新説・恋姫†無双~一刀と愉快な?仲間達~ (越後屋大輔)
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アニメ第1期編
第一席一刀、関羽と時空を越えて出会うのこと


久し振りの執筆です。先ずは一読して下さるとありがたいです。
前作の恋姫編は一話一話が長かったので、今作はコンパクトにまとめる方針でいきます。


 Stフランチェスカ学院。ここに通う、高校2年生の北郷一刀(ほんごうかずと)は気心のしれた友人達とその日もいつものように何の変哲もない放課後を迎え、下らない事を駄弁ってから、自宅へ戻り床についた。明日からも今日と全く変わらない日々が続く、そう思いながら……。

 

一刀

「ここは何処だ?」一刀が目覚めると見覚えのない場所に大の字に転がっていた。しかも屋外である。

 周りには桃の木が立ち並び花が咲き乱れ、パッと見は中々に美しい風景である。だが今の一刀はそれを楽しむどころではなかった。とりあえず体を起こして辺りの様子を窺ってみるが……。

一刀

 「お、あそこに人がいるぞ。まずは話を聞いて情報収集しないと。ん?何か様子が可笑しいぞ?」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 その木々の中を外套を羽織った1人の旅人が歩いている。

??

「……桃、か」何ともなしに呟く。その反対側からガラの悪そうな男が4、5人出てくる。リーダーらしき男が旅人にイチャモンをつけてきた。

男A

 「ここは俺達の縄張りでなぁ。通してほしかったら、金目のモノを置いていきな」

??

「……全く。世も末だな」旅人は呆れつつそう吐き捨て、外套のフードを外した。

 露になったのは艶やかな黒髪をなびかせる、整った顔立ちの美少女だった。

男B

 「あっ、アニキ。こいつもしかして『黒髪の山賊狩り』じゃねえですか?」

男A

 「あぁ?何だそりゃ?」

男B

「知らねぇんですかい?あっちこっちの山で襲いかかった山賊共を次々と返り討ちにしている凄腕の黒髪の美しい女冒険者がいるって、最近巷じゃちょっとした噂になってますぜ」

男A

「へっ。だからってビビる事ぁねえや。ご自慢の黒髪、素っ首ごと落として兜の飾りにしてやるぜっ!」

??

「……やれやれ」またしても呆れたように呟いた美少女は外套を脱ぎ捨てると偃月刀を構えた。

??

「我が名は関羽(かんう)!乱世に乗じて無辜(むこ)の民草を苦しめる悪党め!今までの悪行を地獄で反省したくば、かかってこい!」偃月刀を振り回し、悪を断たんとする。

関雲長(かんうんちょう)、いざ参る─

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

関羽

「……さて、と。隠れてないでそろそろ出てきたらどうだ?」山賊達をアッと言う間に撃退した関羽は草むらに潜んでいた一刀に、声をかけた。

一刀

「やっぱりバレていたか……」

関羽

「気付かないハズがないだろう……ん、何だその格好は?」

一刀

「え?」一刀は自分の服装を改める。一番新しい記憶だと寝間着に着替えてから床についたのに、今の一刀は聖フランチェスカ学院の制服姿だった。

一刀

「えっと、これは……そのどう説明したら良いモノか……」言葉に詰まる一刀。目の前の少女やさっきの(たち)の悪そうな男共の服装や、平然と武器を手にしていたり、何よりこの少女が『関羽』と名乗っていたところから、自分は古代中国風の見知らぬ世界に来たぐらいの事は察しがついていた。

一刀

(関羽ってあの三国志のだよな?軍神と呼ばれる?美髭公(びしゅうこう)で有名な?それが何で女の子に?)

関羽

「どうかしたのか?」パニクっている一刀を不思議そうに見詰める関羽。顔と顔の距離が1cmぐらい近づいていた。

一刀

「あ、あの、ちょっと!顔が近い!」

関羽

「うっ!ス、スマン!」関羽は真っ赤になりながら、慌てて一刀と距離を保つ。

 

 誤魔化す手立てが思いつかなかった一刀は自分の状況を包み隠さず、正直に話して聞かせた。訳が分からないといった表情の関羽に、スマホを取り出してカメラ等の機能を見せてみた。

一刀

「な。こんなモノ、この世界にはないだろ?」目をパチクリさせる関羽に一刀は自分のいた世界について語って聞かせた。始めは怪訝な顔をしていた関羽だが次第に納得したようだった。

関羽

「うむ。にわかには信じられない話だがその服といい、その『すまほ』なるモノを見る限り本当の事らしいな」

一刀

「信じてもらえて良かったよ」安堵する一刀。だがそこにまたしても、厄介な相手が現れた。

一刀

「……あれは、ジャイアントホッグだな」この世界には魔獣もいた。体高が5メートルはありそうな巨大な猪が、涎を垂らしながら一刀と関羽を眺めている。どうも2人が餌に見えるらしい。

関羽

「じゃい……?その呼び方は知らんな。この辺りでは山猪(やまいのしし)と呼んでいるが」

一刀

「呼び方はこの際置いておこう。それよりもこいつが村に入ったら、大変なんじゃないかな?」関羽が進もうとしていた方向に小さいながら、村がある。2人はここで食い止める事に決めた。

 関羽は先ほどの偃月刀を、一刀は日本刀を得物にジャイアントホッグを攻撃する。しかしこの魔獣、やたら皮膚が厚いようでその上、頑丈に出来ているらしく傷1つ負わせられない。

一刀

「しょうがない。アレ(・・)を使うか……【アッケレラーティオ(加速)!】」忽ち一刀は目にも止まらないスピードで飛び回り、ジャイアントホッグを一瞬で切り捨てた。

関羽

「ほ、北郷殿。今のは一体……?」

一刀

「ああ。アッケレラーティオか。俺達の世界では、誰もが1つずつ特別な……力を持っていてね」実は一刀のいた世界は、私達の世界と似て非なるモノである。まず殆どの人間がそれぞれ1つだけ、超能力を使えたり、何らかの特異能力があったりするのが当たり前の世の中であり、先ほどの魔獣なども普通に害獣として存在する。話が進むごとに詳細は説明するが、とりあえず読者の皆様は、ワン○ースの悪魔の実(海の影響は受けない)や9人の○イボーグに近い感じだと解釈して下さるとありがたい。

関羽

「そうか……色々とスゴいのだな。北郷殿の世界とは」

一刀

「ま、まぁね……それよりこの死骸をどうしようか?」

関羽

「討伐した証明として、耳を切り離そう。冒険者組合に持っていけば幾らかにはなる。小さな村のようだから大金は期待出来んだろうがな」関羽曰く、この世界では魔獣を退治して、耳など体の一部、若しくは死骸を丸ごと冒険者組合に持って行くと懸賞金が支払われるらしい。

一刀

「そっか。じゃ換金したら山分けって事で良いかな?」

関羽

「イヤ。倒したのは北郷殿だ。私は何もしていないのだから金を受けとる訳には……」

一刀

「じゃあ、しばらく旅の供にしてくれないか?どっちみち俺1人じゃ戸惑う事だらけだと思うし」

関羽

「それは構わぬ。これも何かの縁。宜しく頼む北郷殿」

一刀

「こちらこそよろしく、関羽さん」かくして1人の少年と1人の少女は2人となり、この古代中国にRPGファンタジーが混ざったような世界で冒険を繰り広げる運びとなった。この続きは次の講釈で!

 

 




次回は張飛登場予定です。
原作(アニメ)との違い
・アニメでは『武芸者』と呼ばれる関羽達だが、本作では『冒険者』とする。
・関羽は村に入るまで一人旅→転移してきた一刀を旅の供にする。以降一刀の存在全てがアニメと異なる。
・どちらかといえば時代劇→ジャイアントホッグや冒険者組合の存在など、異世界物要素が濃くなっている。


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第二席張飛、山賊ごっこするのこと

令和初の投稿です。しかしアニメの1話半分にも満たない……。
本文中の数字ですが、基本的に地の文及び一刀のセリフではアラビア数字に、恋姫側の人物のセリフでは漢数字になってます。誤字じゃないのでご了承下さい。


 村境まで降りてきた一刀と関羽はそこに墓石らしき、岩があるのに気づく。その横には小さな石が積まれていて、先ほどの岩へ花が添えられていた。

一刀

「……関羽さん、これは?お墓みたいだけど」

関羽

「分からない。ただ……この辺りは金持ちでなければ、墓なぞ作れんモノだが」2人がそんな会話をしていると、すれ違った村の老婆がそれとなく疑問に答える。

老婆

「最近はこの辺りまで賊が出るようになってのう。身ぐるみ剥がされて、殺された者も何人もおってな。花はそん人らへのせめてもの手向けじゃよ」

関羽

「……そうだったのですか」2人は墓に手を合わせて黙祷を捧げた。

老婆

「お役人様がしっかりしとったら、こんな物騒な事は起こらんじゃろうに。嫌な世の中になったモンだで……」そう呟いて2人が来た方向へ去っていく。一刀は何だかやるせない気持ちになった。

関羽

「北郷殿、どうかされたか?」

一刀

「イヤ。何となくは分かっていたけど、こういうのを目の当たりにすると、俺がいた時代というか、世界がいかに平和だったかを実感するなぁ……と思ってさ」この世界が一刀の知っている三国志の時代と同じ道を進んでいるのなら、今は戦国時代の真っ最中のハズ。因みに一刀はちょっとした三国志マニアだったので、ここの政治的状況は察しがついていた。実際には良く似て非なる世界だが。

関羽

「今は戦乱の世だからな……」

一刀

「……そうか」

 

 やがて2人は村に入った。

一刀

「ところで関羽さん……」

関羽

「何だ北郷殿」

一刀

「その『北郷殿』って呼び方、どうにかならない?何だか肩がこるんだけど……」

関羽

「そ、そうか。では何とお呼びすれば?」

一刀

「最初に名乗った通り『一刀』でいいよ」

関羽

「しかしそれは【真名】ではないのか?」

一刀

「真名?」聞き慣れない言葉にキョトンとなる一刀。この世界の風習なのだろうか。

関羽

「【真名】とは文字通り、真の名前。親しき者同士にのみ呼ぶのを許されるもう一つの名前の事だ」

一刀

「なるほどね(そういえば、モンゴルなんかは悪魔に魅入られない為に敢えて変な名前を付ける風習があるらしいけど、それと似たようなモノかな?)」

関羽

「違う世界から来た北郷殿には分からないかもしれないが……迂闊に誰かの真名を呼べば殺されても文句は言えん。気をつけられた方が良い」

一刀

「そっか。ありがとう」

関羽

「北郷殿、字は?」

一刀

「7、8代ぐらい前の祖先の頃に国が廃止したから字もないよ。真名はない、というより真名以外の名前がないって方が正しいかな」

関羽

「では私は今後遠慮なく『一刀殿』と呼ばせてもらうが……」

一刀

「うん。関羽さんが許可してくれるまで真名を聞くのは止めておくよ」

 

 村は小さいながらも、表向きは平和そうな感じだった。しかしどこか寂しげな印象も見受けられる。

関羽

「……こんな村の近くにまで賊が出没するとはな」

一刀

「酷い話だ……」

関羽

「一体、世の中はどうなって……うわ!」一羽の鶏がバタバタと跳ねながら、関羽の頭に襲いかかってきた。バランスを崩した関羽はその場にへたり込んでしまった

一刀

「関羽さん、大丈夫?」

関羽

「ああ、何ともない。今のは、もしや賊か?」

一刀

「違うみたいだよ」一刀が立てた親指で指し示した方に関羽が目をやると……。

関羽

「こ、子供?」砂煙を巻き上げながら、数人の子供達が走り回っていた。

??

退()け退けぇーっ!鈴々(りんりん)山賊団のお通りなのだーっ!」

一刀・関羽

「「鈴々山賊団?」」リーダーと思われる年端のいかない少女が得物を振り回しながら豚に跨がり、そう叫び他の子供達と共に猛スピードで立ち去っていった。一瞬の出来事にポカーンとしている一刀と、またしても尻餅をついてしまった関羽。

関羽

「な、何だったんだ?」

一刀

「さあな。冒険者組合で聞いてみるか。どっちにしろ、寄らなきゃならないし」関羽は一刀が差し出した手を取り、立ち上がる

関羽

「そうだな。組合は……うむ、すぐそこのようだな」

 

 冒険者組合にジャイアントホッグの耳を引き渡し、幾らかの金を受け取った2人はさっきの子供達について尋ねた。答えてくれた受付の太めの中年女性は

女性

「はははは。そいつは災難だったねえ」

関羽

「笑い事ではない。何なんだ、あの悪ガキ共は?」

一刀

「鈴々山賊団とか名乗ってましたが?」

女性

「その名の通り、鈴々って子が大将の悪ガキ集団さね。ま、やってる事は畑を荒らしたり、牛に悪戯したりってトコだけどね。そういやこの間庄屋様の家の塀にでっかい庄屋様の似顔絵を落書きしとったけど、ありゃ傑作だったねぇ」

関羽

「それにしても親は何をしているんだ。山賊気取りの悪ガキを放っておくなんて……」関羽がそう言うと女性は切なげな目になる。

女性

「あの子、親はいないんだよ」

一刀

「え?」

女性

「何でも、小さい頃押し入ってきた賊に両親を……」

関羽

「そうでしたか……」

女性

「そのあと、この村の近くの山小屋に住んでいた母方の祖父(じい)さんに引き取られてきたんだけどその祖父さんも亡くなって、今は一人……」そこまで聞いた一刀も関羽も言葉に詰まる。

女性

「あの子だって根は良い子なんだよ。今はただちょっとハメを外してるだけ。手下の子達の親も大目に見てやってるんだよ」

一刀

「……ありがとうございました。失礼します」一刀は女性に頭を下げて、関羽と冒険者組合を後にした。

 

 その夜、一刀と関羽は宿屋に一泊した。冒険者組合で手にした金では一人一部屋取る余裕もないし、仮にも年頃の男女が一部屋では何かと問題があるからと、一刀は関羽だけに宿屋を勧める。

一刀

「俺は野宿するから」と言ったが、

関羽

「宿代は一刀殿のモノだ。だから私が野宿するのが道理だろう」と言って聞かない。結局二人部屋を取って一緒に泊まる事に決まった。

 関羽は幼い頃、賊に我が家が襲われた晩の出来事を夢に見てうなされていた。

 ~回想シーン~

関羽の兄

「愛紗、起きろ愛紗!」

幼い関羽

「……兄者?どうしたのですか?」

関羽の兄

「戦だ。村が襲われた!」

幼い関羽

「えっ……?」

関羽の兄

「今から寝台の下に隠れるんだ。早くしろ!」慌てて言う通りにする関羽。兄は寝台の下にいる妹に告げる。

関羽の兄

「目を瞑ってジッとしていろ。絶対に声を出すんじゃないぞ!」そして賊に立ち向かう兄。賊と兄の喧騒に震えながら耐えていた関羽だったが、最後に寝台の下の隙間から見えたのは賊に殺されて苦悶の表情を浮かべた、変わり果てた姿の兄。

 ~回想シーン終わり~

関羽

「はっ!」そこで目が覚めた関羽。隣には寝台に腰かけた状態で心配そうに彼女を見つめる一刀がいた。

一刀

「関羽さん大丈夫?うなされていたみたいだったけど……」

関羽

「ああ、心配させてすまない。それより今日の昼過ぎにでも、例の鈴々とかいう子の下を訪ねてみよう」

一刀

「そうだね」

 

 時間は少し戻り、昨日の夕暮れ。鈴々が住む山小屋に集まっていた山賊団の面々はその日の成果を糧にしばらく盛り上がっていた。

子供A

「今日も大成功!」

子供B

「そういやこの間庄屋の家の塀に描いた絵、消されちゃってたなぁ」

子供C

「傑作だったのに勿体ないよね~」

子供D

「ないよね~」

鈴々

「なーに、今度はもっとスゴいのを書いてやるから良いのだーっ!」

子供E

「さっすがおやびん」

子供A

「鈴々山賊団、サイコーッ!」

鈴々・子供達

「「サイコーッ!アハハハ」」烏の鳴き声が聞こえた。子供達は家に帰る時間だ。

子供C

「そろそろ帰る?」

子供D

「うん!」途端に表情が曇る鈴々。

子供A

「じゃああたしも」

子供B

「俺も」

子供E

「あたいも」子供達は山小屋を出て鈴々に手を振る。

子供B

「おやびんサイナラーッ」

子供C

「またねー」

子供A

「また明日ー」

鈴々

「うむ。また明日ぁー、みんなで山賊するのだーっ!」大声で約束を交わし、互いに手を振り合う。やがて子供達の姿はみえなくなり、鈴々は1人になる。

鈴々

「……明日になればまた、みんなに会えるのだ……。明日になれば……また……」寂しげに呟いて『鈴』の一字が書かれた、昼間に掲げていた旗を力なく握りしめて悲しい顔を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一刀の仲間である現代人登場はもう少しお待ち下さい。アニメでいえば第二席辺りで1人出します。
アニメとの違い
・関羽の質問に答えてくれたのは飯屋の女将→職業を冒険者組合の受付に変更。
金のなかった関羽は飯屋でバイトして食事代とし、女将から納屋を借りて寝床とする→魔獣の討伐金で無事、宿屋に泊まる。
・子供達のセリフの順番があやふや。未登場なあの人の影響か?


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第三席庄屋、失礼な発言をするのこと

もう少し長くても良いのかなぁ?これを読んでくれている方々はどうお思いでしょうか。


 宿屋を引き払った2人は昨日の内に購入しておいた調理器具や食材を使い、朝食の支度を始めた。いわゆるキャンプ式のスタイルである。

 関羽は大根を持って空へ放り投げると、落ちてくる大根へ華麗に包丁を振り乱す。その見事な包丁捌きで大根は綺麗な拍子切りになった。

一刀

「流石だな。けどもうちょっと普通に切れない?」

関羽

「ちゃんとした料理はあまりやった事がなくてだな……その……つい……」モジモジしながら白状する関羽。一方で一刀は至極まともに調理をしている。フランチェスカ学園高等部が全寮制なのもあって、一通りの家事は身に付いているのだった。

 

 朝食を済ませた後、鈴々が住むという山小屋を目指す事にした2人。その途中庄屋の屋敷の前を通ると、ワラワラと人が集まっていた。

関羽

「何だあれは?」

一刀

「行ってみよう」そこには派手な身なりの老人が10人ほどの兵士を相手に何やら訴えかけている。恐らくこの人物が庄屋なのだろうと、2人は推測した。

庄屋

「よろしいですかな?相手は子供とはいえ手のつけようのない暴れ者。くれぐれも油断は禁物ですぞ!」関羽は近くにいた女性に何が起きたのかを聞いた。

関羽

「この騒ぎは……何があったのですか?」

女性A

「何でも……今からお役人に、鈴々を捕まえてもらうんですって」

一刀

「子供相手に役人を?そりゃ大袈裟な」

女性B

「庄屋様、この間の落書きが相当頭にきなさって、今度ばかりは堪忍袋の緒が切れたらしくてねぇ」

女性C

「お役人も本物の山賊には怖くて手が出せないクセに、こんな時ばっかり……」

女性D

「捕まったらどうなるんじゃろ?」

女性E

「まさか殺されたりはせんと思うが、鞭でぶたれたりはするかもの。惨いモンじゃ」

関羽

「一刀殿……」

一刀

「うん。ここは俺達が……」2人は庄屋達の元へ駆け寄る。

関羽

「庄屋殿、お話し中のところ、申し訳ないが……」

庄屋

「何だお前は?」

関羽

「私は旅の冒険者で関羽と申す者。こちらは連れの北郷」さりげなく紹介されて、庄屋に頭を下げてから言葉を引き継ぐ一刀。

一刀

「聞けば鈴々なる者、大人でも手を焼く暴れ者とか。万が一役人の方々が怪我をしてもつまらないでしょう。ここは我らに任せていただけませんか?」

庄屋

「あんたらが?確かに物騒なモノを持っているようだが、本当に強いのか?」関羽の青龍偃月刀と一刀の日本刀を見て、訝しげに尋ねる庄屋に

関羽

「勿論、腕にはいささか覚えがあります。いくら暴れ者とはいえ、所詮は子供。本物に比べれば……」

兵士A

「あ!もしかして貴様が最近噂の、黒髪の山賊狩りでは?」

庄屋

「うっ!あんたがあの……!」

関羽

「イヤ。自分からそう称している訳ではないが……」兵士達は一斉に驚く。

兵士A

「黒髪が綺麗な、絶世の美女と聞いておったが……」

庄屋

「噂っちゅうモンは当てにならんな」失礼極まりない言い草に関羽の顔がひきつる。

関羽

「えーっと、それはどういう意味かな?(怒)」それを端で見ていた一刀は

一刀

(関羽は充分美女だろ?つーかこいつらこそ、揃いも揃って醜男のクセに。何様のつもりだよ?)黙ってはいたが、密かに腹を立てていた。そんな2人の様子に気付きもせず、グダグタ好き勝手な事をボヤく庄屋と兵士達。その様子を鈴々の子分が物影に隠れて、こっそり窺っていた。

 

 結局、鈴々の捕縛を任されて、山に入った関羽と一刀。

関羽

「この一本杉を左に行けば、あとは道なりだと言っていたな」

一刀

「そうだね……」歩きながら一刀は木の影の形がおかしいのに気付く。

関羽

「一刀殿、何を俯いて……?」

一刀

「関羽、上だ!」言われた関羽が見上げれば、一本杉の上に昨日のさっきの少年、鈴々の子分の1人が居た。左腕に石を幾つも抱え、2人目掛けて投げつけてきた。

子供B

「ここからは鈴々山賊団の縄張りだ。役人の手先は帰れ!お前らなんかにおやびんは捕まえさせないからな!」なおも石を投げる子供。それを偃月刀と日本刀で弾く関羽と一刀。

関羽

「ちょっと!危ないだろ!」

子供B

「エイッ!!エイッ!」

一刀

「……アッケラーティオ!」一刀は特異能力『加速(アッケラーティオ)』を使い、少年が居た木をバッサリと斬り倒す。少年はバランスを崩して、地面に激突しそうになる。『加速』を維持したまま、少年を素早くキャッチする一刀。

子供B

「フーッ。助かったぁ」

関羽

「それはどうかな?」顔の上半分、主に目の回りを黒くした関羽は少年を見下ろす。

一刀

「うわぁ……悪い顔してんな……」一瞬後に、少年の空しい叫び声が山に響いた。

 

 関羽にお仕置きされた少年は未だ後ろからついてくるものの、2人が振り返る度岩などに隠れる。関羽のお仕置きがよほど堪えたのだろう。

一刀

(トラウマにならなきゃ良いけど……)などと一刀が考えていると、草むらから鈴々山賊団の面子が飛び出してきた。

子供A

「やぁい、ブース!」

子供E

「バァ~カ!バァ~カ!」

子供C

「年増ぁー!」

子供D

「ちま~」最後の子供に至ってはまだ3、4才ぐらい。自分で何を言ってるか、理解すらしていないだろう。

関羽

「だっ……!誰が年増だ、誰が!」

一刀

「大人げないなぁ……」

子供達

「悔しかったらここまでおいで~♪」一刀と関羽を挑発する山賊団一同。ムキになって子供達へ攻めいる関羽。しかし足下に落とし穴を作った痕を見付けると、

関羽

「フフッ。子供にしては知恵を絞ったと褒めてやろう……だが!」ジャンプして回避する関羽。しかも途中でカッコつけて宙返りまで披露する。

一刀

(普通に脇へ逸れれば良いだけじゃ……)思わず無言で突っ込む一刀。しかし……

関羽

「うわぁ!」実はさっきの落とし穴痕はフェイクで、関羽が降り立った場所に本命の落とし穴が掘られていたのだった。

関羽

「うぅ。関雲長、一生の不覚……」

子供A

「やーい、引っ掛かってやんの♪」

子供E

「バッカでぇ~い」

子供C

「おしっこかけちゃえ~」

子供D

「ちゃえ~」

関羽

「コ、コラ!止めろ!」穴に落ちて、体勢が崩れたままの関羽が怒鳴るのも、どこ吹く風。その一番小さい女の子は構わず服の裾を捲りかけた。

一刀

「女の子がそんなみっともない事しちゃいけません!」一刀がいつの間にか子供達の目の前に現れて、叱責した。姉らしき年長の子供に女の子の服を整えさせてから、一刀は山賊団一同にお仕置きを施す。

一刀

「そぉれ、ぞうき~ん!」子供の腕の皮を絞る。

子供A

「ギャーッ!」

一刀

「グリグリーッ、万力~」横並びの子供2人のこめかみが(一刀から見て内側)重なった状態で、外側から拳で挟んでグリグリ攻撃。

子供C・D

「ヒィーッ!」

一刀

「泰山・富士山・エベレスト!」太っちょの子供の腕の肉を、三段階に三角へ引っ張り上げる。

子供E

「ギョエ~ッ!」こうして子供達全員にお仕置きを済ませた一刀。

関羽

「大人げないのはどっちだ……?」

 

子供B

「おやびんはお前らなんかに負けないからな!」

関羽

「分かった分かった……」

一刀

「鈴々の事は悪いようにはしないから、君達はもう村へ帰りなさい」

子供A

「ホントか?」

関羽

「ああ」

子供C

「村へ帰ればおやびんを役人に渡したりしない?」

子供D

「しない?」

一刀

「約束するよ」

子供B

「……だってさ」

子供C

「帰ろっか」一刀と関羽の言葉を信じて、スゴスゴと村へ引き返す子供達……だが、振り返って、

子供達

「「「バァ~カ、ブース、年増ぁ!お前らなんかおやびんにやられちゃえ!」」」

子供D

「ちゃえ~!」最後に捨て台詞を吐いて、逃げ帰っていった。

関羽

(全く!確かにあいつらに比べれば年上ではあるが……)

一刀

(……何だかんだ言っても仲間思いなんだな。ちょっと羨ましいかも)それぞれの思惑を胸にやがて鈴々の山小屋にたどり着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっとアニメ一席の半分。オリキャラ登場の切っ掛けが中々掴めない……。
アニメとの違い
・関羽の大根切りに突っ込むのは飯屋の女将→一刀(女将は冒険者組合の受付にジョブチェンジし、関羽達も無線飲食していない為)
・子供B以外の鈴々山賊団にお仕置きをするのは関羽→一刀
・腕の肉を引っ張る時「定軍山、泰山」の2段階→ナゼか富士山とエベレストの3段階。



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大四席関羽と張飛、義姉妹になるのこと

やっとアニメ一話分が終わった。けど前作の一話分とほぼ同じ長さ。全然短めにならない……。


 崖の上にある山小屋には、自分の身長より長さのある蛇矛を手にした鈴々がいた。

関羽

「お前が鈴々か?!」関羽から口火を切ると、

鈴々

「鈴々は『真名』なのだ!真名は親しい同士で呼び合う名前だから、お前に呼ばれる筋合いはないのだ!」

関羽

「そうか。では改めて名を聞こう」

鈴々

「鈴々は張飛(ちょうひ)!字は翼徳(よくとく)!泣く子も黙る鈴々山賊団のおやびんなのだぁ!」

一刀

(まさかとは思っていたけど、こいつが張飛かよ!どうなってんだこの世界?)混乱する一刀を無視して、飛び下りてきた張飛こと鈴々。一刀は深呼吸して、気持ちを落ち着かせてから告げる。

一刀

「君の手下には村に帰ってもらったよ」

鈴々

「!?鈴々の友達に何をしたのだ?」

関羽

「なぁに。ちょっとしたお仕置きを、な」

鈴々

「お~の~れ~!仲間の仇、十倍返しなのだ!」

一刀

「あっ、聞く耳持たねえな。こりゃ」

関羽

「一刀殿……」

一刀

「うん?」

関羽

「ここは私に任せてもらおう」

一刀

「分かった。任せるよ」関羽と張飛。2人が互いの得物で打ち合いを始めた。

関羽

「うっ、重い!力押しでは不利か……」

鈴々

「うりゃあ!」

関羽

「ふんぬっ!」

鈴々

「にゃー!」

一刀

(スゲェな。流石関羽と張飛……)一刀はひたすら感心していた。

 

 勝負は日が暮れても決着が付かず、夜になっても打ち合いは終わらなかった。

関羽

「中々しぶといな!」

鈴々

「そっちこそなのだ!でも鈴々の本気はここからなのだぁ!」ガキィーン!これまでで、最大音量の金属音が山に響いた。張飛が振り下ろされた蛇矛を、関羽が偃月刀で受け止めた。

関羽

「惜しいな」

鈴々

「はぁ?何がなのだ!」

関羽

「これほどの力を持ちながら、やっている事といえば山賊ごっことはな……」

鈴々

「余計なお世話なのだ!」

関羽

「……張飛よ。お主、幼い頃両親を賊に殺されたそうだな」

鈴々

「それがどうしたのだ!」

関羽

「私も……幼い頃、賊に家族を殺された。父も母も……そして兄者も。以来私は誓った。もうこんな思いはしたくない、二度と悲しみを繰り返したりしないと。こんな事の起きない世を目指そうと」

一刀

(……そうだったのか)

鈴々

「それが鈴々と何の関係があるのだっ!」未だ互いに得物を打ち合いながら会話を続ける。

関羽

「お主は変えたいと思わないか?賊に殺され、戦に巻き込まれ、罪なき人々が傷ついていくこんな世の中を!」

鈴々

「うっ!うぅ……」

一刀

「関羽。もういいだろう」一刀は関羽を制すると鈴々の頭にポン、と手を置く。

一刀

「辛かったね、淋しかったね。それでも1人でずっと耐えてきたんだろ?もう我慢しなくて良い。泣きたい時は泣けば良い」

鈴々

「そうなのだ……鈴々は、ずっと淋しくて、それで……でもどうして良いか分からなくて……う、う、うわぁぁーん!」堰を切ったように涙が溢れだし、その場で大泣きする張飛。

 

関羽

「何だか妙な事になったな」

一刀

「まぁ良いんじゃない?一晩ぐらい」

関羽

「それもそうだな」あれから一刀と関羽は張飛に薦められて、今夜は山小屋に泊まる事になった。

 

 ~回想シーン~

関羽

「好きにしろって……それはどういう……?」

張飛

「さっき途中で泣いちゃったから勝負は鈴々の負けなのだ。勝った方は負けた方を好きにして良いのだ」

関羽

「イヤ。私達は別にお前をどうこうするつもりはない」

一刀

「張飛が庄屋さんや村の人達に謝ってくれれば、それで良い。明日は俺達もついていってやるから、さ」

関羽

「では、明朝村の入り口で待ち合わせとしよう。私達はこれで帰るぞ」鈴々は踵を返す2人を引き留める。

鈴々

「待つのだ!」

関羽

「どうした?」

鈴々

「よ、夜道は危ないのだ。だから今夜は泊まっていくと良いのだ」

関羽

「私は旅暮らしが長いからこれぐらい慣れている。どうって事は……」

一刀

「じゃあ、お言葉に甘えよっか」

関羽

「一刀殿?しかし……」だが張飛の悲しそうな目を見た関羽は、後ろ髪を引かれる思いにかられた。

関羽

「そうだな。一晩厄介になろう」

鈴々

「にゃはっ♪」

 ~回想シーン終わり~

 

 関羽は張飛に薦められて、風呂に入っていた。

関羽

「ふぅ~。久し振りの風呂は気持ちいい(しかし一刀殿は不思議な人だ。それとも異世界ではアレが普通なんだろうか?)」関羽の知る限り、男とは欲望に身を任すだけのケダモノ同然な存在だった。しかし一刀は貴族を思わせる気品の良さに、庶民的な親しみやすさを併せ持つ、何とも形容し難い……。

鈴々

「湯加減はどうなのだぁ?」風呂を沸かす張飛の声が扉越しに聞こえてきた。

関羽

「ああ。丁度良いぞ」同じ場所から一刀の声が重なった。

一刀

「張飛。火は俺が見ているから、お前も入ってくると良い」間を置かず、勢いよく扉を開けて浴室に突入した張飛は、湯槽に思いっきりダイブする。

関羽

「コラーッ!飛び込むんじゃない!」

鈴々

「にゃっ」一瞬縮こまる張飛だったが、

関羽

「全く!風呂の入り方も知ら……うん?」仁王立ちしている関羽を見て、目をパチクリさせている。

関羽

「何だ、どうした?」

鈴々

「胸、おっきいのだぁ」

関羽

「な……!」頬を染めながら思わず両手で胸を隠す。

鈴々

「どうしたらそんなバインバインになるのだ?」興味津々といった様子で尋ねる張飛に困惑する関羽。

関羽

「どうしたらって……そうだ、志だ。胸に大志を抱けば、その分だけ大きくなる!……,ハズ」因みにこの会話を聞きながら火の番をしていた一刀も、頬が真っ赤になっていた。決して風呂釜の炎のせいだけではないだろう。

鈴々

「ホントに?ホントにそれで大きくなるのだな?」

関羽

「まぁそういう説もあったりなかったり……」

鈴々

「ヨーシ!だったら鈴々も、大志を胸にいだくのだ!」

一刀

(意味分かってんのかねぇ……)

関羽

「……そうだな。そうすると良い、大志を抱くのは悪いことじゃないからな……」

 

 その後一刀も風呂に入っている間に張飛は布団の準備をしていた。

関羽

「スマンな。寝床まで貸して貰って」

鈴々

「良いのだ。負けたんだから一晩一緒に寝るくらいどうって事ないのだ!」第3者が聞いたら、何とも誤解を招きそうな表現である。

一刀

「じゃあ俺は奥の部屋を使わせてもらうから……」

鈴々

「お兄ちゃんも一緒に寝るのだ!」張飛は一刀の腕を引っ張り、関羽と3人で川の字に寝る。

一刀

「狭くないか?」一刀が聞くと張飛はにこやかに答えた。

鈴々

「別に良いのだ。それに誰かとこうして寝るのは久し振りで……その……父様や母様と一緒みたいで……」

関羽

「バ、バカな事を言うな!私は……お前みたいな子供がいる年齢じゃない。精々、姉といったところだ」

鈴々

「姉……お姉ちゃんなら良いのか?」

関羽

「まぁ、そうだな……」

鈴々

「じゃあ今日から関羽は鈴々のお姉ちゃんなのだ!」

関羽

「ま、待て。姉なら良いとはそういう意味ではなくてだな」

鈴々

「ダメ……なのか?」潤んだ目で張飛に見つめられた関羽は折れた。

関羽

「分かった分かった。お前の姉になってやる」

鈴々

「やったぁ!鈴々にお兄ちゃんとお姉ちゃんが出来たのだぁー♪」

一刀

「良かったな張飛……ん、お兄ちゃん?誰が?」

関羽

「一刀殿しかいないだろう。何を今更……」

一刀

「そ、そっか。勿論張飛さえ良ければ」

鈴々

「もうこれで夜も淋しくないのだぁ」本当に嬉しそうな張飛に、関羽はこんな話を切り出す。

関羽

「ならば張飛よ。私達と共に、世の中を変える為の旅に出てくれるか?」

鈴々

「世の中を変える為……?」

関羽

「尤も実際は、どうすれば世の中を変えられるかを探す旅。と、いったところなんだが……どうする?一緒に来るか?」

鈴々

「……当然なのだ!」

一刀

「よし、決まりだな。じゃあ明日に備えて、今夜はもう寝よう」

関羽

「ああ、お休み。一刀殿、張飛」

鈴々

「お休みなのだ」

 

 そして翌朝。関羽と一刀は張飛を連れて庄屋の屋敷を訪ねた。報せを聞いた庄屋は昨日の役人達と一緒に門の前に出てきた……顔中、青痣や瘤だらけで。

関羽

「しょ、庄屋殿?どうしたんですか、その顔は?」

庄屋

「関羽さんや……」

庄屋・役人達

「「「「失礼な事言って、すいませんでした!」」」」全員一斉に関羽へ土下座した。思い当たる節がある関羽は庄屋達を宥める。

関羽

「昨日の事でしたら、私はもう気にしてませんので……頭をお上げ下さい」

鈴々

「どうなってるのだ?」訳が分からない様子の関羽と張飛に対して、一刀だけがほくそ笑む。実は昨日、庄屋達の無礼にずっと腹が立てていた一刀が今朝早く1人で庄屋を訪ねて、幼少時からやっている剣道に例の『加速』を併用してボッコボコに懲らしめていたのだった。

 

 村のみんなに詫びを入れ、張飛は一刀、関羽と旅に出る。しかしその表情はどこか曇っていた。

関羽

「どうした張飛。もう村が恋しくなったのか?」

鈴々

「そうじゃないのだ。ただ、山賊団のみんなが見送りに来てくれなかったのだ。きっと鈴々が立派なおやびんじゃなかったから……」

一刀

「そうでもないみたいだよ」一刀が視線を向けた先を鈴々が見ると、山賊団の子供達が鈴々の旗を振りながら見送っていた。

子供B

「お~やび~ん!」

子供A

「武者修行して強くなってね~」

子供C

「みんな、おやびんが帰って来るの待ってるから~」

子供D・E

「「おやび~ん。ヒクッ、エッグ(泣)」」

鈴々

「みんな……」目に涙を貯める張飛だったが、

関羽

「泣くな。旅立ちに涙は不吉だぞ」

鈴々

「泣いてなんかいないのだ」左腕で涙を拭った張飛は強がって見せる。

関羽

「人は次に会う時まで、別れ際の顔を覚えているモノだ。立派な親分なら、そんな情けない顔を覚えていてもらいたくはないだろう?」

一刀

「だな。じゃ、笑顔で別れよう。手を振ってあげなよ」

鈴々

「うん!」一刀と関羽の言葉に頷くと、山賊団の方に体を向ける張飛。

鈴々

「みんなぁーっ!行ってくるのだぁー!」

 

乱れに乱れたこの世の中。そんな中、密かに野心を研ぎ覚ます者。己の力を試さんと、文武に励む者。守るべき者の為に闘おうとする者。様々な思いを胸に抱く者達が綾なす運命の糸が絡み、結ばれる。

関羽

「そろそろ外套はいらんなぁ」

鈴々

「もう春なのだ!」この世界に舞う、無双の姫達と異界より集いし野郎共の行く末をとくとご覧あれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、あのキャラが(ある一点を除いて)能力やこれまでの半生等新たな設定で登場します。
アニメとの違い
・庄屋と役人が一刀にボッコボコにされるのは作者のオリエピ。


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第五席一刀、友人と再会するのこと

お待たせしました……つーか待ってる人はいたのでしょうか?あのキャラが遂に復活です。前作と設定に変更がありますが、詳細は今後のストーリー展開の中で。


 新たに張飛を加え、3人で旅を続ける一刀達一行。しかしどういう訳か、さっきから張飛の機嫌がよろしくない。

関羽

「どうした、お腹でも痛いのか?」関羽の問いに、張飛は頬を膨らませて、

鈴々

「おかしいのだ!」

一刀

「何がおかしいんだ、張飛?」

鈴々

「そこなのだ!鈴々は関羽達と兄妹の契りを交わして真名を預けたのに!親しい者同士は真名で呼び合うのが普通なのに、二人は鈴々を真名で呼んでくれないのだ!」

関羽

「確かにそうだが、知り合ってまだ間もないし……」

一刀

「先日も話したと思うが、俺は真名の風習がない国から来たから……」

鈴々

「鈴々は二人をちゃんと真名で呼びたいし、真名で呼んでほしいのだ……」

関羽

「分かった。では私から。名は関羽、字は雲長。真名は愛紗(あいしゃ)。これで良いか?鈴々」

一刀

「俺は北郷。字は……廃止された国の生まれだからなし。真名に当たる名は一刀。改めてよろしくな。鈴々」2人の真名(一刀の場合は少し違うが)を教えてもらった鈴々は、パァッと顔を輝かせて頷く。

鈴々

「うんっ♪」

関羽

「良い機会だから一刀殿も私の真名を預かってはくれないか?」

一刀

「ありがとう。これからは真名で呼ばせてもらうよ、愛紗」一刀が笑顔で応じると、顔を真っ赤にする関羽改め愛紗だった。

鈴々

「愛紗は何で赤くなっているのだ?」

愛紗

「き、気のせいだ!」

鈴々

「?」

一刀

「?」愛紗には気の毒だが、一刀は恋愛方面には相当な唐変木であった。

 

 次の町の境界に辿り着いた3人が街へ入ろうとすると、愛紗が警備兵に足止めさせられた。

警備兵

「そこのお主。間違っていたらすまない。最近噂の、黒髪の山賊狩りではないか?」

愛紗

「確かにそう呼ぶ者もいるようですが、自分から名乗っている訳では……」照れながら答える愛紗。

警備兵

「イヤ良かった。黒髪の綺麗な絶世の美女と聞いていたので、人違いだったらどうしようかと……」前回と同じく、愛紗の顔がひきつる。

鈴々

「愛紗は綺麗で有名なのだな」

愛紗

「ああ。黒髪が、な(怒)」

一刀

「あいつら、目が腐ってるのさ。愛紗は綺麗だよ。俺が保証する」

愛紗

「一刀殿!からかわないでくれ」

一刀

(本心なんだけどなぁ……)

 

警備兵

「ご領主様がお待ちです。さあどうぞこちらに」門番の案内でこの辺りを治める太守、公孫賛の屋敷の敷地内にある東屋までやって来た。ほどなくして、髪をポニーテールにした、影の薄そうな女性とクールな眼差しの美女と、一刀が良く見知った顔が現れた。

??

「お待たせして申し訳ない。私がここの領主、公孫賛(こうそんさん)だ」影の薄そうな女性が名乗ると、一刀と関羽はスッと立ち上がる。

公孫賛

「そのままで結構。それでこの二人が……」

??

「我が名は趙雲(ちょううん)。字は子龍(しりゅう)。お主達と同じく、旅暮らしの冒険者だ。現在は公孫賛殿の元で客将として世話になっている」もう1人の女性が自ら名乗る。そして最後の男が……

一刀

「え、忍か?」

「アラ?久し振りじゃない一刀。アンタもこの世界に飛ばされてきたのね」フランチェスカ学園で一刀と同じクラスであり、親友の1人の藤崎忍(ふじさきしのぶ)だった。因みにオネェだがそっちの気はなく、むしろかなりの女好きである。

愛紗

「一刀殿。こちらはお知り合いか?」

鈴々

「そういえば、お兄ちゃんと同じ服を着てるのだ」やはり忍もフランチェスカ学園の制服姿でこの世界にやって来ていた。

一刀

「ああ。俺と同じせか……国の友人だよ」事情を知らない人間もいるだろうと踏んだ一刀は言葉を濁すも

「大丈夫よ。あちし、公孫賛ちゃんと趙雲ちゃんには全て話してあるから」忍も一刀と似たような状況だったらしい。それから改めて自己紹介の続きを始める。

一刀

「俺は北郷。今更ながらこの藤崎と故郷を同じくしている」

「改めまして、藤崎よ。今はここで趙雲ちゃん同様、公孫賛ちゃんの客将をしているわ」

愛紗

「私は関羽。字は雲長と申します。そしてこっちが……」

鈴々

「鈴々なのだ!」

愛紗

「こら!真名ではなくちゃんと挨拶しないか……この者は張飛。以後お見知りおきを」

一刀

(公孫賛に趙雲って……忍、どうなってんだよ?)

(知らないわよ!アンタこそ何で関羽と張飛を連れてるのよ?)男2人でヒソヒソ話をしていると、趙雲がこちらに顔を向ける。

趙雲

「ところで北郷殿に関羽殿」

一刀・愛紗

「「はい?」」

趙雲

「随分と大きなお子さんをお持ちだな」

「一刀……アンタいつの間に……」

愛紗

「違う!私と一刀殿はそういう仲ではない。鈴々とは姉妹の契りを結んだのであって」

一刀

「つーか忍、お前は分かってて、わざと言ってるだろ!」

「ちっ……バレたわね」

趙雲

「成る程。で、どっちが受けでどっちが攻めなのかな?」

愛紗

「……なっ!」

鈴々

「う~ん。どっちかっていうと、鈴々が攻めなのだ」

愛紗

「良く意味も分からずに答えるんじゃない!」

一刀

「この世界にもそんな言葉、あるんだ……」

「攻めるの対義語は"守る"か"防ぐ"よね」

公孫賛

「バカ話はそれぐらいにして、まずは私に話をさせてくれ」

「アラごめんなさい」

一刀

「そうだった。で、公孫賛さん。俺達、というより関羽に何かご用が?」

公孫賛

「辺境の小領主ではあるがこの公孫賛、今の世を憂う気持ちは人一倍あるつもりだ。冀州(きしゅう)袁紹(えんしょう)江東(こうとう)孫策(そんさく)、都で最近頭角を表してきた曹操(そうそう)と、天下に志を抱く者は皆、有為な人材を欲しているとか。そこでだな、朝廷の権威もない今、乱れた世を正す為に是非お主達の力を!」

趙雲

「公孫賛殿。それは些か早計ではありませんかな?」趙雲が眉をピクリと動かす。

「何が言いたいの?趙雲ちゃん」

趙雲

「黒髪の山賊狩りの噂は私も旅の途中で耳にしました。しかし噂というのは、得てして尾ひれがつくもの……」

「つまり、その力量を試してから決めたらどうかって事ね。良いわ、あちしが関羽の腕を見てあげる」

愛紗

「貴方も大した自信をお持ちのようだな」

一刀

「油断するなよ愛紗。忍は実際、かなり強いぞ」

鈴々

「待つのだ!」

「?」

鈴々

「お前みたいに得物も持ってない女男、愛紗が出るまでもないのだ!鈴々がチョチョイのプーでコテンパンにしてやるのだ!」

愛紗

「これ、止さないか鈴々」

「言ってくれるじゃない。構わないわ、かかってらっしゃい」忍が人指し指をクイクイッと曲げて、鈴々を煽る。庭の広い場所に出る2人。鈴々は蛇矛を手に、忍は空手の構えをとる。

鈴々

「うりゃーっ!」

「おっと!」

鈴々

「食らうのだ!」

「イヤよ!」鈴々が振りかざす蛇矛を華麗に避ける忍。

鈴々

「逃げてばっかいないでかかってくるのだ!」

「それじゃ遠慮なく……『変身(トランスフォーム)っ』」忍の姿が忽ち、体長3メートルぐらいの虎に変わる。突進する虎のタックルをまともに食らい、鈴々は吹っ飛ばされる。

愛紗

「鈴々、大丈夫か!?」

鈴々

「ア痛タタタ……何が起きたのだぁ?」

一刀

「忍の能力は『変身(トランスフォーム)』。様々な生き物に姿を変えて、その力や特徴を完璧に模倣(コピー)出来るんだ。功夫(カンフー)の心得もあるから、能力抜きでも相当強い」

愛紗

「そういう事なら、私がお相手しよう」

鈴々

「愛紗!鈴々はまだやれるのだ!」

愛紗

「分かっている。ただ私が手合わせしたくなったのでな。いざ!」偃月刀を構える愛紗。忍は元の姿に戻ると、一瞬だけ功夫の構えを取るが、愛紗から『気』のようなモノを感じるとすぐに腕を下ろした。

「その必要はないわね。本当に強い相手は見ただけで分かるもの」

鈴々

「その言い方だと、鈴々がホントは強くないみたいなのだ」膨れっ面になる鈴々に、諭すように忍が言い添える。

「張飛。アンタは確かに強いわ。でもその強さを上手く使えていないの」

鈴々

「?」

趙雲

「それより公孫賛殿。お話の続きを」

公孫賛

「ん?あ、ああ。そうだな」

愛紗

「話の腰を折ってしまい申し訳ない。それで……」

公孫賛

「実は……恥ずかしながら、山賊退治に手間取っていてな。調べた結果、赤銅山(しゃくどうざん)という山に潜伏している、とまでは掴めたのだが……肝心の砦の場所が見つからなくてな」

趙雲

「それを知った私が、先日一計を案じたのだ」

一刀

「と、いうと?」

趙雲

「まず偽の商隊を編成して、その荷物に潜んでおく。そしてわざと山賊共に荷物を奪わせ荷物を運ばせる」

愛紗

「つまり、賊共自らに案内をさせようという訳か」

趙雲

「いかにも」

「でも賊の隠れ家に単身乗り込むなんて、ぞっとしない話よね」

趙雲

「虎穴に入らずんば虎児を得ず。どうだ関羽殿、北郷殿。私と一緒に賊共の隠れ家を訪ねてみないか?」

鈴々

「鈴々も行くのだ!」

「アンタにゃムリよ」

鈴々

「何でなのだ!」

趙雲

「良いか。荷物の中に潜み、賊の隠れ家に向かう間はずっと息を殺してなければならんのだぞ。お主のように根が騒がしく出来ている人間ではムリだ。恐らく一時でもジッとしていられまい」

鈴々

「ウゥー、そんな事ないのだ。鈴々はやれば出来る子なのだぁーっ!」

趙雲

「ほぉ~。では今ここでやってもらおうか」趙雲はニヤリと不敵な笑みを浮かべている、挑発にまんまと乗った鈴々。

鈴々

「お安い御用なのだ!」鈴々はドカッと椅子に座り直す。

鈴々

「こうやってジッとしていれば良いのだから、簡単なのだ!」そして……5分経過。

鈴々

「むぅ~……」体がウズウズしだしたのか、落ち着きなく貧乏揺すりをし始めた。

更に5分、計10分経過した時点で

鈴々

「はにゃ~……」ナゼか頭から湯気を出して気絶してしまった。そしてパニクっているのが、もう1人。

愛紗

「鈴々?大丈夫か?しっかりしろ!公孫賛殿、早く医者を!」

一刀

「落ち着けよ。愛紗」

「やっぱりね」呆れた忍はフゥーッとため息を吐いた。

 

 そんな訳で賊のアジトに乗り込む事になったのだが、その結果は如何に?それは次回の講釈で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・キャラ紹介
オリキャラ①藤崎忍
作者の前作の主人公。身長、体格は一刀とほぼ同じくらい。
一説には『ONEPIECE』のボンクレーの転生とも言われているとかいないとか……。
特異能力は『変身』生き物なら何にでも変身出来て、その生き物の力も流用出来る、また変身中も喋るのは可能。(前作と違い、無生物には変身出来ない)

アニメとの違い
・公孫賛の下にいるのは趙雲のみ→趙雲と忍が客将になっている。
・鈴々と手合わせするのは趙雲→忍


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第六席愛紗と趙雲、山賊を訪ねるのこと

当初は予定になかった新オリキャラが登場します。詳細は次回に。


 屋敷の外へ出る一刀、愛紗、鈴々、忍、趙雲。門の前に出ると、偽の商隊が運ぶ荷物の中に櫃のような箱が置かれていた。

愛紗

「うむ。これに隠れるのか……って何で一つしかないんだ!」箱の大きさは人が1人入るのならともかく2人も入ると、かなり窮屈になるのは容易に想像できる。

一刀

「これは……3人も入るのはムリだな」

「あちしは必要ないわよ。虻にでも変身して、後ろからついていけばいいんだし」

一刀

「じゃあ俺と鈴々は麓で待機。忍には伝令役を引き受けてもらって、公孫賛と合流次第、山賊退治に乗り出すってのは?」

愛紗

「良い案だ」

趙雲

「では私と関羽殿でこの中に入るか。少々狭くなるが、致し方あるまい」

愛紗

「しかし、これでは……相当体を密着させないと……その……」

趙雲

「気にするな。私はその()がなくもないので、むしろ大歓迎だ」

愛紗

「そうか。それなら……ってオイ!」

鈴々

「……その気って何なのだ?」

一刀

「鈴々にはまだ早い!知らなくて良い!」

「ね、変な女でしょ?流石のあちしも呆れるわ」首をかしげる鈴々、趙雲にジト目を向ける忍、顔を赤くして俯く一刀と愛紗、悪戯っぽくニヤケる趙雲。

 

 2人の入った箱を偽の商隊が荷車に乗せて、山賊の出るという赤銅山の中まで運んでいく。その後ろから虻に変身した忍が追いかける。箱の中では愛紗と趙雲が息を殺しつつも、互いに膝が当たったとか、変なトコ触ったなどと囁き合っている。荷車を引いていた公孫賛の部下は、その声が聞こえる度に恥ずかしそうに頬を染める。そうこうしている内に山賊達が現れ、荷物を置いていけと偽商隊を脅かす。彼らは事前の打ち合わせ通り、荷物を投げ捨てて麓へ下りていく。

 

 さて屋敷では公孫賛が書類仕事中、途中経過の報告を受けていた。

公孫賛

「で、首尾はどうだ?」

部下

「ええ。偽商隊に怪我もなく、荷は山賊共の手に落ちました。趙雲殿達は無事に潜り込めたようです」

公孫賛

「そうか。藤崎殿はまだか?」

部下

「はっ。おっつけ報せが来るかと思います……今しばらくお待ちを」

 

 奪った荷物を運ぶ山賊達の一行。貯蔵庫へ持っていく途中、バランスを崩して3人が入る箱を落としそうになり、ガタッと音を立てながらやや乱暴に床へ置く。

愛紗

「ひゃんっ」

山賊A

「ん、今女の声がしなかったか?」

山賊B

「はぁ?何言ってるんですかアニキ。幻聴が聞こえるなんて、よっぽど飢えてるんですかねぇ」

山賊A

「ふぃ~、そうかもな。よし、また拐ってきた村娘に酌でもさせるか!」

山賊B

「今夜も祝杯っすね」山賊達が下卑た笑いを浮かべながらその場を去ると、趙雲が中から箱の蓋を少し開けて様子を窺う。

趙雲

「大丈夫、のようだな……」

愛紗

「はぁ~ふぅ~」箱から火照った顔で出てきた愛紗は疲れきっていて、服も乱れていた。

趙雲

「どうやらここは地下のようだ」

愛紗

「地下?」愛紗と趙雲は貯蔵庫から出て辺りを調べ始める。

趙雲

「ここは以前、鉱山だったらしい」

愛紗

「その坑道を隠れ家にしているのか。道理で見つからないハズだ」

「(……幸太がいればこのぐらい、すぐに見抜いたでしょうね)あちしは公孫賛ちゃんにこの事を伝えに行くわ。2人は様子を見てて頂戴」虻に変身したままの忍がその場を去り、2人は探索を続ける。

愛紗

「しかし、得物がこれとは、いささか心許ないな」愛紗の手にはいつもの青龍偃月刀ではなく、小さな短剣が握られている。

趙雲

「仕方あるまい。お主のデカい胸が邪魔でそれ以上は箱に入らなかったのだから」

愛紗

「何を言う?私の胸だけが原因ではあるまい!」

趙雲

「確かに。どちらかというとお主のデカい尻の方が邪魔であった」

愛紗

「なっ……!」

趙雲

「シッ!」愛紗をからかっていた趙雲が急に真剣な顔になり、愛紗を黙らせる。山賊達の笑い声が聞こえた。2人がそこへ駆けつけると広い空間があり、連中は酒を呑み交わしていた。その数約50人。真ん中には首領らしき男がいて、恐らく村から拐ってきたのだろう、若い娘に酌をさせながら厭らしくその体を撫でている。

村娘

「止めて下さいっ!」

山賊A

「良いだろぅ~、減るもんじゃねえし」

村娘

「い……イヤッ!」これを見ていた愛紗がキレた。

愛紗

「おのれ、無体なっ。成敗してくれる!」

趙雲

「何をする気だ、関羽?」

愛紗

「決まっている。助けるんだ!」

趙雲

「しかし、相手はあの人数。それに我らの目的は根城の捜索……ってオイ!」趙雲の話を無視して、村娘を助けようと山賊達の前に躍り出る愛紗。

愛紗

「下郎っ!そこまでだぁーっ!」首領の頭に蹴りを入れて気絶させる。

愛紗

「大丈夫か?」目だけを娘に向けて問う。

村娘

「えっ……あ、はい」しかし場所が悪く、他の山賊達に囲まれてしまった。

山賊B

「何だ手前ぇは!?」

愛紗

「我が名は関羽!地下に巣食う姑息な悪党共め、この青龍偃月刀の錆びに……」生憎、偃月刀は持ってきていなかった。

山賊B

「イヒヒ。何の錆びにしてくれるって?」山賊達が厭らしい笑いを漏らす。

愛紗

「くっ、貴様らなどこれで充分だ!」腰に差していた短剣を手にし、村娘を庇う。

 その時だった。どこからか石が投げられて、広間を照らしていた燭台が次々と倒れていく。趙雲が愛紗達の身を案じて、機転を利かせたのだ。

趙雲

「関羽、こっちだ!」暗がりから趙雲の声が聞こえる。3人でそこまで走ると一先ずは撒いたようだ。

趙雲

「どうやら追っては来ないようだな……」安堵したのか、村娘はその場にへたり込んだ。趙雲は呆れたように愛紗にジト目を向ける。

趙雲

「全くっ……!猪武者なのは妹分だけだと思ったが、お主も相当なモノだな」

愛紗

「……スマン」

村娘

「あの……危ないところを、ありがとうございました」

愛紗

「ナニ、礼には及ばん。当然の事をしたまで故」

 落ち着いた村娘は自分の身の上を愛紗と趙雲に話す。彼女は麓の村に住んでいて、ある日村の小さな子供達を連れて山菜摘みをしていたのを偶々山賊に見つかり、囚われたそうだ。子供達も人質に捕られ、今日まで逃げる事も出来なかったという。

村娘

「もし私が逃げ出したと知れたら、あいつらに何をされるか……」

趙雲

「どうする?」

愛紗

「無論、助けに行く」

趙雲

「……だろうな」2人は娘に案内されて子供達が囚われているという、地下牢へ向かった。

 

 その頃、鈴々と一刀は忍からの伝令を待っていた。退屈しのぎに歌い出す鈴々。

鈴々

「♪やっまがあるから山なっのだ~。川があっても気っにしっない~♪」

一刀

「暢気だなぁ」とは言いながら、一刀は優しい眼差しを鈴々に送っている。

鈴々

「何を言ってるのだお兄ちゃん、山の中では熊避けの為に、歌を歌うモノなのだ!」

一刀

「へぇ。そうなんだ」登山の経験が殆どない一刀は感心している。そこに一匹の虻が飛んできた……と思ったら、その姿が人間に……忍が変身を解いた。

「山賊の根城が判明したわ、地下にある廃坑よ。あちしは公孫賛ちゃんに知らせるから、2人は先行して関羽ちゃん達と合流して頂戴」

一刀

「分かった。行こうか鈴々!」

鈴々

「行くのだ!」廃坑に向かう一刀と鈴々。忍は再び虻に変身すると、その反対方向、公孫賛の屋敷へ飛んでいった。

 

 子供達が囚われている地下牢の見張りの山賊は宴会に参加できずに1人、ボヤいていた。

山賊C

「……ったく、何で俺だけ。とんだ貧乏くじだぜ……」その男がふと気配を感じて振り向くと、物影から艶かしい女の脚が突き出してきた。堪らずその脚にすがり付こうと飛び付いたまでは良かったが、脚の持ち主である趙雲にボッコボコにされた。気を失った男から牢の鍵を奪い、子供達を救出すると、タイミング悪く追っ手の山賊に見つかってしまった。

 

 出口を探しながら走る、趙雲、愛紗、村娘と子供達。しかし地の利は山賊にある。もう少しで捕まりそうになった、その時だった。

??

『加速!』何かが物凄い速さで追っ手の第一陣を切り捨てる。

愛紗

「一刀殿!」

一刀

「みんなこっちだ!」一刀の先導で避難すると、そこに忍と鈴々、公孫賛率いる兵士達が待ち構えていた。

公孫賛

「皆のもの。これより山賊を殲滅させる!全軍、配置につけ!」

兵士達

「「「「応ぉーっ!」」」」

山賊B

「ア~ニ~キ~。領主が来ましたよぉ、もうおしまいだぁ!」

山賊A

「へっ!ビビる事ぁねえや。こっちにゃ奥の手があるだろ!先生、お願いしやす」いつの間にか意識を取り戻していた、愛紗に蹴られた山賊の首領が何者かを呼び出す。先生と言うからには、用心棒だろうか。

??

「フフン。やっと私の出番か……」現れたのは見た目は愛紗達と年齢の変わらなそうな、綺麗な顔立ちの少女だった。ただし、頭には角が生えていて、背中には蝙蝠のような翼を背負っていた……。

 

 

 

 




アニメとの違い
・公孫賛の屋敷で待機していた鈴々は、愛紗達を探そうと不用意に飛び出す→一刀と2人、山の麓で待機。
・愛紗達が山賊達に谷底まで追い詰められたところで鈴々に会う→一刀の先導で公孫賛に保護される。
・公孫賛は最後まで出番なし→兵を率いて山賊を殲滅にかかる。
・愛紗と趙雲が2人だけで山賊を倒す→この後、オリキャラとバトル。一体どうなるのか?


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第七席一刀達、龍退治するのこと

アニメ2話がやっと終わった……
今回はほぼオリジナルストーリーです。


公孫賛

「お主達はこちらへ。誰かこの娘と子供達を家に送ってやれ」

「はっ。さぁこちらへ、村まで我らが護衛して行こう」兵士数人が村娘と子供達を庇い、戦場となるここから避難させる。

公孫賛

「……これで領民は巻き込まずに済む。残りの兵は山賊共を討ち果たせーっ!」

兵達

「「「「応ぉーっ!」」」」

愛紗

「公孫賛殿」

公孫賛

「どうした関羽?」

愛紗

「山賊はお任せする。我らはあの人間とは思えぬ女を退治しよう」

公孫賛

「了解した。くれぐれも武運をな」公孫賛と兵達が山賊と闘う中、愛紗達は件の奇妙な少女に得物を突き付けて問う。

愛紗

「貴様!魔物か妖怪か?!」

??

「妖怪とは失敬な!我が名は摩昴(まぼう)。西海龍王敖閏が( ごうじゅん )一人娘である!」

鈴々

「デタラメ言うななのだ!」

摩昴

「出鱈目ではない!」

愛紗

「龍王とは誇り高き、神に準ずる存在ときく。その娘なら山賊などと手を組む訳がなかろう!」

趙雲

「仮に本当だとしたら、親御である龍王はさぞお嘆きになるだろうな」

一刀

「どっちにしろ、退治させてもらうよ」

摩昴

「たかが人間風情が!出来るモノならやってみろ!」

愛紗

「言われる迄もない!」愛紗は偃月刀を振るい、鈴々は蛇矛で切りつけ、更に趙雲が直刀槍『龍牙』で突く。対して摩昴の得物は三角鞭(ムチではなく三角形の分銅が鎖状に沢山付いた武器)。3人がかりで挑むも、10回、20回打ち合っても決着が着かない。

一刀

「こっちだ、化け物!」

摩昴

「化け物ではない!」日本刀の居合いで攻める一刀と徒手空拳をぶつける忍。

「アン!ドゥ!ゴラァ‼」しかし、摩昴の皮膚は相当頑丈らしく、刃や拳が当たっても傷1つ付ける事が出来ない。

摩昴

「人間のクセに中々やるな。では貴様らに敬意を表して……」そう言うと摩昴の回りに異変が起こる。体を包むような煙が立ちこもり、摩昴の姿が隠れる。サッと煙が晴れると真っ青な肌と鱗を持った龍、というよりむしろ西洋のドラゴンを彷彿させる姿が現れた。身長は10メートルを越し、その目には殺意が感じられる。

ドラゴン(摩昴)

「ハァーッハッハッ、人間共!龍王の力を思い知るが良い!」ドラゴンと化した摩昴は剛力を持ち、一撫でしただけで岩肌が崩れ落ちる。更に一息ごとに氷、炎、雷と様々なブレスを吐きちらし、流石の豪傑達もその勢いには力及ばず、一斉に吹っ飛ばされた。

趙雲

「龍王の名を騙るのは伊達ではないか」

「このままじゃ歯が立たないわね……」

鈴々

「こいつ強すぎるのだ!」

愛紗

「だが、これしきの事で!」

一刀

「負けてたまるかぁぁーっ!」満身創痍になりながらも摩昴に挑む一刀達。何度も挑んでは、吹っ飛ばされるを繰り返すが、諦める様子はない。

摩昴

「えぇーい、しつこーい!」尻尾で彼らをなぎ倒す摩昴。岩壁に叩きつけられてとうとう全員、気を失ってしまった。

摩昴

「ハハハッ!所詮は矮小な人間。やはりこの程度か」

公孫賛

「お~の~れ~、かくなる上はこの私が!」何の変哲もない剣でドラゴンに立ち向かうが、当然勝てるハズもなく、おまけに乗っていた白馬まで食われてしまった。

公孫賛

「何て事だ……やはり私は報われない運命(さだめ)の下に生まれてきたのか……」落ち込む公孫賛をの肩に目を覚ました忍がポン、と手を置く。

「仇ならとってやるわよ」そして一刀達を揺すり起こすと、真剣な顔でこう言う。

「1つだけあいつを倒す手があるわ。みんな、援護を頼めるかしら?」

一刀

「忍……お前、まさか!でも、体格に差がありすぎるんじゃ……」

「ええ。疲れるからホントは嫌だけど、そうも言ってられないわよ」

趙雲

「そうか。ならば私も協力しよう」

愛紗

「私もだ!」

鈴々

「みんなであのウソつき龍をやっつけるのだ!」

一刀

「分かった。無茶すんなよ……って言うだけムダか」

「アリガト」その一言だけ伝えると忍は右手を頬に添えて、摩昴と同じ姿になる。

摩昴

「まさか!貴様も龍だったのか!?」

ドラゴン(忍)

「あちしは人間よ!変身する能力を持ってるだけ。とにかく、これでアンタと互角に闘えるってモンだわ」

摩昴

「その程度の妖術にやられるものか!」

一刀

「妖術というより、超能力なんだが……」

愛紗

「よし、一気に叩くぞ!」スルーされた一刀の突っ込み。

鈴々

「合点なのだ!」

趙雲

「姉妹揃って猪武者か……ま、嫌いではないがな」忍と摩昴は互いの首に噛み付き、食いちぎろうと牙を立てている。その隙を狙って、4人で摩昴に得物をぶつける。

摩昴

「まだ無駄だと分からないか!何!?えぇーい、鬱陶しい!離れろ!」首を押さえている忍を振りきれない為、体の自由も利かない摩昴は一刀達を振り払えなくて次第に苛ついてきた。

 

愛紗

「奴に落ち着きがなくなってきた。今が好機だ!」一刀、愛紗、鈴々、趙雲は各自の得物を摩昴に突き刺す。堅牢な龍の足下がグラグラ揺れている。

鈴々

「もう少しなのだ!」龍王族の矜持か、最後の力を振り絞りその足を再度踏み締める摩昴。いつの間にか忍が消えていた。

趙雲

「藤崎殿!やはり勝てなかったのか?」

愛紗

「私達がもっと強ければ……」うちひしがれる愛紗達。と、同時に摩昴が苦しみだした。

 

一刀

「忍の奴、考えたな」

鈴々

「お兄ちゃん、どういう事なのだ?」

一刀

「今、忍がトドメを刺そうとしている」

愛紗

「トドメ?」

一刀

「忍が細菌……目に見えないくらい小さい、色んな病気の元になる生き物に変身して腹の中から攻撃しているんだ」

趙雲

「なるほど。外からの攻撃がダメなら中からと……」

愛紗

「なるほど。一度龍に変じたのは奴の体内に入り易い状況を作ろうとして……」

趙雲

「そこに私達が割り込んだ、その隙を狙って……という訳か」

一刀

「そ。俺達は陽動だった……って事」

鈴々

「う~ん、よく分からないのだ」一刀達が話し込んでいる間に摩昴はのたうち回っている。

摩昴

「ぐ、ぐるじぃ~!だすげでぐでぇ~」息も絶え絶えの摩昴の脇に突然、雷が落ち、その雷光が人の形を成していく。やがてそこには40前後に見受けられる美しい女性が立っていた。

??

「摩昴よ!このバカ娘が!お前は何と愚かな真似をしている!」

摩昴

「は、母上ぇーっ!」

??

「逃げるな!」女性は一瞬で摩昴を縄で縛り上げると一刀達に向き直り、自らの名を告げる。

??

「人間諸兄よ、私は西海龍王敖閏。この度は我が娘が大変な無礼を致し、面目次第もございません」西海龍王敖閏は一刀達に平伏した。

愛紗

「本当に龍王の娘だったのか!」

 

 頼りの摩昴が負けてしまったので山賊達は成す術もなく、一人残らず退治された。気づいたら忍も生還していたので(細菌に変身していたので誰も出入りを見極められなかった)公孫賛の屋敷に全員が集まり、今回の一件について話し合いをする。

公孫賛

「しかし西海龍王殿……」

西海龍王

「敖閏、とお呼び下され」

公孫賛

「では敖閏殿、ナゼご息女はこのような不埒な事を?」

敖閏

「百二十年ほど前、この娘は我が家に伝わる家宝の金剛石の首飾りを燃やしてしまいました。私は娘を勘当して反省させる意味でこの人界に放り出しましたが今日、偶然竜宮へ参る途中、噂を耳にして……」

趙雲

「それで事情を知って、こちらを訪ねた訳ですな」

敖閏

「はい。あなた方には何とお詫びをして良いか……」

鈴々

「違うのだ!」

愛紗

「鈴々!?」

一刀

「どうしたんだ?」

鈴々

「詫びるなら鈴々達にじゃなくて、村の人達になのだ!」

「そうね。張飛ちゃんの言う通りだわ」

愛紗

「詫びだけでは済まされぬかもしれんがな……」

敖閏

「恐れながら……龍の牙や骨はこの人界では大層な額になるとか。摩昴、自決せよ!その体を売り、賠償するが良い!」

摩昴

「い、嫌だ!母上、お許しをぉー!」

一刀

(……誤解を受けそうな発言だな)

「待って。被害者は村人だけじゃないわ。公孫賛ちゃんも愛馬を食べられちゃったのよ」

愛紗

「敖閏殿。一つ聞きたいのだが……私の知る伝承だと龍は馬に変われるというが、相違ないか?」

敖閏

「如何にも」

愛紗

「なら命を取る代わりに娘ごを、公孫賛殿の新しい馬にするのはどうだ?」

「良い案ね関羽ちゃん。龍馬なら子々孫々に渡って継承もできるし、一石二鳥だわ」

趙雲

「龍王ならそれなりに財はお持ちだろう?村人への賠償はそれで支払う方が良い」

一刀

「流石に我が子の骨を売った金、なんて彼らも貰いづらいでしょうしね」

公孫賛

「ではそのように取り計らうとしよう。敖潤殿、それで宜しいですかな?」

敖潤

「皆さんの寛大な処置に感謝します。どうぞバカ娘を存分にこき使って下さい」

 

 数日後、摩昴の変じた馬に跨がる公孫賛に見送られてその領地を出立する一刀、愛紗、鈴々。3人についていく趙雲と忍。

愛紗

「しかし良かったのか?我らは仕官する気はなかったが、趙雲殿はあのまま公孫賛殿のところに居れば一角の将として、兵を任せられたであろう?」

一刀

「忍だってスパイとして、さぞ重宝されただろうに……」

「確かに公孫賛ちゃんは良い人物だわ、けどそれだけよ。この乱世を治める器じゃないわね」

趙雲

「それに、何より影が薄い」

「何気に酷い事を言うわね……」

趙雲

「この広い蒼天の下、真に仕えるに値する人物はきっといる。それにお主達といる方が何かと面白そうだしな……うむ、これから長い付き合いになるだろう、真名を預かってはくれまいか?」

「じゃ、あちしも。一刀同様、真名とはちょっと違うけど」

鈴々

「勿論なのだ!」

趙雲

「では……我が真名は(せい)という。以後よろしく頼む」

一刀

「俺は一刀」

愛紗

「私は愛紗だ」

鈴々

「鈴々なのだ!」

「忍よ」

 

 5人となった一行は次の土地へと歩み出す。さてさて次回はどんな展開になるのやら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アニメとの違い
・最後まで出番がない公孫賛→大幅に出番が増えている
・星は山賊と戦闘中に真名を預ける→全て終わり、共に旅立つ時に真名を預ける

オリキャラ②
摩昴
西海龍王敖閏の娘。真名は不明。オリキャラといっても元ネタがあり、西遊記に登場する西海龍王の長男、摩昴太子がモデル(勿論、両方共男性)馬になるというエピソードも同様。実際西遊記で三蔵の馬になるのは摩昴の弟ですが。




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第八席袁紹、武道大会を開催するのこと

今回はオリキャラが一気に2名登場です。


 ここは冀州領主の屋敷。後漢時代、三公と呼ばれる優れた人材を官職として輩出してきた名門、袁家が治めるこの地。だが当代の領主である袁紹はその血筋を受け継がなかった。金髪縦ロールのいわゆるおバカお嬢様で、政の才能は皆無。そのくせプライドだけは人一倍高く、且つ我が儘と何その全部盛り?なダメ太守であった。

 そんな袁紹だから、当然仕事はろくにしない。この日も真っ昼間から風呂に入り、侍女からマッサージを受けていた。

 

 この日、袁紹を訪ねてきた者がいた。後の三國志で名を馳せる曹操である。

袁紹

猪々子(いーしぇ)斗詩(とし)。二人揃ってどうしましたの?」

文醜

麗羽(れいは)様、曹操殿がお目通りしたいと、訪ねておいでですが」バスタオル1枚の姿で寛いでいる袁紹のところへ配下の文醜、顔良の2人が報告にやってきた。

袁紹

「お風呂に入ってようやく目が覚めましたのに、何で朝っぱらからあんないけ好かない小娘に会わなきゃならないんですの?」

文醜

「朝っぱらって……もう昼過ぎですよ」

袁紹

「睡眠不足はお肌の大敵ですのよ」今日も今日とて相変わらずのダメ太守ぶりに苦笑を漏らす事しかできない2人。

顔良

「とにかく、我が領内に逃げ込んだ賊や魔物を退治する為にわざわざ都から参られたのですから、ご挨拶しない訳には……」

袁紹

「分かってますわよ。服を着替えたら行きますから、もう少し待たせておきなさい」

 

 しばらくして謁見の間。袁紹はその玉座に腰掛け、曹操を出迎える。

 髪型は袁紹同様の金髪縦ロールでキャラが被っていなくもない。小柄な体に美しい顔立ち、一見すると人形のような愛くるしさを持つ曹操。だが彼女は有能で才に恵まれていて、後に三國志にその名を轟かせる覇王となるのだが、今ここではそれは語るまい。

袁紹

「都からわざわざ賊と魔物退治とは。ご苦労な事ね曹操」

曹操

「ええ。本来ならば私が出向く事ではないのだけれど、連中が貴女の領内に入ったとあらば話は別。放っておけば、みすみす逃がす事になるでしょうからね」

袁紹

「ちょっと、それはどういう意味かしら?」

曹操

「貴女が賊一人、魔物一匹も退治出来ない無能な領主だって事よ」鼻で笑う曹操。

文醜

「曹操!袁紹様に対して無礼であろう!」曹操に食って掛かる文醜、これだけなら主君思いの立派な家臣なのだが……

文醜

「いくらホントの事でも言って良い事と悪い事があるだろう!」袁紹を挟んで文醜の反対側にいた顔良がズッコケる。

袁紹

「猪々子、どういう意味ですの!?」

文醜

「あ、イヤ、咄嗟の事でつい本音が……」

袁紹

「ぬわぁ~んですってぇ~!」その様子に呆れる曹操。

曹操

「ふんっ。無能な領主に間抜けな家臣とは良い取り合わせね……恐れ入ったわ」

文醜

「どうだっ、参ったか!」

顔良

「ちょっと!今のバカにされてるのよ」3人の中では一番まともな顔良が文醜に突っ込む。

文醜

「えっ、そうなの?」

 

 曹操が帰ってからの謁見の間では……

袁紹

「全く!貴女達のせいで大恥をかかされましたじゃありませんの!」

顔良

「貴女達って、私は何も……」

文醜

「しかし良かったんですか麗羽様?賊も魔物も曹操に任せちゃって」

袁紹

「良いんですのよ。あんな汚れ仕事、あの小娘にやらせておけば」面倒事は嫌だ、と言わんばかりに全てを曹操に擦り付けた袁紹。つくづく情けない領主である。

袁紹

「そんな事より武道大会の方ははどうなってますの?」

 

 袁紹の屋敷を後にした曹操は馬に跨がって、2人の男女と街道を進んでいた。部下の女性は名を夏候惇という、長い黒髪と赤いチャイナドレスを身につけた曹操の右腕的存在である。もう1人の客将は男にしては線の細い、メガネをかけたインテリ風でとても腕に覚えがあるとは思えない。馬に乗らず徒歩で、曹操の馬に足並みを合わせながら尋ねる。

??

「曹操さん。袁紹氏はどうでしたか?」

曹操

「相変わらずよ。名門の出である事に胡座をかいて自分が無能である事に気づきもしない。あんなのが領主をしていると思うと虫酸が走るわ……」

??

「……そうですか」

夏候惇

「何やら感慨深そうだな……袁紹に拾われなくて良かったとでも?」

??

「まぁ、そんなダメ人間を1から鍛え直すのも、それはそれで面白そうですけど」

曹操

「貴方なら可能かもしれないわね……それはさておき、春蘭。兵達はどうしていて?」

夏候惇

「はっ。既に門外にて待機しています。合流し次第、すぐにでも出発出来ます」

曹操

「そう。で、燈馬。例の兵器はどうなってるの?」燈馬と呼ばれたこの男。お気付きだろうが一刀達同様、異世界からの転移者である。名は燈馬(はじめ)、仕組みを知っているモノなら材料だけで再現する『創造(クリエイト)』という能力を持っている。

 

燈馬

「砲台と手榴弾ですか?数はご注文通り作成してありますが、使い方にはくれぐれも気を付けて下さいね」もう何度も繰り返している注意をここでも呼び掛ける。

夏候惇

「いい加減しつこいな、お前も」

曹操

「それだけ危険だって事でしょ?」

「何せ命に関わりますから、それを承知の上で亡くなる方も後を絶ちませんし……」その会話の途中、大きな声がした。

鈴々

「うわぁ~。あのお姉ちゃん、頭がクルクルなのだぁ!」一刀達一行である。

愛紗

「これ、止めないかっ!」慌てて鈴々の口を押さえる愛紗。

一刀

「すみません。この子は髪型の事を言ったので、別に頭の中身が……って一か!」

「一刀!それに忍も。何であなた達まで?」

「こっちが知りたいわよ」

曹操

「あら、知り合い?」軽く驚く曹操に対して、一がこの世界に来て初めて会った夏候惇が思い出したように、

夏候惇

「そういえばお前も最初、この二人と同じ服を着ていたな」今の一はフランチェスカ学園の制服ではなく、曹操軍から支給されたこの世界で一般的な男性の衣類を着ていた。

曹操

「まぁ子供の戯言だし、燈馬と旧知の関係なら咎めるつもりはないわ。それより……髪といえば、貴女も中々良いモノを持ってるわね」曹操の視線は愛紗に注がれる。

愛紗

「イエ、これは人に褒められる程のモノでは……」

曹操

「下の方もさぞ美しいのでしょうね」

愛紗

「えっ?イヤ!それは、その……」

鈴々

「そうなのだ。愛紗は下の毛もしっとりツヤツヤ〇〆―▽◇※△★」忍が慌てて鈴々の口を塞ぐ。

「滅多な事を口にするんじゃないわよ!」

一刀

(愛紗の下の……)

「アンタも変な妄想やめなさいよ!」

夏候惇

「華琳様。お戯れはそのぐらいに……」夏候惇に諌められると

曹操

「そうね……」再び愛紗達に向き直り

曹操

「今は野暮用があって残念だわ。我が名は曹操。縁があったらまた会いましょう」

「そういう訳で、僕はこちらにお世話になってますから。一刀、忍。機会(おり)を見てどこかで落ち合いましょう」3人は去っていく。

「あれが近頃噂の曹操か……侮れんな」

「やっぱり曹操も女の子なのね」

一刀

「しかしさすが覇王と呼ばれるだけの風格は感じられるな」

「それにしても、お主らの仲間が曹操の下にいたとはな」

一刀

「ああ。あいつが一緒となると曹操を敵に回すのは危険すぎるな」

「確かに。色々とヤバいわね」

 

 数時間後……

愛紗・星・鈴々

「「「お帰りなさいませ、ご主人様!(なのだ!)」」」5人はメイド飯店で臨時のバイトをしていた。この辺りの魔物討伐は曹操に一任されているので、懸賞金の対象外となっていたのだ。

愛紗

「全く!どうして私がこんな事を……」客に見えない場所で、壁に手を付き項垂れる愛紗に星がピシャリと言う。

「今日の宿代にも事欠く有り様な上、魔物退治で金が稼げないのだから仕方あるまい。それにこの仕事が一番給金が良かったのだ」

愛紗

「しかし主でもない相手をご主人様と呼ばねばならんとは」

男性客

「すいませーん」

「お帰りなさいませご主人様。さぁ~こちらへどうぞ❤」途端に可愛らしい声で接客を始める星。その声はさながら元祖ギャルゲー第二段に登場するサーカス団の美少女にそっくりだった。

一刀

「そういや中の人が同……グハッ!」

「メタるんじゃないわよ!」意味不明なやり取りをする男2人だったが

女性客

「すいませーん」

一刀

「お帰りなさいませお嬢様。お席へご案内致します」

「承りましたお嬢様。少々お待ち下さい」イケメンの一刀と忍に女性客は誰もが、デレッデレな顔になっている。

愛紗

「星。お主にしてもあの二人にしても、上手くやり過ぎてないか?」

「腹が減っては戦はできぬ。先立つモノがなければ、これからの旅もままならない」

一刀

「そうだよ愛紗。これも軍略の内さ」

「そう思えば何て事はないわ。あ、お帰りなさいませ~」

愛紗

(恐るべし、趙子龍に異世界人達……)

 

 その頃、鈴々は店の食べ物をつまみ食いはする、皿は何枚も割る、といった失敗を繰り返して馘になった上、愛紗に怒られてふて腐れながら往来を歩いていた。

鈴々

「ちょっと失敗しただけなのに。こうなったらドーンとお金を稼いで、愛紗達をビックリさせてやるのだ!」道の脇の立て看板があり、その周りに人だかりが出来ていたのを見掛ける。そこには何やら書いてあったが、

鈴々

「う~ん。難しい字ばっかりで良く分からないのだ~」

??

「冀州一武道大会本日開催!優勝者には賞金と豪華副賞有り、だってさ」鈴々の近くに立っていた、髪をポニーテールにまとめている愛紗と同年代ぐらいの少女が教えてくれた。

鈴々

「賞金?じゃあ優勝すれば、お金をいっぱい貰えるって事なのだな!」

??

「まぁな。けど、そう簡単にはいかないと思うぜ」

鈴々

「何でなのだ!」

??

「そりゃ決まってんだろ。優勝するのはこのあたしだからだよ!」

??

「そいつぁ、聞き捨てならねえな」この会話に1人の男が割り込んできた。

??

「優勝はこの俺、高坂がいただく。勿論、賞金もな。お前らにゃ絶対負けねえぜ」身長が190cm.近い男が自信満々に宣言する。この時の鈴々は気づいてなかったが、彼もフランチェスカ学園の制服姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アニメとの違い
・袁紹について曹操に尋ねるのは夏候惇→オリキャラの燈馬一。
・鈴々がバイトを馘になる細かい描写はカット
・メイド飯店の最後のセリフは星1人→一刀と忍と3人に振り分け

オリキャラ③
・燈馬一
一刀達の同級生でやはり友人の1人。高校生ながらIQが非常に高く、あらゆる科学に通じている為、『創造』で武器や未来の機械類等、無機物に限り作成出来る。但し、ガンダムやタイムマシン等、元の世界に実在しないモノは作れない。高坂については次回。


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第九席文醜と顔良、絶体絶命のこと

いつもより短めですが、話作りに手間取りました。
( ̄□ ̄;)


 武道大会会場には、多くの参加者が集まっていた。

??

「さぁ始まりました、冀州一武道会!果たして優勝は誰の手に!?」本来の漢王朝には、いるハズがない実況アナウンサーが熱っぽく声を張り上げていた。

??

「本日の実況はわたくし、陳琳(ちんりん)が担当させて頂きます。ではまず、本大会の主催者にして冀州太守。超名門袁家の袁紹様より、開会のご挨拶を!」

袁紹

「ほーっほっほ。皆さん、私主催の武道大会にようこそ。本日は心行くまでお楽しみ下さいね!この袁紹……」

陳琳

「袁紹様のご挨拶を頂いたところで……」長くなりそうと判断した陳琳が話の続きをぶった切る。うやむやなまま挨拶が終わると、盛大な拍手と声援が響く。しかし良く見ると、文醜と顔良が"掌鼓"と"声呼歓"と書かれたプラカードを客席に向けて掲げている。当然ながら袁紹は、そんな部下の苦労など知る由もない。

 

陳琳

「それでは第一試合です。片や優勝候補筆頭と言われる鉄牛(てつぎゅう)選手!」紹介されたのは身長が2メートルはありそうな、巨大な斧を得物とするマッチョな髭男だ。

陳琳

「対するは本大会最小、もとい最年少の張飛選手。果敢にも飛び入り参加してきましたが、これは相手が悪いかぁ!?」鉄牛は楽勝と言わんばかりに、斧を鈴々に振り下ろす。しかし……

陳琳

「な、何と!?張飛選手、鉄牛選手の斧を防いだぁーっ!」鈴々は蛇矛で斧を受け止める。鉄牛が押し込もうとしても、ウンともスンとも動かない。

鈴々

「この程度では鈴々には勝てないの……だぁー!」鉄牛ごと斧を跳ね返す。哀れ、観客席まで吹っ飛ばされ、そのまま気を失う鉄牛であった。

陳琳

「張飛選手の勝利!これは序盤戦から大番狂わせだぁ!」陳琳が叫ぶと、会場が一斉にどよめく。

 

 続く第二試合には、先ほど張飛に武道大会について説明してくれた少女、馬超が出場していた。

陳琳

「第二試合は飛び入りの馬超選手。相手は槍の名手だそうですが……」槍の連続突きで攻撃する相手の女に対して、馬超は涼しい顔で回避と防御をひたすら続ける。その内に相手の息が荒くなってきた。

馬超

「もう終わりか?」

「何っ!?」

馬超

「じゃあこっちからいかせてもらうぜ」馬超の十文字槍『銀閃』が光り、高速で相手に突き刺さる。

「きゃあーっ!」その場に横たわる女に馬超は笑みを浮かべて言い放つ。

馬超

「安心しな。急所は外しておいた」会場からまたしても歓声が起こる。鈴々、馬超共に2回戦へコマを進めた。

 

陳琳

「……作者の文章力の都合で第三試合以降は省略して、一回戦最終試合です!」鈴々と馬超もこの試合を見ていた。先ほどの長身男の高坂が、鉄製で作られた杵のような得物を振るう熊を思わす大男を相手にしていた。対して高坂は素手である。

「お前みたいな優男、ペシャンコにしてくれるわ!」杵で高坂を打ち果たそうとする男だったが

馬超

「おい。あいつ大丈夫なのか?素手じゃ、あの鉄杵を防ぎきれないぜ」

鈴々

「油断大敵なのだ!あいつがお兄ちゃん達の仲間なら、きっと妖術みたいなのを使うと思うのだ」鈴々の言葉に、馬超の頭のテッペンに?が浮かぶ。

高坂

「あんまり目立ちたくはねえが……アレ(・・)を使うか『螺旋(ドリル)』!」右腕が回転するドリルと化し、男の鉄杵があっという間に穴だらけになる。

「な、何だ……今のは!?」相手が戸惑っている隙を見計らって、キックで場外に放り出す高坂。彼も2回戦に進出が決まった。

 

 「さて、作者のいい加減さもあって、遂に最終試合です!これまで勝ち抜いてきた三名で対戦して、今大会の優勝者が決定します!」決勝戦はバトルロイヤル形式で行われるようだ。

高坂

「(流石、歴史に残る武将の名を冠しているだけはあるな)やっぱりお前らが相手か」

馬超

「まさか本当に決勝まで勝ち上がってくるとはな……かかってこい!」

高坂

「お前らを倒して、優勝賞金は俺が貰っていくぜ!」

鈴々

「賞金は鈴々のモノなのだ!」蛇矛と槍と拳が激しく打ち合う。観客席は予想だにしなかった展開に声を上げるのも忘れ、固唾を飲んでこの闘いを見守っていた。

馬超

「デェヤァーッ!」馬超の十文字槍とドリル化した高坂の右腕がぶつかり合い、金属音が響く。

鈴々

「だったら足払いなのだ!」小柄な身体を活かし蛇矛で足を攻撃するが

高坂

「生憎、ドリル化出来んのは腕だけじゃねえんだよ!」爪先が高速回転して蛇矛を弾き返す。

鈴々

「うわぁ!」

馬超

「……くっ!」まとめて吹っ飛ばされた2人。何とかバランスをとって、体勢を立て直して顔を見合わせる。

鈴々

「……あいつ、強いのだ」馬超は鈴々に耳打ちをする。

馬超

「張飛。ここは一時(いっとき)の間、手を組まないか?」

鈴々

「どうするのだ?」

馬超

「二人で力を合わせてあいつをぶっ飛ばそうぜ。あたしが腕の攻撃を防ぐから、その隙にお前が足を刺せ」

鈴々

「合点なのだ!」打ち合わせ通りに馬超が高坂の腕のドリルを凪ぎ払い、鈴々が足を狙う。

高坂

「……そうきたか。けどな、俺がドリルに出来んのは腕と足だけとも言った覚えはないぜ」鈴々の攻撃を避けると、今度は膝の関節からドリルが飛び出す。慌てて距離を取った鈴々だが、僅かにかすり肩から血を流していた。更に口の奥歯までドリルに変形させて、馬超の槍を噛み砕いた。

高坂

「優勝賞金は俺が頂いていく!」と、ここまではカッコ良かったのだが……。

 

 グゥ~~ッ……高坂の腹の虫が盛大に鳴る。

鈴々

「なっ……?もっと真面目にやるのだ!」プリプリする鈴々、しかし……その鈴々の腹の虫も大きな音を立てる。

鈴々

「にゃはは……(苦笑)」

馬超

「何だよ、どいつもこいつも……揃って緊張感のない奴らだなあ」呆れていた馬超もまた……。

高坂

「……って、お前もかよ!?」さっきまでの張り詰めた空気が一転、客席からは笑いが起こり、会場は和やかなムードになる。

袁紹

「それまで!この勝負引き分け。よって三名共に優勝とします!」袁紹による突然の閉会宣言。今度は客席が一斉に白けたが文醜と顔良がさっきのプラカードを再び掲げると、拍手が響く。袁紹に仕えるばっかりに苦労の絶えない2人だった。

 

 その夜、馬超と鈴々、高坂は袁紹の屋敷で夕食をご馳走になっていた。何かのパーティーか?と思えるほどの大量に出された料理をたった3人で次々に平らげていく。

袁紹

「あなた達の闘いぶり、本当に見事なモノでしたわ。そこで相談なんですけど、良かったら我が袁家の客将になっていただけませんこと?」袁紹から話を切り出された3人は、

鈴々

「モグモグ……客将って何なのだ?」

馬超

「う~ん。まぁ、簡単に言やあお客さんって事かな」

鈴々

「客将になれば毎日こんなご飯が食べられるのか?」

袁紹

「勿論ですわ。朝、昼、晩と最高の料理人が腕を奮った料理をお出ししますわよ!」

鈴々

「じゃあなるのだ!」

馬超

「少しの間なら良いかな」

高坂

「異存はない。袁紹殿、ご馳走になったメシ分は働かせて貰うつもりだ」この話をこっそり聞いていた文醜は大慌てで顔良の部屋に急いだ。

 

 自室で上着を捲り、腹の肉を摘まみながら、空しそうにため息を吐く顔良。

顔良

「ハァーッ。この頃出陣してないから、やっぱり運動不足かしら?」

文醜

「斗詩、大変だ!」ノックもなしにいきなり扉を開ける文醜。恥ずかしい姿を見られた顔良は顔を真っ赤にしている。

顔良

「何よ猪々子!急に入ってこないでよ!」

文醜

「それどころじゃないって!麗羽様、張飛と馬超と高坂を召し抱えるつもりだぞ!」

顔良

「良いじゃない。あの三人強いし、きっと戦力の増強に……」

文醜

「何言ってんだ!?今でこそあたいらは麗羽様の一の側近だけど、あんなバカ強ぇのが来たら」

顔良

「うっ……確かにそうね」もし張飛達が側近にと迎え入れられたら、自分達の地位が危うくなる。文醜はそれを心配している。

顔良

「う~ん……そうだ!」何かを閃いた顔良が文醜に耳打ちする。果たしてこの2人の策とは一体……?

 

 

 




原作との違い
・作者に対する陳琳の突っ込みがやたらに多い。
・優勝は馬超と鈴々の2人→高坂も入れて3人
その他、今回は高坂の登場以外相違点は特になし
オリキャラ④
・高坂賢
一刀達の同級生。仲間内では一番の長身で見た目も良い。
手足や肘、膝等からドリルを突出させて武器とする全身ドリル人間。


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第十席賢、顔良に惚れるのこと

一応言っておきます。本作の現代世界にひびきの高校は存在しません。あしからず。


 この晩は袁紹の屋敷に一泊の宿を借りた鈴々、馬超、高坂の3人。

 そして翌朝、文醜と顔良の申し出に袁紹は怪訝な顔をする。

袁紹

「馬超と張飛を召し抱えるのを止めろと?」

文醜

「イエ。そこまでは言ってないんですけど……」

袁紹

「貴女達も見たでしょう?あれだけの豪傑を配下にすれば、きっとあの曹操の鼻を明かしてやれますわ」

顔良

「武勇に優れているのは認めますけどあの二人、『強く賢く美しく』を掲げる我が袁紹軍に相応しいかどうか……」

袁紹

「ふむ……確かにあまりお上品とは思えませんわね」

文醜・顔良

「「ですよねぇーっ」」

顔良

「(私達も馬族出身であまり人の事は言えないけど)そこで一つ、提案があるんですけど」

袁紹

「提案?」

顔良

「馬超と張飛が麗羽様の配下に相応しいかどうか、試験をするのです」

袁紹

「なるほど。適正試験という訳ね」

文醜・顔良

「「はいっ」」

袁紹

「良いでしょう」

文醜

(ヨッシャ!これで後はあの二人に無理難題を押し付けちまえば……)

袁紹

「では、試験の課題は私が出しましょう」

文醜・顔良

「「えぇーっ!?」」

袁紹

「それであの二人と勝負なさい」

文醜

「勝負……ですか?」

袁紹

「ええ。それで貴女達が勝てば、今まで通り私の側近は貴女達。ですが、もし負けた場合は……これよ」袁紹は手刀で喉元を切る仕草を見せる。

文醜

「えぇーっ!まさか斬首刑!?」

袁紹

「違うわよ!クビ!お払い箱ですわ」

文醜

「なぁ~んだ、良かったぁ」

顔良

「良くないわよ!」もう後には引けない文醜と顔良だった。

 

陳琳

「さあ、突発的に始まった、袁紹軍適正試験。張飛、馬超、新参組二名対お馴染み文醜と顔良の三本勝負で強さ、賢さ、美しさを競います!」試験会場は昨日と同じ闘技場が使われる事になり、実況も昨日と同じく陳琳が担当する。

 

 愛紗達と手分けして、昨夜から姿の見えない鈴々を探していた一刀は街の人から聞いた話を頼りに袁紹の元にやって来て、またしても友と再会した。

高坂

「オイ、一刀じゃないか!お前もこの世界にいたのか?」

一刀

(けん)!?これで俺を含めて4人目だな」

「4っ……俺とお前以外にもいるのか?」

一刀

「ああ、忍に一がな。忍とは一緒に行動している。一は曹操の配下になっていたが」

「またアクの強い奴らが……」半ば呆れて手のひらで目頭を押さえる賢。

一刀

「その話は後にしてくれ。それより鈴々……じゃなくて、張飛って娘を知らないか?」

「張飛なら昨日、武道大会で一手()り合ったぜ。今日は何かの適正試験だとかで袁紹の側近と決着つけるそうだ」

一刀

「そっか。じゃ俺は、忍や他のみんなに知らせに行くよ。終わったら俺達が逗留している宿屋まで連れてきてくれないか」

「ああ、構わんぞ。って忍と2人旅じゃないのか」

一刀

「急ぐんでな。詳しくは後で話す」一刀は用件だけを伝えて、その場を去っていく。

「……つまり張飛も旅の仲間って事か。しかし、一刀も忙しない奴だな」一刀を見送って、会場に戻る賢。間もなく開始という時刻になって、顔良と鉢合わせた。

「顔良。そういや俺は試験に参加しなくて良いのか?」

顔良

「良いの良いの。これは麗羽様の侍女としての試験でもあるから、貴方は無条件で客将にって、麗羽様が……」文醜が話に割り込んできた。

文醜

「アレ?麗羽様そんな事言ってたっけ?」

顔良

「(プチッ)ヤダ、猪々子ったら……忘れちゃったの?」顔良は口元を緩めているが、眉をピクピクさせて、額から血管を浮かべている。その笑顔の恐ろしさに、それ以上追求出来ない文醜だった。

 

 まずは賢さを競う。両陣営にそれぞれ木製のマジックハンドと椅子、3メートルくらいの高さから吊り下げられたバナナが用意されていた。

(これ……サル用じゃねえか!?)

文醜

「あたい、こういうの苦手なんだよなぁ」

顔良

「イヤ、苦手とかそういう問題じゃなくて……」高坂も顔良も呆れている中、

鈴々

「アレをとるぐらい簡単なのだ」椅子を引き寄せてその上に立って一生懸命手を伸ばすが、当然届くハズがない。

馬超

「バカだなぁ。こういう時は道具を使うんだよ」マジックハンドを手にバナナを取ろうとする馬超。しかし椅子は使わない。

(バカなのか、コイツら?イヤ、落ち着け俺。この2人は俺が知ってる張飛と馬超とは全くの別人……)

顔良

「あの……これって、こうすれば良いんじゃ……」顔良は椅子の上に立ち、マジックハンドでバナナを掴む。

馬超

「おお!」

鈴々

「その手があったのだ!」

文醜

「どうだ!知力34の力、恐れ入ったか?」

顔良

「うぅ……勝ったのに、ナゼかあんまり嬉しくない~(泣)」

高坂

(顔良って苦労してそうだな……)様々な思いが交錯する中、まずは文醜・顔良チームが一勝をとった。

 続いては美しさ。袁紹から勝負の内容の詳細を説明される4人。

袁紹

「この裏にある衣装部屋から好きな服を着て舞台にお立ちなさい。観客の評判がより高かった方を勝ちとしますわ」そして衣装部屋に入った両チーム。そこには漢時代を彷彿させる世界にも関わらず、ナゼか近代的な洋服が沢山あった。

鈴々

「面白い服がいっぱいなのだ」

馬超

「参ったなぁ。あたしあんまりお洒落とか……」

 

 ~ここからしばし着替えの時間~

 

陳琳

「さあ!両陣営の支度が整ったようです。まずは張飛、馬超組から!」

鈴々

「がお~がおがお~なのだ!」ピンクの虎の着ぐるみで現れた鈴々。マスコット的な可愛らしさに会場が暖かい笑いに包まれる。その後ろから馬超が出てきた。

馬超

「あ、あんまジロジロ見るなよ……あたしこういう、ヒラヒラしたの似合わないって分かってんだから……」白いニットソーと黄色のワンピースを着て、髪を解いた馬超は俯きがちに呟くと、恥ずかしそうに頬を染める。

陳琳

「え……ええ。馬超選手、一部に激しく受けているようですが。それでは観客の皆さん、採点をお願いします!」予め配られていた○と×の札を一斉に上げる観客達。それを、冀州野鳥の会の面々が双眼鏡を手に集計する。

陳琳

「出ました、87点!これはかなりの高得点です!」

 

 ~一方文醜、顔良組。舞台袖にて~

文醜

「ちっ!中々やるな、あの二人」

顔良

「ねえ猪々子……ホントにこの格好じゃないとダメなの?」

文醜

「何言ってんだよ!こうなりゃ一か八か、これに賭けるしかないって!」

顔良

「でも~、やっぱり……」

文醜

「行くぞ!」2人揃って舞台に飛び出す。

文醜

「乱世に乗じて平和を乱す賊共め!」

顔良

「漢王室に代わって成敗よ!」ナゼか某魔法少女のような出で立ちで登場した2人だったが……

 

 ─ポカーン─

 

 思いっきり会場が白ける。心なしかこの辺りだけ、気温が下がったような気さえした。テンションだだ下がりな観客も、仕方なしと言った表情で札を上げる。

陳琳

「え~、文醜、顔良組の合計は13点……と、いう訳でこの勝負は張飛、馬超組の圧勝です!」

「……まぁ、そうだろうな。しかし何であんな服が……?ここの世界観、メチャクチャだな」

馬超

「ヨッシャ!」

鈴々

「やったのだ!」大喜びの鈴々と馬超に対して、

文醜

「ま、負けた……」

顔良

「色々捨てたのに負けちゃった……」ある意味人生詰んだ2人。舞台上でうちひしがれて、袖に引っ込んでも沈んでいた。それでも3回戦の火蓋は切って落とされる。

袁紹

「それでは最後に強さを競ってもらいますわ。但し、武器を持っての戦闘ではなく……」袁紹が取り出したのは先端部分に白鳥の頭を模した相撲のまわしだった。現代日本人ならあの白塗りのバカなお殿様を思い出すだろう。

袁紹

「この我が袁家に代々伝わる華麗で優雅で壮麗なこのまわしを絞めて、女相撲で決着を着けてもらいますわ!」

鈴々、馬超、文醜、顔良

「「「「えぇーっ!?」」」」

(あんなモンまであるのかよ?しかもイケてるつもりなのか……ホント救いようのないバカだな)

 

 結局、袁紹には逆らえず嫌々まわしを締める文醜と顔良。まわし以外は何も身に付けてはいけないルールの為、衆人環視の前でほぼ全裸を晒すハメになった2人。そこに意外な邪魔が入った。

「君に恥を掻かせたくない……」顔良の身体にフランチェスカ学園の制服が掛けられた。

袁紹

「高坂!?邪魔する気ですの?(怒)」

「煩せぇ!俺は顔良を連れてあんたの下を去る。馘にするなら勝手にしろ!」右腕で顔良の身体を隠すように抱き抱え、左手の指を5本ともドリルに変化させて袁紹の喉元に突きだす。

「あばよ!」そのまま立ち去る賢と顔良。

袁紹

「ちょっと!試験はどうなりますの!?」

文醜

「麗羽様!そんな事より、斗詩が拐われちまいましたよ!アンニャロー、よくもあたいの斗詩をぉーっ!」

陳琳

「あの~……お取り込みのところ、すみません。ただ今ですね、張飛、馬超両選手がこの勝負を棄権すると言って帰っちゃいましたが……私も次の仕事があるので、これで失礼します」いつの間にか観客も、誰一人として残っていなかった。

 帰り道、袁紹のバカっ振りにボヤく鈴々と馬超の姿があった。

馬超

「いや~、いくら何でもあれは勘弁してほしいよなぁー」

鈴々

「流石の鈴々もあれはキツいのだ……」そして2人は鈴々達が逗留する宿にたどり着いた。

鈴々

「ただいま~なのだ!」

愛紗

「コラーッ‼」愛紗の怒号が宿中に響く。

鈴々

「ふにゃ!」

愛紗

「宿で大人しくしていろとあれほど言っておいたのに、フラフラと居なくなって!一晩帰って来ないなんて!」

一刀

「まぁまぁ愛紗。居場所は分かってたんだし、鈴々も反省しているみたいだからその辺で」

愛紗

「全く!どれだけ心配したか……ん、お主は?」鈴々の後ろから、バツが悪そうに入ってきた少女にようやく気づいた愛紗。

馬超

「あ、どうも。あたし馬超って言います」

鈴々

「馬超はね、鈴々の新しいお友達なのだ!」

一刀

(今度は馬超か……どうも蜀陣営に縁があるな。アレ?)一刀は今夜、ここで会うハズだった友を思い出した。

一刀

「鈴々、賢はどうした?ほら、俺達と同じ服を着ていたあのデカい奴」

鈴々

「ああ。あいつなら、顔良を拐ってどっか行っちゃったのだ」

一刀

「マジかよ……何考えてんだ、あいつ」

「鈴々ちゃん、顔良の特徴は?」

鈴々

「う~んとねえ……」鈴々が質問に答えると揃ってため息を吐く一刀と忍。

「そんな事だと思ったわ」

一刀

「そうだ。あいつ結構惚れっぽい性質(たち)だった……」

「お主らの仲間なだけはあるな」クスクス笑う星に返す言葉もない2人であった。

 

 

 

 




アニメとの違い
・3回戦は文醜、顔良の不戦勝。2人は馘を免れる→顔良に惚れた賢が誘拐騒ぎを起こして勝負はうやむやに。
・一刀達は鈴々が袁紹のところにいたのを知っていたので愛紗の最初のセリフから「どこへ行っていたんだ!」をカット。
星は今回セリフなし→一言だけ足しました。
因みに賢が無条件で袁紹の客将になるというのは顔良の捏造です。どうも両思いらしい2人……。
次回は久し振りに敵の魔物が登場?


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第十一席馬超、曹操を狙わんとするのこと

最初は馬騰を女性にと思いましたが、やはりアニメのまんまで。そういえば今回、サブタイも本家の流用です……
(^_^;)?


 これは馬超がまだ幼い頃、父の馬騰から武術の手ほどきを受けていた時の話。早朝、庭先にて棒を構え、互いに向き合う父娘。父にはまるで隙がないのに対して、娘はブルブル震えている。

馬騰

「……翠。何か隠し事をしているな?」

馬超

「な、何言ってんだよ父ちゃん!あたし今朝はオネショなんかしてなっ……あ!」

馬騰

「ハッハッハ。隠し事はオネショか」クスクス笑う父に食って掛かる幼い馬超。

馬超

「うぅ~。け、けど何であたしが隠し事しているって分かったんだよ?」

馬騰

「武術とは正直なモノだ。心に疚しい事があれば、それが気の濁りになって現れる」

馬超

「そ、それじゃあ……」

馬騰

「ああ。お前の構えには心気の曇りが感じられた」父に全て見抜かれていたのが恥ずかしいのか、馬超は目を伏せる。

馬騰

「どうしたんだ?オネショの事なら気にする事はないぞ?」

馬超

「違うよ。父ちゃんにはあたしの構えを見て、あたしの気持ちが分かったのに、あたしが父ちゃんの気持ちが分からなかったのがなんか悔しくて……」

馬騰

「何だ、そんな事か。大丈夫!ちゃんと修行すれば、お前もすぐに気が読めるようになる」

馬超

「本当に!?」

馬騰

「勿論」

 

 ここで舞台は現実に戻る。幼い頃のある日を夢に見ている馬超は

馬超

「むにゃむにゃ……父ちゃん、あたしいっぱい練習するから……練習……」そこで目を覚ました。

馬超

「ん……夢?」寝ぼけ眼で上半身を起こしたら

「やっと起きたか……」2つの寝台を挟んだ床に、星が転がっていた。

馬超

「なんでそんなトコで寝てんだよ?」

「好きでこうしている訳じゃない。寝ている間にお主に突き落とされたのだ」昨夜は路銀の節約の為に、2つの寝台に2人ずつで寝ていた。

馬超

「えっ?ゴメン、あたし寝相悪くって!」慌てて詫びる馬超。

「なに、そう謝る事はない。お返しに私もお主が寝てる間に……イヤ、見た所生娘のようだし、何をしたのかは黙っておこう」そう言いながらマジマジと馬超の体を、艶かしい目で眺める星。

馬超

「おい!寝ている間、一体あたしに何かしたのかっ?オイ!」朝早くからちょっとした騒ぎになる。因みにいつもなら、こんな状況を納める役である愛紗は鈴々と1つの寝台で未だ仲良く寝息を立てていた。

 

馬超

「いやぁ。相部屋させてもらった上に飯まで奢ってもらって悪いなあ」頭を掻きながら礼を言う馬超に、

鈴々

「気にしなくて良いのだ。旅は道連れ、世は、えーと……世は情けないってよく言うのだ!」

「『世は情け』よ」

愛紗

「まあ二人部屋にムリ言って四人で泊めてもらったのだから、情けないといえば、情けないが……」一刀と忍は『こいつと同じ寝台で寝るよりマシだ(わ)』と、2人は宿屋の裏を借りて野宿した。そして今朝、合流して同じ卓で朝食を摂っている。

鈴々

「やっぱり武道大会の賞金、貰っておけば良かったのだ」

馬超

「そうだよなぁ。しっかし今更ノコノコと取りに行くのもなぁ……」

「そういえばお主ら。こんな話を知っているか?昔、(えつ)という国の王、勾践(こうせん)は敵国に囚われた時の恨みを忘れないよう、天井に苦い肝を吊るして、それを舐めては復讐の気持ちを新たにしたという」

馬超

「へぇー。で、それが今の話とどんな関係があるんだ?」

「いや、特にない」

一刀

「ないんかい!」全員が脱力する。ある意味今日も通常運転の星だった。

 

 時は昨晩まで遡り、曹操軍が盗賊の一団を退治している。当所の予想通り賊の強さは大した事もなく、殲滅に手間はかからなかった。

曹操

「圧倒的ね、我が軍は。ワザワザ私が出るまでもなかったわ」その時だった。遠くからズシンズシンと地響きが聞こえると思いきや、瞬く間にその音は大きくなって近づいてきた。

 足音の正体は体が銀色の鱗に覆われた蜥蜴の群れだった。一匹一匹の大きさは80センチくらいと、一見大した相手ではないように見える。

夏候惇

「魔獣か。華琳様、この春蘭にお任せを」

「あれは……メタルリザード!?夏候惇さん?ちょっと待って下さい!」一達の世界ではよく知られた魔獣、金属や鉱石を餌とするメタルリザードだった。餌のせいか皮膚がとてつもなく固く、吐息が塩素ガスを含むので、あちらでは害獣認定されている。止めようとした一だが、猪武者の夏候惇は聞く耳を持たない。

夏候惇

「我が七星餓狼の錆にしてくれる!デヤァーッ!」魔獣の固い鱗は七星餓狼を弾き返し、その衝撃は夏候惇の手のひらに思いっきり響いた。

夏候惇

「いっ……()ぁーーーいっ!」さながらマンガの如く赤く腫れ上がった手にフーフー息を吹きかける夏候惇。その間、件の魔獣は動く気配がない。

「……だから待ってと言ったじゃありませんか」

夏候惇

「だって……だってあんなに固いなんて思わなかったんだっ!(泣)ヒクッ、エッグッ」半泣きの夏候惇に妹の夏候淵が駆け寄ってきた。

夏候淵

「よしよし姉者。良い子だから泣くんじゃないぞ」夏候惇の頭を撫でる夏候淵。これではどっちが姉だか分からない。曹操は夏候惇に呆れながらも、一に尋ねる。

曹操

「燈馬、こいつらを知っているようね。私達を襲う様子はないけど、放っておいて良いのかしら?」

「彼らの餌は鉱石や金属です。但し、塩素ガス……有毒な煙を吐いて撒き散らすので、退治しなくてはなりませんね。幸い僕の手に手榴弾がまだ残ってますから距離を取って、爆破しちゃいましょう」

曹操

「了解よ、後は任せるわね。燈馬を除いて全員撤退!」

 

 メタルリザードを殲滅して、曹操軍は天幕へ戻る。そこには軍師の荀彧が、曹操の帰りを今か今かと待っていた。

 ガチャリ。華琳愛用の鎌、『絶』が立て掛けられる音に気づいた。どうやら無事に帰ってきたようだ。荀彧は曹操を頬を染めて迎える。

荀彧

「おかえりなさいませ、華琳様。随分汗をお掻きになってますわ……すぐにお拭きしますね」手拭いを取りに天幕を出ようとする荀彧だったが、曹操に腕を引かれる。

曹操

「ええ、お願いするわ。但し、手拭いではなく……桂花(けいふぁ)。貴女の舌でね」

荀彧

「え、華琳様?でも……」

曹操

「どうしたの?……もしかしてイヤ?」荀彧はフルフルと頭を横に降る。

曹操

「それじゃあ……」鎧を外し玉座に腰を下ろすと、腕を上げ見せつけるように脇の下を晒す曹操。顔を赤くしながらも、嬉しそうに舐める荀彧。

荀彧

「……ところで華琳様。あの男はいつまでお側においておくのですか?」曹操の足の指を口に加えながら一の事を尋ねる荀彧。大の男嫌いな荀彧にとって、曹操の近くに男がいるだけでも面白くないのに、主君に重宝されているのはあまりに耐え難かった。

曹操

「それは……私が天下を統一するまでよ。燈馬はみすみす捨てるには惜しい男だわ」

荀彧

「……しかし華琳様ならあんな奴を使わずとも、天下を手にするのは可能かと?」

曹操

「アラ、嫉妬?フフッ、貴女が心配する事は何もないわよ。あくまで利用するだけ。今夜は貴女が伽の相手をしてちょうだい」恥ずかしそうに俯く荀彧だったが、腹の中では一を追い出す算段を立てていた。

 

 しばらくして捕らえた賊達を護送する馬車を連れて、町を凱旋する曹操軍の姿があった。その反対側から鈴々と一刀と馬超の3人が、会話しながら歩いてきた。

鈴々

「荷物運びの仕事、思ったよりお金が貰えて良かったのだ」

馬超

「へへーん。何しろあたしの働きが良かったからな」

鈴々

「それだけじゃないのだ。鈴々だっていっぱい頑張ったのだ!」

一刀

「あ~、肩と腰が超痛ぇ~。2人ともよく平気だよなぁ」

鈴々

「お兄ちゃんはもっと鍛えた方が良いのだ……あっ!曹操なのだ!」

馬超

「え、曹操?」馬超の表情が変わる。

一刀

「どうかしたか?」一刀が尋ねるが、その言葉は馬超の耳に届かない。

 人だかりに気づいた鈴々がその中を掻き分け、曹操を見つけると手を振る。

鈴々

「こんにちはなのだ!」

曹操

「うん?お前はこの前の……あの黒髪の者は一緒ではないのか」

鈴々

「愛紗達はお仕事なのだ」

曹操

「ほう。あの者は愛紗というのか」

鈴々

「愛紗は真名で、名前は関羽なのだ!」その会話の途中に馬超が割って入ってきた。

馬超

「曹操!覚悟ぉーっ!」曹操の近くの槍兵から槍を奪い取り、襲いかかっていった。不意を付かれた曹操だったが、夏候淵が咄嗟に庇い夏候惇が七星餓狼で馬超の槍をはね除ける。

馬超

「錦馬騰が一子が馬超、推参!父の仇取らせてもらうぞ!」馬超は尚も曹操を狙うが鈴々が止めに入る。

馬超

「放せ、邪魔するな!」

鈴々

「止すのだ、喧嘩はダメなのだぁ!」2人が揉み合っているところへ夏候淵が馬車を護衛していた槍兵に命を下す。

夏候淵

「何をしている?早く引っ捕らえよ!」槍兵達に囲まれた馬超と鈴々。馬超は囚われて賊達とは別の護送車に押し込まれた。

「あの~、夏候淵さん?」曹操達に同行していた一が飄々とした態度で夏候淵に尋ねる。

夏候淵

「何だ?」

「そちらは僕の友人の連れのようなので話をさせていただけませんか。一刀、これは一体……」話を振られた一刀もあまりに急な展開に戸惑いを隠せなかったが、このままにしておけず、一に相談する事に決めた。

一刀

「とりあえず、忍達に合流しよう。鈴々……この子は俺が連れていく」

「分かりました。状況を説明する人も必要ですね、夏候淵さん?」

夏候淵

「良いだろう」鈴々を脇に抱えた一刀は夏候淵と一を伴い、愛紗、星、忍がバイトしているメイド飯店に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アニメとの違い
・曹操と荀彧がイチャついてるところに夏候惇が報告にくる→長くなりそうなのでカット。
・賊退治の様子は特に描かれてない→魔物に遭遇するオリエピを追加。
果たして馬超の運命は如何に?


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第十二席荀彧、策に溺れるのこと

桂花ファンの皆さん、酷い扱いしてゴメンなさい
m(≧≦)m


愛紗・星

「お帰りなさいませ、ご主人さ……え?」いつものようにお客を出迎えようとした愛紗と星は、奇妙な光景を見る。一刀が暴れる鈴々を小脇に抱え、その後ろに2人の男女がついてきている。

 女の方は初めて会う顔だ。ショートカットで前髪の右側だけが目を覆うように伸ばされていて、どことなくクールな印象を受ける。

 男の方は以前見覚えがある。先日、曹操の馬に並んで歩いていた一刀達の仲間の1人だ。

夏候淵

「私は夏候淵。ここに関羽という御仁がいると聞いたが……」

鈴々

「こいつら酷いのだ!馬超が斬りかかったら、怒って馬超を捕まえちゃったのだ!」状況が呑み込めない愛紗達に鈴々が意味の分からない説明をする。

「お主の話では、相手はあまり悪くないようだが?」

一刀

「あ~鈴々、俺が話をするから。夏候淵殿も良いですか?後、一も」許可を求めると夏候淵と一が了承したので、一刀は先ほど何が起きたか愛紗達に聞かせた。

愛紗

「そういう事でしたか。馬超は私の妹分の友……見過ごす訳には参りません。鈴々、私はとりあえず馬超の所へ行って話をしてくる」

「僕も協力しましょう。何か助ける手立てがあるかもしれません」

鈴々

「鈴々も行くのだ!」

一刀

「ダメだ、短気なお前が一緒ではまとまるモノもまとまらない。ここは愛紗と一に任せておけ」

鈴々

「でも……!」

愛紗

「鈴々、私達を信じろ。馬超は必ず連れて帰る。良いな?」

 

 曹操軍の天幕へやって来た愛紗と一。夏候淵に馬超が囚われている場所へ案内してもらう。そこには人が1人、どうにか納まるぐらい小さな木製の牢屋があり、馬超はその中に押し込められていた。

馬超

「……関羽!」

愛紗

「馬超、話は聞いた」

馬超

「あたしとした事がとんだドジ踏んじまった。おまけに張飛が邪魔しやがるから……」

「……まあ当然ですね」

馬超

「?誰だお前……」

「一刀達の友人で曹操氏の客将をしている燈馬といいます。何やら深い事情がおありのようですね」

愛紗

「お主、ナゼ曹操殿を殺そうと?」

馬超

「曹操はあたしの……親父を殺したんだ!それも卑怯極まりないやり方で!」あまりの衝撃発言に返す言葉がなかった愛紗達。そのあと、再び夏候淵の案内で曹操の天幕へ向かう。

夏候淵

「華琳様、関羽殿をお連れしました。燈馬も一緒です」

曹操

「通しなさい」曹操は玉座に座り待ち構えていた。

曹操

「意外だったわ。こんな形で貴女に再会するなんてね」

愛紗

「単刀直入に窺いますが、馬超をどうなさるおつもりで?」

曹操

「勿論、斬るわ」

愛紗

「そんな!」

(そりゃそうですよね)

曹操

「理由はどうあれ、この曹操の命を狙ったのよ。それなりの報いは受けてもらうわ」

愛紗

「いや……だが」

曹操

「官軍の命を狙ったのよ。無罪放免という訳にはいかないでしょう?」

愛紗

「それはそうだが……しかし!」

(何かこの状況を打破する策はありませんかねえ?)

愛紗

「曹操殿。何とか馬超の命、救っていただく訳には参らぬか?」

曹操

「そこまで馬超を助けたいなら関羽、私と取引しない?」

愛紗

「取引?」

曹操

「そう……今夜一晩、私と閨を共にするの。そしたら馬超の命、助けてあげても良いわ」

愛紗

「な、何をバカな事を……!」曹操のトンデモ発言に顔を赤くする愛紗。

(そうだ、曹操氏はこういう人だった……)一は無表情ではあったが、心中では曹操に呆れ返っていた。

曹操

「始めて見た時から貴女のその艶やかな黒髪、手に入れたいと思っていたの。そして私は欲しいモノはどんな手を使ってでも手に入れる」

愛紗

「ひ、人の命が懸かっているのに!そんな戯けた事を……!」

「そう。貴女の気持ち次第で人の命が救えるのよ」愛紗はしばらく黙って俯いたまま考えていたが、決心がついたのか頭を上げる。

愛紗

「本当に一晩閨を共にしたら、馬超を助けてくれるのだな?」

曹操

「ええ。約束するわ」

 

 愛紗は服を全て脱いで、天蓋付きの寝台に横になっている。そこに曹操が現れ、自らも一糸纏わぬ姿になると寝台に潜り込んできた。

曹操

「アラ、そんなに怖がらなくて良いのよ……」羞恥に耐えるも顔を赤くする愛紗の体をまさぐろうと曹操が手を伸ばした。その時、天蓋を突き破って何者かが短剣を手に曹操へ襲いかかった。

 その直後、今度は別の人影が細身の剣で刺客の短剣を弾く。得物を拾う間もなく、その場から立ち去る刺客。それを追う、姿も判別出来ないほど異常に素早い人影。あまりの展開に茫然とする愛紗と曹操。

 

 さてこちらは一旦は愛紗達に馬超を任せたが、やはり心配でコッソリ様子を見にきた一刀と忍。曹操専用の天幕に黒い人影を目撃した。

一刀

「……何だあいつ?怪しいな」

「あちし達も充分怪しいけど……どう見ても刺客よね」

一刀

「曹操を狙っているのか。出る杭は打たれるっていうしな」

「捕まえましょ?恩を売っておいて損はないわよ」

一刀

「ああ。『加速』!」刺客は曹操の寝台まで忍び込んでいた。瞬間速度なら音速を越えるスピードを出せる一刀はすぐに追い付いた。曹操の寝台の上で一悶着起こすと、天幕を飛び出す2つの人影。それを確認した忍はチーターに変身して足に噛みつく。曹操に突きだそうと、痛みにのたうち回る刺客を2人がかりで縛り上げる。

 

曹操

「興が冷めたわ……今日はこれでお終いよ。馬超の命は延ばすから安心なさい」ため息を吐いて服を着替える曹操。そこに荀彧が飛び込んできた。

荀彧

「申し上げます!」

曹操

「……何の騒ぎ?」荀彧に問う。

荀彧

「はっ。例の魔獣から剥ぎ取った素材を保管している天幕に火が放たれました!」

曹操

「何ですって!?」実は昨晩始末したメタルリザード。あれの鱗や皮は一の手に掛かれば上等な武具や鎧の素材となるので、曹操が一に管理するように言い渡してあったのだが。

曹操

「消火活動を急ぎなさい!それと燈馬にここへ来るようにと伝えるのよ!」

 

 結局小火騒ぎで済み、メタルリザードの素材以外は大した被害もなかったが曹操はこの件を一に追求する事にした。数分後、相変わらず飄々とした態度で、一が曹操の前に姿を見せた。

曹操

「何で呼ばれたかは、わかっているわね。燈馬」玉座に掛けて厳しい目で一に問いかける曹操。

荀彧

「華琳様。被害の大小に関わらず、放火は重罪です!いっそ首を撥ねてしまいましょう」邪魔者を始末できると言わんばかりに嫌みな笑みを浮かべる荀彧。

「ええ。その件についてお見せしたいモノがございます」そう言って一が取り出したのは、いわゆる防犯カメラである。

「モニターも燃えてしまったのですが、映すのは可能です。そこの兵士さん、壁に白い布を張ってもらえますか?」居合わせた兵士が一に言われた通り、スクリーン代わりの白いシーツを広げると、一はそこに防犯カメラが撮影した光景を映す。

 天幕に荀彧が近づいてきた。辺りを見回して誰もいないのを確認すると、天幕の端に藁を被せ、そこに油を注ぐと火打ち石を使って火を付けた。一を失脚させようとして、逆に己を追い込むハメになった荀彧。

曹操

「桂花!?何て事を……!」

「さて、荀彧さん。先ほど放火は重罪、首を撥ねるべきと仰いましたね?」今度は一が意地の悪い笑顔を見せる番となった。

荀彧

「こ、こんなの紛い物です!この男がでっち上げたに決まってます!」

「仮にそうだとしても、火を付けるのに使用した油を貴女が購入した事は、出入りの商人に聞けばすぐバレますよ。いい加減諦めたらどうです?」それまでの軽い態度を一変させ、厳しい顔つきと声で死罪を要求してきた一。さっきとは一転、荀彧の表情が凍る。そこに夏候惇がやってきて告げる。

夏候惇

「華琳様。燈馬の友人と名乗る者達が先ほどの刺客を捕らえたのでお目通りしたいと望んでおりますが、如何致しましょう?」

曹操

「……ほう。良いわ、連れてきて頂戴」

夏候惇

「はっ!」夏候惇の案内で入ってきたのは一刀と忍だった。縛られて足から血を流した状態で曹操の前に引きずり出された刺客は白目をむき出しにしたまま、気を失っている。

曹操

「……確かに私を襲った刺客に間違いないわね。それで貴方達、何が望みなのかしら?」

一刀

「こいつと引き換えに馬超を返して貰いたい」

「悪い話じゃないでしょ?」

曹操

「……そうね」本音を言えば曹操は困り果てた。曲がりなりにも可愛い配下の荀彧をどうにか助けてやりたいが、それでは一が納得しないだろう。下手をすれば自分の下を離れて他の誰かに仕えるか、自ら大陸制圧に乗り出しかねない。この男がそれに乗りだしたら、自らの地位も危うくなるだろう。それならば馬超が一の友人の連れであるのを建前に、荀彧を見逃す交換条件として、馬超を放免しても良いと切り出すつもりだったのだ。しかしその友人達から刺客を突き出された今、それも不可能となってしまった。

曹操

(参ったわね。これままだと本当に桂花の頸を撥ねるしかないじゃない……)

「あの~、曹操さん。損害賠償を請求しても構いませんか?」一の提案に待ってましたとばかりに耳を貸す曹操。

 

 一刀達一行が冀州を旅立った後、荀彧はある田舎街にいた。街外れには良質な金属が採れる鉱脈がある。そこに数多く生息するメタルリザードに手榴弾を投げつけ、爆破しては死体から鱗や皮をひっぺがすのを繰り返していた。

荀彧

「何で軍師の私がこんな事……」こんな肉体労働はしたくないのだが、夏候惇が監視役としてしっかり見張っているので逃げる事も出来ない。

夏候惇

「何を愚痴っている?ダメにした分の素材を全部自分で手に入れる代わりに、華琳様はお前の死罪を帳消しにして下さったのだぞ。燈馬だってわざわざ奴らの生息場所を調べ直してくれたんだ、寧ろありがたく思え」それから一ヶ月の間、荀彧は砂埃にまみれながら作業を続けた。その後、曹操の領地へ戻ってからもしばらくはメタルリザードの血と硝石の匂いが体に染み付いたせいで、(比喩ではなく)文字通りの意味で鼻つまみ者になったらしい。

 

 ~話は本筋に戻る~

 曹操は夏候惇に馬超を引き渡すように命じた。彼女に連れられて、再び馬超が囚われている場所へ向かう愛紗。一刀、忍も後に続いていく。

愛紗

「夏候惇殿、一つお尋ねしたいのだが」

夏候惇

「私に答えられる事なら何なりと」

愛紗

「はい。その……曹操殿が馬超の父上を殺したというのは本当なのでしょうか?」

一刀

「俺も俄には信じられないな」

「そうね。馬超が言うような卑怯な人間とは思えないわ」

夏候惇

「関羽殿、北郷殿、藤崎殿。私は今から独り言を言います」

愛紗、一刀、忍

「?」夏候惇の言葉に引っかかるモノを感じた3人だが、黙って聞く事にした。

夏候惇

「あれは数年前、天下の可進大将軍に都へ招待された時の事……」

 

 

 

 

 

 

 

 




アニメとの違い
・曹操を襲った刺客を愛紗が追っ払う→一刀と忍に捕まる
・荀彧(桂花)が曹操の寝室にやってくるところから、1人でメタルリザードを退治する降りまではオリエピ
次回は馬超パパの死の真相が明らかに?


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第十三席馬超、真相を知るのこと

アニメの夏候惇が原作よりまともだ
(|| ゜Д゜)眼帯もしてないし……。


 ~ここから夏候惇の回想~

 銀髪で服を着崩した40がらみの美女が自分の屋敷内にある宴会場で、各諸侯や貴族達を呼び寄せて酒宴を開いていた。かの大将軍、可進である。その席には曹操と馬超の父、馬騰も招かれていた。彼らは銘々酒や食事を楽しんでいたが、可進は曹操にある事を提案した。

可進

「曹操」

曹操

「何でしょう?」

可進

「妾はそなたを知謀の士と思うていたが聞けばその方、剣の腕も中々のモノとか……」

曹操

「恐れ入ります」

可進

「どうじゃ?この中の誰かと立ち合うて、その腕を見せてはくれぬか?」

曹操

「大将軍の仰せとあらば」立ち上がる曹操だったがそれを見た他の招待客は一様に目を伏せて、誰もが関わろうとしなかった。当事から曹操の名声は各地に知れ渡っていて、みんながその強さに恐れを成していたのだ。その中で唯一人、手酌で酒を呑んでいた馬騰が可進の目に留まる。

可進

「馬騰殿。如何であろう?」

馬騰

「お望みとあらば……」酔って気が大きくなった馬騰が立ち上がろうとするのを曹操が制する。

曹操

「お待ち下さい。失礼ながら馬騰殿は些か酔いが回られているご様子。座興とはいえ、剣をお取りになるのは……」

馬騰

「何の、これしき。酔った内にも入らぬ……おぉっと!」しかし立とうとして、足がもつれて尻餅を付いてしまい、他の招待客からの失笑を受けるハメになった。

可進

「どうやら曹操の言うように、馬騰殿は少し酔われているようじゃの。無理はせぬ方が良かろう」

馬騰

「……クッ!」満座の中で恥をかいたのを紛らわす為か、その後も馬騰は酒を煽るかのように呑んでいた。やがて宴会もお開きとなった帰り道、馬に振り落とされて頭を強く打ったらしく、たまたま夜間の警備中に近くを通りががった夏候惇部隊が見つけ助け起こしたものの既に虫の息だった。

馬騰

「馬から落ちて死んだとあっては武門の恥。この事はどうか内密に願いたい……」そう言い残して馬騰は息絶えた。

 ~夏候惇の回想終わり~

 

夏候惇

「その場にいた者達には固く口止めをしておいたのだが、どこかで見ていた者がいたのか……しばらくすると妙な噂が」

一刀

「妙な噂?」

夏候惇

「そう。我が主が酒の席で恥をかかされたので、腹いせに馬騰殿を襲わせたと」

「何でよ?」

夏候惇

「我が主は少し、誤解されやすいところがあってな。こういう事が起こると口さがない者共が悪い噂を立てるのだ。恐らく馬超もその噂を真に受けたのだろう」

愛紗

「それならナゼ、真実を明らかにせんのだ!?」

夏候惇

「それは私も何度か進言したのだが『西涼にその人ありと謳われた馬騰殿の最後の頼み。それを無下には出来ぬ』と」

愛紗・一刀・忍

「……」

「変なところで非合理的ですねぇ」IQは高いがそれ故に、常に合理的な考え方をするせいか、一は人情や人の心というモノには異様なぐらい疎かったりする。

「アンタは黙ってなさい」

一刀

「ホンットお前は人らしさに欠けるな」

夏候惇

「それに父の武勇を誇りに思う子に、父の無様な死に様を伝えたくなかったのかもしれん。まぁこれは私の勝手な想像なのだが」

愛紗

「しかし、それでは曹操殿が……」

夏候惇

「そういうお人なのだ。あの方は」一は首を捻るが、他の3人は何だかやるせない気持ちになる。

「夏候惇さん。さっきの独り言、馬超ちゃんの前でもう一度呟いてくれるかしら?」

 

馬超

「嘘だ!父上が……あたしの父ちゃんが、酔って馬から落ちて死んだなんて……」檻から解放された馬超は夏候惇の独り言(・・・)を聞くと、悔しさのあまりさっきまで自分が入れられていた檻に拳をぶつける。

愛紗

「馬超。曹操殿は馬騰殿、そしてお主の事を思ってこの事を黙っていたのだ。武人としての馬騰殿の矜持、それを汲んで自ら悪評を引き受けた曹操殿の振る舞い。いずれも立派なモノだと私は思う」

一刀

「しかし、その為に君が曹操殿に恨みを抱き、その命を狙うのは君自身の為にも良くないと……」

馬超

「煩いっ!誰が曹操の手下の話なんて信じるものか!」夏候惇の目が険しくなる。

夏候惇

「ほう。では私が偽りを言っていると?」

愛紗

「夏候惇殿。馬超は今、取り乱していて……」

「アンタの気持ちは分かるけど、少し落ち着きなさいよ……」3人がかりで説得しようとするも、馬超は耳を貸さずに怒鳴り散らし、更に最悪な言葉を愛紗達にぶつけた。

馬超

「大方、お前らも曹操に丸め込まれたんだろう!?上手くいけば召し抱えてもらう約束でもしたか!?」肩に置かれた愛紗の手をはね除けて、怒りを露にする馬超。3人共そんな馬超にかける言葉が見つからずに閉口してしまう。ところがこの言葉にカチンときたのは愛紗でも、一刀でも、忍でもなく夏候惇だった。

夏候惇

「馬超!立って武器を取れ!」

愛紗

「夏候惇殿!?」

夏候惇

「私とて武人。嘘つき呼ばわりされては黙って引き下がれぬ!」

馬超

「望むところだ!仇討ちの景気づけに貴様の首をとばしてやる!」

 夏候惇と馬超は広い場所に出ると互いの得物を手に睨み合いを始める。後を追う4人。

一刀

「2人共止せ!こんな無益な争いをして何になるっていうんだ!」

夏候惇

「止めてくれるな北郷殿。死なねば分からぬバカもいるのだ!」

馬超

「ほざけ!」

愛紗

「……一刀殿。ここは止めるよりお互い納得いくまでやらせた方が良かろう」

一刀

「愛紗まで!」

「それが武人としての生き様なのね。分かったわ、一刀も手出し無用よ」

一刀

「……あ、ああ」例えどんな結果になろうと、3人はこの勝負を真摯に見届ける事に決めた。そんな中、一だけは

(遺体を解剖出来れば真意を明らかに出来るんですけどねえ。この世界の人達に解剖学を説いても理解されないでしょうし……)理解以前にこの世界で遺体の解剖など倫理に反するのだが、合理的主義者故に1人違う事を考えていた。それを察した一刀と忍に睨まれたので、流石に口には出さなかったが。

 

 夏候惇と馬超の睨み合いは続く。得物を構えたまま、両者一歩も動かなかったが

馬超

(何だこいつ?全然、隙がない!まるで深い林の静かな木立のような構え……それに澄んだ水のような気が伝わってくる……あ!)馬超はかつて、自分が幼い頃に聞いた父の言葉を思い出した。

《武術とは正直なモノだ。心に疚しい事があれば、それが気の濁りとなって現れる》

馬超

「っ!……それじゃ、それじゃやっぱり……こいつの言ってる事は本当で、父ちゃんは……ウッ!」全てを悟った馬超は得物を下ろし、その場に座り込んでしまう。夏候惇もこれ以上は無用と言わんばかりに構えを解いた。

愛紗

「夏候惇殿の心気に濁りがないのを見て、貴女が嘘をついていないのがわかったのでしょう。そうだな馬超?」そこまで愛紗が問いかけると馬超は涙を堪えきれず、

馬超

「う、うっ、うわぁ~ん!」愛紗に抱きつき、ひたすらに泣きじゃくった。

一刀・忍

「「フゥーッ」」安堵のため息を吐く一刀と忍。

 

 

 翌朝、宿を引き払い再び旅を続ける一刀達一行。その道中、先が2本に割れた分かれ道で馬超と別れる事になった。

愛紗

「じゃあ、ここでお別れだな」

鈴々

「せっかく友達になれたのに残念なのだ」

「やはり一度西涼へ戻るのか?」

馬超

「ああ。故郷の連中に本当の事を教えてならなきゃならないしな」

愛紗

「そうだな。それが良い」

馬超

「関羽達には色々世話になっちまったな」

愛紗

「イヤ何。それほどでも」

一刀

「別に構わないよ」

「気にする事ぁないわ」

馬超

「それからさ……三人共、耳を貸してくれ」馬超は愛紗、一刀、忍にだけそっと耳打ちする。

馬超

「あたしが泣いちゃった事、黙っててくれないか?特に張飛には絶対……」そう囁くと、西涼へ続く道を駈けていく。

馬超

「じ、じゃーなぁーっ!あばよっ!またなぁーっ!」

鈴々

「バイバイなのだぁ」笑顔で手を振り返す鈴々に

「友との別れだというのに、随分嬉しそうだな」不思議そうに尋ねると

鈴々

「人は相手の別れ際の顔を覚えているモノなのだ。鈴々は馬超に一番良い顔を覚えていてほしいのだ!」

「……そう。素敵ね」

一刀

「愛紗の受け売りだけどな(苦笑)」こうして再び仲良く?旅を続ける5人。さて、次回はどんな出会いがあるのやら。それは次の講釈で。

 




アニメとの違い
夏候惇と馬超の争いを止めようとするのは愛紗→一刀。愛紗は寧ろ推す。


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第十四席一刀達、謎の少女に出会うのこと

話と全く関係ないですが最近の福園さん、映画の仕事が続きますね。春には『のんのんびより』今は『ガルパン』公開中で、秋には『ストパン』上映だそうです。


 一行は山の中を進んでいた。鈴々は相変わらず元気に、赤銅山の一件の時と同じ歌を歌いながら山道を歩いている。今日は一刀まで一緒になって、仲良く歌っている。

鈴々・一刀

「「♪やーまっがあるからやまなのだー。かーわがあっても気っにしないー♪」」

愛紗

「二人共、あまり変な歌を大声で歌うな。恥ずかしいだろう?」

鈴々

「何を言っているのだ愛紗。山を歩く時は熊避けの為に、歌を歌った方が良いのだ。爺っちゃんがそう言っていたのだ」

「そういえば聞いた事あるわね」

一刀

「それに結構楽しいよ。愛紗も歌ってみないか?」

愛紗

「……遠慮しておこう」

「そうだ。こんなところで愛紗に出会ったら、熊がビックリしてしまうぞ」

愛紗

「そうそう。私にバッタリ出会ったら、熊が可哀想……って何でだ!?」星に乗せられた愛紗がノリツッコミをして、一刀と忍が目を丸くする。

一刀

「……意外だなあ。愛紗がノリツッコミなんて」

愛紗

「そ、その……何だ……つい、な」

「そんな人とは思わなかったわ」

愛紗

「待て。意味が違って聞こえるぞ!」

「フフッ」

愛紗

「何がおかしい?私の顔に何かついているのか?」

「イヤ。やはり公孫賛殿より、お主らの方が面白いと……」などと、いつも通りのバカ話をしているところへ……

 

??

「きゃあああ!」突然女のモノらしき叫び声が聞こえてきた。

一刀

「何だ今のは!?」

鈴々

「行ってみるのだ!」5人で声のした方へ駆け出していく。

 到着してみるとそこには、鈴々よりは幾らか上のようだが、まだ年端のいかない少女が3人の賊に囲まれていた。男達はリードを着けた3頭の狼を連れていたが、その大きさは普通の狼の倍はあり、口から真っ赤な液体が滴り落ちている。

??

「酷いっ!私を騙したのですね?」見た目は儚げな弱々しそうな少女だが、気丈な態度で賊に向かい合う。

賊A

「別に騙しちゃいねえさ」

??

「でも……村への近道を教えてくれると言ったのに、こんなところへ連れてきて!」

賊A

「近道は教えてやるよ。但し、村へのじゃなくて天国へのだけどなぁ!」リーダー格の賊がニタニタと下卑た笑いを浮かべる。

賊C

「デヘヘヘッ」

??

「天国……それじゃ私を殺すつもりなのですね!?」

賊B

「そうじゃねえよ。気持ちよくして、天にも昇る心地にしてやるのですよ!」

賊ABC

「「「ウエッヘッヘッヘッ!」」」汚い笑い声を上げる賊トリオに、少女とは別の声が話しかける。

??

「お前のいう天国とやらは、大層良い所のようだな」

賊A

「そりゃーもう、最高に……ん?」賊トリオが振り向くとそこには旅の冒険者5人がいた。因みに、賊に声をかけたのは愛紗である。

賊A

「何だお前ぇら!?」

一刀

「聞いて驚け!この者こそ噂に名高い絶世の美女、黒髪の山賊狩りだ」

「噂ほど美しくはないがな!」

愛紗

「……ってオイ!」再び漫才を繰り広げる愛紗と星をスルーして、一刀と鈴々は得物を、忍は空手の型を構える。

鈴々

「弱い者苛めは許さないのだ!」

「私も貴様らのように、無粋な言葉を吐く輩は大っ嫌いでな!」

賊A

「ほざけ!こっちにゃ魔獣もいるんだ。見ろ!この血に濡れた口を!恐いか?逃げんなら今の内だぞ!」野生の魔獣ならではの、何らかの生き物を食い殺したような迫力に愛紗、星、鈴々の足は僅かに竦むが、一刀と忍はケロッとした顔をしている。

「ああ、ブラッディーウルフね。確かに先人が『血塗れ狼』と名付けてはいるわよ」ブラッディーウルフ。その口元が常に赤く染まっているところから、一刀や忍の世界の先人達に付けられた種族名である。見た目通りの肉食の魔獣で、実際に生きた人間や獣を食らう事もあるのだが……。

一刀

「そりゃ多少は血もついてはいるだろうが……実際はほぼ唾液だぞ」この魔獣は元々の唾液が赤いという特徴を持っているのだが、件の先人がその口元が血に濡れていると誤認した為に、ブラッディーウルフ(血塗れ狼は和名)と名付けられた。そして真意が判明しても、呼び名だけは変わっていない。

鈴々

だえき(・・・)って何なのだ?」

「つまり、ヨダレだ」

愛紗

「血じゃないのか?」

鈴々

「それじゃ恐くないのだ!」

「イヤ。あの大きさの魔獣となれば、私達には手が付けられん」

一刀

「愛紗達は賊を始末してくれ。ブラッディーウルフは俺と忍が引き受ける」

愛紗

「……承知した」愛紗は青龍偃月刀を回転させながら、賊トリオに向き直る。

愛紗

「残念ながら天国へは案内してやれんが、この青龍偃月刀で地獄へ送ってくれる!」

賊A

「やれるモンならやってみやがれ!狼共!奴らを食い殺せ!」3頭の狼が放たれた。

一刀

「加速!」瞬時に距離を詰めた一刀が狼の首を切り落とし、

「変身!」狼よりも更に巨大な、ジャイアントホッグに変身した忍が残りの2頭を踏み潰した。賊トリオはあっという間に形成が不利になり表情が青褪め、半ば自暴自棄になってこちらへ突撃してきた。

賊ABC

「「「チッキショォォーッ!」」」髭面の賊Aはあまり鍛えられてなさそうな剣を、小柄な賊Bは手斧、巨漢の賊Cは槍をもって愛紗達に挑むも愛紗が賊Bを、鈴々が賊Aを、星が賊Cを難なく空の彼方へ吹っ飛ばす。

賊A

「地獄へ~!」

賊B

「行って!」

賊C

「きま~すっ!」

鈴々

「ザマーミロ、なのだ!」

「こりゃまた随分遠くへ飛んで行ったわねぇ」呑気に会話していると、賊から解放された少女が一刀達一行に駆け寄ってくる。

??

「助かりました。ありがとうございます。あんな恐そうな人達や魔獣をあっという間に退治してしまうなんて……皆さん、本当にお強いんですね」キラキラした目で見つめられて、愛紗と一刀は照れる。

愛紗

「イヤ何……」

一刀

「それほどでも」

??

「あ、申し遅れました。私は、と……そのと、童々(とんとん)と申します」ナゼか自分の名前を一瞬言い淀んだ童々に、一刀と忍は疑問を持つが、愛紗達は何も気づいていないようだ。

鈴々

「鈴々と似ていて良い名前なのだ」

童々

「そうですか?」

(もしかして偽名かしら?)

一刀

(かもな。でも結論を出すのは早計じゃないか?)

(そうね。とりあえず様子を見ましょ)童々の偽名疑惑は一旦置いて、愛紗達に続いて自己紹介する。

愛紗

「私は関羽」

鈴々

「鈴々は張飛なのだ」

「趙雲と申します」

一刀

「俺は北郷」

「藤崎よ」

愛紗

「どうです童々殿。村の方へ行かれるのなら、我々と一緒に参りませんか?」

「さっきみたいな賊がまた出てこないとも限らないし。あちし達、多少は腕に覚えがあるわ」

童々

「宜しいのですか?」

鈴々

「気にする事はないのだ。旅は道連れ、よは……え~と」

「酔わせて何をするつもり?だ」

鈴々

「そう。それなのだ」色っぽい声でボケる星。それを普通に聞き入れる鈴々に愛紗がデコピンを食らわし、一刀が2人に突っ込む。

一刀

「違うだろ?大体それじゃ意味が分からないよ」相変わらずの5人に童々は緊張が解れたのか、クスクス笑っていた。

 

 一方、太守の屋敷では1人の軍師が頭を悩ましていた。名前は賈駆(かく)。左右で髪を三編みにして、メガネをかけた少女だ。実は彼女の幼馴染みであり、この一帯の太守の董卓(とうたく)が姿を眩ましたのだった。

賈駆

「あの娘ったら……また性懲りもなく、屋敷を抜け出したのね!もぉぅーっ、この忙しい時にぃ~」憤りと心配のあまり、屋敷内をウロウロしている。

??

「どうした賈駆?」紫の鎧を纏った、ショートヘアの目付きの鋭い女に呼び止められた。

賈駆

「あっ、華雄将軍。(ゆえ)……っじゃなくて、董卓様がまた居なくなったのよ」

華雄

「というと、いつものアレか?お忍びで下々の暮らしを見て回るという……」

賈駆

「ええ」

華雄

「やれやれ。仕事を放り出してフラフラ出歩くとは、困った太守様だ」冗談っぽく皮肉る華雄に噛みつく賈駆。

賈駆

「領民と直に触れ合って、その声を聞くというのは決して悪い事ではないっ!」

華雄

「なら、別に良いではないか」

賈駆

「そうは行かないわ!最近は地方の賊の制圧に人を取られて、逆にこちらの治安が悪くなっているし。物の値段が上がって民から不満の声が募っているし。山には人食い狼が出るとかで……もぉぅー!」問題が山積みなのを思いだし、イライラするあまり頭をかきむしる賈駆。尤も人食い狼こと、ブラッディーウルフは既に一刀と忍に退治されていたが、賈駆が知るハズはない。

華雄

「賈駆よ。あまり心配ばかりしていると早死にするぞ?」

賈駆

「……華雄将軍。貴女は悩みがない分、長生きしそうね」

華雄

「まぁ。体は鍛えているからな」嫌みにも気づかず、豪快に笑い飛ばす華雄。賈駆はため息を吐くしかなかった。

 

 一刀達は童々と一緒に村へ続く道を進んでいる途中、童々から奇妙な話を聞いた。

愛紗

「化け物?」

「魔獣とは違うのかしら?」

一刀

「それって?」

童々

「はい。ある日、村の庄屋様のお宅の門に白羽の矢が打ち込まれて、そこに結ばれていた文『今宵、村の外れのお堂に食べ物を供えよ。でなければ村に災いが降りかかるであろう』と書いてあったとか。最初は質の悪いイタズラだと思い、そのままにしておいたそうなのですが、翌朝になってみると山から運んできたのか、門前に大きな岩が忽然と置かれていたそうです。これは人の力で持ち上がるモノじゃない、化け物の仕業に違いない、と」

「ほう」

愛紗・鈴々

「「んっ!」」興味深そうな星に対して、少し表情が強張る愛紗と鈴々。

童々

「それで慌てて、お堂に食べ物を供えたらそれからは七日に一度の割合で催促の矢文が打ち込まれるようになったそうです」

「何と奇っ怪な……」

「……確かに妙ね」

童々

「しかし、これはあくまで街で聞いた噂。それが本当かどうか確かめたくて……」

一刀

「それで村を訪ねに?」

「しかし童々殿。ナゼそのような事を?只の町娘が興味本意でする事とも思えぬが」星の指摘にあたふたしだす童々を見て、一刀と忍は1つの仮説を立てる。

一刀

(まず、偽名を名乗っているのは間違いないな。それにこの娘は只の町娘じゃない)

(そうね。恐らくはこの辺りの有力者、或いはその娘か孫だと思うわ)

「お主達、さっきから何をヒソヒソ話をしている?」

「大した事じゃないわよ」その時鈴々が何かを見つけた。

鈴々

「あれは何なのだ!?」指を向けた先は、この村の庄屋が住んでると思われる屋敷でその門前には、巨大な岩がデン!と無造作に出入り口を塞いでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 




アニメとの違い
・童々を襲うのは賊3名→その賊が連れている魔獣も一緒。
・童々の漢字は作者オリジナルの当て字。Wiki等では片仮名表記
次回は一刀達の新たな仲間が登場するかもしれません。

※どうでもいいんですけど、今『奇面組』の二次創作にドハマり中です。


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第十五席化け物退治、失敗するのこと

あ~、結局ドンパチのシーン端折ってしまった……


童々

「きっとこれが、化け物の置いていった岩なのですね……」

「ええ。間違いなさそうね」

一刀

「……ホントにデケぇな」門前の岩は5メートルぐらいあり、完全に出入り口を塞いでいた。普通に考えれば人力で運んでくるのは不可能だろうが、例によって一刀と忍だけは考えが違った。

「化け物かどうかは別にして……あいつなら運べるんじゃないかしら?」

一刀

「俺達も充分、化け物だけどね。あいつもこっちに来ている可能性は否めないな」

 庄屋の屋敷を訪ねていた一刀達は村から食べ物をせびる化け物とやらについて、詳細を聞いた。

童々

「庄屋様。それでは化け物が出るというのは本当だったのですね?」

庄屋

「はい。困り果ててお役人に訴えてもみたのですが、『化け物が出たなどと、怪しげな事を言ってお上の手を煩わせるな』と逆にお叱りを受ける始末でして……」庄屋がそこまで語ると、童々は椅子をガタンッと鳴らして立ち上がった。

童々

「そんな酷い事をっ……!」ナゼか興奮状態の童々に、一同唖然とする。その様子を見て、童々は我に返る。

一刀

「庄屋様、お話の続きをお願いします」一刀に促され、庄屋は再び話し始める。

庄屋

「それで村の力自慢の若者や旅の冒険者らに頼んで、化け物を退治してもらおうとしたのですが、いずれも這う這うの体で逃げ帰ってきて……」

愛紗

「そ、そんなに恐ろしい化け物だったのですか?」愛紗がピクピクと、顔を引きつらせながら尋ねる。庄屋は頷きを返すと

庄屋

「しかと姿を見た者はいないのですが、ある者は身の丈三丈で、紅く光る目をしていたと言い、またある者は鋭い牙と爪を生やしていたと言い、全身毛むくじゃらで恐ろしい唸り声を上げていたと言う者もおり……」愛紗と鈴々の表情が曇る。

庄屋

「一体この村はこの先、どうなってしまうのか……」村の将来を憂う庄屋。

「こんな時こそ、我らの出番だな」

一刀

「そうだね」

「やってやろうじゃない♪」星の一言に一刀と忍が同意すると愛紗と鈴々が驚きの声をあげた。

愛紗・鈴々

「「えぇーっ!?」」

「ん、どうした?お主達から言い出すと思っていたが……」童々はこの星の申し出を喜んでいる。

童々

「お願いできますか?」

庄屋

「ですが、相手は正体不明の化け物……」

童々

「この方達は、恐ろしい賊や魔獣をあっという間に倒してしまうほどお強くて。ですからきっと、化け物相手でも自信がおありなのでしょう」

庄屋

「ほう。ならば是非!」庄屋は一刀達の方を向いて願い出る。

愛紗

「い、イヤ、そんな勝手に決められてもだな……!」

鈴々

「そ、そうなのだ。り、鈴々にも色々都合があるのだ!」

童々

「ダメなのですか……?」

愛紗

「ダメという訳ではないが……その……」

童々

「お願いします。村の方々が困っているのです……!」ウルウルさせた瞳で頼み込む童々に対し、歯切れの悪い態度をとっている愛紗。それを見かねた忍が引き受ける。

「しょうがないわね……。良いわ、あちし達で化け物とやらを退治しましょ」

童々

「良かったぁ。引き受けて下さるのですね♪」童々は忍の手を取る。愛紗と鈴々は辛そうな表情のままだった。

「フフッ」不適な笑みを浮かべる星に一刀は何となく嫌な予感がした。

 

 

 化け物退治はその夜に決行される事となった。食べ物を運んできた村の人達と一緒にお堂へやって来た5人。

「二人共、少し震えているようだが、もしかして恐いのか?」星がからかうように、愛紗と鈴々に尋ねる。

鈴々

「こ、恐くなんかないのだ!」

愛紗

「その通り!こ、この震えはその……武者震いだ!」強気な事を言っている2人だが、どう見ても恐がっているのは明らかである。

「ほう。そうか」その返事に、白々しい態度をとる星。

愛紗

「何だ?何か文句があるのか!?」

「イヤ、別に」

一刀

「愛紗……鈴々も、後は俺と忍と星に任せて引き返したって良いんだよ?」

「そうよ。恐いモノは恐いって、素直に認めちゃいなさい」

「むぅ!」突如、星が何かを警戒するような声をあげた。

愛紗・鈴々

「「ヒャーッ‼」」

愛紗

「どうした?何か出たのか?」

「いや。せっかく月が綺麗だったのに、雲が出てきたな、と思ってな」

愛紗・鈴々

「「フゥ~……」」

愛紗

「何だ、そんな事か……」

一刀

「星も人が悪いな……」更に山の奥へ進む一行、再び星が歩みを止める

「はっ!」

愛紗・鈴々

「「ヒャーッ‼」」

一刀

(こりゃ条件反射になってるな……)

愛紗

「こ、今度は何だぁー!?」

「忍。昨日茶店で団子を食べた時、お主、私より一本多く食べてなかったか?」

「そうだったかしら?え~と、一皿16本だったから1人3本で……そうかもしれないわね」

愛紗

「今そんな事思い出さなくても……」

「フッ」そして星は再び歩き出す。

愛紗

「お主、ワザとやっているだろう(イラッ)」

 

 庄屋達は山のお堂に到着して、荷物を運び込むと、化け物退治を一行に託して村へ帰っていった。

庄屋

「それでは、お頼み申しますぞ」

童々

「化け物退治、頑張って下さいね」

鈴々

「ど、ドーンと任せるのだ」顔を引きつらせたまま、胸を叩く鈴々。

 星を先頭にお堂の中へ入った5人。堂内は蝋燭が薄暗く灯り、中の仏像や甕を照らしていた。

「これはまた……如何にも何か出そうだな」一行は丁度5角形を描くように、床に腰を下ろす。

「さて、化け物が出るまでここで待つとするか」

愛紗

「そ、そうだな」

「そういえば、あれも……こんな月のない夜だったな……」急に神妙な顔をした星が語り始めた。愛紗と鈴々が息を呑む。

「日のある内に山を越えるつもりで歩いていたのだが道を間違えたのか、行けども行けども人里に出ず、これはもう野宿するしかないかと思い始めた頃、どこからか春先の夜にしては妙に生暖かい風が吹いてきて……」気づくとこのお堂によく似た、あばら家が目の前にあったという。星の鬼気迫る話し振りに、恐さが増したらしく鈴々は愛紗の裾を掴み愛紗は一刀の腕にしがみつく。

「そこでどれくらい眠っていたのか、カリカリという何かを引っ掻く音で私はハッと目を覚ました。最初は天井裏の鼠の仕業かと思ったが、よくよく耳を澄ましてみるとそれはどうやらあばら家に置いてあった真新しい棺から聞こえてくるらしい」

愛紗

「……っ!」

鈴々

「……っ!」

「嫌な予感を覚えつつ、それでもナゼか吸い寄せられるように棺の蓋に手を掛けて、恐る恐る中を開けてみると……」

愛紗

「……(ゴクッ!)」

鈴々

「……(ゴクッ!)」

「ウワァァァーッ!」いきなり星が叫ぶと恐怖がピークに達した愛紗と鈴々は目を回して伸びてしまった。

「うっさいわよ!」

一刀

「いくら何でもやり過ぎだ!」忍は星に正座させてこんこんとお説教を、一刀は2人を揺すって起こしている。ようやく目を覚ました2人はまだパニックから抜け出せずに、そのままお堂を飛び出していく。

 その拍子に何かにぶつかり、尻餅をついた愛紗と鈴々。先を見上げると、人間の倍近い背丈の白虎が目の前に立っていた。肩と胴に2本ずつ、合わせて4本の腕があり上の腕で得物を持って、下の腕は縄で結わえた何かを引き摺っている。更にその赤い瞳が暗闇の中で怪しく光る。

愛紗・鈴々

「……ば、化け物ぉーっ!」

鈴々

「なのだぁーっ!」互いに抱き合って、再び気絶してしまった2人。

「ようやくお出ましか」お堂から星と一刀と忍が出てくると、示し合わせたかのように雲が流れて月が地上を照らしていた。化け物とおぼしき者も、月明かりにその姿を晒していた。

一刀

「なあ、あれって……」

「ん?よく見ると……肩車してるじゃない!」背丈が人の倍に見えたのは、何て事はない。2人1組で肩車した状態で現れただけである。

 化け物の正体は、愛紗や星と年齢や身長がさほど変わらない、虎の毛皮を被った少女と、その少女を肩に担いだ一刀や忍と同じぐらいの体格をした若者だ。一刀と忍は男の方に見覚えがあった。

「正体を現したな!そこで倒れている二人と違って、私達はそんなモノでは驚かないぞ」

??

「チッ……!」男は舌打ちして少女を自分の肩から下ろす。その少女は『方天画戟』という得物を星に向ける。

??

「ケッ!まさかお前らとこんな形で再会するとはな」男は一刀達に気づいていたらしく、露骨に嫌な顔をする。

「こっちのセリフよ。流華(りゅうか)

「あれもお主達の仲間か?」

一刀

「ああ、長岡流華。俺達の中で一番の怪力の持ち主だ」

流華

「お喋りはお終いか?」流華は縄を引っ張り、結わえたモノを体に引き寄せる。それはなんと、ティラノザウルスの頭部の化石だった。

流華

「うぉーりゃーっ!」ハンマー投げの要領で縄を振り回し、頭部化石を一刀達に投げつける流華。一刀は『加速』で距離を取り、忍は梟に変身して空へ逃げる。

流華

「流石にお前らには効かんか」一方、星は流華の相棒に突進して得物『龍牙』を振るうが、少女は画戟で弾き返す。

「……っ!何だ?この重い一撃は」その後も互いの得物を激しくぶつけ合っていた両者だったが、星に僅かな隙が出来たのを見極めた少女は、画戟の柄の先で星の鳩尾を突く。

「星ちゃんっ!」尚も攻撃してくる流華の骸骨ハンマーを避けながら、忍は元の姿に戻って星を抱き上げると、

「一刀、ここは撤退するわよ!」一瞬だけ躊躇う一刀だが、忍の判断が正しいと判断して気絶したままの愛紗と鈴々を担ぐ。

一刀

「流華。今回の勝負は預ける!」2人は村から食べ物を運ぶのに使った荷車に愛紗達を乗せて、忍が変身した馬に繋ぐ。一刀は忍馬に跨がり、5人はお堂を後にした。流華と相棒の少女は辺りを見回し、他に敵がいないのを確認すると、村からの食べ物を風呂敷に包み、どこかへと去っていった。

 

 庄屋の屋敷に着いた一刀と忍は、気絶したままの3人を寝台に寝かせてから今日の出来事を改めて話し合った。

一刀

「……流華は勿論だけど、あの娘も相当強かったな」

「星ちゃんがやられるくらいだもんね。ところで、流華達は何であんな恐喝じみた事をしているのかしら?」

一刀

「それは分からない。明日の朝、愛紗達とも話をして今後の方針を決めよう」

「そうしましょ。今日はもう疲れたわ」

一刀

「俺もだ。じゃお休み」2人も床につく。少女が一体何者なのか?長岡流華が彼女に味方する訳は?それは次回の講釈で。

 

 

 

 




と、いう訳で5人目の現代人の登場です。
アニメとの違い
・星は一度気絶して目を覚ました愛紗と鈴々に再びイタズラ、蝋燭で顔をしたから照らして脅かす→最初のイタズラで忍に怒られたので二度目のイタズラはなし

オリキャラ⑤
・長岡流華
本文にあった通り、仲間の中で一番の怪力の持ち主。その気になれば空母とか持ち上げるのも可能。
元々は作者初のオリ作『異世界西遊記』の主人公兼語り部。その後『ボンクレーが~』にも度々登場。当初は『長岡瑠華』という名前だったが、他の作家さんによる恋姫モノに同名のオリキャラがいたので、自粛して改名しました。特にクレームとかがきた訳ではありませんのであしからず。





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第十六席童々、正体を明かすのこと

キリの良いところまで、と思ってたらいつもより長くなってしまった……
アニメ再確認したら、呂布のメイド姿がメッチャ可愛かった♪


愛紗

「化け物ではない?」

「ああ。紛れもなくあれは、人間だ」童々を含めた6人で朝食を摂りながら、星達は昨夜見た事を伝える。

愛紗

「お~の~れぇ、謀りおって……しかし、そうと分かればもう恐くはない!」

「やはり、そうと分かる前は恐かったのだな……」

愛紗

「うっ、イヤ……それは。と、とにかく!化け物でないのなら、今度会った時は必ず成敗してくれる!」

鈴々

「コテンパンにしてやるのだ!」

「確かに奴らは化け物ではない。だが、強さは化け物並みだ」

童々

「化け物並み……」

一刀

「……確かにな」一刀はあの時拾った、犬の形をしたストラップのような飾りを手に、それを眺めながら返事をした。昨夜、少女の画戟に糸で結わえていたモノが、星との闘いの最中に外れてしまったのだ。

「流華も一緒よ、あいつも生半可な強さじゃないわ」一刀と忍は自分達の出自も合わせて、あの晩直接会った星以外にも流華について話してある。

「化け物並みの強さを持つ二人連れ。いつぞやの魔昴の時より厳しい闘いになるやもしれんな……」

 

 日の高い内に再び昨夜のお堂を訪れた一行は周りの地面に目を落としながら、何かを探していた。

愛紗

「しかしここまでついてこなくても。童々殿は村で待っていれば良かったのに」

童々

「相手が化け物でないのなら、こんな事をするのは何か理由があるのかも。もしそうなら話を聞いて……」

「あった!」星が目的のモノを見つけるとみんな集まって、一斉の足下に視線を落とす。

 そこには2人分の人の足跡があった。大きさからして、男女1人ずつのモノと思われた。

一刀

「大きい方、俺達と同サイズな足跡が流華だろうな」

「隣の小さい方が毛皮を被ってた娘ね」

愛紗

「あちらの方へ続いているみたいだな」

鈴々

「行ってみるのだ!」足跡を辿っていくと、やがて低い崖の上に出てきた一行。そこから崖下を見下ろすと、人が暮らせそうな洞窟と焚き火をした痕跡を発見した。あの2人の住みかに間違いないようだ。

「恐らくあれが、奴らの住みかだ」

 

 一行が洞窟に近づこうとした時、後ろから現れた2つの人影に襲われた。流華と昨夜の虎の毛皮を被っている少女だった。飛び上がりながら振り下ろされる画戟を愛紗の青龍刀が受け止める。

鈴々

「下がっているのだ!」

童々

「……はい!」童々を安全な場所に避難させて、愛紗と鈴々はリベンジとばかりに、少女へ得物を向ける。

??

「……昨日、勝手に気絶した二人」ボソッと囁く少女だが、確実に2人の痛いところを付いていた。

愛紗

「うっ!さ、昨夜は不覚をとったが、今度はそういう訳にはいかんぞ!」

鈴々

「鈴々の強さ、思い知らせてやるのだ!」

「アンタ、化け物でなければ名前があるでしょ?」忍が問うと、少女は毛皮を頭から外して囁くように静かに答えた。

呂布

「……呂布(りょふ)奉先(ほうせん)」次の瞬間、呂布は画戟を振るって攻撃してきた。それを正面から受けた愛紗の顔が歪む。

愛紗

「……くっ!」

鈴々

「おぉりゃぁー!」隙をつこうと横から打ってかかる鈴々だったが素早く下ろされた呂布の画戟に防がれる。忍はライオンに変身して、互いに縦横無尽に動きながらライオンの爪と画戟で弾き合いを繰り広げる呂布VS忍。愛紗と鈴々も加勢するも、3人がかりでも呂布の強さは引けをとらない。

鈴々

「……こんなの、初めてなのだ!」

愛紗

「な、何だ?こいつは……」

「だから言ったでしょ?強さは化け物並みだって!」

 

 流華は庄屋の門前に置いたモノと同サイズの岩を自分の周りに幾つも並べていて、その1つをムンズと掴むと一刀と星に投げつける。

流華

「あらよっ!」

一刀

「危ねっ!」加速を使って割と楽々と、岩をやり過ごす一刀。一方で星は向かってくる岩に龍牙を刺し、その反発力を利用して必死に避けていた。

「……くっ!」

流華

「ソラソラーッ‼」お手玉のように、巨岩を次々に投げつける流華。

一刀

(これじゃキリがないな)一刀がそう思った時、呂布の画戟が愛紗達を打ち損じて一本の木を切り倒した。

 そこからは時間にして1秒もなかった。ナゼか子犬が洞窟から飛び出してきて、木は子犬を下敷きにせんとばかりに落ちていく。

童々

「危ないっ!」童々が子犬を庇って抱き抱えて、木の間に入った。

呂布

「……はっ!」

流華

「ヤベェ!」童々と子犬はそのまま木の下敷きになった……と思ったが間一髪、愛紗と鈴々が青龍刀と蛇矛で木を支え、事なきを得た。

童々

「ウフフッ、ダメよ。くすぐったいわ」子犬に顔を舐められて、安堵の笑顔を浮かべる童々。その光景を見た呂布は得物を引っ込める。

呂布

「……お前達、良い奴……良い奴とは闘えない」

流華

「呂布?まぁ、しゃあねえな。お前がそう言うなら俺も闘う意味がねえ」流華はそう言うと残りの岩を、使い物にならなくなるよう拳で粉砕した。

 

 一刀が犬のストラップを呂布に返して、2人の話を聞く事にした。

童々

「村人に食べ物を貢がせていたのは、犬の餌にする為だったのですか……」

呂布

「自分で餌代を稼ごうとしてみた事もあったけど……」その強さからは想像出来ないほど、相変わらず小さい声で呟くように語る呂布。だが、今回は若干恥ずかしそうにしている。

 話によると、愛紗達が以前バイトしていたメイド飯店がこの辺りにもあり、呂布はそこで働いていたらしいのだが……。

 

 ~ここからは回想シーン~

 客が扉を開けて入店してきて出迎える呂布だがあまり愛想が良くないせいか、気まずい顔の客。

呂布

「お帰り……なさいませ……ご主人様」

「え~っ?」注文をとりに行っても

客A

「えぇーっと、俺は炒飯と餃子で」

客B

「俺も同じの。但し、炒飯は大盛りで」

客C

「俺は担々麺。後、春巻も」

客D

「俺は回鍋肉に白飯。それから卵スープ」覚えきれなかったのか、呂布が繰り返した注文は……

呂布

「……ラーメン四丁」

客4人

「「「「だぁ~っ!」」」」

 ~回想シーン中断~

 

鈴々

「全然ダメダメなのだ」

愛紗

「お前が言うな」以前、呂布以上にやらかしてメイド飯店を追い出された鈴々に愛紗が突っ込む。

呂布

「その時、長岡に会った……」

 

 ~再び回想シーン~

 当然ながら馘になり、お金がなければ犬に餌をあげられないと困っていると、誰かが食べ物を差し出してきた。

??

「ったく。しょうがねえなホレ、店の残飯だ。バレない内に持ってけよ」メイド飯店で厨房を担当していた流華だった。

 

 ~回想シーン終わり~

 

一刀

「そこで2人は出会ったって訳か」

「じゃこの娘……呂布ちゃんはともかく、なんでアンタが化け物騒動の片棒を担いでたのよ。一応働いていたんでしょ?」

流華

「そうは言っても、俺1人の稼ぎじゃ餌代に全然足りねえんだよ」

「犬一匹買うのに、あれだけの食べ物は要らんだろう?」

呂布

「……一匹じゃない」呂布が指笛を鳴らすと洞窟から、何10頭もの犬と子犬が出てきた。大きさも犬種も様々だ。

愛紗

「こ、これは確かに……」

一刀

「あれぐらいは必要か」犬達は人懐っこいのか、愛紗や一刀達に甘えてくる。彼らも愛らしい犬達を抱き上げる。呂布はさっき木の下敷きになりかけた子犬を抱いて、語り続ける。

呂布

「……友達、沢山……みんな、捨てられたり、怪我してたり……可哀想で放っとけなかった……」

一刀

「だからって、無闇に多頭飼いするのは良くないよ。餌だけの問題じゃない、下手をすれば犬同士で殺し合いとかにもなりかねないし」

「流華。それが分からないアンタじゃないでしょ?何で止めようとしなかったの」

流華

「そりゃ俺だってもっと良い策がありゃそうしたさ。けどあっち(俺達の世界)でもお役所も多頭飼い問題は後回しだろ?こっちはそれが尚更だ。結局、他にどうしようもなかったんだよ」論破されて何も言い返せない一刀と忍。

 

 崖の上から馬を走らせる音が聞こえる。

??

「あっ、(ゆえ)!」メガネの少女が馬を降りてこちらに駆け寄ってくる。心当たりがあるのか、童々は声がした崖の上に登っていった。

童々

「アラァ、詠ちゃん♪」

??

「『アラァ、詠ちゃん♪』じゃない!連絡がくるまでボクがどれだけ心配したか……」

童々

「ごめんなさい」

??

「下々の声を直接聞きたいというのは立派な事だけど、もし危ない目にでも遭ったりしたらぁ……」

童々

「それなら大丈夫。今回はこの方達が助けて下さいましたから」一刀達へ顔を向ける童々。メガネ少女と目が合ったので、互いに会釈を交わす。

??

「……って!危ない目に遭ったの!?」

童々

「ええ。少しだけ」

??

「……っ!」童々へ何かを言い足そうとしていたメガネ少女に愛紗が尋ねる。

愛紗

「あの~。お取り込み中、申し訳ないがお主は一体……?」メガネ少女は衝撃の事実を口にする。

賈駆

「我が名は賈駆。字は文和。こちらにおられる、太守の董卓様にお仕えしている者だ」

愛紗・鈴々・星・一刀・忍

「「「「えぇーっ‼」」」」

一刀

(と、董卓って、確か暴君で有名なあの董卓かぁ!?)

(ウッソー!あまりにもイメージが違いすぎるわ!)『三国志』の知識があるが故に、一刀と忍は別の意味でも驚いていた。

賈駆

「それで、化け物の件は?」

董卓

「もう解決しちゃった♪」最高の笑顔で答える董卓にスッカリ脱力する賈駆だった。

賈駆

「あっ、そう……」

 

 庄屋と共に董卓の屋敷に招かれた一刀達一行。謁見の間にて待つこと少し。

童々

「お待たせ致しました」村娘の簡素な出で立ちから一転、太守に相応しい礼服に身を包んだ童々改め、董卓が姿を見せた。派手な装いでも、決して清らかさを失ってない彼女に一同感嘆の声を漏らす。

 

庄屋

「なるほど。そういう事でしたか」董卓から事情を全て聞かされた庄屋は得心した様子だった。

董卓

「確かに呂布さん達のした事は良くない事です。ですがそれは全て、傷つき、捨てられた犬達を救う為。決して悪心から出た事ではないのです。門前の岩もすぐに退けますし、出来る限りの償いもするそうです」董卓は庄屋に説明してから、呂布に話を降る。

董卓

「そうですね?呂布さん、長岡さん」

呂布

「……(コクッ)」

流華

「ああ」呂布は小さく頷き、流華も同意の言葉を口にした。

庄屋

「いや、分かりました。既に本人達からも謝ってもらった事ですし、村人には私の方から話をしてみましょう」

董卓

「そうしていただけると助かります。ところで詠ちゃん、役所では、化け物が出て困るという訴えを取り合わなかったとか?」賈駆に向き直り、厳しい顔で確認する董卓に対し、言葉に詰まる賈駆。

賈駆

「えぇっと、その……」

庄屋

「董卓様。その事はもう済んだ事ですので」庄屋がフォローしようとするが、董卓は真剣な面持ちで語る。

董卓

「いいえ、良くありません。どんな些細なモノであれ、民の訴えを疎かにせぬのが政の基本なのですから」

賈駆

「畏まりました。今後そうした事のないよう、全ての役人に厳しく申し付けます」

董卓

「良いでしょう。それから……あの子達、私の所で飼ってあげる訳にいかないかしら?」謁見の間にいる犬達を見つめて、賈駆に提案する。

賈駆

「……って!あの犬全部を?」

董卓

「詠ちゃん。この間から、最近街の治安が悪いのは、警備の兵士が足りないからだって、言ってたでしょう?だから、あの子達をちゃんとしつけて、街の警備の手助けをしてもらうの。どう?良い考えでしょ?」

賈駆

「そりゃあ、ちゃんとしつける事が出来れば泥棒避けになるかもしれませんが……」

董卓

「それなら大丈夫。呂布さん、犬達のしつけ、お願い出来るかしら?」

呂布

「……(コクッ)」

賈駆

「待って月!ボクはまだ飼って良いとは……」

董卓

「……ダメ、なの……?」祈るように指を組んで、ウルウル瞳で賈駆に尋ねる董卓。

賈駆

「あぅ……」こうなると董卓には弱い賈駆だった。

董卓

「お願い……」

賈駆

「うっ、イヤ、それは……」呂布や犬達、流華までがお願いしますとばかりに、ウルウル瞳で賈駆を見つめる。

一刀

「流華、お前は止めろ」

「アンタがやっても逆効果よ」

賈駆

「うぅ……分かった、飼うよぉ」遂に賈駆は折れた。

董卓

「詠ちゃん、大好き!」賈駆に抱きついてお礼を言う董卓。

賈駆

「ちょ!月、大好きって!?い、言っとくけど、こんな無茶なお願いは今回だけだからね!ホントに。もう、絶対に!」ツンデレる賈駆に、呂布が反対側から飛びかかって抱きついてきた。しかも頬ずりまでしてくる。

賈駆

「ちょ!何だぁ!?」

鈴々

「きっとお礼の気持ちを表してるのだ」

賈駆

「って!だったら口で言え~!つーか懐くなぁ~!そこのサル面、こいつ何とかしろー!」

流華

「俺がぁ!?」まるでコントみたいな状態についつい和んでしまうそれ以外の面々だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アニメとの違い
・呂布に名を尋ねるのと、犬のストラップを持っていたのは星→ストラップは一刀、名を尋ねるのは忍。

・不定期公開、あとがき劇場(第1回)


「ところでアンタ、ネギ臭いわよ」
流華
「村からせびった食い物にネギが混ざってたからな、全部俺が食った」
一刀
「犬にはネギは毒だしね」
呂布
「知らなかった……」


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第十七席愛紗、怪我を負うのこと

思い付いたネタを文章にするのって、ホントに難しい……


 董卓の領地を出て、旅を続ける5人。途中、腹ごしらえに一軒の食堂に入って全員が揃ってラーメンを食べていた。

鈴々

「ぷはぁ~。美味しかったのだー!」

愛紗

「ご馳走さまー!」

一刀

「食った食った」

「さて行きましょ、って星ちゃんは?」星は一足先に食事を終えたらしく、厠に行っている。丼にはメンマが残っていた。

鈴々

「あれ?星、メンマ残しているのだ」

愛紗

「ここのメンマ、美味しいのに勿体ない」

鈴々

「だったら鈴々が食べるのだ♪」

愛紗

「では私も♪」

一刀

「俺は止めておく」

「あちしも遠慮するわ」女性が手を付けた食器に箸を伸ばすのは流石に躊躇いがある男子2人。そんな彼らをよそに、鈴々と愛紗は星のメンマを全部食べてしまった。

あぁぁぁ━━━━‼」そこへ用を済ませて戻ってきた星。自分の丼のメンマがないのに気づいて絶叫する。

「むぅぅっ!」そして親の仇でも見るかのように、愛紗と鈴々を睨み付ける。

 

 そんな訳で、さっきから星の機嫌がよろしくない。

愛紗

「なあ星。さっきの事、まだ怒っているのか?」

「別に怒ってはいない。酷く不機嫌なだけだ」

一刀

「それを怒っていると言うんだけどな」

愛紗

「お主が厠に行っている間にメンマを食べた事は謝る。この通りだ!」愛紗が謝っても星はそっぽを向いたまま、ずっとむくれている。

愛紗

「イヤ~、ほら。ずっと残していたから、てっきり嫌いなのかと思ってな。つい、なあ」鈴々に話を振ると同意を得た。

鈴々

「うんうん(焦)」

「そうではない。大好物だから最後まで大事にとっておいたのだ」

「たかがメンマでそこまで腹立てるなんて了見が狭いわね」

一刀

「待て忍。お前、自分のタコわさ食われてブチ切れた事あったよな?」昔の話を蒸し返す一刀に対して白々しく惚ける忍。

「さあ。何の事かしら?」

「……メンマ」2人の掛け合いも耳に入らない様子でボソッと呟く。

愛紗

「鈴々。お前が意地汚い真似をするから……」

鈴々

「愛紗だって食べたのだ」責任の擦り付け合いをしている愛紗と鈴々に星の冷たい眼差しが刺さる。

「(……ジィー)」

愛紗

「そうだ。次の街に着いたらまたラーメンを食べよう。今度は私のメンマをやるから機嫌を直してくれ」

鈴々

「鈴々のメンマも食べて良いのだ」

「人とメンマは一期一会。どうやったって、あの時のメンマは戻ってこない……」よほどメンマに執着しているのか、小芝居を混ぜてくる星に肩を落とす4人だった。

 

 気まずい雰囲気のまま、進んでいくと道が2つに分かれていた。

愛紗

「分かれ道か。さて、どっちへ進んだら良いモノかな……」それとなく星に話を振るが、やはり答えは返ってこない。

鈴々

「こんな時は鈴々にお任せなのだ!」鈴々が道の真ん中に蛇矛を立てて、何やらおまじないらしき事をすると蛇矛が右側に倒れる。

鈴々

「あっちなのだ」

愛紗

「はいはい。ではそちらに行ってみるか」と言いつつ星の方を振り向く愛紗だが、やっぱり不機嫌な顔のまま、無言を貫いている。

一刀

「いい加減にしないか、星」

「いつまでも意地張ってんじゃないの」メンマに手を出してない男子陣が苦言を呈すると、ようやく星も折れた。

「では今回は二人の顔を立てますが……愛紗、鈴々。次はないと思えよ」

愛紗

「わ、分かった……」

鈴々

「……もうしないのだ」

 

 星の機嫌は直ったものの、歩いている内に深い林に入っていく一行。

愛紗

「霧が出てきたな……」

鈴々

「段々、濃くなっていくのだ」

「まさに『キリがない』わね」

一刀

「……殴って良いか?」

「ナンでよ!?」とか何とか言っている間にも霧は深くなり、お互いの姿もぼやけてみえるようになってきた。

愛紗

「まずいな。これだと道が外れても分からないぞ」互いの姿も見えづらい中、マイペースに進む鈴々の姿を、おぼろ気ながら認めた愛紗がその肩を掴む。 

愛紗

「待て鈴々。一人で先に行くな」

鈴々

「星はどうしたのだ?」振り向き様に鈴々が尋ねる。気がつくと星だけ一行から居なくなっていた。

愛紗

「……?星、どこだ?」

一刀

「いるのか?星」愛紗と一刀が呼びかけるが、返事はない。

鈴々

「星、どこに居るのだー?」

「まずいわね……はぐれたみたいよ」

愛紗

「急いで探さねば!星、どこだ……ッキャア!」愛紗が叫び声を上げる。

「愛紗ちゃん、大丈夫!?」声を聞いた忍が真っ先に駆けつけると、足下は崖になっていて愛紗はそこに落ちていた。

愛紗

「気をつけろ。この辺りは崖になっているぞ」

鈴々

「愛紗、しっかりするのだ」

愛紗

「大丈……っつ!」

鈴々

「どうしたのだ?」

愛紗

「……どうやら、足をくじいたらしい」

一刀

「まずいな」

「霧が晴れるまでここに居ましょ。動かない方が良いわ」一刀、忍、鈴々は愛紗を囲むように地面に腰かけると、しばらく待機する事にした。

 

 同じ頃、林の向こう側の山間に佇む一軒の屋敷がある。

??

「……ん?」ここの住人である、鈴々と同年代の少年が何かの異常に気づいたのか、屋敷の主に報告に行く。

??

「先生、麓の林に人がいます」

??

「何ですって?幸太、詳しく説明してちょうだい」先生と呼ばれた女主人は少年に問い質す。幸太という、その少年は耳を林の方に向けて耳をそばだてる。

幸太

「はい……どうやら旅をしている途中、道に迷ったみたいです。人数は4人、俺や朱里ぐらいの年齢の子供と、成人前後の男女3人。女が1人と……男2人の声はどっかで聞き覚えがあるような……あ、怪我人が出たようです。こっちに向かってきます」

??

「まあ大変!朱里!」女主人はもう1人の同居人を呼び出す。

??

「はい!水鏡先生!」

??

「旅の方々が怪我をされて、こちらを訪ねてくるそうよ。寝台と膏薬の仕度をお願いね、幸太は旅の方々を出迎えて」

??

「はい、分かりました!」

幸太

「了解っす!」2人の少年少女は女主人の適格な指示に従って、それぞれの仕事に赴いていった。

 

一刀

「だいぶ霧が晴れてきたな」

「そうね。愛紗ちゃんはどうする?」2人が相談していると、鈴々が山の麓に一軒の屋敷を見つけた。

鈴々

「あそこに家があるのだ!」

愛紗

「助かった!あそこで少し休ませてもらおう」

一刀

「そうだね。忍、これ持っててくれ」一刀は忍に日本刀を預けると、愛紗をお姫様抱っこして屋敷に通じる階段を登り始める。

愛紗

「か、一刀殿!?下ろしてくれ!」

一刀

「はいはい。怪我人は静かにしてろって」

愛紗

「うぅ……一刀殿、重くないか?」真っ赤な顔で愛紗が聞くと

一刀

「全然」平静を装って返事をする一刀。しかしやはり照れ臭いのか、愛紗と目を合わせようとしない。

「アオハルだわ~」忍がからかう。鈴々は『アオハル』の意味が分からず、ポカンとしながらついてくる。

 

鈴々

「頼もう!頼もうなのだ~!」門前に着くと鈴々が戸を叩く。

(道場破りじゃないんだから……)忍が声に出さずに突っ込みを入れると、戸が開いて中から1人の少年が出てきた。

一刀・忍

「「幸太!?」」

幸太

「一刀さんに忍さん。やっぱりお2人っすか……」

愛紗

「……やっぱりとは?お主、我らが来るのに気づいていたのか」予め知っていたらしい少年に愛紗が疑問を持つ。それに答えたのは本人ではなく、一刀だった。

一刀

「こいつの能力は『音声(サウンド)』。遠くの音を聞き分けたり、音を自在に操れる事が出来るんだ」

鈴々

「音を操る?意味がわからないのだ」

「さっきのあちし達の会話も、丸聞こえのハズよ」

愛紗

「さっきって!麓からここまでどれだけの距離があると……!」

一刀

「こいつには枯れ葉の舞い散る音ですら、地響き並みに聞こえるのさ」

鈴々

「あっ、こいつ耳栓してるのだ」

幸太

「俺は能力のコントロールに慣れてないから、耳栓でシャットアウトしてんだ」

「横文字は通じないわよ。調整に慣れてないから、耳栓で遮断している、でしょ?」

??

「あの~、幸太君?」先ほどの少女が幸太の肩を叩く。

幸太

「あ、すいません。立ち話させちまって」

??

「どうぞお入り下さい。怪我をされている方は寝台の用意がしてありますので……」少女の案内で一刀は愛紗を抱えたまま、寝台のある部屋へ向かう。

 

??

「そうでしたか。それは災難でしたね」女主人は医療の心得もあるようで、愛紗の足を診察しながら一刀達一行を労う。

??

「この辺りは急に濃い霧が出る事がよくあって……」女主人は愛紗の足に薬を塗りながら説明する。

愛紗

「うっ!」薬が染みたのか、愛紗が呻き声を上げる。

??

「これで良し。では怪我が直るまで、ここでゆっくりなさると良いわ。その内にはぐれた方も見つかるかもしれないし」

愛紗

「かたじけない」

一刀

「では……お世話になります」

??

「朱里、包帯を巻いてあげて」

??

「はい。水鏡先生」少女が指示通りに包帯を巻いている中、女主人は自己紹介する。

水鏡

「私は司馬徽(しばき)。水鏡と号しております。そしてこちらが……」

孔明

「私は諸葛亮、字を孔明と言います」少女も自己紹介を済ませると、幸太も愛紗と鈴々に名のる。

幸太

「改めまして、俺は野原。一刀さんや忍さん同様にこの世界にやってきて、今は水鏡先生にお世話になってます」

「野原って……お母さんの姓じゃなかったかしら?」

幸太

「親父の苗字だと変な因縁かけられそうだったので、母の旧姓を使う事にしました」

一刀

「確かに『神』を名のったら、ややこしくなりかねないな」そうこうしている内に包帯を巻き終えた孔明がフーッと息をつく。

水鏡

「あら、上手に巻けたわね」

孔明

「はい。先生みたいに上手になりたくて、いっぱい練習しましたから」

水鏡

「そう。偉いわね」水鏡が孔明の頭を優しく撫でる。愛紗と鈴々はその光景を微笑ましく見ていたが

一刀

(今度は諸葛孔明か……)

(いよいよ三国志っぽくなってきたわね)最早恒例といってもおかしくない、内緒話をヒソヒソと交わしていた。

幸太

「2人して、何コソコソ話してんすか?」生憎『三国志』の知識がない幸太がキョトンとした顔で2人を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




アニメとの違い
・星はメンマを取られて最後まで膨れっ面のまま→一刀と忍の説得で一応、機嫌を直す
・『キリがない』とダジャレをかますのは愛紗→忍
・屋敷まで愛紗を鈴々がおぶっていく→一刀がお姫様抱っこで連れていく。
・水鏡と孔明は突然の怪我人の訪問に驚く→幸太から事前に聞かされていたのですぐに対応。

オリキャラ⑥
・野原幸太(本名、神幸太)
フランチェスカ学園初等部の2年生。
『音声』の能力の影響で、異常に聴覚が鋭い。他のキャラと違い、まだ8才なので能力が暴走する恐れもある。その為普段は耳栓をしている。噂では『ゲッターロボ』の神隼人の息子で、且つ『クレヨンしんちゃん』の野原しんのすけの従兄らしい。


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第十八席愛紗、孔明の過去を知るのこと

短めです。
病院にある足を骨折した時、吊るす台……あれの名前どなたかご存じですか?知っていたら書き直すので、教えて下さい。
※上記の件は既に修正しました。
以前、感想返信で予告したモメ事まで進みませんでした……次回に持ち込みますのでご了承下さい。


 それから10数分後、寝間着に着替えさせられ、足を木製の台に……現代でいうブランカ台に固定されて吊るされた状態にされた愛紗がいた。

愛紗

「水鏡殿。手当てしていただいたのはありがたいが、何もここまでしなくても……」

水鏡

「何を言ってるんですか。骨が折れていなかったのが幸運なぐらいなんですよ。動かさないようにしないと」

愛紗

「はぁ。しかしこれでは厠にも……」

鈴々

「大丈夫。厠に行きたくなったら、鈴々がおぶって行ってあげるのだ」

孔明

「あら?そんな事しなくても、ちゃんとこれがありますから」孔明は寝台の下から"おまる"を取り出す。

愛紗

「ええっ!?」

孔明

「催したくなったら遠慮なく、声をかけて下さいね」

愛紗

「いやぁ……それはちょっと」思わず苦笑する愛紗。そのおまるの中でゴソゴソ、何かが蠢いている。

「それ……何が入ってるの?」

一刀

「まさか生き物じゃ……」恐る恐る尋ねる2人に、孔明はあっけらかんと答える。

孔明

泥粘虫(どろねば)を入れてあります。全部食べてくれますから、至って清潔ですよ」

幸太

「つまりスライムっすよ」幸太から聞かされて2人は珍しく気があった。

一刀

「この世界のスライムって、そんな風に利用されてるんだ。可哀想になってきた」

「なんか不敏だわ。スライムに感情があるかどうかは分からないけど……」一方で鈴々はそんな2人など気にもしないで、頬を膨らませて孔明を睨んでいた。

 

 そして日は暮れて、夕食の時間になる。愛紗も鈴々の肩に体を預けて、みんなと同じ食卓につく。テーブルには餃子や春巻き等、豪華なメニューが並んでいた。

愛紗

「おぉー。これは美味そうだ」

幸太

「今夜はまた豪勢だなぁ」

孔明

「今日は人数が多いから、つい張り切っちゃって……」

水鏡

「今日の夕食は朱里が作ったんですよ」

愛紗

「ほう、孔明殿は料理も出来るのか」

孔明

「お口に合えば良いんですけど」

水鏡

「さぁ。ではいただきましょう」

全員

「「「「いただきます!(なのだ!)」」」」

早速、思い思いの料理に箸を伸ばし口へ運ぶ4人。

愛紗

「美味ーい」

鈴々

「美味しいのだ!」

一刀

「うん。美味い」

「美味しいわね」客人みんなの口に合ったようで、朱里は安堵の笑顔を見せる。

孔明

「良かったぁ」その間、小学生ながら未来チームで一番の健啖である幸太は、食事中一言も発せず、物凄い勢いで次々に皿を空にしている。

「普通、こういう時の擬音って『ガツガツ』なんでしょうけど、こいつの場合は『ゴゴゴゴ』ね」

一刀

「台風レベルかよ……」

幸太

「ングッ!」食事がつかえて、胸を叩きつつ、一気に水を飲む幸太に呆れ顔になる一刀と忍。

一刀

「なんか……すみません」

「そんなにかっ込まなくても料理は逃げないわよ」幸太に説教する忍と水鏡に詫びる一刀。それを受けて苦笑する水鏡。

愛紗

「しかしその年齢でちゃんとした料理が出来るとは。それに比べて、鈴々は食べるばっかりで……」幸太にも負けぬ勢いで料理をかっ込む鈴々に、情けないと言いたそうなジト目を向ける。

鈴々

「む。鈴々だって料理ぐらい出来るのだ」

愛紗

「ほう。ではどんな料理が出来るというのだ?」

鈴々

「お、おむすびとか……おにぎりとか」

幸太

「どっちも一緒じゃん」幸太が鈴々に突っ込みを入れると、他のみんながクスクス笑いだす。

鈴々

「何でだ?みんなどうして笑うのだ?」鈴々は顔を赤くしながら、半ばヤケクソ気味にご飯を頬張る。それがまたみんなの笑いを誘うのだった。

 

 夕食を終えて寝る時間まで雑談でもしようという事になり、一刀、忍、愛紗も鈴々に支えられて部屋に集まる。しばらく話をしてから愛紗は寝台に再び横になると、星空を眺めて呟く。

愛紗

「星の奴、無事ならば良いのだが……」

「あの娘なら大丈夫よ、きっと」

一刀

「今は無事だと信じていよう」それぞれが友の身を案じていると、

鈴々

「久し振りのお風呂、気持ち良かったのだ~」風呂上がりの鈴々が肌着にパンツ一丁という姿で、頭をタオルで拭きながら部屋に入ってきた。

愛紗

「こら鈴々。そんな格好でいるんじゃない。風邪を引くぞ」

「アンタねぇ……あちしや一刀もいるのよ。みっともないでしょ?」そこに盥を抱えた孔明が部屋に入ろうとする。

孔明

「失礼します。関羽さん、体をお拭きしますね」

「孔明ちゃん、それ重そうね……一刀」

一刀

「おう」孔明の両脇に立つと盥を持つのを手伝って、愛紗の側まで運ぶ2人。

一刀

「じゃあ愛紗、鈴々、俺達はこれで」男子2人は別の部屋に引き上げていく。

愛紗

「何から何まで世話になるな」

孔明

「いいえ、困った時はお互い様ですから。さあ、服を脱いで下さい」お湯に浸けて絞ったタオルを持った手を伸ばすと

「あ、だがその前に……」

孔明

「ん?」

愛紗

「だからその……いわゆる一つの生理現象というか、何というか……」

孔明

「ああ。これですね」孔明は再びおまるを取り出す。

愛紗

「イヤ、お気遣いはありがたいが、それはちょっと……」

孔明

「あっ、ひょっとして大きい方ですか?」

愛紗

「い、イヤ、そうじゃなくて……鈴々!」

鈴々

「合点承知なのだ!」流石におまるは使いたくない愛紗は、厠まで鈴々におぶってもらおうとする。

愛紗

「頼むぞ」

鈴々

「お任せなのだ!」孔明はそれを制する。

孔明

「あの、それでしたら……」一旦踵を返した孔明が持ってきたのは木造の車椅子。

愛紗

「ほう。これは……」

孔明

「私が造ったんです。足を怪我していても、移動出来るようにって」

愛紗

「これは便利だ♪」愛紗を乗せた車椅子を押して厠へ連れていく孔明。その様子を面白くないといった顔で見送る鈴々。尚、余談だが我らの世界の『三国志演義』にも怪我をしたのか、病気で足を悪くしたのかは不明だが、諸葛孔明が車椅子に乗っている描写が書かれている。

 

 一刀と忍はいつも幸太が使っている部屋で寝る事になったのだが、そこは10畳ほどの広さがあって子供1人には勿体ないように思われた。

「ちょっとアンタ、随分身分不相応な暮らししてんじゃない?」

一刀

「子供には贅沢すぎるな」

幸太

「単に使われていなかった部屋をあてがわれただけなんすけど……」

一刀

「まあ良いや。今夜はもう寝よう」

「そうしましょ」

幸太

「お休みなさいっす」

 

 翌日の朝。東屋で孔明から論語を学んでいる幸太。

孔明 

「『子曰わ( のたま )く、学びて時に(これ)を習う、また説ば( よろこ )しからず』ここまでおさらいね」

幸太

「え~と、子がのたうち回って転ばされたら……」

孔明

「違うってば。『孔子は仰った、古き良き教えを守り、実践するのは喜びである』っていう意味だよ。ちゃんと覚えてね」その様子を母屋の窓から、愛紗は水鏡と、足の治療を受けながら微笑ましく、忍は若干呆れながら見つめていた。因みに鈴々は屋根の上で昼寝中、一刀は宿代の代わりに奥で薪割りをしている。

「何で耳はいいくせに、聞いた言葉を間違うのよ……」

愛紗

「不得手な事には力を充分発揮出来ないのだろう。鈴々と一緒だ。しかし水鏡殿。孔明殿は良い子ですね、素直で賢くて学問が好きで、ちゃんとお手伝いもするし」

水鏡

「鈴々ちゃんだって良い子じゃありませんか」

愛紗

「いえ。鈴々は全然」

水鏡

「元気があって、明るくて私は大好き。そして何よりとっても……」

「水鏡さん。先に言っとくけど、親子じゃないわよ」

水鏡

「え、違うんですか?」

愛紗

「ち、違います!鈴々は私と一刀殿か忍殿の二人の内、どちらかとの間に生まれた子ではなく、姉妹!それも義理のというか!ナゼそんな勘違いを!?そもそも私はまだ子供が出来るような行為は一度も……!」パニクりながら一気に捲し立てて説明する愛紗を忍と水鏡は必死に宥める。

水鏡

「わ、分かりました。分かりましたから、とにかく落ち着いて」

「そこまで取り乱す事でもないでしょ?」

 

 一息吐いたところで、水鏡は気取られないように孔明に視線を向けると、昔話を始める。

水鏡

「あの子は幼い頃に両親を亡くし、姉妹揃って親戚の間をたらい回しにされている内に、姉や妹とも別れ別れに……その後、しばらくは私の師匠に当たる人の所にいたのですが結局、私が預かる事になったのです」

愛紗

「そうだったのですか……」

水鏡

「関羽さんが仰って下さったように、あの子は本当に良い子。聞き分けが良くて、私の所に来てからも我が儘など一言も言った事なくて。しかし私にはそれが辛い境遇を生きる内に知らずに身に付いてしまった悲しい性に思える時が……」

「幸太と環境が似てるわね。孔明ちゃんよりは随分マシだけど」

水鏡

「そうなのですか?」

「ええ。国自体が戦を拒否していたにも関わらず、傭兵にしようと父親から過剰な訓練を強いられていたそうよ。まあ、だからこそあの年齢で強くなったんでしょうけど。その父親に母方の伯父さんが激怒して幸太を引き取ったの。野原姓を名乗ってるのはその辺りにも原因があるかもしれないわね」未だ幼い身でありながら、辛い目に遭ってきたという2人を眺める愛紗は、それ以上は言葉が出てこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アニメとの違い
・おまるに泥粘虫(スライム)が入っている。この呼び名は作者オリジナル。実際の中国語とは違います。
・孔明は論語を音読→幸太に論語を教える。
・水鏡は愛紗を鈴々の母親だと思っていた→更に一刀か忍のどっちかが父親だと誤解。作者には愛紗がそれほど老けてみえないのですが(^_^;)


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第十九席孔明、旅の一行に加わるのこと

これからは更新のペースが不定期かつ遅くなります。ご了承のほどを。


 水鏡の庵に逗留して3日、愛紗の怪我は未だ癒えずにいた。診察しながら水鏡がふと呟く。

水鏡

「まだ腫れが引かないわね……こんな時はサロンパ草があれば良いのだけれど」

鈴々

「サロンパ草って何なのだ?」

(何、そのパクりっぽい名前?)

一刀

(色んな方面から叱られそうな気がする……)

水鏡

「こうした腫れによく効く薬草なの。白い小さな花を咲かせる草で、その葉を磨り潰して使うのよ」

孔明

「あっ先生!サロンパ草なら私が採ってきます」

水鏡

「えっ、でもサロンパ草が生えてるのは山の随分上の方よ?それにあの山には小鬼(しょうき)も出るし……」小鬼とは現代でいうゴブリンだ。雑魚モンスターのイメージが強いが、こちらでもそれは同様だ。因みにこの世界のゴブリンは葉物や薬草の青臭さが大の苦手で、長年薬草に携わり、(人間の嗅覚では分からない程度だが)その匂いが体に染み付いてしまっている水鏡には近づけなかった。

孔明

「大丈夫です。先生と何度か行った所だから、場所は覚えてますし、小鬼を追っ払う方法も知ってます」妙に張り切っている孔明。

水鏡

「そうね。私が一緒に行けると良いのだけれど、今日は頼まれていたお薬を麓の村まで届けなければならないし……」心配ではあるものの、甘やかしすぎるのも良くないと、複雑な思いの水鏡。だが意外な助け船が出された。

幸太

「何なら俺も行きますが?」

水鏡

「それなら安心ね。じゃあお願いしようかしら?」

孔明

「はい!」そしてお気に入りのポシェットを肩にかけ、これまたいつも愛用しているベレー帽を被り、位置を整えると幸太を連れて山に登っていった。

孔明・幸太

「「それじゃ、行ってきます!」」

水鏡

「転ばないように気を付けるんですよぉ!幸太、朱里をしっかり守ってねぇ!」

孔明

「はぁい!」

幸太

「分かりましたぁ!」門前で2人を見送る水鏡。その後ろには、面白くなさそうに膨れっ面をしている鈴々がいた。

 

孔明

「朋有り遠方より来たる、また楽しからずや……はわわっ!」論語を暗唱しながら歩く孔明にジト目を向けて隣を行く幸太。彼が予測した通り、突然転ぶ孔明。

幸太

「しょうがないなぁ。ホラ立てよ」呆れながらも手を差し出す幸太。孔明を助け起こすと再び先へ進む。実は先ほどから自分達を()けてきている人物がいる。鈴々だった。

鈴々

(あいつばっかりいい格好はさせないのだ!)最初は、あわよくば孔明達からサロンパ草を横取りしようとしたが、やはり考えを変えて薬草の生えた場所に着いたら、2人より先に摘んで一足先に帰る事に決めた。

 

 ~鈴々の妄想~

鈴々

「じゃ~ん!サロンパ草なのだ♪」

愛紗

「ほう。偉いぞ鈴々、流石私の妹だな」

「見直したわ。鈴々ちゃん♪」

一刀

「やっぱり妹は鈴々だけで充分だな」

鈴々

「エヘヘなのだ♪」

 ~鈴々の妄想終わり~

 

鈴々は愛紗や一刀、忍達に頭をナデナデしてもらっている自分を妄想しながらも、足音を潜めていたが、幸太の耳には当然聞こえている。

 

鈴々

「何もない所で転ぶなんてあいつ、とんだドジっ子なのだ。足も遅いし、これならあいつの後に薬草を摘んでも余裕で先回り出来るのだ」ニシシシと、悪い笑顔を浮かべるのだった。一方幸太は

幸太

(ハハーン。張飛の奴、朱里ばっかり誉められているのが面白くないのか……)この場は敢えて惚けていた幸太だが、鈴々の一挙一投足に動きに目を光らせ……もとい、耳をそばだてる。

 

 しばらく進むと、渓谷に掛かる吊り橋に出くわした幸太と孔明。その下は崖となっていて、落ちたら一溜まりもない。吊り橋を繋ぐ縄を握りしめ、怖々と渡る孔明。

鈴々

「何をグズグズしているのだ?そうか、あいつ高い所が苦手なのだ。だから怖くて吊り橋が渡れないのだ」悪い笑顔を浮かべる鈴々だが、足がすくむ孔明の手を取って、スタコラ吊り橋を渡る幸太。

幸太

「いつもはどうしてたんだよ?」吊り橋を渡り終えると幸太が孔明に尋ねる。

孔明

「先生が手を取って渡らせてくれていたから……」

幸太

「1人じゃムリなら最初から行くとか言うなよ……まぁ気持ちは分かるけどさ」愛紗の怪我を一刻も早く直してあげたいという孔明の意思を汲んだ幸太は、それ以上は何も言わず

幸太

「後少しだ。早く済まそうぜ」もう一度孔明の手を取って先を進む。

孔明

「うんっ♪」サロンパ草の生えてる場所へ仲良く向かう2人。

鈴々

「あの耳栓、いちいち余計なことをするのだ」歯噛みして悔しがる鈴々。

 

 サロンパ草が生えてる場所に辿り着いた幸太と孔明の2人。幸太は小鬼を警戒してか耳に手をかざし、孔明はキョロキョロと辺りを見回している。

孔明

「……確かこの辺に咲いているハズなんだけど、あっ!」岩肌の高いところにサロンパ草を見つけた孔明。

鈴々

「高いところが苦手なあいつが登れっこないのだ」2人に追い付いた鈴々が物影に隠れて様子を窺っていた。しかし……

孔明

「んしょっ」懸命に岩を登り、サロンパ草を採ろうとする孔明。

孔明

「あともう少し……」

幸太

「オーイ朱里、あんまりムチャすんなよ」そしてようやく手にしたと同時に、足を踏み外して落ちそうになる。これには鈴々も思わず飛び出していこうとしたが、真下にいた幸太が孔明を無事抱え込んで事なきを得る。

 

 その時だった。いつもと様子が違う事に気づいたのか、崖の裏から小鬼が姿を現して、2人に襲いかかってきた。しかも1匹2匹ではなく、50匹はゆうに越える。幸太は孔明を庇いながら大きく息を吸うと、一気に吐き出す。

幸太

「音波砲!」咆哮から発せられた衝撃波で数匹の小鬼は消し飛んだ。しかし敵の数は多く、2人では分が悪い。しかも孔明は戦闘には役に立たないので実質幸太1人……それも孔明を庇いながらでは充分な力を出し切れなかった。

鈴々

「鈴々も闘うのだ!」今度こそ飛び出してきた鈴々。

孔明

「張飛さん!?」鈴々に尾けられていたのに全然気づいてなかった孔明は驚く。

幸太

「手伝え張飛!」

鈴々

「合点なのだ!」蛇矛と音波砲で小鬼を殲滅させていく2人。初めての共闘とは思えない、見事なコンビネーションを見せるが敵は中々減らない。

孔明

「はわわ~っ!どうしよう、私じゃ何の力にもなれない……」とりあえず安全な場所へ逃がされた孔明は、2人を援護する方法を思案し始める。

孔明

「そうだ!あれならここにも生えてるから……」何かを摘み取った孔明は幸太と鈴々の元へ駆け出す。

幸太

「朱里!?何で出てきた?」

鈴々

「危ないから引っ込んでるのだ!」制止の声も聞かず、孔明はさっき摘んだモノを千切りながら小鬼に投げつける。忽ち前進を止める小鬼達。

孔明

「ここには小鬼達の嫌いな匂いがする薬草が自生してるの」

幸太

「なるほどな」

鈴々

「今のうちなのだ!」隙が出来た小鬼達に向かい、一気に始末する幸太と鈴々。

 

 小鬼を全て倒すと孔明も加わり、3人で討伐の証しとして、麓の冒険者組合に持っていく為に奴らの耳を切り落とす。

鈴々

「お前強いのだなー」

幸太

「張飛こそやるじゃねえか」

鈴々

「それと……お前もよくやったのだ」顔を背けながら孔明の事も認める鈴々。

幸太

「何、照れてんだよ」若干のツンデレを見せる鈴々をからかう幸太。

鈴々

「照れてなんかないのだ!」そうして互いを認め合った3人はいつの間にか親友のような関係になっていた。

鈴々

「鈴々は鈴々。真名を預けるのだ」

幸太

「俺は幸太」

朱里

「私は朱里です」やがて空が薄暗くなり、3人は水鏡の庵に帰っていく。吊り橋では鈴々が手を取ってくれたので、朱里は帰りも怖がらずに渡る事が出来た。

 

 庵に着くと、心配そうな顔をしながら門前で待っていた水鏡が3人を出迎える。

水鏡

「まぁ……随分汚れちゃって」そう言うが口元は緩んでいる。全員無事で帰ってきたのが余程嬉しいのだろう。

朱里

「先生。これを」朱里はサロンパ草を水鏡に手渡す。

水鏡

「偉いわ。ちゃんと採ってこれたのね」

朱里

「はい!幸太君と鈴々ちゃんが手伝ってくれましたから!」

幸太

「じゃあ先生、俺は冒険者組合にコレ持っていきます」切り取った小鬼の耳が詰まったずだ袋を水鏡に見せて踵を返すが、水鏡に制される。

水鏡

「待ちなさい幸太。十三才以下は組合に受け付けてもらえませんよ」

一刀

「俺が着いていく。年齢もそうだけど、口の回らないお前じゃ安く買い叩かれるぞ」と、いう訳で一刀が幸太を連れて麓の冒険者組合に出かけていった。

 

 翌日。男子2名も居合わせる中、水鏡が愛紗の包帯を外してみると、足は見事に完治していた。

水鏡

「まあ。腫れがスッカリ引いてるわロンパ草がよく効いたようね」

一刀

(……フザケた名前の薬草だけど効能は確かなようだな)

(そうね。バカにしているとしか思えない名前だけど……)様子を見にきた一刀と忍がそんな話をしている。

愛紗

「……それでは!」

水鏡

「もう歩いても大丈夫」足をさすりながら水鏡に感謝の言葉を告げる愛紗。

愛紗

「水鏡殿にはスッカリ世話になってしまって。何とお礼したら良いか……」

水鏡

「困った時はお互い様。お礼など別に……」背中を向けたまま、医療道具を片付け、遠慮の言葉を口にする水鏡に食い下がる愛紗。

愛紗

「それでは私の気が済みません。何か私に出来る事があれば、言っていただけますか?」

水鏡

「それなら一つお願いがあるのですが……」道具を片付ける手を止めて、愛紗に向き直ると水鏡は意外な事を頼んできた。

水鏡

「ご迷惑かと思いますが、あの子達を、朱里と幸太を一緒に旅に連れていってほしいのです」これには愛紗だけでなく、一刀も忍も驚いた。

愛紗

「えっ、孔明殿達を旅に?」

一刀・忍

「「?」」

水鏡

「はい。朱里は以前から旅に出て世の中を見て回りたいと言っていましたし、幸太もいずれは元いた世界に帰りたいと。私も、若い頃はあちこち旅をして見聞を広め、多くのモノを得ました。ですから、あの子にも同じようにさせてやりたいと思ってはいたのですが。ご存じの通り、最近は物騒ですし。それにいくらしっかりしているとはいっても、子供だけで二人旅というのも……それでもし宜しければ、あの子達を旅のお仲間に加えていただきたいのですが……」

愛紗

「それは別に構いませんが……水鏡殿はそれで宜しいのですか?」

一刀

「俺達も元の世界に帰れる保証は何もないんです。それなら幸太もここに置いてもらった方が良いような気がしますが……」

水鏡

「ええ、そうですね……確かにあの子達がいなくなるとここは淋しくなります。しかし、それはあちらにいる幸太のご家族も同じ気持ちでしょう?それに旅に出たいというのは、朱里が私に言った、たった一つのおねだり。その気持ち、叶えてやりたいと思います」目に涙を浮かせながらも、水鏡の決心は揺るがない。

一刀

「まぁ確かに幸太は俺達が預かるのが道理ですけど……愛紗、忍。どうする?」

「良いんじゃないかしら?」

愛紗

「では我々一同……」

愛紗・一刀・忍

「「「責任を持って諸葛孔明殿をお預かりします!」」」こうして旅の仲間が一気に6人に増える事になった。

 

 ところで、星はどうしたかというと……

「……メンマ……あれ?」先日の霧の中で道を外れながらも、ずっとメンマの事を考えていて、今頃になって1人はぐれたのに気づくのだった。

 

 

 

 

 




アニメとの違い
・朱里は単身サロンパ草を採りに行く→幸太と2人。
・崖から落ちそうになった朱里を受け止めるのは飛び出してきた鈴々→幸太
・サロンパ草を採った後、鈴々は朱里を真名で呼ばないと宣言→この時点で真名を預かる。
・星はその日の内にみんなとはぐれたのに気づく→霧の中を数日さ迷ってから気づく。
・小鬼(ゴブリン)登場はオリエピ。尚、サロンパ草は本家アニメに出てきます。
次回以降、オリキャラは当分現れません。


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第二十席鈴々、馬超と大食い大会に参加するのこと

前回書いた恋姫モノで、インベーダー達に出番を奪われた内の1人、許緒。今作ではガッツリ登場します。


 幸太と朱里を仲間に迎えた一行は、次の街を目指して進んでいく。

愛紗

「鈴々、あんまり一人で先に行くな。はぐれてもしらんぞ」みんなより1歩も2歩も前を歩く鈴々に愛紗が注意する。そこへ朱里がこんな話を切り出す。

朱里

「そういえば、はぐれたお仲間の方、お名前は確か……」

「趙雲よ」

朱里

「その趙雲さんですが……結局、水鏡先生の庵にも訪ねてこられませんでしたし、はぐれたままで心配ですね」

愛紗

「けどあやつも子供じゃない。きっと同じ空の下、元気にやっているさ」

一刀

「そうだね……アレ?また分かれ道だ」一刀の視線の先には前回と同様に、二又に分かれていた道があった。

鈴々

「こんな時は鈴々にお任せなのだ」先日のように蛇矛を道の真ん中に立てる鈴々に忍と愛紗が突っ込む。

「鈴々ちゃん、またあの占いするつもり?」

愛紗

「……この前もそのせいで酷い目に遭ったではないか」

鈴々

「うぅ……今度は大丈夫なのだ!」

一刀

「それなら必要ないよ……幸太」

幸太

「りょーかーい」耳栓を外した幸太がそれぞれの道へ耳をすます。

幸太

「右の方に大きな街がありますね。左には何もなさそうっす。それに街を出るとこの道、繋がって一本に戻るみたいっす」

愛紗

「じゃあ右へ進もうか」

朱里

「そうですね」

「う~ん……?」

一刀

「どうした忍?珍しく神妙な顔して」

「展開がおかしい気がするのよね……本来起こるべき事が起こらないというか」

謎の声

『それは作者の趣味である。詳しくはあとがきへ続く』

幸太

「今、親父の声がしたような……」

一刀

「まさか。いくらお前でも、異世界にいるハズの親父さんの声まで聞こえる訳ないだろ?」

「メタ話は止めなさいよ……」

 

 何はともあれ、無事に街へ入った一行は宿屋をとってから各々自由行動を始める。

鈴々

「お腹空いたのだぁ~」

一刀

「オイオイ。昼飯食ってからまだそんなに経ってないだろ」空腹を押さえる鈴々と、それに苦笑する一刀が街をぶらついていると、何やら人だかりが出来ている。

鈴々

「袁紹の所みたいに人いっぱいなのだ」

一刀

「冀州の武道大会があった時な。こっちでも何かやるのかな?」一刀が立て看板に書かれた文に目をやると、聞き覚えのある声がその内容を読んで聞かせる。

??

「『大食い大会本日開催。飛び入り参加大歓迎!』だとさ」

一刀・鈴々

「「馬超!」」そこには冀州の武道大会及び曹操襲撃事件を切っ掛けに知り合った馬超がいた。

鈴々

「どうしてここにいるのだ?故郷の西涼に帰ったんじゃ……」

馬超

「ああ、勿論一度は西涼に帰ったさ。で、やる事やってまた武者修行の旅に出たんだけど、ここにきて路銀が尽きちまって」頭を掻きながら照れ臭そうに説明する。

一刀

「……て事は」

馬超

「ああ。あれに参加して、賞金を頂こうって寸法さ!」立て看板を指すが、

鈴々

「そうはいかないのだ!」

一刀

「え?」

鈴々

「優勝は鈴々達が頂くのだ!」

一刀

「ちょっと待て。俺は参加しないぞ?」一刀は慌ててそう言うが、互いにバチバチと視線をぶつけ合う2人は聞く耳持たない。

馬超

「ほう……いいだろう。お前なら、相手にとって不足はない!勝負だ張飛!」

鈴々

「望むところなのだ!」

 

陳琳

『と、いう事で今年も開催されました毎年恒例の大食い大会もいよいよ大詰め!それでは、ここまで勝ち残った四名の勇者をご紹介します!』ナゼかここでも大食い大会の実況を務める陳琳。これもお約束というモノである。尤も、冀州の武道大会には不参加だった一刀は気がついてないが。

陳琳

『まずははるばる西涼からやってきた馬超選手!続いて、虎の髪飾りは伊達じゃない!猛虎もビックリの食べっぷり、張飛選手!そして、皿の上には塵一つ残さず平らげる、正に人間竜巻!野原選手!』

「3人共、頑張んなさ~い!」

愛紗

「全く……鈴々の奴、何をやってるんだ……」

朱里

「幸太君まで……見てるこっちが恥ずかしいよ……」合流した愛紗達は、観客席から様子を観てため息を吐く。飛び入り参加した幸太も馬超、鈴々に負けない健啖ぶりを発揮して、朱里を呆れさせていたが、忍だけは爆笑しつつ3人を応援する。他の観客達はそんな事に気づく訳もなく、大歓声を上げている。

陳琳

『最後に、小っちゃい体からは想像も出来ない驚異の食欲!許緒選手!』そこには髪を2つの筒状に纏めた、年齢的には鈴々と愛紗の間ぐらいの小柄な少女がいた。歓声の中から『小っちぇーなぁ』『小っさい』という声がチラホラ聞こえる。それを聞いた許緒は唇を尖らせて、不満そうに

許緒

「……ん、小っちゃいって言うな」と、呟いた。

陳琳

『さあ、決勝は深すぎない程々の味が売りの[十万斤饅頭]!これを制限時間内にどれだけ食べられるか競ってもらいます!では……始めっ!』陳琳が開始の合図に銅鑼を鳴らそうとした瞬間、

幸太

「すいませーん。棄権しまーす」間髪いれずギブアップ宣言する幸太にズッコケる陳琳と観客及び、一刀と忍を除く仲間達。

陳琳

『なんと!野原選手、十万斤饅頭に手を付けずして降参です!これは一体どういう事でしょうか!?』ズレた眼鏡を直しつつ、進行を続ける陳琳。プロである。

「そういや幸太って甘いモノ苦手だったわね」

朱里

「そうなんですか?」

愛紗

「何ともまぁ……子供らしくない……」という訳で幸太も観客席に移動して、ここから先は馬超、鈴々、許緒で三つ巴の勝負となる。

 

陳琳

『それでは改めまして……始めっ!』今度こそ銅鑼が鳴り、3人の選手の闘いが始まった。

 ペースは遅いながらも確実に饅頭の数を減らしていく馬超。対して鈴々は片っ端から平らげていく。その2人を尻目に、涼しい顔で食べ進める許緒。

陳琳

『流石は決勝まで勝ち残った三名。程々の味の十万斤饅頭を苦もなく食べ続けてけています!』誰が優勝してもおかしくない、会場全体がそんな空気に包まれる。

鈴々

(くっ……!あの許緒って奴、相変わらず凄い勢いなのだっ!)

馬超

(ここまでの勝負で誰よりも多く食べているのに、まだあんな底力が……!?)

鈴々

(でも鈴々だって、負けないのだ!)更にペースを上げる鈴々。一方、馬超は既に限界に達して脱落。鈴々VS許緒の一騎討ちとなるも、鈴々も腹がピンチに陥っている。視線を脇に向けると十万斤饅頭の残り、ラスト3個で許緒の動きが止まる。

鈴々

(あいつ、残り三個で手が止まったのだ。ならこの一皿を食べれば鈴々の逆転勝利なのだ!)最後の皿に手を伸ばす鈴々。だがあと少しというところで、しばらく動きが止まっていた許緒が復活。何と皿を持ち上げ、流し込むように残りの十万斤饅頭を完食。しかも……

許緒

「おかわり!」この一言に最後の希望を失った鈴々も倒れ、大食い大会は許緒がぶっちぎりで優勝した。

 

 時刻は夕方となり、愛紗達は鈴々と合流して馬超とも久し振りに会った。朱里と幸太が初対面の挨拶をして、とりあえず今日の事を話題に会話しながら宿屋へ戻る事になる。

鈴々

「うぅ……優勝できなかったのだ」

馬超

「まぁ腹いっぱい食えたんだし、良しとしよう」

愛紗

「あんなので勝っても自慢にならんぞ」

幸太

「最後に出てくるのが肉とかなら、俺が優勝していたのに……」

朱里

「棄権して正解。関羽さんが仰る通り、恥をかくだけだよ」

一刀

「まぁまぁ愛紗も孔明ちゃんもそんなに目くじら立てなくても……」

馬超

「そういや趙雲はどうした?」

「訳あってはぐれちゃったのよ」

馬超

「えぇっ!?大丈夫なのか?」

愛紗

「まぁあいつなら心配あるまい」

一刀

「きっとどっかで生きているさ」

??

「おーい!」彼らを呼び止める声がする。先ほどの大会で優勝した許緒だった。

一刀

「君はさっきの……」

許緒

「ボクは許緒、字は仲康。全国を廻って、大食い修行してるんだぁ」

全員

(((((何の為に!?)))))揃って心の中で突っ込むが声には出さず、一刀達もそれぞれ自己紹介する。

許緒

「お前ら中々やるじゃん、ボクに大食いであそこまで張り合う奴は初めてだよぉ!」

鈴々

「鈴々達もあんな化け物じみた大食いは初めて見たのだ……」

許緒

「イヤァ、それほどでもぉ」ナゼか頭を掻きながら、視線を逸らし照れる許緒。その仕草に幸太は見覚えがあった。

幸太

「褒めてねーよ!って……この突っ込み、久し振りだな」

「アラ、ホームシックになっちゃった?」

幸太

「そんなんじゃねぇっすよ」

一刀

(あ~、幸太の従弟のしんのすけ君もよく同じ仕草してたっけ……)

許緒

「感傷的になってるところで悪いんだけど……ここで知り合ったのも何かの縁!親睦を深める為にも、これからみんなで何か旨いモノでも食べないか!」

馬超

「……ってお前、まだ食べるつもりなのかぁ……?」

鈴々

「ホントに底無しなのだ……」

許緒

「あー、お金の事なら気にしないで。大食い大会の賞金でボクが奢るから♪」

馬超

「いや、そうじゃなくて……」

「良いじゃない。折角だから、ご馳走して貰いましょ」

一刀

「俺達は食ってないしな」

鈴々

「鈴々は遠慮しとくのだ。しばらくは何もお腹に入りそうにないのだ」

馬超

「あたしも張飛と一緒に帰るよ。確か一緒の宿屋だったよな」鈴々と馬超以外の一行と許緒で夕食を共にしようと話がまとまりかけた時だった。

??

「何言ってんだよ!」少年の怒鳴り声が聞こえた。

幸太

「……っ痛!」鼓膜に激痛が走り、咄嗟に耳を塞ぐ幸太。

??

「借りた分はちゃんと返したハズだろ!」尚も少年の怒鳴り声は続く。その相手はいかにも悪人といった感じの3人組だった。

 

 

 

 

 

 

 

 




アニメとの違い
・最初の分かれ道で愛紗と鈴々は喧嘩になって愛紗は朱里と、鈴々は単独行動→占いより確実な幸太の聴力のおかげで喧嘩にならず、全員同じ道をいく。大食い大会も観覧する事に。本文で忍がこの件に言及しているメタネタあり。
・許緒のクレしん的ボケに突っ込むのは鈴々→幸太(従兄弟の設定の為)


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第二十一席華蝶仮面、登場のこと

オリパートを考えるのが、楽しいながらもしんどい……。


 少年と話しているのは借金取りらしい。それも今でいう、闇金業者であるのは明白である。しかし金融法など存在しないこちらではそんなのはどうにでもなる。

借金取りB

「小僧、借金ってのは利子がつくんだよ」

借金取りA

「ホレ。証文もこの通り」懐から証文をちらつかせる借金取り。少年は奪おうとするがもう1人の巨漢、借金取りCに取り押さえられる。この3人、よく見ると董卓を襲った盗賊や赤銅山にいた山賊にソックリなのだが、これも恋姫無双世界におけるお約束である。

借金取りA

「おい、ちょっと痛い目見せてやれ」

鈴々

「そこまでなのだ!」見るに耐えなかった我らが一行と馬超、許緒は3人組と少年の間に入る。

鈴々

「ちょっと待つのだ!」

借金取りB

「何だ、手前ぇらは!?」

許緒

「通りすがりの大食い修行者だ!」

馬超

「イヤ、それお前だけだから……」

借金取りA

「大食いだかアリクイだが知らねえが、怪我しねえ内に帰りな!」

借金取りB

「そうだ。さっさと失せろチビ共が!」

鈴々

「チビって誰の事なのだ!?」

借金取りC

「誰って、そりゃオメェとオメェとオメェと……これ」少年を捕らえたままの借金取りCが鈴々、許緒、幸太、借金取りBを指差す。

借金取りB

「俺は入れなくて良いんだよ!」

借金取りC

「そうなのか?」

鈴々

「ヤーイ、墓穴掘ったのだぁー」

借金取りB

「うっせえチビ!」やり返す鈴々だが、その傍らで許緒が目の回りを黒くして、ワナワナ震えている。それは恐怖ではなく、怒りから来る震えだった。

許緒

「またチビって言った……」

借金取りB

「い、言ったら何だってんだよ」自らも小柄な借金取りBが怯みながらも、虚勢を張って言い返す。

許緒

「ぶっ潰す!」と言うが早いか、懐から『岩打無反魔(いわだむはんま)』という得物を取り出す。これは刺のついた巨大な鉄球をけん玉状にしたモノで、直径は許緒の身長ぐらいある。これをどうやって懐に入れていたのか、謎である。

借金取りABC

「「「そんなモン、どっから出したー!」」」

一刀・忍・幸太

「「「……同感」」」

許緒

「てぇーいっ!」許緒が叩きつけた鉄球は借金取りの数センチ手前の地面に思いっきり、めり込む。その衝撃で、周りの建物が幾つか破壊された。その許緒は、どす黒いオーラでも放ちそうな怖い目になっている。

借金取りABC

「ヒィエェ~!化け物だぁー!」スタコラサッサと逃げていく借金取りトリオ。幸いにもこの場所は裏通りで、壊れた建物も使われてなかった為、被害は岩打無反魔のめり込んだ地面だけで済んだ。

鈴々

「明後日来やがれなのだっ!」

馬超

「それを言うなら『一昨日きやがれ』だろ?」

「ホントに明後日来たらどうすんのよ?」

幸太

「まぁそうしたら、俺達が追っ払うけど」

 

 一刀達は少年を家に送っていきながら詳しく事情を聞いた。やはりさっきの3人は悪質な金貸しだったらしい。

少年

「あいつらホントにズルいんだ。借りた分はちゃんと返したハズなのに、いつの間にか変な証文作ってて……『まだ利子が残ってる。それが返せないなら、姉ちゃんを借金の形によこせ』って……」

馬超

「何と非道なっ!」

許緒

「クッソー!そうと知ってりゃマジでペチャンコにしてやったのに!」

鈴々

「全くなのだ!」

愛紗

「うむ。恐らく連中はまた来るだろうな」

一刀

「明日の朝、改めて君の家を訪ねるよ。その時対策を練ろう」

「向こうは3人、こっちは8人。余裕で勝てるわよ」

朱里

「私、腕には自信ないんですけど……」

幸太

「その分、朱里は頭を使えば良いだろ」少年と共に日の暮れかけた道をいく一行。途中、黒い外套で身体を覆った女とすれ違ったのも気づかずに……。

 

少年

「姉ちゃんただいま」少年が家の戸を開けると、美しい女性が1人で薬草を潰して薬を作っていた。少年の姉である。

女性

「お帰りなさいっ、あ……その方達は?」

少年と一行は街の裏通りで起きた出来事を説明する。

女性

「まぁそうだったんですか。弟が危ないところを助けていただいて、本当にありがとうございます」女性は一刀達に頭を下げて例を述べる。

少年

「姉ちゃん。この人達、旅の途中なんだって。お礼に家に泊まってもらおうよ」

馬超

「気持ちはありがたいが、もう宿を取ってあるから」

愛紗

「我らはこれで失礼する」立ち上がろうとした愛紗を少年が引き留める。

少年

「で、でももしあいつらが夜中にやって来たら……」

一刀

「それじゃ遠慮なく……痛てぇっ」エロ根性丸出しにして、愛紗に背中をつねられる一刀。

愛紗

(もう!美人を見るとすぐ鼻の下を伸ばすんだからっ(怒))

許緒

「じゃボクがお世話になるよ。宿はまだ決めてなかったし」

「それなら安心ね。さ、一刀。愛紗ちゃんがぶちギレる前に帰るわよ」

一刀

「……分かったああ……勿体ない

「気持ちは分かるわよ……あちしだってホントは残りたいのよ

鈴々

「二人共、美人には弱いのだなー」

幸太

「腹の足しにもならんのに……」

朱里

「こっちはこっちで問題あるかも……」許緒を残して、一行は街に戻っていった。

 

 翌日の朝。男子3名を留守番に残して、愛紗達は再び姉弟の家を訪ねた。朱里が姉と一緒に朝食作っていると、許緒と山登りに行っていた少年が戻ってきて、嬉しそうに姉へ報告する。

少年

「姉ちゃん、この人スゲェんだ。初めて入った山なのにキノコとか山菜とか次々見つけ出してきて!」少年は許緒に尊敬の眼差しを向けながら話す。その言葉通り、許緒と少年が持ち帰った籠には山の幸がてんこ盛りだった。

許緒

「山で食材を確保するのは、大食い修行の基本だからなっ」

朱里

「そ、そうなんですか……」自慢気な許緒に思わず苦笑いする朱里。

 一方、借金取りがいつ来るかも分かない状況ながら、愛紗と馬超、鈴々はそれぞれの得物で手合わせをしていた。そこに……

鈴々

「お前ら何しに来たのだ!」鈴々の怒号に許緒も飛び出してきた。朱里と姉弟は家の中で縮こまっている。

借金取りABC

「「「へへへへ」」」昨日の3人が相変わらずの下卑た笑みを浮かべて現れた。

借金取りA

「へっ、やっぱりここに居やがったか」

借金取りB

「昨日は世話になったなぁ」

許緒

「またぶちのめされに来たのかぁ?言っとくけど、今度は手加減しないぞ」

借金取りA

「おぉっと、今日の相手は俺達じゃねぇんだ。先生、お願ぇしやす」借金取りAが脇に逸れると、その影から髪を後で一まとめにして、下着代わりにさらしを巻いた、下駄履きの女が徳利の酒をラッパ呑みしながら現れた。その手には、飛竜偃月刀が握られている。

??

「何や、ごっつ強い奴らと()らせてくれるっちゅうから小遣い銭で用心棒を引き受けたんに、相手はガキかいな?」

鈴々

「ガキとは何なのだ!ガキとは!」

許緒

「そうだ!張飛はともかくボクはガキじゃないぞ!」

鈴々

「ちょっと待つのだ!それってどういういみなのだ!?」許緒に向き直り苦言を呈する鈴々を馬超と愛紗が宥める。

馬超

「……おい。仲間割れしている場合じゃないだろ?」

愛紗

「鈴々。それは後回しだ!……今は目の前の相手を倒すぞ」

鈴々

「そうだったのだ!」

??

「ふははっは。おもろい子らやなぁ」女は笑いながら再び酒を一口呑むと、徳利を借金取りAに渡す。

??

「これ預かっといて。まだ残っとるから、落としなや」

借金取りA

「へ、へい……」女は下駄を鳴らしながら一行に近づいて名乗る。

張遼

「ウチん名は張遼。昨日までは旅から旅への風来坊で、今日は日銭稼ぎの用心棒や。あんたらに恨みはないけど、これも仕事やさかい、ちょい痛い目に()うてもらうで」

鈴々

「はんっ!痛い目に遭うのはお前の方なのだ!」

張遼

「その意気や……そんぐらいでないと、おもろない」鈴々の怒号を神妙に受け取ったように見えた次の瞬間、張遼は目を見開いて、得物を構える。

張遼

「一匹ずつ相手にするんは面倒や。いっぺんにかかってきぃ!」

許緒

「てぇぇぇい!」許緒が再び岩打無反魔を降り下ろす。借金取りトリオは慌ててそこから逃げだした。

張遼

「……って、どっからこないなモン出して(苦笑)」と、突っ込みかけた張遼に鈴々が蛇矛で攻める。

鈴々

「うりゃうりゃうりゃー!」

張遼

「突っ込み入れさせん気かいっ!」蛇矛を偃月刀で弾き返す張遼。しかし今度は馬超が飛びかかってくる。

馬超

「だぁぁぁーっ!」

張遼

「くっ!」しばらく打ち合う2人に、愛紗も割って入る。

愛紗

「この関雲長、悪党の金に雇われるような輩には負けんぞ!」

張遼

「あんたの得物も偃月刀か。こりゃおもろいなあ」4人がかりにも関わらず、まだ余裕がありそうな張遼。許緒の反魔をジャンプして躱すとほくそ笑みながら挑発する。

張遼

「ええで、ええで。ガキやと思うたけど、お前ら四人共ええ腕しとるわ(酒代目当てに引き受けた仕事やったけど、久し振りに血ぃ滾ってきおったわ)」

鈴々

「くっそーっ、何なのだこいつ」

許緒

「四対一なのに……」

馬超

「闘いを……楽しんでやがる」その時、

女性

「キャーッ」姉の叫ぶ声の方に全員が振り向くと、逃げ失せたハズの借金取りトリオが姉弟を拘束していた。姉は借金取りCに取り押さえられて、弟は借金取りBに刃物を突きつけられている。

借金取りA

「へぇへへっへー、勝負あったな」

借金取りB

「オイ武器を捨てろ。でないとこのガキの命はねえぞ」

馬超

「くっ!卑怯な!」だが意外な人物の邪魔が入る。

張遼

「ちょい待ちぃ。何のつもりや!」

借金取りB

「何のつもりって……?」

張遼

「これからおもろなってくるところへ、水指してぇ。どういうつもりかって聞いてんや!」

借金取りB

「……や、でも……」オロオロする借金取りB。

借金取りA

「先生。あんたにゃ悪ぃが、こっちはこっちの都合があるんでな。さあお前ら、さっさと武器を……」借金取りAが言いかけると、屋根の上に外套を纏った人間が、加えていた長いつまようじを吹き飛ばし借金取りBの武器を持っていた手の甲に刺さる。

借金取りB

「痛ぇーっ!」愛紗達がポカーンと見ている間に借金取りB、Cをぶちのめし、姉弟を抱えて再び屋根の上に飛び上がる。

借金取りA

「何だ手前ぇは!?」

借金取りB

「顔を見せやがれ!」借金取りの怒号に対し、外套人間はクールな様子で答える。

??

「乱世を正す為、地上に舞い降りた一匹の蝶……」ここで外套を脱ぎ捨てた、その中から現れたのは……

華蝶仮面

「美と正義の使者、華蝶仮面。推参!」華麗に参上した仮面姿の女性。だが……

馬超

(あれって趙雲だよな?)

愛紗

(何をやってるんだ、星……)本人は変装した気でいるらしいが、どう見ても仮面を付けただけの星だった。

華蝶仮面

「愛紗、鈴々、馬超。久し振りだな」

鈴々

「?」

許緒

「あいつ、お前らの知り合いか?」許緒に問われ、愛紗と馬超は適当に誤魔化す。

愛紗

「いやあ。知り合いというか……」

馬超

「何というか、その……」

鈴々

「あんな変な奴、知らないのだ!」

愛紗

「鈴々!?」

鈴々

「おい!どこで鈴々の名を知ったのか知らないけど、お前みたいなヘンテコリンな奴に知り合い面されたら迷惑なのだーっ!」華蝶仮面の正体に全く気づかず罵声を飛ばす鈴々。額に青筋を浮かべる華蝶仮面。背に炎のオーラが舞っているようだった。

馬超

(怒っている……あれは明らかに怒っているな)苦笑いしか出来ない馬超。

愛紗

(素直に正体を現せば良いモノを)呆れ返る愛紗。

借金取りA

「おい!華蝶だかガチョーンだか知らねえが、下りてきやがれ!」

華蝶仮面

「下りてやっても良いが、そうなると……うん?」妙な雰囲気を感じた華蝶仮面が空を見上げると、そこには巨大な蟹が飛行しながら街を目指して進んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前作では書くきっかけが掴めなかった華蝶仮面。今回やっと書けました。それと前作の続きというか、外伝をその内書くかもです。期待しないで下さい。

アニメとの違い
・宿を決めてない馬超、鈴々、許緒が姉弟の家に泊まる→既に宿を取っていて、翌朝やって来る
・愛紗と朱里は鈴々とは別行動。姉弟と許緒には会ってすらいない→一緒に行動
・馬超は薪割り、鈴々は屋根の上で昼寝→愛紗を含めた3人で武術の手合わせ
・許緒の発言に苦笑いするのは馬超→朱里


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第二十二席巨大蟹、やらかすのこと

短いですがキリがいいので。今回は7割ぐらいオリジナルストーリーです。
エロ描写書くのは本来、あまり好きじゃないんですけどね。因みに他人が書いたのを読むのは好きです。
!Σ( ̄□ ̄;)


愛紗

「何だアレは!?」巨大な蟹は時折泡を吹きつつ空を駆けながらゆっくり街の方へ進んでいる。蟹が落としていった泡は霰の( あられ )如く地上に落ちてきた。

馬超

「うわっ、何だコレ!?」

許緒

「アレ?痛くない」泡なのだから当然身体に当たっても怪我はしない。だが……

朱里

「キャーッ!」身体についた泡は服をみるみる溶かしていく。その場にいた全員、あっという間に素っ裸にされてしまった。

愛紗

「な、何なんだ一体!?」

馬超

「み、見るなぁ~!」慌てて自らの身体を抱える愛紗達。

張遼

「あんのエロ蟹!絶対いてこましたる!」

鈴々

「キャハハハ。みんな丸裸なのだ!」自分も素っ裸なのにも関わらず、鈴々はこの有り様に爆笑していた。

 

 さて、おいてけぼりを食らった一刀と忍は路銀稼ぎの為に日雇いのバイトに出掛け、1人宿に残った幸太は姉弟の家の方角へ聞き耳を立てて様子を窺っていた。

幸太

「化け蟹か。今からあの家に行っても俺の足じゃ間に合わないな……役所に訴えぐらいはした方が良いかな?」情報が届いてないのだろう、街はノホホンといつも通りの日常を過ごしている。その内にバイトを終えた一刀達が帰ってきた。

一刀

「泡で服を溶かす巨大蟹?」

幸太

「ええ。あの家の上空を通り過ぎて今ここへ向かって来てるっす」

「それは大変ね。それじゃあちしは着るモノを届けに行くわ❤」

一刀

「イヤ、俺が行く。お前だけに良い思いはさせん!」

「ナニよ……?こんなおいしい事、アンタに譲る訳ないでしょ?」スケベ心を剥き出しにして、目から火花を散らし合う2人にため息を吐く幸太。

幸太

「何でメシの種にもならん事で争うかなぁ?」まだ8才の幸太。やはり、色気より食い気である。

 

 とりあえず街から出て、巨大蟹を迎え撃つ事にした3人。一刀は幸太を肩車して高速で走り、忍は隼に( はやぶさ )変身して蟹のいる方角へ急いだ。

幸太

「ん?」

一刀

「どうした幸太?」何かの音が聞こえたらしく、訝しげな顔をする幸太。

幸太

「上空からこの世界にはあり得ない音がします。ジェット機みたいな……段々こっちに近づいてるっすね」

一刀

「確かに……待てよ、ジェット機みたいって!」

「あいつね、きっと。これで何人目だったかしら?」

一刀

「俺とお前を合わせて6人だな」

幸太

「あ……音が遠ざかってくっす。化け蟹に向かっていってます」

 

 愛紗達は姉弟に頼んで近所の家々から服を借りてきてもらい、こちらも巨大蟹を追いかけていた。

張遼

「勝負は一時お預けや。一緒にあのエロ蟹始末しようやんけ」

愛紗

「うむ」

馬超

「関羽、あれ!」

愛紗

「ん……何だアレは!?」愛紗が上空を見上げると、物凄いスピードで巨大蟹に突進していく1つの人影が見えた。

鈴々

「人が空を飛んでいるのだ!」

張遼

「そないな訳あるかい……ってウソやろ!?」鈴々に突っ込みを入れようとした張遼も空を見て唖然とする。

愛紗

「忍か?」

朱里

「イエ、藤崎さんなら鳥や蝙蝠なんかに変身しているハズです」

馬超

「じゃあバラバラになっていたとかいう、あいつらの仲間の一人か?」

朱里

「……恐らく」と、彼女達が話している間に空飛ぶ人間は巨大蟹に体当たりした。その巨体に火がついたと思ったら一瞬で燃え尽きて、消し炭と化して地上に落ちる巨大蟹。

 

 その男が地上を見下ろして人気のない場所を見つけて、その上に降り立つと忍がやってきて、この人物と合流した。

「アンタもこの世界にいたのね。理人」彼こそ6人目のメンバー、伍代理人(ごだいりひと)だった。

理人

「忍か。ここで仲間に再会出来るとはな」

「あちしだけじゃないわ。一刀や幸太も一緒よ。後、関羽や張飛、諸葛孔明と共に旅をしているのよ」

理人

「そうか。じゃあここはやっぱり過去の世界か?」

「厳密に言えば違うわね。過去の世界によく似ていて非なる世界よ」

理人

「そうか。俺もお前らに加わりたいが良いか?」

「構わないわ。とりあえず一刀達と合流しましょ」

 

 さて巨大蟹に裸にされたのは、なにも女性だけとは限らない。あの借金取りトリオもまた、衣服を全て溶かされていた。(そんなモン想像したくないという人、まぁまぁ落ち着いて)しかし、日頃の行いが悪いせいか、連中に服を貸す人などどこにもいなかった。局部を押さえ、素っ裸のまま茫然としていると、地上から巨大蟹の最後を見届けた後、一旦姉弟の家に戻ってきた愛紗達に遭遇した。

張遼

「さてお前ら……(怒)人質取るなんてド汚い真似して、ようもウチの楽しみを邪魔してくれたな‼」怒り心頭で借金取りトリオを睨み付ける張遼。更に後ろから許緒の振り回す反魔が、連中に襲いかかる。

許緒

「今度こそペシャンコにしてやるぅーっ!」青くなる借金取りトリオ。だが、鉄球は張遼の偃月刀に弾かれた。

許緒

「何で邪魔するんだ!」

張遼

「金で雇われた身とはいえ、一応はウチもこいつらの身内や。身内の不始末は身内でケリつける」そう告げると借金取りトリオの目の前へ進んでいく張遼。

張遼

「オイ!借金の証文出しぃ」みっともない姿の借金取りAだったが、証文はしっかり確保していた。巨大蟹の泡も紙類を溶かす事は出来なかったようだ。力なく証文を張遼に差し出す。

張遼

「しっかり持っときや……」

借金取りA

「は、はい……」張遼の偃月刀が一閃、証文はバラバラに切り刻まれた。情けない声を上げる借金取りトリオ。

借金取りABC

「「「ハァ~っ!」」」

張遼

「ええか?今後一切、あの姉弟に近づくんやないで……分かったか!

借金取りABC

「「「は、はい!」」」

張遼

「ほなら、とっとと行け!」

借金取りABC

「「「失礼しまーす!」」」勢いよくその場を去っていく借金取りトリオ。

馬超

「……やれやれ」

鈴々

「めでたしめでたしなのだ」そこに一刀達もやってきて、一行が全員揃った。

馬超

「あっ、お前はさっき蟹に突進した……」

理人

「伍代だ。一刀達同様、異世界から来た。能力は『炎』。(  イグニス  )火力で空を飛んだり、火種なしで大抵の物を燃やせる」

鈴々

「怖い能力なのだ……」

朱里

「それをいったら、皆さんそうですけど……」

一刀

「そういう訳で、こいつもこれから旅の仲間にしたいんだけど良いかな?」

愛紗

「構わんぞ」

朱里

「私もです」

鈴々

「旅は道連れ、世は……えっと世は……?」

幸太

「世はナッシング、だ」

鈴々

「それなのだ!」

愛紗

「違うだろ!」

一刀

「鈴々。ナッシングって無”って意味だからな」

朱里

「世がなくなってどうするの?(呆)」

「孔明ちゃん、突っ込みが甘いわよ」いつも通りの馬鹿話を始める一行。

許緒

「お前ら旅芸人一座か?」

馬超

「相変わらずだなあ……」

理一

「まぁ、一刀も忍も昔っからこんな感じだったし……」苦笑いする馬超と理人。

 張遼はその輪に入らず、借金取りトリオが落としていった徳利を拾い、中が空っぽなのに気づくと残念そうな顔であ~あとため息を吐いた。

張遼

「ほんなら、ウチも消えるとするか……」偃月刀を担ぎ、その場から立ち去っていく張遼。

馬超

「お前、これからどうするんだ?」馬超の問いに張遼は背を向けたまま答える。

張遼

「さぁて……風の向くまま、気の向くまま。これまで通りの風来坊や」心なしか、少し寂しそうな背中を全員で見送った。

鈴々

「何か変わった奴なのだ」

許緒

「変わった奴といえば、あの妙な仮面野郎は……いない」許緒は屋根を見上げたが、そこには姉弟がいるだけで、星もとい……華蝶仮面の姿はどこにもなかった。

鈴々

「う~ん、最初から最後まで怪しい奴なのだ……」

馬超

(張飛の奴、ホントに気づいてないんだ……)鈴々のアホッ娘ぶりに顔をひきつらせる馬超。

「仮面がどうかしたの?」

愛紗

「一刀、忍。お主達には後で説明する」疲れきった表情でそう伝える愛紗。

 

 翌日、姉弟に別れを告げて旅を続ける一行。

馬超

「許緒。お前はこれからどこへ行くんだ?」

許緒

「とりあえず洛陽かな。そこならきっと、もっと規模の大きな大食い大会があると思うし……」

馬超

「そうか。だとするとこの先でお別れだな」そして一行は許緒と、その後馬超とも道を分かつものの、新たな仲間を得た。

 

 同じ頃。湖のほとりにて、星はさっきまで着けていた蝶の仮面を外してしげしげと眺めながら不満そうに呟いた。

「格好いいと思うんだけどなぁ……」

 

 さて、次に訪れる場所では何が起こるのか。それは次回の講釈で。

 

 

 

 

 




アニメとの違い
・巨大蟹関連全て
・姉弟と別れてから愛紗が鈴々を迎えに来て仲直り→始めから喧嘩してないのでこの辺りは全部カット。
そういえば私、最初許緒の武器を「岩打無反魔(がんだむはんま)」と読んでました。
σ(^_^;)?
オリキャラ⑦
・伍代理人
紅毛の長髪が特徴。作者の別作品に登場した。「ボンクレーが~」にも『光とけいおん!編』に端役で登場している。尚、元々は高坂賢よりも長身の設定だったが、今回は一刀と賢の間ぐらいの身長としておきます。


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第二十三席孫尚香登場でコロン?のこと

おかしい。もっと先まで進む予定だったのに……
理人の名前ですが、漢字を『理一』から変更しました。読みは変わらず『りひと』です。
今回は漢時代側からのオリキャラが出てきます。モデルになっているのは……ほぼお分かりでしょう。
(^_^;)?


 一行が山道を進みながら、茶店に差し掛かった時だった。3人の男が鈴々や朱里ぐらいの年齢の、へそを出した派手な装いをした少女を囲って、睨みを利かせている。

 店の主人であるゴツい男が少女の腕を掴んでいる。旅人らしい2人連れ、鼻が異様にデカい痩せぎすの男とズングリ体型の男は少女に暴言を吐いているようだった。その光景を見た愛紗と鈴々は、一刀達の制止を振りきって男達に突撃していった。

愛紗

「そこまでだ。か弱き者を虐げんとする悪党め、この場で成敗してくれる!」

茶店主人

「悪党って、おらはただ……」

鼻男

「ちょっと誰が悪党よ!?」

ズングリ男

「言いがかりも甚だしいでまんねん!」

愛紗

「問答無用!」鈴々と2人で茶店の主人と2人連れをボコボコにしてしまった。

一刀

「……あ~遅かったか」

 

~しばらく後~

 

愛紗

「えぇ?食い逃げ!?」

茶店主人

「んだ。さっきの娘っこ、飲み食いした後金払わずに逃げようとしたから。それで……」愛紗達にボコられて顔を傷だらけにした茶店主人と2人組が語る。

鼻男

「アタシ達もそれに気づいたから逃がさないように囲ってたのよぉ」

ズングリ男

「それなのに、おたくらのせいで逃げられたやないか」

愛紗

「あ~、いや。そうとは知らず、とんだ勘違いを……」

一刀

「申し訳ありません。あの娘が食い逃げした代金と、治療費は俺達が払います」

茶店主人

「まぁ弁償してもらえりゃ、おらはそれで良いだよ」

鼻男

「しっかし、腹が立つわねぇ。あのクソガキ」

ズングリ男

「ホンマや。一度シメたらんと気が済まんでまんねん」

一刀

「まぁまぁ、相手は子供ですから……」一刀が2人組を宥めていると、幸太の耳に呻き声が聞こえた。その声は茶店から道を挟んだ反対側の建物から聞こえてくる。

幸太

(何だろう?)疑問に思ったが、今はそれを口に出せる雰囲気ではなかったので誰にも話さなかった。

 

 その後、例の2人も街に向かう途中だったと聞いた一行は彼らと一緒に行動する事になった。

「トホホ……予定外の出費だわ……」一行の財布も管理している忍は落ち込み、愛紗は手を合わせて詫びる

愛紗

「スマン。この通りだ」

「……もういいわよ。過ぎた事だし」

朱里

「あの……忍さん。元気出して下さい」

鈴々

「そうなのだ」

一刀

「ところで、貴方達の名前をまだ聞いてなかったな?」空気を変えようと一刀が2人連れに質問する。

鼻男

「アタシは沙弥(さみ)よ。そんでこのブサイクが……」

ズングリ男

他人(ひと)をブサイク呼ばわりするほどの顔かいな。ワイは一戒(いっかい)言いまんねん」

沙弥

「まぁヒドい、ボクちゃん泣いちゃう」一刀達にも負けず劣らずのバカなやりとりに苦笑しつつ今度は朱里が訊ねる。

朱里

「街には何をしに行かれるんですか?」

沙弥

「兄貴に会いにね。アタシ達、幽州の桃園で誓いを交わした義理の三兄弟なのよ」

一戒

「兄貴はあの街でご領主の警備隊長をしとんねん」昔を懐かしむように目を細める沙弥と一戒。幸太以外の男子組は同じ事を考えていた。

一刀

(桃園の誓いって……劉備、関羽、張飛が盃を交わしたアレだよな)そんな彼らを呼び止める声がするが、全く気づいてない。

??

「……ちょっと」

理人

(この2人の名前も西遊記由来だし、何か色々ズレてるぞ……)

「……ねぇちょっと!」

(その内太公望とか西門慶とか、他の中国五大奇書の登場人物も出てきそうね……)

??

「ちょっと待ちなさいよ!」先を進む一行を声の主は駆け足で追いかけてきた。振り向くとさっきのへそ出し娘だった。

幸太

「ウッセーなあ、さっきから」

??

「何よ、聞こえてるんじゃないの!」へそ出し娘が叫ぶと、幸太は一瞬目を回してその場にコケた。

幸太

「頭、ガンガンする……」フラフラしながら立ち上がる。

朱里

「幸太君、大丈夫?」

鈴々

「耳が良すぎるのも大変なのだなー」

沙弥

「あーっ!お前はさっきの食い逃げ娘!」

一戒

「ようワイらの前に顔出せたモンやな!」

「アンタのせいでこっちは……」

??

「あんた達、中々見込みがあるわね。気に入ったわ、シャオの家来にしてあげる」

理人

「ハァ?何ぬかしてんだ。手前ぇ、燃やすぞ!」理人は手に火を纏わせた。

一戒

「怪我せん内に帰りや、嬢ちゃん」腹の虫が修まらない一戒は指をポキポキ鳴らす。

愛紗

「その……シャオとやら、全然話が見えないのだが?」

??

「ちょっと。初対面なのにシャオだなんて馴れ馴れしく呼ばないでよね!」

愛紗

「ああ……イヤ、すまん」

朱里

「自分でシャオって言ったのに……」呆れる朱里に食い逃げ娘は指を突きつける。

??

「煩いわよ、チビっ子その二!」

沙弥

「何さ。シャオだかシャチだか知らないけど、何で食い逃げ娘の家来にならなきゃならないのよ!?」

??

「魚なんかと一緒にしないでよ!ブサイクその一!」

幸太

「?シャチは魚じゃねえぞ?」

??

「どう見たって魚でしょ?何変な事言ってんのよ、チビっ子その三!」

鈴々

「ププッ、二人共チビっ子扱いなのだ(笑)」

一戒

「沙弥やんも思いっきりブサイク呼ばわりされてまんねん(笑)」小声で笑う鈴々をキツい一言が襲う。

幸太

「あの……俺達がチビっ子その2とその3だったら、多分チビっ子その1は鈴々じゃねえか……?」

沙弥

「あたしがブサイクその一ならブサイクその二は一戒じゃないの?」

鈴々

「誰がチビっ子なのだー!」

朱里

「私が言ったんじゃないのにぃー!」

一戒

「やっぱシメたる!」鈴々は朱里に怒鳴り付け、一戒はへそ出し娘に殴りかかろうとしたが、愛紗と一刀に制される。

??

「と・に・か・く。あんた達はこの江東の地に覇を唱える孫家の末娘、この孫尚香の家来になるのよ。分かったわね?」

一刀

(今度は孫尚香か……)

(でも変じゃない?)

理人

(確かに。これまでの流れでいけば孫尚香は男になりそうなモンだが)

 

 何だかんだと言いながら結局、尚香と連れだって街へやって来た一行。

沙弥

「じゃあ、あたし達はここで失礼するわ」

一戒

「縁があったらまた会いまひょ」沙弥と一戒は義理の兄に再会する為、領主の屋敷に向かう。

 

尚香

「さーて、晩ごはんはどこが良いかしら?あ!ここが良いわ。ここにしましょう!」食事処を物色していた尚香は一軒の料理屋を見つけると、その前に立ち止まった。

愛紗

「飯は宿を決めてからだ」サラッと言い放って、宿探しを続ける一行。

尚香

「えー良いじゃない。シャオお腹空いた!ねぇ、ご飯ーっ!」

愛紗

「お主、そもそも飯を食う金を持っているのか?」

尚香

「何言ってるの?そんなの家来のあんた達が払うに決まってるでしょ?」

愛紗

「……オイッ!」

尚香

「てゆーか、お金があったら茶店で食い逃げなんかする訳ないじゃない?」

一刀

「……なるほど」

朱里

「そこ、感心するところじゃないと思うんですけど……」一刀はともかく、尚香の厚かましい言い草に腹を立てた男達がいた。

理人

「どうでも焼け死にてえようだな手前ぇは!」腕を真っ直ぐ縦に振るい、火柱をあげようとする理人を幸太が制する

幸太

「理人さん。ここは俺が」その言葉に何かを察した理人。2人して、悪い笑みを浮かべる。

 幸太が唇をモゴモゴ動かすと、まるでバラエティ番組で罰ゲームを受ける芸人のようにのたうち回る尚香。

尚香

「痛ったーい!何これ!?痛い痛い!」

一刀

「……低周波かよ」

「えげつないわねぇ」

鈴々

「てーしゅーはって何なのだ?」

一刀

「詳細は省くけど、簡単にいえば低すぎて普通の人間には聞こえない音だよ」

「低周波は本来、医療に使われるんだけどこういう事も出来るのよ」

愛紗

「どうだ、少しは懲りたか?」

一刀

「反省するなら幸太に止めさせるけど……どうする?」

尚香

「ゴベンなざい!もう家来になれとか言わないから許してぇ~(泣)」涙目で謝る尚香を見て、幸太を制する愛紗。

 

愛紗

「話を戻すが、金がないならこれまでどうしていたのだ?まさか、ずっと一文無しで旅をしていた訳ではあるまい?」

尚香

「勿論、それなりの路銀は持ってたわ。前の街まではね。でも、そこで……」そう言うと髪に手をやり、何かを取り出して一行に見せる。5枚の花びらを型どり、真ん中に宝石を埋め込んだ髪飾りだった。

尚香

「コレ、買っちゃって♪」

愛紗

「……って!路銀全部はたいて、それを買ったのかぁ!?」

尚香

「だって欲しかったんだもーん。ホラ見てよコレ。キラキラして綺麗でしょ?お店で見た時、『これだーっ!』って一目惚れしちゃったのよねぇ。ああ、こうやって見てるとなんかウットリしちゃう……」ホントにウットリした顔で髪飾りを眺める尚香に呆れる一行は頭を抱える。

 

 その頃、沙弥と一戒は領主屋敷で門番に用件を伝えていた。

一戒

「ここの警備隊長にお会いしたいのだけどよろしいでっか?」

門番

「警備隊長……履真(りしん)隊長の事でしょうか?」

沙弥

「そうよ。義弟の沙弥と一戒が訪ねてきたと言ってもらえば分かるわよ」

門番

「はっ、しばしお待ちを」幸い門番はすぐに取り次いでくれた。警備隊の使う部屋に通された2人を男性が迎える。彼こそが沙弥と一戒の義兄、履真であった。

履真

「久し振りだなお前ぇら。息災だったか?」

沙弥

「ええ。おかげ様で」

一戒

「兄貴も元気そうで何よりでまんねん」

履真

「ああ……本当に最後にお前ぇ達と会えて良かった……」

沙弥

「えっ、兄貴、最後って?」

一戒

「どういう事でっか?」

履真

「何日か後、俺は間違いなく腹を切る事になる。そうしたらこの街に住む俺の女房と娘の事をお前ぇ達に頼みたい」履真は沙弥と一戒に全ての事情を話す。あまりに悲しい現実に、互いに抱き締め合って泣き明かす三兄弟だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アニメとの違い
・オリキャラが絡むところ全て(説明が手抜きかっ!Σ( ̄□ ̄))。
オリキャラ⑧&⑨
沙弥&一戒
かつて義兄弟の契りを交わした3人の内、ブサイク2人組。いうまでもなく、あのシリーズのあのキャラが元になっている。長兄履真についての詳細は次回。


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第二十四席伝説のヒーロー、転生していたのこと

『ドラゴンボールGT』とちょっとだけ、クロスオーバーしています。但し作者のDB知識はGT止まりで、ここ数年のDB超に( スーパー )ついては殆ど知りませんので、その辺りのクレームはご勘弁を。
元々黄忠の未亡人という設定を変えたかったのですが、ナゼこうなったかは私自身にもよく分かりませんw


 ~DB世界のその後~

 その死から幾歳月。1日だけ現世に復活して、自分と同じ名前を付けられた孫娘の玄孫の成長を見届けた孫悟空は前世での記憶を全て失い、異世界に転生した。その世界こそ本作の舞台である。

 履家という、平民ながらもそこそこ幸せな家庭に産まれた彼は名を真、そしてどういう訳か前世の名である『悟空』を真名として与えられた。

 やがてこの世界で大人になった履真だが前世での『天真爛漫且つ永遠の少年』なイメージもなく、どちらかといえば理屈っぽいオッサンと化していたが、ナゼか容姿と戦闘力、人の良さはそのまま前世のそれを受け継いでいた。

 前世の記憶も普通にないので、ある街で警備隊の任に就いた。30を過ぎてまだ20才にも満たなかったある女性と結婚。時期を同じくして警備隊長に昇進した。後に義弟となる、元盗賊の一員だった沙弥や一戒に出会ったのもその頃である。

 やがて子供にも恵まれ、この乱世の中、履真は順風満帆な人生を歩んできた。どこかの悪党に愛娘を拐か( かどわ )されるまでは……。

 

 ~話は我らが一行に戻る~

 

 尚香が髪飾りを太陽の光にかざしてウットリ眺めていると、どこからか1羽のカラスが飛んできて、尚香の手から髪飾りを奪い取って再び空高く飛び去ってしまった。

尚香

「キャーッ!何するのよ、この泥棒!」

一刀

(食い逃げ犯に泥棒呼ばわりされる筋合いはないと思うけど……)一刀は心の中で突っ込みつつ、みんなと一緒に逃げていくカラスを追いかける。

「理人、アンタ空飛べるでしょ?捕まえて取り返してきなさいよ」

理人

「何で俺が!?こんなガキの為に!」

朱里

「ここで借りを作っておけば親御さんに損害賠償をし易くなりますよ」

理人

「……なるほど。一理あるな」朱里のアドバイスに納得した理人は足の裏を火口にして飛ぼうとする。

 その瞬間、ある宿屋の2階の窓から妙齢の女性が弓を構える姿が目に留まる。その女性が一本の矢を放つと、その矢はカラスの頭に当たるか当たらないかのギリギリのラインを掠める。

愛紗

「外したか……?」しかし、カラスは気絶して口に加えていた髪飾りを落とし、自らもまっ逆さまに落ちていく。

鈴々

「当たったのだ!」鈴々がカラスを、尚香は髪飾りを抱き抱えるように受け止めた。

尚香

「良かったぁ、壊れてない」そこに復活したカラスが鈴々の手から離れて襲いかかってくる。尚香をつついて羽でひっぱたくと何処へともなく去っていった。

尚香

「もうーっ、何すんのよこのバカ!」

鈴々

「一体どうなっているのだ?」

愛紗

「恐らく、矢が頭の近くを掠めた時に出来た強い空気の波に打たれて、気を失ったのだろう」

朱里

「でも、そんな事出来るんですか?」

愛紗

「出来るも何も、今目の前で見た通りだ」

朱里

「偶然じゃないんですか?狙いが外れて、それで偶々……」

愛紗

「そうかも知れない。けど狙ってやったとしたら、まさに神業……」

(恐ろしいほどの腕前ね。一の( はじめ )銃テクに匹敵するわ……)一行がさっきまで弓を構えていた窓を見上げると、戸口は閉められていてまるで何もなかったように佇んでいた。

 

 いつまでも窓を見ていてもしょうがないので、一行は気持ちを切り替えてさっき尚香が見つけた店で昼食を摂った。

鈴々

「おいしかったのだぁ!」

尚香

「でしょ?一目見た時からここはイケるとピンときたのよね。シャオ様の目に狂いはなかったって事」ナゼか自慢気な尚香に噛みつく鈴々。

鈴々

「フンだ!鈴々はお腹が空けば何でも美味しい体質なのだから、別にお前が威張る事じゃないのだ!」

朱里

「鈴々ちゃん、それあまり自慢にならないような……」食事を終えた一行は、これまでずっと疑問に思っていた事を尚香に問い質す。

愛紗

「ところで尚香殿。お主が孫家の末の姫君というのは本当なのか?」

尚香

「勿論!」

愛紗

「別に疑う訳ではないが、何か証明するモノは?」

尚香

「証明も何も、こうして本人が言ってるんだから間違いないわ」ない胸を張る尚香。愛紗と鈴々と朱里は1度席を離れ、顔を付き合わせて話し始める。

愛紗

「と、言っているがどう思う?」

鈴々

「お姫様がおヘソ出して一人でウロウロしているなんてどう考えてもおかしいのだ」

朱里

「そうですね。最近陽気も良いですし、もしかして……」

尚香

「そこ!聞こえるようにヒソヒソ話さないっ!」3人に突っ込む尚香だったが、一刀に突っ込み返される。

一刀

「でもそれなら、どうしてお姫様が供も連れずにこんなところに?」

尚香

「ウッ!そ、それは……い、色々あるのよ」

幸太

「堅苦しいお城暮らしにウンザリして、家出同然に飛び出してきたんだろ?」

尚香

「な、何で知ってるのよ!?」

幸太

「さっき……あの2人と別れた時、自分でブツブツ呟いてたじゃねえか」

尚香

「何よ!盗み聞きしてたの?」

幸太

「俺は耳が良いからな。約50Km……12里以上(1里4㎞計算)離れた小石の砕ける音も聞き取れんだよ」そういう事か、と愛紗達が呆れて尚香にジト目を向ける。

尚香

「な、何よ?その目は……」そこにこの店の女将が急須を持って一行のテーブルにやってきた。

女将

「おやまあ、綺麗に平らげてくれたもんだねえ。お茶のお代わりいるかい?」

愛紗

「あ……申し訳ない」

一刀

「ありがとうございます」食器以外何も残ってないテーブルを見て、女将は嬉しそうに一行の茶碗にお茶のお代わりを注ぎながら尋ねてきた。

女将

「あんた達、旅の人みたいだけどやっぱり明日の行列を見物しに来たのかい?」

愛紗

「はあ?行列?」

女性

「おや、違うのかい?あたしゃてっきり……」

一刀

「女将さん、行列って何のです?」

女性

「実はここの領主様の姫さんのトコに隣の領主様の三番目の息子が婿入りしてくるんだけど、明日の昼過ぎにその行列がこの前を通るのさ」

「へぇ~♪」

女将

「噂だと大層豪華な行列の上、婿入りしてくる三番目の息子ってのがとびっきりの美形だってんで、一目拝んどかなきゃあって近所の村からも人が集まってきてんだよ」

理人

「そうっすか。ま、何にしろ結婚とはめでたいな」

女将

「ところが……最近、妙な噂もあってね」

愛紗

「と言うと?」

女将

「ここだけの話なんだけどね……」女将が口に手を当てて、一行に内緒話を始める。

女将

「領主様の身内だか、側近だかが今度の結婚にえらく反対していて、その一味が婿入りしてくる息子の暗殺を企んでるんじゃないかっていう……」

一刀

「物騒な話だな……」

女将

「ホントだよ……折角の晴れの日だってのに、嫌ンなっちゃう」沈んだ表情でため息を吐く女将。

朱里

「けど、これで理由が分かりましたね」

愛紗

「理由?」

「そういえば……この街に入る時、関所でやたらと調べられたわね」

朱里

「はい。あれはきっと怪しい者が入って来ないよう、警戒していたんですよ」

愛紗

「ならば、明日は領主も充分な警護を固めているハズだな」

朱里

「はい」

一刀

「そうだね。事前に漏れる陰謀なんて滅多に成功しないモノですよ」愛紗と朱里に同意した一刀は女将に向き直って励ます。

女将

「そうだと良いけど……とにかく、殺したり殺されたりはもうウンザリ。早く穏やかな世の中になってくれないもんかねぇ」一行に背を向けて仕事に戻る女将。その言葉に切なさを隠しきれない一行だった。

 

 その店の別の席では……

店員

「ヘイ、お待ち!特製ラーメン叉焼、ネギ抜き、メンマ大盛りね!」星が相変わらず外套を被っただけの下手な変装で、スープと麺が見えないくらいメンマがてんこ盛りに乗ったラーメンを前にヨダレを垂らしていた。

 

 ~翌日~

 

尚香

「ふわぁぁ~、何で2人部屋に4人で押し込められなきゃならないのよ!おかげでろくに眠れなかったわ」1国の姫とは思えないほどの大あくびをしながら文句を言う尚香に忍がやり返す。

「しょうがないでしょ?誰かのせいで路銀が足りないんだから」あの茶店で弁償させられた尚香の飲み食い分を浮かせようと、一行は宿屋にムリを言って、男女それぞれの2人部屋に4人ずつですし詰めになって夜を明かした。

鈴々

「お腹出してグースカいびき掻いていたクセによく言うのだ」

尚香

「ちょっと、いい加減な事言わないでよ!このシャオ様がイビキなんて掻く訳ないでしょ!?」

鈴々

「いーや、絶対掻いていたのだ!」

朱里

「はわわ……喧嘩はダメですよぉ」

理人

「……貴様ら、マジで燃やすぞ」仲裁する朱里と、静かだがドスを効かせた声で苛立ちをぶつける理人。

愛紗

「こら、そんな所でグズグズしてないで早く来ないか」愛紗が鈴々達を促したと同時に、空の雲が流れて、覆われていた太陽が姿を見せた。一瞬目の眩んだ愛紗の視界がハッキリすると、目に留まったのはあの女性が弓矢を放ったあの宿屋の窓だった。昨日の料理屋の女将の言葉と、たまたま聞こえた忍の独り言が脳内でフィードバックする……。

『明日の昼過ぎにその行列がこの前を通るのさ』

『恐ろしいほどの腕前ね』何かきな臭さを感じた愛紗は踵を返し件の宿屋に向かって走り出した。

「待って愛紗ちゃん」忍に制される。

愛紗

「忍、済まぬが事は一刻を争うのでな。説明する時間はない」

「だったら尚の事、1人で行動すべきじゃないわ。それにあれを見なさい」忍が指し示した先に居たのは例の2人組だった。

愛紗

「ん……?沙弥と一戒ではないか。ナゼあの二人がここに?」愛沙が首をかしげていると、2人は1軒の宿屋に入っていく。

「どうやら目的の場所は同じみたいね。あちし達も行ってみましょ」

 宿屋に着くと、まず愛紗が1人であの女性を訪ねる。後のみんなは裏口に控えて様子を見守る事となった。こちらは人数が多いので、全員で固まって動くと何かと目立つからだ。

 愛紗はこの宿屋の従業員を呼んで、あの窓がある部屋に逗留している客に面通りを頼む。その部屋にやって来て見ると、女性とあの2人組が一緒にいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アニメとの違い
・本家アニメの愛紗のセリフを幾つかオリキャラが話している
・尚香は城を飛び出した理由を自ら口走る→独り言で呟いていたのを聴覚の鋭い幸太に聞かれている


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第二十五席一刀達、幼子を奪還せんとするのこと

おかしい、今話で黄忠編を終わらせるつもりだったのに……


 沙弥と一戒の訪問を受けていた女性の元に、宿屋の店員がやってきて来客を告げる。

??

「私に客?」

宿屋店員

「はい。何でも昨日の礼をしたいとかで……」

一戒

「誰でっしゃろ?」

沙弥

「油断しちゃダメよ、(ねえ)さん」

??

「ええ。分かってます」店員が部屋を後にすると、入れ替わりに愛紗が入ってきた。

沙弥

「あれ、関羽じゃない?」

一戒

「こりゃまた意外なトコで会ったでまんねん」

愛紗

「ナゼお主らがここに?」愛紗は沙弥と一戒に昨日の出来事を話し、改めて女性にお礼を述べる。

??

「そうでしたか。貴女が昨日の……」

愛紗

「関羽と申します。先日は連れの者が世話になりました」

黄忠

「そんな。礼を言われるような事は何も。根がお節介なモノですから、つい余計な事を……あ、申し遅れましたが私は( わたくし )黄忠、字を漢升と(  かんしょう  )申します。今お茶を……」

愛紗

「それには及びません」スッと立ち上がった愛紗は窓を開けて、明日の行列が渡る予定の通りを見下ろして呟く。

愛紗

「良い天気だ……大通りの方までよく見える」

黄忠

「!」

沙弥・一戒

「「!!」」愛紗の言葉に黄忠の顔から血の気が引き、沙弥と一戒は身構える。

愛紗

「とはいえ、ここからだと大通りを通る人の大きさはせいぜい豆粒ほど。それも動いているとあっては、生半可な弓の腕ではまず当たらない。警護の連中がその可能性を考えなかったとしても、責めは出来ますまい」

一戒

「関羽。お()はん、何が言いたいんや?」若干切れ気味に問う一戒。

愛紗

「いや。もし弓の神、曲張に匹敵する程の名手がいたら、不可能を可能にする事が出来るのではないかと……」言うなり黄忠は愛紗が壁に立て掛けていた偃月刀を、沙弥は先端が鎌になった槍、一戒は熊手を手に愛紗に襲いかかる。しかし黄忠の手元が狂い、偃月刀の刃が壁に引っ掛かる。それを予想していた愛紗はちょうど手元にあった弓矢を取り、黄忠に素早く突き付ける。

一戒

「おんどりゃ~!」

沙弥

「何してくれちゃってんのよ!」

愛紗

「動くな!」激昂する2人を牽制した愛紗は黄忠に言い放つ。

愛紗

「どうやら長物の扱いは弓ほど得意ではないようだな……みんな、もう入ってきて良いぞ」愛紗が入り口の戸に声をかけると、まず鈴々、理人、幸太、朱里、尚香の5人が部屋に入ってきた。少し遅れて、一刀と忍も履真を連れてやってきた。

黄忠

「あなたっ!」

沙弥・一戒

「「兄貴ぃ~!」」3人揃って履真に抱きつく。

愛紗

「履真殿だな。その二人から事情は聞いていると思うが……」

履真

「ああ。仕事中だったが、璃々について話したいと言われて抜け出してきた」

 

 履真達の話を聞く事となり、履真、黄忠夫婦と愛紗、一刀、忍がテーブルにつく。残りの面々は壁にもたれたり、寝台に座っている。

履真

「数年前にここの警備隊長になった俺はこの妻の黄忠と娘の璃々の三人で静かに暮らしていたんだが、ある日仕事から帰ってくると璃々がいなくなっていて、代わりに一通の置き手紙が……」その手紙には『娘は預かっている。こちらの指示に従えば無傷で返す。そうでなければ命の保証はしない』と書かれていたそうだ。夫婦が待ち合わせの場所を訪れると、仮面をつけた男が下卑た表情でほくそ笑んでいた。

履真

「娘は無事なんだろうな?」

「全てはお前達次第だ」

黄忠

「私達に何をしろと……」

「ふっ……」

 

 

愛紗

「何と卑劣な!」

鈴々

「許せないのだ!」

理人

「……下郎がっ!」

一刀

「なるほど。それでやむを得ず黄忠さんは暗殺を請け負い、履真さんはそれを見過ごせと……」

 

黄忠

「あの日は私も用足しに行っていて、璃々一人に留守番をさせていたんです。どうしてあの時、一緒に連れてこうとしなかったのか……」涙ながらに話を続ける黄忠。

黄忠

「どんな理由であれ、人の命を影に隠れて狙うなど許される事ではありません」泣き崩れる黄忠の肩をそっと抱く履真。そのまま一刀達に向き直り、話を引き継ぐ。

履真

「それでも、璃々は俺達夫婦の何より大切な一人娘だ。あの娘を救い出すには他にどうしようもなくて……」履真は既に領主宛に詫び状をしたためたという。それには『今度の失態の責めは我が命を以て償いと致す。どうか妻子に咎が及びませぬよう、お頼み申す』と記したそうだ。

履真

「それで義弟(おとうと)達にお前達の事を頼んでおいたんだ」

黄忠

「けれど暗殺を請け負ったのは私です。あなたは口止めされているだけ。ならば私が頚を差し出すのが筋というモノです」

履真

「イヤ、警備隊長にありながら、妻に不祥事を起こさせるのは俺の失態だ。それに璃々には母親が必要だ」夫婦で責任の被り合いをしていると、パンパンと手を叩く音がする。忍だ。

「ハイハイ、そういう話はまだ早いわよ。お子さんを救出するのが先決でしょ?幸太!」

幸太

「あ、はい。その子が監禁されている場所なら大方の見当はついてます。ただ人拐い共が魔獣を護衛につけているので、強行突破は厳しいっすね」実は昨日、幸太が聞いた呻き声こそ、璃々のモノだったのだ。

「種類と数は?」

幸太

小鬼(ゴブリン)が20匹、血塗れ狼(ブラッディーウルフ)が10頭、それと土蜘蛛。これは1匹だけっす」ここまで聞いた夫婦はスッと立ち上がる

履真

「場所はどこなんだ!?教えてくれ!」

黄忠

「すぐにでも迎えに!」

幸太

「ぐ、ぐるじぃ~!耳がぁ~!」詰め寄る夫婦に襟を掴まれ、息が出来ない上にすぐ側で大声を出されて、鼓膜が限界の幸太。そんな夫婦を朱里が制する。

朱里

「待って下さい!場所はお教えしますけど、お二人は行かない方が良いと思います!」

黄忠

「どうして!?」

朱里

「顔を知られているお二人が監禁場所に近づいたりしたら娘さんの身に危険が及ぶかもしれません。娘さんの命を最優先に考えるなら黄忠さんは何も知らない振りをしてここにいて下さい!」

愛紗

「履真殿、黄忠殿。辛いだろうが、ここは孔明殿の言う通りにした方が良い」

理人

「ここからあの茶店まで時間は大してかからねえな……」

一刀

「……娘さんは俺達が必ず助け出します。この命に代えても!」一刀の発言に全員が頷く。

黄忠

「……皆さんっ!」

「履真さんもお仕事に戻ってちょうだい。急に連れ出して悪かったわ」

履真

「……分かった。娘を……よろしく頼む」

 

 一行は璃々が監禁されている場所と思われるあばら家の向かいにある、あの茶店へ向かう。実は愛紗達、黄忠を訪ねる前に妙なキナ臭さを感じた為、予め打ち合わせをしていたのだ。すると幸太が『昨日、茶店の向かいのあばら家から変な呻き声がした』と言ってきた。

 一刀達が部屋を出ていくと、入れ違いに人拐い一味の下っ端がやってきた。今、部屋には黄忠1人しかいない。

黄忠

「何か用?」

下っ端1

「へへ、つれなくするなよ。親分から首尾を見届けるように言われてな」

黄忠

「そう。ご苦労な事ね(危なかったわ。もしあのまま飛び出していたら……)」同じ頃、もう1人の下っ端も警備兵に扮装し、仕事に戻った履真に近づいていた。

履真

「貴様っ!」下っ端は履真の怒りにも動じず、他の兵に気取られないよう、履真に耳打ちする。

下っ端2

「おっと、暴れたら娘がどうなるか。それより行く末をしっかり見させてもらうぜ」

履真

「随分と念入りな計画だな」

下っ端2

「土壇場で裏切られても困るからな」

 

 戦闘準備を整える一行へ、沙弥と一戒が一緒に行きたいと申し出てきた。

沙弥

「兄貴には大恩があるのよ。それに報いたいの」

一戒

「それに兄貴の娘ぉやったら、ワイらの姪っ子や。助けん理由があらへん」

愛紗

「……うむ、良いだろう。みんなも異存はないな?」一刀、忍、理人、幸太、鈴々、朱里が頷く。

一刀

「じゃあ2人は愛紗、鈴々と人間の人拐いの方を頼む。魔獣はいつも通り、俺、忍、理人、幸太で始末する」

沙弥・一戒

「「アラホラサッサー!」」

「ええ」

朱里

「はいっ!」

愛紗・理人・幸太・鈴々

「「応っ!(なのだっ!)」」

 

 茶店にきた一行+2人は主人に事情をザックリ説明する。

茶店主人

「何だって?向かいのあばら家に拐われた子供が!?」

愛紗

「うむ。それでその娘を救い出す為に、お主の協力が必要なのだ」

茶店主人

「え、協力?」

 そのあばら家の2階に人拐い一味の見張り役3人と4才くらいの小さな女の子がいた。この女の子が履真と黄忠の一人娘、璃々であった。璃々は恐怖と淋しさのあまり、部屋の隅で踞っている。

見張りA

「おい、異常はないか?」部屋に戻った見張りAが見張りBに尋ねる。

見張りB

尚香

「な~んにも。つーかなさすぎて退屈で退屈で……」見張りAの問いに答えた見張りBが茶店の見える窓の隙間を、再び覗き込む。すると……。

 

 

 

 

 

 




終わり方が中途半端になってしまった……
( ̄□ ̄;)次回はアニメの回を跨いでしまうかもです。
アニメとの違い
・璃々の監禁場所に気づいたのは、人拐いが生存の証拠として黄忠に差し出した璃々の絵に茶店主人の顔があった為→幸太の耳に璃々の呻き声が聞こえた為。
・その他オリキャラ関連。
オリキャラ⑩履真
本文中にもあるように『DB』孫悟空の生まれ変わり。黄忠の夫で璃々の父。作者が『タイムボカン』シリーズの悪人トリオを善人かつ、リーダーを男にしようと考えた設定。



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第二十六席黄忠、百合百合な妄想をするのこと

前話のあとがきを修正しました。よろしければチェックしてみて下さい。



尚香

「ちょっと!変な言いがかりは止めてよね!」尚香と茶店主人が何やら喧々囂々(けんけんごうごう)と言い争っている。

尚香

「何よ、このシャオ様がつまらない盗みなんてする訳ないじゃない!」

茶店主人

「この前食い逃げしておいてナニ抜かしてるだ!だから今度もお前ぇが犯人に(ちげ)ぇねえ!」

尚香

「分かったわよ!そんなに言うなら、盗んだモノ持ってるかどうか、裸にでもして調べたら良いじゃない!」

茶店主人

「なに!?」尚香は上から服を脱ぎ始めた。あばら家の隙間から覗いていた見張りBはその光景に目が離せなくなる。

尚香

「どう、これで良い?」赤い顔で上半身下着だけになったが、事前に打ち合わせたOKの合図がまだされてない。

茶店主人

「ま、まだだ。まだ下が残っている!」とは言いつつも、茶店の主人は恥ずかしそうに顔を染めながら演技を続ける。

尚香

「分かったわよ!」スカートも脱いで、あられもない姿を晒す。

尚香

「さあ、これで分かったでしょ!(ちょっとまだなの~?流石にこれ以上は脱げないわよ……)」

見張りB

「ちょっとちょっと!面白い事になってますぜ(喜)」この様子をずっと覗いていた見張りBは仲間に手招きする。

見張りA・C

「「おぉぉぉぉっ!」」見張り3名が下着姿の尚香に鼻の下を伸ばしている頃、あばら家の隣に立っている木には愛紗、その下に沙弥と一戒、入り口に一刀達、茶店の中では朱里が、見張り共に見えない位置で様子をずっと窺っている。

朱里

(……引き付け成功。一……、二……、三……今です!)朱里の合図で一斉にあばら家へ突撃する。窓ガラスを突き破って、見張り達の前に姿を現せた愛紗。鈴々と沙弥・一戒コンビ、未来チームは正面切ってあばら家に押し込んだ。

見張りA

「な、何だ手前ぇは!?」

愛紗

「いつもならここで名乗りを上げるところだが……貴様らのような卑劣な輩に聞かせる名などない!」今回は見張り達にいつもの偃月刀ではなく、短剣を突きつけて激昂する愛紗。

見張りB

「何だと!」

見張りC

「ふざけるな!」

見張りA

「やっちまえ!」見張り役達も似たような短剣で襲いかかるが、呆気なく倒される。

 

 1階では人拐い一味と鈴々達が混戦を繰り広げていた。連中は鈴々の無双っぷりや沙弥と一戒の意外な活躍に敵わないと見るや、魔獣をけしかけてきた。

一戒

「こんなん、ワイらの手には負えないでまんねん!」

一刀

「後は任せろ!」

鈴々

「任せるのだ!二人も退くのだ!」

沙弥

「逃げましょ逃げましょ。スタコラサッサとな」ここからは未来チームの独壇場となった。

幸太

「ヴォイス・ソリッド!」幸太の放った咆哮がガトリング銃の弾丸のようになり、ゴブリンの頭を打ち砕く。

一刀

「妖魔滅破斬!」すれ違った一瞬、一刀の日本刀が生き残りのゴブリンを首を切り落とす。

理人

「炎龍波!」理人の腕から放たれた炎が龍の如くうねり、ブラッディーウルフを呑み込んでいく。哀れ狼達は骨も残らず、消し炭にされた。

人拐い達

「「ヒィィィィィッ!」」苦労して集めた魔獣が次々に殺られていき、意気消沈する一味。最後の望みだった土蜘蛛も、アフリカ象に変身した忍に頭を踏み潰されて死亡。最早為す術のなくなった連中をここぞとばかりに叩きのめす鈴々であった。

鈴々

「愛紗!下にいた奴らはぜぇーんぶ叩きのめしたのだ♪」

一刀

「魔獣も全滅させた。もう大丈夫」一刀と鈴々は2階へ駆け上がって愛紗に告げる。他の面子は一味を拘束すると、役所に引き渡しに行っていた。

愛紗

「よし!」一刀達は隅で踞っている幼子に優しく声をかけた。

一刀

「璃々ちゃんだね?」

璃々

「……うん」

愛紗

「私達と一緒に帰ろう。父上、母上が待っているぞ」愛紗が笑顔を向けると、

璃々

「お父さんとお母さん?」さっきまでの暗い表情がパァッと明るくなる。

 

 4人があばら家から出てくると、タイミング良く沙弥と一戒が馬を連れていた。

一戒

「おーい、こっちでまんねん」

愛紗

「流石は孔明殿。手回しが良いな」

朱里

「いえ。私じゃなくて……」

一戒

「さっき仮面付けた女が『急ぐならこれを使え』って置いてったんや」

沙弥

「ホントに変な仮面だったのよねえ。感謝はしているけどさ」

愛紗

「そ、そうか((苦笑)……星だな多分)」

朱里

「詮索は後にしましょう、とにかく今は時間がありません。急ぎましょう!」璃々を馬に乗せて街へ戻っていく愛紗。しかし、後一歩のところで門番に止められてしまった。

門番

「馬はダメだ、ここで降りろ!」

愛紗

「……くっ!」

 

 その頃、行列が既に街中へ入ってきてしまっていた。

下っ端1

「おい、そろそろ」

黄忠

「分かったわ」黄忠は躊躇いながらも弓矢を手に、タイミングを狙う。

黄忠

(……まだなの?)

 

 足止めを食らった愛紗。黄忠のいる宿屋に行こうとしても、行列の見物でごった返した人混みの中、進む事まかりならず歯噛みするが、人拐い共の引き渡しを済ませた忍と合流出来た。

「あちしがその子を背負っていくわ。任せてちょうだい」璃々を背に乗せた忍は人混みから逸れると鳳凰に変身して、空高く飛び上がった。それを見て人々は、『婚礼の日に鳳凰が空を舞うとは』『これは何とも縁起が良い』と囃し立てた。

 

 そして入り婿を乗せた駕籠が、とうとう宿屋の前に近づいてきた。

下っ端1

「おっ、来たか。頼むぜ」

黄忠

「……ええ」矢を構えて入り婿を狙う黄忠だが、弓を引く右腕が震える。

下っ端1

「おいどうした、早くしろ!」下っ端1に急かされる。

黄忠

(ダメ……これ以上は……!あなた、璃々、ごめんなさい)観念して矢を射とうとしたその時、鳳凰の背に乗った璃々の無事な姿が目に入った。声は聞こえないが、何かを言っている。その口の動きを読む。

黄忠

(お・と・う・さ・ん、お・か・あ・さ・ん……!)璃々が無事ならば、こんな男の言う事など聞く必要はない。黄忠は安堵のため息と同時に矢を下ろした。

下っ端1

「おい、何のつもりだ!?どうして矢を……」肩を掴んできた下っ端Aの方に向き直ると

黄忠

「……ふんっ!」ありったけの力で握った拳でその顔面をぶん殴る。気絶した下っ端1を見下ろすと、気が抜けてその場に座り込んだ。

 

 履真の監視をしていた下っ端2は一刀が最速スピードで行列に割って入り、押さえつけてあえなく終わった。

一刀

「履真さん、娘さんは無事救出しました!この男を役所に付きだしてお終いです」

履真

「……そうか。ありがとな」履真は一瞬だけホッとした顔になったが、すぐに厳しい目付きになって下っ端2を連行していった。

 

 何はともあれ、誘拐事件は解決した。一行は履真一家と別れて、再び旅を続ける。

黄忠

「お名残惜しいけど、ここでお別れね。あなた達には何とお礼を言って良いか……」

履真

「スッカリ借りが出来ちまったな」

璃々

「ありがとう。お兄ちゃん、お姉ちゃん」

愛紗

「イヤァ、お礼ならもう充分過ぎるほど言ってもらったので、これ以上は……」

「それより履真さん。ホントに警備隊長を辞めて良かったの?」花婿は無事だったが結局履真は職を辞した。いくら娘を人質にされていたとはいえ、暗殺に協力したのは事実なので、警備隊長を続ける事は出来なかったのだろう。

履真

「ああ。これからは家族三人、百姓でもしながら暮らしていくさ」

一戒

「ワイらも近所に家を借りて住む事にしたでまんねん」

沙弥

「少しでも兄貴達の助けになりたいのよ」

一刀

「さて、どっちが助けられる事やら……」

沙弥

「何さ、『ブタもおだてりゃ木に登る』って知らないの?」

履真

「そんな諺ねーよ」一刀がおどけて、沙弥がバカを言って、履真が突っ込む。互いに笑い合いながらの別れとなった。

黄忠

「関羽さん」最後に黄忠が愛紗の手を取り、そっと耳元で囁いた。

黄忠

「貴女も家族を持つと良いわ。……それで、北郷さん、藤崎さん、伍代さんの内、本命はどなた?」愛紗は顔を真っ赤にしながら言い逃れようと必死になる。

愛紗

「な、何を仰る!私はそ、そのようにふしだらな事は考えては!いやふしだらではないのだが、つまりは、その……」しどろもどろになる愛紗。そこに鈴々が会話に混ざってきた。

鈴々

「愛紗と鈴々は寝床の中で契りを交わした仲なのだ!」

黄忠

「アラそれじゃ……」顔を両手を覆い、頬を染める黄忠。愛紗は鈴々の口を塞いで否定する。

愛紗

「違います!契りというのは姉妹の契りでして……別にその……」

黄忠

「……その?」何か変な想像をしてニヤつく黄忠だったが、その隣では夫が咳払いをしていた。

履真

「オホン。紫苑、そういう話は璃々の教育上、どうかと思うぞ。まあ他人(ひと)の趣味をあれこれ言うつもりもないが……」

愛紗

「履真殿まで!ってか鈴々、誤解を招く言い方をするなぁーっ!」慌てふためく愛紗に再び笑いが起こる。

 はてさて、最後に妙な展開に見舞われた一行ですが、次回は何が待ち構えているのか。それは次回の講釈で。

 

 




アニメとの違い
・あばら家の1階にいた人拐い一味は登場せず→鈴々、沙弥・一戒、一刀達と闘う。
・璃々は愛紗に掲げられながら母を呼ぶ→鳳凰に変身した忍の背中で両親を呼ぶ。
・愛紗は黄忠から、またしても鈴々と親子に間違えられる→幸太以外の未来チームの誰かと付き合ってると思われている。

今回、理人と幸太のセリフが少なかったですね。次回はもっと喋らせたいです。2人の攻撃技は、それぞれ「幽友白書」の飛影の《炎殺黒龍波》「キン肉マン」のジェロニモの《アパッチの雄叫び》が元ネタになってます。


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第二十七席丁原と陳宮、呂布と流華に拾われるのこと

カウントは付けてますが、閑話的な話になります。本家アニメだと2期7話後半、本作でいえば十七席、一刀達が董卓の領地を出ていった後の話です。
次話はほぼ完成してます。サブタイ考え中なので、決まり次第投稿します。


 曹操が治める許昌という街に、裕福な商家に生まれながらも見目麗しく心優しい少女がいた。名を丁原(ていげん)という。だが、商家の主人……少女の父親が早世した途端、世間の風当たりは冷たくなり、財産も全て騙し盗られて、丁原は一文無しになってしまった。残されたのは最後まで若き主に忠誠を誓う1人の幼女、陳宮と一頭のセントバーナード犬だけだった。

 

 幼女は日々の糧を得る為、山羊の乳を運搬する仕事に就いた。その荷車は犬の張々に( ちょうちょう )牽かせている。少女も妓楼で下働きをしながら慎ましくも幸せな生活を送っていた。しかし、ある日をきっかけに2人の人生は更に転落していく。

 

 ある日、丁原が働く妓楼の女将、面珍(めんちん)が彼女に酷な話を持ってきた。

面珍

「丁原。明日から客を取りなさい」若干14才の丁原に告げる。現代日本だったらこの女将、問答無用で刑務所行きだが、生憎この世界に風営法は存在しない。

丁原

「そんなっ!」

面珍

「お前に選択の余地はないよ。分かったね」それだけ言うと店に戻っていく。その日帰宅して陳宮に相談したら、真っ向から反対された。

陳宮

「聖羅お嬢様、そんなのダメなのです!」今更だが、丁原は真名を『聖羅』という。

丁原

「でもねね。断ったら私、あの店を追い出されるわ。そうしたら他に行く所は……」陳宮の真名は『音々音』だが、親しい相手には真名をモジった『ねね』の愛称で呼ばれる方が多い。今はもう、そう呼ぶのは丁原しかいないが。

陳宮

「だったらねねがお嬢様を養うのです!そんな店、今日限りで辞めてしまうのです!お嬢様を傷物にしたら、ねねは亡くなった旦那様に申し訳が立たないのです!」

 

 翌日に店を辞めてきた丁原。女将は今まで世話してやったのにだの何だの散々なじったが、陳宮が連れている犬に吠えられると腰を抜かし、ヘタり込んだまま去っていく2人を見送るハメになった。

 

 それから2人は陳宮が塒代( ねぐら )わりにしている水車小屋で一緒に暮らす事になった。が数日後、帰ってくると水車小屋は何者かに壊されていて、とても住める状態ではなくなっていた。小屋の残骸から僅かな家財道具を持ち出して、2人と1頭は旅をしながら生活をする事となる。

 

 丁原と陳宮は訪れた先々で色んな仕事をしながら旅を続ける。始めの内は大した問題もなかったが、ある村で丁原が病に倒れてしまう。

 陳宮は医者に診せる金と薬代を稼ごうと街まで出て、1軒の商家の戸を叩き、仕事をさせてくれと請う。

陳宮

「お願いです。何でも良いから仕事をさせてほしいのです!一生懸命働くですから!連れを医者に診せたいのです!」だが応対した男は、無惨にも陳宮を足蹴にして怒鳴り付ける。

「うっるせえ!」

陳宮

「あうっ!」

「ここんトコ不景気で、只でさえ仕事がねぇってのに!お前みたいな他所から流れてきたガキに任す仕事なんざあるもんかっ!物乞いなら手前ぇの村でやりやがれ!」そう吐き捨てると、戸を強く閉めて下がっていった。尻餅をついた音々音は立ち上がると涙声で呟く。

陳宮

「……物乞いじゃないです……ねねはただ……お嬢様を医者に診せたくて……薬代が欲しくて……」うちひしがれる陳宮を慰めるように「クゥ~ン」と、一鳴きする張々。陳宮は服の袖で目を擦るとその頭を撫でながら、精一杯の笑顔を繕う。

陳宮

「心配しなくて良いです。ねねはあんな事ぐらいでへこたれないのです」

 

 夕暮れの街をトボトボ歩く1人と1頭。その途中で立て看板に人が群がっているのを目にする。

《近隣の村々を襲う魔獣黒蝮蛇を( ヘイフーショー )退治した者には褒賞金を与える。―冒険者組合―》と書いてあった。

陳宮

「黒蝮蛇ですか……お金は欲しいですけど、ねね達に魔獣退治なぞ、所詮ムリな話なのです」

張々

「クゥ~ン」

陳宮

「それより早く帰るのです」医者はおろか、一粒の米さえ持って帰れない音々音はせめて着替えぐらいはさせてやろうと、家代わりにしている寂れた神社に張々を連れて帰っていく。

 

 神社の床では薄っぺらい布団と、申し訳程度の毛布にくるまった丁原が寝息を立てていた。陳宮は聖羅の体をゆっくり起こして、汗だくになった下着と寝間着を脱がせてから、洗濯したばかりのモノに着替えさせる。途中で目を覚ました丁原に陳宮は今日の成果が何もなかった事を告げる。

陳宮

「聖羅お嬢様。今日も一文も稼げなかったのです……だから薬も食べ物も手に入らなかったです」

丁原

「良いのよねね。さ、貴女もお休みなさい」途端に地響きがする。何事かと外を窺うと、目玉だけでも陳宮の頭より大きい巨大で鱗が真っ黒な蛇が神社に纏わりついていた。

丁原

「イャーッ‼」

陳宮

「ギョエ~‼」大蛇は舌舐めずりをしながらこっちを睨んでいる。

陳宮

「ば、化け物!お、お前なんかに、お嬢様には手を出させないのです!」膝を震わせながら、それでも精一杯腕を広げて丁原を庇う陳宮。

聖羅

「ねね!?私はいいから!貴女は張々と逃げて!」そう叫んで陳宮に駆け寄ろうとした丁原だが、病のせいかまともに立てず、這いつくばって近づいていき、陳宮に抱きつく。

陳宮

「……良いのです。ねねは……孤児(みなしご)だったねねは旦那様に拾われて、お嬢様に初めて会ったあの日から、お嬢様を守ると心に誓ったのです……あの世で最後までお嬢様を守り通したと、旦那様に誇らせてほしいのです」陳宮は目に涙を貯めながら、丁原を引き離す。大蛇が大口を開けて、いよいよ陳宮を飲み込もうとする。

聖羅

「ねねぇーっ‼」

 

??

「神社に纏わりついてんじゃねえよ!この罰当たりが!」

??

「……排除する」男の大声と女の小さな呟きが聞こえた。一瞬後、大蛇の尻尾を男が掴んで投げ縄のように振り回す。

??

「ソラソラソラソラーッ!」天高く投げ飛ばされた大蛇はやがて落っこちて、地面に激突しては、跳ね上がってバウンドするのを数回繰り返す。

??

「……終わり」傷ついた大蛇は女の得物に首を()ねられ、敢えなく絶命した。

??

「……さて、そんじゃ冒険者組合までコイツを運んでいくか」男が大蛇の死骸に手をかけようすると、女に袖を引かれる。その眼差しは丁原と陳宮に向いていた。

??

「……どうした、恋?」

呂布

「……流華、お腹空いた……」

流華

「腹減ったって……」どことなくサルに似ている流華が、整った顔立ちだが無表情な呂布に言い返そうとする。が、気が変わったのか

流華

「うん、このままじゃ流石に重すぎるな。オイ、そこの小っこいの。今からこの黒蝮蛇を( ブラックバイパー )捌くから手伝ってくれ。そっちの嬢ちゃんにはこれを」流華は懐から小さな小瓶を取り出すと、中身を丁原に飲ませる。忽ち頬の血色が良くなって、虚ろだった目も光りだした。

陳宮

「お嬢様?」

丁原

「あれ?息苦しくないし、頭も痛くない。すっかり回復している!」

流華

「流石にあっち(・・・)の薬はよく効くな」小瓶の中身は、流華達が元いた世界で作られている『万能ポーション』だった。この世界に来た時、流華はこれを偶々、多く持ち合わせていたのだった。因みにこの世界で同等のモノを購入するには、国家予算並の金が必要になる。

丁原

「ありがとうございます!でも私達お金がなくて……」

流華

「俺がいつ『金払え』って言った?礼ならあのチビと一緒に解体するのに手を貸せ」

 

 黒蝮蛇の皮を裂いて、牙や目玉をしまうと流華は神社に手を合わせて頭を下げてから境内で火を起こした。

 肉を串刺しにすると、焼きながら恋と共に食べ始める。焼けた肉からは旨そうな匂いが漂う。

「……食べるか?」

陳宮

「い、いらないのです……ね、ねね達は物乞いじゃないのです」ゴシゴシと恋の方天画戟を磨く音々音。それを見た流華は串を2本、2人の前に差し出す。

呂布

「……恋は、お腹が空くとご飯が食べたくなる。ご飯を食べると幸せになる……一人で幸せになるよりみんなで幸せになる方がずっと幸せ。だから……お腹が空いているなら恋達と一緒に食べると良い」

流華

「解体手伝った分の報酬だと思えば良い。それなら物乞いにゃならんだろ」

丁原

「……そういう事なら。ねね、頂きましょう」

陳宮

「はい!お嬢様!」それから、何日も飲まず食わずだった聖羅と音々音は一心不乱に食べ続ける。やがて月も出た頃、満足するまで食べ終えると

呂布

「お腹いっぱいになった?」

丁原・陳宮

「「……は、はい」」

流華

「もう真っ暗だな……お前ら、あの神社で暮らしているのか?」

丁原・陳宮

「「っ……!」」

呂布

「……行く所、ないのか?」コクッと頷く2人に恋は腕を指し伸ばす。

呂布

「……だったら一緒に来ると良い。恋達と家に帰ろう」

流華

「恋。先に冒険者組合へ行くぞ」肉は殆ど残らず、皮と骨と目玉に解体された黒蝮蛇を大型の荷車に乗せて引いていく流華。後ろから荷車を押す丁原と陳宮。呂布は少し離れて、後ろからついてきて、その隣を並走する張々。こうして4人と1頭は、冒険者組合に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アニメとの違い
・陳宮のエピソードは『フランダースの犬』のパロディで陳宮はネロの役→パトラッシュ役の犬も一緒だがパロディ元は『小公女セーラ』がベース。陳宮の役どころはベッキィ。
・呂布は自分で釣ったらしい焼き魚を陳宮に与える→流華と倒した魔獣の肉を丁原と陳宮に与える。
オリキャラ⑪丁原
真名は聖羅。名前は『三国志』にも登場する、実在の人物から。但し、『恋姫』原作シリーズ及びアニメ本家に同名のキャラは登場しない。陳宮が以前雇われていた商家の娘。父親の死後、貧乏暮らしに。パロディではセーラ役。てか、作者が単に小公女パロディ書きたかったという理由だけて登場したキャラ。
オリキャラ⑫面珍
真名は不明。パロディでは悪名高いミンチン院長の役どころ。




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第二十八席曹操、面珍を断罪するのこと

前話の続きです。1話で終わらせるつもりが思いの外、長くなったので分割しました。


 冒険者組合についた。交渉を流華に任せて呂布達は一休みする。

冒険者組合受付

「いやぁ、黒蝮蛇を倒すとは流石長岡さんに呂布さん。これであの村も平和になりますし、私共は良い買い物が出来て、正に一石二鳥でございます」もみ手をする組合従業員。因みに黒蝮蛇の骨と皮は丈夫な武器や鎧の材料に、目玉は宝石として、高額で取引されるそうだ。褒賞金と買取り代金を受け取ると、丁原と陳宮を連れて大きなお屋敷を訪れた。

流華

「ここの太守、董卓様のお屋敷さ。お前らを置いてもらえるよう、頼んでみる」門前には番をしていた華雄がいた。

華雄

「何だ長岡?また呂布が捨てられた動物を拾ってきたのか。しかし今日のはまた、三匹共バッチぃな……」旅に出てから、殆ど着の身着のままで体を洗う機会もなかった2人と1頭は土と埃にまみれている。

呂布

「……でも可愛い」

流華

「そう言うな華雄。後で恋が風呂に入れるそうだから」

華雄

「まあ呂布がそう言うなら、そうなんだろう。飼うのは良いがちゃんと洗っとけよ?バッチぃままだと賈駆が煩いからな」もう誰も屋敷を訪れる予定はないので、華雄は自分の部屋に戻っていく。

流華

(華雄……連れてきたのは犬だけじゃねえぞ?何でスルーした……)流華は心中で華雄に突っ込みを入れつつ、呂布と屋敷の玄関へ入る。慌てて追いかける丁原と陳宮。

 屋敷は内装も、丁原の元いた商家の家よりも立派だった。廊下を進んでいるとメガネの女性とかち合う。

賈駆

「ん?呂布!あんたまたバッチぃのを拾ってきたのね!?今週これで何度目よ?」

呂布

(いー)(ある)(さん)(すー)……いっぱい」

賈駆

「良いわよ数えなくて!長岡、あんたがついていながら、何で止めないのよ!」

流華

「あー……」何かを言いかける流華だったが、賈駆は呂布の方を向いてため息を吐く。

賈駆

「ウチにはあんたが拾ってきたのがワンサカと居るんだから、今更一匹や二匹増えたところで大差はないわ!飼うのは良いけどちゃんと躾けるのよ。この前みたいに、ボクの寝間でおしっこしたりしたら承知しないからね!」かなりの剣幕で捲し立てる賈駆に対して、淡々と返事をする呂布。

呂布

「分かった……賈駆の部屋ではおしっこさせない……」言いたい事は全部言ったらしく、その場を去りかけた賈駆だったが

賈駆

「……って!ちょっと待ったぁ!」踵を返し、再び流華と呂布の側に来る。

賈駆

「そっちのデッカいワンコは良いとして、他の二人は人間じゃない!」

流華

(やっぱりそうきたか……)

呂布

「バッチぃけど可愛い。バッチぃけど可愛い。バッチぃけど可愛い……おんなじ」張々と丁原、陳宮を順番に見つめて賈駆に向き直り、当たり前のように言いきる。

賈駆

「同じな訳ないでしょ?この娘達、名前は!?年齢は!?どこから連れてきたの?まさか可愛いからって人様のをお持ち帰りしたってんじゃないでしょうねえ!?どうなの?えぇ!?」怒り心頭の賈駆に怯えて、流華達の背に隠れる陳宮。丁原は不安気に呂布を見上げる。

呂布

「賈駆、怒るの良くない……」

賈駆

「えっ?」

呂布

「……怖がってる」ハッとする賈駆。

流華

「まあまあ、賈駆。俺が説明すっから……恋、そいつら連れて風呂に行ってこい」流華は賈駆の背中を押しながら退散していく。呂布は2人と一匹を連れて風呂場へ向かう。

 

流華

「……という訳でな」董卓の執務室で今日の出来事を、逐一報告する。部屋には賈駆と、今の主である董卓がいる。

賈駆

「で……何させるの?」

流華

「……何って、仕事か?」

賈駆

「当たり前でしょ?何もしない人間を置いとく訳にはいかないの」

流華

「まぁ(元の三国志じゃ、確か陳宮は軍師だったな。丁原は……何だっけ?一刀が居りゃ聞けるんだが)とりあえずは呂布と一緒に動物の世話をしてもらおうかと」

董卓

「私は良いと思いますよ」主の許可を得たので、一礼して執務室を出る流華。

 

 一方、風呂に入っている丁原と陳宮。呂布に頭から湯をかけられて、体の表面に付いた汚れを洗い流される。

呂布

「バッチぃままだと賈駆が怒る……だから綺麗にする」そして2人の体中、顔、背中やお尻に至るまでゴシゴシ洗い始める。

陳宮

「え?あ、ちょっと、だ、ダメです!じ、自分で出来るのです!」

丁原

「キャッ、くすぐったい……ひゃう!」幼い割に、妙に色っぽい声をだしてしまう2人。スッカリ綺麗になると、呂布と同じ寝室に連れて来られた。そこには呂布が普段使っているのとは別に、2人用の寝台が新たに設けられていた。

丁原

「ねね、起きてる?」

陳宮

「眠れないですか、お嬢様?」

丁原

「貴女も?」

陳宮

「そうです。綺麗なお布団で寝るの、久し振りだから却って寝付けないのです……」

呂布

「丁原、陳宮……」いつの間にか呂布が2人の顔を覗き込んでいた。驚く2人。

丁原・陳宮

「「ふわぁっ!」」

呂布

「眠れないのか?」

丁原

「は、はいっ」

陳宮

「はいです……」

呂布

「じゃあ……」2人の寝台に潜ってきた。

呂布

「連れてきた子の中ですぐに慣れなくて、中々寝れないのいる。そんな時、恋はいつもこうしてる」軽く微笑むと2人の頭を抱き締めて、優しく包み込む。

丁原

(良い匂い……)

陳宮

(何だか思い出せないですけど……)

丁原・陳宮

((とっても懐かしい匂い……))

呂布

「ウチに連れてきたのはみんな恋の子供……だから二人もそう。だから……安心して眠ると良い……」2人は微睡みに落ちていきながらも、これから一生呂布と流華についていこうと心の中で誓った。

 

 話は丁原が妓楼を辞めた日まで遡る。先述通り、この世界に風営法が存在しないのだが、許昌は曹操が治める街。よってここの商人は彼女が定めた条例を守らなければならない。

 面珍は曹操に呼び出され、彼女の屋敷にて謁見していた。

曹操

「そなたが妓楼の女将か?」

面珍

「左様にございます、曹操様」恭しく平伏する面珍に曹操は告げる。

曹操

「この度、私が出した条例は知っているわね?この許昌で十六才未満の売春、並びにその強要は固く禁じたハズだけど?」暗に『お前は違反しているだろう』と面珍に詰め寄る曹操。当の面珍はスッとぼける。

面珍

「さて?何の事やら。わたくし、とんと身に覚えがございませぬ」

曹操

「そう、あくまでしらを切るつもりなのね……橙馬!」

「はい。面珍さん、貴女の所業は全て記録されてますよ?」メガネをかけた飄々とした男、橙馬一がハ○そっくりな球体の絡繰りを抱えてきた。斥候カメラと名付けられたそれは許昌一帯を飛び回り、賊の探索や犯罪の検挙に使われている。その数、現段階で11体存在する。

 カメラは面珍と丁原のやり取りを録音していた。夏候姉妹以下、多くの配下が立ち合う中、一は抱えていたカメラのスイッチをONにして、収められた映像と音声を再生する。

 

 ~ここからカメラの収めた光景~

 

面珍

『お前を見初めたお客がいてね。明日はその人に抱かれな』

丁原

『!で、でも私まだ十四ですが……』

面珍

『年齢なんて書簡を適当に書き直せば分かりゃしないよ。お前は黙って体ぁ差し出しゃいいんだ」

 

 ~カメラ再生終わり~

 

 悪事が全て、白日の下に晒された面珍。しかし考えがなかった訳ではない。玉座にて、額に青筋を浮かべている曹操にペコペコしながら何かを差し出す。

面珍

「曹操様。これでおひとつ、どうぞよしなに」差し出したは賄賂金だった。しかし、これが却って曹操の神経を逆撫でした。

曹操

「(怒)……私の決めた条例に逆らい、あまつさえ賄賂に目が眩む下郎と見なすとは……随分いい度胸ね。春蘭!」

夏候惇

「はい、華琳様!」

曹操

「妓楼は闕所!この面珍なる者は鞭打ち百叩きにし、市中を引き回した上で、即刻頸を刎ねろ!

夏候惇

「御意!さあキリキリ歩け!」夏候惇は面珍を縄で縛り上げると、刑場まで引き摺っていった。

曹操

「……あの面珍とかいう女、他にも色々やらかしてそうね。妓楼を調べないと……」裁きを終えた曹操は、疲れきった顔でため息を吐く。

「じゃあ曹操さん。僕が件の店へテコ入れに行ってきますね」

曹操

「ええ、お願い。それと橙馬……」

「はい?」

曹操

「その斥候かめらとやら、もう少し増やせないかしら?我が領地は、この許昌以外にも広がりつつあるし……」

「分かりました……では次の予算会議までに見積もりを上げておきますね」一は曹操から兵士数人を借りて、闕所が決まった面珍の妓楼へと家宅捜索に向かっていった。さて、曹操はこの国で天下を取れるのか?そして一はこのまま、己の知識と能力を活用して、いつか曹操の右腕となるのか?それはまだ作者にも分からない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アニメとの違い
・董卓はセリフが一切ない(放送当時、声優さんが産休中だったそう)→一言だけセリフあり。
・曹操達が登場する辺りからオリエピ


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第二十九席袁紹、宝を堀当てんとするのこと

今回も本家アニメそのまんまのサブタイです。オリジナルのサブタイが中々思い付かない……
シリーズ最新作のキャラ、田豊がこちらにも登場します。但し作者は最新作未プレイなので性格等はオリジナルです。
作者による荀彧イジメ第2弾です(笑)。


 今回の話は冀州の袁紹の屋敷から始まる。今日も今日とて仕事は部下任せにして、自分はのんびり風呂に浮かんでいるダメ太守の袁紹。全く関係ないが、ここで30年以上前に放送された○ール○スク○ンのCMソング『今頃~あなたは~な~にしてるの~』を思い出すのは作者だけだろうか?

袁紹

「ナレーションはお黙りなさい!」バキッ!

……では、気を取り直して。

袁紹

「う~ん。やっぱりお風呂は良いわよね……こうして一人で静かに入っていると一日の疲れが取れるわね」疲れるような事は何もしていないのだが……そこに文醜がズカズカと、浴場に踏み込んできた。

文醜

「麗羽様!」

袁紹

「きゃーっ!な、何よ!?猪々子!どうしたの!?まさか敵襲!?」

文醜

「そうじゃなくて、見せたいモノがあるんです!」

袁紹

「はぁ?見せたいモノ?」

文醜

「良いからとにかく来て下さいよ」袁紹の腕を取り、風呂から引きずりだして、強引に連れていく。

袁紹

「ちょっと、私、( わたくし )裸!」

文醜

「文字だけだから大丈夫ですよ。作者は絵心ないから、挿絵もないし」考えもせずに余計なセリフまで吐く文醜。そして拳骨を喰らう。

袁紹

「もう!いい加減にしなさい!」ゴツン!

文醜

「ヘボッ!」

 

袁紹

「で、私の憩いの時間を邪魔してまで見せたいモノとは何ですの?」バスタオル姿のまま、椅子に座って問う袁紹。そこにいるのはまだ瘤が引かない文醜と、新しく側近になった田豊(でんほう)の2人である。

田豊

「はい。倉の中を虫干ししていたら、これが出てきたんです」田豊が1枚の紙を取り出す。よく見ると地図のようだが所々ボロボロで、何の地図だか判別は難しい。

袁紹

「何よ、このキッタない地図……おまけに虫食いだらけじゃない」

田豊

「それはそうなんですけど、とりあえずこれを見て下さい」田豊の指が示す地図の一部分を目をこらして見つめると、

「何々……地図に指し示し場所に、我が生涯をかけて蓄えし宝あり。宝……ハッ、これって!」

文醜

「そうですよ、宝の地図ですよ。掘れば金銀財宝がザックザク!これで最近、麗羽様のムダ遣いのせいで苦しい当家の台所も……」またしても余計な発言をする文醜にキレ気味の袁紹。

袁紹

「誰のムダ遣いが原因ですって?(怒)」

文醜

「え、いや、そりは……(焦)」

田豊

「まあまあ。お金と赤ちゃんのオシメは幾らあっても困らないと言いますし……」田豊が袁紹と文醜の間に入る。

文醜

「そうそう」

袁紹

「それもそうね。確かにお金がありすぎて、困るって事はありませんわね」

文醜

「それじゃあ♪」

袁紹

「ええ。明日の朝迄に準備して、宝探しに出発よ!」という訳で、新生3バカトリオは宝探しに出掛ける事になった。

 

 その翌日、曹操は夏候惇、夏侯淵姉妹、橙馬一と山岳を進んでいた。曹操達3人は馬に乗っているが、乗馬の覚えがない一だけは魔法の絨毯みたいに、宙に浮く座蒲団に胡座をかいて移動している。

夏候惇

「しかし良かったのですか?こんな時に私達だけで温泉で慰安旅行など……」

曹操

「春蘭。仕事熱心なのも良いけど、たまには息抜きも必要よ」

夏侯淵

「そうだぞ姉者。しっかり働いて、しっかり遊ぶ。兵の運用と同じで、何事も緩急をつけるのが大事なのだ」

曹操

「そういう事」妹に助言されると夏候惇も納得したようだ。

「しかし温泉ですか……」

夏侯淵

「どうした橙馬、何か不服な事でもあるのか?」

「いえ。今頃荀彧が歯噛みして悔しがっていると思うと、口許が緩んできそうで……」クックッと忍び笑いをする一に曹操は呆れ顔でため息を吐き、夏侯淵は苦笑いを見せる。

夏候惇

「全く。華琳様を不快な気にさせおって……お前ら、少しは仲良くしようと思わんのか?」夏候惇が苛立ち気味に一へ苦言を呈する。

「それはあの女に言って下さい。僕だって毎日毎回、理不尽な怒りをぶつけられて平気でいられるほど温厚じゃありませんから……」実際、一は顔を合わせる度に『全身精液男』だの『欲情しかしないケダモノ』だのと、罵られつづけている。しかし一は無性愛(アセクシャル)という、性欲も恋愛感情も持てないマイノリティーを抱えている。よって荀彧の発言や罵倒は完全な濡れ衣である。尤も、証明する手立ても必要性もない上、この世界にはその概念もない為、曹操達にはカミングアウトしていないのだが。(勿論一刀達未来チームは知っている)

夏侯淵

「……それで上手く立ち回って仕事を全部、あいつに押し付けてきたのか……」

「流石に軍の首脳部全員が1度に休暇を取る訳にはいかないでしょう?客将の僕じゃ何かと問題ですし、念の為に誰かが残りませんと」

曹操

「それもそうね(桂花、拗ねてないと良いけど……)」その頃、一の計略に騙された荀彧は日頃の恨みとばかりに回された書類の山と対面していた。

荀彧

『いやあ、温泉は良いなぁ』

荀彧

『そうね。気持ちがゆったりするわね』

荀彧

『本当に来て良かったですね』

荀彧

『桂花、一人でそんなトコにいないで貴女もこっちへいらっしゃい♪』

荀彧

『はい!ただちに❤』しばしの間、曹操と夏侯姉妹と自らに似せた指人形で遊びながら現実逃避していた荀彧だったが、次第に空しくなり人形を机に置く。そして

荀彧

「何でよ!何であの男が華琳様に同行して私は一人で留守番しなくちゃならない訳?橙馬ぁ~!こぉんの恨みぃ、いつか晴らさでおくべきかぁーっ‼」一に呪いの言葉を叫んでいた。が、それも切ないのか、ハァッとため息を吐くと

荀彧

「……仕事しよ」目の前にある書類の山に手を付けるのであった。

 

 我らが一行は山の中を進んでいた。鈴々はさっきから鼻をムズムズさせている。

鈴々

「……クンクン」

朱里

「ん?どうしたんですか、鈴々ちゃん?」

鈴々

「何か……臭い匂いがするのだ」

尚香

「シャ、シャオじゃないわよ!」ナゼか尻の穴を押さえながら、尚香は真っ赤な顔で否定する。

尚香

「そ、そりゃオヤツに食べたお芋で、ちょっとお腹張ってるなぁとは思ってたけどぉ……絶対シャオじゃないからね!」

鈴々

「それじゃあ……」鈴々は愛紗の方に顔を向ける。

愛紗

「わ、私でもないぞ!断じて違うからな!」慌てまくる愛紗だったが、朱里や一刀はクスクス笑っている。

朱里

「皆さん違いますよ。これは硫黄の匂いです」

鈴々

「硫黄?」

愛紗

「それじゃ、もしかして……」

一刀

「流石に孔明ちゃんは気づいていたか」

朱里

「はい!きっと近くに温泉があるんですよ」と、いう訳で温泉に向かう事になった一行だったが、

「(何だかヤな予感するわね)幸太、温泉街の方へ聞き耳を立てて」勘の良い忍は蝶に変身して先回りする。その間、目的地周辺の音を聞き取る幸太。

幸太

「んー……水の音がしないし、人も多くはないっすね。寂れてんのかな?」

理人

「またトラブルか?一応覚悟しておくか」

 

 温泉街に着いた鈴々と尚香は早速湯の中へ飛び込もうとする。

鈴々

「一番乗りなのだーっ!」

尚香

「ちょっと、抜け駆けなんてズルいわよ!」

鈴々

「何言ってるのだ?抜け駆けは戦場の花なのだ!」

尚香

「ってここ、温泉でしょ!?」

 だが……

ドッシャーン‼

鈴々・尚香

「痛ッタァ~イ‼(のだぁっ)」水飛沫ではなく、何か固い物が落ちるような鈍い音がした。

愛紗

「おい、どうした!?」2人の絶叫と、奇妙な音を聞き付けた愛紗と朱里がやはりタオル1枚の姿で駆け寄ってきた。

鈴々

「お湯が入ってないのだ……」

尚香

「どうなってるのよ!?」何と温泉の中は空っぽだった。

愛紗

「……これでは湯に入れんな」

朱里

「風邪引いちゃいます……」その時壁を隔てた、隣の男湯から一刀が愛紗達に叫ぶ。

一刀

「スゴい音がしたけど、大丈夫?」

鈴々

「痛かったけど平気なのだ!」

愛紗

「こっちは湯がないのだが、そっちはどうなっている?」

理人

「こっちもだ。理由は分かんねえが、干上がっちまってる」

「……やっぱりね。こんな事だろうと思ってたわ」人間に戻った忍は、空の温泉を見つめ嘆息する。

幸太

「温泉街に温泉がないんじゃ、確かに人はいなくなるっすね」

??

「街全体の過疎化ですか……由々しい問題ですねえ」彼らにとって、特に幸太と理人には懐かしくすらある声がした。

一刀・忍・理人・幸太

「一っ(さんっ)!?」未来チームの5人が空っぽの温泉で久し振りに一同に介す。尚、最初っからここを訝しげに思っていたので全員服を着たままである。一方の女湯では……

??

「……アラ?」

愛紗

「お主は……」そこに曹操と夏候姉妹がタオルを身体に巻いて、出入り口の扉を開けて入ってきた。

愛紗

「どうしてこんな所に?」

曹操

「どうしてって……温泉に入りにきたに決まっているじゃない」

愛紗

「あ、ああそうか……」

「曹操さん、とりあえず上がりましょう。お湯もないのに、ここに居る必要はありませんよ」男湯から一が曹操に提案する。

曹操

「仕方ないわね。関羽、そこの茶店で話しましょう」女性陣は脱衣所に戻って着替え始める。

「あちしらもこっから出て、愛紗ちゃん達に合流しましょ」

一刀

「ああ、そうしよう」と、出入り口に向かう2人。

理人

「ちょっと待て。貴様ら……女子脱衣所を覗きに行こうとしてねえか?」理人の声が刺さる。

一刀・忍

「(ドキッ!)」

「理人ってば、炎を操る割に言葉は冷たいですねえ……」実は未来チームの中でも、理人と流華は堅物で知られている。女性の着替えを覗くつもりなど毛頭ないし、その行為を許しもしない。

理人

「その性根、俺の火で消毒してやる!」哀れ、一刀と忍はしばし灼熱地獄の苦しみから必死に逃げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




アニメとの違い
・ちょこちょこメタネタがある。
・袁紹の側近は変わらず文醜と顔良→顔良は賢と駆け落ちした為、田豊が新しい側近に。
・曹操と温泉に出掛けるのは荀彧と夏候惇で夏侯淵は留守番→作者が荀彧をイジメたかったので夏侯姉妹と一が曹操のお供をして荀彧が留守番。
・曹操は出会い頭に愛紗へセクハラ発言→ここはカット。一に声を掛けられる。


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第三十席袁紹、謎の集団に捕まるのこと

後半、大分オリ展開が広がってしまった!う~ん……どうやって本家の流れに戻そうか。


 それから温泉街の中にある茶店へ集合した曹操一派と我らが一行。

尚香

「もう、何よ!温泉にお湯がないなんてどういう事!?」尚香はさっきから膨れっ面で文句を言っている。

愛紗

「しょうがないだろ。地元の人の話では半月ほど前に起きた地震で、殆どお湯が沸き出さなくなったと言うんだから」

尚香

「おかげでお尻に痣が出来ちゃったわ!」

鈴々

「鈴々のお尻も真っ赤なのだ!」

夏候惇

「それにしても、これではせっかくの慰安旅行が台無しです」

曹操

「そうね。久し振りに温泉に入って疲れを癒そうかと思っていたのに、残念だわ」

鈴々

「鈴々も大きっなお風呂に入りたかったのだ」各自がぶつくさ愚痴っていると、朱里がこんな事を言い出した。

朱里

「あの、だったら皆さん、新しい温泉を探してみてはどうでしょう?」

愛紗

「新しい温泉を探す?」

尚香

「それってつまり、他に温泉が湧き出る場所を探して掘るって事?」

朱里

「はい。勿論、必ず見つかるとは限りませんが、やってみる価値はあると思います」

曹操

「燈馬、あなたはどう思う?」この男の能力をもってすれば、温泉を探すなど朝飯前だろうと践んで一に尋ねてみる曹操。

「可能性は充分にあるでしょう。それにしても……ププッ」

一刀

「……」

「……」さっきまで理人の炎に追い回されて、ド○フのコントみたいにチリチリ頭で顔中煤まみれになった一刀と忍を見て、一は笑いを堪えている。尚、ギャグシーンなので一瞬後には、2人共元に戻っていた。

鈴々

「よーし!それじゃ早速、温泉を探しに出発なのだ!」鈴々が椅子から立ち上がると、尚香が口を挟んできた。

尚香

「ちょっと待ったー!」

幸太

「何だよ、ウッセーな……」テーピングで塞いだ耳へ更に手を当て、尚香を睨む幸太。

尚香

「せっかく探すなら、シャオ達とあんた達、どっちが先に温泉を堀り当てるか、競争しない?」

尚香以外全員

「競争?」

曹操

「ふむ。面白そうね」

尚香

「言っとくけどこれは只のお遊びじゃないわよ。もしこの勝負でシャオ達が勝ったら、あんた達はこのシャオ様の家来になってもらうわ」

夏候惇

「!……貴様ぁ!」

曹操

「春蘭!」尚香の物言いに腹を立てた夏候惇が椅子から立ち上がる。が、曹操がそれを制する。

曹操

「……孫尚香とやら、もし負けたら言う通り家来になってあげるわ」

夏候惇・夏侯淵

「「華琳様っ!?」」

「曹操さん?」

曹操

「……だがもし、私達が勝てば、関羽と藤崎は私のモノになってもらう。良いわね?」

愛紗

「えぇっ?」

尚香

「分かったわ」

「……へっ?」

愛紗

「……って!何を勝手に!」

理人

「ったく!クソガキが」

「あのぉ~……」

一刀

「何だよ?一」

「それだったら、僕は男達だけで組みたいんですが、構いませんか?」曹操と友人達へ交互に顔を向けながら提案する一。

一刀

「何で?……まあ構わんが」

理人

「俺ぁ、別にいいけどよ」

「それならあちしも異存はないわ」

幸太

「俺もっス」

曹操

「……三つ巴の競争って事ね。あなた達が勝ったら、どうしたいの?」

「もし僕らが勝ったら荀彧を許昌から追い出して下さい。それがムリなら、僕は貴女の下を離れて一刀達と行動を共にします」

一刀

(荀彧って、確か以前一を処刑するよう、曹操に進言した娘だよな)

(そうそう。それが裏目に出て、却って自分が酷い目に遭ったのよね)

幸太

(……けど、一さんがここまで露骨に誰かを嫌うのって珍しいっすね)

理人

(あの冷血漢な一がなぁ……)普段良くも悪くも、人一倍他人には興味すら持たず、感情も見せない一だけに、友人達も意外に思ったようだ。

尚香

「……?え?まあシャオは良いけど」

曹操

「……その条件、呑むわ。よし!そうと分かれば出陣よ」

夏候惇・夏侯淵

「はい!」曹操が号令をかけると、一緒に席を立って駆け出す夏候姉妹。

愛紗

「え?あの、イヤ、ちょっと……えっ、えっ、ええええええぇー!?」引き止めようにも、取りつく島もない愛紗だった。

 

夏候惇

「華琳様、あんな約束をして良かったのですか?」ツルハシを担いだ夏候惇の問いに

曹操

「虎穴に入らずんば虎児を得ず、よ。関羽ほどの豪の者や藤崎のような能力者を手に入れるには、多少の危険はやむを得ないわ」

夏候惇

「ですが、いくら何でも負けたらあんな得体の知れない者の家臣になるなどと……」

曹操

「私達が勝てば良いだけの話よ。それならあの二人を手に入れて、燈馬も失わずに済むじゃない?」

夏候惇

「それはそうですが……」

曹操

「どうしたの春蘭?そんなに勝つ自身がない?」

夏候惇

「そういう訳では……」

曹操

「それとも……もしかしてヤキモチ?」

夏候惇

「……!な、何をっ!」

曹操

「心配しなくてもいいわ。例え関羽達が配下になっても、貴女の事はこれまで通り、可愛がってあげるから❤」曹操がそこまで言うと、ソッポを向いて足早に前に出る夏候惇。

曹操

「私の寝台が広いのは、貴女も知っているでしょ?」尚もからかってくる曹操に頬を染めながら、夏候惇は話を変えようと一番前を歩く妹に振る。

夏候惇

「ところで秋蘭。もう大分歩いているが本当に、それで温泉が見つかるのか?」

夏侯淵

「……桂花がいうには、疑似科学を集めた推移で温泉はおろか、地中に埋まっている土管も見つけられるそうなんだが……私にはよく分からん」夏侯淵はダウジングに使うL字型のロッドを両手に、意気消沈した顔を見せた。

 

 未来チームの男子5名は、既に温泉ある場所を、おおよそではあるが見当をつけていた。

「ええ。これなら惑星規模での探索だって出来ますよ」

一刀

「まさか、一が人工衛星まで造っていたとはなぁ……」

理人

「しかし……こうして見ると、ここがヤッパ地球じゃないって事が分かるな」人工衛星から送られた映像で、外から見たこの世界の大陸は地球の世界地図とは、まるで違っていた。まず日本列島が存在せず、ヨーロッパと思わしき大陸も彼らが知る姿では大きく異なっている。

幸太

「じゃここは地球から遠く離れた惑星って事っすか?」

「若しくは宇宙とかを超越した別次元の世界ですね。それにしては三国志っぽい現状や、僕達の世界にも居た魔獣の存在とか似かよった部分が気にはなりますね」

「それは後でじっくり考えましょ。今は真っ先に温泉を見つけないと」

一刀

「そうだね。愛紗を曹操に渡すなんて、とんでもない」

「ちょっと、あちしはどうでもいい訳?」

一刀

「忍……『お前を渡したくない』って俺に言われてどう思う?」

「キモっ!」

 

 一刀達がバカな掛け合いをしている頃、袁紹、文醜、田豊の3バカトリオは森の中を進んでいた。当然ながら、宝物は見つかっていない。

袁紹

「……真直(まぁち)、さっきから同じところを歩いているような気がするけど、まさか道に迷ったんじゃないでしょうね?」

田豊

「迷ってはいない、と思うんですけど……この地図あちこち虫に食われたりしてて、どうしたら印の場所に行けるのか、イマイチよく分からなくて」

袁紹

「ちょっと!それじゃ宝の在処に行き着けないじゃありませんの!」

田豊

「あっでも、この辺りなのは間違いない……ハズなんですけど……」話している内に自身がなくなって、段々声が小さくなってきた田豊。2人より数歩先を歩いていた文醜がふと何かに気づいて、後ろの袁紹に声をかける。

文醜

「あっ麗羽様、あれあれ」

袁紹

「見つけましたの?」袁紹と田豊は文醜が指し示した先の茂みに首を突っ込む。そこには簡素な家が立ち並ぶ集落があった。

袁紹

「こんな森の奥に人が住んでますのね」

文醜

「ちょうどいい、宝について聞いて見ようぜ」

田豊

「麗羽様、お待ちを。何かイヤな予感がします。まずは様子を……って?二人共、無計画に下りていかないでぇーっ!」田豊が止めるのも聞かずに、ズンズン集落に足を踏み入れる袁紹と文醜。そして、田豊の予感は当たった……

 

 

袁紹

「どうしてこんな目に遭いますの!?」

田豊

「だから言ったのにぃー!(泣)」

文醜

「チキショーッ、下ろせぇ‼」3バカトリオはある集団に捕らえられ、支柱に縄でくくりつけられていた。その集団一見すると人間、というより寧ろ人間以上に端正な顔つきをしている。だが皆、やや上向きに長く尖った耳を持っていて、明らかに人間でないのが分かる。

??

「θΩιαΨβΧγδΥ!」彼らの中から1人、袁紹に向かって何か怒鳴っているが言語が違うらしく、言っている事がサッパリ分からない。

袁紹

「あなた方何のつもりですの?私を( わたくし )名門袁家の当主と知っての狼藉?」

文醜

「イヤ、麗羽様……それ以前にこいつら人間じゃないみたいっすよ」

田豊

「呑気に突っ込み入れている場合じゃないでしょ!?」

??

「&#%※〒∃∂∀」

??

「жеесршэ」

??

「ЮНЗЖ‰♯∪Ф」耳の長い連中はしばらく話し合っていたが意見がまとまったのか、再び袁紹に怒鳴り付けると、足下の薪に火を付けた。理由は不明だが、袁紹達を火炙りにするようだ。

袁紹

「お、お止めなさい!こんな事をして、只で済むと思ってますの!?」

文醜

「ま、待て!話せば分かる!」

田豊

「助けてぇーっ‼」正に3バカトリオの命は風前の灯であった。

 

 その時、ナゼか竜巻が横向きに吹いて、3バカトリオを焼こうとしていた火が消し飛んでいった。直後、風上から耳長人間の言葉で語りかける者がいる。

??

「※∂∃!∈∋∀」

??

「麗羽様!猪々子(いいしぇ)!真直!」袁紹達を真名で呼ぶ、もう1つの声。

 

 さて、この2つの声の持ち主は?果たして3バカトリオの運命は?それは次回の講釈で。

 

 




耳長人間の言葉に使った文字や記号は、全部適当です。何の法則もありゃしません。
アニメとの違い
・一刀と忍のギャグシーン
・曹操は温泉掘り競争に勝ったら愛紗を手に入れるつもり→愛紗と忍の2人を手に入れたい
・ダウジングするのは荀彧→夏侯淵。しかもやり方がよく分かっていない
・袁紹達が森で発見するのは曹操達で、宝を横取りされると思い込む→耳長人間の集落に入り、ナゼか火炙りの刑に。


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第三十一席賢、温泉を掘り起こすのこと

コンパクトにまとめるつもりが、かなり長くなりました……


 あれからようやく温泉の水脈を見つけた愛紗達。鈴々と朱里も一生懸命掘っているにも関わらず、尚香は1人側にある岩に腰かけて欠伸をしている。

尚香

「ねぇ、温泉まだ出ないの?シャオ退屈ぅー」

鈴々

「だったら少しは手伝ったらどうなのだ!」

尚香

「ヤだ!シャオお姫様だから、そんな汗臭い事はしないの」呆れる愛紗達だが、それを気にするでもなく、朱里に問う。

尚香

「そういえば孔明、出掛ける前に村の人達に色々聞いて、地図に何かを書き込んでいたけど、あれって何だったの?」

朱里

「温泉って水脈と地脈の交わる地点に湧く事が多いんですけど。そういう所には、よく怪異が起こると云われているんです……例えば、変な一日中雲にその上にかかっているとか、怪しい光の柱が立ち上るとか。だから村の人達にそういう言い伝えとか体験談を聞いて、その場所に印をつけておいたんです」スコップで地面を掘りながら答える朱里。

尚香

「ふ~ん。じゃ、ここもそういうトコの一つな訳ね」その後も尚香は手伝う様子もなく、温泉を掘り続ける愛紗達を尻目に退屈そうにしていると、草むらに一匹のウサギを見つけた。

尚香

「あっ、ウサギ!」逃げるウサギと追いかけっこを始めた。

尚香

「キャハハッ」

愛紗

「あ、おい!一人で遠くへ行くと危ないぞ!」愛紗の声も届かず、尚香は森の奥深くへ駆け出していく。が、すぐに慌てて戻ってきた。その後ろに熊を引き連れて……もとい、熊に追いかけられている。

尚香

「ヒィ~!と、と、虎!」

愛紗

「……熊だ」青い顔でその背中に隠れた尚香へ、冷静に突っ込む愛紗。

鈴々

「あっ、お前はランラン!」鈴々がそう呼ぶと、足にブレーキをかけて止まる熊。

鈴々

「やっぱりランランなのだ!」熊に近づいて首に抱きつき、

鈴々

「ランラン♪ランラン!♪」懐かしそうに熊にじゃれつく鈴々。

愛紗

「オ、オイ鈴々。ランランって?」

鈴々

「ランランは昔、鈴々が飼っていた熊なのだ!……」ここで鈴々は説明しながらも、しばらく回想する。

鈴々

「子熊の頃からずっと一緒に暮らしてたのだ。でも爺っちゃんが『もう大人になったんだからお山に帰してやれ』と言うから、泣く泣くお別れしたのだ……まさかこんな所で逢えるなんて、感動の再会なのだぁ」嬉しそうに熊へ頬を刷り寄せる鈴々。

愛紗

「イヤ……けど本当にその熊、昔飼っていた熊なのか?」

鈴々

「勿論なのだ!その証拠にランランはこっちの脇の下に毛の房があって……」鈴々は熊の左前足を持ち上げる。その脇には白い毛の房が……なかった。どうやら人違いならぬ、

鈴々

「ないのだ……どうやら熊違いのようなのだ……」顔から血の気が引いていく鈴々。次の瞬間、愛紗達と必死の猛ダッシュで逃げる。その跡を吠えながら追いかける熊。

 

 さて、あれから袁紹達はというと……

文醜

「斗詩!戻ってきてくれたのか!?」

袁紹

「早く縄を解きなさい!今なら私の下を去った事も不問としますわ」

田豊

「こんな時ぐらい、上から目線は止めて下さいよぉ~(泣)」3バカトリオを火の手から助けたのは高坂賢と顔良だった。

「あのバカ、相変わらずだな……(呆)」

顔良

「賢、そう言わずに助けてあげて。何だかんだいっても元主と元同僚だし、猪々子は幼馴染みでもあるし」

「まあ、斗詩がそういうなら……とにかく俺はエルフ……あの連中と交渉してみる」

 

 ところでどうして賢が耳の長い彼ら、エルフの言葉を話せるのか。実は未来チームの世界にもエルフはいて、人間とも友好な関係を結んでいる。そのせいか、聖フランチェスカ学園高等部ではエルフ語のカリキュラムもあり、和製英語ならぬ和製エルフ語も存在する。その為、幸太以外の未来チームメンバーは簡単な日常会話ぐらいのエルフ語は身に付いているのだった。

 

 ここからしばらく賢とエルフ達の会話になるが、諸事情により日本語表記とする。

『単刀直入に聞く。ナゼあの3人を処刑しようと?可能ならば当人達に代わり、命乞いをしたいが』

エルフ代表

『これは一種の神事である』この一帯の代表格の老翁エルフが代表として、賢との交渉に応じて答える。

『神事?あなた達に何か良からぬ事が起きるというのか?』

エルフ代表(以下老翁エルフ)

『我らは何代にも渡り、この地の温泉の水で田畑を耕すなど生活用水として、恩恵を受けていた。ところが、半月ほど前から温泉の湯が全く湧き出さなくなってのう。そこで再び湯が出るよう、その3人を贄として神に祈りを捧げる事にしたのじゃ』

『なるほど……元々湧き出していた場所とか分かれば俺が掘り起そうか?』

老翁エルフ

『そんな事が可能なのか!?イヤ、勿論ありがたい申し出なのだが……』

『任せろ』

 

 老翁エルフの案内で、温泉が湧き出していたという場所にやって来た賢と顔良。1人に対し、若いエルフ数人の監視付きを条件に、3バカトリオも処刑台から下ろされて同行していた。

老翁エルフ

『もし温泉が戻らなければ、儂らは再び儀式を実行する。生け贄に逃げられては敵わんからの』

『当然だな』生け贄を神に捧げたところで温泉が復活するとは思えないが、そもそも賢に3バカトリオを助ける義理はない。顔良に頼まれなければ、とっくに見殺しにしている。なので賢も了承する。

 

『あれが源泉の湧いていた場所か』案内されたのは、かなりの大きさの岩がごろご転がっていた河川敷だった。

老翁エルフ

『うむ。儂らも最初はあれを掘り起こそうと躍起になっていたのだが……いかんせん、岩が固くて重くての。手の付けようがないのじゃ』そこまで聞くと賢は両腕をドリルに変化させて、地下に向かって岩を削り始めた。ドリルが岩を削る音がエルフの集落一帯に響き渡る。

袁紹

「斗詩、あの男はさっきから耳の長い奴らと何を話してますの?」自分の命がかかっているにも関わらず、呑気な袁紹。

文醜

「麗羽様、ひょっとしてあの下にお宝が眠っているんじゃ……」

袁紹

「そう。それをわたくし達に献上しようといいますのね………まあ!何とも殊勝な心がけですこと」

田豊

「もう……そんな訳ありますかぁ!二人共お気楽過ぎますよ~」オーホッホと高笑いを上げる袁紹と残りのバカ2人にエルフ達の得物が一斉に刃を向ける。

3バカトリオ

「「「ヒィィィーッ!」」」

田豊

「ホラァ!言わんこっちゃない!斗詩ぃ、助けて~(泣)」

顔良

「え?えぇ~と、(焦)『рΣικκΩαΨγ。∂∇?』」顔良が覚えたてのエルフ語で(この人達に敵意はありません。許して下さいますか?)と、宥めると彼らも得物を納める。

田豊

「言葉分かるの?」

顔良

「賢に教えてもらって少しはね。でもこの人達の言葉ってスッゴく複雑で、発音が難しいのよ。通じて良かったぁ」ホッと胸を撫で下ろす顔良。

 

 そこから10㎞ほど離れた場所を未来チームが進んでいる。

幸太

「みんな、重機の音がしませんか?」幸太には当然聞こえる。仲間達も耳を澄ませてみると、確かに金属音がする。しかしこの世界に重機があるハズがない。

「かなりの大音量ね。これじゃ幸太でなくても聞こえるわ」

理人

「この音……重機じゃねえなら……まさか、賢か?」

「ちょっと待って下さい。音のする方向と衛星から送られた温泉の水脈を照らし合わせますね」一はタブレットを操作して衛星から送られた映像を受信する。

「あっ、一致しています!」

一刀

「行ってみよう!」一刀は『加速』を使い、一は空飛ぶ座蒲団で、忍は鳥に化け、理人は幸太を抱えて、足からのジェット噴射でその場所へ向かった。

 

 固い岩をどうにか3割ほど削って汗だくになった賢は、河川敷に座り込んで小休止していた。そこにやって来た一刀達。この世界に来てから今日までに登場した未来チーム6人が勢揃いした。

「お前らどうしたんだ!?揃いも揃って」

「こっちのセリフよ!」

一刀

「あっ、顔良。それに袁紹達……何でこの地にエルフが?」

老翁エルフ

『この連中は一体?』一が老翁エルフの前に立って問いに答える。

『ご心配なく。この男の仲間です』賢と同様にエルフ語で話す。言葉が通じているので一刀、忍、理人も老翁エルフから詳しい話を聞く。

 

 それから約1時間半、賢のドリルが完全に岩を貫通して温泉が復活した。地面から噴き上がる温泉から小さな虹が浮かぶ。居合わせた誰もが、3バカトリオですら、その光景に見惚れていた。

『爺さん、約束は果たした。あの3人の処刑は取り止めにしてくれるな?』

老翁エルフ

『そうじゃのう。確かにもう生け贄は必要ないしのう』老翁エルフは温泉が復活した事を知らせよと、若いエルフ達を集落まで走らせる。

袁紹

「まあ、よくやったと褒めておきますわ」命の恩人とも言うべき賢に対し、全く感謝の気持ちがこもってない言葉を放つ袁紹。

幸太

(……袁紹だけは処刑されても良かったんじゃないっすか?)

(俺もそう思うが……)

一刀

(思うが、何だ?)

(イヤ、惚れたモン負けっつーか……好きな娘に助けてほしいって頼まれりゃ、断れねえだろ?)

理人

(お前、いつの間にあんな可愛い娘と……)

(へえ。惚れっぽいアンタにしちゃ、一途なのね♪)

(う、煩えな!)恥ずかしがる賢を囲み、ニヨニヨ薄笑いを浮かべつつ、からかう一刀、忍、理人。幸太だけは袁紹にカチンときていたが……そんな中、恋愛事情には殊更興味のない一は、老翁エルフと温泉の使用権限等を話し合っていた。そこに愛紗、鈴々、朱里、尚香が血相を変えて飛び込んできた。

愛紗

「ハァハァ……全く、何が感動の再会だ!」

鈴々

「よく似ていたからてっきり……」

尚香

「てっきりじゃないわよ、てっきりじゃ!」

愛紗

「しかし闇雲に走ってきたから、場所が分からなくなってしまったな……」

一刀

「あれ?愛紗達じゃないか」

「こんな所で何してんのよ?」

愛紗

「一刀に忍。お主達こそ」

理人

「温泉なら見つかったぜ」

愛紗

「本当か?」

鈴々

「これで愛紗を曹操に取られずに済んで良かったのだ!」

 

袁紹

「いいですこと?この温泉はわ・た・く・し・が、見つけたのですから、ちゃんと感謝して入って下さいましね」温泉には袁紹達3バカトリオと曹操一派、我らが一行が入っている。混浴?と、期待した読者には申し訳ないが全員一が温泉宿から借りてきた、透けない素材で作られた湯浴(ゆあ)み着を身に付けている。一が温泉が戻った事を街に知らせに行って、そのついでに借りてきたのだが……その間に袁紹が言葉巧みに手柄を奪っていた。

「荀彧を追い出して路頭に迷わせる僕の計画が……(沈)」

曹操

「ふんっ、見つけたっていってもどうせ偶然でしょ?」落ち込む一と憎々しげに呟く曹操。

袁紹

「アーラ?そこの貧乳小娘が何か言ったみたいですけど……真直、聞こえまして?」

田豊

「ええ。何か僻みっぽい事を言っていたようですが、胸が小さいと心も狭くなるんですかね?」袁紹と田豊は豊満な胸を張り、自慢気に曹操を眺める。尤も、曹操も別に貧乳ではないのだが。この一言を切っ掛けに3バカトリオと曹操&夏候姉妹が激しい言い争いが始まる。尚香も加わり、更に収拾のつかない状態になる。

愛紗

「み、見るんじゃないぞ。これは子供の見るモノではないからな」と、両手で、鈴々と朱里の目を塞ぐ。あまりの下らなさにため息を吐く男達。

??

「そこまでだ!」高い位置にある岩から誰かが叫ぶ。全員で顔を上げて見てみると……

??

「乱世を正す為に、力を合わせなければならぬハズの者達が、些細な事でいがみ合うとは嘆かわしい!」それは以前、どこかで見た仮面だった。

袁紹

「そういう貴女は何ですの!?」

華蝶仮面

「私か?私はその名も……」

鈴々

「変態仮面なのだ!」

華蝶仮面

「変態仮面ではない!華蝶仮面だ!」

愛紗

「イヤ、だが、その格好はどうみても変態仮面にしか見えぬが……」全裸で手拭いを肩にかけただけの今の華蝶仮面は、確かに変態呼ばわりされても文句の言えない姿だった。本人もそれに気づいたらしく、

華蝶仮面

「……諸君、サラバだ!」バツが悪そうにその場を去っていった。残された全員、温泉の中でズッコケる。

鈴々

「何しに来たのだ?あいつ~」

 

袁紹

「ハァ~、何だか水を差されましたわ……」

「温泉だけに、ですね」

一刀・忍・賢・理人・幸太

「……」

「みんなしてスルーですか……?」

愛紗

「折角の温泉なのに争っていてはつまらぬ。ゆっくり湯に浸かったらどうだ?」

曹操

「それもそうね♪」

全員

「「「あ~、極楽極楽♪」」」

 

 ところで、当人達もスッカリ忘れているようだが、本来3バカトリオが探していた宝物。実は愛紗達を散々追いかけ回した熊が塒にしている洞穴に隠されていた。当然その価値が分かる訳もなく、敷物代わりにその上で踞って眠る熊であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アニメとの違い
・全員で温泉に入るところと、愛紗達が熊に追いかけられるトコ以外はオリエピ。
・アニメでは湯浴み着はなし。

不定期公開、あとがき劇場(第2回)


「袁紹が温泉見つけたって事で良いのかしら?」
一刀
「まあ、あの場所に最初にいたのは確かだし……」
愛紗
「では全陣営、現状維持だな」
幸太
「あーっ!!」
朱里
「どうしたの!?」
幸太
「せっかくの温泉なのに、温泉卵作るの忘れてた……(泣)」
一刀・忍・理人
「「「下らない事で騒ぐな!(んじゃないわよ!)」」」


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第三十二席孫尚香、叱られるのこと

や、やっと更新出来た……
(/。\)


 さて、今回は我らが一行の事はしばらく放っておいて、話は江東から始まる。

 

 玉座の間へと慌てて駆け出す1人の女がいた。年齢の頃は15,6才の美少女で名を孫権、真名を蓮華(れんふぁ)という。

 彼女が慌てている理由。それは先日戦にでた江東の王、姉の孫策が怪我をして帰ってきたと報せを受けたからだ。

孫権

「姉様!」玉座の間の扉を開けると、そこには孫策が何食わぬ顔で鎮座している。その脇には呉の筆頭軍師にして孫策の親友、周瑜。反対側には先代王の弟で孫策達の叔父、孫羌と( そんきょう )末妹の叔母、孫静(そんせい)が立っていた。

 姉が無事なのを確認した孫権は自分の慌てぶりが恥ずかしくなりながらも、帰還した姉に一礼する。

孫権

「ご無事の帰還、何よりにございます」

孫策

「蓮華、今更そう畏まる事はないわ」

孫権

「申しわけありません。姉様が戦場で怪我をされたと聞いて、慌ててしまって……」

孫策

「怪我といっても掠り傷よ」軽く包帯を巻いた手首を孫権に見せる。

孫権

「それなら良いのですが……」

孫策

「どうした蓮華、何か言いたそうだな?」

孫権

「っ……姉様。姉様はどうしてそうまでして、闘いを好まれるのですか!?」ここに叔母の孫静が口を挟んできた。

孫静

「孫権、何を言い出すのです?孫策は此度も孫家の名を高めようとして……!」

孫羌

「まあ落ち着け孫静。お主が興奮してどうする?」兄の孫羌に諌められると、孫静も大人しく引き下がる。話を続ける孫権。

孫権

「確かに闘いを重ねる事で領地は増え、孫家の名も近隣に響くまでなりました。ですがその為に国の礎たる民達は疲弊し、このままでは遠からず……」

孫策

「滅びるか?」見透かしていたかのような孫策に口ごもる孫権。

孫権

「いえ。決してそのような……」玉座の間は厳粛な雰囲気に包まれる。そこへ場違いな、ノホホンとした声と共に、周瑜の部下にして一番弟子の陸遜がやってきた。

陸遜

「皆さーん、お待たせしました!宴会の準備ができたんですけど……?」

 

 ほどなくして宴会が始まった。酒と料理と余興で場が盛り上がる中、周瑜は1人喧騒を離れるとベランダに出て月を眺めていた。そこに孫策が来て、隣に立つ。

孫策

「なんだ。こんなところにいたのね」

周瑜

「孫策様……」

孫策

「冥琳、二人きりの時は真名で呼び合う約束でしょ?」

周瑜

「そうでしたね。雪蓮(しぇれん)様」

孫策

「で?何を浮かない顔をしていたの。孫呉を支える大軍師、周瑜ともあろう者が何に頭を悩ませていたのかしら?」

周瑜

「孫権様の事を少し、考えてまして……」

孫策

「蓮華の事?」

周瑜

「孫権様は余りに目の前の事しか見ておられない。確かにここ数年、戦続きで民達は疲弊しています。だからといってここで立ち止まっていれば、江東に覇を唱える事は出来てもそれで終わってしまう……到底、天下へ手は届かない。どれだけ苦しくても今は明日の為に闘わなければならない。それを孫権様は……」

孫策

「確かにそうね。けど、それがあの娘の良いところでもあるわ」

周瑜

「っ?」月を眺めながら孫策は意外な言葉を口にした。ハッとして月から孫策に視線を移す周瑜だが、構わず話を続ける孫策。

孫策

「江東の虎と言われた亡き母様、先代の孫堅の遺志を継いで、私が血塗れになって奪い取ったモノをあの娘なら受け継いで、守り育ててくれる。そんな気がするの……」ここまで聞いた周瑜は孫策に向き直ると、眉を潜め声を荒げる。だがその目は悲しさを携えていた。

周瑜

「何を不吉なっ!?」対してそんな周瑜をキョトンと見つめる孫策。

孫策

「え?不吉?」

周瑜

「そうです!それではまるで、雪蓮様が志し半ばで倒れてしまうようではないですか!」

孫策

「フフッ、大丈夫よ冥琳。いくら何でも考え過ぎよ」

周瑜

「ですが雪蓮様……」

孫策

「全く……頭が良すぎるのも考えものね」

周瑜

「雪蓮様……」若干照れる周瑜。孫策は真顔になると月に手を伸ばし、拳をギュッと握って周瑜に宣言する。

孫策

「心配しなくても良いわ。私は必ず天下をこの手に掴んでみせる、蓮華に渡すのはその後よ。冥琳、志しを遂げるその時まで私と歩んでくれるわよね?」

周瑜

「……はい!」

 

 翌日の晩、呉の重臣達が孫羌を囲むように会議室に集まっていた。

重臣A

「えーい、戦、戦、戦!これで今年何度目だ!?」

重臣B

「全くだ!これでは民が田を耕す暇もないぞ!」

重臣C

「孫羌様!貴方は先代王、孫堅様の弟君。( おとうとぎみ )何とかお諌めする事は出来ませぬか?」

孫羌

「何度も言っておる。しかし孫策も今では周瑜の事ばかり重く用いており、儂の諫言など耳にも入らぬ様子でな……」

重臣A

「周瑜か……!あの嘴の黄色い女鷹め!」

重臣B

「我ら譜代の重臣を差し置いて、政を( まつりごと )左右するとはおこがましい!」

重臣C

「孫羌様、かくなるうえは一刻も早くあの計画を……」

孫羌

「うむ。既に手筈は整っておる」

重臣A

「おお、それでは遂に!」

重臣B

「戦狂いの孫策を倒し、孫羌様。貴方が舵取りをなされば、必ずや我らが再び表舞台に立つ時がくる!」

重臣C

「事が成った後の周瑜の泣きっ面が見ものですな」早くも虎の首を取ったとばかりに笑い声を上げる重臣達の中心で、孫羌も静かに口角を緩めた。

 

 我らが一行は小高い丘の上から長江を見下ろしていた。ここまでくれば、尚香の故郷である江東は目と鼻の先である。

鈴々

「うわーっ、これが長江か。でっかいのだぁ!」

尚香

「どう驚いた?スゴいでしょ」

鈴々

「別にお前が威張る事じゃないのだ」自慢気な尚香にジト目を向ける鈴々。

一刀

「まあ地元民が外部の人間に自慢したくなるって気持ちは分かるよ」

理人

「確かに絶景だな……」

「……こういうのを目の当たりにするとため息が出ちゃうわね」

幸太

「景色なんて見ても腹は膨れない……」男4人がそれぞれの思いを口にする傍らで尚香は背筋を伸ばし、体を解す。

尚香

「うーん、この景色を見ると帰ってきたなーって気になるわね」

愛紗

「帰ってきたなー、はいいが、大丈夫なのか尚香?」

尚香

「何が?」

愛紗

「お主、家出してきたのであろう?旅に飽きて戻る気になったのは結構だが、家族から大目玉を食らうんじゃないか?」

尚香

「何言ってるの。このシャオ様はね、孫家で一番愛されている姫なのよー。帰ってきたのを泣いて喜ばれる事はあっても、怒られる事なんて絶対にないわ」

幸太

「イヤ、愛されているなら、寧ろ怒られんじゃね?」父の隼人は日頃虐待にも等しい訓練を強いていながら、人間らしい感情は息子に一切見せなかった。それを知っている一刀達も、普段のバカトークも交わさず、茶化たりもしない。

一刀

「……確かにな」

「真の愛情ってそういうモノよね」

尚香

「何よ。知った風な言い方して」突っかかる尚香。だが幸太は知った()どころか、実体験から本当に知っている。そして彼の予感は的中する。

 

孫静

「全く!貴女は何を考えているのですか!孫家の姫ともあろう者が供も連れずにいなくなるとは!皆がどれだけ心配したと……」玉座の間にて、尚香は叔母の孫静から大目玉を食らっていた。

尚香

「あの、孫静叔母様……それについてはシャオにも言い分が……」

孫静

「そんなモノはありません!大体貴女は、いつもいつも勝手な行動ばかり……」尚香の言葉にも耳を貸さず、捲し立てる孫静。我らが一行は端に集まり、ヒソヒソ話を始めた。

鈴々

「みんなお臍出しているのだ」

一刀

「みんなじゃない。けど臍出し率は高い」

愛紗

「うむ。おそらくはこの家の家風か何かなんだろう」

朱里

「別に尚香さんが、残念な娘って訳じゃなかったんですね」尚香を迎えた玉座の孫策、その左隣には周瑜、右隣には孫権。左端には孫静が、右端には孫羌と先代から孫家に仕える黄蓋がいる。その内孫権と孫静、周瑜は腹部に切れ目の入った臍丸だしの装いだった。

孫羌

「まあまあ孫静よ。そのぐらいにしてやりなさい」

孫静

「ですが兄上……!」

孫策

「それ以上叱りつけると、また家出しかねませんぞ」孫羌と孫策に説得されて、孫静もようやく矛を納める。孫策は愛紗と一刀の方を向くと礼の言葉を述べる。

孫策

「関羽と北郷とやら。妹が随分迷惑をかけたようね」

鈴々

「大迷惑なのだ!」

愛紗

「こ、こら鈴々!」

孫策

「でしょうね。同情するわ」

尚香

「雪蓮姉様、ひっどーい!」無遠慮な鈴々と、嗜める愛紗に孫策は苦笑いで返す。尚香はそれに抗議して、玉座の間に一頻り笑いが起こる。そんな中、黄蓋が何やら感慨深げに幸太を見つめていた。その理由は後ほど明らかになる。

孫策

「それと……藤崎と言ったわね、尚香が使わせた分のお金は勿論弁償するわ」

「ええ。そうして頂ければ幸いよ」

孫策

「関羽、張飛、孔明、北郷、藤崎、伍代、野原。江東の孫家はあなた達を歓迎するわ。ゆっくりしていってちょうだい」という訳で、しばらく孫策の城に逗留する事になった我らが一行。さてこの間に何が起こるか?それは次回の講釈で。

 

 




史実での兄弟順は孫羌→孫堅→孫静ですが本作では孫堅を長子にしています。
オリキャラ⑫
・孫羌
江東の先代王、孫堅の弟(史実では兄)で孫策の摂政的な存在。三兄弟でただ1人の男性。
アニメとの違い
・重臣達の会議の中心になるのは最古株の張昭→孫羌
・宴会のシーンはカット
・孫策の玉座を囲むのは周瑜、孫静、孫権の3名→孫羌と、アニメでは3期から登場する黄蓋も一緒。
次回は何か事件が起こる?


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第三十三席孫策、暗殺される?のこと

本家とオリパートのバランスが難しい……


 一夜明けたこの日、孫策はテラスで本を読んでいた。そこへ周瑜がきた。

周瑜

「まだ眠そうね」

孫策

「昨夜は少し呑み過ぎたから」

周瑜

「関羽殿や北郷殿達と話が弾んでいたそうですが」

孫策

「ええ。異世界とやらの話、中々興味深かったわ。それに関羽はかなり腕も立ちそうだし、あのまま野に置いておくには惜しいわ。それにあの張飛って娘も……フフッ、あれ以上大きくならなければ庭で飼いたいくらい」孫策は犬になった鈴々を妄想していた。

 

 《ワンワン、なのだ!》

 

周瑜

「フフお戯れを……」

孫策

「で、その客人達はもう起きているの?」

周瑜

「はい。既に朝食を済まされ、関羽殿と張飛殿、北郷殿、伍代殿は尚香様と山の狩り場へと」

孫策

「誰かつけてあるの?」

周瑜

「案内役として甘寧を」

孫策

「そう。なら良いわ」

周瑜

「孔明殿と藤崎殿は書庫が見たいと申しましたので陸遜が案内をしています」

 

~場面転換~

 

 ちょうどその頃、陸遜に連れられて書庫に入っていた朱里と忍。

朱里

「うわぁ!こんなに沢山の書物、初めて見ましたぁ」

陸遜

「はい。政に軍略を始め、農耕、天文、史書、暦とあらゆる書物がここに集められているんです」

「物理や数学、言語学に関する書物はないかしら?」

陸遜

「……その辺は、生憎と」

朱里

「それでもスゴいです!もしかして陸遜さんはここにある書物全てを読まれたのですか?」

陸遜

「ええ。私、書物が大好きなんです❤」

朱里

「私もです♪」

陸遜

「❤書物って良いモノですよね。新しい知識が波のように押し寄せてきて、それが身体の一番深いところに迸る喜びといったら……アッハ~ン❤」話している内に顔を紅潮させて、ドンドンおかしくなる陸遜に唖然となる朱里と忍。

朱里

「……イエ。私はそういうのとは、違うんですけど(汗)」何を隠そう、陸遜は本にハマると性的に興奮するちょっとアレ(・・)な人間であった。

「どんな世界の、どの時代にも異常性愛者っているのね。ハァ……」

 

~場面戻る~

 

孫策

「それと……野原とか言ったわね、あの男の子。今はどうしているの?」

周瑜

「それが……」周瑜が口ごもっていると、孫羌が来て説明役をかって出た。

孫羌

「黄蓋に街へと引っ張られて行きおった。しかし……あんな楽しそうな黄蓋を見るのは何年振りかのう?」

孫策

「……あれから五年。早いわね」5年前、この地で大きな戦があり、そこで黄蓋は夫を……ほどなくして、残された唯1人の息子も流行り病で世を去っていった。

周瑜

「もし黄蓋殿のお子が存命なら、丁度あのぐらいの年齢になってますね」

孫羌

「あの孺子(こぞう)には気の毒だが、せめてここにいる間ぐらい、黄蓋の母親の真似事に付き合ってもらうかの」

 

 そして街には黄蓋に腕をとられながら、あっちこっちに連れ回されている幸太。頼んでもいないのに服や玩具を幾つもプレゼントされて困惑気味の様子である。

幸太

「あ、あのぉ~黄蓋さん?こんなに貰っても使い道とかあんまり無いんすけど……」

黄蓋

「何を言っておる。子供が遠慮なんぞするモノではない。ホレ、次へ行くぞ!」黄蓋はその豊満な胸に幸太を埋めるように抱き抱えるとその状態のまま、次の目的地へ向かった。ある種の男の夢を若干8才で叶えてしまった幸太だが、本人はまだまだ花より団子な上に、実際に窒息死しかけたのだから、踏んだり蹴ったりである。

幸太

(……俺、このところ死にかけてばかりいるような気がする)

 

 一方こちらは山へ狩りにきた愛紗達。

尚香

「しっ!」人差し指を口に当てると、空を舞う山鳥に弓を射る。ナゼかその弓は現代日本で売ってそうな、魔法少女グッズっぽいモノだった。

甘寧

「お見事です尚香様。獲物は私が」

尚香

「頼むわ甘寧」尚香が仕留めた山鳥を拾いに行く為、愛紗達と離れた甘寧。

尚香

「どう?この前会った黄忠ほどじゃないけど、弓にはちょっと自信あるのよね~」ドヤ顔で弓の弦に指を引っ掛け、クルクル回す尚香に鈴々がジト目を向けて言い放つ。

鈴々

「ふん!薄い胸を張って威張っても、ちっともカッコ付かないのだ!」

尚香

「ちょっと!薄い胸とはナニよ!あんたの方がよっぽどツルペタのお子様体型じゃない!」

鈴々

「温泉で見たけど、お前だって鈴々と大して変わらないのだ!」

尚香

「言ったわね!変わるか変わらないか、勝負してやろうじゃない!」

鈴々

「望むところなのだ!」段々ヒートアップしている喧嘩に呆れる愛紗達。

愛紗

「……って何を下らない事を」

鈴々

「下らなくないのだ!」

尚香

「そうよ!おっぱい勝ち組は黙ってて!」

愛紗

「イヤ。勝ち組って……」

尚香

「ねえ、あんた達はどう思う?」突然、一刀と理人に話を振ってきた尚香

一刀

「勝ち負けじゃなく、大きいのは大きいなりの良さ、小さいのは小さいなりの良さがあるんじゃないか?」

理人

「俺が思ってんのは唯1つ……」

鈴々・尚香

「「うんうん……」」理人が言いかけると興味津々で前のめりになり、頷きつつ続きの言葉を待つ2人。しかし……

理人

「ガタガタと五月蝿ぇんだよ手前ぇら!消し炭にしてやる!」理人は額に青筋を浮かべながら、手のひらから炎を発する。いわば炎の《か○はめ○》版いったところか。それを2人へ放つ。

尚香

「ま、マズいわ!」

鈴々

「逃げるのだ!」馬鹿馬鹿しい逃走劇を繰り広げる3人に一刀と愛紗は顔を見合わせ、ため息を吐くと

愛紗

「……山鳥でも探すか」

一刀

「ああ。そうしよう」歩きだした2人が木の隙間から何となく下を覗くと、孫家の城が見えて、そこには孫策と周瑜がいた。

 

 それから一時間もした頃、テラスには孫家の兵が集められ、騒ぎになっていた。兵に何かの指示を出している周瑜の元に孫権が駆け寄ってきた。

孫権

「周瑜!」

周瑜

「孫権様……」

孫権

「姉様が襲われたって本当なの!?」

周瑜

「残念ながら……昼間ここで寛いでいると、屋を射掛けられまして」

孫権

「矢を……!?」

周瑜

「傷は浅いのですが矢じりに毒が塗ってあって、傷口から毒を吸い出して何とか一命はとりとめたのですが、意識は未だ戻られず……」

 

 さて、城内が大変な事になっているのを知るよしもない愛紗、一刀、鈴々、尚香、理人は意気揚々と帰還してきた。鈴々は背中に大きな猪を背負っている。

鈴々

「大猟、大猟。今日のお昼はぼたん鍋にするのだ!」そんな彼らの前に突如、孫呉の兵士達が囲む。その内の1人が愛紗に剣を突き立て、こう宣告した。

孫呉兵隊長

「北郷、関羽、張飛、伍代。お前達の身柄を拘束する!」鈴々以外の3人は手錠をかけられて、謁見の間に連行される。

 

 玉座には孫策は居らず、室内には孫権、孫羌、孫静、周瑜が並んでいて反対側で鈴々と尚香、甘寧、手錠をかけられた愛紗、一刀、理人と向かい合っていた。

朱里

「関羽さん?何があったんですか!?」

「どうなってるのよ?」慌てて入ってきた朱里と忍はここまでの経緯を聞く。

朱里

「関羽さんが孫策さんを暗殺しようとした……?何かの間違いです!関羽さんがそんな事をするなんて絶対に有り得ません!証拠……証拠はあるんですか!?」いつになく激昂する朱里に孫権の答えは

孫権

「証拠はない」

朱里

「それならナゼ!?」

孫権

「確たる証拠はないが、姉様がいたところに矢を射掛けるにはあの山の狩り場が絶好の場所なのだ。そこに素性も知らない旅の冒険者が居たのだ。疑われるのは当たり前であろう」

「どこが当たり前よ!そんな穴だらけの理論、納得出来る訳ないわよ!」

朱里

「そうです!大体狩り場には御家中の方が案内役として、付いていたのでは!?」

孫権

「付いてはいたが、ずっと一緒に居た訳ではないと甘寧は言っている」

甘寧

「孫策様が矢を受けたと思わしき頃、私は尚香様が射掛けた獲物を捕りに関羽殿の側を離れました」

朱里

「それなら尚香さんが近くに……」

尚香

「ちょうどその頃、シャオは張飛と一緒に関羽の側には居なくって……」すまなそうに証言する尚香。朱里の表情は沈む。

「まだ諦めるのは早いわよ孔明ちゃん。用意された矢と獲物の数や、孫策さんに射掛けられた矢の角度とか調べれば、愛紗ちゃんの無実を証明するモノが……」そこに急いでやって来た幸太と黄蓋。

 

 孫羌に耳打ちをして何かを伝える幸太。途端に顔が青褪める孫羌。そして周瑜に手招きしてやはり耳打ちをすると、孫権に向き直り、

孫羌

「孫権!関羽殿達を解き放ちなさい」孫権に指示する。

孫権

「叔父上!?しかし……」

孫羌

「異論は認めん。今すぐ枷を外せ」厳しい顔つきの孫羌に言われ、やむ無く愛紗達の手錠を外す孫権。

周瑜

「孫権様、どうやら些か勇み足だったようですね。孫策様が倒れられて、動揺するのは分かりますが……こんな時だからこそ冷静に物事を判断し、皆を率いるのが上に立つ者の務め。そうではありませんか?」周瑜の説得に孫権も納得した。

孫権

「そうだな周瑜。お主の言う通りだ」果たして幸太は孫羌に何を吹き込んだのか?そして孫策暗殺事件の真犯人は?それは次回の講釈で。

 

 




アニメとの違い
・朱里は甘寧にも孫策暗殺の動機と機会があると弁舌を振るい、怒った甘寧に殺されかけて最後は目を回す→その前に幸太が帰ってきて愛紗達の疑いを晴らす。
・黄蓋の家族についてはオリエピ。
次回、江東編完結の予定です。


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第三十四席幸太、黄蓋の子になるのこと

アニメ1期最終回の資料を確保出来たの出来たので更新します。
アニメでは爺いだった張昭が最新作ではナゼかロリBBAになってました(どちらも本作には登場せず)。
(-_-;)
前話のあとがきを一部変更しました。


 ようやく解放された一刀達3人。

孫権

「……関羽殿、北郷殿、伍代殿。すまなかった」

愛紗

「イエ、分かっていただければ……」事件当時孫家の者と一緒だった為、最初から容疑から外れていた朱里、忍、鈴々もホッと胸を撫で下ろす。

理人

「……しかし、真犯人は誰だ?」すると幸太が

幸太

「後で説明します。今夜、時間良いっすか?」

 

 夜になり、孫権が姉の無事を祈っていると、叔母の孫静が部屋を訪ねてきた。

孫静

「孫権、まだ起きていたのですか?」

孫権

「叔母上……」

孫静

「孫策の容態が気になるのは分かりますが、そんな事では貴女の方が参ってしまいますよ」そこに配下の大喬、小喬が部屋に入ってきた。

大喬

「孫権様!……あっ孫静様」

孫静

「どうしたのです?こんな夜更けに!」

孫権

「まさか……姉様が!?」

小喬

「いいえ、その逆です!孫策様の容態は持ち直しました♪」

孫権

「……っ!」

小喬

「まだ意識が朦朧としてますが、医者が言うには峠を越したと……」

孫権

「良かった……姉様……本当に良かった……」

大喬

「しばらくは絶対安静ですが目を覚ましたら、会って話をしても良いと……」安堵の涙を流しながら泣き崩れる孫権。その脇で孫静はナゼか、苦々しい顔をしていた。

 

 更に夜が深まった頃、我らが一行は幸太を囲むようにして集まっていた。そこには陸遜、甘寧も混じっている。

一刀

「じゃあお前は昨夜、事件のからくりを全部聞いていたんだな?」

幸太

「ええ。孫羌さん達が会議室で話していたのを聞いたというか、聞こえたというか……お家騒動に口を出す訳にもいかないので、黙ってましたが」

甘寧

「聞こえてきた?近くを通ったのか?」怪訝な顔で問う甘寧。

幸太

「イエ、客室で寝てましたけど……」

陸遜

「客室と会議室はかなり離れていますよぉ。聞こえるハズないと思うんですけど~?」

理人

「幸太に聞かれたくなけりゃ、長江を越えてから話さねえとな(苦笑)」

鈴々

「あのぐらいの距離、こいつには筒抜けなのだ」

「この子の聴力は半端じゃないわよ」

愛紗

「と、いう事は……早ければ今夜にでも動きがあるな」全員が頷く。

朱里

「遅かれ早かれ結果は分かりますよ。後は孫羌さんと周瑜さんに任せましょう」

 

 そして孫策の寝室に音もなく忍び込む、1つの影。その手に携えた一本の針で、寝入る孫策を刺そうとする。

孫策

「なるほど。その針の先端に毒が塗ってある、という訳ですか……ようやっと尻尾をだしましたね、叔母上」眠っていたハズの孫策が目を開ける。孫策の暗殺を目論んでいたのは叔母の孫静だった。

孫静

「……っく!」

孫策

「私の容態が回復したと聞いて、お忘れになりましたかな?」寝台から起き上がり、孫静を睨み付ける。

孫静

「孫策……そなた……」

孫策

「死にかけていたのではなかったのか、ですか?叔母上が私のやり方を快く思ってないのは分かっていましたが、まさか命まで取ろうとするとは……乱世とはいえ、嘆かわしい限りです」部屋の戸が開き、周瑜と孫羌が部下を連れて乗り込んできた。

周瑜

「孫静様。恐れながら反逆の罪で、お身柄を拘束させていただきます」兵士が孫静を捕り押さえる。

孫静

「兄上!これは全て、貴方と周瑜の企みか!?」

孫羌

「想像に任せる」妹に冷たく言い放つ孫羌。

孫静

「孫策!そなたは間違っている!どれだけのモノを得ようとも、その為に流されたおびただしい血がいつか孫家に仇なす事となろう!」羽交い締めにされながらも声を荒げる孫静に、負けじと言い返す孫策。

孫策

「母上の遺志を継ぎ、覇道を歩むと決めた時からそれは承知の上です!ですが叔母上。例えどれだけ血を流そうが、私には手に入れたいモノがあるのです!」

孫静

「……っ!」

孫策

「……連れていけ」兵士にそう告げると、ソッポを向く孫策。

 

 その後、孫羌と周瑜は会議室にいた。

孫羌

「やれやれ、終わったな」

周瑜

「はい。全て滞りなく」

孫羌

「後はこれに名を連ねた者共の始末だな。此度の企てに際し作った連判状じゃ。反逆の動かぬ証拠となるだろう」孫羌は始めから、罠を仕掛けるつもりで先日の会議で重臣を集めたのだった。連中にしてみれば、孫羌に呉を継ぐ野心があると踏んでの反逆行為だったが、シスコンでもあった孫羌は亡き姉の遺志を汲んだ上で、孫策に王としての器を見い出し、その娘に王位を託したのだった。

孫羌

「……しかし、関羽とか申す者には悪い事をしたな」

周瑜

「あの時偶然、あそこに居たのが身の不運。と申せましょうが、まさか孫権様が本当は居もしない暗殺の下手人を捕らえるとは……想定外でした」つまり暗殺事件自体に犯人など始めから存在しない。全ては反逆者を炙り出す為、孫策と孫羌、周瑜が仕組んだ狂言だったのだ。恐らくは孫静が主犯であろう。

孫羌

「名軍師と智謀の士などと言われても、神ならぬ身である以上、全てを見通す事は出来ぬか」

周瑜

「恐れ入ります」互いに苦笑しながらの会話となる孫羌と周瑜。

孫権

「失礼します!」孫権が会議室に怒鳴り込んできた。

孫羌

「連華か。どうした?」孫羌の飄々とした態度に孫権は、更に声を荒げてしまう。

孫権

「どうした?ではありません!此度の姉様の暗殺騒動、叔父上と周瑜が裏で糸を引いていたそうではありませんか!」

周瑜

「……孫権様。その件に関しましては」

孫権

「周瑜は黙ってて!」

孫羌

「それで何を怒っておる?」周瑜は孫権の気迫に押されるが、孫羌は飄々とした態度を崩さずに話を聞く。

孫権

「姉様を囮に反逆者を炙り出す、それ自体も腹に据えかねますが……ナゼ私には何も知らせてくれなかったのです!?おかげでとんだ大恥を晒してしまったではありませんか!」

孫羌

「良いか?此度は反逆者共がどこに目を光らせているかも分からん状況にあった。だからこそ出来るだけ内密に事を進ませたかったのだよ。それにお主はまだ若い、恥をかくのも後学となろう」連中が細作、つまりスパイを張らせている可能性も考慮した上での判断と、姪に言い聞かせる孫羌。渋々ながら一応は納得して、引き下がる孫権。

周瑜

「……黄蓋殿お気に入りの、あの少年から聞いたのですな」

孫羌

「昨日はおろか、今の儂らの会話も全て筒抜け、という訳か……」孫羌は2人と会話しながらも、何やら考え事をしていた。

 

 更に数日経ち、長江から出航する舟に乗り込もうとする我らが一行。しかしその中に幸太は居なかった。というのも……

 

黄蓋

「どうじゃ、ウチの子にならんか?」黄蓋が幸太を養子に欲しいと言ってきた。最初は固持した幸太だが、一刀達から『この世界に居る間なら良いんじゃないか』と、言われて最後は受け入れた。

 

 そして、江東を旅立つ日。船着き場には晴れて?義理の親子になった幸太と黄蓋、孫権と尚香、陸遜が見送りに来ていた。

陸遜

「もっといっぱい書物のお話をしたかったのにぃ~」

朱里

「陸遜さん。私もです……」

陸遜

「気が向いたら、お手紙下さいね」

朱里

「はい!必ず」朱里と忍は陸遜との別れを惜しみつつ、握手を交わしていた。

(あちしはアンタと関わるのはもう懲り懲りだけど……)と、忍が陸遜に内心でそう思っていたのは秘密である。

尚香

「この前は決着着かなかったけど、今度会った時は大きさ、形、色、艶、感度、弾力、味の七番勝負だからね!」

鈴々

「望むところなのだ!」どうしても胸で優劣を決めたい鈴々と尚香。ある意味、良いライバル関係になっていた。

愛紗

「……って、お主らまだそんな事を」

理人

「やっぱ燃やせば良かった……」

一刀

「まあまあ理人」愛紗は苦笑して、一刀は苛立つ理人を宥める。

孫権

「関羽殿、みんな。此度の事、そなた達には何と詫びてよいか……」孫権は一行に謝罪を述べる。

愛紗

「何度も申したように、その事はもう……」それに対して、誰も怒ってはいなかった。

孫権

「あの時、わたしはどうかしていたのだ。スッカリ気が動転していて、何の罪もないそなた達に疑いをかけてしまった……全く、人の上に立つ者として、あるまじき事だ」

愛紗

「『過ちを改めざる。即ち、これを過ちという』人間、誰しも過ちを侵す事はあるモノです。過ちを侵した後、それに気づき謝罪し、反省して同じ過ちを繰り返すまいとする。それが出来る貴女は人の上に立つ者としての資質が充分にあると、私は思いますが……」孔子の有名な言葉を引き合いに出す愛紗。

理人

「家族がいきなり命を狙われた、なんて聞けば当然だ。だから俺達もあんたを責める気はねえよ」様々な気持ちが溢れて、涙目になる孫権。

一刀

「黄蓋さん。幸太の事、宜しくお願いします」

黄蓋

「うむ、任せておけ。それとお主ら、儂の事は'(さい)'と呼べ」

理人

「真名を?」

「良いのかしら?」

黄蓋

「構わん。これからは儂もお主らの身内のようなモンじゃからな」黄蓋改め祭は、笑顔でそう返す。その傍らで幸太は照れ臭そうにしていた。

愛紗

「では、我らも。私は愛紗」

一刀

「一刀です」

理人

「俺ぁ理人」

鈴々

「鈴々なのだ!」

「あちしは忍」

愛紗

「さあ孫権殿。我らの旅立ち、笑顔で見送っていただけますね?」微笑む愛紗に小さく頷いて、満面の笑みを返す孫権。

 

 そして我らが一行を乗せた船は、目的地を目指す。

愛紗

「いやぁ、船旅というのは良いモノだなぁー。こうしてこうやってノンビリしているだけで目的地に着けるとは……♪」

鈴々

「本当なのだ。陸の上もこれで行ければ楽で良いのだ」さて、江東を旅立った一行。今度は何が待ち構えているやら。それは次回の講釈で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アニメとの違い
・孫権が会議室に怒鳴り込むところと、黄蓋の登場部分はオリエピ。
・愛紗達は孫策暗殺騒動の裏側を知らずじまい。朱里は船上で怪訝に思っている→幸太がアッサリ種明かしをしている。
・陸遜と周瑜の会話で、陸遜が朱里の将来を楽しみにしていると言うのに対して、周瑜は末恐ろしいと感じている→朱里が本家ほど活躍していないのでこのシーンはカット。


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第三十五席一刀、初めてのジェラシーのこと

多機能フォームで「脚注」を付けられるのを知りました。「ボンクレーが~」の本編でも使えば良かった……


 この日は諸事情により、洞窟で夜を過ごしていた一行。愛紗はまたも死んだ兄の夢に(うな)されていた。

愛紗あ

「……っ!夢……か。鈴々、お前のせいでまた変な夢を……アレ?」前にも鈴々が寝ぼけて覆い被さってきた時に、似たような夢を見た愛紗は文句を言おうとしたが、

「鈴々ちゃんならそこよ」愛紗より早く目を覚ましていた忍が指す方を見ると、鈴々と朱里に寄り添って静かに眠っていた。

愛紗

「顔、洗ってくるか」

「あちしも行くわ」愛紗は小さくあくびをして、忍が目を擦りながら洞窟を出ると……

 

 

 ガキーン‼

 ザシュッ‼

義勇軍兵士

「ウォォォーッ‼」

「デェェリャー‼」目の前で激戦が繰り広げられていた。その中に百姓らしき、恐らく義勇軍の1人であろう若者が山賊と思われる男に追い詰められていた。

愛紗

「止めろ!」堪らず声を上げる愛紗。振り向いた賊は愛紗へ向き直る。

「何……?女!手前ぇも義勇軍とかの仲間か!?」

愛紗

「あ、いや……」

「覚悟しやがれ‼」賊は愛紗に剣を降り下ろす。咄嗟に白羽取りで剣を受ける愛紗。しばらく押し合いが続いたが

「愛紗ちゃん下がって!」忍は愛紗を制すると、犀に化けて賊を払い除ける。

朱里

「関羽さんどうかしたんですか?騒がしいようですけど……」眠そうな顔で朱里が洞窟から出てきた。

「孔明ちゃん、戻りなさい!」

愛紗

「鈴々と一刀、理人を起こしてくれ!それから私の青龍偃月刀を!」 

朱里

「は、はい!」目の前の光景に一瞬で眠気が吹っ飛んだ朱里は洞窟へ戻る。

 

 その後状況に応じて、様々な猛獣に化けた忍が無双する中、得物なしの闘いには不慣れな愛紗は賊相手に素手で何とか立ち回っていたが、段々と追い詰められていた。賊が再び愛紗へ斬りかかるも、今度は避けきれそうにない。

鈴々

「ンヌゥッ‼」そこに鈴々が助勢に入る。一刀も日本刀を構えて瞬時に賊を切り捨てる。朱里も駆け出してきたが勢い余って転び、青龍偃月刀を放り出してしまう。飛んできた得物を手にした愛紗。

「あとは任せたわ。孔明ちゃんはこっちよ!」馬に化けていた忍は朱里を背に乗せて、安全な場所へ避難させる。

愛紗

「何だかよく分からんが、こうなったら一暴れするぞ!」

一刀

「ああ!」

理人

「オウ!」

鈴々

「分かったのだ!」それからはとにかく、無双する4人。愛紗、鈴々、一刀は襲いかかってくる賊達をバッタバッタと斬り倒し、理人は炎で応戦する。

賊1

「な、何なんだこいつら……?」

賊2

「こんなのとやり合ったんじゃ、命が幾つあっても足りないぜ」賊達は尻尾を巻いて逃げ出していった。

 1人の馬に乗った男がこの様子を見ていた。どうやらこの男が大将らしい。

??

「おい、何をしている?」馬上から兵士達に指示する。

??

「敵は崩れたぞ!押し返せぇー!」男の激に答えるように賊へ立ち向かっていく義勇軍の兵士達。

 

 闘いに勝った義勇軍。兵士達が互いに治療し合っている中、先ほどの大将が馬を降りて愛紗達に近寄ってきた。

??

「いやぁ。どこのどなたが存じませぬが、ご加勢いただいてかたじけない。私はこの義勇軍を率いる劉備、字を玄徳と申します。以後、お見知りおきを」

一刀

(これで『三國志』桃園の3義兄弟が揃った訳か)

理人

(しかし関羽と張飛が女の子なのに、劉備だけ男ってのは解せねえな……)一刀と忍は劉備にそんな印象を持った。

 その劉備は死んだ愛紗の兄によく似ていた。丁寧に挨拶をする劉備に兄の面影を重ねる愛紗。

愛紗

「私は関羽。字を雲長と申します。これなるは妹分の張飛、そしてこちらは……」

朱里

「孔明と申します」

一刀

「北郷です。こいつは藤崎と伍代」

劉備

「関羽殿に張飛殿、孔明殿と北郷殿、藤崎殿、伍代殿か……あっ!」一方で劉備は愛紗の頭から足下までを眺めると何かに気づいた。

劉備

「先ほどのお手並み、そしてその髪。はもしや、貴女はあの、黒髪の山賊狩りでは……?」

愛紗

「あ、いや。まあ一応……絶世の美女ではありませんが……」またしても勝手に失望されるのかと、愛紗はイジける。しかし劉備からは意外な言葉が返ってきた。

劉備

「おお!やはりそうでしたか!うーん、噂に違わず美しさ……」

愛紗

「え?あ、あの今何と!?」予想だにしなかった言葉に劉備へ詰め寄る愛紗。

劉備

「?噂に違わずお美しい、と申したのですが……」爽やかな笑顔を向ける劉備。

愛紗

「ええ?それはどうも♪その……❤」褒められ慣れてない為か、照れまくる愛紗。一刀はモヤモヤした気持ちを抱えながら、その様子に苛立っていた。そんな一刀に忍はそっと耳打ちする。

(どうもあの男、胡散臭いのよね。あちしはしばらく別行動とらせてもらうわ。愛紗ちゃん達は適当に誤魔化しといて)一刀達に伝言を残し、百舌鳥に化けてその場を後にした。

 

 一行は劉備に連れられて、義勇軍が拠点とする桃花村(とうかそん)へ入る。その途中、1人の百姓が仕事の手を休めて劉備に声をかけた。

百姓

「どうしたね?義勇軍の大将さん、まるで勝って帰ってきたみたいな様子じゃが」からかい半分な口調の百姓に、劉備は若干顔を赤らめて言う。

劉備

「勝って帰ってきたんだ!」

百姓

「そうかそうか、勝って帰ってきたんか……えっ!?」

 

 一行は村の庄屋の屋敷に着いた。

庄屋

「いやはや~、劉備殿が勝って戻られるとは、長生きはするモノですなぁ」

劉備

「オホン、庄屋殿……」

愛紗

「あのー……劉備殿の義勇軍、それほど負け続きだったのですか?」愛紗が庄屋に尋ねると

「えーえー、それはもう。ハァ~……劉備殿が僅かな手勢を連れてこの村、桃花村に来られたのは三月ばかり前の事。最初はあまりに胡乱な身なりをしていたので、食い詰めた賊か何かと思いましたが話を聞いてみると中山靖王の末裔という、高貴な血を引くお方とか……」

 

 ~回想シーン~

 

庄屋

「ほぉ、義勇軍ですとな?」

劉備

「はい!今この辺りでは凶悪な賊共が跋扈し( ばっこ )ております。そうした不逞の輩を成敗し、民の安寧を図ろうと我ら旗揚げした次第。こちらの庄屋殿は義に厚く、徳の高い方をお聞きしました。我ら志しはあっても武器はおろか、その日の糧食にも事欠く始末。ここは一つ、天下万民の為、お力添えいただきたいと思いまして……」

 

 ~回想シーン終わり~

 

庄屋

「と、まあそういう訳で我が家の倉を開いて武器兵糧を整え、いざ出陣!となったのですが……」庄屋は劉備にジト目を向けながら話を続ける。

庄屋

「七(たび)出陣して、七度負けるという有り様で。流石に今度負けてきたら、村を出ていってもらおうかと思っていたのですが……」

劉備

「ま、まあ良いではないか、これまでの事は。とにかく、今回は勝ったのだから」焦りながら庄屋の話を打ち切ると、愛紗を真剣な眼差しを向ける。

劉備

「関羽殿。実に( まこと )恥ずかしい限りだが暴虐非道な賊を討ち、この地に平和を取り戻す為、私に力を貸してもらえないだろうか?」劉備の頼みに顔を見合わせる愛紗達。

 

愛紗

「劉備殿、か。あの人、どこか兄者に似ていたな……」風呂に浸かりながら、愛紗は心に熱い想いが沸き上がっていた。

 

 翌日、再び義勇軍と賊の戦の前に愛紗、一刀、理人、鈴々、朱里はテーブルに地図を広げ、劉備を交えて作戦会議を始める。

朱里

「良いですか?先ずは北郷さんが率いる、少人数の部隊を出して砦の賊達を挑発します。挑発に乗った賊達が砦を出てきたら少しだけ闘って、囮の部隊はすぐに後退させて下さい。そして、賊達をこちらの谷へ誘い込みます」朱里が地図に示された谷を指す。

朱里

「敵が谷の中ほどまで来たら、谷の両側に隠れていた関羽さんと鈴々ちゃんの部隊で一斉に攻撃します」朱里の指示に頷く2人。

朱里

「そしてその間に、翻った北郷さんは、劉備さんと別の一隊を率いて……」

 

 いよいよ作戦を決行する事となった。朱里の指示通りに陽動作戦に出た一刀。

賊大将

「者共、腰抜けの義勇軍を蹴散らしてやれ!」

賊達

「ウォォォーッ」案の定、賊達はアッサリ罠に嵌まって砦の門が開いた。馬を走らせて谷の麓までやって来ると、銅鑼の音が響く。

賊大将

「ん、何だ……?ゲッ!罠か!」気づいても時は既に遅し、いつの間にか愛紗と鈴々の部隊に挟み撃ちにされていた。

愛紗

「乱世に乗じて善良な民草を苦しめる賊共め!その命運、ここで尽きたと知れい!」賊の方へ青龍偃月刀を突きつける愛紗。

鈴々

「ケチョンケチョンにしてやるのだぁ!」愛紗は馬に、鈴々はナゼか豚に跨がって谷を降りていく。賊達は討たれ、大将は敗走して砦へ戻っていく。

賊大将

「クソッ!義勇軍の奴らめ。小賢しい真似を……一旦、砦に帰って出直すか」だが、馬の足では一刀の足と理人の火力に敵うハズもなく……

賊大将

「オイ!門を開けろ!」子分に呼びかけると、門前は業火に包まれた。これでは近づく事すらできない。

 しかも砦の頂上に居たのは劉備と一刀だった。砦には『劉』の一字が書かれた旗と、十文字*1の旗が幾つも上がっている。

劉備

「一足遅かったな!この砦は、我ら義勇軍が頂いたぞ!」

一刀

「最早賊もお前1人だ!神妙にしろ!」

賊大将

「うっ……!」力なく得物を地面に落とす賊大将。

 

 その後も新たな賊達が次々に立ちはだかるものの、劉備と我らが一行は敵知らず。義勇軍の名声は村のみならず、近隣まで届くようになった。

 

 一方忍は劉備について、自らの見解を説明する為、(勿論、曹操と孫策には内緒である)許昌や江東を巡って一や幸太に会いに行った後、再び百舌鳥の姿となり、一行が拠点とする桃花村を目指して飛んでいた。目的地のすぐ近くで、体を休めようと山中で人間に戻ると大量の薬草が入った籠を背負った朱里に再会した。

「孔明ちゃん?どうしたのこんな時間に」

朱里

「忍さんこそ。今までどちらに行っていたんですか?」一刀も詳しくは話さなかったのだろう。その表情から身を案じていたのが伝わってくる。

「ちょっとしたヤボ用よ。ていうか、それ全部薬草?随分摘んだわね」

朱里

「このところ戦続きで怪我人が増えてますから、少しでも多く手持ちの薬草を増やしておきた……あっ♪」話の途中で何かを見つけて駆け寄る朱里。忍もその視線の先に目を向けると、一輪の花が咲いていた。カラフルだが全体的に暗く、綺麗とはいえない色合いをしている。

「どうしたの?」

朱里

「見て下さい!これは三日草といって、熱を下げるのにスゴく効果のある薬草なんですぅ」

「へぇ、珍しい形の花ね」三日草は色だけでなく、形状もまた奇妙だった。

朱里

「動物の死骸に寄生して、一日で芽を出し、二日で葉を茂らせ、三日で花を咲かせる事から三日草というんですけど……四日目になるとすぐ枯れてしまう為、滅多に見つからない貴重なモノなんです」解説しながら摘み取ろうとした朱里。だがその三日草が寄生していたのは……人間だった。

 

 三日草が頭に根付いていたその人間はまるで骸骨のようだった。今にも死にそうな呻き声を上げて、朱里を虚な目で見つめた。恐怖のあまり、咄嗟に三日草をその人間ごと引っこ抜いてしまう。普段は非力な朱里なのだが……正に、火事場のバカ力で( ぢから )ある。引っこ抜かれた勢いで舞い上がり、落下した人間はなんと馬超だった。

 

 

 

 

 

*1
実在の北郷氏(津島氏の分家)の家紋




アニメとの違い
義勇軍の快進撃と朱里の薬草摘みの間に別のシーンあり→この辺り前後しますが、次回書きます。
薬草を摘みに出た朱里を愛紗と鈴々が護衛する→1人で薬草摘みにきて忍に再会する。


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第三十六席馬超、合流するのこと

前話を見直したら、理人が全く登場していなかったので書き足しました。ほぼ取って付けたようになってますが。
(^_^;)
長さとしてはこのぐらいが丁度良いと自分では思ってますが如何でしょうか?


 ~時間は昨日の夜に戻る~

 

 その晩賊との闘いに勝利した義勇軍は、庄屋の屋敷で宴会を開いていた。

庄屋

「いやぁ♪関羽殿達が義勇軍に加わってから、連戦連勝。この辺りもスッカリ平和になりました。しかし皆さんの武勇もさることながら、孔明殿の知略には恐れ入りました。正に昔、漢の高祖劉邦を助けて天下を取らせた張良にも劣らぬ名軍師ぶり!」酒の入った庄屋はひたすら朱里を褒め倒す。

朱里

「はわわ、そんな名軍師だなんて(照)私はただ皆さんにちょっとした助言をしているだけで……」謙遜する朱里だったが、鈴々が骨付き肉を食らいながら話の輪に割り込んできた。

鈴々

「そうなのだ。鈴々と愛紗とお兄ちゃん達が居れば、別に小難しい策なんて立てなくても、賊退治くらいチョチョイのプーなのだ!」

庄屋

「流石は張飛殿。勇ましい事ですな!」庄屋も酒が入っているせいで言動が一致しておらず、鈴々と笑い合う。

理人

「あろな鈴々。ひょひきふぉふぁいへりふるらら(組織を相手にするには)まるはひゅへんふぉらにゃ(まず作戦をだな)……」いつもは真面目で堅物な理人。酔っ払いながらも鈴々に説教するが、呂律が全く回らない。

一刀

「まあまあ理人。今日ぐらい堅い事は言いっこなしにしようぜ」今夜は珍しく、一刀の方がマトモだった。

 

 愛紗は宴会の騒ぎから離れて1人、ベランダで月を眺めている。その隣に劉備が歩み寄ってきた。

劉備

「関羽殿!」

愛紗

「劉備殿……」

劉備

「どうしました?何か宴で気に入らぬ事でも?」

愛紗

「あ、いえ。ただ……月があまりに綺麗だったモノですから」

劉備

「月……?」劉備が夜空を見上げると、今夜は満月が輝いていた。

劉備

「おお、確かに。これは美しい。尤も関羽殿、貴女の美しさには及びませんが」歯の浮くようなセリフをしれっと放つ劉備。そして爽やかな笑顔を愛紗に向ける。愛紗は恥ずかしそうに視線を逸らす。

愛紗

「な、何を言って……からかっては、困ります……」

劉備

「関羽殿……」

愛紗

「は、はい!?」

劉備

「いきなりこんな事を言って迷惑だとは思うのだが、この先私とずっと一緒に居ていただけないだろうか!?」愛紗は突然の告白に驚く。

愛紗

「え?そ、それってもしかして……」

劉備

「私のような者が貴女ほどの豪傑の主に相応しいとは思っていない。だが私とていつまでもこのままでいるつもりはない。賊を退治する事で名声を高め、より多くの兵を養い、いずれはひとかどの将として身を立てるつもりだ。その為にも、私には貴女の力が必要なのだ」長々と熱弁する劉備だったが

愛紗

「え?あ、ぁぁ……一緒に居てほしいってそういう事……」愛紗は思っていた告白と違って、不機嫌そうに呟いた。

劉備

「どうだろう関羽殿!私に仕えてはもらえぬだろうか?」

愛紗

「え、ええ。そういう事でしたら……」苦笑いで答えると、劉備がその手を取り、

劉備

「おお。承知して下さるか!」顔を愛紗の身に寄せてくる。愛紗が戸惑っていると、そんな2人の間に入ってくる者がいた。

一刀

「こんな所にいたのか。早く宴会に戻らないと、鈴々が料理を全部食べちゃうよ」ワザとおどけて見せる一刀。パニクった愛紗は思わず劉備を突き飛ばし、ナゼか柱に抱きついている。

一刀

「何、しているんだ?」答える代わりに誤魔化すように苦笑する愛紗。対して冷静を装う一刀だが、内心は苛立っている。愛紗が劉備と……いや、他の男と仲良くしているのが何となく面白くない。しかし当の本人もまた、その理由に気づいていないようだった。

 

 ~そして翌日~

 

 土から引き抜かれた馬超は、青い顔で地面に打ち付けられたまま意識を失っていた。

「脈があるわ。死んではなさそうね」馬超の手首を取って生死を確認する忍。

朱里

「とにかく庄屋様の屋敷へ……」

 

愛紗

「それにしても馬超。あんな所で行き倒れになっていたとは、一体何があったのだ?」夜になり、生気を取り戻した馬超は出された料理を貪りながら話す。どうやら空腹が原因で倒れたいたようだ。

馬超

「モグモグ……、ひふは(実は)、へいひょうにはうぇってふぁらふひゃひゅほーのはひろほふーれ、ほびんふぁほほをふいひむぁっへ」

鈴々

「何をいっているのか、全然分からないのだ」と言いつつ、馬超の前に並べられた皿からマンガ肉を盗み食いしようとした鈴々だったが、寸でのとこらで馬超に奪還された。

馬超

「だから、西涼に帰ってから、武者修行の途中で路銀が底をついちまって。腹ペコで困っていた時に、ホラ!あの大食いのチビ、許緒が山で野草をいっぱい摘んでたのを思い出してさ。あたしも探してみたんだけど、どれが食えるのかサッパリ分かんなくて……とりあえず、その辺に生えてたキノコを適当に焼いて食ったら、ある意味これが大当たり!すぐに目の前グルグルしてきて、しぱらくすると……耳のデッカいネズミやクワックワッ煩いアヒルとか見えてきて、気がついたらそいつらと一緒に一晩中、バカ笑いしながら山ん中走り回って、その挙げ句力尽きて、朝までバッタリ……って訳」これには全員が呆れた。

朱里

「馬超さんが食べたのは多分、サイケ茸だと思います。幻覚作用があって、並の神経をしていた人なら笑い死にしていたかも……」

理人

(その幻覚が何で某夢の国なんだよ?)

(……それを言っちゃダメよ)

一刀

(方々から叱られるって……)

愛紗

「ま、確かにこいつは並の神経じゃないな……」その馬超は満腹になったのか、その場で椅子に腰かけたまま、眠っていた。

 

 やがて夜も更けて一行も眠りにつく。馬超も床についていたが、ふと尿意を感じると目を覚まして外へ出る。

馬超

ヤバいヤバい。厠、どこなんだ?早くしないと漏れちゃう……」寝ぼけ眼で厠を探していると、屋敷の出入口に松明を持ち、腰に剣を帯した2人連れを見つけた。眠気が吹っ飛んだ馬超は大声で叫ぶ。

馬超

「て、て、敵襲だぁー!敵襲ぅー!敵襲ぅー!敵襲ぅー!」その声にムクリと起き出す愛紗達。

馬超以外全員

「「「「アハハハハハ!」」」」

 それから10分後……庄屋を始め、全員が寝間着姿のまま、客間に揃うと馬超以外のみんなが一斉に笑う。

馬超

「そ、そんなに笑わなくてもいいだろ?」真っ赤な顔で俯きながら、必死に弁解する馬超。

鈴々

「けどけど、見回りの兵士を敵襲と間違えるなんて、おっちょこちょいにもほどがあるのだ」

馬超

「しょうがないだろ。まさかここが義勇軍の本拠地になっているなんて、全然知らなかったんだから。武器持った奴が、夜中ウロウロしてたら勘違いするっての!」剥れてソッポを向く。

鈴々

「ププッ、あの時の馬超の慌てっ振りときたら……」背中を向けて肩を揺らす鈴々にカチンときていると、

愛紗

「こら鈴々。いつまでも人の失敗を笑うの良くないぞ……」そう言う愛紗も笑いを堪えきれずにいた。

馬超

「……って自分も笑ってんじゃん。こっちはビックリして、ちょっとチビっちゃったていうのに」

愛紗

「え?」

馬超

「ッハア!」つい失言した馬超を問い詰めようとする愛紗。

愛紗

「今何て……」

馬超

「何でもない!何でもないってばぁ!」そんな中、朱里が意外な助け船を出した。

朱里

「でも……これは良い機会かもしれませんね。今回の事は寝惚けた馬超さんの勘違いでしたけど、本当に敵が攻めてきた時の事も、考えた方が良いと思うんです」笑いは消え、全員が神妙な顔を朱里に向ける。

劉備

「一応、それを考えて兵士に見廻りをさせているのだが……」

朱里

「いいえ、それだけでは不充分です。村の何ヵ所かに見張りの為の櫓を( やぐら )を設け、いざという時にはこの屋敷に籠って闘えるよう堀を掘ったり、塀を高くすべきでしょう」

理人

「櫓には火柱で合図出来る俺と、鳥に化けられる忍が交代で常駐した方が良いな」

「それならより迅速に対応出来そうね」

劉備

「孔明殿のお考えも分からんではないが、何もそこまでする必要は……」劉備は今一つ納得しかねるようだが、

朱里

「劉備さん。備えあれば憂いなし、ですよ♪」かくして、堀と櫓の建設工事が始まった。朱里は設計図を見ながら、愛紗と劉備に細かな説明をしている。一刀、忍、理人の3人もそれぞれの能力を用いて作業を手伝う。それを眺めている鈴々に、馬超が声をかける。

馬超

「後少しで完成ってトコだな。ん?どうしたんだよ、仏頂面して」馬超がいつもと様子が違う鈴々に尋ねる。

鈴々

「気に入んないのだ」

馬超

「気に入らないって、孔明がか?」

鈴々

「そうじゃなくて、あいつの方なのだ」

馬超

「あいつって……劉備殿の事か?」

鈴々

「あいつ、闘いの時にはいっつも後ろの方に居て全然前へ出てこないのだ。大将のクセにとんだ臆病者なのだ」不貞腐れている鈴々。

馬超

「戦は……大将が殺られちまったら、それまでだからな。そういう闘い方もあるさ。ま、あたしはそういうのあんま好きじゃないけど……」馬超がフォローを入れる。

鈴々

「……それに賊のアジトから取り返したお宝、全部ここの蔵に仕舞って独り占めしているのだ!」

馬超

「独り占めって……それは軍資金にする為で別に自分の物にしているって訳じゃないだろ?」

鈴々

「馬超も愛紗と同じ事言うのだ……」

馬超

「え、そりゃまあ……普通に考えたらそうだろうって事で」

鈴々

「もう良いのだ!」

馬超

「オ、オイ張飛?」馬超が一旦は止めようとしたが、鈴々はムスッとしてそこから去っていく。

馬超

「やれやれ。大好きなお姉ちゃんを取られた妹の妬きもちってトコか……」そう思い直し、深追いするのは止めにした。一方そんな2人を目にした忍は作業員に断りを入れて、工事現場から離れると鈴々を追いかけていった。ふと鼻に冷たい感触を受けて空を見上げると、雪が降り始めていた。

 

 

 

 

 

 

 




アニメとの違い
・2人っきりになった愛紗と劉備の間に割って入ったのは鈴々→一刀
次回、またはアニメ1期分が終了後は本家をベースにしながらも、オリ展開や他作品を織り混ぜていこうかな?とも考えてます。現状、まだ決定ではありませんが。


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第三十七席忍、劉備を疑うのこと

アニメ1期分がまだ完結していませんが、令和元年最後の投稿です。ご覧いただいている皆様、よいお年を。


「待って鈴々ちゃん」駆け寄った忍は未だ膨れっ面の鈴々にこう告げる。

「アンタも劉備の事を疑っているのね……?」

鈴々

「……忍お兄ちゃんもか?」鈴々の顔つきが変わる。自分に同意する者がいるとは思わなかった、そんな表情だ。

「あちしもあいつは信用出来ないわ。だから色々調べてるのよ。いずれボロを出すまで、腹が立つでしょうけど今はまだ我慢してくれるかしら?」

鈴々

「分かったのだ」

「アリガト。じゃあちしは戻るわね」鈴々は作業場に戻る忍を呼び止める。

鈴々

「お兄ちゃん!」

「何?」

鈴々

「ありがとうなのだ!」鈴々はいつもの笑顔を忍に向けた。

 

 降りだした雪は翌日には止んだが、スッカリ積もって一面の銀世界が広がる。鈴々は大ハシャギしながら、早速外へ出る。

鈴々

「うわぁーっ!真っ白なの……ウプッ!」誰かに雪玉をぶつけられた。

鈴々

「誰なのだぁーっ!」鈴々が怒鳴ると、木の後ろから犯人が姿を見せる。地元の子供達のようだ。

子供A

「べぇーっ(笑)」

子供B

「悔しかったらここまでおいで!(笑)」

子供C

「おいでー!(笑)」

鈴々

「ムキーッ!今すぐ行ってやるから、覚悟するのだぁー!(怒)」鈴々は子供達を追いかけるが、途中子供達の掘った落とし穴に見事にハマる。

子供A

「や~い、ひっかかった(笑)」

子供B

「義勇軍っつっても大した事ねえの!(笑)」

子供C

「ね~の(笑)」

鈴々

「うぅぅ、一生の不覚なのだぁ……」穴の中でひっくり返り、思いっきり大股開き状態の鈴々だった。 

 

鈴々

「ヘックシ!」部屋に戻った鈴々は大きなくしゃみをすると、愛紗が持ってきてくれたタオルで、雪に濡れた頭を拭きながらボヤく。

鈴々

「全く!とんでもない悪ガキ共なのだ!」

愛紗

「そうか。とんでもない悪ガキ共か……」

一刀

「ハハッ、懐かしいな」愛紗と一刀は鈴々の言葉に微笑ましく笑う。

鈴々

「二人共、何がおかしいのだ?」ムスッとして問う鈴々。

愛紗

「いや。イタズラ好きの悪ガキと聞いて、お前と初めて会った事を思い出してな」

一刀

「今度は鈴々が落とし穴の餌食とか。因果は巡るモノだな」

愛紗

「『鈴々山賊団のお通りなのだぁ』てな」愛紗は当時の鈴々の真似をして、おどけて見せる。

鈴々

「……鈴々山賊団はあんなヘナチョコ共とは違うのだ」膨れっ面でソッポを向く鈴々を愛紗が諭す。

愛紗

「まあ、そう言うな。あの子達がイタズラしてきたのは案外、お前と仲良くしたいからかもしれんぞ」

一刀

「『一緒に遊ぼう』って話しかけてみればどうだ?」

鈴々

「仲良くしたいからイタズラするって、訳分かんないのだ。例えもし、そうだったとしても鈴々はあんな奴らと絶ぇーっ対仲良くなんてしてやらないのだぁーっ!」と、意地を張っていた鈴々だが……翌日。

 

鈴々

「鈴々義勇軍のお通りなのだぁ!」昨日の子供達を率いて豚に跨がり、かつて愛紗や一刀と出会い、育った村での山賊ごっこと全く同じ事をやっていた。道を爆進中、馬超とすれ違う。突然の事に驚いた馬超は鈴々達を避けようとして、尻餅をつく。

馬超

「コラァ!この悪ガキ共ーっ!」怒る馬超だが

鈴々

「これがホントのトンズラなのだぁ」

子供C

「なのだー」2人して、指で花の頭を上向きにして、そのまま走り去っていく。

 一頻り走り回った鈴々義勇軍は枯れ木が茂る広場で一休みしていた。鈴々が乗っていた豚は傍らで寝息をたてている。

子供B

「ねぇおやびん」

鈴々

「おやびんじゃなくて大将なのだ」

子供B

「じゃあ大将、次は何して遊ぶ?」

鈴々

「?う~ん……」

子供C

「お花見!」

子供A

「バーカ。まだ花が咲いてないのに、お花見なんて出来るかよ」

鈴々

「この村、お花見出来るようなトコがあるのか?」

子供A

「ここだよ、ここ」

子供B

「満開になったらスゴいんだよ!ブァーッと桃の花がいっぱい咲いて……」

子供A

「だからこの村、桃の花の村って書いて桃花村って言うんだ」

鈴々

「ふぅん……よーし!それじゃここの桃が咲いたらみんなでお花見するのだぁ!」鈴々が宣言すると、子供3人も拳を振り上げる。

子供ABC

「「「応ーっ‼」」」

 

 桃花村から遠く離れた、ある地の茶店で寛ぐ家族がいる。履真、沙弥、一戒の3義兄弟と長兄履真の妻、黄忠と夫婦の娘、璃々の親子3人連れ。夫婦は茶を飲み、幼い娘は叔父達と団子を食べている。

黄忠

「あなた、璃々。そろそろ行きましょうか」

履真

「ああ」

璃々

「うん!」顔を団子のタレまみれにした璃々が、元気よく返事をする。

黄忠

「あらまあ、口の回りがベタベタじゃない」黄忠はハンカチを取り出して璃々の口を拭く。沙弥と一戒も団子のタレで口の回りが汚れていたが、

履真

「いい年齢してみっともねえんだよ!」履真は義弟2人に拳骨を見舞うと、茶店の主人に金を払い桃花村の場所を尋ねる。

茶店主人

「へい。確かに」

履真

「時に主人。桃花村までは後どれぐらい掛かるか、存ぜぬか?」

茶店主人

「桃花村?ああ、最近義勇軍が旗揚げして、近くの賊共を成敗して周ってるっていう……」

履真

「ああ。その村だが」

茶店主人

「そうさなあ。ここからまだ山を二つ三つ越さにゃならんから、子連れの足だと四、五日はかかるかもしれんなぁ。もしかしてあんたら、義勇軍に参加するつもりかね」

履真

「ああ。以前世話になった関羽、北郷という若者が、その義勇軍で将になっていると風の噂に聞いて、力を貸そうと思ってな」一家は茶店主人から情報を得ると、黄忠は璃々の右手を、履真は左手を取って店を後にするその後ろから得物を担いで着いていく義弟達。茶店の主人が一家を見送って店内に戻ると、外套を纏った女に話しかけられる。

??

「主人」

茶店主人

「へい、何でしょう?」

??

「桃花村とやらの義勇軍の話、少し詳しく聞かせてもらえぬかな?」外套から垣間見れたのは誰であろう、あの水鏡の庵近くではぐれたハズの星であった。そして時を同じくして桃花村へ向かう、もう1組の者達がいた。

 

~ここからアニメ1期最終話分~

愛紗

「官軍からの参陣要請?」

劉備

「ああ!何でも州境で、領民がかなり大規模な反乱を起こしたらしい」嬉しそうに説明する劉備に愛紗の表情が曇る。

劉備

「討伐隊を何度か差し向けたが、一向に乱を沈める事叶わず、結局大将軍の可進自ら軍を率いて出てくる事になったのだが、我らの活躍がその耳にも届いたらしく『朝廷に尽くさんとする志しあらば我が陣に参ぜよ』と」

鈴々

「漢王朝の偉い人もやっと鈴々達のスゴさに気づいたぁーって事なのだ!」薄い胸を張り、自慢気な鈴々。

馬超

「成り上がり者の可進の下に付くってのはちょっと気に入らないが……この際大暴れして腑抜けた官軍の目を覚まさせてやろうぜ!」

鈴々

「お目々パッチリなのだ!」盛り上がる鈴々と馬超に対して、愛紗と朱里は慎重さを失わない。

愛紗

「孔明殿はどう思う?」

朱里

「そうですね……聞くところによると、各地で反乱が続発して官軍は今、猫の手も借りたい状態、とか。大将軍自らの出陣といっても、実のところ、さほどの兵力ではないのかも……」

愛紗

「なるほど。それで我らに声をかけてきたという訳か」

一刀

「しかし相手が賊じゃなくて、領民となると……」

理人

「何ともやり辛ぇな」

劉備

「理由はどうあれ、これはまたとない機会だ。ここで華々しい手柄を立てれば、我らの名は更に高まるだろう。そうすれば義勇軍に参ずる者も増え、我が軍はより強く、より大きくなれるのだ!」やたら興奮気味な劉備に全員ポカーンとしている。その中で忍だけは、劉備へジト目を向ける。

(……こいつやっぱり己の欲の為に動いていると見て、間違いなさそうね)その様子に気づいた劉備は慌てて取り繕う。

劉備

「あ、あっ……コホン、そしてそれがより多くの人を救う事になる」愛紗はその言葉に共感し、無言で頷くが忍はより疑いを募らせる。

劉備

「それでは、出発は明朝!みんな早速準備に取りかかってくれ」

愛紗、朱里、馬超

「はい!」

一刀、理人

「応っ!」

鈴々

「合点なのだ!」

「……」忍以外全員が返事をして、一旦解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




2020年の投稿はまだ未定です。出来れば一発で完結させたい……。
アニメとの違い
・忍が鈴々を呼び止めるシーン
・茶店の主人と会話するのは黄忠→履真
・桃花村に向かうもう1組は何者か?


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第三十八席賢と顔良、仲間になるのこと

『明けましておめでとうございます』何とかこの言葉が間に合う日に投稿できました。(ムリヤリ感は否めない)
(^_^;)


 その晩、愛紗は風呂に浸かりながら先日の劉備の言葉を思い出していた。

『月?ほう……確かにこれは美しい。尤も関羽殿、貴女の美しさには及びませんが』思わずニヤける愛紗。

愛紗

「『そしてそれがより多くの人を救う事になる』……か」緩む頬へ手を当て、顔の火照りを押さえる。風呂から上がり寝間着に着替えると、今度は一刀の言葉が頭をよぎる。

『愛紗は綺麗だよ。俺が保証する』出会って間もない頃、真剣な面持ちでそう言ってくれた一刀。時には愛紗を侮辱する者へ、本人以上に怒ってくれる。そんな2人の男の間で愛紗は心を揺さぶられながら、風呂を後にした。その頃、我らが一行に寝室として与えられた大部屋では鈴々が寝間着をはだけた状態でグースカ鼾を掻いて眠っていた。

 

 翌朝、いざ出陣となったのだが、鈴々の顔色が良くない。目が虚ろな上、鼻水まで垂らしている。

朱里

「はわわ~!鈴々ちゃ~ん、風邪引いてるんですからちゃんと寝てなきゃダメですよぉ」それでも出陣しようとする鈴々を朱里は必死で止めていた。愛紗と一刀、馬超、忍はやれやれと呆れる。

鈴々

「鈴々は風邪なんて引いてないのだ!」

朱里

「熱があって、咳が出て、鼻水垂らしているんだから風邪に決まってるじゃないですか!」

鈴々

「熱があって咳が出て鼻水垂らしていても……」思いっきり鼻を啜る鈴々。

鈴々

「何とかは風邪引かないっていうから、これは風邪じゃないのだ!」意地を張って愛紗達の側まできた。

馬超

「何とかってお前……(苦笑)」しかし、今回は朱里も退かずに鈴々の出陣を止めさせようと、怒鳴り付ける。

朱里

「何言ってるんですか!?バカは風邪引かないなんて迷信です!バカだって風邪引く時は引くんですから、鈴々ちゃんは風邪引いてますぅ‼」

愛紗

「孔明殿。言ってる事は間違ってないが、もう少しお手柔らかに……」

一刀

「……孔明ちゃん、ドサクサに紛れて結構酷い事言うな」

理人

「バカバカ言い過ぎだろ」

「意外に毒舌家だったのね……」

朱里

「でも皆さん……」

鈴々

「鈴々はずっと愛紗と旅して闘ってきたのだ!なのに愛紗が出陣して、鈴々だけ置いていかれるなんて絶対ヤなのだ!」目に涙を溜めながら駄々をこねる。

愛紗

「鈴々……お主の気持ちも分かるが、そんな体で出陣する訳にもいかぬだろう?」どうにか説得する愛紗。馬超も援護するが

馬超

「そうだぞ。却ってみんなの足を引っ張る……」

鈴々

「行くーったら、行くのだ!絶対愛紗と一緒に出陣するのだぁーっ‼」ジタバタして諦めようとしない鈴々。しかし風邪を引いてる身、フラフラして倒れそうになる。

朱里

「ホラ、熱があるのに暴れたりするから。これで戦に行くなんてムリですよ」咄嗟に朱里が支える。

鈴々

「そ、そんな事ないのだ。鈴々は愛紗と一緒に……」

愛紗

「張翼徳。お主に任務を与える!」愛紗は鈴々をいつもの真名ではなく、敢えて字で( あざな )呼びこう言いつける。

鈴々

「……?」

愛紗

「我らが出陣している間、ここに残り、村を守ってくれ」

鈴々

「……っ」

朱里

「私も残ります。戦が長引いた時に備え、兵糧を準備しつつ、鈴々ちゃんと一緒に村の守備につきます」

鈴々

「朱里……」

愛紗

「うむ。劉備殿には私から伝えておく」

馬超

「村を守るなんて、張飛には荷が重いんじゃ……(ニカッ♪)」冗談混じりに馬超が言うと、鈴々はまたムキになる。

鈴々

「馬超は黙っているのだ!」

愛紗

「どうだ、留守を頼めるか?」

鈴々

「分かったのだ……愛紗がそう言うなら、鈴々は残って村を守るのだ」鈴々がようやく納得したので安堵のため息を吐く朱里。そこにふと地中から、何かを削るような音が響く。

愛紗

「これは……?」

理人

「ああ。来たのか」

鈴々

「何の音なのだ?」

「馬超ちゃんと鈴々ちゃんは覚えがあるんじゃない?」

朱里

「はわわ~!どんどん音が近づいてますよぉー!」

一刀

「ある意味渡りに船というか、思わぬ拾い物というか……」

馬超

「ひょっとして……あいつか!?」一刀、忍、理人の未来チームはすぐに察したが愛紗達には見当が付かなかった。

 

 音は一行の手前で止まり、地面をかなりの勢いで飛び出す影があった。その跡には人が10人ぐらい埋まりそうな、大きな穴が開いている。

 穴から飛び出してきたのは1組の男女。男の方は腕の肘から先をドリルに変えている。

「やっぱりアンタだったのね、賢」高坂賢と顔良だった。

「ああ、そろそろ一ヶ所に落ち着きたくてな、どうせならお前達と合流しようと思ったんだが……そうも言ってられねえようだな」

理人

「悪ぃが、これから1ドンパチ()り合うところだ」

一刀

「来て早々スマンが、手伝ってくれないか?」

「応っ!ところで幸太や流華は?一は曹操の下に居るとは聞いてるが」

「幸太は養子に貰われたわよ。養母さんも良さそうな方だったわ」

一刀

「流華は董卓に仕えている。俺達が知っている人物とは、まるで別人だけどな」

愛紗

「話は後にしないか?そろそろ合流しなければ。鈴々、村は頼んだぞ」

鈴々

「合点なのだ!」

愛紗

「うん!それでこそ我が妹だ」愛紗は鈴々何かあったら

耳元へ顔を寄せると

愛紗

早く元気になれ……」と、優しく囁く。

鈴々

「……うん」微笑んで返事をした鈴々は、そのまま意識を失ってへたり込んでしまった。

 

 

 劉備と共に馬に乗り、官軍との合流地点に向かう愛紗達。

劉備

「仕方ないですね。張飛殿、孔明殿抜きで闘いましょう」

愛紗

「申し訳ない……」

一刀

「代わりというのも変だが、もう1人連れてきたから」あれから相談して、賢と顔良が義勇軍に参加を決めた。今日は賢が屋敷に残り、顔良がついてきている。

 愛紗から話を聞いた劉備は一見、納得したように愛紗に笑顔を向けるものの、振り向いた際に誰にも気づかれぬよう、舌打ちをしていた。

劉備

「……ちっ!」愛紗は鈴々の琴が心配らしく、馬上から屋敷を振り返る。

愛紗

「……」

馬超

「どうした関羽?」

愛紗

「イヤ、何でもない……」そんな一行を見つめる怪しい男がいた。

??

「……ん、遠征か?」

 

 やがて官軍が天幕を張った本陣に着いた愛紗達。その中でも、

一際立派な天幕では可進が艶かしい姿で長椅子に寄りかかっていた。

可進

「皆、集まったようじゃな。ではこれより軍儀を始める……曹操」

曹操

「はっ!」官軍には愛紗達と何かと因縁のある、曹操も参加していた。

曹操

「反乱軍の籠る山は、まさに天然の要害。正面から力押しに攻めても、いたずらに犠牲を増やすばかり。まずは山を囲んで糧道を断ち、兵糧攻めにするのが上策かと」

一刀

(なるほど。勝ち戦のセオリーだな)

(流石、曹孟徳といったところね)

理人

(これなら味方の被害も少なくて済む)一刀達は曹操の案に感心している。更に続ける曹操。

曹操

「そもそも此度の反乱は、領主の苛斂誅求が( かれんちゅうきゅう )原因だとか。兵糧攻めで相手の士気が挫けたところで、これまでの施策の誤りを認め、降伏した者は罪一等を減じると告げれば、大半は山を下るハズ……上手くいけば闘わずして乱を治める事も可能かと」自信ありげに語る曹操だったが、可進はあまり良い顔をしない。

可進

「手緩いな」

曹操

「……!手緩い、とは?」

可進

「朝廷に楯突いた賊共を許すなど、手緩いにも程がある!それにこれ以上時をかけては、朝廷の威信に関わる。悠長に兵糧攻めなどせず、一気に攻め潰せ!」この可進の言葉に理人と賢がブチ切れた。

理人

「……ざけんなっ!だったらテメェが1人でやりやがれ!」

可進

「貴様ら……このワシに何と!こやつらをひったてい!」配下の兵に2人を捕らえるよう命ずる可進だが、当然敵う訳もなく炎を喰らい、鎧を溶かされそうになって慌てて離れる兵士。可進の表情が悔しさで歪む。

??

「あの~……宜しいですか、可進将軍?」可進が気の抜けるような声に目をやる。そこに一がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




1期最終回まで後2、3話あるかもなので根気よくお付き合い頂ければ、幸いです。


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第三十九席桃花村、襲われるのこと

可進

「何じゃお主は?」

「曹操軍所属の燈馬です。恐れながら……我が雇い主と将軍閣下のご意見の折衷案がありますが、発言しても?」

可進

「構わぬ。申せ」

「まずはですね……」一は作戦の概要を可進に話して聞かせる。

可進

「……本当にそんな事が可能なのか?」怪訝そうな可進に、曹操の自信ありげな援護射撃が入る。

曹操

「この男ならやってのけるでしょう。それは私より、貴方達の方が良く分かっているんじゃない?」一刀と配下の忍へ振り向く曹操に2人は頷きを返す。

劉備

「お待ち下さい!」

可進

「ん?お主は確か義勇軍の……」

劉備

「賊軍なぞ所詮は烏合の衆。首謀者さえ討ち果たせば、後は何とでもなりましょう。可進将軍閣下、仰る通りここは一気に攻め潰すべきでしょう!その際はこの劉備めに是非先陣をお任せに!」劉備が自らを売り込もうと、一の案を一蹴して可進に進言した。

一刀

「劉備殿、何を勝手に……!」一刀が劉備を止めようとするが、劉備はそれを無視して更に可進に口上を述べる。

劉備

「この劉玄徳、朝廷に身も心も捧げる所存。その朝廷に弓引く敵が何万あろうと、決して恐れるモノではありません!」この言葉に気を良くした可進は

可進

「よくぞ申した。明日の先陣、貴様に申し付ける」

劉備

「はっ!閣下のご期待に答え、必ずや賊将の頸、挙げてご覧に入れましょう」

可進

「うむ。見事敵将の頸を取った暁には、貴様を官軍の将に取り立て妾の側近の一人としよう。期待しておるぞ♪」結局一が提案した作戦は却下となり、突撃にて賊軍を殲滅する方針で軍儀は進められた。先陣を仰せつかった劉備は喜ぶが、曹操一派は不満そうである。愛紗は沈んだ顔になり一刀、忍、理人も明らかに機嫌が悪い。

 

 本陣を敷いた場所に池がある。愛紗はその前に佇み、月を見上げて今は亡き兄を偲んでいた。

愛紗

「兄者……世の中を変える方法が見えてきました。私をお守り下さい」月に浮かぶ兄の顔に祈る。その顔が劉備に変わると、夕方の可進の言葉が脳内をフィードバックする。

『妾の側近にしてやろう』悲しげな表情になる愛紗の元に劉備が姿を見せた。

劉備

「関羽殿。そろそろ明日の作戦会議を……どうしました?」劉備から目を逸らし、ふて腐れて木にもたれ掛かる愛紗。

愛紗

「いや別に……」劉備は木に手を置き、壁ドン状態に持ち込む。

劉備

「関羽殿。私には貴女だけが頼りです」愛紗の肩を抱き、ジッと見つめる。

劉備

「ずっと側に居てくれますね?契りの証を……」

愛紗

「劉備殿?その……」どこか怪しげな笑顔を向け、愛紗に口づけようとする劉備。顔を赤らめた愛紗は堕ちそうになる。その場面にたまたま、出くわしてしまった馬超。そこで見たのは……。

 

 庄屋の屋敷では、床の中で体を起こした鈴々に朱里が薬湯を差し出していた。

朱里

「さあ、飲んで下さい」

鈴々

「朱里。これ何なのだ?」

朱里

「三日草を煎じたモノで、熱を下げるのにとても効果があるんですよ」

鈴々

「何か変な臭いするのだ~」

朱里

「馬超さんのなけなしの生気を吸い取って育った薬草なんですから、ありがたく飲まないとバチが当たりますよ♪」

鈴々

「不っ味ぅーい、もう一杯!」薬湯を一気に飲み干した鈴々であった(これだけ色々パクってよく怒られなかったモノだと作者は思う)。

 

 反乱軍の潜む山では、賊共が焚き火を囲んで酒を呑んでいる。そこにお馴染みの3人組(話毎に別人の設定ではあるが。詳細はWikipedia参照)の、B(チビ)とC(デク)が報告にやってきた。

賊B

「お頭方!念の為、もう一度様子を見て参りやしたが、義勇軍の奴ら本当に出払ってるようですぜ!」

賊1

「そうか」

賊C

「残っているのは見張りの兵と村人だけで……」

賊2

「へへっ、やっと好機がきたようだな」

賊3

「根気よく見張ってた甲斐があったぜ」

賊1

「ああ。今夜こそあん時の恨み、晴らしてやるぜ」この3人、先日の戦で我らが一行に敗れ、砦を奪われた賊共の残党である。

賊1

「戻ってきたら砦を奪われてるのは、今度はあいつらって訳だ」賊共は下卑た笑い声を上げた。

 

 官軍の本陣にある義勇軍の天幕では、劉備が作戦の指示を出す。

劉備

「まず関羽殿には、張飛殿の隊を率いてもらう」

愛紗

「はいっ!」やけに気合いの入った愛紗をニタニタ顔で見つめる馬超。

愛紗

「どうした?」愛紗が馬超に問うも

馬超

ぶぇぇつ()にぃー(ヘラヘラ)」2人が私語を挟んでいても、劉備は淡々と作戦指示を述べ続ける。

劉備

「その部隊を先陣に、馬超隊を……」天幕に1人の兵士が入っていた。

兵士1

「劉備殿!」

劉備

「何事だ」

兵士1

「村が……桃花村が賊の大軍に襲われました!」

愛紗・馬超

「「……えっ!?」」

劉備

「何だと?」

兵士1

「たった今着いた村からの伝令によりますと、相手はかなりの数。おそらくはこれまで退治した賊の残党共が協力して、一気に襲ってきたのではないかと」

劉備

「ックソ……」顔をしかめる劉備。愛紗と馬超は顔を見合わせる。

劉備

「で?」兵士に続きを促す劉備。

兵士1

「孔明殿が指揮を執って庄屋の屋敷に村人を集め、防戦に務めてますが、いつまで保つか分からない、増援を請う。と」

馬超

「何てこった!」

愛紗

「劉備殿!何をしているのです!?すぐに村へ!」

劉備

「いや。村には戻らない」

馬超

「ハァッ!?」

愛紗

「何を言っているんです!?早くしないと!こうやっている間にも村が!」

劉備

「大丈夫。堀と櫓で守備は完璧なハズ。きっと孔明殿が……」しれっと言ってのける劉備だったが、今度は怪我をした兵士が駆け込んできた。

兵士2

「伝令!賊軍は村の外堀を突破!至急救援を請……」言い切る前に倒れてしまった兵士。

兵士1

「おい、しっかりしろ!すぐに手当てしてやるぞ。おい誰か、運ぶのを手伝ってくれー!」しばらく呆然として言葉の出なかった愛紗だが、何とか気を持ち直して劉備に進言する。

愛紗

「劉備殿、お願いです!すぐに村へ援軍を!」

劉備

「だが我らは明日の先陣を承っている」

愛紗

「ですがっ!」

劉備

「明日の戦で功を立てれば、官軍の将になれるのだぞ!それも今をときめく大将軍、可進様の側近に!」

(本性表したわね)忍はポツリと呟き、劉備を睨み付ける。

愛紗

「しかしっ!今は村を救う方が大事では!?」

劉備

「確かに拠点を失うのは辛い。蔵に貯め込んだ軍資金を賊共に奪われるのも癪だ!」

一刀

「お前……こんな時に何言ってんだよ!?」

愛紗

「私が言いたいのはそんな事ではない!我々が村を見捨てたら、村人がどうなるかを考えて下さい!」

劉備

「関羽殿、そなたの気持ちはよく分かる。だが世の乱れを正し、多くの民を救うにはより大きな力を手にする事が必要なのだ。大儀の為、私の為に、側で尽くしてはもらえぬか?村は孔明殿に任せて、我らの輝かしい大儀の為に、共に歩んでほしい……私の事だけを考えて、村の事はやむを得ない事と、ここは一つ……」この期に及んでいけしゃあしゃあと身勝手な事を言う劉備の頬を思いっきりひっぱたく愛紗。哀れ、床に崩れ落ちる劉備。

馬超

「ヒュ~、お見事」そんな愛紗を絶賛する馬超。彼女も劉備を胡散臭く思っていたのだろう。

劉備

「ま、待て。幾らお主が豪の者でも、一人では死にに行くようなモノだぞ!それよりも大儀の為に……!」これに答えたのは愛紗ではなく、一刀だった。

一刀

「……1人じゃない。愛紗、行こう」愛紗の隣に並んで、共に天幕を去ろうとする。

愛紗

「一刀?」

一刀

「俺は……愛紗を1人にはしないよ。さあ村へ急ごう」愛紗は一刀に頷きを返すと、劉備を睨み付けながら言った。

愛紗

「貴方の大儀が何かは知らぬが、私には私の志がある!私の志は、真に愛するに値する者を守り抜く事だ!」そのままズカズカと出口へ向かい、天幕を出ていった。

劉備

「ま、待ってくれ!(焦)」すがり付こうとする劉備の頭を、大槌が叩きのめす。顔良が金光鉄槌を降り下ろしていた。

顔良

「私、帰る!」顔良は天幕を去った。

理人

「ケッ、クソが!」理人も気絶した劉備に毒づき、足からジェット噴射で天幕を出ていった。

「あちしも辞めさせてもらうわ。アンタと一緒に闘うなんて、もうウンザリよ」忍も鷹に化けて、天幕の隙間を抜けていった。

馬超

「アタシも抜けるぜぇ♪」こうして1人、また1人と劉備の下を離れていく。最早、劉備の野望は風前の灯と消えた。

 

愛紗

「鈴々、孔明殿。無事で居てくれ!」

顔良

「賢、お願い。死なないで!」愛紗と顔良の2人。共にそれぞれ大切な人の安否を気遣いながら、馬を走らせる。自らの足で走る一刀、空を駆ける理人と忍も同じ思いで村へと急いだ。

 

 

 

 

 

 



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第四十席義勇軍VS盗賊、のこと

中々終われない……


 愛紗達が村へ向かっている頃、曹操は自分の天幕で酒を煽っていた。劉備のせいで可進に提案を却下された一も相伴に預かっている。

曹操

「全く!何なのよ、あの劉備って奴!関羽ほどの者があのような男を主に選ぶなんて……」殆どやけ酒である。

「一刀達も何であんな男を……(忍だけは疑ってるようですが)さあ、もう一杯どうです?」一は曹操に酌をする。2人が呑んでいると、誰かが訪ねてきた。それを必死に夏候惇が抑えている。

夏候惇

「こんな時間に何の用だ!?」

??

「曹操に会わせてくれ」乱入してきたのは馬超だった。

馬超

「曹操、話がある。聞いてくれ!」

 

 馬超から事情を聞かされた曹操。傍らで一はニヤリと薄笑いを浮かべる。

曹操

「なるほど。それで私にどうしろと言うの?」

馬超

「関羽達は頭に血が登って飛び出しちまったが、たったあれだけの人数じゃ殺されに行くようなモンだ!だからアタシに兵を貸してくれ!」

曹操

「イヤよ!愚かな主を選んだ報いよ。助ける義理はないわ」冷たく言い放つ曹操に、馬超は土下座して請うた。

馬超

「頼む。この通りだ!」

曹操

「……っ!」

夏候惇

「……っ!」

「?」

馬超

「だから!頼む……」予想だにしなかった馬超の行動に一以外が息を呑む。

曹操

「かつては父の仇と、命を付け狙った相手に頭を下げるとは……馬超、何の為にそうまでする?」

馬超

「友の為だ!」天幕は当然地面の上に張られているので、擦り付けるように頭を下げた馬超の額は土まみれだが、そんな事はお構いなしに言い切る。

曹操

「下らないわね」一瞬たじろぐも、曹操の返事は変わらない。

夏候惇

「華琳様っ!」夏候惇が曹操に何か言おうとしたところに曹操はこう続ける。

曹操

「……春蘭。今から手勢を率いて、燈馬と偵察に出なさい」

夏候惇

「……っ?偵察?」夏候惇は曹操の言葉の意味を理解して軽く微笑むと、一つだけ質問した。

夏候惇

「偵察中に賊と遭遇した場合はいかが致しましょうか?」

曹操

「それは自分で判断なさい。いちいち私に聞かないで」

夏候惇

「分かりました。燈馬行くぞ!」

馬超

「曹操……」馬超は感謝の気持ちで目を潤わせる。ソッポを向いた曹操はどことなく気恥ずかしそうだ。つまり、いわゆるツンデレな曹操なのだがやはり一にはその辺が理解出来なかった。

「あの……曹操さん。可進将軍に採用されなかった例の武器を使っても?」

曹操

「賊軍討伐用に用意していたアレね?朝廷に却下された以上、貴方個人の所有物なんだから勝手にすれば良いでしょ?それより何グズグズしてるの?早く出発なさい!」

夏候惇

「はっ!直ちに!」

「(ニカッ)言質は取りましたよ」

夏候惇

「喧しい!」夏候惇は一の襟を掴んで引き摺って、馬超と共に桃花村へ向かった。

 

 桃花村では朱里が先導して、村人達を賊から避難させていた。

朱里

「これで全員ですね。守りを固めて籠城します!」避難場所の庄屋の屋敷には既に村人のほぼ全てが籠っている。

朱里

「負傷者の救護を最優先に。後、西の櫓に増援を……」怪我人を支えながら、朱里が指示を出していると、

??

「俺が行く!」

??

「私も行きます!」聞き覚えのある声が朱里を横切っていった。更に風邪でダウンしていたハズの鈴々も戦線へ乗り出す。

朱里

「鈴々ちゃん!まさかその身体で戦に出るつもりじゃ……!?」

鈴々

「こんな時に、鈴々だけ寝てる訳にはいかないのだ……」

朱里

「でも……!」

鈴々

「……愛紗は鈴々に留守を頼むと言ったのだ。だから鈴々は絶対村を守るのだ。そして村の子達と一緒にお花見するのだ……」

朱里

「鈴々ちゃん……」

??

「……待てよ」鈴々を制する声がした。両腕をドリル化させた賢が門の前に立っていた。

「どうせなら2人で賊を追っ払おうぜ♪」軽口を叩きながら、親指で門を指し示す。

鈴々

「分かったのだ。朱里、後を頼むのだ!」賢に頷いて、朱里に真剣な眼差しを向けた鈴々。

朱里

「分かりました!お二人共ご武運を!」朱里は2人を送り出した。

 

 庄屋の屋敷の門前には、丸太を持った賊が迫ってきていた。ハンマー代わりに門を叩き壊そうとしている。

賊1

「後はこの屋敷だけだっ!一気に落とすぞぅ!」そしてとうとう門はぶち破られた。

賊1

「よぉし!……っ?」門に押し込んだハズの丸太が浮かびながら、賊達の方へ進んでいく。抱えていた何人かの賊は宙ぶらりんの状態だ。

 丸太を掲げた鈴々が門から出てきた。

鈴々

「通せない……ここは絶対に通せないのだ……フンッ!」丸太を振り回して、ぶら下がっていた賊ごと堀に叩き落とす。

賊モブ数人

「「「ウワァーッ!」」」

鈴々

「ここから先は、この張翼徳が絶対に通さないのだ!命の惜しくない奴はかかってくるのだ!」蛇矛を回転させて賊を煽る。

賊モブ

「……あれが燕人張飛か!」

賊1

「オイ!何をビビっている!?相手は一人だ!殺っちまえ!」

「張飛、ムチャするな!」賢は鈴々の肩を掴むが、止める素振りは見せない。

「乗れ。馬代わりになってやる」鈴々を賢が肩車して、2人で突撃する。

賊モブ

「二人になったぞ!」

賊1

「それがどうしたぁ!」

賊モブ数人

「「「このぉっ!」」」賊達も2人目掛けて突撃してくるが、

鈴々

「ウリャ!テェイ!ハァッ!」

「ゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラァーッ!」賢のドリルパンチと鈴々の蛇矛で次々と堀に落とされる。

賊1

「いけいけぇーっ!押しまくれっ!」しかし多勢に無勢、少しずつ押し返される。更に鈴々の意識が朦朧とし始めた。

鈴々

(熱で体が思うように動かないのだ……でも負けられないのだ。愛紗との約束を果たすのだ……村を……何としても村を……愛紗との約束を……)もう1人の賊頭が立ちはだかる。得物の斧が鈴々の蛇矛を打ち払った。

「……っさせるかよっ!」賢は鈴々を庇いながらドリルで応戦するが、疲れからか金属の硬さを維持出来ず、螺旋の溝から血を流す。

賊2

「その頸、貰ったぁ!」賊が再び斧を振り落とした瞬間、何かに弾かれた。それは愛紗の青龍偃月刀だった。

 月を背に愛紗が馬で颯爽と現れる。賊の頭を思いっきり踏みつけて、鈴々の側に駆け寄った。

愛紗

「鈴々。よく、頑張ったな」愛紗に頭を踏まれた賊は後頭部を撫でながら、立ち上がるが、またしても誰かに踏みつけられた。二度目は顔良だった。

顔良

「賢、大丈夫!?」

「何、掠り傷さ」

顔良

「もう!貴方はそうやって、いっつも強がって!」説教したかと思いきや、頭を優しく抱き寄せキスをする。

 愛紗は地面に刺さっていた青龍偃月刀を手にとり、顔良は金光鉄槌を構えて賊達へ向き直る。

愛紗

「妹が世話になってようだな。礼は十倍、イヤ百倍にして返させてもらうぞ!」

顔良

「よくも私の愛しい賢を……皆殺しよ!」2人の気迫に賊達は怯え出す。

賊モブ

「黒髪の山賊狩りまで来やがった……」かといって今更後にも引けない。

賊1

「ええい弓だ!遠巻きにして弓で仕留めろ!」賊の弓兵達が一斉に弓を構える。

賊1

「よぉーし、射てぇーっ!」正に今、矢が放たれようとした瞬間、弓兵達の手が次々と逆に矢で射たれて弓を落としてしまう。愛紗達が矢の飛んできた西の櫓を見上げると、黄忠が弓を構えていた。

黄忠

「弓ならこの黄忠がお相手しますわよ!」

愛紗

「おお、黄忠殿。どうしてここに?」

黄忠

「話は後!今は屋敷の守りを!」そんな状況で賊達が大勢で突撃したが、全員まとめて担ぎ上げられて、気孔のようなモノで吹っ飛ばされた。

履真

「来い悪漢共!『荊州の盾』と謳われた俺の力!とくと見せてやる!」履真の後ろからは沙弥と一戒が操る、鍋や釜、包丁にまな板をモチーフにした不格好な絡繰りがついてくる。

沙弥

「見かけは悪いかもしんないけど、アタシが開発した漢王朝史上、最強の絡繰りなのよぉ!」

一戒

「その名も『だいどころん』でまんねん!」

履真

「そのまんまじゃねーか!」戦闘中にも関わらず、ボケとツッコミの会話が成立している3義兄弟。

 

 

賊3

「屋敷はまだ、落ちねえのかよ?」

賊2

「他はあらかた制圧したってのに……」

賊3

「まあ良い。ちゃんと秘策を練ってある」などと話していた賊頭達の耳に、叫び声が聞こえた。

賊モブ

「敵襲だぁーっ!」馬に乗った馬超が、夏候惇が率いる黒騎龍隊と共に賊の中に突撃してくる。

馬超

「西涼が馬騰が一子、馬超推参!」

夏候惇

「者共!我らの力を見せてやれ!」夏候惇が配下に檄を飛ばす。

黒騎龍隊

「「「「はいっ!」」」」その光景に賊頭達は唖然とする。

賊3

「錦馬超に……!」

賊2

「黒騎龍……!?」屋敷の門前に居る賊達にも伝令がきた。

賊1

「何っ!曹操軍が!?」

賊伝令

「その数、およそ三十騎!」

??

「悪党共!どうやら年貢の納め時のようだな」賊達が背にしていた櫓から、何者かが叫ぶ。振り向くとそこには……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アニメとの違い
・義勇軍に顔良とオリキャラが参加。
・鈴々はここで初めて朱里を真名で呼ぶ→既に互いの真名は預けている
次回こそ終わらせたい……。
・愛紗と星は赤銅山で1度、背中合わせに闘っている→前回、賊は公孫賛の部下が倒したので初めて背中合わせになる。


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第四十一席ダンジョンあるの?、のこと

すみません、1/13日中に書き上げるつもりだったんですがかなり遅くなりました。


賊1

「誰だっ、貴様ぁ!」賊達が背にしていた櫓から、何者かが叫ぶ。振り向くとそこに居たのは1人の影。

??

「ある時はメンマ好きの冒険者、またある時は美と正義の使者、華蝶仮面。しかしてその実態は……」

愛紗

「星、来てくれたのか!」格好よく口上を決めようと(本人はそのつもり)したところで愛紗に正体をバラされてしまった。

鈴々

「星?」未だに華蝶仮面の正体に気づいていない鈴々。バツが悪いのか、咳払いで誤魔化そうとする星。

「オホン。またある時は美と正義の使者、華蝶仮面。しかしてその実態は……」仮面を外して名乗りをあげる。

「常山の趙子龍、ここにあり!」言うが早いか櫓から飛び降りて龍牙を振るい、賊達を吹っ飛ばし愛紗の側へ駆けつけた。

賊1

「この大軍の中をたった一人で駆け抜けやがるとは……!」

 

 さて賊頭3と、顔だけ毎度お馴染みの3人組、子分のABC。村では庄屋以外その存在を知らない、地下迷宮に潜っていた。

賊A

「お頭ぁ、こんな所に何の用です?」

賊3

「ヒヒッ。この地下迷宮にゃ、魔獣がワンサカと住んでてな。そいつらを開放して村を襲わせんだよ」

賊B

「さっすがお頭。やる事がえげつねえ!」

賊3

「応よ!あの義勇軍の連中にも一泡吹かせてやるぜ」

賊C

「お、お頭。呻き声が聞こえるんだな」

賊3

「魔獣共の住みかが近いんだろ?あいつら、今に見てろよ……」

 

~話は愛紗達の方へ戻る~

 

賊1

「次から次へと邪魔しに来やがって!こうなったらみんなまとめて殺っちまえぇ!」

賊モブ

「「「「応ぉーっ‼」」」」愛紗と星は背中合わせになり、戦闘態勢を整える。

愛紗

「星、背中は預けるぞ」

「その言葉、そっくり返すぞ」2人は賊達へ立ち向かっていった。

 

 この状況を櫓から見ていた朱里は、村人に指示する。

朱里

「反撃に出ます!闘える人は二人一組になって、一人の敵に当たって下さい!」

 西の櫓で応戦を続ける黄忠。傍らでは娘の璃々が矢を詰めた籠を渡す、補充係に徹している。

璃々

「うんしょ。お母さん、しっかり!」黄忠は娘に笑みを見せ、すぐに標的に視線を移し、再び弓を構える。

黄忠

「奪う事しか知らぬ賊共よ!守るべき者を持つ我が手が放つ矢を受けてみよ!」

 馬に乗ったまま、向かってくる賊を、十文字槍で蹴散らしている馬超。

馬超

「アタシは今、燃えに燃えてるんだ!火傷したい奴はかかってこい!」仲間達の闘う姿を見た鈴々は両頬を叩き、自分に気合いを入れ直す。

鈴々

「ヨシッ!こうなったら鈴々も負けてられないのだ!」蛇矛を振り回し、再び戦場へその身を投じる。賢はポケットから取り出したモノを耳に装着する。そのまま少しの間、何やらブツブツ呟いていたが、

「斗詩、張飛の援護をしてやってくれ。俺は一刀達と合流する」顔良に伝えて何処かへ移動していく。その背中を心配そうな面持ちで見送る顔良だったが意を決して体の方向を変え、鈴々を追いかけていった。

 

賊モブ

「お……お頭が殺られた!」

賊モブ

「逃げろぉーっ!あいつら強すぎるぅーっ!」とうとう賊は尻尾を巻いて逃げ出していった。 

 

 賊の頭の一人が逃げている最中、履真に取り押さえられた。首根っこを捕まれ愛紗達全員に囲まれた状態ながら、薄気味悪い笑みを浮かべている。

賊1

「イヒヒヒ……」

履真

「何が可笑しい!?」険しい顔で怒鳴り付ける履真に、賊頭は薄気味悪い笑顔のまま告げる。

賊1

「本当の恐怖はこれからだぜ。今、仲間が魔獣の群れを解放しに行っている。それも十や二十じゃねえ。そうなりゃもうこの村はお終いって訳だ……ざまあみろ」一瞬後、履真はほぼ反射的に手刀で賊頭の頸を撥ねていた。

履真

「……はっ!しまった!」

「魔獣の住みかを聞き出すまでは生かしておくべきでしたな」

愛紗

「とにかく、手分けして探そう」

 

 賊頭が遺した言葉を頼りに魔獣の住むという、地下迷宮を探す愛紗達。庄屋も以前に見たのは何10年も前だそうで、探索は難航した。それでもようやく地下に続く洞窟を発見する。

 洞窟の入口から階段を下りて、広い場所を探す愛紗達。しかし洞窟内は相当入り組んだ仕組みになっているらしく、同じような階段を何度も昇ったり下りたりを繰り返している。

愛紗

「……参ったな。これでは一刀達と合流する事が出来ない」

鈴々

「お兄ちゃん達、どうやって魔獣の住みかへ行ったのだ?」

履真

「いや、むしろあいつらも迷っている可能性も否めんな」

馬超

「先行している賊共に案内をさせているんじゃないか?」各自が様々な憶測を立てながら進んでいると、この面子では愛紗と鈴々、朱里が見覚えのある人物がいた。

??

「ん?……お主らか。よくここまで来れたの」孫家の宿将である黄蓋が縄でグルグル巻きに縛られた賊頭を拘束していた。

愛紗

「祭殿!」

履真

「貴公は?関羽殿達とは知り合いのようだが?」

鈴々

「孫策の所に居たおばちゃんなのだ!」

朱里

「はわわ、鈴々ちゃん。妙齢の女性をおばちゃんなんて呼んじゃダメですよぉ」

一戒

「せや。お世辞でも嘘でもお姉さんと呼ばなアカンで」

黄忠

「そっちの方が失礼よ」

「……まあどっちでも良いわい。(呆)儂は黄蓋と申す。江東は孫家の古株じゃ」

「孫家の人間がどうしてこんな所に?」

「義息子の野原が助っ人を頼まれての。親としてついてきたんじゃ」

馬超

「助っ人に親がついてくるって……」

沙弥

「まあ八才だしね」

顔良

「八才って……助っ人になるの?」

朱里

「確かに並の八才よりは腕は立ちますし、例の特技もありますから……」などと話していると、奥の方から奇妙な音もとい、生き物のモノらしい呻き声が響いてきた。

愛紗

「魔獣か!?」

「かなり近いぞ!」全員武器を構え、急ぎ足で声がした場所へ行く。

 

~時は少し遡る~

 戦闘中に黄蓋、幸太と合流した一刀達は一度前線を退いて、今後の打ち合わせをしていた。その時幸太の耳に地下迷宮へ向かう賊達の会話が聞こえた。洞窟に入っていくのを確認して、後を追いかけていった。

 一刀達とかち合った賊の子分ABCは賊頭に見切りをつけて一目散に逃げ出した。唯一人残った賊頭を捕らえる。

賊3

「ヒィーッ!た、頼む!見逃してくれ!魔獣の居る場所へ案内するから。それにもう二度とあの村は襲わねえ、約束する!だから……」賊頭の願いは叶えられず、ボッコボコに殴られる。挙げ句、縄でグルグル巻きにされて身動き出来なくされた。

一刀

「必要ないね。魔獣が何処に居るかは、幸太の能力で分かる」

理人

「手前ぇは俺達が戻ったら、役所に付きだしてやる。覚悟しておけ」

幸太

「こっちですね」耳を済ましていた幸太がその場所を指し示す。

「行きましょ。祭さんは義勇軍の仲間がここに来た時の為に、この辺に残ってもらえるかしら?後、誰かがこれ(・・)を見張っとかないと」

黄蓋

「儂は留守番か。まあ良かろう」

 

 洞窟の奥にやって来ると、そこは正に魔獣の楽園。この洞窟はいわゆるダンジョンだったのだ。尚、対峙しているのは未来チームだけなので、以降ここはダンジョンと呼称し、魔獣達の呼び名は横文字表記を含む事とする。

 最初に未来チームに襲いかかってきたのは食人鬼という、ワニと狼を掛け合わせたような魔獣だ。攻撃はただ噛みつくだけだが、その牙は強力で鉄ですら噛み砕くと云われている。

理人

「物理は不利だろ。俺に殺らせろ『ファイロ!』」理人の手から放たれた炎の塊が敵の数だけ増殖して、一斉に食人鬼を焼き尽くす。

 その後ろに控えていたのはメタルゴーレム。但し巨大な体躯はしておらず、見た目だけなら少女の像のよう。彼女?らは理人の炎にビクともせず、ハンマーと化した腕を振るって、彼らを殴りにきた。

「手口がワンパターンなんだよ!」ハンマーと賢のドリルが激突し、結果砕け散ったのはメタルゴーレムの腕だった。

 九頭虫という、一ヶ所に顔が沢山あるっぽい不気味な昆虫魔獣が出た。六本足で、カサカサと歩く姿が不気味さに拍車をかけている。

一刀

「ふんっ!」一刀が『加速』を使い、日本刀で九頭虫の頸を撥ねる。そのまま高速で走り回り、一匹残さず絶命させた。

一刀

「たまには活躍しないとな」と、袖で額の汗を拭きながら苦笑した。

 弓を得物にしたパーン(人間の上半身に山羊の下半身と角を持つ怪物)が団体で何本もの矢を射ち放つ。

幸太

「サウンドカッター!」超音波が斬撃となって矢を縦に斬り裂き、更にパーンを吹っ飛ばす。

 ところでこのダンジョン、洞窟内でありながら天井知らずと思えるほど、空がどこまでも広がっていた。それ故なのか、空からも魔獣が迫ってきた。

 上空から槍のように地面に突進するのはロックバードだ。

「アラん?やっとあちしの出番ね♪」自分もロックバードに化けて、同じ高さまで飛ぶと鷹の翼と人間の胴体を持つガルーダに姿を変える。

「アンドゥオラァ!アンドゥオラァ!アンドゥオラァ!」キックのラッシュが炸裂する。頭や翼を傷つけられたロックバード達は落下する。バランス感覚を失っている為、上手く着地出来ずに体を地面へ叩きつけて死亡した。

一刀

「もう終わりか?」

「思いの外、骨のない連中だったわね」1人1種族に当たり、ダンジョン中の魔獣は倒し尽くしてしまった、と思えた。そこに予想外の攻撃が襲う。

 未来チームを狙ったのはレーザーガンのような光線だった。この時代というか、世界にあるハズのないモノである。人工でないとすれば、可能性は1つしかない。

「ゲイザーか?」周りを見渡しながら、苦虫を噛み潰した顔で呟く賢。

幸太

「そうみたいっすね」幸太は耳をそばだてながら、魔獣の移動する音を確認する。

理人

「お出ましだな」その魔獣、ゲイザーの大群が姿を現し、未来チームを取り囲む。

 ゲイザーは体長こそ約50cmと小さいが、全身は真っ黒で蛸の胴体(実際の蛸は頭の上が胴体らしいが)と足に、鬼太○の目玉○父を彷彿させる頭で瞳は赤黒い、見た目のキモさはNo.1な魔獣だ。そのゲイザーが恐らく1000匹以上に囲まれた未来チーム。それぞれの能力を駆使して闘うが、倒しても倒してもキリがない。

「……ヤベェな。倒す前にこっちがバテちまう……」

理人

「俺の火力もそろそろ限界だ……」

幸太

声枯れちまった……

一刀

「ウッ!足が動かなっ……」

「……これはマズいわねぇ」未来チームが絶望していると何の前触れもなく、いきなり轟音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アニメとの違い
・賊が逃げ出した後からは完全オリジナルストーリー。
次の回こそ何とか明日中に投稿します。どうぞよろしく!(い○りや○介かっ!)


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第四十二席梅の花、咲き誇るのこと

とりあえずの最終回。またいつか再開します。


 轟音は一度ではなく、断続的に響いている。同時に爆発を起こし、ゲイザー達を粉砕していく。幸太が音の正体を探ろうと聞き耳を立てていると、音源は上空にあった。

 空に浮かんでいたのは、なんとドローンである。それがミサイルを発射している。断続的な轟音は投下されるミサイルの爆発音だと判明した。こんなモノ用意出来る人間は、この世界に一人しか居ない。

一刀

「一か」

「こりゃまた、派手な事するわねえ」一転して暢気になる未来チームを尻目に、ゲイザーは全て消滅して、紫水晶(アメジスト)に姿を変えていた。

「これは金になりますね。一粒残さず拾っておきましょう」いつの間にかみんなの前に出てきた一が夢中で宝石拾いに精を出している。一刀達の心にすきま風が吹いた。

理人

「……そういやこいつ、恋愛には疎いが金には煩かったな」

「それで人生楽しいか?……」

 

愛紗

「一刀無事か!?」やっと合流出来た愛紗達だったが、夥し( おびただ )い魔獣の死体を目の当たりにすると一気に顔が青褪める。一刻ほどしてようやく落ち着き、死者が出なかった事に安堵した。

「……ところで、心配していたのは一刀だけだったのか?」揶揄(からか)うように星が尋ねると

愛紗

「な、何を言っている!それはだな……」

「そういや一刀、アンタ劉備に妬いてなかったかしら?」

一刀

「し、知らねえよ!」真っ赤な顔の一刀としどろもどろになる愛紗を、履真、黄忠、璃々、一以外はニヨニヨしながら見つめている。

履真

「……若いな」

黄忠

「ええ。微笑ましいわ♪」夫婦は大人目線で若い2人を見守っていた。幼い璃々は何の事か分からず、キョトンとしている。一は……やっぱり恋愛には興味を示さず、集めた宝石が幾らになるか、卑しい笑みを浮かべながら計算していた。

 

 その後、ダンジョンを出て、久し振りに流華以外の我らが一行が揃った。

愛紗

「ところで、スッカリ忘れていたが……鈴々、風邪はもう良いのか?」確かに、今の鈴々に具合の悪い様子はない。

鈴々

「何かさっき、賊相手に一暴れしたら直ったみたいなのだ」あっけらかんと答える鈴々。

愛紗

「はぁ!?直ったぁ?全く、お前という奴は……」呆れてポカーンと口を開いてしまった愛紗。苦笑しながらも鈴々の頭をクシャクシャと撫でる。

 

 全ての闘いが終わり、村は朝を迎えた。我らが一行は帰路につく夏候惇と一に感謝の言葉を述べる。

愛紗

「夏候惇殿、燈馬殿。ありがとうございました」

馬超

「ホント助かったよ」

「こちらもそれなりに稼げましたし、イーブン……じゃない、お互い様って事にしておきましょう」ダンジョンで倒した魔獣達はゲイザーのみならず、全て未来チームにより皮や骨、目玉等々に解体されてしまっていた。

夏候惇

鉄製の生き人形(メタルゴーレム)の皮と、その他諸々……何をする気だ?」

「皮で武具を作成します。羊人(パーン)の角や食人鬼の歯も結構用途がありますよ」いよいよ帰ろうとした2人を、大きな塊を手にした忍が呼び止めた。

「これもお持ちなさい。ロックバードの肉よ。これが中々イケるのよ。調理法(レシピ)も挟んでおいたわ」

幸太

「旨ぇんだよなぁ~、ロックバード♪」ジュルリ、既にヨダレを垂らす幸太。

夏候惇

「却ってスマンな。戻ったら早速皆で頂くとしよう」

愛紗

「曹操殿には改めてお礼に伺います」

夏候惇

「それは……止めておいた方が良いでしょう。また閨に引っ張り込まれますよ♪」我らが一行に見送られて、夏候惇は一と共に曹操の下へ帰っていった。2人の姿が遠くに消えると、愛紗は履真達にも礼を言う。

愛紗

「履真殿も黄忠殿もありがとうございました」

履真

「気にするな。借りを返しただけだ」

黄忠

「ええ。少しでも恩返しが出来たのなら嬉しいです」みんなが和やかになっていて、良い雰囲気の中、鈴々が素朴な疑問をぶつけてきた。

鈴々

「ところで、星は何で華蝶仮面なんかになっていたのだ?」

「うむ。実はお主達とはぐれた後、私は空から落ちてきた光の玉に当たって、一度死んだのだ」

全員

「えぇぇぇーっ‼??」驚きを隠せない一行に星はしれっと話し続ける。

「その光の玉は実は天からの使いだったらしく、『申し訳ない事をした趙雲。その代わり私の命を君にあげよう。君と一心同体になるんだ。そして天下の為に働きたい……』そうして新たな命を与えられた私が目覚めると、枕元にこの仮面が……それ以来私はこの仮面を着けて華蝶仮面となり、正義の為に闘っていたのだ」

一刀

(どっかで聞いた話だな……)

(ああ。あの、3分しか保たない銀色のヒーローね)

理人

(こいつ、実は俺達と同じ世界出身なんじゃないか?)もう呆れきって何も言う気になれない未来チーム。一方、愛紗達は半ばこの話を信じているらしく

愛紗

「何と不思議な……」

馬超

「趙雲、それって本当なのか?」

「イヤ、嘘だ」アッサリ種明かしした星に一同……特に約2名が殊更大袈裟にズッコケる。

沙弥・一戒

「「ポペーッ!」」

愛紗

「……相変わらずだなぁ、星(苦笑)」

 

~ここから水鏡によるナレーション~

 

 劉備率いる義勇軍が、村に戻ってきたのは、それから三日ばかり経ってからの事。元より無謀な策だった上、関羽、馬超の勇将を欠いては成功するハズもなく、無様に敗れた劉備は朝廷の威信を傷付けたと、可進から強い叱責を受けたのでした。結局、曹操の策が容れられ、反乱は見事沈められたのですが、それはまた別のお話。

 

~水鏡ナレーション終わり~

 

劉備

「や、やあ。皆、無事で何より♪勢揃いでお出迎えとは痛み入る。ほほう、私の知らない新顔も……」桃花村に帰ってきた劉備は敗けたにも関わらず、平然としている。その無神経さに全員が冷たい視線を向けている。だが履真と黄忠の夫婦を見た途端に劉備の態度は一変する。

劉備

「ん……?ゲッ!履真と黄忠!お主らがナゼここに!?」

黄忠

「……どうして私達の名を?」

一戒

「せや。どういう事でっか?」すると履真に抱っこされていた璃々が劉備を見て叫んだ。

璃々

「あーっ!悪い人!」

履真

「ん、何だ?」

璃々

「えっとね……」璃々は耳打ちして履真に告げる。それを聞いた履真は、忽ち鬼の形相になった。

劉備

ヤッベェーッ」馬に跨がり逃げようとした劉備だが、幸太が発した超音波で馬が方向を見失い、見事振り落とされる。

幸太

「観念しろ劉備。いや、青木幹人!」幸太の言葉に未来チームは驚き、愛紗達は何の事かと首を捻る。

愛紗

「幸太、こいつは一体?」この質問には幸太に代わり、忍が答える。

「こいつもあちし達と同じく、この世界に現れた異世界人よ。しかも殺人犯。能力は『盗み』(フラリ)物だけじゃなくて、人体の一部も他人から盗めるの」

幸太

「そして……」幸太は劉備の顔に手を掛けて、面の皮を剥ぎ取る。その顔は未来チームがよく知る大罪人、青木幹人だった。

「青木。アンタ10年ほど前に、ある一家を皆殺しにしてるわね。尤も唯1人、生き残ったけど」

青木

「何……ま、まさか……?」忍に過去をバラされた青木は改めて愛紗を見る。

愛紗

「そ、それじゃ……」

「ええ。愛紗ちゃんのお兄さんに似ていたのも当然。その顔の皮を剥いで、自分の顔に張り付けていたんだもの」ショックで目が虚ろになる愛紗。

(ホントはこんな事伝えたくなかったのよね。でもそうしないと、この娘はいつまでも前に進めないわ)忍は悲しそうなため息を吐いた。

一刀

「逃がすかよっ!」

「青木ぃ、貴様ぁ!」

理人

「丁度良い。手前ぇはここでぶっ殺す!」お冠の賢と理人。未来チームで最も温厚な一刀ですら殺る気満々である。

履真

「ちょっと待てや。小僧共」ナゼか履真が未来チームを制した。

履真

「こいつは俺が殺る。手ぇ出すんじゃねえぞ……」静かだが、有無を言わせない怒りが滲み出ている履真に、ゾッとする未来チームだった。

愛紗

「……履真殿、その男は私に始末させてくれ……」愛紗が履真と青木の間に入る。その身に履真にも負けず劣らずの怒りを溢れさせている。

履真

「関羽。お主もさぞ恨めしかろう。だがこいつは娘を、璃々を誘拐して妻に暗殺をさせようとした一味の黒幕だったんだ。だから俺が殺る」この言葉にまたしても全員が驚く。

青木

「ヒィィッ。助けてくれぇー!」

履真・愛紗

「「断る‼」」愛紗は青龍偃月刀で、履真は気功波で青木を滅しようとした。それを止めたのは意外にも庄屋だった。

庄屋

「関羽殿、履真殿。お気持ちはよーく分かります。ですが、この男を楽に死なせてはなりませんぞ」それから庄屋は、愛紗を諭すように提案する。

庄屋

「それより一生かけて、罪を償わせた方が兄上様も浮かばれましょう。こんな男を殺っても、ムダに手を汚すだけですぞ」庄屋の説得を受けて、やむなく青龍偃月刀と拳を下ろす愛紗と履真。そして、劉備改め青木幹人は役所へ連行された。もう2度と古郷の土を踏めずに、この世界で生涯を終えるのだろう。

 

馬超

「良かったな。あんな奴に唇奪われなくて」愛紗に起きた、あの夜の出来事を突っつく馬超。

愛紗

「み、み、見てたのかぁーっ!?」

一刀

「そ、そ、それで!?」馬超のセリフに、前のめりする一刀。

馬超

「もうチョイってトコで突き飛ばしちゃうんだもんなぁ(ニヨニヨ)」

一刀

「フゥー」安堵のため息を吐いた一刀の肩に賢、忍、理人の手が乗せられる。

「何だ何だ?何の話だ?」

鈴々

「教えてほしいのだ」

愛紗

「そ、それはその……あの……(恥)」

「アラ♪一刀ってば、何に安心してるのかしら?」

理人

「(ニマッ)詳しく聞かせてもらおうか?」

「で、実際のところどうなんだ?」一刀も友人達に詰め寄られる。

一刀

「う、煩い!俺の事は放っといてくれ!」針のむしろだった一刀と愛紗だが、タイミングよく朱里がみんなを呼びにきた。

朱里

「皆さーん、お花見の用意が出来ましたよぉー」

 

 季節は春を迎えていた。桃の花が咲き誇る中で酒を酌み交わす我らが一行。但し、幼い璃々と幸太、鈴々と朱里に、実は全くの下戸である履真は桃を絞った果汁を飲んでいる。対して酒豪の祭と黄忠はやや早いペースで呑み続ける。星もかなりの酒豪であり、これまた好物のメンマを肴にご満悦である。鈴々は馬超と早食い勝負を繰り広げ、賢と顔良は所構わずイチャつく。理人と忍は鈴々義勇軍のリクエストに応え、子供達を背に乗せて空を飛んで遊ばせる。そして、一刀と愛紗は……その講釈はまたいつの日か。

 

 

声の出演(登場順)

北郷一刀

・水原宇宙(ドラマCDのみ)

関羽 

・黒河奈美

張飛

・西沢広香

公孫賛

・河原木志穂

趙雲

・本井えみ

袁紹

・加藤雅美

文醜

・神崎ちろ

顔良

・羽月理恵

曹操

・前田ゆきえ

夏候惇

・浅井晴美

馬超

・小林眞紀

夏侯淵

・吉田愛理

荀彧

・壱智村小真

陳琳

・吉田仁美

馬騰

・岩崎征実

可進

・折笠愛

董卓

・いのくちゆか

賈駆

・友永朱音

呂布

・萩原えみこ

華雄

・西沢広香

諸葛亮

・鳴海エリカ

水鏡

・麻上洋子

許緒

・澄田まりや

張遼

・茂呂田かおる

孫尚香

・ひと美

黄忠

・雨宮侑布

田豊

・花澤さくら*1

璃々

・澄田まりや

陳宮

・結本ミチル

孫権

・櫻井浩美

孫策

・米島希

孫静

・山口由里子

周瑜

・瑞沢渓

黄蓋

・MARIO

甘寧

・田中涼子

(偽)劉備(青木幹人)*2

・関智一

 

オリキャライメージCV*3

藤崎忍

・矢尾一樹

摩昴

・和氣あず未

燈馬一

・石田彰

高坂賢

・櫻井孝宏

伍代理人

・平田広明

長岡流華

・藤原啓治

野原(神)幸太

・田中真弓

一戒

・たてかべ和也

沙弥

・八奈見乗児

履真

・野沢雅子

丁原

・島本須美

面珍

・中西妙子

孫羌

・柴田秀勝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
アニメ及びコンシューマーゲームには登場していないのでPC版のCV

*2
青木幹人はオリキャラだが、本作では(偽)劉備と同一人物なのでこちらに表記

*3
柴田秀勝と藤原啓治以外、モデルになった元キャラの登場作品アニメ化による。




アニメとの違い
・偽劉備はまんまと逃げおおせ、その後の消息は不明→逮捕されて役所へ連行される。
偽劉備の正体は不明→未来チームの世界の犯罪者、青木幹人と判明
・ダンジョンの存在。
次回から原作の呉編を、全く違う作品とクロスオーバーさせてお送りします。予想があればメッセにどうぞ。


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アニメ第2期編
第一席義勇軍、大活躍のこと


長らく放ったらかしにしていましたが、久し振りにこちらを更新します。


~水鏡ナレーション~

 

 時は2世紀も末の頃、乱世に蔓延(はびこ)る悪を斬り裂かんと、美しき黒髪をなびかせ、青龍偃月刀を振るう関羽。ひょんな事から異世界より舞い降り、運命を共にする北郷一刀。

 その関羽と、固い姉妹の絆で結ばれた張飛。

 不思議な縁に( えにし )導かれ、二人の下へ(つど)った趙雲、馬超、黄忠とその夫、履真。履真の義弟、沙弥と一戒。そして諸葛孔明。更に一刀の仲間達。藤崎忍、高坂賢、伍代理人、野原幸太。無双の姫達と野郎共の闘いが今、再び……

 

 ガヤガヤ。義勇軍がこの桃花村に腰を落ち着けてはや数ヵ月。今、村はちょっとした賑わいを見せている。その理由はダンジョンの存在だった。因みにこの世界で、ダンジョンは魔窟と呼ばれている。

 言わずもがな、魔窟に住む魔物は倒すと金銀宝石と化して、売れば金になるのでここいら近辺を拠点にしている冒険者達が魔窟のお宝目当てに、こぞってこの村を訪れる。人が集まればそれだけ村にお金を落とす者もいる。その為、村が賑わっている。

一刀

「魔窟に入る人はこちらで受付を済ませてからにして下さ~い」

「魔窟の案内書を売ります。後、武器や鎧兜の手入れもこちらで承りま~す」

朱里

「素材の買い取りはこちらで~す」一刀、忍、朱里が中心になって魔窟の運営を行っていた。段々と豊かになった桃花村が、市に格上げされるのも近いのではないかと思われた。

 

 しかし世の中、そんなに甘くない。人が多く出入りするという事は、それだけ厄介事も増えるのが世の常である。そしてあわよくばその豊富となった財源ごと村を奪おうと、盗賊が攻めてきたのだった。

 

盗賊達

「うおおおぉぉぉぉーっ!」 これに果敢に向かうのは義勇軍。先陣を切った盗賊軍を迎え討つのは馬超隊と鈴々隊。馬超は馬に乗ったまま、槍を振るいながら敵の進軍を防ぐ。

馬超

「村を襲う賊共め!この錦馬超が相手をしてやるぜ」その頃別動隊の盗賊の先鋒は、猛豚将軍こと鈴々に蹴散らされていた。

鈴々

「おりゃおりゃーっ!鈴々様のお通りなのだぁーっ!出てこい大将!鈴々と勝負するのだぁーっ!」この様子を見て、今回は盗賊の大将格の役で登場した、いつものABCは絶望していた。

賊A

「チクショー。これじゃ身動きが……」

賊B

「……このままじゃ先鋒は総崩れですぜ」

賊C

「狭い谷に誘い込んだのは、罠だったんだな……」

賊A

「一旦退くぞぉ!広いところに出て反撃だぁーっ!」その叫びを合図に賊共は撤退していく。

鈴々

「コラーッ、逃げるなぁ!みんなぁ追撃するのだーっ!」興奮気味の鈴々を様子を見にきた履真が静める。

履真

「張飛待てよ」因みに履真と鈴々は、未だ真名を預け合っていない。

鈴々

「何で止めるのだ履真おじちゃん?今が好機なのだ!」

履真

「……って孔明殿の策、忘れたのか?」

鈴々

「あ。そうだったのだ……」

履真

「後はみんなに任せっぞ」

鈴々

「うん」

 

 谷を出ようと、方向転換を始めた賊共だったがそこには黄忠率いる弓兵部隊が控えていた。

黄忠

「孔明ちゃんの読み通り、こっちに逃げてきたわね……」草むらから'黄'の旗が立ち上がり、同時に黄忠率いる弓兵部隊が姿を現す。

黄忠

「賊共よ!武器を捨てて下ればよし。歯向かうならば黄忠が弓の餌食となれ!」

 

 別ルートを逃げるABC。

賊B

「お頭!伏兵がっ!」

賊A

「クソォッ、嵌められたか!?」ドン!ドン!ドン!崖の上から銅鑼の音が鳴り響く。見上げると趙雲隊が待ち構えていた。

「……今だ」星の合図で押された丸太は、ABC目掛けて崖を転がっていく。

賊ABC

「「「のわぁぁぁぁーっ!」」」

賊A

「走れっ!」だが、そうは問屋が卸さない。丸太の後方から馬で駆け下りる星が、賊共目掛けて跳ね上がる。

「地獄への道案内、この趙子龍が務めてやるぞ!」最後には3人だけになってしまった賊一味。流石に諦めて、尻尾を巻いて逃げようとしたが

賊C

「もう俺達しか残ってないんだな……」

賊B

「お頭、あれを!」お頭と呼ばれた賊Aが前方を見ると『関』の旗の揺らめきと共に、人影が姿を現した。

賊A

「関?関の旗……という事は?」その一瞬後、人影の姿がハッキリと見えた。賊達に顔を向け、睨み付ける

賊A

「ゲェッ!関羽!?」その人影の正体は関羽こと愛紗だった。

愛紗

「乱世に乗じて民を強いたげんとする賊共め!我が青龍偃月刀の……さびとなれ!」

 

 一方、履真は盗賊の問題を愛紗達に任せて、今日は未来チームに稽古をつけていた。念のため言っておくが、今日はたまたま愛紗達が盗賊退治に出張った訳であって彼らは前回、村を襲いにきた魔物を悉く( ことごと )屠っている。その為、今回は彼女達に活躍の場を譲って、自分達は訓練に徹しようとしたのだが……

一刀

「加速!」高速で日本刀を振りかざし左から攻める一刀だが、常人には目で捉える事すら出来ない刀の閃光を人差し指と中指だけで押さえ込む。同時に腕をドリルに変化させた賢が右へ回ったが、これも履真は手のひらを盾にして防いでしまう。

理人

炎車輪(えんしゃりん)!」燃え盛る炎の輪っかを履真に投げつける理人。だがそれも足でいなされる。更に両手から気功波を放ち、一刀と賢を吹っ飛ばす。

一刀

「嘘だろ……」

「……このオッサン、マジ強ぇよ」

理人

「ホントに40過ぎのオッサンかよ……?」

幸太

「俺が行く!」幸太は普通の人間には聞き取れない声を咆哮へ変えて履真に放とうとする。一種の音響爆弾だ。しかし履真の行動が一瞬早く幸太の口を塞ぎ、音響爆弾が口内で爆発して自滅する幸太。

「もうあちししか居ないわね……」忍は以前、この村のダンジョンで発見したゲイザーに変身してアイビームを浴びせる。これには流石の履真もダウン……と思いきや履真は咄嗟に、気功で作った膜で身体を覆い、難を逃れていた。最後は大の若い男が5人がかりで(子供も居るが)中年親父1人にボッコボコにされるという結果に終わった。

 顔良はリタイアした賢に薬を塗る。2人は相変わらず仲の良い恋人同士だ。幸太は義母である祭が診ている。

顔良

「もう!相変わらず無茶するんだから……」

「ホレ、こっちへ来い。母が治療してやろう」この様子をジッと見物していた履真の娘、璃々は手をパチパチ叩いて喜んでいる。

璃々

「お父さん、強ぉーい!」子供ならではの悪意ない一言にがく然となる男達がそこに居た。

沙弥

「あ~らら。こりゃまた派手にやられちゃったわねぇ」

一戒

「兄貴相手に勝てる訳あらへんねん」履真の義弟、沙弥と一戒はズタボロな一刀達を見てせせら笑うが、

一刀

「加速!( アッケラーティオ )

「変身!( トランスフォーム )ジャガー!」

「ドリルアーム!」

理人

「火炎放射!」

幸太

「……低周波」憐れ、日本刀を持つ一刀に追い回され、忍が化けたジャガーに噛みつかれ、賢に身体を穴だらけにされそうに、理人に焼き殺されそうになり、全身に流れる低周波に悶絶する沙弥と一戒。挙げ句、義兄に拳骨を喰らいアメリカンクラッカーのような涙を溢すバカ2名であった。

 

 その夜、庄屋の家では祝勝会が行われた。みんなが酒や料理に舌鼓を打っていると、できあがった庄屋が彼らを誉めちぎる。

庄屋

「イヤぁ、この辺り一帯に巣食っていた賊達も殆ど退治され、めでたい限り。これも皆さまのおかげと村民一同感謝しております」酔っているわりに足取りも軽く朱里の座る椅子の後ろに回ると

庄屋

「とりわけ、高祖劉邦を助け漢王朝の礎を作った陣平に劣らぬ孔明殿の知謀の数々。この庄屋、誠に感服致しました!」

朱里

「そんな!私なんてまだまだ……」恥ずかしそうに顔を赤くする朱里だが

愛紗

「そう謙遜する事はない。我ら義勇軍の勝利は、孔明殿の策に逐うところが多いのは事実だ」

「まあ、愛紗が一番おいしいところを持っていく場合が多いのはちと不満ではあるが……」と、気取って話す星だったがメンマ山盛りの自分の皿に、馬超が箸を伸ばすと、物凄い形相で睨み付ける。

「(ギロッ!)」

馬超

「ヒッ!」庄屋はそんな2人を放っておいて、話を続ける。

庄屋

「いやいや。関羽殿と並んで、北郷殿、藤崎殿、趙雲殿、野原殿、黄蓋殿、馬超殿、高坂殿、顔良殿、伍代殿、黄忠殿と我が桃花村の義勇軍は強者揃い!」

鈴々

「ん?鈴々が入ってないのだ!」抗議しようとする鈴々だが、庄屋は気にする事もなく捲し立てる。

庄屋

「中でも!戦場を豚に乗って駆け回る張飛殿の姿は勇ましく、兵達に猛豚(もうとん)将軍とよばれているとか!」鈴々はこの言葉に気を良くして

鈴々

「にゃはは~。そんなに誉められると照れるにゃーなのだぁ」

庄屋

「しかしこれも全て履真殿が陰になり、日向になり、義勇軍を纏めて下さるからこそ!」偽劉備こと青木幹人が抜けた義勇軍は、表面上のトップは居ないが実質は最年長の履真が仕切っていた。

履真

「止せよ。誉められんのはガラじゃねえ」

朱里

「いいえ。履真さんが大将だからこそ、兵の皆さんもついてきてくれるんです」履真のカリスマ性は他を惹き付ける魅力があった。ある種の人間たらしともいえる。

 一方で鈴々と馬超、沙弥と一戒は皿の上に1つだけ残った焼売を奪おうと、互いに箸をぶつけ合う。そして4人揃って履真に拳骨を落とされる……

一刀

(懲りないオッサン達だなぁ……)

「アラ?幸太、アンタは焼売の取り合いしないの?」誂うように忍が聞いた。

幸太

「やる訳ないっすよ。璃々だって見てるのに」流石に、自分より小さい子が居る前ではみっともないと思ったのだろう。

幸太父?

『だったらみっともなく焼売を奪い合っていたこの4人って一体……』

朱里

「あっ鈴々ちゃん。ほっぺに何かついてますよ」鈴々の頬に汚れを見つけた朱里が、手拭いで拭き取ろうとした。

鈴々

「止めるのだ~朱里。自分で出来るのだぁ」恥ずかしそうに朱里をはね除けようとする鈴々。

璃々

「鈴々お姉ちゃん、子供みたーい」璃々はそんな2人を見て、キャハハと笑う。が、ここで履真と黄忠の夫婦が急に厳しい顔つきになり璃々を咎める。

履真

「こら璃々。いくら親しい間柄といっても許可も得ず、真名を呼んではダメだろう?」

黄忠

「そうよ……ちゃんと張飛お姉ちゃんと呼びなさい」

璃々

「え~。だって鈴々お姉ちゃんいつも自分の事、鈴々って言ってるよぉ」

履真

「それでもだ。許しもなしに呼んだら、何をされても文句は言えんのだぞ」

鈴々

「別に良いのだ」

履真・黄忠

「「えっ?」」

鈴々

「璃々はもう家族みたいなものだから、真名で鈴々と呼んで良いのだ」

黄忠

「良かったわね。璃々」

璃々

「うん!鈴々お姉ちゃん大好き!」黄忠は娘に微笑み、履真も頭を優しく撫でる。そうして食事の席はしばし和やかな雰囲気に包まれた。

 

 それから一刻(いっとき)(約30分)後、履真は全員に庭へ集まるよう指示した。

愛紗

「履真殿……我らを召集して、一体何を?」

履真

「ああ。晩メシの時に考えついたんだが、俺達が義勇軍を結成して数ヶ月。この際、互いに真名を預け合わないか?」

 

 

 

 

 




切り方が変ですけど、これ以上は長くなりそうなので真名を預け合うのは次回に持ち越しにm(・・)m。後、こちらはドン亀更新が予測されるのでご了承を。


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