太陽と月 (黒死牟)
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始まりと心痛

傷だらけの戦士と並行して投稿したいと思っています
楽しみながら読んで頂けると幸いです


明るい日差しが照りつけ、暖かな陽気に包まれる

朝があれば夜がある、太陽が登れば影が現れる

光があれば闇がある…それは避けられない事実

 

桜舞い踊る春

穏やかな風が通り抜け、鼻腔をくすぐる

心地よい感覚に包まれながら歩を進めた

 

ここは静岡県は沼津市にある静真高校

共学ではあるが男子生徒の数は少なく、8割は女子生徒である

そして、今年度より私立浦の星女学院と合併する事になっているので、尚更女子生徒が増えている

 

そのため周りの生徒は女子が多く、これから始まる新学期に着いての話に花を咲かせている

真「はぁ、学校始まっちゃったな」

須藤真治はポケットに手を突っ込みながら歩いている

その足取りはかなり重い

現代風の作りの校舎が、真治には刑務所のように見えた

制服かチラリと見えた彼の二度腕には、痛々しいアザがある

真「卒業してしまえば、あいつらともおさらばだよな…」

真治は小学生の頃から酷いいじめを受けていた、脳裏にその時の情景が浮かんだ

 

お前、気持ちわりいんだよ

そう言いながら頭を殴られる

 

痛い

 

ちょっと顔がいいからって調子乗ってんじゃねえよ

腹を蹴られる

 

苦しい

 

お、今俺を睨んだな?いい度胸してんなぁ

 

弱虫のくせに生意気なんだよ

 

お前なんざ生きてる価値なんかねぇ

 

激しい罵倒の数々、その一言一言が真治の胸に深く突き刺さる

それはまるで、心臓を鋭利な刃物で抉られているような感覚だった

 

なんで俺ばっかりこんな…

 

 

…………死にたい…………

 

 

気がつくと、昇降口の前まで来ていた

その時、近くで話していた女子生徒の声が届く

「ねぇ、浦の星のスクールアイドルの子達が来るって知ってる?」

 

「知ってる知ってる!皆すんごく可愛いんだよね〜」

 

「同じクラスだったらいいな〜」

 

「マジか!俺彼氏に立候補しちゃおっかな〜」

 

「ばか、あんたには高嶺の花だって」

 

「そんなん、やって見なきゃわかんねーじゃんか」

 

 

そうか、そういや生徒会長が総会でそんなこと言ってたっけ

まあ、俺には関係ないな

 

無表情で歩を進める

 

次の瞬間、真治の肩を誰かが掴んだ

ビックリして振り向くと、そこには黒髪でショートカットの可愛らしい女子生徒

真「生徒会長…何の用だ?」

 

?「その呼び方は辞めてって言ってるでしょ?僕の名前は生徒会長じゃありませーん」

彼女の名前は、渡辺月

俺の幼馴染みで、一応友達らしい

月はほほ笑み、真治の方をむく

真「お前、あんまり俺と一緒にいるといじめグループから目をつけられるぞ、で、何の用?」

 

月「…まだ続いてたんだね…別に、真治に築いたから声をかけただけよ、っていうかツンデレ?あ、もしかして恥ずかしがってるとか〜?コイツ〜!」

そう言いながら真治の胸を指でトントンと突く

真「話はそれで終わりか?」

そう言いながら立ち去ろうとする

兎に角この場から逃げ出したかった

月「あ、ちょっと待って!怒んないでよ!冗談だってば冗談!実は話しておきたいことがあるんだ」

真治はピタリと足を止め、振り向いた

真「だからなんだ?」

月は一呼吸置き、ゆっくりと話し始めた

月「実はね、今日から私の従姉妹がこの学校に通う事になってるんだ、この間のライブ見たでしょ?浦の星女学院スクールアイドル、Aqours、だから仲良くしてあげてって言おうとして」

仲良く?なんで俺が…知りもしない人と仲良くしなきゃいけないんだ

真「お会いにくさま、あんな煌びやかな人達とは縁がなくてね、それに同じクラスになるとも限らないだろ」

真治の言葉に月はムッとし、頬を膨らませた

月「そんな言い方しなくても言いじゃん、真治、彼女いなかったでしょ?この際狙ってみたら?」

 

真「俺に彼女なんか出来ねえよ、向こう80年はな」

 

月「それもう棺桶に入るまで作らないって事じゃん…勿体ないな〜せっかくいい顔してるのに」

月の言葉に真治はピクリと反応した

いい顔だと?いじめられてるこの俺がか?ありえない、そんなの絶対ありえない

真「幼馴染みだからって調子乗ってんじゃねえよ、逆にお前は俺なんかと付き合いたいと思えるか?」

 

月「僕はいいと思うけどな、顔は整ってるし目も大きい、それに…武道も出来る、正に男の子っていう感じだけど」

真治は何も答えない、ずっと下を向いていた

月「まっ、何はともあれ頼んだよっ!」

そう言いながら真治の頭をくしゃくしゃにする

 

月はそのまま真治の前に行き、走り出した

しかし、何かを忘れたと言わんばかりに急に振り向き、真治に微笑みかける

月「あっ、言い忘れてたけど、一応その子の名前教えとくね」

 

真「お前の幼馴染みのことか?」

 

月「うん!名前は…渡辺曜ちゃん!」

月は弾けるような笑顔でそう言いい、敬礼をして見せた

 

 

上靴に履き替えて廊下を歩いていると、1枚の大きな紙が目に入る

どうやらクラス分けの物のようだ

上から順番に自分の名前を探していると、ある名前に目が止まる

真「…月も一緒か、それに…」

そこまで言いかけた途端、後ろから男に肩を掴まれた

 

その男は真治を見下ろし、気に食わない顔をしている

男の後ろにはまた数人の男子生徒がニヤつきながら立っていた

「よぉ須藤、どうやらまた同じクラスのようだな」

 

真「そうみたいだな」

 

「嬉しいだろ?また俺達と遊べるんだからなぁ」

そう言いながら真治の足を力強く踏んづける

真治は苦痛の表情になり、顔をしかめる

男は真治を睨みつけ、胸ぐらを掴んだ

「お前、なに渡辺となかよくしてんだ?あぁん?何様なんだお前」

真治の足を引っ掛けて倒す

「お前と渡辺じゃ合わねぇんだよ、幼馴染みだかなんだか知らねえがよ」

真治は表情を変えない

「二度と渡辺に近づくんじゃねえぞ、わかったか?」

 

真「あぁ、わかってるよ」

 

「それでいいんだ、お利口だな」

心無しか、真治の目元に光るものがある

男子生徒達はニヤつきながらその場を去っていった

「そういやうちのクラスにも浦の星の子達が来るらしいな」

 

「マジ?楽しみだなぁ」

 

「いやお前は無理だろうが」

 

「やかましいわ!」

ガヤガヤと言いながら、階段を登っていく

 

真治は立ち上がって埃を払い、向き直った

真「そんなこと言われなくたって、元から関わる気なんてねぇよ、あいつだって、どうせ俺なんか…」

一部始終を見ていた生徒達の冷ややかな目が、真治の心を更に締め付けた

 

 

再び自分の教室を確認し、その場所へと歩を進める

まったく、朝から災難だらけだな…

予期せぬ幼馴染みとの遭遇、いじめ集団に絡まれ罵倒を浴びせられる

ある意味退屈しない日常といえよう

俺、これから後1年やっていけんのか…

そう思いながら歩いていると、またも後ろから肩を掴まれた

真「なんだ、悠介か」

悠介と呼ばれた少年は部が悪そうな顔をした

悠「なんだとはなんだ、それが親友に対する言い草かよ、せっかく一緒のクラスになったのに」

 

真「あぁ、そういやそうだったな」

 

悠「もっと嬉しそうにしろよ、月ちゃんとも一緒なんだろ?あいつらとも一緒だけどよ」

 

真「そこら辺は何も思ってない、別にどうでもいい」

悠介は呆れた顔をする

悠「まったくお前と言う奴は…事情が事情だけに何も言えねえが…」

そうこうしていると、教室に着いたようだ

 

 

教室に入り、席に着く

見知った顔もあるが、ちらほらと見知らぬ生徒も居るようだ

恐らく、例の浦の星女学院の生徒だろう

しばらくして担任の先生が入室し、教壇に立った

「はい注目、ここのクラスはほとんどメンツは変わってないけど、皆も知っている通り浦の星女学院から転入してきた生徒さんもいるので簡単に自己紹介してもらいましょう、では、お願いします」

そう言うと、3人の女子生徒が教壇に立った

「皆さんはじめまして!私は高海千歌と言います!どうぞよろしく!」

 

「さ、桜内梨子と申します…よろしくお願いします」

緊張しているのか、顔が赤い

そして3人目、その女子生徒はショートボブに毛先にパーマがかかっていて、どこかで見たような顔をしている

「浦の星女学院から来ました…渡辺曜ですっ!よろしくお願いします!」




今回はここまでです!


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拳と傷跡

新しい元号に変わりましたね!
welcome to 令和!
これからも頑張って書きます!


元気に挨拶をした3人組は、担任の指示でそれぞれの席に戻る

まっ、3人くらいならクラスの雰囲気にさほど変わりはないだろう

俺が災難を被ることもない

 

そう思い、特に気にも止めなかったが自分の隣の席が空いている事にも気づいていなかった

 

クラスメイト達が3人に対する反応をしている

「やっぱり可愛い〜」

 

「このクラスで良かったぜ」

 

「俺、Aqoursのファンだったんだよ〜」

 

前言撤回、騒がしくなる事間違いなしだな

真治は軽くため息をつくと、顔をうつ伏せる

 

その時、隣の席から誰かが座る音がした

誰だと思いながら少し顔を傾け、その人物を黙認する

その生徒は女子で、ショートボブで毛先にパーマをかけているとても可愛いらしい人…

 

あれ、この人って…?

 

その女子生徒は真治の方を向き、弾けるような笑顔を見せた

曜「はじめまして!私、渡辺曜っていいます、よろしくね!」

そう言いながら敬礼をして見せた

 

この人、昔会った事があるような…

 

曜「えーと、須藤君だね?覚えた!下の名前はなんていうの?」

曜は真治の胸についた名札を見ながら質問する

真治は我に返り、曜から目を逸らす

真「(俺の気のせいか…確かにどこかで会ったような気がしたが…)」

曜は可愛らしく顔を膨らませ、少し怒った顔をした

曜「も〜なんで無視するの?あ、もしかして恥ずかしがってる?」

 

真「……」

真治は何も答えない、いや、答えられないと言った方がいいだろうか

俺は、何を考えてるんだ…全く

そう思い、もう一度顔を伏せる

 

曜は困った顔をして、うつ伏せてしまった真治を見つめる

曜「(やっぱり、話してくれないか……)」

私の頭の中で、1週間前のことが蘇ってくる

 

 

1週間前 曜の部屋

太陽が真っ赤に輝く夕暮れ

辺り1面は赤く染まり、独特の雰囲気を醸し出している

私は自分の部屋のベッドに寝転びながら電話をしていた

曜「この間のライブはありがとうね…月ちゃん!」

 

月「お安い御用だよ!僕も楽しかったし!」

電話の相手は、従姉妹の渡辺月ちゃん

小さい頃からよく遊んでいた仲だ

曜「ところで、相談ってなに?月ちゃんが悩み事なんて珍しいね」

 

月「うん、実はね…」

月は少し間を置き、ゆっくりと話し始めた

月「実は、僕のクラスに、ずっと寂しそうな顔をしてる子がいるんだ、男の子なんだけど、その子を元気づけて欲しいんだ」

 

曜「別にいいけど、なんで私?確か千歌ちゃんも同じクラスだったよね?元気づけるだけなら千歌ちゃんの方が…」

月は曜の声を遮って答える

月「曜ちゃんがいいと思う、いや、曜ちゃんじゃないといけないんだ」

彼女の言葉には、言い知れぬ説得力があった

月ちゃんがこんなに頼み込んで来るなんて…よっぽどなんだな

曜「まぁ月ちゃんがそう言うなら…わかったよ!私に任せといて!スクールアイドルの腕の見せどころだよ!」

 

月「ありがとう、頼んだよっ!じゃあ1週間後の始業式でね!」

 

曜「うん、またねー!」

そこで電話は終わった

 

月は電話を切ると、少し悲しげな表情を浮かべる

月「真治…僕は必ず、昔の元気だった頃の真治に戻してみせるから」

机の上にある写真立てを手に取り、片方の手で優しく撫でる

その姿はどこか愛おしそうで、懐かしんでいるようだった

しかし、直ぐに悲しげな表情に戻り、肩を深く落とす

月「あの時、僕がもっと強かったら…ごめん、真治……」

悲しみと寂しさに暮れている彼女の瞳からは、うっすらと一筋の涙がこぼれ落ちていた

 

 

始業式を終え、教室で諸注意を受けると今日は下校になった

周りの生徒達は、午後からの空き時間を友達と過ごそうと遊びの話に花を咲かせている

真「今日もとっとと帰って漫画でも読むか」

自分の部屋にこもって1人本の世界に入る、それこそが真治の唯一の楽しみだった

 

今日配られたプリント類を適当に折りたたみ、そのまま適当に鞄に放り込む

肩に鞄を掛け、携帯をいじくって帰りのバスの時間を検索した

画面上に示された時間は20分後に発車との事だった

真「少し待つか…まぁいいや」

真治は乱暴に鞄をからって教室を出る

 

曜「あ、待って須藤君!」

曜は急いで荷物をしまい、真治を追いかける

曜「真治君って家どっちの方面なの?」

歩きながら質問する

真「…沼津」

小さい声だが、答えてくれた

曜「ほんと!私も沼津なんだ!よかったら一緒に帰らない?

次の瞬間、真治は急に立ち止まり曜の方を向いた

真「あのさ、もうやめてくれない?」

真治は無表情のまま答える

真「もしかして俺を可哀想だとか思ってる?悪いけど、はっきりいって迷惑だから、それに、俺と一緒にいたら変なヤツらに目つけられるぞ、それは君の為にもならない」

 

曜「別にそういう事じゃ、私はただ…」

言い終わる前に、真治はこの場から立ち去ろうとした

踵を返して去っていく真治の瞳に、うっすらと涙が零れていた

曜「なんて、悲しそうな瞳…」

 

 

真「これでいいんだ…これもあの人のため…」

真治は溢れてきた涙を乱暴に拭い取り、帰路につくのだった

俺に関われば、皆が不幸になる…

俺なんか、いない方がいいんだ…

真治の瞳の涙粒が、少し大きくなった

 

 

帰りのバスに揺られながら、曜と月は今日の出来事について話し合っている

月「そう、やっぱり話を聞いてくれないか…」

月は悲しげな表情を浮かべた

曜「うん、さすがにね…」

曜も難しい顔をする

曜「ところで、どうして須藤君はあんな風になっちゃったの?」

 

月「……いじめだよ」

 

曜「えっ、いじめ…?」

 

月「うん、小学生位だったかな、その頃からずっとなんだよ…」

 

曜「そう…なんだ」

曜は顔を顰める

曜「もしかしたら私、ありがた迷惑だったのかな…」

 

月「そんな事ないよ!でも今の真治は、僕の話でさえ聞こうとしてくれないんだ」

 

曜「真治?あっ、須藤君の下の名前?」

 

月「そういや言ってなかったね、須藤真治、それが彼のフルネームだよ」

真治?どこかできいたことあるような…

必死に考えるが、思い出す事はできない

月「どうしたの?小難しい顔して」

 

曜「ううん、なんでもない、ただ…」

須藤真治君…か…

 

 

元令館空手道場

道場に着くなり真治はバッグを放り投げる

そして中から道着と「黒帯」を取り出した

服を脱ぎ、道着に着替える、そして力強く黒帯を絞めた

 

その時、真治の周りに多くの子供が集まる

「押忍!真治先輩!」

 

「押忍!よろしくお願いします!」

 

「押忍!久しぶりです!」

 

真「押忍!皆も今日も稽古頑張れよ」

真治が後輩達に発破をかけると、その中にいた少し背の高い男が近寄ってくる

「押忍、やっと来る気になったんだな」

 

真「あぁ、湊」

彼、京極湊は少し笑みを浮かべながら続ける

湊「学校はどうだ?ちゃんと行ってるか?

 

真「ちゃんと行ってるって、心配すんな」

 

湊「そうか、そういえば少し痩せたか?ちゃんと3食たべ…」

立て続けの質問にうんざりしたのか真治は湊の言葉を遮る

真「お前は俺のおふくろか?大丈夫だって」

 

湊「ならいい」

湊は少し息を吐いた

湊「たまにはこっちにも顔出せよ?ちび共が寂しがってんだから」

そう言いながらじゃれあっている子供の方に目を向ける

真「わかってるよ、ところで師範は?」

 

「ここにいる」

声のした方に目を向けると、年老いた老人が立っていた

真「お久しぶりです、上杉師範」

 

上「1年ぶりだな、調子はどうだ?」

 

真「押忍、おかげさまで」

真治は深々と頭を下げる

上「過去、全日本選手権で3連覇を成し遂げたお前が指導員として来てくれれば子供も喜ぶ、する気はあるか?」

 

真「もちろん、引受させてもらいます」

真っ直ぐな瞳で答える

上「…いい目だ、いいか真治、前にも言ったがこれだけは覚えておけ」

一段と真剣な顔になる

上「空手家の拳は狂気だ、何があってもその拳で素人を傷つけてはならん、心のない拳は、やがて身をも滅ぼす…」

真治は真治の拳を見つめ、強く握りしめた

真「心のない…拳…」




今回はここまでです!
登場人物の紹介をしておきます!
京極湊
県立玄信高校に通う高校3年生、真治とは小学生からの付き合い
真治の良きライバルで、実力も認められている

大堂悠介
真治と同じ学校に通う高校3年生、真治とは昔からの親友


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不安と痛み

ゴールデンウィークも終わりましたね〜
私はほぼほぼバイト三昧でしたとさ!
まぁそんな事は置いといて、


今回も頑張って書きます!ではどうぞ〜


今日もいつもと同じバスに乗り、同じ席に座る

不安定な田舎道を走るバスに揺られながら、真治はうたた寝をしそうになる

真「眠〜い、ったく、なんで月曜日ってこんなに体がだるいんだろうな…」

誰もが嫌がる月曜日、しかも今日から授業開始という要らないオマケ付きと来たもんだ

真「いっそ、学校辞めてしまおうかな」

そんな考えが頭をよぎった時、バスが停留所に止まる

心地よい程の揺れが無くなり、体にだるさがどっと押しよせた

鉛のようになった体を軽くするように、深い深いため息をつく

 

その時、重い雰囲気の車内に明るい声が流れ込んできた

千「ねむいよぉ〜」

 

曜「千歌ちゃん…また昨日遅くまで起きてた?」

 

月「寝不足は美容の天敵だよ〜?」

 

千「む〜曜ちゃんも月ちゃんもずるいよ!学校変わっても朝起きる時間変わってないし、私は40分も早起きなのに…」

 

曜「それ言ったら梨子ちゃんだって…」

梨子は困った顔をする

梨「だったらちゃんと早く寝ることね」

 

千「なんでお母さんと同じこというの〜!」

 

曜「あははっ、梨子ちゃんほぼほぼ千歌ちゃんのお母さんだもんね」

 

月「そうそう、絶対将来いい母親になりそうだよ!」

月はニカッと笑顔で答える

梨「って、なんでそんな話になるのよ〜!」

まんざらでもなさそうだ

 

真「はぁ…朝から元気なこった」

真治は4人に見つからぬようシートに深く腰掛けた

年季の入ったシートが、まるで小さな悲鳴をあげるかのようにギシリと軋んだ

 

その音が災いし、元気な女子4人が一斉にこちらを振り向いた

真「あ、やべっ…」

 

月「真治じゃん!乗ってるなら言ってよ〜」

 

千「確かクラス一緒だったよね?よろしく〜!」

 

梨「よ、よろしくお願いします…」

少し恥ずかしそうにする

曜「おはよー!」

 

真「お、おはようございます…」

 

月「なんで敬語なんだよ?」

 

真「いや、別に…」

こいつらの波に呑まれたら絶対面倒なことになる…

ここはなるべく反応せずにやろう

逃げるは恥だがなんとやらだ

 

そうこうしていると、バスは停留所で止まり、車内アナウンスが流れる

「静真高校前〜静真高校前〜御乗り降りの際は忘れ物にご注意ください」

 

 

そそくさとバスを降り、校門へと向かう

早足で校内に入ると、真治は逃げるように生徒の波に姿を隠した

真「ふぅ…あいつらは…いないか」

後ろを振り向き、先程の元気な4人組が居ないことを確認する

真「ほんと、あいつらに絡まれたら面倒くさそうだからな…あぁ助かっ…」

そう言いかけた時、肩を強く掴まれた

月「誰が面倒くさいだって〜?」

真治はその場で固まる

月は笑顔だが、あからさまに怒った表情をしていた

真「いや……雨が振りそうだったからさ!だから面倒だな〜って…」

 

月「こんな快晴のどこにそんな要素があるんだよ!」

 

千「あははっ!真治君っておもしろ〜い!」

ひょっとして、今目つけられた?

曜「一緒に教室まで行こうよ!」

曜は真治の制服を引っ張った

 

次の瞬間、真治はその手を勢いよく振り払う

それと同時に目付きも変わった

真「…気安く触るんじゃねぇよ」

迫力のある言い方に、その場にいた全員が口を閉じる

曜「えっと…ごめんなさい…」

 

真「渡辺さん…だったよな?あんまり俺と関わんない方が身のためだぞ?」

真治は曜の目を真っ直ぐに見つめる

真「また、不幸な人が増える」

そう吐き捨て、真治は足早に校舎へと入っていった

月「真治…」

曜は少し俯き、何かを感じ取ったかのように顔をあげた

曜「真治君…なんて悲しそうな目…」

 

 

真治は教室に入り、自分の席の近くに来ると鞄を放り投げる

真「はぁ…」

 

悠「朝からため息なんてつくんじゃねえよ」

振り返ると、自分の席の後ろに悠介が座っていた

真「んな事言ってもよ…授業面倒くさくないのか?」

 

悠「そりゃ面倒くさいに決まってるだろ」

悠介は呆れ顔をする

 

その時、1人の男子生徒が2人に近づいてくる

この前、真治をいじめていた生徒の1人だ

「よぉ大堂に須藤、2人して何話してんだ?」

 

真「別に、大したこと話してない」

真治は仏頂面で答える

「あ?なんだその目は?俺と話すのがそんなに嫌なのか?」

 

真「嬉しいといえば嘘になるな」

真治の言葉に、男子生徒は目の色を変えた

「誰に向かって口聞いてんだ?調子に乗るんじゃねえぞ!」

そう言いながら、真治のみぞおちに拳をめり込ませる

真治は苦痛の表情を浮かべながらその場に膝をつく

悠「お、おい!いきなり殴ることないだろ!」

 

「なに?今度はお前もやられてぇか?」

男子生徒の目が悠介に移動する

まるで獲物を狩る虎のようだ

 

そうしていると、教室の外から明るい声が聞こえてくる

教室の扉がガラッと開き曜達が入ってきた

「おっと、俺はこれで失礼するぜ」

男子生徒は真治から離れ、曜達の所に走って行ってしまった

楽しそうに談笑する彼らを見て、真治の顔が歪んだ

真「ふん、人間なんて、所詮こんなもんだ」

そう吐き捨て、自分の席に戻る

悠「お、おい!真治、大丈夫なのか?」

悠介は心配そうな顔で真治を追う

真「ばか、そんな簡単に壊れる体じゃない」

 

悠「ったく…強がりめ」

 

 

1限目の授業が始まり、生徒達は嫌々ながらも筆記用具を出す

真「はぁ…休めばよかった」

先程のことが頭をよぎり、本音が口から零れた

 

うつ伏せになって寝ようとすると、隣からチョンチョンと肩をつつかれる

そのまま顔を横に動かし、自分を呼んだ人物を確認する

曜「真治君…ちょっとお願いがあるんだけど…」

なんだ、渡辺さんか

てっきり月に起こされたのかと思った

真「なに?」

頭を起こし、渡辺さんの方を見る

 

今朝の事もあるので、少し気まずそうにしている

曜「そのぉ……実は教科書忘れちゃって…見せてくれない…?」

えらく神妙は面持ちで何を言い出すかと思ったら…

そこまで大した事ではなかった

っていうか渡辺さん普通に美人だから、そんな表情されて話があるなんて言われたらほとんどの男子はコロッと行くだろう

真「まぁ、別にいいよ」

 

曜「ほんと?ありがと〜!助かるよ!」

渡辺さんは目を輝かせ、元気よく手を挙げた

曜「先生〜.私、教科書忘れてしまったので隣に見せてもらってもいいですか?」

黒板と対面していた先生がこちらを向く

「そうか、まぁ今日は初回だから仕方ないか、いいぞ」

返答を貰うや否や、渡辺さんは机をくっつけ始めた

 

クラスメイトが真治に注目する

理由は恐らく、地味なクラスメイトである俺と、性格も明るく美人な渡辺さんとの関わりを良しとしていないのだろう

視線が痛かった

 

ふと視線を感じそちらを振り向くと、月がこちらを見ていた

彼女は何も言わず敬礼をする

言葉は発していないが、心の内は読めた気がした

月「(真治、曜を頼んだよ、よーろしくぅ〜)」

なんか、今日ついてない…

 

 

なにはともあれ落ち着き、静かに授業を受ける

はぁ、寝ようと思ってたのに…

頭の中でぶつくつ文句をたれていると、隣から声がかかる

曜「真治君、朝はごめんね?迷惑だったでしょ…?」

急に話が飛んできてびっくりしたが、直ぐに冷静になる

今朝は一方的に自分が怒ってしまった事もあり、彼女に対する申し訳なさが心の中にあった

真「気にしてない、それに、俺の方こそ急に怒鳴って悪かった」

真治の言葉に安心したのか、曜は目を輝かせる

曜「ほんと?よかったぁ〜まだ怒ってるんじゃないかって心配してた所なんだ」

 

真「本当に気にしてないから、だからもうこの話はやめよう」

返答が来る前に正面を向き、板書を移す

これ以上話してたらもっと面倒なことになりそうだからな…

 

真面目に授業を受ける姿勢が、自分でも珍しく感じる

 

そう思っているとまた横から肩をつつかれた

誰からかは言うまでもない

真「今度はなに?」

 

曜「真治君…数学分かる…?」

 

真「そこそこかな」

 

曜「ほんと?今度私にも教えてよ〜」

 

真「渡辺さんって数学苦手なの?」

結構頭良さそうなのに、以外だな

俺もそこまで鬼じゃない、まぁこれくらいはな…

真「別に、俺は構わないけど」

あくまで良心で彼女の要求を飲んだ

曜「ありがと!助かるよ、でも…」

上目使いになり、真治の顔を覗き込む

真「どうした?」

 

曜「出来れば苗字じゃなくて…名前で読んでほしいな〜なんて!」

 

真「………」

真治は俯き、黙り込む

なんでそんな話になるんだ…

曜「真治…君?」

 

真「ごめん、そういうのあんま慣れてないんだ」

 

曜「そう…なんだ、わかった!じゃあ仲良くなったら、考えてくれる?」

 

真「まぁ、考えてもいいかな」

 

曜「そこは素直にOKしてよ〜!」

どこまでも明るいなこの人

 

太陽のように明るい彼女の声を聴きながら、真治は短くため息をついた

 

はやく席替えしたい…




今回はここまでです!
次回もお楽しみに!


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憎まれっ子世に憚る

お待たせしました!
絶賛五月病でございます…
ここを乗り切らねば…

今回も頑張って書きます!
では、どうぞ〜


1限目の授業が終わり、真治は大きく息を吐いた

小一時間、隣人からほとんど束縛される形で授業を受けていると、流石に参ってしまう

真「はぁ……なんでだろうなぁ」

深い溜息をつき、顔をうつ伏せる

興味本位かどうか分からないが、どうしてここまで曜が絡んでくるのかが真治には理解が出来なかった

 

実はこの日、曜は教科書を丸々忘れてしまっていて、この後も同じような目に遭うことなど真治は知る由もなかった

 

 

2.3限もなんとか乗り切り、4限に向けての準備をする

次の授業は移動教室で、これが終われば昼休みということもあり少し体が軽い真治だった

真「流石に移動教室で横になる事はないよな…」

一縷の望みを抱きながら、教室を出ていく

 

全員が教室から出て行った時、真治の席に男子生徒が近づきカバンの中を探る

今朝、真治に手をかけていた生徒だ

「渡辺さんと馴れ馴れしく話しやがって…気に入らねぇ」

男子生徒は歪んだ表情のまま、真治の弁当箱に手をかけた

 

 

真治は疲れた顔をしながら廊下を歩く

元気の無い彼の背中を、月が勢いよく叩いた

月「なに沈んでんだよ〜」

 

真「痛ってぇな、何すんだよ」

いきなり叩かれたということもあり、真治は鋭い口調で言った

しかし、月は怯むことなく続ける

月「まぁまぁ、それで、曜と仲良く出来てる?」

 

真「まぁ…ちょっと疲れたけどな」

確かに人と話す事に慣れてないから疲れた、けど…

真「少しは、楽しかった…かな」

明るく話してくれる渡辺さんに、好感が無い訳ではない

その言葉に嘘偽りはなかった

月「そう、それは良かったよ〜!」

月はスキップをしながら真治の前に出る

楽しそうな月の姿を見て、真治は疑問を感じた

 

その時、脳裏にある記憶が浮かんでくる

2人の少女、暗がりの路地…

 

真「月…渡辺さんってもしかして…」

 

月「ん、なんだい?」

月は振り向き、真治に笑顔を向ける

 

気づけば、その不思議な記憶は頭から綺麗さっぱり消えていた

真「いや、なんでもない…」

 

月「なんだよそれ〜」

 

真「もういいんだ」

真治は月の横をすり抜けて足早に去った

その後ろ姿を見ながら、月は悲しげな表情を浮かべる

月「真治…やっぱり、覚えてないんだね」

遠ざかる彼の姿を瞳に映し、月は少し虚しくなる

 

今から3.4年前、月と曜は2人で大阪に旅行に行った事がある

 

煌びやかな通天閣、本場のたこ焼き、私達は思い思いに楽しんでいた

月「わぁ〜!凄い!曜ちゃん、向こう行ってみようよ!」

 

曜「ヨーソロー!あれ?」

曜の瞳に、路地に隠れた制服専門店が映る

その瞬間目を輝かせ、月の肩をガシッと掴んだ

曜「月ちゃん!前方に制服専門店発見!これはもう…」

顔を見合わせる2人

考えは同じと言わんばかりに同時にニヤける

月「行くしか〜?」

 

曜「ないよ〜!全速前進〜」

 

月「ヨーソロー!」

 

夢中になって走り出し、路地に入ったその時、曜が男とぶつかってしまった

曜「あ、すいません!よそ見してて…」

言いかけた曜が、男の姿を見た瞬間固まった

至る所に開けられたピアスの穴、金髪の髪はオールバックにしてあり、極めつけに腕からは刺青が覗いていた

男は3人いて、ほとんど同じような格好をしている

 

その中の一人があからさまにイラついた表情で曜に近づく

男「どこ見て歩いてるんだ?あぁ?」

 

曜「本当にすいません…私が悪かったです…」

 

男「悪かったで済まされるんなら警察なんていらねぇんだよ」

月も勇気を出して前に出る

月「僕も謝るんで、どうか許してください!」

男のギラりとした目が2人を交互に見つめる

男「そんなに許して欲しいなら、俺達と一緒に来るんだな」

 

曜「え、それってどういう…」

 

男「言葉通りさ、俺達と気持ちいい事しないかってことさ」

男の口元が妖しく吊り上がる

曜「そ、それは…」

 

男「いいから来いよ」

男が曜の腕に手をかけようとしたその時…

 

2人の目の前に1人の少年が現れ、男の手を掴む

路地が暗いせいで顔は良く見えない

少年はスラリとした体型だが、引き締まった体に後ろからでも見える

?「やめろよ、嫌がってるじゃないですか」

 

…この声、もしかして…

 

男「なんだぁ、お前」

 

?「お前が知る義理はない」

男は眉を吊りあげながら少年を睨みつけ、胸ぐらを掴んだ

男「ガキが…舐めんなよ!」

 

しかし、少年にはどこか余裕が感じられる

?「…それはこっちのセリフだ」

次の瞬間少年は男の手を掴み、そのまま反対方向に捻る

男の体は痙攣を起こす様に倒れ込み、苦悶の表情を浮かべた

男「な、なんだこいつ…」

 

男「ちっ、これならどうだ」

そう言うとポケットからナイフを取り出し、少年に向ける

男「ほら、殺されたくなきゃさっさと消えろや」

少年は表情をピクリとも動かさずに佇む

?「刺すなら刺せよ、その度胸があるのならな」

 

男「こ、このガキ…」

迷いがあるのか、ナイフの先端が震えている

?「…臆病者め」

男の手を蹴りあげナイフを吹っ飛ばし、正拳突きを腹部にめり込ませる

男は苦悶の表情を浮かべ、倒れ込んだ

?「今のうちに逃げろ!」

少年は後ろを振り向かずに言う

月「で、でも…」

 

?「いいから早く行け!」

我に返り、私と曜ちゃんは全速力で走り出す

 

夢中で走っているといつの間にか路地を抜け、表通りに出ていた

手に膝をつき、肩で息をする

曜「はぁはぁ…助かったね…」

 

月「うん、なんとかね…」

呼吸も落ち着き、逃げて来た方の道を振り返る

曜「あの人、大丈夫かな?」

 

月「大丈夫だよ、だって…強かったもん、それに…」

もしかして…いや、そんなはずがない

彼はあの時、事故にあって病院に…

月の脳裏に、幼なじみの少年の姿が浮かび上がっていた

 

 

移動教室も終わり、待ちに待った昼休みがやってくる

真「はぁ、授業だけでこんなに疲れたのは初めてだ…」

あからさまに疲れた顔をして、自分の席に座り込む

真「さーて弁当はっと…あれ?ない…」

忘れたか…いや、朝はちゃんとあったはずだ

 

その後、あらゆる場所を探したが出て来なかった

 

結局、弁当はゴミ箱の中から発見された

流石に食べる訳にもいかない

真「仕方ね、売店でなんか買うか」

財布を握って教室を出ようとすると、渡辺さんに呼び止められた

曜「真治君、どこ行くの?」

 

真「弁当…忘れちゃったんだ、だから売店にね」

 

月「おっちょこちょいだな〜」

 

千「私のお弁当分けようか?」

千歌は真治に近づき、小さな弁当箱を見せる

真「自分で何とかするから大丈夫だ」

そう言って教室から出て行った

 

千「あ〜あ、仲良くなるチャンスだったのになぁ〜」

千歌は悔しそうな顔をして俯く

梨「っていうか…本当にそのお弁当分けようと思ったの?」

梨子が突っ込むのもご最も

なぜなら千歌の弁当は、8割がたみかんで埋め尽くされていたからだ

千「いやぁー今日お母さんが寝坊したみたいで〜えへへ」

それでご飯入れる所が全てみかん…いや、おかしい

月「あはは、千歌ちゃんは本当にみかんが好きなんだね」

 

千「うん!だって美味しいんだもーん」

千歌はニッコリ笑顔だ

曜「真治君、大丈夫なのかな?」

 

月「心配ないよ〜多分、あそこだから」

月は人差し指を立てて自信気に言ってみせた

 

 

屋上

真「はぁ、ったく今日は散々だな…」

授業では普段の倍疲れ弁当は無くすわ…

 

神様、俺なんか悪いことした?

 

そう思いながらも、売店で購入したパンを頬張る

 

今日の天気は快晴だ

どこまでも澄み渡る空は永遠に続いている

春の日差しは少し暑く、冷め切った真治の心をあっためてくれた

真「お日様って、いいよな」

 

?「心、あったまった?」

不意に声をかけられ身構えるが、その人物を目指して力を抜いた

真「なんだ、渡辺さんか」

曜はニコリと笑う

曜「隣、いいかな?」

 

真「別に構わないけど」

こんなに広い屋上で隣いいかなって…

曜はまたニコリと笑い、真治の隣に座る

曜「お昼ご飯ちゃんとある?」

 

真「買ったから大丈夫だよ」

 

曜「そっか…」

曜は顔を上げ、広い空を瞳に映す

曜「ここ、いい場所だね、とてもあったかい」

 

真「だよな、自分がちっぽけに見えてくる」

率直な意見に真治も素直に同調した

曜「私達、前の学校でスクールアイドルやってたんだ、沢山走って苦しんで、そして優勝した、練習場所も屋上だったんだよ」

 

真「スクールアイドルだったのは噂で聴いたけど、優勝までしてたんだね、凄いじゃん」

 

曜「ありがと!私達は誰かに笑顔になって欲しくて頑張ってきた、たまにはそれが空回りした事もあったけど、私達が走ってきた道は間違いじゃなかった、だって、色々な人を笑顔にできたから!」

 

なんだか、不思議な人だ、渡辺さんって

俺はほんの興味本位で質問する

真「グループ名は、何だったんだ?」

渡辺さんは少し驚いたが、直ぐに笑顔になる

いっつも笑ってるなこの人

曜「知りたい〜?」

若干ジト目でこちらをみる

真「知りたい、かな」

渡辺さんは立ち上がって、俺の方を向いた

曜「私達は…Aqours!」

 

Aqours…帰って見てみようかな

ちょっとだけね




今回はここまでです!
次回もお楽しみに!


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心変わり

お待たせしました!
テスト期間で滅殺されていました笑
結構暑くなってきましたね!

熱中症にお気をつけください〜

それでは、どうぞ〜!


その日の授業を全て消化し、帰路につく

 

いつものようにシートに深く腰掛け、その日の疲れを癒すように脱力する

年季の入ったシートのほつれた箇所が、首筋をいやらしく擽った

 

真「はぁーーっ…」

これ以上ないってくらいのため息を吐く

息と一緒に生気まで抜けそうだった

曜「疲れてる?」

俺の隣には渡辺さんが座っている

 

どうやら、今日の出来事によると俺と渡辺さんは友達になったらしい

 

月「あー、真治ニヤけてる?」

 

真「違わい」

思わずツッコミを入れた

 

そりゃ、誰だってこんな可愛い子に隣に座られたら嬉しい

でも恋愛感情がある訳でもない

 

千「私も疲れたぁ」

横に座っていた千歌が声を上げる

真「そういや、高海さんと桜内さんも渡辺さんと一緒にスクールアイドルしてたんだ?」

 

千「そうだよ!これでもリーダーだったんだから!」

大きく胸を張る

梨「私は作曲ね」

 

曜「私は衣装作り!」

 

月「真治も見たでしょ?浦の星の子達があの校舎でライブしたやつ、私も手伝ってたんだよ〜」

そう言いながらブイサインをする

 

真「う〜ん、実はあれ見てないんだよね」

 

月「嘘でしょ?絶対来てって言ったじゃーん!」

月はわかりやすく拗ねる

真「悪かったって、用事だったんだからしょうがないだろ?」

 

千「でも、そんな事を聞くって真治君、私達に興味を持ってくれたってこと〜?」

 

真「まぁ、そういう事にしとくよ」

 

まるで選挙に当選したかのようにはしゃぐ元気な女子高生達

真治は鼓膜が破れるかと思い、耳を塞いだ

 

 

風呂上がり、しっとりと濡れた髪の毛をタオルで拭きながら家の廊下を歩く

真「ふぅぅ〜〜」

魂まで抜けそうになるくらいの長い溜息をする

 

ポケットからスマホを取り出し、動画サイトを開いた

検索欄に「Aqours」と打ち込み、検索をかけた

そこには、沢山のライブ映像が並んでいる

 

自分の部屋の扉を開け、身体を布団に預ける

ドスン、と鈍い音がして背中に衝撃を感じた

真「こんなに沢山あるのか…」

親指で画面をスクロールし、1つの楽曲をクリックした

 

第3回ラブライブ!Aqours地区予選

「未来チケット」

 

なぜこの曲かを選んだかといえば大した理由はない

でも、画面の中でキラキラと輝く彼女達の姿に少し、ほんの少しだけ魅力を感じたのだ

 

静かなイントロが流れ始め、歌詞に入る

 

光になろう 未来を照らしたい

輝きは心から 溢れ出すよ

 

真「これは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づけば、俺は次々に動画を再生していた

 

自分と歳も変わらない人が、こんなにもキラキラと輝いている

すごい、の一言だった

 

文字通り、Aqoursの虜になっていたのだ

 

結局、俺が布団に入って本格的に目を閉じたのは、時計の短針が右下へ傾き始めた頃だった

 

 

次の日の朝、俺はいつもより早くバス停に着いた

結局、昨日の夜のせいで完全に寝不足だ

 

でも、心はどこかウキウキとしている

 

彼女達に会いたい、不甲斐なくも、そう思って疑わない自分かいた

 

 

バスが停留所に止まり、車内が一気に騒がしくなる

真治はなるべく平静を装うと、シートに深く腰掛けた

 

曜「おっはヨーソロー!」

 

千「おはよー!」

 

梨「おはよう」

 

月「おっはよー!」

いつもの様に敬礼をしてくる

真「おはよー」

 

何気なく返したつもりだった、ただやはり、いつもと違う事を簡単にするものでは無い

真治は後悔をする事になる

 

月「…うそ、あのぶっきらぼうな真治が、おはよーって返してくれた!」

 

千「き、奇跡だよ!」

 

梨「そ、そこまで言う?」

 

曜「あはは…ありがと!」

三人衆が漫才を決め込む中、渡辺さんは爽やかに返事をしてくれる

 

真「まぁ、あれだよ、気まぐれってやつだ」

 

月「おー?照れてるなぁ〜?こ〜いつぅ〜」

 

月が指先でちょんちょんと肩を叩く

いつもなら素早く避ける所だが、なぜだか今日はそんな感じがしない

 

まぁ、よしとするか

 

 

今日もいつもの様に渡辺さんに教科書を見せてあげる

教科書の到着にあと一週間はかかるみたいだ

 

昨日まではあんまり良い心地がしなかったのだが、今日は不思議とそんな感覚は薄かった

 

真「渡辺さん」

 

何気もなく話しかける

 

曜「なーに?」

 

真「Aqoursのライブ、見たんだ、本当に凄いって思う、あんなにキラキラ輝けて自分達の信念を貫き通して、しかも大会で優勝するなんて…俺、感度したよ」

 

そこまで言って、自分で思い止まる

俺はいつも、彼女達の話を殆ど聞かずに適当にあしらっていた

そんな俺が、こんな一方的に話す事なんて許されるのか

 

渡辺さんは凄く不思議そうな顔をしている

あぁ、やっぱり迷惑だったか…言わなきゃよかっ…

 

そう思った矢先

 

曜「本当?嬉しい!ありがとう!」

俺の密かな思いも、彼女はその元気でどこかにすっ飛ばしてしまった

いつの間にか、罪悪感も消えていた

 

呆気に取られ、渡辺さんを見る

あまりの大声に、クラス中の視線が渡辺さんに集中していた

いつもの不良連中というと、何故か俺を睨みつけている

 

先「どうした渡辺?授業中は静かにするように」

先生から喝を入れられ、彼女は申し訳なさそうに縮こまった

しかし、その顔はどこか嬉しそうだった

 

渡辺さんはまた俺の方を見る

 

曜「本当に嬉しいよ!そうか〜感動したか〜」

彼女はニシシと笑っている

 

いっつも笑顔だなこの人

 

曜「ねぇねぇ、真治君はどの曲が気に入った?」

 

真「そうだな、未熟DREAMER…かな、衣装も着物みたいで綺麗だし、皆の歌声とバックの花火がマッチしていて、本当に凄いと思うよ」

 

曜「未熟DREAMER!懐かしいなぁ〜あの曲はね!果南ちゃん達がAqoursに入ってすぐのライブだったんだ!あ、果南ちゃんって言うのは…」

 

話に熱が入り過ぎたのだろうか

先生が再びジト目でこちらを見ていた

 

渡辺さんは申し訳なさそうに頭をかく

先生も回れ右をして、再び黒板と対面する

 

曜「ちょっと盛り上がりすぎたね」

 

真「でも、それだけスクールアイドルが好きだったってことだろ?」

 

渡辺さんは、今度は静かに微笑んだ

優しい瞳でこちらを見ている

 

曜「うん、本当にあの時は楽しかった、皆と練習するのが楽しくて、衣装作りも好きだったし…それに、学校も楽しくて、毎日がキラキラしてた」

 

彼女の瞳が水面のように揺れ、一筋の涙がこぼれ落ちた

慌ててその雫を拭う

 

真「本当に一生懸命だったんだな…俺さ、昔から熱中出来るものがなくて、普通に生活して…気づいたら高3になってた、だから、誰かと熱中出来るものがあるなんて、本当に羨ましいよ」

 

渡辺さんは、またニコリと笑う

 

曜「大丈夫!いつか必ず、真治君にも何か夢中になるものが見つかると思うよ!」

 

真「まぁ、そうかもしれないな、でもやっぱり…」

 

曜「ん?どうしたの?」

キョトンとした顔でこちらを見つめる

 

真「あんまり大声で喋るもんじゃないな」

 

曜が周りを見渡すと、クラス全員の視線が注がれていた

無論、先生がこちらを見ていたのは言うまでもない

 

先「渡辺、そんなに宿題が欲しいのか?」

 

曜「いえ…すいません…」

渡辺さんはまた申し訳なさそうな顔をした

 

そんな2人を、千歌と月は微笑ましい目で見ていた

千「なんだか、いい感じ…?」

 

月「真治も隅に置けないなぁ」

 

千「でも、月ちゃんと真治君って幼馴染なんだよね?曜ちゃんと会ってても覚えてそうな気がするんだけど」

 

月は少し気難しい顔をする

 

月「…うん、でも、すれ違いってやつなのかな…」

 

千「ふ〜ん、そんな事もあるんだね」

 

千歌はそう言って流したが、月は悲しそうな顔で仲良さげに話す2人を見つめる

 

 

真治…まだ、思い出せない?




今回はここまでです!
次回もお楽しみに!


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記憶とトラウマ

お久しぶりです!
お待たせしてすいませんでした…

最近色々忙しくてですね笑
バイトとかバイトとかバイトとか…

そして、私事ではあるんですが先日沼津で聖地巡礼をしてきました!
いやー、行ったらわかる、ええ所やん!でした笑

街の人も本当に優しくて暖かくて、あぁ、Aqoursはこんな空気の中で暮らしているんだなぁってしみじみ思いました笑

淡島神社の階段がきついのなんのって…笑
丸ちゃんがバテるのも納得です笑
あれを息一つ切らさず登れる果南ちゃんは果たして同じ人間なのだろうか?笑

特に感動したのは沼津の街がAqours一色だった事です!
至る所にタペストリーや写真が貼ってあって、本当に良かったです!


ご当地缶バッチに6000円も使ってしまったのはまた別の話…


今回も頑張って書きます!
それでは、どうぞ〜!


3年前

 

高いビルがそびえ立つ都会

そのビル群は、道を行き交う人間を見下しているかのように見えた

 

高いビルを見上げ、1つ息を吐く

少し目を横にやると、また新しいビルが建設されている途中だった

 

「人間って、同じこと繰り返して何がしたいんだろうな」

 

その時、携帯がメッセージの着信を知らせた

アプリを開くと、幼馴染の「あいつ」からのメッセージだった

 

「空港着いたよ!今どこ?」

 

今日、俺はイタリアに行っていた幼馴染を迎えに行くため、東京に来ている

 

なんでそんな面倒なことをするかって?

東京で1番人気の料理店で奢ってもらうのさ

丁度自分の誕生日も近いし

 

でなきゃこんなめんどくさい事、誰が引き受けるかよ

 

そんな事を思いながら歩く少年に、1台の車が迫って来ていた

少年はぼーっと歩くだけでその存在に気づきもしない

 

数秒後、生々しい音が周囲に響き渡った

 

 

目を覚ます

暖かな太陽に照らされ、体温が上がる

真治は重い体を無理やり起こし、1階へと向かった

 

トイレを済ませ、寝癖を軽く整える

そして、リビングの隅に置いてある仏壇に向かって手を合わせた

仏壇には微笑ましく笑う1人の女性と、その女性に腕を掴まれ緊張した表情の男性の写真が置いてある

 

真「父さん、母さん、おはよう」

 

無論、写真から返事は帰ってこない

優しく微笑む母の顔も、どこか寂しく感じた

 

朝ごはんを食べ、制服に着替えてバックを乱暴に担ぐ

 

真「じゃ、行ってきます」

 

自分の声が部屋に響き渡り、虚しさだけが帰ってくる

真治はなんとも言えない虚空感に支配された

 

真「まぁ、毎日がこんな感じだからな…」

 

そう自分で納得し、玄関の扉に手をかける

いつの間にか虚空感も消えていた

 

 

その時、インターホーンが機械的に来客の知らせをした

 

真「こんな時間に誰だ?宅急便にしちゃ早いし」

 

念の為、覗き穴から外の人物を伺う

ほら、最近世の中物騒じゃん?

 

しかし、外には誰もいない

 

真「新手のピンポンダッシュか?つったく最近のガキは手の込んだ嫌がらせを…」

そう思い、玄関の扉を開けた途端…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曜「おはヨーソローぉー!」

大声と共に渡辺さんが飛び出してきた

 

思わずビビり上がり、おわっ、と情けない声を出してしまう

 

曜「えへへ、びっくりした?」

 

真「びっくり所じゃねーよ…死ぬかと思ったわ!隣の〇御飯でもこんな事しねーぞ!」

 

マシンガンのような反論をして、真治は肩で息をする

よく見ると、来ているのは渡辺さんだけでなく、月も一緒だった

 

と、いうことは…

 

真「月!お前俺の家教えやがったな?」

 

月「だってー曜ちゃんが行きたいって言うんだもん、しょーがないだろ?」

 

まったく悪びれた素振りを見せない

こいつはほんとに…

 

曜「えへへ、まぁ朝から元気なのはいい事だし…ねっ?」

上目遣いでこちらを除く

勘違いしてしまいそうだから辞めてくださいそれ

 

まぁ、渡辺さんの笑顔に免じて許してやろう

 

夏の暑い日差しに体温が上がる

真治の身体が熱いのは、太陽の温もりだけではないようだ

 

 

学校 昼休み

午前中の授業を消化し、待ちに待った昼休みがやってきた

バックから弁当を取り出し紐を解く

弁当のおかずはどれも簡単な物で、特別な物は入っていない

 

真治の母親は、自分の息子がいつ独り立ちしてもいいように家事や料理全般を教えていた

父親は息子のため、家族のため一生懸命に働き、かなり大きな蓄えを作ってくれている

そのお陰もあってか、生活にはそこまで苦労していない

 

真「俺が普通に生活出来ているのも2人のお陰だよ、父さん、母さん、ありがとう」

心の中で親に頭を下げる

 

その時、真治の机が乱暴に横に向けられ、隣の机とくっつけられた

目をやると5つの机が合体して、何だか小学校の給食みたいだ

 

真「渡辺さん、俺の机を誘拐しないでくれる?」

 

曜「いいじゃん、一緒にお弁当、食べよ!」

 

真治は仕方なく立ち上がり、連れ去られた自分の机の元へ向かう

 

千「あー!今日のお弁当、志満姉がみかん入れてくれてる!ラッキぃ〜」

 

梨「千歌ちゃんは本当にみかん好きなのね」

 

桜内さんが愛おしそうな目で笑う

高海さんはみかんが好きなのか、今度都合が悪い時にみかん差し出したら何とかなるかな

 

そんな変な考えが頭をよぎる

この人達といると、不思議と退屈はしなかった

 

月「曜ちゃん、今日のお弁当自分で作ったの?」

 

曜「うん!ママが朝忙しそうだったからね、それに、私も起きるのちょっと早かったし」

 

何かを企むかのような目で真治を見る

 

千「なになに?なにかあったの?」

 

真「高海さん、今度みかん1箱上げるからその話は聞かないで」

 

みかん1箱、という単語に千歌は目を輝かせる

 

千「ほ、ほんとに!?じゃあいいかなぁ…」

 

梨「って、千歌ちゃん釣られるの早すぎ」

 

月「実はね!今朝、曜ちゃんと一緒に真治の家に行ったんだ!」

 

千「えー、私も誘って欲しかったなー」

 

真「俺の家はテーマパークかなにかか?ご近所の事も考えろ」

 

喝を入れたつもりだが、そんな物は耳に届かない

 

曜「すごく素敵なお家だったよ!千歌ちゃんも来てみる?」

 

すいません、俺の家の存在価値を教えてください

心の中でそう問うが、無論届く訳が無い

こうなりゃやけだ

 

真「わかったよ、来ればいいじゃん、朝だろうが夜中だろうが相手してやっから」

 

千「ほんと?やったぁ〜!曜ちゃん月ちゃん、案内よーろしくぅ〜」

 

曜&月「ヨーソロー!」

 

神さま、どうか俺のプライベートを返してください

 

その時、千歌が真治の弁当を見て目を輝かせた

千「わぁ〜真治君のお母さんも料理上手なんだね!」

 

「お母さん」という単語に、真治はピクリと反応した

 

真「どうして、そう思う?」

 

千「だって、そんなに素敵なお弁当作ってくれてるじゃん!」

 

陽気な千歌とは裏腹に、月はその光景を怯えるような目で見ていた

 

月「千歌ちゃん…実はね…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真治の両親は……3年前に事故で亡くなってるんだ…」

 

衝撃の事実に、千歌は動きが止まってしまう

 

千「う、うそ…でも、そうだったらなんで真治君は…」

 

真「家事は母さんが殆ど教えてくれた、生活費も父さんが残してくれたんだ…だから俺は、普通に生活することができてる」

 

千「そんな…そんな事って…」

ふと気づくと、千歌の目元には涙が溢れていた

 

真「大丈夫、もう慣れてるから」

真治はできるだけ平静を装おうとする

 

授業参観や体育祭の時、他の生徒が自分の両親を見つけて手を振っているのを見て、真治はいつも拳を握り締めていた

 

しかし、そんな思いも時間が解決してくれる

そう信じて今まで生きてきた

 

 

俯いている真治を見て、千歌はいてもたっても居られなくなる

千「真治君!私達の、Aqoursの練習見に来ない?」

 

真「へ?なんで?」

 

千「私ね、スクールアイドルって元気が売りだと思うんだ、特に私達Aqoursは、なんていうか…私達の練習みて少しでも元気が出たらいいなって!」

 

真治は少し考え、千歌の方を向く

他の3人はその光景を心配そうに見つめる

 

真「わかった、行くよ」

 

千「ほ、ほんとに?」

 

真「元気が出るかは分からないけど、行くだけ行くよ、どうせ暇だし」

 

その言葉に、千歌は目を輝かせる

真治達の方を敵意がある目で見ている者がいた

 

 

放課後

千「じゃあ真治君、屋上で待ってるからね!」

 

おう、と軽く返事をして、真治は身支度を整える

どうやらAqoursには2年生があと3人いて、計6人で活動しているらしい

 

真「じゃ、そろそろ行くか」

 

そう思い、机から立ち上がったその時…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、周藤よぉ」

 

真「的場…なんだ?」

 

的場と言われた男子生徒は、八重歯をカチリと鳴らし真治を睨みつける

 

的「お前、なんで渡辺達とあんなに仲いいんだ?」

 

真「別に、仲買いわけじゃない、ただ…」

言いかけた時、的場の拳が真治の腹にめり込む

 

真治は顔を歪め、床に手をついた

的「お前、あいつらと仲良くすんじゃねぇって前に言わなかったか?気に食わねぇんだよ、陰キャのお前があんなに可愛い子達と…面白くねぇ」

 

真「そんなの…勝手だろうが…」

的場は更に真治の背中を蹴る

 

的「黙れよ、お前とじゃ釣り合わねぇんだよ」

 

真治は怒りに体を震わせ、拳を握り締めた

 

真「(舐めんじゃ…ねぇ…!)」

その時、師範の声が耳に響く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どんなことがあっても、素人に手を挙げてはいかん

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉に真治は動きを止めてしまう

的場は真治の髪を掴み、自分の方へと向かせた

 

的「もうあいつらと仲良くしません、そう約束しろ」

 

真「わ、わかった…」

 

的「わかりゃいんだ、わかりゃな」

的場はそう吐き捨て、教室を後にした

 

がらんとした室内に、真っ赤な夕焼けが差し込んで来る

真治は拳を握りしめ、力の限り床を何度も殴った

 

何度も、何度も何度も

 

やがて拳からは鮮血が流れ、手を赤く染めた

 

無力な自分が情けない

あんな奴に屈してしまう自分がみっともない…

 

真「ちくしょうぉぉ!」

目からは一筋の涙が零れ落ちた




今回はここまでです!
次回もお楽しみに!


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覚悟と偽りの心

お待たせいたしました!

最近バイクを購入して乗り回しているんですが、倉庫を作っている最中に毛虫に刺されて全身痒くなってしまいました…

いや〜辛かった笑

バイクで沼津の海岸を走ったらどれだけ気持ちいいかなぁ
そんな思いがよぎります笑


今回も頑張って書きます!
それでは、どうぞ〜


荒い息が漏れる

 

悲しみ、憎しみ、後悔…

色々な気持ちが合わさって、自分の心を締め付けていく

 

また、暴力に屈してしまった

そんな自分が情けなくて仕方がない

 

真治はバスの1番後ろの席に倒れるように座り込む

シートがギシリと軋みんだ

車内には真治以外は誰もいない

 

真「俺は…約束を守らなかった、絶対行くって言ったのに…」

今日の昼、練習を見に行くという千歌と交わした約束を、真治は守れなかった

 

いや、守らなかったのかもしれない

 

正直、殴られた部分はほとんど痛くない

そんなヤワな鍛え方をしたつもりもない

 

だが、それとは裏腹に胸の真ん中が槍で突き刺されているかのようにズキズキと痛んだ

 

瞳から涙が零れ、音もなく地面に吸い込まれる

 

 

精真学園高校 屋上

千「いちにっさんしっ〜」

 

夕焼けが青かった空を少しづつ染めていく

その夕日を見て、千歌は目をうっとりとさせた

 

曜「それで?練習を見せるって何か特別な事でもするの?」

ストレッチをしながら問いかける

 

ルビィ、花丸、善子(ヨハネよっ!)も千歌の方を見た

ル「千歌ちゃん達のクラスメイトかぁ…どんな人なんだろ…」

 

花「きっといい人ずらよ、大丈夫ずら、ルビィちゃん」

 

ル「うゆ!」

ルビィはにっこり笑顔で答えた

善「それにしても、ちょっと遅くない?もう暗くなっちゃうわよ?」

 

梨「確かに…もしかして迷ってるとか?でも、千歌ちゃんじゃあるまいし…」

 

千「どーゆこと?」

千歌はポカンとしている

 

その時、入口の扉が開く

目をやると、月がラジカセを持って立っていた

 

月「あれ?真治まだ来てないんだ?」

 

曜「うん…月ちゃん、どこかで真治君見なかった?」

 

月はラジカセを置き、片手を顎に当てて唸る

月「う〜ん…教室にいたような…その時誰かと話してたようにも…」

 

梨「もしかして、先生になにか頼まれたとか?」

 

月「それだったら連絡があるはずだよ、真治は簡単に約束を破るような人じゃないし」

 

千「なにかあったのかな?」

 

善「待ってれば来るんじゃない?」

 

ル「じゃあ、練習しながら待ってるのは?」

 

花「マルもそれがいいと思うずら」

 

梨「そうね、そう言えば近々ライブがあるんでしょ?」

 

千「うん!商店街のイベントに呼ばれてるんだ!」

 

曜「ちょうど衣装のイメージも出来たところだよ!」

 

ル「ルビィも手伝うよ!」

曜とルビィは顔を見合わせて笑う

 

千「じゃあ練習頑張らないとね!」

 

花「やる気がでてきたずらぁ!」

 

善「このヨハネの力で…!ギラン!」

全員、無言で善子を見る

善「なんで黙るのよ!」

お決まりの言葉に、メンバーは高らかに笑った

 

梨「さっ、はりきって練習よ!」

 

おー!っと黄色い声が飛ぶ

 

曜「じゃあ、みんなフォーメーションについて!」

 

曜は穏やかな表情を浮かべ、夕焼けを見た

 

曜「真治君…きっと、来てくれるよね…?」

 

しかし、そんなメンバーの思いは、真治には届かなかった

 

 

次の日

いつものように身支度を整え、バス停に向かう

空には太陽が輝いているが、曜の心の中は曇ったように沈んでいた

 

曜「真治君…結局来なかった…」

彼と交した約束

信じて待ったが、彼が現れることはなく練習が終わってしまった

 

月ちゃんは真治君は約束を破る様な人じゃないって言ってた

もしかしたら何かあったのかも…

 

そう思いながら歩いていると、いつの間にかバス停に着いていた

月「曜ちゃん、おはよー!」

 

善「おはよっ」

 

曜「おはよー」

この3人は家も近く、いつも一緒にバスを待っている

 

善「…まだ気にしてるの?昨日の事」

曜の浮かない顔を見て、善子も顔を曇らせた

 

曜「だって…」

 

月「大丈夫、きっと体調でも悪かったんだよ!」

月は明るく振る舞う

 

しかし、曜の顔は晴れなかった

その心の曇を嘲笑うかのように、今日はいい天気だった

 

善「ま、バスが来れば分かるわよ、それから聞けばいいことだし」

 

そう言っていると、バスが到着する

曜は早足で乗り込む

 

何か、嫌な予感がした

 

バスの中は通勤や通学の人々で溢れ、奥まで見る事は出来ない

体を縮めながら奥へと進み、やっとの思いで千歌達の元へと辿り着く

 

千歌の顔はいつもの明るい表情ではなく、少し曇った表情だった

千「真治君…今日乗ってこなかったよ…」

 

曜「そう、なんだ…」

 

月「ほ、ほら、やっぱり体調でも崩してんじゃない?それか一本早いバスで行ったんだよ!真治、人混みあんまり好きじゃないから」

 

梨「確かにそれもあるわね…きっと、大丈夫よ!」

 

ル「それともお寝坊してるのかも?」

 

花「善子ちゃん見たいに?」

 

善「うっさい!てかヨハネ!」

 

1年生組のコントを微笑ましい顔で眺める

曜「あはは、兎に角、学校に行けば分かる事だし!」

 

曜ちゃんは無理やり笑顔を作っている

千歌は幼馴染の直感でそれを感じとっていた

 

 

精静高校 昼休み

曜「はぁっ…」

 

午前の授業を消化し、お昼時になった

いつもなら嬉しく思うのに、今日はなぜだかそんな気分にはならなかった

 

曜は顔を傾け、隣の席を見る

目に映るのは誰も座っていない机と椅子がポツンとあるだけだ

 

千「曜ちゃん、大丈夫?」

千歌は曜に顔を近づける

 

曜「うん…」

 

梨「先生も風邪で休みだって言ってたし、そこまで気にすることないんじゃない?」

 

曜「でも…」

 

なにか、嫌な予感がした

もうこの先ずっと彼には会えないような

そんな不安が

 

月「まぁとにかく、学校終わったら真治の家に行ってみよ?真治、一人暮らしだから色々大変かもしれないし…ねっ?」

 

曜の肩に手を起きながら、月は笑顔で言う

まるで、彼なら大丈夫と曜に言い聞かせているようだ

 

いや、もしかしたら自分にも言い聞かせていたのかもしれない

 

曜「うん、そうだね!看病してあげなきゃ!」

勢いよく立ち上がり、背伸びをする

梨「やっと笑ったね」

 

曜「へ?」

キョトンとした顔で梨子を見つめる

梨「だって曜ちゃん、今日の朝からずっと思い詰めた顔をしてたんだもん、深く考えすぎ」

 

曜「えへへ…ごめん…」

 

千「あ〜、もしかして真治君のこと、好きなの?」

 

曜「ちち、違うよ!そうじゃないって!」

顔を真っ赤に染めながら、手を左右に振る

全力で否定していたがどこか嬉しそうな顔にも見えた

 

曜「ただ…」

 

梨「ただ?」

 

曜は少し下を向き、優しい声で言う

曜「ただ、日頃の真治君をみてたら…なんだかいつも寂しそうで、無理してるんじゃないかって思ってたんだ、だから、私が…私達が少しでも勇気をあげることが出来たらいいなって思ってたんだ」

 

曜の言葉を月は深く頷きながら聞き、優しげな表情になる

月「曜ちゃんの言う通りだね、私達に出来ることをしていこうよ!」

 

千「じゃあ、今日の放課後真治君の家に行こぉーう!」

全員が元気な声で返事をした

 

千「みかん50個くらい持っていったら喜ぶかな?」

 

梨「千歌ちゃん…それもうほとんど嫌がらせだから…」

いつものコントを繰り広げ、また皆が笑顔になる

 

 

その時、ある男の声が割り込むように入ってきた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?「どこに行くんだって?」

 

声のした方に目をやると、そこには大柄で大きな八重歯の少年が立っていた

 

月「…的場…君、なんの用?」

月は先程の笑顔とはうって変わり、厳しい表情で的場を見つめる

 

的「そんな怖い顔で見ないでくれよ渡辺、俺は遊びの誘いをしに来ただけだからさぁ」

優しい声だが、下心がある目で月を見ている

 

月「余計なお世話だよ、僕達は真治の所に行くんだから」

 

的「あー、先生は言ってなかったけど、須藤インフルエンザらしいぜ?だから行かない方がいいんじゃないかなぁ」

 

千「えっ、そうなの?」

 

的「高海さん、って言ってたな、君も今日俺達と遊ばない?」

千歌に迫ろうとした的場を抑えるかのように、月が間に割って入る

 

月「待って、なんで的場君が真治の事を知ってるの?君達、いつも真治を虐めてたでしょ?」

 

的「たまたま先生から聞いたんだよ、何か悪いか?」

 

月は黙り込み、的場を敵意のある目で見た

月「別に、でも、もしその話が本当だったら余計心配だよ、風邪がうつってもいいから私達は真治の所へ行く」

 

的場は目を少し細め不機嫌そうな顔をしたが、直ぐに向き直る

的「ふん、影は薄くても人気は高いってか…まぁいい」

 

月「どういう意味だよ?」

 

的「深い意味はねぇよ、ま、せいぜい頑張れや」

手の平を返したような態度をとり、悪態を着きながらその場を去った

 

曜「月ちゃん?…今の話、本当なのかな?」

 

月「うん…多分嘘だと思うけど…」

 

梨「と、とにかく…行ってみればわかるんじゃない?」

 

 

 

曜「(真治君…一体、今どうしているの…?)」

なんとか自分を納得させようとしたが、曜の心の中には暗い闇が広がっていた

 




今回はここまでです!
次回もお楽しみに!


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幻影と後悔

どうもこんにちは!
まずこの度台風により被災された方々、心よりお悔やみ申し上げます
被災地が1日も早く、元通りになることを願っております
また、引き続き避難されている方々も気をつけてお過ごしください!

沼津方が心配です…
淡島や安田屋が無事だといいな…

この話も、本当は来週投稿の予定でしたが台風で被災された方々への追悼の意を込めて1週早めに投稿致しました
皆さんの元気に少しでも貢献出来るように、頑張って書きます!
それでは、どうぞー!


明るい太陽の光がカーテンの隙間から漏れている

ツルツルとした机に反射した光が顔に届き、体温を上げた

 

真治はベットから体を起こす

外を見ると、ギラギラとした太陽が雲の隙間から顔を覗かせている

 

真「今日は雨じゃなかったのかよ…ったく」

ボサボサの髪をかきあげながら1階へと降りる

 

ふと時計を見ると、午後2時を回ったところだった

真「疲れてたのかな…10時間以上も寝てたなんて」

 

冷たい水で顔を洗いながら、昨日の出来事を思い出す…

 

俺は…月を…渡辺さんを……皆を裏切った

頭の中に、幼い頃の記憶が流れ込んでくる

 

 

まだ物事がついたばかりの頃、真治は友達との約束を守らなかったことがある

実はテレビに夢中になりすぎて約束の事をすっかり忘れていたのだ

 

その日はとても寒く、風邪も冷たかった

 

それでも友達は待ち続け、その結果風邪を引いてしまう

その事を知った母親は、真治を烈火の如く叱りつけた

 

「真治!友達との約束は守らないとダメでしょ!」

 

「だ、だって…」

 

母親は眉を吊り上げる

 

「どんな理由があっても、人と交わした約束を破るなんてこと、母さんは絶対許しません」

 

鋭い言葉に、幼い真治は涙目になる

母親は、その姿を見るや否や優しげな表情を浮かべた

 

「わかった?約束をしてくれた友達は、あなたの事を信じてくれたのよ?その心を、その心を…絶対に裏切っちゃいけない、わかるでしょ?」

 

 

その日を皮切りに、真治は母親の言葉を胸に刻んできた

自分を信じてくれた人を裏切らないために…

 

ところが、母に誓った約束どころか自分の幼馴染の約束さえ守る事が出来なかった

 

真「俺は…最低だ…」

 

洗面所を出ると、リビングに所狭しと並べられた空手の優勝トロフィーが目に入る

 

俺は…強くなったのか?

 

いや、強くなったつもりだけなのかもしれない

人との約束1つ守れない奴が…何が強さだ……

 

真治はハンガーに掛けてあった空手道着を手に取った

 

これには…自分の血と汗が染み込んでいる

苦しんだ分、血と汗を流した分自分が強くなる物だと思っていた

 

いや、思い込んでいた

 

我に返って考えてみると、そんな事を考えていた自分が情けなくて仕方がない

 

真「…結局、何一つ成長なんかしてないんだな…俺は…」

 

瞳から一筋の涙が零れ、道着に落ちる

雫を腕で乱暴に拭い、真っ直ぐ前を見た

 

真「もう…こんな事してて何になるんだ」

真治は道着を小さく畳むと、ゴミ袋に入れて口をきつく縛る

 

燃えるゴミって、明日だったよな…?

そう言った真治の口元は、妖しく歪んでいた

 

 

放課後

授業を全て消化し、帰り支度をする

ふと外を見ると、綺麗な青空が広がり太陽が赤くなり始めていた

 

月「曜ちゃん、どうしたの?気難しい顔で外を見て」

 

曜「うん…ちょっと、ね」

元気のない返事に月は顔を曇らせる

月「まだ的場が言ってた事気にしてるの?あんなの絶対嘘だから大丈夫だよ!ほら、早く真治の所に行ってあげよ!」

 

千「月ちゃんの言う通りだよ!曜ちゃん!」

千歌はニカッと笑ってみせる

 

梨「ところで、私達だけで行くのなら善子ちゃん達はどうするの?」

 

そう言った時、教室の扉が勢いよく開いた

 

善「ヨハネ!いつも言ってるでしょ!リトルデーモン…リリーよ!」

 

梨「リリー禁止!」

梨子の鋭いツッコミが飛ぶ

善子の影から顔を出すようにしてルビィ、花丸が姿を見せる

 

ル「大丈夫!今日はルビィの家で、次のライブの衣装を作ろうって決めてたんだ!」

 

曜「そうなんだ、でも、3人だけで大丈夫?」

 

善「クックック…この堕天使ヨハネの手に掛かれば…そんな事は造作もないこと!」

 

そう言った瞬間、善子の動きがピタリと止まる

いや本当に止まった

 

花「善子ちゃん…ここ、先輩達の教室ずらよ」

花丸がそう言った瞬間、善子の顔がみるみるうちに真っ赤になる

 

無論、教室内の視線が善子に集まっていたのは言うまでもない

 

善「…ぁ…ヨハァァァァァ…!」

次の瞬間全速力で走り出した

 

花「よ、善子ちゃん?どこいくずら〜!」

花丸が慌ててその後を追う

廊下の遠くの方から微かに「ヨハネだってばぁ〜」と聞こえたのは気のせいだろうか

 

月「相変わらず、ぶっ飛んでるね…」

 

千「あはは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ル「千歌ちゃん!」

ルビィは真っ直ぐな瞳で千歌を見る

その瞳に、迷いや不安は感じられなかった

 

ル「お姉ちゃん達が卒業した時もそうだったけど…ルビィ達まだまだじゃないかなって、まだ千歌ちゃん達に頼ってるって思ってたんだ…ルビィ達だって、やれば出来るって事を証明したい!気持ちだけじゃなくて、形にして!だから…後のことはルビィ達に任せて!」

 

ルビィの言葉に、千歌は深く頷く

 

千「ルビィちゃん…、うん…じゃあ、お願いしちゃおうか!」

ルビィも力強く頷く

教室を出ると、花丸と善子の元へと走って行った

 

梨「頼もしい後輩ね?」

 

曜「そうだね!」

曜も元気よく立ち上がる

月「じゃあ、行こうか!」

 

その場にいた全員が、元気よく頷いた

 

 

4人はそれからバスに乗り、曜の家からほど近い真治の家へと急いだ

家はひっそりとしており、まるで誰も住んでいないかのようだった

 

千「じゃあ、行くよ!」

その時、インターホンを押そうとした千歌の手を月が止める

 

月「正直に入れてって言っても、多分真治は出てこない…こういう時は…」

月はまるで、イタズラを思いついた子どものように無邪気に笑った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かに肩を叩かれている

顔を上げると、そこには渡辺さんが立っていた

 

真「渡辺さん…俺は、約束を…」

 

渡辺さんはいつものような笑顔ではなく、無表情な顔で真治を見る

 

なんで来てくれなかったの?信じてたのに

 

ごめん、謝っても済まされないのはわかってる…でも!

 

言い訳なんていらない、あなたは私達を裏切った

それは変わらない事実

 

違う、違うんだ!俺は、俺は…!

 

 

 

 

 

 

 

真「違うんだ!…あ…」

いつの間にか、うつ伏せて寝てしまっていたようだ

体を起こすと、腕が少し痺れている

 

真「夢か…」

頭をクシャクシャとかく

記憶に残っている夢を取り払うかのように

 

夢の中の渡辺さん、すごく怖かった…

特別怒った顔をしていなかったのに、俺はとても恐怖を感じた…

 

夢の中の曜の顔を思い出し、真治は背中をブルりと震わせる

 

 

その時、インターホンが来客の知らせをした

 

なにか頼んだっけ?

そんな疑問を浮かべながら玄関へと急ぐ

 

念の為、覗き穴を見る

するとそこには、帽子を深く被り大きなダンボールを持った女の人が立っていた

帽子で顔が隠れているので、はっきりとは見えない

 

今考えれば、帽子で顔を、不自然に大きいダンボールで体を隠していたのかもしれない

 

とにかく、怪しいとは思いながらも扉を開ける

まさか、玄関を開けるだけで後々後悔する羽目になるとは真治は知る由もない

 

扉を開けた瞬間、不自然に大きいダンボールが爆発したのだ

いや本当に爆発した

 

正確には爆弾の方の爆発ではなく、ただダンボールから勢いよく人が飛び出してきただけなのだが…

 

千歌、曜、梨子の3人が真治の前に飛び出す

あまりの驚きに腰を抜かしたほどだ

千「真治君!こんちか!」

 

真「ななな、なにがどうなってんだ?」

 

月「真治ー!学校ズル休みするなよ!」

ふと入口を見ると、帽子を取った月がしてやったりの顔でこちらを見ている

 

そういや、あいつはいっつも帽子被ってたな

 

ってそんな問題じゃないや

真「つ、月?何しにきたんだよ?」

 

月「自分の胸に聞きなさい!」

 

 

とりあえず、一旦落ち着こうと言うことになり、真治とテーブルを挟んだ向かい側に4人がズラリと座る

 

集団面接か?これは…

神様、俺、なんかしました?

あ、学校ズル休みしたんだった




今回はここまでです!

Aqoursの面々に突撃された真治…
話し合いは如何に?

次回もお楽しみに!


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磨けば錆も取れる

お待たせしました!

お気に入りして頂いた方、本当にありがとうございます!
小説を書く励みになっております笑

宜しければ感想もお願いします笑

ただ見たいだけ

最近寒くなってきましたね
特に朝が…

筆者は布団から出たくない病になりました笑
皆さんも風邪にはお気をつけください!

それでは、どうぞー!


ズラリと並んだAqoursの面々と月

真治はその視線にビクリと体を震わせた

 

いや、さすがに4対1はきつい

 

そんな事を思っていると、月がバンと机を叩いた

静寂が切り裂かれ、突然の事に心臓が高鳴りまた体を震わせる

 

月「とにかく、わけを聞かせて?」

 

真「わ、わけと言うのは…」

言い終わる前に月の声が響く

月「とぼけない!」

 

また心臓が高鳴る

鼓動が早いのは恋?んなわけないか

 

月「真治は昔から、人との約束は絶対破らなかった。どんな事があっても、自分を信じてくれた人を裏切りたくないって……どうしてなの?」

 

真治は少し俯き、複雑な表情になる

 

真「体調が、悪かっただけさ」

真面目に答える

 

いや、無表情と言った方がいいだろうか

 

千「やっぱりそうだったんだ…今は大丈夫なの?」

千歌が心配そうに覗き込む

真「あ、あぁ…1日寝たらよくなったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曜「嘘…嘘だよね?」

 

全員の視線が曜に集まる

とても、冷静な顔をしていた

 

真「そ、そんなわけ…」

 

曜「目を見たら分かるよ!」

 

真治は下を俯き、黙り込む

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曜「真治君…私達、友達だよね?」

 

 

曜の言葉にピクリと反応し、真治はゆっくり顔を上げた

真「そんなの…いつ認めた?」

 

とても、冷たい声だった

 

曜「えっ……」

今度は曜が黙り込む

 

真「いつ、俺と友達になったかって聞いてんだよ」

真治の目は少し吊り上がり、立った曜を上目遣いで睨む

 

真「答えられないか?知ったような口を聴くんじゃねぇ!」

 

その声は、今まで聞いた事も無いような、地に響く怒鳴り声だった

 

月「真治…」

 

真治の目をずっと見つめ、月は彼の心境を悟る

彼の目は吊り上がったままだ

 

 

 

とても悲しそうな目…

何をそんなに恐れているの?

 

 

 

真「用は済んだか?だったら早く帰ってくれないか?」

 

千「そ、そんな言い方…」

食ってかかろうとした千歌を、曜が止める

曜「千歌ちゃん…いいんだよ…」

 

曜は静かに立ち上がり、真治の目をよく見つめる

曜「体が元気だって事が分かってよかったよ、また学校でね」

 

そう言い残し、曜は部屋を後にする

梨「曜ちゃん…」

残りの面々も、その後を追うようにして部屋を出ていく

 

ガチャンと冷徹にドアが閉まる

部屋に静寂が戻ってきた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1人取り残された部屋で、真治は静かに涙を流した

零れた涙が机に落ちる

小さな音だが、部屋が静かなせいか大きく響いて聞こえた

 

その音が真治の心を更に締め付ける

 

 

「これで、よかったんだよな…これで…」

 

自分が曜達と仲良くすれば、曜達もいじめの標的になってしまう

その事を、真治は痛いほど理解していた

 

真「俺みたいな人間を…増やしてはいけない…絶対に…!」

ガランとした部屋の中で、真治は静かに泣く

 

もう、彼を慰めるものは何も無かった

 

 

 

 

 

その時、固定電話が機械的に着信を知らせる

出ない訳にもいかず、面倒と思いながらも電話をとった

 

電話の主は、聞き覚えのある声だった

 

真「師範…何か用ですか?」

小さい頃から自分を育て、強くしてくれた…師範だった

師「真治、今取り込み中か?そうでないのなら道場に来い」

 

真「え?今日は休みの日じゃ…」

 

師「いいから、来るんだ」

静かな声だったが、凄みのある声だ

 

妙な説得力を感じ、渋々ながらも準備を始める

日は既に傾き、冷たい風が吹き抜けていた

 

沼津市街

真治の家を出た4人は、宛もなくとぼとぼと歩く

不思議と怒りは湧いてこず、心の内は真治に対する心配の念で溢れていた

 

千「やっぱり、迷惑…だったのかな…」

下を向いて俯き、元気の無い声で呟く

 

梨「あんなに怒った真治君、初めて見たね」

 

月「あんな怒り方するような人じゃないのに…」

月は腕組みをしながら、考えるように唸る

 

 

その時、曜が不意に立ち止まった

 

 

全員が突然のことに驚き、曜に視線を集中させる

曜「やっぱり、おかしいよ、真治君…絶対何か隠してる、無理をしてる……出なきゃ、あんなに悲しそうな顔するはずがないよ」

 

頭の中で、さっきの事を思い出す

怒鳴る真治の目は、言動とは裏腹に哀しみの感情で溢れていた

 

まるで、もう自分と関わらない方がいい、その方が見のためだ

そう訴えているようだった

 

曜「私、もう1回話してくる!」

そういって走り出した

 

梨「ちょっと曜ちゃん!」

 

梨子が止めようとした時、曜が誰かとぶつかる

体格負けをして、曜は尻もちをつく

 

曜「す、すみません!」

 

顔を上げ、相手の顔を見る

すると今度は聞き覚えのある声が降ってきた

 

的「よぅ、渡辺さんじゃないか、何してんだ?こんな所で」

 

曜「的場…君」

 

的「いきなりぶつかって来てびっくりしたぜ、そうだ、罪滅ぼしに俺達と遊びに行こうぜ?」

色気のある目で曜を見る

 

月「な、なにいって…!」

反論しようとした月は、背後に人の気配を感じて振り向く

 

そこには、いつも的場と一緒にいるクラスメイト3人が立っていた

全員、真治をいじめている連中だ

 

的「なにか意見はあるかな?」

勝ち誇ったような目で月を見下ろす

 

千「月ちゃん…どうするの?」

 

月「この状況じゃ、着いて行くしか…」

 

梨「そ、そんな…」

 

太陽が傾きかけ、風も冷たくなる

曜は嫌な寒気を感じた

 

 

元令館 空手道場

自転車をとばし、内浦の方にある道場に着く

 

道中「渡辺」達がクラスの連中と歩いて行くのが見えた

きっと、無理やり連れていかれているのだろう

 

罪悪感を感じたが、今はそんな所では無い

真「直々に電話してくるなんて、道場で何かあったのか?」

 

心配しながら扉を開ける

年季の入った日本建築の扉なので少し動きが悪い

 

中に入ると、そこには2人の人物が立っている

その2人は、真治のよく知っている人物だった

 

 

真「師範……悠介…」

親友の悠介だった

師「よく来たな、今日はお前に話がある」

 

真「どうしたんですか?悠介も…」

 

悠介は黙り込み、真治の目を真っ直ぐと見つめる

 

 

師「真治、悠介と試合をしてくれんか?…理由は聞くな」

 

自分を見つめる親友と師範の言葉に押され、真治は静かに頷く

 

 

師範が審判となり、2人が対になる

 

1度は捨てた道着を見に纏い、黒帯を締めた

なんだか…不思議な感情になる

 

師「真治、手加減は要らんぞ」

 

真「本当にいいのか?お前、俺に勝ったことないのに…」

 

真治と悠介は、共にライバルの様な存在だが、一騎打ちではいつも真治が勝利していた

 

才能の差、とでもいうのか

 

悠「馬鹿にするな、俺だって毎日練習してんだ」

悠介の目は、いつも以上に気迫が漲っている

 

師「よし……構えて…始め!」

 

掛け声と共に試合が始まる

しかし、戦局は直ぐに防戦一方になった

 

悠介はパンチの連打で押し、隙をついて蹴りを入れる

真治は何とか反撃しようとするが、手が出ない

 

いや、手を出せない

 

何故が寸前で力を緩めてしまう

 

真「ぐっ…くそっ!」

 

 

次の瞬間、悠介の鋭いパンチが真治の腹部にめり込んだ

真治は顔を歪めその場に倒れ込む

 

悠「そんなものか?立て!」

 

真治は倒れたまま腹を抑えている

口から荒い息が漏れ、呼吸も早い

 

真「な…なん…で…」

 

師「真治…何故お前が勝てないのか、わかるか?」

師範は片腕を上げ、試合を一時中断させる

 

腹を抑えたまま真治はゆっくりと立ち上がった

荒い呼吸が続く

 

師「お前は…戦うことを躊躇している」

 

師範の言葉が頭の中に響く

真「戦うことを…避けている?」

 

師範は続ける

師「そうだ、お前は心の底で暴力を振りたくないと思い、その気持ちが…まるで錆のようにこびり着いていた……その結果、お前は心を閉ざし、自分の力を抑えた」

 

真「錆…か…」

これまでの自分の行動を振り返る

 

人の迷惑にならない様にと、これまで人との関わりを避けてきた

例え、それが幼馴染であっても…

 

 

でも、それは間違いだったのかもしれない

俺のせいで…皆を傷つけていたのかも、しれない…

 

 

師「いいか真治、自分の大切なものを守るために振るう力は…暴力では無い。人を守るために使う力は…正義だ、それが、我々空手家の義務であり……使命だ」

 

悠「真治…思い出せよ!弱い者を守り、自分の身を守るのが俺達の役目だろ?

 

2人の言葉は、真治の心にしみじみと響いた

ゆっくり目を瞑り、心を落ち着かせる

 

 

そうだ…俺の力は、自分のためだけにあるんじゃない

見て見ぬ振りをしている場合じゃない

 

みんなの未来を、守らなければ

 

次の瞬間、目をカッと開きゆっくりと立ち上がった

 

師「そう…その目だ真治」

 

真「師範、ありがとうございました、悠介も…俺、目が覚めたよ」

 

悠「いいんだよ、じゃあ…もう1戦いくか?」

悠介は笑顔で構えた

 

真「悪い、謝らないといけない人が居るんだ…蹴りをつけてくるよ」

 

悠「そうか、分かった」

悠介は真治の肩をポンと叩く

 

真治は大きく頷き、道場を後にした




今回はここまでです!
次回もお楽しみに!


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胸張って生きろ

皆さんこんにちは!
バイクの修理と携帯代で首が回らない西鬼です!

台風の影響でバイクが倒れ、フロントとライトに傷が入るという…
でも、愛車のためならなんのその!

無理矢理でも首を回してやろうと思って生きています、笑




今回も頑張って書きます!
それでは、どうぞー!


道場を後にし、真治はポケットから携帯を取り出す

真「ちゃんと、謝らなきゃな」

 

自分が意地を張ったせいで、渡辺さんや月を傷つけただろう…

それだけが気がかりで、先に謝っておきたかった

 

真「電話、出てくれるかな?…」

おそらく自分であれば出ない、というか着信拒否もしかねない

 

機械音が耳に届き、その冷徹な音が真治の心を更に締め付ける

 

その時、頭の中に激痛がはしる

今までに経験したことも無いような、恐ろしい激痛だ

携帯が手から離れ、地面へと落ちる

 

拾おうとするが、目の前の風景が歪んでしまっている

 

苦しみの最中、真治は急に不思議な感情に支配された

 

 

何か、何かが…頭の中から抜け出そうとしている

 

 

その何かは、記憶なのか、思い出なのか、それとも悪夢か…

どれかは分からないが、ただ一つ、わかる事があった

 

「なんだか…懐かしい……な…」

 

ごちゃ混ぜになる記憶から、様々な声が聞こえる

 

 

真治ー!あーそーぼー!

 

 

こらっ!真治!

 

 

じゃあ次のページを…

 

 

空手家にとって大切な事はな…

 

 

溢れ出す記憶は留まりを知らず、心を抉られているような感覚に襲われる

 

 

やめろ…やめてくれ!もうこれ以上、俺を苦しめないでくれ…

 

 

そして、ある記憶が真治の心に留まる

あやふやとしたそれは…全く、記憶に無い風景だった

 

銀髪の少女と黒髪の少女が自分の前に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと気づくと、頭の痛みは消えていた

先程までの苦しみが嘘のように感じる

 

真「俺は…一体…」

 

頭を抑え、記憶を呼び起こそうとする

しかし、いくら悩んでも記憶は出てこない

 

真「そうだ、渡辺さんに電話をかけるんだ」

落ちている携帯を拾い上げ、電話をかけた

 

 

冷徹な機械音が鳴り響く

真「おかしい…なんで出ないんだ?」

何度呼び出しをしても、曜が電話に出る事はなかった

 

まさか、何か大変な事に……?

 

念の為、月にも電話をかけてみる

数コール鳴った後、急に声が聞こえてきた

 

真「もしもし?月か?今一体どこで何…」

言い終わる前に、切羽詰まった声が耳に鳴り響く

 

月「真治…!たす……けて…商店…街の…」

 

真「月?おい月!」

そこで電話は切れてしまった

 

真「どうなってんだ?あいつらは俺の家から真っ直ぐ帰ったはずじゃ…?」

待てよ?確かここに来る途中、あいつらを見たような…?

 

その時、横に誰かいたような気がしないでもない

囲まれて捕まったみたいで…

 

情報を繋ぎ合わせ、1つの答えを導き出す

 

真「まさか、的場の連中に…?」

 

こうしている場合じゃない!

あいつらに捕まったら何をされるか分かったもんじゃない

 

確か、さっきの電話で変な雑音が混じってた様な…

 

真「そうか!ゲーム店の近くの路地裏かっ!」

直ぐに踵を返し、曜達の元へと向かう

 

 

頼む…間に合ってくれ……!

 

 

路地裏 廃ホテル

某ゲーム店の路地にある、錆びれたホテルの中で曜達は身体を震わせていた

周りの建物が高いせいか太陽の光は殆ど届かない

 

的場達にここに連れて来られ、襲われる寸前で逃げ出したのだ

今は部屋に鍵をかけて様子を伺っている

連中はまだ私達のことを探し回っているようだ

 

千「そう言えば、月ちゃんの電話誰からだったの?」

 

月「…真治だよ」

 

曜「でも、どうして電話なんか…?」

月はゆっくりと目を閉じ、優しい表情になる

 

月「きっと、目を覚ましてくれたんだよ、理由は分からないけど…真治がきっと助けてくれる、僕はそう信じてるよ」

そう言った月の表情は、彼を信じている、と自分に言い聞かせているようだ

 

曜「私達、大丈夫なのかな…?」

 

梨「落ち着いて、きっと的場君達も諦めて出て行くと思う」

梨子が曜を慰める

 

 

梨「ところで、ちょっと気になってたんだけど、月ちゃんと真治君は幼馴染なんだよね?曜ちゃんとは会ったこと1度もないの?」

 

梨子の言葉を聞いて、月は少し俯いた

まるで、何かを隠しているかのように…

 

月「…うん、そうだよ、入れ違いってやつなのかな」

 

千「そうなんだ…曜ちゃんは覚えてないの?」

 

曜「うん…初めて真治くんを見た時は、どこかであったような気もしたけど、でも…」

 

梨「でも?」

 

曜「私の気のせいだったのかな」

あの大阪での出来事…

あの時、私と月ちゃんを助けてくれた人が、もしかして…?

 

 

その時、扉の外から声が聞こえてきた

的「こんな所に隠れてたのかぁ〜みーつけた」

 

聞き覚えのある声に一同が驚く

千「ど、どうしてわかったの?」

 

梨「声もそんなに大きくないのに…」

 

勝ち誇ったような笑い声が聞こえてくる

的「罠だ罠、こうして一部屋一部屋声をかけていけば、おのずと当たりにあたるだろ?そしたら動揺したお前達が声を上げてくれるって寸法だ」

 

月「でも、部屋がわかっても鍵がなきゃ入っては来れないだろ?」

月の声を聞くや否や、的場は高らかに笑い出す

的「渡辺さんよぉ、考えが甘かったな、こんな錆びれた扉体当たりでもすれば直ぐに開くのによぉ」

 

次の瞬間、大きな物音がして扉が倒れる音が聞こえた

全員の血の気が引く

 

的「よぉ皆さん、1時間ぶりだなぁ」

 

曜と千歌は身体を寄せ合い、小刻みに震える

曜「もう…ダメなのかな、誰か…助けて…!」

 

的「さぁ、覚悟するんだな…」

的場がそう言いかけた時、その声を打ち破るかのように怒号が聞こえてきた

 

その声の主は、的場の後ろに居た連中を次々となぎ倒して前に出る

そして、曜達と的場の間に立ちはだかった

 

そこまで高くない身長、でもどこか勇気を感じる背中

私はその姿にどこか見覚えがあるように感じた

 

曜「真治君…」

 

真「大丈夫か?」

真治は振り返らずに答える

 

的「あぁ?弱虫に用はねぇんだよ、今いい所なんだから邪魔すんなって」

そう言いながら真治に殴り掛かる

真治はパンチを裁き、逆に拳をめり込ませた

 

的場は顔を歪めながら後ずさる

真「言わなくちゃいけない事があんだよ、だから邪魔するな」

あまりの迫力に、的場は困惑の表情を隠せない

 

的「お前…本当に周藤か…?」

 

真治は後ろを振り返り、座り込んでいる曜達に手を差し伸べる

月「真治…僕は信じていたよ」

 

千「真治君、遅いよっ!」

半泣きになりながら言った

 

真「わるい、ちょっと迷った」

 

梨「地元の人が迷っちゃダメでしょ…」

梨子のツッコミに、周囲の顔がほぐれる

 

 

真治は真面目な顔になり、曜の顔をしっかりと見つめる

力強い視線に、曜は少し顔を赤らめる

 

真「渡辺さん…俺、人間って皆同じだってずっと思ってた、俺をいじめている奴らも、月達も…俺を憐れに思ってるだろうって、ずっと思ってた。でもそれは間違い、君達は…本気で俺と向き合い、手を差し伸べてくれた、本気で…友達になろうとしてくれた……だから、ごめんなさい!」

 

深々と頭を下げる

曜は真治の顔を起こすと、自分の右手を差し出した

 

曜「私、ずっと信じてたよ、だから謝る必要なんて無い、その代わり…」

真っ直ぐに真治の目を見つめる

 

瞳がキラキラと輝いている

 

曜「私と…私達と友達になってくれない?」

 

真治は目が点になる

期待を裏切り、受けた思いやりでさえ仇で返した男に対して

彼女は友達になりたいと言ってくれた

 

自然と涙が流れ、頬を伝う

気づけば涙は留めなく溢れ出し、視界を曇らせた

 

涙……それは、いままでずっと、悲しい時に流す物だと思っていた

でも、嬉し泣きってやつも、あるんだな

 

真「あ、ありがとう…ありがとう…!」

号泣しているせいか、声が上手く出てこない

 

月「も〜、なに泣いてんだよっ!」

月が真治の背中をドンと叩く

梨「ほら、これで涙を拭いて?」

ハンカチを手渡す

 

千「えー!梨子ちゃんが、そんなに紳士だったなんて…」

 

梨「どこに驚いてるの!」

いつものコントに周囲から笑いが漏れる

 

真治も頬を緩ませた

 

千歌は、座り込んでいる真治に手を差し伸べた

千「真治君、私は、あなたがどれだけの悲しみを背負って生きていたのか、全然わかってなかった。だから、少し強引に勇気づけようとしてしまった…私達も同じなんだよ、だから謝る必要なんて無い」

 

千歌は真治の手をしっかりと掴み、立ち上がらせる

 

千「確かに過去の事を忘れてしまうのはダメだよ?でも、過去にしがみついて前に進めなくなってしまうのもダメだと私は思う。私は、それをスクールアイドルを通して学んだ、だから……上を向いて歩こうよ!私達と、一緒に!」

 

人間なんて、みんな同じだと思っていた

でも、みんながみんなそうじゃない

愛と思いやりを持っている人間もたくさんいるんだ

 

そう思う真治の心に、ある言葉が流れ込んでくる

どこからかわからないが、その言葉は深く、心に響いた気がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇気はどこに?君の胸に!




今回はここまでです!
次回もお楽しみに!


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ポニーテールに悪いやつはいない

どーもこんにちは!西鬼です!

やばい、もう12月だ…
まじで勉強しなきゃ…

今回も頑張って書きました!

ちょっと長めですっ!
お付き合いください笑

それでは、どうぞー!


誰かが呼んでいる

声に聞き覚えはあるが、誰なのかがわからない

 

肩を揺さぶられているのを感じる

身体を動かそうとするが、ピクリとも動かない

 

うっすらと目に映るのは、炎上している車と人だかり

自分の肩を揺すっている人の顔は太陽に被さって見えない

 

ただ、声だけが聞こえてくる

 

「起きて!目を開けて!」

 

遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた

大きな怪我をしているのか、周囲が赤く染っている

 

おいおい、これはやべぇ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと気づくと、自分のベットの中だった

暖かな日差しが差し込んでいるが外から風の音が聞こえる

さぞかし寒いことだろう

 

んじゃ、ということでもう一眠り……

 

その時だ

 

月「こおらぁぁぁぁあ!真治ぃぃぃぃい!」

 

「ひぁあ」と情けない声が出て、背筋をピントのばす

真「おい…今、何時…」

恐る恐る時計を見ると短針が8、長針が5を指している

真「やっべぇぇえ!遅刻だぁぁ!」

 

音速で支度を済ませて制服に着替える

玄関の前に行くと、ひきつった顔の月が立っている

その横では曜がまぁまぁと月を宥めていた

月「真治くーん、覚悟はいいかい…?」

 

真「は、はい…もちろんでございます…」

結果、バスの中でこっぴどく絞られたのであった

 

 

昼休み

午前授業終了のチャイムが鳴り、生徒達は昼食の準備をし始める

真「あ…寝坊したから弁当買ってこなきゃ」

力なく立ち上がり、売店へと向かった

 

あの事件以来、真治へのいじめは無くなった

いじめていた連中が怖がっているのか、話しかけてくることも無かった

 

千「そーいえば真治君!」

真治は出来合い弁当の唐揚げを頬張りながら顔を上げる

なかなか味も悪くない

 

千「私たちの…Aqoursのマネージャーになってくれない?」

 

真「マネージャーって、月がしてるんじゃないのか?それに俺みたいな奴、役に立つかわかんないぞ?」

 

曜「それもそうだけど、やっぱり月ちゃん1人に任せるのは申し訳なくて…それに、異性からの意見も練習の中に取り入れていきたいって思ってるんだ!」

 

梨子がうんうんと頷く

梨「それと、今度大切な大会もあるから手助けが欲しいって言うか」

 

真「大切な大会?」

 

千「そう!」

千歌の声に、真治は思わずビクリとした

 

千「第5回ラブライブの予選だよ!」

 

真「ラブライブ?あぁ、毎年開かれている大会か、確か去年は優勝したんだっけ?」

 

曜「うん!あの時はメンバーも9人いたし、いいライバルもいたし…」

 

梨「優勝するためには、もっともっと頑張らなきゃいけない」

 

月「そのために、真治の力が欲しいんだよ…ダメかな?」

 

真治は静かに考える

彼女達には色々助けて貰ったし、恩返ししたいという思いもある

見出した答えは、ひとつだった

 

真「わかった、こんな俺でよければ…いくらでも力になるよ!」

千歌達は目を輝かせ、真治の手を取った

 

 

屋上

さて、授業を消化し「Aqours」の活動場所となる屋上に着いた

がしかし、いくら待っても人が来る気配がない

 

30分前

曜「私たちは部室で着替えて来るから、先に屋上に行ってて!」

 

月「覗くんじゃないぞ〜?」

 

真「ば、ばかっ!そんなことするわけないだろ」

少し頬を赤らめる

梨「私達より先に2年生達がいると思うから、自己紹介でもして待ってれば?」

 

千「そうそう!みんなすっごく可愛いから、会ったらビックリするよ!」

 

月「襲うんじゃないぞ?」

月が疑いの目で見てくる

真「お前、俺をなんだと思ってるんだよ…」

 

 

真「って待ってるけど、2年生すら来てないし…」

そう呟いていた時、どこからともなく話し声が聞こえてきた

 

?「ちょっと…ずら丸押さないでよ!」

 

?「しーっ、聞こえるずら!」

 

?「善子ちゃん…もしかして、また太った?」

 

次の瞬間、あからさまに大きな声が響いてきた

?「だーかーらー…善子じゃなくて、ヨ・ハ・ネ!」

その声と同時に、お団子頭の少女が影から姿を現した

 

その少女はビクリと身体を震わせると、ゆっくりと真治の方を見た

眉毛がピクピクと動いている

 

真「え、えーっと、ごめんなさい」

何か見てはいけない物を見た気分になる

 

少女は手をブンブンと振りながら後退りをする

善「な、なんであやまるのよっ!」

 

真「なんか、見ちゃいけないものを見てしまった気がしたから」

 

花「わかる、その気持ち、とってもわかるずら」

 

ル「ごめんなさい!うちの善子ちゃんが…」

 

善「うっさい!てかヨハネ!で…」

真治の顔を見つめる

善「あなた…だれ?」

 

真「俺は…」

答えようとしたその時、後ろの扉がガチャりと開いた

 

千「おっつかれ〜」

 

梨「お待たせ〜」

 

曜「皆いる?」

 

月「真治は〜おしっ、ちゃんといるね」

だからお前は俺をなんだと…

 

千歌と梨子はスポーツドリンク

曜と月はラジカセをそれぞれ持っている

 

なるほどそれで遅くなったのか

 

善「曜!この人誰なのよ?」

真治を指さしながら聞いた

曜「あぁこの人はね」

 

月「僕達のクラスメイト、須藤真治でーす」

 

千「今日からマネージャーやってくれるんだって!」

千歌が目を輝かせながら言った

 

花「マネージャー?それって…未来ずら〜!」

 

真「未来?ずら?」

聞きなれない言葉に真治が反応する

花丸は直ぐに口を押えた

 

花「いやぁ、おらはその…いや、おらじゃなくてまる…」

 

おら?まる?

初めて聞く単語に真治は目を丸くする

千「ねっ、可愛いでしょ?」

 

先が思いやられる…

 

 

一通り自己紹介をしてもらった

2年生組は、ルビィ、善子、花丸というらしい

なかなか個性的な面々だ

 

真「で、俺は何をすればいいんだ?」

 

梨「まだ初日だし、見学でいいんじゃない?」

梨子の言葉に周りが頷く

 

その時、思いついたように千歌が声を出した

千「そうだ!真治君、作詞してみない?」

 

作詞?俺が?

 

千「今度の大会に向けた大事な役目だよ!」

 

梨「千歌ちゃん…自分の仕事を人に押し付けないの」

梨子が呆れ顔で言った

千「ちっ違うよ!」

真面目な顔になる

 

千「たまには他の人の詞も見てみたいなって、性別が違ったら新しい発見があるかもしれないし…どお?」

 

曜「確かに、それいいかも!」

 

月「責任重大だぞ〜?」

 

梨「どう?真治君?」

 

真治は腕を組み、考え込む

真「そんなに大切なことは役目を、俺に任せていいのか?」

 

千「もちろん!真治のこと信頼してるから、むしろお願いします!」

千歌は目を輝かせながら言った

 

しゃーねぇな、いっちょやってやっか

 

 

帰り道

月、曜と別れ、真治は真治の家の前に立つ

作詞か…身軽に引き受けちゃったけど、本当はどうしてよいのやら

 

しかも、彼女らが目指しているのはラブライブ優勝

そんな大切な大会の作詞を俺なんかがしていいのか…?

 

真治は頭をくしゃくしゃと掻きむしる

真「悩んでもしょうがない、やるしかないからな」

 

頭の中に、千歌が言っていた言葉が反響してきた

「可能か不可能か、今はどうでもいい、だって…やるしかないんだから!」

 

おしっ、と声を上げ真治は自転車を出す

ハンドルに手をかけたその時、頭に激痛が走った

真「くっ…また…かよ…」

膝をつき、両手で頭を抱える

目の前の景色まで歪んで見えた

 

しかし、痛みはすぐに止み、直ぐに正常な景色が戻ってきた

 

なんなんだ…

 

自分の手を見つめる

どっかで頭でも打ったのか…?

 

 

自転車を飛ばし、内浦方面へと向かう

旅館や水族館を通り過ぎると、バス停がある所で自転車を止めた

 

防波堤の先に、雄大な駿河湾が見える

悩み事がある時、真治はいつもここへ来ていた

広い海を見ると、心が落ち着ついて穏やかになれるからだ

 

ふとバス停を見ると、そこには廃駅という張り紙がされていた

年季が入った停留所が、寂しく立っている

 

その貼り紙を少しめくる

学校の名前が書いていた

 

真「浦の星…女学院…」

 

?「どうしたの?」

そう呟いた時、不意に声をかけられた

柔らかい、大人の女性の声だった

 

?「ここ、女子高のバス停だよ?廃駅になったゃったけどね」

女性は穏やかな声で訪ねてくる

ダークブルー色の髪をポニーテールにしている

 

あれ?この人どっかで…

 

?「何か悩み事?」

 

真「は、はい…そのようなもので…」

 

?「お姉さんが相談に乗ってあげようか?」

さすがに見ず知らずの人に相談するのは…

そうは思いつつも、女性の柔らかい声とおおらかな心に、真治は心を吸い込まれていった

 

真「実は、自分スクールアイドルのマネージャーをする事になって、それで…作詞を頼まれて、やった事なくて困ってて…」

緊張しているのか、上手く言葉が出てこない

 

こんなに綺麗な人に見つめられたら…

 

?「奇遇だね、私も高校でスクールアイドルしてて、作詞してたんだ」

 

真「本当ですか!」

それは心強い

 

女性はまた穏やかに微笑み、踵を返して海の方を見た

?「作詞で大切なことは、その詞で誰かを勇気づけたいって考えること

世界中の人達に喜んで貰いたいっていう気持ちだよ

心を込めて作った歌詞は、絶対人の心に響くから」

 

真治は感激した

言葉も出ない程だ

 

そうか、作詞ってただ歌を作るだけじゃダメなんだ

その歌で人にどんな感情を持ってもらいたいか

それが1番大切なことなんだ

 

真「教えて頂き、ありがとうございます」

女性はいえいえと言うようにはにかんでいる

 

真「俺は須藤真治といいます、お姉さんの名前は?」

女性は少し驚いたが、直ぐにまた笑顔になる

 

?「真治君か、いい名前だね」

学校の方を向き、真治に近づく

突然の事に真治はビクリとした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして、私は松浦果南。アピールポイントは…まぁ、いっか」

 

あたりは暗くなり、夜が近づいていた




今回はここまでです!
果南ちゃんはなんで自己紹介を途中で止めたのでしょうね?笑

次回もお楽しみに!


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記憶と残像

どーも西鬼です!

新しくお気に入りしてくれた方
本当にありがとうございます!
小説励みになっております笑

しかし最近ネタが尽きてきて…
でも、頑張りますので笑
暖かい目でお願い致しやす笑

どこまで続くか分かりませんが
お付き合いよろしくお願いします!

それでは、どうぞー!



真治は頭を捻りながら、筆を走らせる

 

真「世界中の人に喜んで貰いたい気持ちか、なかなか難しいなぁ…」

 

頭の中で先程の事を思い出す

本当に綺麗な人だったなぁ

 

余計な事を考えたと思い、頭を振る

微かに頬が熱くなるのを感じた

 

 

淡島

淡島にそびえるホテルオハラ

この辺では1番のグレードを誇るホテルだ

 

正面玄関の先にある桟橋に、1人の女性が立っている

ダークブルーの髪をポニーテールにしている

 

彼女、松浦果南はどこか寂しげな表情で

その先にある広い海を見つめている

太陽は沈みかけ、辺り一面を赤色に染めていた

 

果南の瞳が揺れる

込み上げてくるものを腕で乱暴に拭った

 

何気なく左に目を逸らす

そこには白い噴水が寂しく佇んでいた

時期が時期なので、今は水も出ていない

 

脳裏に、幼い頃の記憶が込み上げてくる…

 

?「み、見つかったら怒られますわ!」

 

果「平気だよ!」

噴水に隠れながら、最近越してきた子の様子を伺う

凄い家に住んでいるんだ…

 

少し声が大きすぎたのか、少女が様子を伺うようにこちらを見てきた

?「ぴぎぁっ!」

怖がりな友達が、小さく悲鳴をあげる

 

やばい…ばれた

 

?「あなたはー?」

少女は無垢な顔を果南に向けている

 

果「ハ、ハグ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、急に声をかけられ果南の思考は停止した

?「勝手に庭に入ると、家のものが激おこプンプン丸デスよ」

 

聞き覚えのある声

聞き覚えのある言葉…

 

果「鞠莉?」

鞠莉と呼ばれた女性は穏やかな顔で、両手を広げる

鞠「久しぶりだね…果南」

 

目から一筋の涙が零れる

果南は我を忘れて鞠莉とハグをしていた

 

鞠「あら、甘えん坊さんデスねぇ」

鞠莉はいつものと思わんばかりに果南のふくよかな胸に触れる

果「訴えるよ?」

 

鞠「It’s joke だってば。それで?どうして帰ってきたの?冬休みはもう少し先でしょ?」

 

果「大学側の事情で1週間学校が休みになってね、鞠莉こそなんで?」

ノンノンノンと指を振る

鞠莉の癖だ

 

2人とも海外の大学に通っているので、今は実家を離れている

鞠「小原家の力を使えば、学校なんてなんのその…」

 

果「ようするにサボったってわけね」

 

鞠「そ、そんな訳ないじゃーん…」

 

果「これだから金持ちは」

腕組みをしながら答える

鞠「でも本当は、気になって仕方なくて」

 

一呼吸置いて果南が答える

果「千歌達のこと?」

 

鞠「Yes… でも心配って言うより、期待の方が大きいけどね」

 

 

鞠莉は「浦の星女学院」がある方を見つめ、少し息を吐いた

私達が見つけた輝き

ラブライブで優勝して初めて見えた景色…

 

色々な思い出を噛み締めるように鞠莉は目を閉じた

 

 

数日後 放課後

曜「1.2.3.4.1.2.3.4…」

声に合わせて手を叩く

ラブライブに向けてダンスの猛特訓中らしい

 

前年の優勝者ともあってか、動きには確かなキレがある

真「しっかし凄いダンスだ…プロ顔負けだな」

そんな事を思っていると、曜が一段と大きく手を叩いた

曜「よしっ、じゃあ一旦休憩にしようか」

 

緊張の糸が切れ、メンバーはへなへなと座り込む

花「疲れたずら…」

 

真「ほい、スポドリ」

ペットボトルを花丸に手渡しをすると、彼女は目を輝かせた

花「ありがとずら〜!そういえば真治先輩って月ちゃんと従兄妹ずらよね?」

 

月「そうだよ!小さい頃からよく遊んでたんだ!なっ?真治?」

月がドンと背中を叩いてきた

真「まぁな」

正直言うと、あんまり覚えてない…

 

小さい頃の記憶だ、忘れてもしょうがない

自分でそう納得した

 

 

その時、善子がすくっと立ち上がった

善「ふふっ、感じます…このヨハネと貴方が出会ったのは、前世から決まっていた運命なのですっ!」

ギラン、と自分で言っている

 

真「お、おう…」

 

ル「気にしないでください、善子ちゃんはいつもこうだから…」

ルビィが半笑いで言ってくる

 

善「だーかーら!善子じゃなくて、ヨハ…」

そこまで言いかけた時、善子が段差につまづき体がグラりと傾いた

 

走馬灯のように景色がスローモーションになる

善子は覚悟を決めて目をつぶった…

 

 

次の瞬間、座っていた真治が横っ飛びをした

間一髪の所で善子の体を抱きとめる

 

鈍い音がして真治が倒れ込んだ

直ぐに全員が寄ってきて、声を掛ける

 

梨「ちょっと大丈夫?」

梨子が顔を覗き込んでくる

真「大丈夫だ、ったく…」

 

当の善子は顔を赤らめ、呆然としている

ル「大丈夫?善子ちゃん!」

 

善「だ、大丈夫よ…せ、先輩は、怪我はない?」

緊張を誤魔化すかのように善子は大きな声で尋ねた

真「大丈夫だって、お前に怪我がなくてよかったよ」

 

そう言う真治の腕には、1本の赤い筋が入っている

千「真治君!血が!」

 

月「救急箱取ってくる!」

立ち上がろうとした月の手を真治が掴んだ

真「大丈夫だって月、これくらいなんともないさ」

 

月「で、でも!」

 

曜「私ティッシュ持ってるから使う?」

頼む、と頷いた

 

一同から安堵の声が漏れる

花「善子ちゃん気をつけなきゃだめずらよ?」

 

善「失礼しました…」

 

千「でも凄かったよ!」

千歌が顔を覗き込んできた

曜「そういえば真治君っていつから空手してるの?」

 

ル「か、空手してるんですか!?」

 

梨「大丈夫よルビィちゃん、この前だって私達を守ってくれたし」

 

月「ボディーガードだね!」

 

真「やかましいわいっ」

 

 

 

 

 

 

あれ?でも俺、いつから空手してるんだっけ…

頑張って思い出そうとするが、答えが出てこない

 

曜「どうしたの?険しい顔して」

 

真「あぁ、ちょっと思い出せなくて…」

真治は頭を手で押さえた

 

月「じゃあ、覚えてないくらい昔からやってたってことなんじゃない?」

真治の不安を吹き飛ばすように月が明るい声を出した

 

千「きっとそうだよ!」

みんなの声に押され、真治は納得するように何度も頷いた

 

 

月「……僕は…なんて弱虫なんだ…」

月の瞳は悲しく濡れている

拳を強く握り、込み上げてきた物を乱暴に拭った

 

 

真治は1人、帰路についていた

何となく歩いていると、急に空腹に襲われた

 

最近なんやらかんやらでまともに食事も取れてない

帰路を少し外れ、自分の家からさほど遠くない駄菓子屋さんに足を向ける

 

昔からある駄菓子屋さんで、中でも真治は回転焼きが大好きだった

粒あんを購入し、店先の椅子に腰を掛ける

 

あんこの優しい甘みとちょうどよい塩気を感じる

物を食べたり飲んだりしている時こそ、生きていると実感出来た

 

歌詞ノートを広げる

まだ半分しか書けていないが、順調といえば順調だ

 

1人思いに耽っていると、不意に声をかけられた

聞き覚えのある声だった

 

善「ちょっと、隣いいかしら?」

 

真「善子?なにしてんだ?」

 

善「うっさい!てかヨハネ!」

いきなり名前で呼ばれたのが恥ずかしかったのか、顔を赤らめている

善「それより…腕は大丈夫なの?」

 

真「怪我のことか?こんくらいなんともないさ」

 

善「ダメよ、ちいさな傷でも用心しないと…」

おどおどしく真治の腕をさする

 

真「まぁ、お前に怪我が無くてよかったよ」

善子はお行儀よく座り直した

 

まだおどおどしている

真「んで?なにか用があったんだろ?」

 

善「一言、お礼がしたくて…あの、今日は私を助けてくれて…ありがとう…」

 

たどたどしい言葉だったが、確かな感謝の気持ちを感じた

真治は少し笑みを浮かべ、立ち上がる

 

真「お前、いいやつだな」

それだけ言うと再び歩き出す

 

善「ちょ、ちょっと待ちなさいよー!」

慌てて立ち上がり追いかけるが、つまづいて転んでしまう

真「本当に堕天使だな」

 

真治は弾けるように笑う

こんなに面白いと思ったのはいつぶりだろうか

 

善「うっさい!てか待ちなさいよー!」

 

真「やなこった〜」

 

真治は走る

とっても清々しく感じる

 

辺りは既に暗かったが、心の中は太陽のように光り輝いていた




今回はここまでです!
次回もお楽しみに!


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光を掴め

こんにちは!西鬼です!

投稿お待たせしました!
なんやらかんやら忙しがったもので笑

その変わり、
今回の話のラストにはお楽しみが…

それでは、どうぞ〜


十千万旅館 千歌の部屋

 

落ち着かない空気

落ち着かない体

落ち着かない心…

 

とにかく落ち着かない…

 

月「真治!なにボーッとしてるんだよ!」

バシバシと真治の背中を叩く

 

真「痛ってーな!しょうがないだろ?女の子の部屋に来るなんて…初めてなんだから…」

顔を赤らめ、下を向いた

 

今日は2週間後に迫った地区予選に向けて、歌詞合わせをするために千歌の家に集合したのだった

しかし、年頃の女子高生の部屋にズカズカと入れるほど俺は肝が据わってない

 

千「もしかして、照れてるの〜?」

千歌が小馬鹿にした様に言ってくる

 

真「このままおいとましようかな」

 

千「じょ、冗談だってばぁ!」

 

曜がまぁまぁと場を落ち着かせる

梨「2年生組には衣装を頼んでるのよね?」

 

曜「うん!それぞれで分担してやった方が、効率もいいしね!」

 

月「じゃあ早速、歌詞を見せてもらお〜う!」

おー!と黄色い声が飛ぶ

 

真「(ったく、先が思いやられるぜ…)」

体が縮んでしまうかのような深い深い、ため息をついたのだった

 

 

………

 

 

曜「凄い、とてもいい歌詞だよ!」

 

千「ま、まぁ、私ほどじゃないかなぁ…」

 

月「梨子ちゃんの曲とは合いそう?」

 

梨「うん、真治君からイメージはだいたい聞いてたから、ばっちりよ!」

 

千「でも真治君凄いなぁ…誰かに教えて貰ったの?」

 

真「いやぁ、まぁそんな所かな」

自慢そうに頭を掻きながら答える

 

あの時の情景が思い起こされてきた

 

偶然出会ったポニーテールの女性

目鼻立ちはとてもはっきりしていて、スタイルがよかった

できるなら、もう一度会いたいな…

 

 

夢見心地の真治の頬を月が引っ張る

真「いひゃいって、なひふんだよ!?(痛いって、何すんだよ!?)」

 

月「なんか隠してるだろ?」

 

図星だ

 

真「い、いやいやいや!」

抓られた頬を撫でながら後ずさる

曜「真治君、顔赤いよ?」

 

千「なになに?なにかあったの?」

千歌が食い気味に近づいてくる

距離が近い

 

それにドキッとしたのか、真治は逃げるように立ち上がった

しかし、床にあったぬいぐるみにつまづいて派手に転んでしまった

 

真「痛って…」

 

梨「ちょっと大丈夫?」

梨子が体を起こしてくれる

 

月「そんなに動揺してどうしたんだ?」

 

真「ななな、のでもねえよ…」

そっぽを向く

でも、昔から隠し事は苦手だった

 

曜「顔、赤いよ?」

 

真「お願いします、どうか聞かなかった事にして下さい…」

自分の両手で顔を覆いながら答える

その様子に観念したのか、話はここで終わる事になった

 

その時、窓の外からバスの汽笛が聞こえてきた

曜「やばい!終バスだぁ!」

 

月「急げ急げー!」

また明日、という捨て台詞を残して2人は帰って行った

 

梨「じゃあ私もそろそろ帰ろうかな」

梨子が立ち上がる

 

千「ところで、真治君の家ってこの辺だったっけ?」

のんびり構えていた真治の顔から血の気が引いた

 

次の瞬間、悲鳴のような声で叫んだ

真「やっべええ!バス乗り損ねたあ!」

 

ここ内浦から沼津までは結構距離がある

歩いて帰ろうとするのはかなり骨だ

 

悲痛の表情を浮かべる真治の肩を、千歌が優しく叩く

千「じゃあ、家に泊まっていかない?」

とても無垢な顔で言っている

 

真「いや…さすがにそれは迷惑じゃないか?」

真治の心配など聞こえていないかの様な笑顔で、千歌は大丈夫!と言う

本当に聞こえていないのかもしれない

 

梨「いいんじゃない?千歌ちゃんの家旅館だし、明日も学校休みだし、練習場所も明日は目の前の海岸でしょ?丁度いいんじゃない?」

 

 

なんだかんだありながらも、最終的に真治は観念してお世話になることにした

 

今は、旅館の自慢だという温泉に入っている

天然の露天風呂で、ゆっくり休めそうだ

 

真「ふぅ、たまには温泉も悪くないな」

魂が抜けそうになるくらい、ふっーっと息を吐く

 

夕飯もご馳走して貰ったし、本当に頭が下がる思いだった

その時、脱衣所の方から声が聞こえてきた

千「お湯加減はどーお?」

 

志「遠慮なく言ってね」

千歌と、そのお姉さんの志満さんの声だった

 

さっき知ったのだが、千歌は三人兄弟の末っ子なのだ

どうりでお気楽な…

外から千歌のくしゃみが聞こえてくる

 

真「大丈夫です、ありがとうございます〜」

 

そう軽く返事をした時、入口のドアが開く音が聞こえた

千「すごいでしょ?うちの露天風呂!」

 

真「お、おい!何身軽に入ってきてんだよ!」

真治は慌ててお湯の中に体を隠す

千「へ?何って?」

 

志「ち、千歌ちゃん!」

慌てて千歌を連れ戻す

千歌はじたばたしながらも連れていかれる

 

呼吸を整え、心を落ち着かせる

真「無垢ほど怖いものって、無いんだろうな…」

身をもって体感した真治だった

 

 

深夜

真「ね、眠れねぇ…」

布団に包まりながら、真治は助けを求めるかのように枕を掴んでいた

 

それもそうだ

年頃の女子高生が、ベットと床だとはいえ隣に寝ているのだから

今の真治には、朝まで一睡もできる余裕もない

 

真「き、気にしなければいいんだよな?そうだよな?そうだろう…」

必死に自分に言い聞かせる

 

しかし、そんな思いも隣から聞こえてくる優しい寝息に掻き消された

深呼吸を繰り返し、心を落ち着かせる

 

多分、音が大きすぎたのだろう

 

千「…眠れないの?」

 

真「い、いや…なんというか、その…」

千歌は起き上がり、ベットに座る

 

千「ごめんね、私が泊まってなんてわがまま言ったから…」

部屋が暗くて分からないが、微かに瞳が濡れているように見えた

 

真「いや、謝るのは俺の方さ…俺がバスにのりわすれなかったら…」

 

千「私ね!私…」

真治の言葉を遮る

千「真治君に、ずっと聞きたいことがあったの」

 

千歌は真治の体にぴったりと寄り添う

千歌の体温で自分の体が熱くなるのを感じる

いや、熱くなってるのは自分かもしれない

 

千「真治君は…好きな人とかいないの?」

意外な質問に、真治は体を震わせる

真「千歌…もしかしてお前…」

 

千歌が真治の腕を掴む力が強くなる

千「わかってるよ、真治君が誰を好きかなんて……でも、私…」

 

真治は胸がはち切れそうだった

 

誰かを好きになったかなんて

考えた事もなかった

真「俺の、俺の好きなのは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言いかけた時、横で千歌が寝息たてていた

疲れていたのだろう

 

真「まったく、世話がやける…」

真治は千歌を抱え、ベットに寝かせた

 

いつか、いつかきっと…

 

翌日、起きた時にこの話をしても千歌が覚えていなかったのはまた別の話

 

 

早朝

冬の海風に吹かれ、体を身震いさせる

太陽も顔を出しかけているが、辺りはまだ薄暗い

 

真治は旅館のすぐ前にある砂浜で、1人海を見つめていた

ふと隣を見ると、千歌が立っている

柔らかな笑顔で語りかけてきた

千「どうしたの?こんな早くから」

 

真「なあ千歌、この空って…どこに繋がってるのかな」

少し意外そうな顔をした後、ゆっくりと海を見つめる

 

 

千「繋がってるよ、大切な人の所に」

 

その声はとても明るく、自分に言い聞かせているようにも見えた

辺りはまだ薄暗かったが、2人の心の中には暖かな太陽が輝いている

 

 

ライブ当日

それぞれの位置にスタンバイし、曲が始まるのを待つ

 

私達のために彼が書いてくれた歌詞

ひとつひとつ、大事に歌おう

私達の心はひとつだった

 

 

shining sun

 

夢に向かい歩いて行こう

描いた光を抱いて

それが私達の shining sun

 

いつか見たまぼろし

それが自分を惑わしていた

ゴールが見えない迷路みたいに

 

曇り空だって

暗い夜だって

いつか必ず光が差すよ

 

忘れないで shining sun

いつまでも笑顔絶やさないで

晴れない雨なんてないって知ってるでしょ?

 

泣いて笑って走って来た道

それは 決して消えないものだから

自分を信じて 皆を信じて 仲間を信じよう

 

夢に向かい走っていこう

後ろを振り向かずに

輝け太陽 世界を照らしながら

 

 

会場からは割れんばかりの歓声が鳴り響く

 

なぜだろう、涙が止まらなかった

たくさんの人に自分の歌を聞いて貰えたからか?

色々考えたが、答えは見つからない

 

ふと隣を見る

そこには曜が立っていた

彼女はとても優しげな瞳で真治を見ている

 

曜「真治君、みんなの声が聞こえる?みんな、私達の…真治君の歌を聴いて、ここまで歓声をくれてる」

 

真「歌って、いいもんだな」

その言葉に、嘘偽りは無かった

 

真「渡……曜、こんな俺だけど、これからもAqoursのマネージャーをさせてくれるか?」

 

曜は犬のようにぱっと笑顔になり、真治の手を取る

 

月「お?お熱いねえ」

ふときずくと、Aqoursの面々が目の前にいた

 

真治は自分の顔が赤くなるのを感じる

真「い、いや、これはあの…違うからな!?」

 

千「あ〜、もしかして、照れてる?」

 

顔から火が出そうになり、真治は思わず逃げ出す

会場の興奮は、未だなり止むことを忘れているかのようだった




いかがでしたか?
完全自作の歌を書いてみました(^^)

下手くそですが、皆さんの心に少しでも届いたらいいなと思っています!
これからもこの小説をよろしくお願いします!

歌について、感想など頂けたら嬉しいなと思っております(^O^)

さて、次回からは更なる急展開が…?



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終わりと始まりは紙一重

こんにちは!西鬼です!

皆さん…
なんと、なんとなんと…!


お気に入りさんが70人を突破致しました!
ほんとのほんとにありがとうございます(><)

日頃の皆さんからの愛読、本当に感謝しております!
これからもこの小説をよろしくお願いします(^^)

それでは、始まりと終わりは紙一重…
どうぞ〜!


精真高校 スクールアイドル部室

曜「い、いくよ…?」

曜がパソコンのEnterボタンに指をかける

指先は小刻みに震え、額には少量の汗をかいている

 

Aqoursのメンバー全員が、揃って画面を凝視している

画面上には、ラブライブ!予備予選 結果発表の文字

 

カチッという音が不気味に室内に響き渡る…

2年制組は揃ってゴクリと体を震わせていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エントリーNo.9 Aqours 予選通過

 

千「いやったぁ!」

 

梨「やったね!千歌ちゃん!」

 

善「ふふっ、当然よ…この堕天使ヨハネの名において!」

 

花「さすが善子ちゃんずら!」

からかうような顔で善子の肩に手を置く

ル「うゆ!」

 

善「だーかーらぁー!善子じゃなくて、ヨハネよ!」

怒鳴る善子だが、満更でもなさそうな顔をしていた

 

真「まぁ、これで一安心だな」

胸をなでおろし、少し俯く

込み上げて来るものがあった

 

曜「もしかして…泣いてる?」

 

真「ば、ばかっ!そんな訳、ないだろぅ…」

目じりから零れてきた物を乱暴に拭った

月「真治ってば、涙もろすぎだよ〜」

言われてみれば、確かに…でも、

 

 

嬉し泣きなんて、生まれて初めてかもしれないな

 

 

千「まっ、何はともあれ予備予選突破!これを記念して…」

悪そうな顔をしている

なにか企んでいるようだ

 

梨「パーティーなんてしないわよ?」

 

千「もう!なんで先に言っちゃうの〜」

梨子は呆れた顔をしている

梨「当たり前でしょ?これで終わりじゃないんだから」

 

ル「次は、本大会へと繋がる予選…」

 

曜「次からが、本当の勝負だね」

曜の言葉に、全員が引き締まった表情になった

 

 

帰り道

土曜日なのもあり、早めに学校から解放された

月は生徒会の用事があるらしいので学校に残っている

バスを待っている時、人疑問に思った事を千歌に聞いてみた

 

真「そういえば、なんで千歌はスクールアイドルを始めようって思ったんだ?」

 

千「ふふ〜ん、聞きたい?」

小悪魔のような、悪そうな顔をしている

曜「確かに、話したことなかったね」

 

梨「いい機会だし、教えてあげたら?」

 

 

よーしっ、と声を上げる

千「じゃあ、行こうか!」

 

梨「私達の…」

 

曜「学校に!」

 

真「が、学校?」

頭の中が?になった真治だった

 

 

曜「着いたっ!」

バスを降りると、そこは廃駅になる予定の停留所だった

 

真「ここって…」

そこは、真治が気晴らしをしたい時によく来る場所だった

 

梨「まだバス停残ってたんだね」

 

千「行こうか!」

 

わりかし急な坂が続く

縁側にはみかん畑が広がり、大ぶりの果実が風で揺れている

太陽は傾きかけていたが、周りはまだ明るい

 

千「着いたよ」

静かな声だった

どこか優しさを感じる

 

真「ここは…」

汚れかけた校名のプレートに目をやる

 

浦の星女学院

 

曜「そう!私達の…大切な母校だよ」

 

梨「そして、Aqoursが生まれた場所」

 

学校は、まるで3人におかえりなさいと言っているようだった

 

ふと気づくと、校門が少し空いている

曜「空いてる?」

 

梨「でも一体誰が?」

 

次の瞬間、千歌は真治の手を掴み校内へと入って行った

真「お、おい!」

 

曜「ちょ、ちょっと千歌ちゃん!」

 

梨「怒られるって!」

 

その時学校は、少し騒がしそうな表情をしていた

 

 

気がつくと、何も無い部屋に千歌は立ち尽くしていた

少し埃を被っていたが、雰囲気はあの頃のままだった

 

真「ここって…どういう場所なんだ?」

いきなり連れてこられた真治は、頭が?で一杯だった

 

曜「部室だよ!私達、スクールアイドル部の」

 

梨「正確に言うと、旧の部室ね」

 

そうか、俺たちの学校と統合になる前、3人はこの学校に行ってたんだったな

 

ふと部屋の隅に目をやる

そこには少し汚れたホワイトボードが俯いたように佇んでいた

 

よく目を凝らしてみる

そこには、掠れた文字が等間隔に並んでいた

 

真「これって…もしかして歌の歌詞か?」

 

曜「そうだよ、私達が、浦の星女学院のスクールアイドルとして最後に歌った曲の」

 

梨「まだ残ってたんだね」

 

真「最後の…か」

2人の声のトーンが低いせいか、とても心苦しく思う

 

千歌はホワイトボードに近づき、その歌詞を優しく撫でた

 

千「寂しくなんかないよ?だって、全部ここに残ってるんだもん」

 

 

曜「会いたくなったら」

 

梨「目を閉じて みんなを読んでみて そしたら」

 

千「聞こえるよこの歌が…」

語尾が震える

千歌は乱暴に目から出てくる物を拭った

 

噛み締めるように歌詞を読む3人をみて、この学校が生徒達にどれだけ愛されていたのかを真治は感じる

 

 

部室を出て、広い体育館へと足を踏み入れた

真「生徒が少ないって聞いてたけど、意外にも広いんだな」

 

曜「Aqoursとしての最初のステージは、ここだった。ここを満席にしないと正式な部として認められない」

 

梨「それが、理事長が出した答えだったの、そして、何とか人も集まって、ライブは大成功だった トラブルもあったけどね」

 

その時、唐突にも千歌が歌い始める

Aqoursの…始まりの歌を

 

 

千「気持ちが 繋がりそうなんだ」

 

曜「知らない事ばかり なにもかもが」

 

梨「それでも 期待で 足が軽いよ」

 

千「温度なさんて いつか消しちゃえってね 元気だよ 元気を出していくよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キラリ ときめきが 生まれたんだと

気がついた時に 目の前に君がいた

 

キラリ 熱くなる 自分見つけたよ

 

この光は キレイだとね

もっとキラリ 眩しい希望

 

ダイスキがあれば ダイジョウブさ

 

 

 

とても、綺麗な歌声だった

心の奥まで響いてくるような

 

きずいた時、真治は涙を流していた

理由は分からない

 

千歌が真っ直ぐ手を伸ばす

千「真治君!」

 

曜「これからも一緒にスクールアイドルを」

 

梨「やりませんか?」

輝かしい瞳に、真治も笑顔で答えた

 

真「ああ、もちろん!」

 

千「真治君、私がスクールアイドルを始めた理由は、心から輝きたいと思ったから、普通の女子高生の私達が、ひとつの夢に向かって走っていく事がとても素晴らしいと感じたから…私達はこれからもAqoursとしてスクールアイドルをやりたい、心からそう思ってる!」

 

太陽の光は消えかけていたが、4人の心の中には消えない輝きが灯っている

その時学校は、少し嬉しそうな表情をしていた

 

 

 

放課後 帰り道

ふと空を見上げる

そこには一筋の飛行機雲が走っていた

 

太陽は傾きかけ、辺りを幻想的な光で包んでいる

 

こんな未来、誰が予想しただろう

真治は夕焼けから自分の手へと視線を落とす

 

学校でいじめにあい、人との関わりを拒絶していた俺が…

 

人間なんて、みんな同じなんだとずっと思っていた

自分さえよければいい、そんな考えのやつばっか

 

助けるから、守るから、そんな台詞を言っていても、

結局最後は自分が1番なんだ

 

でも、その考えが間違いだったと、今ははっきりと言える

 

彼女達と出会えたから

彼女達…Aqoursが、自分の暗く沈み…ひねくれた心を受け入れてくれた

 

 

これからも、俺は彼女達と共に進み続ける

そう心に強く誓った

 

前方に、こちらに向かって手を振る曜と月が見える

真治は仕方ないという表情を浮かべながらも、彼女達の元へと歩く

 

 

夕焼け空にフライングするかのように星たちが煌めいていた

 

始まりがあれば、必ず終わりが来る

それは…決して変えられない運命だ

 

曜「1人でなに考えてたの?」

 

真「大した事じゃないさ」

ぶっきらぼうな言葉だが、優しさに満ち溢れた声だった

月「さっ、帰ろ!」

 

揃って歩き出す

しかし、真治はその1歩を踏み出せなかった

 

ドサリという体に響くような重い音

真治はその場に、倒れた

 

なんの前触れもなく、急の出来事だった

 

月「なに転けてるんだよ!ほら!」

体を起こそうとするが、なんの反応もない

 

曜「真治君?どうしたの?」

肩を揺する

彼はピクリとも動かない

 

月「真治!目を覚まして!」

心の中に、「あの日」の記憶が思い起こされてきた

 

ポツリ、ポツリと雨が落ちてきた

やがてバケツをひっくり返したような雨が叩きつける

 

彼の瞳は閉じたまま、永遠の眠りに着いたような表情をしている

曜と月の瞳が濡れているのは、雨のせいだけではなかった




今回はここまでです!

話の途中に唐突でしたが歌を入れてみました!
いかがでしたか?
実は、自分1期の3話で停電してしまった後に
千歌ちゃんがアカペラで歌うシーンが、何とも感慨深く思っていて
思わず小説の中に入れちゃいました笑

こんな私の小説に、これからもお付き合いください笑
次回もお楽しみに〜!


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記憶の探し者

どーも西鬼です!

本日はなんといっても…
CYaRon!の1stLoveLIVEでした!

ちなみに私も現地におりました!
いや〜、ちかっぱ楽しんだばい!、笑 (地元の人間であります)

わかる人にはわかるはず笑

杏ちゃんのお顔が見れただけでもう…

明日も参戦するので、もし会ったらよろしければお願いします!
(んなわけない)

LIVEと同じように
今回の話も楽しんで、くれるかな〜?

(いいとも!幻聴)

ありがとう
一旦CMでーす(入るか)


いつもご愛読ありがとうございます、笑


暗い病院の中

時計は午後9時を回り、辺りを完全な闇へと包み込む

 

小刻みに足が震える

心臓が飛び出そうになるくらいの鼓動が聞こえてきた

 

曜「真治君…死なないよね…?」

 

月「曜ちゃん、きっと…大丈夫だよ!」

曜の肩に手を置き、勇気づけるように背中を擦る

 

千「そうだよ!真治君は…こんな事で…」

 

真治が倒れた後、曜と月は彼を病院へと運んだ

そのまま集中治療室に連れて行かれ、はや1時間が経つ

 

梨「月ちゃんは、真治君の幼なじみなんだよね?何か知ってることは無いの?」

 

 

俯いた表情のまま

月はゆっくりと口を開いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月「5年前…僕達が中学2年生だった頃に、真治は交通事故にあったんだ」

 

曜「交通…事故…」

暗い声が不気味に響く

 

月「幸い、命に別状はなかった…でも……」

 

千「でも…?」

 

 

月の肩がガクッと落ちる

 

 

外では雨が降っているようだ

冷たい、凍てつくような雨が

 

月「その時、真治は…昔の記憶を、無くしてしまっていたんだ…」

 

梨「という事は、記憶喪失だったって事?」

 

月「ただ、無くなったのは幼い時の記憶だけ、自分がどこで生まれたのか、どういう風に育ったのか…だから、僕や身の回りの事は覚えていたんだ」

 

曜「真治君に、そんな事があったんだ…」

 

 

その時、手術室の重い扉が開いた

その場にいた全員が出てきた医師に駆け寄る

 

月「先生!真治は…真治は大丈夫なんですか?」

 

医師はふぅと息を吐き、少し朗らかな顔になる

医「心配ありません、命に別状はないです。ただ…」

 

曜「ただ?」

意味深な語尾の濁し方に、その場にいた全員の背筋に悪寒が走る

 

医「頭部のMRを撮影した時に、脳に少し気になる箇所がありまして…恐らく、昔に何かの事故で損傷したんだと思います、日常的に頭痛やめまい、記憶障害が起こっていた可能性があります」

 

月「そ、そんな…」

 

曜「確かに真治君は、たまに頭を抑えて苦しんでいたような…」

 

千「先生!真治君の病気は…治るんですよね?」

涙混じりになりながら千歌が訴える

 

その時、悲痛の篭った声が聞こえてきた

梨「大変です!真治君が…目は覚めたんだけど、様子がおかしくて!」

 

 

全員で病室に駆け込む

月「真治!どうしたんだ!」

 

彼の目は虚ろで、どこか遠くを見つめている

曜「真治…君?」

 

私の問い掛けに、彼は虚ろな目のまま視線を逸らす

ゆっくりと顔を上げ、曜の方を見た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真「君は……誰だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曜「え…」

 

 

何か得体の知れない物に張り付かれているような

心苦しい感覚に支配されていく

 

 

真「わからない…俺が誰なのか、ここはどこなのか…君達が、誰なのか…」

 

月「な、なに言ってるんだよ!君は須藤真治!僕の幼なじみで友達でしょ?そしてAqoursのメンバー、皆…真治の大切な友達じゃないか!」

 

しかし、彼の虚ろな瞳は変わらない…

 

 

 

 

 

 

曜「解離性健忘?」

 

医「はい、ストレス等が原因となって発症するものなのですが、今回の場合、過去の脳への疾患を傷買うあまり、多大なストレスになって発症した物と考えられます…」

 

医師の淡々とした口調に

全員の背筋に汗が流れる

 

月「先生…この病気は、治るんですよね?」

自然と語尾がつよくなる

 

しかし、医師の顔は晴れなかった

 

医「この病気の場合、記憶の空白期間がみられますが、その長さは数分から数十年にも及ぶ場合があります…治るか治らないかは…」

 

千「そ、そんなに…」

千歌の瞳は濡れていた

拭っても拭っても溢れてくる涙に撚って…

 

梨「治す方法はないんですか?」

 

その期待も虚しく、医師の顔は曇ったまま変わらない

医「人間の記憶というものは、木のようなものなんです。1本の太い幹に沢山の枝が連なり、更に葉っぱが無数に取り巻いて、記憶を形作っていく…枝の一部でも思い出せば、全てが命を取り戻す、でも、そもそも木が枯れてしまっていたら……もう二度と立ち直ることは無いのかもしれません」

 

 

重い言葉に曜は心を抉られるような気持ちになる

 

 

医「一般的に、薬とカウンセリングによって徐々に記憶を戻していくのですが…彼の場合、それは病院ではなく、日常生活で行った方が効率が良いのかもしれません」

 

 

月「じゃあ、僕達が真治の記憶を取り戻す手伝いができるって事だね」

その場にいた全員が頷く

 

 

取り戻してみせる

絶対に…

 

 

 

あきらめないことが

夢への手がかりだと

今だから言ってもいいかな

言いたいね

 

迷いに揺れるこころ

それでも前を向いて

やまない雨はないと走って来たよ…

 

 

千「起こしてみせる、もう一度…奇跡を絶対に…!」

 

 

精静高校 校門

冬の冷たい風が肌に突き刺さる

心までも抉られているように…

 

自分が誰なのか

どのようにして育ったのか

友達が誰なのか…

 

 

分からない…

思い出せない…

 

その気持ちが更に自分の心を締め付ける

 

俺なんか…

 

 

月「よっ!おはよう真治!」

 

急に声をかけられ、体がビクリと反応する

真「お、おはようございます…」

 

月「なんで敬語なんだよっ!真治らしくもない!」

わざと明るく接しているのが垣間見える

 

 

あれ?この光景、前にどこかで…

 

頭の中に景色が浮かんできたが

シャボン玉のようにすぐ消えてしまった

 

曜「一緒に教室までいこ?」

少々強引に真治の腕を掴む

 

千「れっつごー!」

 

 

無理やりに手を引っ張って行ってしまった…

大丈夫なのだろうか…

 

 

色々な話をした

学校のこと、クラスのこと、部活のこと

みんなのこと…

 

だけど、何一つ覚えていなかった

何一つ…

 

私達は焦っていた

もう二度と、真治君の記憶が戻らないんじゃないか…

 

それを防ぎたい

早く元の彼に戻って欲しい…

 

その思いが、彼を更に苦していたとも知らずに…

 

 

放課後 屋上

千「ここが、私達スクールアイドル部の活動場所だよ!」

 

曜「なにか覚えてない?」

 

真治は不思議そうに辺りを見回す

梨「見覚えない?」

 

彼は力なく、首を振った

 

月「無理をする必要はないよ!少しづつ、一歩一歩でいいんだから」

真治の肩をポンと叩く

 

彼の表情は変わらない

 

ル「先輩、ほんとに記憶喪失に?」

 

善「ふふっ、いよいよ貴方もこの堕天使ヨハネの下僕となる時が!」

言いかけた時、花丸にチョップを食らった

花「やめるずら!先輩は今大変なんずらよ?」

 

善「じょ、冗談だってば!」

 

月「まぁ、普段通りにした方が、真治も記憶を取り戻しやすいかもね!」

 

 

気楽に言ったつもりだった

彼のためを思って言ったはずだった…

 

それなのに…彼の目は

凍てつく氷のようだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真「もう、やめてくれないか?」

地の底に響くような、低い声だ

 

千「え…?」

 

真「みんな、とても俺に優しくしてくれるのは嬉しい、こんな俺に寄り添ってくれて…でも、分からないんだ!俺が誰なのか、ここがどこなのか、君達は…誰なのか…」

 

顔を両手で覆い、身体を震わせている

泣いているのか、手の間から雫が零れ落ちた

 

月「そんなの、少しづつ思い出せば…」

 

真「楽しそうにすんなよ!俺の…気持ちも知らないで……」

 

 

言いたくない…

本当はこんな言葉、言いたくない…

 

 

胸が苦しい

呼吸が荒い

頑張って息をするが、空気が入ってこない…

 

真「何故だ、何故だ何故なんだ…!」

狂ったかのように頭を掻きむしる

まるで別人のようだ

 

 

真「分からない、思い出せない、心が痛い……限界なんだよ」

 

 

自分で自分を抑えられない

勝手に言葉が出てきやがる…

 

俺は、一体…

何を恐れているんだ?

 

身体がとても熱い

刃物で胸を抉られているように感じる

 

 

曜「真治君…」

 

この世には

言ってはいけない言葉がいくつか存在している

 

その中の一つを、私は聞いてしまった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真「君達とは、絶交だ…俺はもう……耐えられない…自分を抑えられない」

 

瞳孔は開き

錯乱している

 

 

変わり果てた彼の姿はまるで…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鬼のようだった




今回はここまでです!
感想、評価、お気に入り、よろしくお願いいたします!
次回もお楽しみに!


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ぶっちゃけトーク

お待たせいたしました!
(誰にも待っているとは言われてません、笑)
コロナウイルスが猛威を奮っていますね
キャストさん、沼津が無事でありますように…

もちろん、読者様もお気をつけくださいね!

そして、未だにCYaRon!LIVEの余韻が抜けない笑
パーフェクトワールド行きたいなぁ…

そうそう!この間、杏ちゃんにファンレターを出したのでありますっ!
届け、思い笑

今回も頑張って書きました!
(というかネタを絞り出しました)
よろしくお願いします!


終わりと始まりは紙一重

 

昔、誰かがそう言っていたことを思い出した

始まりがあれば必ず終わりが来る

終わりがあるからこそ、何かが始まる…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づくと俺は1人で逃げ出していた

言ってしまった…

絶対に言ってはいけない言葉を

 

後悔の念に押し潰され

呼吸が一層苦しくなった

 

辛い、悲しい、苦しい…

それでも俺の足は止まらない

一刻も早く彼女達から離れなければいけない

そう思って疑わなかったからだ

 

その時、窪みにつまづいてしまい派手に転んでしまう

痛みに顔を歪めながら、ゆっくりと上半身を起こす

 

真「惨めだな…自分で自分が情けない…」

脳裏に、自分に話しかけてくる彼女達の姿が浮かんだ

 

渡辺さんって言ってたっけな

なんであんなに優しくしてくれるんだろう

俺は君のこと、これっぽっちも覚えていないのに…

 

どこまでも弱い自分

大切な記憶は消え、友達さえも失ってしまった

 

真「くっそぉ!」

悔しさのあまり自らの拳を地面に叩きつける

何度も何度も…

 

感覚がおかしくなってしまっのだろうか?

痛みは全く感じない

 

道行く人達は、少々蔑んだ目で自分を見つめている

 

人間は、普通では無いものに対して嫌悪感を抱く生き物

世の中は普通という縄に縛られているようなものだ

 

普通ってなんだ?

普通に暮らすってなんだ?

普通に生きるって…なんだ?

 

答えは見つからない…

ふと自分の拳が目に入った

 

傷だらけで醜い

こんな拳で何を守る?

誰を守れる?

 

その考えが、自分の心をさらに抉る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、1人の女性が真治の前に立った

顔を挙げずに気配だけをかんじる

 

?「こんな所でどうしたんデェスか?こんなに怪我をして…」

 

俺は顔を上げた

金髪の髪を三つ編みにして片側に輪っかを作った、少し個性的な髪型の女性だ

目鼻立ちははっきりしていて、大きな瞳で自分を見つめている

 

女性は俺の手を持ち、優しく撫でた

柔らかい手…

まるで、母親に頭を撫でなれているようだ

 

ふいに我に返り

俺はその手を振り払う

 

悪気はなかった

突然の出来事だったから少し驚いただけ

 

女性は少し頬を膨らませ、大きな瞳で真治を見つめる

?「レディはデリケートよ?あ…もしかして緊張してるとかぁ?」

 

1人でくねくねと身体を動かしている

なんなんだこの人は…

 

真「あの…ほんとにどうしたんですか?」

少し頬を引き攣らせる

 

?「ワッツ?私、そんなに変かしら?」

ヒラヒラと回りながら自分の容姿を確認している

 

昔、ダンスでもしてたんだろうか?

彼女のステップには独特の魅力があった

 

?「そう言えば名前を言っていなかったわね、私は小原鞠莉、気軽にマリーって呼んでねっ」

バチーンと音が聞こえてきそうなウインク

 

鞠莉は絆創膏を取り出すと、真治の拳にぺたりと貼った

少し染みたので顔を歪めた

 

鞠「ところであなた…」

ふっふっふと不気味に微笑む

完全に、黒いオーラが出ていた

 

 

鞠「私と…ぶっちゃけトーク、してみない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

びゅうお

沼津港にそびえる大型水門

遠目からもよく見え、存在感がある

 

上は展望台になっており

雄大な駿河湾を見渡すことが出来る

 

鞠「さっ、ここに座って?」

鞠莉は自分の隣の椅子をとんとんと叩く

 

目の前には太陽

真っ赤な光が2人を照らす

 

真「あの…お姉さんは一体だれ…」

そこまで言ったところで口を塞がれた

 

若干心臓が高鳴る

悪い意味ではない

 

鞠「ノンノンノン、私の事は気にしないで?貴方の事を聞くために、ここに連れてきたのよ?」

 

真「俺の事を?なぜ?」

鞠莉は頬を緩め、真治の顔を正面から見つめる

鞠「あんな道のど真ん中で膝まづいて泣いていて、オマケに酷い怪我…そんな人、放っておけると思う?」

 

そこまで言われて、自分が外から見てどんな状況だったのかを理解した

確かに…放ってはおけないな…

 

真治の顔を見て、鞠莉は穏やかな笑みを浮かべる

鞠「ところで、何があったの?」

 

真治は少し戸惑いながらも、勇気をだして口を開いた

真「実は…俺は記憶をなくしてしまって、学校とか、友達とか…全部忘れてしまったんです、それで、それで…それでも俺を勇気づけてくれた友達に対して……絶交だって、言ってしまったんです…」

 

言葉にするのが辛かった

考えたくもない事だったから…

 

鞠「本音でぶつかりなさい、少なくとも貴方の友達は、貴方の事を大切に思っている、だから、何も心配する必要は無いのよ?」

 

鞠莉は椅子から立ち上がり、遠くの海を見つめる

大きな瞳に真っ赤な太陽が映る

 

鞠莉の一言一言が胸に刺さり

真治は言葉も出ない

 

鞠「貴方の中の記憶は消えても、貴方の友達の中の記憶は…絶対消えないものだから」

 

 

貴方の名前は真治でしょう?

真に治める

自分を信じて、進みなさい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鞠莉と別れた後、真治はとぼとぼと歩きながら家を目指す

 

真「本音でぶつかる…ね…」

自分の手を見る

痛々しい痣と傷だらけだ

 

本音といっても…

こんな自分に手を差し伸べてくれた彼女達

 

そんな彼女達を、俺は突き放した…

後ろを向いて逃げた…

 

理由も無く、傷つけた

それは紛れもない事実

 

 

卑怯、極まりない…

 

 

真「こんな卑怯者の話、聞いてくれるのかな…」

 

 

文字通り、何も考えられなくなっていた…

 

 

ふと耳に声が入り込んできた

とても小さな声だ

 

声のする方に耳を向ける

そこには小学生くらいの少女が座り込んでいた

 

悲しそうに、しくしくと泣いている

真「どうしたんだい?」

声をかけると、悲しげな瞳のまま真治を見つめる

 

少「お母さんとはぐれちゃって…」

哀しみに満ちた顔

 

手を差し伸べようとした手が、止まる

 

傷だらけの拳

俺に関わった人が、みなんな俺から離れていく…

みんなを不幸にさせる

 

母親を見つけたのか、少女は笑顔で去っていった

 

 

よろよろと立ち上がり、歩き出す

目の焦点が合わない

自分が何をしたいのか分からない

 

自分の存在価値が、分からない…

 

そんな事を思いながら歩いていると

人にぶつかってしまった

 

相手は見るからに悪そうな不良グループ

 

自分は心底ついてない人間だとしみじみ思う

 

「おい、お前…周藤じゃねえか」

顔を上げると、見覚えのある顔

 

確かクラスメイトの…

 

的「的場だ、お前、記憶が無くなったんだって?」

的場の後ろには、不良達が立っている

 

真「ごめん、君の事も覚えていない…」

 

的「そんな事はどうでもいい…丁度いいなここで方をつけてやるか」

口元を妖しく歪め、自らの拳をボキボキと鳴らしている

 

真「丁度いい?どういう事?」

 

的「この間世話になった分、きっちり返さしてもらうぜ?」

 

 

いきなり腹を殴られた

 

痛い

 

間髪入れずに顔を殴られ、足を蹴られる

真治はバランスを崩して倒れ込んでしまう

 

的場は馬乗りになり、真治の顔を殴り続けた

 

的「お前が…お前がいるお陰で…!」

彼の目尻には光る物がある

雫が地面に吸い込まれて行いく…

 

腕を止め、肩で息をしている

的「俺は…俺は、渡辺が好きだった、なのに…それなのにあいつはお前にばっかくっついている…小学校の頃からずっとだ!」

 

真「君が月の事を…好き?」

口を懸命に動かし、なんとか言葉を出す

 

的場は涙を乱暴に拭い、充血した目で真治を真っ直ぐ見つめる

的「俺が…あいつに告白した時、なんて言ったと思う?」

 

心臓が高鳴る

体温が高くなっていくのを感じた

 

的「お前の事を…ほっとけないって…お前の事が大切だから、無理だって言われたんだ!」

 

 

なに….?

なんで、どうしてそこまで俺の事を…

 

脳裏に月の顔が浮かび上がる

 

笑った顔

怒った顔

悲しんでる顔

嬉しそうな顔…

 

記憶をなくして、全てを失ったと思っていた

誰も覚えていない

ましてや自分が何者なのかもわかっていない…

 

だけど、彼女の…

月の顔だけは、どこか懐かしいと感じている自分がいた

 

迷子になっていた子供が

やっと母親に再開出来たような

そんな感情が湧き上がっていた

 

 

真「ごめん、俺…何も知らなくて…」

目から一筋の涙が流れる

 

 

的「腹いせに、俺はお前をいじめ続けた…悪い事だってわかってた…でも、許せなかった!俺から大切な人を奪ったお前の事が…!」

 

的場はその場で泣き崩れる

真治はゆっくりと体を起こす

 

真「俺には何も無い…弱い…未熟者だ……」

切れた口を懸命に動かし声を出す

心にまで響くような痛み…

 

 

辺りはすっかり暗くなり

空気も湿っている

 

先程までは星が瞬いていたのだが

今では黒い雲に覆われ、漆黒に包まれていた

 

俺は…彼女達から、離れなければ鳴らない…

自分へのケジメとして




今回はここまでです!

小説の中にびゅうおを出してみました笑
去年初めて行ったのですが、いやーいい眺めでした笑

特に夕方だったので効果が2倍でした笑
皆さんは行ったことありますか?笑

感想、お気に入りくださった方
本当にありがとうございます!
感謝しております笑

次回もよろしくお願いします!


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ツンとデレ

どーも!西鬼です!

ヤヴァイ…
ヤヴァイぞコロナぁ〜

読者様もほんとにお気をつけくださいね(><)
自宅待機で暇を極めてもう死にそうだ、笑

沼津行きたい
切実に、笑
(こんな時に言うとこではない)


この小説が
少しでも皆様の暇つぶしになればいいなと思っています(^O^)

それでは、今回のお話いってみよぉ〜( '-' )b


人間の記憶という物は、シャボン玉のような物だ

フッと湧いてはすぐ消える

 

儚く、哀しい

1度失った物は、そう簡単には戻らない…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨が降っている

地面に突き刺さるような激しい雨だ

 

彼の席は、今日も空いたまま

 

あれから…彼にあの言葉を言われた時から

しばらく彼の姿すら見ていない

 

曜は窓の外をボーッと見つめていた

 

精静高校には、校庭がない

少し離れたところに野球部やサッカー部が使うグランドがあるからだ

 

ここ2、3日ずっと雨が降り続いている

 

凍てつくような冷たい雨

彼は元気にしているのだろうか?

風邪を引いていないだろうか?

1人で寂しくしていないだろうか?

 

そんな事ばかり考えてしまう…

 

「……ちゃん…」

 

そういえばもう少しで修学旅行か…

彼は来てくれるんだろうか?

 

「…うちゃん…」

 

でも、来てくれたとしても

私と一緒に回ってなんてくれないよね…

彼が苦しんでいたのにも気づかなかったのに

 

「曜ちゃん!」

 

振り向くと

千歌ちゃんが慌てた様子で私を見ていた

 

曜「どうしたの?千歌ちゃん?」

千歌は声を出さずにゆっくり前を指さす

 

不思議に思いながらも前を向いた

 

先「渡辺、いつまで上を向いてるんだ?」

クラスメイト達がクスクスと笑っている

 

曜「す、すいません!」

 

顔から火が出そうになった

 

 

放課後 屋上

月「1.2.3.4.1.2.3.4〜」

手を叩きながらリズムを執る

 

もう少しでラブライブ地区予選

あまりうかうかもしていられない

練習にも熱が入る

 

梨「よしっ、1回休憩しよっ」

 

緊張の糸が切れ、皆その場に座り込んだ

しかし、心中は穏やかではない

 

千「はあっ、なんかなぁ〜」

その場にドスンと座り込む

ペットボトルで肩を叩き、軽くため息をついた

 

ル「どうしたの、千歌ちゃん?」

千歌の隣に座りながら聞いた

 

千「もう少しで予備予選なのはわかってるけど…なんか気合い入んなくて」

また、ため息をついた

体も思うように動いてくれない

 

梨「千歌ちゃんだけじゃないと思う、みんなだって…」

 

 

曜は膝をついて座り、顔を埋めた

自然とズボンが濡れる

瞳から水が止まらない

どうしたら…

どうしたらいいんだろう…

 

 

月「でも、今までと変わらずに接していくしかないと思う」

月はゆっくりと立ち上がる

月「ここで僕達が諦めて、真治から離れてしまったら…もう二度と彼の心を開く事は出来なくなる」

 

千「今までと変わらず、ね…」

 

 

 

 

その時、急に月ちゃんが肩を叩いてきた

月「そういえば曜ちゃん、初恋ってした事ある?」

 

曜「は、初恋?な、ないよそんなのぉ」

突然の質問にしどろもどろになる

月「無いの〜?曜ちゃん可愛いから色んな人に告白されてそうなのにな」

 

善「ふふっ、甘いわね…このヨハネが今まで何人の男性を虜にしてきたのかっ!」

 

花「両手の指で数えられる程度ずら」

素直なツッコミに周囲から笑いが漏れる

 

少し、元気が出た気がした

 

 

曜の家

曜「はあっ…」

枕に埋もれながらため息をつく

風呂上がりという事もあり、しっとりとした香りが鼻腔に届いた

 

メッセージアプリを開く

彼のトーク画面を開き、キーボードを出した所で手が止まる

 

どういう言葉を送ったら返してくれるかな

今、何をして過ごしてるのかな

 

結局、いつもメッセージは送れないんだけどね

 

むず痒い感覚に支配される

ここ最近、こんな感じの事が続いている

息が少し詰まり、体の力が抜けた

 

 

 

初恋、か…

 

ひとつだけ、思い当たる節があった

それは小学生の頃の話…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は昔からプールをやっている

塩素のせいで髪色はくすんでいたし

しかも生まれつきの癖っ毛

見た目のコンプレックスに対して虐められる事も何回かあった

 

 

そんな時、1人の男の子が私を守ってくれた

周りの流れに動じることなく…

 

ある時、その子が傷だらけの顔で先生に怒られているのを見た

何か学校の物を壊してしまったんだろうか

その時はそれで解決していた

 

後で聞いた話だが

どうやら私の陰口を言っていたいじめっ子と喧嘩をしたらしい

 

「どうしていじめるんだ!曜ちゃんは…とても頑張り屋さんなんだぞ!」

 

そう彼が叫んでいた事を今でも鮮明に覚えている

 

その後、男の子が私の所に来て四つ葉のクローバーをくれた

「これ、お守り!俺がいない時は、これが曜ちゃんを守ってくれるから!」

 

「ありがとう!大切にするね!」

 

そのお守りは、未だに自室の机の中にしまっている

 

あの後、手を繋いで一緒に帰ったっけ

心が擽ったい、慣れない感覚だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの子はどこに行ったのかな?

元気にしているのかな?

私の事、覚えていてくれてるのかな?

 

いつの間にか眠りについていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後

真「はぁ…なんでかね」

 

いまいち自分の状況が呑み込めていない…

暫く学校には行かないつもりだった

 

クラスメイトにあんな事を言っておきながら

能天気に登校出来るほど俺は強い人間じゃない

 

それなのに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曜「わあっ!真治君!外見てよ!」

 

俺は今、人生初であろう飛行機に乗っている

そもそも覚えてないのだが

 

そう、修学旅行だ…

 

 

 

 

真「……」

 

曜「ほらほら!景色が綺麗だよ!」

 

曜が真治の肩を叩いた時、、

その手を勢いよく跳ね除けた

真「辞めてくれ!」

 

周囲の声が一斉に止む

なんとも言えない空気になり、それと同時に罪悪感に襲われた

 

席に座り直し、ため息をつく

頭を手でクシャクシャにする

 

曜「私は大丈夫だよ?」

曜は心配そうな顔で見つめてくる

 

なぜだ?

なぜそんなに俺に対して…

 

真「俺を…買いかぶりすぎだ」

 

俺は……そんなに良い人間じゃないんだ…

 

 

曜「真治…君」

やっぱり、ダメか…

 

 

新潟県のスキー場

 

白い雪が一面に広がり

辺りは白銀の世界に包まれている

 

先「よし、じゃあ予定通り班行動でスキー実習を開始します」

生徒たちから黄色い声が飛ぶ

せっかくの修学旅行だ

生徒全員が弾けそうな笑顔

 

真「はぁっ…」

修学旅行でこんなにもため息をつく人間など

恐らく自分1人くらいだろう

 

仮病でも使って早めにホテルに引っこもう

そう考えていた時、先生に呼ばれた

 

先「周藤、お前は学校休んでて班行動の班が決められていないだろ?そこで申し訳ないんだが女子の班に入ってくれないか?男子の班が多すぎてこれ以上増やせないんだよ」

 

真「あぁ、わかりました」

どこの班になろうがやることは変わらない

さっさと切り上げて…

 

そう思っていると

後ろから黄色い声が聞こえてきた

 

 

千「真治君〜!同じ班だってさぁ!」

背筋がギクッとなる

いやほんとにギクッと聞こえた

 

梨「よろしくね!真治君!」

 

冷や汗が垂れる

その汗でさえ凍りそうな寒さだ

 

真「いや…あの、ちょっと熱が…」

その時、誰かが俺の額に手を当ててきた

曜「うん、体調は異常なしでありますっ!」

真治は慌てて飛び退く

 

真「や…辞めろ!」

思いっきり怒鳴ったつもりだが

彼女らには照れてるようにしか聞こえない声量しか出なかった

 

 

インストラクターを先頭に、順番に滑って行く

普段からダンスをやっているからなのか、彼女らは上達が早い

 

ところが…

 

真「うわっ!」

また、派手に転んでしまった

どうやら俺は運動音痴のようだ

覚えていないんだけど

 

月「真治大丈夫?何回目だよ、ころぶの」

笑いながら手を差し伸べる

真治はそれを掴まずに自力で立ち上がった

 

梨「見え、張らない方がいいよ?」

 

真「ち、ちげえよ!」

頭に付いた雪を乱暴に振り払う

 

先が思いやられる…

肩に重りでも乗っけてる気分だった

 

 

お昼休み

千「いっただきまぁ〜す!」

ほかほかのカレーを前にして

千歌は目を輝かせながら手を合わせた

 

曜「美味しそうだね!」

 

梨「有名なスキー場だから、料理もグレードが高いのかな?」

 

月「真治、あーんしてあげようか?」

控え目に睨みつける

冗談、と言いながら月は引っ込んだ

 

千「真治君、食べないの?」

一口も手をつけない真治に、心配そうに聞いた

 

真「あぁ、あんまり食欲無くてな」

 

この言葉は嘘では無かった

極寒の中で転けまくり

体温が奪われすぎて涙も出ない

 

色々奪われすぎて、最早手を動かす気力も無かった

 

曜「少しくらい食べとかないと体が持たないよ?」

 

真「……わかった」

 

ただ単に返事をしただけだ

それなのに彼女達は、顔を見合わせて喜んでいる

 

ため息をつく

最近、いつもこんな感じだ

 

物事に感動することが出来ない

人の気持ちが分からない

 

自分が何をしたいのかも…

 

 

少し…頭がクラっとした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽しそうにしている彼女達

その姿を見ていると、自分の中の影が晴れていくように感じた

 

その一つ一つの笑顔が、太陽のように見えた

 

男に二言はない

昔、誰かに強くそう言われた気がする

 

1度決めたことは、最後まで突き通さなければならない…

 

絶交だと、言ってしまった

簡単に言ってはいけない言葉だって分かっているのに

 

それでも彼女達は

変わらず俺に接してくれる

変わらず、俺の事を考えてくれている

 

そこまで考えて所でぶんぶんと頭を振った

違う違う違う違う…!

 

哀れんでいるだけだ

記憶をなくし、自分を見失ってしまった自分の事を

可哀想な人だと思っている

 

結局、人間なんて皆同じなんだ

一時的な優越感を得る為に、人に愛想を振りまく人もいる

 

結局俺はそこまでの人間

哀れな人間なんだ

 

そんな考えばかりが浮かんでくる

 

 

あれ?

俺、頭おかしくなっちゃったのかな?

 

頭がクラクラする

 

 

周りの生徒達は、とても楽しそうにスキーをしている

辺り一面が、笑顔で溢れている

 

素晴らしい銀世界が広がる荒野に

ドサリ、という気味の悪いメロディが響いた




今回はここまでです!

皆さんは高校時代の修学旅行はどこへ行かれましたか?
自分はスキーとネズミの国なので、小説のネタそのままです笑
ちなみに、自分もスキー場で風邪をひいてしまって
結果1度も滑らないという事がありました、笑

新潟県の某スキー場なのですが、皆さんは知っていますか?笑

曜ちゃんに熱とか測って貰いたい、笑( '-' )ノ)`-' )バシッ

後書き長くなりました
誤字脱字等ありましたらご指摘お願いします!
次回もよろしくお願いします!


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痩せ我慢

どーも!こんにちは!
今回より名前を西鬼改め、黒死牟(こくしぼう)にしました!
某アニメの某キャラです笑
これからもよろしくお願いします!

Twitterで自作のAqoursのイラストを投稿したのですが、
なななな、なんと!490ものいいねを頂きました(T▽T)
あーありがたい、ありがたや、ありがとう、笑
なんだが気持ちが届いた気がしました(´∇`)

そして、今回は少し長めです!
お付き合い下さい<(_ _)>
よろしくお願いします。


日もとっぷり暮れ、辺り一面が暗闇に包まれる

 

夜空に煌めく星たちが

雲の合間から顔を出している

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千「真治君…」

 

ベットに横たわる真治

彼が雪原で急に倒れ、眠り続けて約4時間が経過している

 

曜「千歌ちゃん、医務の先生が熱を出して倒れただけだって言ってたよ?だから大丈夫、」

 

千「で、でも…」

 

 

脳裏に焼き付いているのは、あの日の記憶…

 

笑い合い、喜び合い

一緒に頑張って来た毎日…

 

全部、夢のように消えてしまった

 

未だに、その事が信じられない

次の日に会えば、いつもと変わらない用に話せる

そう錯覚してしまう時が、時々あった

 

ベットに横たわる彼の顔を見る

額に汗をかいているが、スヤスヤと寝ているようだ

顔が紅潮しているのが目に見えてわかる程なので、どれだけ熱が高いのか予想がつかない

 

梨「千歌ちゃん、そろそろ夕食の時間だから…皆も待ってるよ?」

千歌の肩に手を置く

小刻みに震えていた

 

きっと、怖いんだろうな…

 

次に真治君が目覚めた時

また、記憶が無くなってるんじゃないのか

 

というより、二度と目覚めないのではないか…

 

そんな考えばかりが、

悪い思いばかりが脳裏を過る

 

月「心配ばかりしても、真治は戻ってこない…根気強く待とうよ?」

失った物を、取り戻すのは難しい

その気持ちはみんな同じだ

 

千歌は真治から目を逸らし、背中を向けた

目から溢れるものがある

 

彼に、絶交だと言われた日

私は家に帰るなり静かに泣いた

胸が締め付けられ、心が痛かった…

 

 

曜「私達がしんみりしてちゃ、意味が無いと思う…みんなで約束もしたし!」

 

少し、無理をした

 

空気を変えたかった

私だって怖い

 

 

涙が出そうになるのを、ぐっと堪える

溢れてきたものを片手で無理やり拭った

 

大丈夫

そう自分に言い聞かせた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朧な空気が漂う

体が鉛のように重く感じる…

 

真治はゆっくりと目を開けた

目だけを動かして周りを確認する

自分の部屋ではない

 

朧気に手を上に上げる

体に力が全く入らない

 

真「ここは…どこだ?」

 

確か、スキーをしてて…

それで、急に頭がクラっときて…

 

あまり、詳しい事が思い出せない

 

そのまま自分の額に手を乗せた

かなりの熱を帯びており、そのまま深く目を閉じる

 

 

修学旅行先でさえ風邪をひく

なんて不幸なんだよまったく…

 

そう言えば序盤に俺は仮病を使おうとしたな

そのツケが回ってきたのか?

 

 

そんなくだらない事を考えていると

ガチャリとドアが開く音が聞こえた

 

女の人が入ってくる

あまり見覚えがないが、白衣を来ている事から医療関係者である事は確信した

 

先「大丈夫?気がついたんだね」

 

真「えと…あなたは?」

上手く口が動かない

声を出すだけで疲れた

 

先「私は保健係の先生です、須藤君、だったよね?君、雪の中で急に倒れたんだよ?もうみんな大騒ぎ、一緒の班の渡辺さん達がここに運んでくれなきゃ今頃危なかったかもしれない」

 

真「そうですか…渡辺達が俺を」

なんで助けてくれたのか

俺は理解が出来なかった

 

あんな酷い仕打ちをしたのに

言ってはいけないことを言ったのに

 

だが、よく考えてみると

急に目の前で人が倒れれば、その人が自分とどんな関係であれ助けるのが普通だろう

 

条件反射みたいなものだな

 

そういうことで勝手に頭の中のモヤモヤを消し去った

 

先「幸い、熱以外に特に症状は無いから、このままゆっくり休めば明後日の東京観光までには治ると思うから安心してね」

 

別に観光なんていいからこのまま永久に寝ておきたい

これ以上迷惑をかけたくもないし、関わりたくもない

 

自分には…この修学旅行を楽しむ資格なんてない

 

 

どうせ、ひとりぼっちだし

もう、何も考えたくなかった

深く寝返りをうち俺は目を瞑った

 

 

2日目 朝

晴天の朝だった

カーテンの隙間から差し込んで来た太陽の光が頬にあたる

少し熱を持った頬を手で抑え、軽くあくびをした

 

ゆっくりと体を起こす

少しだるく感じたが、昨日よりはマシだ

 

ドアが開き、保健係の先生が入ってくる

心配そうな顔をしていたが、真治が起きている姿を見て胸を撫で下ろす

 

先「おはよう、どう?体の調子は」

 

真「おはようございます、少しダルいですけど昨日に比べれば全然平気です」

その言葉を聞くなり、先生はまた胸を撫で下ろした

 

先「熱も大丈夫見たいだけど、大事をとって今日は大人しくしていた方がいいと思うけど…大丈夫?」

申し訳なさそうに真治の顔を覗き込む

 

せっかくの修学旅行

先生からすれば、存分に楽しんで貰いたいが故にやるせない気持ちなのだろう

 

俺は表情を変えることなく口を開く

真「いえ、まだちょっと体が重いですし、そうしてもらった方が逆にありがたいですよ」

 

というか願ったり叶ったりだ

もうこれ以上あいつらと同じ班なんてごめんだよ

 

帰りの分の体力まで持っていかれそうだ…まったく

俺がこうなったのも、元はと言えばあいつらから死ぬ程連れ回された事が原因だろうしな

 

班に入れてもらってこんな事を言うのは気の毒だが

正直、ありがた迷惑だった

 

最近いつもこんな気持ちになる

頭がぼーっとしてなんの感情も無くなり、そこには何も残らない

見ていたはずの夢でさえ、思い出せない

 

心がどこかに行ってしまったようだ

 

 

俺はその後、先生と一緒に食堂に降りた

勿論、他の生徒に風邪を移さないようにするため少し離れた位置で食事をとる

 

心持ちはあまり良くないが、このホテルの料理は結構美味しいと感じる

昨日の昼のカレーだって、割と本格的な味を出していた

 

ある意味それだけが、この修学旅行で唯一感動したことだな

 

ふと何気なく辺りを見回すと、渡辺達のグループが目に入った

何やら楽しそうに男子生徒と話している

 

あれは確か…

うちのクラスの評議員、だったか

 

頭はキレるし運動抜群

おまけに陸上部のエースでキャプテンだ

それなりにモテるだろうと前々から感じている

 

ふと、彼と話している曜の顔に目が止まった

弾けるような笑顔

 

やっぱりああいう人の方が好きなんだろうな

 

最近のクラス事情が頭に浮かぶ

思い返すと、彼はいつもみんなの人気者

俺は隅っこの方でひとりぼっち

 

オマケに彼女達はスクールアイドル…

 

どっちを取れば天秤が釣り合うのか

猿にでもわかるだろう

 

 

そう考えていた時

急に、胸が締め付けられる感じがした

 

なんだ?

なんでこんなに、胸が痛む?

あいつが誰と関わろうが、誰と付き合おうが俺には関係ない

 

それなのに

そう思っているはずなのに

 

なんだ?この胸の痛みは…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は

ひょっとしてあいつの事が………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は我に返り、頭を強く降る

なに考えてるんだ…

 

勘違いするな

あいつらは俺に同情していただけ

 

そう、人間なんて殆どが偽善者だ

自分を良く見せようと、必死に正義という名の羽織を着飾る

 

俺は、同情されているだけなんだ

くだらない

結局は俺の事なんて…どうでもよいと思ってるに違いない

 

必死に心に言い聞かせ、真治は自身の胸を掴む

気がつくと、胸の痛みは消えていた

 

荒い呼吸を繰り返す

大きく息を吸い、気持ちを必死に落ち着けようとする

心臓の鼓動が体の中で響き、耳たぶが熱を持った

 

 

俺は急いで食事を済ませ、部屋に戻る

 

忘れよう

それがいい

 

辛い事、悲しい事、苦しい事

全てを背負い込む必要は無い

思い出したくないことは、無理に思い出す必要なんてない

 

自分の中でそう解決し、俺は布団を頭まで被った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、部屋の外から慌ただしい声が聞こえてきた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やるせない気持ちだった

 

私達のせいなのかな?

 

私達が真治君を無理に連れ回したから…

 

曜「はあっ…」

ため息をつく

最近、こういう事がよくある

 

彼が倒れた時、

心臓が高鳴り、胸が苦しくなった

 

あの時、彼に絶交だと言われた時…

それと似たような感情に支配された

 

何か黒い錆のような物がこびり付いた様な

とても、嫌な感じ

 

 

私って、結構重たい女なのかもしれない

割とお節介だし

 

昔にも、そんなことがあったっけ

千歌ちゃんと梨子ちゃんの関係に嫉妬して、自分なんて必要ないって思っている時期もあった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

考え事をしていると、周りが見えなくなる

夢中になっている事があると、それに熱中してしまって人の声なんてさっぱり聞こえない

 

そんな事があると、たまに凄く後悔する時がある

 

 

私は、道に迷ってしまった見たいだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千「曜ちゃーん!」

 

月「どこー?」

必死に呼びかける

返事は帰って来ない

 

迂闊だった

真治が倒れてから、ずっと曜ちゃんの状態がおかしかったのに、私はそこまで気にも止めていなかった…

 

月は拳を握り、更に声を張り上げる

月「曜ちゃーん!聞こえたら返事をしてー!」

 

その時、梨子が荒い息をしながら戻ってきた

千「梨子ちゃん、どうだった?」

 

梨「部屋にはもどってなかつた…先生も、見てないって…」

呼吸を整えながら言葉を出す

上手く声が出せないのは疲れているだけでは無い

 

時刻は午後5時、辺りが少しづつ闇に包まれていく

千「どうしよう…もうすぐ日が暮れちゃうよ…」

半泣きのまま、千歌は拳を握り締める

 

月「まだ希望はある…私達が諦めちゃダメだよ!」

月は千歌の肩に手を当て、涙を流しながら言った

 

千「月ちゃん…」

溢れてきた涙を乱暴に拭い、千歌は大きく頷く

 

絶対に見つける…

私達は諦めない!

 

吹雪は更に強さを増していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曜「はあっ、はあっ…」

息が荒くなってきた

体は凍え、どんどん体温が失われていく

手足の感覚も無い

 

皆とはぐれ、吹雪の中を彷徨い続けてかなりの時間が経つ

 

 

自業自得、なのかな

真治君の気持ちも考えず、自分勝手な考えで彼を更に傷つけ、挙句の果てに体調を崩させてしまった…

 

私のせいだ

私のせいで真治君は…

 

下半身の力が無くなり、その場に膝を着く

どれくらい歩いたのか分からない

辺りは既に真っ暗で、人の気配などこれっぽっちもない

 

吹雪が更に強くなり、体の体温を更に奪ってゆく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バカだな私、バカ曜、だよ…

 

 

あの時、こうしていればよかった

もっと他の言葉を掛けてあげればよかった

 

でも、それは後の祭り

過ぎた時間は絶対に戻らない

そんな事考えても意味なんて無いかもしれない…

 

薄らと涙が浮かび、雪の中へと消えてゆく

呼吸もしずらくなり、体はピクリとも動いてくれない

 

曜「み、んな……し、ん…じ、く……ご、め………」

 

 

私はその場に倒れ込み、静かに目を瞑った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月「だめだ、見つからない…」

 

時刻は午後6時を回った所

吹雪はなり病むことを知らないようだ

 

あれから小一時間、血なまこになって曜ちゃんを探したが一向にみつかる気配がない…

 

体力の事を考えると、そろそろ危険な状態だ

 

感覚が無くなりつつある手を無理に握り締める

 

千「曜ちゃん…いやだ、いやだよ…」

 

梨「千歌ちゃん、まだ希望はある…だから…」

梨子の声は震えている

 

月「最後まで…諦めない」

昔、どこかの誰かが教えてくれた事

 

月はホテルの方を見つめ、一筋の涙を流した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朦朧とする意識の中

私はこっちへ近づいてくる人影を見た

 

背が高く見える、荒い呼吸で私を見ている

 

その人は、私を抱き上げると必死そうに走り出した

首筋に頬が当たる

 

あったかい

 

小さいけど、とても頼もしく思える背中

もしかして、クラスの評議員の…?

 

 

 

 

 

 

いや、違う

微妙に気配が違った

 

 

どこか、懐かしい匂いだ

 

 

曜「だ………れ…」

 

 

 

 

私の意識は、そこで途絶えた




今回はここまでです!
次回もよろしくお願いします。


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変わり目

どーもこんにちは!

皆さんいかがお過ごしですか?
自分は家に居すぎて頭が狂いそうです笑

暇だからイラストを書いていると、
偏頭痛が止まらなくなりました(´∇`)→雨のせい

今回もよろしくお願いします!


頭がぼーっとしている

 

今、自分が何をしたいのか、何を求めているのか

考えが浮かばない

 

まるで、頭の中が深い霞に巻かれているかのような

そんな気持ち

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前にバスが止まる

私は体に勢いを付けながら階段を上がった

 

いつもの窓際の席に千歌ちゃんと梨子ちゃんが座っている

千「おはよう曜ちゃん、月ちゃん」

 

梨「おはよう2人とも」

 

曜「おはよう」

作り笑いをする

最近、心から笑顔になることが出来ない

 

ゆっくりとシートに腰を降ろす

年期の入った椅子がギシリと軋んだ

鞄に両肘をつけ、両手で顔を支える

 

月「それにしても、曜ちゃんを助けてくれた人は誰だったんだろうね?」

 

梨「先生達も分からないって言ってたね…」

 

千「でも、無事で何よりだよ」

千歌は朗らかな表情で曜にピタッとくっつく

若干、顔が赤くなる

 

曜「ありがとう、私もいまいち覚えてなくてね…」

 

 

修学旅行の時、私は雪山で遭難してしまった

完全に自業自得、

私のせいで、色んな人に迷惑をかけたに違いない…

 

意識が薄れていく中、私は誰かに背おられている感覚だけはあった

あんまり大きくはないけど、どこか頼もしい背中…

 

誰だったんだろう

 

 

窓の外から太陽の光が当たる

今日は雲ひとつない快晴だ

 

梨「クラスの評議員の人じゃない?あの人、曜ちゃんに気があるみたいだったし」

 

曜「や、やめてよ梨子ちゃん!」

頭をぶんぶんと振りながら否定する

 

千「でも確かに、あの人は曜ちゃんが居なくなったって聞いてから本当に必死になって探してたから…もしかしてあの人が助けてくれたのかも?」

 

曜「私も一瞬そう思ったんだけどね、違うと思う」

そう、確かにあの背中は評議員の人ではなかった

 

なんだかこう…安心する背中というか…

昔、背負われたことがあるような…

 

そうこうしているうちに、バスが止まる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教師に着くと、俺は鞄を放り投げドスンと席に座る

机に突っ伏し、腕の中に顔を埋めた

 

クラスメイト達の騒がしい声が耳に届く

 

その時、俺の椅子が誰かに蹴られた気がした

顔を上げるとそこにはクラスの評議員君

 

「ごめん!ちょっと突っかかっちゃってさ」

人が良さそうにはにかむ

若干当たりが強い気もしたが、彼に限って下心はないだろう

 

彼はそう言い残すと、俺の前の席の渡辺達の所へと行ってしまった

俺は再び顔を埋め、ひとりの世界に戻る

 

 

悲しくなんてない

自分にそう暗示を掛けた

 

 

 

 

 

 

 

放課後

もう少しでラブライブ地区予選

修学旅行の余韻も程々に、メンバーは練習に勤しんでいる

 

 

 

 

月は1人

屋上ではなく、ある人物の背中を追っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月「待って、真治」

商店街の大通り沿いに出た所

人通りは少ない

 

真治はゆっくりと顔を動かし、月をしっかりと見据える

表情は変わらない

 

 

月「教えて?修学旅行の時、曜ちゃんを助けたのは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真「俺だとして、どうする?どう思う?」

 

月「なんで、何にも言ってくれなかったの?」

 

少し目を逸らす

真「どんな関係であれ、流石に放っておけない状態だったから、だから助けた、それだけ」

 

月は胸を抑える

心臓の鼓動が直に伝わる

 

俺は彼女を見据え、次の言葉を待つ

どういう風な返しが来るのか、予想がつかなかったからだ

 

関わらないで

そんな感じの言葉が帰ってくる、そうに違いない

なぜなら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月「ありがとう、僕達の親友を守ってくれて」

それだけ言い放ち、月は背中を向けて歩き出す

 

振り返る直前、彼女は母親のような穏やかな笑顔をしていた

 

 

はっとする

 

予想外の展開、

俺は頭が真っ白になった

 

ありがとう

 

そんな言葉、何年振りに言われたのだろう

 

荒のない感謝の言葉

その一言が胸に深く突き刺さる

それと同時に、今までに感じたことの無いような爽快感に心が支配されていく

 

 

ふと、自分の拳を見る

 

傷だらけ、痣だらけの拳…

これを単なる傷とみるか

はたまた、鍛錬の勲章と受け取るのか

 

 

俺は、俺のしてきたことは…

 

胸が苦しい

心臓を真綿で締め付けられている感じ

 

 

ふらふらと町を彷徨う

 

物は見よう、言葉は捉え方

涙がこぼれ落ちそうになった

 

 

?「先輩…ずら?」

 

不意に声をかけられた方を見る

そこには栗色の髪色の文学少女が、駄菓子屋のベンチにちょこんと座っていた

 

名前はたしか…

 

花「えと…おらは国木田花丸ずら、覚えていないんずらよね?」

 

真「申し訳ないけど、君が誰なのかよく分からない…」

 

まぁとにかく

と言わんばかりに花丸は自分の隣の席を叩く

 

座れの合図に答え、真治はゆっくりと腰を下ろした

 

真「練習は終わったのか?」

 

花丸は回転焼きを口にほうばりながら答える

花「はいずら、大会も近いからそこまで長い練習もできないずら」

 

真「そうか…」

 

真治は俯きながら声を出す

真「俺は…やっぱり渡辺達にとって、迷惑な存在だったのかな?虐められっ子で、自分勝手で…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

花「誰も、そんな事思ってないずらよ」

 

 

予想外の返しに、真治は目が点になる

 

花「一日一善、日進月歩、無理せず一歩一歩進めばいいんずらよ」

 

真「でも、俺はその道を自分で断ち切ってしまった…自分の価値観だけで行動してた…」

 

花「マル達だってそうずら、スクールアイドルを始めたばかりの頃はほんとに大変で、でも、そんは毎日が楽しくて…だから、おらは千歌ちゃんに感謝してるずら」

 

真「感謝…か」

久しぶりに口にした言葉

 

俺は贅沢だったのかもしれない

自分の価値観で、人の優しさを踏みにじり

挙句の果て縁を切ろうとし、自らそれに対して背を向けた

 

虫が、よすぎるな

 

真「ありがとう、スッキリしたよ」

 

花丸は急な感謝の言葉に戸惑いながら、恥ずかしそうに左手を差し出した

そこには紙袋に入った回転焼き

 

真治は回転焼きを1つ取って口に運ぶ

香ばしい生地の中にほんのり甘い粒あんが詰まっている

 

こんなに美味しいものを食べたのは、どれくらいぶりだろうか

 

腕に雫が落ちる

俺は夢中で回転焼きを食べる

 

なぜだか、涙が止まらない

おかしいな

 

ただ美味しいものを食べただけなのに

普通の日常に「戻った」だけなのに

 

真「うっ…なんで…こんなにおいしいんだ…」

 

普通に生きる という事は簡単そうで以外と難しい

その人にとっては普通でも、他人から見れば異質に見える事もよくあるだろう

 

俺は、自分の普通を他人に押し付けていたのかもしれない…

 

花丸は真治の様子に戸惑いながらも、優しく背中をさする

花「大丈夫ずら、先輩はなんにも悪くないずらよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方物陰では

 

善「くううっ…先輩の隣は私のはずなのにいいぃ」

 

ル「善子ちゃんがじゃんけんで負けるからだよ…ルビィは恥ずかしくてできないし…」

 

善「くくっ、心配無いわ…先輩はいずれ私の物に…」

ルビィは善子のお団子に手刀を乗せる

ル「やめるずら?」

 

善「なんでずらまるの真似なのよ!」

 

あんまりうるさくしすぎたせいで真治に気付かれ

一目散に逃げる善子だった

ル「(曲がり角で、思いっきり転けちゃったけど…)」

 

十千万旅館

梨「千歌ちゃん、歌詞はどんな感じ?」

 

千「うん、順調だよ」

愛おしそうに歌詞ノートを撫でる

 

曜「衣装の方はルビィちゃん達がやってくれたから、もう大丈夫だよ」

 

梨「曜ちゃん大丈夫?なんだか元気が無い感じだけど?」

 

 

曜「ばれ…ちゃったか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曜「私、クラスの評議員の人に告白されたんだ」

 

千「えっ…」

 

「ええぇぇえええ!」

 

怒号が飛ぶ

下の階から志満姉の咳払いが聞こえてきた

 

千「そそそそそそれで…」

 

梨「どうしたの?」

千歌と梨子は顔を真っ赤に染め、お互いに抱き合っている

 

曜「それは…」

もじもじとそっぽを向く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、部屋のドアを開けて月が入って来た

全員の視線が月に集まる

梨「月ちゃん今までどこに居たの?」

 

月「ちょっとね、もう済んだから大丈夫」

曜の目の前に立ち、瞳をまっすぐと見つめる

 

月「曜ちゃん、曜ちゃんの事が本当に好きなのは…」

 

 

言いかけた時、空いた窓から紙飛行機が入って来た

 

近くの子供のイタズラだろうか

全員がそう思っていると

千「あれ?この紙飛行機、中になにか書いてあるよ?」

 

紙飛行機をばらす

割と丁寧に折ってあるから、几帳面な人が作ったのだろう

と、思ったが 中の字は小学生の様な物だった

 

曜「なんだろう、これ?」

 

「正面に舵を切った時 海原に道が開ける」

 

千「どゆこと?」




今回はここまでです!
次回もよろしくお願いします!


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