異聞に逆らう者達 (宮条)
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不死と狩人

不定期更新、ネタが思い付く度ひっそり投稿します


かの星は一度焼かれ、一人の人間の尽力によってその形を取り戻した。

かの星は生命が消え失せ、地表をまっさらな白紙に戻された。

 

一度星を救った者は今も元凶に挑み、儚き命を輝かせている。

 

しかし同時に星の白紙化に異を唱える者達がいた。

 

一人は薄暗い闇の中、胸に秘めた残り火を抱いて。

一人は夢の中、鮮血に彩られた装束を翻しながら。

 

一人は思う、人が創る世界を神の手で傀儡にされる訳にはいかないと、己が託した未来に暗き翳りを残すまいと。

一人は思う、かの上位者は必ずや己の手で狩り殺さなければならないと、それが己に宿る数多の意志に報いる最上の行いだと。

 

かつて星の礎を築いた者と、宇宙からの未知を狩り殺した者。

抱く想いは違えど、その先に見据える未来は同じ方向を見ている、あらゆる理不尽を覆す為に、不死と狩人は闇に蠢く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残骸、残骸、残骸。

 

辺り一面に散らばるのは人の形をした何か、そしてその中央には2人の男が立ち尽くしていた。

 

1人は相当に使い込まれているであろうロングソードと重々しい鎧を纏いながら、1人はおそらく残骸の返り血で染まったであろうコートを靡かせながら。

 

「粗方片付けたようだな、もはや周辺に奴らの反応は無い」

 

あまりにも凶悪な形状をした得物についた残骸の血を拭いながら、コートの男は鎧の男に言葉を投げる。

 

「……あぁ、人理の守り手も無事に虚数へと潜っていたようだ」

 

剣を鞘に納めながら男は先にここを通った巨大なトラックの行き先を見やる、フルフェイスの兜であるためにその表情は窺えないが、何処と無くその行先に一抹の不安を覚えているようだった。

 

「さて」

 

しかし男は感傷を切り捨てコートの男の方に視線を移す。

 

「貴殿の事は何と呼べば?見るからに『同郷』といった感じでは無さそうだが」

「ふむ…そうさな、これと言った固有名詞が無いのだが………『狩人』とでも」

「狩人……ならば私は『騎士』とでも呼んでくれたまえ」

 

その会話にはお互いを理解するという意図は微塵も無かった、ただ互いの目的を果たすために必要な確認事項、しかしそれは対話を徹底的に排した世界で生きた者達の常識でもあった。

 

「当座の目標は星を漂白した原因の究明と人理の守り手の支援と言ったところだな、まあ原因に関しては私もある程度の察しはついているのだが……どちらかというと『アレ』は狩人殿の領分では?」

「………あぁ、『アレ』と似たような連中を狩っていたな、代理に1人、保険に6人も用意するところも奴ららしくて笑えてくる」

「しかし人理の守り手も難儀よな、人理焼却を解決したかと思えば、次は異星からの襲撃とは………私も人の事は言えないがちと災難が過ぎる気もするな………」

 

何処か自分と重ねる様に騎士は言うが、すぐにその声色は重いものに変わった。

 

「だが元凶という点なら私にも非がある、こんな前時代の遺物風情には少々荷が重い話だが、これ以上守り手に役割を押し付ける訳にもいかん」

 

騎士はおどけるように言葉をまくし立てた、それを不服に思った狩人は胸に秘めていた言葉を紡ぐ。

 

「あまり卑下するな、騎士殿が拓いた道が全ての始まりなのだから、今は白の限りだが、地球に存在する全ては貴方に感謝こそすれど罵倒などありえない」

「だからこそであろう」

 

騎士は少し強い口調でそう言い放った。

 

「火の時代……まだ太陽が、月が、この星が今の形ですら無かった混沌の時代に私は1つの区切りをつけた、人の時代、私はその可能性に私と私に宿る魂を賭けたのだ、そして結果がこれだった、最初こそ1本だった道が分かたれ、剪定されてしまう世界が生まれ、そして今は異聞帯などという地獄が全てを再編しようとしている、異聞帯は本来ひっそりと消えるべきなのだ、可能性が視る夢なのだ、異星の者によって利用され、汎人類史に牙を剥いてはいるが、そもそもそれが生まれるきっかけを作ったのは私だ、ならばそれを処理するのが私の責務というものだろう?」

「気負い過ぎだ」

 

そう、ばっさりと狩人は切り捨てた。

 

「狩人殿……?」

「気負い過ぎだと言っている、要は数多の神を殺し尽くし新たな時代を築いた偉人といえど、たった1人で出来る事はたかが知れていたと言うだけの話ではないか」

 

そう何でもないように狩人は己の身だしなみを整える、しかしその言葉には無責任からくる曖昧さはなかった。

 

「俺が生きた時代も騎士殿の様な地獄だった、しかしその激動の中でも俺は1人で狩りを務めたわけじゃない、先々で出会う異なる時空の狩人に幾度も助けられた、時には手を差し伸べる事もあった、そうやって俺はあの悪夢を切り抜けてきた、貴公はどうだった?本当に貴公はその責務をたった1人で完遂したのか?」

 

その言葉聞いて、騎士の頭には走馬灯の様にかつての記憶がフラッシュバックした。

 

太陽の如く笑う者がいた、玉葱に似た兜とふくよかな鎧を纏う気さくな者達がいた、記憶を失いながらも助力を惜しまなかった者も『いた』。

 

数えればなかなかどうして己に手を差し伸べた者達がいることに気付いた騎士は、兜の下で薄く笑みをうかべた。

どうして彼らを忘れていたのか、不思議な位だった。

 

「そうか……そうだったな、感謝するよ狩人殿、どうやら驕りがあったらしい、だがそれも払拭された。私は1人で何かを成し遂げた訳じゃない、幾度も助けられた、狩人殿の様な頼もしき戦友に支えられて来たのだ」

「戦友とは、些か気が早いのでは?」

「そうでもなかろう」

 

剣をソウルに還元し、自由になった右腕で騎士はある方向を指差す。

 

「これより先、地球に出現した異聞帯の1つであるロシア領に向かう。そこを片付けるまでには立派な戦友になっているはずだ」

 

その言葉に狩人は呆けてしまった。

やはり気が早いではないか、そう思いつつも声に出さず、無言で騎士の隣に並び立つ。

 

「この戦いは、火を継ぐ為でも、完全なる不死を手に入れる為でも、時代を終わらせる為でもない」

「ああ」

「貴殿の狩りも、此度の者とは違う上位者の思惑ではない」

「そうだとも」

「この戦いは、我らに宿った魂と意志達に託された全てを護る為に尽くす」

「異論はない」

 

合図したわけでもなく、示し合わせたわけでもなく、騎士と狩人は淡々と言葉を重ねていく。

 

「狩人殿、貴殿は何故ここにいる」

「己の使命を果たす為、使命とは獣狩り、此度の獣は異星の神、それが世界に悪夢をばら撒くのなら俺はその全てをあらゆる手段で持って狩り殺す」

 

狂気さえ感じられるその言葉の羅列を、騎士は無言で受け止める。

 

「不死人殿、貴公は何故ここにいる」

「我が選択の先に待つ未来を見届ける為、自らの選択によって生まれた存在が世界に害を成すのなら、私は火を継ぎ、火を消した者としての義務を果たそう」

 

狩人もまた、1度は時代の創成を担った者の決意を胸に刻み込んだ。

 

「ならば」

「行こうか」

 

2つの異分子が、白を極彩色に染める。




とりあえずダクソとブラボから。
追記
脱字があったのと文章間の空白が不自然だったので修正しました。


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孤高の弊害

予想外の反応に調子に乗って投稿。


異聞帯、その一つであるロシア領。

そこはマイナス百度前後の永久凍土、従来の動物は死滅し、あらゆる生命が凍え死ぬ地獄。

そんな、普通の人間が何の準備も無く踏み込めば瞬く間に死に至る劣悪な環境に。

 

「Hello〜」

 

そんな極寒の地獄に。

 

「Hello〜」

 

そんな、場所に。

 

「……この荒れた吹雪といい、見渡す限りの雪原といい……絵画世界を思い出すな」

「……絵画の中とは、このように貧相なものなのか?」

「貧相では無かったさ、そこで生きる者達の中には、未来に希望を感じ取る者も居た」

「……そうか」

「Hello〜」

 

二人の男は、この極寒の嵐を意に介さず会話に勤しんでいた。

しかしそれも長くは続かない、この二人、ロシア領に入ってからというものの、こういった壊滅的な会話のキャッチボールを何度も繰り返している。

挙げ句の果てに、狩人は余りにも気まずいのかノコギリ鉈を変形しては戻し、変形しては戻してを繰り返す少々物騒な手遊びを始めだした、騎士も騎士で間が持たないと察したのはいいが、何を思ったのか人面と呼ばれる石を地面に投げつけ、「Hello〜」と間抜けな声を響かせ続けている、騎士にはこの人面に対して疑問を投げかけられてそこから会話に発展させようという魂胆があるのだが、当の狩人は何か意味のある行動なのだと思い、却って話を振るに振れない圧を感じているという見方によってはこの異聞帯以上の地獄が広がっていた。

 

「……………」

「……………」

「Hello〜」

 

遂にお互い無言になってしまう、先程まで戦友だ何だと意気投合したはいいが、所詮は対話などほぼ意味を成さない世界で生きた二人にとっては、こういった長時間見知らぬ者と行動するのは別の意味で苦なのである。

勿論双方共に戦友と呼べる存在は確かに居たが、それはその場限りの共闘である上にコミュニケーションと呼べるような意思疎通はほぼ無かった、それこそ無数の戦友とあらゆる強敵を倒してきた彼らだが、ここまで長い共闘は初めてだった。

 

「……………」

「……………」

「Hello〜」

 

お互いが会話のタイミングを見計らっている内に荒れ狂う吹雪は去り、気付けば痛い程に閑静な雪原へと足を踏み入れていた。

そんな空間に騎士が絶えず投げつける人面の間抜けな声だけが響き、辺り一面に不思議な空気が漂っていた。

 

しかし。

 

「He「誰か居るのか!」」

「「!!!」」

 

その声を聞くなり先程までの微妙な空気は掻き消された、即座に背中合わせとなり周囲を警戒する。

 

「敵だと思うか?」

「さぁ、しかし奇襲をかけるならわざわざ声は張らんだろう」

 

だからといって彼らが警戒を解くことはなかった、元より味方と言えるのはカルデアの生き残りのみである彼らにとって、異聞帯に存在する全ては敵といっても差し支えがないのである。

しかし、膠着状態は長くは続かなかった。

 

「誰かいるのなら返事をしてくれ、私達は雷帝に与する者ではない!」

 

雷帝。

その言葉を聞いて、狩人と騎士は同じ疑問を抱いた。

 

「…………ふむ、知らない単語が出てきたな」

「雷帝とは……また大層だな」

 

そう言いながら狩人は武器を降ろし、その『眼』を開き声が聞こえてきた方向に視線を向ける、どうやら数百メートル先にいる数人のグループがこちらに近づいてきているらしい。

幸いな事に相手はこちらには気付いていないようだった。

 

(リーダーらしき奴が一人、それを囲むように男が)

 

そこまで思考して、狩人は突然駆け出した。

 

「狩人殿!?」

「どうやらこんな所にも獣のようだ、狩り殺す」

 

騎士ですら一瞬出遅れる程の敏捷力で、狩人は目標のグループへと猛スピードで接近していく、閉まっていたノコギリ鉈を展開させ、こちらの方角を見ながら立ち止まっている一人の『獣』に狙いを定める。

 

「ボス、何かこっちに近付いてきまっ!?」

「死ね」

 

直後、鈍い音が辺り一面に響いた。

しかしそれは狩人の一撃が入った音ではなかった、逆に狩人のノコギリ鉈が弾かれたのである。

 

「大丈夫か!?」

「えっ……あっはい!大丈夫です!」

 

狩人の奇襲を弾いたのは、黒い鎧を纏った女だった、しかし明らかにこの環境では凍死するような軽装に加え、狩人の一撃を素手で弾くような者をただ鎧を纏った女だとは誰も思わないだろう。

己の一撃を弾かれた狩人は、しかしそんな事を気にする様子もなく眼だけを女の方に向ける。

 

「貴様……随分と手荒い歓迎じゃないか」

「手荒いも何も貴様が庇ったそれは獣だ、生かしておく道理はない」

 

一方的な殺意。

その殺意は獣と呼ばれた者達に少なからず伝播する、少し騒めいたかと思えば、次の瞬間には狩人に対して敵意が集中する。

 

「コイツ……オプリチニキだ、そうに違いない!」

「少し服装が違う気もするが…」

「けど俺達を殺すって!」

 

怒り、恐怖、疑心、色々な感情がその場を埋めつくしていた。

しかしそんな事は全くもって関係無いと狩人は鎧を纏った女に踏み寄る。

 

「貴様も少し獣の香りがするが、コイツら程ではない、しかし狩りを邪魔立てするようであれば………狩り殺す」

「…………ッ!」

 

鎧を纏った女、アタランテは内心相当に焦っていた、いきなり何かが見えたと思えば仲間のヤガが殺される寸前だった、あと少し反応が遅れていればあのヤガは一撃で致命傷を負っていただろう。

 

(この男、何者なんだ!?四方を囲まれているというのに全く隙が見えない!)

 

アタランテとてあの大英雄ヘラクレスと肩を並べた女狩人だ、生前に積んできた場数は相当なものな筈だ、しかしその自信が今揺らごうとしている。

アタランテには自分が狩人に勝てるヴィジョンが見えてこないのだ、どう行動しようと、狩人の一撃が先に自分の首を飛ばすヴィジョンしか。

 

(それに男から感じる気配は何だ、明らかに人が纏える代物ではないぞ!?)

 

冷や汗、アタランテは久しく絶対絶命の窮地に立たされ、一粒の汗を地面に落とした。

 

たった一粒。

 

そんな暇を狩人が与えぬとも思わず。

 

「………?」

「なっ!?」

 

次の瞬間、アタランテが見たのは自身の首元に迫るおぞましい形状をした刃……ではなくそれを弾く様に盾を横に振り払う騎士の背中だった。

 

「……ぐぅ!?」

 

突然のパリィに体勢を大きく崩す狩人、それを逃すまいと騎士は盾を振り払った勢いを利用して右拳を強く握る。

 

「少し頭を冷やせ」

 

それは何処と無く怒りの篭った声だった。

 

「貴殿の狩りはこんなものではないだろう」

 

その言葉を聞いた直後。

目の前に棘の付いたグローブが見えたと思えば、狩人の意識はいとも簡単に吹き飛んだ。

 




キャラ崩壊気味なのはご容赦ください。


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ヤガ

ゴールデンウィーク後半らしいですけど僕にそんなものは存在しません(半ギレ)


その場を一言で表すのならば、修羅場。

 

突然始まった狩人の暴走を止めた騎士であったが、その先に待っていたのは周りの人とも獣とも区別のつかない生物とアタランテからのピリピリとした敵意だった。

 

「次から次へと……貴様達一体何者なんだ!?」

「………むぅ」

 

アタランテの怒声に騎士は困り果ててしまう、本来であればこんな殺伐とした空気になる筈ではなかったのだが、先走った愚か者の行動で状況が一気に悪くなってしまった。

そして腹立たしい事に問題を起こした当事者は現在進行形で呑気に夢の世界を満喫している、南極大陸ではその言葉に励まされたが、今は殴った事に対して雀の涙程の罪悪感すら感じない程度には軽蔑していた。

 

「……とりあえず相方が粗相を働いたことは謝罪しよう、君達に害が及ばぬように目を覚ました後に説得する」

「いまいち信用ならないな、最初から私達に奇襲をかけるつもりで呼びかけていたんじゃないか?」

「…んぅ?」

 

騎士はアタランテが何を言っているのかよく分からなかった、不思議そうな顔をしながら頭をひねっていると、その雰囲気がアタランテにも伝わったのか、更なる怒声が飛んできた。

 

「貴様達さっきまで「Hello」と何度も呼びかけていただろう!?最初はコンタクトを取る為かと油断したが、そもそもここは隔絶されたロシアだ!英語を知っているのは外から来た者だけのはずだ!」

 

何故すぐに気付かなかったのだ……と悔やむアタランテを見て、騎士は己の起こした行動を恥じた。

 

(まさか、まさかあの人面の声に反応していたとは………すまない狩人殿、結果的に貴殿が起こした問題は、私が原因だったようだ)

 

時すでに遅し、狩人ばかりが悪いと思い内心愚痴っていた騎士は形勢逆転、晴れて元凶として狩人にマウンティングされる未来が確定した。

そんな先の暗い未来を思い描いて少々憂鬱になる騎士だが、今はこの状況を切り抜けなければいけないと現実に目を向ける。

 

「そうだな……今君が言ったように私は外から来た者を探している」

「外から来た者を……?」

「さっきも言ったように私は君達に被害をもたらすようなことはしない」

「それが信用ならんと言ってるんだ!特にそこの男、有無を言わさず私達に攻撃してきたのに敵意がないなんて信用しろという方が難しいじゃないか!」

 

平行線、やはり先手が騎士達だったというのが大きなネックになっている。

 

(……………むぅ、いつもの調子でないとここまでやりづらいものなのか)

 

そもそも命の価値が著しく軽い世界で生きた騎士にとって、話し合いで事を解決するというのが初めての体験になる、今までは先走った狩人のように自身の邪魔をするようなら問答無用で斬り伏せてきたが、此度の戦いは今もこの異聞帯のどこかで戦っている人理の守り手たるカルデアのマスターの補佐でもある、万が一にでもここで戦闘になったとして、全員を仕留めきれず逃してしまった一人が仲間に喋ってしまえば余所者に対する警戒度が増してしまうという最悪の未来は当然騎士としても避けたい。

 

自分の不始末を、またも彼らに押し付けるわけにはいかない。

 

「…………はぁ」

 

重厚な兜の下で騎士は深くため息をつく、しかしそれは諦めからくるものではなかった。

 

「それならば、何をすれば君達に敵意がないことを証明できる」

「………まずはその男を厳重に拘束させてもらう、その後に貴様も武器の類を全て武装解除すれば敵意がないことは信じよう」

「了承した」

 

騎士の即答にアタランテは策があるのではと疑ったが、騎士が敢えて直剣と盾をソウルに還元せず地面に投げ捨てたのを確認してその疑いは晴れたようだった。

 

覚悟。

会話を諦めて、分かり合う事を放棄して、ただ武力だけで解決するのではなく相手の信用を得るために相応の覚悟を決める、それが騎士の答えだった。

 

「…その潔さに免じて、確かに敵意がないことは信用する、だが貴様達のことはまだ微塵も信用していないからな、妙な動きをすれば貴様の仲間を始末させてもらう」

「一向に構わん」

「あっさり投降する潔さといい、仲間の扱いといい、貴様達本当に何者なんだ?」

「それは薄々感づいているのだろう?」

「………………アタランテだ、貴様の仲間を拘束したら私達のアジトに向かう、そこでお前達の処遇を決めさせてもらう」

 

そこまで言うとアタランテは、周りの獣人達の方へと歩いていってしまった。

どうやら数人がかりで狩人を拘束するらしい、今もなお夢の世界を彷徨っている狩人を分厚い縄で何重にも縛り上げている、しかし存外に狩人が重いのか、屈強に見える獣人が数人がかりで苦戦しながら作業を行なっているようだった。

その様子を騎士が見ていると一人の獣人がこちらに近付いてきた。

 

丁度いい、そう思い騎士はその獣人に話しかける。

 

「そこの君」

「なっなんだよ!?」

「私も縛るのであろう?あまりもたつくのも悪いのでさっさと縛ってくれ」

「えっ……あぁそうだけど」

 

騎士は獣人が麻縄を持っていたのを見て、簡易的ながらも自分も拘束されるのだと悟っていた。

しかし騎士から話しかけた目的は縛られることではない。

 

「縛る前に、一つ質問をさせてくれ」

「質問?」

「単刀直入に聞くが、君達は何なんだ?」

「ボスも最初に会った時そう言ったよ、確かあんた達あれだろ?『人間』って奴なんだろ?」

 

恐る恐る差し出された騎士の両腕を縄で縛る獣人は、何でもないようにこう言い放った。

 

「俺は……いや俺達は『ヤガ』だよ、何でも400年以上も前に雷帝が人間と魔獣を合成させて作ったらしいぜ」

「…………………あぁそうか、ありがとう」

 

腕を縛り終え、ヤガと名乗った獣人に促されるままに歩く騎士は、ふと空を見上げた。

 

空は白く、極寒の強風が全てを薙いでいく。

 

それを見つめる瞳は、紅く、それでいて暗い輪を覗かせながら、激情に燃えていた。

 

(雷帝……雷か、どうにも奴がチラついて腹立たしい………問題の元凶という所もよく似ている)

 

少し不機嫌になりながらも、騎士はアタランテ達と共に吹雪を掻き分けて白の世界へと消えていった。




頭の中の構想が上手く文章化出来なくてもどかしい限り。


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狩り

突如ネタが思いついたので


そこは薄暗い場所だった。

壁に立て掛けてある松明以外には光源らしきものが無く、地面はジメジメとした湿気が辺りを覆っている影響なのか、濡れて仄かに輝いていた。

 

「……アンタはここだ、もう一人の方はアンタ達の処遇が決まるまでは別の部屋で厳重に拘束させてもらっている」

「無論そのつもりだ」

「しかし全く、アンタの仲間はどうなってんだ、俺達ヤガが数人がかりでやっと運べるなんて………体が鉛か何かで出来てるんじゃないのか?」

 

お陰でアジトに帰るのに時間を食っちまったじゃねぇか……とボヤくヤガを見て、騎士は何か同情めいた視線を送るが、ヤガはそれに気付く事なく重い扉を閉めて何処かへと去っていった。

 

「…………さて、思い切って投降をしてみたものの、これからどう行動すべきかな?」

 

あれから数時間、アタランテ達に拘束された騎士と狩人は彼女らのアジトにて幽閉される事となった。

 

が。

 

「狩人殿?」

「………ほぅ、貴公相手では流石の秘薬も形無しと言った所か」

 

騎士の真後ろ、何も無かったその空間が突如揺らぎ、 別室で厳重に拘束されている筈の狩人がピンピンしていた。

 

「貴殿は厳重に拘束されているのでは?」

「木製の檻の中に太いだけの縄で何重にも縛り上げる事を厳重と言うのであればな、あんな稚拙な拘束で狩人を捕らえられるのであれば何と楽なことか」

 

これではヤハグルと大差ないではないか……と一人呆れる狩人だったが、まだ謎は残っている。

 

「貴殿が牢を脱出したのはいいが、このままでは貴殿の脱走がバレるのは時間の問題では?これ以上の面倒は流石に看過出来ぬぞ」

「その点は抜かりなく、既に保険は用意してあるとも、………それより俺の姿を見てくれはしないか?」

 

その言葉に騎士は狩人のいる真後ろに振り返る、松明に照らされて映る狩人の姿は自分が知っている狩人の姿とはかけ離れていた。

 

「貴殿……いつからヤガになったのだ?」

「ははははっ!存外に面白い反応をするのだな、騎士殿」

 

騎士の目の前にいたのは、獣。

肌は薄黒く、無造作に逆立つ髪の毛、そして極め付けは異様に尖った鋭い牙、こんな人外じみた姿をした者を、人とは呼べないだろう。

 

「抜け出す途中に一人闇討ちしてな、そいつに私の装束を着せて縛り上げておいたのさ、それだけではバレるので俺に見えるように神秘を施しておいた、動かぬ限りは効果が持続するので当分は凌げる筈だ、もっとも闇討ちした者が目を覚ますまでだが」

「いや……それは分かったが、どうして貴殿がそのような姿に」

 

珍しく動揺している騎士の姿が気に入ったのか、狩人はその反応を楽しみつつ愉快に口を開いた。

 

「いやなに、カレル文字という狩人が使う特殊な術があってな、俺の使命は獣を狩る事だが、時に獣そのものに身を窶すこともあるのだよ」

「狩人とは………貴殿のあの形相を見るに余程獣を狩ることに意味を見出しているとばかり思っていたが、相手と同じ存在に身を落とすとは……なかなかどうして柔軟に狩るのだな」

「あぁ、狩りと言っても手段は様々だ、獣に力で劣ると思うのであれば、同じ力を手にするのも狩人は躊躇しない、それにこの姿は色々と便利でな、ここに先回りするのにも怪しまれずに済んだ、大いに利用させてもらうさ」

 

時に理性をかなぐり捨てて暴れまわり、時に冷徹なまでの叡智でもって敵を欺く。

そんな不安定ながらも筋の通った行動をする狩人を見て、騎士は改めて己の戦友の頼もしさを痛感する。

 

「それで狩人殿、私の元に来たのは何か意味あっての事なのだろう?まさか何の算段もなくリスキーな替え玉などしたわけではあるまいな?」

「勿論だとも、この戦いは我々だけのものではない、何もないならわざわざ自分から面倒は起こさんさ」

 

だからこそ、と狩人は続けた。

 

「俺が来たということはそういう事だ、恐らく人理の守り手がこの場所に向かっている」

「根拠は?」

「俺が牢屋で狸寝入りしていた時に少し気になる単語が耳に入ってな、一人のヤガがここの軍門に下りに来たらしいのだが、手土産として『人間』と『サーヴァントと名乗る者達』を連れてきたらしい」

「……ここの連中は彼らの処遇をどうすると?」

「今は審議中のようだが、俺達の件もある、十中八九戦闘になるだろう」

 

不味い事になった、騎士は純粋にただそれだけを思った。

投降して敵意がないことを証明したのはいいが、あまりにもカルデア側の動きのタイミングが悪い、外部の者に敏感になっている現状でノコノコやって来てしまえば命の保証はないだろう。

 

「………すまない、これは勝手に先走った俺のミスだ」

「それを言うのは私ではないだろう狩人殿」

 

その声色には少し怒りが混じっていた、狩人はその言葉を深く受け止め、頭を振って感傷を切り捨てる。

 

「…………そうだな、これは彼らに言うべきことだな」

「だが感謝するぞ狩人殿、貴殿がこの事を聞いていなければ取り返しのつかない事態になっていたかもしれん」

「動くのか?」

「無論」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、ヤガが騎士の為に食事を持ってきた時には、重く閉ざされていた扉は、もはや原型もなくひしゃげ潰れていた。




この異聞帯に限って獣の抱擁が便利過ぎる。

追記
この小説用のTwitter垢を作りましたので、質問や指摘がありましたらDMで連絡下さい(返さない場合もあります)
miyajooo@ハーメルン垢
@miyajooo


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新手

ちょい雑です


 

ヤガ達を率いて雷帝に反旗を翻す汎人類史のサーヴァント、アタランテ。

数時間前に奇妙な二人組を捕縛して一段落かと思えば、ある一人のヤガが叛逆軍の軍門に下りたいと申し出てきた、アタランテとしては慢性的な人員不足に悩む叛逆軍に加わってくれるのは好ましい限りであったが、そんな浮かれた感情はすぐにでも吹き飛ばされた。

 

「手土産として魔術師とサーヴァント?って奴らを連れてきた、戦力にはなるだろうからアイツらも仲間に入れてくれ」

 

それを聞いた瞬間アタランテは部下にそのヤガを捕らえさせた、遂に雷帝が攻めてきたとも思ったが、わざわざヤガに案内を頼んでもらう必要性はない上に、仲間になりにきたと申し出ていると言うことはあの二人組と同じ外側から来た者達かもしれない、そう思いアタランテはまず部下のヤガ達にその者達を攻撃するように命じた、本当に仲間になりに来たのであれば恐らく一人も殺さずに無力化しているだろうと、アタランテは遠巻きから万が一に備えて部下達の戦闘を見守ることにした。

 

数十分後。

 

「待て!」

 

あちらのサーヴァントが生み出したであろうゴーレムに矢を放ちながらアタランテは姿を晒した。

 

「やぁ、君が叛逆軍のリーダーかな?」

 

案の定アタランテの考えは当たっていた、気を失ってはいるが、攻撃を命じた部下達は誰一人として息絶えてはいなかった。

見るにサーヴァントは二人、一人は巨大な盾を、もう一人はゴーレムを生み出す事が出来るようだ。

 

「そうだ、汝らの力はよく分かった。叛逆軍に加わりたいのだな?」

「加わっても大丈夫?」

 

緊迫した空間に、戦場には似つかわしくない声でアタランテに応じるのはかつて人理焼却から世界を救った者、そして今は異星の神による人理再編に立ち向かう者。

カルデアのマスターそのものであった。

 

「あぁ……歓迎しよう、汝らが人で無いのであればな」

「……え?」

「人の姿を持つ者はこの世界には二種類しかいない」

 

カルデアのマスターは、アタランテが何を言いたいのか、直感的に察する事が出来た。

だからといって何か出来るわけではなかったが。

 

「即ち、魔術師とサーヴァント。それは我らの敵である」

「そっそんな」

 

先程そのどちらにも当てはまらない異分子がいたがな、と心の内で思うアタランテ。

しかしそこで違和感を覚えた。

 

(……む?待てよ………)

 

異分子、もとい奇妙な二人組についてアタランテはあることを思い出した。

 

「汝ら、もしや奇妙な二人組を知っていたりはしないだろうな?」

「奇妙な二人組?」

「一人は騎士の様な格好を、もう一人は趣味の悪い帽子と武器を持ったコートの男だ」

「…………?」

 

反応は芳しくない、アタランテは二人組が探しているという外から来た者達は彼らの事だと思っていたが、今の反応では判断がつかなかった。

 

(奴らが一方的にこの者達を認識しているだけか……?だとしたら蛇足だったな…)

 

そこでカルデア側にも動きがあった。

 

(先輩、もしかすると他のはぐれサーヴァントの人達かもしれません、もう少し話を聞いてみましょう)

(分かった、でもこのままじゃ戦闘は避けられないよ)

 

何やら二人組の事で話し合っているようだが、何も知らないのであればもうそれに関して聞くことはない。

 

「ともかく、汝らが雷帝の手の者か、それは強者でありながら慈悲なき行いをするかどうか……」

 

そこでアタランテは一度背後に意識を向ける、どうやら部下のヤガ達が回復したようだった。

 

「故に、今から理不尽な言葉を吐かせてもらう、我らを殺さず戦え、ただし我らは殺す」

「なっ!?」

「なるほど、確かに理不尽だ」

「汝らが我々よりも強いのであれば、そもそもスパイとして接近する必要性がない、そのまま滅ぼしてしまえばいいのだからな、だがそこで我らを生き存えさせるのであれば、それは慈愛であり、人が持つ優しさだ、我らはそれを理不尽に期待する」

 

カルデア側としては、あまりにも無謀な申し出だった。

戦力はアタランテ達の方が圧倒的に多い、対してカルデア側はサーヴァントと言えどたった二人、そんな絶望的な状況で手心を加えろなどと。

 

しかし、そこで退かないのが彼らだ。

 

「どうするマスター?僕は君の意見に従うとしよう」

「勿論、彼女の言う通りに戦って、勝って、殺さない」

「よし、了解だ」

 

双方共に覚悟は決まった。

あとは火蓋が切られるのを待つのみ。

 

「ならば、峰打ちで抑えまする」

「え?」

 

その筈だった。

 

「………なっ!?」

 

その声はアタランテの背後からだった、当のアタランテは何故この至近距離になるまで感知できなかったのか、不思議でならなかった。

しかしそれ以上に、彼女の背後には信じられない光景があった。

 

「お前達、大丈夫か!?」

「殺してはおらぬ」

 

背後に控えていた筈のヤガ達は、またも一人残らず地に伏していた。

隠れていたサーヴァントがいたのか、アタランテはそう疑ったが、どうやらカルデア側にとっても想定外のようで、声の主に対して最大限の警戒をしていた。

 

「カルデアのマスター、助太刀致す」

 

その声は静かでいて、芯のある声だった。

 

「御子の忍びの名にかけて」

 

声の主は、左手が義手の男だった。

 

「いざ、参る」

 

その男は、忍びであった。

 

 

 

 

 

 

またも一人の異分子が、異聞の地に足を踏み入れた。

 




GWも明けるので投稿ペース落ちるかも


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対極

戦闘描写は疲れます。


「聞こえたか騎士殿?」

「あぁ、既に始まっているようだ!」

 

極寒の寒空の下、走る者達がいた。

 

「かなり派手にやっているようだ、人理の守り手が無事であればいいが」

「希望的観測をしていてもどうにもならん、ともかく走るぞ」

 

騎士と狩人、叛逆軍のヤガ達の話を盗み聞いてカルデアのマスター達の動向を掴んだ二人であったが、想定以上に状況が悪い。

 

銃声に爆発音、既に戦いが始まっているのだ。

カルデアにもサーヴァントが何体かはいるのですぐに命を落とすようなことはないと思うが、それでも騎士と狩人はその性質からか、最悪の未来を頭の片隅に思い浮かべていた。

 

「音が近い、すぐそこだ!」

「急ぐぞ、狩人殿!」

 

荒れ狂う吹雪を掻き分けて、音の発生源であろう場所に着いた二人が見たのは。

 

「……新手か」

「なっ!?貴様達何故ここに!?」

 

ヤガでも、アタランテと名乗る女狩人でも無い。

たった一人の、義手を付けた男だった。

 

空気が変わる。

 

「………アタランテ殿、私達を殺さず捕縛程度で済ませてもらった恩だ、『その男から下がって私達に任せろ』」

「何を言い……!?」

 

アタランテが一瞬騎士達に意識を向けた瞬間、いつの間にか義手の男は掻き消えていた。

 

「何処に…」

「伏せろ!」

 

次の瞬間、金属と金属がぶつかり合う不快な音が響いた。

 

「…………」

「……不意打ちとは、なかなかどうして気が合うじゃあないか」

 

騎士が咄嗟にアタランテを抱え込んで地面に身を投げ出し、突如上空から現れた義手の男の刀を狩人がすんでのところでノコギリ鉈を展開させ受け止めた。

 

「……ッ!」

 

義手の男が刀を振り抜き、後ろへと下がって間合いをとる。

 

「甘いぞ!」

 

しかし相手は狩人、義手の男のバックステップを見逃さず、隙だらけになったその身に突きを放つ。

 

しかし、『相手も忍び』だ。

 

「甘いのはそちらだ…」

 

ダァンッ!!!と何かが地面に叩きつけられる。

突きを放っていたはずの狩人のノコギリ鉈が、義手の男の踏み込みによって地面に縫い止められたのだ。

 

「なっ」

「容易く見切れる…」

 

狩人が何かを発する前に、義手の男は刀を構え、狩人の喉元に突き立てる。

 

「…………ッ!」

「む!?」

 

しかしその刹那、義手の男はノコギリ鉈を封じていた足を退け、首を真横に振った。

次の瞬間、大きな銃声と共に義手の男の頭があった位置に銀色の弾丸が通過する。

 

獣狩りの短銃、敵の隙を誘うためにあえて狩人の業によって実体化させていなかったが、まさかこんなにも早く出番が来るとは狩人も想定外だった。

 

「そう易々と狩られてはやらんよ」

「…………」

 

お互いに距離をとり、万全の体勢を整える。

 

「……………」

「……………」

 

膠着状態が続くと、恐らくアタランテを説得して撤退させたであろう騎士が近寄ってくる。

しかし騎士にしては珍しく余裕のない声色だった。

 

「狩人殿」

「分かっている」

 

あれはまずい、そう騎士と狩人の本能が叫んでいた。義手の男に対してではない、正確にはその背中にある大太刀。

 

「あれは不死殺しの類だ。私も似たような武器は知っているが純度が桁違いだ、我々の様な『生命の循環から外れた存在』が貫かれれば魂諸共断たれるぞ」

「全ては夢だった、では済まされんか…」

「隙あり」

 

決して警戒は怠っていなかった筈だ。

しかしいつの間にか、義手の男が騎士の懐にまで迫っていた。

 

「そちらがな」

「っぬ!」

 

突如として、騎士の懐にまで潜っていた義手の男の足元が炸裂する。

 

「時限爆発瓶、扱いづらいが刺さると痛いぞ」

 

不意を突かれ、一瞬動きの鈍くなった義手の男を見逃す程騎士は甘くない。

 

「こちらも同じ土俵で戦おうではないか」

 

その一言と共に鋭い斬撃が義手の男の足を捉える。刃が見えた瞬間、義手の男は身を捩り間一髪避けることに成功したが、その得物を見て目を見開く。

 

「……刀?」

「そちらのと同じ種類のものであろう、こいつは打刀と言ったか」

 

敢えての同系、まさか遠い異国の者が自分と同じ得物を所持しているとは思わず、義手の男は顔には出さないが少し驚愕する。

 

その僅かな邪念が、命を落とす。

 

「っぬん!」

「ちぃ!!!」

 

騎士が注意を引いている隙に、音もなく義手の男の背後から忍び寄っていた狩人の一撃は、当たり前の様に弾かれる。

そしてまたも見慣れた得物が目に入るが、造形が少し自分の物とは違う事に気付く。

「刀か?」

「落葉と呼ぶらしい、ある古狩人が愛用していてな」

 

そして、と狩人は付け加える。

 

「こういう事が出来る」

「……ほう」

 

ガァイン!という音と共に狩人の落葉が二つに分離した。

落葉、それは高い技術を要求するが故の名刀だが、その真価は分離後の二刀流にある。

 

「さぁ、真剣勝負とやらでいこうか」

「二刀流か……」

 

構える狩人だったが、義手の男はその姿を見てある事を思いつく。

 

「ならば…」

 

そう言い義手の左手をおもむろに振るった。

 

「………貴様、その義手ただの義手ではないな?」

「明かせぬ」

 

そう白々しい返答と共に、義手の男も構える。

ただの義手、そう思われていた左腕には、何処に隠していたのか小太刀が展開していた。

 

『敢えての同系』、先程の意趣返しとも取れる行動に狩人は内心焦燥していた。

 

(僅かな打ち合いだったが、明らかに技量で奴に勝ることは出来ん、それに加えてあの義手………まだ何か仕込んでいるな)

 

しかしそんな狩人の心情など知ったことではない義手の男は、ゆっくりと狩人との距離を詰めていく。

 

「来ないのであれば」

「………」

 

狼は。

 

「行くぞ」

「ッ!」

 

隻狼は。

着実に狩人の命を奪いにかかる。

 

 




二日連続は頭がもちませんね


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死闘

隻狼が強過ぎて困る。

追記
ちょっと文章がおかしかったのと、操作ミスで削除してしまいました


剣戟の音が辺りに響く。

弾き、返し、躱し、突き立てる。

その応酬が何度も続く。

 

「ぐっ!」

「ふんっ!」

 

しかし旗色は悪いのは狩人の方だった、繰り返す剣戟の中で、隻狼は確実に狩人の攻撃を弾いて来る。

騎士や狩人は、自身の得物で攻撃を弾くという事はしない、そもそも彼らの戦闘スタイルは相手の攻撃に合わせて盾か銃によって相手の体勢を崩すカウンターである、それに対して隻狼は弾き、相手の攻撃が自分を掠めるその直前に弾いて徐々に体幹を削り、大きな隙を晒した所で一撃を加える戦法、それが狩人の戦いと致命的に合わない、カウンターを狙おうにも、弾くことで活路を見出す隻狼にとっては、わざわざ隙の大きい攻撃をする必要がないのである。

 

「…………ッ!」

「むっ!」

 

しかし狩人も狩人で隻狼の攻撃を不慣れながらも分離した落葉で防ぐ、手数が増えたことである程度の無理が効くようになり、結果として隻狼に食らいついていた。

 

「おい!」

「……アタランテ殿、先程撤退しろとお願いしたばかりだが…?」

 

少し離れた位置で二人の剣戟を見ていた騎士の背後に、説得して部下共々引き上げるように命じた筈のアタランテが立っていた。

突然の奇襲や騎士と狩人の加勢にやや面食らって流されるままだったが、そもそもこの件はカルデアのマスターとサーヴァントを試す目的で起きた事だ、自分達の問題の筈がいつの間にか蚊帳の外にされていたとなれば無理矢理にでも関わりにくるだろう。

 

「私はサーヴァントだ、簡単にトドメを刺される様な失態はしない」

「私は戦力差でアタランテ殿を下がらせたわけではない」

「何?」

「むしろその強さは一級品だ」

 

だが、と騎士は鋭い声色で否定する。

 

「アタランテ殿の様な『場数を踏んだ』者だから危険なのだ」

「何を…」

「あれは」

 

アタランテの戸惑いの言葉すら遮り、騎士はその瞳に隻狼を映しながら静かに語る。

 

「『格上殺し(ジャイアントキリング)』程度では収まらんぞ」

「…………」

「これだけは信じてほしい、頼む」

 

騎士達と出会って僅かなアタランテだが、騎士の言葉が自身の身を案じている事は嫌でも理解した。

あの男は危険、そんな単純な、だからこそ真に響く警句がアタランテの行動を変える。

 

「……分かった、その他者を案じる汝の優しさを信じよう」

 

その言葉に騎士は思わず捨て吐く様に笑う。

 

「ふっ……優しさか、まだそんな『らしい』感情が残っていたとは驚きだ」

 

しかしその言葉に込められた思いを、騎士は決して笑わない。

 

「感謝するアタランテ殿、我々を信用してくれて」

「勘違いはするな、汝はともかくもう片方はまだ信用していない」

 

流石にそこまで心を許すアタランテではない、だがこの先現地のサーヴァントやカルデアと手を組んで足並みを揃えるにはいずれ解決せねばいけない事でもある。

だがそれも目の前の問題を解決しなければ始まらない。

 

「そろそろか」

「そろそろ?」

「決着がつくぞ」

 

その言葉が、アタランテには信じられなかった。

しかし騎士の言葉に偽りはなかった。

 

「はぁ……はぁ……」

「………むぅ」

 

お互いに隙なく構える狩人と隻狼、しかしアタランテは気付いた。

 

「動きが乱れている?」

「狩人殿の方が著しいが、あの義手の男も相応に疲弊しているようだ」

 

つまり、次で決まる。

騎士はこの戦いの結末を誰よりも速く理解していた。

 

「……ここまで同じ人間に追い詰められたのは初めてだ、ゲールマンやマリアでさえ、ここまでの死闘では無かったぞ」

「そうか」

「だが、戦って分かった。貴様の技は卓越しているが、それは己より力の強い者との戦闘で筋力差を補うためでもあるのだろう」

「………」

「故に、貴様を狩る術は一つ」

 

狩人が落葉を投げ捨て、意志の中から新たな武器を呼び起こす。

 

「これで貴様を討つ」

 

その言葉と共に、狩人の右手に銀色の剣が握られる。

ルドウイークの聖剣、何の変哲もない細身の剣だが、狩人が扱う仕掛け武器が変哲のないことは一度もない。

剣が呼び起こされたと同時に、狩人の背中にはその細い刃には似合わない大きな鞘が担がれていた。

 

「『力押し(ゴリ押し)』だ」

 

金属と金属がぶつかる甲高い音が響く、狩人の右手に握られていた剣が鞘に収まる音だ。

しかしそれで終わらない、狩人がそのまま剣を抜き取ると、鞘と剣が連結し、鞘自体が刀身となり一つの大剣に変形した。

 

「奇っ怪な…」

「俺の扱う道具はどれも奇妙でな」

 

狩人は大剣となった聖剣を肩に担ぎ、また意志の中から別の物を取り出す。

 

それは、人の骨だった。

 

「だからこそ貴様の様な者を狩る道具と成り得る」

「………ッ!」

 

その言葉が発せられた瞬間には、隻狼の目の前から狩人が姿を消していた。

 

「後ろだ」

「ッ!?」

 

頭が理解する前に体が動いていた、隻狼は瞬時にしゃがみながら背後に刀を振り上げる。

 

「遅い」

 

直後、凄まじい破壊音と共に辺りに積もっていた雪が煙幕のように辺りに飛び散る。

隻狼の背後に回っていた狩人が、隻狼ごと聖剣で地面に叩きつけたのだ。

 

「ぬぅぅぅ!!!?」

 

しかし隻狼も聖剣が己を叩き斬る寸前に刀を割り込ませてガードした、だがまともに受け止めたが為に隻狼の体幹が一瞬崩れた。

 

その一瞬が、狩人にとっての必殺だった。

 

「逝け!」

 

隙が出来た隻狼に、狩人は聖剣を突き刺そうとする。

 

「まだだ…!」

 

しかし隻狼も崩れた体勢を直しながら刀で防御しようとする。

 

「それを待っていた」

 

その行動が命運を分けた。

 

突きを放つと思われた狩人の攻撃は、突如軌道を変えて隻狼の足へと薙ぎ払われる。

隻狼は咄嗟に上半身を守る様に刀を構えた為に下半身がノーガードになっていた。

 

が。

 

それを待っていた(・・・・・・・・)

 

狩人が勝利を確信し、力の限り振るった『下段攻撃』は風を切っただけだった。

 

「何処に…っ!!!」

 

何処に行った、その言葉が出る前に狩人の肩に凄まじい衝撃が走る。

 

「奥義」

 

狩人が突きから薙ぎ払い行動を変えることを読んでいた隻狼は、狩人の下段攻撃に合わせ、ただ空中に舞った。

 

「仙峯寺菩薩脚」

 

そして空中で足を軸に体を捻り勢いをつけ、凶器となったその足で狩人を蹴りつけたのだ。

しかしそれで終わらない。

 

「ぉう!?」

 

完全に体幹が崩れた狩人に、追い打ちと言わんばかりの連撃が繰り出される。

狩人を蹴った勢いを利用したハイキック、そこから体を回転させての回し蹴り、またも体を捻り勢いのついた剣撃を2回。

防御する間もなく繰り出された隻狼の猛攻に、狩人の為す術は無かった。

 

「異邦の者……」

 

そして最後に、深く腰を落として跳ねるように飛んだ隻狼の強烈な回し蹴りが狩人に直撃する。

 

「御免!」

 

そのまま何も出来ない狩人の肩を掴み、隻狼は確実に命を刈り取る為、背中に担いだ不死斬りを狩人の心臓に突き立てる。

 

 

 

 

 

筈だった。

 

 

 

 

バァァンッ!!!!と轟音が炸裂する。

狩人からだった。

 

「しぶといッ!!!!」

「殺すゥ!!!!」

 

薄れゆく意識の中で、狩人は隻狼の不死斬りを抜刀してから自分に突き刺すまでの隙を逃さなかった。

エヴェリン、狩人の血質の影響を大きく受けるその銃は、隻狼からカウンターを取るだけではなく、凄まじい痛みが隻狼の動きを若干鈍らせた。

 

両者大きく体勢を崩し、しかしお互いに必殺の距離、もはや勝敗はどちらが先に致命の一撃を加えるかどうか。

 

「うぉぉおおおおッ!!!」

「ぬぅぅぅぅ!!!!」

 

内臓攻撃か。

忍殺か。

 

相手を仕留める一撃が繰り出される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異聞帯、ロシア。

 

その一角で、一つの死闘が幕を閉じた。

 




話が進まない。


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一方その頃

感想に察しのよろしい方が沢山居るので、正直ビビってます。


ヤガ・モスクワ。

異聞帯ロシアにおいて唯一の旧人類が辿った形跡が残る都市、しかしそこに住まうヤガ達はそこに並ぶ建造物の修復または建築の術は持ち合わせておらず、何れは滅びゆく定めであった。

そんな見た目こそ普通、しかして退廃を免れぬ都市を眺める者がいた。

 

「まだ…根付かないか」

 

カドック・ゼムルプス。

異星の神の尖兵にして、この異聞帯ロシアを預かるクリプターの一人である。

カルデアに所属していた時は、精鋭が集められるAチームの中では一番実力が低いと自称していたが、クリプターになってからの約三ヶ月弱の間、彼は凡才ながらも異聞帯を生かす為にあらゆる手段を持って準備を整えてきた。

しかしここに来て、重大な問題が発生した。

 

「いつになったら芽吹くんだ…空想樹ッ!」

 

空想樹。

星を更地にし、新たな世界を創成する濾過異聞史現象を成立させるには空想樹無くして実現できない。そもそも異聞帯は空想樹を核として発生している、故に空想樹さえ残っていれば異聞帯が消滅することは無いのだが、このロシアに根付く空想樹は未だ芽吹く様子は無かった。

空想樹が芽吹かないということは異聞帯の維持に関わる、このままではカルデアが何か行動を起こすまでもなくこのロシアは崩壊するだろう。

 

(他の連中の空想樹は既に完成している。僕だけだ、僕の空想樹だけが未だ成長途中にある………クソッ!)

 

カドックにとって、カルデアのAチームに選出されたことはこれまでの人生の中で最も歓喜する事だった。

血の滲むような努力の末身につけた技術を、格式だけが高い魔術師共がまるで何でもないように扱う。

その度にカドックは惨めな思いをしながらも歯を食いしばって這い上がった、そして掴んだ、政治的事情でも、コネや賄賂でもない、純粋な己の力量を認められたのだ。

何も特別な出自を持たない自分が、才ある一流と並び立つ、それがカドックにとって一番の喜びだった。

 

だが気付いた時には全てが終わっていた。

 

研鑽を積んだ技術も、レイシフトに対する高い適正も、それら全てを発揮することも無く何も為さないままに、どうしようもないほど終わっていた。

人理焼却。魔神王ゲーティアが目論んだその計画は、カドック達Aチームではなく、一般枠という補欠にも等しい名も無き凡人が阻止した。

魔術師なんて名乗るのも烏滸がましい毛の生えた程度の一般人がその重荷を背負った。

 

だがカドックには、大いなる使命は担えなかった。

 

「顔が怖いわね、カドック」

「!?」

 

突然の声に驚くカドックの隣に、いつの間にか一人の少女が付き添う様に立っていた。

 

「あぁ……ごめん、何でもないんだ」

「すぐに謝るのは劣等感の表れなのかしら」

 

そんな辛辣とも思える少女の言葉にカドックは

 

「…………そうさ。劣等感の塊だよ、僕は」

 

カドックは自分の卑屈さや何かにつけてネガティブな発言をすることは理解している、だがそれは無意識に行う癖の様なもので、理解しているからと言ってどうこうできるものでもなかった。

 

「それで皇女、何の用なんだ」

「えぇ、少し見て欲しいものが」

 

皇女と呼ばれた少女は、カドックに一枚の写真を渡す。

 

「これは……君が撮ったのか?」

「いいえ、使い魔の見た映像を切り取って写真にしてみたの、出来映えはどうかしら」

 

そうどこか自慢げに語る皇女にカドックは微妙な顔しか出来なかった。

 

(また何とも言えない技術だな……)

 

本人の目の前でそんな事を言ってしまえば氷漬けにされてしまうのは分かっているので黙っておくことにしたカドック。

だがカドックも凡才ではあるが、一人の魔術師であることには変わりない、何代にも掛けて根源の渦へと至る彼らにとって、不必要な技術の取得は時間の無駄なのだ。

よって才能の無駄遣いとまでは言わないが、映像をわざわざ一枚の静止画に変換するという妙な手間をカドックが理解する事はないだろう。

しかし自身が同じ事をやろうとすると何年掛かるか分かったものではない事を悟ったカドックは、一旦その技術に対する思いを他所に置いておく。

 

「何が写っているんだ?」

「それが分からないのよ」

「分からない?」

「分からない……というより知らないと言った方が良いのかしら、少なくともこのロシアで『それ』を知ってる可能性があるのはカドック、貴方だけよ」

「………?」

 

一体何が写っているんだ…?、そう思いつつカドックは写真に目を落とす。

 

「……………は?」

 

写真を見て、カドックは何故皇女が映像ではなく写真という形で報告をしたのか、理由が分かった。

皇女は何も道楽や技術の自慢を目的として写真という回りくどい手段をとったのではない、『そうせざるを得なかったのだ』。

 

「なん……だ、これ?」

「カドック、貴方でも分からないの?」

「分かるわけないだろう………いや違う、『知ってる奴なんて存在しない』」

「知っている奴なんて存在しない……?」

 

そこに写るのは。

 

「これは」

 

その写真に焼き付くのは。

 

「魔術ですらない」

 

異様に角張った巨大な影が、その手に持つ歪な銃をこちらに突き付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き鳥は、極寒の地をも焼き尽くす。

 




何だがゴチャゴチャしてまいりました。


追記
改めて見ると文章が滅茶苦茶だったので修正。


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団結

寝落ちしそうになりながら仕上げました。


9

 

「へぇ〜それで騎士さん達はここに来たんですね」

「あぁ、君達の行く末を案じてな。しかし済まなかったな、出来ればもう少し早く合流するつもりだったのだが」

「そんな!助けに来てくれただけでも嬉しいよ!」

 

そんな他愛ない会話は、騎士にとっていつぶりの事だったろうか。

 

(やはり忘れているな、人であった時の事など………)

 

一人感傷に浸りながら、騎士は先の出来事を思い出す。

結論から言って、狩人と隻狼の死闘は引き分けに終わった、お互いの攻撃が直撃する前に突如地面からゴーレムが出てきたのだ。

 

「済まないが、僕達は争いが終わるのを待っているだけの余裕がなくてね」

 

指を鳴らしながら乱入してくるのは、仮面を付けた小柄な男だった。

 

「貴様…」

「狩人殿」

 

殺気立つ狩人に待ったをかけた騎士は、仮面の男に言葉を投げ掛ける。

 

「率直に言う、我々は君達に敵対する者ではない」

「ほう?」

「我々はカルデアに助力する者だ」

 

その言葉に、仮面の男の後ろにいる二人の男女が反応をする。

 

「カルデアを知っている…?」

「あの、貴方達は?」

 

カルデアのマスターは、騎士に臆することなく話しかける。

 

「我々は、逆らう者達だ」

「逆らう…?」

「あぁ、君達の様に人理が再編される事を良しとしない連中の集まりだ、本当なら私もそこの彼も現世に現れる事などないのだが、こんな事態だ、直接出向いてきたのさ」

「じゃあ、貴方達もサーヴァントなの?」

「否、我々はサーヴァントなどという大層な者ではないさ」

 

何せ死んでも死なないからな、そう言いながら騎士はこちらを警戒しながらじっとしている隻狼に指を指す。

 

「貴殿もそうなのであろう?『新人』」

「ッ!……何故竜胤を…」

「貴殿のそれは竜胤と呼ぶのか、私達とは少し仕様が違うようだがまあいい。同じ死なずの身だ、殺しても殺せぬ不毛な争いはやめようではないか」

「…………………………………」

 

長い沈黙の末、隻狼は静かな声でポツリと呟いた。

 

「俺は……カルデアのマスター殿に助太刀するためこの地に推参した」

「それは我らも同じだ、『私達』は人理の守り手たる彼を守護する為に集ったのだ」

「………………」

「本来であれば南極の時点で我々は合流している筈なのだがな、全員が全員特殊な存在なだけあって位置と時間にズレがあるらしい」

「何が言いたい」

 

その言葉に騎士はもったいぶらず結論だけを言った。

 

「『隻狼』、君と私達は同胞だ。戦う理由が同じなのであれば手を取り合おうではないか」

 

結果、現在に至る。

 

隻狼との和解後、アタランテ達叛逆軍とは一悶着あったが、その場にいる全員が叛逆軍に協力する約束を取り付ける事で解決した。

そして先の戦いで負傷した二人に関しては、お互い回復瓢箪と輸血液を使用してあっさり完治してしまった。

 

「話がついたのなら、早速君達のアジトとやらに向かおうじゃないか」

 

そして現在、ロシアにて召喚されたカルデアのサーヴァント・アヴィケブロンの言葉と彼が用意した移動用のゴーレムに乗って騎士達はアタランテ達叛逆軍のアジトへと帰還している。

最初は敵対する者同士だったが、晴れて一致団結することとなった。

 

《まったく……君達本当にデタラメだね、狼君は傷が浅いとはいえその瓢箪を飲むだけで治っちゃうなんて》

「俺にも詳しい原理は分からぬ、中にある瓢箪の種に種があるとは聞いたが」

《それってもしかしてダジャレのつもり?》

「………?」

 

鈍い隻狼と通信を介して会話をしているのはカルデアの技術顧問、レオナルド・ダ・ヴィンチ。

ではなくそのスペア、二代目ダ・ヴィンチとも言うべきサーヴァントである。

 

「確か騎士殿も似たような物を持っていたはずでは?」

「これの事か?」

 

狩人の言葉に、騎士はソウルに還元していたエスト瓶を取り出す。

 

「これは不死人である私にしか効果がない故、私以外の治療には使えぬぞ」

「それを言うなら俺の輸血液も狩人以外は浴びてもただの血だ」

《そう、そうだよ狩人君!一番おかしいのは君だよ!人間が血を浴びるだけであんな深い傷治るわけないじゃないか!》

「まあ、狩人とは大抵そういう生き物だ」

《答えになってない!》

 

騎士達のあんまりな非常識さに、さしもの稀代の天才と言えど理解が及ばないようであった。

 

《ふむ…狩人の扱う血が特殊なのか、狩人の身体そのものが特殊なのか………ハハハッ!全く分からない!ここまで来ると返って清々しい位だ!》

 

そしてもう一人、稀代の天才に並び立つ才人が居る。

シャーロック・ホームズ。最高峰の名探偵と謳われる彼だが、騎士達の異常さにはその明晰な頭脳を持ってしても全容を把握出来ないようだった。

 

「やめておけ名探偵、狩人の深奥なんて覗こうものなら文字通り血が沸き立つぞ」

《物騒な脅しだね、いや、当の本人である君が言うのであれば本当にそうなのだろう、大人しく好奇心を収めるさ》

 

そうこう話している内に、アジト近くの洞窟にまでやってきていた。

 

「そろそろだ、全員ここから先は洞窟を抜ける!中には魔獣の類もいるが全て逃げ出して隠れている雑魚だ、無視して走り抜けるぞ!」

 

アタランテが味方を先導し、洞窟の中へと突っ込んでいく、それに続いてゴーレムに乗ったカルデアのマスター達も入っていく。

 

「色々あったけど、これでシャドウボーダーの復旧の目処が立てられる」

「そうですね、先輩」

 

暗い洞窟の中を駆け抜けていくゴーレムのその背中で、カルデアのマスターとそのサーヴァント、正確には人間と英霊を合成したデミ・サーヴァントであるマシュ・キリエライトは希望を語る。

 

「最初はどうなることかと思いましたが、アヴィケブロンさんやアタランテさん、そして騎士さん達が協力してくれれば、この異聞帯の何処かにいるAチームの誰かにも勝てるかもしれません!」

「うん、絶対取り戻そう。俺達の人類を」

 

やがて洞窟の出口が見え、光が零れていた。

その光は、まるで彼らを導くように眩く、しかして優しく煌めいていた。

かくして彼らの物語はここから始まる、そして異分子は彼らの元に集う。

 

カードは揃った。

此度の異聞に逆らうのはたったの四人。

 

しかしその全員が異例であり異常、常識を破壊するイレギュラー、そんな者達が一堂に会するこの場は地獄か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

否、地獄はこれから。

それは彼らの手で行われるべきことなのだから。




FGO主人公の影がうっすい

追記
やっぱり意識朦朧の中で執筆するのは駄目ですね。


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本当は9話目に持ってくるはずでしたが、勢いあまって追い抜いちゃった話です。


 

プライベートチャンネルにメッセージを確認しました。

メインシステム一時ダウン、ステルスモードに移行。

 

メッセージ、再生します。

 

 

「やぁ久しぶり。あれから随分と経つけどその後いかがお過ごしかい?答えなくていいよどうでもいい、どうせ君のことだから未だに戦場を渡り歩いているんだろうね、その異常な強さで」

 

「さて、まずは僕が何故こんなメッセージを送ったのかの説明をしようじゃないか、とは言っても答えは単純だよ。他でもない君だからさ、僕が嫌いな人間の中で一段と嫌いな君に頼み事があってのことだ」

 

「頼み事という言い方は良くないね。依頼と言えば君としてはやる気が湧いてくるんじゃないか?傭兵じゃない僕には分からないけどさ」

 

「依頼の内容も至極簡単だ、ある場所で全てを滅茶苦茶にしてくれればいい、そこに存在する全てを一つ残らず焼き尽くすんだ、お似合いの仕事だと思わないかい?」

 

「勿論報酬は弾ませてもらう、だけどこの依頼は面倒でね、滅茶苦茶にすることには変わりないんだけど、作戦エリアに協力者達がいるらしい、彼らには被害が及ばないように行動する必要がある。まあ君程の人間ならうっかり殺すなんてことはないだろうけどさ」

 

「その協力者達とは合流出来るのならして欲しい、今回はエリアが広大だからね、味方は何人いても困ることはないだろうさ」

 

「あぁ言い忘れてた、一応目標は作戦エリアの壊滅、というより作戦エリア内に存在する…………えーと、何だっけ、あぁそう『空想樹』だ、コードネームか何かは知らないけど不思議な名前だよね、ともかくそれを壊せばいいらしい、クライアントからはそういうお達しだ」

 

「もう一つ言うことがあった、今言ったように今回の依頼は僕からじゃない、僕は依頼を君に斡旋しただけ。自分から人類に加勢するような奴だとは君も思っていないよね?」

 

「まあ、作戦内容はざっとこんな感じ。今までで一番大雑把で楽な仕事だと思うけど、最終的な判断は君が決める………と言いたいとこだけど、このメッセージを聴いてるってことはもう現場にいるってことだ、ハハハッ!どうやら上手く入り込めたらしいね」

 

「なら後はよろしく、依頼が成功する事を切に願うよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ふん、どうせ君の事だ。『例外たる存在』には今回の件は伝わっているんだろう?」

 

「イレギュラー……黒い鳥以外にも異分子は存在する、その者達はいつの時代の人間だろうと、別の世界の住人だろうと星の危機には『どこからともなく』馳せ参じる。他にも単独で顕現するケースもあるらしいが君は前者だろう?」

 

「まったくもって腹立たしい、例外など存在しない筈が、あまつさえ例外達が一斉に召集されるシステムがあるなど……」

 

「いや、今は良い。君に嘆いてもどうしようもない事だ、それよりも君に言っておきたい事がある」

 

「………………いつぞやにも言った通り、僕は人間が嫌いだ、滅ぼそうと画策したぐらいにはね、だがそれは人間の性から生まれる滅びだ、人は人によって滅びる、そうでなくてはならない。だが今回の人理再編とやらはなんだ、異星の神?クリプター?異聞帯?ふざけるのも大概にしてもらいたいね、一度言ってやりたかったんだ、神様は間違えているって、そして神様はまた間違えた。人によって滅びる世界を、自ら滅ぼそうとしている」

 

「不本意だ、途轍もなく心外だ、だけどね、僕だってこんな終わり方は気にくわないんだ、だから」

 

 

 

 

「だから。本当に不本意だけど、こんなくそったれな審判を押し付けた神様を殺せるのなら、僕は(人間)に幾らでも手を貸そう」

 

 

 

 

 

不明なユニットが接続されました。

 

システムに障害gggggg発vkjngnjjwn8々・+5,7ゆと(ksx

 

-------深刻な。

 

----停止。

 

-----------------直ちに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やぁ、おはよう。

じゃあ、パイロットデータの認証を開始するよ。

 

メインシステム、通常モードを起動。

 

作戦行動を開始。

 

さあ、一緒に滅茶苦茶にしようじゃあないか、黒い鳥?

 

 

 




やはりある程度妄想入れないとキャラが作れないのは実力不足ですね


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作戦会議

土勤なのにこんな時間まで書いちゃった……


 

「それで、アタランテの依頼は受け入れるのか?」

「僕は信頼を得る為にも断る理由はないと思うがね」

「狩人殿の件を不問にしてもらった借りは大きい、承諾すべきだろう」

「あまり蒸し返さないでくれ騎士殿」

「何の話だね狩人?」

「い、いやそんなつもりはないのだ狩人殿元はと言えば私の不注意が生んだ出来事であってアヴィケブロン殿もあまり追求はしな「マスター殿が帰ってこられたぞ」…………」

 

雷帝に仇なす叛逆軍のアジト、その一室。

そこには騎士をはじめとしたカルデアに与する者達が一堂に会していた。

現在騎士達はアタランテからの依頼を受けて欲しいという要請を受けるか否かを話し合いで決めている、詳細はカルデアのマスターが代表として聞いてくるのでその間にお互いの意見をハッキリさせておく流れになった。

 

「してマスター殿、依頼の内容は?」

「うん、叛逆軍に協力するよう檄文を配りに行くんだって」

 

その言葉に騎士とアヴィケブロンは思い当たる節があるようで、

 

「兵集めか、確かにここのヤガ達は皆が皆戦闘員という風には見えんな」

「騎士の言う通りだ、叛逆軍というには子供や老人が多い」

 

マスター曰く、正確には兵集めを兼ねた物資の確保が言い渡された依頼であるとのこと、しかしこの依頼はカルデア側の実用性を試す意味合いも含んでいるので全員が参加するのでなければ依頼は受けられないようだ。

 

「ふむ、僕はマスターのサーヴァントだから従うのは道理だが、君達はサーヴァントでもなければマスターと契約をしている訳でもないのだろう?」

「私も共に行こう、元より人理の守り手の補佐として出向いたのだからな」

「元凶を狩れるのであれば、助力は惜しまん」

「元よりマスター殿の助太刀が俺の目的だ」

 

異口同音の答えがそこにはあった。

 

「全会一致だな、後はマスター次第という事になるが?」

「勿論やる、何か情報も手に入るかもしれないし」

 

これで騎士達の方針は決まった、ひとまずの目的を得た彼らはすぐにでもアタランテに承諾の意を伝えに行こうとする。

 

「お、おい……話は終わったのか?」

「パツシィ?」

 

その直前、話し合いを最初から最後まで部屋の隅っこで怯えながら騎士達の様子を見ていたヤガ、もといパツシィがビクつきながらマスターに話しかけてきた。

 

「お前、よくあんな連中と普通に話せるな……弱っちぃ癖に肝は据わってんだな…」

「誰の事?」

「とぼけるなよアイツらだよアイツら!!!」

 

そう言いながらパツシィは騎士達の方へ指を指す、より正確には何やら隻狼や狩人と一緒に話し込んでいる騎士の方を。

 

「素人の俺でも分かる、あの人間はヤバイ、絶対ヤバイ!」

「はぁ、まあサーヴァントじゃないけど確かに強いよね騎士さん」

「あ〜〜もうっ!!!そういうことじゃないんだよ!?もっとこう、表面的な強さの話じゃなくて………」

 

言い淀むパツシィだったが、恐らく本人にも騎士に対して感じるものが何なのか分かっていない。

そんな珍しく慌てふためくパツシィの様子を怪訝に思いながらもマスターは、

 

「……………よく分かんないや」

「本当にお前どういう神経してるんだ…?あんなの普通じゃないぜ…」

 

思考することを諦めたのか、肩を落としたパツシィは何処かへ去ろうとする。

 

「………ただ、これだけは言っておく。これは純粋な親切だぞ」

「まだ何かあるの…」

 

少し鬱陶しさを感じながら、マスターはパツシィの言葉に耳を傾ける。

 

「アイツらは……『アレ』は、人間の形をしているけど、本質は俺達と近いと思う」

「本質が近い?」

「あぁ、人間でもお前とアイツらじゃ全然違う、お前からは何にも感じねぇけど、アイツらからは『親近感』みたいなもんまで感じるんだよ」

「……………………」

「だから何だ、その………気を付けろよ」

 

黙り込んでしまったマスターに、しかし躊躇することなくパツシィは言ってのけた。

 

「アイツらはお前がいるから今は大人しくしているだけだ、手綱のない猛獣が何するかなんて分かりきってるだろ?」

 

 

 

野生の勘は、よく当たる。




なんかあっさりしててボリューム不足ですね、今度から意識していこう


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出立

仕事が忙しいので投稿ペースが不安定です。
助けてください。


 

 

カルデア一行が叛逆軍のアジトを出てから数十分。

アタランテからの依頼を承諾した一行は、檄文を周囲の村々に配りつつカルデアのシャドウボーダーに依頼を受ける前報酬として貰った素材を渡しに行く事となった。

 

「しっかしアンタの身体どうなってんだ、人間の癖にヤガにもなれるのか?」

「これは俺が居た土地で生み出された技術の一つだ、常軌を逸脱した力は他にもごまんとある、やろうと思えば得体の知れないブロッコリーにもなれるぞ」

「………ブロッコリーってのが何かは知らねぇけどアンタの言葉を察するにどうせロクでもないんだろな…」

「いや…ブロッコリーそのものは食べ物だが…」

「?、アンタを食べられるのか?」

「…………………すまんな、貴公には酷な話だった」

「????」

 

現在アジトから一番近い村への最短ルートをホームズにピックアップしてもらい、アヴィケブロンの移動用ゴーレムに乗って目的の村へと向かっている。

その道中、地元というアドバンテージから案内役としてアタランテに抜擢され、一行と行動を共にすることになったパツシィだったが、移動用ゴーレムに同席していた狩人との会話が噛み合わず、軽い会話のデッドボールを起こしていた。

 

「それよりもアンタがヤガ擬きになれるならこっちとしても助かる、アイツらみたいに怪しまれないし、結局俺達と同じヤガに見えるならそれが一番安全だ」

「使える物は何でも使うさ、出し惜しみはせん」

 

アジトを出る際、話をスムーズにする為に不安要素を取り除こうという事になり、村に入る時はマスターとマシュはフードを被り、騎士も持ち合わせの魔術師のローブで顔を隠し、隻狼は万が一に備えて村の近くまで来たらいつでもマスターを守護出来るように潜伏してもらうことになった。

 

そして最後に残った狩人に関しては、

 

「狩人殿、先程も使っていたあの妙技。それでパツシィ殿の守護をしてもらえないだろうか?」

 

という騎士の提案により、狩人は獣の抱擁を使用した状態でパツシィの護衛をすることになった。

 

「しかし人間ってのは不思議だな、アイツみたいに弱っちぃ奴だったり、アンタみたいにヤガなんかよりよっぽど強い奴もいる」

「俺とて最初からここまでの力を持っていたわけではない、その点で言えば貴公らの様に生まれた時からある程度頑丈なのは羨ましい」

「その分短命なんだ、都合の良い事ばかりじゃない」

 

最もな話、ヤガは寿命が近付けば人間よりも著しく身体能力が低下して五感も鈍っていく、そうなれば狩りに出られないヤガは食い扶持を失いやがて餓死する、ヤガの世において寿命を全うするというのは幸福な事なのだ。

 

「短命か、命という感覚はもう覚えていないな」

「そういやアンタら不老不死なんだって?」

「騎士殿や隻狼はそうだな、俺は不老というよりそもそも種としてそんな概念がない」

「あぁ、どういう意味…」

 

直後、パツシィは軽い悲鳴を上げた。

 

「なっなんだよそれ!?」

「これが『(上位者)』だ」

 

パツシィが見たのは狩人の腕、だったもの。

狩人が着込む装束の袖からは人間らしい五本指のそれではなく、軟体生物の触手の様な物が這い出ていた。

 

「悪夢の中で色々と殺し過ぎてな、『いつからか取り返しのつかない程に頭がイカれてしまった』」

「分かった、分かったからそれを引っ込めろ気持ち悪い!!!」

「むっ、気持ち悪いとは何だ。これでも不用意に貴公の『知識が増えないように(啓蒙が高まらないように)』配慮したのだぞ」

「うるせぇ、いいから引っ込めろ!!」

 

貴公、あまり揺らすな。

誰のせいだとおもってんだ!!!?

 

そんな遠巻きから聞こえる狩人とパツシィの声と、ゴーレムの上で騒がしくしている様子を彼らの後ろを走るゴーレムの上から見ていた騎士とマスターは、

 

「狩人さんとパツシィ、結構仲良くなってるみたいだね」

「うむ、そのようだな。戦友として狩人殿に友が増えるのは嬉しい事だ」

 

彼らに、良識を求めてはいけない。

 

そしてカルデアのマスターも存外に鈍い。




そう言えば隻狼のDLCはいつ来るんでしょうか


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投稿が少し遅れたのでちょっと多めです


 

「こっ降参だ、もうやめてくれ!」

「何だ、もう終いか」

「おい大丈夫か!?」

「あぁ……だがまだ立てねぇ…」

「くそっ、何なんだあのヤガ!俺達相手に無傷で…」

 

アタランテからの依頼で檄文を配りに周辺の村々に赴くことになった一行だったが、最初の村で求められたのは力の証明だった。

協力の条件として雷帝に叛逆するに値する力を持っているかどうか、それを見極めるのが最初の村をまとめる村長の考えだったようだが、悲しいことに相手が相手だったので力の証明はすぐさま中断に終わった。

その提案を聞いた狩人が、

 

「よろしい、ここいらで手加減を覚えておかねばいざという時に殺しかねん」

 

という物騒な言葉共に、『鉄塊の様な物』(ガラシャの拳)を左手に装着して、マスターの静止も虚しく目の前で構えるヤガ達に突っ込んでいったのだ。

 

「そら、言われた通り殺さずに全員叩きのめしたぞ」

「なっ何ということだ……その強さ、もしや貴殿はサーヴァント?」

「似たようなものだ」

「信じられん……サーヴァントとは異世界の怪人、旧種の姿でありながら強い力を持つと聞いていたが………我々ヤガの中にもサーヴァントが存在していたとは」

「…………………」

 

何か勘違いをされているが、それを訂正する程狩人は親切ではなかった。

 

「力は見せた、答えを聞こう」

 

狩人の異常な強さにしばし我を忘れていた村長だったが、狩人の言葉で意識が戻ってきたようだった。

 

「むぅ…」

 

暫し思考する村長、しかし村で力自慢のヤガ達がこうもすんなり叩きのめされたのでは彼らの強さを認めざるをえなかった。

 

「……叛逆軍に協力しよう、全面的に補佐する事を約束する」

「やった!」

「狩人さんが飛び出していった時はどうなるかと思いましたが、予定通りですね」

「しかしこちらも食料や薬品は少ない、あまり供給は出来ないが…」

「少しだけでも助かる、叛逆軍は何もかもが足りないからな」

 

そう言いながら食料と薬品を受け取るパツシィに何か思い立った顔をした村長が、

 

「そういえば、近くにある二つの村にも檄文を届けに行かれるのなら少し待たれよ、私が手紙をつけておこう」

「助かる、話が円滑に進むだろうよ」

「しかし…最近になってその二つの村との連絡が途切れておる、盗賊が押し入ったのかもしれん」

「ならば確認も兼ねて此処を早く出よう、ゴーレムが全速力を出せば最悪の事態は免れるかもしれない」

「待ってくれ…………もしだ、もし万が一の事があったならば、弔ってやってくれんか」

「ここに来て情を感じる言葉が出たな、ここらの連中はもっとシビアかと思っていたのだが?」

 

狩人の問いに、村長は決して晴れぬ寒空を見上げてポツリポツリと呟いた。

 

「こんな世の中です、そんな事をしても何も変わらないのは承知の上、しかし我々ヤガはその体に反して心はとても脆い。

だからこそ求めてしまうのです、闇の先にある一筋の光を、『人』(ヤガ)は光が無ければ立ち行かないのです、それがどれだけか細くとも、意味が無いと分かっていても、我々ヤガが無くした、貴方達旧種が持ちうる心の『強さ』(優しさ)を」

「………………そうか、邪魔をしたな」

 

多くは語らず、狩人は待機させてあるゴーレムの場所に消えていった、それに続くように騎士が狩人を追い、隣に並ぶ。

 

「狩人殿、彼らはどうかね?」

「どう、とは」

「はぐらかさなくても良いだろう、概ね貴殿と意見は一緒だ」

 

後方でゴーレムに食料品などを詰め込んでいる村のヤガ達に一瞬意識を向けて、騎士はおもむろに語り出す。

 

「私は、『人間性』を求める生き方は貴いと思っている」

「………………」

「少なくともあの者の言葉にはそれを感じた、貴殿はどう感じた、まだ彼らを獣と定めるのか?」

「獣は獣だ」

「案外強情なのだな」

 

まあ良い、と騎士はローブを脱ぎ捨ててソウルに還元し、狩人の前に立つ。

 

「貴殿は狩人であって快楽殺人者ではない、狩るべき相手を今一度考えるのだな」

 

それだけを言い残し、騎士は自分が乗ってきたゴーレムの元に歩いて行ってしまった。

その後ろ姿は貫禄とでも言えばいいのか、その身に余る責務を背負い果たした者の偉大な背中だった。

 

「…分かっているさ。獣なのはその姿だけだ、中身は俺なんかよりよっぽど人間らしいよ…」

 

独り言故か、少し素が出てしまった狩人は先を行く騎士を見てそう呟いた。

獣の抱擁により恐ろしき獣の姿となっている狩人だが、先のヤガの話を聞いて一体どちらが獣か分からなくなってしまった。

 

「狩人さん、ゴーレムへの物資の積み込みが終わりました、急いで次の村に向かいましょう…………狩人さん?」

「…………マシュか…………次の村までどの程度か分かるか?」

「はい、アヴィケブロンさんの仰っていた通りなら大体十分弱だそうです」

「そうか………ならば行こう、手紙も付けてもらったのだ、村が崩壊していては交渉がスムーズも何も無いからな」

「はい、行きましょう!」

 

 

 

 

その背中に追い付くには、まだ遠い。




明日は金曜日、やっと本腰入れて執筆できます。


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智慧

しばらく出張で投稿出来なかったのですが、出張が延長になってしまった為もうしばらく投稿はありません。今回は急いで書いたので短め&雑です。


 

「これは……村長の勘が当たってしまったようだな」

「酷い………」

 

最初の村を出て急いで次の村に向かった一行だったが、そこで目にしたのはある種見慣れた風景だった。

 

「マスターよ、この有様だ。次の村に向かった方がいいと思うが」

「えっ……でも」

 

狩人の冷徹な言葉に、マスターは一瞬戸惑ってしまう。

 

「マスター殿、ここは狩人の意見が正しいかと」

「隻狼さん、もしかしたら生存者がいるかもしれません!」

 

その場にいる大半が狩人とほぼ同じ考えだった、マスターとマシュ。その二人だけが目の前の残骸の山に僅かな希望を抱いていた。

するとそんな様子を見ていたパツシィが、どこか気まづそうな顔をしながら口を開いた。

 

「なぁ、あんまりこんな言い方は好きじゃねぇんだけどさ」

「パツシィ?」

 

はぁ、と一つ溜息をついたパツシィが、

 

「この村はもう駄目だ、ここに居てもなんの意味もない、徒労だ、早いとこ次の村に向かった方がいい」

「………ッ」

「……それでも、生存者を探した方が…」

「居ねぇって、これは」

 

そう言いながらパツシィは残骸の山となった村の跡地を一瞥する。

この村の人々は相当に抵抗したのか、明らかに物資の強奪目的にしては徹底的にあらゆるものが破壊されている、ヤガの特性上恒久的に食料が得られないというのは死を意味する、殺す側も、守る側も、どちらも決死の攻防だったからこそ、ここまでの惨劇が起きてしまった。

そんな背景をうっすらと予想した騎士は、目の前で辛い現実を突き付けられているマスターに助け舟を出すが如くこう言い放った。

 

「シャドウボーダー側の諸君、そちらで生体探査は出来るか?」

「その事だが」

 

突如通信が開き、仮想モニターに一人の人物が映し出される。

 

「ゴルドルフ殿、ホームズやダ・ヴィンチはどうした」

「今まさに生体探査の調整を行っている、パツシィの情報を参考にしてヤガの生命反応を探知できるようにしているが、時間がかかるようだ、呼び掛けたほうが早いとの事だ」

「だそうだが、どうするマスターよ?」

「誰かいませんかーー!!!」

 

答えを聞くまでも無く、マスターは当然のように大声で周囲に呼びかけていた。

 

「誰か、生きていたら返事をして下さい!」

 

その姿を見てマシュも慣れぬ大声を上げる。

 

「ちっ、仕方ねぇ……次の村に行くのは生存者を探してからか」

「そのようだなパツシィ、我々もそうだが、もう少し希望ある行動に努めよう」

 

諦めたような声色で、声は出さないものの周囲瓦礫の中に生き残りがいないか探し始めるパツシィと騎士、その姿を見て狩人も手伝おうとした矢先。

 

「…………ん?」

 

狩人が何かに気付く、ここから少し奥の方にある瓦礫をじっと見つめる。

 

「………………」

 

無言で、ただ一人崩壊した村の中を進み、違和感を感じた瓦礫の目の前に立つ。

 

「………一々退かすのも面倒だ」

 

そう言いながら右手にあるものを呼び出す。

ゴドンッと鈍い音が響く、狩人の得物が地面に着いた音だ。

 

爆発金槌、古き狩人が使用した仕掛け武器の一つであるそれは、金槌が何かに触れた瞬間大爆発を起こす武器である。

 

「さて、ちょいと頭を働かせようか」

 

狩人が金槌の撃鉄を起こし溜めの動作に入るが、そこで後方から慌てた様子の騎士の声が飛んでくる。

 

「狩人殿、それでは火力が高過ぎる!」

「分かっている」

「ならば何故……!」

 

そこまで言って、狩人は腰の入ったスイングで金槌を目の前の瓦礫に叩きつけた。

 

大爆発、まさに文字通りの火力だった。

 

狩人の目の前にはもはや瓦礫は無く、崩れて外から見えなかった内部がさらけ出されていた。

 

「そら、完璧だ」

 

瓦礫が吹き飛び、崩れた家屋の中から出てきたのは、恐らく狩人が起こした大爆発以外で受けた傷によって虫の息になっていた血だらけのヤガだった。

 

 

 

さて、瓦礫を大爆発で吹き飛ばしつつ中にいる負傷者に破片を一切当てないようにするには如何程の智慧が必要だろうか。

 




でも出張延長するなら先に言ってよね。


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豊穣

やっとお家に帰ってきました、もう出張は嫌です。


 

15

 

「たっ助かった………あんたら、俺以外の生き残りを見かけたか……?」

 

狩人の救助(?)により一人のヤガが助け出された、一見血塗れで致命傷を受けているようにも見えたが、どうやら傷そのものは致命傷と言える程のものではなかったようだった。

 

「残念だが、連れのヤガとお前以外には獣の気配は周辺に存在していない」

「ど、どういう意味だ…?」

「お前だけが生き残ったという事だ」

「…………クソッ」

 

容赦ない狩人の言葉に思わず悪態をついてしまうヤガだが、少し目を瞑り空を見上げたかと思うと、

 

「………恐らくここを襲った連中はこの先にあるもう一つの村に向かった筈だ……頼む、俺の事は後でいいからもう一つの村の方へ行ってくれないか?」

「でも……」

「いいから早く行けよ、ここにいてもどうにもならんさ」

「………分かった、でもこれは受け取って」

 

マスターは先の村で回収した食料と医薬品の一部をヤガの側に置き、後ろに控えている騎士達にこう言い放った。

 

「行こう」

 

その言葉に騎士は無言で頷き、狩人は爆発金槌を意志に戻しながら既に移動用ゴーレムの元に向かっていた。

 

「おい」

「何だ……あんた?」

 

いつの間にか隻狼が負傷したヤガの元に立っていた、どうやら隻狼がヤガに何かを渡しているようだった。

 

「これは?」

「米だ」

「コメ?」

「…………やはりこの地では育たぬか」

 

ヤガの手を取り、隻狼はその屈強な掌に『雪の様に眩く光る米』を丁寧に己の手から零した。

 

「冷たい………」

「細雪という、これを食べればその傷もすぐに癒える」

「…………………」

「食わぬのか」

「いや………」

 

渡された細雪をマジマジと見つめ、中々口にしないヤガに隻狼は疑問を抱く、するとヤガが観念したかのように大きな溜息を吐き、

 

「これ、よく分からないが貴重な物なんだろう?俺が食っちまっていいのか」

「………………」

「あんたがこれを渡した時の顔で分かるさ、何か負い目を感じてる顔だったよ、俺達は常に疑心暗鬼の中で生きてる様なもんなんでね、そういった心の機微には敏感なんだ」

「……………米は」

「?」

 

黙っていた隻狼が唐突に口を開く、確かにその目は誰かに対して負い目を感じている悲しさを纏った瞳だった。

 

「米は大事と教わった」

「………なら」

「だが」

 

強い口調にそう言い切り、こう続けた。

 

「それ以上に生命は儚く、尊いものだとこの身で味わったのだ」

「…………」

「だから、食え」

「あ、あぁ……………」

 

恐る恐るといった様子でヤガは手渡された細雪を口に含む、最初はガリガリと無理やり噛み砕いていたが、次第にヤガの反応が変わっていった。

 

「甘い…………」

「米とはそういうものだ、よく噛んで飲み込め」

 

そう言うと隻狼は立ち上がってヤガに背を向けて歩いて行ってしまう、それの一部始終を見ていたマスターは、駆け足で隻狼に近付いてこう言った。

 

「あれって炊く前だよね、衛生的に大丈夫なの?」

「普通の米とは違う、炊かずともその真価は発揮される」

 

マスター殿も腹に入れておくといい、そう言いながら隻狼はマスターに小袋を投げ渡して何処かに行ってしまった。

 

「うわぁ、お米が光ってる」

 

小袋の中を覗いてみると米粒一つ一つが眩く輝いていた、試しに米を掌に移すと、

 

「冷たっ!」

 

寒冷地用の礼装を装着しているのにも関わらず、グローブ越しからでもひんやりとした感覚が伝わってきた。

あわや折角の米を地面に零しそうになるが、何とか落とさずにそっと口の中に放り込むマスター、日本の生まれと言えど炊く前の米など食べた事のないマスターは取り敢えず先程のヤガのように噛み砕こうとするが、あまりの冷たさに歯が冷えて無理だった、しかし口の中に含んでいると次第に唾液と絡み米が柔らかくなってきた所で、

 

「本当だ………甘い」

 

マスターの感覚としては、冷や飯というのはあまり好みでは無かったが、この米に限ってはそうではなかった、マスターは隻狼の言葉を思い出す。

『炊かずとも真価を発揮する』、隻狼の言葉を疑っていた訳では無いが、これ程までに美味だったとはマスターも想定外だった。

 

「うーん、でも何でだろう」

 

そこでマスターはある疑問を抱く。

 

「どうしてお米を渡す時に、何であんな悲しい顔をしてたんだろう?」

 

到底知りえない疑問を胸に秘め、何だか軽くなった身体でマスターは騎士達の元へと向かうのであった。

 

お米は大事。

柿は血となり、血は米となる。

己の米が誰かを救ったと知れば、帰郷の代償に己を揺籠とした者は浮かばれるだろうか。

 




二週間近くの放置だったので構想を忘れかけてました。


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少し未来の物語

誰かに急かされたので


 

 

先程のまでの喧騒が嘘のように閑静な空間がそこには広がっていた。

空はこれ以上ないほどの晴天だった、激しい吹雪は去り、この世界では何百年ぶりの晴れであろうか。

ロストベルト、異聞帯と呼ばれる剪定事象を形作る幻想の樹は彼の者によって断ち切られた。

汎人類史の再編を阻止しようとする者達と、新たな人類史を擁立しようとする者達の戦いは終結し、汎人類史に与する英霊達も座に帰り、この世界も消えていくだろう。

しかしここに一人、ある使命を果たす為に残る者がいた。

 

アントニオ・サリエリ。

 

正確にはその『外殻』に謂れのない風説が取り憑いた、所謂『無辜の怪物』という類なのだが、今回は少し特殊なケースであったが為に『外殻』そのものの性格が前面に出ていたが、本来ならば意思疎通は不可能な状態で召喚されるのがアントニオ・サリエリというサーヴァントだ、同じロストベルト内に呼び出されていたアマデウスの消滅を確認したのもあってか、多少なりとも落ち着きはしているもののやはり相互理解は難しい。

しかし現に汎人類史のマスターと一時的とはいえ共闘もした、結果としてサリエリは他者との会話を成立させた、異例中の異例だが、正気の保つ内に彼はある事を成さねばならなかった。

 

「それで、貴様達は行かなくてよかったのか?」

「君が受けた最期の依頼を完遂する所を見てからね、人間だった時も、こうなってからも、生の楽器から出る音っていうのを体感した事が無くてね?」

 

それは巨大な機械仕掛けだった、辛うじて人型ではあるが手に持つ銃らしき物はサリエリの知る物とはかけ離れ、背中にはサリエリにとっては『よく分からない物』がマウントされていた。

しかしその威力は空想樹を伐採する際に十分すぎる程に理解している、あの『極寒の寒空を切り裂いた青白い光』をこれが放っていたと考えるとサリエリはこの者が敵でなかった事に心底感謝した。

 

「中の者もそうなのか?」

「……………………」

「前から思ってたけど、もう少しぐらいお喋りでもいいんじゃないかな?黒い鳥」

 

黒い鳥と呼ばれたのは、目の前に鎮座する機械の操縦者である、最初に声を掛けてきたのはそのオペレーターらしい。

 

「無い」

「だったら好都合だ、僕達の時代には失われた文明の一部を体感しようじゃないか」

「……………………あぁ」

 

どうやら彼らの方針は決まったようだ、元々音楽という概念すら知らないヤガ達にその存在を教えるのが目的でピアノを披露する予定だったのだ、そこにヤガ以外が一人二人増えた程度で問題は無いだろう。

 

「なら少し手伝ってもらう、あれだけの機動力なら周りにいるヤガをここに集めてくるのなんて造作もないだろう?黒い鳥よ」

「レイヴンだ、黒い鳥と呼ぶな」

 

それだけ言うと、レイヴンは巨大な機械、もとい『AC』を翻してヤガの捜索に出ていった。

 

「さて」

 

サリエリはまず近くで呆然と立ち尽くしているヤガ達にこう言った。

 

「諸君、運んで欲しい物がある」

「何なんだ、一体…」

「ピアノだ、楽器という言葉は聞いたことがあるか?」

「いや、よく分からない……」

「ふむ……要約すると雷帝にしか味わえなかった無形の芸術の一つだ」

 

何も知らぬヤガにサリエリは丁寧に解説をする、侮るわけでもなく、ただ言い聞かせる様に優しい声で。

 

「ここいらか?」

「あぁ、よっこいせっと」

「これで何をするんだ……」

「まあ見ていたまえ」

 

そう言うとサリエリは運んできた椅子に座り、静かにピアノを弾き始めた。

 

「曲のリクエストはあの天才からだ、この世界が平和になったなら弾いてくれと言われてな、憎き存在だがアマデウスからのリクエストならば無下にも出来んだろう」

「へぇ、確かきらきら星ってタイトルだったかな…………確かに美しいよ、人類も多少は良いものを生み出すじゃないか」

 

遠くから機体の至る所にヤガを乗せたACがこちらに向かってくる、どうやらレイブンが周囲のヤガの捜索から帰ってきたようだ。

 

「何だ……この音は…」

「分からない……だが何だろう、この音を聴いていると胸が苦しくなる…」

「お父さん…どうして泣いてるの?」

「あれ、俺なんで泣いてるんだ…?」

 

レイヴンが連れてきたヤガ達は、サリエリの演奏に対して様々な反応をみせる。

その様子を見て、レイヴンは静かに呟く。

 

「彼らは……強いな」

「ふぅん?………どうしてだい」

 

珍しく自分から口を開いたレイヴンに、財団は少し興味が沸いたようだった。

そしてその返答もレイヴンにしては珍しい内容だった。

 

「闘う事をやめて、全員が演奏に耳を傾けている」

「それが?」

「それがどれだけ難しいか、分からないわけでもないだろうに」

「…………………ふんっ」

 

果てなく続き、終わりの見えない闘争の中を駆け抜けた二人にとって、ヤガ達の選択がどれほどの事なのかはある意味で他の異分子達よりも熟知している。

一度火のついた己の闘争本能を鎮め、平和の為に武器を棄てるという行為を決してレイヴンも財団も笑わなかった。

 

「美しいな……」

「あぁ、とても」

 

レイヴンはACの頭部を空に向ける、皆それほどまでにサリエリの演奏に聴き惚れていたのか、既に日も落ちて寒空が去ったそこには満天の星空が広がっていた。

 

「確かこの曲は恋の歌なんだけど、僕達より前の時代では星の歌だったらしい、今の状況にピッタリじゃないか」

 

大気は汚れ青空など滅多に見れない世界から来た二人にとって、空を瞬く無数の綺羅星はとても幻想的なものだった、レイヴンも財団も我を忘れてただ感嘆するしかなかった。

 

「あぁ………これはしょうがない、こんな音も空も無かったんだから」

 

いずれ消え去る運命も忘れて、ヤガ達は美しいピアノの旋律と、未知の星空に魅了されていた。

星はどこまでも遠く、どこまでも彼らを等しく照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、どこまでも。

等しく全てを照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。

 

 

 

「ハハハッ……よもやたった一人の蛮族に朕の国が滅ぼされるとはな、朕の泰平もここまでか」

「……………」

「しかしそなたは面白い物に乗っているな、その機体に使われている技術の殆どが朕の全てを上回っているぞ?」

「……………」

「まったく、これでは散っていった英傑達に申し訳が立たんな、全員叩き起こしてこのザマとは」

「……………」

「……なぁ…これは個人的な願いだが、そなたの撒き散らしているその粒子、民がいる居住地では使用を控えてくれぬか」

「……………」

「そなたがこの世界を剪定するのは構わん、だが民を殺す必要はなかろう、何れ消え去る世界なのだからな」

「……………」

「はぁ………………疲れた、これも良い機会と考えよう……帝の休息だ」

「……………」

「ではな……鋼の巨躯を操る者よ、次の機会が許されるのであれば、そなたの顔を………拝んでみたいもの……だな」

「……………」

 

それだけを言い残し、中国異聞帯の王、始皇帝はその目を二度と開く事はなかった。

その死に様を見届けたのは、レイヴンが駆るACの数倍はある人型の機械だった。

 

「……………」

 

NEXT、それがこの異聞帯の王を、その配下全てを討ち取った暴力の名前。

それは始皇帝すら解凍を禁止した桃園の誓いによって結ばれた義兄弟達をも軽々と退け、始皇帝が最も信頼する武を極めた男を難無く屠り、戦術においてあの諸葛亮に勝るとも言われた軍師の知略を叩き潰し、聖駆を纏った始皇帝を半壊させ、人型として変生した始皇帝をも為す術なく地に伏せたのだ。

 

「おっおおおおぉ………」

「……………」

 

遺体となった始皇帝の側にある者が歩み寄っていた、その者はピクリとも動かない始皇帝を見て怒りに震えていた。

項羽、またの名を会稽零式。

最早ガラクタ同然となったその身を引き摺りながら、項羽は今も空に浮かぶNEXTに叫んだ。

 

「何なのだ貴様は、何故我々を滅ぼす!我々は貴様に何をした!」

「……………」

「答えよッ!!!」

 

するとNEXTの方に動きがあった、空に浮かんでいたNEXTが、項羽の目の前に降りてきたのだ。

 

「……………一つ、違うな」

「何?」

 

ようやくNEXTの方から声が発せられたと思えば、その言葉に項羽は機械仕掛けながら自身の耳を疑った。

 

「何もしていないからだ、理由はそれだ」

「何も……していない?」

「闘争を忘れ、ただ変化の無い世界で悠久の時を過ごす、それがお前達が、この世界が犯した罪だ」

「罪だと?泰平であることの何が罪か!」

「だからだよ」

 

NEXTから発せられる声の雰囲気が変わった、それは先程までの淡々とした口調ではなく、激情に駆られたような声だった。

 

「こんな生死が管理された世界の何処か平和なのか、人の歴史は戦いの歴史だ、その積み重ねを俺達は人類史と呼ぶ、だからこの世界は剪定されたんだよ、平和という不変の状態は進化を生まない、これ以上成長が無い世界なんて要らない、闘いこそが人の全てだ」

「狂っている……」

「あぁ、そうだとも…自覚はある」

 

項羽はこの時初めて理解不能という言葉を身をもって体感した、話の通じない、対話も意味をなさない理不尽な存在、それを味わっていた。

 

「だから」

 

突如NEXTが動き出す、起動したと同時にNEXTの周りに球体状の薄い緑の膜が形成される。

 

「闘い続ける喜びを」

「戯言を!」

 

項羽もボロボロとなった身体を無理やり動かし、目の前の化け物に立ち向かう。

項羽には既に分かっていた、今の己には絶対に勝てない事を、しかし己の忠義を捧げた者を、そして何より愛する妻を目の前で惨殺されて逃げ出す程項羽という英雄は堕ちていない。

その瞬間、項羽は爆発的な加速でもってNEXTに急接近する。

 

「力を以て山を抜き、気迫を以て世を覆う!我が武辺、此処に示さん!」

 

項羽は勢いよく飛び上がり、NEXTに突撃する。

 

「セリャアァーーーーッ!!!!!!!!」

 

そして数秒後、目の前が眩く爆ぜたと認識した瞬間、項羽はそれ以降何かを考える事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日。

カルデアのレーダーから、中国異聞帯が消滅した。

 




流石にすぐに本編は書けないのでお茶濁し


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重なる真実

スマホ無くしてパスワードも忘れて4ヶ月近く経ちましたが、何とかなりました。Twitterの方はどうしようもないです



 

「ふむ……そちらの事情は分かった、だがそのカルデアの者と名乗った人物に関してもう少し教えてくれはしないか」

「それが………我々にもあのお方が人間だという事以外、記憶に霧がかかったようにぼんやりとしか思い出せないのです」

(記憶に干渉する魔術か何かか?どちらにせよカルデアという単語を知る者はカルデア陣営を除けば狩人殿と隻狼以外は居ない筈だが………)

 

壊滅した村の惨状を目の当たりにし急ぎ最後の村に向かった一同だったが、いざ来てみれば村は平和も平和、野盗に襲われはしたものの突如現れた『カルデアの者』と名乗る人物に助けられたという、誰もが最悪の未来を想定していた中でのこの結果に、一同胸を撫で下ろさずにはいられなかった。

 

「カルデアの者と名乗った人物か。マスター、心当たりは?」

「いや、ないよ……もしかしたら過去に契約したサーヴァントが助けてくれたのかも知れないけど」

 

アヴィケブロンの質問によって事は更に謎を増した、クリプターにカルデア、異星の神に異分子達、その勢力図に新たにカルデアの者と名乗る存在が現れたのだ、そして厄介な事に現時点で把握している敵対勢力の異星の神やクリプター以上に目的や人数、そもそも敵なのかどうかさえ不明だった。

 

「だとすればマスター殿と接触しようとするのが普通だが……」

「話を聞くに、意図的に避けられていると感じるな」

 

フードで顔を隠したり、村のヤガ達の記憶に手を加えたりと悟られない様に行動する謎の人物に隻狼も狩人も不信感を覚えていた。

しかし何はともあれ、謎の人物もといカルデアの者の活躍により最後の村での物資の補給は想像以上にスムーズとなり、結果として損は被っていないのでこの件は後回しとなった。

 

『うーん………その人物のことはとても気になるけど、一先ずアタランテからの依頼は完了したんだ、それなら一度こっちに戻ってきてもらえないかな?』

「あぁ、檄文の事で忘れていたがそういえば当初はそれが目的だったな」

「じゃあ早速シャドウボーダーに戻る?」

「いや、少し時間をもらいたい」

 

マスターの言葉に騎士が手を挙げる。

 

「騎士殿?」

「時間といっても何の事は無い、せいぜい十分もあれば事足りる」

「何処へ往く?」

「貴殿らも付いてくるがいい、関係のないことはないだろうからな」

「「?」」

 

騎士の言葉に要領を得ない様子の二人を他所にアヴィケブロンが、

 

「なら君達の用事が済むまではマスターと僕達はここに居ることにしよう」

「そうだね、はぐれても困るし……なるべく早く帰ってきてね」

「承知した」

 

マスターからの許可を得るとすぐさまこちらだ、と騎士は足早に何処かへと向かって歩いていく。

 

「何か分かるか、狩人」

「関係無くはないと言うが……はて」

 

疑問に思いながらもとりあえず狩人と隻狼もそれについていく、どうやら村の外に出るらしい。

 

「騎士殿!村から出てどうするつもりだ」

「まあ待て、目的地に着けば分かる事だ」

 

狩人の疑問を、騎士は軽く受け流す。その様子に狩人も隻狼も少々不安が募るが、そこで騎士の足が止まった。

 

「此処だ」

「……………何もないではないか」

「俺にもそう見える」

 

騎士が足を止めたのは周りに何も無い道のど真ん中、もっと言えば村から百メートル程離れただけの場所だった。

 

「ハハハッ、まあ隻狼はともかく狩人殿なら多少は馴染みがあると思うのだがな」

「………何の事だ」

「…………………」

 

益々騎士の言葉の意味が良く分からなくなっていき、隻狼はただ困惑しかなかったが、狩人は騎士の言葉に何か引っかかった様子だった。

 

「………………仕方ない、少し視てみよう」

 

狩人は一度目を瞑り大きく息を吸い込む、そしてこう呟いた。

 

「啓蒙的思考を開始、この眼はあらゆる万象を見通す」

 

『啓蒙眼』

この場合分かりやすさを優先してそう呼称するが、実際に狩人がこの力をそう呼ぶことはない、そもそも狩人はこの力を持っていて当たり前と認識している為、トリガーとして特定の台詞を言う程度となっている。

 

「……………ッ!」

 

いつも以上に血走った眼で物理的に赤いラインをなぞりながら狩人はその場を見渡す。

風景は先程と全く同じ、何もない、山々に囲まれただけの寒々とした山道の途中だった。

 

しかしその瞳には全く違う答えが映る。

 

「………騎士殿も意地が悪いな」

「気付いたか?」

「ああ、良く視える」

 

直後、ゴッシャァッッ!!!という轟音と共に狩人がいつのまにか持っていた爆発金槌で虚空を殴り伏せた。

 

と隻狼が思った瞬間、空間が割れた。

 

爆発金槌の先端を起点として瞬く間に世界がひび割れた。

そして砕け散った空間の先にあったのは、

 

「これは……空洞か?」

「それも我々にとっては重要な場所だ」

「……………あれは」

 

暗い空洞の先に、いち早く隻狼が何かを発見する。

 

「隻狼よ、何か見つけたのか?」

「………確かに、重要な場所だな」

「一体何があるというのだ……?」

 

騎士の様子と今の隻狼の反応に疑問が増すばかりの狩人は、ともかく空洞の先に足を踏み入れた。

 

「……………!」

 

そして狩人もそれの正体に気付く。

 

「あれは……」

「ようやっと気付いたか狩人殿……ほら、我々にとっては欠かせないだろう?」

「左様、我々にとって必須であるアレは」

 

 

狩人の目の前、空洞の先にあった開いた場所の中央に鎮座するのは。

 

「そう、かがり火だ」

「大鬼仏だ」

「灯りだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「……………………ん?」」」

 

 

 

 

 

 

狩人にとっては当たり前の事だったが、忘れているならもう一度。

 

目に見えるものだけが、真実ではない。

 

 




そして半分小説の事を忘れかけてたので今後の展開なんてパーになってる模様


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異文化

文章の締め方が下手過ぎて何週間も推敲する人がいるらしい。


 

「ということで改めて自己紹介だ、私はこのシャドウ・ボーダーのメインフレームを担っている生体ユニット兼人工サーヴァントのレオナルド・ダ・ヴィンチだ、気軽にダヴィンチちゃんとでも呼んでおくれ」

「メインフレーム?」

「生体ユニット?」

 

思わず、といった様子で隻狼と狩人が呟く。

 

「そして私がカルデア経営顧問を任せられているサーヴァント。シャーロック・ホームズです、呼び名は………まぁホームズと」

 

かがり火兼灯り兼大鬼仏でのちょっとした騒動から数刻、何やかんやで必要な物を補充し終わった騎士達はカルデア陣営の拠点であるシャドウ・ボーダーへと辿り着いた。

 

が。

 

「隻狼、経営顧問とは何だ」

「すまぬが俺も知らぬ……騎士殿は?」

「言葉を返すようで悪いのだが、私は貴殿達が生まれたこの時代の原型、火の時代の者だぞ。私より後の時代に誕生した貴殿達が知らぬというのに私が知っているとでも?………しかし凄いな、これがえるいーでぃー照明というものか、触っても熱くないとは………火とはまた違った明るさだな………」

 

シャドウ・ボーダーに着くや否や、その内装含め全てが彼等にとっては新鮮だったらしく、こうしてダ・ヴィンチとホームズが出向いて会話しようにも事ある事に興味が移っていくというまるで田舎から初めて都会に来た観光客の様な振る舞いになっている。

 

「先輩、先程から皆さんシャドウ・ボーダーに夢中で話が進みません……」

「サーヴァントじゃないって本人達も言ってる……英霊の座から情報を受け取ってないのかな」

 

マスターが推察したように、異分子達はサーヴァントと違い英霊の座を通して現界するわけではないので現代での活動に必要な基本的情報がフィードバックされない、よって彼らの知識の全ては活動した年代のみである。

更に騎士はこの世界が誕生するより前、今の世界のプロトタイプとも言える火の時代出身、知識がどうという話ではなくそもそもの世界のルールから違う騎士にとって、魔術ならともかく科学という生前において馴染みすらない未知の塊は狩人や隻狼以上の驚きである。

現に普段の紳士然とした態度が、今では見る影もなくただただ興味を惹くものを物色するだけの探求者となっている。

 

「ホームズ……だったか、これは何だ」

 

そしていつの間にか勝手に部屋中の引き出しを探っていた狩人がある物をホームズに見せて突然尋ねる。

 

「ん?あぁそれは拳銃だよ、でも君が使っている物よりも遥かにコンパクトで扱いやすい、誰でも使える現代の武器さ」

「ほぅ…………確かに軽い上に小さい、取り回しや瞬発的な攻撃なら獣狩りの銃よりも勝るだろう」

「しかし勝手に管制室を物色されてもらっては困るな、ここにはシャドウ・ボーダーの心臓とも呼べる装置や魔術的な結界もある、知らずに触って壊そうものなら私達の旅は呆気ない終わりを迎えるだろう」

「ッ!?…………」

「そうか……すまない、少々見慣れぬものばかりで舞い上がっていたようだ……騎士殿?」

 

狩人が素直に謝罪する横で、ホームズの言葉に何か思い当たる節がある様子の騎士が明らかにギクッとしたリアクションをした後、どこかへ伸ばそうとしていた腕を引っ込めてただ一言呟いた。

 

「………そうさな、勝手に何でも触るのは良くないことだな………うむ」

 

騎士の頭の中に一瞬、輪の都で出会ったフィリアノールの騎士からの再三の警告を無視した結果、凄まじい剣幕で殺されかけた出来事がフラッシュバックする。

しかしあれはそれ以上調べる様な所も無かったので仕方なくやった事だと騎士は心の中で言い訳する、実際先には進めたのでノーカウントとして扱って欲しい騎士であった。

 

「………………」

「…………隻狼君、さっきからスルーしてたけど私の事ジロジロ見過ぎじゃあないかな?」

 

騎士達が騒いでいる隅で、何故か隻狼だけが何とも言えない顔でダ・ヴィンチの方を見ていたり

 

「ッ!…………いや、ダ・ヴィンチ殿……マスター殿から聞いたのだが、サーヴァントというのは過去に生きた英雄の影法師……そして呼び出される際はその者の全盛期の姿が適応されると…」

「まあ、細かい所を話すと例外もいたりするんだけど、概ねその通りだね」

「ならばダ・ヴィンチ殿は……幼少の頃のその姿が生涯において最も優れていたのか?」

「あ、うーん…………」

 

隻狼の疑問は至極単純なものだったが、現在のダ・ヴィンチにおいてその質問は回答に困る。

 

(そもそもサーヴァントと人工サーヴァントの違いなんて説明してもピンとこないだろうし……そもそもオリジナルからして生前とサーヴァントとで性別が違うし……)

 

うーん、とどう説明したものか困り果ててしまったダ・ヴィンチに、隻狼は何故か哀れみのこもった視線を送っていた。

 

(このダ・ヴィンチという幼子、生前どれほど生きたか分からぬが、幼き頃が人生において全盛とは……御子様と同じく過酷な生き様だったのだろうか……)

 

しかし自分の幼年期も中々だったな、とダ・ヴィンチに対して勘違いを加速させていく隻狼はそこまで考え、一旦その哀れみの視線を瞼を閉じる事で遮る。

 

「して、これからどう動く」

 

空気が、変わる。

 

「まずはアタランテ殿と協力して叛逆軍の勢力を伸ばしていくのが最善だと思うが?」

「本陣を攻めるにはちと数が足りんのは同感だ、群れるのはあまり好かんが」

 

先程まで物色を続けていた狩人も、輪の都の事を思い出して若干落ち込んでいた騎士も、その一言で途端に纏うオーラが冷たくなる。

 

「ほっ本陣って……気が早い気がするけど」

 

悲観も楽観もなく淡々と語り出す姿を見て少し気圧されるマスターだったが、狩人の口からサラッと出た単語には辛うじて反応する。

 

「わざわざ長期戦を仕掛ける利点もない、幸いアタランテから相手の本陣の位置と名は聞いているのだ、確かヤガ・モスクワといったか」

「だがマスター殿の言う通り急いているので「隻狼よ」……?」

 

隻狼の言葉を遮った騎士は、いつもより感情の抜け落ちた声色でこう言った。

 

「本来異聞帯として淘汰された可能性が一時的に成立しているだけでも有り得ないのだ、だがそんな有り得ない世界が存在して今も歴史を紡いできた以上、そこには確かに生きる者達がいる」

「………………」

 

騎士の言葉を、狩人は静かに受け止める。

 

「守り手の様子を見るに、異聞帯の仔細を知らないようなので口には出さぬが…………一刻も早くこの異聞帯を解決しなければ双方共に後味が悪い」

「………ここでは言えぬと」

「そういう事だ」

「一体何の話をしてるの……?」

 

突然蚊帳の外にされたマスターは意図の読めない会話に混乱する。

しかしその後ろで事情を察しているであろう(・・・・・・・・・・・・)ダ・ヴィンチとホームズはどこか複雑な表情を浮かべていた。

 

「じゃ!当分はアタランテ達叛逆軍に協力して一気に攻め入るって事で結論が決まったかな?」

 

だがその表情も数秒経てば消え、軽快な声色を響かせる。

 

「んー……まあ騎士さん達とならどうにかなるかぁ」

「先輩の言う通り、三人共サーヴァントに引けを取らないぐらい強いのは私達がよく知ってます!」

 

どうやらマスターとマシュの言葉で、今後の方向性が決まってしまったようだった。

 

「ならば早速我々は下準備に入る、どこか自由に扱っていい場所はあるか?」

「空きの部屋が一つある、三人でも十分な広さはあるはずだ」

「助かる、案内を頼んでも?」

 

ホームズの案内により早速空き部屋へと向かう異分子達、その後ろ姿を何の気なしに見送るマスターはふと先程の言葉を思い出す。

 

「異聞帯の仔細………何の事だったんだろう…?」

「あっあとマスター君はメディカルチェック!こういうことはこまめにしておかないと後が怖いぞ〜?」

「脅さないでよダ・ヴィンチちゃん……ちゃんと行くから……」

 

異聞帯について疑問を抱いたのも束の間、ダ・ヴィンチの声によりその思考は掻き消された。

 

 

 

 

 

 

 

例えここで真実に辿り着いたとして、何ができようか。




今年までにロシアは終わらせたい。


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休息

去年の末にロシア終わるとかほざいてたら、もう2020年も半分になってました()


 

決して心地良くはない眠りが覚める。

倦怠感に包まれたその身を起こし、意識を覚醒させる。

 

「おや、お目覚めかい?」

「………おはよう、ダ・ヴィンチちゃん」

 

まだ眠気が抜けきれていない声でそう答えるのはカルデアのマスター。メディカルチェックが終わった後、4時間ばかりの睡眠ではあるがこのロシア領に入ってから初めての仮眠であった。

 

「まだ眠そうだね……無理もないさ、礼装があるとは言え外は極寒の大地、不慣れな環境の中でよく頑張ったよ」

「うん、でも大丈夫だよ。それよりどうしてここに?」

 

おっと、と言った表情で要件を思い出したダ・ヴィンチ。マスターのベッド横に備え付けられている椅子に座り、一呼吸置いて語り出す。

 

「主だった話はマシュのこと、彼女はまたサポートに徹してもらおうと思う」

「…………………やっぱりか」

「分かってると思うけど今のマシュは不完全だ、アヴィケブロン君やあの3人がいる今だとマシュはかえって邪魔になる」

「…………………」

 

特に反論もなくマスターはダ・ヴィンチの話を聞く、その点に関してはマスターも同意見だったからだ。

ロシア領でアヴィケブロンというゴーレムマスターを召喚出来たのは僥倖だったとマスターは心底思う。ゴーレムは壁、運搬、戦闘の全てを肩代わりしてくれる、人手の足りない今の現状ではどれ一つを取っても至難に近い、現に破損したボーダーを修復しているのはゴーレム達なのだから。

アヴィケブロンというサーヴァントがこの環境においてどれだけの価値を持つかは推して知るべしといったところだろう。

 

「まあこれでマシュを危険に晒すこともないんだ、戦力も着実に増えているんだし素直に喜ぶべきだよ」

「うん、マシュにも負担はかけたくないから」

「ほう、負担と来たか……まあそこは後々のお楽しみだね」

「マスター!」

 

突如として部屋の入り口が開く、急いだ足音と共に姿を現したのは噂のマシュだった。

 

「マシュ、おはよう」

「……おはようございます」

 

勢いよく入ってきたもののマシュの表情は暗い、お互い暫く沈黙した後にポツリとマシュの方から呟いた。

 

「すみませんマスター、前線を離れることになって……」

「いいんだよ、マシュの方が心配だ」

「でも………私は大丈夫です、体には何の異常もありません、ただ」

「マシュ」

 

マスターの意志のこもった声がマシュの言葉を遮る。

 

「出来る事なら今までみたいにマシュと戦いたい、でも今はアヴィケブロンや騎士達がいる」

「…………」

「それにこれ以上マシュが傷つく姿は見たくないから」

「マスター……」

 

その言葉を聞いて、マシュの表情が少し和らぐ。

 

「おっといちゃついてる所悪いんだけど2人共司令室に向かってね、ホームズ達がお呼びだ」

 

桃色な空気をダヴィンチが切り替える、突然の言葉に狼狽えるマシュだったが、すぐに返事を返す。

 

「わ、分かりました、行きましょうマスター」

「うん、行こう」

 

シャドウボーダーの廊下を真っ直ぐに進んでいき、司令室の扉を開けると早速ホームズが話しかけてくる。

 

「おはよう、短い休憩ですまないね。またしばらく布団とはお別れだよ」

「ん、目覚めたかマスター」

「あっおはよう、狩人さん」

 

するとマスターに気付いた狩人も挨拶をす

る。

 

「…………」

「?」

 

しかしマスターの様子を見た狩人が、おもむろにポケットの中を漁り始めた。

出てきたのは小さな鐘だった、狩人はそれを掲げてこう告げた。

 

「抜本的な生命力が相当疲弊している、それでは体ではなく心が持たんだろう」

 

チリンチリンと、美しい鐘の音が司令室に響き渡る。

 

「マ、マスターから光が……あれ?」

「おぉ!?………って、体が……軽い?」

 

するとどうだろうか、マスターの体から光が漏れたと思えばすぐに収まり、残ったのは軽やかになったマスターの体だけだった。

 

「心がやられてしまえば体は簡単に壊れる。気丈に振る舞うのも良いが、ガス抜きを忘れるなよ」

「あっありがとう………」

 

正直な話、マスターから見る狩人の人物像は近寄り難い謎の人物という非常に偏ったものであったが、今の出来事で意外と面倒見の良い人なのかもしれないと思うマスターだった。

 

「さて、と」

 

鐘を懐に戻し、狩人はホームズの方へと向き直る。するといつのまにか司令室には騎士と隻狼も集まっていた。

 

「戻ったか」

「ああ、一通りここの構造は把握した」

「俺も大体は覚えた…」

 

マスターが休息を取っている間、各々はこの4時間でシャドウボーダー内の構造の把握に勤しんでいた。3人共それぞれ探索に於いては手慣れたもので、4時間もあればボーダー内の複雑な通路を頭に叩き込んでいた。

 

「ならば、状況を再開しよう」

 

ホームズのその一言で、全員が顔を引き締める。今までは戦力も情報も足りなかったが、持ち直した今、やるべき事一つだけ。

 

「ロシア異聞帯、その攻略を」

 

反撃開始、追われる者は追う者へとその身を転じる。




仕事が多忙で更新が激遅ですが、気長に待ってもらえれば嬉しい限りです。

あと報告も無しに更新途切れてすいませんでした。


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一閃

どうして小説を書こうとすると一々説明臭い文章になるんだろうか(永遠の謎)


 

正午。

一通り今後の方針がまとまったカルデア一行は叛逆軍の基地に戻ろうとしていた。

 

「凄い吹雪………道に迷わない様に気を付けて下さい」

「しかし……この吹雪は異常だな、風もそうだが一寸先すらまともに見えない」

「あぁ、アリアンデルの吹雪が可愛く見える」

「ここまで吹雪いていると敵の位置が掴めぬ、一刻も早くアタランテ殿の元に向かうとしよう」

 

ゴーレムがあるとはいえ、このロシアの吹雪は生命にとって過酷な環境を強いる。

そもそもにおいてこの地はサーヴァントや異分子、ヤガ達以外では到底生存することが出来ない状態になっている。唯一生身のマスターも礼装によって体温は維持されているがそれも長くは持たない。一刻も早くこのロシア異聞帯を解決しなければ、クリプター側が動かずともカルデアは疲弊によって自滅するだろう。

 

「待て」

「アヴィケブロン?」

「静かに、マスター」

 

唐突にゴーレムの歩みを止め、静止を促すアヴィケブロン。怪訝に思うマスターだったが、その理由はすぐに分かった。

 

「蛇?」

「しかしそれにしては……デカイな」

 

蛇に嫌な思い出がある騎士と、蛇に苦戦させられた記憶がある狩人が同時に嫌悪感を示しながら呟く。

彼らの目の前には確かに蛇というにはあまりにも大きく、そして歪な化け物が横切っていた。

 

「いや、あの程度ならば容易く殺せる」

 

バカなと思いつつも顔には出さず、それでも驚きながら狩人と騎士はその声の主の方向に振り向く。そこには目の前の化け物を何気も無く見つめている隻狼がいた。

 

「あ、あんなの倒せるの……?」

「こちらにはゴーレムがあるとはいえ、アレ相手は少し骨が折れると思うのだが?」

 

まだ感性がマトモなマスターとアヴィケブロンが隻狼の言葉に疑問を抱く、しかしそれは直ぐに払拭される事となった。

 

「葦名の蛇に比べれば」

 

音もなく。

 

「ただただ弱い」

 

隻狼は一人、臆すること無く化け物の目の前に体を晒した。

 

「………グゥ?」

 

この視線を遮る強烈な吹雪の中であっても、目の前に現れれば流石の化け物でもその姿に気付く。ゆらりと吹雪を掻き分けて出てきた隻狼に化け物は最大限の警戒をした。

 

「…………ゥア?」

 

しかし多少の知性を持ち合わせていたのか、化け物はすぐさま隻狼に襲い掛かる様なことはしなかった。

 

何故何もしてこない、目の前の生き物は何だ?

 

漠然とした思考ではあるが、化け物は現れてから動こうとしない隻狼に違和感を感じていた。ただその場で屈み、腰に付けた何かを握り続けているだけの存在に疑問を抱いていた。

 

「秘伝」

 

その刹那、瞬きすらしていない眼の前にその刃が映るまでは。

 

「!?」

 

間一髪だった。

その一撃は唐突で、化け物は帯刀していた刀を抜いた瞬間を見ていたにも関わらず対応が遅れた、化け物にとってその事実は受け入れ難かった。

 

「グゥルァ!!!」

 

しかしその一撃を躱したのもまた事実だった、今の一撃で化け物は目の前の存在の強さを認識した。恐らく出し惜しみなどなく、野生を抑えることなく隻狼を食い殺すだろう。

 

「一心」

 

その機会があれば。

 

「………………………?」

 

知覚した時にはもう既に終わっていた。身体の感覚は消え失せ、残された頭部だけが蠢いていた。数秒経って、首を斬り落とされたと気付いた時にはもう視線を動かす以外に出来る事は無かった。

 

ジャヴォル・トローンと呼ばれた大蛇が最後に見たのは、己を斬り裂いた無数の斬撃と、返り血でその身を染めた忍の背中だった。

 




そろそろ話が動きます。


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