ポケモントレーナー ハチマン 〜ぼーなすとらっく集〜 (八橋夏目)
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ぼーなすとらっく1『イロハ四天王計画』

令和一発目の新シリーズ

今回は続編のデオキシス襲来から四ヶ月後くらいの話です。

pixivの方でイブキがハチマンにされたことが気になる、という声があったので、それに関連したものも構成中です。
反映できるかは分かりませんが皆さんも何かあればお気軽に。


「というわけで先輩。よろしくですっ!」

 

 何がというわけなんだよ。

 カロスに来てから約一年。ポケモン協会の事務所で仕事をしていたらいきなりやって来てこれだ。

 話を聞くにどうやら四天王三人のところでの修行を終え、今度は俺のところで修行したいというものらしい。しかもそれを促したのが何を隠そう件の三人。そもそもこいつに色々と教えて来たのって俺なんですけど…………。

 

「へいへい。つか、何で俺のところにも来るんだよ。四天王辞めた身だぞ?」

「一応ほのおタイプの四天王ってことでしたし、皆さんが行って来いって聞かないんですよ」

「ほーん。ユキノ、どう思う?」

「いいんじゃないかしら? イロハは元々ほのおタイプを連れているのだし、改めてあなたが教えられることを教えてあげたら?」

 

 俺と同じように事務作業をしていたユキノに話を振ると肯定の言葉が返って来た。

 ねぇ、俺現在進行形で忙しいんだけど、まだ働かなきゃいけないのん?

 しかも教えてあげられることって言ってもなー………。新入りたちにくらいじゃね?

 

「あー、それならユキノも教えてやったらいいんじゃね? ほら、最近こおりタイプについて調べてるだろ?」

 

 ここは一つユキノも巻き込んでみることにしよう。

 最近はこおりタイプにお熱なようだし、イロハのポケモンはみずタイプが三体いるからな。こおりタイプの技を覚えれば、攻撃の幅を広げてくれるはずだ。

 

「おおー、いいですね。ユキノ先輩、よろしくお願いします」

「はあ、まあいいわ。ユイの時より厳しくいくわよ」

「うぇ、それはちょっと勘弁………」

「ふふっ、冗談よ。今のあなたたちなら難なく熟せると思うわ」

 

 実際そうだろうな。

 あの四天王三人から鍛えに鍛えぬかれて帰って来たんだし。

 仕方ない、一応弟子一号だしな。面倒みてやろうじゃないか。

 

「なら、これだけやったら見てやるから外で待ってろ」

「はーい!」

 

 さて、さっさと終わらせますかね。

 てか、誰だよ。ジムリーダー試験なんか受けた奴。三人もいるのか? これは明日にしよう。どうせただの報告書だし。中身読むのに時間かかるんだよ。

 

「リア?」

「おうキルリア。今からバトルするぞ。お前もやるか?」

「リアーッ!」

 

 おーおー、やる気だねぇ。

 バトルって聞いて拳を突き出す真似なんかしちゃってるよ。可愛い奴め。

 さてさて、あいつはどれくらい強くなって帰って来たのやら。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「そんじゃ、まずは新入りたちを見せてくれ」

 

 切りのいいところで仕事を終わらせて、ユキノとともにポケモン協会敷地内にあるバトルフィールドへと向かった。

 そこには既にイロハがおり、準備を始めていた。

 

「はーい、ココドラいくよ!」

「審判は私がやるわ」

 

 最初はココドラか。

 なら、やっぱこいつだよな。

 

「ボスゴドラ、後輩を見極めてやってくれ」

「ゴラァ」

 

 審判はユキノに任せ、俺はボスゴドラとともにココドラを見極めることに集中するか。

 イロハのココドラは至って普通サイズだ。ボスゴドラに対しては小さいポケモンだから迫力に欠けるが、まず目は合格だな。四天王のところで鍛えられてきたこともあって、自分の最終進化形であるボスゴドラを見ても怯えていない。

 

「先輩、ココドラはガンピさんのところのボスゴドラに鍛えてもらいましたから。そう簡単には倒れませんよ!」

「あ、やっぱり大会で出してないポケモンもいるんだな。そりゃ楽しみだ」

「では。ココドラ、まずはロックカット!」

 

 ふむ、ロックカットか。

 身体を磨き空気抵抗を減らすことで素早さを上げる技だ。身体が小さい分小回りも利くし良い判断と言えよう。

 

「素早さを上げたか。まあ、まずは動きについて来れないと話にならないからな」

「それだけじゃないですよ。ココドラ、じならし!」

 

 ココドラは勢いよく地面を踏みつけ、衝撃波を送ってきた。

 

「おっと、早速弱点技か」

「それと同時にボスゴドラの素早さも下げさせてもらいます!」

 

 自分の素早さを上げるだけでなく、攻撃の際にこっちの素早さも下げてきたか。そうやってお互いの動きに差を無くそうということなのだろう。

 

「だそうだ、ボスゴドラ」

「ゴラァ」

「特に効いてはなさそうだぞ。まあそもそもこいつは一撃では絶対に倒れない奴だし」

 

 ま、ダメージの方は問題なさそうだけどな。うちのボスゴドラさんは元々群れのリーダーであり、そんじょそこらのボスゴドラよりは強い。あと特性によりさらに硬い。いやー、相手にしたくないタイプだな。

 

「特性のがんじょうですか」

「ああ」

「うちの子はいしあたまですよ。反動ダメージは効きません」

「へぇ、ならもろはのずつきでも覚えさせたのか?」

 

 ココドラはいしあたまの方か。なら反動のある技でも関係なく使える。ココドラ系が覚える反動のある技はもろはのずつき、すてみタックル、とっしんの三つ。その中でももろはのずつきはタイプ一致の高威力の技である。ボスゴドラまで進化すれば場合によっては無双することもあるだろう。今から想像しただけでも恐ろしいわ。

 

「それは今練習中です。大技はまだこの子にはありませんから」

 

 となるとココドラの課題はもろはのずつきの習得が一つだな。

 

「………いいのか? そこまで手の内晒して」

「どうせ相手は先輩ですから。隠したところで何も変わりませんよ」

「まあもう少し情報を取れれば気づいてたかもな」

「だから別にいいんです。それよりいいんですか? ココドラを見失ってて」

「見えてるよ。ボスゴドラ、後ろだ。捕まえろ」

「ドラゴンダイブ!」

 

 イロハが言うように俺たちが話している間もココドラは移動してボスゴドラの背後に回っていた。つまり俺から丸見えなんですよ………。

 

「へぇ、小さい身体でも力技かよ」

 

 あのボスゴドラが抑え込むのに後退させられたぞ。

 あの小さい身体でよくやるものだ。

 

「そのままメタルクロー!」

「ならこっちもメタルクローだ。弾け」

 

 下から「V」を描くように鉄の爪でボスゴドラの腕を弾き脱出されてしまった。そしてそのまま鉄の爪で切りかかってきたので、こっちも同じように鉄の爪で攻撃を弾いていく。最初は単調な動きをしていたが、それも効かないと判断すれば上から下から横からと様々な方向から爪を出してくるようになった。

 ここまでできるのならこっちも動いていいだろう。

 

「そろそろこっちも攻撃していいよな。ボスゴドラ、アイアンテール」

 

 ボスゴドラが両爪でココドラを爪ごと弾き、軽くジャンプして反転すると鉄の尻尾で地面に叩きつけた。

 

「ココドラ!?」

 

 やっぱり体格差はなくせないな。

 けど………。

 

「一発で戦闘不能にはならないか」

 

 やるな。

 よく耐えたじゃないか。

 

「…………どうやらココドラはここまでのようですね」

「は? なに言ってんの?」

 

 ちょっとー、言ってる意味が分かんないんですけどー。

 なんだよ、まだまだココドラはいけそうだぞ?

 

「ここからはコドラが相手しますよ! ね、ココドラ!」

 

 ……………あー。

 

「そういやお前はポケモンの進化のタイミングが分かるんだったな」

 

 勿体ぶった言い方しやがって。

 俺たちとのバトルに合わせて進化のタイミングを持ってくるなよ。いや、むしろ進化のタイミングに合わせて俺たちのところに来たと言った方が正しいのか。

 ココドラは白い光に包まれるとみるみるうちに身体が大きくなっていく。

 

「ゴドォ!」

 

 コドラか。

 ココドラより身体が大きくなり、小回りは効きづらくなっているが、その分一発のダメージが飛躍しているだろう。

 

「んで、進化したからにはそれなりの動きを見せてくれるんだよな」

「焦らなくてもそのつもりですよ。進化後のことも考えていますから」

 

 ま、イロハならそれが当たり前だもんな。バトルにおいて進化ですら戦略の一つに入れてくる。これは同期トレーナーのユイやコマチはおろか、俺やユキノですら出来ない芸当だ。そもそも俺の場合は最終進化ばかりだし、唯一キルリアが二段階目を残しているのみ。それもいつ進化するのかは俺には分からん。ユキノは………どうなんだろうな。可能性としてあるのはハルノくらいか。

 

「コドラ、じならし!」

 

 目が合うと抱きついてきたキルリアを受け止めていると、コドラが仕掛けてきた。また同じ技か。

 

「同じ手には乗らんぞ。ボスゴドラ、でんじふゆう」

「ふぁ?! マジですか先輩」

 

 ボスゴドラが俺のところに戻ってきてからはいくつか技を教えている。最初から群れのリーダーになるくらい戦闘力はあったが、もっと幅を利かせた方がボスゴドラの長所を活かせそうだったからだ。その一つがでんじふゆう。電磁気を操り自身を浮かせる技である。重量級のボスゴドラにとっては覚えておいて損はない技で、身軽に動く相手でも動きに対処しやすくなる。今回は浮くことによりじめんタイプの技を無効化するのが狙いであるが、空中移動という用法で使うこともある。この巨体が空中戦もできるようになったのは大きな進歩と言えるだろう。

 

「なら、みずのはどう!」

 

 おっと、みずのはどうまで覚えていたのか。こりゃズミさんの入れ知恵だな。

 

「躱せ」

 

 浮いているため躱すのも余裕。何ならくるくる回ってるまである。なんかそういうところ、ゲッコウガに似てきたよな。

 

「ちょこまかと逃げやがりますね。なら、コドラ! 動きを止めるよ! がんせきふうじ!」

 

 あ、それは受ける気なのね。

 どんな攻撃を仕掛けて来るか楽しんでないかい。

 ひょいひょい回っていたボスゴドラだが、頭上に岩々が作り出されると動きを止めて仰いでいる。岩の大きさや数でも見ているのだろう。

 そしてそのままボスゴドラは岩々に取り囲まれてしまった。

 

「アイアンヘッド!」

 

 コドラはすかさず鉄の頭で頭突きを繰り出し、岩を破壊しながら突っ込んで来る。

 王道と言ってもいい戦法だ。イロハもこれで終わるつもりはないだろうし、次の一手もいくつか用意しているだろう。だが、そもそもの話コドラにはまだ同族の格上を相手にするのは難しかったのかもしれないな。

 ならばこういう技もあるということをコドラ自身に教え込んでやろう。

 

「メタルバースト」

 

 銀色の一閃が岩ごとコドラを跳ね返した。

 ボスゴドラは強い。それは攻撃面だけに言えたことではない。鋼の鎧を纏うその身体はとても硬い。ちょっとやそっとの技ではダメージにもならないだろう。しかもそんな硬さを利用して反撃することも可能。故にボスゴドラは強いのである。

 

「コドラ?!」

「………コドラ、戦闘不能ね」

 

 今の一撃でコドラは戦闘不能になったか。

 イロハもやはりという顔をしている。

 ま、トレーナーがちゃんと分かった上で突っ込ませたっていうのなら、俺はそこに何も言うことはない。

 

「イロハ、コドラには今後三つの技を習得してもらう」

 

 だから今のバトルで俺が考えるココドラ改めコドラ育成計画の課題を出してやろう。

 

「というと?」

「一つ目はお前が始めたもろはのずつき。二つ目は今のメタルバースト。三つ目はじならしを昇華させてじしんにするんだ」

「………何故その三つなんですか?」

 

 イロハはコドラをボールに戻してそう問いかけてきた。

 

「切り札となる技と反撃用の技、それと使い分け用の技だ。まあボスゴドラになったらなったでまだまだ覚えた方がいい技があるけど」

 

 もろはのずつきは既に修行中、メタルバーストは今のバトルのように攻撃され続けた時に反撃に出るための一撃として、じしんはじならしと使い分けをするためである。他にも色々と覚えさせた方がいい技はあるが、恐らくそれらを覚える過程で習得することもあるだろう。

 なんせボスゴドラが直々に鍛え上げるだろうしな。

 

「ボスゴドラになったらげきりんを覚えさせるつもりです」

「げきりんか。そういや他の新入りは覚えたんだよな」

 

 ココドラではげきりんを覚えられない。だから代わりとは言ってはなんだが、ドラゴンダイブを覚えさせたのだろう。別にそこまでしてドラゴンタイプの技を覚えさせなくてもいいだろうにと思わなくもないが、あの三人も徹底してるな。

 

「はい、次はそれをお見せしますよ。いくよ、シードラ!」

 

 次はシードラか。

 ドラゴンポケモンのタッツーの進化形。みずの単タイプだが、特性によっては毒状態になることもある。

 イロハのシードラは………分かんねぇな。ただ何か右目につけているようだけど。

 

『みずタイプか。ならオレがやる』

「んじゃ任せた」

 

 誰に相手させようかボールに手をかけた時、ゲッコウガがフィールドに出てきた。

 どうやらシードラの相手をしてくれるらしい。

 なら俺は基本見ているだけでよさそうだな。

 

「ゲッコウガ、瞬殺はダメだからね」

『そうならないように足掻くことだな』

「ぶー」

 

 そんな砕けたやり取りを聞きながらキルリアを抱っこした。

 いやほんとこいつ可愛すぎるわ。なんか父親になった気分。

 

「シードラ、こうそくいどう!」

 

 こうそくいどうか。

 ゲッコウガに瞬殺されないために躱すためのスピードを上げたようだな。伊達にゲッコウガと過ごしてるわけじゃない。ちゃんとこいつの戦い方を見てきているようだ。

 ゲッコウガはそれが分かっているためか、冷静に状況を読んでいる。

 

「えんまく!」

 

 今度は黒煙により視界を遮ってきた。

 キルリアが俺の胸に顔を埋めてくる。煙たいのは苦手なようだ。ちなみにゲッコウガは小さく咽せているぞ。

 

「シグナルビーム!」

 

 そんな中、一閃の深緑が伸びてきた。

 それは正確にゲッコウガの脳天を狙ってきている。

 

『スナイパーか。面倒な………』

 

 ゲッコウガは首を捻り躱したが、余計に項垂れている。

 なるほど、シードラの特性はスナイパーか。だから黒煙の中でも正確に急所を狙ってきたわけだ。しかも速い。

 

「次いくよ。シードラ、ハイドロポンプ!」

 

 次は水砲撃か。

 こっちも軌跡が速い。

 ゲッコウガもみずのはどうで軌道を上に逸らす程だ。

 

「もう一度、えんまく!」

『チッ、面倒な戦法を覚えやがって。ちょっと借りるぞ』

 

 シードラの黒煙に悪態を吐きながらも一度距離を取るため後退した。その際、久しぶりにゲッコウガが俺にアクセスしてきやがった。どうやら視界が欲しいらしい。

 こいつ、相変わらずのチートだな。

 

「きあいだめ!」

『なるほど、そこか!』

 

 見えたみたいだな。

 俺のところからはシードラの大体の位置は見えている。あそこから移動しようにもそう動ける時間があったわけでもない。

 

「シグナルビーム!」

 

 見つかったと分かると早々に攻撃に転じてきた。

 本来ならもう少し仕掛けを作るつもりだったんだろうが…………いや、きあいだめを使ったのだから後は撃ち出すタイミングを計るだけだったのかもしれない。

 

『うぉっ?!』

 

 当のゲッコウガはシードラの攻撃に驚きを見せている。

 

「一気に三連発かよ。どうやったらできるんだよ」

 

 一閃だけならばゲッコウガもただ対処していただけだろう。

 だが、シードラが放ってきたのは三閃の深緑。

 不意を突かれた形となった。

 

「なんだよ、めっちゃ苦戦してんじゃん」

『特性スナイパーにピントレンズ持たせて、終いにはきあいだめだ。近づけん』

「なら、もっと本気出していいんじゃねぇの?」

『………どうなっても知らんぞ』

「大丈夫だって。イロハが育てた奴だぞ。お前に負けたくらいで使い物にならなくなるような柔な奴じゃないって」

 

 スナイパーにピントレンズ持たせてきあいだめか。

 ガチの構成してんじゃねぇか。

 それとゲッコウガ。あんなこと言っておきながら手加減するなよ。逆にアレか? 手の抜き方が分からんとかそういう奴か?

 

「シードラ。ラスターカノンで貫いて!」

 

 ゲッコウガががんせきふうじでシードラの意識をそっちへと持っていく。

 シードラはそれを鋼の光線で撃ち落としていくが、その間にゲッコウガはシードラの背後へと回っていた。

 

「シードラ後ろ! ハイドロポンプ!」

 

 高速で反転し、すぐさま水砲撃で牽制しにかかる。

 ここで素早さを上げていた効果が発揮されたようだ。そこに特性とピントレンズも合わさり、的確にゲッコウガを捉えていた。

 だが………。

 

「え、うそっ?! あのタイミングで消えたの?!」

 

 既にゲッコウガはそこにはいなかった。

 恐らく今のは影の分身体だろう。

 

『目に見えているものばかりに気を取られるなと言わなかったか?』

 

 地面から草が伸び、シードラに絡みついていく。

 くさむすび。

 本来の使い方は足元を狙って転けさせる技だが、使い方によってはこんなこともできる。というか俺たちはよくこっちの使い方をしているまである。

 

「ッ、シードラ、げきりん!」

 

 囚われたシードラは一気に竜の気を纏い暴走させ、絡みつく草を焼き切った。

 

『これで終わりだ』

 

 そしてゲッコウガの水の究極技へと突っ込んでいった。

 効果はいまひとつでも実力差が大きすぎる。

 

『ったく、無茶しやがる』

 

 あ、でも届いていたらしい。

 あの究極技の中を突き進みゲッコウガまでたどり着いた奴なんて初めてだ。これは今後鍛え甲斐がありそうだな。

 

「シードラ、戦闘不能」

 

 ゲッコウガに受け止められながら気を失っているシードラにユキノが判定を下した。

 …………近くで見るとシードラって結構デカイな。となるとキングドラはそれ以上か……………。

 

「イロハ、ほれ」

「あ、ちょとと………何ですか、このキレイなウロコ? は」

「りゅうのウロコだ」

「それって………!」

 

 俺はイロハにりゅうのウロコを投げ渡した。

 

「シードラが強くなりたいって意思表示したら、進化という手もあることを示してやれ。判断はお前らに任せる」

「あ、ありがとうございます!」

 

 多分、シードラはこれから強くなろうと足掻くだろう。ゲッコウガもなんだかんだで付き合いそうだし、そうなると今のままでは限界を感じてしまうかもしれない。だから予め選択できる環境だけは作っておいてやるべきだ。

 

「あなたいつの間に用意していたの?」

「偶々だ。西側の視察に行った時にザクロさんからもらったんだよ」

 

 砂浜でこんなの見つけたんですけど、お一ついかがですか? なんて言われたらもらっちゃうじゃん?

 まあ、りゅうのウロコでタッツーをタマゴから孵したばかりのイロハの顔が思い浮かんでしまった辺り、俺も随分とこいつらに毒されてきてると思うがな。でも悪くない。

 

「中々ないタイミングね」

「マジで偶然だからな?」

 

 イロハがシードラをボールに戻しているのを横目に、ユキノが訝しむ目を刺してくる。

 疑ってらっしゃるようだが、ほんとだよ?

 ハチマンウソツカナイ。

 

「ゲッコウガ、お前からはあるか?」

『そうだな、既にみず、はがね、ドラゴン、むしタイプの技を覚えている。しかもスナイパーを活かすとなると、れいとうビームが妥当なんじゃないか? あとはみずのはどう、りゅうのはどうは覚えておいて損はない』

 

 悪くない。

 というか、考えることがまるで一緒だな。

 

「だってよ。正直俺もそこら辺が妥当だと思った。が、欲を言えば威力の高い技以外にも小技を挟むようにすればより厄介な相手と認識されると思っている」

「小技、ですか………」

「ああ、威力の高い技も不可欠だが、それを撃つタイミングを作り出す小技も重要になってくるんだ。例えばバブルこうせんとか。吐き出すバブルの大きさによっては足止めなどにも使えるし、光の屈折を利用した攻撃ミスの誘発も可能になる」

「確かに、言われてみれば先輩はそういう戦い方が好きでしたね」

『目に見えているものだけに囚われてはいけない、それがお前のトレーナーとしての課題だな』

「あー、うん、なんかようやくゲッコウガが言いたいことが分かったような気がするよ」

 

 目に見えているものだけに囚われてはいけない。

 それはつまり見えていないところにも意識を向けろということだ。見えているものなんかポケモン自身でも対処できる。だが、見えていないものに対してまでは経験を積んでいなければ対処のしようがない。

 トレーナーはそこを埋める目になってこそ、センスのあるトレーナーと言えよう。

 イロハには経験が浅いが故の視野の甘さが残っている。今までは彼女の発想力によってカバーできるバトル内容だった。だがこれから向かおうとするところはそんな甘さが命取りとなるような世界だ。トレーナーとして上を目指すのであれば、絶対に克服してもらいたいポイントだな。俺ですら、たまに見えてなかったりするんだから。

 

「んで、三体目はチゴラスか?」

「ふっふっふっ、惜しいですね。いくよ、ガチゴラス!」

 

 あ、進化してたのね。

 

「どうする? お前まだやる?」

「リア!」

『どうやらキルリアがやる気みたいだぞ』

 

 抱っこしていたキルリアがシュタッと飛び降りた。

 どうやらやる気なようだ。

 

「お、キルリアやるか?」

「リア!」

 

 よしよし、それならキルリアに任せるとしますか。

 

「ならキルリアに頼もうかな」

「リアリア!」

 

 なにこのクソかわいい生き物。

 敬礼なんかしちゃって、写真に撮りたかったな…………。

 

「……………」

「……………」

 

 じっと見つめ合う両者。

 体格差がすごい。

 ………ヤドキングみたいにならないよな?

 

「ガチゴラス、かみくだく!」

 

 先に動いたのはガチゴラス。

 デカイ牙で噛み付きに来た。

 

「ねんりきで止めろ」

 

 それを念力で受け止めた。

 

「リア!?」

 

 だが、強引に突破され、デカイ牙はそのまま降りかかってくる。

 

「落ち着け、リフレクターだ」

「ガチゴッ?!」

 

 ガチゴラスは突然現れた壁に顔面をぶつけた。

 結構すごい音がしたぞ。

 

「マジカルリーフ」

 

 怯んだ隙に無数の葉で襲いかかった。

 

「ガチゴラス、ドラゴンテールで撃ち返して!」

 

 ガチゴラスは顔を押さえながら身体を回し、竜の気を纏った尻尾で葉を次々と落としていく。

 

「足元に滑り込め」

「リア!」

 

 その間に足元へと滑り込ませた。

 

「ふみつけ!」

 

 足元に来たキルリアに対し、脚で踏みつけようとじたばたし出すガチゴラス。

 

「シャドーボール」

「リーア!」

 

 キルリアは冷静に躱し、影弾でガチゴラスを打ち上げた。

 あ、また顎にいってしまった。

 

「ガチゴラスを打ち上げるとかどんなパワーしてるんですか」

「たまたまだ、たまたま」

 

 顎の下に急所に当たったんだろう。

 キルリアにはまだそんな力はないし。

 

「それよりガチゴラスの特性はがんじょうあごか?」

「トレースできないんですか?」

「生憎シンクロの方なんでな」

「じゃあ、がんじょうあごだと思う根拠は?」

「ただの勘だ」

「まあそうですよね。というかもう一つの特性であるいしあたまを持ったガチゴラスなんて、ドラセナさんも見たことないって言ってました」

「化石研究所でも数体復元できた過去があるってだけだったしな。そんなもんだろ」

 

 化石から復元されたポケモンにも希少な特性があったりする。だが、希少というだけあって、今現在においても確認されたのは数体のみという結果が出ているのだ。そんな希少種を研究者たちが一トレーナーに渡るようなことをするはずもなく、所持している四天王ですら見たことがある人が何人いるか分からないというのが現状である。

 世知辛い世の中だよな。

 

「ガチゴラス、いわなだれ!」

 

 そんなこんなしているガチゴラスがバトルを再開してきた。キルリアの頭上には無数の岩が作り出されていく。

 

「キルリア、マジカルリーフで岩を砕け」

 

 その岩々を無数の葉でキルリアが当たらない程度に砕いた。

 

「それからねんりきで相手に投げつけるんだ」

「リーアッ!」

 

 そしてキルリアはいけーっというようなポーズでその岩どもをガチゴラス目掛けて放った。

 

「甘いですよ! ガチゴラス、りゅうのまい!」

 

 だが、イロハはガチゴラスに炎と水と電気の三点張りで竜気を練り上げさせ、それを纏うと同時放たれた岩々を粉々にしてしまった。もはやただの砂となり風に流されている。

 

「気をつけろキルリア。ガチゴラスはパワーとスピードが上がった。さっきまでとは違うからな」

「リア!」

 

 全身に漂う竜気はおどろおどろしく蠢いている。

 一度に濃い竜気を生成できるようだ。

 

「アイアンテール!」

 

 さらにパワーアップしたガチゴラスは地面を蹴り上げ、身体を反転させながら竜気を尻尾へと集め、鉄の尻尾を振り上げてきた。

 

「リフレクター」

 

 先程のねんりきで既に受け止められないことは分かっている。

 しかしリフレクターももはや怪しいレベル。だからといって他に抑え込む手段を持ち合わせてはいない。

 仕方ない、ある程度は覚悟しておこう。

 

「大丈夫か、キルリア」

 

 防壁ごと鉄の尻尾で吹き飛ばされたキルリアに呼びかけてみる。よたよたと立ち上がろうとしているため、ダメージを抑えることはできたみたいだ。

 

「リア………」

 

 だが、一発でこれほどのダメージになるとは思いもしなかったな。

 

「りゅうのまい!」

 

 げっ、さらに積んでくるのかよ。

 これは結構ピンチだぞ。

 

「げきりんからのアイアンテール!」

 

 再度練り上げた竜の気をげきりんにより暴走させ、それを鉄の尻尾に集め始めた。

 これはトドメを刺しに来てるな………。となると、まだ完全な状態になってないがアレを試してみるか。

 

「トリックルーム」

「なっ?!」

 

 キルリアは尻尾を振りかざしてくるガチゴラスを素早さがあべこべになる部屋へと閉じ込めた。

 ここからは俺にもどうなるか分からない。まずは技を上手く発動できただけでも上出来なのだ。

 あとは効果がいつまで保つのか。そこで完璧にマスターしているのかを見極めるしかない。

 

「キルリア、ねんりき」

 

 竜の気が仇となり、部屋の中で動けなくなっているガチゴラスをサイコパワーで四方の壁にぶつけていく。

 あー、これならいっそ効果が切れる前にこっちから部屋を壊した方が楽だな。

 

「キルリア、引き寄せろ」

 

 壁から天井に、天井から床に打ち付け、最後にキルリアの前へとガチゴラスを引き寄せた。この距離からならさすがに効くだろ。

 

「マジカルシャイン」

 

 効果抜群のフェアリータイプの技。

 自身から発する光を打ち付け、部屋の壁を砕きながらガチゴラスを吹き飛ばした。

 

「ガチゴラス!?」

「チゴ………!」

 

 結構効いたみたいだが、まだ戦闘不能には至ってないか。

 

「まだいけるんだね。それならいわなだれ!」

 

 むぐぐと険しい顔で起き上がったガチゴラスは再度キルリアの頭上に岩々を作り始めた。

 

「マジカルリーフで落とせ」

 

 こちらも先程同様、無数の葉で岩々を砕いていく。

 

「そっちは囮ですよ。ストーンエッジ!」

 

 囮なのは分かっている。

 さっきも同じようなことをしていたんだからな。

 それに今ので終わらせるなんて考えているのであれば、一から叩き直す必要がある程だ。

 

「テレポート」

 

 テレポート。

 指定した座標に瞬時に移動する技。

 だが、まだキルリアはこれも綿密な座標設定をすることができないでいる。

 この子、所謂バトルが不得手なタイプなのよ。だから威力の高い技とか複雑な技はまだ完成しきっていないのだ。

 

「その可能性も読んでますよ。ガチゴラス、後ろ!」

 

 お、今回は狙ったところに飛べたようだな。

 まあ、だからこそイロハには見つかってるんだが。

 

「リフレクターを飛ばせっ」

 

 コマチはよくカマクラに壁を飛ばすように命じていた。ダメージなんて微々たるものだが、その意外性は大きい。やられた相手の不意を突くには充分である。

 

「ッ、そう来ますかっ! ガチゴラス、リフレクターを蹴ってバク宙!」

 

 迫り来る壁をガチゴラスは右足で蹴り、大きく後ろに弧を描いた。

 

「かわらわり!」

 

 一回転した身体は一度地面に降り立ち、すぐさま蹴り上げて壁を叩き割った。

 ちゃっかり覚えさせてるし………。

 

「もう一度リフレクター」

「そのままアイアンテール!」

 

 そして勢いをそのままに鉄の尻尾で再度作り上げた壁を強引にずらした。これにはキルリアも驚いている。

 

「マジカルシャイン」

 

 だからと言ってトレーナーまでもが驚いていてはいけない。しっかり指示を出してやらなければ無防備のまま、急所を突かれてしまう。

 俺が指示を出すとキルリアは光輝き、鉄の尻尾ごとガチゴラスを呑み込んだ。

 結果はどちらからともなくバタリと倒れ、地面に伏している。引き分けだな。

 

「……………キルリア、ガチゴラス、共に戦闘不能ね」

 

 ユキノの采配も下り、俺はキルリアを回収に向かった。

 

「キルリア、お疲れさん」

「リアー………」

「ほれ、オボンの実だ」

 

 疲れたーと言わんばかりぐてーとしているキルリアにオボンの実を食べさせた。

 むしゃむしゃと嚙る嚙る。

 育ち盛りなのかね。

 

「リア!」

「よしよし、頑張ったな」

 

 食べた! とアピールしてくるので頭を撫でてやった。

 

「リーア」

 

 すると両腕を開いて抱っこしてーのポーズ。

 

「よっと」

 

 仕方ないのでそのまま抱き上げて抱っこしてやると、嬉しそうに抱きついてきた。

 娘ができるとはこういうことなんだろうか。

 

「イロハ、ガチゴラスなんだが他に噛み付く系の技は覚えてるのか?」

 

 ガチゴラスの他の技について聞いてみたら、イロハもガチゴラスをボールに戻していた。

 

「………いえ、チゴラスの時からかみつくを覚えているくらいです」

 

 ガチゴラスが覚えているのはかみつく、かみくだくだけってことか。なら、折角の特性なのだから覚えて有効利用した方が断然いいな。

 

「そうか、ならかみなりのキバ、こおりのキバ、ほのおのキバ、どくどくのキバは習得するとしよう。あとはもろはのずつきとりゅうせいぐんを最終的な目標にするか」

「がんじょうあごを活かせってことですね」

 

 四色の噛み付き技を挙げるとイロハも俺が何を言いたいのか理解してくれたようだ。

 

「ああ、まずは持ち味を活かさない理由がないからな。それでまだバトルに詰まるようなところがあれば、小技を覚えさせるのも手だ」

「分かりました。見てくれてありがとうございます」

 

 取り敢えず、新入りたちについてはこんなもんか。

 と、どうせなら傍から見ていたユキノにも意見を聞いてみるか。

 

「ユキノはどうだ?」

「そうね、基本的に私が言うようなことはないのだけれど、強いて言えばあなたの持ち味を活かしきれてなかったように思えるわ」

「私の持ち味、ですか………?」

 

 イロハの持ち味となると二つある。一つはココドラで見せてくれたポケモンの進化のタイミングをバトルに利用すること。そしてもう一つーーー。

 

「フィールドの支配、か?」

「ええ、四天王のお三方から指導いただいて攻撃面はタマゴから孵ったポケモンとは思えないくらい充実していたわ。けれど、それを活かすフィールドを作り上げられていなかった。まあ、他のポケモンで補うのが常ではあるのだけれど、あなたの場合はポケモン自身で好みのフィールドを作らせてきたのだからそこをもっと強調した方がいいと思うの」

 

 確かにちょっと薄い感じはあったな。

 どちらかと言えば、今はマフォクシーたちにフォローしてもらうことで力を最大限発揮できそう、というのが俺の印象だ。攻撃技は申し分ない。あとはこれからを見据えて先に挙げた通りの技を習得するとしても、その技自体を確実なものにするための土台作りが仲間頼りである。

 

「だそうだ」

「そうですね。言われてみれば攻撃技ばかりに気を取られていたと思います」

「最初はそれでいいと思うわ。野生とは違ってバトルに慣れさせることも大事だもの。まずは攻撃のやり方を覚えてもらわないと。だからバトルの内容をもっと豊かになるように考えていくのは今からでも充分よ」

「だな」

 

 うん、となるとやっぱり小技もちょいちょい覚えさせていくか。どれが本人にとって合うのかは修行の中で判断するしかあるまい。

 

「………あの、先輩」

「ん? なんだよ、改まって」

 

 急に声のトーンが下がった。

 恐らく何か重要なことでも言おうとしているのだろう。

 

「私ジムリーダー試験を受けようと思ってます」

 

 はい? ジムリーダー試験?

 

「また急だな。何かあったのか?」

「いえ、特には。ただ先輩やユキノ先輩、四天王の皆さんたちを見ていたら私ももっと上を目指してみようかなって思ったんです」

 

 上を目指すねぇ。

 目標が高いのはいいことだが、大丈夫か?

 こう言ってはアレだけど、まだトレーナーになって一年だぞ?

 そんな奴がジムリーダー、つまり挑戦しにくるポケモントレーナーの力量、素質、改善点その他諸々を判断できるとは思えんのだが。経験がまず足らんだろ。

 

「あらあら、イロハちゃんたら。嬉しいわぁ」

「うぉっ?! いたんすか」

 

 ぽわんぽわんした声の方を見ると四天王三人がいた。

 え、いつからいたの?

 

「イロハ殿がこちらで貴殿とバトルをすると聞いたのでな」

「君のところに行くように進めた手前、見届けないのも無礼かと思ったのだ。それに話もある」

「話?」

 

 見届けるって、まだそんな大層なことしてねぇし。そもそも修行方針を決めるにあたっての今の実力を見ただけなんだけど。

 それと話って何?

 俺が聞かなきゃいけない話なのか?

 

「そのことについては私から説明するわ」

「ハルノ………ちょっと待て。まさかとは思うがこの件、ハルノが絡んでたりするのか?」

 

 何事かと思案しているとハルノが現れた。

 うん、もうそれだけで何となく察した。

 それよりヒャッコクの方での仕事は大丈夫なのか?

 

「絡んでるも何も………」

「この話を企てたのは…………」

「ハルノ殿である」

「…………はあ、うん、もう何かやっぱりかって感じだわ」

 

 何か誰か裏で動いてそうだとは思ってたしな。おばさんかなとも思ったがハルノと聞いて納得である。

 

「それで話というのは…………?」

「イロハちゃん、あなたは既にジムリーダー試験に合格しているわ。それも3タイプのね」

 

 3タイプ………。

 そのワードで思い当たる三人に目を向けるとおばさんは微笑み、男性二人は苦笑いを浮かべていた。

 そういうことなのね。

 

「はい?」

「………ドラゴン、みず、はがねタイプ専門のジムリーダーとして合格してるってことなんだろ?」

「あら、理解が早いわね」

「えっと、つまり………?」

 

 イロハは未だ何を言われているのか掴めていないようで、俺に説明を求めてきた。

 

「お前はハルノの計画により四天王三人に鍛えられ、結果としてジムリーダー試験を突破してたらしい」

 

 四天王三人が手塩にかけて育てていたのには理由があったわけだ。

 まあ、それだけで動いてくれていたわけじゃないだろうけど。

 

「うぇっ?! マジですか!?」

「ええ、本当よ。知識、実力ともに合格ラインを突破しているわ」

「い、いつの間に…………」

「ほら、三人からそれぞれ最後の試練なんてのを受けさせられたでしょ? 筆記もだし、バトルも」

「………え、あれ………? た、確かに知らない人たちが見に来てるなーとは思ってましたけど………」

「はあ………、何で俺たちには言わなかったんだよ」

「だって言ったら絶対止めたじゃん」

「………そうね。イロハにはまだ早いって止めたと思うわ」

 

 ハルノの疑念にユキノが代弁してくれた。

 

「でもイロハちゃんの成長は著しいわ。吸収力、応用力ともにまだまだ成長期よ。ここで歯止めをかけるなんて勿体ないじゃない」

 

 それは俺も認めている。

 イロハの成長は著しい。俺の妹のコマチよりも遅咲きで実力を発揮したユイよりも著しい。ユイなんか差をずっと埋められていないまである。それくらい止まらないのだ。

 逆にユイは一点突破という感じに育っているような気はするがな………。結局、ダイゴさんに負けてからまた連勝し続けてたみたいだし。あの子、一体どうなりたいんだろうね。

 ユイの話はいいとして、イロハの成長速度にハルノは歯止めをかけたくなかったようだ。俺だって止める気はないが、だからっていきなりジムリーダー試験はない………ちょっと待て。イロハの成長はジムリーダーごときで終わるようなもんじゃないぞ。それはハルノも…………。

 

「………ほーん。つまりまだ何か隠してるわけか」

「………」

 

 あ、ビンゴか。

 

「ハルノ?」

「……………」

 

 素朴な疑問を問いかけるように声をかける。そして距離をじわりじわりと詰めていく。キルリアまでもがジト目でハルノを見ている。きっと俺の真似をしているのだろう。

 その間全く以って目を合わせようとしない。いじらしいというかなんというか。

 

「ハルノ」

「うわっひゃいっ!」

 

 耳元で囁いたらすごい反応してくるな。およそ乙女が出す声じゃないぞ。

 

「正直に言うんだ。怒らないから」

 

 って言う奴に限って既に怒ってるよね。まあ別に俺は怒ってないんだけど。ただ反応が面白くてついイタズラしちゃうだけ。子供かよ。

 

「………イロハちゃんとユキノちゃんを次の四天王候補にしようかなーって」

「ほーん」

 

 ほーん、イロハはまあそこに行き着くんだろうなとは思ったが、ユキノもねぇ。

 

「え? 私も?」

 

 ユキノも聞いてない話のようだ。

 

「………ダメ?」

 

 あ、反撃してきやがった。顔が近いことをいいことに目をうるっとさせて上目遣いとか効果抜群だぞ。

 

「………最終的な決断は本人の意思だからな」

「うん………」

 

 お仕置きとして髪をわしゃわしゃしてやった。キルリアも真似してわしゃわしゃしている。

 そんな目をされては俺に出来ることなんてこれくらいしかないし。

 

「先輩、甘いです。甘すぎます」

「ばっかばか、うるっとした上目遣いとかハチマンには効果抜群だからな!」

「誇るようなことじゃないと思うのだけれど」

 

 そりゃ知らん奴にやられたら裏を勘ぐるけどな。

 ハルノの場合は計算してたとしても、それを見せてくるってだけで本気なのは伝わってくるし。

 

「ちなみに他に候補はいるのか?」

「エイセツジムのウルップさんくらいかな」

「まあ。繰り上げで考えたら妥当だな」

 

 結局のところジムリーダーにしろ四天王にしろ、なり手不足なのが今の現状だ。俺の周りにいくらでもいるだろうと思う奴も少なくないだろうが、いかんせん癖が強すぎる。

 まず俺は四天王としては強すぎて既に降ろされた。というか自ら降りたので却下。

 暇そうなザイモクザはロックオンからのでんじほうしか基本撃たないレールガン厨。多分、チャレンジャーが泣くので却下。何なら本気を出したザイモクザはチャンピオン級と言ってもいいような鬼畜なので選択肢にすらならない。

 ハルノはチャレンジャーの心を折るだろうから却下。

 シズカさんは適任ではあるが、今はトレーナーズスクールの方に勤しんでいるので却下。あと専門タイプがコルニと被る。

 育て屋の三人はサガミはポケモン側に問題があるし、オリモトはそもそも興味ないし。ナカマチさんも同意見のため却下。何だかんだで今の生活を気に入ってくれているらしい。給料上げられるよう頑張るからな。

 となると残りはユキノとメグリ先輩なのだが、後者はスポンサーのおじ様たちに大人気なため、その役目を降ろすことが出来ず却下。

 で、ユキノが残るわけだ。

 いやー足りない。後継者不足ってほんと大問題だわ。

 ハルノはそれを危惧して今回の計画に至ったんだろう。一番可能性があり、一番経歴がないイロハの育成計画に。

 

「エックス君ってことも考えられるのだけれど」

「ありゃ無理だろうな。基本そういうのに興味ないタイプだ」

「でしょうね」

 

 ユキノも提案こそしてみたものの、最初から無理だろうということは分かっているようだ。まあ、疲れたから棄権するような奴だしな。

 

「あのー。そもそも私が四天王になれたりするんですか?」

「まず四天王になるためにはポケモン協会で指名されなければならない。そのためにも実力と経歴が必要だ。俺の場合、リーグ戦で優勝。しかもチャンピオンに勝ったっていう経歴がある。ユキノの場合は三冠王って称号。だけど、今のお前には何もない。経歴として残せるものが何もないんだ。だからハルノはジムリーダー試験、それも複数タイプの試験を突破という前代未聞の箔を付けようとしてんだよ」

 

 四天王の選ばれ方は色々ある。一般トレーナーの中から実力者を絞り、ポケモン協会側で指名したり。

 あるいはジムリーダーの中から指名したり。

 あるいは現四天王の四人に勝ち抜きチャンピオンに勝てば、新たなチャンピオンが生まれ、繰り下げで旧チャンピオンが四天王になったり。そこは様々である。

 だが、どれも共通するのは実力と経歴だ。それがなければ篩にもかけられることはない。

 

「あ、なるほど。そういうことでしたか」

「ただなー、被るんだよな。今のままだと」

「被る? 何がですか?」

「専門タイプが」

「あー…………」

 

 まあ現四天王にポケモンもらったりしてるしな。タイプが被るのも仕方ないことではある。

 

「うふふふ、なら私は引退しようかしら」

「それじゃ本末転倒でしょうが。まあ、そこは後からどうにでもなるだろ。まずは箔をつけていくことだな」

「ユキノちゃんもいるしねー」

 

 あんまりユキノの負担を増やしたくないんだけどなー。

 現時点で一番適任なのは間違いなくユキノだ。四天王内でのタイプも被らず、四天王最後の砦には相応しい。いっそチャンピオンを交代してって手もあるが、カロスの顔を変えるというのもそれはそれで頭を悩ませる問題である。あまりにも有名すぎるんだよ。世界規模の大女優って超交代させにくいんですけど。

 そこが一番のネックかもしれないな。

 ただ仮に交代させたとしても、いよいよ以って俺がチャンピオンにさせられそうだからなー…………。三日で辞めた奴が再びってのもどうかと思うわ。

 

「ま、ハルノの思惑通りではあるがイロハ自身がその気になったんだ。………目指すんだろ?」

「はい! 私も先輩たちが見ている世界を見てみたいです!」

 

 何はともあれイロハがやる気を出したんだ。一番弟子のために一肌脱ぐとしますかね。

 

「なら、取り敢えずは俺とユキノの知識を改めてお前に叩き込んでやるよ。考えるのはそれからだ」

「そうね。まずはほのおとこおりのジムリーダー試験を突破しましょうか」

「はい、よろしくですっ!」

 

 今日も今日とて平和な一日である。

 

「リア!」

「おーよしよし、キルリア今日もかわいいぞー」

 

 話が切り上がればキルリアを高い高いしてしまうくらいには平和である。

 

『フッ、親バカだな』

「おいゲッコウガ。聞こえてるからな」

「さ、先輩。他の子たちも見てもらいますよ!」

 

 この後、リザードンでデンリュウ、フライゴン、ガブリアスを三タテしてやった。

 やっぱり御三方から詰められるだけ技を詰め込まれていたのは言うまでもない。なのに、レシラム化という負荷を抱えながら強くなって来たためか負荷がなくなった分、通常モードでメガシンカ並みという力を手にしてしまっており、当然といえば当然の結果である。しかもまだまだ余裕そうだったんだよなー。

 俺のポケモンはどうしてこんなにバカげた力を持ってる奴しかいないのだろうか。キルリア、お前はそのまま大きくなってくれればいいからな。

 あ、ちなみにイロハの今回の編成は暫定的なドラゴンチームらしいぞ。




行間

ヒキガヤハチマン 持ち物:キーストーン 菱形の黒いクリスタルetc………
・リザードン(ヒトカゲ→リザード→リザードン) ♂ 
 特性:もうか
 覚えてる技:かえんほうしゃ、メタルクロー、かみつく、おにび、えんまく、はがねのつばさ、かみなりパンチ、ドラゴンクロー、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、かみくだく、カウンター、じしん、フレアドライブ、ブラストバーン、げきりん、じわれ、だいもんじ、ソーラービーム、リフレクター、はらだいこ、ぼうふう、ねっぷう、あなをほる、れんごく、かげぶんしん
 飛行術
 ・ハイヨーヨー:上昇から下降
 ・ローヨーヨー:下降から上昇
 ・トルネード:高速回転
 ・エアキックターン:空中でターン
 ・スイシーダ:地面に叩きつける
 ・シザーズ:左右に移動して撹乱
 ・ソニックブースト:ゼロからトップに急加速
 ・コブラ:急停止・急加速
 ・ブラスターロール:翻って背後を取る
 ・グリーンスリーブス:連続で攻撃して空中に釣り上げる
 ・デルタフォース:空中で大きな三角形を描くように連続攻撃
 ・ペンタグラムフォース:空中で五芒星を描くように連続攻撃
 ・バードゲージ:スピードを活かして相手の動きをコントロールしていく
 ・スモール・パッケージ・ホールド:背面飛行で相手の下を飛行する

・ゲッコウガ(ケロマツ→ゲコガシラ→ゲッコウガ) ♂
 特性:きずなへんげ(へんげんじざい→きずなへんげ)
 覚えてる技:みずのはどう、あなをほる、かげぶんしん、れいとうパンチ、れいとうビーム、つばめがえし、ハイドロポンプ、くさむすび、グロウパンチ、えんまく、がんせきふうじ、いわなだれ、まもる、かげうち、みずしゅりけん、どろぼう、つじぎり、ハイドロカノン、めざめるパワー(炎)、とんぼがえり、とびはねる、ほごしょく、けたぐり、ぶんまわす、あくのはどう、どろあそび、ふぶき、たたみがえし

・ジュカイン(キモリ→ジュプトル→ジュカイン) ♂
 持ち物:ジュカインナイト
 特性:しんりょく←→ひらいしん
 覚えてる技:でんこうせっか、リーフストーム、リーフブレード、ドラゴンクロー、タネマシンガン、ギガドレイン、かみなりパンチ、スピードスター、くさむすび、ソーラービーム、エナジーボール、シザークロス、くさのちかい、マジカルリーフ、タネばくだん、こうそくいどう、つめとぎ、いやなおと、こうごうせい、くさぶえ、やどりぎのタネ、グラスフィールド、なやみのタネ、ハードプラント、つばめがえし、ものまね、みがわり、じならし、アイアンテール、けたぐり、つじぎり、グロウパンチ、まもる

・ヘルガー ♂
 持ち物:ヘルガナイト
 特性:もらいび←→サンパワー
 覚えてる技:かみつく、ほのおのキバ、ふいうち、おにび、かえんほうしゃ、かみくだく、れんごく、ほえる、はかいこうせん、アイアンテール、あくのはどう、みちづれ、だいもんじ、ハイパーボイス、ヘドロばくだん、ちょうはつ、ほのおのうず、まもる

・ボスゴドラ ♂
 持ち物:ボスゴドラナイト
 特性:がんじょう
 覚えてる技:ロックブラスト、あなをほる、なげつける、メタルクロー、アイアンヘッド、アイアンテール、てっぺき、メタルバースト、ボディパージ、ヘビーボンバー、ロックカット、ほのおのパンチ、もろはのずつき、ラスターカノン、ドラゴンダイブ、でんじふゆう、だいちのちから、カウンター、ばかぢから

・キルリア(ラルトス→キルリア) ♀
 特性:シンクロ
 覚えてる技:リフレクター、ねんりき、まもる、テレポート、マジカルリーフ、シャドーボール、マジカルシャイン、トリックルーム


ゲッコウガ
・ニダンギル(ヒトツキ→ニダンギル)
 特性:ノーガード
 覚えてる技:ラスターカノン、せいなるつるぎ、つばめがえし、かげうち、つじぎり、シャドークロー、きんぞくおん

・キリキザン
 特性:まけんき
 覚えてる技:つじぎり、くろいまなざし、ロックカット

・アギルダー
 特性:うるおいボディ
 覚えてる技:スピードスター、むしのさざめき、ギガドレイン、みずしゅりけん、こうそくいどう、かげぶんしん、こころのめ、はたきおとす、バトンタッチ

・ダンバル(色違い)


イッシキイロハ 持ち物:キーストーン、りゅうのウロコ
・デンリュウ(モココ→デンリュウ) ♀
 持ち物:デンリュウナイト
 覚えてる技:ほうでん、シグナルビーム、わたほうし、コットンガード、エレキネット、でんじは、パワージェム、でんじほう、アイアンテール、りゅうのはどう、こうそくいどう、じゅうでん、げきりん

・フライゴン(ナックラー→ビブラーバ→フライゴン) ♂
 特性:ふゆう(ちからずく→ふゆう)
 覚えている技:ギガドレイン、かみくだく、むしくい、じならし、すなじごく、がんせきふうじ、りゅうのいぶき、ばくおんぱ、だいちのちから、りゅうせいぐん、ドラゴンダイブ、ストーンエッジ、じわれ、げきりん

・ガブリアス(フカマル→ガバイド→ガブリアス) ♂
 特性:さめはだ
 覚えてる技:あなをほる、りゅうのいかり、ドラゴンクロー、りゅうせいぐん、ステルスロック、ドラゴンダイブ、げきりん

・ガチゴラス(チゴラス→ガチゴラス) ♂
 特性:がんじょうあご
 覚えてる技:げきりん、かみくだく、ドラゴンテール、ふみつけ、いわなだれ、アイアンテール、ストーンエッジ、りゅうのまい

・シードラ(タッツー→シードラ) ♀
 持ち物:ピントレンズ
 特性:スナイパー
 覚えてる技:げきりん、シグナルビーム、ハイドロポンプ、ラスターカノン、こうそくいどう、えんまく、きあいだめ

・コドラ(ココドラ→コドラ) ♂
 特性:いしあたま
 覚えてる技:ドラゴンダイブ、じならし、メタルクロー、みずのはどう、がんせきふうじ、アイアンヘッド、ロックカット

控え
・マフォクシー(フォッコ→テールナー→マフォクシー) ♀
 特性:もうか
 覚えている技:かえんほうしゃ、ほのおのうず、ソーラービーム、にほんばれ、ワンダールーム、スキルスワップ、メロメロ、ニトロチャージ、マジカルフレイム、シャドーボール、ブラストバーン、だいもんじ、サイコキネシス、トリックルーム

・ヤドキング ♂(校長からの贈り物)
 覚えてる技:サイコキネシス、みずでっぽう、パワージェム、まもる、うずしお、ずつき、トリックルーム、シャドーボール、でんじほう、かえんほうしゃ、きあいだま、いやしのはどう、ふぶき

・ラプラス ♀
 覚えてる技:れいとうビーム、フリーズドライ、あられ、ぜったいれいど、でんじほう、げきりん

・ボルケニオン
 覚えてる技:スチームバースト、ハイドロポンプ、オーバーヒート


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ぼーなすとらっく2『シャラジムにイケメン御曹司』

今回は続編のデオキシス襲来から二ヶ月後くらいの話です。

〜案内〜
目次のところに時系列順に並べようと思うので、アニポケ風のサブタイトルもつけていこうと思います。



 デオキシス襲来から二ヶ月。

 今日は久しぶりにシャラシティへと来ている。

 まあ俗に言うジムの視察である。

 たまに様子を見に行くようにしているのだ。ジムリーダーどもが見に来いって口々に言い寄るから。

 全員何なの? そこまでして俺に見てほしいわけ? 俺が見ても特に何かあるわけでもないのに?

 ユキノとハルノにはこれも仕事だからと、他の仕事は調整してもらっているのだが、いかんせんシャラシティは遠い。正直行くのが面倒。なのでどうせシャラに行くなら西側のジムを回ってしまおうという軽い旅行と化すのが常となっており、数日空けることになっている。

 それで先にショウヨウジムへザクロさんの様子を見に行ったのだが、イチャイチャしていやがった。何か勝ち誇ったような顔でりゅうのウロコを渡してきたので、遠慮なくもらってやったわ。

 そして今日シャラシティに来たのだが、なんかジム周りに人集りが出来ていた。

 何かあったのか?

 

「あ、あにょ」

 

 噛んだ………泣。

 こういうのはいつになってもやはり俺である。

 だって知らない人に声かけるとか無理でしょ。途端に口が回らなくなる。

 

「「「?!」」」

 

 えー、何で俺を見た途端に目を見開くのん?

 そんな驚くような顔だった?

 ああ、この目だな。不審者に思われたんだろう。

 

「え、なんで大魔王様が」

「し、知らないわよ。でも」

「ええ、こんなチャンスは二度とないわ」

 

 ねぇちょっと?

 今嬉しくない単語が聞こえたような気がするんですけど?

 誰が大魔王様だ。つーか様付きなのかよ。

 

「え、大魔王ってあの?」

「チャンピオンよりも強くてどんな敵も寄せ付けないカロスの支配者の?」

 

 それもはやフラダリレベルの悪党じゃね?

 

「しかも眼鏡をかけてるなんてレアよ」

「眼鏡のイケメン大魔王様………」

「お手とかしても大丈夫かな」

「大丈夫よ、きっと。だって忠犬ハチ公様なんだし」

「誰が犬っころだ」

 

 あ、思わずツッコミを入れてしまった。

 

「「「「「「……………………」」」」」」

 

 ほら固まってしまったじゃねぇか。

 これどうしたらいいんだよ。

 

「ちょっとー! ジムの前で何してるんですか!」

 

 あ、ジムリーダー様がお見えになった。

 

「ってハチマン?!」

「ハチマンですよ」

「アンタ何でここに!?」

「何でっていつもの視察だ。こんな仕事が増えたのも元はと言えばお前が発端なんだから覚えとけよ」

「あ、あーね」

 

 こいつ、絶対忘れてやがったな。

 

「で、この人集りは何なの?」

「………ユイさんがその………」

「なに? またやっちゃってんの?」

「う、うん………」

 

 ユイガハマユイ。誰かさんの「お団子頭は明るい茶髪がいい」発言により髪を染めてしまった通称アホの子。周りとのテンションの差について行けず距離を置くようになった俺をずっと気にかけてくれていた優しい女の子だ。

 先のリーグ大会に向けてコルニの元で修行していたこともあり、大会後はシャラジムのジムトレーナーをしている。

 そこまではいいのだ。ユキノに鍛えられてきたこともあり、この一年弱で随分と知識と経験を積んできた。それを発揮する場を用意してくれたコルニには感謝しているくらいだし。

 ただジムトレーナーになってからというもの負けなしなんだとか。今では東の関門エイセツジム、西の関門シャラジムとまで言われるほど。ただ前者は何とかジムリーダーまで辿りつけるらしいが、後者はジムトレーナーにすら勝てないという異例の事態となっているのだ。

 まあ別にそれが問題視されてるわけじゃないから、俺たちからは何もする気はない。ある意味ポケモントレーナーたちを活気付けてるし、大会後に沸き起こった謎のゲッコウガブームに感化されたガキどもの出鼻を挫くことが出来てるから大いに結構。なのだが、そのせいで観戦客が増えているというのも事実ということらしいな。可愛い系アホの子が豪快なバトルをしていれば、そりゃ誰だって見たくなるさ。

 

「取り敢えず入って」

「おう」

 

 今度はどこのどいつがユイの餌食になっているのかと思いながら、コルニに案内されジムの中へと入った。

 

「シュウ、はどうだん!」

 

 中ではユイのルカリオがゲコガシラとバトルしていた。

 チャレンジャーは………まさにブームに感化されたっぽい少年かよ。

 

「ゲコガシラ、みずのはどう!」

 

 ルカリオのはどうだんを相殺すべく、水を波導で操り受け止めた。

 

「ゲコガシラ!?」

 

 だが、威力・スピードに圧倒的な差があり、水の壁は貫通しゲコガシラにトドメを刺してしまった。

 

「ゲコガシラ、戦闘不能! よってジムトレーナーユイの勝利!」

 

 判定はルカリオの勝利。

 

「くそ、オレたちは最強だったのに、なんで勝てないんだ……!」

 

 その結果に少年は悪態を吐いている。

 最強、ね。

 

「………少年君はスクールで一番強かったの?」

「ああ、そうさ。オレたちは負けなしだったんだ。なのに……!」

 

 スクール内で最強だからと言ってジムリーダーに勝てるとは限らない。勝てると思うのは所詮世界を知らないガキの思い上がりだ。俺ですら、最初カントーのジム戦巡りで負けなしだったわけじゃないからな。エスパータイプ恐るべし。

 

「あたしと大違いだ。あたしはスクールでも成績悪い方だったし、卒業試験もギリギリ。それにあたしは一年前にようやくトレーナーになったばかりなんだよね」

「………なんだよそれ。オレよりも後にトレーナーになったやつに負けた弱いやつって笑ってんのかっ!」

「ええっ?! ち、ちがうよそうじゃなくて! あたしが言いたかったのはそんなあたしでも強くなれたってことだよ」

 

 どうやら励まそうとしてるみたいだが、逆に勘違いされてしまったみたいだ。

 

「あたしの周りには強い人がたくさんいてさ。ほら、ヒッキー……ヒキガヤハチマンって知らない?」

 

 おいこら、そこで俺を出すな。

 

「ヒキガヤハチマン?! それってあのゲッコウガ使いの!?」

 

 ほら、こうなるじゃん。

 俺はお前たちが憧れてるような奴じゃねぇんだよ、少年。だからそんな眩しい目をするな。あとゲッコウガ使いじゃない。今では使われてるようなもんだ。

 

「そうそう、最強って言ったらアレくらいじゃない? だからあたしも少年君もまだまだ弱いんだよ。でも今日はそれに気づけた。それだけでも大きな一歩だよ。自分の弱さを知ってる人と知らない人とでは大きくちがうって彼も言ってた」

「自分の弱さを知ってる人………」

 

 言ったっけ………?

 覚えてねぇや。

 

「シャラジムはね、そういうところも見てるんだよ。メガシンカを使いこなすジムリーダーだからこそ、トレーナーとポケモンの絆を重要視してるんだ。少年君はどこまでゲコガシラのこと知ってる? 強いところはどこ? 弱いところはどこ?」

「それは………」

 

 急に問い詰められた少年は何も返せず俯いてしまった。

 

「答えられないよね。あたしもそうだった。何となく描いているバトルのビジョンはある。でもそれを成功させられない。それはね、お互いのことをまだまだ知らないからなんだよ。あたしのやりたいこととポケモンたちができることに差があったりしてさ。それが原因で上手くバトルを組み立てられなかった。だからあたしはポケモンたちのことを知ることにした。好きなものは何か。嫌いなものは何か。得意なことは何か。苦手なことは何か。色々知らないことだらけだったよ」

 

 これは俺たちと旅をし出した頃の話だな。初めてのバトルでコマチたちに全敗し、その後俺があいつがやりたかったことをあいつのポケモンで成功させて見せた。

 その出来事がユイをここまで成長させてくれたみたいだ。

 ユキノにも強く言われて来たんだろうな。

 

「少年君もまずはゲコガシラのこと、他のポケモンたちのことをもっと知っていって。そして自分はこんなバトルをしてみたい、こんな夢があるんだって知ってもらうんだよ。そうすれば、少年君たちは今よりももっと強くなれるから」

「姉ちゃん………」

 

 ユイはやはり言葉が巧みだ。

 別に難しい言葉を連発するわけじゃない。何ならアホの子の名において擬音語を持ち出したりすることもある。だが、俺やユキノのように回りくどいこともしない。直球で思ったことをそのまま言葉にするからこそ、伝わることもあるのだ。

 

「みんなのこといっぱい知れたらまたおいで。そしてあたしに色々聞かせてほしいな。その時はあたしもシュウのこと、もっと君たちに教えてあげるから」

「うん!」

 

 落ち込んでいたはずの少年は、いつの間にかその目に闘志を取り戻していた。

 

「姉ちゃん、オレもっともーっと強くなってくるから! 姉ちゃんなんか瞬殺にしちゃうくらい強くなってくるから!」

「うん、がんばれ!」

 

 そして、ユイに次来た時の勝利宣言までして飛び出ていっちまったよ…………。

 これはアレだな………。

 

「なあ、コルニ。お前の仕事取られてね?」

「あ、やっぱりそう思う?」

 

 コルニが暇な理由がよく分かった。

 アフターケアまでユイがやってしまっていては、そりゃ暇にもなるだろう。

 

「天然は恐ろしいのう」

「おじいちゃん、ジムに来るなんてどうかしたの?」

 

 天然か。

 じじいの言う通りだな。

 あいつはただ普通に思ったことを口にしているだけ。役割分担だなんて言葉は一切頭にないはずだ。

 

「いや、これから客が来ることになってるんよ」

「え、アタシ聞いてないんだけど」

「言っとらんよ?」

「「………………」」

 

 つか、なんだこのじじい。

 孫にくらい伝えてやれよ。

 

「あ、ヒッキー!」

「おう、ユイ。元気にしてたか?」

「うん! 今34連勝中!」

 

 お、おう。

 いつの間にこんな戦闘狂になってしまったんだろうか。まさかそんな数字になってしまっていたとは。

 

「あれ? キルリアに進化したんだ」

「ああ、こっちに来る前にな」

「大きくなったねー、キルリアー」

「リーア!」

 

 キルリアはあまりボールに入りたがらない。

 恐らく親と逸れた身なのだろう。それが原因なのか一人になるのは嫌がっている。

 だがボールに入ってしまえば一人になってしまうので、極力入りたがらないのだ。その分、歩く時は手を繋ぎたがる。何なら抱っこまでせがまれる時があるくらいだ。可愛いから全部しちゃうけど。

 ゲッコウガももうボールに入る気は全くないから、別にいいんだけどね。あ、こいつは元々か。

 

「バトルはさせないの?」

「技を使い熟せるように特訓はしてるけど、バトルはまだ苦手だからな。無理強いするつもりはない」

「過保護だね………」

「バトルが嫌いってわけじゃないし、やりたいって言い出したらやってるよ」

 

 過保護だなんて失敬な。

 俺は至って普通だっつの。自分がやりたくもないことを強要されるのが嫌なのに、それをポケモンたちに強要するのは間違ってるだろ。俺は自分に甘いからな。ポケモンにも甘いのだ。

 あ、これが過保護って奴だったな…………。

 

「ヒッキーって結構放任主義だよね。ゲッコウガの時もそうだったし」

「そりゃポケモンたちもやりたいようにやるのが一番だからな。何かあればゲッコウガがいるし、何かなくてもゲッコウガがいる」

『おい、オレの仕事を増やすな』

「冗談だっつの。まあ、要は適材適所。キルリアは俺の疲れを癒してくれるだけで今は十分だ」

「リーア」

 

 今はこいつがやりたいことをやらせてあげたい。傷心を気遣ってってのもあるが、なんかこいつには笑っててほしいのだ。

 

「こんにちは、ジム戦できるかな?」

「あ、いらっしゃいませー! ジム戦できますよ! ただし、ジムトレーナーを倒すことができたら、ですけど」

 

 と、また挑戦者が来たみたいだ。

 ユイがさっさとそいつのところへと行ってしまった。また新たな犠牲者が出るのかね。

 

「ジムトレーナーか。構わないよ。ジムトレーナーからもジムリーダーの強さが分かるからね」

「なら、あたしとバトルしましょー!」

 

 ん?

 んん?!

 おいちょっと待て。

 何でホウエンのイケメン御曹司がいるんだ?

 

「おい、じじい。何故イケメン御曹司が来てるんだよ」

「そりゃ、わしの客だし」

「「…………………」」

 

 マジかよ…………。

 博士の客ってツワブキダイゴなのかよ。

 

「ユイさん、気づいてないよね?」

「多分、知らないと思う」

 

 うーん、本人を前にして何の反応もないし恐らく知らないと思われる。取り敢えず後で本人確認しなきゃな。

 

「これはこれで面白いのう。終わるまで観戦しよう」

「…………絶対負けるよな」

「うん、無理だと思う」

 

 じじいはニヤニヤしている。

 そんなにユイが負けるところ見たいのかよ。

 

「止めるか?」

「いいんじゃない? ハチマンも見たいでしょ?」

「そりゃあな。あの人から言い出したことなんだし」

 

 まあ俺も見たいけど。

 ほら、あんなに連勝してると止めたくなってくるじゃん?

 今あれと同じ心境なんだと思う。

 

「それではルール説明をします。使用ポケモンは一体。先に戦闘不能になった方を負けとします。なお、技の使用は四つまでとなります」

「一本勝負か。メタグロス」

「いくよ、シュウ!」

 

 はい来ました切り札。

 こりゃさすがに無理だろ。

 

「ルカリオか。ここのジムリーダーと同じ種族を連れてるんだね」

「はい、ジムリーダー攻略のヒントをあたしから掴んでもらえるようにしてるんです」

「それは面白いね。君に勝てればジムリーダーにも勝てる確率が上がるようになっているシステムか。今度あっちのみんなにも話してみようかな」

 

 ホウエン地方にはジムトレーナー制ってまだなかったんだな。既にあるもんだと思ってたわ。

 

「それでは、バトル始め!」

「一応挑戦者の身だからこっちからいかせてもらうよ。メタグロス、コメットパンチ!」

 

 おおう、最初からその技かよ。

 メタグロスはサイコパワーで自身を浮かすと前脚を突き出し、ルカリオに向けて一気に加速した。

 

「シュウ、引きつけて!」

 

 あれ?

 躱さないのか?

 いくら効果いまひとつの技だとしても相手はメタグロス。しかも元チャンピオンの実力者が育てたポケモンだぞ。素の威力がまず桁違いのはずだ。当たればそれなりのダメージになるのは間違いない。

 

「今だよ! カウンター!」

 

 おお、そうきたか。

 いつの間にカウンターを習得してたんだよ。

 コルニの方を見ると横に首を振っていることから、こいつが教えたわけじゃなさそうだ。

 

「………初手からカウンターとは。さすがに予想出来なかったよ」

「バトルにおいて最も重要なのは威力でも弱点を突くことでもなく、意外性だって言われてきましたから」

「意外性か…………。なるほど、確かにそうだね。相手の不意を突くことで動揺が生まれ、大きな隙ができる。そうなるともはや威力や弱点なんか関係なしに展開をモノにできるからね。それを言っていた人はどんな人なんだい?」

「あまり人前に出るのは得意じゃない人だから、あたしに勝てたら教えてあげます!」

「そう言われると是非とも聞かせてもらいたいものだね。メタグロス、サイコキネシス!」

 

 メタグロスが目を光らせると、一発でルカリオを壁にまで突き飛ばしてしまった。

 

「シュウ!?」

 

 突然のことにユイも反応できていない、か。

 

「あんなキレイに、流れるように飛ばされるなんて…………」

 

 ユイのいう通り技の発動からヒットまで流麗で無駄がない。だからこその威力だと言わんばかりだ。

 

「どうだい、僕のメタグロスは」

「とても強いです。そして技がキレイです」

「ありがとう。僕の親友は魅せることが得意でね。色々と聞かされてる内に染み付いてしまったんだ」

 

 魅せること。

 そういえばホウエン地方はコンテスト発祥の地でもあったな。カロス民に比べれば魅せることに長けているということか。

 

「これなら全力を出してもよさそうですね」

「是非見せてもらいたいものだよ」

「それじゃ、シュウ!」

「ルガゥ!」

 

 相手が誰だか知らないからの発言だな。

 

「メガシンカ!」

 

 ユイに託したキーストーンがルカリオが首から下げているメガストーンと共鳴し、白い光に包まれたルカリオがみるみるうちに姿を変えていく。

 

「メガルカリオか。シャラジムならではの要素だね。それなら僕もお見せしよう」

 

 ツワブキさんも深く頷き、ジャケットの胸につけているラピンペルを手に取り、キスをした。

 

「メタグロス、メガシンカ!」

 

 するとメタグロスの右前脚から光り始め、ラピンペルと結び合っていく。

 

「………メガシンカ、使えたんですね」

「僕の趣味は石を集めることでね」

 

 白い光に包まれたメタグロスも姿を変えた。

 メタグロスのメガシンカ、一体どんな変化をしているのだろうか。

 

「そういうことですか。シュウ、いくよ! はどうだん!」

「メタグロス、サイコキネシス!」

 

 先手を仕掛けたのはユイ。

 ルカリオが波導を凝縮し、弾丸を放った。

 メタグロスは超念力で追尾機能を持った弾丸を強引に逸らし、さらに押し返す。

 

「ブレイズキック!」

 

 だが、はどうだんは囮だったようで、既にルカリオはメタグロスの背後頭上に移動しており、炎を纏った蹴りが振り下ろされた。

 

「メタルクローで弾け!」

 

 メタグロスは臆することなく、鉄の爪で蹴りをいなす。

 

「シュウ、回ってもう一回!」

 

 蹴りが外れたルカリオは右脚を軸に回し蹴りを繰り出した。

 

「メタグロス、サイコキネシス!」

 

 だが、これも当たる寸前に受け止められてしまった。

 跳ね返される勢いを使い、ユイのところまで戻るルカリオ。どうやらメタグロスは追わないようだ。

 

「隙がない…………」

「まさかはどうだんを囮にするとはね。動きに無駄がなくて素晴らしいよ」

 

 元チャンピオンの評価は良好らしい。まあ、三冠王なんて言われているユキノが一から指導してたんだ。これくらい出来て当然だろう。でなければ、あの完璧主義者がジムトレーナーとして送り出すわけがないからな。

 

「こうなったら………シュウ、あたしを使って!」

 

 ユイはそう言うとルカリオにその豊満な桃肉を差し出した。

 いつも思うがそのセリフ、なんか卑猥だぞ。

 

「?!」

 

 ルカリオはユイの胸から腕を引き、二本の太い骨を取り出した。色はシルバー。恐らく以前よりも性能が上がっているのだろう。

 コンコンブル博士によれば、これはユイとルカリオだからこそできる芸当らしい。どうやらユイが持つ波導(というのが正しいのかは分からないが)とルカリオの波導のパルスが一致するようで、それにより通常よりも強靭な骨を作り出すことが出来るんだとか。過程やプロセスはどうあれ、ゲッコウガが俺にアクセスしてきた事と似ているような気がする。

 つまるところ、ポケモンとトレーナーの可能性というのはメガシンカやZ技なるものだけに留まるものではないということだ。

 

「ボーンラッシュ!」

 

 二本の太い銀骨を携えてルカリオはメタグロスへと突っ込んでいった。

 

「コメットパンチ!」

 

 メタグロスは両腕を前に突き出し、突撃してくる。両者勢いよくぶつかれば押し負けるのはルカリオの方だ。

 

「バーチカル・スクエア!」

 

 だがそんなのは杞憂で、ユイは縦斬り四連撃でメタグロスの勢いを相殺し、逆に押し返した。

 

「なっ?!」

 

 これには元チャンピオンも驚いている。

 

「ヴォーパル・ストライク!」

 

 そしてそのまま踏み込み、突撃技を繰り出した。

 

「てっぺき!」

 

 ま、そこは元チャンピオン。

 すぐに冷静さを取り戻し、確実な対応を見せてきた。

 

「ブレイズキック!」

 

 銀壁に勢いを殺され攻撃を外したルカリオはもう一本の銀骨を地面に突き刺し、棒高跳びの要領で銀壁を超えていく。

 そして、炎を纏った踵落としが繰り出された。あれはライダーキックかな?

 

「メタグロス、サイコキネシス!」

 

 一発入ったのはいいが、その一撃では倒れず逆に攻撃のタイミングを与える形となってしまった。

 

「シュウ?!」

 

 目を光らせて超念力を発動し、ルカリオをフィールドの真ん中で固定した。どうやら身動きすら取れず、本当に固定されているようだ。

 

「勝たせてもらうよ。メタグロス、コメットパンチ!」

 

 完全に的になったルカリオはメタグロスの四本の前脚により、ユイの後ろの壁へと打ち付けられた。

 

「ルカリオ、戦闘不能! よって勝者は挑戦者とします!」

 

 いやはや何とも恐ろしい。

 最後、えげつなくないですかね。

 

「お疲れー、ユイさん」

「ごめん、コルニちゃん。負けちゃったよ」

「あー、それなんだけど………。最初から勝てないだろうなーとは思ってたんだ」

「へっ?」

 

 いち早く駆けつけたコルニの後ろからホロキャスターを操作して、とある人物のプロフィールを探し出した。

 

「ユイ、ツワブキダイゴって知ってるか?」

「ツワブキダイゴ…………?」

 

 見つけたプロフィールをユイの前に掲示してやると………。

 

「ほら、こんな人」

「………元ホウエンチャンピオンにしてデボンコーポレーションの御曹司っ!?」

 

 まあ、予想通りの反応をしてくれました。

 

「あ、え、あ………えと……………」

 

 ホログラムと対戦相手を何度も見返し、オロオロとしているユイはとても面白い。動画に撮りたかったな。

 

「改めまして。僕はツワブキダイゴ。元ホウエン地方のチャンピオンの今はしがない石マニアです」

 

 クスリと笑ったイケメンは超イケメンスマイルで自己紹介をしてくれた。

 

「コンコンブルさん、お久しぶりです。コルニちゃんも元気だったかな」

「よう、ダイゴ君。メガシンカを完全に使いこなしてるのう」

「師匠がよかったからですよ」

「またまた、世辞を言っても何も出んよ」

 

 ん?

 この口振り………、まさか師匠って…………。

 

「随分とレベルの高いジムになりましたね」

「コルニが英才教育を受けたトレーナーを弟子にしたからのう」

 

 英才教育って………。

 まあ確かにそこら辺のトレーナーよりは英才教育になるかもしれんが。それを言ったらイロハなんか超英才教育だぞ。俺やユキノ以外にカロスの四天王三人から直々に鍛えられてるんだし。

 

「英才教育?」

「高度な教育を受けた奴のことだ。超エリートトレーナーとでも表現した方が分かりやすいか?」

「ば、バカにすんなし! 意味くらいちゃんと知ってるから! そうじゃなくて誰が英才教育受けてるのかって話だよ!」

「そりゃお前以外に誰がいるんだよ………」

「うぇ!? あたし?!」

 

 こいつ自覚なかったのかよ。

 そもそもコルニの弟子はお前だけだろうが。

 全く、このアホの子は。

 

「ユイからしてみれば友達に鍛えられたって感覚だろうが、周りからしてみれば元チャンピオンや三冠王やジムリーダーに鍛えられた超エリートなんだよ」

「マジ…………?」

「マジ」

 

 はあ…………、ユイがこれだとコマチ辺りも似たような感覚になってるんだろうな。実の兄が俺だし。

 

「すごい人たちに教えてもらってる自覚はあるけど、超エリートコースだったなんて…………」

「どこの世界に元チャンピオンや大会優勝経験者に鍛えられる奴がいるんだよ。そんなのばっかなら俺たちの仕事がバカにならんわ」

 

 それじゃただの貧乏くじでしかない。何が楽しくて奉仕活動しなきゃならんのだ。せめてこっちにも選ぶ権利を与えろって反対運動起こすまであるな、ユキノ辺りが。

 

「ところで君は?」

「ただのポケナビユーザーです」

「おや、こんなところにポケナビを使ってくれてる人がいるなんて驚きだな」

「………旅の同中は世話になってました。ただカロスでは使えないって言われた時には目の前真っ暗になりましたけど」

「あははは、そりゃ済まないね。カロスには既にホロキャスターが出回っていたから市場開拓の場がなかったんだ」

 

 これはあれだな。フラダリのせいだな。あいつはこんなところでも俺の邪魔をしてたのかよ。

 

「ダイゴ君、騙されちゃいかんよ。此奴は今じゃカロスのトップに君臨する男だからな」

「カロスポケモン協会理事………元はカントー本部理事の懐刀だった忠犬ハチ公。ユキノシタ建設が投資している相手」

「………詳しいですね」

 

 というか最初から分かってたみたいですね。

 まあそりゃそうか。

 リーグ大会後にハルノが公表しちゃってるし。そのおかげで協会のピンチがチャラになったようなもんだしな。

 …………一部のおっさんたちは独裁支配だなんだと言ってそうだが知らん。あいつらは口だけで肝心な時に全く動こうとしない奴らばかりのクズ連中だし。

 

「ハルノちゃんとは付き合いがあってね。彼女がカロスポケモン協会の人間として来た時には驚いたよ。束縛を嫌う彼女がそんなところに身を置くなんて」

「あー、想像は出来ますね。でもあの人結構楽しそうですよ。俺の知らないうちに色んなこと企ててますし」

 

 ハルノのおかげでデボン・コーポレーションとも繋がりを持ててるからね。というか知り合いだったのかよ。さすがユキノシタ家だな。

 

「だろうね。でも彼女の手綱を握れる人間は母親だけだと思っていたから、君がすごいことは重々承知しているよ」

「そりゃどうも」

 

 ママのん、既に手綱を完全俺に譲渡してるけどね。ハルノが俺に逆らわないとでも思ったのかね。まあ、気負うなって言っても負い目が無くなるとは思えないからな。そんな相手に掌を返そうなどとはいくらハルノでもそう簡単にはやるまい。ましてや今のハルノは活き活きとしてるし、これでよかったんだと思っている。

 逆に可哀想なのがパパのんだ。ハルノの手綱がない分、パパのんの手綱がぎゅっと締まっていっているようで、今でこそ縛られてそうなのにこれ以上とかマジで勘弁してあげてっ!

 

「取り敢えず、一人分かっていなかったアホには紹介できたみたいなんで聞きますけど、一体何の用なんですか? 聞くところによるとじじいの今日の客らしいですけど」

 

 心の中でパパのんに合掌しつつ、ダイゴさんに用件を聞いてみた。

 

「実はカロスを襲撃したというデオキシスについて、コンコンブルさんに話を聞きに来たんだ」

「デオキシス?」

 

 まさかのデオキシスについてだった。それならじじいよりハルノのところに来た方が良かったんじゃねぇの?

 

「ああ、僕たちはホウエン地方でデオキシスとやり合ったことがあってね。巨大な隕石を落とされそうになったんだ」

 

 ユイが聞き返したのに対し、ダイゴさんはそう答えた。

 

「グラン・メテオΔ、ですか」

「知ってくれていたんだね」

「そりゃまあ、カントーポケモン協会理事の懐刀とか言われてましたし。情報だけはありますよ」

 

 そりゃもう、無駄に。

 俺いなかったんだからいいじゃんって情報までくれるから、やっぱり興味本位で資料見ちゃうじゃん?

 

「そもそもデオキシスは宇宙に生息するポケモン。それが隕石とともにホウエン地方に落ちて来たんだ。しかも複数体がコアとして。つまりは宇宙はデオキシスの世界であり、何体も生息するってことだ。んで、あいつらの食はこれまた隕石。結局隕石とデオキシスは表裏一体の存在ってわけですよね」

「ああ、僕もそう考えている」

「そんな奴がカロスに来た理由は一つでしょ」

「というと?」

「カロスにはデッカいのがあるでしょうに。宇宙から来たというオーパーツ、ヒャッコクの日時計が」

「っ?!」

 

 おー、ようやく合点がいったみたいだな。

 まあ、これも俺たちの憶測でしかないけど、ネオ・フレア団とやらが日時計を重要視して、尚且つ実際に変化があったんだからそう考えざるを得ないだろう。

 

「日時計………! そうか、確かにアレは宇宙からの飛来物とされている。その仮説が正しければ、いや逆にデオキシスが飛びついたということは仮説がより信憑性を増してきたってことか」

 

 確かにダイゴさんの言う通り日時計の言い伝えはただの言い伝えだ。まだよく分からないことばかりである。日時計について研究している者もいるだろうが、成果を上げているのはプラターヌ博士以外めぼしい者はいない。だから何が真で何が偽なのか、それすらもはっきりしていないと言えよう。だからこそ、デオキシスが飛びついたことは手っ取り早い証明となったのだ。

 

「ま、あとは本人に聞いてみたらどうですか? 聞けるならの話ですけど」

『………オレ、一度も出したことないぞ』

「なら、一応警戒だけはしておいてくれ」

『はあ…………どうなっても知らないからな』

 

 捕まえたはいいが、結局一度も出さなかったのね。

 そりゃそうか。やっとこさ鎮静させたのに、また暴れ出したらやるせないからな。ダークライにもクレセリアにも申し訳が立たなくなる。

 

「っ?! これは………?」

 

 まあ、取り敢えずは暴れそうな気配はないな。

 草でぐるぐる巻きになったままだし。

 

「あの時のまんまかよ…………」

『出したことないからな』

 

 つか、無理だな。これでは聞きようがない。というかそもそも普通の状態でも会話ってできるのだろうか。ゲッコウガを始め、俺の周りにはディアンシーとかボルケニオンっていうテレパスで会話ができる奴がいるからな。何なら暴君様も入れてもいい。そうでなくてもリザードンとかダークライはおにびを使って意思表示して来たし。

 おかげで俺の感覚が麻痺しきってるわ。

 

「…………無理だな」

『無理だろうな』

「諦めるか」

『しかないだろうな』

 

 無理なもんは無理だ。

 命がかかってるわけでもないし、必死になる必要はない。だから諦めるのが吉だ。

 

「えっと、これって結局何なんだい?」

「デオキシスです」

「はっ?」

『デオキシスだ』

 

 あ、元チャンピオンの頭がフラつき始めたぞ。

 

「え、なに、捕まえたの?」

「俺じゃなくこいつがですけど」

『………放置しておくわけにもいかんからな。ボール投げたら入った』

「あははは…………」

 

 その場にいたユイは空笑いをしている。

 もうね、ほんと笑うしかないもんな。

 あの時ほど表情ってどうやって動かすんだっけって思っちゃったくらいだし。

 

「ポケモンがポケモンを捕まえるなんて前代未聞の話だよ。実は君は元人間だったとかそういうわけではないのかい?」

『オレはオレだ』

「こいつはケロマツから進化したポケモンですよ」

「それにしては随分と人間らしいというか………」

 

 人間らしい、か。

 確かにそういう風に見えるが、それは俺たちの視点から見た場合だ。逆の視点、ポケモン側から見れば人間の方がポケモンたちの真似事をしているように見えているかもしれない。

 結局、目に見えるものだけに囚われてるようじゃ何も変化は生まれないらしい。

 

「………ツワブキさんはポケモンたちの限界って何だと思います?」

「ダイゴでいいよ。ポケモンたちの限界………? そうだね、最終進化を超えるメガシンカ。或いは図鑑所有者たちが使う究極技。或いは一撃必殺。色々あるんじゃないかい?」

「そうすか………。俺はポケモンたちが求め続ける限り限界なんてないと思ってますよ」

「!? それは、どういうことだい?」

「簡単な話ですよ。限界なんてものを自分で決めてる内はそれが限界になってしまう。逆に限界なんて決めずに自分のやりたいようにやってる奴は限界なんてものがないってだけです」

 

 限界。

 これも一種の目に見えているものだ。

 これが限界、あれが限界、限界限界。そうやって自分で限界を作ってしまうから、普通で終わってしまう。

 別にそれを否定するつもりはない。出来ないことは出来ないんだからどうしようもない。無駄に時間を浪費するくらいならば、他のことに割り当てた方が効率的だし、満足度も高い。

 だが、それは自分の中だけでの話だ。相手に限界を押し付けるのはまた別の話になってくる。

 トレーナーとポケモンの関係はずっと主人と召使いのような状態だ。ポケモンはトレーナーの言うことに従う。従ってしまうのだ。それは限界にも当てはまること。ポケモンの限界をトレーナーが決めつけてしまっては、ポケモンはそれに従い、トレーナーの言う限界ラインを作ってしまう。それではポケモンたちの可能性を、相手の可能性を否定し潰しているに過ぎない。それはもはやただの欺瞞である。

 

「ダイゴさんはポケモンの限界は最終進化を超えるメガシンカと言いましたけど、本当にそれはメガシンカだけだと思いますか?」

「………他にあるとでも言うのかい?」

 

 何を言ってるんだって目だな。

 ま、常識しか知らなければそういう反応にもなるか。

 

「ええ、なんせこのゲッコウガにはもう一つ上の進化がありますからね」

「………ゲッコウガのメガシンカはまだ見つかっていない。なのにそれを超える進化、だって?」

 

 今度はわけが分からないといった目だな。

 ダイゴさんは自分の知識を搾り出して何とか理屈を立てようとしている。

 

「いや変化とすると………フォルムチェンジかい?」

「近からず遠からずってところですね。正確にはメガシンカシステムを特性に置き換えて発動させるフォルムチェンジです。本人曰く」

「………ちょっと待ってくれるかい。まだ理解が追いついてないんだ」

 

 口にしてみたはいいが、ただ単にピースを当てはめていただけだったのだろう。右手で頭を抑えている。

 こんな時でもやはりイケメンはイケメンである。

 

「ゲッコウガは最終進化のポケモン。特性はげきりゅう。稀にへんげんじさいという特性を持っていることがある。現段階でメガシンカも発見されてないし、フォルムチェンジがあるという話も聞いたことがない。……………そこにメガシンカシステムを特性に置き換えて発動するフォルムチェンジ……つまりフォルムチェンジする。そしてそれを可能とさせるのが特性…………いや待て、待ってくれ。そんなことってあり得るのか……………?」

 

 不可能というピースが残ったようだな。

 だが、それは不可能ではないんだよなー。

 

「整理出来ましたか?」

「あ、ああ。いや憶測に過ぎないがちょっと確認させてくれるかい?」

「何なりと」

「君のゲッコウガの特性はもしかしてへんげんじざいだったりするかい?」

「今は違いますけどね」

「………正直あり得ないことが起きたということは理解出来たよ。僕の憶測が正しければ、君のゲッコウガは確かに限界なんてものを微塵も決めてなさそうだね」

 

 ようやく頭がついて来たようだ。

 冷静に、不可能ですら可能性として視野に入れて来た。

 

「聞かせて欲しい。どうやってその姿を手に入れることが出来たのか」

 

 その上での穴埋作業か。

 

『断る』

「だそうです」

 

 ユイとコルニはズコッとコケた。

 ダイゴさんも唖然としてるし。

 

「じゃあ、僕と勝負しよう。それで僕が勝ったら聞かせてほしい」

 

 と、再起したダイゴさんがそう提案してきた。

 

『………オレが勝った場合はどうするつもりだ?』

「話してくれなくていいよ」

『話にならんな。それならまず受ける必要性がない』

 

 戦うのお前だもんな。

 

「………なら、僕のポケモンのダンバルを一体、君に託そう」

『………乗った』

 

 あ、釣られやがった。

 おまえ、元チャンピオンとは言え、ホウエン地方の超有名人になんて対価を示してるんだよ。ダイゴさんもダイゴさんだ。自分のポケモンをレイズするなよ。

 

「はあ………、お前って奴は………」

『元だろうがチャンピオンのポケモンならば、素質を見込める。勝てばいいだけの話だ』

「へいへい」

 

 ほんと前向きで羨ましい。

 負けるなんて一切考えていない。まさに限界を作ってないと言えよう。

 

『それとルールは技の使用制限をなしとする。やるからには全力を見せろ』

「いいよ、やろうか」

 

 ダイゴさーん、それゲッコウガがガチであなたのポケモンを奪いに来てるだけですからね!

 

「んで、どうする気だ? 相手はメガシンカしたメタグロスだぞ」

『見たところ全体的に能力が高い。生半可な攻撃は効かないと考えた方がいいだろうな』

「だろうな。しかもスパコンよりも試算が早い」

『なら視覚を奪う。防御力は技の相性で高めるしかないな』

「ま、今のお前ならトレーナー的視点からも見ることが出来るし、俺は適度に口を挟むようにするわ」

 

 ま、やるのはゲッコウガだし。

 一応トレーナーとしてタイミングは見てやろう。

 

「では、準備をお願いします」

 

 ジム内で審判を勤めている子が、再び立ってくれた。それを皮切りに俺もダイゴさんもフィールドへと向かった。ユイたちも観客席へと移動している。

 

「いくよ、メタグロス。相手はさっきのルカリオよりも強いと思う。心してくれ」

 

 ダイゴさんはメタグロスを出して、オボンの実を食べさせながらそう注意を促した。

 

「………それでは、バトル始め!」

「メタグロス、まずはバレットパンチ!」

『甘い』

 

 あれはたたみがえしか。使うとこ見たことなかったがしっかり習得してやがったな。

 高速のガトリングパンチを畳の壁で全て受け止めた。その隙にメタグロスの背後に回り込み、けたぐりで足下を引っ掛けて転倒させていく。

 

「てっぺき!」

 

 態勢を立て直すまでに時間が掛かることを見越してのてっぺきか。まもるじゃないのがミソだな。あっちは防壁の維持に集中しなければならない。だが、鉄壁ならば特に維持する必要もない。

 ゲッコウガはグロウパンチを繰り出したが、完全に読まれていた。

 

「ゲッコウガ、一旦影に潜れ」

 

 今ここで攻撃したところでそれ程ダメージにはならず、反撃されるのがオチだ。ならば、影の中から様子を見るのが妥当だろう。

 

「影………? メタグロス、どこから来るか分からないぞ」

 

 態勢を立て直したメタグロスは辺りを見渡し、ゲッコウガの気配を探っている。

 …………よし、後ろに気がいった!

 

「ゲッコウガ!」

『真下がガラ空きだ!』

 

 考えていることは同じようで、俺の合図とともにメタグロスの真下から殴り上げた。

 

「アームハンマー!」

 

 だが、やはりそこはチャンピオン。

 すぐに指令を出し離れる前に四本の脚をゲッコウガに当て逃げしていった。

 

『くっ………!』

 

 まさかあの態勢から腕を振り下ろしてくるとは。見かけによらず柔軟性があるな。

 

「どうだい? そろそろお互い本気でいかないかい?」

『いいだろう』

 

 今までのはお互い小手調べといったところか。それだけでも充分にレベルの高いバトルになっているが。

 

「メタグロス、メガシンカ!」

 

 ダイゴさんが胸に刺したラピンペルを取り出しキスをすると、メタグロスと共鳴し出した。

 その間にこっちも水のベールに包まれて姿を変えていく。以前よりも早く、水の流れもスマートになってやがる。それだけ扱い慣れた証なのだろう。

 

「………それがフォルムチェンジした姿ってやつかい?」

『ああ、だがただのフォルムチェンジではない』

「消えた?!」

 

 メガシンカ同様、能力が飛躍的に上がっている。それがただのフォルムチェンジとは異なる点である。しかも本人曰く、手順を間違えれば暴走一途らしい。そういうところはメガシンカにも似ているところである。

 

「メタグロス、こうそくいどうで動き回るんだ!」

 

 メガシンカしたことでサイコパワーが溢れ出ているのか、常に浮いている。それが高速で動き回っているのだから、もう手のつけようがない。

 やはりユイの時よりもハイレベルのバトルを描いているようだ。

 ならばそれに応えるのみだな。

 

「やれ、ゲッコウガ」

 

 ゲッコウガが一瞬で移動したのはメタグロスの身体の下部分。浮いているからこそ出来た新たな隙である。

 そこにへばり付くいるゲッコウガは水を波導で操作し、動き回るメタグロスの全身を覆い尽くした。

 

「下に張り付いていたのかっ?!」

 

 さすがの元チャンピオンもこれは予想外だったらしい。となると今までこういうバトルをする相手とは戦ってきてないということか。

 

「ジャイロボール!」

『甘い!』

 

 高速でジャイロ回転し出したメタグロスに、ゲッコウガは水を黒い波導でさらに包み込み段々圧縮し始めた。

 おかげで水は弾き飛ばされていない。

 つか、何で目を回さないのあいつ。

 

「剥がれない!?」

『うぅ、気持ち悪い………』

 

 あ、酔ってる…………。かっこわる………。

 

「のしかかり!」

『よっ、と!』

 

 なのに舌をメタグロスの身体に巻きつけて綺麗に脱出してるし。

 ドシンと落ちたメタグロスはフィールドに衝撃波を生み出した。ゲッコウガにダメージないけど、俺が転けそうになったわ。

 

『やっぱり硬さも上がってるな』

「なに、お前。それ確かめてたの?」

『見ているだけのと実際やるのとでは勝手が違うからな。情報はあって困らんだろ』

「そりゃそうだが、ちょっと身を削りすぎじゃね?」

『それだけ厄介な相手だってことだ。ああ、気持ち悪い………』

「なりふり構ってられないか。なら、そろそろ準備するか」

『ああ』

 

 メタグロスはやはり硬い。ちょっとやそっとの荒技では芸が足りないようだ。入念に練り込んだ技を作り出すしかないらしい。

 

「ゲッコウガ、まずは背中の手裏剣をグロウパンチで割れ」

「………何を始める気だい?」

 

 何ってそりゃメタグロスを倒すための技作りですよ。

 ゲッコウガは背中の手裏剣を上に投げて、拳で叩き割った。割れた水は宙を漂っている。

 

「波導で操れ」

 

 漂う水はみずのはどうにより制御下に置いていく。

 

「メタグロス、何かされる前に倒すぞ。コメットパンチ!」

「かげぶんしん」

 

 ゲッコウガの動きに警戒しているようだが、こいつは攻撃だけでは止められないぞ。

 

「ハイドロポンプ」

 

 メタグロスは目標が増えたことで攻撃の的を絞れずに戸惑っている。

 そんなメタグロスに、また数が増えている影が一斉に水砲撃を放った。

 

「くっ、まもる!」

 

 ふむ、これは妥当な判断だな。どれが当たるか分からないこの状況。下手に動くより守りに徹した方が生存率が高い。

 

「どろあそび」

 

 まあ、俺たちとしては動かないでいてくれるから準備しやすいんだけどね。

 

「………なぜここでどろあそび………? ますます分からない」

 

 おーおー、元チャンピオンをしても何がしたいのか分かってないようだな。案外ザイモクザはチャンピオンクラスにも初見殺しになれるかもしれないな。どうでもいい話だけど。

 

「結構貯まったな」

 

 上を見上げると水の塊が待機している。みずのはどうにより手裏剣及び水砲撃に使われた水を集めて作ったものだ。

 

「弾け」

 

 それを一気に解放し局所的豪雨を降らせる。

 

「メタグロス、サイコキネシス!」

 

 防壁の連続使用を避けるため、メタグロスに降り注ぐ豪雨を超念力で逸らして躱したか。でもこれ別に攻撃じゃないんだけどね。

 

「くさむすび」

 

 降り注ぐ豪雨はメタグロスの足下から伸びる草を急成長させていく。それはメタグロスの全身を覆う程までに、あっという間に。

 

「っ?! メタグロス、こうそくいどう!」

『遅い!』

 

 最後は俺が言うまでもなく、めざめるパワーにより草ごとメタグロスを発火した。草がより炎の勢いを増す材料となり、みるみるうちにキャンプファイヤーの出来上がりである。

 ゲッコウガのめざめるパワーは炎を生み出すからこそ出来る技の組み合わせによる相乗効果。追加効果では生み出せない連携である。

 

「まだだ。メタグロス、ギガインパクト!」

 

 さすがだ。

 だいもんじにも引けを取らないこの連携技から抜け出すなんて、さすがとしかいいようがない。

 

「けど、別にあれが決め技じゃないんだよな」

 

 だが、今のは全て相手を焦られるための演出でしかない。引けを取らないと言ったって、だいもんじには劣るしメガシンカしたメタグロスが耐えることも想定済みだ。

 

「つじぎりの縦斬り四連撃」

 

 高速で突撃してきたメタグロスを当たる寸前に、まず俺たちから見て右上から左下に向けての斬撃で勢いを殺した。続けて左下から右上に向けての斬撃で態勢を立て直そうと動き出したメタグロスを右へと回し、そのまま一回転して今度は左上からメタグロスの右側面を斬りつけた。そして再度右上から斬りつけると、どうやら急所に入ったらしい。

 

「メタグロス?!」

 

 バーチカル・スクエア。

 縦斬り四連撃の剣技。

 

「ゲッコウガ、トドメだ」

 

 背中から水の手裏剣を抜き頭上に掲げると回転を始める。局所的豪雨によりフィールドに出来た水溜りを吸い上げ、手裏剣は大きくなっていった。

 

『これで最後だ』

 

 四連撃を受けて尚、何とか立ち上がろうとしているメタグロスに巨大な水手裏剣が放たれた。

 熱を帯びていたのか爆発を生み出している。

 

「メタグロス!?」

 

 黒煙が晴れるとメタグロスは元の姿に戻り気を失っていた。

 

「メタグロス、戦闘不能! よって勝者、ヒキガヤハチマン!」

 

 いやー、勝っちゃったよ。

 どうしようか、マジで。

 そろそろこいつを伝説のポケモンに認定した方がいいような気がしてきたわ。

 

「負けたよ。すごいな、君たちは」

「………すごいのはゲッコウガであって俺は別にただのトレーナーですよ」

「いやいや何を言ってるんだい。君の戦略は全く読めなかったよ」

「俺の戦略っていうかこいつの戦略っていうか。最初にあれやるぞって決めてあっただけですよ」

 

 これが公式戦ならばどうなっていたかは分からない。勝っている可能性は高いと思うが苦戦させられるのも事実。防御力を突破出来ず敗北なんて未来もあったのかもしれない。

 

「それじゃ約束通り、こいつを君に託すよ」

『ああ』

 

 ゲッコウガはダイゴさんから一つのモンスターボールを受け取った。

 

『出てこい、ダンバル』

「バール」

 

 あ、このダンバル銀色だ。色違いじゃん。

 

『今日からオレがお前のトレーナーだ』

「ダンバル、ゲッコウガを手助けしてやってほしいんだ」

「バール」

「色違いだ………」

「ゲッコウガに渡しちゃってもいいんですか?」

「ああ、こいつは元々誰かに託そうと思ってたんだ。それがゲッコウガってことになったのも何かの運命だろうね。新たな伝説を創り出したトレーナーのポケモンなんて、願ったり叶ったりだよ」

 

 名誉職ってか。

 別にそんな大層なもんでもなさそうなのに。

 

「新しい仲間ができてよかったねっ」

『………新しい仲間、か』

 

 何を思ったのか、ゲッコウガは銀色のダンバルとダイゴさんを交互に見返している。

 やがて、ゲッコウガが口を開いた。

 

『………オレは元々一人で強くなる気だった。だが、それを分かってくれないアホ研究者どもがオレを新人トレーナーのポケモンになどと推しやがった。そのせいで右も左も分かっていない奴のお守りをさせられ、オレはそれが嫌でトレーナーには従わずにいたら研究所に戻された。そんなことを何回も繰り返している内にハチと出会った。一目でこいつは他のトレーナーどもとは違うと感じ、自分からついていくことにしたが、正直驚かされてばかりだった。オレは三つの技だけしか使わないようにしたり、進化すら拒んだりしているというのに、オレの力を最大限に活かすんだからな。そんな時にフレア団との戦いで速さと手数に限界を感じた。ハチはそれを見抜いていて尚、好きにしろと言いやがった。だからオレはハチに賭けてみることにした。ハチならオレの進化した力でも使いこなせると。けど、ハチはオレの想像を遥かに超えていた。だから進化以上の力を求めていた時、メガシンカに着目してみた。そもそもオレとハチでは根本的にメガシンカが出来ない。それならとメガシンカをフォルムチェンジと仮定した場合のシステムを構築してみた。幸いオレの特性は変化することに特化したものだったから、システムの応用は出来た。だが、そこで足りないピースを見つけた。恐らくそれがなければ何も始まらないと悟り、試しにハチにアクセスしてみたら成功してしまった。もうそこからはゴミを省くだけの処理だ。ただ一つだけ書き換えられないものがあった。それが特性だ。書き換えられない特性が邪魔して完成形に至らなかった。そこにハチから特性を変える薬をもらい、完全に特性を書き換えてあの力を手に入れた。あの時のハチの用意周到さには度肝を抜かされたな。………オレもそれで満足はしていたがハチのトラブルに愛されている体質を考えるとどうしてもハチの横に立つ必要性も考えられた。だからオレはテレパスを取得して会話もできるようにしただけだ』

 

 本人からこういう話を聞かされるのって実にむず痒い気分だ。悪くはないが超恥ずい。

 

「…………相当、彼のこと気に入っているようだね」

『………後にも先にも、オレを使いこなせるのはハチだけだからな』

 

 俺もこんなポケモンはお前だけで充分だわ。

 

「いやはや恐れ入ったよ。まさかポケモンの方から踏み込んでいくとは。ただこれは君たちだからこそ成し得たものかもしれない」

「ある意味メガシンカ以上のものだからのう。本来の絆のあり方かもしれんよ」

『フン、そうでもねぇよ。オレより凄い奴がいる。そいつは人工的とは言えメガシンカから伝説に進化したんだからな。それに比べたらフツーだフツー』

「普通の奴はまずそこで比べたりすらしないと思うぞ」

 

 リザードンと比べたがる奴なんてお前くらいだぞ。

 あいつ、多分メガシンカポケモン相手に素で勝てそうな勢いだし。今ゲッコウガとやり合ったらどうなることやら。主に周りが。

 

「………この話の上をいく話もあるのかい?」

「それはまた後でってことで。色々俺たちにもあるんすよ。説明しづらいやつってのが」

「………聞かない方が身のためってやつかい?」

「そうですね。知ったら抹殺されるかもしれませんよ」

「それはとても物騒だね。聞かなかったことにしておくよ」

 

 元チャンピオンというだけあって、黒い部分というのもそれなりに見てきてるみたいだな。

 

「…………少年君に見せたかったなー」

「多分挫折するから見なかったのが正解だと思うよ」

 

 ………少年よ、強くあれ。

 

「………そういえば、デオキシスはどうするつもりなんだい?」

『扱いに困っているところだ』

「なら僕に預けてくれないかい? ホウエン地方には元々デオキシスのコアを研究していた施設があるんだ。ロケット団に狙われてデオキシスたちは世に放たれた。その一体がこのデオキシスなんだ。だから、管理体制だけは今も残ったままなんだよ」

『ハチ………』

 

 どうする? って顔だな。

 

「適材適所。自分には荷が重いってんならさっさと手放すのも一つの手だ。餅は餅屋。専門家に任せた方が確実だと思うぞ」

『分かった。だったら頼む。オレには荷が重い』

「了解。責任持ってこっちで管理するよ」

 

 ゲッコウガは草でぐるぐる巻きになっているデオキシスをボールへと戻し、そのボールをダイゴさんに託した。

 結局、ダンバルとデオキシスの交換で終わったが、ゲッコウガの肩の荷が降りたのは間違いない。

 少なからず責任を感じていたようだし。

 

「ジム戦お願いします!」

 

 こうして新たな挑戦者が来たことで、この話は幕を閉じた。

 つか、ほんと大盛況だな。




行間

ヒキガヤハチマン 持ち物:キーストーン 菱形の黒いクリスタル etc………
・リザードン(ヒトカゲ→リザード→リザードン) ♂ 
 特性:もうか
 覚えてる技:かえんほうしゃ、メタルクロー、かみつく、おにび、えんまく、はがねのつばさ、かみなりパンチ、ドラゴンクロー、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、かみくだく、カウンター、じしん、フレアドライブ、ブラストバーン、げきりん、じわれ、だいもんじ、ソーラービーム、リフレクター、はらだいこ
 飛行術
 ・ハイヨーヨー:上昇から下降
 ・ローヨーヨー:下降から上昇
 ・トルネード:高速回転
 ・エアキックターン:空中でターン
 ・スイシーダ:地面に叩きつける
 ・シザーズ:左右に移動して撹乱
 ・ソニックブースト:ゼロからトップに急加速
 ・コブラ:急停止・急加速
 ・ブラスターロール:翻って背後を取る
 ・グリーンスリーブス:連続で攻撃して空中に釣り上げる
 ・デルタフォース:空中で大きな三角形を描くように連続攻撃
 ・ペンタグラムフォース:空中で五芒星を描くように連続攻撃
 ・バードゲージ:スピードを活かして相手の動きをコントロールしていく

・ゲッコウガ(ケロマツ→ゲコガシラ→ゲッコウガ) ♂
 特性:きずなへんげ(へんげんじざい→きずなへんげ)
 覚えてる技:みずのはどう、あなをほる、かげぶんしん、れいとうパンチ、れいとうビーム、つばめがえし、ハイドロポンプ、くさむすび、グロウパンチ、えんまく、がんせきふうじ、いわなだれ、まもる、かげうち、みずしゅりけん、どろぼう、つじぎり、ハイドロカノン、めざめるパワー(炎)、とんぼがえり、とびはねる、ほごしょく、けたぐり、ぶんまわす、あくのはどう、どろあそび、たたみがえし

・ジュカイン(キモリ→ジュプトル→ジュカイン) ♂
 持ち物:ジュカインナイト
 特性:しんりょく←→ひらいしん
 覚えてる技:でんこうせっか、リーフストーム、リーフブレード、ドラゴンクロー、タネマシンガン、ギガドレイン、かみなりパンチ、スピードスター、くさむすび、ソーラービーム、エナジーボール、シザークロス、くさのちかい、マジカルリーフ、タネばくだん、こうそくいどう、つめとぎ、いやなおと、こうごうせい、くさぶえ、やどりぎのタネ、グラスフィールド、なやみのタネ、ハードプラント、つばめがえし、ものまね

・ヘルガー ♂
 持ち物:ヘルガナイト
 特性:もらいび←→サンパワー
 覚えてる技:かみつく、ほのおのキバ、ふいうち、おにび、かえんほうしゃ、かみくだく、れんごく、ほえる、はかいこうせん、アイアンテール、あくのはどう、みちづれ、だいもんじ、ハイパーボイス、ヘドロばくだん、ちょうはつ

・ボスゴドラ ♂
 持ち物:ボスゴドラナイト
 特性:がんじょう
 覚えてる技:ロックブラスト、あなをほる、なげつける、メタルクロー、アイアンヘッド、アイアンテール、てっぺき、メタルバースト、ボディパージ、ヘビーボンバー、ロックカット、ほのおのパンチ、もろはのずつき

・キルリア(ラルトス→キルリア) ♀
 特性:シンクロ
 覚えてる技:リフレクター、ねんりき、まもる、テレポート


ゲッコウガ
・ニダンギル(ヒトツキ→ニダンギル)
 特性:ノーガード
 覚えてる技:ラスターカノン、せいなるつるぎ、つばめがえし、かげうち、つじぎり、シャドークロー

・キリキザン
 特性:まけんき
 覚えてる技:つじぎり、くろいまなざし、ロックカット

・アギルダー
 特性:うるおいボディ
 覚えてる技:スピードスター、むしのさざめき、ギガドレイン、みずしゅりけん、こうそくいどう、かげぶんしん、こころのめ、はたきおとす、バトンタッチ

・ダンバル(色違い)


ユイガハマユイ 持ち物:キーストーン
・グラエナ(ポチエナ→グラエナ) ♂ サブレ
 持ち物:きあいのハチマキ
 特性:いかく(にげあし→いかく)
 覚えてる技:こおりのキバ、かみなりのキバ、アイアンテール、とっしん、ふいうち、じゃれつく、どろかけ、カウンター、はかいこうせん

・ブリガロン(ハリマロン→ハリボーグ→ブリガロン) ♂ マロン
 持ち物:かいがらのすず
 覚えてる技:タネマシンガン、つるのムチ、やどりぎのタネ、ころがる、ドレインパンチ、まるくなる、ミサイルばり、ニードルガード、ウッドハンマー

・ドーブル ♀ マーブル
 持ち物:きあいのタスキ
 覚えてる技:スケッチ、おにび、ハードプラント、ダークホール、こらえる、がむしゃら、いわなだれ、ハイドロポンプ、ほごしょく、ハイドロカノン、へんしん、サイコブースト、ふういん

・ウインディ ♂ クッキー
 持ち物:ひかりのこな
 特性:もらいび
 覚えてる技:ほのおのキバ、バークアウト、ニトロチャージ、りゅうのいぶき、かみなりのキバ、しんそく、にほんばれ、だいもんじ、りゅうのはどう、インファイト

・ルカリオ(リオル→ルカリオ) ♂ シュウ
 持ち物:ルカリオナイト
 覚えてる技:ブレイズキック、でんこうせっか、けたぐり、はどうだん、ボーンラッシュ、りゅうのはどう、しんそく、カウンター

・グランブル(ブルー→グランブル) ♀ ショコラ
 持ち物:たつじんのおび
 覚えてる技:たいあたり、しっぽをふる、かみつく、じゃれつく、インファイト、ストーンエッジ、マジカルシャイン、こわいかお


ツワブキダイゴ
・メタグロス
 持ち物:メタグロスナイト
 特性:クリアボディ←→かたいツメ
 覚えてる技:コメットパンチ、サイコキネシス、メタルクロー、バレットパンチ、アームハンマー、ジャイロボール、のしかかり、ギガインパクト、てっぺき、こうそくいどう、まもる


少年君
・ゲコガシラ
 覚えてる技:みずのはどう


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ぼーなすとらっく3『竜のイブキ』

今回は続編のデオキシス襲来から二週間後です。


「たのもーっ!」

 

 デオキシス襲来から二週間が経ち、まだまだリーグ大会の余韻が街中を漂っている今日この頃。

 ……………非常に声にしづらいのだが、SMの女王様がムチを片手にやって来た。

 

「えっと…………どちらさんで?」

「ああっ!? ようやく見つけたわよ! ヒキガヤハチマン!」

 

 ええー………無視ですか。

 

「………こちらの質問に答えなければ不法侵入とみなして通報しますよ」

「なっ?! 相変わらず憎たらしいガキね!」

 

 相変わらずということは以前会っているのだろうか。

 ダークライにより記憶を全部戻ってきた今、思い出せるはずなのだが、全くといっていい程ヒットしない。

 

「あなた、わたしの顔を覚えてないとでも言うの?」

「知らん」

「ガク………、いいわ。教えてあげる。わたしはフスベジムのジムリーダー、イブキよ!」

 

 フスベジムのジムリーダー。

 つまりジムリーダー。

 …………………こんなんだったっけ?

 

「…………」

 

 ただの痴女だよな。

 どこからどう見ても。

 それかスポーツジムのトレーナー。でもこの格好で来たんだからやっぱり痴女か。

 

「ハチマン、ヒャッコクシティの復旧活動についてなのだけれど………あら? お取り込み中だったかしら?」

「あー、いや、なんかフスベジムのジムリーダーを名乗る痴女が道場破りに来たみたいでな」

 

 ユキノがタイミング良く戻ってきた。その手にはいくつか資料が抱えられている。

 俺は取り敢えず彼女にもこの痴女の怪しい素性を伝えてみた。

 

「痴女じゃないわよ!」

「…………ドラゴンタイプ専門のジムリーダー、だったかしら?」

「ええそうよ。兄者は最強のドラゴン使いのワタルよ!」

「…………挙動、容姿、兄者発言を見るに恐らく本人で間違いなさそうよ」

「マジか………。まだその痴女プレイをやってたんだな」

 

 変な格好のジムリーダーっていう風に記憶されていたのだが、今思い返してみると痴女だわ。目の前にいる格好が昔と変わっていない。昔と変わっていないということはこの姿のまま歳を重ねているわけであり………………………二十歳超えてたよな………………ヒラツカ先生と同年代なんじゃ……………。

 

「あなた、よく本人の前で言えるわね」

「んー、なんか段々と思い出して来たぞ。確か、俺がジョウト地方のジム戦巡りをしてる時に行ったはずだ。ジョウト地方最強のジムリーダーなんて噂もあったが、アサギジムのミカンの方が強かった印象があるな」

「うぐっ…………」

 

 うん、段々と見えてきた。

 同時は理由を知らなかったが、確か仮面の男事件の後だったようでチョウジジムが閉鎖されていて、残る七つのジムの中では最強と謳われていたはずだ。事件報告書を読んだことあるが、チョウジジムのジムリーダーの強さは異常だ。ホウオウとルギア相手にデリバードたちで捕獲にまで至ったとか、俺でも無理だわ。

 

「で、結局いきなり来て何の用すか? 今結構忙しいんで緊急でないのなら後にしてもらえます?」

 

 リーグ大会も荒業ながら無事閉会までいき、ようやくカロスに日常が戻ってきたところなのだ。ミアレシティもヒャッコクシティもこれから復旧作業が本格化していくため、俺たちもバックアップをしていかなければならず休む暇もない。だからこんな痴女を構ってる暇はないんだけどな。

 

『ハチ、野生のラルトスがいたところのマッピング終えた…………おい、なんだこの痴女は』

 

 あ、ゲッコウガも戻ってきた。

 奴には今ラルトスの親を突き止めてもらっている。いくら俺に懐いたとはいえ、元の親に顔は見せる必要があるだろうし、本人次第では親元に帰したいとも考えている。

 

「だ、だから痴女じゃないし! ってか、えっ? ポケモンが喋った?!」

 

 いちいち反応がデカい人だな。

 

「………ユキノ、それハルノからの報告書だろ?」

「ええ」

「目通しておくから、悪いがそこの痴女の要件聞いといてもらえるか?」

「はあ………分かったわ」

 

 取り敢えず、痴女のことはユキノに任せてハルノの報告書に目を通すことにした。

 ハルノは今ヒャッコクシティの方で活動している。ヒャッコクはハルノが主導で復旧活動を、ミアレはユキノが主導で復旧活動を行なっている。そして俺はその二人の統括というトップとしての役割を担っており、二人からは経過報告書を逐次出してもらい状況を把握しているのだ。

 現場監督も大変だろうが、総括ってのもくそ面倒な作業だわ。

 

「ヒャッコクシティの瓦礫処理も終わったみたいだな。早期復旧が可能なものから手をつけ出したか」

 

 ヒャッコクの住民は今無事だった建物(ほとんどなかった)や隣街のフウジョタウンやレンリタウンで生活している。ミアレはハクダンシティとクノエシティが受け皿となってくれているし、元々無事な建物もヒャッコクよりはあったため、こっちも何とか住民の生活はどうにかなっている。どちらもこれからは街の再建が中心となってくるのだが、人手と時間が足りない。あまり避難生活を長引かせるわけにもいかないし、かと言って欠陥建造物にするわけにもいかないため、その匙加減が難しいところである。

 

「取り敢えず、バトルして一旦頭を空にするか」

 

 今ここで考えてたってしょうがない。出ないものは出ないのだから考えるだけ時間の無駄だ。休憩がてらバトルしてスッキリすることにしよう。

 

「ゲッコウガ、ラルトス、いくか」

『はいよ』

「ラール!」

 

 お、なんだ?

 抱っこか?

 全く可愛い奴め。

 

「ほれ」

「ラルラル!」

 

 娘ってこんな感じなのかね。

 なにそれ、超いいじゃん。

 やっぱ可愛いは正義だわ。

 一通りハルノの報告書に目を通した後、ラルトスを抱っこしてゲッコウガと共に建物の外にあるバトルフィールドへと向かった。

 ユキノたちの方へ向かうと意気消沈している痴女がいた。

 一体ユキノに何を言われたんだろうか。ユキノから事情を詳しく聞いてみると………。

 

「で、つまり以前俺とバトルしてボロ負けした挙句、ボロカス言われたことを根に持っていて、この前の大会の中継で俺がカロスにいることを知り、仕返しに来たと」

「ええまあ、要約するとそんな感じね」

「話を聞きながら色々思い出したが、確かあの頃にリザードンの飛行技が完成したんだ。多分、トレーナー戦で初めて使ったんじゃねぇかな」

「……………それはお気の毒ね」

「しかもあの頃の俺って………」

「強い相手にしか興味なかったものね」

 

 フスベジムといえばカントーのジム戦巡りをした後、ジョウトのジム戦巡りを行い、その七つ目のジムとして行ったはずだ。その頃の俺はポケモンの技以外の技を取り入れることで、手持ち一体という不利な状況の穴埋めをしようとしていた。そして丁度フスベジムで対人戦を初経験したのだ。それまでは攻撃的な野生のポケモンたちを相手に技の精度を上げていたが、まあ対人戦においては酷いことになった覚えがある。反則にはならないため、こちらの攻撃は面白いくらいに通るし、相手の攻撃は全く入ってこないのだ。

 で、その被害者第一号がこの痴女改めイブキさんらしい。

 

「「……………………」」

 

 いやー、そりゃ誰でも根に持つわな。

 いつも通り挑戦者の相手をしてたかと思ったら、トチ狂った戦法に翻弄された挙げ句、惨敗。俺だったら心折れてただろうな。しかも最強とか謳っておきながらこの程度かよ的なことを言われたんだろ? それでよくジムリーダーを続けられてたよな。ある意味鋼の精神だと思うぞ。

 

「えっと、イブキさん。なんかすんませんでした」

 

 つくづく俺も人が悪い。

 謝ってはいるが、特に悪いとは思ってないし。

 

「え、あ、や………」

「けど、よく来ましたね。今の俺がどういう存在かもちろん知ってるんでしょ?」

 

 カロスの大魔王様ですよ?

 泣いていいよね。

 

「と、とにかく! わたしとバトルしなさい!」

「ええー、面倒くさい………」

「ほんと腹の立つ男ね………。憎たらしいったらありゃしない」

 

 ほんとのこと言っただけなのに。

 俺今の今まで働いてたの。それをまた働けっていうのん? ただでさえ復旧活動で休みないのに? 俺死ぬよ? 死んじゃうよ? コマチもトツカもヒャッコクで癒してくれるのなんてラルトスだけよ? なのに何が悲しくて身を削る必要があるんだよ。

 

『さっさとやってさっさと終わらせればいいだろ』

「ちょっとー、人の心読まないでくれます?」

 

 実は接続してましたとか言わないよね?

 お前出来ちゃうから怖いんだよ。

 

「そうね。物分かりの悪い人には身体で教え込んであげるのが筋ってものよ」

 

 えぇ………ユキノさんまでそれ言っちゃう?

 俺来た時には既にやってるよね、あなた。怖いんだけど。

 

「はぁ………分かりましたよ」

「なら、あなたはリザードン一体ね」

「はっ?」

 

 いやいやいやいや。

 なして最初からハンデがあるとね?

 そこまでするならこっちだって拒否する権利くらいあるぞ!

 

「それは少々ハンデがありすぎなのでは?」

『ハチ、リザードン一体でも余裕だろ』

「そりゃ今のあいつなら余裕だろうけど」

『ならそれで心を折ってやれ。そして二度と逆らえないようにしてやればいい』

「………お前、どんだけ性格悪いんだよ」

『面倒事は徹底的に排除する。それだけだ』

「へいへい、分かりました。やりますよ」

 

 下手したらゲッコウガが何かやり兼ねないからな。ある意味一番相手をさせてはいけないポケモンだし。下手したらイブキさんジムリーダー辞めるからね?

 

「言っときますけど、手加減とかできないんで」

「逆に手加減されたんじゃ屈辱よ」

 

 ま、俺からしてみれば今のリザードンも同類だけどな。

 でもそこはほら、イブキさんのご指名だし。

 

「審判は私が務めるわ」

 

 審判はユキノに任せ、俺たちはフィールドの立ち位置へと移動した。

 

「過去のジム戦が原因のようだし、ジム戦のルールを取り入れるわ。ルールは公式通り、技は四つまで。ハチマンはリザードンが戦闘不能になったら負け。イブキさんは手持ちのポケモンが全て戦闘不能になったら負け。あとジムリーダーなので交代もなしとします」

 

 ルールはイブキさんから話を聞いたユキノが勝手に取り決めた。

 

「それでいいわ」

「もう好きにしてくれ」

 

 俺としては何でもいいんだけどね。強いて言えばこのバトル自体を無くしてほしいくらいかな。無理だけど。やるって言っちまったし。

 

「いくわよ、クリムガン!」

「手加減無用だ、リザードン。容赦なく潰してやれ」

 

 うわ、最初から色違いとか出して来やがった。

 

「クリムガン、きりさく!」

 

 クリムガンが両爪を伸ばして襲いかかって来た。

 けど、はっきり言って遅すぎる。

 

「ドラゴンクローで受け止めろ」

 

 昔オーダイルが暴走した時と同じように、両爪の間に竜の爪を差し込み受け止めた。

 

「シャアッ?!」

 

 ん?

 今リザードンにダメージが入らなかったか?

 だが爪は受け止めた。

 となると他に原因となるのは…………特性か。クリムガンの特性にはさめはだが有ったはず。ということは触れただけでダメージが入ると思っていいな。

 なら、なるべく触る回数を減らすか。

 

「かかったわね。クリムガン、げきりん!」

 

 クリムガンは竜の気を暴走させた。

 爪を受け止められること前提で練られた戦略なのだろう。

だが甘い。

 

「リザードン、じわれ」

 

 触る回数を減らす。

 つまり、一撃で倒せば何の問題もない。

 リザードンは左爪を引き抜き、同時に身を屈めると、前のめりになっていたクリムガンのバランスを崩した。そして、勢いを利用し右腕を後ろに倒しクリムガンを地面につけ、振り向きざまに左の拳を地面に叩きつけ地割れを発生させる。クリムガンは呆気なく呑み込まれ、出てきた時には目を回していた。

 

「なっ…………?!」

 

 いきなり一撃必殺を使われたことでか、イブキさんの顔が青ざめている。

 

「クリムガン、戦闘不能」

 

 ユキノは淡々と判定を下した。

 俺は先に確認してるからな?今の俺がどういう存在なのか分かって来たのかって。それを無視したんだから自業自得である。

 

「くっ…………一撃必殺を使うなんて聞いてないわよ!」

「いやいや、リーグ大会でもチャピオン相手に使ってますから。ちゃんと調べて来ないそっちが悪いんでしょうに。よくそれでリベンジしに来ましたね」

「ふん、一撃必殺なんて当たらなきゃいいのよ! ギャラドス!」

 

 ギャラドスの特性はいかくか。

 じわれに対してひこうタイプで対抗して来たんだろうな。

 けど、ギャラドス相手ならもっといい技がある。

 

「ハイドロポンプ!」

 

 まずは水砲撃か。

 この程度の威力なら突っ切れるな。

 

「トルネードドラゴンクロー」

 

 竜の爪を前に出し、高速で回転しながら水砲撃を弾いていく。効果抜群の技ではあるが、ゲッコウガの水砲撃を受けるのとは訳が違う。あいつのははかいこうせん並みと思っていい。そんなもんを突っ切ろうなんて思わないが、ギャラドスのはそこまでの威力がないようで、勢いも足りない。爪で弾けるしダメージもないに等しい。五年近くでここまで差が開いてしまうとは、それだけ濃い体験をしてきたということなのだろう。

 

「くっ、アクアテール!」

 

 それは能がないぞ。

 ただ単に突っ込んでくるようじゃ躱すのなんて朝飯前だっつの。

 

「リザードン、躱してかみなりパンチ」

 

 水のベールに包まれた尻尾は地面に叩きつけられた。

 単調な一直線の攻撃は身体を捻って、姿勢を低くすれば上手く躱すことができる。

 リザードンは振り向きざまに電気を纏った右拳をギャラドスへと叩きつけた。

 

「ギャラドス!?」

 

 地面にクレーターができる程の威力。

 メガシンカを失ってからはこれが通常運転だ。はっきり言ってメガシンカしてた頃よりも強い。リザードン曰くメガシンカを失ってから身体が軽くちょっとした力で今のようになってしまうらしい。

 レシラムになった名残なのかもしれないし、抑えられていた力が一気に解放されているだけかもしれないが、本人が快調だというのだから特に問題はない。

 ただここにもうかが発動したらどうなってしまうのかちょっと心配である。主に周りへの被害が。

 

「ギャラドス、戦闘不能」

 

 ふぅ。

 これがジムリーダーか。

 こっちに来てからジム戦なんてビオラさん、ザクロさんとコルニ相手にしかして来なかったし、前二人は本気すら出してなかったからアレだけど、正直弱いな。あ、言っちゃった。口に出してないからセーフだよね?

 

「あの、まだやります?」

「や、やるに決まってるじゃない!」

 

 あ、ちょっと気落ちしてるな。

 可哀想だが本人がやる気を示している以上、こっちも要望通り手加減なしで続けるしかないな。

 

「行きなさい、ハクリュー!」

 

 三体目はハクリューか。綺麗なポケモンだよな。

 

「でんじは!」

 

 麻痺狙いか。

 でんじははその名の通り電磁波だ。つまりは波。波は発生してから目標に到達するまでの距離に応じて時間も変化する。距離が遠ければ遠い程時間がかかり、波も弱くなる。弱くなるということは効果も弱くなるということであり…………。

 

「ハイヨーヨー」

 

 届く前に上空に逃げてしまえば何も問題はない。

 

「りゅうのいぶき!」

 

 リザードンが急下降に移ると赤と青の色を持つ息吹を吐いてきた。

 こっちも麻痺を付与する追加効果を持った技だ。そんなにまでしてリザードンを麻痺させたいのか?

 

「ブラスターロール」

 

 息吹を翻って躱し、急下降を続ける。

 

「ハクリュー、躱してげきりん!」

 

 こっちが仕掛ける前に急上昇して通過されてしまった。

 だが、それくらいなんてことはない。こっちにもそれに対応できる動きは持ち合わせている。

 

「エアキックターンからのトルネードドラゴンクロー」

 

 地面すれすれのところで反転し、踏ん張る力を利用して一気に急上昇していく。踏ん張る力が強ければ強い程、空気を蹴る力も高まり、より加速する。上から竜の気を暴走させたハクリューが降ってきているが、それも竜の爪を高速回転させて受け止めた。

 

「スイシーダ」

 

 リザードンの回転に巻き込まれたハクリューは竜の気を霧散させてしまい、その隙にリザードンは翻り上を取り返した。そして、竜の爪で地面に叩きつけるとまたしてもクレーターができてしまっていた。

 本日二個目。ヤバいね。

 

「ハクリュー!?」

「ハクリュー、戦闘不能」

 

 さて、あと何体出て来るのやら。

 ハクリューをボールに戻すイブキさんの目は若干うるうるしている。

 うーん、これでヒラツカ先生と同年代…………あの人もこんな姿見せるのだろうか。ちょっと見てみたい気もするが、見たら見たで後が怖い。主に物理的な意味で。

 

「…………昔もこうだったわ。ドラゴンという聖なる力を宿すポケモンを前に独自の戦法で力を奮う前に倒す。今までバトルしてきた相手には一人もいなかったわ。あの兄者ですら、こんな戦法見せたことない。あなたは、一体何者なのよ………?」

 

 ………本当の目的はコレなのかね。

 以前バトルした中で不本意ながら明らかに強い印象を残した俺がカロスのトップになっているのを見て、俺の正体を探ろうとしているのかもしれない。ま、それはそれでいいんだけど、多分コテンパンにされたのを根に持っているのも事実なのだろう。だからこそ覚えていたと言っても過言ではない。

 

「あー、まあ俺もリザードンも普通じゃないんで。イレギュラーな存在っていうとなんか異世界人みたいに聞こえるからアレですけど、普通のトレーナーとポケモンでは絶対に成し得ないものに、不本意ながら手を染めてましたから」

「それは今も?」

「一生ですよ。治りません。条件を揃えなければ回避出来るってだけの代物です」

「………やっぱりあなたは倒さなくてはいけないわっ! ジムリーダーとして!」

 

 これまた正義感の強いことで。

 恐らく今の会話で俺が変な組織の一員だって思っているのだろう。そりゃ過去には『一員』になっていたが、今は裏がない。完全なるフリーである。だから悪者扱いされても困るんだよなー。

 

「そりゃ困りますね。無実の罪を着せられるのは周りが口うるさいんで。………それに、あなたの兄者とやらもやらかしてませんでしたっけ?」

「うっ…………」

「ジムリーダーに向けてこういうのも何ですけど、もっと視野を広く持つべきですよ。導く者としてまだまだです」

「…………ほんとムカつく男ね」

「偶に言われますよ」

 

 よくと言わないだけ褒めてほしい。

 昔はよくだったと思うが、最近はそういうヘイト対象にもならなくなってきたからな。ならないようにしていると言った方が正しいか。なんせ周りの女子がうるさいったらありゃしない。まあ、周りから見ていて気分のいいものではないからな。まして自分の大事な奴がそんな風に言われてたんじゃ堪ったもんじゃない。

 

「キングドラ!」

 

 四体目はキングドラか。

 確か切り札的存在じゃなかったか?

 ということはこれで最後なのだろう。

 

「りゅうのいぶき!」

 

 またしても息吹か。

 ほんと好きだね。自分の名前と一緒だからか?

 

「トルネードドラゴンクロー」

 

 さっきと同じように竜の爪を前に突き出し、高速回転をして弾いていく。

 

「キングドラ、かなしばり!」

 

 っ?!

 おおう、まさかそこでかなしばりが来るか。

 おかげでリザードンのドラゴンクローは解除され、一瞬動きも止まってしまった。

 

「ハイドロポンプ!」

 

 へぇ、ようやくジムリーダーらしいバトルをしてくるようになったじゃん。威力もギャラドスとは桁違いだ。

 

「リザードン、大丈夫………そうだな」

 

 うん、分かってはいたけどね。

 効果抜群の技を受けて致命傷になるのはゲッコウガとかオーダイルを相手にした時くらいだもんな。

 ぶっ壊れなリザードンを追い詰めるゲッコウガもまたぶっ壊れな存在である。そんなゲッコウガもジュカインだけは相手にしたくないらしい。素早さは互角、使う技は効果抜群ばかり、しかも仕掛けが見えないと来れば流石のゲッコウガでも参るみたいだ。ちなみにジュカインはリザードンが苦手だ。絶賛いわタイプの技を習得中であるくらいには。

 あらいやだ、俺のポケモンたちみんなぶっ壊れな存在だわ。この三体に隠れて目立たないが、ヘルガーとボスゴドラもかなりの曲者に仕上がってるし。ラルトスだけは普通に育ってくれるといいな………。

 

「あれでもダメージにならないの……………っ!?」

 

 イブキさんも大分血の気が引いてきている。ユキノに至っては溜息ばかりだ。そんな呆れるなよ。

 

「あれ? もう仕掛けて来ないんですか? なら、今度はこっちから行きますよ。リザードン、ソニックブースト」

「くっ………キングドラ、かなしばり!」

 

 安い挑発をしてみたら案の定乗って来た。どんだけ器が小さいんだよ。

 

「止まらない?!」

 

 ポケモンの技じゃないからな。

 

「かみなりパンチ」

「こうそくいどうで躱して!」

 

 あ、逃げられた。

 キングドラは高速で後方に下がり拳を躱した。

 

「ハイドロポンプ!」

 

 拳を外したことでリザードンに隙が生まれ、水砲撃を発射準備に入られてしまった。

 

「リザードン、ソニックブーストで上に飛べ!」

 

 咄嗟ではあったがリザードンも既に対応しており、ギリギリ回避出来た。

 こうなったら一旦距離を離すしかあるまい。

 ただあっちはこうそくいどうを使った。ということは追撃を掛けてくる可能性が高い。

 

「こうそくいどうで追いかけながらハイドロポンプよ!」

 

 ほら来た。

 好機とばかりに攻めて来たよ。

 となるとペンタグラムフォースかコブラだな。

 

「リザードン、エアキックターン」

 

 リザードンはキングドラを引きつけてから反転し、空気を蹴り出し急降下へと転じた。

 

「キングドラ、追って!」

 

 キングドラはすぐさま反転し、スピードを加速させながら追って来ている。

 

「リザードン、後ろから来てるぞ。確実に躱せ」

 

 バトルにおいて細かい動きはポケモン自身に任せた方がいい。俺たちトレーナーが実際に戦うことはないため、戦闘感覚的なものは持ち合わせていない。だから口出しするならば、相手の動きや何をしようとしているかを瞬時に判断し伝えるのがベストだろう。

 

「キングドラ、速度を上げなさい!」

 

 水砲撃が当たらないためか、速度を上げて至近距離から撃つつもりか。

 リザードンは丁度地面近くに降りて来たため、90度切り返して地面スレスレを移動していくとキングドラもそれについて来た。

 今だな。

 

「コブラ」

 

 突然の急停止。

 キングドラは反応出来ずにリザードンの横を通り過ぎて行く。

 

「キングドラ! 後ろ!」

 

 そして急発進。

 急停止時の踏ん張る力を利用しての蹴り出しで、一気にキングドラの背後を取った。

 

「ドラゴンクロー」

 

 今この時だけはこうそくいどうなんて無意味だ。

 竜の爪でキングドラを地面に叩き落とした。

 

「じわれ」

 

 そして倒れ込んだキングドラの真下に地割れを起こし、呑み込んでいく。

 

「キングドラ、戦闘不能」

 

 出て来たキングドラは目を回しており、ユキノから判定が下された。

 

「私の記憶ではジムで使われていたのは今ので最後だったと思いますが、まだいますか?」

「………悔しいけど、いないわ」

「そうですか。ではハチマンの勝利ということで」

 

 これで終わりか。

 キングドラだけだったな。

 

「どうしてなの…………。どうして私はあなたに勝てない…………」

「イブキさん。それは考えるだけ無意味なことですよ。ハチマンとリザードンは過去に色々ありました。それはもうイブキさんが想像し難いことまで。その二人がようやく過去から解放されたんです。私たちが勝てるわけありません」

 

 解放はされたけど、条件が揃えばまたなるからね? メガストーンを身につければ再びあの片鱗が出て来るだろうし。

 

「…………ただ、勝てないのと勝ちたいというのは別ですけどね」

「負けず嫌い過ぎない?」

「あなたに勝てなければあなたの横に立てたなんて思えないもの」

「気にしすぎだろ。俺は今でも充分世話になってるし」

「守られるだけの存在っていのも惨めなものなのよ」

「…………それは分からんでもないが。何もできないってのは歯がゆいからな」

「ええ、だからまずはあなたに勝ちたい。なのにあなたたちときたらさらに強くなるなんて、ほんとドSよね」

「はっ? いやいや何でドSなんだよ。なに、お前ドMなの?」

「な、何を言ってるのよ! そういうことじゃないわよ! 変態!」

「へいへい」

 

 何故強くなることがドSになるのだろうか分からないが深くは聞かないことにする。というか聞きたくない。

 

「あーそうだ。イブキさんに一つ。キングドラと他のポケモンたちの実力に差がありすぎます。兄者さんの方はそれぞれの特徴を最大限に引き出していると聞きますけど、あなたはそこまで到達していますか?」

「……………あ………」

 

 アドバイスというわけでもないが落ち込むイブキさんに改善点を指摘してみると何か合点がいったらしい。

 

「あらあら〜、かわいいお客さんね」

 

 おっと、いつの間にか四天王のドラセナさんが来ていたようだ。

 …………何でいるの?

 

「うふふふふ」

「えと、あなたは………?」

 

 笑顔でイブキさんへと近づいていく。目が笑ってないけど。

 

「うふふふふ」

「あ、あの、近くない………ですか?」

 

 頰に手を当てて小首を傾げながら。

 

「うふふふふ」

「……………」

 

 今にもキスされそうな距離に涙目になっているイブキさん。

 観念したのか無抵抗でドラセナさんに連行されていった。

 憐れ…………。

 

「………先輩、今のは?」

「あー、ジョウト地方のフスベシティってところにあるジムのジムリーダーだ」

「…………なんていうか、変な格好の人ですね」

「まあ、それは否定できないな」

「それじゃ私は行きますね」

「おう、頑張れよ」

 

 イロハは今、ドラセナさんと行動を共にしている。負けた相手からもっと学びたいらしく、直談判しに行ったんだとか。

 あいつのこういう時の行動力は素直にすごいと思うわ。それにドラセナさんもよく引き受けてくれたもんだ。

 

「………さて、仕事するか」

「そうね」

 

 そうして俺たちは事務室に戻り、復旧活動の取りまとめを再開した。

 




行間

ヒキガヤハチマン 持ち物:キーストーン 菱形の黒いクリスタル etc………
・リザードン(ヒトカゲ→リザード→リザードン) ♂ 
 特性:もうか
 覚えてる技:かえんほうしゃ、メタルクロー、かみつく、おにび、えんまく、はがねのつばさ、かみなりパンチ、ドラゴンクロー、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、かみくだく、カウンター、じしん、フレアドライブ、ブラストバーン、げきりん、じわれ、だいもんじ、ソーラービーム、リフレクター、はらだいこ
 飛行術
 ・ハイヨーヨー:上昇から下降
 ・ローヨーヨー:下降から上昇
 ・トルネード:高速回転
 ・エアキックターン:空中でターン
 ・スイシーダ:地面に叩きつける
 ・シザーズ:左右に移動して撹乱
 ・ソニックブースト:ゼロからトップに急加速
 ・コブラ:急停止・急加速
 ・ブラスターロール:翻って背後を取る
 ・グリーンスリーブス:連続で攻撃して空中に釣り上げる
 ・デルタフォース:空中で大きな三角形を描くように連続攻撃
 ・ペンタグラムフォース:空中で五芒星を描くように連続攻撃
 ・バードゲージ:スピードを活かして相手の動きをコントロールしていく

・ゲッコウガ(ケロマツ→ゲコガシラ→ゲッコウガ) ♂
 特性:きずなへんげ(へんげんじざい→きずなへんげ)
 覚えてる技:みずのはどう、あなをほる、かげぶんしん、れいとうパンチ、れいとうビーム、つばめがえし、ハイドロポンプ、くさむすび、グロウパンチ、えんまく、がんせきふうじ、いわなだれ、まもる、かげうち、みずしゅりけん、どろぼう、つじぎり、ハイドロカノン、めざめるパワー(炎)、とんぼがえり、とびはねる、ほごしょく、けたぐり、ぶんまわす、あくのはどう、どろあそび

・ジュカイン(キモリ→ジュプトル→ジュカイン) ♂
 持ち物:ジュカインナイト
 特性:しんりょく←→ひらいしん
 覚えてる技:でんこうせっか、リーフストーム、リーフブレード、ドラゴンクロー、タネマシンガン、ギガドレイン、かみなりパンチ、スピードスター、くさむすび、ソーラービーム、エナジーボール、シザークロス、くさのちかい、マジカルリーフ、タネばくだん、こうそくいどう、つめとぎ、いやなおと、こうごうせい、くさぶえ、やどりぎのタネ、グラスフィールド、なやみのタネ、ハードプラント、つばめがえし、ものまね

・ヘルガー ♂
 持ち物:ヘルガナイト
 特性:もらいび←→サンパワー
 覚えてる技:かみつく、ほのおのキバ、ふいうち、おにび、かえんほうしゃ、かみくだく、れんごく、ほえる、はかいこうせん、アイアンテール、あくのはどう、みちづれ、だいもんじ、ハイパーボイス、ヘドロばくだん、ちょうはつ

・ボスゴドラ ♂
 持ち物:ボスゴドラナイト
 特性:がんじょう
 覚えてる技:ロックブラスト、あなをほる、なげつける、メタルクロー、アイアンヘッド、アイアンテール、てっぺき、メタルバースト、ボディパージ、ヘビーボンバー、ロックカット、ほのおのパンチ、もろはのずつき

・ラルトス ♀
 覚えてる技:リフレクター

イブキ
・キングドラ ♀
 覚えてる技:りゅうのいぶき、ハイドロポンプ、げきりん、こうそくいどう、かなしばり

・ギャラドス ♀
 特性:いかく
 覚えてる技:ハイドロポンプ、たきのぼり、はかいこうせん、りゅうのまい、アクアテール

・ハクリュー ♀
 覚えてる技:アクアテール、りゅうのいぶき、げきりん、でんじは

・クリムガン(色違い) ♂
 特性:さめはだ
 覚えてる技:りゅうのいかり、きりさく、ドラゴンテール、げきりん


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ぼーなすとらっく4『異世界からの侵略者?』

今回は続編のデオキシス襲来から四ヶ月後、『イロハ四天王計画』から一週間後くらいの話です。


 デオキシス襲来から四ヶ月が経った今日この頃。

 巷ではとある都市伝説が広まっている。

 それは「レンリステーションミステリー」とかいうらしい。

 内容としては現在使われていないはずのレンリステーションに時折、一両編成の列車が止まるのだとか。しかも中から降りてくる者は異世界からやって来た者ばかりなのだとか。

 ーーそんなわけあるか。

 そう思いたいのも山々だが、俺は異世界、というよりはこの世界以外の場所というものを知っている。

 それはギラティナの支配するやぶれた世界。

 かつてダークライに連れていかれ、ギラティナと初対峙する羽目になった。

 戻って来てから調べてみると、そこは死後の世界と言われているようで、俺は生きながらにして死後の世界に行ってしまったチグハグな存在になってしまっていた。ダークライ曰く「キニスルナ」らしいが何とも怖い体験談である。

 で、話を戻すとして件の都市伝説は、何かしらポケモンの力が働いていると俺は睨んでいる。未だ事件性は出ていないが放置しておけば、都市伝説の信憑性の是非を確認しようとするバカが現れる。そうなればいずれ最悪の事態を招く恐れもあるのだ。

 疑惑は早々に解消してしまいたい。

 というわけで、俺は東側のジムの巡回視察のついでに都市伝説について調べることにした。

 クノエからぐるりとヒャッコクへ向かい、現在レンリタウンに到着したところだ。ある意味で観光地化しているレンリステーションだが、特段人が多く集まっているわけではない。レンリ自体が過疎化している街であり、今さら人が増えるということもないようだ。

 

『で、ここが噂の駅か』

「草ぼーぼーだな」

 

 件の駅へ向かうと十年は使ってなさそうな鬱蒼とした駅だった。なのに、建物自体に劣化は見られない。何とも不思議な景観である。

 階段を登り駅のプラットホームに来ると砂埃の溜まったベンチに一冊の手帳があった。

 

「………落し物か?」

 

 それにしては汚れ具合がベンチと同じである。つまりこの手帳は数年前にはここに残されていたということだ。

 こりゃ拾っても届ける相手がいなさそうだな。

 念のため中身を確認しようとページをめくっていく。書かれているのは主にポケモンについて。事細かに記されている。ポケモントレーナーかあるいは研究者擬きだろうな。

 

「…………最後か」

 

 特に持ち主が特定できる要素がないまま最後のページに来てしまったが、ここでえらいものを見つけてしまった。

 

「これを読んでいるキミへ。いまどんな風になっていますか? なりたい自分になっていますか? そもそもなりたい自分ってどんな自分ですか? わからないけれど楽しく生きている。そう胸を張っていえるような毎日だとすばらしいよね。未来のプラターヌへ。未来を夢みるプラターヌより」

 

 ……………………。

 

「これはアレだな。黒歴史ってやつだな」

 

 よりにもよってあの変態博士かよ。中身の詳しさからして本人ので間違いない。となると…………ふひっ。

 

「持って帰ってやろう」

 

 これを見たらあの変態はどういう反応するだろうか。きっと顔を赤く染め上げて…………うわキモい。

 

『おい』

「なんだ…………よ?」

 

 ゲッコウガに呼ばれて顔を上げると、ゴゴゴッとどこからか音がした。

 

「えっ?」

 

 鳴るはずのない線路からだ。

 

「おいおいマジか…………」

 

 そんなこんなしている内にホームに深緑色の列車が止まった。噂通りの一両編成。

 ゲッコウガも目を見開いて驚いている。キルリアなんか俺に抱きついてきた。あ、これはいつものことだったわ。

 

「ちょっと、あんたのせいでみんなと逸れちゃったじゃない!」

「落ち着けってマリー。そんなこと言ったって今はどうしようもないんだからさ。とにかくあいつを探そう」

 

 そして徐に開かれた扉は二つの影を降ろした。

 …………これは夢かな。夢だな。夢だと誰か言って。

 キルリアじゃないけど、これ何のホラーなの? 脚がすくんで動けないんだけど。

 うーわ、やっべ。超手汗かいてきた。

 

「リア………」

 

 あーもー、キルリアが泣き出しそうじゃん。

 誰だよこんなイタズラした奴。ぶっ殺してやるわ。

 

「ん? あ、第一村人発見」

「………なんか凄く目がアレだわ」

 

 …………よし逃げよう。今すぐ逃げよう。こんなの俺の仕事範囲を超えている。まずは警察を動かして都市伝説を消去だな。それからレンリステーションの情報の洗い出しに警戒態勢を整えないと。

 

「あ、あの………」

 

 キルリアを守るためなら………、ためなら…………!

 くそっ、何故だ?! 何故動かない!?

 

『チッ』

 

 動けないでいる俺たちの代わりに、ゲッコウガが少年に斬りかかった。

 

「コウガ!」

 

 だが、それは少年の腰につけたボールから出てきた黒いゲッコウガによって受け止められてしまった。

 あれは色違いか? 珍しいのを連れてやがる。

 

『お前ら、ナニモノだ』

 

 うちのゲッコウガさんは相当警戒しているな。声のトーンがマジの時のだ。殺気すら感じるまである。

 

「ゲ、ゲッコウガが喋ったわ………」

 

 主だった回答はないが、代わりに金髪少女の方から驚きの声が上がった。

 

「そっかそっか。目があったらってやつだね。ならゲッコウガ! キズナ変化!」

 

 はっ?

 キズナ変化? だと?

 

「…………他にもいたのかよ」

 

 あ、口が動くようになった。

 

「ゲッコウガ、えんまく」

 

 一つ動くようになれば自然と全身に力が戻ってきた。

 ゲッコウガが黒煙を巻いている間に急いでキルリアをボールに戻し、回れ右をする。

 目下あるのは急な階段。急いで降りるには危険極まりないが、この男女の相手をすることに比べたら屁でもない。

 

「ナオト、あの人逃げてくわよ!」

 

 おいこら金髪少女、そういうことは言うんじゃねぇよ。

 

「ゲッコウガ、シェルブレード!」

 

 くそっ、さっさとここから逃げねぇと。

 俺たちまで都市伝説の餌食になっちまう。

 

「危ねっ?!」

『チッ』

 

 階段降りてるんだから危ないだろうがっ!

 危うく転げ落ちるとこだったぞ!

 

「カノン、サイコブレイク!」

 

 はっ?

 サイコ、ブレイク………?

 ラティアスが? いや、つか、えっ? ラティアス?

 どういうことだよ。その技は暴君野郎のだろ? それにゲッコウガがシェルブレードだと?

 あり得ない………。本来なら習得できるはずがないのだ。リザードンですら今はレシラムの技は使えない。もしや研究が遅れてるだけで覚えられたりする、のか…………? いやいやいや、だとしてもラティアスがサイコブレイクを使えるのは流石におかしい。

 こいつらは、異常だ。

 

『………ハチ』

「ああ、やるしかなさそうだな」

 

 相手は黒いゲッコウガと黄色いラティアス。

 ラティアスがいること自体アレだが、このゲッコウガはおかしい。メガシンカ擬きを使いこなす奴がいないとは思っていない。ただ使えないはずの技を使えるなんてのは何かしら裏があるはずだ。

 

「大丈夫だ、キルリア。俺はここにいる。もうちょっとだけ我慢しててくれよ」

 

 咄嗟にボールに戻したキルリアに声をかけておく。未だボールに入りたがらないキルリアだが、この非常事態では致し方ない。だから出来るだけ不安にさせないようにしないとな。

 

「ゲッコウガ、そっちの黒いのは任せるぞ」

『ああ』

「リザードン、仕事だ」

「シャアッ!」

 

 黒い方はゲッコウガに任せよう。今ではトレーナーの端くれでもあるからこういう時、役割分担出来て楽だわ。

 

「ナオト、わたしもやるわ! ビクティニ、レントラー!」

 

 ビクティニ?

 知らないポケモンだ。

 

「ビクティニ、リザードンにクロスフレイム! レントラー、ゲッコウガにでんじは!」

「ゲッコウガ、ギガドレイン! カノン、リザードンに10まんボルト!」

 

 またか。

 ゲッコウガはギガドレインを覚えない。それにビクティニとやらもレシラムの技を使っている。後者は知らないがどう考えても普通ではない。

 これで確定だな。

 こいつらは俺の知っているポケモンではない。少なくとも何かがある。俺とリザードンのような非合法なものが隠れているはずだ。

 

「リザードン、ハイヨーヨー」

『ニダンギル、きんぞくおん。メタング、ひかりのかべ』

 

 リザードンは空に逃げて炎と電撃を躱し、電磁波はニダンギルが音波で波を相殺した。

 

「ワーォ、ゲッコウガがポケモンに命令出してるよ」

「喋るだけじゃなかったのね」

『せいなるつるぎ』

 

 あいつニダンギルになったことで二刀流として使ってるよ。ギルガルドに進化させたりするのかね。

 

「くっ………強い!」

「ナオト、本気でやりなさいよ!」

 

 咄嗟に回避されたが、そうさせるだけのものはあったみたいだな。ならこっちもやるか。

 

「じわれ」

 

 空から急降下してくるリザードンに色違いっぽいレントラーへの攻撃を指示した。技はじわれ。一撃必殺。時間なんかかけて仲間でも呼ばれたらいよいよ以って面倒でしかない。今はダークライもいないから最悪の手段も取れないし自力で何とかする他ないのだ。

 

「レントラー!?」

 

 まずは一体目。

 よかった。実力はこっちの方が上だったみたいだな。

 つーか、よく見たらラティアスも色が違う。

 まさかとは思うが全員色違いなのか?

 

「こうなったらゲッコウガ! キズナシンカ!」

 

 次の攻撃を展開させようとした時、黒いゲッコウガに異変が起きた。

 なんと白い光に包まれたのだ。アレは進化の光。だが相手はゲッコウガ。特性きずなへんげによる水を纏っての変化とは違う。言うなればメガシンカの光と言った方が近い。

 

『………くっ、何がどうなってやがる』

「普通じゃないのは確かだ。お前も出し惜しみしなくていい」

『そうさせてもらう』

 

 黒いゲッコウガに悪態を吐くうちのゲッコウガに本気を促した。

 あいつらは普通じゃない。やらなければやられる。

 

「…………キミもやっぱり出来たか。ゲッコウガ、スピリットスラッシュ!」

 

 キミも、ということはやはりあの黒いゲッコウガはきずなへんげの方も出来るということらしい。

 合法か非合法か。

 どちらにしても相手の方が格上なのは間違いない。

 

『メタング、じならし!』

「ビクティニ、クロスサンダー!」

 

 メタングが地面を揺らすのと同時にビクティニとやらは雷撃を纏いリザードンに向けて突っ込んで来た。

 

「受け止めた?!」

 

 そう漏らすのは少年か少女か。あるいは両方だったかもしれない。

 

「リザードン、カウンター」

 

 俺はリザードンに跳ね返すよう命令を出しておく。知らないポケモンだが、技が分かればその対処も浮かび上がってくるってもんだ。

 

『お前のその技はオレ一人なら真っ二つになっていてもおかしくない威力だ。だが、こっちもそう簡単にやられるわけにはいかない。ニダンギル、せいなるつるぎ』

 

 ニダンギルと一緒に黒いゲッコウガの巨大な一振りを受け止めたうちのゲッコウガさんはニヒルに笑ってやがる。

 こいつ久しぶりの強敵で喜んじゃってるよ。付き合わされるあいつのポケモンたちも大変だな。

 

「ビクティニまで?!」

 

 カウンターによって突き飛ばされたビクティニはそのままラティアスへとぶつかった。恐らくサイコパワーで咄嗟に受け止めていたため、ラティアスの方にはダメージがないだろう。

 

「ならスパイラルトルネード!」

 

 黒いゲッコウガは巨大な水手裏剣を高速回転させ、竜巻を生み出した。その中を何かが突っ切って来る。

 

「リザードン、ソニックブースト。ラティアスを掴め」

「シャア!」

 

 ゲッコウガは黒い方とやりたそうなので、ここは俺たちの方でカバーしてやるしかない。あっちも少年の方がゲッコウガに集中していてラティアスの方へは意識が向いていないし、絶好のチャンスだ。

 

「カノン、サイコブレイク!」

 

 やはり暴君の技と同じだ。

 打ち上げたエネルギー体が分離し、無作為に降り注いでくる。

 

『くっ…………』

 

 ゲッコウガの方もかなりダメージを受けたようだ。相手も倒せていない。

 

「すげぇ、ゲッコウガと互角かよ………!」

「リザードン、ラティアスを投げ上げろ」

 

 感嘆の声を上げているがまだこっちは終わっちゃいない。

 リザードンはラティアスを投げ上げ、降り注ぐエネルギー体に当てた。自分の技でダメージを受けるとは想定していなかっただろうし、攻めるなら今だ。

 

「トルネードドラゴンクロー」

「ナオト!」

「わかってるよ! ラティアス、りゅうのはどう!」

 

 気が緩んでいるかと思ったが気づいているのか。

 見た目に反して危機察知は敏感なようだな。

 

「………全然分かってないじゃない」

 

 リザードンは尚竜を模した波導の中を突っ切っている。

 

「フーディン、サイコキネシス!」

 

 が、丁度突破できそうという時に二体の動きが完全停止した。

 

「………何のつもりだ?」

「わたしたち二人を相手にその実力。しかも喋るゲッコウガを連れてるなんて、あなた、何者?」

 

 それはこっちのセリフだ。

 いきなり都市伝説が現実になって怪しい二人組が列車から降りて来たんだ。危機感持つのは当たり前だろ。

 

「わたしはマリー。こいつはナオト」

 

 ……………は?

 まさかそれだけか?

 それだけで判断しろと?

 はっ、俺も舐められたものだな。

 

「…………それだけか? それならお前らは俺たちの敵のままだ。俺はこれでもカロスを守る義務があるんでな。悪いが排除させてもらう」

 

 正直少年の方は強い。見た限りうちのゲッコウガですら、単独突破は無理だ。それに残りのポケモンも同じようなものだろう。何か歯車が入れ替わってるような、そんな奴らばかりだ。

 少女の方はゲッコウガの特殊さに驚いており実力を出しきれてないと言ったところか。リザードンとラティアスを止めに入ったフーディンまで色違いのようだし、この二人は常識に当てはめてはいけない。俺たちとは歯車が噛み合わない存在と認識しておいた方が良さそうだ。

 兎にも角にもこいつらをこのまま野放しには出来ない。俺には守るべきものがある。何を企んでいるのかは知らないが、ここでやるしかない。

 

「………勝てると思ってんの?」

「勝てる勝てないの話じゃねぇよ」

「いいね、そういうの」

「待ってナオト。この人の特徴、どこかで聞いたことがあるような気がするわ」

「特徴?」

 

 特徴ってなんだよ。

 目がアレとか、猫背とか、そういう奴か?

 誰だよ、そんな特徴で流した奴。

 

「しゅるるるるるぷぷしゅるぷぷ」

 

 と、突如変わった鳴き声が聞こえてきた。どこかこの世界とはズレている鳴き声が。

 

「ッ?!」

 

 何故こいつがここにいる!?

 お前らは穴の中に帰ってったんじゃねぇのかよ!

 まさかまた来たってのか?!

 

「あ、見つけた! あいつよ!」

 

 なんだと?!

 まさかこいつらの狙いはこの白い生き物だとでもいうのか!?

 

「しゅるるるるるぷぷしゅるぷぷ」

 

 ああ、耳に触る。不快極まりない。

 

「しゅるるるるるぷぷしゅるぷぷ」

 

 段々あちこちから聞こえてきて鳴りやまなくなってきた。

 

「ふ、増えてる………」

「う、うそ………そんなの聞いてないわよ」

 

 いつの間にか帽子を被った少女のような白い生き物たちに取り囲まれていた。

 

「しゅるるるるるぷぷしゅるぷぷ」

 

 危な?!

 なんか吐き出してきたかと思ったら、地面に落ちた瞬間草ごと地面が溶けた。

 ようかいえきとか比じゃないレベル。でもこれようかいえきだよな…………。

 

「しゅるるるるるぷぷしゅるぷぷ」

 

 あ、ちょ………ーーー。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

『………い、……ろ』

「…ア、リァ……アー………」

 

 ん………なんか呼ばれてるような…………。

 

「………ぁ、っ………」

「リア!」

 

 ぐふっ?!

 い、いきなり何するんですかキルリアさん。

 

『ようやく起きたか』

「………ここは?」

 

 抱きついてきたキルリアの頭を撫でながら辺りを見渡すと、そこは一面洞窟のようなところだった。だが、何故か灯りがある。明るいというよりはどこか近くに灯りの光源があるような感じだ。

 

『恐らくあの白い生き物に連れて来られたところだろう』

「夢じゃなかったんだな」

 

 白い生き物の大群に襲われたのは現実だったか。

 ああ、また面倒なことに巻き込まれてしまったようだ。

 

『ハチ、これからどうする』

「どうするって言われてもな………」

 

 どうやって帰るか分かんねぇのにどうするも何もなくね?

 

「ハチ………?」

「マリー、何か言った?」

 

 と、他にも声がした。

 先程の二人組だ。

 

「お前らっ」

「今は休戦ということにしましょ。それよりあなたの名前、ハチマンだったりするのかしら?」

 

 ぐいんとゲッコウガの方を見るが首を横に振ってくるだけ。つまり、こいつらは俺の特徴から名前を探り当てたということらしい。確かに今の俺はそこそこ有名だ。フルネームこそ覚えられているか怪しいが顔と立場が一致する奴らはそこら中にいる。少なくとも企業のお偉いさん方は俺を認知しているし、若干恐れられてもいるらしい。

 だが、こいつらの口調からしてそういう類の奴らではない。

 

「そんな怖い顔しないで。どうやらビンゴのようね」

「ハチマン? どこかで聞いたことあるような………」

「ユキノシタさんが言っていた『彼』よ」

「あ、ああ! え、なに? じゃあ俺たちって結構ヤバい人に喧嘩売ってた?」

「そういうことになるわね。バカのあんたと一緒だとすぐバトルになるから勘弁して欲しいわ」

 

 ユキノシタ?

 ユキノシタだと?

 まさかユキノかハルノの知り合いだったりするのか?

 それとも実家関係か?

 あるいは………。

 

「………お前ら、事と次第によってはマジで殺すことになるぞ」

「待って待って。ユキノシタさんのいう彼だってんなら話は別だよ。………そうか、やっぱりここは俺たちのいたカロスじゃないんだな」

「どういう意味だ」

「詳しくは言えないけれど、わたしたちはあなたたちとは違う世界の人間よ」

 

 違う世界の人間?

 それはつまりギラティナの世界の住人であり………、死人ってことか?

 いや、それはないな。明らかにポケモンたちが違う。

 となると非現実的でかつあり得ない事象ーーー並行世界か。あるいは時間移動。

 前者は知らないが後者ならポケモンの力で叶えることができる。それは俺自身が体験済みのことだ。

 

「しゅるるるるるぷぷしゅるぷぷ」

 

 チッ、奴らのお出ましか。

 

「ハチマン、取り敢えずここを出よう」

「どうやってだよ」

「多分、こいつらを攻撃して刺激すれば排除対象としてこの世界から弾き出されるはずよ」

 

 弾き出されたらどうなるんだよ。戻れる確証なんてないだろ。

 

「そこに元の世界に戻れる確証が見当たらないんだが?」

「少なくともこいつらに殺されることはないわ」

「攻撃したら殺される可能性もあるが」

 

 さっきは一体から数体に増えた程度。

 俺たちを排除するためには力不足って言われても理解できる。それが奴らの世界ーーーつまりあの生き物がうじゃうじゃといるところに引き込まれたんだ。ただでさえ生きて帰れる保証がない。そこに攻撃なんてしてみろ。跡形もなく溶かされるのがオチだ。

 

「あーもー、面倒くさいわね! だったらあんたがどうにかしなさいよ!」

「しゅるるるるるぷぷしゅるぷぷ」

 

 …………さっきとは違って攻撃してこない?

 ようかいえきらしきものも飛んでこないし………。

 

「ゲッコウガ、キルリアを頼む」

『分かった』

「リ、リア………?」

「大丈夫。様子を見てくるだけだ」

 

 ふわふわと漂っているだけで何もしてこないのなら、こっちから仕掛けてみるしかない。

 

「しゅるるるるるぷぷしゅるぷぷ」

「お前ら、何のつもりで俺たちを招いた」

 

 ………会話は無理か。

 まず俺の声を理解してなさそうだ。だが、幸い存在は認識されているのだろう。他の奴ら(全員同じ姿だから違いなんて分からないが)は俺が歩くにつれて後ろからついて来ている。

 まるで聖者の大行進のようだ。まあ、後ろは魔物感の方が強いが。何なら俺も大魔王だったな。

 

「しゅるるるるるぷぷしゅるぷぷ」

 

 奥に進むと柱を上部分だけ壊したような台座っぽいのに何かが祀られていた。

 

「………あ、あれって………ナオト!」

「ああ、あれはソウルハートだ」

『ソウルハート?』

「マギアナという機巧ポケモンの魂だ」

 

 マギアナ?

 そいつはポケモンなのか?

 

「しゅるるるるるぷぷしゅるぷぷ」

「しゅるるるるるぷぷしゅるぷぷ」

 

 な、なんだよ。ちょっとビビるだろ。ハモるなよ。

 それにしてもなんかナオトとやらの奴の声に反応しているような。気のせいか?

 

「ひっ?!」

 

 お、い………それ、は、ないだろ…………。

 

『ハチ!』

「待、て………下手に、動くな」

 

 お前が焦るのも分かる。

 だって俺今白い生き物に後ろから抱きつかれてるんだもん。しかもいきなり。こんな薄暗い洞窟の中で。ギリギリ見えている分、恐怖が増す。これ、なんてお化け屋敷だよ。

 ………よし、ここは取り敢えず異世界のお化け屋敷とでも呼ぶようにしよう。

 うん、何とか冷静になってきたな。どうでもいいこと考えるのって大事だよな。

 

「………お前ら、俺を食う気か?」

「しゅるるるぷるぷぷ」

 

 あ、初めて鳴き声が変わった。

 つまり、反応してくれたということか?

 

「しゅるるるるるぷぷしゅるぷぷ」

「しゅるるるるるぷぷしゅるぷぷ」

「しゅるるるるるぷぷしゅるぷぷ」

「しゅるるるるるぷぷしゅるぷぷ」

 

 げ、なんか増えてきたぞ。

 否定された? はずなのに増えるってどういうことだよ。余計に恐怖だわ。

 

「しゅるるるるるぷぷしゅるぷぷ」

「しゅるるるるるぷぷしゅるぷぷ」

 

 ああダメだ。

 段々思考が鈍ってくる。

 ここに長居は禁物のようだ。

 

「………大丈夫なのか?」

『あいつが命令を出すまでは大丈夫だ』

「しゅるるるるるぷぷしゅるぷぷ」

 

 どうする?

 このままだとこの白い生き物たちが何をしたいのかが掴めない。俺たちをこの世界に連れて来た理由も分からないし、帰る方法すら見つけられないだろう。

 今のこいつらはただふわふわと漂っているだけ。アプローチがあったのは俺の背中に張り付いてる奴だけである。

 何か、仕掛けてみるか?

 

「…………ナオト、あれっ」

「あれはっ?!」

 

 ん?

 ナオトたちが何か見つけたようだ。

 どうやらあいつらの目的の物があったらしい。

 

「ようやく見つけたぜ。やっぱりコイツらだったんだな」

 

 あったというか白い生き物の一体が持っていた、と言った方が正しいか。

 

「ゲッコウガ!」

「あ、おいバカ」

『チッ』

 

 俺が身体を張って様子を見ているというのに、勝手に攻撃体制に入りやがった。

 あいつは何を考えてるんだ?

 ほら見ろ、金髪少女も頭を抱えてるぞ。

 

「キズナシンカ!」

 

 黒いゲッコウガは水のベールに包まれた後、白い光に包まれて姿を変えた。二段階進化、いやゲッコウガは最終進化形だしフォルムチェンジとでもしておくか。

 

「しゅるるる………」

「むごっ?!」

 

 なんか俺に張り付いていた個体が、脚? 触手? を伸ばして俺の口を塞いできやがった。

 しかもなんか抱きつく力強くなってない? 絶対雁字搦めにされてるよね。

 

「スパイラルトルネード!」

 

 俺たちの時にも見せた巨大な水を手裏剣を高速回転させて竜巻を生み出す技で、ふわふわ漂っている白い生き物たちをまとめて吹き飛ばした。

 

「スピリットスラッシュ!」

 

 そして目当てと思われる個体に向けて高エネルギー体のブレードを振り下ろした。

 衝撃波により、何かが宙を舞っている。

 ここまでの技の発動、わすがの10秒足らず。

 やはりこいつらは異常だ。

 

「……しっ! 取り返したぜ、キズナストーン!」

 

 手際よくキズナストーンとやらを回収したナオトはガッツポーズを挙げている。何だよ、キズナストーンって。聞いたことねぇよ。

 

「しゅるるるぷぷ!」

「しゅるるるぷぷ!」

「しゅるるるぷぷ!」

「しゅるるるぷぷ!」

 

 また鳴き声が変わった。

 これは………怒りか?

 

「ナオト!」

 

 攻撃されていた個体を中心に、白い生き物たちが総掛かりでナオトたちに襲いかかった。

 マリーは応戦するようにナオトのところへ走って行くがーーー。

 

「しゅるるるぷぷ!」

「しゅるるるぷぷ!」

 

 ーーー二人の背後に穴が作り出され、二人は吸い込まれて行った。

 恐らく危険と見なされ元の世界にでも飛ばされたのだろう。そうであると思いたい。

 というか今の囮戦略を用いてなかったか?

 

「………俺たちもか?」

「しゅるるるぷぷしゅるぷぷ」

 

 俺たちもああなるのかと尋ねてみたが、鳴き声は最初と同じか。

 特にどうこうするつもりはないと見ていいのか?

 

「しゅるるるるる」

 

 俺に張り付いていた白い生き物が台座から球体を取り、俺に差し出してきた。

 ソウルハート?

 これを俺が持って行けとでも言うのか?

 すげぇ面倒事の臭いがする。

 

「しゅるるるるるぷぷしゅるぷぷ」

「しゅるるるるるぷぷしゅるぷぷ」

「しゅるるるるるぷぷしゅるぷぷ」

「しゅるるるるるぷぷしゅるぷぷ」

 

 受け取るべきか考えあぐねていると、俺たちの背後には既に穴が作られていた。

 

『キルリア、捕まれ』

「リア!」

 

 あ、こら!

 だから急に………ーーー。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「ぁ、っぁ………」

 

 ここは………レンリステーション?

 

「つまりあれは全部夢…………?」

 

 それにしては生々しい。

 

「………ゲッコウガにキルリア………はまだ寝てるか。おい、お前ら起きろ」

 

 あっちではこいつらの方が起きるのが早かったみたいだが、こっちでは俺の方が早かったみたいだな。どうでもいいけど。

 

「………リア?」

「おう、キルリア。おはよう」

「リア」

 

 キルリアは先に目覚めたが、ゲッコウガの方はまだ反応すらない。

 

「シャア」

 

 おお、リザードン。お前は起きてたか。

 あれ? てかこいつあっちにいたか?

 

「リザードン、お前何持ってんの?」

 

 リザードンから渡されたのは………ソウルハートとか言ったか? なんか球状のものだった。

 

「マギアナ、ね………」

 

 結局何も確認出来ず終いだったな。マギアナとかいう奴のこともあの異様なポケモンたちのことも。

 ナオト、マリー。あいつらは何者だったのだろうか。

 既に列車は消えている。

 だがここにソウルハートがあるということはあれは現実だ。つまり彼らがいたのも事実。

 やはり元の世界に帰ったとみるべきか。

 

「リア?」

 

 俺に抱きついていたキルリアが何かに気づいた。

 俺もそれを確かめるべくキルリアの視線を追うと、何故かボールが揺れていた。

 はて、これは誰のボールだったか。リザードンやゲッコウガ、キルリアでもない。ましてやジュカインやヘルガー、ボスゴドラとも違う。

 …………なんか嫌な予感しかしない。

 と、突然ボールが独りでに動き出し、どこかへと飛んでいく。

 俺たちはそれを目で追い…………白い生き物がキャッチした。

 

「しゅるるるるるぷぷしゅるぷぷ」

 

 ぁ………………。

 

「…………………………」

『…………………………』

 

 俺とゲッコウガは互いを見つめ合い、言葉を失った。

 や、だって、ねぇ…………。

 

『………入ったな』

「あ、やっぱ入ったんだな……………」

 

 そうなのである。

 勝手に動いたハイパーボールに、あろうことかあの白い生き物が受け止めて入ってしまったのである。

 え、マジでどうしよう…………。

 こんなポケモン、俺知らないし。

 そもそも俺たちを連れ去り、異世界? に連行するような奴だぞ?

 え、マジで怖いんだけど。

 でもこれ、このまま放って帰るなんてことも出来ないし。もしこのまま俺がこのボールを放って置いたら、俺たちに被害はなくとも他の誰かに被害が出る可能性がある。原因が判明すれば自ずと俺に辿り着き……………あぁ、考えただけで憂鬱だわ。

 けど、これを持ち帰るとなるとそれはそれで問題だ。まずポケモンなのかも怪しい生き物をどうやって手懐ければいいのやら。言葉は通じないっぽいし、これなんて詰みゲー?

 

「…………死にたくないなー」

『死にはしない、だろ………さすがに…………ないよな?』

「いや俺に聞かれても…………。俺が聞きたいくらいだわ…………」

 

 いやもうホント、誰か助けて!

 

『と、取り敢えずデオキシスの時のようにボールから出さなければ大丈夫なんじゃないか?』

「………だといいけど」

『放っては置けないだろ』

「そりゃそうなんだが」

 

 でもさすがになぁ…………。

 確かに? 俺は人よりも濃い経験をして来てますけども? ロケット団の実験やシャドーでのダークポケモン育成なんて、まず経験できるものではないし? それを不本意ながら経験して来た俺にはそれまでの濃い出会いとかもあったから、ちょっとやそっとのことじゃ動じないと自負しているけれどもだな……………。さすがに無理だろ。こんなのは専門外もいいところだ。ダークポケモンが可愛く思えるくらいには恐怖心に全身包まれている。何ならさっきまで文字通りこの白い生き物に包まれてたからな?

 

『覚悟を決めろ』

「…………って言われてもだな」

『その内、専門家に出会すだろ。オレの時みたいに』

「…………何かあったらお前も動いてくれよ」

『ああ、一応警戒はしておいてやる』

 

 あーあ、やだなー。

 何で都市伝説調べに来ただけでこんなことになってんだよ。

 

「どうかこれ以上問題が悪化しませんように!」

 

 俺の座右の銘は押してダメなら諦めろ、だ。

 もうこれは諦めるしかないのだろう。考えるだけ時間と労力の無駄だ。他にやるべきことはたくさんある。変な生き物一体くらいで泣き言言ってられるような立場でもないし、不本意ながらも連れ帰るとしよう。

 

「取り敢えず、お前のボールのお陰で今はまず開かない。それが何よりもの救いだな」

 

 俺の手持ちは六体揃っている。昔からは考えられないが、今は結構嬉しがっている俺ガイル。

 まあ、んなことはどうでもいいのだが、六体揃った状態で七体目を捕まえるとそのボールは起動しなくなるようボール間の設定がなされている。他の一体のボールを外すことで七体目のボールを起動させるように出来るようになったおり、つまりはそれまでの間は中から出てくることはないということである。

 

「時間的猶予はあるってわけか」

 

 どうするかはその内考えよう。取り敢えず今の思考回路のままでは碌な案が出そうにない。

 俺は意を決して、ハイパーボールを拾い上げた。

 ………超ドキドキした。

 

「取り敢えず、エイセツに向かうか」

 

 あいつらが何者なのか、この白い生き物が何なのか、今はあれこれ考えても仕方がない。わからないものは分からないのだ。写真に納めてあれば、画像を転送して手当たり次第に聞いて回るということも出来たが、そんなタラレバの話をしたって意味がない。

 というわけで、何かあるならばその時に考えるようにしよう。死にたくはないし、警戒だけはしておくがな。




行間

ヒキガヤハチマン 持ち物:キーストーン 菱形の黒いクリスタル ソウルハートetc………
・リザードン(ヒトカゲ→リザード→リザードン) ♂ 
 特性:もうか
 覚えてる技:かえんほうしゃ、メタルクロー、かみつく、おにび、えんまく、はがねのつばさ、かみなりパンチ、ドラゴンクロー、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、かみくだく、カウンター、じしん、フレアドライブ、ブラストバーン、げきりん、じわれ、だいもんじ、ソーラービーム、リフレクター、はらだいこ、ぼうふう、ねっぷう、あなをほる、れんごく、かげぶんしん
 飛行術
 ・ハイヨーヨー:上昇から下降
 ・ローヨーヨー:下降から上昇
 ・トルネード:高速回転
 ・エアキックターン:空中でターン
 ・スイシーダ:地面に叩きつける
 ・シザーズ:左右に移動して撹乱
 ・ソニックブースト:ゼロからトップに急加速
 ・コブラ:急停止・急加速
 ・ブラスターロール:翻って背後を取る
 ・グリーンスリーブス:連続で攻撃して空中に釣り上げる
 ・デルタフォース:空中で大きな三角形を描くように連続攻撃
 ・ペンタグラムフォース:空中で五芒星を描くように連続攻撃
 ・バードゲージ:スピードを活かして相手の動きをコントロールしていく
 ・スモール・パッケージ・ホールド:背面飛行で相手の下を飛行する

・ゲッコウガ(ケロマツ→ゲコガシラ→ゲッコウガ) ♂
 特性:きずなへんげ(へんげんじざい→きずなへんげ)
 覚えてる技:みずのはどう、あなをほる、かげぶんしん、れいとうパンチ、れいとうビーム、つばめがえし、ハイドロポンプ、くさむすび、グロウパンチ、えんまく、がんせきふうじ、いわなだれ、まもる、かげうち、みずしゅりけん、どろぼう、つじぎり、ハイドロカノン、めざめるパワー(炎)、とんぼがえり、とびはねる、ほごしょく、けたぐり、ぶんまわす、あくのはどう、どろあそび、ふぶき、たたみがえし

・ジュカイン(キモリ→ジュプトル→ジュカイン) ♂
 持ち物:ジュカインナイト
 特性:しんりょく←→ひらいしん
 覚えてる技:でんこうせっか、リーフストーム、リーフブレード、ドラゴンクロー、タネマシンガン、ギガドレイン、かみなりパンチ、スピードスター、くさむすび、ソーラービーム、エナジーボール、シザークロス、くさのちかい、マジカルリーフ、タネばくだん、こうそくいどう、つめとぎ、いやなおと、こうごうせい、くさぶえ、やどりぎのタネ、グラスフィールド、なやみのタネ、ハードプラント、つばめがえし、ものまね、みがわり、じならし、アイアンテール、けたぐり、つじぎり、グロウパンチ、まもる

・ヘルガー ♂
 持ち物:ヘルガナイト
 特性:もらいび←→サンパワー
 覚えてる技:かみつく、ほのおのキバ、ふいうち、おにび、かえんほうしゃ、かみくだく、れんごく、ほえる、はかいこうせん、アイアンテール、あくのはどう、みちづれ、だいもんじ、ハイパーボイス、ヘドロばくだん、ちょうはつ、ほのおのうず、まもる

・ボスゴドラ ♂
 持ち物:ボスゴドラナイト
 特性:がんじょう
 覚えてる技:ロックブラスト、あなをほる、なげつける、メタルクロー、アイアンヘッド、アイアンテール、てっぺき、メタルバースト、ボディパージ、ヘビーボンバー、ロックカット、ほのおのパンチ、もろはのずつき、ラスターカノン、ドラゴンダイブ、でんじふゆう、だいちのちから、カウンター、ばかぢから

・キルリア(ラルトス→キルリア) ♀
 特性:シンクロ
 覚えてる技:リフレクター、ねんりき、まもる、テレポート、マジカルリーフ、シャドーボール、マジカルシャイン、トリックルーム

控え
・???(白い生き物)
 覚えてる技:ようかいえき


ゲッコウガ
・ニダンギル(ヒトツキ→ニダンギル)
 特性:ノーガード
 覚えてる技:ラスターカノン、せいなるつるぎ、つばめがえし、かげうち、つじぎり、シャドークロー、きんぞくおん

・キリキザン
 特性:まけんき
 覚えてる技:つじぎり、くろいまなざし、ロックカット

・アギルダー
 特性:うるおいボディ
 覚えてる技:スピードスター、むしのさざめき、ギガドレイン、みずしゅりけん、こうそくいどう、かげぶんしん、こころのめ、はたきおとす、バトンタッチ

・メタング(ダンバル→メタング)(色違い)
 覚えてる技:じならし、ひかりのかべ


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ぼーなすとらっく5『とある厨二の超電磁砲』

今回はデオキシス襲来から二ヶ月半後、『シャラジムにイケメン御曹司』から半月後になります。


 我が名は剣豪将軍ザイモクザヨシテルである!

 でんじほうを愛し、ライコウに魅せられた者なり!

 

「厨二さん、ほら頑張ってください!」

「あ、はい………」

 

 現実逃避をしていたら怒られたのである。

 全く、手厳しい妹君であるな。

 デオキシス・ギラティナと命の駆け引きをしてから早二月半。我は今ミアレシティにあるミアレタワーに向かっている。少し前まではヒャッコクシティの復旧作業を手伝って(手伝わされて)いたのであるが、ようやくこっちに戻ってこられたと思ったらのこれである。数日前にも行ったというのに! ハチマンは鬼だ! 相棒に対してこの仕打ち。何か仕返ししてやりたい気もしなくもない。けど怖いからしない。主に周りが。

 なにゆえ彼奴はあんなにもモテるのだ? しかも実の妹からまで。おかしい、おかしいぞ。世界は一体どうなってしまったというのだっ!!

 ハチマンがモテるのならば我もモテたっていいではないか! 理不尽である!

 

「あ、コマチさんこんにちわ!」

「あ、ユリーカちゃん! こんにちわ!」

 

 …………あれ?

 早速?

 早速なのか?

 言った側からこれは酷くなーい?

 我泣くぞ? 遊んでくれなきゃ泣いちゃうぞ?

 

「厨二さん、何気持ち悪い百面相してるんですか。行きますよ?」

「………はい」

 

 世知辛いのである!

 現実はこんなにも世知辛いのである!

 妹君から言われるとハチマンに似てる時があって、余計にダメージデカいのであるぞ! アホ毛の力恐るべし!

 

「ユリーカちゃんは将来ポケモントレーナーになったら、どんなポケモンと旅したい?」

「うーんとね、デデンネと旅するの! それでいろんなポケモンたちと出会ってともだちになりたい!」

「そっかー。トレーナーになるのが楽しみだね!」

「うん! それでね、お兄ちゃんとバトルしてバッジもゲットするんだよ!」

「いいなー、うちのお兄ちゃんとか鬼いちゃんだからなー。勝つとか負けるとかの次元じゃないし」

 

 あれはもはや人間なのか怪しいがな。それを言ったらゲッコウガももはやポケモンなのか怪しいまである。つまり、彼奴らは人間でもポケモンでもない我らとは違う生き物なのだろう。だからバトル中にクレーターを作ろうが水圧で地割れを起こそうが草で鉄筋を破壊しようが、それはもはや序の口と言えよう。

 帰ってくるなりあの惨状を見せられたのには、さすがの我でも頭がついていかなくなるのも無理もない話なのである。

 

「重いでござる………」

 

 というかこの箱何が入っているのだ?

 普通の箱の割に重すぎやしないか?

 我の力を以ってしても重いのである。そもそも我そんなに腕力ないのだが。

 ならばジバコイルに磁力で持たせるか頭にでも置けばよくね? と思ったのだが、悲しいかな、既に占領されているのである。量が多すぎるのだ。これなら宅配業者に頼めばいいものを、妙なところでケチるから我にしわ寄せが来るんだぞ!

 …………我、ほんとに何を運んでいるのん? 爆発とかしないよね?

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「ぜー、はーっ」

 

 やっと着いた…………。

 最後エレベーターがあってほんと助かったぞ。我もう無理………。

 

「お疲れ様です、ヨシテルさん」

 

 し、シトロン殿か……。

 う、声が、出せん………。

 

「と、取り敢えず、お水をどうぞ」

 

 差し出された水を一気に飲み干した。

 うぃー、生き返るのである!

 

「我、復活!」

「それはよかったです」

「すまぬな、シトロン殿」

 

 シトロン殿は少し前にこれまたハチマンの使いでこのミアレタワーにやって来た時に出会ったミアレジムのジムリーダーである。機械工学を得意分野とし、ミアレシティを始め、現在カロス各地でシトロン殿が設計した(中には自ら完成させたものまである)商品が使われているのだとか。そのバックアップをしているのがポケモン協会であり、つまるところハチマンが手を引いているらしい。そして、今回もそれ関連なんだそうだが…………ぐぬぬ、ハチマンめ。いつの間にそんな契約を交わしていたのだ。協会の理事になってからというもの無駄にカリスマ性を発揮してないか? 基本的なステータスも無駄に高いくせに…………。イケメン完璧超人のハヤマ某ですら霞む勢いであるぞ。これだからリア充は。我も早く大人になりたい…………。

 

「厨二さん、ありがとうございました」

「う、うむ。ま、まあ、ハチマンの頼みだしな。我に出来ることくらいならたまに手伝うのだって吝かではないのであるぞ」

「ではでは、次もよろしくお願いしますね!」

「お、おうふ………」

 

 あのハチマンにしてこの妹あり、であるな。

 なんかやっぱりこの兄妹には勝てない気がする……………。

 

「あ、そうだシトロン君! さっきここに来るまでにユリーカちゃんからポケモントレーナーになったらどんなポケモンと旅したいか話してたんだけどね」

「ユリーカがポケモントレーナーに、ですか」

「うん、シトロン君はユリーカちゃんがジムに挑戦しに来たらどうするの?」

「どうするも何も全力で相手をするまでです。例え妹であれど手は抜きません。それに、ユリーカとはジムリーダーとしてバトルするのも僕の夢の一つですから」

「ほえー」

 

 兄妹での本気のバトルであるか。アホ毛兄妹も本気でバトルした暁には…………やめておくのである。想像するまでもなく悲しい結末しか見えぬ。お願いだからクレーターはやめるのだぁぁぁあああ!

 

「ヨシテルさんは何か将来の夢とかってありますか?」

「ぬ? 我の将来の夢であるか? それならば考えるまでもない。我の夢は小説家になることである!」

「小説家、ですか………?」

「うむ、我の周りにはネタになりそうな者がちらほらといるのでな。そこの妹君然り、その兄然り」

 

 最近全く手をつけられていないがな! ガハハ!

 いや、復旧作業に人手がいることは重々承知しているのだ。我だって早く元のカロスに戻ってほしいと願っているまであるぞ!

 あっちでは老若男女問わず皆が一丸となっており、我も感銘を受けたくらいだ。小説の題材にしようかなとか、これネタになりそうじゃね? とか色々考えてもいるのだ。何なら、我とライコウの出逢いとかも小説にしたいまである! これ割と昔から温めてあるネタだから超大事!

 しかし、しかしである。それを文字に起こす暇がないとは頂けないぞ!

 ま、まあそれをハチマンに言ったら、「俺なんか入院中からずっと働いてますけど何か?」と言われるのがオチである。だから言わない。口は災いの元であるからな。お口はチャック。我賢い。

 

「それに我も一度御伽話のような出逢いをしているのだ。今の我を作り上げていると言っても過言ではない」

「へぇ、それはまたすごいですね。どんな出逢いだったんですか?」

「うむ、あれは我が十歳の時。当時はまだ自分のポケモンを連れていなかったのであるが、好奇心というものは人を変えてしまうようでな。気づけば我は野生のポケモンに取り囲まれていたのだ。八方塞がりでここで死ぬのだと覚悟した時、奴は颯爽と現れ我のピンチを救ってくれたのだ」

「奴、というと?」

「伝説のポケモン、ライコウである」

 

 あの時のライコウは神だと思ったくらいである。獣々しくあり雄々しくあり。それでいて美しさを兼ね備えている。我のハートは一瞬にして握り潰され………潰されたら我死ぬな………ま、まあ、そういうことである。

 

「ライコウ………確かでんきタイプのポケモンですね。ジョウト地方の言い伝えにはホウオウの力で蘇ったとかありました」

 

 その話も感動的なものであるしな。

 我にとってライコウは我がポケモントレーナーとしての全てと言っても過言ではないわ!

 ヌハハハハ!

 

「この時、野生のポケモンを追い払うために使ったのがでんじほうでな。その一閃に魅了されてしまった我はライコウを調べ、でんじほうにたどり着き、でんじほうを覚えるポケモンを最初のポケモンにしようと決めたのだ」

 

 そしてでんじほう!

 我を助け出す時のあの戦慄!

 我今でも思い出すだけで奮い立ってくるぞぃ!

 

「それはそのジバコイルのことですか?」

「いや、我の最初のポケモンは今はZへと進化したポリゴンである。ライコウに出逢ってからはライコウについて調べ、あの時使われた技が何かを調べ、でんじほうに辿り着いた後は、どのポケモンがでんじほうを使えるのか、ずっと調べ回る毎日であったな。その過程でタマムシシティに行った際に気分転換に行ったコインゲームでボロ儲けしてしまい、ポリゴンを引き換えたというわけである」

 

 ほんとはそこでボロ儲けできたことでコインゲームにハマり、足繁く通った後に引き換えられたのだがな。でなければあんなくそ高い交換条件、果たせるわけがなかろう。だけどまあ、少しくらい端折ってもバレぬだろう。

 

「厨二さん、それハマりにハマって何回も足繁く通ってのことじゃありませんでしたっけ?」

「う、うむ、そうとも言うな」

 

 く、くそぅ。

 いいではないか、少しくらい話を端折ったって!

 全く、ハチマンといい妹君といい細かいところに拘る兄妹であるな。

 

「…………ジム、ここ?」

 

 ぬ?

 ジムへの挑戦者か?

 

「おや、ジム戦ですか?」

「え、あ、うん………」

 

 ふむ、この少年。

 見たところ一人で旅しているようであるな。後ろに誰もいないし。

 

「僕がこのミアレジムのジムリーダー、シトロンです。あ、そうだ! ヨシテルさん、彼とバトルしてもらえませんか?」

「む?」

 

 え、我?

 我ジムリーダーでも何でもなくね?

 

「実はミアレジムにもジムトレーナーを採用しようかと思ってるんですけど、その際の細かいルール規定を検討中でして。ジムごとに細かい規定を取り決めていいとは言われているものの、シャラジムなどとはちょっと傾向が違うので、その調整をしたいんです」

 

 なるほど。

 つまりは臨時のジムトレーナーというわけか。

 

「我は構わぬが………」

 

 やるには構わぬが些か少年がかわいそうではないか?

 

「ええ、仰りたいことは分かっています。ヨシテルさんにはジバコイル一体のみ、挑戦者は手持ち全てのハンデをつけます。交代も自由です。そして、ヨシテルさんに勝てれば、僕とバトルができるということでいかがでしょうか」

「なにゆえジバコイルであるのだ?」

「僕もジバコイルを連れているからです。ジム戦でも使います。ジムトレーナーはジムリーダー攻略のヒントとなるように、と規定されてますからね。ジバコイルを連れているヨシテルさんは打って付けなんです」

 

 シャラジムもユイガハマ嬢がルカリオでバトルしていると聞く。ジムトレーナーにはジムリーダーと同じ種族のポケモンを使ってもらった方が理に適ってるというわけであるな。

 

「けぷこんけぷこん! そのルールしかと心得た! それならば我の役目としても十分であろうぞ!」

「はい、それとレールガンも見せてください」

「………………」

 

 此奴、しれっと自分の目的優先させてないか?

 とんだ曲者であるな。

 

「…………お主、それが本心なのでは?」

「やだな〜、そんなわけないじゃないですか」

 

 背筋が凍りつく勢いである。

 まるでイッシキ嬢であるな。怖い怖い。あざといメガネ少年とか誰得なのだろうか。あといろはす超怖い。

 

「ま、まあ、よかろう。少年、お主もそれで良いか?」

「シャラジムでジムトレーナーの姉ちゃんにコテンパンにされたからな! ここで取り戻してやる!」

「…………」

 

 まさかの被害者であったか………。

 

「お主も被害者であったか…………」

「ひがいしゃ?」

 

 なんか無敗を記録しているとか、負けたのは元チャンピオンの奴にだけとか、色々話を聞くが………。

 そんな噂が出てくるようなユイガハマ嬢にコテンパンにされて来ていたとは……………。

 

「いや、何でもないのである」

 

 少年が変なのーとか言ってるが気にしない。気にしたら負けなのである。

 超どうでもいいがミアレタワー内にジムって、安全性は問題ないのであるか? 力出しすぎたら床が抜けるとかない…………のよな?

 

「審判は僕がしますね。ルールは先程の通りヨシテルさんはジバコイル一体。挑戦者は手持ち全てとします。交代も自由です。また技の使用は四つまでとします。それでは、バトル始め!」

 

 仕方ない。

 かわいそうではあるが、受けたものを今更やめるのも我の流儀に反す。やるからには全力で楽しむまでよ!

 

「では、参る。ゆけぃ、ジバコイル!」

「いくぞ、ガラガラ!」

 

 うむ、まずはガラガラであるか。でんきタイプのジムにじめんタイプを連れてくる。王道であるな。

 

「来ないのならこっちから行ってやる! ガラガラ、ホネこんぼう!」

 

 そんなことを考えていたら先手を取られたでござる。

 では、その攻撃力が如何程か試すとしんぜよう。

 

「ジバコイル、ジャイロボール」

 

 突き出して来た骨ごと、ガラガラをジャイロ回転で弾き飛ばした。これだけ軽く飛ぶということは、さほど攻撃力はないと見えよう。

 

「なんで………効果抜群の技じゃないのかよ………」

 

 タイプ相性から見れば正しい判断である。だが、それ以前に実力の差というところに目が行ってなさそうであるな。それに、そんな王道ばかりではつまらぬぞ!

 

「少年よ、技というのは相性だけが全てではないのである。時には効果がないと分かっていても使いたい時だってあるのだ! ジバコイル!」

「ジー」

「な、何か来る?! ガラガラ、ジバコイルにほのおのパンチだ! 先に決めろ!」

 

 さて、じめんタイプには効果がないが、やはりバトルで使いたいものは使いたいのだ。それが楽しいのだから、我はそれでいいのである。

 

「正々堂々、真正面から挑むのはいいことではある。しかし、時にはそれが命取りになるということも忘れるでないぞ。ジバコイル、レールガン!」

 

 ふっ、決まった………!

 

「これが………レールガン、ですか」

「ゴラムゴラム! これが我が秘技レールガンである!」

 

 驚いてくれたようで何よりである、シトロン殿。

 我、そういう顔が見たくて使ってるまであるからな。

 

「ガラガラ! ………って、あれ? ダメージがない?」

 

 お、気がついたようであるな。

 

「左様、この技はでんじほうであるからな。じめんタイプには効果がない。故にダメージはないのである!」

「それじゃ意味ないじゃん」

 

 だが、分かってない。分かってないのである!

 

「甘い、甘いのである! バトルは楽しむもの! 使いたい技を使って勝つ! それがポケモンバトルである! 楽しくないバトルなどやる価値もないわ! というか疲れるだけである! それにダメージがないだけであって、ゼロ距離から放たれた衝撃でジバコイルとの距離は随分と離れたではないか! ヌハハハハッ!」

「っ?!」

 

 技を当ててダメージを与えることだけがバトルではないのだ! 嘘だと思うのならホウエン地方に行ってみるがいい。コンテストといういわゆる魅せるポケモンバトルのようなものがあるのだからな! ………あれってバトルしてたかは定かではないが、とにかく魅せるのだから例えに使っても文句はあるまい。

 

「だったら交代だ! 戻れガラガラ! ヘラクロス、遠距離からでも攻撃が出来るお前の力を見せてやれ!」

 

 なるほど、つまりガラガラに遠隔攻撃がないと見た。いや、あるのかもしれんがまだ使い慣れてないという可能性もあるな。

 そして次はヘラクロスであるか。むし・かくとうタイプ。はがねタイプを持つジバコイルには相性が悪い相手である。

 

「ミサイルばり!」

「むははははっ! それは意味がないと先程見せたではないか! ジバコイル、ジャイロボール!」

 

 だがしかし! かくとうタイプの遠距離攻撃って意外と少なかったり技術を要するものが多い。この少年ではまだそこに到達していないだろうし、恐るるに足らん相手なのだぞ!

 

「今だ! ヘラクロス、かわらわり!」

 

 と思っていた時期もありました。

 綺麗に一発入れられたぞぃ!

 

「なるほど、ミサイルばりを囮にして来たであるか。ならば、こちらも本気を見せるとしようぞ」

 

 ジバコイルには申し訳ないことしたのである。お詫びに一発撃たせてやるとしよう。

 

「ジバコイル、レールガン!」

「さっき見たから躱せるだろ! ヘラクロス、飛べ!」

 

 本来のレールガンはロックオンからのでんじほうである。

 飛んだところで追尾機能が働き、狙われ続けるのだ。

 

「えっ……?」

 

 少年、お口あんぐり。

 あれ以上開くと顎が外れやしまいか心配になってくるぞ。

 

「軌道が一直線だと思っていたのならば、それは間違いである」

「ヘラクロス、戦闘不能!」

 

 やはり思っていたのであろうな。

 もの凄く悔しそうな顔をしているのである。まるでハチマンに嫉妬している我を見ているようだ。

 

「だったら、当たる前に倒せばいい! 速さで勝負だ! ゲコガシラ!」

 

 ヘラクロスをボールに戻して次はゲコガシラを出して来た。

 ゲコガシラであるか。

 ハチマンのゲッコウガを見ている我らにとって、脅威でも何でもないのである!

 

「レールガン!」

「でんこうせっか!」

 

 もう一度レールガンを放つとでんこうせっかで交わされた。だがすぐに追尾機能が働き、逃げるゲコガシラの後をついて行っている。

 昔スクールでハチマンとバトルした時を思い出すな。あの時は逆に利用されてポリゴンがやられてしまったが。

 

「ゲコガシラ、そのまま引き付けろ!」

「ヌハハハハ! 余所見とは些か余裕ではないか? 隙だらけであるぞ! レールガン!」

 

 背後をチラリと見やるゲコガシラ。

 全く、隙だらけではないか。

 

「ゲコガシラ!?」

 

 ふっ、これでゲコガシラもーーー。

 

「やったっ! 躱せた!」

 

 躱したであるか!

 ならば次の手に移るのみである。

 

「ジャイロボールである!」

 

 躱した先に向かいジャイロ回転にゲコガシラを巻き込み、地面へと叩きつけた。痛そうであるな。我痛いのは嫌いだぞ。

 

「ゲコガシラ?!」

 

 おお、なんとまだ耐えるのか。

 ならもう一手であるな。

 

「まだだ、げきりゅうが来た! ゲコガシラ、みずの「レールガン!」はーー」

 

 おっと、このゲコガシラの特性はげきりゅうであったか。先に動かれていればそれなりにダメージを食らっていたやもしれぬな。

 だがまあーーー。

 

「ふっ、先の読みが甘いのである。我の相棒は一手から数パターンの対処法を瞬時に用意しているのだ。それを毎度見せられて来た我にはこれくらいの一手、想定内である!」

「くっ………」

 

 ハチマンのバトルを見てきているのだ。それくらいのことは想定内であるぞ。

 

「もう一度だ、ガラガラ!」

 

 再びガラガラの登場であるな。となると他に対処できるポケモンがいない、もしくは手持ちがこれで最後であるか。

 

「ガラガラ、ホネ………ホネを投げるんだ! ホネブーメラン!」

 

 これは今出来た技と見て良かろう。

 土壇場で思いつき、技として完成させるポケモンの潜在的な能力。

此奴、育てばもしくは………。

 

「じごくぐるま!」

 

 骨を躱したところをガラガラに掴まれ、ジバコイルは地面に叩きつけられた。

 効果抜群………む?

 もしやこのガラガラの特性はいしあたまではないか? 反動のダメージを受けておらぬではないか。

 

「ヌハハハハ、お見事である。だがまだまだであるぞ!」

 

 さて、立て直すとしよう。

 

「ほのおのパンチ!」

 

 此奴の可能性を信じて、我がとっておきの秘儀をお見せするのだ。

 

「テレポート!」

 

 炎を纏った拳が届く寸前にジバコイルは消えた。

 

「厨二さん、テレポート使えたんですか?!」

「え? 我のジバコイル、昔から覚えてるのであるぞ? ハチマンにも見せたことないがな!」

「コマチ聞いてないよ………」

 

 そりゃとっておきの秘儀である。滅多に見せるわけがなかろう。

 

「ホネブーメラン!」

「ジャイロボール!」

 

 ジャイロ回転で再度投げて来た骨を弾いた。

 

「そのまま突っ込むのである!」

 

 そして、トドメの一撃をくれてやったのである。

 ふっ、これぞテレポート戦術。

 

「ガラガラ!?」

「ガラガラ、戦闘不能! よって勝者、ヨシテルさん!」

 

 ヌハハハハ、勝っちゃったのである。

 どうしよう、我勝っちゃった………。後先考えてなかったのであるぞ…………。

 

「厨二さん、エゲツなーい」

「かわいそー」

 

 ぐぬぬ………。

 これでも手加減していたつもりなのだが…………。

 ええい! こうなったら先人の知恵というものを授けてプラマイゼロにしてやるのだ!

 

「少年よ、某に足りないものは何だろうな」

「………ポケモンのことが分かってないから、だろ」

「いや、バトルを楽しむ心である。今のお主には焦りと驕りが見受けられる。恐らくここに来るまでにヒヨクジムにでも挑戦して、相性がいいとは言えない中で見事勝利した。その自信が驕りとなり、早くジムを攻略したいという焦りからバトルを楽しむ心を見失ったのであろう」

 

 これは我がバトルをしていて思ったことである。

 この少年、些か焦りを見せておったのでな。シャラジムに行ったと言っていたのだし、ヒヨク回りでミアレに来たと思われる。外れてたら知らん。我そこまで知るわけないし。

 で、取り敢えず一つはジムバッジを獲得していると見た。となれば一つ獲得出来たことでの驕りも合わさってのことだと伺えよう。

 そういう悪いところを指摘して次からこうするといいと教えれば、我の株も下がらないはず!

 

「だから、次かーー」

「もうわけ分かんねぇ! なんだよ、みんなして! 姉ちゃんはポケモンたちをもっと知れっていうし、今度はバトルを楽しめっていうし! なんでこんなに複雑なんだよ!」

 

 あ、失敗したでごじゃる。

 我の続きがかき消されてしまったぞ。此奴、幻想殺しでも持っているのか?

 くそぅ! なしてハチマンは出来て我には出来んかね。理不尽ったい!

 あ、ついホウエンの訛りが出てしまった。カントー出身なのに。

 

「………それはポケモンバトルの主役がポケモンたちだからです。トレーナーは指示を出すだけで実際には戦わない。だからこそ、ポケモンたちが上手く動けるように見て聞いて、冷静に判断をする必要があります。極論を言えば、ポケモンたちの全てを理解し、相手の動きも全て見切れることが理想なんです。でもそんなことはできない。できる可能性があるのはチャンピオンよりも強い『あの人』くらいでしょうが、彼もまた人間です。恐らく無理でしょうね。それくらい難しく奥が深い。それがポケモンバトルなんです。そしてポケモンジムというのはそのトレーナーとポケモンの可能性を試す場となっています。ジムリーダーはその壁として、試練として立ちはだかる存在であり、挑戦者の成長を見極める役目があるんです。だから敢えて言わせてもらいます。今の君では僕に勝つことはおろか、ヨシテルさんのジバコイルに勝つことも難しいでしょう」

 

 あれ?

 なんだかすごく空気悪くなってなーい?

 我、どしたらいいのん?

 

 ーーー笑えばいいんじゃね。

 

 ………………。

 我の中のハチマンって一体…………。

 だが仕方あるまい。

 この居た堪れない空気にいることこそ、我無理!

 

「ヌハハハハ! 我、ジム戦とかしたことないし初めて聞いたのである!」

「ええっ?! ジム戦したことなかったんですか?! あんなに強いのに!?」

「え? だって我そういうのに興味ないし? ハチマンがジム戦してるのくらいしか見てないし? そもそも我ハチマン以外とバトルなんてほとんどしたことなかったし? 緊急時以外でのバトルなんて楽しければそれでよくね?」

 

 ふっ、決まった。

 これぞ必殺なりきりハチマン!

 なりきりハチマンとはハチマンがこういう時に言いそうなことややりそうなことを実行し危機を回避する必殺技である!

 

「そもそもポケモンバトルは楽しむためのものなんです。中にはポケモンを道具のように扱って攻撃させたりする人もいますが、それは間違いです。人とポケモンはお互いに分かり合うことで呼吸を合わせ、楽しいバトルを作り上げていける。僕はそういう関係だと思っています」

 

 トホホ………。

 無理であったか。

 必殺技なのに………。

 やはり初めて使ったのが悪かったのであるか………? そうなのか?

 教えてハチマン先生!

 

 ーーーいや、知らんし。

 

 ぐぼぁっ?!

 お、お主それでも我の相棒か………?

 我の中でくらいもう少し優しくしてくれてもよくなーい?

 我引きこもっちゃうぞ? ヒッキーになっちゃうぞ?

 あ、それはどちらかと言えばこの少年の方であったな。此奴、このまま挫折して壊れるんじゃね?

 え、なにそれ超怖い。しかもそうしたの我とのバトルだし。

 助けてハチえもん!

 

 ーーー諦めろ。

 

 ぐぬぬ………。

 し、仕方あるまい。こうなればもう一度なりきりハチマンを発動させるまでよ!

 

「少年よ、しばらくの間我と特訓せぬか?」

「えっ………?」

「我とバトルをしてくれた礼とでも受け取ってくれればよい」

「………お願い、します」

「うむ、心得た」

 

 や、やったぞハチマン!

 ついにこの居た堪れない空気から脱出したであるぞ!

 褒めるがよい! 讃えるがよい! 我、結構頑張ったぞ!

 

 ーーーいや、それこそ知らんし。

 

 ぐぼぁっ!?

 ま、またであるか?!

 それともなりきりハチマンが発動中のままだったり…………?

 いいもん! もういいもん! 我は少年とバトルに明け暮れるもん! しばらく手伝ってあげないんだからね!

 …………うわ、我ながらキモいのである。これがトツカ氏であればどんなによかったか。

 うむ、そうだ! 今度からなりきりトツカ氏を発動させるとしよう。その方が我へのダメージが少ない、はず………。少ないよね? 少ないと言って!

 

 ーーートツカはやらん!

 

 ハチマンの鬼ィィィイイイイイイイイイッッ!!

 

「と、というわけである、シトロン殿。今日のところは失礼させてもらうぞぃ」

「はい、ありがとうございました。君も是非また挑戦しに来てくださいね」

「うん………」

 

 ………どうにか切り抜けられたな。いやほんと危なかったのである。思わず発狂して妹ズにキモいと連呼されて発狂してキモいと連呼されるループに陥るところだったわ! それもこれも全部ハチマンのせいである! うん、そうだ! ハチマンが悪い! 我はちっとも悪くないのである!

 

「取り敢えず、何か食わぬか? 我の奢りである」

「いいのっ?」

「うむ、これでもちまちま稼いではいるからな。一食くらいへっちゃらであるぞ!」

「じゃ、じゃあレストラン行きたい!」

「了解したである!」

 

 さて、今日は妬け食いであるな。爆ぜろリア充! 弾けろハチマン! バニッシュメント・ディス・ワールド!

 あ、さすがにハチマンに死なれては困るな…………。




行間

ザイモクザヨシテル
・ポリゴンZ(ポリゴン→ポリゴン2→ポリゴンZ)
 特性:てきおうりょく(トレース→てきおうりょく)
 覚えてる技:トライアタック、でんじほう、ロックオン、じこさいせい、テレポート、れいとうビーム、かえんほうしゃ、はかいこうせん、テクスチャー2、こうそくいどう、でんじは、かげぶんしん、テクスチャー、めざめるパワー(水)

・エーフィ(イーブイ→エーフィ) ♀
 特性:シンクロ(てきおうりょく→シンクロ)
 覚えてる技:でんじほう、サイコキネシス、はかいこうせん、シャドーボール、めいそう

・ジバコイル
 特性:じりょく
 覚えてる技:でんじほう、ロックオン、ジャイロボール、エレキフィールド、かげぶんしん、めざめるパワー(炎)、テレポート

・ダイノーズ ♂
 覚えてる技:でんじほう、ロックオン、マグネットボム、てっぺき、めざめるパワー(地面)

・ロトム
 特性:ふゆう
 覚えてる技:ほうでん、めざめるパワー(草)、シャドーボール、でんじは

・ギルガルド(ヒトツキ→ニダンギル→ギルガルド) ♂
 特性:バトルスイッチ
 覚えてる技:てっぺき、きりさく、つばめがえし、せいなるつるぎ、ラスターカノン、つじぎり、キングシールド、めざめるパワー(鋼)


少年君
・ゲコガシラ
 特性:げきりゅう
 覚えてる技:みずのはどう、でんこうせっか

・ガラガラ
 特性:いしあたま
 覚えてる技:ホネこんぼう、ほのおのパンチ、じごくぐるま、ホネブーメラン

・ヘラクロス
 覚えてる技:ミサイルばり、かわらわり


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ぼーなすとらっく6『襲撃カラマネロ!』

今回はデオキシス・ギラティナ襲撃事件から一ヶ月半後、『シャラジムにイケメン御曹司』より半月前の話になります。


「なあ、ヒキガヤ君や」

「はい? 何でしょうか?」

「ちょっと働きすぎではないかね」

 

 デオキシス襲撃事件から一ヶ月半後。

 カロスポケモン協会の事務所にパパのんがやって来た。

 パパのんが代表を務めるユキノシタ建設は今カロスの復旧活動の現場で活躍してくれている。彼はその様子の視察に来たらしく、ついでにここに立ち寄ったんだとか。

 で、いざ扉を開けてみれば、パソコンに向かいキーボードをカタカタカタカタ忙しなく叩いている俺に唖然としてしまったようだ。そんなに働くイメージがないってか。事実、そうだけども。そうでありたいとすら思ってるまであるぞ。

 

「事件から一ヶ月半、ミアレとヒャッコクの復旧活動は進んではいますが、まだまだなんです。計画の修正やら方針の最終決定、作業配分の見直しなど色々やることは山積みなんで」

 

 一ヶ月半でようやく瓦礫の処理が大方終わり、建物の再建に移り出した。予定よりは早く事が進んでいるが、そもそも俺に経験がないため標準というものが分からない。そこら辺は親父さんや色んな企業の方から知識をもらってやっている。もっとも引き出して来るのはユキノシタ姉妹だけどな。………全く、完全復旧までどのくらいかかるのやら。

 

「父さん、お茶よ」

「お、おお、すまない」

 

 ユキノがお盆を片手に戻って来た。

 父親への紅茶だろう。

 

「ハチマンも」

「お、おう、サンキュ」

 

 ついでに俺のもあった。

 コトっと置かれる湯呑み。なのに中身は紅茶。美味いんだけどね。ユキノとユイがなんかお礼と言ってくれたんだが、それ以来何飲む時もこれで出してくるんだよ。

 

「それで急にこっちに来て何かあったのかしら?」

「いや、実はな。カントーやジョウトでちょっと気になる事件があって、ヒキガヤ君なら何か情報を掴んでないかと思ってな」

「事件?」

「ああ、各地にあるポケモン研究所や有名人宅に賊が侵入しているようなんだ。しかも犯人は今だ手がかりになるような証拠を残しちゃいない。発覚は決まって犯行後、犯人が立ち去ってかららしい。それも同時刻に家主がいたところだってある。………何かあるように思わんか?」

 

 …………随分と手慣れた賊のようだな。

 取り敢えず、ヒャッコクについての向こう半月の方針をハルノに送り、一息つくことにした。

 

「賊ってことは、何か盗られてるんですか?」

「ああ、基本的に金は盗まれている。ただある研究所からはポケモンについてのデータが盗まれたようなんだ」

「というと?」

「ポケモンの名前は分かってないらしいが、確か人工的に造られたポケモンに関するものだとか言っていた」

 

 名前も分かっていない人工的に造られたポケモン…………。

 知らねぇな。人工的なポケモンで思いつくのはポリゴンや、ミュウツーくらいか。だがそれならば研究家が分からないとは思えない。ポリゴンはもちろんのこと、ミュウツーも今では密かに情報が飛び交っている。パッとは出ないが探そうと思えば探せるような代物だ。恐らくそれらはサカキによるものだと思うが。カツラさんが情報を流すとは到底思えないし。

 

「カントー、ジョウト、窃盗………」

 

 開いていたパソコンで事件について検索してみる。

 引っかかったのはカントーのポケモン協会本部のホームページやら書き込みやら、記事は色々作られているようだ。

 

「……………どの記事見てもポケモンの詳細は書いてないな」

「そう、それでは特定も難しそうね」

「ああ」

 

 さて、どうしたものか。

 現状カロスには被害はないが、今後こっちにも来ないとは限らない。だが、既に名もなきポケモンの情報は流出してるんだよな。片っ端から奪ったというよりはそのポケモンの情報を狙っていたっぽいし。となると今度は別のものを狙われる可能性だってあるということか。そもそも犯人像が未だ特定されていないのだし、動機が全く読めない。対策の幅も広すぎて策の中身が浅くなりがちだ。

 

「こっちでは起きてないのかい?」

「報告には受けてないですね。近しいところではプラターヌ研究所がありますけど、あの人何かあれば必ず俺を頼ろうとしますんで、来てないってことはまだないってことかと」

「………まあ、気をつけておいてくれとしか言えまいな」

 

 カロスのポケモン博士と言えばプラターヌ博士だが、メガシンカを継承しているコンコンブル博士もまあ類似するし、化石研究所だって狙われる可能性は高い。ポケモンの研究家は至る所にいるのだ。何なら四天王とかジムリーダーもタイプ専門での研究家になるんじゃねとも思ってるまであるぞ。

 

「時にヒキガヤ君や」

「今度は何すか?」

「娘二人は君の役に立っているかね?」

 

 何かと思えば。

 そんなの聞くまでもないでしょうに。

 

「父さん、それを本人がいる前で聞くのは人が悪いわよ」

「わはははっ、ハルノはあんなだしお前はこんなだし、父親として心配なのだよ」

「役に立つも何もいなかったら既に破錠してますよ。ヒャッコクに関しては姉の方に一任してますし」

 

 ハルノがヒャッコク、ユキノがミアレの復旧を主導で行なっている。事件の後、二人で決めちゃって人員もテキパキと確保していく様は、まあ見事だとしか言いようがない。その間ベットの上にいた者からすれば、復旧作業が今尚成り立っているのは二人のおかげなのである。俺がしてたことなんて、二人から回される契約結果等に目を通して、もらった情報を基にスケジュール作成と承認の判を押すことが主だったからな。それかリーグ大会再開の仕事くらいだ。というか俺のメインはこっちだったまである。あとはラルトスと四六時中遊んでたと言ってもいい。

 

「何なら大企業の支援を取って来てるのも二人ですし。俺はただここにいて最終判断とそれを基にしたスケジュール作成、それと全体の操作をしてるくらいなんで。俺の方が必要ではあるが俺じゃなくてもいいって役割ですよ」

「…………全く、君には恐れいったよ。まさかその歳でトップの役割をそつなくこなしているとは」

「それもこれも二人のおかげですけどね」

「ならばよし。これでユキノシタ建設の未来も安泰だろう」

「………ん?」

 

 ん?

 ユキノシタ建設?

 

「ん? 何かね?」

「ユキノシタ建設の未来との関係性がイマイチよく分からないんですが………」

「え? 君はユキノシタ建設を継いでくれるのだろう?」

「はい?」

「ん?」

 

 んん?

 俺はいつの間にユキノシタ建設の後継者になってるんだ?

 建築業のノウハウなんて持ってないぞ?

 何なら数字が嫌いなまである。今やってる作業ですら嫌になるし。でもそうも言ってられないしやらなきゃいけないからやってるだけだ。

 そんな俺が後継者?

 マジで?

 

「父さん、何か勘違いしているようだけれど、ハチマンはユキノシタ建設を継ぐなんて一言も言ってないわよ」

「え? でもハルノが………」

「何でもかんでも姉さんの言葉を真に受けすぎよ。少しは否定的発想を持ってほしいものだわ」

 

 あ、ハルノの冗談半分の言葉を真に受けちゃったのね。

 よかった、俺の知らないところで決まってたらどうしようかマジで悩むところだったぞ。

 

「いいところ大口契約の相手くらいが妥当なんじゃないすか? 今の俺じゃ」

「うーむ………、困ったな」

「まだまだ先のことでしょうに」

「いやいや、後継者くらいは今のうちから決めておいて損はない。いつ私がぽっくり逝くか分からないのだ。早いことに越したことはないさ」

「縁起の悪いことを言わないで頂戴。父さんにはまだまだ親孝行なんてものも出来ていないのよ」

「………親孝行、ユキノが………あのユキノが親孝行だなんて…………。ヒキガヤ君!」

「な、なんすか………?」

 

 なんでそんな食い気味にサムズアップなんだよ。

 全然嬉しくないんだけど。

 

「私はいつ死んでも構わないぞ!」

「アホなこと言わんで下さい。せめてユキノの親孝行とやらを受けてあげましょうよ。さすがにユキノが泣きますよ?」

 

 この人、娘のことになると途端にキャラ崩壊するよな。それ以外はしっかりしていて、貫禄のある尊敬する人なんだがな。

 ユキノがたまに出すポンコツのんの原因はここから派生しているのかもしれない。

 

「そ、そうだな。ユキノ、私にとってはお前が幸せになることが親孝行でもあるのだからな。しっかりヒキガヤ君から愛を受けるのだぞ」

「………あ、愛って………」

「何を言う。愛は大事だぞ。私と母さんも愛が芽生えて結婚してお前たちに恵まれたんだからな」

「わ、分かったから………近いわ」

「お、おお、すまん」

 

 ま、これだけ娘の将来を気にしてくれているんだ。いいパパさんなのは間違いないな。

 

「………と、電話か」

 

 満更でもなさ………そうでもないな。うん、普通に嫌がってる。普通に嫌がってるユキノを見ていたら、電話が鳴り出した。

 誰だよ、俺に電話とか。珍しい奴がいたもんだ。

 

『やあヒキガヤ』

 

 げっ、ハヤマかよ………。

 

「今度は何だよ。また惚気話か?」

 

 交換した記憶がないのに何故かハヤマの番号が登録されており、そのせいで時折惚気話を聞かされるのだ。もっと話す相手がいるだろうに。何で俺なんだよ。友達いないのか?

 

『違う違う。ちょっと気になることがあったから、その報告だよ』

「気になることねぇ」

 

 …………そういや時差ってどんだけだっけ。

 今超気になることだな。

 

『………またスクールが襲われたよ』

「はい?」

 

 今なんつった?

 スクールが襲われただ?

 

『狙いはどうもイロハのお爺様らしい』

「………何でまた。何かやらかしたのか?」

『さあ、そこまでは。こっちは生徒の身の安全が最優先だから深追いも出来ないし、詳しいことは分からない。ただ、そっちにいるんだろう?』

「ああ、今は育て屋のサポートをしてもらってる」

『そうか』

 

 あのじーさん、今度は何やらかしたんだよ。

 過去をちょっとだけ知ってしまったから怖ぇんだけど。

 

「……………なあ、そっちで強盗とか起きてるんだってな」

『強盗? …………ポケモン研究家が狙われてる奴かい?』

「それだな」

『………被害は金品とあるポケモンの研究データ。ポケモンたちへの被害はないみたいだよ』

「その犯人の情報とかは?」

『ないよ。なんせ姿形が残らない、本当に犯人がいるのかって争論になってるくらいだし』

「……………お前の意見としては?」

『………犯人はいる。それもポケモンの力を使っているね。可能性が高いのはエスパータイプじゃないかな』

「エスパータイプねぇ………。確かにこの手のやり口はエスパータイプ絡みと考えると辻褄は合いそうだが」

 

 エスパータイプなんて使いこなせればチート級になり得るからな。強盗だ窃盗だなんてのはより簡単に出来てしまう。今回のこの一連の騒動もひょっとするとエスパータイプのポケモンが絡んでいるのかもしれない。

 これで犯人がスリーパーとかだったら不気味すぎるな。想像するのもやめよ。

 

『まあ、こっちでも調べてみるよ。今回のことと何か関係があるかもしれないし』

「ああ、毎度事件に巻き込まれてたんじゃ、子供を預ける親が心配するしな。しっかりアフターフォローはするべきだぞ」

『やるだけのことはやってみるよ』

「ああ、んじゃな」

 

 なんかあっちではきな臭いことになって来てるんだな。もっともカロスだって他人事では片付けられない問題なんだけど。

 どうするよこれ。

 スクールだぞ? 絶対あのじーさん、何かしら絡んでるぞ。

 

「ハヤマ君?」

「ああ、スクールが襲われたんだとよ」

「………はい?」

「ま、そういう反応になるわな」

 

 目が点になるとはこんな状態のことを言うんだろうな。

 

「口ぶりからして被害はなさそうだが、襲われたって事実だけでも事は大きい。特に今は」

「…………もしかするとカントーやジョウトで起こっている事件と何か関係があるやもしれんな」

「…………それこそ分かりませんけど。ただ一つ確認することは出来ました。当たりか外れか、それで分かるかと」

 

 関係あるにしろないにしろ、取り敢えずあのじーさんには話を聞かないとこっちでの対策も立てられなさそうだ。

 全く………、なんで次から次へと厄介事が舞い込んで来るんだよ。今回ばかりはこっちに来るんじゃねぇぞ。

 

「取り敢えず、親父さんはユキノと待ってて下さい。今日中か明日には戻りますから。ユキノ、あれだったらプラターヌ研究所に行っててもいいぞ」

「そうね、あの人不用心なところあるもの。様子を見て来るわ」

 

 有名人というものにも困ったものだな。俺が言うのもなんだけど。俺たちだってあのリーグ大会以降、表立っての有名人に仲間入りしちゃってるし。誰だよカロスの大魔王様って。大魔王が普通守る側にいるわけないだろうに。もう少しまともな呼び方にしなさいよ。

 

『ハチ、戻った………ぞ?』

「ラル!」

「おう、おかえりラルトス。ゲッコウガも」

 

 部屋の扉を開けたゲッコウガと出かけていたラルトスが飛びついて来たため、受け止めるとすりすり胸に顔を擦り付けて来た。かわええ奴め。

 

「ゲッコウガ、悪いが今から育て屋行くぞ」

『はっ………? また行くのか?』

「え、なに? まさか今行って来たとか?」

『あ、ああ………』

「…………」

 

 マジか…………。

 

「そんな日もあるんじゃね」

『はあ………』

 

 取り敢えず、げんなりしたゲッコウガを連れて育て屋に向かった。

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

「んで、今度は何が原因なんすか?」

「ほっほ、何じゃろのう。心当たりがあり過ぎて分からんわい」

 

 現在育て屋にて遅めの昼食中。

 料理は…………ドクロッグ作………なんだよな……………。

 ここの女性陣、料理出来なくはないらしいがドクロッグが作るものの方が美味いらしい。

 

「ケケッ」

 

 今度は何作ったんだ……?

 

「つか、何でお前らドクロッグに指示出されてんの?」

「うちが知りたいくらいよ」

「仕方ないって。無駄に仕事出来るんだから」

「だねー」

 

 育て屋のトップはサガミが務めている。だがまあ手際がいいのはオリモトとナカマチさんの方であり、名前だけのようなものになっている。そこに半月前クチバのトレーナーズスクールの校長を引退し、孫娘の成長を見ようとやって来たイッシキ祖父をアドバイザーとして置いている。なのに、蓋を開けてみればサガミのポケモンであるドクロッグが指示を出し、女性陣三人のポケモンを使って育て屋を運営している。サガミなんか結構振り回されてるみたいだし。

 ………こいつ、何が楽しんだろうな。サガミをトレーナーに選んで関係ない事件に巻き込まれて育て屋やる羽目になって。ゲッコウガに聞いてみようかな。

 

「そういや昔、スクールがロケット団に狙われたことあったよな」

「懐かしいのう。どこの誰だか分からぬが助けが入って、生徒に被害はなかったのを覚えとる」

 

 そう言いながら俺をじっと見るなよ。

 分かってんだろうに。

 

「…………スクールの校長をハヤマに譲ってこっちに来たのもそれ絡みか?」

「ほっほ、否定はせんよ。主の名前に雲隠れしておれば、いくらかは治ると思てはおる」

「その割には狙われてるじゃねぇか」

 

 フレア団に利用された後、カントーに帰ったハヤマたちをスクールの教師として迎えたかと思えば、いつの間にか校長にしてたし。その理由が自分が狙われていると分かっていたからとくれば、スクールから退くのも理解出来る。ただ何でこっちに来るかね。確かに育て屋では需要あったけども。それの対価が割に合わなさすぎるだろ。

 

「敵の狙いは儂だけではないということじゃろうのう」

「俺も狙われてるって言いたいんすか」

「お主はそういう運命じゃからの。ロケット団の実験体だったヒトカゲを手にしたが末。お主は逃げられんよ」

「…………最初から分かってたってことか」

「お主に関してはな」

 

 流石元ロケット団の研究者だ。

 俺たちに施された闇計画にはこのじーさんも無関係ではないからな。ある意味ずっと研究対象になってたってことか。

 

「あのさ、アンタまたヤバいことに首突っ込んでんの?」

「突っ込むも何も最初から俺はどっぷり浸かってんじゃねぇかって話をしてんだよ。んで今回はこのじじいも関係あるんじゃねぇのかって」

「ふーん」

「…………お前ね、聞いといてその反応かよ」

「だって、あんまり実感湧かないし。ヒキガヤはともかく校長ってそんな狙われるような人なの?」

 

 俺はともかくって何だよ。

 でもそうか。コイツらはこのじーさんの正体を知らないんだっけ?

 

「このじーさん、元ロケット団の研究者で俺のリザードンに施された『プロジェクトM's』の原本となる計画を作った人だ」

「………え?」

「『プロジェクトM's』って……………レシラム化したやつだっけ?」

「……………ジワる」

「ソーナンス!」

 

 うお、なんか新しいのが出て来たぞ。

 ジワるってなんだよ。いつもはウケるなのに。いやウケられても困るんだが。

 え、つかいつの間にソーナンスいたの? 超びっくりなんだけど。

 

「カオリちゃん?!」

「カオリ!?」

 

 ほら二人とも変な反応に驚いてるじゃん。

 

「や、だって、つまりは超すごいポケモン博士だったってことでしょ。なら、あたしら超すごい人からポケモンのこと教わってるわけじゃん。こんなのジワるでしょ!」

「ナンス!」

 

 あ、うん、分かった。このソーナンス、オリモトとツボが同じみたいだ。さっきから同調してるし。

 

「いやジワるってなんだよ。まあ、すごいってのは否定しねぇけど」

「ほっほ、儂も昔は色々あった身じゃからのう。その分こっちは蓄えがあるぞ」

 

 コンコンと自分の頭を指で叩きながらそう言った。蓄えはあっても年齢的に思い出せないなんてことも出て来るんじゃねぇの? 知らんけど。

 

「け、けど大丈夫、なの?」

「大丈夫も何も元だぞ? そんなこと言ってたら俺も含めてここにいるのはお前以外シャドーの元団員だぞ?」

「ま、まあ、そうなんだけど………」

「ケケッ」

「痛ッ!?」

 

 悪の組織の元一員ってところに引っかかっているサガミの背中をドクロッグがバッチーンと叩いた。すごく痛そう。

 

「ケケッ」

『何かあればオレが守るってよ』

 

 え、今そんなこと言ってたのか?

 コイツ意外と漢気あるのね。

 

「ドクロッグ………そう思ってる、なら………ひあっ、背中なぞるの、うひぃ、やめっひゃあ?!」

「ケケケケケケケケッ」

 

 ………いや、どちらかと言えば自分のおもちゃを取られたくないって感じか。

 それにしてもコイツ、サガミ弄りを楽しんでんな。まさかそれだけでトレーナーに選んだとか? あり得なくもない話ではあるが…………。

 

「っ!?」

『ッ!?』

 

 と、そんなアホなやり取りをしていたかと思えば急に顔つきが変わり、窓の外を見やった。同じようにゲッコウガも反応している。

 

「お前ら、どうした?」

 

 反応しているのはコイツらだけ。あとは何も感じていないようだ。

 

『外に、何かいる』

「ケケッ」

 

 ………つまり、外に気配があると。そりゃ育て屋なんだし外にはポケモンたちが暮らしている。だから気配があるのは当然だろう。ただコイツらが言いたいのはそういうことではない。明らかな異質な気配なのだろう。

 

「どうやら野生のポケモンが来とるのう」

「…………フーディンからか」

「うむ、…………なんと!?」

「な、なんだよ………」

「とにかく急いでポケモンたちのところへ行くのじゃ! 預かってるポケモンたちに危害があってはならん!」

「「は、はい!」」

 

 え、そんなヤバい…………ッ!?

 

「………ヒキガヤ、嫌な気を感じる」

「……………これは……明らかな敵意、か?」

 

 ようやく俺もはっきりと感じ取れた。紛うことなき敵意。だからオリモトも同じように感じ取れたみたいだ。

 

『ハチ、先に行く!』

「ケケッ!」

「ああ、見つけたら足止めで構わん。ポケモンたちが避難できるように時間を稼いでくれ」

 

 飛び出していくゲッコウガとドクロッグの背中を見ながら俺も急いで準備にかかった。と言ってもカバンを手繰り寄せるだけなんだが。

 

「オリモト、戦闘はいけるか?」

「もちろん、ヒキガヤ一人に任せてられないし」

「………ヤバいな、段々強くなってる」

「急ご!」

 

 ワタッコに乗って外に向かうじじいの後を追うように俺たちも外へと向かった。

 

「なんだ、これは…………」

 

 外へ出てみれば、ちょっと想像の斜め上の状況になっていた。

 ゲッコウガとドクロッグが育て屋に預けられていたポケモンたちと対峙していたのだ。しかも大勢が一気に襲いかかって来ている。

 

「メガニウム、蔓で縛り付けて! フローゼルはアクアジェットで撹乱よ!」

「レントラー、でんじは! ウソッキー、まもるよ!」

『どうやら操られているようだ』

 

 操られている………?

 

「操られて………? さいみんじゅつか?」

『可能性は高い。………ッ、そこか!』

 

 さいみんじゅつ………。

 一体や二体操るくらいならさいみんじゅつを使えるポケモンでも出来るだろう。だが目の前のは大勢。一体で行なっているとは到底思えない。

 

「カーマカマカマカマカマ!」

『えーい!』

 

 この声はディアンシーか?

 声を聞く限り操られてはなさそうだな。さすが幻のポケモン。

 

「ほっほ、こっちは儂らに任せよ。ワタッコ、わたほうし。キュウコンたちはあやしいひかりじゃ」

「分かった。ジュカイン、ヘルガー、ボスゴドラ。お前らはこっちの対処を手伝ってくれ。出来るだけ傷付けるなよ」

「ケケッ」

 

 逃げていくのは………三体か。

 つまり、あいつらが原因ってわけだ。

 

『分かった。こっちは任せた』

「バクフーン、おにび! ソーナンス、ミラーコート! 当てないでね!」

 

 どうやらドクロッグは残るみたいだな。ゲッコウガとのやり取りを見る限り、あいつが認めているのが分かる。それならこっちの指揮を任せても大丈夫だろう。なんせこの育て屋の実質的支配者みたいだし。

 

「行くぞ、リザードン、ラルトス」

『ハチ、オレも行く』

 

 ボールからリザードンを出し背中に飛び乗るとゲッコウガが並走して来た。

 ま、こいつはついて来ると思ってたからな。

 ラルトスは置いて来ることも考えたが、あのカオスな状態のところに置いておくのも可愛そうだ。それなら俺と一緒にいた方がこいつも安心するだろうし連れて行くことにした。

 

『………あれは…………カラマネロじゃないか?』

 

 走りながら、ゲッコウガはそう言い放った。

 そう言われて俺も追いかけている三体の後ろ姿をよく見ると、それっぽい感じであった。

 

「………カラマネロの仕業だったんだな」

『………最強のさいみんじゅつの使い手、だったか』

「ああ、そのせいでああなったんだ」

 

 カラマネロはポケモンの中でも最も強力なさいみんじゅつを使うとされている。育て屋のポケモンたちを操れたのもそれが起因しているのだろう。

 

『相手はポケモンだ。どう裁くつもりだ』

「強制収監。それしかないだろ」

『だが相手はカラマネロだぞ。収監は難しくないか?』

「取り敢えず、考えるのは戦力を無効化してからだ」

『はいよ』

 

 相手はポケモンのみ。

 トレーナーがどこかに潜んでいるのかもしれないが、野生のポケモンとして動いているとなれば扱いがどうしようもない。そもそも前例がないのだ。

 こんな大々的な行動とか野生のポケモンからはまず考えられない。デカくて縄張り争いで激しい乱闘を繰り広げるくらいだ。

 まあ、どうするかはあいつらを取っ捕まえてから考えるとしよう。まずはあいつらを倒してからだ。

 

「リザードン、ブラストバーン!」

『フン!』

 

 大分距離が縮まったため、ブラストバーンで一気に襲いかかった。その横からはいつの間にか姿を変えたゲッコウガが背中の手裏剣を投げている。

 

「「カァ?!」」

 

 チッ、一体外したか。

 

「来る!」

「ラル!」

 

 うお?!

 ラルトス、お前………。

 

『よくやったラルトス! ニダンギル、ラスターカノン!』

 

 カラマネロの反撃をラルトスがねんりきで一瞬止めたところにゲッコウガが割り込んだ。そして、ニダンギルの鋼閃で押し返していく。

 

「リザードン、好きに動け」

 

 俺はラルトスと共にリザードンの背中から降りた。これであいつも自由に動けるだろう。

 

『キリキザン、アギルダー! もう一体は任せた!』

 

 カラマネロの動きを見る限り、一体は間違いなく強い。ブラストバーンを音だけで躱したようにも見えた。

 

「ラル………」

「大丈夫だ、何とかする」

 

 ラルトスが心配そうにぎゅっと抱きついて来るので、よしよしと撫でてやる。

 さて、どうしようか。

 

『………くっ』

 

 ん?

 なんか………戦況が芳しくなくね?

 

「リザードン、遠隔からの攻撃も合わせろ!」

「シャア!」

 

 奴らは巧みに超念力を使い、リザードンたちを近づけさせないようにしている。だから攻撃が当たっていないようだ。ならば、口から炎でも吐きながら接近すれば何かしら違う動きを見せるはずだ。

 

「……ニダンギルの攻撃だけは当たってる………ノーガードか」

 

 特性ノーガードによりニダンギルの攻撃は当たっている。ただ当たってはいるだけでダメージはほとんど与えられていないようだ。ゲッコウガもそれに気づいてニダンギルの攻撃のタイミングに合わせて自分の攻撃を合わせ込んでいる。

 あとはキリキザンとアギルダーの方は………ほぼあしらわれてるだけだな。

 つまりこれ…………。

 

「リザードンやゲッコウガ並みの強さ、なのか…………」

 

 もしそうだとしたら、俺はとんでもない計算違いをしていたことになる。この戦略じゃよくて相打ち、さいみんじゅつを駆使され全滅もあり得る話だ。こんなことならジュカインたちも連れて来るべきだったな。

 

「リザードン、りゅうのま………」

 

 いや待て。

 確かカラマネロはひっくりかえすを使えたはずだ。こいつらと互角にやり合う奴が使えないなんてことはない。

 攻撃力を上げたら逆に利用され兼ねないのか。くそ、マジで嫌な相手だな。

 

「キザッ!?」

「ルダ?!」

『しまっ?! ハチ!!』

 

 げっ?!

 キリキザンとアギルダーが吹っ飛ばされて、その間に俺を狙って来やがった。

 マジか………ラルトスじゃ無理だし………。

 

「アギルダー、手裏剣投げろ!」

 

 投げるくらいなら出来るだろ。

 

「ラルトス、ねんりきで手裏剣をカラマネロの目に当ててくれ」

「ラル!」

 

 飛んできた水の手裏剣をラルトスに操らせて、カラマネロの目を狙った。案の定カラマネロは目を守るように触手で目を覆った。

 

「今だ、キリキザン! シャドークロー!」

 

 今の流れでキリキザンが立て直し、地面に影の爪を突き刺し、カラマネロの影から突き出した。

 

「カマ!」

 

 うわ、マジか。サイコカッターで一発かよ。

 時間稼ぎになればと思ったが、一撃で相殺されてしまった。

 

「て、危ねっ?!」

 

 というか流れ弾がこっちに来てるんですけど!

 影爪を貫通しちゃってるし! 影だから仕方ないってか!

 

「ラルトス!」

 

 ラルトスを抱えて地面に伏せると頭の真上をピンク色の衝撃波が流れでいった。

 

『ハチ!』

「ラルー!」

 

 あ、こら、待て! ラルトス!

 

『ラルトス、まもるだ!』

「ラール!」

 

 ええー、いつの間に覚えたんだよ。つか、何でゲッコウガの方が知ってるんだよ。まさかこいつが教えたとか? うわ、あり得る話だわ…………。

 

「ラル!?」

「カーマネッ!」

 

 あ、ヤバい。

 力負けしてる。

 

「キリキザン、アギルダー、動けるか?」

「キザ!」

「ルダ!」

 

 恐らくこいつらでは歯が立たないだろう。それくらいカラマネロの実力は上だ。だが、これもラルトスを助けるため。力を借りるぞ。

 

「キリキザンはシザークロス! アギルダーはシグナルビームだ!」

 

 カラマネロはあく・エスパータイプ。むしタイプの技が一番よく通る。焼け石に水かもしれないがこうやるしかない。

 

「カマネ!」

「ラールーッ!」

 

 キリキザンと光線を触手で振り払っている間にラルトスは押し返し始め………って、これは………進化の光か!

 ってことは………。

 

「リーア!」

 

 突如白い光に包まれたラルトスはキルリアへと進化した。

 

「キルリア………」

 

 自分のポケモンが進化するところを見るのはいつぶりだろうか。ケロマツからゲッコウガに二段階進化した時とかそれどころじゃなかったし。今もそれどころじゃないけど。いやでも、うん………感慨深いわ。

 

「カーマ!」

「リアーッ!?」

 

 チッ、やはり無理か。

 

「っぶね!」

 

 触手で強引に突き飛ばされたキルリアを追いかけスライディングキャッチ。急に体重が掛かったためバランスを崩して背中を打った。

 

「カーマネ!」

「キルリア!」

「リ、リアー!」

 

 禍々しい光線、はかいこうせんが撃ち出された直後、カラマネロが視界から消えた。

 

「ぐへっ?!」

 

 あ、つぁ…………。

 今度は頭を打ち付けてしまった。

 

「リア………」

 

 俺もう無理…………戦闘不能だわ。

 なんて心配そうに見つめて来るキルリアに言えるわけもなく、取り敢えず働かない頭で状況を把握していく。

 まずはかいこうせんは外れた。俺の視界からはカラマネロが消えて………さっきよりも大分遠くに感じる。んで、頭打った。…………考えられるのは一瞬で移動して着地時に打ち所が悪かったってところか。で、そんなことが出来るのはキルリアしかおらず、それもテレポートを初めて使ったのだろう。

 

「お前の気持ちは、しっかり受け取ったから。だから無理はするな」

「………リア」

 

 俺を守るために咄嗟に使ったからこんな形になってしまったってわけだ。

 

「シャア?!」

『ぐあっ?!』

 

 っ、おいおいおい!

 マジかよ。リザードンとゲッコウガが吹き飛ばされたぞ。

 あいつら二体ははっきり言ってチート級だぞ。リザードンなんかメガシンカを失ってからの方がメガシンカ時よりも強くなってるまであるっていうのに。まさか、あのカラマネロたちはあいつら以上の実力ってことなのか?!

 

「カカカカカカッ!」

「マネネネネネネネッ!」

「カマ!」

 

 うわ、あいつら性格悪ッ?!

 ケシケシ笑いながら逃げやがったぞ。

 

『くそっ、逃げやがった………!』

「キルリア、大丈夫か………?」

「リア………リアッ………!」

 

 おうおう、かわええのう。

 進化しても癒させるわ。

 

『………どっからどう見てもお前が一番大丈夫じゃないだろ』

「………擦り傷だけだろ? 身体中、地味に痛いくらいだ」

『見た目とは裏腹にって奴か』

 

 吹っ飛ばされて背中打ってテレポートして頭打ってすげぇ痛いんだけどね。それ以外は結構汚くなってるけど怪我してないんだよな。キルリアがすげぇ泣きついて来てるとこ悪いけど。これもキルリアが頑張ってくれたおかげだぞ。

 

「…………なあ、あのカラマネロども、どう思う」

『さあな。人的か動的か。どちらにしようが警戒だけはしておいた方がいいだろうな』

「だな…………」

 

 少なくとも戦力はあっちの方が上だろう。今のリザードン、ゲッコウガとサシでバトルして一撃で倒れず、二度目の攻撃からは急所を外し、いなされていた。さいみんじゅつを使っての一瞬だけでもリザードン、ゲッコウガを操りラグを作り出していたとも考えられるが、それならそれでやはり危険であることには変わりない。

 

「敵は人だけじゃないってか………」

 

 あのカラマネロたちがトレーナーのいるポケモンだった可能性もあるが、野生のポケモンに狙われないとも限らない。

 敵を人だけと縛り付けるのは浅はかなのかもしれないな。

 

「…………はあ」

『ハチ?』

 

 これは一つ手を打たないといけないようだな。

 

「なあ、ゲッコウガ」

『なんだ?』

「一撃必殺の効果判定の基準って知ってるか?」

『突然何を言い出すかと思えば。オレはそもそも使えないが、一撃必殺は実力が上の奴程効果を発揮させる。だからこそ最も扱いが難しい技の一つともなっている』

 

 おお、分かってるみたいだな。まあ周りに使って来る奴もいるもんな。知ってて当然か。

 

「じゃあ、その実力ってのはどうやって分かるんだ?」

『それは………』

 

 けど、やはりその効果の基準は分かってないか。

 

「人間はな、それをレベルというもので基準を設けている。お前たちの実力をレベルというものに置き換えて考えているんだ。そうすることで単純化し、分析もしやすくなった。しかも強ちその考え方は間違いではなかった」

『つまり何か? オレよりも強いリザードンはオレよりもレベルとやらが上だとでも?』

「ああ、そういうことだ」

 

 相変わらず理解が早いな。

 

『………まずレベルが分からなければ話にならんな』

「そこなんだよ。俺が聞いた話では歴代の図鑑所有者は自分のポケモンたちのレベルを把握してるみたいなんだ。それを利用して進化のタイミングを計ってたりな」

『………世界のどこかに可能にするものがあると、そう言いたいわけだな』

「ああ………誰か作れないかね。レベルを可視化出来る機械」

 

 ミアレのジムリーダー辺りが作れたりしないかね。




行間

ヒキガヤハチマン 持ち物:キーストーン 菱形の黒いクリスタル etc………
・リザードン(ヒトカゲ→リザード→リザードン) ♂ 
 特性:もうか
 覚えてる技:かえんほうしゃ、メタルクロー、かみつく、おにび、えんまく、はがねのつばさ、かみなりパンチ、ドラゴンクロー、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、かみくだく、カウンター、じしん、フレアドライブ、ブラストバーン、げきりん、じわれ、だいもんじ、ソーラービーム、リフレクター、はらだいこ
 飛行術
 ・ハイヨーヨー:上昇から下降
 ・ローヨーヨー:下降から上昇
 ・トルネード:高速回転
 ・エアキックターン:空中でターン
 ・スイシーダ:地面に叩きつける
 ・シザーズ:左右に移動して撹乱
 ・ソニックブースト:ゼロからトップに急加速
 ・コブラ:急停止・急加速
 ・ブラスターロール:翻って背後を取る
 ・グリーンスリーブス:連続で攻撃して空中に釣り上げる
 ・デルタフォース:空中で大きな三角形を描くように連続攻撃
 ・ペンタグラムフォース:空中で五芒星を描くように連続攻撃
 ・バードゲージ:スピードを活かして相手の動きをコントロールしていく

・ゲッコウガ(ケロマツ→ゲコガシラ→ゲッコウガ) ♂
 特性:きずなへんげ(へんげんじざい→きずなへんげ)
 覚えてる技:みずのはどう、あなをほる、かげぶんしん、れいとうパンチ、れいとうビーム、つばめがえし、ハイドロポンプ、くさむすび、グロウパンチ、えんまく、がんせきふうじ、いわなだれ、まもる、かげうち、みずしゅりけん、どろぼう、つじぎり、ハイドロカノン、めざめるパワー(炎)、とんぼがえり、とびはねる、ほごしょく、けたぐり、ぶんまわす、あくのはどう、どろあそび

・ジュカイン(キモリ→ジュプトル→ジュカイン) ♂
 持ち物:ジュカインナイト
 特性:しんりょく←→ひらいしん
 覚えてる技:でんこうせっか、リーフストーム、リーフブレード、ドラゴンクロー、タネマシンガン、ギガドレイン、かみなりパンチ、スピードスター、くさむすび、ソーラービーム、エナジーボール、シザークロス、くさのちかい、マジカルリーフ、タネばくだん、こうそくいどう、つめとぎ、いやなおと、こうごうせい、くさぶえ、やどりぎのタネ、グラスフィールド、なやみのタネ、ハードプラント、つばめがえし、ものまね

・ヘルガー ♂
 持ち物:ヘルガナイト
 特性:もらいび←→サンパワー
 覚えてる技:かみつく、ほのおのキバ、ふいうち、おにび、かえんほうしゃ、かみくだく、れんごく、ほえる、はかいこうせん、アイアンテール、あくのはどう、みちづれ、だいもんじ、ハイパーボイス、ヘドロばくだん、ちょうはつ

・ボスゴドラ ♂
 持ち物:ボスゴドラナイト
 特性:がんじょう
 覚えてる技:ロックブラスト、あなをほる、なげつける、メタルクロー、アイアンヘッド、アイアンテール、てっぺき、メタルバースト、ボディパージ、ヘビーボンバー、ロックカット、ほのおのパンチ、もろはのずつき

・キルリア(ラルトス→キルリア) ♀
 特性:シンクロ
 覚えてる技:リフレクター、ねんりき、まもる、テレポート


ゲッコウガ
・ニダンギル(ヒトツキ→ニダンギル)
 特性:ノーガード
 覚えてる技:ラスターカノン、せいなるつるぎ、つばめがえし、かげうち、つじぎり、シャドークロー、きんぞくおん

・キリキザン
 特性:まけんき
 覚えてる技:つじぎり、くろいまなざし、ロックカット、シャドークロー、シザークロス

・アギルダー
 特性:うるおいボディ
 覚えてる技:スピードスター、むしのさざめき、ギガドレイン、みずしゅりけん、こうそくいどう、かげぶんしん、こころのめ、はたきおとす、バトンタッチ、シグナルビーム


サガミミナミ
・メガニウム ♀
 覚えてる技:ソーラービーム、にほんばれ、つるのムチ、じならし、くさのちかい、しぼりとる、こうごうせい、ひかりのかべ

・フローゼル ♂
 特性:すいすい
 覚えてる技:アクアテール、かわらわり、れいとうパンチ、みずでっぽう、アクアジェット、スピードスター、あまごい

・エモンガ ♀
 特性:せいでんき
 覚えてる技:でんげきは、ボルトチェンジ、アクロバット、でんこうせっか、ほうでん、でんじは、かげぶんしん

・ルリリ ♀
 特性:そうしょく
 覚えてる技:こごえるかぜ、あわ、うそなき、はねる、まるくなる

・ドクロッグ ♂
 特性:きけんよち
 覚えてる技:ずつき、ダブルチョップ、ねこだまし、どくづき、バレットパンチ、ヘドロばくだん、どろばくだん、ドレインパンチ、みがわり、はたきおとす

・ディアンシー
 持ち物:ディアンシナイト
 覚えてる技:ダイヤストーム、マジカルシャイン、ムーンフォース


オリモトカオリ
・バクフーン(マグマラシ→バクフーン) ♂
 覚えてる技:ふんか、でんこうせっか、かわらわり、かえんほうしゃ、かえんぐるま、おにび

・オンバーン ♂
 覚えてる技:りゅうのはどう、ばくおんぱ

・バクオング ♂
 覚えてる技:みずのはどう

・ニョロトノ ♂
 特性:しめりけ
 覚えてる技:ハイドロポンプ、アイスボール

・コロトック ♀
 覚えてる技:シザークロス

・ソーナンス ♂
 覚えてる技:カウンター、ミラーコート


ナカマチチカ
・ブラッキー ♀
 覚えてる技:あくのはどう

・トロピウス ♂
 覚えてる技:ぎんいろのかぜ、エアスラッシュ

・レントラー ♂
 覚えてる技:かみなりのキバ、でんじは

・ウソッキー ♀
 覚えてる技:まもる


イッシキ博士(元校長)
・ゲンガー ♂
 覚えてる技:シャドーボール、シャドーパンチ、10まんボルト、どくづき、だいばくはつ

・フーディン ♂
 覚えてる技:サイコキネシス、きあいだま

・クロバット ♂
 覚えてる技:シャドーボール、クロスポイズン

・ワタッコ ♀
 覚えてる技:とびはねる、わたほうし、おきみやげ

・キュウコン ♀
 覚えてる技:かえんほうしゃ、フレアドライブ、サイコキネシス、エナジーボール、リフレクター、あやしいひかり

・キュウコン(アローラの姿)(ロコン→キュウコン) ♂
 覚えてる技:フリーズドライ、こおりのつぶて、ほえる、あやしいひかり


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ぼーなすとらっく7『挑戦者ユキノ VSガンピ』

今回は以前提案のあったリーグ大会の内容となります。
タイトルからお察しかと思いますが、全4話です。
次の投稿はこの続きを予定していますが、残り2話までに他の話を投稿するかもしれませんので悪しからず。


 デオキシス襲来事件から早いもので一週間。

 私はある役目を担うことになっていた。

 それは事件によって中断してしまっていたポケモンリーグの再開である。三回戦からが行えていない状態だったためその続きから、になるはずだったのだけれど、エックス君とルミさんが棄権したため残ったのがチャンピオン・四天王の四人と私だけになってしまった。そこでルールを変更して「三冠王のチャンピオン・四天王への挑戦」という形で再開することなったのだ。元々私は広告塔であったため注目を浴びるのは今更なのだけれど、ルールがルールなだけにあんな事件の後でも人が集まっているのには驚かされている。

 場所はシャラシティのマスタータワーがあった離れ島。そこにバトルフィールドを設置し、観客は周りの海で遊覧船に乗りながらの観戦となる。姉さんの機転の速さは異常ね。

 今日は午前がガンピさん、午後からはズミさん、明日の午前がハチマンで午後からチャンピオン戦となっている。ルールはこれまでと同じで六対六のフルバトル。一体につき技は四つまでで交代はお互い自由。ガンピ戦で六体全ての顔を見せてしまえばチャンピオン戦までメンバーを入れ替えることはできない。使う技は対戦相手によって変えられる。使用技数は変わらないけれど。

 ドラセナさんを既に倒していたのがせめてもの救いかしら。インターバルはそれなりにあるとはいえ、連戦は私にとってもポケモンたちにとっても気が抜けないもの。集中力を保つのも楽じゃないわ。

 

『皆さん! 盛り上がってますかーっ!!』

 

 実況が喋り出したということはいよいよね。

 

「ユキノちゃん、緊張してる?」

「それはまあ………それなりに緊張しているわ」

「…………提案して煽った私が言うのもなんだけど、無理はダメだよ?」

「分かってるわ。それはポケモンたちにも悪いもの。みんなあの時は必死で私を守ってくれてたのだから」

『一週間前、突然ミアレスタジアムにデオキシスというポケモンが現れました。デオキシスは分身体でミアレシティを攻撃し、多大な被害を受けたことは皆さんもご存知かと思います。しかし、それだけでは留まらず今度はヒャッコクシティでも同じように被害を受けました。今カロスではミアレシティ及びヒャッコクシティの復旧に全力を尽くしています。そして今回! 中断されていたポケモンリーグを少々ルールを変更して再開することになりましたっ!! その名も! 「三冠王の四天王・チャンピオン攻略!!」。これは三冠王ユキノシタユキノが四天王・チャンピオンを順番に倒していく物語となっております。ただし、彼女が負けた時点で大会も終了とのことです。彼女は最後まで勝ち抜くのかっ! それとも誰かが止めるのかっ!』

 

 全く………、そんなに煽らないで欲しいわ。ハードルが上がるだけじゃない。

 

『過去に各地のリーグ大会で三度優勝を果たしている彼女は、既に四天王ドラセナを攻略し、その実力を我々に見せつけてくれました。そんな彼女がこれからどのようなバトルを見せてくれるのかっ! さあ、それでは早速お呼びしましょう。今大会の主人公、三冠王ユキノ!!』

 

 観客の声援がこちらにまで届いてくる。船の上からなのにこんなに響くものなのね。

 事件の後だから心配していたけれど、やはりこういう大会というのは人気が劣らなくてよかったわ。

 

「「「「「「キャアアアアアアアッ!!!」」」」」」

 

 ………360度見渡す限り白い船ばかりね。あのどこかにユイたちもいるのかしら。姉さんが席を確保したとは言っていたけれど。何なら復旧活動を手伝ってくれているハヤマ君たちの分まで用意しているのだから案外船一つくらい抑えていそうね。

 

『さあ、続いて対戦相手を紹介しましょう。カロスの鋼騎士、鋼鉄の四天王ガンピ!』

 

 カシャンカシャンと鎧を鳴らして出てきたのは四天王のガンピさん。コマチさんを破った相手。まずは敵討ちをするとしましょうか。

 

「この度はカロスのために戦って頂き感謝している。我らだけでは手に負えなかったであろう」

「いえ、私は既にカロスポケモン協会の人間です。カロスを守るのは当たり前ですよ」

「………そうであるか。では一つ問いたい。何故貴公はそこまでカロスのために命を張れるのだ? 噂によれば一度命を落としかけたと聞くが」

 

 別に私は命を懸けているわけではないわ。ただあの時は守るものがあったから、そのために仕方がなかったとしか言えないわね。私自身死ぬのはごめんだもの。

 

「………命を張る理由ですか。私には好きな人がいます。その彼が守りたいものを私も守りたい。それだけです」

「………愛故に、というものであるか。では見せてもらおう。その愛の力とやらを」

「いいでしょう」

 

 バトルでハチマンへの愛が分かるとは思えないけれど。本気で来いというのであればそうするまでよ。

 

「準備はよろしいですね? では、バトル始め!」

 

 相手ははがねタイプの使い手。まずはほのおタイプのギャロップで先制といきましょうか。

 

「いくのである。クレッフィ!」

「ギャロップ、行きなさい」

 

 初戦はクレッフィね。はがね・フェアリータイプ。特性はいたずらごころだったかしら。コマチさんの時と戦法は同じ可能性があるわね。

 

「クレッフィ、まきびし!」

「ギャロップ、フレアドライブ!」

 

 やはりまきびしね。

 いくらギャロップの素早さが速くても特性には抗えない。先手でこっちがポケモンを交代し難いフィールドへと変えて来たわね。

 でも関係ないわ。

 

「ぬぅ?! クレッフィ!?」

「悪いけれど、最初から手を抜く気ないわよ」

 

 クレッフィは防御力がそこまで高いポケモンではない。

 だからギャロップの攻撃力で弱点を突けば脆い。

 

「………我らもそう易々とやられるわけにはいかないのである」

「え、うそ、耐えた………?!」

 

 まさかそこまでの実力差があったとでも………?

 

「ドラセナに助言された時はまさかとは思ったが、真であったようであるな。きあいのタスキを巻いておいて正解であった。つくづく彼女の目は恐ろしいと思い知らされる」

 

 きあいのタスキ………。

 そう、そういうこと。きあいのタスキには巻くと気合いで攻撃を耐える効果がある。いえ、正確には巻くと気合いで攻撃を耐える効果を持った襷をそう名付けた、が正解ね。

 どこに巻いているのかと思えば、鍵に混ざっていたなんて。それは見落としてしまうわ。

 

「では次へ参ろう。クレッフィ、どくどくである!」

 

 っ?!

 まずいわね。

 次の一撃で確実に仕留めないと。

 

「ギャロップ、でんこうせっか!」

 

 ギャロップは速攻を仕掛けた。

 体当たりで吹き飛ばしたクレッフィは恐らく戦闘不能になっているはず。これで耐えられていたら、一からポケモンについて勉強し直す必要が出てくるまであるわ。

 

「クレッフィ、戦闘不能!」

 

 ほっ、よかった………。

 さて、ギャロップを引っ込めないと。毒がどんどん回っていて苦しそうだわ。

 

『クレッフィ、早速戦闘不能! 最初から高度な駆け引きが成されました! しかし、そこを制したのはやはり三冠王!! 落ち着いて対処して見せましたっ!!』

「戻るのである、クレッフィ」

「戻りなさい、ギャロップ」

 

 ガンピさんは特に表情を崩さずクレッフィをボールへと戻した。私もギャロップを戻し、ガンピさんの様子を伺う。顔に出ないだけで動揺している、ということはなさそうね。

 

「これでギャロップは実質無力化したも同然である」

「ええ、そうですね。しかもフィールドに仕掛けまで施されてしまいましたし」

 

 毒状態に陥ったギャロップは今後バトルに出せない。出すとしてもタイミングを見計らう必要がある。ガンピさんの言う通り、無力化されたも同然だわ。数の上ではこちらが有利でも心の持ちようはイーブンだもの。伊達に四天王に指名されてないわね。

 次は誰を出してくるのかしら。ハッサムはメガシンカ出来るため最後、少なくとも後半なのは確実。そして、ハッサムに並ぶ要注意なポケモン、ギルガルドもいるはず。他は選出を変えていなければダイノーズ、ナットレイ、シュバルゴ。どれもかくとうタイプの技はよく通る。シュバルゴだけは効果抜群にはならないけど、それでも計算上は等倍。となると…………かくとうタイプの技を持ちギルガルドに対抗出来るのはマニューラしかいないわね。オーダイルならどれも対処出来そうだけど、不測の事態に備えてまだ温存しておきたい。

 ただ注意すべきはマニューラがこおりタイプであるということ。こおりタイプははがねタイプが弱点。気は抜いてられないわ。

 

「行きなさい、マニューラ」

「ギルガルド、行くのである!」

 

 ここでギルガルドなのね………。

 序盤から削れる内に削ってしまおうって魂胆かしら。

 

「マニュ!?」

 

 まきびしのダメージ。

 これからポケモンを出す度にダメージが入ってくるのよね。地味に痛いわ。

 

「マニューラ、まずはみやぶるでゴーストタイプ特有の能力を無効化するのよ」

「ギルガルド、つるぎのまいである!」

 

 みやぶる。

 ゴーストタイプに無効となるノーマル、かくとうタイプの技が効果ありになる技。それと同時にゴーストタイプ特有の消える能力も使えなくする。要は気配は移動時の微かな空気の流れを感知し、分身体であろうが見えない相手であろうが本体を見極める技ってわけね。

 これで準備は終わったわ。あとはタイミングを見計らうだけ。

 

「せいなるつるぎ!」

 

 つるぎのまいで攻撃力を大幅に上げてきたギルガルドの一撃は、食らうとマニューラを一撃で戦闘不能に追い込む可能性だってありそうね。

 

「つじぎりで流しなさい!」

 

 振り下ろされる白く伸びた刀身を黒い手刀で右に晒した。それでもノーダメージというわけにはいかなかったけれど。やはり早々に決めに行った方が良さそうだわ。

 

「走って!」

 

 せいなるつるぎで刀身が伸びていたため、少し距離を詰めないと直接攻撃出来ないなんて。

 距離も計算しているといったところかしら。

 

「つじぎり!」

「キングシールド!」

 

 黒い手刀は盾に受け止められ、逆に衝撃波を食らった。

 

「今である! せいなるつるぎでトドメを刺すのだ!」

 

 そしてその衝撃波に呑まれている間にギルガルドはフォルムを切り替え、再び刀身を伸ばして光らせている。

 行くならこの一撃ね。

 

「あなたのこれまでの成果を見せなさい。カウンター!」

「マッニュッ!!」

 

 私のポケモンには強さにバラつきがある。オーダイルは時折成り行きでハチマンが鍛えていたし、ボーマンダはメガシンカを獲得した。同じくメガシンカ出来るユキノオーは、私が捕まえる前からかなり熟練されており、私が教えるまでもなく一撃必殺を使いこなす。この三体をS級とするならば、ペルシアン、ギャロップ、マニューラはA級といったところかしら。その下のB級にフォレトス、エネコロロ、ニャオニクスが来る。A級はハチマンを探しながらカントー、ジョウト地方を旅する中で捕まえたポケモンたちであり、長年の息というものがある。フォレトス、エネコロロは元々バトルがそこまで得意な方ではなく、ニャオニクスはコマチさんのカマクラがいて初めて力を発揮出来るようで、シングルバトルにおいてはあまりやりたがらない。

 そんな中でマニューラは日々新しい技を覚えるべく自ら研究していたのだ。その一つがカウンター。素早い動きが持ち味である反面、重い一撃に対して対応策を持っていなかった。それを克服するためにカウンターを習得したらしいわ。幸い周りにはカウンターを使いこなすポケモンたちがいたことだし、習得環境がよかったのでしょう。

 

「どうやら天は我らの味方のようであるな」

 

 ギルガルドへのカウンターは決まったみたいだけれど、自身も弾かれたようね。全てを返し切れていないわ。だからギルガルドはまだ倒れない。

 

「ええ、そうみたいですね。でも、真下がガラ空きですよ」

 

 けれど、そんな頑張りを見せてくれたマニューラが何も考えていないわけじゃない。

 地面に打ち付けられ意識が遠退く寸前、黒い爪を地面に突き刺したのだ。

 

「ギッ?!」

 

 ギルガルドの真下から飛び出した黒い爪は攻撃モードのままだったギルガルドを突き飛ばした。しかも急所に入ったようで既に意識を失っている。

 

「シャドークロー………」

 

 ガンピさんもようやく何が起きたのか理解出来たみたいね。

 

「………最後まで闘うその姿勢、称賛に値する。見事なり」

 

 ええ、私も称賛するわ。

 マニューラ、お見事よ。

 

「マニューラ、ギルガルド、共に戦闘不能!」

『マニューラ、最後の最後までガッツを見せ、ギルガルドと相打ちに持っていきましたっ!!』

『ガンピさんのギルガルドはハッサムに並ぶ実力の持ち主で有名ですからね。コンコンブルさんはどう思います?』

『プラターヌ博士の言う通りなんよ。彼奴のギルガルドは特性により攻撃と防御に特化することが出来る。そのためタイミングを読まない限り、まず倒せん相手よ』

「戻りなさい、マニューラ。お疲れ様。あなたの活躍、みんなが見ていたわよ。これからは次の段階へ進めましょうか」

「ギルガルド、よくやったのである。マニューラにはしてやられたであるが、いいものが見れたな」

 

 マニューラは自ら壁を乗り越えカウンターを成功させた。だから私は次の試練を用意してあげなくてはいけないわ。今のマニューラならもっと高度なことも出来そうね。

 

「ユキノオー、行きなさい」

「出番であるぞ、ダイノーズ」

 

 次はダイノーズね。

 出し合いではこちらが不利になってしまったかしら。

 

「ノォッ………!?」

 

 まきびしのダメージ。

 こうそくスピンがあれば良かったのだけれど、ないものは仕方がないわ。それも込みで作戦を遂行することにしましょう。

 

「ゆきふらし、であるか」

 

 ユキノオーの特性ゆきふらし。

 フィールドに出た際に雪雲を呼び出して霰を降らせ始めた。

 まきびしに対する対価と思って欲しいわ。

 

「ダイノーズ、マグネットボォォォム!」

 

 コマチさんとのバトルの時にも思ったのだけれど、どうしてマグネットボムだけ巻き舌なのかしら。

 

「ユキノオー、くさむすび。草を伸ばして衝撃を流すのよ」

 

 地面を次々と爆発させてユキノオーに襲いかかって来る。それを地面を叩き草を伸ばして分厚い壁を作ることでガード。ハチマンの使い方を見るまではこんな使い方も出来るなんて思いもしなかったわ。本来のくさむすびは地面から草を伸ばして絡めたところに相手を引っ掛けるもの。その草を伸ばして絡ませるところを応用することで戦略が幾重にも広がるのよね。よくこんな発想に行き着いたものだわ。

 

「ノーッズ?!」

「ぬぅ、雪が地味に痛いのであるな………」

 

 ゆきふらしによる雪のダメージがダイノーズに入った。こおりタイプ以外は一定時間ごとにダメージを受けるフィールド。雪ぐ降り止む前に活かせるといいけれど。

 

「ほのおのパンチ!」

「もう一度、くさむすび! 今度は搦め取りなさい!」

 

 ダイノーズの周りにいる三体のチビノーズたちが一斉に炎を纏った。ダイノーズからしてみればチビノーズが手足なのね。

 

「ノズッ?!」

 

 その間にこっちはダイノーズの方を草で縛り上げていく。

 

「ダイノーズはてっぺきで身を固めるのである! チビノーズたちよ! 貴公らはダイノーズに巻きつく草を燃やし尽くすのだ!」

「ユキノオー、じしんよ!」

 

 てっぺきを使ったのは草を焼くのに自らを攻撃してしまうからというのもありそうね。ま、こっちは攻撃の手を緩める気はさらさらないけれど。

 防御力が上がったとはいえ、効果抜群のじしんを受け、ダイノーズはバランスを崩した。

 

「もう一度、ほのおのパンチ! 軌道を読まれないように動くのだ!」

 

 動けないダイノーズの代わりにチビノーズたちが再度炎を纏って、ぐねぐねと軌道を乱しながら突っ込んで来る。

 一体一体を狙うのは面倒ね。このままフィールドを活かしましょうか。

 

「ふぶき!」

 

 フィールドに雪が降っている間はふぶきはどこにいても当たるようになる。しかもぜったいれいどを使いこなすユキノオーのふぶきはーーー。

 

「炎すら凍らせる威力だというのであるか?!」

 

 ーーーチビノーズたちの炎程度なら容易く凍らせてしまうのだ。偶然炎技対策にどんな動きが出来るかギャロップ相手に試していた時に発覚したのだけれど、これには私も驚かされたわ。

 

「くっ、ラスターカノン!」

「ふぶきで押し返しなさい!」

 

 追撃として鋼の光線が襲いかかって来るが御構いなし。ふぶきの勢いを激しくし、押し返した。

 

「トドメよ、じしん!」

 

 そして再度足踏みをして地面を揺らした。特性ががんじょうであろうと、何か持ち物があろうと、ここまですれば流石に戦闘不能になるでしょう。

 

「………ダイノーズ、戦闘不能!」

 

 よし!

 これで半分か。

 ギルガルドを先に倒せたのは大きいわね。

 まあいいわ。何はともあれ勝たなければ意味ないもの。

 

「………ダイノーズ、見事である。ゆっくり休むが良い」

『ダイノーズ、ここで戦闘不能!! 三冠王、四天王を相手に次々とカードを奪っていきます!! まさかこのまま逃げ切るのでしょうか!!』

 

 さて、次はどうしようかしら。なんだかんだユキノオーはまきびしのダメージくらいしか負っていない。そのまきびしがフィールドに設置された状態でもあるし、出来るだけ交代は控えたいところだけれど。

 

「行くのである、ボスゴドラ!」

 

 ボスゴドラ………。

 はがね・いわタイプの防御力が高いポケモン。事件後、ハチマンの正式な仲間になったポケモンでもあるわね。特性はいしあたまかがんじょう。稀にヘヴィメタルという特性を持っていたりするけれど、このボスゴドラはどれなのかしら。

 そもそもコマチさんとバトルした時にはいなかったポケモン。手持ちを入れ替えて来たのね。そうなると誰が抜けたか気になるところだけれど、このままユキノオーで様子を見ましょうか。

 

「ボスゴドラ、とおせんぼうである!」

 

 交代を封じられた………!

 まさか先手を打たれるなんて。

 こうなれば、倒しにいくしかないわね。効果が切れるまで耐えるというのも相性的に難しいもの。

 

「ユキノオー、じしん!」

 

 はがね・いわタイプのボスゴドラにはかくとう・じめんタイプの技が非常によく効く。

 ユキノオーは足踏みをして地面を激しく揺らす。

 

「でんじふゆうで躱すのだ!」

 

 だが、すぐにガンピさんから指示が出され、ボスゴドラは磁力で身体を浮かせた。ダメージは入っているものの技の途中での回避。いくら効果抜群の技とはいえ、過信してはいけなさそうね。

 

「ユキノオー、動きを封じなさい。くさむすび!」

 

 ぜったいれいどを使いたいところだけれど、がんじょう持ちの可能性もあるし、それ以前にレベル差があるかもしれない。ドラセナさんの時は上手くいったけれど、あのチルタリスよりボスゴドラの方が上の可能性だってある。もし後者であれば、ハッサムは相当の実力者ということになる。

 最も、手持ちの入れ替えがハッサムの可能性がなきにしもあらずだけれど………………………。

 

「アイアンテールで叩き斬るのだ!」

 

 ダイノーズの時と同じようにボスゴドラの足元から草を伸ばして搦め捕ろうとするも、でんじふゆうの効果により宙に浮いて移動する今のボスゴドラには鋼の尻尾で叩き斬るなんて容易いみたいだわ。

 限界ね。

 残りのカードを考えるにユキノオーの出番はなさそう。メガシンカしたところで、こおりタイプがはがねタイプに弱いというのは変わらない。それにあのキーストーンはハチマンがユイに託すために私に持たされたもの。いつも通り私には一つしかキーストーンはない。ならば、情報を取得するための動きに転じた方が良さそうだわ。

 

「ユキノオー、ぜったいれいど!」

 

 さあ、どのような反応を見せてくれるのかしら?

 

「…………………」

『ああーっと、ここで三冠王一撃必殺を繰り出すもボスゴドラは倒れない!! これは一体…………!』

 

 戦闘不能にはならない。

 つまり、特性ががんじょう、あるいはあっちの方が実力が上ってことね。

 

「ふははははっ! 先の戦いから読んでいたぞ、その一撃。だがしかし、残念であったな! 我がボスゴドラの特性はがんじょう! ぜったいれいどなど効かぬのだ!」

 

 あら、簡単に話してくれたわね。

 やはり特性ががんじょう。実力は見たまんま、というところかしら。それを判断するのはここから先の動き次第ね。

 

「そう、でも効かないという情報は頂いたわ。それだけでも価値のある情報よ」

「さすがは三冠王といったところであるな。例え失敗であろうともプラスに変える。我輩も見習わなければならぬ」

 

 バトルにおいて情報というものは凄く大切よ。ただ、どんなに情報を集めたところでその上を行く人がいるけれど。ほんと、昔から私の先を行ってくれるものだから、ついつい追いかけてしまう。

 

「ボスゴドラ、ユキノオーの使って来る技はふぶき、じしん、くさむすび、ぜったいれいどである。じしんにさえ気をつけておけば何ら怖くない相手であるぞ」

 

 ええ、そうね。はがねタイプに対して効果あるのはじしんくらいだもの。しかもボスゴドラはいわタイプも持ち合わせているから尚更………。

 

「では、こちらもお見せするといたそう。ボスゴドラ、まずはユキノオーの後ろに回り込むのだ!」

「ユキノオー、くさむすびで自分を覆いなさい!」

 

 浮遊しているボスゴドラは重たい身体も動かしているわけではないため、動きが速い。そのためあっさりと背後に回られてしまった。

 ユキノオーにはそれを見越して、草を伸ばして自身を覆うように指示してある。やったことはないし、本当に上手くいくのかなんて分からないけれど、チャレンジしてこそだわ。そうじゃなきゃ、私はいつまで経ってもハチマンに追いつけないままだもの。

 

「アイアンテール!」

「ぜったいれいど!」

 

 ぜったいれいどにより一気に草を凍らせた。急激に冷え固まった草壁は鋼の尻尾に叩き壊されるもボスゴドラの身体を弾いてくれた。ユキノオーにはダメージも入らなかったようだし、上手く距離を離すことも出来たわ。

 

「なんと?! 草を一瞬で凍らせて壁にしたであるか!?」

「これくらい出来なければ彼に勝つことなんて出来ませんから。ユキノオー!」

 

 態勢を立て直している隙に再度地面から草を伸ばして、今度こそボスゴドラを捕縛した。

 

「ボスゴドラ!?」

「ゴラ!?」

「地面に叩きつけなさい!」

 

 浮いていようと関係ない。本来の重たい身体を地面に打ち付けてダメージを与える仕様を遂行しただけ。

 

「ぬぅぅ!」

 

 悔しがっているところ悪いけれど、これで終わりにさせてもらうわ。

 

「トドメよ! じしん!」

 

 今度は逃げられないように深く足踏みをする。そうすることで衝撃が深く加わり、縦揺れを起こす。身体の芯を突かれたのかボスゴドラがバランスを崩したまま前のめりに弾かれた。

 

「ッ、もろはのずつき!」

 

 なっ………?!

 まさかあの態勢から突っ込んで来るなんて…………。

 ボスゴドラは前のめりの態勢を利用してそのまま捨て身の攻撃を仕掛けて来た。

 

「ユキノオー、ボスゴドラ、共に戦闘不能!」

 

 これには私もユキノオーも反応出来ず、相打ちに持っていかれてしまったわ。マニューラのお返しということかしら。

 

『ユキノオー、ボスゴドラ、共にダウン! 激しい戦いの中での高度な駆け引き! 実に見応えのバトルでした!』

「戻りなさい、ユキノオー。今のは私も反応出来なかったわ。でもあなたのおかげで残り二体になったから、あと任せてゆっくり休みなさい」

 

 次のポケモン次第で交代させるつもりだったけれど、相討ちにされてしまったのは想定外だわ。でもそれがポケモンバトル。自分の算段が全て思い通りになるわけがないもの。

 

「いやはやくさむすびであのような芸当が可能とは。我も興味が出てきたのであるぞ」

「………ポケモンの技は本来の用途以外でも、使い方次第では本来の効果以上のものをもたらすこともあります。私はそれを彼から学びました」

「実に面白い」

 

 ハチマンはすごい。知識は私と同じかそれ以下みたいだけれど、応用力は遥かに凌駕されている。

 これは長年追いかけて来たから間違いない。こういう公式ルール下のバトルではあまり見せなかったけれど、野生のポケモンたちやルール無用のポケモンバトルにおいてはまるでコンテストのようなのだ。そしてそれが最も上手いのはゲッコウガ。ハチマンとは思考回路が似ているため自然と発想も似通って来るみたいよ。

 

「では次のバトルへ参ろうか。行くのである、ナットレイ!」

「ええ、ボーマ………ギャロップ………?」

 

 ボーマンダを出そうとしたところでギャロップが勝手にボールから出てきた。そしてじっとこちらを見て来る。

 どうやら戦いたいようね。何を考えているのかは………まあ理解出来なくもないわ。大方自分は既に手負いの状態。だけど、ほのおタイプであり相手の弱点を突くことが出来る。そしてボーマンダはユキノオーを失った今、唯一のメガシンカ持ち。だから先に少しでもダメージを与えたいといったところでしょう。

 

「分かったわ。あなたがそうしたいなら思う存分やりなさい」

「ロロッ………」

 

 これを拒否するなんて私には出来ないわね。

 自分の未来が見えていて尚、自ら立ち上がった子の気持ちを蔑ろにしたくないし、立ち上がってくれたのならトレーナーである私は少しでも動きやすいように指示を出すのみ。

 まずは視界を奪いましょうか。

 

「ほのおのうず!」

 

 ギャロップは炎を吐いて渦の中にナットレイを閉じ込めた。

 

「ジャイロボールで弾くのだ!」

「でんこうせっかで近づきなさい!」

 

 だが、あっさりと渦は解除されたものの、当初の目的は概ね果たされたわ。

 

「フレアドライブ!」

 

 まずは一発。

 くさ・はがねタイプのナットレイにほのおタイプの技はとても良く効く。問題はナットレイの耐久力ね。いくら効果抜群の技といえどナットレイを一撃で倒せるとは思っていない。だから動かれる前に動き出さないと。

 

「我がナットレイの耐久力を侮ってもらっては困る」

「ギャロップ、ほのおのうず!」

 

 もう一度視界を奪いにいく。

 

「ロロッ………」

 

 っ、毒が随分と回ってきたようね。

 ギャロップの動きが一瞬遅れてしまったわ。

 

「ナットレイ、じならし!」

 

 それを見逃すはずもなく、ナットレイは触手の先にあるトゲで地面を打ち付け、地ならしを起こした。

 毒のダメージにフレアドライブの反動、そして効果抜群の技と来たらギャロップも保つわけないわよね。

 ここまでね。

 

「にほんばれ!」

「ッ、ロロッ!!」

 

 ………お疲れ様ギャロップ。あなたのそのガッツ無駄にはしないわよ。

 

「ギャロップ、戦闘不能!」

『ギャロップ、戦闘不能だぁぁぁあああっ!! ここに来て四天王ガンピが追い上げて来ました! さすがは四天王!! まだまだ先が読めないバトルです!』

 

 ギャロップをボールに戻して当初の予定通りボーマンダのボールに手をかけた。

 

「行きなさい、ボーマンダ。ソニックブースト!」

 

 ハチマンのリザードン程速くはない。だけど距離を詰める分には効果を充分に発揮する。

 

「じゅうりょくで落とすのだ!」

「ッ………」

 

 だけど、目の前で重量を強くされ、ボーマンダは強制的に地面に引っ張られてしまい飛べなくなってしまった。

 

「ボーマンダ、だいもんじよ!」

 

 だったら、この態勢からでも出せる技に変えるだけよ。

 ボーマンダは炎の大の字をナットレイへと打ち付けた。

 

「ナットレイ、ジャイロボールである!」

 

 ………これもジャイロボールに弾かれてしまうのね。

 面倒ったらありゃしないわ。

 

「もう一発!」

 

 さらにもう一発一際大きいものを送り込むと一発目の大文字をも呑み込み、覆い被さる炎はさすがに弾けなかったようで、ナットレイは炎に包まれていく。

 

「ナットレイ?!」

「ナットレイ、戦闘不能!」

 

 ガンピがナットレイを呼びかけても出てきたのは焼け焦げたナットレイのみ。

 これでリードを取り戻したわよ。

 

『ナ、ナットレイ、まさかのここでダウン! やはりほのおタイプの技はナットレイにキツかったようだぁぁぁぁぁぁああああああっ!!』

『にほんばれの効果もあったからのう』

『ええ、ギャロップの最後の一発をフルに活かしてますよ』

 

 解説の二人が言う通り、今はにほんばれ下。ほのおタイプの技の威力が上がるため、ナットレイも耐えきれなかったのでしょう。そう考えるといかにナットレイの耐久力が恐ろしいか分かるわね。

 

「ギャロップのにほんばれは痛かったな。だが、それもここまでである。我が最後のポケモンは最強にして最高。切り札である! ハッサム、行くのである!」

 

 来たわね、ハッサム。

 このまま行くわよ、ボーマンダ。

 

「ボーマンダ」

「ハッサム」

 

 ガンピさんも考えていることは同じようね。

 だったら最初から全開で、ハチマンの言い方を用いればトップギアで行くまでよ!

 

「「メガシンカ!!」」

 

 ボーマンダと私が持つキーストーン、ハッサムとガンピさんが持つキーストーンがそれぞれ共鳴し、二体の姿を変えていく。

 

「つるぎのまい!」

 

 メガシンカした上でさらにつるぎのまいを積まれるのは今後の展開だわ。少しでもダメージを与えなくては。

 

「だいもんじよ!」

「バレットパンチで躱すのである!」

 

 炎が届く寸前、超加速で抜け出されてしまった。そしてそのままボーマンダの前に現れ拳を一度引いて来た。

 

「すてみタックル!」

 

 躱せる状況ではないため、タックルでジャブが出される前に突き飛ばす。

 今のボーマンダの特性はスカイスキン。ノーマルタイプの技がひこうタイプの技となり、本来ハッサムにはいまひとつなすてみタックルもダメージ量が増加している。

 

「もう一度バレットパンチである!」

「だいもんじで壁を作って!」

 

 すぐに態勢を立て直し突っ込んで来るハッサムの前に、炎の大の字を作り出した。

 加速している目の前に出されると躱しづらいのは四天王のポケモンでも変わらないようね。

 

「りゅうせいぐん!」

 

 炎に一瞬攻撃から防御に移った隙を狙って、流星を打ち上げた。丁度日差しも元通りになったわ。

 

「つるぎのまい!」

 

 流星は上空で弾け、流星群となり降り注いで来る。

 っ?! 重力が無くなった!?

 

「打ち砕くのだ! バレットパンチ!」

「ハイヨーヨー!」

 

 降り注ぐ流星群を次々と砕いていくハッサムを通り過ぎ、ボーマンダは一気に上昇していく。躱すものがないだけでこれだけの違いが出るものなのね。

 

「「ギガインパクト!!」」

 

 上空でターンし、急下降するボーマンダと拳で流星を次々と砕くハッサムが全身全霊をかけた技でぶつかり合った。ボーマンダはハイヨーヨーの、ハッサムはバレットパンチの加速力が上乗せされており、二体が生み出す衝撃波で建物が所々キシキシと鳴っている。

 

「………………」

「………………」

 

 …………ボーマンダの負けね。

 二体とも降りて来たけれど、ボーマンダは着地に失敗、否意識がなくて着地どころの話ではなかった。やはりつるぎのまいが痛手ね。

 

「ボーマンダ、戦闘不能!」

『な、なんとメガシンカ対決に勝利したのはハッサムだぁぁぁぁぁぁああああああああああああっっ!!』

 

 でもハッサムにも相当ダメージが入っているのは確かね。メガシンカこそ解除されてないものの、疲弊が顔に滲み出ているわ。これはあと一発。多くて二発といったところかしら。

 

「戻りなさい、ボーマンダ。よくやってくれたわ」

 

 相手の攻撃パターンは少ない。上昇した攻撃力を活かしたバレットパンチや他の物理技が基本となって来るでしょう。

 なら、それを利用しない理由がないわね。

 

「オーダイル、ハッサムで終わりよ」

「オダッ!」

 

 私の最初のポケモンにして、苦難を何度乗り越えてくれた相棒。恐らくオーダイル自身分かっているのでしょうね。今からやろうとしていることは。

 

「ハッサム、残り二体である。そしてメガシンカは恐らくもうない。確実に倒すのである!」

「ハッ、サム!」

 

 メガシンカ。

 確かに恐ろしい代物だわ。姿を変え、能力が大幅に上昇するなんてチートもいいところだもの。

 

「っ………ふー」

「バレットパンチ!」

 

 でもね。

 私は知っているわ。

 メガシンカよりももっと恐ろしいものがこの世にはあることを。全ては使い方次第よ。

 

「オーダイル、カウンター!」

 

 正面切って突っ込んで来るハッサムの拳を脇に通して掴み、勢いを遠心力に変えて反転させ、そのまま投げ飛ばした。ハッサムは物凄い勢いで壁に衝突し、打ち抜いた。

 あら、どうしましょう。一戦目から壊してしまったわ。明日が終わるまで保つかしら。

 

「ハッサム、戦闘不能! よって勝者、三冠王ユキノ!」

「オーダイル、お疲れ様。見事だったわよ」

「オダ」

 

 オーダイルに拳を突き出すと同じように拳を重ねて来た。

 

『さ、最後は、華麗にカウンターを決め、一撃で勝利を掴みました! やはり三冠王!! これまでリーグ大会で三度優勝して来た実力は日々進化していました!!』

『マーベラス! さすがだね、彼女は。ボーマンダが倒されても冷静でしたよ』

『いやはや、あやつらはメガシンカを切り札としてないからの。展開次第では布石の一部として使ってきよる。これが時代の変化というものなんよ』

「………カウンター、であるか。バレットパンチでなくとも結果は同じというわけか。恐れ入った。見事である。次のズミも一癖あるトレーナーだ。心してかかるがよかろう」

「ええ、肝に命じておきます」

 

 ガンピさんとはそれだけ言葉を交わし、互いに後ろの控え室へと向かった。

 

「ユキノちゃん、お疲れー」

「ほんとに疲れたわ」

 

 戻ると姉さんがニヤニヤしていた。

 

「………ハチマンそっくり」

「なっ!? ど、どういう意味よ!」

「だってー、返しがハチマンそっくりなんだもん」

「…………気のせいよ」

 

 言われてそうかもしれないと思ってしまったのは黙っておきましょう。姉さんのことだからまたからかわれかねないわ。

 

「今間があったよね?」

「気のせいったら気のせいよ」

「それにしてもよくはがねタイプ専門にこおりタイプを当てにいったわね。最後の一体もユキメノコでしょ?」

「………ハチマンを見ているとタイプ相性だけが全てじゃないって思い知らされるのよ。私が初めてリーグ優勝した時は不利な相性にならないように慎重にバトルを進めていたけど、正直保たなかったわ。だからポケモンたちにも不利な相手への立ち回りというものを身につけて欲しくて敢えて選出するようにしているのよ」

 

 交代自由とはいえ、相手を事前に調査し、攻撃パターンなどを把握して、大まかな対抗策を用意したりするのは私もポケモンたちも大変なだけ。

 反対にハチマンはそんなの関係なし。技なんて躱せばいいし、出される前に倒せばいいしというのがスタンスにある。それを見ているとあれこれ考えるのがバカらしくなってくるのよね。

 

「ハチマンのリザードンがすごく刺さるけど?」

「それでも、今はこれがベストメンバーなのよ。こういう公式バトルが苦手なフォレトスやニャオニクスを出すわけにもいかないし」

「ま、ハチマンのところまで行ってくれれば、お姉ちゃん何も言わないよ」

「そもそも私が引き受けたのはハチマンとバトル出来るからよ。次も負けてられないわ」

「ふふっ、それなら大丈夫そうだね」

 

 午後からはみずタイプ使いの四天王ズミさんが相手。ユキメノコはまだ出していないから今から変更は効くけれど、変える必要なんてない。何ならでんきタイプの技も使えるため、活躍してもらうつもりよ。

 




行間

ユキノシタユキノ 持ち物:キーストーン etc………
・オーダイル(ワニノコ→アリゲイツ→オーダイル) ♂
 特性:げきりゅう
 覚えてる技:アクアテール、アクアジェット、ドラゴンクロー、れいとうパンチ、ハイドロポンプ、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、げきりん、カウンター、ハイドロカノン、ドラゴンテール、めざめるパワー(電)、ゆきなだれ、れいとうビーム

・ギャロップ ♀
 特性:もらいび
 覚えてる技:かえんぐるま、ほのおのうず、だいもんじ、フレアドライブ、でんこうせっか、にほんばれ

・マニューラ ♂
 覚えてる技:つじぎり、こごえるかぜ、こおりのつぶて、ふぶき、れいとうパンチ、はかいこうせん、カウンター、シャドークロー、みやぶる

・ユキメノコ ♀
 覚えてる技:こごえるかぜ、れいとうビーム、みずのはどう、10まんボルト、シャドーボール、めざましビンタ、ふぶき、かげぶんしん、あやしいひかり

・ボーマンダ(タツベイ→コモルー→ボーマンダ) ♂
 持ち物:ボーマンダナイト
 特性:いかく←→スカイスキン
 覚えてる技:りゅうのいかり、かえんほうしゃ、そらをとぶ、ドラゴンダイブ、ハイドロポンプ、つばめがえし、だいもんじ、かみなりのキバ、いわなだれ、ドラゴンテール、ハイパーボイス、げきりん、ギガインパクト、りゅうせいぐん、ねむる、ねごと、はがねのつばさ、かげぶんしん、すてみタックル

・ユキノオー ♂
 持ち物:ユキノオナイト
 特性:ゆきふらし←→ゆきふらし
 覚えてる技:ふぶき、ぜったいれいど、くさむすび、じしん

控え
・ペルシアン ♂
 覚えてる技:きりさく、だましうち、10まんボルト

・フォレトス
 特性:がんじょう
 覚えてる技:こうそくスピン、ジャイロボール、パワートリック、ボディパージ、リフレクター、だいばくはつ

・エネコロロ ♀
 覚えてる技:こごえるかぜ、メロメロ、ソーラービーム、でんげきは、ハイパーボイス、れいとうビーム

・ニャオニクス ♀
 特性:すりぬけ
 覚えてる技:エナジーボール、シグナルビーム、サイコキネシス、シャドーボール、チャージビーム、みらいよち、なりきり


ガンピ 持ち物:キーストーン
・ハッサム ♂
 持ち物:ハッサムナイト
 特性:???←→テクニシャン
 覚えてる技:バレットパンチ、シザークロス、かわらわり、つるぎのまい、てっぺき、ギガインパクト

・クレッフィ ♂
 持ち物:きあいのタスキ
 特性:いたずらごころ
 覚えてる技:ラスターカノン、まきびし、きんぞくおん、どくどく

・ダイノーズ ♂
 特性:がんじょう
 覚えてる技:ほうでん、だいちのちから、パワージェム、マグネットボム、マジカルシャイン、でんじは、ほのおのパンチ、ラスターカノン、てっぺき

・ナットレイ ♂
 特性:てつのトゲ
 覚えてる技:ジャイロボール、タネマシンガン、タネばくだん、パワーウィップ、ギガドレイン、じならし、じゅうりょく

・ギルガルド ♂
 特性:バトルスイッチ
 覚えてる技:せいなるつるぎ、つるぎのまい、かげぶんしん、キングシールド

・ボスゴドラ ♀
 特性:がんじょう
 覚えてる技:アイアンテール、もろはのずつき、とおせんぼう、でんじふゆう

控え
・シュバルゴ ♂
 特性:シェルアーマー
 覚えてる技:ドリルライナー、とどめばり、だましうち、いわくだき


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ぼーなすとらっく8『挑戦者ユキノ VSズミ』

前回に引き続き、ユキノの四天王戦です。

丁度八幡の誕生日が来たので一日早くの投稿です。おめでとう八幡。今回出てないけど。

ポケモン剣盾の情報が続々と出てますね。プレイするのはもちろん、新たなシリーズが作れないか楽しみです。


 昼食を終えた後、またしても控え室で姉さんと二人きり。

 明日もこの調子でずっといるのかしら。

 あ、ちなみに観客の皆さんには各フェリー内にて昼食が振舞われた。料理の監修は次の対戦相手となる四天王のズミさん。普段はミアレシティの高級レストランでシェフをしている。裏メニューとしてメガシンカバトルをしているという話もあるわ。まあ、何だかんだでこの一週間で用意出来たものは概ね好評のようで一安心ね。

 

「ねぇ、ユキノちゃん。ふと思ったんだけど、今の私ってハチマンのリザードンにどこまで勝てると思う?」

「………本当に急ね。それは姉さんがチャンピオンとしてハチマンとバトルした時のことを言っているのかしら?」

「うん、そう」

「そうね、メガシンカを失った今、リザードンは以前程のパワーは出せないのではないかしら。………だからあの頃よりは強くなっていても………いえ、あまりそういうことは考えない方が良さそうだわ」

「どうして?」

「だってハチマンですもの。メガシンカがあろうがなかろうが、ポケモンたちの実力を最大限に引き出すだけよ。だから、その場その時にならなくては分からないと思うわよ」

 

 追いついたと思ったら既に二歩三歩は前にいる男よ?

 そんな彼が育ててるリザードンなんてメガシンカ失ったくらいじゃ、強さなんて変わりそうにないもの。

 

「あー…………、なるほどね。どこかで時間見つけて挑んでみようかなー。まあ、当分無理そうだけど」

「私は止めはしないわよ。私もこうしてハチマンと戦えるチャンスをもらっているわけだし」

 

 偶々と言えばそれまでだけれど。

 それを言えば、リーグ戦にエントリーすることになった時点で、私はハチマンとバトルできるチャンスを持っていたことに変わりないわ。

 

「なーんて言っててもさ、あの三人にすぐに追いつかれちゃうんじゃない?」

「それはそれでいいことじゃない。彼女たちの成長は著しいわ。最初から環境が良かったというのもあるでしょうけど、元々素質は三人とも持っているから。私も三人とはいずれフルバトルをしたいと思っているわよ」

 

 ユイもイロハもコマチさんも。

 三人とも今では立派なトレーナーよ。

 ハチマンに直接指導されてたイロハの成長はまだまだ続きそうだし、コマチさんは兄譲りの多彩なバトルを用意してくる。遅咲きのユイも一気に成長し、最大火力だけを見ればオーダイルがやられる可能性だってある。そんな三人とバトルしたくないだなんてこれぽっちも思わないわ。何なら私をいつ超えてくれるのか楽しみなまであるわよ。

 

「ユイちゃんには驚きだけどねー」

「そうでもないわよ。ユイは誰よりも前からハチマンを見てて、私が基礎を叩き込んで、コルニさんに専門的な知識を蓄えられているのだから。あの二人に比べたら努力が実るまで長かったけれど、その分色々なことに触れて来ているもの。私は当然の流れだと思うわ」

 

 こんな私でも出来たのだから、ユイが出来ないはずがないもの。

 

「それじゃユイちゃんのためにも次も勝たなきゃね」

「当然よ。私はハチマンとバトルするために了承したのだから。何ならカルネさんともバトルしたいと思ってるわ」

『さあ、いよいよ本日午後の部! 午前の部では三冠王が見事勝利し、壁を一つ突破しました! 最後のオーダイルのカウンター、見事という他ありません! それでは次なる壁をお呼びいたしましょう! ポケモンバトルのシェフ、水門の四天王ズミ!』

 

 始まったようね。

 

「時間だね」

「ええ」

 

 いよいよ、か。

 

『さあ、それでは皆さんいきますよ!』

「「「「「三冠王、カモ〜ンヌ!!」」」」」

 

 ……………へ?

 

「………なにこれ」

「ちょっとしたサプライズ」

 

 じっと睨みを利かせても全く効いてなさそうな、けらけらと笑う姉がいた。

 

「変なネタ仕込まないでくれるかしら」

「私が考えたわけじゃないもーん」

「………はぁ、覚えてなさいよ」

「いってらしゃっーい」

 

 こんなことを思いつくのは姉さんくらい。けれど本人の言うことが正しいのであれば、可能性はもう一人に縛られる。

 ハチマン、帰ったら仕返ししてあげるんだから!

 ふつふつと怒りが湧く己が心を無にし、深呼吸をした。そしてフィールドへと出ると一気に歓声が立ち上った。

 まるで世界の歌姫に会えたかのような、そんな感じである。

 

『さあ、舞台は整いました! これからどんなバトルが見られるのか! 皆さん、瞬きなんて許されませんよ!!』

「………昼食はいかがでしたか?」

「大変美味しくいただきました。急なお願いとは言え引き受けて下さりありがとうごさいました」

 

 ハチマンを追って狭い世界を転々としていたために身についた私の料理スキルすら脱帽の絶品の数々。よくもまああんな豪勢な料理を振舞ってくれたものだ。想像以上の美味しさで観客のハートすら鷲掴みしてる勢いね。

 

「私に出来ることはこれくらいですので。では早速特別裏メニューといきましょうか」

「ええ、そうですね」

 

 ズミさんにとってバトルは裏メニューなのね。

 フルバトルは六体のポケモンがそれぞれバトルを繰り広げるから、それをコース料理として例えているのかしら。そうすると普段やっている裏メニューはメガシンカバトルだから、一体で作り上げる最高の一品ってとこかしらね。

 確かにそう考えるとバトルと料理は似ているのかもしれないわ。

 

「それではバトル始め!」

「行きなさい、ボーマンダ」

「行きますよ、ブロスター」

 

 最初のポケモンはブロスターね。

 みずの単タイプだけれど、特性によっては技の見方を変える必要がある、か。

 

「特性はいかく、ですか」

 

 早速ボーマンダはブロスターを威嚇している。

 ボーマンダの特性いかくが発動したようね。これでブロスターの攻撃力が下がったけれど、あまり意味はないかも。

 

「ええ、そちらのブロスターは?」

「それはブロスターの攻撃を受けてみてからのお楽しみですよ」

 

 ついでにブロスターの特性を聞いてみたけれど、やはり答えてはくれないのね。

 それならそれで。最初から本気でいくだけよ。

 

「いきますよ、ブロスター!」

「ボーマンダ、最初からギア全開よ」

 

 ハチマンの言葉で言えばトップギア。

 様子見の動きなんて必要ないわ。

 

「まずはご挨拶です。りゅうのはどう!」

「ボーマンダ、こっちもりゅうのはどうよ!」

 

 波導系。

 これだけでは判断しかねるけれど、恐らくそうなのでしょうね。

 

「りゅうせいぐん!」

 

 挨拶も名ばかりに次の攻撃へ。

 流星を打ち上げ、上空で爆散させた。

 

「アクアジェットで躱すのです!」

 

 弾けた流星は群となり、ブロスターに降り注いでいく。そんな中をブロスターは水を纏って加速し、時には躱して、時には砕き上昇していった。

 

「りゅうのはどう!」

 

 でもそれは想定内の動き。

 本当の狙いは流星群に意識がいっているところに、真下から攻撃すること。

 

「なっ、下から?!」

「逃がさないで! かみなりのキバ!」

 

 上から下からという状況に、ブロスターは一瞬迷いを見せた。

 その隙を逃さず一気に距離を詰めていく。

 

「ブロスター、りゅうのはどう!」

 

 振り向きざまに竜を模した波導を撃って来たけれど、軌道は単調。

 

「躱してもう一度かみなりのキバ!」

 

 難なく躱し、電気を纏った牙でがぶりと噛み付いた。

 

「…………ブロスター、戦闘不能!」

『ブロスター、ここで戦闘不能!! 最初にリードしたのは三冠王です!!』

 

 あら、一撃で倒してしまったわね。

 タイプ一致でもなければ威力がそれほど高くもないはずなのだけれど。

 まあ好調のスタートを切れたことだし良しとしましょうか。

 

「戻りなさい、ブロスター」

 

 さて、次は誰が相手なのかしら?

 

『一撃でしたね』

『うむ、一撃だったな』

「さすが三冠王といったところでしょうか。難なく私のブロスターを攻略されましたね。実によく育てられている。ロケットランチャーも最早機能していないのと同じでした。しかし、次はそう易々と倒されませんよ。スターミー、ボーマンダを落としますよ!」

 

 スターミー、ヒトデマンの進化系で主に海に生息するみず・エスパータイプのポケモンね。特徴としてはその素早さかしら。

 

「ふぶき!」

 

 それと覚える技の種類ね。

 タイプ一致のみず、エスパーを軸にこおり、でんき、くさ、はがね、フェアリーと多岐に渡る。

 素早い身のこなしからの弱点を突いて来られると一溜まりもないわ。

 

「だいもんじを壁にしなさい!」

 

 案の定、こおりタイプで攻めて来るので、こっちは炎で作った大の文字を壁にし、技を相殺していく。

 

「スターミー、サイコキネシスで動きを封じるのです!」

 

 すると今度は超念力でボーマンダの動きを封じられてしまった。

 これでは出来ることは限られて来る。

 

「背後に回ってもう一度ふぶき!」

 

 そして、スターミーはボーマンダの背後に現れ、コアから放たれた吹雪はボーマンダを背後から包み込んでいく。

 

「マンッ?!」

「ボーマンダ、戻りなさい」

 

 攻撃を耐えたけれど、効果は抜群。しかも四倍ダメージともなれば、耐えただけでも賞賛ね。

 ここは一度引かせるべきだわ。

 

「交代、ですか………」

「ええ、いくらボーマンダと言えど動きを封じられた上でのふぶきには為す術もありませんから。無駄に耐えるより交代する方が効率的かと。それにルール上問題もないですし」

「実にいい判断です。では、次のポケモンを見せていただきましょう」

「ええ。マニューラ、出番よ」

「マニャ!」

 

 午前のバトルでギルガルド相手に相打ちに持っていったマニューラならばタイプ相性も素早さも対応できるわ。

 

「つじぎり!」

 

 今日も快調のようで駆け出しは上々。

 

「リフレクター」

 

 それを遮るように壁を作り上げて来たけれど、マニューラは対処法を持っている。

 

「かわらわりで壊しなさい!」

「なっ?!」

 

 マニューラの素早さを活かすためには動きを遮るような壁や岩があってはならない。それらを利用するというのも一つの手ではあるが、それも時と場合によりけりであり、極めて少ない。だから障害物となり得るものを破壊出来るようにかわらわりを習得させている。

 マニューラは一撃で壁を壊し、そのままスターミーの懐へと潜り込んだ。

 

「もう一度つじぎり!」

 

 下から斬り上げていくとスターミーが後ろへと身を下げた。

 

「マジカルシャインです!」

 

 そして発光し始める。

 

「まもる!」

「っ?!」

 

 近接戦においては一撃を受け止めるということも意外性を出すことになる。それは相手に一瞬の空白を生み出し、判断を遅らせる。すなわり隙を誘発するのだ。

 技の制限がある公式戦ではあまり使う機会は少ないけれど、野生のポケモンたちにはよく使うことになるわ。

 

「トドメよ! つじぎり!」

 

 ガードの姿勢を崩さずに発光しているスターミーとの距離を詰めると、今度は上から黒い手刀を振り下ろした。

 

「スターミー、戦闘不能!」

『三冠王、立て続けにスターミーも倒しました!! 四天王ズミ、ここから四天王としての意地を見せられるのか!!』

 

 どうやら急所に入ったらしく、戦闘不能へと追い込むことが出来たようね。

 

「いやはや恐ろしい。二度も意外性を見せて来られるとは………。思考が停止し、正しい判断が出来ませんでした」

「しかし、反面そちらにマニューラの使う技を多く見せてしまいました。ハイリスクハイリターン、その言葉がぴったりですね」

「なるほど、確かにポケモンバトルにおいて情報とは最大の武器となる。よもや公式バトルでは技の使用制限がかかってしまう。ならば、やられたこちらはその情報を元に対抗してあげましょう! キングドラ!」

 

 スターミーを倒すために技の選出枠はあと一つになってしまったが、予定していたマニューラの役目の一つは達成出来たので、今度はどこまで次のポケモンの戦場を作り上げられるかね。

 

「マニューラ、れいとうパンチ!」

「あまごい」

 

 最後の技はタイプ一致のれいとうパンチに決め、一気に距離を詰めていく。

 だが、キングドラが呼び出した雨雲により、雨が降って来た。雷も鳴っている。

 

「躱した!?」

 

 ッ!?

 すいすい………!

 氷の拳が当たる寸前、キングドラの姿が消えた。

 

「ハイドロポンプ!」

 

 そして一瞬の内にマニューラの背後を取られてしまい、気づいた時には既に水砲撃が放たれた後である。

 

「マニューラ!?」

「マニューラ、戦闘不能!」

『つ、ついに三冠王のポケモンが倒されました!! キングドラの特性を活かした素早い動きにマニューラは反応が遅れた結果です!!』

 

 雨の効果によりみずタイプの威力を挙げた上でのキングドラの水砲撃は、一撃でこちらのポケモンを倒せるということを暗に示して来た。

 

「戻りなさい、マニューラ」

 

 マニューラにはゆっくり休んでもらうとして………。

 

『特性がすいすいなのでしょうね』

『雨が降っている状態では無類の強さを発揮したのう。はてさて、どっちが勝つのやら』

「………特性すいすい、ですか」

「ええ、いかがでしたか。この雨の中でのキングドラの速さは」

「とても速いですね。この速さなら雨がなくともそれなりに速いのでは?」

「ご明察。私のキングドラはあなたのマニューラにこそ敵いませんが、他のポケモンたちにはあるいは、といったところでしょうか」

「それはどうでしょう。ただ速いだけで脅威になりませんよ。オーダイル」

 

 恐らくズミさんの狙いは素早いマニューラの退場。そのためだけに基本スペックが高くバランスのよいキングドラを選んだのね。

 ならば、今度は趣向を変えてみるのも面白そうね。

 

『三冠王、早くもエースポケモンのオーダイルを出して来ました! キングドラはそれだけ危険なポケモンということなのでしょうか!!』

「キングドラ、行きなさい。ハイドロポンプ!」

 

 先程と同じように背後に回ってからの水砲撃。

 オーダイルを選んだのは何も同じみずタイプだからというだけじゃないのよ。

 

「オーダイル、後ろにシャドークロー」

 

 マニューラには私が先に四つ目の技を選択してしまったがために、対処することも出来なくなってしまったけれど、同じ技を覚えているオーダイルなら難なく防いでくれた。ハチマンが教えたらしいけれど、地味に使い勝手がいいのよね…………。

 

「なるほど、それは厄介ですね。キングドラ、かなしばり!」

 

 かなしばり………。

 これでシャドークローは使えなくなってしまったわね。

 

「りゅうのまい!」

 

 そちらがその気ならこちらも一撃に威力を求めるまでね。

 オーダイルは水と炎と電気の三点張りから頭上に竜の気を練り上げていく。それを一気に降ろして竜の気を纏った。

 

「りゅうのはどう!」

「ドラゴンクローで叩き斬りなさい!」

 

 雨の効果は持続中。

 すなわちキングドラの動きは捉えられない。

 ならば、攻撃されたところに一気に詰め寄る必要がある、か。

 

「ハイドロポンプ!」

「躱してドラゴンクロー!」

 

 オーダイルは身を低くして水砲撃を躱し、発射地点まで距離を詰めた。

 だが、竜の爪は空を斬っただけであり、既にキングドラはいなかったみたいね。

 

「………っ」

 

 ようやく、ね。

 

「オーダイル、雨が上がったわ。一気に行くわよ! ドラゴンクロー!」

 

 雨の効果が無くなってしまえばキングドラはただのキングドラ。竜の気を纏ったオーダイルの相手ではないわ。

 

「キングドラ、あまごいです!」

 

 懲りずに雨を求めるのね。

 でも……!

 

「遅い!」

 

 オーダイルの竜の爪は右を上から、続けて左で下から掬い上げキングドラを投げ飛ばした。

 

「キングドラ、戦闘不能!」

「………よくやりました、キングドラ。ゆっくり休みなさい」

『ああーっと!? キングドラ、雨が止んだところを狙われてしまいました! まさか、三冠王はそれを狙っていたのでしょうか!!』

 

 効果抜群な上に竜の気を纏っていますもの。

 こんな好都合な状況下ではオーダイルは最強よ。それでも勝てないとなると、それは…………いえ、今はやめておきましょう。目の前の相手に集中しないと足元を掬われてしまうわ。

 

「やはりあなたのオーダイルはよく育てられていますね。攻撃面においても防御面においてもバランスがいい。かといって平凡止まりではなくどちらも突出している。中々に手強い相手です」

「お褒めに預かり光栄です。ですが、トレーナーに求められるのはポケモンを育てることだけではありません。バトルにおいての戦況を確認しながらの適切な判断を下す。今はそちらの方が大切だと思いますよ」

「ええ、まさに仰る通りです。ルールに則った上での最適解。簡単なようで難しいこの答えをあなたは見つけられるか見せてもらいますよ。ギャラドス!」

 

 次のポケモンはギャラドスね。

 特性はいかくのようだし、これでオーダイルの攻撃力は下がってしまった。

 ならばここは一旦オーダイルで様子を見て、ユキメノコに交代かしら。

 

「ギャラドス、ぼうふう!」

 

 ぼうふう!?

 雨が降っているこの状況では無類の強さを発揮する技。

 これに閉じ込められては身動きが取れないわね。

 様子を見ようと思っていたけれど…………いや、それも難しそうね。あの渦の中じゃボールの光も届かない。

 仕方ないわね。まずはあそこから出るとしましょうか。

 

「オーダイル、ハイドロカノン!」

 

 ぼうふうの領域内から脱出するには、『目』となっている頭上の空白地帯から出るか技そのものを消すしかない。そして大方ズミさんの狙いは頭上の空白地帯から抜け出して来ることを想定しているはず。

 ならば、究極技で技を消してしまえばいい。

 

「なっ!?」

「よし。オーダイル、戻りなさい」

 

 ぼうふうを消滅させた代わりに反動でしばらく動けなくなってしまった。既に攻撃態勢に入っているギャラドスからオーダイルを守るには交代が確実。

 今が交代の時なのでしょう。

 

「交代ですか」

「ええ、オーダイルでは近づけそうにありませんので」

 

 既にオーダイルも技を四つ使ってしまった。それだけキングドラは強かったという証ね。

 

「行きなさい、ユキメノコ。かみなり!」

「なっ?!」

 

 予定通りにユキメノコを投入。

 キングドラが倒れる寸前に雨を降らせてくれたおかげで、かみなりも必中になっていることだし、ギャラドス相手には申し分ないカードだわ。

 

「………麻痺ももらってしまいましたかっ」

 

 効果は言うまでもないわね。

 おまけにギャラドスには麻痺状態に陥ってくれたみたいだし。

 

「もう一度、かみなりよ!」

 

 さっさと片付けるとしましょう。

 

「一旦休んでください」

 

 再び落ちて来る雷に対し、ズミさんはギャラドスをボールに戻した。雷閃はアースし霧散していく。

 

『おおっと、これは珍しい。両者それぞれポケモンの交代をして来ました! ルール上問題ありませんが、稀に見る光景です!』

「そちらも交代して来るとは思いませんでした」

「お互い交代させる権利はありますからね。こちらも四天王としての意地があるのですよ。ガメノデス!」

 

 次はガメノデスね。いわ・みずタイプだったかしら。スピードはユキメノコよりないはずだけれど、その分攻撃力が高い。一撃をもらえば一溜まりもないでしょう。油断は禁物だわ。

 

「ユキメノコ、かみなり!」

 

 引き続き相手はみずタイプであるため、雷閃を落とした。

 

「ストーンエッジ!」

 

 けれど、直撃する寸前に地面からガメノデスを守るように岩が突き出し、雷撃を吸収していく。

 

「ガメノデス、からをやぶる!」

 

 ッ?!

 これは非常にまずいわ。

 ドーム状の岩の中から力を解放したと思われるガメノデスが出てきてしまった。

 

「ユキメノコ、消えなさい!」

 

 防御を捨てたガメノデスの攻撃は一撃で確実に倒される。

 

「そのままかげぶんしん!」

 

 だから一度ガメノデスの攻撃を躱す態勢を整えなければならないわ。幸いユキメノコはゴーストタイプを持ち合わせているため、特有の消える能力とかげぶんしんを織り交ぜれば、反撃の瞬間を狙えるはず。

 

「ガメノデス、つばめがえし!」

 

 ッ!?

 しまった?!

 まさか空を斬らない技を使って来るなんて…………。しかも丁度雨の上がってしまって、今のガメノデスの速さならかみなりは確実に外れる。

 アレを使うしかないの………?

 

「ユキメノコ、みちーーー!」

「メーノ!」

 

 そう、あなたはそれでいいのね。

 だったら、ちょっとでも削ってもらうわよ。

 

「ユキメノコ、でんげきは!」

 

 ユキメノコは自分が倒れてでもまだアレを使うつもりはないみたいね。それもこれもハチマンと戦うため、そして勝つため。

 ならば、私はその思いを無駄にしてはいけないわ。ユキメノコは私を信じて他の皆が勝ってくれると信じてくれているのだから。

 

「メノ!?」

 

 くっ………、分かっていても躱せないのが辛いわ。

 でも、直接攻撃して来ているのだから至近距離で電撃は入っているはず。倒せなくとも確実にダメージは与えているわ。

 

「ガメノデス、トドメです! ストーンエッジ!」

「メノーーー………!?」

 

 効果は、抜群ね。

 

「ユキメノコ、戦闘不能!」

『ユキメノコ、戦闘不能ぉぉぉおおおっ!! 速度の増した今のガメノデスは無敵と言っても過言ではありませんっ!! 三冠王、ガメノデスを攻略出来るのかっ!!』

 

 これで私のカードは四体。相手は三体。有利ではあるけれど、展開次第ではひっくり返される可能性もあるわね。

 

「お疲れ様、ユキメノコ。ゆっくり休みなさい」

 

 ユキメノコはよくやってくれたわ。相手は三体と言っても手負いが二体もいる。対してこちらは手負いが一体。

 

「ボーマンダ、ガメノデスを近づけさせてはダメよ」

「マンダ!」

 

 素早くなっているガメノデス相手に近づくのは禁物。だけど、オーダイルは既に四つ技を使っているし、ギャロップでは不利。ユキノオーはこの後に控えているカメックスに当てる予定であるため、消去法でボーマンダが適任だと結論に至った。

 ただ油断は大敵。ボーマンダも既に手負いの状態であるため、ガメノデスの攻撃を受けたら、技によっては一発退場もあり得る話だわ。

 

「ガメノデス、ストーンエッジ!」

「ボーマンダ、ハイヨーヨー!」

 

 やはり最初から弱点を突いて来たわね。

 上空に逃げておいて正解だったわ。

 

「りゅうせいぐん!」

 

 上昇しながら流星を打ち上げた。ボーマンダが流星を超えて通り過ぎると弾けて霧散し、群を為して地上へと落下し始める。ボーマンダもそれを追うように急下降へと切り替えた。

 

「流星を足場にして躱しなさい!」

 

 ガメノデスは岩を踏み台にして次々と流星を飛び乗って移動を始めた。恐らくあれは素早くなったがために為せる業なのでしょう。

 

「ボーマンダ、特大サイズのだいもんじよ!」

 

 下から迫り来るのならば叩き落としてしまえばいいだけの話。

 普段よりも巨大な大の字の炎を流星群の上から落とした。

 

「シェルブレード!」

「畳み掛けなさい! かみなりのキバ!」

 

 炎はあっさりと水の剣で斬られてしまったが、それは囮でしかない。

 本来の目的は大の字の炎を対処しているところに電気を纏った牙で穿つこと。

 上手く決まったようで、ガメノデスの上昇する力はボーマンダの下降する力に呑まれて地面へと叩きつけることに成功したわ。

 恐らくこれでーーー。

 

「ストーンエッジ!」

 

 なっ?!

 まさかあれでも倒れて…………いえ、そういうわけではないみたいね。あれはガメノデスの意地。ただでは倒れないという証なのでしょう。敵ながら天晴れだわ。

 ほんとポケモンという生き物は面白いわね。

 

「ボーマンダ、ガメノデス、共に戦闘不能!」

『ボーマンダ、ガメノデスを相討ちに、いやガメノデスがボーマンダを相討ちに持っていきました!! なんと激しいバトル!! なんと興奮するバトルなのでしょう!! マイクを握る手が震えていますっ!!』

「最後は相討ちで終わりましたか」

「素直に驚きました。ガメノデスはからをやぶるで防御力が下がってますから、反撃が来るとは思っていませんでしたよ」

「私自身、ガメノデスには驚かされましたが、倒れる寸前にこちらに意思表示をして来ましたので。………恐らく、午前のバトルでそちらのマニューラを意識してしまったのでしょう」

「ほんと、面白い生き物ですよね」

「全くです」

 

 残りはギャラドスとカメックスね。こちらはオーダイルとギャロップとユキノオーが残っているけれど、ギャロップはタイプ相性的にどちらにも分が悪いわ。だからオーダイルとユキノオーで決めに行かなければ、厳しい状況になりそうね。

 でもーー。

 今のオーダイルならばどんな状況でも覆してくれると信じてるわ。

 

「ギャラドス、もう一度お願いします!」

「行きなさい、ユキノオー」

 

 ユキノオーを出したことで、特性が発動し雪が降って来た。ギャラドスのいかくも再度発動し、ユキノオーの攻撃力を下げられてしまった。

 

「ギャラドス、まずは眠って回復するのです」

 

 眠って回復って………嫌な予感がするわね。

 

「ユキノオー、くさむすび」

 

 取り敢えず動きを封じておきましょう。

 それでも嫌な予感は拭いきれないけれど。

 

「ねごと!」

 

 っ!?

 やっぱり来たわね………ねむねごコンボ。

 私がドラセナさん相手に使ったからか広く認知されたみたいだけれど、まさか同じ四天王のズミさんが使って来るなんてね。

 

「ユキノオー、ふぶきよ! 動けないよう凍らせてしまいなさい!」

 

 草に巻きつかれた上に凍ってしまえば、流石のギャラドスも…………いえ、この考えは捨てるべきね。こういうこと程当たってしまうから。

 

「………これは、かえんほうしゃですか」

 

 はあ………、ほんと嫌になるわね。

 草も氷も全てが溶けて焼き尽くされてしまったわ。

 

「ユキノオー、もう一度ふぶきよ!」

 

 まずはあの炎を掻き消すだけの風と雪を送り込む必要があるわね。その上でギャラドスを落とす!

 

「ギャラドス、こちらももう一度ねごとです!」

 

 ねむねごコンボでも一つだけ弱点がある。

 それは寝始めは全回復するけれど、回復するのはその時だけ。だから起きる前にダメージを与えて倒してしまえば怖いものはない。

 

「ウッドハンマー!」

 

 水を纏った?

 ギャラドスはアクアジェットを覚えないから………これはたきのぼりねっ!

 でもーーー!

 

「ギャラドス!?」

 

 動かれる前にユキノオーの木のオーラを纏った右腕が、ギャラドスを地面に叩きつけた。

 

「ギャラドス、戦闘不能!」

『先に王手をかけたのは三冠王だぁぁぁああああああっ!!』

 

 っふぅ…………。

 これでラストね。

 

『三冠王、手札を三枚残して王手をかけましたっ!!』

『さすがですね。自分が使った技のコンボの隙を確実に分かっていて対処してみせた。やっぱり彼女、いや彼女たちは凄いトレーナーですよ』

『そうだのう、しっかりと技のメリットデメリットを勉強しておる。一見トリッキーな使い方だとしても、その実ポケモンの技であることに変わりはない。技を技で制するのもポケモンバトルの醍醐味というものよ』

「戻りなさい、ギャラドス」

 

 ユキノオーはほぼダメージを受けていないけれど、選択出来る技は残り一つになってしまったわ。

 しかも確実カメックスはメガシンカして来る。こちらもその為にユキノオーを残して来たけれど、技の選択肢が幸と出るか仇と出るか。

 

「付け焼き刃、というわけではなかったのですがね。やはりまだまだ改良の余地がありそうです」

「ねむねごコンボはとても扱いが難しい技術です。私もこの前は上手くいっただけで、毎回上手くいくとも限りません。それでも、一発逆転出来ればそれだけ影響も大きくなります」

「ええ、ですがやはり私にはこっちの方があっているみたいですね。カメックス、三冠王とそのポケモンたちに敬意を表して最初から味わってもらいましょう! 芸術的なメインディッシュを!」

「ガメーッス!!」

 

 ズミさんがネクタイを握り締めるとそこから光が漏れ始めた。

 

「カメックス、メガシンカ!」

 

 それに呼応するかのようにカメックスも光り出し、姿をみるみる変えていく。

 

「ガンメーッス!!」

 

 姉さん、コマチさんとカメックスのメガシンカは何度も見てきたけれど、やはり違う。このカメックスは、姉さんのカメックスに並ぶ程には、強い!

 

「ユキノオー、こっちも全力でいくわよ。メガシンカ!」

 

 これは様子見だとかそんなことをしている暇はないわ。姉さんのカメックス程圧は感じないけども、その分何が起こるか全く読めないもの。

 

『ついに来ました、メガシンカ!! いつだいつだと待っていて、ここに来てようやくメガシンカを拝めることが出来ます!! その強さ、その迫力、何を取ってもここが一番の見所でしょう!! 皆さん、目を見開いていて下さい!!』

「カメックス、ハイドロポンプ連射!」

 

 両腕と背中の砲台からの三連射。

 

「ユキノオー、くさむすびで壁を作るのよ!」

 

 どうにか草壁が間に合ったけれど、それも一瞬で貫かれてしまった。三連射………それで一点を集中的に狙えるだけの技術があるのね。姉さんのカメックスとはまた違った性能だわ。

 

「ロケットずつき!」

 

 休む暇もなくカメックスが突撃して来た。

 

「ウッドハンマーで迎え撃って!」

 

 メガシンカしたことでユキノオーの素早さが落ちているため、カメックスの動きに対応するのが精一杯って感じね。だけど、ボーマンダをメガシンカさせていれば、みずタイプのカメックスはこおりタイプの技を使って来るはず。それはボーマンダにとって致命傷にしかならない話であり、やはりユキノオーしか選択肢はないのよ。

 

「グロウパンチです」

「ッ!?」

 

 ロケットずつきはその突撃力を活かすためだけに使ったということなのね!

 ということは次も来る!

 

「もう一度、グロウパンチ!」

「ユキノオー、そのまま裏手でウッドハンマーよ!」

 

 読み通り、回り込んでのもう一撃が繰り出された。

 ユキノオーは木のオーラを纏った右腕の裏でカメックスを薙ぎ払い、突き飛ばした。

 

「ガメス!?」

 

 よし、何とか返せたわ!

 ここから反撃よ!

 

「そのまま足踏みよ! じしん!」

 

 今度はこっちが休ませてあげないわ。

 ユキノオーは地震を起こし、立ち上がろうとするカメックスのバランスを崩した。

 

「地面にハイドロポンプを撃つのです!」

 

 けれど、カメックスは両腕の砲台から水砲撃を噴射し、上空へと避難してしまった。

 

「くさむすび!」

 

 ここから届く技といえば、今使えるのはくさむすびかふぶきだけ。でも雪は上がってしまったためふぶきは届く可能性が低くなってしまった。だからくさむすび。

 

「りゅうのはどう!」

 

 カメックスは追いかけて来る草々を竜を模した波導で一気に焼き払った。

 

「ロケットずつき!」

 

 そしてこれはさっきと同じような展開。

 私が読んで来ることを見越してそのまま来るか、あるいは裏をかいて同じ戦法で来るか。

 分からない、分からないけれど!

 

「ふぶきよ!」

 

 今度は迎え撃つため、広範囲に渡らせれば確実にダメージが入る。まあ、それだけでは倒せないのも事実だけれど。

 

「ハイドロポンプ!」

 

 突如、背中の砲台から水砲撃を噴射され、近距離直撃を受けてしまった。当然、吹雪は止まり、カメックスの落下は残り数メートル。

 

「気張りなさい、ユキノオー! ウッドハンマー!」

 

 ここが正念場。

 これを乗り切らなければ、ユキノオーは完全に倒されてしまう。

 

「ノーオッ!!」

「ガメーッス!!」

 

 二体は咆哮を放ちながら交錯した。

 技と技のぶつかる衝撃が余りにも激しかったらしく、海の方にまで伝わり小規模の津波が起きている。

 

「ガン………、ガンメーッス!!」

 

 声を発したのはカメックスの方だった。

 つまり、勝利の雄叫びということかしら。

 

「…………ユキノオー、戦闘不能!」

『メガシンカ対決、勝ったのはカメックスだぁぁぁぁぁぁああああああああああっ!!』

 

 ユキノオーはメガシンカが解けた状態で伏していた。タイプ相性ではこちらが有利だったけれども、素早さが仇となってしまったのかもしれないわね。

 

「お疲れ様。ゆっくり休みなさい」

『………ユキノオーが負けてしまいましたね』

『じゃが、あやつらはここからなんよ』

 

 メガシンカ対決。

 いい経験になったわ。私にはもっと色んな可能性を一瞬に考えられる引き出しが必要なのね。それこそハチマンみたいに………。

 

『さあ、三冠王! ここからどう巻き返す?! 相手は手負いといえどメガシンカポケモン! 残り二体で攻略出来るのでしょうかっ!!』

 

 攻略………?

 ええ、するわよ。私はハチマンと戦うためにここに立っているのだから!

 

「オーダイル、最初から全力で行くわよ」

「オダ」

 

 オーダイル、あなたの凄さを見せてあげなさい。

 

「全てを解放しなさい、りゅうのまい!」

『な、なんと?! 先程とは打って変わって、これは…………!?』

 

 特に何かが変わったわけじゃない。ただ全力を出しただけ。私もオーダイルも心のどこかでは今でも暴走しないかとヒヤヒヤしているところがある。それがリミッターの役割をしてしまい全ての力を注ぎ込むということが出来ていなかった。

 でも今は勝ちたい。勝ってハチマンとバトルしたい。暴走なんかどうでもいい。今は姉さんもいる。あの時止めてくれたハチマンだっている。だから私は、私たちは前を向く!

 

「カメックス、りゅうのはどう!」

 

 竜を模した波導………。

 

「オーダイル」

 

 オーダイルは呼びかけるだけで竜の爪で縦に斬り裂いた。

 

「ガメス!?」

 

 それと同時に左の爪を地面に突き刺し、カメックスの影を使って突き上げた。

 

「そのまま捕まえなさい」

 

 影爪はそのままカメックスを追いかけ、掴み取る空中に固定した。

 

「オーダイル、ハイドロカノン!」

 

 逃げられない状態での水の究極技。

 

「カメックス、ハイドロポンプです!」

 

 何とか迎え撃とうとしているようだけれど、動きは完全に封じたわ。

 

「ガメーッ………ーーー?!」

 

 咆哮すら掻き消す轟音。

 それに撃ち抜かれたカメックスを解放すると、着地態勢も取らず地面に落下した。

 

「…………か、カメックス、せ、戦闘不能! よ、よって勝者、三冠王ユキノ!」

 

 あ、ちょっとやり過ぎたかしら。

 審判が私を見てなんだか怯えているわ。

 

『…………か、勝ったのは三冠王だぁぁぁぁぁぁああああああああああああっっ!! というか今のは何だったのでしょう!! 瞬きも許されず、息を呑むほどの…………!! これが、これが三冠王の実力とでもいうのでしょうか!!』

 

 実力というか気持ちの問題ね。自分たちで無意識にかけてしまっているリミッターを外せるかどうか。ハチマンたちがロケット団の実験に悩まされているなら、私は自分たちの過去に悩まされているから。

 どうしてハチマンの対抗策として私が選ばれたのか、今なら分かる気がするわ。何だかんだで私とハチマンはすごく似ている。似ているから共有しやすい。力を制御するには打って付けだったってわけね。それを示したのがクレセリアの三日月の羽。

 全く…………、スッキリしたようなしてないような、微妙な感じだわ。

 でもまあ。

 これで明日、ハチマンと戦えるわ。

 

「いいバトルでした」

「ええ、こちらこそありがとうございました」

『三冠王が勝利したことで予定通り、明日も開催します! この後は各遊覧船でごゆるりとお過ごし下さいませ!』

 

 私たちもハチマンたちのところへ合流することにしましょうか。




行間

ユキノシタユキノ 持ち物:キーストーン etc………
・オーダイル(ワニノコ→アリゲイツ→オーダイル) ♂
 特性:げきりゅう
 覚えてる技:アクアテール、アクアジェット、ドラゴンクロー、れいとうパンチ、ハイドロポンプ、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、げきりん、カウンター、ハイドロカノン、ドラゴンテール、めざめるパワー(電)、ゆきなだれ、れいとうビーム

・ギャロップ ♀
 特性:もらいび
 覚えてる技:かえんぐるま、ほのおのうず、だいもんじ、フレアドライブ、でんこうせっか、にほんばれ

・マニューラ ♂
 覚えてる技:つじぎり、こごえるかぜ、こおりのつぶて、ふぶき、れいとうパンチ、はかいこうせん、カウンター、シャドークロー、みやぶる、かわらわり、まもる

・ユキメノコ ♀
 覚えてる技:こごえるかぜ、れいとうビーム、みずのはどう、10まんボルト、シャドーボール、めざましビンタ、ふぶき、かげぶんしん、あやしいひかり、かみなり、でんげきは

・ボーマンダ(タツベイ→コモルー→ボーマンダ) ♂
 持ち物:ボーマンダナイト
 特性:いかく←→スカイスキン
 覚えてる技:りゅうのいかり、かえんほうしゃ、そらをとぶ、ドラゴンダイブ、ハイドロポンプ、つばめがえし、だいもんじ、かみなりのキバ、いわなだれ、ドラゴンテール、ハイパーボイス、げきりん、ギガインパクト、りゅうせいぐん、ねむる、ねごと、はがねのつばさ、かげぶんしん、すてみタックル

・ユキノオー ♂
 持ち物:ユキノオナイト
 特性:ゆきふらし←→ゆきふらし
 覚えてる技:ふぶき、ぜったいれいど、くさむすび、じしん、ウッドハンマー

控え
・ペルシアン ♂
 覚えてる技:きりさく、だましうち、10まんボルト

・フォレトス
 特性:がんじょう
 覚えてる技:こうそくスピン、ジャイロボール、パワートリック、ボディパージ、リフレクター、だいばくはつ

・エネコロロ ♀
 覚えてる技:こごえるかぜ、メロメロ、ソーラービーム、でんげきは、ハイパーボイス、れいとうビーム


ズミ 持ち物:キーストーン
・カメックス ♂
 持ち物:カメックスナイト
 特性:???←→メガランチャー
 覚えてる技:ハイドロポンプ、ロケットずつき、りゅうのはどう、グロウパンチ

・ブロスター ♂
 特性:メガランチャー
 覚えてる技:りゅうのはどう、アクアジェット

・ギャラドス ♂
 特性:いかく
 覚えてる技:ぼうふう、かえんほうしゃ、たきのぼり、ねむる、ねごと

・ガメノデス ♂
 特性:かたいツメ
 覚えてる技:ストーンエッジ、つばめがえし、シェルブレード、からをやぶる

・スターミー ♂
 特性:しぜんかいふく
 覚えてる技:ふぶき、マジカルシャイン、リフレクター

・キングドラ ♂
 特性:すいすい
 覚えてる技:ハイドロポンプ、りゅうのはどう、あまごい、かなしばり


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ぼーなすとらっく9『しゅるるるるるぷ』

四天王戦は一旦お休みして(現在執筆中)、今回はデオキシス襲撃事件から二ヶ月後、『シャラジムにイケメン御曹司』の続きになります。


〜お知らせ〜
以前頂いた案で今後書く予定となっていたダークライとクレセリアの復活話についてですが、色々と展開を考えていたら一話どころか一シリーズくらいのものになってしまいました。というわけなので、当シリーズではなく次のシリーズに回したいと思います。


 最近ジムリーダーとしての仕事がめっきり減った。シャラジムのジムリーダーって今需要あるのか疑問に思えるくらいに、だ。

 理由は簡単。アタシの初めての弟子であるユイさんがジムトレーナーとして活躍してくれているからだ。今もまた勝っちゃったし。最近負けたのって、さっきバトルしたダイゴさんにだけだよ? それまで34連勝とか、アタシでもないんだけど。

 そりゃ、二ヶ月前のリーグ大会に向けて挑戦者は増えたりしてたけどさ。それでも勝ったり負けたりで連勝なんて二桁にいった辺りで打ち止めだったっていうのに。

 やっぱりバトルの基礎を教えたユキノさんのおかげなのかなー。それとも…………。

 

「なんかムカつく」

「はっ? 何だよ、いきなり」

 

 この男の影響か、だ。

 ヒキガヤハチマン。多分カロス地方最強のトレーナー。カルネさんにも勝っちゃったし。世界的に見てもトップクラスだと思う。もうね、なんていうか次元が違うの。

 

「別に。なんかそう思っただけ」

「酷くね? 俺泣くよ?」

「泣くとかキモいんですけど」

 

 アタシは多分、恐らく、何かの間違いだと信じたいけれど、この男が好き、なんだと思う。昔からジムリーダーの孫だ、メガシンカの継承候補だと大人たちから持て囃され、実際周りには現四天王やチャンピオン、ジムリーダーたちばかりがおり、同年代の友達なんてほぼいない。いてもやっぱりジムリーダーとかでしかない。そんな中ぽっと現れたこいつはアタシを特別扱いしない。それがなんか新鮮で気がついたら街中を探してたりする。相当構ってほしいらしい。アタシは子供か!

 そんなこいつは昔カントーで見たトレーナーだった。リザードン一体でリーグ大会を優勝した姿は当時のアタシを魅了した。でもその姿を見れたからこそ、アタシは重圧に耐えられたんだと思う。

 で、そんな憧れが好きに変わったキッカケは明白だ。フレア団事件でアタシは人間不信になってしまい、意識を失ったまま精神世界に閉じこもったしまった。なのにハチマンは何をどうやったのか知らないけど、そんな状態だったアタシに直接話しかけてきたのだ。精神世界なのに久しぶりの熱を感じ、溜まっていた感情が爆発し、多分それがよかったのだろう。アタシは意識を取り戻してこうして現実世界に戻って来れている。………こんなことまでされて好きなるななんて無茶だっつの。

 

「ハチマンってさ、何でそんなに強いわけ」

「はっ? 俺が強い? 何が?」

「ポケモンバトル! カルネさんにも勝っちゃったし」

「や、あれ、ほとんどゲッコウガが機嫌悪かっただけだから。あいつ、ユキメノコにやられたのが相当堪えたらしいし」

「でもそんなゲッコウガを育てたのはハチマンじゃん」

「いやいやいや、それこそ俺じゃない。何なら俺はゲッコウガを育てた覚えはない。あいつは自分で全部習得してただけだ。俺がしてたのはきずなへんげとやらを確立してやるくらいだぞ」

 

 ………?

 訳分かんないんだけど。

 それよりきずなへんげって何なの?

 

「そもそもそのきずなへんげとやらが何なのか分かんないんだけど。何なのさ、あれ」

「さあ、俺にもさっぱりだ。博士曰く、かつて一度ゲッコウガが変化した姿として記述されている文献があるっては言ってたが、…………要はゲッコウガという種族にはさらなる姿があった。それだけだろ。それをゲッコウガがあれよこれよと試して、最終的に特性として固定させたんじゃねぇか? あいつもよくは分かってないから俺らにはさっぱりだ」

「…………なんだかなー」

 

 恐らくハチマンの言ってることに嘘はないんだと思う。でもそうなるとアタシたちはゲッコウガについて何も知らないようなものだ。今まで勉強して来たことを否定された気分でもあるけど、それだけポケモンという生き物が未知数な生き物ってことなんだろうな。

 

「何だよ」

「その話が本当だとしても特性を変えることなんて出来るの?」

「ま、そこは特殊な薬を使ったってことだけしか言えんな」

「ダメじゃん。それじゃあ説明にならないし」

「知らない方がいいことも世の中にはあるんだよ」

「そりゃそうだけど…………」

 

 知らない方がいいってなにさ。

 それじゃまるで非合法的な方法を使ったって言ってるようなものじゃん。

 あー、もういい! 話変えよ!

 

「…………身体って大丈夫なの?」

「おかげさんでな。リザードンもメガシンカは失ったが、今は身体が軽くて逆に快調らしいぞ」

「何それ。また強くなったってこと?」

「今まで抑えられていた力が解放されたって言った方が正しいんじゃねぇか?」

「それ、絶対ゲッコウガじゃなくてもカルネさんに勝ってたよね」

「まあ、リザードンが負ける姿は想像出来ないな」

 

 もうなんなのこいつ!

 なんでこんな余裕あるの!

 カルネさんだよ?! カロスにいるおじいちゃんの弟子の中で一番強いカルネさんだよ!? チャンピオンにまで昇り詰めたんだよ!?

 それなのにこの男は…………。

 絶対自分が異常な程強いって自覚ないよね!

 

「コンコンブルさん! 大変です!!」

 

 なんてハチマンの無自覚さに呆れているとジムに一人の男性が駆け込んで来た。

 

「ど、どうかしましたか?」

 

 取り敢えず、おじいちゃんの代わりに対応するとしますか。噛んだことは気にしない。

 

「あ、コルニさん! じ、実は今12番道路に未確認生物が大量発生してるんです! 周辺の草は一瞬にして枯れたりして、水も段々と濁って来てますし!」

「な、なにそれ…………。大変じゃない!」

 

 え、ちょっと、なんかマズくない!?

 一瞬で草枯れるとか異常事態もいいところじゃん! 下手したらアタシらもポケモンたちも死ぬよ?

 

「なんじゃ、騒がしいのう」

「あ、おじいちゃん! 大変だよ! 12番道路に未確認生物が大量発生してて草とか水が枯れたり濁ったりしていってるって!」

「っ?! ………落ち着くんよ、コルニ。緊急事態であることは把握した。だがここには丁度いい人材がいるじゃろ」

 

 丁度いい人材………?

 あ…………。

 

「ハチマン………」

「はあ………なんだって次から次へと問題が発生するんだよ。トラブルに愛されてんのか? カロス地方ってのは」

 

 そうだ、ここには丁度ハチマンがいる。

 ハチマンならきっと…………。

 

「ゲッコウガ、先に行って時間を稼いでくれ。俺もすぐ行く」

『分かった。危険と判断したら逃げに徹するからな』

「ああ、それで構わん。野生のポケモンたちを第一に考えてくれればいい」

『了解』

 

 隣にいたハチマンの服の袖をつい摘んでしまった。

 誰も見てない、よね?

 

「僕も行くよ」

「あたしも!」

 

 あ、ダイゴさんもユイさんも来てくれるんだ。

 アタシも、動かなきゃ、ね。

 

「コルニ、お前も来い。博士は人をかき集めて街の防衛をしてくれ。余裕があれば野生のポケモンの避難誘導もよろしく」

「つーわけなんよ。このことを街に広めてくれぃ」

「承知しました!」

 

 どうしよう、震えが、止まらない。

 

「あー、ホロキャスターで拡散した方が手っ取り早いと思いますよ」

「そ、そうか! 分かった!」

「さて、行きますか。行きたくねぇけど。何だよ、一瞬にして草が枯れるとか。それもう毒入ってるだろ。それも超強力な猛毒」

 

 文句言う割には指示が的確なんだよね………。

 一体どこで身につけて来たんだろ。

 

「クッキー、お願い!」

「ユイ、コルニを頼む」

 

 え………?

 

「コルニ、俺にしがみついてるだけじゃ立派なジムリーダーにはなれないぞ。つってもありゃトラウマなんだろうがな」

「トラウマ………」

 

 今のアタシはハチマンがいなかったら多分ここにはいない。ずっとベットの上で意識を失ったままだったと思う。

 だけど、ハチマンがどうやってかアタシの精神世界に入り込んで来てくれたから、アタシはここにこうして立っているんだ。アタシはハチマンがいなければ何も……………。

 

「足掻けよ、ジムリーダー。リザードン、トップギアで頼む」

「シャア!」

 

 不思議だ………。

 ハチマンに頭を撫でられただけで震えが消えていく。

 

「コルニちゃん、乗って!」

「う、うん………」

 

 リザードンの背中に乗っていくハチマンの背中をじっと目で追っていると、ユイさんに促されてクッキーの背中に乗ることにした。

 …………ウインディって確か空も走ったりしなかったっけ?

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

 た、たたたたたたた高いぃぃぃいいいいいいっっ!!!

 アタシ空飛んだことないし、これ怖すぎ!?

 落ちたらこれ絶対死ぬやつ!!

 

「しゅるるるぷぷ!」

「しゅるるるぷぷ!」

「しゅるるるぷぷ!」

「しゅるるるぷぷ!」

 

 だぁぁぁああああああっ!

 しかもこんな時に限ってなんか白いのが漂ってるし!!

 

「なんだこいつら………。見たことねぇぞ」

 

 なんなの、この白いの!

 生き物!? ポケモン?!

 

『ニダンギル、せいなるつるぎだ!』

 

 ゲッコウガが戦ってるってことはマジで原因こいつらなの?!

 

「っ?! ユイさん、あれっ!」

「えっ? あ、少年君!?」

 

 ふと、ゲッコウガたちが戦っているところを見ていると、その近くにさっきジムに挑戦しに来た少年が脚をすくませていた。

 

「マロン、ニードルガード!」

 

 咄嗟にユイさんがブリガロンをボールから出して、少年を守りに行かせた。

 

『全員聞け! こいつらは毒技を使う! 苦手な奴らは引っ込めとけ!』

 

 毒………?

 ってことははがねタイプを持つルカリオならいけるってこと?

 

「ユイさん! シュウが適任だよ!」

「分かった! シュウ、お願い!」

 

 アタシもルカリオで応戦しなきゃ!

 

「メタグロス、ラスターカノン!」

「仕事だお前ら。まずはあいつらを大人しくさせるぞ」

 

 まずは少年の確保だね。

 

「少年君、大丈夫?」

「ね、姉ちゃん………!」

「よしよし、頑張ったね」

「うぅあぁぁぁあああんっ!!」

 

 ウインディが白い生き物を飛ばして足場を確保して着陸。

 颯爽とユイさんは少年の元へと向かって行った。

 

「………コルニちゃん、少年君をお願い」

「えっ?」

「シュウ、メガシンカ!」

 

 あ、これアタシの出番ない奴だ。

 

「姉ちゃん………?」

「すぐに、終わらせるからね」

 

 目が、怖いよ…………。笑ってるのに笑ってない。

 

「シュウ、あたしを全部使って!」

 

 ユイさんとルカリオのシュウはそれぞれが持つ波導の波長がよく似ている。そのため、ユイさんの波導と合わせて作り出す骨は強靭で場合によっては……………。

 

「え、なにアレ………」

 

 今まで見て来た中でも最大の長さを誇る骨。

 え、これを振り回す気なの?

 というかどんだけ使ったのよ。ユイさんピンピンしてるんだけど。アタシじゃ絶対無理だ! 波導が枯渇して死んじゃう!

 

「ボーンラッシュ!」

 

 ぶうん!

 骨の一振りで白い生き物を次々と薙ぎ払ってしまった。

 

「リア!?」

「…………お前ら、うちのキルリアを怖い思いさせるとか、いい度胸してるじゃねぇか」

 

 あ、ヤバい。

 あっちもヤバいことになってる………。

 

「ボスゴドラ、キルリアを頼む」

「ゴラッ!」

 

 あの親バカ。

 キルリアが狙われたからってキレすぎでしょ。

 

「リザードン、はらだいこ。ジュカイン、つめとぎ」

 

 ほら、攻撃力最大にしちゃってるよ?

 これアタシたちも無事でいられるか怪しいんだけど!

 

「お前ら、暴れ尽くせ。げきりん!」

 

 いーやー、やめてー! 土地がなくなるーっ!

 

『テメェらが汚した水はキッチリテメェらに返してやるよ』

 

 ぶっ?!

 まさかのアンタもなの!?

 もう何なのこの三人……………。

 案の定あたしらの出番なかったんだけど。

 白い生き物は気が済んだのか空に穴開けてそこに入って………え? 空に穴!? ちょ、や、え? は? どういうことなの!? もうわけわかんないんですけどっ?!

 

「あー、くそ。耳に残るな、あの不快音」

「お見事ですな」

「フクジさんも迅速な対応、ありがとうこざいました」

「いやいや、礼を言うのは私の方です。未確認生物が大量発生していると聞いた時にはどうしたものかと思いましたが、来てみれば君がいてくれた。君を見た瞬間にどうにかなると思いましたし、実際にどうにかなってしまいました。ありがとう」

「………こういうのは俺らの仕事っすからね。礼を言われるほどじゃないですよ。それよりこれからどうするかじゃないっすか?」

「そうですな」

 

 これから…………。

 辺りを見渡すとところどころにクレーターが。

 恐らく製作者は…………あの捻くれとおっぱいだ。

 

「リアー!」

「おうキルリア。もう終わったぞ」

「リア!」

 

 もうほんとにただの親子にしか見えない。

 ちょっと、キルリア相手だと人格めちゃくちゃ違うじゃん! アタシにもそれくらい優しく…………されたらアタシが保たないな………。

 

「キルリアに進化したんですね」

「ええ、半月前くらいに。ただあいつらみたいにはなってほしくないんですけどね」

「それは難しいかもしれませんな」

「トレーナーが俺、だからですか?」

「それもありますし、周りの環境が既に良質なものですから。知らず知らずに技術を身につけているでしょう」

「それは、否定できないですね」

 

 確実にそうなるだろうね。なんたってハチマンのポケモンだし。

 

「少年君、大丈夫だった?」

「う、うん………」

 

 大丈夫も何もあたしら何もやってないから。何ならユイさんが周りにいたのを全部やっちゃったから怪我する心配なんてシュウの攻撃に巻き込まれるくらいだったよ…………。それもクッキーが上手く流してくれてたし。何なのこのウインディ。優秀すぎない?

 

「姉ちゃん、強すぎ…………」

「たはは……、守らなきゃって思ったらつい………」

「つい、であんな大技使う人いないよ………」

 

 ついであんな大技を使われたらジムも街もひとたまりもないって。

 これはもう災害級のトレーナーだ。ちなみにハチマンは世界滅亡級とまで言っていいと思う。

 

「くそ! もう少しだったというのに!」

「何なの、あの生き物は………!」

 

 あ、人いたんだ…………。全然気づかなかった。それだけユイさんたちが規格外過ぎて目を奪われてたってことなんだろうけど。

 

「あ、あの大丈夫でしたか?」

「っ?! あ、ああ、何とかな………」

 

 声をかけたら一瞬驚いた顔をした。

 アタシがいることがそんなに不思議なことなのかな。

 

「宝物は奪われたけどね」

「宝物?」

「ああ、アローラ地方に眠るお宝さ」

「あ、そうだ! ジムリーダーさんなら取り返してくれるんじゃない?」

「おお、そうだな。な、お願いできないか?」

「え? い、いや、そう言われても………」

 

 え、何でそういう話になるの?

 ジムリーダーは何でも屋じゃないのに。アタシたちはトレーナーが成長する上での壁、もしくは目標になる存在であって物を取り返したりとかは警察の仕事じゃん。

 そりゃ確かに街を守る義務もあるけど、だからって何でも屋なわけじゃない。

 

「うぎゃ?! は、ハチマン………?」

 

 急に頭を鷲掴みされた。

 でも一瞬で落ち着きを取り戻せた。やっぱりハチマンの手は不思議だ。

 

「んな無茶な要求呑めるわけないだろ」

「っ?! お、お前は………!」

「へぇ、俺を知ってるのか」

「え、ええ、あなたはカロスの有名人ですもの」

「それにしちゃビビってるようだが?」

「くっ………、シャム行くぞ」

「え、ええ。ごめんなさい、無茶な要求だったわ。聞かなかったことにしてね」

 

 ハチマンの顔を見て蒼白してた……………?

 

「何だったの、あの人たち…………」

「シャム、ねぇ………」

「知ってるの?」

「いや人違いだろ。昔何かの資料で同じような名前の奴を見たってだけだし」

「そうなんだ………」

 

 多分、きっと。

 あれは黒なんだろうな…………。ハチマンも人違いとは言いながらも後で調べるんだろうなー…………。

 

「ヒ、ヒヒヒヒキガヤハチマン!?」

「え、なに? 今度は子供に喧嘩売られちゃうの? ハチマン悲しくなってきたぞ」

「違うよ、ヒッキー! この子はヒッキーに憧れてて、そんな人が目の前にいたら誰でもこうなるよ!」

「そういうもんか?」

「そういうもんなの!」

「へぇ………」

 

 そういえば少年はハチマンに憧れてるんだっけ?

 

「で? 俺にどうしろと?」

 

 ほんとこういう時ってハチマンの対応はダメダメだよね。有名人だって自覚あるのか疑問になってくるよ。

 

「………アンタはいつもそうだよね」

「しょうがねぇだろ。特にそういう経験ないんだし」

「握手してあげたら?」

「俺今両手塞がってる」

「キルリア下ろせばいいじゃん」

「ばっかばか、キルリアは怖い思いしたんだぞ。今離れたらPTSDになるかもしれねぇだろうが」

「親バカか!」

 

 何でそんなにキルリアには過保護なのさ!

 

「まあ、なんだ。無茶だけはするなよ。しても大した見返りもないんだしな」

「………ハチマンが言うと重いよ」

 

 全く、全くもう………。何でそう少年の夢を壊すようなことを言うのよ。

 

「それで、あの白いのはなんだったの?」

「さあな」

 

 話題を変えるために、さっきの白い生き物について聞いてみた。

 

『会話もまともに出来なかった。恐らくだがオレたちでも会話は無理だろう。奴らの目的は分からんが、あの人間どもを襲っていたように見える』

 

 ゲッコウガも分からないとなると未知の生き物なのかもしれない。

 

「あの人たちが襲われる? 宝物を奪われたって言っていたけど」

『なら奪うことが目的だったのだろう。あの人間どもを助けに入ったら集団で襲いかかって来た。奴らの間では意思疎通が出来ると伺える』

「ま、何はともあれ奴らは目的を果たして帰って行ったんだろう。だから奴らの力があんなもんだとは思えない。本気を出したらどうなるやら………」

「じゃ、じゃあ………」

『ダークライやギラティナみたいに別世界に移動出来るとも考えられる。いつどこからまた現れるか現状掴めないだろうな』

「つーわけで、何かあったら連絡してくれ。俺の勘だがあれはヤバい」

 

 ハチマンもゲッコウガもあの白い生き物を危険視してるってことは、相当ヤバいんだろうな。

 今のアタシでは太刀打ち出来そうにない、かも。そう思うとユイさんってハチマン並みに……………。やめよう。想像したら自分が情けなくなるだけだ。

 

「ダイゴさん、ずっと考え込んでますけど、どうかしたんですか?」

 

 ふと、視界にダイゴさんが入った。

 そういえば、さっきから全く喋ってないよね。

 

「ん? あ、いや、ちょっと気になることがあってね」

 

 そう思って声をかけてみるとようやく気がついたようで顔を上げた。

 

「気になること?」

「うん、あの白い生き物たちが空に穴を開けて帰って行く際、穴の奥が見えたんだ。そこは暗かったけど、微かに光があるようだった」

「光………?」

 

 てかあの穴の奥を見れたんだ。

 

「光か。となるとダークライともギラティナとも違うな。あれはまた別物なんだろうな」

「そうなのかい?」

「ええ、ダークライの穴は真っ暗。出口なんて全くないんすよ。加えてギラティナのいる世界の裏側とやらは明るい暗いの問題じゃない。あそこはそもそもそういう類の分け方が通じるようなところじゃないんです。だからあの白い生き物たちが開けた穴の奥には俺たちも知らない世界があるんだと思いますよ」

 

 何でアンタはそんなに詳しいのさ!

 ギラティナってあれでしょ? 世界の裏側の神とか言われてる。あれ? それってつまり死の世界ってことなんじゃ…………。

 

「なるほど…………。時に、君は世界の裏側とやらに行ったことがあるのかい?」

「一度だけ。よく分からないままダークライに連れて行かれ、よく分からないままギラティナと会いました。あの世界から帰って来て調べてようやくそういうところだったと知ったくらいです」

 

 ッ!?

 ちょ、待ってよ!

 それじゃあハチマンは一度死んでダークライに連れて行かれたってことじゃん!

 そんな………そんなのって………………。

 

「そうか…………」

「あー、なんか勘違いしてるようなんで言っておきますけど、俺死んだわけじゃないんで」

「そうなのかい?」

「死んだらそもそもこうしてここにいるわけないでしょうに」

「で、でも………」

 

 じゃあどうしてそんなとこに連れて行かれたのさ!

 

「大丈夫だよ、コルニちゃん。ヒッキーは平気で嘘つけるタイプだけど、これは嘘じゃないから」

「………知ってるの?」

「んーん、でもヒッキーの目がそう言ってるから」

 

 ああ、ユイさんはハチマンのことを心から信じてるんだね。信じてるから口にしてないことも見抜けてしまう。

 アタシはまだまだだなぁ。ユイさんに言われなかったら問い詰めるか一人で考えこんじゃってたかも。

 

「取り敢えず、僕も僕なりに調べてみるよ」

「ええ、お願いします。俺も色々伝手を使って調べてみますよ」

 

 取り敢えず、今回のことは要警戒ってことでジムリーダーや四天王に伝わることになった。被害も少なくてよかった、のかな…………。いやよくないな。だってクレーター残ってるし……………。はあ、明日埋めに行ってこようっと。




行間

コルニ 持ち物:キーストーン
・ルカリオ
 持ち物:ルカリオナイト
 覚えてる技:はどうだん、グロウパンチ、バレットパンチ、ボーンラッシュ、インファイト、りゅうのはどう

・コジョンド(コジョフー→コジョンド)
 覚えてる技:とびひざげり、ドレインパンチ、スピードスター、インファイト

・カイリキー(ゴーリキー→カイリキー)
 覚えてる技:かわらわり、ローキック、きあいだま、みやぶる、インファイト


ヒキガヤハチマン 持ち物:キーストーン 菱形の黒いクリスタル etc………
・リザードン(ヒトカゲ→リザード→リザードン) ♂ 
 特性:もうか
 覚えてる技:かえんほうしゃ、メタルクロー、かみつく、おにび、えんまく、はがねのつばさ、かみなりパンチ、ドラゴンクロー、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、かみくだく、カウンター、じしん、フレアドライブ、ブラストバーン、げきりん、じわれ、だいもんじ、ソーラービーム、リフレクター、はらだいこ
 飛行術
 ・ハイヨーヨー:上昇から下降
 ・ローヨーヨー:下降から上昇
 ・トルネード:高速回転
 ・エアキックターン:空中でターン
 ・スイシーダ:地面に叩きつける
 ・シザーズ:左右に移動して撹乱
 ・ソニックブースト:ゼロからトップに急加速
 ・コブラ:急停止・急加速
 ・ブラスターロール:翻って背後を取る
 ・グリーンスリーブス:連続で攻撃して空中に釣り上げる
 ・デルタフォース:空中で大きな三角形を描くように連続攻撃
 ・ペンタグラムフォース:空中で五芒星を描くように連続攻撃
 ・バードゲージ:スピードを活かして相手の動きをコントロールしていく

・ゲッコウガ(ケロマツ→ゲコガシラ→ゲッコウガ) ♂
 特性:きずなへんげ(へんげんじざい→きずなへんげ)
 覚えてる技:みずのはどう、あなをほる、かげぶんしん、れいとうパンチ、れいとうビーム、つばめがえし、ハイドロポンプ、くさむすび、グロウパンチ、えんまく、がんせきふうじ、いわなだれ、まもる、かげうち、みずしゅりけん、どろぼう、つじぎり、ハイドロカノン、めざめるパワー(炎)、とんぼがえり、とびはねる、ほごしょく、けたぐり、ぶんまわす、あくのはどう、どろあそび、たたみがえし

・ジュカイン(キモリ→ジュプトル→ジュカイン) ♂
 持ち物:ジュカインナイト
 特性:しんりょく←→ひらいしん
 覚えてる技:でんこうせっか、リーフストーム、リーフブレード、ドラゴンクロー、タネマシンガン、ギガドレイン、かみなりパンチ、スピードスター、くさむすび、ソーラービーム、エナジーボール、シザークロス、くさのちかい、マジカルリーフ、タネばくだん、こうそくいどう、つめとぎ、いやなおと、こうごうせい、くさぶえ、やどりぎのタネ、グラスフィールド、なやみのタネ、ハードプラント、つばめがえし、ものまね

・ヘルガー ♂
 持ち物:ヘルガナイト
 特性:もらいび←→サンパワー
 覚えてる技:かみつく、ほのおのキバ、ふいうち、おにび、かえんほうしゃ、かみくだく、れんごく、ほえる、はかいこうせん、アイアンテール、あくのはどう、みちづれ、だいもんじ、ハイパーボイス、ヘドロばくだん、ちょうはつ

・ボスゴドラ ♂
 持ち物:ボスゴドラナイト
 特性:がんじょう
 覚えてる技:ロックブラスト、あなをほる、なげつける、メタルクロー、アイアンヘッド、アイアンテール、てっぺき、メタルバースト、ボディパージ、ヘビーボンバー、ロックカット、ほのおのパンチ、もろはのずつき

・キルリア(ラルトス→キルリア) ♀
 特性:シンクロ
 覚えてる技:リフレクター、ねんりき、まもる、テレポート


ゲッコウガ
・ニダンギル(ヒトツキ→ニダンギル)
 特性:ノーガード
 覚えてる技:ラスターカノン、せいなるつるぎ、つばめがえし、かげうち、つじぎり、シャドークロー

・キリキザン
 特性:まけんき
 覚えてる技:つじぎり、くろいまなざし、ロックカット

・アギルダー
 特性:うるおいボディ
 覚えてる技:スピードスター、むしのさざめき、ギガドレイン、みずしゅりけん、こうそくいどう、かげぶんしん、こころのめ、はたきおとす、バトンタッチ

・ダンバル(色違い)


ユイガハマユイ 持ち物:キーストーン
・グラエナ(ポチエナ→グラエナ) ♂ サブレ
 持ち物:きあいのハチマキ
 特性:いかく(にげあし→いかく)
 覚えてる技:こおりのキバ、かみなりのキバ、アイアンテール、とっしん、ふいうち、じゃれつく、どろかけ、カウンター、はかいこうせん

・ブリガロン(ハリマロン→ハリボーグ→ブリガロン) ♂ マロン
 持ち物:かいがらのすず
 覚えてる技:タネマシンガン、つるのムチ、やどりぎのタネ、ころがる、ドレインパンチ、まるくなる、ミサイルばり、ニードルガード、ウッドハンマー

・ドーブル ♀ マーブル
 持ち物:きあいのタスキ
 覚えてる技:スケッチ、おにび、ハードプラント、ダークホール、こらえる、がむしゃら、いわなだれ、ハイドロポンプ、ほごしょく、ハイドロカノン、へんしん、サイコブースト、ふういん

・ウインディ ♂ クッキー
 持ち物:ひかりのこな
 特性:もらいび
 覚えてる技:ほのおのキバ、バークアウト、ニトロチャージ、りゅうのいぶき、かみなりのキバ、しんそく、にほんばれ、だいもんじ、りゅうのはどう、インファイト

・ルカリオ(リオル→ルカリオ) ♂ シュウ
 持ち物:ルカリオナイト
 覚えてる技:ブレイズキック、でんこうせっか、けたぐり、はどうだん、ボーンラッシュ、りゅうのはどう、しんそく、カウンター

・グランブル(ブルー→グランブル) ♀ ショコラ
 持ち物:たつじんのおび
 覚えてる技:たいあたり、しっぽをふる、かみつく、じゃれつく、インファイト、ストーンエッジ、マジカルシャイン、こわいかお


ツワブキダイゴ
・メタグロス
 持ち物:メタグロスナイト
 特性:クリアボディ←→かたいツメ
 覚えてる技:コメットパンチ、サイコキネシス、メタルクロー、バレットパンチ、アームハンマー、ジャイロボール、のしかかり、ギガインパクト、てっぺき、こうそくいどう、まもる


少年君
・ゲコガシラ
 覚えてる技:みずのはどう


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ぼーなすとらっく10『挑戦者ユキノ VSハチマン』

お久しぶりです。
書き上げる期間が長かった分、中身まで長くなってしまいました。
ということで、今回はチャンピオン・四天王戦の3戦目になります。


「うーわ、人多いな………」

『これうめー』

「お前今から戦うってのに何食ってんだよ」

『ミアレガレット。ラルトス食うか?』

「ラル!」

 

 チャンピオン・四天王への挑戦劇二日目。

 会場入りした後、控え室で姉さんが来るのを待っているのだけれど、これから対戦する相手であるはずのハチマンも何故か一緒にいる。

 別に嫌というわけではない。好きな人と一緒にいられるのは、それだけで幸せなことなのだから。

 ただ一つだけ物申したい。あなたたち、緊張感無さすぎないかしら?

 

「ねぇ、あなたたち緊張感なさすぎないかしら………」

「ばっかばか、こんな人前に出るのなんて超緊張するに決まってるだろうが」

 

 私たちは控え室に設置されているテレビから各旅客船にいくつか設置されたカメラの映像を観ている。十秒ごとに映し出される船が変わるため、各船の様子を伺える。オーダイルの人形を持った少年やユキメノコのシールを頰に貼り付けた少女など、今か今かと待ちわびている姿が何度も何度も流れており、一日目の販促は概ね上々だったようね。

 

「それにしては自由すぎよ」

「それはゲッコウガに言え。俺は悪くない」

「あなたのポケモンでしょうに」

「こいつがバトル以外で俺の言うこと聞くと思うか?」

「さあ、どうかしら。案外言えば伝わるのではないかしら?」

「ないだろうな。出会いからしてこいつ自由だし」

 

 自由、ね。

 ハチマンのゲッコウガは元々難のあるポケモンだった。出会った当初はケロマツで見た目はそれなりに可愛げがあったのに、その実ハチマンの頭を寝床にしたり、技を三つしか使う気がなかったりとやりたい放題。けれど、そこはハチマン。特に拘束することもなく自由にさせている一方で、ケロマツが限界を感じた時には進化を促したり、メガシンカを手に入れようした際には、特性を変える薬を用意して来たりとしっかりと見ている。というかトレーナーとしてこれ以上ないくらい手を差し伸べるタイミングが良すぎるくらいだわ。

 私もこれくらい出来ていればオーダイルを暴走させることもなかったのでしょうね。あれは今でも悔やまれる過去。だけど、あの事があったから私たちは強くなれた。同時にこの背中に追いつきたいという目標も出来た。後悔はしているけれど、過去をなかったことにはしたくないわね。

 

「ヒキガヤくーん、そろそろいくよー」

「うす」

 

 彼の自由なポケモンたちを眺めていると姉さんたちが入って来た。そろそろ準備が整ったようね。

 

「ハチマン、緊張してる?」

「そりゃ、こんな大衆の面前に放り出されるわけだし」

「カロスの英雄が何言っちゃってんのよ! 今更じゃない!」

「元々そういうのが苦手なんだよ。何度も言わせんな」

「そろそろ慣れた方がいいと思うのだけれど」

「すぐに慣れるならこんな苦労はしねぇよ」

 

 難儀なものね。

 カロスポケモン協会の理事なんて人によってはチャンピオンよりも興味を持つというのに。そうでなくとも今は四天王。注目の的、的中の的だわ。

 

「それじゃあ、ヒキガヤ君。行こっか」

「へーい。お前ら、いくぞー」

「ラール!」

『へーい』

 

 ふふっ、やっぱり似た者同士ね。一挙手一投足がまるで同じだわ。

 

「まるでハチマンが二人いるみたいだねー」

 

 そう思ったのは姉さんも同じみたいね。

 

『さあ、いよいよ二日目! 昨日は見事勝利を修めた三冠王! この勢いでチャンピオンに辿り着くことができるのでしょうか!!』

 

 どうやら全ての船の準備が終わったようで、昨日の実況者の声が響いて来た。

 

『では、皆さんお待ちかね! 本日最初の壁に登場して頂きましょう! 四天王ハチマーン!!』

「ラールラール!」

『おや? ラルトスでしょうか? 今四天王側からラルトスが…………帰って行きましたね』

 

 ラルトスったら………。

 好奇心旺盛だからハチマンより先に出ちゃったのかしら。

 

「ユキノちゃん」

 

 姉さんに呼ばれて振り返ると何かを握らされた。

 

「これは………」

 

 開いてみると………キーストーン…………。

 

「やるなら全力でやらなきゃだよ」

「………そうね。ハチマンをギャフンと言わせなければいけないものね」

『それでは当大会の主人公をお呼びしましょう! 三冠王ユキノ!!』

「ユキノちゃん、いってらっしゃい!」

「ええ、いってきます!」

 

 今日この時のために、私はポケモンたちとともに特訓して来た。ハチマンと戦うために、ハチマンを、ハチマンのポケモンたちを研究して来た。

 確かにデオキシスやギラティナにより予定は狂わされたし、リザードンはメガシンカを失ってしまったけれど、それくらいは想定の内。ずっと彼の背中を追い続けていれば、嫌でも思い知らされる彼の巻き込まれ体質と自己犠牲に走る性格。それらの小さな積み重なりが今回一つの事件に繋がってしまっただけのこと。

 でも、そのおかげで私たちも強くなれた。心身ともに強くなったわ。

 だから今日は、これまでの私を、私たちをハチマンにぶつけるだけよ!

 

「………随分と目つきが変わったな。この十数分の間に何かあったのか?」

「いいえ、特に何もないわ。ただ、覚悟を決めただけよ」

「覚悟、ねぇ」

「ええ、伊達にオーダイルの暴走からあなたのことを追いかけてるわけではないわ。あなたの側にいてあなたの実力を間近で見てきてるのよ。他の人が漠然とした強さしか思い浮かべられなくとも、私はあなたの強さを嫌という程知っているわ」

「そうだな、確かにお前とは色々あった。オーダイルを暴走させるわ、シャドーに乗り込んで素人丸出しで動くわ、挙句ロケット団の人質になるわ。毎度助けるこっちの身にもなれって思ったくらいだぞ」

 

 昔の私は無知だったものね。そのせいでハチマンには迷惑をかけっぱなしだったわ。

 

「ーーでも、その経験がなければユキノが三冠王だなんて呼ばれることもなかったと思ってるがな」

「ええ、そうね。私もそう思うわ。あなたと出会ってなければずっと姉さんの背中を追うだけのユキノシタハルノの劣化版にしかなれなかったでしょうね」

「劣化だろうが他の奴からしたら充分だろうがな」

「でも『ユキノシタユキノ』としてはそれで満足できないのよ」

「だったら見せてもらおうじゃないか。『ユキノシタユキノ』としての最高のバトルを」

「ええ、そのつもりよ。その覚悟を持ってあなたに挑むわ!」

 

 でも、あなたはそんな私から距離を取りながらも決して見放そうとはしなかった。だから私はあなたとこうしていられるの。

 今日はあなたから学んだことを全部出し切ってみせるわ!

 

『彼女、気合い入ってますね』

『そりゃ彼女からすれば、最愛にして最高のライバルであり師匠みたいなもんなんよ、彼奴は。カルネと戦うよりも意気込みは高くもなるわい』

『四天王ハチマン、これまでのバトルでは見せなかったラルトスやゲッコウガを連れての登場!! 果たして彼のユニークなバトルに三冠王はどこまで対応できるのかっ!! そして勝利をもぎ取ることができるのかっ!!』

「それではバトル始め!!」

 

 ゲッコウガが初手で出てくる気配はなさそうね。となるとリザードンも然り。ならばーー。

 

「行きなさい、ギャロップ!」

 

 様子見、というわけではないけれど。

 ハチマンが誰を出して来るか分からない以上、満遍なく対処可能なポケモンの方がいい。最悪交代という手もあるのだから。

 

「ギャロップか。なら、まずはこの壁だな」

「ヘッガ!」

 

 ヘルガー………。

 同じほのおタイプにどう戦うかってことかしら。

 本当に厭らしい性格だわ。ギャロップもヘルガーも特性はもらいび。ほのおタイプ同士の対決なのにほのおタイプの技は効果がないなんて、これ以上ないやりにくいバトルだわ。

 

「…………………」

「…………………」

 

 先に動けばすぐにハチマンが隙を突いて来る。

 でも攻撃しなければ、何をして来るか分からない。

 ああ………、ほんとやりにくい相手ね。

 

「なんだ? 動かないのか?」

「そっちこそ、攻撃して来ないのかしら?」

 

 こちらが先に動くのは論外ね。

 

「なら、こっちからいくか。ハイパーボイス」

 

 っ?!

 

「ギャロップ、でんこうせっかで離れて!」

 

 轟音による攻撃。

 ギャロップもポケモンである前に音を感知する生き物。ダメージも入る上に耳をやられてしまうわ。

 

「ドリルライナー!」

 

 丁度加速しているのだから、このまま攻撃に転じるのが先決ね。

 ギャロップは轟音の波から一旦離れるとそのままの勢いでヘルガーへと突っ込んで行く。

 

「受け止めろ、あくのはどう」

「なっ?! 届かない!?」

 

 あと一歩。

 あと一歩というところで黒いオーラによって受け止められてしまった。

 

「ヘドロばくだん」

 

 っ?!

 ヘルガーはギャロップを跳ね返すとヘドロを打ち出し、次々とギャロップへと飛ばして来た。

 

「ギャロロロ………」

「ギャロップ!?」

 

 唐突に受け止められた上に、無防備な状態で毒技を受けてしまえば……………。

 

「………ロロ」

 

 毒状態………。

 まさかハチマンはこれを狙って…………?

 いえ、過程がどうであれ結果はギャロップがダメージと毒を浴びてしまった。それだけのこと。

 ここから先、短期決戦に持ち込むしかないわね。

 

「でんこうせっか!」

「ロロ!」

 

 加速はまだ出来る。

 

「ギャロップ、撹乱しなさい!」

 

 今のは単調に一直線に攻撃を仕掛けてしまったことが敗因でしょう。ならば、撹乱してヘルガーの集中力を奪ってからだわ。

 

「纏え」

 

 ハチマンがそう指示するとヘルガーは黒いオーラを取り込んだ。するとヘルガーの目の色が赤く染め上がっていった。

 

『い、一体あれはどういうことでしょうか!! ヘルガーがあくのはどうを取り込み、目が赤く染め上がってしまいました!!』

 

 ハチマンのヘルガーだからこそ出来る技術、その名も擬似ダーク化。元々シャドーのポケモンだったヘルガーはリライブをしてダークオーラを除去しているけれど、一度ダーク化しているのを活かし、あくのはどうで再現しているというもの。

 知らない人が見れば何が起きているのか分からないのでしょうけど、私は何度も見て来ている。だからダーク化したヘルガーの強さも知っているけれど、果たしてギャロップに対処出来るかどうかはやってみなければ分からない。見たことはあっても一度もバトルはしたことがないもの。

 

「ダーク化………、何気に初めてなのよね」

「そういやそうだったな。そもそもお前とバトルするってのも中々ないしな」

「ええ、フレア団事件以降は尚更、ね」

 

 さて、どうしましょうか。

 まず正攻法では勝てないでしょう。けれど、毒に侵されている今、時間は掛けられない。

 

「なら正攻法から外れるしかないわね」

 

 相手は私を幾度となく助けてくれた私のヒーロー。

 私の予想外の方法をいくつも編み出し、あの姉さんでさえも圧倒された想像力の持ち主。制限された中で技の特徴や組み合わせで様々な攻撃手段を増やす化け物よ。

 ならば、私もそんな化け物にならなければ勝利への道はないもの同然。今ギャロップが使える技はでんこうせっかとドリルライナーと後二つ。この二つを何にするかによって勝敗は決する。

 

「………ギャロップ、突っ込みなさい!」

 

 加えて専売特許のほのおタイプの技が使えないと来た。

 ほんと、敵に回すと戦う前から戦法を絞られるのだから困ったものだわ。

 

「同じ攻撃なら意味ないぞ?」

「同じじゃないわ。ギャロップ、まもる!」

 

 でんこうせっかにより加速した状態からの防壁を張っての突撃。でもこれは近づくためのもの。真の攻撃はここからよ!

 

「そのままドリルライナー!」

 

 よし、決まった!

 これで効果抜群な上にゼロ距離から攻撃で急所にも当たったはずよ。

 

「………なるほど。ちっとは考えたな」

「………ええ、伊達にあなたの背中は追ってないわよ」

「んじゃ、こっちもやりますかね」

 

 …………やはりオーラを纏ったことで防御力も上がっているのね。一枚あるのとないのとでは違うということかしら。

 

「ヘルガー、ちょうはつ」

「ヘヘルッ」

「ッ!?」

 

 なんてこと!?

 

「ダメよ、ギャロップ! 挑発に乗ってはダメよ!」

「ギャロロロロッ!」

 

 ああ、挑発に乗ってしまった。

 ギャロップは今攻撃することしか考えられなくなっている。人間と同じで頭に血が上ってしまった状態だわ。

 

「ギャッロ!」

「ッ、ギャロップ、でんこうせっか!」

 

 勝手に走り出してしまったギャロップに何とか技を発動させることには成功した。けれど、これでは動きが単調になってしまっている。

 …………オーダイルが暴走した時を思い出すわね。あの時は自分の力に呑まれて起きたものだけれど、私の声が届かない点では同じこと。

 暴走しなくとも声が届かなくなる状態に陥ることなんて今までなかったものだから失念していたわ。それと経験不足ね。

 

「ドリルライナー!」

「ハイパーボイス」

「ルゥゥゥウウウウウガァァァアアアアアッッッ!!!」

 

 そんなっ?!

 まさか音の波だけで受け止めているというの!?

 

「だったら、ギャロップ! 回転速度を上げなさい!」

 

 怒りに任せた攻撃になっているのなら、そのボルテージを上げるくらいしかやり様はない。

 

「ギャロロロロロロロッ!!」

 

 少しずつ、少しずつだけれどヘルガーへと近づいている。

 

「やめて躱せ」

 

 突如、音が止み急加速したギャロップはヘルガーを捉えることなく地面に激突した。

 

「ヘドロばくだん」

 

 このままではやられてしまう。けれど躱すことは出来ない。

 

「ただでやられて堪るもんですか! ギャロップ、スピードスター!」

 

 ギャロップが使える技の中で唯一といっていい追尾機能を持つ必中技。威力は高くはないけれど、無数の星の光線があらゆる方向から攻撃を仕掛けるため、ヘドロと相殺されながらヘルガーへと向かっていった。

 ギャロップはこれで戦闘不能になるのは間違いなし。そうでなくとも毒によるダメージが積み重なっているわ。耐えたとしても毒で倒れるのが落ちね。

 

「…………ギャロップ、戦闘不能!」

 

 さあ、ヘルガーは…………!?

 

「残念だが、ヘルガーはこの通りだ」

 

 ちょっと期待増しの眼差しでヘルガーを見やると、大きく息を切らしながらも立ち上がるところだった。

 ダメ、だったのね。でも、ヘルガーはこれでダメージは相当溜まっているはずよ。

 

『一体目を制したのは四天王ハチマン!! ギャロップの意表を突いた攻撃にも冷静に対応して見せました! 強い、強いぞ四天王!!』

「ギャロップ、お疲れ様。ゆっくり休みなさい」

「ヘルガー、お疲れさん。お前も戻って休んでていいぞ」

 

 ギャロップをボールに戻していると、ハチマンもヘルガーをボールに戻していた。

 まさか私のポケモンごとにハチマンもポケモンを替えて来る気なのかしら。

 

「あら、ヘルガーは退場なのね」

「そりゃダメージ負ってるからな。ギャロップの壁としては充分働いてくれたし普通に休ませるだろ」

 

 これがリザードン一体でダメージを負って特性のもうかを発動させて、数瞬だけ姿を変えてまで姉さんに勝った男の言葉とは思えないわね。あの時のハチマンにはそもそもリザードンしかいないため、休むという概念がなかったもの。

 それが仲間を増やしたことでこういうゆとりのある戦い方に変化するなんて、これも一つの成長なのでしょうね。

 ………全く私も重症ね。ギャロップを倒されたというのにハチマンの変化に喜んでいるなんて。

 

「ええ、そうね。役割を果たしたのにまだ戦わせるのは酷というものよね。では、次いきましょうか」

 

 さて、次よ。

 次は誰で来るのかしら………。

 

「行きなさい、ユキノオー」

「ボスゴドラ、よろしく」

 

 ヘルガーといい、この男の頭の中では何が描かれているかしらね。

 

「丁度いいや、ガンピさんのボスゴドラとはちょっとだけ違った戦法を見せてやるよ」

「へぇ、それは楽しみだわ。でもその前に動けないでしょうけどね! ユキノオー、ふぶきで氷漬けにしなさい!」

 

 ガンピさんとは違った戦法。

 つまり、同じポケモンでもこちらも戦い方を変えなければいけないということ。それは簡単そうでとても難しいことだわ。しかも昨日の今日でとなると身体が勝手に反応してしまうかもしれない。

 動かれない内に動きを封じてしまうべきね。幸い、ユキノオーの特性で雪が降り始めたことだし。

 

「ロックカット」

 

 素早さを上げるいわタイプの技。

 身体の表面を滑らかにして空気抵抗を少なくするとか、そんな原理だったかしら。

 ボスゴドラは動きが遅い分、パワーがあるポケモン。それが素早くなるということは重たい一撃が反応出来ない方向から繰り出されることも視野にいれなければならないわね。

 

「動かれる前にくさむすびで捉えるのよ!」

 

 動きが遅いのはユキノオーも同じ。でもユキノオーには素早さを上げる技がない。幸い氷漬けになってくれたのが救いかしら。

 ただ油断は禁物。相手は群れの元リーダーでハチマンの指示もそつなくこなせる実力者。氷漬けだけでなく草で雁字搦めにしてもまだ分からないわ。

 

「ロックカット」

 

 なっ?!

 まだ動かないというの!?

 一体何をやろうと…………。

 いえ、動かないなら先に攻めるまでよ。

 

「動かないなら一気に攻めるわよ! ユキノオー、きあいだま!」

 

 ボスゴドラははがね・いわタイプ。かくとうとじめんタイプがよく通る。ただボスゴドラは物理耐性が高い。あの鋼の鎧は非常に硬い。昨日のバトルで改めて痛感した。だからユキノオーが覚えている遠隔攻撃技で対処することにしないと。

 

「ロックカット」

 

 うそっ?!

 これでも動かないというの!?

 今のでボスゴドラの素早さは最高速度にまで上昇している。いくら動きが遅いポケモンだからと言って最高速度になってしまえば、私だけでなくユキノオーでさえも目で追えなくなるのは必然。そして、ボスゴドラは高い攻撃力を活かした奇襲をかけて来るのでしょう。

 ならば、私たちに出来ることはただ一つ。素早さを捨て攻撃に集中するのみ。

 

「もう一度、きあいだま!」

 

 恐らくこれは、躱される。

 

「ボスゴドラ」

 

 っ?!

 来たッ!!

 

「ほのおのパンチ」

「ユキノオー、メガシンカ!」

 

 最高速度を手に入れたボスゴドラはもはや全方位が攻撃範囲と言ってもいい。

 

「全方位にくさむすび!」

「なるほど、メガシンカのエネルギーを防壁に使って来たか。ボスゴドラ、草を燃やせ」

 

 ほのおのパンチを使えるのは非常に痛いけれど。

 こうして動きを封じてしまえば、先に動けるというもの!

 

「ギガドレイン!」

 

 草を拳の炎で燃やしにかかったところを、絡めた草を通じて体力を奪っていく。

 

「メタルバースト」

 

 やはり対応が早いわね。

 空中にいる間に即反撃してくるなんて。

 

「昨日の今日だからミスを仕出かすかと思ったが、その様子じゃそれもなさそうだな」

「ええ、あなたがそれを狙って来ていることは明白だもの。だからそれを意識していれば対処出来るわ」

「でもいいのか? 早々にメガシンカしちまって」

「ええ、問題ないわ。想定内よ」

「ほう、なら最後にこれの復習だな」

 

 復習………?

 ということはガンピさんが使って来た技……ということかしら?

 ………ッ!?

 

「ユキノオー、くさむすび! 幾重にも張るのよ!」

「もろはのずつき」

 

 やっぱり………!

 ハチマンはこのバトルで私がどれだけ対応力があるのかを見極めようとしている。ならば、あの時相討ちに持っていかれてしまったボスゴドラのもろはのずつきを今度はどう対応するのか、それがユキノオーに対してのハチマンからの課題。

 ロックカットで最高速度にしたのもあの時のように急な攻撃を演出するため。

 全く………、いつものことながら捻くれた愛情だわ。

 

「ユキノオー、気張りなさい! これはハチマンから与えられた試練よ!」

 

 そんな捻デレにはちゃんと応えなくてはね。こんな手の込んだ演出をするくらいなのだから。

 

「ついでに草も燃やしちまえ」

 

 ボスゴドラは頭突きに加えて拳で草の壁を強引に破って来た。つまり、ボスゴドラの勢いは殺しきれなかった。

 ………………ッ!!

 

「今よ! 掴んでギガドレイン!」

 

 減速はしても止まらないボスゴドラの二本のツノを掴み、体力を奪いにかかる。

 

「ノォッ!?」

 

 …………やはり勢いを完全に殺せていないため、ユキノオーにもダメージが入っているわね。でも、何とかギガドレインでの回復量で持ち堪えて………。

 

「ほのおのパンチ」

「ッ、ユキノオー!! きあいだま!!」

 

 これが最後の攻防になるわね。

 炎を纏った拳を受けながらもユキノオーはきあいだまを練り上げ、直接撃ち込んだ。

 両者突き飛ばされ、フィールドを転々と転がっていく。

 

「ユキノオー………」

 

 昨日の二の舞………かしら…………。

 それだけは何としても避けたい。ユキノオーのためにもハチマンの課題に応えるためにも。

 

「ノォ……」

「………ボスゴドラ、戦闘不能」

『ボスゴドラ、戦闘不能ぉぉぉおおおおおおおおっ!!三冠王が振り出しに戻したぁぁぁあああああああああっ!!』

 

 っ………!

 よくやったわ、ユキノオー!

 

「お見事よ、ユキノオー」

「ノォ!」

 

 ユキノオーが体力も回復してまだまだいけそうって目でこっちを見て来た。

 そう、ならばこの後も続けて戦ってもらいましょう。一旦引いてやる気が削がれるくらいなら、やれるところまでやってもらった方が断然いいわ。

 

「ボスゴドラ、お疲れさん」

 

 なんか、ハチマンのポケモンに勝てたってだけでも清々しい気分ね。でもバトルまだまだこれから。気を引き締めないと。

 

「雪が、止んだわね」

 

 忘れていたけれど、ユキノオーの特性で雪が降っていたのよね。そのダメージの蓄積がユキノオーを勝利へ導いたのかもしれないわ。

 

「やっぱギガドレインが痛かったな。回復しながらの攻撃だし、加えてもろはのずつきの反動だ。耐えられるわけがない」

「雪も降っていたもの。あまり気にしていないようだったけれど、その小さなダメージの蓄積に救われたと言ってもいいわ。でもそれを分かった上でのことなのでしょう?」

「まあな。ちゃんと復習出来てるようで何よりだったわ」

「あなたの言葉がなければ対応が遅れていたわ。そして相討ちがいいところだったでしょうね」

「ポケモンバトルってのはそういうもんだからな。ポケモンの技の応酬だけがポケモンバトルじゃない。トレーナーのやり取りすらポケモンバトルだ」

「そうね。あなたを見ていると本当にそうだと思うわ」

 

 ハチマンは昔からポケモンだけでなく相手のトレーナーの動きすら観察していたものね。自分のポケモンにかける言葉で裏を読んだり、視線から先の展開を読み取ったり。特にサカキを相手にしている時は言葉一つ一つに注意していたわ。それだけトレーナーという存在はポケモンバトルを大きく左右するということ。今更だけど、奥が深すぎよね。

 

「さて、次にいくとしますか。ま、そっちがメガシンカで来てるんだからこっちもそれっぽくいくか」

 

 つまりゲッコウガね。

 

「んじゃゲッコウガ。あとはよろしく」

『丸投げかよ』

「いやいや、ちゃんと見てるから」

『……まあいい。取り敢えず、こいつら預かっといてくれ』

「了解」

 

 今度は素で素早いゲッコウガか。

 タイプ相性で言えばこちらが有利だけれど、あのゲッコウガは規格外。伝説のポケモンを相手にするようなものだわ。

 

『ここでゲッコウガの投入です!』

『ゲッコウガが出て来ましたね』

『リザードンも恐ろしいがゲッコウガは違った意味で恐ろしいからのう』

『まあそれは彼女も承知の上ですよ』

 

 …………恐ろしいなんてものじゃない。

 リザードンは単純にハチマンが育て上げた最強のポケモンにしてロケット団により条件付き特殊能力を有しているのに対して、ゲッコウガは言わばハチマンの生き写し。ハチマンがポケモンだったらこんな感じという仕上がりだ。しかもテレパシーを介した会話を取得してからは、さらにポケモントレーナーとしても技術をつけている。故に対応力は桁違い。こちらから無作為に動くのは却って命取りだわ。

 

「…………」

 

 じわりじわり。

 ゲッコウガは音もなく真っ直ぐとこちらに歩み寄ってくる。その足元から徐々に水が纏い始めた。

 最初からあの姿で来るというのね。

 

「ユキノオー、くさむすび!」

 

 きずなへんげ。

 メガシンカのごとく姿を変えパワーアップする特殊な特性。他に近しいもので言えばロトムのフォルムチェンジかしら。あれも確か姿を変えた上でパワーアップもする。

 けれど、近しいものであって同じではない。ゲッコウガの変化は、化け物よ。

 

「っ?!」

 

 巻きつく草を纏う水が切り裂いたっ!?

 

「ユキノオー、攻撃を絶やさないでっ!」

 

 全方位からの攻撃。それも幾重にも重ねて。

 

『ヌルい』

 

 ゴゴゴゴゴッ! と水柱が立つと一気に弾け、全ての草を弾き返してしまった。厚みを付けたところで意味がない。ましてや…………変化したこの姿になられては躱されるだけ!

 

『こ、これはどういうことでしょうかっ!? 水柱が上がったかと思えばゲッコウガの姿が変化しています!! プ、プラターヌ博士、せ、説明願えますかっ!?』

『ゲッコウガの特性はげきりゅうと稀にへんげんじざいというものがあります。しかし、彼のゲッコウガはそのどちらでもない新たな特性を有しているのです。まあ新たなとは言ってもかつて厄災からカロス地方を救った英雄のポケモンとして文献に記述されていましたので、古からあるとても珍しい特性だと言えますがね。選ばれしポケモンの象徴とでも言いましょうか。その力はメガシンカポケモンをも凌駕する程ですよ』

『わしはカロス地方の伝説のポケモンたちに並ぶ存在と思ってるんよ』

『ははははは、確かにある意味伝説のポケモンですね』

 

 ッ来る!?

 

「ユキノオー、自分の周りにくさむすび!」

 

 どこからくるのか分からない!

 早すぎるのか身を隠しているのか。どちらにせよ目視は無理だし、頭で考えてから動いているのでは間に合わない!

 

「それから自分を投げ飛ばして!」

 

 命令と同時にゲッコウガが現れ、背中の手裏剣で草を刈りにかかって来た。

 読み通り!

 その間にユキノオーは空へと逃げるのよ!

 

「回転しながらふぶきよ!」

 

 ユキノオーの動きに気づいていたのか、ノールックで水を操りユキノオーを追いかけて来た。みずのはどうね。

 まさかノールックでとは思わなかったけれど、水を使って来るのならありがたいわ。このまま凍らせてしまいましょう。

 

『くっ!?』

 

 近づけないようね。

 なら次いくわよ!

 

「ユキノオー、くさむすーーー」

『悪いがそいつは囮だ』

 

 着地した瞬間、ユキノオーは膝から崩れ落ちた。

 え………なに? 何が起こったの………?

 

「ユキノオー!?」

 

 呼び掛けても反応がない。

 メガシンカ状態も解除されてしまい、戦闘不能に至ったことを物語っていた。

 

「………ユキノオー、戦闘不能!」

 

 どこからともなく現れたゲッコウガによってユキノオーは戦闘不能に追い込まれてしまった。

 

「えげつねー………」

 

 傍観していたハチマンですらこの反応。

 やっぱりゲッコウガに私もユキノオーも嵌められていたというわけね。

 

「ユキノオー、お疲れ様」

 

 ユキノオーをボールに戻し、次のボールに手をかける。

 あまり使いたくはなかったのだけれど、この手段を取るしかないのね………。

 

『ユキノオー、ここで戦闘不能!! つ、強いぞゲッコウガ!! 姿を変えたゲッコウガの力は本当にメガユキノオーを凌駕しました!! 三冠王、果たして攻略なるか!!』

『いやー、相変わらず強いですね。コンコンブルさん』

『強いというか何というか………。あれで使ってたのがみずのはどうとみずしゅりけんとかげぶんしんだけっていうんだから、もはや手に負えるレベルではないんよ』

 

 今の私たちではゲッコウガ相手に真っ向から挑んでも軽くいなされる。力負けということもあるが、彼はトレーナーとしての視点からもバトルを行なっている。しかもそれはハチマンと同種の発想力がおまけ付きの。だからこそハチマンの指示なしでもあれだけのことをやってのけてしまった。

 ならば、私が打てる手はこの子よ!

 

「ユキメノコ」

「メノ!」

 

 これは言わば捨て身の攻撃。キーとなるユキメノコの負担は絶大。

 

「ユキメノコ、先に謝っておくわ。あなたをこんな使い方してごめんなさいね」

「メノメノ」

「ありがとう」

 

 そんなユキメノコには事前にこの手段を取るかもしれないことを伝えてある。昨日もこのためだけにユキメノコは敢えて使わなかった技がある。ユキメノコからも了承を得ているけれど、いざ使うとなると心が痛むわ。

 

『ユキメノコか』

 

 ゲッコウガが背中に手を伸ばした!

 みずしゅりけんね!

 ならば!

 

「ユキメノコ、消えるのよ!」

 

 外したと分かるとすぐさま自分を水のベールで包み始めた。

 

「そのままかげぶんしん!」

 

 纏う水に伝わる「何か」でユキメノコを探るつもりなのでしょうけれど、見つかっても特に問題はないわ。

 

「ユキメノコ、10まんボルト!」

 

 全方位からの電撃。

 しかもゲッコウガは水を纏っているため純水でもなければよく通る。

 

『くっ?!』

 

 ゲッコウガに届く前に抜けられてしまったわね。でもその行先は見えているわ。だって、狙いはユキメノコだもの。本物を見極められるゲッコウガだからこそ、先を読むことも出来るのよ。

 そして右手には黒い手刀、つじぎりね。

 

「ユキメノコ、みちづれ!」

『しまっーー?!』

 

 ゲッコウガがジャンプして黒い手刀がユキメノコに届く直前、私はそう命令した。

 みちづれ。

 自分が相手の技で戦闘不能になる時、相手も道連れにして戦闘不能に追い込む技。

 あまり使いたくないのはユキメノコ自身が戦闘不能になってしまうのを防げないから。私の代わりに戦っているポケモンをみすみす戦闘不能にしてしまうのはトレーナーとしてあるまじき行為だと思うけれど、ハチマンのゲッコウガはそこまでしなければ倒せない絶対的な存在。

 

「ゲッコウガ、ユキメノコ、ともに戦闘不能!」

『ま、まさかのユキメノコのみちづれにより、ゲッコウガも戦闘不能になってしまったぁぁぁあああああああああっ!! メガユキノオーを凌駕したゲッコウガをユキメノコと相討ちという形で攻略してしまいましたっ!!』

「そう来たか。さすがに俺もそれは読んでなかったわ」

「ええ、そうでしょうね。私もあまり使いたくはない手段だもの。でもゲッコウガはこうでもしなければ今の私たちには為す術がなかったわ」

「ま、これも歴としたポケモンバトルだ。技の使い方とタイミングでどれだけ強い相手であっても倒せないことはない」

 

 ありがどう、ユキメノコ。

 あなたのおかげでまだまだハチマンとバトル出来るわ。

 今はゆっくり休むのよ。

 

「ラル?」

「ん? ラルトスが回収してくれるのか?」

「ラルラル!」

「んじゃお願いな」

「ラール!」

 

 そういえば、出会った当初からゲッコウガはボールに入る気がなかったわよね。ゲッコウガになってからは入っていることもあったけれど、トレーナーとしても技術を身につけ仲間を増やした今では一切ボールに入らない。

 だからハチマンもボールに戻す気はないようで、ラルトスがゲッコウガを回収しに出て来たけれど………。

 

「ルルルルー………! ルルルルー………!」

 

 うん、こうなるだろうとは思っていたわ。

 ラルトスの力ではゲッコウガであっても運ぶのは無理よ。体格が違うし、何よりまだまだラルトスは幼い女の子。

 

「あー、ラルトス。多分お前の力じゃゲッコウガを引っ張るのはキツいと思うぞ。リフレクター出してみ」

「ラール?」

「そうそう。んで、それを横に倒すんだ」

「ラルルルル」

 

 こうやって知らない内にラルトスは奇想天外な技の使い方を習得していくのね。ラルトスも大好きなハチマンの言うことをやってのけようと頑張っちゃうから多少難しくても何てことなさそうだわ。

 

「上手い上手い。んじゃ、ジュカイン。ゲッコウガを乗せてくれ」

「カイ」

 

 ここでしれっと次のカードを見せて来る辺り、ハチマンらしいというか何というか。

 

「これで担架の出来上がりだ」

「ルラララー!」

「あとはスイーっとこっちに持って来てくれ」

「ラルラ!」

 

 言ってることは難しくないけれど、あんな幼い子が容易く出来るようなことでもないのよ?

 この男はちゃんと分かっているのかしら。

 

「ありがとな、ラルトス。よく出来てたぞ」

「ラール!」

 

 まるで父親と幼い娘ね。子供が出来たらいいパパになりそう………って私は何を考えて…………!

 

『何とも微笑ましい光景でしたが、皆さんお気づきでしょうか! ラルトスは割と高度な技術を使っていたことに!』

 

 そう、これが普通の反応なのよ。見慣れたせいか、私までおかしくなっていたわ。

 

『まあ、彼のポケモンだからね。出来てもおかしくはないかな』

『ありゃ、もうトレーナーの特殊能力じゃよ』

 

 博士たちももう諦めているのね。

 さて、気持ちを切り替えていきましょう。

 どうやら次の相手はくさタイプのジュカイン。こちらが切るカードはこの子ね。

 

「マニューラ、ユキメノコの分までしっかり頼むわよ!」

 

 ジュカインは素早いポケモン。あのスピードについていけるのはマニューラが一番だわ。弱点でもあるこおりタイプでもあるのだし。あとは私たちトレーナーの力量の見せ所よ。

 

「こおりのつぶて!」

 

 ジュカインはゲッコウガに近い戦い方をする。ただ一つ、スピードに乗せてしまっては危険ということがゲッコウガとの違い。ゲッコウガはスピードに乗る前から危険であり、その差がまだ私たちに付け入る隙があるということを示している。

 

「リーフブレードで落とせ」

 

 先制で全方位に氷の礫を撒き散らす。次々と襲いかかる礫にジュカインも対処に回った。

 

「つじぎりよ!」

 

 その間にこちらもジュカインとの距離を詰めていく。

 

「くさむすび」

「マニャッ!」

 

 マニューラ自身、四天王とのバトル通して随分と成長して来ているわね。私が指示する前に地面から急に伸びて来た草を鮮やかに切り裂いて躱してしまったわ。

 

「リーフブレード」

 

 その間にジュカインには受け止める態勢を取るだけの時間を与えてしまったけれど、これは大きな進歩。

 

「マニューラ、こおりのつぶてよ!」

 

 刃と刃が交錯し、押し返されるタイミングで無数の氷を作り出し、ジュカイン目掛けて一直線に飛ばした。

 これでジュカインからの追随はないわ。

 

「………ジュカイン、どうかしたか?」

 

 マニューラが距離を取ったのを確認してジュカインの方を見やると、じっと自分の腕を見ていた。それに気づいたハチマンもジュカインに確認している。

 

「………カイカイッ!」

「え、なに?」

「カイカイッ! カイカイカッ!」

「えーと? 試したいことがあるからしばらく好きにさせてくれ?」

「カイッ!」

「………分かった。しんりょくが発動するまでだ。その間にモノに出来ないと判断したら、バトルが終わってから改めて試すとするぞ」

「カイカイ!」

『おおっと、四天王ハチマン! どうやらここから先はジュカインの好きに動かすようです! 先程のゲッコウガ同様、トレーナーの指示なしでもバトルが出来るというのでしょうか!!』

 

 どうやらジュカインが何か仕掛けて来るようね。でもそれはハチマンの指示によるものではなく、ジュカイン自らが考え出したこと。

 いいわ、それなら私が見届けて上げる。

 

「マニューラ、こおりのつぶて!」

 

 出だしは先程と同じ。

 この時点で違う動きをして来るならば、次の技を変えるだけのこと。

 

「リーフブレードで落とした………」

 

 ここまで同じのようね。

 

「へぇ、なるほど。お前がやりたいことは分かったぞ。ジュカイン、マニューラをよく見るんだ。どうやって技を練り上げているか、技に込める力の入れどころはどこか、それを見抜けばお前の勝ちだ」

 

 ハチマンは今ので分かったというの………?

 私のところからは見えない何かがあっちで起きていた…………?

 可能性としては無きにしも非ずだけれど、考えてばかりでは咄嗟の対応が間に合わないわ。

 

「マニューラ、距離を詰めなさい!」

 

 恐らくこの動きをすればくさむすびで時間を稼いで来るはず。最初のやり取りでジュカインの中にもイメージを植え付けられているはずだから、自ら考えてバトルしている今、身体が勝手に反応するでしょう。

 

「カイッ!」

 

 来た!

 

「つじぎり!」

 

 進路を塞ぐように現れた草を黒い手刀で刈ると、マニューラはジュカインの懐へと飛び込んだ。

 

「ジュカッ!」

 

 ここで変化が現れた。

 ジュカインが草の刃ではなく黒い手刀で受け止めたのだ。

 この変化が何を意味するのかまだハッキリとは分からないけれど、何かをやろうとしている証。

 ならば、先手を打つとしましょう。

 

「つららおとし!」

 

 先程とは変えてジュカインの頭上から氷柱を作り出し、真っ直ぐに落とした。

 

「カイッ!?」

 

 効果は抜群。

 まずは一発入れられたわね。

 このままどんどん行きましょう。生き物は追い込まれた時にこそ、真価を発揮する。それを耐えられないならそれまでのこと。ハチマンもそれを見越して条件を出したのだろうし。

 

「マニューラ、こおりのつぶて!」

 

 立ち直すジュカインを無数の氷が囲み上げる。

 

「ジュ………カッ!」

 

 次々と礫が襲いかかって行き………弾き返された。

 

「今、何かしたようね」

 

 氷が砕け光が乱反射していたため、何をしたのかまでは見えなかったけれど。

 つららおとしにやられた時とは明らかに反応が違うわ。

 

「マニューラ、つじぎりで受け止めなさい!」

 

 今度はジュカインから仕掛けて来たため、草の刃を黒い手刀で受け止めた。

 

「カイ」

「ッ?! しまった!?」

 

 ニヤリとジュカインが不敵な笑みを浮かべると、マニューラの足元から草の伸びていき、その身体を巻き上げていく。

 

「マニューラ、こおりのつぶてよ! ジュカインを牽制しながら、草を断ち切りなさい!」

 

 マニューラが氷を作り出すとすぐさま距離を取られた。これ幸いとそのままジュカイン目掛けて飛ばし、マニューラの背後にあった氷が次々と草を断ち切っていった。

 これでマニューラは解放…………ッ?!

 

「ジュカインが氷を作り出した…………?」

『こ、これは一体どういうことでしょう!! くさタイプのジュカインがこおりタイプの技を使うなど、聞いたことがありません!!』

『もしやジュカインはあの技を…………?』

『おや? 何か分かったんかの?』

『いえ、まだハッキリとは』

 

 いえ、そんなことはあり得ないわ。

 だってジュカインはこおりタイプの技を覚えないもの。めざめるパワーならあり得なくもないけど、あれは氷を作り出すわけではない。めざめるパワーがこおりタイプの力を発揮するのは、内なるエネルギーの種類がこおりタイプに属するだけというもの。

 

「これがジュカインのやりたいことだと言うのならば、とても危険ね。常識を覆すことになるかもしれないわ」

 

 これは無闇に突っ込んでしまったらこちらが不利になる可能性だってあり得るわね。

 

「マニューラ、距離を取りなさい!」

 

 氷と氷が相殺している間に、マニューラを引かせた。

 

「カイ!」

「相変わらず呑み込み早いのな」

 

 呑み込みが早い………?

 先程のハチマンの発言といい、何かここにヒントが隠されているのかしら…………?

 

「マニューラ、つじぎりで断ち切るのよ!」

 

 またしてもくさむすび。

 対処している間に詰め寄ろうって魂胆ね。

 でもお生憎様。それは読めてるわ。

 

「…………後ろよ!」

 

 マニューラが背後の草を対処しに振り向いた瞬間、ジュカインが地面を蹴り上げた。

 

「こおりのつぶて!」

 

 草を対処しながら、自分の背中に無数の氷を作り出していく。

 そして同じようにジュカインも空中で無数の氷を作り出した。

 

「ジュカインがこおりのつぶてですって…………!?」

 

 今度はただの氷ではなかった。マニューラが作り出したもの同じ礫。

 

「カイカイカイカイーッ!!」

 

 氷が砕け散る中、ジュカインがいつの間にか自分の足元から伸ばしていた草を蹴り、一気に詰め寄って来た。これはマニューラの速さを以ってしても躱すことは出来ない。

 だけど、今のマニューラにはこの技があるわ。

 

「マニューラ、カウンターよ!」

「マニャッ!」

 

 ジュカインの勢いに呑まれながらも何とか踏み止まり、逆にバネの役割を持たせてジュカインを押し返した。

 

「ッ、カ、イ!」

「マニャ!?」

 

 ッ!?

 転々と転がるジュカインは腕を地面に突き刺して減速を図ると、何故かマニューラが呻き声を上げた。

 

「マニューラ!?」

 

 マニューラの方を見やると足元から伸びた草に絡め取られている。

 くさむすび。

 あの一手でまさか攻撃を入れていたなんて考えもしなかったわ。

 

「こおりのつぶて!」

「カイカイカイッ!!」

 

 これはッ?!

 ギガドレイン…………。

 相手の体力を奪って自分は回復する技。

 

「見事だ、ジュカイン」

「カイカイ!」

 

 体力を奪われたマニューラは草に絡め取られたまま、ぐったりと頭を垂れた。

 

「マニューラ、戦闘不能!」

『マニューラ、健闘するもここで戦闘不能ぉぉぉおおおおおおっ!! これで三冠王の手持ちは残り二体!! ここから巻き返しなるのでしょうかっ!!』

 

 ジュカインにしてやられたわ。

 まさかこおりのつぶてを使えるようになるだなんて。

 あれで私の方が動揺させられてしまった。その一瞬を突かれて、判断を……………カウンターではなく守っていればあるいは……………いえ、こんな予想はただの言い訳だわ。

 悔しいけれど、ハチマンの指示なしに動いたジュカインに負けた。それだけが事実よ。

 

「お疲れ様、マニューラ。あのカウンター自体は見事だったわ。ただ私の指示そのものが間違っていたのかもしれないわね」

 

 マニューラはよくやってくれたわ。

 ハチマンのポケモンにこれだけついて来れるようになっているということだけでも大きな進歩よ。

 まだまだこれから。一緒に強くなりましょう、マニューラ。

 

「まさかジュカインがこおりのつぶてを使って来るだなんて思いもしなかったわ」

「ん? なんだ、まだタネを理解してないのか?」

「タネ? やっぱりカラクリがあるのね」

「そりゃそうだろ。ジュカインがこおりのつぶてを使えるなんて俺も聞いたことないっつの」

 

 ということはあれはこおりのつぶてであってこおりのつぶてではない?

 一体どういうカラクリなのかしら………。

 

「………分からないけれど、ジュカインは倒させてもらうわ。行きなさい、ボーマンダ!」

 

 私のポケモンは残り二体。

 ここでジュカインを倒さなくては絶望的。

 取り敢えず、ボーマンダのいかくは発動したようだし、まずは攻撃力と素早さを上げましょうか。

 

「ボーマンダ、りゅうのまい!」

「ボォォォマァァァアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 炎と水と電気の三点張りからの竜の気の生成。

 それを纏い竜気を活性化させていく。

 

「カイカッ!」

 

 ッ?!

 りゅうのまい!?

 ちょっと待って………。

 ジュカインはこれまでにリーフブレード、くさむすび、こおりのつぶて、ギガドレインを使って来ているわ。その上でりゅうのまい?

 いえ、そもそもジュカインがりゅうのまいというのもおかしいわ。何か、絶対何かあるのね。

 

「審判、今ので技五つ目に相当するのではないかしら?」

「た、確かにそうですが………バトル中に新たに覚えた技であれば例外となります。また他にもいくつか技によっては特別ルールが設けられておりますので、その確認をしているところです」

「そう………」

 

 特別ルールの技。

 そういえば、あったわね。

 私も使った身だと言うのに忘れていたわ。

 

「まあ、あなたがそんなミスをするはずがないものね」

「酷いな、おい。ポケモントレーナーを何年やってると思ってるんだよ。いくら俺でもルールは無視しねぇよ」

 

 そう、これで大体予想は出来たわ。

 後は最終確認をするだけね。

 

「ボーマンダ、ドラゴンダイブよ!」

 

 私の予想が正しければ、ジュカインは同じくドラゴンダイブを使用してくるはず。

 ボーマンダが一気に加速し、ジュカインへと突っ込んでいく。

 

「カイカイカイカイッー!!」

 

 やっぱりドラゴンダイブも使って来たわ。

 そう、そういうことなのね。

 

「っと、その様子だと気づいたみたいだな」

「ええ、ようやくね。ジュカインが試していた技はものまね。相手が使った技を真似る技。だからこおりのつぶてやりゅうのまいなんて覚えるはずのない技を使えたのよ」

「正解だ。もっと言えば、こいつはくさタイプの技以外は全てものまねを使って出している。お前が気づくのに時間がかかったのは途中でつじぎりを使ったからだろうな」

「………なるほど、そういうこと。あの時からジュカインは既に試していたのね」

「ああ、でもまあどうやらここまでのようだな。回復したとはいえ、マニューラからもらったダメージは少なくなかったようだ。今のでタイムリミットが来たようだぞ」

 

 どうやら今の交錯でジュカインの方にダメージが入ったらしい。いかくによってジュカインの攻撃力が下がっていたのが、ここに現れたのでしょう。いくらりゅうのまいで上げたとしても元の得意能力もあってボーマンダの方が上よ。

 おかけでしんりょくを発動させるまでに至らしめたわ。

 だけど、ここから。しんりょくとハチマンの的確な指示が飛んで来る中、どのようにしてジュカインを倒すのか私の腕の見せ所だわ。

 

「さて、ジュカイン。ここからは俺も混ぜてもらうぞ」

「カイッ!」

 

 あれは…………。

 やっぱりそうなるのね。

 

「ボーマンダ」

「ジュカイン」

「「メガシンカ!」」

 

 二体の姿がそれぞれ私たちが持つキーストーンと結びつき、変化し始めた。

 

「………ハルノの入れ知恵だな?」

「あなたと対峙するなら本気を出さないといけないというからよ」

「本気ねぇ………。まあ確かに二体もメガシンカさせられるのはそれだけでステータスだからな。それも扱えるユキノなら尚更か」

「それにあなたにはゲッコウガもいたじゃない。おあいこよ」

「ま、薄々そうなんだろうとは思っていたがな。あんな早くからメガシンカを使ってくるくらいだ。いくら俺相手でも切り札とも呼べるメガシンカを躊躇なく使うのには裏があるはずだ」

「さすがの洞察力ね。それでこそ私のハチマンだわ。ボーマンダ、ハイパーボイス!」

 

 だからこそ倒し甲斐があるというもの。

 これだけ誰かに固執出来るなんて、昔の私からは想像出来ないことだけれど、それだけハチマンが魅力的な証。それはユイやイロハにも言えることだけれど。今はそれが心地よく、幸せだ。

 

「また耳が痛くなる技を。ジュカイン、ものまねで音波を掻き消せ!」

 

 鼓膜が破れそうな程の大音量がフィールドに蔓延した。その衝撃は周りの海水まで届き、軽い波を起こしている。当然、船も揺れているわ。みんな大丈夫かしら。

 

「くさむすび」

「ドラゴンダイブ!」

 

 やはり先に動き出したのはジュカインの方。

 音が鳴り止む前にボーマンダの足元から草を生やして来た。

 だけど、それを竜気を活性化させて燃やし、そのままジュカインへと突っ込んでいく。

 

「躱してものまねだ。ドラゴンダイブを打ち返せ」

 

 ドゴンッ! と二体の交錯音がけたたましく鳴り響いた。技と技のぶつかり合いでどうやら爆発が起き、煙が上がっている。

 

「もう一度ものまねだ」

 

 ッ来る!?

 

「ボーマンダ! ハイパーボイス!」

 

 先に動いたジュカインを牽制するためにも耳に刺激を与える。同時に音の波は煙を吹き飛ばし………いないっ?!

 

「ボーマッ?!」

 

 はっ……!?

 後ろ?!

 

「ボーマンダ、ドラゴンダイブ!」

「マンダァァァアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

 あれは………氷?

 

「ジュカイン、今のをもう一度だ」

「カイ!」

 

 ハチマンがそう指示するとジュカインは空中で氷を作り始めた。

 こおりのつぶて?!

 え、でもボーマンダは使って…………まさかさっきの今でそんなことを!?

 

「ボーマンダ、長居は禁物よ。ジュカインは恐らくものまねで一度見た技を再現している。あなたが使った技をそのまま使って来るとも限らないわ」

 

 私の予想が正しければ、ジュカインのものまねは相手が使った技を同じように使うだけには留まらない。きっと一度見た技、いえ本質を理解した技ならばどんな技でも再現出来てしまうのでしょう。ジュカインはだからこそハチマンに訴えかけた。まだまだ試し打ちの段階だけれどいずれ化けるわ。そうなったらゲッコウガとは似て非なる戦術の幅を持つことになるでしょう。

 全く………、自分が覚えられるくさタイプの技をコンプリートするだけには飽き足らず、全てのくさタイプの技をコンプリートしようとしているのかしらね。それはそれで面白そうだけれど、相手になれば脅威以外の何物でもないわ。

 

「りゅうのまい!」

「ジュカイン、くさむすびで動きを封じろ」

 

 最後の技のために竜気を再度生成して攻撃力を高めていく。

 その間にボーマンダの足元からは草が伸び、その身体を絡め取っていくがこの技を以ってすれば意味のないことよ。

 

「それでは意味がないって顔だな。なら、ジュカイン。常時ギガドレインを発動しておけ」

 

 ッ!?

 まさか技の並行発動!?

 この後に及んでまだそんなことが…………。

 

「ギガインパクト!」

 

 最高威力にしてメガボーマンダの特性スカイスキンのおかげでひこうタイプとなり、技の威力がさらに高まっている今。

 ボーマンダが対ジュカインに出せる最大火力となるーーー。

 

「ジュカイン、くさむすびで壁を何重にも作り上げろ」

 

 ボーマンダのスピードを落として技の威力も落とそうという算段ね。

 

「それからものまねを駆使しろ。お前が掴んだもん、全部俺に見せてくれ!」

「カイカイカイカイッッ!!」

 

 これは…………っ!!

 

「こおりのつぶて…………」

 

 やっぱりあなたはそこまで行こうとしているのね。

 だったらーーー。

 

「ボーマンダ、竜気を前方に集めて層にするのよ!」

 

 こおりタイプの技はボーマンダにとっては一番よく通るタイプ。だから少しでも氷から身を守らなければ、保たない可能性だって……………えっ?!

 

「ーーー返された………っ!」

 

 これは、カウンター………!

 本当に再現してしまったのね。

 

「………よくもまあこの短時間にそこまで足を踏み入れられたもんだ。上出来過ぎるだろ」

「ボーマンダ、ジュカイン、ともに戦闘不能!!」

 

 ジュカインは全てを返すことは出来ず、ボーマンダにダメージを与えながら自らもダメージを負ってしまい、メガシンカが解けてしまっていた。

 かく言うボーマンダもメガシンカが解けてしまっているのだけれど。最悪の事態は避けることが出来たわ。

 

『ボーマンダ、ジュカイン、同時に戦闘不能ぉぉぉおおおおおおおおおっっ!! メガシンカ対決は引き分けだぁぁぁあああああああああっ!!』

『やはりものまねでしたね』

『よく分かったのう』

『ジュカインが覚えられない技をも使えるとすれば、相手が出した技の模倣と考えたまでですよ。彼はそのことにいち早く気付き、ジュカインに技を見極めるポイントを授けていた。瞬時にこんな判断が下せるトレーナーなんて世界中を探してもそういないでしょうね』

 

 ハチマンのポケモンは残り三体。だけど、ラルトスは参加させないでしょうから実質二体ね。そして残っているのはヘルガーとリザードン。共にほのおタイプを持つ相性ではオーダイルが有利なポケモンたち。

 

「ボーマンダ、お疲れ様。あなたのおかけで最悪の事態は避けられたわ。ジュカインを倒せたのはとても大きい。ありがとう」

 

 このバトルで私もポケモンたちもみんな何かしら得るものがあったことでしょう。それだけ高度な駆け引きを要求されていたわ。

 

「とうとうオーダイル一体になっちまったな」

「ええ、でもここまで来れただけでも高評価よ。ゲッコウガとジュカインに全員持っていかれる可能性だってあったのだから」

「まあ、ないとは言い切れないな。ユキメノコのみちづれは相当デカかったと思うぞ」

「それならユキメノコの顔も立つわね。さて、次いきましょうか。さっきからボールの中で荒ぶっている子がいるのよ」

「どんだけやる気に満ちてんだよ。ったく、仕方ない。リザードン、オーダイルに今のお前の全力を見せてやれ」

「オーダイル、お待ちかねのリザードンよ。全てを出し尽くしなさい」

『三冠王、最後のポケモンはやはりオーダイル! ここまで彼女を支えて来た相棒とも呼べる存在です! さあ、四天王のリザードンを倒すことができるのかっ!! そして、チャンピオンとのバトルの切符手に入れることはできるのでしょうかっ!!』

 

 オーダイルの調子は良好ね。

 ここまで闘志を燃やし続けて温めていていたのだから当然と言えば当然ね。

 ならば、一発目は挨拶も兼ねて派手にいきましょうか。

 

「オーダイル、ハイドロカノン!」

 

 水の究極技。

 轟音とともに撃ち出された水砲撃は真っ直ぐとリザードンへと向かっていく。

 それをリザードンはーーー右腕で弾き方向を変えてしまった。

 

「………まさかそこまで強くなっているなんてね」

「今のリザードンは素でメガシンカ以上と思っていた方がいいぞ」

「ええ、そのようね」

 

 でもリザードンの腕は今のでダメージが入ったわ。もちろんハチマンもそれには気づいているはず。

 

「んじゃ、こっちも挨拶といきますか。リザードン、ブラストバーン」

 

 挨拶返しと言わんばかりに地面を叩き、炎を巻き上げて来た。

 まるで炎の勢いが違う。桁外れもいいところだわ。リザードンのように弾き返せるのか怪しいところ。ならばここはーーー。

 

「オーダイル、アクアブレイク」

 

 水で作り出した刃を上から地面に突き刺し、炎を真っ二つに分断した。

 

『さ、最初から強力な技の応酬ぅぅぅっっ!! このバトルどうなるのかっ!?』

「オーダイル、もう一度アクアブレイク!」

「リザードン、かみなりパンチだ」

 

 一気に距離を詰めて振り被ると電気を纏った拳で受け止められた。

 

「もう片方あるぞ」

「こっちももう一本あるのよ」

 

 リザードンがもう片方の拳を振り被って来たので、こちらももう片方の腕で水の刃を作り出し受け止める。

 だけど、このままではジリ貧が続くわね。

 

「ハイドロカノン!」

「ブラストバーン」

 

 ハチマンも同じことを思ったのか、二度目の究極技の応酬。

 両者、技の衝撃により結果的に距離を取ることになってしまった。

 

「一気に詰めて! アクアジェット!」

「リザードン、リフレクター。それとそのままチャージだ」

 

 リフレクターで受け止める気ね。

 それなら!

 

「オーダイル、アクアブレイクで11連撃よ!」

 

 技の名前はなんだったかしら。

 ユイに聞かれた時にこういうのもあるのかと興味が惹かれた技。

 

「おいおい、マザーズロザリオとか聞いてねぇぞ」

 

 そうそう。確かそんな名前だったはず。

 これでリフレクターは砕けたわ。あと3撃、しっかり決めるのよ。

 

「ソーラービーム」

「オーダイル!?」

 

 こうなることを予想されてたかのように一撃入れたところでオーダイルが吹き飛ばされてしまった。

 

「オ、オダ………」

 

 よかった………、まだ戦えるようね。

 一撃で戦闘不能ものなら目の前が真っ暗になるところだったわ。

 

「オーダイル、大丈夫?」

「オーダ!」

 

 何とか立ち上がったけれど、相当ダメージを受けているわね。

 

「オォォォダァァァァァァアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 来たわね、げきりゅう。

 究極技の応酬で多少ダメージがあったとしても、ソーラービームの一撃でげきりゅうが発動するなんて、そんなのもう一度受ければ終わりを意味しているじゃない。

 

「オーダイル、暴走なんか気にしないで全てを出し尽くしなさい! げきりん!!」

 

 ここまで来たらもう全てを掛けてリザードンに挑むしかない。

 オーダイルは竜気を一気に纏うと地面を蹴り出し、リザードンに突っ込んでいった。

 

「リザードン、リフレクター」

 

 それをリザードンはリフレクターで受け止めるもーーー。

 

「なっ?! マジかっ!?」

 

 ーーー当たった瞬間割れてしまった。かわらわりも涙する威力ね。

 オーダイルはそのままリザードンを弾き飛ばした。

 

「今よ! ハイドロカノン!!」

「っ、ブラストバーン!」

 

 ここでこのバトル始めてハチマンが声を荒げたかもしれないわね。

 それ程意外性があったということね。

 あとはオーダイルがどこまで押し返せるか。

 

「………………」

 

 …………………結果はオーダイルが吹き飛ばされた。でもリザードンにもダメージは入っているようで片膝をついて息を荒げている。

 

「………オーダイル、戦闘不能!! よって勝者、四天王ハチマン!!」

 

 オーダイルは本当に全てを出し尽くしたようで、ビクともしない。ここまで無反応だとまるで死んでいるかのようでちょっと焦ってしまったわ。

 

『オーダイル、戦闘不能ぉぉぉおおおおおおおおおおおおっっ!! 究極技から始まったこのバトル、勝利を手にしたのはリザードンだぁぁぁああああああああああああっっ!!』

 

 私たちの負けね。完敗だわ。

 

「リザードン、お疲れさん」

 

 オーダイルの方に駆け寄り様子を伺っていると、ハチマンたちもやって来た。

 

「ユキノ、オーダイルは随分強くなったな」

「ええ、正直何もかも無視すればあそこまでの威力を出せるなんて思いもしなかったわ」

「今のリザードンをあそこまで追い込んだのは後にも先にもオーダイルだけになるんじゃねぇの。知らんけど」

「それはどうかしら。あなた、サカキみたいな人に好かれやすいのだし」

「嬉しくねぇよ、そんなの」

「………あなたはいつだって強いわね」

「いつも言ってるが俺が強いっていうよりこいつらが強いんだよ。俺は見えたものを伝えてるだけだ」

「なら、それがあなたのトレーナーとしてのセンスなのでしょうね」

 

 私にないものを彼は持っている。それは昔から変わらないし、それによって私自身幾度となく助けられて来たわ。

 

「さて、姉さんに報告しないといけないわね。オーダイルたちも回復させたいし」

「ああ、そうだな。つか、これ本当に終われるのか?」

「そうね、私が負けてしまったばかりに………」

 

 本来ならあと一戦行う予定だったというのに。

 午後からのバトルは取り消し、大会も終わってしまうのね。

 

「あー、ユキノ? お前らのバトル面白かったぞ」

「ありがとう………」

 

 ハチマンと話していても辛うじて会話が成り立っていたに過ぎず、既に周りからの声は聞こえなくなってしまっていた。

 無力感というのはこういうことを言うのかもしれないわね。

 

「私、負けた、のね…………」

 

 控え室に戻り、ようやく負けたという悔しさが込み上げて来た。周りの視線がなくなったからかしら。

 まあ、どうでもいいわね。

 

「………お疲れ、ユキノちゃん」

「姉、さん…………」

 

 な、んで、いるのよ…………。

 姉さんはこれから大会の閉会という仕事が残っているじゃない。

 

「………やっぱり、勝てなかったわ」

「ハチマンは強いもの」

 

 何を今更と言いたげにため息を吐き、私を抱きしめてきた。

 

「………ぁ」

 

 じんわりと感じられる熱に私の中の何かが反応を示した。

 

「泣きたい時は泣きなさい。今は、お姉ちゃんしかいないから」

 

 それは涙腺の崩壊なのか、感情の解放なのか。

 今の私にはそれを判断するだけの余力も何も残ってはいない。

 あるのはただただ、悔しいという思いだけ…………。

 

「ぅ、ぁ、ぁぁぁっ…………!!」

 

 ワニノコをもらったあの日。

 あの日を境に家族ぐるみで交流のあった、言わば幼馴染のハヤマ君とのバトルの日々は始まった。両親二人共がそれを良しとしていたけれど、二年も同じことをやらされていては何の刺激もなくなってくる。けれど、既に周りとは頭一つ以上突き離れておりバトル相手はハヤマ君以外にいなかった。加えて姉さんがスクール卒業時に条件を突きつけて来たため、それに従うしかなく何の面白みもない毎日だった。そこに突然のオーダイルの暴走とそれを止めた男子生徒の登場は、冷めていた私に再び熱を入れることになったのだ。その熱は彼が先に卒業してしまって冷めるかと思いきや、余計に昂り、新たな目標にまでなっていた。ストーカーだって言われてもいい。それくらいの想いで彼を探したが、見つけたのは姉さんと最高峰の舞台でバトルしている姿。一年の差がこんなにも開けてしまうのかと挫折を味わった。けれど、姉さんが彼に興味を持ったことで再び彼に直接会えそうな手がかりを手に入れることが出来たのだから、人生何が起こるか分からないわ。そして今ではこうして側にいることが出来る。…………出来るけれど、当時から役に立っているかと言えば、ほぼほぼ足を引っ張っている。その度にハチマンは私を助けてくれるけれど、私はハチマンを助けられていない。それが悔しいし情けなく思えてしまう。だから、強くなりたかった。ハチマンに勝って私はこんなにも成長したんだというところを見せたかった。

 でも、負けた。できることをし尽くしても尚、彼は強かった。

 

「私はずっとハチマンを追いかけて、ずっと認められたくて頑張って来たの! でもハチマンは私の一歩先ばかり行って! それでもハチマンに認めてもらえるように努力して来たのに! ………オーダイルの暴走の時もそう。シャドーに潜入した時もそうっ。ロケット団残党狩りの時もそう! 彼はずっと私を守ってくれてた! だからフレア団の時には背中を任されたかった! ネオ・フレア団の時にはようやく隣に立てたと思った! なのに、なのに……………悔しい………悔しいよ…………!」

「ユキノちゃんは羨ましいよ。なんだかんだでハチマンと旅出来て。間近でハチマンの技術を盗めて、ハチマンに鍛えられて。私たちの中じゃ一番ハチマンと過ごしてるんだよ? そんな女の子をハチマンが認めてないわけないでしょ? 現にユキノちゃんを見捨てたことなんて一度もないし、ポケモン協会の理事になってからは自分の側近にして、提案したのは私だけど終いにはユキノちゃんを主人公とした大会に変更までしちゃってるし」

 

 それは………ーーー。

 

「………そろそろ『憧れのハチマン』から卒業しなきゃだね。憧れからちゃんと卒業して、大好きなハチマンにしなきゃ」

 

 ッ?!

 

「………………ん」

 

 憧れていたからこそ認められたかった。

 でもハチマンはとっくに私のことを認めてくれていたのね…………。

 

「………姉さん、どうしよう。私が、負けたからこれで大会が終わって、しまうわ。折角みんなが、楽しみにして来てくれてたって、いうのに」

「大丈夫大丈夫。奥の手を用意してあるから。お姉ちゃんに任せなさいな」

 

 そう言って胸を張る姉さんはどこかへと消えてしまった。

 ぼーっと、まだまだ流れてくる涙を拭いながら呆然としているとマイク音が聞こえてくる。

 

「えー、皆さん。残念ながら三冠王が負けてしまいましたので、これにて大会は閉会となります。が、しかし! 皆さん、三冠王を破った四天王の力がどれほどなのか、見てみたいと思いませんか?!」

 

 姉さん………?

 え、ちょ、まさか………!

 

「ふふっ、それでは午後のカードはこれで行きましょう! 四天王ハチマンVSチャピオンカルネ!」

 

 ………全く、姉さんは。初めからこれが狙いだったんじゃないかしら。

 突拍子もない姉さんの案内で会場は騒めき、私もすっかり涙が止まっていた。




行間

ユキノシタユキノ 持ち物:キーストーン etc………
・オーダイル(ワニノコ→アリゲイツ→オーダイル) ♂
 特性:げきりゅう
 覚えてる技:アクアテール、アクアジェット、ドラゴンクロー、れいとうパンチ、ハイドロポンプ、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、げきりん、カウンター、ハイドロカノン、ドラゴンテール、めざめるパワー(電)、ゆきなだれ、れいとうビーム、アクアブレイク

・ギャロップ ♀
 特性:もらいび
 覚えてる技:かえんぐるま、ほのおのうず、だいもんじ、フレアドライブ、でんこうせっか、にほんばれ、ドリルライナー、スピードスター、まもる

・マニューラ ♂
 覚えてる技:つじぎり、こごえるかぜ、こおりのつぶて、ふぶき、れいとうパンチ、はかいこうせん、カウンター、シャドークロー、みやぶる、かわらわり、まもる、つららおとし

・ユキメノコ ♀
 覚えてる技:こごえるかぜ、れいとうビーム、みずのはどう、10まんボルト、シャドーボール、めざましビンタ、ふぶき、かげぶんしん、あやしいひかり、かみなり、でんげきは

・ボーマンダ(タツベイ→コモルー→ボーマンダ) ♂
 持ち物:ボーマンダナイト
 特性:いかく←→スカイスキン
 覚えてる技:りゅうのいかり、かえんほうしゃ、そらをとぶ、ドラゴンダイブ、ハイドロポンプ、つばめがえし、だいもんじ、かみなりのキバ、いわなだれ、ドラゴンテール、ハイパーボイス、げきりん、ギガインパクト、りゅうせいぐん、ねむる、ねごと、はがねのつばさ、かげぶんしん、すてみタックル

・ユキノオー ♂
 持ち物:ユキノオナイト
 特性:ゆきふらし←→ゆきふらし
 覚えてる技:ふぶき、ぜったいれいど、くさむすび、じしん、ウッドハンマー、きあいだま、ギガドレイン

控え
・ペルシアン ♂
 覚えてる技:きりさく、だましうち、10まんボルト

・フォレトス
 特性:がんじょう
 覚えてる技:こうそくスピン、ジャイロボール、パワートリック、ボディパージ、リフレクター、だいばくはつ

・エネコロロ ♀
 覚えてる技:こごえるかぜ、メロメロ、ソーラービーム、でんげきは、ハイパーボイス、れいとうビーム


ヒキガヤハチマン 持ち物:キーストーン 菱形の黒いクリスタル etc………
・リザードン(ヒトカゲ→リザード→リザードン) ♂ 
 特性:もうか
 覚えてる技:かえんほうしゃ、メタルクロー、かみつく、おにび、えんまく、はがねのつばさ、かみなりパンチ、ドラゴンクロー、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、かみくだく、カウンター、じしん、フレアドライブ、ブラストバーン、げきりん、じわれ、だいもんじ、ソーラービーム、リフレクター
 飛行術
 ・ハイヨーヨー:上昇から下降
 ・ローヨーヨー:下降から上昇
 ・トルネード:高速回転
 ・エアキックターン:空中でターン
 ・スイシーダ:地面に叩きつける
 ・シザーズ:左右に移動して撹乱
 ・ソニックブースト:ゼロからトップに急加速
 ・コブラ:急停止・急加速
 ・ブラスターロール:翻って背後を取る
 ・グリーンスリーブス:連続で攻撃して空中に釣り上げる
 ・デルタフォース:空中で大きな三角形を描くように連続攻撃
 ・ペンタグラムフォース:空中で五芒星を描くように連続攻撃
 ・バードゲージ:スピードを活かして相手の動きをコントロールしていく

・ゲッコウガ(ケロマツ→ゲコガシラ→ゲッコウガ) ♂
 特性:きずなへんげ(へんげんじざい→きずなへんげ)
 覚えてる技:みずのはどう、あなをほる、かげぶんしん、れいとうパンチ、れいとうビーム、つばめがえし、ハイドロポンプ、くさむすび、グロウパンチ、えんまく、がんせきふうじ、いわなだれ、まもる、かげうち、みずしゅりけん、どろぼう、つじぎり、ハイドロカノン、めざめるパワー(炎)、とんぼがえり、とびはねる、ほごしょく、けたぐり、ぶんまわす、あくのはどう、どろあそび

・ジュカイン(キモリ→ジュプトル→ジュカイン) ♂
 持ち物:ジュカインナイト
 特性:しんりょく←→ひらいしん
 覚えてる技:でんこうせっか、リーフストーム、リーフブレード、ドラゴンクロー、タネマシンガン、ギガドレイン、かみなりパンチ、スピードスター、くさむすび、ソーラービーム、エナジーボール、シザークロス、くさのちかい、マジカルリーフ、タネばくだん、こうそくいどう、つめとぎ、いやなおと、こうごうせい、くさぶえ、やどりぎのタネ、グラスフィールド、なやみのタネ、ハードプラント、つばめがえし、ものまね

・ヘルガー ♂
 持ち物:ヘルガナイト
 特性:もらいび←→サンパワー
 覚えてる技:かみつく、ほのおのキバ、ふいうち、おにび、かえんほうしゃ、かみくだく、れんごく、ほえる、はかいこうせん、アイアンテール、あくのはどう、みちづれ、だいもんじ、ハイパーボイス、ヘドロばくだん、ちょうはつ

・ボスゴドラ ♂
 持ち物:ボスゴドラナイト
 特性:がんじょう
 覚えてる技:ロックブラスト、あなをほる、なげつける、メタルクロー、アイアンヘッド、アイアンテール、てっぺき、メタルバースト、ボディパージ、ヘビーボンバー、ロックカット、ほのおのパンチ、もろはのずつき

・ラルトス ♀
 覚えてる技:リフレクター


ゲッコウガ
・ヒトツキ
 特性:ノーガード
 覚えてる技:ラスターカノン、せいなるつるぎ、つばめがえし、かげうち、つじぎり、シャドークロー

・キリキザン
 特性:まけんき
 覚えてる技:つじぎり、くろいまなざし、ロックカット

・アギルダー
 特性:うるおいボディ
 覚えてる技:スピードスター、むしのさざめき、ギガドレイン、みずしゅりけん、こうそくいどう、かげぶんしん、こころのめ、はたきおとす、バトンタッチ


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ぼーなすとらっく11『四天王ハチマン VSカルネ』

リーグ戦最後になります。

いよいよ来週は剣盾が発売しますね。
これで続きを練ることが出来そうなので楽しみです。


 私がハチマンにフルバトルで負けたせいで急遽決まった午後の部。

 朝と同じく私はハチマンたちと控え室にいた。

 負けて泣いて色々吐き出したらスッキリしたのか、ハチマンとは普通に接することが出来ている。それはどうやらハチマンも一目見て分かってくれたらしく、特に何かを聞いてくることもなかった。

 それよりも今、ちょっとした爆弾がいる。

 

「ねぇ、ハチマン………。彼、機嫌悪すぎではなくて?」

「あー、そのユキメノコにしてやられたのがな。なんか相当来てるらしい」

「………大丈夫かしら?」

「逆に俺はカルネさんのポケモンたちの方が心配だわ」

 

 件の爆弾ことゲッコウガは目を覚ましてからずっとイライラしているようで、ピリピリとした空気が伝わって来ている。

 触れようものなら感電しそうだわ。

 

「………蹂躙って言葉知ってる?」

「やめて差し上げろ。あいつ、マジでやり兼ねんから」

 

 怒りの矛先がこれからのバトルに走るようなら、まさに蹂躙という言葉が相応しいんじゃないかしら。

 そうなると他のポケモンたちの活躍は見ることないかもしれないわね。

 

「ラール!」

「おっと、ラルトス。今はあのお兄ちゃんに近づかない方がいいぞ。激おこプンプンだ」

「ラル?」

「あー、ちょっと分かんないかー」

 

 ラルトスがゲッコウガに無邪気に突撃しようとしていたところをハチマンが拾い上げた。子供は怖いもの知らずとはよく言ったもので、ラルトスにはいまいちピンと来てない様子。

 

「取り敢えず、ラルトスの今日の定位置はここだ」

「ラール! ラルラル!」

 

 ………なんて羨ましい。

 ハチマンの膝の上なんて超激レアよ。私でもまだ一度も座ったことがないというのに。

 

「………ラルトスに嫉妬か?」

「………いえ、ちょっと。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ羨ましいとか思ったりしただけよ」

「どんだけ強調してんの? それ、思いっきり嫉妬してんじゃん」

「うっ…………」

 

 だってしょうがないじゃない。

 あなたが珍しいことをラルトスにだけはいつもやってるんだから。私だって憧れがないわけじゃないのだから、そこに気づいて欲しいものだわ。

 

「それにしてもチャンピオンとバトルか。明日のニュースが怖いなー」

 

 そんな思いを馳せているとはついぞ知らないこの男は明日の心配をし出した。

 チャンピオンのバトルなんて早々撮影出来るものでもないし、このバトルに相当のカメラが殺到することでしょうね。そうなると対戦相手であるハチマンも相対的に映し出されるわけであって、バトル後にインタビューされるのも必至。つまり、明日のニュースにはチャンピオン共々取り上げられるのは間違いないでしょう。

 いくら大人数にも慣れて来ているとはいえ、メディアに取り上げられたのでは引き篭もりになってしまいそうだわ。

 

「明日というよりは終わってからのインタビューに駆けつけて来る記者かしらね」

「あー、それもありそうだな」

 

 一応そこは姉さんに注文しているようだから何とかなるでしょうけど。それでも押し寄せる記者は来るもので、最悪出待ちなんかもあるかもしれないわ。

 

「客船を客席にしたおかけですぐに来るとも限らんだろ」

「確かにそうね。姉さんの思いつきではあったけれど、私たちと観客が切り離されているのは思いの外楽だったわ」

「過激なファンとかいるかもだしな」

 

 バトル後に控え室に乗り込んで来る、なんてこともないとも限らないしね。まあ、ミアレでのを見る限りないでしょうけども。

 

「さて、そろそろ準備するか。さっきから笑顔で背景に溶け込んでいる人がいるし」

「……シロメグリ先輩、いたのなら声かけて下さい」

 

 ハチマンに言われてようやく気がついたわ。

 いつの間に来ていたのかしら。というかいつの間にそんな技術を身につけたのでしょうね。

 

「いやー、なんか二人の世界が出来上がってたからつい………」

「二人の世界て…………。俺たちもそこのピリピリした奴のおかけで肩身が狭い思いしてましたよ」

「あー………ゲッコウガの目がいつもよりも鋭くなってるね」

「おい、ゲッコウガ。そろそろいくぞ」

『……………』

 

 返事はない。ただのそりと動いたため聞いてはいるよね。

 ただ私にはある懸念があった。

 

「無言が一番怖いんだっつの」

「………暴走、したりしないわよね?」

「それは大丈夫だろ。ユキメノコにやられて有り余ってる力を早く開放したいだけだろうし。それに今更ゲッコウガが暴走なんて、リザードンみたく外部からの何かがない限り起きねぇって」

 

 私もゲッコウガに限ってないとは思うけれど。

 力を出しすぎてその力に呑まれる、なんてことも考え得るもの。

 

「…………頑張ってね」

「ま、あいつを見る限り負けねぇだろうけどな」

 

 っ?!

 

「いってくる」

「いってらっしゃい」

 

 ………全く、この男は。

 不意に頭を撫でてくるなんて反則よ。

 さて、私も生でバトルを見に行きましょうかね。

 

『さあ、いよいよラストバトル!! 三冠王の敗北により急遽決まったこのカード!! 果たして四天王ハチマンの力はチャンピオンを上回ることが出来るのでしょうかっ!!』

 

 控え室を出て左に曲がり、さらに左に曲がってハチマンたちの後ろ姿を遠目に見つけ、後を追う。

 渡り廊下からバトルフィールドに出る所で壁にもたれかかる。

 

『それでは登場して頂きましょう!! 四天王ハチマン!!』

 

 紹介されてハチマンが出て行くと、一帯が大歓声に包まれた。私とのバトルでさらにファンがついたのかもしれないわね。

 

『そしてカロスの最高にして最強の実力者、チャンピオンカルネ!!』

 

 こちらも負けず劣らずの大歓声。

 大女優ってこともあり、相当ファンがいそうね。

 

「まさかあなたとバトルすることになるなんてね」

「全くですよ………。俺の予定にもなかったってのに…………」

「でも嬉しいわ。あれだけの実力を見せてくれるトレーナーなんて早々いないもの」

「あれは俺じゃなくてポケモンたちの実力ですよ。俺は単に指示出してるだけですし、何ならゲッコウガはそれすらも必要としてませんから」

「それはポケモンたちにしっかりとバトルの基礎や対処法を教えているからだと思うわ。野生のポケモンたちが群れのリーダーからバトルの基礎を教わるようなものよ」

「確かにその例えは合ってるかもですね。でもこいつ、出会った頃からこんな感じでしたから、例外ってのもいるんじゃないですか?」

「例外か。そうね、あなたのゲッコウガはまさに例外だわ」

『おい』

 

 長々とチャンピオンと語っていたら、ゲッコウガが前に出てきてハチマンに催促したようだわ。

 さっさと始めろと。オレにやらせろと。そういう目をしている。

 

「はあ………、はいはい。カルネさん、どうやら時間らしいですよ」

「お手柔らかに頼むわね」

「それは…………あまり期待しないで下さい」

 

 カルネさんも分かってはいるのでしょう。

 今のゲッコウガは強いと、ずっと苦笑いを浮かべて………。

 

「ゲッコウガ、先に言っておく。心だけは、折ってやるなよ」

『…………』

 

 ハチマンの忠告にゲッコウガは無言で、目を逸らした。

 心配だわ。カルネさんのポケモンたちが再起不能にならないことを祈るばかりね。

 

「それではバトル、始め!!」

 

 バトル開始の合図。

 さて、カルネさんの一体目は………。

 

「いくわよ、ルチャブル!」

「チャオブ!」

 

 ルチャブルね。

 かくとう・ひこうタイプという珍しい組み合わせのポケモン。あくタイプを持つゲッコウガには効果的な選択。

 

「最初から全力よ! ルチャブル、ゴッドバード!」

 

 そしてルチャブルが覚える技の中でもトップクラスの威力を初手に選んで来た。でもゴッドバードは蓄めを必要とする技。ゲッコウガの素早さならば容易に躱せ…………なるほど、そういうこと。

 

『チッ』

 

 ゲッコウガも気づいたようだけれど、既にルチャブルは動き出している。

 

「なるほど、パワフルハーブか」

 

 ハチマンはもう既に一観戦者モードに入っちゃってるのね………。いいのかしら、こんなバトルで。まあ、でも今のゲッコウガにはハチマンの指示は不要よね。トレーナーとしての視点からもバトルを見る目を養って来たのだから。それにあの二人の思考は大体同じだもの。以心伝心、言葉を不要とした信頼関係。危なくなったら口を挟むでしょう。

 

『………フン!』

 

 あれを防ぐのね。

 パワフルハーブによって蓄えを必要とせず、即座に繰り出したゴッドバードを水のベールで受け止めた。同時に自らも包み、ルチャブルを押し留めながら段々と姿を変えていく。

 

『な、なんとゲッコウガ!! ルチャブルのゴッドバードを水のベールで受け止めたぁぁぁああああああああああああっ!! しかも見て下さい!! あのパワーアップした姿に変身していますっ!!』

 

 最初からこんなに興奮していてバトルが終わるまで体力が保つのかしらね。恐らく声は枯れてるでしょけど。

 

「っ?! ルチャブル、下がって!」

 

 ゲッコウガが姿を変えているところに目が行き、誰しもがゲッコウガの攻撃を見失っていた。

 けれど、流石はチャンピオン。パフォーマンスに気を取られることはなかったみたいね。寸でのところで水のベールから変形して伸びた水手から逃げ切り、カルネさんのところまで戻っていった。水手は弾け、ゲッコウガがそれを掻き集めている。

 

「つめとぎよ!」

 

 攻撃力と精度を上げるためね。

 でも当たらなければ意味はないわ。

 

「ゲッコウガは何をして…………」

 

 その間にゲッコウガは何かしているようだけれど。後ろ姿だけでは展開が読めないわね。

 

「アクロバット!」

 

 一度後転しながら上昇したルチャブルは、空気を蹴ってゲッコウガに向けて滑空していく。

 私が知っているルチャブルはここまで精錬された動きをしていなかったはず。というか早すぎないかしら?

 あのゲッコウガが反応してすぐ懐に飛び込んでいるし。

 

『くっ………!』

 

 寸でのところで身体を逸らして躱すも、ルチャブルは躱された勢いをそのままに上昇していった。

 

『パワフルハーブを使ってゴッドバードで来たかと思えば、今度はかるわざか。また面倒な』

 

 な、なるほど………確かにルチャブルの特性がかるわざであれば、あの素早い動きも頷けるわね。

 でもそうなると少々不味いのではないかしら。

 特性かるわざは持っている物がなくなると素早さが上がる特性。ルチャブルが持っていたのはパワフルハーブ。パワフルハーブは初手のゴッドバードのチャージ時間を無くすのに取り込んでいる。つまり、ルチャブルは持っている物がなくなったことになっているのだ。そしてアクロバットという技も同じような条件で威力が上がるひこうタイプの技。特性と技の相乗効果で今のルチャブルの一撃は速くて重くなっているはず。

 さて、ゲッコウガはどうする気なのかしら。

 

『フンッ!』

 

 っ、まさかそんなギリギリな躱し方をするのね!

 ゲッコウガは目前に迫ったルチャブルを上半身を後ろに倒すことでギリギリ躱した。

 スレスレもスレスレ。ほんの数センチあるかないかの隙間だったわ。

 

「………よく躱したな」

『………そんな悠長なことは言ってられん。次が来る』

 

 技を外したルチャブルは上昇している。何か仕掛けて来そうな嫌な予感がするわね。

 

「ルチャブル、超高度からフライングプレス!」

 

 …………まさかあの位置から落ちて来るというの?

 これってほとんどリザードンが使う飛行術のハイヨーヨーじゃない。しかもアクロバットの勢いをそのままに昇っていったため、落ちて来る時には倍以上の速さになるはず。

 さすがのゲッコウガでもこれは躱せるはずがないわ。

 

『………リザードンみたいなことしやがって。フンッ!』

 

 あれはみずのはどうだんね。コマチさんのカメックスがゼニガメの時に編み出して以来、みんな偶に使ったりしているわ。波導を圧縮して放つため通常よりも威力が上がるというデータも取れたし、技は使い用だという実例にもなりそうね。

 

『………おいおい速すぎだろ、っぶね!』

 

 ルチャブルは撃ち上げられた水弾の軌道を見切り、目前で躱した。それほどまでにスピードが上がっているという証拠ね。まさか、ルチャブルがこんなに可能性を秘めたポケモンだったなんて。まだまだ私もポケモンのことを知らないというわけね。

 

「ルチャブル、もう一度上昇よ!」

「チャオブッ!」

 

 なっ?!

 ギリギリでゲッコウガに躱されてもなお、地面すれすれで切り返した!?

 やっぱりあれだけのことが出来るのだから、身体の柔軟性も高いということかしら。

 ルチャブルはもう一度上昇していった。

 

「つめとぎ!」

 

 攻撃が届かないと見越してのことか、上昇の間に両の爪を研ぎ始めた。

 

「ゲッコウガ、来るぞ」

『ああ、分かってるよっ』

 

 ハチマンもゲッコウガも次に重たい一撃が来ると悟ったのね。

 

『弾一発じゃ意味がねぇ。ならーーー』

 

 ゲッコウガは纏う水のベールを活性化させて壁のようなものを作り出していく。物理的に受け止めようってつもりかしら?

 

「ルチャブル、ゴッドバード!!」

 

 そういうことね。

 初手のゴッドバードでルチャブルの気持ちを一気に高め、アクロバットから始まる一連の攻撃は次のゴッドバードのチャージ時間を確保し、最高威力に仕上げるための布石だったんだわ。

 ルチャブルは次々と水の壁を貫き下降して来る。

 

『フン!』

 

 減速しているようには見えないけれど、ゲッコウガも水のベールを纏った。どうしようというのかしら………。

 そうこうしている内にルチャブルはゲッコウガに突撃していった。そして、ゲッコウガの水のベールがルチャブルをも覆い包んでいく。

 

『………お前の努力は認めてやる』

 

 っな?!

 ゲッコウガ、嘘、でしょ…………!?

 

「片手で、受け止めた…………?」

 

 ルチャブルの両翼から放たれるエネルギーによりゲッコウガの水のベールを霧散させたものの、その中心にはゲッコウガがルチャブルを片手で受け止める姿があった。

 

『だが、これで終わりだ』

 

 そして、その掌からはみずのはどうだんが作り出され、ルチャブルをカルネさんの目の前に打ち返した。

 

「る、ルチャブル?!」

「ルチャブル、戦闘不能!」

 

 当然、ルチャブルは戦闘不能に。

 不意を突いたとはいえ、ユキメノコが相討ちに持っていけたのは奇跡に近いことだったのかもしれないわね。絶対に二度目はない。ほんと恐ろしいポケモンだわ。

 

『ルチャブル戦闘不能ぉぉぉおおおおおおおおおおおおっっ!! 先に一勝を上げたのは四天王ハチマン!!』

『わはははっ、こりゃスゴい! 結局あやつが使った技はみずのはどうだけなんよ』

『みずのはどうの水流操作技術をあそこまで応用出来るとは。一研究者としていいデータが取れた気分ですね』

 

 確かに言われてみればそうね。

 水流操作だけで全てを払いのけてしまっていたわ。

 これがゲッコウガの本気を出した力、なのね。

 

「戻りなさい、ルチャブル」

『ハチ』

「ん?」

『片腕持っていかれた』

「はっ? マジで?」

『ああ、しばらくは使えそうもない』

「そりゃすげぇな。どんだけの威力だったんだよ」

『咄嗟に片腕にして正解だったんだろうな。両腕持っていかれた可能性もある』

「おいおいおい………」

 

 えっと、これは本当………なんでしょうね。ゲッコウガを見る限り左腕を抑えているし。

 そこまでの威力があのゴッドバードにはあったってことなのね。

 

「想定以上の強さね」

「そりゃこっちのセリフですよ。正直ゲッコウガに蹂躙されるくらいに思ってましたから」

「言ってくれるじゃない。でもそうならないようにこっちだって必死なのよ」

「ではその必死さをもっと見せてもらいましょうか」

「ほんと挑発がうまいわね。………ヌメルゴン!」

 

 チャンピオン相手に挑発なんて、しようと思うのはあの二人くらいでしょうね。

 さて、次の相手はヌメルゴンか。

 ドラセナさんも連れていたけれど、あっちのヌメルゴンとはまた違ったバトルになるのでしょう。それかその前にゲッコウガに圧倒されるか。

 見た限り、そうも見えないのだけれどね。

 

「あまごい!」

 

 えっ………?

 みずタイプのゲッコウガにそれは悪手なのでは………?

 それとも何か仕掛けが…………あるからこそか。それくらいカルネさんは分かっているわよね。

 

『雨か………。少し利用させてもらおう』

 

 利用?

 この降り出した雨はみずタイプの技の威力を上げることにはなるけれど。

 それでもヌメルゴンには効果はいまひとつ。

 他に何か仕掛けるつもりなのかも知れないわね。

 

「かみなり!」

『フン!』

 

 これはゲッコウガが読んでいたわね。

 呼び寄せた雨雲から突如雷撃が落ちて来たが、水のベールでそれを分散させた。

 

「不純物が含まれない水に電気は通らない。それは午前のバトルで見せてもらったわ。けれど、これならどうかしら! ヌメルゴン!」

 

 落雷が、止まらない………。

 何度も何度も雷撃が水のベールに打ち付けていく。

 

「………水を電気分解させる気かしら」

 

 液体としての水が気体に分離すれば、空気中に漂う塵に触れ…………!?

 違う、そうじゃないわ!

 もっと簡単に出来ることがあるじゃない!

 

『チッ』

 

 ゲッコウガも異変に気付いたようだけれど、もう手遅れみたいよ。

 落雷は空気中の塵を伝い地面に落ちてくる。そのため軌道はジグザグとなる。そしてそれは水に含まれる不純物も同義を為すが故に、水は電気を通すとされ、純水は電気を通さない。ならば、雷撃をいくつも落とすことで空気中の塵が動き、純水に混ざれば………?

 ゲッコウガ、あなたはここからどう切り抜けるの?

 

「ゲッコウガ、下だ」

 

 っ!?

 そう、ね………そういえばゲッコウガはあなをほるを覚えていたわね。

 

「…………さて、ここから何をしてくれるやら」

 

 ハチマンてば楽しそうね。

 ゲッコウガには好きにバトルさせているくせに、ここぞという時は声をかける。それまでもゲッコウガがやろうとしていることを理解しているみたいだし。以心伝心、まさにこの言葉通りね。そしてこれがポケモンとトレーナーの最高の形。

 

「っ!? いない?!」

 

 落雷により水のベールは霧散し、雨も止んだ。

 だけど、そこにはゲッコウガの姿はない。

 

「ヌメルゴン、落ち着いて! どこかにいるはずよ!」

 

 すると、突如地面が水の柱が五本も立ち上がった。

 位置から察するに五芒星のそれぞれの頂点あたりね。

 

「ッ、ヌメルゴン、りゅうせいぐんを打ち上げて!」

『打ち上がるのはお前だ』

 

 ヌメルゴンが首を上に向けた瞬間、身体ごと打ち上げられた。足下からの水柱によって。

 

「くくくっ、お前何なの。ほんとに伝説のポケモンの仲間入りでもする気か?」

 

 その水柱からはゲッコウガが神々しく出てきた。

 え、何これ。本当に彼は何をやっているのかしら。

 

「パワーウィップ!」

 

 何とか着地し態勢を立て直したヌメルゴンは、頭の触覚にパワーを溜めてゲッコウガへと突撃していく。

 

『フッ、終わりだ』

 

 出てきた穴より後ろに下がったゲッコウガは不敵な笑みを浮かべ………ーー。

 

「ヌゴッ!?」

 

 上空より水の塊が一閃を描き、ヌメルゴンを撃ち抜いた。

 水はそのままゲッコウガが開けた穴へと流れでいく。

 

「ヌメルゴン!?」

「ヌ、ゴ………」

 

 ゲッコウガの攻撃にも驚きだけれど、ヌメルゴンがまだやれるということの方がもっと驚きだわ。なんて耐久力なの。

 

『まだやれるのか。なら、これがトドメだ』

 

 そう言うとゲッコウガは背中から手裏剣を抜き、一直線に投げた。

 

「ヌメルゴン、戦闘不能!」

 

 躱すことの出来なかったヌメルゴンはそのまま戦闘不能となった。

 

『ヌメルゴン、戦闘不能ぉぉぉおおおおおおおおおおおおっっ!! あわやという場面もありましたが、トレーナーの機転により回避してしまいましたっ!! さすがは四天王!! さすがはゲッコウガです!!』

『カルネのやつも上手く流れを引き寄せてはいるんよ。ただ………』

『相手が悪すぎますね。ゲッコウガにはトレーナーとしての観点からバトルを組み立てる頭脳もある。そこに奇想天外な本来のトレーナーの頭脳が合わされば、今後の展開がもっとすごいことになりますよ』

『心配じゃのう。フィールドが壊れんといいが』

 

 コンコンブルさん、心配するのそこなのね。

 確かにあのままのペースだとフィールドが壊れそうだけれど。

 さ、さすがにそこまでやろうなんて考えているわけないわよね?

 

「お前もえげつないな」

『………まだまだだろ』

「そりゃ折角下も使えるようになってるんだからな。やらない手はないだろ」

 

 ハチマンもゲッコウガも今以上のことをしようとしているっていうの?

 

「戻りなさい、ヌメルゴン。……一応確認しておきたいのだけれど、いつから上空に水を溜めていたの?」

「ルチャブルとバトルしてる時ですよ。カルネさんの意識が攻撃に行っている間に少量の水を上空に送り込んでました。ゲッコウガの纏う水を切り離すようにすれば、ほぼ見えないでしょうからね」

 

 ヌメルゴンとのバトル中には一度見えたけれど、その前からずっとやっていたのね。なんて器用なことをやってくれるのかしら。

 

「フィールド、空、地面。今のゲッコウガは全部守備範囲ですよ」

「………そう。でもそれはどうかしらね。行きなさい、パンプジン!」

 

 カルネさんの三体目はパンプジンか。

 くさ・ゴーストタイプ。くさタイプは有利だけれどゴーストタイプが逆に弱点を突かれる。しかもゲッコウガはまだ一枠空いている状態。あくタイプの技を使われれば致命傷になる可能性も秘めているわ。

 

「にほんばれ!」

 

 なるほど、まずはみずタイプをとことん無力化させるつもりね。

 

『あいつはオレを干からびさせるつもりか? フン!』

 

 みずしゅりけんを投げ、追撃を牽制。

 

「パンプジン、ゴーストダイブ!」

 

 かと思いきや、パンプジンが影の中に潜り込んでしまった。これならフィールドも空も地面も関係がない。カルネさんも考えたわね。

 

「影なら空も地面も関係ない、ですか」

「ええ、それにゲッコウガもさすがに影の中にまでは攻撃できないでしょ?」

『ほう』

 

 これは挑発ね。

 ゲッコウガに出来ないだろと煽ることで敢えてその動きを引き出す。

 どうせあの二人はそれを承知で挑発に乗るんでしょうね。そうでないとバトルは楽しくないとか言い出すような人たちだし。

 

『フン!』

 

 突然、ゲッコウガは何もないところにみずしゅりけんを投げた。すると一瞬ラグが起きた、ように見えたのだけれど…………まさか見えてるというの?

 

「へぇ」

 

 カルネさんも驚いてはいるけれど、笑っている。

 やっぱり見破って来ること前提で事を進めているのね。

 

『次は、そこか!』

 

 もう一度みずしゅりけんを投げた。

 

「ふふっ、ソーラービーム!」

『なっ?!』

 

 だけど、距離を見誤った?

 飛んでいく手裏剣よりも前にパンプジンが現れ、ゲッコウガの懐に入っていく。

 そしてゼロ距離でソーラービームを放った。

 ゲッコウガは咄嗟に身を捻り急所を外すも、またしても左腕が犠牲になった。あれだけ集中的にダメージが蓄積していたら、左腕は治らないかもしれないわね。まあ、それはないでしょうけど、それくらい左腕ばかりに攻撃が入っているように見えるわ。

 

「やどりぎのタネ!」

 

 そして間髪入れずにゲッコウガにタネを植え付けて来た。ゲッコウガに命中したタネは開花し蔓が伸びて、どんどんゲッコウガを絡め取っていく。

 

「コウガァァァアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 悲鳴というよりは雄叫びかしら。

 ゲッコウガも無抵抗でやられるわけがなく、すぐに水のベールを纏い、水圧で絡まる蔓を切り裂き始めた。

 

「パンプジン、ソーラービーム! 攻撃の手を緩めないで! ゲッコウガに防御を専念させるのよ!」

 

 カルネさんの指示でソーラービームが連射されていく。水のベールを貫いたりもしているため、ゲッコウガにダメージが入っているのだとは思うけれど、流石にここまで攻撃されていれば既に戦闘不能になっていてもおかしくはない。なのにその気配がないのだから、やはり何かしていると見て間違いないわね。

 

「ゲッコウガ、みずしゅりけん」

 

 突如、地面が割れパンプジンの背後に背中の手裏剣を構えたゲッコウガが現れた。

 いつの間に地面に潜って…………っ?!

 

「さっき開けた穴…………!」

 

 ゲッコウガはヌメルゴンとのバトルで地面を掘って移動していた。その時に出来た穴に空から落とした水の塊が流れ込んでおり、水道が出来ていたわね。

 つまり、みずタイプであることを大いに活用して、水道を移動してパンプジンの背後を取った。しかも水のベールを水柱として維持し、あたかもゲッコウガがまだそこにいるように見せることで、移動していることを悟られないようにして。

 彼らの好きそうなトリックね。こちらも見ていて飽きないわ。ほんと、追いかけ甲斐のある背中よ。

 

「くっ、パンプジン、にほんばれ!」

 

 いつの間にか日差しが元通りになっていたのね。

 パンプジンは再び日差しを呼び込み、自分の有利なバトルフィールドへと作り変えた。

 

「やどりぎのタネ!」

 

 今度は自分の周りにタネを蒔いた………?

 急速に成長させて要塞にでもする気かしら。

 

「ゴーストダイブ!」

 

 そしてパンプジンはすぐさま姿を消した。

 やどりぎのタネは何だったの? 成長して要塞になるわけでもゲッコウガを襲うわけでもない。ただ蒔いただけ。

 

『フン!』

「プジ!?」

 

 当てた!?

 二度目にしてもう見えているというの!?

 ゲッコウガは左脇をすり抜けるパンプジンを水で弾き飛ばした。衝撃で消えていたパンプジンも姿を見せ、奇襲は失敗に終わる。

 

『………水がない………? ふっ、そういうことか』

 

 水?

 ゲッコウガはみずタイプなのだから自ら生成出来るし、なくなることはないんじゃ…………。

 

「ソーラービーム!」

 

 その間にパンプジンは態勢を立て直してすぐさま太陽光線を放って来た。それをゲッコウガは斜め後ろに下がり躱す。

 だが突如地面から根が伸び、光線の軌道を変えた。そのまま根は伸び、光線は方向を変えた先でも同じように根が伸びて軌道を変えていく。

 ゲッコウガ包囲網でも言えばいいのかしら。光線はゲッコウガを囲むように次々と方向を変えていき、段々と間合いを詰めていく。

 

「今よ、パンプジン! ソーラービーム!」

『チッ』

 

 とうとうゲッコウガが四枚目のカードを切った。

 かげぶんしん。

 前後を挟まれたゲッコウガは影を残して緊急回避。そのままパンプジンの懐へと飛び込んでいった。

 

「ゴーストダイブ!」

『遅い!』

 

 すかさず応戦態勢を取るもパンプジンはみずしゅりけんにより吹き飛ばされた。

 

「パンプジン!」

 

 あ!

 根が動き出し、ゲッコウガの背後から襲いかかっていった。パンプジンもエネルギーが充填されたのか光っている。

 

『残念だが、効果切れだ』

 

 けど、ゲッコウガの方が早かった。

 みずのはどうだんで先にトドメを刺し、ソーラービームも背後からの根も届くことはなかった。

 …………日差しが戻ってる?

 なるほど、だから効果切れなのね。日差しがまだあればソーラービームで相討ちくらいには持っていけたはずだわ。

 

「………パ、パンプジン、戦闘不能!」

 

 早くも三体目を撃破。

 でも既に技は四枠全て使い尽くしている。残りはサーナイトと他二体、出てくるポケモンによっては苦戦を強いることになるでしょう。とは言っても今のハチマンとゲッコウガのコンビがおいそれと負けるとは思えないわ。確かにここまでの三戦でゲッコウガにもダメージは蓄積している。何なら片腕は使えない状態だ。でもだからこそ、あの二人は頭を使っている。しかもトップクラスのトレーナーとしての頭脳をだ。

 

『パンプジン戦闘不能ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおっっ!! ゲッコウガ、これで三体目を撃破ぁぁぁぁぁぁああああああああああああっっ!!』

『しかしゲッコウガに全て技を使わせたのは大きいですよ。ポケモン次第ではゲッコウガは何も出来ない可能性だってある』

『まああの男がそれを許すとも思えんがな』

 

 ゲッコウガが出した技全てにパンプジンは相性では有利だった。だけど。結果は敗退。カルネさんにはちょっと焦りが出ていそうね。

 

「パンプジン、戻りなさい。………やっぱり強いわね」

「そりゃ、自分でバトルを組み立てることも覚えましたからね。トレーナーとしては助かる反面、ついていくのは大変ですよ」

「あら、そうは見えないのだけれど」

「偶々ですよ、偶々。予想が当たってるだけです」

 

 その予想が出来るだけでも相当違うと思うのだけれど。

 トレーナーの中にはポケモンに好きにバトルさせるっていう人もいるみたいだけれど、大抵の人はポケモン側が暴走したりしている。好きにバトルなんて聞こえはいいけれど、その実ただの本能任せの粗いバトルでしかない。半端な本能は力を暴走させるだけであり、その身を滅ぼすと言ってもいいくらいだわ。だからこそ、ポケモンバトルにはトレーナーを必要とし、客観的視点から冷静に判断を下すことでポケモン側が理性を保ってバトルに臨むことが出来るのよ。

 ただ、ハチマンの場合はその段階を経た上で好きにバトルさせているため、ゲッコウガも含めてポケモンたちは戦い方を身体で覚えている。だから暴走することもないし、危険だと判断すれば即座にハチマンが介入する。

 それを分かってない人が真似をすれば忽ち崩壊するでしょうね。

 …………このバトル、良い子は真似しないでねと注釈入れるべきかしら。

 

「それにしても考えましたね。地中に開けた穴に流した水をやどりぎのタネに吸収させるとは。しかもそのままタネを成長させて根を張り、地上に伸ばして攻撃の軌道を変えるために使うなんて、さすがチャンピオンというところですかね」

「お褒めに預かり光栄だわ。でも倒せないんじゃまだまだよ」

「そりゃ、コイツにもプライドがありますからね。ユキメノコにやられたのが相当キテるみたいですよ」

「あまり聞きたくなかった情報ね。憂さ晴らしの相手ってだけにならないよう気合いを入れ直さないと」

 

 まあ、あとで姉さんに相談してみるとして。

 なるほど、だから水が消えてゲッコウガが驚いていたのね。何かあるとは思っていたけど、そういう使い方をしていたなんて。

 

「行きなさい、アマルルガ!」

 

 さて、四体目のポケモンはアマルルガね。

 いわ・こおりタイプの化石から復元されたポケモン。みずタイプは有利ではあるけれど、技次第では逆にってこともあるわ。

 

「まずはめいそうよ!」

 

 自ら仕掛ける気はないようね。身軽に動くゲッコウガに対してアマルルガは余りにも重い。能力を高めてゲッコウガの攻撃を待つつもりでしょう。

 

『フン!』

 

 動かないと悟ったゲッコウガは背中の手裏剣をアマルルガに向けて投げ放った。

 躱そうと思えば躱せるスピード。技で対処しようと思えば対処出来る威力。抜群の様子見の技って感じね。

 

「アマルルガ、ほうでん!」

 

 それをアマルルガは身体から放電して水を気体に変えてしまった。

 

「フリーズドライ!」

 

 と思いきや、その気体の温度を下げゲッコウガへと送り込んだ。

 ゲッコウガは目を見開き驚いている。咄嗟に左腕を前に出してガードの態勢を取ったものの、左腕は真っ赤に腫れ上がった。

 そりゃそうでしょう。フリーズドライはこおりタイプの技ではあるものの、みずタイプにも効果抜群という変わった技なのだから。

 それにしてもゲッコウガって利き手が左手なのかしら…………。

 

「メロメロ!」

 

 …………え?

 今メロメロって言った?

 ゲッコウガにメロメロ?

 そんなの例え相手がメスであっても効果は…………。

 

『あざとさが丸見えの技にかかるかよ』

 

 やっぱり効かないのね。

 

「えっ?」

『フン!』

 

 恐らくアマルルガはメス。なのに、オスのゲッコウガにメロメロが効かなかったことに言葉を失っている一瞬を突き、ゲッコウガはアマルルガの背後へと移動し、みずしゅりけんを投げ放った。

 

「フリーズドライ!」

 

 何とか当たる前に背後の手裏剣を氷漬けにし、地面に落とした。

 

「そのままほうでんよ!」

 

 そしてそのまま放電し、ゲッコウガは影を増やして回避していく。

 ………あ、また地面に潜ったわ。

 

「…………アマルルガ、めいそう」

 

 どこから来るのか見極めるためには心を落ち着かせる必要がある。その点で言えば、めいそうはいい判断ね。心も落ち着き、能力も上がる。

 

「マルル!」

 

 アマルルガは突如その場でジャンプした。そのすぐ後に地面からゲッコウガが現れ、攻撃が失敗に終わる。

 

「ほうでん!」

 

 すかさず放電し、ゲッコウガを攻撃していく。

 

「っ!?」

 

 けれど、ゲッコウガは霧散した。

 あれは影ね。対処としては正しい判断だったけれど、ゲッコウガの読みの方が上手だったみたい。

 

『フン!』

 

 背後から地上に出てきたゲッコウガは背中の手裏剣を投げ放った。今度こそアマルルガは対応出来ず、効果抜群の攻撃を受けてしまった。

 

『これで終わりだ』

 

 さらに次々と地面からゲッコウガが現れてみずしゅりけんを投げていく。

 

「アマルルガ、そのままほうでんして!」

 

 放電し、何とか手裏剣を分解しているけれど防ぎ切れていない。

 そして、アマルルガの目の前に一体のゲッコウガが現れた。

 

「くっ、フリーズドライ!」

 

 そのまま水で出来た手裏剣が振り下ろされた。瞬間、手裏剣は凍りついたが、砕けることはなかった。恐らくは威力不足。既に技一つ放つ余力すらなかったということね。

 

『…………最後までよく足掻いたじゃねぇの』

 

 ゲッコウガはゆっくりと倒れるアマルルガを受け止めた。でもその左腕は凍りついており、最後の一瞬の攻撃が届いていたようだわ。

 

「アマルルガ、戦闘不能!」

 

 その光景に会場からも拍手が送られてくる。

 これまでゲッコウガの強さを目の当たりにして来た観客はとても正直よ。だから本当に皆がアマルルガを称えているのがよく分かる。

 

『アマルルガも戦闘不能ォォォォォォオオオオオオオオオオオオッッ!! 強いっ! 強すぎるぞ、ゲッコウガ!!』

『一つとして同じ手を使いませんね。入り口は同じでも結果はまるで違う。彼らのバトルは観ていて飽きませんよ』

『けど、カルネのポケモンたちの攻撃は着実に入っておる。初戦で左腕をやられておるし、その後も身体を捻って負傷した左腕でガードしておる。一度やられた場所なら惜しくないという考えなんだろうが、そろそろゲッコウガにも限界が来ているはずだよ』

 

 確かに最初のルチャブルの時から無傷ではない。初戦で片腕を奪われてなお、ここまでやれていることの方が奇跡と言えよう。それからもヌメルゴンやパンプジン、アマルルガから効果抜群の技を一撃以上それぞれからもらっている。急所は外れているものの、ゲッコウガという種族そのものの耐久性を考えると特性がげきりゅうであったならば発動していてもおかしくない状態だわ。

 

「お疲れ様、アマルルガ」

 

 そんな相手に一歩も逃げ腰にならなかったアマルルガはよくやったと思うわ。

 

「………そろそろゲッコウガにはご退場願いたいところだけれど」

「どうでしょうね。コイツ、まだやれるみたいですし」

 

 このままゲッコウガだけでカルネさんを倒してしまうことだってあり得るのでしょうね。

 

「ガチゴラス、ゲッコウガを退けるわよ!」

「ガチゴ!」

 

 五体目のポケモンはガチゴラスか。

 何気に化石ポケモンを二体も連れているなんて、さすがチャンピオンってところかしら。そういえばホウエン地方にもいたわね、石マニアの人が。

 

「りゅうのまい!」

 

 先に動いたのはガチゴラスの方。炎と水と電気を三点張りで頭上に生成し、それを練り上げ竜の気を纏った。これで攻撃力と素早さが上がり、あの牙が猛威を振るうのでしょう。

 

『ほう』

 

 ゲッコウガはその竜気を確かめるべく、みずのはどうだんを撃ち込んだ。

 

「ガチゴラス」

 

 けれど、ガチゴラスは右腕で弾き飛ばした。

 右腕にダメージも入った様子もなくピンピンしている。

 

『ふっ』

 

 ゲッコウガも予想はしていたらしく、弾き飛ばされた水弾を操り、ただの水に戻してガチゴラスに巻きつけていく。

 今度は何の抵抗も見せない………。水弾は弾けても纏わりつく水には為す術がないのかしら。

 

「ガチゴラス、りゅうのまいよ!」

「『っ!?』」

 

 っ!?

 ど、どういうこと?!

 水に囚われていたガチゴラスは一瞬で消えてしまった。そしてカルネさんの視線を辿ると空から降って来ている。

 今、何が起きたというの?!

 時間的にもガチゴラスの特徴的にも一瞬で消えるような動きは出来ないはず。ジャンプをしようにもあの身体は踏み込むためにも一度態勢を低くしないといけないわ。なのに、そんな動作は一つも見当たらなかった。

 カルネさんがそういう風に育てて来たということも考えられるけれど、それならばジャンプするガチゴラスが見えるはずよ。それすらもなかったのだから、ガチゴラスは何かしたに違いないわ。

 

「見た目に反して策士だな」

 

 ハチマンも感心しているみたいだけれど。まだカラクリは分かってないのよね?

 

『フン!』

 

 ゲッコウガはすぐに影を増やしてガチゴラスに向かわせたが、竜の気に悉く消され、何とか水の壁を作りギリギリのところで防ぐことに成功した。

 

「かみなりのキバ!」

 

 だけど、それも束の間。

 ガチゴラスは電気を帯びた牙で水の壁に噛みついた。ゲッコウガも予想していなかったのか、水の壁に電気が流れそのままゲッコウガへと伝っていく。

 

『くっ!?』

 

 ピリッと電閃が走ったところで、ゲッコウガはその場から切り抜けたけれど、ダメージも蓄積されてしまったようね。

 

『ちょっと借りるぞ』

 

 ん?

 借りる?

 ゲッコウガも何かする気?

 

「…………」

 

 特に変化はないわね。

 態勢を立て直す際に背中の手裏剣を投げ放ったくらい。

 

「もう一度、かみなりのキバ! 受け止めて!」

 

 ガチゴラスは自分に向けられた手裏剣に噛みつき、受け止めてしまった。あの頑丈な顎は何でも噛み付けるのね。

 

『がんじょうあご………チッ!?』

 

 そして遠心力を加えて投げ返して来た。もちろん電気を帯びている。

 ゲッコウガは穴を掘って地中へと避難した。

 

「またあなをほるね。ガチゴラス、足元を中心に集中するのよ!」

 

 これはじしんを覚えてないと見てよさそうね。ガチゴラスはじしんを覚えられるのだし、地中にいる相手には威力が上がる。使わない手ではないのに使わないということは覚えてないのでしょう。

 

「チゴ?!」

 

 地中の中ではまた同じようなことをしているのね。既に空いていた穴から水の柱が立ち登り、それにガチゴラスが驚いてしまった。

 そしてそれが仇となり、ガチゴラスの足元にヒビが入るのに気づいていない。

 

「ガチゴラス、みがわり!」

 

 っ?!

 みがわり!?

 ガチゴラスは地面から飛び出したゲッコウガの攻撃をモロに受けて…………消えた!?

 

『そういうことかッ!』

 

 いち早く気づいたゲッコウガは頭上に水の触手を伸ばした。どうやらゲッコウガには見えたらしい。

 

「ばかぢから!」

 

 けれど、重力に引っ張られて落ちて来る牙竜に触れた瞬間水は弾け分散していく。

 

『チッ』

 

 無理と悟ったゲッコウガは即その場から離れた。着地したガチゴラスの足元にはクレーターが出来上がり、下がるゲッコウガを追いかけるために踏み込むとさらにヒビが入っていく。

 ゲッコウガは影を増やしてガチゴラスを撹乱させるも………。

 

『なッ?!』

 

 あちらもみがわりで撹乱して来ており、逃げた先でガチゴラスに左腕を噛み付かれた。あの腕、大丈夫かしら。再起不能になっていなければいいのだけれど。

 

『こ、の………ッ!?』

 

 このバトルで初めて苦しそうに呻くゲッコウガを見たわね。ルチャブルに左腕をやられた時でさえ、あっさりしてたというのに。

 

「ガチゴァッ?!」

 

 頑丈な顎から解放されるために、口の中で水を放つのはどうかと思うわよ。やり方がいちいちエグすぎ。

 

『はぁ………はぁ………、これで、終わりだ』

 

 カルネさんの前にまで吹っ飛んでいくガチゴラスを見ながら、ゲッコウガは右腕を天へとかざした。その手には手裏剣があり、牙竜に消されなかった影をどんどん取り込んでいく。手裏剣の回転速度も上がっていき、巨大化し始めたところで色が青からオレンジへと変化した。エネルギーが相当数溜まり熱を帯びたのかと思えるくらい、湯気すら出ている。

 

『フン!』

「ガチゴラス、ばかぢから!」

 

 ガチゴラスは竜気を活性化させて全力で地面を蹴り上げた。けれど、巨大水手裏剣の効果範囲内からは出ることが出来ず弾ける水の中に呑み込まれていった。

 

「ガチゴラス!?」

 

 本当に熱を持っていたのか爆発まで起こり、さすがにカルネさんも慌てている。

 これはちょっとやり過ぎなんじゃ………………。

 

「けほっ、けほっ!」

 

 まさかのこっちにまで砂埃が飛んで来たわ。威力、範囲どちらも最大規模ね。

 

「……………けほっ、けほっ! ガ、ガチゴラス、けほっ、戦闘不能!」

 

 煙が晴れてガチゴラスに駆け寄っていった審判が判定を下した。何気にすごいわね、あの審判。こんなめちゃくちゃなバトルからも逃げ出さないなんて。肝が据わってるわね。

 

『……はっ! ガ、ガチゴラス戦闘不能ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!』

 

 ………今完全に固まってたわね。

 実況ですらアレなのに。本当にあの審判はすごい人だわ。

 

『………ふぅ、スッキリした』

「お前、容赦なさすぎ………」

『いいだろ、バトルなんだから。つか、リザードンはさらにもう一体倒してんだろ? あいつ本当に化け物なんじゃねぇの?』

「安心しろ。お前も充分化け物だから」

『褒め言葉と取っておく。んじゃ、あとはリザードンででも綺麗に飾ってくれ。オレはもう無理。見ての通りボロボロだ』

「はいはい、お疲れさん」

 

 本当にボロボロね。

 まさかあのゲッコウガですら、こんな状態になるなんて。チャンピオンだった時の姉さんとバトルしたリザードンが改めてすごいことが分かるわね。

 

「ほれ」

『ん?』

「お高い方の傷薬。ラルトス、手当て手伝ってやってくれ」

「ラル!」

『そりゃ助かる』

 

 ハチマンはゲッコウガに回復薬を渡してラルトスに手伝わせている。

 

「ガチゴラス、お疲れ様。………今の、何だったの?」

「ゲッコウガの全力のみずしゅけんですよ」

「それにしては大きすぎるわ」

「そりゃ一発しか撃てませんからね。あれを何度もほいほい使われたら、俺も嫌ですよ。会場どころかカロスがなくなりますって」

「それはカロス地方をも手にかけられるということかしら?」

「今のコイツなら出来そうなのが怖い」

「………本当に恐ろしいわね」

「俺も驚きましたよ。まさか、みがわりを使って来るなんて」

「私のガチゴラスは化石を復元させたわけじゃないのよ」

「………へぇ、それは興味深い」

「まあその話はまた今度ね」

「そうですね。ラストバトルといきますか」

「これで終わりにするつもりはないけれど、そうね。みんなも待っているようだし」

 

 いよいよラストバトルね。

 ハチマンのことだから、負けることはないでしょう。それにゲッコウガが下がったということは、彼の言葉通りリザードンが出てくるはず。

 

「サーナイト、いくわよ!」

「すー………はー………」

 

 先に出したのはカルネさんだった。

 相棒のサーナイト。額にはメガストーンのついた髪飾りをしている。

 

「カルネさん、最初に謝っておきます。ゲッコウガのバトルに看過された今のコイツはヤバいですよ。それに俺も先輩トレーナーとしてゲッコウガには見せないといけないんで」

 

 ッ!!

 あの目、リーグ優勝した時と同じ………まさかっ!?

 

「リザードン、トルネードメタルクロー」

 

 ボールから出て来た勢いのままリザードンが一気に距離を詰め、高速回転で前に突き出した鋼の爪を突きつけた。

 

「………え?」

 

 完全にカルネさんは棒立ち。

 

「………すごい」

 

 あの目、本気を出した時のハチマンの目。

 全身に震えが走るのが分かる。

 ゾクゾクするわ。

 

「サーナイト、大丈夫?!」

「さ、サナ………」

 

 効果抜群の技だったけれど、一撃では倒れないのね。そこはやはりチャンピオンのポケモンということかしら。

 

「メタルクローでこの威力………。オーダイルとのバトルは逆にオーダイルが凄かったというわけね。反撃するわよ! サーナイト、メガシンカ!」

 

 早速来たわね。

 でもそれくらいしないとあのリザードンは止められない。いえ、それだけしても止められるか分からない相手というべきね。

 サーナイトは額のメガストーンとカルネさんが持つキーストーンのエネルギーにより白い光に包まれると姿を変えた。それはまるで白いドレスを着たかのような美しさで、会場はその光景に一瞬息を飲んだ。

 

「リザードン、はらだいこ」

 

 はらだいこ?

 激しくお腹を叩きつけて攻撃力を最大限に上げる技だけれど。今まで使ったところ見たことがないような…………。

 

「サイコキネシス!」

「リザードン」

「シャアァァァァァァアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 サーナイトの超念力で一瞬動きが止まったリザードンだったけれど、雄叫びを上げると強引に見えない拘束を破ってしまった。昔姉さんとバトルした時もやっていたわね。普通こんなことが出来るポケモンなんてそういないのだけれど、身近にいると感覚が麻痺して来そうだわ。

 

「フレアドライブ」

「リ、リフレクターよ!」

 

 これはさすがのカルネさんでも焦るわよね。

 最大限に高まった攻撃力から繰り出されるフレアドライブは、聞いただけで震え上がるもの。あんなの一撃くらうだけで戦闘不能になってもおかしくないわ。

 

「サナッ!?」

「なんて威力なの………!? リフレクターが壊れるなんて」

 

 最悪の事態まではいかなかったけれど、作り出したリフレクターは粉々に砕けサーナイトはカルネさんの後ろまで吹っ飛ばされてしまった。でもリザードンも反動のダメージを受けるのね。もしかしてと思ったけれど、さすがにそれは無くて一安心だわ。

 

「シャドーボール!」

 

 すぐに態勢を立て直したサーナイトは影球をリザードンへと放つ。

 

「メタルクローで打ち返せ」

 

 だけど、リザードンはあっさりと弾き返してしまった。撃ち出し速度を倍返しというおまけ付きで。

 咄嗟に躱したものの、サーナイトはその速度に目を見開いている。

 

「サーナイト、ムーンフォース!」

「リザードン、防げ」

 

 え?

 リザードンの素早さなら躱せたでしょ?

 

「シャアァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

「ようやく来たか」

 

 っ!?

 リザードンの身体から赤いオーラが…………これは特性もうか!

 まさか最初からそれを狙って?

 はらだいこで攻撃力を最大限にして代わりに体力を削り。フレアドライブで攻撃しながら、反動ダメージを受け、効果いまひとつの技を敢えて受ける。そうして自ら特性のもうかを発動させるなんて。これは確かに中々見られないわね。はらだいこも使う機会が少なさそうだし。

 

「リザードン、今のお前の全力を見せてやれ。ブラストバーン」

 

 そしてリザードンは拳を地面に叩きつけ、獄炎を走らせた。衝撃波と黒い煙がフィールドから会場全体へと拡散していく。

 

「………サーナイト、けほっ、戦闘、不能! けほっ、けほっ!」

 

 しばらく各々に咳き込んでいるとようやく、という感じに煙が晴れた。…………船の方にまでは煙がいかなかったようね。海風が攫ってくれたのでしょう。

 煙が晴れたフィールドではサーナイトのメガシンカが解除されていた。煉獄の炎に為す術なく呑み込まれたのね。

 

「よって勝者、四天王ハチマン!」

『………さ、サーナイト戦闘不能ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!』

 

 ッッ!!

 何かしらこの感覚。無性にゾクゾクする。こう内から何かが溢れ出すような………。実況の人が色々叫んでいるようだけれど、何も聞こえない。それどころじゃ、ない!

 

「さすがヒキガヤ君だねー。…………ユキノシタさん?」

 

 なんか無性に身体が熱い! 熱くて胸が苦しい。張り裂けそうだわ!

 

「おーい」

 

 ッッ!?

 ハチマンが戻って来た?!

 

「おーい」

 

 あ、あ、ダメ………、何か、来る…………!

 

「これダメそうだね………」

「お疲れ様です、メグリ先輩」

「ヒキガヤ君もお疲れ様」

「………と、やっぱりユキノもいたか」

 

 ッッ、もう………無理っ!!

 

「おわっ!? ユ、ユキノ……?」

 

 ハチマンと目があった瞬間、その胸に飛び込んでいた。

 

「………好き」

 

 ポツリと出た言葉は、いつも言っているはずの言葉なのに、どこか違う。声にしたらさらに身体が熱くなっていくのが分かる。

 

「へっ?」

「私はあなたが好きよ。ずっとずっと前からあなたのことが大好きよ」

 

 ぎゅっと抱きしめて、おでこを彼の胸にぐりぐりと押し付けながら私はそう言った。

 

「お、おう、そうか。まあ、俺も、好き、だぞ?」

 

 しどろもどろながらもハチマンも抱きしめ返してくれた。それだけで心地よくなってしまうなんて、なんて単純なんでしょう。

 

「えと、これは何なんですか?」

「いやー、多分ヒキガヤ君のバトルを見て感情的になっちゃったんじゃないかなー…………」

「何でまた急に…………」

「恋する乙女心ってやつだと思うよ。ヒキガヤ君が戦ってる姿はかっこいいから燃えあがちゃったんじゃないかなー」

「マジか………」

 

 燃え上がる………確かにそうかもしれない。私の身体というか、心が猛烈に燃え上がっているような感覚だわ。

 

「………ユキノ?」

 

 ふぁ!?

 ば、バカぁ、今そんな風に撫でられたら………私、わたし………!

 

「明確な愛が欲しいわ………」

「ぶっ?!」

 

 もう自分が何を言っているのか分からない。

 

「お、おおお落ち着けっ………?」

「ヒキガヤ君が一番動揺してるよー」

「そ、その、明確な愛というのは…………」

「ハチマンの子供………」

 

 口の動くままに。勝手に出てくる言葉のままにそう伝える。

 

「…………それは、今すぐに、か……?」

 

 再度おでこをぐりぐりと胸に押し付けて首を横に振った。

 

「そっか。なら、俺が十八になるまで待ってくれないか? ポケモン協会の理事になっちまった以上、ミアレとヒャッコクの復旧作業で忙しくなるだろうし、その後で結婚しよう。それまでに俺も全員を背負う覚悟を決める」

 

 っ!?

 

「………いいの?」

 

 ゆっくりと自分の言葉が反芻してきて、内容を理解した。だからこそ、すんなり受け入れられるなんて、しかも結婚なんて言葉が出てくるなんて思いもしなかったため、思わずハチマンを見上げてしまった。

 

「いいも何も、ずっと考えていた。こんなハーレムみたくなっちまったが、みんなを孕ませるならやっぱ結婚ってものがチラつく。けど、世間的に重婚なんてタブーだ。だから英雄色を好むってわけじゃないが、誰も文句のつけられない絶対的な存在にでもなれば、問題の解消くらいにはなるじゃないかって」

「解決じゃなくて解消なのね………」

「ああ、解消だ。地位はポケモン協会の理事、ポケモンバトルはチャンピオン以上。こんな奴誰も絡みたくないだろ?」

「………バカ」

 

 タブーを犯す者が最強のポケモントレーナーでは誰も何も言えない。言ったところで何をされるのか分かったもんじゃないわ。ハチマンは、その道を選ぶというのね。

 

「俺だって何の問題もなければ今すぐにでも全員孕ませたいっての」

「そ、そう………。なんだかそう言われると、恥ずかしいわね」

「あのな、唐突に明確な愛が欲しいとか言われる方が気恥ずかしいからな? しかも高揚した顔で言われたら、乱れたユキノを想像しちまうっての」

 

 っ!?

 言いたいことを全部吐き出して段々と冷静になってきたところでこれだ。自分の乱れた姿に治ってきた熱が戻って来てしまったじゃない!

 

「…………みんな一旦あっちに行きましょうねー」

「「………………」」

 

 そうだった、メグリ先輩もいるんだった。それにゲッコウガたちも。

 今度は恥ずかしさで顔まで赤くなっていくのが分かる。

 

「あの、そんな気遣わなくてもいいっすよ」

「え、そ、そう? で、でも二人とも、その、熱いでしょ?」

「………そうですね。正直熱いですね。でも、焦らした方がもっといいものが見れそうなんで」

「ひあっ?!」

 

 ちょ、バカ、急に、耳元で…………ふぁ!?

 

「ッ〜〜〜〜〜〜〜!」

 

 視界が一瞬白くなった。

 

「………ね?」

「………ほんと、君は最低だね、ふふっ」

「そりゃどうも」

 

 ………こ、この二人、タイプ、こそ、違うけど………はぁ、はぁ………く、ドの付くSだわ。

 

「ん?」

 

 ………?

 

『第二回カロスポケモンリーグ』

 

 ハチマンの腕の隙間からチラッと会場を見ると、特大画面に次回予告のコマーシャルが流れ出したみたい。

 

『開催決定!!』

 

 この後は一年後の日付が…………。

 

『そして!!』

 

 え?

 

『優勝者にはさらにエキシビションマッチが!!』

 

 ちょっと待って?

 

『その相手はこの人!!』

 

 エキシビションマッチ?

 

『カロスポケモン協会理事!!』

 

 あ………。

 

『ヒキガヤハチマン!!』

 

 姉さん、どういうつもりなの?

 

『ポケモントレーナーたちよ、一年後に集え!!』

 

 何かハチマンは今知ったような空気だし。

 

「………メグリ先輩、これ何すか?」

「何って次回予告?」

「エキシビションマッチは聞いてないですよ?」

「言ってないもん。はるさんの指示で」

「どうすんだよ。批判殺到しますよ」

「それはどうかなー。でもこれくらいしておかないと、逆にヒキガヤ君が何者なのかってテキトーな記事書かれる可能性だってあるし」

 

 それとポケモン協会の理事ってことも公表する予定なかったはずよ。

 

「そ・れ・に! 優勝者とのエキシビションマッチだなんてチャンピオンよりも何か特別感あるじゃないってはるさんが言ってたよ!」

「…………期間は一年ってか」

 

 はぁ………また忙しくなりそうね。でも嫌いじゃないわ。ハチマンと一緒にいられるだけで私は幸せ。欲を出せば子供が欲しい。そんな単純な女よ。多分、みんなもそう。ずっと追いかけるような立場だったからこそ、今が幸せなのよ。そこにハチマンがいるってことが。

 

「世の男どもはこうやって人生設計をしていくんだろうな………」

 

 世の男どもはまずハーレムなんて作ろうとしないわよ、バカ、ボケナス、ハチマン。ふふっ、大好き!

 




行間

ヒキガヤハチマン 持ち物:キーストーン 菱形の黒いクリスタル etc………
・リザードン(ヒトカゲ→リザード→リザードン) ♂ 
 特性:もうか
 覚えてる技:かえんほうしゃ、メタルクロー、かみつく、おにび、えんまく、はがねのつばさ、かみなりパンチ、ドラゴンクロー、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、かみくだく、カウンター、じしん、フレアドライブ、ブラストバーン、げきりん、じわれ、だいもんじ、ソーラービーム、リフレクター、はらだいこ
 飛行術
 ・ハイヨーヨー:上昇から下降
 ・ローヨーヨー:下降から上昇
 ・トルネード:高速回転
 ・エアキックターン:空中でターン
 ・スイシーダ:地面に叩きつける
 ・シザーズ:左右に移動して撹乱
 ・ソニックブースト:ゼロからトップに急加速
 ・コブラ:急停止・急加速
 ・ブラスターロール:翻って背後を取る
 ・グリーンスリーブス:連続で攻撃して空中に釣り上げる
 ・デルタフォース:空中で大きな三角形を描くように連続攻撃
 ・ペンタグラムフォース:空中で五芒星を描くように連続攻撃
 ・バードゲージ:スピードを活かして相手の動きをコントロールしていく

・ゲッコウガ(ケロマツ→ゲコガシラ→ゲッコウガ) ♂
 特性:きずなへんげ(へんげんじざい→きずなへんげ)
 覚えてる技:みずのはどう、あなをほる、かげぶんしん、れいとうパンチ、れいとうビーム、つばめがえし、ハイドロポンプ、くさむすび、グロウパンチ、えんまく、がんせきふうじ、いわなだれ、まもる、かげうち、みずしゅりけん、どろぼう、つじぎり、ハイドロカノン、めざめるパワー(炎)、とんぼがえり、とびはねる、ほごしょく、けたぐり、ぶんまわす、あくのはどう、どろあそび

・ジュカイン(キモリ→ジュプトル→ジュカイン) ♂
 持ち物:ジュカインナイト
 特性:しんりょく←→ひらいしん
 覚えてる技:でんこうせっか、リーフストーム、リーフブレード、ドラゴンクロー、タネマシンガン、ギガドレイン、かみなりパンチ、スピードスター、くさむすび、ソーラービーム、エナジーボール、シザークロス、くさのちかい、マジカルリーフ、タネばくだん、こうそくいどう、つめとぎ、いやなおと、こうごうせい、くさぶえ、やどりぎのタネ、グラスフィールド、なやみのタネ、ハードプラント、つばめがえし、ものまね

・ヘルガー ♂
 持ち物:ヘルガナイト
 特性:もらいび←→サンパワー
 覚えてる技:かみつく、ほのおのキバ、ふいうち、おにび、かえんほうしゃ、かみくだく、れんごく、ほえる、はかいこうせん、アイアンテール、あくのはどう、みちづれ、だいもんじ、ハイパーボイス、ヘドロばくだん、ちょうはつ

・ボスゴドラ ♂
 持ち物:ボスゴドラナイト
 特性:がんじょう
 覚えてる技:ロックブラスト、あなをほる、なげつける、メタルクロー、アイアンヘッド、アイアンテール、てっぺき、メタルバースト、ボディパージ、ヘビーボンバー、ロックカット、ほのおのパンチ、もろはのずつき

・ラルトス ♀
 覚えてる技:リフレクター

ゲッコウガ
・ニダンギル(ヒトツキ→ニダンギル)
 特性:ノーガード
 覚えてる技:ラスターカノン、せいなるつるぎ、つばめがえし、かげうち、つじぎり、シャドークロー、きんぞくおん

・キリキザン
 特性:まけんき
 覚えてる技:つじぎり、くろいまなざし、ロックカット

・アギルダー
 特性:うるおいボディ
 覚えてる技:スピードスター、むしのさざめき、ギガドレイン、みずしゅりけん、こうそくいどう、かげぶんしん、こころのめ、はたきおとす、バトンタッチ


カルネ 持ち物;キーストーン
・サーナイト ♀
 持ち物:サーナイトナイト
 特性:トレース←→フェアリースキン
 覚えてる技:サイコキネシス、シャドーボール、ムーンフォース、リフレクター

・ルチャブル
 持ち物:パワフルハーブ
 特性:かるわざ
 覚えてる技:ゴッドバード、アクロバット、フライングプレス、つめとぎ

・ヌメルゴン
 覚えてる技:かみなり、りゅうせいぐん、パワーウィップ、あまごい

・パンプジン
 覚えてる技:ゴーストダイブ、ソーラービーム、にほんばれ、やどりぎのタネ

・アマルルガ ♀
 覚えてる技:ほうでん、フリーズドライ、めいそう、メロメロ

・ガチゴラス
 特性:がんじょうあご
 覚えてる技:かみなりのキバ、ばかぢから、りゅうのまい、みがわり


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ぼーなすとらっく12『バイバイキルリア』

今回は続編のデオキシス襲来から四ヶ月半後頃、『異世界からの侵略者?』から二日後くらいの話です。


 あの白い生き物が俺のボールに入ってから二日後。

 ようやく東側のジム視察も終わり、ミアレに帰るついでに育て屋によってみた………のだが。

 

「…………えっと」

「あら、ハチマン君。久しぶりね」

「あ、ああ、はい、そうですね。お久しぶりです」

「あら、この子がカルネの言っていた?」

「ええ、彼がハチマン君。カロス地方最強のトレーナーよ」

「へぇ、君がー」

 

 帰ろうかな。

 何かすごく面倒そうな人たちがいるんだけど。

 絶対何かあるだろ。

 というかほんと何でいるのん?

 まず本人なのかも怪しいところだが、本人なら本人でいること自体があり得ないだろ。

 

「つか、何しにここへ?」

「ちょっと野暮用でね」

 

 野暮用って…………。

 こんなところに有名人が来るなんてあの人絡みだろうな。じゃなきゃ来る理由が分からん。はっきり言ってここはただの育て屋だぞ。バックがポケモン協会なだけで、他に珍しいことなんて何一つない。何ならブリーダー資格持ってないからね? だから金も取らないし、取れない。

 

「ほっほ、まあ儂の客じゃよ」

「だろうと思ったよ」

「それにしてもこんなところにイッシキ博士がいるなんて思いもしませんでしたよ」

「孫娘がこっちにいるからの。スクールの後継も決まったことじゃし、余生をこっちで過ごそうと思ったんじゃよ」

 

 俺を隠れ蓑にしてな!

 ここ大事だぞ!

 

「ね、ねぇ、ヒキガヤ?」

「ん?」

「この人誰なの?」

「え、お前ら知らないのか?」

 

 そうか、サガミは知らないのか。オリモトたちが知らないのはまあ分からなくもないがサガミもとなると、あんまりカントーの協会内での情報共有とかも出来てなかったのかもしれないな。

 よし、カロスはもっと情報共有をしていくとしよう。まあ、ほぼほぼ身内だから俺が何かやるってこともなさそうだが。ハルノ辺りに話してみるか。

 

「シンオウ地方のチャンピオンだよ」

「マ、マジで!?」

「多分………初めて会うから本人かどうかは知らんけど。見た目だけならチャンピオンだと思う」

「歯切れ悪ぅー、ウケるんだけど」

「ウケねぇよ」

 

 だって初対面なんだから本人確認しないと確かなこと言えないだろ。世界には自分のそっくりさんが三人くらいはいるとかって話なんだから、この人もそっくりさんの可能性だってあるだろうが。多分、カルネさんといるんだし、それはないとは思うが。

 

「初めまして。シンオウ地方ポケモンリーグチャンピオン、シロナよ」

 

 ご本人でした。

 いや、ほんと何しに来たのよ。

 

「………あー、そういや考古学の研究もしてましたっけ? それでか」

「カルネの言う通り、頭の回転が早いわね」

 

 おいおい、カルネさんや。

 アンタ一体俺のことをどう話してるんだよ。

 怖いからそういうのやめてもらえませんかね。

 

「いや、シロナさんが公に出してる情報でしょ」

「君に知ってもらえているのは光栄なことだわ」

「買い被りすぎです。俺は別に………」

「カルネに見せてもらったわよ。君とカルネのバトル」

 

 あのバトルを見せちゃってるのかよ。

 はあ………、いよいよ以って嫌な予感しかしない。

 

「あれは俺とカルネさんというより、そこのゲッコウガとカルネさんのバトルみたいなもんですよ。それも前のバトルの憂さ晴らしですし」

「でもメガサーナイトにメガシンカなしのリザードンで勝利してたわ。あれは君が指示を出していたのだし、それだけでもすごいことじゃない?」

「そうよ! あんなバトルをされたこっちの身にもなって欲しいものだわ。グリーンさん並みの技の正確性に加えて速攻を仕掛けられたんじゃ、何も出来なかったわよ」

 

 これは何を言っても俺の評価に繋がりそうだ………。

 何故四ヶ月半も経ってなお、あの時の話をしなきゃならんのだ。

 よし、さっさと帰ろう。特にすることもないし、顔を見せる程度に寄っただけなんだし。

 

「ほっほ、シロナさんや。ハチマンとバトルしてみてはどうかの?」

「はっ? おい、じじい。急に何言いやがる」

「ここまで興味を持たれてるんじゃ。いっそ実力を生で体感した方が気がすむって話じゃよ」

 

 確かにそうなのかもしれないが…………。

 やっぱりこうなるのかよ。

 チャンピオンといえど一介のポケモントレーナーである。ポケモントレーナーは内心好戦的なところがあるし、チャンピオンにまで登りつめたともなれば、その気概は最高峰とも言えよう。

 

「嫌だ。ここんとこずっとジムリーダーたちの相手をさせられてたんだ。そうでなくても変な生き物に襲われたりもしたし、疲れてるんだよ」

「い、一体だけでいいから。ね! ね!」

「ヒキガヤ、やってやりなよー」

「つか、ヒキガヤが女性二人に詰め寄られるとかウケる!」

「よし、サガミの給料は減額にするか」

「酷っ!? なんでうちだけだし!」

「お前、一応これでも俺はお前の雇い主だろうが。なら、せめてこういう時くらい俺の肩持てよ」

「えー、だってヒキガヤのバトル、最近見てないし」

「コマチとのバトルに育て屋放り投げて見に来てたサボリ魔はどこの誰だったんだろうな」

「あれはあれ! これはこれよ!」

「キルリア、大きくなったねー」

「キルルー!」

 

 はあ…………、ダメだこりゃ。

 一番まともなこと言ってくれそうなナカマチさんはキルリアと話してて我関せずを決め込みやがってる。

 強かさをそういう形で発揮するなよ。

 

「はあ………、なら誰とやりたいとかあります?」

「そりゃやっぱりリザードン!」

「………ゲッコウガだったら丸投げ出来たのに」

「自分のポケモンに丸投げとか酷いなー」

「………いたのかよ」

「もちろんいるよ。君がいるところに僕あり、だからね」

「久しぶりに変態面が出てきたな。本物の変態博士で間違いないのか」

 

 なんでこう俺の周りの大人って変なのしかいないんだろうな。まともな大人って…………誰かいたっけ? いない気がする…………。

 

「変態博士ってのはちょっと気になるところだけど、本物のプラターヌだよ。あ、そうそう。来週カントーに行こう」

「はっ? えっ? なに? 唐突すぎない?」

「いやー、カルネさんと来週のことで話してたんだけどね。仕事の関係もあってどうしても無理そうだから代理誰にしようかなーってなって、じゃあハチマン君だねってなっちゃってさー」

「やだよ、面倒い。ユキノシタ姉妹に仕事押し付けた形で視察に行ってたんだぞ。帰ったら俺もやることあるんだっつの」

「そこを何とか! 会議参加に僕と誰か一人は必要なんだよ! それも図鑑所有者やチャンピオンクラスの!」

「………図鑑所有者? それならエックスに頼めよ。あいつはああ見えて知識はあると思うぞ」

「彼には既に断られてるよ………」

 

 まあ、そうだろうな。

 あの引き篭もり体質が行きたがるわけがない。俺だって行きたくもないんだし。

 

「ちなみに私も参加するわよ」

「だから参加しろと? それとこれとは話は別でしょ」

 

 俺が渋っているとシロナさんが自身の参加も打ち明けてきた。

 だから何だという話である。俺には俺のやるべきことがあるってのに。

 

「そもそも何やるんだよ」

「各地域のポケモンの情報についての会議だよ。オーキド博士による主催で行われることになってさ」

「だから断るわけにもいかないってか」

「それに、君なら僕らの話にもついて来られる。どころかいい指摘をしてくれると思ってるんだ」

「だから参加しろと?」

「お願いだ! さすがに一人となると大変なんだよ! それにオーキド博士はもちろん、参加されるナナカマド博士にも顔を向けられない!」

 

 はぁ、これは断ってはいけないやつ、か。

 女性陣の目がめっちゃ怖い。サガミなんか博士に頭下げさせるなんてないわーって目をしている。よし、給料減らしてやる。

 参加せざるを得ないとなると、ただで参加するのも釈だ。どうせ参加するんだし…………各地方の博士が集まるってことは相当レベルの高い話になるのは明白。その話について来れない者は参加しても意味がない。というか邪魔なだけだ。でも俺が参加すれば後は増えても問題はないだろう。

 さて、後はこの条件が通るかどう………ん? ナナカマド博士?

 

「つか、何でナナカマド博士の名前が出て来るんだよ。オーキドのじーさんにってのは主催だし理解出来るが………」

「あれ? 言ってなかったっけ? 僕はナナカマド博士を師事してたんだよ。博士のおかげでこうして博士になれたと言っても過言ではないね!」

 

 へぇ、………へぇ!

 

「初耳だわ、多分。聞いてたかもしれないが記憶にない」

「ちなみにシロナの兄弟子でもあるよ」

「………どうしてこうも違うんだか。片やチャンピオンになって世界的に有名ってのに、片やただの変態博士とか」

「僕は早々にトレーナーの道を諦めたからね。バトルなんて自衛くらいしか出来ないのは知ってるだろう?」

「そりゃ、知ってるけど。ナナカマド博士ってポケモンの進化論の研究してる人だっけ?」

「そうそう! 博士の研究を手伝って、進化について勉強してたんだけど、どうにもカロスには変わった姿が昔からあるなと気付いたんだ。それで独立して………」

「メガシンカを提唱ってか」

「うん、そう!」

 

 なるほど、そういう繋がりがあったのか。

 世界は広いようでほんと狭いな。

 

「ほーん、一応下積み時代もあったんだな」

「博士がいたからこそ、メガシンカに辿りつけたんだ。少なくとも僕はそう思ってるよ」

「………分かったよ、ついて行ってやる。ただし条件がある」

「じ、条件……?」

 

 ジムの視察が終わったら仕事はもちろん、イロハの特訓にも付き合う予定だった。それが出来なくなるってんだから、こうするしかないだろう。

 

「イロハも連れていく」

「イロハちゃんをかい? それは特に問題はないけど。そんなことでいいのかい?」

「俺は元々帰ったらあいつの特訓にも付き合う予定だったんだよ。それがカントー行きで出来なくなるってんなら、いっそ連れて行ってあっちで時間見つけて特訓に付き合った方が効率がいい」

 

 時間があるかはまた別の話ではあるが。

 それでもあいつを連れていくのは充分メリットがある。

 

「チャンピオンのお二人に聞きますけど、四天王はバトルの技術が高いってだけで選ばれると思いますか?」

「それはないわね。そもそもそんな技術があるのなら、当然ポケモンの知識も豊富ということ。対戦相手のポケモンについて分かっているからこそ、即対応策を練ることが出来る。だからこそ、四天王は強いわ」

「そうね、ドラセナたちが手塩にかけて育ててはいるけれど、彼女はあれでもまだトレーナーになって一年しか経ってないものね。そういう点で言えば、今回の会議に参加する意義は充分にあると思うわ。私も彼女にはもっと見聞を広めて欲しいと思っているもの」

 

 やはり、彼女らも俺と同意見らしい。

 

「ほっほ、やはりお主にイロハを任せて正解だったようじゃのう」

「変な勘繰りはやめてくれ。ハルノの思惑通りだったとは言え、あいつが四天王を目指すと決めたんだ。なら俺は出来ることをやってやるだけだっつの」

 

 じじいは何か勘違いしているようだけど。

 俺は単にイロハが上を目指すと言ったから、それに必要なことを提案しているだけである。最終的な判断はあいつがするのだから俺がどうのではない。

 

「お主がそう言うということはそれだけの価値があの娘にあるということじゃろて」

「そうだね。僕もイロハちゃんにポケモンを託した身として、彼女の成長は嬉しい限りだ。それがこんなことで役に立つというのなら是非連れて行こうじゃないか」

 

 よし、決まりだな。

 後はあいつがあっちで何を掴んでくれるか。

 まあ、あっちでやるみたいだしオーキドのじーさんも来るっていうんだから、あいつらも来るはず。初代図鑑所有者に会うだけでもいい経験になるはずだ。

 

「………ヒキガヤってあの子には甘いよねー」

「確かに! ウケるんだけど!」

「ウケねぇよ」

 

 茶々を入れてくるアホ二人は放っておこう。

 

「さて、それじゃバトルといきましょうか」

「なんだ忘れてなかったのか…………。このままフェードアウトってのを期待してたのに」

「あら、逆に益々君に興味が湧いて来たわよ?」

「はあ………、分かりましたよ」

 

 全く、バトルのことになるとイキイキしやがって。何でどいつもこいつもバトルばっかなんだよ。そんなんだから結婚………ゲフンゲフン! おっと危ない。声に出してないのに一瞬で睨まれてしまった。

 超怖い。視線だけで射殺せそう。

 

「シロナ、もし良ければコレを使ってみないかい?」

「これは………カルネが持っているのと同じキーストーン?」

「そうそう、それとコレも」

「………ガブリアスナイト、ってこと?」

「うん、僕もガブリアスを連れているのは知ってるだろ? それでメガガブリアス自体のデータは取れてるんだけど、各個体による違いというものがまだまだ足りなくて。君のガブリアスのデータも取りたいなと思って」

「………分かりました。私自身、メガシンカには興味がありましたから」

「万が一、暴走という危険性もあるけど、それも今回なら大丈夫だと思うから。なんたって彼がいるし」

「おい、コソコソやってるつもりなんだろうが丸聞こえだからな」

 

 随分と親しげなことで。

 まあ、取り敢えず忠告だけはしておくか。

 

「シロナさん、先に忠告しておきますけど、メガシンカはそんじょそこらの力とはわけが違います。はっきり言って、自ら力に呑まれに行くようなものです。力に気圧された時点で………あなたたちには使いこなせない。そういう覚悟は持っといて下さい」

 

 そう言うとシロナさんの目付きが変わった。

 こういう目をされるとやはり彼女はチャンピオンなのだと思い知らされる。カルネさんも時たまそういう目を見せるからな。チャンピオンモードへの切り替えが出来るのだろう。

 

「行きなさい、ガブリアス」

「出てこい、リザードン。仕事だ」

 

 なので、こちらも仕事と題しておく。

 審判は………カルネさんか。

 

「ルールはリザードンとガブリアスの一騎打ち。どちらかが戦闘不能になればバトル終了。技の使用制限はなし。これでいいかしら?」

「ええ」

「では、バトル始め!」

 

 カルネさんの合図でバトルが始まった。

 

「ガブリアス、ドラゴンダイブ!」

 

 先に動いたのはガブリアスの方。

 速攻を仕掛けようとしているのだろう。

 

「受け止めろ」

 

 やろうとしていることは分かっているので、まずはどの程度の威力なのか確認することにする。

 

「なっ?! 受け止めた!?」

「十五メートルってとこか。お返しだ、ドラゴンダイブ」

 

 両腕をクロスして赤と青の竜を纏ったガブリアスを受け止めるも、ざっと十五メートル程後ろへと追いやられた。

 リザードンへのダメージは思ったよりもない。これならば、どうとでもなりそうだ。

 お返しと言わんばかりにドラゴンダイブでガブリアスを突き飛ばした。

 

「強い………」

 

 こちらは二十五メートル程。

 十メートルの差ともなれば、結構な力量差に思えて来る。それだけ今のリザードンは逸脱している証だ。ガブリアスもチャンピオンの切り札なのだから強いはずなんだがな………………。

 

「どこでそんな力を?」

「本人曰く、メガシンカを失ってから身体が軽いそうですよ。ま、頭も身体もメガシンカ時のことを覚えてますからね。身体が軽い分、動きも俊敏。一瞬早く動けるだけでパワーを溜め込むには充分なんですよ。だからメガシンカ時と遜色がない。何なら身体が軽い分、こっちの方が強いまであります」

 

 基礎はしっかりと出来ていることが前提にはなるがな。

 それを言ったらチャンピオンのポケモンだって基礎は出来ている。そうでなければチャンピオンになんて昇り詰めることなど到底無理。

 

「そう………。ガブリアス、目の前の相手は強敵よ。あなたはどうしたい?」

「ガブ、ガブガ」

 

 諦めるという発想はないだろう。逆に火をつけてしまったと言った方が正しいまである。

 

「分かったわ。力に呑まれないようにね。いくわよ、ガブリアス。メガシンカ!」

 

 シロナさんはガブリアスの意志に応えるように叫んだ。すると彼女が握り締めるキーストーンとガブリアスに渡したメガストーンが光り出し共鳴していく。光は互いに結び付き一体となっていった。

 

「これが………メガシンカ………!」

 

 実物を目の当たりにしたシロナさんは目を見開いている。これは誰しもが通る道というものだ。こんな美しく神々しい光景に言葉を失うのは至極真っ当な反応。俺だって初めての時はただただ驚いていたからな。相手になってくれていた暴君様がいたおかげですぐに実践に移ることが出来たが、あいつがいなかったら俺とてその光景に見惚れてただけかもしれない。

 

「ガバガッ!」

「ガブリアス、ドラゴンダイブ!」

「リザードン、ドラゴンダイブで迎え撃て」

 

 赤と青の竜を纏った二体のドラゴンはぶつかり合うと衝撃波を生み出した。行き先を失うと生じる衝撃波。その規模はオリモトたちのスカートがめくれ上がる程である。小さいポケモンたちなら吹き飛ばされていただろうな。

 

「効いてる………!」

「さすがはメガシンカ。さっきとは威力がまるで違う」

 

 お互いに三十メートルと言ったところか。

 先程とは打って変わって互角のやり合いであった。

 

「ガブリアス、りゅうせいぐんよ!」

 

 続け様にガブリアスは流星を打ち上げる。

 

「リザードン、ソニックブースト。流星より高く昇れ」

 

 それと同時にリザードンも空へと急上昇を始めた。

 

「流星と並走………っ?! まさかそんな形で躱すというの!?」

 

 リーグ大会で色々なりゅうせいぐんを見て来た中で思ったのが、打ち上げられる流星が弾く前にそれより高いところにいれば、そもそもダメージは受けないんじゃね? というものだ。

 ついでだし、それを実行してみたのだが、まさかすぐに意図を気付かれてしまうとは。

 

「ガブリアス、はかいこうせん! 流星をもっと高く撃ち上げるのよ!」

 

 おおう、何という柔軟性。

 はかいこうせんでもっと高い位置へと押し込んで来るとは。

 

「ハイヨーヨー」

 

 しかもあの禍々しい光線は流星の爆発時間までも加速させている。このまま上昇を続けたところで爆発に巻き込まれる可能性の方が高い。

 ならばとリザードンを反転させ、弾けて群となった流星を引き連れて急下降していく。

 

「すなあらし!」

 

 下にはもちろんガブリアスが待ち構えている。

 だが、砂嵐を起こして身を隠しやがった。不意打ちを狙う気だろう。そしてそれを可能にするのは特性すながくれ。

 

「トルネードドラゴンクロー」

 

 ならば、自分の周りだけでも嵐が治れば、襲いかかるガブリアスの姿を捉えることも可能だろう。

 

「ブラストバーン」

 

 ついでに炎の究極技を嵐の方にへと送り込んだ。逆回転で急下降した勢いで一瞬無風状態となり、そこに炎を送り込んだことで次々と爆発が起きた。

 小規模ながらも粉塵爆発。

 まさか出来てしまうとは。てか、使い方次第で砂嵐が危険なものへと成り果てることが分かったな。今後気をつけよう。

 

「ゴバァ!?」

「ガブリアス!?」

 

 爆発に巻き込まれたのか、呻き声が聞こえた。

 

「さすがに砂嵐解消とまでいかないか」

 

 けど、結局砂嵐は続いたまま。天候の上書きでもしない限り解消まではいかないのかもしれない。そう思うと天候を操るってすごいことなんだな。

 

「本当、あなたたちの実力は桁外れね。粉塵爆発なんて普通は思いつかないわよ」

「そりゃどうも。でも狙ってた規模とは程遠い出来でしたけどね」

「下降気流と回転を活かして砂嵐を一瞬でも止めただけでも凄いことよ。まず私たちには出来ないわ」

 

 そりゃ俺も出来るとは思ってなかったくらいだ。

 

「んじゃ、そろそろ決着つけますか。初メガシンカで長時間使用は暴走のリスクが高まるだけですし」

「………はぁ、カルネの気持ちも分かるわね。これは確かに敵わないわ」

 

 俺も暴君様に最初は頃合いを出されたからな。

 今なら何となくあいつの気持ちが分からんでもない。

 

「リザードン、りゅうのまい」

「ガブリアス、ストーンエッジ!」

 

 頭上で炎と水と電気の三点張りから竜気を生成。それを降ろすと丁度地面から岩が突き出して来た。だけど、竜気がそれを粉々に砕いていく。

 

「ドラゴンダイブ!」

 

 ダメージになってないと分かるや赤と青の竜を纏ってガブリアスが突っ込んで来る。ここまでやって来て思うのは、ガブリアスの得意技がドラゴンダイブなのだろうということ。

 確かにいい技ではある。勢い任せな技であるため躱されやすいが、だからこそコントロール出来ればかなりのものになる。

 

「ふっ、カウンター」

 

 でも、その突撃が仇となるとは予想してないだろうな。

 纏った竜気を盾にガブリアスを突き返した。勢いをつけて来た分、カウンターがよく刺さる。

 

「ガブリアス、戦闘不能! よって勝者、ハチマン君!」

 

 三回くらいバウンドしたガブリアスは地面に伏し、メガシンカを解いた。

 それを見てカルネさんも判定を下す。

 

「いやー、いいデータが取れた! メガシンカ前後で技の威力の比較出来るようにしてくれるなんてさすがハチマン君だよ!」

「褒めたって何も出ねぇぞ」

 

 ま、これで充分だろ。バトルも終わったし、データも取れた。さっさと帰ろう。

 

「キルゥ?!」

 

 ッ!?

 

「キ、キルリ………ッ?!」

 

 悲鳴が聞こえた方を見ると何かがキルリアを担いで走り出した。

 

「待ちやがれ!」

 

 思わず声を張り上げるが一歩前に出て自分の足では追いつかないと思い直し、リザードンの方へと向かう。

 

『チッ、育て屋だからと気を抜いていた! ハチ、先に行く!』

「頼む! リザードン、ゲッコウガを追いかけてくれ!」

「シャア!」

 

 キルリアがいたと思われる場所にはナカマチさんが倒れていた。オリモトたちが駆け寄っているし、そっちは任せておこう。

 

「あ、ちょ!?」

「ミカルゲ、私たちも追いかけるわよ! サイコキネシス!」

「シロナさんも?! 博士、取り敢えずこの場はお願いします!」

「わ、分かりました!」

 

 くそ、なんだってんだよ!

 これがゲッコウガたちならまだ冷静でいられたはずだ。抗う力を持ち合わせているのだから、焦ることはない。

 だけど、キルリアは………! あいつはまだそんなレベルに達しちゃいない。ただのか弱い女の子だ。それに…………。

 

「ハチマン君!」

「シロナさん………!」

「犯人に心当たりは?」

「………いつでも狙われておかしくない立場っすよ? いちいち犯人を特定なんて出来ませんよ」

「それにしては顔色悪すぎよ」

「キルリアだからっすよ。これがゲッコウガとかならまだ冷静でいられた。けど、キルリアは別だ。あいつは親と逸れちまってるんです。それがトラウマで俺やゲッコウガの側からあまり離れようとしない。ボールにすら入られない始末ですよ。そんな奴が誘拐なんてされたら…………」

「…………そういうことね。確かにそれは事を急ぐわ」

 

 どうか、心を失くさないでいてくれよ………!

 

『ハチ』

「っ!? ナイスだ、ゲッコウガ」

『オレを感知出来るか?』

「………ああ、問題ない」

『なら、このまま繋げておく。オレは相手の出方を伺うことにする』

「そうしてくれ」

 

 久しぶりのゲッコウガとのシンクロ。

 頭の中にあっちの映像も流れてくる。

 

「えっと、ゲッコウガ………?」

「ええ」

「ハチマン君! キルリアの居場所はっ?」

 

 シロナさんか聞いて来たためそれに答えると、その後ろからカルネさんも追いついて来た。

 

「ゲッコウガが見張ってます」

「カルネ、ハチマン君とゲッコウガって離れていても会話が出来るの?」

「ええ、出来るわよ!」

 

 そのおかげで場所の特定も出来る。しかもそれを可能としているのはゲッコウガの脚があるから。ほんと、ゲッコウガ様々だな。

 

「ここ、か………?」

 

 リザードンに逐一指示して辿り着いたのは森の中だった。

 

『ハチ』

「ゲッコウガ、敵は誰だ?」

『エルレイドだ』

「エルレイド………? トレーナーの姿は?」

『まだ見てない。ただ、オレの予想では人間はいないと思う』

「人間がいない? それってあのカラマネロたちみたいなパターンか?」

『いや、そういう類ではない。あのエルレイドは………キルリアの親だ』

「ッ?!」

 

 キルリアの、親………!?

 

「キルリアの親………」

「彼らがそうだというの?」

『ああ、会話でそう言っている。それに見ろ。あのキルリアが警戒していない。奥には他にもいるみたいだし、群なのは確かだ』

 

 そう、か………ようやく会えたんだな。

 

「………どうするの?」

「どうするも何もやっとあいつの親が見つかったんですよ? それにあんな笑顔を見せられたら…………ぐぇ?!」

『それを決めるのはキルリア自身だ』

「俺、まだ、何も言ってないんだけど…………」

 

 ねぇねぇ、鳩尾に入れるのやめてくれない? 思わずリバースしちゃうところだったぞ?

 あ、ちょ、こら、待てよ………!

 

『おいおい、エルレイドさんよォ。いくらそいつの親だからって誘拐染みたことまでして連れ去るとか、頭沸いてンじゃねぇかァ?』

 

 いやだから何で煽ってんだよ。煽っちゃダメでしょうが。

 

「キル? キールルー!」

 

 ああ………キルリアは可愛いなこんちくしょう!

 

「おいこら、ボケガエル。黙って見てれば誰演じてんだよ」

 

 胸を摩って何とか痛みを和らげ、ゲッコウガの元へと向かった。キルリアが元気に手を振っている。可愛い。

 

『一度やってみたかっただけだ』

「なに? 今度は役者でも目指すのん?」

『そこまでする気はない』

「あのー、二人とも? エルレイドたちが訝しんでいるわよ?」

『キルリア! お前からオレたちの説明をしろ!』

 

 あ、その手があったな。

 キルリア、頼むぞ。

 

「キル? リ、リアー!」

 

 うん、敬礼姿も可愛い。

 しかし誰はすだ? あんなあざとい仕草を教えやがったのは。帰ったらお仕置きだな、あの天然水。

 

「なあ、ゲッコウガ。カメラ持ってない?」

『ホロキャスターに内蔵されてなかったか?』

「そういやあったな、そんな機能」

 

 ホロキャスターを取り出して元気に説明しているキルリアを撮影。うん、いい笑顔だ。家族に会えて嬉しいのが伝わって来る。

 

「………まるで娘を撮る父親ね」

「同感だわ」

『キルリアはリザードン以来のハチが一から育てているポケモンだからな。オレも含めてあいつが育てたというポケモンはほとんどいない』

「………ジュカインやヘルガーも?」

『ああ、ジュカインは自ら強くなり、ヘルガーは既に出来上がっていたらしい。ボスゴドラは言うまでもない』

 

 おっと、終わったようだな。

 

「エル、エルエル」

『無礼を働いて申し訳ない、だとよ』

 

 エルレイドがこちらに向けて頭を下げて来た。ゲッコウガを介して謝罪文まであるらしい。

 

「まあ、逸れた娘が無事で見つかったんだ。取り乱すのも分からなくもない」

 

 気持ちは分からなくもないからな。俺だってコマチが誘拐されて無事に見つかれば一目散に駆けつけるだろうし。

 だから、別にエルレイドたちを責める気はない。

 

「何があったかは大体予想は出来ている。巻き込まれたみたいで災難だったな」

「エル」

「さて、家族も見つかったみたいだし、俺も一安心だわ。これで一つ問題は解決出来た」

 

 新たな問題も出てきたが。

 でもそれはゲッコウガの言う通り、俺が決めることではない。

 

「キルリア、お前にとっては辛い選択をさせると思うが、お前はどうしたい? 家族と暮らすか? それとも俺たちと来るか?」

 

 エルレイドの後ろを見ると、サーナイトを始めとする何体かの進化系が集まっていた。どうやらここがこいつらの今の縄張りらしい。

 

「キル……キルゥ…………」

 

 視線を戻してキルリアを見ると俺とエルレイドを交互に見て、目をうるうるさせている。

 やっぱ決め辛いよな、こういうのって。

 

「エル」

「リア?」

「エルエル」

「リアー!」

 

 どうやらエルレイドが何か言ったみたいだな。

 

『エルレイドがオレたちについて行けってよ』

「あっちが折れたのか………なんか悪いことしたな」

「それを言ったら野生のポケモンを捕まえること自体、ある意味強引なことよ。私たちの欲で捕まえて勝手に仲間にして。家族がいたら、そりゃもう悲惨よ」

 

 確かに、シロナさんの言う通りなんだよな。人間の欲でポケモンを捕まえて。元の家族から切り離して、偉そうに気取る。中々質の悪い生き物だよ。ポケモン側からすれば侵略者とも言えるだろう。

 当たり前の光景で慣れてしまっていたが、改めて思い返してみると酷い話だよ、全く………。

 

『キルリアの強さが知りたいってよ。エルレイドとバトルするのが条件らしい』

「それは構わんが…………キルリア、それでいいか?」

「リア!」

 

 送り出すにもキルリアが外でやっていけるのか気にしてるんだろうな。それと、俺を試す気なのだろう。

 

「んじゃ、キルリアこっち来い」

「リーア!」

「距離はこんなもんでいいか」

 

 キルリアを呼び寄せ、エルレイドとの距離を取る。バトルフィールドがあるわけではないため超適当。

 

「キルリア、お前が頑張ってきた成果をパパに見せてやれ」

「キルル!」

「エル………!」

 

 早速先手を打って来たか。

 娘相手でも容赦ないってことだな。

 

「キルリア、リフレクター」

 

 使って来る技は恐らくつじぎりなのだろう。右腕の刃が黒く光っている。同じ技でも使うポケモンによって若干変わって来るのが面白いところだよな。

 

「エル!」

「リアッ?!」

 

 間髪入れずに左拳を黒く光らせて回り込んで来やがった。今度はじごくづきか? パパンも結構やり手だな。動きに無駄がない。ただそうなると守りからのカウンターを仕掛けるってのはあまりいい手ではないようだな。

 責めるか。

 

「キルリア、大丈夫か?」

 

 エルレイドに投げ飛ばされたキルリアに呼びかけるとヨロヨロと立ち上がった。今ので結構ダメージをもらったらしい。

 

「リ、リア!」

「よーし、ならトリックルームだ」

「リーーアーーッ!!」

 

 動きはやはりキルリアの進化系。キルリアよりも素早くなっていた。だから守りも追いつかない。

 ならば、そこを逆手に取るしかないだろう。

 

「マジカルシャイン」

 

 咄嗟に避けようとエルレイドが身体を捻るも、この特殊な部屋の中ではその動きが仇となってしまう。キルリアから迸る光はエルレイドへと直撃した。効果は抜群。ただし、相手は進化系のエルレイド。一撃で倒れることはない。

 

「エール」

 

 なっ!?

 まさかトリックルームだと?!

 特殊な部屋の中にさらに部屋を作り出すとは………。

 というかキルリアのトリックルームはパパンの技なんじゃね?

 

「こういうところで親子ってのを見せつけてくれるな。キルリア、まもる」

 

 右腕の緑色に光る刃を防壁を張って受け止めた。リーフブレードだな。さっきじごくづきを見る限り、あと二発ももらえばキルリアが負けるだろう。

 

「ッ、キルゥゥ!?」

 

 チッ、フェイントか。

 随分と戦い慣れてるな。

 

「キルリア、立てるか?」

「リ、ア………」

 

 突き飛ばされたキルリアは地面に伏しているが、立とうとはしてるしてし戦意はまだ失っていないみたいだ。

 それにしてもフェイントですらこの有様か。

 もしかしてパパンって、めっちゃ強くね?

 そりゃリザードンたちと比較したらダメだが、一般的に見てこのエルレイドは強い。それに気を抜いていたとはいえ、ゲッコウガがいる場からキルリアを連れ出したんだ。強くないはずがないわな。

 

「キルゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウッ!!」

「はっ?」

 

 おいおいおい!

 この白い光………。

 まさかここで進化するのかよ!

 それだけ俺の側にいたいと思ってくれてるってことなのか?

 くそ、こんなの嬉しすぎるだろうが!

 

「サナ!」

 

 キルリアは白い光に包まれるとサーナイトへと進化した。

 いいぜ、サーナイト。

 

「サーナイト、お前にとっておきの技を教えてやる」

 

 お前が俺を求めるなら俺は全力で応えてやるよ。

 

「まずは自分の波長を捉えろ。お前はエスパー・フェアリータイプ。二つの波長が混ざっているはずだ」

 

 この技は非常に特殊だ。使い勝手も悪い。相手を選ぶ必要あるからな。

 

「次はエルレイドだ。同じように波長を捉えろ」

 

 それでも覚えておいて損ではない技だ。自分と同じタイプに対して、特殊な電波を送って感覚を崩させることも出来るんだからな。

 

「………サナ!」

「分かったみたいだな。んじゃ、その中のお前と同じエスパータイプの波に対して半分だけ間隔をずらした波を送り込むぞ。シンクロノイズ!」

 

 シンクロノイズ。

 自分と同じタイプの相手に対してだけ効果が発揮する特殊な技。音っぽい技ではあるが、特殊な電波技だ。ジャミングと表現した方が近いだろう。サーナイトが使えばエスパーとフェアリータイプを持つポケモンに対して効果を発揮し、エルレイドに対しては大ダメージとはなり得ない。だけど、ジャミングとしては使える。

 

「エル!?」

 

 妙な感覚を覚えただろうエルレイドがサーナイトから視線を外した。

 

「サーナイト、マジカルシャイン」

 

 その隙に再び光を発しエルレイドへと直撃させた。だが、それを受けながらも負けじとエルレイドも動き出している。

 

「テレポート」

 

 完全にモノにしたわけではない。けれど、進化してまでパパンに自分が強くなったことをアピールしてくれているんだ。トレーナーの俺がその勢いを信じなくてどうするよって話だろ。

 

「シャドーボール」

 

 どうやらエルレイドはインファイトで攻撃をする隙を与えないようにするつもりだったみたいだが、サーナイトがテレポートでエルレイドの背後に移動したことで空振りに終わった。

 そして背後からの青黒い弾丸によって撃ち飛ばされてしまった。

 

『勝負あり、だな』

 

 エルレイドによっていったゲッコウガが判定を下した。お前、いつの間に審判になってたんだよ。

 

「お疲れさ………うぁぷ!? ちょ、サ、サーナイト!?」

「サナサナサナ!」

 

 同じくボロボロであろうサーナイトに声をかけようとして、押し倒された。

 俺の胸に頭を擦り付けて脚をバタつかせている。

 何この可愛い生き物。一生このままでもいいかも。

 

『どうだ? さすがにバトル中に技を覚えさせるとは思ってなかっただろ?』

「エル………」

『けど、ハチはそういうトレーナーだ。トレーナーとしての実力はトップクラスだぞ』

 

 ゲッコウガたちの会話を聞きながら、興奮しているサーナイトの頭を撫でてやる。すると段々と落ち着きを取り戻してくれたようで脚のバタつきはなくなった。

 

『あいつ以上にサーナイトの力を引き出せる奴はいないだろうな』

「エル………」

 

 というかなんかトロけきってる。

 え、何故に?

 

「私のサーナイトがキルリアだった頃を思い出したわ」

「ねぇ、ちょっとカルネ? 私初めて見たんだけど。バトル中に新しく技を覚えさせるトレーナーなんて聞いたことがないわよ?」

「彼は昔からそうらしいのよ。スクールに通っていた時点でやっちゃってるって話だったわ」

「………どうしてあれで図鑑所有者に選ばれなかったのかしら」

「それが運命というものなのでしょう。残酷ですよね」

 

 なんか酷い言われよう。

 俺からしたら割と普通のことなのに。

 

「エル………!」

「サーナイト、起きてくれ」

 

 一息ついたエルレイドがこちらにやって来たので、俺も身体を起こした。パパンが来たからかサーナイトも大人しく従ってくれている。

 

「エルレイド、一つ提案がある。俺たちがいたところは育て屋っていうんだ。トレーナーから預かったり保護したポケモンたちが生活してるんだが、お前らもそこに来ないか? 安全面も食も保証できる。それに、そうしてくれると俺も定期的にこいつと会わせてやれる。やっと見つかった家族なんだ。こんなところでまた離れ離れってのも悲しいだろ」

 

 家族が離れ離れになるのは俺も意図するところではない。親父や母ちゃんもあんなんだが、心配はしてくれているはずだ。コマチ九割俺一割くらいかもしれんが。それでもやっぱり親だからな。それを思うとエルレイドたちにも安心してもらいたい。家族の一人を預かるんだから、それくらいはさせて欲しいというものだ。

 俺って結構家族ってのに拘りがあるんだろうな……………。

 

「エル!」

「よし、決まりだな」

 

 俺の提案は快諾された。

 

「あ、そうだ。キーストーンとガブリアスナイト返さなくちゃ」

「そうですね。戻りましょうか」

 

 あー、そういやあっちは放ったらかしにして来たんだったな。

 となると今すぐエルレイドたちに移動を頼むってのも難しいか。

 

「んじゃ、エルレイド。またな。あっちには話をつけておくから、いつでも来てくれ」

「エル」

「サーナナー!」

「ありがとな」

 

 これからはいつでも会えるだろう。サーナイトにはエルレイドたちともいて欲しいしな。出来るだけ時間を作ってやろう。

 

「サーナ!」

「ん? って、あ、おい………」

 

 サーナイトが俺の腰に巻きつけてあるボールを急に剥ぎ取り、スイッチを押してしまった。そのまま赤い光に包まれてサーナイトはボールの中へと吸い込まれていく。

 突然のことに驚いたが、ボールをまじまじと見てその意図に思い当たった。これはサーナイトが一つ壁を乗り越えた証だ。

 

「………頑張ったな、サーナイト」

 

 やっぱり家族の力ってのはすげぇな。




行間

ヒキガヤハチマン 持ち物:キーストーン 菱形の黒いクリスタル ソウルハートetc………
・リザードン(ヒトカゲ→リザード→リザードン) ♂ 
 特性:もうか
 覚えてる技:かえんほうしゃ、メタルクロー、かみつく、おにび、えんまく、はがねのつばさ、かみなりパンチ、ドラゴンクロー、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、かみくだく、カウンター、じしん、フレアドライブ、ブラストバーン、げきりん、じわれ、だいもんじ、ソーラービーム、リフレクター、はらだいこ、ぼうふう、ねっぷう、あなをほる、れんごく、かげぶんしん
 飛行術
 ・ハイヨーヨー:上昇から下降
 ・ローヨーヨー:下降から上昇
 ・トルネード:高速回転
 ・エアキックターン:空中でターン
 ・スイシーダ:地面に叩きつける
 ・シザーズ:左右に移動して撹乱
 ・ソニックブースト:ゼロからトップに急加速
 ・コブラ:急停止・急加速
 ・ブラスターロール:翻って背後を取る
 ・グリーンスリーブス:連続で攻撃して空中に釣り上げる
 ・デルタフォース:空中で大きな三角形を描くように連続攻撃
 ・ペンタグラムフォース:空中で五芒星を描くように連続攻撃
 ・バードゲージ:スピードを活かして相手の動きをコントロールしていく
 ・スモール・パッケージ・ホールド:背面飛行で相手の下を飛行する

・ゲッコウガ(ケロマツ→ゲコガシラ→ゲッコウガ) ♂
 特性:きずなへんげ(へんげんじざい→きずなへんげ)
 覚えてる技:みずのはどう、あなをほる、かげぶんしん、れいとうパンチ、れいとうビーム、つばめがえし、ハイドロポンプ、くさむすび、グロウパンチ、えんまく、がんせきふうじ、いわなだれ、まもる、かげうち、みずしゅりけん、どろぼう、つじぎり、ハイドロカノン、めざめるパワー(炎)、とんぼがえり、とびはねる、ほごしょく、けたぐり、ぶんまわす、あくのはどう、どろあそび、ふぶき、たたみがえし

・ジュカイン(キモリ→ジュプトル→ジュカイン) ♂
 持ち物:ジュカインナイト
 特性:しんりょく←→ひらいしん
 覚えてる技:でんこうせっか、リーフストーム、リーフブレード、ドラゴンクロー、タネマシンガン、ギガドレイン、かみなりパンチ、スピードスター、くさむすび、ソーラービーム、エナジーボール、シザークロス、くさのちかい、マジカルリーフ、タネばくだん、こうそくいどう、つめとぎ、いやなおと、こうごうせい、くさぶえ、やどりぎのタネ、グラスフィールド、なやみのタネ、ハードプラント、つばめがえし、ものまね、みがわり、じならし、アイアンテール、けたぐり、つじぎり、グロウパンチ、まもる

・ヘルガー ♂
 持ち物:ヘルガナイト
 特性:もらいび←→サンパワー
 覚えてる技:かみつく、ほのおのキバ、ふいうち、おにび、かえんほうしゃ、かみくだく、れんごく、ほえる、はかいこうせん、アイアンテール、あくのはどう、みちづれ、だいもんじ、ハイパーボイス、ヘドロばくだん、ちょうはつ、ほのおのうず、まもる

・ボスゴドラ ♂
 持ち物:ボスゴドラナイト
 特性:がんじょう
 覚えてる技:ロックブラスト、あなをほる、なげつける、メタルクロー、アイアンヘッド、アイアンテール、てっぺき、メタルバースト、ボディパージ、ヘビーボンバー、ロックカット、ほのおのパンチ、もろはのずつき、ラスターカノン、ドラゴンダイブ、でんじふゆう、だいちのちから、カウンター、ばかぢから

・サーナイト(ラルトス→キルリア→サーナイト) ♀
 特性:シンクロ
 覚えてる技:リフレクター、ねんりき、まもる、テレポート、マジカルリーフ、シャドーボール、マジカルシャイン、トリックルーム、シンクロノイズ

控え
・???(白い生き物)
 覚えてる技:ようかいえき


ゲッコウガ
・ニダンギル(ヒトツキ→ニダンギル)
 特性:ノーガード
 覚えてる技:ラスターカノン、せいなるつるぎ、つばめがえし、かげうち、つじぎり、シャドークロー、きんぞくおん

・キリキザン
 特性:まけんき
 覚えてる技:つじぎり、くろいまなざし、ロックカット、メタルクロー

・アギルダー
 特性:うるおいボディ
 覚えてる技:スピードスター、むしのさざめき、ギガドレイン、みずしゅりけん、こうそくいどう、かげぶんしん、こころのめ、はたきおとす、バトンタッチ

・メタング(ダンバル→メタング)(色違い)
 覚えてる技:ラスターカノン、じならし、ひかりのかべ


シロナ
・ガブリアス ♀
 特性:すながくれ
 覚えてる技:ドラゴンダイブ、りゅうせいぐん、はかいこうせん、ストーンエッジ、すなあらし

・ミカルゲ ♀
 特性:プレッシャー
 覚えてる技:サイコキネシス、でんげきは


カルネ 持ち物;キーストーン
・サーナイト ♀
 持ち物:サーナイトナイト
 特性:トレース←→フェアリースキン
 覚えてる技:サイコキネシス、シャドーボール、ムーンフォース、リフレクター

・ルチャブル
 持ち物:パワフルハーブ
 特性:かるわざ
 覚えてる技:ゴッドバード、アクロバット、フライングプレス、つめとぎ

・ヌメルゴン
 覚えてる技:かみなり、りゅうせいぐん、パワーウィップ、あまごい

・パンプジン
 覚えてる技:ゴーストダイブ、ソーラービーム、にほんばれ、やどりぎのタネ

・アマルルガ ♀
 覚えてる技:ほうでん、フリーズドライ、めいそう、メロメロ

・ガチゴラス
 特性:がんじょうあご
 覚えてる技:かみなりのキバ、ばかぢから、りゅうのまい、みがわり


野生
・エルレイド
 覚えてる技:つじぎり、じごくづき、リーフブレード、フェイント、インファイト、トリックルーム


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ぼーなすとらっく13『新たな可能性』

今回は『バイバイキルリア』から一週間後、『シャラジムにイケメン御曹司』から三ヶ月弱後の話になります。


「ワパ、ワパワパ!」

「ちょ、マシュマロ待ってぇぇぇ!」

 

 この子を拾って二週間。

 毎日振り回されてばっかり。可愛いから許しちゃうけど、もうちょっと落ち着かないかなー。

 

「ユイさんも大変だね………」

「あははは………」

 

 二週間前、久しぶりに隣町のヒヨクシティの港に行ったんだけど、これがあたしの運命なのかな。ウインディのクッキーみたいに船に乗り込んでいたマシュマローーワンパチっていうポケモンーーに体当たりされてしまった。どうやらお腹が空いていたらしく、あたしが持っていたシャラサブレを狙ったみたい。取られちゃったから仕方なくシャラサブレを全部食べさせていると…………誰も探しに来なかったんだよねー。恐らくトレーナーのいない野生のポケモン。どうしようか悩んでたら食べ終えたワンパチがあたしの顔まで舐め始めて、その可愛さにあたしの方がやられてしまい現在に至る。

 あ、ちなみにマシュマロは女の子だよ! こんなにやんちゃだけど!

 

「シュウ、マロン! マシュマロを止めてー!」

 

 目を離すと、というか見ていたとしても何かしらやらかしたがるこのやんちゃ坊はとにかく大変だ。ルカリオのシュウやブリガロンのマロンが激しい技の応酬をしているところに突っ込んでいくくらいには無鉄砲。

 

「バギ?!」

 

 しまいにはコマチちゃんがガラル地方? へ旅だった翌日にコンコンブルさんからもらったタマゴが孵って生まれたバルキーのビスケまで巻き込まれてしまう。

 生まれたばかりで戦い方もよく分かっていないし、逃げることもままならないんだよね……………。

 

「ビスケ、大丈夫?!」

「バ、バギーッ!」

 

 ああもうほら泣いちゃったじゃん!

 

「ルガ………」

「ワパワパ!」

「ありがと、シュウ」

 

 マシュマロの首根っこを掴んで捕まえてくれたシュウからマシュマロを受け取った。そしてビスケを慰めてくれるようだ。頼もしい限りだよ。それに比べて………もう、今度こそ逃がさないからね!

 

「マシュマロ、ちょっと落ち着くし! いくらお腹空いたからって走り回らないの! 周りは特訓してたりする子もいるんだから、みんなが危ない目に遭うでしょ! それにマシュマロだって怪我しちゃうんだからね?!」

「ワパワパ!」

「分かった!?」

「ワパワパ!」

 

 はあ………、絶対分かってないよぅ。

 ヒッキー、ゆきのん、マジでどうしたらいいのー!

 

「はあ………」

「さすがに三匹相手じゃ手が足りないか………」

「ほんとだよー。もうなんでみんなしてやんちゃなのかなー」

「こっちははしゃぎ回るだけだけど、向こうはバトルにすら参加したがるもんねー」

 

 コルニちゃんが指す向こうとは、グラエナのサブレに挑んでいるイワンコのスコーンのこと。あっちはマロンやシュウにまでバトルに挑んでるんだもんなー。

 確かにバトルセンスはあるんだけど、まだまだいなされている状態。レベルの違いを気にしないそのやる気は特性のせいなのか元からの性格なのか…………。

 

「はあ………、子育てってこんな感じなのかなー」

「おやおや? それはいわゆるおめでた報告というやつですかな?」

「な、ななななんでそうなるし! あ、ああああたしはまだ! まだなんだからね!」

「まだ? ということはいずれ………」

「コルニちゃんもヒッキーのこと好きなくせに」

「うっ………」

 

 もう、別に隠さなくてもいいのに。

 ヒッキー以外みんな気づいてるからね?

 

「姉ちゃん、勝負だよ!」

 

 おっと、お客さんだね。

 

「あ、ショコラ。マシュマロのことお願いしていい?」

「ブル!」

 

 マシュマロにシャラサブレをあげて落ち着かせると、グランブルのショコラにマシュマロを預けた。マシュマロはショコラにだけは従順というか大人しい。前に一度ショコラにやんちゃして怒られたのがトラウマなのかなー。でも嫌ってるわけでもないようで、たまにやんちゃしに行ってたりする。姉妹みたいな感じかなー。ゆきのんとハルノさんみたいに。

 

「お、少年久しぶりだね」

「バッジ七つ集めて来たぜ!」

「へぇ、やるじゃん! てことは?」

「そうだよ! ここが最後!」

「そっかそっか」

 

 あ、いつぞやの少年君じゃん! 前に来たのって三ヶ月弱くらい前だったっけ?

 

「久しぶり、少年君!」

「………ねぇ、なんか増えてない?」

「あー、ここ一ヶ月の間に三体も増えちゃって…………」

「おじいちゃんからタマゴもらって、ヒヨクの港市場でイワンコもらって、しまいにはガラル地方の船に乗って来たワンパチを拾って。ほんと毎日振り回されてるよ、ユイさんが」

「たはは………」

 

 でもみんな可愛いし、なんだかんだあたしの言うことも聞いてくれてるもん。大変だけど、大事な子たちのためならあたしはいくらでも頑張れるよ!

 

「まあでも、オレの方がいっぱい仲間にしたもんね!」

「前は確かゲコガシラ一体だけだったっけ?」

「うん、でも今はフルバトルだってできるからね!」

「そっか、なら約束通りバトルだね!」

「あー、それなんだけどさー」

「えっ? まさかダメなの?!」

「あ、いや、そうじゃなくて。と、その前に一つ確認するけど、ユイさんとフルバトルできるって言ったらやりたい?」

「え? できるの!? できるならやりたい! です!」

 

 取ってつけたような敬語まで……………。

 そんなにあたしとフルバトルしたいの?

 えへへ、それはなんか嬉しいなー。

 

「オッケー。なら、こうしよう。ユイさんとのフルバトルに勝てたらバッジをあげるよ」

「ほんとに?!」

「ちょ、コルニちゃん?!」

 

 それはジムリーダーとしてまずくない?!

 ジムはジムリーダーとバトルして勝ったらバッジがもらえるのがルールでしょ? ただその挑戦者が増えて来たからこうしてあたしがジムトレーナーとして挑戦者をしぼってるんであって…………。

 あたしがバッジ渡しちゃったらコルニちゃんがいる意味ないじゃん!

 それに………。

 

「あたし、かくとうタイプだけでフルバトル出来ないよ?!」

「………ユイさん、ここはかくとうタイプ専門のジムだからさ、いつもはかくとうタイプを持つマロンとシュウだけ……それもメインをシュウでの選出をお願いしてるけど、別に規定ってわけじゃないんだよね」

「え? そうなの?」

 

 てっきりそういうルールだと思ってたんだけど。

 

「うん、何ならオールマイティなジムだってあっていいんだよ。ただ、そうなるとやっぱりハードルが高くなるでしょ? タイプが統一されたパーティなら弱点は同じだから、攻略も分かりやすい。けど、オールマイティなパーティは弱点がバラバラで他のポケモンで弱点を突かれることだってあるじゃん?」

「うん、確かにそうだね………ゆきのんの四天王戦見てて思ったよ。ズミさんやガンピさんは弱点を突けばって感じだったけど、ヒッキー相手じゃ隙がなさすぎだもん。タイプがバラバラな分カバーしてるっていうか。まあ、それはゆきのんにも言えてたことだけど」

 

 それでもゆきのんのポケモンは三体がこおりタイプだったから、半分は四天王の人たち寄りとも言えちゃう。だからこそ、ヒッキーのバラバラパーティは攻略できる気がしない。改めて、ゆきのんってスゴいんだね…………。

 

「でしょ? でもズミさんやガンピさんも強かった」

「うん」

「それは二人とも対策をしてるからだよ。そしてそれはジムリーダーも同じ。各専門タイプに分かれて、一貫した弱点に対策を打つ。そんな彼らとバトルして勝ったトレーナーは、本物だと思わない?」

 

 コルニちゃんの言う通りかも。

 四天王二人に勝ったゆきのんの実力は本物だもん!

 それにイロハちゃんだって。リーグ大会は途中で負けちゃったけど、四天王の人たちに認められてるし、コマチちゃんもヒッキーとあんなバトルができてたんだ。あれで素質がないなんて絶対誰も思わないよ!

 

「ジムリーダーの役目って、そうやってトレーナーの素質を引き出すことだからさ」

 

 あ、そっか………。

 そういうことなんだ。

 だからジムリーダーはバトルするんだね!

 

「で、あたしは少年君の素質を引き出せるのはユイさんだと思うんだよ」

「へ? あたし?」

「うん。少年君が前来た時に負けた後、アタシがフォローするべきだったのに、ユイさんがそっちまでやっちゃったからさー。なら最後まで責任取ってもらおうかなーって」

 

 え?

 あたしコルニちゃんの仕事取っちゃってたの?!

 

「だからあたしとフルバトルってこと?」

「そういうこと。だから、ジムリーダー代理として全力でやっちゃって」

「んんー、これでいいのかなー。でもジムリーダーがいいって言ってるんだし………分かったよ。それに約束だったもんね、あたしの全力を見せるって。少年君、かかっておいで。ゆきのんに鍛えられたあたしの全力、見せてあげる!」

「望むところだ!」

 

 フルバトルなんてリーグ大会の時以来かも。

 

「アンアン!」

「ん? スコーンやりたいの?」

「アン!」

 

 バトルと聞いてスコーンが飛びついて来た。尻尾まで振っている。

 まるで自分も参加させろと言わんばかりに鳴き始め、シュウやマロンにアイコンタクトを取るとやれやれという感じだ。なんだかんだ寛大だよね、みんな。

 

「よし、ならやろっか!」

「アンアン!」

 

 メンバーはこのままマロンとシュウ、それにクッキーとサブレにするとして、あと誰にしよっかなー。ビスケはまだバトルできるレベルじゃないし。ショコラにはマシュマロを抑えておいてほしいし、そうなるとマーブルかなー。

 あ、ちなみにあたしのポケモンはみんなこのジムにいたりする。しかもずっとボールから出して。

 コンコンブルさんからタマゴをもらった当初は、育て屋で生活してもらおうかなーって思ってたんだけど、タマゴが孵る前にスコーンをもらって、ビスケが生まれて、マシュマロを拾ってって立て続けに増えちゃったから、二人にお願いしてここでみんなで生活してるんだ。それに案外こっちの方が便利だしね。挑戦者が来ない時はみんなで特訓して、挑戦者が来たらマロンとシュウとで仕事をする。他のみんなにはそのバトルを見学してもらい、挑戦者が帰ったら各々試したいことを試してみたりと色々できちゃうんだよ。しかもコルニちゃんも相手してくれるからみんなにいい刺激にもなるし。

 

「シュウ、マロン、サブレ、マーブル、クッキー、スコーン。一旦戻って」

 

 ボール置き台から六個取り、それぞれをボールへと戻した。今ので少年君には出すメンバーを覚えられちゃったかな…………?

 

「コルニちゃん、準備おっけーだよ!」

 

 ショコラがビスケとマシュマロを連れて観客席に移動したのを見て、コルニちゃんに合図を送る。

 

「オレもいつでもいいよ!」

「それじゃ、ルール確認ね。使用ポケモンは六体。どちらかのポケモンが六体全て戦闘不能になったら負け。技の使用は四つまで。交代は自由。オッケー?」

「「うん!」」

「なら、バトル始め!」

 

 最初は………あ、うん、主張が強すぎるよ。そんなにバトルしたかったの?

 

「いくぞ、ヤミカラス!」

「いくよ、スコーン!」

「アァーッ!」

「アンアン!」

 

 最初はヤミカラスか。マロン辺りを出すと思ったのかな?

 

「姉ちゃん、さっき聞きそびれたけど、そのポケモンって?」

 

 あ、そっか。

 イワンコってカロス地方にはいないんだっけ?

 

「イワンコ、いわタイプのポケモンだよ。アローラ地方とかに生息してるポケモンなんだって」

「イワンコ………いや、タイプ相性だけがバトルじゃない!」

 

 どうやら出だしが不利になったことは理解したみたい。ここまで来る間にいろんなポケモンに出会って、いろんなポケモンのタイプを覚えて来たんだね。

 

「突っ込め!」

「スコーン、ステルスロック!」

 

 スコーンはシュウやマロンとバトルしたいみたいだけど、実際に覚えてる技が二人とやり合えるだけのものじゃないんだよねー。それを分かってないまま二人とやろうとするからかえって危なく感じちゃう。それくらい二人のバトルは激しくなるんだよ。

 

「はがねのつばさ!」

 

 フィールドに仕掛けをし終えたところで、ヤミカラスの硬くした翼に打たれた。効果は抜群だけど、スコーンはこれくらいいつものことなんだよね。逆にこれよりももっと激しくやってあげないと気がすまないというか…………。やる気がありすぎるのも大変だよ。

 

「スコーン、がんせきふうじ!」

 

 くるりと回って少年君のところに戻ろうとヤミカラスの頭の上から、次々と岩を落としていく。それもヤミカラスの目の前に来るように。いきなり目の前に現れた岩に驚いてバランスを崩したヤミカラスは、それから次々と岩に打たれ、地面に落とされた。

 

「ヤミカラス!?」

 

 あたしが知らない間にマロンとシュウが教えたみたい。初めて見せられた時はかなり驚いたなー。いわおとしからがんせきふうじに進化してるんだもん。サイズも大きくなってるし。マロンもシュウも仕方なくって感じだったけどね。でもそれはスコーンには内緒。今はこうやって技を覚えていってくれればいいからね。

 

「ほえる!」

「アオオオォォォォォォンンン!!」

 

 トドメとまではいってないし、追撃して決めるのがいいんだろうけど、生憎スコーンはこれくらいしか攻撃技がない。一応かみつくもあるけれど、あの岩の下にいるヤミカラスに噛みつきにいくには岩が邪魔。退けていたらそれこそ反撃の隙を与えるだけ。それならステルスロックを発動させるようにした方が賢いって、ヒッキーなら言うんだろうなー。

 スコーンの吠えでヤミカラスは強制的に少年君のところのボールへと吸い込まれていった。そして代わりにクイタラン……だったよね? 赤いポケモンが出てきた。

 

「クタ………!?」

 

 うん、ちゃんと成功してるみたいだね。

 

「ステルスロックにほえる………。そんな使い方があるんだ………」

「そうだよー。驚きだよね。あたしも教えてもらった時はみんなよくこんなこと思いつくなーって思ったくらいだよ」

 

 ゆきのんにはいろいろとコンボ技なるものを叩きこまれた。その技一つでは使いにくくても他の技と組み合わせることで化けるって言ってたっけ。確かにステルスロックは化けたと思う。交代や戦闘不能で次のポケモンが出てくる度に岩が浮き出て攻撃するんだもん。強制的に交代なんてさせられてたら、どうしようもないもんね。

 

「………だったら! クイタラン、じごくづき!」

 

 早速クイタランが右の拳を黒く光らせて飛び込んで来た。

 じごくづきは確かあくタイプの技で…………なんか効果があったような………。

 

「スコーン、クイタランの拳にかみつく!」

 

 身体の一部を使った技であるなら、その技を封じるように動きなさい。

 ゆきのんはそう教えてくれた。

 逃げるなら闇雲に逃げるんじゃなくて引きつけてから。受け止めるなら勢いをつける前に。攻撃するならその技に対して。

 

「っ?! クイタラン、左手使え!」

 

 引きつけてから躱すのはまだ出来ない。受け止めるには技がない。しかも攻撃が好きな性格だから打ち消すように指示したけど、少年君の咄嗟の判断で別方向からも攻撃されてしまった。そしてそのままクイタランに捕まってしまい………。

 

「スコーン、ほえ………!」

 

 そうだ、思い出した!

 じごくづきはもらえばしばらく声が出せなくなる技だった!

 よく見るとスコーンの喉が腫れている。これじゃ交代もさせられない!

 

「ギガドレイン!」

 

 やるなぁ、少年君。

 まさかここまで的確な判断が出来るようになってるなんて………。

 

「………イワンコ、戦闘不能」

「よっしゃ!」

 

 何気にこれがスコーンの初陣。勝たせてあげたかったけれど、バトルに出すのもまだ早かったとも思ってる。

 

「ナイスファイト、スコーン。もっともっと強くならなくちゃだね」

 

 でも、これがいい経験になってくれればいいな………。

 

「コルニちゃん! 少年君、強くなってるよ!」

「え、ほ、ほんとに?!」

「うん、アタシもそう思ったよ。少年、クイタランのじごくづきは見事だった。ほえるという音技を喉を狙う技で封じて隙を作りトドメを刺す。今のはトレーナーとしての成長を感じられる一撃だったよ」

 

 あたしの評価にコルニちゃんも賛同してくれた。

 少年君は強くなった。二ヶ月前よりもトレーナーとして実力をつけて来たのだ。あたしだったらまだ燻ってた頃だっていうのに。これは、コマチちゃんやイロハちゃんみたいになっちゃったりもするのかも………。

 

「よっしゃ、ならまだまだいくよ!」

「あ、でもユイさんを甘く見ない方がいいよ。多分、ここからだから」

 

 もー、やだなー、コルニちゃんは。人を何だと思ってるんだろ。

 

「クッキー、いくよ!」

 

 あたしの次のポケモンはクッキー。ヒッキーとバトルした時にやられたほのおタイプ同士の対決。わざと同じタイプをぶつけることで相手に本来の戦い方をさせない方法があるって分かったのだ。しかも特性がもらいびだからほのおタイプの技は効果がない。こんなバトルを思いつく人ってどういう頭のつくりしてるんだろうね。

 

「しんそく!」

 

 まずは先制攻撃。

 ヘルガーとバトルした時よりも速くなった。だから避けられるポケモンはそういないと思う。ゲッコウガあたりなら見えてそうだけど。

 

「速いっ!? く、クイタラン、じごくづき!」

「クッキー!」

 

 クッキーに呼びかけるとすぐさまあたしのところまで戻って来た。普段からしんそくで突撃したら相手が態勢を立て直す間に戻って来るように言ってあるのだ。反撃が来るのなんて分かってるんだから、そんな相手からは離れてしまえばいいんだよ、とはコルニちゃん。ヒッキーもそういう戦い方してたなーと思って取り入れている。

 

「届かない………!」

 

 ん?

 クイタランがきのみを取り出して食べ始めたね。まだそんなにダメージ入ったとは思ってなかったんだけどなー。計算違い?

 

「今のでもうくいしんぼうが発動するの………? 姉ちゃん、強すぎ」

 

 くいしんぼう?

 特性、だったっけ?

 まあ、見たところきのみを食べてるし、名前からして早めにきのみを食べちゃう特性だね。

 

「離れてる相手には、ほのおのムチ!」

 

 ふふっ、これは一手もらっちゃったかな。

 

「クッキー?!」

 

 それっぽく焦ってみせる。

 

「クイタラン、そのままじごくづき!」

 

 すると簡単に掛かってしまった。

 うーん、イロハちゃんみたいな相手にはまだまだ翻弄させられそうだなー。

 

「しんそく」

 

 まあ、これも経験だよ、少年君!

 あたしもイロハちゃんにたくさんやられたからね! 女の強かさも味わっておくべきだよ!

 

「クイタラン!?」

 

 うん、ちゃんともらいびも発動してるみたいだね。クッキーが赤いオーラを纏っている。

 

「ど、どうして………っ?」

「クッキーの特性はもらいび、だからだよ」

 

 打倒ヒッキーを掲げるなら、これくらいは仕掛けて来るって可能性をなくしちゃダメだよ。ヒッキーは相手の嫌な一手を突くのが上手いんだから。逆に掌で踊らされているフリをするくらいじゃないと。まあ、そういうあたしも出来ないんだけどね。ヒッキー強すぎるんだよ。そうでなくてもゲッコウガがヒッキーと似たような思考回路してるからすぐにバレるし。

 

「もらいび………だから敢えてほのおタイプを……………っ!」

「そういうこと! クッキー、もう一度しんそく!」

 

 ジムトレーナーとしてシャラシティに来る前にゆきのんから言われた。『バトルの主導権は渡してはダメよ。むしろ挑戦者があなたから主導権を奪うことが出来ないようであれば、ジムリーダーに挑む価値がないくらいの気持ちで挑戦者を待ち受けなさい』って。

 ゆきのんなりのあたしへの気遣いだったんだろうけど、これが結構為になっていたりする。連勝が続いているのもバトルの主導権を意識してるからだ。唯一掴めなかった挑戦者はホウエン地方のチャンピオン、ダイゴさんだけである。あの人は同じようにやっていたのに、最初から奪われていた気がする。

 

「ま、まもる!」

 

 そんなこんなしてる内に、クッキーのしんそくをクイタランは防壁を貼ることで防いでしまった。

 

「ほのおのムチ!」

 

 ………効果がないとさっき教えたはず。なのに懲りずに使ってくるなんて、他に何か仕掛けようとしてるんだね。

 

「ギガドレイン!」

 

 なるほどー、ムチを伝って体力を奪うのか。それは考えたことなかったなー……。

 

「甘いなー、ほんとに甘い。クッキー、振り切って! トドメのしんそく!」

 

 でも甘い。

 ほのおのムチの締めが緩いし、そもそも効果が発揮されてないんだ。抜け出すことなんて簡単だよ。

 

「クイタラン!?」

「クイタラン、戦闘不能!」

 

 ふぅ、これでおあいこだね。

 

「ユイさん、性格悪いね」

「えー、ヒッキーがやってたことやっただけじゃん」

「そりゃそうだけど。そこを取り入れること自体が………」

 

 性格悪いなんて、これも一つの手じゃん。あたしはこれやられた時になるほどーって思ったんだよ?

 

「タイプと特性だけでここまで出来なくなるなんて…………。今までこんなことなかったのに」

 

 まあ、ジムはそれぞれ専門タイプがあるからね。同じタイプを出すなんてことは中々ないだろうし。少年君もそういう風にして来たんだろうなー。

 

「タイプと特性で来るなら、ゲッコウガ! いくよ!」

 

 次はゲッコウガか。

 みず・あくタイプ。クッキーの弱点を突くことで今の戦い方はさせないってことだね。それにしんそくも使わせないって考えもあるんだろうなー。

 

「コガッ!?」

 

 ステルスロックが発動。

 今の内にフィールドを整えておこう。

 

「クッキー、にほんばれ!」

 

 みずタイプの対策にもなるにほんばれ。

 これでゲッコウガの攻撃力は半減したと思ってもいい。あとはあの素早い動きをどう対処するかだね。

 

「しんそく!」

 

 まずは高速で突撃。

 でもこれは躱してくるはず。

 

「ゲッコウガ、躱してみずしゅりけん!」

 

 うん、ここまでは予想通り。

 

「クッキー、切り返して!」

 

 二歩で切り返し、再度ゲッコウガへと突撃していく。その先には水の手裏剣が飛んできているけれど気にしない。

 

「インファイト!」

 

 手脚による猛攻撃。

 クッキーの場合、脚しかないけど。上からのしかかるような態勢に持って行けたら両脚攻撃に切り替えられるけれど、ゲッコウガ相手には難しそう。

 それでもゲッコウガには効果抜群。一発で戦闘不能に追い込みたいけれど、少年君のゲッコウガは恐らくエース級。他のポケモンたちよりも強く育っているはずだから、それも難しいかもしれない。

 

「ゲッコウガ、大丈夫?!」

「コ、ガ………!」

 

 うん、まだいけるみたいだね。

 

「あくのはどう!」

「クッキー、だいもんじ!」

 

 遠距離からの攻撃で来ると思ったよ。近づけばまたインファイトを打ち込むつもりだし。だからこっちも炎の大の字の壁で黒いオーラを受け止めた。

 

「………く、効いてない……………」

 

 さて、少年君。

 ここからどうするのかな?

 

「ゲッコウガ、一旦戻れ!」

 

 ありゃ、交代か。

 まあ、今のフィールドでは日差しが強い状態だしみずタイプのゲッコウガには不向きだもんね。仕掛けたあたしが言うのもアレだけど。

 

「ガラガラ!」

 

 ガラガラ………じめんタイプだっけ?

 頭が骨なんだよね。ずつきとか注意した方がいいかも。

 

「ガラッ!?」

「ステルスロック………厄介すぎるな」

 

 いわタイプの技だしザクロさんとか使いそうなのに、使わなかったのかな。あたしらがジム戦しに行った時は使ってきたのに。

 

「クッキー、しんそく!」

「っ、ガラガラ! ボーンラッシュ! 受け止めろ!」

 

 しんそくが使えるのはあと二回くらい。それ以上はクッキーの脚によくない。これでも特訓して使える回数を増やしたんだけど、やっぱり瞬間移動並の突撃は負荷が大きいだよね。

 その技をガラガラの太い骨に受け止められてしまった。そうなるとこのまま押し返されるだろう。

 

「そのまますてみタックル!」

「クッキー、だいもんじ!」

 

 予想通り、クッキーは押し返された。そして勢いをそのままに全身で突進してくる。

 こちらも炎の大の字で勢いを殺しにかかる。

 

「ガララ!!」

「ウガゥ!?」

 

 あたしの前まで突き飛ばされたクッキーは身体を地面に打ち付け、態勢を取り直した。

 ガラガラも少年君のところに戻り、同時に日差しが弱まった。これでほのおタイプの技の威力は元通り、みずタイプの技の威力も元通り。でも、ゲッコウガを出してくることはないと思う。あたしの直感がそう告げているのだ。

 

「ガラガラ、まだまだいくぞ!」

 

 ガラガラの様子を見る限り、反動のダメージを負っていないように見える。確か特性にダメージを受けないものがあったはず。ガラガラの特性もそれなのかもしれない。

 

「ホネブーメラン!」

 

 なるほど、そのためにあっちに戻ったのか。ボーンラッシュもすてみタックルも近距離でしか技を当てられない。でもホネブーメランはその名の通り骨を投げる遠距離からでも攻撃できる。

 けど、その速さならクッキーには意味ないよ。

 

「クッキー、しんそく!」

「くそっ、ガラガラ! すてみタックル!」

 

 しんそくでブーメランを躱しながら突進。

 それに反応して、ガラガラも突進してくる。

 二体の猛進がぶつかり合い、勢いが勝るクッキーがガラガラを突き飛ばした。

 

「諦めるな! ガラガラ!!」

「ガ、ガラッ!!」

 

 それでもなおガラガラの目は死んでなくて、地面に拳を叩きつけ、地面から岩を突き出してきた。

 

「ウガゥッ?!」

 

 予想外のことにあたしもクッキーも反応できなくて、クッキーは地面から突き出した岩に突き飛ばされてしまう。

 

「今のは…………?」

 

 あ、少年君も想定外だったんだね。

 

「ストーンエッジ、だね。ガラガラの最後まで諦めない心が咄嗟の閃きを生んだんだよ」

 

 コルニちゃんの解説でようやく理解した。人間、予想外のことが起きると一瞬頭が回らなくなるよね。

 

「さて………ガラガラ、ウインディ、共に戦闘不能!」

 

 まさかクッキーがやられるとは………。

 あたしのポケモンの中でも強い方なのに。連戦で弱点タイプとくれば相討ちにできただけでもすごいことなのかな?

 ヒッキーやゆきのんを見てるからか、そういう感覚がズレてしまっている気がする。

 

「クッキー、お疲れ様。ゆっくり休んでね」

「ガラガラ、やったぞ! ウインディを倒したぞ!」

「ガラ……」

 

 そんなに喜ばなくても。

 まあ、気持ちは分かるけど。あたしもヒッキーのポケモン倒せたってだけで喜んじゃうし。

 あれ…………? ってことはあたしって少年君の中ではヒッキーみたいな存在なの?!

 うわ、うわわわ、なんかそう思ったら気恥ずかしくなってきたよ!

 だって、あたしだよ!? ヒッキーやゆきのんみたいなすごいトレーナーじゃないんだよ!?

 

「ユイさん、どしたの?」

「うん、いや、うん、なんでもない、よ………?」

 

 落ち着け、あたし。たまたま、たまたまだよ。少年君の初めてのジム戦の相手だったから思い入れが強いだけ。うん、あたしはそんな強くない。まだまだ知らないことだらけだし、コルニちゃんみたいに専門的にもなれていないんだ。思い上がっちゃダメ。

 

「マロン、次お願いね」

「ガロ!」

 

 切り替えよう。

 今はバトルに集中だ。

 

「ブリガロン………、それならヤミカラス!」

 

 マロンを見ただけでひこうタイプを選択してきたか。

 

「カーッ!?」

 

 でもステルスロックのダメージはひこうタイプには大きいんだよ。

 

「くっ、まずは先制だ! ヤミカラス、ねっぷう!」

 

 マロンには効果抜群。これを起点に接近戦を考えてるのかな。

 

「マロン、ジャイロボール!」

 

 マロンはその場でジャイロ回転を始める。

 すると送り込まれてくる熱風を霧散させた。

 

「………はっ? えっ?」

 

 あー、ついてこれてないか。やっぱりこういう技の使い方って思いつかないよね! 絶対ヒッキーたちの頭のつくりが変なんだよ!

 

「技にはこういう使い方もあるみたいだよ。ちなみにあたしが考え出した方法じゃないからね!」

「ほんとに人なの?」

「人だよ、人間なんだよ。あ、いや、ポケモンの方も同じような頭のがいるけど」

「…………世界って広いんだね」

「ほんとにね」

 

 さて、次はどうくるかな?

 起点作りも失敗したんだし、直接来そうだけど。

 

「すーはー………! ヤミカラス、かげぶんしん!」

 

 おおー、かげぶんしん覚えてたんだ。

 それならこっちも。

 

「マロン、ビルドアップ!」

 

 マロンがマッスルポーズを決めて筋肉を活性化させた。

 これで迎え撃つ準備はできたよ。

 

「ドリルくちばし!」

 

 ヒッキーのポケモンたちのかげぶんしんよりは数は少ない。けど、本体を見極めるのが難しいくらいはいる。そんな時にはやっぱりこれだね。

 

「ニードルガード!」

 

 マロンの十八番といってもいい技。

 姿勢を低くし、両腕を顔の前で重ねた。そこへヤミカラスが次々と襲いかかってくる。

 

「カーッ!?」

 

 かかった!

 正面の方から痛がるうめき声が上がった。

 ニードルガードは攻撃を防ぐだけでなく、直接攻撃してきた相手に身体のトゲで逆に攻撃する防御技。

 

「マロン、正面だよ! ドレインパンチ!」

 

 さっきはギガドレインを使われたからね。こっちにも回復できる技があることを教えてあげるよ。

 

「カァーッ!?」

「ヤミカラス?!」

 

 あと一発くらい…………あれ?

 

「………こりゃ伸びてるね。ヤミカラス、戦闘不能!」

 

 戦闘不能になっちゃった………。

 そんなにダメージ与えてたかなー。

 

「くそぅっ!」

 

 ちょっと予想外。そんなにステルスロックが刺さってたんだね。恐るべしステルスロック。

 

「攻めるポケモンから守るポケモンまで、姉ちゃん幅広すぎ」

「たはは………、別にそういうつもりで仲間にしてたわけじゃないんだけどねー。なんか流れでというか懐かれたというか…………」

 

 バトルしてゲットした子いないからなぁ。

 ブリーダーの人からママに買ってもらったヒッキーによく懐いてる子。プラターヌ博士からもらった初めての子。旅の道中で仲良くなった絵描きっ子。緊急時に協力してくれた元気っ子。初めてバトルして捕まえようとして先に懐かれてしまった変態っ子。お菓子が大好きで追いてきた女の子。タマゴから孵った赤子。ヒヨクの港でもらったバトルっ子。シャラサブレに飛びついてきた迷子。こうしてみるとヒッキーといい勝負かもしれない。

 

「やっぱり進化を考えた方がいいのかな………」

 

 ヤミカラスをボールに戻しながら、少年君はそう呟いた。

 

「確かにそれも一つの手だね。アタシもとある事件をきっかけにポケモンたちを進化させることにしたし。でもちゃんとみんなの意志を確認してからだけどね」

「うん、あたしも強引な進化は好きじゃないなー。ポケモンたちも生き物。自分の思いってものもあるんだし、そこは確認してあげた方がいいよ」

「ん、だよね。分かった」

 

 ポケモンの進化はポケモン自身が強くなりたいって思いが込められてると思う。だからあたしはそういう思いを大事にしたい。ポケモン自身がまだ進化したくないっていうのなら、それがその子にとっての一番だと思うもん。

 

「よし、クレベース、いくよ!」

 

 五体目はクレベースか。見た目の通りのこおりタイプだよね。マロンにとっては苦手なタイプだけれど、あっちもかくとうタイプは苦手なタイプだから、イーブンかな。

 

「クベ……ッ!?」

 

 ステルスロックでまずはダメージ。

 硬いポケモンだからなぁ。ウルップさんの時も苦戦したし。

 

「マロン、まずはビルドアップだよ!」

 

 さっきもしたけどもう一度。あの硬い氷を割るにはこれくらいしないと。

 

「クレベース、つららばり!」

 

 少年君がそういうとクレベースはいくつもの氷柱を作り上げた。これ、さっきと同じ展開だね。

 

「ジャイロボール!」

 

 ジャイロ回転で飛んでくる氷柱を次々と弾き砕いていく。

 

「なっ………!? そうだった、ジャイロボールは…………」

 

 そんでもってジャイロボールははがねタイプの技。こおりタイプには効果抜群なのだよ。

 

「もう一度、ジャイロボール!」

 

 再度ジャイロ回転し、今度はそのまま距離を詰めていく。さあ、少年君。君はどうするのかな?

 

「ほのおタイプにはほのおタイプ…………! それなら、ジャイロボールにはジャイロボールだっ! クレベース!」

 

 おおー、そうきたか。

 面白いよ、少年君!

 そうだよ! あたしが見たかったのはこういうのだよ!

 

「いっけーっ!」

「ガロンッ!?」

 

 あっ!?

 今のは………偶然? それとも狙ったの?

 

「そのままゆきなだれ!」

 

 ジャイロ回転をジャイロ回転で無に還されて、バランスを崩したマロンの頭の上から大量の雪が降り注いだ。降り注ぐというかドカッ! と落ちて来たって感じ。あれ、巻き込まれたら骨折とかしそう。

 

「マロン! 大丈夫?!」

「…………ガロ!」

 

 呼びかけると雪に埋もれたマロンが顔を出した。よかった、戦闘不能にはなってなかったよ。でも今のはすごかった。狙ってやったのだったらすごいことだよ!

 

「クレベース、ブリガロンに反撃の隙を与えないで! じならし!」

 

 うん、これでいい。

 ようやくバトルっぽくなってきたよ!

 

「マロン、ビルドアップ!」

 

 雪に身体が埋もれた状態じゃ、どっちにしろ躱せない。なら、まずは防御力を上げて少しでも受けるダメージを減らす!

 

「ガッ!?」

 

 クレベースの足踏みとともに地面が揺れ、再度バランスを崩したマロンは雪の上へと倒れ込んだ。

 

「つららばり!」

 

 あ、ヤバい!

 背中から倒れちゃってる!?

 

「っ、そうだ! マロン、ジャイロボール! 背中を使って! 腕はニードルガードの時みたいにね!」

 

 マロンの背中はボールのように丸くなっている。だから背中で回転して盾のような両腕で受け、氷柱を砕く。

 

「くっ、ジャイロボール!」

 

 そして雪の高低差を生かして立ち上がる!

 

「後ろから来たよ! ニードルガード!」

 

 丁度立ち上がった背後からジャイロ回転したクレベースが襲いかかってきた。

 それを背中からもトゲを出してガード。クレベースの勢いが強かったためか、上手く弾き返ってくれた。

 

「ドレインパンチ!」

 

 そして振り向き様に拳を叩きこんだ。弾き飛ばぶ勢いは加速し、体力も吸収していく。

 

「クレベース!?」

 

 少年君の前に倒れこんだクレベースは、それでもなお立ち上がろうともがいている。まだ戦う気持ちはあるんだね。

 

「………負けたくないもんな。クレベース、じならし!」

「クー、ベス………ッ!」

 

 起き上がった。そして足踏みを始めた…………ところで勢いをなくし、また地面に倒れこんでいく。

 

「………クレベース、戦闘不能!」

 

 最後まで足掻いたけど、限界みたいだね。

 でも今のバトルはよかった。

 

「………ありがとな、クレベース。お前の負けん気は無駄にしないぞ」

 

 クレベースの負けん気は少年君に何か伝えられたみたいだね。そうだよ、そうこなくっちゃ。

 

「マロン、お疲れ様。あとはシュウに任せて」

 

 おかげでちょっと早いけど、マロンを休ませることにした。

 

「ゲッコウガ、巻き返すぞ!」

「シュウ、いくよ!」

 

 あ、もう一度ゲッコウガなんだ。

 もしかして六体目のポケモンが切り札なのかな。

 

「コガッ………!?」

 

 …………フルバトルでのステルスロックって、なんか、危険だね。

 

「シュウ、しんそく!」

 

 急加速し、接近。

 しんそくはクッキーだけが使える技じゃないんだよ!

 

「躱せ、ゲッコウガ!」

 

 これを躱せるかどうかでゲッコウガの速さは分かる。

 

「コガッ!」

 

 躱した!

 

「みずのはどう!」

 

 みずのはどう。

 ヒッキーのゲッコウガみたいに変幻自在に変わるわけではないみたいだね。

 それなら!

 

「シュウ、水の先だよ!」

 

 そのまま水を追えばいい。

 ゲッコウガはそこにいるし、シュウの速さならなんてことはない!

 

「インファイト!」

「めざめるパワー!」

 

 めざめるパワー?!

 それって厨二が自分のポケモン全員に覚えさせてる技じゃん!

 なんかピカーッて光るやつ!

 

「ルガゥ!?」

 

 今のはすごくタイミングがよかった。まさか接近させてから使ってくるなんて。そもそもめざめるパワーを使えるなんてことすら頭になかったよ。ヒッキーいわく、引き出すのに相当の鍛錬が必要だって。そんな難しい技を少年君が特訓してるとは考えてもいなかったよ。ジムトレーナー失格だなー。

 

「シュウ、しんそく!」

 

 一刻も早く抜け出さないと。

 そう思って再度しんそくを使わせた。

 

「コガッ?!」

 

 すると偶然なのかゲッコウガの呻き声が上がった。

 

「ゲッコウガ?!」

「コガァ………」

 

 ズザザザザァァァッ…………と地面をスライドしていくゲッコウガ。どうなったんだろ。

 

「がんばれ、ゲッコウガ!」

「コウ、コウ……………………ガッ!!」

 

 立ち上がった!!

 なんかゾクゾクしてきたよ!

 

「みずしゅりけん!」

「ボーンラッシュ!」

 

 両手に骨を作り出し、それを武器に飛んでくる手裏剣を次々と落として距離を詰めていく。

 

「ゲッコウガ、めざめるパワー!」

「シュウ、躱してインファイト!」

 

 身体がピカーッと光るゲッコウガの背後に回り込み拳と蹴りを叩きこんだ。

 無防備な状態のところを狙ったのだから、次こそは倒れたはず。

 

「ゲッコウガ!?」

「コウ……………ガ…………………」

 

 うん、今度こそ倒せたみたいだね。

 

「ゲッコウガ、戦闘不能!」

 

 思いも寄らない粘りを見せられて驚いちゃったよ。

 

「…………テル兄が教えてくれた技でもダメなのかよ。ごめんな、ゲッコウガ」

 

 テル兄?

 まさかとは思うけど…………。

 

「ね、ねぇ、少年君? めざめるパワーって誰から教わったの?」

「テル兄だよ。ミアレジムに行った時にコテンパンにされて、その後特訓に付き合ってくれたんだ」

「ミアレジム…………もしかしてだけど、ザイモクザヨシテルって人?」

「え? 姉ちゃん知ってるの?!」

「あ、ああ、うん、まあ、ちょっとね…………」

 

 やっぱりかー!

 めざめるパワーを使ってるの厨二くらいしか知らないし!

 というか厨二とバトルしてたことに驚きだよ! 確かにミアレジムのシトロン君とは仲がいいみたいだけど、そんなことになってたなんて。

 

「あー、あの人か」

「コルニさんも知ってるの?」

「まあね。あの人は強いよ。なんでジムリーダーにも四天王にもならないのか分からないくらい」

「え………? そ、そんな強い人だったの?」

「そうだよ。なんたってハチマンが認めてる実力者だし」

「………………」

 

 あらら、少年君が言葉を失っちゃったよ。

 そんなに意外だったかな。病気もあって結構風格だけはあると思うだけどなー。見た目の割に中身がアレだから小物っぽく感じるけど、バトルしたら何気に強いし。しかも意味がない技も使ってただただバトルを楽しめるだけの余裕すらあるし。あれ…………? 厨二って実はヒッキーやゆきのんの次くらいには強い…………? 勝つことにこだわったら絶対強いよね!? というかヒッキー相手にあんなバトルしてたんだから強いに決まってるよ!!

 

「さあ、最後のポケモンだよ!」

「くっ………、ヘラクロス! いくよ!」

 

 最後のポケモンはヘラクロスだったんだね。

 むし・かくとうタイプ。コンコンブルさんも連れているからよく知ってるよ。

 

「クロ……スッ………!?」

「…………ん?」

 

 あれ?

 ツノに付いてるのって…………。

 コルニちゃんにアイコンタクトを送ると頷き返してくれた。やっぱりそうなんだね。

 

「少年君、最初から全力を見せてもらうよ!」

「っ!? 分かった………ヘラクロス!」

「シュウ!」

 

 コルニちゃんからもらったバングルをぎゅっと握りしめた。するとバングルとシュウの持つルカリオナイトが光りだし結びついていく。光はシュウを包み込み姿を変え始めた。

 

「「メガシンカ!」」

 

 と、同時にヘラクロスも光りだし、姿を変えていく。

 きた、メガシンカ。

 ヘラクロスのツノに付けてあるのはやっぱりメガストーンなんだね。

 

「メガシンカ、手に入れたんだね」

「これもテル兄とあの人のおかけだよ」

 

 また厨二が絡んでるんだ。

 厨二は少年君に一体何を教えたの?

 

「なら、いくよ! シュウ、しんそく!」

「受け止めろ!」

 

 シュウの超速突撃をメガシンカしたことで太くなった両腕に受け止められてしまった。シュウの攻撃力が上がっているのと同じようにヘラクロスの防御力も上がってるんだね。

 

「メガホーン!」

 

 そしてツノが光った。押し返すつもりだ。

 

「ボーンラッシュ!」

 

 再度両腕に骨を作り出しクロスして尖ったツノを受け止めた。これでイーブンだね。

 でもヘラクロスは防御力だけが上がったわけじゃない。攻撃力も上がっている。つまり………ーーー。

 

「押し返せぇぇぇっ!!」

 

 攻撃を受け止められた分、押し返す力に負けてしまった。二本の骨が壊れるくらいの威力。でもそのおかげでシュウへのダメージは少ない。

 

「ミサイルばり!」

 

 ヘラクロスの背中が開き、無数の針が打ち上げられた。

 

「なにこれ…………!?」

 

 あたしの知ってるミサイルばりじゃないよ! この多さは!

 

「スキルリンクの力を見せてやれ!」

 

 スキルリンク?

 特性………だよね。じゃあ、この針の多さは特性の効果もあるってわけか。

 

「シュウ、ジ・イクリプス!」

 

 この量は普通に技を使っているだけじゃ捌ききれない!

 少年君にそーどすきるはまだやめた方がいいと思ってたけど、ここまできたら全部見せるしかない!

 

「はっ………?」

 

 シュウは両腕にもう一度骨を作り出し、右腕を右上から斜めに斬り下ろした。そして左腕も同じように左上から斜めに斬り下ろしていき、ミサイルばりを地面に叩きつけていく。

 

「少年、よく見ておいて! これがユイさんたちの実力だよ!」

 

 シュウの斬撃はまだまだ止まらない。

 左腕を今度は右上から斜めに斬り下ろし、そこから返すように右腕を左下から斜めに斬り上げていく。足下は落ちた針が円を作り、シュウの周りだけがキレイなまま徐々に前進している。

 

「ヘラクロス!!」

 

 さすがに危険を察知したのか、少年君はヘラクロスに呼びかけた。それに応えるように打ち上げる針の量がさらに増えていく。

 それでもシュウは止まらない。

 増えてもなお斬り落としていき、十四撃目にして正面突きで一気に距離を詰めた。

 続く十五撃目には左腕の水平斬りがヘラクロスを掠り、十六撃目の右上からの斜め斬り下ろしでヘラクロスにダメージを与えることに成功。

 

「ッ?! ヘラクロス、リベンジ!」

 

 ヘラクロスに届いたことで少年君が焦りを見せるけど、かまうもんか。

 シュウはヘラクロスがリベンジの態勢を取るのと同時に右腕を左下から斬り上げ、続く左腕からの二連撃でヘラクロスの技を破った。

 

「いっけぇぇぇっ!」

 

 ここからはまさにシュウの独壇場だった。

 残りの八撃を完璧に決め、ヘラクロスを突き飛ばした。

 技を破られたヘラクロスはもちろん少年君もあり得ないものを見るような目をしている。

 

「二十七連撃」

「えっ………?」

「今の攻撃の回数だよ。この技はシュウができる最大数の連撃なの」

「………………ロス」

 

 おっと、ヘラクロスはまだやれるみたいだね。

 やっぱ強いなー、メガシンカしたポケモンは。

 

「さあ、少年君! ヘラクロスはまだまだやる気みたいだよ!」

「………………」

 

 あたしがそういうと少年君は立ち上がろうとするヘラクロスをじっと見つめた。それに気づいたヘラクロスも少年君に目で何かを訴えている。

 

「……………ヘラクロス、勝てると思う?」

「ヘラ………」

「それでもやるんだな?」

「ヘラ!」

 

 勝てないと分かってもシュウに挑むんだね。

 ………ヒラツカ先生だったら涙して喜びそうな展開だなー。まあ、あたしも素直に嬉しいけどさ。先生が生徒にバトルを教えてたのはこういう喜びがあったからなのかも。今はなんとなくそう思えるようになってきたよ。

 

「シュウ、決めにいくよ! しんそく!」

「迎え討て! カウンター!」

 

 二人とも覚悟は決まったみたいだし、最後の一撃を入れに走り出した。

 速さではシュウに勝てないと判断して、カウンターを選んだんだね。でも、当たらなければ意味ないよ。

 

「ジャンプしてブレイズキック!」

 

 ヘラクロスにぶつかる瞬間にジャンプして、カウンターのタイミングをずらした。すると返す気満々でいたヘラクロスの腕は止まることなく前に突き出され、空を切った。

 そこへ頭の上から炎をまとった脚で蹴りを入れる。

 

「うわー、ライダーキックまで…………。ユイさん、えげつないよ」

 

 効果は抜群。

 シュウが着地するとともに、ヘラクロスは仰向けで倒れていき気を失っていた。

 

「ヘラクロス、戦闘不能!」

 

 そして、メガシンカが解除されてコルニちゃんが判定を下してくれた。

 

「よって、勝者ユイさん!」

 

 ステルスロックのダメージとボーンラッシュが後半届いてくれたからだね。それがなかったらまだまだ反撃されることもあったと思うなー。

 

「ルガゥ!」

「あ、ちょ、こら、急に抱きつくひゃあ?! シ、シュウ!? どこ触ってんひゃあぁ!?」

 

 急にシュウが抱きついてきたかと思えば、後ろに手を回してお尻を触ってきた。顔も胸に埋められてしまい、これがヒッキーだったら完全にアウトな状態だったと思う。なんか、いろんな意味で。

 

「…………ヘラクロス、やっぱ姉ちゃんは強かったよ。ありがとな」

 

 ちょ、マジでダメだからね!?

 シュウ、あたしはヒッキーのものなんだから!

 

「はあ…………また負けた………」

「どう? ユイさん、強いでしょ?」

 

 あ、ちょ、こら!

 あー、もう!

 せっかくカッコよく決めたってのに、なんでこうなるのさ!

 

「シュウ、めっ! 大人しくしなさい!」

「強すぎるよ………。いや、強いのはあの時見せられて知ってはいたけどさー。でも強すぎだし! こんなの勝てっこないよ!」

 

 怒ったらしゅんとするシュウがまたかわいい。なんでそんな顔するかなー。怒るに怒れないじゃん。

 

「それはどうかなー。まあアタシが言えたことじゃないけど、ユイさんよりも強い人はカロス地方に何人もいるよ? アタシが知ってるだけでザッと十人近くかなー。君の言うテル兄もユイさんより強い」

「たったそんだけじゃん」

「じゃあヒキガヤハチマンより強い人は何人いると思う?」

 

 落ち着いてきたらなんかあっちでヒッキーが出てきてるし。

 ヒッキーより強い人だっけ?

 

「…………いないんでしょ」

「いるよ? ヒッキーより強い人」

「え………?」

「その人は悪人、悪い人だけどさ。ヒッキーは何度もその人に追い込まれてるんだよね………。あたしもよくは知らないけど、ヒッキーのリザードンの強さにも一枚噛んでるんだって」

 

 純粋なバトルの結果は知らないけど。というか決着そのものがついてないと思う。あの二人が決着をつける時は捕まえるか殺されるかのどちらかだろうし。

 でも強いのは確か。ヒッキーとやり合うことができて、ヒッキーとリザードンの秘密も知ってて、ヒッキーの弱点があたしたちだってことも知ってる怖い人。ヒッキーよりも悪知恵が働き、汚いやり方ででも勝てばいいっていうような男だってヒッキーは言ってた。

 

「悪人て…………で、でもその人だけじゃん!」

「あたしはそうは思わないな。世界にはあたしの知らないことが山ほどあるんだし、ヒッキーより強い人なんていくらでもいると思うんだー。そう思うとあたしより強い人なんて山ほどいるじゃん? だから少年君にも可能性はあると思うよ」

 

 そんな男もいるんだから、世界にはヒッキーよりも強い人はまだまだいるんだと思う。だから、あたしなんてまだまだなんだよ。

 

「負けた相手に言われるとなんかムカつく………」

 

 あらら、いじけちゃった。

 

「もう、いじっぱりだなー」

「ちょ、や、やめ………!」

 

 あ、コルニちゃんズルい! あたしもなでなでしたい!

 

「少年、フルバトル初めてやったでしょ」

「うぇっ?! 分かるの!?」

「そりゃあね。アタシ、これでもジムリーダーですから。一応人より多くバトルして来てると思うよ」

 

 うぅー………。

 あたしも!

 

「ワパワパ!」

「うきゃ?!」

 

 な、こ、今度はなにーっ?!

 

「そこで提案なのだよ、少年。君はもう一度ジム巡りをするんだ」

「えっ、な、なんでだよ! せっかくバッジ集めたのに!」

「うんうん、バッジは集まったよね。でも、バトルの経験がまだまだ足りない。それも強い相手とのね。だから君はユイさんには勝てないんだよ」

「バトルの、経験………」

「ワパ!」

 

 マシュマロ〜!

 急に後ろから乗ってこないでよ〜!

 

「君だけじゃない。君のポケモンたちもだ。バトル中の咄嗟の回避なんかはトレーナーよりもポケモン自身の方が気付きやすい。その危機回避の予知って言うのかな、そういうのを感覚的に身につけてないと強い相手とはいい勝負すらできないと思うんだよね」

「ブル!」

「ワパ?!」

 

 ふぅ、助かった。

 ありがと、ショコラ。

 

「それは、言えてるかも………。あたしも毎日ゆきのん扱かれてたし打倒ヒッキー! なんて言って毎日バトルしてたもん。ほとんど勝てたことなかったけど……………」

 

 何とか会話だけは聞いててよかった。このままスルーされたらコルニちゃんに任された意味ないじゃん。

 

「ね? ユイさんでもこうなんだよ。強い人ってのはそれまでの経験の積み重ねがあるから強いんだ。正直、アタシはユイさんが羨ましいからね。格上とのバトルの経験だけならユイさんの方が積んでるし」

「そうだったんだ…………」

 

 へぇ、そんな風に思ってたんだ。

 まあ、確かにあり得ない環境だったとは思うよ。ヒッキーとかゆきのんはチャンピオン経験者だし、そんな人たちから育て方やバトルを教えてもらってたんだから。時には実践込みで。

 

「そりゃあね。でも、だからこそアタシはユイさんをジムトレーナーに誘ったんだよ。アタシも強くなりたいからさ」

「コルニちゃん………!」

 

 でも、だからこそあたしも焦ってる時期があった。強くなりたいけど、なかなかうまくいかなくて。ヒッキーやゆきのんに相談したくてもなんて言ったらいいのか分からなくて。そんな時にコルニちゃんが声かけてくれてジムでの修行を提案してくれた。

 それがなかったらあたしは一人落ちこぼれになって逃げ出してたと思う。

 

「というわけでだ、少年。もう一度ジム巡りして、全力でフルバトルして下さいって言ってきな。熱意を訴えれば応えてくれると思うよ。それがジムリーダーの役目なんだし」

 

 強い人と戦う。

 あたしと違ってそれが今の少年君に必要なことなんだ。

 んー………あ、なら!

 

「そうだ、少年君! 君にいい人紹介してあげるよ! 元々トレーナーズスクールの先生だったからさ、いいアドバイスくれると思うんだ!」

 

 ヒラツカ先生ならもっと的確なアドバイスをくれるんじゃないかな! 当たり前だけど、あたしよりも教えるのがうまいし。バトルの経験だって相当あるんだから、どこが悪いのかちゃんと見てくれるはず。

 それから少年君と連絡先を交換して、ヒラツカ先生の名前と居場所を教えてあげた。

 

「コルニさん、姉ちゃんに勝つまでバッジいらないから!」

 

 そして少年君はその言葉を残してジムを走り去って行った。

 

「うーん、男の子だねー」

「だねー」

「………少年、強くなるだろうなー」

「なるだろうねー。この二ヶ月半くらいでここのバッジ以外全部集めて来たんだもん。しかも一人で」

「ユイさんたちは三人で改めて、だったもんね」

「うん、それも半年かけてじっくりって感じだったし」

「いやー、恐ろしい」

「そうだね。でもヒッキーたちもこんな気持ちだったんだろうなー。あたし、嬉しいって気持ちもあるんだ」

「それがジムリーダーの役得ってもんだよ」

「そっか……。ヒッキーたち、元気かなー」

 

 今頃ヒッキー何してるのかなぁ。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「スコーン、食べないと元気出ないよー」

「………」

 

 その日の夜。

 唯一バトルで負けたスコーンは晩御飯を全然食べていなかった。

 負けたのが相当悔しいみたい。

 もうね、後ろ姿が暗いの。

 

「ワパワパ!」

「あ、こら、マシュマロ! これはスコーンの分!」

 

 どうしたらいいのか分からず、取り敢えず声はかけるようにしてたけど、自分の分を食べ終えたマシュマロが減っていないスコーンの分を見て、そこに飛び込んでいった。

 

「ウゥゥゥーッ」

 

 目の前で自分の分の晩御飯を取られたことでスコーンがマシュマロを威嚇し始める。

 って、なんか目が鋭くない?

 

「ワ、ワパワパ!?」

「アンアン、アン!」

 

 急に威嚇されたマシュマロは焦り、そこへスコーンが体当たりをして突き飛ばした。

 

「あ、ちょ、スコーン!?」

 

 と、そのまま脱走。

 え、脱走!?

 ちょ、それはまずいでしょ!

 

「ショコラ、マシュマロのことお願い!」

 

 あたしも慌ててスコーンを追いかけ、ジムを飛び出した。おかけでまだスコーンを見失ってはいない。

 でもそれも時間の問題かも。だって、外真っ暗なんだもん。街灯がぽつぽつあるくらいで、スコーンが向かってるのは海側。だんだんと灯りがなくなっていく一方なんだよね。

 

「………はあ………はあ………………」

 

 しばらく追いかけ続けると元々マスタータワーがあった島にスコーンが走っていってるのが見えた。ちょうど水は引いていて地続きになっている。

 

「アンアン、アン!」

 

 なんとか追いつくとスコーンはリーグ戦で使われたバトルフィールドの上で海に向かって吠えていた。

 

「………スコーン、今日のバトル負けて悔しいんでしょ?」

「アンアン、アンアン、アォォォン!」

 

 聞こえているのかは分からない。

 でもスコーンが悔しがってるのはさっきからずっと感じてきた。それも悔しさをどこにぶつければいいのかも分からない状態。

 

「あたしもね、最初はそんなんだったよ。サブレを連れてこっちに来てさ、プラターヌ博士からマロンをもらって、練習がてらコマチちゃんやイロハちゃんとバトルしたの。二人ともあたしと一緒にポケモンをもらったっていうのに、あたしだけ誰にも勝てなかった」

「アォォォォォォン……………」

 

 だからこそ、あたしは伝えなきゃいけないんだ。トレーナーとしても同じ思いをした先輩としても。

 

「勝てなかったんだよ…………。頭の中にはね、やりたいバトルってのがあったんだ。マロンもちゃんと分かっててくれてたんだよ。でも勝てなかった…………」

「アォォォ……………」

「悔しかったよ、泣きたかったよ。どうしたら強くなれるのか全然分かんなくて、わけ分かんなくなってた。でもそこにヒッキーが見せてくれてゆきのんが細かく教えてくれることになったんだ」

「……………」

 

 遠吠えはいつしか小さくなっていて、スコーンがあたしをじっと見てきていた。

 

「スコーンもね、その時のあたしと同じなんだよ。やりたいバトルはあるけど、うまくいかない。周りはみんなできるのに自分だけができない。それが悔しくて焦ってくる。つらくて惨めでしょうがない」

 

 あたしの指摘が当たっていたのか、スコーンは視線を外した。

 言い当てられて恥ずかしいし悔しい。

 そんな声がスコーンから聞こえてきたような気がして、思わず抱きしめた。

 

「………………でもさ、あたしにヒッキーやゆきのんがいたみたいにスコーンにはあたしがいる! トレーナーのあたしがスコーンがやりたいバトルを実現させてあげる!」

 

 スコーンは一人じゃないんだよ。あたしやみんながいる。みんなを見てるとつらいっていうならあたし一人で受け止めてあげる。だから………、だから………っ!

 

「だからあたしともっといっぱい特訓して強くなろ! 強くなって少年君をもう一回倒そう! そんでもってヒッキーやゆきのんを驚かせてあげよう! 見てみろ、俺はこんなにも強いんだって!」

 

 そう言ってぎゅーと抱きしめていると、しばらくしてスコーンが身体をよじり始めた。なんかあたしから離れようとしてるから抱きしめる力を緩めると、さっと抜け出してしまった。

 

「ぁ………」

 

 スコーンが飛び出して離れた距離が、なぜか心の距離のように思えて胸が張り裂けそう………。

 

「アオォォォン!」

 

 するとスコーンは再び遠吠えを始めた。

 

「アオオォォォン!!」

 

 今度は悔しさとかの感情を感じない。どちらかというと決意みたいなものを感じる。

 

「アオオォォォオオオオオオンンン!!」

 

 一際大きな遠吠えーーいやもうこれは雄叫びだね。

 

「へ、進化………?!」

 

 激しい雄叫びが上がったかと思えば、スコーンが白い光に包まれていった。

 進化だ!

 スコーンは強くなるために進化することを選んだんだ!

 

「ルガルガン、だったっけ?」

「ルガゥ!」

 

 月明かりに照らされたスコーンは紅い身体に白い毛をしていた。そして後ろ足で立ち上がり、あたしと同じくらいのところに顔がきている。そこに一際目立つ瞳が紅い。こんな夜には一層鋭く感じられる。

 

「サー、ゴーー!」

「「っ?!」」

 

 奇妙な鳴き声が聞こえたため振り返ると、何かがいた。

 その周りには岩が…………岩!?

 

「ス、スコーン!」

「ルガ!」

 

 逃げようとしたらすでにスコーンに飛びつかれていた。そしてそのまま転がって、元いたところには無数の岩が飛んできている。

 痛くはない。スコーンがうまく支えてくれているからなんだと思う。

 

「って、またくるよ! 今度は多分おにび!」

「ルガルガ!」

 

 スコーンの背中越しに見えたポケモン?は火の玉を円形に作り出していた。

 スコーンは振り返って地面を叩きつけストーンエッジを放った。

 

「ニゴー!?」

 

 火の玉に照らされたその姿は見たことのないポケモンだった。色は白。しかも浮いている。でも出てきた場所を考えると海の中から。

 何タイプなのか全く想像がつかない。見たこともないし新種のポケモンかもしれない。

 

「サーゴー!」

 

 あ、今度はうずしおだ。

 

「スコーン、がんせきふうじ! 壁を作って!」

「ルガゥ!」

 

 巨大なうずしおが飛んでくる前に岩で壁を作っていく。

 

「サーゴ!」

 

 きた!

 

「ストーンエッジ!」

 

 受け止めた岩の壁が壊れると同時にスコーンは地面を叩きつけて岩を突き上げ、うずしおを押し返した。

 でも白いポケモンには軽々と躱されてしまった。

 

「ルガゥ?!」

 

 え?

 スコーンどうしたの?!

 

「っ!? 体力を吸い取られてるの?!」

 

 体力を吸い取る技はいくつかある。でもそれはくさタイプの技が多く、白いポケモンが使っているのも恐らくくさタイプの技。だって、スコーンの苦しみ方が尋常じゃないもん。

 

「サゴーン」

 

 今度はリフレクターだ。

 体力を回復してたら防御力を強化してきた。なんか、戦い慣れてない?

 …………まさかどこかにトレーナーいたりする?

 

「スコーン、かわらわりっていける?」

「ルガ!」

「おっけー、ならかわらわり! 壁を壊して白いポケモンにも攻撃だよ!」

「ルガゥ!」

 

 まずはあのリフレクターを壊す。そしてそのまま白いポケモンにもダメージを…………えっ!?

 

「ルガゥ?!」

 

 スコーンのチョップがすり抜けた!?

 壁は壊せたから幻なんかじゃない…………。

 えっと、どういうこと?

 かわらわりはかくとうタイプの技で攻撃が効かないなんて…………まさかゴーストタイプ!?

 

「っ?! スコーン、何かくる!」

 

 追い討ちをかけるように白いポケモンは力を溜めているように見えた。

 

「ルガ!」

 

 発射されたのはハイドロポンプだ!

 でも当たる直前にスコーンの姿が消えた。

 

「サゴ!?」

「スコーン!」

 

 いつの間にかスコーンは白いポケモンの背後にいた。

 これってまさかふいうち?!

 進化して三つも新しい技を覚えたんだね!

 

「えっと………大丈夫……じゃないね」

 

 フィールドに落ちてきた白いポケモンにかけよると気を失っていた。ふいうちが効いたのかな? でもそうなるとますますゴーストタイプな気がしてくる。

 

「どうしよっか」

「ルガ」

「えっ………?」

 

 スコーンに聞いてみたらスボンのポケットを指差された。

 えっ、捕まえろってこと?

 

「…………このまま放ってもおけないか」

「ルガゥ」

 

 いきなり襲われたとはいえ、このままここに放置していくのも気が引けるのは確か。取り敢えず、しばらくはボールに入れておこうかな。

 

「えい」

 

 新種のポケモンである可能性もあるし、それを確かめるためにもヒッキーに連絡してみよう。

 あたしはそう決めて、ハイパーボールを当てた。近くで見たら白くて丸いんだね。さっきはツノみたいなのがあったように見えたんだけど。

 

「…………スコーン、すっごくカッコよかったよ」

「ルガ?」

「うん、強くなってるよ。でもだからこそ、これからも頑張ろうね!」

「ルガゥ!」

 

 あたしはポケモントレーナーだ。

 ポケモンたちがやりたいことを実現されるのが仕事なのだ。

 戦ってくれるポケモンたちのためにもあたしも頑張るよ!

 

「あ、ヒッキー! やっと出たし!」

 

 ホロキャスターを取り出してヒッキーを呼び出したけど、なかなか出なかったんだけど!

 もう、忙しいのは分かるけど、あたしもヒッキーに会いたいの我慢してるんだからね! 声くらい聞かせてよね!




行間

ユイガハマユイ 持ち物:キーストーン
・グラエナ(ポチエナ→グラエナ) ♂ サブレ
 持ち物:きあいのハチマキ
 特性:いかく(にげあし→いかく)
 覚えてる技:こおりのキバ、かみなりのキバ、アイアンテール、とっしん、ふいうち、じゃれつく、どろかけ、カウンター、はかいこうせん

・ブリガロン(ハリマロン→ハリボーグ→ブリガロン) ♂ マロン
 持ち物:かいがらのすず
 覚えてる技:タネマシンガン、つるのムチ、やどりぎのタネ、ころがる、ドレインパンチ、まるくなる、ミサイルばり、ニードルガード、ウッドハンマー、ジャイロボール、ビルドアップ

・ドーブル ♀ マーブル
 持ち物:きあいのタスキ
 覚えてる技:スケッチ、おにび、ハードプラント、ダークホール、こらえる、がむしゃら、いわなだれ、ハイドロポンプ、ほごしょく、ハイドロカノン、へんしん、サイコブースト、ふういん

・ウインディ ♂ クッキー
 持ち物:ひかりのこな
 特性:もらいび
 覚えてる技:ほのおのキバ、バークアウト、ニトロチャージ、りゅうのいぶき、かみなりのキバ、しんそく、にほんばれ、だいもんじ、りゅうのはどう、インファイト

・ルカリオ(リオル→ルカリオ) ♂ シュウ
 持ち物:ルカリオナイト
 覚えてる技:ブレイズキック、でんこうせっか、けたぐり、はどうだん、ボーンラッシュ、りゅうのはどう、しんそく、カウンター、インファイト

・ルガルガン(イワンコ→ルガルガン) ♂ スコーン
 特性:やるき
 覚えてる技:いわおとし、がんせきふうじ、かみつく、ステルスロック、ストーンエッジ、かわらわり、ふいうち、ほえる

控え
・グランブル(ブルー→グランブル) ♀ ショコラ
 持ち物:たつじんのおび
 覚えてる技:たいあたり、しっぽをふる、かみつく、じゃれつく、インファイト、ストーンエッジ、マジカルシャイン、こわいかお

・バルキー ♂ ビスケ

・ワンパチ ♀ マシュマロ

・???
 覚えてる技:パワージェム、うずしお、ギガドレイン、ハイドロポンプ、おにび、リフレクター


少年君 持ち物:キーストーン
・ゲッコウガ(ゲコガシラ→ゲッコウガ)
 特性:げきりゅう
 覚えてる技:みずのはどう、でんこうせっか、みずしゅりけん、あくのはどう、めざめるパワー(地)

・ガラガラ
 持ち物:ふといホネ
 特性:いしあたま
 覚えてる技:ホネこんぼう、ほのおのパンチ、じごくぐるま、ホネブーメラン、ボーンラッシュ、すてみタックル、ストーンエッジ

・ヘラクロス
 持ち物:ヘラクロスナイト
 特性:???←→スキルリンク
 覚えてる技:ミサイルばり、かわらわり、メガホーン、リベンジ、カウンター

・ヤミカラス
 覚えてる技:はがねのつばさ、ねっぷう、ドリルくちばし、かげぶんしん

・クイタラン
 持ち物:オボンの実
 特性:くいしんぼう
 覚えてる技:じごくづき、ほのおのムチ、ギガドレイン、まもる

・クレベース
 覚えてる技:つららばり、ジャイロボール、ゆきなだれ、じならし


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ぼーなすとらっく14『育て屋ドクロッグ』

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
そして雪乃の誕生日ですが、相模さんです。


〜お知らせ〜
当シリーズのDL版を販売することにしました。詳しくは活動報告の「『ポケモントレーナー ハチマン』シリーズのDL版販売について」にてご確認ください。


『というわけで、育て屋をしばらく難民ポケモンたちの生活の場としようと思う』

 

 というのが一ヶ月前に言い渡されたヒキガヤからのお言葉。

 マジ、入院中のくせに働くとかどんだけ仕事が好きなのよ。おかげでうちらの仕事が増えてるし……………。

 一ヶ月前、ミアレシティとヒャッコクシティがデオキシスってポケモンに襲われたことで、被害に遭ったトレーナーからポケモンを預かることになった。

 で、うちは今、水辺に住むポケモンたちの様子を見に来たんだけど…………。

 

「ゴルダック、うちのスカートめくるのやめて!」

 

 ぬっと現れたゴルダックに背後を取られてそのままスカートをめくられている。

 このゴルダックは野生のポケモンである。ここにはユキノシタさんたちのポケモンはもちろん、事件後被害に遭ったトレーナーから預かったポケモンの他に、野生のポケモンも生活している。彼らにはたまに協力もしてもらっているんだけど、どうもこのゴルダックは手伝うついでにうちにセクハラをしてくるのだ。

 

「うひゃあ?!」

 

 え、ちょ、なによ?!

 お尻まさぐられた!?

 

「こんの変態! スケベ! エロオヤジ!」

 

 くっそ〜!

 なんであっさり躱すのよ!

 一発くらい当たりなさいよ!

 

「ゴダッ!?」

「ゼル………ゼルゼル」

 

 と、いきなりゴルダックが後ろから殴られた。

 

「フローゼル!」

 

 叩いたのはフローゼル。うちのポケモンで、今はこの水辺の管理をしてくれている。そして、いつもゴルダックにセクハラされると助けてくれるイケメンでもある。

 

「ゴダゴダ?」

「ゼーゼル」

「ゴダ!」

 

 うん、何言ってるのかわからない。わからないけど、なんかゴルダックがムカつく。

 

『「お前……またか」「かわいいじゃん?」「それはわかる」「だろ?」だとよ』

「うわぁ?! ヤドキング!? アンタいたんだ…………」

「イロハは今ドラゴンタイプの強化に忙しいからな。オレっちが呼ばれるのはまだ先の話だ」

 

 突然話しかけてきたのはイッシキさんのヤドキング。

 元々はおじいさんのポケモンだったらしく、イッシキさんはヤドキングの力を借りないで強くなろうとしている。うちからすれば充分強いと思うんだけど、まだまだ足りないみたい。

 それもこれも全部ヒキガヤがいるからだと思う。あのあり得ない強さを目の当たりにして落ち着いてられなかったんだろうな。

 

「って、あの二人そんな会話してるの?」

『ああ、モテモテだな』

 

 なんだろう。

 モテモテなのかもしれないけど、全然嬉しくない。多分、ゴルダックがセクハラしてくるからだろうな。それがなければいいポケモンなのに。

 

「はあ………、じゃあ預かってるポケモンたちのことを聞いても?」

『バスラオとヒトデマンは調子良好。カメテテはバトルしたいとか言ってるぞ。あとブロスターは飯の量を増やしてくれって』

 

 健康状態はみんないいみたいだね。

 あ、なんかブロスターがすごい目でこっち見てる。そんなにお腹すいてるの!?

 分かったよ、量を増やしてあげるよ…………。

 

「ありがと。ゴルダック! アンタ、カメテテとバトルしてあげて。暇でしょ」

「ゴダ?」

 

 え、俺? みたいな顔しないでよ。ちょっと面白かったじゃん。

 

「うん、そう。アンタ」

「ゼール」

「………ゴダ」

 

 お、なんか素直にいってくれた。

 ほんとセクハラなければいいポケモンなのに。

 

「ヤドキング、これからちょっと暇?」

『オレっちに手伝わせようってか?』

「うん、そんなとこ」

 

 だって通訳してほしいし。

 いるのといないのとでは随分違うんだからね!

 

「ルリルリー」

「あ、おかえりルリリ。みんなと話せた?」

 

 と、水辺のポケモンたちの様子を伺っている間、辺りにいるポケモンたちと遊ばせていたルリリが帰ってきた。未だルリリのままだけど、一度だけ進化の兆しを見せたことがある。でも、ルリリのまま。ディアンシーを通じて教えてもらったことだけど、ルリリはまだ進化したくないらしい。つまり、進化できるほどにはうちと打ち解けられたってことでもあり、それだけでうちは嬉しかった。

 

「ルリ!」

「そっかそっか」

『はあ………、なんでオレっちはこんなちっこいのに懐かれてんだか…………』

 

 そしてもう一つ。

 ルリリは何故かヤドキングに懐いている。ドクロッグにも懐いているところを見ると、性格がちょっとアレな方が好みなのかもしれない。それはちょっとというか激しく阻止したいところだけれど、まあうち以外には悪い奴じゃないので諦めつつはある。なんでうちに対してだけみんな扱いがぞんざいなの!

 

『仕方ない、ルリリ。しっかり掴まってろよ』

「ルリ!」

 

 ルリリはヤドキングの頭までよじ登り、巻貝にしがみついている。

 

「なんかごめんね?」

『そう思うなら引き剥がせ』

「よーし、次は森にいくよ!」

 

 さあ、どんどんいこう!

 うちはさっさと終わらせて休むんだ!

 

「エッモ!」

「あ、エモンガ! って、どうしたの?!」

「エッモ〜!」

 

 森に向けて一歩目を踏み出したところで前方からエモンガが勢いよく飛び込んできた。偵察隊としてエモンガとカオリちゃんのオンバーンには何か問題があったらうちやカオリちゃんたちを呼ぶようにしてもらっているんだけど、今日も何かあったらしい。森の方からだし大体の想像はつく。

 

「えと、今日も、なの?」

「エモ」

 

 はあ…………、まったく何でそんなに縄張り争いしてんのよ。あのむしタイプどもは!

 あっちにはメガニウムやカオリちゃんのコロトック、チカちゃんのトロピウスもいるっていうのに。

 

「報告ありがと。エモンガ、引き続き偵察よろしくね。ヤドキング、急ぐよ」

『なんだかなー』

 

 そうヤドキングを急かして森へと向かった。

 森へとやって来ると酷い有様だった。

 何がというと森の問題児たちであるドラピオン、ペンドラー、ビークインの三体が伸びていたのだ。その中央にはドクロッグがいる。

 

「………アンタね」

「ケケ」

 

 不敵な笑みを浮かべているこのドクロッグはうちのポケモンであり、この育て屋が誇る最強のポケモンでもある。非常に不本意だけどね!

 

「メガニウム、コロトック、トロピウス、そっちは大丈夫ー?」

「ガニ!」

「コーロロ!」

「トロロロロ!」

 

 メガニウムはうちの、コロトックはカオリちゃんの、トロピウスはチカちゃんのポケモンで、ここのポケモンたちの安全確保を担ってもらっている。今回は預かっているポケモンや野生のポケモンともども守ってくれていたようだ。

 

「ドクロッグ、ビークインとドラピオンは仲間たちに連れていくように言っといて」

「ングー………」

 

 いつものことながらやる気のない返事ね。

 なのに、動けばこれとか本当このドクロッグも異常な強さだと思うわ。

 

「さて、手当てしますか」

 

 倒れているペンドラーのところへ駆け寄り、ポーチからキズぐすりを取り出す。効能のすごいキズぐすり。お高いのにヒキガヤのやつ、こういうのはケチらないんだよね。うちらの給料はケチるくせに。

 

「起きなさーい」

 

 プシャーっとボトルから中の液体を吹きかけると、しばらくしてモソリとペンドラーが動き出した。

 

「アンタ、バトルに飢えてるみたいだけどさ、ポケモンたちにケンカを吹っかけるのはやめなさいよ。アンタのトレーナー今、怪我してアンタの面倒を見てやれないって言ってたんだからさ、アンタがそんなんだとトレーナーさんに会った時、悪い意味で驚かれるよ?」

 

 ま、ケンカの相手が毎回決まってるだけマシだけどね。誰彼構わずってなったらさすがのうちらもお手上げだし。そうなったら悪いけどトレーナーさんに送り返すしかない。

 ドラピオンたちには悪いと思うけど、もうしばらくはペンドラーに付き合ってもらえるとありがたいんだけどなー、なんて。社交性というか、他のポケモンとの付き合い方を覚えてくれると預かった甲斐があるってもんだし。

 

「取り敢えず、他に痛むとこはない?」

 

 他に痛む箇所を聞いてみると首を横に振ったので、これで手当ては終了。あとはメガニウムたちに任せるとしよう。

 

「んじゃこれでおしまい。アンタが不器用なのはこの一ヶ月でなんとなく分かってきたけど、どうせ発散したいのなら普通にバトルを申し込むこと。野生の群のボスであるドラピオンやビークインたちは群を守るっていう意識もあるんだから、突然襲われたらこうなることくらいいい加減学習しなさい。いい?」

 

 無言でショボくれてはいるけれど、首を縦に振ってくれた。

 まあ、明日にはどうなってるか分からないけど。これ言うのも何度目か分からないし。

 

「今日はゆっくり休むのよ」

 

 トボトボと歩き出したペンドラーを見送り、本題へと移る。

 

「ヤドキング、メガニウムたちにポケモンたちの状態聞きにいくよ」

 

 自分のポケモンの意志表示くらいなら読み取れるけど、詳しい内容を聞こうとすればやっぱり通訳が必要だしね。

 

「メガニウムー、ポケモンたちの様子聞いてもいい?」

「メニウ!」

 

 それからヤドキングを通じてメガニウムに森に棲むポケモンたちの健康状態を聞き出した。預かっているポケモンのリーフィア、ホイーガ、ペンドラー、フシギソウの四体に問題はなく、強いて言えばペンドラーが上手く発散出来ていないことくらい。それが原因でドラピオンやビークインとケンカになっていたけど、明日もやるのなら強制送還も視野に入れるとしよう。預かる身としては残念だけどね。

 野生のポケモンたちの方もケンカ相手になっていたドラピオンとビークイン以外は特に問題なさそう。

 はあ………、セクハラがないとこんなにも楽だなんて。一回あのバカには制裁を下すしかないようね。

 

「ありがと、メガニウム。それにみんなも。あ、それとメガニウム。ユキノシタさんのフォレトスにいだッ?!」

 

 痛ったーっ?!

 な、なんなのよ、一体!?

 

『あ、フォレトスじゃん』

「トス? ト………トスス!?」

 

 フォレトス!?

 え、まさか今の衝撃フォレトスのせいなの?!

 

「ルリリ〜……」

「ルリリ………、だ、大丈夫………なんとか生きてるから」

 

 ッ………すごく、頭が痛い。

 

「トスス! トスス!」

「あ、うん、大丈夫だから。そんなに謝らなくていいよ」

 

 うちが頭を押さえて倒れ込んでいると、衝撃の原因らしいフォレトスが必死に謝ってくれた。んだけど、そんなに必死に謝られると怒るに怒れないし、うちの方が悪いように思えてくる。

 

『にしてもキレイにいったなー。まるでコントのようなシーンだったぞ』

「……やめ、て……。うちもフォレトスも、そういうの………求めてないから」

 

 人が必死で痛みを堪えているってのに。

 なに呑気に解説してんのよ。

 

「ケケッ」

「あ、ちょ、ドクロッグエ?!」

 

 突然ドクロッグに担がれて頭がぐわんぐわんして吐き気まできて、つい喉を鳴らしてしまった。でも悪いのはドクロッグなんだから。いきなり担ぐとかありえないでしょ!

 

『ルリリ、掴まれ』

「え? い、いやぁぁぁあああああああああああああっっ!?!」

『メガニウム、あとはよろしく』

 

 変な体勢のまま走り出されてうちは絶叫した。絶叫してないと何かが出てきそうな感じもあり、それはもう必死に。

 

「…………はぁ、はぁ………気持ち悪ぅ………酔った……………」

 

 なんとも形容しがたい気分の悪さが限界に来た頃、ようやく目的地に着いたのかドクロッグが足を止めた。

 

「あれ? ミナミじゃん。って、なんかグロテスクな顔してるんだけど。ウケる!」

 

 くそぅ、こんな時に限ってこっちに出会うとは!

 今のうちは自分でいうのもなんだけど、乙女が決してしてはいけないような顔をしているのだ! 鏡を見なくてもそれくらいは分かる!

 なのに、それをよりにもよってこっちに見られるとか…………。

 これがチカちゃんなら普通に労ってくれたってのに…………。

 

「ンギラァァァアアアアアアッ!!」

「サァァァドォォォオオオオオオンッ!!」

 

 な、こ、今度はなに?!

 今揺さぶられると…………出ちゃうからぁ!

 

「あーもー、アンタたちも飽きないねー。ソーナンス、カウンター!」

「ナンスー!」

 

 あ、サイドンとバンギラスか。カオリちゃんが対処してくれるのね。

 はあ、これで安心………。

 

「ソーナンス〜!」

 

 できないぃぃぃぃぃぃ!!

 あ、こら、バカソーナンス! こっちに飛ばさないで!?

 

「ンギラスッ!?」

 

 うぷっ!?

 ………もう、無理……………。

 

「ケケッ」

「あだ!?」

 

 今度は何なのよ?!

 

「って、あれ? …………吐き気がなくなった……………?」

「ケケッ」

 

 うっ、ドクロッグ、その手はまさかどくづき………?

 え、ちょっと待って、どくづきの毒で治ったとかそういうやつなの?! 普通生身で毒もらったらヤバイはずじゃ…………。まさかうちの身体がドクロッグに毒されてるの?! いやいやいや、そんなまさか…………まさか………………否定できないぃぃぃ!

 

「バクフーン、オーバーヒート!」

 

 受け入れ難い真実を悟り、うちが戦慄いている間にサイドンとバンギラスは黒焦げになっていた。

 

「ふぅ、お仕置き完了! ………って、ミナミどしたん?」

「あ、いや、何でもないよ。ただちょっと衝撃の事実に現実を受け入れられてないだけ………」

 

 もうやだ…………うちの身体とうとうおかしくなっちゃったよ……………。お嫁にいけない…………。

 

「コォォォ、コォォォ!」

 

 ん、今度はなに?

 次から次へと問題起きすぎじゃない?

 

「あー、こっちもか。バクフーン、バクオング。問題児どもを運んどいて」

「「バグ!」」

 

 ああ、コータスね。

 ここに住んでいるコータスの中に一体だけ何故かよく泣くコータスがいる。理由は分からない。ただよく泣く。泣いて荒れるわけでもないし特に被害は出ないんだけど、まあよく泣く。

 

「今日はどしたん?」

「コー、コー」

「うん、わかんないわ」

『…………ドクロッグが怖いんじゃね?』

「ケケッ」

「やめい」

 

 名前を出されたドクロッグがコータスを襲うポーズを取ったので、後頭部をスパンッ! と叩いてやった。さっきの仕返しの意味も混じっているのは内緒だけどね。

 

『ま、実際は自分の煙が目に沁みたんだろけどな』

「そうなの?」

『オレっちは初めて見るからよくは知らん。ただご主人に聞いた話ではそういう例があるとか言っていた』

 

 なんだそうだったんだ。だったら最初からヤドキングにも聞いておけばよかった。

 

「カオリちゃん、取り敢えずドクロッグが作ったポケモンフーズあげといたら?」

「そだね。なんかよく分かんないけど回復効果もあるみたいだし」

 

 それね。

 ほんと意味が分からない。ドクロッグが作ったポケモンフーズには何故か回復効果があり、うちらが作るのよりもポケモン受けがいい。というかうちより料理が美味いって意味分かんないんだけど!

 

「それで、このエリアのポケモンたちの様子はどう?」

「んー、特に変わったことはないかなー。要望も特にないし。あのバカ二人が毎日取っ組み合いしてるくらいだしねー」

「はあ………、ここもセクハラがなくていいなー」

「なに? どしたん? またゴルダック?」

「そう、またあいつにやられたの」

「ウケる!」

「ウケないよ………」

 

 人が真剣に悩んでるってのに。

 

「ま、それだけミナミちゃんはゴルダックに好かれてるってことだね」

「嬉しくない。そんな愛情嬉しくない」

 

 うちの周りのオスはどうしてこう変なやつばっかりなんだろ。

 

「………でも毎日会ってるよね?」

「うっ………、そりゃ様子見がてら水辺には行くし」

「ちゃんとゴルダックとコミュニケーションとっときなよ。いざって時には守ってくれると思うから」

「はあ?! あいつが!? んなわけないでしょ」

「ンガー………」

『はあ〜………』

 

 なによ、アンタたち揃いも揃って。なにため息ついてんのよ!

 

「今はそれでいいのかな。あたしらが言うことでもないし」

「ええー、そこまで言っといて言わないの?」

「知りたかったらゴルダックに聞いてみたらいいって」

「それは絶対にやだ!」

 

 そんなのなんかうちが負けたみたいじゃん!

 それに絶対セクハラされるし!

 

「ケケッ」

「あ、ちょ、ドクロッグ!? またなの!? ちょ、降ろしてよ! え、あ、ちょ、バカァァァアアアアアアアアアッ!!」

 

 カオリちゃんとの話の途中でしょ!

 いきなり担がれてまた走り出されてしまった。

 うう………。

 

「ありゃー、ドクロッグも嫉妬深いなー」

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「はあ………はあ…………」

 

 育て屋本舎へと戻ってきてしばらく。

 まだ息が整わない。

 くそぅ、こんなことなら叫ばなきゃよかった。

 体力を無駄に消費しちゃったじゃん。

 

「えっと、こんな感じ?」

「トォォォ! トォォォミ!」

「え、ちがう?! もう何が気にくわないの〜………」

 

 で、うちをこんな状態にした原因のやつは、トリミアンのカットをしているチカちゃんを見ていた。

 

「ケケッ」

 

 あ、ついに割って入っていた。

 はあ………、うちも仕事しよ。

 

「わ、ドクロッグ。え、なに? アンタがやるの?」

「ケケッ」

「あ、じゃあ、はい………できるのかな………」

 

 チカちゃんの意見はごもっともで。

 でもドクロッグだしなー。

 

「えーと、水辺のポケモンは、バスラオ、ヒトデマン、バルビート、イルミーゼは問題なし。ブロスターは食事量の追加。カメテテはゴルダックが相手になることで解決っと。森のポケモンはリーフィア、ホイーガ、フシギソウが良好。ペンドラーは明日再訪問。直ってなければ強制送還も考えるっと。山辺のポケモンはイシズマイ、バネブー、ゴルバット、ココロモリ、サンドパン以上なし。サイドンもバンギラスとバカやってるくらい元気である。野生のコータスが泣く原因も煙が目に沁みた可能性が高いっと。あとは………」

 

 パソコンを使って結果をまとめていく。項目表はヒキガヤが入院中に作ってくれたものを使用。あいつ、地味にこういうのまとめるの上手いからムカつく。しかもその速さを間近で見て見惚れてしまった自分自身にはさらにムカつく!

 ………こうやってまとめてみるといかにゴルダックが異質か見えてくるよね。というか水辺のポケモンだけ遠慮なくない?

 

「トォォォミ!」

「なんでドクロッグだとオーケーなのよー!」

 

 どうやらドクロッグのカットが気に入ったみたいだね。

 もうなんとなく分かっていたけどさ。こいつ、もはやヒキガヤのゲッコウガといい勝負してるよね。そのうちポケモンやめるんじゃない?

 

「ミナミ〜………」

「あー、もう諦めた方がいいよ。うちも今の今まで振り回されてたし」

「なんか悔しいー!」

「気持ちは分かる」

 

 悔しいよねー。

 腹立つよねー。

 マジでなんでうちの仲間になったのか甚だ疑問だよ。

 

「たっだいまー!」

「あ、おかえりカオリちゃん」

「チカ、どしたん? ハンカチ咥えて」

「あれ………」

「うわ、ドクロッグがカットしてるし。超ウケるんだけど!」

 

 今回に関しては激しく同意。

 なんというか超シュール。

 

「あ、そうだ。チカちゃん、舎内のポケモンたちの様子聞いてもいい?」

「あ、うん、いいよ。みんな健康状態自体は特に異常はなし。ただマネネとテールナーはやっぱ女の子だからかな。おとなしいんだけど、ジグザグマがねー。あと、トリミアンのカットがあの有様………」

「ふむふむ、まあジグザグマはそういう生き物だし、トリミアンのカットだね。あれ見るとあいつに任せた方がいいんじゃって思うだけど…………どう?」

「やっぱり?」

「うん、じゃああいつに任せよっか。ただ、そうなるとあいつの負担が増えるからなー。今でも充分仕事させてるし」

 

 トリミアンのカットはうちらよりもドクロッグの方が気に入られたみたいだし、となると他の作業…………やっぱりケンカの仲裁とかかな。これはうちらでやるしかないよね。

 

「ミナミってなんだかんだドクロッグのこと気に入ってるよねー」

「え? べ、別にそんなことはない、けど?」

「いやいやいや、ミナミの性格なら『やってくれるの? わあ、ラッキー!』くらいが普通じゃん」

「うちをなんだと思ってるの………?」

 

 一回問い詰めた方がいいのかな。

 

『あらあら、みなさん。お戻りになられたんですね。それでは遅めの昼食にしましょうか』

 

 そういって鍋を運んできてくれたのはディアンシー。一応今はうちのポケモンってことになっている幻のポケモン。本人曰く、メレシーの突然変異体らしい。その稀有な存在からメレシー族からは姫として扱われるんだとか。

 

「ディアンシー! ありがとー! さあ、食べよう! 今すぐ食べよう!」

「ミナミ、必死すぎ」

「ケケッ」

 

 ドクロッグに振り回されたからね。

 無駄に体力使ってるからお腹すいてるの!

 

「あ、ミナミちゃん、後ろ………」

「へっ?」

 

 チカちゃんに言われて振り向くと、ゴルダックがスカートをめくっていた。

 

「き、きゃあ?! ゴ、ゴゴゴゴルダック!? アンタいつからいたのよ、この変態っ!」

「ゴダ?!」

 

 あ、思わず蹴っちゃった…………。まあいいか。やっと当たったと思っておこう。

 

『白か……』

 

 この巻貝頭。かち割ってやろうかな。

 

「ケケッ」

「うわ、アンタもいつの間に作ってたのよ………」

「しかも……………うん、やっぱり美味しい」

 

 伸びてるゴルダックをよそに席に座り、ディアンシーの作ってくれた昼食を食べようとしたら、もう一皿現れた。

 どうやらいつの間に作ってたみたいで………うん、美味しそう。チカちゃんなんか既に一口食べてるし。

 ただ、ねぇ………。

 

「美味しい、んだけどさ…………これのせいでうちらの身体おかしくなってたりしない、よね?」

「そんなわけないじゃーん! ミナミ何いってんのー?」

「ケケケッ」

「さっき、ドクロッグの毒で吐き気が治ったんだけど」

「「………えっ?」」

 

 さっき起きたことを話したら、二人の手が止まった。

 あ、やっぱこの事実はおかしいことなんだね。危ない危ない。うちの頭までおかしくなるところだったよ。

 

『大丈夫だろ、二人は。ドクロッグが仕掛けるのはこいつだけだ』

「ケケケッ」

「ちょ、それはどういう意味だし!」

 

 こんの巻貝頭! ディアンシー、やっちゃってよ!

 

「ケケッ」

「あ、ちょ、こら、うぷ?!」

 

 巻貝頭に文句を言おうとしたらドクロッグに引っ張られてスプーンを咥えさせられてしまった。

 

「………いや、だから美味しいからね? 正直うちより美味いから!」

「ゴダ」

「アンタはつまみ食いしながらうちのお尻を撫で回すな!」

 

 復活したゴルダックがうちのお尻を撫でながらドクロッグが作ったチャーハンを掬って食べ出した。

 だが次の瞬間ーーー。

 

『ドクロッグさん? ゴルダックさん? それ以上ミナミさんにおいたをするのなら……………わかりますよね?』

 

 ーーー二人の時間が止まった。

 カチンと固まり、ギギギとディアンシーの方へと首を動かしている。かくいううちもディアンシーの静かな怒気に身震いした。

 うちの為って分かってはいるけど、めっちゃ怖いんですけど!

 

『おい、なんだこれ………』

 

 そんな冷え切った空気を吹き流したのは育て屋へとやってきたポケモンだった。

 

「ゲッコウガ?! アンタどうしたの?」

 

 ゲッコウガ。

 ヒキガヤのポケモンでうちのドクロッグよりもヤバいやつ。しばらく一緒に行動したこともあるけど、ヤバかった思い出しかない。何がヤバいって戦闘から普段の動きに至るまでもはやポケモンの域を超えているのだ。化け物と一緒にいる感じね。本人には口が裂けても言えないけれど。

 

『今日はお前らに助っ人を連れてきたんだが………』

 

 助っ人?

 

「ほっほ、わしじゃよ」

「こ、校長先生?!」

「元、じゃがな」

 

 なんでこの人がいるの?!

 というかゲッコウガとどういう関係!?

 

『あ、ご主人、久しぶりだな』

 

 ん?

 ご主人?

 ご主人って言った?

 ヤドキングの言うご主人っていったらイッシキさんのおじいさんのことよね。

 …………え?

 

「えっと、イッシキさんのおじいさん、なんですか?」

「うむ、そうじゃよ。知らんかったのかの?」

「いやいやいや、知らないですよ! え、マジで? イッシキさんって実はすごいお嬢様だったり?」

「それはないの。儂に金はない」

「そ、そうですか……」

 

 マジかー………。

 あの子、実はすごいとこの子だったんだ……………。ユキノシタさんも姉妹でお嬢様だし、あいつの周りそんなのばっかじゃん!

 

「ちょっと、ゲッコウガどういうことよ?」

『言っただろ? 助っ人だと』

 

 そうだけど、そうじゃなくて。

 

『お前らが忙しいのはハチも知ってるからな。丁度こっちに来たじいさんに頼んだんだよ』

 

 そ、そうなんだ………。ヒキガヤが………、そっか。

 なら、もういいや。こっちはそういうことにしておこう。

 それより………。

 

「ねぇ、アンタに聞いてみたかったんだけどさ。あいつらってなんでうちに対してだけあんななの?」

 

 丁度いいので、ドクロッグとゴルダックについてゲッコウガに聞いてみた。

 

『知るか。んなもん、本人に聞けよ』

「うっ…………そ、そうなんだ、けどさ」

 

 うぅ……….ちょっとくらい考えてくれてもいいじゃん。

 

『ま、そういうところだろうな』

「はっ?」

『お前がヘタレだからだろ。あいつらに気に入られてるのは』

「え、意味がわからないんだけど………」

 

 ヘタレだから気に入られてる?

 てか、うちがヘタレってどういうことだし!

 

『お前がお前だからってことだ。だからお前が悩む必要はない』

「え、ちょ、ほんとにわけわかんないだけど!」

 

 みんなして何なのよ!

 結局わかんないままじゃん!

 

「ほっほ、お主は見掛けによらずポケモンに好かれやすいってことじゃな。奴とはまた違うポケモンたちに、じゃがの」

「えっと、奴って………?」

 

 すると元校長、もといイッシキさんのおじいさんが割って入ってきた。

 

「ヒキガヤハチマンじゃよ。奴はポケモンたちの力を引き出すことができる。だから強さを求めるポケモンたちに好かれるのじゃ。そしてお主はお主を守りたいと思わせるだけの優しさがあるのじゃろう。口では決して出してなさそうじゃが。それに気付くか気付かないかはポケモンによる。じゃが確かにお主にはポケモンたちを惹きつけるだけのものがあるのじゃよ」

 

 あいつらはうちを守りたいと思ってる、の………?

 え、でもなんでうちを?

 別に優しくなんてした覚えなんてないし…………。

 

『あとは、本能で選んだんだろう。オレがハチを選んだようにな』

 

 本能…………。

 あ、うん、なんかそれが一番しっくりきたかも。

 ゴルダックなんて本能のままにうちにセクハラしてくるし。

 え、でもなんかそれはそれでやだなー。

 普通に懐いてくれればいいのに………。

 

『あとは任せる』

「ほっほ、お主も『そやつ』を然るべきところに預けるのじゃぞ」

『……分かっている』

 

 まあいいや。

 この日を境に、うちらの作業が楽になったのは言うまでもない。




行間

サガミミナミ
・メガニウム ♀
 覚えてる技:ソーラービーム、にほんばれ、つるのムチ、じならし、くさのちかい、しぼりとる、こうごうせい、ひかりのかべ

・フローゼル ♂
 特性:すいすい
 覚えてる技:アクアテール、かわらわり、れいとうパンチ、みずでっぽう、アクアジェット、スピードスター、あまごい

・エモンガ ♀
 特性:せいでんき
 覚えてる技:でんげきは、ボルトチェンジ、アクロバット、でんこうせっか、ほうでん、でんじは、かげぶんしん

・ルリリ ♀
 特性:そうしょく
 覚えてる技:こごえるかぜ、あわ、うそなき、はねる、まるくなる

・ドクロッグ ♂
 特性:きけんよち
 覚えてる技:ずつき、ダブルチョップ、ねこだまし、どくづき、バレットパンチ、ヘドロばくだん、どろばくだん、ドレインパンチ、みがわり、はたきおとす

・ディアンシー
 持ち物:ディアンシナイト
 覚えてる技:ダイヤストーム、マジカルシャイン、ムーンフォース


オリモトカオリ
・バクフーン(マグマラシ→バクフーン) ♂
 覚えてる技:ふんか、でんこうせっか、かわらわり、かえんほうしゃ、かえんぐるま、オーバーヒート

・オンバーン ♂
 覚えてる技:りゅうのはどう、ばくおんぱ

・バクオング ♂
 覚えてる技:みずのはどう

・ニョロトノ ♂
 特性:しめりけ
 覚えてる技:ハイドロポンプ、アイスボール

・コロトック ♀
 覚えてる技:シザークロス

・ソーナンス ♂
 覚えてる技:カウンター


ナカマチチカ
・ブラッキー ♀
 覚えてる技:あくのはどう

・トロピウス ♂
 覚えてる技:ぎんいろのかぜ、エアスラッシュ

・レントラー ♂
 覚えてる技:かみなりのキバ


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ぼーなすとらっく15『常識はずれのトレーナー』

今回は『異世界からの侵略者?』から十五分後になります。所謂続き物です。

〜お知らせ〜
DL版販売についてですが、大方中身が出来てきて、タイトルも決まりました。来週を目処に準備したいと思います。
またpixivにてサンプルの表紙と目次をアップしましたので、ご確認下さい。

追記
無事完成いたしました。発売日等を活動報告にてまとめましてので、ご確認よろしくお願いいたします。


「やっ」

「げ……」

 

 白い生き物に変な空間に連れていかれ、挙句ソウルハートなるものを渡され、さらにその白い生き物がボールに入ってしまってから十五分後くらいのこと。

 俺たちは身体を休めるためにレンリタウンのポケモンセンターに立ち寄った。

 だが、それが悪夢の再来だった。

 

「テメェ、何でここにいる」

「いやー、あの後なんかこっちに飛ばされてさー。ムカつくからボコって追い返した後、キミをここで待ってたんだよ」

 

 さっきのチートポケモン使いがへらへらとこっちを見ていたのだ。一緒にいた金髪少女もいる。名前はなんだっけ………ナオト………タケナカ? インティライミ? なんかそんな感じ………。少女の方はマリーだかマリィだかマリルだかなんかそんなの。………マリルはないな。正直それどころじゃなかったため覚えちゃいない。

 

「それで、何の用だ。さっきは一時的に休戦しただけだから続きをしようって話ならお断りだぞ。あんなチートポケモンどもとは二度とやりたくない」

「それも魅力的な話だけど、待ってた理由はそれじゃないよ。単に帰る前に顔を見とこうと思って」

「だったら帰れ。一秒でも早く帰れ。お前らみたいな危険因子にウロウロされたら、他の狂人まで暴れ始める」

「そんなことしないわよ! ナオト、アンタはちょっと黙ってて」

 

 そうは言うがあんなチートポケモン、敵に回ればカロスが終わる。全員色違いでしかも覚えない技を覚えているとか、普通じゃない。ラティアスがサイコブレイク? はっ、ふざけんな。暴君様に知られれば世界が終わるぞ。

 

「あなたが持っているその球、何なのか理解してる?」

「あ、いや………お前らが言ってたマギアナの魂だとかなんとかくらいしか。そもそもマギアナを知らないんだ。そう説明されたところで理解のしようもない」

「そ、ならマギアナの説明が必要ね」

 

 こうして話してみるとまだ金髪少女の方が幾分か話しやすい。ただそこは俺。初対面のやつに話しかけられると今でも少しどもってしまう。

 

「マギアナは昔、とある研究者が造り上げたポケモンなの。鋼の身体に魂のソウルハートを持つ故にからくりポケモンとも言われているわ。実物はまだ見たことがないけれど、からくりと称されるように身体を変形させることができるのよ。こうやってソウルハートが持ち出されないようにするためにね」

 

 要するにこのソウルハートとは別に身体が存在しているわけだ。つか、んなもんがなんであの白い生き物のところにあったんだよ。

 

「つまり、魂であるこのソウルハートがあっても身体がないんじゃ意味がないと」

「ええ、そしてわたしたちがそのソウルハートを欲しているのも事実よ」

「はっ?」

 

 はっ?

 今こいつは何を言った?

 ソウルハートを欲してる?

 …………これは転び方次第で戦闘になってもおかしくはないってことだな。何なんだよ、今日に限って。もっと平和であれよ。

 

「つまり俺たちのためにそれを譲ってくれないかって言ってるのさ」

 

 言い直さなくても理解してるっつの。

 はあ………、ほんと嫌だわ。どっちに事を運ぼうが面倒事に巻き込まれるのは目に見えている。

 

「………悪いがこれは俺があの白い生き物に託されたんだ。厄介事の匂いがプンプンするが、敵か味方も分からんお前らに渡す理由もない」

 

 ただ、ある意味監視されてるんだよな。

 何故あの白い生き物がボールに入ったのか分からないが、このソウルハートと俺を監視するためと言われても納得はいく。受け入れ拒否はしたいところであるが。

 

「そう、まあダメ元での話だから聞き流してくれればいいわ」

「………嫌に引きがいいな」

「『押してダメなら諦めろ』だったかしら?」

「お前、それ………」

「無駄な争いはしたくないの」

 

 くそ、こういう日常会話ですら知られているとなると、逆に恐怖を覚えるな。

 お前たちのことは何でも知っている。どうしようが勝手だが、いつでもお前の首を刎ねることはできる、と刃を突きつけられた感覚だ。

 

「その言い方じゃ、人に刃を突きつけてるのと同じだぞ」

「お望みとあらば突きつけてあげるけれど?」

「遠慮しときます………」

 

 物騒な奴だな。

 穿った見方かもしれんが、こいつ敵多そう…………。

 

「で、さっきの帽子を被った少女のような白い生き物は何だ。お前らの反応からして知ってるようだが、アレもポケモンなのか?」

「さあねー。それは自分で調べてみなよ。交渉を断られた俺たちが教えるのは筋違いでしょ」

「お前な………。まあいい。お前らのような危険因子の言葉を全て信じる気は端からないしな。白い生き物は自分で調べるとする」

 

 ま、当然断られたか。

 こっちも断ってるんだからな。お互い様といえばお互い様だ。そもそもこいつらの知識がそのままこの世界に適応してると考えるのは早慶だろう。こういうのは可能性の一つとして聞き流しとくのがベストだ。

 

「さて、じゃあバトルしようか」

「何故そうなる。さっきも断っただろうが。俺はお前たちとはやりたくない」

「そっかー、でもゲッコウガは放っておけないんじゃないかなー? キミは未完成の雑魚、なんて言われたら」

『………言葉には気をつけろよ、クソガキ。テメェのゲッコウガに勝てなくともテメェ自身を殺すことはいつでもできるぞ』

「落ち着け、ゲッコウガ。死してなお生きる化け物だったらどうする」

 

 未完成の雑魚って言われて怒りを露わにするゲッコウガ。

 まあ、割と人生賭けた博打だったもんな。それを否定されたら怒りを覚えないわけがない。ただ、今すぐにでも首を刎ねようと黒い手刀を充てがうのはやめい。仕返しが未知数すぎて胃が痛くなってきてるんだぞ。

 

「まったく、穏やかじゃないね」

「お前に言われたくはない」

 

 そもそもの原因である少年は飄々としていてどこ吹く風。

 なんだってこんな奴と巡り会ってしまったんだか。

 

「で、どうする? もちろんやるよね?」

「はあ………、ゲッコウガだけな」

 

 ここまでされたらゲッコウガも収まりが効かないだろうし、トレーナーとしてやるしかないだろう。

 脅しのような問いに仕方なく頷き、ポケモンセンターの外にあるフィールドへと移動した。ちなみにキルリアはこのナオトとやらに会った瞬間からずっと俺にべったり引っ付いている。かわいい。

 それにしても、この町は過疎ってるな。人っ子一人見当たらない。限界集落なんて言葉もあるが、オーキド研究所がある分マサラタウンの方が幾分かマシに思えてくる。何とかするべきかね。

 

「審判はわたしがやるわ」

「好きにしてくれ」

 

 正直ゲッコウガが勝つとは思えない。あんな異質なポケモンに勝てる未来が見えないのだ。

 

「いけ、ゲッコウガ!」

 

 出たよ、黒いゲッコウガ。

 色違いとかいう時点で希少性は高いのに、さらに本来覚えないとされる技ですら使ってくるってんだから普通のポケモンとは思えない。まあ、逆を言い返せば普通じゃないと分かってるからこそ、最初から危機感を持って戦えるともいえる。だが、それで奴の強さが変わるわけじゃないのが辛いとこだよな。

 

「ゲッコウガ、俺もやるか?」

『いやいい。最初は一人でやらせろ』

「そうか。無理はするなよ」

 

 煽られた手前、一発くらいは自力で入れたいのだろう。ただ危険なのには変わりない。俺が加わったところで意味がないかもしれないが、ゲッコウガ一人に背負わせるのもなんか癪だ。タイミングを見て口出しするようにしよう。

 

「ルールは一対一の技は好きに使えばいいわ。その方がいいでしょ?」

 

 実力を図るってならそれが一番メジャーなルールだろうな。

 俺も少年も金髪少女への問いに首を縦に振った。

 

「それじゃ、バトル開始!」

「いくぞ、ゲッコウガ!」

 

 バトル開始と同時に二体のゲッコウガが水のベールへと包まれていく。

 さっきの白い光とは違い水のベール、なんだな…………。やはり、特性はきずなへんげ。稀に見る特性とかそういう類のものじゃない、文献にあるかないかの幻の特性。生憎、文献にはその特性の名前がなかったため、俺たちでそれっぽく名付けているわけだが、あちらさんはアレを何と称しているんだろうか。

 

『フン』

 

 まずはみずのはどうだんか。

 様子見としてはもってこいだな。

 

「シェルブレード!」

 

 水の弾丸は真っ二つ、か。

 というかあのシェルブレードは何を媒体に水のブレードを作り上げているんだ?

 普通なら覚えない技であるはずのシェルブレード。それを使いこなすということは技を発動させるための貝殻や甲装が必要なのだが、ゲッコウガにはどちらもない。まったく以って意味が分からん。

 

「こうそくいどう!」

 

 今度はあちらさんから仕掛けてくるか。

 どう出る?

 そっくりそのまま返してくるっていうことも考えられるし、速度を上げた状態で背後からってことも考えれる。あのありえない光景を見てしまっているがために、選択肢が増える一方だ。

 

「そこだ! ゲッコウガ、つばめがえし!」

 

 やはり後ろか。

 これならゲッコウガも読んでいるな。既にゲッコウガの周りには水が渦を巻くように出現している。みずのはどうの水流操作を活かした技の応用。

 

「れいとうビームだ!」

「『ッ?!』」

 

 チッ、同時発動かよ。

 こいつらの異常さならこれくらいできて当たり前なのかもしれない。逆にその方が可視化されてて分かりやすいとも言えるが、いかんせん相手から受けたのはこれが初めてだ。俺もゲッコウガも一瞬驚いてしまったのは事実。

 

「ゲッコウガ、くさむすびだ。あとは分かるだろ?」

『なるほど』

 

 冷気で凍っていく水の渦を地面から蔦を伸ばして砕き、代わりに蔦を新たな壁とした。さらに黒いゲッコウガの背後からも蔦を伸ばし、挟み撃ちの状態にしていった。

 

「後ろだ! いあいぎり!」

 

 だが、トレーナーの目というものがあるため、黒いゲッコウガには背後の蔦を木っ端微塵に切り落とされた。

 あの一瞬で反応して躱す、いや目の前の蔦を切るくらいならまだ納得がいく。だが木っ端微塵は異常すぎる。速いとかの問題じゃない。時が一瞬止まったのかと思ったぞ。

 

「ふぅ………うん、やっぱりゲッコウガの中でみれば強い。何なら全ポケモンの中でもトップクラスといってもいいと思うよ」

 

 褒めている、と受け止めればいいのだろうか………?

 確かに何も知らないただの通行人が今の攻防を見ていたとしたら、どちらも高度な技術を駆使した応酬だったとは思う。

 ただ、相手はまだこれが本気ではないのだ。褒められたところで素直に喜べたもんじゃねぇな。

 

「ーーけど、トップじゃない」

『ッ!?』

 

 動揺してんじゃねぇよ、ゲッコウガ。

 トップじゃないのは当たり前だろうが。デオキシス相手にあの様だったんだぞ。その時点でトップじゃないのは明白だっただろうが。というかお前、リザードンとはいい勝負とか言ってたじゃん。トップが二人とか矛盾してるだろ、アホか。

 

「んなもん、分かりきったことだと思うがな。逆に自分がトップです、なんて恥ずかしくて言えるわけがない」

『………そうだな。オレは別に頂点に君臨してるわけでもしたいわけでもない』

「あははははっ、だからキミは、キミたちは未完成の雑魚なんだよ」

 

 はいはい雑魚でどうもすみませんね。

 

「キズナシンカ。今からもう一つ上の進化を見せてあげるよ。ゲッコウガ!」

「コウガ!」

 

 はっ?

 こいつは何を言ってるんだ?

 もう一つ上の進化?

 仮にメガシンカを再現しているきずなへんげでの変化をフォルムチェンジとみなしたとしても、そこからさらなる進化、この場合メガシンカと同等のものに進化するなど、聞いたことがない。そんなもんが存在するのならポケモン研究の歴史が変わるどころか、進化そのものの定義が書き換えられるぞ。

 

『なっ………!』

 

 少年と黒いゲッコウガが同じポーズを取ると手首が光り、二人の足元から水のベールが大きく渦を巻いて昇り始めた。そして徐々に二つが一つに結合していく。まるでメガシンカの光のようだ。

 あーもう、頭が痛くなってきた。

 今日は厄日だ。都市伝説に出くわすわ、追い返したはずの化け物に襲われるわ、面倒事を押し付けられるわ。そこに異世界人の超常現象なんてもんを見せつけられればさすがの俺でもパンクするっての。

 

「コウガ!」

「はっ……………?」

『消えた………?!』

 

 水のベールが弾けるとそこにはゲッコウガ?しかいなかった。いやそもそもこの紫色の生き物がゲッコウガなのかすら怪しいまであるが、面影がないこともないため恐らくゲッコウガなのだろう。

 いやしかし、そうであったとしても少年が消える理由にはならない。

 

『消えたわけじゃない、一つになっただけさ』

 

 は、はは…………勘弁しろし。

 トレーナーとポケモンが文字通り一つになるだと?

 常識はずれにも程がある。俺たちですら特殊ケースと認識してるんだぞ。そこに人ポケモンが合体? 憑依とかそういうのでもないのだろう?

 くそったれが。

 いつだったかゲッコウガがトレーナーとしての実力をつけたことで、「二人で一人のポケモントレーナーだ」とか言った記憶があるが、あれはゲッコウガがポケモンとして俺の考えを読み取りトレーナーとして指示を出せるのを言い表したに過ぎない。

 だが、これは何だ。「二人で一体のポケモン」じゃねぇか。

 全く………、現実は非情で、惨酷で、無理である。

 

「ゲッコウガ、ありゃ化け物だ」

『………分かっている。だが、オレにもプライドってのがあるんだ。背中を向ける気はない』

「………だろうな。じゃなきゃ挑発に乗る意味がない」

 

 それでもゲッコウガは逃げ出したくはないみたいだな。

 なら、お前がそういうのなら、俺はとことんまで付き合ってやるよ。

 

『クロックアップ』

 

 次の瞬間、紫色のゲッコウガが消えた。

 

『今更消えたところで驚きはしない』

 

 ゲッコウガは黒い霧を発生させていく。

 すると徐々に紫色のゲッコウガが姿を見せ始めた。

 やっぱりな。

 クロックアップ。この言葉に聞き覚えがあって助かったわ。なんせ俺も昔は技と技を組み合わせた連携技を新しく考えていた頃があったからな。

 今回のはこうそくいどうとかげぶんしんの併用。高速で移動する中、敢えて残像を見せることで敵を撹乱させるのが狙い、と俺は位置づけている。あくまでも俺は、な。

 

「………ただ、音が全くしなくなってるのはどういうことなんだろうな。ゲッコウガ、えんまくで撹乱しとけ」

 

 まあ、そこはやはり異質な存在ということか。

 姿が見えたところで足音がしない。本当にあれが本物なのか疑ってしまうレベル。綺麗な残像ですって言われても信じてしまうかもしれない。

 

『ッ!?』

「コウガ!」

 

 チッ、やはり素で速い!

 くろいきりで効力を無効化したというのにだ。それだけこのキズナシンカとやらは強力なのは分かった。

 ゲッコウガは背後から複数の水の刃を突き刺されている。

 

『ッヤロ!』

 

 だがそれを頼りに方向を定め、紫色のゲッコウガを蔦で搦め捕った。

 

「コウ、ガ!」

『ぐぅ!?』

 

 これは………ギガドレインか?

 背中に突き刺した刃を媒体に体力を吸い上げているってのか。

 

「ゲッコウガ、グロウパンチ」

 

 動けるかは分からない。

 だけど、ゲッコウガなら何とかするだろ。

 

『無茶を、言うな!』

 

 といいつつ身体をギチギチと回してパンチを一撃打ち込んだ。

 さすがゲッコウガ。すごいぞ、ゲッコウガ。

 

「そのままけたぐりからのグロウパンチもう一発だ」

 

 そして下から紫色のゲッコウガを蹴り上げ、パンチで少年の方へと突き飛ばす。

 タイプ相性では効果抜群の技ではあるが………大ダメージという感触はないな。

 

『じこさいせい』

 

 もうね、アホらしくなってきた。

 こんなやつらと戦う意味とかマジでないだろ。

 

『チッ、クソが………!』

 

 ゲッコウガは背中の手裏剣を取り、上に掲げた。

 すると水で出来た手裏剣が大きくなり、くるくると回転し始めた。

 今のゲッコウガにとって最大の技。

 

『おっと、なんだいそれは』

 

 ん?

 あれだけの異常さがあっても知らないのか?

 

『まあ、でも甘いと言わせてもらうよ。スピリットスラッシュ!』

 

 シェルブレードのようでシェルブレードではない。何というかエネルギーが全く違う、ように感じる。長さもさっきより長くなってるように見えるし。これも普通の技ではないのだろう。

 ゲッコウガが紅く沸騰した巨大なみずしゅりけんを投げ放つと、紫色のゲッコウガもシェルブレード改(仮名)を携え、飛び込んで来た。そして次の瞬間、あの巨大な手裏剣が真っ二つに割れるというね。マジでありえねー………。

 

『トドメだよ、スパイラルトルネード!』

 

 お返しと言わんばかりに今度は紫色のゲッコウガが巨大な手裏剣を作り上げ、こちらに投げ放った。投げた勢いで回転がつき、徐々に外側から散り始め、竜巻へと変わっていく。

 竜巻だと認識した頃にはうちのゲッコウガさんは呑み込まれており、俺もキルリアが飛ばされない様に支えるのに必死だった。

 

「ゲッコウガ、戦闘不能! ナオトの勝ちね」

 

 竜巻が霧散し、降ってきたゲッコウガはドサリと地面に身体を打ち付けた。姿もいつもの姿に戻っている。文字通り目を回しており、金髪少女から判定が下された。

 

「ま、分かってはいたことだがな………。おい、生きてるか、ゲッコウガ」

 

 キルリアを抱っこしてゲッコウガの方へと向かう。

 

『…………悪いが、死んでいる』

 

 声をかけると目を逸らされた。

 

「あーはいはい、そういう無駄口叩けるなら大丈夫そうだな」

『身体が痛い………気持ち悪い…………吐き気がやべぇ………』

 

 ああ、起き上がらないのはそっちが原因か。

 それにしてもゲッコウガが戦闘不能か。ユキノのユキメノコに相討ちにされて以来だな。

 

「………キルリア、ここに無防備なおもちゃがあるぞ」

「リア!」

『あ、バカ、ちょ………!』

 

 取り敢えず、かわいいキルリアに癒されてもらうか。それでキレないでいただけるとありがたい。お前がキレると周りが手のつけようがなくなるんだよ。

 

「これで分かっただろ? キミたちは未完成だって」

 

 いつの間にかゲッコウガと分離していた少年が話しかけてきた。

 

「ああそうだな。未完成も未完成、下書きが出来上がったくらいだったわ」

 

 未完成。

 そりゃそうだ。ゲッコウガはまだまだやりたいことがあるみたいだからな。これで完成品って言われてもおかしくない実力だが、まだまだ未完成なんだよ、こいつは。自覚はないだろうけど。

 

「そっかそっか。そりゃよかった。それならキズナシンカを見せた甲斐があるね。キズナシンカは人とポケモンが文字通り一体となるパワーアップ手段。意識が最高にシンクロして初めて使えるとっておきだよ。進化を超えるメガシンカ。それをさらに超えるキズナシンカとでも思ってくれたらいいかな。まあ、キミたちにはできないかもだけど」

 

 聞いてもないことをベラベラと。

 こういう奴が機密情報とかも話しちゃうんだろうな。ザイモクザですらお口にチャックはできるタイプなのに。

 んで、キズナシンカだっけか?

 人とポケモンが文字通り一体となるなんて、危険すぎる代物だな。意識を共有ってのですら、危ない橋を渡る感覚だったんだ。普通じゃまず無理だろう。

 

「勘違いすんなよ? お前たちは確かに強い。あのゲッコウガを倒したくらいだ。だがな、だからと言ってお前らのようになりたいとは思わない。俺はこいつが実現させたいことは手伝うつもりだが、お前らのようになりたいというのなら俺は全力で阻止する」

 

 ただ、こんなもんに手を出そうっていうのなら、俺は全力で止める。バカなことはよせ、と。そんなもんに手を出せば大事なもんまで失うぞと言ってやる。

 

「随分な言い草ね。まるでわたしたちが悪いみたいじゃない」

 

 随分な言い草………?

 金髪少女、お前は何を言っている?

 充分な大義名分だろうが。

 

「お前らもゲッコウガも他のポケモンたちも異常であることには変わりない。この世界にとって異質で俺以上に、ゲッコウガ以上に弾かれる存在だ。世間ってのは自分たちの受け入れ難いことは全て排除する傾向にあるからな」

「なら、その世間ってのを壊せばいいじゃん」

「これだからバカは………。とにかくお前らはこの世界にいていい存在じゃない。さっさと自分たちの世界に帰れ。レンリステーションにいきなり現れたんだ。なら帰り方もあるんだろ」

「………それは優しさ? それとも嫉妬?」

「どっちでもない、この世界のカロス地方の長としての最大の譲歩だ」

 

 ほんと、早く帰ってくんないかな。

 お前らが来たことがそもそもの始まりなんだぞ?

 お前らが来なきゃ、あの白い生き物に遭うことも面倒事を押し付けられることも、常識はずれの危険因子を相手にすることもなかったんだ。

 お願いだから早く帰れ。帰ってください。

 

「面倒くさい男ね」

「よく言われる」

「いくわよ、ナオト」

「ええー! もうちょっといようぜー」

「いいから早くゲッコウガをボールに戻す!」

「はいはい………」

 

 なんというかまだこの少女の方がまともだな。

 ウザさがないってのも評価が高い。

 

「………あなた、さっきカロス地方の長として最大の譲歩って言ったわよね?」

 

 クソガキを連れて歩き出したかと思ったら、彼女だけすぐに足を止めた。そして背中越しそう投げかけられた。

 

「ああ」

 

 俺は迷いなく首肯する。

 

「その譲歩に従わなかった場合、どうするつもりなのかしら?」

 

 従わなかった場合か。

 ふっ、何を今更………。

 

「そんなの決まってるだろ。全世界を巻き込んでお前らを排除する」

「それだけの力が、あなたにはあると?」

「ないこともない、な。最初からジョーカーを出せば世界は嫌でも動くだろうし」

 

 ジョーカーとはもちろんサカキ。

 奴を使えば嫌でも世界は関心を持つ。それを利用してまずは各地方のポケモン協会を動かせばいい。出来るかは知らん。やってみないと分からないことも多いが、世界滅亡の危機とでもいえば動く連中は必ず存在する。

 

「そう」

 

 彼女はそう言い残してまた歩き出した。

 俺たちは小さくなっていく二人組みをレンリステーションから消えるまで見送った。もう来るなと願いをこめて。

 結局、あいつらは何者であいつらのポケモンが合法か非合法かも分からないままだった。けどまあ、そういう奴らが確かに存在するってのは分かったんだ。また危険なことに首を突っ込んでとあの姉妹にどやされそうだが、知らないより知っていた方がいい。

 さて、どうしたもんかね。このソウルハートとやらは………。

 

『………オレはあれを目指さなくていいのか?』

「え、逆に目指したいと思うのか?」

『いや、それはないな。多分、あれを再現しようすればオレかお前、どちらかが何らかの障害を被るはずだ』

「………だろうな。あいつらは普通じゃない。普通じゃないから成しえる技術だ」

 

 俺も普通じゃない体験はリザードンとしているからな。あんな体験をしているからこそ、絶対に踏み込んではいけない領域だとも思っている。

 

「そういや、ニダンギルは使わなくてよかったのか? お前の実力って実際はニダンギルも使った剣撃込みだろ?」

『………確かにあいつらはオレの実力を図ろうとしていた。だが、自分の実力を未知数の相手に見せると思うか?』

「やっぱりか。上手いこと落とし所を見つけたな」

『そうでもしないとアレは引かないと思っただけだ。だがまあ、ニダンギルを以ってしても、勝てたかどうかは分からん』

「だろうな。ありゃ化け物だ。あの白いのよりも危機とすら思えてるぞ」

 

 さすがはゲッコウガだ。

 何事もないこともないが悲劇になる前に退散してもらえたからな。

 

「今日はなんか疲れたな。さっさとエイセツシティに行ってしまおうぜ」

『そうだな』

 

 本来は歩いて行くつもりだったのだが、今日の想定外の出来事が立て続けに起きたことで予定が狂ってしまった。これでは一日くらい日程がズレるし、それはそれで帰りを待つあいつらがいい顔をしない。というか拗ねる。

 というわけでエイセツシティにはリザードンに連れて行ってもらいました、まる。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「お預かりのポケモンたちは全員元気になりましたよ」

 

 ところ変わってエイセツシティ。

 リザードンに乗って夕方に到着し、ようやくポケモンたちの回復が終わったところである。

 

「あざます」

「それにしても、ポケモンの量が多くないですか? ポケモントレーナーは原則六体までのボールを持てるというのに」

「あー、まあ俺ともう一人トレーナーがいるんですよ。んで、ついでに頼まれたんです」

「そうでしたか。お連れの方にもポケモンたちの健康状態は良好ですとお伝えください」

「うす」

 

 ジョーイさんにポケモンの量が多いと指摘されたが、これはゲッコウガが仲間にしたニダンギルたちも俺がまとめて出したからである。だからまあ、こう言われても仕方のないことはあるのだ。ただあの白い生き物のボールは出していない。あんなの出されても回復のしようもないだろうし、ジョーイさんを危険な目に遭わせるわけにもいくまい。

 

『………アレを受けて異常がないのに驚きだったわ』

「確かに………。お前のあのみずしゅりけんを真っ二つにするような奴の技だしな。アレ、シェルブレード改と同等だと思うぞ」

『シェルブレード改、ね。確かにそう呼びたくもなる。そもそもあいつは何を媒体にブレードを作り上げていたんだか』

「お前にも分からなかったのか?」

『余裕がなかったからな』

 

 余裕か。

 余裕はなかったな。危険な相手ってのが最初から分かってたし、気は抜けなかった。

 と、常識はずれのトレーナーたちを思い出しているとホロキャスターが鳴った。

 

「………誰だってコマチか」

 

 コマチは今ガラル地方に行っている。トツカとともに。そうトツカとともに! ここ大事だからな!

 つーわけで、今俺の大天使たちがカロスにいないのである!

 

『出ないのか?』

「出る。………コマチか?」

 

 コマチだよね?

 変なおじさんとかじゃないよね?

 

『あ、お兄ちゃん、やっと出た!』

「あ、ああ、悪い。お前らがいないのを思い出してたらついな」

『もう、そんなんだからユキノさんたちが心配するんだよ!』

「んなこと言ったって、お前のことが心配なんだから仕方ないだろ」

「んもー、お兄ちゃんはいい加減妹離れしなきゃ。コマチ的にポイント低いよ?」

 

 そうは言われても心配なもの心配なのだから仕方あるまい。ある意味俺やユキノたちよりもコマチは狙われやすい存在なのだ。心配しない方がおかしいだろ。

 

『そうだ、見てみてー、新しいお友達だよ!』

『キキー!』

 

 そう言って見せてきたのは見たことのないポケモンだった。全体的に黄緑色で、エテボースに似てなくもない顔。恐らくガラル地方のポケモンなのだろう。

 

「見ない顔だな」

『サルノリのノリくん! くさタイプだよ!』

 

 くさタイプのポケモンか。

 今は可愛い見た目だが、進化したらどうなるんだろうな。

 

『ぼ、僕も新しい子仲間にしたよ〜』

 

 と、サルノリとやらの将来を想像しているとトツカも新顔を見せてきた。

 あ、こいつは知ってる。前にトツカが画像を見せてくれたポケモンだわ。

 

『ほのおタイプのヒバニー。僕がガラル地方に来た目的の一つがね、ヒバニーを仲間にすることだったんだ〜』

 

 なるほどね。

 仲間にしてみたいって言ってたもんな。

 

「トツカ、お前ほんとに気を遣ったわけじゃなかったんだな」

『そりゃそうだよ。僕も目的なしに行くなんてしないよ』

「それならそうでよかったよ。何か気遣わせてる気がしてて申し訳なかったからな」

 

 あの時はなんか誰かが手を挙げなければコマチは旅に出られないって雰囲気になってしまったからな。俺も別にそんなつもりはなかったんだが。

 

『というかお兄ちゃん、ユキノさんたちは? 一緒じゃないの?』

「俺は今エイセツシティにいてな。クソ寒い」

『なんでエイセツシティなんかにいるのさ!』

「ジム視察だよ。この前西側は行ったから今度は東側をってな」

『あー、それは大変だね………』

 

 寒いったら寒い。

 今日に限って吹雪くなよ。

 

「そっちはどうだ? ガラルに着いてからもう一週間以上経つだろ?」

『それがさー、聞いてよお兄ちゃん。ジム戦しようとしてたんだけど、こっちってジムリーダーとかチャンピオンとか、なんか実力者や有名人からの推薦がないとジム戦できないみたいでさー。仕方ないから小さい大会とか探してるんだけど、それもなかなか見つからないし、コマチは絶賛途方に暮れているのです』

「へぇ、なんか独特だな。でもまあ、それがそっちのポケモン協会のスタイルなんだろうな」

 

 実力者や有名人からの推薦がないと、か。

 初めて聞いたな、そんな制度。ガラル地方の情報がほとんど流れてきてないからだろうけど。こうなるとちょっとこっちでも調べる必要がありそうだな。

 

『どうやらガラル地方は結構な実力者たちが集まるとこらしいよ。だから、挑戦者の数を絞るためにそういう制度にしてるんじゃないかなー』

「なるほど、それはあるかもな。こっちでいうところのジムトレーナーのようなもんかもな」

『ま、もうしばらくはこのワイルドエリアの散策を続けるつもりだけどね!』

「……ぉー、なんかすげぇな」

『でしょ! この前見せたところとはまた違って綺麗なんだよねー!』

 

 コマチが画面を切り替えて周りの景色を見せてきたのだが、これがまた見事なものである。カロス地方とはまた違い雄大な大地が広がっており、まさに『ワイルドエリア』という感じだ。

 

「てか、結構人もいるんだな」

『そりゃ、ガラル地方の醍醐味の一つだからね。人も来るってもんだよ』

 

 昔のカロスもこんな大地が広がっていたのかね。人が科学を発展させるに連れて雄大な大地が街に変わって………てのはあり得なくもない話だ。

 

『ところでさ、カーくんたち元気にしてる?』

「カマクラたちか? ……………お、あったあった。サガミからの報告じゃ特に問題はなさそうだぞ。毎日ユキノのニャオニクスとイチャコラしてるらしい」

 

 ホロキャスターから報告書を開き、カマクラたちの欄を見るとサガミの愚痴が書かれていた。あいつ、報告書に結構愚痴も入れてくるんだが、まあその方が分かりやすいので特に何も言っていない。ゴルダックにセクハラされてるとか、ドクロッグがゲッコウガみたいになってきてるとか、普段から見てないと分からないことばかりだからな。見てて面白いのもある。

 

『わー、カーくんおっとなー』

「そう思うならもう少し感情を込めてやれ。トツカのトゲキッスもマンムーものんびり生活してるみたいだぞ。ホルビーなんか本舎で手伝いもしてくれてるようだし」

『そっか、ハチマンも無理しないでね』

「ああ、適度にサボるようにしてる」

『それはそれでユキノさんたちに迷惑かかるじゃん。しっかりしてよね!』

「そうは言うが今イロハのジムリーダー試験のために色々叩き込んでたりするんだよ」

『え? イロハさん、ジムリーダーになるの?!』

「いや、四天王の方。つか、聞いてないのか?」

 

 ありゃ、これはマズったかな。

 あいつ、コマチを驚かそうとしてたのかもしれないし。

 

『聞いてないよ! あー、絶対帰ったら驚かそうとしてたやつだ。あとで問い質してやる!』

「コマチさん、徹底的に問い詰めてあげなさい。何なら私も手を貸すわよ?」

『お兄ちゃん、妙にユキノさんに似ててキモいよ』

「酷ぇ、人の渾身のネタを」

『うん、でもすっごく似てた。ハチマンすごいよ!』

『トツカさん、ダメですよ? 兄を煽てたらすぐ調子に乗るんですから』

「へいへい、すんませんね」

『んじゃね、お兄ちゃん。また連絡するよ』

「おう、気をつけてな。トツカもコマチのことよろしくな?」

『うん、任せて!』

 

 うん、まあ元気なようでよかったわ。風邪とか引いてないようだしな。

 それにしてもコマチにくさタイプか。みずタイプのカメックスもいることだし、いずれほのおタイプも仲間にした方がパーティーとして強くなりそうだな。そこら辺はこっちに帰ってきてからでも考えてみるか。あっちでほのおタイプを捕まえてくるって可能性だってあるんだし。

 さて、コマチとトツカで癒されたことだし、今日最後の仕事をしに行きますかね。

 

『ジム行くのか?』

「ああ、ウルップさんも待ってるだろうしな」

「リア?」

「おう、キルリア。今からバトルしに行くぞ」

「リアー!」

 

 ………あ、そういや吹雪いてるんだった。やだなー、行きたくないなー。もう明日でもいいんじゃない?




行間

ヒキガヤハチマン 持ち物:キーストーン 菱形の黒いクリスタル ソウルハートetc………
・リザードン(ヒトカゲ→リザード→リザードン) ♂ 
 特性:もうか
 覚えてる技:かえんほうしゃ、メタルクロー、かみつく、おにび、えんまく、はがねのつばさ、かみなりパンチ、ドラゴンクロー、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、かみくだく、カウンター、じしん、フレアドライブ、ブラストバーン、げきりん、じわれ、だいもんじ、ソーラービーム、リフレクター、はらだいこ、ぼうふう、ねっぷう、あなをほる、れんごく、かげぶんしん
 飛行術
 ・ハイヨーヨー:上昇から下降
 ・ローヨーヨー:下降から上昇
 ・トルネード:高速回転
 ・エアキックターン:空中でターン
 ・スイシーダ:地面に叩きつける
 ・シザーズ:左右に移動して撹乱
 ・ソニックブースト:ゼロからトップに急加速
 ・コブラ:急停止・急加速
 ・ブラスターロール:翻って背後を取る
 ・グリーンスリーブス:連続で攻撃して空中に釣り上げる
 ・デルタフォース:空中で大きな三角形を描くように連続攻撃
 ・ペンタグラムフォース:空中で五芒星を描くように連続攻撃
 ・バードゲージ:スピードを活かして相手の動きをコントロールしていく
 ・スモール・パッケージ・ホールド:背面飛行で相手の下を飛行する

・ゲッコウガ(ケロマツ→ゲコガシラ→ゲッコウガ) ♂
 特性:きずなへんげ(へんげんじざい→きずなへんげ)
 覚えてる技:みずのはどう、あなをほる、かげぶんしん、れいとうパンチ、れいとうビーム、つばめがえし、ハイドロポンプ、くさむすび、グロウパンチ、えんまく、がんせきふうじ、いわなだれ、まもる、かげうち、みずしゅりけん、どろぼう、つじぎり、ハイドロカノン、めざめるパワー(炎)、とんぼがえり、とびはねる、ほごしょく、けたぐり、ぶんまわす、あくのはどう、どろあそび、ふぶき、たたみがえし、くろいきり

・ジュカイン(キモリ→ジュプトル→ジュカイン) ♂
 持ち物:ジュカインナイト
 特性:しんりょく←→ひらいしん
 覚えてる技:でんこうせっか、リーフストーム、リーフブレード、ドラゴンクロー、タネマシンガン、ギガドレイン、かみなりパンチ、スピードスター、くさむすび、ソーラービーム、エナジーボール、シザークロス、くさのちかい、マジカルリーフ、タネばくだん、こうそくいどう、つめとぎ、いやなおと、こうごうせい、くさぶえ、やどりぎのタネ、グラスフィールド、なやみのタネ、ハードプラント、つばめがえし、ものまね、みがわり、じならし、アイアンテール、けたぐり、つじぎり、グロウパンチ、まもる

・ヘルガー ♂
 持ち物:ヘルガナイト
 特性:もらいび←→サンパワー
 覚えてる技:かみつく、ほのおのキバ、ふいうち、おにび、かえんほうしゃ、かみくだく、れんごく、ほえる、はかいこうせん、アイアンテール、あくのはどう、みちづれ、だいもんじ、ハイパーボイス、ヘドロばくだん、ちょうはつ、ほのおのうず、まもる

・ボスゴドラ ♂
 持ち物:ボスゴドラナイト
 特性:がんじょう
 覚えてる技:ロックブラスト、あなをほる、なげつける、メタルクロー、アイアンヘッド、アイアンテール、てっぺき、メタルバースト、ボディパージ、ヘビーボンバー、ロックカット、ほのおのパンチ、もろはのずつき、ラスターカノン、ドラゴンダイブ、でんじふゆう、だいちのちから、カウンター、ばかぢから

・キルリア(ラルトス→キルリア) ♀
 特性:シンクロ
 覚えてる技:リフレクター、ねんりき、まもる、テレポート、マジカルリーフ、シャドーボール、マジカルシャイン、トリックルーム

控え
・???(白い生き物)
 覚えてる技:ようかいえき


ゲッコウガ
・ニダンギル(ヒトツキ→ニダンギル)
 特性:ノーガード
 覚えてる技:ラスターカノン、せいなるつるぎ、つばめがえし、かげうち、つじぎり、シャドークロー、きんぞくおん

・キリキザン
 特性:まけんき
 覚えてる技:つじぎり、くろいまなざし、ロックカット

・アギルダー
 特性:うるおいボディ
 覚えてる技:スピードスター、むしのさざめき、ギガドレイン、みずしゅりけん、こうそくいどう、かげぶんしん、こころのめ、はたきおとす、バトンタッチ

・メタング(ダンバル→メタング)(色違い)
 覚えてる技:じならし、ひかりのかべ


ヒキガヤコマチ 持ち物:キーストーン、カビゴンZ
・カメックス(ゼニガメ→カメール→カメックス) ♂ カメくん
 持ち物:カメックスナイト
 特性:げきりゅう←→メガランチャー
 覚えてる技:みずのはどう、はどうだん、りゅうのはどう、こうそくスピン、からにこもる、ロケットずつき、ハイドロポンプ、ふぶき、ミラーコート、ドラゴンテール、ハイドロカノン、れいとうビーム

・カビゴン ♂ ゴンくん
 特性:めんえき
 覚えてる技:メガトンパンチ、のしかかり、じしん、いわくだき、ほのおのパンチ、しねんのずつき、ギガインパクト、かみなりパンチ、ふきとばし、いびき、ねごと、ねむる、ストーンエッジ、じわれ

・プテラ ♂ プテくん
 持ち物:プテラナイト
 特性:プレッシャー←→かたいツメ
 覚えてる技:はかいこうせん、ストーンエッジ、はがねのつばさ、つばさでうつ、ちょうおんぱ、ものまね、ドラゴンクロー、ゴッドバード、ギガインパクト、こうそくいどう、ほのおのキバ

・オノノクス(キバゴ→オノンド→オノノクス) ♂ キーくん
 特性:とうそうしん
 覚えてる技:りゅうのいかり、げきりん、けたぐり、あなをほる、ちょうはつ、まもる

・クチート ♀ クーちゃん
 特性:いかく
 覚えてる技:ものまね、メタルバースト、じゃれつく、バトンタッチ、ほのおのキバ、いちゃもん、あまごい

・サルノリ ♂ ノリくん

控え
・ニャオニクス ♂ カマクラ/カーくん
 特性:するどいめ
 覚えてる技:サイコキネシス、ひかりのかべ、リフレクター、でんげきは、てだすけ、なりきり、ふいうち、サイコショック、あなをほる、じゅうりょく、にほんばれ、はかいこうせん


トツカサイカ 持ち物:キーストーン etc………
・ニョロボン ♂
 覚えてる技:ハイドロポンプ、グロウパンチ、どくづき、さいみんじゅつ、れいとうパンチ、カウンター、アイスボール

・クロバット ♂
 覚えてる技:クロスポイズン、ねっぷう、エアカッター、アクロバット、ギガドレイン、しねんのずつき、はがねのつばさ、ブレイブバード、わるだくみ、あやしいひかり

・ハピナス ♀
 覚えてる技:タマゴうみ、ちいさくなる、いやしのはどう

・ミミロップ ♀
 持ち物:ミミロップナイト
 特性:じゅうなん←→きもったま
 覚えてる技:とびひざげり、ほのおのパンチ、シャドーボール、たがやす、ミラーコート、とびはねる、からげんき、スカイアッパー、グロウパンチ、ともえなげ、おんがえし、こうそくいどう、かげぶんしん

・ヒバニー ♂

控え
・トゲキッス(トゲチック→トゲキッス) ♀
 覚えてる技:マジカルシャイン、つばめがえし、てんしのキッス、ゆびをふる、はどうだん、サイコショック、はがねのつばさ、でんげきは、ソーラービーム、やきつくす、でんじは、にほんばれ、ひかりのかべ、あさのひざし

・ホルビー ♂
 覚えてる技:マッドショット、あなをほる、ワイルドボルト、でんこうせっか、とびはねる、こうそくいどう、かげぶんしん

・マンムー ♂
 覚えてる技:こおりのつぶて、とっしん、のしかかり、つららおとし


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ぼーなすとらっく16『校長ハヤマハヤト』

今回はデオキシス・ギラティナ襲撃事件から一ヶ月後、『育て屋ドクロッグ』より前の話になります。それと今回はバトルが一切ないので、後書きのいつものやつがありません。

〜お知らせ〜
いよいよ明日2月1日(土)、PixivBOOTHにて『ポケモントレーナー ハチマン』シリーズのDL版を販売開始いたします。
詳しくは活動報告にてまとめておりますので、ご確認下さいませ。
皆さん、よろしくお願いいたします。


「ハヤマハヤト。お主にこの椅子を授ける」

 

 ………はい?

 目の前の老人は今なんと仰った?

 椅子を授ける?

 椅子って………校長室の?

 つまりそれって………。

 

「校長、それハヤトに校長の座を譲るってことなん?」

 

 ということだよな。

 カロス地方でヒキガヤたちとネオ・フレア団なるいつぞやの連中を倒してから一ヶ月。

 俺は怪我も回復してクチバシティのトレーナーズスクールへと戻って来ていた。俺たちがカロスへ出向いている間、トベとヒナが他の先生たちと生徒を見てくれていたようで、帰ってきた時にお礼を言ってある。その時、まだ所々包帯を巻いていたため、すごく心配されてしまったが………。見た目に反して、ハルノさんに扱き使われるくらいには動けてたんだけどね。

 それもこれもユミコのおかげだろう。ユミコがずっと世話をしてくれていたし、それを見て改めて好きなのだと自覚してしまい、つい気合いを入れてしまった。

 その後、こっちに帰ってきて俺はユミコにプロポーズをした。ずっと側にいてほしい、と。俺と結婚してほしい、と。

 ユミコを失いたくない気持ちが先走ったのか、ずっと心に秘めていたことなのかは俺にもよく分からない。でも今の俺にはユミコが必要だと感じたんだ。いや、今だけじゃない。これからもずっと………。

 というのが一週間前までの話である。ユミコと夫婦という関係を築き始めてから心機一転、生徒たちとももっと向き合っていこうと考えていたのも束の間。今日校長室に呼ばれて来てみれば、これである。ちょっと話がいきなりすぎないだろうか。

 

「うむ、お主らもようやく夫婦になったしのう。儂からの結婚祝いとでも思うてくれ」

「いやいやいや、そんな急に言われても…………。それに俺はまだまだ未熟者ですよ? この歳でスクールの校長だなんて」

 

 俺は教師として働いてまだ一年も経っていない。しかもヒキガヤたちの加勢にカロスへ出向いて二週間はあっちにいたんだ。経験が浅すぎる。

 そんな下っ端教師がいきなり校長だなんて………。

 それにここには俺たちが通ってた頃からいるベテランの先生たちもいるんだし。

 俺なんかがやるよりよっぽど務まると思うのは俺だけなのか?

 

「お主らの言いたいことは重々承知しておる。儂もこんな大事なことをただの思いつきで言い出すわけがなかろう? ちゃんと教師陣からの承認も得ている。お主はそれだけの逸材ということじゃ」

「いや、そうだとしてもですよ? 急すぎませんかっ?」

 

 教職陣からって………。

 皆さん、俺を過大評価しすぎてないか?

 俺はそんな出来た人間じゃない。ヒキガヤ程のバトルの才もなければ、ハルノさん程の権力もユキノちゃん程の献身さもない。俺は昔の嫉妬心のみで動き、やらかしてしまった罪人のようなものだぞ。ヒキガヤたちが止めてくれなければ、俺は誰かを殺めていた可能性だってある。

 

「………儂もそろそろくたばる歳じゃ。いつコロッといってもおかしくはない。そうでなくとも頭がパーになる可能性だってあるのじゃ。だからまだ動ける内に引退をしてしまいたいと思うたわけよ」

「そう………ですか」

 

 校長が仰りたいことは理解出来る。

 この人ももう結構なお歳だ。俺が生徒だった頃には既に貫禄があり、年老いてなお現役なのかと思わせるくらいには、年老いていたはず。それが五、六年経った今でも見た目があまり変わっていないのだ。確かに年齢的にはいつ逝ってもおかしくないだろう。

 でもまだまだ元気ではないか。これが車椅子とかを使っているというのなら引退を考えていると言われても仕方がないとも思える。だが、この人ならあと十年は活発に動いてそうだ。

 それが今のうちに引退だなんて…………。

 全く、頭の片隅ですら考えてもいなかったため、俺は衝撃を受けた。後頭部を殴られたような感覚だ。

 でも、これが現実であり、時が経過した証なのだろう。抗うことの出来ない『老い』という時間の流れを改めて思い知らされた。

 

「………あの、何故俺なのですか? 他にも適任者はたくさんいらっしゃると思いますけど」

「お主を選んだ理由はいろいろあるが、一つは彼奴らとのパイプをしっかりと持っていてくれると思ったからでのう。彼奴らとやっていくにはお主ら同世代が適任となったわけじゃ」

 

 彼奴ら、というのは恐らくヒキガヤたちのことだろう。カロス地方、それもポケモン協会の理事であるヒキガヤたちとパイプを持っていることは大きなステータスになる。そう考えられての判断ということか。

 

「………それは俺でなくとも持っておられるのでは?」

 

 例えばツルミ先生。あっちにはヒラツカ先生もいるんだし、なんだかんだでヒキガヤとも関係を築けている。若い世代への交代という点も問題なくクリアできているはずだ。

 なのに、何故俺なのか。そこがさっきから引っかかってばかりである。

 

「お茶をお持ちしましたー」

「ツルミ先生………」

 

 と、そこで丁度思い上げていた女性が部屋へと入ってきた。

 俺とユミコ、それに校長の前に湯のみが置かれる。

 ………ん?

 もう一つあるのは………。

 

「ふぅ……、話は進んでないようですね」

「ツルミよ、お主からも言ってやってくれ」

「えー? 私はまだ早いって一度は反対した身ですよー?」

 

 えっ……?

 反対派もいたんですか?

 それもツルミ先生がだなんて…………。

 

「ほっほ、良いではないか」

「はあ………、分かりました。ハヤマ君、先に言っておくわ。今から不快な思いをする言葉も出てくると思うけど、それでも聞く?」

 

 要するに今から俺のダメ出しでもするということか。まあ、それはそれで聞く価値はある。

 

「不快な思い、ですか………。どこかの誰かさんで否定されることには慣れましたので、構いませんよ」

「じゃあ、言うけど。君は確かに全体を、集団をまとめることには長けているわ。そして集団を団結させることもできる。でもその反面、状況を変えることは苦手。何なら下手にかき回して収束つかなくなる状況にしてしまうタイプよ」

 

 うぐ………。

 思い当たる節が無きにしも非ずだから、耳が痛い。

 

「その対照的なのがヒキガヤ君ね。彼は集団をまとめることは苦手。でも集団を団結させる力はある。しかも視点が斜めからだから状況を正面以外からも見ることができているわ」

 

 確かにあいつは俺とは別の視点から物事を見ている。そんな捉え方をするのかと何度も感じたくらいだ。あいつにはできて俺にはできないことはいくらでもあった。でもそれと同じくらい俺にはできてあいつにはできないことだってある。それはあいつの口から聞いた話だ。

 適材適所。

 自分ができないことを無理してやる必要はないって言っていたな。そんなの自分がやりたくないだけの言い訳だろと思わなくもなかったが、結果的に正解だったのはあいつの方だったわけだ。

 

「じゃあ、何で集団をまとめることが苦手なヒキガヤ君が、ポケモン協会のトップを務めることができるのか。それはサポート要員が優秀だからよ。各々の特性を活かして持ちつ持たれつの関係を築けている。だからあっちは上手くいっているの」

 

 一人で何でも抱え込んだばかりに自分を見失い操られてしまった俺には、特にそういう存在が必要と言いたいのだろう。

 

「ーーーつまり、俺が一人で校長を務めるのであれば、先生は反対だと?」

「ええ、だってスクールは生徒を預かる身。生徒たちに何かあってはいけないのよ。それをあなたが全部背負えるかといえば………」

「無理、でしょうね」

 

 だからこそ再三に渡り問いたいのだ。

 

「一応分かってはいるのね」

「ええ、そりゃまあ。散々やらかしましたからね。俺はそこまで器の大きい人間じゃありません」

「そこでよ! ユミコちゃん!」

「へ? あーし!?」

「そうよ! あなたがハヤマ君をサポートするの!」

 

 なるほど、悔しいがヒキガヤにはあの姉妹がいるように俺にはユミコがいるということか。

 

「ユミコちゃんはハヤマ君のどういうところが好き?」

「はっ? え、ちょ、な、なにいってるし!」

「ユミコちゃんの返答次第で私の判断は変わるわ」

「え、なにそれ超プレッシャーじゃん………」

 

 がんばれ、ユミコ。とも言えない。言ったらそれだけ俺が恥ずかしい目に合うだけだし。

 

「ハヤトの好きなところ? ………かっこいい?」

「うんうん、それでそれで?」

「気遣いができて、その………キュンとくる………うぅ………」

 

 なんだこれ。なんだこれ。

 本人の前そういう話をされるだけでも気恥ずかしいというのに、こんなかわいいユミコを前にして、人前だから抱きしめられないとか結構酷だぞ。

 俺は一体どうしたらいいんだ?

 

「あ、頭もいいから先輩トレーナーとしてもいろいろ教えてくれるし、優しいから甘えたく、なる…………超恥ずいんだけど………」

 

 大丈夫だよ、ユミコ。

 恥ずかしいのは俺もだから。

 あと照れてるのがかわいすぎる。俺っていつの間にこんなユミコ一筋になってしまったんだ?

 振った女子がすぐに次の男にいくのってこんな感じなのか?

 いや、それは女子に失礼か。俺もそこに自分を当てはめたいとは思わないし。

 なんだかんだで俺は熱い視線を送ってくるユミコを側に置いていたんだ。少なからず気持ちがなければそんなこと俺がするはずもない。だから結局、俺はずっとユミコのことも好きだったんだろう。それが過去に囚われるあまり、塗りつぶされていただけで。

 はあ………、そう思うと俺はなんて情けない男なんだろうな。自分が嫌になってくるよ。

 

「なら次はダメだなって思うところは?」

「あー、優柔不断なところとか? ヘタレだし、一人で何でもやろうとするし、そういうところはバカだと思うし」

 

 ぐふっ………。

 ユミコ、君は俺のことをそういう風に思ってたのかい。

 現在進行形で自分を嫌になってるところに追い打ちをかけてくるとは。ユミコって実はSなのだろうか。

 

「でもそれくらいの方が人間って感じであーしは好きだし。完璧な人間なんてつまんないっしょ」

 

 ……………なあ、ヒキガヤ。泣いていいかな? いいよな。

 こんな優しくて器の大きい、しかも我が強くてかっこいい嫁に惚れるなという方がおかしな話だったよ。

 

「ほっほ、さすがじゃのう。しっかり見とるわい」

「……何年見てきてると思ってるし」

「んん〜、恋する乙女はさすがだね〜!」

「………先生だってヒキオに気がないわけでもないくせに」

「うぐ………、ま、まあ、それは……あれよ。あれがあれだから」

 

 くふっ!

 

「くははは、ツルミ先生。それ、ヒキガヤが言い訳を思いつかなかった時にそっくりですよ」

「〜〜〜〜〜!」

 

 あ、茹で上がった。

 あまりにもそっくりだったから、つい口に出してしまったけど、相当の反撃になってしまったみたいだね。そんなつもりはなかったんだけどな。

 

「………ハヤトってたまにSっ気あるし」

「そう?」

「あーしはそういうのもいいと思うけど。なんか、いじわるなハヤトもそそられるっていうか…………あーし、なに言ってんだし………ハヤト忘れて」

 

 Sっ気な俺か。

 あまり意識したことなかったから想像つかないけどーーー。

 

「ユミコはそんなに俺にいじめてほしかったのかい? それならそうと早く言ってくれればよかったのに」

 

 顔を彼女の耳元にまで持っていき、息を吹きかけるようにそう囁いてみた。

 

「〜〜〜〜〜ッ!?」

 

 するとツルミ先生以上の反応を示してきた。

 具体的には全身を真っ赤に熱らせ、涙目で震えながら俺にもたれかかってきたのだ。

 ユミコのこんな反応を見るのは初めてかもしれないな。あー、でもヒキガヤがハルノさんに煽られてやり返す時はこんな感じだったかもしれない。

 なるほど、あいつはこんな感じで楽しんでいたんだな。そりゃハルノさんも勝てるわけないか。

 

「ほっほっほ、お主もやるのう」

「『も』って校長………」

「彼奴もいろはや他の者を骨抜きしてるからのう」

「ははは………」

 

 でしょうね。

 俺が参考にしたのが、まさにヒキガヤなんだし。

 

「………儂はのう、昔は研究者じゃったんよ」

「え? そうだったんですか!?」

 

 女性二人が会話から離脱して二人きりになったところで、校長が昔話を始めた。

 

「うむ、儂が研究していたのはポケモンの伝説ポケモン化。結果は無理じゃった。やはりポケモンの進化というものは変えることができん。それがポケモンの理というものなのじゃろう。じゃが、儂は出会ってしまったんじゃ。フジという男に」

 

 ポケモンの伝説ポケモン化?

 なんかどこかで見たことあるフレーズだな。これってまさかそういうことなのか?

 

「奴は儂の研究に微かな光を与えたんじゃ。それまで無作為にポケモンを伝説化させようとしていた儂に、両ポケモンの共通点を合わせるということを指摘したんじゃ。そして儂は奴に誘われるようにしてある組織に入った。ここなら金も設備も揃ってると言われてな」

 

 研究自体は夢がある一方で、非現実的で非人道的なものである。だからまともな研究施設では、まず行われないだろう。でもそんなものが通り、金も設備も整っている組織って言ったら、ここしかないよな。

 

「………それがロケット団、ということですか」

「うむ、入ってから知ったことじゃがな」

 

 ………そうか、この人も裏社会を歩んできていたんだな。

 

「儂もよもやそのような場所に来てしまうとは思うておらなんだ。そして、儂の研究計画も完成したんじゃよ。『レジェンドポケモンシフト計画』。同じタイプ、似たような姿形。例えばリザードンからファイヤー。例えば、ブースター、シャワーズ、サンダースからエンテイ、スイクン、ライコウ。色々あった」

 

 レジェンドポケモンシフト計画。

 聞いたことのない話だ。

 だが、やはり心当たりがないわけでもない感じでもある。

 

「それから儂は研究に没頭してたよ。妻も子供も二の次にするくらいのう。そしていよいよ実験の最終段階というところで、ポケモンたちが暴走したのじゃ。与えられていた研究所は木っ端微塵。丁度近くにいた二人の娘も巻き込んでしまった」

「………その人たちは無事だったん?」

「幸いにものう。ポケモントレーナーじゃったから、逆に儂らの方へ加勢してくれよったわい」

 

 それは何とも運がいい。

 暴走したポケモンの恐ろしさは俺も体感してるからな。あれが無関係の人間を巻き込んで、それを助けながら暴走を止めるなんてそうできるようなことではない。

 

「そして儂らは暴走したポケモンたちを捕獲した。じゃがその後、そのポケモンたちは一体残らず処分されたよ」

 

 っ?!

 ………実験に失敗したから処分される。なんて酷い話なんだ。実験に使われた個体はそのために生まれてきたわけじゃないってのに。

 やはり、悪の組織ってのは極悪非道だな。

 

「それからじゃ。儂はこんな研究をしていていいものか迷うようになった。これまでも散々ポケモンたちを弄り回し、時には命まで奪ってきた儂は、こんなことで得られるポケモンが果たして良いものなのかどうか…………。そんな時に現れたのがーーー」

 

 そう言った校長は、隣で伏せているツルミ先生を見た。

 なるほど、そこから二人に繋がるのか。

 

「ヒラツカ先生とツルミ先生、ですか」

「うむ、彼奴らは暴走したポケモンを捕獲する際に加勢してくれた二人でのう。その時の儂とフーディンの戦いに感化されたらしい。それから儂は師匠、師匠と呼ばれるようになってのう」

 

 ある意味、校長を救ったのは先生たちだったんだな。二人はそんなつもりなかっただろうけども。それでも結果的に救われたのには間違いない。

 

「そして儂が組織から抜けると決断したのは間もなくのことじゃ。娘が結婚して、イロハが生まれてのう。孫の顔を見てこのままではこの子にまで背負わせてしまうと思ってしまったんじゃ」

 

 まあ、一番の驚きはこの人がイロハの祖父だということだけどね。何度聞いても驚きでしかない。

 

「組織を抜けた後は儂の知り合いがここの校長の座を用意してくれてのう。今に至るというわけじゃよ」

 

 校長の座を用意できるって相当上の方の人だよな?

 そんな人と知り合いとか、やはりこの人は侮れない。いや、そういう繋がりを大切しているからなのか。だから、俺たちにもヒキガヤたちとのパイプを大切にしろと、そう言いたいのかもしれないな。

 

「………なんというか、思っていたよりもずっと壮絶な人生を歩んで来られたんですね」

「ほっほっほ、まあ儂が愚か者だっただけの話じゃよ」

「いえ、事情は違えど俺も似たようなものですから」

 

 一歩深く入り込んでいたら、俺も堕ちていただろうし。

 

「それで、引退した後はどうするおつもりですか?」

「なに、儂はあまり表に出ていい人間でもない。奴を隠れ蓑にして過ごすとする」

 

 ヒキガヤも大変だな…………。

 こんな人にまで目をつけられるなんて。

 

「彼奴はお主たちの世代の中では頭二つは飛び抜けている。儂が初めてバトルしたあの時で既に年齢にそぐわない偉業を成し遂げとるよ」

「偉業、というと?」

 

 俺が思いつくのは暴走したオーダイルを止めたことくらいだけど………。

 

「一つ目は暴走したポケモンの鎮静。二つ目はトレーナーが技を理解してポケモンに教え、それを習得させること。三つ目は幻のポケモンに出逢うということじゃよ」

 

 ああ、なるほど。

 確かにバトル中にかみなりパンチを覚えさせていたもんな。それにダークライ。初めて見た時はあれは何だと目を疑ったもんだ。

 

「ヒラツカから聞かされた時には驚いたものじゃ。よもやあの歳でポケモンの暴走を止めようとは。しかもその際に新しく技を習得させたとくれば、儂もいよいよ以って気が気ではなかった」

 

 ハルノさんでもそこまでのことはやってなかったはずだしね。

 彼女はバトルの腕前が遥かに高かったと聞いている。あのヒラツカ先生でさえ手に負えないくらいには凄かったんだとか。

 ヒキガヤはそれよりも凄いことを成し遂げてしまったからな。そりゃ、偉業扱いされてもおかしくないね。

 そういえば、当時のヒキガヤとハルノさんとではどっちが上だったんだろうな。俺はリザードン対決でヒキガヤに負けてるからそれまでの実力しかなかったけど、ハルノさんならもしかすると上をいっていた可能性もある。

 

「校長は、あいつとバトルした時のことは覚えておられるのですか?」

「もちろんじゃよ。聞いていた話では彼奴のポケモンはリザードン一体のみ。じゃからバトルの内容次第では儂が勝ったとしても卒業を認めてやるつもりじゃった」

「だけど、あいつは予想を遥かに超えていたと?」

「うむ、彼奴は数的不利をあのオーダイルで埋めて来たんじゃからのう。しかも暴走の原因すら理解し、逆にげきりんとしてコントロールさせてしまった。あの時、此奴はもっと上に行く存在なのじゃと儂は確信したよ」

 

 校長、あいつはそれだけじゃないですよ。

 暴走以降ギクシャクしていたユキノちゃんとオーダイルを改善してくれたんだからね。俺は遠巻きにしか見ていられなかったけど。

 そりゃそうだろう。本来なら俺がオーダイルの暴走を止めるべきだったんだ。それなのに頭が真っ白になってヒキガヤに指示されるまで一歩も動けなかった。その後もなんて声をかければいいかも分からなくなり、段々と距離ができてしまったんだ。

 

「確かにそうですね。あの時の俺には出来ないことを平然とやってのけていましたから。正直、あいつが本気を出したら手も足も出ないのだろうと思えてしまったくらいですからね」

「ほっほ、あの時のお主は大分沈んでおったからのう。彼奴のバトルは刺激が強かったじゃろうて」

 

 強いなんてものじゃない。

 悔しさと情けなさと未熟さで押しつぶされそうだったさ。ユミコたちがいてくれたから、ユキノちゃんと距離ができても何とか我を保っていられたんだ。

 ある意味、昔から俺はユミコを心の拠り所にしていたのかもしれないな。

 

「まあ、さすがの儂でもダークライを手懐けておったことには度肝を抜かれたけどのう。伝説に名を残すポケモンの中でも危険とされているポケモンじゃ。それをよもやあの小童が連れているとは思いもせんわい」

「………あの時、俺は恐怖を覚えました。それがあの禍々しいオーラを放つダークライに対してなのか、ダークライを連れているヒキガヤに対してなのかは分かりませんでしたけどね」

「それが正常というものよ。ダークライは悪夢を見せるとされているポケモンじゃ。しかも一部の研究者からはその悪夢は記憶を元に作られ、その悪夢を食しエネルギーとする、なんてことも言われておったからのう」

 

 改めて思うと、そんなポケモンと接しても特に恐怖を覚えないヒキガヤが異常なんだよな。平然と使役し、技を使わせていたんだから。

 まあ、当時のヒキガヤがダークライについてどこまで知っていたのかは定かではないけど。それを言ったら俺だって名前一つ知らなかったポケモンなのだ。本能的に恐怖を覚えた俺の方が正常だったと思いたいね。

 

「食われた記憶は元には戻らん。なのに、彼奴はそんなポケモンを手懐けてしまった。そんな奴に儂はなんて言葉をかけていいものか戸惑ったのを覚えておる」

 

 カロス地方で会った時はほとんどの記憶を失くしてたらしいしな。そんな恐ろしいポケモン、俺は絶対に手懐けられないと思う。心がそこまで耐えられる自信がない。

 伝説ポケモンに選ばれるということはその力にも適応してるということなんだろうな。だから、俺には三鳥ですら操れなかったんだ。でもそれでいいのかもしれない。俺はそんな器用な人間じゃないんだし。

 

「あいつは凄いですよ。悔しいですがね。どう足掻いても勝った気になれない。それに何故か人を惹きつける不思議な力もありますしね。俺はいつでも敵わないなと思い知らされることばかりでしたよ」

 

 まあ、だからこそ手を伸ばしたくもなるんだけどね。

 

「………校長の椅子、いただきます」

「ちょ、ハヤト?!」

 

 今まで俺に寄りかかって話を聞いていたユミコがついに口を開いた。やっぱり回復してたんだね。

 

「ユミコ、やっぱり俺はあの三人と肩を並べたい。その考えはこの一年、スクールで教師をしていても変わらなかったよ。でも一人で何とかなるとも思ってない。だからさ、ユミコも手伝ってくれないか?」

「…………ずるい」

「ははは、ごめんね?」

「うぅー………、無茶してると思ったら全力で止めるからね」

「うん、そうしてくれると助かるよ」

 

 ユミコにはこれから迷惑もかけるだろうけど、やっぱり黙ってあいつらを見ていられる程、俺は強くないからな。

 それにーーー。

 

「ーーー俺はユミコになら甘えられるようになりたいからさ」

「………そういうところがヒキガヤ君もハヤマ君もずるいのよ」

 

 ツルミ先生、文句は顔を上げて言って下さい。



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ぼーなすとらっく17『忍び寄る影のカオリ』

今回はデオキシス、ギラティナ襲撃から三ヶ月後の話になります。
そういえば今日は折本さんの誕生日だったんですね。おめでとうございます。

〜お知らせ〜
PixivBOOTHにて『ポケモントレーナー ハチマン』シリーズのDL版を販売しております。1巻目は『トレーナーズスクール編』です。
詳しくは活動報告にてまとめておりますので、ご確認下さいませ。
皆さん、よろしくお願いいたします。


 ミアレシティとヒャッコクシティが壊滅してから三ヶ月。

 育て屋の仕事もじっちゃんが来てから随分と楽になり、やり甲斐を感じてきた今日この頃。

 どこからか視線を感じる時がある。それはポケモンの世話をしてる時だったり、買い物しにミアレに行っている時だったり、酷い時には寝ている時にまで感じてしまい目が覚めてしまうのだ。これはさすがに誰かに聞いてみないとまずいかもね。もしかしたら何かの病気になってるのかもしれないし。

 

「ねぇ、チカー」

「んー?」

 

 丁度一緒に作業をしているチカに聞いてみることにした。

 

「最近、どこからか視線を感じたりとかってない?」

「視線? ないけど。疲れてるんじゃない?」

「かなー」

「ポケモンたちもトレーナーの元へ少しずつだけど戻ってるんだし、それで気が抜けちゃってるんでしょ。肩の荷が落ちたー、みたいな感覚だと思うよ」

「あー、なるほどね」

 

 チカはないのか。

 これでもチカは元シャドーの戦闘員なんだよね。あたしに比べれば末端になるんだけど、あたしとこうして仲良くしてるんだから、それなりに上の存在を目の当たりにしてきているはず。そんなチカが感じないというのだから、やっぱり気のせいなのかもしれないね。

 

「なら、今日は早めに寝るとしますか」

「それがいいと思うよ」

 

 今日は感じないことを祈りたいけど、こう連日続くとねぇ。

 ドクロッグやじっちゃんにも聞いてみよ。

 

「あ、チカのも持ってくよ」

「ならお願ーい」

「はーい。いくよ、ソーナンス」

「ナンスー」

 

 チカからチェック用紙を受け取り、本舎に戻ることにした。

 

「ッ?!」

 

 っ、まただ!

 また視線を感じた!

 しかも日に日に強さが増している気がする。

 一体誰があたしらを見てるっていうの…………!

 

「ケケッ」

「ッ、………ドクロッグ?!」

 

 び、びっくりしたー!

 急に現れないでよ。って、あたしが視線に気を取られてたらから気づかなかったんだね。

 

「ねぇ、アンタは今、どこからか視線を感じたりしなかった?」

 

 せっかくなので、今の視線を感じなかったか聞いてみた。

 だけど、返事は首を横に振るだけ。特性きけんよちを以ってしても今のを感じなかったってことか。

 ああー、気になるー!

 なんかゾワゾワするし、ヒヤヒヤする。素直に気持ち悪いよ!

 

「………ヒキガヤなら……」

 

 って、ダメダメ!

 あいつは忙しいんだから。もし思い過ごしだったら仕事の邪魔になるだけ。

 ………ああー、こんなことでヒキガヤを充てにしちゃうなんて、結構参ってるんだね。こりゃ、早くなんとかしないと。

 

「ほっほ、顔色が優れんの」

「じっちゃん………」

 

 本舎に戻るとじっちゃんがポケモンフーズを製作していた。

 じっちゃんが来てからポケモンフーズの製作は任せっきりだ。あたしらが作るよりもポケモンたちに合うようで、時折作り方を習ってるくらい。

 

「ねえ、じっちゃんは最近誰かから見られてるって感じることあったりする?」

「視線というやつかの。………儂もそこそこ狙われる存在ではある故、そういうこともしばしばあるんじゃが、最近は何もないのう」

「じっちゃんでもないんだ………」

「何かあったのかの?」

「んーん、ないならいいんだ。あたしの気のせいだろうし」

「ふむ………、もしかするとカラマネロたちの襲撃と何か関連があるのやもしれん。儂もこの通り老いぼれじゃ。昔よりも感覚は鈍っておる。お主のその感覚を切って捨てるのは浅はかというものじゃよ」

「そっか………」

 

 ならやっぱり探ってみるのもありなのかもしれないんだね。

 

「よし、それじゃ山の方に行ってくるよ」

「うむ、ポケモンたちを頼むぞ」

「ナンスー!」

 

 じっちゃんの作ったポケモンフーズを持ってソーナンスと山の方へと向かった。道中は特に気になる感覚はなかったけど、こうなると気が抜けなくなってくる。

 アレは一体誰の視線だったのか。そもそも誰かの視線なのか。分からないことだらけで、あたしも気味が悪くてしょうがない。

 

「バグッ」

「あ、おつかれー、バクフーン。ポケモンたちの様子はどう?」

 

 山エリアに着くとバクフーンがあたしたちに気がついて降りてきてくれた。今日は目がいくところでサイドンたちがやり合ってはなさそうだね。あれを毎日止めるこっちの身にもなってほしいってもんだよ。

 バクフーンも首を横に振って問題無いと伝えてきたし、今日は平和だなー。

 

「ッ?!」

 

 な、に………?!

 この、重圧………!

 感じる方を見ると禍々しい黒いオーラが一瞬だけ見えた。んーん、見えてしまったっていった方が当ってるかも。

 

「ーーーこの感じ、まさか………っ!!」

 

 あたしは知っている。一年前まであたしも連れていたもの。今はスッキリなくなっているけど、それもヒキガヤのおかげ。そのヒキガヤもよく知っている危険なもの。

 

「ソーナンス、戻って! バクフーン、いくよ!」

 

 あれはこんなところにあっていいようなものじゃない。ましてやこんなところでばら撒かれたら、他のポケモンたちが住処をなくし命の危険さえある。

 

「なんでよ………! どうしてアレがっ!」

 

 わからない、なんでアレが………ダークオーラが!

 どうしよう、どうしたらいいの………。

 向かう先は森の中。禍々しいオーラが立ち昇った所まではそう遠くはない。

 

「まだダークポケモンが出回ってるなんて聞いてないよ!」

 

 木々を潜り抜けてたどり着いた先には一体のポケモンがいた。

 

「フーディン………」

 

 じっちゃんのポケモンと同じフーディン。

 シャドーポケモンの実験歴にはいなかったはず。でもこのフーディンからは禍々しい気を感じる………。

 まさか新たにダークオーラを付与したポケモンがいるっていうの?

 

「バクフーン!」

 

 あたしは迷わずバクフーンから降りてフーディンの元へと走らせた。

 これはあたしたちシャドーの問題。決して他人に任せてはいけない問題。ここであたしが片づけないと!

 

「ニトロチャージ!」

 

 速攻を仕掛けるために炎を纏わせて突っ込ませた。

 でも相手はエスパータイプ。ポケモンのタイプの中でも一、二を争うトリッキーさが売り。

 

「やっぱりそうくるよね」

 

 サイコキネシス。

 超念力によりバクフーンは一瞬で動きを止められてしまった。

 

「バクフーン、かえんほうしゃ!」

 

 こういう時は技を使用しているポケモンに攻撃すればいい。

 

「ディン!?」

 

 バクフーンが口からはいた炎を受け、フーディンは技を解除してくれた。

 手足は動かせなくとも口は使えるからね。突っ込んだことで距離も縮まってるし、抜け出せる確率は相当高いよ。

 

「よし、そのままシャドークロー!」

 

 エスパータイプにゴーストタイプの技は効果抜群。

 しかも影を使った不意を衝く攻撃だ。躱すことは早々できはしない。

 

「ッ!?」

 

 うそっ?!

 フーディンが地面を蹴って飛び出してきたっ!?

 それに怒りが爆発しそうなあの顔………まさかっ?!

 

「バクフーン、かげぶんしん!」

 

 地面に突き刺して影を伝ってフーディンの背後から切り付けるはずが、飛び出しの一つで急転するなんて………。

 普段ならこういうバトルも面白いとか言っているのに、今はそんな言葉を微塵も出したくはない。

 

「バグッ?!」

「バクフーン!?」

 

 分身が間に合わなかった!

 しかもやつあたりで一気にこんなに吹き飛ばされるなんて…………。

 あたしがいた頃とは比べ物にならないくらい強化されているじゃん。

 

「バ、グ………」

 

 よかった、まだやれるみたい。

 でも長居は禁物だね。所詮今のバクフーンはどこにでもいる普通のポケモンでしかない。ダークオーラを付与されて強化されたダークポケモンに対してどこまでできるのかなんて、今のあたしたちには分からないもの。

 

「バクフーン、もう一度かげぶんしん!」

 

 単に突っ込んだのでは、あのフーディンに止められてしまう。かといってあんな動きができるフーディンに遠距離からの攻撃も意味をなさない。

 

「ニトロチャージでスピードを上げて!」

 

 まずは影も使っての撹乱。

 

「ディン」

 

 よし、バクフーンの動きを目で追い始めた。

 でもそれは長くは続かないでしょ。これだけの数を見切るのは相当バトルの経験が必要になる。

 

「フレアドライブ!」

 

 そして死角からならば攻撃は入るはず!

 

「ディン!」

 

 なっ………!

 リフレクター?!

 それならっ!!

 

「バクフーン、かわらわりで突破だよ!」

 

 そういうとバクフーンはフーディンを包み込むように円形に並べられたリフレクターを破壊していく。

 

「ディン!」

 

 ッ?!

 これ、はっ…………!

 トリック、ルームーーー!!

 

「バ、ク?」

「ディン!」

 

 くっ、サイコキネシス!

 炎を纏ったバクフーンが壁を突破してフーディンに当たる寸前に素早さが逆転する部屋を作り出した。その部屋にフーディンとともに閉じ込められてしまったバクフーンは、超念力で木々を倒しながら飛ばされてしまった。

 なんなのこのフーディン! 強すぎない?!

 あれ………?

 そういえばなんでフーディンはいろんな技が使えてるの?

 ダークポケモンはダークオーラによって技の使用に制限かかるはずなのに…………。その対価として与えられたのがダーク技で………あれ? ならフーディンのダーク技は………?

 おかしい、何かがおかしいよ、このフーディンは。あたしの知ってるダークポケモンじゃない!

 

「ディン!」

 

 くるッ!!

 

「ソーナンス、カウンター!」

 

 フーディンが地面を蹴り出したと同時に、バクフーンの方へソーナンスのボールを投げ放った。

 

「ナンスー!!」

 

 どうやら間に合ったようだね。

 地面を蹴り出したところからやつあたりがまたくると思ってカウンターを選んだけど、正解だったみたいだ。

 ソーナンスに弾き飛ばされたフーディンは、バクフーン同様いくつもの木々を倒しながら飛ばされていった。

 

「はあ………はあ………!」

 

 なんとか、倒せた………。

 

「え………?」

 

 この赤い光は………モンスターボールの………。

 ってことはやっぱりトレーナーがいたんだ。

 

「ふっ、やはりお前がロッソのようだな」

 

 ッッ?!

 

「誰っ!?」

 

 訝しんでいたらドスの効いた男の声が聞こえてきた。

 しかもあたしがシャドーにいた時の名前まで知ってるなんて………。

 

「ッ!?」

 

 誰何すると男が姿を現した。

 それだけで背筋が凍りつくような寒気が走り、両足がふるふると震え始めている。

 ーー恐怖。

 そう表すのが適切なんだとは思うけど、どこかそれだけでは言い表せないものも感じている。

 

「オレ様もいるぜ」

「ッ?!」

 

 背後からも声がし、首以外が動かなくなってしまった。

 ヤバいヤバいヤバい!

 これはほんとにヤバいって!

 あたしここで死ぬかもしれないっ!!

 物理的にぺしゃんこにされたっておかしくない!!

 だってコイツは筋肉バカのーーーっ!!

 

「ロッソ、いや本名はオリモトカオリか」

「まさかあなたが女性だったなんてね」

 

 落ち着け、落ち着けあたし………。今は慌ててる場合じゃない。身体は動かなくとも頭は動くんだ。考えろ、考えるんだーー!

 後ろには三人。正面には一人。

 ここから抜け出そうと思うのなら正面突破を狙うのが妥当だろうけど、それはできない。だって、この男は………シャドーの実質的なボス、ジャキラだから。極悪非道。その言葉がびったりな凶雄。トレーナーからポケモンを奪い、ダークオーラを付与させてオーレ地方にばら撒いていた組織のナンバー2だ。はっきり言って、後ろの幹部三人の方がかわいいと思えるレベル。

 これはまともに相手する方が危険だ。

 

「……え、と……アンタたちは一体………?」

 

 どうやらあたしのことを調べ上げているみたいだけど、一応は白を切ってみる。

 

「ふん、白を切るつもりか。だが、こちらにはすでにお前がロッソだという確信は取れているのだ。無駄な抵抗はやめておくんだな」

 

 この声は確かボルグだったはず。

 この四人の中で一番会話ができそうな男ではあるけど、その言葉の裏には何があるか分からない。筋肉バカのダキムやプライドが高いヴィーナスもだけど、下手に口を開けば何をされるか分かったもんじゃない。

 

「………………」

 

 ダメだ……。

 まともにジャキラの顔が見られない。

 視線を交わせば射殺されそうな、そんな目力を感じる。そうでなくとも、この四人に囲まれているというプレッシャーが身体の隅々まで行き渡り、全神経が痙攣を起こしているような感覚があるのだ。立っているのかも座っているのかも浮いているのかも判断がつかない。

 

「ロッソ、もう一度わたしたちのところに来い。これは命令だ」

 

 っ?!

 それってヒキガヤたちを裏切れってことじゃん。それにこんな提案してくるということは、あたしがヒキガヤと繋がってることも承知済みってことでしょ。

 ふざけるな!

 あたしはもうそっちの世界から足を洗ったのよ!

 

「………いや、だと言ったら?」

 

 ああ、声が震えてる。やっぱりコイツは怖い。目の前にするだけで震えが止まらない。

 

「力づくでも連れていく」

「丁度新しい仲間に強力な催眠術を使えるポケモンがいる。そいつに全てを忘れさせてしまえば、こちらとしても好都合なのだよ」

 

 催眠術………。

 それであたしはあたしでなくなるってことね。

 そんなの聞いたら俄然嫌に決まってるじゃない!

 それよりもなんでコイツらがここに、カロスにいるのよ。何を企んでるのっ?

 

「………そもそも、アンタたちは何を企んでるの? シャドーは壊滅したでしょ」

「ああ、シャドーは壊滅した。だが、技術は残っている。それをわたしたちが使わない理由がなかろう?」

「つまり、組織だけが変わってやることは同じってことね」

 

 根は変わらない組織。

 そんなところに絶対戻る気はないから。

 

「まあ、進歩はしているがな。お前も気づいただろう? わたしのフーディン」

「………あ、あたしの知ってるダークポケモンじゃなかった。アアアンタたち、一体何したっていうの?!」

「ダークオーラを進化させた。それだけは伝えておこう」

 

 やっぱり、ダークオーラが関係しているんだね。

 

「さて、これだけわたしたちの情報を話したのだ。さすがのお前でも帰れるとは思ってないのだろう?」

 

 ッ?!

 

「………そうだね。でもアンタたちと一緒にいくくらいなら死んだ方がマシよ」

「おい、ジャキラ。聞いたか? 本人のお望みだぜ。オレがやってもいいよな?」

「口を慎め、ダキム。ジャキラ様だ」

「へっ、細けぇやつだな、ボルグ」

 

 ああは言ったけど、これほんとに死ぬパターンじゃん。

 

「ダキム、やれ」

「あいよ」

 

 やばっ?!

 今気づいたけど、全員ポケモン出してるじゃん!

 ジャキラはバシャーモ、ヴィーナスはミロカロス、ボルグはライボルト。そしてダキムはラグラージ。はっきり言って逃げ場もないし相性も最悪。

 

「一対二だろうが関係ねぇ。ラグラージ、じしん!」

「バクフーン、かえんほうしゃで飛んで! ソーナンスはカウンター!」

 

 ラグラージが地面を叩くと、咄嗟にバクフーンに回避を、ソーナンスに打ち返すよう指示した。

 

「まずはソーナンスにだ、やつあたり!」

 

 っ?!

 

「ソーナンス!?」

 

 なに、今の威力………っ!

 まさかラグラージも?!

 

「まずは一体」

 

 ソーナンスでも返せないなんて、それしか考えられないよ。

 

「………やっぱり、ラグラージもなんだ」

「ああん? 今ごろ気づいたのか? 勘が鈍ってんじゃねぇか、ロッソちゃん!」

「変な呼び方しないで! バクフーン、ソーラービーム!」

 

 天高く避難していたバクフーンのチャージはすでに終わっている。

 太陽の光を凝縮させた光線を一気に降り注いだ。

 

「ハッ、甘ぇんだよ! ラグラージ、ミラーコート!」

 

 う、そ………っ!?

 

「バ、バクフーン?!」

「トドメだ! やつあたり!」

 

 攻撃を返されて大ダメージを受けたバクフーンが落ちてくるところに、ラグラージがその身体を打ち付けた。

 

「これで終わりか、ロッソ」

「くっ………!」

 

 もう他に戦えるポケモンはいない。逃げるにしても山を出るまでに捕まるのがオチだ。

 絶望感に苛まれて急に身体から力が抜けていってしまった。そしてそのまま地面座り込んでしまう。余計に逃げられなくなるというのに………。

 

「んじゃ、着てるもんひん剥いて甚振ってからお望み通り殺してやるよ」

 

 ッ?!

 だ、だめ………震えが止まらない!

 あ、あああたしここで辱められて殺されるんだ………!

 

「こ、こないで………」

「急にしおらしくなっても、誰も助けてくれねぇよ」

 

 こんなことならヒキガヤにでもあたしの全てを捧げとくんだった。あいつならなんだかんだいいながら、あたしのこと受け入れてくれるだろうし……………。

 

「さあ、来いッ!」

 

 いやっ!?

 あたしまだ死にたくない!

 

「オロロロロロロッ!」

 

 あたしは咄嗟に身体を抱きしめるようにして目をギュッと瞑った。

 

「………やはり来たか」

「ああん? なんだコイツ」

 

 ……え、何かいるの?

 目を開くとそこには四足歩行のポケモン? がいた。色は黒を基調とし所々緑色があり、鼻が前に突き出ていてルカリオが四足歩行になったような感じ。

 

「ここは分が悪い。引くぞ」

「あ、ちょ、待てよジャキラ! どういうことだよ!」

「覚えておけ、ダキム。カロス地方には守護者がいる。そいつが現れた時、わたしたちの計画も波状するだろう」

「計画がぶっ飛ぶってか。シャドウポケモンにしちまえば関係ねぇだろ」

「やれるものならな」

「チッ! ロッソ、オレ様たちの計画を口外すれば、テメェのお仲間の首が全部飛ぶと思え」

 

 ……………。

 

「わたしたちはいつだってあなたを見ているわ、ロッソ」

 

 ……………………。

 

「一度闇に足を踏み入れた者が表の世界にいられると思わないことだな」

 

 …………………………。

 

「あたし、助かった、の………?」

 

 は、ははは………。

 

「あはははははは……………ッッ?!」

 

 怖い、怖かった!

 死ぬかと思った!

 緊張が解けてより一層震えてきた!

 なんでさ。なんであいつらがカロスにいるのさ。わかんない、わかんないよ! もうわけがわからないよ!

 

「バ、グ………」

「バクフーン………」

 

 意識を取り戻したバクフーンが起き上がってへたり込むあたしのところまでやってきた。その身体はボロボロですごく痛ましい。

 

「ナンス〜………」

「ソーナンス………」

 

 ソーナンスもボロボロだ。技を返すはずのカウンターが及ばなかったなんてあたしもソーナンスも想像してなかったもの。ダークオーラならまだできてたはず。だからあの力は本当に進化しているんだ。

 

「………こんなの、あたしどうしたらーーー」

 

 悔しい。

 すごく悔しい。

 倒さなきゃいけないのに、ボロクソに負けて。

 誰かに話すこともできなくて………。

 だって話したら絶対に殺される。あたしじゃなくてみんなが。そしてあたしに絶望を味わわせるんだ。それがあいつらのやり方だもん。間近で見てきてる分、簡単に想像できてしまう。

 動くならあたしだけ。でもあたしができることなんて何もない。戦闘とスナッチしかしてこなかったあたしには何もできないんだよ…………。ルギアを追っている時だってほとんどチカに任せっきりだった。あたしはバトル専門。バトルバカだから………。

 あ、やばっ………涙出てきた。

 

「悔しい、悔しいよ………バクフーン、ソーナンス……」

 

 涙が流れ始めたら急に口も止まらなくなった。

 

「あたしだって強くなった。アンタたちと強くなってきたんだ! なのに! 何もできなかった! あいつらを目の前にしてただ震えてるだけだった! 怖かった! 死ぬかと思った!」

 

 二人に抱きついたあたしは全てを吐き出すように口が閉じない。

 

「戻りたくない! あんなところに、もう戻りたくないよ…………」

 

 まだ震えが止まらない。ある意味、あたしのトラウマになっているのかもしれない。いや、絶対になってる。あれだけ足がすくんでればまちがいないよ………。

 

「バクフーン、ソーナンス………あたし、どうしたらいいの………。これからどうすればいいの……………」

 

 ポケモンたちに聞いたって答えが返ってくるわけじゃない。むしろ困惑させるだけだ。自分たちのトレーナーはこんなにも弱いって言ってるようなもんなんだから。なのに、誰かに答えを用意してほしい。道を示してほしい。そんな感情で今は溢れかえっている。

 でも嫌なの。あんなところに戻りたくはないの。みんなを手放したくもないの。せっかく手に入れた平穏を失いたくないんだよ。

 どうしよう………どうしたらいいの…………………。

 だれか、助けてよーーー。

 

「ーーーたすけてよ、ヒキガヤ………」

 

 あたしは縋るような思いでヒキガヤの名を口にしていた。

 震えが止まったのはそれから一時間くらい経った頃だと思う。正確な時間はわからないけど、その時にようやく四足歩行のポケモンがいなくなっていることに気づいた。

 なんだったんだろう、あのポケモンは。




行間

オリモトカオリ
・バクフーン(マグマラシ→バクフーン) ♂
 覚えてる技:ふんか、でんこうせっか、かわらわり、かえんほうしゃ、かえんぐるま、おにび、ニトロチャージ、シャドークロー、フレアドライブ、ソーラービーム、かげぶんしん

・オンバーン ♂
 覚えてる技:りゅうのはどう、ばくおんぱ

・バクオング ♂
 覚えてる技:みずのはどう

・ニョロトノ ♂
 特性:しめりけ
 覚えてる技:ハイドロポンプ、アイスボール

・コロトック ♀
 覚えてる技:シザークロス

・ソーナンス ♂
 覚えてる技:カウンター、ミラーコート


ジャキラ
・フーディン ♂
 覚えてる技:サイコキネシス、やつあたり、リフレクター、トリックルーム

・バシャーモ ♂


ダキム
・ラグラージ ♂
 覚えてる技:じしん、やつあたり、ミラーコート


ヴィーナス
・ミロカロス ♀


ボルグ
・ライボルト ♂


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ぼーなすとらっく18『兄妹対決フルバトル!』

日付変更での投稿には遅れましたが………。
小町の誕生日ということで今回投稿します。
以前より執筆し、準備してきた小町話です。今回はデオキシス・ギラティナ襲撃事件から三ヶ月半頃となります。
とにかく長いです。今までで一番長いです。


「お兄ちゃん、バトルしよ!」

 

 カロスに来てからもうすぐで一年という今日この頃。

 今日も今日とて事務処理をしているとバタンッ! と勢いよく扉が開けられた。

 入って来たのは我が愛しのエンジェル、コマチだった。

 

「コマチちゃん? 急にどしたの?」

 

 開口一番がバトルしようだなんて、目が合ったら………というものに近いものを感じるな。

 

「今のコマチがどこまでやれるか試したいの!」

 

 今のコマチの実力か。

 確かに大会以降、コマチのバトルは見る機会がほとんどなかったからな。見たのだって技の習得とかそんなのばかりだし、本気のバトルはそろそろ行った方がいいのかもしれないな。

 

「ハチマン、やってあげなさいな」

「いや、そりゃいいんだけどな。急だったから普通に驚いてた」

 

 コマチとバトルか。

 正直、大会以降俺のポケモンたちの実力が格段に上がりすぎていてバトルに出すのが億劫になるんだよな。だって、リザードンなんて相性は悪いわ暴走なんて吹っ切れて全力出して来たわのオーダイルに、メガシンカなしで一撃必殺も使わずに勝っちゃったし。ゲッコウガはカルネさんのポケモンを蹂躙してたし、ジュカインは今やべぇことやろうとしてるし、ヘルガーなんて擬似的にダーク化出来ちゃうし、ボスゴドラも元群れのリーダーで実力はあるし…………まともなのキルリアだけかな?

 でもキルリアではまだまだコマチのポケモンたちの相手は務まらないだろうしなー。

 まあいいか。キルリアが出るって決まったわけじゃないし。リザードンやゲッコウガたちがいれば事足りるだろう。

 となるとあいつを招集しないといけないのか。

 

「んじゃ、これだけ終わらせてしまうわ」

「あいあいさー!」

 

 取り敢えず、仕事たけは終わらせようとコマチに伝えると、コマチは軽快に部屋から出ていってしまった。残ったのは俺とユキノの二人だけ。

 

「………と、これで終わり………か。ユキノ、確認終わったぞ」

 

 今目を通していたのはミアレシティとヒャッコクシティの復旧についての報告書。粗方計画が実行段階に移ってきているようだ。遅れているところもあるが、それはまあ想定内のことでもある。全部が全部上手くいくわけでもないし、他の作業との兼ね合いもあるからな。

 

「そう、問題はなかったかしら?」

「特には。ただ遅れている作業については一応想定内のことではあるが、進捗を細かく残しておいてほしい。あと、他でこれを優先してくれたら作業が進むってのがあったらピックアップしてくれると助かるわ」

「分かったわ。ピックアップは今姉さんにも頼んであるから明日には整理できるはずよ」

「相変わらず仕事がお早いことで………」

 

 俺が言う前にやり出してるとは…………。

 俺、ほんとに確認とかしかしてないからね?

 実務ってほぼほぼこの姉妹に任せきりだし。いいのかね、こんなので。

 

「だってそうしないと今度はあなたの作業が進まなくなるでしょう?」

「まあ、そうなんだけども。姉妹揃ってここまで優秀だとユキノシタ家の血が羨ましくなるわ」

「あら、小さい頃から窮屈な英才教育を受けて、姉にはからかわれ、同じ歳なのに力量差を見せつけられる生活をしてみたいと?」

「謹んで遠慮させてもらいます。こちとら独学で勉強して、授業をサボったこともあるような自由気ままにやってきたんだ。絶対無理だわ」

「私ももう懲り懲りだわ。あなたがいなかったらあそこから飛び立つこともできなかったのだから、感謝はしているわ」

「『は』ってなんだよ。何か不服でも?」

「ええ、いくつか」

「よし、コマチとバトルしにいくか」

「最後まで言わせるつもりはないのかしら」

 

 お前の不服なんて毎度同じだからな。いくら俺が悪いといっても聞き飽きたわ。

 

「だって、どうせアレだろ? 『追いかけても追いかけても記憶を失くして忘れ去られる悲しみをあなたも味わいなさい』とかなんとかだろ? 嫌ってほど聞いたっての」

 

 そりゃ失うってのがどういうことか実感したけども。

 

「そうね。………コマチさんも飛び立つ時が来たのかもしれないわね」

「へ?」

「いいから行きましょうか」

「お、おう………」

 

 コマチが飛び立つ?

 どういうことだってばよ。

 

「リアー!」

「お、キルリア」

『どこかいくのか?』

 

 部屋から出るとキルリアとゲッコウガが帰って来たところだった。キルリアを抱き上げてゲッコウガの問いに普通に答えることにする。

 

「今からコマチとバトルすることになってな。お前らを探す手間が省けてよかったわ」

『ほー、だから今日は人が多いのか』

「は? 人が多い?」

『外に出れば分かる』

 

 人が多いってどういうことだよ。

 まさかコマチのやつ、何か企んでるのか?

 

「ユキノは何か聞いているのか?」

「まあ、そうね。知らなくもないわね。でも教えないわよ。あなたにはバトルが終わってからって言われているもの」

「はあ………、分かったよ」

「あ、それと本気を出してほしいらしいわよ」

「本気ねぇ」

『本気を出すのはオレたちの方だからな』

「それな」

 

 俺はただ指示出してるだけだし。

 そりゃトレーナーの判断が勝敗を分けることもあるけどさ。事俺のポケモンに関してはそこに当てはまるとも言い難いんだよな。自分たちの判断で動いた方が速いことだってあるし。

 

「うわ………マジか」

 

 外に出たら本当に人が多かった。しかも見知った顔ばかり。

 

「なんでお前らもいるわけ?」

「たはは〜、コマチちゃんに呼ばれちゃってさー」

「私もです」

 

 やっぱりコマチが呼んだのか。あ、サガミたちまでいるし。トツカやザイモクザがいるのは理解できるが、あの三人もかよ。あいつら育て屋はどうした! さてはじじいに任せてきただろ。

 

「コマチがみんなに召集かけたんだよー。みんなに見てほしくて」

「俺が断ったらどうするんだよ」

「大丈夫だよ、お兄ちゃんは絶対に断らないもん!」

「ええー………」

 

 最近思うんたが、妹の兄の扱い方がさらに長けてきている気がするのは俺だけか?

 まあ、断らないけどさ。

 

「審判は私がやるわ」

 

 そう言ってユキノがフィールドの中央外へと向かっていった。

 仕方ない。この大衆の中でやるしかないか。

 

「ポケモンの数はどうするんだ?」

「フルバトルで!」

「はいよ」

 

 フルバトルね。

 コマチとこうやってフルバトルをするなんていつぶりだろうな。力量差があり過ぎるため、俺の方からは話を振ることもなかったし、それはユイやイロハにだって言えることである。

 それでもこの一年弱でそれぞれ強くなっているのは確かだ。本気で来いという注文もあるみたいだし、スイッチ入れますかね。

 

「よっと」

 

 キルリアを下ろしバトルフィールドへと移動。

 

「カーくん、いくよ!」

 

 着くとすぐにコマチが最初のポケモンを出してきた。最初はカマクラか。相性で言えばヘルガーを出すべきだな。

 

「リアー」

「ん? キルリアもバトルしたいのか?」

「リア!」

 

 くいくいと俺のズボンを引っ張ってくるキルリア。

 どうやらバトルをしたいらしい。

 

「よし、ならやるか」

「リーア!」

 

 しょうがない。

 こんな可愛く上目遣いでおねだりされては断れるわけがない。キルリアではカマクラにすら敵わないだろうが、それでもキルリアにはやれるだけのことはやってやろうじゃないか。

 

「それじゃ、ルールは六対六のシングルス。交代は自由。技も制限なし。それでいいわね?」

「はい!」

「おう」

「なら、バトル始め!」

 

 さて、同じエスパータイプ相手にどう戦ったものかね。

 

「カーくん、ねこだまし!」

 

 うわ、また最初からえげつないの選んできたな。

 

「リア?!」

 

 カマクラが急に目の前に現れて一拍手したことに驚いたキルリアは、その場で尻餅をついてしまった。

 

「でんじは!」

 

 また搦め手か。

 確かにオスのニャオニクスは搦め手を使う方に長けているけども………。

 もしかするとトツカやザイモクザがさらに入れ知恵したのかもしれないな。

 

「キルリア、まもる」

 

 キルリアは座ったまま防壁を張ってでんじはを防いだ。

 さて、今度はこっちから仕掛けるとしますか。

 

「トリックルーム」

 

 キルリアに進化してからいつの間にか覚えていた技。結構高度な技なんだけどな。誰が教えたんだか。

 ゲッコウガと行動してることが多いし、育て屋に行くことも度々あるため何人か想像はつく。

 

「リーア!」

 

 キルリアは速さがあべこべになる部屋にカマクラごと閉じ込もった。

 カマクラとの力量差なんて一目瞭然。だからそれを逆手にとって攻撃の主導権を取ればいい。

 

「シャドーボール」

「リア!」

 

 うん、思った通りくそ速いな。

 

「カーくん?!」

「驚いてる暇はないぞ。マジカルリーフ」

「リー、ア!」

 

 どうやらコマチもキルリアがこんな戦い方をするとは思ってなかったようだ。そのせいでカマクラが全く動けないでいる。いや、あいつ自身も驚きで動揺しているのだろう。

 

「っ、サイコキネシス!」

 

 やっと動けたか。

 やはりまだまだこういう相手には弱いようだな。まあ、指摘したところで直るようなことでもない。これは経験が全てだ。トレーナーになって一年も経たないコマチには無理である。

 

「シャドーボール」

「リアリアー!」

 

 トリックルーム内では動きが遅いポケモンの方が速く動ける。したがってまだ進化して間もないキルリアはカマクラの背後を取ることが容易である。

 

「カーくん、あくのはどう!」

 

 逆にカマクラは通常に比べて技を出すまでにタイムラグを感じているはずだ。

 

「キルリア、躱せ」

 

 カマクラがシャドーボールを受けたまま黒いオーラを放って来たが、やはり遅い。攻撃が届く前にキルリアはあっさりと躱した。

 

「そうだっ! カーくん、もう一度あくのはどう!」

「遅い、シャドーボール」

 

 これで三発目。三発目とも命中させている。だが、カマクラが倒れる気配はない。それだけの差が二体の間にはあるということだ。

 

「カーくん、押し返して!」

 

 そう来たか。

 あくのはどうはあくまでも防御のため。黒いオーラでシャドーボールを弾き返すための布石だったらしい。

 なら、こっちはそれ諸共消し去るのみ。

 

「キルリア、マジカルシャイン」

 

 あくのはどうとは対照的な技。タイプ相性は何もポケモンのタイプだけに働くわけじゃない。技自体にも関係してくるのだ。

 

「ふいうち!」

 

 っ?!

 ここでそれを使うのかっ!?

 いや、思いついたのはこれだったのかもしれない。トリックルーム内でもその効果を無視できる技がいくつかあるのだ。ふいうちはその内の一つであり、カマクラがキルリアに攻撃できる唯一と言ってもいい技である。

 

「今だよ! サイコキネシス!」

 

 さらに超念力で身動きを封じてきたか。

 ………あまり使いたくはないがそうも言ってられない。キルリア、怖がらず落ち着いて移動しろよ。

 

「キルリア、テレポート」

「っ、リア!」

 

 キルリアが初めてテレポートを使った時。咄嗟に使ったため着地座標を正確に指定していなかった。そのせいで俺は頭を強く打ってしまったのだが、どうやらキルリアはそれがちょっとトラウマになっているらしく、それ以降も上手くテレポートを使いこなせていないのだ。そんなやつにバトルで使わせたくはなかったのだが、今はやむを得ない。これも克服するためと言い訳するしかないだろう。

 

「カーくん、上だよ!」

 

 キルリアは上手くテレポートを発動させることまでは成功したようだ。ただし、着地座標を咄嗟に真上にすることで、であるが。

 

「キルリア、まもる」

 

 カマクラの移動速度がいきなり速くなった………?!

 ということはトリックルームが消えたということか………!

 これはちとマズいな。その場凌ぎのまもるだったが、どちらにせよこうするしか手はなかったようだ。

 

「はかいこうせん!」

 

 おいおい、マジかよ。

 それは無理だわ。

 

「リア…………」

「キルリア、戦闘不能!」

 

 カマクラのはかいこうせんによりキルリアの防壁は破壊され、そのまま戦闘不能に追い込まれてしまった。

 いや、あれはさすがにキルリアじゃ無理だって。

 

「キルリア、お疲れさん。よく頑張ったな」

 

 フィールドに倒れているキルリアを抱き上げてそう伝えた。

 

「お兄ちゃん、トリックルームとか聞いてないよ」

「そりゃ初めて見せたし」

「キルリアのレベルでは難しい技だと思うのだけれど」

「俺だって初めて見た時は驚いたっつの」

 

 ねんりきがまだサイコキネシスのレベルに達してないんだぞ?

 そんなやつがいきなりトリックルームなんて高度なもんを見せてきたら素直に驚くっつの。ゲッコウガに聞いてもいつの間にか覚えてたって言うし。

 

「あー、それ多分フーディンかも」

「はっ? フーディン? じじいの?」

「うん………」

 

 結局あの人かよ。

 

「キルリアが興味持ったらしいから教えたって言ってた」

「こいつがねぇ」

 

 キルリアも自分が使えそうな技には興味を示すようになったんだな。ならまあ、今後はこいつが興味を示した技を中心に教えてみることにするか。

 

「ねぇ、イロハちゃん。あれ、ますますパパと娘に見えてこない?」

「あ、私も思いました。やっぱりどこからどう見てもパパと娘ですよね」

 

 聞こえてるからな、お前ら。

 パパだの娘だの関係はなんだっていいんだよ。可愛いは正義だからな!

 

「さて、次やろう。お兄ちゃん!」

「そうだな。ヘルガー、よろしく」

「ヘガ」

 

 エスパータイプ相手にはやっぱりあくタイプだよな。それにヘルガーにはあれがあるし。

 

「ヘルガー……」

「どうする? 交代させるか?」

「んーん、このままやる。苦手なタイプが相手でも引いてばっかじゃカーくんのためにもコマチのためにもならないもん」

 

 そりゃそうだ。苦手なタイプだからこそ数をこなした方がいい。そうしなければいつまで経っても絶対に勝てない相手でしかないからな。

 適材適所という考え方もあるが、そこそこ相手できるくらいにはしておいて損はない。

 

「そうだな。ならこい」

「カーくん、でんじは!」

 

 やっぱり麻痺狙いは欠かさず仕掛けてくるんだな。

 

「あくのはどう」

 

 なら、その電気の波ごと呑み込んでしまえ。

 

「ひかりのかべで抑えて!」

 

 ………さて、仕掛けるか。

 

「ヘルガー、ちょうはつ」

「ッ?!」

 

 くくく、ようやく目を見開いたな。

 

「ヘガッ」

 

 これでカマクラの得意戦法はできなくなったぞ。

 

「お兄ちゃん、性格悪すぎ」

「全力出せって注文したのはお前だろ? それに挑発に乗る方が悪い」

「そうだけどさ………。ならカーくん、あなをほる!」

 

 攻撃しかできなくなった今、ヘルガーの弱点を突いていこうって算段だな。

 だが、それくらいは対処が簡単だ。

 

「ヘルガー、地面にアイアンテール」

「ヘガッ」

 

 鋼の尻尾を地面に叩きつけ、衝撃で地中に潜り込んだカマクラを強制的に掘り出した。

 

「カーくん?!」

 

 いきなりのことでカマクラも対処できていない。

 決めるならここだろう。

 

「かみくだく」

 

 飛び出したカマクラに噛みつき、地面に叩き落とした。

 

「ニャオニクス、戦闘不能!」

 

 カマクラには悪いが、キルリアの借りを返さないといけなかったんでな。ねじ伏せさせてもらったぞ。

 

「先輩、えげつなーい」

「ヒッキー、こわーい」

 

 なんか怒られてんだけど。

 ちゃんとルールに則ったバトルでしょうに。

 

「アホ、これくらいでえげつないとか言ってたら俺とバトルなんかできないぞ」

 

 うん、マジで。

 このくらい可愛いものだからね。うちのお三方の方がよっぽどえげつないから。特に青い奴。

 

「カーくん、お疲れ様ー。………お兄ちゃん、コマチが可愛くないの?」

「何バカなことを言っている。可愛いに決まってるだろ。世界一可愛いと言ってもいい」

「あ、それはそれで気持ち悪いかも」

「うぐっ」

 

 コマチは世界一可愛い妹だろうが。

 本人に何と言われようが俺はそう思ってるからな!

 

「素直に気持ち悪いわね」

「ええー」

 

 審判にまで気持ち悪いと言われてしまった。

 

「さて、コマチさん。次のポケモンを」

「はーい」

 

 次のポケモンか。

 まあ、ヘルガーの仕事は終わったも同然だからなー。戻しますかね。

 

「ヘルガー、お疲れさん」

 

 コマチとバトルする前から相手にさせるポケモンは選んである。順当にいけば、今回のヘルガーの出番はこれでお終いだろう。

 

「あれ? ヘルガー戻しちゃうの?」

「まあな」

 

 恐らくコマチが次に出そうしていたポケモンはオノノクスだろう。クチートではヘルガーとの相性が不利だし、カメックスやプテラはリザードンやゲッコウガにぶつけるはずだ。敢えてカビゴンということも考えられるが、あいつはあいつで切り札を持っている。二体目に選ぶのなら消去法でオノノクスになってしまう。そして、それは俺がヘルガーを引っ込めたところで変わらないだろう。俺だって序盤からあの三体を出すつもりはない。あいつらが出てしまえば、一方的な展開になるだろうからな。

 ………あ、そうなるとこれって俺が本気を出していないことになるのでは?

 まあいいか。

 

「ボスゴドラ、よろしく」

「ゴラァ」

 

 ドラゴンタイプに対しても強く出られるはがねタイプ。だが、気をつけなければ返り討ちに遭う可能性もある。まあ、そこはどうにかなるだろうけどな。

 

「キーくん、いくよ!」

 

 うわー、マジで予想通りだったわ。俺って実はみらいよちが使えたり? んなわけないか。

 

「オノノノノォォォオオオオオオオオオッ!!」

 

 これは、とうそうしんか?

 いつになく興奮してるようだけど、大丈夫か?

 

「りゅうのまい!」

 

 ほう、竜気を纏えるようになったのか。

 なら、こっちもスピードを上げるまでだな。

 

「ボスゴドラ、ロックカット」

 

 根本的なスピードはオノノクスの方に分があるが、ちょっとでも追いつけるのならそれでいい。

 

「いっけぇ、キーくん!」

 

 コマチの合図とともにオノノクスが地面を蹴り上げた。

 ということは接近戦に持ち込むつもりか。

 

「きあいだま!」

 

 いや、そう見せかけての遠距離攻撃だったか。

 なるほど、緩急つけることを覚えたみたいだな。

 

「ボスゴドラ、メタルクローで弾け」

「ゴラァ」

 

 技の選択もボスゴドラの弱点を突いたもの。

 

「……と、きあいだまは陽動だったか」

「キーくん、アクアテール!」

 

 きあいだまを待ち受けて弾き返すまでに、オノノクスはボスゴドラの背後に回り込んでいた。撃ち出してから背後に回り込むまでの時間はほんの数秒程度。

 竜気はそこまでスピードを上げる働きをしているというわけだな。そうなると攻撃力の方も格段に上がっていると見た方が賢いな。

 

「真後ろに振り向いてメタルクローだ。クロスして受け止めろ」

 

 こういう立ち回りをされると、やはりスピードを上げておいてよかったと思う。感覚で反応できても身体がついてこないのでは意味がないからな。

 

「弾け」

 

 鋼の両爪を大きく開き、オノノクスの水を纏った尻尾を弾いた。

 

「キーくん、懐に入って!」

 

 するとオノノクスは身体を捻り、ボスゴドラの足元に低く着地しーーー。

 

「けたぐり!」

 

 ーーーボスゴドラの右足を引っ掛けて前に払った。

 やられたボスゴドラの身体はバランスを崩し、重心が後ろに下がり大きく仰け反っていく。

 けたぐりは身体が重たい程、倒れた時の衝撃で受けるダメージが大きくなるかくとうタイプの技。身体が重いはがね・いわタイプのボスゴドラには超効果抜群だ。

 

「ボディパージ」

「ッ! ゴラァ!」

 

 だから後ろに倒れる寸前に身体を軽くし、ダメージの軽減を図ってみた。

 技自体はボスゴドラも反応してくれたおかけで成功している。ただ、倒れた衝撃によるダメージがどこまでいくのやら………。

 

「キーくん、容赦はいらないよ! じならし!」

 

 コマチがそう言うとオノノクスは足踏みをし、地面を揺らしてきた。衝撃がじしん程大きくはないため、普段ならもう少し余裕を持てたが、今は割とピンチである。

 ほんと容赦ないな。

 まあ、それくらいの攻めの姿勢があった方がバトルの流れを掴みやすいが。

 しかし、このままだと同じ展開が繰り返されてダメージが蓄積していくのも事実。その間にこちらがオノノクスを倒せばいい話であるが、他に決定打となる技を用意している可能性だってある。ここは一つ手を打っておくか。

 

「ボスゴドラ、でんじふゆう」

「ふぇ?!」

 

 ボスゴドラは揺さぶられている身体を浮遊させ、態勢を立て直した。

 さて、これで移動範囲が広がったな。それにあの時以上の条件が出揃っている。

 

「コマチ、ボスゴドラのでんじふゆうで思い当たる節はあるか?」

「え? んと、ガンピさん?」

「ああ、そうだ。ここから先はユキノとガンピさんのバトルの時以上と思え。ボスゴドラ、ラスターカノン」

 

 そう言うとボスゴドラは素早い動きでオノノクスの背後に移動し、鋼の光線を背中に打ち付けた。

 

「キーくん?!」

 

 コマチが咄嗟に呼びかけるも無惨に地面を点々とバウンドしていく。

 

「………ノ、クス」

 

 お、まだ意識は残っているのか。

 確かにボスゴドラはああいう光線系の技とかの遠距離系は得意というわけではないからな。使えるという点では頼もしいが、そっちをエキスパートとするポケモンたちには見劣りするだろう。

 

「ノクス!」

 

 けどまあ、あの目を見ればここからが正念場ということらしいな。

 

「よし! キーくん、りゅうのまい!」

 

 仕切り直しというよりは最後の一撃のためだろう。炎と水と電気の三点張りからの竜の気の生成。それを纏うことで攻撃力と動きが俊敏になる。オノノクスは初手と合わせて二回使っている。竜気が活性化して近づくだけでも危険な存在になっているかもしれない。

 そんなオノノクスにコマチは一体どんな策を授けるというのだろうか。

 

「ノノノノクスッ!!」

「キーくん?」

 

 な、なんだ?

 なんか天を仰ぎ出したぞ。

 コマチも理解できてないところを見るにオノノクスの独断なのだろう。

 

「ノォォォックスッ!!」

 

 あれは………りゅうせいぐんか!

 オノノクスなりに出したボスゴドラ対策というわけだな。

 いいだろう。全部躱してやる。

 

「ボスゴドラ、躱せ。それが無理な時はトルネードメタルクローだ。何度も見てきたお前ならできるはずだ」

「ゴラァ!」

 

 本来は翼のあるポケモンたちが使う飛行術だが、今の浮いているボスゴドラなら再現するのも難しくはないだろう。それに何度も目にしてきてるんだ。必要になったら使えるはずだ。

 

「りゅうせいぐん?!」

 

 コマチはオノノクスが流星を打ち上げたことに驚いていた。ということは今習得したということだろう。ポケモンは追い込まれた時こそ、その真価を発揮する。だが、やられては元も子もないため、その匙加減をするのがトレーナーの役目といったところだ。

 ボスゴドラは降り注ぐ流星群をすいすいと躱し、上昇していく。

 

「ノノノノクスッ!」

 

 おいおい、まだあるのかよ。

 

「今度はいわなだれだ! ボスゴドラ、トルネードで砕け!」

 

 さらに頭上から次々と岩々が落ち始めてきた。大きいものから小さいものまで、大きさはバラバラで、隙間が埋め尽くされていた。

 

「すごいよ、キーくん! このままいっちゃえーっ!」

 

 って、あいつ外れた岩を次々と登って来てるし。

 

「きしかいせい!」

 

 なるほど、あいつらの狙いはこれか。

 

「躱してドラゴンダイブ!」

 

 下降する勢いを加えて突撃してくるオノノクスをひょいと躱し、逆に上から押しつぶすように突撃していった。背中から受けたオノノクスはさらに勢いを増して地面にその身体を叩きつけた。

 効果抜群の技を与えたんだし、今度こそ戦闘不能になっただろう。

 

「キーくん!?」

「オノノクス、戦闘不能」

 

 いやはや驚いた。

 一気に二つの技を習得してくるとは。

 

「キーくん、お疲れ様。がんばったね」

 

 コマチはそう言ってオノノクスをボールへと戻した。

 

「ボスゴドラ、お疲れさん。擬似的だが空中戦も視野に入れられそうだな」

「ゴラァ!」

 

 俺もボスゴドラを戻すために声をかけた。

 ボスゴドラは身体が重たい故にカウンター狙いの戦いからが基本だっが、技を組み合わせることでそれなりに速攻もできるようになってきた。その副産物としてできたのが空中戦である。でんじふゆうで浮遊することにより時間制限はあるものの、空中戦も可能となったのだ。俺のパーティーも空中戦ができるのはリザードンだけだったし、ゲッコウガやジュカインも空中で戦うことはできても翼がないため、滑空したり飛行術を使うことができない。だからこれは割とありがたい副産物なのである。モノにできたようで何よりだわ。

 

「お兄ちゃん、ボスゴドラが空中戦とか聞いてないよ!」

「そりゃ、初めて見せたからな。ガンピさんの戦いを見て改良してたらでんじふゆうが優秀すぎることに気づいたんだよ」

「私としてはあなたのそのひらめきの方が驚きなのだけれど。毎度毎度パフォーマンスだけは上手いのだから」

 

 ボスゴドラをボールに戻してるとコマチとユキノに目を細められてしまった。

 

「なるほどー、こういう戦い方もあるんですねー」

「ボディパージやロックカットを組み合わせてくるとは………。我もできちゃったり?」

「ダイノーズだったらできるんじゃない?」

「あははは………」

 

 観客席ではメモ取る奴らもいるし。

 え? そんなすごいことだったのん?

 速く動けねぇかなーってことで始めた策の副産物だぞ?

 

「………それに驚くのはまだ早いと思うがな」

「ふぇ?」

 

 ………我が妹ながらあざといぞ。

 でもかわいいなこんちくしょう!

 

「ジュカイン、お前の限界を超えた力を見せてやれ」

 

 さて、次は何を出してくる?

 残るはカメックス、カビゴン、プテラ、クチート。タイプ相性で見ればプテラかクチートだろうが、コマチだからな。変なこと考えてないとも言い切れない。

 

「ジュカイン………、とうとう出てきたね。お兄ちゃんの三巨頭の一角」

「三巨頭って………。あとはリザードンとゲッコウガのことか?」

「そだよ、コマチたちはそう呼んでるの」

「嬉しくない呼び方だな。広めるなよ」

「大丈夫、だと、思う………よ?」

 

 こいつ信用できねぇー………。

 

「あ、それ知ってる! 確かネットでそう呼ばれてた! ウチも見たし!」

「それある!」

「ないわー………」

 

 なんでみんなザイモクザ脳なんだよ。いちいち括り名を付けるな。

 

「サガミもオリモトも知ってるということは、そこそこネット界隈に出てきてる表現ってことなんだろうな。やだなー」

「ええー、かっこいいではないか」

「お前と一緒にするな、ザイモクザ」

 

 バトルする度に変な名前で呼ばれるとかどんな公開処刑だっつの。

 

「クーちゃん、いくよ!」

 

 お、クチートの方できたか。

 出てきて早々いかくしてきてるし。

 

「にほんばれ!」

 

 言うや否や日差しが強くなった。

 そういやクチートはサポートに徹することもあったな。天気を操ったり、能力変化をバトンタッチしたり。

 思い返せばクチートの立ち回りってそんなのが多かったような気がする。となると今回も後続で出てくるであろうプテラの支援要員ってことか?

 

「ジュカイン、思う存分やってこい。ピンチだと思ったら助け舟は出してやる」

「カイッ!」

 

 ジュカインはクチートの足元から草を伸ばして手足を縛っていく。くさむすびか。まずは身動きを封じようって魂胆だな。

 

「クーちゃん、ほのおのキバで草を焼いて!」

 

 だが、コマチの即断で頭の牙が草に噛みつき燃やしていった。

 まあ、その間にこっちも動いてるんだけどな。

 クチートの背後から引っ掻き音のような耳障りな騒音が辺りに響いた。

 耳塞いでおいて正解だったな。塞いでいてこれだ。コマチたちは相当耳が痛くなっていることだろう。

 

「ーーーク、クーちゃん………ものまね……」

 

 あ、こらバカ!

 それやっちゃったら周りがーーーっ!!

 

「うににににににーーっ!?」

「ピィギァァァアアアアアアアアアッ!?」

 

 あーあ、二次被害が酷すぎる。

 みんな頭がフラフラしてるぞ。

 

「カー、イッ!」

「な、え?! かえんほうしゃ!?」

 

 早速見せてきたか。

 ものまねによるかえんほうしゃ。本来ものまねは相手が出した技を真似て繰り出す技であるが、ジュカインは色々な技を理解していくことで、相手が使っていない技もコピーすることができるようになってきている。ただ、やはりそこは記憶を辿りに真似ているためか、本来の威力には及ばないみたいだ。

 

「クーちゃん!?」

「クチー……!」

 

 だから効果抜群であってもこの程度。普通に耐えられてしまった。

 

「………ハチマン、あなたまさか!」

 

 ああ、ユキノは直接見て体感してるんだったな。

 

「そのまさかだ。ジュカインは記憶を辿りに技を思い出して真似ている」

「やっぱりあの時のがきっかけなのね」

「お前のマニューラとバトルした時な。あの時、こいつはものまねを昇華させようと実験していたんだ。だからアプローチの方法を色々与えてやったらこの有様だ。まあ、これもジュカインだからできることなんだろうけど」

「お兄ちゃん、それってどういうこと………?」

 

 コマチには上手く理解できなかったか。となると他のやつらも理解できてないのがいるんだろうな。

 

「ほら、ジュカインって自分が使えるくさタイプの技は全て習得してるだろ? それができるのも一重にこいつが技をしっかりと理解しているからだ。だからくさむすびだって本来の用途とは違う使い方ができるし、自由自在に操ることだってできるんだ。そこにものまねが入ればどうなると思う?」

「ッ!?」

 

 ここまで言えばコマチも理解できたみたいだな。

 

「はあ………、いつものことながらあなたたちの考えは逸脱しているわね。つまり、ジュカインはこの世の全てのくさタイプの技を習得できるようになったってことでしょ? そして行き着く先はあらゆる技の習得。リザードンといい、ゲッコウガといい、あなたのポケモンはどうしてこう規格外ばかりなのかしら」

 

 ユキノの言う通り、ついにジュカインもリザードンやゲッコウガ並みの領域に達したのだ。

 もうね、どうしようか。

 伝説のポケモンよりも伝説のポケモンっぽいぞ。

 

「知らねぇよ。けど、トレーナーってのはポケモンの力を引き出すのが仕事だろ?」

「これはトレーナーの方が規格外だからなのかもしれないわね」

「ひでぇ………」

 

 だからユキノが規格外というのは分かるが、俺まで規格外ってのはどういうことなんでしょうねぇ。

 俺ってそんなに規格外か?

 

「そっか………。だったらクーちゃん! こっちも負けてられないよ!」

 

 そんな中、深く頷いたコマチは何かを取り出した。それは光輝く丸い石。

 

「メガシンカ!」

 

 キーストーン。

 ポケモンが持つメガストーンと反応し、ポケモンの姿を変える道具。白い光に包まれたクチートは新たな姿へと変化していく。

 

「………あれがクチートのメガシンカした姿なんだ」

「ツインテールみたいだよね」

 

 確かにトツカの言う通りツインテールみたいだ。頭の耳が大きくなって二つの牙になっている。ただ牙なんだよな。見た目が怖すぎる。

 

「つるぎのまい!」

 

 はてさて、メガクチートの特性はなんだったか。

 ただまあ、つるぎのまいを使うあたり、物理攻撃に長けていることは確か。

 

「少なくともクチートは物理攻撃に長けている。ジュカイン、お前ならどうする?」

「カイッ!」

 

 取り敢えずはジュカインに情報を与えてみる。

 するとジュカインは初手と同じように足元から草を伸ばした。クチートの両耳に巻きつけることで攻撃の要所ともなろうあの牙耳を塞ぎ、身動きをも封じようってことらしい。

 

「ふいうち!」

 

 だが、草の中をかき分けるように抜け出し、素早くジュカインの背後へと回ってきた。ジュカインは躱すことができずに、前に倒れていく。

 

「………一発でこの威力か。さすがメガシンカと言ったところだな」

 

 本来クチートはバンギラスやボーマンダのような怪獣ども程の攻撃力がない。なのに、ここまでの威力が出せるというのは、それだけメガシンカがクチートの攻撃力を飛躍的に上げたということだろう。

 

「ジュカイン、動きを封じるだけでは意味がない。敢えて攻撃させるという手も視野に入れてみろ」

「カイッ!」

 

 今の戦い方ではメガクチートは倒せない。逆に不意を突かれてやられるって方が濃厚だ。

 

「カーイッ!」

 

 立ち上がったジュカインは地面を踏み鳴らしてきた。

 この地響きからしてじならしだな。はがねタイプを持つクチートには効果抜群だ。加えて衝撃が縦に来るため大きくバランスを崩しやすい。

 

「カイカイッ!」

 

 膝をついたクチートにすかさず炎を吐いた。

 すでに日差しは弱まっており、威力の増幅は見込めない。

 

「クーちゃん、ふいうち!」

 

 コマチは咄嗟にふいうちを選択することで炎を躱させた。だが、この流れはすでに見ている。

 

「カイ」

 

 ジュカインは草の刃で背後から現れたクチートの右の牙耳を受け止めた。

 

「そのままだいもんじ!」

 

 っ!?

 どうやらクチートはメガシンカを使いこなせているようだ。コマチもメガクチートの特徴をよく理解している。攻撃の連鎖性が整っているとは見事なものだ。

 至近距離で左の牙耳から吐かれた大の字の炎に押し返され、俺が立つところまで飛ばされてきた。

 でもこれはこれですごいな。ジュカインはだいもんじを受けてなお、戦闘不能にはなっていない。ここからが本番というようにアレが発動している。

 

「クーちゃん、畳み掛けて! じゃれつく!」

 

 態勢を立て直すジュカインに対してクチートがあと数メートルのところまで迫ってきている。

 

「ジュカイン、焼け」

 

 この態勢、この位置ならばかえんほうしゃを再度使った方が意外性がある。

 いきなり目の前で炎を吐かれれば誰だって驚き動きが鈍くなる。しかも躱すことができない距離での効果抜群の攻撃だ。トドメを刺す前の前座としては充分だろう。

 

「ハードプラント」

 

 炎に呑まれ動きが止まったクチートを地面から太い根が唸り出し叩き飛ばした。

 

「クーちゃん?!」

 

 メガシンカはとても分かりやすい。

 戦闘不能になればメガシンカは解ける。審判をやる上でもメガシンカ程分かりやすい判定基準はないだろう。

 

「クチート、戦闘不能!」

 

 それにしてもまだバトルは中盤だぞ?

 メガシンカをここで使ってよかったのか?

 

「クーちゃん、お疲れさま。ゆっくり休んでね」

「ジュカイン、回復しとけ」

 

 コマチがクチートをボールに戻している間に、ジュカインにこうごうせいを使わせておく。

 

「コマチ、よかったのか? メガシンカを使っちまって」

「うん、大丈夫!」

 

 大丈夫って………。

 一体何を企んでいるのやら……………。

 

「お兄ちゃんこそ大丈夫なの? メガシンカ使わなくて」

「大丈夫だ。まずはものまねの出来具合をお披露目するのが目的だったし」

「ふーん、コマチのお願いなのにお兄ちゃんの出汁にされちゃったんだ。ふーん」

「なんでそこであからさまに不機嫌になるんだよ。お前が本気でこいって言うからだろ」

「そりゃそうだけどさー。なんかちょっと複雑なの!」

 

 俺にはよく分からんな。

 そういう時期が俺にもあったんだろうが、遠い昔の記憶だ。ダークライによって記憶がなくなったり戻ったりしてる俺には、もはやその時の感情なんて濃いもの以外はよく分からなくなっている。印象に残らない程度の出来事だったってだけの話だろうな。

 

「ゴンくん、いくよ! このごみいちゃんの鼻っ柱へし折っちゃえ!」

「ゴァ〜ン」

 

 四体目はカビゴンか。

 ということはこれでリザードンやゲッコウガも倒そうってつもりか? それならば何という無茶な話だよって感じだ。Z技を使うのにもメガシンカ並の制約があるんじゃねぇの?

 

「ジュカイン、今度は俺が指示を出す。いいな?」

「カイッ!」

「まずはくさむすびでカビゴンを転ばせてから地面に貼り付けろ」

 

 いつもと同じ攻撃パターンではあるが、本来の用途で使う他にも使えたりするため、そこまで読まれるということはない。

 ジュカインはいつもより太めの草をカビゴンの足元からひょっこり出して、両足にだけ絡めてバランスを崩させた。あの巨体を支える柱が一本失くなったことにより、後ろに倒れていく。

 

「サイコキネシス!」

 

 だが、悲しいかな。

 カビゴンが新しく習得したのであろう超念力によって、その巨体は宙に浮いた。

 

「カイ?!」

 

 そしてそれだけじゃなく、ジュカインにも超念力の力が加えられていた。絶賛身動きが取れない状態。宙に貼り付けられたような感じだ。

 

「どう? ゴンくんだって飛べるんだよ?」

「こりゃ驚きだな。でも今のジュカインにはそう脅威ではない。ジュカイン、はどうだん」

 

 動けないなら動かなくてもいい技を使うだけのこと。

 ジュカインは超念力で固定された右手に波導を凝縮していき、カビゴンに向けて放った。

 

「ゴンくん、引き寄せて!」

 

 コマチがそう言うと、ジュカインははどうだんを追い抜くスピードでカビゴンの元へ引き寄せられてしまった。サイコキネシスが成せる芸当なのだろうが、そこまで使いこなせるようになっていることに驚きだ。

 

「ばくれつパンチ!」

 

 うっわ、マジか………。

 誰だ、こんな戦法考えた奴!

 

「ジュカイン!」

「ゴン?!」

 

 カビゴンの重たい一撃を受け、俺の目の前まで吹っ飛ばされたジュカインに声をかけるのと同時に、カビゴンがはどうだんを腹に受けた。

 やはりまだまだ威力もスピードも本来のものとは程遠いみたいだな。だが、それでも牽制するには使うことができる。メインにしなければ使い所はいろいろありそうだ。

 

「カイ……ッ?」

 

 ばくれつパンチによる混乱か。まあ、あれだけ激しく顔を殴られれば何がなんだか分からなくなっても無理はない。

 

「潮時かな………」

 

 そろそろ使うべきだろうな。

 

「ジュカイン、起きろ。メガシンカ」

 

 キーストーンを取り出して、ジュカインが首に巻くスカーフに付けてあるメガストーンが共鳴させた。白い光に包まれたジュカインは背中に実を成し、尾を倒木のように伸ばしていく。

 

「カーイィィィッ!」

 

 メガシンカの力で混乱も解消するといいなーくらいの思いつきだったが、上手く香を来したようだ。

 

「ジュカイン、走れ」

「カイッ!」

 

 格段に上がったスピードであっという間にカビゴンとの距離を詰めた。

 

「きあいだま」

 

 超至近距離からの効果抜群の技なら相当のダメージを与えられるだろう。

 

「カィッーー!」

 

 まあ、遠くから撃つ技をカビゴンの懐に入って腹に直接当てるようなバトルは俺も見たことないけどな。

 

「ゴンくん!?」

 

 フィールド外に飛ばされた巨体を見てコマチは驚いていた。恐らくさっきのはどうだんから威力がどのくらいなのか判断していたのだろう。

 だが、技の精度がまだまだならば直接当てればいいんじゃないかと思う。ゼロ距離ならば加減も何も必要ない。思いっ切り溜め込んでぶっ放せば、本来の威力以上の力を発揮することができる。

 

「ジュカイン、逃すな。タネマシンガン」

「カィィィィィィイイイイイイイイイッ!」

 

 カビゴンが起き上がろうとするところに、ジュカインは種を打ち付けていく。

 

「ふきとばし!」

 

 起き上がったカビゴンは息を大きく吸い込み吐き出した。それだけで無数の種は吹き飛ばされ、辺りに散ってしまった。

 まあ、それならそれでいい。あの種にはいつも通りの仕掛けがある。そろそろ芽吹く頃だろう。

 

「ゴッ?!」

 

 カビゴンに当たって足元に落ちた種から蔓が伸び、くるくるとカビゴンに巻きついていく。

 

「ゴンくん、ほのおのパンチで蔦を焼いて!」

 

 おいおい、マジか。

 あれじゃ自分の腹も殴ることになってるぞ。カビゴンの腹なら大丈夫かもしれないが、あいつの特性はめんえきの方だろ? あついしぼうなら分かるがめんえきじゃなぁ………。

 

「サイコキネシス!」

 

 大丈夫みたいだな。

 それよりもこっちがヤバいか?

 サイコキネシスでまたしても動きを封じられている。

 ここは一つ俺が打開策を用意しないといけないようだ。

 

「いくよ、ゴンくん! ヒートスタンプ!」

「ジュカイン、みがわり」

 

 ジュカインは脱皮していくかのように、後ろに下がった。すると元いたところには動かないジュカインが立っており、分身を作ることに成功したようだ。

 カビゴンが高らかに地面を蹴り上げた。その巨体は炎を纏っており、燃え盛る隕石のようである。

 いくらメガシンカをしてくさ・ドラゴンタイプとなり、ほのおタイプにはある程度耐性ができたとしても元はくさタイプ。それにあの巨体が直撃すればそれだけでダメージが半端ないだろう。

 

「ハイドロポンプ」

 

 一応リザードンやゲッコウガから一通り技を教えられているためいろいろと使うことはできるんだよな。実践的かと言われればまだまだだと思うが、使わないよりはマシだ。

 そもそも炎は弱められても勢いは止められないからな。

 落ちてきた衝撃で分身は消滅したが、ちょうどいい壁役になってくれたため、衝撃の余波によるダメージもないだろう。

 

「くさむすび」

 

 だから次の攻撃を仕掛けるのも手早く済ませられた。

 カビゴンの着地と同時に足元から草を伸ばして絡め取ることができた。こう固定されては動けまい。

 

「ゴンくん! Z技だよ!」

 

 うわ、そうきたか。

 ゴリ推しじゃねぇか。

 

「ハードプラント」

 

 まあ、こっちもゴリ推しですけどね。

 守ろうにも逃げようにもZ技とやらには意味がないんだよ。全てを巻き込むような勢いで技を出してくるから、こっちもそれ相応の技で対抗しないと持っていかれる。

 

「ほんきをだすこうげき!」

 

 いつもは動きの遅いカビゴンがZ技の時だけは異様に俊敏になるからな。

 これがカビゴンの切り札ってのもどうかと思うぞ。

 

「カィィィィイイイイイイイイイッッ!!」

「ゴォォォオオオオオオオオオオオオンンンッッ!!」

 

 いや、めっちゃ怖い。

 恐怖でしかないぞ。

 なんであんな巨体がリズミカルに太い根を躱してるんだよ。当たっても腹で跳ね返すとか、Z技えげつなっ!

 

「カィィィィ?!」

 

 うん、もうこうなるだろうとしか思えなかったわ。見てるだけで恐怖だっつの。みんなよくこんなのを相手にできたな。

 

「ゴンくん!」

 

 うわー、なんか超ドヤ顔なんだけど。

 ジュカインはメガシンカが解けて伸びてるし。

 Z技恐ろしい!

 

「ジュカイン、戦闘不能!」

「やったね、ゴンくん!」

 

 はあ………、驚かせるつもりが驚かされてしまったな。カビゴンもZ技を完全にモノにしたってわけだ。嬉しいような悲しいような………怖いのは確かか。

 

「ジュカイン、お疲れさん」

 

 返事のないジュカインをボールに戻してカビゴンを見やると肩で息をしていた。Z技は使った後に急激に疲れるらしい。

 

「カビゴンも随分と疲れてるみたいだな」

「大丈夫! まだできるから!」

 

 コマチは嬉々としているが、そういうコマチも少し疲れが見えている。少々心配だが、ここは様子を見るとしよう。

 

「そうか。ゲッコウガ、いけるか?」

『ああ』

「どうする? いつものようにやるか?」

『そうだな。側から見て危ないようであれば頼む』

「了解」

 

 なら、俺はコマチをじっくりと観察してようかね。バトルはゲッコウガがやってくれるみたいだし。

 

「ゴンくん、交代だよ」

「ゴン」

 

 おっと、カビゴンは交代か。

 まあ、疲れてるところを無理させるのもトレーナーとしてはどうかと思うしな。本人がやりたいならそれを尊重するけども。

 

「疲れたカビゴンは一旦交代か」

「うん、Z技はそれだけ消耗するからね」

 

 そう言ってコマチはカビゴンをボールへと戻した。

 

「いくよ、カメくん!」

 

 次はカメックスか。

 みず対みず、そしてその後はひこう対ひこう。同じフィールドで戦おうってことらしい。それならゲッコウガにはカメックスに格ってのを叩き込んでもらわないとな。

 

『フン』

 

 先に仕掛けたのはゲッコウガ。俊足でカメックスの懐へと潜った。

 

「カメくん、からにこもる!」

 

 だが、同時にカメックスは甲羅の中に潜り込み、黒い手刀を堅い甲羅で弾いた。

 

「こうそくスピン!」

 

 もはや定番とも呼べるコンボ技。ダメージは気にする程でもないが、相手を下がらせるという点では優秀だ。しかもポケモンの特長も合わせているため、よりトレーナー側もバトルを組み立てやすい。

 

『く、やはりあの技の連続性はやりにくいな』

 

 そう言ってゲッコウガは影の中へと消えていった。

 かげうち。

 背後から不意をつくつもりか。

 

「カメくん、あれいくよ! みずのはどう!」

 

 あれ、とは何だろうか。

 そう思ったのも束の間、答えはすぐに出た。

 

「………回転しながら水を吹き出して操るとああいう風に攻撃と防御の一体型になるんだな」

『………ッ!』

 

 吹き出す水は遠心力で弧を描きながら外へと広がっていく。それは背後から忍び寄ろうとしていたゲッコウガを近づけさせないだけでなく、攻撃としても機能していた。

 

「これでゲッコウガも近づけないよ! カメくん、次!」

「ガメェスッ!」

 

 今度は回転しながら移動し始めた。水の衝撃波がどんどんゲッコウガへと近づいていき、堪らずゲッコウガは影を増やして躱した。

 

『これは面倒だな』

 

 確かに面倒だ。近づけないのなら遠距離からの攻撃をと考えるが、あの水の衝撃波がある限りそれも通らないだろう。

 

『いろいろ試してみるか』

 

 そう言って、ゲッコウガはまず黒い手刀で水の衝撃波を切り裂いた。だが、一つ切り裂いたところで次から次へと来るためすぐに身を引いた。

 なるほど、これは本当にすごい発想だと思う。ゲッコウガのみずのはどうで作る水のベールに近いものがあるな。だが、あれは防御特化のもの。精々触れた相手にダメージが入る程度だろう。攻撃する際は水を操り攻撃をしていく。

 一方で、カメックスのあれは常時攻撃と防御を兼ね備えているハイスペック版とも言えるだろう。

 

『なら、こういうのはどうだ』

 

 次は草を伸ばしてカメックスの周りを覆った。まるで草の城壁だな。

 だが、水の衝撃波は幾度となく草を切りつけ、断ち切った。やはり時間稼ぎにしかならないようだ。

 となるとやはりあそこか。

 

「ゲッコウガ、あれはお前のみずのはどうと似て非なるものだ。何ならハイスペック版と言ってもいい。けど、弱点は同じだ。あいつらが対策している可能性はあるが、やるなら後はそこだと思うぞ」

『なるほど。そういうことか』

 

 俺が気づいた事を伝えるとゲッコウガは一気に飛び上がった。

 ゲッコウガが使うみずのはどうは自分の周りにサークル状に出しているため、頭上がガラ空きなのだ。本人はそれを理解しているため、頭上を狙われた時の対策もしているとのこと。

 カメックスも似たようなもので、頭上がガラ空きなのだ。だから狙うなら後はそこしかない。

 

『フン!』

 

 ゲッコウガは影を作って水の衝撃波を受け流しながら、回転するカメックスの頭上へと到達した。そこからは一気に黒い手刀を携えて下降していった。

 

「カメくん、からをやぶる!」

 

 っ!?

 からをやぶるって、まさかここから素早さを上げて躱すってことか?

 

『チィ………!』

 

 と思ったら俺の予想の斜め上をいきやがった。

 カメックスは甲羅の表面を弾き飛ばして、文字通り殻を破ったのだ。その殻は急下降するゲッコウガを弾き飛ばす程の威力。いや『威力』という表現ができてしまう時点で何かおかしい気もするが、要はカメックスが甲羅の脱皮をしたのだ。

 

「はどうだん!」

 

 そして回転を止めたカメックスは素早くゲッコウガを見据え、波導を集めて解き放った。

 

『対策どころか、これを狙ってたってか!』

 

 ここまで来ると絶対誰かの入れ知恵がありそうでならない。コマチ一人ではここまでのバトルを組み立てられるとは到底思えない。トツカかハルノか………それともユキノたちという可能性もある。後で確認する必要があるな。

 

『フン!』

 

 ゲッコウガはカメックスから離れて着地し、追い来るはどうだんを白い手刀ーーつばめがえしで真っ二つにしていた。

 

「カメくん、からにこもる!」

『そろそろ大人しくなれ!』

 

 それにしても今日のゲッコウガは声を張るな。いつもなら静かに、たまに分析する程度なのに。

 

「こうそくスピンでその草も切っちゃえ!」

 

 やはりというか。

 もはやくさむすびではあの回転は止められないようだ。こうなるとあの水の衝撃波も勝敗を喫する程の発想力なのだと認めなければならないな。

 

「てっぺき!」

 

 と、今度は違う仕掛けか?

 からにこもるで防御力は上がっているはずだ。なのに今更てっぺきを使う必要性は皆無と言えよう。ゲッコウガに対しても防御力を上げたところで遠距離からの攻撃には効果がない。それはまた別の技で遠距離系の技に対する防御力を上げなければならないのだ。

 そうなるとやはり何か本来とは違う使い方をするつもりなのだろう。

 

「いくよ、カメくん! ロケットずつき!」

 

 おい、まさかのロケットずつきかよ。

 だが、バカにはできないな。この速さで突撃されるのならば、それは一発の巨大な弾丸と化す。それをまともに受ければ致命傷になることもあるだろう。

 まあ、そんなことはゲッコウガも分かっているようで、無理に迎え撃とうとせずに影を増やして躱していった。

 そして俺のちょっと離れたところにまでやってきたカメックスの背後から、黒いオーラを放ち包み込んでいく。

 あくのはどう。黒いオーラ、もとい黒い波導で攻撃する俺も一時期使えるようになった技だ。まああれはダークライの力によるものだったから、今はもう使えないんだけどな。

 

『フン!』

 

 あ、お前そんな芸当までできるようになったのかよ。

 ゲッコウガは黒い波導を操りカメックスを持ち上げると、コマチの方にまで放り投げたのだ。

 

「わ、わぁ?! カ、カメくん!?」

「ガ、ガメェス……」

 

 カメックスは思いの外、今の一撃が効いたみたいだ。

 あれってそんなに威力あったか?

 

「カメくん、ここからは全力でいくよ!」

 

 ん?

 コマチが何か取り出し………キーストーン?

 さっきクチートをメガシンカさせてたんだから、メガシンカは無理だよな?

 でも全力って言ってるし、カメックスの全力って言ったらメガシンカだろ?

 ん……?

 考えてもよく分からんな。分からんが………マジっぽい。あいつがそんなブラフを張れるようなタイプでもないし。となると考えられるのは二つか。

 どこかで二つ目のキーストーンを手に入れてきたか、あるいは誰かから借りたか。前者ならどこで見つけたって話だし、後者ならトツカ辺りだろう。

 

「メガシンカ!」

 

 白い光に包まれたカメックスはみるみる姿を変えていく。

 

「ゲッコウガ、恐らく今回のバトルは誰かの入れ知恵だと思う。お前も全力出してやってくれ」

『……まあ、誰かはなんとなく予想がつくがな』

 

 ゲッコウガにアレを出すように言うと、足元から水のベールを作り出し、こちらもみるみる姿を変えていった。

 

『第二ラウンドといこうか』

 

 お互いにフルパワー状態になった第二ラウンド。先に仕掛けたのは意外にもゲッコウガだった。メガシンカしてもえの水の衝撃波がくる可能性を考慮してのだろう。

 

「カメくん、はどうだん! 連発!」

 

 カメックスの砲台は背中に一つと両手にそれぞれ一つずつ、計三つの砲台から流れるようにして次々と波導を集めた弾丸を撃ち出してきた。それをゲッコウガは白い手刀で綺麗に真っ二つにしながら突き進んでいく。

 

「ハイドロポンプ!」

 

 今度は切り替えて、より撃ち出し速度の速い水砲撃にしてきた。ゲッコウガもこれは斬るのではなく身を屈めたり捻ることで躱している。だが、そのせいで中々懐へは潜り込めていない。

 

「ゲッコウガ、一旦そのループを壊せ!」

 

 このままだとジリ貧になりそうだったので、一度違う動きをするよう命じた。するとゲッコウガは黒い煙を出してカメックスの視界を奪い、ハイドロポンプの連射が止まった。

 

「カメくん、地面に向けてハイドロポンプ!」

 

 コマチはこの状況を打開しようとカメックスに水の勢いで空に逃げることを提案した。あいつも見えているのだろう。俺のところからもゲッコウガが上昇していったのが。

 

「アクアジェット!」

 

 ゲッコウガよりも急上昇していったカメックスは水を纏い、急下降してくる。

 

『上を取ったからと言って有利とは限らん』

「ガメスッ!?」

 

 ゲッコウガは水のベールを伸ばし、降り注ぐカメックスに巻きつけた。それはもうぐるんぐるんに。一体何をしようとしているんだろうな。

 

『フン』

 

 そしてゲッコウガは背中の手裏剣を取り出し、カメックスとぶつかる寸前に身を翻し、通り過ぎるカメックスの足の方から水でできた手裏剣で叩きつけた。尚も急下降を続けるカメックスはさらに速度を増して落ちていく。

 

「カメくん、からにこもる!」

 

 コマチは何とか甲羅から出ている両手足と首を引っ込ませて、止められない速度による落下のダメージを軽減させるようにしたみたいだ。

 こういう細かいところも随分と成長したような気がするな。前は荒削りなところもあったし今もあるにはあるが、ただ落下させるのでなくダメージのことも考える余裕ができてきている。それが自信となり、突然のことにも落ち着いて対処できているんだろうな。

 感動しすぎてお兄ちゃん泣いちゃいそう。

 

「うっく………!」

 

 なんともまあ強い衝撃だこと。

 そこまでの落下速度になっていたんだな。

 カメックスは地面にクレーターを作って不時着すると、二度三度とバウンドしていき、ユイたち観戦者側の方へと滑っていった。

 

『ここだなッ!』

 

 ゲッコウガは今を攻め時と見て、カメックスの足元から草を伸ばした。そして身体中に巻きつけていく。

 

「カメくん、こうそくスピンで断ち切って!」

 

 本日三度目の戦法。

 コマチの方も対処に慣れてきているようで、一度に切られていく草の量が目に見て分かる程増えていた。

 

『それは囮だ』

 

 だが、慣れてきているのはゲッコウガの方もらしく、草に気を取られていたカメックスの懐に潜り込み、回転する甲羅に蹴りを入れた。下から、上に。けたぐりの応用か?

 

「カメくん?!」

『フング!』

 

 そして今度は蹴り上げたカメックスを水のベールを伸ばして掴み取り、引き寄せたかと思うとぐるんぐるんと激しく振り回した。

 あれはぶんまわすという技を使っているということでいいのだろうか。それにしては激し過ぎないか………?

 

『フウン!』

 

 最後にコマチの方へと投げ飛ばし、自らもそちらに駆け出していく。

 

「カメくん……大丈夫?」

「ガ、ガメス…………」

 

 返事はあるが目を回しているようだ。

 これは詰んだな。

 

『悪いがこれで終わりだ』

 

 そう言ってゲッコウガは再生された背中の手裏剣を再度取り出し、上に掲げた。水の手裏剣は頭上でくるくると回り出し、紅く染め上がっていく。ついには巨大化し、それをカメックス目掛けて投げ放った。

 

「カメくん、まもる!」

 

 辛うじて身を守ることには意識が向けられたカメックスは、ドーム状の防壁を張り身を丸くしている。

 そこに巨大なみずしゅりけんが突き刺さり、爆発を起こした。

 

「カメくん……?!」

「………無理、だろうな」

 

 煙の中から見えてきた黒い影はさっきと同じく丸まっている。

 だが、背中の砲台が一つから二つへと戻っており、皆が結果を想像できてしまうものだった。

 

『フン』

 

 ゲッコウガが再生されたみずしゅりけんで煙を仰ぐと、やはりという結果であった。

 

「カメックス、戦闘不能!」

 

 うん、やっぱりゲッコウガは鬼畜だわ。

 姿を変えるまでは手加減してましたよ感が半端ない。なんかコマチに申し訳なくなってくるわ。

 

「はあ……はあ………、カメくんお疲れさま………。ゆっくり休んでね」

 

 どことなくコマチが疲れている。今のバトルで肩で息をするような場面はなかったと思うんだがな。

 

「コマチさん、大丈夫?」

「だ、大丈夫です……! 思ったより集中してたみたいで息するの忘れてました。えへっ☆」

 

 うん、かわいい。

 だが、やはり心配だ。二体をメガシンカさせZ技も使ってるから、気力の消耗が激しいはず。笑ってごまかしてはいるが、ユキノも気づいているだろう。なんせフルバトル中に二体をメガシンカさせた経験者だしな。

 

「そのキーストーンは二つ目ってことでいいんだよな?」

「うん、そだよ。出どころはあとでね」

「………はあ、なんとなく周りの反応で分かった気もするがな」

 

 ユキノの含みのある言い方、コマチにいろいろと叩き込んだのであろうトツカ、事情を知っていそうなユイとイロハ、そして全てを把握もしくは提案者であろうハルノ。

 ちらほらと伺える表情が全てコマチに向いているのだ。そういや二体目のメガシンカにもほとんどが驚いていなかったな。こりゃサガミたちもグルってことか?

 

「ゴンくん、もう一度お願い!」

 

 再び登場のカビゴン。

 Z技が使い切った今、次は何を見せてくれるのやら。もう策がないってこともあり得るが、このバトルが誰かが描くシナリオ通りだと言うのであれば、まだ何か策を与えているはずだ。

 

『さっさと終わらせてやる』

 

 ゲッコウガが先に仕掛けに行き懐へと飛び込んだ。そしてカビゴンの右足を払い転ばせる。

 けたぐりであの巨体にダメージを与えたようだ。

 

「ゴンくん、眠って!」

 

 だが、コマチもゲッコウガが仕掛けてくると分かっていたのか、初手から回復に努めさせた。これでカビゴンの体力は全快。ほんとのリスタート状態になってしまった。

 

「ゲッコウガ、眠ったからと言って油断するなよ」

『分かってる』

 

 バトル中に眠って回復させるのは割と致命傷に近い。だが、ねごとという技があれば眠っていながらでも習得した様々な技をランダムに使って攻撃できる。カビゴンはすでにねごとを習得しているため、コマチも使ってくるに違いない。

 

「ゴンくん、ねごと!」

 

 そして俺の記憶が正しければ、カビゴンの技は大技に近いものばかりだったはず。ランダムでどれが来ようが当たればダメージが大きく蓄積するだろう。

 

『さすがに堅いな』

「ゴォォン!」

 

 拳を腹に打ち付けたゲッコウガが手応えがないのに嘆いている頭上で、カビゴンが大の字に身体を開いた。

 

『おっと』

 

 上から倒れてくるカビゴンを身を翻して躱し、距離を取っていく。あれはのしかかりだろう。

 

「もう一度ねごと!」

「ゴォォン!」

 

 今度は地面を叩いてゲッコウガの方に岩を突き出してきた。これはストーンエッジだな。

 

『フン!』

 

 ゲッコウガは背中きら手裏剣を取り出して突き出す岩に投げつけた。すると一列に並ぶ岩に全て砕いてしまった。あの手裏剣ってそこまでの威力なんだな。怖っ………。

 

「もう一回だよ!」

 

 目を覚ますまでねごとは続くのだろう。というか一度寝たカビゴンはすぐに起きるのか? ずっと寝てそうなんだが………。

 

『今度は電気か……』

 

 次第にバチバチと身体が鳴り、電気が走っていく。そして地面を蹴り上げたカビゴンがゲッコウガ目掛けて突進してきた。

 

「ワイルドボルトか」

 

 でんきタイプの突撃技。反動で自分もダメージを受けるのだが、みずタイプであるゲッコウガには効果抜群だ。

 

『オレに当たると思うなよ』

 

 まあ、ゲッコウガは足元から草を伸ばしてカビゴンの足に絡ませて転ばせてるんだけどな。くさむすびの本来の使い方はそれはそれで便利なものだ。

 

「ゴンくん!?」

『これで終わりだ!』

 

 ゲッコウガは倒れたカビゴンの背中からゼロ距離で水の究極技を放った。

 そして同時に爆発も起きた。

 

『ぐわっ………?!』

 

 お?

 今なんかゲッコウガの呻き声が聞こえたぞ?

 

『く、ぁ………、あの野郎自爆しやがった…………』

 

 影を増やして何とか切り抜けてきたゲッコウガはボロボロだった。姿は変わっていないため、戦闘不能に至ってはいないようだが、自爆か………。

 

「ゴンくん………!」

 

 煙が晴れたところにはカビゴンが丸焦げで倒れていた。

 

「カビゴン、戦闘不能!」

 

 カビゴンは咄嗟にじばくという技を使って自らを投げ打ったみたいだな。そのおかげでゼロ距離からハイドロカノンを撃って、一気に戦闘不能に追い込もうとしたゲッコウガに大ダメージを与えることに成功したようだ。

 

「ゴンくん、お疲れさま………いつの間にじばくなんて覚えたのさ」

 

 なんだコマチも知らなかったのか。

 まあ、自爆だからな。自分も戦闘不能になる技だから見せる場面もなかったのだろう。

 

「俺も驚いたぞ。いきなり爆発して」

「コマチもだよ。ゴンくん、いつの間に覚えたんだろうね」

『あの時、あいつは目を覚ましていた。だから咄嗟にじばくを使ったのだろう』

 

 へぇ、目を覚ましてたのか。

 

「つまり、以前から習得はしていたということか」

『ああ、使い所がなかったのだろう』

「なるほどな」

 

 コマチのポケモンも随分とバラエティ豊かになってきたな。カビゴンはZ技という最高火力があり、最終的にはじばくで相打ち狙いもできる。カメックスはメガシンカと多彩な技の使い方でいろんな戦い方を習得してきてたし、クチートはメガシンカを手に入れた。オノノクスはドラゴン技に拘らず相手の弱点を突けるようにしてきていた。カマクラはまた新たな課題も見えてきたところだ。

 最後のプテラはどんなバトルを見せてくれるのやら。

 

「コマチ、いよいよ最後なわけだが」

「うん、最後はこの子だよ。いくよ、プテくん!」

 

 さて、俺も交代させるかな。

 

「ゲッコウガ」

『ああ、分かってる。オレもさすがにキツい』

 

 ボロボロだしな。

 ほんとカビゴンの最後のじばくは不意を突かれた気分だわ。

 

「リザードン、ようやく出番だぞ。相手はプテラだ。格の違いを見せてやれ」

「シャア!」

 

 最後のバトルはひこう対ひこう。リザードンにも惜しみなく空を支配してもらおう。

 

『それにしてもこいつ寝過ぎだろ』

「お前ほど丈夫じゃねぇの。寝かせてやれ」

 

 ゲッコウガは後ろに下がって寝ているキルリアを見てそう言った。なのに、その手はキルリアの頭を撫でている。お前も結構キルリアのこと可愛がってるよな。マフォクシーに刺されるぞ。

 

「さて、やるかコマチ」

「うん、いくよお兄ちゃん!」

 

 久しぶりのコマチとのバトル。その間に培ってきたものを最後まで見届けてやろう。

 

「プテくん、いくよ! メガシンカ!」

 

 おいおい、プテラまでメガシンカさせるのかよ。三体目とかトレーナー側は結構しんどいんだぞ?

 

「リザードン、りゅうのまい」

 

 白い光に包まれて姿を変えるプテラに対抗するため、こちらも竜気を生成して纏うことにした。

 

「プテくん、ハイヨーヨー!」

 

 なっ?!

 お前までそれを使えるようにしたっていうのかよ!

 ここまでやられたら誰が仕掛け人なのかは分かってきたわ。

 

「ソニックブーストで追いかけろ」

「シャア!」

 

 急上昇していくプテラを追いかけるため急加速してリザードンを追いかけさせた。先に動かれては同じ飛行術では追いつけない。だから術を変えるしかないのだ。

 

「スイシーダ!」

 

 だが、待ち受けていたかのようにプテラは身を翻し、翼でリザードンを叩き落とした。

 

「リザードン、エアキックターン!」

 

 地面に身体を打ち付ける前に空気を踏みつけて、押し留まらせた。そして踏み切り、再度上昇していく。

 

「トルネードメタルクロー!」

 

 単に追いついただけではダメなようだ。プテラはほとんどの飛行術をマスターしていると見ていい。そうなると生半可な接近では却ってやられるだけだ。

 そして、プテラはいわタイプを併せ持つ。状況次第ではほのおタイプのリザードンには大ダメージを与えることも可能だろう。隙あらばそれを狙ってくるはず。だからこっちも最善を尽くして近づかなければならない。

 

「プテくん、シザーズで躱して!」

 

 ほんと抜かりないな。

 シザーズのジグザグに動く戦法を活かして躱すとか、絶対に奴の発案だろう。

 

「ローヨーヨー!」

 

 そのままプテラは逃げるようにして急下降していった。

 だが、ローヨーヨーなら再度上昇してくる。こちらもそれに合わせて準備をするとしよう。

 

「リザードン、ハイヨーヨー!」

 

 なんとなく誰かさんの掌の上で転がされてそうな展開ではあるが、こうするのが最善なのだから仕方ない。

 

「プテくん、溜めて!」

 

 ほら。

 これ絶対大技使ってくるやつじゃん。

 

「トルネードメタルクローだ! はがねのつばさも使って全身を固めろ!」

 

 急下降に入ったリザードンにそう命令すると、両腕を前に突き出して翼を閉じた。

 プテラの方も急上昇に入り、オレンジ色のオーラを纏っている。

 

「ゴッドバード!」

 

 やはりゴッドバードだったか。

 お互いに距離を取った展開ならば力を溜める時間も稼げるからな。そしてローヨーヨーによる加速が加わるんだ。まともに受ければ大ダメージは免れない。

 

「シャアァァァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

「アァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 二竜の雄叫びが一帯に響いた。

 二竜は激しくぶつかり合い、ついにはリザードンが押し勝った。

 押し負けたプテラはバランスを崩して地面へと真っ逆さまである。

 

「プテくん、立て直して! リザードンを追いかけるよ!」

 

 コマチの一声で何とか目標を見定め、プテラは復帰してきた。

 プテラを押し退けたリザードンは低空飛行で次の指示を待っている。

 

「スモー!」

 

 ッ!?

 おいちょっと待て。

 まさかそれもなのか?!

 

「背面飛行?!」

 

 ほら、観戦側も驚いてるじゃねぇか。

 飛行術にはまだ他にも術がある。その一つがスモー、正式名称をスモール・パッケージ・ホールド。背面飛行で相手の下を飛ぶ高度な技術を要するものだ。リザードンでは身体が重くて実用的ではなかったため使って来なかったが、まさかそれをプテラが習得してくるなんて。こんなところまで知っているのはあいつだけだ。

 やってくれたな、ザイモクザ。

 

「ふひっ」

 

 なんて鼻で笑われたような気がしたが、今は置いておこう。

 あとで覚えてろよ、ザイモクザ。

 

「かみなりのキバ!」

 

 スモーを使う利点は相手の方を向いて飛行するため、攻撃もできるのだ。空を支配しようと思うのなら上を取った者が有利になる傾向があるが、それを覆す術と言ってもいい。そして何より初見では躱すのが難しい。

 かくいう俺たちも相手にしたことはないので、実際目にすると驚いてしまい対応が遅れてしまっていた。

 

「リザードン、取りあえずフレアドライブだ! そのままハイヨーヨーで上昇しろ!」

 

 電気を纏った牙で噛みつかれながら、リザードンは炎を纏い急上昇していく。

 ………それでも落ちないか。

 ならーーー。

 

「トルネードで振り落とせ!」

 

 ただ上昇するだけでは翼を有するプテラにはあまり効果がないようだ。回転も加えないと振り落とすのは難しいのかもしれない。

 

『………意外な伏兵がいたもんだ』

 

 ゲッコウガの言う通りだな。

 ここまでリザードンについてこれたのもオーダイル以来だ。空中戦は中々することはないし、あったとしてもついてこられないケースがほとんどだったからな。正直面白い。こんな身近にこんな逸材がいたんだからな。嬉しいったらないな。

 

「プテくん、いわなだれ!」

 

 プテラを振り落としたリザードンはプテラに追撃を入れるために反転し、急下降を始めた。その上空からは岩々が出現し落下してくる。

 

「リザードン、躱せ!」

「シャア!」

 

 俺が今言えるのはそれくらいだ。後はリザードンがこれまで培ってきた経験から躱してもらうしかない。

 

「プテくん、こうそくいどう! 力も溜めて!」

 

 プテラはリザードンに向かって急加速し出した。ソニックブーストよりも速いこうそくいどう。というかリザードンが使えないからソニックブーストで補っていると言ってもいい。

 

「トルネードメタルクロー! 翼も併せろ!」

 

 さっきと同じように二度目の衝突が起きた。

 だが、さっきよりも速く押しが強くなったプテラが全く引かない。

 

「ブラスターロール!」

「アァァァアアアアアアアアアッッ!!」

 

 と、プテラがいきなり身を翻した。

 ブラスターロールは本来上を取られた時に身を翻して逆に上を取る戦法だ。それをこんなところで使ってくるとは。

 おかげでリザードンは急に押し返す力がなくなり前のめりにバランスを崩してしまった。

 

「プテくん、かみなりのキバ!」

 

 そうなるとコマチと好機と判断し、仕掛けてくるのは分かっている。

 だから俺も焦らず冷静に指示した。

 

「狙われているのは尻尾だ。叩き落せ、カウンター!」

 

 リザードンはプテラに噛みつかれた瞬間に尻尾を大きく振り、プテラを地面に叩きつけた。その力でリザードンはバランスを取り戻し、悠々と俺のところにまで戻ってきた。

 

「プテくん、大丈夫!?」

「アァ、ァァァアアアアアアッ!」

 

 カウンターでもまだ耐えるのか。

 なら、一発デカいのをこっちも叩き込むしかないな。

 

「よぉし、それならつめとぎ!」

 

 あっちも何か仕掛けてくるつもりだな。

 

「リザードン、一発デカいの叩き込んでやれ。ブラストバーン!」

「プテくん、ギガインパクト!」

 

 再高威力の技のぶつかり合い。

 リザードンは地面を叩き炎を打ち出し、プテラはその中へと突撃していく。

 俺の読みではプテラが切り抜けてくるだろう。あっちはいわタイプであり、ほのおタイプの技は半減される。さらにあっちはギガインパクトにかかる能力上昇を行っているのだ。素早さも上がっている今、押し切るだけの力を持っているはずだ。

 だが、それでいい。究極技は目眩しみたいなものだ。俺の真の目的はプテラをリザードンに引き寄せることにある。リザードンが近づくのではなく、あっちから近づいてくる方がこれは衝撃がデカいだろう。

 

「いっけぇぇえええええええええっっ!!」

 

 どうやらコマチもこのまま押し切ってリザードンを勢いで倒そうと考えているらしい。

 ならば、見せてやろう。真の飛行術というものを。

 

「グリーンスリーブス・雷」

 

 読み通り獄炎の中を切り抜けてきたプテラに電気を纏った拳で打ち上げた。

 そしてリザードンはプテラを追いかけ何度も何度も拳を叩きこんで上昇していく。

 

「ペンタグラムフォース・雷」

 

 ついには上空に達したところで五芒星を描きながらプテラをかみなりパンチの檻に封じ込めた。

 恐らくこれだけ拳を叩きこまれれば麻痺もしているだろう。動こうにも動けない。動けたとしても切り抜けられない。地獄とも呼べる五芒星の檻の中で戦闘不能になるのだが最後。

 

「スイシーダ」

 

 トドメとばかりに最後にプテラを地面に叩き落とした。

 

「プテくん!?」

 

 以前にも見せている術だ。今更驚かれることはない。

 だが、言葉を失うのとはまた違う。いつ見ても惨い戦法と言えよう。

 

「シャア………!」

 

 リザードンにはいい刺激になっただろう。

 ここまでリザードンについて来られたひこうタイプはいない。新しい伏兵に感謝するべきだな。

 

「プテラ、戦闘不能! よって勝者、ハチマン!」

 

 ユキノが判定を下して、フルバトルは俺の勝ちとなった。

 

「お疲れさん」

「シャア」

「プテくん、お疲れさま………」

 

 コマチは今の気持ちをどう言葉にしていいのやらという表情で、プテラをボールへと戻した。

 

「あ、え、お、およよ………!」

 

 と、急にコマチの力が抜けていきバランスを崩した。

 

「コマチ!?」

「コマチちゃん!」

 

 咄嗟に駆け付けたトツカによってコマチは支えられ、何とか身体を地面に打ち付けることはなかった。

 

「あっははは………、やっぱりキツいですね。メガシンカ三体に加えてZ技を使うのは…………」

「でも、最後までやれていたよ」

「そう、ですね。これも全部トツカさんたちのおかげですよ」

「何言ってるの。コマチちゃんの努力がなかったらここまでやれなかったんだよ。僕たちはより強い力のコントロールに付き合ってただけだよ」

 

 今回の件に絡んでいた一人目はトツカか。

 バトルも終わったことだし、そろそろ目的を聞くとしよう。

 

「あー………トツカ? これはお前たちの計らいなのか?」

「うん、まあそうなる………かな。コマチちゃんがハチマンとバトルしたいけど、今のままじゃダメだって言うからさ」

「そうか………、なんか悪いな。俺の妹なのに色々面倒見させちまって」

「全然気にしてないよ。むしろ僕たちの方が色んな発想をもらってるから。それに、以前決めたでしょ? 僕とザイモクザ君でコマチちゃんのバトルを見るって。コマチちゃんは僕たちの弟子だからね。いつでも見るよ」

「………ありがとな、トツカ」

 

 取りあえず、コマチが言い出したってことでいいんだな。

 さて、次は………。

 

「ザイモクザ」

「ひゃ、ひゃい!」

 

 うわ、キモい………。

 声が裏返るとか親近感枠からやめてくれ。

 

「今回のコマチのバトル。全てお前がプロデュースしたな?」

「な、ま、そ、そうとも言えなくもないのである、かな………」

「はっきりしろよ」

「怒らぬのか?」

「何を怒るって言うんだ」

 

 こいつ、ずっと俺に怒られると思ってたのか?

 そんなことはないってのに。

 

「そもそも俺はお前の本当の実力を知ってるんだぞ。だからこそ、お前にも任せたんだから怒ることはないだろ」

「しかしな………。飛行術はさすがにやりすぎかと思うのだ」

「別にいいだろ。実際モノにはできていたんだ。しかもスモーまで使ってくるとか大したもんだ」

「うむ、そこに関しては我も同意である」

 

 やりすぎとは言うが結果的に面白いものが見れたのだ。感謝こそすれ怒るようなことはない。

 

「それで、どうして俺とフルバトルしようと思ったんだ?」

 

 コマチに向き直し、今回の主役に聞いてみた。

 

「言わなきゃ、ダメ?」

「そりゃあな。一応親父と母ちゃんに任された身でもあるんでな。それに、お前がこうしてみんなを呼んで俺とバトルしてる時点でいつものコマチじゃない。…………何を悩んでるんだ?」

 

 かわいく言われてもここは譲られない。

 どうせ、聞いてほしいからこんなことをしたんだろうし。

 

「………コマチだけ先に進めてないから」

「はっ? 先?」

「イロハさんは四天王の人たちに鍛えてもらってるし、ユイさんはジムトレーナーとして活躍してるんだよ! なのに、コマチはリーグ戦から何も成長できてないの!」

 

 …………そう、か。

 お前も自分が成長できていないように思えてしまったんだな。

 

「くくくっ」

「何がおかしいのさ!」

「いや、やっぱ俺たちは兄妹だなって。形はどうあれ同じような壁にぶつかってさ」

「お兄ちゃんがコマチと同じような壁………?」

 

 なんだよ、その怪しいものを見る目は。

 俺だって悩んだ時期もあるっつの。ただ、ダークライの力の代償で記憶が曖昧になってたりするから話すこともなかったけども。何なら恥ずかしい黒歴史を誰かに話すことになるんだから、話したくもないが。

 

「あのな、俺だって壁の一つや二つぶつかってるっつの。何なら毎日が壁で時には落とし穴にまでハマってるぞ」

「あ、それは想像できるかも…………」

「あー、友達ができないとか」

「まあ、悩んだことはあるな。だが、思い返せば俺の最初の友達はユイだし、逆に俺が側にいることが迷惑になってるんじゃないかって悩んだくらいだな」

「………それも思い出してくれてるんだね」

 

 俺の言葉にじーんとしているユイに、横にいたイロハが白い目で俺を見てきた。

 

「あのー、今はコマチちゃんの話なのではー?」

「うぐ………、まあ今の俺からじゃ想像できないかもしれないが、俺もハルノを倒して成り行きでチャンピオンになったはいいが、燃え尽き症候群ってやつに陥ってな。チャンピオンなんて最高峰の肩書きを手に入れちまった手前、上を目指すって目標がなくなっちまったんだ。そんな時にグリーンに負けてサカキに上ってのを教え込まれて、チャンピオンなんていらないじゃんと思って断りに行ったら帰りにシャドーに拉致られて。シャドーにいた頃も多分やろうと思えばいつでも抜け出せたとは思うんだ。ただ何かと理由をつけてまだその時じゃないって言い聞かせてずるずると過ごしててな。抜け出そうと思ったのだってユキノがふらふら侵入してきたのがきっかけだ。それから色々踏ん切りをつけて脱走したらサカキに拾われて、ユキノを人質にされたとはいえ、奴から俺が動く理由をもらったんだ。それでようやくトレーナーとして再起動したわけだが、それまでに八ヶ月くらいはかかってるんだよ」

 

 いやほんと。

 思い返せば何やってたんだろうな、昔の俺は。

 いっそダークライに記憶を持って行ってもらうべきだったかも。

 

「…………スケールが違いすぎる」

「ちょいちょいサカキがいるもんね」

 

 それは言うな。

 何ならそれよりも前からサカキは出てくるんだから。

 あのおじさん、ちょいちょいいるから怖いのよ。

 

「………コマチもね、みんなが成長してるのに自分だけが取り残されたような感じだったの。だからトツカさんたちにお願いして鍛えてもらって、ユキノさんやハルノさんにも協力してもらってメガシンカの修行もしたよ」

「それでキーストーンを借りてってか。無茶しやがって」

「無茶でも何でもやってみたかったの。自分がどこまでやれるのか………」

 

 その気持ちは分からんでもない。

 俺がバトル山に引き籠った時と同じような感じだろう。

 

「それで、答えは出たのか?」

「うん、やっぱりね、コマチは旅に出ようと思います!」

「ん、え、は?」

 

 え、コマチが旅………?

 

「うわー、先輩めちゃくちゃ動揺してますね………」

 

 うるさいよ、そこ。

 

「旅ってどこに………」

「ガラル地方!」

 

 ガラル地方……?

 

「ガラル地方……はカロスから近いか」

 

 確かカロスの北にあったんじゃなかったっけ?

 

「………旅か。まあ、悪くない選択ではあるよな」

「なにか問題でもあるの?」

 

 問題、というかうーん………。

 

「一人で行くのか?」

「そのつもりだけど?」

 

 うーん………。

 女の子が一人で旅か………。

 それに、俺の妹だからなー………。

 

「ダメ……?」

「行くことに関しては別に問題じゃない。仕事もコマチには運搬系を手伝ってもらってただけだしな。ただ………」

「一人で行くことに問題があると」

「ああ」

 

 俺が言い淀んでいると、ユキノが助け船を出してきた。

 

「女の子が一人でってところにも引っかかるが、そこは世の一人旅の女子たちを敵に回しそうだからスルーするとしても、コマチは俺の妹だからなー」

「お兄ちゃんの妹だと何か問題あるの?」

「………コマチさん、この機会に頭に刻んでおくことね。あなたはあのサカキとさえやり合えるハチマンの妹なのよ。今はまだ世に出てこないだけで、ハチマンを狙う者は少なからずいるわ。そしてそういう輩こそ、正々堂々と戦うのではなく卑怯な手段を取ることが多いの。その一つがハチマンの大事なものに危害を及ぼすことよ」

 

 ああ、ユキノさんや。全てを言っちゃうのね。本人を前にそれを言われると気恥ずかしいからやめてほしいんだけど。だからこそ、コマチには察してほしかったんだけどなー。やっぱり無理だったなー。

 

「そしてそこで一番に狙われるのは実の妹であるコマチさんなのよ。今まではハチマンの手の届く範囲にいたからこそ、ハチマンがあらゆる伝手を使って守っていた。だけど、旅に出てしまえば話は別。ハチマンの手の届かないところに行くことになって、守れるものも守れなくなるの。だからハチマンはあなたのガラル行きを渋ってるのよ」

 

 恥ずかしい、恥ずかしいよぉ!

 穴があったら入りたい………。

 

「まったく~、ハチマンはドのつくシスコンですな~」

「……ハルノ、後で覚えてろよ」

 

 いつの間にか俺の傍に来ていたハルノが、耳元でそう呟いた。

 この女、自分のことを棚に上げて………。

 俺も知ってるんだからな。アンタが妹を守るために動いていたのを。

 

「………まあ、その………そういうわけだ。だから一人で行かすのが忍びないんだよ」

「だったらさ、僕がいくよ」

「トツカ……?」

「トツカさん?」

 

 急に手を挙げたかと思うとトツカがそう言ってきた。

 

「ほら、コマチちゃんの次に暇なのってこの中じゃ僕でしょ? それに僕はコマチちゃんの師匠でもあるんだし、今の実力も知ってる。一人で行かせられないなら、僕も一緒に行くよ。それならいいでしょ?」

「べ、別にトツカがそこまでする必要は………」

「あるよ。コマチちゃんを一人で行かせたくないって思うのは僕も一緒だもん」

「トツカ………」

 

 トツカ……、お前はそこまでしてコマチに旅をさせたいんだな。今までコマチをトレーナーとして育ててきたお前が………。

 

「分かった、トツカと一緒ってことならガラル行きを許可する」

「お兄ちゃん、トツカさん………!」

「ありがとう、ハチマン」

「いや、礼を言うのは俺の方だ。散々世話になってる妹のわがままに付き合わせてしまうんだ。トツカ、コマチのことをよろしく頼む」

「うん、任されました!」

 

 くそう、これが女の子であればどんだけよかったか。なんでトツカは男なんだよ。キラキラしすぎだろ。

 

「というわけだから、コマチちゃん。よろしくね?」

「はい、よろしくお願いします!」

 

 こうしてコマチのガラル地方行きが決まった。

 …………あ、トツカも行くってことは俺の癒しはどこに?

 




行間

ヒキガヤハチマン 持ち物:キーストーン 菱形の黒いクリスタル etc………
・リザードン(ヒトカゲ→リザード→リザードン) ♂ 
 特性:もうか
 覚えてる技:かえんほうしゃ、メタルクロー、かみつく、おにび、えんまく、はがねのつばさ、かみなりパンチ、ドラゴンクロー、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、かみくだく、カウンター、じしん、フレアドライブ、ブラストバーン、げきりん、じわれ、だいもんじ、ソーラービーム、リフレクター、はらだいこ
 飛行術
 ・ハイヨーヨー:上昇から下降
 ・ローヨーヨー:下降から上昇
 ・トルネード:高速回転
 ・エアキックターン:空中でターン
 ・スイシーダ:地面に叩きつける
 ・シザーズ:左右に移動して撹乱
 ・ソニックブースト:ゼロからトップに急加速
 ・コブラ:急停止・急加速
 ・ブラスターロール:翻って背後を取る
 ・グリーンスリーブス:連続で攻撃して空中に釣り上げる
 ・デルタフォース:空中で大きな三角形を描くように連続攻撃
 ・ペンタグラムフォース:空中で五芒星を描くように連続攻撃
 ・バードゲージ:スピードを活かして相手の動きをコントロールしていく
 ・スモール・パッケージ・ホールド:背面飛行で相手の下を飛行する

・ゲッコウガ(ケロマツ→ゲコガシラ→ゲッコウガ) ♂
 特性:きずなへんげ(へんげんじざい→きずなへんげ)
 覚えてる技:みずのはどう、あなをほる、かげぶんしん、れいとうパンチ、れいとうビーム、つばめがえし、ハイドロポンプ、くさむすび、グロウパンチ、えんまく、がんせきふうじ、いわなだれ、まもる、かげうち、みずしゅりけん、どろぼう、つじぎり、ハイドロカノン、めざめるパワー(炎)、とんぼがえり、とびはねる、ほごしょく、けたぐり、ぶんまわす、あくのはどう、どろあそび

・ジュカイン(キモリ→ジュプトル→ジュカイン) ♂
 持ち物:ジュカインナイト
 特性:しんりょく←→ひらいしん
 覚えてる技:でんこうせっか、リーフストーム、リーフブレード、ドラゴンクロー、タネマシンガン、ギガドレイン、かみなりパンチ、スピードスター、くさむすび、ソーラービーム、エナジーボール、シザークロス、くさのちかい、マジカルリーフ、タネばくだん、こうそくいどう、つめとぎ、いやなおと、こうごうせい、くさぶえ、やどりぎのタネ、グラスフィールド、なやみのタネ、ハードプラント、つばめがえし、ものまね、みがわり

・ヘルガー ♂
 持ち物:ヘルガナイト
 特性:もらいび←→サンパワー
 覚えてる技:かみつく、ほのおのキバ、ふいうち、おにび、かえんほうしゃ、かみくだく、れんごく、ほえる、はかいこうせん、アイアンテール、あくのはどう、みちづれ、だいもんじ、ハイパーボイス、ヘドロばくだん、ちょうはつ

・ボスゴドラ ♂
 持ち物:ボスゴドラナイト
 特性:がんじょう
 覚えてる技:ロックブラスト、あなをほる、なげつける、メタルクロー、アイアンヘッド、アイアンテール、てっぺき、メタルバースト、ボディパージ、ヘビーボンバー、ロックカット、ほのおのパンチ、もろはのずつき、ラスターカノン、ドラゴンダイブ、でんじふゆう

・キルリア(ラルトス→キルリア) ♀
 特性:シンクロ
 覚えてる技:リフレクター、ねんりき、まもる、テレポート、マジカルリーフ、シャドーボール、マジカルシャイン、トリックルーム


ゲッコウガ
・ニダンギル(ヒトツキ→ニダンギル)
 特性:ノーガード
 覚えてる技:ラスターカノン、せいなるつるぎ、つばめがえし、かげうち、つじぎり、シャドークロー、きんぞくおん

・キリキザン
 特性:まけんき
 覚えてる技:つじぎり、くろいまなざし、ロックカット

・アギルダー
 特性:うるおいボディ
 覚えてる技:スピードスター、むしのさざめき、ギガドレイン、みずしゅりけん、こうそくいどう、かげぶんしん、こころのめ、はたきおとす、バトンタッチ

・ダンバル(色違い)


ヒキガヤコマチ 持ち物:キーストーン、カビゴンZ
・ニャオニクス ♂ カマクラ/カーくん
 特性:するどいめ
 覚えてる技:サイコキネシス、ひかりのかべ、リフレクター、でんげきは、てだすけ、なりきり、ふいうち、サイコショック、あなをほる、じゅうりょく、にほんばれ、はかいこうせん、ねこだまし、あくのはどう、でんじは

・カメックス(ゼニガメ→カメール→カメックス) ♂ カメくん
 持ち物:カメックスナイト
 特性:げきりゅう←→メガランチャー
 覚えてる技:みずのはどう、はどうだん、りゅうのはどう、こうそくスピン、からにこもる、ロケットずつき、ハイドロポンプ、ふぶき、ミラーコート、ドラゴンテール、ハイドロカノン、れいとうビーム、アクアジェット、からをやぶる、てっぺき、まもる

・カビゴン ♂ ゴンくん
 特性:めんえき
 覚えてる技:メガトンパンチ、のしかかり、じしん、いわくだき、ほのおのパンチ、しねんのずつき、ギガインパクト、かみなりパンチ、ふきとばし、いびき、ねごと、ねむる、ストーンエッジ、じわれ、サイコキネシス、ばくれつパンチ、ヒートスタンプ、ワイルドボルト、じばく

・プテラ ♂ プテくん
 持ち物:プテラナイト
 特性:プレッシャー←→かたいツメ
 覚えてる技:はかいこうせん、ストーンエッジ、はがねのつばさ、つばさでうつ、ちょうおんぱ、ものまね、ドラゴンクロー、ゴッドバード、ギガインパクト、こうそくいどう、ほのおのキバ、かみなりのキバ、いわなだれ、つめとぎ

・オノノクス(キバゴ→オノンド→オノノクス) ♂ キーくん
 特性:とうそうしん
 覚えてる技:りゅうのいかり、げきりん、けたぐり、あなをほる、ちょうはつ、まもる、きあいだま、アクアテール、じならし、りゅうせいぐん、いわなだれ、きしかいせい、りゅうのまい

・クチート ♀ クーちゃん
 持ち物:クチートナイト
 特性:いかく←→ちからづく
 覚えてる技:ものまね、メタルバースト、じゃれつく、バトンタッチ、ほのおのキバ、いちゃもん、あまごい、ふいうち、だいもんじ、にほんばれ、つるぎのまい


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ぼーなすとらっく19『有識者会議 その1』

今回は『バイバイキルリア』から一週間後、『新たな可能性』と同日以降の話になります。かなり長くなるので数話かけて投稿します。
なお、今回はバトルがないので後書きもありません。


 キルリアがサーナイトへと進化してから一週間。

 俺は今カントー地方のクチバシティにいる。それもこれも俺の横を歩くこの変態博士により引っ張り出されてしまったからだ。

 

「あ、あの………! 私が来てよかったんですかね」

「いいんだよ。こんな機会滅多にないんだし」

 

 そんな俺たちの左側には普段とは裏腹に遠慮気味に歩くイロハがいる。まあ、こいつがついて来ているのは、俺が連れて来たからであるが。

 それというのも今回引っ張り出されたのが、八つの地方からポケモン博士が集まり会議を行うからだ。しかもその会議には博士の他に各地方のチャンピオンや図鑑所有者が同行するということらしく、生憎都合のつかなかったカルネさんの代わりに俺が召喚され、それなら四天王を目指すイロハも連れてこようということになったからである。ちなみにゲッコウガはついて来てはいるが、既に姿を消してしまった。最近は俺の周りも物騒だし、あいつのことだから近くで見張っているのだろう。

 

「そ、そうですか………。でも何で私が?」

「そりゃハチマン君が君に経験を積ませたいって言ってきたからさ」

「おいこら、そういうのは本人に言うもんじゃないだろ」

「ええー?! チャンピオン二人に意見まで求めてたじゃないか」

 

 だから、そういうことは言わなくていいんだよ!

 ったく、しょうがないだろ。一応イロハは俺の弟子みたいなもんなんだから、四天王目指すっていうならそのサポートくらいするっつーの。

 

「………相変わらずの捻デレですね」

「うっせ。いつまでも四天王に空きを作っておくわけにもいかねぇんだよ」

「イロハちゃんは期待されてるからねー」

「ほぇー、それはなんというか、ありがとうございます?」

「俺に聞くなよ………」

 

 期待してるのは四天王の三人だろ。

 俺は別に期待しているっつーか、確信してるっつーか…………。

 

「僕は期待しているよ。初めてのポケモンを渡した子が四天王にまで上り詰めるなんて夢のような話じゃないか」

「そうだな、夢物語で終わらないためにもしっかりと知識を吸収していってもらわないとな」

「うげ………お勉強ですか…………」

「というよりはまず会話について来いって感じだろうな」

 

 なんせ主催はオーキドのじーさんなんだし。集まってくる他の博士もじーさん並みの重鎮って思っておくべきだろ。

 

「んじゃ、僕はオーキド博士たちに会って来るけど、君たちはどうする?」

「疲れたし先にホテルに行ってる」

「オーケー、それじゃまた後でね。夕食は一緒に食べよう」

 

 博士と別れてイロハと二人でホテルへと向かいチェックイン。部屋はイロハとの相部屋。ホテル代を浮かすという名目で博士に勝手に部屋を予約されてしまったのだ。それならいっそ俺たちは実家に帰るって選択もあったんだけどな………。そこら辺には気がついていないらしい。

 ともあれ色々と期待されているようではあるが、明日のことを思うと今からどっと疲れてくる…………。

 

「せーんぱい!」

「おわっ?! ちょ、おま………!」

 

 部屋に入るなり、イロハにベットへと押し倒されてしまった。仰向けに倒れたところにイロハが馬乗りになってくる。

 

「やっと二人きりですねー」

「お前な………」

 

 二人きりになれたことが余程嬉しいのだろう。今日一番のいい笑顔である。

 

「エッチなこととか想像しちゃいました?」

「し、しねぇよ」

「えー、ほんとにー?」

「ほんとにほんとだ。俺が十八過ぎるまでは手を出す気はない」

「律儀ですねー」

 

 ユキノにもそう宣言したんだ。

 既に腹は括ってるつもりだが、覚悟っていうか気合いっていうか、そういうのがまだ足りてないと思うんだよ。手を出すってことはイロハたちの人生を背負うってことと同意義だ。歪める以上に奪ってしまう。少なくとも俺はそう思っているため、人の人生も背負う覚悟ってのをしなきゃいけないんだよ。

 

「そういうお前は俺に馬乗りになってどうしたいわけ? 逆に襲われるパターン?」

「だってー、先輩いつもユキノ先輩たちといるじゃないですかー」

「そりゃまあ仕事もあるし」

「それに先輩忙しいし」

「やることが多いからな」

「だからこんな時くらい抱き着きます!」

「お、おお………」

 

 要するに普段忙しい俺に甘えたいってことか。

 変に煽るから重っ苦しいことまで考えちゃったぞ。

 

「むふふ〜、せんぱいのにおい〜」

「……………」

 

 なにこの子。

 いつの間にこんな変態チックに育っちゃったの?

 それにこう抱きつかれていると俺はどうしたらいいのやら。頭でも撫でた方がいいのか?

 

「…………この髪って地毛なのか?」

 

 ふと、抱きつかれたことで鼻に亜麻色の髪が燻った。それを掬いながら思ったことを聞いてみる。

 

「地毛ですよ?」

 

 地毛なのか。

 そういやママはすも似たような色だったな。

 

「………ユイは染めてるって言ってたから、イロハもてっきり染めてるもんだと思ってたわ」

「あー、そういえばそうですね。ユキノ先輩やはるさん先輩も黒髪ですし、染めてる人って意外と少ないかも」

 

 あとはサガミくらいじゃね?

 

「ユイが染めてるのも俺が原因らしいしな」

「うぇ?! そうなんですか!?」

「ああ、俺がスクールを卒業する時にあいつにお団子頭にするなら明るい髪の方がいいんじゃないとか言ったのがキッカケなんだとよ」

 

 なんかもうピンク系茶髪が定着してるまであるけどな。どんだけ好きなんだよ、俺のこと。こっちが恥ずかしくなってくるっての。

 

「………先輩、昔からフラグ立てすぎですよ」

「立てたつもりも回収してるつもりもないんだがな」

 

 ほんとフラグなんていつ立てたんだよ。思い当たるのなんてユキノくらいだぞ。それもあれでフラグになるのかという事件だし。

 

「そういう無自覚さんってその内刺されますよ?」

「えっ、なに? お前ら俺を殺そうとか企んでる?」

「んなわけないじゃないですか! 私は失うって感覚はまだないですけど、あの二人は………特にユキノ先輩は何度も先輩を失ってるんですよ? できるわけないですよ………」

 

 …………そうだな。

 ユキノには昔から辛い思いさせてたみたいだからな。まあ、それもあいつが勝手に俺の周りをうろついていたから、結果的にそこに居合わせてしまったってのもあるが。

 けど、今は俺もそういう失う感覚ってのは身に染みている。冗談でも言葉を選ぶべきだったな。

 

「あ、ああ、そうだな。今のは失言だったわ。失うってのはマジで怖かったからな。人付き合いなんて悪化すれば切ればいいし、そもそもそんな面倒なことにならないように避けてきたけど、一度守ると誓ったもんがいざ死に直面すると魂が抜けていくような感覚になったわ」

「うぇ?!」

「俺の場合、守りたいってのがちょっと人より多いんだろうな。人付き合いを避けてきた代償っつーか、耐性がなさすぎて………」

「だから強欲に、ですか」

「側から見ればそうなんだろうな。でもこの温もりは、失いたくねぇよ」

 

 今この手の中にある温もりは失いたくはない。折角手に入れられたものなんだ。失うわけにはいかないんだよ。

 

「あの…………いい話で締めくくったとこ悪いんですけど、お腹のあたりがなんかもっこりしてるんですが………」

「…………誰のせいだと思って」

「私のせいだっていうんですか?!」

「そりゃそうだ。こんな甘っ苦しい匂いを嗅がされたら、こうもなるわ」

「わー、変態さんだー。エッチなこと想像してないとか言ってたくせにー」

 

 変態?

 変態はどっちだよ。

 先週のこと、俺はちゃんと見たんだからな?

 

「ほー、そういうこと言う? 変態はどっちだよ。俺がジムの視察から帰った時に着てた服の匂い嗅いでたくせに」

「なっ?! ななななっ、なん、なんでそれを!?」

「んなもん女子三人で俺の着替えの洗濯権をかけてバトルに発展したら、探りを入れるに決まってるだろうが! ハルノに負けてこっそり洗い残しがないか聞いてきて、その時来てたもん剥ぎ取られたんだぞ。お前に」

 

 あの時はマジでビビった。サーナイトの親たちと別れてミアレに戻ったら、ユキノとハルノとイロハで俺の着替えを奪い合い出したんだぞ? しかも体力のないユキノがじゃんけんとか言い出して結局ハルノの一人勝ちで洗濯物を奪われるし、屍になったユキノを余所にイロハはこっそり俺に詰め寄り、上着を奪っていきやがったんだ。んで、どうするのかと思えば、廊下でこっそり匂いを嗅がれていたというね。

 目的がこれだったのかと思うと、言葉を失ったぞ。というか何でハルノがいたんだ? あなたヒャッコクシティにいたんじゃないのん?

 

「うっ…………、だ、だってしょうがないじゃないですか! 先輩成分補給しないと寂しいし…………」

「もう少しやり方があるだろうに」

 

 どんだけ必死なんだよ、三人とも。

 

「………ハヤマ先輩にすらこうならなかったんですから、無理ですよ。我慢できません」

「まったく、何がいいんだよ、こんな面倒な男」

「惚れた弱みって奴ですよ。理屈じゃないんです。逆に私たちも面倒な女なので丁度いいくらいですよ」

「………肯定も否定もしてやらん」

「ちょ、そこは面倒くさくなんかないよっていうとこんむっ?!」

 

 ギャーギャー続きそうだったので、イロハの頭を掴み引き寄せた。そして唇を重ねて息を奪う。

 そしてしばらくして唇を離すと、惚けたイロハの姿があった。

 

「ぷはっ………面倒だろうが変態だろうが関係ねぇよ。大事なもんは大事だ」

「〜〜〜〜〜!?」

 

 ついには顔が真っ赤に染まってしまった。

 ちょっと刺激強すぎたか?

 ユキノにしてるみたいにしただけなんだが…………。

 

「………ずるいです、ずるすぎです。そんなこと言われたら、もっと甘えたくなっ『ピリリリリリッ! ピリリリリリッ!』………先輩、鳴ってますよ?」

 

 俺の胸にぐりぐりと額を擦る動きが、急に鳴り出したコール音によりピタッと止まった。

 水を刺されたためか、イロハの機嫌がみるみる悪くなっていく。

 

「あからさまに機嫌悪くなるなよ。………出るか?」

「取り敢えず、誰かくらいは確認した方がいいんじゃないですか?」

 

 イロハがそう言うので、身体を起こしてホロキャスターを開いた。その間にイロハは身体の向きを変え、俺がイロハの後ろから抱きつく形へと変えられてしまった。

 

「ん…………、ユイからだわ」

「ユイ先輩? 珍しいですね。あっちは夜なのに」

「そうだな」

 

 テレビ電話っぽいので、イロハも入るようにホロキャスターを持っている右腕を伸ばす。

 

『あ、ヒッキー! やっと出たし!』

「お、おう、どうかしたか?」

『うん、それがねってイロハちゃん?! な、ななななんでヒッキーに後ろから抱きしめられてんの!?』

「え? せっかく二人きりになれたんでたまにはイチャイチャしようかなって。そしたらいいところでユイ先輩が………」

 

 ちょっとこいつ根に持ってるだろ。

 

『ずるいよー! あたしもやりたーい!』

 

 スルーされたけど。

 天然って恐ろしい………。

 

「ですって、先輩」

「帰ったらな」

 

 帰ってからも仕事は残ってるし、ユイはシャラシティにいるから時間が取れるかどうかは別だがな。

 

「それで、急にどうしたんですか? というかそっちはもう夜も遅いんじゃ…………?」

『たはは………、それはちょっとあって。ってか、今二人ともどこにいるし!』

「クチバシティ」

『はぇ?! いつの間に帰ったの!?』

 

 そういやユイには言ってなかったか。

 

「これも仕事だよ。先週博士に会議の参加要請を受けてな。いい機会だしイロハも連れて来ただけだ」

『へー、会議かー。なんか大人っぽーい』

 

 どの辺が大人っぽいのだろうか。

 会議くらいなら俺たちはよくやってるぞ。主にミアレとヒャッコクの復興支援についてだが。建物等の復旧はだいぶ進んで来たから、次の段階に移行しつつある。元に戻すだけじゃせっかく手をかけている意味がないからな。発展にまで漕ぎ着けたいものだ。

 

「つか、お前こそ今どこにいるんだよ。周り暗くね?」

「あたしはマスタータワーがあったところに作ったフィールドだよ! ゆきのんのリーグ戦で使ったとこ。スコーンが飛び出していったかと思ったらここで進化しちゃってさ」

「ふーん、で? 結局何なんだよ。用がないなら切るぞ?」

『ああ、待って待って! ちょっと見てほしい子がいてさ! スコーン、ちょっと持ってて』

『ルガゥ』

 

 どうやら他に誰かいるようで、画面からユイが消えた。持ち手が変わったのだろう。

 

「…………誰ですか、この子」

 

 すると紅い眼のポケモン? が顔を覗かせた。

 ユイの新しい仲間なのだろう。

 

「新メンバーだろ。確か名前は…………」

『ルガルガンだよ! さっき進化したの!』

 

 あー、そうそうそんな名前。しかもこの紅い眼は真夜中の姿の方だったはず。アローラ地方で確認されているポケモンだとか。前にアローラからの資料だっつって博士に渡されたのにいたわ。進化する時間帯によって姿が違うってのはちょっと珍しいよな。

 

「………えーっと、これで映るかな………?』

『ルガゥ』

『ん、よし! 見てほしいのはこの子だよ!』

 

 なんだ、見てほしいのはルガルガンの方ではないのか。

 

「………白い、ポケモンか?」

 

 ユイによりアップで映されたのは白いポケモン? だった。

 

『うん、多分ポケモンなんだと思う。けど、見たことなくて』

「俺もないな」

 

 俺もこんなポケモンは知らない。博士からもらっている資料にもいなかったし、新種あるいは他の地方のポケモンか。

 名前も知らないから調べてもないポケモンなんて山ほどいるんだ。こういうことになっても何らおかしい話ではない。

 

「でも誰かに似てません?」

「んー、確かに何かに似てはいるんだよなー」

 

 ただイロハの言う通り、何かに似ている気はする。なんというか目の辺りだろうか。

 

『やっぱりヒッキーでも分からないか………。じゃあゆきのんでも分からないかな………?』

 

 ま、タイミングはいいな。

 丁度明日にはたくさんのポケモン博士が集まるんだ。そこで聞いてみれば何かしらの情報は得られるだろう。

 

「取り敢えず写真撮って送ってくれないか? 丁度こっちには各地からポケモン博士が集まってるらしいんだ。会議は明日あるし、確認してみる」

『ほんと?! じゃあ後で送っておくね!』

「ユキノにも一応送っておいてくれ。多分知らないとは思うが、それならそれでハルノと二人で調べるだろうし」

『うん、分かったよ!』

 

 新しいポケモンか。

 そういえば、あの白い生き物はなんなんだろうな。

 未だに一度もボールから出したことはないが。あの時、俺は確かに引っ付かれて身体を乗っ取られるんじゃないかって思うような感じだったし、危険な生き物に変わりはないだろう。

 

『じゃあまたね! 帰ってきたら連絡してよね!』

「はいはい、お前もちゃんと寝ろよ」

『わかってるよ。ばいばーい』

 

 ふぅ、あっちは夜だというのにテンション高すぎないか?

 

「さ、先輩。邪魔者はいなくなりましたし、イチャイチャ再開ですよ。キス、してください………」

 

 まあこっちも、この目の前の小悪魔が昂ぶってるみたいだけども。こいつスイッチ入っちゃってるよな。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「さて、戦場に行こうか」

「何で死地設定なんだよ」

 

 翌日。

 博士と合流して会場へと向かうことにした。俺たちが泊まってたホテルとかでもよかったんじゃね? と思わなくもないが、もっといい場所があったのだろう。

 

「いやー、やっぱりポケモン研究の権威であるオーキド博士や師匠のナナカマド博士が来ると思うと緊張しちゃって」

「わ、私も緊張してます………」

「みたいだな」

 

 大丈夫か? この二人。

 特に博士。アンタがカロス側のメインなんだからしっかりしてくれよ。

 

「あの二人に期待している、なんて言われたらもう…………ああ、怖いなー」

「昨日何があったんだよ…………」

 

 もしかしてじじい二人に脅されてる?

 んなわけないか。単にプレッシャーに弱いだけなんだろう。

 

「あ、そうだ。今日はカントーの図鑑所有者とジョウトの図鑑所有者たちも来るらしいよ」

「いらない、そんな情報はいらない。聞きたくない」

 

 くそっ、やっぱり来やがったか。

 今度は何を言われるやら。

 

「なんか余計に緊張してきました」

「大丈夫だよ、イロハちゃん。君も大それた肩書きがあるからさ」

「ふぇ!?」

 

 相変わらずあざといな。

 

「『伝説ポケモンへの進化を研究していたイッシキ博士の孫』って伝えれば大体の博士は身構えると思うよ」

 

 あのじじい、やっぱ危ないことしてやがったか。まあ、俺とリザードンのこともあるしな。まともじゃないのは前から分かってたことだったわ。

 

「お、おじいちゃん絡みですか………」

「まあ、そんな気負わなくていいと思うぞ。どうせ見知った顔とかいるだろうし」

 

 オーキドのじーさんとかオダマキ博士とか上半身裸に白衣の博士とか。変人が多いようなもんだし。

 

「それは先輩だからじゃないですか」

「なら、俺の側にいればいいだろ」

「え?! いいんですか!?」

「下手に怯えられても俺が困るし」

「………と、ここだね」

 

 …………来たことある道だとは思ってたけどもだな。

 

「マジでクチバジムかよ…………」

 

 今日の会場とやらはクチバジムだったらしい。

 クチバジムと言えば、奴がいるんだよなー。会いたくないおじさんその2くらいに該当する男。

 

「ヘイ、待ってたぜハチマン」

「待たなくていいから。いやほんとマジで待たなくていいから」

 

 クチバジムのジムリーダー、マチス。ロケット団の幹部でもあるこの男は俺の敵と言ってもいい存在だ。

 

「………ッ!!」

「落ち着け、イロハ。こいつは敵だが、今は争う場面じゃない」

「どういうことですか!」

「今ここでこの男はロケット団の幹部ですって叫んだところで、街の連中は同意しない。逆にみんなのジムリーダーに刃向かう愚か者としてレッテルが貼られる。それに強制連行したところで証拠不十分で取り押さえられない。つまり、俺たちの負けになるんだよ」

「へっ、分かってるじゃねぇか。そういうことだ。分かったら大人しくしてるんだな」

「うぐぐ………」

 

 今にも食ってかかりそうなイロハを何とか宥めて話を続けた。

 マチスもそんな喧嘩腰なのはやめてほしいんだけど。

 

「えっと、話についていけないんだけど…………」

「博士は取り敢えずプレゼンに集中してくれればいいから。先に行っててくれ」

「そ、そう………? じゃあ、先いくね。マチスさん、今日はよろしくお願いします」

「ああ、もう大分集まってるから挨拶してくるといいぜ」

 

 マチスがロケット団の幹部であることを知らない博士には、ついていける話でもないだろう。プレゼンを理由にこの場をさっさと退散してもらうことにした。

 

「はあ………朝から疲れる」

「………あの爽やか博士は知らないんだな」

「巻き込むつもりはないからな。それでも名の知れたポケモン博士だから狙われることもある」

「テメェが壁役ってか。笑えるぜ」

「壁役になったつもりはないっての。俺は一応あの変態の研究に付き合ってる協力者なんだよ」

 

 マチスが変な誤解をしていそうなので訂正したが、あんまり細かいことを気にしない性格だからなー。

 

「着いたぜ。ここが会議室だ」

 

 ほら、もう気にしていない。

 結局、こんなもんだ。だからもう色々説明するとしても適当でいい気がしてくる。この男に至っては。

 

「はあ………帰りたい」

 

 それよりもこの扉の奥に行きたくない。

 

「ちょ、先輩ここまで来てですか?!」

「この扉を開いたら面倒事に遭うのが分かってるのに、自らそこへ行くおバカさんにはなりたくないだろ」

 

 博士から奴が来ていると聞かされてしまっては帰りたくなるのも致し方ないと言えよう。自分と同じ声で皮肉を言われるのもそれはそれで辛いものがある。俺は自分で自分を虐げたくなるマゾじゃないんだよ。

 しかもだ。俺がカロス地方のとはいえ、ポケモン協会の理事になってからは一度も会ってないのだ。こんなの何か言われるのは決定事項だろ。

 

「何が起こるっていうんですか………。逆に怖いです」

「いいから素人は黙って見てろ。これがヒキガヤハチマンだってな」

 

 え、俺も怖いんだけど。

 マチス、今なんつった?

 これがヒキガヤハチマンだ?

 いやほんとに何が起こるわけ? グリーン以外の理由でもこの奥に行きたくなくなってきたじゃねぇか。

 

「おい、カロスポケモン協会の理事が来たぜ」

 

 ん?

 なにその意味深な言い方。普通に名前でよくね? てかメインは博士たちなんだから、俺らの紹介はいらなくないか?

 それにここバトルフィールドじゃねぇか。会議室とは…………?

 

「……え? な、なんですかいきなり」

 

 中に入ると一斉にこちらに視線が集まった。

 イロハもいきなりのことで驚いている。人の目に幾ばくかの耐性はついたものの、やはりこうして注目の的になるのは心臓に悪い。

 

「これはこれは理事殿。お久しぶりですね」

「あら、一週間ぶりですね。理事殿」

 

 最初に近づいてきたのはチャンピオンの二人。一人は元が着くが今はどうでもいい。

 え、なにその畏った感じ。世界的にも有名な二人に頭を下げられるとか、どういうプレイ?

 

「あの………ダイゴさん? シロナさん? お久しぶりですけども。何故敬語なので?」

「今日は各地方からポケモン研究をされている名誉な博士たちが一同に会する会議。ともくれば会議の見届け人も必要になってくるんだよ。そしてその見届け人として君が来たと聞いているよ」

「だから今日のあなたはここでは最高の地位に立つ者なの」

「………あんの変態博士。計りやがったな」

 

 顔を上げた二人に説明されてようやく俺の扱いを理解するのと同時に、この空気の中に消え入るように気配を消そうとしているプラターヌ博士を睨んでやった。目を合わせろ、そこの変態!

 

「はあ………、まあ地位的に見ればそうなんでしょうけども。違和感しかないですね」

 

 はあ………、ほんと嫌になる。まさかこんな扱いを受けることになるなら来なきゃよかった。普通の人なら嬉しい状況なんだろうが、俺からしてみれば恥ずかしいだけである。なんでここに来てまで注目の的にならなきゃならねぇんだよ。

 せめて心の準備をさせてくれ………。

 

「まあ最初だけじゃよ。わしらもそう堅苦しくやるわけじゃない」

 

 げんなりと肩を落としているとようやく博士ズが動き出した。

 

「久しぶりじゃの。ハチマン」

「あー、まあそうだな。カロスに行って一年近く経つもんな」

 

 最初に声をかけてきたのはオーキドのじーさん。

 相変わらず顔が変わらない。老いも若さも変化のない逆に化け物染みた年寄りは元気そうだった。

 

「わしらが計ったこととはいえ、まさかカロス地方に行ったお前さんがポケモン協会の理事になって帰ってくるとはのう。世の中何が起きるかわからんわい」

「それは俺のセリフだっつの」

 

 俺だってそんな肩書きをつける予定なんてさらさらなかったっつの。

 

「よお、青少年!」

「ククイ博士………相変わらずその格好なんすね」

 

 と、ヌッと顔を出してきたのは裸族博士ことククイ博士だった。リーグ戦を観戦しにきていたこの変態二号は、あれから無事にポケモンリーグ設立の許可が取れたんかね。

 

「まあな。にしてもこっちは冷えるな」

「そりゃ、そんな格好してれば寒いでしょうよ」

 

 この人バカなの? やっぱり南国育ちってバカなのか?

 

「なんじゃ? ククイ博士とも知り合いなのか?」

「偶々な、偶々。偶々カロスに来ててその時にな」

 

 こんな変態と知り合いというのもなんか嫌だ。でも最近博士が共有してくれる資料はこの変態のものもあって、できる人であるのは確かなんだよなー。

 

「ハチマン君! 久しぶりだね!」

「お久しぶりです、オダマキ博士」

 

 おっと、一番まともな博士が来た。

 この人にはジュカインが世話になってたからな。しかもキーストーンもくれた人だ。

 

「ジュカインの様子はどうだい?」

「おかげさまで元気にしてますよ。元気すぎてありとあらゆる技を習得しようとしてますけど」

「………リザードンでも思ったけど、君にはポケモンを育てる才能があるのかもね」

「いや、才能というよりポケモンたちの方がおかしいだけですよ。あいつら、根本的におかしいんで」

「それはそれで研究のしがいがありそうだ。君の言葉通りなら、ポケモンをどんな環境でどんな影響を与えれば強くなれるのかってね」

 

 どんな影響か………。

 ロケット団たちとの争いに巻き込まれれば自然とそうなるんじゃないですかね。

 

「初めましてだな、理事殿」

「ナナカマド博士、ですよね? お噂は予々。プラターヌ博士のお師匠だとか」

「うむ、彼は優秀な弟子だったよ。今ではこうして肩を並べられるくらいに成長してくれて、わたしも嬉しい限りだ」

「メガシンカの研究という偏った分野の研究者ですけど、事ポケモンの進化に関してはナナカマド博士を師事していただけあって頼もしいですよ。俺………いえ、自分も培った知識を共有できる存在がいて楽しいです」

「ハチマン君………」

 

 ちょっとー、お世辞だってこと忘れないでもらますかね………。一応アンタの師匠ってんだから持ち上げてるだけだからな。

 

「時に理事殿。君にとってポケモンとはどういう存在かね」

「どういう存在とは………?」

「家族や友達などと色々あるだろう?」

「あー………、なんでしょうね」

 

 また難しいことを聞いてくるな。リザードンは色々な意味で切っても切り離せない存在だし、ゲッコウガは似た者同士って感じで、ジュカインは俺の気まぐれで外の世界を知ってしまった脱引きこもりかな。

 ヘルガーは闇というものを知っている同業者ってのがしっくりくるし、ボスゴドラは協力者で、サーナイトは娘みたいなもんか。

 うん、さっぱりわからん。一括りにできる言葉なんて見つかんねぇわ。共通してるのはあいつらの方から俺のポケモンになるって言ってくれたことくらいか。ヘルガーも最初はあんな形だったが再会してから再度俺のポケモンになってくれたもんな。

 というか、そもそも質問が俺のポケモンに限定してのことなのか? 言い方的にポケモンという生き物に対して聞こえたんだが………。

 まあいい。どちらにせよどうとも表現し難いのは確かだ。

 

「………一言では言い表せない存在、とか?」

 

 そう言うとナナカマド博士の目がくわっと開いた。

 え、なに? なんかおかしいことでも言った?

 

「かつて、ポケモンは友達だの相棒だのと答えた奴がいると聞いてはいたが、一言では言い表せない存在か………」

「君が言うと一層深く聞こえてくるから不思議だね」

「ハチマン君ですもの。予想の斜め上にも下にもいって当たり前よ」

「ちょっとシロナさん? カルネさんから何を聞かされたのかは知りませんけど、初対面の人たちがいる中で話を盛ろうとするのはやめてください」

「あら、カルネ相手にゲッコウガにほとんどやらせて最後の一体だけリザードンで倒すという圧倒的なバトルを見せた人が何を言ってるのよ」

「………アンタ、楽しんでるだろ」

「なんのことかしら」

 

 ふふん! と鼻を鳴らすシロナさん。なんかハルノとユキノを足して二で割った感じがする。

 

「ダイゴさん、この人ゲッコウガに頼んでコテンパンにしてもいいですかね」

「あははは、こっちも悪ノリが過ぎたね。シロナさん、ゲッコウガが飛んでくる前に席に移動しますよ」

「えー、今いいところなのに」

 

 この人、こんな人だったんだな。

 意外っちゃ意外だが、らしいと言えばらしい気もする。

 

「わたしの元弟子がすまない」

「いえ、身近にああいうのもいますんで。何ならあれよりもっと酷いんで」

 

 ユキノ要素がない分、ハルノの方が爆弾の威力が高いからな。シロナさんはまだまだだわ。

 

「彼女がああいう態度になるのは気に入った証拠だと思ってくれていいよ」

「いやいや、いらないから。あんな爆弾投下魔いらないから」

 

 まあ、だとしてもいらないな。ユキノシタ姉妹だけで充分だわ。そうでなくても無意識で爆弾投下するアホの子もいるんだし。

 

「話を戻すが、ポケモントレーナーはポケモンを道具のように使う存在であってはならん。ポケモンと向き合い、ポケモンを知り、自分を知ってもらう。そんな対等な存在であるのが望ましいのだ」

「………そうですね。俺も常日頃からそれは思ってますし、妹たちにもそう教えてきましたよ。けど、やはり俺にはこの関係に名前はつけられませんね。俺のポケモンたちに限って言えば、家族という表現もできますけど、俺以外のポケモンたちだって俺を慕ってくれている。何なら俺の指示でバトルを成立させることができるポケモンたちだっています。でも、そいつらは俺のポケモンじゃない。家族と表現することもできませんし、友達ともまた違うでしょう。でもーーー」

 

 ユキノのオーダイルやユキメノコ、ユイのグラエナとかがいい例だな。自分のトレーナーよりも俺のこと好きすぎないかと思える時だってあるようなポケモンたちだっているのだ。深く考えすぎかもしれないが、俺はそいつらを切り離して考えるたくはない。ましてやダークライやエンテイといった助けてくれたポケモンだっているのだ。ポケモンの数だけ関係性があるものだろ。一言で表現しようってことの方が断然難しいと思うがな。

 でも、だからこそーーー。

 

「だからこそ俺はポケモンたちとは本物でありたいと思ってますよ」

 

 必要なのは言葉で表せる関係じゃない。俺が一緒にいたいと思えてあいつらも一緒いたいと思える関係だ。これはポケモンたちに限った話じゃなく、ユキノたちにも当てはまることである。俺はあいつらといたいと思った。そしてあいつらも俺といたいと思ってくれている。俺はそういう関係を大切にしていきたい。それを「家族」と表現するのならそうなのだろう。

 

「いやはや、お前さんが図鑑所有者じゃないのが惜しいのう。運命とは時に寂しいものだ」

「しかと受け止めた。君はこれからもより良いトレーナーになるだろうな」

「はあ………、ありがとうございます?」

 

 俺はこれが普通だったから、良いも悪いもないんだけどな。何と返すのがベストなのやら…………。未だにこういう時の対応は分からんわ。

 

「若いのにすごいですね」

「えっと……」

「ウツギです。ジョウト地方でポケモンのタマゴについて研究しています。以後お見知り置きを」

「あ、ども。ヒキガヤです」

 

 スッとじじいズの後ろからメガネをかけた幸薄そうな人が入ってきた。

 初めて見る人だ。ジョウト地方にこんな人もいたんだ。ここに呼ばれてるってことはそれなりにすごい博士なのだろう。

 

「わしはナリヤ・オーキドじゃ。お前さんのことはユキナリとククイ博士から聞いとるよ。その若さで協会の理事とは。タマゲタケじゃな」

 

 と思っていたらこれまた新が………お?

 髪以外見たことある気がするのは気のせいだろうか。何なら今俺の左側にいるよね? ドッペルゲンガー?

 

「あ、ども………じーさん、オーキド博士のご兄弟か何かで?」

「ああ、わしはユキナリの従兄弟じゃよ。今はアローラ地方でリージョンフォームについて研究しておる」

「リージョンフォームを……?」

「解説は後ほどの。今日の題目にあるからそこでじゃ」

「分かりました。よろしくお願いします」

 

 何か似てるようでやっぱ違うんだな。

 声までそっくりなのに。

 

「えと………」

「言葉にならねぇってカンジだな。あれが今のあいつの地位だ。研究者よりもジムリーダーよりも四天王よりもチャンピオンよりも上の位。各地方に一人いるかどうかの存在だ。しかも各々の方面の話題にもついていける知識と技量を兼ね揃えているときた。………これがオレたちロケット団も認めた実力者の正体だ。最も、オレたちはもっと前から認めてはいるがよ」

「………………!」

「ボスから聞いてるぜ。テメェはイッシキ博士の孫だってよ。んでもってハチマンが育てたトレーナーだ。オレたちのような存在に狙われないよう気をつけるんだな」

 

 ふと、イロハの姿がないと思って視線をぐるりと回して探してみると、マチスがイロハに絡んでいた。

 この有名人どもがいるこの場の空気に呑まれてるところに、脅しかけてんじゃねぇよ。

 

「ちょっとすんません」

 

 ったく、仕事を増やしやがって。

 個人的に叩き潰してやりたくなるわ。

 

「おいこらマチス、聞こえてんぞ。素人相手に凄むなっつの」

「ハッ、テメェの周りにいようとするくらいなら、これくらい慣れてもらわねぇとこっちが困るんだよ」

「だとしてもそれはもう少し時間をかけろ。イロハの顔色が…………なんでお前顔赤くしてんの?」

「ふぇ?」

 

 こいつ…………。

 こんな時でもあざとい反応はやめなさいよ。身体に染み込み過ぎでしょ。

 

「い、いや、べ、別に赤くなんてなってないですからというかむしろ先輩が普通に会話できてて驚いてただけですよそうですよだから先輩の優秀さにときめいたとかそういうのは一切微塵もこれぽっちもありませんからそれでも私を堕としたいのなら愛してるって耳元で言って下さいごめんなさい!」

 

 ………こいつ、日に日に長文早口言葉が上達していってないか? それとお前、堕ちてるでしょうが。昨日のあの蕩け様は何だったのかと言いたいんだが?

 

「俺フラれるの何度目だよ。つーか、昨日のアレはむごっ?!」

「ちょ、ななな何を言い出そうとしてるんですか!」

「むごごごっ!」

「バカですか?! バカなんですね!?」

 

 このヤロ………。

 

「うひゃう?!」

 

 ふぅ、脱出成功。

 窒息死するかと思ったわ。口はまだしも鼻までまとめて塞ぐんじゃねぇよ。

 

「ななな何舐めてんですか?!」

 

 塞いできた左の掌を舐めると余計に顔を赤く染め上げた。

 

「お前が鼻も一緒に塞ぐからだろうが。死ぬかと思ったわ」

「あ、そ、それは………ごめんなさい」

 

 しゅんとなるその身体はそれまで現れなかった震えが小さく溢れ出てきている。

 

「ったく、それだけ騒げるってのに変に気負ってんじゃねぇよ。世界的にも有名なじーさんとかいっぱいいるけど、全員人間だぞ? お前の得意分野だろうが」

「…………だって先輩まで遠くにいるような気がして」

「アホか。お前も充分一般人に比べたら雲の上の存在だっつの。普通はジムバッジ8つ集めるだけでも相当優秀なトレーナーって扱いなんだぞ。それが四天王に認められて鍛えられてましたなんて、喉から手が出る程と話だっつの」

「むぅぅ………」

 

 頭を撫でて落ち着かせると今度はむくれ出した。膨らませた頰がまた可愛い。狙ってやってるとしか思えないが、これが素なのは知っている。そもそもこんな顔を見せることがない、というのが本人談だ。

 ………全く、こいつは飽きないな。

 

「ねぇ、グリーン。何あれ」

「まるでルビーとサファイアを見ているようだ」

「彼がポケモン協会の理事って本当なのかしら。ちょっと若すぎない? 彼、アタシたちよりも年下よね?」

「そうだな。だが、紛いもなく理事まで上り詰めた実力者だ。奴をそこら辺のトレーナーと一緒にしない方がいい」

「知ってるの?」

「少しだけだがな」

「ふーん。あ、これで全員揃ったみたいね。では、みなさん! 着席してくださーい!」

 

 ………グリーン、アンタそこにいたのか。

 今回は何も起きないといいが…………。いやほんと、マジで! 何も起こりませんように!



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ぼーなすとらっく20『有識者会議 その2』

いろはすの誕生日ということで一日早めに。
前回の続きです。
アニメは延期になっちゃいましたが、有識者会議はまだまだ続きます。


 今回の会議では欠席者がいた。イッシュ地方のアララギ博士とガラル地方のマグノリア博士だ。さっき名前を初めて聞いたため誰だかは知らない。だが、有名らしい。代理の者が来ることも叶わなかったようで、相当立て込んでいるのだろう。

 

「一般的にポケモンはタマゴにいる時から体内に進化のエネルギーを溜め込んでいく。やがてそのエネルギーが充分になると新たな姿へと進化する。なお、ポケモンの進化は基本的に二段階までとされているが、中には複数の進化先を持つポケモンもいたり、進化を経てタイプが変わるポケモンもおり、解明できていない点が山ほどあるのも現状だ。また、進化はポケモンの意思によるところもあり、ポケモンによっては進化を拒否することもあるとされている」

 

 主催者であるオーキドのじーさんの挨拶から始まった会議は、ナナカマド博士の『ポケットモンスター進化論』ーー通称『ポケモン進化論』ーーに移り変わった。恐らく今回のテーマの一つであるらしいメガシンカに繋げるための前座と言ったところであろう。ここにいる奴でさすがに『ポケモン進化論』を理解していない奴はいないはずだ。

 

「次に特定の条件が揃うと進化するポケモンもいる。それらは大きく二つのタイプに分けられるが、そこの君分かるかね?」

「うぇ?! 環境、とかっスかね?」

 

 いたわ。

 名前はゴールド、だったか。ジョウト地方の図鑑所有者。見るからに頭は悪そうである。恐らく直感や閃きでその場を切り抜けるタイプなのだろう。でなければ、こんなのが図鑑所有者ってのもどうかと思う。両隣にいる男女は落ち着いて話を聞いているのに、ゴールドはつまらなさそうに足をブラブラさせたりしているのだ。ナナカマド博士もそれを見越して質問を投げかけたのかもしれない。

 

「うむ、確かに環境というものもあるがそれは各進化条件という項目の一つだ。分類という項目で見ればポケモンの意思が反映されるか否かである。時間帯、性別、トレーナーまたは親と認識したポケモンへの懐き具合等で進化するパターンはポケモンの意思によるところがあるが、環境、天候、特定の技を覚えている等のパターンはポケモンの意思とは関係なしに条件さえ揃えば進化してしまう。中にはそれでも進化を拒否するポケモンがいるかもしれないが、それも希少種であろう。基本的には抗えないものとして捉えておいてもらいたい」

 

 俺のポケモンたちは全員普通の進化方法であるため馴染みは薄い。だが、トツカのポケモンを例に挙げると分かりやすいだろう。特にトゲキッスとマンムー。トゲキッスはトゲピーからトゲチックに進化する際、トレーナーや親と認めたポケモンへの懐き具合が関係してくる。そのため、自らの意志により任意のタイミングで進化することができるのだ。そして、続くトゲキッスへの進化も光の石に触れることで進化に至る。こちらも事故でない限り、任意のタイミングで進化することができるのだ。

 反対にマンムーはウリムーからイノムーへの進化は通常通りなのだが、マンムーへの進化が少々特殊だ。いわタイプの技げんしのちからを覚えることでマンムーへと進化する。文字通りの意味で考えると原始的な力には抗えないということだろう。というか、マンムーが本来の姿だったと言えなくもない。何ならげんしのちからを覚えることで進化するポケモンは、その進化した姿が本来の姿であり、何らかの要因により退化していったのではないか、という論文もあるくらいである。ポケモンの退化というのは未だ発見されてはいないが、メガシンカのように姿が元に戻るという現象はあるのだ。進化があって退化がないとも言い切れないだろう。

 

「他にも道具を使った進化、交換による進化もあるが、それは私より詳しいであろう二人に聞くとしよう」

 

 と、イロハに質問されたらどう答えようかと頭を働かせていたら、ナナカマド博士がそう言ってもう一度後ろを見やった。博士の後ろには図鑑所有者たちが会議の行方を見守っており、その中で男女一人ずつが動き出した。一人はゴールドの隣にいた赤髪。もう一人は司会進行をしてた女。

 ちなみに今の席順はスクリーンに向かって二列に並ぶようにして向き合って座っている。向かって左側の先頭にオーキドのじーさん、ナナカマド博士、シロナさん、ナリヤ博士、ククイ博士とその嫁さん。じーさんズの後ろには図鑑所有者たちが控えている。そして右側の先頭にウツギ博士、オダマキ博士、ダイゴさん、プラターヌ博士、俺、イロハである。こうしてみるとあっち側はすごい貫禄があるんだよなー。さぞかしプレゼンする方は緊張することだろう。

 

「では、道具を使った進化についてはアタシが説明します。道具を使った進化といっても種類は様々あり、大きく分けると進化の石を使う進化かそれ以外のものを使う進化に分けられます。進化の石の場合、それぞれの石に特殊なエネルギーが含まれており、石に触れるとエネルギーが体内へと流れ込み、進化が始まります。しかし、進化後ポケモンによってはタイプや覚える技が変わったりするため、進化させる際は気をつける必要があるわ」

 

 ブルー、だったか。グリーンの嫁候補。間近で見るとプライド高そうだわ。

 

「次に進化の石以外の道具を使った進化についてですが、こちらも進化の石と同様道具に特殊なエネルギーが含まれております。しかし、これらの道具は自然界で生成されたものと人工的に作られたものがあり、どちらも希少種であることに変わりはありません。野生のポケモンにおいてもそれらの道具を使って進化するポケモンはそう多くはないでしょう。人工的な道具の方なんかは特に。ただし、こちらには時間帯が関係してくるポケモンもいます。例えばマニューラは日が沈んだ夜にするどいツメを持たせている必要があり、進化をさせようという時には条件をよく確認しておいた方がいいでしょう。以上が道具を使った進化についてになりますが、何か質問などはありますか?」

 

 その割に妙に情報が抜けている。噛み付きたくないけど、イロハのためだし。グリーンが暴れ出さないことを祈ろう。

 

「………詳しいという割には些か説明不足に思えるんだが」

「というと?」

 

 手を挙げて口を挟んだら訝しむようにして睨まれた。どんだけプライド高いんだよ。

 

「まず進化の石には特殊なエネルギーが含まれているという説明はいい。だが、道具の方は交換が絡んでくるパターンもあるんじゃないのか? 例えばキングドラ。キングドラへの進化にはりゅうのウロコを持たせて交換するのが条件とされている。交換が絡むっつーことでそっちの説明は赤髪の方が担当するんだろうが、それならそれでアンタも一言付け加えるべきだろ。それとそっちの赤髪には先に質問しておこう。そもそもどうして野生のキングドラが存在するんだ? 交換のしようがない野生のポケモンがどうやって進化を成し遂げるんだ? 逆に俺たちが進化させる分には何故交換が必要なんだ?」

「ちょ、あなた………!」

「………分かった。それも含めて説明させてもらう」

「シルバー………」

 

 ああ、そういやアレがシルバーだったな。

 サカキの息子にしてジョウト地方の図鑑所有者。こいつも父譲りの才能はあるということか。

 

「では、オレの方からは交換による進化について説明させてもらいます。交換による進化には二種類の系統に分類できます。特に何かを必要とせず単なる交換で進化するポケモンと、特定の道具を所持している状態でのみ交換すると進化するポケモンです。後者はブルー姉さんの説明でもあった道具による進化と結びつきます。どちらか片方だけが欠けても進化は起こらない、と言いたいところですが、指摘があったように野生のキングドラ等は存在します。ここはオレ自身まだはっきりしているわけではありませんが、恐らく交換による進化は交換のシステムが進化に対する強制力を発揮するものだと考えています。なので、野生のキングドラはりゅうのウロコを手に入れてから長い年月、あるいは相当の強者になっているからこそ進化できたと考えるのが一番ベストだと認識しています」

「………なるほど。それはあるかも」

 

 どうやらイロハには納得できる説明だったみたいだな。イロハにはシードラがおり、りゅうのウロコも渡してある。最終進化に必要な交換というシステムが何故必要なのかを理解しておくのも大事だろう。かく言う俺も大体そんなところだと考えている。でなければ交換というシステムを態々利用する必要性は皆無だからな。

 だが、何故交換のシステムが進化の働きを作用させるのかは謎だけど。システム系に強いわけじゃないから何とも答えられないな。

 

「いいんじゃないか。筋は通っている。研究者でもない俺が言うのも変な話だが」

「いやいや僕からしても今の説明はかなりいいと思うよ。だからこそ、ナナカマド博士も説明を任されたんですよね?」

「うむ、オーキド博士はこの二人を進化に精通した者と評している。もし矛盾が生じるようであれば正すところであったが、見事であった」

「ありがとうございます」

 

 そう言ってシルバーはナナカマド博士に頭を下げた。あんな姿、サカキからは想像できないな。褒めて当たり前。やって当たり前ってのがあの男のスタンスだし。それだけロケット団内ではカリスマ性が高い証でもあるんだろうな。

 

「話を戻すと、以上のことがポケモン進化論になる。まだまだ分かっていないことは多々あるが、根底が覆るということはないだろう。では、次にフォルムチェンジについて軽く説明しよう」

 

 そう言ってスクリーンに映し出されたのはロトムだった。

 

「これはロトムというポケモンである。でんき・ゴーストタイプという組み合わせの珍しいポケモンであるが、このポケモンは様々な姿にフォルムチェンジできる存在だ。今や承知の者もいるだろう。フォルムチェンジとは通常の進化とはまた別の、姿を変化させる能力の総称である。その一例がこのロトムというポケモンであり、我々が普段使っている電化製品に潜り込むことで新たな姿を手に入れたのだ。確認されたもので電子レンジならばヒートロトム、洗濯機ならばウォッシュロトム、冷蔵庫ならばフロストロトム、扇風機ならばスピンロトム、芝刈り機ならばカットロトム、というようにフォルムチェンジとして認定されている。また最近ではロトムが電化製品へ潜り込む性能を活かして、ポケモン図鑑やタブレットの機能を拡張させている者もいるようだ」

 

 あー、ザイモクザがよくやらせるやつね。ロトムの性格上嫌いじゃないんだろうし、変なことさえしていなければ好きにしてくれとしか思わない。確かロトム辞典とか言ったか? あれはインデックスをもじってポケデックスフォルムと言ってたな。ちなみにタイプはでんきの単タイプなんだとか。あれは恐らくナナカマド博士も認知している代物なのだろう。

 

「さらに、ロトムを研究していく中で、フォルムチェンジ後の姿のタイプも元の姿から変化していることが分かっている。つまり、フォルムチェンジの前後でポケモンのタイプも変化することがあるのだ。タイプだけではない。特性すらも変わるポケモンも確認されてきている。尚、姿の違いという観点から見れば、リージョンフォームというものも存在するが、こちらはフォルムチェンジとは異なる姿の違いだ。環境の変化に順応するためと言えよう。詳しくはこの後ナリヤ博士よりリージョンフォームについての説明があるため、そちらで補完してもらいたい。最後にわたし個人の見解ではあるが全世界全てのポケモンの内、八割から九割が進化、あるいはフォルムチェンジ等の何らかの姿の変化を有するものだと考えている」

 

 また大きく出たな。

 全ポケモンの内八割から九割って、つまりはほとんどのポケモンが姿を変えるってことだろ?

 確かにそうかもしれないが、そうなると逆に姿を変えないポケモンたちが不思議に見えてくるな。

 

「進化なりフォルムチェンジなり、姿が変化する事象はとにかくポケモンの能力をも変化させる。それが何を意味するのかはまだまだ分からぬことだらけではあるが、『変化』こそがポケモンをポケモンと言わしめる現象とも言えるだろう。その『変化』は時に進化を超えたり、時に本来あるべき姿に戻ったり、時に環境の変化に適応したりと様々な形で成されている。恐らく今後もポケモンたちは『変化』を遂げていくのだろう。それをわたしたちがどう解釈するのか、そこが重要になってくる」

 

 それでもポケモンと姿の変化は切っても切り離せない関係ってことか。

 深い、物凄く深いな………。

 博士たちは皆、これだから研究をやめられないって顔をしている。その深さを楽しんでいるのだ。

 やっぱり俺には研究職なんて向いてないだろう。今くらいの立ち位置が丁度いいような気がする。自分で研究することはなくても研究の一環には触れていられる。情報も入ってくるし、研究の提案だってできる。でも自分では研究しない。

 こうして聞くと俺ってクソだな……………。

 

「では、それらを頭に入れた上で今回のメインへといこう。プラターヌ博士」

「はい!」

 

 さて、気持ちを切り替えるか。次は早速プラターヌ博士のようだし。

 今日の本題その1はメガシンカについてらしく、最初のメインを務めるプラターヌ博士は冷や汗が止まらないようだ。

 うわー、大丈夫かな。

 ガッチガチに緊張してるぞ。

 前座が師匠ってのがこれまた贅沢な話であり、余計に緊張させる要因だろう。ざまぁ。

 

「イロハ、話はついて来れてるか?」

「はい、一応今のところは基本的な内容でしたので」

「そうか」

 

 今の内に、と思いイロハに状況を聞いてみたが、どうやら今のところはついて来れてるらしいな。次もメガシンカについてだし、他の題目を見るに目新しいものこそあれど、そこまで難しい内容はないと思う。

 

「それよりもいきなり噛み付いていったことに驚きですよ」

「仕方ないだろ。なんかイラッときたんだから。ハルノの劣化版でお前より可愛げもないんだ。それに俺は見届け人らしいからな。指摘してなんぼだろ」

 

 見届け人なんて聞こえはいいが、要は敵役みたいなもんだしな。しかもどこぞの誰かさんが睨んできてるんだ。これくらいの仕返しはしたってバチは当たらんだろ。

 

「先輩、超変わりましたね」

「ダークライのおかげなんじゃね? 半ポケモンになって性格を『変化』させられたとか」

「先輩バカなんですか? バカなんですね。聞いた私がバカでした」

「酷ぇ………」

 

 人が折角ユーモアの交じった返しをしてやろうと思ったのに。面白くなかったからってもうちょっとフォローしてくれてもよくない?

 

「では、私の方からメガシンカ及びそれに類似する現象について説明させていただきます」

 

 お、口を開きだしたらいつも通りに戻ったみたいだな。本番には強い方なんだろう。

 

「メガシンカとはバトル中にのみ起こる現象で、キーストーンとメガストーンと呼ばれる二つの石が共鳴することでポケモンに新たな姿を与えるものになります。また全てのポケモンに起こる現象ではなく、現在確認されているのは46体48種であり、その内33種の詳しいデータを私の方で入手しています。データを収集していく中でメガシンカにはさらにトレーナーとポケモン間での強い絆が必要であることも分かっており、息が揃わなければポケモン側が暴走するという事態に陥るケースもありました。それだけメガシンカのエネルギーはポケモン側に強い力をもたらしていると考えられます」

 

 これは俺もまとめるのを手伝わされたから承知のことだ。メガシンカはこれまでに46体48種を確認している。リザードンとミュウツーには二種類の姿があるため、種類の方が多くなった。その中でも実際のメガシンカするところやその姿の映像などが残されているものは33種あり、足りない情報を俺たちメガシンカ使いが提供したのだ。しかも俺はそれをまとめる手伝いもさせられたため、頭の中にデータも入ってしまったわけだ。残りの15種はメガシンカの使い手がいなかったり伝説のポケモンだったりで、メガシンカするという事実だけが分かっているポケモンたちだった。

 これでも充分データを集めてきたように思えるが、残りのポケモンたちについても博士はいつか完璧に揃えたいとか言っていた。絶対手伝わされるからやめてほしいところだが、やめたら取り柄がなくなるからな………。付き合ってやるしかないのだろう。

 

「メガシンカの起源はホウエン地方にあり、かつて宇宙から飛来する巨大な隕石を退けるため、人々が祈りを捧げた結果、レックウザが姿を変えたことが始まりではないかとされています。そのパワーは巨大な隕石を一撃で粉砕するほどとされ、現在確認されているメガシンカするどのポケモンよりも強大な力を有していると考えられます」

 

 ダイゴさん伝手でメガシンカの起源がレックウザにあるということが分かっている。二年半ほど前にホウエン地方で実際に姿が確認されたからな。映像などはないが詳しい話を聞くことができたし、他にもいろいろなことが知れたのも大きい。

 

「またホウエン地方ではグラードンとカイオーガの新たな姿も確認されました。それもまたメガシンカに匹敵するもので、文献などからゲンシカイキという風に断定しています。ゲンシカイキは自然の力を取り込むことでグラードン及びカイオーガの姿を変え、文献からはこちらが本来の姿という風にも記されるほどの強大な力を有するようです。こちらはメガシンカとは違い人々の祈りなどは関係なく自然の力を取り込むことで姿を変えるため、類似性の高い別物であると位置付けました」

 

 二年半前の事件ではもう一つの現象の特定に至っていた。

 その名もゲンシカイキ。二色の珠に蓄えられている自然の力を取り込み、本来の姿へと戻る現象らしい。グラードンとカイオーガにはそれぞれ陸と海を広げた存在という逸話がある。その逸話を再現したかのような事件がホウエンの大災害であり、その後のデオキシスによる巨大隕石到来の時には、二体がゲンシカイキによって本来あるべき姿に戻るとホウエンの大災害時以上の力を発揮しており、まさしく陸と海の魔物と化していたことだろう。その二体に引けを取らないレックウザも中々のものである。それくらいメガシンカには力があるということだ。

 

「そしてもう一つ、メガシンカに類似するポケモンを発見しました。まずはこちらをご覧下さい」

 

 まあ、来るとは思っていた。というかこれが博士の今日のメインみたいなものだし。

 

『リザードン、メガシンカ』

『シャアァァァアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 スクリーンに映し出されたのは俺とリザードン。どこかでバトルした時にメガシンカした時の映像のようだ。

 

「今のはリザードンからメガリザードンXにメガシンカするシーンです。トレーナーの持つキーストーンとリザードンが持つメガストーンーーリザードナイトXが共鳴し結ばれることでリザードンを白い光で包み込み姿を変えていきます」

 

 メガシンカのメカニズムの説明に使われたのか。

 ということは次だな。

 

『ゲッコウガ』

『コウ、ガァァァアアアアアアアアアッ!!』

 

 こっちもトレーナーは俺だからな。比較の対象としては申し分ない。

 

「っ?!」

「ゲッコウガが姿を変えた!?」

 

 ゲッコウガを知っている者は目を見開いて驚いている。

 

「本人曰く、特性を用いることでメガシンカのシステムを取り入れたんだそうです」

「本人曰くって………、このトレー………ハチマンか」

「なんだハチマン君のゲッコウガか」

「やっぱりハチマン君かー」

 

 トレーナーが俺だと分かるとこれかよ。俺を見ただけで驚愕が吹き飛ぶとか怖すぎるわ。

 

「なんすか、その目は」

「いやー、君のポケモンなら何が起きても不思議じゃないからね」

「言っときますけど、俺は最後の最後にこの特性を安定させる薬を渡しただけですからね。勝手にシステム云々を取り入れたのはそこに映っているゲッコウガの方なんで」

 

 だから俺を変な目で見ないでほしい。

 この人たちは俺を何だと思っているのだろうか。リザードンを前例としているのなら、あれは例外と言いたい。あいつはロケット団にいじくられた謂わば人工体だ。野生で生息する天然体とは比較してはいけないんだよ。

 対してゲッコウガは天然体で自らあそこまで上り詰めた。最後はカツラさん特製の特性カプセルで力を安定させてやったが、根本的なところはリザードンとは別物だ。

 それをこの研究者どもは理解してないわけないのに………。

 

「ゲッコウガはカロス地方における初心者向けのポケモンの最終形態となります。故に他の地方と同様、特性は二種類あり、内一つはげきりゅうを持ち合わせていました。しかし、彼のゲッコウガは第三の特性として自身の姿を変える特性を手に入れたのです。私たちは経緯を踏まえて『きずなへんげ』と呼んでいます。本人たちからもそれとなく聴取を行いまとめたところ、この姿に変化する時ハチマン君の視界がゲッコウガのものへと変わり、感覚が同調したことが分かりました。キーストーンもメガストーンも使わないメガシンカの代償と考えると腑に落ちるところがあり、さらにメガシンカと同等あるいはそれ以上のエネルギーも観測出来ました。もう一つ付け加えるのであれば、メガシンカ時に発する光の代わりとして水のベールを纏うという点があり、以上のことを踏まえてメガシンカに近い現象と考えています」

「………して、ハチマン。これは本当か?」

 

 一通りプラターヌ博士が説明したところで、オーキドのじーさんが聞いてきた。

 

「映像の通りだよ。ま、あいつはもうゲッコウガであってゲッコウガじゃない。規格外だ」

「というと?」

「あいつは強さを求めるあまりメガシンカのシステムを自分の中にあるものだけで再現しようとして、特性を書き換えることで手にしたんだ。しかもトレーナーの俺を使うことで足りないものを補おうとしたりしてな。で、結局カツラさん開発の特性カプセルを飲ませて力を安定させ、無事新たな特性を定着させたってわけだ。今ではそれでも足りないらしく、ポケモントレーナーとして自分でポケモンを仲間にして来て、俺たちとバトルしてるよ。あ、それとテレパシーで会話も可能だ。うん、ありゃもう見た目だけがゲッコウガなだけでただの怪物だな」

 

 自分で言ってて怖くなってきたわ。

 あいつが敵じゃなくて本当によかった。

 

「メガシンカポケモン相手に引けを取らない所か圧倒してるものね」

「そうですね、彼はポケモンとしてもトレーナーとしても優秀でしたよ」

「そうだった、二人は知ってるんでしたね」

「あれから僕も調べてみたんだけど、一つ面白い古書を見つけたんだ。今日君が来ると聞いていたから、伝えようと思って持って来てたんだけど、丁度いいね」

「古書?」

 

 そう言うとダイゴさんが古い本を取り出してきた。見るからに古い、ボロボロ感が満載である。

 

「カロス地方の話なんですけどね。ちょっと読ませてもらいますよ」

「ええ、是非」

 

 プラターヌ博士が促すとダイゴさんが古書を開いて目を通していく。

 

「ーーー元々は一体の神に護られていた。その名はゼルネアス。永遠の命を与えるとも言われている神。人々はその神が造り上げた土地の美しさを称賛し、『カロス』と名付けた。そしてそのカロスを統治する王が誕生した。王はカロスの民に讃えられるも、すぐに王は死んだ。民はゼルネアスに王の復活を願うも神の力は働かず、その後カロスは滅びの一途を辿った。朽ちたのだ。イベルタルという悪魔によって、カロスは朽ち果ててしまったのである。しかし、それだけには留まらずゼルネアスとイベルタルは争いを続けた。民は新たな王の誕生を願い、王の子供が新たな王として立ち上がった。すると『何か』も現れ、神と悪魔の争いを諌め、どこかへと消え去ってしまった。その後、ゼルネアスは樹木に、イベルタルは繭となり眠りについてしまった。これが最初の『カロス戦争』である」

 

 これは俗に言うゼルネアスとイベルタルの伝説だな。生と死の関係の象徴。

 

「時は千年が過ぎ。新たな戦争が起きた。今度は人や魔獣たちも入り乱れて戦う醜いものである。その戦争で王の愛する魔獣が命を落とした。王はすぐに神を倣って命を与える機械を造り上げた。魔獣は見事復活を遂げるも愛する魔獣が一度死んだという事実に、怒りと悲しみで我を忘れた王は多くの魔獣を使い、機械を兵器に造り変えた。その力で戦争はおろかカロスが無に還り、王の愛する魔獣もその出来事を悲しみ、王の元を去った。神も悪魔も眠りにつき、残された民は一度目に現れたという『何か』を探すも見つけられなかった」

 

 その次がカロス王の伝説か。AZのフラエッテが戦争で死んでAZがフラエッテを蘇らせて、やがて最終兵器に作り変えて戦争を終わらせた。その最終兵器が一年前に再起動されたのは今でも鮮明に憶えている。

 

「さらに千年後。三度目の戦争……は起きなかった。起きる前に悪魔が朽ちらせ、『何か』が無に還し、神が新たな命を与え、すぐに元の美しいカロスへと戻ってしまったのだ」

 

 あ、次は起きなかったんだ………。

 人もポケモンも先の戦争を知っていたのかね。

 

「その千年後。再び戦争が起きた。今度は人と魔獣が協力し、石を使って新たな力を得ることで戦争に立ち向かった。その力は魔獣の姿を変え、強大な力を引き出すもので例え神であろうと悪魔であろうと立ち向かうことが出来た。その最中、石を使わずに新たな姿を手にした魔獣がいた。その魔獣の力により戦争は一気に終わりに近づいた。そう、近づいたのであって終わったわけではない。最後はやはり『何か』が現れたのだ。民はまたしても無に還ると覚悟をしたが、『何か』は神と悪魔を諌め消え去ってしまった。その後、民はその魔獣を英雄と評し、同時に『何か』をこう呼ぶことにした。ーーージガルデ、と」

 

 ここでジカルデが正式に出てきたか。ついでにゲッコウガっぽいのも。恐らくこれが千年前の話。そして一年前にも同じようにゼルネアスとイベルタルが復活したというわけか。

 

「我らが子孫たちよ。どうか覚えておいてほしい。カロスには千年に一度ゼルネアスとイベルタルが争い、それをジガルデが諌めるのだ。そして、我らには全てを無に還すジガルデに対抗する刃、英雄ゲッコウガの力が必要になるということをーーー」

「………神と悪魔と英雄と未知の生物か」

 

 なんか勢揃いって感じだな。

 というか伝説のポケモンたちと対等の扱いってどうなのよ。マジで伝説のポケモンになっちゃってんじゃん。

 

「恐らくゲッコウガのメガシンカ擬きは古より伝わるカロス地方にしかない現象なのかもしれないですよ。メガシンカが伝わる以前からのね」

 

 なるほど。

 メガシンカの起源はホウエン地方だが、それを基にした新たな特性はカロス地方が起源と言えるわけか。

 だが、ゲッコウガはあくまで一般的なポケモンだ。子孫だって残してきている。ならばーーー。

 

「博士、これが本当だとすると千年前にゲッコウガの第三の特性が出来上がったってことになるよな。そうなるとだ。そのゲッコウガの子孫ってのはいないのか?」

 

 ーーー最初に姿を変えたとされる千年前のゲッコウガの子孫は残っていないのだろうか。

 

「子孫か………。その可能性は大いにあり得そうだね。ポケモンたちの特性は親から遺伝することもあるからね。特に数が少ない方の特性は強く遺伝する。ゲッコウガも例外なく当てはまるよ。ともすれば、このゲッコウガに子孫がいたとすると、その力を引き継いでいる可能性が高いと思う」

 

 俺が最も気になるのはそこだ。

 俺のゲッコウガは自分で特性を書き換えたが最終的には薬で安定させるしかなかった。もし当時のゲッコウガも俺たちみたいなことが起きていたとしても、書き換えた特性を安定させる技術があったとは思えない。だから仮に特性の書き換えが出来たとしてもどうやって特性を安定させることが出来たのだろうか。

 俺的にはへんげんじざいが突然変異し、新たな特性を持って生まれて来たケロマツがゲッコウガへと進化して英雄まで上り詰めたっていうシナリオの方がしっくりくる。それだと特性の書き換え後の安定化も他の問題事も考えなくて済むし。

 そして子孫が残っているのであれば、その特性も何体かは受け継がれていることだろう。

 

「だが、俺んとこのゲッコウガは元はへんげんじざいだ。第三の特性じゃない」

「そうだね。そうなると………」

 

 ただそうなると俺のゲッコウガは異端な存在になる。元々の特性はへんげんじざいであるため、英雄の子孫ではない可能性もある。子孫だとしても遠縁、傍系というところだろう。

 ならば、直系はというと………。

 

「いるだろ。俺よりも運命ってやつが似合う存在が」

「………オレたちだとでも言いたいのか?」

 

 図鑑所有者たちの方を見るとグリーンが俺を睨んできた。めっちゃ怖いからやめてっ!

 

「いや、アンタらじゃない」

「………ワイちゃんかい?」

 

 ようやく俺の言いたいことが分かったようで答えを導き出してきた。

 カロス地方の図鑑所有者、ワイ。運命力だけでいえば、俺たちよりも図鑑所有者は頭一つ二つは高い。そしてあいつの手持ちにはゲッコウガがおり、そいつが直系の子孫である可能性が高いと俺は考えている。

 同時メガシンカを行ったエックスに対して、石を必要としないメガシンカを行うワイ。こうなれば図鑑所有者の素養としては充分だろ。

 

「ああ。あいつのゲッコウガの特性は答えられるか?」

「そう言われると無理だね………。よし、帰ったら彼女に協力を願おう。調べ方は………」

「げきりゅうでもへんげんじざいでもなければ可能性大と見て調べていく方向でいいんじゃないか?」

「あとは………君のゲッコウガのDNAと比較するのもいいかもしれない。一般的なゲッコウガのDNAデータはあるからね。それと比較して違いを探していこうか」

 

 確かにそうだな。

 うちのゲッコウガは他の一般的なゲッコウガとは何か違うところがあるはずだ。同じようにワイのゲッコウガにも違うところがあれば、非常に確率が高くなってくる。ただそれがうちのゲッコウガとも違う何かであった場合にはもっと未知のものと考えざるを得ないけどな。その時はその時だ。

 

「………………」

 

 ん?

 でもなんでゲッコウガなんだ?

 他のポケモンだって強くなりたいと思ってるだろ?

そうでなくともカントーとホウエンのしんりょく、もうか、げきりゅうを持つポケモンにはメガシンカした姿が存在する。三竦みが欠けることはない。

 ならば、石を必要としないメガシンカにもゲッコウガだけでなく、ブリガロンやマフォクシーにもあるはずなんじゃないのか?

 

「ハチマン君、どうかしたかい?」

「……………いや、どうしてゲッコウガだけなのかなと」

「それは第三の特性があった可能性があるからーーー」

「そうじゃない。そういうことが言いたいんじゃないんだ。メガシンカはカントーとホウエンの初心者向けポケモン三体全員に存在した。ならば、このゲッコウガの現象と同じことが何故ブリガロンやマフォクシーには起きなかったのか。そこがちょっと気になってな」

「それこそ特別な存在だったからじゃないのかい? 君のゲッコウガみたいに」

「確かにあいつみたいにゲッコウガという種族の域を超えた存在って可能性は高い。というかそう説明するのが一番しっくり来る。だけど、それで片付けていいのかとも思うんだよ」

 

 特別なのは特別だ。伝説のポケモンの仲間入りとも思えるような記述があったり、他のポケモンには出来ない芸当を成し遂げているんだから。

 ただ、そんな言葉だけで片付けていいような話でもないだろ。

 

「僕は片付けるべきではないと思うよ。君の指摘は最もだ。フシギバナ、リザードン、カメックスの三体共にメガシンカした姿がある。ジュカイン、バシャーモ、ラグラージの三体にもメガシンカした姿がある。その連鎖性を考慮するとメガシンカのような現象が起こったゲッコウガの他にも、ブリガロンやマフォクシーにも何かあると考えておいていいだろうね。逆になかったらなかったさ。それだけゲッコウガという存在は特別だったというだけのことなんだからね」

 

 疑問に思っていたのはダイゴさんも同じなようだ。

 

「そうですね」

「もう一つ、私はリザードンにだけ何故二つの姿があるのかも気になるわ。もしかすると、そことも何か関係があるのかもしれないもの」

 

 なるほど、それもそうだ。

 リザードンにだけは二つのメガシンカした姿がある。ミュウツーにも二つのメガシンカした姿はあるが、こっちはカツラさんが造り上げた謂わば人工物のメガストーン。だからあまり充てにはならない。

 

「なるほど。だってよ、博士」

「いやー、まさかお二人からも意見が聞けるなんてね。分かった。その二つの線も視野に入れて研究を進めてみるよ」

 

 俺も古い文献から探してみよう。それもホウエン地方のものの方に何か手がかりがあるかもしれない。

 

「プラターヌ博士、貴重な相談役を見つけたな」

「ええ、まあ。彼ほど僕に意見を出してくれる人はいませんよ」

「大事にするのだぞ」

「はいっ」

「………アイツ、博士に対してもああなのね。なんだかムカついてきたわ」

「手は出さない方がいい。返り討ちに遭うだけだ」

「なんでよ! 一発ガツンと言ってやらないと調子に乗るタイプじゃない!」

「………なら、勝手にしろ。オレは忠告したからな」

「ふんっ、グリーンのバカ!」

 

 うっわ、なんかあっちで痴話喧嘩が始まってるんですけど。

 怖いからこっちに来るなよ?

 

「えー、では少々話が脱線してしまいましたが、カロス地方では石を必要としないメガシンカに似た現象があり、これからより詳しく研究していくつもりです」

「ふぅ………プラターヌ博士、ありがとうございました。何か質問などがある方は挙手を願います」

 

 うわ、変わり身早っ………!

 女ってこういう時マジで怖く見えるわ。俺の周りもこんなのがいっぱいいるから超ドキドキする。特に横に座るあざとい後輩とか。

 

「………ないようですね。では、続いてはリージョンフォームについてです。ナリヤ・オーキド博士、お願いします」

 

 次はリージョンフォームについてか。

 博士からもらった資料では見たりしてはいるが、それもこの手元にある資料程細かくはない。姿を比較したやつくらいだな。

 まあ、それだけでも驚きではあるが。生で見たことあるのはイッシキ祖父が連れている白いロコンと薄黄色のキュウコンだけか。

 ………ん?

 そういや誰か首の長いナッシーとか連れてなかったか?

 ………それも全部今から分かることか。楽しみにしておこう。



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ぼーなすとらっく21『有識者会議 その3』

今作品も今日で丸一年というのに、長かったような短かったような気がします。これも皆々様方のおかげです。まだもう少しだけ続きますので、どうかお付き合いくださいませ。

さて、今回も会談です。バトルまではもう少しだけお待ちください。


「リージョンフォームとはその地方の環境や文化に影響され、適応する中で姿を変えたポケモンたちのことを指す。変化するのは見た目はもちろんのこと、タイプ、特性、技、進化方法等様々であり、種全体で変化したポケモンもいれば、最終進化形だけが変化したポケモンもおる。さらに新たな発見としてはリージョンフォームからのみ進化するポケモンがガラル地方で発見されておるのじゃ」

 

 次はリージョンフォームの説明となり、前に立ったナリヤ博士が話し始めた。オーキドのじーさんがロン毛になるとあんな感じなのか。というか色黒で、違和感すら感じてしまう。別人だとは分かってるんだけども。

 

「それと、元々の姿のリージョンフォームかどうかを判断するのはDNA検査や元々の姿が覚える技を覚えることができるかどうか等いろいろある。では、まずはアローラ地方で確認されたリージョンフォームのポケモンたちをお見せしよう」

 

 さて、どんなポケモンがリージョンフォームをしているのやら。ロコン、キュウコンと首の長いナッシーくらいしか知らないし楽しみだ。

 

「最初はコラッタとラッタじゃ。タイプはどちらもあく・ノーマルタイプ。他のポケモンとの縄張り争いの結果、夜行性となり人間の生活空間にも住み着くようになったとされておる」

 

 コラッタとラッタか。

 カントー地方でもお馴染みのポケモンだな。リージョンフォームしても似たような感じだし。だが、カントー地方にいるのは昼間から活動してるし、生活環境によって昼夜逆転ということもあるのか。

 

「あくタイプが前に来ているのも生活環境が大きく変化し、片やあくタイプの方へと染まっていった表れであろう」

 

 ………確かに。言われてみれば、あくタイプの方が前に来ているな。姿の方に気を取られていて気づかなかった。

 

「次はライチュウじゃな。タイプはでんき・エスパータイプ。アローラ地方には特殊なエネルギーが蔓延しており、そのエネルギーを含んだアローラの雷の石で進化したことでエスパータイプを手に入れたと考えておる。尻尾をサーフボードのようにすることで素早い身のこなしを可能にするところから、特性をサーフテールと名付けられておるようじゃ」

 

 おおう、ライチュウまでか。

 しかも尻尾に乗ってふわふわ移動するとか、なんか画期的だな。

 え、てかアローラの雷の石ってそんなヤバいのか?

 

「これはサンドとサンドパンじゃ。タイプはどちらもこおり・はがねタイプ。元々はハイナ砂漠というアローラ地方の砂漠地帯に生息していたのではないかとされており、同じ島にあるラナキラマウンテン、あるいは隣の島のヴェラ火山の噴火により住処を追われ、ラナキラマウンテンに移動したと考えておる。じゃがラナキラマウンテンは氷山でもあり、その環境に適応するために変化したのじゃろう。特性もすなかきからゆきかきへと変化しておる」

 

 サンドにサンドパンまで………。

 まあでも、俺的にはこっちの方がカッコよく見えるのは気のせいか? それにしてもほのおタイプとかくとうタイプへの耐性が辛いな。

 

「次はロコンとキュウコンじゃな。こちらもこおりタイプへと変化しておる。キュウコンはこおりタイプに加え、フェアリータイプも取得し、雪山の聖霊とまで評されたりしておるんじゃよ。サンドやサンドパンと同様、ロコンたちも住処を追われてラナキラマウンテンに移動し、環境に適応したと考えておる」

 

 これは見たことあるな。

 しかし、白いキュウコンは美しいな。こう、毛並みがサラッとしてる感が出ていて神々しいというか。雪山の聖霊と評されるのも頷ける。

 こいつも相当人気があるんだろうな。

 

「これはディグダとダグトリオじゃ。一見これまでのディグダとダグトリオのようじゃが、頭頂部にヒゲがあるのが分かるかの?」

 

 ヒゲ?

 あのちょこんと頭頂部にあるやつが?

 髪だろあれは。ハゲ頭に毛が一本にしか見えないわ。

 

「ヒゲ………? 髪じゃなく?」

 

 ほら、オーキドのじーさんまでもが聞いてるじゃん。

 てか、アンタも知らなかったのかよ。

 

「髪じゃなくヒゲなんじゃよ。このヒゲは身を隠すところが少ない火山地帯で生活するために、地中から外部の様子を探るレーダーの役割として生えたんじゃ。その影響でダグトリオに進化するとじめん・はがねタイプに変わっておる」

 

 あ、こっちは三本に増えてるわ。それでも三本か。なんか見てる方は悲しくなってくるな。まあ、本人たちはレーダーが増えて、より索敵がしやすくなったってことなんだろうけども。ヒゲの進化ではがねタイプを取得するとは中々乙な変化を遂げているな。

 

「次はニャースとペルシアンじゃな。元々はアローラには生息していなかったポケモンじゃが、王政時代に連れて来られて王政が崩壊した後、野生化したという記録がある。希少種ゆえに贅沢な生活を与えられたせいで、非常に我儘でプライド高くなってしまったようじゃ。そしてタイプもノーマルからあくタイプへと変化してしまったんじゃな」

 

 うわ、これがペルシアンかよ。なんつーか太々しい顔だな。超悪そうだわ。おまけにリージョンフォームした理由も酷いな。贅沢に浸ってしまってああなるとか。メリハリはしっかりつけるべきだというのがこいつらを見てると改めて思い知らされる。

 

「これはイシツブテ、ゴローン、ゴローニャじゃ。全員いわ・でんきタイプである。残念なことに変貌の記録は残されておらん。じゃが、ゴローンがドラバイトという鉱物を好んで食しており、その成分が電気を生み出しでんきタイプを手に入れたのではないかと考えておる。イシツブテやゴローニャもドラバイトを食したゴローンが進化したり、子孫を残したことで変化したのじゃろう」

 

 でんきタイプの要素なくね?

 どっちかっつーとはがねタイプ………もないか。内部電力が外にまで出てると思った方がいいのかね。取り敢えず、あの眉が太いのが印象的だな。あと顎髭か。

 

「ちなみに太い眉のように見えるのは砂鉄じゃ。故にくっつく場所が違う個体も出てくるじゃろう」

 

 え、マジで?

 でんきタイプの要素ってそこなのかよ。確かにあれが砂鉄なら、引き寄せるための磁力を生み出している電気を体内に有しているとも考えられるな。

 

「お次はベトベターとベトベトンじゃ。アローラ地方のゴミ問題をきっかけに連れて来られたようじゃが、ゴミを主食にしておったらこの有様のようじゃ。タイプはどちらもどく・あくタイプ。見た目はカラフルでより危険度は増しているように見えるが、体内で毒素を生成して溜め込んでおるから悪臭はしないんじゃな」

 

 いやいやいや。

 ゴミ食ってたらあんなカラフルになっちゃうとかどんなゴミ食ってたんだよ。そっちの方が気になるわ。しかもあくタイプが追加って………。

 

「これはナッシーじゃ。アローラ地方の日差しは強いからの。その影響で大きく成長したようじゃ。タイプもくさ・ドラゴンとこれまでのナッシーとは異なっておる。またアローラの人々はこっちが元々のナッシーだと考えている者も多いようじゃな」

 

 おおう、これこれ。この首の長いナッシー。確かリーグ大会かなんかで誰か連れてたんじゃなかったっけ?

 進化方法はリーフの石を使うってことでいいんだよな? 雷の石といいアローラの進化の石は恐ろしいな。

 

「最後はガラガラじゃ。アローラ地方には天敵のくさタイプが多く生息しており、ガラガラの生息圏と被ることが多かったようじゃ。そこで仲間との結束を高めることで強い霊感を手にし、炎を生み出せるようになったようじゃな。タイプはほのお・ゴーストタイプ。骨を使って攻撃するのは変わっとらんの」

 

 なんか意外なタイプに変化してるな。しかもタイプ二つ持ちに。あの骨の両端に青い炎を纏わせているのはかっこいいし。元々の姿よりリージョンフォームの姿の方が俺は好きかも。

 ただ、みずタイプに弱いのは変わらないんだな。

 

「取り敢えず、ここまでで気になるようなことはあるかの?」

 

 これでアローラ地方のリージョンフォームは全て出てきたみたいだが、気になることと言えば一つある。

 

「………話を聞いていて一つ疑問に思ったんですけど、アローラ地方の進化の石は他の地方の進化の石とは性質が異なるんですかね。その割にライチュウとナッシーしかリージョンフォームしてませんけど」

「ふむ………、確かに言われてみるとそうじゃのう。仮に雷の石とリーフの石が他地方とは高密度のエネルギーを持っていて、その影響を受けたピカチュウとタマタマが新たな姿を手に入れたと考えたとすると、イーブイなんかも進化した姿が変わっていてもおかしくはない。じゃが、そう事例は一切見受けられんかったし、ないのじゃろうと推測しておる。これはわしの一仮説でしかないが、恐らくアローラ地方特有のエネルギーが関係しているのやもしれん。例えばアローラ地方の雷の石をカロス地方に持っていき、ピカチュウを進化させたとしてもアローラの姿のライチュウには進化せんのじゃ。進化の石だけが影響を与えているとも限らんのじゃろうな」

「なるほど………、だからガラル地方でもリージョンフォームは起きているということですか」

「左様じゃ」

 

 リージョンフォーム。

 その根本的なところにはその地方特有のエネルギーが関係しているということか。アローラ地方にはZ技とかもあるからな。その辺が影響さているのだろう。

 ただ、ともするとカロス地方にもメガシンカがあり、エネルギーだけで言えばアローラ地方と似たような環境とも言えなくもない。だが、リージョンフォームしたポケモンの姿は未だ確認されていないのだから、エネルギーの種類にも関係があると見ていいのかもしれない。

 全く………、ポケモンは不思議な生き物だな。

 

「なら、アローラ地方で進化したイーブイたちが他の地方で進化した時よりも炎なり電気なりを高密度に生成することが出来るようなったとかいう事例とかってあるんですかね」

「さすがにそこまでは研究出来ておらぬ。比較をするにしても二箇所以上で進化した姿を手懐けるか、協力者を煽ぐしかなく、我々では中々そこまで手が出せんのじゃ」

「まあ確かに、メガシンカの研究ですらメガシンカ使い頼りなところはありますからね。今の話を聞いている限りでは、リージョンフォームともなると余計に難しいでしょう」

「では、我々も微力ながらお手伝いいたしましょう。リージョンフォームの方は難しいでしょうが、元の姿の方のポケモンを所持しているトレーナーを見つけることは出来るかと」

「そういうことなら私たちも」

 

 おっと、俺余計なこと言っちゃったかな?

 でもまあ、地方を跨いで有名なダイゴさんとシロナさんが協力してくれるというのなら協力者を煽ぐことも可能だろう。

 

「なら、協会本部に掛け合ってみるのも一つの手かと。あのクソじじいが渋るようなら俺が助言したとでも言えばいい。何ならじーさんの方が交渉には適しているかもな」

「およそ部下の発言とは思えん言葉じゃのう。内部事情を垣間見た気分じゃ。ナリヤ、そっちはわしに任せてほしい」

「うむ、ではよろしく頼む」

 

 よし、これで俺が直接動かされることもないだろう。こっちはメガシンカのことを手伝っていたんだからな。仮にもカロス支部の長をこき使うのは変態だけで充分である。そうでなくとも面倒な話が後々回って来そうで怖い。

 

「さて、次はガラル地方のリージョンフォームをお見せするとしよう。じゃがその前に、わしもガラル地方には行ったことがなくての。ガラル地方のリージョンフォームは研究し始めたばかりで、取り敢えず資料を集めるだけ集めて分かったことしか言えんということを頭に入れておいてほしい」

 

 そう言えば、ナリヤ博士の拠点はアローラ地方だったな。そりゃ現地のリージョンフォームは詳しく調べられてもガラル地方のリージョンフォームは現地に赴かない限り調べられないか。

 

「では、最初はこのポケモンたちじゃ。ニャースとニャイキング。アローラ地方でもリージョンフォームを遂げているがガラル地方でも別種のリージョンフォームを遂げている珍しいポケモンじゃ」

 

 は?

 マジで?

 ニャースの適応力ヤバくね?

 え、てかこれがニャースなのかよ。全体的にボサボサじゃん。

 

「ニャースは海洋民族と暮らしていたようで、その環境に鍛えられて爪や額の小判が黒鉄に変化したと記されておる。毛がボサボサなのも民族に溶け込むためじゃろう。また、これまでのニャースたちとは違い非常に好戦的で、海洋民族と船の上で生活するには四足歩行のペルシアンでは不便なのもあり、その結果ペルシアンとは別のポケモンに進化してしまったようじゃ。それがこのニャイキングである。爪を伸ばせば短剣にもなり、非常に戦いに特化した姿と言えよう。大きさはニャースの頃とあまり変わらず、タイプもニャース共々はがねタイプである」

 

 ニャイキング。

 海洋民族って要は海賊だろ?

 海賊っていうとバイキングが出てくるし、名前もそこから来てるのかね。しかもはがねタイプって………、相当戦いが激化していた可能性もありそうだな。

 

「次はポニータとギャロップじゃ。タイプはポニータがエスパータイプ、ギャロップがエスパー・フェアリータイプとなる。元々ポニータやギャロップの炎には彼らに認められると熱を感じなくなるという不思議な現象があった。そして物凄い脚力の持ち主でもあり、その二点が環境に合わせて変化していったのではないかとわしは考えておる。まだ実際に目にしたわけではないため、何とも言えぬのが現状じゃな」

 

 なるほど。

 それはそうかもしれない。

 ポニータやギャロップ自体がそもそも不思議な炎を有していたのだ。それが根本的にポニータやギャロップが持つ特有の力であるとするならば、環境次第ではリージョンフォームしていてもおかしくないな。それもエスパーとフェアリータイプとくれば、首も大きく縦に振れる。

 いっそ翼が生えて空を飛ぶ姿とかも見たかったと思わなくもないがな。それはそれ、これはこれである。

 

「お次はカモネギとネギガナイトというポケモンじゃ。ガラル地方のネギは太くて長い品種で、そのネギを使いこなすうちに独自の変化を遂げたとされておる。そして歴戦を戦い抜いた者がネギガナイトに進化するとされているが、詳しい進化方法はまだ分かっておらん。タイプはどちらもかくとうタイプ。飛ぶことを捨て陸上で戦い抜くことを選んだ珍しいポケモンじゃな」

 

 おいマジか。

 カモネギさん、翼を残したまま飛ぶことを捨てちゃいましたよ。リージョンフォームって怖っ?!

 そういうパターンもマジであるんだな。

 んで、進化したらしたでネギを矛と盾にしちゃってるし。それほど翼よりもネギが大事だったんですね………。

 

「バリヤードにバリコオルというポケモンじゃ。こおり・エスパータイプに変化したとしか言えることはない。進化前のマネネはどうやらリージョンフォームを遂げてないようで、ガラル地方にこれまでの姿で生息しておる。ガラル地方が寒いから適応するために進化の際にタイプも変化したのかもしれんが、何も分かっておらん」

 

 これはどこの大道芸人なんでしょうね………。

 あんな服着た人、探せば普通にいるぞ。

 しかもガラル地方でもリージョンフォームしてこおりタイプを獲得するんだな。リージョンフォームでのこおりタイプ率の多さときたら………。

 

「これはサニーゴとその進化形のサニゴーンというポケモンじゃ。太古の海に生息していたようじゃが、隕石の落下で絶滅した後の姿とされておる。タイプはどちらもゴーストタイプ。サニゴーンはサニーゴの霊力が限界に達して殻を破ったようじゃ。そのため下手に触って刺激を与えれば石のように動けなくなるとも記されておった。普段は枝を伸ばさずただただ丸い姿になっているようで、気づかずに踏みつけられてしまうというパターンもあるようじゃな」

 

 ………………。

 おいこれ、絶対死んでも死に切れなかったやつじゃねぇの?!

 つーか、どこかで見たこと………あっ!?

 

「先輩………?」

「………………」

 

 似たようなポケモンの写真をユイが送ってくれていたことを思い出し、ホロキャスターに写し出してみた。

 手元にある資料と交互に見返し、スクリーンに大きく写し出された白いサニーゴと見返した。

 ………やはり似ている。

 

「………おや、ハチマン? どうかしたかの?」

「あ、これ、ユイ先輩の……!」

「………トゲを取ったらフォルムが似てるな」

「ん? ………あ、本当だね。ガラルのサニーゴに似てるね」

 

 そんなことをしていたら、プラターヌ博士が横から覗き込んできた。オーキドのじーさんも俺が眉をひそめているのに気づいた。

 

「ガラルのサニーゴを知っとるのか?!」

「あ、いや、ユイ………カロスにいる俺の大事な奴が捕まえたみたいでな。捕まえたはいいけど、見たことのないポケモンだって言ってきて写真を送ってもらったんだ」

「プラターヌ博士」

「僕も初めて見ましたが、特徴はどこも似ているかと。ただし、触覚といいますかトゲがない姿、みたいな感じですね」

「データの共有はできるか?」

「ホロキャスターでできるんすか?」

「貸せ。オレがやる」

 

 えー………。

 そこで出てくるのかよ。

 

「なんだその目は」

「いや、機械に強かったっけと思って」

「機種の互換がなくともデータの抜き取りだけならできるんだよ」

 

 グリーンはそう言いながらも俺のところにまで来て、手を出して差し出してきた。

 その手は渡せということか。

 

「………壊すなよ?」

「安心しろ。もし壊れたら新しいのはオレが責任を持って買ってやる」

 

 それはそれで嫌なんだけど。

 何が悲しくてグリーンからプレゼントされなきゃならねぇんだよ。壊れないことを強く願おう。

 

「出てこい、ポリゴン2」

 

 あー、そういうこと。

 そりゃ、いけるか。ザイモクザもそういうのZにさせてるし。

 ……うん、もうタネは分かったし安心だわ。

 

「ホロキャスターの中からこの画像を俺の図鑑にコピーして送信してきてくれ」

 

 グリーンがそう言うと、ポリゴン2はポケモン図鑑の中へと潜り込んでいった。

 よく見ると図鑑の側面に小さい鉄板があり、そこを通して潜り込んだようだ。ザイモクザの場合はボールを通して直接機械に潜らせているが、ポケモン図鑑だとこういうやり方になるのか。

 

「………お、来たか」

 

 どうやら早速データが届いたらしい。

 仕事がお早いことで。というかポリゴン2だったんだな。Zに進化させてはいなかったのか。

 

「おじいちゃん」

「うむ、…………ナリヤ」

「ほほー、こりゃ正真正銘サニーゴのガラルの姿じゃな」

 

 やはりそうなのか。

 ユイが捕まえたという白いポケモンはサニーゴのリージョンフォームだったんだな。そりゃ、既視感を覚えてもしょうがない。サニーゴ自体は知っているんだからな。

 

「サニーゴの特徴的な枝はないけど?」

「うむ、ガラル地方のサニーゴはゴーストタイプのポケモン。リージョンフォームした時には枝のない丸い形のもので誕生したと考えられておる。このスクリーンの写真は自ら大きく見せるためのサイコパワーに近い力で石などを浮かせておるんじゃ。そのため、白いサニーゴの本来の姿はこっちというわけじゃよ」

「な、なるほど………取り敢えず共有するよ」

「みんなにも見せてやっておくれ」

 

 グリーンが図鑑からパソコンにデータを送信し、ユイが撮った写真がスクリーンの右側に写し出された。左側には今まで写し出されていた方の写真があり、比較できるように表示されている。

 

「………確かに似てるわね」

「ここをこう隠してみるとどうじゃ?」

 

 っ?!

 確かに、そうやって見ればユイが捕まえた白いポケモンと一緒だわ。

 ナリヤ博士がスクリーンの白いサニーゴの枝の部分を隠してみせてきた。それだけでユイが捕まえたポケモンと同一だと分かった。

 でもそうなると………。

 

「これはカロス地方で捕まえたのか?」

「ああ、ただ場所が場所だ。捕まえたのはマスタータワーがあった浜だ。位置的に考えて海を渡って来たんだと思う」

 

 グリーンが捕獲場所の特定をしてきた。

 新たなポケモンをどこで捕まえたかというのは、この世界では重要視されてるからな。祖父に仕込まれているグリーンなら、いや………頭脳派の図鑑所有者なら当然のことだろう。

 

「群をなしていなかったんじゃな?」

「ユイが言うにはな。襲ってきたのはそいつだけだったらしい」

「つまり、カロス地方に生息していると考えるにはまだ早いようじゃな」

「一体だけでは生態系の変化とは言えないからな。俺も迷い込んだ一体くらいに捉えている」

 

 これが大群で押し寄せてきたって話なら、新たな生息地の発見ってなったんだろうが、一体だけではそうとは考えづらい。

 

「ただ、夜中だったからな。昼間にまた調査する必要はあると思うぞ」

「そうじゃな。ガラルのサニーゴはワイルドエリアという広大な大地に生息しているらしい。つまり内陸なのじゃ。じゃからどうやってカロス地方の海にやってきたのかは突き詰める必要があるじゃろうな」

 

 分からないことは調べるに限る。

 これで帰ってからの課題が一つ明確になったな。

 

「ちなみに時間帯は?」

「昨日の夜更けだな。こんな時間に何やってんだって思ったし」

「そんな遅い時間だったのかい?」

「なんかルガルガンが………そういえば、ついさっき進化したとか言ってたな」

 

 途中でカメラを持たせてたし。目も紅かったしなー。夜中にあの目を見るのは怖いと思うんだが、俺だけか?

 

「イワンコが飛び出していったかと思えば進化しちゃったって言ってましたよ、先輩」

「ああ、そうだっけ? まあ、というわけらしい」

「なるほど、そういうことか」

「おや、ククイ博士。何かお判りになったんですか?」

「ああ、話を聞く分にはイワンコが真夜中に急に飛び出していき、海に向かって雄叫びを上げて進化した。だが、その雄叫びに驚いた白いサニーゴが襲ってきたというところだろう」

 

 ニヤっと不敵な笑みを浮かべたのに一早くダイゴさんが反応した。

 

「イワンコは進化する際、トレーナーの元を離れる習性がある。そして進化の際も雄叫びを上げるのが常だ。今回はその一連の流れが白いサニーゴを呼び寄せてしまったと考えられる」

 

 あー、それは大いにありそうだな。態々海にまで行って進化したんだし。進化する際に雄叫びを上げられる場所に移動するためにトレーナーの元から離れるとも考えられる。

 

「ちなみに進化したのはルガルガンの真夜中の姿にだろ?」

「目が紅くて二足歩行だったし恐らくは」

「ククイ博士、ルガルガンというポケモンはいくつかの姿があるのかな?」

「あ、はい。ハニー、イワンコとルガルガンの画像出せるかい?」

「ええ、任せて」

 

 ククイ博士がそう言うと、嫁さんのバーネット博士がタブレットをいじって一体のポケモンを写し出した。

 

「えー、まずはこちらがイワンコというポケモンです。いわタイプのポケモンで人懐っこいポケモンなんですが、進化の予兆が現れるとトレーナーの元を離れる習性があるんです」

 

 イワンコ。

 ユイがどこぞの誰かからもらったらしいいわタイプのポケモン。もらったはいいけど知らないポケモンだから調べて欲しいってことで、ユキノが調べていたのを覚えている。その流れでククイ博士からイワンコとルガルガンの資料をもらい、俺も目を通していたため幾ばくかは知っている。

 

「そしてこちらがルガルガンになります。進化する時間帯によって姿が異なる珍しいポケモンです。昼にーー太陽が昇っている時に進化すると左の真昼の姿に。夜ーー太陽が沈んでいる時に進化すると右の真夜中の姿になります」

 

 画像が切り替わり今度は二体のポケモンが写し出された。

 左の四足歩行のポケモンがルガルガンの真昼の姿。幼い印象のイワンコから風格のあるルガルガンへと成長したような姿だ。反対に右の二足歩行のルガルガンは真夜中の姿というらしい。猫背で目と体色が紅く、怒ると怖そうな印象だ。

 

「それともう一つ」

 

 ん?

 

「ルガゥ!」

 

 え?

 

「む、色違いっ?」

「真昼の姿と似ているな」

 

 はっ?

 マジで………?

 もう一種類いたのん?

 

「似てはいますが別の姿と見ています。その名も黄昏の姿!」

 

 画像ではなく実物をボールから出してきたククイ博士。

 実はこれを披露したくて機を伺ってたんじゃないだろうか。

 だって、今日の議題一覧にはない話だし。

 

「進化した時間帯が太陽が沈む時というかなり珍しいタイミングでした。立ち会わせた時には半分太陽が海に沈んでおり、深いオレンジ色になっていたのを覚えています。また、その太陽の外縁に緑色の光が見えました。その瞬間に進化が始まったため調べてみたところグリーンフラッシュという現象だったようです」

 

 ぶふっ?!

 ヤバい。

 グリーンフラッシュと聞いてグリーンの頭が光るイメージしか出てこなかった。こんなこと冗談でも口に出そうものなら殺されそうだが、この状況下ではそうイメージしても仕方ないだろう。そう思いたい。

 だって、そこにグリーンがいて技にフラッシュってのがあるんだし。

 

「先輩、どうしたんですか? 顔が気持ち悪いことになってますよ?」

「いや、何でもない。どうでもいいことを想像してしまっただけだ。それと気持ち悪くなってるのは自覚してるから口に出すのはやめてね」

 

 いや、急に隣で気持ち悪い顔がさらに気持ち悪くなったらそりゃ気になるだろうけども。俺だって気になるさ。でも口に出さないで欲しい時もあるってもんなんだよ。

 

「実は昔から稀に確認されていたみたいなんです。ただあまりにも真昼の姿に似ているため、色違いや奇形と考えられていたみたいなんですよ。オレも進化を目の当たりにするまではその違いに気づくこともなかったでしょう」

「なるほど、確かに判断は難しいな。だが、よく見ると所々違う点も見受けられる」

「ええ、それで使える技等も調べた結果、真昼の姿でしか覚えないアクセルロックや真夜中の姿でしか覚えないカウンターを使えることが分かりました」

「ど真ん中じゃな」

「それで、黄昏時に進化したということで黄昏の姿と名付けた次第です」

 

 リージョンフォームは元々の姿が覚える技の中から使える技があるかで判断することもあるようだが、姿違いになるとその逆で覚える覚えないで判断していくんだもんな。話は脱線したものの意外と対局的な話でタイミングはよかったと思う。この人、見た目はこんなんだが結構やり手なのかもしれない。

 

「これは登録案件じゃな」

「うむ、わたしも是非協力しよう」

「話は脱線してしまったが、これはこれで収穫ものじゃったな。カロスでの白いサニーゴの発見。アローラでの新たな進化方法。記録に残すには充分に値する話じゃった」

 

 俺もユイが捕まえたポケモンの正体が知れたのは収穫物だったしな。これだけの頭脳が一堂に会する機会に参加できたのは大きい経験だ。

 

「では気を取り直して。次はジグザグマ、マッスグマ、タチフサグマじゃな。この種族は少々特殊で、こちらの姿の方が原種とされておる。そのためある意味ホウエン地方で登録されたジグザグマ、マッスグマの方がリージョンフォームと言ってもいいかもしれんな。またガラル地方のマッスグマには進化形があり、それがこのタチフサグマというポケモンじゃ。タイプは全員あく・ノーマルタイプ。好戦的で向こう見ずな種族である」

 

 忘れていたが、まだリージョンフォームは残っていたんだったな。

 ナリヤ博士がスクリーンを切り替えて写し出したのは黒い模様が入ったジグザグマとマッスグマ。それに立ち上がったポケモンだった。名前はタチフサグマか。

 あ、てかこっちが原種なの?

 リージョンフォームなのはホウエン地方の方ってか。そういうパターンもあるんだな。しかもあく・ノーマルからノーマル単タイプへ。環境によって変化するってのがリージョンフォームだし、ホウエン地方はそれだけ穏やかってことなのかね。というか進化も捨てたってことだろ?

 ある意味退化になるのでは………?

 

「最後はダルマッカとヒヒダルマじゃ。と言っても皆にはあまり馴染みのないポケモンじゃろう。元々ダルマッカとヒヒダルマはイッシュ地方に生息し、他の地方で見かけることはなかったんじゃが、どうやらガラル地方では寒冷化に適応して生息しているようじゃな。タイプはどちらもこおりタイプ。ちなみに元々はほのおタイプじゃ。それとヒヒダルマにはダルマモードという特性があり、体力が減ってくるとフォルムチェンジをするらしいぞ」

 

 なんか最後は雪だるまみたいなやつだな。

 ダルマッカにヒヒダルマか。実物を見たことはないし、リージョンフォームは以ての外。しかも特性によるフォルムチェンジ持ちときた。中々に興味深いポケモンだな。

 

「大分サラッとした説明になってしまったが、お配りした資料にわしが知る限りの情報はまとめてあるので、そちらで補完していただけると幸いじゃ。それと付け加えておくならば、これだけがリージョンフォームとは限らん。これはわしの知る限りのほんの一部にしか過ぎん。故に新たな姿を見つけた時には是非とも知らせてほしい」

 

 リージョンフォームはまだまだいると見ていいのだろう。というかリージョンフォームこそが世界中にポケモンが存在している鍵なんじゃないかとすら思えてくる。

 

「おや、ユキナリ。どうかしたかの?」

「今回出席されなかったマグノリア博士の案件なんじゃがな。ガラル地方にはダイマックスという現象があるようじゃ。何でもポケモンが巨大化するのだとか。詳しいことはマグノリア博士にご説明願うつもりだったんじゃが………ハチマンは何か知らぬか?」

 

 はっ?

 何でいきなり俺に振るわけ?

 

「は? 俺が? 知るわけないでしょ、ガラル地方に行ったこともないんだし。コマチから聞いたのだってじーさんの情報程度でしかないぞ。そもそも何で俺に聞くんだよ」

「そりゃ、お前さんが一番知ってそうじゃからな」

「ないない。ここに専門家がいるってのにZ技もよく分かってないんだぞ。ほとんど実体験のないことなんて分かるわけないだろ」

「ふむ、となるとやはり誰かを送った方がいいんじゃろうか」

「俺は無理だからな。コマチの付き添いだって断らなくちゃいけなかったんだぞ」

「しょうがないのう。こっちで考えるとするか」

 

 酷い話だ。

 何を根拠に俺が知ってると思ったのだろうか。そりゃ情報が集まりやすい立場ではあるが、それはパイプがあるところからだけであってガラル地方にはパイプなんてものが一切ない。強いて言えばコマチとトツカくらいだろうが、あいつらも全てを理解してるわけではないし、聞いた話もじーさんの持つ情報とさして変わらなかったぞ。

 

「あの………」

「ん? イロハ、どうかしたか?」

「その………ダイマックスについてなんですけど、コマチちゃんから小耳に挟んだことがありまして………」

「コマチから?」

「はい、なんでもガラル地方のチャンピオンのダンデとかいう人はダイマックスを使えるみたいなんですけど、その対象者であるリザードンがダイマックスすると姿を変えるとか言ってました」

 

 え、俺知らないんだけど。

 コマチちゃん?

 そういうのはもっと早くに教えてね?

 

「姿を変える………? メガシンカみたいにか?」

 

 それにしても姿を変えて巨大化とか、もはや誰ってことにはならないのだろうか。

 

「恐らく………。私も実際に姿を見たわけじゃないので何とも言えませんけど、コマチちゃんが言うにはテレビ放送されていたチャンピオンのバトルではそうだったと」

「ふむ………ダイマックスはそのままの姿で巨大化すると聞いておる。とするとそのリザードンの変化現象はダイマックスでありダイマックスでないのかもしれんな」

 

 まさかのリザードンかよ。

 あれ? ひょっとするとうちのリザードンさんも巨大化しちゃったりするのん? 今の強さで? ヤバくね? 街一つ余裕で破壊できそうだわ。

 

「………ある特定のポケモンにのみ起こる現象、と考えた方がいいかもしれませんね。俺の研究対象でもあるZ技にも特定のポケモンにのみ使えるZクリスタルがあります。例えば先程のルガルガンにはほのおタイプのZクリスタルなどの使える技の各タイプのZ技が使えますが、その他にストーンエッジをZ技に変えるルガルガンだけのルガルガンZというものが存在します。こちらでもそういう特別性とでもいいますか、その他大勢とは異なる存在というものがありますし、ダイマックスにおいても特別性があると考えておく余地はあるかもしれませんよ」

 

 あー、そういえばコマチはカビゴンZなるものを持ってたもんな。他の特定のポケモンにのみ存在するZ技があってもおかしくないわな。

 

「なるほど………」

「そうですね。メガシンカにおいてもゲッコウガのようなメガシンカでありながらメガシンカでない存在もいることですし」

 

 メガシンカにしろZ技にしろ特別な存在というものがあり、その特殊性が歴史に大きく影響を与えてきているのだろう。そしてそれはダイマックスなるものも同じなのだと思う。巨大化してなお、更なる力を求めた結果、姿をも変化させてしまったのだ。

 結局、ポケモンは何事においても環境とその変化に左右されていく存在なのだろう。まあ、それは人間にも言えたことではあるが。

 

「………小さくなったり大きくなったり。ポケモンの細胞ってどうなってるんですかね」

「ほんとじゃのう………」

 

 うーんと頭を唸らせているとイロハが率直な感想を述べた。それに同意したのはナリヤ博士の方。声だけ聞くと全く判別がつかない。

 

「だが、元々モンスターボールの開発にはポケモンが小さくなる現象が基となっている。それを考えるとポケモンが巨大化するのも何らおかしいことではないだろう」

「そうですな。ではダイマックスにはそのままの姿で巨大化するポケモンもいれば、姿を変えて巨大化するポケモンもいるという認識を持っておくことにしよう。あとはわしの方で詳しく調べてみるとする」

 

 ダイマックス、か。

 これも帰ってからの調査案件だな。

 もしかしたらリザードンに新たな力を与えられるかもしれないし、適合しないならそれはそれでいい。

 まずはどういう代物かを知ることの方が大事だ。



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ぼーなすとらっく22『有識者会議 その4』

次回で恐らく会談の方は終わるでしょう。
その次からはいよいよバトルに入れるかと………。


「えーと、次はなんじゃったかな………」

「伝説ポケモンの進化についてですわ、オーキド博士」

「おお、そうじゃった」

「では、ククイ博士。お願いします」

 

 議題は移り、次は伝説ポケモンの進化についてらしい。

 確かにこれまで確認されてきた伝説ポケモンは全て進化しないポケモンたちだった。精々フォルムチェンジやメガシンカといった姿を変化させてパワーアップというものくらいだ。

 

「本来、オレの研究とはかけ離れた内容になりますが、恐らく他に確認されている事例がないものだと思い用意してきました」

 

 ただ、俺は特殊な例を知っている。人工的に伝説ポケモンに進化させる方法を。イロハの祖父イッシキ博士が考案したとされる計画、『レジェンドポケモンシフト計画』。そしてそれを踏まえた『プロジェクトμ’s』。俺とリザードンはこの実験の被験体であり、成功者でもある。ただし、今現在はそれも叶わないがな。力の媒体となるメガストーンがぶっ壊れちゃどうにもならん。

 ここで話すつもりもないが、どうかこんな非現実的な実験によるものでないことを祈りたい。

 

「実はアローラ地方の伝承に残されている話が関係しているので、そちらから。アローラ地方の四つの島にはそれぞれ守り神として祀られているカプ神がいます。メレメレ島にはカプ・コケコ。アーカラ島にはカプ・テテフ。ウラウラ島にはカプ・ブルル。ポニ島にはカプ・レヒレ。この四体によってアローラ地方は守られてきたのです。しかし、突如として空に現れた裂け目から太陽を食いし獣ソルガレオ、月を誘いし獣ルナアーラが現れ、持てる全ての力を使いカプ神を従えました。その後、ソルガレオとルナアーラの間にコスモッグというポケモンが生まれたのです。そして、このコスモッグこそが進化する伝説のポケモンなのです」

 

 へぇー。

 アローラ地方ってそういうところだったのか。

 プラターヌ博士を通じてアローラ地方のポケモンの資料とかも目を通してはいたが、確かに地域特性なるものまでは把握していなかったな。

 

「コスモッグは進化するとコスモウムというポケモンになり、その後ソルガレオまたはルナアーラに進化します。これにより彼らは複数の個体が存在するポケモンだと考えられます」

 

 コスモッグ、コスモウム、そしてソルガレオにルナアーラ。進化するという点もだが、同時に分岐進化というところも着目してもいいだろう。

 しかし、太陽を食いし獣に月を誘いし獣か。分岐らしく太陽と月という対比。やはり何か特殊な力が働いたと考えるのが自然かもしれない。まあ、それは自然界の中での話であり、人工的なものは一切ないだろうけども。

 

「うーむ、一つ進化する伝説のポケモンとまではいかないが、マナフィというポケモンからフィオネという別のポケモンが生まれた事例はある。それもここ数年の出来事だ。わたしもこの目で確認している。ただ、フィオネがマナフィに進化するのかは未だ不明だ」

 

 え、それ初耳なんだけど。

 そういうパターンもあったのかよ。

 これ、フィオネとやらがマナフィに進化しなかったら超特殊な例になるんじゃねぇの?

 

「伝説のポケモンといえどポケモンはポケモン。されど伝説のポケモン。分からないことが多い分、子孫をどうしているのか、それとも永遠の存在なのか、こういう分け方もできるかもしれませんね」

 

 うわ、横でなんかすげぇいい事言いましたよ感を感じるんだけど。

 

「なるほどのう」

「伝説といっても様々なパターンがありますからね。案外、伝説のポケモンという括り方が漠然としているのかもしれないですよ」

 

 オーキドのじーさんは深く唸っているが、俺たちが知っているポケモンなんて世界の極わずかでしかないだろ。そこにあーだこーだ理論を組み立てて法則を作って該当ポケモンを当てはめているにすぎない。言ったら、そんな人間の法則に従う程ポケットモンスターという存在は甘くないということだ。だから新たなパターンが出てきたところで何らおかしなことはない。

 と、じーさんを見てそんなことを考えていたら目が合った。

 

「ハチマンはどう思う?」

 

 するとニヤリと笑みを浮かべて俺に話を振ってきやがった。

 

「え? 俺に振る?」

 

 さすがに俺も驚いてしまい、率直に言葉が出てきてしまったが、それも全部俺に話を振ったじーさんが悪い。だからそんなに睨むなよ、グリーン。

 さて、どう答えたものか。

 話題は伝説ポケモンの進化について。その肝となったソルガレオないしルナアーラ。この二体はその昔アローラ地方の空に突如として現れた裂け目からやってきてカプたちを従えた。そしてコスモッグを生み落とした。伝説に名を残したのはやはり島の守り神たちを従えたからだろう。しかも子孫までを残して。

 だが、何故ソルガレオとルナアーラはアローラ地方に来てまでそんなことをしたんだ?

 別に空の裂け目に…………裂け目………裂け目ねぇ……………。

 

「………そもそもそのソルガレオとルナアーラはこちら側のポケモンじゃないでしょ。なら、まずはそこも分別していくべきなんじゃないかと思いますけどね」

 

 時空の狭間だの世界の裏側だの、そういう輩は前々から知られてるじゃねぇか。

 だったら、そこを棲み分けて考えてしまえばいい。

 こちら側とあちら側。

 門となるのは何かしらの空間を貫く穴。それを境界線として今現在のポケモンを分類し直すというのも手だろ。

 

「君は彼らがどういう存在なのか知ってるのかい?」

「いや? 初見ですけど?」

 

 何を急に。

 俺が知ってるわけないだろうが、変態博士2号。

 

「けど、俺はあちら側のポケモンも知っている。しかもそいつらは特異性を持つそこら辺のポケモンとは系統が異なる伝説に名を残すポケモンだ。だけど、そいつらにはある共通点があります」

「それは………?」

 

 これは何を言い出すのかという目だな。一瞬、眉間に皺ができたぞ。

 

「あいつらはこちら側に来る際に空やら地面に穴ーーこの場合裂け目と表現した方がいいかもですけど、それがゲートとなってこちら側の世界に現れ、裂け目が消えたらその周辺の空間は元通りになるんです」

「「っ?!」」

 

 今度は夫婦揃って俺を見て眉を上げた。

 

「………そう言われるとあの時ギラティナは大きい穴を開けてこちらの世界に来たわね。それが分かっていたから不意を突くことができたのだけれど」

 

 ふぅ、なんかシロナさんが落ち着いて呟いてくれたおかけで、ほっとしたわ。怖いよ、あの夫婦。目がギランギランしてる。食いつきすぎじゃね?

 というか、シロナさんもギラティナと対峙したことがあるのか。

 だから俺が言いたかった名に行き着いたわけだ。

 

「個体差はあると思いますが、俺の知っているダークライは裂け目を生み出し、破れた世界にもいくことができますよ」

「あら、ダークライもなのね。だったら何故あのダークライはあの戦いにーーー?」

 

 どうやらシロナさんには過去のダークライに引っかかるところがあったようだ。まさかあいつだったりしないよな………?

 

「裂け目といえばもう一つ。これから説明する内容にもなりますが、UBーーウルトラビーストも同様に空に裂け目を開けてやってきます。オーキド博士、このままウルトラビーストの説明に移ってもよろしいですか?」

「うむ」

 

 え、もう次行っちゃうの?

 えっと、次はウルトラビースト………空に裂け目が開き………そういうことか。

 

「アローラ地方では度々空に裂け目が開き、そこから生物がやってくるという現象が確認されていました。ここにいるバーネットもその裂け目からやってくる生物について研究している一人です」

「わたしたちはその裂け目をウルトラホール、裂け目からやってくる生物をUBーーウルトラビーストと称し、日々研究してきました。ウルトラビーストはこちらの世界に降り立つと破壊活動やわたしたちの生活環境を著しく損なわせる行為を行い、非常に危険視されている生物です」

 

 つまるところアローラ地方には空の裂け目から伝説ポケモンなりウルトラビーストなり、色んな生物が入り込んで来ていたというわけか。なら、伝説ポケモン二体とウルトラビーストとやらは同一系統のポケモン………ポケモンと表していいのか分からんが、同じような存在ってことにはならないのか?

 それこそさっきの俺の考えたこちら側とあちら側の世界のポケモンとして分類するってのが効果的なように思えるんだが。

 

「ウルトラホール自体を研究しようとした者もいますが、残念ながら裂け目の向こう側へ行ったっきり帰って来ないという事例がいくつもあります」

 

 何という無茶なことを………。

 どこに帰れる保証があったのだろうか。それとも興味本位だけで身を投じたバカな奴なんだろうか。どちらにしても生きてはいないだろうな。

 

「しかしながら、約一年前の話にはなりますがアローラ地方では一つの事件が起きました。その事件は開始から半年もの間アローラ地方を恐怖に陥れるウルトラビーストの楽園が形成されていました。それにより数々のウルトラビーストがアローラ地方に降り立ち、猛威を奮い、またわたしたちがこれまで観測してきたウルトラビースト以外の姿も発見されたため、これからそちらも含めてご紹介していこうと思います」

 

 え、一年前から半年もかけて?

 ってことは収束したのは半年くらい前ってことか?

 その時期って確かルミルミがアローラ地方に行ってなかったっけ?

 ん? あれ?

 そういや何か大変なことになってるとか言ってたような…………。

 

「では改めて。アローラ地方で猛威を奮ったUBーーウルトラビーストについて情報共有させていただきます。まず、ウルトラビーストとは異空間世界に存在する生物の内、特に危険生物として特定された生き物を指します。国際警察の方でも調査されており、あちら側の住人との接触が既に行われていました。オレたちよりも遥かに詳しい情報を得ていることから協力を仰いだところ、ウルトラホールの先にある様々な世界の情報を共有させていただくことができました。オレたちの方でも現在エーテル財団のご子息グラジオの協力を経て、ウルトラホールの先の世界について調査しているところです。今回は協力を経て得たデータを基にウルトラビーストについて紹介していきます」

 

 国際警察も絡んでるのか。

 事は地方のみで考える事態ではないみたいだな。

 つか、国際警察ってあの人がいたよな。

 

「まずはこのウツロイドというウルトラビーストです」

 

 ッ?!

 こいつは………っ!!

 

「帽子を被った少女のようにも見えるシルエットですが、その実人間に寄生した例があり、恐らく人やポケモンに寄生して操ることができるのだと考えられる非常に危険な存在です。また、タイプはいわ・どくタイプ。加えて、ウルトラビーストはそれぞれの異空間とも呼ぶべき世界を有しており、そこにそのウルトラビーストのみが生息していると考えられます。ウツロイドの世界は特に何もない洞窟のようなところであり、ウルトラディープシーと称されているようです。国際警察では特に危険な区域として特定しています」

 

 初っ端からとんでもないのをぶち込んできたな。

 スクリーンに写された白い生物に俺は心当たりがある。遭遇の仕方も今日の内容で説明がつく。

 こいつは、ウツロイドなるウルトラビーストはカロス地方に二度、11番道路とレンリステーションに現れている。それも裂け目を通って現れ帰っていった。

 しかも…………。

 

「…………お前だったのか」

 

 一体は何故か俺のハイパーボールに入ってしまった。俺が捕まえたわけじゃない。ゲッコウガでもない。ヤツが勝手に、自らの意思でボールに入ったのだ。

 こんな形で正体が判明するのも何とも言い難いものがあるが、俺はウルトラビーストに連れられ、ヤツらの世界に一度行ったことになる。

 なら、あの託された丸い石は何なんだ? 一応持ってきてはいるが、これは出さない方がよかったりするのか?

 

「これはマッシブーンというウルトラビーストです。膨張する真っ赤な筋肉が特徴的な体躯で、体当たり一つでものすごい威力を誇る存在です。タイプはむし・かくとうタイプ。マッシブーンの世界は草や木々に覆われており、ウルトラジャングルと称されているようです」

 

 マッチョかよ。

 白いののせいで全然話が入って来ねぇわ。

 

「次はフェローチェというウルトラビーストです。相手を魅了する力があり、雌雄関係なく虜にされてしまう非常に危険な存在で、脚力とそれによる移動速度がウルトラビースト随一と見ています。前出のマッシブーンとは異なる性質ですが、タイプは同じくむし・かくとうタイプ。フェローチェの世界はマッシブーンの世界で火山が噴火し、木々が枯れ果てたような砂地や岩石に覆われており、ウルトラデザートと称されているようです」

 

 こっちの白いのはどうでもいいんだって。

 取り敢えず、ウツロイドだ。

 どうするよ。今ここでウツロイド連れてます、なんてことを言ったらどういう反応をされるんだ?

 いや、きっと反社会勢力とか見なされそうだな。というか絶対グリーンあたりがアクションを起こしてくる。そうなれば他の図鑑所有者たちも黙ってはいないはず。となるとクチバジムは吹っ飛ぶだろうな。

 

「四体目はデンジュモクというウルトラビーストです。このデンジュモクは国際警察の方にも資料がなかったようで、オレたちの方で樹木のような見た目で放電していたところからデンジュモクと名付けました。タイプはでんきタイプ。デンジュモクの世界は他とは異質で黒く太いコードのような道が結束バンドでいくつも束ねられ張り巡らされています。発見者はグラジオであり、オレたちの方でウルトラプラントと名付けました。この世界では道から落ちた者は命がないでしょう」

 

 いっそ図鑑所有者たちと対立関係を築くか?

 ロケット団が表にいない今、俺が新たな火種になりかけているのは明白だ。それこそウツロイドが俺のボールに入った時点で事は起きている。そうでなくともカロス地方では何かしらが裏で動いているのだ。

 例えばカラマネロ。あの三体は一体何が目的で育て屋を襲撃してきたのか。一見、じじいを襲いに来たとも見えるが本当にそうなのだろうか。ゲッコウガの感触からはあいつら同等、あるいはそれ以上の手練れらしい。戦闘力だけでいえばフレア団をも上回るだろう。

 …………ところで、あれは何だ? おおよそ生き物には見えねぇな。ウツロイドの方がまだ可愛げがあるわ。能力はくそ怖いけども。

 

「続いてはテッカグヤというウルトラビーストです。見た目が竹のように見え、くさタイプかとも思えますが、タイプははがね・ひこうタイプ。ウツロイドら程何かが危険ということはありませんが、一度空を飛ぼうと発射準備を始めると周りの空気を取り込み、高密度のエネルギーを生み出し、発射されるとそれが一気に放出されるため甚大な被害が出ました。テッカグヤの世界ーーウルトラバレーを訪れたグラジオの証言からは森が一つ消える程だということが分かっています」

 

 さて、どうしたものか。

 話を聞く限り、ウルトラビーストは人の手に余る能力を持っているのは明白。ボールに入っているからといって、指示を聞き取るのかどうか怪しいところだ。ゲッコウガも会話が成立しないと言っていた。バトルという概念も持ってなさそうだし、ウツロイド自身が身の危険を感じる状況にならなければ戦闘に参加するとも思えない。というかボールに出した時点で、毒を振りまいて俺たちを支配する可能性だってあるだろう。

 

「そしてテッカグヤとは対照的な大きさであるウルトラビーストはカミツルギというウルトラビーストです。タイプはくさ・はがねタイプ。ウルトラビーストはおろか全ポケモンの中でもとても軽量型のウルトラビーストになります。カミツルギは何かと物を斬りたがる習性があり、何にでも斬れてしまうその身の刀ゆえに国際警察では特に危険なウルトラビーストとしてマークしています。カミツルギの世界はウルトラフォレストと称され、特にこれといった特徴のない世界という点がとても特徴的だったとグラジオが証言していました」

 

 ああ、なんて面倒なものと出会ってしまったかね。いっそこのカミツルギとやらに斬ってもらいたいわ。

 そういや、そもそもの話、何でウツロイドは11番道路で大量発生していたんだ?

 確か人間を襲っていたみたいだが、いたのは………シャムと男が一人。このシャムという女が果たしてあのシャムなのかどうか、調べてはみたものの仮面の男事件は十年近く前の話だ。資料に残されたわずかな写真でも十年も経れば顔が変わっていて判断が難しいところ。ただ、あの相方の男の反応。あれは俺を恐怖の対象として見ていた目だ。それが意味するのは裏社会、なのだろう。

 

「次はアクジキングと呼ばれるウルトラビーストになります。このウルトラビーストは国際警察でもトップの危険生物として認定されています。その所以はアクジキングのこの巨大な口の奥にあり、アクジキングの体内はブラックホールと化しているようです。ゆえに食欲旺盛で何もかもを呑み込み、また食べ続ける。気性も荒く、食事の邪魔されればその口で一呑みされる。この点からウルトラホールの奥に広がる様々な世界を消滅させてきたのではないかと考えています。しかし、彼らにも居座る世界があるようで、グラジオが訪れたところはこの世界にもあったような建物が崩壊した後のようで、いかに危険な存在かが解りました。その世界はウルトラビルディングと名付け、指定危険区域になっています」

 

 つまり、あの男はカーツ………という可能性が高い。シャムとカーツ。仮面の男事件では重要人物である。

 あ、あとアローラのお宝が奪われたとか言ってたよな。アローラのお宝ってなんだ? とても貴重な進化の道具とかか? それとも金の玉とかのそっち系のやつか?

 …………いや待て。そうじゃない。ウツロイドが現れたのはアローラ地方。そして奪われたのはアローラのお宝。となるとシャムとカーツが取ってきたお宝というのは何かしら重要なものなはずだ。それを取ってきた、いやウツロイド側からすれば奪われたお宝をカロス地方にまで追いかけてきて奪い返した…………?

 そう考えるとスッキリするな。

 なら、そのお宝とやらは今現在どこにあるんだ?

 やはりあのまま持って帰ってウツロイドの世界……に…………っ?!

 く、ははっ………そうか、そういうことか。

 アローラのお宝はあの球状の石だったのか。ただ、あれが何なのかまでは分からないが、辻褄だけは合う。とにかくあの石を奪われることだけは避けるべきだな。

 でも、それなら何故俺に託した?

 分からん。今はまだ考えても仕方ないことなのかもしれない。

 

「いや、だから何でウルトラビーストはこんなゲテモノ生物しかいねぇんだよ」

「うわ、どうしたんですか、先輩?」

「あ、いや、すまん。ウツロイドが一番まともに見えてきてな………」

「まあ、確かにそうかもですねー」

 

 何なの、あのアクジキングとやらは。

 ブラックホール? 世界の消滅?

 もう何が何やら………。

 アクジキングってアルセウスの対極的存在とか何かなのん?

 

「続いてはズガドーンというウルトラビーストです。このウルトラビーストは丸い頭と身体が分離しており、頭を投げつけてきたりして攻撃してきます。タイプはほのお・ゴーストタイプ。ゴーストタイプの能力として正気を吸い取ることが確認されています。この生物もウルトラビーストであるため、何かしらの危険要素があると思われますが、姿を確認できたのはアローラ地方に降り立った個体のみであり、生息世界等々まだまだ実態を把握できていません」

 

 ウルトラビーストか。

 こちらの世界にいるポケモンとは姿がまるで異なる。異質といえば異質。把握されている能力を見ても伝説ポケモン並、あるいはそれ以上とも取れる。このズガドーンとか初めて見るタイプだし。頭と胴体が切り離されてる? 俺の知る限り、そんなポケモンはいなかった。異質な存在と思えたのもギラティナやダークライといった伝説のポケモンたちくらいだ。

 だが、ウルトラビーストはそれが当たり前。何なら複数個体いる、あちら側では普通のポケモン。あちら側の世界が統一されてこちら側の世界を侵略しにかかればひとたまりもないだろう。

 

「これはツンデツンデというウルトラビーストです。このウルトラビーストは現在アローラ地方で運び屋をしているサンというトレーナーが捕獲しているため、他のウルトラビーストよりも詳しい情報を得られています。全てを今ここでご説明するのは時間がかかってしまいますので、他同様の部分に留めておきますが、お手元の資料には現在分かっていることを全て記載しています。ツンデツンデのタイプはいわ・はがねタイプ。非常に堅い防御力を有しており、どの方位からの攻撃にも即対応してくる柔軟性も有しております。故に鉄壁のウルトラビーストとされ、危険視されています。現在ツンデツンデはサンが捕獲した個体のみ確認されており、生息世界は未だ調査段階にありますが、あちら側ではよく知られたウルトラビーストであるようです」

 

 ほら、来た。

 ちゃんと壁役すら担えるウルトラビーストが存在している。これは確かに危険生物として注視していく必要があるわ。しかもこのツンデツンデは人間によって捕獲された。これはいよいよ以ってウルトラビーストを利用した世界征服もあり得ない話ではなくなってきたぞ。

 いや、一部なりとも事件は起きていたんだったな。冒頭でバーネット博士がウルトラビーストの楽園が形成されていたと言っていたではないか。もはや手遅れな気もするし、二番煎じ、三番煎じが出てくる可能性だってある。一番厄介なのはサカキに目をつけられることだ。アイツはあの手この手で力を掌握するのが得意な奴だ。きっとウルトラビーストですら手篭めにしてしまうだろう。

 

「最後は本題であるベベノムとアーゴヨンというウルトラビーストです。この二体はウルトラビーストでは唯一の進化の関係にあり、小さい方のベベノムから大きい方のアーゴヨンに進化します。タイプはベベノムがどく、アーゴヨンがどく・ドラゴンタイプとなり、あちら側の住人にとっては比較的友好な関係にあるようです」

 

 やり口はこうだな。

 比較的友好というこのベベノムやアーゴヨンをまずは手中に収めて、アーゴヨンを軸にウルトラビーストを捕獲していき、ウルトラビースト軍団で世界征服って感じだろう。

 というか、ちょいちょいあちら側に人がいるように聞こえるんだけど。

 

「あの、一つ質問いいですかね」

「お、何だ?」

「さっきからちらほらとあちら側に人間がいるような表現を見受けられたんですけど」

「サンやムーンが言うにはウルトラメガロポリスなる街が向こう側には存在し、そこに人間が暮らしているらしいぞ」

「えー…………」

 

 ポケモンもだけど、そっちの方が重要じゃね?

 

「まあ、そのことについてはまた後日ということじゃな。今回はポケモンについての会議じゃ。確かにポケモンと人間は切っても切り離せない関係であり続けておるが、今ここでそのことにまで触れようものなら話が進まなくなるからのう」

 

 なんかウルトラビーストよりもびっくりだわ。

 

「えー、続けますと、そのウルトラメガロポリスにベベノム及びアーゴヨンは生息しているとのことです」

 

 気になってそっちにしか頭がいかなくなってきたし。切り替えなければ………。

 

「それからウルトラビーストの上位種と思われる存在もいます。向こう側では輝き様という愛称で崇められているネクロズマという生物です。国際警察ではウルトラビーストの一種として調査されていましたが、この度ウルトラビーストの中でも上位種という結論が出されました。所謂、向こう側の世界における伝説のポケモンです」

 

 ウルトラビーストの上位種、あちら側の伝説ポケモン。数多く生息しているであろうウルトラビーストですら、俺たちは危険視しているのだ。能力的にはこちら側の伝説ポケモンに引けを取らない。なら、その上の存在となると一体誰をイメージすればいいのやら………。

 

「ネクロズマはかつて向こう側の人間たちの科学力によりその身に宿す光を失い、蓄積させる機能も失ったため、常に光を求めるようになり、結果向こう側の世界を闇に包む形となってしまいました。それでも光を求めたネクロズマはあちら側に広がる様々な世界から光を集め、その行動の反動でウルトラビーストたちがアローラ地方や各地方に降り立つという現象が起きていたと推測できます」

 

 お前かい、原因はっ!

 ネクロズマが原因でウルトラビーストがこちら側に来ていたのかよ!

 というか黒!?

 しかもウルトラビーストに近い姿してるし。

 

「さらにネクロズマは光の象徴たるソルガレオとルナアーラに着目し、交戦を繰り広げ、半年前の事件では二体をそれぞれ吸収して一時姿まで変えていました。ただその先に見える未来がアローラ地方から、或いはこの世界からも光を奪うというものであり、立ち上がったアローラの人間たちと向こう側の人間の協力によりネクロズマが新たな姿を手に入れて、向こう側の人間に捕獲されました」

 

 あー、分かった。

 イメージするのは本来の姿になったグラードンとかカイオーガでいいわ。世界をぶっ壊せる程の力なんてイメージしやすいのはあいつらだろ。

 

「オレとバーネットはこの事件を振り返る中で、ソルガレオとルナアーラもネクロズマと同じくウルトラビーストの中でも上位種の存在であること、ネクロズマが姿を変えた現象をフォルムチェンジであることを結論付けました」

 

 んで、ソルガレオとルナアーラもネクロズマに近い存在ときたか。まあ、分からなくもない。姿を見る限りはソルガレオとルナアーラが光の象徴なのに対し、ネクロズマが影の象徴という対比。だが、上に立つのはネクロズマだな。

 

「ククイ博士、一つ質問よろしいですか?」

「どうぞ」

 

 と、図鑑所有者の方からククイ博士に質問を投げかけた。あれは誰だ? ブルーさんではない方の女性。うーん。

 

「ウルトラホールとその先々に存在する世界とはどのようにして繋がっているのでしょうか。ウルトラビーストがアローラ地方へ降り立つ際には自分の棲まう世界から直接ウルトラホールを開いてやってくるように見受けられますが、そうなると調査協力者であるグラジオ君がどのようにして各世界を調査しているのか説明がつきません」

「オレ自身、ウルトラホールに潜り込んだことはないので何とも言えませんが、話を聞く限りソルガレオやルナアーラが開いたウルトラホールの先には無限の空間が広がっているようです。オレたちはそこをウルトラスペースと名付け、その空間から各ウルトラビーストの世界やウルトラメガロポリスへと移動していると見ています」

 

 無限の空間………?

 それってーーー。

 

「ーーー時空の狭間。そしてその先にある破れた世界」

「えっ…………?」

 

 同じ空間かどうかは分からないが、位置関係は同じだ。

 

「そのウルトラスペースと先々に広がる世界ってのは時空の狭間とその先にある破れた世界と似たような位置関係だなと」

 

 俺の呟きに反応を示したシロナさんに補足するように付け足した。

 

「それってディアルガ、パルキア、ギラティナのこと?」

「まあ、あいつらも関係あるかもですけど、俺が言いたいのはその空間そのもののことです。こちらの世界と破れた世界の間にあるのが時空の狭間。世界と世界を繋ぐ空間と考えれば、ウルトラスペースと同意義であるんじゃないですかね」

「………つまり、その三体も何かしら関係するのではないか。そう言いたいのかしら?」

「ええ、まあ。ただ結局のところ、全てを知っているのはアルセウスなんでしょうけどね」

「アルセウス………世界を創造したポケモン……………」

「アルセウス………?」

 

 ん?

 ククイ博士がアルセウスという言葉に反応した?

 

「確かシルヴァディはアルセウスをモチーフにして開発されたビーストキラーで……………特性がARシステム………………ディスク挿入によるタイプの変化………………ッ!!」

 

 あ、なんか一人の世界に入り込んでるぞ。口々に何か聞きなれない言葉が出てきているが、何かアルセウスに関係する話でもあったのか?

 

「ダーリン、どうしたの?」

 

 急に一人の世界に入ってしまったククイ博士に、思わずという感じにバーネット博士が顔を覗き込んでいる。

 

「シルヴァディを開発したのはエーテル財団。その御曹司であるグラジオがトレーナー。グラジオの父親は行方不明。名前は確か………モーン! シルヴァディの設計をしたのが彼だとしたら…………何かに気づいてウルトラホールの調査に…………?」

 

 あ、なんか結論が出たみたいだ。

 

「やはり鍵はアルセウスってわけか…………?」

「ダーリン………?」

「ククイ博士、どうされたのじゃ?」

 

 顔を上げたククイ博士にオーキドのじーさんが様子を伺った。これはさすがに気づいたのか、投げかけに言葉を続けていく。

 

「調査協力者のグラジオはシルヴァディという対ウルトラビースト用に人工的に造られたポケモンを連れているんです。その製造元はエーテル財団であり、そこにはかつてモーンという研究者がいました。彼はウルトラホールに呑まれたきり行方不明となっているようで、一応本人らしき人物をキャプテンのマツリカが発見したという話がありましたが、未だ発見できていません。ただ、彼はウルトラホールの研究をされていたらしく、論文などの資料には残されており、そこにシルヴァディの設計などがあったのではないかと思い至りました」

 

 エーテル財団?

 どこかで聞いたことがあるような………。

 

「これがシルヴァディです。特性がARシステムという独特な特性で頭部にある円形状の収納部にディスクを挿入することでタイプを変更させることができます」

「「「っ!?」」」

 

 はっ?

 マジで?

 ディスクをプレートに置き換えればアルセウスってことじゃね?

 

「ククイ博士、一ついいですか?」

 

 お、ダイゴさんもか?

 

「そのシルヴァディというポケモンは、アルセウスを元に造られたのではないですか?」

「目敏いね。そう、そう通りです。シルヴァディはアルセウスを元に造られたポケモンなのです」

「では、何故ビーストキラーを造る上でアルセウスをモチーフにする必要があったのか、であるな」

 

 あ、ナナカマド博士、そこで出てきます?

 いやまあ、要はそこになるんだとは思いますけどね?

 でもそれはそのモーンという研究者が何を掴んだかによるだろ。ただ可能性としては考えられることが一つある。

 

「それについては現段階で申し上げられることはありません」

「それこそディアルガ、パルキア、ギラティナもウルトラビーストに近い存在なんじゃねぇの。三体がそれならあいつらを生み出したアルセウスも然り。結局はこの世界の外側の話でしょ。神かUBか、それとも他の何かか。複雑に考える必要は今はまだないと思いますけどね」

「では、予定にはないが次の議題を外側に棲むポケモンについて、ということでよろしいかな?」

 

 あ、これ………続けるんだ…………。

 ミスったな……。こうなるなら口を挟まなければよかった。これでは昼食どころではなくなってしまうではないか。たたでさえ内容が内容なだけに話が長くなってしまうというのに。

 既に十二時を回ってるんだぞ? 予定外の内容をやってたらいつ昼食にありつけるというんだ。絶対二時とか回るだろ………。

 

「はあ………」

 

 オーキドのじーさんもプラターヌ博士も俺を研究職に就きたがらせているが、さすがに俺には昼飯を抜きにして話し合える程の体力は持ち合わせてないから無理だな。



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ぼーなすとらっく23『有識者会議 その5』

ようやく会談の方は終わりです。
次回からいよいよバトルになります。


「ではまず、この世界の外側のポケモンであるが、アルセウス、ディアルガ、パルキア、ギラティナ、それにウルトラビーストとソルガレオ、ルナアーラ、ネクロズマが存在するのは確定ということでよろしいかな?」

 

 予定にない議題、外側に棲むポケモンについて。

 まずは誰が外側にいるか、といったところの確認か。

 

「うむ、ならアルセウスから軽く説明していこう。アルセウスは宇宙を創造したとされるポケモンであり、ディアルガを生み出したことで時間が流れ、パルキアを生み出したことで空間が広がったとされておる。だが、時空のバランスが保たれなかったがために、ギラティナを生み出し反物質で時空のバランスを保った。それで世界が回り始めたともされておる。しかし、存在意義が二体のバックアップでしかないことに異を唱えたギラティナは破れた世界へと封印されてしまった。というのがシンオウ神話における世界の創造である」

 

 世界の創造。

 そこに関わる四体のポケモンは他地方においても存在定義が最高峰に位置している。所謂、神という存在だ。創造の神アルセウス、時間の神ディアルガ、空間の神パルキア、反物質の神ギラティナ。ただギラティナにおいては破れた世界が俺たちの存在の行き着く先となってしまい、死を連想させる神にもなっている。

 

「先程のウルトラビーストやソルガレオ、ルナアーラ、そしてネクロズマの説明を踏まえて、ヒキガヤ君の話を考察していこうと思う」

「ナナカマド博士。この際、ハチマンに一度説明してもらってはどうですかな?」

 

 あ、ちょ?!

 じーさん、いきなりなんてこと言い出すんだよ!

 そりゃ確かに俺が言い出したことかもしれんが、人前で話すのとか………………最近やってるか…………。

 うあー、この仕事嫌いだー!

 

「ふむ、………なるほど。それも良いかもしれんな。お願いできるかな?」

「一応言っておきますけど、俺は何の資格も持ってないですよ?」

「研究職だけがポケモンについて語れるわけではない。トレーナーの視点というのも時に必要なことだってある」

「はあ………、そういうことなら若輩ながら説明させていただきますよ」

 

 ………全く、素人同然の俺に説明しろとか。しかも予定にすらなかったんだから、心の準備ができてないっつの。噛んでも笑うなよ!

 

「とうとう先輩も白衣を着ることになるんですかね?」

「うっせ。絶対着ないからな」

「あうー」

 

 ニシシといやらしい笑みを浮かべて俺を見てくるイロハの頭をぐりぐりとしてから、俺は席を立って前の方へと向かった。

 

「あー、マチス。ホワイトボードってあるか?」

「あるぜ。ちょっと待ってろ」

 

 ここの責任者であるマチスに説明するのに使いたいホワイトボードを要求したら、あっさり取りに行ってしまった。なんだろう、今日のマチスは従順すぎて気持ち悪い。いつものマチスだと思えたのは朝会った時くらいか。あの今にもケンカをふっかけてきそうな勢いがなさすぎて、なんだろう………綺麗なマチス? とでも言おうか。

 うん、やっぱり気持ち悪いわ。

 

「ほら、持ってきてやったぜ」

 

 そんなことを考えて待っているとガラガラとキャスター付きのホワイトボードをマチスが持ってきた。

 

「………んだよ」

「なんか今日のアンタ、従順すぎないか?」

「………知るか」

 

 あ、これはなんかあっただろ。特にレッドとかグリーンと。じゃなきゃこんな従順にならないって。

 

「ま、何もないならそれでいいんだけど。ボードありがとな」

「ケッ、テメェに礼を言われる方が気持ち悪いぜ」

 

 確かに。

 それは言えてるかも。

 だが、そんな皮肉を吐いてヅカヅカと壁際に戻っていくマチスは、やはりどこか綺麗なマチスである。

 あ、分かった。毒がないんだ。圧とかも一切ないし。

 うん、やっぱり綺麗なマチスという表現が妥当かもしれない。

 

「えー、あー、じゃあ、まあ、さっき俺が言い出したことについて説明させてもらいます。間違っているところがあったら、指摘して下さい。ではまず、ボードの真ん中に一本の線を引き、左側が俺たちのいる現実世界、右側を現実世界の外側の世界とし、この中心線を時空の狭間とします」

 

 いやー、緊張する。ドキがムネムネしてるわ。

 やっべ、こんなどうでもいいこと考えちゃってたら辻褄合うように説明できるのか?

 怖いー、怖いよー。助けてコマチー!

 

「アルセウスは………この中心線の頂上辺りにいるとして、ディアルガ、パルキアが線のところになり、ギラティナが右側になります。ギラティナを右側に置くことで、ここに破れた世界が存在すると定義でき、これで左側の現実世界が安定したというのが、先程ナナカマド博士がご説明された内容になるかと思います」

 

 取り敢えず、ポケモンの詳細はナナカマド博士が説明くれているため省くのことができる。

 

「そしてここにウルトラビーストの話を付け加えていくと………こんな感じに、右側にウルトラビーストの各世界、中心線がウルトラスペースと考えることができるかと」

 

 後は俺の頭の中にある関係を図に表せばいい。

 

「ついでに言っておくと、時空の狭間は時間が流れているようで流れておらず、広大な空間であるようで紙一枚のような薄さの、あるのかないのか分からないようなところだと考えています。これはギラティナが破れた世界と現実世界を直接繋ぎ、ウルトラビーストも直接現実世界にウルトラホールを繋いできたというのが根拠です。ちなみに俺の知っているダークライも似たようなことができたので、俺自身そういう穴を潜った経験はあります」

 

 最後はこれを見て博士たちが何かを掴んでくれたならば、それが答えだと思っている。俺はあくまで立会人。プラターヌ博士の付き添いでしかない。難しいことは専門家に任せればいいのだ。

 

「って、感じなんですけど………あれ? どしたんすか?」

 

 と思って前を振り向くと皆が皆、目を点にしていた。

 あれ………?

 もしかして俺の説明は下手すぎて理解できなかった?

 うわ、恥ず………っ!

 

「どしたんすか? じゃないわよ! そこまでの知識と発想と経験がありながら専門家じゃないって、そっちの方がおかしいでしょ!」

 

 最初に口を開いたのは意外にもブルーさんだった。見ているところとは違うところから吠えられたため、思わず見ちゃったよ。超ビビるからいきなりはやめてね。

 

「んなこと言われても………」

「そうじゃぞ、ブルー。知識と発想と経験がありながら専門家じゃないのは、何もハチマンだけではなかろう? お前さんも含めて図鑑所有者の殆どが何の専門家ではないはずじゃぞ?」

「で、でも………、なら、彼は一体何者なんですか? カロスポケモン協会の理事ってだけではありませんよね?」

「そうじゃのう………。図鑑所有者になれなかった存在、とでもいうのが正しいのやもしれんな」

「「はっ?」」

 

 はい?

 今何つった?

 図鑑所有者になれなかった存在?

 

「え、ちょ、何であなたが驚いているのよ」

「いや、初耳ですし。つか、俺が図鑑所有者になれなかった存在? んなもん、図鑑所有者に選ばれた人たち以外が全員当てはまるでしょうに」

「そりゃそうなんじゃが、何というか………」

「君は図鑑所有者に匹敵するポケモントレーナーでありながら、図鑑を所持していない。それを例えて図鑑所有者になれなかった存在ってことなんじゃないかな?」

「ええー………、そんな大袈裟な………」

 

 言いたいことは分かりますけども。

 だからと言って、俺を図鑑所有者たちと同列に扱うのもお門違いってもんだろ。俺は図鑑所有者みたいな運命力は持ち合わせてないんだから。持ち合わせていたとしても図鑑所有者になれなかった時点で持ってないのと同じである。

 

「んー、ハチマン君って伝説のポケモンに何体遭ってる?」

「何急に。数えたことないんですけど」

「数えたことない、ね。なら、今数えてみようか」

 

 えー………。

 ったく、この変態博士は。変なこと思いつきやがって。

 

「確か………最初がダークライだろ。次が………ギラティナか? んでエンテイとスイクンをスナッチして、セレビィにリライブをお願いしたんだっけか? それから、あのミュウツーとかいう暴君野郎に襲われて、リラのライコウとジンダイさんがレジロック、レジアイス、レジスチルを連れてて、ディアンシーに助けられたこともあったな。カロスではユキノがクレセリアだろ? それからゼルネアス、イベルタル、ジガルデも見てるし、フリーザー、サンダー、ファイヤーとルギアと戦ったし、ボルケニオンもいたな。あ、あとデオキシスに襲われてゲッコウガがミュウと一時共闘してたみたいだし、そもそもあのゲッコウガも伝説に入るのか………? あー、まあ、そんなもんじゃないですか」

「「「多っ?!」」」

 

 うん、確かに多いな。

 といっても成り行きが多いんだけども。

 自分から探しに行ったのって、セレビィくらいじゃね?

 

「そうか? グリーン、オレたちも割と遭ってるよな」

「そうだな。フリーザー、サンダー、ファイヤーにミュウツーはロケット団関係、ライコウ、エンテイ、スイクンにホウオウとルギアはジョウト地方で。レッドはデオキシスとも戦ってるし、目が覚めたらホウエン地方にいたって時にはジラーチをめぐる騒動の最中にいたし、オレはカロスでゼルネアスもイベルタルもジガルデも見ている。数はオレたちよりも多いかもしれないが、一度も出会ったことがない人からすれば誤差の範囲だろう」

 

 グリーンの言う通りだ。

 多いと言っても図鑑所有者とそんなに変わりはない。

 

「確かにそうかもだけど………!」

「それに、ダイゴさんやシロナさんも伝説ポケモンに出会ってますよね?」

「そうだね。君たち程ではないけど、ホウエン地方の伝説ポケモンには成り行きとはいえ殆ど出会ってしまっているね」

「わたしは少ないかもしれないわね。空の柱でディアルガ、パルキア、それにギラティナ。あとは湖の三体くらいかしら」

 

 ダイゴさんもシロナさんも何かしらには出会っている。

 ここにいる者ならそれは普通なのかもしれない。

 

「ブルー、そいつは理解し難い存在ではあるが、そう思わせるだけの過去を持ち合わせている。下手に首を突っ込もうものなら、死を覚悟しておいた方がいいだろう。あの目によって腐らされるぞ」

「おいこら、ちょっと待て。何さり気なく俺の目をディスっちゃってんの? 俺の目は一応怪我の後遺症だからな? そりゃ、性格が反映されてないかといえば否定できないが。だからといってこの目で腐らせることができるのなら、俺の見たもの全てが腐ってるでしょうに」

「冗談だ」

「冗談にしては俺へのダメージが結構あるんですけど?」

「気にしたら負けだと前にも言ったはずだ」

「へいへい、そうですねー」

 

 この男、マジで一回張っ倒したい。あの無駄にイケメンな顔に傷でも付けばいいのに。

 

「なら、見なさい! このバカ二人はまだ理解できてないからね! もう一回説明した方がいいくらいよ?」

「あー………なんかまあ、二人はいいんじゃないですか?」

「あ、おい! お前、失礼だろ! オレだって理解しようと必死なんだぞ! ただ考え出しただけで頭痛くなるから無理なんだよ!」

 

 バカというレッテルをブルーさんに貼られたツンツン頭が食ってかかってきた。

 仕方ない。

 

「二人は多分、実際に経験しないと分からないタイプだと思ってますから大丈夫です。頭で考えるよりも実際に経験して身体で覚える方が性に合ってるでしょ」

「ま、まあ、そう言われると否定できないかなー」

「ある意味天才肌なんですから」

「て、天才? オレが天才? そ、そうか………お前分かってるじゃねーか。ヌハハハハ!」

 

 うわー、バカは扱いやすくて助かるわー。

 このツンツン頭単純すぎない?

 

「お前さん、一段と人が悪くなったのう」

「ほっとけ」

 

 前に立っているため席が近いオーキドのじーさんに苦笑されてしまった。

 大きなお世話だっつの。

 

「ーーーそれにしても、この図解であればハチマン君の言う解釈の仕方もできるね」

「この図解からいくと、あとは時空の狭間とウルトラスペースが同じものなのか、それと破れた世界とウルトラビーストの世界との関係性が裏付けられれば成立するのう」

「うむ、オーキド博士の言う通りだな。だが、それを証明するものを見つけるのも無理難題と言えよう」

「しかし、これで何を証明していけばいいのかは見えてきましたよ。それによってグラジオたちにも協力が得られやすい」

 

 まあ、こんな稚拙な説明でも理解してもらえて、尚且つ研究の道標にでもなれたのなら前に出た甲斐はあったかな。

 

「それならまあ、説明した甲斐がありました」

「そうだ。一つ、君にお願いしたいんだがいいか?」

「内容によりますかね」

 

 ククイ博士からお願い?

 何か嫌な予感がするんだけど………。

 

「もし、もし時空の狭間やウルトラスペース、それに破れた世界やウルトラビーストの世界に行くことがあれば、その体験談を聞かせてほしい」

 

 なんだ、そういうことか。

 それなら今話せることもあるな。

 

「あー、破れた世界は暗いですよ。それに前後上下左右全てがよく分からない感覚にもなりますね。時間の感覚もあやふやですし」

「死んだのか?」

「んなわけないでしょうが」

「だよな。生きてるもんな。亡霊じゃないもんな」

 

 なんだよ、人を亡霊扱いしやがって。確かにこの目は死んでますけども? 土の中から這い上がってきました感がないこともないのは認めるけども?

 

「うーん、なあ、こういう風には考えられないか?」

「というと?」

「時空の狭間の右側にウルトラスペースがあり、そこにウルトラビーストの各世界が広がっている、的な感じで」

「つまりウルトラスペースという大きい世界が破れた世界と同列ではないかってことですか?」

 

 時空の狭間は時空の狭間で、その先に破れた世界とは異なる空間ーーウルトラスペースがあり、その空間内に各ウルトラビーストの世界がある、か。ウルトラスペースがウルトラビーストの世界をまとめた総称という位置付けになるのであれば、結局ウルトラビーストの頂点は誰になるのだろうか。ギラティナが創り出したのか、それともネクロズマが誕生したことで生まれたのか。視点は変わってくるな。

 

「ああ、そういうことだ。グラジオはウルトラスペースをソルガレオに乗って移動している。だが、ソルガレオはディアルガやパルキアとは異なる存在。時空の狭間にいるとは考えられない。だから時空の狭間とウルトラスペースとでは別物なんじゃないかと思ってな」

「なるほど、確かにそれはあり得ますね」

 

 何にしろククイ博士の言う通り、俺の説明ではソルガレオたちの存在の説明が付かなくなるというわけだ。しかも話し振りから察するに、そのグラジオとやらは時空の狭間を渡った後遺症などは残っていないみたいだし、何なら何度も足を運んでいるようだ。そうなるとやはり時空の狭間とウルトラスペースを同じ空間と考えるのは無理があるのかもしれない。

 ただ、一つ抜け道として考えられるのはソルガレオたちが何かしらの特殊能力を持っていた場合だ。ウルトラスペースを移動中は特殊な防壁が張られているとかそういう類の。それなら後遺症もなく何度も足を運ぶことだってできるだろう。

 

「では、研究のアプローチは空間そのものについてと伝説ポケモンについての二方向からというのはどうです?」

「そりゃいい考えだ。その二方向、場合によっては方向性を増やしていくとしよう。その方が根拠が根強くなる」

「では、わしらもククイ博士のバックアップを務めるとしよう。ナナカマド博士たちもよろしいですかな?」

「元よりそのつもりだ。この議題は世界の根幹に関わるもの。誰か一人に任せていては研究は進まないだろう」

「ありがとうございます」

 

 ふぅ、取り敢えずこれで俺のターンは終わりかな。

 全く、何で俺まで前に立たされなきゃならないんだ。

 なんかどっと疲れたわ。

 

「さて、これで一通りの議題は終了したわけじゃが、何か質問などがある者は挙手をお願いする」

 

 俺が席に戻るとオーキドのじーさんが全体に対してそう問いかけた。

 

「あの、先輩………」

「ん? どした?」

「私が質問してもいいんですかね……?」

「何か分からないところでもあったか?」

「いえ、話を聞いている内に余計にって感じで」

 

 一体イロハは何を疑問に思ってるんだ?

 余計にって言ってるし今生まれた疑問というわけでもないのだろう。

 うーん、時間が押してはいるが、イロハのためだ。

 

「お、ハチマン。何かあるのか?」

「俺っつーか、イロハの方なんだけど……いいか?」

「うむ、構わんぞ」

「んじゃ、ほれ」

「あ、はい。あの、今日の議題にはあまり関係ないようなことだと思うんですけど………、ノーマルタイプって結局何なんですか?」

 

 ん?

 ノーマルタイプが何かだって?

 ……………。

 ………………………。

 ………………………………………何と表現すればいいんだろうな。俺は一応こんな感じのってのを持ち合わせてはいるが、それが果たして学術的な観点から見た場合、正しいものかと言われるそうでもない、と思う。

 

「………これはまた難しい質問じゃのう」

「だが面白い」

「イロハちゃん、そう思った理由とかは何かあるのかい?」

「はい、実はフェアリータイプが新たに分類された時って今までノーマルタイプだと思われていたポケモンがフェアリータイプに分類されたりもしてるじゃないですか。それにノーマルタイプを複合で持つポケモンにはノーマルタイプの要素といいますか、そういうのがよく分からないなーと思って」

 

 あー、確かにフェアリータイプの分類に当たってはノーマルタイプからフェアリータイプへの変更もあったからな。そう思うのも無理はない。

 

「………なるほどね。確かにノーマルタイプはよく分からないところが多い。くさ・ほのお・みずタイプなど、見るからにってタイプは特徴的なところが多いけれど、ノーマルタイプは特徴が少ないよね」

「皆、時間は押しているがよいか?」

「僕たちは大丈夫ですよ」

「俺たちも平気です」

「うむ」

 

 ナナカマド博士の問いに各々博士組は首を縦に振っている。

 さすがは研究者。

 飯よりも疑問の解決を優先させるよな。

 

「まずはタイプの分類の仕方から説明していこう。現在ポケモンのタイプはノーマル、くさ、ほのお、みず、でんき、こおり、かくとう、いわ、じめん、どく、むし、ひこう、エスパー、ゴースト、ドラゴン、あく、はがね、フェアリーの18種類である。その内我々が研究者になった頃はまだあく、はがね、フェアリータイプの分類は項目としてなかったのだが、その分類をされたのがこのオーキド博士である」

「おおー」

 

 いや、驚いてやるなよ。すげぇドヤ顔してるじゃねぇか。

 

「タイプそのものの概念には二種類の分け方ができる。一つは自然物質の使役。こちらはくさ、ほのお、みず、でんき、こおり、いわ、じめん、どく、はがねタイプを指す。もう一つは身体的・内面的特徴。こちらはかくとう、むし、ひこう、エスパー、ゴースト、ドラゴン、あく、フェアリータイプを指す。前者は自然物質を身体の一部に含んでいることもあり、より特徴が現れやすいのだ。逆に後者はDNAなどから確定せざるを得ない状況にもなることが多く、そう易々とは判断できないのが特徴である。故にフェアリータイプの発見にも時間がかかったというわけだ」

 

 エスパータイプとかあくタイプって何なの? って思ったこともあるからなー。目には見えないし、よく分からない存在っていうのが印象的だ。でもその裏側にはちゃんとした理由があるのだから、難しい世界である。

 

「では、ノーマルタイプはどうなのかというと、どちらにも属するし属さないというのが正しい答えである。つまり、分類のしようがないタイプなのだ。ポケモンはまだまだ分からぬことが多い。故に曖昧な分類というものを配置することで全てのポケモンをタイプごとに分類することができている」

 

 あ、やっぱり曖昧な枠ってのでいいのか。だからこそ、フェアリータイプへの変更も多かったというわけだな。

 

「次にポケモンによっては見た目とタイプが異なると思えてしまうケースがある。だが、決して間違った分類ではない。ポケモンごとにタイプを判断する際、DNAが深く関わっているのだ。一つ目はDNAから読み取れるタイプ特有の塩基配列。二つ目はタマゴグループに関わるDNA。この二つからタイプを特定しているため、見た目とタイプが異なるという事態が起きているのだ。特にノーマルタイプはタイプそのものが曖昧な規定なため、より一層不思議に思えてしまうだろう」

 

 なるほど。塩基配列とか言われてもピンとこないが、要はDNAを見ればどっちも特定できて、そこからタイプの特定に繋げられるということでいいのだろう。

 

「な、なるほど…………」

 

 あ、こいつ絶対ついてこれてないわ。塩基配列って何なの? とか思ってそう。

 

「簡単にではあるが、ポケモンのタイプというのはこういう要素から成り立っているということは分かってもらえたかな?」

「はい!」

「何かあればヒキガヤ君に聞くといい。恐らくわたしたちには劣るものの、研究者見習い並みの知識は持ち合わせているだろう。何なら体験談を持ち合わせている彼の方が説得力が強い」

「うぇ?! 先輩マジですか!?」

「いや、俺も初めて言われたわ」

「だから言ってるじゃないか。君はこっち側の人間だって」

「えー…………」

 

 あれってただの勧誘のための誘い文句だと思ってたんだけど、マジな話だったのか。でもそれだとユキノたちもじゃね?

 ………うわ、この変態実はやり手だろ。いつの間にかこの変態をみんなで助けちまってるじゃん。

 

「まんまと使われたなー」

「何のことだい?」

「白々しい………」

 

 まあ、もういいんだけど。コマチたちも世話になってるのは事実だし。持ちつ持たれつ。餅は餅屋ともいうのだから、得て不得手を無理にやる必要はない。取り敢えず、需要と供給が保たれて互いに成果を出せればそれでいい。

 昔の俺からは考えもしない話だろうな。だが、今はそうせざるを得ないし、それが得策なのだと理解している。

 

「では、午後からはメガシンカやきずなへんげの確認ということで、ハチマン。お前さんの腕の見せ所じゃぞ」

「はっ? ただ見せるだけなんじゃねぇのかよ」

 

 いやいやいや、意味が分からん。

 何故そんなに意気込んでるんだよ。俺はただメガシンカを実際に見せるみたいなことしか聞いてないぞ。

 

「折角じゃし、こいつらとバトルしたいと思わんか?」

「思わないし、やりたくもない」

 

 何ならゆったりと寝かせてくれ。

 前に立たされたせいでこっちは疲れてんの。なんて言ったら、じーさんの背後から睨んでいるグリーンにド突かれるのがオチだろうから言えないけども。

 

「まあまあ、そう言わずに。バトルしないことにはメガシンカもZ技も見せられないんだしさ」

 

 え、Z技もやるの?

 それって俺が使わされたり?

 やっだー、帰っていいかなー。帰りたいなー。

 

「そうですよ、先輩。私もバトルしたいです」

 

 えっ?

 いろはすも参加なの?

 というかこいつ、俺を逃げられなくしてるよね?

 

「はあ…………。なら、誰でもいいんで」

「うわー、超余裕発言」

 

 こらこら、煽るな煽るな。

 そんなこと微塵も思ってないからね?

 

「うむ。では、一時間遅れではあるが昼食としよう」

「みなさーん、ここにお弁当を用意してありますので、各自取りに来て下さーい!」

 

 はあ、ようやく昼飯にありつけるんだな………。

 なんか超疲れた………。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「先輩、今日はやけに発言してますね」

「したくてしてるわけじゃない。じーさんらが聞いてくるのが悪い」

 

 場所は変わってジムの西側。

 そこで俺とイロハは弁当を食べている。

 ずっとあそこにいるのも息苦しいし、クチバの海でも眺めて昼食にしようというイロハの案に乗り、裏口から出てきたのだ。

 

「………はあ、昔から知識はすごいなーって思ってましたけど」

「まさかここまでとは思ってなかったってか?」

「はい、なんでこの人研究者になってないんだろうって思いました」

「数字が嫌いだからな」

「その割に仕事で数字がいっぱい出てくるじゃないですか」

「金と時間の計算ばっかだからな。単純といえば単純なんだよ。量が多いし、取引先との契約条件ギリギリを狙わないといけないし。はあ………考えただけでうんざりだわ」

「これはストレス溜まってますねー」

 

 折角仕事から解放されているというのに。

 そう思うとあの姉妹はよくあんなテキパキと動けるな。

 今度はどこかであいつらを休ませてやらないと。本人たちは別にいいと言いそうだが。姉も妹も種類は違えど負けず嫌いだし、素直じゃない。しかも二人とも俺に対して今でも負い目を感じているのか、俺を優先させようするし。

 やっぱり早々にはなくならないものなのかもしれない。心の傷とも呼べる一種のトラウマになっているのだろう。そうさせてしまったのは言うまでもなく俺だ。だから俺も二人を優先させたいのだが、結局はあの二人の方が上手なため根負けしてしまう。

 

「そりゃ溜まるって。いくらユキノが上手くやってくれてるって言っても、あいつにばかり頼ってもいられないし。あのバカ、すぐ無理しやがって」

「先輩、ユキノ先輩こと好きすぎでしょ」

「悪いかよ」

「別に悪くはないですよー。ユキノ先輩愛されてるなーって思うだけです」

「そりゃ、無茶をしてでも俺の懐に飛び込んでくるような女だぞ? 男なら落ちないわけがないだろ」

「ほんとずるいですよねー。私たちは見たことがない先輩を知ってるんだから」

 

 ユキノだけが知っている俺、か。

 確かに女性陣からすれば特別なのかもしれないが、当の本人からすれば黒歴史でしかない。だからあまり知られたくないというのも本音だ。

 

「ねえ、話があるんだけど」

 

 イロハに黒歴史を掘り起こされていると上から影ができた。見上げるとそこには水色の縞々のパンツが………パンツ?!

 

「あ、ブルーさんか」

「何よ、アタシだったら文句あるわけ?」

「いえ、特には。驚いただけです」

 

 ええ、ほんとに。

 いきなりパンツが見えたらそりゃ驚きますよ。

 

「………それで? 話すようなこととかありましたっけ? バトルを降りろというのならそれは無理な話ですよ。俺は博士たちに生でメガシンカ等々を見せなきゃならんみたいなんで。できるなら俺だってバトルはしたくありませんけど」

「もー、先輩はすぐそういうこと言う………」

「だって仕方ないだろ。あんなギランギランした目がいくつもある中でバトルしろってんだぞ? バトル大会とはまた違うプレッシャーを感じるっつの」

 

 俺を知ってる分ハードルすら上げてくる可能性もあるし。

 あの人達は俺に一体何を期待しているのだろうか。

 

「アナタ。一体何者なの?」

 

 するとブルーさんが訝しんだ低い声でボソリと呟いた。

 またそれですか。

 

「何者とは?」

「アタシの勘が言ってるわ。あなたは危険だって」

「んなこと俺に言われても………」

 

 危険と言われてもそれは強姦魔とかそういう類の危険とかじゃないですよね? 人災とかそういう方面ですよね?

 あ、いや、それもそれで嫌だけれども。

 

「………んー、先輩って何者なんですか?」

「や、何でお前まで聞いてくるのん? スクールの先輩でしょうが」

「それもあるんですけどー、なんというかー」

「その棒読みはやめい」

「ふぇー」

 

 にやにやと棒読みでおちょくってくる後輩の頰をむにーと引き伸ばす。

 うん、決して乙女がしていい顔ではないな。それにしてもいろはす柔らかい。

 

「グリーンに聞いたらどうです?」

「………やっぱりグリーンとは知り合いなのね」

 

 グリーンの名を出したらそっぽを向いてしまった。さっき釘を刺されていたし、聞くに聞けないのだろう。

 全く、あのイケメンも困ったものだ。人を歩く災害とでもいいたげに話を盛りやがって。

 

「そりゃ、あのじーさんの孫ですし。あ、じーさんに聞くのも手か」

「あなたからは言ってくれないのね」

「どうせ俺の口から言っても信じてくれないでしょ。というか信じられないと思いますよ」

「そ、れは聞いてみないことにはわからないわ」

 

 一瞬言葉に詰まったということは図星だったということか。

 

「まあ、少なくともロケット団の敵ではあるでしょうね。一回サカキをギャフンと言わせたいとは常日頃から思ってますよ」

「っ、サカキとも面識が………?」

「それなりには。浅くはない関係ですね」

 

 あ、やっぱりサカキの名は出さない方がよかったかな。でもあの男と敵対関係というのを示すのが一番手っ取り早い気がしたんだけど。

 

「サカキだと………?」

 

 うん、失敗だな。

 まさか息子の方まで近くにいたとは…………。

 

「シルバー?!」

「ブルー姉さんがお前と話しているのが見えたから来てみれば………」

 

 ねえ、この人ブルーさんのこと好きすぎない?

 確か血は繋がってないよね?

 義姉弟ということか?

 どっちだ? どっちが養子となって家族に加わったのだ? いや、考えるまでもなくシルバーの方か。さすがにサカキの方にブルーさんが加わるとも思えない。

 …………うん、なんて不毛な妄想だろうか。

 

「お前、ブルー姉さんに何かしてみろ。その首がくっついてるとは思わないことだな」

「ちょ、ちょっとシルバー!?」

 

 おっとー?

 いつの間にマニューラが背後にいたんだよ。ビックリだわ。どっかで見てるくせにこういう時くらい止めに入ろうぜ、ゲッコウガさんや。

 

「く、くくく、くははっ!」

 

 あー、でもそうか。

 この赤髪もツンツン頭と似た者同士なんだな。

 単純かつ好戦的。

 俺より年上なはずなのに、どうも幼く見えてしまう。おかげで会話の主導権は取り返しやすい。ブルーさんの方が侮れないまである。というかこの人一番腹黒そう。まあ、イロハに似たタイプだし、それもそうかと思えてしまう。

 

「マニューラ!」

 

 ぐいっと爪を首元に押し当てられてしまった。

 いよいよ以って危険か。トドメの言葉を使うしかない。

 

「さすがサカキの息子だな。本気モードの目が似過ぎだわ」

「お前!!」

 

 ほらやっぱり。

 キーワードはブルーとサカキ。この二つを話に盛り込めば冷静さは失われる。

 

「おうおう、シル公! 何一人で楽しそうなことしてんだよ!」

 

 また面倒なのが現れた…………。

 ゆっくり飯くらい食わせろよ。

 

「ちょ、ゴールド! 待ちなさいって!」

「うるへー! ダチ公がそこでケンカを始めようってんだ! 加勢するに決まってんだろ! クリス、お前もいくぞ!」

「………はぁ、また面倒なのが」

 

 あ、ブルーさんもそこは同意見なのね。

 ということは本当に面倒な男なのか。バカはいつだって恐ろしい。

 

「ケンカ、ケンカね………。なら、俺とバトルしましょうか。ジョウト三人組の先輩方?」

 

 仕方ない。言っても聞かないであろうこのツンツン頭には身体で覚えてもらうしかあるまい。

 疲れてんのになー………。

 

「ハッ! 上等だ、コノヤロー! 売られたケンカはきっちり買ってやるよ! やるぞー、お前ら!」

「お、おい、待てって!」

「あーもう、何言っても聞かないんだからー!」

 

 サカキの息子も静止をかけてはいるが、バトル自体には反対ではないみたいだし、肯定ということでいいのだろう。あのおさげの人には悪いが付き合ってもらうか。終わったらこっぴどく怒鳴ってやってくれ。

 

「ブルーさん、さっきの質問ですけど、この三人を相手取ったバトルを見て判断してください。敵とするのも良し、味方とするのも良し。俺はどっちに転んでも興味ないんで」

「一応言っておくけど、三人とも図鑑所有者なのよ?」

「だから?」

 

 図鑑所有者が相手だから何なのだろうか。

 皆して図鑑所有者という肩書きに胡座をかきすぎだろ。

 

「そう、ならいいわ。あなたのお望み通りバトルで判断してあげる。それとブルーでいいわ。グリーンと同じ声でさん付けは、なんか気持ち悪いのよ」

 

 あー………。

 なんか気持ち分かるわ。

 想像したら俺も気持ち悪いもん。

 

「了解、ブルー」

「〜〜〜〜〜ッ」

 

 だから、お返しに声をグリーンに寄せて呼び捨てにしてみると、あら不思議。お顔が真っ赤になってしまったではないか。

 

「先輩キモいです気持ち悪いです寒気が走るくらい気持ち悪いです。また新しい女を増やす気ですかそうですかさすが色男ですね。これはユキノ先輩たちに報告しないといけませんねー」

 

 あ、いろはすが激おこはすになってる。

 超早口だし声のトーンが低いし、何よりも目が笑っていない。

 バトルの前に俺が死んだかもな……………。



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ぼーなすとらっく24『有識者会議 その6』

作品のあらすじ書きが1000字以内というのをさっき知りました(笑)。時系列順に並べた目次が相当たまってきている証拠ですね。
この有識者会議もあと2、3話で終わるかと思います。そうするといよいよ当作品も終わりが見えてきました。
ただ、まだ次回作のタイトルが決まってないんですよね………。


 有識者会議午後の部。

 メガシンカやきずなへんげ、Z技といったバトル中に見られる現象の生分析。

 なのはいいが、どうして俺がその演出者にならなきゃならないんだろうか。

 いや、理由は分かってる。きずなへんげは俺たちにしかないものだからメガシンカも使える俺が選ばれたってのは分かってるさ。でもなー、さっきはああ言ったけどやりたくねー。

 あ、しかもあのチンピラ擬きのゴールドさんはZリングを借りてるし。その横の女性ーークリスタルさんが三対一なのにZ技もなんて反則よ、とか言ってるけど別にいいんじゃないですかね。お披露目会みたいなものなんだし。

 

「ルールはどうします? ガチガチの公式ルールにします?」

「へっ、んな堅苦しいのは抜きにしようぜ! 堅いのはコイツだけで充分だっつの!」

 

 おい、それ絶対言っちゃまずいセリフだろ。

 

「誰が堅苦しいですって?!」

「え、あ、いや………」

 

 ほら、横から掴み掛かられてるじゃん。やっぱりバカだわ、コイツ。

 

「お前が細かいルール守れないだけだろ………」

 

 ほーら、言われてる。仲間内でもそういう認識されてるんだから、俺がバカだと思うのも当然と言えよう。

 

「なっ?! 公式バトルをしたことがないダチ公を思っての提案だっつーのに!?」

「オレはやったことがないだけであって知識としては持っている。お前と一緒にするな」

「へっ、知識だけがポケモンバトルじゃねぇのはテメェも充分理解してるだろ」

「はあ………、なんでワタシまで……」

 

 この三人、本当に大丈夫か?

 よく、図鑑所有者に選ばれたな。運命ってのは時に理解しがたいものがある。

 

「な、なあグリーン。あれ、どっちが勝つと思う?」

「ルール無用のバトルになった時点で、ゴールドたちの負けは確定的だ」

「えっ……?」

「奴はリザードン一体でポケモンリーグを優勝した稀代のポケモントレーナーだ。つまり、レッド。お前の後輩でもある。しかもあいつは当時のチャンピオンと優勝争いをした上での勝利だ。その功績から次代のチャンピオンに選ばれている」

「チャンピオン!?」

「それを聞いておじいちゃんのところに来ていたあいつとバトルしたんだが、普通に勝ってしまった」

「………どういうことだ? それってつまり、グリーンの方が強いってことか?」

「それならあの三人が有利でしょ。アタシたちとも互角にやってのける子らよ?」

「事はそう単純な話じゃない。まあ、見てろ」

 

 何やら見学側の方で嫌な記憶を思い出させる話が聞こえてきたんだが。あの黒歴史を蒸し返すような話をしないでくれ。あれは本当に周りが見えてない時期だったんだよ。グリーンに負けたのも燃え尽き症候群ってのがあったのも一因だろう。ただそれ以上にグリーンたちの方が上だったのは間違いないが。

 

「ルールを確認するよ。バトルは三対三。ハチマン君は三体。ゴールド君たちは一体ずつ。三体同時に命令する方がトレーナーの負担は大きいけど、いいんだね?」

 

 と、こっちに集中しないとな。

 審判はダイゴさんがやってくれるらしい。ホウエンの元チャンピオンに審判してもらうとかなんて贅沢なバトルだよ。

 

「ええ、構いませんよ。それとも相手は図鑑所有者だから一人ずつ相手した方がいいとでも?」

 

 トレーナーが俺一人ということに少し心配しているようだが、それ以上に何か目に含みを感じる。あれは………これから見られるバトルにわくわくしているって感じだろうか。

 って、おい。単なる期待じゃねぇか。一体何を期待しているというんだ、あの人は。

 

「ふっ、いや、そんな君に負けた場合のゴールド君たちが心配でね」

「いやいやいや、それこそ杞憂ってもんっスよ! オレたちが負けるなんてありえないっス! 何ならオレ一人で充分っスよ!」

 

 目が合うと誤魔化すように目を閉じ、ゴールドたちの方を挑発し出した。

 この人、絶対煽ってるだろ。しかもそれに反応してしまう単純な男もいるし。あー、まさかこれもあっちの士気を高めるためとか?

 あり得なくもないから逆に怖い。

 

「そりゃ、心強いね。それじゃあ、他のルールだけど技の使用に制限はなし。ハチマン君はこのバトルでメガシンカやきずなへんげをなるべく見せてくれること。このバトルの本来の趣旨はメガシンカやきずなへんげ、Z技のお披露目だからね」

 

 なるべく、か。

 見せる間もなく倒したとしても文句は言わないということなのだろう。無理だろうけども。

 そんなあっさり倒れてしまうような相手なら、端からバトルなんてしたくもない。ただでさえやりたくもないんだし。

 

「ゴールド君には対抗策としてククイ博士からZリングを渡してある。付け焼き刃ながら昼食後にZ技を習得したみたいだからね。大変だよ?」

 

 あの短時間でZ技を習得しただと? 昼食後っていうと俺たちのところに来るまでの間にことだよな?

 なるほど、バカではあるが能の無いバカではないようだ。そういうバカこそ恐ろしいものはない。ソースはユイ。あいつ、最初こそ右も左も分からないおバカさんだったが、ユキノからのスパルタ教育があった上でコルニのところで修行して以降、化けたからな。今ではカロス地方の全ジムリーダーよりも恐れられてるジムトレーナーだ。一年前のユイに今の姿を見せてやりたいってもんだ。

 ゴールドはああいうタイプと見た。しっかりしてそうな他の二人よりも要注意だな。

 

「仕事だ、リザードン、ジュカイン」

 

 さて、俺もそろそろ切り替えていこう。相手はなんだかんだ言っても図鑑所有者だ。運命を手繰り寄せるその不思議力は、バトルにおいても発揮する可能性がある。そうなると流石に俺たちでも対処し兼ねる事態に陥るかもしれない。それにメガシンカやらきずなへんげやらを見せなきゃならないんだ。出すポケモンなんて限られてしまっている。何なら連れて来ているポケモンがそもそもこいつらしかいないんですけどね。ヘルガーとボスゴドラには緊急事態に備えてカロスで留守番を頼んである。今頃、ボスゴドラはあっちに残ったイロハのコドラを鍛えていることだろう。帰ったらボスゴドラに進化してたりしてな。ヘルガーもユキノたちのポケモンとバトルしてるだろうし。

 

「ゴールド、相手を侮るなよ。交代はないんだ。最初から全力でいくぞ」

「何をいまさら! いくぞ、バクたろう!」

「ふっ、そうだな。オーダイル、お前も気を抜かなよ」

「メガぴょん、いくよ!」

 

 バクフーン、オーダイル、メガニウム。

 オリモト、ユキノ、サガミが相手って感じか。………あ、なるほど。そう考えるとしっくりくるわ。トレーナーの性格もそれぞれ似てるし。

 

「……おいおい、一体足りな……ッ!?」

「ゲッコウガ………、いつの間に…………っ?!」

 

 うん、ですよね。

 こいつ、いつの間にかいましたもんね。俺、まだ呼んだ覚えないんだけど。どうせ、昼飯の時にバトルするってのを聞いてたんだろうし、そのままこの空間のどこかに潜んでいたんだろう。

 

「盗み聞きしてたんだろうし状況は理解しているな?」

『ああ、だが』

「ん?」

 

 一応確認をしてみると、ジュカインの方を指してきた。

 

「カイカイッ!」

『どうやらオレたちの出番は少し先になりそうだぞ』

 

 どうやらジュカインは一人でやりたいらしい。

 ものまねを習得して以降、よく前に出ようとするようになり、できるだけものまねを駆使して、例え複数体が相手でも一人で対処できるようにしていきたいみたいなのだ。

 

「ジュカイン、お前マジで一人やる気か………? 相手は図鑑所有者のポケモンだぞ? 運命力だけでいえば最強クラスだからな? 分かってるとは思うけど」

「カイッ!」

 

 俺もさっきのダイゴさんではないが、確認だけはしてみた。まあ、承知の上でなのは知ってるけどね。

 

「へいへい、仰せのままにいたしますよ。お前が暴れられるようにこっちも頭フル回転させてやる」

「サナー!」

 

 お、おおおっ?!

 

「あ、お、おい、サーナイト? どったの急に。ボールから出てきちゃって」

 

 ビビるから急に出てくるなよ。

 しかも出てきたら俺に抱きついてきたし。可愛いからいいんだけどね。

 一通り頭を撫でてやったら、俺の目を見て何かを訴えてきた。

 

「サナ!」

『バトルが見たいんだとよ』

「あ、そうなん?」

 

 そうか、これから始まるバトルを生で見たいのか。そんなに兄貴分の活躍を見たいか。

 ……………お?

 これは何かに使えそうだな………。それに俺の位置からバトルを見るというのもいい勉強になるはずだ。

 

「………あー、それならここで見てるといい」

『お前も大概性格悪いよな』

「うっせ。それを理解したお前も大概だろうが」

 

 ゲッコウガも同じことを考えたようで鼻で笑ってきた。お前、ブーメランだってこと理解してる?

 

「サナ?」

「あー、何でもない。気にするな。ポケモンバトルは奥が深いなってだけの話だから」

 

 サーナイトは何のこと? って顔でコテンと小首を傾げている。可愛い、超可愛い。写真に撮ってアルバムでも作ろうかな。

 

「ふっ、君たちは面白いね。双方、準備はいいかい?」

「うす」

「「「はいっ!」」」

 

 …………ん? ダイゴさん? あなたもまさか気づいた感じで?

 

「では、バトル始め!」

 

 あ、ちょ………怖いわー。他に誰が気づいてんだろう。シロナさんとかも怪しいだろうなー。

 

「……おい、それはどういう意味だ?」

 

 向こうが三体並ぶ形で戦闘態勢に入るのに対し、こっちはリザードンもゲッコウガも下がり、ジュカインだけが前へと躍り出た。それに気づいたシルバーがいち早く睨みを利かせてくる。

 

「ジュカインが一人でやりたいみたいなんで」

「舐めるなよ!」

 

 別に舐めてるわけじゃない。ポケモンたちがやりたいっていうからやらせてみるだけだ。ダメならダメでそれまでのこと。引き際だけをトレーナーが判断してやれば、被害は最小限に抑えられる。

 

「メガぴょん、つるのムチでジュカインを捉えて!」

 

 そんなやり取りをしていたら、いつの間にかジュカインの左腕に蔓が巻きついていた。

 バトル開始の合図は出されてたんだったな。

 

「よくやった、クリス! オーダイル、れいとうパンチ!」

 

 すると右方向からオーダイルが左拳を氷を纏ってジャンプしてきている。

 さて、どうするか。ものまねを使って対処するのは簡単だが、開始早々手口を見せるのもバトル全体を見た場合、悪手と言えよう。

 ならば、ここはやはり普通に使える技で尚且つオーダイルを一撃で止められる技となるとーーー。

 

「くさむすび」

 

 しかも本来の使い方で。

 ジュカインに拳が届く前にオーダイルの足元から草が伸び、踏み込んだであろう右足に絡みついた。いきなり後ろへ引っ張られることになったオーダイルはバランスを崩して倒れ伏してしまう。顎大丈夫かな。

 

「後ろがガラ空きだぜ! バクたろう、かえんほうしゃ!」

 

 今度は背後ーー俺の目前でバクフーンのかえんほうしゃが放たれた。

 メガニウムで気を引き、オーダイルで本命を隠す、か。初手から何とも連携の取れたバトルである。

 けど、バクフーンの配置が悪かったな。それだと俺から丸見えだ。いくらジュカインの気を逸らせたとしても俺の目がある。

 

「ぶんまわす」

 

 丁度左腕にはメガニウムと繋がっている蔓がある。それを普通に引っ張ったのでは力負けするのは確実だが、技を使って引っ張れば話は別だ。

 

「メガぴょん!?」

 

 ぐっと引っ張られたメガニウムはジュカインとバクフーンの間に入り込み、炎からジュカインを守る壁となった。おかげでジュカインの腕も解放されて万々歳だ。

 

「チッ」

「ギガドレイン」

 

 オーダイルに絡ませた草は雁字搦めになっている。その草を媒体にオーダイルから体力を奪うことにした。

 

「オーダイル、その草をきりさけ!」

 

 ようやく状況を理解したサカキの息子がオーダイルに命令を飛ばす。

 

「バクたろう、かえんぐるま!」

 

 オーダイルから気を引こうという算段だろう。バクフーンが炎を纏って突進してきた。

 さすがにバクフーン相手には草技は使えない。使ったところで燃やされるのが落ちだ。

 

「もう一度、れいとうパンチ!」

 

 加えてオーダイルも草を切り裂いて一気に攻め上げてきている。

 となるともう使うしかないだろう。

 

「ものまねでアクアテール。二体とも弾き飛ばせ」

 

 先に届くであろうバクフーンに対し効果を抜群に発揮するアクアテールで対処させることにした。

 振り回された水を纏う尾はバクフーンを横薙ぎし、そのまま氷の拳を振り上げて飛び込んできたオーダイルもまとめて三人の方へと払い除けた。

 

「バクたろう!?」

「オーダイル?!」

「メガぴょん、ソーラービーム発射!」

 

 おっと、いつの間に用意してたんだ。こちらからは背中しか見えないから少々侮ってたわ。

 だが遅い。

 

「ジュカイン、こうそくいどう」

 

 こっちにはこれがあるからな。それにジュカインは元々素早いポケモン。届く前に躱してしまえば後はこちらのもんだ。

 

「シザークロス」

 

 メガニウムの背後に回り込み、上からX字に斬りつけた。

 

「そのままつばめがえし」

 

 そしてそのまま下から白い手刀でバクフーンたちの方へと突き飛ばした。

 

「メガぴょん?!」

 

 突き飛ばしはしたが、いかんせん硬かったように思える。効果抜群の技を使っているおかげでダメージを与えられたとも言えるだろう。やはり伊達に図鑑所有者のポケモンではないということだ。

 

「………カイ」

 

 ジュカインも思った程の手応えを感じていないのだろう。自分の手を開いては閉じて感触を振り返っている。

 

「強ぇ………」

 

 と、ゴールドの口からそんな言葉が漏れた。

 静まりかえっていただけにその声はジム一帯に響き渡る。

 

「こうなったら究極技だ。何としてでもジュカインを倒すぞ。そしてリザードンとゲッコウガを前に出させる!」

「おお!」

「わかったわ!」

 

 そしてつられるようにサカキの息子の指示が飛び出した。

 

「メガぴょん、ハードプラント!」

「バクたろう、ブラストバーン!」

「オーダイル、ハイドロカノン!」

 

 究極技か。

 恐らくこれがあいつらの切り札なのだろう。そして、それは図鑑所有者にしか使えないという前提で語っているように見える。

 なら、こっちにも考えがあるってもんだ。

 

「ジュカイン、かげぶんしん」

 

 まずは影を増やして横並びにさせる。

 

「ものまねでそっくりそのまま返してやれ」

「カイ!」

 

 そして同じように三位一体の究極技を放った。

 一通りリザードンやゲッコウガの技を習得させといた甲斐があったな。

 

「やっぱり炎と水の究極技の威力は低いか。使えはするが切札とはなりそうにないな」

 

 ただまあ、まだまだではあるみたいだが。

 相殺というには威力が足りていない。撃ち出した角度が良かったのだ。斜め上から入角し、相手の究極技を地面に叩きつけることに成功したからジュカインにダメージが入っていないだけ。地面にクレーターを作ったのはあっちの技によるものだろう。

 それでも上出来と言えよう。色々試し撃ちはしているものの当の本番で使い物にならなければ意味がない。方向を変えることができただけでも収穫だ。

 

「………ハチマン君、少しいいかな?」

「はい? どうしました?」

 

 と、ダイゴさんが手を挙げた。

 何でしょうかね、ダイゴさん。

 一応今バトル中ですよ?

 

「このままだときずなへんげが見られないと思うんだよ」

「まあ確かに。本来の目的は達成されないかもしれないですね」

「そこでだ。もっとポケモンを増やさないかい?」

「はっ?」

 

 はっ?

 この人何言ってんの?

 

「六対十八ってのはどうだい?」

「………またぶっ飛んだことを思いつきますね」

 

 審判直々にルール変更ってどういうことだってばよ。

 

「そうでもしないと君を倒せないと思ったからね」

「いやいや、そこまでされたら流石にやられますって」

 

 第一、六体も今いないから。

 ヘルガーとボスゴドラはお留守番してるからね?

 残ってるのはサーナイトとウツロイドだし………って、あの人絶対サーナイトも参加させようとしてるだろ。だからさっきあんな反応を示してたんだな。これはやはりバレていると見た方がいいのだろう。

 

「でも三体でこれなら、手持ち全員でかかってこないと到底この二体の出番はなさそうですよねー」

 

 ちょっとー? いろはすー? 何言ってくれちゃってんのー?

 身内からこんな言葉が出たんじゃ相手方の受け取り方なんて決まったも当然じゃねぇか。

 

「ゴールド、クリス。ここは誘いに乗るしかなさそうだ。本来の目的であるメガシンカやきずなへんげといった現象を引き出すためにもあの三体を前に出させるしかない。そのためには数で勝負するしかないだろう」

「でもそれって………」

「ハッ! 相手はオレたちのチームを舐めてんだ。情けなんてかけねぇ。不意打ちだろうが何だろうがやってやるよ!」

 

 あーあ、承諾しちゃったじゃねぇか。

 これどうするよ。

 サーナイトも前線に出るのは無理だし、結局この三体だけで図鑑所有者のポケモンを十八体相手しなければいけないんだろ? フレア団の下っ端を相手にしているのとは訳が違うんだ。無茶が過ぎるだろ………。数は少なくとも実力は遥かに上なんだし。

 

「オレとクリスでリザードンとゲッコウガを抑えておく。その間にジュカインを片付けろ」

「へっ、上等だコノヤロ!」

「フッ、ギャラドス 、ドンカラス!」

「いくぜ、エーたろう、ニョたろう!」

「パラぴょん、バリぴょん! いくわよ!」

 

 追加でギャラドス 、ドンカラス、エテボース、ニョロトノ、パラセクト、バリヤードの投入か。一気に全員を出してくるのかと思っていたが、そこはちゃんと考えているらしい。ただそれが正解かどうかはやってみないことにはお互いに分からない。

 つか、ギャラドスが赤いんですけど。まさかの色違いかよ。

 

『お手並み拝見だな』

 

 そう言って前に出たゲッコウガもほくそ笑んでいる。

 現在、配置はゲッコウガが中央を陣取り、ジュカインが右へとずれた。そしてリザードンが左側を陣取っている。それに合わせて三人の立ち位置も動き、ゲッコウガの前にはクリスタルさん、ジュカインの前にはゴールド、リザードンの前にはサカキの息子となった。

 さて、まずは三倍の数で押し切ろうというつもりかな。

 恐らくギャラドスとドンカラスは対リザードンが目的だろう。そこにオーダイルもいれてリザードン包囲網は完成だ。かみなりパンチを主軸に接触技ならカウンターやらで対処すれば大丈夫だろう。飛行術を駆使した同士撃ちをさせるのも手か。

 次にパラセクトとバリヤードだが、これも対ゲッコウガを考えてのもの。タイプ相性からの選択だと思う。ただメガニウムもそこに加わるとなるとゲッコウガの相手はくさタイプが二枚。まあ、今のあいつなら問題はないだろうな。勝手にやってくれるだろう。

 最後、エテボースとニョロトノだが、よく分からん。エテボースはいいとしてもニョロトノはジュカイン相手に分が悪すぎないか? トレーナーがトレーナーなだけに予測もつかない。やはり俺がメインで見るのはジュカインになるだろう。

 

「エーたろう、こうそくいどう! ニョたろうはさいみんじゅつだ!」

「ギャラドス 、たつまき!」

「パラぴょん、キノコのほうし!」

 

 なるほど、ニョロトノは一歩下がった配置か。それならまあ出した意味も分からなくもない。

 

「リザードン、ソニックブーストからの竜巻とは逆回転でのトルネード。ジュカインは目を閉じろ」

 

 リザードンは竜巻からの脱出。ジュカインはさいみんじゅつに掛からないように目を閉じさせた。ゲッコウガは知らん。多分、みずのはどうを駆使して胞子を落としていると見た。

 

「ドンカラス、追いかけろ! そらをとぶ!」

「へっ、後ろがガラ空きだぜ! ダブルアタック!」

 

 そうすると背後からエテボースがきますよね。分かってましたよ。

 

「メガぴょん、つるのムチ! パラぴょん、あまいかおり!」

「ジュカイン、いやなおと」

 

 二本に分かれた尻尾を振り上げて飛び込んでくるエテボースであろうと、耳障りな音を近距離で耳にしてしまえば、顔をしかめて勢いがゼロになる。

 

「バクたろう、かえんほうしゃ!」

 

 咄嗟にフォローに入ったのか炎が正面から迫ってきた。

 

「でんこうせっかで躱して詰めろ」

 

 ジュカインはその炎を躱してニョロトノの前へと躍り出る。

 

「リーフブレード」

『うぷ………クソ甘ぇ………リザードン、こいつらを焼いてくれ』

 

 ゲッコウガは天井付近を旋回しているリザードンに注文を出した。あまいかおりを嫌うポケモンは初めて見たわ。あいつ、本当に研究者泣かせだよな。

 

「オーダイル、アクアテール!」

 

 リザードンがメガニウムとパラセクトに向けてかえんほうしゃを放つと、その間に割り込んでオーダイルが水を纏った尻尾で弾き返した。そのおかげか、甘い香りも消え失せ、ゲッコウガの目的は果たされている。

 

「ニョたろう?! チッ、バクたろう、かえんぐるま! エーたろう、こうそくいどう!」

 

 ジュカインの方はニョロトノに腕の葉の刃で斬りかかり、後方へと弾き飛ばした。そこへバクフーンとエテボースが突っ込んできている。

 

「今だ、ギャラドス! ハイドロポンプ!」

 

 リザードンの方もカバーに入られているか。

 なら、両者とも躱すのが先決だな。

 

「ジュカイン、あなをほる。リザードン、ローヨーヨー」

 

 ジュカインはその場で穴を掘って一難を凌ぎ、リザードンは急降下することで水砲撃を躱した。

 

「パラぴょん、ヘドロばくだん!」

『おっと』

 

 注意が晒されていたゲッコウガにはヘドロが飛ばされてくるが、これもゲッコウガはあるポケモンを出し、壁にすることで防いだ。出す必要もなかったとは思うんですけどね………いいけどよ。

 

「効果がない?!」

『フン!』

 

 驚いている隙にゲッコウガはパラセクトへと詰め寄り、両の手に持つ鋼の双剣で十六連撃を叩き込んでいく。

 

「パラぴょん?!」

 

 剣が白く光っていたし、つばめがえしの連撃だったのだろう。

 

「チッ、エーたろう、ゲッコウガにダブルアタック!」

「させねぇよ。ジュカイン」

 

 まあ、そう動くとは思っていたさ。

 でもこっちにはジュカインというカードがある。

 

「ドンカラス、ブレイブバード! ギャラドスは下から追いかけろ!」

 

 反転して急上昇するリザードンに対して、ドンカラスが全速力で下降してくる。

 

「リザードン、カウンター」

 

 それを直撃の寸前に翻り、右の裏拳でドンカラスを叩き落とした。下にはギャラドスがおり、バランスを崩して勢いだけを残したドンカラスが見事に直撃している。

 

『いわなだれ』

「ジュカイン、リーフブレード」

 

 うわ、容赦ねぇ。

 でもトドメはゲッコウガが両の手に持つ双剣ーーニダンギルに任せよう。

 今度はジュカインの方だ。

 

「メガぴょん、ソーラービーム!」

 

 ドンカラスとギャラドスの頭上から岩々が降り注ぐが、それをメガニウムが一掃。

 ジュカインはエテボースの正面に飛び出し、斜めに斬り飛ばした。

 

「バリ!」

 

 あ、そういやバリヤードはさっきから攻撃してこないな。でも、ただ出したとは考えにくい。

 

『チッ、かわらわり』

 

 ゲッコウガが目の前を上から叩き斬るとパリンという音とともに何かが割れた。

 なるほど、ひかりのかべか。バリヤードの仕掛けだろう。

 

「エビぴょん、マッハパンチ!」

 

 その一瞬をついてエビワラーが召喚された。飛び出した勢いをさらに加速させて拳を前に突き出してくる。

 

『つばめがえし』

 

 そう言うとゲッコウガはニダンギルを残して消えた。

 

「頼むぜ、トゲたろう! エーたろう、バトンタッチだ!」

 

 斬られて飛ばされたエテボースはゴールドの元へと戻っており、入れ替わるようにトゲキッスが飛び出してきている。それにしても目つき悪いな。トツカのトゲキッスに比べたら………いや比べるべくもないな。ただ親近感は沸くわ。

 

「リザードン、かみなりパンチ。ドンカラスを落とせ」

「ゴッドバード!」

 

 態勢を取り戻そうと飛び上がったドンカラスを落とすように命令。

 その間にボールの中で溜めていたのであろうトゲキッスの鳳を纏った突撃がジュカインを一閃した。

 バトンタッチの効果か。エテボースがこうそくいどうを連発してたせいで目で追えなかった。

 

「ジュカイン………一気に削られたか」

 

 技が技なので一撃で戦闘不能も考えられたが、そこはジュカイン。咄嗟にリフレクターを貼り威力を抑えたようだ。

 

「ドンカラス!? チッ、オーダイル、おんがえし!」

『フン!』

 

 消えていたゲッコウガが起き上がったギャラドス目掛けて何かを投げつけた。至近距離からだったためかギャラドスに直撃。

 

「ギャオス……!?」

 

 と、ギャラドスが呻き声を上げた。

 

「あれは………?!」

「毒をもらったか………!」

 

 毒状態。つまり今の技はどくタイプの技だったということか。しかも投げつける系の。となるとあれか。

 

「お前がダストシュート使うとこ初めてみたわ」

『フン、使う相手がいなかったからな』

 

 なるほど。

 確かにお互いに暴れているせいで、いい感じに埃が舞っている。それを一瞬で凝縮して投げつけたのか。一度消えたのも動作を隠すため。よく組み立てられたバトルだよ。

 

『それにしてもあのオーダイル、あいつを思い出させるな』

 

 あいつ、とはユキノのオーダイルのことだろう。

 ゲッコウガはオーダイルの突進を諸に受けて俺のところまで戻ってきた。

 

「とりあえず! パラセクト、ドンカラスは戦闘不能!」

 

 こんな混戦の中、いつ判定を下そうか悩んでたんだろうな。今だ! って勢いを感じましたよ。

 

『よっと』

「なっ………?!」

 

 ゲッコウガがこっちに来たためか、ニダンギルもゲッコウガの元へと戻って来た。それを見たクリスタルさんが驚きの表情を見せている。

 

「あれは…………?」

「ニダンギルだ。まさかポケモンがポケモンを使って手数を増やしてくるとはな」

 

 ゴールドの問いにサカキの息子が答える。

 リザードンを相手にしていたのによく見ているな。

 

「シャア」

「カイ」

 

 2ラウンド目が終了といったところか。

 あっちはカードを二枚失う痛手を受けている。次をどう攻めようか考えているところだろう。

 

「サナ」

「ん? どした、サーナイト」

「サーナ」

「………お前もやりたいのか?」

 

 ちょんちょんと横から引っ張られたため見やると、サーナイトが難しい顔をして何かを訴えてきていた。

 うーん、この表情は………。

 

「やりたいというよりは参加しないと兄貴分たちに申し訳ないって感じか」

「サナ………!」

 

 どうやら合ってたみたいだな。いや、合ってたら合ってたで驚きなんだけど。まさかサーナイトがそんなことを考えているとは………。

 

「なあ、お前の父ちゃんーーエルレイドとのバトルは覚えてるか?」

「サナ?」

「あの時、お前はどんなことを思ってどんなことを感じた? 端から見ていた俺には焦りや恐怖、意地なんかを感じた。それがお前が父ちゃんに勝てた要因だとも思ってる。だが、見たろ? ゲッコウガたちのバトルを。あの時のバトルとは比べものにならない激しさだとは思わないか? はっきり言って、今のお前ではあいつらと肩を並べてあそこでバトルをするのは無理だ。危険すぎる」

「………サナ」

 

 あ、やっぱ落ち込んじゃうよね。

 でも悪いな。そこは自覚を持ってもらわないとお前のためにならないんだ。

 だからここからは俺がトレーナーとしてお前も参加できる案を出してやるよ。

 

「まあ、そう落ち込むなって。何もこのバトルに参加できないと言ってるんじゃない。今のお前は知識も技術も経験も乏しいってことを理解しておいてほしいだけなんだ。それを踏まえた上で提案してやる。お前もこのバトルに後衛職として参加するか?」

「サナ………サナ!」

「ふっ、了解だ。お前に欠けているものは俺の知識と経験で補ってやる」

 

 バトルにおいて、何も攻撃職が全てではない。事複数体が混戦するバトルにおいては後衛職も重要な役割となる。いい例があっちのバリヤードだろう。さっきの動きを見るにここぞってところで後ろから邪魔を入れる役割だと考えられる。ならば、こっちにもその役割を作ったって反則ではない。ルールに則った正当な役割だ。

 

「やることは単純だ。お前の母ちゃんに教わったあの技であいつらを回復し続けるんだ。あとは俺が指示を出すからそれに従ってほしい」

「サナ!」

「んじゃ、頼むぞサーナイト。これが本当のお前の初陣だ」

 

 一週間前、サーナイトは父親であるエルレイドとの一騎打ちで進化までして勝利してくれた。それは俺と一緒に来ることを選んでくれたからだ。だから俺もサーナイトをもっと上へと連れて行くと決めた。その第一歩がこのバトルになるとは思っていなかったが、これはこれでいい教材となり得よう。

 

『最後の一枠もオレがもらうぞ』

「ああ、そのつもりだ。さすがにあいつは出せないからな」

 

 ゲッコウガにはニダンギルの他にもポケモンはいる。あと一体はウツロイドが控えているだけに、ゲッコウガの方から選出してもらうしかない。

 

「悔しいが認めるしかないだろう」

「ワタシはやる前から強い人だって思ってたんだけど………。それを二人が乗り気だったから………」

「へっ、強いなら強いで上等じゃねぇか! クリスも堅いこと言ってないで、あいつらをどう攻略するか考えろよ!」

「いったーい! 何するのよ!」

「元気づけてやろうと思っただけじゃねぇか! んな怒るなよ!」

「加減ってものがあるでしょうが!」

「はあ………」

 

 あいつら、どうでもいいことで揉めてるんだけど。喧嘩するほど仲がいいとかよく言うが、あいつらはそれに当てはまるのか? 割とガチでクリスタルさんは怒ってるぞ?

 

「こっちはドンカラスとパラセクトを失った。それにさっき出したばかりのエビワラー以外は結構なダメージを受けている者もいる。それに対して、あっちはリザードンに未だに攻撃が届いていないのが現実だ。ジュカインにはゴールドが上手くトゲキッスの攻撃を入れることに成功しているが、それでも倒しきれていない」

「だから何だよ。交代か?」

「いや、それはいい。取り敢えず、オレの案を聞いてくれ」

 

 と思ったら作戦会議か。

 忙しいやつらだな。

 

「ね、ねぇ、ちょっとコレ見て」

「なっ?! レベル91!?」

「それだけじゃないわ。ゲッコウガはレベル88、ジュカインでもレベル85よ」

 

 え?

 そうなの?

 そんな高いの?

 てか、レベルって何ぞ?

 

「オレのポケモンたちよりも上………」

 

 ふぁ?!

 レッドさんのポケモンより上!?

 マジかー………。

 

「ちなみにあのサーナイトはレベル40みたいよ」

 

 あ、うん、それは妥当? なのかも。リザードンたちが高すぎるらしいからサーナイトで高いのかよく分からん。

 

「なんか落差激しくないか?」

「恐らく後から捕まえたポケモンなのだろう。あの三体と同じように戦わせようとしていないところを見るに、実践経験も浅いはずだ」

「だから後衛ってわけね」

「これを吉と見るか凶と見るか………」

「どうだろうな。ゴールドたちのポケモンとのレベル差も小さいとは言えない。油断すれば一発という可能性もある」

 

 で、結局レベルってのは何なんすかね。そのポケモンの力量みたいなもんか?

 それとポケモン図鑑って優秀すぎない? 俺も欲しくなってきたわ。

 

「そんじゃ、いくぜ!」

「ああ」

「分かったわ」

 

 どうやら作戦会議は終わったみたいだな。落ち着きを取り戻し、目に戦意が宿っている。

 

「バクたろう、ブラストバーン!」

「オーダイル、ハイドロカノン!」

「メガぴょん、ハードプラント!」

 

 おいおい、またかよ。また究極技の同時撃ちなのかよ。

 

「お前ら、今度は押し返せ」

 

 でもこっちだってさっきとは違うぞ?

 全員オリジナルで出すんだからな。

 今度は真正面から押し返し、バクフーンたちの目の前で爆発させた。まあ、爆発させたのはあっちだろうけど。自分たちに当たる前にってやつだな。

 

「そっちはオトリだ! 反動で動けないうちにやっちまえ!」

 

 なるほど、そう来たか。

 これは数の暴力と言わざるを得ないだろう。反動でお互い動けない間に他のポケモンで集団リンチとか、さすがサカキの息子だわ。血筋なのかね。

 まあ、それはさておきこれは不味いな。ゲッコウガはニダンギルがいるからいいものの、リザードンとジュカインは完全にフリーだ。口から出す技と自然に直接アクセスした技以外は使えない。しかも背後から狙われたら終わりだ。

 んで、リザードンにはギャラドス、キングドラ、ウソッキーが。ゲッコウガにはエビワラー、ニョロトノ、バリヤード。ジュカインにはトゲキッス、エテボース、ウインディがそれぞれ迫ってきている。

 

「ウーたろう、がんせきふうじでリザードンの動きを止めろ! ニョたろうはゲッコウガにばくれつパンチ! トゲたろう、すてみタックル! エーたろうはダブルアタック!」

「ギャラドス、うずしお! キングドラ、たきのぼり!」

「エビぴょん、スカイアッパー! ウインぴょん、ジュカインにかえんほうしゃ!」

「サーナイト、一瞬だけでもいい。サイコキネシスで相手の全攻撃を遅らせてくれ」

「サナ!」

 

 一瞬でも動きを止められれば、それだけ硬直時間を稼ぐことができる。

 

『メタング、サイコキネシス』

 

 それはゲッコウガも同じ考えなようで、最後の一体としてメタングをニダンギルに出させた。そして同じように超念力を重ねがけして、さらに攻撃までの時間を稼いでくれている。

 

『ニダンギル、つばめがえし』

 

 それでもやはり届く攻撃はあり、リザードンはウソッキーのがんせきふうじからのギャラドスのうずしおを、ジュカインはウインディのかえんほうしゃを立て続けに受けてしまった。

 

「サーナイト、回復だ」

「サナ」

 

 手筈通りにサーナイトにはリザードンとジュカインの回復させた。サーナイトはこっちに来る前に母親のサーナイトからいのちのしずくという技を教わっている。この技は雫を浴びたポケモンが回復する効果があり、サーナイトでもこのバトルに携われるうってつけの技である。

 

「ゴールド、閉じ込めたわよ!」

「へっ、真の狙いはこっちだぜ! ピチュ、ボルテッカー!」

 

 ゴールド?!

 チラッと見えたバカはビリヤードよろしくボールを棒で弾き飛ばした。その先には………ゲッコウガか。不意をついた攻撃、しかもクリスタルさんの言葉が本当ならば、ゲッコウガは閉じ込められて動けなくなっている。だが、周りにはそんなものが存在しない。ということはさっき見せた見えない壁ーーひかりのかべの応用かもしれない。それならさっきの要領でニダンギルにかわらわりを使わせればいいのだろうが、もはやその猶予もない、か………。

 ーーー使うなら、ここだな。

 

「ジュカイン、ゲッコウガとものまねでサイドチェンジ」

 

 これまでジュカインには色々な技を試させている。それはもう使うかどうか怪しい技まで。あいつも面白半分でやってみたがるため、それなりに楽しめたのだが、それがここで活かせることになるとは………。

 

「メガシンカ」

 

 一瞬でゲッコウガと入れ替わったジュカインが、俺が持つキーストーンと反応し白い光に包まれていく。

 その間にもボールからピチューが飛び出し、激しい雷撃を纏いながら突っ込んで来ている。

 

「いっけぇぇぇ!」

 

 姿が変わると同時にピチューがジュカインに直撃した。

 

「「「なっ………!?」」」

 

 三人は目の前の光景に何が起きたのかと、口を大きく開けて驚いている。言葉を失うとはこのことだろう。

 

「ゲッコウガとジュカインが入れ替わってるだと?!」

「いつの間に!?」

 

 だが、これが現実だ。ゲッコウガとジュカインは入れ替わり、メガシンカしたことで特性がひらいしんに変わってボルテッカーを無効化した。しかもピチューの小さい身体ではジュカインを弾くこともできていない。

 

「エナジーボール」

 

 全員が驚愕で止まっているからといって容赦はしない。特性の効果で威力増し増しのゼロ距離からのエナジーボールで、ピチューを弾き飛ばした。

 

「ピチュ!?」

 

 ゴールドの右側を一閃し壁に激突。一瞬遅れて振り向いた先には戦闘不能になったピチューが地面に倒れ伏している。

 

「ピチュー、戦闘不能!」

 

 これで三体目。

 あと十五体はいるんだろうが、こうなってしまってはもはや関係ないだろう。

 

「何がどうなって………」

「起きたことを考えるのは後だ。今は目の前の敵をどう倒すか考えろ。マニューラ、つじぎり!」

 

 おっと、ついにサーナイトの仕掛けに気づかれたか?

 あろうことかサーナイトに向けてボールが投げられ、マニューラが飛び出してきた。素早さは一級品。サーナイトにとっては十二分に速いと言えよう。ここは賭けだがやってみるか。

 

「サーナイト、トリックルーム」

 

 サーナイトの力量では全員を巻き込んでというのは難しい。だが、それが却って武器になる。

 

『ニダンギル、せいなるつるぎ! メタング、メタルクロー!』

 

 トリックルームは素早さがあべこべになる部屋だ。そこにサーナイトと他二体とともに閉じ込められたマニューラは一番動きが遅くなる。

 全く………、ゲッコウガも大したものだ。あの一瞬でニダンギルとメタングを送り込んでくるとは。もうトレーナーとしてもトップレベルってことでいいんじゃないか?

 

『ジュカインがメガシンカしたならオレもやるしかないな』

 

 涼しくそう言うゲッコウガは既にこっちに意識を向けていない。あとは俺が料理しろということだろう。

 あ、一瞬で姿変えやがった。お前、早着替え大賞取れるぞ。

 

「リザードン、ジュカイン。りゅうのまい」

 

 なら、リザードンとジュカインはあいつに任せることにしよう。最後にパワーアップだけはしといてやるよ。

 

「ニダンギル、もう一度せいなるつるぎ」

 

 さて、さっさと片付けるか。

 恐らくこの三体は誰一人としてマニューラよりレベルなるものが高くない。何なら大幅な差があると言ってもいいだろう。それを数とフィールドを活かして乗り切るしかない。

 幸い、全員マニューラの弱点をつける技を持ち合わせている。それを上手く組み合わせて反撃を許さない展開にする必要があるな。

 

「マニューラ、つじぎりだ!」

 

 まあ、まずは受け止めてくるだろう。

 だが、それは誘いだ。

 

「メタング、そのままメタルクロー」

 

 長く伸ばされた二本の剣を受け止めているため、そう易々とは躱せないはずだ。躱せたとしても上に動くのが精一杯だろう。

 

「躱せ!」

 

 ふっ、やはりそう動くよな。

 

「サーナイト、マジカルシャイン」

 

 後ろに下がればサーナイトがいる。前にはニダンギルがギチギチと双剣を振り下ろして動けない。そこに右横からメタングが突撃してきてるのだから左に躱してもトリックルーム内ではすぐに追いつかれる。だから上。

 

「マニャ!?」

 

 やはり数の暴力は恐ろしいな。

 サーナイトから迸る光を受けたマニューラが苦しさを露わにした。

 

「メタルクロー」

 

 だが、これバトルなんでな。容赦はしない。

 すぐに方向転換したメタングが鋼の爪で引っ掻いた。

 

「っ?! おいおい、ここに来て進化かよ」

 

 すると、いきなりメタングが白い光に包まれてしまった。

 進化だ。ここにきて進化が始まったのだ。

 まさかダイゴさんからもらったポケモンがダイゴが見ているバトルで進化することになるとは。

 

「マニューラ、まとめて凍らせろ! ふぶき!」

「ニダンギル、ラスターカノン」

 

 地面に落ちそうだったマニューラを、ニダンギルが下に潜り込み鋼の光線で撃ち上げた。それと同時にマニューラも吹雪を起こし、直近にいたニダンギルが凍らされてしまい、サーナイトたちも巻き込まれてしまっている。何なら俺も若干巻き込まれてるんですけどね。寒すぎだろ。凍るっつの。

 さて、トドメは………進化したけど使えるのか?

 

「メタグロス、コメットパンチ」

 

 試しにコメットパンチを命令してみると両前脚を前に突き出してマニューラへと突撃していった。

 思いの外、威力があったらしくトリックルームまで壊れちゃったが、まあいいだろう。

 

「マニャ?!」

 

 うわ、痛そう………。

 だが、あれは倒しきれていないな。

 

「ニダンギル、戦闘不能!」

 

 まさかニダンギルを持っていかれるとは。ちょっとマニューラを相手するには痛手だ。

 

「マニューラ、先にサーナイトを倒せ! でんこうせっか!」

 

 やはりサーナイト狙いか。

 実力差はサーナイトが圧倒的に劣っている。故に攻撃はニダンギルやメタグロスに任せていたのだが、その一角が戦闘不能に追い込まれてしまった。だから、先にサポートに徹しているサーナイトを狙うというのも分からなくもない。

 

「まもる」

 

 なら、こっちはとことん守ってみせよう。

 

「メタグロス、メタルクロー」

 

 防壁に弾かれたところを背後からメタグロスが鋼の爪で切り裂いた。

 

「だましうち!」

 

 と思ったら、まさかのだましうちというね。

 性格悪いわー。

 

「サーナイト、トリックルーム」

 

 仕方がない。

 もう一度あの部屋に閉じ込めるしかなさそうだ。

 サーナイトは再び動く速さがあべこべになる部屋へと自分共々閉じ込めた。そのおかげでサーナイトにはマニューラの攻撃が届いていない。

 

「サーナイト、マジカルシャイン。メタグロス、コメットパンチ」

 

 こうなったら躱せまい。

 

「マニューラ、まもる!」

「なら、連続で攻撃し続けるまでだ」

 

 悪あがきとも取れる防壁で二体の攻撃を防いでいくマニューラ。しかし、それも時間の問題だろう。

 

「マニャ?!」

 

 二度、三度と繰り返している内に防壁が割れ、メタグロスの両前脚がマニューラへと突き刺さった。そして、大きく突き飛ばしていく。

 

「マニューラ、戦闘不能!」

 

 ふぅ、実力差がありすぎるのに挑むのは無理があるな。数の暴力で何とか乗り越えた感じだわ。

 まあ、ニダンギルはやられたとはいえ、よくやった。マニューラもあの中でよく一体を持っていけたわ。そこは素直にすごいと思う。それだけの手練れだったというわけだ。

 

「お疲れ、サーナイト」

「サナ!」

「おーよしよしよし」

 

 勝ったー! とアピールしてくるサーナイトの頭を撫でまくる。うん可愛い。

 メタグロスがニダンギルを拾って俺のところまで戻ってきた。

 さて、あっちはどうなって…………ファッ!?

 

「なんじゃ、この地獄絵図………」

 

 突然ですが、問題です。

 ここはどこでしょう。

 ーーー答えはクチバジムです。

 なのに、何でグラードンとカイオーガとレックウザがいるように見えちゃってるんですかね…………。

 

「エテボース、ウインディ、エビワラー、バリヤード、ギャラドス、ウソッキー、戦闘不能!」

 

 ギャラドスとウソッキーをフレアドライブで強引に片付けるリザードンさん。自分の周りに水の渦を四つも作り出してエビワラーとバリヤードを呑み込んだゲッコウガさん。これでもかってくらいにものまねを使ったりゅうせいぐんを撃ち込むジュカインさん。

 御三方は揃いも揃って修羅と化していた。よくこの状況でメガニウムとバクフーンとオーダイルは生き残ったな。褒めてやりたいわ。

 

「つかもう、俺いらなくね?」

 

 放っておいても時間の問題だろう。というか楽しそうだね、君たち。

 今対峙しているのはリザードンに対してオーダイルとキングドラ、ゲッコウガに対してメガニウムとニョロトノとカラカラ、ジュカイン対してバクフーンとトゲキッスである。

 

「カラカラ、ホネブーメラン!」

 

 え?

 ゲッコウガにカラカラ?

 カラカラって骨投げてるけど………あーあ、呑まれた。効果抜群で一発退場だろ、あれ。

 

「カラカラ、戦闘不能!」

「そんなぁ………?!」

 

 気持ちは分かるが、俺にももう手の出しようがない。

 こんな地獄絵図になってるなんて誰が想像したよ。

 

「カイカイ!」

『はっ? お前が?』

 

 なんかジュカインがゲッコウガに申し立てしてるみたいだが、取り敢えずあっちを終わらせるか。

 

「リザードン、二体にじわれ。トドメをさせ」

「シャア!」

 

 何その待ってましたと言わんばかりのもうかの発動。じわれには効果ないでしょうに。

 と思ったらまたしても炎を纏い始めたよ………。しかも脚にも炎がいってるし。アレ、まさかとは思うけど、ブレイズキックのチャージとか?

 

「オーダイル、アクアテール! キングドラ、たきのぼり!」

 

 オーダイルは水を尾に纏い上から、キングドラは水を全身に纏って下から登りつめてくる。

 それをリザードンはキックでキングドラを地面に落とし、そのまま地割れを起こした。

 残ったオーダイルも当然上から尻尾を振り下ろしてくるわけだが、これもブラスタロールで背後に回り込み地面に叩きつけた。そのまま地割れを起こして呑み込んでいく。

 圧迫によって飛び出したオーダイルとキングドラは白目を剥いていた。

 

「オーダイル、キングドラ、戦闘不能!」

「今のは大地の奥義の一つ………!! ーーまさかっ!?」

「リザードンにじわれを教えたのはサカキですよ」

 

 じわれを見たサカキの息子が過剰に反応を示した。じわれなんて他にも使う奴はいるだろうに。ただの一撃必殺の技だろ?

 考えても分からん。取り敢えず、誤解という解が導き出される前に訂正しておこう。

 

「ただ、勘違いされても困るんで言っておきますけど、俺はロケット団に所属したことは一度もないんで。あの男は俺たちに裏社会との戦い方を叩き込んできたにすぎませんよ」

「それで大地の奥義を教えるのか? あの父さんが?」

「訳ありのリザードンしか連れてなかったからじゃないですかね」

「意味が分からない」

「そこには激しく同意しますよ」

 

 言いたいことは分かるからな。

 だってあのサカキだぞ? 暴虐を形にしたサカキさんだぞ?

 そんな男が誰かに何かを教えるなんて想像つかないだろう。逆を言えば、それほどまでにあの時の俺は見るに見兼ねる屍のような姿をしていたのだろう。

 

『ほらよ。外すんじゃねぇぞ』

「カイ!」

 

 ゲッコウガがそう言うとジュカインは分身を数体作り、帯電し始めた。そして右腕を前に突き出してーーー。

 

「って、レールガンかよ」

 

 まさかのレールガンでした。

 しかもバクフーンとメガニウムが辛うじて残っただけで、後は全員戦闘不能。

 

『くさタイプには効きが悪いのは織り込み済みだ』

 

 あ、ちゃんと最後までフォローに入るのね。なんて優しいゲッコウガさん。

 

「メガぴょん!?」

「メガニウム、ニョロトノ、トゲキッス、戦闘不能!」

 

 メガニウムたちの背後から現れたゲッコウガが次々と襲い掛かり、戦闘不能へと追い込んでいた。

 これで残すはあと一体。

 

『まさかジュカインまでアレをやるとは』

「俺も驚きだわ」

 

 まあ、ものまねを得たことで散々見てきた戦い方が全部再現できるようになったというのも大きな要因なのだろう。

 

「え? あれ? もうバクたろうだけ?」

「ああ、すまんな」

「ごめんね、ゴールド」

 

 ポケモンの数をちゃんと数えてなかったのか?

 気づけば周りには誰もいなくなったことに慌てふためくゴールド。多分だが、Z技をまだ使ってないから残されたのではと思っている。誰に、とは愚問だろう。

 

「だぁー、もう! こうなったら! いくぜ、バクたろう!」

 

 もう最後、ということで一発デカイのを撃って一矢報いたいって顔をしている。

 

「オレたちはもっともっと激しく燃えるぜ! くらいやがれ! ダイナミックフルフレイム!!」

 

 相変わらず変な動きだよな。

 

「あ………」

 

 ゲッコウガが手裏剣を頭上に掲げやがった。Z技に対してアレやるつもりだ。それと俺の身体も乗っ取るのやめようや。恥ずかしいじゃねぇか。

 

「よし、取り敢えずみんなで守ろうか」

「サナ!」

 

 もはやこの建物すら危うくなりそうなことになるのは目に見えている。なので、自分たちだけでも難を逃れるためにサーナイトたちに防壁を貼らせた。いっそ綺麗さっぱり記憶を飛ばしてくれるとありがたいんですけどねー。何もないのにただ手を掲げて振り下ろすとか超恥ずいわ。

 

『フン!』

 

 そんなことはお構い無しに巨大な獄炎を巨大な水の手裏剣で消し去った。

 

「マジかよ………」

 

 まさかのZ技の相殺に腰を抜かすゴールド。

 

『トドメだ』

 

 ほんと容赦ねぇ。

 波導で水を操り、弓矢の形にしてバクフーンを射抜いた。

 これ、何気に新しいパターンだな。

 

「バクフーン戦闘不能! よって勝者、ハチマン君!」

 

 あーあ、勝っちゃったよ。図鑑所有者を三人相手取って勝っちゃったよ。

 やだなー。また何かお小言もらいそうな予感がするわ。かと言って負けられないし。

 

「プラターヌ博士、ククイ博士。あれはZ技ではないのか?」

「今のところ何とも。ただ、僕もZ技に近いものだと考えています」

「オレにもさっぱりですね。ただ、やはりというか石を必要としないメガシンカがある以上、リングを必要としないZ技があったとしてもおかしくはないでしょう」

「ふむ、なるほどな」

 

 ナナカマド博士の問いに若手研究者二人がそれぞれの見解を示した。どちらもあれをZ技の可能性大と見ているようだ。

 まあ、ゲッコウガの場合、強ち間違いでもないからな。余った力で技を昇華させてみたって言ってたし。

 

「勝っちゃった………」

「勝っちゃったな………」

「なるほど………ポケモン側もトレーナーとしての素質を持つとここまで劇的に変わるのか。下手に他人と組むより余程息が合う」

「ちょ、何分析してるのよ……」

「一年前、オレはあいつと会っているが、その時はまだゲッコウガが今の領域に達していなかった」

「それって………」

「ああ、この一年であそこまで変わったということだ。全てはきずなへんげを会得したからだろう」

「石を必要としないメガシンカ、か」

 

 何やら図鑑所有者たちの方で色々感想が出ているみたいだな。

 

「くぅぅ! オレもやりてぇーっ!!」

 

 うおっ!?

 びっくりした………。

 いきなり叫ばないで下さいよ、レッドさん。驚いてちびっちゃうでしょうが。

 

「………このバトル脳が」

「しょうがないわよ、レッドだもの」

 

 それで片付けていいんすか………。

 あ、というかブルーさんに一応感想聞いといた方がいいかな。

 

「おい」

「え? あ………」

 

 と、ブルーさんを見てたら急に声をかけられた。しかもそれがサカキの息子だった。

 これはまずい。姉さんを変な目で見るなとか絶対怒られるやつだ。ハチマン知ってる。

 

「お前は父さんにじわれを教わったと言っていたな」

「まあ、そうっすね。教わったというか強制的に覚えさせられたというか」

「これは父さんがトキワのジムリーダーだった頃に作った『大地の奥義書』だ」

「はあ………。えっ? これを俺にどうしろと?」

「ざっとでいい。目を通しておけ」

「お、おう、あ、はい………ども」

 

 え? なに? どゆこと?

 ブルーさん関係で怒られないどころか、サカキが作ったとかいう『大地の奥義書』とやらを渡されたんだけど………。

 

「おい、シル公。何渡してたんだよ!」

「何でもない。今から反省会をするぞ」

「ええー!」

「ゴールドに拒否権はないわよ。アンタたちは特に彼を侮っていたんだから」

「あ、ちょ、クリス?! 引っ張るなよ!」

 

 ふっ、仲がよろしいことで。

 ん?

 

「んん?」

 

 シルバーが俺を見たかと思うと右手をある方向へと動かした。その先にはさっきからずっとバトルしたいバトルしたいと連呼しているレッドさんが。

 えっ? なに? 俺にアレをどうにかしろと?

 

「アイツ、せめてもの意趣返しってか………」

 

 はあ………。

 多分、ゴールドと同じで一度言い出したらキリがないんだろうな。しかもゴールド以上のバトル脳らしいし。

 

「ガス抜きするしかないのか…………」

「せんぱーい、お疲れさまでーす!」

 

 何となく次が決定してしまったような気がして項垂れていると、きゅるんとした声音でイロハがトテトテとやってきた。手にはタオルとお茶。

 

「あざとい」

「ええー、なんでですかー。先輩の可愛い後輩がこうして大活躍だった先輩を労ってるっていうのにー」

「はいはい、可愛い可愛いー」

「ぶぅー」

 

 だからあざといっつの。

 その膨らませた頰をプニプニしちゃいたくなるだろうが。

 …………そうだ。この際だし、イロハもバトルしてみた方がいいんじゃないか? 四天王を目指してるんだし。

 

「なあ、イロハ。お前、バトルしてみないか?」

「バトル? 誰と?」

「そりゃ、決まってるだろ。あそこにいるバトル脳の人」

「………本気で言ってます?」

「ああ、本気も本気。本気と書いてマジと読むくらい本気だな」

「でもなんで急に私が?」

「図鑑所有者たちとバトルできる機会なんて早々ない。折角だし、お前もどうかなと。俺やユキノたちとはまた違った経験になるだろうし。それに四天王になるならああいう人たちのバトルも味わっておくべきだと思うぞ」

「………勝てると思います?」

「正直分からん。だが、一方的になることはないとだけは保証してやる」

「はあ………、しょうがないですねー。先輩に乗せられて上げますよ」

 

 たまに目にする憎たらしい笑みで口角を上げたイロハが答えた。ユキノ曰く、こういう時の彼女はどこか俺に似ているところがあるらしい。ご丁寧にヒキガヤ菌に感染した証ね、と言い出すほどにはそっくりなんだとか。

 ヒキガヤ菌の感染力半端ねぇな。

 

「勝ったらご褒美下さいね?」

 

 ハハ……、俺がやった方が安上がりだったかな………。

 可愛いものほど怖いものはないと改めて思ってしまったわ。




行間

ヒキガヤハチマン 持ち物:キーストーン 菱形の黒いクリスタル ソウルハートetc………
・リザードン(ヒトカゲ→リザード→リザードン) ♂
 特性:もうか
 覚えてる技:かえんほうしゃ、メタルクロー、かみつく、おにび、えんまく、はがねのつばさ、かみなりパンチ、ドラゴンクロー、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、かみくだく、カウンター、じしん、フレアドライブ、ブラストバーン、げきりん、じわれ、だいもんじ、ソーラービーム、リフレクター、はらだいこ、ぼうふう、ねっぷう、あなをほる、れんごく、かげぶんしん、ブレイズキック
 飛行術
 ・ハイヨーヨー:上昇から下降
 ・ローヨーヨー:下降から上昇
 ・トルネード:高速回転
 ・エアキックターン:空中でターン
 ・スイシーダ:地面に叩きつける
 ・シザーズ:左右に移動して撹乱
 ・ソニックブースト:ゼロからトップに急加速
 ・コブラ:急停止・急加速
 ・ブラスターロール:翻って背後を取る
 ・グリーンスリーブス:連続で攻撃して空中に釣り上げる
 ・デルタフォース:空中で大きな三角形を描くように連続攻撃
 ・ペンタグラムフォース:空中で五芒星を描くように連続攻撃
 ・バードゲージ:スピードを活かして相手の動きをコントロールしていく
 ・スモール・パッケージ・ホールド:背面飛行で相手の下を飛行する

・ゲッコウガ(ケロマツ→ゲコガシラ→ゲッコウガ) ♂
 特性:きずなへんげ(へんげんじざい→きずなへんげ)
 覚えてる技:みずのはどう、あなをほる、かげぶんしん、れいとうパンチ、れいとうビーム、つばめがえし、ハイドロポンプ、くさむすび、グロウパンチ、えんまく、がんせきふうじ、いわなだれ、まもる、かげうち、みずしゅりけん、どろぼう、つじぎり、ハイドロカノン、めざめるパワー(炎)、とんぼがえり、とびはねる、ほごしょく、けたぐり、ぶんまわす、あくのはどう、どろあそび、ふぶき、たたみがえし、ダストシュート

・ジュカイン(キモリ→ジュプトル→ジュカイン) ♂
 持ち物:ジュカインナイト
 特性:しんりょく←→ひらいしん
 覚えてる技:でんこうせっか、リーフストーム、リーフブレード、ドラゴンクロー、タネマシンガン、ギガドレイン、かみなりパンチ、スピードスター、くさむすび、ソーラービーム、エナジーボール、シザークロス、くさのちかい、マジカルリーフ、タネばくだん、こうそくいどう、つめとぎ、いやなおと、こうごうせい、くさぶえ、やどりぎのタネ、グラスフィールド、なやみのタネ、ハードプラント、つばめがえし、ものまね、みがわり、じならし、アイアンテール、けたぐり、つじぎり、グロウパンチ、まもる、ぶんまわす、あなをほる

・サーナイト(ラルトス→キルリア→サーナイト) ♀
 特性:シンクロ
 覚えてる技:リフレクター、ねんりき、まもる、テレポート、マジカルリーフ、シャドーボール、マジカルシャイン、トリックルーム、シンクロノイズ、サイコキネシス、いのちのしずく

・ウツロイド
 覚えてる技:ようかいえき

控え
・ヘルガー ♂
 持ち物:ヘルガナイト
 特性:もらいび←→サンパワー
 覚えてる技:かみつく、ほのおのキバ、ふいうち、おにび、かえんほうしゃ、かみくだく、れんごく、ほえる、はかいこうせん、アイアンテール、あくのはどう、みちづれ、だいもんじ、ハイパーボイス、ヘドロばくだん、ちょうはつ、ほのおのうず、まもる

・ボスゴドラ ♂
 持ち物:ボスゴドラナイト
 特性:がんじょう
 覚えてる技:ロックブラスト、あなをほる、なげつける、メタルクロー、アイアンヘッド、アイアンテール、てっぺき、メタルバースト、ボディパージ、ヘビーボンバー、ロックカット、ほのおのパンチ、もろはのずつき、ラスターカノン、ドラゴンダイブ、でんじふゆう、だいちのちから、カウンター、ばかぢから


ゲッコウガ
・ニダンギル(ヒトツキ→ニダンギル)
 特性:ノーガード
 覚えてる技:ラスターカノン、せいなるつるぎ、つばめがえし、かげうち、つじぎり、シャドークロー、きんぞくおん、いわなだれ、かわらわり、まもる

・キリキザン
 特性:まけんき
 覚えてる技:つじぎり、くろいまなざし、ロックカット、メタルクロー

・アギルダー
 特性:うるおいボディ
 覚えてる技:スピードスター、むしのさざめき、ギガドレイン、みずしゅりけん、こうそくいどう、かげぶんしん、こころのめ、はたきおとす、バトンタッチ

・メタグロス(ダンバル→メタング→メタグロス)(色違い)
 覚えてる技:ラスターカノン、じならし、ひかりのかべ、サイコキネシス、メタルクロー、コメットパンチ、まもる


ゴールド
・バクフーン バクたろう
 特性:もうか
 使った技:かえんほうしゃ、かえんぐるま、ブラストバーン

・エテボース エーたろう
 特性:テクニシャン
 使った技:ダブルアタック、こうそくいどう、バトンタッチ

・ニョロトノ ニョたろう
 特性:ちょすい
 使った技:ばくれつパンチ、さいみんじゅつ

・ウソッキー ウーたろう
 特性:がんじょう
 使った技:がんせきふうじ

・トゲキッス トゲたろう
 特性:はりきり
 使った技:ゴッドバード、すてみタックル

・ピチュー ピチュ
 特性:せいでんき
 使った技:ボルテッカー


シルバー
・オーダイル
 特性:げきりゅう
 使った技:れいとうパンチ、きりさく、ハイドロカノン、アクアテール、おんがえし

・マニューラ
 特性:プレッシャー
 使った技:つじぎり、ふぶき、でんこうせっか、だましうち

・キングトラ
 特性:すいすい
 使った技:たきのぼり

・ドンカラス
 特性:ふみん
 使った技:そらをとぶ、ブレイブバード

・ギャラドス
 特性:いかく
 使った技:たつまき、ハイドロポンプ、うずしお


クリスタル
・メガニウム メガぴょん
 特性:しんりょく
 使った技:つるのムチ、ソーラービーム、ハードプラント

・カラカラ カラぴょん
 特性:ひらいしん
 使った技:ホネブーメラン

・パラセクト パラぴょん
 特性:かんそうはだ
 使った技:ヘドロばくだん、キノコのほうし、あまいかおり

・エビワラー エビぴょん
 特性:てつのこぶし
 使った技:マッハパンチ、スカイアッパー

・ウインディ ウインぴょん
 特性:いかく
 使った技:かえんほうしゃ

・バリヤード バリぴょん
 特性:ぼうおん
 使った技:サイケこうせん、ひかりのかべ


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ぼーなすとらっく25『有識者会議 その7』

続きです。
今更ながらルビ振り機能を使ってみました。


「レッドさ〜ん、私と〜バトルしませんかぁ〜?」

 

 リザードンたちを回復させていると、早速イロハが動き出した。

 なにあれ………。

 あざとさ全開の甘ったるい声で計算され尽くした角度からの上目遣いでのお誘い。

 

「え? いいの? マジ? よし、なら思いっきりやろうぜ!」

 

 そして、それを意に返さない鋼のメンタルを持った男レッド。

 というより今のあの人はバトルにしか頭がいってないんだろうなー。

 

「ねえ、アレいいの?」

 

 そんなレッドさんを脇目にブルーさんが話しかけてきた。

 

「レッドさんがいいならいいんじゃないですか? こっちとしては貴重な体験ですし。俺のせいで感覚が麻痺してるのは否めませんが、トレーナーになってまだ一年しか経っていない奴が最強の図鑑所有者とバトルできるなんて、それだけで価値がありますよ」

 

 今回イロハに提案したのもそれを狙ってのことでもあるし。

 

「トレーナーになってまだ一年、か。見たところお前と同年代に見えるが?」

 

 トレーナー歴が一年とかあり得ないだろ、とでも言いたいんだろうな。だが、事実なのだから仕方あるまい。

 

「一つ下だ。あいつとカロスにいるもう一人はポケモンをもらうって時に色々あってな。そのせいで段々とトレーナーになることを諦めてたんだ。そこをオーキドのじーさんとプラターヌ博士が画策して、場所をカントーからカロスに移してポケモンを渡したってわけだよ」

「おじいちゃんがねぇ………」

 

 信じられないって顔だな。

 まあ、当の俺だってカロスに渡ってから知ったことだし。コマチの旅について行くのはその可能性も考えてはいたが、場所がカロス地方になるなんて思いもしなかったからな。しかもあっちに行ってからというもの、ユキノたちに再会するわ事件に巻き込まれるわ記憶を失くすわで大忙し。命がいくつあっても足らないとすら思えてしまうレベル。それが今では協会のトップだというのだから人生何が起きるか分かったもんじゃない。

 まあ、それ程とまではいかないにしろ、イロハやユイも苦労してきたのは確かだ。ゲッコウガーー当時ケロマツだったあいつが俺を選んだ時のユイの悲しそうな顔は今でも鮮明に覚えている。本人はあまり覚えてなさそうだけども。

 

「ならアナタは? どうしてカロスに?」

「俺ですか? あいつらと同じタイミングで妹もポケモンをもらうことになって、その連れ添いとしてカロスに行ったんですよ。そしたら………」

「フレア団の事件に巻き込まれた、と」

 

 フレア団事件の際にはグリーンもカロス地方を訪れていたため、事の経緯は粗方知っている。といっても俺たちとは別視点での事件の遭遇になるため、当時の俺たちのことをそれ程知っているわけでもない。

 

「ああ、どうやら俺のことがあちらさんにはバレてたみたいで、危険因子の排除ってことで狙われた」

「そりゃまた災難ね」

「ほんとですよ。俺一人ならどうとでも動けるものを、初心者トレーナー三人を連れ立って、守りながら戦うとかどんな鬼畜プレイだよって思いましたね」

「よく言う。他にもお前の下レベルのトレーナーはいただろうが」

 

 それはユキノのことだろうか。ザイモクザは………違うだろうな。そもそも存在自体を認識されてるかすら怪しいレベルだ。あいつ、俺たちの秘密兵器みたいなもんになってないか?

 

「それに最終兵器の撃ち上げを呑み込んだのは誰だったか?」

「そのせいで記憶を失くしたんだけど?」

「ねえ、ちょっと待って。最終兵器? しかもその撃ち上げた光線を呑み込んだ? ………アナタ本当に人間なの?」

「失礼な。人間ですよ。目がちょっとアレなだけで」

 

 それとアレは黒いのがいたから成し得た芸当だ。あいつがいない今、俺にできることなんて普通にトレーナーとして指示を出すくらいしかない。

 それを思うと記憶が代償というのも強ち間違いではないのだろう。それくらいのレベルのことを俺はやっていたのだ。下手すれば命と引き換えってことにもなり兼ねないだろう。

 ダークライさん、怖すぎ………。

 

「ところで、俺のバトルはどうでした?」

「え? あ、うん………すごかったわ」

「そっすか」

 

 なにすか、その歯切れの悪さ。

 まさか見てなかったとか?

 そうだったらなんてやり損だろうか。ブルーさんに見せるためにやったというのに。

 

「………アナタはポケモンたちがやりたいようにやらせるのね」

 

 あ、よかった。

 そこはちゃんと見てくれていたらしい。無駄骨にならなくて本当によかったわ。

 え、で、ポケモンのやりたいようにバトルさせるのかって?

 

「そりゃそうでしょ。戦うのは俺じゃない。ポケモンたちの方なんですよ。なら、ポケモンたちがやりたいようにやらせるのがトレーナーの務めってもんだと思いますけど?」

 

 仕事の場合は別ですけどね。

 仕事の時は生活がかかってることもあるんだ。だからこそ、純粋なバトルにおいてはポケモンたちのやりたいようにやらせている。何ならゲッコウガによってバトル中のポケモン側の視点を見させられたことで、その傾向は強くなっていると自覚している。でも、それでいいのだ。少なくとも俺はそういうスタンスなのだから。

 

「………お前、本当にヒキガヤハチマンか?」

「何だよ、偽物に見えるのか?」

「いや、信じる者はリザードン一体のみで、他を寄せ付けないオーラを出していたお前が、リザードン以外を連れているわ、女を侍らせるわ、昔のお前からは想像がつかない」

「女を侍らせるって………その表現どうなんだよ」

 

 間違ってないこともないけれども。でももう少しオブラートに包んでくれてもよくない?

 

「あまつさえ、サーナイトはまだ子供だろう? 以前のお前なら逃げられてるだろ」

「ばっかばか、逃げるのは人間だけだっつの。何なら今でも人間には逃げられる」

 

 どうも昔からポケモンにだけは毛嫌いされたことがないように思う。突発的な時でも俺の指示を聞いて一緒に戦ってくれたポケモンたちもいた。反面、人間からは自分から接触を拒んでいたこともあり、碌な思い出しかない。救いだったのはそれこそユキノの存在なんじゃないかな。アホみたいに俺に付きまとってたのが、それはそれで居心地がよかったのかもしれない。

 

「武のレッド、知のグリーン、技のアタシ」

「はい?」

「その三要素をアナタは全て兼ね揃えているわ。悔しいけれど、ええ本当に悔しいけれど!」

 

 こめかみに青筋が走っている。

 そんなに認めたくないのかよ。

 

「それと、ほんとどうでもいいことかもしれないけど、アタシを挟んで同じ声でこっち向いて喋るのやめてくれないかしら。すごくムズムズするのよ」

「「あー………」」

 

 そういやグリーンと声が似てるんだったな。

 ふとグリーンと目が合うと互いに口角が上がってしまった。

 ああ、人のこと言える立場ではないが、こいつも相当性格悪いな。

 

「そんなにこの声がいいのか?」

「何ならもっと聞かせてやろうか?」

「〜〜〜〜〜っ!?」

 

 俺が右から、グリーンが左から詰め寄り耳元で囁くと声にならない悲鳴を上げてブルーさんの顔がみるみる赤くなっていった。

 

「アンタたち、性格悪いところまで同じとか………っ!」

 

 キッ! と睨むその目には涙まで浮かんでいる。相当恥ずかしかったらしい。ハルノ並みの口達者感があるブルーさんもハルノ並みに初心なようだ。こりゃグリーンも下手に手出しはできないわな。

 

「では、まずはルール確認からいこうか。手持ちは六体のシングルバトル。交代は自由。技の使用制限もなし。どちらかのポケモンが全て戦闘不能になった時点でバトルを終了とする」

 

 ダイゴさんとの交渉も終わったらしく、ルール説明がなされていた。

 

「それじゃあ、二人とも。準備はいいかい?」

「おっす!」

「いつでもいいですよ〜」

「バトル始め!」

 

 シングルスでのフルバトルか。

 フルバトルとなると今月初めにイロハとバトルした時以来だな。その後は特訓と称した技の習得がメインだったし、マフォクシーやボルケニオンにいたっては炎の操り方など技以外の面での強化も図っていたし。

 

「いくよ、フライゴン!」

「まずはお前からだ! ニョロ!」

 

 と、最初はフライゴンとニョロボンか。

 ニョロボンならトツカが連れていたからな。戦ったことがない相手でもない。ただ、相手がレッドさんというところが勝敗にどう影響をもたらすかだな。当然ながらトレーナーが違えば戦い方も違う。模倣しているトレーナーもいるが、やはり癖というものは違ってくる。そしてさっき言っていたレベルってやつの差。あれも考慮すると恐らくイロハのポケモンは全て劣っているだろう。だからこそ、学んでくれればいい。強いのは俺たちだけじゃないと。そして、外の世界結構広いんだということを。

 

「先手必勝! れいとうパンチ!」

「フライゴン、高く飛んでにほんばれ!」

 

 早速、フライゴンの弱点を狙ってきたか。

 だが、それもイロハにはユキノと一緒に叩き込んである。飛ばないポケモンが相手なら取り敢えず空に避難しとけってな。それからのにほんばれなら、ニョロボンの得意技はほぼほぼ封じたも同然だろう。

 

「れいとうビーム!」

「ソーラービーム!」

 

 届かないと判断したレッドさんは遠隔からの攻撃を指示した。それに対してイロハはニョロボンの弱点を突いていく。

 

「あれで本当に初心者か?」

「あれで本当に初心者だよ」

「その割には初手から的確な指示が出てたと思うんだけど」

「そりゃ、この一年俺の知識と経験を叩き込んでますからね。何ならこの一ヶ月、俺とユキノで毎日のように指導してましたし」

 

 撃ち上げる技より撃ち下ろす技の方が優った。にほんばれにより屋内ながらも強い太陽光が差し込み、その効果で氷が溶けたのかもしれない。実際は水技の威力を半減する効果しかないけども。

 

「もう一度、ソーラービーム!」

 

 追い打ちをかけるように、フライゴンはニョロボンに向けて再度光線を放った。

 

「ユキノって?」

「三冠王で通じます?」

「ああ、各地のリーグ大会で連覇してたっていう」

「そうそう、それです」

 

 図鑑所有者たちにもそういう情報は行ってるんだな。そう思うとユキノやハヤマは相当の有名人なのかもしれない。身近にいるため実感が今ひとつないが、コマチも似たようなことを言ってたような気もするな。

 何だっけ?

 確か俺が本当に忠犬ハチ公として恐れられる存在なのかどうか、とかだったっけ。

 うん、そりゃ分からんわな。コマチからしたら俺はいつまでも兄貴だもん。同様に俺にとってはユキノはユキノだし、ハヤマはハヤマだ。

 周りが知ってるから有名人なんだなとしか思えない。

 

「え? 知り合いなの?」

「まあ、知り合いというかスクールを卒業してからというもの、付きまとわられて絆された的な?」

 

 嘘ではない、よな。現にあの頃の俺はユキノにそこまで興味はなかったんだし。ただなんかよくいるため、結果守ることになってたりはしてたけども。

 それがいつの間にか隣にいて当たり前の存在になっていたのだから、絆されたという表現が一番しっくりくる。

 

「………それを俗に言う恋人というのでは?」

「まあ、そうとも言うし、それ以上というか、『恋人』という言葉で収めたくないというか」

「面倒くさいわね」

「自覚はしてますんで」

 

 自分でも面倒な性格してるのは重々承知だ。周りから見ればお前ら恋人なんだろと言われてもおかしくないとは思っているし、そういうこともやっている。それが一人に限らないというのが問題なんだろうが、それも女性陣が承知した上でのことだ。

 それに『恋人』ってなるとやはり一人を選ぶことになってくる。全員俺の恋人だ、なんて言ってやりたいが今の俺ではまだまだ度胸もないし、一気に批判を浴びるのは目に見えている。そうなるとあいつらにも迷惑をかけてしまうため公言もできないのだ。だから『家族』という大きな枠組みが俺の中では落ち着いた表現になっている。誰一人欠けることのない家族を俺は作っていきたい。

 

「ニョロ、交代だ! いくぞ、プテ!」

 

 態勢を立て直せぬまま、ニョロボンは高威力の効果抜群の技を受けてしまい、レッドさんも堪らず交代という選択肢を選んできた。ここの引きの良さは流石としか言いようがない。

 

「空の対決、か」

 

 交代で出されてきたのはプテラだった。ニョロボン相手には空中戦というフィールドの違いを味方につけられたが、これでイーブンとなった。ここからがイロハとフライゴンが本当に成長しているか判断できるところだな。

 

「プテ、ちょうおんぱ!」

「フライゴン、ばくおんぱ!」

 

 まずは音波対決か。

 ちょうおんぱはその名の通り超音波である。耳障りな音が脳まで浸透し訳が分からなくなる状態にさせられてしまう嫌な技だ。それを爆音で搔き消すことで難を凌いだようだ。

 

「ドラゴンクロー!」

 

 だが、そこはプテラ。

 すぐに竜の爪を携えてフライゴンへと迫っていく。

 

「速い!?」

 

 いや、速いどころの話じゃないだろ。

 ほとんどタイムラグなんてなかったぞ。

 まるで分かっていたような、そんな速さだった。

 

「トドメだ! はかいこうせん!」

 

 竜の爪で掬い上げると一気に上昇してフライゴンを追い越し、反転してから口を大きく開いた。

 

「こっちもはかいこうせん!」

 

 踏みとどまりながらもフライゴンも同じ技で応戦していく。

 禍々しい光線は最初はフライゴンの目前で止められるも、フライゴンが押し返しており、拮抗している。

 

「若いな」

 

 若い。

 確かにイロハもフライゴンも若い。押し返すだけでも精一杯というのが顔に出ている。対してレッドさんもプテラもまだまだ余裕がありそうだ。フライゴンの力を試しているのかもしれない。

 

「フライゴン!?」

 

 とうとうプテラが押し込んできた。

 フライゴンの光線を呑み込み、全てを破壊尽くす禍々しいオーラがフライゴンの周囲に広がった。同時に日差しも弱まっていく。

 

「フライゴン、戦闘不能!」

 

 何というかあっという間だったな。やはりイロハとレッドさんとでは実力の差は明白。ここからイロハがどう魅せてくれるのか、そこが重要になってくるだろう。

 

「フライゴン、お疲れ様。さすがですね、レッドさん。同じ技でもこうも違うと実力の差がどれだけバトルに影響を及ぼすのか実感しますよ」

「いやー、それほどでも。けど、ニョロはフライゴンに手の打ちようがなかったのも事実だよ」

「では、同じフィールドに立たないようにしなくちゃですね。マフォクシー、お願い!」

 

 次はマフォクシーか。

 タイプ相性から見れば、プテラが圧倒的に有利だ。だが、イロハの目を見れば分かる。あれは何かを思いついている時の目だ。だから何か仕掛けるつもりだろう。

 

「マフォクシー、メロメロ!」

 

 なるほど、そういうことか。

 プテラがオスということを見抜き、行動不能に陥らせることで優位性を奪い取ることが目的だったんだな。

 

「プテ、交代だ! ニョロ!」

 

 まあ、交代させますよね。

 でもニョロボンもオスなんじゃ………。

 

「にほんばれ!」

 

 レッドさんが交代させている間に弱まっていた日差しを再度強くさせた。

 

「こっちも覚えてるのかよ?!」

 

 さすがのレッドさんもこれには驚きなようだ。

 折角弱点を突けると思った矢先の水技半減フィールドの完成だからな。水技が使えなければただのかくとうタイプ。エスパータイプも持ち合わせるマフォクシーにとっては格好の餌だ。

 

「ソーラービーム!」

「かげぶんしん!」

 

 読んでいるぞとばかりに影を増やして照準を惑わしてきた。恐らく影の動向に気をやっている間に死角に入るつもりなのだろう。

 だが、俺やユキノもエスパータイプの脅威さを知っている。だからこそ、教えられることもあった。

 

「サイコキネシス!」

 

 超念力により全てのニョロボンの動きが止まった。かと思うと影が霧散していく。

 

「ソーラービーム!」

 

 本体だけとなってしまい、さらに身体を固定されて動けなくなっているニョロボンは、ただの的でしかなかった。

 

「ニョロ!?」

「ニョロボン、戦闘不能!」

 

 おおー、レッドさんのポケモンをイロハが倒しやがった。そう簡単に負けないとは思っていたが、一本取るとは大したものじゃないか。ソーラービームを二回も直撃しては流石に耐えられなかったようだな。サイコキネシスもいい具合に機能していたし。

 

「エスパータイプの脅威さを理解した動きだな」

 

 グリーンからも高評価なようだ。

 トレーナーになって一年でここまで成長した者は世界中探してもそういないだろう。しかも最初から二人もチャンピオン歴を持つ奴に鍛えられてきて、四天王の三人まで手を貸してたんだからな。類を見ない希少種であるのは違いない。

 

「マフォクシーはイロハの最初のポケモンだからな。しかもゲッコウガの妹分ってのもあり、兄貴分に恥じないためにって色々注文を受けて、それに応えてやったらああなった」

「色々と気になるところはあるけれど、取り敢えずレッドにもバトルするだけの価値はありそうね」

「そりゃどうも。あいつが聞いたらきっと喜びますよ」

 

 ブルーさんもイロハを認めてくれたようだ。

 ……がんばれよ、イロハ。

 

「いくぞ、ギャラ!」

 

 倒れたニョロボンをボールに戻して、次に出してきてのはギャラドス だった。こっちはちゃんと青色だ。

 

「ギャオス!」

 

 いかくか。

 

「マフォクシーの使う技にいかくは意味ないですよ。トリックルーム!」

 

 ほんと計算高い女だな。

 一体誰に似たんだか。

 

「ギャラ、ハイドロポンプ!」

 

 素早さが逆転する部屋に閉じ込められたギャラドスは、水砲撃のモーションに入るがその動きすらゆったりとしている。

 

「交代だよ! ラプラス!」

 

 その間にイロハはマフォクシーを戻してラプラスを出してきた。

 そしてゴゴゴッ! と水砲撃が放たれ、ラプラスへと直撃。

 

「なっ?! まさかちょすい!?」

 

 だが、一切のダメージがなく、ラプラスはピンピンとしていた。

 特性まで活かした交代か。やるじゃないか。

 

「ふふ、レールガン!」

 

 バチバチと電気を纏ったラプラスはギャラドスへと一閃を放った。

 

「がんばれ、ギャラ! げきりん!」

 

 直撃したギャラドスは痺れを起こしており、思うように立ち上がれずにいる。

 

「フリーズドライ!」

 

 そこへ追い打ちをかけるようにフリーズドライを仕掛けられた。

 フリーズドライはこおりタイプの技であるが、みずタイプの技に対しても効果抜群になるという特殊な技だ。というのもこの技は相手を急激に冷やす技であり、ゲッコウガ曰く、みずタイプは内部から凍らされるようなものらしい。故に効果抜群なんだとか。

 

「フリーズドライ!」

 

 それを倒れるまで撃たせ続けるいろはす超怖い。

 あ、つか凍っちゃってるし………。

 

「フリーズドライ!」

 

 もうやめてあげて!

 ギャラドスさん、白目剥いてるから!

 

「ギャラドス、戦闘不能!」

 

 あーあ…………。

 もう何も言いようがねぇよ………。

 最後のフリーズドライでトリックルームがぶっ壊れたし。

 

「………あの子、容赦ないわね」

「えげつないことするな」

「ははは、弁明のしようがねぇ………」

「戻れ、ギャラ! よく頑張ったな」

 

 多分、博士たちも引き気味になってるんだろうな。気持ちは分かるわ。俺も今のは引くもん。誰だよ、あんなやり方教えたのは!

 ………教えてなくとも、見たことを再現したがるのも人間を含めた生き物の性だし、俺の戦い方を見て盗んできたって可能性は大いにあり得るだろうな。悲し………。

 

「いくぞ、ピカ!」

 

 今度はピカチュウか。

 タイプ相性はラプラスが不利だな。しかもライチュウに進化しないままここまできたということは相当の手練れだろう。

 

「まずはでんじは!」

「みずのはどう!」

 

 ピカチュウが出したでんじはを水を纏うことで防いだ。

 

「おあっ?! マジか!? 効いてねぇの?」

「純水か」

「ああ、水は水でも純水なら電気を通さない。対でんきタイプ対策としては意外性もあって充分機能する」

 

 詳しいやり方はゲッコウガが指導していたが。

 やり始めたのもあいつだし、一番手慣れているのは確かだ。

 

「面白くなってきたじゃん! ピカ、でんこうせっか!」

 

 どうにかしてラプラスの隙を作ろうという算段だろう。素早い動きでラプラスを撹乱していく。

 ラプラスも負けじと目で追おうとしているが、後ろに回られた時点で見失っていた。

 

「みずのはどうで水を纏って!」

 

 ただ、後ろに立つトレーナーには見えているもので、イロハは再び水を纏うよう指示している。

 

「かみなり!」

 

 ラプラスが水を纏うと同時にピカチュウが雨雲を発生させ、落雷がラプラスを襲った。

 

「なるほど、レッドらしい」

「力比べってことね」

 

 そういうことか。

 レッドさんは真正面からあの水のベールを攻略しようとしているようだ。

 

「ラプラス、ほろびのうた」

「ラプラ〜ラプ〜ラァァァ!」

 

 え、それ覚えてんの?

 俺初耳なんだけど。

 え、怖っ………。次からラプラスとバトルする時はそこも考えないといけないってことだろ?

 

「おいおい、マジかよ!? ピカ、強引にいくぞ! ボルテッカー!」

 

 うわー、この人も荒技だなー。

 けど、それに応えられるピカチュウも相当だと思うわ。

 

「ラプラス、戦闘不能!」

 

 水のベールを強引に突破したピカチュウはそのままラプラスに体当たりをし、一撃で戦闘不能へと追い込んだ。

 え、なにあのピカチュウ。ラプラスを一撃とかヤバくね? 反動のダメージを受けてはいるみたいだけど、それでもヤバいでしょ。

 

「ラプラス、お疲れ様。ゆっくり休んでね」

 

 これでイロハのポケモンは残り四体か。

 サプライズはまだ残っているが、それでどうにかなるとも思えない。

 

「お願い、ガブリアス!」

 

 お、的確な判断じゃねぇか。

 でんきタイプ唯一の弱点であるじめんタイプを有するガブリアスを出してくるとは。でんきタイプの技を封じられたピカチュウには相当酷な相手になるだろう。

 

「ピカ、でんこうせっか!」

 

 先手必勝ってか。

 ピカチュウが加速してガブリアスの元へと迫っていく。

 

「あなをほる!」

 

 カブリアスは紙一重のところで地面に潜り込み回避した。

 

「ピカ、かげぶんしん!」

 

 ピカチュウは即影を増やして、カブリアスへの撹乱を始める。影の多さはゲッコウガよりも少ない。こういうところでも違いを見せてくるのかと思っていたが、やはりゲッコウガが異常なだけらしい。

 

「ステルスロック!」

「地面にアイアンテールだ!」

 

 そして、全員で地面に鋼の尻尾を叩きつけた。

 するとピカチュウの正面からガブリアスが掘り起こされ、宙を舞う。

 

「もう一度、アイアンテール!」

 

 着地と同時に踏み込んだピカチュウは再度鋼の尻尾を振るった。

 

「アイアンヘッドで受け止めて!」

 

 それをガブリアスは鋼の頭で受け止め、弾き返した。

 

「ピカッ?!」

 

 どうやら上手く特性が働いたようだな。

 

「なるほど、そういうことか」

 

 一人挟んだ隣ではイケメンがニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 

「グリーン、何か分かったの?」

 

 こっちはまだ理解していないらしい。

 

「ああ、あのガブリアスの特性はさめはだ。触れた相手にダメージを与える特性だ。だろ?」

 

 だろ? って。俺に聞くなよ。知ってるけどよ。

 

「相打ちって考えにはならないのか?」

「ないな。タイプ相性はピカの方が悪いが、レベルが違う。普通なら尻尾を叩きつけた衝撃で反転して態勢を立て直し、次のモーションに入るのがピカの戦闘スタイルだ。だからダメージを負うことはない」

 

 へぇ、やはりピカチュウの素早さを活かしたヒットアンドアウェイ戦法が基本なようだな。となるとトリッキーな仕掛けを作るイロハはやりにくい相手だろう。

 

「なるほど。まあ正解だな。これであのピカチュウは攻撃のしようがなくなったと思うぞ」

「それは恐らくレッドも悟っているはずだ。だから」

「よし、ギリギリだな。特性も掴めた。ピカ、交代だ! プテ!」

 

 ギリギリ………そうか、ほろびのうたのカウントも計算に入れながら、ギリギリまでガブリアスの情報を探っていたわけだ。攻撃あるのみなバトル脳な性格に反して腹の探り合いもできるんだな。

 

「ガブリアス、ドラゴンダイブ!」

 

 交代により再度出てきたプテラになったことでいきなり突撃していった。恐らくピカチュウの特性せいでんきを意識して控えていたのだろう。時間さえ稼げればほろびのうたのカウントが進み戦闘不能に追い込める。

 まあ、レッドさんはそこを意識しながら情報を探っていたため、さめはだでダメージを与えただけだったが。

 

「そらをとぶで躱せ!」

 

 プテラは急上昇することで躱した。ついで交代により発動したステルスロックまで躱しやがった。これにはレッドさんも驚きらしい。まあ、あの状況でまさかフィールドに仕掛けていたとは思わないもんな。

 

「アイアンテール!」

 

 すかさずガブリアスは鋼の尻尾を携えて地面を蹴り上げる。

 反転して急下降してくるプテラを正面から迎え撃つようだな。

 

「はかいこうせん!」

 

 だが、二体の距離が数メートルに達したところでプテラが口を大きく開き、禍々しい光線を放って迫り来るガブリアスを撃ち返した。

 

「あれを耐えるのか………っ!?」

 

 地面にクレーターを作りながらもその身体は立っており、振り返りながらプテラを睨みつけている。

 

「……ガ、ブス!」

「ガブリアス、反撃だよ! アイアンテール!」

 

 反動で身体が硬直状態にあるプテラに目掛けて、再度鋼の尻尾を叩きつけた。プテラは弾き飛ばされてレッドさんの後ろの壁にまで飛ばされていく。

 効果は抜群。それでもまだまだプテラには致命傷となっていない。

 

「プテ、まだまだいけるなっ?」

「プラァァ!」

「ドラゴンダイブ!」

「ゴッドバード!」

 

 これはまずい。

 プテラはギリギリまで待ち構えて力を蓄え、カウンターを仕掛けるつもりだ。

 どうするイロハ。ここが正念場だぞ。

 

「ガブリアス、トルネードメタルクロー!」

 

 まさかの俺流の攻め方を選択してました。

 赤と青の竜を纏いながら両腕を前に突き出し、身体を高速回転させ始める。

 プテラの方も白い鳳を纏い、飛び出した。両者が激しくぶつかり合い、一瞬でガブリアスが弾き飛ばされていく。

 

「くっ、がんせきふうじ!」

 

 それでも尚、イロハはガブリアスへと指示を送る。

 倒れるギリギリまでやれることはやろうという気持ちがふつふつと伝わってくるな。

 

「ガブリアス、戦闘不能!」

 

 ドサッと倒れたガブリアスは白目を剥いているが、プテラはそれどころではない。

 まさかの追撃によりレッドさんのところへ戻る最中に、降り注ぐ岩石によって背中を強打し垂直に落ちていっている。

 

「プ………テ…………!」

 

 マジか、一応効果抜群だろ?

 あれでも倒れないのか。それ程ガブリアスとはレベルの差があったというわけだな。

 

「ガブリアス、お疲れ様。最後まで応えてくれてありがとね」

「よくやったな、プテ。戻って休んでくれ」

 

 あ、それでもプテラを退かせるまでには至ったようだ。

 これはちょっと大きいんじゃないか?

 だが、油断は禁物だ。残っている面子を考えるとそろそろヤバいのが出てきそう。

 

「マフォクシー!」

「いくぞ、ゴン!」

 

 カビゴンか。

 しかもこれまでと何か雰囲気が違う。強者の目というか、起きている。うん、そこだわ。カビゴンが起きているのが同時に強者感を増し増しにしているように伺える。

 

「じしん!」

「大変です、マチスさん! 外に大勢のポケモンたちが!」

「アアッ!? どういうことだ?! 今行く!」

「まもる!」

 

 と、何やら不穏な声が聞こえてきた。

 外に大勢のポケモン?

 

「野生のポケモンたちかしら? それにしてもこんな海沿いになんて………」

「………嫌な予感がする」

「スタッフの顔色も相当のものだったしな」

 

 地面が激しく揺さぶられる中、スイッチを入れた俺とグリーンはマチスの後を追っていく。それに釣られてブルーさんも遅らせばながら俺たちを追ってきた。

 

「あ、ちょ、二人とも!」

「ゲッコウガ、念のため建物の裏に回ってくれ」

『了解』

 

 もう一人スイッチを入れていたゲッコウガに裏口に回るように指示し、何が起きているのか思考を巡らせていく。

 飛び込んできたスタッフは大勢のポケモンと言っていた。となるとそれと同時に大勢のトレーナーもいるかもしれない。或いは野生のポケモンたちが襲撃しているか。前者の場合、何かしら裏工作が働いているはずだ。

 

「お前はどう思う?」

「さあな。外に出ないことには何も分からん。ただ、胸騒ぎがするのは確かだ」

「同感だ。大勢のポケモンというからには何かしら作用しているのは確かだろう。それが人為的でなければいいが」

 

 廊下を早歩きで、それでいて二人とも予想を働かせている。

 後ろから心配そうにブルーさんがついて来ているが、グリーンはあまり気にしていないようだ。

 

「………何がどうなってやがる」

「どうも、初めまして。僕はタマナワ。ここにオーキド博士を始めとする各地方のポケモン博士が集まっていると聞きました」

「テメェ………何が目的だっ!」

「………彼らの引き渡しを要求する」

 

 外に出てみると確かに大勢のポケモンたちに囲まれていた。その中に四人の男が立っていた。

 

「残念だったな。人為的らしいぞ」

「ったく、次から次へ………」

 

 嫌な予感というものは当たるもので。

 起きてしまいましたよ、クチバジム襲撃事件が。

 一体何を企んでいるのやら。

 溜め息を吐きながらグリーンが前に出ていった。

 

「悪いがお前たちの相手をしている暇はない。さっさと帰ってもらおうか」

 

 俺とブルーさんはマチスの影に隠れるようにして聞き耳を立てる。

 

「君は………」

「彼は図鑑所有者にしてトキワジムのジムリーダーを務めるグリーンだね」

「オーキド博士の孫だし、ここにいてもおかしくはないよ」

 

 どうやら相手はグリーンたちの情報を手にしているようだ。まあ、まだグリーンはオーキドのじーさんの存在があるため、素性もほとんど公開されているようなもんだ。しかし、ここにブルーさんの情報も入ってきてたりすれば、相当厄介な相手だろう。

 まず、現時点で情報戦には負けているということになるからな。

 

「なるほど。なら、丁度いいね。グリーンさん、君のお祖父様たちの力を借りたい。彼らを僕たちに引き渡してもらえないだろうか?」

 

 お祖父様たちの引き渡し、つまり博士たちの引き渡しを要求しに来たってわけか。

 

「断ると言ったら?」

「感情的な判断は時に身を滅ぼすだけなんじゃないかな。ロジカルシンキングで論理的に考えるべきだよ」

 

 おいそれ、同じこと言ってねぇか? 何回考えちゃうんだよ。

 

「そもそもお前たちの目的は何だ? おじいちゃんたちを渡したところで何を企んでいる?」

「目的かい? 僕たちは世界を変えたいんだ。僕たち人間のためにもポケモンのためにも、博士たちとはお互いリスペクトできるパートナーシップを築いてシナジー効果を生んでいけないかなって思っていてさ」

 

 ………世界を、変える?

 こいつらが?

 

「博士たちベテランのエデュケーションやエクスペリエンスがあれば、僕たちはもっと世界にイノベーションを起こしていけると確信している」

 

 いやいや、同じようなこと言ってるし。どんだけ知識が必要なんだよ。却って頭悪く思えてくるぞ。能無しか? 能無しだな。こんなことしている時点で能無しだわ。

 

「そうすれば世界は今よりも比較的よくなり、カルプリットも排除される。博士たちもカルプリットたちから狙われることもなくなり、僕たちはお互いWIN-WINの関係になれると思っているんだ」

 

 なるはど、さっぱり分からん。

 

「悪いが漠然としていて話が全く見えない。具体的に示せ」

 

 おお、こういう時のグリーンの威圧は頼もしいな。

 後ろに立っているだけで背筋がゾクゾクしてきちゃう。

 あれ? もしかして俺ってマゾ?

 

「そうだね。具体的となると、僕たちの第一の目標はあの憎き協会の犬、忠犬ハチ公を。そしてオリモトさんたちをたぶらかしたヒキガヤハチマンを倒すことだね」

 

 おっとー?!

 なんか一気に私怨が混じってるんですけどー!?

 つーか、標的ってどっちも俺じゃねぇか。

 

「そうか。だが、そいつを倒したところで世界が本当に変わるのか? そもそもどう変わるというのだ?」

「君たちが見えている世界などほんの一部にしかすぎない。彼らはそういう目から逃れることに長け、人脈を駆使した陽動により悪事をひた隠しにしている。ロケット団やフレア団がいい例だ。表立っては敵対しているように見えても裏では平気で繋がっている。パフォーマンスとでもいえばいいのかな。民衆を欺き、適度に組織を壊し、本来の計画だけを進めさせる。そうすることで世界の秩序を守っている風を装っているんだよ」

 

 お、おおう………すごい言われようだ。

 結局こいつらは昔の俺に対して遺恨があり、さらにオリモトがこちらの陣営に入ったことをよく思ってないってことか。ただし、忠犬ハチ公とヒキガヤハチマンが同一人物であることは分かってないみたいだが。

 ………ん?

 そうなるとこいつらはシャドーとも関係があったりするのか?

 オリモトの交友関係なんて微塵も知らないため、俺が想像できるのはシャドー関係者くらいしかない。

 それにこのポケモンの量。この四人に用意できるとは考えられない。だからバックがいるのは確かだろう。それがシャドーなのか、はたまた別の組織なのか。マチスの反応からしてロケット団ということはないだろう。

 まあ何にせよ。やることに変わりはない。

 

「グリーン、マチス、下がっててくれ」

「お、おい………!」

 

 グリーンは俺が何をやろうとしているのか気づいたのか制止を促してきた。

 でも、悪いなグリーン。俺が狙いだというのなら綺麗さっぱり排除しなきゃならんのだ。そうしなければこれから同じようなことが二度三度と起きてしまう。

 

「結局、目的は俺なんだ。だから、ここから先は俺のバトル(喧嘩)だ」

 

 俺は二つのモンスターボールに手にかけてグリーンにそう言ってやった。

 

「いいえ、先輩! 私たちのバトル(喧嘩)です!」

 

 するといつの間にか俺の横にイロハが立っているではないか。

 え………?

 何でいるのん?

 バトルはどした? まさかもう終わったとか?

 それと何でそのクダリを知ってるのん? 偶然なのん?

 

「イロハ………」

 

 色々と頭を過っていくがイロハの顔を見て首を横に振ることしかできなかった。

 仕方ない。俺の弟子は言っても聞かないところがあるんだ。だったらもう、諦めて受け入れるしかない。

 

「はあ、足引っ張るなよ」

「その時は先輩の教えが悪かったってだけですよ?」

 

 ふっ、ご尤もで。

 

「ーーいくぞ」

「はいっ!」




行間

イッシキイロハ 持ち物:キーストーン、りゅうのウロコ
・マフォクシー(フォッコ→テールナー→マフォクシー) ♀
 特性:もうか
 覚えている技:かえんほうしゃ、ほのおのうず、ソーラービーム、にほんばれ、ワンダールーム、スキルスワップ、メロメロ、ニトロチャージ、マジカルフレイム、シャドーボール、ブラストバーン、だいもんじ、サイコキネシス、トリックルーム、まもる

・フライゴン(ナックラー→ビブラーバ→フライゴン) ♂
 特性:ふゆう(ちからずく→ふゆう)
 覚えている技:ギガドレイン、かみくだく、むしくい、じならし、すなじごく、がんせきふうじ、りゅうのいぶき、ばくおんぱ、だいちのちから、りゅうせいぐん、ドラゴンダイブ、ストーンエッジ、じわれ、げきりん、ソーラービーム、はかいこうせん、にほんばれ

・デンリュウ(モココ→デンリュウ) ♀
 持ち物:デンリュウナイト
 覚えてる技:ほうでん、シグナルビーム、わたほうし、コットンガード、エレキネット、でんじは、パワージェム、でんじほう、アイアンテール、りゅうのはどう、こうそくいどう、じゅうでん、げきりん

・ガブリアス(フカマル→ガバイド→ガブリアス) ♂
 特性:さめはだ
 覚えてる技:あなをほる、りゅうのいかり、ドラゴンクロー、りゅうせいぐん、ステルスロック、ドラゴンダイブ、げきりん、アイアンヘッド、アイアンテール、メタルクロー、がんせきふうじ

・ラプラス ♀
 特性:ちょすい
 覚えてる技:れいとうビーム、フリーズドライ、あられ、ぜったいれいど、でんじほう、げきりん、みずのはどう、ほろびのうた

・ボルケニオン
 覚えてる技:スチームバースト、ハイドロポンプ、オーバーヒート

控え
・ヤドキング ♂(校長からの贈り物)
 覚えてる技:サイコキネシス、みずでっぽう、パワージェム、まもる、うずしお、ずつき、トリックルーム、シャドーボール、でんじほう、かえんほうしゃ、きあいだま、いやしのはどう、ふぶき

・ガチゴラス(チゴラス→ガチゴラス) ♂
 特性:がんじょうあご
 覚えてる技:げきりん、かみくだく、ドラゴンテール、ふみつけ、いわなだれ、アイアンテール、ストーンエッジ、りゅうのまい

・シードラ(タッツー→シードラ) ♀
 持ち物:ピントレンズ
 特性:スナイパー
 覚えてる技:げきりん、シグナルビーム、ハイドロポンプ、ラスターカノン、こうそくいどう、えんまく、きあいだめ

・コドラ(ココドラ→コドラ) ♂
 特性:いしあたま
 覚えてる技:ドラゴンダイブ、じならし、メタルクロー、みずのはどう、がんせきふうじ、アイアンヘッド、ロックカット


レッド
・ピカチュウ ピカ
 特性:せいでんき
 使った技:かみなり、ボルテッカー、アイアンテール、でんこうせっか、でんじは、かげぶんしん

・ニョロボン ニョロ
 特性:しめりけ
 使った技:れいとうパンチ、れいとうビーム、かげぶんしん

・プテラ プテ
 特性:いしあたま
 使った技:ドラゴンクロー、はかいこうせん、そらをとぶ、ゴッドバード、ちょうおんぱ

・ギャラドス ギャラ
 特性:いかく
 使った技:ハイドロポンプ、げきりん

・カビゴン ゴン
 特性:めんえき
 使った技:じしん


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ぼーなすとらっく26『有識者会議 その8』

次回でようやく有識者会議が終わります。
思った以上に長くてびっくりしました。当初は二、三話で終わらせる予定だったのに………。


「リザードン、かえんほうしゃ! ジュカイン、くさむすび!」

「マフォクシー、サイコキネシス! デンリュウ、エレキネット!」

 

 俺たちを囲んでいたポケモンたちに先制攻撃。

 これでいきなりリンチに遭うこともないだろう。

 

「き、君たちは何なんだ!?」

「はっ、標的の顔も忘れたってのかよ。そんなんでよく俺を倒すなんて言えたな」

 

 何が何やらという顔で俺たちを睨んでくるが、こいつら本当にやる気あるのか?

 

「これは一体………」

「……何があったの?」

「恐らく彼奴らが原因じゃろう」

 

 あちゃー、出てきてしまったか。

 まあ、そりゃそうか。イロハが駆けつけてきたくらいだし。

 

「ダイゴさん、シロナさん、博士たちを頼みます!」

「わ、分かったわ! 任せて!」

 

 チャンピオン二人に博士たちの安全は託すとして。

 

「マチス、市民に避難を促せ」

「テメェがオレ様に命令してんじゃねぇよ」

 

 と言いながらもやるのがこの男だ。

 こっちも問題ないだろう。

 

「さて、そっちから仕掛けて来た以上、ただで返すわけにもいかないんでな。徹底的に潰してやる」

「まさか、君が……?!」

 

 ようやく気づいたのか?

 さっきから半端な殺意を向けやがって。明確な殺意を持てないのなら歯向かってくるんじゃねぇよ。ただただ時間と労力の無駄だ。

 

「リザードン、ブラストバーン。ジュカイン、ハードプラント」

「ニドキング、ドダイトス、まもる!」

 

 奴の手持ちと思われるニドキングとドダイトスが前に出て防壁を貼った。だが、究極技を前に完全な防御もままならず吹き飛ばされていく。

 

「モルフォン、サイコキネシス! マルマイン、かみなり!」

「ストライク、シザークロス! デリバード、つばめがえし!」

「スリーパー、サイケこうせん! ウツボット、タネばくだん!」

 

 取り巻き三人も一気にポケモンを送り込んで来る。

 

「ーーボルケニオン、スチームバースト」

 

 そこにイロハがボールを投げつけ、出てきたボルケニオンが水蒸気爆発を起こした。衝撃で各々が四方八方に吹き飛ばされていく。

 

「あれは…………!」

「ボルケニオンじゃと!?」

「博士、ボルケニオンって?」

「ボルケニオンはほのお・みずタイプという珍しい組み合わせのタイプを持つポケモンじゃ。世界のどこかにいると文献にはあったが、まさか彼女が連れているとは………」

「伝説のポケモン、といって差し支えないようですね」

「うむ」

 

 さて、敵はまだまだいる。数だけは用意したという感じだろう。しかし、この四人にそれ程のポケモンを集めることができるとは考えられない。敵の顔もしっかりと把握してないような輩が、そこまでの動きを取れるのか? こう言ってはなんだが、サカキはもの凄いぞ? あの男は対象の顔なんか当たり前で、性格や生活環境などあらゆる面を抑えた上で接触してくる。そうなったらこっちは終わりとまで言える。そんな経験がある俺からしてみればこいつらは浅はかである。悪を舐めんじゃねぇぞ。

 

「カポエラー、インファイト! ゴローニャ、いわなだれ! ドンカラス、ブレイブバード! クロバット、ヘドロばくだん!」

 

 邪魔をするなと言うように、タマナワとかいう男のポケモンがリザードンとジュカインに対して攻撃を仕掛けてきた。

 ただ、他にもポケモンはおり、一体一体相手してもいられない。全体攻撃ができる技が必要だな。

 

「リザードン、翼を激しく動かせ。身体を回転させてもいい。とにかく風を起こすんだ」

「シャア!」

 

 リザードンも俺の意図に気づいたのか、翼を激しく羽搏き始めた。それと同時に纏っていた竜の気も回転し始め、二重で渦ができていく。

 

「ジュカイン、お前もすぐにやってもらうからな」

「カイ」

 

 一枚でも充分強いが二枚に増えれば、この数を手っ取り早く一掃できるだろう。ものまねが優秀すぎるわ。

 既にタマナワのポケモンは近づけていない。そろそろだな。

 

「リザードン、ぼうふう!」

 

 俺の一声で取り囲んでいたポケモン諸共、暴風の渦で呑み込んでいった。

 

「ドンカラス、クロバット! ねっぷう! ゴローニャ、ドダイトス! あなをほる!」

「モルフォン、サイコキネシス!」

「ドードリオ、ブレイブバード!」

「スリーパー、サイコキネシス!」

 

 暴風の向こう側ではどうにか対策を取ろうとしているようだな。地中から来たり、正面を突っ切って来たりか。

 

「ジュカイン、技はいけるな?」

「カイ」

「よし、それなら後は気配を伺え。タイミングはお前に任せる」

 

 さて、迫り来るポケモンたちはジュカインに任せて、あとはイロハか。

 

「イロハ、そっちは………」

「マフォクシー、マジックルーム!」

 

 既に何かやろうとしてたわ。

 え、ほんとに何やる気なのん? 自分たちが閉じこもっちゃったよ?

 

「アアーッ!」

 

 うわ、ドードリオの奴強引に暴風の中を突破してきちゃったよ。

 

「カイ!」

 

 ジュカインは一拍手して目を開き、両腕を大きく開いた。すると足元から渦が巻き上がり、徐々にだが風になっていく。

 

「ゴローニャ、ドダイトス、今だ!」

「ラッタ、すてみタックル!」

 

 地面からはゴローニャとドダイトスが、ドードリオの嘴からはラッタが飛び出してきた。

 

「カイ!」

 

 風は暴風へと変わり、飛び出した三体及び突撃兵一体を軽く呑み込んでいく。

 

「雨………?」

 

 はっ?

 雨だと?

 

「おいおい、いつの間に積乱雲が発生してたんだよ」

「ぼうふうに対してねっぷうを送り込んだことで上昇気流が発生したんだと思います!」

 

 えー………、まさかあいつらそれを狙ってたとか?

 ということは絶対あれが来るよな。

 

「あれは私が消して来ますんで! マフォクシー、サイコキネシス!」

 

 うえー………。

 いろはすさん、部屋を超念力で浮かせて上昇して行っちゃったよ。ほんとに消しに行ったのね。

 

「マルマイン、かみなり!」

「デンリュウ、レールガン!」

 

 雷撃には雷撃を。

 突如自然発生した雨雲から雷撃が落ちてくるも、それをデンリュウがでんじほうで撃ち返した。

 

「ボルケニオン、にほんばれ!」

「させないよ! マグカルゴ、ねっぷう! ウツボット、リーフストーム!」

「ストライク、エアスラッシュ!」

「クロバット、ドンカラス、ねっぷうをもっと強くするんだ!」

 

 今度は上に行ったイロハを集中的に狙うつもりか。

 だが、あいつを舐めてると痛い目に遭うぞ。

 

「ニドキング、なげつける! カポエラー、とびひざげり!」

 

 これはニドキングがカポエラーを投げ上げたとかか?

 暴風の外の状況はいまいち掴めないのが辛いな。

 

「よし、一斉攻ーーー!?」

「デンリュウ、レールガン!」

 

 ほれ見たことか。

 下手に部屋を壊すから砕けた破片を利用されてプリズムによるレールガンの乱射が始まったじゃねぇか。

 マフォクシーは超念力に集中させて、攻撃をボルケニオンとデンリュウにってやつだろ?

 怖い女だわ………。

 ちなみに俺たちは暴風によって助かりました。

 

「「「うあぁぁぁっ!?」」」

 

 外から悲鳴が聞こえてくる。相当ヤバいことになってるんだろうな。

 つーかこれ、意外と使えるな。ゾーンディフェンスとでも表すのが適当かな。外の敵は入られないし、中の敵もきっと逃げられないだろう。しかもイロハが上空を支配しているこの状況では無敵かもしれない。

 

「くっ、こうなったら………カラマネロ君!」

「カマカマ!」

 

 ッ?!

 

「なっ………?!」

 

 二枚重ねのぼうふうが一瞬で解除されただと!?

 しかも今カラマネロって……………!

 

「あっちの方もお願いするよ!」

 

 あっち?

 一体何をする気だ?

 

「カラマネローーーッ!」

 

 タマナワとかいう奴の方を見るとマジでカラマネロがいた。しかも何か大型の機械も用意してあるし………。

 

「ーー先輩!」

 

 イロハか。

 どうやらぼうふうが解けたことで戻ってきたみたいだな。

 

「イロハ、俺の勘が正しければ、あのカラマネロはヤバい」

「………上から見ましたけど、あの機械何か嫌な感じがします」

「やっぱりか………」

 

 今邪魔をすればまだ間に合うかもしれない。だが、相手はカラマネロだ。俺の予想が正しければ、あのカラマネロはカロスの育て屋を襲撃してきたカラマネロだろう。でなければ、二枚重ねのぼうふうを一瞬で解除されるなんてことはない。ただ、そうなると下手に攻撃できない。あいつはリザードンでもゲッコウガでもジュカインでも相討ち覚悟の戦いになる。

 

「ーーいや、それでも今やるべきか」

「先輩?」

「リザードン、ジュカイン! カラマネロを狙え!」

 

 俺たちが倒れてもまだここには図鑑所有者たちがいる。それにこいつらは俺の敵だ。俺は俺の敵だけでも倒して、その後に何かあれば丸投げしてやる。

 

「ブラストバーンにハードプラントだ!」

「させないよ! 全員でカラマネロ君を守るんだ!」

 

 俺がリザードンとジュカインに究極技を指示すると、タマナワがゴローニャとニドキングとドダイトスを前に出し、防壁を張らせた。

 でんきタイプの技が効果のないじめんタイプを有していたことで助かったのか。

 ………だが、まだいるんだよ。

 

「ゲッコウガ、ハイドロカノン!」

 

 奴らの背後から現れたゲッコウガがカラマネロに水の究極技を直撃させた。

 

「ッ……!? 全員、戦えるポケモンを出せ! 奴らが来る!」

 

 は?

 奴らが来る?

 

「今の声………」

 

 声のした方を見ると上半身裸に白衣を着たククイ博士がガオガエンを出して戦闘態勢に入っていた。続けてその視線の先を追うと………。

 

「ッ!?」

 

 こ、れは………?!

 マジ、かよ…………。

 カントーにもやって来るのかーーー。

 

「ふぅ、完了したようだね」

 

 こいつ、正気か?

 俺を倒したいがためにカラマネロと手を組んで奴らを呼び寄せたってのかよ。

 

『カラマネロォォォッ!!』

 

 うわっ、びっくりした。

 いきなりゲッコウガが吠えたぞ。

 普段絶対見せない本気の怒りだ。

 

「カマカマ」

 

 当のカラマネロは御構い無しというかのように、しれっと水の手裏剣を躱している。

 

「ーーっ、来た」

 

 空に裂けた穴。

 そこから一体目のウルトラビーストが飛び出してきた。

 

「あれはマッシブーンだ!」

 

 あの人、現役のトレーナーだろ。全然怯えてねぇ。

 

「リザードン、じわれ!」

 

 これはもう非常事態だ。

 一刻も早くこのゴミどもを拘束してUBの対処をしなければならない。

 

「うわぁぁぁっ?!」

 

 拳を地面に叩きつけて地割れを起こし、その衝撃でできた瓦礫がタマナワたちを呑み込んでいく。その間、カラマネロは一切見向きもしなかった。

 やはり黒幕はあいつだ。

 そりゃそうか。大量のポケモンを投入できるのもカラマネロの催眠術があったればこその話だ。なんてことはない。こいつらはただの体のいい操り人形ってわけだ。

 

「ジュカイン、くさむすびで拘束だ!」

「カイ!」

 

 姿を変えたゲッコウガが何とかカラマネロを抑えているが、カラマネロは余裕そうなのに対し、ゲッコウガは全力を出している。これでは時間の問題だろう。

 

「もう一個できたぞ! 全員、気を抜くなよ!」

 

 いつの間にかククイ博士主導の対応になってるな。

 既に飛び出して来たマッシブーンはガオガエンが受け止め、取っ組み合いをしている。

 

「次はフェローチェよ! それも二体、いえ三体だわ!」

 

 おいおい、マジかよ。

 フェローチェって確か一番素早いウルトラビーストだったんじゃないの? それが三体ってどう相手しろってんだよ。

 

「ハニー、オーキド博士たちを頼む!」

「ええ、分かってるわ!」

「メタグロス! フェローチェを追うんだ!」

「ガブリアス! あなたもフェローチェを追って!」

「次は二個できたぞ!」

 

 ダイゴさんやシロナさんも動き出したか。

 となるとグリーンたちもすぐに動くだろう。

 

「ハッサム、お前も追え! はがねのつばさ!」

「先輩、私たちはフェローチェを待ち構えます!」

「無理はするなよ」

「はい!」

 

 驚きと戸惑いが滲み出てはいるものの、イロハも強くなったな。

 

「テッカグヤ、だと……っ!?」

 

 げっ!

 まだ新しいのが来るのか!?

 くそっ、原因はあの機械だよな!

 俺が迷ってなかったら間に合っていたかもしれないってのに。

 

「サーナイト、お前の力も貸してくれ」

「サナ!」

 

 まだまだ子供であるサーナイトに参戦させるのは躊躇われるが、これはそうも言ってられない大惨事だ。デオキシスよりもヤバいかもしれない。

 

「さっきのバトルみたいに、いのちのしずくで回復に徹してほしいんだ」

「サナ!」

 

 さっきゴールドたちとバトルをやっておいて正解かも。これでサーナイトも自分の役割がはっきりと理解できるはずだ。

 

「ブルー! 後ろ!?」

「えっ………?」

「カイッ!」

 

 はっ?

 ジュカイン………?

 

「きゃあっ………?」

 

 振り向くと俺たちを横切ったジュカインがブルーさんを突き飛ばして何かに喰われていた。

 

「あ、ああ、……ああああああっ!!」

 

 それを見たブルーさんが発狂している。

 え、なに、何が起きた………?

 

『ジュカイン!?』

 

 ジュカイン………?

 お前、何して…………はっ?

 

「アクジキングだと!? それも三体っ?!」

「ブルー!」

「姉さん!?」

「ブルーさん!」

 

 待てよ、待ってくれよ…………何でお前が…………。

 

『チッ、クソったれ! あのクソイカ野郎、逃げやがって!』

 

 冗談はやめてくれよ。

 さすがにそれはないだろ………。

 いくら俺でも怒るぞ。

 

「シルバー、お前たちは食い止めててくれ! ブルーはオレたちが何とかする!」

 

 なあ、ジュカイン………!

 

「ぁ、ぁぁ………」

「ブルー、しっかりしろ!」

「くそっ、フッシー、メガシンカ!」

「リザードン、オレたちも、っと? お前………?」

 

 痛っ………。

 あれ………、グリーン? なんでグリーンが目の前に?

 ………いつの間にかここまで歩いてきてたのか?

 カラマネロに襲撃されてウルトラビーストを呼び出されて、ジュカインが食われたこんな非常事態だってのに、無意識で何かをしようとしてたんだろうか。俺の身体、非常事態に慣れすぎだろ。

 っ、そうだっ!

 

「………待ってくれ、グリーン」

 

 これなら何とか今の状況を打破できるかもしれない。

 でも、本当は使いたくない。次使ったら本当にどうなるか分からない。

 いや、そもそも成功するかも分からない。あれはXの方で作用していたのであってYの方ではできたりするのか?

 ………もういい。あれこれ考えるのは無しだ。それでこの状況になったんだ。そしてジュカインが………。

 

「お、おい! お前もしっかりしろ! 目の焦点が合ってーー」

「リザードナイトを貸してくれ」

「ーーはっ?」

「奴らを倒す」

「お前………、何か策でもあるのか?」

「これは賭けだ。成功すればどうにかできる、と思う。ただ、その後はどうなるか分からん。その時は俺を殺せ」

「…………分かった。その時は、オレを道連れにしてでもお前を殺してやる」

「ちょ、おい、グリーン! くっ、フッシー、ソーラービーム!」

「レッド、お前にこの状況を打破する策はあるのか?」

「うっ………」

 

 道連れか。それはちょっと困るな。さすがにブルーさんを悲しませるわけにはいくまい。

 

「リザードン!」

 

 グリーンはボールからリザードンを出して交渉している。

 

「………こっちがメガシンカできなくなるっていうのも考慮しろよ」

「分かってる。リザードン!」

 

 グリーンがメガストーンを投げつけてきたため、空中で遊撃として加わっていたリザードンを呼び寄せた。既にダメージを負っているみたいだな。

 

「悪いな、またあの力を使わせちまうことになると思う。けど、ジュカインが……」

「シャア」

「すまん………」

 

 分かってる、とでも言ってくれたのだろう。状況はリザードンも理解してくれているようで、リザードナイトYを受け取ってくれた。

 サーナイトが雫を放ちリザードンが回復し終わるのを合図にキーストーンを取り出した。

 

「リザードン、メガシンカ」

 

 久しぶりのリザードンのメガシンカ。感覚的には特に変わりはない。

 いつも通りキーストーンとメガストーンが共鳴し合い、リザードンが白い光に包まれて姿を変えていく。

 

「先輩!?」

 

 イロハは、分かってしまったんだろうな。

 ごめんな、でもこうするしか俺の怒りも収まらないんだ。

 

「ダメです! それは、それだけは………!」

「リミットブレイク」

 

 黒くないメガリザードンの姿を確認してから、キーコードを発した。

 

「だめぇぇぇえええええええええっっ!!」

 

 イロハの絶叫を聴きながらリザードンはさらに姿を変えていく。それと同時に俺の鼓動も早くなり、息切れや頭痛を感じるようになってきた。

 そうだ、この感覚だ。

 

「ホウオウ……!?」

「リザードンがホウオウに姿を変えただと?!」

 

 なる、ほど………。

 何となく、仕組みを理解できた。

 要はメガシンカに影響されるのだろう。Xならば同じタイプを持つレシラムに、Yならホウオウにってところか。ファイヤーではなかったのは元となるホウオウとファイヤーの力関係が作用しているのかもしれない。

 

「く、あ………! リザードン、せいなるほのお!」

 

 まあ、どちらにせよ、あいつはホウオウに見えるリザードンだ。だが、恐らくはレシラム時同様原本の技も使えるようになっているはずである。

 

『あのクソイカ野郎が逃げた以上、オレも付き合ってやる』

 

 そう言いながら急にゲッコウガも接続してきた。こいつもこいつで怒りが収まらないのだろう。

 あの時と同じようにスッと頭痛が軽くなっていく。

 

『ヤツを使え。同じUBなら対抗できるはずだ。サーナイトはキリキザンたちに任せておけばいい』

 

 …………ヤツを導入しろってか。

 確かにそれが妥当かもしれないが、どうなっても知らないからな。

 

「………そういえば、アクジキング………ドラゴンタイプだったな。リザードン、くっ………げきりん!」

 

 三体同時に相手するのならば、効果の薄い技では意味がない。技のタイプを変更して竜の気を活性化させて突っ込ませた。

 

「出てこい、ウツロイド」

 

 そして、とうとうヤツをボールから出した。

 

「はっ? お、あ、ちょ………?!」

 

 すると取り憑かれた。

 同時に頭痛も息切れもなくなっていく。

 え……?

 どゆこと?

 まさか毒を毒で制した的なやつか?

 まあいい。思考も普通に働く。腕がちょっと触手になったくらいどうってことない。

 

『サーナイト、お前しんぴのまもりを使えるようになったのか?!』

「サナ!」

 

 あの様子だと全部あっちに行ったというわけでもなさそうだ。さすがに全部肩代わりされてはゲッコウガの身が保たないだろう。

 

「なっ?! ウツロイドだと!?」

「しかもハチマン君が呑み込まれたわ!?」

 

 ククイ博士、バーネット博士、一応意識はしっかりしてるんで大丈夫だと思いますよ。

 身体への負担がなくなったためか、ようやく状況を把握することができた。

 イロハとダイゴさん、それにシロナさんがフェローチェの対応。一人一体を担っているようだが、あの三人でようやくといった感じだ。

 グリーンは未だ心にダメージを受けたブルーさんを庇いながら流れ弾を防ぎ、ジョウトの図鑑所有者三人がマッシブーンの相手か。レッドさんはそのままアクジキングへと立ち向かっている。リザードン とゲッコウガは全体の遊撃をしており、二体のおかげで何とか分担分が上手く行ってると言ってもいい。

 

『「ウツロイド、オマエラノセカイジャナクテイイカラ、ウルトラホールヲアケロ」』

 

 ん? あれ?

 なんか声が変わってる。

 俺が変な声でそう言うと、身体が勝手に動き出した。

 この操られてる感、すげぇ違和感を感じるわ。

 

『「リザードン、ウルトラホールニオシコメ」』

 

 ホウオウとなったリザードンが一体のアクジキングを鳳を纏って開いたウルトラホールへと押し込んだ。

 ゴッドバードもいけるのか。

 

「デンリュウ、メガシンカ!」

「フッシー、ハードプラント!」

「リザードン、ブラストバーン!」

「カメちゃん、ハイドロカノン!」

 

 初代図鑑所有者三人がもう一体のアクジキングをウルトラホールへと押し込んでいる。何とかブルーさんも立ち上がれたんだな。さすがはグリーン。

 

「エレキネット!」

 

 イロハがフェローチェを電気網で捕らえた。メガシンカしたことで特性がせいでんきからかたやぶりに変化したことでどんな相手でも対面しやすくなっている。未知数のウルトラビースト相手にもそれは効果を発揮しているようだ。

 だが、そう簡単にいく相手でもないようで網が破られるのも時間の問題だろう。

 

「ライコウ、かみなり!」

 

 ッ?!

 ライ、コウ………!?

 

「国際警察です!」

「ホウオウ……!? 何故ここに?!」

 

 国際警察?

 何故そんな奴らが二人も………ああ、ハンダさんか。

 となるともう一人の黒のパンツスーツの女性は?

 

「キュィィァァァアアアアアアッ!!」

「ウツロイド、ブットバセ」

 

 俺の背後から三体目のアクジキングが襲いかかってきたため、自ら光ることで弾き飛ばした。

 今のはマジカルシャインか?

 いざ自分の身で行うとなるとさっぱり分からんな。

 

「リラ殿! どうか無茶だけは!」

「大丈夫です、ハンサムさん! 私がここにいる以上、他への被害は減りますから! ボーマンダ、だいもんじ!」

 

 リラ、だと?!

 ハンダさん、その人のこと今リラって言ったか!?

 

「ウツロイド?! しかも人を呑み込んで………!? ハンサムさん、私は彼の救出に向かいます!」

「リラ殿、ご武運を!」

 

 え、なに?

 リラさん、こっちに向かってきてません?

 

「ムウマージ、ゴーストダイブ!」

 

 あ、敵と認識されている。

 くそっ、こんな時に邪魔するなよ。こっちは色々手一杯なんだよ。

 

『「ウツロイド、オレニオマエノチカラヲオシエテクレ」』

 

 ーーーしゅるるるぷ、しゅるるるぷ。

 

『「ア、マジデ? イケチャウノネ。ナラ、チカラヲカリルゾ」』

 

 まさかの脳に直接ウツロイドについての情報を送り込んできた。この子、技範囲思いの外広いのね。

 

「ボーマンダ、りゅうのいぶき!」

『「ミラーコート」』

 

 正面から赤と青の息吹を放つボーマンダに対して、反射する壁を張る。

 

「ムウマージ!」

『「ハタキオトセ」』

 

 それが囮なのは分かっているので、こちらも触手を複雑に動かして、背後から姿を現したムウマージを叩き落とした。

 

「くっ、やはり手強い!」

『「アー、ヒトツイッテオキマスケド、イチオウイシキハハッキリトシテルンデ。ノットラレテルトカハナイデスシ。ソレヨリモ、ホカノウルトラビーストヲカタヅケテクレルトタスカリマス」』

「喋った?! あなた、意識はあるのね?!」

『「エエ、マア」』

「ウツロイドのことも制御できているの!?」

『「セイギョデキテイルノカドウカハ、ワカリマセンケド、イチオウイシソツウマデデキチャッテマス」』

「……………、分かりました。では、まずはあちらを片付けることと致しましょう。ですが、終わった後はキッチリと説明していただきます」

『「ゼンショシマス」』

 

 ふぅ、これで一先ずは戦力をウルトラビーストへと回せたかな。けどまあ、ライコウねぇ………。シャドーに捕まらなかったのも彼女が先に捕獲していたからで、その後もバトルフロンティアで対峙した以外、エンカウントすることもなかったんだよな。カロスにだってエンテイやスイクンも偶然にも居合わせることとなったってのに、ライコウだけは彼女とともに駆けつけることはなかった。

 それが今になって、それもどこかあの時からは急成長し過ぎている彼女がライコウを引き連れてここにやって来たというのは、何か彼女の身にもあったってことなのだろう。国際警察になってたりだとか、マジで話が急過ぎるわ。

 

「ライコウ、かみなり!」

 

 ーーーしゅるるるるるぷぷ、しゅるるるるるぷぷ。

 

『「オマエ、ボールノナカカラズットミテタノカヨ。ワカッタヨ、イリョクハオトルガ、オマエノチカラデカバースルゾ」』

 

 ウツロイドに呑み込まれているからか、段々と冷静になっていっている。リラの名前が出たのには驚いたが、すぐに彼女の現状を分析するくらいだ。案外、ウツロイドはジュカインが喰われたことで取り乱していた俺を冷静にさせようとしていたのかもしれない。

 ただまあ、今は戦闘中だ。状況の再確認が必要だろう。

 まずはイロハたちだが、ボルケニオンが思いの外火力を伴っており、奴を中心にフェローチェ三体を弱らせようとしているらしい。だが、そこにゴールドたちが取り逃した二体のマッシブーンが加わっており、難航している。恐らく、リザードンとゲッコウガがアクジキングの対応に移ったため、マッシブーン二体に逃げられたのだろう。一応、ゴールドたちもイロハたちの方へと加勢している。グリーンたちはアクジキングの侵略を抑え込むのに必死で、今し方リラさんがフォローに入っていった。リザードンとゲッコウガもそっちで戦闘している。ククイ博士はガオガエンだったか? ほのおタイプのポケモンでテッカグヤを押さえつけていた。いやマジで現役トレーナーだわ。それも四天王に及ぶが及ばないかの。サーナイトがキリキザンとアギルダーの援護を受けて回復に回っているのが功を奏しているのだろう。

 取り敢えず、俺はアクジキングの背後にウルトラホールを開き、触手を伸ばした。その先端には電気が集まり出し、放電していく。

 

『「レールガン!」』

 

 正確には10まんボルトではあるが、こいつが持つ能力に倒せば倒す程強くなるようなものがあり、それで威力も高まっているため、遜色ないレールガンを撃ち放つことができた。

 

「アアーッ!!」

 

 一発ぶっ放すとスッキリするな。

 んで、他の奴らは………?

 

「ハンサムさん、ウルトラボールを!」

「了解であります!」

 

 ウルトラボール?

 何それ、俺知らない。国際警察に伝わるボールなのか?

 ん? てか捕獲するつもりなのか!?

 

「バクだろう、かえんほうしゃ!」

 

 せっせとフェローチェを誘導しているゴールド。意外とサポート役に徹することもできるんだな。絶対主役でいたそうなキャラなのに。

 

『「リザードン、トドメヲサセ」』

 

 捕獲をするならできるだけ消耗させておいた方がいいだろう。だが、相手はウルトラビースト。単なる攻撃では致命傷にはならない。トドメを刺すくらいの気持ちで技を出さなければ、反撃されるのがオチだ。

 

『「ウツロイド、サイコキネシス」』

 

 あとは逃げる敵を止めてしまえばいいか。

 何気にこの子優秀すぎるわ。これが敵だったらと思うと状況は一転していただろうな。

 アクジキングはあく・ドラゴンタイプ。普通ならエスパータイプの技であるサイコキネシスは効かないのだが、割れた地面の破片や狩られた草を合わせて即席の拘束具とし、アクジキングの腕? を押さえつけたのだ。

 

「燃え上がれ、ガオガエン! 勝利の炎でリングを焼き尽くせ! ハイパーダーククラッシャー!」

「メタグロス、コメットパンチ!」

「ガブリアス、ドラゴンダイブ!」

「ボルケニオン、スチームバースト!」

 

 各々が動きを止めたウルトラビーストたちへと攻撃していく。その脇からはリラと名乗る女性が迫っていった。

 

「いきます!」

 

 ポイポイと投げられた青黒いボールはマッシブーンたちへと当たり、吸い込んでいく。そして、通常のボールと同じようにコロコロと転がり、開閉スイッチがポン! という音とともに閉まった。

 

「これで一件落着、ですな」

「ええ、そうですね」

 

 見渡せば既に戦いは終わっていた。

 リザードンもホウオウの姿から元の姿に戻り、地面に伏している。その横ではゲッコウガを甲斐甲斐しく世話するマフォクシーの姿が。

 

「ッ?! ヤバい、カミツルギだ!?」

「あ、ちょ、おま………っ?!」

 

 おいおいおい!

 今俺を離すんじゃねぇよ!

 ここ、空中だぞ!? 建物の三階四階に相当するところにいるっての理解してるか!? いや、してないから離したんだな。そもそもそういうことを理解できるとも思えんし。

 

「ピーすけ、いとをはく! ゴロすけ、受け止めて!」

「スピアー、どくづき!」

 

 うおっ?!

 お、おおおおおっ!?

 なんか急に白い糸でぐるぐる巻きにされてるんですけど!?

 あ、ついに目隠しまで?!

 え、なに? どゆこと?

 

「レッドさん、皆さん、ご無事ですか?!」

 

 ほとんど何言ってるのか聞き取れない。

 レッドさんの知り合い?

 

「「「イエロー!」」」

 

 エロー………?

 え、変質者でも現れたのん?

 こんな時に?

 

「………国際警察である私たちの前にのこのこ顔を出すとは随分と余裕ですね」

「フン、マイペースなガキを拾ったついでに届けに来ただけだ。それとも、ここでやり合うか?」

 

 あ、声が近くなったからか聞こえるようになってる。

 つか、この声。

 

「フゴヒ!?」

 

 口まで抑え付けられてるんだった………。

 え、てことは鼻も?

 ……………。

 

「フゴフゴフゴ!」

「あ、今解きます」

 

 ふぅ、あっぶね………。

 

「死ぬ、かと、思っ、た…………はぁ、はぁ…………」

「フン、それくらいで死んでいるようならお前は既に死んでいるだろ」

「………いや、ほんと何でいるんだよ、サカキ」

「最近、オレの視界に不快な動きを見せる奴らの調査に当たっているところでイエローを発見したのだ。マチスからもこのクチバの事態の報告を受けて来てやったんだ。感謝しろよ」

「嬉しくねー」

 

 しかも結局終わってからじゃん?

 ほんと何しに来たのよ。

 

「父さん!?」

「シルバー、オレはもうお前の父親ではない。お前たちの敵であるロケット団の、いや今はレインボーロケット団の首領、サカキだ。だから驚きこそはすれ、敵意を失くすな。いいな!」

「………よし、ゲッコウガ。この男殺すか」

『ああ、そうだな。と言いたいところだが、身体が動かん』

 

 デスヨネー。俺もだもん。ついでにリザードンも無理だ。

 でもこの面倒な男は始末してもいいんじゃないかと思う。

 

「フン、できるものならやってみろ。お前も道連れにしてやる」

「………なんか先輩を見てるみたいですね」

「やめろ、俺はこんな男にはなりたくない」

 

 いろはすー。

 開口一番がそれって………。

 トテトテと駆けつけてきたイロハが倒れている俺を見下ろしてきた。一瞬ピンクの何かが見えたけど気のせいだろう。気のせいということにしておこう。脳内保存と。

 

「まったく………、勝手にまたやらかしてくれちゃって。心配したんですからね!」

「あ、はい、すんません…………あっ……」

 

 ヤバい、起き上がる力も出ない。

 あれ?

 まさか代償が寝たきり生活とかそういうのだったりする?

 

「それにしても別のメガストーンではホウオウの姿になるのか。これは興味深い………ん? これはリザードナイトYか?」

「オレのものだ、サカキ」

「なるほど、確かお前もリザードンを連れていたのだったな」

「………お前、一体あいつの何を知っている? 関わりがあるのは聞いている。だが、それにしてもあの変化を遂げたリザードンに対してその反応は異常だ」

「ふっ、さすがはグリーンと言ったところか。だが、話は後だ。まずはこいつらの状態を確認する必要がある」

「確認って何を………」

「…………ゲッコウガ、それにウツロイドはオレの予想外の奴らではあったが、支障どころか力の安定化へと繋がったという感じだな。おい、ハチマン。ウツロイドに呑まれて何をされた」

 

 何かグリーンとやり取りしてると思ったら、いきなり話振られたんだけど。俺、今結構ヤバい状態なんだから話しかけるなよ。

 

「………はっ? いや、普通に痛みがなくなっただけだが。その反動がこれだけどな」

「毒か………。毒には毒を以って制すというところか? まあ、データとしては一考の余地はありそうだな」

 

 まあ、多分?

 あの頭痛が引いたのはウツロイドの毒のおかけで麻痺したからだろうけども。

 それを考慮した今後の計画、とか言い出したらはっ倒してやる。絶対に乗らないし、未知数すぎるわ。何ならサカキの計画自体ぶっ潰してやりたい。まあ、無理だけど。

 

「今回はメガストーンが壊れなかった。その点が一番大きいと思うんだけど?」

「………なるほど、確かにそこは重要かもしれん」

「へい、ボス! 取り敢えず、中入ろうぜ! オレたちの敵とはいえクチバを守った男だ。ポケモンたちも休ませねぇと」

「フッ、いいだろう。国際警察もいることだ。丁重にご挨拶といこうじゃないか」

 

 丁重にご挨拶ってどういうことだってばよ。

 お願いだからこれ以上問題を起こすんじゃねぇぞ。さすがの俺でももう今日は対処しきれないからな。何なら早く寝たいまである。つか寝かせてくれ。割とガチで身体がしんどい。

 

「ほら、手を出せ」

「それすらも無理………」

「ったく………」

 

 グリーンが手を出して俺のことを起こそうとしてくれたが、それすらも無理な状況。これマジでピンチだわ。いつ意識が遠のいてもおかしくないレベル。

 

「車椅子用意してきてやるよ」

「車椅子があることに驚きだわ………」

 

 いや、もうほんと介護される側だな。いつから俺は年寄りになったんだか。

 

「イロハ、取り敢えずリザードンたちを一度ボールに戻してもらえるか?」

「あ、はい、分かりました」

 

 隣でずっと手を握っているイロハにグリーンが戻ってくるまでの間、リザードンたちをボールに戻してもらった。あのゲッコウガですら。久々のボールの中である。あいつのポケモンであるニダンギルたちのボールはイロハに持たせてあるし、大丈夫だろう。

 

「悪いな」

「悪いと思うなら無茶しないでください」

「そりゃそうだ。自業自得だわな」

 

 でも無茶しなきゃいけない時ってのもあるからな。ただ、最近はそれが多過ぎる気もする。特にカロスに行ってからというもの、追いかけ回されている気分だ。

 

「あ、そうだ」

 

 何かに気づいたらしいポニーテールの少女? が俺のところへとやってきた。

 

「えい!」

「え………?」

 

 そして右手を両手で覆われるというね。

 え、なにこれ。どゆこと?

 

「せ〜ん〜ぱ〜い〜?!」

「い、いや、俺に言うなよ。俺も何がなんだか分かっちゃいないんだから」

「そう怒ってやらないでくれよ。イエローには不思議な力があるんだ。その力なら多少動けるようになるかもしれないぜ」

「はい………?」

 

 それを見ていたレッドさんが説明してくれたが、全く以って意味が分からん。不思議な力? その力で多少動けるようになる? いやもうそれ人間じゃないでしょ。ポケモンと言われた方がしっくりくるわ。

 

「あ………」

「今度は何ですか」

「マジだわ」

「はっ?」

 

 ちょ、怖いから。怖いからね、いろはすさん!

 声のトーンがガチなやつ。決して乙女が出していい声じゃなかったぞ!

 

「いや、だからマジでちょっと身体が軽くなったような気がする」

「マジですか………。信じられませんよ」

「イエロー、力の使いすぎには注意しろよ。さすがに今寝られては困る」

「は、はい、グリーンさん!」

 

 戻ってきたグリーンが力の使いすぎを注意しているが、使いすぎると寝ちゃうんだな。これ、俺が寝るかこの子が寝るかのどっちかだったりするんじゃね?

 

「ほら、今度こそ手を出せるだろ」

「………いけるな」

「なら、せーの!」

 

 俺の手をガッシリと掴んだかと思うと、掛け声とともに俺を引っ張り上げた。そしてまた押された。

 え、何故押されたのん?

 

「お、おおおおおっ?!」

 

 後ろに倒れると思った矢先、ボフン! と尻から着地した。どうやら車椅子を滑り込ませていたようだ。それならそうと言ってくれればいいものを。無駄に驚いたじゃねぇか。

 

「あとは任せる」

「はい! イエローさんもありがとうございます!」

「いえいえー」

「ゴールド、犯人は確保してあるな!」

「うす! ばっちりッスよ!」

 

 事後処理はグリーンたちに任せよう。俺はもはや使い物にならない。大人しくイロハに車椅子を押してもらっているとするか。

 というかゴールドのやつ、いつの間にタマナワたちを回収してたんだよ。俺ですら存在を忘れかけてたってのに。しれっと仕事しやがって。

 

「もしや、どこかでお会いしましたかな?」

「あー、ハンダさん、お久しぶりですね」

「む?! ………どこでその名を?」

 

 ちょ、いきなり距離詰めないでもらえますかね。ドキッとしちゃったじゃん。それが中年のおっさんとか悲しいだけなんだぞ?

 

「………国際警察、コードネームはハンサム。潜入時にはハンダサムロウという名で潜り込む元組織犯罪捜査官。ロケット団残党の殲滅からギンガ団の追跡、イッシュ地方でも何かやってたみたいですけど」

「なぜ私の経歴を?!」

 

 まあ、そりゃ驚くか。これだけ知ってたら俺だって警戒するし。

 

「忠犬ハチ公といえば伝わりますかね」

「むむむ!? もしやあのロケット団殲滅作戦の時の!」

 

 やはり忠犬ハチ公という名前は最強だな。しかもハンダさんはロケット団殲滅作戦の時には同じ班にいたのだ。接点がないわけではない。

 

「どうやら思い出してもらえたみたいですね」

「うむ。だが、まさか君があの時の少年だとは思いもしなかったな」

「そりゃあの頃は本名を隠して活動してましたから」

「それで忠犬ハチ公であるか」

「名前だけが一人歩きしてくれたおかげで俺に近寄る者がいなくて助かりましたよ」

「………先輩、相変わらず一人を満喫しようとしてたんですね」

「それが一人いたんだよなー、俺のストーカーが」

「ああ、ユキノ先輩ですか」

 

 そう、あいつだけは俺を追いかけ回してきたストーカーだ。俺も完全に突き放そうとまではしていなかったのもあるだろうが、早々に諦めてもいたんだと思う。ザイモクザは簡単に巻けたのに。しぶとかったんだなー。

 

「あいつ、俺のこと好きすぎるだろ」

「当時のことは知り得ませんから何とも言えませんけど、先輩の無自覚さが原因なんですよ」

「はいはい、すみませんね」

「では、この後今回のことについて中でお話し願いたい」

「そうっすね。俺の私見でよければ」

 

 多分、カラマネロのこととか話さないといけないのだろう。だが、俺にも分かっていないことは多いし、そこははっきりさせておきたいところだ。

 操り人形と化していたであろうタマナワたちも、叩き起こして尋問するってのも手段として挙げておく必要があるかもしれないな。




行間

ヒキガヤハチマン 持ち物:キーストーンetc………
・リザードン(ヒトカゲ→リザード→リザードン) ♂
 特性:もうか
 覚えてる技:かえんほうしゃ、メタルクロー、かみつく、おにび、えんまく、はがねのつばさ、かみなりパンチ、ドラゴンクロー、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、かみくだく、カウンター、じしん、フレアドライブ、ブラストバーン、げきりん、じわれ、だいもんじ、ソーラービーム、リフレクター、はらだいこ、ぼうふう、ねっぷう、あなをほる、れんごく、かげぶんしん、ブレイズキック
 特別な技:せいなるほのお、ゴッドバード
 飛行術
 ・ハイヨーヨー:上昇から下降
 ・ローヨーヨー:下降から上昇
 ・トルネード:高速回転
 ・エアキックターン:空中でターン
 ・スイシーダ:地面に叩きつける
 ・シザーズ:左右に移動して撹乱
 ・ソニックブースト:ゼロからトップに急加速
 ・コブラ:急停止・急加速
 ・ブラスターロール:翻って背後を取る
 ・グリーンスリーブス:連続で攻撃して空中に釣り上げる
 ・デルタフォース:空中で大きな三角形を描くように連続攻撃
 ・ペンタグラムフォース:空中で五芒星を描くように連続攻撃
 ・バードゲージ:スピードを活かして相手の動きをコントロールしていく
 ・スモール・パッケージ・ホールド:背面飛行で相手の下を飛行する

・ゲッコウガ(ケロマツ→ゲコガシラ→ゲッコウガ) ♂
 特性:きずなへんげ(へんげんじざい→きずなへんげ)
 覚えてる技:みずのはどう、あなをほる、かげぶんしん、れいとうパンチ、れいとうビーム、つばめがえし、ハイドロポンプ、くさむすび、グロウパンチ、えんまく、がんせきふうじ、いわなだれ、まもる、かげうち、みずしゅりけん、どろぼう、つじぎり、ハイドロカノン、めざめるパワー(炎)、とんぼがえり、とびはねる、ほごしょく、けたぐり、ぶんまわす、あくのはどう、どろあそび、ふぶき、たたみがえし、ダストシュート

・ジュカイン(キモリ→ジュプトル→ジュカイン) ♂
 持ち物:ジュカインナイト
 特性:しんりょく←→ひらいしん
 覚えてる技:でんこうせっか、リーフストーム、リーフブレード、ドラゴンクロー、タネマシンガン、ギガドレイン、かみなりパンチ、スピードスター、くさむすび、ソーラービーム、エナジーボール、シザークロス、くさのちかい、マジカルリーフ、タネばくだん、こうそくいどう、つめとぎ、いやなおと、こうごうせい、くさぶえ、やどりぎのタネ、グラスフィールド、なやみのタネ、ハードプラント、つばめがえし、ものまね、みがわり、じならし、アイアンテール、けたぐり、つじぎり、グロウパンチ、まもる、ぶんまわす、あなをほる

・サーナイト(ラルトス→キルリア→サーナイト) ♀
 特性:シンクロ
 覚えてる技:リフレクター、ねんりき、まもる、テレポート、マジカルリーフ、シャドーボール、マジカルシャイン、トリックルーム、シンクロノイズ、サイコキネシス、いのちのしずく、しんぴのまもり

・ウツロイド
 覚えてる技:ようかいえき、マジカルシャイン、はたきおとす、10まんボルト、サイコキネシス、ミラーコート

控え
・ヘルガー ♂
 持ち物:ヘルガナイト
 特性:もらいび←→サンパワー
 覚えてる技:かみつく、ほのおのキバ、ふいうち、おにび、かえんほうしゃ、かみくだく、れんごく、ほえる、はかいこうせん、アイアンテール、あくのはどう、みちづれ、だいもんじ、ハイパーボイス、ヘドロばくだん、ちょうはつ、ほのおのうず、まもる

・ボスゴドラ ♂
 持ち物:ボスゴドラナイト
 特性:がんじょう
 覚えてる技:ロックブラスト、あなをほる、なげつける、メタルクロー、アイアンヘッド、アイアンテール、てっぺき、メタルバースト、ボディパージ、ヘビーボンバー、ロックカット、ほのおのパンチ、もろはのずつき、ラスターカノン、ドラゴンダイブ、でんじふゆう、だいちのちから、カウンター、ばかぢから


ゲッコウガ
・ニダンギル(ヒトツキ→ニダンギル)
 特性:ノーガード
 覚えてる技:ラスターカノン、せいなるつるぎ、つばめがえし、かげうち、つじぎり、シャドークロー、きんぞくおん、いわなだれ、かわらわり、まもる

・キリキザン
 特性:まけんき
 覚えてる技:つじぎり、くろいまなざし、ロックカット、メタルクロー

・アギルダー
 特性:うるおいボディ
 覚えてる技:スピードスター、むしのさざめき、ギガドレイン、みずしゅりけん、こうそくいどう、かげぶんしん、こころのめ、はたきおとす、バトンタッチ

・メタグロス(ダンバル→メタング→メタグロス)(色違い)
 覚えてる技:ラスターカノン、じならし、ひかりのかべ、サイコキネシス、メタルクロー、コメットパンチ、まもる


イッシキイロハ 持ち物:キーストーン、りゅうのウロコ
・マフォクシー(フォッコ→テールナー→マフォクシー) ♀
 特性:もうか
 覚えている技:かえんほうしゃ、ほのおのうず、ソーラービーム、にほんばれ、ワンダールーム、スキルスワップ、メロメロ、ニトロチャージ、マジカルフレイム、シャドーボール、ブラストバーン、だいもんじ、サイコキネシス、トリックルーム、まもる

・フライゴン(ナックラー→ビブラーバ→フライゴン) ♂
 特性:ふゆう(ちからずく→ふゆう)
 覚えている技:ギガドレイン、かみくだく、むしくい、じならし、すなじごく、がんせきふうじ、りゅうのいぶき、ばくおんぱ、だいちのちから、りゅうせいぐん、ドラゴンダイブ、ストーンエッジ、じわれ、げきりん、ソーラービーム、はかいこうせん、にほんばれ

・デンリュウ(モココ→デンリュウ) ♀
 持ち物:デンリュウナイト
 特性:せいでんき←→かたやぶり
 覚えてる技:ほうでん、シグナルビーム、わたほうし、コットンガード、エレキネット、でんじは、パワージェム、でんじほう、アイアンテール、りゅうのはどう、こうそくいどう、じゅうでん、げきりん

・ガブリアス(フカマル→ガバイド→ガブリアス) ♂
 特性:さめはだ
 覚えてる技:あなをほる、りゅうのいかり、ドラゴンクロー、りゅうせいぐん、ステルスロック、ドラゴンダイブ、げきりん、アイアンヘッド、アイアンテール、メタルクロー、がんせきふうじ

・ラプラス ♀
 特性:ちょすい
 覚えてる技:れいとうビーム、フリーズドライ、あられ、ぜったいれいど、でんじほう、げきりん、みずのはどう、ほろびのうた

・ボルケニオン
 覚えてる技:スチームバースト、ハイドロポンプ、オーバーヒート

控え
・ヤドキング ♂(校長からの贈り物)
 覚えてる技:サイコキネシス、みずでっぽう、パワージェム、まもる、うずしお、ずつき、トリックルーム、シャドーボール、でんじほう、かえんほうしゃ、きあいだま、いやしのはどう、ふぶき

・ガチゴラス(チゴラス→ガチゴラス) ♂
 特性:がんじょうあご
 覚えてる技:げきりん、かみくだく、ドラゴンテール、ふみつけ、いわなだれ、アイアンテール、ストーンエッジ、りゅうのまい

・シードラ(タッツー→シードラ) ♀
 持ち物:ピントレンズ
 特性:スナイパー
 覚えてる技:げきりん、シグナルビーム、ハイドロポンプ、ラスターカノン、こうそくいどう、えんまく、きあいだめ

・コドラ(ココドラ→コドラ) ♂
 特性:いしあたま
 覚えてる技:ドラゴンダイブ、じならし、メタルクロー、みずのはどう、がんせきふうじ、アイアンヘッド、ロックカット


レッド 持ち物:キーストーン
・フシギバナ フッシー
 持ち物:フシギバナイト
 特性:しんりょく←→あついしぼう
 使った技:ソーラービーム、ハードプラント

・ピカチュウ ピカ
 特性:せいでんき
 覚えてる技:かみなり、ボルテッカー、アイアンテール、でんこうせっか、でんじは、かげぶんしん

・ニョロボン ニョロ
 特性:しめりけ
 覚えてる技:れいとうパンチ、れいとうビーム、かげぶんしん

・プテラ プテ
 特性:いしあたま
 覚えてる技:ドラゴンクロー、はかいこうせん、そらをとぶ、ゴッドバード、ちょうおんぱ

・ギャラドス ギャラ
 特性:いかく
 覚えてる技:ハイドロポンプ、げきりん

・カビゴン ゴン
 特性:めんえき
 覚えてる技:じしん


グリーン 持ち物:キーストーン
・リザードン
 持ち物:リザードナイトY
 特性:もうか←→ひでり
 使った技:ブラストバーン

・ハッサム
 特性:むしのしらせ
 使った技:はがねのつばさ


ブルー
・カメックス カメちゃん
 使った技:ハイドロカノン


イエロー
・バタフリー ピーすけ
 特性:ふんがく
 使った技:いとをはく

・ゴローニャ ゴロすけ
 特性:がんじょう


ゴールド
・バクフーン バクたろう
 特性:もうか
 覚えてる技:かえんほうしゃ、かえんぐるま、ブラストバーン

・エテボース エーたろう
 特性:テクニシャン
 覚えてる技:ダブルアタック、こうそくいどう、バトンタッチ

・ニョロトノ ニョたろう
 特性:ちょすい
 覚えてる技:ばくれつパンチ、さいみんじゅつ

・ウソッキー ウーたろう
 特性:がんじょう
 覚えてる技:がんせきふうじ

・トゲキッス トゲたろう
 特性:はりきり
 覚えてる技:ゴッドバード、すてみタックル

・ピチュー ピチュ
 特性:せいでんき
 覚えてる技:ボルテッカー


ツワブキダイゴ
・メタグロス
 持ち物:メタグロスナイト
 特性:クリアボディ←→かたいツメ
 覚えてる技:コメットパンチ、サイコキネシス、メタルクロー、バレットパンチ、アームハンマー、ジャイロボール、のしかかり、ギガインパクト、てっぺき、こうそくいどう、まもる


シロナ
・ガブリアス ♀
 特性:すながくれ
 覚えてる技:ドラゴンダイブ、りゅうせいぐん、はかいこうせん、ストーンエッジ、すなあらし

・ミカルゲ ♀
 特性:プレッシャー
 覚えてる技:サイコキネシス、でんげきは


リラ
・ライコウ
 使った技:かみなり

・ボーマンダ
 使った技:だいもんじ、りゅうのいぶき

・ムウマージ
 使った技:ゴーストダイブ


ククイ博士
・ガオガエン
 使った技:DDラリアット→ハイパーダーククラッシャー


サカキ
・スピアー
 特性:むしのしらせ
 使った技:どくづき


チームタマナワ
タマナワ
・カポエラー
 覚えてる技:トリプルキック、インファイト、とびひざげり

・ゴローニャ
 覚えてる技:ころがる、いわなだれ、あなをほる、まもる

・ドンカラス(ヤミカラス→ドンカラス)
 覚えてる技:ブレイブバード、ねっぷう

・クロバット
 覚えてる技:ヘドロばくだん、ねっぷう

・ニドキング
 覚えてる技:なげつける、まもる

・ドダイトス
 覚えてる技:あなをほる、まもる


メガネ
・ラッタ
 覚えてる技:すてみタックル

・モルフォン
 覚えてる技:サイコキネシス

・マルマイン
 覚えてる技:かみなり


黒短髪
・ドードリオ
 覚えてる技:ブレイブバード

・ストライク
 覚えてる技:シザークロス、エアスラッシュ

・デリバード
 覚えてる技:つばめがえし


茶髪
・マグカルゴ(マグマッグ→マグカルゴ)
 覚えてる技:ねっぷう

・スリーパー
 覚えてる技:サイケこうせん、サイコキネシス

・ウツボット
 覚えてる技:タネばくだん、リーフストーム


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ぼーなすとらっく27『有識者会議 その9』

有識者会議のラストです。


 ……………。

 空気が重い。

 

「先輩、これどうなるんですか………?」

 

 こしょこしょと俺に耳打ちしてくるイロハ。この空気に耐えられなくなったのだろう。

 まあ、それもそのはず、クチバジム内ではバトルフィールドに机と椅子を用意されて四方にグループ分けして座っている状況だ。北にサカキとその後ろにマチスとナツメ、対面する南に俺とイロハ、東にダイゴさんと図鑑所有者たち、そして西にリラと名乗る女性とハンダさん。博士たちが蚊帳の外になるという何とも異様な光景だ。

 つか、いつの間にいたんだよ、あのエスパー姉さん。いやもう姉さんって歳でもないか。

 

「………このままでは埒が明きませんね」

 

 おおう、すげぇなあの人。メンタル強すぎだろ。

 

「改めて、わたしは国際警察のリラ。ウルトラビーストの対応を管轄しています。アローラ地方でウルトラビーストを巡る騒動があった後、世界各地でもウルトラホールの発生を確認しており、その調査中にクチバシティでウルトラホールの顕出を確認されたため、わたしも駆けつけた次第です」

 

 やはり彼女の名もリラか。

 だが、あのリラとは口調もまるで違うし背丈も違う。時が経って成長したとも考えられるが、それにしても変わりすぎだ。面影があるのはその容姿と髪色だけである。

 

「ここにいるハンサムと現場検証を行った結果、ジムの外れにウルトラホール発生装置と思われる機械を発見しました。恐らく、それが今回ウルトラビーストを呼び寄せるきっかけになったと考えられます」

 

 ハンダさんは何か知っているのだろうか。

 世界を飛び回っていた人だ。情報はたくさんあるはず。その中で何も引っかかるものはなかったのだろうか。

 

「次にその犯人についてですが、まだ意識が回復しないようですので、取り調べは後ほど致します」

「おい、貴様はいつから国際警察に鞍替えした。バトルフロンティアのブレーンだったと記憶してるんだが?」

 

 あ、ついにサカキが口を開いた。相変わらず圧がすごい。だがナイスだ。この強引さなら逆に答えてくれるはず。

 

「………仰る意味がよく分かりませんが?」

 

 惚けているのか?

 いや、そうは見えないな。

 なら同姓同名の人違いか?

 いや、それも考えにくい。だって、彼女はライコウを連れていたのだ。伝説のポケモンに認められる程の実力が彼女にはあるという証である。

 

「ホウエン地方バトルフロンティア。そこにあるバトルタワーという施設のトップ、タワータイクーンが君だったんだよ」

 

 なら、何だ。何が足りない。

 あのダイゴさんも戸惑っているのが伺える。それ程までに彼女は違和感の塊である。

 

「………申し訳ありませんが、わたしには記憶がありませんので」

「リラ殿は十年前、わたしともう一人の同僚が保護した重要参考人なのだ。ウルトラホールを介して突如と現れた彼女はそれ以前の記憶が全くと言っていいほどない」

 

 ッ?!

 ウルトラホールを介して突如現れた………?

 どういう意味だ?

 まさかウルトラホールの先にも人間が住んでいるというのか?

 いや、待てよ。俺みたいにウルトラホールを行き来できれば話は変わってくる。もしそっちの仮説が正しければ、ライコウを連れているというのも辻褄は合う。

 ならば、確認してみるしかないな。可能性は低いが覚えていれば決定的だ。

 

「リラさん、ライコウを連れてましたよね? あいつはいつからあなたの元に?」

「ライコウですか? 最初からいました」

 

 これはいけそうだな。

 

「なら、ちょっと出してもらえませんか?」

「え?」

「ライコウと話がしたい」

「え、ええ、分かりました」

 

 そう言って、リラさんはボールからライコウを出した。

 

「…………」

「…………」

 

 じっとライコウを見つめるとライコウも俺のことをじっと見つめ返してきた。目は鋭く、当時の威厳をそのままという感じだ。

 

「コゥ………」

 

 そっと手を伸ばすとあちらも一歩前へと足を進めた。それが引き金となり、俺とライコウの距離は撫でられるまでに縮まっていった。

 

「どうやら覚えていてくれたみたいだな」

「コゥ」

 

 頰を撫でると小さく頭を下げてきたので、頭も撫でろということだろう。俺は頭も撫で、フサフサの毛並みを味わってみた。

 

「えっと、どういうことか説明してもらえるかしら? そもそもライコウはそう易々と誰かに気を許すようなポケモンではないわ」

「それが一度バトルした相手だとしてもですか? それもエンテイとスイクンをこの手でボールに収めたという経歴持ちの」

「ッ?!」

 

 リラさんもそれだけ言えばライコウが気を許すのも理解できたのだろう。逆に俺が何者かってところに訝しんでいる目をしている。

 

「あなたは、一体…………」

「カロスポケモン協会理事ヒキガヤハチマン。この会議の最高責任者とでも思ってくれて結構です」

 

 俺もここに来て初めて知ったけどね。それだけポケモン協会の理事というのは大きな存在らしい。俺もあの人もそういう雰囲気がないため全く思わなかったが、周りからしてみればやはり最高の権力者という認識に違いない。

 

「ククイ博士、それは本当なのでしょうか?」

 

 だからこそ、俺の歳で最高権力者になっていることに疑念を抱くのは当然だ。リラさんが顔見知りであるというククイ博士に問いかけるのも妥当だろう。

 

「ええ、間違いなく彼がこの場の最高責任者ですよ。意外ですか?」

「いえ、しかしそれならば何故そのような人物がウツロイドに呑まれていたのですか? シーンは少ないですが、あなたのバトルセンスは一級品です。まずそう易々とウツロイドに呑まれるとは考えにくい」

「………あいつ、俺のポケモンなんで。一応、多分、恐らく………ボールには入ってますし」

 

 言うことも一応聞いてくれてはいたみたいだし、俺のポケモンってことでいいんだよね? 脳内に直接使える技を送り込んできたくらいだから、俺のポケモンと認めていいんだよね?

 というか本当に何故ボールに入ってしまったんだろうか。

 

「ちなみに捕まえたボールは?」

「普通のハイパーボールですよ?」

「………あり得ない! ウツロイド含めウルトラビーストは普通のボールでは上手く捕獲ができないがために、ウルトラボールが開発されたというのに!」

 

 うわ、めっちゃ食い気味でくるな。

 というか俺的にはそのウルトラボールとやらの方が気になるんですが?

 いつの間にそんなの開発にされてたんだよ。いや、そもそもウルトラビーストについてあまり公表されていないのだから、俺が知る由もなかったのかもしれないが。

 

「いや、ウツロイドが勝手に入っただけなんで。俺だって未知の生物が勝手にボールに入ってしまって、今日まで一度もボールから出さなかったくらいですよ?」

「は? ウツロイドの方から? あなた一体…………本当に何者?」

「フン、聞いていればくだらない。そいつは貴様らの常識から外れた存在だ。貴様らの感覚で語れるはずがなかろう」

 

 あーあ、とうとう魔王様がお怒りになっちゃったよ。よく今まで傍観する側に回れていたものだ。

 

「くだらないとは、あなたこそ非常識です!」

「悪党に非常識もクソもあるか」

「なら、ハチマン。お前の口から聞こうか。オレは今のやり取りで確信した。お前、元ロケット団かあるいはそれに近いところにいるな?」

 

 グリーン、アンタのその洞察力と推理力はさすがだわ。

 

「…………はあ、まあ間違ってはいないな」

「ッ!?」

「俺のリザードンは改造ポケモン、俺は改造人間、そして今の俺たちを生み出したのがそこのおっさんたちだ」

 

 グリーンの言葉を肯定したら見事に驚愕の表情を露わにしやがった。ほぼ全員が。逆に動じなかったのがダイゴさんやシロナさんというね。肝っ玉ありすぎ。

 

「おいおい、一言でまとめすぎだろ」

「ハッ、別に詳細を語るメリットもねぇだろ。無駄に話が長くなるだけだ」

 

 マチスはもっと言葉を選べと暗に言ってくるが知ったこっちゃない。

 

「俺もリザードンも被害者で、お前らが加害者。それだけだろ」

 

 俺がそう言い切ると今度はマチスたちに視線が集まっていった。

 

「………随分と口が達者になったな」

「そりゃ、これだけ問題事に巻き込まれていれば嫌でも身につくっつの」

「ほう、ならそろそろ計画を最終段階へと移しても問題ないようだな」

「今度は何を企んでんだよ」

 

 この鋭い視線。

 会えば何かしら企んでいるこの男は本当に危険だ。毎度俺の平穏を掻き乱しやがる。

 

「お前に限った話で言えば、今度という話ではない。あの日から継続していることだ」

 

 あの日………、つまりはサカキに外堀を埋められ選択肢を一つに縛られた最悪の日。あの日を境に俺はあっち側に足を踏み入れてしまったのだ。

 

「………『レッドプラン』か」

「頓挫した『プロジェクトM's』もだ」

「はあ…………俺はあの時のことを今でも許したつもりもないし、復讐してやろうとすら思っている。だが、死にたくないし話だけは聞いてやる」

「では簡潔に言おう。まず『プロジェクトM's』の前身『レジェンドポケモンシフト計画』の部分であるが、不完全とはいえ成功とみなしていいだろう。それを踏まえた上での『プロジェクトM's』であるが、この計画自体の方向性を修正する。最終目標を現段階のミュウツーとし、そこに至れるまでの道筋を『レッドプラン』で補うことにする」

「現段階のミュウツー? つまりあれか? 戦闘中のメガストーンの交換か?」

「ふむ、なるほど。今の奴はそこまでできるようになっているのか。となるとお前でも可能だな」

 

 チッ、情報を引き出すための誘導かよ。当然知っているものだとばかり思っていたが。すんません、カツラさん。ミュウツーのことをサカキに知られてしまいました。

 

「はっ? 何をだよ。まさか戦闘中のメガストーンの交換とか言わないだろうな」

「そのまさかだ。お前たちは謂わば第二のカツラとミュウツーだ。忘れたわけではあるまい。お前たちの体内にはそれぞれの血液と体細胞があることを」

「ああ、そういうこと。暴君様と同様のことを可能とした上でその上をいけと」

 

 第二のということは暴君様たちと同じではやる意味がないということでもある。それを超えてこそ実験の成功と言えるのだろう。バカバカしい。

 

「悪いがあれはもうこりごりだ。俺にもリザードンにも負担が大きすぎる。ゲッコウガが半分肩代わりしたところでまだ足りない。今回はウツロイドの毒で麻痺させられたことで何とかなっているが、それも今回だけだ。次は本当に死の危険性だってある」

 

 俺はあくまでもこの無慈悲な力をコントロールして二度と暴走しないようにしたいだけだっつのに。リザードンが苦しまずにすむのなら今すぐ力を棄てたっていいくらいだ。

 

「それをアンタは無理を承知でやれと?」

「だが、前回も今回も色々な要素を取り込んで成功している。次は完全な進化を遂げる可能性だって否定はできない」

 

 言葉は言い様だ。そんなもの被験者じゃないやつの言葉の受け取りようでしかない。

 

「前回と今回を比較すれば、ウツロイドがいたかいないかの違いだけだ。奴の毒を予め注入し取り込めば成功の可能性は飛躍するだろう。しかし、それにはお前の身体が保たないのも確かだ。そこをクリアすればこの計画は終了する。故に最終段階と評した」

 

 言いたいことは分かっている。だが、そんな力を覚醒させてしまえば、俺もリザードンも普通ではいられない。今でもギリギリだというのに、これ以上の力を手に入れてしまえば今の生活とはおさらばだ。それはイロハやユキノたちともおさらばしなければならないということでもあり、やっと掴めた俺の大事なもんを捨て去る必要がある。

 そんなのはごめんだ。俺は普通でいたいんだ。普通に生活して、普通に仕事して、普通に生きる。リザードンと出会ってからというもの、お互いに普通とはかけ離れた生活を強いられてきたのだ。もうそろそろ引退したっていいくらいだろうが。

 

「………それじゃ、ユキノ先輩はどうなるんですか?!」

 

 っ?!

 イロハ!?

 

「あの人は先輩と同じような存在になったってはるさん先輩が言ってましたよ!?」

 

 ああ、お前はきっちり話を聞いていたんだな。ちゃんと理解して情報を整理している。だからこそ、計画の首謀者間の話でもついてこれていた。そして気づいてしまったのだ。このまま計画の方向性を修正し目標を再設定してしまえば、ハルノが施したユキノの対ヒキガヤハチマンの力の意味がなくなると。それでは何のためにユキノが犠牲になっているのかと。

 

「はっ? おい、ハチマン。それはどういうことだ!」

「言葉通りの意味だ。ユキノはある意味俺の対極に位置する存在になってしまっている。実際にあいつに触れられたら暴走が緩和した」

「…………何故あの娘である必要がある。他にも対極に位置するような何かがあると見るのが妥当か? ならば、こいつの対極となれるものは一体…………!? あるな、ダークライ。ハチマンにダークライがついた以上、そこには何か意味がある。それがこれと関係があるとすれば…………いや、無理矢理関連づければあり得ない話でもないか」

 

 ダークライやクレセリアの話は俺からはしていない。にもかかわらずこの男はどこからか情報を得ている。しかも少ない情報で的確に推理するその頭脳と眼はストーカー以上に厄介で恐ろしい存在だ。まさに超人。

 ダークサイドの超人とか誰得なんだっつの。マジでただの魔王じゃねぇか。

 

「レ、レッドさん、ぼくもう無理です………話が難しすぎてついていけません…………ねむいです」

「イ、イエロー!? だ、大丈夫か?! オレもさっぱり分かんねぇけど、気をしっかり持つんだ!」

「ふぁぁぁ………」

 

 うわ、なんかコントが始まったんだけど。まさかもう集中力が切れたのか?

 まあ、あり得なくもない。知りもしない者からすれば、こんなふざけた話つまらないだろう。しかも情報がなければ整理のしようもないという何とも無駄な話だ。眠くなるのも当然と言えよう。

 

「お前ら、いてもいなくても変わらんのだから外で待機してろ」

「お、おう、なんかごめん…………。イエロー、いくぞ」

「ふぁ、ふぁい、レッドしゃん………」

「ふぁぁぁ、んじゃクリス、オレも抜けるわ」

「あ、ちょ、ゴールド! ………もう!」

「放っておけ。あいつはバカだ。バカがこの状況に耐えられるわけがないだろう」

 

 残った図鑑所有者は頭のキレるやつらだけか。

 

「中々いいタイミングだね、彼らは。サカキ殿、あなた方の思惑が彼に起因しているのは重々分かりました。しかし、今はそのこと以上に整理しなければならないことがある。ここは口を閉ざしていただきたい」

 

 いいタイミング。まあ、確かにいいタイミングかもな。やらなければいけないのは俺たちの計画の話じゃない。今回襲撃してきた者たちの情報交換の方だ。それと対策。

 

「ホウエン地方の元チャンピオンか。いいだろう。こちらも整理が終わったところだ」

「ありがとうございます。では、まずは今回襲撃してきた者たちについて。ハチマン君、何か知っていることがあれば教えてくれないかな?」

 

 デボン社の御曹司ということもあって、こういう状況にも慣れてしまってるのかね。あの人、あのままサカキから主導権を奪っちまったよ。さすがダイゴさんだわ。

 

「正直タマナワとかいう奴らのことは何も知らないに近いが、一つ微かな記憶にあるのは、ロケット団の残党狩りの時にチームタマナワとかいうのがいたような気がします。確か途中でやられて病院送りになったとか」

「なるほど………。それじゃ君たちが彼らに対する反応よりも過敏に反応していたカラマネロについては?」

「多分、あっちの育て屋を襲撃してきたカラマネロのどれかだと」

「襲撃?」

「ええ、カラマネロ三体が野生のポケモンや育て屋のポケモンを操って、それこそ今回みたく大勢を率いてましたね」

「………つまり、狙いはあくまでも君だったというわけか」

「どうでしょうね。俺が狙われているのはカモフラージュかもしれないし、もっとヤバいことを企んでいそうな予感もします。なんせリザードンでもゲッコウガでもジュカインでも歯が立たない相手ですからね。相当ヤバい奴らかと」

 

 まあ狙われているのは事実ではあるな。だがやはり、相手の意図が読めない現状、俺が狙われているのですら何かの伏線なのかもと思えてならない。なんせ相手はうちのポケモンたちが歯が立たない奴らだ。そんな奴らが単調に攻めてきているだけとも限らないだろう。

 

「目的もまだはっきりしてないんだね。そうなるととても厄介だ。相手の意図が読めなければ対処が後手に回ってしまう」

 

 一体首謀者は誰なのだろうか。まさか対面に陣取るこの男とか?

 いや、それはないな。サカキならもっと俺に対するアプローチが大きい。これを乗り越えられないようなら価値もないというかのように、やる事なす事全てが大規模だからな。

 となるとやはり気になるのはあの二人組か。

 

「あるいは、ですけど………裏でシャムとカーツが絡んでいるやもしれません」

「シャムとカーツだと?!」

「カロスに初めてウツロイドが現れた時、その場に居合わせた二人組がそんな名前で呼び合っていた。しかも俺の顔を見るなり青ざめた辺り、裏の奴らという可能性が高い」

 

 ロケット団はかつて仮面の男事件で残党をいいように使われたからな。その時にシャムとカーツが率いている部隊もあったのだ。そりゃ周知しているわけか。

 

「…………は?」

 

 と、いきなり俺の中で何かが弾けるような感じがした。とても嫌な感じの、まるで今にも呑み込まれていきそうな。

 そして、徐々に痛みという感覚が回復してきたような気がす、る………?

 

「ぐっ!」

「せ、先輩?!」

 

 な、んだ…………くっ!?

 息が、くる……しい…………。

 まさか、これが……………くそが!

 横にいたイロハが驚いて俺の身体を触っているような気もするが、そっちに反応すらしてやれねぇ………。

 

「くそ、もう毒が切れてきた、のかよ…………」

「毒? 毒ってどういうことですか!? 先輩!?」

「フッ、そういうことか。この場で話せていたのも毒により感覚が麻痺していたがために出来ていた所行というわけだ。それが毒が切れたせいで今まで感じていなかった痛みが一気に押し寄せているのだろう」

「てことは………マチスさん、急いでベットの用意を!」

「ああ、それなら空きがあるぜ。そんないいもんではないがな」

 

 ぐあっ?!

 頭痛がヤバい。胸も苦しい。やはり一時凌ぎでしかなかったんだな。

 くそ、ったれ…………。

 

「これ程までに強力な毒とは。ウルトラビーストか………調べる価値はありそうだな。何としてでも………!」

 

 もう、ダメだ……………目の前は真っ暗で、何も見えない。意識もあるのかないのか………………。これで計画が段階的に成功とか、絶対に認めない………から、な……………。

 

「絶対にお前たちを死なせはしない………」

 

 サカキ………ーーー。

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 ………、ここは………?

 

「あ、おはようございます、先輩。と言っても夜中ですけどね」

「………イロハか」

「なんですかー、その反応はー。甲斐甲斐しくお世話をしてあげたのは私だっていうのにー」

 

 いや、そう言われても………。

 目は覚めても頭が覚醒してないからね?

 何ならここどこよ。

 

「………ずっと目覚めないかと思ったんですから」

 

 そう言うと、突然イロハが左手をぎゅっと握ってきた。

 

「ーーーすまん」

 

 なんか思い出してきたわ。

 有識者会議だってことでクチバに帰ってきて、図鑑所有者たちとバトルした後にカラマネロの襲撃にあったんだっけ?

 

「ーーーっ!?」

「ど、どうしました、先輩っ?!」

 

 そうだ………!

 俺、あいつを守れなかったんだ………!

 あいつがブルーさんを助けるために飛び込んでいくのを振り返り様に見届けることしか出来なかったんだ!

 

「俺、ジュカインを守れなかった………」

「ーーっ!? そんなの私だって! ………私だって悔しいし、泣きたいくらいですよ」

 

 そうか、そうだよな。

 イロハだってジュカインのものまねの練習に付き合ってくれてたり、そうでなくとも俺のポケモンたちとは普通に交流があったんだ。見知ったポケモンがいなくなるのはトレーナーじゃないイロハだって辛いよな。

 

「………なあ、あの後どうなったんだ?」

「先輩が倒れた後、すぐにここへ運び込みました。会議の方はダイゴさんたちが襲撃者たちを取り調べるという形で終わっています。サカキはあの後すぐに出て行きましたけど」

 

 そう、か………。

 

「ククイ博士とバーネット博士によると帰ったウルトラビーストたちが再び来ることもないみたいですし、先輩が倒した野生のポケモンたちは図鑑所有者の方たちが監視しています」

 

 あれからウルトラビーストの再来の予兆はないのか。そりゃよかった。あんなのが何度も来たんじゃ街も俺たちも疲弊するだけだ。今回限りで終わってほしいものだな。

 

「色々言いたいことはありますが、ひとまず目を覚ましてくれてよかったです。ちゃんと帰ってきてくれてありがとうございます、先輩」

「………すまん」

 

 多分、ユキノたちには報告してるんだろうな。帰ったら女性陣からのお小言が待っているのだろう。

 

「それで先輩、あのリラって人は本当に何者なんですか?」

「………ダイゴさんが言ってただろうけど、リラさんはホウエン地方にあるバトルフロンティアのバトルタワーのブレーン、タワータイクーンだったんだ。俺はあの人にも挑んで勝利した。そしてその勝利を以って全てのフロンティアブレーンを倒したことになったんだ」

「それってつまり………」

「バトルフロンティアを全制覇したんだよ。ただその時にオーナーのエニシダさんから新たなフロンティアブレーンとして誘われたんだ」

「っ!? じゃ、じゃあ先輩は!」

「断ったよ。すぐにな」

「なっ………先輩、やっぱりそこでも先輩でしたか」

「人はそんな変わらねぇよ。何ならその時期が一番ヤバいからね?」

「えー………」

 

 俺の黒歴史ど真ん中と言ってもいいような時期だぞ?

 あまり思い出したくもない時期だわ。

 

「それでな、断られてはこちらとしても義理が立たないみたいな反応されて、リラさんが俺に呪いをかけたんだよ。それなら貸し一つだってな」

「それって呪いなんですか?」

「ああ、それは言葉を裏返せば四天王やチャンピオン並みのトレーナーをいつでも召喚できるってことだったんだ。窮地に直面した際にこれ程嫌な選択肢はない。だってそうだろ? ブレーンたちに連絡すればいつでも飛んでくるんだぞ? 縋りたくなってしまった時点で俺の負け決定だ。その程度のことを自力で切り抜けられないなら、その時は助かったとしても次はない。次がなくなれば行き先のない俺をフロンティアブレーンとして迎え入れる。それがあの人たちの筋書きだったんだよ」

「………今の方が大変じゃないですか?」

「言うなよ………。まあでも、今ならその選択肢を行使するのも悪くないかなっては思ってる。俺がいく先々で事件に事件が重なって来るんだ。カロスにだってずっとはいられないんじゃないかと最近は思うんだよ」

 

 今日のことで確信した。

 やはり俺は表に立つべき人間ではない。かと言って裏で生きれるような悪党にもなりきれない。半端なグレーゾーンが俺のいい立ち位置なんじゃないかと思えてきている。

 だったら、表にも出ない、しかし表ともつながっている。そんな俺たちの空間を作った方が面倒事もいくらかは回避できるんじゃないだろうか。

 

「………私たちとはいられないってことですか?」

「ちげぇよ。お前らを連れて行くんだよ。エニシダさんの話じゃ、俺に新たな施設を用意してくれるみたいだし、俺がやりたい施設の構想もあるんだ」

「それって………!」

「ああ、いつか近いうちに俺たちだけの空間を作るのもいいかなって思っている」

「それには私たちも必要だと?」

「ああ、カロスは俺にとって第二の故郷みたいな存在になっちまったからな。捨て去るのも惜しい」

「先輩はいつも先を見据えていますね。そういうとこ、ほんとすごいと思います」

 

 先を見据えている、か。

 確かに昔から厄介事に巻き込まれることが多かったからな。そうせざるを得ないってのもあるし、単に習慣付いているのかもしれない。あるいは、この手の温もりとか。

 

「………なあ、ジュカインは生きてると思うか?」

「正直分かりません。でも私は生きてるって信じてます」

「そうか…………お前の手、あったかいな」

「っ?!」

 

 話題が終わってしまうとやはり後悔だけが取り残されていく。あの時、ジュカインを助けられなかったのは俺の力不足だ。トレーナーとして自分のポケモンを守れないんじゃトレーナー失格と言えよう。

 そう考えてしまったら、イロハに握られている手だけが熱を残していた。

 一人だった頃は感じられなかった熱だろう。昔はそれでいいと思っていたし、逆にいない方が楽だった。だけど、今はもう各々に絆されてしまっている。誰かに何かが起きれば心は騒つくし、足は動いてしまう。それが増えれば増えるほど、俺の弱点そのものが立って歩いているようなものになっていく。ただ、今の俺はそれに嫌悪感を募ることはない。

 なんてことはない。ただ俺が弱くなってしまっただけだ。人が増え、ポケモンが増え。守るために強くなろうとして、守るものが多くなって逆に弱くなっていく。元来、人という生き物はそういうものなのかもしれない。

 だが、それが俺自身本当に一緒にいたいと思える相手ならば、苦にも思わないし心も満たされていくのだろう。そしてそれは今だということでもある。

 

「………先輩はずっとずっとがんばってました。スクールの時だって卒業してからだってカロスに来てからだって。捻くれてるけど、ポケモンやみんなにも慕われて。ピンチの時は頼もしいし、やりたくないはずの仕事をしてる時もかっこいいです。ボロボロになったカロスをここまで回復させたのも先輩がいたからこそです。なのに、なんで………なんで先輩ばかりこんなひどい目に遭わなきゃいけないんですかっ…………!」

「イ、ロハ………」

 

 イロハの感情爆発は止まらない。

 一度栓が抜けてしまえば、封をすることが難しい……まるで缶詰のようだ。開けるのは難しいがその分、開いた時には溜まっていたものが一気に飛び出していく。

 

「我慢して、感情を押し殺して、記憶まで失くして、終いにはジュカインまで失って………。先輩が何したっていうんですかっ!」

 

 俺が何をしたか、か………。

 何もしてない、こともないのかもしれない。リザードンーーヒトカゲを拾ったところが最初の分岐点となり、サカキに目をつけられ奴らの計画に加担したところで第二の分岐点が発生。そこからは下へ下へと落ちぶれていき、シャドーとも関わってしまった。結局俺は悪党に近い小悪党擬きといったところだ。だから狙われるのも仕方ないのかもしれない。それが運命と言われたらそれまでだろうし、だからこそ俺はその運命とやらを断ち切ろうと抗ってきている。

 

「もう、嫌です………先輩ばかりつらい思いをしなきゃならないのはもううんざりです」

 

 だが、抗えなかった。

 これまでもギリギリのところでどうにか凌げていただけに過ぎず、俺の力だけではどうにもならなかった。

 俺は、こんなにも弱い。イロハたちという守るべきものが増えたからというわけじゃない。いくらポケモンバトルが強くなろうとも大きな力には抗う術を持っていないのだ。故に呑み込まれてしまう。その結果がジュカインの死亡だ。

 あいつはようやくものまねを物にしてきて攻撃の幅が格段に上がり、ゲッコウガたちにも並ぼうとしていた。その矢先にこれだ。トレーナーである俺の責任は非常に高いだろう。

 ………あんな最期を迎えてあいつは果たして生きているのだろうか。生きていてほしいと願っているが、絶対に無理だという俺もいる。そんなんではダメなのは分かっちゃいるが、そう簡単に気持ちを切り替えることができない。それだけ激しくショックを受けている証だろう。

 

「今だけは全部吐き出してください。私が全部受け止めますから。先輩は一人でいたって感情を剥き出しにはしないんですから、今くらいは全部私に吐き出してください。………私にできることなんてこんなことしか、ありませんし」

 

 っ………!

 

「………ほんっと、お前ずるいんだよ」

「先輩にだけは言われたくないですよ」

 

 ああ、まずい。

 これは非常にまずい。

 イロハの感情爆発は誘発もしてくる恐ろしいものだった。あんなのを聞かされたらこっちだって出るもん出てくるっての。もう、止まらないぞ。

 

「俺だってな、好きでこんな狙われるような生活してるわけじゃないんだよ。最初から歯車が狂っていたとしても何でここまでやられなきゃいけないんだよ。好きなやつと好きなことして、時には苦しくて大変だろうけど、それでも壁を乗り越えて。そういう生活を送りたいってのに、なんでいつもいつも俺ばかり、俺の周りばかりが傷つかなきゃならねぇんだよ。おかしいだろっ! 限度ってもんがあるだろうがっ! そりゃ大事なもん守るためなら俺にできることは何でもやるさ! でもそれは頭と心と身体が全部あってこそだろ! ………もう無理なんだよ。何かある度に心がざわついて吐き気がする。息も苦しいし、頭も痛い。でも周りは期待ばかりが膨らんでいく。今日だってそうだ。カラマネロたちが現れた瞬間に全員が俺の方を向いた。どうするんだと。どうにかしてくれと。お前ならできるだろと」

「………先輩にはそう見えたんですね。私もあの視線はなんか怖かったですよ。全身がビクってなりました」

 

 ほんともううんざりだ。俺はただただ平穏に暮らしたいだけだと言うのに。

 それならいっそーーー。

 

「………もう、何もないところでお前らと暮らしたい」

「ーーーっ!!」

 

 心の叫びを一度出してしまった俺は、疲れて眠ってしまうまでイロハに抱き寄せられていた………。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 翌日。

 一日安静にしていろという全博士による命令を受け、部屋に一人ぼっちと化している。

 ただすることもないので、思いついたなら即行動というわけでもないが、話を進めてみるのもいいかもしれないと思いある人へと電話をかけてみた。

 

「あー、もしもし? エニシダさんですか?」

「お? おお? その、声はハチマン君かい?」

「ええ、お久しぶりです」

 

 よかった。

 取り敢えず繋がったか。

 

「いやー、ほんと久しぶりだねー。何年ぶりかな」

「三年四年ぶりですかね。その節はどうも」

「いやいや、ボクの方こそ。それで今日は急にどうしたんだい?」

「実は今カントー地方にいまして。各地方の博士たちを集めた会議に参加したんですけど」

「………リラのことかい?」

「あ、知ってたんですね」

「昨日、ダイゴ君から連絡があったからね」

「さすが元チャンピオン。仕事が早いな」

 

 なら、俺からリラさんについて話すようなことはないか。それならさっさと本題に入るとしよう。

 

「それで? 君もリラがいたという報告かい?」

「いや、それもあったんですけど。以前、俺がフロンティア制覇した時に褒美として新しいブレーンにしたいとか言ってたじゃないですか」

「ああ、言ったね。覚えてるよ」

「ちなみにそれって、今も有効なんですか?」

「ん? もしかしてもしかしなくてもブレーンになってくれるのかい?」

「ええまあ。今すぐにとはいきませんがね」

「ほー。まあそうだよね。今じゃ君は有名人。今のポストを急に離れるなんてことはできないもんね」

「………俺も今離れるわけにはいかないと思ってるんですけど、いずれ離れざるを得ないかなとも思ってるんですよ。目立ちすぎたが故に新たな火種になりかねない」

「そうだね。君は目立ちすぎた。善とも悪とも取れないグレーな位置にいた君がこれだけ注目を浴びてしまえば、君を狙った事件が起こる可能性は高いだろうね」

 

 いや、ほんと知りすぎてて怖いわ。この人は一体どこまで知っているのだろうか。ある意味この人もグレーゾーンじゃないかと思えてくる。でもこの人は上手い生き方をしてるんだよな………。

 

「だから、俺の世界というか空間というか………フィールドが欲しいんですよ」

「何のためにだい?」

「護るため、ですかね」

「ん? ついに君にも護るべき存在ができたのかい?」

 

 何その超意外みたいな声。人を何だと思ってるんだよ。あ、ぼっちか。違いないけど、それでもユキノとか、あまりカウントしたくはないがザイモクザなんてのもいたからね?

 

「ついにって………。まあ、昔の俺からしたらそうなりますけども。そうですね。カロスに来てから色々なことがあって色々なやつに再会して、いつの間にか失いたくないな思ってしまったんです」

「そっか、そっかそっか。分かったよ。その感じだとフロンティアの構想もあるんじゃないかい?」

「………どこまでお見通しなんですか。場所はカロス北西沖に浮かぶ人工島。船以外では侵入不可。そこに存在するのは最大十六人のブレーン。その全てにポケモンバトルで勝利すればフロンティア制覇となる。こんな感じです」

 

 これくらいのシステムにすれば、イロハやユキノたちともずっといられる。あいつらを必要とする場所があり、俺がトップのフィールドが出来上がることで、問題が起きても少ない被害で対処もできるだろう。

 

「十六人のブレーンか。それは各ブレーンによってルールを変えたりするのかい? 例えばバトルタワーのように四十八人のトレーナーを倒した後にブレーンが登場し、そこで勝利すればバトルタワー制覇みたいな」

「いえ、トレーナーはブレーンだけです。ただし、全員が四天王、チャンピオン級、あるいはそれ以上。ただそれだけです」

「なるほど。要はブレーンだけを集めたバトルタワーみたいな感じだね」

「そう、ですね。確かにそんな感じになりそうですね。一応ブレーンにも階級みたいなのをつけようと思ってて。ただその階級に騙されると痛い目に遭う、とか」

「くくく、そのいやらしさは正しく君だね。いいよ、細かいことは後日詰めていこう。まだまだ時間はある。資金繰りもこれからなんだし、もっとよくなるようお互い情報交換していこうじゃないか」

「すみません、突然ながら。よろしくお願いします」

 

 まさかの快諾か。

 あの人、ほんとすごいわ。俺はひっそりとやろうとしてるのに、それでももうけの見込みでも立ててしまったのだろう。逆にあちらがどういう提案してきてくれるのか。それはそれで楽しみな部分があるな。

 

「失礼しまーす。先輩、誰と話してたんですか?」

 

 と、電話を切り終えたところでイロハが部屋に入ってきた。まるでタイミングを図っていたかのようだ。

 

「ん? ああ、仕事の話だ。ちょっと思いついたことがあったから、構想だけ聞いてもらってたんだ」

「へぇ、今度は何をやる気ですか」

「そりゃまだ秘密だな。ただ、イロハたちにも協力してもらうことにはなるがな」

「私たちもですか。四天王になっちゃったら手伝えないかもしれないですよ?」

「んー、まあそこは大丈夫なんじゃないかと思ってる。四天王は基本暇だし。副業でレストランを経営してる人もいるくらいだしな」

「あー、それもそうですね」

 

 今さらっと言っちゃってるけど、こいつもう四天王なるの確定みたいに言っちゃってないか?

 いやまあ、それくらいの意気の方がこちらとしても有り難いが。

 

「分かりました。先輩がどうしてもというのなら、このイッシキイロハ。お手伝いしますよ」

「ありがとよ。それまでもっと強いトレーナーになっててくれ」

「……?」

「俺のフロンティアにイロハたちが必要だからな」

 

 そうだ、俺にはイロハたちの力が必要なんだ。一人でできることはできても、世の中それだけでは回っていない。一人ではどうしようもないことだってある。だから俺はみんなといたい。普通にいられないのなら普通にいられる場所を作ればいい。俺はそこを守れるようにするし、そのためにもみんなには強くなってほしい。

 守れなかったのはジュカインだけでいい。もう懲りた。

 そもそも俺には荷が重すぎたのだ。カロスポケモン協会理事なんて権力のトップに立ったのが間違いだったんだ。ユキノたちとのこれからの人生のためにも周りから認められないといけないと思い込んでしまったのが、破滅への一歩だったのだろう。

 やはり俺は大々的に表に立つような人間ではない。鍛えられはしたが今でも緊張するし、無関係のところからも狙われ続ける。そこまでしての見返りはジュカインの損失とかマジで割りに合わない。それに俺がいなくなったと仮定して協会がどうなるかと言えば、恐らく他の代替者を擁立することになるだろう。一度復活させた組織をそう簡単に失わせまいとするはずだ。なら、俺たちは結局使い捨ての駒でしかない。

 それならば、いずれ近いうちに俺たちはあの組織の中枢から離れるべきだ。使い倒される前に抜け出さなければ、俺たちが保たない。

 かと言ってカロスを離れるわけにもいかないだろう。俺たちが退いた後の権力者が権力にものを言わせて独裁的になられては困る。そうならないためにもチャンピオンや四天王、ジムリーダーなんかが監視することも視野に入れるべきか。そして俺も本土にはいなくても監視していられる場所ーー海の上で情報を仕入れている必要があるだろうな。俺が唯一カロスに残せたであろう最強の称号を以って。

 ああでも。俺のフロンティアは大々的な宣伝をするべきではないな。ひっそりと実力者が集まり口コミ程度で広まっていく。差し詰め幻のフロンティアと言ったところか。いっそのこと船のように移動できるようにするのもいいかもしれない。さすがに空は飛べないだろうが、エニシダさんならやり兼ねないのが怖いところか。

 まあでも、楽しそうではあるな。そういう表に立たないやり方も。何なら俺が好みとするところだ。

 だからまあ、さっさと帰ってこいよジュカイン。俺はお前が生きていると信じている。帰ってこられないなら俺の方から迎えに行ってやる。こっちにはウツロイドなんていうウルトラビーストがいるんだ。いや、絶対に迎えに行ってやる。それが俺がお前にしてやれるせめてもの償いだからな。

 待ってろよ、ジュカイン。



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ぼーなすとらっく28『めざせ暴君! 最終計画!』

今回は有識者会議後の話、襲撃後ハチマンが意識失った同日の話になります。
予定としては残り二話で完結させようと考えています。その後は新シリーズに移行となります。


『それでね。この子はガラル地方に生息するサニーゴなんだって』

『なるほど、リージョンフォームね。アローラ地方に続き、ガラル地方でも発見されていたのね』

 

 私は今ユキノちゃんとガハマちゃんとテレビ電話をしている。内容はガハマちゃんが捕まえたという白いポケモン、もといガラル地方のサニーゴ。本来カロス地方にはいないはずなのに、シャラシティのマスタータワー跡地で襲われたらしい。

 

「流石にお姉さんでもリージョンフォームまでは辿りつけなかったなー」

 

 一昨日、ガハマちゃんから画像を送られてきた時は何事かと思ったけどね。仕事の傍ら色々調べてはみたものの、私もユキノちゃんも正解には辿りつけなかった。

 なら、どこから正解を得たのかというと、今現在カントー地方に出張中のハチマンからである。各地方のポケモン博士が集まる会議に出席していたため、そこでリージョンフォームを研究しているポケモン博士に出会えたんだとか。

 やるね、ハチマン。流石私のハチマンだわ。おっと、私たちのってことにしておかないとユキノちゃんがこうして睨んでくるからなー。

 

『姉さん、また変なことを考えてないかしら?』

「何のことかなー? お姉さんにはさっぱりだよー」

 

 昔はもっと可愛げがあったのに。

 どうしてこうも姉に対して冷たくなってしまったのか。

 まあ、原因は私にあるんでしょうけど。

 昔の私は私と同レベルの実力者を求めていた。けれど、それは四天王やチャンピオン級のことであり、そのレベルのトレーナーなんて世界中探してもほんの一握りしかいない。だからこの人っていう人に出会える確率なんてゼロに近く、それならばと自分で用意しようとまで考えてしまったのだ。

 私の運命はそこで変わってしまったのだと思う。私がチャンピオンに任命された時にはすでにロケット団の一研究者となっていた。あーだこーだ自分でこういうトレーナーがほしい、こういうトレーナーにするためにはどういう教育を組むべきなのか、そもそも人工的に造り出せるのか、といった超自分本意な研究をしていても将来的にはそれが金になると考えられていたのかもしれないわね。

 その結果、私はあるトレーナーを造り出してしまった。本人からすれば大組織にいいように使われただけの被害者だって言ってくれるけれど、やっぱり私がそんな考えを持たなかったら、彼はもっと真っ当な人生を歩めたんじゃないかと今でも思えて仕方ない。

 彼と出会ったのは私も参加したカントー地方でのリーグ大会。大会内でチャンピオンとバトルができるかもというのを売りに、私が盛り上げ役として参加していた中、彼はリザードン一体で決勝まで登りつめてきて、あろうことかチャンピオンだった私のポケモンも全員やられてしまった。でも大事なのはそこじゃない。最後のカメックス戦で見せた暴走のような力の解放。そして、それをコントロール下においてしまうトレーナーの実力。そこで私は自分の過ちに気付くことができた。

 観戦してた人からすればただの最後の力を振り絞った結果に見えるだろうけども、他に思い当たる節がある方からすればマジかと驚きを隠せない衝撃的なものだった。

 それと同時に彼を助けなきゃという使命感に駆られ、その場でチャンピオンを辞退し、ロケット団との関係も断った。

 そして、彼のことを調べていく内にあるポケモンの存在を知り、そのポケモンと対をなすポケモンの力を借りることを思いついた。ダークライとクレセリア。彼はダークライを潜ませており、彼と同等の存在になるにはクレセリアが必要なのだと結論付けた。そしてクレセリアを求めて探し回り、三日月の羽というクレセリアの羽を見つけたけれど、それは私ではダメだった………。その羽が反応したのはユキノちゃんにだったのだ。

 だから本人には内緒であれこれユキノちゃんにそれとなく叩き込んでいった結果、ちょっと姉妹間で距離ができちゃった。

 でもこのカロスに来て彼ーーハチマンとも直接触れ合う機会も増えていき、みんなに全てを話すことにした。辛かったけど、ハチマンもユキノちゃんも感謝してくれていたのには驚きだったなー。恨まれこそすれ、まさか感謝されるなんて普通思わないじゃん。

 それがきっかけでユキノちゃんとも距離が戻せたと思うし、同時にハチマンに対して恋心を抱くようになってしまった。

 うん、まさか私が誰かを恋しく思う日が来るとは夢にも思わなかったけど、よくよく考えればあのリーグ戦でバトルした日からずっとハチマンのことを考えて生きてきたわけだし、当然の結果だったのかもしれない。

 しかもユキノちゃんにはそこら辺の過程までバレてるようで、こうして冗談めかした戯れ合いもするようになったというわけさ。

 なんか…………私だけやられっぱなしじゃね?

 

『ハルノさんは何か捕まえましたー?』

 

 おっと、こっちに意識を戻さないとね。

 

「んー? わたしー? 私はねー、ワルビルがワルビアルに進化したくらいかなー」

『おおー!』

『あくタイプがどんどん増えていくと姉さんが悪者に見えてきてしまうから不思議よね』

「ユキノちゃん、ひっどーい。そういうユキノちゃんこそ、こおりタイプに目覚めて本当に雪女みたいじゃん」

 

 後ろの壁に同化してるイノムーとか。

 いつの間に捕まえたのか知らないけど、抱きかかえているクマシュンとか。

 絶対そっちの部屋は寒いでしょ。そんなところにいるユキノちゃんなんて、本当に雪女と言われてもおかしくないわ。まあ、言うのはハチマンくらいでしょうけど。いてつくしせん、なんて技を習得してたりして。そもそもそんな技があるわけないんだけどね………。ないよね?

 

『ゆきのん、そのクマシュンって男の子? 女の子?』

『メスよ。人懐っこい子でハチマンやゲッコウガにも懐いてるわ』

 

 さすがハチマン。ポケモンには好かれやすい上にメスときたら、そりゃ懐かないわけがないだろう。例外はイロハちゃんのマフォクシーくらいかな。あれはゲッコウガに対してホの字だから他の男であるハチマンには一歩引いた位置にいる。というかよくゲッコウガといるため、ゲッコウガを返せと睨んでるまであるわね。

 

「ユキメノコと喧嘩になったりはないの?」

『ええ、そこは大丈夫よ。ハチマン、ユキメノコにも甘いもの』

 

 そりゃそうか。

 素直になれないユキノちゃんの気持ちを表に出したような子だもんね。よく抱きついてたりするし、緊急時にはオーダイルと一緒にハチマンの指示で動いたりするし。

 

『それにしてもゆきのんも随分とこおりタイプのポケモン集めたよねー』

『そうね、元々仲間になってくれる子にこおりタイプの子が多くなってきてたのがきっかけだったのだけれど、いつしかこおりタイプの魅力に惹かれてしまって………』

『あー、分かるなー。あたしもシャラジムで働くようになってからかくとうタイプの魅力ってーの? そういうの感じ始めちゃってるし。ヒラツカ先生には言えないけど』

『言ったら怒涛の勢いで熱弁されるでしょうね』

 

 みんなそれぞれ心にゆとりもできてきたということの証なのでしょうね。かく言う私もあくタイプのポケモンを調べちゃってたりしてるし。元々はじめんやはがねタイプが中心だったのに、いつの間にか変わっちゃうのが人生ってやつなのかしら。いやでも、じめんやはがねタイプも今でも好きだし、好きの範囲が広がっているということにしておきましょう。いっそイロハちゃんみたいに三タイプを揃えてみるのもありかも。

 

『ドゴン!?』

 

 わひゃっ?!

 え、なに、どしたの!?

 

『ゆ、ゆきのん、今すごい音聞こえなかった?!』

『ごめんなさい、どうやらコドラとボスゴドラの特訓が激しくなってきてたみたいなのよ』

 

 え、それでそんな地響きするような音が聴こえてくるの?

 確かに金属が擦れるような音と言えばそうだったけど………。

 というか一体どんな特訓をしているのかしら。

 

『…………ヘルガーの炎を纏ってぶつかってるわ。何考えてるのかしら』

「身体を鍛えてるとかなんじゃない?」

 

 コドラやボスゴドラの身体は鋼の鎧を着ているわけだし、それを熱で柔らかくして激しくぶつけることで鋼を鍛えているのでしょう。そうじゃなかったら私もお手上げよ。他を想像できないわ。

 

『ヒッキーの提案?』

『だとは思うのだけれど。でもボスゴドラの群れでの経験という筋もあるわ』

 

 確かに。

 ハチマンのボスゴドラは元々群れの長だったわけだし、仲間を強く鍛えるための方法を持っていたとしてもおかしくない。というか絶対ハチマンはそれを参考にイロハちゃんのコドラを鍛えているはず。効率重視の彼が利用しないわけがないもの。

 

『あ、シードラが怯えてるわ。ちょっと行ってくるわね』

『あ、うん! それじゃまた連絡するね! ハルノさんもバイバーイ!』

「うん、またねー」

 

 シードラって確かそんな弱気な性格じゃなかったわよね。それが怯えてるってことは相当のことが起きてるんじゃないの? ユキノちゃん、大丈夫だよね?

 

「ふぅ………。リージョンフォームかー……………」

 

 まあ、あっちはあっちに任せておきましょう。

 私もガハマちゃんの白いサニーゴでリージョンフォームについて興味も出てきちゃったし、そっちを調べてみるのも楽しそうだわ。

 

「師匠の白いロコンのような存在か。今のところカロス地方では確認されていないようだが、ポケモンは摩訶不思議な生き物だ。私たちが知っている情報全てが正しいとも限らんだろうな」

 

 なーんてパソコンの画面を変えようとしたら、独り言に応答があった。

 

「………さも当然のように居座ってるけど、いつからいたの? シズカちゃん」

「ついさっきだ。シロメグリに案内されて来てみればお前があいつらと話をしていたのでな。聞き耳立てながら待たせてもらっていた」

 

 メグリ………。

 せめて一声かけてよ。多分、あの子なりに配慮してくれたんでしょうけど、相手はユキノちゃんたちだから…………。

 

「一声かけてくれればいいのに」

「いや、興味深い組み合わせだったのでね。ついな……」

「ワルビアルの顎でかみくだいてもらう?」

「勘弁してくれ。私だって人間だ。普通に死ぬぞ」

 

 まあ、そうだよね。いくらシズカちゃんでもそんなことできるわけないか。

 というか、ちゃっかりコーヒーなんか飲んでるし。メグリが用意してきたのでしょうね。

 

「あ、そうだ。シズカちゃん、ちょっと付き合ってよ」

「今度は何をする気だ?」

「ワルビアルの試し打ち。進化はしたけど、ここのところバトルができてなかったからさ。パーティー内だけじゃどうしてもワンパターンになってくるじゃん?」

「言いたいことは分かった。だが、仕事の方はいいのか?」

「いいのいいの。ほとんど終了段階に入ってきてるから。あとは本当に時間のかかるような心のケアとかが中心になってくるから、私たちじゃどうしようもないんだ」

「よかろう、相手してやろうじゃないか」

「やったー! シズカちゃん、ありがとー!」

 

 こうやって気兼ねなくバトルとかできるようになったのも、ヒャッコクシティの復旧作業が随分と進んできている証なんだよね。そうじゃなかったら、各進捗状況を取りまとめて、遅れているところ、資材が不足しているところなどを割出さなければいけないもの。

 

「………ハルノ、何かあったのか?」

「んー? どうしてそう思うの?」

「私の勘だ。ただ、近からずも遠からずといったところか?」

 

 教師の勘ってやつかしら。

 辞めたというのに今度はこっちのポケモンスクールを回ってるし、根っからの教師なのかも。だから勘も現役のままってね。

 

「復旧作業に追われてたからさー。あまりみんなのこと知らなかったけど、この数ヶ月で随分と成長してるなーと思って」

「なるほど。対して自分は滞ってるままだと、そういうことだな?」

「うんまあ、それもあるけど………。いずれ私たちは今の立場を捨てる時が来るんだろうなーって」

 

 私もハチマンも経歴がグレーだもの。そんな人間が協会のトップにいたんじゃ、信用なんてバレたら一瞬で無くなるわ。今はまだ何とか広まってはないけど、それも時間の問題でしょ。それに私たちがいることで新たに問題が発生する可能性も高いしね。

 

「それは………どうなるか分からんな。引き際はあいつが決めるだろ」

「どうかなー。実は最初から決めてたりして」

「…………ありそうだな」

「だね………」

 

 ハチマンならそれを理解した上で協会のトップになったのかもしれないわ。就任期間を有限にすることでやるべきことの優先度を比較して、できることを今やっていると言ってもいい。

 案外、その後のことも考えてそうだけど。

 

「お前も何か考えがあるのではないか?」

 

 ほんとよく見てるよね。

 

「目敏いねー。実はカロスの復旧が最終段階に入った時点で辞めようかなって思ってる」

「その後はどうするのだ?」

「久しぶりに旅したいなーって」

「ほー、それはいいんじゃないか。旅は何歳になってもいいものだ。新しい発見ばかりだからな」

「うん、思えば私は旅したのなんてチャンピオンになる前以来なんだよね。だからちょっとユキノちゃんたちが羨ましい」

 

 しかもあれは最初の旅だからね。チャンピオンになる前までだから十五歳になる前。旅の期間は逆算して四年くらいかな。スクールは特例で卒業してるし。

 

「ん? あ、ちょっとごめん。イロハちゃんからだ。これは………グループ通話?」

「どうやら私もらしいな」

 

 イロハちゃんは今カントーにいるんだよね?

 それが何でまたグループ通話?

 

「もしもーし、どうしたの?」

「イッシキ、こんな時間にどうしたのだ?」

『イロハちゃん、やっはろー! こんな時間にどうしたのかな? そっちは今夜中だよね?』

 

 繋がったのは私とシズカちゃん、それにユイちゃんだけだった。ユキノちゃんは今しがた、コドラたちの様子を見に行ったところだし、育て屋の方は忙しいのかな?

 

『………すみません! 私がついていながらまた先輩がやらかしました!』

 

 え………?

 

『有識者会議は滞りなく進んでいて、実際のメガシンカとかをバトルで披露しようってことで先輩と私もバトルに参加してたんですけど、クチバジムが襲撃に遭い、そこでウルトラビーストという総称で危険視されているポケモンたちを呼び寄せられて、先輩がまた…………』

 

 …………。

 なん、でよ…………!

 何でまたアレが起きちゃってるのよ!

 

「で、でもメガストーンはもうないはずよ!」

 

 そうだ。

 彼との共通認識として、あの暴走はメガストーンを通して起きていたもの。メガストーンがなければもう起きないって話だったのに………。

 

『それが………図鑑所有者のグリーンという方がリザードンを連れていまして、彼がリザードンのメガストーンを先輩に貸す形で成し得ることになりました』

 

 っ?!

 図鑑所有者………!

 確かにオーキド博士主催の会議ならばそのお孫さんの図鑑所有者も来るのはあり得たわね。しかも彼はトキワジムのジムリーダー。外野からの意見を求めるのならば打って付けの配役だわ。

 

「ちなみにリザードンのメガストーンは二種類あるが、今回はどっちだったんだ?」

『Yの方です。でもそのままホウオウの姿に変わりました』

 

 ホウオウ………?

 メガリザードンYはほのお・ひこうタイプ。そのタイプのまま昇華したということね。だからメガリザードンXではほのおとドラゴンタイプを持つレシラムに昇華した。分かってはいたことだけど、Yの方ではホウオウになるのか。

 

『イロハちゃん、ヒッキーはやっぱり倒れたの?』

『はい………、ただ先輩も先輩でその………ウルトラビーストの一種であるウツロイドというポケモンを連れていたんです。そのポケモンは人やポケモンに寄生する習性があり、寄生した相手を毒で麻痺させて思い通りに操ることができるとか言ってました。そしてそのウツロイドというウルトラビーストが先輩に寄生し、毒を盛ったことで戦闘後もしばらくは倒れることはありませんでした』

 

 えっと………え? 毒? それにウルトラビースト?

 ついさっき、イロハちゃんが危険視されているポケモンって言ってよね?

 それを何でハチマンが連れているの?

 私、聞いてないんだけど!

 

『取り敢えず、さっき先輩が目を覚ましてまた眠りについたので皆さんに報告がてら連絡させていただきました。私がついていながら本当に申し訳ありません』

「イッシキ、これは君が気に病むことではないよ。突然の状況の中であいつが絞り出した最速策だったんだと思う。ただ、やはり我が身を省みないのはもはや病気でしかないがな」

「イロハちゃん、それでその襲撃の犯人とかは分かってたりするの?」

『はい、一応………。ただ、その人たちはどうやら一緒にいたカラマネロに操られていたらしくて記憶がないとか………』

「カラマネロ………?」

 

 確か以前、育て屋を襲撃したのもカラマネロだったわよね。その時はハチマンが何とか追い返したみたいだけど。……………まさか、同一個体、とか?

 いやいや、そんなわけない……………こともないのかな。分からないわ。その時も今回も私はずっとヒャッコクシティにいたのだもの。話に聞く程度にしか分からないのが一番悔しいわね。

 

「………兎にも角にも君たちが無事で何よりだよ」

「そうね。これはイロハちゃんでなくともどうこうできた問題じゃないわ。気に病むなとは言ってしまえば早いのでしょうけど、私たちはその場にいなかったから無責任には言えないわ。ただ、あまり自分を責めるようなことはしないでね。きっとハチマンもそれは望んでないと思うから。あと、ちゃんと寝てね」

『はい、ありがとうございます………』

 

 ともかく二人は無事なのは確か。帰ってきたらきっちりハチマンには問い詰めないとね。

 

『それで………ユキノ先輩は?』

「あー……なんかイロハちゃんのコドラがヘルガーの炎を纏ってボスゴドラとやり合ってるとか何とかで、ユキノちゃんが様子を見に行ってるみたいよ。さっき通話越しに凄い音がしたもの」

『何やってんの、あの子たち』

『あのシードラが怯えるくらいらしいよ』

『うわー………、やっぱりヘルガーもボスゴドラも先輩のポケモンだったよ。なんで先輩の手にかかるとみんなそうなの………?』

「ポケモンはトレーナーに似るっていうくらいだ。諦めろ」

『はあ…………って!? 今ユキノ先輩は一人ってことですか!?』

「まあ、そうなるかな。シズカちゃんもこっちにいるし」

「いるとすればザイモクザくらいだろうな」

『イロハちゃん、ゆきのんが一人だと何かマズいの?』

『それが、その………私の推測が正しければユキノ先輩のところにロケット団が向かってるんです。私も先輩が目を覚ますまでずっと側にいたので気付くのが遅れてしまって………』

 

 ロケット団!?

 え、なんでそこでロケット団が出てくるのよ!

 

「………ねぇ、何でそこでロケット団が出てくるのかな?」

『クチバシティのジムリーダー、マチスがロケット団の幹部というのはご存知ですよね?』

「ええ………ッ、まさか!?」

 

 そう、いうことなの!?

 あのマチスが応援としてサカキを呼びつけた………?

 ということはマチスは既に会議にいたってことなんじゃ………!

 

『はい、恐らくご想像の通りかと。近くにいたサカキをマチスが呼びつけたみたいです。そして、先輩のあの暴走にも立ち会ってまして、暴走のシステムに何やら目処を立てたみたいなんです』

「それって………え、ちょっと待って。頭の中整理させて」

 

 ハチマンは有識者会議に行って、会議は終わったけれどその後に襲撃を受けて。その時に図鑑所有者のYの方のメガストーンを使ってメガシンカし暴走させた。そこにマチスに呼びつけられたサカキも登場して…………あの男もハチマンに加勢したってこと?

 それはつまり………襲撃してきたカラマネロはロケット団とは無関係? いや、そう装わせることもあの男には可能ね。ならば、その考えを捨てるのは時期尚早か。

 そして暴走のシステムに何かしらの目処を立てたサカキがユキノちゃんのところに向かってる?

 …………何だろう。何か嫌な予感がする。何か見落としがあるような…………。

 

《ーーーウツロイドというウルトラビーストが先輩に寄生し、毒を盛ったことで戦闘後もしばらくは倒れることはありませんでしたーーー》

 

 ウツロイド!? それに毒よ!

 要するにハチマンのあの力の抑制はユキノちゃんでなくとも、そのウツロイドとかいうウルトラビーストの毒であれば可能だった。

 それを目の当たりにしたサカキは…………違うわ。何か、そうじゃないのよ。

 

《ーーーウツロイドというウルトラビーストが先輩に寄生し、毒を盛ったことで戦闘後もしばらくは倒れることはありませんでしたーーー》

 

 そう!

 しばらくは倒れることがなかった。けど、結局は意識を失って倒れているのよ!

 ということはウツロイドの毒は倒れるまでの時間の延長。根本的な解決には至っていない。そして、私の計画の方もそれは同じことを言える。ユキノちゃんがハチマンに接触、もっと言うとキスなどの濃厚接触すると制御できるけれど、ハチマンたちの身体そのものに対しての根本的な解決には至っていない。

 加えてロケット団も同じってこと?

 いや、サカキは今私たちよりも先の発想を得ている可能性が高いわね。でも何故そこでユキノちゃん?

 

「………………ッ?! 待って。それではロケット団の行動の理由が………」

 

 違う、そうじゃない。ユキノちゃんは鎮静、ウツロイドは延長、ならロケット団は一体…………。

 いえ、今はそんなことを言っている場合ではなさそうね。

 

「ユキノちゃんが、危ない…………?」

 

 まだはっきりとはしていないけれど、これだけは言える。サカキはハチマンの暴走の件に対してユキノちゃんを使って何かを企んでいる。そして相手はあのロケット団。手段を選ばない世界的犯罪組織。

 

「シズカちゃん、ミアレに行くわ!」

「お、おい、ハルノ?!」

『ハルノさん?! き、急にどうしたんですか!?』

「イロハちゃんが言ったようにサカキがユキノちゃんのところへ向かっているのなら、危険だわ! 今すぐにでも向かわないと!」

『な、ならハルノさん! あたしも!』

「うん、お願い!」

『すみません………ユキノ先輩を、お願いします』

「ええ、お姉さんに任せなさい! イロハちゃんもハチマンをよろしくね!」

 

 ユキノちゃん…………。

 無事でいてよ!

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 シズカちゃんとメタグロスに乗って移動し、今しがたミアレへと到着。

 さっきまでとは打って変わって、ポケモン協会周辺は静まりかえっていた。

 嫌な予感がする………。

 

「ユキノちゃん………」

「あら、ハルノ。やっぱり来たのね」

 

 ッ?!

 この声はっ!?

 

「ナツメ………!?」

 

 何であなたまで出てくるのよ………。

 

「妹のお迎えかしら?」

「そうね、あなたたちがいなければそうならずに済んでいたわ」

「あら、それは残念ね」

 

 …………っ!

 落ち着け、私。この女のペースに乗せられてはダメよ。

 

「………何を企んでいるのよ」

「さあ? ボスの考えていることなんて分からないわよ。ただ、あの少年を気にかけているのは確かね」

 

 はっ?

 サカキがハチマンを気にかけてる?

 それは敵としてじゃなくて?

 そんなことあるわけないじゃない

 

「そんなわけ…………! だってあの男は悪の組織のトップよ! そんな男がハチマンなんかにそこまでする理由がないわ!」

「そうかしら? あの子はロケット団の実験体を偶然ながら手にしてしまった。なら、その力をあの子共々ロケット団の思うように制御しようと考えるのは普通ではないかしら?」

 

 それは分かるけれど、だからと言ってこの執拗なハチマンへの干渉。こんなの絶対普通じゃないわ。

 

「それにしては力の入れ方が違うわ。普通なら暴走した時点で見捨てるのがロケット団じゃない! 現にカツラさんとミュウツー。ばっさり切り捨てて敵として迎え撃ってたじゃない! なのに、ハチマンに対しては、干渉のしすぎ。投資のしすぎよ!」

「投資………、確かに投資になるかもしれないわ。けれど、それだけの価値があの子たちにはある。それがボスの考えなのではないかしら?」

「なら、何故ユキノちゃんを狙うの!?」

「必要だからとしか言えないわね」

 

 結局、この女は全てを知っているわけではないということなの?

 なのに、私の邪魔をする。そういうことなのね。

 

「………だったら通しなさいよ」

「悪いけれど、サカキ様から通すなと言われてるの。無理ね。特に今のあなたは」

「なら力尽くでも通してもらうまでよ。バンギラス、ゾロアーク、ワルビアル!」

「はあ………、仕方のない子ね。フーディン、モルフォン、バリヤード」

 

 ユキノちゃんのためにもこの女を倒す!

 

「シズカちゃんは行って! 私はこの女を倒さなきゃならないから!」

「………分かった。ヤマブキジムのジムリーダー、ナツメさん………でしたよね? あなたが何を思ってサカキに付き従っているのかは知りませんが、私の教え子に手をかけるようならば私はそれを阻むのみです。それだけはお忘れなく」

「フフッ、だったら真実を見てくるといいわ」

 

 シズカちゃんは通すんだ………。

 絶対倒す!

 

「…………」

「………フフッ」

 

 バンギラスの特性すなおこしによる砂嵐が巻き上がる中、ナツメがほくそ笑んだ。

 

「ッ!! ワルビアル、じごくづき! ゾロアーク、あくのはどう! バンギラス、ストーンエッジ!」

「モルフォン、エナジーボール。バリヤード、ひかりのかべ。フーディン、きあいだま」

 

 ナツメの終始余裕そうな表情にカチンと来た私は、つい先制攻撃を仕掛けたしまった。

 やはりこの女を前にすると冷静にはいられないみたい。

 だけど、黒い波導だけ見えない壁に阻まれてしまい、バリヤードには届かなかった。攻撃が当たったワルビアルは代わりに大量の気を集めた弾丸を撃ち込まれ、その場に蹲り、バンギラスの方も地面から突き上げた岩を悉く砕かれたしまった。

 

「マジカルシャイン」

 

 攻撃が当たらなかったバリヤードは、怯むことなく身体から光を迸らせ、ゾロアークを吹き飛ばしてくる。

 効果は抜群。

 やはりナツメのバリヤードは危険だわ。見えない建物を作られる前にさっさと倒してしまわないと。

 

「ワルビアル、かわらわり! ゾロアーク、ナイトバースト!」

 

 今度は対象を交換し、バリヤードにはワルビアルを、フーディンにはゾロアークを走らせた。ダメージを受けていてもまだいける。

 

「バンギラス、メガシンカ!」

 

 それにこっちは手を抜く気がない。

 バンギラスをメガシンカさせ、再度砂嵐を発生させていく。

 

「サカキ様も仰っていたわ。進化を超えるメガシンカという現象があると。そして、それはこのフーディンもあるとね」

 

 ッ!?

 それってまさかナツメまでメガシンカを?!

 

「フーディン、きあいだま」

 

 考えすぎかしら………。

 それに私を混乱させるための嘘かもしれない。

 

「ほんといかすかないわね。バンギラス、いわなだれ! ゾロアーク、シャドークロー! ワルビアル、アイアンテール!」

 

 ワルビアルにフーディンのきあいだまを弾かせて、消えたであろう見えない壁を気にせず、ゾロアークに影から爪伸ばさせて攻撃させた。その間にバンギラスが三体の頭上から岩々を降り注ぎ、逃げ場を埋めていく。

 

「………結局、あなたはいつまで経っても変わらないわね」

 

 ッ………。

 この女…………。今の絶対躱す気がなかったでしょ!

 何なのよ、本当に何がしたいのよ!

 

「妹の成長を願っているくせに自身の成長は全く見受けられない。ポケモンたちだってこんなに成長しているというのに、下手したら大事な妹にすら劣っているのではないかしら?」

 

 挙句こちらをバカにしてきて。

 

「それくらい、今のあなたは滑稽だわ」

 

 そんなの当の昔に知っているわよ!

 私は何もできない滑稽な生き物だって。いろんなパイプはあれど、私個人には何かを創造する力もない。

 

「………だったら」

 

 責任の取りようもなければ、取らなくていいとまで言われる始末。私の中の指標ともなっていたハチマンを元に戻すという目標が、本人たちから拒否されたのよ。

 そんなのもう前に進んだらいいのかなんて分かるわけないじゃない。

 

「………だったら、どうしろって言うのよ! こればかりは私が撒いた種! 私が自分本意に人体実験に近い計画立ててしまった! それが廻り廻って一人の少年の運命を狂わせてしまったのよ! 挙げ句の果てには大事な妹にすら同じように施して! いくら二人から気にしてないって言われても私の罪は消えないのよ!」

 

 私は罪人。

 その事実は消えないのよ。いくら二人が気にしなくとも、私は気にしてしまう。

 

「私には表舞台に立つ資格はない。他を蹴落として成長しようだなんて烏滸がましいわ。そんなの、そんなの…………ただの偽物よ」

 

 だから二人を放ってどうにかなろうだなんて考えられないし、考えたくもない。何なら離れる気もないくらいよ。

 

「………だったら、今すぐポケモントレーナーをやめるべきね。そんなくだらない理由で自分のポケモンたちともまともに向き合えていないあなたにポケモントレーナーを名乗る資格もないわ」

 

 ッ!?

 ほんとに、ほんとに何なのよ! この女は!

 さっきから言いたい放題。

 

「ジムリーダーとしてこんなのが元チャンピオンだなんて恥ずかしい限りね。カントーの汚点だわ」

 

 なのに言い返せない。

 自分でもそう思っているから。事実だから言い返すようなこともない。

 ただ、他人に言われると腹正しい。それだけのことね。

 

「………私は汚点よ。ユキノシタ家の面汚し。そんなことは分かり切った話だわ。でもね、それをあなたにとやかく言われる筋合いはないわよ」

「そうかしら? あなたは元ロケット団で元同僚。その好で言う権利はあると思うのだけれど」

「だからこそよ。あなたは悪。同じ悪のあなたに私のことをとやかく言われる筋合いはないって言ってるのよ」

 

 カントーの汚点。

 ええ、その通りよ。自覚はあるわ。それと同時にユキノシタ家の汚点でもある。まさか長女が犯罪組織に属していた過去があるだなんて知ったら、お父さんもお母さんも卒倒しちゃうわ。

 でもいずれはバレる。

 だから、ハチマンの件が済んだら、ちゃんと言わなくちゃね。

 

「興醒めね。話にもならないわ。結局、あなたは何かに依存しないといられないのよ。昔は妹があの少年に依存しているだの言っていたのが、今は自分が二人に依存してしまっている。その証拠にあなたは成長していないどころか劣化しているわ」

 

 ッ?!

 私が、依存している………?

 まさか私が………?

 あの二人に…………!?

 

「やっぱり自覚なかったのね。だから、あなたは成長していないのよ。自分のことも分からなくなってしまったが故に、あの二人に固執して。いい加減、卒業しなさい」

 

 パァン!!

 

「ッ!?」

 

 え、なっ、え………?

 私今………ビンタされた…………?

 なんで………?

 

「ついて来なさい。今サカキ様が何をされているのか、あなたの目で確かめるのよ。そして、如何に自分が何もして来なかったかを自覚しなさい」

「え、ちょ、離して………っ!」

 

 訳が分からないまま手を引かれ、バトルフィールドの方へと連れて行かれた。

 そこではRのマークが入った黒い服を着ている男女が数人作業をしており、その中にはユキノちゃんが拘束されていた。側には黒いスーツのサカキの姿もある。

 

「え………と、何を………しているの?」

「血液検査に唾液検査、それから髄液検査を行うそうだ」

「はっ?」

 

 疑問を口にしたら、隣にシズカちゃんが現れて説明してくれた。エルレイドとバシャーモもいる。

 けれど、意味が分からない。血液検査に唾液検査? それに髄液検査って、一体全体本当に何を企んでいるの?

 

「サカキ様、唾液検査の結果が出ました」

「ほう。アルロ、結果は?」

「陽性です。例の少年の推移と極致していますね」

「まあ、そこは予想通りであるな。となると後は他の体液だな」

「ボス、血液の採取が終わりました」

「ご苦労、シエラ。アルロに回して髄液検査を進めてくれ」

「承知しました」

 

 今までのロケット団とは思えない、繊細な作業。こういうのは研究員がやっていたはずなのに。

 

「………ヒィッ!?」

 

 な、なんか変なオブジェがあると思ったら、ザイモクザ君………よね?

 えと………何で亀甲縛りなの? 誰の趣味? ちょっと気持ち悪すぎて普通に恐怖を覚えたわよ。

 

「それで、人の体液を検査してまで何を企んでいるのかしら? ハチマンのためとだけ説明されてもそう易々と信じられないのだけれど。こんな拘束までされて」

 

 口を開いたユキノちゃんでも状況をあまり説明されていないのね。

 でも、今私が何かしようものならユキノちゃんの命を天秤に掛けられるのは目に見えている。だから下手には動けない。というか未だナツメに掴まれてて動けないんだけど。絶対超能力も使ってるわ。

 

「データがなければ何とも言えんが、『レッドプラン』及び『プロジェクトM's』の最終段階に入る」

「………またあの力が使われたというのに?」

「またあの力を使うことになったからだ。レジェンド化の条件は出揃った。そして力のコントロールもある程度条件を揃えれば可能だということも検証できた。ならば、あとは自由自在に力を操れる、暴走の危険性もない制御力と抑制力を身につければ最強のトレーナーとポケモンの完成というわけだ」

「………その最強のコンビを完成させたとして、ハチマンたちをどうする気?」

「それを知ってお前はどうする?」

「私は今も昔もこれからも、ハチマンの味方よ。悪に落ちるというのなら一緒に落ちるわ。ただし、あなたたちが干渉しない新たな悪ならばの話だけれど」

 

 ッ!?

 ユキノちゃん、あなたそんなことを考えていたの………?

 私にはそんな覚悟………元より私は悪なのだから今更落ちるとかの話ではない。だから私だけでいいと思っていたのに………。

 

「ほう、正義を貫くと思っていたのだが、少々見誤りすぎていたようだ。だが、生憎あいつを悪に仕上げるつもりはない。仕上げようにも時既に遅し。お前たちとの交流があいつに光を与え続けている。そしてそれはこれからも変わることはないだろう。なんせ、悪に落ちようともついて来る覚悟を持った奴がいるのだ。落ちるに落ちられないだろう」

 

 ユキノちゃんは本当にハチマンのことが好きなのね。だからハチマンの真髄まで見て、理解している。それに比べて私は…………依存していたに過ぎないのかもしれない。でも、時渡りまでしてこんな私を助けてくれた時のあの感情は、恋以外の何物でもないと思っている。現に私はハチマンのことが好きだし、好きだからこそ力になりたいと思っている。けれど、ユキノちゃんみたいな覚悟は……………。

 

「………して、サカキ殿。我の推測が正しければ、貴殿はカツラ殿とミュウツーの関係を目指しているのではないか?」

 

 え………?

 それってどういう………?

 

「………何を根拠にそう思う」

「メガリザードンYからホウオウへと至ったと聞いた時、メガストーンの交換の話をハチマンから聞いたのを思い出したのだ。ただ力を制御するというのでは具体性がない。メガストーンの交換という指標があれば前例もあり、偶然にもハチマンたちはその前例に近い存在となっている。ならば、舵取りはそちらに向くと考えた。それだけである」

 

 メガストーンの、交換?

 そんなことできるわけ……………。

 いや、ハチマンなら不可能すら可能にしちゃいそうよね。同時メガシンカはもちろんのこと、レジェンド化にまでギリギリ何とかできているのだから。そりゃ身体的負荷は今はまだ残っているけれど、それが改善できれば………。でもそれがまず無理に等しい。だって、ユキノちゃんを使って力を中和してもこれなんだから。根本的なところが改善しない限り、あの力をどうにもしようがない。だから私はずっと方法を探っているのよ。

 

「フッ、伊達にハチマンの部下ではないな。察しの良さは高く評価されているのだろう」

 

 それをまさかこの男は解を見つけたというの?

 

「だが、答えは保留とさせてもらう。まだデータが出揃っていない。何をするにもデータが不可欠だ。人体実験なのだからな」

 

 っ………!

 ああ、そうか。そういうことなのね。さっき、ここに来る前に見えそうだったのはこの事だったのね。

 

「………ロケット団の力をコントロールさせるやり方だけでも、私の力で中和して抑制させるやり方だけでもダメだったのね。ウツロイドの毒、あるいはどくタイプのポケモンの毒を入れることで力の延長する図る。そしてその全てが合わさることでハチマンを助けられると」

 

 はは………なんてバカな話なんだろう。

 結局、各々が独自にやっていたからハチマンはいつまで経っても改善しなかったんだ。私たちがしっかりと情報共有をしてハチマンのために敵味方関係なく手を尽くせば今よりも早く、どうにかなっていたのかもしれない。

 

「でも、どうしてあなたがハチマンを助けるの! あなたはハチマンの敵でしょう?!」

「………敵であろうが、オレには責任を果たす義務がある。それだけだ」

「何よそれ………、そんなの……………」

 

 ずるい。

 今のだけで分かってしまった。

 サカキはずっとハチマンに負い目を感じていたんだ。私と同じように。けど、自分は悪だから悪に努める必要がある。悪だからこそ、問題を大きくしてそれを対処させれば、自ずと力のコントロールもできるようになってくる。難儀だけれど、それをやり遂げていた。ハチマンはそのことを………いえ、分からないわよね。ずっとそう思われないように悪に努めて来てのだから。

 

「時にハルノ。何故お前ではなく、お前の妹をハチマンの力を中和できる存在にした」

「…………ハチマンにはダークライがいる。その力も関与しているのだとしたら、対となるクレセリアの力が必要になってくる。けれど、クレセリアが選んだのは私ではなく、ユキノちゃんだった。それだけよ………」

「フッ、やはりな。これで合致した」

 

 合致したって………。

 まさか気付いていたというの?!

 

「サカキ様、まだ全てとは行きませんがこれを見てください」

「………フハハハッ、いいだろう! 丁度面子も揃っているのだ! ここに最終計画の実行を宣言する!」

 

 ああ、これでようやく、ハチマンもあの力から解放されるのね。

 ………なのに。嬉しいはずなのに、悔しくて悔しくて仕方がなかった。

 ーーーだって、サカキは。

 ーーー私が長年ずっと探して来たものを。

 ーーー先に見つけてしまったのだから。

 

「………ごめんね、ハチマン。やっぱり私は無力だ………」

「そう思うのなら、あの小娘に感謝することだな」

「へ?」

 

 あの小娘って言った?

 一体誰のことを指しているというの?

 

「イッシキイロハだったか。あの小娘、啖呵切ってきただけのことはある」

「それはどういう意味かしら?」

「あの小娘は自分の命さえレイズする覚悟を示し、どこに行ってもあの小娘はハチマンとともにあることを宣言したのだ。だからオレはヒントを与えてやった。故に何かしら動くとは思っていたが、それがまさかお前たちを即座に送り込んでくるとはな。こちらの手間まで省いてくるとは、オレの部下にしたいくらいだ」

 

 イロハちゃん、あなたまさかサカキに喧嘩を売ったっていうの?!

 ………師匠が師匠なら弟子も弟子ね。あの二人、命知らずにも程があるわ。

 でもそっか。

 あの子は動けたんだね。襲撃されて未知の生物にも襲撃されて。ハチマンも自らを暴走させて、最後には毒に侵されて。そんな散々な状況の中、それでも次の一歩のために動いてくれた。

 なら、次は私たちの番ね。年下の女の子にここまでさせたのだから私が動かなきゃ、それこそユキノシタの名に恥じる行為だわ。

 

「………分かったわ。この件に関してだけは共戦といきましょう」

「姉さん、いいのね?」

「ええ、私だってあなたたちに負けないくらいハチマンが大切だもの」

「ようやく覚悟を決めた目になったわね」

「………うるさい」

 

 くっ、この女。

 私に覚悟が足りてないがために通す気がなかったって言いたいのでしょ!

 ここまでくれば誰だってアンタの意図も分かるわよ!

 

「では始めよう」

 

 こうして敵と味方の垣根を越えた新たな計画が、一人の青年のために動き始めた。




行間

ユキノシタハルノ 持ち物:キーストーン etc………
・カメックス ♂
 覚えてる技:ハイドロポンプ、ハイドロカノン、じわれ、しおふき、あまごい、まもる、はかいこうせん

・ネイティオ ♀
 覚えてる技:みらいよち、サイコキネシス、つばめがえし、リフレクター、まもる、はかいこうせん、テレポート

・メタグロス
 覚えてる技:サイコキネシス、ラスターカノン、はかいこうせん、コメットパンチ

・バンギラス ♂
 持ち物:バンギラスナイト
 特性:すなおこし←→すなおこし
 覚えてる技:いわなだれ、じしん、かみくだく、はかいこうせん、なみのり、ストーンエッジ、かみなり、げきりん

・ゾロアーク ♂
 特性:イリュージョン
 覚えてる技:ナイトバースト、はかいこうせん、あくのはどう、シャドークロー

・ワルビアル(ワルビル→ワルビアル) ♂
 覚えてる技:かみくだく、じごくづき、かわらわり、アイアンテール

控え
・パルシェン ♂
 覚えてる技:からにこもる、シェルブレード、こうそくスピン、ゆきなだれ、からをやぶる

・ハガネール ♂
 覚えてる技:アイアンテール、アクアテール、りゅうのいぶき、がんせきふうじ、じわれ、かみくだく、はかいこうせん

・ドンファン ♀
 覚えてる技:たたきつける、ころがる、まるくなる、じわれ、かみなりのキバ、タネばくだん、こおりのつぶて


ユキノシタユキノ 持ち物:キーストーン etc………
・オーダイル(ワニノコ→アリゲイツ→オーダイル) ♂
 特性:げきりゅう
 覚えてる技:アクアテール、アクアジェット、ドラゴンクロー、れいとうパンチ、ハイドロポンプ、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、げきりん、カウンター、ハイドロカノン、ドラゴンテール、めざめるパワー(電)、ゆきなだれ、れいとうビーム、アクアブレイク

・ユキメノコ ♀
 覚えてる技:こごえるかぜ、れいとうビーム、みずのはどう、10まんボルト、シャドーボール、めざましビンタ、ふぶき、かげぶんしん、あやしいひかり、かみなり、でんげきは

・ボーマンダ(タツベイ→コモルー→ボーマンダ) ♂
 持ち物:ボーマンダナイト
 特性:いかく←→スカイスキン
 覚えてる技:りゅうのいかり、かえんほうしゃ、そらをとぶ、ドラゴンダイブ、ハイドロポンプ、つばめがえし、だいもんじ、かみなりのキバ、いわなだれ、ドラゴンテール、ハイパーボイス、げきりん、ギガインパクト、りゅうせいぐん、ねむる、ねごと、はがねのつばさ、かげぶんしん、すてみタックル

・ユキノオー ♂
 持ち物:ユキノオナイト
 特性:ゆきふらし←→ゆきふらし
 覚えてる技:ふぶき、ぜったいれいど、くさむすび、じしん、ウッドハンマー、きあいだま、ギガドレイン

・イノムー(ウリムー→イノムー) ♂

・クマシュン ♀

控え
・ペルシアン ♂
 覚えてる技:きりさく、だましうち、10まんボルト

・ギャロップ ♀
 特性:もらいび
 覚えてる技:かえんぐるま、ほのおのうず、だいもんじ、フレアドライブ、でんこうせっか、にほんばれ、ドリルライナー、スピードスター、まもる

・フォレトス
 特性:がんじょう
 覚えてる技:こうそくスピン、ジャイロボール、パワートリック、ボディパージ、リフレクター、だいばくはつ

・マニューラ ♂
 覚えてる技:つじぎり、こごえるかぜ、こおりのつぶて、ふぶき、れいとうパンチ、はかいこうせん、カウンター、シャドークロー、みやぶる、かわらわり、まもる、つららおとし

・エネコロロ ♀
 覚えてる技:こごえるかぜ、メロメロ、ソーラービーム、でんげきは、ハイパーボイス、れいとうビーム

・ニャオニクス ♀
 特性:すりぬけ
 覚えてる技:エナジーボール、シグナルビーム、サイコキネシス、シャドーボール、チャージビーム、みらいよち、なりきり


ユイガハマユイ 持ち物:キーストーン
・グラエナ(ポチエナ→グラエナ) ♂ サブレ
 持ち物:きあいのハチマキ
 特性:いかく(にげあし→いかく)
 覚えてる技:こおりのキバ、かみなりのキバ、アイアンテール、とっしん、ふいうち、じゃれつく、どろかけ、カウンター、はかいこうせん

・ブリガロン(ハリマロン→ハリボーグ→ブリガロン) ♂ マロン
 持ち物:かいがらのすず
 覚えてる技:タネマシンガン、つるのムチ、やどりぎのタネ、ころがる、ドレインパンチ、まるくなる、ミサイルばり、ニードルガード、ウッドハンマー、ジャイロボール、ビルドアップ

・ドーブル ♀ マーブル
 持ち物:きあいのタスキ
 覚えてる技:スケッチ、おにび、ハードプラント、ダークホール、こらえる、がむしゃら、いわなだれ、ハイドロポンプ、ほごしょく、ハイドロカノン、へんしん、サイコブースト、ふういん

・ウインディ ♂ クッキー
 持ち物:ひかりのこな
 特性:もらいび
 覚えてる技:ほのおのキバ、バークアウト、ニトロチャージ、りゅうのいぶき、かみなりのキバ、しんそく、にほんばれ、だいもんじ、りゅうのはどう、インファイト

・ルカリオ(リオル→ルカリオ) ♂ シュウ
 持ち物:ルカリオナイト
 覚えてる技:ブレイズキック、でんこうせっか、けたぐり、はどうだん、ボーンラッシュ、りゅうのはどう、しんそく、カウンター、インファイト

・ルガルガン(真夜中の姿)(イワンコ→ルガルガン) ♂ スコーン
 特性:やるき
 覚えてる技:いわおとし、がんせきふうじ、かみつく、ステルスロック、ストーンエッジ、かわらわり、ふいうち、ほえる

控え
・グランブル(ブルー→グランブル) ♀ ショコラ
 持ち物:たつじんのおび
 覚えてる技:たいあたり、しっぽをふる、かみつく、じゃれつく、インファイト、ストーンエッジ、マジカルシャイン、こわいかお

・バルキー ♂ ビスケ

・ワンパチ ♀ マシュマロ

・サニーゴ(ガラルの姿)
 覚えてる技:パワージェム、うずしお、ギガドレイン、ハイドロポンプ、おにび、リフレクター


ヒラツカシズカ 持ち物:キーストーン(研究所からの借り物) etc………
・カイリキー ♂
 覚えてる技:ばくれつパンチ、どくづき

・サワムラー ♂
 覚えてる技:メガトンキック、とびひざげり、ブレイズキック、まわしげり

・エルレイド(ラルトス→キルリア→エルレイド) ♂
 持ち物:エルレイドナイト
 覚えてる技:テレポート、サイコカッター、かみなりパンチ、インファイト

・ハリテヤマ ♂
 覚えてる技:ねこだまし、バレットパンチ、はたきおとす、ばくれつパンチ

・ゴロンダ ♂
 覚えてる技:じしん、アームハンマー、ビルドアップ

・バシャーモ ♀
 持ち物:バシャーモナイト
 特性:かそく←→かそく
 覚えてる技:ブレイズキック、ブレイブバード、かみなりパンチ、みがわり


ナツメ
・モルフォン ♀
 覚えている技:サイケこうせん、かぜおこし、ねむりごな、メガドレイン、エナジーボール

・バリヤード ♀
 特性:フィルター
 覚えている技:サイケこうせん、ねんりき、アンコール、ひかりのかべ、マジカルシャイン

・フーディン ♀
 特性:シンクロ
 覚えている技:サイコキネシス、きあいだま


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ぼーなすとらっく29『相棒対決フルバトル!』

一ヶ月以上かかりましたが、ようやく出来上がりました。おかけで兄妹対決の時よりも長くなっています。
ともあれ、兄妹対決から一週間後の話です。
それと次回で今作も一旦完結になります。


「剣豪将軍ザイモクザヨシテル、ここに参上!」

 

 …………………。

 え、なに急に。

 朝っぱらからいきなりヤバい生き物が侵入してきたんだけど。

 取り敢えず通報でいいか?

 

「ザイモクザ君、いきなり現れたかと思えば唐突な自己紹介。あなたとうとう頭のネジがぶっ飛んでしまったのかしら? 病院に連絡しましょうか?」

「ぐはっ?! ………そうだった、ここにはハチマン以外もいるのだった………」

 

 ポケモン並みに効果抜群のダメージを受けてるな。いっそそのまま戦闘不能になってしまえばいいのに。

 

「んで、何しに来たんだよ。事と次第によっては通報するぞ?」

「ちょ!? 待つのだ相棒! それだけは、それだけは!」

「なら、さっさと要件を言え」

 

 ほんと何なの朝っぱらから。朝はもっと優雅にゆったりと滑らかに行動しろよ。俺なんか寝起きの動きがふにゃふにゃすぎて気持ち悪いとまで言われたことあるんだぞ。俺どんだけ朝弱いんだよ………。最も朝が弱いのはもう一人そこにいるけどな。起こそうとしたら「うにゅ……」って声上げるんだぞ。可愛いすぎて悶え死にそうになったわ。

 

「けぷこんけぷこん! 古より我らの魂に刻まれた盟約。それにより今世においても我らは出逢うべくして出会い、数々の修羅場を乗り越えてきた我らにも特別な日が存在するのだ! 我が相棒よ、今日がその特別な日なのである!」

「……………」

「……………ついにそっち系にジョブチェンジしたのかしら」

「俺を巻き込むなよ。やだよ、こんなむさ苦しいの。俺はユキノたちのような美少女の方が好みだっつの」

「そう、それは嬉しい限りだわ」

「ちょ、あの、目の前でイチャつかれると心に刺さるといいますか、自重してもらえると……………」

「それはお前の中二病にも言えることだぞ」

「ブーメランとはこのことね」

「ぐはっ?!」

 

 一体何なんだろうか、この生き物は。昔から何一つ変わらないというか、俺以上に人間そうそう変わるわけないだろってのを体現しているこの生き物は、もはや天然記念物に指定してもいいじゃね?

 

「あ、いたいた。ザイモクザ君、ハチマンにちゃんと話せた?」

「あ、トツカ氏「トツカァァァ!」ぐはっ!?」

 

 今なんか踏んだような気がしたがどうでもいい。こんな朝っぱらから俺のラブリーマイエンジェルに会えるとか、もう奇跡と言ってもいいわ。つか、もうトツカを天然記念物に指定しよう。そうしよう。ザイモクザ、俺の天然記念物に手を出すんじゃねぇぞ!

 

「ハチマン、言われていたものとか買い揃えてみたよ。最近はいろんな種類が出ててびっくりしちゃった」

「そうか、それはよかったよ。コマチのことをトツカに任せっきりにしてしまうからな。俺が出来るのなんてこれくらいしかしてやれないから非常に助かる」

 

 そうか、もうあと一週間しかないのか………。

 トツカはコマチとガラル地方に行くことになっており、あっちに行ってしまえばこんな朝の出会いもしばらくなくなってしまうのだな。

 

「美少女が大好きと言った数秒後にはこれなのね………」

「いや、もう、トツカ氏に関しては諦めるしかないかと………」

「ハチマン、ちゃんとザイモクザ君のお話聞いてあげてね?」

「お、おう! トツカがそこまで言うならな。仕方がない。それで、特別な日ってのは何なんだ?」

「なんか釈然としないが、よくぞ聞いてくれた。我らは六年前の今日、初バトルをした謂わばライバルというものなのである。ふっ、時には相棒、時には好敵手………実にいいではないか!」

「……………ん?」

 

 六年前の今日?

 何かあったか?

 

「あれ? もしやお主、忘れたわけでは………」

「……………………………………」

 

 うーん。

 六年前っていうと何してっけ?

 てか六年も前の話を、しかもザイモクザに関してとかマジで記憶を掘り起こすのに時間がかかりそうだわ。

 

「ハチマーン!」

「うるせぇよ。今記憶を掘り起こしてるんだから、ちょっとは待ちやがれ」

「あ、はい………」

 

 言われてすぐに思い出せるわけないでしょうが、このバカちんが!

 

「ハチマン、多分だけどスクールの新入生に向けたバトル大会の時のことを言ってるんじゃないかな?」

「バトル大会? あー、なんかそんなのもあったな」

「我の初バトルをお主は…………」

「いや、興味ねぇし。えーと、確かポリゴンとリザードンとでやったんだっけか?」

「よくぞ思い出してくれたな、ハチマン! そう、それである!」

「はいはい。んで、六年経った今久しぶりにやりたいと?」

「うむ、お主の妹君も旅立つ今、ここいらで一つ手合わせ願おうかと思ってな」

 

 コマチ関係なくね?

 こいつ事あるごとに何とか記念日とか作る奴だったり?

 いやないな。キモすぎる。俺だってそんなのはコマチとトツカだけで充分だわ。ユキノたちとは毎日が記念日だからな。

 ………うん、冗談でもこんなアホなことを考えるのはやめよう。頭の中がピンクのお花畑なのはユイだけで充分だ。

 

「珍しいな、お前が自分からバトルしようとか言い出すなんて。それは本気のバトルってことだろ?」

 

 それにしてもこいつが自分からバトルをしようとするのはほとんど見かけないな。基本自分たちでやってるし、ほとんどがポケモンの既存の技を応用したアホな新技を作ってる奴だ。バトルをするのも誘われたらだし、その誘いもトツカやコマチくらいだから、いかんせん誰もこいつの強さを目の当たりにしたことはないだろう。最も、その二人でさえザイモクザの本当の実力は見せてもらえてないだろうが。

 

「我は基本バトルは楽しむ派ではあるが、長年行動を共にし、緊急時には駆り出され我も付き合わせたお主とだけは本気のバトルというのも吝かではない。どうであるか?」

 

 仕方ない。付き合ってやるか。

 でもやるからには場所を選ばないとな。併設された外のバトルフィールドでは周りが危険すぎる。こいつの場合、どんなふざけた技を再現してくるのか分かったもんじゃない。広々としたところでやるのが一番被害を抑えられるだろう。

 

「なら、えーと…………これか。この紙に記入しろ」

「む? シャラバトルフィールドの使用許可申請?」

「本気でやるなら広い方がいいだろ?」

「よかろう! で、何を書けば良いのだ?」

「俺とお前の名前と日時だな。今からシャラシティに向かったとして昼過ぎからだな」

「では十四時頃としておこう」

「んじゃ、昼前にはここを出るか。それまでに仕事を終わらせるわ」

「…………終わるのか?」

「俺がやることなんて最終決裁とかだからな。それにコマチを見送るためにも先週の内にあらかた終わらせてある」

「さすがだね、ハチマン!」

「可愛い妹の旅立ちの日に仕事で顔を出せませんってなったらお兄ちゃん失格だからな」

 

 そんなことになったらコマチに嫌われるわ俺も立ち直れないわで、ただただ生きた屍になるしかないだろう。

 

「シスコンは一生治らなさそうね」

「我からすればシスコン度合いがそのままお主らに向いているだけに過ぎぬがな。総じて女子に甘い」

「…………トツカ君は除く、が必要ね」

「それには激しく同意であるな」

 

 さて、今の内に言いたいことは言っておけよ、ザイモクザ。昼が過ぎれば灰にしてやる。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 で………。

 リザードンたちがぶっ飛ばしたおかげで時間前にシャラシティに到着したわけだが………。

 

「なんでいるのん?」

 

 なんか人が集まっていた。ユイやコルニが来るのはまあいいとしよう。シャラにいるんだからな。

 それが何でハルノやヒラツカ先生までいるのだろうか。アンタらやることあるでしょうに。しかもシャラに来るのって結構遠いだろ。

 

「そりゃ、ユキノちゃんから召集をかけられたからねー」

「はっ?」

 

 原因はお前か!?

 

「おい、何やってんの?」

「私はただ、今日はシャラシティでハチマンとザイモクザ君が本気のバトルするから午後はいないと伝えただけよ」

「そう言われたらみんな来ますって、先輩」

「そうだよ、お兄ちゃん! お兄ちゃんの本気のバトルなんてそうそう観られるものじゃないんだからさ!」

「えー………」

 

 ちなみにミアレからはあの場にいたトツカと、ユキノから情報をもらったであろうコマチとイロハがくっついてきている。

 おい、イロハ。四天王との修業はどうした。無断欠勤とかだったら頭上げられなくなるだろ!

 

「それにしてもよくもまあこれだけの人数が集まったわね」

「一応ジムの権限はアタシにあるから、うちはアンタのバトルのために午後から休みにできたけどさ。みんなすごいよね」

「みんなやっはろー!」

 

 休みにしちゃったのね。

 まあ、今ではシャラジムが最後の関門みたいな扱いになってきているからな。そうそう挑戦者が来ることもないか。

 

「わしもいるぞ」

「いやまあ、コルニのじいさんですしね。暇であれば来るとは思ってましたよ」

 

 なんか久しぶりな感じもするが。

 コルニの祖父コンコンブル博士も紛れ込んでいた。こんな若者集団に紛れ込んでいてよくいられるな。あ、一人若者じゃな………ッ!?

 

「おいヒキガヤ。今何か失礼なこと考えなかったか?」

「い、いえ……滅相もございません」

「わしからしたら皆充分に若いんよ、カカカッ」

 

 ひぇぇぇ。

 一瞬風が吹いたんだけど。

 マジで怖い怖い。今時暴力系ヒロインなんて流行らないんですよ。だから結こ………この先を考えるのはやめておこう。もうもらい手がないっていうのならいっそ俺がもらっちゃうか? というか最早誰かに渡すのもなんかな………。

 

「さて、ハチマンよ。早速始めるとしようではないか」

「へいへい、分かりましたよ」

 

 挨拶も程々に俺とザイモクザはフィールドへと向かった。うん、潮風にさらされているが錆びたりだとかいった劣化は進んでいないようだな。そこは何か特殊な金属でも使っているのだろう。

 

「ふむ、久しぶりにわしが審判をしよう」

「ういっす」

 

 ………まあ、大丈夫だよな?

 コンコンブル博士まで吹き飛ぶとかいう惨事にはならんだろうし。

 いやでも………うーん。

 

「あー、コンコンブルさん。ポケモン連れてきてたりとかします?」

「ん? ポケモンか? それならヘラクロスがおるんよ。ほれ」

「ヘラッ」

 

 ほーん。

 ヘラクロスか。

 まあ、それなら大丈夫だろう。

 

「それなら一応出しておいてください。どうなるのか分からないので」

「そんなにヤバいん?」

「さあ、それこそ俺が知りたいくらいですね」

「それはそれで見応えあるバトルが期待できるってもんよ」

「そすか」

 

 まあ、期待されてもね。相手が相手だし。

 

「んじゃ、本気のバトルってことでルールは六対六のフルバトル。技の使用は制限なし。交代も自由。どちらかのポケモンがすべて戦闘不能になったらバトル終了。これでどうよ?」

「問題ないな」

「うむ、我もその方が戦いやすいというものよ」

 

 何かザイモクザの考えにも裏がありそうだが、ひとまずコテンパンにしますかね。

 

「それなら、バトル始め!」

「いでよ、Zよ!」

 

 最初のポケモンがポリゴンZか。

 あいつにとっては最初のポケモンで切り札にも近いエースなんだけどな。

 それを最初に出してくるのは………まさか、そういうことなのか?

 

「はあ、仕方ない。付き合ってやるか。出てこい、リザードン。ある意味一仕事だ」

「シャア」

「え? 最初からリザードンですか?!」

「ヒッキーが六盾しようとしてるよ………」

 

 いや違うから。そこまでやらないから。やらないよね?

 

「ぬはははは、そちらから来ないのなら先に行かせてもらおう! Zよ、三色攻撃!」

 

 あー、最初はトライアタックだったっけ?

 なら、確か俺たちは………。

 

「躱せ」

 

 一直線に放たれたトライアタックをリザードンは身体を捻って躱した。

 

「やるな、ハチマン! ならば、ロックオン!」

「背後に回り込め」

 

 次は確かロックオンされるから背後に回り込むんだったよな。んで、今度はこっちから攻撃を仕掛ける番だ。

 

「メタルクロー」

 

 鋼の爪を一発入れたら振り返られるから、ここで距離を取らないとやられたはず。

 

「一旦空に逃げろ」

「放て、レールガン!」

 

 ほれ、来た。

 ロックオンからのでんじほうは奴らが好みとする戦い方だ。それに攻撃を受けようとも必ず照準を合わせてくるのもあいつらのやり口。

 

「ふははははっ! さあ、逃げるがよい! 六年前と同じようにな!」

 

 やはり、六年前のバトルを再現しようとしてるんだな。

 だったら、俺たちも付き合ってやるよ。

 

「なら、リザードン。お前も好きに動け」

「ふははははっ! さあ動け動け! 我らのレールガンはいつまでも追いかけるぞ!」

 

 それにしてもすげえ笑ってるな。身体がでかくなった分、鬱陶しさが増している。暑苦しい。

 

「やれ、リザードン」

「それを待っていたぞ、ハチマン! Zよ、三色攻撃!」

 

 正面からいけば挟み撃ちをしてくるのは知っている。だからこそ俺たちも当時のやり方でやらせてもらうぞ。

 

「メタルクローで道を切り開け」

 

 ここまで来れば、恐らくリザードンもどういうバトルなのか理解して来た頃だろう。

 

「連続で三色攻撃!」

 

 シナリオ通りにリザードンが三色砲を弾くと、次々と同じ技を連発してきた。それをリザードンは悉く鋼の爪で弾いていく。

 

「リザードン、そこで減速」

 

 そしてポリゴンZの目前というところで急停止させた。あの頃は特にこれといった応用技を習得してなかったから名前なんてなかったが、今の動きはコブラである。あの頃から既に似たような動きをしていたのだと感慨深いものがあるな。

 

「Zよ、容赦はいらぬ! レールガン!」

 

 ザイモクザはこれまたシナリオ通りに急停止したリザードンに向けて、一直線のでんじほうを放つよう命令した。

 

「今だ。トップギアで駆け抜けろ」

 

 さて、ここからだな。

 リザードンはここで急加速してポリゴンZを通り過ぎていく。六年前であれば、この後リザードンを追尾していた初手のでんじほうがポリゴンZを呑み込むことになるが、このバトルを挑んできた以上、みすみすポリゴンZを戦闘不能に追い込んでまで六年前のバトルを忠実に再現しようとは思わないだろう。

 

「ふははははっ! やはり覚えておったか! だが、我らとてそれを待っていたのだ! Zよ、レールガンに対して体画変色2!」

 

 ふむ、やはりここから新たなシナリオを作っていこうってわけだな。

 つか、体画変色2って何だよ。2ってことはあれか? テクスチャー2か? それなら今のでポリゴンZはじめんタイプに変わったみたいだな。特にダメージもなく吸収してたし。

 

「………全く、男子というのはこういうバトルが好きね」

「いいではないか。かつて戦った相手とまた戦うことができるなんて、最高に熱いぞ!」

「ゆきのん、ヒラツカ先生、どういうこと?」

「六年前、私たちがスクールの六年生に上がろうっていう時に、新入生を迎えるためのバトル大会があったのよ」

「あ、それなら知ってるよ! あたしも見てたもん! あ、でもそっか。ヒッキーって中二ともバトルしてたんだった」

「つまりはあの頃の再現ってことですか?」

「ええ、恐らくは。でも今の最後のところで、リザードンを追尾していたでんじほうをくらってポリゴンは戦闘不能になったのよ」

 

 ユキノもよく覚えてたな。あの時は確かオーダイルの暴走に悩んでたんじゃなかったのか? それとも対戦相手になるかもしれないから敵情視察だったとか? あり得るな。だが、そういうのを抜きにしても見られてたような気がするのは俺だけだろうか。そうでなければ六年も前の敵情報なんて覚えているわけがない。

 うわー、なんかそう考えたら俺も結構ヤバい奴じゃん。よくそんなんで周りの男子から襲われなかったな。まあ、さっさと特例で卒業したからだけど。逆に言えば、卒業してなかったらそういう未来が待っていたとも言える。

 恐ろしい、ああ恐ろしい、恐ろしい。

 

「はあ………つかザイモクザ、お前もやっぱバカだな」

「ぬははははっ! そういうお主こそ、忠実に覚えておったではないか」

「記憶を掘り起こす身にもなれよ。お前が最初にポリゴンZを出してきた時点で勘付いていなかったら再現できてなかったからな」

「その時はその時である。だが、そこはやはり我の相棒よ。瞬時に理解して合わせてきたではないか」

「気まぐれだ。お前が本気のバトルをっつーから、それに付き合ってんだよ」

「ふむ、そういうことにするとしよう」

 

 他に何があるんだよ。

 こんなのはただの気まぐれだ。記憶にあったのをなぞっただけである。

 

「して、ハチマン。今の我がお主の知る昔の我と同じだとは思うでないぞ?」

「それはないな。何か策がなければ俺に挑もうとも思わんだろ」

「ふむぅ、確かにそうではあるが………。もう少し乗ってくれてもいいのではないか?」

「やだよ、面倒くさい。再現してやっただけありがたく思え」

「けぷこんけぷこん! では、参る! Zよ、モード第一位!」

「ジー」

 

 モード第一位?

 今度は一体どんなネタを仕入れてきたんだ?

 

「リザードン、取りあえずかえんほうしゃで様子見だ」

 

 どうせまたアホなことに労力を使った戦法が出てくるのだろう。距離を取って様子を見るのが安全だ。下手に突っ込んでやられるって可能性も無きにしも非ずだからな。

 

「シャア!?」

「おおう、マジか………」

 

 特にザイモクザの指示もなく、真っ直ぐと炎がリザードンへと返ってきてリザードンを包み込んだ。一瞬ものまねで返されたのかとも思ったが、それならば技が相殺されるはずだ。相殺されずに返ってきたということはポリゴンZの方もダメージを受けてなければおかしい。だが、そんな様子は見受けられない。

 ということはあれはリザードンが吐き出した炎と見るべきなのだろう。そうなるとやはりポリゴンZが何か仕掛けていたとみるのが妥当か。

 それにいくら自分の炎だとしても、効果はいまひとつな耐性のある技だとしても、ダメージを受けたことに変わりはない。ダメージメーターでもあれば、さっきのメタルクローで切りつけたダメージ程ではないがリザードンにも入っていることだろう。いや、リザードンの炎なのだから同じくらいになっているかもしれない。

 

「……一体何が起きたの?」

「さあ………?」

「リザードンの炎が真っ直ぐとリザードンに返っていきましたよね」

 

 真っ直ぐと返って………。

 なるほど、つまりは反射か。

 

「あー……、そういうことか」

「むふん! どうだ我すごいだろう?」

「あーすごいすごい」

 

 確かにすごいが素直に褒めてやる気にもならない。そこがザイモクザなんだろうが、褒めても図に乗るだけだしな。

 

「一切感情がこもっとらんな」

「そりゃそうだ。何がモード第一位だよ。どこぞの白いロリコンの能力を再現しただけじゃねぇか」

「だがお主らには無理であろう? なんせ、これはポリゴンZであるが故に成せる業なのだからな」

「それはどういう意味かしらっ?」

 

 ユキノさん?

 なにゆえそんなに食い気味なのでせう?

 

「は、はぽん! まずはポリゴンというポケモンをよく考えてみるのだ。そもそもポリゴンは人間が造り出した人工的ポケモン。それも電脳空間を移動できる異質なポケモンである。そしてアップデートされ、最適化されたのがポリゴン2であり、さらに上を目指した結果能力が偏ってしまったのがポリゴンZである」

「ええ、それは理解しているわ」

「では、他のポケモンにはないポリゴン系統の強みは?」

「それが電脳空間を移動できることでしょ?」

「いいやちがう! 大間違いである! ポリゴン系統の強みはデータの読み取り、及び変換と操作である! 電脳空間の移動はポリゴン系統がポリゴン系統であるがためのアイデンティティなのだ! そこははき違えてはならぬぞ!」

 

 なんか暑苦しい奴がさらに暑苦しいんだけど。周りが海で海風がたまに吹くのがせめてもの救いか。それでも暑苦しい。

 って、それよりも今何つってた?

 データの読み取り及び変換と操作だ?

 いきなりこんなことを語り始めたということは、さっきの技が返ってきたこととつながっているのだろう。なら、この二つを結び付けて考えようとすれば………逆算していくか。イロハの言葉が正しければポリゴンZによってリザードンの炎が跳ね返された。つまりは操作されたのだ。となると、ポリゴンZが技に干渉したことになり………はあっ!?

 

「お前、まさか………!」

「ようやく気付いたであるか、ハチマン! そう! 今のZは相手の技をデータとして認識し、ハッキングができるのである!」

 

 おいおいおい!

 ちょっと待て!

 それはさすがにヤバいだろ。いろいろとヤバいって。何がヤバいって技をハッキングとか世界初なんじゃねぇの? こんなの世界中の研究者たちが挙ってザイモクザを研究材料にしようと押しかけてくるぞ。

 

「公にできねぇことを思いつきやがって」

「……………ハチマンも異常だったけれど、やっぱりザイモクザ君も負けず劣らずだったわね」

「あっはははは…………」

 

 恐らく俺の次くらいにはザイモクザと接点があったであろうユキノも今回はお手上げなようだ。

 というかユキノさん? 俺とこいつを一緒にするのやめてね?

 

「さあ、ハチマン! 技のハッキングという技術を手に入れたZを相手に何ができるのだ? いや、できることはない!」

 

 まあ、確かにできることはないだろうな。

 

「だからと言ってやらない理由にはならないだろ。リザードン、ドラゴンクロー」

 

 まずはどこまで技のハッキングができるのかを探らないとな。

 あの白いロリコンは物理攻撃も反射させていた。というかあらゆるベクトルを操作する能力を有していた。それを真似ているのなら、この物理攻撃も当然干渉してくるだろうが、それがどのような働きをしているのかが気になるところだ。

 

「Zよ!」

「ジー」

 

 真っ直ぐとポリゴンZへと飛び掛かっていくと、寸でのところで弾かれてしまった。それどころか弾かれた右腕に引っ張られるようにして、俺のところでまで飛ばされてきている。

 なるほど、確かに干渉されるみたいだな。それもあのロリコン並みに。

 なら、今度は数で勝負してみるとするか。

 

「リザードン、今度は数で試してみるぞ。かげぶんしん」

 

 態勢を立て直したリザードンに影を増やすように命令。

 影はみるみるうちに増えていき、ざっと数十体はいると思われる。

 

「普通に攻撃したんじゃさっきの二の舞だ。リザードン、まずはドラゴンクローだ」

 

 そろそろこちらも飛行術を入れた戦い方に移行していこう。それでも通用しないとなれば、また違う策を考えるまで。

 

「ふはははっ! 甘い! 甘いぞ、ハチマン!」

 

 次々と影が消されていくが、まただ。もう少し。

 

「ジー」

 

 ーーー今だ!

 

「コブラ」

 

 ポリゴンZが技に干渉してくる、というより技に干渉するために何かしらの技を出す時には必ずと言っていい程、機械音がする。鳴き声なのだろうが、それがこっちにとってはいい合図でもあるのだ。

 それを狙ってリザードンに急停止をさせた。

 

「なぬッ!?」

 

 それにザイモクザは驚いている。

 

「ッ?!」

 

 そんなザイモクザと一瞬目が遭ってしまった。

 

「レールガン!」

「リザードン 、そのまま垂直エアキックターン!」

 

 やはり来たか。

 なんとなく目がそう言っているような気がした。嬉しくもない話だが、それだけザイモクザとの付き合いが長いということなのだろう。ほんと全然これぽっちも嬉しくないわ。

 

「よく気づいたではないか、ハチマン!」

「なんとなくだ。お前ならやり兼ねないと思っただけだ」

 

 リザードンはコブラで急停止する際に踏み込んでいた分、すぐに急上昇していき、そんな一閃を躱したリザードンを見上げながらザイモクザが言ってくるため、俺も正直に返してやった。

 

「………改めて思いますけど、先輩ってすごいですね」

「ええ、でもハチマンにそこまでさせてしまうザイモクザ君も、それだけの実力があるという証でもあるわ」

 

 さて、こうなると攻撃を仕掛けるだけでも骨が折れるな。遠距離から技を吐き出せばハッキングされ、直接攻撃をぶつけようにもタイミングを合わせられて躱されてしまう。いっそ反射された技を再度反射させるということも考えられるが、それをリザードンができるかというとまた難しい問題だ。

 

「リザードン、りゅうのまい」

 

 取りあえず、竜の気は纏っておこう。ハッキングされて返されてきた技を躱すにも素早い方がいいからな。…………よもや竜の気までもハッキングされるとかってことはない………こともないか。その時はその時に考えよう。まずは色々試してみる時間だ。

 

「ふっ、そんなにZから距離を取っていいのか、ハチマン! Zよ、影分身の術!」

 

 いや、それただのかげぶんしんじゃん。

 ただまあ、こっちがこうして炎と水と電気から竜の気を生成している間に、あっちも何かしら準備をする時間にはなるわな。逆にその時間を無駄にしているようではトレーナーとしてはまだまだと言えるだろう。

 

「水神よ、我に力を!」

 

 はい?

 水神? 水に神って誰だよ。ルギアか?

 

「うわぁっ!?」

「なんですかあれ………!」

 

 ユイとイロハの驚きは俺たちの方ではなく、ザイモクザの方、もっと言えば奴の奥に向けられている。

 

「って、おいおいおい………」

 

 まさかそんなことまでできちゃうのかよ。

 マジであの白いロリコン並みにヤバい奴になりつつあるぞ。

 

『………まさか人間が造り出したポケモンはここまでできるというのか? オレたちを凌駕するつもりなのか?』

 

 ゲッコウガ、お前がそこまで評するということは、やはりあのポリゴンZはヤバい領域に足を踏み入れたということでいいようだな。

 ったく、面倒なことしやがって。

 

「Zが秘めたる属性は水。水を操ることが此奴の真の力である。では、ハチマンよ! その力をとくと味わうがいい! スーパーアクアトルネード(仮)!」

「リザードン、ぼうふうだ! その水柱を一本も入れるなよ!」

 

 四本の巨大な水柱が渦を巻きながらリザードンへと発射された。まさかバトルフィールドだけではなく、その外に広がる海までも利用するとか………。

 

「シャアァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

 くっ………まさかぼうふうを使うことになるとはな。

 範囲技なだけあって、威力は高い。だがその分、周囲への影響は計り知れず、居住区のミアレシティなどでは使えない技である。

 

「「「「「きゃああああああああっ!?」」」」

 

 黄色い悲鳴が風に割ってかすかに聞こえてきた。見ると女性陣のスカートが激しく翻っており、ユイのルカリオなんかは主人の足元を支えるついでに覗いている。

 おい、そこの変態ポケモン! うらやまけしからんぞ!

 

『ハチ、後ろは任せろ』

「了解」

 

 俺が飛ばされまいとゲッコウガが後ろに立って支えてくれているようだ。

 なんだろうか、この違い。いや、ちゃんとルカリオも仕事はしてるんですけどね? せめてもう少し露骨さをなくせよと思ってしまうのは俺だけなのだろうか。

 

「ゴラムゴラム! さすがはハチマン! さすがはリザードンである! だが、前ばかりに気を取られているようではまだまだ未熟よ! Zよ、今こそ真なる力を発揮せよ!」

 

 ったく………、あれだけの水量を操りながら移動してリザードンを狙おうとしているのかよ。暴風と水柱のせいで周りは見えないし………。ここは燃え上がって離脱させるか。

 

「燃えろリザードン! フレアドライブ!」

「シャアァァァアアアアアアアアアアアアッッ!!」

「ジー」

 

 機械音とともにドゴン! とリザードンが爆発した。

 恐らくリザードンが纏う炎に何かが当たったのだろう。それも爆発が起きる程の何か。

 すると他でも次々と爆発音が聞こえてくるようになった。

 これは外側からか?

 ということは暴風域に水柱がぶつかったのだろう。

 それならーーー。

 

「ーーーねっぷう!」

 

 ぼうふうに加えてねっぷうで熱を送り込めば、ぶつかり合う四本の水柱も次第に蒸発していくだろう。

 

「Zよ! 一度態勢を立て直すのである!」

 

 ねっぷうに巻き込まれたポリゴンZが暴風域を利用して戦線離脱して行きやがった。

 

「リザードン 、お前も一旦戻ってこい!」

「ふっ、雷網檻!」

 

 っ?!

 あの野郎…………っ!

 逃げたと思わせて移動してやがったのかよ。

 

「シャアッ!!」

 

 あれはエレキネットか?

 咄嗟にリザードンが炎を纏ったことで焼き切ることができたようだが、地味なダメージ蓄積が一番痛いな。大ダメージともなれば見かけで状態を把握することも容易だが、小さい蓄積ダメージは中々変化に気づきにくい。

 

「さすがは炎竜! Zの秘めたる水の力を以ってしても蒸発させてしまうとは! そしてそのまま檻を突き破るその力、見事なり!」

「リザードン 、無事か?」

「シャア」

 

 何とか戻ってきたリザードンに声をかけると、まだまだやれそうな様相であった。まあ、あれくらいで倒れることはないな。

 ただ、よく見てみると竜の気が弱まっているような気がする。エレキネットを破ったとはいえ、一度は身体に触れているのだ。追加効果が発動していたとしてもおかしくはない。

 さて、こうなると長期戦はこちらが不利になりそうだ。こちらの技は今のところハッキングされるし、そうでなくとも攻めの材料が整っていない。下手に近づけば白いロリコンよろしくこちらの技でやり返されるだろう。

 なら、やはりこれしかないか。

 ハッキングに使われる技の正体は掴めていないが、何となく予想はできている。しかもこちらはまだそのタイプの技を使っていない。活路を見出すのならそこしかないだろう。使い方も真正面からではなく、

 

「リザードン、俺が指示した技の後にあくタイプの技を絡ませてみてくれ。メインの攻撃はそっちだ。こっちもなるべく遠距離からの攻撃を指示する。だからハッキングされたらお前の判断で対処しろ。そしてあくタイプの技を一度ぶつけてみるんだ。それで多分、どうすればいいのかが見えてくると思う」

「シャア」

 

 周りに聞こえない音量でリザードンへと指示を出しておく。これならば技をハッキングされたとしても、リザードンのこれまでの経験と身体に染み込んだ直感でザイモクザを翻弄することもできるだろう。

 さて、四本の水柱も霧散し暴風も収まり、もはや邪魔者はいない。さっさと試すとしよう。

 

「行け、リザードン。だいもんじ」

 

 地面を強く蹴り上げ、ポリゴンZへと迫りながら、大の字型の炎を吐き出した。

 

「ジー」

 

 まあ、反射されるのは想定通り。

 ここからリザードン がどうあくタイプの技を入れていくかだな。

 

「シャアッ!!」

 

 って、おい………。

 折角迫って縮めた距離を後ろに回転しながら開いてったんだけど。これ、確かアクロバットだよな。

 こっちに来てからはメガストーンを付けてたりしたから、使う機会がなかったんだよな。それが何も持たなくなった今、最大出力で技を発動できるというわけだ。でも、アクロバットはハッキングされるぞ? どうする気だ?

 

「来るぞぃ!」

「ジー」

 

 ポリゴンZが待ち受ける中、リザードンは躊躇なく突撃していった。

 

「なっ?! 何故止まらぬ!?」

 

 く、くくくっ………。

 そうか、そういうことか。お前も悪知恵が働くようになったな。

 

「Z! 切り替えるのだ!」

 

 俺が指示したコブラからの垂直エアキックターン。そして回転しながら後方へと下がり、再度エアキックターンで加速して反射されただいもんじを躱しながらポリゴンZへと辿り着いた。まるでひこうタイプの技アクロバットを使っているかのように。だが当然、アクロバットを使っているわけではないので、ハッキングされることもなかったわけだ。

 

「シャアァァァアアアアアアアアアッッ!!」

 

 そして大きなキバで噛み付き、振り飛ばした。

 

「ジー!」

 

 ポリゴンZは痛みを感じないが、ノックバックにより身体を地面に打ち付けたことで機械音が鳴っている。人工的に造られたポケモンと言えど、衝撃とかに対しての耐久性ってどうなっているのだろうか。やり過ぎたらポリゴンZが壊れるとかってことはないよな?

 

「一体何が………?」

「技アクロバットに見せかけたリザードン考案のアクロバット飛行だよ。技を使っているわけじゃないからハッキングもできなかった。それだけだ」

「ぬぅ、しかもあくタイプの技を絡めることでハッキングを躱してくるとは!」

「ま、今ので大体ハッキングの構造は理解できたけどな。しかもポリゴンZにもまだまだ課題が残っている」

「ほう、それはどういうことであるか?」

「簡単な話だ。ハッキングにはサイコキネシスを使っている。だからあくタイプには効果がない。しかもポリゴンZは同時に複数の技をハッキングするのはまだまだ苦手な部類だろ? だから水柱を操作しながらぼうふうをハッキングしてめざめるパワーで攻撃、とはいかなかった。違うか?」

「鋭い奴よのう。ならば、まずはあくタイプに対して体画変色2!」

 

 テクスチャー2であくタイプに強いタイプに変えてきたか。だが、根本的な解決にはなっていない。あくタイプの技はハッキングされないことが分かっただけでも情報としてはかなり大きいだろう。なんせ、サイコキネシスで干渉しているってのが俺にバレちまったんだからな。

 タネが分かれば対処も可能だ。

 

「リザードン、ソニックブースト」

 

 リザードンは投げ飛ばした方へと急加速し、距離を詰めていく。

 

「力を溜めるのだ!」

 

 めいそうか?

 リザードンが距離を詰めて数瞬後にはゼロになるというに。

 次は何を企んでいるのやら………。

 

「かげぶんしん」

 

 サイコキネシスが関係しているのなら、まずは照準を合わせられないようにすればいい。ロックオンを使おうものなら、その手間をかけている間に落とすまで。

 

「空気を圧縮! 圧縮! もっとだ! もっと圧縮するのだ!」

 

 ッッ!?

 こ、れは…………!

 いや………、失念していたな。

 相手は第一位を模して戦っている。であれば、アレも戦法の一つとして用意していてもおかしくはない。

 

「今度は高電離気体、プラズマかよ………」

 

 徐々に風が吹き出したかと思えば、ポリゴンZに掴みかかろうとした両腕は空を切った。

 否、暴風に呑まれたのだ。

 

「リザードン、ぼうふうだ! 逆風を巻き起こせ!」

 

 すぐさま逆風を起こしてポリゴンZが作り出す風を中和していくが、鬩ぎ合うに留まり、中々呑み込まない。恐らく、事前に溜めていためいそうによる効力アップが影響していると思われるが、それにしてはリザードンのぼうふうと同等とかおかしくないか?

 

「ぬふぅ! やるな、ハチマン! まさかここまでやるとは!」

「それはこっちのセリフだっつの! んだよ、プラズマって! 後ろにゲッコウガがいなかったら、あの黒髪ツンツン頭と同じように飛ばされてぐちゃぐちゃになってるぞ!」

 

 今も後ろで俺を支えてくれているゲッコウガ。ポケモンの技でトレーナーにまで被害が及ぶバトルって何なんだろうな。これ、もはやバトル通り越して殺し合いになってない?

 

「Zよ、押し返すのだ!」

 

 な………ッ!?

 

「黒い、翼……だと………!?」

 

 おいおいおい!

 それはマジでダメなやつだろ!

 

「ジージージージージージーッ!!」

 

 急に黒いオーラがポリゴンZを包み込んだかと思うと、両腕を軸に黒い翼を生やした。そして、黒いオーラはそれだけに終わらず、今度は頭と胴体を繋ぐように移動していき、最後には尻尾のように胴体からメラメラといった感じで変化していく。ここにきてオリジナルかよ。

 

「ファイヤー………?」

「でも、黒いですよ………?」

「というかまさか彼までハチマンみたいになって………!?」

「それはないと思うわ。あれは似て非なるもの。参考にしているのがリザードンのアレってくらいじゃないかしら」

 

 何度も吹き荒れる暴風により口数が少なくなっていた外野からでさえ、異常事態という認識が持たれるくらいにはザイモクザがやろうとしていくことはヤバい。

 

「お前、いつからだ!」

「なに、お主がゲッコウガやジュカイン、そしてリザードンを悉く姿を変化させていくのでな! ダークライやゲッコウガを参考に再現したわけよ!」

 

 …………ほんと、誰だよこんな奴を野放しにしてた奴は。こういう奴こそ、使われるべきだろうに。俺ばっかり表に立たせやがって。

 あー、なんかそう考えたらムカついてきたな。確かに有事の際には協力してくれていたが、結局前に立つのは俺だったんだし。美味いところだけ一緒に吸っていくこいつを一発やっても誰も文句言わないよな。

 

「やれぃ!」

「すー………はー…………リザードン、ソニックブースト」

 

 ザイモクザの合図とともにかえんほうしゃに見立てた黒いオーラが飛ばされてきた。それを急加速して上に躱し、そのまま上昇していく。

 

「追うのだ!」

「まあ、追いかけて来るよな。リザードン 、エアキックターン」

 

 身体を捻り反転して急停止させると、リザードンは勢いよく空気を蹴り、急下降し始めた。

 

「Z、超念波だ! 風を起こして巻き上げろぉぉぉ!」

 

 サイコウェーブか。

 なら………。

 

「トルネードドラゴンクロー」

 

 ああ、なるほど。

 さっきのプラズマもサイコウェーブを使っていたのか。凝縮にはサイコキネシスの併用ってところか? サイコキネシスの併用自体はできてもハッキングは難しいとなると、ハッキングが如何にすごいことなのかがよく分かる。

 ほんと、よく思いつくよな。それだけは本当にすごいと思うわ。

 

「シャア!」

「躱すのだ!」

 

 おおう、まさかの分裂かよ。確かにポリゴンZの身体は全て分離した状態であるが、今は黒いオーラでファイヤー擬きを作ってるんだぞ。そんなことしたら気味悪いじゃねぇか。

 

「あなをほる」

 

 受け止められることもなく四肢分裂することで隙間を作り、そこを通されたリザードンはこのままだと勢いよく地面へと突き刺さってしまうだろう。

 だが、丁度トルネード状態である。そのまま地面を掘り進めて移動した方が下手に回避するよりも次の攻撃に繋げやすい。

 

「ぬぅぅぅぅ、あのまま地面に突き刺さってくれておれば………」

「そう簡単にやられるかよ。それよりいいのか? 反射の守備範囲が狭まっているように見えるんだが?」

「ふん、それを仕掛けている張本人に言われるとイラッとするぞ!」

「そりゃ煽ってるしな。リザードン、れんごく!」

「そうはさせないのである! Zよ、全ての力を地面に対して放つのだ!」

 

 地面の中で煉獄の炎を用意し、噴火をイメージした攻撃を仕掛けようとしたら、ポリゴンZの全力の体当たりによってあっさりと完成してしまった。リザードンの手間が省けたのはいえ、衝撃で一緒に掘り起こされてしまったのは計算外である。

 まあ、それはザイモクザも同じことだろう。地面を割って強制的にリザードン を掘り起こしてみれば、煉獄の炎が先に噴出してきたんだからな。

 

「なっ………?!」

「確かにお前の発想は俺よりも上を行ってるだろうな。けど、拘り過ぎるが故に隙も多い。リザードン、ブラストバーン!」

「させぬ! 黒き炎で呑み込むのだ!」

 

 反射をさせないということは、究極技レベルの技はまだ反射できないのだろう。というかそこまでできてしまったら無敵なポケモンになってしまうな。

 究極の炎を黒いオーラが包み込んでいくが、その中ではどうなっていることやら。

 

「リザードン、無事か?」

「シャア………」

 

 疲れは相当。

 ダメージを受けているのもあるが、それ以上にプレッシャーが強かった。次は何を仕掛けてくるのか、どの技を使っているのか、頭も常に働かせていないと対処が難しい。そういう意味ではリザードンにとっても未だ脅威の相手となり得るのだろう。

 いい刺激になっているのは確かだ。

 

「シャアッ!?」

 

 と、突如。

 黒いオーラの中からの一閃がリザードンを貫いた。

 

「リザードン?!」

 

 ビリビリとリザードンの身体に電気が走っているのが見える。

 これは、麻痺か?

 ということは今の一閃はでんじほうってことだろう。

 

「ゴラムゴラム! Zの最後の悪あがきであるぞ!」

「どうやらそうみたいだな………」

 

 段々と黒いオーラが消え去っていき、そこには地面に伏すポリゴンZの姿があった。

 

「ポリゴンZ、戦闘不能!」

 

 いやほんと。

 二度と戦いたくないわ。

 何が嫌って、無駄に面倒なんだよ。こいつのバトルは。でもまだあと五体を相手しないといけないんだろ? 骨が折れるな…………。

 

「ふぅ、一体目からこれではしんどいんよ。しかも黒いファイヤーまで出てきおって」

「これでまだ一体目なんて………」

「ザイモクザ君………」

 

 あ、どうやらしんどいのは観戦組もらしい。

 そりゃ、そうか。場外の海水まで巻き上げてたり暴風を起こしたせいで、幾度となく飛ばされそうになってたもんな。

 なんかほんとすまん………。

 

「………ギガインパクトを打ち付けたら噴火するとか我ビビったぞ」

「それはお前が悪い。人の策を勝手に発動させられたらこっちも計画が狂うっつの」

 

 ポリゴンZをボールに戻しながら、ザイモクザが文句を言ってきたため、俺も言い返してやった。

 マジで人の策を勝手に発動させやがって。手間は省けたが心の準備ってもんがあるでしょうよ。

 

「だが、これでリザードンも動けまい」

「確かにそうだな。麻痺したまま戦わせるわけにはいかないし」

「あれ? それじゃ…………ある意味ハチマンのリザードンを戦闘不能に追い込んだようなもんってことじゃ…………?」

 

 まあ、そうなるな。

 

「「「「………………」」」」

 

 コルニの呟きに観戦組が唖然としてしまっている。

 確かに今までの公式バトルだとリザードンが負けることなんてほぼなかったからな。バトルから引くってことも中々ないし。

 

「まさかザイモクザの実力がこれほどとは…………」

「そう落ち込まないの、シズカちゃん。あの二人はそもそも発想の時点で別格だから」

 

 おいこら、こいつと一緒にするなよ。

 やだよ、こんな厨二病と一緒とか。

 

「ま、つーわけでリザードンもボールに戻っとけ。あとはゲッコウガが海水巻き上げて息の根を止めるから」

「シャア……」

『人を殺し屋みたいに言うのはやめろ』

 

 冗談だよ、冗談。

 流石にそんなことをされたら擁護のしようがないっつの。

 取り敢えず、リザードンをボールに戻したが………次は誰を出すべきか。恐らく控えているのはエーフィ、ジバコイル、ダイノーズ、ロトム、ギルガルドだろう。無難なのはほとんどに弱点を突けるヘルガーであるが、今のを見る限り安直に考えてはいけないだろう。ここは少し捻ってジュカインにしとくか。ゲッコウガは緊急時に出てもらおう。

 

「ジュカイン」

「カイ!」

「いでよ、アブソル!」

 

 え?

 アブソル?

 はっ?

 

「………お前、アブソルなんて連れてたか?」

「フフン! 我がポケモンを増やしていないとでも思っていたのだろう? だが、甘い! 甘過ぎるぞ、ハチマン! 我だって、我だって新しい仲間くらい欲しいもん!」

 

 もん! ってお前な………。

 ユイとかイロハがやるから可愛いんであって、お前がやったらただの気持ち悪い生き物にしか見えねぇぞ。何が悲しくでむさ苦しいデブの「もん!」を聞かなきゃならねぇんだよ。

 

「ああそうかよ。新入りってんなら、簡単にやられるのだけはやめてくれよ」

「ぬははははっ! それは心配ご無用! 我がお主とやるのに何の準備もさせていないポケモンを出すわけがなかろう! アブソル、巨角突き!」

 

 調子の上がったザイモクザが先に命令を出した。

 巨角突き。聞いたことはないが、あれはどう見てもメガホーンだろうな。

 

「ジュカイン、シザークロス。受け止めろ」

 

 急突進してきたアブソルの頭の刃を腕を、ジュカインはクロスさせて受け止めた。

 

「ものまね使ってこおりのつぶて」

 

 そのままいくつかの氷を作り出し、頭の刃を押し込もうとしているアブソル目掛けて放つと、最初の二、三発を受けると同時に身体を捻り躱してきた。

 

「下がって超念刃!」

 

 そして、追撃する残り礫をサイコカッターで次々と斬り裂いていく。

 あれから結構経ったし、ものまねで使える技の精度も高まってきている。それでも上手く捌いたということは、あのアブソルもやり手であるのは間違いない。

 それよりも心配なのは、アブソルにも何かネタを仕込んでそうなことだ。ポリゴンZが一方通行ときてるからな。注意しておくに越したことはないだろう。

 

「ジュカイン、くさむすび」

 

 ただ、出方を待っているだけでは後手に回ってしまう。できることなら、このままこっちを優位的に持っていけると楽だ。

 

「アブソル、超念刃で叩き斬るのだ!」

 

 足元から伸びてきた蔦に絡みとられたアブソルは、再度頭刃から刃をいくつも作り出し、それを蔦の根本へと叩きつけていく。

 

「詰めろ、ジュカイン。リーフブレード」

 

 その間にジュカインには距離を詰めさせた。

 

「鋼鉄の尾で迎え撃つのだ!」

 

 ガキンッ! とぶつかり合う硬い音が聞こえた。ただそこから次の音はない。

 鬩ぎ合っているのだ。

 アブソルはジュカインの攻撃を受けても吹き飛ばず押し返そうとしている。言い換えれば、ジュカインでも単純な攻撃では突破できない相手であるのだ。

 

「じならし」

 

 それならあっちの態勢を崩すのが先決だな。

 ジュカインに足踏みさせて地面を揺らすと、アブソルがバランスを崩した。

 

「お返しだ。アイアンテール」

 

 ジュカインは身体を回転させて、遠心力も込めた鋼鉄の尾でアブソルを弾き飛ばしていく。

 

「アブソル、大の字の炎で壁を作れぃ! 制御もなしだ!」

 

 アブソルはアブソルで追撃を避けようと、飛ばされながら大の字型の炎をジュカインに向けて放ってきた。

 ジュカインは炎に気付いて距離を詰めることなく、一旦俺の元へと跳んだ戻ってきた。

 

「カイッ………!」

 

 ただ、戻ってきたジュカインは腕を押さえている。

 

「ジュカイン、それ………」

 

 さっき攻防で腕に攻撃を受けていたのだろう。部位を見る限り、やられたのは鋼鉄の尾で受け止められた時か。これ程深く入るとなると、通常の攻撃だけではない何か………恐らく特性とかによる影響も出ていると見た。

 

「………となると、特性はきょううんか?」

「けぷこんけぷこん! 如何にも! アブソルの特性はきょううん! 急所を狙うのは造作もないことよ!」

 

 フフン! と得意げに鼻を高くするザイモクザ。

 やっぱり燃やしたい。燃やしてゴミ処理してやろうかな。

 

「なら、ジュカイン。こうごうせい」

 

 晴れていることには晴れているため、回復量もそれなりを見込めるだろう。

 

「カイ!」

「よし」

 

 スッキリという表情でアブソルに目を向けるジュカイン。どうやら火がついたらしいな。

 

「ふむ、では仕方ない。こちらも本気といこうか。アブソル、モード第二位! メガシンカ!」

 

 はあ?

 ザイモクザがメガシンカだと?!

 ついにこいつもメガシンカを手にしてしまったというのか?

 ザイモクザに限ってメガシンカで暴走させることなんてのはないだろう。何だかんだ自分のポケモンたちとは上手くコミュニケーションが取れている。変なことを吹き込まれてはいるが、それがバトルに役立っているのも事実であり、ポケモンたちも変わったバトルになったとしてもザイモクザを信頼しているのは知っているからな。

 いやしかし、ザイモクザがメガシンカか。

 

「うそ………、ザイモクザ君が?」

 

 白い光に包まれ姿を変えたアブソルは背中に二枚の翼を生やしていた。

 あ、うん。

 なんか理解できたわ。

 

「モード第二位で翼の生えたメガアブソルって………。結局そこかよ」

 

 未元物質、ダークマター。

 この世の次元とはことなる物質を作り出すとか云々の能力者だが、一方通行より再現難しくないか?

 

「まずは黒いオーラを纏うのだ!」

 

 あくのはどう。

 ある意味使い勝手のいい技だな。攻撃手段にもなるし、足場にもなるし。ザイモクザも俺が如何に使いやすくて多様していたかが分かったことだろう。まあ尤も、ダークライが黒いオーラを自在に操っていたからなんですけどね。

 

「それから超念刃!」

 

 ………なるほど。

 そういう使い方ができたか。

 

「ジュカイン、攻撃は考えるな。まずはリーフブレードで叩き落とせ」

「カイ!」

 

 黒いオーラを纏ったサイコカッターか。これで見た目は未元物質っぽくなってはいるな。

 

「カイ!?」

 

 …………今ジュカインの腕の刃が空を斬ったか?

 まさかとは思うが、オーラで軌道を操作していたり?

 

「カイッ?!」

 

 珍しく技を外したジュカインに目がいっていると、ジュカインが背後から斬り付けられた。

 これはもう、操作されていると見て間違いないだろう。

 

「ジュカイン、まもる」

 

 ここは一旦防衛だ。

 ジュカインが落ち着きを取り戻すためにも空白の時間がほしい。

 さて、どうしたものか。

 技に干渉できれば落とせるかもしれないが、ものまねを使ってもそれは難しいだろう。しかも黒いオーラのおかけでエスパー技は効かないはずだ。そうでなければ未元物質と称するには弱過ぎる。そこら辺はザイモクザだ。抜かりはない。

 

「はぽん! いつになく慎重ではないか、ハチマン! いつものドSたっぷりの攻めはどこへ行ったのだ!」

 

 あの野郎………。

 ああ、そうかよ。お望みならやってやるよ。

 

「ジュカイン、メガシンカ」

 

 ポケットからキーストーンを取り出して、ジュカインの首に付けてあるメガストーンと共鳴させた。するとジュカインは白い光に包まれてメガジュカインへと姿を変えていく。それと同時、ジュカインを守るドーム型の防壁を襲っていた黒いオーラを纏った刃が次々と弾けて飛んでいった。

 

「ハードプラント」

「上に飛び跳ねろ!」

 

 ジュカインが両腕を振り下ろすと、一拍遅れたアブソルが跳躍した。元いた場所には既に太い根が突き出しており、間一髪で躱されたのが窺える。

 だが、それならそれでいい。ネタ元が分かった時点でフィールドが空に移行することも予想済みだ。

 

「こうそくいどう」

「未来を穿て!」

 

 突き出した太根を高速で蹴り上り、上空へと移動したアブソルに一気に辿り着いた。

 

「ジュカイン、シザークロス」

「辻斬!」

 

 おい、つじぎりはそのまんまなのかよ。

 ジュカインの両腕とアブソルの頭刃が交錯すると中々な衝撃が下にいる俺たちのところまで伝わってきた。

 

「吹雪を起こすのだ!」

 

 技の並行使用は当たり前か。

 

「球体型のまもる」

 

 ゼロ距離から放たれる吹雪に対し、球体型の防壁を張ることで何とか致命傷を避けにいく。

 だが、氷からは守れてもそれを伝える風の勢いまでは殺せなかった。そもそも空中にいるのだから風には煽られやすい。球体型の防壁により地面にぶつかった衝撃でのダメージがなかったことに喜ぶべきだろう。

 と、上空から三本ほどの黒い光線が解き放たれた。

 

「………やっぱりか」

 

 着地した時点ではまだ解除してなかったこともあり、防壁は黒い光線からもジュカインを守ることとなったのだ。

 みらいよち。

 さっきザイモクザが「未来を穿て」とか何とか言っていたような気がする。それがどこか引っかかってしまい、ものまねでミラーコートを使わせずに球体型の防壁を張るに留めることにしたのだ。長年の経験により蓄積された勘ってのは、ここぞって時に役立つよな。

 

「むう、まさか読まれているとは」

「ちょっと引っかかってたんでな。そういうこともあるかもしれないとは考えていただけだ」

「やはりお主は抜け目がないな。普通であれば横に捨て置く感覚を捨てずに考慮しているとは」

「そうでもしないといつ誰に狙われるか分からねぇだろ。俺は死にたくないだけだ」

「フッ、確かにそうであったな。では、改めて参ろう! アブソル、真なる力を目醒めさせよ!」

 

 何だよ、メガシンカ以外にもまだ隠し球があるっていうのか?

 

「ッ!? ジュカイン、掘り起こせ! ハードプラント!」

 

 アブソルの背中の翼が六枚に増えたかと思えば、そこからいきなり無数の光線が解き放たれた。

 

「カイッ!?」

 

 ジュカインには太根で何とか壁を作らせたが、貫通して何発かがジュカインへと届いてしまった。

 

「これ、は………」

 

 恐らくはかいこうせん。そして実証できるかは分からないが、翼が六枚に増えたのは部分的なかげぶんしんとかの類だろう。

 なんて無駄に再現度を高くしてるんだよ。

 でも、負けるわけにはいかないな。これで負けたんじゃザイモクザが図に乗るだけだ。

 

「ジュカイン、今からものまねで出す技は精度を求めなくていい。手数でいくぞ」

「カイカイ!」

 

 メガアブソルの特性はマジックミラー。状態異常や能力変化を施す技を跳ね返してくる。だが、それ以外なら特別気にするような特性でもない。

 

「テレポート」

「アブソル、後ろである! 不意を突くのだ!」

 

 ふいうちか。

 何かしら対応してくることは読んでいるぞ。

 

「もう一度、テレポート」

「なっ?!」

 

 人間、焦ると思考が止まるからな。今の内に仕掛けさせてもらうとするか。

 

「タネマシンガン」

 

 一度目のテレポートでアブソルの背後を取り、振り向いて来たところを再度後ろへと回り込むことで、トレーナーの方を数秒だけでも無力化させる。

 そこへ宿木をタネマシンガンで撃ち込み、当たった種から発芽させていった。

 

「黒いオーラで叩き切れ!」

 

 それをアブソルは黒いオーラで一瞬にして消し去ったのだから、もはや未元物質の根源となりつつある黒いオーラは異常だ。ダークライですらそんな使い方しなかったぞ。

 

「エレキネット」

 

 休む間も与えず、電気の網を投げつけた。

 

「ぬぅぅ、巨角突き!」

 

 上から電気網に囚われたアブソルは下降していき、メガホーンで突き破る頃には地面に着地していた。

 

「くさむすび」

 

 なので、早速地面から蔦を伸ばしてアブソルの四足から身体中に絡みつかせていく。

 

「ほのおのうず」

 

 そして、炎の渦の中に閉じ込めた。蔦を導線にアブソルへと引火もしていることだろう。

 

「水を纏うのだ!」

 

 おっと、水も操れたのか。ここまで水を動かせるということはみずのはどうか?

 水を纏うことで鎮火したアブソルは距離を取るようにザイモクザの方へと下がっていった。

 

「ぜぇ、ぜぇ………ハチマン、お主もやるよのぅ」

 

 どうやら今の攻防でザイモクザの方が先にバテたようだな。

 

「なんだよ、もうへばったのか? ここからだってのに」

「フン、久しぶりで昂っている証よ! アブソル、やれぃ!」

 

 強がるのも昔と変わらんな。だが、やはり思考が単調になっているようだ。一直線すぎる。やることが手に取るように伝わってくるぞ。

 

「………まあ、それがザイモクザか。ジュカイン、気張れよ。ひかりのかべ」

 

 六枚翼から放たれる無数のはかいこうせん。それを今度はひかりのかべを何枚も張ることで受け止めた。

 

「カイッ、………ガァッ…………クカッ………?!」

 

 やはりそれでも貫通はしてくる。

 まあ、狙いはそこにあるため予定通りではあるが、攻撃を受けてしまうジュカインには申し訳ない限りだ。一発の威力が威力だしな。

 だが、それくらいしなければ未元物質を突破することもできないだろう。威力は低い技を絶え間なく撃ってみて分かったのは、どの技に対しても黒いオーラが付与されていることだ。俺はやっていなかった使い道をザイモクザは既に切り開いていたのだ。意図的ではないだろうが、参考にされているのは言うまでもない。

 だからアレの脅威さが嫌と言う程分かってしまう。

 

「ーーーメタルバースト」

 

 返し技でもミラーコートはまだ使えない。ボスゴドラから習得したメタルバーストがいいところだ。だが、それでいい。受けたダメージを返せればいいのだ。

 

「躱せぃ! 躱すのだぁぁぁ!」

 

 恐らく無理だろう。

 はかいこうせんを何発も連射しているのだ。連射できただけでも大したものである。

 

「くぅ………。アブソル、超念刃!」

 

 直撃したことで足元をフラつかせるアブソル。それを見てザイモクザも唸り声を上げていた。

 

「ジュカイン、こうそくいどう」

 

 黒いオーラに包まれた無数の刃が一気にジュカインと押し寄せてくる。

 それを一瞬にしてアブソルの懐に入ることで躱した。

 

「辻斬!」

「けたぐり」

 

 姿勢も低くしていたこともあり、前脚を崩すには丁度いい技だった。

 

「掴め!」

 

 横殴りにアブソルの前脚を蹴り払うと、反転して仰向けの状態になったアブソルの腹にのし掛かり、顎と前脚を押さえつけさせた。背中の翼は二枚に戻り、これで今までの大半の技を使えなくなっただろう。ただ黒いオーラだけがジュカインを退かそうと蠢き始めている。

 

「ギガドレイン!」

 

 そうした中で一気に体力を吸わせ始めた。

 いきなりのことで黒いオーラも動きが止まり、徐々に身体をじたばたさせて足掻き始めている。

 

「アブソル!?」

 

 遂には動かなくなり、メガシンカまでもが解除された。

 ジュカインの勝ちだな。

 

「アブソル、戦闘不能!」

 

 恐らく、ジュカインにとっては中々にないバトルだっただろう。最後なんて直接捕まえに行ったくらいだ。いつもならくさむすびで捕獲して斬るなり穿つなりするが、それが黒いオーラによって阻まれていたからな。しょうがないと言えばしょうがない。ただ、そういう相手も中にはいるってことが体験できただけでも充分な経験である。

 

「………カイ………カァ……………!」

 

 それにしても相当のダメージをこっちも受けていたんだな。ギガドレインで残りの体力を吸わせたものの、疲弊しているのがよく分かる。

 休ませてやりたいところだが…………嫌な予感がするんだよな。多分、ジュカインじゃなければ相手を弱体化できないと思う。

 

「どうする? 交代するか?」

「カイカイ………」

 

 交代するか問うてみたら、首を横に振りやがった。

 いつにも増してやれるところまでやってみたいという気持ちが強いのだろう。それだけザイモクザのポケモンを強敵と認めている証だ。

 まあ、俺としてもそっちの方がありがたい。いかんせん、相手はザイモクザだ。メガシンカを使ってしまった以上、その特性を発揮させないで交代させてしまうのは惜しい。

 

「さすがハチマンよのう。第二位を再現してもそこに囚われない。真意を見抜くその眼は些か脅威であるぞ」

「アホ。元ネタを知ってれば予想はつくっつの」

「ほう、では次のポケモンも予想できておるのか?」

「エーフィとギルガルドではないことは確かだな。お前の本命であろう第三位を再現するには、そいつらでは無理だ」

「けぷこん! やはり鋭いな、我が相棒は」

「誰が相棒だ」

「では、我が本命の第三位の力を見せてやろうぞ! ジバコイル!」

 

 やっぱりジバコイルだったか。

 エーフィはでんじほうを使えるが第三位の能力とは合致しない。ギルガルドはそもそもでんじほうが使えない。となるとジバコイルかダイノーズかロトムということになるが、ロトムも何か違う気がしたのだ。そもそもでんじほうを覚えるのかも怪しいレベルだし。

 まあ、消去法でジバコイルの方がイメージ的には合うかなと思ったまでのこと。

 だからジュカインにはジバコイルも相手してもらえると割と楽なんだよな。

 

「第一位から始めてるし順番的には第三位になるが、いいのか? 相手はジュカインだぞ?」

「フン! 我らを舐めてもらっては困るというものよ! ジバコイル、砂鉄の剣!」

 

 ザイモクザがそう叫ぶとジバコイルは砂嵐を起こして身を投じた。

 

「ジュカイン、にほんばれだ。天候を変えろ」

 

 まあ、やりたいことは見え見えなため、こちらも天候を変えて抗ってみる。

 

「あ、あれって………!?」

「砂鉄、ですか………?」

 

 砂嵐が晴れるとジバコイルは両側のU型磁石に砂鉄をかき集めて剣を作っていた。

 

「ふははははっ、あの一瞬でもこれだけのことができるのであるぞ! ジャイロ回転!」

 

 そう言うや否やジバコイルが回転し出して、砂鉄の剣が振られてきた。

 なるほど、単に砂鉄の剣を作って振りかざすのではなく、ジャイロボールで回転を加えることで技への干渉もできなくしてきているのか。

 確かに幻想殺しもないからな。打ち消すこともできなければ、触れることすらままならないだろう。

 とは言っても。対処しなければやられてしまうのが現状だ。

 

「ジュカイン、屈みながらつじぎり」

 

 低い態勢で黒い手刀だけを突き上げ砂鉄の剣と交えると、案の定受け止められなかった。

 

「アイアンテール」

 

 二撃目に対して鋼の尻尾を打ち付けると、今度はガチン! と弾ける音がする。どうやら鋼であれば砂鉄の剣にも通じるようだ。

 

「くさむすび」

 

 即座にジバコイルの下から蔦を伸ばし、ジバコイルを絡め取っていく。

 

「ジャイロ回転!」

 

 まあ、そう来るのは折り込み済みだ。俺でもそうしている。

 

「グロウパンチ」

 

 だからこそ、先に次の手が打てるというもの。

 ジュカインはジバコイルの真下に潜り込み、拳を突き上げた。同時に攻撃力が上昇していく。

 だが、ジャイロ回転している相手には一発ではあまり効果がないようだ。

 

「砂鉄の渦に閉じ込めるのだ!」

 

 そんなことを逡巡しているとジュカインが砂鉄の渦に閉じ込められた。あっちもあっちで来ると予想していたのかもしれない。

 

「ジュカイン、ほのおのうずで砂鉄の渦を焼き尽くせ」

 

 その砂鉄の渦を炎の渦で呑み込み溶かしていった。

 

「ジバコイル、鋼鉄砲!」

 

 頭上からはジバコイルが鋼の光線を放ってきている。

 

「かえんほうしゃ」

 

 ジュカインは口から炎を吐き、鋼の光線を受け止めた。

 技の相性ではこちらが有利ではあるが、こっちはタイプ一致でもなければ本来持ち技としているものでもないため威力が見劣りしている。しかも日差しも弱まってしまっているため炎の勢いが増すことはない。比べる対象なんて倣っているリザードンの炎しかないが、アレがそもそもおかしいため余計にそう感じてしまう。ただそれを分かった上でジュカインはものまねの領域を拡大させようと日々修練しているのだ。トレーナーである俺がそれを無視して判断を変えるのはおかしな話だろう。

 俺に求められているのは、本来の技の八割程度で計算したバトルの組み立てだ。だから今必要なのは如何に鋼の光線を撃ち返すか。

 

「渦に使った炎も巻き上げろ」

 

 炎の威力がないなら足す以外の選択肢がない。それは子供でも分かることだろう。

 

「ぬぅ。ならばジバコイル! もっと火力を上げるのだ!」

 

 炎の渦が吐き出している炎を中心に集まっていき、炎の直径が広がっていく。それを見たザイモクザがジバコイルに更なる火力アップを求めてきた。

 

「………あれは?」

 

 押し返されたいた鋼の光線が再度押し返してきた。ただ、さっきまで気づかなかったが、ジバコイルの身体は電気を纏っているようでバチバチと青い筋走っている。両側のU字型磁石にもまだ砂鉄が繋がっていた。

 

「………そういや、ジバコイルの特性はじりょくだったよな」

「うむ、如何にも」

「なるほど、青い筋は放電している証拠か。常時か?」

「どうやら気づいたようであるな」

「まあな。ネタは分かっているんだ。それをポケモンでどう再現するのか、その一点に尽きる。そして、お前はジバコイルの特性を活かしてほうでんで砂鉄を集めてジバコイルへと付着させていた。それだけのことだ」

 

 ほんと、そういうところは抜け目ないよな。見た目から入る奴だし、拘りというものがあるのだろう。

 ただ、ジバコイルがほうでんしているのならジュカインの特性が発動してもいいと思うんだけどな。やっぱりジュカインに向けて放たれてない且つ微弱だからなのだろうか。

 

「ジュカイン、5秒後に吐くのをやめてテレポートだ」

 

 これ以上はジュカインも炎を吐き出すのが辛くなってくるはずだ。ザイモクザも何となくその辺に賭けていそうだし、こちらからアクションを起こしてみることにした。

 

「5.………4………3………2………1………やれ」

 

 合図を出すとジュカインは炎を吐くのをやめて一瞬でその場を離れた。

 

「なぬ!?」

 

 ザイモクザも状況が掴めていないようだし、今がチャンスだな。

 

「ジュカイン、連続でグロウパンチ。叩き落とせ」

「まずい!? ジバコイル、砂鉄を纏うのだ!」

 

 俺の合図でようやく悟ったザイモクザが、上を見上げながらジバコイルに慌てて命令した。

 だが遅い。ジュカインはアブソルと対峙した時に素早さを上げている。いくら空中であろうと、砂鉄を纏うまでにジバコイルの上に着地するだろう。

 

「カイカイッ!」

 

 ほれ見ろ。

 砂鉄より先にジュカインの拳が届いてるぞ。

 

「あっ………!」

 

 あっ?

 何だよ「あっ」って。砂鉄がジュカイン諸共覆ってしまっただけだろ?

 

「ッ!?」

 

 と思ったらいきなり大爆発した。

 はっ………?

 大爆発?

 自分がピンチになったらジュカインを巻き込んでの退場って算段なのか?

 

「…………ぬ、ぬははははっ! こ、こんなこともあろうかと事前に指示を出しておいたのである! ぬは、ぬは、ぬはははは………ははは………はは………………はい、完全に忘れてましたぁぁぁ!!」

 

 最初は高らかに笑っていたザイモクザであるが、段々と皆の白けた視線に耐え切れなかったのか、ジャンピング土下座をかましてきた。

 

「いや、バトルだからいいんだけどさ。それも立派な作戦だし。ただそれをトレーナーが忘れるって、お前な…………」

 

 さすがにお前だけは把握しておけよ。それくらい分かってることだろうに。何年ポケモントレーナーをやってるんだよ。

 

「トレーナーとしてどうなのかしら。あんな凄いバトルを見せていたのに、ザイモクザ君ならやり兼ねないと納得できてしまうのが怖いところよね」

 

 ほら、ユキノも悲しい目を向けているぞ。

 

「一応コマチの師匠の片割れなんですけどねー。封印するべき?」

 

 コマチに至っては存在そのものを封印しようとしているし。こりゃもう擁護のしようがないわ。

 哀れ、ザイモクザ。

 

「えー、ジュカイン、ジバコイル、共に戦闘不能ー。…………最後が締まらんのよ」

 

 ご尤もで。

 なんかやられたという気にもなれない終わり方だよ。ジュカイン、なんかすまん。こんなバカの相手をさせちまって。

 

「で、結局なんて指示出してたんだよ」

「ジバコイルの頭にアンテナがあるであろう? あそこを攻撃されたら迷わず爆発しろとな」

「ジバコイルの攻撃が届かない位置だからか?」

「うむ、その通りである!」

「いつの話だよ」

「ジバコイルに進化した頃の話である。我も忘れていなかったことに驚いた」

 

 先にお前が忘れてたくらいだもんな。

 やっぱりこんなトレーナーなのに、ポケモンたちは律儀なところがあるんだよな。変な関係性だこと。

 

「………こりゃ後でガス抜きさせる必要があるかもな」

『それはオレに相手をしろと言っているのか?』

「お前がやられなければな」

『フン、言ってろ。敗北はユキメノコの時だけで充分だ』

「そりゃ頼もしいことで」

 

 ジュカインをボールに戻しながら、後ろに控えるゲッコウガとそんな会話を繰り広げた。

 そういえば、ゲッコウガがユキメノコにやられた時もこんな感じで、こっちが攻撃した瞬間に道連れにされたんだっけな。ジュカインはあの時ボーマンダと相打ちになっていたが。

 

「んじゃ、次だな。ヘルガー、よろしく」

「むむむ? ヘルガーだと? ハチマン、お主既に我が次に出すポケモンを知っておるのか?」

「残り三体。お前のポケモンでまだ出していないエーフィ、ギルガルド、ロトム、ダイノーズの中なら、どれが来てもタイプ相性が有利なのはヘルガーだからな。さすがにゲッコウガに三盾させるのはお前らに申し訳ないだろ」

 

 まあ、第一位がポリゴンZで第二位がアブソル、第三位がジバコイルだったところから考えれば、次は第四位になるポケモンが出てくるのは予想できる。そして、俺の知るザイモクザが連れているポケモンの残り四体の中から第四位に沿わないのはギルガルドとダイノーズだろう。となると次に出て来そうなのはエーフィかロトムであり、エスパーやゴーストタイプに強いあくタイプのヘルガーが適任というわけだ。まあ尤も、アブソル同様新顔があれば俺の読みなんて外れてしまうんだが。そこまで言う義理はないから言わないでおく。

 

「我の次のポケモンは此奴である! 行くのだ、エーフィ!」

 

 おっと、マジで正解だったか。順序を付けたがためにバトルしづらくなってないか? あくタイプ相手にエスパータイプなんてさっきのジバコイル以上にバトルの組み立てが難しいだろうに。

 

「第四位の力を見せてやるのだ! 原子崩し!」

 

 すると、これまでのバトルで壊れたフィールドの破片が宙に浮いていった。

 これは………サイコキネシスで操って、破片で攻撃か?

 いや、それだったら原子崩しの再現にはならない。となるとサイコショックか?

 けど、襲ってくる気配がないな。

 取り敢えずはアレをやっておくか。

 

「ヘルガー、黒いオーラを纏っておけ」

「ヘガ!」

 

 ヘルガーには黒いオーラ、あくのはどうを纏わせて擬似的にダーク化をさせておいた。これで動きがより活発化して、対処の範囲も拡大する。

 ん?

 そういや原子崩しって光線みたいなやつだったような………。

 

「ッ?! ヘルガー、ハイパーボイス! 破片を撃ち落せ!」

 

 ヤバい。

 サイコショックがプリズムの役割だっていうならマジでこの状況はマズい。

 

「ヘガァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 耳を塞いで成り行きを見守っていると、マジで光線が飛んできやがった。

 しかもプリズムを使って四散するだけに留まらず、他の破片を使って何度も方向を変えてきている。

 

「ッ、はあっ?! マジかよ………っ! ヘルガー、躱せ!」

 

 ヘルガーの絶叫は確かに破片を撃ち落としてはいたが、やはり相手はエスパータイプということか。破片は落ちてもまた宙に浮いていく。ついでという感じで光線の方向を変えて絶叫を回り込むようしてヘルガーを捕らえられてしまった。

 

「ヘルガー、まもる!」

 

 何度か躱したものの、両サイドから捕捉されてしまったため、防壁を張らせることにした。

 

「ヘゥッ………!」

 

 次々と光線がドーム型の防壁にぶつかって行き、弾かれては破片に当たって方向を変えてまたヘルガーに向かって行くの繰り返しである。

 

「ヘガッ?!」

 

 何度か凌いだものの、それが原因となりパリン! と防壁が割れた。そこからは予測不能な動きをする光線にバランスを崩され、一発もらったところから次々と襲われてしまった。

 

「…………」

 

 いや………、久しぶりに言葉を失った。

 まさかこんな攻撃になるとは。原子崩し恐るべし。一度捕らえられたらレールガンよりも脅威だ。あの予測不能な動きから、あの威力。まさか光線繋がりではかいこうせんだったりしないよな………?

 

「ヘルガー、まだいけるか?」

「ヘ、ガ………」

 

 うん、これはヤバいわ。

 擬似ダーク化して活発的になっていたヘルガーでさえ躱せず、黒いオーラでもダメージを軽減できていない。

 早急に片付けないと第二波が来るだろう。

 

「ヘルガー、ほのおのうず。エーフィの視界を奪うんだ」

 

 あれがはかいこうせんであったことに賭けて、次の攻撃まで幾ばくかの猶予があると読み、まずは炎の渦の中に閉じ込めることにした。

 

「エーフィ、超念力で炎を消すのだ!」

 

 やはりそうなるか。

 だが、それは囮だ。

 

「原子崩し!」

 

 再度サイコパワーで破片が宙に浮いていくが、分かっていれば先にも動ける。

 

「ふいうち」

 

 炎を消した後にヘルガーを探すこともしなかったザイモクザのミスとも言えよう。

 エーフィの背後へと向かっていたヘルガーにより叩き飛ばされて行った。

 

「エーフィ!」

「フィアーッ!!」

 

 効果抜群の技ではあったが、一発で戦闘不能にさせることは無理だったようだ。というかアレで戦闘不能になるような奴が原子崩しを再現できるわけがないか。

 エーフィは飛ばされたところから帯電し、電撃を宙に浮く破片に飛ばしていった。

 今度はでんじほうか。こちらの方がネタ元には近いような気がする。

 しかし、こうなるとやむを得ない。

 アレを使うしかないか。

 

「みちづれ」

 

 さっきのを見る限り防壁を張ったところで意味がなく、躱すにもいずれバランスを崩して捕捉されてしまう。炎や黒いオーラで対処しようにも動きが予測不能なため、こちらの対処が追いつかない。

 もはや逃げ道はないと言えよう。

 ならば、こっちも相打ちを狙いに行くしか方法がない。

 

「………すまん、ヘルガー」

 

 四方から撃ち抜かれたヘルガーはバタリと倒れた。

 それと同時に向こうでもバタリと倒れる音が聞こえてきた。

 どうやら間に合ったようだな。

 致し方ないとはいえ、やはり気持ちのいいやり方ではない。

 

「ヘルガー、エーフィ、共に戦闘不能!」

 

 まさかザイモクザにジュカインとヘルガーを持っていかれることになるなんてな。リザードンも麻痺して実質戦闘不能だし。普段バトルをしない奴に限ってこれだからな。怖い怖い。

 

「ヘルガー、お疲れさん。何の対抗策も思いつかなくて悪かったな。ゆっくり休んでくれ」

 

 ヘルガーをボールに戻すとエーフィもボールに吸い込まれていた。

 

「さすがのハチマンも何の対抗策も思いつかなかったようだな」

「まあな。あくのはどうで擬似的にダーク化したところで、あの攻撃には何の意味もないことがよく分かった」

「そこで相打ちを狙いに行くのはさすがではあるがな」

「それもお前やユキノがそうしていたからだ。ゲッコウガがユキメノコにやられた時の衝撃は凄かったからな。咄嗟に出てきたのがあの時の映像だったんだよ」

 

 ゲッコウガではないが、あれは忘れたくても忘れられないからな。あのゲッコウガがユキメノコに相打ちを取られるなんて考えてもいなかった分、衝撃は凄かった。ただ、あれから俺とバトルする時は相手がそういうやり方も視野に入れていると思ってバトルするようにはしている。いよいよ以って、俺もそういうやり方をやられる側になってきたんだと実感するわ。

 あー……、たださっきのジバコイルは例外だな。あれはトレーナー側も忘れていた指示だから予想のしようがなかったわ。

 

「なるほどのう。して、次のポケモンは誰であるかな?」

『ヘルガーが倒されたんだ。次はオレが行く』

「だとよ」

 

 どうやらゲッコウガも触発されたみたいだな。リザードンがやられ、ジュカインが倒され、ヘルガーも相打ちになるしかない相手だ。さぞゲッコウガもふつふつと闘志を漲らせていることだろう。

 

「では、行くのである! ギルガルド!」

 

 さて、次はギルガルドか。

 順番的には第五位、心理掌握に相当するんだろうが、ギルガルドでは中々想像できないな。そもそもあの巨乳は運動音痴だし、戦うというイメージがない。精神を操って人にやらせるというのが基本だし、混乱とかそこら辺を狙っているのか?

 

「これが第五位の力である! 心理掌握!」

 

 ん?

 今何かやったのか?

 特にモーションもなければゲッコウガの様子も変わりないように見えるが。それとも本当に第五位よろしくリモコンで操作するようなことでも起きるのか?

 

「ギルガルド、ゲッコウガに跪かせるのだ!」

 

 そういうとゲッコウガがスタッと片膝をついた。

 なるほど、既にゲッコウガは操られているというわけか。となると俺も声とかをかけるべきか?

 

「聖なる剣を振り降ろせぇ!」

 

 盾と一体になっていた刀身を抜き天へと掲げると、伸びた剣を振り下ろされた。

 

『………何を狙っているのかと思えば』

 

 だが、ギリギリのところでゲッコウガが受け止めている。手には黒い手刀。

 あいつ、最初から効いてなかっただろ。

 

「霊力が効いていないだと!?」

『フン、精神攻撃がしたければオレの魂を奪うくらいでないとな』

 

 メロメロも効かないしな。

 精神攻撃に関しては無敵と言ってもいいかもしれない。

 

「くっ………! ならば、オプション変更! モード楓の木!」

 

 ん?

 楓の木?

 あのシリーズにはなかったと思うが。というか楓の木で何が起きるって言うんだ?

 あ、ネタ元を変えたのか?

 

「毒竜!」

 

 ヒュドラ………だと?

 いや、ヒュドラ自体は色んな小説に出てきたりするが、敢えてここで出すということは何かの作品に移行したと見るべきだろう。

 

『うおっ!? 気持ち悪っ! 毒か、これ』

 

 楓の木、毒竜………まさかな………。

 地面から出てきた三メートル程の竜の姿をした紫色の何かがゲッコウガを襲うも、水を操作して浄化していた。さすがの対処力だな。判断が早い。

 

「アシッドレイン!」

 

 と、今度は雨雲が発生して雨が降り始めた。なのに、紫色である。

 

『毒の雨……!』

 

 これもやっぱり毒か。

 あまごいに何か毒を発生させる技を付与しているのだろう。

 下から来たかと思えば上から降り注ぐ毒。しかもギルガルドははがねタイプであり、毒の効果はない。何とも合理的な技の組み合わせであるな。

 

『チッ、毒をこういう使い方で付与してくるとか鬼畜すぎるだろ』

 

 対してゲッコウガははがねタイプではないため、毒をもらってしまうってわけだ。ゲッコウガの方は水のベールで何とか防いでいるが、こういう手法が取れないポケモンは毒の雨だけでやられ兼ねないな。

 まあ尤も、雨が降るということは毒を完封しているゲッコウガにも恩恵がいくことになるんだが…………。

 

「滲み出る混沌!」

 

 あれは分身体か?

 表現がアレなだけに大技かと身構えてしまうのは、ザイモクザ戦法の一つのアドバンテージと言えよう。

 

『それならこっちもだ』

 

 ゲッコウガも分身体を作り出し、それぞれでギルガルドの分身体を潰しにかかった。

 恐らく斬撃の技はせいなるつるぎだろう。ゲッコウガには効果抜群であり、間合いも広い。

 

「それは囮であるぞ。七ノ太刀・破砕!」

 

 ぬっとゲッコウガ本体の背後から現れたギルガルドが刀身を大きく振り下ろした。一撃で仕留めるつもりだったのだろう。

 だが、ゲッコウガが水の柱を作り上げたことで、斬撃は水流に持っていかれてギルガルドも呑み込まれてしまった。

 

『オレが単調に攻めているわけがなかろう』

 

 同時に姿を変えたゲッコウガは黒い手刀を片手にギルガルドへと飛び込んでいく。

 

「一ノ太刀・陽炎!」

 

 手刀が届く寸前、ギルガルドは消えた。

 

『チッ、ゴーストタイプ特有の能力か!』

 

 悪態を吐きながらもすぐ様反転し、何もない背後を斬りつけた。

 

『感触が、ない………!』

「やはりお主もハチマンと同じで読みが早い。それを見越しての、ここである」

『ッ?!』

 

 おお、まさかのただ消えただけだったとは。虚を突くとはこのことだな。

 

『ぐぁッ!!』

 

 元いたところに姿を現したギルガルドに背後から斬り付けられたゲッコウガは地面へと叩き落とされてしまった。

 

「毒竜!」

 

 そして、追い討ちをかけるようにヒュドラを作り出し、斬り付けられた部位へと噛み付いていく。

 結局、あの技は何なんだろうか。絶対大技ではないだろうな。見た目が三メートル程の竜の姿をしているだけで。逆に何をどうやればあんな姿に作り替えられるのやら。ゲッコウガのあの無駄なパフォーマンスと同じ臭いがするのは俺だけだろうか。

 まあ、今は置いておこう。

 

『ッ………!?』

 

 起き上がったゲッコウガは背中に手を回している。

 あれは毒だな。しかも猛毒っぽい。

 

『あの感じ、どくどくか?』

 

 やられた感触で技を判断できるものなのだろうか。だが、猛毒っぽいし可能性は高いだろうな。

 え、でもまさかどくどくで竜を作っちゃうのん?

 あのギルガルド、絶対ゲッコウガ並みの無駄を楽しむ派だわ。

 

「それに毒の雨………。あまごいにどくどくってところか」

「如何にも! 第五位だけでは攻撃のやりようがないのでな。ギルガルドだけ、他の作品を混ぜてあるのだ!」

「さすがに歩く要塞だけは勘弁してほしいがな。楓の木の異常枠連中をポケモンバトルに活かすお前も相当な異常枠だぞ」

「ゴラムゴラム! 異常枠上等! 可愛いは正義なのである!」

「あーはいはい」

 

 コイツのネタ元作品の選び方の基準は何なんだろうな。絶対好みのキャラがいたからとかだろ。スキルがバトルで使えるかどうかは二の次っぽい。ただ、表現してみたかった。それに尽きるのだろう。

 

『ハチ、やり口が分かったのか?』

「まあな。表現は大袈裟だが、やってることはお前ならそう難しいことでもない。ある意味、お前自身と闘っていると思ってもいいかもな。ただまあ、その傷と毒では長期戦はまず無理だ。速攻で堕とすしかない」

『なら、様子見もこの辺で終わりだな。どの道背中がずっとヒリヒリしているんだ。さっさと片付けてくる』

「ああ、行ってこい」

 

 相手の強さが分かれば、ゲッコウガでも対処はできるだろう。何なら自分が相手だと言われれば尚更だ。自分が嫌がることをやればいいだけだからな。

 

「ギルガルド、ヴェノムカプセル!」

 

 おい、毒を纏う気かよ。

 いくらはがねタイプでも溶けないのか?

 

「マジでそれっぽいな………」

 

 黒紫色の球体に身を投じたギルガルドは、砲弾さながらにゲッコウガへと突っ込んでいく。

 

「ほー」

 

 ゲッコウガは場外の海水を集め、巨大な網を作り出した。

 

『エレキネットは使えないが、水をネットのように作り替えることはできるんでな』

 

 そして分身体を増やし、その四方を掴んで巨大な砲弾を捕らえた。

 

『凍れ!』

 

 続け様に吹雪が襲い、水の網が凍り始めていく。

 

「イージス!」

 

 恐らく砲弾の中では防壁が張られたことだろう。しかも考えられるのはキングシールド。フォルムチェンジを行い防御力もアップさせているはずだ。

 と、凍った砲弾に蔦が巻きつき始めた。

 

「くさむすびか」

 

 となると次はアレかな。

 

『オラ!』

 

 ゲッコウガから内なる光が迸り、蔦に火がついた。そしてそのまま凍りも溶かし始めて砲弾が火達磨になっていく。

 

「あ、雨も上がったのか」

 

 これで火が消えることもなさそうだ。

 あとは中から出てきたギルガルドがどうなっているかだな。恐らく、ダメージが一切入ってなさそうだけど。

 

「ぬははははっ! どうだ見たか! 鉄壁の守りを!」

 

 砲弾は破壊できたが、ギルガルドはシールドフォルムへとチェンジしており、球体型の防壁を張っていた。

 あ、キングシールドではなかったか。

 

「では、次はこちらから参ろう! 一ノ太刀・陽炎!」

『フン!』

 

 同じ手は食わないとでも言うかのようにすぐさま背中の手裏剣を投げた。

 

「甘いわ! 同じ手を二度重ねるわけがなかろう!」

 

 まあ、そうだよな。

 次対策してくるのなんて分かり切ってることなんだから同じような動きはしないよな。

 今度はゲッコウガの背後からギルガルドが現れ、その一太刀を振り下ろした。

 

「ぬぅ、姑息な………」

 

 それをお前が言うか。

 ギルガルドが斬り付けたゲッコウガは影であり、斬られた瞬間に消えていった。代わりにギルガルドの真上から黒い手刀が飛んできている。

 

「上だ! 四ノ太刀・旋風!」

 

 ギルガルドが振り下ろした刀身を真っ直ぐと振り上げ、黒い手刀を弾いた。負けじとゲッコウガも左手から黒いオーラを飛ばすも、それを再度上から下に振り下ろすことで一刀両断。再び刀身が振り上げられ、ゲッコウガは消えていった。またしても影だったらしい。

 

「な、何故だ!? 何故斬れぬ?!」

 

 ザイモクザもギルガルドも連続で空かしたことに動揺し始めている。恐らく、ゲッコウガの狙いはこの状況だろうな。

 

「お前が相手していたのは全部影だよ」

『オレが一番嫌いなのは見下ろされたバトルなんでな。これで終わりだ』

 

 すると上空から水でできた鳳が落下してきた。

 ありゃ、水神ルギアだな。

 

「ギルガルド、七ノ太刀・破砕!」

 

 当然のごとく、ギルガルドは鳳を真っ二つに斬り裂くも触れた瞬間にギルガルドが凍りついていく。

 

「なっ………!?」

 

 それには俺も驚きが隠せないでいるが、ザイモクザのは大袈裟すぎると思わなくもない。というかあいつはいつだって大袈裟か。

 

『それは衝撃が加わることで一気に凍るように仕掛けてある。これでギルガルドはブレードフォルムから姿も変えられない』

 

 上から戦況を確認しながら影を操り、相手の動揺を誘っている間に上空で準備をしているとは。しかも仕掛けが今日は一段と手が込んでいる。何だよ、触れた途端に瞬間冷却とか。それでギルガルドを凍りつかせて動きを封じ、尚且つフォルムチェンジも奪う。えがつないわー。

 

『トドメだ』

 

 凍った鳳諸共、ギルガルドを黒い手刀で薙ぎ払った。ドサドサドサと落ちていく氷に紛れ、ギルガルドも地へと落ちていく。

 

「ギルガルド、戦闘不能!」

 

 様子を見に行ったコンコンブル博士が手を上げ判定を下した。

 

「お疲れさん」

『間に合うか賭けではあったがな。早い段階で動揺してくれて助かった。次は任せる』

「おう、休んでろ」

 

 よく間に合ったものだ。

 戻ってきたゲッコウガはふらふらもふらふら。今にもぶっ倒れそうというか今まさにぶっ倒れている。意識はあるが、相当毒が回っているらしい。

 だが、ボールに戻る気はないようでキルリアがつんつんと突っついている。可愛いな、おい。

 

「ヤバいよ、ゆきのん。この二人異常だよ」

「あ、諦めるのよ。元々、この二人はそういう類の人種なのだから」

「いやいやいや、それにしてもですよ。なんですか、毒の雨って………。ヒュドラ? 何をどうしたら、ああなるんですかっ!」

「コマチ、頭痛くなってきたよ………」

「というかみんなして、ハチマンのポケモンも次に出せないくらいにはやられてることに何も言わないの!?」

 

 ご尤もで。

 コルニの言う通り、なんだかんだでみんな負傷して、次のバトルへの持ち越しができなくなっている。ジュカインだけがメガシンカして特性を活かせたがために二体連続で相手にしてられたが、リザードンとゲッコウガは戦闘不能にならずとも戦線離脱である。

 これがイロハたち同士だったら普通の展開なのだが、対俺に関しては勝手が違う。実質相打ちという状況が作り出せるだけで、そいつの実力が相当レベルが高いと見られてしまうのだ。なんせ、チャンピオンにも勝ってる俺だからな。報道系の人間に情報がいけば、それだけでニュースにもなることだろう。マジでそうなったら俺は引きこもるぞ。

 

「どうだ? 俺とはまた違ったベクトルから来るだろ?」

「うむ、やり口は似ているがポケモンならではというものがあったぞ。中々に手強い相手であった」

「ならよかったよ。ゲッコウガにとってもギルガルドのやり口は刺激的だったろうし」

 

 まあ総じて二度とやりたくはないが。

 だって面倒臭すぎる。毎度毎度技が何なのかを見極めないといけないとか、誰が好き好んでやるんだよ。

 

「さて、次がいよいよラストだ。これでやっとお前とのバトルを終わらせられるな」

「はぽん! 久しぶりの刺激故、つい没頭してしまっていたが、もう終わりが近づいているとはな! さあ、ハチマン! 最後まで我らの全てをかけて相見えようぞ!」

 

 しょうがない。

 さっさと終わらせてリザードンたちを回復させることにしよう。

 

「ボスゴドラ」

「ダイノーズ!」

 

 最後の一体はダイノーズか。となると外されたのはロトムということだな。

 

『ハチ、上から見ていて気づいたが、あいつは何か端末を使って随時こちらの動きを分析しているようだった』

「端末?」

 

 ぶっ倒れているゲッコウガが俺を見上げて端末がどうとか言い出した。言う通りにザイモクザの方を観察すると奴の傍に確かに端末のようなものが動いていた。

 

「本当だ」

 

 ということはあいつは戦闘中にあの端末から色々と情報を引き出していたということか?

 ルール上、特に決めていない内容だし違反にはならないが………。そうか、恐らく渡したのはシトロン辺りだろうな。何やら仲良さげだったし。

 

「では参る! ダイノーズ、モード第七位! すごいパーンチ!」

 

 ん?

 すごいパーンチ?

 第七位?

 第六位じゃなくて?

 てか、それよりも防御しないとか。

 

「ボスゴドラ、てっぺき」

 

 チビノーズ三体を鉄壁で受け止めるも衝撃で後方へと弾き飛ばされていった。もの凄いパワーだな。

 

「もう一発ぅぅぅ!! すごいパーンチ!!」

 

 今度は地面にひびが入り、破片が重力に逆らって昇っていく。

 

「ロックカットで躱せ」

 

 単に受け止めるだけではこちらが不利になるだけ。ならば、ダメージを受けないように躱した方が後を考えると殊勝だ。

 

「色彩爆発!」

 

 そのままダイノーズの方へと突っ込んでいくとカラフルな爆発が起きた。

 あれ、もしかしてもしかしなくても第七位の謎の爆発を再現してるのか?

 そもそもあれは攻撃用ではなかったような………。

 

「ドラゴンダイブ」

「超速度で躱すのだ!」

 

 青と赤の竜を纏った突撃もダイノーズを目の前にして躱されてしまったか。技は恐らく素早さアップにロックカット、浮くためのでんじふゆうってところだろう。

 後ろからはチビノーズたちも来ているし、ここはまずあの三体を落とすとしよう。

 

「アイアンテールでチビどもを薙ぎ払え」

「させぬ! ダイノーズ、完全防御!」

 

 鋼の尻尾を振り回した瞬間、ダイノーズにより受け止められた。

 

「今だ! すごいパーンチ!」

 

 そして三度目のすごいパーンチ。

 恐らく破片が重力に逆らって昇っていく方はダイノーズによるげんしのちから。そして、げんしのちからの力で底上げされた攻撃力でばくれつパンチといったところだろうか。

 はあ………マジで毎度頭をフル回転させるのが疲れてきた。

 

「だいちのちから」

 

 振り返っているようでは反撃できないのは目に見えている。それなら、見なくてもいい技を出すしかないだろう。

 ボスゴドラが地面を一踏みすると背中側に地面からエネルギーが放出した。しかも丁度チビノーズたちを巻き込んでいる。壁にでもなればと思ったんだがな。

 

「根性見せるのだぁぁぁ!」

 

 いや、根性だけでどうにかなるのは特性だけだろ。

 

「ゴラァ!?」

 

 と思ったが、まさかの根性で再攻撃してきた。

 えー………、いつからお前らは根性論で片付けるような育て方にしたんだよ。ヒラツカ先生に弟子入りでもしたのん?

 

「………ったく、根性論まで真似しなくてもいいだろうに」

 

 こうなった素早さを上げて、さっさと全員落としてしまおう。

 

「ボスゴドラ、ボディパージ」

 

 身体を軽くしてちょっとでも回避能力を上げて。

 

「もう一発ぅぅぅ! すごいパーンチ!!」

「でんじふゆう」

 

 そして身体を浮かしたところで、チビノーズたちが目の前にやってきた。

 

「カウンター」

 

 どうせ来るのは分かっているんだし、毅然と待ち構えて打ち付けてきたところで反撃に出る。

 チビノーズたちはボスゴドラに弾かれるように飛んでいき、ダイノーズへとダイブしていった。

 

「色彩爆発!」

 

 距離を詰めると先程のカラフルな爆発を起こしてきた。やはりまだ倒れてなかったか。

 

「躱してばかぢから」

 

 左に躱してから一直線に突撃していく。

 弾け飛んだダイノーズは地面を二、三度バウンドしピタリと動かなくなった。チビノーズたちも固まっている。

 

「ダイノーズ、戦闘不能! よって、勝者ハチマン!」

 

 恐らく特性はボスゴドラと同じがんじょうだったのだろう。というかチビノーズは攻撃したところで本体のダイノーズへのダメージにはならないってのが腹立つわ。数の暴力じゃねぇか。

 

「はあ………やっと終わった。もうやりたくない」

「ゴラァ……」

「お前もそう思うか? 出してきた技を予想するのも面倒だよな。ボスゴドラもお疲れさん」

 

 ボスゴドラを労ってからボールへと戻すと、ザイモクザもダイノーズをボールへと戻していた。

 

「ハチマン、我らも強くなっていたであろう?」

「ああ、そうだな。強いというかウザいってのが本音だわ」

「あれー? ひょっとして我嫌われてる?」

「そう悲観することはないわよ。ウザいというのはそれだけハチマンを追い込むことができたということだもの」

「ユキノ、お前な………」

 

 素直にそう褒めたらまたバトルしろとか言われるだろうが。俺もう嫌だからね?

 

「ハチマーン! やっぱりハチマンはすごいね! アレだけのバトルを冷静に対処してたんだもん! 僕にはついていくのがやっとだったよ!」

「トツカ、あれは慣れみたいなものだぞ。ザイモクザが使っていたのはネタ元を知っていたから対処できたまでだ」

 

 知らなかったらどうなっていたことやら。それこそ、トツカみたいについていくのがやっとだったかもしれないし、対処するのもポケモンたちの勘に頼っていたかもしれない。

 

「トツカ氏よ、キーストーン助かったのである」

「ううん、いいよいいよ! それよりもすっごいバトルだったよ! ハチマンとあれだけできるなんてすごいことだよ!」

「そう言ってもらえると我もハチマンとバトルした甲斐があるというものよ」

 

 お前、トツカからキーストーンを借りてたのかよ。通りで知らなかったわけだ。

 

「トツカ氏よ、トレーナーは才能が必要かもしれぬ。ポケモン側も才能が大部分を占めるであろう。しかし、お互いに強くなりたいと願うのであれば、それはきっと新たな力を生み出すことになるのだと思う。だがそれは、不明瞭で答えのない茨の道とも言えるだろう。だからトツカ氏よ。指示を出すトレーナー側が先に思考を止めてはならぬ。見聞を広め、知識と経験を蓄えるのだ。それがいずれお主らの武器となるであろう。………とハチマンの背中が雄弁に語っているぞ」

 

 こいつ、トツカとコマチを送り出すためにこのバトルを吹っかけてきたのか?

 それにしても俺を出汁に使うとは。もうちょっと自分の言葉ってことにしておけよ。

 

「最後くらい自分で締めろよ。俺を使うな」

「実に見事なバトルだったんよ。命の危険を何度味わったか」

「案外しぶといっすね」

「そりゃ簡単にくたばるわけにはいかんよ」

「ヘラクロスもご苦労さん」

「ヘラ!」

 

 よくもまああれだけのバトルを間近にしてピンピンしてられるな、このヘラクロスも。やはり実力者のポケモンというだけのことはあるということか。

 

「まあ、コマチにとっては二人のバトルはハイレベルすぎて参考になりませんでしたけどねー」

「ぐはっ!?」

「ちょ、コマチちゃん!?」

 

 おっと、ザイモクザに効果抜群だ。

 コマチにはザイモクザの思いが伝わってなかったかー。

 

「でも、お兄ちゃんにもユキノさんたちの他に対等にバトルができる人がいるのが知れたのでよかったです。これで安心してお兄ちゃんを置いていけますよ」

「ちょっとー、コマチちゃんー?」

 

 なんか巻き込まれて事故に遭ってるんですけどー。

 よし、話変えよう。

 

「それで、ザイモクザ。バトルしている時から気になってたんだが、その端末? は何なんだ?」

「む? これであるか?」

『ボクはロトム辞典! ポケモンの知識ならお任せロト!』

 

 おお、喋った。

 てか、ロトムが入ってんの?

 

「おや、これはアローラのポケモン図鑑じゃないか! シトロン君にもらったのかい?」

「うむ、ただポケモン図鑑そのままだと運命力が働くかもしれないと言われて中身を別のシステムに変えてあるがな」

「ほほう、ロトム図鑑の正式名称はロトム・ポケデックスフォルムというんだけど、これはそのままそう呼ぶのかい?」

「それはシトロンに確認してみなければ分からぬが、インデックスから来ておるのか?」

「うん、そうだよ。ポケモン図鑑はある意味目次欄みたいなものだからね」

「インデックス………やはり我はあの作品と縁があるということか」

「なに? 禁書でも入ってんの?」

『容量は10万3000冊に該当するロト』

「まんまかよ」

 

 何故そこでその数字が出てくるんだよ。つか、容量多すぎじゃね?

 

「はあ………今回はやけにあのシリーズに拘ってたみたいだが」

「どうせ超電磁砲を習得したのだから、他のレベル5もやっておこうかなと」

「おかけでもうお前とは二度とバトルしたくなくなったわ」

「ええー」

 

 ええーって。

 そんな残念がられても困るだけで嬉しくねぇよ。

 

「あれ? そういえばゲッコウガは?」

「あそこで爆睡中だ」

 

 コルニが聞いてきたため、未だバトルフィールド場外で倒れているゲッコウガを指差した。

 

「ほんと自由だね」

「毒が回ってたからな。寝て回復してるんだろ」

「それなら早くポケモンセンターに連れてこうよ。リザードンたちも回復しなきゃでしょ」

「それな」

「では、話の続きはポケモンセンターでということにしましょうか」

 

 ユキノの言葉で全員が移動の準備を始めた。

 さて、リザードンも出せない俺はどうやって移動したらいいんだろうな。満潮時に近くてとてもじゃないが歩けないぞ?




行間

ヒキガヤハチマン 持ち物:キーストーン 菱形の黒いクリスタル etc………
・リザードン(ヒトカゲ→リザード→リザードン) ♂ 
 特性:もうか
 覚えてる技:かえんほうしゃ、メタルクロー、かみつく、おにび、えんまく、はがねのつばさ、かみなりパンチ、ドラゴンクロー、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、かみくだく、カウンター、じしん、フレアドライブ、ブラストバーン、げきりん、じわれ、だいもんじ、ソーラービーム、リフレクター、はらだいこ、ぼうふう、ねっぷう、あなをほる、れんごく、かげぶんしん
 飛行術
 ・ハイヨーヨー:上昇から下降
 ・ローヨーヨー:下降から上昇
 ・トルネード:高速回転
 ・エアキックターン:空中でターン
 ・スイシーダ:地面に叩きつける
 ・シザーズ:左右に移動して撹乱
 ・ソニックブースト:ゼロからトップに急加速
 ・コブラ:急停止・急加速
 ・ブラスターロール:翻って背後を取る
 ・グリーンスリーブス:連続で攻撃して空中に釣り上げる
 ・デルタフォース:空中で大きな三角形を描くように連続攻撃
 ・ペンタグラムフォース:空中で五芒星を描くように連続攻撃
 ・バードゲージ:スピードを活かして相手の動きをコントロールしていく
 ・スモール・パッケージ・ホールド:背面飛行で相手の下を飛行する

・ゲッコウガ(ケロマツ→ゲコガシラ→ゲッコウガ) ♂
 特性:きずなへんげ(へんげんじざい→きずなへんげ)
 覚えてる技:みずのはどう、あなをほる、かげぶんしん、れいとうパンチ、れいとうビーム、つばめがえし、ハイドロポンプ、くさむすび、グロウパンチ、えんまく、がんせきふうじ、いわなだれ、まもる、かげうち、みずしゅりけん、どろぼう、つじぎり、ハイドロカノン、めざめるパワー(炎)、とんぼがえり、とびはねる、ほごしょく、けたぐり、ぶんまわす、あくのはどう、どろあそび、ふぶき

・ジュカイン(キモリ→ジュプトル→ジュカイン) ♂
 持ち物:ジュカインナイト
 特性:しんりょく←→ひらいしん
 覚えてる技:でんこうせっか、リーフストーム、リーフブレード、ドラゴンクロー、タネマシンガン、ギガドレイン、かみなりパンチ、スピードスター、くさむすび、ソーラービーム、エナジーボール、シザークロス、くさのちかい、マジカルリーフ、タネばくだん、こうそくいどう、つめとぎ、いやなおと、こうごうせい、くさぶえ、やどりぎのタネ、グラスフィールド、なやみのタネ、ハードプラント、つばめがえし、ものまね、みがわり、じならし、アイアンテール、けたぐり、つじぎり、グロウパンチ、まもる

・ヘルガー ♂
 持ち物:ヘルガナイト
 特性:もらいび←→サンパワー
 覚えてる技:かみつく、ほのおのキバ、ふいうち、おにび、かえんほうしゃ、かみくだく、れんごく、ほえる、はかいこうせん、アイアンテール、あくのはどう、みちづれ、だいもんじ、ハイパーボイス、ヘドロばくだん、ちょうはつ、ほのおのうず、まもる

・ボスゴドラ ♂
 持ち物:ボスゴドラナイト
 特性:がんじょう
 覚えてる技:ロックブラスト、あなをほる、なげつける、メタルクロー、アイアンヘッド、アイアンテール、てっぺき、メタルバースト、ボディパージ、ヘビーボンバー、ロックカット、ほのおのパンチ、もろはのずつき、ラスターカノン、ドラゴンダイブ、でんじふゆう、だいちのちから、カウンター、ばかぢから

・キルリア(ラルトス→キルリア) ♀
 特性:シンクロ
 覚えてる技:リフレクター、ねんりき、まもる、テレポート、マジカルリーフ、シャドーボール、マジカルシャイン、トリックルーム


ゲッコウガ
・ニダンギル(ヒトツキ→ニダンギル)
 特性:ノーガード
 覚えてる技:ラスターカノン、せいなるつるぎ、つばめがえし、かげうち、つじぎり、シャドークロー、きんぞくおん

・キリキザン
 特性:まけんき
 覚えてる技:つじぎり、くろいまなざし、ロックカット

・アギルダー
 特性:うるおいボディ
 覚えてる技:スピードスター、むしのさざめき、ギガドレイン、みずしゅりけん、こうそくいどう、かげぶんしん、こころのめ、はたきおとす、バトンタッチ

・ダンバル(色違い)


ザイモクザヨシテル
・ポリゴンZ(ポリゴン→ポリゴン2→ポリゴンZ)
 特性:てきおうりょく(トレース→てきおうりょく)
 覚えてる技:トライアタック、でんじほう、ロックオン、じこさいせい、テレポート、れいとうビーム、かえんほうしゃ、はかいこうせん、テクスチャー2、こうそくいどう、でんじは、かげぶんしん、テクスチャー、めざめるパワー(水)、サイコキネシス、エレキネット、サイコウェーブ、あくのはどう、ギガインパクト、めいそう

・エーフィ(イーブイ→エーフィ) ♀
 特性:シンクロ(てきおうりょく→シンクロ)
 覚えてる技:でんじほう、サイコキネシス、はかいこうせん、シャドーボール、めいそう、サイコショック

・ジバコイル
 特性:じりょく
 覚えてる技:でんじほう、ロックオン、ジャイロボール、エレキフィールド、かげぶんしん、めざめるパワー(炎)、テレポート、ほうでん、ラスターカノン、だいばくはつ、すなあらし

・ダイノーズ ♂
 特性:がんじょう
 覚えてる技:でんじほう、ロックオン、マグネットボム、てっぺき、めざめるパワー(地面)

・ギルガルド(ヒトツキ→ニダンギル→ギルガルド) ♂
 特性:バトルスイッチ
 覚えてる技:てっぺき、きりさく、つばめがえし、せいなるつるぎ、ラスターカノン、つじぎり、キングシールド、めざめるパワー(鋼)、シャドーボール、れんぞくぎり、どくどく、あまごい、かげぶんしん、まもる

・アブソル
 持ち物:アブソルナイト
 特性:きょううん←→マジックミラー
 覚えてる技:メガホーン、サイコカッター、アイアンテール、だいもんじ、あくのはどう、とびはねる、みらいよち、つじぎり、ふぶき、はかいこうせん、ふいうち、みずのはどう、かげぶんしん

控え
・ロトム(ポケデックスフォルム) ロトム辞典
 特性:ふゆう
 覚えてる技:ほうでん、めざめるパワー(草)、シャドーボール、でんじは


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ぼーなすとらっく30『終わりの始まり』

アニメの方も最終回となりましたが、こちらも今作の最終回となります。
前回に比べたらすごく短いですが、有識者会議から三日後の話です。
タイトル通り、次回作への伏線回となっています。

長編シリーズとなっておりますが、ご愛読いただきありがとうございました。予定より半年程長くなりましたが、ようやく一区切りつけることが出来ました。これも皆々様のおかげです。
次作はいずれ用意し投稿しようと思いますが、少しお時間をいただくことになると思います。
次回作では今回の続きに加えて、ご希望のあった月関連のポケモンたちやウツロイドが託した球体、それと度々登場したカラマネロたちについてしっかりと回収していきます。
また、pixivの方で時系列順に今作を修正しながら投稿していこうと思いますので、そちらもよろしくお願いします。
それではまた次回作でお会いしましょう。


 カントーでの博士たちによる会議も終わり、一日入院して何とかカロスへと帰ってくることができた。脳にも異常はなく、至って身体は健康体。疲労は残っているものの、ウツロイドの毒も体内で上手く解毒できていたようだ。

 クチバの街もジム周辺が荒れた状態になっているくらいで、民間の死傷者はゼロ。ただし………、その代償はあまりにも大きすぎた。

 

「帰ってきましたね、カロスに」

「ああ………」

 

 俺はイロハに手を引かれながら空港から出た。一日ぶりの太陽光に目が焼かれる気分だ。

 

「………ちゃんと、報告しないとですね」

「っ……! そう、だな………」

 

 会議は無事に終了したこと、その後にカラマネロたちに襲われたこと、そしてジュカインがアクジキングに食われたことを全て俺の口から話せと言っているのだろう。

 分かっている。ジュカインはあいつらにとっても家族のような存在なはずだ。だからその最後を話す義務が俺にはある。あるのだが………。

 

「っ………」

 

 やはり思い出すだけで吐き気がする。話そうとしても言葉が出てこない。口から漏れるのは息と相槌だけ。

 確かにあいつがまだ生きていると信じたい。信じてあいつの帰りを待ちたいと思ってはいるが、頭と心のバランスが上手く取れなくなっている。そのせいで身体までもが拒否反応のように吐き気を催すようになった。多分、それを無視したら俺はぶっ壊れるところまできているのだろう。

 やめよう、考えるのは。考えたところであいつがすぐに戻ってくるわけでもない。俺は迎えに行くとは誓ったが、この状態ではそれもまだ難しいのが事実。動けるのは俺自身の頭と心と身体のバランスが取り戻した時だ。慌てるな。まずは俺自身を落ち着かせろ。

 ………そうだ。それよりもバトルフロンティアの構想をもっと練るようにしよう。普段後ろ向きな性格なのは自覚しているが、今は前を向いていないと堕ちるところまで堕ちそうな気がする。そうなったら二度と戻ってこられないと、どこかで確信しているところがある。未来を、見ることにしよう。

 

「すー……はー………、近々ホウエン地方に行こうと思う」

「へ? なんでまた急に………あ」

 

 何かを察したイロハだが、多分ジュカインの出身地でも思い出したのだろう。

 

「お墓作りに行くんですか?」

「いや、墓は作らない。作ったら、それこそあいつが本当に死んだことになっちまうだろ。それは………まだ、俺が受け入れられない」

「そう、ですか………」

「ちょっと野暮用でな。これからの身の振り方も含めて相談しに行くんだよ」

「え? それって………?」

「別にお前らを放ってどこかに行こうってわけじゃない。むしろ逆だ。全員連れていくにはどうするかっていうのを話に行くんだ」

 

 ゆったりと歩きながら、俺の歩くペースに合わせるイロハの方を見た。その顔は置いていかれるのかという不安の目をしている。

 まだバトルフロンティアのことは言えないからな。ホウエン地方へ行く理由を事細かに説明することも憚られる。とにかくずっと一緒にいようと考えていることだけは伝えておかないと。イロハだけでなくユキノたちも不安にさせてしまうだろう。

 

「僕はいいと思うよ。今回のことで君が如何に狙われやすい存在なのか、改めて身に染みたからね。君だけが損するような、そんな生き方は僕はして欲しくない。それこそ、僕たちが足枷になっていたのなら身を引くことだって視野に入れているくらいにはね」

「博士………」

「いや、それをやるんだったら社会的にってところだけにしておくつもりだ。物理的にまで今の関係を切るくらいなら、俺は悪を潰す方を選ぶ」

 

 流石は大人な対応と言っておくべきか。

 だが、昔の俺なら即行で関係を絶ってただろうが、カロスに来て人との繋がりを手にしてしまった今の俺には、関係を絶つことなんて頭の片隅にもない。そこまでしてフェードアウトするのなら、いっそ狙ってくる奴らを根絶やしにした方がましだ。

 

「ただ、やはり俺は表舞台に立つべき人間ではなかった。選択を間違えたんだ。裏社会に名前が売れている奴が表社会でも名を轟かせたら、そりゃ狙われるのも理解できる。俺はここにいる。やれるものならやってみろ。そう捉えられてもおかしくなかったんだよ」

 

 あの日。

 独立しないかと言われた日、俺はユキノシタ家を取り込む以上、俺もそれなりの地位を確保する必要があると思った。それと同時にポケモン協会理事という最高権力を手に入れれば、いずれユキノたちとも結婚ができるのではないかという野望を抱いてしまった。

 多分、その二つの野望が俺を破滅へと導く甘い誘いだったのだ。俺はそれに気づかず、まんまと表舞台の地位を手に入れてしまった。そして、その結果がロケット団の内争やギラティナとデオキシスの襲撃を呼び寄せてしまい、終いにはジュカインがウルトラビーストに食われるという最悪の結末を生んだのだ。

 

「いつかは、とは考えていたけど、こうも展開が早いと何のために表舞台に立ったんだかと嘆きたくはなる。だけど、そうも言ってられないのが現状だ。俺は今までにお前らの人生を歪めて来ているし、そのせいでお前らをいざこざに巻き込まれやすくしてしまったんだ。だから、ポケモン協会という組織的テリトリーじゃなくて、もっと大きな物理的テリトリーが必要なんだ。守るためにはそれしか浮かばない」

 

 物理的なテリトリー。

 要するに俺の国だな。けど、それは無理な話だから、せいぜい島がいいところか。人工島なら色々システムを導入すれば海上移動もできたりしてな。

 

「散々振り回して悪かった。けど、もう一度だけ俺にチャンスをくれ。今度こそ、俺はお前たちを守ってみせる」

 

 ちょっと力んでしまい、繋いでいるイロハの手をぎゅっと握りしめてしまった。

 だが、イロハはそんな俺の手を優しく握り返しながら言葉を続けた。

 

「………はあ、先輩はおバカさんですね。別に私は、いや私も含めてみんな先輩に守ってもらおうとは思ってませんよ」

「え………? は? あれ? 俺嫌われてる?」

「違いますよ! 逆に今まで守られてばかりだったんだから、今度は私たちが先輩を守る番なんです! それを先輩が先に動いちゃうから、結局私たちが守られちゃうんですよ!」

「それは、なんというか………すまん」

 

 何故俺が謝る必要があるのかはさておき、思い返せば俺も結構守られていると思うんだよなー。特にユキノには。あいつの場合、リザードンが暴走した時の唯一の対処できる存在だったし、あいつらがいるからこそ俺は戦えていたって面もある。そうじゃなきゃ普通に逃げていると思うぞ。

 

「けど、じっと見てるってのも無理だろ。俺には対処できるだけの力があって、それを行使すれば状況を一変できるんだ。ただ見てるだけなんてことはできねぇよ」

「そういうところですよ。先輩のいいところは」

「………そうか。ありがとな」

「でも、だからこそ。私たちも守りたいって思っちゃうんです」

 

 …………。

 じっと見上げてくるイロハの目は何かを決意したような、そんな強い眼差しをしていた。

 敵わねぇな、イロハたちには。

 

『ッ!? ハチ、止まれ!』

 

 ッ!?

 あ、ちょ、………と!

 あっぶな……、斬られるところだったわ。

 それにしても。

 

「………ゲッコウガ?」

 

 うちのゲッコウガさんが反応したのはこちらを凝視してくるゲッコウガだった。

 敵か?

 

「ジュカ………チッ……リザードン、ドラゴンクロー」

 

 タイプ相性も考慮してジュカインを出そうとし、ボールに手をかけたところでジュカインがいないのを思い出した。仕方なくリザードン のボールに手をかけ開封。

 

「キャーッ!?」

「に、にげろーっ!」

 

 どうやら大衆に紛れ込んだ奴が何かしようとしているらしい。敵はゲッコウガを仲間にしている。そっちの相手はうちのゲッコウガに任せるとしても主犯を特定しないことには解決も何もない。

 

「イロハ、ポケモンを出しておけ。博士を頼む」

「は、はい! 出てきてマフォクシー、ボルケニオン!」

 

 博士のことはイロハに任せて再度周囲を確認する。

 すると今度はニョロボンとマリルリが突っ込んできていた。

 

『フン、水は任せろ!』

 

 前に踊り出たのはイロハのボルケニオン。

 二体のみずのはどうを背中のホースで吸収していった。

 

「ボルケニオンの特性はちょすいです! だからここは任せてください!」

 

 なるほど、そういうことか。

 それなら俺は犯人を特定するとしようか。

 

「ッ、……上だ。リザードン」

「シャア!」

 

 何か音がすると思ったら太陽が隠れて、何かが上から落ちて来るところだった。

 あれは………ゴルーグか?

 

「リフレクターを重ねろ」

 

 重量系が落ちて来るというのは何とも対処がし難い案件だな。

 しかもゴーストタイプも併せて持つゴルーグはいつ消えるかも分からない。まあ、ゴルーグが消えるというゴーストタイプ特有の能力を使うところは見たことないが、してこないとも限らない。それがゴーストタイプの恐ろしいところだ。見えなくなれば動きようがない。その隙を突かれてしまえば、こちらの終わりだ。

 

「サーナイト」

「サナ!」

「いつでも技が出せるようにしておいてくれよ」

 

 俺の今の手持ちポケモンは四体しかいない。

 それに、気づけば多数のポケモンに取り囲まれている。

 これは俺の暗殺を企んでいるということでいいのだろうか。少なくともイロハが狙いということはないだろう。博士か俺か。

 一撃目のゲッコウガは俺を狙っていたようだし、俺狙いという可能性の方が高いとは言えるが、博士やイロハも狙われないとは限らない、か。

 

「先輩、取り囲まれてます!」

「ああ、分かってる!」

 

 イロハだけでなく博士までもがガブリアスを出して臨戦態勢に入っている。

 これは相当手の込んだ計画ということだろう。何かの事故で野生のポケモンに異常があって、という出来事ではない。

 

「サーナイト、サイコキネシス。ゴルーグの動きを止めてくれ」

「サナ!」

 

 こっちもゴルーグ以外に増えやがったか。

 リザードンの数枚重ねのリフレクターを突破したゴルーグの影から鳥系のポケモンがわんさかと湧いていた。

 まずはゴルーグだが、リザードンにはこのまま上空を制圧してもらうしかないな。

 

「リザードン、上空は任せた!」

「シャア!」

 

 こんな街中で、真昼間から大衆を巻き込んだ暗殺計画とは、どうやら主犯は周りのことはお構いなしなようだ。

 ーーー巻き込まれて怪我しようが最悪死のうが関係ない。巻き込まれた方が悪い。運が悪かったーーーそういうスタンスなのだろう。

 

『メタグロス! ハチの指示で動け! キリキザン、アギルダーはそいつらを始末しろ!』

 

 おっと?

 これは、メタグロスを使えということか?

 なんと助かる。

 

「すまんが、協力してくれ」

「メダァ」

 

 俺の方へとやってきた色違いのメタグロスに一言言っておく。ゲッコウガのポケモンといえど、やはり俺のポケモンというわけではないからな。ちょっと難しい関係ではあるが、普段から普通に接してるしオーダイルやユキメノコに近い関係というのが妥当かもしれない。

 

「フライゴンとカブリアスはリザードンを手伝ってきて!」

「……すまんな」

「いえいえ、言ったじゃないですか! 私たちだって先輩を守りたいんです!」

「そうだったな。よし、とにかくこいつらを叩き潰すぞ」

「はい!」

 

 ったく、あざとかわいいやつめ。

 とにかく今はこいつらを倒して主犯を捕えないとな。

 

「メタグロス、コメットパンチ。サーナイト、サイコキネシス」

 

 既にカエンジシやギャラドスたちに囲まれている。というかまた増えてるな。人が逃げて減ったことで増員してきたってとこか?

 

「先輩、私たちはビークインやルンパッパをやってきます!」

「了解」

 

 あっちはあっちで取り囲込まれてるし。

 さて、どうするか。

 こんな街中で襲撃とか正気の沙汰じゃない。だが、それを逆手に取られてリザードンのぼうふうを使えないでいる。あれを使うと後の被害の方が怖いからな。こんな街中で使えば建物を壊す可能性が高い。それで中の人や外の逃げている人たちに死傷者が出れば、正当防衛だとかも言ってられないだろう。社会とは面倒で理不尽な世界だ。英雄から大罪人に成り下がるのなんて一瞬である。

 

「リザードン、ペンタグラムフォース!」

 

 ならば、あのピジョンやピジョット、ファイアローを落とすためには他の技で代用するしかない。

 んで、次はこっちだな。

 

「エル!」

 

 斬りかかってきたのはエルレイド。父ちゃんではないエルレイドだ。

 

「サーナイト、エルレイドにシンクロノイズ」

 

 まあでも、その父ちゃんのおかげで対処法は完成している。

 

「メタグロス、シャドーボールで吹っ飛ばせ」

 

 エルレイドがノイズに怯んだところをメタグロスの黒紫の弾丸で吹っ飛ばした。エルレイドはフーディンやフラージェスを巻き込んでいったが、その両脇からヒトツキやニダンギルが飛び出してきた。あの集団には恐らくギルガルドもいることだろう。なんて厄介な。一月前にザイモクザとバトルをしたせいで、余計に面倒なイメージがついてしまっている。ああはならないだろうが、俺たちに敵意を向けている以上、何をしてくるのか分からないため、こっちの方が恐ろしいまである。

 

「サーナイト、シャドーボール」

 

 ヒトツキとニダンギルに黒紫の弾丸を放ち、吹っ飛ばしていく。

 

「ああもう、面倒くさい! デンリュウ、メガシンカ!」

 

 あ、イロハがイライラし始めた。

 分からなくはないが、目的を見失うことだけはやめてくれよ。

 

『テメェとの格の違い、見せてやるよ』

 

 ゲッコウガもお怒りモード、姿を変えやがった。

 それ程、あのゲッコウガもやるということか。主犯は俺たちを襲撃するために、ゲッコウガにゲッコウガを当てることで足止めしようって魂胆なのだろう。しかも相当強いゲッコウガを仲間に引き寄せられるだけの何かを持ち合わせている強者だ。

 

「俺も、と思ったが………ジュカインがいないんじゃ意味ないな………」

 

 今はヘルガーもボスゴドラもいないためメガシンカ枠が一体もいなくなってしまっている。

 やっぱりジュカインは俺のパーティーにとって重役を担っていたんだな。寂しさが募るばかりだ。

 

「メタグロス、ゴルーグにコメットパンチ」

 

 いつの間にか再起していたゴルーグがノッシノッシと歩いてきている。

 あれは何気にヤバい気がする。強いというよりは無作為に攻撃しそうな雰囲気がある。ビームでも出されれば被害は相当なものになるだろう。それだけは避けなければならない。

 

「サーナイト、リザードンが落としたピジョットたちをサイコキネシスでゴルーグの前に出してくれ」

 

 盾がないため、相手の仲間と呼べるのか怪しいピジョットたちを盾に使わせてもらうことにした。

 これでゴルーグが攻撃してきたら、野生のポケモンが操られている可能性が高くなる。

 

「そのまま防壁を張ってくれ」

「サナ」

 

 防壁を張ってゴルーグの反応に備える。

 

「グルーガァァァアアアアアアアアアッ!!」

 

 はかいこうせん。

 一緒に襲ってきているのは仲間ではなくただの同業者というわけか。つまりは操られてると見た方が良さそうだ。

 

「バォ!」

「ムアー!」

 

 おいおい、オンバーンにエアームドって。こいつらは空担当じゃねぇのかよ。

 

「メタグロス、コメットパンチ。サーナイト、サイコキネシス。オンバーンとエアームドを通させないようにな」

 

 はかいこうせんで防壁は壊れてしまったため、ゴルーグを意識しながらも先にオンバーンとエアームドを落とすことにする。

 メタグロスの両前脚がオンバーンを吹っ飛ばし、その間にサーナイトが超念力でエアームドを押さえつけていく。

 

「メタグロス、そのままエアームドにかみなりパンチ」

 

 このメタグロス、ダイゴさんのポケモンから生まれただけあって超優秀だな。ゲッコウガめ、いいポケモンをもらいやがって。

 動かない的となったエアームドに電気を纏った前脚を振りかざし、飛ばしたオンバーンの方へと突き飛ばした。

 

「「ニャス!」」

「チッ、次はニャオニクスたちかよ。キリがねぇな………。一体どんだけ用意してるんだ?」

 

 主犯は現れないし、倒しても倒しても次のポケモンが襲ってくる。やはり何というか操られている? そんな感触が肌に触る。

 さて、ニャオニクス二体を生身でどうにかできるわけではないし、引き付けてから躱すか?

 

「これで終わりだ、忠犬ハチ公。死ね」

 

 ッ!?

 意識がニャオニクスたちにいった瞬間、背後から怪しい声がした。

 

「ーーーぐぁッ!?」

 

 な、なんだ………?

 背中が、熱い……………?

 それに急に全てが止まっているように見えてきた。

 あ、倒れる………。けど、力が……………。

 

「先輩?!」

 

 イロハが、俺の異変に気付いた、のだろう………。

 ああ………俺、刺された、のか………?

 一体誰に………?

 

「イロハちゃん、行きなさい!」

「先輩!!」

『あいつは………カラマネロッ?! それにあの男………!』

 

 イロハの声が聞こえる。

 そりゃそうか。叫んでるんだもんな。

 でも、何で叫んで…………?

 

『クソ、邪魔だこのボンクラァァァ!』

「ぁ、ぅ………っ!?」

 

 まだ、だ。

 ゲッコウガが敵のゲッコウガを倒した背後から、今度は人間じゃなくて触手が伸びてきている。

 視界がぼやけてくっきりとは見えないが、それでもイロハが俺のところへ飛び込んできているのは、なんとなく見える。一番距離が近いからだろうか。

 ーーー多分、狙いはイロハだ。

 

「ぃぉ、ぁ………!」

 

 声もまともに出ない………。

 けど、それを気にしていたらイロハが、刺されるーーー!

 

「ぁぅぁ………っ?!」

 

 何とかイロハと触手の間に割って入るのに成功した、けど………今度は、腹に、かよ…………。

 何かの触手が俺の腹を貫いた。最早痛いとか熱いとかの感覚も麻痺しており、そういう刺激が薄い。

 

「がはっ!!」

 

 多分、今血を吐いてる、よな。腹からも血がブシャッ! と吹いているだろう。

 つか、なんで俺はこんな冷静に分析してるんだよ。もっとやること………ああ、もうそれすらも、無理、なのか………。感覚が………あ、もう無理だーーー。

 

「先輩!? 先輩!! しっかりしてください!! 先輩!!」

 

 その場に倒れたであろう俺の身体を何かが受け止めたような気がした。十中八九、イロハだろうな。

 ぼんやりとした目に映るのは青い空。まだ色の判断はできているようだ。

 …………俺、このまま死ぬのか?

 はは……、ジュカインがアクジキングに喰われたのも俺の最後がこんな形なのも、全て俺の行いに対する報いか。天が俺を裁きに来たんだな。それだけのことをして来たと言われれば認めるくらいの自覚はある。

 けどな、そんなことで諦められるかよ。俺だけならまだいい。それをジュカインまでも連れて行くとか言語道断だ。神だろうが運命だろうが、俺以外までもを巻き込んで裁こうっていうなら、俺は抗ってやる。

 

「ウツ、ロイド………」

「しゅるるるぷぷ、しゅるるるぷぷ」

 

 何とか絞り出した声と力でウツロイドを召喚した。もう指を動かすのも感覚がなくなってきていて難しくなっている。今ので最後だろうな。

 

「ちょ、あ、せ、先輩!? か、返して! 返してよっ!」

「お、おい………! あれヤバくね?!」

「ポケモン協会の人だろ? あの人」

「人が、ポケモンに呑み込まれてる!?」

 

 恐らくウツロイドは俺に寄生しているのだろう。何かに包まれていく感触がある。イロハは突然の奇行に俺を取り戻そうと必死なようだ。

 ーーーああ、きたきた。身体が軽くなっていく。ウツロイドの毒が回ってきたのだろう。

 さて、この後どうするかはウツロイドに委ねよう。取り敢えずはこれで死ぬことはないはずだ。なんせウツロイドは俺を死なせるメリットがないからな。よく分からない球体を託してくるくらいだ。毒を以ってギリギリのラインを保ってくれさえすればいい。さすがに傷口を塞げとか言ってもできるわけないんだからな。

 ………ああ、そうだ。ウツロイドに託されたあの球体のことも何も解決してなかったな。俺にはまだまだやるべきことがたくさんある。それに帰りを待ってくれている奴らもいるんだ。だから俺は死ねない。死にたくない。あいつらの想いにまだ何一つ応えてやれてないんだ。絶対に、生きて帰ってやる。

 ただ今は………。眠い、ひたすら眠い。意識が遠のいていくのが分かる。

 

「ーーーライ」

 

 んがっ!?

 な、んだ、この引っ張られるような感覚ーーー!

 毒のおかげで傷口がどうなろうが、痛みがないのがせめてもの救いか。

 

『行け、サーナイト!』

「サナァァァーッ!!」

「うぇ?! サーナイト!?」

 

 ウツロイドが何かに引っ張られ、俺の身体も強引に引っ張られている間。

 ウツロイドの毒が全身へと回って行き意識を失う直前、サーナイトがウツロイドの触手に飛びついてきたのが見えた………。

 

「ーーーうそでしょ、ハチマン………間に、合わなかった………ッ!」

 




行間

ヒキガヤハチマン 持ち物:キーストーンetc………
・リザードン(ヒトカゲ→リザード→リザードン) ♂
 特性:もうか
 覚えてる技:かえんほうしゃ、メタルクロー、かみつく、おにび、えんまく、はがねのつばさ、かみなりパンチ、ドラゴンクロー、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、かみくだく、カウンター、じしん、フレアドライブ、ブラストバーン、げきりん、じわれ、だいもんじ、ソーラービーム、リフレクター、はらだいこ、ぼうふう、ねっぷう、あなをほる、れんごく、かげぶんしん、ブレイズキック
 飛行術
 ・ハイヨーヨー:上昇から下降
 ・ローヨーヨー:下降から上昇
 ・トルネード:高速回転
 ・エアキックターン:空中でターン
 ・スイシーダ:地面に叩きつける
 ・シザーズ:左右に移動して撹乱
 ・ソニックブースト:ゼロからトップに急加速
 ・コブラ:急停止・急加速
 ・ブラスターロール:翻って背後を取る
 ・グリーンスリーブス:連続で攻撃して空中に釣り上げる
 ・デルタフォース:空中で大きな三角形を描くように連続攻撃
 ・ペンタグラムフォース:空中で五芒星を描くように連続攻撃
 ・バードゲージ:スピードを活かして相手の動きをコントロールしていく
 ・スモール・パッケージ・ホールド:背面飛行で相手の下を飛行する

・ゲッコウガ(ケロマツ→ゲコガシラ→ゲッコウガ) ♂
 特性:きずなへんげ(へんげんじざい→きずなへんげ)
 覚えてる技:みずのはどう、あなをほる、かげぶんしん、れいとうパンチ、れいとうビーム、つばめがえし、ハイドロポンプ、くさむすび、グロウパンチ、えんまく、がんせきふうじ、いわなだれ、まもる、かげうち、みずしゅりけん、どろぼう、つじぎり、ハイドロカノン、めざめるパワー(炎)、とんぼがえり、とびはねる、ほごしょく、けたぐり、ぶんまわす、あくのはどう、どろあそび、ふぶき、たたみがえし、ダストシュート

・サーナイト(ラルトス→キルリア→サーナイト) ♀
 特性:シンクロ
 覚えてる技:リフレクター、ねんりき、まもる、テレポート、マジカルリーフ、シャドーボール、マジカルシャイン、トリックルーム、シンクロノイズ、サイコキネシス、いのちのしずく、しんぴのまもり

・ウツロイド
 覚えてる技:ようかいえき、マジカルシャイン、はたきおとす、10まんボルト、サイコキネシス、ミラーコート

控え
・ヘルガー ♂
 持ち物:ヘルガナイト
 特性:もらいび←→サンパワー
 覚えてる技:かみつく、ほのおのキバ、ふいうち、おにび、かえんほうしゃ、かみくだく、れんごく、ほえる、はかいこうせん、アイアンテール、あくのはどう、みちづれ、だいもんじ、ハイパーボイス、ヘドロばくだん、ちょうはつ、ほのおのうず、まもる

・ボスゴドラ ♂
 持ち物:ボスゴドラナイト
 特性:がんじょう
 覚えてる技:ロックブラスト、あなをほる、なげつける、メタルクロー、アイアンヘッド、アイアンテール、てっぺき、メタルバースト、ボディパージ、ヘビーボンバー、ロックカット、ほのおのパンチ、もろはのずつき、ラスターカノン、ドラゴンダイブ、でんじふゆう、だいちのちから、カウンター、ばかぢから

不明
・ジュカイン(キモリ→ジュプトル→ジュカイン) ♂
 持ち物:ジュカインナイト
 特性:しんりょく←→ひらいしん
 覚えてる技:でんこうせっか、リーフストーム、リーフブレード、ドラゴンクロー、タネマシンガン、ギガドレイン、かみなりパンチ、スピードスター、くさむすび、ソーラービーム、エナジーボール、シザークロス、くさのちかい、マジカルリーフ、タネばくだん、こうそくいどう、つめとぎ、いやなおと、こうごうせい、くさぶえ、やどりぎのタネ、グラスフィールド、なやみのタネ、ハードプラント、つばめがえし、ものまね、みがわり、じならし、アイアンテール、けたぐり、つじぎり、グロウパンチ、まもる、ぶんまわす、あなをほる


ゲッコウガ
・ニダンギル(ヒトツキ→ニダンギル)
 特性:ノーガード
 覚えてる技:ラスターカノン、せいなるつるぎ、つばめがえし、かげうち、つじぎり、シャドークロー、きんぞくおん、いわなだれ、かわらわり、まもる

・キリキザン
 特性:まけんき
 覚えてる技:つじぎり、くろいまなざし、ロックカット、メタルクロー

・アギルダー
 特性:うるおいボディ
 覚えてる技:スピードスター、むしのさざめき、ギガドレイン、みずしゅりけん、こうそくいどう、かげぶんしん、こころのめ、はたきおとす、バトンタッチ

・メタグロス(ダンバル→メタング→メタグロス)(色違い)
 覚えてる技:ラスターカノン、じならし、ひかりのかべ、サイコキネシス、メタルクロー、コメットパンチ、まもる、かみなりパンチ


イッシキイロハ 持ち物:キーストーン、りゅうのウロコ
・マフォクシー(フォッコ→テールナー→マフォクシー) ♀
 特性:もうか
 覚えている技:かえんほうしゃ、ほのおのうず、ソーラービーム、にほんばれ、ワンダールーム、スキルスワップ、メロメロ、ニトロチャージ、マジカルフレイム、シャドーボール、ブラストバーン、だいもんじ、サイコキネシス、トリックルーム、まもる

・フライゴン(ナックラー→ビブラーバ→フライゴン) ♂
 特性:ふゆう(ちからずく→ふゆう)
 覚えている技:ギガドレイン、かみくだく、むしくい、じならし、すなじごく、がんせきふうじ、りゅうのいぶき、ばくおんぱ、だいちのちから、りゅうせいぐん、ドラゴンダイブ、ストーンエッジ、じわれ、げきりん、ソーラービーム、はかいこうせん、にほんばれ

・デンリュウ(モココ→デンリュウ) ♀
 持ち物:デンリュウナイト
 特性:せいでんき←→かたやぶり
 覚えてる技:ほうでん、シグナルビーム、わたほうし、コットンガード、エレキネット、でんじは、パワージェム、でんじほう、アイアンテール、りゅうのはどう、こうそくいどう、じゅうでん、げきりん

・ガブリアス(フカマル→ガバイド→ガブリアス) ♂
 特性:さめはだ
 覚えてる技:あなをほる、りゅうのいかり、ドラゴンクロー、りゅうせいぐん、ステルスロック、ドラゴンダイブ、げきりん、アイアンヘッド、アイアンテール、メタルクロー、がんせきふうじ

・ラプラス ♀
 特性:ちょすい
 覚えてる技:れいとうビーム、フリーズドライ、あられ、ぜったいれいど、でんじほう、げきりん、みずのはどう、ほろびのうた

・ボルケニオン
 特性:ちょすい
 覚えてる技:スチームバースト、ハイドロポンプ、オーバーヒート

控え
・ヤドキング ♂(校長からの贈り物)
 覚えてる技:サイコキネシス、みずでっぽう、パワージェム、まもる、うずしお、ずつき、トリックルーム、シャドーボール、でんじほう、かえんほうしゃ、きあいだま、いやしのはどう、ふぶき

・ガチゴラス(チゴラス→ガチゴラス) ♂
 特性:がんじょうあご
 覚えてる技:げきりん、かみくだく、ドラゴンテール、ふみつけ、いわなだれ、アイアンテール、ストーンエッジ、りゅうのまい

・シードラ(タッツー→シードラ) ♀
 持ち物:ピントレンズ
 特性:スナイパー
 覚えてる技:げきりん、シグナルビーム、ハイドロポンプ、ラスターカノン、こうそくいどう、えんまく、きあいだめ

・コドラ(ココドラ→コドラ) ♂
 特性:いしあたま
 覚えてる技:ドラゴンダイブ、じならし、メタルクロー、みずのはどう、がんせきふうじ、アイアンヘッド、ロックカット


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行間

〜手持ちポケモン紹介〜 (BT30『終わりの始まり』現在)

 

 

ヒキガヤハチマン 持ち物:キーストーンetc………

・リザードン(ヒトカゲ→リザード→リザードン) ♂

 特性:もうか

 覚えてる技:かえんほうしゃ、メタルクロー、かみつく、おにび、えんまく、はがねのつばさ、かみなりパンチ、ドラゴンクロー、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、かみくだく、カウンター、じしん、フレアドライブ、ブラストバーン、げきりん、じわれ、だいもんじ、ソーラービーム、リフレクター、はらだいこ、ぼうふう、ねっぷう、あなをほる、れんごく、かげぶんしん、ブレイズキック

 飛行術

 ・ハイヨーヨー:上昇から下降

 ・ローヨーヨー:下降から上昇

 ・トルネード:高速回転

 ・エアキックターン:空中でターン

 ・スイシーダ:地面に叩きつける

 ・シザーズ:左右に移動して撹乱

 ・ソニックブースト:ゼロからトップに急加速

 ・コブラ:急停止・急加速

 ・ブラスターロール:翻って背後を取る

 ・グリーンスリーブス:連続で攻撃して空中に釣り上げる

 ・デルタフォース:空中で大きな三角形を描くように連続攻撃

 ・ペンタグラムフォース:空中で五芒星を描くように連続攻撃

 ・バードゲージ:スピードを活かして相手の動きをコントロールしていく

 ・スモール・パッケージ・ホールド:背面飛行で相手の下を飛行する

 

・ゲッコウガ(ケロマツ→ゲコガシラ→ゲッコウガ) ♂

 特性:きずなへんげ(へんげんじざい→きずなへんげ)

 覚えてる技:みずのはどう、あなをほる、かげぶんしん、れいとうパンチ、れいとうビーム、つばめがえし、ハイドロポンプ、くさむすび、グロウパンチ、えんまく、がんせきふうじ、いわなだれ、まもる、かげうち、みずしゅりけん、どろぼう、つじぎり、ハイドロカノン、めざめるパワー(炎)、とんぼがえり、とびはねる、ほごしょく、けたぐり、ぶんまわす、あくのはどう、どろあそび、ふぶき、たたみがえし、ダストシュート

 

・サーナイト(ラルトス→キルリア→サーナイト) ♀

 特性:シンクロ

 覚えてる技:リフレクター、ねんりき、まもる、テレポート、マジカルリーフ、シャドーボール、マジカルシャイン、トリックルーム、シンクロノイズ、サイコキネシス、いのちのしずく、しんぴのまもり

 

・ウツロイド

 覚えてる技:ようかいえき、マジカルシャイン、はたきおとす、10まんボルト、サイコキネシス、ミラーコート

 

控え

・ヘルガー ♂

 持ち物:ヘルガナイト

 特性:もらいび←→サンパワー

 覚えてる技:かみつく、ほのおのキバ、ふいうち、おにび、かえんほうしゃ、かみくだく、れんごく、ほえる、はかいこうせん、アイアンテール、あくのはどう、みちづれ、だいもんじ、ハイパーボイス、ヘドロばくだん、ちょうはつ、ほのおのうず、まもる

 

・ボスゴドラ ♂

 持ち物:ボスゴドラナイト

 特性:がんじょう

 覚えてる技:ロックブラスト、あなをほる、なげつける、メタルクロー、アイアンヘッド、アイアンテール、てっぺき、メタルバースト、ボディパージ、ヘビーボンバー、ロックカット、ほのおのパンチ、もろはのずつき、ラスターカノン、ドラゴンダイブ、でんじふゆう、だいちのちから、カウンター、ばかぢから

 

不明

・ジュカイン(キモリ→ジュプトル→ジュカイン) ♂

 持ち物:ジュカインナイト

 特性:しんりょく←→ひらいしん

 覚えてる技:でんこうせっか、リーフストーム、リーフブレード、ドラゴンクロー、タネマシンガン、ギガドレイン、かみなりパンチ、スピードスター、くさむすび、ソーラービーム、エナジーボール、シザークロス、くさのちかい、マジカルリーフ、タネばくだん、こうそくいどう、つめとぎ、いやなおと、こうごうせい、くさぶえ、やどりぎのタネ、グラスフィールド、なやみのタネ、ハードプラント、つばめがえし、ものまね、みがわり、じならし、アイアンテール、けたぐり、つじぎり、グロウパンチ、まもる、ぶんまわす、あなをほる

 

 

ゲッコウガ

・ニダンギル(ヒトツキ→ニダンギル)

 特性:ノーガード

 覚えてる技:ラスターカノン、せいなるつるぎ、つばめがえし、かげうち、つじぎり、シャドークロー、きんぞくおん、いわなだれ、かわらわり、まもる

 

・キリキザン

 特性:まけんき

 覚えてる技:つじぎり、くろいまなざし、ロックカット

 

・アギルダー

 特性:うるおいボディ

 覚えてる技:スピードスター、むしのさざめき、ギガドレイン、みずしゅりけん、こうそくいどう、かげぶんしん、こころのめ、はたきおとす、バトンタッチ

 

・メタグロス(ダンバル→メタング→メタグロス)(色違い)

 覚えてる技:じならし、ひかりのかべ、サイコキネシス、メタルクロー、コメットパンチ、まもる、かみなりパンチ

 

 

ユキノシタユキノ 持ち物:キーストーン etc………

・オーダイル(ワニノコ→アリゲイツ→オーダイル) ♂

 特性:げきりゅう

 覚えてる技:アクアテール、アクアジェット、ドラゴンクロー、れいとうパンチ、ハイドロポンプ、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、げきりん、カウンター、ハイドロカノン、ドラゴンテール、めざめるパワー(電)、ゆきなだれ、れいとうビーム、アクアブレイク

 

・ユキメノコ ♀

 覚えてる技:こごえるかぜ、れいとうビーム、みずのはどう、10まんボルト、シャドーボール、めざましビンタ、ふぶき、かげぶんしん、あやしいひかり、かみなり、でんげきは

 

・ボーマンダ(タツベイ→コモルー→ボーマンダ) ♂

 持ち物:ボーマンダナイト

 特性:いかく←→スカイスキン

 覚えてる技:りゅうのいかり、かえんほうしゃ、そらをとぶ、ドラゴンダイブ、ハイドロポンプ、つばめがえし、だいもんじ、かみなりのキバ、いわなだれ、ドラゴンテール、ハイパーボイス、げきりん、ギガインパクト、りゅうせいぐん、ねむる、ねごと、はがねのつばさ、かげぶんしん、すてみタックル

 

・ユキノオー ♂

 持ち物:ユキノオナイト

 特性:ゆきふらし←→ゆきふらし

 覚えてる技:ふぶき、ぜったいれいど、くさむすび、じしん、ウッドハンマー、きあいだま、ギガドレイン

 

・イノムー(ウリムー→イノムー) ♂

 

・クマシュン ♀

 

控え

・ペルシアン ♂

 覚えてる技:きりさく、だましうち、10まんボルト

 

・ギャロップ ♀

 特性:もらいび

 覚えてる技:かえんぐるま、ほのおのうず、だいもんじ、フレアドライブ、でんこうせっか、にほんばれ、ドリルライナー、スピードスター、まもる

 

・フォレトス

 特性:がんじょう

 覚えてる技:こうそくスピン、ジャイロボール、パワートリック、ボディパージ、リフレクター、だいばくはつ

 

・マニューラ ♂

 覚えてる技:つじぎり、こごえるかぜ、こおりのつぶて、ふぶき、れいとうパンチ、はかいこうせん、カウンター、シャドークロー、みやぶる、かわらわり、まもる、つららおとし

 

・エネコロロ ♀

 覚えてる技:こごえるかぜ、メロメロ、ソーラービーム、でんげきは、ハイパーボイス、れいとうビーム

 

・ニャオニクス ♀

 特性:すりぬけ

 覚えてる技:エナジーボール、シグナルビーム、サイコキネシス、シャドーボール、チャージビーム、みらいよち、なりきり

 

 

ユイガハマユイ 持ち物:キーストーン

・グラエナ(ポチエナ→グラエナ) ♂ サブレ

 持ち物:きあいのハチマキ

 特性:いかく(にげあし→いかく)

 覚えてる技:こおりのキバ、かみなりのキバ、アイアンテール、とっしん、ふいうち、じゃれつく、どろかけ、カウンター、はかいこうせん

 

・ブリガロン(ハリマロン→ハリボーグ→ブリガロン) ♂ マロン

 持ち物:かいがらのすず

 覚えてる技:タネマシンガン、つるのムチ、やどりぎのタネ、ころがる、ドレインパンチ、まるくなる、ミサイルばり、ニードルガード、ウッドハンマー、ジャイロボール、ビルドアップ

 

・ドーブル ♀ マーブル

 持ち物:きあいのタスキ

 覚えてる技:スケッチ、おにび、ハードプラント、ダークホール、こらえる、がむしゃら、いわなだれ、ハイドロポンプ、ほごしょく、ハイドロカノン、へんしん、サイコブースト、ふういん

 

・ウインディ ♂ クッキー

 持ち物:ひかりのこな

 特性:もらいび

 覚えてる技:ほのおのキバ、バークアウト、ニトロチャージ、りゅうのいぶき、かみなりのキバ、しんそく、にほんばれ、だいもんじ、りゅうのはどう、インファイト

 

・ルカリオ(リオル→ルカリオ) ♂ シュウ

 持ち物:ルカリオナイト

 覚えてる技:ブレイズキック、でんこうせっか、けたぐり、はどうだん、ボーンラッシュ、りゅうのはどう、しんそく、カウンター、インファイト

 

・ルガルガン(真夜中の姿)(イワンコ→ルガルガン) ♂ スコーン

 特性:やるき

 覚えてる技:いわおとし、がんせきふうじ、かみつく、ステルスロック、ストーンエッジ、かわらわり、ふいうち、ほえる

 

控え

・グランブル(ブルー→グランブル) ♀ ショコラ

 持ち物:たつじんのおび

 覚えてる技:たいあたり、しっぽをふる、かみつく、じゃれつく、インファイト、ストーンエッジ、マジカルシャイン、こわいかお

 

・バルキー ♂ ビスケ

 

・ワンパチ ♀ マシュマロ

 

・サニーゴ(ガラルの姿)

 覚えてる技:パワージェム、うずしお、ギガドレイン、ハイドロポンプ、おにび、リフレクター

 

 

イッシキイロハ 持ち物:キーストーン、りゅうのウロコ

・マフォクシー(フォッコ→テールナー→マフォクシー) ♀

 特性:もうか

 覚えている技:かえんほうしゃ、ほのおのうず、ソーラービーム、にほんばれ、ワンダールーム、スキルスワップ、メロメロ、ニトロチャージ、マジカルフレイム、シャドーボール、ブラストバーン、だいもんじ、サイコキネシス、トリックルーム、まもる

 

・フライゴン(ナックラー→ビブラーバ→フライゴン) ♂

 特性:ふゆう(ちからずく→ふゆう)

 覚えている技:ギガドレイン、かみくだく、むしくい、じならし、すなじごく、がんせきふうじ、りゅうのいぶき、ばくおんぱ、だいちのちから、りゅうせいぐん、ドラゴンダイブ、ストーンエッジ、じわれ、げきりん、ソーラービーム、はかいこうせん、にほんばれ

 

・デンリュウ(モココ→デンリュウ) ♀

 持ち物:デンリュウナイト

 特性:せいでんき←→かたやぶり

 覚えてる技:ほうでん、シグナルビーム、わたほうし、コットンガード、エレキネット、でんじは、パワージェム、でんじほう、アイアンテール、りゅうのはどう、こうそくいどう、じゅうでん、げきりん

 

・ガブリアス(フカマル→ガバイド→ガブリアス) ♂

 特性:さめはだ

 覚えてる技:あなをほる、りゅうのいかり、ドラゴンクロー、りゅうせいぐん、ステルスロック、ドラゴンダイブ、げきりん、アイアンヘッド、アイアンテール、メタルクロー、がんせきふうじ

 

・ラプラス ♀

 特性:ちょすい

 覚えてる技:れいとうビーム、フリーズドライ、あられ、ぜったいれいど、でんじほう、げきりん、みずのはどう、ほろびのうた

 

・ボルケニオン

 特性:ちょすい

 覚えてる技:スチームバースト、ハイドロポンプ、オーバーヒート

 

控え

・ヤドキング ♂(校長からの贈り物)

 覚えてる技:サイコキネシス、みずでっぽう、パワージェム、まもる、うずしお、ずつき、トリックルーム、シャドーボール、でんじほう、かえんほうしゃ、きあいだま、いやしのはどう、ふぶき

 

・ガチゴラス(チゴラス→ガチゴラス) ♂

 特性:がんじょうあご

 覚えてる技:げきりん、かみくだく、ドラゴンテール、ふみつけ、いわなだれ、アイアンテール、ストーンエッジ、りゅうのまい

 

・シードラ(タッツー→シードラ) ♀

 持ち物:ピントレンズ

 特性:スナイパー

 覚えてる技:げきりん、シグナルビーム、ハイドロポンプ、ラスターカノン、こうそくいどう、えんまく、きあいだめ

 

・コドラ(ココドラ→コドラ) ♂

 特性:いしあたま

 覚えてる技:ドラゴンダイブ、じならし、メタルクロー、みずのはどう、がんせきふうじ、アイアンヘッド、ロックカット

 

 

ヒキガヤコマチ 持ち物:キーストーン、カビゴンZ

・カメックス(ゼニガメ→カメール→カメックス) ♂ カメくん

 持ち物:カメックスナイト

 特性:げきりゅう←→メガランチャー

 覚えてる技:みずのはどう、はどうだん、りゅうのはどう、こうそくスピン、からにこもる、ロケットずつき、ハイドロポンプ、ふぶき、ミラーコート、ドラゴンテール、ハイドロカノン、れいとうビーム、アクアジェット、からをやぶる、てっぺき、まもる

 

・カビゴン ♂ ゴンくん

 特性:めんえき

 覚えてる技:メガトンパンチ、のしかかり、じしん、いわくだき、ほのおのパンチ、しねんのずつき、ギガインパクト、かみなりパンチ、ふきとばし、いびき、ねごと、ねむる、ストーンエッジ、じわれ、サイコキネシス、ばくれつパンチ、ヒートスタンプ、ワイルドボルト、じばく

 

・プテラ ♂ プテくん

 持ち物:プテラナイト

 特性:プレッシャー←→かたいツメ

 覚えてる技:はかいこうせん、ストーンエッジ、はがねのつばさ、つばさでうつ、ちょうおんぱ、ものまね、ドラゴンクロー、ゴッドバード、ギガインパクト、こうそくいどう、ほのおのキバ、かみなりのキバ、いわなだれ、つめとぎ

 

・オノノクス(キバゴ→オノンド→オノノクス) ♂ キーくん

 特性:とうそうしん

 覚えてる技:りゅうのいかり、げきりん、けたぐり、あなをほる、ちょうはつ、まもる、きあいだま、アクアテール、じならし、りゅうせいぐん、いわなだれ、きしかいせい、りゅうのまい

 

・クチート ♀ クーちゃん

 持ち物:クチートナイト

 特性:いかく←→ちからづく

 覚えてる技:ものまね、メタルバースト、じゃれつく、バトンタッチ、ほのおのキバ、いちゃもん、あまごい、ふいうち、だいもんじ、にほんばれ、つるぎのまい

 

・サルノリ

 

控え

・ニャオニクス ♂ カマクラ/カーくん

 特性:するどいめ

 覚えてる技:サイコキネシス、ひかりのかべ、リフレクター、でんげきは、てだすけ、なりきり、ふいうち、サイコショック、あなをほる、じゅうりょく、にほんばれ、はかいこうせん、ねこだまし、あくのはどう、でんじは

 

 

トツカサイカ 持ち物:キーストーン etc………

・ニョロボン ♂

 覚えてる技:ハイドロポンプ、グロウパンチ、どくづき、さいみんじゅつ、れいとうパンチ、カウンター、アイスボール

 

・トゲキッス(トゲチック→トゲキッス) ♀

 覚えてる技:マジカルシャイン、つばめがえし、てんしのキッス、ゆびをふる、はどうだん、サイコショック、はがねのつばさ、でんげきは、ソーラービーム、やきつくす、でんじは、にほんばれ、ひかりのかべ、あさのひざし

 

・クロバット ♂

 覚えてる技:クロスポイズン、ねっぷう、エアカッター、アクロバット、ギガドレイン、しねんのずつき、はがねのつばさ、ブレイブバード、わるだくみ、あやしいひかり

 

・ミミロップ ♀

 持ち物:ミミロップナイト

 特性:じゅうなん←→きもったま

 覚えてる技:とびひざげり、ほのおのパンチ、シャドーボール、たがやす、ミラーコート、とびはねる、からげんき、スカイアッパー、グロウパンチ、ともえなげ、おんがえし、こうそくいどう、かげぶんしん

 

・ホルビー ♂

 覚えてる技:マッドショット、あなをほる、ワイルドボルト、でんこうせっか、とびはねる、こうそくいどう、かげぶんしん

 

・マンムー ♂

 覚えてる技:こおりのつぶて、とっしん、のしかかり、つららおとし

 

控え

・ハピナス ♀

 覚えてる技:タマゴうみ、ちいさくなる、いやしのはどう

 

 

ザイモクザヨシテル

・ポリゴンZ(ポリゴン→ポリゴン2→ポリゴンZ)

 特性:てきおうりょく(トレース→てきおうりょく)

 覚えてる技:トライアタック、でんじほう、ロックオン、じこさいせい、テレポート、れいとうビーム、かえんほうしゃ、はかいこうせん、テクスチャー2、こうそくいどう、でんじは、かげぶんしん、テクスチャー、めざめるパワー(水)、サイコキネシス、エレキネット、サイコウェーブ、あくのはどう、ギガインパクト、めいそう

 

・エーフィ(イーブイ→エーフィ) ♀

 特性:シンクロ(てきおうりょく→シンクロ)

 覚えてる技:でんじほう、サイコキネシス、はかいこうせん、シャドーボール、めいそう、サイコショック

 

・ジバコイル

 特性:じりょく

 覚えてる技:でんじほう、ロックオン、ジャイロボール、エレキフィールド、かげぶんしん、めざめるパワー(炎)、テレポート、ほうでん、ラスターカノン、だいばくはつ、すなあらし

 

・ダイノーズ ♂

 特性:がんじょう

 覚えてる技:でんじほう、ロックオン、マグネットボム、てっぺき、めざめるパワー(地面)

 

・ギルガルド(ヒトツキ→ニダンギル→ギルガルド) ♂

 特性:バトルスイッチ

 覚えてる技:てっぺき、きりさく、つばめがえし、せいなるつるぎ、ラスターカノン、つじぎり、キングシールド、めざめるパワー(鋼)、シャドーボール、れんぞくぎり、どくどく、あまごい、かげぶんしん、まもる

 

・アブソル

 持ち物:アブソルナイト

 特性:きょううん←→マジックミラー

 覚えてる技:メガホーン、サイコカッター、アイアンテール、だいもんじ、あくのはどう、とびはねる、みらいよち、つじぎり、ふぶき、はかいこうせん、ふいうち、みずのはどう、かげぶんしん

 

控え

・ロトム(ポケデックスフォルム) ロトム辞典

 特性:ふゆう

 覚えてる技:ほうでん、めざめるパワー(草)、シャドーボール、でんじは

 

 

ユキノシタハルノ 持ち物:キーストーン etc………

・カメックス ♂

 覚えてる技:ハイドロポンプ、ハイドロカノン、じわれ、しおふき、あまごい、まもる、はかいこうせん

 

・ネイティオ ♀

 覚えてる技:みらいよち、サイコキネシス、つばめがえし、リフレクター、まもる、はかいこうせん、テレポート

 

・メタグロス

 覚えてる技:サイコキネシス、ラスターカノン、はかいこうせん、コメットパンチ

 

・バンギラス ♂

 持ち物:バンギラスナイト

 特性:すなおこし←→すなおこし

 覚えてる技:いわなだれ、じしん、かみくだく、はかいこうせん、なみのり、ストーンエッジ、かみなり、げきりん

 

・ゾロアーク ♂

 特性:イリュージョン

 覚えてる技:ナイトバースト、はかいこうせん、あくのはどう、シャドークロー

 

・ワルビアル(ワルビル→ワルビアル) ♂

 覚えてる技:かみくだく、じごくづき、かわらわり、アイアンテール

 

控え

・パルシェン ♂

 覚えてる技:からにこもる、シェルブレード、こうそくスピン、ゆきなだれ、からをやぶる

 

・ハガネール ♂

 覚えてる技:アイアンテール、アクアテール、りゅうのいぶき、がんせきふうじ、じわれ、かみくだく、はかいこうせん

 

・ドンファン ♀

 覚えてる技:たたきつける、ころがる、まるくなる、じわれ、かみなりのキバ、タネばくだん、こおりのつぶて

 

 

シロメグリメグリ 持ち物:キーストーン etc………

・フシギバナ(フシギダネ→フシギソウ→フシギバナ) ♀

 持ち物:フシギバナイト

 特性:???←→あついしぼう

 覚えてる技:はっぱカッター、じしん、つるのムチ、リーフストーム、ヘドロばくだん、どくのこな、ハードプラント

 

・エンペルト(ポッチャマ→ポッタイシ→エンペルト) ♀

 覚えてる技:ハイドロポンプ、はがねつばさ、アクアジェット、ドリルくりばし、れんぞくぎり、くさむすび、つめとぎ、てっぺき、きりばらい、れいとうビーム

 

・サーナイト(色違い) ♀

 特性:トレース

 覚えてる技:サイコキネシス、マジカルシャイン、リフレクター、マジカルリーフ、ムーンフォース、テレポート、ミストフィールド

 

・メタモン

 覚えてる技:へんしん

 

・グレイシア ♀

 覚えてる技:れいとうビーム

 

 

ヒラツカシズカ 持ち物:キーストーン(研究所からの借り物) etc………

・カイリキー ♂

 覚えてる技:ばくれつパンチ、どくづき

 

・サワムラー ♂

 覚えてる技:メガトンキック、とびひざげり、ブレイズキック、まわしげり

 

・エルレイド(ラルトス→キルリア→エルレイド) ♂

 持ち物:エルレイドナイト

 覚えてる技:テレポート、サイコカッター、かみなりパンチ、インファイト

 

・ハリテヤマ ♂

 覚えてる技:ねこだまし、バレットパンチ、はたきおとす、ばくれつパンチ

 

・ゴロンダ ♂

 覚えてる技:じしん、アームハンマー、ビルドアップ

 

・バシャーモ ♀

 持ち物:バシャーモナイト

 特性:かそく←→かそく

 覚えてる技:ブレイズキック、ブレイブバード、かみなりパンチ、みがわり

 

 

育て屋

サガミミナミ

・メガニウム ♀

 覚えてる技:ソーラービーム、にほんばれ、つるのムチ、じならし、くさのちかい、しぼりとる、こうごうせい、ひかりのかべ

 

・フローゼル ♂

 特性:すいすい

 覚えてる技:アクアテール、かわらわり、れいとうパンチ、みずでっぽう、アクアジェット、スピードスター、あまごい

 

・エモンガ ♀

 特性:せいでんき

 覚えてる技:でんげきは、ボルトチェンジ、アクロバット、でんこうせっか、ほうでん、でんじは、かげぶんしん

 

・ルリリ ♀

 特性:そうしょく

 覚えてる技:こごえるかぜ、あわ、うそなき、はねる、まるくなる

 

・ドクロッグ ♂

 特性:きけんよち

 覚えてる技:ずつき、ダブルチョップ、ねこだまし、どくづき、バレットパンチ、ヘドロばくだん、どろばくだん、ドレインパンチ、みがわり、はたきおとす

 

・ディアンシー

 持ち物:ディアンシナイト

 覚えてる技:ダイヤストーム、マジカルシャイン、ムーンフォース

 

 

オリモトカオリ

・バクフーン(マグマラシ→バクフーン) ♂

 覚えてる技:ふんか、でんこうせっか、かわらわり、かえんほうしゃ、かえんぐるま、おにび、ニトロチャージ、シャドークロー、フレアドライブ、ソーラービーム、かげぶんしん

 

・オンバーン ♂

 覚えてる技:りゅうのはどう、ばくおんぱ

 

・バクオング ♂

 覚えてる技:みずのはどう

 

・ニョロトノ ♂

 特性:しめりけ

 覚えてる技:ハイドロポンプ、アイスボール

 

・コロトック ♀

 覚えてる技:シザークロス

 

・ソーナンス ♂

 覚えてる技:カウンター、ミラーコート

 

 

ナカマチチカ

・ブラッキー ♀

 覚えてる技:あくのはどう

 

・トロピウス ♂

 覚えてる技:ぎんいろのかぜ、エアスラッシュ

 

・レントラー ♂

 覚えてる技:かみなりのキバ、でんじは

 

・ウソッキー ♀

 覚えてる技:まもる

 

 

イッシキ博士(元校長)

・ゲンガー ♂

 覚えてる技:シャドーボール、シャドーパンチ、10まんボルト、どくづき、だいばくはつ

 

・フーディン ♂

 覚えてる技:サイコキネシス、きあいだま

 

・クロバット ♂

 覚えてる技:シャドーボール、クロスポイズン

 

・ワタッコ ♀

 覚えてる技:とびはねる、わたほうし、おきみやげ

 

・キュウコン ♀

 覚えてる技:かえんほうしゃ、フレアドライブ、サイコキネシス、エナジーボール、リフレクター、あやしいひかり

 

・キュウコン(アローラの姿)(ロコン→キュウコン) ♂

 覚えてる技:フリーズドライ、こおりのつぶて、ほえる、あやしいひかり

 

 

チャンピオン・四天王・ジムリーダー

カルネ 持ち物;キーストーン

・サーナイト ♀

 持ち物:サーナイトナイト

 特性:トレース←→フェアリースキン

 覚えてる技:サイコキネシス、シャドーボール、ムーンフォース、リフレクター

 

・ルチャブル

 持ち物:パワフルハーブ

 特性:かるわざ

 覚えてる技:ゴッドバード、アクロバット、フライングプレス、つめとぎ

 

・ヌメルゴン

 覚えてる技:かみなり、りゅうせいぐん、パワーウィップ、あまごい

 

・パンプジン

 覚えてる技:ゴーストダイブ、ソーラービーム、にほんばれ、やどりぎのタネ

 

・アマルルガ ♀

 覚えてる技:ほうでん、フリーズドライ、めいそう、メロメロ

 

・ガチゴラス

 特性:がんじょうあご

 覚えてる技:かみなりのキバ、ばかぢから、りゅうのまい、みがわり

 

 

ガンピ 持ち物:キーストーン

・ハッサム ♂

 持ち物:ハッサムナイト

 特性:???←→テクニシャン

 覚えてる技:バレットパンチ、シザークロス、かわらわり、つるぎのまい、てっぺき、ギガインパクト

 

・クレッフィ ♂

 持ち物:きあいのタスキ

 特性:いたずらごころ

 覚えてる技:ラスターカノン、まきびし、きんぞくおん、どくどく

 

・ダイノーズ ♂

 特性:がんじょう

 覚えてる技:ほうでん、だいちのちから、パワージェム、マグネットボム、マジカルシャイン、でんじは、ほのおのパンチ、ラスターカノン、てっぺき

 

・ナットレイ ♂

 特性:てつのトゲ

 覚えてる技:ジャイロボール、タネマシンガン、タネばくだん、パワーウィップ、ギガドレイン、じならし、じゅうりょく

 

・ギルガルド ♂

 特性:バトルスイッチ

 覚えてる技:せいなるつるぎ、つるぎのまい、かげぶんしん、キングシールド

 

・ボスゴドラ ♀

 特性:がんじょう

 覚えてる技:アイアンテール、もろはのずつき、とおせんぼう、でんじふゆう

 

控え

・シュバルゴ ♂

 特性:シェルアーマー

 覚えてる技:ドリルライナー、とどめばり、だましうち、いわくだき

 

 

ズミ 持ち物:キーストーン

・カメックス ♂

 持ち物:カメックスナイト

 特性:???←→メガランチャー

 覚えてる技:ハイドロポンプ、ロケットずつき、りゅうのはどう、グロウパンチ

 

・ブロスター ♂

 特性:メガランチャー

 覚えてる技:りゅうのはどう、アクアジェット

 

・ギャラドス ♂

 特性:いかく

 覚えてる技:ぼうふう、かえんほうしゃ、たきのぼり、ねむる、ねごと

 

・ガメノデス ♂

 特性:かたいツメ

 覚えてる技:ストーンエッジ、つばめがえし、シェルブレード、からをやぶる

 

・スターミー ♂

 特性:しぜんかいふく

 覚えてる技:ふぶき、マジカルシャイン、リフレクター

 

・キングドラ ♂

 特性:すいすい

 覚えてる技:ハイドロポンプ、りゅうのはどう、あまごい、かなしばり

 

 

ドラセナ 持ち物:キーストーン

・チルタリス ♀

 持ち物:チルタリスナイト

 特性:???←→フェアリースキン

 覚えてる技:りゅうのはどう、はかいこうせん、うたう、だいもんじ

 

・ドラミドロ ♀

 特性:どくのトゲ

 覚えてる技:10まんボルト、りゅうのはどう、かみなり、ほごしょく、どくどく

 

・ヌメルゴン ♀

 特性:うるおいボディ

 覚えてる技:パワーウィップ、アクアテール、りゅうのはどう、げきりん、あまごい

 

・ガチゴラス ♀

 特性:がんじょうアゴ

 覚えてる技:かみくだく、もろはのずつき、ドラゴンクロー、りゅうせいぐん、こおりのキバ、りゅうのまい

 

・クリムガン ♀

 特性:さめはだ

 覚えてる技:かたきうち、ドラゴンテール、リベンジ

 

・オンバーン ♀

 覚えてる技:エアスラッシュ、いかりのまえば、ばくおんぱ、りゅうのはどう、ぼうふう、こうそくいどう

 

 

コルニ 持ち物:キーストーン

・ルカリオ

 持ち物:ルカリオナイト

 覚えてる技:はどうだん、グロウパンチ、バレットパンチ、ボーンラッシュ、インファイト、りゅうのはどう

 

・コジョンド(コジョフー→コジョンド)

 覚えてる技:とびひざげり、ドレインパンチ、スピードスター、インファイト

 

・カイリキー(ゴーリキー→カイリキー)

 覚えてる技:かわらわり、ローキック、きあいだま、みやぶる、インファイト

 

 

その他

少年君 持ち物:キーストーン

・ゲッコウガ(ゲコガシラ→ゲッコウガ)

 特性:げきりゅう

 覚えてる技:みずのはどう、でんこうせっか、みずしゅりけん、あくのはどう、めざめるパワー(地)

 

・ガラガラ

 持ち物:ふといホネ

 特性:いしあたま

 覚えてる技:ホネこんぼう、ほのおのパンチ、じごくぐるま、ホネブーメラン、ボーンラッシュ、すてみタックル、ストーンエッジ

 

・ヘラクロス

 持ち物:ヘラクロスナイト

 特性:???←→スキルリンク

 覚えてる技:ミサイルばり、かわらわり、メガホーン、リベンジ、カウンター

 

・ヤミカラス

 覚えてる技:はがねのつばさ、ねっぷう、ドリルくちばし、かげぶんしん

 

・クイタラン

 持ち物:オボンの実

 特性:くいしんぼう

 覚えてる技:じごくづき、ほのおのムチ、ギガドレイン、まもる

 

・クレベース

 覚えてる技:つららばり、ジャイロボール、ゆきなだれ、じならし



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