走れゲリョス (生まれてくるハゲと死んでゆくハゲ)
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走れゲリョス

令和になるまえに平成最後にあげたかったという焦燥感に駆られて走り書きしました。諸々の方に土下座します。


 吾輩はゲリョスである。名前はまだない。

 

 ゲリョスは畜生である。それも、人間に飼われていずれ狩られるタイプの畜生である。死んでも死なないという謎の性質からハンター達の狂走エキス確保要員として飼育されているのである。

 

 そんなゲリョスのもとにある日ネルスキュラがやってきた。

 

「お前がゲリョスか。その皮を譲ってはくれないか」

 

「いいえお父様。私の服を剥ぎ取るというのですか。婦女暴行で訴えますよ」

 

「お前女なのかよ」

 

 ゲリョスは男である。

 

「まぁいいや。なんか腑に落ちないけどいいや。お前さん、その皮を私に譲ってはくれないか。ハンター共に破られてしまったよ」

 

「断る……と、申し上げたら?」

 

「ならば冥府の王にでも遣えるのだな」

 

 いえーい、と二人はハイタッチした。二人は所謂転生者だった。前世ではオタクと呼ばれるタイプの、である。そんな彼らが何故こうして畜生のように飼われているのか、それが疑問かもしれないがなんてことはない。こいつらは野生が嫌になっただけにすぎない。

 

 なんせ温室育ちなもので。

 

「ゲリョスよ。お前の名前は『下痢』と『夜』と『酢』から貰っているのだろう。その名を名乗るのはやめなさい。しかしただでやめろとはいわない。代わりに、お前に相応しい名前をやろう。そうだな……メガヘッドゴンザレスとかどうだ」

 

「どっからその単語捻り出しやがったテメー。却下だ却下」

 

「いいやお前はメガヘッドゴンザレスだ。なぁに、そんなに悪い名ではない。きっとよく感じる。猶予を与えよう。明日までにゲリョスの名を名乗るのをやめるのだ。できなければ、私は明日貴様の首を切り、殺すだろう」

 

「悪い名だから拒んでるの。お前大丈夫? 虫けら並の脳みそになっちゃった?」

 

「我KOゾ?」

 

「そのイキリ方は後世に語り継ぐべき」

 

 それだけ告げてネルスキュラは去っていった。ゲリョスは結局、名前をメガヘッドゴンザレスにしなかった。翌日やってきたネルスキュラが言う。

 

「お前の名前は?」

 

「富士山だ」

 

「大きく出たな」

 

「ビッグな男なんで」

 

「そうかぁ……そっかぁ……」

 

 それはそれとして、名前をメガヘッドゴンザレスにしてなかったのでゲリョスは首を落とされた。

 

 

 

 

 とはいえ、ゲリョスにとって死ぬことは苦痛でも恐怖でもない。彼にとっては死亡は人生の一部でしかない。それは転生者という歪な存在であるが故のものだった。

 

「エキス絞るねー?」

 

 どうぞ、という間もなく頭を握りつぶされた。エキスの概念を疑うしそもそもそんなものなのかと疑問はあるが、しかし実際に狂走エキスになっているのだからちょっとよくわからない。

 

「狂走エキスってなんだろう」

 

 ゲリョスは考えた。幸い時間ならいくらでもある。だから、ない頭で考えようとした。けれど彼には知能がなかった。だから理解ができなかった。

 

「あの星なら、きっとなにかを知っているかもしれない……」

 

 ゲリョスがない頭で導き出した答えは、天に坐す我らが星に答えを問うことだった。

 

 人は運命の糸を編むことができない。しかし、宿る無限の魂の焔があれば不可能だって可能になるのだ。

 

 ゲリョスは飛んだ。天高く飛んだ。アホほど飛んで、いつの間にか大気圏を抜けた。

 

 ゲリョスは飛んだ。オリオン座へと近づいてゆく。

 

 ゲリョスは星達の声を聞きながら、空を抜けていった。

 

 オリオン座へと到達する。

 

「オリオンさんオリオンさん」

 

「ん? なに?」

 

「狂走エキスってなんですか?」

 

「なんだろ……強走薬グレードを作るための素材?」

 

「あ、はいありがとうございます。……使えねー。これだから一行で死ぬんだよ」

 

 ゲリョスは毒を吐いた。

 

 特に毒という毒は吐いていないが、毒に塗れた舌なもので、ぺっと当たり前のように毒を吐いた。

 

 しかもオリオン違いだった。吐かれた毒に全く心当たりのないオリオン座はただ困惑した。そして心配する。このゲリョス頭おかしいんじゃねぇの。と、ただただ困惑した。

 

「カッコつけておいて一瞬で退場した方は格が違いますねぇ! 使えねー……これだから弓遣いってのは駄目なんだ……カッコいい癖に弱ぇからなぁ!」

 

 ゲリョスは飛び去った。畜生であるゲリョスは、鳥かごの中にいるゲリョスは、そこから抜け出そうとしないゲリョスは、まごうことなく畜生であった。

 

「畜生、こうなったら俺が世界の真理を発見してやる……!」

 

 ゲリョスは空へと飛び立った。そして、どこまでも、どこまでも、飛んでいった。

 

 やがて身体が燃えていっても、気にならなかった。

 

 ゲリョスはただ飛び続けた。そして、飛んでいるうちに世界の真理へとたどり着いてしまった。

 

 ああ、狂走エキスとはこういうものなのだ、と。

 

 だからゲリョスは何処へだって行けた。

 

 大好きだよ、狂走エキスがそこにいたから私は頑張れた───

 

 ゲリョスは、いつしか動かなくなっていた。狂走エキスを燃やし、彼は星に負けない光を手にしていた。

 

 そう、ゲリョスは星になった。これがゲリョスの星の成り立ちだった。

 

 ゲリョスの星は燃え始めた。そして、今でも燃え続けている。無数の星屑が空をかけ、いつしかネルスキュラが宇宙のゴミになってもゲリョスは燃え続けていたのである。




これがタイトル詐欺ちゃんですか。


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