ヤマダさんの勘違い (詞瀀)
しおりを挟む

プロローグ

ーーー別に強くなりたかったわけじゃないんだ。お金が欲しかったわけでも、まして名誉なんて望んでなんかいなかった。

俺はただ、愛されたかったんだ。

 

ーーそれは、ただの痛い人間で、一方通行な醜い感情でしかなかったんだけど。

 

気付いた時には、いや、目が覚めた時にはもう取り返しのないところまで来てしまっていた。

異世界転生して、神様とかには会えなかったけども、ありふれたチートみたいなのを手に入れて、「勇者になって魔王を殺して、色々な美女に愛されたい」なんて、クソみたいに恥ずかしい考えで修行して。

冒険者ギルドという、妄想の中だけだと思っていた、ファンタジーな所で沢山の思い出(今思えば黒歴史だけど)を作り上げ、(俺の一方通行な)恋愛も色んな女性と繰り広げて。

ついには人類の敵である魔王を打ち滅ぼした。

 

ーーそして、その直後に(俺が勝手に思っていた)恋人達に裏切られた。

 

ーーあぁ、いや、裏切られたというのは少し違うかな?

 

だってほら、俺が勝手に恋人だと思っていただけだったのだから。

 

「貴方みたいなのと誰が恋なんてしますか。貴方とするぐらいなら豚とでもしていた方がまだマシですわ。…というか、私達には皆んな、ちゃんとしたフィアンセがおりましてよ?」

 

とは、ルーベン王国第三王女にして稀代の大魔術師、アリス様のお言葉だ。そのほかにも、2人いた恋人達には手酷く振られたものだ。

当時は裏切られた!なんてこと考えて復讐心とかで一杯だったんだが、冷静になった今となってはよくわかる。

前にも言った通りだが、裏切られたなんてのは俺の勘違いでしかない。そもそも、「自分を愛して欲しいけど、俺は別にお前だけを愛しているわけじゃない」などと考えている男を、いったい誰が好きになんてなるものか。それは、ただの独りよがりで、女をただの物としてしか見れてない、クズ野郎の考えだった。

 

ーーけれど、それに気付いた時にはもう、遅すぎて。

 

俺の勝手に思っていた恋人達、

ルーベン王国第三王女にして稀代の大魔術師、アリス・ルーベン

たった1人での竜殺しを成し遂げた、偉大なるドラゴンスレイヤー、マリーヌ・ペンドラゴン。

その護りは如何なるものにも崩せない、不壊の盾使い、リリィ・ナーガン。

 

皆んな数年前に結婚したらしい。

 

ーー悲しいし、苦しいことだけれども。

 

だけど、紆余曲折あって、それらのことと折り合いを付けることができた俺は、今孤児院で先生をやっている。

 

あぁ、ちなみに俺の渾名は、癒しの勇者ヤマダ。

 

ーー市街では寝取られもやし野郎として名を馳せている、勘違い男である。




思うように書けずに悔しいです…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一話

ーー朝日が昇るとともに目が覚める。窓から入ってくる陽の光に目を細め、今日はどういうことをして子供達と過ごすかを考えながら、パジャマから普段着である、白を基調として所々に金の刺繍が施された美しい神父服に着替える。

 

俺が経営しているここ、孤児院“ハピネスハウス“は二階作りのこじんまりとした白い一軒家の様な外観をしている。一階は子供達の寝室やトイレなどの居住空間が広がっており、二階は俺の寝室やたまに来る客人用の応接室などがあって、普段は一日の大半を一階で子供達と過ごしている。

そして、着替えを終わらせた今向かっているのが一階にある子供達の寝室だ。ここは男の子用の大部屋と女の子用の大部屋の二つを作ってあるのだが、今のところは女の子しか孤児院にいない為、自然と向かう先は女の子用の大部屋となる。

 

階段を下り、大きなホールを通って左にあるのが子供達の寝室だ。

 

まずは一度扉をノックし、声を掛ける。

 

ーーコンコン。

 

「朝だよ。今からご飯を作るから、準備ができた子からリビングにおいで。今日は新鮮な卵を使ったオムライスだよ」

 

なるべく優しく、声が通るように話しかける。

こういう、子供達を考えた行動を取れるようになったのも孤児院を開いてから随分と時間が経った後だった。

 

ーーそういえばあの子、まだ元気に冒険者活動できているだろうか?

 

などと、そういった気配りなどを学んだりなど、共に二人で成長してきた自分の初めての子供のことを思い出していると、部屋の中からもぞもぞと動く気配を感じる。

 

「ーーーうう、はーい。いまおきまぁーす」

 

ーーこの声はミーナかな?

 

「うん。じゃあ、しっかりと顔を洗ってくるんだよ」

 

少し甘えたような声に返事を返し、宣言通り朝食を作りにキッチンへと向かう。

ちなみに、ここの家の家具などは全て俺や子供達の手作りであり、現代日本のような機能を持ったものも少なくない。というのも、キッチンもまた俺の子供達が作ってくれた家具であり、とても便利なのだ。

 

トントンと包丁で具材を切り、栄養バランスを考えてサラダなども作ろうかなーなどと思いながら調理をしていると、トタトタと小さな足音が近づいてきた。

 

「ーーーわっ」

 

背中に軽い衝撃が走る。思わず少しふらついて声を漏らしてしまう。

 

「せんせぇ、おはよぅー!」

 

ゆっくりと体ごと振り返って朝っぱらから体当たりなんてぶちかましてきたおバカさんの顔を見る。

 

ーー美しくサラサラとした銀髪をたなびかせてやってきたのはやはりというべきか、今さっき俺の声に返事を返してくれたミーナであった。

 

いつも通りの口調で、優しく語り掛ける。

 

「はい、おはようございます。ところでミーナ、先生に挨拶以外にももう一つ、言わないといけないことがあるでしょう?」

 

「ぇう?うーんとねぇ…あっ、分かった!」

 

ーー本当だろうか。

 

「せんせぃ、大好きぃー!」

 

そう言って胸に思いっきり頭をグリグリと押し付けてくるミーナに、驚きで少し声が詰まった。

 

「ーーーそっか、ありがとう、ミーナ。先生嬉しいな」

 

ーーけど、言うべきことは言わねば!

 

「…でも違います。急に体当たりして御免なさい、でしょう?包丁を持っている時にそう言うことをしたら危ないって何度言ったら分かるのかな?」

 

ゆっくりとミーナを手で押し返すと、ミーナが大きな青い目でこちらの顔を下からぐっと覗き込んでくる。その表情は、やはりと言うかキョトンとしていた。

 

「でも、どうせ包丁なんてわたしには刺さらないよ?」




ホラーみたいになっちゃった…
途中で力尽きちゃったんです。次こそは長いのを頑張って投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話

そう、彼女には普通の刃物は刺さらない。何故なら、彼女は吸血鬼族の真祖の末裔であるからだ。

 

ーーこの世界には色々な高知能生物が存在している。普人族や亜人族はもちろんのこと、魔獣や精霊種など、人型生物以外にも様々な生き物が高い知性で言語を操ったり魔法を使ったりしており、中には人間よりよほど頭のいい者だって存在しているのだ。

そうした事情もあり、実はこの世界は差別や偏見は、元いた世界に比べてよっぽど少ないのだ。

話が逸れた。それはともかくとして、彼女はそういった高知能生命体の中でも最上位に位置するような種族の血を引いており、実のところ俺よりも断然強かったりする。

 

ではこんな子供にも負けてしまうような俺が、何故魔王を討伐できたのか?

簡単だ。実は魔王はとても弱かった、ただそれだけのことにすぎない。

そもそも、魔王は俺たち普人族にとってはとてつもない脅威だったのだが、世界的に見るとどうやらそういったわけではなく、魔族の中ではそこそこに強い程度だったらしい。

そんなやつが何故魔王になんてなったのか。それらの事情を知ったのも魔王討伐を終えてだいぶ経った後だった。

 

ーー俺は、俺はとにかく未熟だったのだ。今でも強く後悔する。何も知らずにへらへらとしていたあの頃を思い出すたびに、自分を殺してしまいたくなる。

 

「せんせー!どうしたの!?手、手から血が出てるよ!?」

 

言われて気づく。どうやら、自分の拳を強く握りすぎて爪が掌に食い込んでしまっていたらしい。

 

「せんせいーーー」

 

ーー心配を、掛けてしまったのだろうか?

いや、それはそうだろう。いきなり目の前で強く手を握って血を流し始めたのだ。また失敗した。早く謝らなければ。

 

ーー俺はいつもそうだ。なんでこんなにーーー

 

ーーーいや、違うだろう。また考えすぎておかしな方に進むところだった。とりあえずは謝罪を、と俺が口を開こうとするとーー

 

「ーーーその血、舐めていいー?」

 

ペロッ、と音を付ければそういう風になるのだろうか。急に血を舐められた。

 

「ひぅっ」

 

思わず恥ずかしい声が漏れる。

注意しようとして口を開こうとするが、それより早く彼女が話し始める。

 

「えへへぇー。くすぐったかったでょー?ーー元気、出た?」

 

ーー息が詰まった。子供に気を使わせてしまうなんて、先生失格である。最近、色々とゴタゴタがあって弱気になっていたのかもしれない。

頑張らないといけないな。

 

「うん。元気、出たよ。ありがとうね。ーーでもね、ミーナ。相手に許可を得る前から血を舐めちゃ聞く意味がないでしょう?」

 

まあ、注意はするんだけど、ね。それとこれとは別ということで。しっかりとした子に育って欲しいから。

 

「えー? …まあ、いっか。はーい。今度から気を付けまーす。」

 

「うん、よろしい!じゃあ、先生オムライス作っておくから、ほかの二人もちゃっちゃと起こしてきて?」

 

「おむらいすー!?分かった、急いで起こしてくるねー!」

 

ドップラー効果音だったかな? とにかくその様な音を響かせながら走っていくミーナに、思わず笑みが浮かぶ。

 

「こけないようにねー」

 

恐らく、こけても怪我なんてしないよーなんて言うのだろうけれど、念のため声を掛ける。

 

「こけても怪我なんてしないよー!」

 

今度こそ声を上げて笑ってしまった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

オムライスを作り終わり、テーブルの上に配膳していると、後ろから声をかけられる。

 

「先生、おはようございます。今日の朝ごはんはオムライスですね?とても嬉しいです。お代わり、ありますでしょうか?」

 

この声に、とても十代とは思えない声の落ち着きよう、そしてちゃっかりとはった食い意地。かつて仲間だった、大魔法使いアリスに本当にそっくりだなぁなんて思いながら振り向くと、やはりそこに居たのはアリスの面影が強く見える顔立ちをした女の子、アリシアだった。

だが、偶然というべきか否か、アリシアとアリスは赤の他人である。事実、アリスには子供がいない様だし、王国で新しい王族の子が生まれたというニュースも無い。

不思議なものだ、と思う。思うが、別にこの子に憎しみなんてこれっぽっちも抱いてなどいないし、寧ろ自分の子供として愛している。勿論、アリス自身にも恨みなんて持ってはいないが。

 

「うん、おはようアリシア。…でもごめんね?お代わりは作ってないんだ」

 

「そ、そうですか…。なら、仕方ありませんねーーー」

 

そんな悲しそうな顔をしないでほしい。別に作っていないだけで用意は出来るのだから。

 

「ーーーだから、一緒に何か作ろっか?オムライスを食べ終わってからだけど、ね」

 

「ーーーあ、は、はいっ!い、一緒に作りましょう!何を作りますか!?私はなんでもいいですよ!先生と一緒ならなんでも!」

 

クリクリとした、大きな紅い瞳を輝かせ、ふわふわとした金髪を跳ねさせながら全身で喜びを表す彼女に微笑んでしまう。

 

「ーーーふぁっ…」

 

と、急にフリーズするアリシア。

 

「ん?どうかした?」

 

「あっ、い、いえ。なんでもないです、はい。急に止まったりしてごめんなさい…」

 

この反応を見ると分かると思うが、実はこの子、とても感情の浮き沈みが激しく、こんな何でもないことでもひどく気にかけてしまうのだ。

 

「んーん。ただちょっとアリシアが心配になっただけだから、気にしなくてもいいんだよ?」

 

そう言って思いっきり抱きしめる。この子はこういった身体的スキンシップをとても喜んでくれる子なのだ。

 

「あ、あ、はひぃ!分かりました、お気遣いありがとうございます!…先生、せんせい、せんせぃ、せんせぇ!」

 

そういって思いっきりこちらを抱きしめてくる。この子はあまり物理的な力が強い方ではないから、こういったスキンシップでも安心して取ることができる。

しかしほんとうにこの子は感情の高低が激しい。

 

ーー孤児院を卒業した後が心配になるな。

 

「ーーーうん、じゃあ折角のご飯が冷めちゃうから、早く食べよっか? 席について、ね?」

 

「う、あ、は、はい。いま、席に着きます。…あ、あの。一緒にご飯、作ってくれますか?」

 

こちらの機嫌を伺う様に上目遣いで聞いてくる。気にしていない、と言ったのにとても不安げな顔だ。

 

「うん、もちろんだよ。先生が今までアリシアに嘘なんてついたこと、あったかな?」

 

「あっ、い、いえ!べ、別に先生を疑っていたなんて! 決して、決してそのような訳では…!」

 

ふ、振り出しに戻ってしまった。この子はこういった臆病になってしまうようなトラウマなど持っていなかったはずだから、生まれつきのものか…もしくはただ単に俺が知らなかっただけ、か?

とにかく慰めてご飯を食べさせないと。

 

「うん、分かってるよ。ごめんね? あんまりアリシアが可愛いから先生意地悪しちゃった」

 

嘘である。別に意地悪をしたかった訳ではない。まあ、アリシアが可愛いのは事実ではあるが。

 

「あっ、あっ、えへ、えへへへへぇ。い、いいんですよぅ! アリシア、全然気にしてなんていません! むしろ、嬉しかったというか、はい! 逆に、どんどん意地悪してくれた方がいいくらいで…!」

 

まずいな、早くご飯を食べさせたいのだが。

 

「そう? そういってくれると先生嬉しいな。さ、一緒にご飯、食べよっか?」

 

「あ、は、はいっ!」

 

そう言ってテーブルの方に駆け出すと、急いで席に座る彼女。

 

と、見ると子供達がいつのまにか全員揃っているではないか。早くご飯を食べたそうにしているミーアに、うっとりとした目でこちらを見てくるアリシア。そしてーーー

 

「先生」

 

「あ、うん。ごめんね、今行くよ」

 

薄緑色の、柔らかくウェーブしたショートの髪の毛に、エメラルド色の瞳を半目にしてじっとりとした視線を送ってくる子、ドリアードのエル。ドリアードの特徴が現れている、頭に咲いた黄色の花がまた美しく、とても彼女に似合っている。

 

ーーいつのまに来ているのか全く気がつかなかった。未だにじっとこちらをにらんで?いるエルに、おはようと声を掛けて微笑む。

 

「…」

 

こっくりと頷くエル。基本的にエルは無口でそんなに喋らないので、あまり気にしない。

 

「じゃあ、早く食べよっか?」

 

頷くエル。ブンブンと頭を振るミーア。そして、未だにうっとりとしているアリシア。

 

ーーアリシアさん?…大丈夫だろうか?

 

少し不安に思いながらも急いで席に着き、合掌の合図をとる。

 

「じゃあ、頂きます」

 

「いただきまぁーす!」

 

「ーーはっ!…有り難く頂かせていただきます!」

 

「…いただきます」

 

ーーーまあ、結局はばらばらになるんだけど、ね。




少しは長く書けてましたか?
ちなみに、アリシアさんが書いてて一番楽しかったです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話

かつての仲間たちに見捨てられた時はやさぐれて、もう二度と他人と関係を持たずに生きていこうと思っていた。けれど、今こうして子供達とテーブルを囲んでご飯を食べるのが本当に幸せで。

 

そして、たまらなく不安になる。

 

もしかしたらこれは夢なのかもしれない。もしかしたらみんなが急に俺のことを蔑んだような目で見てくるのかもしれない。

そんな事を考えてしまうと、もう止まらなくなる。

 

「先生…? どうかなさいましたか!? どうしてそんなに震えていらっしゃるのです? 何か、何か嫌なことでも御座いましたか?」

 

震えている? あぁ、そうか。震えているのか。いけないな。ついさっきミーナに元気になったと言ったのに。しっかりすると誓ったのに。

 

「先生…。私を、()()()()()()()()()()()()

 

その声に身体が勝手に従って顔を上げてしまう。

 

「先生、今ここに貴方の敵は存在しておりません。()()()()()()()()。安心して、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

アリシアの妖しく光る瞳に意識が吸い寄せられる。なんとなく思考に靄がかかっていくような感じがして、()()()()()()()

 

「先生。先生は、今どうして震えていらっしゃったのですか?」

 

頭が働かない。眠い。あぁ、意識が遠くーー

 

「ーー今が幸せで、幸せでたまらないから、怖くなったんだ。いつか君達が急に消えてしまうんじゃないかって。もしかしたらこれは夢でみんな本当は居ないのかもしれないって。

ーーほんとうはぼくのことがきらいなのかもしれないって。そうおもうとこわくてなきそうになるんだ。」

 

「ーーーっ!あぁ、あぁ、あぁ!先生…!安心して下さい!もう、もう二度とわたくし達は貴方を裏切りません!だから、だからどうか安心して下さい、()()()。ここには貴方の敵はおりません。ここには、貴方を幸せにしたいと、そう願っているものしか居ないのです!貴方を幸せにするためだけに存在するものしかいないのです!」

 

あたまをだきしめられる。あたたかいな。ふわふわしてあんしんする。

 

「そうだよ、ヤマダ。私たちはもう二度と君を裏切らない。誓ったんだ。君を幸せにするって。だから、だからその為に私たちは今こうしてーーー」

 

「ミーナ。それ以上先は、たとえヤマダが()()()()()()としても言ってはいけない。私たちはそれを知ってもらいたくてここにいるわけではないのだから」

 

「ーーあぁ、そうだね。ごめん、熱くなりすぎたようだ」

 

「えぇ、気をつけてちょうだい。何を切っ掛けに催眠が解けるか分からないのだから」

 

「そう。それに、もうすぐ先生の意識が戻る。だから、お喋りはここまでにしないと」

 

「あぁ…。最近、先生がどうもおかしい。催眠をかけ続けるのも心苦しいし、私たちの手で原因を突き止めないとな」

 

みんながなにかいってる?あたまにはいらない。あたまがポカポカしてきもちいい。あぁ、もうねむっちゃいそうだ。

 

「あぁ、お休みなさい、ヤマダ。いい夢を」

 

うん、おやすみなさいーーー。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話

ようやく、テストがおわったんじゃよ……二重の意味でね!


「ーーー、ぅん?」

 

ーー目が覚めた。…目が、覚めた? おかしいな。眠った記憶など無いのだけれど。

 

「あ、先生。おはよーございます。()()()()()()()()()()()()()()()()なんて、先生おねむさんなんですねー」

 

そうか、朝ごはんを食べてすぐに眠ってしまっていたのか。

 

「うん。おはよう、ミーナ。ごめんね、先生、どれぐらい眠っちゃってたのかな?」

 

そもそも眠りに落ちた時の記憶がないけれど、寝すぎてないか不安だったので、一応のため確認をしておく。

 

「えーっとねー、10分ぐらいだよー?」

 

良かった、あまり寝すぎてしまっていたわけでは無いようだ。本当に、最近はいろいろとあったから疲れてしまったのだろうか。

 

そう思いながら、これからの予定を考えていく。

 

取り敢えずは、洗濯物を干して、お昼ご飯の下準備と、それから掃除に今日の分の授業をして、後はーーー

 

「ねー、せんせい、どうかしたのー?」

 

「ーーうぅん、今からの予定を考えてたんだよ。」

 

急に黙りこんだので不安にさせてしまったのだろうか?

 

「予定ー? んー…、あ、あのねあのね、ミーナ、あいす食べたい! あの、カフェで売ってあるオレンジ味のやつ!」

 

そうだな、今日は冒険者ギルドに用事があったので街に行く予定ではあったし、丁度いいかもしれない。

そう思いながら、しかし、ミーナには我儘に育って欲しくないので少しだけ注意する。

 

「ミーナ、一昨日も甘いもの食べに屋台に行ったでしょう? 少しは我慢しないと、将来太ったおばあちゃんになっちゃうよー?」

 

おかしいな、脅しているみたいになってしまった。

 

「えー? ミーナ、吸血鬼だから太ったりしないよー? まったく、先生ってばお馬鹿さんなのね?」

 

訂正しようと口を開くと、ミーナがそのようなことを言ってきた。嘘だよ、と言って頭を撫でて終わらせようとしていたけれど、予定を変更し、伸ばした手をそのままミーナの背中へと回す。

 

「なんだとぅー! この生意気娘めー!」

 

そして、そう言いながらミーナを抱き寄せて、思いっきり頭をわちゃわちゃとかき回す。

 

「きゃぁーー!!! やーめーてー!」

 

ミーナが笑いながらそう叫ぶのがおかしくって、二人で笑いながらじゃれ合う。

と、ドタドタと階段を走って降りてくる音が聞こえてきたので、ミーナとじゃれ合うのを一旦停止して扉の方を見る。

 

「せんせいー? もっとしてぇー!」

 

ミーナが不思議そうにこちらを見たかと思うと、そう言って頭を俺の胸にグリグリと押し付けてくる。

そう言われてしまっては仕方がないなぁ、なんて口では言いながらも、こんな風に甘えてくる子供が可愛くって思わず頰が緩んでしまう。

 

「ミーナ! 先生に一体何かあっ……何を、なさっているのですか? 先生?」

 

現れたアリシアに視線を向けると、昏い瞳と目があった。何故か感じる寒気に身を震わせて、しかし、アリシアがこのような目を向ける理由が分からずに、アリシアの目線をーー

 

ーーあっ

 

アリシアの目線を追って自分を見てみると、どうしたことだろうか。

ミーナと今にもキスをしそうな体勢に見えないこともないのではないだろうか?

 

いや、いやいやいや、待ってほしい! 俺は自分の子供に手を出すような人間ではないとアリシアならわかってくれているはずだし、そもそも愛する家族にスキンシップを取る手段として、キスというのは一般的な表現方法なのでは無いだろうか? 大体、キスをしようとはしていないしーーー

 

と、ミーナがアリシアの方を見て、次いで俺の顔を見る。ミーナの目と俺の目があった瞬間、ミーナがにんまりと笑いーー

 

「んー! せんせいー? ちゅう、まだぁ?」

 

そう言いながら目を瞑り、口を可愛らしく尖らせるミーナ。

 

そして、遂に殺気の様なものが出始めたアリシアが、つかつかと此方に歩み寄ってくる。

 

「あ、いや、ミーナ!? あ、アリシア、これは違っ、違うんだよ!? そういうのじゃなくって、そもそもキスしようとーー」

 

「先生、もう口を閉じてください。……それ以上、聞きたくありませんから」

 

そう言って、アリシアが俺の顔を手で包みこみながらを覗き込んでくる。

思わず振りほどこうとして、けれど何故か一ミリも動かせない。

 

「先生ーーー」

 

アリシアの顔が近づいてくる。普段と違う、まるで妙齢の女性の様な雰囲気のアリシアに、思わず目を閉じてーー

 

「んー!」

 

閉じていく視界の隅に、綺麗な銀髪の髪が見えた気がした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。