頭チワワな狼に優しい葦名 (破戒僧の右腕の袖)
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御子さまが危ない。あと父のおはぎは美味いぞ。

初めまして。こういうの初めてで凄い緊張してます。
評価やコメントして貰えると嬉しいです!!!


葦名。

日の本でも辺境にあるこの国には、それは尊き水が流れ落ちる地だという。

 

【源の水】

 

山を育てればどんな場所よりも豊かになり、酒を作れば天上の物となる。

そんな国のある井戸の底、一人の男が項垂れていた.....。

 

カサッと、何かが落ちる音がした。

目をゆっくりと開けた男は、己が使命を思い出す......。

 

そうだ、我が主を.......取り戻さねば.....。

父上からの、鉄の掟を......果たさねば......。

 

思い起こすは、自分に生きる意味をくれた、義父の姿.....。

鉄の掟とは......そう.....。

 

『狼よ、父がおはぎを作ってやった。たんと食べ、立派な忍びになるのだ』

 

違う。確かに父のおはぎは美味かったが、今はそういう時ではないぞ狼よ。

 

『うむうむ。腕を上げたな狼よ。おぉ.....怪我をしてしまったか.....早う手当せねばな.......。とりあえず道玄に見せねばな』

 

違う。すり傷程度で大袈裟な父の姿は確かに印象的だが違う。

 

『うぃぃぃ.....我は梟だぞぉぉぉ.....おお!!狼よ!!こっちへ来い!!父に酌をしてくれぇぇぇ......何故か手が震えるのじゃぁぁぁ.......』

 

これも違う。何故ああも酒に弱いのかは不思議だが違う。

そうだ。そういえば父がおはぎの包みを持たせてくれたのだったな。

 

「むぐむぐ.......。美味い.......。」

 

よし。元気も出たぞ。これで主を救いに行ける。

そうとなれば早めにここを抜け出そう。

足を滑らせてから記憶が無いがまぁなんとかなるだろう。

 

 

 

 

 

なんやかんやあってコソコソと月見櫓に来た狼。

御子様が本を読んでおられる.....。

 

「......ん?おぉ!!狼よ!!来てくれたのだな!!」

 

御子様が抱きついてこられたので、少し驚いてしまった。

 

「驚かせてしまったかの?お主は可愛いから仕方ないのぉ♪」

 

頭を撫でられると父を思い出す.....。

力が強かったがとても安心したものだ。

 

「うむ、お主が来たならもうここにいる理由もないの。狼よ、これを受け取れ」

 

そう言って、御子様が刀を差し出された。

 

「狼よ.....今一度、我が忍びとなってはくれまいか?」

 

「御意」

 

父上から「とりあえず言っておけば良い」と学んだ御意で刀を受け取る。

この少し短いくらいが振り回しやすいのだ。

 

 

 

「ふふふ......そうだ.......お主は、ワシの物なのじゃ.......」

 

 

 

葦名の兵を掻い潜り出口でアシの葉笛を吹こうとしたら後ろにいた御子様と一緒に出口を歩く。

 

「のう、狼よ。ここを抜けたら、どこへ参ろうか.....」

 

「御子様と一緒ならば、どこへでも......」

 

「んっ......そ、そうかのぉ?では、どこかで茶屋でも開くとするじゃのう♪」

 

茶屋か.....。良いかもしれぬ......。おはぎが食える......。

 

 

 

「久しいな、御子よ」

 

ススキ野原で立ち尽くす侍と思しき者が語りかけてきた。

 

「叔父上の墓前以来か.....」

 

「弦一郎殿....」

 

御子様とお知り合いのようだ。

しかしあのような大弓を背負って重くないのだろうか.....。

御子様が前に出ようとなされたので、手を出す。

 

「御子さま.....危ないでございまする.....」

 

「狼....頑張るのじゃぞ!!!」

 

「お任せを」

 

刀を抜くと、弦一郎殿も刀を抜く。

 

「邪魔立てするか、御子の忍b「フレー!!フレー!!オ・オ・カ・ミィィ!!!」喧しいぞ竜胤の御子!!!」

 

御子様の声援を.....もしや羨ましいのか.....。

そうか!!弦一郎殿は御子様を好いて居られるのか!!

 

「弦一郎殿よ.....男色はいけませぬ」

 

「何を勘違いしている御子の忍び!!もういい!!葦名弦一郎、参る!!」




こんな感じです。好き勝手やってんなこいつらなぁ


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腕が飛んで御子様が連れていかれてしもうた......。皆に、置いていかれてしもうた......。

久方ぶりじゃなぁ.....来ぉい!!!(コメント&評価待ってます)


数回刃を交えて分かったのは、この男の信念の強さだ。

刀の一振一振に、己が魂を掛けるが如き意志を感じる。

そして何より、恐ろしく強い......!!

 

刃と刃の正面からのぶつかり合いにより、火花が散り一瞬明るくなり、目が焼ける。

その隙を見て御子様に心を寄せる男が空へ飛び立ち、背中の大弓で矢を放ってくる。

地に囚われず縦横無尽に駆け巡るその在り方は、侍よりも忍びに近しいように思えた。

 

上手く弾けず矢を受けてしまい、体勢が崩れる。

顔を顰めてしまい一瞬視界が狭まる。これは良くないと思い目を開いた瞬間、

 

―――己が左腕が、飛んだ

 

急な出血と痛み、半身の喪失による重心の傾きに耐えられず倒、れ込んでしまう。

 

「忍びとてこの程度か......」

 

刀を鞘に納めた男は、既に自分に興味がないようだ。

 

「御子は頂いて行くぞ......」

 

あぁ.....御子......様......。

 

 

狼ぃぃぃぃぃ!!!!!

 

御子様....!?危ないでござりまする!!

 

「狼ぃ!!大丈夫か!?う、腕が!!あぁどうすれば良いのじゃどうすれば良いのじゃああああ!!!」

 

「弦一郎様.....申し訳ありませ......」「狼ぃ!!狼ぃ!!」「ぐえぇ!?えぇ...!?」

 

御子様が鷹の様な面をした忍びを締め上げながらお声を掛けてくださる.....申し訳ございません......御子様.......。

そんな思いと共に、意識が沈んだ。

 

 

 

 

「あぁ.......狼ぃ.......」

 

「竜胤の御子よ......」

 

涙を流し、忍びに声を掛ける竜胤の御子を城に連れていこうとする葦名弦一郎。

 

「来い、竜胤の御子よ」

 

「嫌じゃ!!狼も一緒じゃ!!」

 

しかし動かない。仕方ないと思い力ずくで.....

 

「ぐんぬうううううう!!!!」

 

「狼ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

だが強いッ!!圧倒的怪力ッ!!地面の岩に掴みかかりどうにか狼から離れまいとする竜胤の御子ッ!!

動かざること山の如しッ!!これには葦名の国現当主であらせられる葦名弦一郎も冷や汗をかいたッ!!

 

(ま、まさかここまで手を焼くとは思わなかったが、これも葦名のため。どうにかして連れてからねば!!)

 

「いい加減にしろ御子よ!!お前の力で葦名を救わねばならんのだ!!」

 

「嫌じゃ!!狼を犠牲にする国など滅んでしまえ!!」

 

「何ぃ!?!?」

 

とんでもないことを言い出した御子に頭が痛くなってきた葦名弦一郎。そろそろ締め上げられている寄鷹衆の息の根が止まりそうなこともあって早く連れていかねばと思っていたその時、弦一郎の頭に巴の雷が落ちた!!

 

「御子よ.....無駄な抵抗はやめた方がいい。城で大人しく、忍びの助けを待った方が良いのではないか?」

 

「狼の.....助け.....?」

 

その時御子の頭の中に妄想がほわんほわんと浮かぶ。

 

 

 

『御子様、お待たせいたしました......もう二度と離しはしませぬ......』

 

『あぁ、狼....!!』

 

顎クイされるときめき顔の御子に、狼が追い打ちをかける。

 

『御子様......いえ、九郎様......』

 

『はう!?』

 

ときめきポイントその1!!名前呼び!!

普段名前を呼んでもらうことのない御子にはこうかはばつぐんだ!

さらに狼はおもむろに御子に抱きついた!!

 

『我が将来の、伴侶となっていただきませぬか.....』

 

『はうはう!?』

 

ときめきポイントその2!!抱きしめ告白!!

相手の心臓の鼓動を感じながらの愛の囁きに御子はもう骨抜きだ!!

 

そんな感じで囚われの姫ポジになれることを察した御子は、手のひらを返した様に弦一郎を連れて葦名の城に飛び込んだ。

 

「さぁ狼よ、ワシを助けに来い!!」

肘掛に肘を掛け、不敵に笑うその姿は、もはや魔王のようであったという。

 

(こ、これも葦名のため.....)

 

その近くには、胃痛に悩み道順に胃薬を頻繁に頼む当主の姿もあったり無かったり.....。




全く話が進まねぇ!!


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顔が怖い仏も良いと思う。あと瓢箪の薬は甘いぞ。

あけおめって感じー?


木を削るような音で目が覚めた。

自分は確か、御子様を想う男に敗れて......。

 

「気が付いたようじゃな.......」

 

不意に声をかけられ、そちらを見ると、片手で木を彫るみすぼらしい風貌の男が居た。

 

「お前は.......?」

 

「目が覚めたなら、どこへでも行け」

 

男は気だるそうにそう言い、意識を木に向けた。

 

「わしは仏を、掘らなきゃならん.......」

 

仏を彫っているのか......ということはこの男は仏師か?

見渡してみると、そこには夥しい量の仏が乱雑に置かれていた。

 

「これは全て......お前が.......?」

 

「.......そうじゃ。どうしても、仏様の顔が鬼になってしまうんじゃ」

 

そう言われ仏の顔をよく見てみると、確かに怒っているような顔に見える。

普通はこんな仏には違和感を感じるものだと思うが、狼的にはあまり悪い物には見えなかった。

 

(仏も、怒ることがあるのだな)

 

そんなことが頭を過ぎった。

そこから色々な話を聞いた。自分は長い間気を失っていたこと。御子様はまだ生きておられること。御子様は体に流れる特殊な血が理由で狙われていること。そして.......

 

「この格好の良い左腕は......なんだ?」

 

そう、何やら心をくすぐるここ左腕のことを聞いた。

自分は御子様を想う男に左腕を落とされてしまったはずなのだが、何やら格好が良いからくりの左腕が付けられている。やだ、格好良い。

 

「格好の良いか......ははっ、中々面白いことを言うな.......あやつが聞いたらさぞ喜ぶだろうな」

 

「そいつはな、忍び義手。牙を折られた狼には、打って付けの牙じゃろうて.....」

 

「忍び......義手......!?」

 

響きまでもが格好良い。狼はキュンキュンしまくりだ。

 

「仏を彫るには無用でな。お前さんにくれてやる」

 

「良いのか......!?」

 

なんと太っ腹なことか。狼の中で仏師の好感度がもりもり上がっていく。そのせいか怒り顔の仏様もなんだか可愛く見えてきたぞ。

 

「寺を出て右に行ったところに、お前さんと同じような奴が居る。顔を見せてみたらどうじゃ」

 

そう言われ、早速寺を出てみると、お淑やかな女性に声をかけられた。

 

「本当に、目覚めたのですね.......」

 

女性は少し驚いた顔をして、自分の方に歩いてくる。

 

「私はエマ。薬師をしている者です」

 

女性......エマはそう言って懐から瓢箪を出してきた。

 

「九郎様から、渡し忘れたからと.......」

 

少し呆れたような顔をして瓢箪を渡してきた。何は何やら水が入っているようだった。

 

「これは.....?」

 

「私が作った、薬水の瓢箪です。中の薬水を飲めば、傷が治まります」

 

なんと便利なことか。薬師ということはお医者様なのだろうか。

 

「かたじけない.......」

 

「中は既にいっぱいにしてありますし、飲み干しても少しすればまた湧き出しますので、安心してください」

 

そう言いながら、またもや懐からなにか出してきた。

 

「丸薬です。薬水を飲むほどでも無い怪我を治すのにお使いください」

 

「ありがたい」

 

「それにお守りのおくるみ地蔵です。私が包んだのですよ?どうぞ」

 

「う、うむ」

 

「それから......」

 

このお医者様は少し過保護なのかもしれない。患者想いの良い人なのだろうが.......。

 

「少し顔を見ますね?」

 

そう言って頬に手を当て、顔をマジマジと見つめて来た。整った顔をしているなと思っていると、お医者様から質問をされた。

 

「ここの白い痣は、生まれつきではありませんよね?」

 

「白い痣があるのか......?」

 

確かに自分に白い痣があるなど聞いたことは無い。お医者様はそんなことも分かるのだな。

 

「ではやはり竜胤の影響か......あ、もう良いですよ。よくできましたね......んっ、届きませんね。少し屈んでくださいませんか?」

 

そうお医者様が言ったので、少し屈む。まだなにか有るのだろうか。

 

「よしよし。よくできましたね」

 

撫でてきた。なんだか、最近よく撫でられるなぁと思う。

しかし、この少し強引な診察......どこかで覚えがあるような.....?

 

とりあえずお医者様からの診察は終わった様なので、挨拶回りの続きをしに行くことにした。お医者に礼を言って、先程仏師殿が言っていた右の道を行ってみることにする。

 

「昔から変わりませんね。貴方は......」

 

後ろから、なにか声が聞こえた気がした。

 

 

 

右の方に行くと、顔の半分を面のような物で隠した侍と思われる男が佇んで居た。

 

「見慣れぬ顔だな......?」

 

男は自分に気づいたようだ。

 

「其処許、名はなんと言う?」

 

名を聞かれたが、あいにく自分は名を持ち合わせては居ない。何故か周りには狼と呼ばれるのだが。

あと義父上に知らない人に名前を教えちゃダメと言われているから、言わないようにしておく。

 

「明かせぬ.....」

 

「ふむ......さては忍びか?」

 

バレた。

 

「忍びの技なら......あるいは......?」

 

そう呟くと男は、刀に手をかけた。

反射的に自分も刀に手をかける。

 

「其処許よ。是非、それがしと.......立ち会ってもらおう!!」

 

男が刀を抜いて向かってくる。

やはり知らない人に名前は教えちゃダメだ。と狼は思った。




過去に何かあったのか、だだ甘なエマさんでした。
瓢箪の中身はもうタポタポです。10回使えます。
過保護過ぎない.......?


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狼だって戦えるんだ。あ、蘇るとか聞いてない。

お久しブリーフ(忘れ去られた古代文明の暗号)


男はのらりくらりとした動きで刀を振るってくる。

確かに一撃は重い。しかし、受け流せばどうということは無い。

恐らく鍔迫り合い等を主にした戦いをして来たのだろうと思えた。

 

「其処許、なかなかやるではないか」

 

「お前もな、知らない人」

 

すると相手が踏み込んで連撃を放って来た。

膠着状態だったその場の形勢が傾き、

 

「なんだと!?」

 

狼がそれを弾いたことで流れが完全に狼に委ねられた。

男は体勢を崩し、体がぐらついていた。

 

「御免。」

 

狼はすかさずガラ空きの胸に刃を差し込んだ。

血を流し声も無く倒れる男に、狼は小さく祈った。

 

躊躇なく、感情なく、ただひと握りの慈悲は忘れるべからず。

 

それが、義父の教えだった。

 

そのまま狼が背を向け帰ろうとしたその時、

 

「ぅうん......やはり、死ねぬなぁ.....」

 

背後から声が聞こえた。

いやまさか、まさかな。死んだ人間が蘇るわけがない。

そう思いつつ振り返ると......。

 

「其処許の太刀筋、見事であった。それがしを、斯様に十全に殺した者は、そうは居らぬ」

 

傷の無い体に不自然に血を浴びている、先程の男が立っていた。

狼はビックリした。ビックリしすぎて怖気ゲージが半分溜まった。

すかさず狼は背を向け、全力で走った。

 

「そ、其処許!?待たれよ!!」

 

反射的にそれを追って来る知らない人。

狼はまたビビり散らかして速度を上げ、エマの後ろに隠れた。

 

「どうしたのですか?何やら遊んでいたようですが......」

 

なんだかすっごい暖かい目で見てくるエマにたどたどしく事情を説明した。

 

「し、知らない人が、声を掛けて来て、襲ってきた。倒したら、よ、よ、蘇った.....!!」

 

「其処許!?それは些か人聞きが悪い!!」

 

先程の光景を思い出し怖気ゲージが7割に差し迫った狼の震えが一段と強くなった。

すると、エマがゆらりと歩き出し....。

 

「エマ殿......?」

 

名を呼ぶ知らない人に一瞥もせず近寄ると、

知らない人が十字に裂かれた。

 

狼の怖気ゲージは9割強にまで至った。

 

 

 

 

「まさかエマ殿にあそこまでの剣才があるとは思いも寄らなかった。だが、それでも死ねぬか......」

 

「半兵衛さん?」

 

「ははは、わかっておる。其処許よ、急に斬りかかって申し訳なかった。心底驚かせてしまったようだな」

 

「......いや、いい」

 

少し落ち着いて怖気ゲージが下がってきた狼は、冷静に考えて女性の後ろに隠れるとか情けなさ過ぎることをしたのを思い出し、少し凹んだ。

 

あの後聞いたのだが、知らない人の名前は『半兵衛』といい、死なずらしい。本当に存在するとは思わなかった。

そんなのがあるなら色んな人が頼ると思うが、どうなのだろうか。と思う狼。

 

「其処許が良ければ、それがしで刀の修練をせんか?死なないゆえ幾らでも斬られてやれるぞ?」

 

なんか凄いことを提案し出した半兵衛に、狼は少し引きながら断るのだった。

 

「そうか?まぁ、気が向けばで良い。それがしはいつでもアソコに居るからな」

 

そう言って立ち上がり歩いていく半兵衛。

なんだか悪いことしたなと狼が思っていると、エマがまた頭を撫でて来た。

 

「貴方は怖がりですからね.....」

 

よしよしと言いながら撫でてくるエマに対し、義父上とは違う懐かしさを思い出す狼。それが何かは分からないが、どうにも嫌では無かった。




狼の眉間には1ミリも皺が有りません。ただタレ眉のせいで(´・ω・`)って顔してます。


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こう、鍵縄でビューンって。あと言葉は通じなくてもなんとかなることもある。

あれがドーンってなってバヨーンってなります。


周りに挨拶を済ませた狼は、荒れ寺を出て御子様を救うために葦名の城下を駆けていた。

鍵縄を木の枝や壁に引っ掛けて飛んでいた。楽しくて何度もやってたら兵士に見つかったりした。

葦名の兵たちに見つからない様に隠れながら進んでいく狼。途中ですっごい甲冑を着た大太刀を持った侍大将を倒したりした。

 

 

そこから少し進むと、大きな人が縄で縛られて暴れていた。盗み聞きによると、どうやらあれは《赤目》という人らしい。

確かに目が真っ赤だ。あまり寝ていないのかもしれない。狼は結構呑気なことを考えた。

 

なんだかその人が可哀想に見えた狼は、周りの兵士の目を盗んで縄を解いてやった。

 

「これでお前はもう自由だ」

 

「ウゥゥゥゥアアアアア!!!」

 

言葉が通じたのか通じなかったのかは定かではないが、雄叫びを上げた赤目さんは周りの兵士を片っ端から投げ飛ばしたりした。

狼はちゃっかり赤目さんに肩車して貰っていた。

 

赤目さんと別れた狼は、門の中で倒れる忍びの懐から手裏剣車を見つけた。それを見て狼は少し前のことを思い出した。

 

「お前さん、忍具を見つけたら持って来い。ワシが仕込んでやる.....」

 

なんだか仏師殿がそんなことを言っていた気がするので、大切に懐へ入れた。

 

赤目さんが暴れたおかげで敵も居なくなった広場を歩く狼。橋が壊されていることに気付いた狼は、どこか進める道がないかと周りを見ると、下に行けそうな足場が有った。そこに降りて進んでいると、何やら地鳴りのような音が聞こえてくるではないか。

 

嫌な雰囲気を感じた狼は、近くの草場に身を隠した。

地鳴りが大きくなってくる。そして、その原因がついに姿を表した。

 

大蛇だ。

 

真っ白で山をも飲み込めそうな大蛇が辺りを見回している。

これを掻い潜って進んでいくのは難しそうだが、ここを超えなければ進む道が無いので、狼は覚悟を決めた。

 

蛇の視線を切りながら、少しずつ進む狼。鍵縄で谷を超えて、壁に身を寄せ蛇の下を這い進む。

すると、奥に洞窟が見えた。洞窟まであともう少しというところで、蛇がこちらに顔を向けてくる。

焦った狼は近くの籠に身を隠した。息を殺していたのだが、蛇は籠の中を覗こうとしてくる。大きな大きなその目に、狼の姿が写ろうとしていた。

このままではどうすることも出来ないと悟った狼は、心の中で大蛇に謝罪をしながら、

 

目を突き刺した。

 

甲高い声を上げながら暴れる大蛇を後目に籠から飛び出し素早く洞窟に入る狼。後ろで蛇がのたうち回る音を聞きながら、洞窟を抜けた。

 

抜けた先には何やら城壁のようなものが見えた。鍵縄で上手く上を行き城壁内の兵士に見つからないよう歩いていくと、すすり泣く声が聞こえた。

 

「あぁ、小栗毛よぉ......おらの馬っ子よぉ.......奴らめ、爆竹なんぞで脅かしよって.....!!

死んじまったよぉ.......おらの馬っ子ぉ......」

 

どうやら自分の馬が殺されてしまったらしい兵士が居た。

そのまま行ってしまっても良かったのだが、狼は兵士が可哀想に思えて、つい声を掛けてしまった。

 

「馬が、殺されたのか......」

 

「あぅ......?お前さんは......?」

 

「.......言えぬ。」

 

「あぁ、忍び衆か。そうなんだ.....おらの馬っ子が殺されちまってよぉ......」

 

上手いこと解釈してくれた兵士に近付き、馬に手を合わせる。

 

「可愛がって、居たのだな......」

 

「あぁ......お前さん、良い人だなぁ......」

 

涙を流す兵士をそっとして、狼は静かに姿を消した。

 

 

 

盗み聞きをしてみると、どうやらここは城の大手門のようだ。

そしてここを守るのは、鬼形部と呼ばれる者らしい。

聞いた限りでは一筋縄ではどうにも出来なさそうだ。

狼は万全の準備のために、一度荒れ寺へ帰ることにした。




そんなに話が進まない回.....。


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天狗はよく笑う。あと鬼鹿毛の好物は柿。

皆様とても久方ぶりじゃなぁ.....
「これ鬼形部と戦うのどうすればええんやろうか」と悩んでいた結果、書くのを忘れて結果こんなに間が開きました....。
少しずつ更新再開します.....。


荒れ寺へ戻った狼は、ひとまず拾った忍具を手に仏師の元に向かった。

 

「お前さんか....何用じゃ?」

 

「忍具とは、これのことか?」

 

倒れていた忍びから拝借した手裏剣ぐるまを見せて問うと、仏師は少し表情を変えて、うなづいた。

 

「あぁそうじゃ。こっちへ来い。わしが仕込んでやろう」

 

近くに寄って手裏剣ぐるまを渡して、カリカリと義手をいじってもらう狼。手裏剣ぐるまをつけて貰って.....何やら血錆や油汚れも綺麗にしだした仏師。

 

「少し気になっての....」

 

「ありがとう仏師どの....」

 

「礼はいい。....それ、終わりじゃ。用が済んだならどこへとでも行くがいい」

 

ぶっきらぼうに言う仏師に小さくお辞儀をして荒れ寺を出る狼。早速忍び義手を軽く振るうと、ガシャンと音が聞こえて、腕の部分から手裏剣の刃が見えている。更に軽く前に振ると、勢いよく手裏剣が発射され、前の竹に突き刺さった。

声には出さないものの、狼は感動していた。とにかくカッコイイのだ。まだ扱いに慣れておらぬ故に空中で使ったりなどはまだ難しそうだが、それでも飛び道具を咄嗟に扱えることと、そして出し方がカッコイイのとで目を輝かせていた。

 

そんな狼の背中を、薬師は暖かい目で見守っていた。

 

「あとで猩々に『お茶』を差し入れしてやりましょう」

 

 

 

 

さて、改めて道を進んでいると、どこからか小さな鈴の音が聞こえてきた。見回してみると、あばら家とも言えない廃屋で、老婆が鈴を鳴らしていた。

 

「おい。ここで何をしている。危ないぞ」

 

狼が注意をしてみると、老婆がこちらを振り返り、柔らかい笑顔で喋りかけてきた。

 

「おぉ、倅や。よく来たのぉ.....若様はどこへ行ったのじゃろうか?」

 

「.....?俺は、倅ではない。」

 

唐突に人違いをぶちまけられ、困惑している狼だが、老婆は何も気にせず話を続ける。

 

「何を言うんじゃ伊之助や。またわしが狂ったというのかい?流石に、倅の声を間違えることはないよ.....。そうじゃ伊之助。この鈴を、仏様に備えておくれ。若様のために作った守り鈴じゃ。」

 

先程から鳴らしていた鈴を半ば強引に手に握らされる狼。仕方ないと鈴を受け取り、これ以上絡まれたくないので足早に去ろうとすると、後ろから声が聞こえた。

 

「おーい!母上ぇ!!はぁ....また1人で出歩きなさって....」

 

「おぉ伊之助や。....おや?なぜ伊之助が2人も?」

 

「はぁ、母上、伊之助は私だけにござりまする。

....あぁ、すまない。母の痴呆に付き合わせてしまったようだ。母ももう歳でな....。情けないことにボケてしまったのだ。」

 

苦労人感がにじみ出る若い侍に老婆を任せて、改めて歩を進め始める。受け取った鈴は後で仏師どのに扱いを聞こうと思いながら。

 

 

 

 

「....はて、あの忍び、どこかで見た覚えが.....」

 

「伊之助や、どこじゃ?」「あぁはいはい。ここにおりますよ母上。」

 

 

鬼形部の噂を聞いた場所に戻ってきた狼。大きな大手門とその前に広がる広い場所。更にそこに転がる無数の見慣れない服装の死体。ただ事ではないことが起きているのは確かである。その横にあるしっかりとした屋敷に足を踏み入れた狼。すると声をかけられた。

 

「ご供養、いかがかね....?」

 

見てみると明らかにみすぼらしい格好の商人らしきものがいた。

 

「ご供養....?」

 

「左様。死者たちのご冥福のため、品を売っておる。見たところあんたも......?いや、そんなにじゃな。じゃが、殺しておるのは確か。せっかくじゃ。ご供養、していきなされよ.....」

 

狼はこれまで、殺しが絶対の任務対象や、殺さなければならない状況以外での殺しはできるだけ避けてきた。この商人は何故だかそれを、見ただけで判断できるようだ。

商人.....供養衆は風呂敷を広げ、商品を見せてくれる。飴、丸薬などの中で、一際目を引くのが、赤い爆竹だ。

これは忍具に出来るかもしれないと思い、狼は値段を聞く。

 

「これは?」

 

「五百銭じゃな。」

 

持ち合わせに余裕があった狼はそのまま購入。仏師殿に仕込めるか聞いてみようと思った。

 

商人に礼を言い、横の屋敷に入ると、背の高い人物が死体の倒れる中心に立っていた。

 

「ネズミが、もう1匹。」

 

そう言い振り返る謎の人物の声で恐らく男であると気付いた狼。天狗の面を付けており、棘のような殺気を肌で感じる。

 

とてつもなく強い.....刃を交えることも無くそう判断できる迫力に、無意識に半歩下がりそうになる。だが踏みとどまった。もしここで下がれば、既に己は切り捨てられていただろう。

 

「いや、その眼....子犬か。カカッ、なんとも愛想のある目じゃ。

ふむ、ネズミではなさそうじゃ.....お主、名はなんという?」

 

そう言って刀を収める天狗。それを見て肩の力を少し抜いた狼は、天狗に向かって答えた。

 

「......知らない人に名前を教えてはならないと....義父上から習った」

 

「....カカカッ!!なんとも可愛らしい答えじゃ!!」

 

そう言って腹を少し抱えて笑いだした天狗に、少しムッとする狼。怒ってやろうと思ったら、天狗がまた話しかけてきた。

 

「しかしその左腕.....忍び義手とは、懐かしい。」

 

「仏師どのを知っているのか....!?」

 

忍び義手が懐かしいと言った天狗に思わず問いかける狼。天狗は「おうよ!!」と答え、旧知の仲であると語った。

それを聞いた狼は、知らない危ない人ではないと気付き、自身の名前を教えるとこれまた大声で笑われた。

 

「お主が狼....?くっ、カカカッ!!!狼とはこれまた大きく出たのぉ!!じゃが.....確かに、人斬りの才はある」

 

そう上機嫌になる天狗。また笑われたことに少し眉間に皺がよる。

 

「そうかなるほど.....隻腕の狼か.....気に入ったぞ!

ならば.....【隻狼】。お主をそう呼ぼう。」

 

「隻狼.....!!」

 

思わぬほど響きがカッコイイ名前を付けられ、今までの怒りが吹っ飛んだ狼。天狗は上機嫌に笑い、ネズミ狩り.....他国からの侵入者狩りを手伝えと持ちかけられた。葦名を侵略しようとするもの達を追い返す正義の味方だと言う。ルンルンな狼はこれを了承し、ネズミの特徴を教えてもらい、終わったらまた来いと言われた。狼は手を振って去ると、そのまま屋敷の正面にある大手門に近づき.....。

 

「我、御庭形部雅隆なり!!!大手門、この形部が通さぬ!!!」

 

大手門を開き駆けてくる大きな馬と甲冑を着た大きな槍を持った人が飛び出てきた。驚きながらも迫ってくる槍を弾き、見合う2人と1馬。それが続くと.....ふと、馬が勝手に狼に近づく。

 

「うおっ!?急にどうしたのじゃ!?」

 

狼に擦り寄る鬼鹿毛に驚く狼と甲冑の人....恐らく鬼形部。なんだか懐かしい感じがした狼は、ふと昔のことを思い出した。

 

「....お前、おにかげか....?」

 

思い出すのはもう10年ほど前。義父上に拾われて少し、一緒に葦名の城の酒宴に連れてこられた狼は、赤い鼻の槍を持った人や、蝶を侍らせた人、そして真っ赤に酔った父上の隙をついて抜け出し、厩でよく馬を撫でていた。まぁ、その後心配した義父上に連れ戻され、赤い鼻の人の膝で酒宴を眺めたり、出てきた料理をつまんだりするのが狼の酒宴での過ごし方だったのだが....。

 

その時よく構っていた馬こそがおにかげ(漢字で書くと鬼鹿毛)であった。昔より大きくなっていて分からなかったが、どうやら本人(本馬?)であった。懐かしむように唸る鬼鹿毛を撫でていると、甲冑の人が馬から降りてきた。

 

「お主、鬼鹿毛と知り合いのようだな....名は?」

 

高くて見えなかった甲冑の人の顔を見ると、先程思い出した印象的な真っ赤な鼻が目に入った。

 

「狼....」

 

知らない人では無いようなので答えると、赤い鼻の人.....鬼形部が目を見開いた。

 

「驚いた.....まさかお主、あの梟の倅か!?おぉ、大きくなって!!早くそう言ってくれれば斬りかかりはしなかったものを!!」

 

肩を叩き笑う鬼形部に、なんだか懐かしさを覚える。そういえばよく飲め飲めとお酒を押し付けられて居たような....。

 

「して梟の倅よ。なにゆえこの大手門に?」

 

「葦名の城に.....行くために。」

 

「そうかそうか。久しぶりに顔を出せば、一心様や弦一郎も喜ぶぞ!!....そうだ、この形部が送ってやろう!!」

 

そう言って馬に乗り、狼の首根っこを掴んで後ろに乗せた。

 

「大手門は....?」

 

「大事無い!!今先程近くに居たネズミ共は処理した!!少しの間なら留守にしても問題無かろう!!では行くぞ!!舌を噛むでないぞ!!」

 

そう言い、鬼鹿毛を走らせる鬼形部。狼は言われた通り、舌を噛まないように黙ったのであった。




葦名生存フラグその1。形部生存!!!

「大手門は開かぬ門!!!」

はい。もう本当に開きません。
更に伊之助が普通に無事....一体何が起きているのか。これどうやって収めるん?(自問自答)

久しぶり過ぎるしセリフも朧気なので、多分原作とだいぶ違う部分があると思いますが、それはまぁ、世界線の違いってことにしておいて欲しいです....。(セリフが出るとこまで原作をやるの楽しいけど疲れちゃうんです....)


後今更ながらなんでも許せる人向けです。(過去改ざんとか)色々タグに追加しときます。


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