オーバーロード~至高のインキュバスが逝く、エロエロ珍道中~ (田 中太郎)
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クレマンティーヌと至高のインキュバス【出会い編その1】

 

 クレマンティーヌがその男と出会ったのは、満月の美しい深夜の事であった。

月明りの下で、唐突に表れた長身痩躯の人影。闇夜に溶け込まんばかりの黒き衣服は、見覚えの無いデザインであり、その男が異国の者である事を匂わせていた。

 

 一歩、また一歩と足を進めて近付いて来る男。

刻一刻と鮮明になる容姿に、クレマンティーヌはハッと息を呑んだ。おそらく青年と言える年頃であろう容貌は、酷く美しかったのだ。

 

 まるで一流芸術家が作成した彫刻の如き秀麗さ。風に流れる黒髪は月光に眩き、きらめいている。力強い眉は青年の意思の強さを表すかの如く、鼻筋は抜身の刀のように美しい。

微笑みを携える唇は魅惑的な雰囲気を醸し出す。

 

 そして、一番目に付いたのが穏やかな光を宿した紅瞳。

紅蓮の焔、烈火の炎、原色に近い色調の瞳は一つ間違えれば鋭い印象を与えるだろう。

しかし彼の眼に宿る光は、ただただ穏やかだった。見る者全てを惹き込む温かな眼差し、それはどのような宝石にも見出す事の出来ない輝きだ。

 

 クレマンティーヌは思わず無防備に佇んで見惚れてしまっていた。

ただ単に『整っている』という次元の話では無い。例えるならば、そう、作成した芸術家の魂が籠った作品。

見る者全ての心を虜にする不思議な魅力に満ち溢れた美しさなのだ。

 

 最早、狂人の域にいるクレマンティーヌですら、目を奪われ茫然と見入る事しか出来ないでいる。眼前の人影は、それ程の魅力を兼ね備える青年であった。ふと、宙空でその真っ赤な瞳と視線が交わった。

刹那、彼女の背筋に怖気が走る。脳内で高らかに鳴り響く警鐘の音。

 

 こいつはダメだ、逃げろ。

何故かは分からない。この世に現れた神の国の住人――――そう評しても過言では無いのに。

しかし、そう本能が叫んで止まなかった。

 

 彼女の理性もその警告に同意する。

これ程の男が、こんな辺鄙な地で――――それも森林の中に存在している時点でおかしい。

クレマンティーヌはおよそ常人とは言えない。狂人の域に達していると言っても過言では無い。

だが、それでも彼女は優秀な戦士だった――――それも非常にという前置きが付く程の。

 

 自身の、戦士としての勘を彼女は信じた。

重心を落とし、脚に力を込める。いつでも逃走できるように、辺りの地理を脳内へ浮かべて逃げ道を選択していく。

 

 一歩、また一歩と距離が縮まる。

青年の厚皮ブーツが草地へと沈み込む瞬間を、まばたき一つせずに見詰め続けた。

心臓が早鐘を打ち、肌の上を嫌な汗が流れ行く。少しでも隙が出きれば、逃げ切ってみせる。

彼女は奥歯を噛み締め、自身の胸の内より込み上げる訳の分からない感覚を抑え込んだ。

 

 静寂が支配する世界に、びゅうっと一陣の風が木々の狭間より駆け抜けて来た。

刹那、セミショートの黒髪が風に弄ばれてたなびく。すると、男は鬱陶しそうに己の手を頭髪の方へ持って行く素振りを見せた。

 

 おそらく、風で乱れた髪を直そうというのだろう。艶やかな黒髪へ、彼の指が入り込む瞬間を彼女は見逃さなかった。

 

 今だ。クレマンティーヌは声に出さずに叫ぶ。

脚に溜め込んだ力を一気に解放すべく動き出す。とにかくこの場から離れたい、その一心で女戦士は逃走を図ろうとした。

 

 己の勘が、この男は危険だと叫んだから。

 明らかに強者だとわかる余裕っぷりに、理性が同意したから。

 男が近付けば近付くほど、動悸が酷くなるばかりだから。

 男を見詰めれば見詰めるほど、胸から溢れ出そうとする未知の感覚が嫌だったから。

 

 だが、そんな彼女の想いとは裏腹に男が機先を制した。

 

「あの、すみません」 

 

 笑みを作っていた口が艶めかしく動き、穏やかな声が辺りへと紡がれた。

ただ単なる声掛けか、それとも謝罪の意を込めたのか。クレマンティーヌにはその判別がつかなかった。唯一、理解出来た事象は、その言の葉によって自身の身体が動きを止めてしまった事だけだ。

 

 あれほどまで込められていた力が霧散し、緊張に凝り固まった肉体は解れていく。

一体、何が起きたと言うのだ。制御の利かない己が肉体に戦慄する女狂戦士。

彼女が出来るささやかな抵抗は、その猫のような眼をカッと見開いて、ただただ相手を睨み付ける事のみ。

 

 そんなクレマンティーヌの内情を果たして察しているのだろうか、青年は軽やかに言葉を続けていく。

 

「いやぁ、地獄に仏とはこの事を言うんですかねぇ! あ、女性だから天女様とでも言いましょうか」

「あ……うっ」

「あ、これは失礼しました。初対面の方に、こんな言葉を掛けたらナンパ扱いされるだけですもんね」

 

 謝意を口にして、上げていた手を後頭部に回す青年。どこか気恥ずかしそうに、ふふっと笑う彼の表情はとても幼く感じられた。

青年の笑みを見た瞬間、クレマンティーヌの心臓は一際大きく脈動した。

 

 なんだ、これは。彼女は胸中で自問する。

胸が苦しいのだ。まるで締め付けられているかのように、苦しい。

この時になって彼女は、自分の呼吸が酷く荒々しい事に気が付いた。

 

 異様な感覚に、己の肉体を把握し切れていない事実に、クレマンティーヌは衝撃を受ける。

どうにも発熱すらしているらしく、表皮には汗がひっきりなしに浮かんでいた。

このままではいけない。衝撃から完全に立ち直れないでいる女戦士は、この状況を打破すべく口を開く。

 

「わ、私に何かよう?」

「いやぁ、お恥ずかしい話なのですが実は……」

「じ、実は?」

「実は道に迷ってしまいまして……いや、正確には帰り道を探していたら迷ったといいますか何と言いいますか……」

 

 青年は軽やかに身の上を語り出す。

彼の目的は端的に言えば『道に迷ったので案内して欲しい』という所に集約される。

しかしその結論へと至るまでには、しばしの時間を必要としていた。何故なら彼の話は、途中で幾度もの脱線を繰り返すからだ。

 

 月が綺麗、森が美しい、空気が美味しい、そんな下らない事をさも楽し気に男は語る。

普段の彼女ならば一蹴に値する内容だった――――そう、普段のクレマンティーヌならば、だ。

だが、声高らかに意気揚々と紡がれる言の葉を、女戦士は聞き入ってしまう。

 

 表面上は静かに、内面下では激しい感情の奔流に晒されながら。

 

 頭が熱い。彼の口から綺麗と言う言葉が出る度、まるで我が事のように面映ゆく感じてしまう。

 体が熱い。景色が好きだ、と紡がれた際には早鐘を打つ心臓が口から飛び出てしまいそうだ。 

 心が熱い。貴女に出会えて良かった、その文面が優しい声で綴られると居ても立ってもいられなくなる。 

 

 あぁ、と思わず吐息を漏らすクレマンティーヌ。その呼気は湿り気を帯び、切なげな響きを思って辺りへと小さくこだましていく。

自分はいったいどうしてしまったのだろうか。その問いに対する答えを出す事は適わない。

 

「あの、もしかしてどこか具合が悪いのですか?」

「えっ」

「いや、ぼうっとされていたものですから、つい……」

 

 心配そうな口調でこちらを窺う青年。

その表情に浮かぶ憂慮の色に、彼女の心は罪悪感で一杯になる。

何か言い返さなくては、そんな思いに駆られて口を開こうとした瞬間、女戦士はある事に気が付く。

 

 彼との距離は先ほどより随分と縮まっていたのだ。そう、それは少しでも手を伸ばせば相手の身体へ届く間合い。

自分に気取られずどうやって、頭の片隅に疑念が浮かぶ。

 

 だが、その疑念もすぐに霧散する事となる。

新たな情報が鼻腔より伝えられたのだ。それは、どこか爽やかさを伴う甘い香りであった。

彼の匂いだ、その事実に行き当たった瞬間、彼女の身体に更なる変化が起こる。

 

 ズグンっと下腹部から湧き上がる未知の感覚。

少しばかりの違和感、しかしその感覚は一瞬の間に耐え難いモノへと変貌する。

うっと息を詰まらせるクレマンティーヌ。思わず手を己が下腹部へと伸ばすほどの奇襲であった。

 

「あ、あのっ……本当に大丈夫ですかっ?」

 

 こちらの様子に異変を察したのであろう。

美しい青年はこちらへと更なる一歩を踏み出して来た。それと同時に、深まる彼の香り。駄目だ、これは。

 

 一呼吸ごとに強まる感覚に、彼女は危惧を抱く。ここから離れなければならない、しかし彼女の足は動いてくれない。

彼の傍にいる事が当然である、まるでそう言いたげな反応であった。

 

「ど、どうしよう……と、取り敢えず横になりますかっ? 寒くはないですかっ?」

 

 おろおろと狼狽える青年は何を思ったのかクレマンティーヌの肩へと手を置いた。

左右の肩上にそれぞれの手が添えられ、次いで彼の顔がずいっと近付く。

何を、彼女がそう問い質そうとするも肝心の声が出なかった。

 

 視界一杯に映る美貌。

紅玉の瞳にありありと浮かぶ憂慮の色。彼の吐息が、女戦士の頬を撫で付けた。

あっ、とどこか間の抜けた呻きがクレマンティーヌの喉奥より漏れ出す。

 

 真紅の眼に、通った鼻筋に、艶やかな唇に、彼女の意識が吸い寄せられる。

これはもしかして――――と、この先に起こるであろう行為がクレマンティーヌの脳内に浮かんだ。

次いで、彼女はその結果をありのままに受け入れようと待ってしまった。普段ならば到底選択する筈の無い行動、しかし彼女は現に待ってしまったのだ。

 

 絡まる視線、掠る鼻先と鼻先、そして唇は――――寸での所で止まり、額同士が重なり合った。

 

「やっぱり……熱、あるみたいですね」

「えっ」

「どこか横になれる所を探しましょうか……いや、木を切って作った方が早いかな」

「えっ」

「あ、そういえば簡易シェルターとか、お泊りキャンプセットとかあったような……」

 

 何やら不審な動きを見せる青年だが、彼に構っている余裕などクレマンティーヌには無かった。

今、自分は何を想像していた。女戦士は己が心に問い掛ける。頬が熱い――――いや、頬と言わず顔から火が吹き出しそうなほどだ。

 

 醜態。そう、まさしく醜態だ。

彼女の胸中に感情の波が荒れ狂った。もし、目の前の青年がいなければ羞恥の余りに、地べたをのた打ち回っていたであろう。

 

 一方で、それほどまでの恥辱に晒されながらも、彼女の身体は持ち主の言う事を聞いてはくれない。

発熱する肢体、荒れ狂う感情の渦、舌を噛み切りたくなるほどの屈辱。茹で上がる思考の中でクレマンティーヌは泣き出しそうになるほど追い込まれていた。

 

「よし、簡易シェルターの設置が終わりましたよ」

「……え」

「取り敢えず、中に入って休みましょう」

「えっ、いやっ、ちょっ」

「ほら、早く」

 

 再び接近した香しき匂いと、人肌の温かさ。

いつの間にか鎮座する大型テントを背に、こちらへと向き直る青年の姿が目に入って来た。

次いで彼は、クレマンティーヌの手を取り、そのテントの中へと誘おうとする。

 

 温かな指がクレマンティーヌの手に触れた瞬間、彼女の体内で激しい電流が走った。

それはまさしく稲妻の如く、女戦士の内側を激しく貫いて行く。余りにも大きな衝撃の波に、うっと息を詰まらせるクレマンティーヌ。

 

 彼女の身体は、湧き上がる衝動に突き動かされるようにして一歩、また一歩と足を踏み出してしまう。

 

 あぁ、ダメなのにどうして。先程からちっとも自分の言う事を聞いてくれない身体に、クレマンティーヌは胸中で文句を吐く。

 

 視線の先に見えるテントの入口は、真っ暗で中の様子を窺う事は出来なかった。

まるで地獄の入口のように暗く、不気味な気配を感じ取るのに、彼女の足は止まらない。

 

 ただただ、この神々しさすら感じられる青年に手を引かれるがまま。

彼女は、よろよろと無様な姿で歩んで行くしかなかった。深淵なる闇の口に彼の身体が消えて行く。次いで、彼女もまた不自然なほど真っ暗闇なテントの入口に呑み込まれて行った。

 

「ごめん、簡易シェルターだから最低限の設備しかないけど許してね」

「……は?」

 

 視界に映し出される光景に、女戦士の口から驚きの声が零れる。

どこか申し訳なさそうな青年の言葉すら耳に入らないほど彼女は驚いていた。

地獄の入口かと、霧掛かった思考で想像していたクレマンティーヌであるが、実際に目にした光景は彼女の予想と全く異なっていたのだ。

 

 明るいのだ。そう、深淵の暗闇を抜けたソコは日中であるかと錯覚するほどに明るかったのだ。

次いで、目に付くのはテントの中とは思えないほどの設備。寝台は勿論の事、机や椅子と言った家具すら備え付けられている。

 

 装飾に乏しくはあるが、その清潔さや家具類の材質に並々ならぬモノを感じていた。

恐らくマジックアイテムの類いなのだろう。それも彼女の人生で一度としてお目に掛かった事の無い代物だ。

 

 呆然と佇むクレマンティーヌだったが、彼はお構いなしにズンズン先へと進む。

そして手を繋がれたままの彼女も、成すがまま青年の後を追って歩み行く。目指す先には大きな寝台が鎮座していた。

 

 清潔感を醸し出す純白のシーツへと、青年はクレマンティーヌを誘う。

身を包んでいた外套はいつの間にか彼に取られ、彼女は露出の多い軽鎧の姿でベッドへと腰を降ろした。

 

「ひゃっ」

 

 刹那、声が漏れた。可愛らしいとも形容できる小娘の如き悲鳴。

しかし、彼女は自身の口から飛び出した声だとも気付かなかった。

 

 肌色が晒された己が太腿から伝わる感触に――――心地良さに思わず、竦んでしまったのだ。

それはまさしく極上の肌触り。クレマンティーヌの素肌を優しく受け止め、温かく包み込む布地。

 

 ――――何なのよ、いったい何だって言うのよッ

 

 たかが、布生地にすら惑わされる自分が情けなく、そのクセこの心地良さから逃げ出せそうに無い身体に、彼女は泣き出してしまいそうな思いだった。

 

「ほら、いつまでも座ってないで横になって」

「あっ、ちょ、ちょっと何するのよ!」

 

 真剣味を帯びた青年の声と、上体を押し倒そうとする力にクレマンティーヌは僅かながらも理性を取り戻す。

 

 肩に置かれた彼の手は、ちょっとやそっとの抵抗にもびくともしない。

我に返った女戦士の脳内に鳴り響くは警戒の音色。こいつ抵抗できない私に厭らしい事を、そんな思いが彼女に過る。

 

 クレマンティーヌは軽蔑の眼差しを目の前の青年へと向け――――ひるんでしまった。

 

 そこにある紅の瞳に、負の感情なぞ一寸たりとも見受けられなかったのだ。

むしろ、その瞳には真剣な光が爛々ときらめていた。自分が助けねば、そんな強い義務感と温かな親切心。

 

 真っ直ぐな想いが狂戦士――――クレマンティーヌだけに注がれていた。

果たしてこんな目で自分を見てくれる人が、今までに存在したであろうか。

 

 眩いばかりの善意に、そして自分なんかを心の底から心配してくれる想いに、クレマンティーヌは口を閉ざしてしまう。

 

 自然と強張っていた上体は弛緩し、背中がゆっくりと寝台に沈んだ。

あれよあれよという間に、青年の手によって装備が剥がされて行く。肩当て、籠手、胸甲、腰当。

急所を守る装甲から解放された身体は、いつもと違う不思議な解放感に満たされていた。

 

 ふわりと、そよ風が彼女の頬を撫でる。

視界に映し出されたのは、宙に舞うフカフカの毛布と柔らかそうな掛布団。二つの寝具がクレマンティーヌの身体を包み込んだ。

 

 硬い硬い鎧では無く、優しい温かさと柔らかさを兼ね備えた衣。

心身を満たす心地良さに、彼女の口から思わず吐息が漏れ出た。何故だろうか身体に力が入らない。女戦士は心中独り言ちる。脱力とは、また違う不思議な感覚にクレマンティーヌは身を任せてしまっていた。

 

「よし、あとは濡れタオルを額に――――って、あれ?」

 

 その場から離れようとした青年が声を上げる。

困惑の色に満ちたソレと共に気まずそうな雰囲気を漂わせていた。

いったいどうしたのだろうか、先程までの確固たる決意を秘めた彼の姿は無い。

 

 青年は、ただただ困り顔でこちらを見詰めるばかりであった。

そんな様子に、理性が再び霧散し最早ぼんやりと現実を受け入れるがままだったクレマンティーヌは、思わず声を掛けてしまった。

 

「……どうしたの?」

「いや、その……」

「……なに?」

「ごめんだけど……手、放してくれないかな」

「えっ」

 

 毛布の端から飛び出す肌色の物体。

それが、青年の手と繋がっていた。まじまじと見詰めるクレマンティーヌ。どうもソレが己の手であるらしい。そういえば、と彼女は思い出す。自分を押し倒す時に置かれていた彼の手は、片方だけであったと。

 

 深く深く、指と指を絡み合わせる繋がり方。恋人繋ぎとでも言えば良いだろうか。二人の体温が入り混じり、一つのモノとして共有される感覚。手汗すら浮かび上がるほど硬く、そして長く繋がり合っていたであろう手と手。

 

 つまり、私は彼に誘われた時からずっと手を繋いだままだったのか。

 

 その事実に行き当たったクレマンティーヌは、声に成らない絶叫を迸らせていた。

次いで彼女は勢い良く毛布を引き上げ、頭までスッポリと隠す。それは衝動的な行動であった。何か深い意図があった訳でも無く、ただただ隠れたかっただけ。

 

 顔から火が吹き出しような程の羞恥に、その身を悶えさせ苦しむ女戦士。その姿は傍から見れば、生娘の如き反応なのだが、今の彼女では気付けないだろう。

 

 ――――何なの……いったい何なのよぉッ!!

 

 彼女の胸の内で響き渡る咆哮。青年に会ってから自分は壊れてしまった――――元々壊れていなかったのかと問われれば否定は出来ないのだが。

 

 兎にも角にも、身体の底から湧き上がる得も言われぬ感覚に、クレマンティーヌは翻弄されていた。

 

「まぁ。確かにそうですよね」

 

 布生地の向こう側から青年の声が発せられた。

どこか一人で納得するかのような響きを帯びる、そんな声だ。同時に、彼の気配が彼女のすぐ隣まで近付く。クレマンティーヌは思わず、ぎゅっと目を閉じた。

 

 何かに備えるかのように、視覚からの情報を断つ。しかし、五感の内の一つを断ったが故なのか、他の感覚が鋭くなってしまう。

 

 元々、英雄の領域に足を踏み入れている彼女だ。最早、青年の息遣いはおろか、僅かな身動きや体臭まで感じ取ってしまっていた。

 

 もう駄目だ、死んでしまう。

 

 そこに存在するだけで心臓が飛び出してしまいそうなのだ。これ以上、何かあったら爆発してしまう。そう確信してしまう程、クレマンティーヌは追い詰められていた。

 

 ガタガタと何かを動かす音が鳴り響く。

次いで、軋む音。青年が椅子か何かに座ったのをクレマンティーヌは理解した。

 

「風邪を引いた時とか、誰か傍にいて欲しいですよね」

 

 その気持ち分かる、と言わんばかりな青年の発言。

彼は勘違いしているのだが、その事実を正すほどの余裕がクレマンティーヌには無かった。握り合った手が更に深く――――それも彼の方から繋がって来たのだから。

 

 刹那、彼女の身体に電流が走る。

ピリピリとした刺激が女体の芯を焼いた。喉奥から溢れ出そうになった感情の奔流を、寸での所で押し留める。

 

 おかしい、こんなのおかしい。

幾度と無く呟かれた想い。しかし、何度呟いた所で事実が変わる訳でも無い。女戦士は何かに怯える少女のように、ただただ身体を震わせ続けていた。

 

 そんな彼女に青年は何をするでもなく、静かに寄り添い、優しく手を繋ぎ続ける。

静寂が支配する世界。刻々と時間が過ぎて行く中、クレマンティーヌの呼吸は乱れる一方だった。

 

 極上の寝具は、この世のモノとは思えない心地良さを彼女に与えていたのだ。

僅かな身じろぎで擦れる素肌と生地。そこから生まれる快感は最早性的な領域にまで昇華していた。

 

 元々、露出の多い装備を身に着けていた彼女である。装備を外された今となっては、露出具合に拍車を掛けて下着姿も同然。

 

 全身をくまなく撫でられ湧き上がる快楽。

あぁ、と思わず零れた吐息は湿り気を帯びている。そして豊満な胸を隠す黒いインナーには、小さな隆起すら浮かび上がっていた。

 

 悦楽のぬるま湯の中で、彼女はのぼせ上っていく。

脳内に靄が掛かり、思考は鈍る。何を思ったのか青年がゆっくり毛布を捲り上げても、明確な反応を示す事は無かった。

 

 瞼越しに感じる眩い照明。

外界に晒された彼女の顔に、何かが当たる。その柔らかな感触は、現在クレマンティーヌの身体を包む寝具と似ている。心地良い生地が首筋を這い、頬を撫で上げ、額の上を滑った。

 

「汗びっしょりだ……大丈夫ですか?」

 

 紡がれる言の葉が彼女の鼓膜を優しく震わせる。

あっ、とクレマンティーヌ口から息が漏れ出た。思わず零れてしまった吐息、ソレは女戦士が築き上げた内なる堤防を潜り抜け、外界へと突き抜けた奔流の証だ。

 

 あ、ダメだ。

 

 ほんの数瞬だけ弛緩した身体。その内側から這い上がって来る快楽信号の波。再び力を入れて耐えようにも、一度空いた穴を塞ぐ事は難しい。

 

 みるみる間に高まって行く己の性感をクレマンティーヌはどこか他人事のように眺めていた。

現実感の喪失とでも言えばよいのだろうか。極度の緊張下にあった彼女の正気は最早失われていた。

 

 どちらにせよ、今からもう一度我慢しようにも無理な話である。

時すでに遅し。引き返せない所にまで到達した悦びは、穿った穴を起点に堤防そのものを破壊する激流と成ろうとしているのだから。

 

 無意識の内に彼女は閉じていた瞼を開き、その眼で青年の顔をしかと捉える。

真っ赤な瞳と視線が交わった。彼は人懐っこい笑みを浮かべ、慈愛に満ちた眼差しを返す。

 

 あぁ、とクレマンティーヌは静かに息を吐いた。

この紅玉の瞳と視線を交えてしまった瞬間、もう詰んでいたのだ。彼女はぼんやりと頭の片隅でそう思った。

 

「もう一度、熱測りますね」

 

 そんな宣言と共に迫り来る美貌。

ピタッと額が重なり合う。触れた個所からじんわりと広がる彼の体温、鼻腔一杯に広がる彼の香り、こちらを覗き込む彼の双眸。

 

 それらをクレマンティーヌの脳が認識した刹那、彼女は達していた。

オーガズムの快楽が女体の芯で爆発する。グッと背筋が反り上がり、毛布の中から豊満な乳房が飛び出す。

 

 次いで完全に隆起した乳首が、インナーの生地越しから青年の身体と接触を果たした。

そう大した接触では無い、ただただ彼の服の上を掠めた程度のモノ。しかし、極限まで高まった女の身体は僅かな刺激にも苛烈な反応を見せた。

 

 乳頭より迸る快楽電流が、クレマンティーヌを貫く。

その衝撃が、喉元で詰まっていた感情の奔流を押し出す。絶叫が、室内にこだました。人の声とは思えない程の叫び、それはまるで獣の咆哮とも評せるものだ。

 

 雌豹の如き肢体はビクンッと跳ね上がり、毛布の下で細腰が卑猥な上下運動を繰り返す。

高々と舞い上がる絶頂感に、彼女は翻弄されていた。傍らにいる青年の存在を認識しつつも、焦げ付いた獣欲は止めどなく溢れ出て行く。

 

 そんな、あられもない雌の痴態。しかし果てしない狂悦を貪る浅ましい姿は、青年にどう映ったのだろうか。

彼は何を思ったのか、跳ね回る女体を羽交い絞めにして抱いたのだ。覆い被さり、暴れるクレマンティーヌを宥めるかの如く青年は声を発す。

 

「ちょっ、ごめんっ! 急におでこ引っ付けたの謝るから落ち着いて!」

「ひぅッ!? あっ、だ……だめッ、だめぇッ!!」

「わわッ!? ごめんって!!」

 

 どうにも熱を測るための行為が、クレマンティーヌの逆鱗に触れたと勘違いしたようだ。

熱を発する肢体をぎゅっと抱き締め、必死に謝意を見せる青年。しかし、それは今の女戦士にとって悪手でしかない。

 

 青年の胸板によって押し潰される双丘。肉厚の果実は形を変え、卑猥な姿を露わにする。勃起した先端は、より深まった擦れ具合に狂喜し、宿主へと容赦なく快楽を味合わせていった。

 

 クレマンティーヌは新たな法悦を前に、目を限界まで見開き咆哮する。

嫌々と駄々をこねるように首を振り手繰り、激しく空腰を使う。

 

 毛布の下、下着によって隠された肉裂は完全に花開き、肉ヒダが生々しい収縮運動を垣間見せていた。

そして真っ赤な沼よりドロリとした粘液が吹き出し、クロッチ部分に浮かぶ黒染みを広げていく。

 

 体内を荒れ狂うオーガズムの嵐に彼女は自身の無力さを教え込まれる。

本能的な恐怖心に襲われたクレマンティーヌは、助けを求めるかのようにして眼前の温もりへと縋り付いた。

 

「えっ!? お、おぶッ!?」

 

 何事か発せられた声に耳を傾ける余裕は彼女の中に存在しない。

ただただ、襲い掛かる快感から逃れる事に必死であった。それがより一層性感を刺激する行為であったとしても、だ。

 

 いつの間にか解かれた手は彼の背中へと周り、唯一無二な温もりを己へと引き寄せる。

刹那、深まった圧力が彼女の突起をこねくり回す。ひぃっ、と潤んだ悲鳴を上げてクレマンティーヌは更に縋れるモノを探した。

 

 毛布越しに絡まり合う4本の足。心地良い生地がしなやかな脚を撫で上げる。

ぷしゃッと水気に富んだ音色が秘処より迸った。駄目だ、このままでは死んでしまう。

 

 はらはらと涙すら流す女戦士は、眼前に映る肌色へと顔を突っ込んだ。

手も足も、身体ですらこの恐怖の前には心許ない。そんな彼女に残された数少ない選択肢の一つ、彼の唇へ。

 

 重なり合う朱と朱。割れ目が深く重なり合って交わる。腹の空かした乳飲み子が如く、クレマンティーヌは青年の唇を貪った。

 

 艶めかしい水音が二人の結合部から奏でられる。無意識の内に舌すら伸ばして、彼の口内の温もりを求めたのだ。鮮やかな赤色の軟体が青年の舌を絡め取り、唾液をこそぎ取って行く。

 

 喉を鳴らして彼の体液を啜るクレマンティーヌ。次の瞬間、彼女は全身を硬直させた。

熱い、熱いのだ。身体が、腹の奥底から。次いで閃光が彼女の眼前で瞬いた。

 

「————————————ッッッ!!!!」

 

 喉奥から迸る唸り声。

恥骨を高々と浮かせ、限界まで身体を弓なりに逸らす。膣皺が蠢動を繰り返し、一気に窄まった。

焦点の合わない視線が宙を泳ぎ、全身の穴という穴から体液を撒き散らした。

 

 果てしない絶頂の最中、クレマンティーヌの意識は遠退いて行く。

数十秒は続いたであろうオーガズムがようやく終わりを見せ始めた頃に、彼女の意識は深い闇の中へと沈んで行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いや、え? なにこれ……どうしよ、モモちゃん。俺、またとんでもない事やらかしちゃったかも」

 

 女戦士に拘束されたまま、しばらくの時を過ごした青年が言葉を零す。

訳の分からぬまま罪悪感に苛まれているのか、彼は誰ともなく懺悔した。

 

 

 

 

 

 

 




ノリと勢いで書く息抜き的な作品

更新頻度は作者の時間とモチベーション次第。


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クレマンティーヌと至高のインキュバス【出会い編その2】

 

 真っ暗闇から徐々に浮上する独特の感覚。

自身の肢体を包み込む心地良さに浸りながらも、クレマンティーヌの意識は覚醒を始めて行く。

 

 ここは、どこだろうか。

ぼんやりとする思考で彼女は考える。温かい、そして気持ちが良い。それは、まるで風呂にでも浸かっているかのようだ。

 

 どことなく気怠さの残る身体に取って、その温もりは堪らない。

はぁ、と一つ吐息を零す。自身を包む温かさの正体と、上下する胸が擦れてくすぐったさを生み出した。

 

 一度、二度と深呼吸を繰り返す度に、くすぐったさは心地良さを通り越して快感へと昇華する。

むずむずと湧き上がる微かな悦楽、まるでじっくり弱火で炙られるような感覚と言えばよいだろうか。そんな感覚を前に、仰向けに寝転ぶ女体は次第に落ち着きを無くして行く。

 

 居住まいを正そうと身体を揺すれば揺するほど、快楽の深さは増すばかり。

吐き出す呼気は徐々に湿り気を帯び始め、宙に雌の色香を漂わせていた。未だ完全に覚醒したとは言えない脳内で、彼女はこの心地良さの原因を探る。

 

 この感触、知ってる。

クレマンティーヌは己が胸中で呟いた。そうなのだ、この肌触りを自分は知っている、と。ここに来てようやく彼女は、自身が寝台の上で寝ている事に気が付いた。

 

 ならばおのずと、この気持ち良い肌触りの感触が何なのか思い至る。

無意識の内に、クレマンティーヌは温もりの正体である毛布を抱き寄せた。ただただ包まれているだけであった毛布との密着具合が深まっていく。

 

 一糸まとわぬ素肌の上を、撫で回す繊細な生地。

全身をくまなく撫でて行く感触は最早彼女にとって愛撫そのもの。いつの間にか桜色に上気していた珠肌に、汗が浮かぶ。

 

 呼気は乱れ、忙しなく上下する胸元に合わせて双丘が厭らしく波打つ。

頂点に存在する蕾は、その身を一生懸命に起立させ、いじらしい自己主張を始めた。

 

 うっ、と彼女は息を詰まらせる。

敏感な二つの突起を、きめ細やかな生地繊維が撫でたのだ。電流の如きピリッとした鋭さが雌芯を駆け抜ける。行き着く先は恥丘の下、そこに眠る女の園。

 

 鮮やかな二枚貝の割れ目より、トロリとした液体が一筋ばかり滴り行く。

明らかな性快感に彼女は背中を丸め、手の内に掴む温かさを掻き抱いた。一度意識してしまえば、もう無視する事は適わない。

 

 未だ、まどろみの中にあるクレマンティーヌは、ゆったりとした法悦を享受する他なかった。

徐々に舞い上がって行く性感。ここがどこであるかも忘れて、彼女の口からは喘ぎ声が漏れ出る。甘ったるい、女の鳴き声は嫌に大きく響き渡っていた。

 

 寝台の上で、落ち着きなく揺れ動く女体。

純白のシーツは皺を重ね、彼女の汗で染みを作る。抱え込まれた毛布は、そのきめ細やかな毛先で素肌を愛撫し、勃起した乳首をこそいだ。 

 

 度々湧き上がる色香に満ちた艶声。それに呼応して、弾力に富む乳房が卑猥に震えた。

くびれた腰は淫らかに揺すられ、肉厚の太腿同士が擦り合わされる度に粘着質な水音がこだまする。

 

 ――――あ、イキそう……

 

 快楽によってのぼせ上った脳内で、彼女は自身の頂きを悟った。

異常な状況下で自制する筈の理性は眠ったまま。クレマンティーヌは内なる本能に従って最果てを目指す。

 

 ゆっくりと身体が浮かび上がって行く感覚に、彼女は呻き声を上げた。

丸まっていた筈の背中は徐々に反り返り、全身で張り詰めた弓の如き弧を描き始める。

 

 いじらしくも足の指が曲げられシーツに新たな皺を刻み込んだ。

彼女の頭髪と同じ色である金色のデルタ地帯は、水気を含み真っ白な肌にへばり付く。

 

 高められた官能の中で、クレマンティーヌの肉鞘が隆起した。

可愛らしい小豆は毛布の繊維によってくすぐられ、悦びに打ち震える。

 

 艶めかしい細腰の動きが、何かを追い求めるように加速した。

止めどなく溢れる喘ぎは歓喜の色に彩られ、嬌声となって迸って行く。

 

 気持ちいい。そう、ひたすらに気持ちが良いのだ。

彼女とて生娘では無い。性行為の悦楽もそれなりに知っている。だが、自分を包み込むこの官能には到底敵わない。

 

 相手をいたぶって殺める時の愉悦ですら足元に及ばないだろう。

不思議な充足感、果てない快楽、そして――――

 

「んんっ」

 

 零れ出る喘ぎ。

呼吸をする度に彼女の鼻腔を犯す濃厚な雌臭。次いで、その中に微かに混じる香しい匂い。

柑橘系を彷彿とさせる爽やかな甘い香りだ。どこかで嗅いだ覚えのある、この匂いはクレマンティーヌを夢中にさせる。

 

 嗅げば嗅ぐほど身体は熱を帯び、快楽に深みが増す。

はっはっ、と犬の如く浅い呼吸を繰り返し、彼女は必死になってこの香りを体内へ取り込もうとした。

 

 どこまでも続く悦楽の境地。しかし、その歓喜の時間も終わりを迎えようとしてした。

瞼の裏に走る星々のきらめき。ビリッビリッと鋭い電流が背筋を穿つ。天を舞うかのように、身体には浮遊感が与えられる。

 

 ――――あぁ、大きいのが来る……

 

 目前にまで迫った快楽の高波。

原始的な恐怖と共に、興奮と期待が彼女の心を淫靡に染め上げていく。

 

 クレマンティーヌは悦びの最果てへとひた駆け出した。

ガタガタと身体は震え、ひっきりなしに体液を飛び散らせる。

 

「あぁッ!!」

 

 そして一際高い快楽の波が彼女を天高く押し上げた。

甘美な陶酔のうねりが肉欲の焔にくべられ、熱くも激しいエクスタシーの嬌声をこだまさせた。

 

「うぅッ、んんぅッ、あうぅぅッ!」

 

 くぐもった苦悶の叫び。

しかし、苦し気なその声色は明確な喜悦によって彩られている。

女芯で爆発する快楽の嵐。仰け反った肢体は大きく波打ち、溢れ出た蜜が金色の茂みを濡らす。

 

 身体の震えに合わせて、揺れる双山の果実。

豊満な果肉の上を、きめ細やかな毛先が走る度に、情欲の篝火はより一層燃え上がる。

 

 それぞれの果実の頂点に存在する桜色は、痛々しいまでに腫れ上がっていた。

可憐な蕾は掻き抱いた毛布によって押し潰され、鋭い快感を持ち主へと届けゆく。

 

 舞い上がった雌欲は中々静まろうとしない。

長らく続く肉欲の宴。クレマンティーヌは浅ましくよがり狂う。

 

 一体どれほど続いた事であろうか。

果てしないアクメの時間にも終焉の時が近付きつつあった。

絶頂後の気怠さに身を任せながら、女戦士は荒々しく息を継ぐ。

 

 ――――気持ち良かった。

 

 鮮烈なオーガズムに一種の満足感を覚えつつ、彼女は心中で独り言ちる。

これほど心地の良い目覚めは無いだろう。爛れてはいるが今までの人生で一番充足した時間であった。

 

 そう、少なくとも彼女が閉じていた瞼を開けてしまうまでは、だが。

 

「あ……お、おはよう?」

「ふぇ?」

 

 掛けられた声に、クレマンティーヌの口から間抜けな音色が飛び出す。

彼女の視界には一人の青年が映し出されていた。彼は自身が寝転ぶ寝台の傍らで所在無げに佇む。

 

 その顔には気まずいと言わんばかりの感情が浮かんでいた。

彼女は理解出来なかった。半覚醒状態の脳内には様々な疑問が駆け巡っている。

 

 彼は誰か、ここはどこなのか、何故そこに立ち竦んでいるのか。

次第に現状を理解し始めて行くにつれ、女戦士の表情は一変して行く。

 

 艶やかな桜色だった顔色は一気に青褪め、次いで火を吹かんばかりに紅潮した。

嘘だ、嫌だ、夢だ。そんな現実否定の言葉が、次々に浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す。

 

「ごめん、その、見るつもりは無かったんだけど……君が苦しそうにしてたから……」

「ぁ……ぅ……」

 

 申し訳なさそうに謝意を示す青年。

目を伏せ、原罪を告白するかの如きその姿勢は、彼女の胸中に罪悪感を湧き上がらせる。

何か言葉を掛けなければならない。青年の落ち込んだ姿は、クレマンティーヌの胸を締め付けていた。

 

 しかし、彼女の口から零れるのは意味を成さない小さな声。

穴があったら入りたい、まさしくその文面通りの心持ちであった。

 

 複雑に入り乱れ、爆発する感情の連鎖反応。

だが、このまま黙ったままでは何事も進まないのは確かだ。

羞恥心を抑え込み、無理矢理に口を開けたクレマンティーヌはどうにか言葉をひり出す。

 

「ふ、ふぅん……ぉ、ぉお、お兄さんは、のの覗き見がっ、しゅ、趣味なんだぁ」

 

 噛み噛みである。熱に浮かされたように呂律も回っていない。おまけにいつもの自分らしさを前面に出し過ぎた。

違う、こんな事を言いたい訳じゃないのに。心の中で頭を抱える女戦士。

 

 しかし既に時遅し。

ハッと顔を上げ、こちらに視線を向ける青年。

その真っ赤な瞳は悲しみで彩られていた。今にも泣き出しそうな表情はクレマンティーヌの心を苛む。

 

「ち、違う……そんなつもりじゃ――――」

「で、でもぉ……現に私の、は、はじゅ……恥かしい姿を見たんだよねぇ」

「それは……うん……ごめん」

 

 女戦士の指摘に、彼は言葉を詰まらせ、頷いた。

言い逃れ出来ない事実だと言わんばかりに。彼は言外に自分の罪を認め、罰を待つ咎人の如き姿勢を崩さない。

 

 痛い、胸が痛い。

思わず己が胸を押さえてしまいそうになるほどの痛みが、クレマンティーヌに襲い掛かる。

だが、彼女の口は止まらない。止まった瞬間、羞恥の余り死んでしまいそうだから。

 

「ぉお、おまけにさぁ……私って今さぁ、裸なん……はだか?」

「ごめん、濡れてたから風邪引くと思って……」

 

 ここに来て、彼女はようやく自分が一糸まとわぬ姿である事を再認識した。

そして青年から告げられる驚愕の事実。そういえば、意識を失う前の自分は何をしていたのだろうか。

 

 思い返される鮮明な記憶。

明確な快楽の残滓に、下腹部がズグンッと疼いてしまった。かぁっと顔に熱が集中するクレマンティーヌ。最早、真っ赤を通り越して、青年の瞳のような原色の真紅に染まっていた。

 

 彼は明確な表現を避けたが、当の本人である彼女は悟ってしまう。

青年が濡れたインナー類はおろか、びしょびしょになった己が身体も拭き清めてくれていた事を。

 

 クレマンティーヌの意識が一瞬遠退く。

自分はなんて醜態を晒してしまったのだろうか。最早、これはどう責任を取るかの案件である。こんな事までさせてしまった彼に謝らなければ。何か贖罪をしなければ。

 

 そんな考えがぐるぐると頭の中を巡り回る。

何かどうにかしなければ。とにかくそんな想いに駆られて彼女は再度言葉を紡いだ。

 

「……か、かかか弱い乙女の肌をッ、勝手にしゃわるなんてッ……へんたいねッ」

 

 もう駄目だ、死のう。

口から飛び出した言葉は自身が抱く想いとは全く異なる代物。自分はここまで心が弱いなんて知りなくも無かった。

 

 この苦しみから逃れようと死を覚悟するクレマンティーヌ。

だが、彼の口から放たれた言の葉が、その選択の行使を踏み止まらせる。

 

「いやッ、俺、そういうバイトもした事あるから! 女の人の裸とか見慣れてるから大丈夫だよ!」

「……は?」

 

 慌てた口調で飛び出す彼の声。

何を指して大丈夫なのか、それ以前に『他の女の裸を見た事がある』『だから女の裸は見慣れている』という青年の発言に、彼女の火照りは一気に冷めた。

 

 無意識の内にクレマンティーヌの口から零れ出た言葉はひたすら冷たく、そして鋭い響きを含んでいる。

その事実に青年はおろか彼女自身ですら気付いていない。

 

「いやさ、だから興奮して襲おうなんてしないよ!! やましい気持ちとか抱いてないから!!」

「……だからなに?」

「寝てる最中に厭らしい事とかしてないからさ、そこんところは大丈夫だからね!」

「……ふぅん」

 

 恐らく彼は自分を安心させるために口走ったのだろう。

その事はクレマンティーヌも理解出来た。しかし、理解するのと納得するのは別問題である。現に彼女は、心の奥底からふつふつと湧き上がるどす黒い感情に支配されつつあったのだから。

 

 手の内にある毛布をぎゅっと握り締め、その繊維へと皺を深く刻み込んだ。

今までクレマンティーヌを苛んだ羞恥心はどこかへ吹き飛び、おぞましい負の感情が彼女を突き動かす。

 

 ニヤリと、悪質な笑みを浮かべ、挑発するかの如く猫のような己が目を細める。

一見すれば普段通りの――――青年に出会う前のクレマンティーヌであるかのように。しかし、そんな彼女を突き動かす原動力は今までと全く異なる感情からであった。

 

 一言で言うなれば嫉妬。

そんな想いが原動力とは露知らず、狂っている筈の女戦士は言の葉を紡ぐ。

 

「それじゃあ、本当に私の裸を見ても興奮しないんだぁー?」

「しない、しないよ! 初対面の相手に厭らしい事なんてする筈ないよ!」

「へぇ、じゃあ本当かどうか確かめて上げる」

 

 そう言うや否やクレマンティーヌは毛布を放り出して、寝台から降り立った。

相対する青年から浴びせられる驚愕の視線。たわわに実った双丘、くびれた腰、肉厚の桃尻、しなやかな脚、それら全てを余す事無く彼に晒し出す。

 

 己が肢体へと注がれる青年の視線。

誰でも無い自分だけが彼の意識を独占している、その事実が彼女の心を満たしていく。だが、まだ足りない。クレマンティーヌは挑発的な笑みを湛えながら、彼を見上げた。

 

 再び絡み合う視線。

紅の宝玉はどこか狼狽えたような気配を醸し出している。彼女は一歩踏み出した。しなやかな脚を青年に見せ付けるようにして、大げさに、ゆっくりと。

 

 固い床の上に足裏が着き、ひたりと着地音を鳴らす。

大きく割った内股を伝って愛液が一筋ばかり滴るが、そんなモノ関係ない。いや、むしろ見せ付けてやればいいのだ。

 

 快楽、羞恥、嫉妬、焦り、複雑に絡み合う感情の発露を前にして女戦士の理性は消えて久しい――――元々、理性なんてあったかどうかと問われれば答えに窮してしまうのだが。

 

 狼狽える彼との距離を詰め、真正面から上目遣いで青年を見詰める。

端整な容貌が感情によって、二転三転と変化していく様は非常に楽しく面白い。それを自身の肉体が成し得ている事実に、クレマンティーヌは充足感すら覚えていた。

 

「ほぉら、どうかしら? そんなに熱心に見詰めちゃって」

「ち、ちがッ――――」

「へぇ、目を逸らすって事は本心を暴かれて焦ってるのかしらぁ。やっぱり厭らしい事を考えてたんでしょ?」

「そんな訳――――」

「なら、しっかり見なさいよ。このクレマンティーヌ様が判断して上げる」

 

 青年の言葉を遮って彼女は畳み掛ける。

ここで彼の言い分を聞いては駄目なのだ。こちらが主導権を握り、青年の良心の発露を抑え込む。そうすれば後はこちらのモノである。現に青年はクレマンティーヌの策にハマりつつあるのだ。

 

 そっぽ向こうとした彼の視線は、ひたすら彼女へと注がれ始める。

その瞳と同じ色に染まった頬は、初心な少年の如き印象をクレマンティーヌに抱かせた。ゾクッと花園の最奥が疼く。

 

 もっと見た事の無い彼の表情を引き出したい。自分だけのモノにしたい。

暴走を始める欲望が、彼女の身体に新たな命令を下す。クスクスと笑い声を上げながら、女戦士は豊かな肉丘に手を添えた。

 

 次いで下から掬い上げるようにして、持ち上げて行く。

指先が柔軟性に富んだ果肉へと沈み込む。刹那、ツンッとした刺激が女芯を這い上がった。表情には出さずも、彼女は確かに感じていた。

 

 自分は一糸まとわぬ姿で、眼前の出会ったばかりの男に、性的な仕草を見せ付けている。

異常な状況下でクレマンティーヌの情欲の篝火は再び勢い良く燃え盛ろうとしていた。

 

「どう? 私のおっぱい」

「うっ……」

「ほら、正直に答えないと判断できないでしょ。これはお兄さんが厭らしい事を考えているかどうか測るためなのよ?」

 

 持ち上げた乳房を見せ付ける様にして揉みしだく。

指と指の狭間より、果肉が溢れ出し彼女の細指を飲み込んで隠していった。指が沈み込む度に、切ない感覚が脳天から急直下し、雌芯を刺激する。

 

 んっ、と漏れ出る女戦士の喘ぎに、彼の喉元が小さく動いた。

僅か一瞬の出来事、しかし彼女は見逃さない。自分の身体を見ての反応、それも明らかに性的な興奮を匂わせる所作だ。

 

 嬉しい。

クレマンティーヌは喜びの感情を爆発させる。そして青年の視線をもっと釘付けにするべく、更に複雑に手元を動かし始めた。片側だけではなく両方で。それも乳搾りをするかの如く、根本から先端へとゆっくり指を走らせていく。

 

「んんッ……ど、どうかしら?」

「うっ、そ、その……」

「その? ほら、早く言わないとこんな事もしちゃうわよぉ」

 

 するすると双丘の頂きへと登り詰めて行く指先。白い乳肌は紅潮し、汗が玉のような滴となって浮かんでいた。

その先では、大輪の花が開いたような乳輪が小高く盛り上がっている。刺激を待ち侘びていた為なのか、明らかに性的な興奮の証を示していた。

 

 乳輪の外縁へと侵入を果たす爪先。

刹那、鋭い快楽信号が電流となってクレマンティーヌに襲い掛かる。興奮しているとは言えども、異常なまでの感度に彼女は思わず、おとがいを反らして声を上げた。

 

 甲高い嬌声にビクッと反応する青年。

その気配を間近で捉えながらも、高まる官能に後戻りは出来ない。桜色な花弁の中央にて起立する肉突起。充血して固く尖り切ったソレを、彼女は指先で摘んだ。

 

「あんんぅぅッ!!」

 

 迸る黄色い悲鳴と共に、彼女の身体が跳ね上がる。

全身へ電撃が走ったかのようにビクンッビクンッと繰り返される痙攣。女の視界に閃光が瞬き、意識が一瞬だけ遠退いた。

 

 次いで、鮮やかなクレパスからは淫蜜が大量に噴き出す。

溢れ返った液体は内腿はおろか直接、床にまで滴り落ち、小さな水溜まりを形成していく。淫らかな水音が辺りへと響き渡る中、彼女は崩れ落ちるようにして膝をついた。

 

 灯りの下、朱色に染まる肌が艶めかしく照らされる。

胸を揉みしだき、硬く勃起した乳首を摘んだだけで、彼女は達してしまったのだ。存外にも深いアクメにより、自ら形成した水溜まりに座り込んでしまう。

 

 荒々しい吐息には湿り気を帯び、女体からは雌の発情臭が立ち昇っていく。

そんな艶姿にあてられたのか、青年の様子にも新たな変化が表れていた。未だ明暗を繰り返す女戦士の視界に、彼の下半身が映し出されている。

 

 漆黒の生地によって形成されたズボン。

その一部がこんもりと盛り上がっていたのだ。そう、そこは雄の象徴が鎮座する位置。クレマンティーヌの眼はソコから外す事が出来なくなっていた。

 

 逞しい隆起は、その下で雄槍が窮屈な思いをしている証左と言えよう。

膝立ちの状態で彼女はソコへと手を伸ばす。青年は何も言わず、何もせず、ただただ視線だけ注がれている事を、クレマンティーヌは感じ取っていた。

 

「ふふっ……これは、なぁにかなぁー?」

「あ、そ、ソコはっ」

「こんなに硬くしちゃって。やっぱりお兄さんは変態だったのねぇー」

 

 青年の声は怯える幼子のように愛らしく震えていた。

女の本能が疼きを上げて、雄を求め暴れ出す。彼女も雌としての欲望に一切逆らわず、彼の逸物をズボンの生地越しに触った。

 

 大きく硬い、そして熱い。

触れた瞬間、感じ取る男の逞しさ。熱のこもったソコは彼女の指先によってビクッビクッ、と跳ねている。はぁ、と悩ましい溜め息が思わず零れてしまった。

 

 指先で触れるだけであった動きは次第に熱が入り始めていく。

爪先で先端をくすぐり、手のひらで撫で擦って慈しみ、両手で包み込んで愛す。夢中になってその形を、大きさを、雄々しさを己への脳内に刻み込んで行った。

 

 もう我慢出来ない。

クレマンティーヌは声に出さず呟いた。アクメの切っ掛けとなったニップルがジンジンと疼き、ひんやりとした室内の空気にさえ反応してしまうほどだ。

 

 真っ白な肌は紅潮し、珠の汗を張り付かせ、濃厚な雌臭を放つ。

雄の存在を前に、肉厚な花弁は鮮やかな花を咲かせ、雌しべの奥底より粘度の高い甘蜜を垂れ流している。トロトロと滴る甘露は、張り詰めた内腿を汚し、照明によって厭らしい痕跡をきらめかせていく。

 

 切なげに左右へ揺れる腰によって、豊満な桃の果実が波打ち、卑猥な踊りを雄に見せ付けていた。

早く、早くと言わんばかりに送られる性のアピール。下腹部の奥の存在はキュンキュンといじらしい鳴き声を上げて、その時を待つ。

 

 丹念に行われる手淫はとうとう次の段階へ移ろうとしていた。

ベルトの留め具を素早く外し、雄を解放せんと動き出す雌の手先。何を企図したモノなのか、青年が察した時には最早手遅れであった。

 

 衣擦れの音を派手に立てながら、厚い生地が彼の下半身を解放する。

素っ裸の女性が、男の前で跪き、ズボンを降ろす様はまさしく卑猥の一言に尽きた。痴女としか言いようの無いクレマンティーヌの所業であるが、普段から大胆な露出を経験している彼女にとっては些細な事である。

 

「すっごい匂い……物凄く興奮してるわねぇー」

「うっ、そ、それは……」

「うんうん、それはー、なにかなぁ?」

 

 本来の調子を取り戻しつつあるクレマンティーヌは、ニマニマと厭らしい笑みを浮かべながら青年の回答を待つ。そう、いつも通り相手を小馬鹿にするような挑発めいた口調で。無用心にも聞いてしまったのだ。

 

「君が、とても魅力的だったから……」

 

 真摯にも彼は女戦士に向き合う。

その真心のこもった言葉に、クレマンティーヌは言葉を返せなかった。今まで僅かな時間を共に過ごした彼女は、容易に想像できた筈なのに。

 

 この青年がどれだけ清やかであるかを。

 この青年がどれだけ真摯であるかを。

 この青年がどれだけ何者でもない単なる『クレマンティーヌ』という人間をしっかり見ていてくれるかを。

 

「だから、その、申し訳ないけど止めてくれると――――」

 

 クレマンティーヌは彼の言葉を最後まで聞かなかった。

心が逸る、歓喜・充足・そして自尊心が満たされる。もう待てなかった。その可憐な口を大きく開き、張り詰めた男の下着にしゃぶり付く。

 

 布生地の向こう側に存在する熱源へ、彼女は夢中になって舌を送り込んだ。

鼻腔を犯す雄の臭気。決して不快ではない、むしろ香しい匂いだった。硬い幹を唇で挟み込み、裏筋を舌でなぞり上げて行く。

 

 頭上から驚愕に満ちた声が投げ掛けられるものの、クレマンティーヌが止まる理由にはならない。

何かに急かされるようにして彼女は熱烈な愛撫を施し続けた。淫らな吸引音がこだまし、口の端から唾液が溢れて、その形の良い顎から滴り落ちる事も構わない。

 

 立派な砲身を思う存分舐めしゃぶった後は、そのまま降って陰嚢に舌先を伸ばす。

柔らかな袋は縮こまり、精の奔流を溜めている事が分かった。ゾクッと妖しい電流が彼女の雌芯を走り抜けて行く。

 

 先程よりも濃厚な男の匂いで肺を満たし、内に外に彼と言う存在を堪能する。

そして彼の喘ぎ声を耳にする度に、クレマンティーヌの愛撫は激しさを増して行った。そんな最中、ふと彼女は気が付く。

 

 下着と素肌の境目で、真っ赤な穂先が頭を出しているではないか。

熱のこもった手淫と舌技に、下着がずり落ちたのだろう。充血し腫れ上がった亀頭は、赤子の握り拳はあろうかというくらいに大きく、そして立派であった。

 

 あぁ、今すぐ口の中に咥え込んで愛したい。

うっとりと酩酊したかのような眼差しを、雄の証に向けるクレマンティーヌ。

次いで、彼女は鈴口から先走り汁が湧き上がっているのを視認する。粘着質な薄く濁る液体。精臭がツンッと嗅覚を刺激した。

 

 刹那、体内で激情が迸る。

舐めたい、あの体液を自分の一部としたい。まるで魅了されたかの如き欲望の発露だった。彼女は抗わず、すぐさま舌先を伸ばして鈴口を舐め上げる。

 

 粘膜同士の接触は予想外の心地良さを舌先に響かせ、クレマンティーヌの軽いオーガズムへと追い込んだ。

うっ、と息を詰まらせ、その肢体を震わせるも彼女は留まる事を知らない。器用に舌先で掬い上げた濁液を口内に取り込んで嚥下する。

 

 彼のモノが自分の腹に収まる。

その事実だけで彼女は更なる官能を覚え、打ち震えた。次には恐ろしい程の多幸感が襲い掛かり、雌しべから間欠泉のように愛液を噴き出してしまう。

 

 ぷしゃッぷしゃッと身体の震えに合わせて迸る絶頂の証。

激しい潮吹きは、地面の愛液溜まりを更に拡大させていた。あぁ、と喘ぎを抑え切れずに零すクレマンティーヌ。

 

 熱い、熱いのだ。

腹の中で、熱が濁流となって暴れている。思わず腹を抑えて無様な呻き声を上げてしまう程の灼熱だ。腹に溜まった熱は一気に勢力を広げて胸を、手足を、そして大事な女の奥底を犯していく。

 

「あぉッ、おあぁぁぁっ!!」

 

 獣の如き方向が喉奥より放たれた。

嫌々と首を振るも、その熱量は加減知らずに高まって行く。穴と言う穴から体液を垂れ流し、激しい絶頂に晒される女体。しかし、何故かそこには恐ろしい程の空虚感が生まれていた。

 

 切ない、寂しい、嫌だ。

まともな思考が働かない異常な状況下で、彼女は眼前の雄しべに縋り付いた。

下着を引き裂かんばかりに降ろし、完全に露出した肉棒を咥え込む。強大な亀頭は艶やかな唇を巻き込みつつ、口内に飲み込まれていった。

 

 じゅるッじゅるッと淫らな音色を奏でて巻き付く舌。

張り出た傘を縦横無尽に走り回る。鋭い刺激と相成ったのか、頭上から降り注ぐ呻き声は一段と高まりを見せ、口内の肉棒は脈動に合わせて跳ね上がった。

 

 鈴口から漏れる雄汁を欲して、浅ましい吸引音が鳴り響く。

自身の頬をへこませる程の激しい吸引。しかし、漏れ出る淫水は少量に留まっていた。なんで、どうして。そんな想いが脳内を幾度も交差する。

 

 それならばと、クレマンティーヌは鋼の如く硬い幹に手を添え上下に扱き始めた。

うっ、と青年の声が上がると同時に、湧き出る雄汁の量が増える。それを必死になって啜るクレマンティーヌだが、なお体内を占める空虚感は収まらない。

 

 そう、この僅かな雄汁では収まらないのだ。ならばもっと濃厚な精を求める他ない。

彼女は本能的にソレを察知し、すぐさま実行へと移る。口内を占拠する穂先を喉奥へと飲み込み、新たに咥え込んだ鋼の刀身を口腔で愛撫する。

 

 そう時間を経たずとして、その行為は激しいストロークへと昇華されていった。

じゅぽッじゅぽッと淫靡な演奏を奏でる尺八。長大な肉棒を口内に収め、引き抜く。唇で上下から強く圧迫し刺激する事も忘れない。そして空いた手で彼の玉袋を優しく愛でるのだ。

 

 次第に喉奥を突く穂先の苦しさも、口内粘膜を犯す幹の逞しい感触も、手の内に収まる陰嚢の柔らかさも、彼女に明確な快楽を与え始めていた。

 

 突き込まれる亀頭と同じタイミングでクレマンティーヌは達し、激しい潮を吹く。凄まじい硬度の刀身の感触は得も言われぬ悦びを生み出し、ひんやりとした陰嚢の触り心地は優しい電流を体内に流し込んで来る。

 

 異常なまでに垂れ流される彼女の体液で、辺りは一面水溜まり状態だった。

厭らしい蜜の湖上で行われる雌の口淫。それにも終わりが近付こうとしていた。

 

 ううッと一際高い呻き声を上げる青年。

次いで今まで動きを見せなかった彼が、腰を突き出し始めたのだ。欲望に突き動かされる女戦士も、男の限界を察する。彼女の愛撫も終着地点を目指して駆け出す。

 

 首を大きく振るストロークに、紅潮した豊満な果実がゆさゆさと揺れ動く。

勢い余って青年の太腿に、先端の尖りを擦ってしまうほどの激しさだ。限界まで勃起した乳首が、彼の表皮を擦る度に彼女は新たな絶頂を迎えていった。

 

 最早、クレマンティーヌにまともな思考が出来る程の余力は無い。

常人ならば心臓麻痺を起こしてしまう事が確実な悦楽の嵐。しかし、彼女はアクメを迎えれば迎えるほど虚無感を抱くのだ。

 

 半狂乱の中で女戦士は、はらはらと涙を流す。

寂しいのだ、切ないのだ。彼女の蜜壺はナニカを求めて蠢動を繰り返し、卑猥な膣壁を外界へ曝け出す。だらだらと滴る愛液は白く濁り切り、女の劣情の深さを物語る。

 

「あっ、駄目だッ! 射精るッ!!」

「んぶぅッ、ぎでッッ!! おねがいッ!! いっばい出じでッ!!」

 

 唐突に放たれた青年の言の葉。

終焉を告げる声に、彼女は愛撫を止めずに答える。可憐な女性の声とは思えない濁声だが、その切実さはしかと伝わったであろう。

 

 青年は大きく腰を突き出して、女戦士の懇願に応じたのだから。

ドンッと喉奥を穿つ雄槍。息苦しさは最早無い。あるのは果てしない快感の奔流。脳天を突き破るかの如き電撃が雌芯を貫いた。

 

 クレマンティーヌは空いた両手を彼の臀部へと回し、抱え込んだ。

強まる圧迫感に、彼女の身体が硬直する。絶頂前の強張りなのか、女戦士の桃尻には笑窪が生まれ、肉鞘を飛び出した陰核がぷるぷると震えていた。

 

「あぁッ!! くうぅッ!!」

「んぐッ!! んぐうぅぅッ!!」

 

 青年の口から苦し気な呻き声が飛ぼ出す。

次いで、ほぼ同時にクレマンティーヌの喉奥から獣のような唸り声が放たれる。ドクンッドクンッと脈動する度に、雄の鈴口から白濁とした液体が放出されていく。

 

 濃厚で煮え詰まった精の奔流は、彼女の喉奥を染め上げ、食道を犯して体内へと至る。多量の精液と濃い性臭を前にむせる暇も無く必死に嚥下を続けるクレマンティーヌ。

 

 白弾が砲口から吐き出され、喉奥に着弾する度に、彼女は凄まじいアクメを味わっていた。

白目を向き、意識を飛ばしながらも本能が、青年の体液を飲み込み続ける。一〇秒、二〇秒と継続する射精。それはクレマンティーヌの絶頂の時間も表している。

 

 長らく続いた快楽の饗宴も一分を越える頃にはようやく終焉が見えて来た。

口内はおろか体内すらも青年の色に染め上げられたクレマンティーヌはゆっくりと崩れ落ちる。ちゅぽんッと、どこか間の抜けた音色と共に長大な肉棒が、口内から抜け出し外界へと姿を現す。

 

 どうにか意識を保っている女戦士は、地べたに座り込みながら逞しい逸物を見上げた。

己の唾液でテカテカと妖しくきらめく肉棒は、未だその硬度を保ち続けているではないか。絶頂の余韻のためか、時折ビクンッと震えて穂先より精の残滓を滴らせる雄々しさから、クレマンティーヌは目を離せずにいる。

 

 あぁ、と劣情を帯びた溜め息が吐かれ、彼女は己が下腹部に両の手を添えた。

子宮を叩く切ない疼きが堪らない。口腔に残る精液の味と匂いに酩酊としつつ、彼女は先への期待から心身を打ち震わせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おっかしいなぁ、なんでメッセージが繋がらないんだろう? とんでもない事を起こす前に早く戻って来て欲しいんだけど……まぁ、流石に大丈夫か。幾らあの人でも、こんな非常事態で変な騒ぎは起こさないでしょ』

 

 

 

 





本番含めたら2万字越えそうだったので1万字ちょいにて分割。

焦らしてる訳じゃなく、1万字越えると管理が難しい(何を書いてるのか自分でも分からなくなる)のでユルシテクダサイ。


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クレマンティーヌと至高のインキュバス【出会い編その3】

 

 室内を満たす濃厚な性の香り。

雌の甘ったるい発情臭と、雄の青臭い精臭。二つの臭気は交じり合い、むせ返ってしまうほど濃密さを醸し出している。

 

 もし、第三者がこの現場に居たならば眉をひそめ顔を背けるであろう。

しかし、実際この場に存在するのは一組の男女のみ。一人は劣情に身を焦がし続け、もう一人は困惑しながらも明確な拒絶は示していない。

 

 ならば、二人の行き着く先は決まったも同然である。

 

「ふふっ、こんなに射精しちゃって……それほど私のお口は気持ち良かったのかしらぁ?」

 

 厭らしい湖上に尻餅を付きながら、挑発的な口上を述べるクレマンティーヌ。

しかし、その文面に反して声色には陶然とした響きが伴っていた。雪色の肌は艶やかな朱に染まり、猫科の動物を彷彿とさせる眼は爛れた欲望を垣間見せる。

 

 そして彼女の視界に映る肉槍は未だ力強く反り起ち、女の劣情を刺激して止まない。早く、一刻も早く繋がりたい。色欲に犯された思考が、無意識の内に女体を突き動かす。

 

 その可憐な口を開け、口腔から舌が顔を出した。 

そして、青年へ見せ付けるかのようにして卑猥な踊りを披露して行く。何も無い空間を舐め上げ、舌先でこそぎ、浅ましく啜り取る。

 

 口の端から唾液が溢れる事もいとわず、真っ赤な軟体はひたすら妖しい旋律を刻んだ。

チロチロと動き回る舌に、彼の視線が釘付けとなっていた。それと同時に彼女の聴覚は唾を飲み込む音を捉える。

 

 彼の秀麗な容貌が、深紅の眼差しが、情欲の念によって彩られていく。

だが、青年はクレマンティーヌに手を出さない。明らかな欲情を抱いていると言うのに、未だ彼の瞳には理性の光が色濃く残っていた。

 

 困惑と苦悩。

映し出される感情の色に、クレマンティーヌは待つ事が出来なかった。

手を出してくれないのならば、こちらから出向くのみ。そんな決意を胸に彼女はゆっくりと立ち上がる。

 

 釣り鐘状の大きなふくらみが弛み、ツンッと尖った硬いしこりは幾何学模様を描く。

男の眼は、跳ね上がる蕾の軌道をなぞっていた。突き刺さる熱視線にむず痒さを覚えつつ、彼女は好機を読み取った。

 

 すかさず己が手を伸ばして、彼の衣服を捲り上げる。

作りが分からず脱がす事も適わずとも、その肌を露出させる事は容易い。わっ、と驚きの声を上げた青年を尻目に漆黒の生地を胸元まで擦り上げて行く。

 

 上質な衣に隠されていたのは、美しくもしなやかな肉体であった。

細身でありながらも鍛えられた筋肉は、如実にも彼女の眼前で存在感を露わにする。戦士としてのクレマンティーヌが告げる、美しい肉体であると。

 

 一見すると厳しく鍛え上げられた筋肉という訳では無い。

しかし触れてみれば分かる、その密度と質量。あからさまな隆起こそ無いものの、硬さと反発力に溢れる筋肉はまさしく芸術。

 

 引き締まった腹筋に触れ、形の整った胸筋へと指を滑らせていく。

ほぅっと感嘆の息を一つ吐いた。そんな青年の肉体美に夢中になる女戦士へ、もう一つの情報が脳内へと届けられた。

 

 それは彼の体臭だ。

汗の匂いが入り混じったソレは、衣服と言う枷を外れて彼女へと殺到する。ズグンッと雌芯が疼いた。一瞬だけ浮かび上がった戦士としての己は、瞬く間に霧散し再び雌欲が姿を現す。

 

 男の肉体に触れていた指先が震える。

今、自分が触れているのは立派な雄の身体なのだ。もし、この身体に自身の肉体を重ねたらどうなる事か。脳裏を過った想像に、女の胸が高鳴った。

 

「ほ、ほぉら……ぉ、おっぱい、引っ付けちゃうぞぉ」

 

 期待の余りに舌が回らない。

浅い呼吸が何度も繰り返され、しとどに濡れた吐息が青年の肉体に吹き掛かる。薄紅色の野苺が、徐々に距離を詰めて行く。

 

 興奮が興奮を呼び、クレマンティーヌは内腿で新たな湿り気を増やす。

ついに勃起した大粒の蕾が、その先端を肌色の肉体に到達させた。刹那、乳頭から湧き上がる鋭い快楽。汗でぬめる素肌の上で、疼き起つ苺が喜びに打ち震えていた。

 

「ふぅッ、あぅぅッ」

 

 クレマンティーヌは歯を食い縛って沸き立つ雌欲を抑え込む。

ここで果ててしまっては勿体ない。この厭らしい乳首を、もっと押し潰して、もっとこねくり回して、もっと苛め抜いて、逝きたいのだ。

 

 それに、と彼女は快楽に流されそうになる意識の片隅で呟く。

頭上から降り注ぐ熱視線。何も興奮しているのは自分だけで無い。その事実に女戦士は気が付いていた。熱いのだ、下腹部が。そこで対峙しているのは雄の象徴。

 

 先程以上に雄々しく天を突く肉棒が、彼の興奮具合をクレマンティーヌに教えてくれる。

どう転んでもこのまま事が進めば、自分は彼とまぐわうであろう。むしろ今すぐ襲っても彼は受け入れてくれる、そんな確信が女戦士の中にはあった。

 

 しかし、それでは面白くない。どうせならば両者合意の上で気持ち良くなりたいと、彼女は考える。つまり遠慮やためらいなど捨てて、本能の赴くままに繋がって欲しいのだ。

 

 その為の布石、彼の理性を解きほぐし思う存分犯して貰うための前準備。

彼女は腕っぷしが強いだけの単なる狂戦士では無い。伊達や酔狂で漆黒聖典の一席を占めていた訳では無いのだ。

 

 ただ、惜しむらくはこの青年の前において、全てが上手く行くと限らない点であろうか。

 

「ひぃうッ、くぅんんッ!」

 

 鮮やかな乳頭が逞しい肉体を突く。

その度にジンジンと甘美な電流が胸を貫いた。溢れる声をどうにか噛み殺すものの、その切なさで彩られた響きは消せない。

 

 敏感と言う次元はとうに過ぎている。耐え難い快楽で、眉間には幾重もの皺が寄り、苦しみに表情が強張る。見開いた目は、ただひたすら己と青年の接触点を凝視するばかり。

 

 そのいじらしい必死さは、青年を誘惑しているとは到底思えないだろう。

むしろ、ひたすら自身の内側にすくう欲望を焦らし続けているようにしか見えなかった。そう、クレマンティーヌは、自身の肉体と感情に異常が発生している事実をまるで考慮していなかったのだ。

 

「んぁッ! んぐぅぅぅッッ」

 

 今まで以上に鋭い快感が女体を穿つ。

乳頭が表皮の上を滑ったのだ。汗が潤滑油代わりとなったのか、勃起した先端が一筋の軌跡を描いて這い行く。

 

 同時に派手な水音が彼女の陰部より奏でられ、腰がガタガタと空を切り出した。もう立っていられない、女体がそう言わんばかりに持ち主の意思に反して姿勢を崩す。上体が前に倒れ、そびえ立つしなやかな肉体へと。

 

 ――――待って。

 

 クレマンティーヌの声無き主張は虚しも届かない。

腹筋と胸筋の間をくすぐっていた蕾が、その麗しい筋肉にめり込む。ビリッとした刺激、しかしそれも一瞬の事だった。

 

 硬度があるにしろ崩れた上体を支えられる筈も無く、可愛らしい野苺は乳輪ごと豊満な果実によって押し潰された。声は上がらない、いや上げられなかった。確かに、ビリビリとした快感が女体の内側をのたうち回り、飽く事無く彼女を絶頂へ押しやっている。

 

 だが、それ以上に青年の胸の中が恐ろしく心地良かったのだ。

安心、安堵、充足、言葉では言い表す事が出来ないほどの温かさにクレマンティーヌは包まれていた。

 

 気持ちいい。

性的な快楽も勿論の事、人肌同士の接触が得も言われぬ気持ち良さを生み出しているのだ。彼女は両腕を青年の背中へと回す。

 

 一歩遅れて彼の腕も、おずおずとクレマンティーヌの背に回り、その肢体を優しく抱き留めた。

ブルッと震えが走る。再び、女の肉体はオーガズムを迎えた。しかし、それは性的な快楽によってでは無い、心を満たす多幸感が女戦士を頂きへと導いたのだ。

 

 静寂が室内を支配する。

それは好ましい空気を醸し出す静けさであった。これを機に彼女は腰を前方に押し出して、下半身すらも密着させてしまう。

 

 二人の間に挟まれる逸物。

クレマンティーヌの下腹部に包まれる雄の証はとても熱く、強大な存在感を放っていた。しくしくと腹の底が疼く。

 

 雄肉の位置する場所は、女芯の真上だった。

腹部越しに感じる雄々しき気配に子宮が、鳴き声を上げる。無意識の内に彼女は腰を振るった。ふるふると尻肉が左右に揺れる度に、己が腹筋を擦り立てる陰茎。

 

 肉体越しに行われる疑似的な性交にクレマンティーヌは深いアクメを決めた。

女肉を貫く激しい快感、しかし子宮は果てしない寂寥感に身を震わせる。はらはらと涙が流れて止まない、壊れてしまう。

 

 心は穏やかで際限ない多幸感で、肉体は怒涛の快楽と雌芯を穿つ虚無感の板挟みに会い、気が狂いそうであった。

 

「ねぇ……しよ」

「えっ……」

「もう、最後まで言わないと分からないのかしら?」

「でもさ……」

「いいじゃない。何を心配してるのか知らないけど、私はもう我慢出来ないの」

 

 穏やかな会話が交わされる。

その内側では複雑絡み合う感情が激流の如く暴れ回っており、クレマンティーヌとしては言葉を発するだけで精一杯なのだ。それなのに青年の答えは思わしくない。

 

 何を心配するというのか。女戦士には見当も付かなかった。

我慢の限界なのにどうして、クレマンティーヌは心中で泣き叫ぶ。明確な拒絶は見られない、恐らく押せば嫌々ながらも交わってくれるであろう。

 

 青年も確かに自分の肉体で欲情してくれている。なのにどうして快諾してくれないのだ。

彼女には頑なに応じてくれない彼が理解出来なかった。しかしながら、青年がためらうのも仕方の無い事なのだ。

 

 確かに会話だけを聞く限りは普段通りのクレマンティーヌである。

だが、その一方で普段の見た目とは大きく異なっていたのだ。静かに声すら上げずに泣き腫らすも、その瞳は劣情に染まり切り、醸し出す雰囲気は切羽詰まった余裕の無い代物。

 

 出会って間もない青年であっても、現在の彼女が異常な状態にあると判断を下す程なのだから。

だからこそ、クレマンティーヌがあの手この手で誘えば誘うほど、青年は頑なに頷かず、その必死さに戸惑って心配してしまうのだ。まさしく悪循環と言えよう。

 

 このままでは気が狂って死んでしまう。

そんな想いすら抱き始めた女戦士に、ようやく救いの手が差し伸べられる。

 

「本当に……本当に大丈夫?」

「ッ!!」

 

 色っぽい唇が彼女への問い掛けを紡ぎ出す。

魅惑の音色に鼓膜を優しく震わせられた。ビクンッと肩が大きく跳ね上がる。脳内を染め上げる桜色の思考が一気に勢力を増した。小さく囁いた、ただそれだけなのにお預け状態の女体は激烈な反応を示してしまう。

 

 クレマンティーヌは激しく頷きで応じた。

例え、青年の憂慮が自身の胸を激しく締め付けようとも、ここで退く訳にはいかない。彼自身、このまま拒否し続けても事態は好転しないとでも思ったのだろう。

 

 未だに迷いが窺えるものの、彼は意を決したかのように一つ頷き返したのだ。

彼女を抱き締めている腕に、力がこもっていく。背中を掻き抱くその力強さに、女戦士は甘ったるい声を漏らす。

 

 足が、地を離れる。

次いで、ふわりとした浮遊感の後にクレマンティーヌは寝台の上へと押し倒されていた。いや『押し倒された』と言うよりかは『優しく寝かされた』という表現の方が正しいであろう。

 

 痛みも衝撃も無い、ただただ相手を思いやった繊細な手付きでの寝かし方。

純白のシーツを背に、彼女の胸は一際大きく高鳴った。興奮、期待、歓喜、様々な感情が心に浮かび上がっては入り混じる。

 

 ――――あぁ、とうとう抱かれるんだ。

 

 クレマンティーヌ視界一杯に広がる雄の身体。

彼が自分に覆い被さっている、その光景に雌芯を震わせて、はしたなく濃厚な淫蜜を垂れ流した。そして雄肉を己が腹の上に感じ、自然と股が開いていく。

 

 彼女は浅ましくも自身の意思で手を太腿に添え、彼の逸物を受け入れる態勢————正常位へと移行した。

その途端、辺り一面に撒き散らされる雌の濃厚な発情臭。女戦士の金色の性毛は多量の悦汁で濡れており、恥丘にべったりと張り付いていた。

 

 そんな茂みの下で、女の秘裂が朱色の恥肉を外界に晒し出す。

ぷっくりと肉厚な二枚貝は完全に花開き、内側の肉門はその小さな身に白く濁った愛液をまとわり付かせていた。

奥でぽっかり空いた淫洞が、生々しく肉ヒダを震わせ雄の到来を今か今かと待ち望んでいる。

 

 青年の紅瞳に色欲の光が鮮やかに表れていた。

男の欲情した視線を己が秘処に感じ、クレマンティーヌは初々しい生娘の如く頬を染める。厭らしく男を誘惑する自身の行動が今更ながらに恥ずかしい。

 

 しかし、その羞恥の感情を心地良く感じている自分がいた。

そんな最中、雄々しい肉棒が動く。彼女はゆっくりと穂先で狙いを定める様を喰い入る様に見詰めた。真っ赤に充血し、膨れ上がった亀頭が恥丘の上を滑っていく。

 

 雄の熱量に、ヒクヒクと肉壁が淫らかにうごめき、新たな淫水を湧き上がらせる。

会陰部を伝う恥汁の滝は、真っ白なシーツに劣情の染みを広げていった。そしてついに、穂先がしとどに濡れそぼった蜜壺を捉える。

 

 触れた個所から無限に快楽が湧き出す。

女戦士は、うっと息を詰まらせた。先っぽが触れただけで、これほどまでに持ちいいとは思いもしなかったのだ。

 

 性器と性器が軽く口付けを交わしているだけで、彼女は達しそうであった。

もし、本格的に繋がったらどれほどの快楽が生まれると言うのだろうか。本能的な恐怖と欲深い興奮にクレマンティーヌの心は染め上げられていく。

 

「いくよ」

「きて」

 

 囁くように交わされた言の葉。

最早、二人の間に多くの言葉は必要では無かった。肉棒が、蜜壺に差し込まれる。焦らされ続け、トロトロに溶かされた筈の肉門が更に大きくこじ開けられて行く。

 

 なんて大きいのだろうか。

彼女とて生娘では無く、性行為を何度も体験している。しかし、ここまで大きな雄槍は初めて出会った。凄まじい存在感にクレマンティーヌの顔が苦悶に歪む。

 

 だが、その瞳は結合部から決して逸らされずに熱を帯びた視線を向けている。

だからだろう、彼女は己が頭上に影が差した事に全く気が付かなかった。急に視界へと入り込む美貌。彼女が何らかの反応を起こす前に、艶やかな唇が降り注いだ。

 

「んんッ!?」

 

 クレマンティーヌの唇を塞ぐ謎の感触。

張りと柔軟性に富んだ温かな物体、その感触を彼女は一度経験していた。口付け、今回は青年の方から自発的に行われた。

 

 ただただ重ね合わせるだけのバードキス。

驚きに見開かれた女の眼は、すぐに陶然とした光を灯す。同時に身体から余計な力が抜けて行くのが分かった。

 

 あぁ、温かい。

胸奥がぽかぽかと、まるで春の陽気の如く優しい温かさに包まれる。刹那、強張っていた陰門が解れ、遅々として進まなかった結合が一気に深まっていく。

 

 強大な穂先が膣壁を押し開き、灼熱の棒が肉ひだを削る。

待ち望んでいた性交の快楽は、凄まじい暴風となって女体へ襲い掛かる。迸る淫靡な間欠泉、その旋律に合わせてクレマンティーヌの喉奥が鳴る。

 

 魅力的に張り出た腿肉へ、添えられて指が沈み込む。

植え付けられた五指の後が、彼女の悦びの深さを物語っていた。ズンッズンッと奥深くへ突き進む肉棒に、女戦士の視界で星が瞬く。

 

 そして、ついに最奥に到達した時、クレマンティーヌは今まで一番の絶頂へと押し上げられた。

突風にさらわれる木の葉のように、軽々と舞い上げられていく感覚。ガタガタと震える肉体が、無意識の内に逞しい雄の存在へ助けを求めた。

 

 両腕が再度、青年の背中へと回され、あらん限りの力でその身を掻き抱く。

無様にガニ股で開いていた脚は彼の腰に絡み付き、その身体ごと結合を深めた。二つの影が一つに交わる。豊満な果実は鍛えられた胸板に押し潰され、全く感触の異なる腹部同士が擦れ合う。

 

 素肌の擦れ合いは優しい心地良さを、力強く押し潰された乳房は鋭い悦楽を、次いで逞しい雄の存在を一身に受け止める子宮がキュンキュンと甘い旋律を刻み込む。

雪原の如き白肌を艶めかしい情欲の朱色に染め上げて、彼女はオーガズムの悦びに晒されていった。

 

 声も上げる余裕も無い結合。

肉体だけで無く精神も彼に蕩かされている。ずっとこのまま、彼と繋がっていたい。朦朧とする意識の中で、彼女は声に出さず呟いた。

 

 交わっていた唇が離れる。

彼の方から顔を引いたのだ。なんで、そう言わんばかりにクレマンティーヌは退く青年を求めて追随する。刹那、コツンッと額同士がぶつかった。彼が額を出して押し留めたのだろう。間近で爛々と輝く紅玉が彼女の瞳を見据える。

 

「ごめん……そろそろ限界で……」

 

 何が、と問うほど彼女は愚かでは無い。

ゾクッと妖しい感覚が背芯を走り抜けていく。交わったままの射精、それが何を意味するのか。その瞬間を夢想し、クレマンティーヌは軽い絶頂に至る。

 

 潮が彼の下腹部を叩くが関係ない。

腰に回された足に力が入る。背中に添えられた手は彼を抱き締めて離さない。

 

「だして」

「えっ」

「中で、だして」

「でも……」

「欲しいの、お願い……大丈夫だから」

 

 クレマンティーヌは懇願した。

理性の意色が宿ろうとした紅瞳に哀願とも言える視線を送り込む。周期からして月のモノは来ていない。そもそも、自分が子供を宿せる身体かどうかも分からない。

 

 愛の結晶を求む為ではなく、ただただ彼の全てを胎内で感じたかったのだ。彼女はそんな想いを胸に宿す。一方で逡巡した青年は、決意したのか軽く頷き、真剣な眼差しを向けながら言葉を告げた。

 

「頑張るよ、俺」

「えっ」

 

 脈絡の無い言葉に今度はクレマンティーヌが疑問の声を上げた。しかし、そんな彼女の様子なんてお構いなしに青年は言の葉を紡いだ。

 

「取り敢えず、もし子供を授かったら男の子と女の子、一人ずつがいいな」

「えっ」

「責任、取るよ。俺だって男だ。こんな可愛い女の子にそこまで言われたらね」

 

 陰り無き眼。嘘偽り無い心のこもった告白。

衝撃が、色香に溺れた彼女の理性を呼び覚ます。彼とって自分は、クレマンティーヌという名前の単なる女の子、そのような認識。言葉に言い表す事の出来ない感情が、心を掻き乱す。

 

 ぐるぐると意味を成さない思考で頭が一杯になり、そして――――クレマンティーヌは自然と微笑みを浮かべた。

 

 なんだか、どうでも良くなっちゃった――――

 

 胸中に巣食っていた闇は決して晴れた訳では無い。

しかし彼という存在によって、その程度の事で気に病むのが阿保らしくなったのだ。クスクスと笑う彼女は実に愉快な気分であった。

 

「ふぅん、じゃあ本当に出来ちゃったらどうするの?」

「まずは赤ちゃんの名前を二人で考えよう」

「ふんふん、それで?」

「男の子と女の子、どちらの名前も考えるんだ。あとは赤ちゃんの服と、マイホームの確保かなぁ」

「まぁ、いいんじゃない」

 

 深く繋がりながら、そして性的な快楽を得ながらも他愛も無い会話に興じる二人。

気持ち良く、心地良く、楽しかった。心の底から今、この時間が人生で最も充実している。そんな想いがクレマンティーヌの中で生まれる。

 

 欲しい。彼女は胸中で想う。

彼と共に過ごす時間が、彼に与えられる快楽が、そして彼自身が欲しい。花園の最奥で、艶やかなフレンチキスに興じる子宮がブルリッと震えた。

 

 そう、その為にもまずはやる事がある。

 

「じゃあ、その為にも……ねぇ」

 

 クレマンティーヌは猫撫で声で挑発的な流し目を送った。

青年は無言でキスを施し応じる。チュッと鳴り響くリップノイズ。相手を想う慈しみに満ちた口付けの後、どちらともなく腰を動かし始める。

 

 ゆっくりと引き抜かれて行く肉棒。

大きく張り出た傘が、膣壁をこそぎ削り、得も言われぬ快感を彼女に与えて行く。お返しと言わんばかりに蜜壺に力を入れ、雄槍を締め付けた。

 

 ギリギリまでひり出された逸物。

掻き出された淫肉は硬い幹にへばり付いたまま、外界に顔を出す。鮮紅色のうねりが新たな恥汁を滴らせ、二人の結合部をびしょびしょに濡らしていく。

 

 次いで、男の腰が突き出された。

再び膣道を穿ち、雌肉を巻き込んで熱いクレパスへと潜り込んで行く雄の証。脳天を直撃する悦楽に彼女は呻いた。先程以上の速度と力強さで最奥を突かれた時は、数瞬の間 気をやってしまったほどだ。

 

 そうして続くピストンは時間が経つにつれその速度を増して行く。

鳴り響く卑猥な水音は、生々しい雌臭を伴い奏でられる。鋭い突きに息を詰まらせ、力強い引きに歓喜の悲鳴を上げる。

 

 シーツは水気を吸い切れなくなり、彼女の臀部を中心として二つ目の水溜まりが形成された、

ギシギシとベッドのスプリングが軋みを上げる度に、女体は悦びに包まれる。

 

 汗まみれの素肌が織り成す心地良いさに、女は夢中となった。

たわわに実った乳房はクッション材のようにして、逞しい胸板に潰される。横乳が二つの肉体の狭間よりはみ出す光景は、とてつもない厭らしさを醸し出す。

 

 恥丘の上では金色と漆黒の茂みが絡み合い、その狭間より飛び出す雌の淫突起を刺激して止まない。

パンッパンッと甲高い破裂音は雄と雌の交尾がどれだけ激しいかを物語る。噴き出す愛液は白く濁り、二人の性器にこびり付く様はまさに淫靡と言えた。

 

「んぁッ、あぁッ、あぅぅッ」

 

 息継ぎの為に上の結合は解かれ、雌の嬌声が室内にこだまする。

 

 私ってこんなに厭らしい声が出せたんだ――――

 

 彼女は自身の黄色い悲鳴に、どこか他人事のような感想を抱く。

そこに含まれる色香は熟れた果実の如き甘さと、生々しさを伴う。自分の口から飛び出す、性的な鳴き声にクレマンティーヌの興奮は否応にもなく昂って行く。

 

 ボルテージを上げて行く女の喘ぎ声。

その声に中てられたのか、青年の腰遣いがより深いモノへと変化した。唐突に目の前で稲妻が走る。ひッ、と短い悲鳴と共に熱い飛沫が男根を濡らす。

 

 幅広のカリ口が恥丘側の肉壁を削ったのだ。ゴリゴリと肉ヒダをこそいでいく感覚に彼女は深いアクメを味わう。

 

「こ、ここが快感のツボッ、らしいんだッ」

「ひッ、ひぃッ! し、知らないッ! こんなの知らないのぉッ!!」

「うぅッ、気持ちッ、良くないッ……かなッ」

「い、いやぁッ、お、おかしくッ……おかしくなっちゃうぅぅッ!!」

 

 拒絶の言葉がクレマンティーヌの口から飛び出す。

しかし、その声色には明確な悦びによって彩られていた。その事を察した青年は、そのツボを重点的に責め続けていく。

 

 何度も何度も淫肉が削られる度に性感が頂へと舞い上げられ、間欠泉の如く湧き出す潮吹きが二人の間を汚す。

常軌を逸したオーガズムの嵐。余りの快感に心臓が活動を停止してもおかしくないほどだ。そんな悦楽に晒されているにも関わらず、クレマンティーヌは意識を失う事すら無い。

 

 経験した事の無い法悦を前に、彼女はただただ鳴き喘ぐ事しか出来なかった。

雄の腰遣いがより一層激しさを増して行く。女の痴態に興奮したのか、はたまた快感に狂う様をもっと見たいのか。どちらにせよ、甘美な電流がクレマンティーヌの胎内を暴れ回る事に変わりない。

 

 ザラザラとした恥丘側の壁を擦られれば、生理的な排出感に似た悦楽でその身を犯された。

腰を突き出し、恥丘ごと肉鞘を押し潰されれば、身を引千切らんばかりの快楽電流で焼かれる。

逞しい胸筋で苛められた続けた乳首は、ジンジンと痛痒い心地良さを持ち主に捧げる。

 

「お、お願いッ!! おねがいぃぃッ!!」

 

 何をお願いしているのか、自分でも分からない。

止めて欲しいのか、はたまたもっと求めているのか。もしかしたら相反する願い二つとも、叶えて欲しいのかも知れない。

 

 ツラい、でも気持ちいい。

 止めて欲しい、でももっと感じていたい。

 

 その口から上がる拒絶の悲鳴。

しかし、朱色に染まる肉体は甘い感覚に震え、喜ぶ。正面から彼を受け止める腰は、更なる快感を求めて厭らしく跳ね上がる。

 

 弾力に富んだ巨尻は、その深い谷間に悦汁を湧き上がらせた。

そして、その陰にひそむ菊の花は、熱烈な性交にピクピクと可愛らしくうごめく。全身で狂宴の舞いを踊る女体は、室内照明の下で艶やかに照らされる。

 

 嫌々と首を振る度に、金色の頭髪は宙を舞い、汗で額に張り付く。まさしくその一挙手一投足は浅ましく、厭らしく、いじらしい。

 

 膨張を始めた亀頭に、彼女はよがり声を上げて恐悦した。

男の腰が震え始める。終わりが近いのだ。本能で悟ったクレマンティーヌは、最後の力を振り絞って青年を受け入れる。

 

「うぅッ、もうッ、射精しそうッ」

「きてぇッ!! 私もッ 私も一緒にッ!! イグがらぁッッ!!」

「うッん! い、一緒にッ、一緒にイこうッ!」

「あぁぁぅぅッ!! イぐうぅぅッ!!」

 

 粘着質な水音と連続する破裂音。

二人に声が重なり、合わさった身体はまるで元々一つであったかのようにシンクロする。果てしない快感の中で、クレマンティーヌは達した。

 

 それと同時に、青年が最奥で腰を痙攣させる。

ビクンッと脈動する逸物。先端から噴き出す白濁液が子宮口にぶち当たった。ゾクゾクッと妖艶な疼きが彼女の中で爆ぜ、意識が酩酊する。

 

 クレマンティーヌは雄の精によって染め上げられて行く感覚を噛み締めた。

ビクビクと自分の胎内で男根が震える感触が得も言われぬ心地良さを生み出すのだ。甘美な電流に、彼女は更なる頂きを見る。

 

 こんな気持ちいいセックス初めて――――

 

 今まで経験して来た性行為がまるでオママゴトにしか思えない。

性的な快感も、心の充足感も、そして心身に溢れ出る多幸感も、全てが愛おしい。ぎゅっと青年の身体を強く抱き締める。

 

「……すごい、まだ出てる」

「その、ものすごく気持ち良くて……」

「私も……今までの人生で一番、きもちよかった……」

「ほんとう?」

「ほんと」

 

 抱き締め合ったまま交わされる言の葉。

些細な会話がこんなにも安心感を覚えるなんて思いもしなかった。クレマンティーヌは彼の顔を見詰める。未だ射精の快楽で染まる表情は、どこかあどけなさが前面に出ており、とても可愛らしく感じられた。

 

 クスッと彼女は笑う。

そして抱き締め直した手で、青年の頭を優しく撫で回した。艶やかな髪の触り心地がとても良く、たったそれだけの行為で心が温まる。

 

 はぁ、と彼女は熱い吐息を零した。

 

「なんだか……気恥ずかしいや」

「ふふっ、実は私もー」

「ほんとう? 俺たち気が合うね」

「そうかしらぁ? 本当に気が合うなら私の考えてる事、分かるぅ?」

 

 子猫がじゃれるようなからかい。

彼は何も言わず自信満々な、子供っぽい笑顔で唇を近付けて来た。正解、彼女は心の中で呟いて応じる。

 

 チュッと軽やかな水音が鳴り響く。

上下共に繋がったまま、穏やかな時間が過ぎて行く。いつの間にか青年の射精は収まっていた。しかし、その肉棒は未だ硬度を維持したままである。

 

 ドクンッとクレマンティーヌの心臓が高鳴った。

期待感で胸が躍る。唇を離し、自身の細腰を彼へ押し付けながら女戦士は口を開く。

 

「まだ、元気じゃないのぉ。クレマンティーヌ様の胎内、そんなに気持ち良かったのかしらぁ」

「うん、とても素敵だった。それも今まで生きて来た中で一番だったよ」

「ふふっ。じゃあ、その一番を更新してあげようかなぁ」

「それだったら、俺も更新できるように頑張らなくちゃ」

「そうね、それじゃあー……これから私の事を名前で呼んだら、シテ上げてもいいかなぁー」

 

 そんなやり取りで、彼がクスッと笑った。

大人びた美貌が、天真爛漫な子供の笑顔を見せるのだ。青年の新たな一面が見れて、彼女の高揚感は否応にも無く高まって行く。

 

 彼は自身の鼻先をクレマンティーヌに擦り付けながら言う。

 

「クレマンティーヌ」

 

 愛おしげに、慈しみをこめた言の葉。

ぶるりと、彼女の心身が喜びに打ち震えた。あぁ、なんて楽しいのだろうか。なんて嬉しいのだろうか。何気ないやり取りがこんなにも幸せなんて。

 

 彼女は微笑んだ。

そして新たに湧き上がった欲求を彼に向けて言う。彼は必ず受け入れてくれる、そんな確信を持ってクレマンティーヌは他人に初めて甘えた。

 

「うーん、まぁまぁねー」

「うーん、まぁまぁかー」

「そうねぇ……お兄さんの名前も教えてくれたら考えちゃうかもぉ」

「俺の名前? 俺の名前は――――」

 

 穏やかな空気漂う室内で、あどけない笑顔を見せるクレマンティーヌ。

彼女は今、人生で最高と言える時間を堪能するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もうッ! 本当に心配したんですからね! あなたの事だから万が一すら起きない事は容易に想像できますが、生きてるか死んでるかくらい報告してください!』

 

『ごめんてモモちゃん! このとーり!』

『まったく……それで何かしらの成果は得てるんですよね。もったいぶらず教えて下さいよ』

『おうおう、任されよ。俺たちの墓近くにカルネっていう集落があるんだってよ。んで、今そこに向かってる所さ』

『集落、ですか。早くも見付ける辺り、流石というか何と言うか……それにしても墓って……』

『とりま、良かったらそこで合流しようぜ。外の空気は美味いし、景色はいいし。俺だけじゃなくモモちゃんも十二分に堪能してくれ!』

『……あ、ありがっ、とうございますッ……』

『あ、そうそう。俺、もしかしたら子供授かるかもだから、その時は出産祝いよろしくー。んじゃ、通信終了ってな!』

『あ、そうなんですね! おめでとうござ――――――――は? ちょ、おまっ、えぇ!?』

 

 

 

 




クレマンティーヌ出会い編~完~

次回、カ〇ネ村編。

※5/6、少し加筆しました。


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クレマンティーヌと至高のインキュバスと……【カルネ村逗留編その1】

 

 見るモノ全てが輝いている。

 

 ここは何の変哲も無い、どこにでもあるただの森林地帯。それにも関わらず彼女の視界一杯に広がる景色は、不思議なほど色鮮やかに映し出されていた。

 

 木々の葉が織り成す深緑のカーテンは美しき木漏れ日を作り出し、緑の狭間より顔を覗かせる陽光は眩くも温かい。

 

 あぁ、この感覚をなんと言えば良いのだろうか。

 

 不快では無かった。むしろ今まで色褪せていたモノが十全に見える様は、爽快感すら伴っている。そんな筆舌し難い心地良さを前に、彼女————クレマンティーヌは己が表現力の無さを恥じた。

 

 嘆息しつつ、女戦士は瞼を閉じる。視界に闇が降りるのと同時に、他の感覚が鋭さを増す。

 

 そよ風に揺られ、ひそひそと囁きを交わし合う木々。立ち昇る芳醇な大地の香り。どこか遠くから運ばれてくる小鳥達の可愛らしい鳴き声。

 

 つい先日まで、気にも留めなかった。

だが今は違う。見れば見るほど、嗅げば嗅ぐほど、聞けば聞くほど、長らく凍り付いていた心が溶けて行くのだ。

 

 あぁ、と彼女は深く息を吐いた。

 

 身体の芯を駆け巡る高揚感。居ても立っても居られないほどの熱が、彼女の身体を突き動かそうとする。幼子の如く、ただただ無心に駆け回りたい。

 

 脚に力が入る。胸中に渦巻く欲求が出口を求めて、駆け出した。

走ろう。そうだ、どこまでも自分が飽きるまでは走ろう。ブーツがグッと地面に沈み込んだ。まるで彼女を後押しするかのようにして風が、びゅうっと吹き抜けた。

 

 最後に前髪を弄り、去っていくそよ風。

クレマンティーヌは思わず笑みを溢す。自然が、自分を挑発している。そんな馬鹿げた妄想ある筈が無い。しかし、彼女はそんな馬鹿げた妄想に乗った。

 

 稚気を隠さず、まるで意地を張り合う子供が如く、悪戯っ子な風に対抗する。獣のように、しなやかな身体は前傾姿勢となっていく。

 

 身にまとう外套を払い、軽鎧と素肌を外界へと晒し出した。眩い陽光の下、彼女は笑う。何故だか知らないが、楽しくて仕方が無いのだ。脚に力が入り、腿肉がグッと張り詰める。いつも以上に湧き出る力に、ふひっと気色の悪い声が漏れ出た。

 

 このクレマンティーヌともあろうものが、下品にも程がある声を出したのだ。その事実に笑いが止まらない。楽しくて楽しくて、どうにかなってしまいそうだった。

 

 湧き出る心地良さに女戦士の我慢は限界を迎えようとしていた。さぁ、走り出そう、気の赴くがままに。溜まる一歩な熱を身体に秘め、今にも飛び出さんとするクレマンティーヌ。

 

 しかし結局の所、彼女の望みが叶う事は無かった。声が聞こえたのだ。おおい、と己を呼ぶ声が。温かな声、どこか間の抜けた伸びをする音色は、溜め込んだ熱を全て吹き飛ばした。

 

「おおい、どこ行くのさー」

 

 男の声。清流のように澄み渡り、聞く者全てを虜にする美しき響きだ。

最早一人でどこまでも走りたい、などという願望はクレマンティーヌの中から消え失せていた。前傾姿勢を解き、自分を呼ぶ声へと向き直る。

 

 近くの茂みから漆黒が現れた。夜の帳を彷彿とさせる黒色だ。それを認識した瞬間、彼女は迷わず突っ込んだ。

 

「へっ? ちょっ、おまっ!?」

 

 驚きの声が響き渡る。宝玉に等しい真っ赤な双眸は見開かれ、秀麗な容貌に焦りの色が現れていく。

視界に映る光景に彼女は笑みを浮かべた。黒衣の人影までの距離を、僅か数歩で駆け抜けた。まるで風に乗るかのように宙を舞い、その人影の胸へと飛び込んだ。

 

「おそーい!」

 

 自分を包み込む温もり。視界が黒生地一色に染まる中で、クレマンティーヌは相手に言葉をぶつけた。

次いで、青年の胸元へ己が額をぐりぐりと擦り付け、これでもかと言わんばかりに抗議の姿勢をアピールする。

 

 それに対する彼の反応は極めて薄かった。もしかしたら戸惑っているのかも知れない。

青年の困ったような笑いが容易に想像出来た。だが、それでも彼女は相手の胸内に顔を埋める事を止めなかった。

 

 自身の口から、くふっと変な笑い声が漏れ出るのを自覚した。だって、仕方の無い事だ。クレマンティーヌは声に出さず呟く。そう、全てが楽しくて楽しくて仕方無いのだ。

 

 鮮明に映し出された世界が、拘束具を外したかのような解放感が、自分の行いによって多彩に変化する彼の表情が、赤子をあやすかの如く自分を受け入れてくれる彼という存在が、愉快で堪らない。

 

「まったく……お転婆さんだなぁ」

 

 そら来た。青年の衣服に顔を押し付けたまま、女戦士の笑みは深まる。

彼女の背中に腕が回された。そして、よしよしと優しく撫で擦っていく。あいにくインナー越しではあったが、その慈愛に満ちた感触は確かに届いていた。

 

「なによー、早めに集落へ行こうって言ったのは誰だったかしらぁ?」

「んー、どこの誰だろう」

「ねー、どこの誰かしら」

 

 小気味好い軽快なやり取りが交わされる。

どちらともなくクスクスと小さな笑い声が上がった。あぁ、なんと心地良い会話なのだろうか。クレマンティーヌは、己が胸中で独語する。

 

 恐らく今までの自分に必要だったモノはこれなのだ。

何気ない一時を共に過ごしてくれる存在、彼女はその存在がもたらす喜悦に心を打ち震わせていた。無意識の内に青年の背中へと腕を回し、より一層深く抱き着く。

 

 温かさが強まる。それと同時に、彼の匂いが女戦士の鼻腔を満たす。

どことなく爽やかな香りだ。嗅げば嗅ぐほど目の前の存在をもっと感じられる、そんな気がした。クレマンティーヌの鼻がすんっと鳴った。

 

「ちなみにさ」

「ぅん……なぁに?」

「ちょくちょく追いかけっこやら隠れんぼする困ったちゃんがいるんだけど、知らないかい?」

「うーん、知らなーい」

 

 青年の問い掛けに、彼女は自身の額をぐりぐり押し付けて応じる。

恐らく彼は自分の行動を揶揄しているのだろうとクレマンティーヌは思った。失礼な話である、とも彼女は思った。

 

 ただ単に二人きりの時間を引き延ばすが為の行動なのだ。決して、追いかけっこや隠れんぼなんて幼稚な遊びでは無いと言えよう。

 

 まぁ、年甲斐も無く楽しんでしまった事実は認めようか。

 

 そんな言い訳をクレマンティーヌは誰ともなく心中で呟く。

彼女の足ならば一両日中に目的地である集落に着いてしまうのだから仕方無い。ようやく得た温もりなのだ、少しくらいはワガママであっても許される筈————そんな想いを込め、より一層密着具合を深めていくのであった。

 

 静かな一時であった。

心地良い沈黙の中で、彼女は青年の存在を堪能する。すんすんっと鼻を鳴らし、子猫が甘えるかの如く頬を擦り付けて行く。

 

 次いで彼と自分の体温を共有するべく、正面から身体を重ね合わせた。

刹那、胸に走るピリッとした刺激。逞しい男の身体に、豊満な乳房が潰されたのだ。チリチリとした淡い痒さが、先端の蕾より生まれる。

 

 軽い金属同士の擦れる音が、二人の間で奏でられた。胸当てに付けた冒険者プレートの音色だ。女の眉がひそめられる。高揚感に水を差された、そんな気分を抱いてしまった。

 

 自身の力量を誇示するハンティングトロフィーだったのだが、今この場においては邪魔でしか無い。

心地良い刺激は、彼女の急降下する気分と共に息苦しい圧迫感へと様変わりする。

 

 これ、いらないや。

 

 クレマンティーヌの行動は迅速であった。

素早く手を回してチェストプレートを外し、地面に放り捨てる。重荷より解放された感覚に思わず吐息が出た。ツンッと尖った隆起が、彼女の胸を覆い隠す黒生地に浮かび上がっていた。

 

 再び、たわわに実った双球を青年の身体へと押し付けて行く。

ゆっくりと、徐々に崩れて行く二つの丘。大きく開いた胸元より、柔らかなの乳肌がまろび出る。胸当ての下で蒸れていたのか、じっとり湿り気を浴びた肌色。

 

 その上を汗の滴が双丘の狭間へ滑り落ちた。

なんとも厭らしい光景だろうか。あぁ、という小さな喘ぎが、女戦士の口元から零れる。意中の雄を誘う浅ましい己の仕草が仄かに羞恥心を煽ったのだ。

 

 しかし、クレマンティーヌの身体は止まらない。彼の存在を感じれば感じる程、淡く切ない熱に苛まされていく。もっともっと、と言わんばかりに彼女は胸を押し付け、挙句の果てには身体を揺らして擦り付け始める。

 

 ジンジンと女芯を穿つ熱量に、堪らずおとがいを反らす。

その、形の良い首筋には艶やかな朱色が差し込んでいた。薄っすらと目を開ければ、こちらを覗き込む真っ赤な宝玉と視線が交わる。

 

 原色に近い深紅の瞳。

穏やかで優しい光を湛えた双眸に、女戦士の理性は蕩け切ってしまう。グイッと身を乗り出し、愛おしい宝玉との距離を縮めて行く。

 

 クスッと彼が笑った。

鋭利な美しさとも言うべき造形は青年の気性が成せる業はなのか、どこまでも温かくも穏やかな印象しか見出せない。ポカポカとした陽気を彷彿とさせる笑みに、彼女の心は震えた。

 

 あぁ、好きだなぁ。

クレマンティーヌはそう思った。刺激的な闘争の毎日なんて飽きてしまった。ただただ、このぬるま湯に浸っていたい。そんな思いを胸に、彼女は青年の元へ顔を寄せる。

 

 鼻先同士が擦れ合わさった。

僅かに唇を突き出し、女戦士は彼を待つ。彼の眼が笑っている、仕方無いなぁと言わんばかりに。だが、そこに宿る感情の色はひたすら優しかった。

 

 視界一杯に広がる青年の美貌。

唇に柔らかい感触が落とされた。刹那、湿り気を帯びたリップノイズが控え目に奏でられる。軽く触れ合うだけの口付け。しかし、それに反して注ぎ込まれた熱量はとんでもないものであった。

 

 ぶるりッとクレマンティーヌの身体が大きく震えた。

自身の意に反する動きに反応する間も無く、彼女の意識に靄が掛かり始めた。次いでふわっと身体が浮かび上がるような浮遊感が湧き起こる。

 

 何が、と理解出来ぬほど彼女は初心では無い。

達したのだ、口付けだけで小さな絶頂に至ってしまったのだ。インナーを突き破らんばかりに乳首が勃起し、肉鞘からは淫芽が飛び出しているのを自覚する。下着の中などドロドロの甘露によって満たされる始末。

 

 異常に敏感となった肢体。

彼に抱かれてから、加速度的にクレマンティーヌの性感は強まっていた。普通ならば異様な事態に対して最大限の警戒をする事であろう。だがしかし、クレマンティーヌはそうならなかった。

 

 まぁ、別に不都合がある訳でも無いし。今更よねぇ――――

 

 理性が蕩けた女戦士は警戒を施す所か、むしろ嬉々としてこの快楽を享受しているのであった。

ちなみに、村を目指し移動を始めてから今に至るまでに三回ほど小さなオーガズムを経験していたりする。

 

「……ねぇ」

 

 絶頂の波から一息吐いたクレマンティーヌは青年へと言葉を投げ掛けた。

そして相手の返事を待たずして、黒衣の下へと手を忍び込ませる。しなやかな筋肉の感触を両手で楽しみつつ、彼女は言葉を続けた。

 

「いいでしょ?」

「テント出す?」

「えー、このクレマンティーヌ様が誘って上げてるのよー。ほら、今すぐ脱ぎなさいよぉ」

「きゃー、助けてー、犯されるー」

「ふっふっふー、幾ら泣いて叫んでも助けは来ないわよー」

 

 軽いノリで進む言の葉。

棒読みでふざける青年の姿はとても面白かった。性欲を解消するだけの、独り善がりな行為では無い。その実感にクレマンティーヌは高揚する。

 

 彼の肌を直接撫でる行為に熱が増す。

青年も負けじとクレマンティーヌの肢体に手を伸ばして来た。服を捲り上げ、露わとなった肉体へ指先を這わして行く。

 

 肌の上を滑る感触に、彼女は黄色い悲鳴を上げた。

口先では襲い掛かる側であったが、実際に余裕が無いのはクレマンティーヌの方であったのだ。性器への愛撫では無いにも関わらず、雌芯に走る快楽電流が彼女を苛んで止まない。

 

 早々に腰へ力が入らなくなり、生まれたての子鹿の如く足をガクガク震わせ始めてしまう。

漆黒のショーツは黒染みで塗りたくられ、吸い切れなかった水気が内股を伝って行く。荒々しい呼気は湿り気を帯びて、青年の胸元へと吹き付けらていた。

 

 そんな最中に彼の指先がクレマンティーヌの背筋を滑っていく。 

背骨に沿って臀部へと走るフェザータッチ。産毛を撫で付けるかのような軽やかな手付きによって、視界へと星が舞った。

 

 立っていられず膝を突く女戦士。

それでも上体を保持出来ず、彼の身体へと縋り付く形になった。高さが変わり、彼女の眼前に現るのは男の下腹部。

 

 ズボン越しに隆起した雄の象徴に、視線が釘付けとなった。

意識した途端、クレマンティーヌの嗅覚が青年の匂いを捉える。何とも言えない臭気、しかし嗅ぐ事は止められない。

 

「ふふっ、おっきいー。そんなにお姉さんで興奮しちゃったのかなぁ?」

「……なんだか、ちょっと恥ずかしいな」

「んー? 外だから? でもこんなに勃起するなんて、やっぱり変態なのねぇ」

「嬉々として行為に及ぼうとしてる人に言われちゃお終いだよ」

「それもそっか。んじゃ、私もこれから変態仲間ね。変態同士だからどこで何をしようが恥ずかしくないでしょー?」

 

 気恥ずかしそうに頬を掻く青年に対して、そう彼女は応じる。

自分で言っておきながら、成る程と密かに納得してしまった。確かにどこで行為に及ぼうが、変態と言えば済む話だ。誰に怒られようが蔑まれようが、私たち変態だからと言えば一定の理解と説得力が生まれる。これはまさしく天啓と言えるのではなかろうか。

 

 それに加え意外と奥手で、中々手を出してくれない青年に対して、これほどまで優れた逃げ道は無いだろう。

これからいつ何時、睦事を交わす事になるやも知れない。そこで変態だからという一言は免罪符と成り得るのだ。

 

 我ながら天才ではなかろうか。

彼女は満足げに頷き、青年のズボンへと手を掛けた。そして、黒衣を下げるのと同時に、隆起した下着が飛び出す。

 

 勢力を増す雄臭に、クレマンティーヌの下腹部が疼いた。

鼻腔を犯す雄の香りは生々しく、情交への期待感を否応に無く高められてしまう。次いで、圧倒的な存在感に思わず手を添えてしまった。

 

 薄い布越しに感じる男の逸物。

鋼の如き硬さと、灼熱の憤りを手のひらで満遍なく堪能する。小山の頂きに沿って指を走らせ、繊維越しに溢れ出る先走り汁をすくい取った。

 

 人差し指の腹に付着する淫汁。

ねっとりとした粘り気を楽しみつつ、己が鼻先へと近付けて行く。そして鼻を鳴らして嗅いだ。凝縮された精の匂いが、彼女の嗅覚を通じて肺を犯す。

 

 あぁ、と女戦士は堪らず声に出して喘いだ。

身体が熱い、火酒を一気飲みしたかのように身体の芯が燃え盛っている。陽光の下で、テカテカと厭らしいきらめきを見せる雄汁。

 

 クレマンティーヌは自身の指先から視線を逸らす事が出来なかった。

酩酊したかのような感覚に陥り、正常な至高すらままならない。舐めたい、思う存分舐めしゃぶりたい。グルグルと胎内で暴れ回る獣欲に突き動かされ、彼女は口元へと指先を持って行った。

 

 チュッと水音が響き渡った。

おしゃぶりを咥え込む赤子の如く、クレマンティーヌは自分の人差し指を貪る。卑猥な音色が断続的に鳴り響く。一滴ばかりの先走り汁を、舌の上で転がし堪能していく。

 

 味なんぞほとんど分かりもしない。

ただただ、雄の力強さを感じるのみ。数十秒続いた淫らかな演奏も、喉が鳴った事により終演を迎えた。嚥下し、体内へと取り込まれる雄の体液。

 

 刹那、狂おしいほどの欲求が鎌首をもたげる。

もっと、彼の精が欲しい。無意識の内に、青年の下着が引きずり降ろされた。ぶるんっと勢い良く肉棒が姿を現す

。充血し赤褐色に染まる刀身へ、何のためらいも無く口付けを施した。

 

 舌を伸ばし逞しい幹を舐め上げつつ、両の手で優しく包み込む。

むせ返るほどの精臭に、彼女の腰が前後に動く。本能のまま、空腰を使う女体は激しい絶頂を迎えていた。脳天を貫く電流に意識を持って行かれるものの、クレマンティーヌの愛撫は止まる事を知らない。

 

 硬い幹を横咥えで扱き上げ、それぞれの手で亀頭と陰嚢を揉み解して行く。

ドクンドクンッと脈打つ穂先から雄汁が湧き出る。粘着質な液体を手のひらで広げ、全体を擦り立てた。ひんやりとした陰嚢は優しく丁寧に、皺の一つ一つにまで指を這わせる。

 

 咥え込んだ幹は裏筋を中心に責めた。

唇で挟み込んで上下に扱き、舌を使って己が唾液を塗り込んで行く。ビクンッと時折飛び跳ねる刀身に、彼女は精神的な愉悦を感じていた。

 

 自分の愛撫が、快感を与えている。

その事実が彼女の気持ちを昂らせていった。ぷはっと息継ぎのタイミングでクレマンティーヌは雄槍を解放する。しかし間髪置かずして、口を大きく開き怒涛の先端を飲み込んだ。顎が外れんばかりに開かれた口内を占拠する巨根。

 

 亀頭だけで口腔は一杯一杯であった。

だが、それでも彼女は止まらない。じゅるじゅると淫靡な吸引音を響かせながら、根本まで飲み込んで行く。ズンっと喉奥を穂先が突いた。

 

 視界の中で星が瞬いた。

苦しさと圧迫感に一瞬息が止まる。ガクガクと連続して身体が跳ね上がった。果てたのだ、喉奥を突かれる程のイラマチオで、彼女は快感を覚えていたのだ。

 

 刹那、ショーツ越しから間欠泉が迸る。

若草色を敷き詰めた大地へと、女戦士の悦汁が振り撒かれて行く。朦朧とする意識の中で、彼女は顔を前後に振り手繰る。

 

 口腔はおろか食道まで犯されるクレマンティーヌは、狂乱の極致にいた。

逞しい肉棒が、口内粘膜を擦り立てる度に果てしない性感が襲い掛かる。一度のストロークだけで意識を飛ばしてしまいそうなのだ。

 

 逸物を引き抜けば口の端から唾液が溢れ、亀頭が喉奥に刺されば涙が零れた。

苦しいのに、吐き出したいのに、気持ちが良くて堪らない。両極端な感覚の振れ幅に、彼女は壊れてしまいそうだった。

 

 そんな折、目元が拭われた事にふと気が付く。

温かな指先が、涙を拭き取る。彼の指だ、次いでポンポンと優しく頭に触れられた。

 

「そんな無理しなくていいよ、十分気持ちいいからさ」

 

 青年の穏やかな声が、欲望に塗れた女体に染み渡る。

ちゅぽんっと雄槍が口内より吐き出された。眼前に晒されたのは、己が唾液によってコーティングされし怒張の艶姿。陽光の下で妖しくテカる様は酷く淫猥であり、濃厚な雄臭さと共にクレマンティーヌの情欲を炙って仕方が無い。

 

 燃え盛る下腹部に彼女は再び穂先へとしゃぶり付いた。

じゅるじゅるっと激しく亀頭を吸い立て、口内に存在する全てを持ってして愛する。舌先を走らせ、大きく張り出た傘をこそいだ。敏感な箇所を弄られた為か、雄肉の先端がビクンッと跳ね上がった。

 

 その反応に気を良くした女戦士は再度、大きなストロークを開始する。

今度は根本まで飲み込まず、くびれたカリ首までを重点的に。巨木を想起させる幹には両手を添え、目一杯扱いて行く。彼女の手の内はゴリゴリとした感触と火傷する程の熱が残る。

 

 クレマンティーヌは恐ろしく情感を煽られていた。

この無骨な肉竿によって女芯を貫く瞬間を想像すると、期待から震えが止まらない。丸太な海綿体への口交に一層熱が入ってしまう。

 

 うッと、呻き声が上がった。

彼女の声では無い、頭上から響き渡った苦悶の音色。何かを我慢するかのような響きを伴う声に、クレマンティーヌは悟る。彼の限界が近いのだと。

 

 女戦士の行動は早かった。

鈴口に舌先を突っ込んだのだ。ぐりぐりとねじ込み、内側から雄肉を責め立てて行く。クレマンティーヌの頭に彼の手が添えられた。何か、伝えようとしているが無視する。例え、彼の訴えに耳を貸そうがもう止まる事は出来ないのだから。

 

 ラストスパートを駆け、愛撫は激しさを増す。

高らかに響き渡る口淫の演奏曲は恥ずかしげも無く、森林内にこだましていく。勢いを増す手淫は、潤滑油代わりである唾液を泡立てさせるほどだ。

 

「あッ、ぐぅッ」

「んんッッ!!」

 

 くぐもった呻き声と共に青年の身体が強張る。

竿は彼女の手の内でビクビクッと脈打ち、穂先が膨張していくのが分かった。次いで、鈴口から何かが飛び出すのを感じ取る。噴出したナニかは凄まじい勢いで、クレマンティーヌの喉奥に直撃した。

 

 刹那、彼女もまた獣の如き唸り声を放つ。

生臭く、えぐみのある粘着物が弾ける度に女体は異様な痙攣を繰り返していた。クレマンティーヌの内側では、オルガスムスの高波が巻き起こっていたのだ。彼女の瞳は半ば瞼の裏側へと隠れ、そして意識が薄れ行く。

 

 それでもなお、濃厚な性の奔流を飲み込み続けた。

彼の種子汁が体内に取り込まれる度に、爆発的な性感がそこかしこで湧き上がる。身体の中から犯されている、そんな倒錯的思考が彼女の情欲を燃え滾らせていた。

 

 何十秒も続く狂乱の愉悦。

徐々に勢いを失う吐精に、クレマンティーヌは物悲しさを覚える。寂寥感とも言えようか、彼女の肉体はもっと雄の精液を欲しているのだ。

 

 足りない、足りない。

暴れる獣性に従い、未だ硬度を保ったままの逸物を啜り上げた。じゅるっじゅるっと、尿道に残った白濁の残滓を吸い取り飲み込んで行く。

 

 丁寧に、一滴残らず舐め取ってなお淫欲は収まらなかった。

ジリジリと内側から発する情欲の焔が、クレマンティーヌの子宮を炙って仕方が無い。泣き腫らす下腹部を手で宥めつつ、彼女は口腔から肉棒を解放した。

 

 衰えを見せない反り返り。

むしろ精力が増しているようにすら見える雄の証に、女体がゾクリっと妖しい疼きを見せた。それと同時に、小規模な間欠泉が陰部より噴き出す。

 

 口淫だけで数え切れぬほど噴出していたソレは、既に大きな水溜まりを地面にこさえていた。

卑猥な水音を耳にしながら、クレマンティーヌは跪いた状態のまま動き出す。下腹部を慰めていた手が、己が身にまとう布生地をはぎ取り始めたのだ。

 

 まるで引き千切らんとするかの如き勢いで、漆黒のインナーが宙を舞う。

次いで肩当てが艶やかな水溜まりへと沈み込み、腕当て、腰当て、脛当てと順当に放り投げて行った。最早、彼女に残された衣服は黒色のショーツとブーツのみ。

 

 火照る身体で、そよ風を感じる度に、果てしない背徳感が生まれる。

今まで野外での性行為事態は経験した事があった。だが、今の状況は他に類を見ないほどの昂りようだ。比類なき、という表現すら過言では無いだろう。

 

 興奮の余り、衣服を脱ぐ手は震えが止まらない。

限界まで水気を吸って、役目を果たせなくなった下着にクレマンティーヌは手を掛ける。指先で摘んだだけで、彼女の愛液が滲み出る程だ。

 

 黒布の隙間より、金色の茂みが顔を出す。

多量の水気で濡れたソレは、真っ白な肌に張り付いて酷く厭らしい。布が滑り落ちるにつれてデルタ地帯の惨状が垣間見えて来た。

 

 真っ赤に充血した肉鞘から飛び出し、外界にその身を晒し出す淫核。

肉色の小豆はツンッと尖り切って、快感の波を今か今かと待ち侘びている。その下では女の園が盛大に咲き乱れていた。

 

 クロッチの部分が離れるにつれ、愛液の橋が形成されていく。

生々しい桜色に染まる花弁は大きく開いて、愛する者の視線を誘惑する。彼の視線を感じれば感じるほど真っ白に濁った蜜露が、糸を引いて滴り落ちていった。

 

 クレマンティーヌは頬が上気するのを自覚する。

まだ、女性器に触られてもいないのに、いわゆる本気汁とも言うべき代物で溢れ返っているのだ。どれだけ、彼を欲しがっているのか一目瞭然であった。

 

「綺麗だよ、凄く」

「……ばか」

 

 穏やかな声色で紡がれる言の葉。

女戦士は力無き罵倒を返すので精一杯だった。照れ隠しとも言うべき一言。それを青年はどのように捉えたのかは分からない。だが、唯一言える事はその言葉が彼の行動を誘発した事だ。

 

「嘘じゃないよ」 

 

 跪いた状態のクレマンティーヌと彼の視線が同じ高さとなる。

彼もまた、雌汁の湖へと膝を突いたのだ。えっ、と彼女が疑念の声を上げる間も無くその可憐な唇は塞がれていた。度合いの深い口付け、口腔に舌が差し込まれる。

 

 侵入して来た軟体が、クレマンティーヌの舌を絡め取る。

瞬時に、官能溢れる衝撃が彼女の意識を吹き飛ばす。また、吹き出した潮が彼の服に染みを作っていく。

 

 まだ、貴方の精液を飲んだばかりなのに

 

 そんな所で屈んだら貴方の服を汚してしまう

 

 ごめんなさい、私の厭らしいお汁が貴方に

 

 そんな謝罪の言葉を紡ぐ為にも、彼の唇を振り払おうと試みた。

しかし、その度に青年は彼女の行動を許さず、強く抱き締めるばかり。力強く束縛され、雌の本能が甘美な悲鳴を上げた。

 

 達した。その身を貫く快感電流で、うッと息を詰まらせる。

快美感に足元の感覚が消え失せ、上体を保つ事すらままならない。彼に支えられながら、ゆっくりと仰向けに倒れ行く身体。びちゃッと背中が着水する。

 

 次いで、クレマンティーヌの身体に影が差す。

覆い被さる形で、青年がマウントを取ったのだ。男の手が、彼女の火照る頬を愛おし気に撫で擦っていた。もう片方の手は、汗が滴る肌の上を滑り行く。

 

「あっ……あっ、あっ」

「俺だって男だよ。こんな美人さんに迫られたら……そりゃ、ねぇ」

 

 チュッと額に落とされるリップノイズ。

気障ったらしい文面と行動に反して、そこには真心のこもった温かさで満ち溢れていた。愛とはこういうモノなのだろうか、優しい温もりにクレマンティーヌの目から意図しない涙が溢れてしまいそうだった。

 

 胸元を滑る指先。

産毛を撫で付けるかのようなフェザータッチに、むず痒い快感が止まらない。双山の麓に辿り着いた爪先は、その輪郭に沿いながら登山を開始していく。

 

 徐々に、徐々に、焦らしながら登る指先を、彼女は喰い入るようにして見入った。

そんな最中で、じわじわと湧き上がる悦びの波。クレマンティーヌは慌てて歯を喰い縛って耐える。一度、この波に乗ってしまったら最後、容易に降りる事は出来ないであろう。

 

 彼は、端的に言えば酷くねちっこいのだ。

一生懸命、愛を伝えようとしているのは分かった。だが、その度合いが行き過ぎなのだ。テントで明かした一夜も、ここに至るまでに体験した三度の絶頂も、全てで彼の丁寧で行き過ぎた愛撫の脅威に晒されていた。

 

 これに一度ハマってしまったら、抜け出せないまま死んでしまう。

そんな予感が彼女の脳裏にはあった。現状辛うじてハマってはいない、ハマったとしても何とか帰って来られている。おまけに、この甘い誘惑は拒否するのも難しい。

 

 解決策は無く————解決策を探る気も無いのだが――――ただただ神に祈って一身に受け止める他無かった。

 

「うっ……あぅッ」

「何でだろう、どうしてだか分からないけど、愛おしくて愛おしくて堪らないんだ」

「ぁんんッッ……わ、わたっ……わたしもぉッ」

「嬉しいな、ありがとう。自分でも会って間もないのに変だとは思ってるんだけどさ……でも、やっぱり好きなんだ」

 

 出会ってすぐエッチしちゃったけどね、と照れ臭そうな笑みを浮かべながら彼はそう締め括った。

その笑みはまるで、ちょっとした悪戯が見付かった子供の如く無邪気で、快活で、愛おしさを抱かざるを得ない笑みだった。

 

 好きなんだ、というその言葉に、眼前で見せ付けられた件の笑みに、クレマンティーヌは息が詰まった。呼吸が出来ない、胸が苦しい。なのに、堪らなく心地良い。愛情と性欲が入り混じり、溶けて、胸の奥で弾けた。

 

 もう、いいや。逆に考えちゃえ、ハマってもいいんだって――――

 

 ハマった末に死んでも後悔は無いだろう。

何故ならば、こんなにも気持ちが良いのだから。それはきっと幸せなのだ。今までの人生を振り返れば、こんなにも幸せな気持ちになれた事は無いのだから。ならば、幸せの絶頂で死ねたのなら別に構わないだろう。

 

 そんな想いの最中、クレマンティーヌは我慢を止めて、緩やかな絶頂に身を任せた。

遠退く思考、その一方で失う事の無い意識。再び、蜜露で青年の衣服を汚してしまう。それでも彼は責めの手を止めようとはしない。

 

 山頂にまで至った指先が、ゆるゆると桜色の輪郭に沿って進む。

痛々しいまでに勃起した蕾には決して触れようとはしなかった。疼き起つ紅色の苺は熟れきって、啄まれるのをひたすらに待っている。

 

「凄く、可愛いよ」

「あぁッ、うぅッ、は、はやくぅッ」

「なにが、早くなのかな?」

「あぐぅぅッ……あっ、あっ、もうッ、もうぅッ」

「ごめんね、もう少しゆっくり触っていたいな」

 

 甘くも悲痛な叫びが、彼女の口から放たれた。

しかし、無情にも彼は中々頷いてはくれない。悪意では無く、ちょっとした稚気の発露だろう。

 

 少し虐めたい、悪戯っ子のような可愛いらしい行いだ。そして、それ以上の本音として言葉通りの、ゆっくり触れたいという想いがあるに違いない。

 

 ただし、圧倒的な官能を叩き込まれている身としては、無情なる責め手としか言いようが無かった。事実、クレマンティーヌは狂うほどの快感と、それを上回る焦燥感と寂寥感を覚えていた。

 

 焦らされている、なんて生半可なモノでは無い。

文字通りの意味で、逝き狂うのだ。否、最早既に逝き狂っていた。胸元へと溜まりに溜まった情欲が煮詰められ、今にも決壊してしまいそうなのである。

 

 汗で滑る乳肌で彼の指圧を感じる度に、乳首がビクッビクッと跳ね上がり、乳頭が真っ赤に肥大して行く。乳輪の外縁に少し爪が引っ掛かっただけで、強烈な電撃が流れ、乳肉が波打った。そして灼熱のエクスタシーによって、クレマンティーヌは口の端から泡を吹いて泣き叫ぶのだ。

 

 最早、ここが野外である事すら忘れて、あらん限りの声で快楽を訴える。

傍から見れば酷く浅ましい痴態であろう、だがそれは同時に淫靡な美しさをも伴っていた。

 

「そろそろ、触ってもいいかな」

「あぐぅッ、んぅッ、触ってッ! お願いッ、触ってぇッ!!」

 

 どこを、とまでは問い掛けられなかった。

彼も流石にそこまで意地悪する気は無かったのだろう。一方、そんな所にまで気を回す余裕の無いクレマンティーヌは、ただひたすらに青年へと懇願していた。

 

 蓄積された悦楽に、彼女の乳房が一回りも二回りも大きくなっているように見えた。

男を誘うべく、必死になって身体を揺り動かし豊満な果実を波打たせていく。先端の突起は幾何学的模様を宙に描き、その時を一身に待ち望んだ。

 

 スッと、乳頭に影が差す。人差し指と中指の狭間へ充血した肉豆が至る。

次いで、ゆっくりと閉じ始める二つの指。空間が狭まり、そしてついに弾力性に富んだシコリを摘んだ。刹那、クレマンティーヌの胸元で、溜め込まれていたモノが一気に爆発した。

 

 多大な快感を伴う膨大な奔流は、釣り鐘状の膨らみを通して、真っ赤な野苺へと突き進む。

彼女は、咆哮した。嬌声と言うには生々しい雌獣の遠吠え。おとがいを反らして放たれた絶叫は、二ヶ所の先端へと向かう熱源によってワンオクターブ上がっていく。

 

「あおぅッ、ぐぅッ……あッ、あぁッ! ああぁぁぁあ!!ッ」

 

 びゅッと熱の奔流が噴出した。

同時に肌の上に生暖かな液体が降り注ぐ。乳頭から、ナニカが噴き出ているのだ。それは乳白色の液体、連想する存在はただ一つしか無かった。

 

「えっ、ちょっ、えぇっ」

 

 青年の困惑した声が聞こえて来た。

それも当然であろう、乳房から出る液体なんぞ母乳以外に有り得ない。しかし、クレマンティーヌが妊娠している訳でも無い。例え、昨日の性行為によって子宝を授かったと無理に仮定しようが、幾ら何でも早すぎだ。

 

 余りの事態に茫然としつつも、彼は無意識の内に乳首を揉み解していた。

ぎゅっぎゅっと揉まれれば、鋭い悦楽が体内を暴れ回る。一揉みごとに彼女の性感は高らかに宙へと舞い上げられ、果てしない艶美な波へとさらわれて行く。

 

 びゅっびゅっと吹き出る白色の体液は留まる事を知らない。

空に弧を描き、辺りへ真っ白な斑点を生み、甘ったるさを含んだ妖艶な雰囲気を形成させていた。その液体が、吹き出れば吹き出るほど、クレマンティーヌを官能の海へと激しく叩き込んで行く。

 

 あぁ、と胸中で彼女は呻く。

 

 もっと、もっと欲しいのだ。胸内で渦巻く欲望は底を見せない。彼女は果てなき快楽を追い求めて、腕を伸ばす。華奢な指先が捉えたのは、青年の髪であった。そのまま髪を伝うかのように滑り、行き着いた先は彼の後頭部。ゆっくり、それでいて力を込めて、クレマンティーヌは彼の頭を引き寄せた。

 

「吸ってッ! お願いッ!! 私のおっぱい、吸ってぇ!!」

 

 目を白黒させる青年へ向けての懇願。

女戦士のあられもない姿に彼も興奮していたのか、僅かな逡巡を経て、乳房の頂へ口を寄せる。そして、チュッというリップノイズと共に、真っ赤な野苺は口内へと吸い込まれた。

 

 温かな口腔内、暴れる乳首を固定する為か歯先が固いシコリをやんわり突いた。

甘い嬌声が大気を震わし、こだまする。もう片方の乳首は未だ彼の指先によって扱かれ、その手を真っ白に染め上げていた。

 

 瞼の裏側に星が散った。

快感に打ち震え、身体がエビぞりの如く反り返る。はしたなくも大きく開かれた足が下半身を宙に浮かせ、陰部を天に掲げるかのような体勢へ移行させる。

 

 露出した淫門は絶えずひくつき、中に納まった肉ヒダをぴくぴく痙攣させていた。また、滴り落ちる甘露は、尻肉を伝い、潜んだ窄まりにまで至っている。ガクガクと震える脚は、落ち着かないのか唯一残された外装であるブーツで、絶えず地面をえぐり取って行く。

 

「あぐぅッ!! いぃッ! いいのぉッ!! もっと、もっとぉッ!!」

 

 ただひたすら甘美な嵐の中で、彼女の艶声が響き渡る。

本来、常人ならばとっくに精神を壊し、廃人となってしまうであろう狂悦の波。しかしクレマンティーヌは正気を失うものの、自我を保ったままで彼との睦事に浸っていた。

 

 圧倒的な奔流に巻き込まれながらも、彼女の体力は底を見せない。

勿論、まだまだ余裕のある青年は彼女の求めに応じて、より一層愛撫に熱を入れて行く。文字通り獣の如く、本能の赴くまま人外のような性交を続ける二人。

 

 森林地帯に響き渡る獣声が、誰に聞かれているのかも考えず、留まる事を知らない。

 

 ここ、トブの大森林の一角にて、熱烈な官能の宴は勢い良く燃え盛って行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら? この声は何かしら」

「どうしたの、お姉ちゃん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『う……うぅ、お腹痛い……なに、あの子たち、何でこんなに評価高いのさ……こんな所で一人きりだなんて胃に穴が開いてしまうッ……まぁ、胃なんて無さそうだけどさ……と、取り敢えず、早く合流しないと……ムーツさんにッ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ようやく時間とモチベーションが確保できたので。
次話投稿も作者の時間とモチベーション次第になります。


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クレマンティーヌと至高のインキュバスと…【カルネ村逗留編その2】

 

 熱い飛沫が奥底で弾けた。

深緑の狭間で、跳ね上がるは猫の如きしなやかな肢体。艶色に染まる嬌声と共に、女戦士の視界に火花が飛び散った。脳天まで穿つ果てしない悦びの嵐が、彼女の内側で吹き荒れる。

 

 クレマンティーヌは思わず、覆い被さる青年の頭を、その豊満な乳房に掻き抱いた。

刹那、ツンッとした刺激が雌芯を苛む。愛すべき男の端正な素顔が、己の双山へと溺れていく感触。それは、恐ろしいほどの快感と興奮をクレマンティーヌへもたらすのだ。

 

 あぁ、堪らない。

そう言わんばかりに桜色に上気する肢体が、陽光の下で艶めかしくうごめいた。珠のような汗を張り付かせ、濃厚な発情臭を撒き散らしていく女体。際限なく高まっていく甘美な陶酔のうねりに、女戦士はエクスタシーの予感を思い抱く。

 

 ぐいッと胸元からせり上がる昂ぶりを、抑え込む事あたわず。

本能のまま、喉奥より獣が絶息するかのような唸り声を解き放つ。押し寄せる快美感の津波。森林へと響き渡る淫靡な悲鳴。余りにも大きな衝動に彼女は激しく首を振りたくって、その瞳から涙を流す。

 

 同時に二つの頂より、純白の噴火が発生した。

絶頂に跳ね上がる身体に合わせて、勢い良く白色の液体が吹き出す。一方の蕾は青年の口腔で弄ばれ、もう一方は繊細な手つきで摘まれていた。

 

 あぁ、飲んでる。私のおっぱい、飲まれちゃってる。

 

 己が体液を嚥下する旋律にクレマンティーヌは悶絶した。

胸の奥底から湧き上がってくるのはただ単なる快楽ばかりでは無い。己が乳を吸う、まるで乳飲み子の如き仕草に、果てしない愛おしさを。胸内に抱き締める温かさに、頬を緩ませてしまう程の充足感を。

 

 そして————

 

「あッ、んんッ……ね、ねぇ」

 

 零れてしまう喘ぎ声をどうにか抑え込んで、彼女は青年へ声を掛ける。

その声色は自身でも驚いてしまう程、穏やかであった。彼の瞳がこちらを向く。真っ赤な双眸と視線が交わり————クレマンティーヌは息を詰まらせた。

 

 上目遣い、それは精悍な容貌を一気に幼くしてしまう魔性の美。

目尻が穏やかな曲線を描く事によって生まれる新しい一面。光の加減がそう見せているのだろうか。潤みを見せる瞳とそこへ移る無垢な色彩に、彼女は心を奪われてしまった。 

 

 鼓動は激しく律動を奏でる。

熱い、苦しい、胸が締め付けられる。声にならぬ声を上げ、ぱくぱくと口を開け閉めする事、数度。内から湧き上がる衝動に抗え切れず、夜の帳が如き黒髪へ鼻先を埋めた。

 

 鼻腔に広がる彼の香り。

汗の匂いが入り混じったソレを嗅いだ瞬間、女体には快楽電流が駆け巡る。気管を通り、胸を抜け、下腹部へ直撃する甘い痺れ。肺はおろか内側全を彼で満たしたクレマンティーヌはゆっくりと、情感に満ちた吐息を零す。

 

 あぁ、もう堪らない。

 

 情欲の熱で思考が定まらない中、彼女は多幸感によって染め上げられていく。

青年の髪に顔を埋めながら自然と蕩けた笑みが浮かぶ。肉体的にも精神的にも、充実しているとはこういう事を指すのだろうか。

 

 広大な自然の中、生まれたままの姿で、愛おしき人を胸に掻き抱く。

甘く、背徳的でありながらも、心地良い。なんとも病みつきになってしまうような感覚に震えが止まらない。そんな一時を噛み締めながら、彼女は言の葉を紡いだ。

 

「わ、私の……私のおっぱい、おいしい?」

 

 舌足らずな声。

まるで子猫が親猫に甘えるかの如き響きで彼へと問う言葉。答えは単純明快な反応だった。水気たっぷりな吸引音と共に、柔丘の隆起が痺れを伝える。大輪の花が開いたかのように面積を広げ、小高く膨らむ乳輪。そこへと遣わされた舌が、桜色の円輪を突く。

 

 度重なる刺激を受け成長した突起、その先端から迸る疼きにも似た悦楽。

尖り切って彼の口内で存在感を増す蕾には、甘く歯先を押し当てられているようだ。ツンッと固い切っ先が当たる度、快感が全身を隈なく駆け巡る。

 

 あッ、と声が上がった。

それは湿り気を帯びた厭らしい声色。母なる源水が断続的に湧き出す度に、歓喜の声を上げてしまうのだ。妖しい痺れを伴う放出感は、明確な性的快感を彼女にもたらしている。それも油断すれば気をやってしまう程、深く鋭い代物。

 

 一つ間違えれば廃人となってもおかしくない快楽の渦。

だが、そんな狂瀾の中でもクレマンティーヌは彼の頭に鼻先を擦り付け、だらしなく笑う。慣れてしまったのか、はたまた彼との性行為に適応したのか。兎にも角にも、青年との逢瀬を十二分に満喫している事は確かであった。

 

「ふふっ、可愛い甘えん坊さんねぇ……そんなに私のおっぱい美味しいんだぁ」

 

 少し余裕が出て来たのであろう。

クレマンティーヌはどこか挑発じみた普段の口調で言葉を投げ掛ける。しかし、その声色は愛情という名の熱を帯び、外界へと刻み込んでいた。

 

 リップノイズ。

次いで、先端を撫でる冷ややかな風。温かな口腔に含まれていた蕾が、解き放たれたのだ。瑞々しい唇には甘ったるい香りの残滓が色濃く残っている。姿を露わにした隆起は、先っぽから白色の液体を滴らせていた。桜色の大輪、そして紅潮した柔肌を真っ白な源泉が彩っていく。

 

 ゾクッとした感覚が背中に這い寄る。

悪寒にも似たソレと共に雌芯から滲み出る昂ぶり。喉が鳴った。彼の音色では無い、彼女自身が無意識の内に奏でた旋律。興奮しているのだ。青年の唇を喰い入るように見詰めて、口の端から滴る母乳を視界に収めて興奮している。

 

 艶やかな唇の端が、彼の口角が吊り上がる。

どこか悪戯っ子のような笑みを浮かべ、まるで見せ付けるかのようにして口が開き始めた。僅かに生み出された狭間より、濃厚な甘露が姿を現す。真っ赤な舌が白濁の水溜まりを泳ぎ、母乳を撹拌していく。

 

 それはまるでワインの嗜む紳士が如く。

空気を取り入れ、より味わい、旨みを楽しむ。頬が熱い————いや、頬どころか顔全体が熱かった。歓喜と羞恥、二つの感情が胸中で入り混じり、彼女を苛む。火を噴かんばかりにクレマンティーヌは悶えていた。

 

 十分堪能したのか、青年は口を閉じ、次いで喉を鳴らす。

全て飲み干した彼は、眩しいばかりの笑顔を見せ付け言葉を放つ。

 

「ごちそうさま」

「ッッ……ばか……」

 

 どうにか出た言葉は罵倒。

面と向かい、堪能したと改めて告げられれば、流石に羞恥が勝るというものだ。屈託なき笑顔を見せる青年を正視出来ず、彼女の線が宙をさ迷う。数舜の沈黙、次いでお返しと言わんばかりに彼の額へ唇を近付る事にした。

 

 チュッと親愛の音が響き渡る。

くすぐったそうに笑う青年は、上体を起こす。胸の上から消える温もりに、クレマンティーヌは一抹の寂しさを覚えた。今すぐ去ろうとする温もりを、再び抱き締めたい衝動に駆られる。己が願望に突き動かされるまま、腕を伸ばした。

 

「服、脱ぐね」

 

 告げられた一言に彼女の手が止まる。

青年の言葉に従い、その黒衣を見やれば、悲惨な光景が広がっているではないか。まるで通り雨にでも打たれたかのような惨状。水気たっぷりの衣服からは甘ったるい香りが発せられている。どことなく白みを帯びているのは、決して気のせいでは無い。

 

「……ご、ごめ————」

 

 咄嗟に出た謝罪の言葉は最後まで続かなかった。

彼の人差し指が、クレマンティーヌの口前に立てられたのだ。皆まで言わなくても良い、そんな声が聞こえてくるような気がした。そして笑みを絶やさない青年が改めて言葉を投げ掛けてくる。

 

「謝ること無いって、全然気にしてないからさ。むしろ……」

「む、むしろ?」

「むしろ、嬉しいというか何と言うか……可愛いなぁって」

 

 そんな言葉と共に、彼は自身の鼻頭を掻く。

どこか照れ臭そうな、その仕草と表情。木々の狭間から降り注ぐ陽光を背景に、光り輝いているように見えた。何が嬉しいのか、どこが可愛いのか、些細な疑問は消し飛んだ。

 

 彼の全てに胸が熱くなる。

敏感となった素肌の上に雌臭を伴う汗が浮かぶ。艶やかな乳輪がぷっくら膨らみ、二つの頂点が痛々しい程までに勃起していた。ジンジンと痛痒い疼きを生み出し、未だ乳白色の源水を染み出していく。

 

 数舜の間に荒々しくなる呼気。

次いで早鐘を打つ心臓に応して、切なく泣き腫らす女の花園。金色の茂みの下からは淫芽がそそり立つ。肉鞘から飛び出た官能の小豆が何かを待ち侘びるかのように震えている。最早、我慢出来きる筈も無い。彼女の眼前で膝立ちのまま黒衣を解いていく青年。

 

 クレマンティーヌは彼目掛けて飛び付いた。

半脱ぎの状態、衣服に隠された肌色を暴き出し、そのままむしゃぶりつく。わっ、と驚きの声が女戦士の頭上より響き渡った。だが、それに気を割く余裕は既に存在しない。

 

 雄々しい硬さの胸筋。むわっと広がる男の臭気。

女体の芯が震えた。駄目だ、これは駄目だと脳内で警鐘が掻き鳴らされる。雌の本能とも言えるであろう衝動が彼女を突き動かす。細くも逞しい彼の上体へ頬を擦り寄せ、舌を這わせた。

 

 真っ赤な軟体が肌に浮かぶ汗を掬い取り、その味を脳裏に刻み込んだ。

刹那、脳内を衝撃が襲う。ガツンッと殴られたような衝撃だ。内股が痙攣し、姿勢を保っていられない。反射的に、青年の背中へ腕を回して固定する。ギュッと近付く二人の距離。男らしい腹筋が、豊満な乳房とぶつかった。

 

「あッ、いやッ……あぁッ」

 

 官能に満ちた喘ぎが飛び出した。

ゾクゾクと背筋に這い寄る妖しい痺れに雌しべが、しとどに濡れそぼる。胸に生じる快美感を求めて、彼女は上半身を揺らし、青年の肉体へとグリグリ押し付けていく。同時に一際大きな電流が背中を穿った。

 

 思わず仰け反るクレマンティーヌ。

押し出された乳房がより一層圧迫され、彼女を淫靡な海へと導く。黄色い悲鳴が迸った。いやいやと駄々をこねるように首を振りたくり、押し寄せるエクスタシーの波に心を震わせた。

 

 そんな女戦士の視界にこじんまりとしたニップルが映し出された。

彼女は迷わず、口内へと吸い込んだ。チュッと鳴り響くリップノイズ、今度は自分の番と言わんばかりに音を立ててしゃぶり続ける。

 

「ちょっ、くすぐったいって!」

 

 そう告げる青年の声はどこか楽し気であった。

喜んでくれている、その事実がクレマンティーヌの気分を高揚させる。断続的に押し寄せる快楽電流に身を焦がしながらも、愛撫に熱を入れていった。だが、熱心な彼女の愛撫とは裏腹に、雌芯の奥底が寂しさの余りに咽び泣く。

 

 身体中余す事無く、彼を堪能しているというのに。

 

 いつの間にか、その猫の如き愛らしい瞳から、はらはらと涙を流していた。

寂しさと切なさが、そして解消し切れない肉欲の奔流が、彼女の最奥から溢れ出す。とうとう、クレマンティーヌは懇願の言葉を彼へと告げざるを得なかった。

 

 彼が愛おしくて愛おしくて、最奥まで愛して欲しくて仕方が無いのだ。

 

「んぁッ、あッ、ね、ねぇッ、お願いッ!」

 

 そう言うや否や、青年の手を取り己が秘処へと導いた。

粘り気を帯びた水音が控えめに奏でられた。その途端、触れた個所からジワリと広がる悦楽。砂漠に水を零したかの如く、彼女の獣欲は官能の波紋を貪っていく。

 

 だが、僅かばかりの快感で満ち足り事は無い。

むしろ、より一層の飢餓感を抱いてしまう。美しい曲線を描く腰が勝手に動き出す。卑猥な音色が、鳴り始めた。手のひらへ艶色のラビアを擦り付けるようにして、グラインドが開始される。

 

「あッ、あッ、あぅッ、あぁッ」

 

 恥肉が奏でる狂騒曲。

入り混じる甲高い声が、涼やかな風に乗ってこだまする。火照った肌は玉のような汗で飾られ、快楽中枢を直撃する刺激に、彼女の熱量は増すばかり。

 

 花開く陰唇はめくり上がり、露わとなる肉壺が熱いベーゼを施す。

真っ赤に腫れ上がる陰核を手の皮が圧し潰す度に、目も眩む恍惚の火花が散る。時折聞こえる流水のせせらぎは恥美の潮吹きだ。

 

 時が経つにつれ、青年の手を使った自慰はそのボルテージを上げていく。

しかし、心地良い熱波は寂寥感を癒してくれない、表層だけでは足りないのだ。気持ちいのに苦しい、せめぎ合う二つの濁流に歯が噛み合わず、ガチガチと音を鳴らす。

 

 そんな彼女に文字通り救いの手が差し向けられた。

ツプッと陰口へと沈み込む感触、彼の指先だ。刹那、腰奥から湧き立つ快感の渦。待ち侘びた侵入者に淫肉は反射的に窄まり、歓喜の露を吹き出す。

 

「ひぃッ、んッ、はぁッ、あぁッ!!」 

「一人だけ盛り上がっちゃうのは、少し悲しいかなぁ」

「あぁんッ、ご、ごめんなッ、ひぃあぁぁッ!!」

 

 窮屈な膣壁を掘削していく指先に大きく叫んだ。

蜜壺にびっしり張り巡らされた肉ヒダの一枚一枚が、細長い異物に歓喜の涙を迸らせた。グリグリと押し進んで行く感覚に、彼女の性感は恍惚とする火花を散らす。

 

 ゾクゾクと、鳥肌を立てて背筋を這い上がる悦楽。

得も言われぬ情感から無意識の内に背を反らし、まるで逃げるかのようにして、胸を突き出してしまう。

 

 しかし、その行いは新たな法悦が生じる結果となった。

たわわに実る果実の先っぽ、ツンッと尖った硬いシコリが逞しき雄の肉体で強くこねられたのだ。くびれた腰は痙攣し、肉付きの良い腿は内股気味となる。言葉にならぬ悲鳴が、クレマンティーヌの可憐な口から轟いた。

 

 そんな彼女の痴態をよそに、青年は更なる責め手を繰り出す。

クイッと指先が曲がり、淫道の天井————腹部側の壁を弄り始めたのだ。先日、開発されたソコは熟れた肉を思いっ切り収縮させ、果てしない喜びを露わにする。

 

 即座に脳髄へと到達する鋭い官能の息吹。

針で胎内を貫かれたような快感信号にクレマンティーヌはたまらず吠えてしまった。殷々と響き渡る雌獣の遠吠えは、淫靡な色を多分に含んでいる。

 

「あッ、ぐうぅぅッ! そ、そこッ、だめぇッ!!」

「ここ、気持ちいい?」

「お、お願いッ、ま、待ってッ! 強いの、強すぎるのぉッ!」

「あ、ごめん……ちょっと逸ったね……それじゃ、これくらいならどう?」

「はぅッ……あッ、あぁッ! いやぁッ、ソコもだめぇッ」

 

 爪先で肉壁をこそぐ愛撫から、指の腹で押し撫でる按摩の如き責めへ。

先程までの鋭い刺激は、ゆったりとそれでいて途方も無い大きさの波となって静かに押し寄せた。彼女の珠肌からは汗が浮かび出し、日の光に反射しキラキラと舞い散る。

 

 周囲に振り撒かれるその匂いは熟成した雌臭。

それはまさに、ここでこの雄と性行為に及んでいる、その事実を喧伝しているかのようだった。

 

「あッ、あぁッ、とぶッ……飛んじゃうッ!」

 

 最奥から這い上がってくる甘い痺れ。

ゾクゾクと肌が粟立つ感覚は紛れもないオルガスムスの前兆。断続的に到達している官能の頂よりも、更に一段と大きな前触れだ。

 

 こんな大きい絶頂、頭がおかしくなっちゃう。

 

 待ち受ける極楽の快感を想像し、彼女は震えた。

果たしてそれは恐怖によるものか、はたまた期待からなのか。激しくなる疼きにも似た快美感を耐えようとして、クレマンティーヌは金色の髪を振り乱す。

 

 背中を何かが押す。いつの間にか、青年の空いた方の腕が回されていたようだ。

キュッと優しい圧力で抱きすくめられた。素肌同士の密着具合が深まる。汗に濡れ、滑り易い肌の上を桃色の乳頭が行く。

 

 あッ、と声を上げる。

雌の内なる堤防を乗り越える艶波。次いで、厭らしい花園の中で、力強い指圧を感じた。狂おしい浮遊感が彼女を押し上げていく。そして最後のトドメと言わんばかりに、固い掌底部が芽吹いた淫核を圧し解す。

 

 目の前が真っ白になった。

クレマンティーヌの中で熱波の飛沫は弾ける。ふわっと身体が宙を舞うような錯覚に襲われ、次いで激しいアクメの衝撃に飲み込まれた。

 

「い、いく……いッ、あッ、イくッ……イクうぅぅッ!!」

 

 脳裏に閃光が瞬いた。

目が眩むような果てしないオルガスムス。彼の胸の中で己が肢体を跳ね上げさせ、強烈な快感に酔いしれる。ガクンッガクンッと痙攣する度に、くびれた腰が前後に揺れ動いだ。本能が未だ満たされる虚しさを埋めようと、自ら快楽を追い求めているのだ。

 

 空腰を振るわれ、真っ白な桃尻が卑猥なリズムを刻み込む。

多量の淫水が叩き付けるように噴き出し、男の手へと執拗なマーキングを施される。燦々と降り注ぐ陽光の下で、浅ましい雌の本能が露呈され続けるのであった。

 

 肉欲の極みは長らく続いた。

中々、浮遊感が晴れず、ようやく訪れた余韻の最中であっても彼女は小さなアクメに襲われていた。継続する悦楽は女戦士の思考を完全に蕩かせていく。そして、ぼんやりと靄が掛かった意識を、最後の欲望が支配する。

 

「……おねがい」

「ん?」

「……いれて、おねがい」

 

 熱に浮かされたように、クレマンティーヌは懇願する。

キュンキュンと切ない鳴き声を発する女芯が、雄の猛々しさを欲しているのだ。気が狂う程の欲求に彼女の手は、青年の股座へと伸びていく。

 

 そそり立つ男の象徴。

大きな傘を張った怒涛の矛先、鋼鉄の如き硬度を保つ長大な砲身、男の性をこれでもかと詰め込む立派な弾倉。煮え立つ女の情欲を虜にして止まない代物だ。

 

 大きく反り返って、露わとなった裏筋に彼女は己が五指を絡ませる。

熱く、固く、雄々しい。ただただ触れているだけで達してしまいそうになる。あぁ、と艶やかな吐息を一つ零す女戦士。

 

 さっきまでの余韻で敏感なのに……まぐわったら、私はどうなっちゃうんだろ。

 

 胸中に飛来する展望図に、彼女は異様な昂りを感じた。

ヒクッヒクッと期待に涎を垂らす淫肉を宥めつつ、クレマンティーヌは愛おしき彼へと言の葉を紡いだ。

 

「もう、我慢できないの……あなたと繋がりたい……」

 

 彼の胸に抱かれながら、上目遣いでの誘い文句。

二つの真っ赤な宝玉がこちらを覗き込んでいる。優しい、温かな感情の色合い。この瞬間、男の穏やかな微笑みは自分だけに向けられた大切なモノ。

 

 彼は何も言わず、その端正な顔を近付けて来た。

艶やかな唇の行き先に、視線を奪われてしまう。ごく自然に彼女は眼を閉じ、自身の唇を差し出した。すぐ間近に感じられる青年の呼気。柔らかな感触が女戦士の唇を塞いだ。

 

 啄むようなバードキス。

僅かな接吻の後、彼の温もりが離れて行く。ほぅ、と息を吐くクレマンティーヌ。不思議な事にどうしようもない飢餓感が薄れている、そんな気がした。

 

「このまま抱き締め合ったまま、しよっか」

「うん、しよ」

 

 胸に灯る温かさがひたすら心地良い。

穏やかに交わされる言葉にすら、精神的快感を覚える。彼が地べたへと腰を降ろす。二人の情交で出来上がった広大な水溜まり、その真ん中へと座り込んだ。

 

「おいで」

 

 クレマンティーヌは胡坐を組む彼へと誘われた。

形成された胡座を跨ぎ、その上へと豊満な尻を着かせる。反り返る雄槍を挟んで相対する二人。濃厚な性臭を彼女の鼻腔が捉えた。彼女は意識しないまま生唾を飲み込む。とうとう、待ち望んだ結合が果たされた。興奮の余り身体が小刻みに震え、産毛が逆立ってさえいる。

 

 青年の肩に手を置き、位置を調整していく女戦士。

水気で肌へと撫で付けられた陰毛の先、そこに男根が存在感を示す。発せられる熱気が、秘処を燻る。真っ赤に腫れ上がる穂先が、蜜沼の入り口を捉えた。

 

「あぁ……いっちゃいそう……」

「実は……俺も」

「……ふふっ、だーめ。我慢しなさいよ、男でしょ」

「えぇー……男女差別はんたーい」

「もう仕方ないわねぇ……それじゃ、こうしましょ」

「なになに?」

 

 軽快な会話。

思わず笑いが生まれる程の小気味の良さを堪能しつつ、クレマンティーヌは彼の耳元で小さく告げた。

 

「私の胎内で、一番奥でいっぱい出して。それなら許してあげる」

 

 そう告げた瞬間、彼女は腰を降ろした。

大きな亀頭が、淫口に飲み込まれていく。己が内側へ入り込む逸物の存在に、意識が酩酊する。絡む肉ヒダをゆっくり穿っていく感触が堪らなかった。

 

 自重に従い降下を続ける女体。

進めば進む程、湧き上がる鮮烈な快感。ようやく先端が挿入出来た段階で、相当な圧迫感を覚えていた。だがしかし、その圧迫感が途轍もなく気持ち良いのだ。

 

 あぁ、先っぽだけでこんなに気持ちいいなんて————

 

 少しでも気を抜けば、早々にエクスタシーの渦に飲み込まれてしまう。そんな予感を抱かざるを得なかった。

 

「うぐッ、うッ、あぅッ……やだ、本当にいっちゃいそうッ」

「少し休憩する?」

「だめッ、ああぅッ……ぜ、全部繋がってイきたい……」

「それじゃ、ゆっくり頑張ろうか」

「うッ、んんッ、がんばるッ」

 

 束の間の静止を経て、挿入を再開するクレマンティーヌ。

奥深く雄肉を迎えていくにつれ彼女の呼吸は浅く、そして早くなっていった。唇を噛み締め、喰い入るように視線を落とす。その先にあるのは二人の結合部。恥丘の向こう側で、強直が徐々に消えていく様は酷く卑猥だった。

 

 否応にも無く自身の五感全てが、性感を高めるスパイスと成り果てている。

極太のカリが膣壁を巻き込んで、どんどん最奥を目指し迫り来る感触。

灼熱の幹が押し寄せる雌肉を掻き乱すのと相まって、今にも女を官能の海へ送り出そうとしていた。深まる繋がりに、か細い悲鳴が湧き起こる。

 

 彼の下腹部へ噴き出し叩き付けられる潮の音と共に、クレマンティーヌは腰を降ろし切った。

花園の奥底、ひっそりと佇む雌の証が鈴口との口交を経る。内臓を押し上げる程の存在感に、じわじわと悦びが広がっていった。

 

 堪らない。最早、耐え切れる筈が無い。

前に突き出たお椀型の果肉が、しなやかな肉体と重なり合う。ビュッビュッと間欠泉の如く噴出する母乳が、両者の身体を白く染め上げていった。

 

 対面座位での交合。

抱き着き、密着し、彼の体温を感じ取ったクレマンティーヌは悟る。逃れられぬ絶頂の高波。青年の肩に顔を埋め、その時に備える他なかった。

 

「あッ、あッ、いくッ、おっきいの……くるッ」

 

 背筋を駆け上がる法悦の飛沫。

両腕・両足で男の身体に縋り付き、襲い来る快感の衝撃に目を剥いた。浅ましく収縮運動を繰り返す淫肉。その動きは雄の性を求む欲望の証左。そんな彼女の熱に応じたのか、胎内に収めた逸物が大きく跳ねた。

 

 声にならない絶叫。

男の口からも、息苦しそうな呻き声が上がっているではないか。その瞬間、ビクンッビクンッと脈打つ怒張から、何かが噴き出す感覚を捉える。

 

 熱気を帯びた性の砲弾が、彼女の根底に直撃した。

何度も何度も、噴出する白濁汁にクレマンティーヌの意識は真っ白に染め上げられていく。呼吸すらままならない、最果てのオーガズム。穴という穴から己が体液を溢れ出させ、愛する男の肉体へと塗り込んでいった。

 

 身体が、心が、器一杯に満たす。

充足感、多幸感、そして安堵感とも言うべき感覚で彼女の内面は彩られていく。

 

 あぁ、なんて自分は幸福なのだろうか。

クレマンティーヌはだらしなく破顔する。彼との出会いは正しく天の導き。今まで信じもしなかった神へと、感謝の念を送ってしまう程だ。いや、むしろ彼こそが自分にとっての神なのかも知れない。

 

 官能でぼんやりとする意識の中、そのような考えが思い浮かぶ。

すんッと鼻を鳴らす。鼻腔一杯に流れ込む彼の香り。ギュッと手足に力を込めてみる。彼の体温と自身の体温が入り混じり、境界線をあやふやにしてしまう心地良さが生まれた。

 

 堪らない、もう本当に堪らない。

肩口に埋めていた顔を持ち上げ、圧倒的な美貌へと視線を向けた。彼もまた、こちらを見下ろしている。交わる瞳と瞳。そこにきらめくは彼女を夢中にさせる優しい感情の光。

 

 互いに何を求めているかを理解するアイコンタクト。

二人の距離が縮まり、唇同士が深く交わっていく。クレマンティーヌは迷わず舌を突き出した。同時に、青年の方からも舌が突き出され口腔内で絡み合う。

 

 くちゅくちゅっと口の端より漏れ出る口付けの音。

彼女は己が舌を情熱的に振るい、男の唾液を啜っていく。対する彼も嬉しそうに目を細め、女戦士の愛撫を微笑まし気に受け入れていた。

 

 全てで、彼を感じている。クレマンティーヌは、幸せが胸から溢れ出してしまいそうだった。

身体の内外全てで、愛する者を感じているのだから仕方ないだろう。しかしその一方で、まだ足りないと囁く声が聞こえていた。

 

 そう、まだ足りないのだ。

もっと、もっと青年の色で染め上げられたい自分がいるのだ。その欲求は時を経るごとに大きく、強く、無視出来ない力となって彼女の身体を突き動かす。

 

 柔腰が動く。己が金色の痴毛を彼の黒毛と配合させるかの如く。

突き出した恥丘が擦れ、得も言われぬ快楽が湧き上がる。勃起したクリトリスが青年の素肌でしごかれた。背骨が解け落ちてしまうような快美感が絶え間なく襲い掛かってきた。

 

「んんッ、んぁッ、んぐぅッ」

 

 喉奥からくぐもった喘ぎが奏でられた。

グリグリと擦り付けるような動きで女の身体が暴走を始める。二人の結合部を泡立つ愛液で染め上げ、垂れ流しの母乳が新たな配色として加わっていく。

 

 剛直の先端がゴリゴリと音を立てんばかりに雌芯を掘削した。

粘り気を帯びた性交の曲が、静かに響き渡る。無心に、ひたすら腰を揺り動かすクレマンティーヌ。そんな彼女へ新たな快楽が襲来する事となった。

 

 ズンッと奥底が突かれたのだ。

青年が見せた責めの一手。つんざくような刺激に、女戦士の身体は浮き上がってしまう。鮮烈な快感信号に息が詰まる。身体が跳ね上がった為か深く繋がった唇が離れ、次いで甘やかな官能の鳴き声が刻まれた。

 

「ふあぁッ!! あんッ! あぁぅッ! き、きもちッ……きもちいいのッ!!」

「お、俺もッ、うくぅッ、気持ちいいよッ!」

「あぁんッ! うれしい……ひぁッ! いやッ……奥とんとんしちゃだめぇッ!」

「だめ? 痛かった?」

「ち、違うのッ、そこはぁ……そこは大切な所だかッ、ひぃッ!」

 

 最奥の入り口へ幾度と無く繰り返される刺突。

腹の中を穿たれてしまう錯覚に陥る彼女だが、それ以上の悦楽を確かに感じていた。丸みを帯びた穂先が、入り口の上を圧し解す感覚。気が狂いそうになる程の極上な衝撃を発生させていく。

 

 矮小な身など飲み込んでしまいそうな圧倒的性感。

翻弄される女戦士は自らの動きを変化させ、尻を叩き付けるかのような上下運動を開始した。乾いた破裂音が轟く。それはまさしく獣のような交尾と言えよう。

 

 ただひたすら快楽を追い求める様は卑しく、艶めかしい。

熱烈なピストン運動、蜜壺を穿たれ、張り出た傘に淫肉をこそぎ取られる。クレマンティーヌはおとがいを反らし快感によがり声を上げた。

 

 腰を叩き付ける度に、大きく張り出た臀部が淫靡な形に歪む。

淫らかな破裂音と厭らしい喘ぎが掻き鳴らす協奏曲。甘美な電流をもたらす穂先が更に大きく膨れ上がった。吐精の予兆だ。それに伴い彼の腰遣いも荒々しく、最果てを目指すかのような突き上げと相成った。

 

「あぁッ、あふぅッ、ひぃッ! やだッ……も、もうッ、もうだめぇッ!!」

 

 射精前の脈動に焼け爛れるような快楽を感じ取り、女戦士は限界の意を告げた。

心地良い熱波が妖艶な疼きと共にとぐろを巻きながら、じわじわと這い寄って来る。谷間にひそむ菊の花が弛緩と収縮を繰り返し、淫汁を滴らせる程の膨張感だ。

 

「いぐぅッ! もうッ、いぐうぅぅッ!!」

「お、俺もッ……一緒にッ」

「あうぅぅッ、きてぇッ! 一緒にきてぇッ!!」

「あぁッ、クレマンティーヌ!」

「あぐぅッ! おぉぅッ、あぅぅッ!!」

 

 ごつごつとえぐられる子宮口に亀頭がべっとり密着した。

刹那、甘く切ない光が瞬いた。胎内から膨れ、脊椎に迸り、上昇し脳天にまで直撃するエクスタシー。流れ込む快楽に全てが弛緩し、身体がバラバラになってしまうような衝撃すら起こっていた。

 

 一つ、二つと脈打ちながら放たれる灼熱の雄汁。

最奥を叩くその感覚に、恍惚なるアクメを幾度と無く味わう。果てしない絶頂の波に身体は凝り固まり、渦巻く悦びに身を任す他なかった。

 

 どれほど時間が経ったのだろうか。

身体を重ね合わせ、一つに繋がった男女の間に悩まし気な吐息が零れた。快感を噛み締めるかのような響きは、幸せに満ち溢れた女戦士のモノだ。

 

 ほぅ、と熱い息継ぎの後に彼女は青年の首筋に頬を擦り付ける。

それはまるで子猫が甘える時のような仕草。クレマンティーヌの頭上からはクスッという笑いが生まれていた。仕方が無いなぁと苦笑を浮かべる容貌が容易に想像出来る。

 

 次いで頭に置かれる愛しき手。

ゆっくりと髪を梳かれる感触に、女戦士の顔に恍惚の笑みが浮かぶ。ならばこちらも、と言わんばかりに一層頬を擦り付けて甘えるクレマンティーヌ。

 

 そんな時であった。

彼女の視界の端で、何か動くモノを捉える。ガサリと茂みを掻き鳴らして遠ざかる気配。意外にも近場から鳴り響いた音源に困惑の色を隠せない。本来であれば察せる気配である、しかし彼との行為に夢中で気付けなかったのだ。

 

 どうしたものか。

 

 未だぼんやりとする思考で対処法を探るものの、僅か数舜で諦めた。

何故なら気配の主は明らかに格下、恐らく近所の村人か何かであろう。実害は無きに等しい、それよりもこの温もりが愛おしくて仕方ない。

 

 下腹部の奥底に溜まる温かな感触に相好を崩すクレマンティーヌ。

色香に染まる脳裏は、既に不審な気配の事を忘れていた。そう、視界の端に捉えた栗毛色の事なんぞ、どうでも良かったのである。

 

「ねぇ……」

「うん?」

「ふふっ、呼んでみただけー」

「ふぅん、そっかぁ」

「うん……大好き」

「奇遇だね、俺も大好きだよ」

 

 クスクスと二人分の笑い声が反響する。

森林地帯の奥深く、たった二人きりの世界で、交わし合う言の葉。晒した素肌を、穏やかな木漏れ日が照らし出す。

 

 やはり、全てが光り輝いていた。

クレマンティーヌは心の底から笑い声を上げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女がソレに遭遇したのは偶然であった。

妹と同行者、そして自分を含めた3人で出向い野草採取。その折に不思議な音色が聞こえたのだ。甲高い、澄んだ音色。誰か、こんな辺鄙な森の中で演奏に興じているのだろうか。

 

 不規則に奏でられる旋律に興味が湧いてしまった。

切っ掛けはただそれだけ。妹を同行者に任せ、彼女は一人でこの音色の正体を突き止めるべく動き出す。まだ幼い妹を置いていくのは気が引けたが、同行者へ非常に懐いている事が幸いした。

 

 それに、出会って間もないとは言え彼はとても律義者。

高位と思わしき魔法詠唱者がこんな野草採取にも同行してくれる程なのだ。ただ行って確認してくるだけ、そんな思いと共に彼女は音の正体を探し求めた。

 

 ちょっとした冒険。

奏でられる音源の正体にワクワクしつつ歩を進める。徐々に大きくなる音色が、人の喘ぎ声と分かったのはどの辺りだっただろうか。それも異様に湿り気を帯びた艶声だった。

 

 顔が熱い、頬が紅潮しているのが分かる。

しかし彼女の足は止まらない、止まってくれない。もし自分の想像とは違い、本当に誰か苦しんでいる声ならば退く訳にはいかない。そんな免罪符と共に、彼女はついに正体を明らかにする。

 

 木漏れ日の下で、交わり合う男と女。

妖艶な雌と、魂から見惚れてしまう程の雄。上気した肌をきらめかせ、艶めかしく互いを愛しあう姿に惹かれてしまった。響き渡る喘ぎが、生々しい淫臭が、そして雄の存在が彼女をその場に縛り付ける。

 

 熱気立ち込める睦事にあてられてしまったのだろう。

彼女の胸は僅かな衣擦れにも反応してしまい、股座はじんわりと湿り気すら帯びてしまった。ボルテージの上がる交尾を、ついつい喰い入るように見詰めてしまう。

 

 そして一際大きな嬌声が湧き起こった時、彼女もまた酷く心地の良い痺れに襲われていた。

意識が真っ白になり、次いでその場に倒れこんでしまった。同時に大きな物音も立ててしまっている。しまった、そう思うや否や彼女は全力で踵を返す。

 

 最後に見た光景は金色の美女がこちらに焦点を合わす姿。

もしかしたら気付かれてしまったかも知れない。得体の知れない不安に襲われながら彼女は走りに走った。

 

「あれ、お姉ちゃんだ。どうしたの、そんなに焦って」

「どうかしたのですか? えらく急いでいるようでしたが……」

「ううん、何でも無いの! ちょっとヘビに驚いちゃって慌てて走ってきちゃった!」

 

 黒衣を身にまとう長身と幼き妹が揃って首を傾げる。

その様は少し滑稽であったのだが彼女は、そこに気付く余裕すら無い。咄嗟に嘘を吐いて誤魔化す。同行者はともかく、妹には事の本質————見付かったかも知れないという意識から生じた焦り、その焦りを見抜かれてしまった事も彼女の余裕を奪っていた。

 

 流石は血を分けた家族と言うべきか。

しかしながら、荒々しい息を吐く理由までは悟られなかったようである。内に秘めた熱は未だ火照っているのだ。彼女が空元気を見せ、意気揚々と歩を進めていく。

 

 ぐちゅりッ、と誰にも聞こえない彼女だけにしか分からない水音が響き渡った————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




明けてました、おめでとうございました(過去形)
相変わらずの遅筆ですが2020年度も宜しくお願い致します。


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