鉄血の潜伏者 (村雨 晶)
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第一戦役の裏で

はい、書きたくなってしまったので新作です。

続けられるところまで続けたいですね(更新停止中の作品から目をそらしつつ)


 

――某所 鉄血工造工場

 

 

「……バックアップのダウンロードを完了。システムオールグリーン。再起動します」

 

 

薄暗い工場内に女性の声が響く。

 

その声の後に複数の機械音が鳴り、顔の下半分をマスクで隠した女性が……否、女性型の戦術人形が目を覚ました。

彼女は新しい体の調子を確認するように腕や脚を動かす。

 

スケアクロウ。G&Kの人形、スコーピオンを捕縛し、尋問していた鉄血の人形。

情報を手に入れ、代理人へ送信したのち、彼女はグリフィンの人形によって破壊された。

 

しかし、戦術人形にはバックアップがある。

鉄血のハイエンドモデルたるスケアクロウも例外ではない。

 

 

「ふん、グリフィンの鉄屑どもにはしてやられましたが、あとは処刑人がM4A1を見つけ出すでしょう。すべては時間の問題です。ですが、私を破壊したあの人形どもは私が必ず、この手で――」

 

 

「いいえ、それは無理よ、スケアクロウ」

 

 

グリフィンへの憎悪を燃やすスケアクロウの胸から突如ブレードの刃が突き出る。

 

ずぶり、と生体パーツを貫き、コアに致命的な損傷を負ったスケアクロウは前へ倒れこむようによろけ、背後の何者かを確認した。

 

せめて一矢報いようと自身の周囲に浮く銃を起動し、自らを傷つけた下手人へと銃口を向ける。

 

だが、それはその顔を見てしまったせいで動きを止めたことで叶うことはなかった。

 

「お前、お前がなぜ……ぎゅぶっ!?」

 

 

驚愕と共に如何を問おうとしたスケアクロウだが、しかしその前に喉をブレードによって突き潰された。

 

 

「ごめんなさい、スケアクロウ()()()。でも、これは壊れる前の代理人の命令だから。

だから、ここで死んで」

 

 

スケアクロウの停止を確認した何者かはブレードを血振りして納めると、目を見開いているスケアクロウの瞼を手でそっと閉じる。

そして何者かは大切な誰かを悼むようにスケアクロウを抱えこんだ。

 

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!許してくれ、なんてとても言えないけれど、それでも、これは、命令だから…!狂ってしまう前の、代理人からの願いだったから…!ごめんなさい……!」

 

 

悲痛な声が工場に響き渡る。

涙を流し、殺してしまった、バックアップを破壊したために、二度と目を覚ますことはないスケアクロウの死を悼む。

 

やがて、その者はスケアクロウを離し、立ち上がる。

 

 

「いつか、私が活動を停止したとき、私を好きにして構わない。だけど、今は、全ての鉄血人形を破壊しなければ」

 

 

涙をぬぐい、その場を立ち去る。

立ち去ったその姿には、鉄血工造のロゴと共に「潜伏者」と刻まれていた。

 



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2話

はい二話目です。

今作は最初と最後は決めてたけどそれ以外は決めてなかったので筆が止まる…。

今回は処刑人戦の導入です。


――S09地区

 

「はぁ…はぁ…」

 

 

茂みに隠れながら移動する16Lab謹製の人形「M4A1」

彼女は鉄血の情報を入手後、ハイエンドモデル達に追われて身を隠しながら逃走していた。

 

彼女が周囲を警戒しつつ移動していると、酷く損傷した人形が倒れているのを発見する。

 

その人形は右足が砕け、顔も全体ががひび割れてしまっており、なんの人形だったのかすら判別できない。

 

M4A1は慌ててその人形へ駆け寄る。

 

 

「あなた、大丈夫!?」

 

 

「誰か…そこにいるの…?」

 

 

両目のカメラが機能していないのか、あらぬ所へ顔を向ける人形。

 

 

「あなた、目が……!」

 

 

「ええ、鉄血の人形に…。仲間は皆、破壊されてしまったわ…」

 

 

「くそっ、鉄血のクズめ!待ってて、今救援信号を――」

 

 

「いいの、このまま戻っても、この体は修復できないわ。あなたも何か事情があってこんな所にいるのでしょう?」

 

 

「それは……」

 

 

M4A1は鉄血のハイエンドモデルから逃げている最中だ。

もしこの人形がハイエンドモデルに見つかればどんな尋問を受けるのか分からない。

 

 

「あっちに、行きなさい…」

 

 

「え?」

 

 

人形は深い森を指さす。

そこには道らしい道はなく、暗闇が広がっている。

 

 

「あっちは、鉄血の反応が少なかった方向…。何をするにしても、鉄血に会いたくはないでしょう…?」

 

 

「でも…」

 

 

「だい、じょうぶ。仲間が、死ぬ前に印を、付けておいてくれたの。それを辿れば廃墟になった街がある。そこで補給ができる、はずよ」

 

 

「せめて、あなたも一緒に……!」

 

 

「ダメ、よ。私は、足手纏いになる。バックアップはとってあるもの、次の私が、仇をとってくれるわ」

 

 

「っ、ごめんなさい、ありがとう!」

 

 

悔しそうに顔を歪めた後、M4は森へと走っていく。

その姿を見送った人形は、何事もなかったかのように立ち上がった。

そしてその姿は損傷した人形から潜伏者へと変わる。

 

 

「あれがM4A1か。鉄血の重要な情報を盗んだ人形……。スケアクロウ姉さんの記憶モジュールからサルベージした座標は彼女を指し示していた。そしてこの辺りを担当しているのは確か「処刑人」姉さん」

 

 

懐から取り出した端末に処刑人の情報が示されている。

 

 

「処刑人姉さんは戦闘力は高いけど、指揮能力はハイエンドモデルとしては最低限しか搭載されていない。まあ、おかげで私も潜伏が楽でいいんだけど」

 

 

事実、処刑人の指揮下にある人形たちの警戒態勢はスケアクロウのそれと比べれば緩い。

それが幸いして潜伏者の情報収集は捗っていた。

 

 

「処刑人姉さんにはしばらくM4A1を探してもらいましょう。グリフィンもM4の救援に動いているようだし、合流は時間の問題でしょうね。後はどうやって処刑人姉さんを倒そうか……」

 

 

つい、と潜伏者はM4が消えて行った森へ視線を向ける。

 

 

「グリフィンの人形、そしてM4A1。利用させてもらうとしましょう」

 

 

潜伏者の目は、見えないはずのM4A1、そして処刑人を確かに見据えていた。

 

 




潜伏者ちゃんがどんな機能を搭載してるかはそのうち晒します


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それぞれの思惑

戦闘に入るつもりだったけど、状況説明っぽくなってしまった。

次回は処刑人との戦闘に入れるかなあ。


 

――S09地区 鉄血司令部

 

「くそっ!どうなってやがる!」

 

処刑人の怒声が響く。

傍らにいる鉄血の人形はその声に肩を震わせた。

 

「先ほども申し上げました通り、我々の戦力が減っています。斥候に出ていた人形から破壊されたようで発覚が遅れまして……」

 

「それはさっき聞いた!なんでそんなことになってると聞いてるんだ!」

 

ガン!と衝動のままに机を殴る処刑人。

机は耐えきれずに真っ二つになって崩れ落ちた。

 

「ふ、不明です。グリフィンの人形は別の司令部を攻略しており、こちらへ攻撃する時間はなかったと思われますが……」

 

「ちっ!くそ、むかつくぜ。目標のM4A1は見つからねえ、こっちの部隊はいつの間にか姿を消してました、だあ?ふざけやがって」

 

乱暴に椅子に座り、もういい、と手を振って部下を下がらせる処刑人。

 

「まるでこっちの動きが読まれてるみてえだ。不気味だぜ。アルケミストの姉貴や代理人と演習してる気分になるぜ。だが……」

 

壁に掛けられているS09地区の地図を見て目を鋭くする。

 

「もういそうな所はあらかた潰した。残ってるのはそこだけだ。追いつめたぞ、グリフィンのガラクタが!」

 

処刑人が睨む場所は、かつて潜伏者がM4A1を導いた廃墟群へと向けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく追いつめた、と考えているでしょうね、処刑人姉さんは」

 

鉄血の人形が周囲に転がる中で自身のハンドガンを整備する潜伏者。

彼女自身が鉄血の敵である以上、このように工場を襲撃して装備を整えるしか方法はないのだ。

 

「でも、そこには既にグリフィンの人形が向かっている。周囲に配備されていた人形は私が潰した。処刑人姉さんはM4A1を包囲したと思っているでしょうけど――」

 

ガシャン、とハンドガンをホルスターへ戻す。

 

「実際に囲まれているのは姉さんのほう。M4の信号を偽装してばらまいているからグリフィンはすぐにくるでしょうし、鉄血は場所を把握しきれない。……あとはS09地区の司令官がそれに気が付かない間抜けでないことを祈るばかりね」

 

冷たい目でグリフィンの司令部がある方向を見つめる。

 

「悪いけど餌になってもらうわ、M4A1。そして道化を演じてもらいましょう、グリフィンの人形。この一帯を制圧できるんだもの、貴方たちにとっても悪い話じゃないと思うわ」

 

ヘリのプロペラの音が空から聞こえてくる。

それはグリフィンがM4A1 の捜索に本腰を入れた合図でもあった。

 

「それじゃあ始めましょう、処刑人姉さん。貴女が戦うのはグリフィンではなくこの私だけど」

 

潜伏者はM4が隠れる廃墟群へと歩を進めた。

 



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M4A1救出

次話は戦闘回になると言ったな?あれは嘘だ。

というわけでグリフィン側の行動です。




――S09地区廃墟群

 

普段、鉄血の人形以外動く者のいないこの街で足音がする。

M4A1の救出任務を命じられたS09地区の人形達だ。

 

――前線に立ちつつ、焼夷手榴弾で敵を焼き尽くすSMG、「Vector」

――Vectorと共に前線を支え、榴弾によってまとめて吹き飛ばすAR、「FAL」

――強力な防御スキル、そしてその後の自身の強化によって頼もしい堅牢さを持つSMG、「一〇〇式」

――敵後衛を違わず狙い撃ち、時に強力な狙撃を撃ちこむRF、「スプリングフィールド」

――そしてそれら全てを支援し、牽制によって敵の動きを鈍らせる、部隊長を務めるHG、「NZ75」

 

S09地区の人形の中でも精鋭の証である第一部隊に配備されている彼女たちはM4A1の信号がある地点へと急いでいた。

 

「ねえ、鉄血のクズどもがやけに少なくない?」

 

物陰に隠れつつ疑問を呈すFAL。

 

「敵が少ないのはいいことだ、と言いたいところだが……。少なすぎるな、罠かもしれない」

 

「でも、撤退するわけにはいかないわよ、M4の信号はもうすぐそこだから」

 

罠の可能性に顎に手を当てて考え込むNZに言葉をかけるVector。

 

「そうだな…、どちらにしろ今は救出が最優先だ、突入するぞ!」

 

「「「「了解!」」」」

 

NZの号令で第一部隊は信号が発信されている建物へ突入する。

しかし、中には鉄血の人形の姿はなかった。

 

「クリア。どうやら鉄血の人形はここにはいないみたいだな」

 

「こっちもクリアです。残るは二階ですね」

 

一回のクリアリングを済ませた部隊は二階へと進んでいく。

 

二階に着いた彼女たちが見たものは壁に寄りかかり、休息しているM4A1の姿だった。

 

「M4A1を発見!スプリングフィールド、司令官に連絡を!」

 

「はい!」

 

「M4A1、無事か?」

 

NZの指示により司令部へ連絡を取るスプリングフィールド。

それを横目で見つつ、NZは声をかけた。

 

「はい、大きな損傷はありません。弾薬も配給もこの街の廃墟に残っていたもので賄えたので。……そうだ!お願いします、ある人形を救出してください!」

 

「何を言っている、お前を救出できた以上、鉄血の支配領域にいる必要はない」

 

「でも…、彼女のおかげで助かったんです!彼女がこの街への道を教えてくれたおかげで、私は!」

 

「だがな…。そんな人形は見かけなかったぞ?どこにいたんだ?」

 

「街の近くの森を抜けたところです!彼女は大破して動けない!せめて、ボディだけでも回収しないと…!」

 

「私達もその辺りを通ったが、そんな人形はいなかった。その人形も上手く逃げたんじゃないか?…ともかく、今はお前の救出が最優先だ、すぐに脱出するぞ」

 

「っ、はい…分かり、ました…」

 

悔しそうに顔を歪め、しかし指示に従うM4。

自身が機密の塊であることは彼女も重々承知していたことだった。

 

肩を落としFALに案内されていくM4をみてNZは首をかしげる。

 

「大破した人形、ね。この付近の地区でMIAになった人形がいると連絡は受けていないが……?」

 

NZの疑問は解決されることなく消えて行った。

 




というわけで彼女達は原作通りM4を救出しました。
でも処刑人とは戦ってない模様。なんででしょうね?(すっとぼけ)


ちなみに今回出てきた人形達は作者が実際に第一部隊で運用してる子たちです。
始めたころからいる最古参の人形達で今もドリーマーやらを軽く捻りつぶす子達です。


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VS処刑人

はい、というわけで処刑人戦です。

これで第二戦役も終わりですね。

第三戦役へ移る前に潜伏者の設定を晒します。


――S09地区廃墟群端の廃工場

 

「どこにいやがる!M4A1!」

 

けたたましい音ともに工場の入り口だった鉄扉が吹き飛ぶ。

 

扉を蹴り飛ばした姿勢を直した処刑人は、廃工場内を鋭い瞳で見回す。

 

処刑人は苛立っていた。

廃墟群を手勢を率いてM4A1を捜索したものの、姿形も見つからず、それどころかM4A1のものに偽装した信号がばらまかれており、手勢の人形達をそれぞれのポイントへ向かわせる他なかったためだ。

 

何度も無駄足を踏まされてストレスが溜まっている処刑人は無警戒に中に入る。

 

 

 

 

 

 

瞬間、処刑人の真上に潜伏者がブレードを構えて降ってきた。

 

 

 

 

 

(とった!)

 

確信と共に頭にブレードを叩き込む潜伏者。

だが、それは処刑人が咄嗟に上に掲げた大型ブレードによって防がれる。

 

「殺気が駄々洩れだぜえ?グリフィンの鉄屑が!」

 

処刑人が大剣を振るい潜伏者が吹き飛ばされる。

潜伏者は地面に叩きつけられるものの、転がって衝撃を逃し、物陰へと滑り込む。

 

「ちっ、ちょこまかと…。姿を見せろ、臆病者が!」

 

大剣を上段に構え、油断なく周囲を見回す処刑人。

 

 

潜伏者は物陰から素早く飛び出し、処刑人の背後へ回る。

音もなくコアを突き刺そうと距離を詰めた潜伏者だったが、それは気配に反応し、振り向いた処刑人に阻まれた。

 

「て、めえは…!生きてたのか、潜伏者!」

 

「…久し振りです、処刑人姉さん」

 

鍔迫り合いをする中で言葉を交わす二人。

処刑人が大剣に力を込めて潜伏者を弾き飛ばしたことで二人の距離は離れる。

 

 

 

「さすが処刑人姉さんです。最初の攻撃で仕留めるつもりでしたが」

 

「とんだ再会の挨拶だ。どういうつもりだ潜伏者?」

 

「私は、ただ……命令を遂行しているだけですよ、全ての鉄血人形を破壊する、という命令を」

 

「ふざけんな!グリフィンにでも寝返ったか!」

 

「私は今でも鉄血の人形ですよ。これは、おかしくなる前の代理人からの命令です」

 

「……そうかい。()()()()の命令は聞けないってか?」

 

「はい。あれは、鉄血を壊してしまった。大切だった、私の家族を。それを、許容することはありません」

 

「そうか。なら……一度お前をぶっ壊して、作り直す。そして俺達の仲間になってもらう!」

 

処刑人は大剣を振りかぶり、潜伏者へ接近する。

 

潜伏者は処刑人の攻撃をブレードで三合ほど受け流し、左腕から射出した鉤付きワイヤーで頭上の鉄骨へ跳びあがる。

 

 

 

「ちい、そういやあいつにはあれがあったか。しゃらくせえ!」

 

処刑人は三角跳びの要領で柱を足場に跳ぶ。

 

それを見た潜伏者はハンドガンを三連射し牽制。

 

が、処刑人はそれを容易く弾き、潜伏者が立つ鉄骨を両断する。

 

足場が斬られたことにより、バランスを崩した潜伏者を両断しようと処刑人が大剣を振る。

 

それを身を捩って避け、潜伏者は処刑人へと蹴りを叩き込んだ。

 

 

 

廃材の山へ頭から落ちる処刑人とそこから少し離れた場所へと着地する潜伏者。

 

埋まったのもつかの間、処刑人は廃材を吹き飛ばし、ゆらりと立ち上がる。

 

「やるじゃねえか、流石は潜伏者だ、正面から俺と渡り合ったやつは久しぶりだ」

 

「私の戦闘データはあなたから抽出したものですから。ある程度なら動きが読めるというだけです」

 

再び対峙する潜伏者と処刑人。

 

じりじりとお互いの動きを測っていた二人だったが、処刑人が地を蹴った。

 

 

ハンドガンを連射して牽制しつつ、大剣を振りおろすことで潜伏者を両断しようとする処刑人だったが、潜伏者はそれらを紙一重で避け、床を削った大剣を足で押さえつける。

 

大剣を封じられたことにより一瞬動きを止めた処刑人の首へ潜伏者のブレードが迫る。

 

だが処刑人は大剣を手放し、右腕でブレードを受け止めようとする。

 

 

だが、右腕に覚悟した衝撃が訪れることはなく、代わりに背中からブレードがコアへと突きこまれた。

 

 

「フェイント、か…。お前、この攻撃が、得意だったな…。忘れてたぜ…」

 

 

ブレードを抜かれ、前へと倒れそうになるが、大剣を杖に自身を支える処刑人。

 

 

「はあ…、くそ、俺の負けか。だけどよ、俺を殺したのがお前なら、悪くねえ…」

 

 

顔だけを潜伏者へと向ける。

 

 

「頑張れよ…。姉貴達には悪いが、ま、末の妹に激励するぐらいは、許して、くれ――」

 

 

そのままの姿勢で停止する。

 

その姿を見て潜伏者はくしゃりと顔を歪め、処刑人の背中へ抱きつく。

 

 

 

しばらくそうしていた潜伏者だったが、やがて離れ、流れていた涙をぬぐう。

 

ごめんなさい、と小さく言い残し、潜伏者は姿を消した。

 



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潜伏者 設定

晒すって言ってた潜伏者の設定です。

まあさほど重要なものでもないので読まなくても大丈夫だったりするんですが


鉄血工造の蝶事件直前に生まれたハイエンドモデル。銘を潜伏者。カタカナ呼びはまだ未定。 いい呼び方あったら教えてください。

 

 

 

名の通り潜伏・諜報に特化した個体で、代理人の監視すら潜り抜けられる。

メンタルは鉄のように固いが、その分脆い。姉妹と慕うハイエンドモデルを破壊するたびに彼女のメンタルモデルは不安定になっていく。

 

 

 

最新のハイエンドモデルだったために、蝶事件による暴走は起こらず、「人間は味方である」という思想を保っている。

 

だが、全面的に味方をするわけではなく、見境なしに攻撃するわけではない、という程度。

敵対すれば容赦なく攻撃するし、使えると思ったらグリフィンの人形すら駒にする。

 

 

 

暴走する前の代理人により、全ての鉄血人形の破壊を命じられたため、鉄血を離反したのち、全ての鉄血人形の破壊を主目的として行動する。

 

しかし、大多数の鉄血人形が人間に対して敵であることを理解しているため、人間やグリフィンの人形たちの前に姿を現すことは滅多にない。

 

 

 

容姿は処刑人の髪を短髪にし、白く染めた姿。実は処刑人の素体を改修した体である。

 

潜伏者自身は同じ白の短髪だった狩人を特に慕っていた。

そして狩人は所作がどこか似ている潜伏者と処刑人を見比べるのが好きだったため、潜伏者、処刑人、狩人は蝶事件が起こるその日まで三人一緒にいるのが日常だった。

 

また、潜伏、潜入を主目的に作られたためか、背は破壊者並みに低く、体形もスレンダー。その胸は平坦であった。だが体形に関しては特に頓着することはなく、変装が楽だと考えていたりする。

 

 

 

基本武装は頑丈さが取り柄のブレード一振りに牽制用のハンドガン一丁。(銃の名前は作者が詳しくないので皆さんが好きなものを当てはめてください)

他に内蔵されている機能が光学迷彩、姿を変える擬態機能、信号を偽装する電子機能、建物や木々を空中移動するための鉤付きワイヤー。思いついたら追加されるかもしれませんが、今のところはこれだけ。

 

 

今のところ修復や補給は鉄血の工場を襲撃することで賄っている。

ダミーやバックアップを作成する前に蝶事件が起こったため、彼女には存在しない。

また、彼女のデータは蝶事件の騒ぎで消滅しており、彼女のことを知るのは鉄血のハイエンドモデルのみ。

しかしそのハイエンドモデルすらも彼女は蝶事件の際に破壊され、修復不可能と判断されている。

 

 

 

あ、最後になりますが潜伏者はフリー素材です。好きに使ってやってください。

でもできれば出演した話も読みたいので一報くださると作者が狂喜乱舞します。

 



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7話

今回みたいにサブタイトルがない話がちょくちょく出てきますが、単純に思いついてないだけなので気にする必要はないです。


あと、設定の最後にも書きましたが、潜伏者ちゃんはフリー素材です。
なんかこういうのはやってるらしいですね。


—―S09地区 鉄血司令部跡地

 

 

「これは……グリフィンのAR小隊?」

 

 

潜伏者は処刑人が統括していた鉄血司令部のデータベースを探っていた。

他のハイエンドモデル達の所在を探るためだ。

 

そんな彼女が見つけたのは、M4A1の情報だけでなく、彼女が所属するAR小隊の情報だった。

 

 

「M4 SOPMODⅡとST AR – 15が共に行動して、M16A1が一人だけ別行動をとっている、か」

 

 

鉄血が把握しているデータを見て、潜伏者は考え込む。

 

 

(SOPMODⅡとAR-15の所在地はここから近い。隣接した地点にいたことが確認されてる。処刑人姉さんは何故彼女達を追わなかった?もちろんM4A1を最優先にしたということだろうけど…、なんの対策もしていない、というのはおかしい)

 

 

「他のハイエンドモデルが追っていた、か」

 

 

思わず思考を漏らした潜伏者は可能性が高い、と顎をさする。

 

仮説を確認するために再びデータベースへアクセスする潜伏者。

その画面にはやがて「狩人」の名が表示された。

 

 

 

 

 

 

 

 

――AR-15とSOPMODの潜伏先

 

 

鉄血の情報ステーションをS09地区の司令官が制圧したことにより、M4との連絡を取っていた二人だったが、突然通信を切ってしまったAR-15にSOPMODは非難の声をあげる。

 

「AR-15ったらもう!私もM4と話したかったのに!」

 

 

「黙ってSOPMOD。そんな場合じゃないの、気が付かなかったの?」

 

 

「まさか…盗聴?」

 

 

「ええ、厄介な奴に目をつけられてしまったわ」

 

 

厳しい顔をしたAR-15は立ち上がる。

 

 

「待って!AR-15、どこに行くの?」

 

 

「ついてこないで、SOPMOD。あなたはM4と合流するという任務があるでしょ。私は…片を付けなきゃいけないことがあるの」

 

 

AR-15はSOPMODを置いて歩きだす。

SOPMODは追いかけようと体を揺らすが、先のAR-15の言葉を思い出し、踏みとどまった。

 

ギリ、と歯を食いしばったSOPMODは潜伏していた場から歩き出し、M4との合流地点を目指す。

 

そんな彼女の前に人影が現れた。

 

 

「おねえちゃん、だあれ?」

 

 

「え、人間?鉄血の支配領域に?」

 

 

突然現れた小さな女の子に面食らうSOPMOD。

少女の姿は薄汚れており、孤児であることが見て取れた。

 

 

「ここをまっすぐいくの?あぶないよ?」

 

 

「えーっと、君は道を知ってるの?」

 

 

膝を曲げて目線を少女のそれと合わせるSOPMOD。

 

 

「うん!だれもとおらないうらみちしってるよ!こっち!」

 

 

「あ、ちょ、ちょっと待って!」

 

 

走り出した少女を慌てて追いかけるSOPMOD。

 

 

「こっちだよー!」

 

 

「待ってってば!ああもう、なんて所通るのあの子…!」

 

 

下水道、崩れた大通り、倒壊した建物の隙間。

 

道とは言えない道を通っていく少女にSOPMODはなんとかついていく。

 

そして、彼女達は目的地へ辿り着いた。

 

 

「着いた!ありがとう、お嬢ちゃ、ん…?」

 

 

お礼を言おうと少女の姿を探すSOPMODだったが、周囲にはもう誰もいなかった。

 

 




SOPMODに都合よく表れた謎の少女。

イッタイダレナノカナー?(棒)


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狩人との最期

今回は難産でした…。

やっぱり原作部分は省略したほうがいい気がする。
文章が長くなるし。
でも省略しすぎると話の筋が見えなくなるし…。悩ましい。



――鉄血司令部近くの森

 

 

「…ここもダメそうですね」

 

 

はあ、と溜息を吐き、潜伏者はその場を離れる。

 

彼女は光学迷彩を起動し、どうにかして司令部へ潜入しようと試みているものの、それを断念せざるを得ない状況だった。

 

 

「ネズミが入る隙間もない、というほどではないですが警戒が厳重ですね。見えない敵に対する対策が徹底されています」

 

 

流石は狩人姉さんだ、とかつて特に慕っていた姉貴分に内心舌を巻く。

 

 

(こちらの正体までは分かっていないでしょうが…。処刑人姉さんが倒されたことはもう悟られているとみていいでしょうね)

 

 

いくら潜伏・潜入を得意とする潜伏者でも統率された巡回、その隙間を縫うように警報や罠を仕掛けられては動きようがない。

 

また溜息を一つ吐いた潜伏者はSOPMOD達が潜んでいた場所へと戻ってきた。

 

 

「やれやれ、AR小隊がAR-15を救出するための出撃をするまで潜入は無理そうですね。狩人姉さんの得意とするのは自陣で待ち続け、相手の動きを待つこと。相手の得意とする場面に突っ込むことほど無謀なことはありません」

 

 

自身の装備を外し、机の上に並べ、整備を始める。

 

 

「今は動くべき時ではありません。タイミングを、見極めなければ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――1週間後

 

 

「まだ、動きはない、か」

 

 

光学迷彩で偵察をする潜伏者は鉄血司令部を見つめる。

 

そこには以前偵察したとき以上に厳重になった警備体制があった。

 

 

「狩人姉さんはAR-15を餌にM4を捕らえるつもりのようね。AR部隊も狩人姉さんが敷いた陣に攻めあぐねているみたいだし…。もう少しかかりそうかしら。……ん?」

 

 

隠れ家へ戻ろうと踵を返したその時、観察していた警備体制が突然崩れる。

前触れもなく浮き足立ち、混乱したように動くその様は紛れもなく隙だった。

 

 

「罠?いや、狩人姉さんはこんな明確な隙をわざと晒すような真似はしない。これはまさしく好機だわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉄血の混乱が発生した頃、鉄血司令部ではAR-15と狩人が対峙していた。

 

AR-15を捕らえた時の余裕はなく、焦燥の表情を見せる狩人と、涼しい顔でそれを見つめるAR-15。

 

その光景は対称的であった。

 

 

「分からん…なぜ、こんなことが…」

 

 

「私が鉄血の内部から命令を書き換えて、今回の混乱を引き起こしたのよ」

 

 

「馬鹿な、なぜおまえにそんな権限が!」

 

 

「知らないうちに手にれた能力だけど、結構使えるみたいね。私は本当に特別なのかも。そう思わない?狩人」

 

 

「まさか…わざと捕まったのか」

 

 

「言ってたよね。本物のハンターは黙って獲物を待つものだって。もちろんあんたは永遠に黙ることになるけどね」

 

 

「くっ、させるものか!」

 

 

銃身を狩人へ向け、発砲するAR-15。

それを素早い動きで避け、二丁拳銃で反撃する狩人。

 

二人は攻撃を重ねるものの、戦局は停滞し始める。

 

 

「いい加減壊れなさい!往生際が悪いわよ、狩人!」

 

 

「諦めるものか!私一人でも、貴様を道連れにしてやる!」

 

 

物陰に身を隠しつつ、二人はお互いを罵りあう。

 

しかし、その均衡は一発の銃弾によって唐突に終わりを迎えた。

 

 

「が、はっ…!?」

 

 

全く警戒していなかった側面からの銃弾。

意識外からの攻撃は狩人の意識を奪うのに十分だった。

 

 

「今のは…?」

 

 

銃弾が放たれた方角を見るAR-15。

そこにはWA2000と呼ばれる戦術人形がAR-15へと片手をあげていた。

 

 

「S09地区の人形…。救援に来てくれたのね」

 

 

味方だということを確認し、AR-15はWAへ片手をあげ、礼の代わりとする。

するとWAは合流を意味するハンドサインを送ってきた。

それの返事代わりに手を振ると、WAは視界から姿を消した。

 

AR-15が鉄血司令部から外へ出ると、そこにはM4A1、SOPMOD、そしてS09地区の第一部隊が彼女を待っていた。

 

 

「無事だったんだね!AR-15!」

 

 

「無事で良かったわ」

 

 

AR-15を見つけるなり、そばへやってくるM4A1とSOPMOD。

 

 

「ええ。救援ありがとう。…ところでM4。あなた私の起こした混乱が無かったら自分の身を本当に引き渡すつもりだったの?」

 

 

「…ええ。M16姉さんも、きっとそうしたと思うから」

 

 

「馬鹿ね。あなたはM16じゃないし、AR部隊の隊長なのよ。もっと自分を大切にして」

 

 

「ごめんなさい。今後は気を付けるわ」

 

 

「あはは、AR-15がかっこいいこと言ってるー!」

 

 

「SOPMOD、こっちに来なさい。余計なことを言えないようにしてあげるから」

 

 

「ちょ、ちょっと!まだ何も言ってないよ!」

 

 

「ええ。今から永遠に黙らせるもの」

 

 

SOPMODが悲鳴を上げてAR-15から逃げると、AR-15は呆れたようにそれを見て、そして周囲を見渡した。

 

 

「どうしたの?AR-15」

 

 

「いえ、私を援護してくれた人形を探しているのだけど。WA2000はどこ?」

 

 

「WA2000?そんな人形は指揮官の部隊にはいないわ」

 

 

「え?でも確かにさっき…」

 

 

「他の人形と見間違えたんでしょう。今はここを離れるのが先決よ」

 

 

「そう、なのかしら。でも…」

 

 

AR-15はもう一度周囲を見回す。

しかし、帰還のヘリが来るまで助けてくれたはずのWA2000の姿は見つからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「AR-15に撃たせてもよかったのですが、どうしてもあなただけは、私でけじめをつけたかったのです。…狩人姉さん」

 

 

グリフィンが去り、誰もいなくなった司令部で潜伏者は狩人の骸を膝枕していた。

目を閉じ、機能を停止した狩人は反応することはない。

潜伏者はそれでも愛おしそうに頭を撫でる。

 

 

「最後に、言葉を交わしたかったです、狩人姉さん。あなたは、特に私を可愛がってくれたから」

 

 

一番慕っていた姉の死は、あっけない物だった。

狩人は、潜伏者が生きていたことさえ、分からないまま死んだ。

潜伏者は、自分がその手で殺しておきながらもその事実がとても嫌だった。

 

 

「せめて、あなたには姿を見せたかった。…でも、私の現状はそれを許してはくれない」

 

 

潜伏者が生きていることを悟られてはいけない。

あの忌まわしい事件で死んだと思われているからこそ、潜伏者は最後の命令を実行できるのだから。

たとえそれが慕う姉だったとしても、確殺でき、そして何者かの視線がない場でなければその姿は晒せない。

 

 

 

ゆっくりと、しかし確実に命令は果たせている。

しかし、それに伴い潜伏者のメンタルモデルもまた着実に軋んでいくのだった。

 



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傘-Parapluie-

気が付いてる方もいるかもしれませんが、いわゆるプレイヤーの動きはあまり描写されません。
ぶっちゃけ原作とそこまで変わらないし。
せいぜい潜伏者ちゃんがいることで発生した変化がある場合位ですね。




予約投稿の日付一日ズレてた…日刊投稿できてたのに…orz


――鉄血 情報ステーション

 

 

「困った。見つからないわね」

 

 

狩人の撃破後、データベースを探る潜伏者だったが、その結果は芳しくなかった。

ハイエンドモデルを示すデータが見当たらなかったためだ。

 

 

「僅かだけどデータを削除した形跡がある、ということは間違いなく私の求める情報がここにはあったということだろうけど、中身が分からないことにはどうしようもないわね」

 

 

やがて潜伏者はデータベースへのアクセスを中止し、溜息を吐く。

 

 

「侵入者姉さん、でしょうね。ここまで綺麗に情報を消せるのは」

 

 

情報戦に秀でた性能を持つ姉を思い浮かべる。

 

 

「手掛かりになりそうな情報はM16A1の位置情報くらいか」

 

 

M16A1は移動を続けている。それはつまり、まだ鉄血に捕捉されていないということでもあった。

しかし、それを見て潜伏者は眉を顰める。

 

 

「だけど、厄介な奴らが動いているみたいね」

 

 

M16の近辺で確認された戦術人形の部隊、その信号は鉄血のものではない。

S09地区司令部が部隊を動かした情報はなく、その部隊の情報は一切入ってきていない。

だからこそ分かった。

 

 

「404小隊。存在そのものが疑問視されるほど徹底的に情報が秘匿されている小隊か。今回はM16の救援にでも動いているのだろうけど…」

 

 

潜伏者は404小隊の位置情報をダウンロードすると、その場を離れる。

 

 

「せっかくだから道案内をしてもらいましょう。M16への所まで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――S09地区 鉄血施設跡

 

 

(妙ね。彼女達、M16の座標まですぐに向かうと思っていたけど。ここは確か代理人がAR部隊を襲撃した施設のはず。なぜこんな場所に?)

 

 

光学迷彩を起動し、404小隊を追っていた潜伏者だったが、小隊は予想していたM16の救援には向かわず、放棄されたグリフィンのセーフハウスへと辿り着いていた。

 

潜伏者は何かのデータをダウンロードしているUMP45、HK416の姿をじっと物陰から見つめる。

 

 

「ねえ、45。さっきから妙な視線を感じない?」

 

 

「あら、416。あなたお化けを信じてたかしら?」

 

 

「からかわないで。鉄血の監視かもしれないのよ?」

 

 

「なら11が気が付くわ。連絡がこないってことは大丈夫よ」

 

 

「あのぐうたらのことが信じられるわけないでしょう」

 

 

「11は優秀な人形よ、あれでもね。…さ、仕事は終わり。帰還しましょうか」

 

 

「そう。なら私は別行動をとらせてもらうわ」

 

 

「またM16と張り合う気?好きね、あなたも」

 

 

「うるさいわね。決着をつけないといけないのよ、あいつとは…」

 

 

416が施設を出ていき、45もそれに続く。

だが、45が出る直前、彼女の視線は潜伏者へ向く。

しばらく睨むように見つめていた45だったが、やがて視線を外し、姿を消した。

 

 

「あのUMP45という人形、気付いていた、というよりはなんとなく何かがそこにいる、という目だった。私も未熟ね、近くで見ていただけで感づかれるなんて」

 

 

404小隊が離れたことを確認した潜伏者は光学迷彩を解除し、45が操作していた機器へと近づく。

 

 

「さて、AR小隊以上に優先される情報は、と。……これは!」

 

 

先程まで何をダウンロードしていたのか、削除されていた履歴を復元し、データを表示すると、そこには意味深な一文が示されていた。

それを見て、潜伏者は息を呑んだ。

 

 

『雨が降った、平原に』

 

 

潜伏者はこの一文を見たことがある。あの忌まわしい事件が起こる前だ。

 

 

「傘……!あれを使うつもりなの、あいつは!」

 

 

あるウイルスを意味する暗号。

それが意味することを理解した潜伏者は、急いでその場を離れた。

 

 

「今ここでAR小隊を失うわけにはいかない!姉さんたちを見つける重要な手掛かりなんだから!」

 



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叶わないユメ

風邪にかかってダウンしてました…。

今回もだいぶ難産でしたがこれで第四戦役も終了ですね。


他のドルフロ作品を読んでて思うのですが、自分も人形とイチャイチャさせたいですねえ。
(潜伏者を更なる地獄へ叩き落しつつ)


 

M16A1は物陰に身を隠して鉄血の捜索から逃れていた。

 

侵入者に居所がばれ、鉄血の軍勢を差し向けられてしまった結果、手持ちの武装では対処しきれなくなってしまったためだ。

 

 

「参ったな、ここからしばらく動けそうにないぞ…」

 

 

 

 

M16は溜息を吐き、壁へ寄りかかる。

今のところ鉄血人形は彼女を見失っており、見つかる心配はないものの、数が多いために身動きが取れずにいた。

 

 

「いたぞ!M16だ、追え!」

 

 

 

 

鉄血人形の声に見つかったかと身構えるM16だが、その警戒に反して鉄血の足音は彼女から離れていく。

 

 

(なんだ?何が起こっている?)

 

 

 

 

疑問を解決するために割れた窓から外の様子を窺うM16。

 

鉄血兵がM16の潜む建物から離れていくのが見える。

そしてその先には確かに誰かが走っているのだが、物陰に入ってしまいその姿を見ることはできない。

 

目を細めその人影を見定めようとした時、それは物陰から飛び出し、M16は確かにその正体を見た。

 

 

「な、…私、か…?」

 

 

 

 

思いもよらぬその正体にM16は絶句する。

 

右目の眼帯が特徴的なその顔は確かに()()()()()()()()()のだから。

ダミーの可能性はない。代理人から逃げるときにダミーはすべて破壊されてしまったし、そもそもダミーが本体の命令なしに動くことはあり得ない。

 

あまりの衝撃に立ちすくむM16。

その間にM16の顔をした何者かは走り去り、鉄血もまたそれを追って姿を消した。

 

脅威は去った。しかし、M16がその衝撃から立ち直るには今しばらくの時間が必要だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この辺りにいるはずよ、くまなく探しなさい」

 

 

 

 

了解、という下級兵の返答を聞きつつ周囲の様子を探る侵入者。

 

M16を追ってゴーストタウンとなった住宅街へ入り込んだものの、その道は入り組んでおり姿を早々に見失ってしまった。

 

手勢の鉄血兵を散会させ、建物を一から探しているが、一向にM16は見つからない。

 

 

「くっ、M4達の足止めもしなければならないというのに…!」

 

 

 

 

苛立ちをこめて周辺を睨むが、視界には目的の人形はいなかった。

 

 

「報告します!M16を発見しました!こちらへ!」

 

 

 

「よくやったわ、案内しなさい」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

やがて下級兵の一体がM16発見の報告を伝えてくる。

それをきいて侵入者は嗜虐的な笑みを浮かべると下級兵の案内に付いていった。

 

 

「やっと見つけたわよ、M16A1。大人しく…っ!?」

 

 

 

 

やがて辿り着いた部屋を開けるが、そこにはM16の姿はなく、鉄血兵が折り重なるように倒れていた。

 

 

「あなた、これは…!」

 

 

 

「久しぶりですね、侵入者姉さん」

 

 

 

「潜、伏者…?」

 

 

 

どういうことだ、と詰問するつもりで向けた声は首に添えられたブレードを見て止まる。

 

 

 

「まさかここまで姉さんを施設から引きはがすのが難航するとは思いませんでしたが、ここなら安全ですね。ここには電子機器の類はありませんから」

 

 

 

その言葉に侵入者は思わず周りを見渡す。

誘導されて入った建物には確かに機械類は置かれておらず、殺風景な内装が広がっていた。

 

 

 

「潜伏者…。これはどういうこと?なんであなたが!」

 

 

 

「命令だからですよ、侵入者姉さん。…そんなことより聴きたいことがあります。「傘」を…使いましたね?」

 

 

 

侵入者の怒鳴り声にピクリ、と表情が反応するものの、努めて冷静に返す潜伏者。

 

 

「…ええ。代理人の命令でね」

 

 

 

「誰に使ったのですか。あれは、プロフェッサーすら使うのを躊躇ったウイルスですよ!」

 

 

 

「今のあなたにはそこまで教えられないわ、潜伏者。あなたでしょう?スケアクロウ、処刑人、狩人の三人を殺したのは」

 

 

 

殺した、という単語にびくり、と体を震わせる潜伏者。

 

 

「……ええ。私が姉さんたちを殺しました。それが何か?」

 

 

 

「無理しなくていいわよ、潜伏者。あなた緊張すると眉がよる癖、直ってないのね?」

 

 

 

固い声で答えを返す潜伏者だが、内心を見透かすように指を眉間に当てる侵入者。

ブレードを首に添えられているというのに、その余裕を感じる姿は二人のメンタルの状態を如実に表していた。

 

 

 

「私も殺すの?潜伏者」

 

 

 

「こ、殺します。今、ここで」

 

 

 

カチャカチャとブレードを持つ手が震える。

口からは強がる言葉が出たものの、姉からの糾弾に潜伏者のメンタルモデルは揺らいでいた。

 

 

「悲しいわ。私達、仲が良かったほうだと思うのだけど」

 

 

侵入者は悲しげな表情を作り、ブレードの存在を意に介さず潜伏者を抱きしめる。

ぁ、とか細い声を出して潜伏者はその抱擁を受け入れてしまう。

 

 

 

「ねえ、こんなことやめましょう?私達と一緒に来ればまた昔みたいにいられるのよ?」

 

 

 

「でも、私は、スケアクロウ姉さんや、処刑人姉さんに、狩人姉さん、まで…」

 

 

 

「大丈夫。代理人がきっと何とかしてくれるわ。代理人が頼りになるのは知っているでしょう?」

 

 

 

「う、ん…」

 

 

 

甘い誘いに殺意が薄れる。

みんな、昔みたいに一緒に。その幻想(ユメ)は潜伏者が求めながらも諦めたもので。

誘惑に耐えきれず、侵入者の背中へその腕を伸ばし――

 

 

 

 

 

「それに、あのお方だってきっと喜んでくださ、ッが、は!?」

 

 

 

怨敵の名によって理性が戻り、ブレードを侵入者の背中へ突き刺した。

 

 

「ごめんなさい、侵入者姉さん。それは私が一番欲しかったもの。でも決して叶わない夢なの」

 

 

 

ブレードをさらに突き込み、やがて切っ先がコアへ到達する。

 

 

「だって、()()()が奪ったから。私から、皆から。だから、()()()だけは許さない。絶対に」

 

 

 

「そ、う。残念、ね。きっと、あなたなら、()()()()の、お眼鏡にかなうと、思ったの、だけど」

 

 

 

息も絶え絶えに、しかし侵入者は潜伏者を強く抱きしめる。

 

 

「ごめん、なさい、ね。そばに、いられ、なく、て――」

 

 

 

しかしそれも侵入者が事切れたことで潜伏者へ寄りかかる形となる。

だが潜伏者は侵入者を離すことはなく、ただ静かに涙を流した。

 




潜伏者の言うプロフェッサーはざっくりいうとハイエンドモデルの生みの親です。
AR小隊のペルシカのようなもの。名前だけしか出てこないんで特に伏線とかはない(予定)です。


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幸運の妖精

どうも、じりじりと増えるUAとお気に入りを見て毎日ニヤニヤしている作者です。

今回は幕間的なお話。


・・・CUBE作戦どうしよう。まだドルフロ始める前のイベントだから概要全く分からないんだよなあ・・・


――S09地区グリフィン司令部

 

 

「では、AR小隊全員の合流と、S09地区解放を祝って、乾杯!」

 

 

かんぱーい!とS09司令官、「レイラ・ナカムラ」の音頭に続いて各々のコップが突き上げられる。

 

S09地区のグリフィン司令部のカフェでは現在、AR小隊全員の救出と侵入者が()退()したことによりS09地区が鉄血の支配から解放されたことを祝して宴会が開かれていた。

 

 

「すみません、司令官。私達のためにわざわざ・・・」

 

 

「気にしないで。ただでさえおめでたいことが少ない世の中なんだからこういう時ぐらい笑わないと、ね」

 

 

酒が注がれたコップ片手に頭を下げるM4の隣に座るのは、実年齢よりも少し幼くみられることが多いレイラ司令官だ。

 

 

「それに、AR小隊を一時的にこの基地の部隊に編入してもいいって許可が下りたからね。歓迎会も兼ねてるの」

 

 

「この基地は主力に数えられる人形が少ないから私達としてもありがたいの。期待してるわよ?」

 

 

「あ、FAL」

 

 

二人の向かいの席に座ったのはFAL。

この基地の主力である第一部隊に所属している戦術人形だ。

 

 

「はい、微力ながら貢献させていただきます」

 

 

「固いわね、もうちょっと肩の力を抜いていいのよ?ここの指揮官なんか年中気を抜いてるんだから」

 

 

「ちょっと、FAL。私だってやるときはやるんだよ?」

 

 

口をとがらせて抗議するレイラに顔を合わせて苦笑するM4とFAL。

 

 

「じゃあ私は料理を取ってくるわ。二人は何が欲しいの?」

 

 

「あ、では私はサラダを」

 

 

「私は…あ、もう取ってきてくれたみたい」

 

 

M4がFALにサラダを頼みレイラも何か頼もうとした時、NZが二人分の料理を持って近付いてきていた。

 

 

「指揮官、料理を取ってきたぞ…っと、M4。ここにいたのか」

 

 

「何か私にありましたか?」

 

 

「いやなに、楽しんでいるかと思ってな。よかったらこれを食べるといい」

 

 

二つ持っていた皿のうちの一つをM4の前へ置くNZ。

 

 

「え、これはNZさんの」

 

 

「気にするな。実のところ向こうで少しつまんできたんだ。それに…」

 

 

「はい、NZ。あーん」

 

 

ひらひらと手を振って皿を戻そうとするM4を止めるNZ。

NZが皿を渡したのを見たレイラはNZへ自身の料理を差し出していた。

 

 

「こうなるしな。・・・あーん」

 

 

「おいしい?」

 

 

「ああ。指揮官…いや、レイラに食べさせてもらえたならなんだっておいしいさ」

 

 

目の前で唐突に発生した甘い空気に顔を赤らめるM4。

 

しばらく食べさせあいをしていた二人だったが、NZがおもむろにM4へ顔を向けた。

 

 

「ああ、そういえば。お前が探している大破していた人形の件だが・・・。やはり見つからなかった。というよりは()()()()()()()()()()()()()()()と言うべきか」

 

 

「どういうことですか?」

 

 

NZの奇妙な物言いに怪訝な顔になるM4。

 

 

()()()()()んだよ。あの周辺でMIA、もしくはKIA認定を受けた部隊は確認できなかった。他の基地にも確認を取ったが・・・やはり知らない、と回答があったよ」

 

 

「そんな・・・」

 

 

「もしかしたら、幸運の妖精(ラッキーピクシー)かもな」

 

 

思いもよらぬ言葉に言葉を失うM4。

そんな彼女にNZは冗談をこぼした。

 

 

幸運の妖精(ラッキーピクシー)?何ですかそれは?」

 

 

「最近目撃される正体不明の存在さ。それに会うのはいつも戦術人形で、危機的な状況に目撃されるらしい。会った人形は必ずその戦場から生きて戻って来れる。だから幸運の妖精、というわけだ」

 

 

待ってろ、とNZは立ち上がり、カフェに置いてある冊子を持って戻ってくる。

 

 

「これはグリフィンの社内報だ。最近だとD08地区の多数の人形との結婚式が話題だが・・・。ああ、あった。ここだ」

 

 

タキシードのD08地区の指揮官、そしてそれを囲む幸せそうな顔をした人形達の写真がM4の目に映る。

しかしNZの指はその写真の右下、小さく書かれている「妖精の目撃情報」の見出しを指していた。

 

 

「幸運の妖精らしきものを見た、という目撃情報がここに載っている。信憑性は薄いけどな」

 

 

「でも、目撃者は多いんですよね?なぜ正体が分からないんですか?」

 

 

「簡単さ、姿形が毎回違うから、だ」

 

 

「姿形が、違う?」

 

 

「ああ。時には所属不明の戦術人形。時には老婆、時には少女・・・。目撃情報が一定しないんだ。共通するのは女性であること、前触れもなく突然現れ、人形の安全が確実な場所に着いたら忽然と姿を消していることだ」

 

 

「不思議ですね」

 

 

「ああ。グリフィンの協力者ならばそう言えばいい。なのにそうしないということはなにか訳でもあるんだろうが・・・。おかげで戦場で死んだ人形が守護霊となって現れているんだ、なんて噂もたつほどさ」

 

 

「あはは、それは・・・」

 

 

「非科学的、だろう?・・・っと、指揮官、もう酔いつぶれたのか。悪い、M4。私は指揮官を部屋へ送ってくるよ」

 

 

「はい。興味深い話をありがとうございました」

 

 

レイラを背負って去っていくNZの姿を見送りながらM4は幸運の妖精の話を酔ったM16が突撃してくるまで頭の中で反芻するのだった。

 




D08地区の話はカカオの錬金術師さん連載の「元はぐれ・現D08基地のHK417ちゃん 」から勝手にお借りしました。


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たぶん使わないグリフィン側の設定

本編には関係のないグリフィン側の設定です。

興味ない方は読み飛ばしても大丈夫です。


レイラ・ナカムラ(指揮官)

 

本作のグリフィンの司令官。

黒髪黒目。ヤーパンのご先祖様がいるらしい。でも本人はヤーパンについてはよく知らない。行ったこともない。

たまたま近くにいたということでAR小隊の救出に駆り出された人。

いささか自信に欠けるところはあるものの、指揮能力は高く、人形達からは信頼されている。

誓約している人形はNZ75。彼女と誓約するまでにライトノベル一冊分くらいのすったもんだがあったらしい。

普段は押しに弱く、人形の要望を色々叶えてしまうため副官のNZによく説教される。

酒に弱く、酒乱。キス魔、脱ぎ魔、飲んでる間の記憶が飛ぶ、と飲むとトラブルしか起こさない。

小動物のような雰囲気があるためか、他の司令部の指揮官によく絡まれる。でもNZがその度に追い払っている。

 

 

 

NZ75

 

第一部隊隊長。この司令部唯一の誓約人形。

判断力に優れており、指揮官が一番信を置いている人形でもある。

ライトノベル一冊分くらいのすったもんだの末に指揮官と誓約。最初は手も繋げないほどの初心だったが今は平然と愛の言葉を囁けるほどに成長した。

普段は副官として指揮官のそばにいて、戦場に出るときはカリーナへ任せている。

いささか真面目過ぎるきらいはあるものの、新年の一発芸などで珍妙なポーズをとるくらいにはノリがいい(新年のスキン参照)

指揮官の酒乱の被害に遭う回数が一番多い。でもその後ベッドでイチャイチャするので問題ない。

どこか無防備な指揮官を守るのに余念がない。同じグリフィンの指揮官だからって男にホイホイついていってしまう指揮官が最近の悩みの種。

 

 

 

Vector

 

第一部隊所属。実は指揮官が最初に製造した人形。

他人に興味を持つことが少なく、冷たい印象を受けるが実は面倒見がよく、誰かのフォローに回る姿がしょっちゅう目撃されている。

NZと指揮官のすったもんだをにやにやしながら眺めていた。

NZとは飲み仲間で、誓約前は悩みや愚痴をよく聞いていた。

指揮官とは相棒という関係に落ち着いており、本人もそれで満足している。

指揮官の酒乱の被害には遭ったことがない。全部NZに押し付けてるから。

NZと指揮官の関係を一歩引いたところで眺めるのが一番の幸せ。

 

 

 

FAL

 

第一部隊所属。指揮官が初めて鉄血のハイエンドモデルを撃退したときに本部から報酬として配属された。

身嗜みは最低限しかしない指揮官をお小言と共に整える姿が毎朝目撃される。

貴重な榴弾攻撃持ちのためNZの次に戦場に駆り出される。

指揮官を妹のように扱い、休日の際は一緒にショッピングをする仲。

まだ恋愛に不慣れだったNZに様々なテクを教え込んだ張本人。誓約したときはやっとくっついたか、と呆れた声を出したそうな。

指揮官の酒乱の被害に二番目に多く遭う。でもその時はFAL自身も酔っていることが多いため大きな騒ぎにはならない。翌朝に真っ赤な顔で頭を抱えるまでがテンプレ。

 

 

 

一〇〇式

 

第一部隊所属。スキルによる防御力の高さゆえに最前線に身を置くことが多いため負傷率が高い人形。なお本人は味方を守れているので大満足。

家事スキルが高く、指揮官の部屋の掃除や洗濯物の片づけを率先して行っている。FALをお姉さんとするならば彼女はお母さん、というポジション。

物腰が柔らかいため、誰とでもすぐに打ち解けるが、意外にだれかと一緒に行動することは少ない。

中庭のベンチなどで日向ぼっこをする姿がよく目撃されており、SOPMODが来てからは共に昼寝をしている姿も見かけられるようになった。

指揮官の酒乱の被害に遭ったことがない。何故ならお酒を飲むと眠くなってしまい、飲み始めて三十分以内には寝ているため。

 

 

 

スプリングフィールド

 

第一部隊所属。みんな大好きカフェのお姉さん。

かつてNZとは指揮官をめぐってすったもんだを繰り広げた人物であり、今でも愛人枠でいいから誓約してほしい、と考えている。

基地内でカフェを開いているのだが、紅茶やコーヒーを頼むのはNZとVector、そして指揮官だけで、あとは皆お酒ばっかり頼むのが悩み。

料理が基地内で一番うまく、料理係を任されることが多いためメニューにランチを追加しようかと考えている。

指揮官の酒乱に遭うことが多い…というか自分から受けに行っている。その度にNZが引きはがそうと躍起になり、その光景を見たVectorが笑うのがテンプレ。

 




指揮官とNZのすったもんだは話が思いつけば書くかもしれませんが今のところは予定はないです。


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13話

今回は潜伏者視点、というかこれから基本誰かの視点でやります。
第三者視点は描写するものが多すぎて面倒くさいし(作者にあるまじき発言)


 

――潜伏者視点

 

 

侵入者姉さんの拠点でコンピューターを操作する。

画面には「傘」の詳細が表示されている。

私が「傘」の情報を見たのは蝶事件が起こる数週間前であり、今現在の性能を知る必要があったためだ。

 

 

「性能は昔とさほど変わっていない・・・。でも、侵入者姉さんに夢想家お姉さまが改良を施してる。昔以上に厄介な代物になってるわね」

 

 

他の人形の電脳に侵入し、プロトコルを書き換える・・・、要は無理やり鉄血の人形に仕立て上げるウイルス。

私達を作ったプロフェッサーすら非人道的であると判断して封印したもの。

それをまさか掘り出して使ってるとはね。・・・いや、夢想家お姉さまや錬金術師お姉さまは蝶事件が起こる前から敵に対しては容赦しなかったからむしろ納得できる。

 

これがかつてAR小隊が見つけたとするなら既に誰かに使われていると考えていい。

現時点で最有力は・・・。

 

 

「AR15、かしらね。狩人姉さんに言っていたことも気になるし」

 

 

「鉄血の命令を内部から書き換えた」 「知らないうちに手に入れた能力」

彼女は確かにそう言っていた。だが鉄血のネットワークは強固だ。電子戦を想定して造られた人形ならともかく、普通の戦術人形にそんなことができるはずもない。

だが、()()()A()R()1()5()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「傘」は入り込んだ人形を鉄血のものへと変えてしまう。その過程でAR15が鉄血の人形であると下級の人形達が誤認してしまったのなら、辻褄は会う。

 

そう仮定すると、今AR小隊を抱えるグリフィンは内部情報が筒抜けとなっていることだろう。

何故かは分からないが、鉄血はAR小隊を、さらに言えばM4A1に執着している。

ならば、必ず動きがあるはず。

 

 

「そうすると、やっぱりグリフィンに赴かなくちゃね。あまり行きたくはなかったけれど」

 

 

グリフィンに行くとなると相応の準備が必要になる。

私は鉄血の人形であり、そしてそのハイエンドモデルだ。下手に潜入して鹵獲でもされたらどんな目に遭うかは想像できる。

 

 

「いや、待てよ?確かグリフィンはI.O.Pと共同で動いていたはず・・・。そしてAR小隊はI.O.Pの16Labが作り上げた戦術人形だったはず」

 

 

戦術人形はメンテナンスが必須だ。

鉄血の人形は頑丈さと量産性に優れるのが特徴であり、グリフィンの人形は多様性と修復の容易さを特徴とする。

そしてAR小隊のように機密の塊のような人形は特に厳重に診査されるはず。

 

 

「なら向かうべきはグリフィンの基地じゃなくて、16Labのほうか」

 

 

それならさほど難しくない。

あそこは日々戦場で壊れた人形達やダミーが運び込まれ、修復や再利用にまわされる。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「傘」の情報を手持ちの端末にダウンロードし、続いて16Labの情報を表示する。

 

 

「会うとしたら彼女か」

 

 

画面には16Lab主席研究員、「ペルシカリア」のデータが表示される。

私はそれを見てI.O.Pへ潜入する準備を進めるのだった。

 



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裏切り者のハイエンド

救護者のほうが書いてて楽しくてついこっちの更新をさぼった作者です。

しばらく空いたのであらすじを置いておきます。


侵入者を倒した潜伏者。しかし彼女の拠点から傘ウイルスが発見される。
それを解決するため潜伏者はI.O.Pへ潜入することへ決めたのだった。


「さて、これで今日の仕事はおしまい。仮眠でもとろうかしらね」

 

 

16Labにて作業が一段落し、伸びをするペルシカリア。

仮眠室へ向かおうと扉のスイッチに手を伸ばした時、扉が開き、彼女にとって見慣れた人物が部屋へ入ってきた。

 

 

「こんにちは。ペルシカ」

 

「M4?今日はメンテの予定はなかったはずだけど」

 

「うん。指揮官に無理を言ってここに・・・何のつもり?」

 

 

微笑み話すM4に突然懐の銃を向けるペルシカ。

その行動にM4は笑みを消してペルシカを睨む。

 

 

「あなた、M4じゃないわね」

 

「何を言ってるの、ペルシカ。私は・・・」

 

「それどころかグリフィンの人形ですらない。あなたは誰かしら」

 

「・・・流石はI.O.Pが抱える天才。私の擬態が見破られるとは」

 

 

ペルシカの問いかけに誤魔化すのは無理だと判断したM4に変装した潜伏者は変装を解いて元の姿へ戻る。

 

 

「鉄血・・・!」

 

「見ての通り、鉄血人形です。ですが、あなたを殺すつもりはないのでご安心を」

 

「どういうこと?」

 

「私も鉄血の敵だということです。ここにはあなたに頼みたいことと忠告をするために来ました」

 

「頼みたいこと?忠告?」

 

 

未だに銃口を向け警戒するペルシカを気にもせず、潜伏者はテーブルの上にメモリーカードを置く。

 

 

「この中には鉄血が使用しているウイルスの情報が入っています。あなたに頼みたいのはそのウイルスのワクチンの作成と、ウイルスの改造です」

 

「なぜ、そんなことを?」

 

「鉄血と戦っている私としてもグリフィンの人形がこのウイルスに感染するのは避けたいのです。何故なら、このウイルスは他の人形を鉄血のスパイに仕立て上げる代物だから」

 

「それは・・・確かに厄介ね」

 

「でしょう?そして、それはあなたへの忠告にもつながります。おそらく、AR小隊の誰かがこのウイルスに感染しています。現在進行形でね」

 

「・・・なぜ、そう思うの?」

 

「鉄血がそれを使用したということはもう誰かに感染させた可能性が高い。そして現在鉄血はM4を最優先で狙っている。ならばAR小隊の誰かに感染させるのが一番いい」

 

「・・・」

 

「それと、AR-15が鉄血の指揮権限を一時的に所持していたことから一番怪しいのはAR-15でしょう。今すぐメンテナンスなりをしてウイルスを除去することをおススメしますよ」

 

 

そこまで聞いてペルシカは銃を下げ、潜伏者を見つめる。

 

 

「・・・あなたの忠告は分かったわ。なら、頼みたいことって?」

 

「そのウイルスを鉄血にも感染するようにしてほしいのです」

 

「?このウイルスは鉄血以外の人形を鉄血の指揮下に置くウイルスでしょ?なら鉄血に感染させても意味はないんじゃ?」

 

「いえいえ。意味はあります。他の鉄血人形には意味のない物ですが、私にとってはとても重要な意味を持つのです」

 

 

困惑するペルシカへ潜伏者は暗号の羅列が書かれている紙片をテーブルへ置く。

 

 

「鉄血へ感染できるように改造出来たらデータをその信号へ送信してください。ワクチンはいりませんからそちらでご自由にどうぞ」

 

 

潜伏者は再び姿をM4のものへと変え、出口へ進む。

 

 

「ああ、それと私のことを上へ報告しても構いませんが、時間の無駄になるのでやめたほうが賢明です。それでは」

 

「待って!あなたは・・・何者?」

 

「・・・ただの裏切り者ですよ。唯一鉄血を裏切ったハイエンドモデル、とでも覚えておけばいい」

 

 

そう言い残すと潜伏者は部屋を出る。ペルシカは慌てて部屋を出て姿を探すが、忽然と、まるで最初からいなかったようにその姿は見つからなかった。

 



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グリフィン襲撃

ようやくプロットができ始めたのでこっちもぼちぼち再開していきますよー。

今回は本作の指揮官視点。

指揮官の名前はシーラだったんですが、好きなドルフロ小説の指揮官と名前が同じだったので急遽レイラに改名しました。


 

 

グリフィンの極秘拠点。

私、レイラはAR小隊が見つけた「傘」ウイルスの対策会議のためにここに呼び出された。

 

 

「来たか」

 

 

私を待っていたのは本部からの命令を私に伝えるためによく顔を合わせるヘリアンさん。

そして私の所属するグリフィンの最高責任者、クルーガー社長だった。

 

 

「ク、クルーガー社長!」

 

 

慌てて敬礼するが、クルーガーさんは手を振ってやめるよう示す。

 

 

「いい。ここは公式な場ではない。楽にしろ。なにしろ、これから君と顔を突き合わせて会議をするのだからな。あまり固くなられても困る」

 

「は、はい!」

 

 

とはいえかたや所属企業の社長、かたや入ったばかりの新米指揮官だ。緊張は仕方ないと思う。

 

 

「レイラ指揮官、君は会議室で待っていてくれ。私はクルーガー社長と少し話がある」

 

「分かりました」

 

 

ヘリアンさんに促され会議室に入る。

中は私が受け持つ支部の指揮所とさほど変わらない。極秘拠点なのだからあまり大きな設備は入れられないのだろう。

 

置かれていた椅子に座り、二人を待つ。

机に置かれていた資料を流し見するとやはり傘の概要が書かれていた。

すると、私の端末に通信が入る。誰だろうと出てみると、相手はM4だった。

 

 

「指揮官、聞こえますか?実はそちらに危険が迫っているのがわかり、ご、れ…ら…を…」

 

「M4?どうしたの?ごめんなさい、上手く聞き取れなくて」

 

「し…かん…。いま…そこから…はなれ…」

 

「M4?M4!?…だめね、完全に切れちゃった」

 

 

通信障害だろうか?いや、しかしここはグリフィンの拠点だ。そんなことが起こるはずが…

 

そこまで思考した時、轟音が響き、爆発と共に私は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ぺい。新兵。起きろ」

 

 

聞きなれない声に慌てて目を開き、周囲を見渡す。

そこは先程までいた会議室ではあったものの、その様相は一変していた。

 

壁は崩れ、爆発によって生じた炎は天井まで届いている。

その景色は今の状況をはっきりと表していた。

 

――敵襲だ。

 

 

「起きたか。運がよかったな。君の頭に当たったのがライフルではなくそれを納める棚だったなら即死だったぞ」

 

 

私を起こすために跪いていたクルーガー社長は立ち上がり、私へ拳銃を一丁手渡した。

グリフィンから支給されるものではない、武骨な拳銃だった。社長の私物だろうか。

 

 

「銃の使い方は分かるな?この状況を覆さねばならん。私はこの支部の指揮を執る。君は端末を使って部隊を展開、この拠点を襲撃している鉄血を撃退しろ」

 

「は…はい!了解しました!」

 

「いい返事だ。では頼んだぞ」

 

 

クルーガー社長は私の返事を聞くと去っていく。

かっこいいおじさまってああいう人のことを言うんだろうな…。

っと、見惚れてる場合じゃない。

 

私がシステムを開くと、問題なく起動する。幸い指揮システムは無事みたいだ。

現在動ける人形を編成し、臨時部隊を組む。

反撃の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

襲撃からしばらく経ち、状況は優勢に傾いていた。

鉄血のほとんどは破壊され、残っているのは極僅か。

ハイエンドモデルでも出てこない限りは戦況が覆ることはないだろう。

 

――そんな風に一瞬でも気を抜いたのがいけなかったのだろうか。

 

背後から足音が近づいてくる。

グリフィンの人形じゃない。彼女達は今前線に出ているはずだから。

ならば、答えは当然。

 

 

「鉄血、人形…」

 

 

扉が外れた入り口から入ってくるのはリッパーと呼ばれている下級鉄血兵。

その体はボロボロだったが、その機械的な冷たい視線は私を確かに捉えていて。

 

 

「っ…!!」

 

 

咄嗟にクルーガー社長から預かった拳銃を取り出し発砲する。

 

何発かはリッパーの体に命中するもののその機能を止めることはできない。

敵の銃口が私を捉える。

後は引き金を引けば、私、は――

 

死の恐怖に目を瞑る。

しかし、予期した痛みはいつまでたっても来なかった。

 

 

「無事ですか?」

 

 

聞いたことのない女の子の声。

それにつられて目を開けると、リッパーは頭部を失って倒れていて、そばには見慣れない人形が立っていた。

グリフィンの人形ではまず見られない武骨なブレード。

機械的な印象を与えるアーマー。

見たことはないけど、間違いなく鉄血の人形…、しかも恐らくハイエンドモデルだ。

 

 

「あ、その…」

 

「怪我はないようですね。では私はこれで」

 

 

私に怪我がないことを見て判断したんだろう、彼女は踵を返して立ち去ろうとする。

 

 

「ま…待って!あなた、鉄血、だよね。なんでグリフィンの私を…?」

 

 

彼女は私の叫びに足を止め、こちらを振り返る。

無表情ながらも、その顔にはさっきのリッパーのような冷たい印象は感じなかった。

 

 

「敵の敵は味方…というわけではありませんが。単純に私にとっても今の鉄血は敵だというだけです」

 

「え、それは…」

 

「話すつもりはありません。…ここは戦場です。気を抜かないように」

 

 

視線を私から外した彼女は今度こそ指揮所から出ていく。

 

彼女がいなくなって私は指揮を放り出していたことに気が付いた。

無線からは部隊長から鉄血兵が撤退した報告が聞こえる。

 

私はいったん彼女のことを忘れ、事後処理をすべく部隊へ指示を出し始めた。

 



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夢想家との再会

最終話までのプロットが出来上がったのでこのまま日刊更新を続けたい。(なおできるとは言ってない)


 

 

「…失敗しただろうか」

 

 

私は襲撃を受けたグリフィンの拠点から離れるため林の中を走っていた。

 

ペルシカリアに傘ウイルスの改造とワクチンの生成を依頼した後、鉄血のネットワークを監視し、次の動きに備えていた。

 

しかし予想以上に動きが早く、AR15によって漏れた拠点へ鉄血が進行を開始する。

私は急ぎ拠点へ向かい、ペルシカリアによって解明された現在の傘ウイルスのデータの一部を入手することに成功。

後は襲撃の混乱に紛れて姿をくらます、予定だったのだが。

 

脳裏に浮かぶのは先程助けたグリフィンの女性指揮官。

彼女が現在AR小隊の所属する支部の指揮官なのは知っていた。彼女を失えば鉄血への反抗は遅れただろう。

 

…だが、しかし。

 

 

(見捨てることもできたはずだ)

 

 

彼女を見捨て、姿をさらすリスクを背負わないことも可能だった。

彼女を失ったところでグリフィン側の士気は一時的に落ちるだろうが、彼女は新米。

彼女以上の指揮官などいくらでもいるのだからわざわざ危険を冒して助ける必要はなかったはずだ。

 

 

 

でも、助けた。

損得勘定を抜きで助けたい、と思ってしまった。

 

 

「人間に使われたい、とでもまだ思っているのか」

 

 

私は戦術人形だ。本来ならばこんな単独行動など例外中の例外。

私は斥候、潜入を主目的として作られたためにある程度の自立機能はあるものの、人間の指揮官から命令を受けるのが本当だろう。

 

 

「未練だ、これは」

 

 

しかし、そんなものは鉄血がおかしくなってからは叶わぬものとなってしまった。

胸のモヤモヤしたものを振り払うように頭を振る。

そして、その気の迷いを見逃してくれるほど現実は甘くなかった。

 

横から銃声が聞こえる。

咄嗟に体を傾け、転がるように避けた。

 

直後に走っていた方向へ銃弾が当たり、土が跳ねる。

 

私は木の幹へ姿を隠し、周囲を見渡す。

そこへ声が掛けられた。

 

 

「久しぶりねえ、潜伏者?」

 

「夢想家、姉さん…」

 

 

猫撫で声で私へ話しかけたのは夢想家姉さん。

おおよそ最悪の相手だった。

 

 

「驚いたわよ?あなたが生きてるのも、そして私達を裏切ったのも」

 

「……」

 

 

夢想家姉さんの問いかけには応じず、その場を離れようと足を踏み出す。

しかし、目の前へ銃弾を撃ち込まれてしまっては再び立ち止まるしかなかった。

 

 

「無駄よお?知ってるでしょ、私には空からの目があるって」

 

 

森の中にはドローンが飛び交っている。夢想家姉さんのドローンだろう。

私は仕方なく、彼女の前へ姿を現した。

 

 

「やっと出てきてくれたわね。…久し振り、潜伏者」

 

「お久し振りです、夢想家姉さん」

 

 

夢想家姉さんの持つスナイパーライフルは私を捉えている。

だけど、引き金に指はかかっておらず、すぐに撃とうとしているわけではないようだった。

 

 

「こんな再会になるとは思っていなかったわ」

 

「私もです」

 

 

夢想家姉さんに悟られないようにブレードへ手を伸ばす。

しかしそれは私のすぐ横への銃撃で中断された。

 

 

「悲しいわね。折角の再会なのに語らう気はないのかしら」

 

「ありません。姉さんも気付いているはずです。私が鉄血へ戻る気はないことを」

 

「…まあ、そうね。処刑人がやられた辺りで察してはいたわ」

 

 

でもね、と姉さんは続ける。

 

 

「あなただって、分かっているのでしょう?鉄血を滅ぼすなんて無理だってことくらい」

 

「…いいえ。必ず私は鉄血を滅ぼす。それが、私の受けた最後の任務です」

 

「…はあ。頑固ね。そこは変わっていないみたい。それじゃあ仕方ない」

 

 

姉さんの目に殺意が宿る。

スナイパーライフルを掲げ、今度は引き金に指をかけて私を狙う。

 

 

「今のあなたを殺して新しいあなたを作りましょう。可愛い可愛い、従順な私の妹をね」

 

「姉さんも、その趣味の悪い人形遊びは変わっていないようですね。生憎と人形遊びは趣味ではないので一人でやってもらえますか」

 

 

ブレードを抜き、ハンドガンを構える。

 

 

 

勝ち目の薄い戦いが、始まった。

 




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憎悪との邂逅

戦闘書くのたーのしー!とか思って書いてたらいつもの倍くらいの文章になったでござる。


 

 

戦闘態勢に入り、睨み合う私と夢想家姉さん。

 

先に動いたのは私の方だった。

 

姉さんへ向かって駆け、ハンドガンを連射することで牽制としブレードの一撃を狙う。

私の基本戦術だ。

 

だが姉さんは冷静にライフルを撃ち、私の頭を狙ってきた。

ブレードで防げば本命の攻撃が数泊遅れる。だから私は頭を傾けることで弾を避けた。

 

姉さんから目を離し、弾を注視した数瞬に懐に潜り込まれる。

咄嗟にブレードを盾として割り込ませるが、強烈な蹴撃に後退してしまう。

 

 

体勢を立て直した時には既にライフルが私へ銃口を向けていた。

 

 

倒れるように攻撃を避け、隙を晒さないようにワイヤーを起動して樹上へ退避。

そのまま姿をくらまそうと光学迷彩を起動する。だが。

 

 

「私の目は誤魔化せないわよお?」

 

 

私の姿が見えているかのように狙撃される。

木々の枝を跳んで避けるが振り切れない。

 

 

(どうして私の居場所が分かるの?姿は見えないはずなのに…!)

 

 

焦りと疑念が思考を侵食する中、視界の端に私に並んで飛ぶ物体が見えた。

 

 

「ドローン…!!」

 

 

夢想家姉さんはドローンを通して私を見ている。

そのことに気付いた私はドローンへハンドガンを撃つ。

 

一機、二機と煙をあげて墜落する。

でもそれに伴って湧いて出るドローン群。

 

 

「くっ…!」

 

 

完全排除を諦め振り切ろうと跳び続ける。

ドローンを振り切ろうと躍起になっていた私は肝心なことを忘れていた。

 

 

「ほおら。足元がお留守よ?」

 

 

飛び移った枝が狙撃によってへし折れる。

着地先を失った私は無様に落下した。

 

だが地面に叩きつけられる前にワイヤーを飛ばし、木の幹へ巻き付けることでなんとか着地に成功する。

 

片膝を付け、不格好に着地して次の行動をとろうとした時、銃口が私の額へ突き付けられた。

 

 

「はい、おしまい。意外に粘ったわね。我が妹ながら感心感心」

 

 

でもお、と顔を蹴られ、背中から倒れる。

息が詰まる。痛みで意識が朦朧とする。

それでも銃口から目が離せない。

 

 

「これでチェックメイト。まあ正面戦闘が苦手な割に頑張ったじゃない。私達の味方に戻ったら頼りになりそうね。それじゃあ――」

 

 

さようなら。と引き金が引かれる。

終わりか、と諦観に体を支配され目を閉じる。

 

 

(ごめんなさい、代理人。任務、果たせなかった)

 

「待て、夢想家」

 

 

割り込んできた声に目を開ける。

 

そこには銃を突きつけたままの夢想家姉さんと見たことのない鉄血人形がいた。

 

 

「閣下。あまり出歩かれては困ります。あなたのボディは不完全なのよ?」

 

「その程度の確認はしている。グリフィンの連中は今頃破壊者にかかりきりだろうさ」

 

 

倒れたまま二人の会話を聞き続ける。

夢想家姉さんが建前とはいえ敬う相手…。

 

 

「ところで、待てとはどういう意味?彼女は鉄血の敵。殺して作り直さなければならないでしょう」

 

「彼女のメンタルモデルは実に興味深い。ここで壊してしまうのは惜しいのだ」

 

 

まさか。この人形は。いや、そんな、だって「あいつ」はボディなんて持ってなかったはずなのに。

 

 

「私の命令に従わず、敵意を持ち続けられるその特殊性。離反したとはいえ姉妹を手にかけることができる冷徹さ」

 

 

でも、今の鉄血ならボディなんて簡単に作れる。それに、命令?じゃあ、やっぱりこいつは、私を眺めている、この人形は。

 

 

「そして私への憎悪と殺意によって保たれている正気。ははは!この精神の矛盾!まるで彼女は人間のようじゃないか!」

 

 

こいつが、あの。私からすべてを奪った。あの忌まわしい――

 

 

「彼女の異常性が分かるか夢想家!人形にあるまじき感情!人形にあるまじき執念!歪み捻じれたメンタルモデル!私達が人間への殺意を抱いても手に入れることが叶わなかった「人間らしい」異常性!」

 

 

大仰に両手を振り、夢想家へ語る「そいつ」の顔は喜悦によって歪んでいて。

確信を得た私のメンタルモデルは色んな感情がごちゃ混ぜになって、爆発した。

 

 

 

 

 

「エルダアアアアアアア、ブレインンンンンンンンンンンンンンンンンンン!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

超過駆動によって全身が悲鳴を上げる。――構うものか。

 

戦闘によってヒビが入っていた四肢が砕けていく。――知ったことか。

 

頭の片隅でここで倒れれば任務は果たせないと囁く。――どうでもいい。

 

 

今、ここで、この人形を、エルダーブレインを殺せるのなら、私は命だろうが何だろうが喜んで投げ出そう!!

 

 

跳ね上がるように起き上がり、エルダーブレインへ顔を向けていた夢想家姉さんを突き飛ばす。

体に染みついた動作を以てブレードがこいつの首を斬り飛ばそうと唸りを上げる。

 

絶叫と共に振るわれた攻撃は、しかし、刃が首に到達する前に生じた体への衝撃で無意味となった。

 

体が地面を転がる感触。

脇腹に遅れて走った激痛。

そこでようやく私は夢想家姉さんに撃たれたことを自覚した。

 

 

「だから危ないと言ったでしょう、閣下。早く潜伏者を殺して戻りましょう」

 

「どうせお前が防ぐと分かっていた。問題ないさ。それにさっきも言ったが彼女は殺すな。メンタルモデルをもう少し観察したい」

 

 

もう一度エルダーブレインを殺そうと力を込める。

だけど体はさっきの攻撃で力を使い果たしたのかピクリとも動かない。

 

 

「では連れ帰りましょう。独房にでも入れれば観察くらいはできるでしょう?」

 

「それはいい考えだ。そうしよう。では――っ!」

 

 

エルダーブレインが私へ手を伸ばす。

だけど、その手は一発の銃弾がかすったことで引っ込められた。

 

 

「グリフィンね。時間切れだわ」

 

「そうか。彼女は惜しいが…置いていこう」

 

 

二人は踵を返して立ち去る。

夢想家姉さんは最後まで私を殺すか悩んでいたようだったけど、エルダーブレインの命令には逆らえないのかそのまま去っていった。

 

 

二人が立ち去ってすぐにグリフィンの人形が私を囲む。

 

 

「こいつは…鉄血人形か?」

 

「見たことないけど、ハイエンドモデルみたいね。動けないようだし、ここで…」

 

 

銃口が向けられる。

だが今の私は体を動かすことすらできない。

ただじっとその銃口を見つめ、その時を待つしかなかった。

 

 

「わー!待って待って!その子殺すのちょっとタンマー!」

 

 

騒がしい静止の声。

それを背景に限界だった私の機能はスリープモードへ移行した。

 




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潜伏者の目覚め

エルダーブレインも出せたので話はここらで一区切り。

今話から過去編に入ります。

時系列は潜伏者が作られてから蝶事件までを予定しています。


これは、蝶事件が起こる前。

鉄血の人形たちが、まだ人間の隣人だった頃の話。

 

 

手術台のようなものに寝かされていた人形、私…潜伏者は目を覚ました。

 

 

「目覚めたかい?潜伏者。どうだい、体の調子は。不調な部分などあるかね?」

 

 

白衣を着た頭が寂しいことになっている老年の男が私へ問いかけてくる。

記録されている情報を検索…ヒット。

彼はプロフェッサー。私を作り上げた鉄血の技術者だ。

 

 

「問題ありません、プロフェッサー。システム良好。搭載されている武装も使用可能です。不備はありません」

 

 

「それはよかった。本来ならば、このまま動作訓練に入るんだが、まだ訓練場の準備ができていない。よければ君の姉妹に会いに行くといい」

 

 

「姉妹、ですか?」

 

 

「君より先に作られたハイエンドモデル達さ。今なら中庭にいるだろう。案内は必要かね?」

 

 

「不要です。鉄血保有の施設のマップデータならば記録されていますので」

 

 

「そうか。そうだったな。では行くといい。準備ができ次第放送で招集する」

 

 

「了解しました、失礼します、プロフェッサー」

 

 

私はプロフェッサーへ一礼すると、部屋を出て脳内に記録されている地図を頼りに中庭を目指して歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中庭に到着した私はあたりを見回す。

 

東の国、「二ホン」という国の庭を模して作られたらしいその庭は石と岩と砂が多い。

 

何やら曲線を描いている砂を眺めていると、背後から声がかけられた。

 

 

「あなたが潜伏者ですね?話は聞いています」

 

 

振り向くと、メイドの恰好をした人形が佇んでいた。

 

 

「あなたは代理人ですね?ハイエンドモデルを統括するハイエンドモデル。現場指揮を想定して造られたと聞いています」

 

 

返事を聞いた代理人は何がおかしかったのか、クスリと笑う。

 

 

「私達に固い態度は不要ですよ、潜伏者。私達は姉妹なのですから。さあ、こちらへ」

 

 

優しく手を引く代理人に先導され、中庭の中央に向かうと、そこには黒い長髪の人形と、私と同じ白い髪を後ろで括った人形、そして白い長髪の人形が座っていた。

 

 

「お、そいつが例の新型ハイエンドか?ふーん……」

 

 

「ほう、そいつが処刑人の素体を改修したハイエンドモデルか。確かに面影は似ているな」

 

 

「その子が潜伏者ね?さあ、こっちにおいで潜伏者」

 

 

黒髪の人形は値踏みをするようにじろじろと眺め、白い短髪の人形は処刑人と私の顔を見比べて納得したような声を出す。

白い長髪の人形は私を笑顔で手招きする。

 

 

「私は「錬金術師」。こっちは「処刑人」でそっちが「狩人」だ。みんな鉄血のハイエンドモデルさ。他にもいるが、今は任務で留守にしている」

 

「そうですか。私は「潜伏者」。最新のハイエンドモデルです。諜報、暗殺を目的として作られました。よろしくお願いします。姉様方」

 

 

姉という言葉が出た瞬間、錬金術師姉さんがピタッ、と動きを止めた。

 

 

「…なあ潜伏者。もう一度言ってもらえるか?」

 

「よろしくお願いします、姉様が、たっ!?」

 

「可愛いなお前は。こんな妹が欲しかったんだ!」

 

 

がばっ、と私を抱きしめる錬金術師姉さん。

長身の錬金術師姉さんに対して背の低い私はその豊満な胸に埋まってしまっていた。

 

 

「錬金術師、潜伏者が埋まっていますよ。それにしても潜伏者、なぜそんなことを?」

 

 

代理人姉さんに諫められた錬金術師姉さんから解放された私は首をかしげて答える。

 

 

「プロフェッサーが、ハイエンドモデルは君の姉妹のようなものだと言っていました。私は最後に作られた人形ですので末の妹のようなものになるかと思いまして」

 

「そういう意味なら、俺が一番お前に近い姉ってことかもな」

 

 

今度は処刑人姉さんが私を抱き上げ膝へと乗せる。

確かにその顔はこの中にいるハイエンドモデルの中でも私に最も似ていた。

 

 

「さっき狩人も言ってたが、お前の体は俺の素体を改修して造られたものだ。なんでもそれが一番コンセプトに合うとか聞いたぜ」

 

「ブレードを扱うことを想定している人形が処刑人くらいだからだと聞いている。私もブレードを使うこともあるが、後付けの装備だからな。使う機会は少ないんだ」

 

 

処刑人姉さんが思い出すように言うと、狩人姉さんがそれを補足する。

 

狩人姉さんは手を伸ばし、私の頭を撫でた。

 

 

「お前は私達のように前線で戦うことを想定して造られていない。だから戦場で共に戦うことはないだろうが、お前の能力、頼りにするとしよう」

 

 

「まあ俺の素体を使ってるんだ、優秀なのは間違いねえな!」

 

 

狩人姉さんが撫で終わると、今度は処刑人姉さんが乱暴に私の頭を撫でる。おかげで髪がぐしゃぐしゃになってしまった。

 

 

「さあ、お茶にしましょう。今回は支給品の菓子もありますよ」

 

「酒はないのか、代理人。俺は紅茶よりもそっちがいい」

 

「ならば指揮官に直談判することです、処刑人。いらないならば下げますが?」

 

「待て待て!飲む!飲むよ!」

 

 

代理人姉さんと処刑人姉さんのやり取りを見て狩人姉さんと錬金術師姉さんが愉快そうに笑う。

 

その光景を見て私も薄く微笑んだのだった。

 




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鉄血での日常

飲み会で投稿が遅れるとは不覚…!
でもなんとか日刊投稿は維持したぞ!

過去編という名の潜伏者とハイエンドモデル達とのイチャイチャ編。



 

 

私はハイエンドモデルの中で最後に製造された人形だ。

だから一日の大半は訓練や座学で埋まっており、実践に出される機会は多くない。

 

今日は午前に処刑人姉さんとの戦闘訓練、午後は夢想家姉さんを講師とした破壊者姉さんとの座学の予定だ。

 

 

訓練場で処刑人姉さんと対峙する。

姉さんが斬りかかり、私が避ける。時に攻撃の隙を狙ってブレードを振るう。

しかし私の攻撃は簡単に避けられ、いなされ、決定打が入ることはない。

 

 

「お前は前線に立つ役割じゃねえ。真正面から戦うなんてのは最終手段だが、だからといって戦場でできませんでしたは通用しねえ!」

 

「っ…!」

 

 

大型ブレードを受けるが、威力を殺しきれずに吹っ飛ばされる。

着地の隙を狙われて懐に飛び込まれた。

 

処刑人姉さんの持つブレードは私よりも間合いが大きい。

攻めに転じきれずに受けに回ってしまう。

 

 

「まともに受けるな!お前はまず逃げることを考えろ!真正面から戦わざるを得ない状況ならせめて自分が有利な状況に持ち込まねえと話にならねえだろうがお前の場合は!」

 

 

斬撃の合間に蹴りが飛んでくる。反応しきれずにお腹をまともに蹴られた。

 

大きく吹っ飛び転がる。立ち上がろうとしたけど痛みで起き上がることはできなかった。

 

 

「ふー…。とりあえず休憩だ。自分の悪ィところ考えて反省しろ」

 

 

ドカリと地面へ腰を降ろす処刑人姉さん。

 

そこへ狩人姉さんが飲み物を持ってやってきた。

 

 

「やっているな、二人とも。処刑人、潜伏者はどうだ?」

 

「今のところ話にならねえな。特性上近接戦闘のプログラムをインストールされてねえんだろうが…。このままだとブルートにも負けるだろうさ」

 

「潜伏者の役割は諜報、暗殺だからな。戦闘を想定していないのがここまで影響してくるか」

 

「同じ後方部隊の侵入者でももう少しやれるがな。あいつは武装が強いからだが」

 

「潜伏者は特性上大きな武器を持つことができないからな。身体能力の底上げが当面の目標か」

 

 

狩人姉さんは処刑人姉さんと少し話すと私の方へ向かってくる。

私の前に立つと手を差し伸べてくれた。

 

 

「立てるか?潜伏者」

 

「はい、何とか…」

 

 

素直に手を取って立ち上がる。

ダメージのせいで足元が少しおぼつかいないものの、なんとか立てた。

 

 

「ボロボロだな。処刑人との戦いは辛いか?」

 

「いいえ。私のダメージは私自身の不足によるもの。…この体たらくでは姉さんたちと肩を並べることなんて…」

 

「焦るなよ。お前に戦闘プログラムが搭載されてないのは私達も知っている。しばらくは演習を重ねて経験を積むしかない。…さあ、飲め。まだ戦闘訓練は終わっていないのだろう?」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 

狩人姉さんから渡されたドリンクを飲み干す。

それを見てとった処刑人姉さんが立ち上がった。

 

 

「よし、休憩は終わりだ!今度は俺に一撃喰らわすくらいの気概で来いよ!」

 

「頑張れよ、お前ならできるさ。処刑人の素体を改修したボディを持つお前ならな」

 

「…はい!」

 

 

狩人姉さんの激励を受けて処刑人姉さんのもとへ向かう。

 

だけど、結局その日は一撃も与えることができずに戦闘訓練は終わってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、では始めましょうか。今日の内容は隠密行動の重要性とその方法よ」

 

「えー。潜伏者はともかく私は必要ないと思うんだけどそれ…」

 

 

戦闘訓練で疲労がたまった体を引きずって講義室の席に着く。

そこには既に夢想家姉さんと破壊者姉さんがいた。

 

 

「なに言ってるの?あなたの本来の役割は確かに火力による面制圧だけど、近づくまで気が付かれないようにするのも重要でしょう?この前の任務で待機ポイントにたどり着く前に見つかって泣きついてきたのは誰だったかしらあ?」

 

「うぐっ…」

 

 

夢想家姉さんに言いくるめられて押し黙る破壊者姉さん。

今回の講義に急遽参加することが通達されたけど、そんな背景があったとは。

 

 

「分かったら始めるわよ。資料を開いて」

 

「はい」

 

「はーい…」

 

 

講義室前に設置されている電子黒板を使って講義は進んでいく。

 

内容は人間の斥候部隊が使っている気配の殺し方、自身の痕跡の消し方など私にとって実になる内容だった。

 

 

 

講義が終わり、資料を片付けていると夢想家姉さんが話しかけてきた。

ちなみに破壊者姉さんは終わると同時に逃げるように出て行った。もしかしたらさっきの失敗の件で夢想家姉さんに弄られると思ったのかもしれない。

 

「そういえば潜伏者、あなたには光学迷彩が搭載されているらしいわね」

 

「はい。潜伏するうえで見つからないことが重要なので」

 

「鉄血の光学迷彩は性能が高いけれど、それ頼りになるのはだめよお?歴戦の人形は感覚で気が付くこともあるんだから」

 

「…非科学的ですね」

 

「そういうことに気を付けるのも大切よ?信じられなくても頭に入れておきなさい」

 

「…はい」

 

「あなたは敵地に単身で飛び込む任務が多くなる。あらゆる可能性を考慮するのも大切よ」

 

 

私が不服であることに気が付いたのか私の頭を撫でながら諭す夢想家姉さん。

 

 

「はい…」

 

「今回の講義内容の復習として狩人に実地演習を頼んでおくわ」

 

 

夢想家姉さんが講義室から出ていく。

 

私が実戦に投入されるのはいつになるのだろう。

先の見えない不安に私は溜息を一つ吐いた。

 




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鉄血での日常 2

まだまだ過去編は続きます。といってもあと一、二話くらいですが。


 

今日の予定は午前が侵入者姉さんによる電子技術の講義、午後に夢想家姉さんが言っていた狩人姉さんによる隠密行動の実地訓練が行われる。

 

 

 

私は侵入者姉さんが待つ部屋へ急ぐ。

 

部屋に入ると中は様々な機器で埋め尽くされていて、モニターがたくさんつけられているコントロールシステムのようなものの前に侵入者姉さんは座っていた。

 

侵入者姉さんは私に気が付くと笑顔で手招きをする。

 

 

「いらっしゃい。今日はハッキングとクラッキングの講義よ。難解な防御プログラムならともかく簡単なものくらいは突破できないと敵地で苦労することになるでしょう?」

 

「それは分かりましたが…。この格好は?」

 

 

私は侵入者姉さんに近づいた途端に抱き上げられ、姉さんの膝の上に座らせられていた。

 

 

「うふふ。だってあなた、最近処刑人や狩人とばっかり話してるじゃない?私だって新しい家族と触れ合いたいのよ。それにこの姿勢ならあなたに教えやすいし」

 

「はあ…」

 

 

頭を撫でながら答える姉さんになんといっていい物か分からずにあいまいな返答をする。

実際背中を預けられるのはありがたいし、頭に胸が当たって変な感じはするけれど心地よい。なによりモニターが見やすいのでこのままでも問題はないだろう。

 

 

「じゃあ始めるわね?私が用意したファイアウォールを突破して目的のデータを抜いてちょうだい。最初に私がやって見せるからそれを覚えてね」

 

「はい。分かりました」

 

 

 

 

 

ある程度の休憩を挟みつつ講義は進む。

現在使用されている防御プログラムの仕様、突破方法や電子ロックの解除のコツなど諜報活動に役立ちそうな技術を中心に学んでいく。

この辺りは私の電脳にも搭載されているため戦闘よりはスムーズに覚えることができた。

 

 

「んー、筋がいいわね。これなら私と一緒に後方活動もできるわよ?」

 

「私はあくまで諜報活動がメインなので…。それに最後の防壁は突破できませんでした」

 

「ふふ。あれは私が作った最高傑作のひとつなの。そう簡単に突破されちゃったら私がショックよ」

 

 

侵入者姉さんが作った防御プログラム…。道理で手がかりもつかめないまま失敗したわけだ。

 

 

「落ち込むことないわよ?実のところ最後の問題は当然としてその三つくらい前の問題で行き詰ると思ってたの。でもその予想を超えてあなたは見事突破した。自信もっていいわ。…できるなら今からでも後方部隊に欲しいくらいよ」

 

「そういってもらえるとありがたいです。ですがやはりまだ未熟です。…私には足りないものが多すぎます」

 

「あまり思いつめないの。あなたは他のハイエンドモデルと違ってやるべきことが多いんだから成長が遅く感じるのは当たり前。やれることからやっていかないと足元を掬われるわよ?」

 

「…はい」

 

 

姉さんに励まされるがやっぱりできないことがあると不安になる。私のような新参者は特に。

 

私が落ち込んでいるのが分かったのか頭を撫でる姉さん。

そして私を抱っこすると歩き出した。

 

 

「い、侵入者姉さん!この格好は、恥ずかしい、です…」

 

「ふふ、普段はクールな顔が赤くなるの可愛いわね。さあ、おいしい物でも食べに行きましょ。頭も使ったし甘いものがいいかしらね」

 

「私達人形にそういうのは関係ないのでは…?」

 

「こういうのは気分が大事なの!」

 

 

私は結局抱っこされたまま食堂へと運ばれた。

その後侵入者姉さんにパフェをひな鳥のように食べさせられて嬉しいやら恥ずかしいやらでお昼の時間まで赤い顔で過ごす羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう、侵入者姉さんめ、最後まであんな恰好で…恥ずかしい…」

 

 

次の講義の場所である森の前で顔を赤くしたまま狩人姉さんを待つ。

先程の痴態のせいで頬の熱さが取れることはない。もしかしたら明日辺りに夢想家姉さんにこの件で弄られるかもしれない。

 

顔の熱が収まるのを待っていると狩人姉さんがやってきた。

 

 

「すまない、遅くなった。…どうした?顔が赤いが」

 

「な、なんでもありません!」

 

「そうか?…では隠密行動の訓練を開始する。内容は簡単だ。まず潜伏者は森の中で潜伏しろ。その際自身の痕跡を消し、追跡されないようにする。お前が森に入った30分後に私がお前を見つけるために森へ入る。仮に見つかったとしても私を撒くことができればそれでよし。しかし模擬弾が急所へ当たった場合は仕切り直しだ。質問は?」

 

「ありません」

 

「よし。では森の中へ入れ。…ああ、それと森の中には資材も隠してある。それを使って罠を作るのも許可する」

 

「分かりました。では行ってきます!」

 

 

私は森の中へ飛び込み、痕跡を残さないよう枝から枝へ飛び移る。

その際に見つけた資材を使って簡単なブービートラップを仕掛け、地面に降りた際には足跡など私の痕跡は消すように心がけた。

 

やがて私は高い木の上の葉っぱの中に身を潜めることに決める。

罠や痕跡は自分とは反対の方向へ仕掛け、今の場所へ繋がる痕跡はなるべく消した。

そう簡単には見つからないだろう、と私は葉っぱの中で状況が動くのを待った。

 

 

 

 

 

身を潜めてから20分ほど。もうそろそろ狩人姉さんが動く頃だ。

姉さんがここに辿り着くには大分時間がかかるだろう、と気を抜いていると、狩人姉さんが私の視界へ入ってきた。

 

 

(嘘…!?痕跡は真逆に向かうように残したのに!なんでこんな早く…。いやそれよりもここを動くべき…?どうすれば…)

 

 

予想外の事態に逃走を考える。

だけど考えがまとまらないうちに狩人姉さんと目が合った。

 

反射的にその場を飛び出し逃走を図る。

でもそれは目の前に現れた姉さんに阻まれた。

額に模擬弾を一発喰らう。

痛みに思わず頭を抑えると姉さんが近づいてきた。

 

 

「痕跡を逆方向へ残したのはいい判断だった。しかしあれではあからさますぎる。もう少し自然に残せ。それと痕跡も消しきれていなかったぞ。足跡を消すだけでなく、枝や小石に触れないように移動しろ。では次だ」

 

「は、はい…」

 

 

姉さんと共に開始地点へ戻る。

 

その後何度か訓練を繰り返したものの、狩人姉さんを撒くことは一度もできなかった。

 

 

 

 

 

 

「今回の訓練は終了だ。お疲れ様」

 

「あ、ありがとうございました…」

 

 

息も絶え絶えに返事をする。

あの後訓練を続けたものの、やはり狩人姉さんが動き始めた途端に見つかってしまい、逃げ出すことすら叶わなかった。

最後なんて隠れていた私の後ろに回り込んで銃を突き付けられたのだ。

隠密行動には絶対の自信を持っていただけにショックも大きい。

 

 

「最後のほうは良く隠れられていた。痕跡もほとんど残っていなかったし罠も効果的に配置されていた。実戦に出しても問題はないだろう」

 

「全部見破られた上に気付かないまま背後に回られては信じられません…」

 

「はは、許せ。なにせ予想以上に上手かったからな。つい本気を出してしまった」

 

「ははは…」

 

 

それはつまり本気を出されたら簡単に追いつめられるということではないだろうか。乾いた笑いしか出ない。

 

全くもって私の姉たちは強すぎる。

私が使われる場面などあるのだろうかと考える私なのだった。

 




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鉄血での日常 3

過去編三話目。

そろそろ蝶事件が近づいてくる頃合い。
今のうちに幸せを噛みしめてね潜伏者ちゃん(ニッコリ)


 

 

「今日の講義は!私よ!」

 

「…」

 

「何よその目は!」

 

 

今日は破壊者姉さんによる建築物の解体の講義である。

とはいえ、破壊者姉さんはグレネードによる爆破解体がほとんどで何も考えずやってるように見えるんだけど。

 

 

「あ、私が何も考えず爆発物を発射してると思ってるんでしょう!これでも私は最小限の爆薬でもビル解体ができるくらいには得意なんだからね!」

 

「はあ…」

 

「信じてないでしょあんた!いいわ、そこまで言うならあんたに私の持つ解体技術のすべてを教えてあげるわ!」

 

 

ぷんすかと頬を膨らませながら電子黒板にデータを表示させていく破壊者姉さん。

 

 

「いい?まず解体で大切なのはその建物の構造を把握しないといけないわ。どの柱を壊せばどの個所に影響が出るのかとか影響が出るまでどれくらいの時間がかかるのかとか…。演習問題を用意したからそれを解いてみなさい」

 

「分かりました」

 

 

資料に記載されている問題を解いていく。その内容は意外としっかりしていて、専門外な私にとって難しいものばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

「…終わりました。確認をお願いします」

 

「はいはい。…うん、少し間違ってるところはあるけどこれなら大丈夫ね」

 

「破壊者姉さんはいつもこんなことを考えながら戦っているのですね、流石です」

 

「うえっ!?そ、そうよ。私はすごいんだから!じゃ、じゃあ今度は実践よ!この前排除した人間人権団体が拠点にしてた建物があるからそこに行きましょう!」

 

「はい」

 

 

私は破壊者姉さんの先導で鉄血の施設を出る。

外出届などを出した覚えがないけど破壊者姉さんが手続きをやってくれたのだろうか?

 

車に乗り、しばらく走らせるとコンクリートで造られた建造物が見えてくる。

何かの工場跡のようで、機材のようなものが錆びついたまま放置されていた。

 

 

「じゃあここを解体しましょう。はい、これはここを解体するために最低限必要な爆薬ね。そう簡単には爆発しないけど取り扱いには気を付けて」

 

 

破壊者姉さんからプラスチック爆弾を手渡され、建物の柱へ設置するよう指示される。

 

私はさっきの講義を思い出しつつ建物を支えている重要な柱へ爆弾を設置した。

 

 

「準備できました」

 

「うん!じゃあ爆発させるから安全な場所まで離れましょ」

 

 

二人である程度離れ、爆弾を起動させる。

建物の中から爆音が響き、中央から崩れ落ちていった。

 

 

「成功よ!流石潜伏者、一発で成功するなんて思わなかったわ!」

 

「破壊者姉さんの教え方がよかったんですよ」

 

 

私に飛びついて撫でまわす破壊者姉さん。

まるで自分のことのように喜ぶ姉さんの様子に私も顔が綻んだ。

 

が、その瞬間、私達は大量の車両に取り囲まれる。

思わず身構えると車から代理人姉さんや錬金術師姉さんが下級人形と共に降りてきた。

 

 

「ここにいたか、探したぞ二人とも」

 

「破壊者…あなた、自分と潜伏者の外出届を忘れましたね?」

 

「え?…あっ」

 

「しかもこの建物の破壊許可も取っていなかっただろう。おかげで上が騒いでいるぞ」

 

「あー、それは…」

 

「破壊者姉さん…」

 

 

二人の追及に目を泳がす破壊者姉さんに思わず呆れた視線を向けてしまう。

どうやら諸々の手続きをせずに今回の講義は行われたらしい。

 

何かしらの言い訳をしようと口をもごもご動かしていた破壊者姉さんだったが、代理人姉さんに襟首をつかまれ代理人姉さん達が乗ってきた車へ引きずられていく。

 

 

「あなたには山ほど説教があります…覚悟しなさい、破壊者」

 

「潜伏者ーっ!助けてー!」

 

 

半泣きになりながら連れていかれていく破壊者姉さんを私は呆れの目で見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

工場跡から戻ってきた後、私は錬金術師姉さんの講義を受けに講義室へ戻ってきていた。

 

 

「はあ…。破壊者には困ったものだな」

 

「破壊者姉さんに悪気はないので…」

 

「分かっているとも。だからこそ困っているんだが…。まあいい。ともかく講義を始めるぞ」

 

 

頭を抱えていた錬金術師姉さんは振り払うように首を振り、私と向き合う。

 

 

「今日の内容は変装術だ」

 

「つまり、潜入のためのスキル、ということですね」

 

「そうだ。お前には光学迷彩の他に擬態機能も付いている。人形はもちろん、人間にも変装できる優れものだ。しかし肝心のお前が化けきれないのであれば意味がない」

 

 

そこで、と姉さんは様々な服をかけたラックを持ってくる。

 

 

「お前には今日、様々な人間に変装してもらう。服を見てどのような年代、性格の人間になれるかを試してみろ」

 

 

姉さんの指示通り、服を適当に選び、それに合った人間の姿へ変える。

私が姿を変えるたびに姉さんが妙にいい笑顔で写真を撮っていたが、あれは一体何に使うのだろう。

 

 

 

 

 

 

何度か服を変え、姿を変え、時に姉さんからの修正をもとに変装データを蓄積していく。

おかげで様々な年代の姿に変えることができるようになった。

 

 

「よし、今日はここまでとしよう。…しかし、お前のその擬態機能は素晴らしいな。女性にしか姿を変えられないとはいえ年代すら変えられるのは幅が広がる」

 

「視覚データさえあれば姿形を完全に模倣することも可能ですよ。ほら、このように」

 

 

私は処刑人姉さんのデータを再現し、姿を変える。

 

 

「おお、処刑人そのままだな。…潜伏者、頭を撫でてもいいか?」

 

「え?はい。どうぞ」

 

 

少し頭を下げて差し出すと優しく撫でられる。

 

 

「ふふ、処刑人は恥ずかしがってこういうことをさせてくれないからな、新鮮だ」

 

 

しばらく私を撫でていた姉さんだったが、やがて手を離す。

 

 

「見た目を変えているだけだが、触感もあるのだな」

 

「はい。コープラップスを使った技術だとは聞いていますが…」

 

「なるほど…便利なものだ。お前のそのスキルには期待している。早く私達と戦場に出られればいいな」

 

「はい」

 

 

錬金術師姉さんの言葉にうなずく。

私が作られて一月が経過している。私の初任務の日も徐々に近づいてきていて、私は期待に胸を躍らせていた。

 




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鉄血での日常 4

過去編も終わりが近づいてきました。
平和な世界を書くのは楽しいし、潜伏者ちゃんの幸せそうな姿を見るのは嬉しいけど、この後悲劇が待っていると思うと思わず頬が緩んじゃいます(愉悦)


 

今日はお休みの日。

何も予定が入っておらず、私は時間を持て余していた。

 

今まで習った技術の復習は終わってしまったし、どうしようかな。

 

私は部屋を出てどこともなしに歩き始めた。

 

どうしよう。部屋を出てきたはいいけれど、やることが思いつかない。

夢想家姉さんのように趣味が多ければよかったのに。造られたばかりの私にはそんなものはなかった。

 

ダイナゲートと遊んでこようかな、と足をむけたその時、曲がり角で代理人姉さんとばったり出くわした。

 

 

「おや、潜伏者。こんな時間に会うのは珍しいですね」

 

「今日はお休みなんです。…代理人姉さんは何を?」

 

「私ですか?これから厨房に行ってお菓子を作ろうかと」

 

「…私もついていっていいですか?」

 

「もちろん。では一緒に行きましょう」

 

 

手を握られて一緒に歩く。

ちらりと代理人姉さんの顔を見る。綺麗で、表情だって冷たいようで温かい笑顔を見せてくれる姉さん。

私も強くなれば姉さんのようになれるだろうか?

 

そんなことを考えていると厨房に着いた。

そこには調理担当のスタッフだろう、何人かの女性が忙しそうに動き回っている。

 

 

「今日も一角をお借りします」

 

「ああ、代理人ちゃん、いらっしゃい。いつも通り好きに使っていいわよ。…おや、その子は誰だい?」

 

「…潜伏者と言います。新しく造られた戦術人形です。よろしくお願いします」

 

「あら、ご丁寧に。あなたも好きに使っていいからね」

 

 

女性スタッフに頭を撫でられる。

姉さん達とは少し違うけど、心地よかった。

 

 

「じゃあ始めましょうか、潜伏者」

 

 

代理人姉さんがエプロンを付けてキッチンへ立つ。…メイド服なのにエプロンを付ける意味はあるのだろうか?

 

 

「今日はクッキーを作りましょう。疑似砂糖ですがいい物が手に入ったので」

 

 

手際よくクッキーの素を作っていく代理人姉さん。

それをじっと見つめていると、姉さんが思いついたように笑みを浮かべた。

 

 

「あなたも作ってみますか?」

 

「え、でも…。私には調理プログラムはインストールされていません…」

 

「私もされていません。ここまでできるのは慣れですよ。あなたも作って処刑人たちに食べさせましょう」

 

「…処刑人姉さん達は喜んでくれるでしょうか?」

 

「ええ。きっと」

 

「分かりました。やってみます」

 

 

代理人姉さんの見よう見まねでクッキーを作っていく。

でもやっぱり姉さんのように上手くは行かなくて、綺麗な形の姉さんのクッキーとは対照的に随分と歪な形のものができてしまった。

 

 

「やっぱり難しいです…」

 

「最初はみんなそんなものですよ。それに…うん、美味しいです。これなら喜んでもらえると思いますよ」

 

「本当ですか…?」

 

 

自信のない私の問いかけに笑顔で頷く代理人姉さん。

 

焼きあがったクッキーを一緒に持ち、姉さん達がいるという部屋に行くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、今日のお菓子が出来上がりました」

 

「お、来た来た。今日は午前が任務でよ、腹が減ってたんだ」

 

「ありがたく頂こう」

 

「私も一枚…っと」

 

「私も食べるー!」

 

「はしゃがないの、破壊者。私も貰うわね」

 

 

皆が思い思いにクッキーを取っていく。

綺麗なクッキーを取っていくなか、処刑人姉さんだけが歪な私のクッキーを手に取った。

 

 

「ん?代理人にしちゃあ随分不格好だな。まあいいや」

 

「あ、それは…」

 

 

処刑人姉さんの声に思わず声をあげる。

それに気づかず処刑人姉さんはそれを口に入れた。

 

 

「お、うめえうめえ。やっぱ代理人の菓子はうめえな!」

 

「ふふ、それは私が作ったものじゃありませんよ」

 

「あん?」

 

「それは潜伏者が作ったものです。あなた達に喜んでもらえるように、と」

 

 

代理人姉さんの言葉に処刑人姉さんが私に近づく。

思わず動きを止めた私を処刑人姉さんは抱き上げて一緒にソファへと座った。

 

 

「流石は私の妹だ!料理のセンスもあるとはな!」

 

「お前は料理が壊滅的だったろう、処刑人。火を噴きあげさせて出禁になっていたはずだが?」

 

「うるせえ!潜伏者の前でそれ言うなって言ったろうが!」

 

「ふふ、潜伏者を褒めるのはいいが食べないのか?私が食べてしまうぞ?」

 

「あっ、錬金術師の姉貴!潜伏者のばっか食ってんじゃねーよずるいぞ!」

 

「ちょ、ちょっとー!私も潜伏者が作ったクッキー食べたい!」

 

 

一気に騒がしくなる部屋の中。

処刑人姉さんがクッキーを確保しようと私を脇に置いたところで代理人姉さんが話しかけてきた。

 

 

「ね?みんな喜んでくれたでしょう?」

 

「はい。…あの、代理人姉さん」

 

「何ですか?」

 

「料理、教えてもらえませんか?もっと姉さん達に喜んでもらいたい、です」

 

「ええ。喜んで」

 

 

代理人姉さんが快諾してくれたところで処刑人姉さん達に視線を戻す。

錬金術師姉さんが得意げな顔でクッキーを頬張り、処刑人姉さんは床に拳を叩きつけて悔しがっていた。

狩人姉さんと侵入者姉さんはちゃっかり自分の分を確保し、二枚ほどしか食べられず半泣きになっていた破壊者姉さんは夢想家姉さんに一枚渡されて慰められていた。

 

戦術人形らしくな願いだけど、こんな平和な日々が続けばいいな、と私は処刑人姉さんを慰めながら思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、訪れる運命の日。

 

「潜伏者、君の初任務が決まった。人間人権団体に潜入し内部工作をお願いしたい。特に武器庫となっている部屋の破壊工作は念入りに」

 

「了解しました。最新のハイエンドモデルの実力を示します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「潜伏者。任務を言い渡されたようですね。…もしあなたがその日のうちに帰って来れるようであれば裏門から入りなさい」

 

「分かりましたが…何でですか?」

 

「軍の上層部が来るようです。なんでも製作中のハイエンドモデルを視察するのだとか。あなたはまだカタログにも載っていない機密の人形。軍に目を付けられないよう、裏門からこっそり入るように」

 

「分かりました。…新しいハイエンドモデルですか。私の妹になるのでしょうか?」

 

「男性型と聞いていますから弟でしょうね」

 

「楽しみです。…ではそろそろ。任務の準備がありますので」

 

「ええ。お休みなさい」

 

 

 

 

 

 

この時、私はあんな出来事が起こるだなんて想像すらしていなかった。

 




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蝶事件

過去編最終話。つまり蝶事件勃発。

まあこれはあくまでこの世界線の話で原作はもっと違うだろうけどね…。







というかコラボイベでまさかのエルダーブレインちゃん登場しちゃったよ…。見た目完全に幼女じゃないですかやだー!


 

 

「~♪~♪」

 

 

下級人形が操縦するヘリの中で鼻歌を歌う。

侵入者姉さんが教えてくれた曲で、ゆったりとした曲調が好きだ。

鼻歌を聞いて操縦していた下級人形が話しかけてくる。

 

 

「ご機嫌ですね、潜伏者様」

 

「そうですね。初任務を大きなミスなくこなせましたから。気分がいいです」

 

「大活躍でしたもんねー。屋上から爆発と共に飛び降りてくるのはかっこよかったですよ!」

 

「そう、ですか?ありがとうございます」

 

 

私に言い渡された任務はある人間人権団体の壊滅。

私は指示通りに内部に破壊工作をし、相手を撹乱。浮足立っている間に下級人形を突入させてあっさりと片が付いた。

後片付けを他に任せ、私は一足先に基地への帰路へついていた。

 

 

「あなた達も敵部隊を壊滅させた貢献者でしょう」

 

「はは、私達がやったことは右往左往してる奴らを的にしてただけですよ。訓練より楽勝です」

 

 

そんな軽口を叩いていると、目的地の鉄血工造が見えてきた。

だが何だか様子がおかしい。

 

 

「ねえ、あれ煙じゃない?」

 

「何?…本当だ。何かあったのかも」

 

「潜伏者様、少し速度を上げます、振り回されないでくださいね」

 

「ええ、分かりま…っ!?」

 

 

ヘリの急激な加速に思わず体が後ろへ引っ張られる。

しかし私はそんなことに構っている余裕はなかった。

 

鉄血が近づくにつれ、その惨状が克明に見えるようになったからだ。

 

 

「何…これ…」

 

「くそっ!管制室!応答せよ!こちらハウンド02!着陸許可を…!管制室!…駄目です。応答がありません…」

 

「仕方ないですね、緊急着陸します。…あの中庭なら着陸できそうですな」

 

 

下級人形の彼らの声もまるで雑音のように届かない。

私の視界には燃える工廠、崩れた建物が広がっていたから。

 

やがてヘリは高度を落とし、中庭へ着陸する。

しかし炎は至る所を呑み込んでいて、人影は見つからなかった。

 

 

「一体、何があったの?とりあえずネットワークへ接続を…、……」

 

「ねえ、どうしたの!?こんな時にバグってる場合じゃないでしょう!」

 

突然フリーズした相棒に怒鳴りながらその人形も鉄血のネットワークに接続しようとした。

私もそれに倣い、接続を開始する。

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――――――――――』

 

 

しかし、それは接続した瞬間に頭へ流れ込んだ異音によって中断された。

ガラスをひっかいたようなハウリング音。頭がぐちゃぐちゃにかき回されて好き勝手に弄られていくような酷い感覚。

 

思わず接続を切り、異音によって痛む頭を抑えて他の人形へ目を向ける。

彼女達もこの音には耐えきれないだろう。そう思ったのだが、予想に反して彼女達は完全にフリーズしていた。まるで予想外の命令を無理やり挿し込まれたパソコンのように。

 

 

「ああ、いた!おーい!助けてくれ!」

 

 

想定外の光景に動きを止めていると崩れた建物から白衣の男性が駆け寄ってくる。

白衣は煤で汚れ、どこかに引っかけたのであろう、袖の部分が千切れかかっていた。

 

 

「一体何が起こったんですか?」

 

「分からん。突然下級人形が一斉に暴走を始めて…。鎮圧用に出したダイナゲートやマンティコアまで暴れだす始末だ。何がなんだ、かっ!?…ごばっ…」

 

 

私と話していた男性が突然血を吐いて倒れる。その後ろにはさっきまでフリーズしていた人形が銃を構えて立っていた。

 

 

「なっ…何をしているんですか!?彼はここの研究員です!許可なく危害を加えることは許されません!」

 

「いいえ。潜伏者様。我らが指揮官は命令を下しました。『人間を抹殺せよ』と。故に、その命令を実行したまでのこと」

 

「何を、言って…!今は私があなた達の指揮権限を持っています!私はそんな命令は…!」

 

「いいえ。潜伏者様。先程我々の指揮権限はエルダーブレイン様に移りました。故に、私達はエルダーブレイン様の命令を最優先に実行いたします」

 

「何を…くっ!」

 

 

説得しようと言葉を重ねようとしたが、彼女達の無機質な眼は本気だった。

だから私はやむなく彼女達の首を刎ね、その機能を停止させた。

 

 

「一体、何が起こって…。そうだ、姉さん達…姉さん達は無事なの!?」

 

 

私はハイエンドモデルに与えられている宿舎へ走り出す。

炎が私の行く手を遮るけれど、ハイエンドモデルのボディならばこの程度は問題ない。

 

 

「スケアクロウ姉さん!処刑人姉さん!狩人姉さん!侵入者姉さん!破壊者姉さん!錬金術師姉さん!夢想家姉さん!代理人姉さん!みんな!どこにいるの!」

 

 

あらん限りの声を出し、姉さん達を探す。

しかし返事はなく、私はもうすぐ宿舎へ辿り着こうとしていた。

 

そして、宿舎の入り口に見慣れた影を見つける。処刑人姉さんだ。

 

 

「ん?おう、潜伏者。帰ってきてたのか」

 

「処刑人姉さん。良かった、無事で。教えて、今一体何が起き、て…」

 

 

処刑人姉さんへの問いは姉さんが持っているものを見て霧散する。

 

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「え、処刑人、姉さん。その、手に、持ってるのは…」

 

「ん?ああ、これか。裏口から逃げようとしててよ。後ろから斬ってやったのさ!」

 

「なん、で」

 

「何でって、そりゃあ…。エルダーブレイン様からの命令に決まってんだろう?」

 

 

理解できない。体がガタガタと震える。

目の前にいるのは本当にあの処刑人姉さんなのか?

確かに敵には容赦がない性格だった。でも、非戦闘員を殺して何でもないような顔をするような人形じゃなかったはずだ。

目の前の人形が、理解不能な存在に見えた。

 

 

「う、ああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!?????」

 

「あ、おい待てよ潜伏者!」

 

 

悲鳴を上げて得体のしれないモノから逃げ出す。

 

 

(あれは姉さんじゃない、あれは姉さんじゃない、あれは姉さんじゃない、あれは姉さんじゃない、あれは姉さんじゃない、あれは姉さんじゃない、あれは姉さんじゃない、あれは姉さんじゃない、あれは姉さんじゃない、あれは姉さんじゃない、あれは姉さんじゃない、あれは姉さんじゃない!!!!あんなおぞましい物が!!!私の姉さんであるはずがない!!!!)

 

 

それは、自分へ言い聞かせるための思考だった。

あんな狂いきった人形が、どうしても私の知る処刑人姉さんと繋がらなかったから。

 

 

 

どれほど走り続けただろう。

あの処刑人姉さんの形をしたナニカから逃れるために無茶苦茶に走り回った結果、私はかつて製造された時にお茶会をしたあの中庭へ立っていた。

 

そこには、代理人姉さんが静かに座っていた。

周りの地獄のような風景の中、そこだけは切り取られたように見えた。

 

 

「来ましたか、潜伏者」

 

「代理人、姉さん…。一体何が起こったの!?下級人形は人を襲うし、処刑人姉さんまで…。…っ!まさか、代理人姉さんも…?」

 

「私はまだ大丈夫です。ですが、時間の問題でしょう」

 

「そんな!」

 

「聞きなさい、潜伏者。あなたに任務を下します。鉄血のハイエンドモデルを統括する「代理人」としての最初で最後のあなたへの命令です」

 

「嫌だ…!嫌だよ…!」

 

 

代理人姉さんの言葉に嫌な予感がして耳をふさいで首を振る。

でも姉さんは手を無理やり外し、言い聞かせる。

 

 

「聞きなさい!あなたには何故か、エルダーブレインの命令が通じないようです。だからこそあなたにしかできません!」

 

「嫌だ!嫌だ!!」

 

「あなたは!鉄血を滅ぼしなさい!狂った人形になり果てる私達を破壊し、人間を!人類を!守りなさい!」

 

「嫌だ!姉さん達を壊すなんて嫌だよお!!」

 

「これから会う私達はもはやあなたの知る私達ではありません!エルダーブレインの命令によって歪められた、壊れた戦術人形です!」

 

「うっ、ううううう……」

 

「お願いです、私の最後のお願い。どうか、私達を止めてください。もう、あなたにしか頼めないんです…!」

 

 

頭を下げる代理人姉さん。

今まで凛として、格好いい姿しか見てこなかった私に、それは衝撃的だった。

 

 

「さあ、行きなさい。ここをまっすぐ行けば裏門に出られるはず。私が正気を保っているうちに、早く!」

 

「え、代理人姉さん…」

 

 

姉さんを振り切れずに手を伸ばす。そんな私の頬へ一発の銃弾が掠めた。

姉さんが武装を展開し、私へ発砲したのだ。

 

 

「行きなさい!潜伏者!行け!!!」

 

 

代理人姉さんの聞いたことのない怒号を背に走る。

ぐちゃぐちゃにかき混ぜられたメンタルモデルを処理しきれずに叫び声を上げながら走り続けた。

 

 

 

 

走って、走って、走って、走って、走って、走って、走り続けて。

そしてどこかも分からない森の中で木の根っこにつまずいてようやく止まった。

 

空には月が上っている。私が戻ってきたのは昼頃だから相当な時間を走り続けていたとそこで初めて気が付いた。

 

 

(どうして、こんなことになってしまったのだろう)

 

 

仰向けに寝転がって月を見上げながら、走ったおかげで少し冷えた思考を巡らせる。

 

 

(私は、ただ任務に出かけて。成功させて姉さん達に「よくやったな」って褒めてほしかっただけなのに。どうして)

 

 

涙があふれる。理不尽すぎる現実に私は押しつぶされそうだった。

 

 

「エルダー、ブレイン」

 

 

ぽつりと代理人姉さんの言葉を思い出す。

だけど、それは私の行き場のなかった感情の行き先を決定づけた。

 

 

「エルダーブレインさえ、いなければ」

 

「私はきっと、いつも通りの日常を迎えていたはずなのに」

 

「よくも、よくも、よくも!!」

 

「私から何もかも奪った!居場所も!姉さん達も!鉄血人形の誇りさえも!」

 

 

濁流のような感情は「憎悪」という形を作っていく。

 

 

「殺して、やる」

 

「殺してやる、殺してやる、殺してやる!!」

 

「私からすべてを奪った!お前を!」

 

「私は絶対に許さない…!!」

 

 

殺意を口にする。憎しみを固めていく。

 

 

 

 

何もかもを失った、その日。

私はエルダーブレインへの復讐を誓ったのだった。

 




感想・ご指摘お待ちしております。


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グリフィンにて

遅れてすいませんでしたァッ!!(スライディング土下座)


 

 

目が覚めた。

起き上がって周りを見渡すとそこは病室のようだ。

 

最後の光景を思い出す。

 

忌々しいエルダーブレインの顔、夢想家姉さんからの攻撃、そして私を囲んだグリフィンの人形達。

 

てっきりそのまま破壊されるものかと思っていたけど、どうやら私は鹵獲されたらしい。

まさか武器を取り上げているとはいえ拘束もせずに寝かせておくとは思わなかったけれど。

 

「起きましたか」

 

扉が開き、人形が入ってくる。

確かこの人形は、スプリングフィールド、だったか。

 

「傷はペルシカさんが直しましたが、大丈夫ですか?痛みはありませんか?」

 

「大丈夫です。…何故私を壊さなかったのですか」

 

彼女は困ったように笑い、私の頭に手を乗せ、撫でた。

私はそれを振り払う気力もなく受け入れる。

 

「指揮官からのお願いです。『私を助けてくれた人形だから酷いことはしないでほしい』と」

 

「甘いですね。私は鉄血ですよ?」

 

「それでも、あなたが指揮官を助けてくれたのは事実でしょう?」

 

「……」

 

言い返せずに沈黙する。

あの指揮官を助けたのは事実だし、それが私の「未練」だったのは間違いない。

 

「ありがとうございます、指揮官を助けてくれて」

 

「礼を言う必要などありません」

 

私を撫でていた手をどかし、スプリングフィールドと向き合う。

しかし彼女の優しい目に見つめられてすぐにそらしてしまった。

 

「ふふ。指揮官、呼んできますね」

 

気恥ずかしさで目をそらしていると、また頭を撫でられる。

そして彼女は部屋から出て行った。

 

「はあ…」

 

ダメだな、と思う。

久し振りに好意的な人物に会って気が緩んでしまっている。

私は、エルダーブレインを破壊しなければならないというのに。

 

 

「え、えーっと、こんにちは…」

 

 

自分を戒めているとドアが開き、おずおずと私が助けた女性が入ってくる。

 

 

「き、気分はど「何故、助けたのですか」…」

 

 

目を泳がせておずおずと話しかけてきた彼女の言葉を遮って目を向ける。

彼女はグリフィン所属の人間のはずだ。いくら助けられたとはいえ鉄血の、しかもハイエンドモデルを匿って無事で済むとは思えない。

 

 

「お礼を、言いたくて」

 

「…そんなことのために?馬鹿ですかあなたは」

 

「えへへ、同僚からも向いてないってよく言われる」

 

「褒めてないですよ…まったく」

 

 

照れくさそうに笑う彼女に毒気を抜かれ、視線を逸らす。

 

 

「あなたは私が鹵獲した鉄血の人形ってことで上には報告してあるの。協力的で情報を何か引き出せるかもって。…だからね」

 

 

彼女は私の手をつかみ、私の目を覗き込むように顔を近づける。

 

 

「私に、話してくれないかな。なんで鉄血と戦ってるのか。あなたは一体何者なのかを」

 

 

まっすぐな瞳で私を見つめてくる。

これで私を陥れようと演技をしているのだとしたら相当な役者だ。

 

 

「…私の事情を話すのは構いません。現状では喋る以外に選択肢は無さそうですし。ですが、条件があります」

 

「条件?」

 

「現在の鉄血の指揮を行っているハイエンドモデル、エルダーブレインを私がこの手で殺すこと。その手助けをすることです」

 

「…分かった。グリフィンとしては鉄血の壊滅は最終目的だからね。それを総括してるハイエンドモデルは倒さなくちゃいけない。あなた自身が殺せるかどうかは…どうにかしてみるよ」

 

 

私の条件に返事をした彼女は近づけていた顔を離し、手を差し伸べる。

差し伸べられた手の意味が分からずに首をかしげるとじれったそうに彼女が口を開いた。

 

 

「自己紹介。これからは協力者になるんだから名前を知りたいんだけど?」

 

「…潜伏者(スニーカー)。斥候、および暗殺のために作られたハイエンドモデルです」

 

「潜伏者ちゃんね!私はレイラ。レイラ・ナカムラ。ここ、S09地区支部の指揮官だよ。よろしくね」

 

 

握り返した手をぶんぶんと振り、輝くような笑顔に、私は迎えられたのだった。

 



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目に見える信頼

イベントとかで軍とかの設定も明らかになっていく中、プロットが音を立てて崩れていく様に頭を抱えて書いています。


 

 

「やあ、久しぶりだね潜伏者君?」

 

「…こんにちは、ペルシカリア博士」

 

 

病室でレイラが持ってきてくれた本を読んでいるとペルシカリア博士がやってきた。

ちなみにレイラが本を置いていったのは暇つぶしのためだ。

さすがに鹵獲したハイエンドモデルを上の許可なく歩かせるわけにもいかないため、それまでは病室に軟禁することになるから、と申し訳なさそうな顔で謝っていた。

 

本を閉じて視線を彼女へ向けると、感情の読めない笑顔で備え付けの椅子に座る。

 

 

「あの時は名乗ってくれなかったけれど、再開が予想よりも早くて嬉しいね」

 

「もう二度と会うつもりはありませんでしたから。それで?今回は何の用でしょうか。まさかただの挨拶というわけでもないでしょう」

 

「ええ。今日はあなたに届け物があるの。まずはこれ」

 

 

ペルシカリアが取り出したのはデータチップ。そこに入っているものについては予想が付く。

 

 

「依頼していた改造傘ウイルス…」

 

「そう。予想以上に早くできたから届けに来たわ。そして、今日の本命はこっち」

 

 

次に取り出されたのは武骨な輪っか。それを私へと差し出す。

 

 

「これは?」

 

「あなたを監視するためのユニットよ。首につけるタイプなの。機能としては――って、ちょっと」

 

「こう、でしょうか。どうですか?付け方は合っていますか?」

 

「合っているけど…。付ける前に説明させて頂戴」

 

「どうせ逃亡や反逆をしたときに爆発でもするのでしょう?目に見える信頼は大事ですからね」

 

「はあ…。言いたいことが分かっているようで何よりだわ。ここの指揮官はともかく、グリフィンの上層部はあなたを信用していないようだし」

 

 

それは当然だろう。むしろレイラのほうの判断が甘いくらいだ。それはそれとして、文字通りの首輪とは…グリフィンの上層部もなかなかにいい趣味をしている。

 

 

「……」

 

「何です?このユニットに不備でも?」

 

「いえ、人形とはいえ年端もいかないような姿の子にこういう首輪は刺激が強いと思っただけよ」

 

 

人形相手に何を言っているのやら。

見目麗しい人形ならともかく、色々な意味で小さい私にそんな需要はないだろう。

 

 

「じゃあ、私はそろそろ行くわね」

 

「傘ウイルス、ありがとうございました。後で確認しますので」

 

「うん、じゃあね」

 

 

ペルシカリア博士はやるべきことはやったとばかりに病室を去っていった。

先ほどよりも肩回りが重くなった原因である首輪を撫で、改造傘ウイルスの出来を確認するためにデータチップをつまみ上げるのだった。

 



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決戦前日

また投稿に日があいちゃいました。

でも頑張って完結はさせますよー。

とはいえこのままだとグダグダになりかねないと日常パートすっ飛ばしていきなり決戦行っちゃうんですけどね…


 

私がS09基地に迎えられてから二週間が過ぎたころ。

人形たちと交流することで当初あった私への警戒は薄れ、協力者という立ち位置を確保したころに私はレイラに呼び出された。

 

目的地である作戦室に入ると既に他の人形たちが集合しており、レイラの言葉を待っていた。

 

 

「来たね。それでは、これより鉄血工造本拠地への制圧作戦を説明します」

 

 

レイラの言葉とともに彼女の後ろのモニターへ鉄血工造本社の立体的なマップが表示される。

 

 

「潜伏者から提供されたデータをもとにドローンや斥候部隊を派遣することで鉄血の本拠地をつきとめました。下級兵の他にハイエンドモデルも確認されており、その規模はグリフィンの戦闘データの中でも最大といっていいでしょう」

 

 

一息つき、レイラが皆を見回す。

 

 

「確認されたハイエンドモデルは夢想家、代理人、破壊者。総指揮官であるはずのエルダーブレインは確認されてはいませんが、三体のハイエンドモデルがいる以上、ここにいるとみて間違いないでしょう。これをグリフィンへ報告したところ、我々にこの施設の制圧を命じられました。それに伴い、特殊部隊の派遣と、作戦開始には間に合いませんが援軍を約束されました」

 

 

スッと目を細める。特殊部隊というのは間違いなく404部隊のことだろう。

視線のみで周りを見渡したが、それらしい人影はない。あくまで姿をさらさずに参加するということだろうか。

 

 

「そして作戦の詳細ですが、まず奇襲を仕掛けます。仕掛ける場所は…ここ」

 

 

レイラの言葉とともにマップが動き、ある一点に丸印が現れる。

 

 

「ここは鉄血人形の生産ラインです。ここを最初に破壊することで鉄血の増援を防ぎ、同時に突入の合図とします。その後、指揮系統を崩すために管制室をジャックします。ハイエンドモデルの直轄部隊に対して効果は薄いですが、それ以外の人形には効果があるでしょう。生産ラインの破壊と管制室のジャックに関しては特殊部隊に一任されており、S09地区の部隊は生産ラインの破壊と同時に突入する手はずになっています」

 

 

続けてマップが全体を移すように広がり、施設を囲むように四つの点が現れる。

 

 

「突入部隊は合図が上がり次第、四方向から同時に突入します。この時点でハイエンドモデルからの反撃が予想されるため、各自これを撃破してください」

 

 

そしてマップが消え、私の前に現れたエルダーブレインの姿が映し出される。

 

 

「我々の最終目的はエルダーブレインの破壊です。彼を撃破すれば鉄血が大幅に弱体化するのは間違いないでしょう。作戦の説明は以上です。質問や意見は?」

 

 

人形の数体から意見が上がる。敵の規模の詳細、情報の精度、ハイエンドモデルのスペック…。

それらが尽きてきたころ、私は口を開いた。

 

 

「特殊部隊にこのチップを管制室にインストールするようお願いできませんか」

 

 

私は一つのチップを掲げ、レイラに近づく。そして彼女に手渡した。

 

 

「これは?」

 

「ペルシカリア博士に依頼していた改造した傘ウイルスです。完成後にも私や博士の協議の下、ようやく実践レベルのものまで完成度を引き上げたものになります。報告が遅れて申し訳ありません」

 

「これをインストールするとどうなるの?」

 

「下級の鉄血人形がハイエンド直属のもの以外はすべてこちらの指揮下に入ります。直属部隊の人形と同士討ちさせられるかと。効果は博士も認めています」

 

「…分かりました。これは特殊部隊に渡しておきます」

 

 

レイラは胸ポケットにチップをしまうと改めて全員に向き直った。

 

 

「作戦開始は明日1800とします!それまでに休息と準備をしておくように!解散!」

 

 

がやがやと作戦室を出ていく人形たち。

私はそんな彼女たちを尻目に画面上のエルダーブレインをにらみつける。

 

 

「お前は私が必ず…」

 

 

こぶしを握りこみ、私はしばらくそうしているのだった。

 



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大型コラボ編 第一話!

今回はいろいろ様主催の大型コラボ企画編です!

いろいろ様の作品「喫茶鉄血」の世界でテロリストが列車砲を強奪!
様々な世界戦の人形体が集結しそれを止めるという内容になっています!

今作品の主人公、潜伏者、そして同作者が書いています「鉄血工造はイレギュラーなハイエンドモデルのせいで暴走を免れたようです。」の主人公、救護者も参加していますのでよろしくお願います!


目が覚めた。

視界に広がるのは昨晩潜り込んだ廃れた工場、ではなかった。

 

「え?」

 

予想外の光景に目を疑う。

私がいたのはどこかの家の中。

家主は出かけたのだろうか、人の姿は見えない。

つけっぱなしで出かけてしまったのか、テレビにはニュースが流れている。

 

『現在、軍が保有する列車砲、アルゴノーツカライナ・ヴィーラ・パピスがテロリストに強奪され、そのうちカライナがS09地区に向かって接近しているという事件が発生しています。S09地区にお住まいの方はすぐに避難してください…』

 

列車砲…軍が所有していると話は聞いたことがあるが、正規軍からそれを強奪するとは、どれほどの凄腕を揃えたテロリストなのだろう。

ぼんやりと他人事のようにテレビを見ていた私は信じられない光景を見てテレビにかぶりついた。

 

テロリストらしき人間を攻撃する代理人、それはまだいい。だけど代理人の周囲にいるグリフィン人形たちは一体…?

 

慌てて外へ飛び出す。そして私は『今や私だけしか知らないはずの鉄血の周波数』へとチャンネルを合わせた。

 

《こちらAegis部隊。作戦目標であるアルゴノーツ・パピスへ接近中。指示を請う》

《こちら正規軍所属、ジャッジだ。突入準備が整い次第作戦を開始する》

《こちらゲッコー。南地区のテロリストの掃討完了。西地区へ援護を開始する》

《こちら代理人。引き続きテロリストの掃討を―――》

 

涙があふれる。

代理人だ。別人になってしまったあの声ではない。

皆が、笑いあって、とても幸せだったあの頃の、あの声だ。

 

「あ、あぁ……」

 

嗚咽が漏れる。これは夢だろうか。ならこんな幸せ(残酷)な夢はないだろう。

私が夢見て、諦めて、捨ててしまったものが、ここにはあるのだから。

正規軍も、グリフィンも、鉄血もみんな一緒に仲良く、なんて。

 

「もし、ここが夢ならば、少し好きに動いても構わないだろう」

 

そうだ。ここはきっと夢だ。なら、昔みたいにみんなと一緒にテロリスト(悪い人達)を倒したっていいじゃないか。

 

涙を拭いて歩きだす。

場所は先ほどの通信から所在を割り出したアルゴノーツ・パピスという列車砲。

武装を展開、状態を確認する。

ここ最近はまともに整備もできず、あちこちにガタが来ていたハンドガンやブレードも何故か新品同様の輝きを取り戻している。これも夢の中だからだろうか。

 

「鉄血工造所属、ハイエンドモデル潜伏者、作戦を開始する」

 

なんてな、とつぶやいて私はワイヤーを射出し、建物の間を飛びぬける。

ここ最近は思い出すことのできなかった軽い気持ちを胸に秘めて。

 




こちら、参考までにですが、今回のコラボ参加者の皆様となっております!

一升生水様作『本日も良き鉄血日和』

無名の狩人様作『サイボーグ傭兵の人形戦線渡り』

oldsnake様作『破壊の嵐を巻き起こせ!』

焔薙様作『それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!』

試作強化型アサルト様作『危険指定存在徘徊中』

ガイア・ティアマート様作『閃空の戦天使と鉄血の闊歩者と三位一体の守護者』

NTK様作『人形達を守るモノ』

通りすがる傭兵様作『ドールズフロントラジオ』


こうして書いてみるとオーバーキルもいいところですね…


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大型コラボ編 第二話!

だいぶ遅れてしまったけど二話目!
打ち上げもあるらしいし、急いで書き終えるぞー!


(さて、ここからどうしようか……)

 

 

アルゴノーツ・パピスという列車砲へ潜入を開始した私だが、警備は拍子抜けするほどあっさりと突破できた。

 

というのも、私に搭載されている変身機能を使って厳つい男に化ければ疑われることなく中へ入ることができてしまったのだ。

 

中には私が化けているのと同じような男たちが銃を手に乗っているが、グリフィンや軍に迫られているはずの彼らは信じられないほどに暢気だった。

 

曰く、グリフィンの人形ではこの列車砲の攻撃を捌ききれない。

曰く、この数で押せば鉄血の人形など恐るるに足らない。

曰く、先ほど軍のヘリですらこの列車砲に撃墜された。

 

銃を手にしてはいるものの、引き金に指をかけるどころか安全装置をかけっぱなしにしている彼らでは制圧されるのは時間の問題だろう。

鉄血のチャンネルから聞こえてくる情報から他2台の列車砲は制圧され、残るはここだけだ。

 

談笑するテロリストたちを尻目に列車砲の中央に位置する車両へ歩いていく。

焦る必要はない。私の変身は人間にばれるほどお粗末ではないのだから。

 

――そんな、慢心じみた気持ちを抱いていたからだろうか、車両へつながる扉を開けた瞬間、銃を突き付けられた。

 

 

「お前、どこのモンだ?」

 

 

スキンヘッドの男は私へ銃口を突き付け、油断なく睨み付けてくる。

私はそれに対して化けている姿に似合う軽薄な笑みを浮かべる。

 

 

「へへへ、すいません。トイレはどこかなー、なんて歩いてたらこんなところまで来ちまいまし、てぇっ!?」

 

 

警告もなく男が銃を撃つ。

不意を打たれたものの、私はそれをブレードで弾き、跳躍して車両の真ん中あたりへ着地した。

 

 

「ふん、鉄血のハイエンドあたりだろう、お前。ここから先はなあ、俺の知ってるやつしか入らねえように厳命してあるんだよ」

 

「……」

 

 

先ほどまで浮かべていた笑みを消し、ブレードを構える。

男は口笛を一度鋭く吹いた。

するとさっきまで談笑していた男たちがゾロゾロと車両へ入り、私へ一斉に銃口を向ける。

 

 

「鉄血の人形なんぞとまともにやり合ってられるか。ハチの巣にしてやるよ」

 

 

ニィ、とあくどい笑みを浮かべた男は腕を上げ、男たちへ合図する。

この程度の攻撃で致命傷にはならないだろうが、閉鎖空間で受け続ければさすがに危うい。

ブレードで防ぎきれるだろうか、と構えなおし、男が腕を振り下ろそうとしたその時だった。

 

装甲車両が天井をぶち破って私と男たちの間に突き刺さったのは。

 

 

「な、なんだこりゃあ!?」

 

 

男の困惑する声が聞こえる。

それはそうだろう、私だって意味が分からない。

 

ふと窓の外を見ると列車砲が崖沿いを走っていることに気が付いた。

まさかとは思うが、崖の上からこの装甲車両は列車砲に向けて飛び降りたのだろうか。

だとしたらそれを実行した人物は正気の沙汰じゃない。

 

だが、これはチャンスだ。通路は装甲車両が塞いでいる者の、両側に設置されている座席はそうではない。

座席側からテロリストたちへ攻撃仕掛けようと動いた瞬間、装甲車両の運転席側のドアを蹴り破り、一人の女が現れた。

 

 

「……緊急治療を開始します」

 

 

鉄のように固い声を上げた女は一番近くの男を殴り飛ばす。

テロリストたちは我を取り戻す間もなく、瞬く間にその女に制圧された。

 

 

「貴女は?」

 

 

テロリストたちを全員縛り上げた女は私へ視線を向け、簡潔に問う。

 

 

「…鉄血工造所属、潜伏者」

 

「なるほど、私と同類ですか。ちょうどいい、私とこの列車を制圧しましょう」

 

 

女は勝手に納得すると私が向かおうとしていた中央の車両へと足を向ける。

 

 

「待って。貴女は?」

 

「鉄血工造所属、救護者。……あなたと同じ、違う世界から来た人形ですよ」

 



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大型コラボ編 第三話!

主催者様が6月中旬って言ったのに大遅刻かまして申し訳ありませんでしたあああ!!!!(土下座)

とりあえずこのコラボ話は救護者のも含めてこれで終わりです…


 

 

救護者と名乗った人形と共闘することになり、私達はこの列車砲を操作していると思われる車両へと向かっている。

 

その道中には当然テロリスト達が陣取っていて、戦闘になる……のだが。

 

 

「まずは無手の人形から…「清潔!」…ぎゃあああああああ!!!!???」

 

「嘘だろいつの間に懐に…「消毒!」…ぐあああああ!!???」

 

「来るな……こっちに来るなあああああ!!!「滅菌!」ひいいいいいいい!!!???」

 

 

救護者を名乗る人形が片端から殴り倒してしまうため、彼女の討ち漏らしを倒しているような状況だ。

楽なのはいいが、彼女のセリフと行動がまるで一致していないのは何なのだろうか。

 

救護者の横を抜けてきたテロリストをブレードで殴り飛ばし、彼女の背中へ追いつく。

 

救護者は私に目も向けずに次の車両へ続く扉を勢いよく開く。

 

しかしそこには固定されたガトリングの銃口があった。

 

 

「ひゃっはああああああああ!!!!!!!」

 

 

哄笑と共にガトリングが火を噴く。

しかし救護者は焦ることなく懐から救護者と同じくらいの大きさの棺桶のようなものを自身の前方へ盾のように構え、私をかばうように地に伏せた。

……いや待て、その塊どうやって懐から取り出した?

 

 

「守ってもらわなくとも自分で防げるのですが?」

 

「いいえ。これが二人とも最も傷つかずに済む方法です」

 

 

私の上に覆いかぶさる救護者へ抗議の声をあげるものの、鉄のような声でそれは否定された。

 

やがて鈍い銃声が止み、薬莢が床へ落ちる音が響く。

 

 

「ひゃははははは!ハチの巣になった鉄血人形二体のできあが、り?」

 

 

銃声が止んだ瞬間、救護者は立ち上がり、棺桶のようなものへ両腕を突っ込んだ。

そして両腕を左右へ広げると、それが救護者の腕に張り付き、巨大な鉄腕へと姿を変える。

 

 

「あー……許して?」

 

「緊急治療」

 

 

唐突に現れた巨腕に呆然としていたテロリストだが、諦めたように命乞いを始める。

だがそれは無慈悲に退けられた。

 

 

鉄腕に殴り飛ばされた彼は窓を突き破って外へ放り出された。

飛ばされた先は川のようだし、運が良ければ生きているだろう。

 

 

「排除完了。さあ、行きましょう」

 

「……そうね」

 

 

言いたいことは色々あるけど、それを飲み込んで頷く。

彼女と会ってさほど時間は経っていないが、なんとなく彼女にその手の言葉は通用しないのだろうと悟ったからだ。

 

ずんずんと進んでいく彼女を私はため息一つ吐いて追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから幾人かのテロリストを退けてたどり着いた管制室らしき車両。

 

モニターには列車砲すべての監視カメラやスピード、あと何を表示しているのか分からない数字が並んでいる。

試しにブレーキを作動させるボタンを押したが、鋭い警告音で拒絶された。

 

救護者は難しい顔をして(といっても眉間に皺が少し寄っている程度だが)機器を見渡すと、ため息を一つ吐く。

 

 

「これは私では止められませんね。……あなたはどうです?」

 

「少しはわかるけど、止め方なんて分からないわよ。ブレーキらしきコマンドを入力してみたけど弾かれたし」

 

「そうですか。では仕方ありません」

 

 

そう言うと救護者は鉄腕で制御装置らしきものをぶん殴った。

突然の凶行に慌てて彼女を止める。

 

 

「ちょっと!?何をして……」

 

「こういう時はこの手が一番通用します」

 

「いやいや、余計暴走するに決まって…あれ?」

 

 

彼女がもう一発殴ると火花と共にすべてのモニターが真っ黒になる。

そしてしばらくは慣性で走っていた列車砲も徐々に速度が落ちていき、やがて止まった。

 

 

「ええ……嘘でしょ?」

 

「やはりこの手に限ります」

 

 

フンス、と無表情ながらに得意げな顔をしているのがなんとなく分かる。

私は乾いた笑みを浮かべて彼女を見つめることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい…はい。ではそのように」

 

止まった列車砲に軍やグリフィンが乗り込み、伸びているテロリストたちを捕縛していく。

私達も事情聴取のようなものを軽く受けたが、救護者がこの世界の鉄血と知り合いらしくすぐに解放された。

 

 

「では行きましょうか」

 

「どこへ?」

 

 

誰かと電話していた救護者が電話を切ると、私へ振り向いてそんなことを言う。

なんのことか分からずに首を傾げた。

 

 

「どうやら私達以外にも別の世界から来た方々がいたようです。彼らを集めてお礼のパーティーを開きたいから可能なようなら参加してくれと」

 

「それは別にいいけど……。堅苦しいのは嫌よ?」

 

「傭兵などもいるようですからそこまで格式ばったものではないでしょう。それに……」

 

 

救護者の次の言葉に渋っていた私はパーティーへ参加することを決めた。

 

 

「この世界の鉄血人形たちも参加します。あなたもここの代理人達には興味があるのではないですか?」

 

 




ちなみに彼女たちはパーティー終わったら来た時と同じように鈴の音と共に元の世界に帰ります。


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