「プリキュア版深夜の文字書き1時間一本勝負」参加作品(4) (さくらみや)
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「プリキュア版深夜の文字書き1時間一本勝負」参加作品(4)

◆おいしくなりますように、願いをこめて

 

「おいしくできるといいな…」

 そっと、心の中でつぶやく。

 スズメの鳴き声が朝の訪れを告げる中、私はキッチンでフライパンを振るう。

 中で踊るたこさんウィンナー。美味しそうな匂い、美味しそうな音。朝ごはんがまだの私はおなかが鳴ってしまいそう。

 でも、まずはお弁当から。

 フライパンの手を止めてプチトマトをお弁当箱の中に詰める。彩りよくなるように配置も考えて。

 

「さて、包もうかしら」

 朝ごはんも済ませてそろそろ学校へ行く時間。洗い物も終わってお弁当に目を移す。

 今日も我ながらよくできたと思う。

 必要かどうかわからないけど、1.5人分のお弁当。このためにお弁当箱も買い換えた。

 今日はゆかりのご飯にたこさんウィンナー、レタスとプチトマトとブロッコリーのサラダ、卵焼き。

 メニューは平凡だけど、平凡だからこそ飽きがこない、それを理由に選んだメニュー。

 蓋を閉じてきゅっとピンク色のバンダナで包んでぽんぽんって撫でるように叩く。

 それは、美味しくなるようにっていうおまじない。

 そして、喜んでもらえたら嬉しいな、っていう気持ちも込めて。

 

「いってきまーす!」

 返事はないけどとりあえず挨拶。

 玄関の鍵をしっかりしめて、左に向かうとマナの家。

 お店の前ではもうマナが待っていた。

「おはよう、マナ」

「おはよう、六花」

 笑顔を交わして、並んで歩き始める。

 今日もいい天気、穏やかに流れる風が気持ちいい。

 他愛のない話をしながら歩くと不意にマナが謝ってくる。

「ごめんね、いつもお弁当もらっちゃって…」

 反省の色を沢山、伺うような視線を少し、混ぜて私の様子を見ながら。

 最近ちょっとつらくあたりすぎたかなって反省をしながらも返事はいつもと同じになってしまう。

「気にしなくて大丈夫よ」

 それはちょっとそっけなかったかも、そう思ったけどマナにはちゃんと真意が伝わったみたいで安心した顔をしていて私もほっと胸をなでおろした。

 

「りっかさまぁ~!」

 そして、昼休み。ほぼ予想通りマナが私の席に泣きついてくる。

 今日もパンを買いに行ったまでは良かったけどお手伝いして自分の分が買えなかったみたい。

「はいはい、仕方ないわね…」

 カバンからお弁当を取り出す。ピンクのバンダナの彩やかさが瞳に入る。

 マナの瞳が輝きだす。私はゆっくりと解く。

 蓋を開けると殊更マナの瞳が輝く。

「おぉーっ!」

 それどころか歓喜の声も上がる。

「はい、お箸」

 こんなこともあるかと思って割り箸を持ってきて正解だった。

「ありがとう、六花さま! 命の恩人だよ!」

「大げさよ…もう…」

 さすがに少し恥ずかしくなってきて慌ててご飯に箸をつける。

 マナもおかずを見渡してどれから食べようか迷っているみたい。

 私はゆかりの香りを感じながらもマナの様子をこっそり伺う。

 見た目は美味しそうに見える…と思う。

 でも、実際味はどうか…ちょっとだけ心配。

 マナの味の好みはわかっているつもりだけど、その時の気分でも味が変わるから。

「これ、もらうね」

 最初に手をつけたのはたこさんウィンナー、美味しそうな匂いと焼ける音を思い出す。

 心の中でマナのお口に合えば、って思いながらその様子を見る。

「ど、どう…?」

 それに加えて思わず尋ねてしまう。

 マナは瞳を閉じてもぐもぐしていたけれど…

「うんっ、おいしい! さすが六花!」

 その言葉にほっと胸をなでおろす。気付かれないように。

「それはよかったわ」

 自分もウィンナーに手を伸ばす。

「これなら毎日忘れてもいいかなぁ…」

 その時、マナは小声でそんなことまで言いだす。

「それはさすがに…」

 私は困った顔を作っていたけど、でも…

 お弁当箱をもうひとつ買おうかな、なんて心の中で考えている自分もいたりして…

 そんな私の心の中を覗き込むようなマナの視線に気づいて、

「今度からパンを買うの忘れないようにね」

 そう言ってみるけど…マナは嬉しそうに頷くだけだった。

 

 

 

◆月あかりの願い事

 

 しんと静まった部屋、灯りはつけていない。

 のぞくような月はいつもより大きくて、碧く染まっていて、自然にあの子のことを思い出してしまう。

 それは、強い憎しみと、ほんのわずかの疑問をもって。

 私のお姉ちゃんがあんなことになったのは確実にあの子のせい。

 この世の中が暗くよどんだものになっているのもあの子のせい。

 この世の中に幻影帝国が現れて滅ぼされた国もあることもあの子のせい。

 …滅ぼされた国の中にあの子の国もあるけれど、それは自業自得。

 いくら恨んでも恨んでも、恨みきれない。

 …でも、私の心の中にほんのわずかに残る疑問。

 どうして、あんなことをしたのか…

 どうせあんなお調子者のあの子のこと。

 ちょっとの興味で開けてしまったに違いない。

 でも、そんな大切なアクシアがそんな簡単に開けられるような場所に置いてあるのか。

 王女とは言いつつもまだ成人していない。そんな子が簡単に入り込めるようなところに置いてあったのだろうか…

 …本当に、ちょっとの興味で開けてしまったのか。

 いつまでたっても疑問は尽きない。

 だから、聞いてみようと思うけど、あの子の前に立とうと思うそれだけで恨みの気持ちだけが浮かんで疑問は消えてしまう。

 

 聞いてみたらいいのに、心の奥底でもうひとりの私が囁く。

 でも、心でそう思っていても、行動ができない。

 恨みの気持ちが私の行動を止めてしまう。

 それに、あの子もどうせ私が聞いても答えてくれないだろうから。

 ふいに浮かぶ愛想笑い、それだけ。

 それが私の神経を逆なでさせる。

 怒りにまかせてしまいそうになるけど、一瞬とどまっての無表情。

 そして、最後に捨てるような厳しい一言。

 そうなってしまうのはわかっているから。

 

 ため息ひとつ、真っ暗な部屋に流れる。

 おもむろに棚の砂時計に手を伸ばす。

 お姉ちゃんからもらった大切な砂時計。

 ゆっくりとひっくり返すと月灯りにきらめいて砂が落ちてゆく。

 静かだった部屋に響く、さらさらとした砂の音。

 まとまっていた砂がそれぞれ別れて、またひとつに戻る。

 こんな風に私とお姉ちゃんはもう一度逢えるのか…わからない。

 …そんな弱音を言っていられない。私はきっとお姉ちゃんを助ける。

 心の中で誓ううちに砂は底にひとつになる。

 もう一度ひっくり返す。再び流れるさらさらとした音。

 そして願う。お姉ちゃんと再び逢えることを、そして…あの子ともこうやって近づくことができるように、と。

 あの子を思わせる、碧い月にきらめく、綺麗な綺麗な砂たちに。

 

 

 

◆解けるまでにはもう少し

 

 シャーペンを滑らせる音が囁く、夏の終わり、夕暮れの部屋。

 他に聞こえるのはわずかな扇風機の音。

 机に向かい合わせ、私たちは宿題を解いていく。

 今日は数学の宿題、沢山の方程式。土曜日と日曜日があるからちょっと多め。

 でも、今までやったことだからきちんと筋道を立てれば答えは出る。

 xの数、yの値、きちっと出てくると少しだけ気持ちがいい。

 いくつもの数式が並ぶノートの上、私は沢山の数字と英文字と記号を並べてゆく。

 

 向かいのマナが顔を上げる。私も同じように顔を上げる。

「お願い、教えて?」

 少しだけ甘えるようなその声が好き。

 だから、私の顔は自然とゆるむ、少しだけ。

 マナのシャーペンのピンクが視界に入る。

 マナの綺麗な指が視界に広がる。

 そのシャーペンの指す先よりも綺麗な指に気をとられる。

 でも、そうもしていられないから私はその疑問に答える。

 微笑むマナ、返す私。

 再び広がるシャーペンの音。

 

 でも、私の頭の中にマナの綺麗な指が徐々に浸潤してくる。

 その綺麗な指、すっと長く、スポーツをよくやっているのに柔らかそうな、本当に女の子らしい、指。

 私は時々その指を盗み見ながら、数式を解いていく。

 その指に触れてみたい。その指をつまんでみたい。その指にそっと口づけしてみたい。

 私の妄想はいくらでも広がっていく。

 でも、王子様然としたマナ、触れるにはあまりに輝きすぎているから目がくらんでしまう。

 それでも、触れてみたいという気持ちは止められない。

 どうしたら触れられるのか、お願いすれば聞いてくれそう。

 でも、拒絶されてしまったら…そう思ったらお願いすることもできない。

 これは本当に難しい問題。どんな公式を使っても解き明かせない、まるでコロンブスの卵。

 そっと、ハプニングを装って唇で触れてみるのもありかも…

 私の妄想はとめどもなく流れてゆく、最初は小さな水滴、それが集まって小さな川になるかのように。

 どうしても、どうしてもマナに触れてみたい、そんな気持ちが、川が集まって大きな川になるように…

 …ふと、その時、マナの指が止まっていることに気づいた。

 感じる、マナの視線。私は顔をあげようとしてあげられない。

 こんな妄想をしていたのだからだらしのない顔をしているはず、そう思って。

「どうしたの?」

 その言葉に肩が勝手に震える。

 マナのことをずっと見ていたこと、気付かれてしまったのかも。

 そう思うとますます顔を上げられず、小さな声で返すだけ、

「別に、なんでもないわ」

 と…

 私の悪い癖、すぐに言ってしまう言葉。

 でも、マナは気を悪くした風でもなく、優しそうな声で、

「終わるまではお誕生日ケーキはお預けだよ?」

 そう言う。

 私はその言葉で妄想の海から救い出される。

 そして、あまりに恥ずかしいことを考えていたことを思い出して、顔が赤くなる。

「わ、わかったわ…頑張りましょ」

 そう言って、再びシャーペンを滑らせる。

 マナは「うんうん」ってうなずいて、シャーペンをノートの上に踊らせる。

 

 穏やかに過ぎていく誕生日の宵闇の時間。

 私達の宿題はもう少しで終わりそう。

 だけど、私が答えを一番求めている数式は、解けるまでにもう少し時間がかかりそうだった。

 

 

 

◆もうひとつの仮面

 

「どうしたの?」

 視線を感じて顔を上げるとそこにはトワっちの視線。

 数秒、見つめ合うあたしたち。

 でも、トワっちは視線を外して「なんでもありませんわ」とだけ。

 あたしも言葉を続けることができなくてトワっちから視線を外す。

 でも、しばらくするとまたトワっちの視線。

 最近、あたしのことを時々見つめているような。

 でも、用事があるわけではないみたい。

 用事があるときはちゃんと話しかけてくるから。

 不思議に思い始めて3日、その答えがやっとわかった。

 

 それは、就寝時間が過ぎてそれぞれベッドに入った後。

 一緒の部屋になって時々就寝時間が過ぎても話すことがあった。

 それは、他愛のないことだったり、あたしの仕事のことだったり、色々。

 今日も学校のこととかお話していたけど少しだけトワっちの声は沈んでいるみたいだった。

 会話が止まる。

 トワっちの息を飲む声が聞こえる。

 そして続くトワっちの言葉はもっと沈んで、

「私はクラスのみんなと仲良くできるのでしょうか…」

 そんなことを言う。

 あたしは多分そんなことだろうなって思っていたから驚きもなかった。

 トワっちの沈んでいて、それでいて、真面目な口調は変わらず、

「私はこの世界のことがわかりません。同世代の友達もずっといませんでした。だからどう接したいいかわからなくて」

 たしかに、トワっちはクラスにまだまだ馴染めない感じだった。

 必要なことは話すけど、それ以外はまだ少しぎこちない感じ。

 だから、どうしたらいいかわからなくてあたしに救いを求めるように視線をなげていたみたいだった。

「あの頃のように仮面をつけているような、そんな感じがして…私の仮面はいつか外れるのでしょうか」

 少しだけ寂しそうな声。でも、あたしは心を鬼にする。

「そんな調子じゃ外れないんじゃない?」

 トワっちの息を飲む声が聞こえる。

 ベッドが少しだけきしむ音がする。

 でも、気にせずにあたしはなるべく優しい声で伝える。

「自分から外さない限りね」

 トワっちの仮面を外したはるはるならもう一度外してくれるかもしれない。

 でも、それじゃだめ。これは自ら外さないと。

「あたしも手伝えることがあるならするけど、まずは自分でね」

 あたしの言葉にトワっちは嬉しそうに「はい」って応えてくれる。

 もう、大丈夫かな?

 すると、トワっちがあたしのベッドに潜り込んできた。

「どうしたの?」

 いきなりのことでびっくりしたけど、嬉しそうな顔のトワっちを見ていると黙って許しちゃう。

 それに、こんな言葉を聞いたら。

「でも、一番の友達はきららですわ…ずっと」

 

 

 

◆喧嘩はささいなことから

 

「まこぴーは正直者すぎるのよ!」

「私は六花のためを思って言ってあげたのに!」

 私たちは真っ赤にふくらませた顔を向かい合わせると、そのままぷいってよそを見る。

 困ったような顔のマナ、やれやれという顔のありすと亜久里ちゃん。

 そして、不思議そうな顔を隠さないレジーナ。

 そう、わかってる。これは私が悪いこと。

 でも、まこぴーの言い方はきつすぎてこうやってかみついてしまうことがある。

 そして、あとで大きな後悔。

 わかってる。まこぴーは私のことを心配してくれていることを。

 知っている。どれだけ私のことを気にして言ってくれているか。

 私は気持ちの行き先を見つけることができなくて、ごまかすように階段を上がる。

 夕暮れ時のソリティア、夕陽さす階段を上がっていった。

 

 ひとり、ソファに座ってもう一度起こったことを思い出す。

 あれは前にもあったこと。私がマナを心配しすぎてお世話するのを見て、まこぴーが私の耳元でつぶやいた一言。

 私は好きでやっているのだから、って伝えたけど、マナのためにもならないって、そう言い始めて、それからも続くまこぴーの言葉についに声を荒げてしまった…全く成長しない自分にため息が出る。

 でも、どうしても、仕方ない。マナのことになってしまうとどうしても我慢できなくなってしまう。

 もう一度ため息をつくと、いつのまにか横にまこぴーが座っていた。

 私は少し横にずれてしまう。思わず。

 でも、まこぴーは気にせずに小さな声で呟く。

「ごめんなさい」

 って。

 それを聞いたら私も何も言えなくなって、

「私こそ、ごめんなさい」

 謝ってしまう。

 まこぴーは私やマナのことが心配で言ってくれた。

 その気持ちはとっても嬉しいから。

 最初からそこまで考えていればよかったのにって今更ながら思う。

 私は顔をまこぴーに向ける。

 すると、まこぴーも私に顔を向ける。

 そして、もう一度同時に頭を下げて、

「ごめんなさい」

 そう言葉を交わす。

 そして、笑顔がお互いこぼれる。

 もう、私たちは仲直り。これもこの間と一緒だった。

 

 でも、私は知っている。

 いつもいつも私に一言多いのか、その本当の理由。

「真琴のやきもちも、嬉しい」

 そう伝えると、真琴はまたぷいって横を向いてしまった。

 さっきと同じように顔を真っ赤にして。

 私はその横を向いた頬に優しく唇を押し当てた。

 いつもありがとう、その気持ちも込めて。



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