2度の人生と1度の鬼生 (惰眠勢)
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第1話 凡庸

 

  思えば、なんとも特筆することがない凡庸な人生だったと思う

 

 

 

 

 

  貧乏でも裕福でもない家に生まれ、普通の学校に通い普通に就職し普通に病に倒れて普通に死んだ。享年は何歳だったか。途中から朧気だが、きっと30は超えられなかったと思う。

 

 

 

  凡庸でなくなったのはその次だ。平成に産まれて平成に死んだはずなのに、気がついたら慶応だった。何を言っているのかわからないと思うが私もわからない。マジでなんだこれ。ていうか慶応っていつだっけ?ああ、明治の前か。3,4年で終わったやつ。と思っている間に明治に変わっていた。まだ産まれたばっかりなんだけど、はっや・・・。

 

 

 

  記憶を持ったまま輪廻転生して過去に生まれ変わるなんてどこのラノベだよと思いつつ、第2の人生を歩み始めた。ここが普通の過去ではないと気がついたのは産まれてから暫く経った時だ。血濡れの剣士が我が家の門戸を叩き、両親がその剣士の介抱を始めた。我が家は藤の花の家紋を掲げており、その家紋を掲げているものは過去に剣士・・・正確には鬼狩り様に助けて貰ったことがあるから、その恩を返すために鬼狩り様を助けるのだとか。鬼狩り様とはなんぞや?と思い両親に尋ねたところ、書いて字のごとく鬼を狩るものの事らしい。へー、鬼なんているのか、怖いなぁなんて思っていたのも記憶に新しい。

 

  鬼狩り様にも話を聞いてみた。鬼狩り様の名前は《鱗滝左近次》。名字からして格好いいし、優しげな顔も格好いい。ミーハーではないけどこれはモテるタイプと見た。因みに血濡れだったのは鬼の被害者の血を浴びたせいで、本人はほとんど無傷だった。鱗滝さん曰く、鬼を倒すには日光に当てるか日輪刀と呼ばれる特殊な刀で頸を切らないといけないらしい。炎で炙るのでは駄目なのか聞いたが、燃やしても再生してしまうのだとか。太陽だって炎なんだけど、なんでだろ?

 

  また興味深い話も教えて貰った。鬼狩り様は呼吸と呼ばれる技術を使って鬼を狩っているらしい。鱗滝さんが使うのは水の呼吸というそうだ。先程話に出た日輪刀は、呼吸の適正によって色が変わるということも教えて貰った。水の呼吸以外にもいくつか教えて貰ったが、覚えきるのは難しそうだ。そう言うと、鱗滝さんは「お嬢ちゃんが刀を持つ必要は無い」と言って頭を撫でてくれた。まあ、ぬくぬくと育った私が刀を持って戦えるとは最初から思っていない。

 

 

 

  まさか、私が鬼狩りどころか狩られる対象の鬼になるなんて夢にも思ってはいなかった。

 

  この世は本当に、理不尽だ。



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第2話 藤の花

 鬼は藤の花を嫌う。だから、鬼狩り様を助ける藤の家紋の家は常に藤の花をストックしている。回復ポイントを奪うのは戦闘において定石だから、襲われないようにするためにだ。

 

 しかし藤の花も一年中ある訳では無い。藤の花がない時期は、藤の花があるうちに乾燥させてそれを炊いているという。だがたまに無くなりそうになってしまう時がある。そんな時は花屋まで行って乾燥させた藤の花を買ってくるのだ。

 

 ここまで言えばもう分かるだろう、私は藤の花を買うために花屋まで行っていた。ぬくぬくと過ごしているうちにあっという間に10代だ。夜間のお使いだって、心配はされたが楽勝なのだ。ドヤ顔しながら用を済ませて家に帰り敷地内に入ると、まるで誰もいないかのようにシンと静まり返っていた。両親共、何か急用でもあったのだろうか?

 

 玄関を開ける。誰もいない。

 

 廊下を歩く。誰もいない。

 

 和室を覗く。誰もいない。

 

 台所を覗く。誰もいない。

 

 風呂場を覗く。誰もいない。

 

 誰もいないだろうと思い、家の一番奥にある自室を覗く。倒れている人影が2つ、それを貪り食っている人影が1つ。それを視認し、理解する前に趣味で飾っていた日本刀を手に取り唯一動いている人影に刀を振るった。

 

 

 

 その人影は鬼だった。角が生え、爪は長く、白目は黒くなり黒目は赤くなっていた。

 

 2つの人影は両親だった。玄関から入った鬼から逃げるように奥へ逃げ、私の自室に逃げ込んだのだ。母親の頸は引きちぎられ、父親の両腕は食われていた。

 

 

「なんだァ、美味そうな餓鬼が残ってやがったじゃねえーか!」

 

 

 私に剣術の心得なんてない。ひたすら無心で刀を振るった。その間の記憶は何一つない。静かになったと感じた時にようやく腕を止めると、鬼は肉塊になりウゾウゾと蠢いていた。気持ちが悪くて、何度も何度も刀を刺し、抜いて、また刺した。その度に鬼は小さな悲鳴を上げた。

 

 鱗滝さんが言っていた。鬼は、日光に当てるか日輪刀で頸を切らないと死なないのだと。私が持っている刀は日輪刀ではない。だからきっとこの鬼は死ねないのだろう。楽にしてやりたいとも思うが、今生の両親を殺された恨みもある。どうしようかと思案しているうちに、朝日が昇り始めた。おかしいな、帰ってきた時はまだ前世で言う8時くらいだったのに。私は何回鬼を刺したんだろう?

 

 

「ふむ。雑魚とはいえ、鬼を生身で倒すとは驚いた。お前も鬼にしてやろう。私の血に順応出来るか見物だな」

 

 

 気配が無かった!気づかなかった!冷や汗をかいた時にはもう遅く、振り返ると同時に私の顔面を何者かに突き破られた。そこから先の記憶は、ない。

 



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第3話 空腹

 

 お腹がすいた

 お腹がすいた

 お腹がすいた!!!

 

 

 ひどい、ひどい空腹だ。お腹がすいた。何か食べなきゃ。苦しい。食べたい。つらい。食べなきゃ。人を!

 

 

 ・・・今、なんて?

 

 

 私は今なんて思った?人を食べたい?なぜ?私の好物はみかんだ。冬場に食べるみかんが大好きだ。なぜ人を食べたいと思った?周りを見渡し、視界の端に映った全身鏡の前まで歩き、絶句した。

 

 

 上半分が黒く、下半分が白い髪

 白目が黒くなり、黒目が白くなった瞳

 おでこから生える2本の角に、浮き上がった血管

 

 

 鬼になっていた。両親を殺した鬼になっていた。近くに両親の亡骸が横たわっていた。両親を殺した鬼が蠢き、人の形を取り戻そうとしていた。戦わなければ。そう思うと同時に、鬼の腕に噛み付いた。ギャッという小さい悲鳴を上げたが、そのうち聞こえなくなった。知らぬ間に鬼は消え、鬼が着ていた着物と履物だけがその場に残っていた。不思議と空腹感は消えていた。

 

 

 両親を庭に埋葬した私はこの場を離れることにした。どこか遠くの山で暮らそう。そうだ、両親を殺した鬼を滅ぼすのもいいかもしれない。一族郎党皆殺しだ。私の安寧を奪い、殺し、自身を鬼にされたこの恨みはらさでおくべきか。もうきっと私は正気じゃない。鬼は人を食べるという。私はそのうち人を殺して食べるだろう。その前に日光を浴びて死ぬのもいい。でも、なぜか今はあの空腹感がないから人を食べなくても済む方法があるかもしれない。

 

 あの時私は何をしていた?思い出せ。

 鬼と戦った。それから?

 鬼の腕に噛み付いた。それで?

 

 鬼を・・・食べた?そうだ、鬼を食べた。鬼を食べて、満腹になった。そうだ、鬼は不味かった。だけど満腹になった。味はもうしょうがない。これからは鬼を食べて暮らそう。それがいい。鬼を全て喰らい尽くしたら私自身も死ぬとしよう。ああ、私別にサイコパスじゃなかったんだけどな・・・。

 

 

 

 それから、日中は山に姿を隠して夜間に鬼を襲う生活が続いた。何度か、鬼に「お前が逃れ者か。お前は生け捕りにしろとのご命令だ」と言われた。あの方とは誰だろう。逃れ者とはなんの事だ?よく分からないからとりあえず殺して食べた。やっぱり鬼は不味かった。

 

 ある日、女の人と男の人に出会った。どちらも鬼で、女性は珠世さん、男性は愈史郎さんと言うらしい。2人について来るように言われたためついて行って建物に入ると、珠世さんに「貴女も鬼舞辻の呪いを解いたのですね」と言われた。鬼舞辻の呪いってなんだろう?よく分からなくて珠世さんに聞いたら驚いた顔をされた。でも直ぐに元の表情に戻って、詳しい話を教えてくれた。

 

 全部聞いた。理解した。鬼舞辻無惨が鬼を作り出すのなら、両親を殺した鬼も鬼舞辻無惨が作り出したのだ。鬼舞辻無惨がいなければ鬼もいなくて両親も死なずに済んだのだ。つまり、私の仇は鬼舞辻無惨なのだ。分かった。よし、殺そう。

 

 内心で意思を固めていると、珠世さんに鬼舞辻無惨を倒す手伝いをして欲しいと言われた。もちろんだ。研究のために血が欲しい?いいともいいとも、仇を打つためならいくらでもあげる。私の返事を聞いた珠世さんは、ほっとしたような顔をした。



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第4話 山の王

 鬼になって早数十年。小さな山の王に出会った。

 何を言っているのかわからないと思うが私も何を言っているのかわからない。

 

「おいてめえ!ここは俺の縄張りだ!誰だ!出てけ!」

「・・・イノシシのお化け・・・?」

 

 奇妙な姿をしているよく分からないものに出会った。雰囲気的に鬼ではなく人のようだが、その、首から上が猪だった。何この生き物怖い。

 

「えっと、坊やはその、ここに住んでるの?」

「我は山の王なり!」

「そっかー」

 

 やばい。何がやばいって話が通じない。山の王なりってなんだ。親は何してんの???

 

「やいシロクロ女!」

「それ私の事?」

「なんか強そうだから俺と勝負だ!」

 

 ・・・しょうぶ。菖蒲、尚武、勝負?鬼と人間で勝負?えっこの子大丈夫?私が鬼ってわかってない?確かに今は髪色を除いて普通の人間らしい姿をしている。それでも普通初対面に対して戦闘を申し込むの?自称山の王だから出会ったもの全てに勝ちたいの?うん、向上心があることはいい事だよね!

 私は考えることを放棄した。

 

 

「いいよ、少年。かかっておいで」

「俺は嘴平伊之助だ!」

「伊之助くんか。いい名前だね、それじゃあ始めよう」

 

 

 決着が着いたのは一瞬だった。というか、私が投げ飛ばした。当たり前だ。

 しかし伊之助くんは折れることなく何度も何度も立ち上がってきた。私が伊之助くんにあったのは日が暮れて間もない時なのに、もう朝日が登ろうとしている。そろそろ身を隠さないといけない。

 

 

「伊之助くん。今日はここまでにしよう?1晩ぶっ続けだし、休んだ方がいいよ」

「ゲホッガホッ、嫌だね!ぜってー、ヒュッ、てめぇを、倒す!」

「肉体的に限界でしょ・・・。また夜に来るからさ、続きはまた夜ね」

「絶対だからな!絶対に来いよ!次こそ倒すからな!」

 

 

 そう言い残して、伊之助くんは力尽きた。呼吸はしっかりしてるから疲れすぎて意識を飛ばしたのだろう。鬼の私に勝てないのは仕方ないとして、なかなか筋は良かった。この子が鬼殺隊に入ったら鬼の殲滅量が凄いことになるんじゃ・・・とまで考えて、その思考を飛ばした。こんな小さい子まで巻き込むのは良くない。でも自衛の術を持つのは大切だからこれからも稽古をつけてあげよう。1晩しか関わってないけど、愛着が湧いてしまった。

 

 

「おやすみ伊之助くん。また夜に戦おうね」

 

 

 愛着を持っている子に殺されたなら、なんて幸せな事なんだろう。殺されるならこの子がいいなと思う反面、幸せに暮らして幸せに死ぬこの子を看取りたいとも思った。人の心は複雑だ。



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第5話 歯車

 前世で、私は物の分解を趣味としていた。時計を始め、ラジカセ、パソコン、プリンターなど色々なものを分解していた。数ある部品の中でも私は歯車がいっとう好きだった。ものによって、サイズも薄さも形も違う。デザイン重視のものもあれば機能性重視のものもあった。それらを並べて飾るまでが趣味の範疇だった。

 

 

 以前、珠世さんに血鬼術について教えて貰った。強い鬼は血鬼術という異能を使って戦うのだと。珠世さんも血鬼術を使って幻覚などを見せるのことが出来る。それを聞いて、私も血鬼術を使おうと考えた。それが出来ればもっとたくさんの鬼を殺せると思ったのだ。どんな血鬼術にしようか考え、思い至ったのは歯車だった。私の大好きな歯車。血で汚すのは本意ではないけれど、歯車のことならよく知っている。きっと使いこなせるはずだ。

 

 

 それから私は血鬼術の訓練を始めた。手探りでの状態だったが、数ヶ月で複数の歯車を作り出し操ることが出来るようになった。もちろん伊之助くんとの鍛錬も続けている。

 

 しかし歯車を作り出して操るだけじゃなんとも寂しいと思い、これでどうやって鬼を殺すか考え始めた。これに対しての答えはすぐに出た。噛み合わせた巨大な歯車の噛み合わせの部分に鬼を挟み、すり潰すのだ。すり潰した状態ならば再生する前に食べやすい。鬼は何度だって再生するが食べてしまえばもう再生しないらしいのだ。腹の中で再生するようなら私はとっくに死んでいる。つまり、鬼を殺す方法は2通りではなく3通り。日光か、日輪刀か、捕食か。なぜ腹の中で再生しないのかはわからない。そこも含めて珠世さんが研究中だ。

 

 そうだ、技を作ったのなら名前をつけた方がいい。名前は何にしようか。どうせなら格好いい名前がいいな。うーん・・・。

 

 と、ぼーっと突っ立って考えているときに鬼が現れた。丁度いい、さっきの技を使ってみよう。鬼が何か言ってるけど別に聞かなくていいや。身の丈ほどある歯車を2つ作り出し、鬼に向かって放つ。その歯車にはちょっとした細工がしてあり、ターゲットを捕捉するまで自動追従をする。壊さない限り、あの歯車から助かる術はない。

 

 

「ギィヤァァァァ!!」

 

 

 歯車が鬼を捕捉し、噛み合わせ部分に鬼の足が嵌る。その状態で周りだし、ゆっくりゆっくり足首、脛、膝と鬼の体が挽肉になっていく。そして挽肉になった部分から私が食べていく。うん、やっぱり美味しくない。そうだ、技名思いついた。

 

「血鬼術・圧砕細粉、って、どうだと思う?・・・なんだ、もう意識飛ばしちゃったのか」

 



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第6話 回想ー働き手

 鬼になってから暫くの間、金がなかった。

 

 

 基本的に、人は金銭がないと生きていけない。私は鬼を食べるから食費はかからないとはいえ、衣服などの身なりを整えるためにはお金が必要だ。鬼になったとはいえ、汚いのが嫌だという乙女心は無くならない。盗みをすればいいんだろうが、そんなことはしたくない。家から持ち出すということも忘れていて、気づいた時には家の場所が分からなくなっていた。ので、近場で働くことにした。老夫婦が経営をしているこじんまりとした茶屋だ。足腰が弱くなってきて接客が難しくなってきたと言っていたから駄目元で打診したら働かせてくれると言ってくれた。ありがたい。

 

 

「シロちゃん、いつもありがとうねぇ」

「ううん、お礼を言うのは私の方だよ。雇ってくれてありがとう」

 

 

 ここで働き出して1ヶ月が過ぎた。この店は現代で言うアーケードのような所にあるため、日中でも日は当たらない。というより、この里は陽射しが強すぎて健康に悪いため里中がアーケードのような街並みになっている。なんなら日が当たる場所の方が少ないくらいだ。

 そんな鬼に都合のいい場所だから時たま鬼がやってくる。鬼が来たら私の食事タイムだ。血鬼術・圧砕細粉を使ってすぐさま殺して食べる。この里に入ってきた時点でその鬼が死ぬことは確定しているのだ。言い方は悪いが、Gホイホイならぬ鬼ホイホイ?

 

 私が食べるせいか、今まで行方不明者や謎の死を遂げる人が多かったにも関わらずそういったことが無くなったらしい。シロちゃんは守りの神様だ、と里中のおじいさんおばあさんに手を合わされる。神様どころか鬼なんだけど、感謝されるのは悪い気分じゃない。

 

 ちなみにシロちゃんというのは私の名前だ。というより、雇ってくれた茶屋のおばあさんがつけた。自分の名前がわからないと言ったら、髪の先端が白いからシロちゃんでどうだい?と言われて、そのまま定着した。案外しっくり来ている。

 

 

 日中は茶屋で働き、夜間はやってきた鬼を食べる生活が続いていた。鬼を喰らい、帰ろうとしたところで里の外からほんのり血と人の匂いがしたことに気づいた。気になってその匂いの方に近づいたら鬼狩りの格好をした男の人がいた。いや、あの人はまさか・・・。

 

「その姿・・・あの家の、生きて・・・」

「・・・鱗滝さん」

「そうか、そうか・・・鬼になってしまったか。痛ましい」

「鱗滝さん、怪我してるの?」

「自分の心配をしたらどうだ?昔教えただろう。鬼殺隊は鬼を狩る、と」

「うん、そうだね。覚えてるよ。でもね鱗滝さん、私、人を食べてないの。本当よ」

「人を食べない鬼はいない」

「前例が無かっただけでしょ?実際私は食べてない。鬼を食べて暮らしてる」

「鬼を?」

「うん。あのね、鱗滝さん。鬼って、日光と日輪刀以外でも死ぬの。全部食べれば再生しないんだよ」

 

 

 そこまで話し、鱗滝さんに背を向けた。

 

 

「この里には藤の花の家紋の家がないの。私を雇ってくれてるおじいさんとおばあさんならきっと助けてくれるから、来て」

 

 そのまま、私が住んでいるおじいさんとおばあさんの家に向かった。後ろに鱗滝さんの気配がほんのりあるからちゃんと着いてきているのはわかるが、如何せんほんのりあるといってもほぼ気配がないから本当にいるのか不安になる。その度に振り返るが、振り返る度に鱗滝さんが警戒心を顕にするから少し寂しいものがある。



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第7話 師と弟子

 「義勇よ。儂は鬼にあったことがある」

 

 そう言った鱗滝左近次の弟子、冨岡義勇は困惑していた。引退しているとはいえ鬼殺隊であった以上、鬼と会い、戦うのは当たり前のことだからだ。

 

 「普通の鬼ではない。人を喰らわずに生き延びている鬼だ」

 

 言っている意味がわからなかった。鬼は人を喰う。それが当たり前で、覆しようのない事実だった。この時までは。

 

 「初めて会ったのは明治の初めの方だ。藤の花の家紋の子でな、好奇心が旺盛で頭がよかった。聞き上手でもあったから儂が教えられる範囲の知識を全て教えた。鬼のこと、倒し方、呼吸について。・・・人であった時に会えたのは、この時が最初で最後だった」

 

 冨岡義勇はただ黙って聞いていた。恐らく、目の前の師も返事を必要としていないだろうと感じたからだ。

 

 「次にその子の存在を思い出したのは、それから数年経ってからだ。その家のものが鬼に襲われたと通達があり、調査に向かった。何故か庭に埋められていた両親は食いちぎられ、その子の姿は跡形も残っていなかった。恐らく骨も残らぬほど食い尽くされたのだろうという調査結果だった。・・・だが、違った」

 

 黙って聞いている間、冨岡義勇は冷や汗をかいていた。鬼は人を喰う。人を喰うから鬼を殺す。それなら・・・人を喰わない鬼は、どうすればいいんだ?

 

 「数ヶ月後、遠くの山で鬼の目撃情報が入った。丁度他の任務で付近にいた儂がそこに向かうことになった。鬼を倒し、近くの里で体を休めようとして再会したのが、鬼に変貌したその子だった。匂いで人を食べていないということはわかったがどうにも信じられなくてずっと警戒していた。あの子は儂を覚えていて、昔のように接してきていたのが余計に痛ましくてな・・・」

 

 冨岡義勇は、人を喰わない鬼に遭遇したことがない。鬼は須らく人を喰う。人を喰わない鬼に遭遇した時、自分は一体どうするのだろう。

 

 「義勇。お前も今後、その子と出会うかもしれない。その子は人を喰わない代わりに鬼を喰って生き長らえていたし、鬼を心底憎んでいた。だからきっとお前の力になってくれるはずだ。敵視しないでやって欲しい。」

 

 再度、冨岡義勇は困惑した。人を喰わない?鬼を喰う?俺の力になる?そんな馬鹿な事があるものか。あっていいものか。人と鬼が手を組むだなんて夢物語、師の話であろうと誰が信じられるものか。

 

 「・・・いつか、分かる時が来る。きっと人を喰わない鬼は今後も現れるだろう。人を殺めず鬼を殺めるのなら、それは人類の敵ではない。」

 

 

ーーー禰豆子は違うんだ!人を喰ったりしない!

 

 

 冨岡義勇がそれを知るのは、もっと後の話だ。




お気に入り、しおり、コメント、評価、ありがとうございます!ただただ鬼滅夢が書きたい一心で始めた作品ですけど、楽しいです・・・!
ちなみにそろそろネタが尽きそうなので、ネタをください・・・


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第8話 姉と弟

「姉貴ー!見ろ!熊獲ってきた!俺すげえ!」

「さすが伊之助だね。今日は熊鍋にしようか」

「よっしゃ!肉!」

「・・・作るのは私なのよね」

 

 伊之助と知り合ってから、早1年が経過していた。伊之助はちょっとずつ大きくなり、私ほどとはいかないものの強くなってきた。あと何故か私が姉貴分になってた。なんで?

 

「スゲー食ってスゲー背伸ばす!そのうち姉貴を見下ろしてやるからな!」

「楽しみにしてるよ。ああでも伊之助の顔好きだから、そのままでもいいんだけど・・・」

「???」

 

 男の子に対して言う言葉ではないだろうが、伊之助は可愛い。言動は置いといて顔が本当に可愛いのだ。ただその分、首を境にした上と下の差が激しい。ムキムキの上に美少女の顔を乗っけているようなものなのだ。でもそのアンバランス加減も好きだ。血は繋がってないけど、これが身内贔屓というものだろうか?

 

「伊之助、熊鍋出来たよ」

「よっしゃ!肉!肉!肉!」

「野菜もちゃんと食べてね」

「・・・」

「変顔しないの」

 

 熊鍋を食べて、稽古して、朝日が登る前に私は消える。毎日それの繰り返しだ。日中伊之助が何をしているのか知らないが、伊之助は強いから大丈夫だろう。そんじょそこらの獣には負けないし人にだってきっと負けない。鬼は日中活動できないし、私がいない間の伊之助に危機は訪れないだろう。最初から大丈夫だとは思っているが、もはや弟のような存在になっている伊之助が可愛くて可愛くて心配で仕方がない。幸せに生きて欲しいから、鬼の獲物になって欲しくない。だから、だから・・・。

 

 

「だから、この山に近づかないでくれる?」

「ヒヒッ、やあだね!あんな美味そうな強い餓鬼がいるんだ。喰わなきゃ勿体ねえだろぉ?なぁ?」

「分かった。死んで」

 

 

 伊之助に手出しはさせない。あの子に鬼の存在を知って欲しくない。あの子は強い。強いから、強いものとの戦いを好む。鬼の存在を知ったら鬼と戦おうとするだろう。鬼殺隊を知れば、鬼殺隊に入りもっとたくさんの鬼と戦うだろう。そんなこと、絶対にさせたくない!

 

 

「新しい血鬼術を考えたの。丁度いいから、実験台になってね」

「あぁ?・・・グゥゥッ!」

「血鬼術・六面死潰」

 

 

 新しい技だが、以前使った圧砕細粉の応用だ。尋問・拷問用とも言える。立方体状に組み合わせた歯車の中に対象を閉じ込めて、足がついている地面側の歯車を高速で回す。遠心力で壁側に吹き飛ばされた対象はバランスを取ろうとするが壁側に張り付いているためどこかしらの辺か角に体の一部が触れることになる。そうすればもう終わりだ。触れている部分の歯車同士を回して、立方体の中から外にかけて潰す。ちなみに、この6つの歯車はきちんと嵌ってはいない。すべてが嵌っていると歯車が回らないからだ。

 

 

「ギ、ギィアアア!やめ、やめろおおお!」

「じゃあ教えて。この山に鬼は何人いる?」

「っ!っっっ!3!お、俺を入れて3だ!」

「教えてくれてありがとう。そろそろ陽が登るから、日光で焼き殺してあげるね」

「や、やめ、ギャァァァァ!」

 

 

 パキ、と後ろで音がした。気配でわかる。これは伊之助だ。

 

「伊之助。なんでここに居るの?」

「姉貴、が。包帯、忘れてってたから」

「そう。ありがとう伊之助。それはあげるよ。」

「姉貴、今の・・・なんだ?」

「・・・忘れてって言っても、忘れないよね。いい、伊之助。今のは鬼。私も鬼。鬼は人の敵だから、絶対に関わらないこと」

「で、でもよ姉貴!姉貴は!」

「でももだってもない。鬼は人の敵だよ。鬼は人を喰べるの。危ないのよ」

 

 

 振り返らずに、木陰から淡々と伝える。まるで境界線のようだ。陰の私と陽の伊之助。最初から、姉と弟にはなれないのは分かっていた。それでもこの陽だまりの生活に甘えていた。

 

 

「・・・姉貴は?」

「伊之助、言ったでしょ。鬼とは関わらないこと。私はもう行くから安心して」

「姉貴は、絶対に人なんて食ってねえ!俺なら分かる!鬼が全部敵なんて嘘だろ!姉貴は俺の姉貴だ!さっきだって、弱い俺の代わりに鬼を倒してたんだろ!?」

「・・・」

 

 何も言わず、何も言えず、その場を後にした。言える言葉が無かった。鬼と知っても姉貴と呼んでくれる伊之助に、純粋に信じてくれる伊之助にこれ以上何も言えなかったのだ。伊之助は弱くなんてないが、強いと言って自信をつけて鬼に立ち向かわせたくもない。

 

 

「俺はまだ!姉貴に勝ってねえ!次会った時はぜってーに勝つからな!危ないなんて言わせねえ!一緒に戦うからな!」

 

 

 ・・・一緒に、なんて言葉を聞いたのはいつぶりだろう。

 

 




幼少の伊之助はもっと素直だったのかもしれないという妄想


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第9話 黒髪の蝶

 伊之助成分が足りない

 

 

 あんな格好つけた別れをしたくせに、もう既にしんどい。伊之助に会いたい。一緒にご飯を食べたい。つらい!

 前世でも今世でも私に兄弟はいなかった。血が繋がっていないとはいえ初めて出来た弟なのだ。甘やかすし可愛がるし大好きだ!会いたい!つらい!しんどい!いっそ殺せ!ダメだまだ死ねない!

 

 伊之助成分が足りなすぎて荒ぶった私が考えるのはたったひとつ。伊之助が安心安全に暮らせるように、鬼を駆逐しなければ・・・!

 

 あの鬼はこの山に自分を入れて3人の鬼がいると言っていた。つまりあと2人。今はもう日が登っているから鬼はどこかに隠れているだろう。・・・でも、そんなこと関係ない。鬼は殺す。少しでも伊之助の脅威になる可能性があるなら芽が出る前にすり潰して跡形も無く消し去ってやる。人を喰った鬼は敵だ。鬼達も鬼舞辻無惨の被害者だろうが、人を喰った時点で加害者だ。ああ可哀想に、救ってあげたい。死こそが救いなのだ。鬼と化してまで長生きするなんて残酷でしょ?

 

 

「みーつけた」

「お、お前は・・・逃れ者の、鬼喰い・・・!」

 

 

 山の奥。冬眠中に熊が眠っていた洞窟にその鬼はいた。逃れ者は、鬼舞辻無惨の呪いを解いたもの。鬼喰いはそのまま鬼を喰らうもの。こちらの呼び方はしっくり来ない。何だかむしゃくしゃしたから一瞬ですり潰した。そういえば以前から思っていたが、私が血鬼術の歯車ですり潰した部分は再生が遅い感じがする。そのおかげで鬼の体が再生する前に食べきることが出来るから助かるけど、原理がわからない。まあいいか。

 

 

「うー、んん。やっぱり美味しくないな・・・みかん食べたい・・・」

「こんにちは。みかんを好む鬼なんて珍しいですね」

 

 

 真後ろに、誰かいる

 

 

 すぐさま振り返り、後ろに飛んだ。ここは洞窟。洞窟と言っても、熊が巣穴に使っていたくらいだからさほど大きくないし奥行もない。そこに居たのは黒髪の女性だった。

 

 

「あら。攻撃はしてこないんですね。仲良くしましょう」

「・・・仲良く?」

「はい。でも、仲良くするためにはいくつか聞くことがあります」

 

 

 格好から見て鬼殺隊員だ。聞くこと?なんだ?この山にいる理由か?きっと嘘をつけば殺そうとしてくるだろう。でも、伊之助のことは話したくない。鬼と兄弟ごっこをしていただなんて知られたら、何をされるか・・・!

 

 

「お嬢さん。あなたは何人殺しましたか?」

 

 

 何人、殺したか。何人・・・人?私は鬼も1人2人と数えるが、一般的な鬼殺隊員なら1体2体と数えるだろう。それなら答えはひとつだけ。

 

 

「普通の人間を何人殺したのかって言うことなら、0人よ。でも、鬼と化した人間を数えるならたくさん殺して食べた」

「人は1人も食べていないと?」

「そこは誓えるよ。鬼になる前の人は食べてない。なんなら、私を監視しててもいい」

「・・・参考までにお尋ねしますが、貴方の生まれはいつ頃ですか?」

「生まれたのは慶応だけど、明治に変わった時の記憶はないから後の方に生まれてたと思う」

 

 

 それから数秒、その女性は考え込んでから私に背を向けた。

 

 

「私は胡蝶しのぶと言います。もしかしたら、あなたとは仲良くできるかもしれませんね。もしかしたら、ですが」

 

 

 ーーーああ、もう一体の鬼は倒しておきましたから大丈夫ですよ。何を守っているのか分かりませんが、安心してください

 




しのぶさんは何歳なんだ・・・?
▶18歳でした!

多分、鬼を喰っていた上に人を喰っていないと堂々と証言する鬼が現れたらお館様に報告すると思う。多分鬼を殺すシーンから見てたから相当な手練だと分かっただろうし、背を向けた瞬間に襲われたらそのまま殺せばいいと考えていた、と・・・思う


あと、この時は原作開始4,5年前です。つまり伊之助は10歳か11歳で、しのぶさんは13歳か14歳。現時点で柱だったかは不明なので不明のままにしておきます。カナエさんについても同様です。


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第10話 炭売り

 鬼殺隊員である胡蝶しのぶとの邂逅後、特に何も無かった。びっくりするほど本当に何も無かった。そこら辺の鬼を殺して食べて適当なところで日雇いの仕事を探してお金を稼いで暮らしていた。日雇いの仕事がない時は、前世の経験を生かしてセールスの真似事のようなことをしていた。まあ、各家庭を訪ねてお手伝いさんのようなことをしているだけだが。

 

 

「あら、炭治郎くん。今日も炭売り?」

「あ、シロさん!シロさんも炭どうですか?」

「ごめんねえ、私、あまりお金が無いのよ」

「そうですか・・・無理を言ってしまいすみません」

「謝らないでね、お金が溜まったとき、炭が必要になったら炭治郎くんから買うからね」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

 

 

 今日は曇りだから、日は射していない。直射日光はだめだが、なぜか雲で遮られていれば私は日の下も歩けるのだ。自覚はないが、鬼舞辻無惨の呪いを解いた影響だろうか?

 

「あ、シロちゃん!ちょっといいかい?」

「佐藤のおばさん、どうしました?」

「ちょっと腰を痛めてね。代わりに風呂桶を洗ってくれないかい?お駄賃は弾むよ」

「もちろんです、任せてください!」

 

 

 炭治郎くんに別れを告げて、佐藤のおばさんの家に行く。佐藤のおばさんはちょっとしたことで呼んでくれるし、お駄賃を弾んでくれるから好きだ。現金だと言われるだろうが結局この世は金なのだ。金がなければなにも買えないし出来ないし、それは世界が変わっても揺らぐことは無い。お金大事!

 

 

「あれ、禰豆子ちゃん?どうしたの、こんなところで」

「シロさん・・・。あの、お米を買いに来たんです」

 

 道をフラフラ歩いていたら、炭治郎くんの妹の禰豆子ちゃんがいた。傍らには米俵があり、米俵を買ったものの持って帰れないのだろうということがわかった。

 

「家まで運ぶの手伝うよ。禰豆子ちゃんじゃ大変でしょ?」

「あ、で、でも、私、シロさんに払えるお金が・・・」

「いいのいいの、私がやりたくてやるんだから、お金なんていらないよ」

 

 ついさっきまでお金大事なんて言っていたが、幼い子が困っているなら話は別だ。子供は好きだ。助けてあげたい。それに、炭治郎くんたちを見ていると伊之助を思い出して懐かしい気分になってくる。伊之助に、会いたいなぁ。

 

 

 禰豆子ちゃんの家に着いた。炭治郎くんはもう帰ってきていて、禰豆子ちゃんを心底心配していた。

 

「まったく、帰ったら禰豆子がいなくて心配したんだからな!」

「ご、ごめんなさいお兄ちゃん・・・」

「あ、えっと、ちょっと言い過ぎたな、ごめん禰豆子!そうだ、シロさんご飯食べて行ってください!お礼です!」

「・・・うーん、有難いんだけど、まだ街の人のお手伝いし終わってないんだ。今度頂いてもいい?」

「もちろんです!」

 

 

 ・・・真っ直ぐな瞳を見ると、どうしても伊之助を思い出してしまってつらかった。




禰豆子ちゃんの、口調が、分からない・・・!


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第11話 桃と藤

 私は藤の花が大好きだった

 

 

 前世では花など特に意識したことは無い。せいぜい、タンポポの綿毛で遊んでいたくらいだ。藤の花を好きになったのは今世からで、その理由は明確だった。鬼を近寄らせないために常に近くに置いて、持ち歩いていたからだ。藤の花の色が好きだ。匂いが好きだ。形が好きだ。好きだった。・・・好き、だった。

 

 でも今は、どうしても藤の花に対して嫌悪感を抱いてしまう。

 

 鬼は藤の花を嫌う。私は鬼だ。鬼が藤の花を嫌うのは当たり前だ。分かっていたけれどとてもつらい。好きなものを嫌いに思ってしまうのは、どうしてもつらい。好きな食べ物のアレルギーになってしまった時くらいにつらい。それからは出来るだけ、花屋や藤の花が咲いている場所には近づかないようにしていた。・・・今日までは。

 

 

「シロさん、これどうぞ!藤の花を見つけたんです」

 

 

 綺麗でしょう?この間のお礼です!と、禰豆子ちゃんに渡された藤の花。藤の花がどうしようもないくらい嫌いだったのに、今この時だけは藤の花が好きだった頃の自分を取り戻せた。目の前でニコニコしている禰豆子ちゃんを見て、言葉にできない感情で胸がいっぱいになった。衝動のまま禰豆子ちゃんを抱きしめて、何度も何度もお礼を言う。

 

「ありがとう、ありがとうねえ禰豆子ちゃん。私、藤の花が大好きなの。大事にするわ。ああ、枯れちゃうのがもったいない。本当に、ありがとう」

 

 そんな、お礼を言うのは私の方なのに・・・という禰豆子ちゃんに対して、首を振った。本当に、お礼を言うべきなのは私なのだ。あんなに好きだったものを嫌いになり、苦しんでいたのにそのつらさが昇華されてしまった。おそらく、自分から藤の花に近づいたら嫌悪感を持つだろう。禰豆子ちゃんだから、禰豆子ちゃんがくれたから私は好意的になれたのだ。

 

「もう、私がお礼を言いたいくらいなのよ。そうだ、今度お団子をおうちに持っていくわね。麓のお茶屋さんのお団子は全部美味しいんだから!」

「そんな!お礼のお礼なんて頂けません!」

「いいの、私があげたいの。ね?私のためだと思って、貰ってくれない?」

 

 そういうと、禰豆子ちゃんは申し訳ない気持ちが半分、楽しみな気持ちが半分といった表情をした。

 

「ちゃんとみんなの分買っていくわね。楽しみにしてて!」

「はい!ありがとうございます!」

 

 好きの気持ちを取り戻させてくれた禰豆子ちゃん。どうか、禰豆子ちゃんが、竈門家のみんながずっと幸せで暮らせますように。




ほのぼのパートという名のフラグ


基本的に原作通りの進め方にしますが、死亡キャラ生存ルートに持っていくか原作通りにするか悩みます。正直、オリ主とオリ主に鍛えられた伊之助なら誰も死なずに済ませられるんじゃないか・・・いやでも原作崩壊していいのか・・・?オリ主いる時点で原作崩壊か・・・?


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第12話 狭霧山

 少し、ここに居すぎたかもしれない。あまり同じ場所に居すぎると、私の姿形が変わっていないことがバレてしまう可能性がある。だから長い間同じ場所には居座れない。同じ場所に居られるのはせいぜい1年前後くらいだ。竈門家のみんなは好きだけど、ずっとここで守ってあげたいけど、それは出来ない。

 

 

「ええっ!?シロさん旅に出るんですか?」

「うん。元々私はいろんなところをフラフラしてるからねぇ」

「そっか・・・寂しくなるな・・・」

「ごめんね炭治郎くん。他のみんなにもよろしく伝えといてね」

 

 

 俯いた炭治郎くんの頭を軽く撫でて、そのまま踵を返した。炭治郎以外のみんなに挨拶出来なかったのは心残りだけど、出るなら早い方がいい。あの家に行ったらきっと思い直して居座ってしまうから。何度経験しても、やっぱり別れは寂しいものだ。鬼になったとしても。

 

 

 

 

 

 

 竈門家とさよならした後、今度は少し離れた山に来た。付近にいた人に聞いたらこの山は狭霧山というらしい。その名の通り、霧がすごい山だ。この数年は人に関わりすぎたからしばらくは1人で暮らす事にしよう・・・と思っていたのだけれど。

 

「わあ、罠?びっくりした・・・」

 

 フラフラ山を登っていたら、縄のようなものに引っかかった。引っかかったと思った瞬間に石が飛んできて、とりあえずそれを避ける。この長い人生で罠にかかったのは初めてだから、周りに敵がいない状態で良かったと心底思う。今まで戦ってきた鬼の中に罠を使うものが居なくて助かった。いたらどうなっていたか分からない。

 

「あ、落とし穴もある」

 

 誰が仕掛けたのか分からないけど、見たところ今は使っていないみたいだし勝手に訓練に使わせてもらおう。ありがとう名も知らぬ人!

 

 山を駆けずり回り片っ端から罠に引っかかってみた。避けるのではなく引っかかる。最初から避けるよりも引っかかってから飛んできたものを避けたりする方がなんとなく強くなれるような気がするのだ。罠に引っかかり、避け、また引っかかり、避けることを繰り返して丸一日たった。困った。全ての罠に掛かってしまった。どれだけ罠を探しても全て私が引っかかった後だ。

 

「・・・また会ったな」

「天狗のお面・・・?もしかして、鱗滝さん?」

「まったく、全ての罠を壊して回るとは。着いてこい」

 

 どうしようかなー、とボーッと突っ立って考えていたら、背後から声がかけられた。あれ、もしかして私背後に弱すぎ?・・・まあいい。そこに居たのは天狗のお面をかぶった老人だったが、覚えのある雰囲気を醸し出していた。鬼になって少ししてから会ったのが最後の鱗滝さんだ。とりあえず、言われた通り鱗滝さんについて行くことにした。最後に会った時の状況と正反対のポジションだ。




時系列的には第7話以降の話です。おそらく既に冨岡さんは鬼殺隊に入ってる


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第13話 回想ー再会

 

 鬼になって直ぐの頃に再会した時、鱗滝さんは私をかなり警戒していた。当たり前だ、鱗滝さんは鼻がいいから私が鬼になっていることにすぐに気がついていた。

 

 

 

 

「おじいさん、おばあさん。この人、私の知り合いの人なんだけど泊まるところがないの。泊めてもいい?」

「シロちゃんの知り合いかい?いいともいいとも。好きなだけ泊まりなさい」

「・・・ありがとうございます」

 

 私が泊まり込みで働いている茶屋に行き、おじいさんとおばあさんに許可を取った。その間も、お礼以外は鱗滝さんは無言だった。おじいさんとおばあさんがいるとあまり込み入った話が出来ないから、おしゃべりを早々に切り上げて鱗滝さんを連れて自室として与えてもらった部屋に向かった。部屋に入り、小さなちゃぶ台を挟んで向かい合う。

 

「・・・久しぶりだな」

「久しぶりだね、鱗滝さん。元気だった?」

「ああ」

「昔話もしたいんだけど、うーん・・・何から話せばいい?」

「最初から今に至るまでだ」

 

 鱗滝さんは私を見ながらも刀から手を離さなかった。きっと、少しでも怪しい動きをしたら私を切るつもりなのだろう。そんなこと、しないのに。

 

「藤の花を買いに行ってね、帰ったらお父さんとお母さんが鬼に食べられてて。殺らなきゃ殺られるって思って、飾ってた日本刀で頑張って戦ったの。気づいたら鬼がうぞうぞしてて、誰かが後ろにいて、振り返ったら顔を、こう、突き破られた?のかな?そしたら鬼になってたの」

 

 どうも昔から説明が苦手だ。うまく説明出来なくて、身振り手振りが大きくなってしまう。それでも鱗滝さんは神妙な顔で頷きながら聞いてくれていた。

 

「空腹感が、あっただろう。その時はどうした?」

「わかんない、けど・・・多分、お父さんとお母さんを食べてた鬼を食べちゃったんだと思う。気づいたら鬼が居なくなってて、鬼の服だけ残ってたしお腹もいっぱいになってたから」

「ご両親の埋葬をしたのはお嬢ちゃんか?」

「そうだよ。そのままにしておきたくなかったから」

 

 そう答えると、鱗滝さんは口元に手を寄せて考え込む仕草をした。私が有害か無害か考えているのだろうか?正直、鬼殺隊である鱗滝さんと再会した時点で鱗滝さんに頸を切られる覚悟はしていた。ところが鱗滝さんは私と会話をしてくれるし、ちゃんと話を聞いてくれる。私はこのまま生きていていいのだろうか。生きることを、認めてくれるのだろうか。

 

「正直、お嬢ちゃんについては判断に困る。鬼殺隊は鬼を狩る。しかしそれは人を喰らい害を与えるからだ。人を喰らわず害を与えない鬼の場合、勝手に判断は出来ない」

「・・・つまり?」

「今この場で頸を切ることは無い、が、裏を返せば今後切る可能性がある」

 

 まあ、切られる覚悟はしていたし、切られる可能性があるのは百も承知だ。むしろ今ここで直ぐに頸を切るという判断にならなかった事が驚きだった。

 

「・・・もう行く」

「あれ、泊まっていかないの?」

「一刻も早く上の判断を仰ぐ必要があるからな」

 

 そういうと、鱗滝さんは目にも留まらぬ速さでこの場から姿を消した。もう、おじいさんとおばあさんになんて言おう・・・。




以前語られなかった再会回


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第14話 再再会

「入れ」

 

 鱗滝さんについて山を下ると、狭霧山の麓にある家に着いた。登る時には見なかったからおそらくここは反対側なのだろう。見たところ鱗滝さん以外がいる様子もないし、きっと一人暮らしだろうと推測する。さすがに配偶者とかいたら入りにくい。

 

「・・・鬼は、人の食べ物は食えるんだったか?」

「え?ああ、うん。栄養にはならないけど味は楽しめるよ」

 

 ここは本当に有難いところだ。某種のように人の食べ物が全て不味く感じるようにならなくて助かった。そんなことになってたらとうに日光を浴びて死んでいる。お団子美味しい!

 

「そうか。以前会った時はその話は聞かなかったからな。今日の夕餉は鍋だから、お嬢ちゃんも食べるといい」

「いいの?ありがとう、鱗滝さん!」

 

 そういうが早いか、鱗滝さんは夕飯の支度を始めた。私も手伝った方がいいかと思ったが、私が手を出したら逆に遅くなってしまうだろうと思い正座して待つ。だってほんとに鱗滝さん早いんだもの・・・私家事とか苦手だし・・・。と、意識を明後日に飛ばしていたところで支度ができたと声がかかった。

 

「おお、美味しそう!鱗滝さん、料理上手なのね」

「独り身だからな」

 

 いただきます、と手を合わせてから鍋を食べ始めた。正直に言って美味しい。本当に美味しい。私の好物欄に『鱗滝さんが作った鍋』が記載されるレベルだ。美味しい美味しいと言いながら食べていたら、気づいたら鍋の中身が無くなっていた。・・・食べすぎた。

 

「ご、ごめんなさい・・・食べすぎちゃった・・・」

「構わん。少し多めに作っていたからな」

「うう・・・そ、そういえば昔、上の人に私について報告してたんだよね?上の人、私を倒せとか言わなかったの?」

「ああ、その件か。倒せという命令はなかったが、常に監視の目はついている。もちろん今もな」

「えっ」

 

 監視の目?え、私監視されてるの?いつから?鱗滝さんと再会してからすぐ?それなら・・・伊之助のことも、知られてる・・・?それは困る!

 

「ああ、安心しろ。人を襲おうとしていないかだけだからな。日常生活で何をしていたかなんて報告はわざわざされていないだろう」

「そうなの?それなら、ありがたいんだけど・・・」

「なにか困る事でもあるのか?」

「うーん、困るって言うか、仲良くしてた子がいて・・・知らないとはいえ、鬼と仲が良かったなんて印象が悪くならないかなって心配で」

 

 正確には知らないとはいえ、ではなく、知らなかったとはいえ、なのだが。結局自主的に離れる前に知られてしまったし。

 

「・・・そうか。お嬢ちゃんは昔から人の事ばかりだったな」

「そうだっけ?」

「ああ。人一倍他人を心配して、他人の事を思っていた。鬼になっても変わらないようで安心した」

 

 私は結局翌日の夜まで鱗滝さんの家に居座り、2度目の夕飯をご馳走になってから鱗滝さんの家を出た。流石に元とはいえ鬼殺隊の人の家に居る訳にはいかない。出る時に食費として幾らかのお金を置いていこうとしたが、鱗滝さんは頑なに受け取ってくれなかったため諦めた。今度美味しいものでも持ってくることにしよう。

 次は、どこに行こうかな。

 




栄養にはならないとはいえ、普通にご飯食べれないとメンタルにきそうだからちゃんと食べれる設定にしました。白米最高!


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第15話 番外ー鬼と猪と占

「伊之助、占いしてみない?」

「うらない?何だそれ」

 

 以前、日雇いの仕事をしていた時の店主が大の占い好きだった。しかも、占われる方ではなく占う方だったためついでに教えて貰ったのだ。そのときいくつかの種類を教えて貰ったのだが、どうも覚えきることが出来なかったため私は手相占いしか出来ない。まあ道具が必要ないという点では、結局手相占いしか出来ないのだが。

 

「占いっていうのはね、未来に何が起こるのか予想するものなの。まあ気休めみたいなものだし、当たるも八卦当たらぬも八卦って感じなんだけど」

「あたるも・・・なんだ?」

「当たるも八卦当たらぬも八卦。当たることもあるし外れることもあるから、あんまり気にするなってことね」

「それ、する意味あんのか?」

「痛いところついてくるわね・・・ほんの暇つぶしみたいなものよ。あとは、どうすればいいか分からなくなった時に占いに決めてもらったりとか、ね」

「ふーん」

「手相占いっていうのするから、手のひら見せてね」

 

 結局は、私がただやりたいだけなのだ。伊之助が今後どうなるか、長生きできるか、幸せに暮らせるか・・・いい結果が出ればいいと思っている。悪い結果が出た時は見なかったことにしよう。そうしよう。いい所だけを、探すのだ。

 

「あら?あら、あらあらあら!伊之助、生命線長いのね!長生きするわよ」

「せーめーせん?」

「早い話が、どのくらい生きていられるかっていう線ね。ほらここ、この線。手首の方まであるでしょ?凄い、こんなに長いの初めて見たわ。滅多に居ないんじゃないかしら」

 

 本当に長い。占い好きの店主のところでもここまで生命線が長い人は一人もいなかった。手首につきそうなほど生命線が長いなんて、もしかしたら伊之助100歳超えられるんじゃないの?・・・あれ?

 

「副生命線が、ある・・・?」

「ふくせーめーせん?」

「ほらここ、さっきの生命線の内側にもう一本あるでしょ?これがあると、普通の人の倍生きるとされているの。生命線がこんなに長いのに副生命線まであるなんて・・・200歳超えそうな勢いね」

「でも占いって外れることもあんだろ?」

「これは絶対に当たるわ!むしろ私が当てに行くからね!」

 

 この占い結果だけは絶対に当てないといけない。そのためにはやっぱり鬼を駆逐しないと・・・!伊之助が長生きできるように、幸せに暮らせるように、楽しく過ごせるように危険を排除しとかないと!

 ブラコン上等!伊之助のためならなんだってするわ!




オリ主はブラコン
小説版に触発されました


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第16話 蝶と団子

「みたらし団子最高」

 

 

 今日は曇天。直射日光がNGな私としてはとても有難い天気だ。日中でも心置き無く外をぶらつける。

 鱗滝さんの元を離れた私は、また少し離れたところで暮らしていた。お金はまだ余裕があるから日雇いの仕事はしていない。久しぶりにお団子が食べたくなって茶屋に寄ったけどここは当たりだ。すごく美味しい。みたらし団子が1番美味しいが、三色団子も美味しい。なんなら白玉ぜんざいも美味しい。ここの店主は天才か?

 

「みたらしうま・・・磯辺もうま・・・最高・・・」

「あらあら、みかんの次はお団子ですか?」

 

 店先の軒下にあるベンチのようなものに座って食べていたら、隣に誰かが座って話しかけてきた。咀嚼はやめずに隣を見るといつか会った黒髪の女の子だった。

 

「・・・あ、蝶の人」

「胡蝶しのぶです」

 

 当たり前だが名前が思い出せなかった。そもそも1度しか会っていないのに名前を覚えておけという方が難しいと思う。顔を覚えていただけ褒めて欲しいくらいだ。

 

「鬼なのに、日中でも歩けるんですね?」

「直射日光はダメだけどね。雲で遮られてれば大丈夫みたい」

「ふふ、知れば知るほど謎が深まりますね。興味深いです」

「そりゃどうも」

 

 周りの目を気にしてか、声のトーンを落として胡蝶さんが会話を続けてきた。日光については、私もよく分かっていないから聞かれても困る。胡蝶さんもそれに気がついたようで深く聞いてくることは無かった。

 

「そういえば・・・お嬢さんの名前はなんでしょう?」

「うーん、それが覚えてなくて・・・一応シロって名前で通ってるよ」

「そうですか。ではシロさん。ちょっと着いてきてもらいたいのですが・・・いいですよね?」

 

 着いてきて欲しい、とな。胡蝶さんは鬼殺隊だし、鬼を連れていく場所といったら・・・どこだ?まさか鬼殺隊を束ねている人の所に連れていくとは思えないし。え、これ着いてっていいの?大丈夫?むしろ逆らったらこの場で殺される?分からなすぎて普通に怖い。

 

「その前に聞きたいんだけど、着いて行ったら殺されるの?」

「さあ?どうでしょうね」

「私が着いていくと思った?」

「旧水柱の鱗滝左近次という名を出せば着いて来る、と聞かされましたよ」

「・・・ちなみにそれは誰から?」

「ふふ、秘密に決まってるじゃないですか」

 

 え、怖い。普通に怖い。私誰に呼ばれてるの?何されるの?どこに連れてかれるの?鬼とはいえ、死ぬ時は死ぬって分かってはいるけどまだ死にたくない。鬼を地上から殲滅するまで死ねない。

 

「さあ、どうしますか?着いてきて、くれますよね?」

「・・・はーい」

 

 とりあえず、従わないとこの場で戦闘になる事だけは理解した。人とは戦いたくないし、まずは着いていくことにしよう。その先の事はその時に考える、ということで。




どこに連れていかれてしまうんだー?(すっとぼけ)
伊之助・炭治郎といつ頃再会されるか悩みますね!楽しい!


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第17話 邂逅

 

 

 しのぶさんに着いていくと返事をした直後、黒装束の黒子らしき人が現れてあれよあれよという間に手を縛られて目隠しをされた。なんなら耳栓もされている。鬼もびっくりの速さで縛られた私は誰かに背負われ(多分さっきの黒子の人)、びゅんびゅん風を切りながら何処かへ運ばれた。

 

 おんぶなんて久方ぶりでテンションが上がっていると、私を背負っている人が足を止めた。何かを話しているのかもしれないが耳栓のせいで何も聞こえず、まったく状況を知ることが出来ない。と、思っていたら畳らしき床に降ろされて耳栓を外された。

 

「すみません、諸事情で耳栓以外外せないんです。目隠しと手の縄はそのままでお願いします。あ、あと、勝手に外すと敵対の意思があるってことになるので気をつけてください」

「私を背負ってくれた人?お疲れ様です、ご忠告ありがとう。お名前は?」

「・・・名乗れないんです。すみません」

「分かったわ。私はシロ。よろしくすることがあるか分からないけど、よろしくね黒子くん」

「くろこ?え、俺歌舞伎とかやってないんだけど・・・ああ、この服のせいか・・・。よろしくお願いします、シロさん」

 

 よろしく言った後、黒子くんはブツブツ言っていたがよろしくと返してくれた。うんうん、人との交流は大事にしないとね。黒子くんって呼び名はどうかとも思うが、ネーミングセンスがないのはどうしようもないから諦めることにしよう。

 

 ちょっと此処で待ってて下さいね、という黒子くんの言葉を最後に、周りは静寂に包まれた。黒子くんは何処かに行ってしまったらしくまったく気配がない。なんなら近くに誰もいない。どれだけ放置されるのかなーと思いきや、不意に声がかかった。

 

 

「道中お疲れ様。来てくれて嬉しいよ」

 

 

 正座をしている私の10M程前、斜め上から男性の声がした。なんなくホワホワする声で、声だけの第一印象を言うなら『人心掌握が得意そう』と言ったところだ。

 

「こんにちは。ところでどちら様ですか?」

「ああ、自己紹介が遅れたね。私は鬼殺隊の当主、産屋敷耀哉だよ」

「鬼殺隊のご当主様が、鬼にいったいなんの御用で?」

 

 もちろん皮肉だ。まさか本当に鬼殺隊の本拠地とも言えるところに連れてこられるなんて思わなかった。だからこその目隠しと手の縄か。勝手に解いたら駄目ということは、裏を返せば解いた瞬間に頸を切れるように戦闘員がスタンバイされているんだろう。

 それを察すると同時に、雰囲気で目の前の鬼殺隊当主が笑ったのが分かった。笑ったと言うよりは口端を上げた、が正解だろうか。その後1秒、5秒、10秒ほど経ってから再度口を開いた。

 

 

「我々鬼殺隊に協力をしてくれないだろうか」

 

 



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第18話 拒否権

「鬼が鬼殺隊に協力、ですか。ちなみに、拒否権はあるのでしょうか?」

「もちろん意思は尊重するよ。嫌だったら断ってくれて構わない。その為に拘束はそのままにしているからね」

 

 ・・・?・・・ん?拒否権はある、だと・・・!?

 正直に言って拒否権なんてないだろうと思っていた。拒否するつもりはなかったとはいえ、自主的に着いてきたとはいえ、暗に脅されて来たようなものなのだ。しかも縛られた上に周りの状況が全くわからない状態で。

 

「そもそも鬼殺隊に協力をしても君に得はない。鬼は全て敵という思想の子も多いし、たくさんの人の悪意に触れることもあるだろう」

「まあ、そうでしょうね」

「しかし私は長い年月をかけて君を観察してきた。人里で働き、交流を持ち、里の人間を守ろうと鬼をかなりの数倒してきた。私はそれを知っている。だからこそ、強くて優しい君に協力して欲しいんだ」

「私が拒否をしたら、どうするつもりなのですか?」

「その時は仕方ない。君が人に対して害がないのは知っているから先程までいた所に送るだけだよ」

「・・・ああ、なるほど。やっとこの拘束の本当の意味がわかりました」

 

 つまりは最初から拒否されること前提だったわけだ。耳栓、目隠し、おんぶは本拠地の場所を知られないため。到着しても外されないのは姿を見られないため。何も知らない状態なら、情報漏洩を防ぐ為に口封じで殺す必要は無い。最初から最後まで私のことを考えていたわけだ・・・鬼の、私のことを。縄はなんでか分からないけど、まあ、保険のようなものだろうか。勝手に解いたら敵対の意思有りとみなすということは、逆に言えば解かない限り敵対の意思は無いことになる。

 

「何度も言うがこの話を受けてくれたとして君に得はない。ただ私が協力して欲しいだけだ」

「念の為聞きますが、協力することになったとして私は何をすればいいんですか?」

「主に2つ。鬼殺の同行と、戦闘力の底上げ」

 

 早い話が鬼殺隊員の戦闘補助と、新入隊員達との手合わせといったところか。確かに鬼との戦いのときにこちらにも鬼がいれば結構な無茶が出来る。人と違って手足が引き裂かれたとしても時間が経てば治るから。手合わせだってそうだ。実践と同じ鬼が相手なら、対人戦闘訓練よりもよっぽどタメになるだろう。

 

「いいですよ。というか、まあ、最初から断るつもりは無かったので」

「そうか・・・そうか、ありがとう。ああ、その拘束は解こう。酷い真似をしてしまってすまないね」

「いいんですよ。鬼ですし、警戒して当たり前です」

「義勇、彼女の拘束を解いてやってくれ」

 

 はい、という声が天井から聞こえ、誰かが近くに降り立つのが分かった。天井にもいたんかーい。部屋の外に何人かいるのは分かっていたが、天井にまでいるとは思わなかった。忍者か。前世の忍者漫画を思い出しているうちに拘束が解かれて目隠しも外された。

 

「えっと、今日からお世話になります?シロ、と名乗っています。仕える立場になるなら、なんとお呼びすればいいんでしょうか?」

「・・・俺達はお館様とお呼びしている」

「ありがとうございますお兄さん。お館様、これからよろしくお願いします」

 

 

「ああ、よろしく頼むよ」

 

 




ちなみに観察して報告していたのは鎹烏です
原作数年前の柱が分からない・・・少なくとも無一郎が居ないことしかわからない・・・

追記
しのぶさんや義勇さんがいつ頃柱になったのか分からないので、現時点ではその点について言及はしません。柱かもしれないし柱じゃないかもしれません。


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第19話 番外ー鬼と猪と四字熟語

 基本的に、伊之助のコミュニケーションは物理的だ。なにか訴えたいことや伝えたいことがあると、背中やら腰やら鳩尾やらに頭突きをしてくる。でもそこに攻撃の意思はなくて、上手く言葉が出てこないというだけだから注意もなんとなくしにくい。たくさんの言葉を覚えれば突進も無くなるだろうか?でもこういったボディランゲージも好きだから無くなるのは寂しい。あ、そういえば。

 

「伊之助って、猪突猛進って感じよね。まるで伊之助のためにあるような言葉みたい」

「ちょとつもーしん?」

「簡単に言うと、猪が真っ直ぐ突進するみたいに猛烈な・・・えっと、すごい勢いで突き進むことね」

 

 猪突猛進。本当に伊之助のためにあるような言葉だ。伊之助は猪の頭を被っているし、もう伊之助=猪突猛進でいいんじゃないだろうか?

 

「ちょとつもーしん、ちょとつもーしん!」

「ちょとつもうしん、ね」

「猪突猛進!」

「そうそう!」

 

 んっっ!伊之助がこんなにも可愛い!伊之助は地頭が良いみたいで、教えたことをスポンジのようにどんどん吸収していく。教えるのがとても楽しい。次は何を教えようかな、と思ったところで伊之助が何処かに向かって駆け出した。

 

「猪突猛進!猪突猛進!」

「え、ちょ・・・どこに行くんだろ・・・」

 

 しばらく待つと、伊之助は熊を仕留めて戻ってきた。え、熊???熊を昏倒させて運んでくるとか、やだ、伊之助がこんなにも格好いい・・・!

 

「猪突猛進!どうだ!俺すげえ!」

「ふふふ、本当に凄いわね。今日は熊鍋にしましょうか。熊が起きる前に仕留めておかないと」

「姉貴の鍋は最高だからな!」

「ありがとう、美味しく作るから待っててね」

 

 獣の捌き方は暫く前に東北の猟師さんに教えて貰った。鬼になってしばらく経つが、長く生きていると世渡りが上手くなってくるものだ。他にも罠の作り方や獣の習性についても教えて貰った。ありがとう、猟師のおじさん。伊之助のためになってるよ!

 

「ちょっと今日は野菜が切れてたからお肉だけだけど・・・今日だけよ」

 

 熊肉しか入っていない鍋を見て、伊之助は目をキラキラさせていた。後で野菜を買いに行こうとしていたのだが、肉は鮮度が大事だし今回は野菜を入れるのを諦めた。伊之助って本当にお肉好きよね。

 

「お肉だけなのは今日だけだからね、次からはちゃんとお野菜も入れるわよ」

「おーう!」

「もう・・・」

 

 分かっているのかいないのか、いただきますと言うが早いか伊之助はガツガツと鍋を食べ始めた。

 まあ、それだけ美味しそうに食べて貰えると小言を言う気も無くなってしまうのだが。



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第20話 派手派手

 鬼殺隊に協力することになったものの、正確には私は鬼殺隊員ではない。最終選別を突破していないものが隊員を名乗るのは良くないと思うし、何より鬼が鬼殺隊員・・・?えっ・・・?と言った感じだ。一応鬼である私と鬼殺隊が協力関係を結んだ事は周知されるように話を回しているそうだが、やっぱり鬼を引き入れるのに反対する人もいる訳で。

 

「言っておくが、俺はお前を認めてねーからな。お館様の指示に従ってるだけだ。ちょっとでも怪しい真似をしてみろ、派手に血飛沫を飛ばしてやるぜ」

 

 ほらでた。今のところ私が会っているのは『絶対に認めない派』と『御館様の決定に従うが出来るだけ関わりたくない派』の2勢力だ。悪意を向けない分後者の方が楽ではあるが、今回私に声を掛けてきたのは面倒な前者であることが分かる。ていうかわざわざ関わってこなければいいものを。

 

「認めてないって言われたの、貴方で14人目です。どちら様ですか?」

「はあ?柱のこととか知らねーのか。俺は派手を司る神、音柱の宇髄天元様だ!もう一度言う、俺は神だ!」

「頭がおかしいことだけ分かりました」

 

 神を自称する人は大体頭がおかしいということを私は知っている。この人やばい人だ近寄らないでおこ・・・。ドン引きした目を逸らしながら1歩後ずさると、目の前の自称神はイラついたような表情になった。

 

「んだとこの地味ガキ!協力だかなんだか知らねーが俺は上官だぞ!」

「誰がガキだ慶応産まれだから!絶対にあんたより年上!ていうか私隊員じゃないんだから上官もクソもないでしょうが!」

「ババアじゃねえか!」

「投げ飛ばすぞ!」

「いい度胸だかかってこいよ!」

「いかないよ!協力関係結んだばっかりだわ!」

 

 ゼエハアとお互いに息を乱しながら言い合いを続けていたが、不毛と分かりどちらからともなく罵りあいを辞めた。確かに投げ飛ばすぞって言うのは良くなかったかもしれない。一応、一応、協力関係結んでるわけだし。相手敵意剥き出しだけど。

 

「ハア・・・おい、てめぇ。慶応産まれでその見た目っつー事は、鬼になったのは明治前半か?」

「あー、うん、前半だけど・・・それが?」

「その間本当に人は喰ってないんだろうな?」

「人は食べてないよ。鬼を食べて暮らしてたからね」

「鬼って食い物なのか・・・引くわ・・・」

「食べたくて食べてるわけじゃないから!ていうか鬼相手なら鬼殺隊とやってる事ほとんど同じじゃん。栄養にしてる分有意義だと思わない?」

「栄養になろうが鬼は喰いたくねえ」

 

 ・・・確かに、よくよく考えると鬼を食事扱いするのってなんかやだな・・・人だった頃にそんな話聞いたら私もドン引きしていたかもしれない。

 

「一応、お館様もお前が人を食ってないのは確認してるしな。20年近く人を食ってないなら、まあ、大丈夫なんだろう」

「何が言いたいの?」

「不本意だが、非常に不本意だが!お前を認めてやらんことも無い!名乗ってよし」

「上から目線で腹立つわぁ。ちょ、ま、耳引っ張るのやめて!・・・シロって名乗ってます。よろしく」

 

 うっかり本音が漏れ出たところで両耳を引っ張られた。痛くはないけど精神的に嫌すぎるわ!ていうかこの人の見た目が派手すぎて目に優しくない!やっぱりあんまり近寄らないでおこ・・・。

 

 




多分この時は、竈門家の悲劇1,2年前のはず
きっと宇髄さんは既に音柱!言い切る!私が神だ!

一応敬語使ってたけど、なんかちょっとイラッとして敬語外れた。前世が顔を出したと言ってもいい。
人間味が滲み出てるから宇髄さんも認めてくれたんだね!(なげやり)


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第21話 任務

誤字報告ありがとうございます!
20Mとかすぐ到着しますね・・・
被害者数50→20に変更しました。


「おいシロ!任務だ、行くぞ」

「え、ええ、えー・・・」

 

 近寄らないでおこ、と思ったらこれだ。何故か宇髄さん(一応さん付けはする)とタッグを組んで鬼の討伐に行くことになった。なんで・・・?疑問符がいっぱい浮かんでいるのが分かったのか、私をチラ見してから説明を始めてくれた。察してくれる人はありがたい。ちょっとだけ評価あがったよ。ほんのちょっとだけね!

 

「柱は忙しいからな、都合着くのが俺しかいなかったんだ。今から行くところは既に人が20人ほど消えている。雑魚が何人行っても意味ねえから俺らが行くんだ」

「なるほど。今から?」

「当たり前だ。足引っ張るんじゃねえぞ?」

「なんかイラッとしたから私一人で倒してやるわ」

 

 今まで、伊之助を筆頭に可愛い子達ばかりと関わっていたせいか煽り耐性が低くなってきている気がする。絶対に宇髄さんの手を借りずに鬼倒してやるからな!と意気込んでいると宇髄さんがプルプルしていることに気づいた。スライムかな?

 

「ククッ、いい気概じゃねえか。嫌いじゃねえぜ?そういうの」

「あ、ああ、うん?・・・これ褒められてるの?」

「褒めてんだよ、有り難れ!とりあえず準備しろ。すぐに出発するぞ」

「準備することはないから大丈夫!すぐ行ける」

 

 今更だが、初対面時の口論後から宇髄さんに対して敬語は使っていない。宇髄さんも気にしていないようだし、なんか、うん、別にこの人は敬わなくていい気がした。

 

「んじゃまあ、行くとするかね!」

 

 そう言うと、なんの予備動作もなくツッタカターと走り出した。え、本当に人?早すぎて怖いんだけど、と内心で思いつつ、宇髄さんと並走をする。

 

「宇髄さん足早過ぎない?本当に人間?」

「あ?俺は元忍だぞ。これでも緩めてる方だ」

「忍って本当にいたんだ。ああ、私着いていけるから緩めなくていいよ」

 

 本当に人間なのか疑わしすぎて本人に聞いてしまった。忍がこの時代にまだいたんだなぁと思いつつ、スピードを抑えているということを聞いて配慮は必要ない旨を伝えた。多分だけど、追いつけるかわからないから緩めてたんだろうな・・・見くびられてるな、私。確かに結構雑魚かもしれないけども!その辺の鬼よりは強いんだから!

 

「そういえば、目的地ってどこ?」

「あ?ああ、ここからだとそうだな・・・5里ほど離れた海岸だな。漁に出たものがほとんど戻らないんだと」

「なるほど、海なら海難事故って思われる可能性が高いからか。そこに鬼殺隊が出ることになったきっかけは?」

「簡単な話だ。生き残りが口を揃えて、鬼が出たって言ったんだと」

 

 ふーん、そっかー、海かー。海なんてここ暫くずっと見てないなーと思っていたが、先程言っていた宇髄さんの言葉を思い出して戦慄した。

 5里って、20kmじゃん!ほぼハーフマラソンかよ!

 

 




最初の方と比べると、シロちゃんがどんどん人間らしくなってますね!


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第22話 海の鬼

「おお、海!凄い!海!海だよ!」

「地味にはしゃいでんじゃねえ!」

 

 久方振りの海を見てテンションが上がった私は、宇髄さんにスパーンッ!という音を立てて頭をひっぱたかれた。

 

「え、ひど。引っぱたくことなくない?」

「うるせえ、大人しくしろ。とりあえず情報収集、を・・・!」

 

 海岸の砂浜に降り立ち、波打ち際を歩きながら話していると宇髄さんが臨戦態勢になった。それと同時に、私も鬼の気配を感じ取ることが出来た。やば、私のセンサー鈍りすぎ・・・?

 

「海か。地味にいやーな所に潜んでやがる」

「水中戦ならやっぱり私かな。鬼だし、呼吸しなくても戦える」

「でかい口叩くじゃねーか。よし、行ってこい!」

 

 行ってこい、と言われると同時に襟首を掴まれて海に投げ込まれた。え、酷くない!?私の扱いが雑すぎる、もう少し丁寧に扱って欲しい。

 とまあ無駄口はここまでにして鬼を探す方に意識を向けた。この辺に鬼がいるのは分かるのだが、見渡せど水しかない。魚1匹いやしないため、どこにいるのか皆目検討もつかない。

 

「上が黒、下が白の髪を持つ鬼・・・貴様が逃れ者の鬼喰いか」

「・・・!!」

「丁度いい。あの方への手土産にしてくれる!これで、これで私はもっと強くなれる!」

 

 声が聞こえると同時に目の前に鬼の生首が現れた。よくよく見ると首から下もきちんとあるが、ほぼ透明で視認することが難しい。とりあえず全体を把握しようと目を凝らすと、手足が触手のようななにかになっていることに気がついた。それぞれの四肢があるはずの所に、4本ずつの触手。合計16本の、触手。

 

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・えっと

 

 理解すると同時に、血鬼術で巨大な歯車を生成し、自分ごと鬼を海中から空中に打ち上げた。

 

「宇髄さん前言撤回です!食べたくないので頸切るのお願いします!!」

「はァ!?なんだそりゃ!」

「道は作るのでお願いします!ほんと!美味しいものご馳走するので!」

 

 無理、無理、無理無理無理!私は軟体動物が駄目なんだ!気持ち悪い!タコもイカも大嫌いだ!ウネウネしててなんか気持ち悪い!爬虫類はまだいけるけど、触手は無理!ごめんね!!

 内心荒ぶりながら、宇髄さんがいる所から今いる空中までの間に歯車の足場を作り出す。その間に鬼が海中に逃げようとするから新しい血鬼術で足止めをする事にした。

 

 ーーー血鬼術・暴風湾曲波ーーー

 

「っ!グフッ!ギャァ!」

 

 宇髄さんが好きそうなド派手な技だ。簡単に説明すると、大小様々な歯車が直線曲線問わず襲いかかってくる。そう、まるで弾幕のように。上下左右問わず襲いかかってくるから逃げ場はない。もちろん足元からも来るから海の中に逃げることも出来ない。空中戦で使いやすい技だ。それに、この鬼の体が透明でも実体はあるからな!ただちょっとした欠点があって、これで足止めをしていると誰も近づけないためもう1つの血鬼術を使うことにする。

 

 もう1つの血鬼術を単体で使うのは難しいが、前述の暴風湾曲波に混ぜて使うと効果抜群だったりする。この技は、視認が難しいレベルで小さくした歯車を口経由で相手の体内に忍び込ませるものだ。これだけで使うといくら小さくてもバレそうだから何かに混ぜないと使いにくい。初見殺しのようなものだし。

 

「っ!?」

「うんうん、口になにか入ったよね、気になるよね、わかるわかる。すぐにそれが何か分かるから大丈夫だよ」

 

 小さな歯車を体内に仕込んでどうするか。答えは1つだけ。

 

 ーーー血鬼術・飛腹裂ーーー

 

「グゥ、ギィィヤァァァ!腹、腹ガ、アッ」

「お腹の中で巨大化させて、そのまま胴体を真っ二つにするんだよ」

 

 暴風湾曲波を辞めると同時に腹の中の歯車を巨大化させ、胴を半分に斬り裂いた。私の歯車で受けた攻撃は治りが遅くなるため、その瞬間に宇髄さんが鬼の頸を落とす。

 

「宇髄さんありがと」

「ったく、あんだけ派手にやれんならお前一人で大丈夫だったろうが」

「見た目が受け付けなくて・・・日輪刀無いし、でも倒すには食べるしかなかったから・・・宇髄さんがいて良かった」

「・・・そうかよ」

 

 いやほんと、日輪刀がないとちょっと困るかもしれない。これからもこういった見た目の鬼と対峙する事になるなら日輪刀が欲しい。食べたくない。でも隊員じゃないのに日輪刀は持たせてもらえないだろうな、残念。




オリ主の技が4つほど出来たので、活動報告の方に一覧を載せておきます

この鬼が弱かったというよりも、オリ主が強すぎた。普通の隊士だったら海に引きずり込まれた時点で溺死してる。でも柱なら余裕で倒せる相手


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第23話 蕎麦

 鬼の私にも鬼殺隊に親しい人が出来た。山田くんという少年で、最近入った子だから階級は癸。結構筋が良くて化けそうな感じだ。まあもちろん伊之助の方が強いと言いきれるのだけれども。仲良くなった機会はまあ、いつか機会があったら。

 

「シロ聞いてくれ!今日の稽古でやっと10人抜き出来たんだ!」

「えっそうなの!?凄いじゃない山田くん!」

 

 今日の稽古内容は1対1の対人戦闘訓練。2列になりお互いの先頭同士が戦う。勝ったら次の人と戦い、負けたら後ろに並んでいるものとバトンタッチして最後尾に回るのだ。つまり勝てば勝つほど連続で戦うことになるから後が大変になる。それだけ大変なのに10人抜きが出来るなんて、やっぱり才能があるわ山田くん・・・!

 

「本当に凄いわねぇ山田くん。なにか美味しいものでも食べに行く?お蕎麦とかどう?奢るわよ?」

「いいのか?蕎麦食いたい!あ、でも昼間は外出れないよな?」

「今日は暗雲が立ち込めてるから大丈夫よ。直射日光じゃなければ問題ないの。」

「よっしゃ!今暇だよな?丁度昼時だし、行こうぜ!」

 

 ここだけ聞くと山田くんが奢られるのを当然としているように聞こえるけど誤解しないで欲しい。お互いに奢ったり奢られたりしているのだ。ちなみに私は前回うどんを奢ってもらった。麺類最高!

 

「・・・うげ」

「あ?シロじゃねえか。なんだ、逢い引きか?」

 

 鬼殺隊稽古場の近くにある蕎麦屋に向かい、暖簾をくぐった所で見知った顔を見つけて思わず声が出てしまった。くそ、何も言わずに引き返せばよかった。

 

「・・・山田くんは友人です。ていうか宇髄さんはおひとりで?うわ、寂しい人間ですね」

「アアン?待ち合わせに決まってんだろーか!馬鹿にしてんのか!」

「何でもかんでも色恋に繋げようとする人は馬鹿だと思っているんでね!どうも失礼しましたー!けっ!」

「よーし外に出ろ派手に頸切り落としてやる!」

「店内で大声出すの辞めてくれません?周りの人に迷惑です」

「・・・!!」

「シ、シロ、この人音柱の宇髄様じゃ・・・!」

 

 大声が周りの迷惑になるというのは宇髄さんも分かったようで、大声を出すのは辞めたが殺意の篭もった目で私をガン見している。こっわ。ちなみに山田くんは今にも倒れそうなほど青白い顔をしながらガタガタ震えている。とりあえず座ろうと空いている席を探したが、昼時ということもあってか1ヶ所しか空いていなかった。・・・宇髄さんの隣の席である。

 

「・・・ここしか空いてないんで、お隣失礼しまーす」

「シロお前本気か!?」

「チッ。勝手にしろ」

 

 さながらスマホのマナーモードの如く震えている山田くんを座らせて、私も椅子に腰を下ろした。メニューに軽く目を通してから山田くんに渡す。うん、ザル蕎麦の並でいいや。

 

「そういやシロ、お前この間美味いものをご馳走するって言ったよなぁ?」

「ああ、そういえば・・・言ったような・・・」

「約束を反故にするのはいけねえよな?」

「・・・どれがいいの?」

「話が早くて助かるぜ。これこれ、ここで1番たけーやつ。自腹だと思うと食う気が起きねーんだよ」

 

 そう言って指をさしたのはこの店で1番高いメニュー。少量しか採れない蕎麦粉を使っているようで、その希少性から値段が高いそうだ。うわ、ほんとに高い。これ奢らせるとかこの人外道すぎじゃないの?

 

「はいはい、了解。約束は大事だもんね・・・山田くんは決まった?」

「あ、ああ、決まった」

 

 やっぱりというかなんというか、山田くんがビビりすぎてずっと震えてるから早めにここを出てあげる事にしよう。ごめんね山田くん。




オリキャラ山田くん。ひたすらにモブです


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第24話 燃えよ

 私だって、何も最初から血鬼術が使えていたわけじゃない。珠世さんに教えて貰った時に初めて血鬼術の存在を知ったのだ。しかし血鬼術がない状態でも私は鬼を殺して食べていた。どうやって?・・・もちろん、徒手空拳。素手だ。

 

「うむ、圧巻だな!」

 

 ここは鬼殺隊稽古場の道場。周りにいるのは真剣(日輪刀ではない)を帯刀した下級隊士約50名。もれなく全員床に這いつくばってダウンしている。

 今日は私の出番である対鬼訓練の日だった。1対50で戦い、誰か一人でも私の体を切断出来れば勝利。ただ(私が)全力でやると道場が壊れかねないため、お互いに日輪刀・血鬼術は使用禁止だ。どうやら鬼殺隊の人達は私が血鬼術に依存していると考えているようだが別にそんなことは無い。確かに鬼殺に同行する時は毎回血鬼術を使ってはいるが、それが1番手っ取り早いからだ。なんなら血鬼術を使っている期間よりも徒手空拳だった期間の方が長い。血鬼術が使えないところでそう簡単に負けるわけがないのだ。

 

「いや、本当に圧巻だ!まさかこれ程とは思わなかった!」

「ど、どうも・・・その、どちら様で?」

「ああ失礼、自己紹介がまだだったな!俺は炎柱の煉獄杏寿郎だ!」

「煉獄さんですか。ご存知かもしれませんが、シロです」

「ああ!知っている!」

 

 真後ろにいることに気づけなかった。気配を殺すのが非常に上手いから、柱レベルの人だろうなと予測したらその通りだった。第一印象、声がでかい。それと髪がすごい明るい。炎柱って見た目で主張してるのかという程に髪が炎みたいだ。自己紹介を済ませた煉獄さんは、私の横を通り過ぎて倒れ込んでいる隊士に近づいた。

 

「・・・見たところ流血も骨の異常も無さそうだ。気絶しているのはただの疲労のせいだろうか!」

「は、はあ、まあ、訓練で怪我させるのもどうかと思ったので・・・」

「そうか!君はなんとも珍妙だな!人よりも人らしい!まるで鬼とは思えん!」

 

 これはどう捉えればいいんだろうか。珍妙って絶対に褒められていないような気がする。人よりも人らしいと言われるのはまあ有難いが、前世を入れたら人だった頃の方が鬼になってからの年月よりも長いのだ。むしろ鬼らしいと言われる方がいやだ。よく分かんないからポジティブに捉えよう。褒められてる褒められてる、はい!

 

「せっかくだ。俺とも手合わせして貰えないだろうか?」

「・・・日輪刀じゃなければいいですよ。ここで血鬼術は使えないので、徒手空拳で失礼します」

「うむ、全力で戦えないのは惜しいな!いつか血鬼術有りで手合わせをして欲しい!」

「考えておきます。山田くん、真剣借りるねー・・・って、気絶してるから聞こえないか」

 

 今までの手合わせでは下級隊士としか戦ってこなかったから柱相手は初めてだ。ほんの少しだけウキウキするが、すぐに首が刎ね飛ばされそうだなーと冷や汗が出てくる。その辺の人や鬼になら負けない自信があるけど、パッと見で強者とわかる相手と戦うのは初めてなのだ。自分はあまり強くない事を自覚しているだけに、なんだこの負け戦はという考えが頭をよぎる。

 ・・・あと、この人の目の焦点どこ?




「善処します」「また今度」「考えときます」
答えは全て『いいえ』です。


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第25話 手合わせ

炎の呼吸についての表現を修正しました


 真剣を煉獄さんに渡し、倒れ込んでいる隊士達を全員道場の隅っこに寄せた。うっかり踏んづけでもしたら大変だ。全員を端に寄せ終えて、稽古場の中心でお互いに構えながら向き合う。

 

「君がここで血鬼術を使えないのは残念だが、俺も炎の呼吸は使えないからお互い様だな」

「ああ、貴方が呼吸なんて使ったらきっと稽古場が大破しますからね」

「きっとというよりもほぼ確実にだな。全力で戦えないのは本当に惜しい。さて、手合わせを始めよう」

「よろしくお願いします」

「ああ、よろしく」

 

 礼儀は大事だ。よろしくと言い合った瞬間、互いの攻撃が始まった。

 

 真正面に飛び距離を縮め、ほぼゼロ距離で左脇腹を右の拳で狙う。煉獄さんはそれを想定していたようですぐさま後ろに飛び、私の左首筋に向かって刃を振るった。

 首に迫っている刃をしゃがんで回避し、しゃがんだ勢いのまま右足を軸にして足払いを仕掛ける。が、それも飛んで躱される。飛んだ勢いのまま頭上に刃を振り落とされるから、しゃがんだ状態で横飛びをして避けた。

 

 攻撃を仕掛け、躱され、仕掛けられ、躱すという状態が現代時間でおよそ3時間ほど続いた。その間、どちらも決定的な攻撃が決まらない状態だ。お互いに呼吸と血鬼術が使えない状況という縛りプレイだから拮抗しているのだろうが、煉獄さんが呼吸有りで戦っていたらすぐに決着が着いていたかもしれない。

 

「むう、これではいつまで経っても決着が着きそうもないな!」

「そうですね。どうします?」

「決着をつけることにしよう!なに、互いに1度だけなら呼吸と血鬼術を使っても問題ないだろう!」

 

 なるほど。お互いに、同時に呼吸と血鬼術を使って勝負を決めると。面白そうだけど、私の血鬼術って人相手だとほぼ即死技では・・・?いや、暴風湾曲波なら加減できるか。

 

「了解です。その一撃で手合わせを終わりにしましょう」

「君ならのってくれると思っていた!終わりにするのは少々惜しいが、覚悟はいいか?」

「それはこっちのセリフです」

 

 ーーー血鬼術・暴風湾曲波ーーー

 

 ーーー肆ノ型・盛炎のうねりーーー

 

 

 血鬼術で歯車を生成し、煉獄さんに向かって360°から攻撃をする。煉獄さんはまるで炎のような刀のうねりでそれらを落とし、私の方まで距離を縮め、頸に向かって刀を伸ばした

 ・・・でも、どうやら相性が良かったらしい。向こうの得物は1Mにも満たない刀。対して私の歯車は分厚い鉄。鉄は、そう簡単には切れないし切れたところで刃の長さ以上は差し込むことは出来ない。斬撃を飛ばせたとしてもお互いの距離が近いから強い威力は出せないだろう。つまり背後に飛んで、穴のないタイプの分厚い歯車を刀と自分の間に配置すればちょっとした要塞の完成なのだ。

 

「・・・うむ!俺の負けだな!いや、参った、これが実戦なら俺は死んでいる!」

「私の攻撃は数でゴリ押しするものなので」

 

 自身で出した巨大歯車を消し去った時に見えたのは尻もちを着いている煉獄さんの姿だった。

 まあ、相性の問題だ。煉獄さんが今使った呼吸はきっと前半の型のものだろうし、周りの被害を考えずに戦っていたらどうなっていたか分からない。周りごと抉りとる型だったら歯車ごと切り刻まれてる。そもそもさっき使った暴風湾曲波はずっと続く攻撃だから終わりがないのだ。つまり、どれだけやろうが1度の攻撃に変わりはない。ずるい?ずるくて結構。別にルール違反ではない。

 

 

「正直に言うと、俺は君の存在を認めていなかった!」

「あっはい。でしょうね」

「待て、話は最後まで聞くべきだ!・・・シロ、俺は君を信じる。宇髄や他の隊士から話は聞いていた。今までの任務で誰一人傷つけずに鬼を倒してきたそうだな。今の手合わせでもそうだ。俺は本気で君の頸を切るつもりだったのに、君は俺に血の一滴も流させずに尻もちをつかせた!」

「・・・」

「君は協力関係であるだけで、鬼殺隊ではない。今は少々それが惜しい!シロ、鬼殺隊に入る気はないか?俺からお館様に口添えしよう。君ほどの者が鬼殺隊に入れないわけがない!」

「持ち上げてくれるのは嬉しいですけど、それでも私は鬼です」

「分かっている、が!人を守り鬼と戦うものは鬼殺隊の一員であると胸を張って言える!」

「・・・鬼が、鬼殺隊員なんて、そんな恐れ多いこと」

「そもそも君は隊士と手合わせをしたり、任務に同行をしているだろう?隊士と何が違うんだ」

 

 ・・・そう言われると、私がやっていることは鬼殺隊員のやっている事とあまり変わらない気がする。外部コーチのようなものだと思っていたのだが・・・。鬼殺隊員になれるなら、正直嬉しい。そもそも私の目標は鬼を殲滅することだ。鬼をこの世から排除することだ。つまり、目指すものは一緒なのだ。

 

「どうだ?考えてみないか?」

「そ、うですね・・・お館様が、許可をして下さるのなら・・・」

「そうか!では俺はお館様に許可を得てくる!なに、そもそも君を引き入れたのはお館様だ!許してくださる!」

 

 そう言うと煉獄さんは嵐のように稽古場から出ていった。え、行動はっや・・・。




自己評価が低いけど結構強いシロちゃん
戦闘描写が苦手という事が露呈した・・・


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第26話 蛇

 

 

 煉獄さんが出ていった稽古場の出入口を見つめていたら、黒髪の小柄な人がぬるっと姿を現した。口元に布を巻いていて、首には蛇が巻きついている。ペットか相棒だろうか。

 

「煉獄に勝ったからって調子に乗るなよ。そもそも煉獄はここを壊さないように抑えていたんだ。外でやっていたら貴様なんぞ瞬殺だったんだからな」

 

 こちらを指さしながら、ネチネチとした口調で嫌味を言ってきた。ていうか誰だ・・・なんとなく強そうだからこの人も柱か・・・?

 

「いいか、俺は鬼が嫌いだ。大嫌いだ。だからお前を信用しない。それに貴様が20年近く人を喰っていないこととこれからも喰わないことには関連性がない。第一貴様も鬼だろう。鬼を全て倒した時、貴様はどうするのかね。食料が無くなるぞ。まあ貴様がそこまで生きていられたらの話だが」

 

 ネチネチネチネチネチネチ、まるで擬音語が目に見えるくらいにネチネチとした話し方をする人だった。本当に誰だ。柱だろうけど、まず何柱があるのか私は把握していない。つまり柱が誰かも分からない。分からないことは仕方が無いので一旦思考の隅に追いやり、とにかく目の前の人物の質問に答えることにした。

 

「確かに、人を喰わない保証は無いと言われたらそれまでです。が、そもそも人を喰う必要がありません。栄養なら鬼で補給出来ますし、普通に人の物が食べられるので美味しいものが食べたくなったら店に行きます。鬼を倒し切ったときの話ですが・・・まあ、日光にでも当たって死ぬつもりです。どうしても幸せに暮らして欲しい子が居るんです。自分含め、鬼は全て消しさらないと」

 

 言わずもがな伊之助のことである。伊之助が今どうしているのかは知らないが、あの時のままあの山で暮らしていけていたらいいと思っている。目の前の人物の目を見て言い切ると、眉間にシワを寄せたのがわかった。

 

「・・・いいか、俺は信用しない。鬼を鬼殺隊に入れるなど、煉獄も何を考えているのか理解しかねる」

「まあそれは私も思いましたけど、駄目なら駄目でお館様が却下するはずなので大丈夫だと思います」

「当たり前だ。もし承認されることになどなったらお館様であっても反対す、る・・・」

 

 語尾が詰まったなと思うと同時に、目の前の人物の首にいた蛇が床を伝って私の方までやってきた。海の軟体動物と違って蛇などの爬虫類は許容範囲内だが、あまり近くで見たことがなかったためマジマジと見てしまう。

 

「・・・この子、人懐っこいんですね」

「おい、返せ」

「この子の意思を尊重したいので、そちらに戻るまで待ってあげてくださ、わ、擽ったい!」

 

 蛇がこちらに来たと思ったら足を伝って服の中に入ってきた。なんだこの変態ヘビは!と思っていたら、すぐに出てきて私の首に巻きついた。え、これ絞め殺されそうになってる?

 

「・・・ハァ。そいつが懐くなど、滅多にないはずなのだが」

 

 そう言いながら、目の前の人物は顔を手で覆って項垂れた。驚いたことに、どうやらこの蛇に懐かれたそうだ。蛇の飼い主には嫌われてるけど不思議なこともある。やーい、蛇もーらい!あっ冗談ですごめんなさい。

 

「チッ・・・俺は伊黒小芭内。いいか、馴れ合うつもりも信用するつもりもない。少しでも怪しい真似をしてみろ、俺が貴様の頸を跳ね飛ばしてやるからな」

 

 謎の人物、もとい伊黒さんがそう言って出入口から姿を消すと、私の首にいた蛇も伊黒さんを追って稽古場から出て行った。結局あの人は柱だったんだろうか・・・?

 




蛇が懐いちゃったもんだから、悪いものじゃないと分かってしまった伊黒さん。でも鬼大嫌いだからそう簡単には信用出来ないぞ!
伊黒さんと仲良くさせたいけど、難しそうだなぁ・・・(遠い目)


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第27話 友達

 

 

「そりゃああれだ、蛇柱よ」

 

 なんの縁か、久しぶりに宇髄さんと遭遇したため伊黒さんのことを聞いて上記に至る。ちなみにここは天ぷら屋さんだ。ちょうど昼時に会って、お互いに昼食がまだだったため一緒に食べることになった。ちょいちょい口喧嘩はあるものの、仲は悪くないと思っている。

 

「つーか、お前ここに来て長いだろ?誰かに教えて貰わなかったのか?」

「雑談する相手もそんなに居ないし、聞いてたとしても忘れてるかも」

「なるほど、友達ほとんどいねえんだな」

「否定出来なくて悲しくなるわ」

 

 確かに、宇髄さんの言う通り私はほとんど友達がいない。というか胸を張って友達と言える人は誰もいないかもしれない。強いて言うなら山田くんくらいじゃないだろうか?あ、でも山田くんは友達と言うよりも仲間みたいな感じかもしれない。うわ、人脈無さすぎ・・・!?

 

「しっかたねーな。友達がいないシロの為に、たまーになら飯付き合ってやってもいーぜ?」

「・・・なに企んでんの?」

「ア゛ァ゛!?」

「ごめんて。ていうか私思い込み激しいから、勝手に友達ってことにするね!」

「前向きすぎんだろ・・・まあ、勝手にしろ」

「うん、勝手にする」

 

 わーい、友達ゲットだぜ!お互いいつ死ぬか分かんないし宇髄さんが何考えてんのかも分かんないけど、友達ゲット!宇髄さんだって勝手にしろって言ってるし、これってつまりオーケーサインだよね!私は前向きになる。あれ、よく考えたら今世で初めて出来た友達では???

 

「そうだ、俺3人嫁いるから今度紹介してやるよ」

「えっ、3人も侍らせてんの・・・?女の敵じゃん近づかないで」

「うるせえ!なんか文句あんのか!」

「日本は一夫一妻制だから!3人いる方がおかしいと思う!」

「制度なんか関係あるか!愛してんだから問題ねえだろ!」

「正論だ!」

 

 怒鳴りあっているものの、一応周りに配慮して小声だ。3人もお嫁さんがいると聞いて驚いたものの、一夫一妻なんて誰かが勝手に作った勝手なルールだし、愛し合う気持ちがあればそんなもの関係ないのかもしれない。現代日本でも、お互いに愛し合っているのに制度のせいで結婚出来ないなんて事がザラにあった。ふむ、今回は宇髄さんの方が正しいな。

 

「友達とはいえ、鬼にお嫁さん紹介していいの?」

「嫁も全員元忍だ。そう簡単にはやられねえよ。まあ、シロはそんなことしねえだろ」

「え、なんかすごい信用されてる・・・伊黒さんに信用しないって連呼された直後だから身に染みる・・・」

「お前なに涙目になってんだ?・・・信用するに値するって俺は思ってんだよ。他人の評価は気にすんな。地味に面倒くせえやつだな」

 

 宇髄さんが優しすぎて逆に心にダメージを受けた。今度高級なご飯ご馳走するね・・・!

 

 

 

 




宇髄さんは懐に入れた人(鬼だけど)に対しては凄い優しいしイケメンだと思ってる
この2人は海の後も何回か共闘してるからこその信頼関係かもしれない


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第28話 推薦と体裁

 

 

「シロ、朗報だ!鬼殺隊入隊がお館様に認められたぞ!」

「えっ」

 

 宇髄さんの友達になってウキウキしていた所、人気のない裏路地で煉獄さんに呼び止められた。そこで冒頭に戻る。というか煉獄さんは今なんて言った?キサツタイニュウタイガオヤカタサマニミトメラレタゾ?何その暗号。

 

「とはいえ一応体裁もある。反感を買わないよう最終選別に出る必要があるから、刀の修行をしよう!なに、俺が稽古をつけてやる!」

「え、その、他の方は反対とか・・・」

 

 ええ、えええ?ほんとにお館様許可したの?他の柱は何やってるの、そこは全力で反対しておこうよ。伊黒さんとか率先して反対しそうでしょ。

 

「ああ、安心しろ。この間の柱合会議で正式に決まったことだ!宇髄も推薦していたし、そういえば珍しく伊黒も反対はしていなかったな・・・」

 

 う、宇髄さーん!何一緒になって推薦してるの!?あと伊黒さんなんで反対しないの、信用しないんでしょ、反対しようよ!NOと言える勇気!ていうか今から刀の修行するの・・・?

 

「お館様が許可したならまあ、いいですけど・・・今更刀の修行ですか?」

「シロは刀も使えた方がいいだろう。最初の頃、食べるのが嫌で宇髄に頸を切るのを任せたそうじゃないか!何も呼吸を使えとは言っていない。仕留める時、必要最低限刀が扱えるようになればいい!」

 

 せ、正論だー!宇髄さんに引き続き煉獄さんにも正論で論破された。確かに、日輪刀が欲しいとは思っていたしこれはチャンスなのではないだろうか。そう考えると、あまり悪い話ではないかもしれない。

 

「煉獄さんが稽古をつけてくれるんですか?」

「ああ!前言撤回はしない!ただ任務が入ることもあるからな、その時は他のものに頼むことにする!」

 

 トコトコと、煉獄さんが話しながらどこかへ向かって歩き出す。私もそれに着いていき、しばらく歩いたところで鬼殺隊稽古場に到着した。

 

「行動は早い方がいい。今日はあまり時間が無いから、基本的な構えの練習をしよう!」

「はっや」

 

 少しだけ頭を整理させて欲しい。まず、お館様に鬼殺隊入隊が認められた。なんでだ。でも体裁があるし、最終選別無しで入ると反感を買う可能性があるから最終選別には行く。わかるけどなんでだ。そして、行動は早い方がいいから今すぐに刀の修行を始める。なんでだ。

 

「ちなみに、最終選別っていつあるんですか?」

「7日後だな!」

「・・・もしかして」

「7日後の最終選別に行って受けてもらう!」

 

 色々早すぎるんだわ!

 




ちなみに、宇髄さんと海に行ってから煉獄さんと手合わせするまでの間は1年ほどあいています。
ついでに煉獄さんとの手合わせの後、宇髄さんに会ったのは数日後です。その数日の間に柱合会議があって可決したんですね!

(シロちゃんがどんどん人間らしくなっていく。この1年弱ずっと鬼殺隊の人と一緒にいたせいかな)


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第29話 修行

 

 

 鬼殺隊入隊が認められ、煉獄さんによる最終選別のための修行が開始された。

 まずは刀の構え。基礎中の基礎だが、これがどうにも難しい。少しでも体幹がブレると刀の軌道もブレてしまう。刃の向きと、力を込めるときの方向が寸分の狂いもなく同じでないと折れやすくなってしまう。ここが上手く行かないせいで藁切りの時に刃こぼれを起こしてしまった。刀に申し訳ない。そんな日が続いて3日目。

 

「シロ、すまない!任務が入ってしまったから俺が教えられるのはここまでだ!明日からは時間がある時に宇髄が見てくれると言っていたし、それにある程度基礎は出来ているから大丈夫だろう!」

 

 3日目で早くも放置された。まあ、仕方ない、柱が忙しいのは分かっていた。むしろ3日も私に時間を割いてくれていたと考えるとかなり有難いし足を向けて寝られない。そう伝えると、推薦した者の責務だ、と返された。人間が出来すぎてて末恐ろしい。もしや煉獄さんも転生しているのではないかなどありえない事を勘繰ってしまった。

 

 

 

 

 

「っつーことで、派手に修行すんぞ!」

「思ってたんだけど宇髄さんって暇なの?」

 

 なんやかんやでよく話すのは宇髄さんだと思う。なにせ、遭遇率が高い。柱は忙しい筈なのだが、頻繁に会うのは宇髄さんだけだ。思ったことをそのまま口に出したら、瞬時に両頬をつまみあげられた。

 

「てめぇなぁ、この俺直々に指導してやんだからもっと媚へつらって泣いて喜べ!」

「ひゃい・・・」

 

 聞くと、宇髄さんは継子が居ないからその分空きの時間があるらしい。そういえば、柱は下級隊士だと姿すら見ることは難しいのに山田くんは宇髄さんのことを知っていた。もしかして、継子がいない分の空き時間に下級隊士の面倒を見ていたんだろうか?

 

「つっても、特に教えることがねえんだよな。地味にひたすら素振りするしかねーだろ。」

「ええ、そんな投げやりな」

「そもそもシロは鬼だしな。鬼の面倒は見たことねえ」

「そりゃそうだろうけど・・・」

「お、そうだ。派手に手合わせでもするか?」

「宇髄さん相手だと無意識で血鬼術使っちゃいそうだから辞めておくね」

「あー、問題になりそうだしな」

 

 人間(鬼だけど)、焦った時に何をやらかすか分からないものだ。きっと宇髄さんは日輪刀でやるつもりだろうし、私だってまだ死にたくないから本気で応戦するだろう。その時うっかり血鬼術使って流血沙汰になりましたー、なんてなったら大変なんてものじゃない。お館様と煉獄さんと宇髄さんの顔に泥を塗るようなものだ。まあ、宇髄さんなら私の攻撃なんて避けるだろうが血鬼術を人に向けて使う時点でアウトなのだ。以前の煉獄さんのときは言い出しっぺが煉獄さんだからノーカンとする。

 

「んじゃあやっぱひたすら素振りと打ち込みだろ。太刀筋の矯正くらいならやってやる」

「ありがと、助かる!」

 

 最終選別まで後数日。それまでに、刀を扱う力を自分のものにしておかないと。




煉獄さんも宇髄さんも面倒見がいいんだよ!!私がそう決めた!!


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第30話 入隊

 

 

 とうとう最終選別の日になり、藤襲山に向かった。よく考えたら普通の鬼は藤の花に近づけないのに、よく最終選別に向かわせようと思ったな。ああ、昔禰豆子ちゃんに藤の花を貰った時のことも報告されていたんだろうか?それなら納得がいく。

 

 この選別に向かう前に煉獄さんに口が酸っぱくなるほど念押しされた事が2つほどある。1つは血鬼術を使わないこと。もう1つは鬼を喰わないこと。これなら縛りプレイ未満だ。いざとなったら徒手空拳で戦える。仕留める時だけ刀で頸を落とせばいい。

 

 そう意気込んで、7日間に及ぶ最終選別が始まった。そして、終わった。特筆するべきこともないくらいにあっさりと終わった。なんなら、鬼と戦うよりも日中身を隠す場所を探す方が苦労したくらいだ。7日間経ってから山を降り、進行役の2人から説明を受けて刀を作る鋼を選んだ。色変わりの刀っていっても、私の刀はきっと色は変わらないのだろうと少しだけ肩を落とした。

 

「カァァァ!カァァァ!至急!至急!お館様の元へ参られたしィ!急ゲ!急ゲ!カァァァ!」

「わ、え、お館様の所?・・・報告かな」

 

 私につけられた鎹烏(そのうち名前をつけよう)が開口一番に言ったのは、お館様の元へ行くこと。最終選別突破の報告のためだろうか。というか、この烏はいつこの連絡事項を伝えられたのだろう。首をかしげながら、お館様の屋敷まで足を動かした。

 

 

 

 

 お館様の屋敷につき、お館様の奥様に案内されて庭に回った。どうやら屋敷内から縁側まで出てくるらしい。数分待つと、子供に両手を引かれたお館様が姿を現した。

 

「おかえり、シロ。最終選別突破おめでとう。これで君も鬼殺隊の一員だね。最初、杏寿郎に君を鬼殺隊に入れてくれないかと打診された時は驚いたよ」

「そうですね。私も驚きましたし、お館様が許可を出されたのも驚きました」

「・・・本当は、ゆくゆくは鬼殺隊に入ってくれやしないかと思って協力関係を結んだんだ。だからこれは願ったり叶ったりな状況でね」

「計算通りだった、と?」

「ふふ、思いのほかシロが剣士(こども)たちと馴染むのが早くてね。」

 

 つまり、最初から私を鬼殺隊に入れるつもりだったから煉獄さんの無茶な要望をあっさり通したわけか。この様子だと反対した他の柱をお館様が一蹴したのかもしれない。私が20年近く人を喰っていないことをリアルタイムで確認していたのはこの人だから。

 

「嬉しいよ。シロが入ってくれれば、鬼殺隊はもっと大きくなる・・・。それに、シロ。最近鬼すら喰っていないのに飢餓状態ではないだろう?」

「あっ・・・」

「七日間。最終選別中は鬼を喰わないように杏寿郎に念押しされていたね。そしてそれを守った。本来なら、それだけ栄養が取れなければ飢餓状態でおかしくなっているはずだ。しかしそれがない」

「・・・」

「シロ。私はね、君に期待をしているんだ。もしかしたら、君の体は変異していて人も鬼も喰らわずとも生きていけるようになっているのかもしれない。そうなれば、鬼舞辻はきっと君を探し出そうとする。尻尾を出すかもしれない」

 

 ・・・簡単な話、囮だ。いや、別にそれでもいい。仇に会えるのなら囮にされたって構わない。それ以上に私の思考を占めているのは、「人も鬼も喰っていないのに飢餓状態になっていないこと」。少々お腹はすいているが、どちらかと言えば鬼の飢餓状態というよりも1日ご飯を食べなかった時の人間時代の空腹感だ。本当に鬼を喰わなくていい体になっているのなら、それほど嬉しいことはない。

 

「鬼になってからの20年近く人を喰わず、人を守り、我々と協力関係を持ってからの1年も隊士と民間人の誰一人傷つけずに鬼を滅殺する・・・これほどの子が、鬼殺隊に相応しくないなんてことないだろう?」

 

 その言葉は、私というよりも私の後ろの方に向かって放った言葉のように聞こえた。と、同時に背後の空気が複数揺らいだ。

 

「すまないね、この間の柱合会議でどうしても君を信じられないという子がいたんだ。だから証明するために、ここに来てもらっていた」

「・・・私が人を食べないと、証明は出来たのでしょうか」

「それは分からない。だから君自身に証明をして欲しい。・・・と言いたいところだけど、君は既に十二鬼月の下弦の鬼を倒しているからね。こればかりは、みんなの気持ちの問題になるだろう」

 

 そう、私は既に下弦の鬼を倒している。鬼殺隊に協力をし始めて半年くらいのときだったか。柱は誰もいない上に下級隊士が複数いる状態で全員守り切って倒した。あの時は本当に頑張った。お館様の言うことも最もで、確かに鬼殺隊に鬼が隊士として入りまーすなんてなったら不評どころじゃないだろう。でもこれ以上証明のしようがないから、今まで通り私は鬼を倒すだけだ。

 

「期待しているよ、シロ」

「お館様のご期待に応えられるよう、尽力します」

 

 




この時点で竈門家の悲劇1歩手前

もう原作時の柱全員揃ってることにします。
信じられないってごねたのは皆さんご存知不死川さんです


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第31話 お疲れ

 

 

 お館様の元を後にして、暇になった私は鬼殺隊稽古場に向かうことにした。最近暇になるといつもここに足を伸ばしている気がする。稽古場に着き、中を覗くと下級隊士達が稽古をしているのが見えた。丁度休憩中だったらしい山田くんと目が合う。

 

「あーー!シロ!戻ってきたんだな!!」

 

 ほんとだ!シロさんおかえり!怪我とかないですか!?など、稽古中だった隊士達が一斉に辞めて私に声をかけてきた。え・・・?何このまるで慕われてるような対応。

 

「え、えと、私鬼だけど、なんで鬼が鬼殺隊に入るんだよとか、思ってないの?」

「は?まだそんなこと言ってんのか」

「そうですよ!アタシ達、シロさんに命救われてるんですから!」

「シロさんがいなかったらとっくに死んでます!」

 

 これには驚いた。まるで、ではなく本当にこの子達に慕われていたらしい。隊士達が数人私の元から離れ、何かを持ってきたと思ったと同時に駄菓子やらパンやらを貰った。

 

「シロが戻ってきたらお疲れ様のつもりで渡すつもりだったんだけど・・・」

「アタシ達、みんな考える事一緒みたいね」

「どうすんだこの山盛りの駄菓子とパン」

 

 どうやらここにいる全員、私に渡す用の食べ物を持ってきていたらしい。私が持ちきれなくなったため、私の前にまるで祭壇のように山盛りに置かれている。それを見た隊士達はコソコソと相談話を始めた。

 

「ふふっ、みんなさえ良かったら一緒に食べない?」

「や、でもそれはシロにあげるためのやつだし・・・」

「みんなで食べた方が美味しいでしょ?ああ、今稽古中みたいだし、迷惑なら断ってくれていいのだけど」

 

 そう言うと隊士達は互いに顔を見合わせて、全然迷惑なんかじゃないと言った。丁度稽古の区切りが良かったそうなので、このままこの稽古場でちょっとしたお疲れ様会のようなものが開かれることになった。

 

 

 

「えっこのパン美味しい!」

「だろ!?すっごい行列だったんだからな!」

「ほんとに貰ってよかったの?すごく美味しい・・・ちょっと1口食べてみて」

「おわ、うま!これ1人ひとつしか買えなかったんだよなぁ」

「そんなに貴重なパンだったの・・・!?」

 

 1人ひとつしか買えないパンなんて、一体どこの高級パンだろう。今度違う味の高級パンを買ってきてあげよう。あ、こっちの駄菓子もうま・・・。

 

「そうだ、シロさん聞いてください!俺達、階級が壬に上がったんです!」

「そうなの!?凄いじゃない!みんな壬?」

「ふっふーん、俺は違うぞ!庚だ!」

「山田くん凄い!」

 

 本当に、本当に凄い。悲しくもハイスピードで隊士達が亡くなっていくのに、半分近くまで上がれるなんて本当に凄い。私は一応階級が1番下の癸からのスタートだから頑張らなければ。

 

 

 




自覚はないけど慕われていたシロちゃん


タメ口なのは山田くん。一人称がアタシなのは佐々木ちゃん。敬語なのは中村くん。みんなモブ。


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第32話 胸きゅん

「あーっ!シロちゃんだ!やっと見つけた!」

「えっ」

 

 山田くん達と駄菓子&パンを食べまくったあと、まだ少しお腹が空いていたから何かを食べに行こうと町まで足を伸ばしていた。どの店に入ろうか悩みながら道を歩いていたところ、聞き覚えのない女性の声に呼び止められた。

 

「もう、気づいたらシロちゃんいなくなっていたんだもの、びっくりよ!」

「えっと、どちら様ですか?」

「いけない、私ったら!うっかりしてたわ、私は恋柱の甘露寺蜜璃よ、よろしくねシロちゃん!」

「よ、よろしくお願いします・・・?」

 

 え、テンション高い。煉獄さんとか宇髄さんとは別ベクトルでテンションが高い。しかも、隠しているのかもしれないが鬼に対する嫌悪があまり見受けられない。今まであった中で1番のフレンドリーさだ。

 

「何か食べに行くところだったのかしら?おすすめのお店があるのだけれど、良ければ一緒にどう?」

「いいんですか?」

「もちろんよ、美味しいものは共有した方がいいもの!隠れた名店なのよ本当よ」

「ありがとうございます、楽しみです!」

 

 と、いうわけでなぜか一緒に食べに行くことになった。今なら天丼10杯くらい余裕でいけそうだ。道中、甘露寺さんが鬼殺隊に入った理由が結婚相手を見つけるためというのを聞いて遠い目になったが、まあ、そういうのもいいと思う。

 

「ところで甘露寺さんって・・・」

「もう、そんな他人行儀じゃなくていいのに!女の子同士仲良くしましょ?」

「・・・蜜璃さん?」

「さん付けしなくてもいいのに・・・」

「いえ、一応階級が下なので」

「私ね、シロちゃんと仲良くなりたいの。だめ?」

 

 うぐっ、顔がいい・・・!そんなしょぼくれたチワワみたいな顔をしないで欲しい。こちらの罪悪感が酷い。というか仲良くってなんだ。何をもって仲良いというんだ。ここ数十年人との繋がりがほぼなかったせいでまったく分からない。

 

「仲良く、ですか・・・よく分からないんですけど、敬語とか外す感じですか?」

「!そうそう、敬語だと距離がある気がするもの!要らないわ!」

 

 ふ、フレンドリー!悪意ゼロの鬼殺隊とか初めてすぎてすごく困惑している。なんだろ、この人悪い人に騙されそうだ・・・。

 

「ま、まあ、さん付けはさせて欲しいけど、うん、仲良く・・・してくれる?友達が宇髄さんしかいなくて」

「!!もちろんもちろんよ!友達って言葉、キュンキュンしちゃう!早くお店行きましょ、お友達とご飯なんていつぶりかしら!」

 

 そういうと、満面の笑みを浮かべた蜜璃さんに手を取られて一緒に駆け出した。私の先を行く蜜璃さんはすごい笑顔だしなんなら鼻歌も歌っている。・・・女の子の友達、かあ・・・。

 

 

 

 着いた店で、二人がかりで有るだけの備蓄を食い尽くしたのは余談である。

 

 




うちの蜜璃ちゃんはかなりフレンドリーだし、周りはすごく殺気立ってるから友達と呼べる友達がいなくて(見た目の)歳が近そうなシロちゃんに目をつけた模様
お互いに癒しになればいい
あと蜜璃ちゃんの口調がよく分からない


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第33話 我が家

 

 

 家を買った。

 

 いきなりなんだと思われるかもしれないが、ようやく家を買った。というか建てた。今までは拠点をコロコロ変えていたから野宿が当たり前だったが、鬼殺隊に協力するようになってから拠点を移す必要がなくなったため固定の場所に家を建てたのだ。場所は鬼殺隊稽古場に近い山の奥。人里からは少し離れているから、あまり人に怪しまれることはないだろう。今までそんなに贅沢をしてこなかったから余裕で家を1件建てるお金は持っていたのが幸いだと思う。

 

「・・・カレーが食べたい」

 

 ようやく出来た我が家の床に寝そべり、宙を仰いだ。そう、庶民の味方のカレーが食べたい。そもそも転生してから外国料理を全く食べていない。カレーは確か明治時代にはもうあったはずだから、作ろうと思えば作れるんじゃないだろうか・・・?あっでもカレーの固形ルーとか絶対に売ってないわ。くそ、開発されるのいつだっけ。まてよ、固形じゃないパウダーなら明治時代にもう売られていなかったか?東京あたりで明治初期に売られていたような気がする・・・ちょっと都会の方に買いに行こうか。

 

 

 と、いうわけで東京までいってお米とカレー粉とカレーに必要な材料を買ってきた。ついでに寸胴鍋と食器類も買った。結構お高く着いたけどカレーを食べるためなら仕方ない。これで1週間くらいカレーを食べ続けられるぞ!飽きそうだけど!カレー粉を売っていたところの店主が詳しい作り方を教えてくれたから、その通りに作ってみた。アレンジとかは多分素人はしない方がいいと思う。カレーを煮込んで、後少ししたら完成するぞというところで家の扉が叩かれた。誰だろう。

 

「はーい、どちら様で・・・あれ」

「シロちゃんこんにちはー!」

「・・・」

「蜜璃さん!・・・に伊黒さん、こんにちは。どうしたんですか?」

「あのね、シロちゃんが家を建てたって聞いたからお祝い?に来たの!そしたら伊黒さんも行くって言うから一緒に来たのよ!」

「・・・甘露寺を怪しいところに一人で行かせるわけにはいかないからな」

「わあ、本当に信用されてないですね。・・・良かったら中にどうぞ」

 

 おじゃましまーす!と元気よく入ってきた蜜璃さんと、睨めつけるように入ってきた伊黒さんの対比が凄い。睨めつけるようにというかほんとに睨みつけられてるけどもう気にしないことにした。

 

「あら?この匂い、ライスカレー?」

「ええはい、ちょっと食べたくなって」

「シロちゃんライスカレー作れるのね!お店じゃないとなかなか食べられないのに!」

 

 いいなー、いいなー、食べたいなーという蜜璃さんの視線を受け、蜜璃さんと伊黒さんにもご馳走することにした。1週間分はあるとさっき思ったが、蜜璃さんと食べるなら1食分にしかならないだろう。というか私もかなりの大食いになっているからそもそも1週間も持たなかったと思う。

 

「あ、でもお祝いに来たのに貰っちゃっていいのかしら・・・」

「こいつが良いと言っているのだから良いのだろう」

「そうそう、美味しいものは共有した方がいいって蜜璃さんが言ったんだもの」

「そう?それじゃあお言葉に甘えて!」

 

 美味しい美味しいと言いながら食べる蜜璃さんを見ながら、2人で寸胴鍋のほぼ全てを食べ切った。1杯だけ食べた伊黒さんには呆れた顔をされたけど、きっと蜜璃さんの大食いを見慣れているのだろう、あまり変な目は向けられなかった。

 前に蜜璃さんとお店の食料食べ尽くした時は周りの人に凄い目向けられたからなぁ・・・。

 

 




もはやただのカレー回
やっぱり伊黒さんには信用されてないぞ!
(扉絵で伊黒さんと蜜璃ちゃんが一緒にご飯食べに行ってたからこの2人仲良いのでは・・・?)


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第34話 隊服

 

 やっとというか漸くというか、隊服が届いた。刀の方はもう少し時間がかかるらしいが、隊服があるかないかで結構モチベーションが変わると思う。丸眼鏡をかけた縫製係の人が我が家を訪ねて来たので、丁度遊びに来ていた蜜璃さんと一緒に隊服を受け取り試着をしてみた。

 

「・・・これ、寸法合ってないですよね」

「いえいえ、それが完璧な状態です。間違いないです。ほら、恋柱様とお揃いですよ」

「お揃いは確かに嬉しいですけど」

 

 胸部分の布が極端に足りなく、胸がかなり露出している上にミニスカート。蜜璃さんとお揃いだが残念ながら私の胸部は慎ましいのだ。絶壁では無いが蜜璃さん程はない。豊満な胸も無いのにこの露出は恥ずかしい。

 

「わ、私女の子みんなこうだと思ってて・・・しのぶちゃんは油をかけて燃やしたらしいのだけど・・・」

「なるほど、蜜璃さんは騙されちゃったんだね・・・」

 

 流石に油をかけて燃やすのは良くないと思いながら私服に着替え直した。そうだ、不良品だったということにして作り直してもらおう。お揃いで無くなるのはちょっと寂しいが、それ以上にこの格好は恥ずかしすぎる。

 

「ちょっと失礼」

「あ、ちょ、チクショォォォォ!!」

 

 隊服を左手で持ち、右手の爪を伸ばして上から下にかけて引き裂いた。うんうん、簡単に破れるなんて不良品だね、作り直してもらおう!

 

「ふふ、どうやら不良品だったみたいですね。布の量も少なかったようですし・・・作り直し、お願い出来ますよね?」

「うう、悪魔・・・この胸の露出がいいのに・・・!」

「何かおっしゃいましたか?」

「なんでもないです!!!!直ぐに作り直します!」

 

 正直、布に悪いことをしたとは思っている。けど斬り裂いた部分は広範囲では無いし、再利用出来るだろう。まったく、この時代にもあんな変態がいたのか。蜜璃さんも被害にあって可哀想に・・・いや、作り直し依頼してないなら結構乗り気なんだろうか・・・?でも蜜璃さんだし、申し訳ないと思って反抗しなかったのかもしれない。私は申し訳なさよりも自分の羞恥心を優先する。

 

「この格好結構恥ずかしいけど、シロちゃんとお揃いなら良いかなと思っちゃったのよね」

「そうだね、蜜璃さんとお揃いっていい響きだけど・・・私は着れないかな・・・ごめんね」

 

 ショボンとしている蜜璃さんをみて、作り直しを撤回しようかと一瞬思ってしまった。でもやっぱり胸部露出&ミニスカートは嫌すぎる・・・!ミニスカートだけならいいかとほんの少し思ったけど、出来るだけ肌は出したくない。うん、やっぱり普通の隊服にして貰おう。

 

 




流石の隊服もシロちゃんには勝てなかった模様
残念だったな前田まさお!

隊服支給の前に鎹烏に呼び出されたから、後日手渡しになったぞ!!!


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第35話 餌付け?

 

 

 少し前に蜜璃さんと伊黒さんにカレーを振舞ってから、数日に1度のペースで伊黒さんが我が家にご飯を食べに来るようになった。伊黒さん曰く、「怪しいことをしていないか確認しに来ているだけだ」との事だけど毎回来るのは昼食時だしご飯目的な気がする。なんとなくご飯時だけ家に寄り付く猫を思い浮かべてしまった。ふむ、そう考えるとあのネチネチ感もそんなに嫌じゃなくなる気がする。

 

「ちなみに、次確認に来るのはいつですか?」

「・・・4日後だ」

「そうですか。3日後までは昼餉を決めているんですけど、4日後は何を食べるのか決めていないんです。何がいいと思いますか?」

「・・・どうでもいいが、オムレツライスなどでいいのではないかね。まあ俺には関係ないが」

 

 オムライスが食べたいのね!了解!確かに都内に行かないとなかなかオムライス扱ってるお店ってないもんね、わかるわかる!

 

「ふふ、そうですね。作ろうと思えば作れますし、4日後はオムレツライスにします。うっかり伊黒さんの分も作ってしまうかもしれませんが」

「・・・甘露寺が来る可能性もあるだろう」

「なるほど、それなら10人前くらい用意した方がいいですね。予定が空いているかわからないので、事前に声をかけてみます。伊黒さんが一緒なら蜜璃さんを呼んでもいいですよね?」

「そうだな。甘露寺を1人で来させるわけにはいかない」

 

 蜜璃さんにもオムライス食べさせてあげたいんだろうなぁ、と邪推する。そういえばこの前の雑談で、オムライスが食べたいと蜜璃さんが言っていた気がする。もしかしてあれを聞いていたのだろうか?・・・仲間思いと言うべきかストーカー気質と言うべきか・・・。

 

「というか、伊黒さんって私の事嫌いなんですよね?」

「当たり前だ」

「なのに私が出す料理は普通に食べるんですね?」

「・・・食事に罪はない」

 

 なんだろう、なんだかこの人悪い人じゃない気がしてきた。かなり遠回しのツンデレとすら思えてくる。私は食べ物を大事にする人に悪い人はいないって思っているんだけど、どうだろう?今の所、食べ物を粗末にする人は悪い人ばかりだったような・・・?

 

「いいか、何度でも言うが俺は鬼が嫌いだ。勘違いするな」

「それなら、鬼の出すものなんて極力食べたくないですよね?今後出さない方がいいですか?」

「・・・そうとは言っていない」

 

 相変わらずネチネチした話し方ではあるが、少々可愛げがあるように思えてきた。まるで懐かなかった猫の餌付けに成功したような達成感。まったく仲良くはないけど、これから少しでもまともな関係になれたらいいな。主に戦闘の協力面で。

 

 




我が家の伊黒さんはけっこう緩いし、実力は認めてくれてる・・・はず
流石の伊黒さんも外国料理の誘惑には勝てなかった模様 (今作1番キャラ崩壊しているのは伊黒さん)
(こうでもしないと近付けない)


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第36話 鮭大根

 

 

「・・・」

「・・・」

 

 某月某日、昼。我が家に珍しい柄の羽織を着た黒髪の青年が訪ねてきた。いつだったか、どこかで見たことがある気がする。・・・そういえばお館様と初めて会った時に拘束を解いてくれたのがこの青年だったような。

 何用で来たのか検討もつかないが、とりあえず家にあげてちゃぶ台越しに向かい合った。その状態で5分ほど互いに無言のままである。

 

「・・・聞いたことがある」

「え、と、何をですか?」

「鬼の話だ」

 

 やばい、何を言っているのか何が言いたいのか皆目見当もつかない。鬼の話を聞いたことがある?いや、あなた鬼殺隊でしょう・・・?口数が少ないとか口下手とかそんな甘いものじゃない気がする。あれか、コミュ障か。

 

「人を喰わずに暮らしている鬼がいると、昔聞いた。鱗滝左近次という老人だ。知っているだろう」

「鱗滝さん?鱗滝さんのこと知ってるんですか?」

「ああ。俺はあの人に水の呼吸を教えて貰った」

 

 なるほど。この人は鱗滝さんの弟子?みたいな存在で、昔鱗滝さんから私の話を聞いたと。なるほど、話が繋がった。というか最初からそう言って欲しかった。

 

「それを聞いた時に有り得ないと思った。そんな存在がいるわけないと。だが・・・」

 

 そこで青年が口を閉じて、また数分経過した。その間話していいかどうか迷ったが、おそらく言葉をまとめているのだろうと思い黙って待った。私は待てる良い子。

 

「一年近く観察して、確かに人は喰わないだろうと判断した。経緯はともかく、今は同じ鬼殺隊だ。お前の強さは知っているから、その点については信用している」

「そ、それはどうも・・・?改めまして、鬼殺隊、階級癸のシロです。お名前を伺っても?」

「鬼殺隊・・・水柱、冨岡義勇だ」

 

 お互い頭を下げて、3秒ほどしてから頭を上げた。やばい、気まずい。この後どうすればいいんだろうか。冨岡さんも立ち上がる様子がないし、私から何か言うべきなのか?何言えばいいの?今日はいい天気ですね?私にとってはいい天気だけど曇りはいい天気とは言い難いだろう。本当に話題がない。

 

「ああ、そうだ。そろそろご飯時ですし、ご飯食べていきますか?材料はある程度あるので食べたいものがあったら作りますよ」

「いいのか?・・・材料は何がある?」

「量が多いのは鶏肉、牛肉、ホッケ、鮭、野菜類ですね。ああ、じゃがいもとか大根とか買ったまま使えてなくて。そろそろ消費しないと・・・」

「・・・鮭大根は作れるか?」

「もちろんですよ!料理は得意なんです」

 

 

 終始仏頂面だった冨岡さんが、鮭大根を食べた瞬間に微笑んだことをここに記しておく。

 

 




頂いたコメントに触発されました・・・!


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第37話 日輪刀

 

 

 日輪刀が届いた。

 私の刀を打ってくれたのは上鉄穴金彦さんという刀鍛冶さんで、私の要望通りに太刀と短刀の2種類を丁寧に作ってくれた。ちなみに刀の鍔には藤の花が拵えられている。

 

「いやあ、鬼の方に作るなんて初めてですからな!とにかく柄を握り潰されないように強化するのが大変でしたわ!」

「すみません、わがままを言ってしまって。というか、よく鬼に作ろうと思いましたね?」

「まあ、それは私も思うところはあったんですがね・・・鬼とはいえ鬼殺隊の一員ですし、偏見は良くないなと!さあさあ!刀身を見せてくださいな!」

 

 凄い、この人懐がすごい。こんなあっさり割り切れるなんて聞いたこっちが驚きだ。刀を持ち、鞘からゆっくり引き出して刀身を蝋燭の光に反射させる。うん、刀そのものの色だ。変色したりしない。

 

「うーん、やっぱり鬼の方だと色が変わらないんですかねぇ・・・」

「そうですねぇ・・・申し訳ないです」

「いえいえいえ!刀は身を守るためのもの!身が守られれば、刀身の色などどうでもいいのです。どうか、この刀が貴女の身を守ってくださいますよう・・・」

 

 そう言い残し、上鉄穴さんは帰って行った。何度見返しても、私の刀の色が変わることは無い。まあいい、別に呼吸が使えなくったって構わない。そりゃあ出来るに越したことはないのだろうが、そもそも私に刀の才能は微塵もないことを自覚している。

 

 

 

 

「おお!やっと日輪刀が届いたのか、これで鬼殺隊っぽくなったなぁ」

「あ、宇髄さん。なんか久しぶりな感じがする」

「あー、まあ、任務が立て込んでて最近この辺に寄れてなかったからな」

「そっか、お疲れ。・・・私もそろそろ任務が本格化してくるのかな?」

「何言ってんだ?お前は最初から上級隊士とほぼ同じ内容の任務が多かっただろ」

「えっ」

「泊まり込み、二桁の連続任務、下級隊士の引率、十二鬼月の討伐。これ、まず下級隊士には任されない任務だぞ」

 

 そんなの初耳だよ宇髄さん。現代に例えたらバイトに正社員の勤怠管理させるようなもんじゃん。ちょっと違うかもだけど。ブラックかな???いやまあ別にいいんだけど!鬼殺隊に入る前からお給料貰ってたし!・・・あれ、そう考えると協力関係だったときと鬼殺隊に入ってからの待遇の違いってなんだ・・・?隊服と日輪刀だけ???

 

「シロ、お前なんでそんなに疲れた顔してんだ?」

「いや、ううん、なんでもない・・・」

「地味に辛気臭え顔してんじゃねえ!よし、飯食いに行くぞ!」

「奢ってくれるの?わーいありがとー」

「なんだその棒読み。つーか、本当に図太くなってきたよなぁ・・・」

 

 

 聞こえない聞こえない。宇髄さんの奢りなら、お腹いっぱいになるまで食べまくってやろう。

 ただ、流石に申し訳ないから店の食料を食い尽くすのは辞めた。

 

 




上鉄穴 金彦 (かみかんな かねひこ)さん。刀を作ってくれた人。オリキャラ

そして久しぶり宇髄さん


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第38話 久方ぶり

 

 

「シロさん、お久しぶりですね。調子はいかがですか?」

「あら、胡蝶さん。お久しぶりです。いい感じですよ。」

 

 

 

 鬼殺隊稽古場にて、胡蝶さんと約1年ぶりの再会を果たした。本当に久しぶりだ。鬼殺隊と協力関係を結んでからというもの、なぜか今まで全く姿を見ることがなかった。

 

 

 

「久しぶりなのに申し訳ないのですが、お願いしたいことがあるんです。聞いてくださいますか?」

「え?ええ、力になれるか分からないですけど、とりあえず聞くだけなら」

 

 

 

 聞くと、胡蝶さんは鬼を殺す毒を開発・改良しているそうだ。既に鬼を殺す毒は完成しているが、もっと効果が強く、人体には影響がでず、今まで以上に速攻力がある毒を作るために鬼の実験体が必要。なので、実験体用の鬼を生け捕りにしてきて実験に付き合って欲しい、とな。

 

 

 

「鬼の生け捕りですか・・・私、基本即死技を使うので生け捕りって難しいんですよね」

「はい。ですが、シロさんには尋問・拷問用の血鬼術があると聞きました。その血鬼術では難しいでしょうか?」

「うー、んん。出来るけど移動が・・・ああ、とりあえず鬼の四肢を切断しちゃえばいいのか。生きてれば五体満足じゃなくてもいいですよね?」

「ええ。とりあえず生きている鬼なら状態は問いません」

「良かった、それなら協力出来ますよ」

「本当ですか?ありがとうございます」

 

 

 

 必要のない情報かもしれないが、最初から最後まで私も胡蝶さんもニコニコの笑顔だ。両名とも笑顔なのに話の内容がこれだから、傍から見ると狂気の沙汰だと思う。実際、一緒に稽古していた下級隊士達が若干引いた顔をしている。

 

 

 

「あと、鬼を生け捕りにしても囲う場所がないので、囲う役割をシロさんにお願いしたいです。なので、実験中はシロさんにずっと居てもらう形になってしまうのですが・・・」

「任務がない時間帯ならいつでもいいですよ」

「本当にありがとうございます。今までは戦闘中に実験を兼ねて打ち込んでいたものだから、落ち着いて出来なくて困っていたんです」

「試作品を実戦で使うのって嫌ですよね。私でよければいくらでも付き合うので言ってください!」

「ふふ、頼もしいですね」

 

 

 いともたやすく行われるえげつない会話だが、こんな内容でもあまりギスギス感がないのが救いだろう。以前の胡蝶さんからは鬼に対するとてつもない憎悪や嫌悪が滲み出ていたが、今目の前にしている胡蝶さんからはある程度緩和された雰囲気が漂ってきている。私の精神衛生上ありがたいことだ。

 

 思ったのだが、その毒がうっかり私にもかかったりした場合どうなるのだろうか・・・死ぬのかな・・・。

 

 




しのぶさん久しぶり!!


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第39話 鮭大根再び

 

 

「・・・」

「・・・」

 

 

 

 某月某日、昼。我が家に冨岡さんが訪ねてきた。というか少し前にも全く同じ状況になっていたような気がする。気の所為ではないな、確実にあった。

 今回も何用で来たのか検討もつかなかったが、とりあえず家にあげてちゃぶ台越しに向かい合った。その状態で5分ほど互いに無言のままである。ここまで以前と全く同じだ。

 

 

 

「・・・鬼に会った」

「はあ・・・?」

 

 

 

 はあ・・・?(2回目)いや、鬼殺隊だし鬼に会うのはおかしい事ではないはず。つまり、普通ではない鬼に会ったと?私のように人を喰わない鬼だろうか?

 

 

 

「人を喰わない鬼だ。家族全員が殺され、無事なのは1人の息子だけだった。その息子の妹が、鬼に変貌していた」

 

 

 

 よし、推測通り。私も冨岡さんの言いたいことがなんとなく察せられるようになってきたぞ。つまり、その妹が人を喰わない鬼だということか。1人で納得し、心の中でうんうんと頷く。もしかしたらその子と仲良くなれるかもしれない。ちょっとというかかなり会ってみたい。

 

 

 

「俺は最初、その鬼を殺そうとした。・・・が、色々あり兄の方を攻撃した」

「なんで」

 

 

 

 なんで、え、なんで???なんでお兄ちゃんの方攻撃したの???鬼になってるのは妹の方でお兄ちゃんは人間のままでしょう?なんで攻撃したの???やっぱ冨岡さんよくわかんないわ。

内心で顔を覆って宙を仰ぐ。この人の思考回路が全然読めない。なんだか意思の疎通は無理に思えてきた。頭が痛くなりそうだ。これなら伊黒さんの方がよく喋るし分かりやすいぞ。

 

 

「その際、俺にやられそうになっている兄を鬼になった妹が庇った。鬼になったばかりで酷い飢餓状態だったろうにも関わらずだ」

「なるほど」

「・・・以前の俺だったら、それでも鬼になった妹を切っただろう。だが、お前という存在を知って少しだけ考えが変わった。だからそいつも人を襲わないと判断した」

「本当に人を襲わない鬼なら、私も会ってみたいですね。その2人は今どうしているんですか?」

「今は鬼殺隊に入るための修行をしている。鬼になった妹を人に戻す方法を探すそうだ」

 

 

 

 鬼が人に戻る方法・・・本当にそんなものはあるんだろうか。その2人のことを考えるとあって欲しいと思うが、私自身そんな方法があるなんて聞いたことがない。

 

 

 

「それなら、そのうちその2人に会えそうですね。・・・今日もご飯食べていきますか?」

「頼む」

「了解です。また鮭大根にしましょうか」

 

 

 

 今日が、冨岡さんの2度目の笑顔を見た日となったことは言うまでもない。

 

 




誰の話かは言わずもがな。でももちろんシロちゃんはそんなの知るよしもない。
あと冨岡さんの言葉選びが壊滅的すぎてシロちゃんが誤解してる部分もある


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第40話 白目

「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏・・・」

「あ、あの・・・?」

 

 稽古場での稽古帰り、自宅に向かう途中の山の中腹でかなり体格のいい人に出会った。その人物は黒目が存在せず、どこを見ているのか全くわからない。私の存在を気配か何かで察知したのか、違う方向を向いていた謎の人物(便宜上白目の人としよう)はこちらを向いて何故か念仏?を唱え始めた。そして数秒経ってから、再度口を開いた。

 

「柱の者数名が・・・君のことを認めていると聞いた・・・」

「君は鬼であるが・・・悪人ではないと心の目で見て確信している・・・」

「だが・・・認められるかは別の話だ・・・」

「君が既に強いことは知っているが・・・よければ私の修行に付き合って欲しい・・・」

 

 ・・・なるほど。おそらく話の流れ的にこの人は柱の誰かだ。確かに柱の人数人に私の事を認めてもらっているが、逆に言えば残りの数人は認めていないということになる(柱が合計何人いるのか知らないが)。この白目の人は後者の認めていない側なのだろう。でもなぜそこで修行に繋がるのか・・・?

 

「修行、ですか。はい、是非同行させてください」

「そう言ってくれると思っていた・・・私の修行場は少々離れている・・・着いてくるように・・・」

 

 

 そして、およそ2,3時間かけて少し離れた山に到着した。山を登り始めてしばらくすると小屋が見えて、同時に滝がすぐ側にあることに気がついた。滝に打たれる修行だろうか?僧侶のような見た目をしているし、似合っているかもしれない。

 

「普段の修行だが・・・まず滝に打たれ・・・丸太数本を同時に担ぐ・・・最後にそこの岩を押して運ぶもの・・・」

「下から火で炙るものもあるが・・・鬼とはいえ素人が行うと危険な為・・・無しとする・・・」

「なるほど、了解です」

 

 今更だが、私は鬼になったせいか温度や痛みに対する感覚がかなり鈍くなっている。さっそく滝の下の岩に座ってみたが、本来あるはずの痛みも冷たさもほんのり感じる程度だった。これで修行になるのだろうか。白目の人に聞いたら、この状態で念仏を唱えながら丸一日打たれ続けるのだと。なるほど、ずっと同じ体勢でいる訳だしエコノミー症候群になりそうだ。まあやるけど。

 

 幸か不幸かこの山は木が生い茂っているから、丸一日滝に打たれていようと日光にやられることは無い。丸一日に及ぶ滝打ちが終わり、次は丸太数本を担ぐ修行になった。ただ、鬼の腕力だと簡単すぎるため木を伐採する所から始める。勿論素手だ。手刀で根元を抉り続け、15M程ある木を5本程倒して縄でグルグル巻きにした。横方向にするとスペースがないため、縦の状態のまま持ち上げたり降ろしたりを何回か繰り返した。丸太というか木そのもののような気がするけど気にしないことにする。

 

 最後は岩を押し運ぶ修行。これも鬼には簡単すぎるため、ただでさえ大きい白目の人の2倍ある岩・・・の上に白目の人と同じくらいの岩を乗せて押した。ちなみに固定はされていないため、落とさないように注意しながらである。何回か落としてしまったからまだまだ修行が足りないと痛感した。が、こちらもなんとか成功した。これで白目の人が言っていた修行は終了である。

 

「あの、終わりました!」

「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏・・・」

「えっと・・・」

「今までの任務では・・・誰一人傷をつけることなく鬼を滅した・・・そしてここでの訓練も達成した・・・私も君を認める・・・」

「え、えと、え?」

「試すようなことをして申し訳ない・・・とある事情があり・・・かなり疑い深くなってしまった・・・」

「・・・」

「君が少しでも音をあげるようなことを言ったら・・・認めないつもりだった・・・未来でどうなるかは分からないが・・・出来る限り君を手助けしよう・・・」

「あ、りがとうございます。皆さんの判断が間違っていたなんてことにならないように、これからも頑張ります!よろしくお願いします!」

 

 そういうと、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏とまた念仏を唱え始めてしまった。だが、修行に同行してから今までの間ずっと名前を聞いていなかったため、改めて自己紹介をして名前を教えて貰った。この白目の人は岩柱の悲鳴嶼行冥さんというらしい。

 

 

 




悲鳴嶼さんは三点リーダが多すぎる

あと、悲鳴嶼さんは自分がやっている内容を、柱稽古でそのまま課題にしていたということにします。


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第41話 傷だらけ

 ある日、私は山の中で全身傷だらけの男性と対峙していた。その男性は抜き身の日輪刀を持っている上に殺気立っていて、なんとなく今にも襲われそうだ。と、思った瞬間、男性は日輪刀を自分自身の腕に当て、そのまま斬り裂いて私に見せつけた。ええ、ダイナミック自傷すぎて最早反応が出来ない。怖い。

 

 

 

「おい鬼ィ!大好きな人の血肉だ!食らいつけ!」

「・・・いや、私は人の血肉を食べる必要ないので・・・え、なにこれ」

 

 

 

 テンションの高低差が激しい。男性が一方的にマグマのように激昂していて、それを見ている私の心はまるで雪国の吹雪である。え、ほんとになんなのこの人。ていうか誰。ただひたすらに怖い。

 

「てめぇみてぇな薄汚い屑共が、鬼殺隊で戦えるだ?なわけねぇだろうが!煉獄の野郎も何を考えてんだ、お館様もお館様だ・・・!」

「・・・」

 

 何も言っちゃいけない気がする。何を言っても逆鱗に触れる気がする。あと、やっぱり日輪刀で切られそうになったから反撃はしないで回避だけしていた。そのまま何も言わずに黙っていたら、しばらく怒鳴り続けていた傷だらけの人は何処かへ行ってしまった。ほんと、怖かった・・・。

 

 

 

 今日は蜜璃さんとの夕飯デー。およそ50人分のクリームシチューを作り、大量のパンと白米を用意して家に来た蜜璃さんと一緒に食べまくる。ちなみに伊黒さんは任務で遠くに行っているから二人っきりだ。

 

 

「傷だらけの?・・・多分、不死川さんかしら・・・怖くてあまりお喋り出来てないのよね」

「うん、何を言っても怒鳴られる未来しか見えなかったから何も言えなかったなぁ」

「仲良くしたいとは思うのだけれど、なかなか難しくて」

「ちょっとしか会ってないけど、仲良くするのは難しい感じじゃない?あの人」

 

 お喋りしながらもシチューを口に運んでいく。50人分ほどあったが、既に半分ほど無くなっていた。そういえば今まであまり考えていなかったが、私は鬼を喰べなくても済むようになった代わりに胃袋がブラックホールになってしまったようだ。いくら食べても完全に満たされることは無い。とはいってもひどい飢餓状態ではないし、例えるなら4時間目の授業を受けている学生のようなお腹のすき具合だ。つまり、全然我慢できる範疇ということ。

 

 鬼を食べなくなっても日常に支障はないから任務では頸を切ることだけに専念することが出来た。なぜこんな体質に変わったのか分からないから、やはりここも珠世さんが研究中である。ありがとう珠世さん。貴女には頭が上がりません。

 

 




不死川さんのキャラが掴めてないので、申し訳ないとは思ってる

隊員同士の私闘は厳禁だけど、それでも確認せずにはいられなかった不死川さん


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第42話 写真

 

 

 あの衝撃の初対面から数ヶ月後。お館様の采配で、私は不死川さんと共に少し離れた場所まで鬼の討伐に行くことになった。この人と組むのは数回目である。まあ、特筆することがないから任務中のことは省略する。とても怒鳴られたし睨まれたし殺気を向けられたけど、いつものことである。

 鬼の討伐が終わって帰る道中で既視感を覚えた。この景色を知っている気がする。この道を、大樹を、祠を、見たことがある。見覚えのある物たちを辿り、着いたところは老朽化して倒壊寸前の家屋であった。

 

 

 

「おいてめぇ!何してやがる!」

「不死川さん、ごめんなさい、私、ここ、行かなきゃ、だって」

 

 

 

 自分でも何を言っているのか分からない。何を口走っているのか分からない。だけど、ここに入らなければいけない気がした。私は何かを忘れている。この中に入ればそれが思い出せる気がした。不死川さんの怒鳴り声を背中越しに聞きながら、私は家屋の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 玄関を開ける。立て付けが悪く、ガタガタしている

 

 

 

 

 

 

 

 廊下を歩く。床板が軋んでいて、歩く度にギシギシと音が鳴る。所々穴が開いていた

 

 

 

 

 

 

 

 和室を覗く。ホコリを被った家具と、畳

 

 

 

 

 

 

 

 台所を覗く。腐った食料、虫や蜘蛛の巣だらけ

 

 

 

 

 

 

 

 風呂場を覗く。風呂桶もコケやホコリでボロボロだった

 

 

 

 

 

 これらの部屋を流し見しながら進み、何かに導かれるように一番奥の部屋へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 ドアを開けると、一面に黒い染みが飛び散っていた。おそらく時間が経ちすぎたために黒ずんだ血痕と、それのせいで腐敗が進んだ床や壁。黒い血痕の傍には錆び付いた日本刀が転がっていた。

 

 1歩足を踏み入れて目に入ったのは腰までの高さの箪笥。その上にある写真立てを手に取り、私は崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 不死川実弥は困惑していた。しばらく前にお館様からの打診で鬼殺隊に協力するようになり、いつの間にか鬼殺隊に入隊していた鬼のシロ。その鬼が、任務帰りに崩れかけの家屋に上がり込んだのだ。なにかおかしなことをするのではないかと後ろから監視していたが、鬼は一部屋一部屋確認しながら歩を進めていくだけだった。この鬼は何がしたいのか。全くわからないまま最後らしき部屋の前にたどり着いた。

 

 

 

 これまでの部屋で、この鬼は扉を開けるだけで中に入ることはしなかった。しかし、この最後の部屋に限っては扉を開けて中に入っていったのだ。気づかれぬよう、足音も気配も殺して様子を窺う。そんな不死川実弥が目にしたのは、写真立てを手に持ち泣き崩れている鬼の姿だった。

 

 

 

 そもそも、不死川実弥はシロをただの鬼として認識していた。ほかの柱が認めていようと、そこは揺るがなかった。しかしお館様のご意向で任務を共にする事が多く、その度にシロの姿が民間人と重なることがあったのだ。人と同じように言葉を交わし、口喧嘩をし、店に入り食事をして近くにいる客や店主と雑談を交わす。場合によっては値切る姿や喧嘩の仲裁をする姿も見られた。この者が鬼であるという事前知識と、鬼の気配を察知する能力が無かったらおそらく人として認識していたであろう。

 

 

 

 

 

 そして、今。目の前の鬼と人の姿が重なった。

 

 

 

 

 

 鬼の背後から写真立ての中の写真を覗くと、妙齢の男女に挟まれて満面の笑みを浮かべている少女の姿が確認できた。中心にいる少女と、目の前にいる鬼の顔は全く同じだ。写真より少しだけ成長している上に髪が一部変色しているが、ほぼ変わっていない。それを見て、この家はこの鬼がかつて家族と暮らしていた所だということを理解した。

 

 

 

 この鬼の生い立ちを、お館様から聞いたことがある。両親を鬼に食い殺され、両親を食い殺した鬼を日本刀でひたすら嬲っていた所、誰か

ーーーおそらく鬼舞辻無惨だーーーに鬼にされてしまったと。

 

 

 

 だからなんだと。鬼は鬼に変わりはないと。思っていた。今この時までは。だが、この鬼が人であったことを知ってしまった。理解してしまった。人として生きた証を確認してしまった。・・・涙を流すという、人間特有の行動を見てしまった。写真を見ながら幼子のように泣きじゃくるこの鬼を、ただの鬼だと、その他大勢の屑共と一緒だと、深層心理で思えなくなってしまった。この鬼を一瞬でも人だと認識してしまったことは、不死川実弥にとって衝撃的なことであった。

 

 

 この鬼を、シロを、人として認識してしまった以上、頭でどう思おうと鬼として再認識することが出来なくなってしまったのだ。何度でも再生する体も血鬼術も、鬼にしか出来ないことだというのに。

 

 

 同情した訳では無い。哀れんだわけでもない。もちろん過去の自分と重ねたわけでもない。ただ単純に、形容し難い苛立ちに歯噛みした。

 

 

 




辛い記憶すぎて、両親が鬼に殺されて自分も鬼になったという部分しか覚えていなかったシロちゃん。詳細も親の顔も思い出も覚えていなかった。
忘れている事すら認識出来ていなかったの、凄く悲惨だと思う。ごめんよ

あと、人として見てしまったもんだから今後鬼として対応するのが難しくなりそうな不死川さん。そのままずるずると普通に接してくれ


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第43話 記憶

 本人は自覚していないことであるが、シロの精神年齢は10代後半で止まっている。

 

 前世では30手前まで生きられたとはいえ、20歳になって少ししてから死ぬまでずっと入院し、世界の全てがベッドの上だけになっていた。そんな状態で精神が成熟するだろうか。答えは、否。また、20代に入ったばかりということもあり、当時のシロの意識は10代後半のままであった。そのせいで前世の精神年齢は幼いまま命を落としたのだ。

 

 今世ではどうだろうか。10代後半の精神年齢のシロが精神年齢と同じほどの歳になり、鬼になって体の成長が止まった。鬼になるのがもっと遅かったら違っていたかもしれないが、精神年齢と肉体年齢が一致した状態で成長が止まってしまったのだ。そのせいで、この先20年生きていたとしても中身がこれ以上成長することは無かった。つまり――。

 

 

「ひ、うう、お、かあさ、おと、う、さ・・・」

 

 

 凄惨すぎて両親との思い出を全て脳から抹消し、覚えていないことすら認識していなかった10代の少女。写真を見て全てを思い出してしまったシロは蹲り、嗚咽をこぼしながら号哭した。20年分封じていた記憶が一気に蘇ってきたのだ。両親との暖かい思い出と、鬼に破壊された悲惨な記憶が同時に脳内に流れ込み、シロはどうすることも出来なかった。このままでは廃人になるであろう、ということももちろん予測出来るはずもない。

 

 

 

「・・・死んだ人間は二度と戻らねえ。だから仇を討つ為に鬼殺隊に協力をしたんじゃねえのか」

 

 

 

 そもそも、不死川実弥は冷酷な人間ではない。鬼や鬼に協力するものに対しては憎悪や殺意の対象とするが、そうでない民間人に対しては口は悪いものの攻撃的なことをしたことは無い。どちらかといえばケアはきちんとする方だし、本人は自覚していないが人情に厚い者である。そんな人間が、鬼であるものの人であると認識してしまった場合、彼女を見てどうするのか?

 ーーー決して優しい言葉ではないが、過去に浸り現実から目を背けた彼女を諭し、現実側に引き戻すことであった。

 

 

「おかあさん、おとうさん、なんで、それなら、私も一緒に・・・!」

 

 

 正真正銘、彼女の心の奥底から出た本音であった。前世では家族を置いて逝った。今世では家族に置いて逝かれた。双方の立場を経験した彼女は、共に死ぬのが幸福だと本気で考えていた。なぜ生き残ってしまったのか。なぜあの時自分はいなかったのか。なぜあの場で自死を選ばなかったのか。あの鬼に反抗せず、大人しく喰われていれば腹の中で一緒にいられたはずなのに、と。

 心の枷が外れた彼女は心のままに全てを打ち明けた。打ち明けたと言うには理性も冷静さも欠けていたが、偽り1つ含まない彼女自身の言葉であった。

 

 それらを黙って最後まで聞いていた不死川実弥は、全てを無にしたような顔で彼女の胸ぐらを掴み、今までの彼を考えたら信じられないほど静かに話し始めた。

 

「いいか、ここで這いつくばって嘆いても何も変わらねえ。嘆く時間があるなら力をつけろ。てめえの仇はなんだ?鬼だ。鬼の元凶はなんだ?鬼舞辻無惨だ。てめえの使命は鬼を殺すことだ。自分も死ねば良かっただ?死んだところで何も変わりゃしねえだろ。身内を鬼に殺されたやつなんか鬼殺隊に大勢いる。全員、それでも必死こいて鬼を殺してんだ。自分だけが不幸だなんて思い込むんじゃねえ」

 

 場合によっては死体蹴りのような言葉たちだったが、真っ直ぐシロの心には届いた。絶望に呑み込まれ死んだ目をしていたシロに、少しだけ生気が現れる。

 

「・・・そ、うですよね。両親も、きっと私が死ぬのは望んでないですよね。仇を取れば、あの世で褒めてくれるかな・・・」

「俺はてめえの親じゃねえ。俺に聞くな」

「正論、ですね・・・うん、うん。おかあさんもおとうさんも優しいから、きっと褒めてくれるはずです。頑張らなきゃ」

 

 小さな声で呟いたシロはゆっくりゆっくりと立ち上がる。写真立てをしばらく眺めて、元あった場所に戻した。そのまま写真立てにも部屋にも背を向けて、廊下に出る。

 

「過去を嘆いても何も変わりませんよね、未来を変えないと。鬼のいない未来を作らなきゃ。ご迷惑をかけてしまいすみません。この家から出たら、普段の私に戻るので」

 

 それを聞いた不死川実弥は何も答えず、目の前を歩く鬼の足元に数滴の水が零れている事にも気付かぬ振りをした。

 

 




なんだかんだ不死川(兄)は悪い人じゃないと思うんだ
少なくとも我が家ではそういう扱いなんだ。そうでも無いと会う度にシロが殺されかけてしまう


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第44話 無関心と心当たり

 

 

 今まで特に言及はしていなかったが、霞柱の時透くんと私の仲は良くも悪くもない。初めて会った時も「お館様が決めたことだから」と特に敵意も悪意も向けられなかった。まあ、興味が無さすぎて何回も自己紹介をする羽目にはなってしまったが。

 

「あ、時透くんいらっしゃい」

「今日もいい?」

「もちろん。ちなみに、今日は天丼だよ」

 

 仲は良くも悪くもないが、時透くんは時々私の家にご飯を食べに来る。理由を聞いたら「下手な店に行くよりマシだから」だと。蜜璃ちゃんや時透くんは食べた分の食費代は払うと言ってくれているけど、私はいつも断っている。作りたくて作っているだけだし、助け合いの精神は大事だと思うからわざわざ請求しようとは思わない。というか1人で食べなくていいと思うと、むしろこちらがお金を払いたいくらいだ。1人はやっぱり少し寂しい。

 

 

 2人でムシャムシャ天丼を頬張っていると、突如ドンドンと扉が大きく叩かれた。時透くんは少しムッとした顔をしたものの、何も言わずに食べ続けている。とりあえず迎え入れることにして扉を開けた。

 

「シ、シローー!!!やばい!ごめん!俺やばいことしちゃった!!お館様には報告したけどやばい!俺、俺もう切腹するしか・・・!!」

「待って待ってどうしたの山田くん」

 

 扉を開けて直ぐに飛び込んできたのは、おなじみの山田くんだった。隊服はかなり汚れているし、見える部分にいくつも傷がある。その中でも1番目に付いたのは何もない腰部分だ。・・・日輪刀は、どうしたんだろう。

 

「まずは落ち着いて、深呼吸。はい、ここ座って話聞くから」

「あ、ああ・・・って、え、まさかこの人霞柱の・・・!」

「あら、時透くんのことも知ってるのね。柱全員わかるの?」

「いや、顔までは把握してないけど、この人は柱になる前に会ったことがあるから・・・」

 

 私と山田くんが話題に出しても、時透くんは我関せずといった様子で天丼を食べ続けている。美味しいようで何より。ある程度落ち着いた山田くんと向かい合って、本題に入った。

 

「やばいことしたって言ってるけど、どうしたの?」

「それが、なんか離れたところの山で変なやつに力比べ挑まれて・・・あれよあれよという間に負けて鬼についてのこととかかなり詳しく聞かれて・・・聞かれるまま鬼殺隊のこととか最終選別についてとか話しちゃったんだよ・・・!しかも日輪刀も取られたし・・・!」

「なんで生きてるの?普通の人か人に擬態した鬼か分からないけど、何をどこまで教えたの?それに日輪刀を奪われた?それを研究されてもし万が一耐性をつけられたら?どうやって責任を取るわけ?そもそも普通の人相手だとしたらどうしてそんな簡単に負けたの?」

 

 涙ながらに語る山田くんに対し、時透くんはオブラートのオの字もないくらいに一蹴した。確かに、どこまで話したのか分からないがその人物が鬼の手先だったらと思うと情報漏洩してしまったことになる。それに日輪刀が奪われたというのはかなり深刻だ。

 

「時透くん、気持ちは分かるけど言い過ぎ。生きて帰ってこれただけ良かったでしょう。・・・山田くん、お館様に報告はしたのよね?お館様、なんて?」

「・・・大丈夫、と一言だけ言われた」

「お館様が大丈夫って言うなら大丈夫でしょう。でも、山田くんはもっと修行しなくちゃね」

「うぐっ」

 

 お館様が何を考えているのか分からないが、お館様が大丈夫というなら大丈夫なのだ。身辺調査でもしたのだろうか?山田くんの鎹烏がいただろうし、鎹烏が尾行していれば直ぐに所在は明らかになる。うん、まあ大丈夫だろう。私がこれ以上考えても何も変わらないと感じ、考えるのをやめた。

 

「そういえば、変なやつってどんな風に変だったの?」

「そう!そこなんだよ!首から上が猪なんだ!」

 

 ・・・猪。どうしよう、思い当たる節がある。首から上が猪で、山田くんが簡単に負けるような相手。・・・かつての弟分、伊之助だ。彼なら最初から鬼の存在を知っているし山田くんになら余裕で勝てると思う。なんせ私がある程度鍛えたのだ。むしろ簡単に伊之助が負けてたまるか。ああ、どうしよう、伊之助には鬼に関わって欲しくなかったのに。

 

 




シロが下級隊士と話す時にお嬢様っぽい口調が混ざるのは、お姉さんぶりたいからかもしれない

時透くんこんなに酷かったかなと思いつつこんなもんかなとも思ってる


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第45話 お菓子

 

 

 どらやき、おはぎ、三色団子、桜餅、白玉ぜんざい、焼き団子、べっこう飴、マカロン、パンケーキ、カステラ、蒸しケーキ、クッキー、ドーナツ・・・いくつもあるちゃぶ台の上を覆い尽くすように、和洋問わず様々なお菓子が並べられている。しかし最初の方に作ったものは既に蜜璃ちゃん達の胃袋の中だ。

 

「おいし〜!シロちゃん、お菓子作るのも上手なのね!初めて見たものもあるわ、これは何かしら?」

「それはワッフルっていうの。どう?」

「わっふるっていうのね、なんだか甘いパンみたいで美味しい!」

 

 なぜ、こんなに大量のお菓子を生産したのか。理由は簡単、ただのストレス発散だ。切っても切っても居なくならない鬼達。影も形も現れない鬼舞辻無惨。娯楽のない日常生活。そんな中で生活していたら当たり前だがストレスが溜まる。そんなシロのストレス発散方法は、お菓子の大量生産、大量消費だ。幸い金銭は有り余ってるから大体の材料は手に入る。なんなら外国から取り寄せて貰ったものだってあるのだ。

 

「蜜璃ちゃん達の予定が空いてて良かった。一人で食べるのもなんか寂しいし」

「ふふ、私も今日空いてて良かったわ!こんなに美味しいものが食べられるんだもの。ね、不死川さん!」

「・・・」

 

 折角作ったのだから、誰かに食べてもらいたいと思って真っ先に呼んだのは蜜璃ちゃんだ。私の鎹烏である陽太郎に蜜璃ちゃん宛の手紙を届けてもらった。そしてちょうど任務終わりで予定が空いていた上に空腹だった蜜璃ちゃんはここに直行したのだ。・・・たまたま報告時に出会った不死川さんと一緒に。

 

「不死川さん、味はどうですか?合います?」

「・・・悪くはねえ」

 

 不死川さんはずっと不機嫌そうな顔をしながら黙々とおはぎを食べている。おはぎばかり食べているから、他のものを作っている途中でおはぎを追加でいくつも作ったのだ。多分全部のおはぎ食べ終わるまではここに居るんじゃないだろうか・・・?さすがにそれはないか。

 

「なんだか、不死川さん怖い人って思っていたのですけどそんなことないんですね」

「・・・」

「不死川さんはなんだかんだいい人だからね、前も助けてもらったし」

「・・・」

「これからは私も不死川さんと仲良く出来るように頑張るわ!柱同士、仲良い方がいいものね!」

「・・・」

「私も頑張る!」

 

 蜜璃ちゃんが不死川さんに話しかけてスルーされたので、私と蜜璃ちゃんで雑談をし始める。その間不死川さんは黙ったままだ。・・・と、思ったらプルプル震えだした。

 

「その!生暖かい目を!やめろクソが!!」

「・・・おはぎもっと食べますか?」

「・・・ああ」

 

 なんだか第二の伊黒さんのように思えてきた。美味しいご飯は幸せになるからね!




胃袋捕まれた系男子が増えたぞ
不死川さんもなんだかんだキャラ崩壊してる


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第46話 那田蜘蛛山

 

「伝令!伝令!カァァァ!次ノ任務ハァ!那田蜘蛛山ァ!那田蜘蛛山に向カエェェ!鬼が出没ゥゥゥ!既ニ隊士が数十名死亡ゥゥゥ!十二鬼月ノ可能性アリィィィ!」

「え、そんなに亡くなってるの!?早く行かなきゃ・・・!那田蜘蛛山ってどこ!?」

「南南東ゥゥゥ!南南東ゥゥゥ!案内スルゥゥゥ!コノ方向音痴ィィィ!」

「ありがとう陽太郎!行こう、山田くん!」

 

 山田くんとの見回り任務中に鬼を見つけたため退治した直後、陽太郎が次の任務を言い渡した。隊士が何人も死んでいるなら只者では無いはずだ。確かに十二鬼月かもしれない。でも、上弦ならそう簡単に姿を現すとは思えない。過去の隊士が上弦の相対したのは全てたまたまで、十二鬼月と分かっている状態で会ったことは無いらしい。仮に下弦だとしても、下弦でそんなに亡くなってしまうものなの・・・?ふと首を傾げそうになったが、それは今考えることではない。とにかく先導を陽太郎に任せて私もそこに向かわなければ。

 

 

「十二鬼月!?まじかよ俺死ぬ!死ぬ!」

「私がいるから大丈夫よ」

「頼りにしてるからなシロ!あああ俺十二鬼月に会ったことねえんだよー!」

「頑張れ頑張れ、山田くんは出来る子!頑張れる子よ!」

「頑張るけどさー!」

 

 

 しばらく陽太郎を先頭に走り続け、ようやく那田蜘蛛山に到着した。おどろおどろしい空気が山から漂ってきていて、確かにこれは沢山の人が亡くなっているだろうことが安易に予想できる。1度立ち止まり、山に入っていく。

 

 

 山を進んでいくと、那田蜘蛛山という名の通り沢山蜘蛛がいた。この蜘蛛からは鬼の気配をうっすらと感じるため、自分達に触れられる前に歯車で潰す。山を登り始めて少しすると、突然人面の蜘蛛が足元に現れた。

 

 

「うおっ!鬼!?」

「・・・あ、山田くん待って!違う!」

「え?え?だってこれ、体蜘蛛だぞ!?蜘蛛の体に生首だぞ!?」

「人の気配するし鬼ではないわ。・・・もしかして鬼殺隊員?」

 

 

 人の気配なのに人の姿をしていない、体が蜘蛛になっている誰かに聞くとコクコクと頷いた。どうやら言葉が出せないようだ。危ない、鬼じゃないって気づかなかったら切っちゃう所だった。仲間殺しは避けたいもんね。

 

 

 

「誰かわかんないけど、この山の鬼を倒すまで隠れていた方がいいよ。隊士を見つけても近づかないこと。鬼と間違えられて切られちゃうからね」

 

 

 

 そう言うと、再度コクコクと頷いて蜘蛛になった隊士は木に登り始めた。ていうか、治るのかな・・・鬼にはなってないから治るかな・・・胡蝶さんなら何とかしてくれそうだけど私はその辺詳しくないからな・・・。

 

 

 

「よし、とにかく進もうか山田くん」

「お、おう。ありがとな、教えてくれて。仲間を切るところだった」

「仕方ないよ。あんな姿になってたし、言われなきゃ気づけないって。結果論だけど未遂なんだからもう気にしないほうがいいよ」

「そうだな・・・本当に、ありがとう」

「はいはい。・・・人を蜘蛛にする血鬼術の使い手がいるのかな」

「俺、虫嫌いなんだよ・・・なりたくない」

 

 

 私だって虫にはなりたくない。嫌いではないけど好きでもないのだ。

 

 




46話目にしてようやく原作入り


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第47話 金髪

「伝令!伝令!カァァァ!鬼の討伐完了!只今ヨリ事後処理に回レェェェ!栗花落カナヲ及び隠と合流スベシィィィ!案内スルゥゥゥ!」

「え、はっや・・・私来る意味あったの・・・?」

「よ、良かった、十二鬼月と会わなくてすんだ・・・」

「山田くん、今は会わなくても今後会う可能性あるんだからね」

「ちょ、シロ顔こええ!」

 

 

 まったく、明日は我が身なんて言葉があるんだから安心なんてしちゃいけない。そういえば結局十二鬼月だったんだろうか?まあ、落ち着いたら誰かに聞こう。栗花落カナヲ・・・カナヲちゃんは胡蝶さんの継子の子か。会ったことも話したこともあるから多分大丈夫だろう。今回も陽太郎が先導してくれるし迷うことは無い。ありがとう陽太郎。

 

 

「・・・あ、カナヲちゃんいた」

「ああ、シロさん。早速ですが怪我人を皆蝶屋敷へ運んでください」

「了解、任せて。山田くんは1人でも大丈夫?」

「おう!大丈夫!」

 

 

 こんなときの血鬼術だ。歯車を生成し、地面と水平にして怪我人をその上に乗せる。作り放題だし横移動なら楽だから何人だって運べるのだ。真っ直ぐ飛ばせるから怪我への負担も全くない。人や物を運ぶのに便利だから私の血鬼術は汎用性がかなり高いと思う。

 

 

「あれ、金髪なんて珍しい」

「!?んーーー!!うぅーーー!!」

「ん?なあに?」

「んううんううう!」

「もしかして、私のこと知らない?」

 

 

 包帯でグルグル巻きにされている、この時代には珍しい金髪の子に話しかけたら凄い青ざめた顔をされた。何かを言いたそうだけど包帯のせいで何を言っているか分からない。でも、私を見て恐怖を感じているような気配を感じたから、もしかしたら私の事を知らない上に鬼であることに気づいたのかと予想する。案の定、私の事は知らないと首をブンブン縦に振った。

 

 

「ああ、それなら安心して。私は鬼だけど鬼殺隊公認だし、ちゃんと鬼殺隊の一員だから。敵じゃないよ」

「ん・・・」

 

 

 そういうと、納得したように大人しくなった。信じてもらえてありがたいけど、ほいほい人を信じるなんてこの子は簡単に騙されそうで心配になる。まあ信じてもらえたし、歯車に乗せて他の怪我人も同様に乗せていく。歯車で頭上が埋まりそうだ。

 

 

 

 蝶屋敷につき、アオイちゃんに案内されて怪我人を1人1人ベッドに寝かせる。最後の1人である金髪の子をベッドに寝かせた所で一息をついた。他の隠の人が残りの怪我人を全て運んできたらしい。人目につかないようにしたせいで、ここまで来るのに時間がかかってしまったからもうとっくに日が昇っている。

 

「あの・・・」

「え?ああはい、なんですか金髪くん」

「金髪くん・・・あの、我妻善逸です」

「そうですか。シロです」

「シロさん、ちょっと聞きたいことがあるんですけどいいですか?」

「いいですけど、怪我が酷いのにお喋りして大丈夫なんですか?」

「薬が効いてるせいか痛くないんで大丈夫です」

 

 ベッドに横になっている我妻くん・・・我妻くんって言いにくいな。善逸くんでいいや。善逸くんはこちらをじっと見て話しかけてきた。聞きたいことの見当は大体ついているけど、満身創痍なんだし休んだ方がいいのに。

 

 

「鬼だけど鬼殺隊って言ってましたよね?どうやって入ったんですか?」

「うーん、正確には、最初は協力関係だったの。私、慶応産まれで鬼になったのは明治前半なんだけど、鬼になってからは人を喰わずに鬼だけ喰ってたのね。それを知ったお館様が私に協力関係を持ちかけてきたわけ」

「慶応!?慶応産まれなんですか!?」

「そうだよ〜。四捨五入したら50歳になっちゃう。」

「な、なるほど・・・でも、なんでお館様?はシロさんが20年人を喰ってないことを知ってたんですか?」

「鬼になってすぐに、人だった頃に知り合った隊士と再会してね。当時のお館様・・・つまり、先代ね。先代に報告してそれからずっと監視してたみたい」

 

 

 まだここは前提部分なのだけれど、善逸くんは既に呆然としている。50年なら普通に人が生きられる年齢だけど、私の見た目は10代だから見た目と生きている年数の違いのギャップが酷いのかもしれない。でも鬼なんてそんなもんなんだけどなぁ。

 

 

「で、普通に協力関係だったんだけどなんだか隊士と仲良く?なってきちゃって。色々あって炎柱の人に鬼殺隊に入ればいいって勧められたのよ。でも、どうせお館様に断られるだろうって思ったら認められちゃって」

「そ、それで鬼殺隊に入ったと・・・」

「うん。まあ私鬼だし、その辺の鬼には負けない自信があるからね。何かあったら善逸くんのことも助けてあげるよ」

「えっ本当ですか!?お願いしますっゲホッ!」

「ああほら、もう横になった方がいいわ。時間がある時にお見舞いに来るから寝なさい」

「あい・・・」

 

 

 そういえば、少し前にあった最終選別に通った子には私の存在を伝えられていないのかもしれない。何人いるのか分かんないけど、その子たちにも伝えておかないと・・・。

 




先代のお館様から今のお館様にシロのことが伝えられていたの、やっと書けた


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第48話 柱合裁判

 那田蜘蛛山で下弦の鬼を退治した数時間後、竈門炭治郎は両手を縛られた状態で地面に転がされていた。炭治郎は気絶をしていたが、隠の声掛けにより目を覚ます。

 目を覚ました炭治郎が最初に目にしたのは、威圧感のある男女6名であった。

 

 

「ここは鬼殺隊の本部です。あなたは今から裁判を受けるのですよ。竈門炭治郎君」

 

 

 口を開いたのは儚げな印象のある小柄な女性だった。何者なのか炭治郎は見当もつかなかったが、強者であるということを肌で感じていた。

 蝶の髪飾りをした女性ーーー蟲柱・胡蝶しのぶが声を出したのを皮切りに、炎柱・煉獄杏寿郎、音柱・宇髄天元、岩柱・悲鳴嶼行冥が各々の考えを発する。悲鳴嶼行冥が「殺してやろう」と言うと、煉獄杏寿郎と宇髄天元はそれに同意をした。

 

 

 ーーー禰豆子!禰豆子どこだ、禰豆子、禰豆子、善逸、伊之助、村田さん!

 

 

 自分を囲っている者たちの発言を聞いているのかいないのか、特に気にすることなく真っ先に妹の姿を探した。どれだけ見渡しても妹の姿は見つからない。行動を共にしていた者たちの姿もない。妹達がいないことに焦っていると、突如頭上から声が聞こえた。蛇を首に巻いた青年ーーー蛇柱・伊黒小芭内の話を聞くと、どうやら恩人である冨岡義勇まで隊律違反とみなされてしまったらしい。それを知り、炭治郎は胸を痛めた。

 

 

 弁解をしようとしたところ声が出なかったため、胡蝶しのぶに鎮痛薬入りの飲ませてもらい妹の弁明をした。しかし誰も納得などしてくれず、絶望が心の奥に顔をだす。それでも、妹を守るために証明しなくてはならない。だが、証明出来るようなものは何も無く、結局言葉で訴えるしかないのだ。

 

 

「オイオイ。なんだか面白いことになってるなァ」

 

 

 弁明中、新たに見知らぬ人物ーーー風柱・不死川実弥が現れた。その人物は全身傷だらけで特徴的な目をしている。それ以上に目を引いたのは左手で持ち上げている箱。妹が中にいる箱である。胡蝶しのぶに苦言を呈されても、それを聞かぬ振りをして不死川実弥は話し続ける。

 

「鬼が何だって?坊主ゥ」

「鬼殺隊として人を守るために戦えるゥ?」

「そんな異端が、ゴロゴロいるわけねぇんだよ馬鹿がァ!」

 

 異端とは何か、考える前に不死川実弥は妹が入っている箱に刀を突き刺した。それに激昂した炭治郎は全身を襲う痛みにもお構い無しに駆け出した。妹を傷つけられた怒りで怒鳴りながら突き進むと、相手が刀を構えるのが見えた。冨岡義勇の言葉で一瞬固まった刀の軌道を見切り、飛んで躱すとそのまま顔面に頭突きをした。

 

 

「善良な鬼と悪い鬼の区別もつかないなら、柱なんてやめてしまえ!」

 

 

 そう叫ぶと、突如現れた少女が「お館様のお成りです!」と声を張り上げた。それと同時に顔の上半分が爛れている男性が姿を現す。この人がお館様?と考えていると、瞬時に後頭部を捕まれ地面に押し付けられた。反抗しようとして、他の者達が全員跪いていることに気がついた。ただ事ではないと感じた炭治郎は様子見のためそのまま大人しくすることにした。先程まで知性も理性もなさそうだった青年がきちんと喋りだしたことに驚きを隠せなかったのは余談だ。炭治郎達のことに対して、どういう事か説明を求められたお館様は2人を認めて欲しいという旨を話した。

 

 

 

「嗚呼・・・鬼を連れた隊士を認めるなど・・・似た前例があるとはいえ・・・たとえお館様の願いであっても私は承知しかねる・・・」

「前例・・・?」

「俺も派手に反対する。俺があいつを推薦したのは、20年人を喰っていない事実と協力関係になってからの実績があるからだ」

「っ!もしかして、鬼の隊士がいるんですか!?」

 

 

 

「異端」「前例」「20年人を喰っていない」この言葉で想像出来ることは、鬼の隊士が存在しているのではないかということだった。仮に本当に鬼の隊士がいるのなら、禰豆子のことも認めて貰えるかもしれない。それを知るために質問を発したが、それを無視して他の柱も口を開いた。

 

 

 

「私は全て、お館様の望むまま従います」

「僕はどちらでも・・・直ぐに忘れるので・・・」

「信用しない信用しない。そもそも鬼は大嫌いだ。もちろんアイツも大嫌いだ」

「心より尊敬するお館様であるが、理解できないお考えだ!彼女に関しては全力で推薦したが、今回は全力で反対する!」

「鬼を滅殺してこその鬼殺隊。竈門・冨岡両名の処罰を願います」

 

 

 

 それらの訴えには答えず、産屋敷耀哉は「手紙を」と呟いた。それを聞いて隣に待機していた少女は鱗滝左近次から送られてきた手紙を開き、1部を抜粋して読み上げた。

 それによると、妹である禰豆子が人を襲った場合は鱗滝左近次と冨岡義勇が腹を斬るというものだった。自分たちのために命をかけてくれた2人を考え、炭治郎の目から涙が零れ落ちた。

 

 それを聞いても、「切腹するからなんだというのか」「人を喰い殺せば取り返しがつかない」と反抗する者がいたが、人を襲うということも証明が出来ないとし、一蹴した。また、鬼舞辻無惨に遭遇しているということもあり柱から質問攻めにされたがお館様が指を立てた瞬間に静まり返った。そして、尻尾を掴んで離したくないという。それでもなお反抗するのは不死川実弥だ。

 

 

「分かりませんお館様」

「人間ならば生かしておいてもいいがこれ以上鬼は駄目です承知できない」

 

 

「これ以上」ということは、やはり鬼の隊士がいるのだと炭治郎が確信すると同時に、不死川実弥は自身の右腕を斬り裂いた。

 

 

 

 

 

 その後、禰豆子が何度も刺されたり自身の血管が破裂しそうになったりしたが、なんとか公認の存在となることが出来た。下がるように言われたものの、どうしても妹を傷つけた不死川実弥に頭突きをしたかった炭治郎は柱にしがみついて粘った。・・・小石で攻撃されてしまったが。

 そして蝶屋敷に向かう途中、炭治郎の頭を占めていたのは鬼の隊士の事である。出来れば会って話をしたいと思うが簡単に会えるだろうか。

 

 




6巻片手に頑張りました
所々セリフが変わっています


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第49話 猪の脳内

 某月某日、嘴平伊之助は竈門炭治郎・我妻善逸と同じ部屋でベッドに横になり大人しくなっていた。

 

「ゴメンネ。弱クッテ」

「がんばれ伊之助がんばれ!」

「お前は頑張ったって!すげえよ!」

 

 あの山で蜘蛛の鬼と戦い、喉頭と声帯の圧挫傷という傷を負った伊之助は自分の弱さに落ち込み、かつての師とも姉とも言える人物を思い出していた。

 

 

 

 

ーーーおいてめえ!ここは俺の縄張りだ!誰だ!出てけ!

ーーーイノシシのお化け・・・?

 

 

 

 伊之助がその人物と出会ったのは、伊之助が恐らく10歳になるかならないかという頃だった。自分の誕生日など分からないが、言葉を教えてくれた老人が大体の推定年齢を教えてくれていた。

 

 出会い、言葉を交わし、戦った。雰囲気で強い事が分かったからどうしても戦いたかった。その人物は戦いに応じて、そして・・・自分は負けた。圧倒的な強さだった。勝てる算段が全くなかった。今までにない強さで、山の獣達に負けたことがなかった自分は心が折れそうになった。それでも必死に食らいつき、何度も何度も戦いを挑んだ。その度にその人物は自分の挑戦を受けてくれていた。それどころか、自分の悪い癖や良いところを指摘し、伸ばしてくれていた。最初はそれに気がつくことが出来なかったが、稽古をつけてくれていることを暫くしてから理解することが出来た。

 

 

ーーーうんうん、今のはすごくよかったよ。伊之助くん、強くなったね

 

 

 姉貴、と呼び始めたのはいつだったか。正確な日時は覚えていない。覚えているのは、零れるように口から出た姉貴という言葉と、目を見開いた白と黒の髪の女。

 

 

ーーーなあに、伊之助

 

 

 そう言って笑ったシロクロ女・・・ではなく姉貴は、まるで本当の家族のようだった。自分は家族を知らないが、言葉を教えてくれた爺さんが読み聞かせてくれた昔話に出てくる家族のようだった。

 

 

ーーー姉貴、鹿狩って来たぞ!

ーーー凄いね伊之助、今日はもみじ鍋にしようか

ーーーもみじ?これ鹿だぞ!

ーーー鹿鍋のことをもみじ鍋って言うのよ

 

 

 獲物を狩って来たら褒めてくれて、自分の知らないことを教えてくれた。

 

 

ーーーっアアア!くそ!もうちょいだったのによ!

ーーーふふふ、今のは惜しかったよ。すごく良かった。体が柔らかいのは長所だね。でもちょっと体幹が不安定かな

 

 

 何度だって挑戦を受けてくれて、その度に助言をしてくれていた。

 

本当に、本当に姉のようでいい師匠だった。額に傷のある男に家族はいないと言ったが、家族のようだった人間ならいた。・・・だが、言えなかった。1年ほどしか共に居られなかった姉は本当に存在したのか。自分が見た幻なのではないのか。少しでもそう思うと、なぜか心臓が痛くなった。そんな時に最後に貰った包帯を見ると、姉は存在したと確信を得ることが出来るのだ。

 

 

ーーー伊之助。なんでここに居るの?

ーーー姉貴、が。包帯、忘れてってたから

ーーーそう。ありがとう伊之助。それはあげるよ

 

 

 最後に貰った包帯を、自分の刀に巻いている。これだけが、姉の存在を証明するたった一つの手段なのだ。姉は鬼だった。しかしそれ以上に人間で、師匠で、家族だった。

 

 当時の自分は弱かった。きっと今もまだ弱いままだろう。どの口で一緒に戦うだなんて言えたのか。でももだってもないと言ったのは姉だが、ひとつだけ言い訳をさせて欲しい。

 

 

 

 俺は、もう置いていかれたくなかっただけだ

 

 

 




再会まであと少し


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第50話 手紙

 怪我の回復のために休息を取り始めて数日。しばらく痛みに耐え続けていた炭治郎だったが、ようやく痛みがマシになってきた。そしてあまりの痛みで頭から飛んでいたが、鬼の隊士がほぼ確実にいるということをふと思い出した。

 

「そういえば善逸、鬼の隊士がいるらしいんだけど知ってるか?」

「鬼の隊士?ああ、俺会ったよ」

「え!?本当か!?」

 

 正直、居たとしても簡単に会えるとは思っていなかった炭治郎は驚いた。まさか身近な人間が既に遭遇済みだとは思わなかったのだ。反射的に伊之助にも聞こうとしたが、眠っているのが分かり声を掛けるのをやめる。

 

「どんな人だった?俺も会いたいんだけど会えるかな?」

「何かあったら気軽に呼んでねって言われたから呼ぼうか?チュン太郎に手紙運んで貰えるし」

「呼び出してしまっていいんだろうか・・・いや、会えるなら会いたい。頼んでもいいか?」

「分かった。でも俺今筆持てないから、炭治郎手紙書いてくれよ」

 

 鬼の隊士に会える!と希望を持った炭治郎は、即刻手紙と筆を用意した。正確にはたまたま来ていた隠の人に用意してもらった。手紙の内容は端的にするとこうだ。

 

『初めまして、突然のお手紙申し訳ありません。俺は鬼になってしまった妹を連れている隊士です。そして鬼であるが鬼殺隊である方がいると言う話をお聞きし、1度お会いしたいと思い送らせて頂きました。鬼殺隊 階級癸 竈門炭治郎』

 

 実際の手紙はもっと堅苦しいものだが、簡単に主要なところだけ抜粋したらこうなる。自分は隊士であり、鬼になった妹を連れており、会いたいという旨を伝える。当たり前だが、自分の名前もきちんと添えてある。そう、自分の名前を書いたのだ。

 

 

 

 この時点で炭治郎は知る由もないが、鬼の隊士はかつての知り合いだ。もちろん兄弟全員知り合いである故、知り合いの兄妹の1人が隊士になり1人が鬼になったと知った彼女の心情はどのようなものであったか。

 

 

「あら、善逸くんのチュン太郎くん。どうしたの、お手紙?・・・何かあったのかな」

 

 何が書いてあるのかまったく見当もつかなかった彼女は手紙を開く。そして、先程の文章を目にするのだ。1度では脳内の処理が追いつかず、2度、3度、10度ほど読み返してようやく内容を理解した。

 

「炭治郎くん・・・?妹って、禰豆子ちゃん?花子ちゃん?どっち?ああ、すぐに行かないと!あれまって今どこにいるの!?あっチュン太郎くんが運んできたなら善逸くんと一緒ね!蝶屋敷!陽太郎、今から行くって炭治郎くん・・・竈門炭治郎くんに伝えてきて!額に傷がある子!」

「カァァァ!承知ィィィ!」

 

 

 手紙を見た彼女はどうなるか。答えは簡単、パニック状態だ。上手く頭が回らず大声で独り言を叫び、容易に予測出来ることも直ぐには出来ないでいた。そして今はまだ昼間のため日光が出ているが、歯車を傘代わりにして家を飛び出した。普段は人目を避けるのが大変なため歯車を傘にすることはないが、蝶屋敷までなら人目につかない道を知っている。今はとにかく早く蝶屋敷に向かいたかったのだ。

 

 




再会まで秒読みですな


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第51話 良い子

 手紙をチュン太郎に送って貰った炭治郎は返事がいつ頃来るか考えていた。下手したら返ってこないかもしれないが、善逸から聞いた話では優しそうな人との事だったため無視される可能性は少ないだろう。

 

 

「カァァァ!カァァァ!オ前ガ竈門炭治郎カ!」

「うわっ!びっくりした!は、はい!俺が竈門炭治郎です!」

「オ前ガ手紙ヲ送ッタ者カラの伝言ダァァァ!今スグ向カウトノ事ォォォ!」

「えっ!今すぐですか!?分かりました!玄関で待ってますと伝えてください!」

「承知ィィィ!」

 

 

 窓から突如入ってきた鎹烏に驚いたものの、それ以上に鎹烏が発したことに驚いた。手紙が返ってくるかどうかさえ不安だったのに、まさか今すぐ来てくれるなど少しも思っていなかったのだ。

 

「善逸、俺ちょっと外行ってくる!」

 

 そういうと、禰豆子に声を掛けてから禰豆子が入っている箱を持って部屋を飛び出した。

 

 

 

 

「カァァァ!カァァァ!竈門炭治郎ヨリ伝言!玄関デ待ッテイルトノ事ォォォ!」

「えっ玄関!?もう着いちゃうんだけど心の準備させて!」

「人ヲ待タセル気カァァァ!」

「正論だ!」

 

 

 烏にすら正論で論破された。なんだか心が折れそうだ。本当は玄関についてから心の準備をするつもりだったのだが、玄関にいるのならあと1,2分でついてしまう。今にも心臓が飛び出そうなほど心拍数が大変なことになっている。白目を剥きそうになったとき、蝶屋敷の玄関が見えて同時に少年が立っていることに気がついた。一瞬思考が停止し、数十Mあった距離をひとっ飛びして目の前に着地した。・・・正確には、10Mほど距離があるが。

 

 

「た、たん、炭治郎くん!」

「え・・・シロさん!?シロさん鬼だったんですか!?鬼の隊士ってシロさんなんですか!?あとなんでそんなに遠いんですか!?」

「だ、だって私自分が鬼だってこと隠してたし、絶対に幻滅されると思ってるんだもの!近づいて拒絶されたらどうしようって思うとこれ以上近づけないの!」

「しませんしません!大丈夫です!落ち着いてください!」

「うわぁぁぁん!炭治郎くんがこんなにも良い子!」

 

 

 その場で泣き崩れた。こんなに泣いたのはかつての家で写真を見た時以来だ。路上で泣き伏す私に近づいた炭治郎くんは、私の背に手を当てて摩り出した。ああ、炭治郎くんが本当に良い子・・・!幸せに暮らしてて欲しかったのに・・・!

 

 

「あら、シロさん。どうしたんですかこんなところで」

「あ、しのぶさん!」

「こぢょうざんんんん」

「・・・もしかして、お二人は知り合いなのですか?」

「はい!数年前にシロさんにお世話になってたんです!」

「なるほど・・・では、積もる話もあるでしょうし中に入ってください。血鬼術があるとはいえ、ずっと外にいるのはシロさんにはつらいでしょう」

「あ、す、すみません!俺、気付かなくて・・・!」

 

 

 玄関での騒ぎを聞きつけた胡蝶さんが出てきて、瞬時に私達が知り合いであることを見抜いた。ちょっと引いた目をされた気がするが見なかったことにする。いつ誰が通るかわからないし、中に入れて貰えるのはありがたいから遠慮せず入る事にした。

 

 




シロちゃん大パニック


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第52話 鬼と兄と妹

 胡蝶さんに通されたのは居間だった。大きめの机が中心にあり、壁際に箪笥や掛け軸や壺がある部屋だ。まだ泣き通している私は、胡蝶さんと炭治郎くんに促されて机に向かって座った。それを確認したしのぶさんは用事があるからと部屋から出ていく。炭治郎くんは私の向かいに座ってから背負っていた箱を降ろした。先程はパニック状態で気が付かなかったが、箱の中から鬼の気配がする。鬼に変わってしまってはいるが私はこの気配をきちんと覚えている。この子は・・・。

 

 

「・・・鬼になってしまったのは、禰豆子ちゃんだったのね」

 

 

 そう言うと同時に、箱から禰豆子ちゃんが現れた。何故か竹を噛んでいるものの、可愛らしさは変わらない。周りを見渡して、私を視界に入れた禰豆子ちゃんはなぜか私の頭を撫でて抱きついてきた。・・・引っ込んだばかりなのに、また涙が出てきた。

 

 

「あ、ちょ、禰豆子!」

「いいの。嬉しいから気にしないで」

「・・・2年前に禰豆子は鬼になりました。でも、それから今日まで人は食べていないんです」

「大丈夫、分かってるわ。人を食べていないことくらい判別がつくもの」

「ありがとうございます。・・・あの、聞きたいことがあるのですが、シロさんはどうして鬼殺隊に?」

 

 

 炭治郎くんの質問を受けて、私はこの20年間にあったことを伝えた。人だった頃に出会った隊士と鬼になってから再会したこと。それからずっと監視をされていたらしいこと。人を守りながら鬼を喰っているということで協力関係を申し込まれたこと。暫くしてから炎柱に鬼殺隊に入るよう勧められて、お館様にも了承されてそのまま鬼殺隊入りしたこと・・・。それを聞いた炭治郎くんは、納得したように何度も頷いた。

 

 

「なるほど・・・20年間の積み重ねがあったから、シロさんは認められたんですね。それに比べたら禰豆子は2年間だし、その2年間お館様に監視されていたわけじゃない」

「そうね。それに、私は協力関係を結んでいる時に十二鬼月の下弦を倒してるから・・・それもあるかも」

「えっ!?十二鬼月倒したんですか!?シロさんが!?」

「え、ええ、まあ、倒したわよ。ちょっと手こずってしまったけれど」

 

 

 十二鬼月の下弦を倒した事を話すと、炭治郎くんは目玉を向いて驚愕を顔全体に現した。なんなら体中プルプル震えている。・・・もしかして、那田蜘蛛山に炭治郎くんもいたんだろうか?あとから、あそこに下弦の鬼が居たと聞いた。討伐したのは冨岡さんらしいが。

 

 

「俺、那田蜘蛛山で下弦の鬼と戦ったんです。でも全然敵わなくて・・・目の前で他の隊士も何人も亡くなりました。シロさんは、シロさんが戦った時はどうでしたか・・・?」

「そうねぇ・・・下弦の鬼と会った時は下級隊士がいたから守りながら戦うのは大変だったわね。でも、誰も亡くならなかったわ。全員守り抜いたもの」

「っ・・・!」

「ああもう、唇を噛まないの。私は鬼だし、血鬼術があるから一緒にして考えない方がいいわ。むしろ下弦の鬼と戦って生き残ったんだもの、炭治郎くんは凄いわよ」

 

 

 正直、目の前で隊士を死なせてしまったという炭治郎くんにこれを言うのは酷だと思う。でも本当の話だし、きっと炭治郎くんはこれを聞いて心が折れるほど弱くはないと思っている。私のことを知らなかったということは最近鬼殺隊に入ったばかりなのだろう。それなのに那田蜘蛛山で生き延びれたのだから才能はある。・・・まあ、鬼殺隊になど入らず穏やかに暮らして欲しいと思わないでもないが。

 

 

「そういえば、炭治郎くんはどうして鬼殺隊に入ろうとしたの?私が言うのもなんだけれど、ここは鬼を倒す所よ?鬼になってしまった禰豆子ちゃんがいるのに・・・」

「あ、そうだ!俺は禰豆子を人に治す方法を探すために鬼殺隊に入ったんです!シロさん、何か知りませんか!?」

 

 

 ・・・ふと、以前に冨岡さんが言っていたことを思い出した。

 

 

ーーー人を喰わない鬼だ。家族全員が殺され、無事なのは1人の息子だけだった。その息子の妹が、鬼に変貌していた。

ーーー今は鬼殺隊に入るための修行をしている。鬼になった妹を人に戻す方法を探すそうだ。

 

 

 もしかして、もしかしなくても、あれは炭治郎くんと禰豆子ちゃんの事だったのか!と思うと同時に他のことも思い出してしまった。

 

 

ーーー俺は最初、その鬼を殺そうとした。・・・が、色々あり兄の方を攻撃した。

 

 

「・・・炭治郎くん、冨岡義勇って知ってる?」

「え?え?はい、知ってますけど・・・」

「その人に、攻撃、された?」

「あっ!いえあの、あの人は、その!恩人で!」

「されたのね?」

「うっ・・・はい・・・」

 

 

 オーケー分かった。冨岡さんには今度ヘッドロックを仕掛けてやろう。鬼になってしまっていた禰豆子ちゃんはともかく(全く良くないが)、可愛い可愛い炭治郎くんに攻撃を仕掛けたなんて許せない。

 

 

「ああ、ごめんなさいね。話が逸れちゃったわ。人を鬼に戻す方法だけど、知らないの。知ってたらとっくに戻っているだろうし。・・・珠世さんっていう方には会った?」

「はい!会いました!鬼の血を取って提供してます!」

「そう。珠世さんに鬼の血を渡し続ければ、そのうち薬が完成するかもしれないからそれに期待するしかないわね」

「そうですよね・・・。いきなりすみませんでした、ありがとうございます!」

「ううん。またいつでも連絡してね」

 

 

 そう言って、炭治郎くんと別れて蝶屋敷を後にした。家に戻っている最中の私の頭を占めているのは1つだけ。

 ・・・鬼舞辻無惨、ぶち殺す。

 

 




鬼舞辻無惨に対する憎悪メーター爆上がり


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第53話 お門違い

 

「裁判?」

「ええ、そうなの。隊士が鬼を連れているなんてなにごとかー!ってなって、その子をどうするかって話し合いをしたのよ。でも、最後は鬼殺隊に居ることを認めて貰えたから良かったわ。あんなに可愛い子を殺してしまうなんて胸が痛んで苦しいもの」

「・・・その裁判にかけられたのって、もしかして竈門炭治郎と竈門禰豆子?」

「え?ええ、そうよ。シロちゃん知っていたの?」

「2人が鬼殺隊にいた事はこの間知ったばかりだけど、昔知り合いだったの。すごく可愛がってたからそんなことになってる事を知って悲しくて・・・」

 

 

 炭治郎くん達と再会した直後だけど、今日は恒例の蜜璃さんとの昼食デー。監視するという名目でもちろん伊黒さんもいる。ちなみにメニューはビーフシチューだ。

 

 

「そうだったの・・・そういえば伊黒さん、炭治郎くんのこと押さえつけて血管破裂させそうになってましたよね?」

「は?」

 

 

 反射的に、バッと首を捻らせて伊黒さんを凝視した。伊黒さんは我関せずというように黙々とビーフシチューを食べ続けている。ちょっといったん食べるのやめて。これはお話をしなきゃいけないと思い、伊黒さんのビーフシチューを取り上げて私の頭上に掲げた。

 

 

「何をするのかね」

「こっちが何をするのかねって感じなんですけど!炭治郎くんに何してるんですか!?血管破裂未遂ってなんなんですか!?」

「暴れそうになったから取り押さえただけだ。それを言うなら、不死川の方は妹を滅多刺しにしていたぞ」

「は?」

 

 

 妹を?滅多刺し?妹って禰豆子ちゃんのことだよね?え?滅多刺し?滅多刺しにしたの?禰豆子ちゃんを?あの可愛い可愛い禰豆子ちゃんを???は???

 

 

「シロちゃん、あの、あの時は仕方なかったっていうか、その・・・怒らないであげて・・・怒る気持ちも分かるのだけど・・・」

「・・・うん、うん。普通に考えたら鬼を連れてる隊士とか考えられないよね。敵と敵を手引きしてるものって考えるもんね。分かる分かる。伊黒さんと不死川さんに対して怒るのはお門違いってこともわかってるけど・・・」

「分かったなら返せ」

「黙らっしゃい!それとこれとは!話は別!暫くご飯あげないから!絶対に!不死川さんにおはぎ差し入れするのもやめてやるぅぅぅぅ!!!」

「し、シロちゃん!やめてあげて!2人ともシロちゃんのご飯を楽しみにしてるの!!もちろん私もだけど!!」

 

 

 許さない!しばらく絶対に許さない!頭では分かってるけど心がおかしくなりそうだ!!大好きな子達を傷つけられたなんて頭が沸騰しそう!!

 ・・・まあ、私のご飯が楽しみらしいし、3日くらいで許してあげよう。チョロくなんてない。絶対にチョロくなんてないんだから。

 

 




ご飯を楽しみにしていることをさらっと蜜璃ちゃんに暴露される伊黒さんと不死川さん

シロちゃん、貴女結構チョロいわよ!




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第54話 猪のお化け

 

「あ、炭治郎おかえり!なんかシロさんすっごい泣いてなかったか?」

「ただいま、善逸。それが、シロさんは昔の知り合いだったんだ。久しぶりに再会したら急に泣き出してしまって」

「ああ〜・・・昔の知り合いが鬼になってたりしたらそりゃあ泣くよなぁ・・・」

 

 

 シロさんと別れて部屋に帰ってきた俺は、善逸に簡単に説明をした。まあ、説明といっても昔の知り合いだったことくらいだけど。

 俺と善逸の話し声が大きかったのか伊之助が目覚めて、立ちっぱなしの俺のことをじっと見つめてきた。なんだ?・・・と、思ったら、飛び起きた伊之助が俺の脇腹に思い切り頭突きをしてきた。面倒な気配を察知したのか善逸は寝た。

 

 

「いっ!?なんだ、どうしたんだ伊之助!なんでいきなり頭突きをするんだ!」

「うるせぇ!権八郎今誰とイタ!?」

「炭治郎だ!あと大声出すと喉が悪化するぞ!」

「いいから答えやガレ!」

「シロさんだ!」

「誰だ!」

 

 

 よくわからないが、俺が誰といたのか気になっているらしい。隠す必要もないから答えたが、誰だと言われてしまった。・・・もしかして、シロさんの鬼の気配が俺から漂っているのだろうか?

 

 

「伊之助。俺が一緒にいたのは鬼殺隊の隊士だ。鬼だけど公認の存在になってる人だから大丈夫だぞ」

「そんなこと聞いてネエ!権八郎から姉貴の気配がするんだヨ!」

「姉貴!?伊之助って姉さんがいたのか!?え、で、でもシロさん慶応産まれだぞ・・・?かなり離れてないか・・・?」

「血なんて繋がってネエ!あと名前も知らネエ!そいつ今何処にイル!」

 

 

 ・・・驚いた。まさか伊之助もシロさんと知り合いだったとは。申し訳ないがシロさんが今どこにいるのかは知らない。何かあったら呼んでとは言われたが、それは鎹烏経由でという事だろう。さっき別れたばかりなのにまた呼び出す訳にもいかない。伊之助が会いたがっているし会わせたいのも山々なんだけど、難しいな・・・。

 

 

「あ、あー!猪のお化けーーー!!」

「うわっ!?」

 

 

 ゴンゴンと俺の脇腹に頭突きし続けている伊之助を見ながら思考を飛ばしていたら、突然扉がガラッと開いて知らない隊士が姿を現した。

 

 

「こんにちは!竈門炭治郎です!」

「お、おう、こんにちは、山田です・・・悪い、部屋間違えたわ・・・」

「大丈夫です!・・・ちなみに、猪のお化けって・・・?」

「あー、俺、ちょっと前そいつに襲われて刀盗られてんだよな」

「そうなのか伊之助?」

「弱者は覚えてネエ」

 

 

 話を聞くと、過去に伊之助に力比べを申し込まれて一方的にボコボコにされた挙句、刀を盗られ鬼や鬼殺隊について事細かに喋らされた、と。それだけでなくその後柱にも怒られたとしょんぼりしていた。何故生きているのかと問われた、と聞いた俺は同情心でいっぱいになった。

 

 

「まあ、鬼殺隊に入っているみたいでよかったよ。これで敵だったら、本当に取り返しがつかないことしちゃったことになるからな」

「・・・そういや、姉貴探すために鬼の情報集めてた時あっタナ」

「???」

 

 

 頭の中がハテナでいっぱいになった俺は伊之助に話を聞くことにした。伊之助によると、一緒に暮らしてご飯を作って貰ったり稽古をつけてもらったりしていた姉貴分が実は鬼で、それを伊之助が知ってしまったからいなくなってしまったと。己が弱いから代わりに鬼を退治してくれていて、自分は足でまといだから切り捨てられたに違いないと言っていた。

 

 だから強くなって姉貴分を見つけて一緒に鬼を倒すとも言っていた。伊之助曰く、その姉貴分は鬼は全て敵だと言っていたらしい。もちろん自分も含めて。だが、伊之助はそう捉えてはいないみたいで姉貴分以外の鬼を全て倒してまた一緒に暮らすのだと話していた。伊之助に家族がいないと聞いていた俺はなんだか涙が出そうになった。

 

 

 というか、ほぼ確実に姉貴分はシロさんだろうが、シロさんが足でまといだとか考えるだろうか・・・?

 




シロちゃんの前に山田くんが再会したぞ


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第55話 山田です

 

「姉貴ってどういう・・・そういやお前の名前なんだっけ?」

「俺は嘴平伊之助ダ!」

「えっと、シロさんっていう鬼の隊士の方が伊之助のお姉さんらしいんです」

「えっ!?シロに弟いたのか!?しかもコイツ!?」

 

 

 どうも、鬼殺隊下級隊士の山田です。シロには沢山しごかれて強くして貰いました。今日は那田蜘蛛山で負傷した友人の見舞いに来たのですが、間違えてこの部屋に入ってしまい今に至ります。いつしかの猪のお化けに会ったり猪のお化けがシロの弟だったり驚きすぎて開いた口が塞がらないです。シロ助けて!

 

 

「シロさんのこと知ってるんですか?」

「知ってるっつーか、よく稽古つけてもらってるし命の恩人でもあるんだよ。なんていうか、友人に近い感じ?」

「ハァァァァァン!?」

「うわぁっ!?なんで威嚇すんだお前!」

「姉貴に稽古つけてもらっていいのは俺だけなんダヨ!」

「なんだこいつめんどくさっ!」

 

 

 シロのこと好きすぎかよなんだこいつ!

 ・・・とにかく、まあ、シロの弟っていうなら伝えた方がいいのか?ていうかシロは弟が鬼殺隊に入ってること知ってるのか?今から伝えに・・・あっ駄目だ今日は恋柱の方と昼食をとる日って言ってたな。柱の人はみんな怖いから近づきたくねえ!

 

 

「もう!みなさんお静かになさってください!」

「ごめんなさい!!!」

 

 

 猪のお化け、もとい伊之助?と言い争っていたら、アオイさんが部屋に入ってきて怒られた。俺この子ちょっと苦手なんだよなぁ。今も反射的に謝ったし・・・。

 

 

「あっ、アオイさん!その、シロさんってご存じですか?」

「シロさん?・・・ええ、知ってますが」

「会いに行きたいんですけど今どこにいるか知りませんか?」

「すみませんが知りません。ただシロさんはしのぶ様の研究のお手伝いをしていらっしゃるので明日にここへ来るそうです」

「そうなんですか!ありがとうございます!」

 

 

 終始アオイさんが不思議そうにしていたが、忙しいのか静かにするように釘を刺してどこかへ行ってしまった。ていうかシロって研究の手伝いとかしてたのか。あんまり普段何してるのかとか聞かないしな、今度色々教えてもらおう。

 

 

「・・・あ、てか俺シロの家知ってるわ」

「えっそうなんですか!?」

「それ早く言えヨ!教えロ!」

「いや、いやまあ知ってるけど!知ってるけどさ!勝手に人の家教えんのもどうかって思うじゃん!?」

「確かに・・・すみません」

「いやいや謝ることじゃねーよ。姉ちゃんなら会いたいだろうし、会わせたいって思うのも無理ないからな。ま、明日ここ来るらしいしそんとき会えるだろ。じゃあ俺そろそろ帰るな!お大事に!」

 

 

 今少し騒いでしまったから、またアオイさんが来やしないかと思って戦々恐々していた。まあ結局会うことも怒られることもなく、玄関に向かう途中にすみちゃんと会ってキャラメル貰ったくらいだったが。

 

 




シロちゃんがブラコンなら伊之助はシスコン
ごめんね伊之助もうちょっと待って


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第56話 お姉ちゃん

 

 

 今日は胡蝶さんの研究のお手伝いをしに蝶屋敷へ行く日だ。お手伝いといっても、血とか肉とかを提供するくらいだけど。肉・・・削ぎ落とすんだよなぁ・・・。まあ、私は珍しく藤の花に耐性があるから研究する必要があるのも分かる。今後そういう鬼が出てきたら胡蝶さんの毒が効かない可能性があるからね。でもやっぱり肉を削ぐのは心にくるんだな、肉体的に痛くないとはいえ心が痛くなってくる。

 

 

「ああ、シロさんいらっしゃい。いつもありがとうございます、中へどうぞ」

「お邪魔します。あ、昨日の夜鬼狩って来たので、ついでに血を取ってきました。いりますか?」

「いいのですか?助かります」

 

 

 ちなみにだけど今は昼。直射日光じゃなければ日中でも歩き回れるから自主的に出歩くようにしている。・・・まあ、傘代わりの歯車がないといけないから人通りは歩けないのだけど。思考を若干明後日に飛ばしながら、昨日の夜に狩った鬼の血を胡蝶さんに手渡して中へ入った。

 

 

 

 

 胡蝶さんの研究室に入り、注射器で血を採ってナイフで肉を削ぎ落とした。これは何度やっても慣れない。胡蝶さんは少し申し訳なさそうにするけど、私がやりたくてやっているだけだからあまり気にしないで欲しい。あ、私別にマゾじゃないからね!?研究のためだから!・・・と、私が出来ること(血肉の提供)が終わったため、家に帰ろうとして研究室を出た。ら、どこからともなくドドドドドという音が聞こえてきた。誰かが廊下を走っているんだろうか・・・?

 

 

「っ!姉貴ーーー!!!」

「!?い、のすけ!?」

 

 

 ドシーン!とでも擬音がつきそうなほどの勢いで、首から上が猪の男の子・・・伊之助が背中に頭突きをしてきた。この程度でふらつくほど体幹は弱くないが、今にも卒倒しそうだ。山田くんに猪のお化けに襲われたと聞いた時点でこの可能性を考えていたが、やっぱり鬼殺隊に入っていただなんて・・・。

 

 

「姉貴、姉貴、姉貴!!」

「・・・伊之助、大きくなったねぇ」

「姉貴、今までどこ行ってたんダヨ!」

 

 

 色々言いたいことはあるが、なんだか伊之助が喉を痛めているような声をしている。おそらく入院(?)して治療中だろうし、無理をして欲しくないから部屋に戻るよう言ったのだけれど私にしがみついたまま離れようとしなかった。

 

 

「どうしたの、伊之助?」

「・・・手、離したらまたどっか行っちまうダロ」

「えっと・・・1つだけ、聞きたいんだけど。伊之助、私のこと嫌いじゃないの?幻滅したり軽蔑したりしてないの?・・・私、鬼だよ?」

「よくわかんねーけど姉貴は姉貴だ!関係ネエ!」

 

 

 私は鬼だというのに、一年弱しか共にいなかったのに、あんな別れをしたにも関わらずまだ姉といってくれていた。慕ってくれていた。こんなにも嬉しいことがあるだろうか!

 

 

「そう、そうなの・・・そうね、私、お姉ちゃんだものね。ごめんね伊之助、置いていったりして。もうあんな事しないからね」

「本当か?・・・まあ、絶対に追いかけるケドナ!俺あん時よりは強くなったんダ!」

「ふふ、そうなの?伊之助の体調が良くなったら、久しぶりに稽古しましょうか。楽しみね」

「!!」

 

 

 ・・・鬼の私が、こんなに幸せに暮らしていていいのだろうか。いや、今は考えるのはやめよう。姉の私がいて弟の伊之助がいる。それだけでいいじゃないか。

 

 




色々葛藤とかあったはずなのに、伊之助が真っ直ぐすぎて卑屈になる余裕すらなかったシロちゃん
結構サラッと再会したぞ。多分伊之助は半泣き


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第57話 増えた

 炭治郎くん、禰豆子ちゃん、そして伊之助と再会して数日経ったが、あの日以降1度も蝶屋敷に行けていない。遠くまで遠征?みたいになっていて、物理的な距離があるせいで向かえないのだ。しかも鬼を狩りきるまでは帰れない。つらい。早く伊之助に会いたい。

 

 

「もう!もう!鬼全員潰れろ!!潰す!!」

「おーおー、いつにも増して派手に機嫌悪いじゃねえか」

「宇髄さんんん!早く弟に会いたいの!やっとまた会えたのに!」

「弟好きすぎかよ・・・ま、ここ一帯の鬼狩れば戻れんだ。もう一息だろ」

「うう・・・伊之助・・・!」

 

 

 行きの時点で若干ぐずっていたせいで、宇髄さんは私の事情を知っている。そしてどれだけ伊之助が好きかも知っている。目的地に着くまでの道中ずっと伊之助について話していたせいか、着いた頃には宇髄さんはげっそりしていた。残念だったな。私が話した内容はまだ3割にも満たないぞ!

 この山では鬼が大量発生しているらしく、切っても切っても鬼が出る。量が多すぎてキリがないため、私が感知&歯車で胴を両断して無力化→宇髄さんがトドメに頚を切る、という連携が固定化された。というかもうほとんどベルトコンベア方式だ。単純作業みたいになってきた。

 

 

「あー、なんか腹減ったな。そうだ、シロお前甘露寺やら伊黒やら不死川やらに飯振舞ってんだって?なんか作ってくれよ。ド派手なやつ」

「ド派手?・・・派手なやつ、ねぇ。派手かどうかわかんないけど、魚介類のパエリアとかどう?」

「ぱえりあ?なんだそれ」

「あ、知らないのか。じゃあそれで決定ね」

 

 

 

 夜が明けて朝になった。さっきまで大量にいた鬼たちは既に跡形もなくなっている。恐らく先程倒した鬼で最後だろうが、確認のためもう一泊しなくてはいけない。くそう、早く伊之助の所に帰りたい。

 任務は任務で仕方ないと思いつつ、宇髄さんにお買い物を頼んで私は藤の花の家紋の家で仕込みをして待っていた。お米はご厚意でいただくことが出来たため、先に軽く仕込んで待っておく。

 

 

「シロー、買ってきたぞ。にしてもこんなデカい貝とか何に使うんだ?」

「出来てからのお楽しみ!」

 

 

 せっかくなら完成品を見てもらいたいため、宇髄さんには客間で待ってもらうことにした。宇髄さんは辛めの方が好きかなとは思ったが、最初だしほんの少しだけピリ辛にしてみた。辛味は後から足せるからね。そしてしばらくして、魚介類のパエリアが完成した。作り方は各々調べてくれたまえ!

 

 

「宇髄さん、出来たよー」

 

 

 ・・・ちなみにだが、我が家にご飯を食べに来る人が増えたことは言うまでもない。

 

 

 




宇髄さんの胃袋も掴めたよ!!!(別目:閑話回)

そりゃあ、現代のご飯ハチャメチャに美味しいからな


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第58話 機能回復訓練

 

 

 帰ってきた!ようやく、遠方での任務が終わって帰ってきた!

 鬼を討伐して帰ってきた私が真っ先に向かったのは蝶屋敷だ。自宅に帰るよりも先に伊之助に会いに行きたかった。・・・が、蝶屋敷に着いて伊之助と炭治郎くんと善逸くんが入院している部屋を覗いても誰もいなかった。丁度近くを通った隠の人に聞いたら、道場で機能を回復するための訓練を行っているらしい。それを聞いた私は急いで道場に向かった。

 

 

「・・・え、伊之助いないの?」

「う、はい・・・来なくなってしまって」

「あらまあ」

 

 

 道場について真っ先に目に入ったのはびしょ濡れの炭治郎くんだった。炭治郎くん曰く、反射訓練と全身訓練で負け続けた2人は、心が折れたのか訓練に来なくなってしまったと。炭治郎くんによると、伊之助は恐らくだが再会した次の日以降、私が全くここに来なかったから余計にへそを曲げてしまったのかもしれないということだった。い、伊之助ぇ・・・!

 

 

「今日の訓練はもう終わったところ?」

「はい!一応今日の訓練はおしまいです!」

「そう、そう・・・。疲れてるだろうけど、せっかくだし私ともやってみない?全身訓練の鬼ごっこ」

「いいんですか!?是非お願いします!」

 

 

 と、言うわけで炭治郎くんと鬼ごっこをすることになった。逃げる方が私である。道場を使う許可を取ってから、鬼ごっこを開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 は、早い・・・!シロさんの匂いの方向を向いても、向いた瞬間にはもう既にシロさんは別の場所にいる。目で追えないどころか視界にすら入れることが出来ない!

 

「(カナヲの時だって視界には入れられたのに・・・!)」

 

 この道場だって、狭い訳では無いが巨大な訳では無い。数秒あれば見渡せる広さなのに、どこを向いてもシロさんがいない。シロさんは自分は強くないと言っていたが絶対に謙遜しすぎだ・・・!

 そのうち、本当に見失ってしまった。右を向いても左を向いても、前も後ろもどこにもいない・・・と、思ったら上から誰かに飛びかかられた。

 

 

「うわぁっ!?」

「ふふふ、本番なら死んでるよ、炭治郎くん」

「シロさん!?」

 

 

 気づかなかった!全く気づかなかった!いつの間にか真上に飛んでいて、そのまま俺の背中に着地された!倒れ込むときは俺の体が痛くないように配慮してくれていたが、これが本当の戦いだったら俺はこの瞬間に死んでいる!鬼とはいえ、シロさんがこんなに強かったなんて・・・!

 

 

「手荒な真似しちゃってごめんなさいね。こうでもしないと終わり所が見つからなくて」

「い、いえ、大丈夫です!」

 

 

 結局、この日はカナヲに負け続けた上にシロさんにも圧倒的な力で負けて終わった。

 

 



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第59話 姉弟稽古

 

 

 炭治郎がシロと全身訓練を行った翌日、その話を聞いた伊之助が炭治郎に食いかかっていた。曰く、姉貴と稽古していいのは俺だけだ、と。そして善逸も食いかかった。シロさんとキャッキャウフフしてたのかよ!!と。そんなに言うなら伊之助と善逸もシロさんに稽古をつけてもらえばいいと炭治郎は提案した。前日のうちに、しばらく毎日蝶屋敷に通うとシロから聞いていたからだ。

 

 

 

 

 

 そして、カナヲ達が道場に来る前の早朝にシロ達4人は集まった。

 

 

「ごめんねぇ伊之助、昨日来たら伊之助いなかったものだから」

「ぐーぜん居なかっただけだ!」

「偶然?・・・ふふ、そうね、偶然ね。伊之助がサボりなんてするわけないものね」

「・・・お、おう!」

 

 

 目が笑っていない。伊之助と話すシロを見て第一に善逸が思ったことであった。わざと騙されてはいるが、偶然という言葉を信じていないのが『音』で分かった。きっと居なかった原因を聞いているのだろう。

 とりあえず、最初は伊之助に譲ろうということでシロと伊之助が稽古をすることになった。今回は昨日とは違い、鬼ごっこの全身訓練ではなくただの手合わせだという。つまりは殴り合い蹴り合いその他もろもろだ。もちろん真剣・血鬼術はなし。伊之助は木刀を使い、シロは素手で戦うという。昔はそういう稽古をしていたそうだから、その方がしっくりくるらしい。炭治郎と善逸は道場の隅っこに寄って、見学をすることになった。伊之助とシロの準備が終わり、稽古が始まる。

 

 

 

 最初に動いたのは伊之助だった。シロは伊之助の上からの攻撃を上体を低くすることで躱し、そのまま鳩尾に向かって掌底を叩き込んだ。伊之助が少しだけ後ろによろけた隙に体勢を立て直したシロは、回転して勢いをつけた踵で道場の端まで蹴り飛ばす。それだけにとどまらず、壁にぶつかる前に壁と伊之助の間に入り込んで今度は下から上にかけて蹴りあげた。その後は落ちてきた伊之助を落ちる直前に反対側の壁まで殴り飛ばしておしまいだ。もちろん伊之助も抵抗していたが空中であるため上手く刀が振れず、それに対してシロは楽々と躱していた。

 

 それら一連の稽古を見ていた炭治郎は純粋に凄いと思って見ていたのだが、善逸はそうではない。

 

 

 

「(容赦ねえーーー!!!)」

 

 

 

 え?え?弟だよね?容赦なくね?見ろよあれ伊之助気絶してんじゃん!と、ガクガク震えて戦慄していた。

 

 最初に掌底を叩き込んでから地面に落ちるまでの間に3発も入れられた伊之助は、そのまま床でダウンしている。顔は見えないものの、気絶していることは明白であった。

 

 確かにシロは伊之助のことが大好きだ。大好きだからこそ、容赦をしない。死んで欲しくないからこそ、毎回本番だと思って手加減などせず稽古をしているのだ。本当の戦いで鬼が手加減をしてくれることなどないのだから。むしろ血鬼術を使っていない上に連打もしていない分甘くしている方である。

 

 

「あら、気絶しちゃった?・・・でも、本当に昔より強くなったね。よし、次は善逸くん?」

「エンリョしておきます!!!!」

 

 

 あんなの食らったらマジで死ぬって!!!

 

 

 




シロ「私は強くない(弱いとは言っていない)」
シロ「伊之助好き!(しかし手加減はしない)」


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第60話 乗車

 伊之助とシロの稽古から数日がたった。炭治郎が全集中・常中を会得したり、指令が来たシロが半ギレ半泣きで任務に行ったり、善逸と伊之助も全集中・常中を会得したり、それを知ったシロが自分のことのように喜んだりと流れるように日々が過ぎていった。そしてまた指令が入ったと軽く落ち込みながら任務に向かうシロを見送った炭治郎達はしのぶの診察を受けていた。

 

 

「ヒノカミ神楽って聞いたことありますか?」

「ありません」

「!?えっあっじゃっじゃあ、じゃあ火の呼吸とか・・・」

「ありません」

 

 

 ヒノカミ神楽や火の呼吸について聞いていたことは省略させて頂く。しばらく話してから炎柱の煉獄さんという人に尋ねればいいと言う話になり、鴉に頼んで炭治郎は診察室を出た。診察室を出てから、最終選別の時に見た人とすれ違ったりアオイやカナヲと話をしたりと色々あったが、ここも省略させて頂く。蝶屋敷を出た炭治郎・伊之助・善逸は無限列車という汽車に乗るために駅まで連れ立っていた。道中、炭治郎が善逸に責められていたことや汽車を知らない伊之助が騒いで駅員に目をつけられたことは余談である。

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡る。

 

 

 

 

 

 

「シロ!この弁当はうまいぞ!」

「そうですねー」

「こっちの弁当もうまいぞ!」

「そうですねー」

 

 

 煉獄さんが1つの弁当を食べ終わる事にわざわざ報告してくるから、いい加減面倒になってきた。さっきので実に24回目である。ていうかこの人どれだけ食べるんだ・・・普通の人でもこんなに食べないぞ。私はまあ別として。

 

 

「にしても、ここに鬼が出るんですよねぇ。そんな気配しないんですけど」

「油断大敵だぞ!」

「あっはいすみません」

 

 

 なんだか、伊之助と離れていることも相まって無気力状態である。ここ数年はそんなこと無かったが、1度再会してしまうとそれ以降離れるのがひどくつらくなってしまう。まあ、再会しなきゃ良かったなんて1ミリも考えていないけどね!伊之助好き!!あー、早く任務終わらせて帰りたい。まだ蝶屋敷にいるのかな、そろそろ退院かな。

 

 

「あ、ちょっと車内販売でお茶買ってきます。煉獄さんもいりますか?」

「すまん!頼む!」

「了解でーす」

 

 

 席を立って車内を歩く。さっきは鬼の気配はしないと言ったものの、ほんのり漂ってくる程度にはあるのだ。でもどの車両にいても同じ程度の気配しかしない。まるでこの汽車自体が鬼なんじゃないか、というような・・・いや、まさかね・・・。

 

 

 

 

 そして、時が動き出す。

 

 




煉獄さんはどうなってしまうのか

あと、この時点で既に半分くらい融合してるってことでお願いします


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第61話 夢の中

 

 

「はァーーー!なるほどね!!降ります!!」

 

 

 車内販売の人が見つからず、列車が動き始めてからようやくお茶を買えた私が聞いたのは聞き覚えのある声だった。隣の車両に居る時からなんだか騒がしいとは思っていたがまさか善逸くんがここに乗っていたとは。とりあえず席に着こうと思い近づくと、善逸くんだけでなく伊之助と炭治郎くんと禰豆子ちゃん(が入っている箱)もいた。

 

 

「姉貴!」

「シロさん!俺降りたいです!」

「シロさんもここに乗っていたんですね!」

「あらあらあら、3人ともどうしてここに?・・・あと善逸くん、危ないから次の駅にとまるまでは降りられないわよ」

 

 

 話を聞くに、火の呼吸?について詳しい話を聞きたいから似ている炎の呼吸を使っている煉獄さんに話を聞きに来たと。そして、この列車に鬼が出ると聞いた善逸くんは降りたがっていると。なるほど。

 

 

「とりあえず、3人の分のお茶も買ってきますね」

「いや、そろそろ切符確認があるだろうからな!その後でいいだろう!」

「ああ、確かにそうですね」

 

 

 と、言ったそばから車掌さんが現れたため切符を出して切り込みを入れてもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと、自分は夢の中にいるのだと気がついた。

 

 これはきっと明晰夢だ。近くにある鏡を見ると、真っ黒な髪で高校生の時の制服を着ている自分の姿が映っている。そして周りをぐるりと見渡す。そこは、もう見ることがないはずのゲームセンターだった。高校生時代に通っていた、家の近くにある大型のショッピングモールの中のゲームセンターである。

 

 

「ーー、どうしたの?ぼーっとして。疲れた?」

「ううん、どれやろうかなーって思ってただけ」

「ほんとにクレーンゲーム好きだね。お菓子のとかどう?」

「あ、いいかも。チョコ美味しそう」

 

 

 私は何をしていたのだったか、と考えを巡らせていると声をかけられた。中学校が一緒だった友人だ。・・・名前は覚えていないが。私の名前を呼んでいるようだが、名前の部分はノイズがかかっていて聞き取れない。当たり前だ、私は自分の名前を覚えていない。知らないことが夢の中に出てくるはずもない。

 

 どこからか出したお金でクレーンゲームをしていると、それを眺めていた友人が御手洗に行ってくると言って近くから離れた。丁度いいと思い、付近を散策する。

 

 

 とにかくこのショッピングモールから出ようと思いエスカレーターの方まで行ったが、なぜかエスカレーターの手前で何かにぶつかってしまった。もしかしたら夢の世界はここで終わっているのだろうか?頭を捻りながら、降りられないのは仕方がないと諦めてゲームセンターに戻った。

 メダルを補充している店員、シューティングゲームをしている学生、クレーンゲームが中々上手くいかない大人、カードゲームをしている子供・・・。ありふれた景色だ。あのまま健康な状態で生きていられたらずっと見ていられた景色。そしてありふれた景色の中で、1人だけ和服の子供を見つけた。錐のようなものを持っていて、キョロキョロしている。気配は人間だが、おそらくあの電車の中で眠っている私の夢の中に入り込んだのだろう。それが出来るとすれば鬼の血鬼術。つまり、あの子供は鬼に利用されている・・・いや、鬼に協力しているのか。足音を立てないようにして子供に近づいた。

 

 

「なによ、ここ、変な夢・・・音もうるさいし目が痛いわ・・・」

「ここは未来だよ」

「ヒッ!?」

 

 

 気づかれないように近づいて、肩に手を回した。もちろん逃げられないようにするためである。私を見る少女の顔が恐怖で歪んでいることに気づいたが、私の夢の中で好き勝手されるのも困る。

 

 

「色々聞きたいことはあるけど、うーん・・・とりあえず、これやってみる?」

「え・・・?」

「これね、クレーンゲームっていう物でね。ほらここ、挟み込むための棒があるんだけど、この丸い部分を操作して動かして、欲しいものを穴まで移動させるの。なぜかお金はあるから使えるよ」

 

 

 せっかくだからとクレーンゲームを勧めてみた。少しだけ興味があったらしい少女はこれにハマり、お菓子を落とすまで何回も挑戦した。簡単設定というのもあり、短時間で取得する。落ちてきたチョコのお菓子を広げて食べる子供を見て、ほんの少し和やかな気分になったが私は寝ているのだった。しかも、鬼がいる汽車の中で。そろそろ出ないといけない。

 

 

「ねえ、夢からはどうやって覚めればいいの?」

「・・・夢の中で、死ねば戻れるわ。お菓子、ありがとう。楽しかった」

「楽しかったなら良かった。ありがとうね」

 

 

 おそらく、この子供は嘘をついていない。幸せそうに、そして悲しそうにお菓子を食べてその場に座り込んでいる。夢の中で何をしようとしていたのかは知らないが、何かをする気はもうないようだから安心する。さて、あの子供はもういいとしてどうやって夢から覚めようか。死ねば出られるとはいえ、刃物なんてないし・・・と逡巡しながら足元をみると、隊服のズボンを履いている事に気がついた。もしやと思い腰を見ると日輪刀を佩いている事が分かる。・・・いや、でも鬼の首を日輪刀で切ったら大変じゃないか・・・?日輪刀で切ったら現実の方でも影響を受けてしまうのではないかと思うとそれを使うことが出来なかった。代わりに、天井の飾りが目に入る。あのビニール紐なら大丈夫かもしれない。天井のビニール紐を取り外し、ハングマンズノットという結び方をして先端を天井に括りつける。そのまま輪っかに首を通して、体の力を抜いた。

 

 

 




ハングマンズノット、通称:首吊り結び

この結び方を知っているシロちゃんの闇よ


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第62話 覚醒

 

 パチリ、目を覚ました。

 

 

「ムー、ムー!」

「あら、禰豆子ちゃん起きてたのね?・・・他のみんなは寝てるみたい」

「ムムー!」

 

 

 夢から覚めて目を開けると、まず最初に目に映ったのは炭治郎くんに縋り付いている禰豆子ちゃんだった。おそらく、中々起きないから起こそうとしているのだろう。私が何度か揺さぶっても炭治郎くんは起きなかったため、禰豆子ちゃんは炭治郎くんに頭突きをしたが禰豆子ちゃんのおでこから血が出てきてしまう。そして、泣き出した禰豆子ちゃんに同調するように禰豆子ちゃんの血が燃えた。・・・血がかかってる炭治郎くんも一緒に。

 

 

「え、禰豆子ちゃん!?炭治郎くん!?」

「ムムー!」

 

 

 禰豆子ちゃんは、やってやった!みたいなドヤ顔をしている。消火しないと大変だと思い、羽織でバンバンしていたがそのうち炎は勝手に消えてしまった。しかも、炭治郎くんは無傷だし服だって燃えていない。なにこれ。禰豆子ちゃんの血鬼術?

 まあそれは一旦置いておいて、炭治郎くんが起きないのは仕方がない。この様子じゃ他のみんなも簡単には起きないだろう。みんなと縄で繋がれている人達は夢の中に入り込んでいるのだろうし、勝手に縄を外したりしたらどうなるのかわからない。だから自力で目覚めてくれるのを待つしかない。まずは私が出来ることをやろうと思い、ここは禰豆子ちゃんに任せて今いる所に近い後方車両から順に鬼の居場所を探すことにした。

 その際、私にもいつの間にかついていた縄を解いて席を立つ。私の夢の中に入り込んでいた子は真正面に居たが、ボーッとしているようで何かしようとはしていない。この子は放置でいいだろう。

 

 

「禰豆子ちゃん、他のみんなのこと、お願いね」

「ムー!」

 

 

 

 

 

 1番後方の車両に着いたが、全員眠っていることを除けばとくに変わった様子はない。気味が悪いほどの静寂を抜きにすれば、鬼が居るだなんて思えないくらいだ。・・・と、次の車両に移ろうとした瞬間に気味の悪い気配を感じた。急いで振り返ると車両の壁や椅子からウゾウゾとした肉塊が滲み出ているのが確認できた。それを確認すると同時に、条件反射で血鬼術を使う。

 

 

ーーー血鬼術・暴風湾曲波ーーー

 

 

 出てきた肉塊にのみ歯車を叩きつける。歯車を叩きつけ、めり込んだ部分はしばらくピクピクと痙攣していてそれ以上動く気配はない。そのうちに潰して粉々にした。今まさに移動しようとしていた車両でも同様のことが起きている。とりあえず目に見える範囲全ての肉塊に歯車を叩きつけた。しばらくそれを繰り返していたら、炭治郎くんの叫び声が聞こえた。曰く、この汽車全体が鬼なのだと。まあそうだろうなと丁度思っていたところだった。肉塊が蠢く汽車なんて、鬼の仕業以外であってたまるものか。

 

 




ようやく原作入れたところですが、これからは更新ゆっくりめになるかもしれないです。
でも出来るだけ1日1回は更新したい。


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第63話 討伐

 

 前方車両が騒がしくなってきた。おそらく、他のみんなが一斉に起き出したのだろう。炭治郎くんや伊之助や煉獄さんの叫び声が聞こえる。それと同時に何かを破壊するような音も聞こえてきたため、きっと私と同様に蠢いている肉塊を切り続けているのだろう。煉獄さん達がいるなら前方は大丈夫だと思い、今いる7,8両目に専念することにした。ひたすら肉塊に歯車を叩きつけていると、大きな音と振動を響かせて煉獄さんがやって来た。

 

 

「シロ!余裕はないから手短に話す!君の歯車は好きに動かせるのだったな!出来るなら歯車に乗客を乗せて列車の外に避難させて欲しい!地面に降ろすと他の鬼に襲われる危険性があるから空中待機だ!出来るか!?」

「出来ます!」

「頼む!頚を切るのは任せろ!」

 

 

 そう言い残して、煉獄さんは肉塊の牽制を始めた。それを尻目にして大きめの歯車を量産していく。ついでに天井は邪魔だから真っ先にぶち抜いて壊した。歯車から乗客が落ちたりしないように、歯車を5つ組み合わせて正方形をつくり乗客をポンポン放り込んでいく。狭いし下の方にいる人は軽く潰されてしまうが、ギュウギュウではないし目を瞑って欲しい。パッと見て、1両につき乗客は30人いない程度だから3つ程正方形を作れば避難させられる。この列車は8両編成だから、合計120個の歯車を作って24個の正方形にすればいい計算になる。それくらいなら楽勝だ。

 1両ずつ移動して、手作業で乗客を放り込んでいく。10人前後入ったら空中に飛ばしてそのまま待機。列車は動いているから空中の歯車も線路沿いに飛ばし続けている。

 

 

「禰豆子ちゃん!善逸くん!」

「!!」

 

 

 前方車両に着くと、禰豆子ちゃんと善逸くんが一緒に戦っている所だった。急いでここの乗客も放り込んで援護する。乗客さえ避難できれば好きに暴れることができるだろう。迅速にこの車両の避難を終えて2人に暴れてもらうことにした。残るは運転席、となった所で絶叫と共に列車が大きく跳ねた。煉獄さんの移動とはまた違う揺れだ。・・・絶叫した鬼が、暴れているのだろうか。頚を切られたのか?

 

 

「わ、わっ!」

 

 

 列車が横転して、天井に開けた穴から放り出されたがなんとか空中で体を捻って着地をする。ギリギリ乗客が入った歯車は全員分空中に飛ばしていたからみんな無傷だ。意識を乗客から逸らし、煉獄さんたちを探す。

 

 

「炭治郎くん!煉獄さん!無事ですか!?」

「シロ!よくやってくれた、おかげで乗客は全員無傷だ!」

「いえいえ、って、炭治郎くんお腹どうしたの!?」

「えっと、それよりも、全員無傷って・・・?」

「それよりって、炭治郎くんの怪我の方が大変でしょうに!・・・私の血鬼術で、全員空中に避難させたのよ」

 

 

 それを聞いた炭治郎くんは、ほっとしたように息をついた。それと、運転手が列車に足を挟まれているから助けてあげて欲しい、と。ああ、そういえば運転席に着く前に横転してしまったのだった。運転手には悪いことをした。早く助けてあげないと。

 

 

 




シロちゃん、運転手は炭治郎くんのお腹刺した犯人だよ・・・


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第64話 猗窩座

 

 

 運転席に向かった私が見たのは、列車に足を潰されている運転手と運転手を助けようとしている伊之助だった。伊之助が運転手に向かって「這い出ろ!」と言うと同時に列車に体当たりをしたため、その隙に急いで運転手を引っ張り出した。

 

 

「伊之助、怪我はない?大丈夫?」

「おう!俺は親分だからな!」

「親分・・・?」

 

 

 親分がなんのことかわからないが、いつの間にか山の王兼親分になっていたらしい。運転手に簡単な応急処置を施した所で、ドン!という大きな音が聞こえた。煉獄さん達がいる方からだ。何か爆発でもしたのだろうかと思い伊之助と共に様子を見に行くと、そこに居たのは梅重色の髪の男・・・鬼だった。

 

 

「俺はつらい!耐えられない!死んでくれ杏寿郎、若く強いまま!」

 

 

 鬼が何かを叫んでいる。何を話していたのか分からないが、それは今考えることではない。煉獄さんが、以前見た事がある肆ノ型・盛炎のうねりを繰り出して鬼の攻撃を無効化している。その直後に鬼に近づき連続で攻撃を繰り出した。2人は接近状態であるが、私の歯車は標的追従型だ。煉獄さんに当たることは無いと即判断し、血鬼術・暴風湾曲波で数百個の歯車を飛ばした。もちろん、その間に鬼に近づく。数秒してから鬼は私の攻撃に気がついたが、煉獄さんの攻撃を防御しながらでは全てを破壊しきれないようで何発か当たった。

 

 

「シロ!俺より竈門少年を!」

「炭治郎くんはそこまで弱くないです!馬鹿にしないで頂きたい!」

 

 

 煉獄さんが言いたいことは分かる。自分は大丈夫だから、近くにいて危険な炭治郎くんを守れ、と言いたいのだろう。煉獄さんは『弱き者は助けるべき』と考えている。それはつまり、助ける対象は弱い者であるいうことだ。ふざけないでほしい、炭治郎くんは弱くなんてない。それにきっと炭治郎くんはこの強い鬼を放置してまで助けられたいとは思っていないだろう。勝手な憶測ではあるが。

 

 

 

 

「貴様は・・・ああ!貴様は見たことがあるぞ!あれはそう、明治の初期か中期だったな。恐らく貴様が鬼になったばかりの頃だ。弱かったな。非常に弱かった。本来なら記憶の片隅にも残らないほどの弱者だ!だがまあ、人を喰らっていなかったであろうにこの俺の攻撃を何度か躱して攻撃を入れたな!」

「・・・覚えてない」

「そうか!俺は覚えているぞ!簡単に首をへし折られていた貴様がよもやここまで強くなっているとは!名は何という?いや、答えなくていい!先程杏寿郎が言っていたな!シロというのか、俺は猗窩座だ!よし、戦おう!」

「さっきから戦ってるつもりなんだけど」

「そうか済まないな!では仕切り直しだ!」

 

 

 私の血鬼術は便利だが万能ではない。1度壊れたらまた作り直さなければいけないし、なにより私の半径1M以内でないと歯車は作れないのだ。つまり、遠距離攻撃をする時は歯車を作ってから目標に到達するまでに時間がかかる。近づけば近づくほど到達時間は短くなるが自分が攻撃を受ける可能性も高くなる。

 

 つまり何が言いたいかと言うと、体に当たる直前に破壊されると手も足も出ないのだ。猗窩座の口の中に作り出せればいいんだけど、そこまで近づく前に飛ぶ攻撃で吹き飛ばされてしまいそうだ。日輪刀を抜いたところで、ほぼ素人の私は強者に対して有効な技は使えない。

 

 煉獄さんも援護しようとしてくれているが、私の歯車が猗窩座と私を360°囲っているため近づけない。隙間から技を繰り出そうとしてもどこかしらの歯車に当たってしまうだろうし、援護が邪魔になってしまってはいけないと思っているのだろう。でも、この歯車の壁を一部でも無くしたら猗窩座はみんなの方に行ってしまいそうだからそれだけは防ぎたい。

 

 

「先程までの勢いはどうした?俺の体を何ヶ所も切り裂いていたのに、もう1発も当たっていないぞ!」

「うるさい!」

「シロ、人を喰え!今はまだ中途半端だが、それだけ強いのならば人を喰えばもっと強くなれる!至高の領域に踏み込める!そして俺と永遠に戦い続けよう!」

「私は人を喰ったりしないし、永遠に生きるつもりは無い!戦いだって、好きじゃない!」

「・・・そうか。なら、今殺してやろう」

 

 

 そう言うと、高速で移動して私の鳩尾を右手で貫き、左手で頚を掴んだ。頚からはミシミシという音がしている。もうすぐへし折られるのだろう。きっと首を握り潰して頭部と体を切り離し、後ほんの少しで顔を出す日光に晒して殺すつもりだ。だが、まあ、それでいい。

 足の力を抜いて、後ろ向きに倒れようとする。もちろん猗窩座は立ったままなので、歯車を猗窩座の背中にぶつけて倒れこませる。その上から歯車で地面に押しつぶせば完成だ。簡単に説明すると、上から歯車・猗窩座・私・地面という順番になる。歯車はかなりの圧力をかけているから、人だったら肉も骨も潰されているだろう。鬼だから押さえつけられている程度になってはいるが。

 

 

「っ、ぐ・・・!貴様、貴様も炙られて死ぬぞ!」

「ふふふ、それでいいのよ。心中しましょう」

 

 

 おそらく、きっと、絶対に。私ではこの鬼に勝てない。私は強くないと何度も言った。実際に私は強くない。心中でもしないとこの鬼は殺すことは出来ないだろう。と、思った時に煉獄さんが動く気配がして炭治郎くんの叫び声が聞こえた。「伊之助!動け!シロさんのために動け!」と。その数秒後に、猗窩座は歯車で圧迫されていた腹回りの肉を残して森の方に逃げてしまった。失敗した!失敗した!取り逃した!炭治郎くんと共に追わなければ、と思うと同時に肌が燃えるのが分かった。くそ、あと数秒、夜明けが早ければ!

 

 

「シロ!早く陰に隠れろ!」

 

 

 煉獄さんが叫ぶと同時に森の方へ放り投げられる。炙られたのが数秒だったからか、肌が少し焼け爛れただけで済んだようだ。それは置いておいて炭治郎くんの方に意識を向ける。「煉獄さんとシロさんの勝ちだ!」と叫んだ炭治郎くんは、疲労と怪我で深追い出来なかったようで膝をついて頭垂れていた。

 

 

 ・・・私は、勝てたのだろうか。これは負けだと思っていた。殺せなかった。だが、誰も死なせなかったという点を見れば勝利なのだろうか。もっと、もっと、守れるために強くならなくては。

 

 




鬼になった直後のシロちゃんは、鬼を見つけたら即殺せみたいなバーサーカーだったから猗窩座に喧嘩売って負けてます。でも覚えてない。ついでに猗窩座は終始ハイテンション。


全員幸せになれよ!!!って思って書いてます。どんどん原作変えてやんよ!!


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第65話 羽織

 

 

「うう、ごめんなさい・・・勝てなかった・・・」

「いえ!俺達の勝利ですよ!上弦の参にも関わらず誰も死なせなかったんですから!シロさんだってちゃんと生きてますし!」

「私は鬼だもの・・・そう簡単には死なないわ・・・」

「いや君!頚をへし折られて日光に晒されそうになっていただろう!」

 

 

 猗窩座がいなくなり、太陽の全体が見えるような時間になってもなお私は木陰で蹲っていた。三角座りをして顔を膝に埋めている状態である。面倒な落ち込み方をしていると自覚はしているが、これが落ち込まずにいられるか。炭治郎くんと煉獄さんはフォローしてくれているし、善逸くんは心配そうな目を向けてくれているけども悔しくて悔しくて死にそうだ。穴を掘って入りたい。ちなみに伊之助は黙って私の背中に張り付いている。炭治郎くん曰く、目の前で私が燃えるところを見てショックだったのでは無いかとの事だった。すごい、炭治郎くん伊之助のことよく分かってる。

 

 

「すみません、後回しになっていて。大丈夫ですか?」

「大丈夫です!ありがとうございます!」

「乗客の避難は終わったので、怪我の治療に・・・って腹!大丈夫じゃないじゃないですか!」

「いや、えっと、呼吸で塞いだので出血は止まってます!」

 

 

 乗客の避難誘導をしていた隠の人が戻ってきた。炭治郎くんが対応をしていたが、炭治郎くんのお腹の出血をみた隠の人は大層驚いていた。一応出血は止まっているものの治療が必要だということで、全員(私と煉獄さんは除く)隠の人におんぶして貰って蝶屋敷に搬送されることとなった。私は日光の下に出られないから夜までここで待機だ。悲しい。

 

 

「嫌だね!姉貴も来い!」

「あのね、伊之助、私は日光浴びられないから・・・」

「それなら俺もここに残る!」

 

 

 ドンッ!という効果音が聞こえそうなほど堂々と伊之助が言った。さっきまで静かだったのにいきなりどうしたのか・・・。伊之助曰く、放っておいたら死にそうだとの事らしい。やだ、信用なくなってる?

 

 

「置いていかねえって前に言ったのに、俺を置いていく所だったろ!」

「あ、ああ、ごめんね伊之助・・・確かに・・・」

 

 

 確かに、私は猗窩座と心中しようとしていた。置いて行くどころか置いて逝くところだったのだ。でも、疲れている伊之助を早く休ませてあげたいし・・・と思ったところで、煉獄さんに羽織を掛けられた。

 

 

「シロは直射日光でなければ大丈夫なのだろう!それなら俺の羽織を頭から被るといい!ああ、心配なら傘を買ってこよう!歯車を浮かべるよりは人目を気にしないで済む!」

「あ、ありがとうございます!でも傘は大丈夫です!」

 

 

 確かに、直射日光でなければ大丈夫なのだった。さっき炙られたばかりだったから忘れていた。今の時間は雲がないから待機するしかないと思っていたけれど、この羽織をかぶって隠の人におんぶして貰えば移動出来そうだ。

 

 




彼シャツならぬ彼羽織(彼ではない)


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第66話 火傷

 

 

「炭治郎くん、お腹の傷深かったのねぇ」

「シロさんこそ重症じゃないですか」

 

 

 ここは蝶屋敷の病室。お腹を刺されて重症の炭治郎くんと、日光に炙られた肌が再生していない私はベッドに横になっていた。さすが日光、全然治らない。顔の左半分と頚の左半分と左手をやられてしまった。まあ簡単に言えば、左半身の肌が出ている部分だ。

 

 

「炭治郎!シロさん!まんじゅう貰ってきたから食おうぜ!」

「あ、善逸!頭の怪我は大丈夫なのか?」

「あら、善逸くん。見たところ元気そうで良かったわ。・・・そういえば、伊之助って今どこにいるのかしら」

 

 

 開いているドアから、ヒョイっと善逸くんが姿を現した。持っている皿には7,8個のまんじゅうが乗っている。とても美味しそうだけどそれは一旦置いといて、伊之助の姿が見当たらない。怪我はなかったはずだから鍛錬中なんだろうか?ああ、そういえば煉獄さんもいない。柱だし、もしかしたら既に任務に行っているのかもしれない。いや、上弦と戦ったわけだし柱合会議だろうか?

 

 

「血は止まってるから大丈夫!伊之助は・・・えっと、これ言っていいのかな・・・」

「伊之助に何かあったの!?」

「いやいやいや!そうじゃなくて!その、アオイさんに火傷に効く薬草を教えて貰って、それを探しに行ってるんだ」

「火傷に効く薬草って、まさか・・・」

「何も出来ずに見てるだけなのは嫌だって言ってて・・・まあ伊之助なら大丈夫だろうし、まんじゅう食べましょう!まんじゅう!」

 

 

 善逸くんの話を聞いて、顔を覆って天を仰いだ。伊之助が、こんなにも、尊い・・・!好き!!!顔を抑えたままプルプルしていたら、傷が痛いのかと勘違いされて2人に心配をかけてしまった。いけない、平常心。平常心。

 

 

「教えてくれてありがとう、善逸くん。伊之助には悪いことをしてしまったわ」

「伊之助ってシロさんのことすっごい慕ってるし、悪いことなんて思ってないと思うけどなー」

「ああ、確かに・・・シロさんのことが大好きなんだなって分かるよ」

 

 

 2人の話を聞いて、また顔を覆ってしまった。伊之助は少なからず私を慕ってくれているのが分かっていたが、第三者からのお墨付きがあると実感がわいてくる。ああ、伊之助本当に大きくなって・・・!昔は自分が1番みたいな感じだったのに、わざわざ私の為にアオイちゃんに薬草について聞いて採りに行くなんて、本当、優しい子になったわ・・・!そうだ、みんなの怪我が治ったらお腹いっぱいに食べさせてあげよう。大勢で食べるご飯は美味しいもの。

 

 




原作では、まんじゅうの下りの時に炭治郎は煉獄家に行ってるけど煉獄さん死んでないから安静にしてる。(でも勝手に鍛錬はしてる)

善逸はちょいちょい敬語が抜ける。そのうちタメ口になりそう


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第67話 安静

 思ったのだが、この火傷を切り取ったらどうなるのだろう。火傷の部分だけ普通の刃物で切り取れば元の肌に戻るのではないだろうか?

 ダメ元でやってみようということで、胡蝶さんに相談して肌の一部を切り取ってもらった。が、切り取ったそばからまた火傷の皮膚が現れた。どうやら日光による火傷は別の傷で上書きしても意味が無いようだ。

 

 

「とりあえず、薬を塗って様子見するしかないようですね。伊之助君が沢山の薬草を採ってきてくれましたし」

「そうよね・・・。そうだ、伊之助にお礼を言いたいのだけれど、今どこに?」

「さあ、私は知りません。薬草を置いてすぐにどこかへ行ってしまったので」

 

 

 残念、今日は伊之助に会うのは難しそうだ。胡蝶さんに塗り薬を貰い、お礼を言ってから診察室を出る。炭治郎くんもいる私の病室に戻ると、廊下にいても聞こえるほどの大声が聞こえてきた。煉獄さんだ。

 

 

「どうしたんですか、そんな大声を出して」

「シロさんおかえりなさい!すみません、うるさくしてしまって」

「ああ、シロか!いや、竈門少年の言うヒノカミ神楽について何か分かるかと思って、父上が読んでいた書物を持ってきたのだが!ズタズタで読めなくてな!」

「ああ、それで・・・」

「それと、俺の継子にならないか勧誘したのだが断られてしまった!」

「う、す、すみません・・・。あと、日の呼吸というものについても教えて貰ってました」

 

 

 炭治郎くん曰く、自分はまだまだ弱いし忙しい人の時間を取らせるようなことは出来ない、と。煉獄さんはそんなこと気にしないと言っているが、炭治郎くんは頑固だしきっと断り続けるだろう。妥協しないというかなんというか・・・。日の呼吸というのは初めて聞いたから私も後で教えて貰おう。

 とりあえずベッドに戻ろうとしていると、玄関口から怒声と悲鳴が聞こえてきた。同時にドタバタと廊下を走る音が聞こえてきて、大号泣しているなほちゃんが部屋に飛び込んでくる。

 

 

「た、炭治郎さぁぁぁん!包丁を持った不審者です!炭治郎さんを狙ってますぅぅぅ!」

「え、包丁!?俺!?」

「ひょっとこを被っている、恐らく刀鍛冶の方です!とても怒ってます!万死に値すると言ってます!」

「はっ、鋼鐵塚さん!すみませんすみません!今すぐ行きます!」

 

 

 そう言うと、炭治郎くんはベッドから飛び降りて部屋を飛び出した。炭治郎くん、絶対安静じゃないの!?追いかけようとしたところで、大声で謝罪をする炭治郎くんの声と雄叫びをあげている鋼鐵塚さん?の声が聞こえてきた。え、怖い・・・。しかも煉獄さんがニコニコしているのがもっと怖い。

 

 

「鋼鐵塚という刀鍛冶は、気難しい事で有名だからな!まあ人を殺したりはしないだろう!」

「なにそれ怖い」

 

 

 私の担当が上鉄穴さんで良かった、と心から思った。とりあえず鋼鐵塚さんという人を止めに行こう。炭治郎くんは安静にしていないといけないんだから。

 

 




父&弟に会えなかったな・・・


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第68話 蛇と兄妹

 猗窩座と戦ってから1週間。薬を塗り続けて日陰に篭っていたおかげか、すっかり肌が元通りになった。伊之助には沢山お礼を言ったし、ハチャメチャに甘やかした。炭治郎くんの傷も癒えていて、みんな少しずつ任務に行き始めている。煉獄さんなんてあの戦いの次の日から任務に行ってしまった。ちなみに退院済みの私はというと。

 

 

「そうかそうか、ふぅん。参ね。真ん中だな、上弦の。たかが上弦の参との戦いでとどめを刺せず逃げられた上に日光に焼かれて1週間も再生しなかったわけか」

 

 

 ネチネチ感に拍車がかかっている伊黒さんに、自宅で昼食を振る舞っていた。ちなみに今日はビーフストロガノフだ。ビーフストロガノフを作るために必要なサワークリームは流通していなかったから、北海道にいる知り合いのロシア人にお願いして代わりに買ってきてもらった。この時代はまだ日本に入ってきてなかったんだろうなぁ。

 

 

「いや、まさか下弦と戦った直後に上弦が来るなんて思わないじゃないですか・・・」

「いつ何が起こるか分からないのが当たり前だ。油断したな」

「返す言葉もないです」

 

 

 完璧に論破された。確かに油断していたし、考えが甘かった。伊黒さんから目を逸らして明後日の方向を見つめる。というか、本当はこのビーフストロガノフは炭治郎くんに振る舞うつもりだったのだ。任務が終わって昼食時に帰ってくるというから、復活祝いにここに呼んだ(伊之助と善逸くんはあと数日かかるそうだからまた今度)。サワークリームが届くのが今日だったし丁度いいかなと思ったのだが、まさか伊黒さんが来るとは思っていなかった。ここも考えが甘かったということか・・・と、思考を飛ばしていると開いている窓から陽太郎が入ってきて口を開いた。

 

 

「カァァァァ!カァァァァ!竈門炭治郎ガ近クマデ来テイルゾォォォ!ココヘ案内シテオイタァァァ!」

「あら、早かった、の・・・ね」

 

 

 炭治郎くんが来るのは嬉しい。嬉しい、が、今は伊黒さんが居るのだ。呼んだのは私だし追い返すようなことはしないけど、この2人を会わせてもいいんだろうか・・・?ちらりと横目で伊黒さんを見るが、我関せずという風に食べ続けている。なんならセルフでお代わりしている。マイペースか!

 

 

「すみませーん!シロさんのお宅ですかー?」

「あ、炭治郎くん!今開けるわね!」

 

 

 ドアの向こうから炭治郎くんの声が聞こえて、急いで扉を開けた。もうなるようになれ。扉を開けると、禰豆子ちゃんが入っている箱を背負った炭治郎くんがいる。そのまま中に通したが、中でご飯を食べている伊黒さんを見て少しだけ驚いた顔をした。

 

 

「ごめんね、伊黒さんが今日来るとは思ってなくて・・・。あ、あの人の名前分かる?」

「す、すみません、柱の方っていうのは知ってるんですけど・・・」

「蛇柱の伊黒小芭内さん。一応、一応そんなに悪い人ではないから、安心してね!」

「は、はい!」

 

 

 

 

 

 竈門炭治郎は戦慄していた。シロに昼食に誘われて有難く来たら、いつしかの柱がそこにいたのだ。しかも、シロは炭治郎の分をよそうと「雨が降りそうだから洗濯物取り込んでくるわね。来てもらったばかりなのにごめんなさい。先に食べててね」と言って外に行ってしまった。確かに先程まではいい天気だったのにいきなり曇天になったし、ほんのりと雨が降る直前の匂いがする。洗い直しになったら大変だろうから直ぐに取り込みに行くのは分かる。が、とても気まずい。

 

 

 ・・・この人は俺と禰豆子が入隊するのに反対していた人だ。あの裁判の時、「アイツも大嫌いだ」と言っていたがアイツというのはきっとシロさんのことだろう。嫌いなのにご飯を食べに来ているのか?いや、それは考えないことにしよう。それよりも聞きたいことがあるのだ。

 

 

 

「あの・・・シロさんのことは鬼殺隊のみなさん認められているんですよね?禰豆子が認められるには手柄も年月も足りないんでしょうか」

「・・・少なくとも、俺があいつを許容したのはあいつの振る舞いがほとんど人間だったからだ。人のように笑い、泣き、話し、時には喧嘩をする。見た目だってまるきり人間だ。それに比べ貴様の妹はどうだ?小さくした体を狭い箱に押し込み、竹を噛んで何も喋らず猫のように唸るだけ・・・同じように見ろと言う方が無理だろう。そもそもまともに意思の疎通が出来ない鬼を許容できると思っているのかね」

 

 

 そう言われ、炭治郎は少なからず落ち込んだ。確かに禰豆子はシロと違い全く話せないし、人間と同じ生活が出来ない。だが、逆に言えば少しでも会話が出来るようになれば周りの抵抗感も薄れるのだろうか?と炭治郎が考え込んでいると、伊黒が匙を置く音が聞こえた。それと同時に顔を鷲掴みにされる。

 

 

「ちょ、いた、いだだだだだ!なんなんですか!?」

「うるさい黙れ。貴様のせいでしばらくあいつの飯が食えなかったんだ。むしろこの程度で許されると思うなよ」

「なんの話ですか!?」

 

 

 ・・・伊黒小芭内は、炭治郎に対して逆切れしている。以前の裁判の時に炭治郎の血管を破裂させかけたということで、怒ったシロがしばらく伊黒に対して食事を作らなかったのだ。伊黒は本人には言わないものの、シロのことは認めているし食事の味も気に入っている。それなのに、しばらく食べられなかったのは炭治郎のせいだと責任転嫁をしているのだ。炭治郎にとっては踏んだり蹴ったりである。

 

 

 




しれっとロシア人の知り合いがいるシロちゃん。食事に妥協はしないぞ!

あと伊黒さんは普通にシロちゃん認めてるしご飯気に入ってる。
地面に凄く押し付けられた上に、逆切れで頭鷲掴みされる炭治郎可哀想・・・


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第69話 回帰

 炭治郎くんと伊黒さんをエンカウントさせてしまった次の日の日没後、私は懐かしい狭霧山に来ていた。もちろん手土産も持ってきている。アポ無し訪問なので、迷惑そうだったらすぐに帰ることにしよう。

 

 

「鱗滝さーん!」

「・・・なぜここに来た」

「ふふ、ちょっとお喋りしに。今大丈夫ですか?」

「まあいい、入れ」

 

 

 扉を軽くノックすると、すぐに扉が開いて鱗滝さんが出てきた。訝しげな雰囲気を醸し出しているものの、拒絶はされていなそうだからゴリ押しで中に入る。正直なところ、人だった頃の私を知っている唯一の人だから久しぶりに話したくなったのだ。あとついでに近況報告。

 中に入った私たちは囲炉裏を挟んで向かい合った。手土産に持ってきたお団子は傍に置きっぱなしになっているが、まあ、痛む前に食べてはくれるだろう。

 

 

「義勇と炭治郎からお嬢ちゃんの話は聞いている。鬼殺隊に入隊したそうだな・・・ああ、昔の名前と今の名前、どちらで呼べばいい」

「えっと、シロで大丈夫です。昔の名前は覚えてなくて。それより、炭治郎くんを知ってるんですか?」

「ああ。炭治郎の育手は儂だ」

 

 

 なるほど、つまり炭治郎くんにとって冨岡さんは兄弟子ということか。どちらもそんなこと言っていなかったから初耳だ。・・・もしかして、冨岡さんが炭治郎くん達を鱗滝さんに紹介したんだろうか?

 

 

「炭治郎とは知り合いだったそうだな。炭治郎にはシロの事を伝えていなかったから、驚いていた」

「そういえば、冨岡さんは鱗滝さんに私のことを聞いていたって言ってましたね」

「そうだ、義勇には伝えていた。・・・シロ、お前は鬼の中では異端中の異端だ。炭治郎に教えるのはまだ早いと思っていた」

「早い?」

「禰豆子はほぼ自我がない。話すことも人のように擬態して働くことも出来ない。お前という存在を教えて、あまり期待をさせてはいけないと思った」

「・・・禰豆子ちゃんも、私みたいになれるとは限らないから?」

 

 

 そう聞くと、鱗滝さんは静かに頷いた。確かにその通りだ。炭治郎くんは優しい。私と禰豆子ちゃん、どう違うのか考えて1人で苦しむだろう。もしかしたら今も苦しんでいるかもしれない。恐らく一番最初の分岐点は、鬼になった直後に鬼を食べたか否かだと思う。私は鬼を食べて、それからも鬼を食べ続けてある程度満腹になったおかげで理性を取り戻せたのだ。きっと禰豆子ちゃんは鬼になってから何も食べずに睡眠で回復している。違いがあるとするならまずはそこだろう。あとは、あるとすれば前世の記憶だろうか。・・・本心を言うと、禰豆子ちゃんの理性が戻っていなくて良かったと思っている。鬼を食べるのが条件であるなら、そんな血なまぐさい条件満たしていて欲しくない。

 

 

「・・・そうだ、前に人の食べ物は栄養にならないって言ったこと覚えていますか?」

「もちろん覚えている」

「今は鬼を食べなくても大丈夫になってて、たくさん必要だけど人の食べ物で栄養を取れるんです!」

「体質が変わったのか?」

「多分・・・。それでも鬼を食べた方が少し強くなるので、たまには食べてるんですけど。やっぱり栄養として普通にご飯が食べられるのが嬉しくて」

 

 

 ニコニコしながら雑談を始めた。鬼殺隊入隊のことは知っていたようだし、他に報告することも特にない。冨岡さんや炭治郎くんとやり取りをしているなら十二鬼月と戦ったことも知っているだろう。狭霧山に来てから3時間ほど、ずっとお喋りを続けていた。まあ主に伊之助のことだったが。

 

 




活動報告の方でネタ募集しています。是非よろしくお願いします。

あと、遊郭編についてもそのうちアンケート取ろうと思っています。→アンケート設置しました。
猗窩座戦から遊郭編まで4ヶ月あるのでそれまではオリ話かな・・・


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第70話 鬼化

 

 下弦の鬼と上弦の鬼との連戦後、傷がすっかり癒えた私たちは通常任務に戻っていた。まあ、つまりはいつも通りの日常に戻ったということだ。とはいえ毎日ある訳でもないから、暇な日は色々な場所に遊びに行っている。今日は、退院してからしばらく行っていなかった胡蝶さんの所へ行こうと蝶屋敷に足を伸ばしていた。今日も曇りでいい天気だ。

 

 

「あ、なほちゃんにきよちゃんにすみちゃん」

「「「シロさん!お久しぶりです!」」」

 

 

 蝶屋敷につくと、門から入ってすぐのところに普段お世話になっている女の子たちがいた。実験のために頻繁にここに来ているから、もう慣れたものである。運良く胡蝶さんはここにいて、診察室で隊士を診ているらしい。そろそろ終わった頃合いだろうということだ。いなかったらいなかったでいいかと思っていたから運が良かった。

 屋敷内に入り、慣れた道を通って診察室へ向かう。そういえば、隊士がいるということは怪我をしてしまったんだろうか?ふとした瞬間に命懸けの職種(政府非公認だが)ということを思い出してしまい少しだけ胸が痛くなる。そう考えているうちに診察室の前に着いたため、扉の前から声を掛けた。

 

 

「胡蝶さーん、シロです。今大丈夫かしら?」

「あら、シロさん。今は・・・いえ、丁度いいかもしれないですね。入ってください」

 

 

 扉はすぐに開いたが、胡蝶さんは一瞬だけ考え込む素振りをした。中に人が居るのは扉と胡蝶さんの隙間から見えたから、出直そうかと言ったが断られてそのまま診察室内に押し込まれてしまった。

 中に入ると、モヒカン風の髪をした少年?青年?がいるのが分かる。炭治郎くんと同じくらいか少し年上と言ったところか。

 

 

「シロさん、彼は不死川玄弥くん。鬼を喰らうことで一時的に鬼と同等の体質になれるんです」

「っ!?」

「あら、そうなの?凄いのね!・・・それなら、鬼の肉を常に持ち運んでいれば好きな時に強くなれるのかしら?ああ、でも食べすぎると副作用とかあるのかしら」

「なるほど、それは考えていませんでしたね。副作用は今のところ無いようですが、常に持ち運ぶというのはいい案かもしれないです。ねえ、玄弥くん」

「は、ちょ、え?」

「その辺の鬼を狩る手伝いなら出来るし、なんなら私が提供するわよ!」

「確かに、日光を浴びなければ切り離しても消滅しませんし・・・不可能ではないですね」

 

 

 不死川くん・・・不死川さんと同じ名字で面倒だから玄弥くんでいいや。玄弥くんを置いてきぼりにして、私と胡蝶さんは議論を交わした。話を聞くと、食べる鬼が強ければ強いほど玄弥くんも強くなるらしい。結果としては、まずは私の肉を食べた場合についての実験をするということになった。その辺の雑魚鬼と比べたら私の方が強いだろうから、他の鬼は試すだけ無駄だということらしい。後は相性が良ければ持ち運びのための入れ物調達と言ったところか。玄弥くんには若干引かれたけど気にしない。よく考えたら玄弥くんと私は初対面だったから、この後にきちんと自己紹介をさせてもらった。終始ドン引きされていた事は気づかなかったことにする。

 

 

 




胡蝶さんが初対面の鬼に自分の鬼化をバラした挙句、その鬼が自分の肉を提供するとか言い出したらそりゃあドン引くわ


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第71話 上弦弐の興味

 

 

「いやあ、まさか猗窩座殿が女の子と戦うなんて!」

「・・・」

 

 

 某月某日某場所で、俺は猗窩座殿と談笑をしていた。無視されているような気がするがきっと気のせいだろう。なんたって俺と猗窩座殿は親友だからな!

 

 

「おいおい、何も言わずに立ち去ろうとするなんて酷いじゃないか!俺は興味があるんだよ、女を襲わず喰わない猗窩座殿が女の鬼と戦ったんだろう?しかも心中させられかけたそうじゃないか!どんな子なんだ?どんな血鬼術を使っていた?その鬼は無残様がおっしゃっていた、呪いを外している鬼喰いだろう?」

「うるさい黙れここから去れ」

「相変わらずつれないなあ、少しくらい教えてくれてもいいじゃあないか。ほら、情報共有だよ。まあ情報なんていらないだろうが、念の為さ。俺の血鬼術と相性が悪かったら喰べにくくなりそうだからな。若い女の肉は美味いんだが、鬼の肉は喰べたことがないんだ。女の鬼の肉に俺は興味がある!」

「お前の興味など知ったことか」

 

 

 そう言うと、俺の頭を砕いた猗窩座殿はこちらを見る素振りもせずにどこかへ行ってしまった。まあいい、それなら自分で確かめるまでだ。

 

 

 

 

 まず、信者たちの人脈を使って鬼喰いの目撃情報を集めた。無残様曰く、鬼喰いの見た目は上が黒く下が白い髪が特長だそうだ。衣服は頻繁に変わっているそうだから参考にはならない。また、シロと言う名前を名乗っていると。滅多にない見た目と名前だから探すのは簡単だった。そもそも何故シロなんて名前なんだか。そんな犬猫につけるような名前にしなくても良かったのではないか?・・・まあ、他人の趣味嗜好にケチをつけるのはやめておこう。

 ある程度の目撃情報が集まったら、今度はそれを元に行動範囲などを絞った。1番目撃されているのは飲食関連の小売店だそうだ。卵やら肉やら調味料やらを頻繁に爆買いしている、それ関連の店では有名な上客なんだという。鬼が人と同じものを作って食べているのか。人と同じ食生活をしているのなら、きっとその肉は美味いだろう。今から楽しみだ。

 そして行動範囲だが、北は北海道、南は沖縄県とかなり広範囲になっている。今は関係ない話だが、あそこはいつの間に沖縄県という名前になっていたのだろう。一瞬分からなくて信者に聞いてしまった。訝しげな顔をされてしまったしもう少し知見を広げるべきだと反省した。いけないいけない。

 

 

「・・・さて、いつ頃会いに行こうか」

 

 

 鬼になってまで人を助けようとしているなんて可哀想に。早く食べて救ってあげなければ。

 

 




突然の童磨フラグ
こんなつもりなかったんや・・・

(ネタ募集の方で提供して頂いた、『十二鬼月から見たシロのイメージ』を元に作成しました。コレジャナイ感が出てしまいましたが、書いてて楽しいです。童磨フラグを潰してから遊郭に行くことになりそうです。提供ありがとうございます!)


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第72話 共闘練習

 

 任務に行ったり稽古をしたり、任務に行ったりご飯を作ったり、任務に行ったり胡蝶さんの実験に付き合ったり任務に行ったり任務に行ったりしていたら、火傷が完治してから1,2ヶ月ほど経過していた。毎日があっという間に過ぎていってしまう。そして今日も、いつも通りに道場で稽古をするつもりだった。

 

 

「炭治郎くんと禰豆子ちゃん対私の手合わせ、ですか?」

「ああ!竈門少年と竈門妹は基本一緒にいるからな!もしもの時の為に共闘出来た方がいいだろう!」

 

 

 今日は珍しく、煉獄さん、炭治郎くん、禰豆子ちゃん、そして私の4人のみ道場に集まった。私の場合煉獄さんに呼び出されたから来たのだが、この様子だと炭治郎くんも禰豆子ちゃんも煉獄さんに呼び出されたのだろう。初耳だという顔をしている。禰豆子ちゃんはぽかんとしているが。

 

 

「あの、シロさんが強いというのは分かっているのですが・・・2対1というのは・・・」

「案ずることは無い、シロなら負けないだろうからな!」

「買い被りですよ煉獄さん」

 

 

 結局、煉獄さんのゴリ押しで手合わせをすることになった。禰豆子ちゃんはよく分かっていないようだったが、敵が現れた時のための練習をするのだと説明をしたら納得したようだった。手合わせを始める前に、煉獄さんが血鬼術あり、だがお互いに加減はすること。そして炭治郎くんは日輪刀は使わず普通の真剣を使うこと、というルールを決めた。

 

 

「それじゃあ、よろしくお願いします!」

「ムー!」

「ええ、よろしくね」

 

 

 お互いに一礼をしてから行動に移す。まずは飛んで距離を取ったが、飛んだ瞬間に直前まで私がいた所を禰豆子ちゃんが蹴っていた。そして空中で回転して体勢を立て直してから、2人の位置を視認して歯車を飛ばす。それを全て炭治郎くんが水の呼吸で跳ね返して破壊した。

 床に着地して、互いにタイミングを見計らう。動いたのは3人同時だった。爆発的なスピードでこちらに駆けてきて爪を振るう禰豆子ちゃんの鳩尾を、抉るように殴り飛ばす。その禰豆子ちゃんの背に隠れて近づいてきた炭治郎くんの刀に歯車をぶつけて軌道をずらし、右肩・左腰・右膝と、くの字になるように真横から歯車をぶつけた。加減はしてあるから骨は折れていないだろう。

 

 そのあとも、動きからしてヒノカミ神楽や禰豆子ちゃんの燃える血を使った攻撃をしてきたが私には傷一つつかなかった。歯車の汎用性は高いから防御力は高い方なのだ。分厚い壁があればだいたいなんとかなる。それに歯車は自動追従だから、1度視認してしまえばずっと勝手に追い掛けてくれる。これほど使い勝手の良い血鬼術はなかなかないだろう。

 

 

「・・・そこまで!」

「っ!は、ハァ、ハァァァ!」

「ムー・・・」

「あら、もう終わり?」

 

 

 私の戦闘スタイルは遠距離戦が基本だから、炭治郎くん達と距離を取った所で煉獄さんからお終いの合図がされた。ちょうどいいタイミングではあったが、炭治郎くん達の戦い方の穴なども見えてきたからもう少し戦いたかったのが本音だ。まあ、これ以上続けたら怪我してしまう可能性もあるからそれを考えてもちょうどいいタイミングだったのだろう。現に炭治郎くんは虫の息だ。

 

 

「竈門妹との連携はある程度出来ているようだな!だが竈門少年!シロとの戦いで、何か気づいたことはあるか?」

「ハァ、ハァ、まず、俺は遠距離にあまり対応出来てないです・・・あと、圧倒的に速さが足りません・・・」

「そうだな!後はあるか?」

「根本的な問題で、ハァ、攻撃力も足りないです・・・シロさんの防御壁を崩せなかった」

 

 

 床に大の字に突っ伏しながら、息もたえだえに炭治郎くんが答えた。というか、私の防御壁は崩せなくて当然だと思う。攻撃用の歯車の強度を高めるのを諦める代わりに、常に傍に浮かせている防御用の歯車の強度をMAXにしているのだ。壊される方が困る。ああ、でも禰豆子ちゃんの血が爆発した時は少し欠けてしまったのだ。戦うとしたら、禰豆子ちゃんの血鬼術とは相性が悪いかもしれない。

 

 

「その通りだ!つまりこれから竈門少年が伸ばすべきところは3つ!遠距離の対応、速さ、攻撃力だ!後者の2つは呼吸を極めればなんとかなるだろうが、残りは射程距離だ。まあ、正直なところこれは速さを極めればなんとかなる!」

「・・・ああ、さっきの禰豆子ちゃんみたいに瞬時に近づければ、距離とか関係ないですものね」

「ムー!」

「その通りだ!竈門少年、やるべき事は山積みだ!」

「は、はい!」

 

 

 

 炭治郎くんは立ち上がり、煉獄さんの目を見てはっきり答えた。さて、私も帰って自主練しなくては。

 




ネタ募集の方で提供して頂いた「シロと禰豆子の模擬戦」を元に作成しました。
何故か炭治郎&禰豆子VSシロになってしまいました・・・申し訳ないです・・・でも書いてて楽しい


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第73話 弱点

 

「シロの弱点か?」

 

 

 俺と禰豆子対シロさんの模擬戦をした翌日、今度は俺と禰豆子と善逸と伊之助の4人対シロさんの模擬戦をした。結果はもちろんボロボロだ。しのぶさんの所でやったような鬼ごっこや、血鬼術なしの普通の組手でも全く勝てなかった。そんな日がしばらく続いたため、様子を見に来て稽古をつけてくれた煉獄さんに善逸がシロさんの弱点を聞いて上記に至る。

 

 

「はい!だってこのままじゃ絶対勝てないじゃん!もうなんでもするから勝ちたい!シロさんの弱点教えてください!」

「善逸、さすがにそれは少し卑怯じゃないか?」

「何言ってんだよ炭治郎!敵を倒すには情報収集は欠かせないだろ!?シロさんは味方だけど、模擬戦では敵!敵の弱点は知っておくべきだ!」

「いや、まあ、そうかもしれないけど・・・」

「そもそも伊之助はシロさんの弱点知らないのか!?」

「知らねえ!」

「胸を張るな!」

 

 

 ワーワーと善逸が叫んでいるが、そう言えば俺もシロさんの弱点を知らない。なんというか完全無欠という表現が似合っているような人だ。弱点なんてあるのだろうか?そう考えていると、顎に手を当てて考え込んでいた煉獄さんが口を開いた。

 

 

「・・・そうだな。確かしばらく前にシロが苦手とするような鬼がいて、宇髄が代わりにその鬼の頸を切ったと言っていた!もしかしたらその鬼の何かが弱点だったのかもしれん!」

「自分で聞いておいてなんだけど、シロさん弱点あったんだ!?教えてください!」

「すまない、金髪少年!俺も詳しくは聞いていないのだ!宇髄に聞けば恐らくわかるだろう!」

 

 

 宇髄?という人は誰だろう。というかシロさんに弱点なんてあったのかと衝撃を受けた。苦手な鬼というのは、血鬼術の相性ということだろうか?だとしたらもしかしたら参考にはならないかもしれない。

 

 

「その、宇髄さん?という方は今どこに?」

「それも知らん!が、シロと宇髄は仲がいいようだからシロなら知っているかもしれない。シロの家にでも行って居場所を聞いてきたらどうだ?今日は陽射しが良いしきっと家にいるだろう」

「シロさんの弱点を知るためにシロさんの家に行くのか・・・」

「よし、紋逸!権八郎!姉貴の家に行くぞ!」

「そうだな!行こう炭治郎!」

「ええ、今すぐか!?」

 

 

 驚いてそう言うと、当たり前だろ!次は勝つぞ!と善逸にも伊之助にも言われたため、引き摺られるようにして稽古場を後にした。もちろん煉獄さんへのお礼も忘れずに。

 何度かシロさんの家に行ったという2人は迷う素振りもせずに山へ向かった。シロさんが住んでいる家がある山だ。ほんのりシロさんの匂いがするから、煉獄さんの言った通り家にいるのだろう。しかし一緒に他の人の匂いもする。誰か来ているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡り、シロの自宅にて。炭治郎達が稽古場にいる頃、シロは自宅で食事の用意をしていた。

 

 

「シロー!いるかー?」

「あれ、宇髄さん?」

 

 

 突然外から聞こえたノック音と大声に驚いたシロだったが、その声が誰のものかすぐに判断した。数少ない友人の1人の宇髄天元だ。急いで手拭いで手を拭き、扉を開けて迎え入れた。

 

 

「宇髄さんおはよー!どうしたの?ご飯?」

「ああ、飯食いに来た」

「なんか宇髄さん図太くなったね!まあいいけど・・・。今日は親子丼だよ、どうぞ」

 

 

 そう言って家の中に通し、私は台所に戻った。とはいえ、もうすぐで出来上がるという頃合だったから盛り付けておしまいだ。私は沢山食べるから1人や2人増えたところで問題ないし、いろんな人が食べに来るから食器もその分たくさんある。そろそろ宇髄さん専用の茶碗や箸を買った方がいいかもしれない。そう思いながら宇髄さんと一緒に親子丼を頬張っていた。

 

 

「こんにちはー!シロさんいらっしゃいますか?」

 

 

 2人して親子丼を2,3杯食べた頃、外から炭治郎くんの声が聞こえてきた。善逸くんと伊之助の声も聞こえるし、きっと禰豆子ちゃんもいるだろう。4人が一緒に来るのはもしかしたら初めてじゃないだろうか?

 とりあえず箸を置いて扉を開けた。案の定3人と、禰豆子ちゃんが入っているであろう箱がある。

 

 

「こんにちは、どうしたの?ご飯?」

「あ、いえ!ちょっとお聞きしたい事があって来ました!」

「聞きたいこと?なあに?」

「えっと、その、宇髄さんという方が今どこにいらっしゃるか知ってますか?」

「宇髄さん?・・・中にいるわよ」

「えっ」

 

 

 そう言うと、炭治郎くんだけじゃなくて善逸くんと伊之助が驚いたような声を上げた。とりあえず中に入る?と聞き、3人は顔を見合わせたが中に入る事にしたようだ。お邪魔します!と言いながら中に入っていった。・・・にしても、3人と宇髄さんっていつの間に関わりがあったの?

 

 




更新が遅くなってすみません。ネタ提供の「炭治郎達がシロの弱点を探る」を元に作成しました。ありがとうございます!また、しばらくネタ募集中です

あと、これからもしばらく更新停滞しそうです。でも何故か今作の続編を考えてしまっている・・・書きたい・・・でもまだ今作を完結させたくない・・・


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第74話 音は神

 シロさんに促されるまま家に入った俺たちだったが、中に入って直ぐの所にいた男性に訝しげな顔をされてしまった。この人が宇髄さんという方だろうか?裁判の時に見たから十中八九柱の人だろう。

 

 

「宇髄さん、炭治郎くん達が宇髄さんに用があって来たみたい」

「あ?・・・ああ、てめえは鬼を連れてる竈門炭治郎か。あとは知らねえ。何の用だ?」

「あれ、知り合いじゃなかったの?」

 

 

 シロさんにも不思議そうな顔をされてしまった。そりゃそうだ。裁判で1度会ったきりだし、ちゃんとした会話なんてしたことがない。この人の口振りからすると、善逸と伊之助も会ったことはないのだろう。でもシロさんの目の前で弱点について聞くわけにもいかないし・・・ああ、なぜ断らずに入ってしまったのか。うんうん唸っていると、伊之助が1歩踏み出して高らかに叫んだ。

 

 

「俺たちは姉貴の弱点を聞きに来た!ギョロ目がウズイってやつなら知ってるっつってたからな!おいオッサン!教えろ!」

「伊之助!?」

「馬鹿かお前何堂々と言ってんだよ!あと言い方!」

 

 

 まったく隠す素振りも見せずに伊之助が言うものだから、俺も善逸も焦ってしまった。だが、言ってしまった言葉が戻るはずもない。何を考えているのか分からないような顔をしていた宇髄さんとシロさんが目を見開いたかと思えば、宇髄さんが持っていた箸を置いてニヤリと笑った。

 

 

「姉貴っつーことはあれか、お前が伊之助だな?シロから散々お前のことは聞いてるぜ。止めない限り延々と話し続けてたからな」

 

 

 そう言うと、宇髄さんは立ち上がって俺たちに近づいてきた。かと思えば見定めるように俺たちの顔を見る。そして「シロの弱点が知りたいんだな?」と俺たちに聞いてきた。もちろん俺たちは頷き、肯定する。宇髄さんの背後ではシロさんがアワアワしていた。宇髄さんはなるほどなるほどと呟いて、再度口を開いた。

 

 

「いいか?俺は神だ!お前らは塵だ!まずはそれをしっかりと頭に叩き込め!ねじ込め!」

「俺が犬になれと言ったら犬になり猿になれと言ったら猿になれ!」

「猫背で揉み手をしながら俺の機嫌を常に窺い全身全霊でへつらうのだ!」

「そしてもう一度言う。俺は神だ!口の利き方には気をつけろ!やり直し!」

 

 

 そう叫び、形容し難い体勢を取ったところで宇髄さんは口を閉じた。なるほど、よく分からないが聞き方が悪かったということだろう。確かに言葉遣いが良くなかったし、自己紹介すらしていない。人として、そこは最低限度きちんとしていないといけないと思った。ちなみにシロさんは呆れ顔で食器の片付けを始めている。

 

 

「すみません!俺は竈門炭治郎です!こっちは我妻善逸で、こっちが嘴平伊之助です!今日はシロさんの弱点を御教授頂きたいと思いこちらに伺いました!」

「よし、それでいい!俺は音柱、宇髄天元様だ!」

 

 

 どうやらこれで正しかったらしい。腕組みしながら機嫌良さそうな雰囲気になったので、先ほど気になったことを聞いてみる事にした。

 

 

「ところで、具体的には何を司る神ですか?」

「いい質問だ。お前は見込みがある」

 

 

 そう前置きをしてから、宇髄さんは「派手を司る神、祭りの神だ」と答えた。それに対して伊之助が山の王だと返したり、宇髄さんが伊之助に気持ち悪い奴だなと言ったりとあった。一段落したところで、宇髄さんはちゃぶ台の方に戻って腰掛けた。そして俺たちにも座るように促す。まるで我が家のような振る舞いだ。シロさんも洗い物をしてはいるが何も言ってこない。シロさんの弱点を探りに来たと大声で言ったのに、無反応というのは逆になんだか怖いと思った。

 

 




遊郭前の会話をここでする事になるとは。そういえば74話目にして10万字突破しました。1話1話が短すぎる。

炭治郎くん達に対して塵と言った宇髄さん・・・(察し)


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第75話 許可

 

 

 あぐらをかき、頬杖をついた宇髄さんは何も言わずに黙っている。教えてくれるわけではないのか?と思っていると、シロさんが煎餅が乗っている皿と人数分のお茶を持ってきてちゃぶ台に置いた。

 

 

「・・・なんだか、お2人は夫婦みたいですね」

 

 

 思わず呟くと、善逸と伊之助が奇声を上げて宇髄さんとシロさんはお互いに顔を見合わせた。そして、シロさんが口を開く。

 

 

「私たちはただの友達よ。というか、宇髄さんにはお嫁さんいるもの」

「そうだな。しかも3人いるからな、嫁」

 

 

 それを聞いた善逸は先程以上の奇声を上げた。しかもとんでもない罵倒付きだ。宇髄さんはそれに腹を立てたようで、善逸の腹を全力で殴る。シロさんはというと、善逸を殴った宇髄さんを見て「宇髄さん?」と一言だけ発した。それを聞いた宇髄さんがピクリとしたのが少し気になる。なんというか、やってしまったというような雰囲気だ。

 宇髄さんは黙って体勢を立て直し、元いた場所に座る。シロさんは善逸の心配をしているが善逸なら大丈夫だろう。シロさんに心配された瞬間復活したから。伊之助も、宇髄さんとシロさんが男女の仲では無いことに安心したようで大人しくしている。

 

 

「・・・で、だ。お前らはシロの弱点を聞きに来たんだったな?別に答えてもいいが、シロの許可は取れよ」

「えっ」

「あら、別にいいのに」

「えっ」

 

 

 えっ。この言葉しか出て来なかった理由は2つある。まず、弱点を教えて欲しいと頼んだところでシロさんが許可してくれると思えないと思ったこと。そして、シロさんがあっさり許可を出したこと。いいのか、そんな簡単に弱点を教えてしまって。それともその弱点は俺達にはつけないようなものなのだろうか?

 

 

「よし、じゃあ教えてやる。こいつの弱点は軟体動物だな。海にいるタコとかイカだ。ヌメヌメしてうねうねしてるのがダメなんだと」

「な、なるほど・・・ありがとうございます!」

 

 

 それなら俺たちにも対処法はある!まずは海に行ってタコかイカを手に入れて、シロさんと戦う時に取り出せばいい。少し可哀想だが、終わったあとはきちんと調理して美味しく食べよう。

 宇髄さんとシロさんにお礼を言って、俺たちはシロさんの家を後にした。善逸は「シロさんってそういうの苦手なんだなあ、やっぱり女の人なんだなあ」と言っているし、伊之助は何か考え込んでいる。とりあえず今日は遅いし海に行くのは後日にしよう。

 

 

 

 

 

 

「・・・まあ、食べたくないってだけで切れないわけでは無いんだけどな。聞かれてねえし言う必要はないだろ」

「宇髄さん、相変わらず意地悪だね」

「うるせえ。それより、なんであいつらの前だと口調変わるんだ?」

「だって、ほら。ちょっとお姉さんぶりたいじゃない?」

 

 

 

 そんな会話がされていた事を、彼らが知ることは無い。

 

 

 




シロちゃん怒らせるとご飯抜きだからね、やっちまったって思うよね


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第76話 甘い

 

 

 宇髄さんにシロさんの弱点を教えてもらってから数日後。海にいた漁師さんに頼み込んで生きているタコを売ってもらった俺たちは、シロさんと模擬戦をするために稽古場で待機していた。タコは外側から見えない箱に入っていて、俺が抱えている。狭いだろうが許してくれ。

 

 

 そういえば、稽古場に来る途中に以前会った山田さんとすれ違った。山田さんにこの箱について聞かれたから、シロさんの弱点をつくものが入っていると答えたら変な顔をされたのだ。

 

 

「シロの弱点って・・・もしかして、タコとかイカとかのうねうねしたやつか?」

「知ってるんですか?」

「ああ、まあ知ってるけど・・・。確かにシロが倒せなかった鬼は、手足がタコみたいになってるやつだったらしいけど・・・あれって弱点・・・?弱点なのか?うーん」

「あ、あの?」

「弱点というかあれは・・・いや、いいや。俺ちょっとこの後任務入ってるから、どうだったか教えてくれよ!」

「分かりました!」

 

 

 ・・・これが、先程の山田さんとの会話である。シロさんの弱点についての話で歯切れが悪くなったのが気になるが、まあ実践してみればどうなるかわかるだろう。

 そして、俺と善逸と伊之助が集合してからシロさんが稽古場に入ってきた。俺が持っている箱に関しては一瞥しただけで、何も言わずにいつも通りの稽古が始まった。

 

 

 

 

 

 タコ入りの箱はいつも背負っている木箱の中に入れた。これを背負っている事を疑問に思われないように、禰豆子が中にいると思わせておいて実際は稽古場の用具入れの中に隠れてもらっている。シロさんは感知系は得意ではないらしいから大丈夫だろう。

 

 

「よし炭治郎いけ!」

「ああ、分かった!」

 

 

 善逸の声掛けで俺は箱を地面に落とし、タコを掴んで取り出した。それを見たシロさんの顔が一瞬引き攣ったため、行けると思いそのままシロさんに向かって投げつける。その間に善逸と伊之助がシロさんの頸に刃を振り、俺も構えながら近づく。いける!と思った瞬間。

 

 

「っぐ!?」

「アァ!?」

「ギャッ!」

 

 

 タコが歯車で切断された上に、別の歯車が目の前に現れて行く手を阻まれてしまった。善逸と伊之助の攻撃も同じく阻まれてしまったのだろう。地面に倒れ込んだ俺たちを尻目に、氷のような目をしたシロさんが口を開いた。・・・シロさんのこんな目、初めて見たぞ。

 

 

「・・・確かに私はこういうのが苦手だけど、別に攻撃は出来るのよ。昔倒せなかったのは日輪刀を持っていなかったから。日輪刀を持っていなかった頃、鬼を倒すためには食べるしかなかったから・・・食べたくないだけなのよ」

「そ、そんなあ・・・」

「ごめんなさいね。でも、宇髄さんにきちんと細かく聞いていれば教えてくれたわよ。情報収集が甘かったわね」

 

 

 それを聞いて、がっくりと頭垂れた。まさか、弱点というのが「攻撃できない」ではなく「食べられない」だとは思わなかった。でも確かに、俺たちはそこだけを聞いて深く調べようとしなかった。宇髄さんは嘘は言っていないし、俺たちが甘かっただけだろう。そういえばさっき山田さんも歯切れが悪かったし、その時に教えて貰っていれば良かったんだ。

 反省点と改善点が増えたと考えていると、善逸がプルプルと震えて立ち上がるのが分かった。そしてそれと同時に出入口の方まで走っていく。

 

 

「なんだそれ!なんだそれ!食べられないのが弱点ってなに!?今はシロさん日輪刀あるし実質無敵じゃん!弱点無しじゃん!無理無理無理絶対勝てないって!無理だって!・・・ああ!!」

「・・・善逸くん?」

「こ、これならどうだ!女の子はこういうのが苦手って相場が決まってる!!!」

 

 

 叫びながら出入口付近に近づいた善逸が足元をみると、瞬時にしゃがんで何かを掴んだ。あれは・・・蛇、か?どこかで見た事がある蛇を掴んだ善逸は、走りながらシロさんに近づいて蛇を投げつけた。が、シロさんはその蛇をなんなく掴む。そして一言。

 

 

「・・・あら、この子伊黒さんの子ね」

 

 

 その言葉を聞いた俺は、顔面を鷲掴みにされた記憶が蘇った。善逸と伊之助は不思議そうな顔をしている。なんだか嫌な予感がしてきたぞ・・・と思ったら、すぐ近くから覚えのある匂いがしてきた。蛇柱であり、この蛇を首に巻いている伊黒さんの匂いだ。

 

 

「・・・貴様、よくも俺の蛇を乱雑に放り投げたな」

「ア゙ーーーーー!!!!!(汚い高音)」

 

 

 善逸の背後に音もなく忍び寄り、そのまま後ろから善逸の顔を掴んだ。なんだか心做しかギシギシという音が聞こえてくる。シロさんはというと、「手加減はしてあげてくださいね・・・」と言ったきり目を逸らしてしまった。今のシロさんからは呆れているような諦めているような同情のような共感のような、不思議な匂いがする。それに気がついたのかシロさんが口を開いた。

 

 

「伊黒さん、この蛇をとても可愛がっているの。そりゃあ、乱暴に放り投げられたら怒る気持ちも分かるわ」

「な、なるほど・・・」

 

 

 そして伊之助はというと興味がないようで、用具入れからでてきた禰豆子と一緒に外を眺めていた。なんなんだ、この混乱した空間は・・・!!

 

 

 




何か書き始めても1ヶ月すると書けなくなるという謎の症状が毎回訪れる。シンプルにスランプです。


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第77話 新毒調合

 

 

「内側からではなく、外側から殺す毒?」

「どうかな?」

 

 

 今日も今日とて、胡蝶さんとのワクワク実験教室だ。別にワクワクはしないし教室でもないけどそこは気にしないことにしておく。胡蝶さんのこれまでの毒を試してみたり資料を読んでみたりとしたが、胡蝶さんの毒で一貫しているのは内側から殺すというものだった。まあ確かに普通は内側に摂取して中毒を起こしたり内蔵を壊死あるいは麻痺させて殺すのだろうが、私は考えた。皮膚に触れたらそこから腐敗するような毒は作れないのか?と。

 

 

「肉体の腐敗、ですか。しかし内側に侵食しないのであれば切断されればおしまいでは?」

「それでも少しは隙を作れないかな?顔面とかにぶっかければ、相手も怯むと思うのよね」

「・・・なるほど。ですが現状ではそのようなものが作れるかどうか・・・。藤の花の成分では限界もあるでしょうし」

「日輪刀で頸を切れば鬼の身体は崩壊するのよね?日輪刀に使われている鉄の成分を配合とか、出来ないかな?」

「!猩々緋砂鉄と猩々緋鉱石ですね」

 

 

 考えが纏まってからは早かった。すぐさま猩々緋砂鉄を調達し、藤の花の毒との調合を始めた。調合しては私の肉で試し、駄目ならまた別の配合を試すというものを1週間ぶっ続けでやった。その間の任務は大丈夫なのかと思ったが、継子のカナヲちゃんや他の隊士が率先してやってくれているらしい。曰く、今まで以上の最高峰が出来るかもしれないのならそれに専念するべきだ、と。

 そして1週間が経過して手のひらサイズの小瓶に入っている毒が完成した。今までの実験結果を踏まえればこれが完成品であるはずだ。せっかくだからと、切り落とした肉片ではなく私の肉体そのものに毒を垂らしてもらう事にした。でも腐敗の広がるスピードが予測できないから爪先だ。

 

 

「では、いきますよ。いいですか?」

「うん、大丈夫」

 

 

 そういうと、胡蝶さんは私の爪先に毒を1滴垂らした。親指に雫が触れたと認識すると同時に爪先の感覚が消え、瞬く間に膝まで崩壊が広がっていく。それを確認した胡蝶さんは日輪刀で私の太腿を切断した。・・・成功だ!

 

 

「やはり、他の実験と同様切り落としてしまえば崩壊は止まってしまうのですね」

「いや、これは表面だけに垂らしたからだと思う。傷口から毒を入れれば、血管を通って全身崩壊させられるんじゃないかな?」

 

 

 そう言って、私と胡蝶さんは顔を見合わせた。考えることはきっと同じだ。鬼を生け捕りにして、合っているか確かめるために実験をしてみよう。

 

 




くどいようですがネタ募集してます!!ネタ!ください!

にしても1滴垂らすだけで崩壊が連鎖する毒とかえげつないな・・・


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