FAIRY TAIL~杖遣いの魔導師の物語~ (塩谷あれる)
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序章 ハルジオン
一人と一匹
広大な大陸、イシュガルにおける政治的中心組織である評議院、その本部ERA。ここでは今日もより良い魔法界を成形していくための会議が行われていた。
「ウルティアよ、会議中に遊ぶのはやめなさい」
ウルティアと呼ばれた黒髪の若い女性評議員が水晶遊びを窘められる。それに対しウルティアはクスリ、と笑い応えた。
「だってヒマなんですもの。ね?ジークレイン様」
「おーヒマだねぇ。誰か問題でも起こしてくんねーかな」
ウルティアに賛同してジークレインと呼ばれた青い髪に刺青のこれまた若い男の評議員が茶化すように言った。その言葉に他の評議員は呆れ返り怒鳴る。
「つ…慎みたまえ!!」
「全く、何でこんな若造共が評議員になれたんじゃ!!」
「魔力が高ェからさ、じじい」
「ぬぅ~~~!!!」
老評議員達が咎めれば、若い評議員達がヒラリと躱しおちょくる、そんな諍いがヒートアップしてきた所で、今まで黙っていた錫杖を持った評議員が窘めるように口を開いた。
「これ、双方黙らぬか。魔法界は常に問題が山積みなのじゃ、中でも早めに手を打ちたい問題は……
天気は快晴、近所の少年少女にとっても、
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フィオーレ王国ハルジオン、広い王国の中でも特に高名な漁業な海運業の盛んな街である。そんなハルジオンに、今、一人の男と、一匹の猫が降り立った。
「久々に来たなァ、ハルジオン」
『中々いい街だネ』
片や薄い灰色の髪を無造作に分け、地味なダークブラウンのローブを羽織った三十路過ぎの男。片や橙色の毛に黄金の瞳を持つ可愛らしい何故か人語を話す猫。一見すると不審過ぎた。まぁ一見しなくても、猫が話している時点で不審だが。
「さて、お仕事しますかねぇ」
『予測が正しければ標的はこのハルジオンに来るだろうからネ。さっさと捕獲して依頼金を頂コウ』
「相変わらず猫らしからねぇなァ。人間臭くなりやがって」
『君がそう造ったんだヨ』
ぴょんこ、と猫は男の肩に乗り、それを確認した男は歩き出す。
『そう言えバ、今ここに
「
そう言いながら、一人と一匹は歩いていった。
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「ったく、あの店主めーっ!」
魔導師の少女、ルーシィは憤慨していた。と、言うのも、目当ての品を安く手に入れるために色仕掛けをしたというのに、大して効果が無かったためである。こんなピッチピチの若い女子の色仕掛けだというのに。
「あたしの色気は1000Jかーっ!!!って、ん?」
何やら騒がしいので見てみれば、人集りができている。しかも、聞こえてくるのは『
「
「へぇ、やっぱりすごい人気ねぇー…カッコいいのかしら」
ルーシィはミーハーだった。
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「今んとこは情報無し…か」
『まぁ魔導士かどうかなんて一般の人には見た目じゃ分からないしネ』
「ホシの人相は不明、使う魔法も明確には分かってねぇ…ったく、けったいな依頼ぶち込んでくれやがる」
『選んだのはクラウトだロ?』
「仕方ねぇだろ?金払いが良かったんだ。犯罪者の捕獲で15万J、受けねぇ手はねぇっつの」
『お金沢山ある癖にまだ欲しいノ?』
「お前のエサ代バカにならねぇのわかってんのか、ミケ」
二人が駄弁っていると、ミケと呼ばれた橙の猫の耳がピン、と立つ。それを見たクラウトがミケに尋ねた。
「どうした」
『この道を真っ直ぐ行った先、何やら人集りが出来てるみたいだネ。魔力の反応は二つ、もしかしたら今回の標的カモ』
「お、ようやっとか」
クラウトの顔に少し安堵の表情が見えた。何せ情報集めから何から、かれこれ一週間はもうこの依頼に取り掛かっているからだ。
「おし、行ってみるぞミケ」
『分かってるヨ』
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(ちょ、ちょっと…!あたしってばどうしちゃったのよっ!!!)
ルーシィは困惑していた。何故ならかの魔導士、
(有名な魔導士だから?だからこんなにドキドキするの!!?これってもしかして、あたし…)
「ちょいと失礼するぜ、お嬢さん方」
ふらふらとルーシィが覚束ない足取りで
「……キミは?」
「いやなに、俺の素性なんか聞いてくれなくても結構だよ。ただ一介の通りすがりのオジさんだからな。所で──」
「
この出会い。この、灰髪の男、クラウト・キャスターとの出会いが、ルーシィの人生を大きく狂わせていくことを、今はまだ、誰も知らない。
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料理店での会話
「……そうだ、と言ったら、どうなるんだい?」
「へぇ…」
どこか品定めするかのように
「おいミケ、こら、寝てんじゃねぇよお前」
『んン~…んンニャァア』
「こんな時ばっか猫みたいにしてんじゃあねぇぞ、おい」
何やってんだコイツ。辺りの人々は皆そんなことを思っていた。いや、よく考えて欲しい。いきなり有名魔導士に今ありげに話しかけたと思ったら今度は猫に話しかける三十路過ぎのオッサン…はっきり言って痛い、痛すぎる。骨折ものの激痛である。何なんだこの男。と、辺りの空気が一気に冷めていく中、猫が口を開いた。
『全く…人の安眠を妨害しないでくれるカイ?デリカシーがないヨ、クラウト』
「「「!!!?」」」
「何言ってんだバカネコ。仕事中だっつの。で、どうだ?」
『ん~?んー…』
なんと、人語を話すはずがない猫がペラペラと流暢に人の言葉を話したのである。しかも、灰髪の男はそれがさも当然のように猫と対話している。男に尋ねられた猫は、チラリ、と
『干渉系の魔法の匂いがスル…多分この人がクロカナ…』
「よしきた。お兄さん、ちょいと一緒に来て貰おうか」
灰髪の男が
「ちょっとアンタ達失礼じゃない!?」
「そうよ!!
「クロとか何とか、いきなり何してんのよ!!」
「おっ、うお!?ちょ、ちょいと待てお嬢さん方」
たちまち囲まれ袋だたきにされる二人。それを
「まあまあ、その辺にしておきたまえ。彼らにも何か理由があってこんなことを言ったのかも知れないしね」
「さ、
「やさし~♡」
「あ~ん♡」
「君達の厚い歓迎には感謝するけど…僕はこの先の港に用があるんだ、失礼するよ」
「…クソ、取り逃がした。追えるか?ミケ」
『君が追尾機能はつけなかったんダロ』
「あぁ、そうだったな。仕方ねぇ、急いで港に…」
「あの、ちょっと良いかな」
男が立ち上がり、猫がその肩にまたぴょんと乗り、駆け出そうとする。それを遮るように、一つ声が上がった。二人が振り向くと、そこには
「さっきはありがとね」
「『?』」
一人の少女が立っていた。
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「いやぁ、良い人だな。お前さん」
『そうだネ』
「いいのいいの、気にしないで。さっきは助けて貰ったし」
クラウトとミケは、先程話しかけられた少女、ルーシィに連れられ食事をしていた。
「あの
「あぁ、らしいな」
『発売禁止になったはずだケド…裏ルートか何かで手にしたのカナ?』
二人の言葉を聞き、ルーシィは確信した。彼らもまた、魔導士なのである、ということを。
「ねぇ、アンタ達、何でアイツを追ってたの?」
「ん?あぁ、依頼でな」
『犯罪者の捕獲のお仕事中なんダ』
「犯罪…アイツ、犯罪者だったの!?」
ミケの言葉を聞き、ルーシィは思わず立ち上がった。周囲から好奇の目で見られたため一応座り直したが、その驚きは冷めていない。
「あぁ。マジモンの犯罪者だ。ここ最近、街々で若い女が消えてく事件が連続して起こってな。その消えた女の中に、とある名家のお嬢様がいた。その名家の旦那さんが、お嬢様の捜索、及び下手人の捕獲をギルドに依頼したってわけだ」
『一夜にして女達が消えたことカラ魔導士の犯行であることが分かッテ、そこから使用魔法は人の意志や肉体を操る干渉、操作系の魔法である線が高いってことデ調べテタ所だったんダ』
「んでもってさっきの
「…………」
ルーシィは困惑していた。まさか、あの男が犯罪者だったとは。
「ってか、だとしたらあの男追わなくて良いの!?」
「あぁ。それは良いんだよ」
「ど、どうして…」
「よくよく考えりゃ、あの野郎は今夜船上パーティーとやらをする予定なんだ。恐らくその船で女達を攫ってくつもりなんだろうよ。だとすりゃ、その港さえ抑えときゃ捕まえられる。もし仲間がいりゃ、それこそ一網打尽だ。その船に件のお嬢様がいるかどうかは分からんが、何にせよそのタイミングでお嬢様の居場所を聞き出せる」
よっこいせ、と年寄りじみた声を上げてクラウトが立ち上がり、それを見たミケはひょい、とまたも彼の肩に飛び乗った。
「ごちそーさん。俺の分のお代はここに置いておくぜ。あ、釣り銭があったら貰って良いぞ」
『おいしかったヨ』
「え?いやちょっと、お礼なんだから奢らせてよ!」
「若いお嬢さんがお気になさんな。お礼なら、良い店を教えてくれたので十分だ。次ハルジオンに来るのが楽しみになった。もしそれでも礼がしたいってんなら…」
クラウトはポケットからメモ帳とペンを取り出し、サラサラと何かを書いた後、そのページを破ってルーシィに渡した。
「これ、俺の入ってる魔導士ギルドの
そう言ってクラウトはひらひらと手を振って店を出て行──こうとしたところで止まり、ルーシィに振り返った。
「あぁ、そうだ。さっきの男、分かってると思うが気をつけておけよ。理解している以上、もう
そう言い残して、クラウトとミケは今度こそ店を出たのであった。
何となくですが、ミケはハッピー達エクシードっぽい2頭身の猫ではなく、現実の猫みたいな感じをイメージしてます。因みに、性別は(一応)メスです。
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二人の少女
「はぁ…なんかもう、色々疲れちゃった…」
あの後、店を出たルーシィは、その道で魔法専門誌『週刊ソーサラー』を買ってへたりとベンチに座り込んだ。無理も無い。この数十分の中で色々と驚くことが多すぎた。
「まーた
ペラ、ペラと雑誌をめくっていくと、またも
「あ、これ…
「
「へぇー…君、
「!!!」
突如後ろから声をかけられ、身構えるルーシィ。そしてそれは、正解だったと言えるだろう。何せその声の主は、先程クラウトが話題に出し、気をつけろと言っていた男だったのだから。
「サ…
「いや~探したよ……君のような美しい女性を是非我が船上パーティーに招待したくてね」
「こ、来ないで!」
ルーシィは咄嗟に腰の鞭を取り出した。
「おいおい、別にそんな風に身構えなくたって良いじゃないか。ただ僕は君をパーティーに誘おうとしただけだよ?」
「とぼけないで!あたし、知ってるんだから!アンタが
キッ、と
「おやおや…どうやら君は、知ってはいけないことを知ってしまったみたいだねェ。どこでそれを知ったのかは知らないが、いけない子だ…」
そう言うと
「ぐっ…何、これ…」
「秘密を知られたからにはただじゃあおかないよ、お嬢ちゃん。君には少し眠ってて貰う」
あまりにも強烈な眠気。全身に鉛のように重い何かがのしかかり、思考がたちまち鈍っていく。最早、立っていることも覚束ない。
(ダメ…寝たら、あたし、も…)
必死の抵抗も虚しく、ルーシィはその場に倒れ込んでしまった。それを見て
「ククク…見れば見るほど上玉だ…
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「…う、う~ん…あっ!!こ、ここは!?」
暗い部屋の中でルーシィは目を覚ました。自分の体を確認すると、どうやら手足を縛られていることがわかる。鍵は回収されていないようだが、これでは身動きは出来なさそうだ。
「ここ、どこ…?」
「船の上よ。あのクソッタレ魔導士の、ね」
「え?」
突然聞こえた声に振り向くルーシィ。するとそこには、控えめながらも高価そうな服に身を包んだ、ルーシィと大して年齢も変わらなそうな少女がいた。後ろ手で手を縛られており、ルーシィよりは体の自由度は高そうだが、ドアを開けることすらできない状況では、逃げることは難しそうだ。
「貴方、は?」
「私はリーゼ。あのクソッタレに騙された女よ…貴方と同じ…では、無いかもしれないけどね」
リーゼと名乗った少女は、どこか皮肉めいた笑みを浮かべて言った。その顔には、皮肉の他にも、諦めの感情も見える。
「あのクソッタレはこの船を使ってボスコとかカ=エルムとか…そこら辺の隣国に攫った人達を奴隷として売り捌いてるみたい」
「奴隷…なら、なんで貴方はここに?」
「わからない…って言いたいところだけど、思い当たる節はあるわ。まぁ私、こう見えてもちょっと名のある家の娘なのよ」
ホントにちょっとだけどね、とリーゼは呟き、それから続けた。
「もしあのクソッタレが私を利用しようとしてるんなら、多分お父様にでも掛け合って身代金でも頂こうって算段なんじゃないかしら。それか、自分のやってることの隠蔽を手伝わせてるか…まぁ、どちらにせよロクでもないけどね」
リーゼの話を聞いて、ルーシィは先程のクラウトとの会話を思い出していた。先程彼は、確かに言っていたのだ。とある名家の当主が、娘の捜索、及び犯人の捕獲をギルドに依頼した、と。
(そっか…この子が、クラウトが言ってた『名家のお嬢さん』なんだ)
そこまで考え、ルーシィはある一つのことに気がついた。
(そう…そうだ!よくよく考えたら、クラウトの仕事は『
船上パーティーは夜に行われる。恐らく彼も、そのタイミングで仕事を始めるだろう。
(夜まで耐えれば、助けが来る─!)
希望があることを理解したことで、若干心に余裕ができたルーシィであった。
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時は過ぎて、まだ涼やかな風の吹く夜。フィオーレ全体を見ても広大な面積を持つハルジオンの港と、そこを根城とする数々の船。その中でも一際目立つ客船に、多くの若い娘達が群がっていた。その中心には、どこかで見たような薄っぺらでキザったらしい笑みを浮かべた魔導士がいる。
「よし、アレで間違いはなさそうだな…さっさと仕事を終わらせるか」
『ねェねェクラウト』
「なんだよミケ、どうかしたのか?腹減ったんだったら後にしろよ」
そんな船と人集りを、そのそばの船の陰から見ていたクラウトとミケだったが、急にミケがその形の良い耳をピン、と立ててクラウトに話しかけた。
『ボクは腹ぺこキャラじゃないヨ!じゃなくテ、さっきあの船の周りの魔力反応を
「二つか…魔力のデカさはどうだ?使う魔法の性質…は範囲外だから無理だが、そっちはわかるだろう?」
『片っぽは、そうだネ。昼間のあの女の子位の、平均を下回る位の魔力カナ。もう片方は更に小っちゃいネ。市販のちょっと高めな魔道具と同じ位』
「んー、ま、それ位なら大丈夫だァな」
そんな、まるでこれから遊びに行く友人同士のような気の軽さで話し合う一人と一匹。その表情に、凡そ緊張、怯え、そんなものは微塵も見えなかった。
「じゃ、そういう訳だ。行くぞミケ。
『オッケークラウト。いつも通り行コウ』
クラウトは、自分の頭をすっぽり包むようにローブのフードを被り直す。その途端、二人の姿は跡形もなく消え、ただ少しばかりの風が流れていくだけだった。
お気に入り登録、ありがとうございます。これからも頑張ろうと思います。
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