「プリキュア版深夜の文字書き1時間一本勝負」参加作品(7) (さくらみや)
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「プリキュア版深夜の文字書き1時間一本勝負」参加作品(7)

◆やさしく流れる円舞曲の中で

 

「あ、ごめん、れいかちゃん…」

「大丈夫ですよ。また最初から」

「うんっ!」

 足をそろえて、もう一度向き合います。

 私たちふたりきりのふしぎ図書館、流れ出す曲は円舞曲。

 みゆきさんの手を取ってふたたびステップを踏みはじめます。

 

 あの日、シンデレラのあの日から、こうやって時々みゆきさんにお願いされてダンスの練習をしています。

「童話を書くときに絶対に必要な描写だから覚えておきたいの」

 熱心な口調、熱っぽい視線、握られた熱い手。

 みゆきさんのその熱心さに私は思わずうなずいてしまいました。

 …それと同時に、生まれてしまった心があります。

 それは、みゆきさんが愛しい、と想う心…

 最初は戸惑いもありました。

 普通ではないとわかっている自分もいました。

 こんなことを考えてしまうなんて、私はふしだらになってしまったのでは…そう悩む夜もありました。

 でも、その想いを打ち消そうと思えば思うほど、私の心はさらにそれを止めようとします。

 私は私の心に生まれた気持ちをそのまま受け入れることにして、

 でも、誰にも知られないように、そっと、心の奥にしまって、こうして今日もダンスを踊ります。

 見つめあい、踏むステップは軽やかに。

 流れる三拍子、頭の中はみゆきさんのことばかり。

 不意に思い出す、あの時のプロポーズの言葉。

 あの時は演技でしたけど、今なら心の奥から、奥底の気持ちを、あの言葉を伝えることができます。

 でも、口にしてはいけないことです。

 言ってしまったら、こんな素敵な時間も無くなってしまうかもしれませんから。

「あ…」

「あっ…ごめんなさい」

 考え事はいけません。あやうくみゆきさんの足を踏むところでした。

 でも、みゆきさんは気にすることもなく、もう一度私の手を取ります。

「大丈夫だよ。またもう一度だね」

「はい」

 この笑顔を、誰もが幸せになれる笑顔を失いたくない私は小さく息を吸って、もう一度手を取りました。

 心の中は少しだけ、きしむように音を立てたのを気づかないふりをして。

 

 

 

◆きっと忘れない、初めての…

 

「きらら…」

 トワっちは心配そうな声であたしのことを呼ぶ。

 あたしはいつも以上にそっけなく返事をしてしまう。

「私の事、忘れないでくださいな…」

 忘れるわけがない。

 この甘い声も、心配そうに震える瞳も、あたしの指を痛いくらいきつく絡めるその指も、そして、この柔らかいぬくもりも。

 でも、あたしはそっけなく返事をしてしまう。

「もちろんよ」

 こもっていない気持ち、込められない想い

 だって、もうすぐに離ればなれになるのに。

 気持ちを、想いを、乗せてしまっては、自分の本当の気持ちを認めたら、トワっちと離れたくなくなってしまうから。

 ふたり、同じベッドだからちょっと狭いけど、だから、もっと感じることができるトワっちのぬくもり。

 あたしはこれだけでもう十分だって、そう思いながら、そう想わせながら、いつかやがて眠りがあたしを襲って…

 最後に感じたのは唇に乗せられる柔らかいトワっちの唇。

 あたしは拒絶することもせず、ただ、トワっちのしたいように任せて…だって、嫌ではなかったから。

 

「私をわすれないでくだいな…きらら…!」

 いよいよお別れ。

 そんな当たり前のこと、言わなくたって大丈夫。

 あたしが貴女のことを忘れるわけがない。

「たまに逢いに来ないと忘れちゃうかも!」

 でも、そんなことを言っちゃうのは、あふれた涙をごまかすため。

 トワっちは涙を流しながら微笑んで、そして…

「「ごきげんよう…」」

 あたしとトワっちの言葉が重なって、お互いに逆の方向に歩き始めた。

 

「忘れない…当たり前じゃない…」

 歩きながら、小さくつぶやく、誰にも聞こえないように。

「忘れられるわけない…だって、本当に好きだったんだもの」

 震えるまぶた、きらめく視界、あふれる涙。

「大好きだったよ…」

 本当は気持ちを伝えたかったけどそれもできなかった。

 本当に残念なことをしたって思う。

 トワっちたちと逆の方向に歩きながら、後悔を、忘れられない想いを胸に刻みつけるように小さく言葉を続けていた。

 この初恋を、決して忘れないように、と。

 

 

 

◆「よしよし」はやさしさだけでなく…

 

 出逢って1か月。

 わたしの心の中に芽生えた気持ちに、最初は驚いて、びっくりして、とてもドキドキして…でもそれは幻だって気付かされて、あきらめようと思ったけど…でも、いつまで経ってもあきらめられない自分がいて、わたしはわたしは心の中がよくわからなくなって、ふわふわして、おかしい毎日をすごしてた。

 本当はわかってた。ちゃんと気づいてた。でも、言葉にしちゃいけないんだって。これはいけないことなんだって。わかっているけど、でも、それでもあきらめられなくて…

「大好きです。あきらさん」

 そう言えたらどれだけいいのか、なんて、ちょっと前までは絶対考えないようなことを考えるようになって、わたしは余計に頭の中がこんがらがっているみたいだった。

 「好き」という言葉、二文字で表すことができる単純なこと。でも、相手が同じ女の人で、ってだけでもうすぐに悩みが増えて、それがとてもかっこいい人だから頭と顔が熱くなっちゃって、一緒におかしを作ってくれて、一緒に戦ってくれて、時には助けてくれて…もう、色々なことがありすぎて、わたし、どうなっちゃったの、ってくらいに頭の中がわちゃわちゃになっちゃって…

「はぁ…」

 思わずため息も出ちゃう。

 そんなわたしをみてひまりんもあおちゃんも心配そうな顔。

「大丈夫か?」

「心配事ですか?」

 やさしい言葉をかけてくれるのが嬉しいけど…ため息は心の中で何回も。

「どうしたの?」

「はぁ………はぁっ!?」

 ため息でお返事しちゃった相手はあきらさん。失礼すぎるって思って思わず何度も頭を下げちゃう。

「ごめんなさい! ごめんなさい!」

「大丈夫だよ」

 やさしい言葉をかけられちゃうと、わたしの心はまたドキドキしはじめちゃう。

「何か悩み事? 私で良かったら聞かせて?」

 いつも以上に優しい声、わたしの心はドキドキが止まらなくなっちゃう。

 でも…こんなこと本人に言えるはずもなくて、わたしは「いえ、その…」ってごまかしちゃう。

 すると、あきらさんは少しだけ困った顔をしてけっこう心配そうな顔をして、わたしの頭をなで始めた。

「よしよし…」

 そんな、優しそうな声といっしょに。

 あきらさんの優しくて柔らかくて少し大きな手がわたしの髪をなでてくれる。

 その手から伝わるあきらさんの優しさに、わたしは飲み込んだ言葉をもう一度出しそうになっちゃう。

 でも、そんなときに…そんなときじゃなくてもいいのに、わたしは別のことを思い出しちゃってた。

 あきらさんの妹さんのこと。

 あきらさんの妹さんは病気で入院しているって聞いてた。

 その妹さんのことが大切で、大好きなチョコをつくってあげていることも聞いてた。

 入院して寂しがっている妹さんにもこういうふうに、よしよし、って頭をなでてあげているのかな…

 今、心配そうに見えるわたしにするみたいに、やさしく、やさしく、見た目よりも何倍も大きく感じるそのやさしい手で、妹さんのことをよしよし、ってしているのかなって。

 そんなことを考えていると胸の奥にもやもやっとした気持ちがあらわれて、それはだんだんと胸の中をおおっていって、今まで熱くなっていた顔も頭も、すーっと冷えていくように感じて…

「も、もう大丈夫です!」

 わたしはひざをかかえて座っていたいすを立った。

 少しだけ驚いたあきらさん。ひまりんやあおちゃんも、ゆかりさん…はいつも通りだったけど。

「そうかい?」

 手はまだわたしの頭があった位置のまま、また少しだけ困ったようなあきらさんの顔。

「はいっ、さぁ、続けましょう!」

 わたしはエプロンをつけ直してすぐに調理台へ。

 こんな気持ちでいつまでもいたらもう頭の中どうなっちゃうかわからないから、動くことしかできなかった。

「そうだね、がんばろう」

「はいっ!」

 あきらさんの言葉に元気にお返事。心配させないように。

 自分の気持ちがわからないまま。

 でも…ひとつだけわかったこと。

 よしよしって、ただやさしいだけじゃなくって、残酷なものもあるなぁ、って…それだけを考えて。

 

 

 

◆普段見られないあなたを求めて…

 

「好きだったの。初めて逢った時から…」

 桜のつぼみが覆う天空、青空にはやさしく浮かぶ雲。

 そして、目の前には不思議そうな顔のあきら。

「え、えっと…」

 おろおろとした様子がありありとわかる。

 私はその様子があまりに面白くて、かわいくて、

「わかっているわ。私たちは女性同士だもの。おかしいってこと…」

 まゆをひそめ、うつむいて、そう、苦悩の表情で。

 でも、聞き耳を立ててあきらの様子をなんとか感じ取ろうとする。

 でも、その必要もないくらい、あきらの様子はわかった。

 困ったような、どうしたらいいのか、そんなあきらの様子。

 私は瞳に涙を浮かべてじっとあきらをみつめて、ダメ押しの一言を伝える。

「本気、なの…」

 そのあと、あきらはどういう反応をするか、全く想像できないから余計に私の心は踊っていた。

 どんな結果でも、私の心は満足するでしょう。その、あきらの様子で。

 でも…まさか…

「私も、ずっとゆかりのこと…」

 その言葉に握られる手、もう片方の手は私の背中にいつの間にか回されていた。

 案外とあたたかいあきらの手に私の心はドキッとして…じゃなくて。

 でも、あきらのその両手に私はなぜか動けなかった。

 それはどうしてか、わからなくて。

 どうしても、離れられない、あきらの手から。

 胸もなぜか高鳴っていく。

 どうしたというの? 私は…

 私を見つめるあきらの視線から私は視線をはずすことができない。

 少し微笑むあきら。ちかづく顔、もしかして、私、このまま初めてのキスを…

「ふ…ふふっ」

 漏れ聞こえるのはあきらの声。

 私はそれですべて気づいてしまった。

 あきらは私の冗談だとわかって、私にさらに嘘を上塗りして私をだましていたこと。

「去年も似たこと、していなかった?」

 もう覚えていない、そんなこと。

 でも、あきらがいうということは本当にしていたのでしょう。

 少しだけ残念な気持ち。ふいっと横を向く。

 あきらはそんな私の顎を軽くつまんで、言う。

「今度は、4月1日以外に聞かせてもらえると嬉しいな」

 その、今まで以上の笑顔に私は何も言えなくなってしまった。

 

 私だって、本当は言いたかったから、今日以外の日に。

 

 

 

◆桜の花、散る頃

 

「もう…なんだ…」

 さやさやと、流れるように降りゆく薄紅のはらはら。

 私の体に、モフルンに、降り積もっていくのではないかってくらいたくさんのはなびら、この間咲いたと思ったらもう散りはじめて、私は本当にこの季節は惰性で生きているんだって今更ながらに思ったりして…ふいに、桜の始まりのことを想い出す。

 

 町中が薄い紅色に染まる、春の始まり、桜の開花。

 するとすぐに想い出す、出逢ったあの夜のこと。

 綺麗な十六夜に綺麗な桜の花、澄んだ空気の夜。

 私の心はぎゅっと締め付けられる。出逢えないさみしさに、お話できないくるしさに、触れられないかなしさに。

「リコ…」

 小さくその名前をささやくと頬は熱くなって、胸はドキドキして…リコもこんな気持ちになってくれたらいいな、なんてもう確かめようもないのにそんなことを想ってもっと悲しくなって…

 私はぎゅっと目を閉じて公園を駆け抜けた…

 

「逢いたいよ、リコ…」

 小さな声でささやく。

 魔法のちからでリコに届くといいな、なんて思いながら。

「逢いたいんだよ、もう一度…」

 少しだけ声が大きくなって…リコには届くのかわからないけど。

「リコ…こんなに大好きなのに!」

 思わず出てしまう告白。胸は熱くて頬も熱くて…でも、私の声はきっと届いていない、一番届けたい彼女にも。

 じっと立ち止まって、頬をこすってもう一度ぎゅっと目を閉じて…

 

「うんっ!」

 少しだけ弱気になった自分に気合いを入れる。

 悲しんでばかりなんていられない。リコだってさみしいはずだから。でも、いつかは逢える、絶対逢える。逢えなくても逢ってみせる、そう信じて。

「大学楽しみ! どんなことが起こるのかな? ワクワクもんだぁ!」

 気分を変えるように大きな声で口にして、私は公園を走り抜けた。

 いつまでも、頬の冷たさは変わらなかった、けど…



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