に呑まれて動けなくなっていたのに、それにコウキとラドラが加われば朱王鬼と玄王鬼は恐怖で動けなくなった。これが龍王鬼と虎王鬼達との違いである――彼らは戦いを好み、殺す事も自分が死ぬことも覚悟している……だが朱王鬼達は違う、ブライの為にと言う免罪符を手に好き勝手し、人体実験や洗脳で家族同士を殺し合わせたりすることをショーとして楽しんでいた朱王鬼達は自分達が強者であり、殺されたり傷つけたりする訳が無いと言う驕りが合った。自分達は殺す側で殺される側ではない、武蔵が言った通り子供としか言いようのない精神性をしていた朱王鬼と玄王鬼は自分達が死ぬ恐怖に目の前が真っ暗になり……そしてそのまま永劫覚める事のない眠りの中へと落ちて行った……。

 

「仲間割れ!?」

 

「なんだあれは……!?」

 

「インスペクター? いや、でも違うッ!?」

 

ガルガウの放った弾丸に打ち抜かれ朱玄皇鬼のカメラアイから光が消えた。ガルガウとヴィガジが味方である筈の朱王鬼達に攻撃を加えた事に困惑しているキョウスケ達の目の前でガルガウの胸部装甲が内側から弾け赤黒いコアが姿を見せ、ガルガウの全身を複眼に覆い尽くされた黒い皮膚と緑色の触手が覆い尽くし、触手の先と全身の複眼が怪しく光を放ち始めるのを見てラドラが怒声を上げた。

 

「散れッ!!」

 

「急げッ! 取り返しの付かないことになるぞッ! 武蔵ッ!!」

 

「分かってるッ!! クソ間に合えッ!!!!」

 

【■■☆▲×○ッ!!!】

 

狂ったような……いや狂っているのだろう。インベーダー、アインスト、そして妖機人に寄生され、3つの意識に呑まれたヴィガジは生きているがそれと同時に既に死んでいた……メキボス達がインベーダーに寄生されたのでは無いか? 危惧した通りテスラ研で瀕死の重傷を負ったヴィガジはインベーダーに寄生されていた、だがそれだけには留まらず妖機人、そしてアインストまでにも寄生されていたのだ。寄生したインベーダー達は瀕死のヴィガジの身体を修復し、休眠状態へと陥っていたがゲッターD2、ザウルス、轟破鉄甲鬼のゲッター線反応に活性化し、ヴィガジの意識を塗り潰した。周囲を薙ぎ払う無数の赤黒い光の雨――いや、インベーダーとアインストの幼生の種が宇宙を紅く染め上げる光景は地獄に降る雨その物だった。ラドラ達の警告が早く逃げに回れていたキョウスケ達は動き出していたが、それでも空中で枝分かれし、散弾銃のように降り注ぐ種を避けるのは至難の業だった。

 

「避けろッ! 絶対に当るなッ!!」

 

「くそったれッ!!」

 

百鬼獣の残骸に種が当り、メタルビースト、あるいはアインストへと変異していく……そして朱玄皇鬼も大量の種を植え付けられ、ガルガウと同じ様にアインストとインベーダー両方に寄生された異形へとのその姿を変えていく光景にキョウスケ達は言葉を失った……。

 

「決まりだな、今回の作戦は失敗だ。やっぱり俺達は地球に来るべきじゃなかった」

 

ヴィガジがインベーダー、そしてアインストに寄生されているのを見てメキボスの心は決まった――ゲッター線に関わった者は破滅する。伝承のそれが紛れも無い事実であったと思い知らされたメキボスは広域通信を行なう為に通信機へ手を伸ばすのだった……。

 

 

 

第208話 セレヴィス攻防戦 その4へ続く

 

 




アースクレイドル攻略とメタルビースト・SRX戦が残っていますが、その前に宇宙は破滅の引き金を引いてもらいました。OGINを見て気付いたんですよね、ウェんドロだけじゃなくても良いじゃないかってだからヴィガジもインベーダーとアインストに食われました。これで完璧ですね、何が完璧かは分かりませんが、多分完璧です。大丈夫です、ちゃんとOG外伝までのシナリオは出来ているのでご安心ください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

PS

ダイナミックフォトンフォーメーション狙いでガチャ

シュトルムカイザー×2
オーラダイブ
エクスカリバー

でした、エクスカリバーは出るのが遅すぎる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

349話

第208話 セレヴィス攻防戦 その4

 

ガルガウがインベーダーとアインストに喰われ、黒が混ざったゲッター線を放っているのを見て武蔵はポセイドン号の通信機のスイッチを入れた。

 

「エキドナさん。大分無茶しますけど大丈夫そうですか?」

 

『……大……大丈夫だ……あれを見て放置していて良いものではないと言うのは……私にも分かる』

 

朱玄皇鬼もインベーダーとアインストに喰われて異形と化しているが、ゲッター線の光は放っていない。強敵なのは間違いないがガルガウよりも危険度は下がる。

 

「コウキとラドラで朱王鬼を潰してくれ、ガルガウはオイラとエキドナさんで何とかする」

 

『分かった。ここまで変異しているとキョウスケ達には戦わせられん』

 

『下手をすると喰われるからな、まあそれは俺達も条件は同じだが……』

 

「すぐ食われることはないだろ? 多分が付くけどよ」

 

高密度のゲッター線を纏っているゲッターD2、ゲッターザウルス、轟破・鉄甲鬼はインベーダーとアインストとてそう簡単に取り込むことが出来ない相手だ。だからこそ初手に自分の仲間を増やすために種をばら撒いたのだ。戦力で劣ったとしても、数で押し潰す事は十分に可能だからだ。

 

【グガアアアアアッ!!!】

 

「行くぜオラアッ!!」

 

機械合成音などと言うちゃちな咆哮ではない、獣その物の雄叫びを上げるガルガウに負けるかと武蔵も叫び返し、ゲッターD2をガルガウへと突撃させる。

 

『いきなり突撃で大丈夫か?』

 

「自由にさせるほうが危険だ。まずは出足を潰すッ!! ダブルトマホークッ!!」

 

エキドナの言葉に武蔵はそう返事を返し、ダブルトマホークをゲッターD2の両手に握らせ一気に距離を詰めようとし……舌打ちと共にダブルトマホークをクロスさせて防御の姿勢に入った。

 

「くうっ!?」

 

閃光にダブルトマホークは切り裂かれ、ゲッターD2の装甲にも深い傷を刻み付けた。

 

『うあッ!? な、なんだ……今のは……「ちいっ!!」うっ!?』

 

理解不能の攻撃にエキドナが困惑しながら武蔵になんだと問いかけようとしたが、武蔵が急にゲッターを操った事で呻き声となり問いかける事は出来なかったが……月面に刻まれている傷痕を見てエキドナは顔を青褪めさせた。

 

『なんと言う破壊力だ……ッ』

 

深い……それこそクレーターレベルの破壊痕にエキドナは恐れ戦いた。今まで様々な破壊力の武器を見てきたエキドナだが、全く説明の付かない攻撃に驚きと恐怖を感じていた。それは武蔵も同じだが、それが自分の命を刈り取るものであると判断した武蔵は一体何で攻撃されているのかを見極めようとし、ゲッターを前進させると同時に地面を蹴って飛び上がりゲッターウィングを展開する。完全に攻撃を回避した……ように見えたが、ゲッターD2の脚部には深い傷痕が刻まれていた。

 

『一体何で攻撃されているんだ!?』

 

「高密度のゲッター線だ。エキドナさん、それをあの両手の爪から鉤爪みたいにして飛ばしてるんだ……ッ』

 

何で攻撃されているのか理解出来ていなかったエキドナに武蔵は何で攻撃されたのかを口にした。全身に纏っているゲッター線……それは盾であり矛なのだ。ゲッターD2の装甲さえ容易く引き裂くゲッター線の刃――そして遠距離からの攻撃は纏っているゲッター線でガードする。

 

『どうやって間合いを詰める。下手に突っ込んだら……膾切りだぞ?』

 

「とにかくまずは避けます、あれだけのゲッター線を使ってたらいつかは息切れするだろうし……その隙に切り込むしか『ならあたいが囮になってやるよ』……インスペクターがどういう風の吹き回しだ?」

 

『これでも宇宙の秩序を守るって言うのがあたい達の誇りさ。確かに侵略はしたし、殺しもした。だけど、あくまであたい達は宇宙の秩序を守ってきたつもりだ』

 

「インベーダーとアインストが危険だから協力するってか? それだけで許されると思ってんのか?」

 

『思っちゃ居ないよ。だけどこの戦いで生き残ったら話くらい聞いてくれても良いだろ?』

 

「……オイラは助けねえぞ」

 

『分かってるよ、あたいが勝手に囮になるだけさ』

 

『……』

 

『怪しい真似をしたらお前を殺す』

 

『それだけの事をお前達はしてきたんだ。分かっているだろうな?』

 

『……』

 

『覚悟は出来ているか、良いだろう』

 

『俺達も言えた口ではないからな、お前の行動で判断させてもらうとしよう』

 

ゲッターD2の横に浮かぶシルベルヴィントからの接触通信に武蔵は棘のある口調でアギーハへと問いかけ、そしてシカログはコウキとラドラと共に朱玄皇鬼へとドルーキンを立ち向かわせ、そしてメキボスが乗るグレイターキン改もまたキョウスケ達と共にインベーダー、あるいはアインストに寄生された百鬼獣との戦いに身を投じているのだった……。

 

 

 

戦況を見ていたインスペクターの機体が動き出した事にヒリュウ改のクルー達は緊張を強めたが、広域通信で告げられた言葉にその動きを止めた。

 

『取引がしたい、ヒリュウ改のクルーは応答されたし、こちらは武装を全て放棄する。誠意ある対応を望む』

 

グレイターキン改が所持しているビームキャノン、シールドを投げ捨て、ドルーキンは武装であるハンマーやメイスを足元へと落す、構造上武装を取り外せないシルベルヴィントは動力を停止させ、活動出来ない状態へと移行する。

 

「副長……どう思いますか?」

 

「罠……とはいえませんな、恐らく現状がインスペクターにとっても想定外なのでしょう。勿論我々も想定していなかった訳ですがね……」

 

ガルガウがインベーダーとアインストに喰われている状況はインスペクターにとっても想定外だったのだろうが、武装解除されてもはいそうですかと信じる訳には行かない。

 

『今のうちにぶっ潰す事を提案するぜ艦長、大体あいつらがインベーダーに寄生されていねぇって言う根拠がねぇ』

 

カチーナの言う通りである。ここで取引を受け入れたとしてもメキボス達がインベーダーに寄生されていない根拠が無い以上……メキボスの要求を聞き入れる理由はないのだが、レフィーナは僅かな逡巡の後キョウスケ達に命令を下した。

 

「交渉は私が当ります、インスペクターへの攻撃は一時中断してください」

 

『おいおい正気か!?』

 

『……何を考えて……』

 

その命令は流石のキョウスケ達も躊躇いを覚えるが、目の前の百鬼獣の残骸がメタルビーストやアインストに変化を始めるのを見れば其方に意識を向けざるを得なかった。それでも通信機だけは稼働状態にして、メキボスとレフィーナの会話に耳を傾ける。

 

「地球連合軍レフィーナ・エンフィールドです」

 

『ゾヴォークのメキボス・ボルクェーデだ』

 

「長話をするつもりはありません、取引の内容を聞かせてください」

 

レフィーナの険しい声にメキボスは分かっていると返事をし、取引の内容を口にする。

 

『事態は俺達にとっても想像を超えるレベルで悪化の一途を辿っている。こんな事を言えた口ではないのは分かっているが、今のままでは事態が悪化する事はあるが好転する事はありえない。よって俺メキボス、アギーハ、シカログの3人は現時刻を持って地球監査ではなく、宇宙の平和・秩序を守る惑星間連合ゾヴォークの理念に従い、インベーダーとアインストの殲滅を最優先とする。よって貴君らへの共闘を要請する』

 

メキボスの言葉にレフィーナはグッと拳を握り締めた。侵略行為を散々しておいて、今更何を言っていると、お前達の行動のせいでここまで地球圏は混乱したと言うのに今更なんだと叫びたくなる気持ちをグッと堪えて口を開いた。

 

「当たり前の話ですが、貴方の話を信用する事は出来ません」

 

『だろうな、俺達の今までの行動を見ればそう思うのは当然だ。なら俺達はどうすれば良い?』

 

「この戦いで貴方達の真意を見させてもらいます。それを見た上でどうするか判断します」

 

『分かった、それで構わない、自分達の行動で示すのは当然の事だからな。だが後から撃つのは止めてくれよ?』

 

「それは貴方達次第です」

 

一方的に通信を切ったレフィーナは艦長席に腰掛け、深く息を吐いた。

 

「……副長。私の決断をどう思いますか?」

 

「今出来る最善だったでしょう、恐らくダイテツ艦長も同じ決断を下した事でしょう」

 

正直に言えばレフィーナだってインスペクターとの共闘なんて冗談ではないと叫びたかった。だが大局を見れば、いや、もっと言えば星間連合と言う肩書きを面に出してきた事をレフィーナは危惧したのだ。もしもメキボス達が帰らず、地球人に返り討ちになったとすればその科学力を持ってレフィーナ達では想像も得出来ない兵器を持ち出してくるかもしれない。そうなれば地球全体が、いや太陽系全体の危機に陥りかねない……恨みはある、今更どの口で共闘したいと言い出したと罵ってやりたいが、込み上げてくる怒りをレフィーナはぐっと堪えてメキボス達の余りにも都合のいい申し入れを受け入れたのだ。

 

「ですが、艦長。そう怒る事も無いでしょう」

 

「何でですか?」

 

自分と同じ思いを抱いている筈のショーンが笑みを浮かべながら怒る必要が無いと口にし、レフィーナが若干声を荒げてどういう意味だと問いかけるとショーンは顎鬚を撫でながら意地の悪い顔で笑った。

 

「共闘したとしても武蔵が許すとは思えませんからね。誰よりも強烈な一撃を叩き込んでくれると思いますよ」

 

その言葉にレフィーナは一瞬驚いたように目を見開き、その通りだと笑いユンにキョウスケ達にインペクターと共闘する旨の通達を出すように指示を出し、モニターに写るインベーダーとアインストに寄生された百鬼獣達に視線を向けるのだった……。

 

 

 

シカログと言う男は生粋の戦士である。それもゾヴォークでは馬鹿にされていると言っても良いほどに古い宗教観を持つ宗教戦士であった。その宗教では戦士は寡黙である事が美徳とされる……己を必要以上に飾る事無く、己を賞賛する事無く、贅沢をする事無く、そして愛する者を守って戦う事を美徳とし、成し遂げるのが難しい誓約を己に課す戦士こそ優れていると賞賛する――己を厳しく律する事こそが己の優秀さを示すとされる戦闘民族である。ゾヴォークが発足した当時は重宝された部族ではあるが……現在はその古い価値観と宗教によって辺境に追いやられ、絶滅の危惧に瀕しているような少数民族の生まれがシカログである。

 

「!!!」

 

そんなシカログが監察官に選ばれたのはその戦闘能力の高さ、機動兵器の操縦適正の高さ、そして現在においても宗教の教えを守り、只管に己を鍛え上げ続けた事が監察官として認められたのである。そして監察官になった事でシカログが己に課した誓約は、喋らない事である。言葉ではなく己の行動で自身の価値を示し続ける事をシカログは選んだのである。

 

【シャアアッ!!!】

 

メタルビーストいやアインスト……そのどちらでもない朱玄皇鬼・D(デッドマン)の突き出された腕から伸ばされた触手をドルーキンは片手で掴んで一気に引き寄せる。吹っ飛んで来た朱玄皇鬼・Dの胴体にメイスを突き立てる。

 

【グギャアアアアア!?】

 

「!!!」

 

苦悶の声を上げ暴れる朱玄皇鬼・Dをそのまま頭上へと持ち上げる。アギーハとシカログの間に言葉は必要ではない、互いを思う合う気持ちで心が繋がっているからだ。そして武蔵、コウキ、ラドラ達とも言葉は必要ではなかった……何故ならば戦士だからだ、戦士の間に言葉は必要ではない。

 

『焼け焦げても知らんぞッ!!』

 

『吹き飛べッ!!!』

 

ゲッターザウルスの口から吐き出された火炎と轟破・鉄甲鬼の放った酸とゲッター線が混ざった暴風が朱玄皇鬼・Dとドルーキンを飲み込んだ。

 

【グギウイイイイイイッ!!!?】

 

「!?!?」

 

火炎による熱、そして装甲を溶かす特殊溶剤によってドルーキンの強固な装甲が溶かされ、メイスも少しずつ溶かされる。それでもシカログは朱玄皇鬼・Dを捕らえる手を緩める事は無い。確かにシカログ達が地球に行なった事は決して褒められる対応ではなかった……むしろゾヴォークとしての対応としても完全な悪手だった。だがシカログは戦士である、戦士は上官の命令は絶対であり、ウェンドロがそれを良しと認めたのならばそれに対して反論をすると言うつもりは一切無かった。だが思う所がなかった訳ではない、ヴィガジの暴走によって地球人と対立を深いものとした……それさえなければ、もっと早くにインベーダーとアインストに対応する事が出来たのだ。

 

『行動で見るとは言ったが、死ねとは言っていないぞ』

 

接触通信によるコウキの言葉にハッとしたシカログはドルーキンが手にしていたメイスが柄を残して消滅しており、インベーダー細胞とアインストの触手がドルーキンの本体に迫っているのを見て咄嗟にメイスを投げ捨てた。

 

『使え、そんな物を使うよりもよっぽど有効打を与えられるだろう』

 

ゲッターザウルスから投げ渡されたダブルシュテルンを受け取り、2度3度と振るわせてシカログは驚いた。馴染んでいるのである。メイスやハンマーと言った旧式の武器を使うドルーキンだが、当然ながらドルーキンとゲッターザウルスでは重心の位置などはまるで違う。だがそれでもまるでドルーキンの為に作られた武器のようにダブルシュテルンが馴染んだ事に、シカログは驚いたのだ。

 

『馴染んだのならそれを使え、化物が本領を発揮し始めたぞ』

 

朱玄皇鬼・Dの身体から生えるように機体の構成をインベーダーとアインスト細胞へと置き換えた玄朱皇鬼・Dが現れ、槍を振るう姿を見てシカログは眉を顰め、改めて何故地球人を力で抑え込もうとしたのだと、最初からゾヴォークに迎え入れようとすればこんな脅威が生まれる事は無かったのだと思わずにはいられなかった。

 

『お前と俺であいつを沈める。遅れるなよ』

 

「!」

 

ゲッターガリムへとゲッターチェンジしたゲッターザウルスが玄朱皇鬼・Dに向かって爪を振るう姿を見ながら、シカログの駆るドルーキンと轟破・鉄甲鬼は玄朱皇鬼・Dへと向かって行くのだった……。

 

 

 

 

朱王鬼と玄王鬼が操っていた時よりも朱玄皇鬼、玄朱皇鬼の2体は強くなっているとラドラは感じていた。朱王鬼と玄王鬼の2人はどう見ても小者である。自分が傷つられるわけが無いと、自分達は一方的に搾取し傷つける側だと疑わず、己を鍛える事をしなかった……同じ四邪の鬼人である龍王鬼と虎王鬼は常に己を鍛え、常に魂力を高めていた。そして純度と濃度が高まった龍王鬼と虎王鬼の魂力は、龍虎皇鬼に大きな恩恵を与えていた。それに対し己を鍛えようとしない朱王鬼と玄王鬼から魂力を与えられていた朱玄皇鬼は、弱体化こそしなかった物の……その力を強める事は無かった……それが今、インベーダーとアインストに寄生された事により朱王鬼と玄王鬼は自らの強い闘争本能を満たす優秀なパイロットを得る事が出来たと言うのは、とんでもない皮肉な話だった。

 

「インベーダーとアインストに乗っ取られた方が強いか……お前も恵まれてないな」

 

【シャアアッ!!】

 

炎と氷を纏った槍による連続攻撃は早く、重い、それに加えてインベーダーとアインストの触手が加わるので避けるのは至難の技だろう。だが玄朱皇鬼・Dとラドラとゲッターガリムは、致命的なまでに相性が悪かった。

 

「子供の遊びだなッ!!!」

 

触手の嵐をゲッターガリムの鉤爪が全て切り裂き、スピードの乗った回し蹴りが玄朱皇鬼・Dの顔面を拉げさせ、よろよろと後退させる。武蔵とコウキもそうだが、ラドラも化物とは戦い慣れているのだ。触手が伸びてこようが腕が伸びてこようが、装甲からインベーダーが顔を見せて来ようがうろたえるような甘い経験値ではないのだ。

 

「ふんッ!!!」

 

【ギギャァッ!?】

 

「どうした? 外に出たかったのだろう? 俺が出してやると言っているんだ遠慮する事はないッ!!」

 

伸びて来たインベーダーの頭部をガリムの鉤爪が鷲づかみにし、強引に引き抜きに掛かる。装甲と繋がっているインベーダーの頭部からどす黒い体液が噴出し、体内に引き戻そうともがく玄朱皇鬼・Dだがゲッターガリムに完全に動きを止められていた。それでも体内に引き戻そうともがき、ゲッターガリムが急に手を離し凄まじい勢いでインベーダーの頭部が体内に回収され、轟音を周囲に響かせる。

 

「おっと、悪かったな。戻りたがっているようだから戻してやろうとしただけなんだがな?」

 

【グガアアアッ!!】

 

言葉を理解しているとはラドラも思っていなかったが、玄朱皇鬼・Dが怒りのリアクションを見せるのを見て、畜生でも馬鹿にされていると理解しているのかとラドラは内心感心していたりする。

 

(仕込みはした。後はタイミングだな)

 

ゲッターザウルスが高密度のゲッター線を内包していたとしても、掴み続ける事はインベーダーに寄生されるリスクがある。それでもラドラがインベーダーの頭部を掴んでいたのはある理由がある、朱王鬼と玄王鬼の性格、そしてその一部を学習してある行動に出るだろうからと仕掛けた罠が、玄朱皇鬼・Dの体内に隠されていた。

 

【ゴアアアアアアッ!!!】

 

「好都合だ。どんどんエネルギーを使うが良い」

 

玄朱皇鬼の翼が広げられ、周囲を焼き払う火球の雨が放たれる。その熱、速度、破壊力、そして攻撃範囲はサイバスターやヴァルシオーネの広域攻撃であるサイフラッシュやサイコブラスターにも引けを取らない……いや、被弾した場所に残り続け周囲を焼く悪辣さ、その一点だけはサイフラッシュやサイコブラスターよりも優れている点であり、玄朱皇鬼・D、朱玄皇鬼・Dがそれぞれ所有している盾が展開しているエネルギーフィールドの阻害効果も相まって、並の機体ならば避ける事は不可能だっただろ。

 

「言った筈だ、子供の遊びだとなッ!!」

 

ゲッターガリムの全身をゲッター線の輝きが包み込み、月面を高速で駆け回り放たれる火球の雨を全て回避し、少しずつ距離を詰め始める。

 

【ガアアッ!!】

 

近づけませまいと槍を振るい火球や氷の礫、そして背部の翼から火球を放ち続ける玄朱皇鬼・D。速度に優れた機体がその速度で負けたのならば、相手の出足や足を鈍らせるのは戦術として間違いではない……間違いでは無いがそんな悠長な行動をラドラが許すわけも無く、月面を砕いての急加速で一気に距離を詰める。

 

【シャアッ!!!】

 

包囲網を築くのが間に合わないと判断し、攻撃の威力を下げ攻撃範囲と速度を上げる事で対応しようとする玄朱皇鬼・Dの戦術は正しい。威力を落としたことで攻撃はより早くなり攻撃範囲も広がった。そして威力を落としたとは言え、インベーダーとアインストに寄生され出力が上がっている玄朱皇鬼・Dの火力を考えれば、一発でも掠めればそこから畳み掛ける事も可能であり、一撃でも被弾すれば危険と言わざるを得ないが……。

を落としたことで攻撃はより早くなり攻撃範囲も広がった。そして威力を落としたとは言え、インベーダーとアインストに寄生され出力が上がっている玄朱皇鬼・Dの火力を考えれば一発でも掠めればそこから畳み掛ける事も可能であり、一撃でも被弾すれば危険と言わざるを得ないが……。

 

「当らなければどうということはないッ!!!」

 

当ったら危険ならば当らなければ良い……脳筋な考え方かもしれないが武蔵やコウキ、ラドラならばそれは不可能ではないのだ。一瞬で攻撃を見切る反射神経の高さ、そして動物的とも言える危機察知能力、迷う事も躊躇う事も無く自分の身体を動かす事が出来る勝負度胸から、武蔵達は言うならば生粋の怪異殺しと言っても良い。敵が異形の姿をしていようがなんだろうが躊躇う事も恐れることも無い。

 

「うおおおおおッ!!!」

 

雨霰のように放たれる攻撃を全て回避し、玄朱皇鬼・Dに組み付いたゲッターガリムは高速回転する右腕を最大速度のまま突き出した。

 

【ギギャアアアアアアッ!!!?】

 

顔面にドリルのように回転する鉤爪を突き刺され、玄朱皇鬼・Dは苦悶の悲鳴を上げて逃げようとするが、ゲッターガリムの尾が胴体に巻きついており離れる事が出来ず、これは堪らないと玄朱皇鬼・Dが周囲に展開していたバリアフィールドのビットとなっていた玄王鬼の甲羅を自身の身体に戻すのを見て、ラドラは獰猛な笑みを浮かべた。

 

「その鬱陶しい盾をぶち砕くッ!!!」

 

分離し状況に応じてバリアフィールドなどを展開する盾はラドラにとっても鬱陶しいものだった。こうして間合い詰めて攻撃を加えれば攻撃に晒されるのを嫌って盾を回収し、自分の身を守ると踏んでいたのだ。

 

「これが畜生の限界だ」

 

自分の事しか考えられないインベーダーとアインストだからこそ、自分の守りを優先する。攻撃に優れ防御が弱い玄朱皇鬼・Dを守る為に展開されていたバリアフィールドが解除された。ラドラは畜生と言ったが、朱王鬼と玄王鬼を取り込んだアインストとインベーダーは、仲間を裏切っても自分が生き残るという考え方までも取り込んでいたのがこの行動に繋がったのだ。

 

『逃がすか、くたばれッ!!!』

 

『……ォォ……オオオオオオオオオオオ――ッ!!!』

 

【グギャアアアアアアアッ!!!】

 

機動力と攻撃力に優れる玄朱皇鬼を模した玄朱皇鬼・Dは、インベーダーとアインストの再生能力を生かし辛うじてゲッターガリムの攻撃を回避し致命傷を回避していた。だがそれは朱玄皇鬼・Dと自身のバリアが機能していたからだ。それを失えば、多少の被弾などお構いなしに突っ込んでくる轟破・鉄甲鬼とドルーキンの圧力を止める事は不可能だ。斧とダブルシュテルンの一撃を喰らって両腕を切り落とされた朱玄皇鬼・Dが地面を蹴って逃げようとするが、その足に轟破・鉄甲鬼の手から伸びた鎖が絡みついて月面へと叩きつけられる。

 

『逃がさんと言ったはずだッ!!』

 

【グギャアッ!? ゴガアッ!?】

 

鎖で繋がったまま振り回されては月面に叩きつけられる朱玄皇鬼・D。インベーダーとアインストの複合体なので身体を溶かして何度も拘束から逃れようとするが鎖が淡く翡翠色に輝き、身体を溶かそうとする度に苦悶の悲鳴と白煙を上げて元の姿に戻らされている。

 

『1度捕らえた獲物を逃がすほど俺は甘くはないぞッ!』

 

鎖が放っている光は当然ながらゲッター線だ。ゲッター線に焼かれている朱玄皇鬼・Dは逃れることも、防ぐ事も出来ず身体を焼かれ、月面へと何度も何度も叩きつけられる。

 

【ギイイッ!?】

 

「今更取り繕った所でもう遅いッ!!」

 

相方である朱玄皇鬼・Dが轟破・鉄甲鬼とドルーキンに痛めつけられている姿を見て、再び玄朱皇鬼・Dはバリアフィールドを展開しようとするがゲッターガリムに組み付かれ、攻撃を防いでいるうちに玄王鬼の甲羅はボロボロになっており、仮にバリアフィールドを展開できたとしてもゲッター線で稼働しているゲッターガリムと轟破・鉄甲鬼の動きを阻害出来るほどのバリアを展開するのは不可能であった。

 

「おおおおおッ!!!!」

 

【ギ、ギギャアアアアアアッ!?】

 

高速回転する鉤爪を胸に突き刺され、装甲の奥のコアを抉られた玄朱皇鬼・Dは苦悶の声を上げながら、高速回転する腕から放たれた衝撃破に全身を切り裂かれながら弾き飛ばされる。

 

【ギィイイッ!!!】

 

【キッシャ!!】

 

それは奇しくも轟破鉄甲鬼とドルーキンに痛めつけられていた朱玄皇鬼・Dの元であり、月面の中に隠していた細胞を呼び戻し、互いの身体を溶かして再び1つになって互いの傷を修復しようとするが、その動きが突如止まった。

 

【ギ、ギガア!?】

 

【ご、ゴガアアア……ッ!?】

 

『何を仕掛けた?』

 

融合も分離も出来ない、身体が中途半端に結合し動く事が出来なくなった玄朱皇鬼・Dと朱玄皇鬼・Dを見ながらコウキがラドラに何をしたと問いかける。

 

「仕込みをしておいた、インベーダーとアインストの生存本能と朱王鬼と玄王鬼の生き汚さを考えればこう来るだろうと思ってな、だから俺はお前の体内にガリムの爪を残した」

俺はお前の体内にガリムの爪を残した」

 

……ラドラの言う仕込みの正体は、何時の間にか消えていたゲッターガリムの左手の爪だったのだ。高純度のゲッター合金で作られたガリムの爪のゲッター線が徐々に身体に回り、融合する為に体組織を緩めた事でその結合を一気に崩したのだ。

 

『あの時か……ふっ、上手くやったな、これで隠れていた奴らも誘き出せた。一気に殲滅するぞ』

 

ゲッター線とて万能ではない、インベーダーに寄生される事もある。そのリスクを背負ってまで玄朱皇鬼に寄生しているインベーダーの体内にゲッター合金製の爪を残すという手段に出たラドラをコウキは賞賛し、月面に隠れていたインベーダー細胞が顔を出したのを見て獰猛な笑みを浮かべた。

 

『予想通り過ぎて笑えんな』

 

「寄生する相手を探っていたのだろう、だがそう来るであろうと予測がついていれば何の恐ろしさも無い」

 

体内の高密度のゲッター線が反発しあい、玄朱皇鬼・Dと朱玄皇鬼・Dは中途半端に結合した状態でその動きを止める。ゲッター線を求めながらも高密度のゲッター線に耐えられないインベーダーとアインストの性質、そしてインベーダーとアインストに取り込まれてもなお、インベーダーとアインストの影響を与える自我を持っている朱王鬼と玄王鬼の性質から、次の寄生先を確実に捕らえる為に核をどこかに隠していると踏まえた上での罠だった。

 

「これで何の憂いも無く……」

 

『消し飛ばせるッ!』

 

ゲッターザウルスと轟破・鉄甲鬼が並び立ち腹部のレンズが展開される。それを見て朱玄皇鬼・Dと玄朱皇鬼・Dは互いの身体を切り離してまで逃げようとするが互いの身体が中途半端に融合している事で逃げることも出来ず、無様に這いずって逃げようとするが当然そんな動きでラドラ達から逃れられるわけも無い。

 

『「ゲッタァアアア……ビィィイイイムッ!!!」』

 

【【ギッ! ギャアアアアアアアーーッ!!!】】

 

暴虐を繰り返した悪鬼に待っていたのは因果応報の結末だった……インベーダーとアインストに取り込まれ、自我を持たない獣となりゲッター線の翡翠の輝きの中へ飲まれて断末魔の悲鳴を月面に響かせながら、朱王鬼と玄王鬼は跡形も無く消え去るのだった……。

 

 

 

第209話 セレヴィス攻防戦 その5へ続く

 

 




インベーダーとアインストに取り込まれても基礎性能が低すぎる上にゲッター線特攻でぼこられて消滅。こいつらはかっこいい戦闘とか無しで丁度良いかなって思ったので今回の形となりました。とは言えゲッターザウルスと轟破鉄甲鬼だからこそ有利だっただけで、OGユニットだったらかなり苦戦する事になったと思います。なので次回はキョウスケ達の視点でインベーダーとアインストに寄生された百鬼獣との戦いを書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


PS 久しぶりのガチャ報告

ダブルファンネル2枚とオーライザーのSSR1枚、無事に入手できました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

350話

 

第209話 セレヴィス攻防戦 その5

 

アインストとインベーダーに寄生され変異した朱玄皇鬼、そしてガルガウとの戦闘音は遠く離れたセレヴィスまで響き渡っていた。単騎で戦うのは危険な相手というのは武蔵達も把握していたが、それでも単騎の戦いに持ち込む必要性があったのだ。リュウセイを誘い出し取り込もうとしたロスターとガルガウと朱玄皇鬼が変異したロスターは、別個体と言うべき進化をしていた。道連れにするという悪意ではなく同種を増やすという願望を持ち、キョウスケ達を……いや、もっと言えばセレヴィスだけではなく、ムーンクレイドルの地下のシェルターや他の月面都市に向かっても種を撃っていたのだ。だが百鬼獣に植え付けた種以外発芽はしていなかったのには理由がある。

 

「馬鹿の一つ覚えみたいに種を打ち込んできやがって……そっちは大丈夫かッ! インスペクターッ!!」

 

ガルガウと対峙しているゲッターD2、そして朱玄皇鬼・Dと対峙しているゲッターザウルスと轟破・鉄甲鬼のゲッター炉心の出力は強く、寄生目的のインベーダーとアインストの種が着弾する前に消滅させていたからロスターが増える事は無かった。たが武蔵達でも完全に消滅させたという確証が得れない以上、無理にでもセレヴィスとヒリュウ改から引き離す必要性があったのだ。

 

『インスペクターじゃなくてあたいはアギーハだよッ!』

 

「そんだけ怒鳴れるなら大丈夫だなッ!!」

 

インスペクターと怒鳴られアギーハだと怒鳴り返してくる声を聞いて武蔵は大丈夫だなと言いつつも、その目は心配そうにシルベルヴィントを見つめていた。根本的に武蔵は善人なのだ、竜馬や隼人ならば囮として使い潰す事を平気で行うだろう……だが、武蔵のヒリュウ改とセレヴィスから引き離したいと言う願いを聞き入れ協力してくれたアギーハには思う所はあれど、見捨てるという選択は限りなく低い物となっていた。

 

「甘いって言いますか? エキドナさん」

 

『……そうだな、甘いな。だが……それがお前の良さだろう。なら私は何も言わないし、言える立場に無い。今はとにかくあいつが種をばら撒くのを封じるのを最優先に行動するしかないだろう』

 

自分が言っている事がどれだけ難しいのかを知っているエキドナの顔が苦々しく歪むが、武蔵は大丈夫そうですよと呆気からんと笑った。何故だと言いかけたエキドナはセレヴィスの上空で弾ける光を見た。

 

『あれはビアン博士が作っていた物か』

 

「インベーダーとアインストのコアを解析して作ったバリアを発生させる装置……あれが上手く起動してくれれば、キョウスケさん達も戦いやすくなる筈」

 

『その心配は杞憂だな、正常に稼働しているようだ』

 

ビアンのゲッター線研究は多岐に渡る。ゲッター炉心、ゲッター合金を応用した装甲や武器は勿論対インベーダー、アインストもそれに含まれていた。インベーダーとアインストの最も重大な脅威――寄生に対する守りとして、5つのビットを基点にゲッター線バリアを展開し、寄生目的の種の状態のインベーダーとアインストを死滅させるものであった。そしてそれはビアンの想定通りに稼働し、ガルガウの放つ種を空中で次々に消滅させる。

 

『……地球人半端ないね。こんな研究ゾヴォークじゃなかったよ』

 

「はッ! 野蛮人だとなんだの言って人を見下してるからだぞッ! いきなり押さえつけるんじゃなくて少しは話を聞くって事を覚えなッ!!」

 

『耳が痛いね、全く……あのハゲが居なければもっと友好的な出会いも会ったんだろうにねぇ』

 

メキボス達と武蔵達の対立が深まったのは全てヴィガジの所為であり、そのヴィガジはインベーダーとアインストに喰われている。因果応報と言えばそれまでだが、ヴィガジが居なければこうして敵対する事も無かっただろうにとアギーハは深く溜め息を吐いた。

 

「とにかくあいつをぶっ潰すぜ、種は防いでも直接寄生されたらお仕舞いだ」

 

『分かってる! 精々引っ掻き回すからトドメは頼むよッ!!』

 

シルベルヴィントとゲッターD2の姿が左右に弾かれたように移動しガルガウの放った光線を回避する。余裕を持って回避した武蔵だがその光線の色を見て眉を顰めた。

 

「ゲッター線に適合し始めてやがる……今より進化されると不味いぞ」

 

『ゲッター線とインベーダーは反発するんじゃないのかい?』

 

「そんな事オイラに言われても分かるもんか、とにかくあいつを倒さなきゃ不味い事になるって事しかわからねえよッ!!」

 

どす黒いがガルガウの放った光線は紛れも無くゲッタービームであり、ゲッター線に適合進化を始めているガルガウを一刻も早く倒さなければロスターが、いやラングレーに現れかけた不進化態などが現れるかもしれない……武蔵がそれを完全に理解していたわけではない。だがゲッター線の進化にもっとも深く関係する存在である武蔵だからこそ……今のガルガウの変化が危険であると本能で悟ったのであった……。

 

 

 

 

アインストとインベーダーの細胞は基本的に反発する者同士だ。余りにも両者の関係が近すぎるため互いの自己を浸食すると本能で悟り、拒んでいるのでロスターのような悪意の化身へとその存在が変わっていく。だがガルガウから放たれた種は妖機人が仲介役……いやクッション役となっていた事で、完全な別個体へと変貌を遂げていた。

 

【グルルル、グガアアアアアッ!!!】

 

【■■■――ッ!!】

 

百鬼獣の残骸に寄生していたインベーダーとアインストが、キョウスケ達の見ている目の前で更なる変異を遂げた。

 

『B級ホラーは止めろっていつも言ってるだろうがッ!!』

 

『今回ばかりはカチーナに同意するわ……本当に良い加減しなよッ!!』

 

ベースはインベーダーだ、黒光りするゴムのような身体に全身を覆おう黄色い複眼はそのままに、胸部にアインストの証である紅いコアとゲミュートのような装甲を纏っている。

 

「デッドマンとは違う進化を遂げたという事か……こいつらをこれ以上増やすわけには行かない、この場で殲滅するぞッ!!」

 

進化個体もアインストとインベーダーと同じ性質を持っていれば増殖し、増える危険性を危惧したキョウスケは殲滅命令を出したのだが、量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲに乗っていたカイが待ったを掛けた。

 

『待て、あいつらの様子がおかし……いかん、離れろッ!!!』

 

突如苦しみ出した寄生体が音を立てて弾け、月面に飛び散る。それはキョウスケ達の前に居た6体の個体全てが全く同じタイミングで内部から弾けるように飛び散ったのだ。

 

『自滅したの?』

 

『いや、寄生しやすいように自らを分散させたのかもしれない。バン大佐、バリアのほうは大丈夫ですか?』

 

『問題はない、このレベルのゲッター線を維持していればインベーダーとアインストが寄生出来ない事はビアン総帥の研究で分かっているが……不安はある。1度下がるべきだ、キョウスケ中尉』

 

「分かりました、1度下が……ぐうっ!?」

 

バンの警告で下がれと命令をしようとしたキョウスケの乗るアルトアイゼン・リーゼの巨体がキョウスケの呻き声と共に突然吹き飛んだ。

 

『キョウスケ中尉ッ!? 一体何が……ッ!?』

 

『嘘でしょ……あれは……』

 

『ゲッター……ロボ……』

 

弾けとんだ寄生体の体細胞から腕が伸び、まるでプールから這い出るように次々と異形の巨人が姿を現す。その姿はインベーダーとアインストの細胞で構成されているが……ゲッター1、ゲッター2、そしてゲッター3だった……。

 

『おいおいおい……勘弁してくれや……』

 

『これは確かに厳しいな……単騎で当れば、返り討ちにあうのは我々のほうか……」

 

6体が3体へと減ったが、ギリアム達の前に立ち塞がるのはアインストとインベーダーが融合し誕生した異形のゲッターロボの姿だった。

 

『キョウスケ中尉、大丈夫ですか!?』

 

「ラミアか……ああ。リーゼの装甲の硬さに救われたな……流石に反応しきれなかった。それよりもすみません、イルム中尉。俺の所為で」

 

『分断されたってか、気にすんなよ。あいつら意外と知恵があるぜ、俺らを分断してやがる』

 

黒い細胞の内部から放たれたドリルミサイル。それがアルトアイゼン・リーゼを吹き飛ばしたものの正体であり、そして今キョウスケ達の前に立ち塞がり合流させまいとしているゲッター2の腕へと戻り、キョウスケ達を威嚇するように高速回転している。ゲッター1はミサイルマシンガンを乱射し、ゲッター3は伸び縮みするゲッターアームを駆使してリョウト達とカチーナ達を分断させている。

 

『インベーダーが此処までの知恵を……』

 

『寄生する事はなさそうだが戦力で押し潰されかねない。キョウスケ』

 

「分かっています。速攻ですね……ただ……追いきれるかどうかが問題ですね」

 

残像を交えて月面を駆け回るゲッター2に、キョウスケはゲッターロボが敵に回った恐ろしさを痛感しているのだった……。

 

 

 

 

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・カスタムに向かって放たれたゲッタートマホークをカチーナはシーズアンカーで受け止め弾き返すが、モニターに映る傷痕に顔を歪めた。

 

「ちい、ゲッター合金で出来たシーズアンカーに傷が入りやがった。リョウト、リオ!気をつけろ!攻撃力は本物だぞッ!ラッセル!1度下がるッ!煙幕を撃てッ!!」

 

カチーナの指示を聞いたラッセルがチャフなどではなく、本当の煙幕弾をうち発生した煙に紛れてカチーナの乗るゲシュペンスト・MK-Ⅲは一度安全圏まで後退する。

 

「不味いな、攻撃力が足りねぇ。おい、リョウト。タイラントならあいつを跡形も無く吹っ飛ばせるか?」

 

カチーナの言葉にリョウトはすぐには無理だと返事を返した。

 

『マグマ原子炉の熱を臨界点まで上げないとあいつを消し飛ばすほどの火力は難しいです。そこまで熱を高めている時間がありません』

 

「ちっ、社長はどうだ」

 

『こっちも似た様なものだ。ブラックホールキャノンを使うまでのエネルギーチャージに時間が掛かる』

 

望んだ返事を得られなかったカチーナは通信機に聞こえるような舌打ちを打った。

 

「賢いじゃねえか……打点不足を自分の前に集めやがったな……ッ」

 

ゲッター1の最大の特徴は飛行能力、そしてその豊富な武器と攻撃範囲の広さと攻撃力の高さにある。ゲッター2がライガーの特徴を、ゲッター3がストロングミサイルとフィンガーネットを装備しているのに対してゲッター1はドラゴンの特徴を得ていない、それは必要ないと判断したのだ。そもそもゲッタードラゴンはより強力な敵と戦う為に単体攻撃力を極限まで高めたゲッターロボであり、その性質上複数の敵を同時に攻撃するというのは苦手としている。それに対してゲッター1は元が宇宙開発の為の機体であり、それを急遽戦闘用に改造したので足りない攻撃力を補う為に豊富な武装を搭載しているのだ。話を戻せばカチーナ達は確かに強い、強いがあくまでそれは人間相手の話であり、インベーダーとアインストと言う人智を越えた存在から見れば敵とも見えない存在なのだ。ドラゴンの高火力ではなく、ゲッター1の応用力と手数の多さがカチーナ達に最も有効打だと寄生体は判断したのだ。

 

『リョウトとリンはエネルギーチャージを進めてくれ』

 

『俺とギリアム、それとカチーナであいつを食い止める。ラッセルは支援を頼む』

 

カイとギリアムが作戦を提案し、それを実行しようとした時空中からビームが放たれ、ゲッター1の肩を捕らえる。

 

「お前の力は借りねえぞ」

 

『そう言うなよ、俺だって死にたくはないんだ。それにお前の所のボスが協力を認めたんだ、そう邪険にするなよ』

 

グレイターキン改からのメキボスの軽口にカチーナは眉を顰める。

 

『フォワードが俺がやる。少なくともそのゲシュペンストよりは俺のグレイターキンの方が強いからな』

 

その言葉と共に切り込んだグレイターキン改だが、ミサイルマシンガンをバットのように振るわれ弾き飛ばされ月面を転がって帰ってくる。

 

「どっちが強いって?」

 

『……恥ずかしくて死にそうだ』

 

「なら良かったな、死んどけッ!!」

 

ゲシュペンスト・MK-K・カスタムの蹴りがグレイターキン改に叩き込まれ、その身体が宙に浮かんだ。だがその蹴りのお蔭でゲッタービームを回避したメキボスは素直にカチーナに礼を口にする。

 

『お前口は悪いけど、案外良い奴だな』

 

「うっせえ、頭数が減るとあたし達があぶねえんだよ、精々あたしらの為の囮になりな」

 

『へーへー、精々頑張らせてもらうとするぜッ!!』

 

フォトンブレードでゲッター1に斬り込むグレイターキン改の後をカチーナのゲシュペンスト・MK-Ⅲ・カスタムがピッタリと続く。

 

【!!】

 

グレイターキン改のフォトンブレードはゲッターD2の装甲さえも切り裂いた事がある。ゲッタートマホークを両断されかけたゲッター1がトマホークを捨て飛び上がった瞬間をカチーナは待っていた。

 

「予想通りだッ!! アンカー射出ッ!!」

 

シーズアンカーがゲッター1の足を掴んで放電する。その強力な電圧にインベーダーとアインストの声が混じった耳障りな悲鳴が月面に木霊する。

 

『なんだ、案外俺と相性良いんじゃねえか?』

 

「やかましい、これが終わったらぶん殴ってやるから覚悟しとけッ!!」

 

『おーおー怖い怖いッ!!』

 

軽口を叩くメキボスと怒鳴り声を上げるカチーナだが、相性は決して悪いものではなかった。互いに元々が指揮官を務めることもあるが、オールラウンダーで戦術が似通っている事もあり、互いに相手が何をしようとしているのかを瞬間的に悟る事が出来ていた。

 

「ラッセルッ!!」

 

『分かってますよッ!!』

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・タイプKの背部のレールガンがゲッター1の胴体を捕らえるが、ダメージは軽微で見る見るうちに損傷は修復される。悲しいがイニシアチブを取っていたとしても攻撃力が足りていないと言うのは事実であり、再生能力を上回るダメージを与える事が出来ないと言うのは今も変わっていない。

 

『『究極ぅッ! ゲシュペンスト……キィィックッ!!!』』

 

【!?】

 

だがそもそも、インベーダーとアインストが寄生した敵を倒すには地球の兵器では力不足なのだ。ゲッターロボクラスの火力がなければ細胞ごと消し飛ばすなんて真似は出来ず、再生か増殖をされることになるのが関の山である。だが戦いかたが無いわけではないのだ。

 

「その腹掻っ捌いてやるぜッ!!」

 

『大事そうに隠したコアをぶっ潰してやるぜッ!!』

 

シーズアンカーのブレードモードとフォトンブレードの刃がゲッター1の腹を抉り、寄生体の耳障りな悲鳴が月面に響き渡る。だが倒すには程遠く、その目を紅く輝かせながら傷の修復を始める。その目には強い憎悪の色があり、カチーナ達だけをジッと睨みつけていた。

 

『ふー、これは随分と面倒な仕事だ』

 

「はっ、監察官だの言っておいて根性無しが」

 

『耳が痛いね、だがまぁ……全力でやるさ』

 

『俺達にあいつの目を向けさせる。リョウト達とリン社長に攻撃を向けさせるな』

 

『こうして足止めしかできんとは不甲斐無いな』

 

ブラックホールキャノンとG・インパクトキャノンHが発射出来るまでの時間稼ぎ――それがカチーナ達に今出来る唯一の戦いなのだった……。

 

 

 

 

はるか下から放たれた無数のミサイルの雨をサイバスター、ヴァルシオーネ、アステリオン、ベルガリオンの4機は必死になって回避していた。

 

『まだ追いかけてくるッ!? スレイどうしようッ!?』

 

『こっちに突っ込んで来いッ! ミサイル同士をぶつけるぞッ!』

 

『わ、分かった!』

 

スレイの指示に従い反転したアステリオンの後をインベーダーの目を持ったミサイルが追いかける。同じ様に追われているスレイのベルガリオンはアステリオンへと加速する。

 

『上だッ!』

 

『くうっ!!』

 

互いに追突するというタイミングで機首をあげてミサイル同士をぶつけさせて誘爆させるのに成功したが……。

 

『まだ追いかけてくるだと!?』

 

『し、しつこすぎるぅッ!!』

 

煙を突っ切ってくるミサイルにスレイの驚愕の悲鳴とアイビスの悲鳴が木霊し、2機は再びミサイルを引き離す為に加速することを強要され、少しずつ加速するミサイルにアステリオンとベルガリオンが追いつかれそうになった時飛来した金属がミサイルを破壊した。

 

『インスペクター……助けてくれた?』

 

『……この場でぐだぐだ言ってる場合ではない……か。助けられた事には感謝する』

 

スレイとアイビスを救った者……それはダブルシュテルンを装備したドルーキンだった。戻って来たダブルシュテルンを頭上でキャッチしたドルーキンは右手を上げるとゲッター3へと走り出した。

 

「くそッ! 撃ち落しても撃ち落してもまた撃ってくるんじゃきりが無いよッ!!」

 

『マサキ~全然駄目ニャーッ!!』

 

『こ、攻撃力が足りにゃいみたい~』

 

『シロクロ、戻れッ! カロリックミサイルッ!!』

 

回避出来ないのならばと撃ち落す事を選んだリューネとマサキだが、インベーダーが寄生しているミサイルは避けるだけでは無く、インベーダー細胞によって耐久力も格段に上昇しており迎撃するのも困難だった。

 

『これ以上はさせんぞッ!!!』

 

【グオオッ!!!】

 

『うっぐおおッ!?』

 

バンの駆るネオゲッターロボがゲッター3にへと飛び掛るが、それよりも早くゲッターパンチの一撃がネオゲッターの胸部を陥没させ、ネオゲッターロボがボールのように吹っ飛ぶ。

 

「バン大佐ッ! 無茶したら駄目だよッ!!」

 

『そうだぜ、バンのおっさんっ!!』

 

月面の岩にネオゲッターロボが叩きつけられる前にサイバスターとヴァルシオーネが受け止め、バンに無理をするなと声を上げる。

 

『リューネ嬢にそう言われると辛いが、この中であのゲッターロボと戦える可能性があるのはネオゲッターだけではないですかな?』

 

バンの言葉にリューネとマサキは言葉に詰まった。サイバスターとヴァルシオーネにはゲッター3の装甲を破れるだけの攻撃力を持つ武装はある事にはあるが、溜めの時間が必要であり、誘導ミサイルに追われる中では到底使える技ではない。

 

『でもよ、バンのおっさん。ネオゲッターはゲッター炉心で稼働してねえんだろ? それであのゲッター3と戦えるのか?』

 

ネオゲッターにゲッター炉心を搭載し改良する事はビアンも考えていたが、改造する時間が無かったのだ。この時代の特機の事を考えれば破格の性能を持つネオゲッターだが、ゲッター炉心によるインベーダー特攻がなければ厳しくないかとマサキが問いかける。

 

『ふっ、心配することはない。私にだって考えの1つくらいある』

 

ネオゲッターが背部のウェポンラックから武装を取り出すのだが……それを見てマサキとリューネはなんとも言えない表情をそれぞれの機体のコックピットの中で浮かべた。

 

「いや、バン大佐。無茶だよ」

 

『……死んじまうぞ?』

 

バンが自信満々で取り出した武器――それは拳に装着する所謂メリケンサックだった。白兵戦を挑むにしても無謀が過ぎるとマサキとリューネがバンに考え直せと言うが、バンの操るネオゲッターはメリケンサックを装備し、その拳を打ち付けてファイティングポーズを取っていた。

 

『心配無用。これは高純度のゲッター合金で作られている、ダイゼンガーの斬艦刀にも引けを取らない逸品だ』

 

『もっと別の武器で作って貰えば良かったんじゃねえか?』

 

『私も正直そう思ってはいる。だがビアン総帥がな……スーパーロボットはステゴロだといって聞いてくれなかったのだ』

 

「……親父がごめん、バン大佐。あたしがちゃんと言っておくよ」

 

バンが自信満々に取り出した切り札が、まさか自分の父親の訳のわからない美学による物だと知りリューネは申し訳なく思って謝罪するが、それもネオゲッターの攻撃を見るまでの事だった。

 

『ぬおおおッ!!!』

 

【グギャアアアアアッ!!!?】

 

バンの雄叫びと共に繰り出されたネオゲッターの拳から放たれた翡翠の衝撃破が、ゲッター3の装甲を拉げさせる。だがそれよりもゲッター線の波動によって内部を焼かれたゲッター3はのたうち回り、雨霰のように放っていたゲッターミサイルの射出が止まった。

 

『マジか……』

 

「ちゃんとした武器だったの……?」

 

拳からゲッター線を打ち出す武器と知りマサキとリューネは驚きの余り目を見開いたが、バンはその威力に顔を歪める。

 

『やはり遠くからでは威力が落ちる。至近距離まで近づかなければ有効打は望めんか』

 

「ちょっ!? 流石に無茶が過ぎるよ! バン大佐ッ!!」

 

『心配してくれることはありがたいですが……少々私を侮りすぎだ。私はお前達が子供の時からずっと戦い続けている、この程度の窮地なれた物だ』

 

ビアンの娘と言う事で敬語で話していたバンの口調が強い物になり、リューネは驚いたように動きを止めた。そして暫く悩んだ後に口を開いた。

 

「バン大佐。でかいのぶち込む為に時間稼ぎをしてくれるかい?」

 

戦士に過度な心配は侮辱だと、その誇りを傷つける行為なのだとリューネは知ったのだ。戦士が求めるのは身を案ずる言葉ではない、その勝利を信じて疑わない強い信頼なのだ。

 

『任されたッ!!』

 

月面を砕きながらゲッター3へと挑みかかるネオゲッターの姿は、勇ましさと力強さに満ちていた。確かにゲッター炉心で稼働していない分ネオゲッターはゲッターロボに劣るかもしれない、だが機体性能が全てではないのだ。

 

【シャアアッ!!】

 

『舐めるな、化物風情がッ!!!』

 

レジスタンスとして、そして指導者として、ビアンの思想に共感しDCとして戦い続けたバンの戦闘経験値はリューネやマサキの比ではない。今までは乗る機体に恵まれなかった事、そしてビアンの護衛やビアンの命令で侵入工作をしていたが、そのポテンシャルの高さはカーウァイを持ってしても素晴らしく教導隊にスカウトしていたレベルだと称されるほどなのだ。

 

【ゴガアッ!?】

 

『おおおおおッ!!』

 

バンの雄叫びが月面に響き渡り、その咆哮に呼応するようにネオゲッターはより荒々しく、そして勇ましくその拳を振るう。だがゲッター3を倒すには攻撃力が足りず再生能力を上回る事が出来てないが、それで良いのだ。

 

『そうだ、お前の敵は俺だッ!』

 

【ゴガアアアッ!!】

 

ゲッター3にしろ、2にしろ、1にしろ……寄生体がゲッターをモチーフにしているだけであり、寄生攻撃などは十分にありえる。攻撃を防ぐにしろ避けるにしろ、岩や月面に種が打ち込まれそれがインベーダーやアインストにならないとは言い切れないのだ。

 

【キシャアアッ!!!】

 

『おおおッ!!』

 

遠距離からの攻撃は寄生攻撃や種をばら撒く事を誘発しかねない。だがこうして白兵戦を挑み、インベーダーの闘争本能を刺激する事でそれらを使わせる可能性を下げることが出来る。

 

『無理ぃ……死ぬう』

 

『……』

 

「悪いがまだ耐えてもらうぞ、お前達にも、ネオゲッターにもな」

 

ネオジャガーとネオベアーからは亡者の呻き声よろしく悲鳴が響いて来るがバンはそれを無視した。そして過度な負担で機体各所がオーバーヒートを起しかけているネオゲッターの状態も見て見ぬ振りをした。躊躇えば、守りに入れば一気に押し込まれる。例え僅かなミスが死を招くとしても、バンは決して怯むことなく前へと出る。

 

「獅子の戦いを見せてやるッ!!」

 

傷つき倒れても歩みを止めない不屈の獅子――それがバン・バ・チュンと言う男なのであった。そしてその不屈の闘志に応える様に、ネオゲッターの隣にドルーキンが立つ。

 

「思うことはあるが、手伝ってくれるというなら頼りにするぞ?」

 

『……』

 

シカログからの返事はない、だがダブルシュテルンを突き出すドルーキンにバンは小さく笑い、ゲッター合金製のメリケンサックでダブルシュテルンの側面を叩く。

 

「行くぞッ!」

 

『ッ!!!』

 

それを合図にし、ネオゲッターとドルーキンは月面を砕きながらゲッター3へ向かって走り出すのだった……。

 

 

 

 

第210話 セレヴィス攻防戦 その6へ続く

 

 




キョウスケ達の敵はインベーダーとアインストによるゲッターロボ模倣体でした。戦いの決着は此処では書きませんがガルガウVSゲッターD2の中で書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。


ブレイバーンガチャの結果

アーリーツオウル×3
カオスハーマー

という結果でした。ディドが強化出来たので良し!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。