『三好in戦極姫』 (零戦)
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第一話兼プロローグ

前から思案していた。


 

 

 

 

 

かつて、日本を破滅から救った三好将和。その将和もとうとう老いには勝てず、妻夕夏と共に永眠した。

 

 

 

「夕夏、あの世でもよろしく頼むよ」

 

「任されたわ貴方」

 

「暫くしたら私もそちらに行きますよ」

 

 

 

 息を引き取った二人に美鈴は涙を流しながらそう呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人生、何が起きるかは死んでからでも分からんのだな……」

 

 

 

 将和はそう思う。時は戦国時代、つまり将和は今度は戦国時代に来ていたのだ。

 

 

 

(記憶は五歳時からでしかも場所は阿波国ときたもんだ……)

 

 

 

 将和がいる屋敷の場所は阿波国三好郡芝生ーー阿波国で三好郡と言えば日本史、特に戦国時代が好きな者がいれば直ぐにピンと分かるだろう。

 

 

 

(拾われたのがまさか三好元長とはな……)

 

 

 

 将和の記憶であれば五歳時の時は孤児だったらしく、偶然にも通り掛かった三好元長が拾ったという事である。

 

 名前も三好将和であり元長の養子ではあるが庶子の長男という形であった。

 

 

 

(問題は……)

 

 

 

 そう思っていた将和だがドタバタと二人の男女が将和の元に走ってきた。

 

 

 

「兄貴!! 今日こそ兄貴から一本取るからな!!」

 

「申し訳ありません兄様、又四郎が……」

 

「分かった分かった、相手になるぞ又四郎。大丈夫だ孫次郎」

 

 

 

 将和は二人にそう言う。孫次郎と又四郎、この二人は後に三好長慶と十河一存になる人物であるが一つ問題があった。

 

 孫次郎と呼ばれたのは明らかに女性だからだったのだ。しかも将和はその女性をかつて明治の世へタイムスリップする前から知っていた。

 

 

 

(戦極姫3に出てくる三好長慶まんまじゃねーか)

 

 

 

 姿こそ幼いがかつて平成の世にて将和が熱中していたゲームのキャラであった。

 

 

 

(又四郎も面影がゲームの一存に似ている……て事は此処は過去の日本ではなく戦極姫3の日本だな……)

 

 

 

 そう分析する将和である。将和自身も何故自身がまた転生したのかは考えてはいるがまだ答えは出ていない。

 

 

 

(全く……神様は俺に休息を与えてはくれんのかね……)

 

 

 

 将和はそう思いながら一存の槍捌きをかわすのであった。その後、大物崩れ等順調だった元長が運命が変わった。

 

 木沢長政の飯盛山城を攻囲していたが10万の本願寺門徒の参戦で状況は一変、本願寺門徒に蹴散らされ逃げ込んだ顕本寺を取り囲まれ元長は足利義維を逃がすのに精一杯だった。主君から見限られた上に、勝ち戦を大敗北に貶められた元長は自害して果てた。その自害の様とは、自身の腹をかっ捌いただけで終わらず、腹から取り出した臓物を天井に投げつけるという壮絶さであったという。

 

 

 

「何!? 義父が……」

 

「はっ、無念の一言であります……」

 

 

 

 阿波にて将和は元長の悲報を聞いた。

 

 

 

(このままでは三好家は瓦解する……)

 

 

 

 原作までの三好家道筋は分からない。だが容易でないのは確かである。将和は直ぐに元長の弟である三好康長の元を訪れて三好家当主就任を要請した。

 

 

 

「叔父上、義父殿亡き今は叔父上が当主となり三好家を支えるべきかと……」

 

「いや……儂にはそんな役目は無理だろう。これまで通り三好家の一門衆として支える」

 

「し、しかしでは当主には誰が……」

 

「御主がやれば良かろう」

 

 

 

 康長の言葉に将和は目を見開いた。

 

 

 

「お待ちください叔父上。私は確かに三好家の者ではありますが出自については御存知の筈……」

 

「確かに出自は知っておる。だが御主の才は広く知られておる。今の三好家を支えるのは御主しかいない」

 

 

 

 前世の知識もあった事で色々と政に参加しているおかげもあり阿波国にて将和の名は広く知られていた。しかし、それでも将和は当主就任は固辞した。

 

 

 

「叔父上、私には当主の座は務まりますまい。だが孫次郎ならばどうですか?」

 

「孫次郎か……だが孫次郎はまだ幼い」

 

「なので孫次郎が元服するまで私が当主代行として三好家を支えまする」

 

「成る程」

 

 

 

 将和の言葉に康長は納得の表情をした。これにより将和は三好家当主代行に就任した。当初は家臣達も将和の事を毛嫌いをしていたが将和は細川家と一向一揆の和睦を促したり、細川家との和睦を拒否した一向衆を蹴散らして摂津越水城を奪回したりしてそのような声は直ぐに消えたのである。

 

 また、その後も細川と睨み合いをしつつも将軍義晴の命令で京の治安維持をしたりして三好家当主代行の仕事を果たしたのである。

 

 そして孫次郎は元服して名を利長とした。後の三好長慶となる二歩前の事である。

 

 

 

「これでようやく肩の荷が降りる」

 

 

 

 元服の孫次郎を見つつホッと安堵の息を吐く将和だったがそれもつかの間であり何と利長、当主は将和がなるべきと言い出したのである。

 

 

 

「待て待て待て、どうしてそうなる」

 

「兄様は上手く遣り捌いていた。貴族の顔見知りも少ないしそれなら兄様が継いだ方が……」

 

「いやいや、お前が当主であるべきなんだよ。大丈夫だ、俺が支えるから」

 

 

 

 将和は康長らと共に説得して何とか利長が当主になるのである。利長の心配を他所に三好家の勢力範囲は更に増していく。又四郎は十河氏の養子となり十河一存と名を変えて三好家一門衆の一員となり四国の三好家拡大を支えるのである。

 

 この頃、三好家は史実と異なり阿波・讃岐・更には伊予を抑えていた。そして利長と将和は細川晴元の要請で四国から畿内に上陸して晴元の配下となり晴元を支援していく。

 

 

 

「兄様、細川は元は父の仇です。それを……」

 

「焦るな利長、焦りは禁物だ。今は雌伏の時だ」

 

 

 

 利長に将和はそう言うのであった。その後、畠山や足利義晴らとの抗争を経て三好政長父子追討を契機として遂に晴元に反旗を翻したのであった。

 

 

 

「利長は晴元なんぞ気にするな。今は政長父子に専念してを滅ぼせ」

 

「無論だ」

 

「一存と長逸は利長の側で補佐だ」

 

「承知したぜ兄貴」

 

「承知致しました」

 

 

 

 弟一存と三好長逸が頷く。更に将和は新たに任官した松永久秀と岩成友通に視線を向ける。

 

 

 

「久秀と友通は俺と共に」

 

「畏まりましたわ」

 

「分かりました~」

 

 

 

 久秀は口元を扇子で隠し友通はにこやかに答えた。そして三好家は動く、利長らは政長を討ち政勝を降伏せしめて将和らは京の入口である山崎に布陣して細川を迎え撃つ構えをしたが晴元は足利義晴・義輝父子らを連れて近江国坂本へ逃げたのであった。

 

 

 

(政勝は降伏……少々早いけどまぁ三好三人衆になる器だから此方で鍛え直したら大丈夫だろ……問題は六角だが……)

 

 

 

 そう思いつつ将和は久秀に視線を向ける。

 

 

 

「久秀、お前は信貴山城に入り大和の筒井を抑えろ。筒井を捕らえるなりしたら大和はくれてやる」

 

「フフフ、感謝しますわ将和様」

 

 

 

 久秀はニヤリと笑い将和に頭を下げるのであった。そして将和は部屋に一人籠り思案する。

 

 

 

(これで三好家はとりあえずの磐石は得た……が油断すれば直ぐに史実と同じ運命になる。それだけは避けたい)

 

 

 

 将和はそう思いつつ記憶のある日本地図を描く。

 

 

 

(四国……後は土佐だけを抑える。畿内……本願寺と上手く連携しつつ堺と大和、京を抑える。中国地方はまだ大内義隆がいるし手を出せんしまぁ播磨に備前くらいか。九州は島津と同盟をして大友と龍造寺を倒さないとなぁ……)

 

 

 

 西は脳内で整理する。

 

 

 

(んで以て尾張のノブノブだ。尾張を統一したらしいから桶狭間までのフラグは近いな……それまでに紀伊を通して伊勢に介入すれば……問題は虎と龍が当分死にそうに無いという事だな……案外北条と同盟を結ぶのも手だな)

 

 

 

 そう思う将和である。斯くして将和の思いは他所に物語は始まるのである。

 

 

 

「播磨を取り中国地方の足掛かりとする」

 

「将和はん、あんたは何をする気や?」

 

「何だと思う顕如?」

 

 

 

 再び畿内で騒乱が幕を開ける。

 

 

 

「三好将和を討て!!」

 

「そいつは素敵だ義輝。面白くなってきたぞ!!」

 

「長慶に助けてもらった命……此処で使うわ!!」

 

 

 

 新しい時代の幕開けとも言える桶狭間の戦い。

 

 

 

「首は捨て置け!! 狙うは今川義元の首ただ一つ!! うつけの信長に続けェ!!」

 

『ウオォォォォォォォォォ!!』

 

「今川義元、尾張桶狭間にて討死しました!!」

 

「……来たか」

 

 

 

 そして将和と信長は関ヶ原で激突をする。

 

 

 

「三好将和の天下とは何ぞや!?」

 

「『富国強兵』『日ノ本の統一』也!!」

 

「共に来い信長。お前が目指す天下は俺が知っている」

 

 

 

 西の動乱。

 

 

 

「大友が耳川で大敗北!!」

 

「三好家とは縁が切らないようにしないとねぇ。そうだ、義弘ちゃんを三好将和のお嫁さんにしましょうか」

 

「( 'ω')ファッ!?」

 

 

 

 ついでに将和の取り合いも勃発。

 

 

 

「将和の嫁は私だろう」

 

「黙れ信長、武に長けた妾がなるべきじゃのぅ。なぁ将和よ?」

 

「わ、私はどうせ胸も皆に比べたら小さいし……」

 

「正室は私だろ兄様?」

 

「」逃げた

 

 

 

 どうなるかは全て作者次第である。

 

 

 

 

 

 




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第二話

基本不定期


 

 

 

 

「さて、軍議といこうか」

 

 阿波国三好群芝生にある三好家歴代の居館において三好家当主代行である三好元長の長男で庶子の三好将和は並んだ家臣達を前に将和はそう告げ、家臣達は将和に頭を下げてから軍議が開始された。

 

「晴元が孫次郎を連れて一揆衆を討てと言うてきた」

「やはり晴元は我々をまだ完全には認めてはおらぬ様子ですな……」

 

 将和の言葉に譜代の篠原長政はそう呟く。

 

「仕方ないかもしれんな……今出せる兵は?」

「全力であれば一万と少しですが、伊予と土佐への援軍を考えますと六千が限度かと……」

 

 阿波三好は後方を抑えるがため土佐の長宗我部と伊予の河野通直(村上通康も)を支援していた。なお、讃岐に関しては十河氏が大半を抑えている。

 

「分かった、その兵力で行こう。之虎と冬康は阿波にて待機せよ」

『御意』

 

 元服したばかりの之虎と冬康は少々不満そうにしながらも頭を下げる。

 

「逸る気持ちは分かるが焦りは禁物だ。油断しては討たれるぞ」

「はい」

「肝に命じます」

「他には?」

『………』

「よし、では行こう」

 

 そして阿波三好軍は六千の軍勢を整えて阿波から出陣、畿内に上陸したのである。

 

「おぉ、将和に孫次郎。よくぞ来られた」

 

 堺にある晴元の屋敷にて将和と孫次郎は晴元と面会をしていた。美形であろう晴元は孫次郎を見て何やら頷きつつも上座に座る。

 

「実は本願寺の一揆衆どもが本願寺から分離をして摂津の越水城を占拠しおった。これを奪回してほしい」

(ふん、義父を殺すための一揆衆を押さえきれなくなって俺らに御鉢を回すか……哀れなものだな)

 

 事情を説明する晴元に将和は内心、そう思う。

 

「事情は分かりました。兄上と私にお任せください」

 

 そこへ孫次郎がそう言って晴元に頭を下げる。それに気分良くしたのか晴元も嬉しそうに頷いた。

 

「おぅおぅ、三好家の次期当主は頼もしいものよの」

「ハハハ、やはり義父殿の教育のおかげでしょうな」

 

 将和はチクリと釘を刺すのであった。そして将和らは軍勢を率いて摂津越水城へと向かう。

 

「孫次郎、今回の指揮はお前に任せる」

「私が……ですか?」

「あぁそうだ」

 

 驚く孫次郎に将和は頷く。史実の長慶の指揮能力は申し分ない、そのため将和は指揮を孫次郎に任せる事にしたのだ。

 

「思う存分やってこい。なに、失敗した時の尻拭いはしてやるさ」

「……ありがとうございます兄様」

 

 そして孫次郎指揮の元で越水城攻略が開始された。

 

「搦手から一存と長政が攻めろ、正面からは私と兄上で対処する」

(ふむ……)

 

 孫次郎の指示を将和は横目に見つつ攻略方法に納得していた。

 

「大将が正面から攻略すると見せ掛けか。面白いではないか」

 

 少々、声は大きめに出して孫次郎の策を褒める。それに吊られて周りの者も成る程と納得していく。

 その後を記述すると、孫次郎の指揮の元で僅か二日で越水城は落城したのである。

 

「おぉ、おぉ孫次郎殿!! よくぞやってくれましたな!!」

 

 晴元の屋敷に戻ると晴元は満面の笑みを浮かべながら二人を出迎える。

 

「これで一揆衆は力を失ったも同然。感謝するぞ」

「はっ、お役に立てて良かったです」

 

 晴元がススッと孫次郎の元に近寄ろうとしたが将和が少々大きめの声を発して釘を刺す。その将和に晴元は小さく舌打ちをするのであった。

 

(フン、孫次郎の実力はある程度分かった……なら庶兄は要らないな……何れ……)

 

 そう思う晴元だが、その動きには将和も分かっていた。

 

「まぁ、そういうわけであのクソッタレは何れ俺を暗殺してくるだろうな」

 

 三好家の屋敷で将和は孫次郎らと話をしていた。

 

「では……今のうちに晴元を?」

 

 長政は将和にそう問うが将和は首を横に振る。

 

「いや、まだ早い。弟達の力を付けてからが無難だろう」

「しかし、それでは殿が……」

「俺は暫く阿波に戻ろう。奴の出方を見る……出来るな孫次郎?」

「……無論だ兄様。この孫次郎、見くびっては困る」

 

 将和の言葉に孫次郎はニヤリと笑うのであった。そして将和は一旦阿波へ帰国して阿波の背後を固めるのである。

 

「伊予はどうなっている?」

「通直側が有利に動いています」

 

 河野通直は阿波三好からの援軍を受けて村上通康と共に予州家の河野通存と戦いを繰り広げていた。今では以前に退去させられた湯築城を取り返しており、予州家の河野通存は大方追い詰められていた。

 

「大友がどう出るかだな……」

「はっ、それに土佐の一条もです」

 

 通存側は豊後の大友、土佐の一条が支援しており場合によっては両氏が出てくる事は確実であった。

 

「土佐は?」

「土佐中部をほぼ平定しています」

 

 土佐は阿波三好が支援する長曽我部元親による平定が行われており残るは高岡郡と幡多郡を残すのみとなっていたが、高岡郡の津野氏は一条に歩み寄り佐竹氏は長曽我部に歩み寄っていたので高岡郡では長曽我部と一条の戦いが続けられていた。

 

「一条の後ろには大内、これまた大友もいる」

「むぅ……厄介……ですな」

 

 将和の言葉に之虎が唸る。

 

「……水面下で大友と大内に接触するか」

「それが一番の無難かと思います」

 

 方針は決まった。阿波三好は水面下にて両氏と接触を開始するが大内はアッサリと土佐を見捨てた。

 

「別に良いでしょ。勘合貿易で私達は富を肥やしているんだからまぁ一条は血筋が残れば良いでしょう」

 

 大内義隆はそう言うのである。しかし反対に大友はそう簡単には首を縦に振らなかった。

 

「たかが阿波三好程度にやれぬわ」

 

 大友義鑑はそう言って門前払い同様に阿波三好の使者を追い返すのである。

 

「ふむ……だが大内が捨てたのは前進出来たか」

「かもしれません」

 

 そう思う将和らだったが此処で四国統一は一時延期となる。

 

「何!? 孫次郎が晴元に襲われそうになっただと!!」

 

 何時ものように政をしていた将和は急遽、畿内から来た長政からの使者に話を聞いて驚愕した。

 

「孫次郎様は以前から晴元殿に河内十七箇所の代官職を認めてもらうよう願っておりました」

「あぁ。亡き義父殿が職をしていたからな。そんで今は政敵の政長が任をしている」

「孫次郎様は酒宴の際、酔った晴元殿に再度言上をされましたが晴元殿は聞き入れず更には交換条件として孫次郎様を晴元殿の側室にすれば聞き入れよう……と、孫次郎様の御体を触りに……」

「あのクソッタレ野郎が!!」

 

 将和は持っていた扇子をバキッと折った。

 

「それで孫次郎は!?」

「犯されそうになりましたが幸い護衛していた長逸殿の機転により即刻酒宴から逃げ今は堺の屋敷にて安静にしています」

「……虚仮にしてくれたなぁ晴元ォ!!」

 

 将和は立ち上がる。

 

「軍勢を整えろ!! 畿内に上陸するぞ!!」

「御意!!」

 

 将和は伊予、土佐の予備軍を除き7000の軍勢を整えて堺に上陸したのである。

 

「孫次郎!!」

 

 屋敷に入ると将和は廊下を走り孫次郎の部屋に入る。部屋には床に布団を敷いて伏せていた孫次郎と長逸がいた。

 

「大丈夫か孫次郎!?」

「あ、兄様……」

「申し訳ありません将和様。私達の失態です」

 

 将和を見た長逸は即座に頭を下げるが将和は否定した。

 

「お前達の失態じゃない。晴元を侮っていた俺の失態だ」

 

 将和はそう言って孫次郎を抱き締める。

 

「済まない孫次郎。お前に恥ずかしい姿をさせてしまった……」

「良いのです兄様……父上の職を取り戻したかった私達が焦った結果です」

 

 孫次郎は抱き締められながらもそう言うが孫次郎は震えていた。

 

「後は俺に任せろ」

 

 そう言う将和であった。

 

 

 

 

 




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第三話

令和だから三話更新(意味分からん


 

 

 

 

 それからの将和の行動は素早かった。将和は晴元への書状にて孫次郎の代官職を認めるのと孫次郎への無礼の謝罪要求を送り、幕府の内談衆である大舘尚氏の協力も得る事に成功する。

 また、本願寺法主である証如と会談をして阿波三好と本願寺との和解に成功し証如という後ろ楯を得る事にも成功する。

 この一連の動きに晴元は京を退京して高雄に逃げ細川元常や三好政長らを集めた。幕府では12代将軍の足利義晴は騒動の拡大を避けるために近江守護の六角定頼を通じて両家との和睦交渉を斡旋するも不首尾に終わるのである。

 だがそれでも義晴は諦めずに畠山義総、武田元光等の諸大名に出兵を命じて将和と晴元の和睦工作を続けた。

 

「チッ、義晴の動きが思ったより速いな……ここいらで手打ちか」

 

 将和は六角も怪しい動きを見せている報告を受けて義晴の和睦工作に乗った。これにより将和・晴元間で和睦が成立した。

 晴元は孫次郎に改めて酒宴での行為を謝罪するが河内十七箇所の代官職任命は拒否して一定の凝りが残るのである。

 

「兄様、ご迷惑をかけました」

「もう大丈夫か?」

「はい」

 

 越水城で孫次郎は将和と対面した。

 

「此度の件は私の不足により起きた事です」

「有り体に言えば……にはなるがな」

「此度のは私の教訓としたいと思います」

「おぅ。お前に元気がないと一存らも心配するからな」

「気を付けます」

「うん。そうだ、気分転換に堺見物に行こうか」

「はい、兄様と見物するのも久しぶりです」

 

 将和の言葉に孫次郎はにこやかに笑うのであった。その後、将和と孫次郎は堺見物を楽しみ将和は阿波へ帰国する。なお、孫次郎は利長から範長に改名する。

 

「今回の件で晴元の土台もぐらついて来たと見える……」

「では……?」

「だがまだ早い。後ろを抑える」

「伊予と土佐ですね?」

「あぁ、といっても土佐だ」

 

 将和は四国の地図を拡げて新しくなった扇子で土佐を指差す。

 

「先だっての水面下工作で大内は土佐から手を引いたと見ていい。ならば先に土佐を取り長曽我部に任せる」

「大友はどうしますか?」

「大友にしてみたらまだ伊予が残っているからな。伊予は瀬戸内を抑えるにも重要だ」

「成る程」

「それと土佐を抑えたら次に薩摩の島津を支援する」

「島津……ですか?」

「島津の上には何がある?」

「伊東の日向と……成る程、豊後の大友を牽制ですか」

 

 冬康は合点がいったように納得した表情で頷いた。

 

「そうだ、島津はまだ薩摩を統一したばかりだが力は強い。何れは同盟まで持ち込みたい(だって島津強いし)」

 

 本音と建前は一応は弁えている将和である。そして将和は之虎と冬康に5000の兵を長曽我部の援軍に送り出した。

 

「おぉ、感謝しますぞ!!」

 

 長曽我部国親は二人を出迎え、これで一条の息の根を止めれると踏んだ。事実そうであり、幡多郡の土佐一条は駆逐されたのであるが一条房基の嫡男万千代(後の一条兼定)は大友を頼りに土佐を脱出して豊後に逃げるのであった。

 

(チッ、万千代が逃げたか……種火が残ったが……これが吉と出るか凶と出るか……)

 

 報告を聞いた将和はそう思う。何はともあれ、土佐は長曽我部の手により統一されたのである。そして畿内でも情勢が変化していた。

 

「何? 木沢長政が晴元に反逆したと?」

「はい。そのため晴元殿は将和様に援軍をと要請しています」

「よし、遊佐長教殿と協力して長政を叩き潰すぞ」

 

 将和は即座に動いた。河内守護代の遊佐長教も長政が擁立した河内守護の畠山政国を追放しその兄である畠山稙長を迎えて将和に味方を表明したのである。

 

「己れ稙長め!!」

 

 長政は軍勢約7000を整えて稙長がいる河内高屋城を攻撃しようと太平寺に布陣した。

 この時、将和は長教と三好政長と共に長政を迎え打った。

 

「やぁやぁ将和、久しいの」

「……そうですな」

 

 将和は政長と面会をしていた。義父の仇ではあるがそこは将和も割り切っていた。ふと政長の隣に女性の姫武将がいた。

 

「おぅ、これは儂の娘である政康よ」

「……政長の娘、三好政康にございます」

 

 政長に紹介された政康は将和に頭を下げる。その時に政康の豊満過ぎる胸がタプンと揺れるのを将和は見逃さなかったが一瞬の事だった。

 

「(おっぱいデケェ……)おぅ、共に長政を討とうか」

「……はっ」

 

 そして下がる二人だが政長は笑っていた。

 

「あの庶子……御主の胸を見て興奮しておったわ……貴様の胸も案外役に立つかもしれんのぅ……」

「………」

 

 政長の言葉に政康は何も言わなかった。そして両軍は激突する。当初は長政側が有利に戦の展開をしていた。しかし、側面から駆けつけた長教の軍勢に対処が出来ず長政は撤退を開始するも時既に遅く、長政は大和川の北岸にある高野街道沿いの太平寺付近にて討ち取られたのであった。

 

(良し……とりあえずは義父殿の仇の一人を討ち取ったな……)

 

 長政の首実験を終えた将和は一人天幕にて酒を飲んでいた。そんな時、小姓の一人が政康が訪れた事を告げ、将和も通した。

 

「どうされた政康殿?」

「……将和殿」

 

 政康は少し服をはだけながら将和に寄りよう。

 

「此度の戦で私は少々戦という酔いに酔ってしまいました。どうかこの高まりを共に収めてはくれませんか?」

「………」

 

 政康はそう言って将和の口に吸い付こうとした。しかし、将和はヒョイっと政康を膝に乗せた。

 

「……ふぇ!?」

 

 いきなりの事に政康は最初はポカンとしていたが状況を読み込んでくると頬を急激に紅く染める。

 

「政康殿、そういった事はもう少し経験を積むべきですな。今のままでは精々からかわれるでしょうな」

 

 将和はニヤニヤしながら政康に言う。手玉に取られた政康は即座に将和の膝から飛び退きそのまま天幕を後にするのであった。

 

「……からかい過ぎたかな」

 

 政康が出ていた幕を見つつポリポリと頭をかく将和であった。そして太平寺の戦いから数ヶ月後、今度は細川高国の従甥に当たる細川氏綱が畠山稙長の支援の元、高国の旧臣を集めて蜂起したが直ぐに将和の軍勢に蹴散らされてしまう。

 しかし、それに呼応する形で高国派の上野元全らが丹波から進軍、一時は槇島まで進出するも越水城から援軍に来た孫次郎(範長)らに蹴散らされるのである。

 

 

 

 

 

 




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第四話

 

 

 

 

 

「今日は少し暑いな……」

 

 将和は新しく居城とする河内国の飯盛山城の一室にて政務をしていた。

 

「農民達の様子はどうだ?」

「はい~、皆は口々に将和様を讃えておられます~」

 

 のんびりとした口調の姫武将ーー岩成友通はニコニコしながら将和に告げる。

 

「むぅ、あまり俺が目立つと孫次郎が苦労するな。流言を流して孫次郎の指示に従っているからと徐々に流してくれ」

「でも~将和様が考えた案ですけど宜しいのでぇ

?」

「構わん構わん。当主は孫次郎なんだし孫次郎の成果にしておけば良い」

 

 将和は苦笑しつつ休憩をとるため飯盛山から見下ろせるところに赴く。

 

「……うむ……」

 

 眼下はところどころに沼地等が点在している。

 

(やはり元地元だから大体は見分けがつくなぁ)

 

 これでも最初の設定は大阪出身という将和である。(メタ発言)なお、作者はここら付近出身である。(だからメタ発言)

 

(新田開発しつつ深野池と新開池の治水をしないとな……後は特産品とか作って……)

 

 休憩と言いつつも頭の中は政務をしている将和であった。そんな日々が続いたがそれを打ち消したのは将軍義晴であった。義晴は氏綱と政国らと連携しつつ晴元排除に動き出したのだ。

 晴元は将和と孫次郎に援軍を要請し孫次郎は堺に入るも将和は飯盛山城から動かなかった。何故なら大和国の筒井氏が義晴側に便乗して河内へ侵攻しようとしていた。

 

「筒井を大和に追い返す」

 

 そのため将和は飯盛山城から出て堺に行く振りをして太平寺方面に南下、飯盛山城から出て行ったと判断した筒井がノコノコと大和から出てきたのを将和の軍勢は側面から突撃、筒井の軍勢は崩れて大和に引き返す羽目になるのである。

 堺に立て籠った孫次郎だが四国から一存らの軍勢が到着した事で形勢は逆転、義晴は近江に逃亡して将軍の職を娘の義輝に譲るのであった。

 なお、義晴が逃亡した事で氏綱らは戦意を喪失し六角定頼に仲介を頼り両軍は和睦するのである。

 しかし、此処で何故か長教が裏切り氏綱側へと付いてしまう。勢い付いた氏綱らの連合軍は決戦を挑もうとするが相手は将和・孫次郎らが率いる約二万の軍勢だった。そして両軍は摂津国の舎利寺付近にて激突、今回の戦いで一番目立ったのは孫次郎の采配だった。

 孫次郎は巧妙に兵を代え氏綱らを押し切り大敗させる事に成功、氏綱らは死者2000弱を出して撤退するのである。この後に両軍は和解する事になるが政長の進言により池田信正が切腹させられこれに不信を抱いた孫次郎が晴元に政長暗殺を具申も受け入れて貰えなかった。

 このように晴元と三好側でも徐々に関係が崩れていく事になる。

 

「ほぅ、長慶に改名か(漸く俺が知る長慶か……)」

「はっ、それと兄様に内密の儀があります」

「……聞こう」

 

 飯盛山城にて将和と長慶は面会をしていた。

 

「……晴元と手を切ろうと思います」

「……それは長慶個人としての思いか? それとも三好家当主としてか?」

「……ッ……」

 

 将和の急な変わり様に長慶は目を見開く。将和はこれまで長慶に対して温厚に接していた。何せ彼女は三好家当主なのだから、自身は公式では庶子であるから立場を弁える。しかし、この場での将和は温厚を無くしかつて一個の国を率いた将へと仮面を脱いでいた。

 

「改めて問おう。三好筑前守長慶、細川晴元と手を切るのは三好家のためか? それとも個人の名誉か? 答えろ三好筑前守長慶ィ!!」

 

 将和はそう言いながら床に拳を叩きつけた。将和の睨みに長慶は幾分か息を飲んだがやがては意を発した。

 

「……三好家のためです」

「その言葉……嘘偽りではないな?」

「如何にも……このままでは三好家は細川の子飼いで終わる人生であり我々はまだ父上の仇を全ては討っていません」

「………」

「……長慶、それだけか?」

「……えっ?」

「細川と手を切り、義父殿の仇を全て討ったとしよう……その後はどうする?」

「そ、それは……」

「……ま、それは課題にしてやる」

 

 将和はそう言って茶を啜る。

 

「兄様……?」

「まだ不合格に近いが……合格の線は越えているから良しとしてやる」

「そ、それでは……」

「……あぁ、策を練るぞ」

 

 長慶の言葉に将和はニヤリと笑うのであった。

 

「しかし、長慶も晴元と手を切ろうなどとよく言う気になったな?」

「はい、新しく加入した松永の具申によります」

「……そうか(久秀……来たか)」

 

 そう思う将和だった。そして作戦は開始された。まずは政長・政康親子の討伐を晴元に訴えたが晴元は訴えを拒否、そのため長慶はかつての敵である細川氏綱と遊佐長教と手を結び晴元に反旗を翻して三好政康が籠城する榎並城を包囲した。

 

「己れ!? 裏切ったな長慶!!」

 

 六角定頼経由で長慶謀反を聞いた晴元は直ちに軍勢を整えて政長と共に政康救援のため摂津に進軍する。

 しかし、京への出入口とも言える山崎にて三好軍が展開していた。

 

「敵将は三好将和!!」

「己れェ!! 庶子の分際でェ!?」

 

 報告を聞いた晴元は軍配を地面に叩きつける。

 

「ククク……甘いな晴元……行動が遅いんだよ」

 

 そして両軍は山崎にて激突する。

 

「掛かれェ!!」

「三好なんぞ蹴散らせェ!!」

 

 榎並城救援のため短期決戦で挑もうとする晴元、しかし伝令の報告に驚愕した。

 

「鳩ヶ峰後方から別の軍勢が我が軍勢の後方に回っています!!」

「何!?」

 

 その軍勢は十河一存と三好実休、それぞれ1000ずつの部隊だった。

 

「へっ、将兄の読み通りだな」

「うむ、では参ろうか」

「おぅ!! 掛かれェ!!」

 

 2000の軍勢は晴元の後方から突撃を開始、突然の事で晴元の軍勢は態勢が乱れた。それを見た将和は更に部隊を投入させた。

 

「長政、行け」

「御意!!」

 

 自身が当主代行となった時から支えてくれた家臣に全てを託す将和である。長政の突撃で晴元の軍勢は敗走へと転じたのであった。

 

「三好政長討ち取ったァ!!」

 

 一存の怒号が戦場に響く。一存の槍で政長は討たれたのである。

 

「………」

 

 それを聞いた将和は馬上からホッと安堵の息を吐いた。一方で榎並城を包囲していた長慶の軍勢も政康が降伏した事で榎並城に入城した。

 

「政康だな?」

「はっ、如何様にも。されど、城兵の命は助けてもらいたいです」

 

 長慶の前に出された政康はそう言って長慶に頭を下げるが長慶は苦笑した。

 

「フフ、大丈夫だ政康。貴様の命も取らんよ、既に兄様が政長を討ったからな」

「父を……」

 

 長慶の言葉に政康は目を見開く。

 

「親の罪は子には無かろう……という兄様の具申だ。確かに政康の武勇は惜しい。少し猪突猛進なところがあるがな」

 

 苦笑する長慶に政康は頬を紅く染める。

 

「政康、その武勇……三好家のために使ってはくれぬか……?」

「……感謝致します」

 

 そう言って頭を下げる政康であった。京に逃げ帰った晴元は義晴、義輝らを連れて近江へ逃走するのである。そして残る晴元派の伊丹親興が籠城する伊丹城を包囲するも長教の仲介で開城、これにより摂津国を平定する事が完了するのである。

 また細川政権は事実上崩壊し新たに三好政権が誕生するのであった。

 

 

 

 

 

 

 



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第五話

 

 

 

 

 

「おぅ、漸く来たか」

 

 飯盛山城にて将和は新しく購入した鉄砲を見学していた。

 

「撃ちますか?」

「無論だ」

 

  堺から来た鉄砲商人が将和に撃ち方を教えて将和は的に当てる。

 

「一発でど真中とは……」

「たまたまだ(久しぶりに撃つのは良いな)」

 

 驚く商人を尻目に将和はそう思っていた。

 

「それで、どないでっしゃろ?」

「これからの戦のやり方を変えるには十分な代物だ。10丁で一先ず購入しよう」

「あんがとさんですわ」

 

 商人が帰ると新たに長慶の家臣入りした久秀が近寄る。

 

「何故購入されたので?」

「さっきも言ったがこれからの戦のやり方を変える戦法になる。そのためだ」

「成る程……」

 

 あまり納得はしていない様子の久秀であった。今の三好家は運が向上している途中だった。元長の仇とも言える細川晴元、三好政長を討ち果たし更には細川政権を崩壊させて新たに三好政権を樹立させたのである。

 当初は味方の細川氏綱がある程度反発するかと思われたが氏綱は長慶の実力を認めて素直に頭を下げ三好家に協力していたからだ。

 

「それと久秀、貴様の伝手で国友か日野に連絡を入れたい」

「……成る程。国友と日野は鉄砲の生産地となりつつあるからこそ三好家に鉄砲の導入を押し強く進めると……」

「うむ。謝礼は十分にしよう」

「あら、何でしょう?」

「大和国の大名、これでどうだ?」

「……成る程。大和なら私を監視するには近くて便利と……」

「人聞きが悪いな、俺はお前を信用しているからこその大和国保有の認知だぞ」

「フフ……そうしておきましょう」

 

 そう言って久秀は頭を下げて退出するのであった。それと入れ替わりに長慶もやってきた。

 

「兄様。今、廊下で久秀と擦れ違ったのですが何かあったので?」

「なに、久秀の実家の力を借りようと思ってな。それに今日はどうした孫次郎?」

「はい……漸く一息ついたので堺見物はどうかと……」

「ふむ……(今日は政務の終わったしな……)分かった、支度して堺に赴こうか」

「は、はい!!」

 

 将和の言葉に長慶は嬉しそうに頷くのであった。それから数刻、将和と長慶は僅かな護衛と共に堺を見物していた。

 

「おぅ、この反物は良さそうだな」

「おっ、旦那。良いのに目を付けやしたね?」

 

 呉服屋で将和は白の反物を見ていた。

 

「おや、夫婦ですかい?」

「め!? 夫婦だなんて……」

 

 呉服屋の店主に言われたのを長慶は頬を紅く染める。そのうち湯気が出そうな雰囲気である。

 

「お暑いこったね。よっしゃ、値段はこれにするからどうよ?」

「おいおい、こんな安くて大丈夫か?」

「良いってよ、女も男の前なら綺麗にしなくちゃな!!」

「そうか、なら一つ貰うよ」

「あいよ!!」

 

 その後、購入した反物は長慶の寝間着へ姿を変えたのは言うまでもない。一行が茶屋でのんびりと団子と茶を食していると何やら胸元を開かせた派手な服装を着た女性が将和の横に座る。赤髪かかった長髪が風で将和の頬に当たるが将和も悪い気はしなかった。

 

「お、一つ貰うぞ」

 

 女性は更に置いてた団子を一つ取り、それを口元に入れモグモグと食べる。

 

「の、のぶな……」

「今はお農だ五郎左。あー済まんな、代は払う」

(……あっ(察し))

 

 二人の会話で何となく察した将和であるが一方で急に来て団子を頬張る女性に唖然とした長慶だが我に返り立ち上がる。

 

「い、いきなり団子を取るとは何事だ!?」

「だから謝ったし代は払うと申したであろう」

 

 顔を真っ赤にして怒る長慶に女性はそう言い返す。

 

「ハッハッハ、元気な人だ。地方の方かな?」

「うむ。朝方、堺に到着してな。今は堺を見物しているところだ」

 

 女性はそう言いつつも団子をバクバク食べる。後ろでは熟年の男性が茶屋の店番にペコペコと頭を下げながら銭を渡している。

 

(不憫だな……)

 

 そう思うが言わない事にした将和であった。

 

「さて、団子も食って腹も膨れたし行くとするかな」

「もう出立か?」

「何分忙しい身であるからな、ではな」

 

 ハッハッハと笑う女性。女性はそう言って将和に手を振り後にするのである。

 

「……フ、面白い吾人だな」

「………」

 

 苦笑する将和にそれを横目で見る長慶は物凄く機嫌が悪くて将和が機嫌を治すのに一苦労したのは言うまでもない。堺からの帰り道、先程の女性と男性は馬で東海道方面に移動していた。

 

「ですが信長様、今回は良きものでしたな」

「ふん、鉄砲は200丁しか注文出来なかったがな」

「いやいや、それでも上出来でございます」

「上出来……か。あの男と会ったのが最大の収穫かもしれんぞ?」

「は? あの男……がですか?」

「フフ、まぁ何れ分かる……なぁ三好将和よ?」

 

 最後に呟いた言葉は男性の耳には入らなかったのである。堺見物から数日後、将和は京に来ていた。

 

「ホホホ、久しいですなぁ将和殿」

「山科殿もお変わりなく」

 

 初夏に入ろうとしていた季節、将和は公家の山科言継の屋敷を訪れていた。

 

「帝への献上としまして米三千石、麦千石、金銀をそれぞれ用意してあります」

「ほんに御苦労さんどす。今や何処の大名も帝のために米や麦を寄越さんようなって何十年……あんさんだけやで、しっかりと麿らにも施しをしてくれはるのわ」

「……ハッハッハ、いやなに我らが戦場で働くように公家も都で働く……そうでござろう?」

「……ほんに感謝しますわ。それで今回はどのような頼みを?」

「実は関白、左大臣、右大臣の連名を頂きたく」

「ふむ……その三人となるとよっぽどの事……成る程」

 

 山科は納得したように頷いた。

 

「今度は大和を頂くわけやな」

「如何にも。そのため障害となるのが興福寺です」

「んー、んー。分かったで将和殿、三人の耳には必ず入れましょ。ところで将和殿、三好家はこれからどうするつもりや?」

 

 不意に山科はそう聞いてきた。

 

「あんさんらの仇であった細川晴元は逃亡し三好政長も討死したわ。それで……どないする気なんや?」

「……当主の長慶は迷っている。俺だったら即断していたけどな」

「その特技はあんさんだけやで将和はん」

「ハハハ、かもしれませんなぁ……」

 

 山科の言葉に将和は苦笑しながら茶を飲む。

 

「将和はん、気を付けなはれや。細川はんはまだ諦めてはいまへんで」

「でしょうな。最悪、刺客を放って来そうですからな」

「でしたら……」

「そのところについては大丈夫とだけ言っておきましょう。準備はしております故」

「成る程。流石は将和はんやな」

 

 将和の言葉に笑う山科であった。その後、京散策をして飯盛山城に帰ろうとした将和だったが道端で行き倒れている女性を見つけた。

 まぁこの時代の京は戦乱で荒れ果てているので至るところに老若男女の死体が転がっているが将和が目を引いたのは行き倒れている女性の服装は忍び装束だったからだ。

 

「……ま、何かの縁だな」

 

 将和は女性を介抱する事にした。

 

「いやー助かった助かった。銭も無くなって腹も減ってどうしようかと思っていたところだったよ」

 

 飯屋に連れ込んで女性は大いに飯を食べて一服していた。

 

「それで行き倒れていた私に手施しをした理由は何かな?」

「まぁ……服装を見ただけの判断なんだけど、お前は忍びでいいのか?」

「如何にも。ただし今は抜け忍でね」

「抜け忍か。伊賀? それとも甲賀?」

「いや、北条からだ」

「……て事は風魔か」

「おや、風魔を知っているとは君も中々通だね」

 

 女性は豪快に笑いながら食後の湯を啜る。

 

「それに連れている者も中々の強者と見えるが……君は今を馳せ参じている三好家の家臣かな?」

「……確かに家臣といやぁ家臣だなぁ……」

 

 女性の言葉に将和は苦笑し護衛の者もどう反応すれば良いか分からない表情をしている。

 

「ふむ、では私を雇うというのはどうかな?」

「ほぅ、主をか。確かに忍びは情報を収集するには欲しい人材だからな」

「おや、なら尚更じゃないかな」

「ふむ……では一つ任務を課してやろう。それで見事に成功したら雇う。報酬は年間5貫でどうだ?」

「5貫もくれるのかい?」

「あぁ。仕事の成功具合によっては臨時の報酬も出そう」

「了解した。なら任務を言ってくれ」

「そうだな……そうだ、なら一つーーーーーで」

「……君は最低だな」

 

 若干引いてる女性である。

 

「何を言っている? 場合によっては暗殺も命じるかもしれないんだ。それくらいは容易い事だろ?」

「まぁ……それは……で、何処に持って行けばいい?」

「河内国の飯盛山城に来てくれ。話は通しておく」

「……君は重臣?」

「城に来るまでは秘密だな」

 

 ニヤリと笑う将和だった。そして数日後、女性は飯盛山城に現れた。

 

「これが言われた任務のだよ」

 

 女性はそう言って将和の前に一枚の褌を置く。

 

「まさか三好長慶の褌を盗んでこいだなんて……」

「なに、あいつの警備をどうにかしないといかんと思っていたからな」

「あいつ……?長慶をあいつ呼ばわりなんて……あっまさか……」

「そのまさかよ」

 

 驚愕する女性に将和はニヤリと笑う。

 

「三好元長の庶子で長慶の兄である三好将和だ。お前を雇うよ」

「……これは参ったね。なら私も本名で相対しないとね」

 

 女性は頭をかいてそう言う。

 

「風魔小太郎。そう呼ばれる筈だった名だよ」

「ふむ。後継争い?」

「そ。私が争いに勝っていたんだが髪が金で天狗の血筋じゃないかと疑われてね、結局は殺されそうになったけど上手く逃げて抜け忍となったわけさ」

「成る程……なら名前を付けてやろうか?」

「お、嬉しいね。新しく仕える主人から貰えるなんて栄誉だね」

「そうだな……風間和夏」

「ふむ、由来は?」

「風間って風魔を捩ったと聞いた事あってな、和は俺の将和からで夏は初夏に会ったからだがどうだ?」

「……風間和夏、この身を主君である三好将和に捧げます」

 

 表情を変えた風魔小太郎こと風間和夏は将和に頭を下げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「ところでこの褌はどうする?」

「可哀想だから戻してきてくれ」

 

 

 

 

 

 




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第六話

 

 

 

 

「ふむ……大分纏まったな」

 

 将和は飯盛山城にて和夏が収集した情報を整理していた。

 

「今度の軍議の時に持っていくか」

 

 数日後、将和は長慶が新たに居城とした芥川山城に赴いた。芥川山城は元々芥川孫十郎が城主だったが晴元派に走ったので芥川孫十郎は政康に討たれていた。なお、芥川山城は細川政権が政務の拠点としていた事もあり長慶が芥川山城を新しい居城とした事で内外に細川政権の後継が三好政権だと伝える事に成功している。

 

「集まったな」

 

 芥川山城の一室にて長慶を筆頭に三好一族、その家臣等が集結していた。

 

「では軍議を始める」

 

 長慶の言葉に皆が頭を下げ軍議が開始される。

 

「今の懸念すべき事項は近江に逃げた細川晴元と元将軍の義晴・義輝親子です」

 

 長逸はそう主張する。

 

「何れ、六角等の力を借りて京へ進出するのは目に見えています。ならば、今のうちに……」

「然れど私は将軍家に逆らうつもりはないのだがな……」

「晴元の手元にいますからねぇ……」

「ならばいっその事、両者とも討ってみては?」

『………』

 

 久秀から放たれた言葉に長慶達は押し黙る。手っ取り早くの方法としてはそれが無難ではあろう。しかし、将和はそれを否定した。

 

「いや、将軍家も討てばかつての義教を討った赤松が如くの運命になり変わるだろう」

 

 かつて、万人恐怖をしていた六代将軍足利義教は嘉吉の乱にて赤松満祐に暗殺されていた。その再来を将和は警戒した。

 

「この件に関しては俺がやる」

「兄様が……?」

「……策はある」

「……分かりました、兄様に任せます」

「うむ」

「では次に諸国の状況だが、この資料を見てくれ」

 

 将和は纏めた資料を人数分を書き写しており、それを皆に配る。

 

「これは現時点での状況だが刻一刻と変わる可能性がある事を考慮してくれ」

「……よく出来ておりますわね」

 

 資料を見た久秀は感心するように頷く。

 

「まずは四国からだが……特に心配は無いな、伊予と土佐も上手く統治はしている」

「河野と長宗我部は上手くやっているな……」

「次に中国地方、瀬戸内側はまだ大内が支配しているが毛利も徐々に頭角を現している」

「大内が伊予に侵攻する事は?」

「十分にある……が最近、大内義隆と家臣団の中で不和が出始めている」

「不和が……?」

「あぁ、義隆の貴族保護が原因と見ている(大寧寺の変になりそうだな……)」

 

 そう思う将和である。

 

「それと中国地方でも山陰方面は……まぁ尼子が台頭しているな。他は丹後の一色くらいか……」

「次」

「東海道方面は……尾張で織田信長とやらが尾張を統一したくらいか。美濃では斉藤道三と斉藤義龍が争っているし駿河の今川が怪しい動きをしている」

「……今川が上洛すると?」

「断定は出来んがな。まぁ警戒は必要だろうな」

「うむ、次」

「九州はまだ大友強しだ。だが南から島津が押し上げてきている」

「以前言っていた島津支援ですか?」

「あぁ。大友の力を削げば伊予の影響を減少させるだろうな」

「分かりました、島津支援の方向にしましょう」

「そして最後に……畿内だ」

 

 将和の言葉に長慶らは空気を一変させた。

 

「紀伊、摂津、河内は特に問題無しだ。摂津も本願寺とは上手く協調している」

「ですが奴等がいつ掌を返すか分かりません」

 

 長逸の主張に長慶も僅かながら頷いた。

 

「まぁ警戒は必要だろう。だが此方から仕掛けるのは下策だ、向こうからは存分に叩いても構わんけどな」

「まぁ無闇に敵を増やすのはお薦めしませんわね」

「となると今まで通りの現状維持……ってか?」

「いや、俺はそれには反対だ」

 

 一存の言葉に将和は首を横に振り将和は長慶に視線を向けた。

 

「孫次郎、いつかの返答……聞かせてはくれんか?」

『………』

 

 返答? という一存らの首を傾げる行動を尻目に長慶は真っ直ぐに将和を見つめながらも口を開かないでいた。

 

「……孫次郎、まだ迷っているか?」

「……済まない兄様。私は父の仇を討つという目標のために細川晴元と戦ってきた。晴元を追いやり、目標が無くなって私はどうしたらいいのか分からなくなってきた……」

 

 ポツリポツリと語る長慶には三好家という重い重圧があった。

 

「あら、なら天下という目標を作れば良いではありませんか」

「久秀!?」

 

 久秀はクスクスと笑い、政康に咎められると扇子で口元を隠す。

 

「失礼ながら長慶様、今や三好家は一番天下への道に近い武家でございます。それを易々と他の大名に取られるか……それとも細川に返しますか?」

『………』

 

 久秀の『細川』の言葉に長逸達は表情を変える。細川に天下を返すなら我々三好家がやる方がマシだという表情を皆がしていた。

 

「………」

「孫次郎、俺達はお前の下した決断を尊重する。だが横着するのはやめてくれ」

「……それだと道は一つしかないじゃないか兄様」

「ククク、かもしれんな……」

 

 長慶は将和と笑いつつ長逸達の表情を見る。長逸達も頷いた。それを見た長慶はゆっくりと息を吐いて顔を上げた。その表情は

 

「……目指そう……天下を……」

 

 決断した長慶はそう皆に告げる。

 

「此処まで来たんだ……ならば最後までやろう。皆、私についてきてくれ」

『オオォォォ!!』

 

 頭を下げる長慶に政康らは拳を上げるのである。

 

「それでさしあたって……どこを攻め取るので?」

 

 少々落ち着いたところで久秀は長慶に問う。

 

「む……」

「これを見てくれ」

 

 返答に困っていた長慶に助け船を出したのは将和だった。将和は畿内の地図を広げて皆に見せる。

 

「我等は今、摂津の芥川山城にいる事は承知しているな?」

 

 将和の言葉に皆が頷く。

 

「三好が畿内で保有しているのは河内、摂津、和泉だ。特に淀川を抑えているから京へ赴く時は早かろうがそれがちと問題だ」

「……成る程」

 

 前々から話を聞かされていた久秀は改めて将和の案に納得した。

 

「どういう事だ兄貴?」

「もしだ、もし三好家の主力が京に滞在中に帰り道を叩かれたらどうする?」

「……あー、それは不味いな……」

 

 軍事上で例えたら一存も納得したようである。

 

「そこでだ……大和を取る」

「大和か……しかし大和は寺が多いが大丈夫なのか?」

「心配するな、山科殿経由で朝廷から許可を取り次いでいる」

「……初めから仕組んでいたのですね?」

「なに、何れ大和は取るつもりだったからな(意外と可愛いな……)」

 

 ジト目の長慶を見つつそう思う将和だった。

 

 

 

 




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第七話

 

 

 軍議を終えた将和は直ぐに軍勢を整えた。

 

「どれくらい集まった?」

「凡そ八千です。大和の久秀からは一万との事です」

「……他の国人を引き寄せたな」

「はっ、十市等の国人が此方に味方しているようです」

「だろうな……ま、奴等も弁えてるというわけか」

「恐らくは……」

「それと興福寺の連中は?」

「手筈通りに」

「……あいつらの口車に乗るのは癪だが……まぁ良いだろう」

 

 なお、将和はこの判断を後悔する事になる。

 

「何ですって? 興福寺の僧兵が?」

「はは、手勢三千を率いて筒井家に御味方致すと……」

「まぁ………それは吉報ですわ。三好将和……松永久秀を討ちたい時に邪魔をするとは……許しませんわ」

 

 この時、筒井順慶は松永久秀を討つために軍勢を整えて郡山城に布陣していた。

 

「三好なんぞ直ぐに蹴散らして松永久秀を討ち果たしてみせますわ」

 

 フフフと笑う順慶だった。

 

「……怪しいやろ」

 

 郡山城で興福寺の僧兵が合流して色めき立つ城内で筒井家の将である島清興(通称の左近が有名。以後は左近)はそう呟いた。

 からくり好きで南蛮の部品を使って製作したカラクリ左近という武器を使う左近であるが戦略、戦術にも精通していた。

 

「僧のハゲどもが救援に来るかいな」

 

 左近は嫌な予感を覚えつつ順慶に具申をした。あまり興福寺を信用するなと。しかし順慶はそれを一蹴した。

 

「元々興福寺は大和の守護を担うような事をしていましたわ。三好なんぞに興福寺が屈するわけありませんわ」

 

 だが順慶の予想は否定されていた。興福寺は既に三好家に頭を下げていたのである。いくら興福寺でも朝廷や畏き所の圧力を受けてツルピカの頭を三好に頭を下げるものだ。しかも二万石あまりの領地を朝廷からお墨付きも効いていた。

 興福寺の僧兵が合流してから二日後、将和軍は郡山城を包囲していた。

 

「……どうなっても知らんで……」

 

 左近はそうぼやきつつ城内を警備する事にした。そして大手門に行くと数人の興福寺の僧兵が門に何かの箱を置くと直ぐに何処かへ行った。

 

「何やあの坊主ども……?」

 

 左近はそう愚痴りつつ箱を見た。箱の傍に火が付いた紐があり、火は徐々に箱の中に入ろうとしていた。

 

「……アカン!?」

 

 『それ』を何か察した左近は直ぐにその場を離れようと今来た道を引き返した。その瞬間、箱が爆発して左近は吹き飛ばされて気絶した。気絶した左近を尻目に大手門の門は破壊されていたのであった。

 

「将和様、合図です!!」

「全軍、掛かれェ!!」

 

 大手門の爆発に好機と判断した将和は全軍に攻撃を開始させた。そして破壊された大手門に一存の部隊が斬り込みをかけた。

 

「うるァァァァァッ!! 一存の槍の味、存分に味わうで御座ろう!!」

 

 一存は馬上から得物の槍を振るいつつ筒井兵を吹き飛ばしていく。また、忍びの和夏も火薬箱を使って他の城門を爆破させていた。

 

 

 

「風間殿、南門等を爆破させてきたで御座る」

「よし、なら他の部隊の援護に回ろう。死者は一人でも少なくしないとね」

「御意」

 

 忍びは再び闇に潜む。一方で筒井順慶は城門爆破に焦っていた。

 

「三好家め……城門を爆破するとはやりますわね。急いで防戦するのです!!」

 

 筒井兵達は信広軍に負けじと応戦するが、味方だった筈の興福寺の僧兵が突如、筒井軍に攻撃を仕掛けて来たのである。

 

「た、大変です順慶様!? 興福寺の僧兵どもが裏切りました!!」

「何ですって!?」

 

 家臣からの報告に順慶は驚愕していた。

 

「おのれ興福寺!! 直ぐに対処しなさい!!」

「はは!!」

 

 しかし、僧兵は前もって郡山城に入城していた事もあり何処の場所にでも僧兵が点在していた。そのため僧兵に二の丸が占拠される事態も起き、遂に僧兵は本丸と天守台を占拠してしまう。

 

「この裏切り者!!」

 

 縄で捕らわれた順慶は僧兵達を睨み付けるが僧兵達は知らぬ顔である。僧兵達は此処で直ぐに順慶を将和に渡せば良かった。そうすれば彼等も死ななかったであろう。

 

「五月蝿いなこの女」

「まぁ落ち着け。それにこの女、中々の持ち主じゃないか」

 

 僧兵達は順慶の身体を見つめる。その身体は一般の女性より豊かな物であった。

 

「まぁ……ちょっとばかりな」

「あぁ、頂いても構わんだろう」

 

 僧兵達の視線に順慶は背筋が凍った。

 

「な、何ですの……」

 

 順慶は思わず後退りをするが僧兵の手が順慶の服を破いた。その破いた衝撃で順慶の豊満な胸が見え僧兵達の性欲を増長させる。

 

「キャアァァァァァ!?」

「暫くは楽しませてもらおうか」

「イヤ……イヤァァァァァ!!」

 

 順慶に僧兵達が群がり、その悲鳴は虚しく天守に響き渡るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

『………』

 

 

 

 三好の陣営は異様な雰囲気に包まれていた。将和の御前には順慶と気絶していたのを捕縛した左近の二人がいた。しかし、順慶の様子はおかしかった。

 

「(明らかにレイプ目じゃねぇか……)長逸、直ぐに風呂を用意して筒井殿を綺麗に差し上げろ」

「御意」

 

 将和の意を受けた長逸は順慶を連れて下がる。そして将和は左近に頭を下げた。

 

「島殿、此度の事は申し訳なかった。いや、もうそれしか言えん……」

「……いや戦で破れたらああなる事もあるとウチは認識してたわ」

「いやそれでもだ島殿。此度は申し訳なかった。彼女に取り返しの付かない事をした」

 

 そして将和は左近に土下座までした。土下座までした将和に流石の左近も目を見開いたのである。

 

「……あんた三好の大将やろ? そんな易々と土下座までしてええんか?」

 

「構わん、長慶が天下を取るためなら俺は土下座までしてやるよ」

 

 将和の態度に左近は好奇心を覚えた。

 

「……さよか。そんならええよ」

 

  左近は好奇心を覚えつつ一旦はその場を後にするのであった。そしてそれを見ていた久秀はクスクスと面白そうに笑っていた。

 

「軽蔑したか久秀?」

「いいえ、改めて貴方は面白い人物だと認識したわ。それで順慶に乱暴した僧兵はどうするのかしら?」

「……無論、生まれて来た事を後悔させるまでよ」

 

 久秀の言葉に将和は殺気を周囲に出しつつそう言う。久秀は将和の殺気を浴びても気持ち良さそうにしていた……というのは建前である。通常の殺気なら久秀も軽くいなすだけだったが将和の殺気はそれを遥かに上回るものであったからだ。

 

「(かなり……怒っているわね)外道にまで堕ちない事を祈るわ」

「そこまでするかよ」

 

 久秀の言葉に苦笑する将和だった。そして順慶を強姦した僧兵達は縄に縛られながら将和の前に引き摺り出された。

 

 

 

「……四の五は言わん、全員の首を刎ねろ!! 地獄に落ちろ糞野郎ども!!」

 

 太刀を抜いた将和はそう言って一人の僧兵の首を刎ねた。それを合図に足軽達が僧兵の首を刎ねたのである。

 

「刎ねた僧兵の鼻を削いで興福寺に送ってやれ。約束を破った貴様らの次がこうなるとな」

 

 削いだ鼻は直ぐに興福寺に送られ、翌日には興福寺から別当自らが慌てて謝罪に来た。

 

「も、申し訳有りませぬ!! 我等が三好に逆らうのは本意には有らず!!」

「……先の郡山城の攻略を支援してくれたのは確かだ。それに順慶に乱暴した者は既に我等が首を刎ねた。……それで水に流そう、なぁ別当……?」

「あ、ありがとうございます!!」

「だがな別当……次にいらぬ事をしてみろ……興福寺という物が大和国から無くなるからな? それを覚えておくのだ」

「は、はは!!」

 

 これ以後、興福寺が三好に逆らう事はなかった。後に発生する一向一揆では大和国の一揆を直ぐに押さえて大和の安全を図るまでする事になる。

 それは兎も角、一先ずの戦を終えた将和は具足を外してとある部屋に赴いた。その部屋は筒井順慶がいた。

 

「……気分はどうだろうか? いや、やはり優れんか」

「いえ……左近から事の顛末を聞きました。ありがとうございました」

 

 順慶はそう言って将和に頭を下げる。

 

「いや俺は何もしていない」

「そんな事ありませんわ。わたくしのためにして下さったのです。感謝しますわ」

「いや俺は……」

「いえいえ……」

 

 そんな会話が数回繰り返すと不意に二人で笑い出した。

 

「おかしいですわね」

「そうだな」

「……将和殿、いえ将和様、筒井家は三好家に降伏します」

「……あい分かった」

 

 順慶が正座して信広将和に頭を下げ、将和はそれに頷いたのであった。

 

「何か望みはあるか筒井?」

「わたくしは陪臣で構いませんが、左近は直臣にして下さい。彼女は貴方の策をある程度読んでいましたわ」

「(やはりか……流石は島左近か)そうであるか。俺もまだまだよの」

「必要ならわたくしからも一筆書きましょう。左近はわたくしのような者より将和様のような壮大な方に付くべきですわ」

「クク、褒めても何も出んぞ」

 

 そして二人は暫く談笑するのであった。

 

「どうだろうか? 俺の直臣にならないか?」

 

 将和は順慶と談笑した後、左近の部屋に訪れていた。来訪の用件は直臣への誘いである。

 

「………」

 

 しかし左近は正座したまま黙っていた。将和はあれこれ言ってみるが左近は反応を示さない。

 

「(やっぱ引き抜きは無理か……)分かった。そなたに感状を出すので好きにしたらいい」

 

 将和は左近に頭を下げて部屋を出ようとする。

 

「……三好殿」

「ん?」

「貴殿は天下を取れる御方やと思う。何故に長慶に託そうとするんや?」

「……あいつは人付き合いが苦手な奴だ。直ぐに仲良くしようと妥協になるけどな、それでも根は優しい奴なんだ。だから俺が裏から支えてやるんだよ。あいつのためなら俺は土下座もしてやるし虐殺もしてやる」

 

 将和は照れくさそうにそう言った。その仕草に左近はアッハッハッハと笑い出した。

 

「ヒー、ヒー……やっぱ面白いなあんた」

「そんなに面白いか?」

「あぁ、面白いわ……よっしゃ、あんたの家臣になったるわ」

「おいおい……どういう風の吹き回しだ?」

「まぁええやん。俸禄はこれくらい頂戴や」

「……多くないか?」

 

 左近が示した額は他より多かった。

 

「カラクリ左近の維持費や購入費も含めてや」

「……まぁ良いか」

 

 そして島左近及び筒井順慶は三好家に臣従するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

~~~おまケーネ~~~

 

 

 

「あら筒井順慶じゃないの。生きてたの?」

 

「あーら松永久秀じゃないですの。相変わらず貧相な身体ですわね」

 

「……なまくさ坊主どもに襲われたくせに」

 

「貧相な身体で言わないで下さるかしら?」

 

「……何だかんだで仲が良いな」

 

 

 

 二人のやり取りにそう思う将和だった。

 

 

 

 

 

 




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第八話

 

 

 

 

「んー、少しは休憩するかな」

 

 湯築城で午後の政務に取り掛かっていた河野通直は一息入れるため足を崩す。

 

「……数年前までは伊予全てに掛かりきりじゃなかったなぁ」

 

 通直は三好家から支援の手が差し伸べられるまでは村上通康と伊予中を逃げ回ったりしていた。

 

「ほんと今じゃ考えられないわね……それにしても……」

 

 通直はまだ机に置かれた大量の書物を見て溜め息を吐いた。まだまだ終わりそうにないのは明白である。溜め息を吐いた通直は再度机の置物と向き合うのであった。

 

 

 

 

 

「いや、この種子島は今までの種子島より強力やで将和はん……」

 

 飯盛山城で左近は新しく完成した改良型種子島を見つつ深い溜め息を吐いた。

 

「まぁ……うん(色々やりまくったからなぁ……)」

 

 左近からの報告に将和は苦笑いしつつそう言いながら左近から改良型種子島を受け取る。銃口を覗くと数本の溝が刻まれていた。

 

「施条は何本だ?」

「将和はんが手に持ってるのは特別の五本や。量産型は三本にしとるで」

「射程距離は?」

「量産型のはドングリ型の弾丸を使用して約165間や。将和はんのは300間やな」

「(まぁ、戦国の技術でそこまで伸びるのは御の字か)分かった、御苦労だったな」

「まぁ楽しい改良やったけどな」

 

 左近はニヒっと笑うのであった。左近が出た後、将和は改めて改良に掛かった費用を精算する。

 

「……量産型だと種子島8丁分で特別型だと……17丁分か……」

 

 将和はその額に頭を抱える。

 

「出来れば特別型のを量産したいが……今の段階では細々とした生産になるか……」

 

 将和は溜め息を吐きながら改良型種子島の報告書の作成に取り掛かるのである。なお、報告書を見た長慶も直ぐに量産型の生産を指示するのである。

 そんな中、和夏を通して将和はある情報を入手する。

 

「何? 細川晴元が此方に接触しようとしているだと?」

「あぁ、厄介な事にね」

「理由は?」

「近江の坂本で将軍義晴の娘が元服した上将軍職を譲ってもらったそうだ」

「……まさか烏帽子親を六角定頼がしたからか?」

「その線が濃厚だね」

「……アホか……と言いたいが細川家という面子か。鬱陶しいものだな」

「それでどうする?」

「フン、細川とは関わりたくないからな。一筆書いてやろう」

「ほほぅ」

 

 なお、晴元の元に届けられた書状には『馬鹿メ』の一言しか書かれておらず晴元は怒髪衝天の如く怒り狂ったが手元に味方が少ないので何かをするわけにはいかなかったのである。だが動いた者がいた。

 

「何? 義晴が慈照寺の裏山に城を築いていると?」

「はい~、少々厄介かと……」

 

 友通が将和に頭を下げながら報告をする。

 

(……晴元が同調するかもしれんな……)

 

 足利と細川が手を組んでも兵力は其ほど無さそうではあるが権威があるため少々厄介ではある。

 

「密かに兵を集める。場合によっては場合がある」

「分かりました~。即時に動けるよう三千の手勢を集めておきますね~」

「頼む」

 

 友通が下がる。暫くして京で動きがあった。

 

「何? 義晴が死んだ?」

「はい~、ですが城の築城は続いています~」

「誰の命令かは分かるか?」

「義輝殿のようですね~」

「……成る程な」

「どうされますか~? 長慶様に言いますか~?」

「それしかないな……」

 

 将和は直ちに芥川山城へ赴き長慶の裁可を頂いた。

 

「将兄、近江の方にも兵を出してはどうだろうか?」

「……妙案だな。それは俺がやってみよう」

 

 斯くして三好軍ーー将和は動いた。義輝が築城した中尾城へは指揮官の長慶を筆頭に一存、長逸等一万二千が出陣。更に近江方面への揺さぶりとして将和を主将とし政康等九千が出陣したのである。

 京へ上洛した事で中尾城の幕府軍も応戦して市街戦となるが小規模な戦闘であり直ぐに終結した。以後、約10日間は大山崎と中尾城でにらみ合いが続くが将和の軍勢が大津・松本周辺を放火した事で事態が動いた。

 

「報告だよ」

「ん」

「中尾城の義輝が逃げ出した。中尾城は放火して炎上、義輝の軍勢は坂本方面に逃走中だね」

 

 和夏が報告する。

 

「追い付けそうか?」

「今からだと無理ですね」

「チッ、やむを得んか……」

 

 将和は追跡を断念して長慶と合流するのである。義輝が堅田方面に逃走した事で京の治安は維持する事が出来たが今度は長慶の安全が必要となった。それは長慶の暗殺未遂が発生するからである。

 

「長慶は無事か!?」

 

 報告を受けた将和が慌てて芥川山城へ来るが長慶は平然としていた。

 

「将兄、私は無事だ。相手が挙動不審だったからな、直ぐに取り押さえた」

「そうか……長慶の護衛が必要だな」

「私は大丈夫だ将兄」

「安全が確認されるまでは無理だな」

「……好きにしろ(やった、将兄と一緒だ♪)」

 

 将和は飯盛山城の城代を友通に任せつつ暫くは芥川山城で生活をするのである。

 

「あ、将和様」

「おぅ政康、今から鍛練か?」

「はい。将和様もおやりになりますか?」

「そうだな……久しぶりに俺も身体を動かそう」

 

 てなわけで将和は政康と共に三刻程鍛練をするのである。

 

「く……久しぶりに思いっきり動かすのは……」

 

 将和は汗をかきながらも深呼吸をして息を整える。

 

「はぁ……はぁ……将和様もやりますね」

 

 政康も大きい胸を上下に揺らしつつ息を整えながらそう喋る。

 

「まぁ……練習する相手がいたからな(満面な笑みをしながら薙刀で攻撃してくるからなぁ……)」

 

 かつての妻との鍛練を思い出す将和であった。その後、自室に戻る途中で廊下を歩いていると前から大量の書物を抱えた長逸がいた。

 

「どうした長逸? そんなに持って」

「あ、これは将和様。いえ、領地経営で気になる点があったので……」

「ふむ、なら俺も見よう」

 

 将和は長逸の部屋に赴き、政の指導をもした。

 

(やっといて良かったのかなとは思うな……)

 

 当時は嫌々ながらしていたのを思いだしながら将和は染々と思うのであった。

 その日の夜、夜半とも子の刻とも言える時間帯に何やら城の廊下を歩く者が数人いた。数人は目的の場所とも思わしき部屋の襖をスッと開けて素早く襖を閉める。

 

「来たか」

 

 部屋の主は三好長慶であり、入ってきたのは三好政康と長逸だった。部屋には長慶の他にも島左近に筒井順慶は久秀等もいた。

 

「……ではこれより将兄の監視報告をする」

 

 キリッと真面目な表情をしながら長慶が音頭を取る。

 

「相変わらずの女を囲んではおりません」

「小姓の男も同様です」

「ふむ……」

(……毎回これなのかしら……)

 

 コッソリと久秀は溜め息を吐いた。この集まりは所謂将和を気に掛ける者達で開かれた会合である。

 

「あの……将和殿が囲んでいなくて何か気になる点でも?」

 

 渋々と発言をする久秀だが長逸や政康達は何を言ってるんだお前はの表情をする。

 

「将和殿の好みが分からないではないですか久秀」

「そうよ、てっきり男色と思っていたらそうでもないし……だと言って女子も囲ってないのよ」

「いや将和殿の様子を見たら分かるでしょう……」

「あら、じゃあ例えば?」

「………(何で私がこんな事をしてるのかしら……)」

 

 政康の問いに久秀はイライラしつつも口を開く。

 

「先日の政康殿の鍛練、将和殿も参加されましたね? その時に将和殿は汗で着物が濡れている政康殿のその豊満な胸を大層見ておられましたよ」

「~~~」

 

 久秀に指摘された政康は慌てて腕で胸を隠すようにする。

 

「それと長逸殿に将和殿が政の指導をされておりましたね? 将和殿、長逸殿の髪をまじまじと見ておられましたよ」

 

 久秀の指摘に長逸は顔を紅く染める。他にも次々と指摘をする久秀だが長慶が不意にクスリと笑った。

 

「久秀もなんだかんだと言いつつと見ているではないか」

「……そんなわけないですわ(いや確かに見ていますがそれは将和殿がそのようなところでしているからであって……あぁ、でもそう言われたら自然と目を追って……いやいやそんな筈ないわ。ムカムカする、後で長頼を苛めよう、そうしよう)」

 

 一瞬の間を置いて否定した久秀だったが内心は慌ていたようだった。なお、弟長頼への苛めは確定の模様である(哀れ)

 

 

 

 




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第九話

 

 

 

 

 

 

「恨みを晴らすぞ!!」

 

 それは突然だった。

 

 

 

「危ない長慶!?」

「うォ!?」

 

 将和は長慶の喉元に向かおうとしていた短刀を 見て咄嗟に相手ーー将軍近臣の進士賢光に茶の容器を投げた。

 容器を投げられた賢光は顔に容器が命中して怯んだ。その隙に将和は賢光の右手に握られた短刀を叩き落とし賢光の右手を取り一本背負いをして賢光を床に叩きつけたのである。

 

「取り抑えるのよ!!」

 

 我に返った政康が近習に捕縛を命じたが賢光は隠していたもう一本の短刀で即座に自身の喉を突いた。

 

「チィ!!」

 

 辺りが血飛沫が飛び、賢光は血の海に倒れ込むのであった。

 

「和夏、直ぐに裏を探れ」

「承知した」

 

 天井に控えていた和夏が即座に消える。将和は事切れた賢光をジッと見つめる長慶に視線を向けた。

 

「怪我はないか長慶?」

「あぁ……なぁ兄様」

「ん?」

「私は……恨まれているのかな?」

 

 長慶がふと呟いた。

 

「まぁ……幕府側からしてみたら恨まれる要素は多量にあるだろうな」

「……向こうとの和平は無理だろうか?」

「………」

 

 長慶の言葉に将和はふぅと息を吐いて頭をポリポリとかいた。

 

「まぁ出来たとしても一時的なもんだろうな。何れは亀裂が入り川の洪水の如く全てが水の泡となるだろうな……」

「そうか……」

 

 長慶はそれから何も言わなかったのであった。そして数日後……。

 

 

 

 

 

 

 

(はて……俺は一存と一緒に男湯にいたはずなんだが……)

 

 将和は目の前の光景に首を傾げるしかない。何故なら目の前には白の手拭いで身体の前を隠しながら湯に浸かる異性が数人いた。

 それが政康、長逸、久秀、和夏、そして長慶である。

 

「い、いい湯だな兄様」

「ソウデスネー(何がどうしてこうなったのやら……)」

 

 長慶の言葉に将和は片言で答えつつも数日前の記憶を甦らせるのであった。

 

 

 

 

 

 

「たまには温泉に行こう将兄」

「お、いいな」

 

 発端は一存との会話であった。暗殺未遂後は今のところ、義輝らが再度京へ進出する気配もなく京に近い淀の地域に築いた淀城には岩成友通が兵4500と共に入城して睨みを効かせていた。そのためか義輝は高島の朽木から動こうとはしなかった。

 一存としては一番働いていた将和の骨休みと長慶の気分転換いう意味で温泉行きを提案したのである。

 長慶達も了承して将和・長慶・政康・長逸・久秀・一存と他護衛(和夏)の面々で摂津国にある有馬温泉に来たのである。

 当初は晩飯を食らい酒も少々入れつつも将和は一存と月見酒と洒落こもうとしていた。だが蓋を開けて将和が酒を飲みながら待っていたら入ってきたのが一存を除いた五人だった。

 

「……一存はどうした?」

「一存殿は体調が優れないという事なので代わりに我々が来た……という次第です」

 

 湯煙に片眼鏡が曇る長逸がそう言う。なおその一存はというと……。

 

「私ぃ、一存様の槍働きに感動しましてぇ……」

「私も戦場で見る一存様のかっこよさに……」

「おっ、おっ、そ、そうか。それは嬉しいなァ!!」

 

 女兵士(和夏の仕込み)達に囲まれて幸せそうな一存だった。それはさておき、将和達は湯に浸かりながらの月見酒と洒落こんでいた。

 

「温泉で飲む酒もまた格別ね」

(悪酔いしそうな勢いだな……)

 

 政康が盃に酒を入れながらグビグビ飲んでいるのを横目に将和はそう思う。

 

「飲んでいるか兄様?」

「あ、あぁ。飲んでいるよ」

 

 若干の上目遣いをする長慶に将和は長慶の谷間を見ないように目線をずらしながら答える。

 なお、政康(特)・長慶(巨)・和夏(巨)・長逸(中)・久秀(小)である。

 

「………」

 

 将和の目線の意味に気付いた久秀は将和を養豚場の豚を見るが如くの視線を送るが自分の物を触ってみて人知れず溜め息を吐いたが直ぐに被りを振った。

 

(い、いやいやいや!? 何で溜め息をついたのよ私!! まるで将和殿と……いやいやいや!?)

 

 また唸る久秀であった。なお、月見酒は飲み過ぎた政康が泥酔して運ばれるまで続かれる。ちなみに将和は前世で酒を飲む回数もあったせいか(公式上の婦人が熊の国でアルコールに強かったせいもある)微酔いではある。

 

「兄様、いるか?」

 

 泥酔した政康(将和がおんぶすると嬉しそうな表情だった)を部屋に送った将和が一息していると長慶が入ってきた。

 

「どうした長慶?」

「……二人で飲まないか?」

 

 長慶が二人分の屠蘇器を将和に見せる。

 

「(まぁ色々と邪魔はあったが……)構わんよ」

 

 将和は長慶を部屋に招き入れて改めて二人で盃を交わす。

 

「兄様……私は腹を括った」

「……先日の暗殺未遂か……?」

「……あぁ……」

 

 将和の言葉に長慶は力強く頷いた。

 

「足利の幕府はかつての鎌倉と同じような結末を迎えようとしている。それなら……」

「もう一回壊してそれらを教訓にした三好幕府の設立……そう言いたいんだな?」

「……そうだ兄様」

 

 長慶の表情は覚悟を決めた表情をしていた。

 

「今は戦国の乱世……今回の事件を機に私は天下を取る事にする。だから兄様、私に力を勇気を貸してくれ」

「………」

 

 長慶の言葉に将和はフッと微笑み、長慶の頭を撫でる。

 

「おうよ、可愛い妹分からそう言われちゃやるしかないな」

「か、可愛い……」

 

 将和の『可愛い』という言葉に顔を紅く染める長慶である。

 

「そ、それでな兄様……」

「ん?」

 

 急にモジモジとする長慶に将和は首を傾げる。

 

「どうした?」

「わ……私に勇気をくれないか?」

「? あぁ、俺に出来る事なら……」

「じゃ、じゃあ……」

 

 それからの長慶の行動は速かった。即座に将和の両肩に両手をガッシリと掴み将和に唇を近づけてきた。

 

(あ(察し)……)

 

 長慶の行動に察した将和は一瞬、逃げようとしたが唇を突き出し、目を閉じて震えている長慶に将和はフゥと息を吐いて自身も目を閉じて長慶の唇に合わせた。

 

「ん……」

(めっさ可愛いなおい……)

 

 キスをされた事にピクリと震える長慶。その様子に萌えた将和は意地悪の如く、舌を出して長慶の口を無理矢理開かせた。

 

「んゥ!?」

 

 いきなりの出来事に長慶は目を見開いて頭を引こうとするがそうは問屋が下ろさないとばかりに将和は長慶の頭を抑えて遁走しないようガッチリと固定した。

 

「んむゥ!? んん~~~~~!?」

 

 侵入して長慶の舌と交わる将和の舌に長慶は目を白黒させる。結果、長慶の口内は蹂躙され時間としては約10分程度ではあったものの将和が長慶を解放した時には長慶は顔をそれまで以上に顔を赤く染めて気絶していたのであった。

 

 

 

 

 

「……こりゃやり過ぎたかな」

 

 ポリポリと頭をかく将和に誰もがそりゃそうだとツッコミが入りそうな程であった。

 

 

 

 

 




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第十話

 

 

 

「大内義隆が陶隆房に討たれたか」

「うん、逃亡先の寺で自害したそうだよ」

 

 飯盛山城で将和は和夏からの報告を読んでいた。

 

(義隆は女武将と聞いていたが……死ぬ事実は男同様か。なら他の女武将も……)

 

 何がとは思わない事にする将和である。

 

(それに三好側に協力していた遊佐氏も暗殺されている……ちと嵐が来るかもしれんなぁ……)

 

 そう思う将和だった。そして将和の予想通りに事態が動き出す。

 

「丹波の波多野が細川と協力関係に?」

「あぁ、それに合わせて晴元も丹波入りをしたそうだ」

 

 和夏からの報告に将和は舌打ちする。

 

(確か史実だと長慶が丹波八上城を包囲したら芥川孫十郎が裏切って波多野に味方してたな……だが孫十郎は既に政康に討たれているし後方の心配は無い……か)

 

 将和はそう思い即決する。

 

「長慶のところに赴く」

 

 将和は直ぐに芥川山城に出向き長慶と面会をする。

 

「兄様、細川と波多野の件は既に此方も聞いている」

「なら話は早い。俺としては出ようと思うが……どうだ?」

「うむ、私としても異論はない。此処で細川の息の根を止めねばならない」

 

 話は決まった。直ちに長逸達を軍儀に呼び出して丹波攻略が決定された。

 

「四国からも兵を出してもらう。勿論、余力を残してな」

 

 四国からは篠原長政が9000の兵を率いて出陣し更に長慶と将和、久秀が5000、政康・長逸・友通がそれぞれ4000ずつの計36000が丹波攻略に赴いたのであった。だが将和は六角の動きを警戒し友通と久秀が京に残って警戒する事となる。

 

「さて、三好家での初陣だが頼むぞ二人とも」

「はい、お任せください」

「はいな、カラクリ左近があれば鎧袖一触やで!!」

 

 順慶と左近も将和の配下としてそれぞれ1500の兵を率いていた。斯くして三好軍は丹波ーー亀山方面から侵入すると亀山に丹波攻略の城である亀山城を築いた。

 

「この城を丹波攻略の拠点とする」

 

 長慶は将和達に告げる。

 

「一当てしてみるか?」

「まずは敵の戦力を知りたい。それに破壊工作をして向こうが出てきたら野戦に持ち込みたい」

「……和夏達を出すか。行けるか?」

「勿論だ。任されたよ」

 

 控えていた和夏がシュパッと消える。

 

「それと長慶、軍をーーー」

「成る程、それは厄介だな。兄様のに従おう」

 

 その日の夜半、和夏達の忍び隊は波多野家の居城である八上城へ侵入した。

 

「隊長」

「首尾は?」

 

 一人の忍びが和夏の前に現れる。

 

「波多野は凡そ7000。細川は凡そ6000かと思われます」

「二人の寝床を襲えるか?」

「それは難しいかと。小姓が大勢見張りをしており襲えるものではありません」

「ふむ……よし、なら食糧庫を燃やす」

「はっ」

 

 斯くして和夏達は八上城の食糧庫を放火して離脱した。一方で食糧庫を燃やされた波多野晴通は怒り狂っていた。

 

「おのれ三好長慶めェ!! 正々堂々と城攻めをすればよいもののを……」

「ですが殿、これは向こうが野戦に引きずりこもうとする寸法でしょう。しかし、我々には丹波の赤鬼が味方しておりまする」

「お、おぉ。そうだったな」

 

 波多野は三好家が丹波に侵攻すると国人である赤井直正に救援を依頼、赤井直正もこれを承諾して八上城に向かっていたのである。

 

「晴元殿、直正が来るまでに籠城し直正が来たら一気に城を駆け降りて三好軍を殲滅しましょうぞ」

「おぅおぅ。それは良い案じゃな」

 

 二人はそう言って笑いあうが、救援に赴いた赤井直正は予想外な事に出くわしていた。

 

「駄目です直正様。突破出来そうにありません!!」

「くっ、救援を読まれていたか……」

 

 赤井軍5000は居城の黒井城から進軍を開始するも丁度黒井城と八上城の中間まで来た辺りで陣を張っていた三好軍ーー将和と十河一存の軍勢と対陣、八上城救援をしたい赤井直正が強引に突破しようとしたが将和は左右側面に種子島隊を配備したりと赤井軍の出鼻を挫いたりした。

 そこへ満を持して一存の軍勢が突撃したので赤井軍の軍勢は軒並み崩れて敗走したのである。

 

「このままでは済まさんぞ三好!!」

 

 直正は捨て台詞を吐きながら黒井城へ撤退するのである。赤井軍敗走の報を偶然(伝令を和夏達がわざと見逃した)聞き付けた波多野晴通と細川晴元は大いに狼狽した。

 まさか丹波の赤鬼が負けるとは思わなかったのだ。

 

「いかん、このまま三好の包囲が長引けば我々は飢死してしまう」

「では戦を……?」

「馬鹿な、直正でさえ三好の軍勢に破れたのだぞ!!」

「……降伏しますか?」

「それこそ論外じゃ!!」

 

 延々と進まぬ議論に三好家は躊躇しない。将和らが直正の軍勢を破る二日後には八上城攻めを開始した。

 

「いてまえカラクリ左近!!」

 

 島左近のカラクリ左近が大手門を破壊しようと丸太を使って門を抉じ開けようとしそれを波多野家の兵達が抉じ開けまいと中から抵抗する。しかし、和夏達忍び隊が一人、また一人と影から仕留めていきやがては大手門は破壊され破壊した大手門から三好の軍勢が突撃するのである。

 

「い、如何なさる晴通!?」

 

 大手門の破壊に狼狽する晴元、戦況を見ていた晴通は一つの賭けに出た。

 

「晴元殿、どうやら攻め手の一ヶ所は手薄なようです。そこに兵力を集中して突破しそのまま黒井城に逃げましょう」

「おぉ。それが良い!!」

 

 晴通も腐っても一大名でありその戦況を見抜いた。晴通も直ぐに兵力を集中して手薄なところを突破、城を駆け降りたところまでは良かった。

 だがそれも三好軍は読んでいた。

 

「し、しまった!?」

 

 慌てる晴通と晴元に遭遇という名の待ち伏せをしていた将和と一存は笑っていた。

 

「そう、全包囲から攻撃を仕掛ければ八上城の全将兵は死力を尽くして我々の被害も大きくなる。だが一ヶ所を手薄にすれば?」

「逃げやすくなるってわけだな将兄」

「そういう事だ一存。そして伏兵を伏せておくってな」

 

 ニヤリと笑う将和。

 

「さて、俺の授業料は二人の命としようか細川晴元に波多野晴通!! 全軍掛かれェ!!」

『ウワァァァァァァァァァァァァァァァ!!』

 

 将和隊と一存隊の約7000は種子島隊の援護射撃の元、突撃を開始。散り散りになっていた波多野・細川軍に突撃を防ぎ切れる事はなくあっという間に支離滅裂の敗走となる。そしてーー。

 

「いたぞォ!! 波多野晴通だ!!」

「グォ!?」

 

 晴通は追い付いた一存の槍を胸に一突きされ落馬、そのまま首を取られたのである。

 

「細川晴元ォ!!」

「貴様は三好将和!!」

 

 将和は細川晴元と斬り合っていた。

 

「貴様がいなければ!!」

「長慶に手を出そうとするからだ!! 長慶を貴様なんぞに渡してたまるか!!」

「グッ!?」

 

 晴元の槍をかわした将和が右斜め上からの袈裟斬りをして左腕を斬り落とす。その衝撃で晴元は落馬、将和も馬を降りて組み伏せる。

 

「たかが三好家の分際が……!?」

「あの世で義父に詫びて地獄に落ちろォ!!」

 

 将和は短刀を晴元の喉に突き刺し将和は晴元の返り血を顔面に浴びる。

 

「お……の……れぇ……………」

 

 晴元は大量に血を出しながら息絶えたのであった。

 

「………細川晴元を三好将和が討ち取ったァァァァァァ!!」

『ウワァァァァァァァァァァァァァァァ!!』

 

 三好家と細川晴元との争いは一応ながらの決着はついたのであった。

 

 

 

 




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第十一話

思ったより早くに書けたので投稿


 

 

 

「久しぶりです晴元殿」

 

 八上城に入城した三好軍は晴元と晴通の首実験を済ませた。最期の形相をする晴元の首が運ばれてきたのを政康達は「いい気味だわ」と呟いていたが長慶は木の板に置かれた晴元の前まで来ると手を合わせた。

 

「長慶様……」

「……生前の行いは許す事は出来ないが今は死者だ。手厚く葬ろう」

 

 長慶の言葉に将和も近寄り手を合わせたのである。

 

「波多野の一族はどうする?」

「女子供は近くの寺に放り込んで僧と尼にするのが良いだろう。遺恨は少ないしたい」

 

 波多野の一族はそのまま近くの寺に放り込まれる。そして長慶は赤井直正に使者(将和)を立て降伏の書状を渡す事にした。

 

「その武勇を散らすのは惜しい。我が三好家でその力を存分に発揮してほしい」

 

 表面上は直正の武勇を褒め称えての降伏を促していたが裏では少々違っていた。

 

「赤井氏は丹波国では波多野に次ぐ有力な国人だ。その赤井氏が三好家に降伏すれば他の国人も降伏しやすくなるだろう」

 

 丹波の状況を理解しての事だった。一方で降伏の書状を見た直正は驚いていた。

 

「某を丹波の大名にすると……?」

「如何にも」

 

 驚く直正に将和は頷く。両者は先日、敵同士で戦ってはいたが今は将和が使者なので容易くは将和を斬れない。しかも将和は細川晴元を討つ程の猛者である。

 

「しかし某と貴殿は先日まで斬り合っていた敵同士ではあろう?」

「確かにそうである。しかし、我が三好は近隣を手に入れるだけで満足をしておらん」

「……天下を取る……と?」

「如何にも。既に天下を握っていた細川晴元を俺自ら討った」

「その話は聞いている。だが降伏して丹波の大名とは……」

「虫が良すぎると?」

「……正直に言えばそうなる」

「ふむ……確かに疑心暗鬼になるのもそうだろう。だが無理に力で抑えるのも良くない……我々には反面教師という者がいたのでな」

「……成る程、それが晴元ですか」

「さて、何の事やら……」

 

 ニヤリと笑う将和に直正も苦笑する。

 

「成る程。それに某を討って丹波を攻略しても国人の抵抗はあるでしょうな。そして国人でも波多野に次ぐ有力な国人である赤井氏を抑えれば……というわけですか」

「如何にも。それに人的被害が減る要因にもなりましょう」

「成る程。その後の統治をも視野に入れてると……敵わんなぁ」

 

 直正は溜め息を吐くと服装を整えて将和に頭を下げる。

 

「分かりもうした。三好家に降伏致しましょう」

「忝ない」

 

 丹波の赤鬼こと赤井直正が三好家に降伏した事は直ぐに丹波中に広がり、他の国人衆も「赤井が降伏したなら……」と次々に三好家に降伏していき三好家の丹波攻略は二月で完了したのである。

 

「さて……丹波を攻略したわけだが……」

「そのまま丹後でも取りますか? 一色が色々と丹波にちょっかいをかけているのは攻略前から知っていますが……」

 

 将和は居城である飯盛山城の茶室で久秀と茶をしていた。

 

「俺としては播磨と近江の同時侵攻をしたいがな」

「へぇ……紀伊ならいざ知らず、播磨と近江ね……」

「うむ。まぁ他にも同時攻略すべきところはあるがな」

 

 久秀から出された茶を将和は一口飲む。

 

「うん、ホッとする味だ」

「何ですのそれ……それで同時侵攻の理由は教えてくださらないのかしら?」

「今度の軍議の時に言うよ。それに具申する案もあるしな……ま、今は茶を楽しみたい」

「それもそうね」

 

 数日後、芥川山城に将和達が集まり軍議を開催する。

 

「それで今回の議題だが……」

「やはり丹波の治安回復でしょう」

「それに丹波の石高も調べませんと……」

 

 長慶の言葉を合図として長逸達はそう口々に議論する。粗方出尽くしたのか、長慶が将和の方をチラリと見る。

 

「兄様は何かあるか?」

『………』

 

 長慶の言葉に長逸達はピタリと議論を止めて将和の方に視線を向けるが将和はすくっと立ち上がる。

 

「まぁ待て、一先ずは休憩としよう。皆も喉が乾いておるだろう。喉を潤してからでも遅くはない」

「……そうだな。一刻後に軍議を再開しよう」

 

 将和の言葉に長慶は苦笑して場を解散させる。そして一刻後、改めて軍議が始まる。

 

「さて、喉も潤った事だし俺から具申しよう」

 

 将和は側にいた小姓に紙を配るように言い、小姓達も紙を長慶達に配る。

 

「まずは最初から説明しよう。我が三好家は現在、他国を攻略する時は農民が主体となって軍を成しているので田植えや稲刈りの時期は除いた戦いとなっているな?」

「確かに」

「俺としては一年中、戦える事を想定したい」

「一年中……でも農民兵ですよ」

 

 将和の言葉に長逸は反論する。農民兵だと二つのシーズンは特にヤバイはずだ、その事を申す長逸だがあっと小さく叫んだ。

 

「もしかして将和様は……」

「そう、三好家で常備兵を持とうという事だ」

『常備兵を!?』

 

 将和の言葉に場はざわめきだす。

 

「し、しかし将和様。常備兵となるとその者達は……」

「うむ、銭で雇う必要がある」

「銭で雇う……果たして三好家の資金で賄えるか……」

「何も全軍を銭で雇う必要はない。即応に動ける部隊だけでもあればいざという時に動ける」

「成る程……」

「ですがやはり資金が……」

「うむ、そこがやはり問題なんだ。今の三好家が常備兵を持とうとすれば精々2、3000くらいだ」

「まさか堺を……?」

「今はまだ早い」

 

 今はである。将和としては何れ堺を攻める気である。

 

「そこでだ。三好家が独自に常備兵の態勢を整える方法が四通りある」

「……聞こうか兄様」

「まず一つ目、丹後一色を攻めると同時に舞鶴の湊を支配して利益を独占しその余剰分を以て常備兵を整える。しかしこれには時間が掛かる」

「舞鶴という畿内から離れているからか?」

「うむ。そして二つ目、南近江の六角を攻めて大津と草津を奪い取る」

「フフ、確かに大津と草津は商業が賑わっている都市ね」

「その通りだ久秀。そして三つ目、堺を攻略する。ただし堺の会合衆の抵抗は激しいと思う」

「ふむ……それで四つ目は?」

「簡単な事だ……全てを攻略して三好家の財となして常備兵を整える」

 

 ニヤリと笑う将和に長慶は苦笑する。

 

「なんだ、それならいつも通りじゃないか兄様」

「いやなに、これでも選択肢は与えているつもりだよ」

 

 将和はそう言って茶菓子を一口、口に入れる。

 

「ならまずは堺を取ろう。周りが敵だらけでは可哀想だからな」

「なら先ずは矢銭を要求して出方を図ろう」

 

 斯くして三好長慶は堺に対して3万貫の矢銭と服属を要求する。その要求には勿論、会合衆は怒り狂った。

 

「おのれ三好め!! わてらを愚弄する気やな!!」

「こうなったら戦うしかないで!!」

「せや!!」

「町の周りに堀を築いて三好軍を待ち構えるんや!!」

 

 会合衆は浪人等を約6000を銭で雇い長慶に対抗しようとする。しかし、長慶の軍勢は25000で堺を包囲した。しかも和夏達の忍び隊が先の八上城の時同様に食糧庫を放火したりして堺の士気を低下させ戦意を喪失させるのである。

 そのため、主戦派だった会合衆も降伏を決意し包囲から三ヶ月で三好家に降伏し矢銭の支払いも合意した。

 更に久秀の伝手を通じていた今井宗久が務めていた堺の代官職を安堵する事で三好側の傘下に組み込む事に成功するのであった。

 三好家の堺攻略には将軍義輝も難癖をつけようとしたが将和は先に朝廷に寄進して妨害工作を依頼していたので義輝が思った効果は出なかった。そして堺の重要性を知っていた尾張の戦国大名である織田信長は丹羽長秀からの報告に舌打ちをする。

 

「そうか、御苦労だった五郎左。下がってよい」

「ははっ」

 

 長秀が下がり、信長一人の部屋となるが次第に信長は笑い出す。

 

「クク……そうでなくては困るな……倒す相手が高ければ高い程燃えてくる!!」

 

 信長も漸く尾張を統一したばかりだが東の今川義元が京へ上洛しようとする気配を見せていたのだ。そのため、信長も軍備の増強を急がせていたのだ。

 

「私が天下を取る」

 

 ニヤリと笑う信長だった。

 

 

 

 




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第十二話

 

 

 

「何? 陶が毛利に負けたと?」

「うん、暴風雨の中を厳島に奇襲攻撃したそうだよ」

 

 将和は飯盛山城で和夏からの報告を聞いていた。堺を攻略後、矢銭の軍資金を手に入れる事が出来た三好家は常備兵の保有を整えつつ和夏達忍び隊の増強をしていた。

 特に忍びで有名な伊賀から多数の忍びを雇い、場合によっては将和が家臣にしていた。和夏も飯盛山城付近の土地を将和から貰い配下の忍び達に分け与えていたりしている。

 

(歴史通りではあるが年代が大分違うな……あれか?戦極姫の世界の女性は不老説でもあるのか?)

 

 まぁ原作では人魚の肉を食べて不老不死の女性も出たりしているので強ち、間違いとは言えない。

 

「それと東海道の今川義元が尾張へ侵攻したそうだ。兵力は凡そ二万五千だな」

「何!?」

 

 和夏の報告に将和は今度こそ立ち上がる。それほど重要な報告だったからだ。

 

「ど、どうした?」

「いや……済まん。報告を続けてくれ」

「あ、あぁ。この報告は昨日の夜半に届いた」

「夜半……今川軍が何処まで尾張に攻め行ってるか分かるか?」

「昨日の時点だと今川義元は沓掛城に入城したとの事だな」

「……そうか(となると戦闘は始まっていそうだな)」

 

 将和の予想は当たっていた。今川軍は松平元康や朝比奈泰朝らはそれぞれ丸根、鷲津砦を攻めてこれを陥落、大高城周辺の制圧を完了した義元は沓掛城を出て桶狭間で陣を張り一息をついていた。天候は暴風雨であるがそれ織田軍が味方につけ善照寺砦から一気にこの桶狭間まで躍り出たのである。

 

「天は信長に味方したか……」

 

 大雨の中、信長はニヤリと笑い後ろを振り返る。後ろには長秀や前田慶次等有力な武将が控えていた。

 

「……突撃するぞ!! 義元の首以外は捨て置け!!」

『オオォォォォォォォ!!』

「全軍突撃ィィィィィィ!!」

『ウワァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!』

 

 彼等は一気に駆け抜けた。今川の軍勢は不意を突かれた。特に足軽等、付近の村からの差し入れである酒を飲んでおり酔っぱらっていた事もあった。

 

「御屋形様を守れェ!!」

 

 それでも松井宗信ら重臣達は義元を守ろうとするがそれが返ってそこに義元がいるという答えを出してしまっていた。義元を守っていた重臣も一人、また一人と信長が生み出した馬廻によって倒れていき……。

 

「織田家馬廻の一人、服部小平太!!」

「小癪な!!」

 

 服部小平太が槍で義元の腹部を突き刺す一番槍をかますが義元に膝を割られた。更にそこへ躍り出たのは同じ馬廻の毛利新介である。

 

「同じく毛利新介推参!!」

「グォ!?」

 

 毛利新介は義元に一斬りをして組み伏せる。その最中、義元に指を食い千切られるがそれでも毛利の一斬りは義元には致命傷だった。口周りは指を食い千切ったので血だらけであり、数歩歩くと水溜まりにバシャリと倒れこむ。

 

「都へ……みやこぇ……」

 

 それが義元の最期の言葉だった。

 

「今川義元、討ち取ったァァァァァァァ!!」

 

 斯くして、織田信長は尾張に侵攻した今川義元と桶狭間にて戦い、見事に義元の首を取るのであった。

 今川義元の討死は直ぐに将和の元にも届いた。

 

「そうか、尾張のうつけがやったか……(あの時の女か……成る程、大層な自信は持っていたが本当にやるとはな)」

 

 報告を受けながら将和は感心していた。だが同時に将和は歴史の速度に焦っていた。

 

(このままだと信長は松平元康と清洲同盟を結ぶのは必須……史実だと美濃侵攻は約10年を費やしてはいるが……問題はこの軍師だ)

 

 将和は一枚の書状を見る。それは松平家の家臣名が記載されていたがその中に天城颯馬と書かれていたのだ。

 

(……絶対にこれ主人公だよな……そうだよ、俺もこいつでプレイした事あるし……となると織田家√かよ……)

 

 厄介な事に頭を抱える将和である。

 

(まぁこいつも三国志の某種馬野郎と同じようなニコポナデポ野郎だとは思うが……最悪、消すしかないな)

 

 あくまで三好家の天下統一事業を邪魔するのであればである。だが信長が一地方を統一するだけで満足する筈ではない。

 

「……めんどくさい世の中だな……」

「どうした将和君?」

「いや、何でもない」

 

 和夏の問いに将和はそう答えるのであった。そして将和は独自で情報を更に集める事にした。

 

(やはり織田家が台頭してくるなら此方の領土もやはり大きくしなくてはならんな……)

 

 将和は机に地図を広げつつ領土を確認する。

 

(……やはり近江を取って信長を牽制するしかないか……最悪は山崎か……)

 

 将和は早急に近江攻略を乗り出して軍議が始まる前日まで徹夜で作業して軍議に提出した。

 

「近江攻略を具申する」

「この時期にか将兄?」

「若干、無謀な気もしますが……」

「………」

 

 将和の具申に場は荒れに荒れた。これまでに丹波や堺の攻略等で兵を多く出して資金も堺の矢銭で何とか賄えているが出費が激しいのは事実であった。

 

「今、近江を取らねば今川を討った織田が台頭してくる。その織田に対抗するために近江攻略は必要だ」

「だがその織田はまだ尾張一国で義元が討たれたのは油断があったからじゃないのか将兄?」

「そうですよ。それに織田はうつけですし義元もそこに油断していたと思いますよ」

「織田は堺並の津島を所有しているし信長は銭の理解もある。それに織田家はその資金で我々より早くに常備兵の整備をしている。つまり織田家は一年中の出兵が可能なんだよ」

「だけどな将兄、俺らの障害となるなら美濃とか取っているなら分かるけどよぅ……」

 

 議論は思わぬ将和の苦戦が続き、やがては長慶が軍議の閉廷を促した。

 

「今回は此処までにしよう。近江攻略はまだ時期早急と思う」

「長慶!?」

「兄様、まだ我々は常備兵を完全には整えていないんだ」

「ッ……」

「それに兄様は最近寝てないと聞く。たまには休むべきじゃないのか……?」

「長慶………」

 

 長慶はそう言って場を後にし一存達もゾロゾロと出て行った。残ったのは将和と久秀である。

 

「焦ったわね」

「……だな。あーッ!!」

 

 久秀の言葉に将和は頷きながらゴロンと床に転がる。

 

「織田家の対抗のために近江を取る。中々の案ね」

「そして美濃の関ヶ原で決戦に挑もうとしたんだよ、ホラ」

 

 将和はそう言って久秀に一枚の地図を見せる。地図には三好家が布陣予定のが記載されていた。なお、将和は史実関ヶ原の西軍の布陣をほぼ丸パクリにしていた。

 

「……この布陣は中々のものね」

「だろ? だがああまで拒否されたら御蔵入りってわけよ」

 

 そう言って将和は立ち上がる。

 

「帰るよ」

「あら、拗ねたのかしら?」

「違うわい。休め言われたから休むんじゃい」

「フフ、なら茶でもどうかしら?」

「そうだな……久しぶりに信貴山城にでも行こうかな」

「あら、なら平蜘蛛を出さないとね」

「むしろ見してくれ」

 

 そうい言いながら廊下を歩く二人だった。

 

 

 

 




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第十三話

 

 

 

「うーん、美味いな。やはり平蜘蛛で入れてもらうと味も変わるのか?」

「変わるわけないでしょ」

 

 あれから半年、将和は政務の殆どをサボっていた。いや、飯盛山城での公務はほぼ終わらしているが長慶への具申等は殆ど行っておらずそのためサボっているとの言い方である。

 軍議には参加しているが何も意見を言わずに終わっているので長慶達も何かあったのかと不安になっているが将和は「いや、特に意見は無いし」と言って飯盛山城に戻るのが最近の日々である。だがそれでも和夏達には情報収集で動いてもらってはいる。

 この日も朝から政務を終わらせた将和は暇を見つけて信貴山城の久秀の元に茶をしに来ていた。

 

「あれから半年……大きな変化は無いわね」

「内だと常備兵が漸く5000に到達したくらいだな」

 

 なお、常備兵を一ヶ所に集めるのではなく現時点では芥川山城、飯盛山城、そして阿波の三ヶ所に常備兵を集めて城下町が形成され始めていた。

 

「信長の美濃攻めは苦戦しているようね」

「当主の一色龍興は愚息だがその配下は優秀な武将達が勢揃いしているからな」

 

 将和は和夏達忍びを通じて竹中半兵衛に接触しようとしたが半兵衛は三好家の傘下入りを拒否していた。それでも将和はめげずに複数忍びを通じて三好家入りを打診したがなしのつぶてだった。

 

「後もうちょい半兵衛を勧誘してみるよ」

 

 謝る和夏に将和は苦笑するのであった。そこへ話題の和夏が現れた。

 

「将和君」

「どうした和夏?」

「済まない、私達の失態だ。竹中半兵衛が織田家入りをした」

「あらあら……よっぽど織田家のが魅力に感じたのかしらね」

「いや……もしかしたら武将かもな(やはり秀吉の引き抜きか。歴史の修正力というやつか)」

 

 クスクス笑う久秀を他所に将和はニヤリと笑う。

 

「まぁ来ないなら仕方ない。それでもう一人の引き抜きはどうだ?」

「此方も今一つ、色好い返事はもらってはいないな」

「ふむ……まぁ気長にでいいよ」

 

 そう言う将和だった。そして芥川山城にて軍議が開催される。

 

「四国から連絡が来た。……長政が病で先頃亡くなった……」

「長政殿……」

 

 長慶の報告に皆を目を伏せる。将和も幼少の頃から長政には世話になっていた。

 

(大敵の政長を自身の手で討てたし感無量だったろうな……)

 

 将和は長政の冥福を祈るのであった。

 

「それと、阿波国守護の細川持隆も病で亡くなった」

「あん? 細川持隆が?」

 

 長慶の言葉に将和は首を傾げた。

 

(確か持隆って史実だと実休が暗殺したとか言われてだろ。何で病死……?)

 

「理由は分からないが病死だそうだ」

「……ちょっと臭いな」

「兄様?」

「……阿波に戻って調べてみる。たまたまの偶然ならそれで良いが……三好家を貶める罠とは言い切れんからな」

「分かった。兄様に任せる」

 

 そして軍議も領土攻略に移行する。

 

「最近、陶を討った毛利の躍進が凄まじい」

「あっという間に周防・長門を抑えたもんな……」

「毛利への対策が急務かと思います」

 

 一存達が議論を交わすが将和は特に議論の中に入ろうという気配はしなかった。それを見た長慶が将和に視線を向ける。

 

「兄様、何かあるか?」

『………』

 

 長慶の言葉に皆が視線を向けるが将和は特に動じなかった。

 

「ん? まぁ毛利対策での防波堤は必要だろう」

 

 将和はそう言って扇子を地図の一ヶ所にトントンを叩く。

 

「最低でも播磨・但馬は取って毛利と尼子への対策は必要だろうな」

「成る程」

「でも但馬を取るとなると丹後とかも……」

「まぁそうなる必要はあるな」

 

 その後も軍議は続いたが将和はそれらしい具申もなく普通に終わった。軍議後、久秀は将和が宛がわれた部屋を訪れた。

 

「あれで良いの?」

「ん?」

 

 久秀が来た時、将和は四国情勢の報告書を見ていた。

 

「あぁあの軍議か?」

「えぇ」

「まぁ、毛利が中国地方で台頭してきたら播磨・但馬を防波堤とするのは構想していたからな」

「……そう。でも最近、素っ気ない気がすると何かと話題よ」

「……んー、素っ気ないか……」

 

 将和は腕を伸ばして伸びをする。

 

「むしろさ、依存させまくったかもしれんのよな」

「依存ですって?」

「あぁ。何かと具申してその方向に上手く成功していたから多分、皆俺を知らぬうちに依存しているんだと思う」

「……確かに。その線はあるわね」

「だから少し距離を置こうと思ってな」

(凶と出ない事を祈るだけね)

 

 そう思う久秀である。

 

「ところで……織田家との対決はあると思うのかしら?」

「まぁあるだろ」

 

 将和は久秀に座るよう促し茶菓子を久秀にあげる。

 

「織田家も天下を取ろうとしているからな。少なからず対決になるのはあいつと堺で会った時から想定していた」

「堺で……? 以前に会っていたの?」

「長慶と偶然な。ま、今のところ防衛線は山崎だな」

「山崎……成る程ね」

 

 久秀は将和の言葉を聞いて納得した表情を見せる。

 

「天王山を取られたら厄介なわけね」

「一応、天王山には極秘で砦を築いてはいる……長慶にも秘密だ」

「そこまでの事なのね」

「あぁ、そこまでの事だからだ」

 

 将和はそう言って肩を竦めるのであった。そして将和は久しぶりの四国へ渡るのである。

 

「これは将和様、わざわざ父上のために申し訳ござらん」

「おぅ長房。長政には幼少の頃から世話になっていたからな」

 

 将和は長政の位牌に焼香をして改めて長政の冥福を祈るのである。そしてその足で細川持隆の屋敷へと訪れた。将和を出迎えたのは当主を継いだばかりの細川真之だった。

 

「将和殿、此度は真にありがとうございます」

「いやいや。持隆様には生前、お世話になりもうした」

 

 真之と将和はそう挨拶をするが、将和は何か気になっていた。

 

(……人より目が異様に細いなぁ……)

 

 真之は他の人より目が異様に細かった。将和も細目の人間は見ているが真之はほんとに細かった。

 

「ハハハ、私は人より目が細いでしょう」

「いや……気分を害したのであれば申し訳ありません」

「いえいえ、我が家系は細い目の者が多くいるようで……遺伝と思われます」

 

 そう言って真之は笑う。そこへ襖が開かれた。

 

「母上」

「三好殿、此度はありがとうございます」

「えっと……」

「あぁ申し遅れました。私は真之の母、小少将でございます」

 

 真之の母……小少将はそう言って将和に頭を下げるが小少将も真之同様に細目だった。

 

(成る程。小少将の家系の遺伝か……)

 

 将和は一人納得する。が、頭を下げる小少将は畳を見ながら笑みを浮かべる。

 

(三好将和……か。なら標的はこの男にするか)

 

 人知れずペロリと唇を舐める小少将だった。その日の夜、真之との会談で遅くなったこともあり将和は真之の屋敷で一泊する事にしていた。

 

「……誰か?」

「夜分遅くに申し訳ありません。小少将にございます」

「小少将殿? 入られよ(何かあったのか?)」

「失礼します」

 

 襖が開けられ、寝巻き姿の小少将が部屋に入る。その手には盃と銚子があった。

 

「将和殿、私と一献……致しませぬか?」

「(……何か裏がありそうだが……)構いませぬ、

さぁさぁどうぞ」

 

 将和は小少将を招いて二人での飲みが始まる。飲みが始まって鶏鳴の時、動いたのは小少将だった。

 

「ふぅ……少し酔いました……」

 

 小少将はそう言って将和の右肩にコロンと頭を寄せた。その時、将和の鼻を小少将の匂いが性欲を擽る……が、将和は耐えた。

 

「(未亡人とかAVだよなぁ……)小少将殿……」

「将和殿……」

 

 しかし、小少将のが若干上手だった。小少将はゆっくりと着物をはだけさせ、その乳房を少しずつ見せようとする。

 

(ククク……所詮は男よの……)

 

 小少将は将和の手を取り己の乳房に添えようとした……が、将和はその手を抑えた。

 

「将和殿……?」

「止めた方がいいですぞ小少将殿……貴女は妖の類いでしょう?」

「………ッ!?」

 

 将和の言葉に小少将はパッとその場を離れる。小少将の姿が少しボヤけ頭から狐の耳、尻から尻尾が九本現れた。

 

「御主……知っていたのか?」

「いや……半信半疑だったがな(烈女とは聞いていたけど……まさか妖とはな……)」

「……殺してみるか?」

 

 小少将は構えを見せるが将和は気にしなかった。

 

「いや……三好家に害しなかったら別に普通にしてていい」

「……害したら?」

「叩き潰す」

(……この男…)

 

 将和は殺気を出しながら小少将を見るが小少将は扇子で口元を隠していたがその口は笑みを浮かべていた。

 

「(……やはり正解だな)では……」

 

 小少将は将和の肩に身体を預ける。

 

「私を傍に置きませぬか? そうすれば将和殿は私を近くで監視出来ますよ?」

(こいつ……)

 

 頭が回る小少将に将和は苦笑する。

 

「分かった。なら傍に置こう」

 

 斯くして小少将が将和の傍で世話になるのであった。

 

 

 

 




小少将はモチーフとして東方の八雲藍です。てか八雲藍です

御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m


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第十四話

 

 

 

 

「な、な、な、な、な………」

 

 将和は四国から戻り芥川山城で長慶に報告に参ったが、長慶は将和の傍らにいる小少将に目を見開いていた。それは居並んだ一存や長逸達も同様である。

 

「兄様……そ、その者は……」

「細川真之の母、小少将でございます」

 

 震える指を指す長慶に小少将は頭を下げて爆弾を投下する。

 

「人質として将和殿の傍らにおりまする」

「か、傍らに!?」

「はい」

 

 目を見開く長慶に小少将は微笑むが横からそれを見る将和は溜め息を吐いていた。

 

(めちゃくちゃ煽ってるし……皆の動揺も凄まじいな……)

 

 久秀は扇子で口元を隠して笑っているように見えた。だが、袈裟の下では左拳を強く握り締めていたりする。

 

「そういうわけにございますので今後ともよろしくお願いします」

 

 そう言う小少将だった。多少の混乱がありつつも軍議が開催された。

 

「尾張の織田信長が美濃三人衆を味方に付ける事に成功し西美濃はほぼ織田家の手中になった」

「うつけと思っていたが……将兄の言う通りになってきたな」

『………』

 

 一存の呟きに、皆は黙り将和に視線を向けるが当の将和本人はのほほんと茶を飲んでいた。

 

「……終わった事を今更あれこれ言うのは仕方ない。ならば次は最善の策を取れば良い」

 

 茶菓子を食べる将和の姿に長慶らは安心したとばかりに深い安堵の息を吐いたのであった。その様子に久秀は口元を扇子で隠しながら小さく舌打ちをした。

 

(将和殿の様子見しか出来ないのかしら……)

 

 とりあえず信貴山城に戻ったら平蜘蛛を眺めてそのイライラを落ち着こうと思う久秀である。

 

「そこでだ長慶……俺は二正面作戦を具申する」

「二正面作戦だと?」

 

 将和の具申に長慶達はざわめきだす。それを尻目に将和は日本の地図を拡げた。

 

「即ち西と東に兵を分ける」

「西と東に……?」

「あぁ」

 

 将和はそう言って扇子を播磨と但馬にトントンと指す。

 

「西は播磨と但馬。そして東は……」

 

 そう言って指したのは近江と越前だった。

 

「近江と越前だ」

「近江と越前……六角・浅井は元より朝倉も敵にすると? 朝倉は宗滴亡き後は北の一向衆に手を焼くと聞くが……」

「浅井を攻撃すれば朝倉も浅井に協力しようとするからな。ついでに叩くしかあるまい」

「ですが二正面作戦となると兵が……」

「心配するな。西の攻略は今まで通りの農民兵主体で行え。東は常備兵でやる」

「東を常備兵で侵攻すると?」

「あぁ、そろそろ良い具合になっているからな」

 

 三ヶ所に城下町を形成し常備兵を引き入れている三好家、この時常備兵は総勢一万二千まで膨れ上がっていた。

 

「俺が言い出しっぺだからな、東をやらせてもらいたい」

「東を……か。織田への警戒も含めてか兄様?」

「まぁそう言うこったな」

 

 長慶の言葉に将和は頷く。

 

「……分かった。東は兄様に任せよう」

「御英断……感謝する」

 

 将和はそう言って長慶に頭を下げるのであった。そしてその日の夜半……長慶達はまた集まっていた。

 

「将和様、元気そうで何よりですね」

「あぁ、心配していたが大丈夫そうだな」

「………」

 

 長慶達の言葉を聞きながら久秀は長慶達の態度にイライラしていた。だが久秀もそれを顔に出さずに茶を立て、長慶達に配り自身も茶に口をつけていた。なお、政康は茶より酒を所望していたので酒を飲んでいる。

 

「……どうした久秀? 何か荒っぽくないか?」

 

 茶を見ていた長慶は茶の泡立ち方がいつもと違うと認識しやんわりと久秀に問う。

 

「その……いえ……」

「あら、久秀にしては歯切れが悪いわね?」

 

 いつもと違う様子の久秀に政康は仕返しとばかりにニヤニヤしながら聞くが久秀はしどろもどろに近い状態である。

 

「何か話せない訳でもあるのでしょうか?」

 

 久秀と今でも対立関係である順慶も流石に心配な様子を見せる。

 

「~~えぇい、ままよ!?」

「あっ私の……」

 

 久秀は政康の徳利を手に取り、それを口に付けて一気に飲み干す。なお、その徳利は将和が特注で作らせた通い徳利なので量はかなりあった。だが久秀はそれを全て飲み干した。その表情はうっすらと赤みを増していた。

 

「ぷはァ!!」

「お、おい久秀……」

「………ぃ……よ……」

「えっ?」

「いい加減にしなさいよ!! どいつもこいつも将和殿のご機嫌を伺うような顔を見せて!! 見ている此方が不愉快よ!!」

「なッ!? 久秀!!」

 

 顔を真っ赤にし酔いに任せて叫ぶ久秀に政康が叫ぶ。その発言からして長慶も批判していると見られたからだ。事実、久秀は長慶をも批判していた。

 

「将和殿の具申を却下しながら実際にその通りになれば将和殿の顔色を伺い、将和殿を怒らせないようにする仕草を全員がしていたら不愉快よ!!」

「でもあの時は……」

「将和殿も急ぎ過ぎたとは言っていたわ。でも私が気に食わないのはその後の貴女達の行動よ!! どいつもこいつも顔色を伺っては安堵をする……うんざりなのよ!!」

 

 バンと床を叩く久秀。その様子に皆も少なからず驚いていた。

 

「少しは将和殿の心中を察したらどうなのかしら!!」

『……………』

 

 久秀の叫びに皆は何も言えなかった。やがて口を開いたのは長慶だった。長慶は久秀に向いて頭を下げたのである。

 

「済まなかった久秀」

「いえ……むしろ謝るのは将和殿にでしょう」

「そうだな。それにしても久秀はよく兄様の行動を見ているな? うん?」

「そんな事は……(口を滑らし過ぎたわ……)」

 

 酔いに任せたとはいえ、少々喋り過ぎた久秀である。

 

「フフ、久秀も余程兄様を好むと見えるな」

(あー違うと言いたいけど、拒否れば余計に悪化する……とりあえず長頼を苛めよう)

 

 そう苦悩する久秀とトバっちりを食らう長頼である。

 

 

 

 




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第十五話

 

 

 

 

 尾張国小牧山城。尾張を統治する織田上総守信長は美濃を攻略するためにこれまでの居城だった清洲城から小牧山城に居城を移していた。

 

「西美濃三人衆が此方に付いたからと言って龍興め、それでも諦めがつかんか」

 

 美濃国内の情報の報告を受けていた信長はポツリと呟いた。報告をしている軍師である天城颯馬は肩を竦めた。

 

「斎藤側からの離反は相次いでいますが、やはり堅牢な稲葉山城がありますので……」

「御主の策通りに竹中半兵衛に加治田衆の調略、岸信周は残念だったが……斎藤側を支えていた西美濃三人衆も此方に付いた」

「はい、もう少しでございます」

「デアルカ」

 

 それでも信長は日ノ本の地図を見ていた。それに気付いた颯馬は口を開く。

 

「三好が気になりますか?」

「ならないとは言わんな。元々の差はあったとはいえ、桶狭間で道は開くとは思っていたがな……」

「いえ、道は開いております」

「ククク……謙遜は良い。では天城よ、貴様とサルでやってもらいたい事がある」

「は、何でしょう?」

「墨俣に城を築け。これまでに柴田、佐久間が失敗している。三度目は成功させろ」

「ははッ!!(これは大変な事だな……)」

 

 頭を下げつつ颯馬はそう思い、彼は木下藤吉郎と共に作業に取り掛かるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「では軍議を行う」

 

 ところ変わって河内国飯盛山城では将和を筆頭に諸将が集まっていた。

 

 総大将 三好将和

 武将 三好実休

    松永久秀

    赤井直正

    筒井順慶

    島左近

 

 以上の武将が集まっていた。特に三好実休等は久々の戦の出番であり四国から意気揚々と来る程だった。それを見た将和も苦笑する程である。

 

「集まってもらったのは他でもない。南近江攻めを我々で行うためである」

「おぅ!! 腕がなるぜ兄貴!!」

「うむ……と言いたいところだが今回は思ったより早く片がつくかもしれん」

「あらぁ……」

 

 意気揚々していた実休は将和の言葉に膝から崩れ落ちた。

 

「六角家の内部がゴタゴタになってきた……というわけね」

「まぁそういうわけだな。六角家の筆頭家老を務めていた後藤賢豊が主君六角義賢に謀殺された。その謀殺で家臣団はガタガタになってきた。いやなっているだな」

 

 久秀の指摘に将和は頷く。

 

「そこを掠め取る……そういう戦法ね」

「まぁそういうこった。既に一部の敵将には降るよう交渉はしている」

「あら手の速いことで……」

「フ、俺の中では合戦とはそれまで積んだ事の帰結だ。合戦に至るまで何をするかが戦だと思っている」

 

 これは将和が前世で経験した事だった。大国アメリカと戦うにはアメリカより一歩、いや二歩三歩とその先を見なければならなかった。

 そのために将和は航空機(零戦改良型)、戦艦(大和型・河内型)空母(翔鶴型・雲龍型)戦車(九七式中戦車)を開発し開戦までに配備させる事に成功、その後の戦いでもこれらの兵器は日本を支えたのである。

 

「成る程ね……合戦までにどれだけの準備を労するかで勝負は決まる……良いじゃない」

「うーん、分からん!!」

 

 久秀はカラカラと笑うが実休と直正は首を捻るだけだった。

 

「ま、今は前に進めば良い。それだけの事だ」

 

 将和はニヤリと笑うのである。そして軍勢を整えた三好軍は飯盛山城から出撃するのである。各国の大名は三好軍が動いた事に動向を見守っていたが行き先を南近江と判明した瞬間、大いに慌てたのは南近江の戦国大名ーー六角義賢である。

 

「直ちに兵を集めよ!!」

 

 義賢は檄を飛ばすが観音寺騒動から立ち直っていない六角家はガタガタであった。南近江に三好軍が侵入した時に観音寺城に集まった兵力は僅か3600でありとても戦える状態ではなかった。その間にも将和は観音寺城の支城である箕作城等を次々と攻略し義賢を包囲しようとしたが寸での差で義賢は観音寺城を脱出し、三雲定持の三雲城に逃げ込む事に成功したのである。

 

(チッ、逃げ足が速いのは歴史通りか)

 

 逃げられた報告を受けた将和は顔を歪めながらも南近江の大半を攻略したのである。

 

「山岡、山崎」

「「はっ」」

 

 調略で将和に降伏して列席に加えられていた山岡景隆と山崎賢家(後の山崎片家)が御前に出て頭を下げる。

 

「二人は今まで通り自身の領地を統治せよ。その代わり、六角義賢は何としても探して捕らえよ」

「「ははッ!!」」

 

 なお、大津はちゃっかりと三好家が直轄地として抑える事にしているのである。

 その一方で長慶らも播磨攻略に動き出していた。

 

「まずは別所だ」

 

 長慶は播磨国の別所氏に狙いを定め、総勢25000の兵力を率いて越水城から進軍を開始した。

 

「おのれ三好め、直ちに迎え撃つぞ!!」

 

 報告を受けた別所安治は兵を集めて三木城に立て籠り長慶の軍勢と激突したのである。

 

「ふむ……三木城は播磨三大城と呼ばれていますから流石に堅固ではありますが……やはり数には勝てないでしょう」

 

 先鋒の三好長逸は無理な城攻めはせずに三木城の支城を次々と攻め落とし長慶が到着する頃には三木城の包囲は成功していたのである。そのため長慶も兵糧攻めを選択、三木城への糧食は一つも届く事はなく安治は降伏を決断した。

 この降伏により播磨国の東部は三好家が切り取る事になる。

 そして三好家の躍進に気に食わない者がいた。

 

 

 

 

 

「フン、南近江と播磨東部を取りおったか……」

 

 京の二条御所武衛陣の御構えにて室町幕府第13代将軍である足利義輝は面白くなさそうに顔を歪めた。

 

「義輝様……」

「将軍職に就いたというのに三好を筆頭に妾を無視する……将軍職として仕事が出来たのは大友と毛利の停戦くらいなものだけじゃな」

 

 将軍職に就いた義輝は幕府を建て直そうと積極的に書状を出したりして和平を薦めたりして幕府の権威を甦らそうとしていた。

 だがそれでも効果は芳しくなく殆どの大名からは無視されたりしたが大友、長尾等の一部大名は従ったりしている。

 

「まずは三好じゃ。三好の行動を何とか抑えれば諸大名らも順次従うじゃろう」

「確かに……ですが懸念はあります」

 

 義輝の傍らに控える細川幽斎は意を決して義輝に告げるが義輝も分かっていた。

 

「分かっておる幽斎……あやつじゃろう?」

「はい……三好家の中心的人物と言ってもいい……三好将和です」

 

 躍進を進める三好家を支える将和は幕府にも警戒されていたのである。

 

「……暗殺……はどうじゃ?」

「成功したしても怒り狂った三好長慶らにこの二条御所が攻められて燃やされます」

 

 幽斎はピシャリと告げて暗殺計画を止めさせる。

 

「うぬぅ……難しいのぅ……」

(素直に頭を下げたら良いんですけどね……)

 

 幕府の体制上、それは絶対に出来ないと思う幽斎だった。

 

 

 

 




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第十六話

超が付く程のお久しぶりです


 

 

 

 

 

「南近江を取ったのだからついでに北近江も取りたいのだがな……」

「ですがそうなると、その上にいる朝倉が絡んでくる……その可能性もありますわ」

 

 観音寺城で将和の呟きに久秀はそう答えた。

 

「だろうなぁ……だが……」

「織田を迎え撃つためには北近江も取る……そういう事ですわね?」

「そういう事だな」

 

 荒れていた南近江もある程度は静穏を取り戻しつつも将和の軍勢は観音寺城から動く事はなかった。

 

「六角の備えは山崎らに任せる。全軍を上げて北近江……浅井を討つ」

「そして織田を警戒……ね」

「あぁ」

 

 久秀の言葉に将和は頷く。

 

「朝倉に文を出すか」

「褒美は若狭一国……妥当な線かしらね」

「コメもあるし小浜湊もある……美味い餌とは思わんか?」

「安全策を取らせる腹ね……若狭を取る事で三好との国境はあるが朝倉は北の一向宗に専念出来るわけね」

「そゆこと」

 

 将和はニヤリと笑いつつ朝倉への文を認めて和夏の忍びを通じて朝倉の元に届けられるのである。

 

「うーん……三好の思惑に乗せられる形だけどなぁ……」

「断りますか?」

 

 朝倉の居住である一乗谷城で朝倉義景はそう呟き、重臣の山崎吉家はそう具申するが義景は首を横に振る。

 

「宗滴が亡き今、無理な事は止めよう。だからこそ三好と結んで一向宗に備えるべきかな」

「御意。直ちに使者を出しましょう」

 

 義景の判断に吉家は頷き朝倉は将和の元に使者を出すのである。

 

「分かり申した。朝倉義景殿の御英断、真に感謝致すと伝えてくだされ」

 

 使者の報告に将和はニコニコ笑いながらそう告げて使者が下がった後に地図を出す。

 

「これで浅井の命運は消えた……高島や朽木の調略は?」

「朽木らも此方の味方側よ」

「上々だな」

 

 久秀の言葉に将和はニヤリと笑う。

 

「今攻めるのかしら?」

「いや……もう一芝居を打つ………どうだ?」

 

 将和は扇子で口元を隠しながらヒソヒソと久秀に話すと久秀はニヤリと笑う。

 

「謀略には謀略を……成る程ね」

 

 数日後、浅井家の居城である小谷城で浅井久政は憤慨していた。

 

「朽木が謀反の疑いだとォ!?」

「いえ、あくまでも噂程度です」

 

 怒る久政に家臣の磯野はそう訂正をする。

 

「どちらも同じ事よ!! 直ちに兵を集めよ、朽木を討伐する!!」

「お待ちください父上!? 無闇に朽木を刺激してはなりませぬ。此処で朽木を刺激すれば朽木は三好家に走るやもしれません。此処は慎重になるべきです」

「黙れ長政!! 浅井の事はワシが決める、貴様は黙っておけ!!」

「………」

 

 長政は反論するが久政はその反論を押しきって朽木討伐の軍勢を準備するのであるがそれは将和側にも情報は漏れていた。

 

「おい、久政の周りはアホしかおらんのか?」

「だから動かしやすいのでしょう」

 

 観音寺城で将和と久秀はそう話していた。三好側も朽木支援の軍勢と浅井討伐の軍勢を整えていた。

 

「久秀、朽木支援の軍勢を率いてくれ」

「成る程。重臣を出せば朽木も本気で支援してくれ、浅井も本気で朽木が裏切ったと判断するわね」

「そんなわけだ。これが済めば堺で遊んで来てもいいぞ」

「あら、ならそうさせてもらうわ」

 

 将和の言葉に久秀は嬉しそうな表情をする。ここ最近は久秀も堺に遊びに行ってなかったので張り切るだろう。久秀には実休と直正を加えて9000の兵力で高島郡へ向かい将和の主力は15000の兵力で愛知郡まで進軍し待ち構えていた浅井軍6000と宇曽川を挟んで対陣する。

 後に言われる『野良田の戦い』と呼ばれる戦いである。

 

「浅井は先鋒と思わしき2000の兵が順慶の陣と衝突しています」

「ん(なら……)」

 

 伝令からの報告に将和は頷き床几から立ち上がる。

 

「程なくして長政は突っ込んでくる。迎撃態勢を整えろと伝えろ。それと……」

「御意」

 

 そして戦いが始まって一時間と半が過ぎた時、浅井は動いた。残った全兵力を以て中央突破を図り真っ直ぐ将和の本陣へ迫ろうとしたのだ。

 

「この磯野員昌に続けェ!!」

「突き進めェ!!」

 

 一番手を磯野員昌と藤堂高虎が務めて将和本陣の前衛と衝突する。だが浅井軍の士気は高い、浅井には後が無い。そのため浅井はこの戦いに全てを賭けているのである。

 だが将和もそれには備えていた。

 

「磯野殿!! 左右から敵部隊です!!」

「チィ!!」

 

 一番手の左右から伏兵が突撃してきたのだ。左右からの挟撃に瞬く間に磯野隊はその数を減らしていく。

 

「損害に構うな!! 我々の目的は三好将和の首ただ一つだ!!」

 

 それでも磯野隊は構わず正面にいる将和の元へ食らいつこうとする。だが……。

 

「磯野殿!?」

「如何した!?」

「長政様の本陣が……」

 

 物見からの報告に磯野と藤堂は驚愕する。長政の本陣は別の部隊が側面から攻撃していたのだ。

 

「いてまえ!! からくり左近!!」

 

 別動隊3000を率いていたのは島左近だった。彼女自身が作成した『からくり左近』を先頭に別動隊は側面攻撃を開始、初めは防御していた長政の本陣だが『からくり左近』を投入した事で態勢が崩れたのである。長政の陣は敗走を開始したがそれ以前に長政は撤退を決意して準備をしていた。

 

「父上の朽木討伐軍が敗退!? しかも父上が討死だって!!」

「長政様、このままでは浅井家は滅びます」

 

 宮部継潤はそう具申した。宮部の言う事は長政も分かっていた。

 

「……撤退しよう。直ちに員昌と高虎に連絡を!!」

「御意!!」

 

 その直後に左近の別動隊が襲撃してきたのである。長政らはそれでも撤退をしようとしたが馬が鉄砲で被弾、落馬したところを左近によって捕縛されたのである。

 そして将和の本陣へ突撃した磯野と藤堂は覚悟を決めた。

 

「長政様が撤退する時を稼ぐ。死に場所は此処だと心得よ!!」

「掛かれェ!!」

 

 将和隊と磯野・藤堂隊が激突する。不意に将和は殺気を感じた。その方向を見ると一騎の騎馬女武者が将和の元へ馬を走らせていた。

 

「そこにいるのは敵将三好将和とお見受け致す!! あたしは浅井家家臣藤堂高虎也!! その頸頂戴致す!!」

「将和様には触れさせません!!」

「行くな順慶!!」

 

 隣にいた順慶が馬を走らせて藤堂に向かう。将和が止めようとするが順慶は聞く耳を持たない。

 

「貴様に用には無い!!」

「きゃ!?」

「順慶様!!」

 

 藤堂が順慶を落馬させ筒井家の者が順慶を助ける。

 

「おりゃァ!!」

 

 そして藤堂が将和に槍を投げた。

 

(投げた!? 俺死ぬぞ!!)

「将和君!!」

 

 そこへ和夏が苦無で槍を叩き落とした。

 

「済まん和夏(マジで助かった……)」

「ちぃ、ならば!!」

「むっ」

 

 そして藤堂が抜刀したのを視認した将和も咄嗟に太刀を抜刀した。藤堂が馬を走らせて将和に斬りかかろうとするが将和は太刀で受け止めて鍔迫り合いとなる。

 

「ぐっ……」

「ぐぐ……」

「(予想以上に藤堂の力が強い……だけどなァ!!)負けて……たまるかァ!!」

「く!!」

「将和君!!」

 

 何とか力を振り絞って押し返した。そこへ和夏がまた加勢して苦無を投げた。苦無は藤堂の太刀が折れさせる事に成功した。

 

「………はぁ」

 

 折れた太刀を見た藤堂は深い溜め息を吐くと納刀して馬を降り地面に座り込んだ。

 

「些か邪魔が入ったがあたしの負けだ。好きに頸でも討つといい」

「……捕縛しろ」

 

 将和の言葉に足軽達が直ぐに藤堂を縄で捕縛した。

 

「将和君、勝負の邪魔をして済まないね。ですも将和君が死ねば……」

 

「いや、良くやったよ和夏。あのままだと俺は死んでた。助けてくれてありがとう和夏(流石忍、次の給料は上げておこう)」

 

 将和はそう言って和夏を褒めた。

 

「……褒めてくれるなら俸禄を上げてくれないか?」

「……また借金か?」

「配下の紫達からのだよ……」

(……前言撤回しようかな……)

 

 将和は深い溜め息を吐いたのであった。斯くして野良田の戦いは終了した。戦果は浅井長政らの捕縛であり北近江攻略も順調に進める事が出来たのである。

 

 

 

 




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第十七話

 

 

 

 

将和は北近江の残務処理で小谷城にいたがその座敷牢を訪れた。座敷牢には一人の浅井側の武将がいたからである。

 

 

 

「久しぶりだな藤堂高虎」

「……三好将和……大将自らお出ましとはな」

「カッカッカ、今は暇だからな」

 

 将和は笑いながら冷たい地面に座り高虎に視線を向ける。

 

「なぁ藤堂。四の五は言わん、三好家に仕えんか?」

「……それは浅井を裏切れと申すのか?」

「隠居した前当主は討死して当主は此方側……裏切る行為ではないが?」

「!? ……成る程。浅井の事情をよくご存知で……」

「某の手元には優秀な忍がおるからな。浅井はそのまま北近江を任せる所存だ。どうだろうか?」

「………」

 

 将和の言葉に高虎は目を瞑る。幾分か経つと目を開き正座をして将和に視線を向けた。

 

「……お仕えします。ですが少々御願いがあります」

「聞こう」

「長政様に害をせぬ事を書面で認めてもらう事を願います」

「……あい分かった、そうしよう。念のために長慶にも一筆頼んで書名しておこう」

「感謝致します」

 

 こうして藤堂高虎は将和の家臣となった。

 

「長慶の家臣じゃなくて良かったのか?」

「直臣より陪臣の方が楽です。それに長慶殿は会った事ないので」

「……あ、そう」

 

 なお、高虎は非常に優秀な人材であった。

 

「政は高虎に任せようかな」

「それは駄目よ。貴方サボるじゃない」

 

 将和の呟きに頭を押さえながらそう答えた久秀である。また浅井長政にも面会して再度北近江の統治を委任するのである。

 

「破れた者なのに良いの?」

「構わん。国の根本は人であり農民だ。その農民を妨げていた久政に国を治める資格は無い。だが長政は人を考えての統治をしていた……そういう事だな」

「……敵だった三好将和からそのような評価を貰えるとは思いませんでした」

「敵だからとそう切り捨てるのは良くないな。使える者はドンドン使う……俺はそう思うがな」

「成る程……」

「ま、頼むよ」

「御意、その期待に答えます」

 

 将和の言葉に長政は頭を下げるのである。そして長慶は北近江の攻略を播磨国で聞いた。

 

「流石は兄様……」

 

 長慶の軍勢15000は三木城を攻略中だが三木城主の別所就治の激しい抵抗により未だ落城していなかった。それでも長慶は周辺にある七つの支城を落城させ、明石氏が立て籠る枝吉城を十河一存に包囲させこれを落城させている。

 

「我々は美嚢郡を切り取っているが兄様は一気に北近江か……虚しいものだな」

「長慶様……」

 

 当主である自分達の主力がこの様である。だが、それを奮起させたのは猛将の十河一存である。

 

「だらしないぞ姉さん!!」

「一存……」

「将和兄が領土を取ったからどうした、姉さんは三好家の当主なんだ。此処はドッシリと構えておけばいいんだよ」

「……ありがとう一存」

 

 一存の言葉に長慶は微笑むのであった。

 

「ところでドッシリという言葉……何処を見て言ったのか……姉さんは聞きたいな一存?」

「え、な、な、何の事かな姉さん。お、俺にはサッパリだなぁ………アハハハハハハ」

「「アハハハハハハ」」

 

 その夜、長慶の本陣で一存によく似た悲鳴が聞こえたとか聞こえなかったとか……。

 それはさておき、ネガティブから払拭した長慶は三木城への攻勢を強めて二日後には別所就治もこれ以上の抵抗は不可能と判断して降伏するのである。これにより美嚢・明石郡は三好家が占領するのである。

 それで以て長慶の軍勢は勢いを増すように印南群の志方城を攻略し加古・印南郡までを占領するのである。無論、赤松晴政や小寺政職等は激しく抵抗を行い長慶はそれを全力で応えた。

 結果として赤松晴政や小寺政職等は戦場で討死をして多数の家臣が離散するがその家臣の中に黒田家もあり黒田家は織田家の元へ身を寄せるのだがそれはまだ先の話である。

 それはさておき、話を近江の将和にもどす。その将和は長政に商売の話を持ってきていた。

 

「近江のコメを使って清酒を作らんか? 一工夫をすればあら不思議、濁り酒があっという間に清酒へ生まれ変わる」

「その話……詳しく」

 

 将和は澄んだ清酒を長政に渡し、長政は一口付けると目を変えた。

 

「こ、これは……」

「味がまろやかだろ? 近江のコメは品質が良い……これを元に清酒を売れば……」

「近江への商人の往来も多くなる」

「その通り。そしてこれだけの清酒があれば縁起物や出陣式に使えるよな……?」

「……将和殿、是非近江での製造を!!」

 

 将和の言葉に長政は全力で頭を下げた。

 

(戦で負けた浅井をこれだけ買っている……なら何としてもこの綱を切っては駄目!!)

 

 長政は全力でそう思っていた。対して将和も満足そうに頷いた。

 

「宜しい、頼みますよ長政殿」

「ははッ!!」

 

 浅井との結びつきも強くした将和であった。そして朝廷への寄進も忘れてはいない。

 

「ホホホ、久しいですなぁ将和殿」

「山科殿もお変わりなく」

 

 将和は公家である山科言継の屋敷を訪れていた。

 

「今回、帝への献上としまして米六千石、麦二千石、金銀をそれぞれ用意してあります」

「ほんに御苦労さんどす。肥後の相良家等も麿らによう寄進してくれはるけど……あんさんだけやで、しっかりと麿らにも施しをしてくれはるのわ」

「……ハッハッハ、いやなに。前にも言ったぁ我らが戦場で働くように公家も朝廷で働く……そうでござろう?」

「……ほんに感謝しますわ。それで今回はどのような頼みを?」

「……長慶への官位をと思いましてな」

「ふむ……長慶はんねぇ……」

 

 将和の言葉に言継は口元を扇子で隠す。

 

「麿や帝は問題無いと思う……三好家はこれまでに多く朝廷に寄進してくれたからの。その功績には報いるべきと思うておる。じゃが……」

「やはり花の御所ですか……?」

 

 将和の問いに言継は無言で頷いた。

 

「三好の躍進……それをあの剣豪将軍は良くないと思うてる」

「………」

「最近……花の御所の周りには少なからずその手の者が出入りをしていると聞く……もしかするとあの剣豪将軍はやるかもしれんでおじゃる」

「……やりますか」

「あんさんかて分かっているからこその官位を貰おうとしてるんやろ?」

「まぁ……警戒のための布石なもので……」

「官位に関しては授ける事は出来るであろうのぅ……恐らくは修理大夫くらいじゃろうのぅ」

「それでも十分です」

「あい分かった(それにお主にもの……)」

 

 斯くして数日後、長慶は修理大夫の官職を朝廷から貰いまた将和も国司である河内守の官職も受領するのである。

 

「自分ですかよ」

「ホホホ、将和殿にも世話になっておるからの。その礼じゃよ」

 

 思わず言継の屋敷に押し掛ける将和がいたとかいないとか……。再びそれはさておき、年の瀬の年末。長慶らは久しぶりに芥川山城で年を越せるようだった。

 

「今年は領土拡大の年だったな」

「近江に播磨の攻略……それに私と兄様の官職……目出度い事です」

 

 将和の呟きに長慶はそう返す。周りはどんちゃん騒ぎをしており今は一存と政康が酒の一気飲みを勝負しているところだった。

 

「兄様、杯が空いてますよ」

「ん、済まんな」

 

 将和は長慶から酒を注いでもらい飲み干す。

 

「長慶、播磨攻めで悩んでいたのは一存から聞いたよ。済まなかった」

「……良いんですよ兄様。私はまだ戦場の経験がまだ少ない。これに限るのです」

 

 そう言って長慶は自身で酒を注いで一気に飲み干す。頬が赤らんでいるがまだ大丈夫だろう。

 

「大丈夫だ。これから積んでいけば問題ない」

「……ッ………」

 

 将和は長慶の頭をポンポンと撫でる。撫でられた長慶は一気に顔を赤くし、それこそ漫画で見られる『ボンッ!!』と擬音が出る勢いの赤らめである。その光景をコッソリと見ていた高虎でさえ「ほぅ…将和殿に撫でられるのはよっぽど良いものか」と納得する有り様である。

 いつもの長慶なら顔を赤くして終わる……が、今回は年末であり酒も入って最高にハイッて状態である。そのため長慶は行動をした。

 

「ごくっ……ごくっ…ごくっ……プハァ!!」

「あっ俺の酒……」

 

 長慶は徳利を一気飲みをし据わった目を持ちながら将和にジロリと視線を向ける。向けられた将和は(あっ……夕夏だわこれ)と思っていた。

 

「兄様」

「はい」

「私に力をください」

「えっ……むぐっ」

「んちゅぷ、はぁ、ちゅぷ……れろぉ、じゅぷ、ちゅぷ、ちゅるっ、じゅるるっ、はぁ、ちゅぷ、じゅるるっ」

 

 長慶は皆から見えない位置で将和の唇を奪いあまつさえ舌まで絡めていた。

 長慶はタップリと5分程の時を使って将和との口吸いを楽しみにゆっくりと唇を離す。名残惜しそうに二人の唾液が糸を引き重力に引かれて落ちていく。

 

「……力は貰ったか?」

「……いえ、まだです兄様」

「………ちゅぷ……れろぉ、じゅぷ、ちゅぷ、ちゅるっ、じゅるるっ、はぁ、ちゅぷ、じゅるるっ」

 

 その言葉に将和自身が動いて長慶の唇に合わした。なお、今度は先ほどの倍である10分も頑張った模様である。ちなみに他の面々は既に酔い潰れており二人の行為を見ていなかったが一人は影から見ていたのである。

 

「……馬鹿……これじゃあ私、将和殿のを待ってる事になるじゃないの……あぁもう!!」

 

 そう叫ぶ久秀であった。そして新年が明けた1月2日、大きく動く事態が発生するのである。

 

「足利義輝が挙兵!! 中尾城に立て籠った模様です!!」

 

 足利義輝の挙兵であった。

 

 

 

 

 

 

 




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第十八話

戦極姫3の『月影-つきかげ-』を聞いてたらあっという間に出来た件


 

 

 

 

 

 義輝の挙兵に将和は元より三好家は驚愕した。

 

(やっぱりやりやがったけどさ……嘘だと言ってよバーニィ……)

 

 将和も思わず頭を抱える程だったのが挙兵したのが『義輝だけではない』からである。

 

「摂津の本願寺に紀伊の畠山、若狭の武田、備前の浦上で安芸の毛利……え、毛利ってマジで?」

「本当のようだぞ将和君。他にも因幡の山名とかな」

「宗全入道以降は負い目しかねぇ山名と言われても知らん」

 

 和夏の報告にフッと笑う将和である。

 

「それで当の発起人である義輝の行方は?」

「若狭だ。若狭の武田信豊の元に身を寄せて兵を借りた模様だな」

「所謂三好包囲網……だが網は一部を除き貧弱だな」

「将和君が警戒していた織田は今回参戦していないようだ」

「むしろそのまま参戦しないでほしいわ」

 

 将和は和夏の報告書を纏めると立ち上がる。

 

「早速軍儀をせんとやべぇぞ。特に本願寺相手にはな」

「本願寺には既に何人かを出して内部の事情を探らせている」

「頼む」

 

 将和はそのまま部屋を出て長慶達と軍儀に移行する。

 

「若狭への備えだが……」

「越前の朝倉と北近江の浅井に文を送ろう。両家の兵力なら若狭武田は簡単だろう」

「分かった。西への備えは?」

「播磨に軍を置く事で陸は大丈夫だろう。海は伊予の村上と冬康を使う。それで毛利は良い」

「やっとか兄さん」

 

 将和の言葉に冬康はニヤリと笑う。

 

「じゃあ本願寺は……?」

「長慶らの主力で包囲してくれ。俺は義輝の軍勢に当たる」

「兄様……」

「これまでの因果……断ち切る必要はある」

 

 心配そうな表情をする長慶に将和はそう応えた。

 

「故に俺が出向かねばならん」

 

 斯くして三好家は軍勢の準備を行い準備出来た軍から出陣するのである。

 

 

 

 三好軍第二部隊 15000

 総大将

 三好将和 1000

 配下武将

 三好政康 2000

 松永久秀 2000

 筒井順慶 2000

 島左近  2000

 藤堂高虎 2000

 赤井直正 2000

 

 

「政康は今回は此方で良いのか?」

「えぇ、本願寺に当たる事になれば近くにあるので」

「まぁいいけど。それで義輝の居場所は?」

「天王山の麓に陣取っているよ」

「……何?」

 

 行軍中、和夏からの報告に将和は思わず和夏の方向を見る。

 

「それは本当か?」

「あぁ。だが……(例の場所は見つかってない)」

 

 ボソッと将和に耳打ちをする和夏である。その言葉を聞いてホッとする将和である。

 

「分かった。ならこのまま山崎まで進軍しよう」

 

 将和の軍勢はそのまま山崎まで進軍するのであるがその一方で天王山の麓に陣を構えた足利義輝は挙兵に参加した大名の一覧を書状で見ていた。

 

「チッ、上杉や武田は参戦せねなんだか……」

「両家を参戦するなら両家の和睦が必要です」

「空手形では無理だったか……」

 

 義輝は上杉と武田に書状を出してそれぞれ能登、信濃の所有を認める事で参戦を促していた。

 また織田にも書状を出していたが信長も無視をしていた。

 

「颯馬……包囲網には反対、それで良いのだな?」

「はい信長様。今、織田家は伊勢の攻略真っ最中であり兵力の分割は避けるべきです」

 

 岐阜城で織田家の軍師である天城颯馬は主君である信長に説明をする。

 

「それに竹千代の三河で一向一揆も発生している……成る程、援軍の必要があれば直ぐに駆けつける事が出来ような」

「……結果論ですね」

「ククッ……デアルカ」

 

 信長は笑いながら立ち上がる。

 

「三好包囲網への参戦は取り止めだ。このまま伊勢を食らうぞ!!」

『オオォォォォォ!!』

 

 織田家は包囲網に参戦せず伊勢攻略に専念するのである。そして義輝の軍勢と将和の軍勢は山崎で衝突する。後の歴史家達からは『第一次山崎の戦い』と呼ばれる戦いである。

 永荒沼の四方を政康・高虎・直正・左近の隊を囲み、天王山には順慶隊がその麓に将和の本陣があった。その一方で義輝の軍勢は鶴翼の陣形を取りつつも義輝の本陣はその後方にあった。

 戦いの幕を開けさせたのは政康隊だった。0530頃、朝日が登ろうとしていた時、政康隊2000は真っ直ぐ突っ込んだ。

 

「掛かれェ!! 三好家の興廃はこの一戦にあるわよ!!」

 

 政康自ら馬上して先頭に立ち突撃する。無論、2000の兵は大将自らの突撃に士気がうなぎ登りなのは言うまでもない。

 政康隊は若狭衆の宇野弥七の陣に突っ込んだ。

 

「前の敵だけを殺して突き進むのよ!!」

「政康殿に遅れるな!! 藤堂隊も突っ込むぞ!!」

 

 次いで突撃したのは高虎隊である。高虎隊は同じ若狭衆の山県盛信の陣に突撃をして激しい斬り合いを展開する。だがその側面を摂津国人の池田・伊丹衆が突っ込んで両隊の動きを止めようとする。

 が、いざ足軽達が突撃すれば銃声が響いて足軽達は次々と倒れていく。

 

「しまった、鉄砲か!?」

 

 報告を聞いた伊丹親興は叫ぶ。直正隊の鉄砲隊と天王山に陣取る順慶隊が鉄砲を撃って池田・伊丹隊の足を止めさせたのである。

 足が止まった池田・伊丹隊に突っ込んだのは左近隊である。

 

「いてまえカラクリ左近!!」

 

 騎馬が中心の左近隊はただ一通過する。後はカラクリ左近の一撫でにより敵兵は吹き飛ばされる。

 

「押し返せェ!!」

 

 それでも将軍側は三好軍の正面を突破しようとするが戦闘は膠着状態になる。義輝も更なる兵を投入して膠着状態を打破しようとしていたがそれでも打破は出来なかった。

 苛立ちが募る義輝の元に凶報が舞い込んでくるのは程なくの事である。

 

「敵将三好将和の軍勢が桂川の畔から進軍中!! 行き先はこの本陣に向かって来ています!!」

「何じゃと!?」

 

 物見の報告に義輝は床几から立ち上がる。戦線が膠着状態になった瞬間、将和は久秀と共に動いた。

 

「義輝の本陣に突っ込むぞ」

「楽しい事になるわね」

 

 将和の言葉に久秀は笑い乗馬する。将和も馬に乗り槍を持つ。

 

「狙うは足利義輝の頸ただ一つ!! それは以外は捨て置けェ!!」

『オオォォォォォ!!』

「突撃ィィィィィィィィィ!!」

 

 斯くして将和隊と久秀隊の3000は義輝の本陣目掛けて突撃する。義輝側も防御をするが前線に予備兵力を投入させてしまったので本陣の守りは少なかった。

 

「突き進めェ!!」

 

 将和は槍を振り回したり群がろうとする足軽の胸に突き刺したりと義輝の元へ向かう。そして将和は二人の女武将を見つける。一人は金髪、もう一人は黒髪、戦極姫を知る将和にとって義輝は直ぐに分かった。

 

「あ・し・か・が・よ・し・て・るゥゥゥゥゥゥゥ!!」

「ぬゥッ!!」

「させません」

 

 黒髪ーーー細川幽斎は自身の弓を構えて将和に放つ。放たれた矢は将和の左腕二の腕付近にグサリと突き刺さる。

 走る痛みに将和は耐えつつも槍を投擲する。投擲した槍は避けられたが牽制でなら十分だった。

 近くで馬から降りて将和は太刀を抜き中段の構えをする。対して義輝も太刀を抜き同じく構える。

 

「「………」」

 

 動かしたのは政康の怒号だった。

 

「敵将宇野弥七!! 三好政康が討ち取ったァ!!」

「ッ!?」

 

 怒号に反応したのは義輝だった。味方が討たれた事にピクリと肩を動かしたのだ。

 

「アアァァァァァ!!」

 

 将和が動く。中段から一気に突きを入れて義輝の太刀を破壊しようとする。

 

「小賢しい!!」

 

 それでも義輝は刃を滑らして袈裟斬りをしようとするが将和は鍔で受け止めて鍔迫り合いとなる。

 

「くっ……」

「ッ……」

「らァ!!」

「ゴホッ!?」

 

 将和は右足で義輝の腹を蹴る。義輝は態勢を崩すも後ろに飛んで将和との距離を開き両者は再度構える。

 

「「………はァァァァァァァァ!!」」

 

 一瞬だった。互いに駆け抜け袈裟斬りをしようとしたが鍔迫り合いとなるがそれは一瞬であり将和は義輝の目前に迫る。

 

「なッ!?」

 

 将和が喰らわせたのは右肘による肘打ち(エルボー)であった。それを義輝は鼻にマトモに食らったのである。

 

「………」

「義輝様!?」

 

 フラフラと後ろに下がり膝から地面に付き、幽斎が駆け寄る。地面には鼻血が垂れて赤い池を形成する。よっぽどマトモに食らったのだろう。

 かなりの出血であり恐らくは脳震盪もしているかもしれない。

 幽斎とその手勢は将和に殺気を出して警戒しつつも義輝を抱き上げて退避する。

 

「全軍引きなさい!!」

 

 足利軍は敗走状態となる。将和はあえて追撃を出す事はしなかった。

 

「出さないのかしら?」

「後々がめんどいからな」

「それもそうね」

 

 斯くして第一次山崎の戦いは三好軍の勝利となるのである。

 

 

 

 

 




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第十九話

 

 

 

 

敗走した義輝らの軍勢は中尾城に立て籠り徹底抗戦の構えを見せていた。そのため将和は京へ入城する事を止めて勝竜寺城に入城して義輝の出方を見るのである。

 

「義輝は逃げると思うわよ」

 

 矢を二の腕に受けた治療中、久秀は将和に言うが将和もそう思っていた。

 

「まぁそうなるな。だが義輝が逃げる事で包囲網も瓦解する確率は高くなる」

「それに期待するしかないわね」

 

 だが思わぬところから声が掛かるのである。

 

「義輝と和睦せよ……と?」

「左様でおじゃる」

 

 勝竜寺城に入城してから数日後、京から来たのは関白二条晴良だった。

 

「京に火の手が及ぶかもしれないという御懸念でしょうがそれには……」

「畏き所からの要請……でもおじゃるか?」

「………」

 

 晴良の言葉に将和は固まった。つまり和睦はーー。

 

「畏き所も望んでいると?」

「如何にも」

 

 将和の問いに晴良は頷く。

 

「将軍が今潰れるのは帝も望んではおらんのじゃよ……それとも……三好家が今、成り代わるかの?」

「………」

 

 今はその余裕はなかった。将和としても何れは……と思案していたのだが晴良のは早かったのである。

 

「……分かりました。長慶と相談をして直ぐにでも返事を出しましょう」

「ホホホ、頼みますぞ」

 

 将和の方針は直ぐに決まり長慶に和睦の話が伝えられるのである。

 

「……堪忍やで三好はん」

 

 勝竜寺城から京へ戻る最中、晴良はポツリと呟く。

 

(三好包囲網の中には叡山の僧兵も含まれていた……もしこの僧兵が後白河の帝と同じ事をすれば京の都は混乱を極めてしまう……それだけは避けなければならないのでおじゃる)

 

 そう、帝は僧兵による都侵攻を警戒したのだ。有り得ないかもしれない、だが絶対ではないのである。

 

(済まぬでおじゃる)

 

 そう心の中で謝る晴良である。数日後、京の二条晴良の屋敷にて義輝との和睦が結ばれる。

 長慶も本願寺を包囲していたが本願寺側も「義輝が和睦するなら……」と和睦が成立し成立後に急いで駆け付けたのである。

 

「ではこれにて和睦が成立したでおじゃる」

『………』

 

 晴良はにこやかに告げるが義輝はずっと将和を見ていた。それを見た長慶も義輝を見て警戒している。

 

「兄様、早く行きましょう」

「ん」

 

 将和は長慶に急かされる形で場を後にするが廊下に出たところで義輝に呼び止められた。

 

「四の五は言わん。将和、妾の家臣にならぬか? そちが居れば室町の幕府は再び再興が出来ようと思うのじゃ」

「義輝様……ッ」

 

 義輝の言葉に長慶は将和の前に立とうとするが義輝の殺気に一瞬、すくんでしまう。

 

「控えろ。妾は今、三好将和と話をしているのじゃ」

 

 低く誰にも伝わる声でそう告げる義輝に長慶は何も言えなかった。

 

「どうじゃろう将和? 何なら……妾を嫁にしても良いぞ?」

「なァ!?」

 

 途端に頬を紅く染める義輝に長慶は驚愕の表情をする。

 

「将軍の妾に対しても遠慮なく戦い手傷を負わせた……妾はそのような男は好きじゃ」

 

 ニヤリと笑い口をペロリと舐める義輝に長慶はデフコン1の状態で警戒している。が、将和は苦笑するだけだった。

 

「義輝様、その話は自分にも良い話ですな」

「じゃろう?」

「ですが御断りさせてもらいます」

「……ほぅ、妾ーー将軍の命でもか?」

「如何にも」

 

 義輝の問いに将和は強く頷き長慶の頭をポンポンと撫でる。

 

「自分は長慶を天下を治める者として支えたいのでね」

「……幕府は信用ならんと?」

「泥舟に乗るよりかは三好家にいるのが良いですな」

 

 『沈みそうな舟には乗らない』

 

 消えかけの幕府にいるより躍進を続ける家のが良いという事である。

 

「ま、祝言の話も義輝様が白無垢を着て自分のところまで出向いてくれるなら良いですな」

「「なァーーーッ!?」」

 

 ニヤリと笑う将和の言葉に義輝と長慶は驚愕する。義輝は出向くという言葉に『三好に降れ』という意味を察し、長慶は将和が義輝のような者を好みだという事を察した。

 

「では失礼する。行こうか長慶」

「ま、待って兄様!? い、今のは言葉は……」

 

 足早に去る将和に長慶は慌てて将和の後を追いかけその場に残るのは義輝のみであるが、義輝は身体を震わせ柱に拳を叩きつける。

 

「三好将和……覚えておくのじゃ……妾は狙った者は逃がさんぞ……」

(顔を紅く染めていてはあまり威厳が無いです義輝様……)

 

 義輝の呟きを物陰から見ていた幽斎はそう思うのである。そして長慶は芥川山城に戻ると主だった者を集めて緊急の軍儀を開いた。

 

「由々しき事態だ。兄様の好みは胸が大きいのと武芸達者だ」

「……この中では政康が一番の候補です」

「……ッ…」

 

 長慶の言葉に長逸がそう答え、当の本人である政康はピクリと肩を動かしただけである。だがその表情は嬉しそうである。

 

「政康、兄様を義輝様の元へ行かしてはならない。私達も大きくしてから向かうからそれまでは兄様を引き留めよ」

「お任せを」

(………えっ、この軍儀は何だ?)

(別名『三好将和を篭絡して嫁にしてもらいたい軍儀』よ)

 

 端っこの方で高虎と久秀はそうヒソヒソと話していた。

 

(……別に将和殿はグイグイやれば良いんじゃないのか?)

(……貴女、まさか……)

(まだ一緒には寝てないが鍛練とか食事とかしてるぞ)

(………要注意ね……)

 

 ニカッと笑う高虎に久秀は深い溜め息を吐き、謎の言葉を思うのである。

 長慶らが将和対策をしている一方で将和は飯盛山城で内政に励んでいた。

 

(金儲けで清酒の作り方は教えたし……後は石鹸の製造法と綿花の栽培だな)

 

 将和は地元である河内にて石鹸を製造させて商人を通じて販売させていた。遠くでは九州の博多でも好評で売れているようだとか。

 

(特に綿花は重要だな。あれは需要が有りすぎる)

 

 綿花は大和で栽培されており使い道は包帯、火縄、衣服、布団等々である。

 

(関も順次廃止していかにゃならんしな……硝石の製造場所も増やさないとなぁ。そこは久秀と調整するか)

 

 報告書を見ながらそう思う将和である。

 

(堺は勝手に向こうから尻尾振ってきてるから問題は無い……が本願寺だな)

 

 先の包囲網でも本願寺は挙兵したが直ぐに長慶らに包囲されてそれらしい動きはしていなかった。

 

(見せかけだけの挙兵……という線もあるな)

 

 義輝からの要請に嫌々従ったという可能性も捨てきれなかったのだ。

 

(ならば本願寺の強みを調略するか)

 

 この後に将和は本願寺の強みとも言える雑賀衆に接触をするのである。

 

(そして紀伊の畠山……こいつは潰す。必ず潰す)

 

 紀伊の畠山高政は史実における久米田の戦いで三好実休を討ち取ったりしているので早期に潰す必要はあったのである。

 

(先に雑賀衆を足止めしてから畠山を潰すか)

 

 そう判断する将和である。斯くして長慶は将和の具申を受け入れて畠山討伐の軍勢を準備するのである。

 無論、将和は和夏を使い水面下で雑賀衆と接触を図り雑賀孫一こと鈴木重秀と会談をしていた。

 

「本願寺と手を切れと?」

「まぁ有り体に言えばですな」

「しかし……」

「まぁ直ぐにとは此方も言わぬ」

 

 将和はそう言って重秀に一丁の種子島を渡す。それはただの種子島ではなくあの改造生産された種子島改である。

 

「試し撃ちをしてみろ。それで決めても構わん」

「はぁ……」

 

 将和に言われて重秀は試し撃ちを数回するがその威力や射程距離に驚くのは言うまでもなかった。

 

「み、三好殿、この種子島は……」

「此方に付けば雑賀衆にこの種子島を提供しましょう」

 

 震える重秀に将和は営業スマイルを浮かべる。重秀はどう捉えたかは知らないが勢いよく首を縦に振る。

 

「す、直ぐに話し合いをします!!」

「良い返事を期待する」

 

 慌てて出ていく重秀に将和はそう言うのであった。なお、数日後に雑賀衆が三好家に臣従する事を伝えに重秀が来るのである。

 

 

 

 




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第二十話

 

 

 

 

 

雑賀衆を調略に成功した三好家はそのまま畠山討伐に乗り出した。無論、畠山高政もそれは承知しており軍勢を準備したが豊富な資金がある三好家には端から勝てる見込みはなかった。

 勝敗は僅か三日で決した。高政は先手を打とうと高屋城を攻めようとしたがその行く手を阻んだのが14000の兵力を率いている三好将和である。

 この高屋城の戦いで高政は戦力の大半を喪失し紀伊の岩室城へ逃げ帰るが調略していた雑賀衆、根来衆等に包囲され高政は一族と城兵の助命を条件に自害するのであった。

 なお、そのまま将和は紀伊へ侵攻、雑賀衆と根来衆と共に紀伊の国人衆(堀内党等)の粛清を行いつつ領地を占領していくのであった。

 

「鉄砲集団の根来と雑賀を丸ごと召し抱えとは……」

「武将待遇にしたら目の色変えたな。傭兵集団でも正規での雇用は妙薬だぞ」

「兄さん凄いな……」

 

 芥川山城での茶会で将和は長慶らとそう話していた。

 

「熊野水軍も順次、冬康の安宅水軍に組み込ませていく」

「まぁ紀伊は根来と雑賀に任せるとして……」

「問題は本願寺……」

 

 長慶の言葉に将和は点てられた茶を啜る。

 

「門徒衆は約二十万は下らん。しかも農民だけじゃなくて武士も浄土真宗を信仰しているからな。三河国の一向一揆という前例がある」

「……根絶やしはどうです?」

 

 不意に発したのは久秀だった。だが長慶は首を横に振る。

 

「駄目だ。根絶やしは時間が掛かる」

「……手を結ぶしかないな」

 

 史実の信長包囲網で本願寺は約十年に渡って信長を苦しめた。しかもその被害は半端なく一門衆や家臣を多数失っている程である。(例 織田信広 織田信興 氏家直元等)

 

「兄様、交渉役を願い出来るか?」

「ん、任された」

 

 将和は頷き、久秀、長逸ら共に本願寺と交渉に当たるのである。

 

「よう来なさったな。まぁ先に茶でもどないや?」

「頂きましょう」

 

 浄土真宗本願寺派第11代世宗主の顕如はにこやかに将和らを歓待した。

 

「しかしあんさんも大変やな、剣豪将軍に目を付けられてなぁ」

「かもしれませんなぁ」

 

 顕如からの軽いジャブに長逸はピクリと肩を動かしたが将和は苦笑しながら茶を啜る。

 

「あぁ堅苦しい席ちゃうから楽でええよ」

「忝ない」

 

 空になった将和の茶碗に顕如は再び茶を点てて入れる。

 

「あんさんの事や、三好家と仲良うせんかという事やろ?」

「如何にも。しかし、本願寺はそう易々と三好家と昵懇は出来ん……そうだろう?」

「せやなぁ、ワシらは王法為本に沿って行動してるからさかい。ワシらの王道は今のところは将軍家になるわ」

「でしょうなぁ……」

「やけど……縁を結ぶ事は出来るでしょ?」

「ほぅ……」

 

 顕如の言葉に将和はうっすらと笑みを浮かべる。

 

「実は今度、配下におる川那部の娘が池田勝正の家臣に輿入れをする予定やったんよ」

「予定やった……先日の山崎の戦いで討死をしたと?」

「正解やな。あんさんとこの藤堂が池田勝正を討ち取ったのはええんやけど、ついでにその家臣も首を取られてもうてな」

「その娘を……ですな?」

「せやな。ワシとしてはあんさんに嫁いでもらいたいけども……戦になりそうやから止めとくわ」

 

 顕如がそう言ってた時、長逸と久秀が臨戦態勢に移行したので顕如は止めといた。

 

(将和はん、とんだ畜生やなぁ)

 

 そう思う顕如である。そして将和も一人の男を思い浮かべた。

 

「ならば鬼十河は如何で?」

「鬼十河とな?」

 

 将和の言葉に顕如は目を見開いた。

 

「生憎、自分は無理なのでまだ一人身の一存を……ですがどうでしょう?」

「そらぁワシは構わんけど、ええんか?」

「ええんよ。そろそろ身を固めてもらわなあかんしな」

 

 将和はそう返す。未だに一人身(自分の事は棚に上げる)の一存なので丁度良いと考えたのだ。

 そして勝手に決められた一存は喜んでいた。

 

「祝言かよ、ありがとう兄貴!!」

「お、おぅ。けど一存も嫁が欲しかったのか」

「そりゃあ男としてはな。それに……」

「それに?」

「いや、何でもない(姉さんとかのを考えると俺がいない方が兄貴へ行くのもやり易いだろうし……)」

 

 普段から将和への事(動向を探る等)をやらされていた一存からすればそろそろ終着を迎えてほしいというのが本音だった。

 そのため自分も欲しいという欲望が生まれるのは以下仕方ないと言える。(俺も彼女欲しいし)

 それは兎も角、一存への輿入れはトントン拍子と決まり最初に話をしてから一月半後、芥川山城で祝言が挙げられた。

 

「ちよほと申します」

「う、うむ。よ、よろしく頼むぞ!!」

(滅茶噛みまくってるし……てか道糞の嫁さんやん……)

 

 荒木村重は山城の戦いで討死していたので一存にとっては打出の小槌かもしれない。

 なお、一存とちよほの夫婦仲は非常に良く一存は側室を持たず後に四男三女を育てる程であった。

 新婚の一存はさておき、本願寺との窓口を儲ける事が出来たのは良い事であり一向衆に関してもやり取りは可能となったのである。

 

(ま、付け刃に過ぎんけどな……)

 

 そう思う将和だが出来ないよりマシなのかもしれない。

 

「殿、これが報告書だ」

「ん、助かるよ」

 

 一存の祝言が終わると将和は高虎、和夏と共に居城である飯盛山城に戻り政務を行う。

 

「薩摩の島津が大隅に侵攻したようだな」

「あぁ、木崎原の戦いで日向の伊東を叩き潰したからな」

 

 僅か300人で3000の兵力を釣り野伏せを完成させ島津も壊滅状態になるが伊東軍も後に内部崩壊させる壊滅状態までさせるのだから凄いとしか言えない。(なお史実である)

 

「殿が以前から支援していたとは聞いていたけど……戦の報告を聞けば聞く程凄いな……」

「九州はヤバイからな……(史実であれだけ凄いとこの世界はどうなる事やら……)」

 

 そう思う将和である。なお、現在の島津は兵力を整えると大隅国へ侵攻、肝付氏の支配地域を次々と占領していっている。勿論勢力拡大ではなく元々島津が治めていた三州を取り戻すがための戦いである。

 

「取り敢えず九州は島津を支援しておくのが無難だ。まぁ大友が殴ってきたら島津は盛大に殴り返すと思う」

「大友が此方に視線を向けないためか……」

「まぁそれもあるな」

 

 高虎の言葉に将和は頷く。

 

「逆に大友は支援しないのか?」

「……大友は黒い噂があるからな」

 

 和夏の報告で将和は大友の小耳を挟んでいた。

 

(日本人を奴隷として売却して鉄砲や硝石、ビードロを購入していると聞く……支援する方がおかしいわな)

 

 かつて日本の宰相まで登り詰めて任されていた将和からすれば日本人の奴隷等言語道断である。また、和夏達で編成されている歩き巫女も日本人の奴隷があれば直ぐに購入して三好側の一員にしていた程である。

 

(奴隷として売られている者も技術者だったりする御宝でもあるからな。銭は直ぐに集めれるが職人は何十年と掛かる……)

 

 未来知識を保有している将和だからこそ出来る技と言って等しい。

 

「和夏」

「何だい?」

「南蛮人と接触してガレオン船の購入が出来ないか交渉してくれ」

「分かった。時間が掛かると思うが良いのかい?」

「構わん。そんな簡単に購入出来るとは思ってないからな。ゆっくりでいい」

「了解した」

 

 将和の言葉に和夏は頷くのである。

 

(後は反射炉とか作れたなぁ。次いでに転炉とかもだが普通に高炉で良いよな……)

 

 そう思う将和だがまずは作れるかどうかである。

 

(ま、現段階だと良くて反射炉程度か……。そこら辺は仕方ないとしても野砲は保有したいしなぁ……)

 

 将和が考えている野砲はかつて旧陸軍は元より幕末で使用されていた四斤山砲だった。

 

(あれなら触った事もあるしやり方は覚えてるから操作は教える事出来るからなぁ)

 

 だがやはり問題は生産である。

 

(仕方ない。炮烙玉や炮烙火矢で暫くは上手くやるしかないか)

 

 将和は溜め息を吐きながらも政務に取り掛かるのであった。

 

 

 

 




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三好家設定

第二十話までの設定です。


 

 

 

 

【三好家の構成】

 

 

  【三好家当主】

   三好長慶

 

 

  【家臣】

  三好一族

  三好将和(筆頭家老)

  三好実休

  安宅冬康(安宅(三好)水軍の長)

  十河一存

  三好長逸(三好三人衆)

  三好政康(三好三人衆)

  三好康長

 

  普代

  篠原氏

  一宮氏

  永井氏

  海部氏

  安宅氏

  森氏

  市原氏

  加地氏

  塩田氏

 

  畿内で登用

  岩成友通(三好三人衆)

  松永久秀

  松永長頼

 

  他摂津・京周辺・その他家臣は史実通り

 

  近江国

  浅井長政

  藤堂高虎

  磯野員昌

  遠藤直経

  宮部継潤

 

 

  丹波国

  赤井直正

 

  大和国

  筒井順慶

  島左近

 

  紀伊国

  雑賀衆(鈴木重秀)

  根来衆

  熊野水軍

 

 

 

 

 

  【三好家の領地】

 

   阿波

   讃岐

   河内

   和泉

   大和

   播磨

   摂津

   丹波

   近江

   紀伊

 

 

   

【挿絵表示】

 

 

 

  【三好家へ臣従する大名】

 

   伊予国 河野家

   土佐国 長曽我部家

 

 

  【三好家と対等な同盟の大名】

 

   越前国 朝倉家

 

  【三好家が支援する大名】

 

   薩摩国 島津家

 

 

 

  【三好将和への家臣構成及び居城】

 

  居城 飯盛山城

  直臣

  筒井順慶

  島左近

  藤堂高虎

 

 

 

  【三好家の軍事力】

 

 

 ・阿波、摂津(芥川山城)、河内(飯盛山城)にて各5000ずつの常備兵力を整えている。

 ・忍びの和夏を隊長とした諜報隊が各地で暗躍中。規模は約一個中隊200人程度。

 ・鉄砲も三桁を保有。また銃身内を螺旋状の溝にしてライフリングした改造鉄砲を島左近の指揮の元で生産中。何れは改造鉄砲に置き換わる模様。所謂日本版ミニエー銃である。

 なお、有効射程距離は300メートル。

 また、攻城戦の際は炮烙玉等の爆発兵器を使用する事もある。

 

 

 

 

 

 

 

   【将和への好意を持っている者】

 

   三好長慶

   三好政康

   三好長逸

   松永久秀(?)

   筒井順慶

   島左近

   藤堂高虎(?)

   足利義輝(?)

   織田信長(?)

 

 

 

 以下、文字合わせ

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああのああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ




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第二十一話

 

 

 

 

 

「最近、尼子が東に来ようとしているようだ」

「生野銀山を狙う気なんだろうな。経久に比べたら晴久の手の内は分かる」

 

 芥川山城で長慶と将和らは軍儀をしていた。だが報告をする和夏は首を振る。

 

「いや、どうやら今の尼子を指揮しているのは経久のようだ」

「経久!?」

 

 和夏の言葉に将和は目を見開いた。

 

「経久はまだ生きているのか!?」

「経久は鬼。鬼に歳は関係ないようだな……」

(あの婆……まさか……)

 

 将和はまさかと思う。

 

「当主の晴久を引摺り降ろした……?」

「……可能性はあるが……」

「だが今の尼子は出雲・伯耆・因幡・石見まで下がっている。播磨は我々が頂戴したから尼子の影響力は無いが……待て」

 

 将和は見ていた地図に扇子である地域を叩いた。その場所は安芸国だった。

 

「……毛利と組んだか」

「それこそ有り得ないぞ兄様」

「いや、複雑な中国地方の関係図を考えれば可能性は高い」

 

 二大戦国大名の締結に将和は頭を抱える。将和の予想は的中しており、毛利と尼子は手を結んで三好家に当たろうとしていたのである。

 

「お母さん、尼子と手を結んで良かったの?」

 

 安芸国にある吉田郡山城の一室で毛利元就の次女である吉川元春はそう元就に言う。部屋の中には他にも長女の毛利隆元、三女の小早川隆景、更に毛利秀包もいた。

 

「本来なら結ぶつもりはありませんよ元春」

「それなら……」

「尼子とは利害が一致したが故に結んだ……それだけよ」

「利害……博多を大友から奪う……」

「隆元、奪うとは少々言葉が過ぎるわ。返してもらうのよ」

 

 大内家の継承者であると自負する毛利家は大友に占領された博多の奪還は急務だったと言える。そのため東に活路を見出だそうとする尼子と局地的ながらの同盟であった。

 

「でもお母さん、今の三好家は何をするか分からないよ?」

「備前の宇喜多にも警戒する事は伝えてあるわ。海路も瀬戸内は村上水軍が抑えている」

(それでも……三好家が何を考えているのか……)

 

 隆元はそう思う。将軍家とガチで戦争をして和平ではあるものの勝利しているのだ。警戒しない方がおかしいだろう。

 そして三好家でも対毛利への警戒を厳にしていた。

 

「尼子など既に死に体だが万が一もある。山陽と山陰の両方から備える必要はあるだろう」

「だろうな」

「ですが全軍は出せません。将軍が怪しい動きをしています」

「またか……」

 

 長逸の報告に将和は溜め息を吐いた。あの将軍は余程三好家が気に入らないらしい。

 

「将軍には俺が当たろう」

「宜しいので?」

「あの将軍は俺を恨んでいるからな。俺が動けば奴も動く」

「……分かった。だが無茶はしないでくれ兄様」

「あぁ……と言いたいが……」

 

 将和は扇子で地図の京・安芸・出雲の場所をトントンと叩く。

 

「……奴等を引き離すか」

「離間の計……ですね」

 

 将和の言葉に長逸が反応する。

 

「あぁ。だが相手は謀略に謀略を重ねる毛利と尼子だ」

 

 そして将和はトントンと備前を扇子で叩く。

 

「毛利の餌には備前を使う。尼子には新宮党を利用する」

「備前……となると今、新興してきている宇喜多ですね」

「尼子の新宮党……ですが新宮党は粛清で……」

「確かに新宮党はガタガタだろうな……だが、御輿があれば……どうする?」

「……まさか」

「引き摺り降ろされた晴久を使う」

「何と……いやだが筋は合いますね」

「和夏」

「此処に」

 

 将和の呼びに天井裏で待機していた和夏が声を出す。

 

「諜報隊を存分に使い尼子・毛利の関係をズタズタに引き裂いて西の憂いを絶ち将軍と決着を付ける」

「任されよ。して作戦は?」

「うむ。作戦はーーーーーー」

 

 なお、将和の口から語られる作戦の内容には流石に長慶らもドン引きしたようである。

 

「兄様……」

「それは流石に引きますね~」

「え、そんなに……」

 

 なお、久秀は内容を聞いて目をキラキラさせていた。謀将としての血が騒いでいるのかもしれない。斯くして作戦は決行される。最初の手始めとして長慶率いる主力の軍勢36000が播磨の姫路城に入城し侵攻する構えをする。

 

「やはり山陽に来ますか……宇喜多に備えを伝えなさい」

「はっ」

 

 報告を受けた元就は宇喜多直家に書状を出す。だが直家はこの書状を破り捨て毛利と戦う構えをする。

 

「宜しいのですか兄上?」

「フッ、構いませんよ」

 

 直家は弟忠家の言葉にニヤリと笑いそう告げる。宇喜多家は現在、金光宗高を謀殺し御野郡岡山に城を築こうとしている最中だった。

 

「金光と三村を謀殺したのを黙殺してくれたのは感謝しますが……対三好に当てようとするのは些か府に落ちませんのでね」

「ですが三好家に味方をしても毛利との最前線になりますぞ?」

「まだ一途の望みはある」

 

 忠家の言葉に直家はそう返して多数の書状を見せる。

 

「これは……」

「以前から三好家の筆頭家老から書状を極秘に貰っていましてな……備前を対価に資金援助とか貰いましたよ」

「何と……」

「ワシらにも内密だったのか」

 

 直家の言葉に控えていた長船長親が呆れたような表情をしながら言う。

 

「ですが宇喜多家が急速に発展出来た謎も分かりました」

 

 戸川秀安も納得したように頷く。直家の指揮の下で宇喜多家は躍進し備前を支配するようになっていたのだ。

 だが忠家はまだ府に落ちない表情をしていた。

 

「ですが兄上。これだと毛利との……」

「うむ。お主が先程言ったようにこき使われる可能性はあるだろう……。だがいい子ちゃんを演じている方が何かと便利だ。馬鹿どもは直ぐに騙される」

「……暫くはこのままと?」

「そうなるね。まぁやる事は変わらないが……(隙を見て暗殺やれるなら暗殺でもしてみようか)」

 

 内心、そう思う直家である。そして直家の謀反に元就は静かにキレていた。

 

「そう……金光と三村の暗殺を黙殺した代償がこれですか……」

「お母さん、備前を攻める?」

「えぇ。準備をしておきなさい」

 

 毛利は吉川元春を総大将とし備前を攻める準備をするが西から急報が入る。

 

「何ですと? 大友が長門に攻める気配があると?」

「はっ。間者からの報告では軍勢を博多で整えていると……」

「……元春に軍勢を長門に布陣させるように伝えなさい」

「しかし、それでは……」

「備前より大友です」

 

 毛利は天下を望まない。しかし、博多を手に入れる事は別であった。というのも博多は元々大内家が所有しており大寧寺の変のイザコザで大友側に渡ったのだ。

 大内の後継者と宣伝する毛利としては博多の奪還は急務だったのだ。

 

(しかし……急な大友の動き……まさか……)

 

 元就は有り得ない答えを見出だしたが被りを振った。有り得ないと考えたのだ。

 

「備前は及び播磨へは見せる構えだけにします。後は尼子の女狐に任せます」

 

 元就はそう言うが尼子も尼子で問題が発生していた。

 

「何と申した? 晴久が謀反を企てていると……?」

「はっ、新宮党に潜入した間者からの報告では……」

「有り得ぬ……当主交代の際はちゃんとワシが丁寧に説明したではないか……」

 

 家臣亀井秀綱からの報告に経久は頭を抱える。当主交代は義輝からの三好家包囲網の結成によるものだった。今の晴久ではまだ尼子当主ではやりきれぬと判断した経久が尼子の当主となる事で山陰での影響力を少しでも増せようとしたからだった。そのため晴久も納得していた……筈だった。

 

「それと新宮党の中でも怪しい動きがあると……」

「チッ、やはり粛清した怒りが此方に向いたかや」

「それも粛清を晴久様に命じたのが……殿だと言う風潮が新宮党内であると……」

「……あの戯けどもめ……」

 

 経久はバキッと扇子を叩き割る。そして経久は思い付く。

 

(……まさかこれは……)

 

 他の間者によれば大友が長門に攻める気配を見せているのは聞いていた。そのため、毛利は備前攻略に用意していた軍勢を長門に張り付かせる羽目になったと聞く。

 

(………これがあやつの策であるなら……尼子は元より将軍家は恐ろしい者と対峙している事になるのぅ……)

 

 経久は直ぐに合点がいくように頷く。

 

「殿?」

「秀綱……東へは行く構えだけにするぞ」

「……罠と?」

「可能性は非常にある。ならばじゃ、ワシらは国内を固める。粛清した新宮党が怪しい動きをしているからのぅ」

「成る程……」

 

 無駄に兵力を減らすより国内を固めて軍備を増強するのが遥かにマシである。経久はそう判断したのだ。

 

「ククク……今回はその策に……乗ってやるかのぅ。次はこうはイカンがな」

 

 ニヤリと笑う経久だった。このように西は謀略を以て動きを封じる事に成功した将和だったが東からの動きは全く以て想定外だったのである。

 

「越後の上杉謙信、加賀国を攻略中!! 越前に迫る勢いです!!」

 

 越後の龍が動き出したのである。

 

 

 

 




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第二十二話

 

 

 

 

 

「クハハハハハハハ!! 今度こそ三好家も終わりじゃな!!」

 

 義輝は二条城で酒を飲みながら上機嫌だった。それもそのはず、越後の上杉謙信が正式に義輝に加勢する事を表明し加賀国へ侵攻を開始したからである。

 

「三好将和が苦しむ表情……肴が進むわい!!」

 

 そう楽しむ義輝であった。そして言われる将和はというと……。

 

「キレてる?」

「キレてないですよ。俺をキレさせたら大したもんですよ」

 

 長慶の居城である芥川山城で将和は久秀と何故かそのような冗談を言っていた。

 

「兄様、それは……?」

「気にするな」

「は、はぁ……」

「それはさておき……上杉の現状だが……」

「一言で表すなら加賀国を蹂躙する勢いです。迎撃に出た一向衆の主力五万をあっという間に蹴散らした模様です」

「うむ、一向衆は根絶やしだからな。その判断は良いぞ謙信。その判断の評価に百万年無税だ」

「何で敵を応援するんですか……」

 

 将和の呟きに長逸は溜め息を吐くも報告を続ける。

 

「上杉軍は現在、加賀国を攻略中であり全域を掌握するのも恐らくは10日は掛からない……と思っていましたが一向衆も激しい抵抗をしているのでそれ以上は掛かると思います。恐らくは三月は……」

「たくっ……まぁ上杉は厄介だなぁ……それで朝倉からは何か言ってきているか?」

「救援要請を求めています」

「だろうな」

 

 将和は頭をポリポリかいた。加賀という一向衆を長年相手してきた朝倉だが今度は上杉に変わるかもしれないという事態なのだ。藁にもすがる思いなのは明白だった。

 

「だが朝倉を見捨てたら近江への道が開いてしまう」

「ならば……」

「常備軍の一部である5000を率いて俺が向かう」

「兄様……ですが将軍家が……」

「将軍家は京を包囲してその間に関白を動かす」

「成る程。朝廷からの要請であれば……」

「それまでは俺が時を稼ぐ」

「兄様……」

「心配するな長慶。勝って帰ってくるよ(フラグじゃない……フラグじゃない……)」

 

 内心はそう思う将和である。

 

「取り敢えず義輝には尻叩き100連発の刑に処するか」

「し、尻叩き……」

 

 将和の呟きに反応したのは長慶や一存等将和の兄弟らだった。普段は何くそという表情をしている一存でさえ顔を青ざめているのだ。

 流石に不審に思った久秀は思わず隣にいた長逸にひそひそと話すのである。

 

(ちょっと、長慶様達の表情が鬼でも出たかのような表情をしているのだけれど……?)

(あぁ久秀殿は畿内で臣従したから分からないんですね。まぁ所謂将和殿の折檻です)

(折檻?)

(えぇ。長慶様らが元服する前、当主代理をしていた将和殿に悪戯をしまして……)

(それで折檻を?)

(長政殿らが止める間もなく容赦なく長慶様らの尻を……本気で叩いたみたいで……)

(それが記憶にこびりついているのね……)

 

 将和がキレるなんてよっぽどの事をしたのだろうと久秀はそう思う。なお、軍儀に久秀は将和に聞いてみた。

 

「あぁあの件か……メシの茶碗を開けたら茹でた蝦蟇が入っていてな……」

「ウェッ……」

「ハッと扉を見たら一存達がいて笑っていてな。そこで……キレたわけだな」

「あらあら」

「一番最初に一存と実休を掴まえてそのまま尻叩きよ。騒ぎを聞き付けた長政に止められたが仕置きとして関わった者……まぁ長慶も含めてだが……てか長慶から下全員の兄弟がやっていたからな。全員叩き終わったら俺も右手は腫れていたな」

「ウフフ……」

 

 良い情報を聞いたと思う久秀であった。なお、長慶は将和に尻叩きをやられて三日程愚図っていじけていた模様である。

 それはさておき、将和は常備軍の5000を率いて直ぐに越前へ向かったのである。なお、京には友通が3000の兵で駐屯し義輝の動向を見張るのである。

 将和の軍勢が越前一乗谷に到着した時、朝倉義景は涙を流しながら頭を下げた。

 

「将和殿ぉ……此度の援軍はありがとうございまずぅぅぅ……」

「当主が泣くなよ……」

 

 将和に抱きついてワンワン泣く義景に将和は溜め息を吐く。

 

「でもでも、本当に今の越前はヤバイんですよぉ……」

「分かりました分かりました。何とかやりましょう」

「どのような策を?」

「和夏」

「此処に」

 

 将和の言葉に山崎吉家が反応した。山崎の問いに将和は和夏を呼ぶ。

 

「忍びは何人来た?」

「全部で30人くらいだけど?」

「それで良い。上杉の食糧輸送路を襲撃して奴等を日干しにするんだ」

「任された」

 

 和夏はシュタッと作業に掛かり出す。

 

「成る程。メシが無ければ奴等は引き揚げますな」

「策の一つだがな(ゲームの謙信だから人狩りや乱取りはしないだろ……)」

 

 史実でも謙信が許可していたくらいである。

 

「義景殿、直ちに出陣の用意を願います」

「出陣……? まさか上杉に全力で……」

「それは最後の手段です。対陣をする事で和夏達の動きを出来る限り悟られないようにするためです」

「でも上杉が攻めてきたら……」

「……覚悟は決めておいてください」

 

 将和の言葉に義景は泣きそうな表情をするのであった。なお、朝倉側も覚悟を決めて総勢32000の兵力を加賀国に向けて進軍を開始した。

 三好・朝倉連合軍は手取川まで進軍しそこで陣を構えた。

 

「手取川を渡河して陣を構えたのか?」

「はっ、そのようで……」

 

 謙信は重臣である直江兼続からの報告に目を見開く。

 

「……朝倉義景は腹を括ったか、それとも阿呆となったか」

 

 謙信は薄ら笑いをしながら濁り酒が注がれた杯を啜る。

 

「宜しい。ならば手取川を義景の墓場としましょう」

「はっ。それと義景と三好家から援軍も……」

「三好家!? ならば長慶ですか!?」

「い、いえ。三好将和と申す者で……長慶の庶兄のようです」

「……興が削がれるな……」

 

 途端にやる気を無くす謙信だがそれでも全力でぶつかる事にしたのである。斯くして二日後に両軍は対陣するが上杉側は動く事はなかった。

 

「……薬が効いてきましたかな?」

「……かもしれませんな」

 

 ニヤリと笑う山崎吉家に将和はニヤリと笑い返す。効果はあった、最初に布陣した日に謙信は兼続からの報告に頭を抱えていた。

 

「食糧輸送がやられましたか……」

「どうやら忍びを使っているようで……」

「軒猿はどうしているので?」

「向こうの忍びを追っていますがどうやら返り討ちにされているのが多い模様です……」

 

 上杉側にも軒猿という忍びの集団は存在しており和夏らに戦ってはいたが、次期風魔小太郎としての腕前を持つ和夏を筆頭に精鋭の忍び隊に敗走していたのだ。

 

「……このままでは我が上杉は戦わずして敗北する事になる……」

 

 謙信の言葉は現実となる。上杉の陣にも和夏らは侵入をして食糧庫に放火をして上杉軍の糧食を焼き払う事に成功、メシ事情を更に悪化させるのである。そのため謙信は撤退を決断するのであった。

 

「……この屈辱……忘れはしない……」

 

 謙信は三好・朝倉連合軍の陣を睨みつつ夜間に撤退するのである。なお、義景は上杉軍が撤退した事に歓喜の涙を流すのであった。

 

「将和殿ぉ、本当に本当にありがとうございます!!」

「は、はぁ……」

 

 ブンブンと将和の手を握り腕を振り涙を流す義景である。なお、将和らの見送りには義景らほぼ全員が来ており義景達は将和らが見えなくなるまで頭を下げ続けるのであった。

 

「何や今回はカラクリ左近の出番は無かったなぁ……」

 

 帰りの道中で島左近がポツリと呟くが将和は苦笑する。

 

「まぁ今回は真正面からぶち当たる兵力は無かったしその準備も無かったからなぁ……次回に期待してくれ左近」

「まぁええで。そん代わりぃ将和はんが茶店で団子を奢ってな」

「奢り確定かよ……」

「ちょっと狡いですわよ左近さん!!」

 

 左近のやり口に反対するのはこれまた将和の隣で馬上の筒井順慶である。

 

「何や、順慶はんも一緒に食べたらええやん」

「な、ちょ……それも良いですわね」

 

 左近の言葉に驚愕する順慶だがそれもまた良しとし頷く順慶だった。

 

 

 

 

 




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第二十三話

お久しぶりです


 

 

 

 

 

 

「越前までわざわざ御足労でしたなぁ将和殿」

「いえなに、三好家の繁栄のためなら……」

 

 将和は京を訪れ関白二条晴良の元に赴いていた。

 

「京では噂しとりましたな。「軍神には三好家の筆頭家老も勝てないのではないか?」とな、まぁそれでも跳ね返したのが将和殿でおじゃる。将和殿の評価は高まるばかりでおじゃる」

「……それが些か厄介ですな」

「それを元に長慶殿の耳に入れる輩も増える可能性は無にではありまへんからな」

 

 晴良はそう言って将和が点てた茶を飲む。

 

「……それが将軍家であると?」

「はてさて……京の都は広いですからなぁ……」

 

 将和の問いに晴良はそう笑みを浮かべて返すがその表情は正解に等しかった。

 

「麿らも抑えてはおるが……はてさて、剣豪は刀を振るい知をも試したいと言うておる……難儀でおじゃる」

「将軍家が故に……ですな」

「うむ」

 

 将和の言葉に晴良は頷き茶を啜る。

 

「それもそうでおじゃるが……将和殿に一つ頼むがあるでおじゃる」

「……如何様に?」

「……伊勢でおじゃる」

「………………」

 

 晴良の言葉に将和は目を閉じ、幾分かの時を刻んで目を開いた。

 

「北畠家……でございますな?」

「……如何にもでおじゃる」

 

 晴良は溜め息を吐きながらも菓子を口に付ける。

 

「今現在、伊勢の北畠家は尾張の織田からの侵攻に劣勢……北伊勢は織田家が領有し残りは中伊勢と南伊勢のみ……しかも南伊勢は反北畠派が多いと聞くでおじゃる」

「そして北畠は元は貴族の出ですからな……」

「左様……伊勢が侵攻されていると聞いて帝も大層、心を痛めておるのじゃ。南朝の忠臣とは言え皇室を守護してきた家でおじゃる」

「……織田家と交渉をして北畠家の助命……ですな?」

「麿らも動く。帝も憂慮しているのじゃ」

「ならば……策は一つしかありますまい」

「な、何と!? 策があると言うのでおじゃるか?」

 

 将和の言葉に晴良は目を見開き身を乗り出す。その晴良の様子に苦笑しつつも口を開いた。

 

「……帝からの勅命です」

「ちょ、勅命かや!?」

 

 将和の言葉に晴良は目を見開き思わず茶器を落としてしまう。

 

「いや……しかし……じゃが……確かにそれは可能でおじゃるな……」

 

 腕を組み、ブツブツと呟く晴良。将和はそれを見つつ茶を点て新しい晴良の茶器に茶を注ぐ。

 

「手っ取り早くやるのであれば帝の勅命、これ以外に方法は有りませぬ」

「むぅ……」

「伝家の宝刀はギリギリまで使わない……しかし、そのギリギリを見逃しては伝家の宝刀とは言えません」

「成る程のぅ……伝家の宝刀は今がまさにその時と……」

「勅命が降れば織田も北畠を助命するでしょう。助命を拒否れば……織田家は朝敵となります故……」

「相分かった」

 

 将和の言葉を遮る形に晴良は決断した。

 

「将和殿、麿は直ぐにでも帝の元に参内致すでおじゃる。そして勅命を戴くでおじゃる」

「分かりもうした。ならば使者としては自分が……それと織田家には……」

 

 そして帝の元に参内した晴良は帝に事情を説明し帝も了承、勅命という形で織田・北畠の停戦の使者を三好家から向かわせる事になったのである。なお、三好家からは筆頭家老の将和が使者として、その護衛として高虎に島左近、兵500が付いていく事になったのである。

 

「それで岐阜城に行くのか?」

「いや、高岡城だ。高岡城を信長の軍勢が包囲していると聞く」

「成る程な。岐阜城で待つよりも直で行けるからなぁ」

 

 将和の返答に左近はそう呟く。そして一行は高岡城を包囲する織田軍に向かうのであるが警戒していた織田軍の小部隊と鉢合わせしてしまうのである。

 

「………」

 

 織田軍が構えた事で高虎と左近も武器を構えるがそれを制したのは将和であった。

 

「将和はん!?」

「逸るな左近、俺達は戦いに来たんじゃない。織田の軍勢とお見受けする。我等は三好家の者である。至急、織田信長殿と御会いしたい」

「えっ、信長様と?」

 

 小部隊の隊長らしき女性武将は将和の言葉に驚きつつも身なりは警戒をしていた。

 

「信長殿に取次をお願いしたい」

「は、はいッ!?」

 

 将和の言葉に女性武将ーー後に木下藤吉郎秀吉と判明ーーは直ぐに信長の元に向かい取次が認められたのである。

 

「此方です」

 

 将和が一つの陣幕に案内され開かれた幕を潜り中に入る。そこには織田家の各武将達が勢揃いをしておりその中央には床几に座った信長が夕食らしい湯漬を食していた。

 その信長の前には床几が置かれており将和はその床几に座る。それと同時に控えていた近習が将和に湯漬が入った食器と箸を渡す。

 

「宜しいのかな?」

「腹が減ってはなんとやらだ。何せ今から貴様と会話による戦をするからな」

 

 梅干しを食していた信長が将和に視線を向けニヤリと笑う。信長の様子に将和もニヤリと笑い返し湯漬を食するのであった。

 

「では話を聞こうか」

 

 湯漬を食してから信長が口を開いた。

 

「三好家筆頭家老、三好河内守将和でございます。信長殿には以前、堺で御会いしたと記憶が有りますが……?」

「ハハハ、バレていたか」

 

 信長の笑いに武将達の座に控えていた米五郎左こと丹羽長秀は溜め息を吐いていた。

 

「あの時は堺に鉄砲の買い付けに来ていてな。主君は息災か?」

「はっ。今は播磨を平定してから同国の治安維持を勤めています」

 

 将和の言葉に信長は眉をピクリと動かす。織田家は伊勢一国で手こずっているのに三好家は播磨を既に平定したと力の差を見せつけたとの意味合いも兼ねていた。

 

「それは重畳な事だ。だが、御使者よ。播磨も阿波も何れは織田家のモノになるかもやしれぬぞ?」

『……………』

 

 信長の言葉に場は緊張感に包まれる。それは織田が三好を食らうと皮肉っていた。それを高虎と左近も理解しており警戒はしていたが信長の発言に怒る筈の将和は大笑いをした。

 

「ハッハッハッハッハッハ。成る程、飛ぶ勢いがある織田家なら有り得るかもしれませんな」

「ハハハ、だろう?」

「しかし、それは織田家が尾張からの国替えかもしれませんな」

「ぶ、無礼であるぞ!!」

 

 将和の発言に「鬼柴田」こと柴田勝家が床几から立ち上がり反論をするが信長はそれを制した。

 

「控えい権六」

「し、しかし……」

「構わん。元々は私から言い出した事だ」

「………」

 

 信長の言葉に勝家は将和を睨みつつも座り直す。

 

「済まないな将和殿、意地悪が過ぎた」

「いえ、それは某もでございます」

「本題に入ろう」

「……これでございます」

 

 将和が懐から書状を取り出し近習に渡し、近習が信長に渡す。書状を一目した信長はニヤリと笑う。

 

「成る程、帝の勅命か」

「如何にも。今頃は北畠家の居城である大河内城にも朝廷からの使者が向かわれているでしょう」

「ふむ……では聞こう。仮に北畠家を助命して公家として京に戻るとしよう……空になった伊勢はどうするのだ?」

「それは今、侵攻している大名が持てば宜しいでしょう」

「ほぅ……?」

 

 将和の言葉に信長は興味深く将和を見る。

 

「それは朝廷も承知済みの事であるかな?」

「無論、関白の二条晴良様が帝に申し上げ帝も了承したとの事でございます」

「デアルカ」

「何か御懸念でも?」

「三好家の謀将とまで言われた御主の事だ、三好家の軍勢を伊勢に引き入れていると思っていたがな」

「おやおや、伊勢に軍勢を引き入れて欲しかったですかな?」

「それは勘弁願いたいな」

「でしょう? 我が三好家も無駄に敵を増やしたくはありませんので……今は癇癪を起こす剣豪将軍を殴るのだけで精一杯なのでね」

「ハッハッハ、それは良い」

 

 将和の言葉に大笑いをする信長である。

 

「しかし……御主が織田家に要れば織田家は躍進する力は更にあったというものを……どうだ? 三好家から織田家に来ぬか?」

 

 断る前提で信長は将和に問い掛けるが将和は苦笑しながらも口を開いた。

 

「残念ながら自分は三好家で飯を共にしています。嬉しくは思いますが下の兄妹が心配でしてな」

「ハハハ、それは仕方ない」

「ですが……」

「フム?」

「ですが信長殿が白無垢で自分の元に来れば話は違うかもしれませんな?」

『………………』

 

 将和の言葉に場はざわめき、派手な衣装を着している前田慶次等はケラケラと笑い木下藤吉郎は槍に手を掛けようとしていた。しかし、当の信長本人は高笑いをしていた。

 

「ハッハッハッハッハッハ。ウツケと唄われた私が白無垢か。コイツは傑作だ」

 

 暫くは高笑いをする信長だった。

 

「久しぶりに楽しい会話だった。感謝するぞ将和殿」

「それは良うございました」

「そうそう忘れていた……天城」

「はい」

 

 不意に呼ばれたのは徳川家から派遣された一人の軍師だった。

 

「こやつは天城颯馬。今は織田家にいるが訳あって徳川家から派遣されておる」

「ほぅ、織田家の躍進力の源ですかな(ウェーイ、マジで天城颯馬だわ……)」

 

 内心はそう思う将和である。

 

「三好家の謀将である御主に常々教授してもらいたいと口を漏らしていたのでな。一つ何か教授してもらえないか?」

「宜しいのですか? 自分は大したモノじゃありませんがね」

「いえ、そのような事は有りませぬ。何か一つでも良いので……」

 

 天城は将和にそう言う。将和は仕方ないとばかりに口を開いた。

 

「では一つ……戦に勝つ事は何であろうか?」

「戦に勝つ事……采配でしょうか?」

「違うな、それは短絡的過ぎる。戦に勝つ事……それは事前の準備だ」

「事前の準備……ですか?」

「準備が多ければ多い程、戦に勝つ確率は高くなる。まぁ九割だな」

「残りの一割は?」

「……大将に不測の事態が発生する事だな。まぁ討死したりとかのもんだよ」

「成る程」

「ま、後は考えるんだな」

 

 そう言う将和だった。数日後、帝からの勅命を承った北畠具教は降伏を決断し大河内城から一族を連れて信長の陣営を訪れ頭を下げたのである。降伏した具教に信長は約束通り北畠家の助命をし北畠家は朝廷からの使者と共に京へ上る事になるのであった。

 

「借り……ではあるがあまりやる事は無いぞ」

「まぁ義輝の味方をしないだけでも御の字だよ」

 

 大河内城に入城した将和は信長と二人きりの部屋でそう話していた。

 

「フム……」

「織田家とは何れ決戦……とは思っているがな。悪いが両家とも今はその時ではない」

「織田家を買ってくれているという認識で良いのか?」

「むしろ信長、君自身だな」

「フッそれは嬉しい評価だ」

 

 そう微笑む信長であった。

 

 

 

 

 

 




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第二十四話

やっぱ高橋椿も参戦√に行きます
その方がネタが浮かびやすかったので……


 

 

 

 

北畠家が伊勢から出た事で伊勢に侵攻していた織田家がそのまま伊勢を領有する事になった。これで織田家は尾張・美濃・伊勢の三国を保有する事になる。

 

「信長が東海の覇者で満足してくれるならいいけど……まぁ此方に来るわな」

 

 河内国飯盛山城に戻った将和は茶を飲みつつそう呟く。

 

「それで飯盛山城の増築をしているわけね」

「まぁ浸け刃に過ぎんかもしれんがな」

 

 茶に誘われてやってきた久秀は茶を啜りながらほぅと息を吐く。

 

「石垣で増築や普請しているみたいね」

「あぁ、石垣であれば地形に拘らずに自由に作れるからな」

 

 将和は飯盛山城の改築には高虎も関わっており飯盛山は元より麓の讃良郡(ささらぐん)の各村々等にも雇った常備軍の足軽達が住み着き、城下町は大規模に形成しつつあった。そこに水堀等を築き総構えの形成をしていたのだ。

 むしろ何処まで増築する気なのだと言いたい。

 

(だって地元やから地元有利にしたいやん)

 

 それは作者の話だろぅい!?

 

 

 

 

 

 

 とまぁそれはさておき、飯盛山城を久秀監修の下で魔改装中に将和は芥川山城での軍儀に参加した。

 

「やはり義輝が何か嗅ぎ回っているようです」

「とすると北畠の件で……?」

「それもあるようですが……腹心の細川幽斎が何度か若狭へ入国していると……」

「若狭に?」

「はい」

 

 将和の問いに長逸は頷く。

 

(むぅ……若狭に何かあったか……?)

 

 考える将和だったが答えが出てこなかったので和夏に探ってもらう事にした。

 

「和夏、義輝と幽斎の動向だけでいい。何か分かれば直ぐに報せてくれ」

「よしきた。報酬は弾ませてくれよ将和君」

 

 和夏はそう言って数人の忍びと共に若狭へ向かうのである。それから数週間、義輝は何のアクションも起こしては来なかった。

 

「むぅ……何を企んでいるやら……」

「今は二条御所に戻ってはいるようだけど、家臣の細川はいないみたいね」

 

 飯盛山城で将和は久秀と茶を供にしていた。和夏からの報告も忍びからの定時報告のみであり目立った動きはなかった。

 

「うーん……」

 

 唸る将和だったが解決案は出てこなかった。それから更に数日後、和夏が若狭から戻ってきた。

 

「……調べてはいたが義輝は若狭から兵の抽出の協力をしていたみたいだ」

「フム……対三好家の兵力かもな……分かった、ありがとう和夏」

「あぁ……」

「ん? どうした和夏? いつもなら「なら報酬の銭をくれ」と言ってくるのに……」

 

 飲み屋のツケがー、貢いでいる娘がーといつもなら言っている筈の和夏だが今日は大人しかった。

 

「まぁ……そういう日もあるさ」

「そうか、まぁゆっくり休んでくれ」

「分かったよ将和君……」

 

 そう言って忍びと部屋を退出する和夏だった。この時、将和は気にするべきだったろう。傍らにいた忍びは『将和が見た事無い忍び』だったから……。

 その日の夜、長慶は居城である芥川山城の寝室にて休んでいた。

 

「長慶様」

「ん、どうした?」

 

 宿直らしき近習が長慶に声をかけてきた。何かあったのかと長慶は襖を開け近習を見た瞬間だった。

 

「うっ………………」

 

 長慶は急に立ち眩み、そのまま廊下に倒れたのであった。その様子を和夏と見た事無い忍びが見ていた。

 

「……気絶したわね。なら運びましょう」

「……………」

 

 忍びの言葉に和夏は無言で頷き長慶を何処かに運んだ。その時の和夏の表情は無表情とも言えるモノだったのである。

 それから数日後、芥川山城で軍儀が開かれた。

 

「義輝に……将軍に兵を挙げようと思う」

『……………』

 

 長慶の開口一番の言葉に将和は違和感があった。今までの長慶ならまず相手の出方を探るからだ。珍しく将和が慎重論を唱えようとした。しかし、それを遮る者がいた。

 

「賛成です。今のままでは現状を打破出来ません」

「長逸……」

「そうですね~。将軍が京にいるならいっそのこと追い出してみましょうよ~」

「友通……」

 

 三好三人衆の長逸と友通がまさかの賛成を表明したのだ。驚く将和を他所に最後の一人である政康も口を開いた。

 

「アタシも賛成かな。政にはからっかしだけどこのままじゃあね……」

 

 政康の言葉に将和は頭を抱えた。今、此処にいるのは三人衆の他に将和と実休くらいだった。一存は淀城で義輝の出方を見るため待機していたのだ。それでも将和は反対を表明した。

 

「待て、やるのは構わないが既成事実というのが必要だ。それからでも遅くはない」

「だが兄上、今までそうしてきたがいつも先手を取られていたではないか」

「しかしだな長慶……(何だこの違和感は……)」

 

 結局、長慶のゴリ押しで義輝に兵を挙げる事になってしまった。

 

「兄貴、姉さんはどうしたんでしょうか……?」

「分からん……取り敢えず長慶と会ってくる」

 

 軍儀後、実休らが将和に心配の声をかけてきたので将和は長慶の部屋に向かったが近習から返ってきた言葉は面会拒絶だった。

 

「申し訳ありません。長慶様は今は誰にも会いたくないと……」

「……そうか……」

 

 近習の言葉に更なる疑惑が生じる将和だった。そして数日後、義輝が兵を挙げた。若狭国の兵が主力となる4000だった。義輝は再び天王山の麓に陣を構え三好家の出方を待った。

 

(たかが4000で……何を企んでいる?)

 

 将和も飯盛山城で兵7000を整えて長慶の軍勢と合流。再び天王山ーー山崎で合戦が始まったのである。

 

「……分からん。義輝は何を考えている……?」

 

 将和の部隊は長慶の本陣の右翼に展開していた。義輝は先方の政康の部隊と激突していたが一進一退の攻防をしていた。

 

「どうするの?」

「……考えていては埒があかん。此処は攻めに回ろう」

 

 久秀の問いに将和はそう答えて馬を用意させ乗り込んだ。

 

「俺は長慶の本陣に行って俺の部隊を出すようにしてくる。久秀も直ぐに出せるようにしておいてくれ」

「……分かったわ(……何かしらこの胸騒ぎは……?)」

 

 将和は馬を走らせ本陣に向かった。本陣でも兵はざわついていた。

 

「長慶!!」

「……おぉ兄上」

 

 将和は馬から降り床几に座る長慶の前に置かれた床几に座る。

 

「長慶、一進一退の攻防だが此処は攻めに回ろう。俺と久秀の部隊が先に突撃して義輝の部隊に圧力を掛ける。その隙に軍を左右に展開してくれ」

「分かった。なら先に『貴様の頸を取る』」

「えっ……」

 

 一瞬、長慶から何を言われたのか分からなかった。だが『何か』に気付いた瞬間、将和は床几から離れた。離れた刹那、数本の矢が床几に突き刺さった。

 

「どういう事だ……長逸!?」

「…………………」

 

 将和に矢を射掛けたのは長逸だった。だが長逸は無言であり将和は長慶に視線を向けた。

 

「何をしたいんだ長け……」

 

 軽い衝撃があった。その次には右脇腹からの激しい痛みが生じた。右脇腹に視線を向ければ長慶が脇差しで将和の右脇腹を突き刺していた。

 

「グっ……この……馬鹿野郎がァ!!」

 

 将和は左ストレートを長慶の左頬に叩き込み長慶を地に伏させた。

 

「あらら、まだそんな力があるのね」

「何……?」

 

 後ろからの声に振り返ると一人の女性が立っていた。その女性は将和の記憶が正しければ足利ルートで登場をする……。

 

「高橋……椿ッ!?」

「あら、私の名前を知っているのね。義輝から話は聞いていたけど、中々侮れないわね」

「へっ、そいつは有難いこった……どうせお前の事だ、催眠術でも駆使して長慶達を操っていたわけか!?」

「大正解……やっぱり貴方は脅威ね。私の力まで知っているなんてね……貴方は何者かしら?」

「人魚の肉を喰っていても分からんだろうよ……」

「……そこまでとはね……益々貴方は脅威だわ……」

 

 椿はそう言って持っていた槍を構える。対して将和は刺さっていた脇腹をゆっくりと抜いて倒れている長慶の目の前の地面に突き刺した。

 

「深く刺さってはいない……咄嗟に捻っていたのね」

「不意討ちはしないようにしていたからな……ッと!!」

 

 先手必勝、将和は短銃を椿に向け放った。弾丸は椿の額に命中、そのまま地面に倒れるが数秒して椿は立ち上がる。

 

「フフ、人魚の肉を喰らっているから死ぬ事は……あら?」

 

 椿が起き上がれば将和は正面にはおらず馬に乗っていた。

 

「バーカ、バーカ!! こういうのは逃げるが勝ちだ!!」

 

 将和はそのまま自分の部隊まで逃走したのである。

 

「あらら。だけど……逃がしはしないわよ。長慶?」

「……全軍に通達!! 三好家は此れより将軍家に味方する!! 敵は三好将和だ!!」

 

 三好軍はいきなりの混乱に訳が分からず立ち往生していた。

 

「ちょっと!? 何が本陣で遭ったのよ!!」

「話は後だ!! 部隊は飯盛山城へ撤退!!」

 

 本陣から帰ってきた血だらけの将和(応急手当済み)に久秀らは驚きつつも追撃してくる他の三好軍に攻撃しつつも飯盛山城へ撤退を開始したのである。

 将和らが飯盛山城へ逃げ込んでから数日後、三好家ーー長慶は将和を三好家からの除名及び将軍家の忠誠を誓い飯盛山城に立て籠る将和の討伐を宣言するのである。

 後の歴史家達からは「三好家の大内紛」と呼ばれる戦いであった。

 

 

 

 

 




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第二十五話

 

 

 

 

 

「事態は悪化するばかりね……」

「それは俺の事か?」

「馬鹿ね、三好家の事じゃない」

 

 飯盛山城で療養をする将和の話し相手に今日は久秀がしていた。長慶から受けた傷は思っていたよりも深く(腸等には損傷無し)今は療養をしていたのだ。

 

「三好家、貴方を謀叛人としたら色々四方から言われているじゃない」

 

 将和を切り捨てた三好家だが切り捨ててから数日後、朝廷から「三好河内守が謀叛人とは如何なる了見か!?」と関白の二条がわざわざ使者として芥川山城に出向き長慶らを罵倒する有り様だったと言う。

 他にも堺の商人達ーー今井宗久らの会合衆らも長慶が出した矢銭の提出を明確に拒否した。

 

「わてらは河内守はんと取引をして矢銭を提出していたんや。河内守はんがおらん三好家等に矢銭を出すわけにはイカンわ」

 

 後に見舞いで飯盛山城に訪れた今井宗久はそう言いながら茶を啜るのである。また、他にも紀伊や丹波等三好家が領有していた国の武将からも批難が相次ぎ将和に味方を表明するという書状が送られていたのである。

 また、長慶にとっての一番の打撃は一存、実休らが将和に味方を表明した事であろう。

 

「それで長慶様らは操られていると?」

「可能性は高いわな」

 

 将和は身体を起こして久秀に告げる。

 

「まぁそこら辺は藍がよく知っているからな」

「今は四国に戻っているものね……」

 

 藍は四国の細川らの説得に参加しており細川や四国勢も将和の味方を表明していた。つまり長慶は将和を包囲するつもりが逆に包囲され四面楚歌の状態だったのだ。

 

「だが兄貴、このままでもジリ貧だぞ」

 

 わざわざ淀城から兵を引き上げて飯盛山城まで駆けつけた一存が言う。

 

「それにこの内紛の騒ぎを聞き付けて他国が侵略してくる可能性は十分に……」

「それは分かっている。だが待て」

「けど兄貴」

「幸いにも此方には手札は多くある。これを大いに利用するさ」

「手札……?」

「そう……手札がな。というかあのクソ野郎の義輝はたたっきつぶしてやる」

 

 ニヤリと笑う将和である。そして盛大に高笑いをしていたのは二条御所の義輝だった。

 

「カッハッハッハッハッハッハッハッハ。今日程嬉しい事はないぞ幽斎」

「はい、喜ばしい限りです」

 

 数刻前から酒盛りをする義輝と付き添う幽斎と椿。その下座では長慶以下の三好家が勢揃いして義輝に土下座をしていた。

 

「見よ幽斎。この三好家の土下座を……妾は漸く此処まで来たのじゃ」

「はい……(でもそれは催眠によるモノ……対抗策を向こうが講じれば此方は……)」

「しかし椿、三好将和については後少しじゃったな」

「まぁそうね。でも此方が有利だから大丈夫よ」

「………」

 

 幽斎は何物にも言えぬ嫌な予感を覚えたが口に出す事はなかった。確証はなかったからであり胸の内に閉まっておく事にしたのである。

 

「ヤツは飯盛山城で籠るばかり……ヤツの慌てようが目に浮かぶわ。クハハハハハハハハハ!!」

「………(そうだと良いのですが……)」

 

 内心、そう思う幽斎だった。そして幽斎の心配した通りになってしまうのである。

 

「な、何じゃと!? わ、妾の将軍職を取り上げると申すのか!?」

「ホホホ、取り上げるのでは無い。返上せよと言うておるのじゃよ」

 

 翌日の二条御所にて響き渡る義輝の怒号に朝廷からの使者である山科言継は笑いながら扇子で口元を隠す。

 

「此度の件……帝は大層お怒りになられてのぅ……八百比丘尼を利用しての事は見過ごす事は出来んとの事じゃ」

「まさか……椿を……?」

「平安の高麗からの献上……帝に代々伝わる一人の女子を利用した悲しき過去じゃ……」

 

 言継はそう言うも深くは語らなかった。

 

「……椿を召し出せと!?」

「そのようではない。八百比丘尼を利用した貴様らに帝が愛想を尽かしたとの事じゃ。速やかに将軍職を帝に返上せよ。ただの異国の敵を討つための将軍職じゃからのぅ……日ノ本の乱を治められぬ足利家に異国の敵を討つ力は無いでおじゃろ?」

「貴様ァ!?」

 

 言継の言葉に義輝は携えていた刀を抜くが言継の目がカッと開いた。

 

「愚か者!! 麿の言葉は帝の言葉でおじゃる!! その方、怒りで麿を斬り捨ててみよ。朝敵となるは明白と理解せよ!!」

「グッ……」

 

 流石の義輝も朝敵という言葉には逆らえなかった。しぶしぶではあるが刀を納刀した。

 

「速やかに将軍職を返上せよ……良いな?」

 

 言継はそう告げ部屋を出る。出るのを確認した義輝は畳に拳をぶつけた。

 

「おのれ朝廷めが……」

「しかし朝廷が椿殿の事をご存知だったとは……椿殿も知っておられたので?」

「いえ……私も分からなかったわ。確かにあの時は朝廷……帝からの命で食してからは……逃げていたしね」

 

 幽斎の言葉に椿は『あの時』を思い出しながらそう言う。

 

「ですが義輝様、将軍職は……」

「返上せぬ」

 

 幽斎の言葉に義輝はそう答えた。

 

「……宜しいので?」

「構わぬ。朝廷もそこまで妾達を朝敵にするまで強くはせぬ筈……のらりくらりと避けつつ長く留まる」

 

 義輝の言葉に幽斎は頭を下げるのである。

 

 

 

 

 

 

「と、そのようにのらりくらりとかわしておるでおじゃる」

「……………」

 

 見舞いにと飯盛山城に訪れた近衛前久が将和にそう告げる。なお、前久はニヤニヤとしていた。

 

「帝も大層お怒りになられてる……」

「朝敵に認定すると……?」

「帝や二条達はその気でおじゃる……が、御主はどうじゃな?」

「……………」

 

 前久の言葉に将和は無言で通した。仮に義輝らが朝敵認定されればその配下となっている長慶らにも類が及ぶは必須だった。

 

「義輝があの場で言継を斬れば直ぐに朝敵認定とされ御主を総大将とした討伐軍が編成されていた」

「……ご冗談を……」

「冗談と言えようかや? 御主の陣営には玉藻前がおるではないか?」

「…………」

 

 前久の言葉に将和の介護をしている藍がピクリと眉を潜めハッと気付いた前久は頭を下げる。

 

「済まぬ藍殿。御主を貶める事ではござらぬ。気分を害したのであればこれこの通り。頭を差し出す覚悟でおじゃる」

「……私は今は小少将でございます。昔の名は当に忘れもうしました」

 

 頭を下げる前久に小少将こと藍はクスリと笑う。どうやらわざとしていたのだろう。

 

「それは感謝致すでおじゃる」

「前久殿、話を戻しますが……出来れば伝家の宝刀は抜かないで頂きたく」

「ほぅ……抜かなくて良いのか?」

「如何にも。ちと藍に策があるようでございます」

「フフフ……」

「策が……?」

 

 前久の問いに藍はニコリと笑う。

 

「前久殿、実は京にお戻りの際は……」

 

 ヒソヒソと話す藍、それを聞いた前久はニヤリと笑った。

 

「うむうむ、良かろう。直ちに言いふらそう」

 

 前久は悪戯の餓鬼のように笑いながら見舞いを終え京に戻るのである。

 

「……成功すると思う?」

「するでしょう。だってあのアホですからね」

 

 将和の問いにも藍はニヤリと笑うのであった。更に数日後、義輝の元に一つの報告が来た。

 

「何? 三好将和が重病になったじゃと?」

「はい。飯盛山城に見舞いに行った近衛前久がそう帝に洩らしたそうです。どうやら傷の治りかけに乗馬した際に落馬したようで傷が再び開いたようで今度は高熱を発して魘されているとか……」

 

 長逸がそう報告すると義輝は高笑いをした。

 

「フハハハハハハ!! どうやらあの者に運は消えたようじゃな!!」

 

 義輝はそう言って酒を飲むが幽斎が具申する。

 

「義輝様、念のために忍びを……和夏を物見に出しては如何ですか? 更に上手くいけば三好将和を暗殺する事も……」

「フム……それもそうじゃな。和夏、飯盛山城の三好将和を探ってまいれ」

「御意」

 

 末席にいた和夏が頭を下げるとそのまま姿を消して飯盛山城に向かうのである。そして和夏は呆気なく藍に捕縛されたのであった。

 

「展開早くないか?」

「いや……私も将和の布団で隠れていたが……まさか早いとは……」

 

 藍は風聞を流す事で義輝が様子を探る若しくは襲撃に来ると判断しておりそれに備えて自身は将和の布団にくるまって待機していたのだ。しかし、捕らえてみればまさかの和夏本人とは思いも寄らなかったのである。

 

「取り敢えずそのまま催眠を解除する」

「どのように解除を?」

「簡単な事だ。向こうが掛けた力を更に上回る力で催眠を解除したら良い」

 

 藍はそう言って印を数回組んでから和夏の両肩をパンッと叩いた。叩かれた和夏はビクリと身体を震わせそのまま倒れた。

 

「お、おい和夏!?」

「大丈夫です」

 

 駆け寄ろうとした将和を藍が止める。その間にも和夏はビクビクッと震わせていたがやがては震えも無くなった。

 

「……終わりました。後は数刻もすれば目を覚ますでしょう」

「そうか……一先ずは良かった……」

 

 藍の言葉に将和は安堵の息を吐くのである。

 

「てか、あの印は何のやつだ?」

「あぁ……あれは適当にやりましたよ」

「適当!?」

「相手の身体に力を送れば良いだけなので……まぁソレっぽいのをやれば面白いかなと……」

「お、おぅ。まぁそれで頼むわ」

 

 アハハハと乾いた笑いをする将和である。なお、和夏は二刻程で目を覚ました。目を覚まして和夏が最初にした事は将和の元に白装束で参り大量の涙を流しながら土下座をした事である。

 

「……頭を上げろ和夏。話が出来ん」

「しかしだ将和君!! ワケの分からない妖術に操られていたとはいえ主君たる君を裏切りあまつさえその命まで奪おうとしたのだ。その責を取らねば……私は……私は!!」

 

 和夏は身体を震わせ泣く。だが、将和は和夏に寄り正面に座る。座った事で和夏はビクリと身体を震わせるも将和を見据えた。

 

「和夏、勝負の世界だ。操られたのは仕方ない事だ」

「………」

「その責はお前を操った高橋椿。奴のみだ」

「………」

「和夏、責を感じるのであれば……俺の為に力を貸してくれないか? お前は俺の忍びだ。俺の為にその力、貸してはくれないか?」

「………」

 

 将和の言葉に和夏は袖で涙を拭き取り笑った。

 

「将和君にそう言われたら私も命を尽くそう。私の忍びの力、君に貸す……いや、捧げよう」

 

 和夏はそう言って将和に頭を下げるのであった。

 

 

 

 

 

 




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第二十六話

 

 

 

 

「相も変わらず義輝は将軍職を返上はせぬ……ですか」

「まぁ麿らもそれは予想していたでおじゃる」

 

 飯盛山城で将和と近衛前久は茶を共にしていた。なお、茶を点てているのは久秀である。

 

「伝家の宝刀の件については畏きところも承諾済みじゃ、骨が折れたぞい」

「真に感謝致します」

 

 前久の言葉に将和は頭を下げる。その様子に前久は笑う。

 

「ほほほ、構わんのじゃ。朝廷は今後も『三好家』とは贔屓にしていきたいと思うておる」

「……………」

 

 前久の言葉に将和はピクリと眉を動かす。

 

「前久殿、その意味は……」

「無論。長慶殿らも含まれておる」

「……感謝致します」

 

 ニコニコと笑う前久に将和は深く息を吐く。朝廷は義輝側に付いている長慶達元三好側は許すとしてくれたのだ。

 

「畏きところも長慶殿らが義輝らによって操られている事は承知しておる。御主のやりたいようにやれば宜しいでおじゃる。御主には今回世話になったしのぅ」

 

 将和は長慶達の罪軽減のために朝廷にかなりの援助をしていた。三好家の資金がかなり低下はしたがその分、援助により多くの貴族達が救われたのは言うまでもない。

 なので貴族達もそれに報いるために色々と動いていたのだ。今回の三好家騒動で尼子と毛利が味方を表明してきた。

 どうやら朝廷側が官位を渡す事に同意した事で二家も将和側に味方を表明したのだ。だが義輝側も負けてはいない。

 関東管領の上杉は義輝側に味方を表明していたがどうやら前回の朝倉との一件もあったので義輝側に味方したのだ。

 なお、敵として認定した将和は上杉に書状を送ったが書状を読んだ謙信が思わず書状を破り捨てる程だったらしい。

 

「それで……いつやるのでおじゃる?」

「少なくとも三月以内には」

 

 将和の言葉に茶を飲んでいた久秀の目が見開いた。つまりは決戦をやる気なのである。それは前久も同じであり思わず前屈みになる。

 

「そ、それは真で……」

「おっと、そこから先は内密に。いつ義輝側の間諜がいるか分かりませんからな」

 

 続けて喋ろうとした前久に将和はニヤリと笑う。将和の表情に前久は将和に勝つ自信があると理解したのかニヤリと笑い返しその後は茶を共にして京へ帰った。

 

「本当に三月以内に挑むの?」

 

 前久が帰った後、茶器を片付けている久秀がポツリと将和に呟いた。問われた将和は茶菓子を口に入れた。

 

「まぁな」

「勝算は?」

「あるから挑むんだよ」

「成る程ね。なら作戦は?」

 

 久秀の言葉に将和はニヤリと笑う。

 

「卑怯な事をして奴等を山崎に誘い出す」

「……もしかして……」

「そう、そのもしかしてだ」

 

 それから数日後、京の義輝が居城とする二条城では義輝が幽斎からの報告に目を見開いた。

 

「何じゃと? 三好将和が出兵したと?」

「はい。河内飯盛山城から凡そ7000。更に岸和田城の十河、若江城の藤堂、信貴山の松永らもそれぞれ3000ずつが出兵しています。行き先は此処京です」

「都合16000か……」

「此方も20000は揃える事は可能です」

「良い、ならば我等も出兵じゃ。此処で三好将和の息の根を止めてやる。幽斎、合戦場は何処になろう?」

「恐らく……山崎です」

 

 義輝からの問いに幽斎は扇子を持って地図に指した。その場所は西国から京への道である山崎だった。幽斎はそこで決戦となると踏んでいた。

 

「相分かった。幽斎と椿は直ぐに軍勢を整えよ」

「「はっ」」

 

 義輝の言葉に二人は頭を下げ退出する。

 

「……何が狙いじゃ三好将和め……まぁ良かろう、今度こそ貴様の首をかっきってやる」

 

 義輝は庭を見ながらニヤリと笑みを浮かべるのであった。斯くして足利側も軍勢を整えた。

 主力は洗脳された三好長慶、三好政康、岩成友通、三好長逸等々でありその武勇、戦力に嘘偽りはなかった。

 だからこそ義輝には勝利する自信があったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、将和は想定以上の事をしでかすのである。

 

「山崎に布陣したら後はお茶するだけな」

「何でお茶なんだよ将兄……」

「まぁそこは何か理由あるんやろ」

 

 山崎へ行軍中、将和は一存や左近らとそう会話をしていた。

 

「というかあいつら、京から出ようとしても出れないからな」

「出れない……? どういう事ですの?」

 

 同じく乗馬していた順慶が首を傾げて将和に問う。

 

「京の東西って何処の勢力に囲まれていると思う?」

『………あっ……』

 

 そう、京の東西は反足利派である浅井と赤井が展開しているのだ。無論、義輝らが出陣すれば両家は直ぐにがら空きの京を狙うだろう。将和もそれを指示している。

 

(まぁ出てきたら出てきたで……奴等は死兵となるやもしれんな……)

 

 日本人が大好きな『乾坤一擲』という言葉。それはどの時代にも当てはまるだろう。

 桶狭間しかり関ヶ原しかり鳥羽・伏見しかり……真珠湾しかりである。

 

「さて……どう出る義輝? 俺達はどれでも盛大に迎えてやるぞ」

 

 将和は京の方向を見ながらニヤリと笑みを浮かべるのである。そして義輝はというと……。

 

「構わぬ。三好将和を討てれば問題は無い」

「ですが……」

「心配はいらぬよ幽斎」

 

 心配する幽斎を他所に義輝はそう言う。その様子に幽斎も最早何も言うまいと頭を下げるのである。そして足利軍は総勢二万で京を出陣し山崎へ向かうのである。無論、その出陣の様子は和夏らの忍びも確認している。

 

「そうか、義輝は来るか」

「うん。それと長慶様らの軍勢も確認出来たよ」

「……そうか」

 

 和夏の言葉に将和はゆっくりと頷く。

 

「久秀らを集めてくれ。作戦を説明する」

 

 そして久秀ら諸将らが集められて将和の口頭による作戦が説明された。

 

「マジか将兄……」

「おぅとも」

「やっぱ貴方馬鹿ね」

 

 驚く一存に呆れる久秀である。

 

「馬鹿は嫌いか?」

「……でも嫌いではないわね」

「だろう?」

 

 苦笑する久秀の言葉に将和にニカッと笑い改めて皆と向き合う。

 

「この一戦に俺達の全てを掛ける。……『三好家の荒廃、この一戦に有り!! 各員一層奮励努力せよ!!』」

『オォォォォォ!!』

「あ、それと高虎だが……」

「お、私に美味しい役か」

 

 そして将和らは準備に取り掛かり翌日、両軍は山崎の地で激突するのである。

 

「掛かれェ!!」

『オォォォォォ!!』

 

 先に仕掛けたのは足利軍であった。足利軍は数に物を言わせての突撃である。対して三好軍はやや遅れての突撃だった。

 

「突撃ィィィ!!」

『ウワアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!』

 

 だがそれでも士気は三好軍が上だった。先に激突したのは三好政康隊3000と十河一存隊3000である。場所は山崎より下ーー今で言う京都線島本駅で激突していた。

 

「目を覚ませ政康!!」

「目を覚ますのは其方よ十河一存!! 足利家のために何故分からないの!!」

「くっ、これが洗脳ってヤツか……クワバラクワバラ……けど、正義があるのは此方なんでな!! 悪いが全力で対峙して捕縛するぜ!!」

(それって案外難しいと思いますぞ……)

 

 一存の叫びに十河隊の副将である七条兼仲は思わず心の中でツッコミを入れるのであった。

 次に激突したのは三好長逸隊3000と筒井順慶・島左近隊3000であった。場所は山崎から対岸の岩清水八幡宮付近、今で言う京阪線橋本駅付近で激突していた。

 

「無闇な突撃はしませんわ。気を待つのです」

「そらそうやけど持久戦になりそうやな」

「あら、案外そうはならないかもしれませんわよ」

「なしてですの?」

「だって将和様の指揮ですのよ?」

「あー……確かに」

 

 順慶の言葉に左近も思わず納得してしまうのである。その一方で井尻付近ーー今で言うイオン高槻店辺りーーで陣を構えていた将和は久秀と共に5000の兵を率いて出陣していた。

 

「狼煙、一本だ」

「はい!!」

 

 陣前で狼煙が一本挙げられる。狼煙を見た義輝は思わず床几から立ち上がる。

 

「馬を引くのじゃ!! 三好将和が来るぞ!!」

「やはり来ますか?」

「そうじゃ、妾の直感じゃがヤツは来る!! 妾の元へな!!」

 

 幽斎の言葉に義輝は連れて来られた馬に乗る。その後ろは幽斎は元より椿、洗脳された長慶と岩成友通がいた。

 

「全軍で突撃するのじゃ!! 見よ、政康隊らのあの隙間を!!」

 

 義輝の指指す先には絶妙に空いた空間があった。将和と久秀の軍勢はそこに向かっていた。

 

「ならばこそ、妾達も突撃する。乱戦に持ち込めばヤツなど妾の刀の錆びにしてやる!!」

 

 そして義輝は発した。

 

「突撃!! 者共突っ込めェ!!」

『オォォォォォ!!』

 

 斯くして義輝の本隊14000が将和隊5000に襲い掛かろうと駆け出した。それを隠密行動中の和夏は確認し部下の忍びに命じて狼煙を挙げた。その数は三本であった。

 

「狼煙です!!」

「数は!?」

「三本です!!」

 

 家臣からの報告に十方山に潜伏していた藤堂高虎はニヤリと笑う。

 

「まさか将和のヤツ……本隊も囮にして私を突っ込ませるとはな……」

 

 十方山に潜伏していた藤堂高虎隊は主力の本隊に匹敵する5000でありそれこそが将和の『乾坤一擲』だった。

 

「旗竿を掲げろ!! 雄叫びを上げろ!! 足利義輝の後方に回り込んでヤツらを挟み撃ちだ!!」

『オォォォォォ!!』

「藤堂隊、突撃ィィィ!!」

『ウワアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!』

 

 斯くして将和の策は整ったのである。

 

 

 

 

 

 




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第二十七話

 

 

 

 

「旗竿を掲げろ!! 雄叫びを上げろ!! 足利義輝の後方に回り込んでヤツらを挟み撃ちだ!!」

『オォォォォォ!!』

「藤堂隊、突撃ィィィ!!」

『ウワアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!』

 

 十方山から一斉に藤堂の旗竿が挙がるとそのまま雄叫びを上げながら山を降りていく。向かう先は将和の軍勢に向かって突撃した足利軍の後方であった。

 

「じ、十方山から謎の軍勢が!?」

「何!?」

「報告!! 謎の軍勢は藤堂高虎の軍勢です!! 凡そ5000!!」

「5000!? やられた、おのれ三好将和め。やりおったな!?」

 

 伝令からの報告に義輝は叫ぶ。だがその間にも挟み撃ちの包囲網は形成されつつあったのだ。

 

「後方の藤堂には岩成友通を当てよ!! 我等は将和に当たれ。将和さえ討ち取ればこの戦、妾達の勝ちじゃ!!」

『オォォォォォ!!』

 

 義輝は後方の藤堂隊5000には急遽編成された岩成友通隊7000で足止めをする事にし残り7000は将和の本隊5000と激突したのである。

 

「足利義輝ゥゥゥゥゥ!!」

『ッ!?』

 

 将和の叫び声に義輝達は身体を震わせる。その叫びの先に将和はいた。それを見た義輝も震わせていた身体を叩いて発散させ刀を抜刀する。

 

「三好将和ゥゥゥゥゥ!!」

 

 義輝は叫びながら馬を走らせる。対して将和も馬を走らせーー激突する。

 

「貴様さえ……貴様さえいなければ!!」

「残念無念また来週っと。どうせ幕府の限界はそこまで来ていたぞ義輝!!」

「だからこそ幕府を再興させるのじゃ!! 妾の手によってな!!」

「それが妖怪の洗脳でもか!!」

「そうじゃ!!」

 

 つばぜり合いをする両者に幽斎と椿は加勢をしようとするがそれを止めるのが久秀と和夏であった。

 

「和夏、貴女……」

「私を操り将和君を殺させようとした罪……許してはおけないな」

「フン、解けたなら再度操ればいいわ。それよりも一人忘れていないかしら?」

「三好将和ゥゥゥゥゥ!!」

 

 将和の後方から迫るのは双刀を持つ長慶だった。椿らにしてみれば長慶を当てれば勝機はあると思っていた。

 そう『思っていた』のだ。

 

「じゃかましぃわゴラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」

「ガァッ!?」

 

 迫り来る長慶を見た瞬間、つばぜり合いをしていた義輝の腹に右足での蹴りを入れてからその反動で走ってくる長慶に正対し長慶の太刀筋を何とか避けてそのまま右ストレートを長慶の右頬に叩き込んで地面に叩き伏せたのである。

 

「なッ!? い、幾ら兄弟でもそれはやり過ぎじゃろう!!」

「合戦場においてそのような情けは不要だ!! しかも貴様らが洗脳しておいてなら初めから正面から正々堂々と掛かってこい!!」

 

 長慶を叩き伏せた将和は義輝に正対して叫ぶ。

 

「それとも貴様……死ぬ覚悟はしてないから助けてほしいとでも?」

「な、何じゃとぉ……」

 

 将和の言葉に義輝は怒りで身体をワナワナと震わせる。

 

「その言葉、直ちに撤回せよ!!」

「なら掛かってこい、相手になってやる!!」

 

 そして互いに斬り合いが始まる。その数、30合は数えた。

 

(埒がアカンな……ならば決着をつけてやる!!)

 

 将和は蹴りで牽制を入れる。それを見た義輝は左腕で防ごうとしたが将和は好機と捉えた。

 

「おらァ!!」

「なッ!?」

 

 そのまま将和は右腕でのラリアットを義輝にかましたのである。義輝は勢い余って地面に叩きつけられた。

 将和は馬乗りになって拳を使って左右の頬を殴るのを始める。

 

「ガ、や、やめ……」

「止めると思ったら大間違いだ」

 

 両腕で防ごうとした義輝だが将和は鼻に拳を叩きつけてまたしても義輝は鼻の骨が折れる。だが将和は義輝の鼻の骨が折れようが殴る事はやめなかった。

 

「グェッ、ギィッ、ギュッ……」

「ちょっとやめなさいよ!!」

 

 殴る事を止めない将和に椿は何とか久秀の突破をしようとするが突破は出来なかった。むしろ三好実休、安宅冬康らに阻まれて近づく事が出来なかったのだ。更には将和の周囲には将和側の兵士が辺りを睨みを効かせていたので中々足利側は近づく事が出来なかったのだ。

 

「グィッ……」

「ちっ、意識を手放したか」

 

 頬が全体的に赤く腫れ上がり義輝本人かさえ分からないような姿だったが義輝が意識を手放した事で将和は漸く殴るのを止めた。

 

「降伏しろ」

「……分かりました」

「ちょっと幽斎!?」

「無駄です椿。それにこれ以上抵抗していては義輝様のお命にも関わります」

「うっ……分かったわ」

 

 幽斎の言葉に椿は抵抗を止めて槍を地面に置くのである。だが、まだ抵抗を止めない者もいたのである。

 

「義輝様ァ!!」

 

 気絶から回復した長慶(洗脳中)が再び将和に襲い掛かろうとしたのだ。

 

「このっ……馬鹿野郎がァ!!」

 

 将和は寸でで避けて再度右ストレートを長慶の顔に叩き込んで地面に叩き伏せたのである。今度こそ長慶もノックアウトであった。

 

「うへぇ……将兄、姉さんが相手でも容赦無いな……」

「それが命取りになる時もあるからな……」

 

 将和は駆け付けた一存の言葉に砂埃を叩きながらそう答える。

 

「各部隊の報告」

「一存隊、何とか政康は捕縛には成功したぜ。身柄は小少将に任せている」

「ん」

「順慶と左近隊も長逸殿の捕縛に成功しましたわ。今は小少将の元に移送中ですわ」

「ん。足利軍の雑兵どもは?」

「大半は合戦場から離脱しているわ。今、此処にいるのは降伏の雑兵を含めて約19000程度ね」

「よし……なら翌日に一存隊を先頭に京へ進軍する。戦には勝ったからな、凱旋をしないとな」

 

 将和はニヤリと笑うのであった。その後、足利軍を蹴散らした三好軍は合戦の翌日に軍勢を整えて京へ進軍し無事に入城したのである。

 

「ホホホ、此処で将和殿を迎える日をどれだけ待ち望んでいた事か……」

「左様左様」

「なに、運が良かった……それだけです」

 

 二条城で将和は近衛前久と二条晴良と茶をしていた。なお、茶を点てているのは久秀である。

 

「それで……御主はどうするつもりでおじゃる?」

「……一先ずは二人の意識が回復してから……それになるでしょうなぁ」

 

 前久の言葉に将和はそう答えるが嘘偽りではなかった。将和にボコボコにしばかれた義輝はまだ意識は回復していないし長慶もまだ寝たままである。ちなみに洗脳は藍によって解除されている。

 

「京では将和はんが鬼になったとまで言われとるからのぅ。お気をつけなはれや」

「肝に銘じておきます」

 

 晴良の言葉に将和は頭を下げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処は……」

 

 長慶は夢の中で草原に立っていた。その空では多くの何かが飛行していた。

 

「あれは……?」

「あれは飛行機って言うのよ」

 

 不意に声をかけられた。その方向に視線を向ければ数人の女性が立っていた。

 

「貴女方は……」

「そうねぇ……将和(あの人)のお嫁さんね」

「そうだなぁ」

「なっ……将兄に嫁がいたなんて聞いた事が……」

「まぁ『この時代』ではね」

「この時代……?」

 

 長慶はその言葉に首を傾げるが女性達は何も言わなかった。

 

「あの人に伝えておいて……私達の事は気にせず嫁を多くこさえても良いわよ。日ノ本にまだ暫くは頑張ってねと……」

「……よく分かりませんがしかと」

「それと……貴女は操られていたからあの人を傷つけた責任は無いわよ」

「ッ!?」

 

 女性の言葉に長慶の顔が歪む。が、女性は微笑んで長慶を抱き締める。

 

「大丈夫よ、あの人が愛してくれてるもの。だから貴女はあの人を愛してあげてね?」

「そ、それは勿論です!!」

 

 そこで長慶は急速に引っ張られる感触がありまたそこで意識を手放したのであった。

 

「………」

 

 目を覚ますとそこは知らない天井だった。長慶は周囲を見ようとした時、部屋の扉をガラッと開けられた。

 

「おっ目が覚めたか」

「ま、将兄……」

 

 入ってきたのは丁度見舞いに訪れた将和だった。長慶は将和を確認した瞬間、込み上げてきたナニカを堪える事が出来ず涙を流しながら将和に抱きつくのである。

 

「将兄……将兄……ッ!?」

「……よしよし、よく頑張ったな」

「……ウワアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

 頭をポンポンと撫でられた長慶は堰を切ったかのように泣き出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




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第二十八話

 

 

 

 

 長慶が意識を回復してから数時間後には義輝も意識を回復し取り敢えずは二人とも命に別状無しとまでは分かった。

 一先ずは長慶らと話しをしようと翌日に改めて二条城の一室で場を設けた。

 

「……何で白装束なの?」

「……今の私達にはこれくらいしか浮かびません故……」

 

 将和と正対した長慶らは白装束で並んで頭を下げての土下座をしていた。そんな長慶らに将和は溜め息を吐きながら近くによりーー扇子で長慶らの頭をペチペチと叩いた。

 

「俺からの仕置きはそれで勘弁してやるよ」

「で、でも兄様!?」

「三好家当主なら!!」

『ッ………』

「……三好家当主なら受け入れろ。お前は悪くない」

「……兄様ぁ」

「風評については近衛殿や二条殿が動いている。心配はするな。それと長逸、政康、友通」

『はいッ』

「逸って死ぬなよ? お前達は三好家三人衆なんだからな?」

『……はいッ!!』

 

 将和の言葉に三人は涙を流し平伏するのであった。そして場の解散しようとした将和だが長慶に止められた。

 

「どうした長慶?」

「……目が覚める前に夢を見ていた……」

「夢を?」

「空一面に鳥……? いや『ひこうき』と言っていたかな。その草原にいたんだ」

「『飛行機』……だと……?」

 

 長慶の言葉に将和は目を見開いた。この時代、飛行機は存在しない。何故長慶は知っていたのか?

 

「そこに数人の女性がいたんだ。その女性達と話しをしていた」

「………」

「その女性が兄様に伝言をと……『私達の事は気にせず嫁を多くこさえても良いわよ。日ノ本にまだ暫くは頑張ってね』と……」

「………」

 

 長慶の言葉に将和はカッと目を見開いた。その様子にただならぬ雰囲気だと一存や久秀達は思った。だが、将和は身体を震えさせると大笑いをした。

 

「アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!!!」

「兄様……?」

「アッハッハッハッハッハッハ………そうか……そうか……『夕夏』達にそう言われたら仕方ないわな」

 

 将和は笑いながらも涙を流していた。そして長慶は将和の『夕夏』という単語を聞き逃さなかった。

 

「兄様、その女性達を知っているのですか!?」

「おぅ……その女性達は俺の嫁達だな」

『よ、嫁達!?』

 

 将和の言葉に反応したのは長慶や久秀、所謂将和組に属する者達だった。

 

「ど、どういう事だ兄様!? 兄様は婚姻をしていなかったではないか!!」

「そうよ!! 確かに遊女とかそういった遊びにも手を出してはいなかったのに……」

「もしや男色かと思い稚児を近習に出したのに一切手を出さない程でしたのに……」

「……取り敢えずお前らが俺をどう思っていたのかよーく分かったぞ、特に長逸」

 

 最後の言葉は長逸でありジロリと睨まれた長逸は視線をそらしたのである。

 

「まぁ前世……此処だと未来になるかな……」

「前世……未来……?」

 

 将和の言葉に首を傾げる長慶である。

 

「まぁ……いいや。そろそろ話す時が来たのかもしれんな。紙と筆を貸してくれ」

 

 将和は紙と筆を取りサラサラと何かを書いた。

 

「記載した者達を近日中にこの二条城に集めてくれ。そこで俺の正体を明かそう」

 

 斯くして文が三好家の領地に飛び7日以内に二条城に主要人物達が集まったのである。

 集まったのは以下の通りである。

 

 ・三好家

 ・三好長慶

 ・十河一存

 ・三好実休

 ・安宅冬康

 ・野口冬長

 ・三好長逸

 ・三好政康

 ・岩成友通

 ・松永久秀

 ・筒井順慶

 ・島左近

 ・藤堂高虎

 ・小少将

 ・和夏

 

 ・浅井家

 ・浅井長政

 ・遠藤直経

 

 ・雑賀衆

 ・鈴木重秀

 

 ・足利家

 ・足利義輝

 ・細川幽斎

 ・高橋椿

 

 なお、義輝らも呼ばれ刀は取り上げられた状態ではあるが拘束もしていなかった。

 

「本日集まってもらったのは他でもない。俺の正体を明かそうと思ってな」

「正体?」

「そういう事だ」

 

 そこへスッと手を挙げたのは両頬の腫れも漸く引いてきた義輝だった。

 

「その前に……何故妾達もいるのじゃ?」

「まぁ……取り敢えずは関連する事だからな」

「何じゃと?」

 

 そして将和は改めて口を開いた。

 

「……これから語る事は俺が体験した事だ。お前らが信じるも信じないもお前ら次第だ」

 

 将和は一拍を置いて再度を口を開いた。

 

「俺はこの時代の人間じゃない。元は未来に生きていた日ノ本人だ」

 

 そして将和は語り出す。将和自身が体験した事を、将和が生死を懸けて日ノ本の荒廃を阻止するために自身が行ってきた事を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とまぁこんなところだな」

 

 将和は酒を飲みながら話し終えた。昼間から話したのに気付けば夜中に時刻が変わろうとしていた。

 

『……………………』

 

 話し終えた将和は酒をチビチビと飲むが長慶達はまた信じられそうになかったがふと左近が口を開いた。

 

「ウチは信じるで」

「左近……」

「将和はんが作った種子島改にはウチも関わっていたんや。そら疑問はあったで。でも此処で謎は解けたからウチは信じるわ」

 

 ニカッと笑う左近。技術者である左近も前々から不審に思ってはいたが将和の説明で納得したのだ。そして次に声をあげたのは高橋椿だった。

 

「そうなると私の催眠がバレていたのも納得出来るわね」

「しかし……人魚の肉を食べての不老不死とは……私の周囲にはいませんでしたね」

「藍は鳥羽上皇の時じゃないか」

「言っていませんでしたか? 九尾の狐なので長寿ですよ?」

「……もしかして『山海経』の時から……?」

「フフフ……」

 

 妖怪バレしてる藍はいつもの黒色の髪から狐と同じ金に近い色に戻しており細目は笑っていたが背筋に何かを感じた将和は話題を変える事にした。

 

「それで他に何か質問は?」

 

 その言葉に反応したのは久秀だった。

 

「貴方の歴史では私達は男……だったけども、どうなったのかは知っているのかしら?」

「あぁ知っている。聞きたいか?」

「……別に興味無いわ。どうせ私の最期なんて平蜘蛛に関連する事でしょうね」

「あ、それ正解」

「……聞かなかった事にするわ」

 

 そう言う久秀であった。

 

「それで……貴方はどうするの?」

「どうもこうもしない。俺は三好家の筆頭家老だ」

 

 久秀の言葉に将和はニヤリと笑いその言葉を聞いた長慶は安堵の息をコッソリと吐いていた。

 

「あら、貴方の事だから天下統一でもするんじゃないかしら?」

「よせよせ。俺は一度、日ノ本の頂点になってしまったからもういいさ」

「帝の次に偉くなったと言ってましたね」

「……ならば何故妾の邪魔をした?」

 

 義輝がポツリと呟いた言葉は部屋の温度を変えた。義輝は将和に視線を向けるがその眼には涙が溜まっていた。

 

「未来を知っているなら……何故……何故妾に協力をせんのじゃ!!」

「違うな。未来を知っているこそ室町幕府は終わらせねばならないんだよ」

 

 将和は義輝に歩み寄って座りポンポンと頭を撫でる。

 

「延元元年(1336年)に足利尊氏が幕府を成立させたが後醍醐天皇の南朝方と争っていた。三代義満の時に南朝と再度合体したけど嘉吉の乱で六代の義教が暗殺されてからは権威も著しく低下した。此処までは分かるな?」

 

 将和の言葉に義輝は無言で頷く。

 

「幕府が何とか態勢を建て直そうとしたが応仁の乱が約11年続いてしまいその余波が日ノ本全国にまで飛び火した……」

「……………」

「歴代の将軍は建て直そうとしたのは知っている。だが幕府の機能はほぼ喪失しているんだ。汚職の腐敗だらけだったしな」

「……妾の努力は無駄だと言いたいのか?」

「率直に言えばそうだな。無駄だな」

「ッ……………」

 

 将和の言葉が義輝の身体に重圧となって重くのし掛かった。

 

「時間が無かったとはいえ鎌倉幕府の機構をそのまま流用していてもな……まぁ後世からの意見だがな」

「だからこそ……壊すべきと?」

「壊すじゃないな。新しくするんだ」

 

 破壊と再生に似たようなモノであろう。

 

「妾は……どうすべきじゃった……?」

「そこは自分で考えて答えを出すべきだな」

 

 将和は肩を竦める。

 

「俺は答えを見つけてその答えのために走った。だからこそお前も答えを見つけるんだよ」

「妾の答え……」

 

 義輝は将和の言葉をぶつぶつと言うのであるが隣にいた幽斎は将和に頭を下げるのであった。

 

「取り敢えず今日は解散解散。夜中だし聞きたい事は明日でもいいぞ」

 

 将和の言葉に一存達も取り敢えずは解散する事にしたのである。将和も自室に戻り寝支度をしていた時、誰かの足音がした。

 

「誰か」

「兄様、私です」

「長慶か、どうした?」

 

 襖を開けると寝間着姿の長慶がいた。取り敢えずは部屋に通し長慶と正対する。

 

「どうした長慶?」

「……その……だな……」

 

 将和の言葉に長慶は顔を紅くしモジモジとする。

 

「ゆ、夢の話なんだが……」

「あぁ……確か夕夏の伝言か。んで?」

「その……夕夏さんに嫁の事を頼まれたのだが……わ、私じゃ駄目……かな……兄様?」

 

 長慶はその言葉を言い終えると顔を更に紅くし顔がゆでダコ状態になる。なお、その言葉を聞いた将和は目を見開いたままである。

 

「そ、その……兄様は庶兄だから三好家の血筋を少なくとも引いてはいないから……わ、私と祝言をしても……」

 

 だが長慶が言い終える前に将和は長慶を抱き締めた。そして頭をポンポンと撫でる。

 

「そうか……」

「あ、兄様。やはり……私では……ンムッ!?」

 

 長慶が何かを言う前に将和は長慶の唇を自身の唇と重ねた。将和の行動に長慶は目を白黒させるがやがて長慶は両手を将和の首に巻き付け口吸いを堪能する。

 5分はしたであろうか、将和は口吸いをしながら布団に長慶を誘導をし長慶はそれに従う。

 そして互いに離れるが二人が口吸いをした証拠である互いの唾液が橋となって布団に向かって落ちていく。

 

「兄様……」

「祝言に関してはちょっと待ってくれないか? ある程度の戦いを終わらせてからのが良いと思うからな」

「ッ!? じゃ、じゃあ……」

「お前に先を越されてしまったよ。俺も好きだぞ……孫次郎」

「~~ッ兄様ァ!!」

 

 将和の言葉に長慶は涙を流して再度将和と口吸いをする。そしてそのまま布団を掛けーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、股をヒョコヒョコさせながら歩く長慶が多方面で見られた。その表情は幸せそうだったと一存が語る。

 

「ちょっと!? 長慶様を朝から再起不能にさせないでよ!? 政務が溜まるじゃない!!」

「ふ、不可抗力というヤツなんだよ……」

 

 なお、起きてこない事に不審に思った久秀が将和の自室に赴くと裸で寝た状態の将和と長慶を見てしまい朝から久秀の癇癪が大爆発をしてしまい長頼に当たる回数が増えてしまうのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 




そろそろ長慶とくっつかせても良いかなと判断したのでやりました。
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m


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第二十九話

 

 

 

 

 

「……フフフ♪……フフフ♪……フフフ♪……」

「ちょっと、あれウザイんだけど?」

「……主君にウザイってのはちょっと……」

 

 政務をしながら何かを思い出すように毎度毎度笑みを浮かべて笑う長慶に一緒に政務をしていた久秀がウンザリしたようにジロリと将和を睨みつつ言う。まぁ原因というか理由は将和と漸く結ばれた事であろう。

 将和と結ばれてから直ぐに長慶は別名『三好将和を篭絡して嫁にしてもらいたい軍儀』の面々を招集し嬉しそうに報告するのは言うまでもない。

 

「ちょっと長慶様!? 私が有利とかの話は何処に行ったんですか!!」

「済まない……気付いたら私が組み伏せられていた♪」

「駄目だこの主君。顔が喜び過ぎて顔の表情が崩れているわ!!」

「昨日は五回もしてくれたよ♪」

「回数もちゃっかり報告してるんですけど~」

「耐えるのですよ二人とも」

 

 にへらと笑いながら報告する長慶に三人衆は色んな意味でツッコミをしている。そこへしゃしゃり出たのが高虎だった。

 

「よし、なら次は私だな」

「ちょ、ちょっと高虎さん!?」

「抜け駆けは許されへんな~」

 

 フンスと意気込む高虎に順慶と左近が警戒心を露にしている。そんなやいのやいの言ってる最中に何故か義輝、幽斎、椿の三人がいたりする。

 

「……何でこのようなところに妾達がいるのじゃろうな……?」

「……ねぇ、義輝って実はアホの子?」ヒソヒソ

「……多少ですが実は……」ヒソヒソ

 

 首を傾げる義輝に椿と幽斎はひそひそとそう話す。

 

「あら、義輝。貴女が将和に求婚されたのは知っているからね」

「な、な、な、な、なッ!?」

 

 クスクスと笑いながら弄る久秀に義輝は顔を真っ赤にする。

 

「ひ、久秀!?」

「まぁ今の貴女はただの足利義輝だから可能性は0ではないわね」

 

 義輝は将和の話を聞いた後、朝廷に征夷大将軍の職を返上した。これにより約200年は続いた室町幕府は滅亡し日ノ本を統治する機構は現時点では朝廷のみになるがその朝廷も最早、力は無に等しかった。

 これにより日ノ本は完全に内乱状態の戦国時代がより活発化するのである。

 なお、職を返上した義輝だが今は三好家の客将という形になっていた。というよりこのまま野に放てば虎を放つようなモノと朝廷側から捉えられ帝は「三好家に委任すべし」と事実上の勅命を承っているのでさもありなんである。

 

「まぁそうよねぇ。次に可能性があるのは義輝よねぇ」

「ま、政康まで……」

「特にその胸は……」

 

 長逸も義輝のたわわに育っている胸(特)を見て思わず溜め息を吐く程である。

 そんな軍儀という名の女子会をする長慶らを尻目に我等が主人公の将和は別室で一存や実休らと共に政務をしていた。

 

「……姉さん達騒がしいな……」

「というより先日まで敵同士だった義輝らもいるのに……」

「やめとけやめとけ。女の思考というのは分からんもんだぞ」

 

 ぼやく一存らに将和はそう言う。

 

「それはあれか将兄、前世で学んだというヤツか?」

「まぁな……まぁそれでも良く俺を補佐してくれたよ」

 

 将和は脳裏に夕夏達を思い出し僅かの感傷に浸るが直ぐに表情を変えた。

 

「漸く三好家も天下統一の本来の道に再び歩むが……状況は厳しいだろうな……」

「東……東海道は織田家と徳川家がほぼ制圧しているからな……」

 

 織田家は北畠家が朝廷に戻ってから漸く伊勢の治安維持に成功し戦力の再編に乗り出していた。そして信長は京への道に歩みだそうとしていたのだ。

 

「西は?」

「毛利と尼子の戦いが熾烈化している」

 

 三好家包囲網後、一旦は大人しくしていた両家だが再び激しく争いを展開していた。

 

「どうする将兄?」

「……考えはある。だが今此処で言うのはちょっとな……」

「まぁ身内だけの話し合いだもんな……」

「というより兄貴は勝てる自信があると?」

「少なくとも……な」

 

 そう話しているとドタドタと廊下を走ってきて勢いよく戸がスパーンと開かれる。

 

「将和殿!!」

「ん? 高虎じゃないか……って酒臭!?」

「クハハハハハ、先手必勝という事だな……んちゅるっ」

 

 酒臭い高虎(泥酔)が酒瓶を右手に持ちながらフラフラと将和に歩み寄り……そのまま口吸いをする。

 

『や、やった!?』

 

 その光景に一存と実休は思わずそう叫ぶ程であった。なお、廊下から更に走ってくるのがいた。義輝と政康だった。二人とも顔を真っ赤にしており両者とも酒をたらふく飲んでいるのが見て取れた。

 

「あー!? 高虎に先を越された!?」

「おのれ高虎め!!」

「クハハハハハ。早い者勝ちだという事だな!!」

「……何なんだこの状況……って一存と実休はいないし……逃げたなあの二人……」

 

 コッソリと戦術的後退をかました二人である。なお、なんやかんやで将和も後退に成功(突撃してきた三人が泥酔でダウン)したのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、将和は三好家の内紛を終了させたか」

 

 二月後、岐阜城で美濃・尾張・伊勢の三国を保有する織田信長は京からの間者の報告にニヤリと笑う。それを見た丹羽長秀は溜め息を吐きながら言う。

 

「嬉しそうですな信長様」

「これが嬉しくてはならないぞ五郎左。漸く合戦で将和と対峙出来る」

 

 信長は笑いながら敦盛を舞う。いつも見ている長秀や秀吉らからすれば今日の敦盛はキレが良かった程である。

 

「あー……そのですね信長様……」

「何だ天城?」

 

 そこへ軍師である天城が申し訳なさそうに声をかける。

 

「……岩村城に武田軍が押し寄せているとの事で遠山氏から救援を求める伝令が来ています」

「……おのれ信玄めェ!! 謙信と争っておけば良いものをォ!!」

「如何なされますか?」

「無論、救援を出す!! 天城、今出せる兵力は!?」

「凡そ7000かと」

「それでも構わん。直ちに出陣するぞ!!」

 

 斯くして信長は軍勢を率いて出陣するのである。

 

 

 

 

 

 

「というわけで東は今のところはまだ平穏だな」

「いや兄様。それは平穏では無いような気も……」

 

 芥川山城で将和らは軍儀をしていた。

 

「というよりも東を混乱させようと今川と武田を利用するとは……」

 

 長逸はやれやれと首を振る。将和は二月前の軍儀にて東ーー織田家を混乱させる手段として今川と武田を利用した。

 というのもこの頃、武田は海(塩)を求めて今川義元亡き後の今川領である駿河の駿東郡、富士郡が攻められ武田領となっていた。和夏からの情報で得ていた将和は使者を海路から経て武田と内密に接触させたのである。

 

「食糧を供与するので美濃の一部を攻めて織田とある程度の時期まで睨み合いをしてほしい」

 

 将和は手始めに3万石の糧食というカードを切った。この時点で武田に供与出来るコメはまだ10万石はあった。

 というのも将和が作成して利益を得ていた石鹸や綿花(綿花を利用した布団等)等が堺を経由して売上が陪乗となり資金も余裕となっていたのだ。これにより三好家の貯金は多かった。

 それはさておき、三好家に命令されるのは癪だが武田信玄はこれを受け入れる事にした。

 

「物は考えようです。美濃で睨み合いをするだけで食糧が貰えるのですよ」

 

 信玄の心情としては確かに癪だが信玄は甲斐、信濃を治める大名であるのだ。自身の心情は仕舞い三好家の要請に従う事にした。

 ついでに将和はお願いとして甲斐の民になるべく農業はコメ作りの水田から果樹や野菜への農業に方針転換もしくは水田、用水路に入る際には素足で入らない事をと要請したが信玄が素直に従うとは思わなかった。

 というのも甲斐国は昔から日本住血吸虫が中間宿主の小型巻貝のミヤイリガイに寄生しており風土病に悩まされていたのだ。

 将和は前世の経験からそれらを知っており序でに撲滅をと考えていたがまぁ将和にしてみたら「信玄が言う事を聞いてくれたらいいや」くらいであり撲滅は三好家が天下統一してからでもと考えていたくらいである。

 なお、この要請には信玄も幾分か悩んだが方針転換は緩やかにしつつ水田や用水路に入る際は素足で入らないよう厳命するのに留めたのである。まぁこれでも幾分かの感染者や死者は抑えられるようになるのである。

 

「まぁこれで……西に専念は出来るな」

 

 将和はそう言いながら日ノ本地図を見て西国ーー山陽と山陰を見る。

 

「播磨を拠点に山陽と山陰に攻め入ろうか」

「それは構わない……が、丹後と但馬も忘れているな兄様……」

「なんやかんやで攻める予定だったのが義輝や謙信のせいで棚上げされていたからなぁ……」

 

 実は今の今まで三好家に攻略はされていなかった丹後と但馬であるが流石に今回は無理そうであった。

 

「丹後には丹波から攻め入る。直正らを主力にしよう」

「御意、お任せを」

 

 長慶の言葉に直正は頭を下げる。

 

「但馬には俺が行こう。長慶ら主力は山陽から入り備前の宇喜多を支援という形になろうか」

「そういえば宇喜多は?」

「何とか備前の独立は確保して今は美作を攻略中だな」

 

 三好家の内紛中に毛利から侵攻された宇喜多だが押し返す事に成功し今は美作を攻略中だった。

 

「まぁ取り敢えずは丹後、但馬の攻略に専念だな。美作は宇喜多に任して長慶らは播磨で支援だな」

「そうなるな」

 

 斯くして三好家は再び動き始めるのであった。

 

 

 

 

 

 




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第三十話

お久しぶりです


 

 

 

 

 

「それで丹後の状況は?」

「直正らの軍勢は上手くやっているようだ。今は建部山城を包囲している」

 

 但馬国を播磨国の神崎郡から侵攻を開始して朝来郡で休息中の将和らはそう話していた。丹波国からは赤井直正ら率いる12000が丹後に侵攻していた。

 丹後を治めていたのは守護大名から戦国大名になっていた一色義道だった。一色義道は直ぐに兵を集めようとしたが、悪政を敷いていた義道に味方する国人は少なく僅か3200しか集まらずしかも士気は低かったりとやむを得ず籠城をしていた程である。

 そのため落城も後少しと思われたのである。そして但馬攻めには将和らの部隊である約25000が侵攻していた。

 

 三好軍

 総大将 三好将和(本隊 5000)

 一番隊 藤堂高虎(5000)

 二番隊 島左近(5000)

 三番隊 筒井順慶(5000)

 四番隊 松永久秀(5000)

 

 また本隊の中には足利義輝が同行しその配下には細川幽斎、高橋椿も参戦し将和から2000の兵力を指揮出来るようされていた。

 

「つい先日まで敵だった妾に兵を貸すのか?」

「構わん、此方は猫の手も借りたいところだしな。それに……お前は裏切らんだろ?」

 

 ニヤリと笑う将和に義輝は一瞬呆気に取られるも直ぐに笑みを浮かべるのである。

 翌日には進軍を開始し将和の軍勢に山名祐豊は此隅山城で籠城の構えを見せた。

 だが山名四天王の太田垣氏、八木氏等は将和側の調略で既に山名に見切りを付けていた。

 そのため、籠城準備中だった祐豊はあっという間に捕縛されるのである。

 

「三好家に味方をするなら。このまま但馬を治めても構わない」

「……三好家に味方致します」

 

 将和の言葉に祐豊は地獄にも仏はいたとばかりに感謝しながら頭を下げるのである。下がる祐豊を久秀は視線で追う。

 

「……あれで良いの?」

「味方になるなら生かす。その後はどう生きるかは当人に決めてもらう」

「寝首を掻かれないかしら?」

「さて……そこまでの度胸と覚悟があるならどうぞ……だがな」

 

 久秀の言葉に将和はニヤリと笑い久秀は溜め息を吐いた。

 

「ま、そうなるわね」

「んで以て……隣の因幡に侵攻する気配を見せんとな……」

「けど尼子は出てくるかしら? 毛利と争っている最中じゃないかしら?」

「まぁ出てきたら出てきたで決戦だわな」

 

 将和はそう言いながら和夏から夜食用である竹の皮で包んだ三つの握り飯と沢庵を貰う。

 

「ま、取り敢えずは腹ごしらえだな」

 

 そう言って将和は握り飯にかぶりつくのである。そして播磨では…………………。

 

「………………」

(ちょっと、どうにかしなさいよ)

(ちょっと無理ですね~)

(あれは私にも……)

 

 三好長慶の主力軍は播磨国の姫路城にて備前の宇喜多を支援していたが……肝心の長慶の表情が沈んでいた。

 

(確か将和さんと分かれて一月と半……そろそろ限界かもしれませんね)

(でも将和殿はまだ暫くは但馬にいるんでしょう?)

(因幡にいる尼子軍の情勢次第じゃないですかね~)

(何にせよ……早く将和殿に戻ってきて貰わないと……)

 

 長慶の表情が沈んでいるが……何の事はない。将和にここ最近会えてないから気分も下降気味であり家臣達にも影響を与えているのである。

 

(何とかなりませんかね……)

 

 長逸らはそう思うのであるがそんな話題の将和はというと……。

 

「あら……久秀さんではありませんか」

「……何であんたが此処にいるのよ」

 

 此隅山城を攻略してから二日後の深夜、将和の寝室の前には久秀と順慶が鉢合わせをしていた。共に服装は白の寝衣を着ていたが、手には日本酒が入った徳利と銚子を持っていたのである。

 

「……考える事は同じ……ですわね」

「………………」

 

 順慶の言葉に久秀は視線を逸らす。『そういう事』を考えたわけではないがたまたま寝付きが悪かったので将和も交えて飲もうとしていただけであるが理由を言えば言い訳にしか聞こえないので言うのはやめるのである。

 そうとは知らない順慶は久秀のは図星だったと思い口角を少しだけあげる。

 

「天下の数奇者も欲には勝てないモノですわね」

「言わせておけば……」

 

 ホホホと笑う順慶を無視して久秀は将和の寝室の襖を開ける。隣の部屋にいる宿直には飲む事は告げていたので宿直が乗り込んでくる事はない。

 

「ふぁっ……?」

 

 寝ていた将和だが久秀の襖を開ける音に眼を覚まし置いていた刀に手を取るが直ぐに二人と気付いて刀を置いた。

 

「何だ……どうした夜中に?」

「寝付きが悪いから飲みに来たのよ。こいつもその口と言いつつ夜這いでもしに来たのよどうせ」

「夜這っ……!?」

 

 久秀の指摘に順慶は顔を赤らめるが順慶は負けじと久秀に言い返す。

 

「あーら、なら久秀さんもそうじゃありませんこと?」

「フッ子どもじゃあるまいし」

「な、何ですって!?」

「………………」

 

 言い争いをしそうになる二人。なお、将和はまだ寝起きでありそんなに理解していなかった。が、言い争う二人に欠伸をしつつも抱き寄せる。

 

「んなッ!?」

「ケキョッ!?」

 

 抱き寄せられた二人は急速に頬を紅く染めるが将和はお構い無しに布団に潜り込ませる。

 

「眠いんだ……寝るぞ……」

『……………………』

 

 二人が黙り込むのを尻目に将和は再び寝るのであったが二人は眠れず寝不足になったのは言うまでもなかった。そして因幡国の丸山城にて尼子経久らの尼子の軍勢約二万が入城していた。

 

「フム……三好将和め、但馬を落としたかの」

 

 部下からの報告に経久は地図を見ながらそう呟き扇子でポンポンとある地域を叩く。

 

「恐らく決戦は此処じゃろな……」

「お婆様、そこは……」

 

 経久が叩いた地域は千代川だった。経久は千代川を挟んでの決戦になると踏んでいた。

 

「ですがお婆様、千代川で決戦となるとそれまでに点在する城は……」

「見捨てるか引き揚げるしかないの」

「引き揚げるのは城代の者達が反対しまする」

 

 尼子晴久はそう反対意見を出すが経久はあくまでも冷静だった。

 

「今戦は乾坤一擲じゃ。無駄な出費は抑える事が重要、引き揚げさせるのじゃ。それでも城代が反対するなら見捨てるしかあるまい」

「しかし……」

「晴久、心を鬼とせよ。それでは尼子の当主は無理じゃ」

 

 過去の一件もあったが晴久だが経久は晴久の成長のためにあえて非情を取らせた。しかし、晴久の胸中は如何なる程だっただろうか……?

 軍儀を終えた後、晴久の元に旧新宮党の者達が集まる。

 

「晴久様、見捨てる城代達は旧新宮党の者達です」

「恐らく経久様は我々新宮党を此処で抹殺する気なのでしょう」

「……………………」

「晴久様、経久様を隠居させましょう」

「しかしそれは些か早すぎるのでは?」

「遅いばかりです。幾ら過去の一件があるからと言って我々には最早……後はありません」

「始末するのではなく再度の隠居か……」

「血を見ないのであればこそ……晴久様、何卒ご決断を!!」

「…………………やむを得ない…………」

 

 晴久はそう決断をし直ぐに経久の元に向かった。しかしーーー経久は部屋にて事切れていたのであった。

 

「お婆様!? お婆様!?」

「誰ぞあるか!?」

 

 経久の死因は卒中であったと伝えられている。だが当初は晴久と旧新宮党の者達が謀殺したと噂され急遽尼子を指揮する事になった晴久はそれらに掛かり切りとなってしまい結局は戦にならず尼子軍は出雲に引き揚げるのであった。

 これ以後、尼子の拡大は急速に衰退していき結局は尼子は毛利に滅ぼされるのである。

 

「鬼が漸く死んだか……」

「鬼だから中々死ななかったしな……」

 

 芥川山城に戻った将和や長慶達はそう話す。

 

「但馬方面は暫くは直正に任せよう」

「ウム、妥当だな。そんで以て毛利だが……」

「あー……それなんだがな兄様……」

「どうした?」

 

 言いにくそうにする長慶だったがそれを長逸が補佐するように口を開いた。

 

「それが我々が播磨を退陣してから……別所長治が裏切り毛利方に付きました。また、別所氏の影響下にあった東播磨の諸勢力がこれに同調し浄土真宗の門徒を多く抱える中播磨の三木氏や西播磨の宇野氏がこれを支援して情勢が一変しました」

「……………………」

 

 長逸の言葉に将和は頭を抱えたが直ぐに犯人は分かった。

 

「やはり毛利元就か」

「恐らくは……」

「……俺が出るか」

「しかし、それでは将和殿に頼りきりになります」

 

 ポツリと呟いた将和の言葉に長逸はそう反論する。確かに将和が動けば戦局は動くかもしれない。だが頼りきりなるのも三好家の足枷になっていたのは事実だった。

 

「……なら俺も出つつ長慶も出るというのは?」

「……成る程。長慶様当主も出れば元就も出てきて将和殿も動きやすくなりますね」

「私が囮になっても構わない」

 

 そう発言したのは長慶だった。

 

「長慶……」

「当主が時には囮になるのも必要……そうじゃないかな兄様?」

「……面白い。長慶の案に乗ろうか」

 

 将和はクックックと笑いつつ頷く。これにより東播磨再攻略が決定されたのであった。

 

 

 

 

 

 




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第三十一話

お久し振りです。



 

 

 

 

 

「まぁ何とか播磨も再攻略出来て良かったものだな」

「だな兄様。ほら、そこは動かないでくれ」

「んっ。悪い悪い、ちょっと当たったからな」

 

 播磨国の姫路城にて将和は長慶から耳かきをされていた。東播磨の再度平定は三月で完了した。三好を裏切り、毛利に同調した別所長治は居城三木城を将和の軍勢2万に包囲され籠城戦となったが将和は和夏ら忍びを大量に投入して井戸に毒を投げ、食糧庫を焼いて食糧を絶ち夜中も長治らを眠らせないよう交代での雄叫びをあげさせて彼等の思考能力を低下させた。

 これが一月も続き結果として長治は城兵の助命と引き換えに弟・友之、叔父・吉親と共に自害し三木城は開城したのである。反乱した東播磨の主力国人でもあった三木氏が滅びた事で他の国人達も結局は三好に再度降伏していき長慶の東播磨再平定も完了したのである。

 そして何故か長慶が将和に耳かきをしていた。というのも軍儀から耳が痒かった将和が軍儀後に耳かきをしようとしていたらそれを長慶に見つかり長慶が耳かきをしてあげたいと言った事で将和も耳かきをしてもらう事になったのである。

 

「それにしても……耳垢が多いわよ兄様」

「済まん済まん……最近していなかったから忘れていたよ……」

「まぁしかし……遣り甲斐はあるという事だがな」

 

 長慶はそう言って将和の頭を自身の膝に乗せて左耳から耳かきをする。なお、内心では将和に耳かきをしてあげる事に爆発しそうになっていたが気合いで捩じ伏せていたりする。

 

「はい。此方は良いわ……ふぅ~っ………ふぅ~っ……ふぅ~っ……」

「ん(何!? 最後に息吹きだと……ッ!? 馬鹿な、夕夏でさえしなかった耳かき技を……やりおるな長慶……)」

 

 そんな説明はしなくていい(真顔)

 

「はい、これで終わり……ではなくて……ちゅるっ……ちゅるるっ……ちゅるっ……」

(何と……耳かき技の奥義、耳舐め……ッ!? いや、これは夕夏もしてくれたか……)

 

 だからそんな説明しなくてもいいっての(真顔)

 

 

 

 

 

 そんな二人のイチャイチャを他所に安芸国の吉田郡山城では元就を筆頭に軍儀が開かれていた。

 

「三好が東播磨を再平定をし備前との路が開いたわ」

「……宇喜多は何とか生き残れたわけですね」

「あのクソ戯けが……ッ」

 

 三女小早川隆景の言葉に元就はイラつくように扇子を握り潰し捨てて新しい扇子を持つ。

 

「開いたのなら仕方ないわ。再度蓋をすれば良い話……」

「では……?」

「恐らくは備中での決戦……高松城辺りになるわね」

 

 三好家は山陰側でも進撃を続けており赤井直正率いる軍団が但馬から因幡国へ侵攻していた。また因幡の鳥取城には毛利側の吉川経家が入城しており因幡の防衛を担っていた。その方面にも兵力を分散していた三好家だが宇喜多の備前の路(ルート)が開いたので美作国への侵攻に三好三人衆(総大将は長逸)が12000の兵力で押し寄せていた。

 そして宇喜多の備前国の国人も毛利派はいたが三好家の東播磨再平定により居城を捨てて毛利の保護下に入っていたりする。

 

「高松城の城主は清水宗治なら一先ずの安心出来るわ」

「しかし油断は出来ません。相手は三好家……いえ、三好将和でしょう」

 

 隆景の言葉に元就は頷く。この時、長女隆元と次女吉川元春は北九州にいた。大友が怪しい動きをしていたので元就も兵力を割いて北九州防衛に出していた。その為、元就の手元には隆景と末っ子の毛利秀包らがいる程度であった。

 だがそれでも元就らは押し返せれると踏んでいた。

 

「村上水軍(能島水軍)は此方側。まだ勝利の分はある」

 

 しかし、この頃の村上水軍ーー村上通康の来島水軍は将和側であり既に将和からの要請により瀬戸内で通商破壊作戦を展開していた程であった。

 

「宗治には都合7000の兵を出しなさい。此方も何時でも出陣出来るようにしなさい」

「御意。直ちに」

 

 毛利も万全の態勢で迎え撃とうとした。そして三好は動いた。長慶は将和を前衛にした16000、長慶の本隊12000、そして久秀の後衛12000の5万の兵力で姫路城を出立し備前へと向かったのである。

 

「さて……(宇喜多がどう出るかな……)」

 

 宇喜多直家は実質的に三好家に降伏して備前を治めていたが史実でも久秀と同じく戦国の三大梟雄と呼ばれているのだ。警戒はすべきだろうと将和も思っていた。(後一人は斎藤道三)

 だからこそ長慶も警戒のために三段構えの布陣をしていた。

 

「ククク……三好長慶は警戒心を出しまくっているな」

 

 直家は自身の居城である備前国岡山城で将和を出迎えたが将和から最初の言葉にむしろ興味を示した。

 

「貴君が宇喜多直家か。いや、全く以て立派だな」

「立派……?」

「浦上を裏切り、毛利を裏切る。俺も諜報はしていたがそこまではやれてなくてな。見習いたいものだよ」

「ほぅ……天下の三好家にそこまで評価して頂けるとは思いもよりはしなんだですな」

「合戦に勝つのも重要だが裏方の作業も重要なんだ……その点は評価出来るわな」

「それは……暗殺もですかな?」

「暗殺。良い効率だよ、戦の回数を減らせるからな。それに向こうがより警戒してくれたら向こうの心労も増えて向こうの自滅する確率が高いからな」

「ほぅ……」

 

 将和の言葉に直家は目を細める。直家が思っていた以上に将和が諜報の事を知っていたのだ。だからこそ直家は将和の評価を改める事にした。

 

(このような者の下にいれば……宇喜多家も繁栄するやもしれぬな……)

 

 だが直家は慎重に慎重を重ねていく事にしたのであった。後にそれが当たり宇喜多家は三好家の中で大きく飛躍するのである。

 そして長慶は将和らと協議をして岡山城を兵站等の後方主力城と定め、3日間の休息をした後に再び進軍を開始し備前と備中国の国境を通過したのである。

 

「報告!! 三好軍が国境を通過!! 真っ直ぐ此方に向かってきます!!」

「……来たか三好軍……」

 

 使い番からの報告を受けた備中高松城城主の清水宗治はスクリと立ち上がる。

 

「籠城の準備は如何程か?」

「はっ、既に半年は籠城出来る準備を整えております」

「ん。それならば毛利の援軍も間に合うであろう」

 

 家臣からの報告に宗治は満足そうに頷く。

 

「良いか皆の者、この高松城は落ちぬ。この高松城周辺は低湿地に位置する。足軽や馬で来ようとも足が沼地に取られ身動きは出来ん」

「そうじゃ。三好軍を返り討ちしてくれようぞ!!」

「そうだ!!」

 

 そう血気盛んに叫ぶ家臣達であったが季節は春から梅雨の時期に入ろうとしていたのである。

 

(……水攻めとするか)

「殿、具申がございます」

「……聞こうか(さてこの軍師も同じだろうな)」

 

 前衛の将和隊が高松城を包囲したのは5月の下旬であった。

 

「軍儀を開く。至急、武将達を集めよ」

「はっ」

 

 そして石井山に布陣した将和の陣営に集合したのである。

 

 三好将和

 筒井順慶

 島左近

 足利義輝

 細川幽斎

 高橋椿

 藤堂高虎

 黒田官兵衛(軍師)

 

 

「高松城は水攻めとする」

「水攻め?」

「足守川を氾濫させるっちゅうんか? でも幾ら梅雨の時期やからて言うて氾濫は……」

「あぁ。だから堤防を築く」

「堤防を?」

「成る程。それならば梅雨でも水量は増すであろうのぅ」

「軍師殿は如何ですか?」

 

 幽斎に質問されたのは将和がつい最近軍師として雇った黒田官兵衛であった。頭は良いのだが、ドジであり事を急ごうとする性格であった。だからこそ史実のサルこと秀吉もいらん事を言った官兵衛を九州に追いやったりしているが、此処では将和がストッパー役として付いているので何とか大丈夫だったりする。

 

「はい。雨も降り水攻めは成功するでしょう」

「あぁ、官兵衛が現地偵察したりして沼地とかの有効性を見出だしたからな」

「成る程なぁ。足で稼いでの答えなら納得やな」

「確かに」

 

 将和の援護射撃に左近らは頷き、水攻めの方針となる。

 

「水攻めをするには良いがどう行うのだ?」

「はい。高松城の南に『蛙ヶ鼻』という場所が低い谷になっており例え水害に合ってもそこから水が出ていくので対した被害にならないと農民が言っておりました。そこを基準に近隣の民に土俵を持って来させそれを堤にします。ちなみに費用はーーー」

 

 現在価格で275億円との事であり、そうなったのも土俵1俵につき銭100文、米一升を報酬としたのでやむを得ない事であった。

 

「だがやるしかない」

 

 斯くして将和は水攻めに移行するのである。ちなみに費用に関しては将和が今まで儲けて貯めておいた(木綿や清酒等々)銭からも半分程出しており今回ので貯めておいた銭は九割半も放出(はなてんじゃないぞ)するのであった。

 

 

 

 




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ちなみにクロカンは重野なおき氏のクロカンをモチーフにしています。


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第三十二話

思ったよりも早く出来たので投下


 

 

 

 

 

 毛利元就率いる5万の援軍が到着したのは将和が高松城を包囲しての一月後、梅雨の最中であった。それでもかなりの強行軍であり毛利軍は高松城近くの岩崎山・日差山に布陣するのである。

 

「さて、まずは高松城の状況ですが……」

 

 元就と隆景は高松城が見える場所まで来ると眼下にはーーーーーー湖が存在していた。

 

「湖……いえ、あの湖の真ん中に『小さく浮いて見える』のが高松城………ッ!?」

「ッ!?」

 

 元就の驚愕する表情、それは隆景も同じであった。そして優秀な二人は瞬時に高松城が持ちこたえられない事を理解したのである。

 

(三好将和……何という男だ……)

(クッ……やはりあの高松城からの使者は謀略だったという事か……)

 

 元就はワナワナと怒りに震えながら扇子をバキッと二つに折る。それは今から一月前、元就らが軍勢の準備をしていると『高松城』からの使者が来たのだ。

 

「我が城主、宗治以下の奮戦で宇喜多及び三好の軍勢は備前の国境に引き上げました。その為急遽の援軍は現時点では不要となりました」

 

 確かに物見からの報告でも軍勢が引き揚げていたのは確認していた。だからこそ様子見で動いていたのだ……それが急報が入ったのが3日前だった。

 

「高松城が包囲され高松城城主宗治以下は動けない様子でございます。直ちに出陣を願います!!」

 

 使者が来たのは高松城付近にあった宮地山城からの急報であった。元就と隆景は秀包らを従えて慌てて出陣してきたのである。

 

(謀られた………ッ)

 

 謀将と崇められていたのに油断していた。いや、油断というよりも慢心かもしれない。三好家にそこまで頭が回る人物が……。

 

「やはり……三好将和か………ッ」

 

 いた。尼子の時にも絡んでいた筆頭家老である。奴なら二重三重の謀略を仕込んでいるのは間違いないだろう。

 

「お母さん、この5万の援軍で堤を切れば!!」

「無理です秀包。三好軍が易々と堤を切らせてくれる筈がありません」

 

 隆景は秀包の具申をそう否定する。

 

「じゃあどうするの姉さん!? 高松城を見捨てるというの!!」

「落ち着きなさい秀包。隆景もそこまでは言っておりません」

「……ごめんなさい姉さん」

「良いのです秀包」

「兎も角は善後策を考える必要はあるわ。秀包は周辺の城に増援を」

「分かったよお母さん」

 

 そして元就と隆景は陣を固めると善後策を探る事になる。その一方で石井山に陣を構えた将和は安堵の息を吐いていた。

 

「フー、間一髪だったな……。左近のカラクリ左近が無ければまだ数週間は堤を築堤している最中に毛利軍が襲来していたな」

「どうやどうや、これがウチのカラクリ左近の力やでェッ!!」

 

 天幕の中で将和は活躍した左近達と話していた。今回の築堤には機械であるカラクリ左近が土俵を多く運び土を掛け築堤の時間を早める事に成功したのだ。そして梅雨の時期を見込んで雨乞いをしたり(官兵衛らがやっていた)して大雨の時に大量の舟を用意して更に石を積載、そのまま船底に穴を開けて着低させ足守川の流れを無理矢理変えさせ大量の水が高松城周辺に押し寄せたのである。

 無論、堤が高松城を囲んでいるので水が抜ける事なく高松城は湖の島如くに小さく浮いてしまうのである。この水攻めにより高松城内では井戸は泥水に浸かり、肥溜めからは汚物が流れ出した。これにより飯を炊く事も水を飲む事も容易ではなくなったのだ。

 

「宮地山城は?」

「義輝殿と幽斎殿の7500の兵力が入城して北方の睨みを効かせています」

「ん」

「さて……これで王手かしら?」

「いや……高松城は王手だが、元就はまだ思っていないだろう」

「というと?」

「簡単な事だ……戦局を打開するなら俺を討てば良いからな」

 

 久秀の問いに将和は笑みを浮かべるがその笑みはどう見ても何か思い付いた表情である。

 

「今度は何を思い付いたのかしら?」

「なに……決戦だな」

 

 そして将和は全員を集めるのである。

 

「毛利に野戦を仕掛ける」

「野戦をッ!?」

「しかし場所は……」

「此処だ」

 

 将和が指揮棒を指したのは庚申山付近の足守川であった。(上加茂神社付近)

 

「幸いにして冠山城、宮地山城、加茂城は此方が攻略しているからな。これらを利用する」

「利用とは?」

「それぞれ三城には義輝、幽斎、順慶が7000を率いて入城して毛利の気を引いてくれ。そしてーーー」

「……相変わらずえげつないわね」

「褒めても何も出んぞ久秀」

 

 話を聞いて乾いた笑みを浮かべる久秀に将和は笑みを浮かべるのである。それは兎も角として作戦は実行に移された。

 義輝ら三人はそれぞれ7000の兵力を率いて三城に入城し毛利への睨みを効かせる事になる。そして将和や長慶らの主力隊は上加茂神社付近に陣を張り、宇喜多勢は兵を半分ずつに分けて水取口跡と蛙ヶ鼻に陣を張り堤の警戒をする。そして久秀の騎馬隊7000は吉備津神社に陣を張るのである。

 

(……何を考えている……)

 

 物見からの報告に元就と隆景は頭を悩ます。

 

「お母様、三好将和の狙いは明らかにお母様です。お母様の首を討てば……」

「そうね……だからこそこういった策を出してるわけ……か……」

「ですがお母さん、三好軍は上加茂神社に陣を張ってはいますがその兵力は此方の5万を下回る1万と少しばかりです。此処は一気に出陣して叩くべきではないですか!!」

 

 秀包はそう主張する。確かにそれも一理はある。だが攻めれば冠山城から援軍が来て逆に此方が包囲殲滅される可能性もある。元就と隆景はその疑心に駆られていたのだ。

 

(何を考えているの……三好将和ッ)

 

 元就はそう叫ばざる得なかった。そして上加茂神社に陣を張る将和達だが将和はニヤリと笑っていた。

 

「謀略に謀略を重ねて領土を拡大してきた元就と隆景は俺がする動作の一つ一つを見て謀略と疑ってしまい疑心暗鬼に陥る。だからこそ策は一つしか使わない」

「一つしか……?」

「そう。謀略に謀略を重ねた者から見れば俺達の布陣を見れば俺達が粘れば左右から挟撃されると踏むが……果たしてそれだけか? 高松城を水攻めで包囲した俺達なら二重三重の罠を仕掛けているのではないか?と勘繰ってしまう……そこを狙うッ」

「成る程……では川を渡って布陣するのも予定通りと兄様?」

「そゆこと。それに上加茂神社には左近が見つからないようにしているからな」

「……アレですか?」

「アレだな」

 

 床几に座りながらそう話す将和と長慶であった。そして翌日、毛利軍は決戦に挑む事にした。毛利軍は二つに分けていた軍勢を造山古墳の北方で一つに再編成をし足守川に布陣した三好軍と対峙したのである。

 

「敵は背水之陣のようね……」

「そのようです。確かに兵力を見ればそれを選択すると思われますが……」

「それを思わせる策かもしれません。如何せん備えはしましょう」

 

 斯くして三好軍と毛利軍は激突する。後に『足守川の戦い』と呼ばれる戦いである。最初にぶつかったのは秀包の配下にいる桂広繁と藤堂高虎の部隊であった。両者の兵力は共に3000であり均衡していたが広繁と高虎の腕を見れば高虎のが上だった。

 しかしそこへ増援として井上有景の軍勢4000が到着し高虎の軍勢を飲み込もうとする。

 

「駄目です高虎様!! このままでは押し切られます!!」

「分かっている!! もう少しで援軍が来る!! それまで粘れ!!」

 

 高虎はそう叫ぶ。それは事実であり高橋椿の軍勢2000が到着し半壊していた高虎の軍勢を救出しつつ本陣に後退する。勢い付いた桂広繁と井上有景の軍勢は三好軍の本陣に向けて突撃する。

 

「臆するな!! 掛かれ掛かれェ!!」

 

 広繁はそう叫び本陣に斬り込む。更には秀包の軍勢9000も増援に追加され三好軍の本陣はジリジリと後退するのである。

 

「このままでは支えきれません!!」

「仕方あるまい。作戦『乙』だ」

「はッ。法螺貝!!」

 

 長慶は作戦『乙』を発令し退却の法螺貝を鳴らす。本陣は崩れて足守川を渡って退却する。

 

「敵三好軍は退却していきます!!」

「崩れるのが早い……」

「しかし、攻め込んだのは我等です」

「何かの策を労して……」

「申し上げます!! 敵三好軍、足守川を渡りました!!」

「………渡りましょう」

「お母様!?」

「但し、渡るのは秀包ら軍勢のみです。我等本隊は伏兵に備えるのです」

「御意。直ちに渡河をさせます」

 

 そして秀包ら1万6000の軍勢は足守川を渡河し上加茂神社に迫る。

 

「掛かれ掛かれェ!!」

 

 突撃する秀包らの軍勢であった。しかし、上加茂神社に迫ろうとした時、ズシンと地面が揺れた。

 

「な、地震か!?」

 

 答えは違っていた。上加茂神社の後方からズシン、ズシンと地響きが鳴り、折って擬装していた木々を払い除けて立ち上がる巨大な物体がそこにいたのだ。

 

「お前ら待たせたなァ!! カラクリ左近の登場や、冥土の土産によぅ見とけやァ!!」

 

 立ち上がるカラクリ左近の傍らには操縦者である島左近が叫んでいた。そしてカラクリ左近は用意してあった岩石を掴み、それを上手投げで秀包らの軍勢に投石したのである。

 

「いてまえ、カラクリ左近!!」

 

 島左近隊500の参戦は元就の戦略を大きく狂わせたのであった。

 

 

 

 

 




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