イルミネ世界樹日記 (すたりむ)
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第一階層(1):田舎女、ギルドを立ち上げる

・皇帝の月、13日

 今日、ギルドをクビになった。

 

 

~イルミネ世界樹日記<完>~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 待てコラ。勝手に完結さすなっ。

 ことの起こりは今日。いつも軽薄なギルドマスターのハルゲンス、略してハゲ(関係ないが性格が軽薄だとやがて頭髪も薄くなる。うちの部族の言い伝えだから間違いない)に連れられて三階を回っていたら、途中でなんか妙にえらそうな冒険者の一団と出会った。

 どうもハゲ(関係ないがハゲハゲ呼ばれているとやがて頭髪も薄くなる。うちの部族の言い伝ry)の知り合いらしいその連中は、私を見て「なにそのうすぎたねー田舎女。おまえそんなのとつるんでんの? プッ」(意訳)とか抜かしやがった。これだけでも怒髪天だったのだが、ハゲ(関係ないがともかくこいつはハゲる。うちの部ry)曰く「ですよねーww」(意訳)。で、帰ってきて即「おまえ解雇」。

 マジでムカついたので部族に伝わる呪法でハゲるように呪いかけといたが、それはともかく困った。まさかこんなところでフリーターに逆戻りとは。終身雇用とかいつの時代の話だろう。格差社会ですね。

 ……いやいやいや。現実逃避している場合じゃない。

 ともかく、能力で切られたわけじゃないのは幸いだった。これなら再雇用の口は十分あるはず……とはいえ、へんなところに行って、また今回みたいに理不尽に切られるのも嫌だ。ちょっとは実戦経験も積んでハクも自信もついたことだし、いっそ自分でギルド立ち上げてみようか。と思って、ギルド登録所に行った。いけすかない甲冑の女から、おまえには無理だからやめとけとか言われたが当然無視。法令的にヤツは止める権限を持っていないので、気にしなければいい。名前は部族の伝説にある英雄から取って、パレッタとした。

 とはいえ、組む人材がいないのは深刻だ。とりあえず募集かけといたけど、ちゃんと集まるかな。治療技術持ちのいるギルドは少ないから、こっちの需要は十分だと思うんだけどね。

 

 

・皇帝の月、14日

 ひとりしか来なかった。南無。

 しかも使えそうもないガンナーの小僧。マイトとか名乗ったそいつは、実力を質すと誇らしげに履歴書を見せびらかした。元・がんそロックエッ所属。――なにそのダサい名前のギルド。と言ったら、当人からはジト目で睨まれ、ついでに横にいた甲冑女に笑われた。むかつく。なんでも、エトリアから流れてきた組の超腕利きギルドらしく、たどり着くなりあっという間に有名ギルドの仲間入りとか。

 まあ、どんな経歴だって使えればそれでいいんだけど。なんか不安だなー。甲冑女にイヤミ言われるから絶対口に出さないけど、こんなんでちゃんとやっていけるのか。

 

 

・皇帝の月、15日

 満を持して公宮にギルド登録届を提出。おまえ本当に大丈夫か的な視線を浴びながらも、新ギルド登録ミッションを獲得することに成功した。

 んで、入り用のブツを手に入れるために交易所へ。マイトのヤツは弾丸をえらく念入りに選んでいた。ああいうところはプロっぽいんだが、普段の言動がどうにもうさんくさい。こっちはこっちで防具の調達が死活問題だ。なにしろガンナーを前列に置くわけにはいかないわけで、私が魔獣の攻撃から盾にならざるを得ないのだった。

 けっきょく、軽くて使いやすいバックラーと攻撃回避用のブーツを買い込み、宿へ。貯蓄がだいぶアレになってきたけど、まだ飢え死にするほどでもない。幸い、私が泊まっている宿は、実績のある冒険者ほど高い代金を取るという方針らしく、実績もなにもない私はタダ同然で泊まれるのだった。――くやしいなあ。いつか見てろ。

 そんでもって、なぜかついてくるマイトにさっさと帰れと言ったら、なんと同じ宿に泊まっていたらしいということを知ってびっくり。なのにいままで面識がなかったのか……不思議だ。

 

 

・皇帝の月、16日

 ボロボロで帰還。

 えーと返品しちゃダメですかこのガキ。マジで使えないし。ネズミ一匹、2発撃っても倒せないガンナーなんて要らねえよ! うがああああ。

 ミッション自体は辛うじてこなしたが、地図を作れなんて簡単なミッションでよかった。ぶっちゃけごまかしまくり。通ったことのない通路を勘で書き殴ったりして、むりやり地図っぽいものを作って帰ってきた。監督の衛士の「いいのかな、これ、認めちゃっても……」的な視線が忘れられません。どーしたもんだろ。

 まあいい。ともかく、生きて帰ってこれたんだ。今後のことは今後の課題にしとこう。マイトの馬鹿も、鍛えれば使えるようになるかもしれないし。望み薄だけどネ!

 

 

・皇帝の月、17日

 相変わらずマイトは使えない。使えないが、まあそれでも一応魔獣狩りはできるし、贅沢言うのはやめておこうかな、と思えるようになった。我ながら寛大だ。諦めたとも言う。

 さて、今日は馴染み……ではない、いままでのギルドで行ったことのない酒場に顔を出してみることにした。うさんくさい親父がやっている店だが、一応酒を出すだけじゃなくて、民間からの依頼をギルドに斡旋する仕事もやっているらしい。最初は裏の仕事なのかと思ったが、掲示板立てておおっぴらにやってるところを見ると、どうも公的にも認められているようだ。……その割にはヤバそうな仕事も多く見えたけど。特に危険な花びらの球根とか、どう見ても暗殺用です本当にありがとうございました。

 と、いうことを指摘したら、くだんの親父はえらく慌ててその依頼を差し止めていた。……気づかなかったのかよ。いい加減だな、と言ったら、うるせー毒物の知識なんざ堅気の俺が知るわけねーだろ、と返された。正論だけどちょっと気になる。私は堅気じゃないのか?

 で、それがきっかけで妙に親父は馴れ馴れしくなって、新人ならこの仕事なんてどーよ、とかいろいろ薦めてきた。で、その中のひとつ、一階で泉から水をくんでくるだけの仕事が楽な割に良報酬っぽかったので、挑戦することにした。なにしろ水場は入り口からとても近く、しかも私たちは昨日その近くを通っている。

 めちゃくちゃゴツい芋虫とかがいて死ぬかと思ったけど、なんとか相手に見つからずに水ゲット。死の危険に晒されながらかろうじて脱出、しかけたところでモグラからいい一撃を食らって、気づいたら薬泉院のベッドの上だった。うまく逃げられたのか、とマイトに聞いたら、胸を張ってきちんと倒したと返してきた。マジですか。ガンナーが盾役もなしに一騎打ちとか、正気とは思えない。よく全滅しなかったなあ私たち。

 

 

・皇帝の月、18日

 ちょっとずつ、マイトが使えるようになってきた。というか、さすがに2発あれば敵も倒せるようになってきた。よしよし、これなら安定して稼げる、とか思った矢先に針ネズミから痛いの食らって気絶。

 ……そりゃそうだ。ガンナーは後衛戦闘向きでも、私に単体で前衛はちと荷が重い。真剣にパラディン求む。

 で、めげずに探索続行。地図ミッションのところをあまりにいい加減に済ますのもアレなので、勘で書いた部分を埋めることに。あと残っているのは広間風の場所だけだったので、そこに行ってちょっと休むかーとか思っていたら、見たことのない色の蝶に襲われて泣きながら退治。ギリギリだった。なんか珍しい羽根が手に入ったので交易所で売ってみたらそこそこの額になってびっくり。最近は金もジリ貧ぎみだったので正直助かる。

 

 

・皇帝の月、19日

 事件が起こったのは、一階。奥へと続く、迷宮の中の通路だった。

 突如、凶暴な悲鳴が上がったことに驚いて前を見ると、見知った顔のパーティが怪獣に襲われていた。――えーとなんだあのバケモノ。人間の体格を遥かに上回るぷりちーなお姿にもうヘロヘロです。ハルゲンス君、ハゲる前に死んじゃってかわいそー。南無。

 冗談はともかく、アレはさすがに私たちでは対処できない。ていうか、見つかったらこっちまでお陀仏だ。なので、近場の強そうな冒険者探してこい、とマイトに言おうと思ったら、いない。先に逃げたか? と一瞬焦ったが、……実際は、予想の遥か斜め上だった。あいつは、周辺の木の陰に隠れて、怪獣相手に氷の特殊弾丸をぶっ放しやがったのだ。

 当然、そんな即席の奇襲がうまく行くはずもない。弾丸は命中したものの怪獣を倒すには至らず、臭いであっさり居場所を突き止めたとおぼしき怪獣の突進にはねとばされてマイトはべしゃ、と顔から地面に着地、動かなくなった。――あの、馬鹿たれ。

 考えてる暇はない。とどめを刺すべく再び突進しようとした怪獣の鼻先に石を投げ当て、こっちに注意を向けておいて全力で逃げ出した。見よ、部族一と言われたこの健脚――って怪獣HAEEEEEEEE! あっという間に追いつかれそうになり、こうなりゃせめて剣で一撃、とマジで腹をくくった瞬間、

 

「あー、悪いけどちょっと離れてくれる?」

 

 声とともに、木の上からひとつの、影が。

 

「死ぬぅえええええええええええええええええああ!」

 

 どす黒いかけ声とともに棍棒一閃。信じられない速度で怪獣の頭が大地に叩きつけられてめり込み、突進の勢いがついて止まらない身体のほうが跳ねてこっちのほうに「ふん!」ばきゃっ、という軽快な音とともに逆側にはね飛ばされて地面にずずんと落ちる。――終了ー。お疲れさまでしたー。

 

 

 飛び降りてきたメディック――メディック?――は、倒れた怪物に一瞥だけくれてから、こっちには見向きもせずにマイトのほうへずかずかと歩いていった。

 マイトの奴は、のんきに頭を抑えてうめいていたが、一応無事みたいだった。頭を振りながら顔を上げ、そこにいる人影を見て驚いたように「あ、アシタさ、」げしっ。とメディックの蹴りが入り、マイトは再び頭を抑えてうずくまった。

「これで二回目。いや、三回目か。キミが死んだのは。

 前も言ったはずだよね。自分の力量はわきまえて、できることだけをやれって。それ以上をやろうとすれば死ぬし、あたしはそういうのが嫌いなの。言ったよね?」

「す、済みません……」

「済みませんじゃないの。いい加減こっちも堪忍袋が限界でさ。

 はっきり言うけど。自分の死線を見極めることもできない阿呆に冒険者なんて務まらない。続けていてもすぐ死ぬのが関の山だし、さっさと――」

 声が、途絶える。

 ……や、まあ。私が割り込んだからだけど。

「なに。反論でもあるの」

 いやあ、べつに内容にケチ付ける気はありません。実にその通り。

 でもさあ。それは、あなたが言うべきことじゃないよね?

「――どゆこと」

 だからさあ。その小坊主、いまはうちのギルドのメンバーなわけ。過去どうだったかとかはともかくとして。

 助けてもらっといて悪いけどさあ、筋が違うと思うわけよ。説教するのもクビ宣言するのも私。外部にでしゃばってもらっちゃ困るの。

「……ほーお。

 よく言えたものね。その程度の実力で。あたしが来なかったら死んでたくせに」

 マジで睨まれる。くそ、負けるかっ。

 ……でも棍棒で殴られたら嫌だなあ。たぶん一撃で死ぬよね私。どうしよう。

 しばらくそのままでいたメディックは、やがてふふんと鼻で笑った。

「いいわ。その小僧の去就はキミに任せる。

 ただし。今度はあたし、絶対助けないわよ。たとえ視界の真正面に入ってこようと、手出しは絶対しない。

 ――ケケケ、覚悟しとけよ」

 言い捨てて、そいつは場を去っていった。

 ……さて、と。

 考えてみると、ものすごい啖呵を切ってしまったような気がする。なので考えないことにしよう。

 とりあえず、今日はもう切り上げよう。マイトの奴は使い物になる状態じゃない。

 

 

 街に帰ってわかったのは、どうやら上のほうの階で騒ぎがあって、そのあおりで上にいた魔物のうちのいくばくかが下へ降りてきてしまった、という話みたいだった。

 幸い、大半は有名ギルド――あの、アシタってメディック率いるギルド「がんそロックエッ」(しかしひどい名前だ)も含め――の哨戒によって退治されたと思われるのだが、まだ数匹残っている可能性があるとか。……物騒だなあ。明日からどうしよ。



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第一階層(2):最初の死闘

・皇帝の月、20日

 マイトが辞表とか書いた紙を持ってきたので、その場で破り捨ててやった。ついでにぶん殴った。

 んで、さすがにむかついたらしく噛みついてくるマイトに、私は言ってやった。理由を言ってみろ。冒険者やめる理由。

「そんなの決まってる。やりたくなくなったからだ」

 うそつけ。だいたいおまえが堅気でやっていけるクチか。銃使うしか能がない、口の利き方もなってないヒヨッコのくせに。

「……じゃあ、どうしろってんだ」

 まず反省。昨日、自分の行動にはどんな問題があった?

「そ、それは、無茶な行動をして」

 いや無茶な行動て。そんなの、二人で迷宮に出てる時点で無茶でしょうが。

 樹海での行動は回復役含む五人組が基本。多ければ狭い樹海では行動しづらく、少なければ単純に戦力が足りない。これが腕利きなら少人数でもどうにかなるけど、私たちはただの駆け出し。おまえだけじゃない、私だって壁としちゃ不十分なのは承知の上だ。

「…………」

 なあマイト。冒険者なんてそんなもんだろう。

 しょせん私たちは、無茶を承知で魔境に挑む命知らずだ。危険を減らすことはできるけど、なくすことなんてできやしない。だから、おまえの行動が持っていた問題は、無茶なんてことじゃないのだ。

「じゃあ、なんだよ?」

 考えろ、馬鹿。

「……勝手に行動したこと?」

 それもある。パーティは行動の基本単位だ。その内部で勝手な行動を取るのはまずい。

 でもそれより大きな理由は、すごく単純だ。おまえは無茶を、無茶だってわかってたのに、無茶なまま実行しようとした。

 無茶をやるのはけっこう。でも無茶をやるなら、やり通さないとダメだ。あの怪獣みたいなのは、おまえの一撃で倒せるレベルの相手じゃない。なら――どうして、先に私に、言わなかったのさ。

「――それは」

 私だけじゃない。襲われてるパーティに、少しだけでも時間を稼ぐように声をかけることもできた。私とあの連中が混ざれば、もうしばらくの間は時間を稼げたかもしれない。時間を稼げれば、相手をしとめることはできなくとも、足に怪我をさせるくらいはできたかもしれない。足に怪我をさせることができれば、その後で逃げ延びることだってできたかもしれない。

 そういう可能性を考えずに、ただ無茶を無茶なままやるから、駄目なんだよ。わかってるのか、小僧。

「……小僧って言うな。小娘」

 うるせえ。

 ま、お説教は以上だ。もう一度だけチャンスをやるから、今度の無茶はもう少し考えてやれ。

 その時は、手伝ってやらないこともない。

 

 

 言うだけ言って、後はもう一日休むように伝えて、私は自分の部屋へと戻った。

 まあ、アレだ。口先三寸が得意なこと。

 私には詐欺師の素質でもあるんだろうか。とか考えて、苦笑。少なくとも、自分で言ったことに自分でヘコんでいるうちは無理だろ、詐欺師。

 マイトはごまかせても、私自身はごまかせない。

 要するに、私は。未熟で無茶な私が冒険者失格だなんて、認めたくなかっただけなんだ。

 マイトのことなんか考えてなかった。私はただ、あのメディックの言葉を自分に向けられたと感じて、必死で否定しているだけ。

 私は、未熟で無茶で。

 のけ者同然だった部族のコロニーを抜け出して、一発当てようとして足掻いている、はみだし者のならず者だ。

 それでも。

 生きている限り、無茶は正当化できる。はずだ。

 そう、信じているから。

 

 明日も、また頑張ろう。

 

 

・皇帝の月、21日

 今日は二階まで行く、と宣言したら、マイトの奴はちょっと驚いた顔をした。無茶だ。知ってる。でもやる。

 勝算はあった。前のギルドで三階まで行ったことのある私は、二階に向かう通路の位置は覚えているのだった。だから、ちょっと顔を出すくらいならできる、はず。

 芋虫さえ出てこなければネ。

 案の定、ものすごいでかいのが出た。糸を吐いてこっちの行動を邪魔すること邪魔すること。だが舐めてもらっては困る。そんなもの後列には通さないし、打撃も気合いで乗り切れる。ついでに言えば、こっちがダガーで援護すればギリギリ銃弾二発でも急所に届く。

 危機一髪、私が倒れる前になんとか倒れてくれた。いやもう、マジでギリギリ。突進ではね飛ばされそうになって踏ん張った甲斐があった。死ぬかと思ったけど。

 そうして二階に初進出。これからも頑張ろう。

 

 

・皇帝の月、22日

 驚いたことに、マイトの銃撃の精度が急激に上がってきた。

 自信がついた、ってことなんだろうか。急所に一撃、ネズミ昏倒。蝶だって二発で行ける。

 で、いい気になって二階を探索していたらリスみたいなのにアリアドネの糸を盗まれて死ぬかと思った。ホント樹海は舐められないイベント満載だぜフゥーハハハハー!orz

 

 

・皇帝の月、23日

 二階探索中。

 ……死体見ちゃった。げろげろ。

 なんか鹿の魔物みたいなのがうろついている通路だったんだが、明らかに角で一撃された跡。こえー。絶対近寄らないようにしよう。

 と、マイトがじーっと見ているのでなにかと思ったら、「財布が盗まれてる」だそうな。……おまえね、どこ見てるんだよ。ていうか、みんなよく死体から剥ぐ勇気があるなー。肉に魔物が群がってきたりしそうなものなのに。

 

 

・皇帝の月、24日

 えーたいへん言いにくいことなんですが金が尽きた。どーしよ。

 なので酒場行き。至急に仕事はないか、と言ったら親父のやろう、こっちをじろじろ見回した上で

「剣士がいりゃあなぁ……」

 待て。そりゃどういう意味だ。と聞いたら、どうも大公宮のほうででっかい募集があるとのこと。即金で払いのいい仕事はそれくらいなのだと言われ、考えること三秒。決めた。マイト、おまえやれ。

 というわけで、超即席でうちの部族の伝統剣技を叩き込み、迷宮で実技一時間。私の装備を全部持たせてそれっぽい格好に仕立てて即酒場へ行き、時間ギリギリで募集に間に合った。

 そして、見事採用された。マジすか。

 後で聞いた話だと、ほんっとうに使えなさそうな奴しか来なくて、実技ではマイトが一番マシだったとか。うへーありえねー。仕事はなんだったってマイトに聞いたらすげー疲れた顔で、新人衛士の訓練、と答えてきた。……おい、マジでいいのかそれ。この国すげー。もう衛士は信用しないことにしよう。

 

 

・皇帝の月、25日

 二階で、誰が置いていったのかわからないよさそうな銃ゲット。

 それによってマイトが超強化。ほとんどの敵を一撃で倒せるようになった。すごいねー。できればサボテンも一撃で倒してくれ。アレ超痛い。

 

 

・皇帝の月、26日

 迷宮に入ったときから、どうも様子がおかしいとは思っていた。

 いつもより静かだ。魔物たちが鳴りを潜めている。そして、異様な悪寒。

 ――案の定。

 二階へと続く通路。その前の大広間に陣取っていたのは、例の怪獣の生き残りだった。

 

 

 有名ギルドの掃討作戦も終わり、強い冒険者の大半は上の階にいる。だが、討ち漏らしたか新たに上の階から降りてきたのか、ともかくそいつはそこに鎮座して、あたりの様子をうかがっていた。幸いこちらはうまく隠れることができたが、このままだとすぐうっかりさんがやってきて、死人が出るだろう。

 だから、私は言った。マイト、どうする。やっちゃうか。

「……やってみたい」

 特殊弾丸は何発ある。何発で倒せる。

「四発。

 たぶん、三発も入れば、体温が低下しすぎて動けなくなる。は虫類だから」

 不意打ちで一発。つまりは、二発分の時間を稼げば勝ちだな。

「……全部当たれば、だけど」

 当てろ。命令。

 こっちは死ぬ気で守る。守り通してみせる。――無茶、始めるぞ。用意はいいか、相棒。

「わかった。絶対倒す」

 いい返事だ。

 

 

 相手の動きを探る。どうやら空腹らしいそいつは、しきりに鼻をひくひくさせながら周囲を伺っている。きょろきょろ動かしている顔が、こちらの反対側をちょろっと向いた。――いま。

「撃て、マイト!」

 声とともに放たれた、強力な冷気を放つ弾丸。それが怪獣の首筋をかすめて奥へってあっさり外してるんじゃNEEEEEEEEEEEEE! この馬鹿!

 咆吼。ああもうしょうがない。しょうがないので目立つように広間に飛び出して相手を牽制する。それを見た怪獣、まったく一切の躊躇なしにこっちに突撃してきたうぎゃあ怖えええええええええ! 飛び退きつつバックラー押しつけてかわしたが、その盾ごと思いっきりはね飛ばされて尻餅。やばい目が回ってる!

 と、怪獣の悲鳴。白い尾を引いた弾丸の軌道が、命中したことを教えてくれる。まず一発。だが相手は、それによって標的をマイトに変えた。

 すさまじい速度で突進。マイトはまだ弾丸を込め直していない。ダメもとで投げつけたダガーも空を切り、相手はマイトをそのままはね飛ばした。

 が、しかし。はね飛ばした直後、怪物がまた悲鳴を上げた。

 はね飛ばされたように見えたマイトは、実ははね飛ばされていなかった――というのは嘘。正確には、はね飛ばされることを想定した上で銃の構え方とかを工夫していたっぽい。ともかく飛びながらの曲芸的な射撃で、怪物に二発目の弾丸が入った。

 ……上等。

 こうなったら最後まで付き合うさ。距離は至近。弾丸は残り一発。時間さえ稼げれば勝てる。怒り狂いながら倒れ込んだマイトの方へ突進してくる怪獣の前に、私は立ちはだかった。盾を構え、受け身を取ろうなんてことも考えず、ただもうひたすら必死で、――盾の角の部分を、相手の鼻先に叩きつけてやった。

 怪獣が、ちょっとひるんだみたいに速度を落とす。落として、――そしてそんなのぜんぜん関係なく、鞠みたいに軽々と私の身体はぶっ飛ばされた。うわあグルグル回ってこれはこれで楽しい。とかやってたら背中から木の幹に激突。肋骨がめきょって言ってすごい痛い。枝とかあったらたぶん身体貫通してお陀仏だっただろうなあ。痛みで霞む視界に、三発目の特殊弾丸を食らって昏倒する怪獣の姿が、映った、ような。

 

 

 で、気がついたら薬泉院のベッドで、ベッドのそばにはあの、アシタとかいうメディックがいた。

「おー、もう目を覚ました。意外と頑丈だね、キミ」

 ……なにしに来たのさ。

「ただの冷やかし。用とかはないよ。

 とはいえ、やっぱり無茶したんだね」

 して悪いか。

「悪い。

 ……ま、いいけど。しょせん他人だし、今回は死ななかったし」

 言って、アシタはよっこいしょと椅子から立ち上がった。

「ついでに。調べさせてもらったわよ」

 なにを。

「キミの経歴。

 なんか、普通の人間に見えないものが見えるって言うじゃないか」

 ――へえ。どっから調べたのかね?

「さあ? あたしは相棒に丸投げしただけだし。

 ま、あんまり樹海で役に立ちそうな能力でもないけど」

 役に立つなら部族飛び出てきてないし。

「だろうねー。

 まあ、なんでそんなに焦ってるかはわかんないけど。そんなに自分の居場所がなくなるのが怖いかね」

 うるさいな。

 ……というか、あなたこそずいぶんこだわるじゃないか。そんなにあの小僧が気になる?

「そりゃま、あたしがギルド追い出したせいで死んだってことになったら後味悪いじゃない。気分的に。

 でもまあ、それも今回でおしまいかね」

 え、なんで?

「そりゃ決まってるでしょ。いまのあいつが死んだらあいつのせい。あたしのせいじゃないって思ったから。

 言いたいことはそれだけ。じゃあね」

 ばいばい、と手を振って、アシタは部屋を出て行った。

 ……けっきょく。

 最後の言葉が、ものすっっっっごく遠回しな褒め言葉だということに気づいたのは、宿に帰ってしばらくしてからだった。




 だいたい暖まってきたところなので、ここでメインパーティのキャラ紹介を。


1)イルミネ
年齢:17
性別:女
クラス:ドクトルマグス
アラインメント:Lawful-Neutral
 本作の主人公。ギルド「パレッタ」の作成者にして主。
 地味、腹黒、小物臭を兼ね備えた最強にかわいくない女だが、覚悟を決めたときの決断の速さと思い切りの良さは随一。
 アラインメントはLawfulになっているが、これは法律を守らなきゃいけないというより、法律守ってりゃなにしてもいいんだぜゲヘヘ、という意味。ただしそれでもEvilになりきれずNeutralなあたりが小物。
 女子力は最底辺だが自活力はそれなり。


2)マイト
年齢:15
性別:男
クラス:ガンナー
アラインメント:Chaos-Good
 無鉄砲な鉄砲使い。わりと無茶をするくせにひ弱。でもめげないあたり実は根性があるのかもしれない。
 いいことだと思ったことをするためなら突進する癖があるが、イルミネに押さえられて少し頭を使うようになる……模様。まだわからない。
 ただ、とっさの際の機転は実はかなり利く。応用力は豊富。


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第一階層(3):獣たちの長、フロースガル

・皇帝の月、27日

 驚いたことに大公宮から報奨金が出た。

 ……ミミズの涙くらいネ。

 なんとなく「討ち漏らしてた不祥事については突っ込まないでね」的な意図を感じなくもないが、まあいいや。金もらって不機嫌になる理由はない。マイトのやつも専用弾丸をたくさん買えて満足そうだし、私も防具を新調しようかな。

 ともあれ、まだ体調的に完治していない、というか昨日の夜から背中がものすごく痛いので樹海はお休み。明らかに打ち身なんだけど、どーしようこれ。あんまり長く治らないと金が尽きるしなあ。

 

 

・皇帝の月、28日

 ロックエッジ(がんそじゃない方)のメディック、エレさんがなぜか見舞いに訪れてきた。

 なんでもアシタから「なんか後遺症あったら治してやっといて」と言われたらしい。……自分でやれよ。メディックだろあいつ。と言ったら、エレさん曰く

「いえ、あのひと治療スキルぜんぜん持ってないんですよ」

 ――それは本当にメディックなのか。と問いたい。問い詰めたい。小一時(ry

 で、薬草から作ったというテープをぺたぺたと。うわあこれものすごい効きそう。案の定夜にはほとんど痛みがなくなっていて超感謝。……ホントにいいのかな、タダでこんなんやってもらって。

 

 

・笛鼠の月、1日

 体調も完治したことで樹海探索再開。

 で、あっさり三階まで進んだ。うわなんだこれ。前と違って私に打撃耐性がついた&マイトの射撃精度が驚くほど上がったせいで、ほとんど敵がいなくなったのが大きい。

 で、磁軸の柱と呼ばれる探索上の拠点に到達した。これは、よくわからない古代技術によって、登録した冒険者を樹海入り口からその地点まで引っ張り上げてくれる機能を持っている。……降りるのは自分でやらないといけないんだけど。前みたいにリスにアリアドネの糸を取られたら死、あるのみだ。怖い。

 

 

・笛鼠の月、2日

 特殊弾丸ぶっ放しまくり、調子に乗りまくりで突き進む。途中出てくるカマキリのバケモノは華麗にスルー。

 で、なんかでかいテントウムシが大量に出てきたが、攻撃はしょぼいしたいしたことないだろーとか思って余裕かましてたらすっっっっごいでかい花のお化けを呼ばれて本気で死ぬかと思った。特殊弾丸もまるで効きやしないし。鬼力化の巫術を覚えておいてよかったー。このおかげで、辛うじてマイトが相手を倒せた感じ。私は花に喰われる瀬戸際まで行ったけど。

 で、倒したはいいがこっちはボロボロなので帰ろうと思ったのだが、気づいたら奥に進みすぎていて帰り道がわからない。ていうかそれ以前に、アリアドネの糸買い忘れてるー! どうしようかと真っ青になっていたら、通りすがりのギルドに拾われてかろうじて九死に一生を得た。

 ベオウルフ、という名のそのギルドは、パラディンのフロースガルと獣のクロガネからなる特異なギルドだ。少人数ギルドの運営者として、こういう先達の存在はものすごく勇気づけられるのだが、それを伝える気にはなれなかった。……わかっちゃったんだよなあ。このギルド、昔はもっと仲間の獣の数は多かったんだ。なんらかの事情で――いや、言葉を選んでも仕方ない。要するに、何匹か死んでこうなった。さすがに、その状況でさっきの気持ちを伝えたら相手を傷つけかねない。

 で、帰還。今回は運に助けられたが、次回はないな。以後は気を付けよう。

 

 

・笛鼠の月、3日

 昨日と同じように三階を突き進むうちに近道発見。危険な場所をかなりショートカットして奥に進めるようになった。

 で、森を探索しているうちにちょっと変わった広間発見。どうやら周囲とだいぶ異なる種類の木が生えているみたいだった。ちょっと気になったのでメモっておいて、帰ってきて交易所で売り子さんにその話をしたら大感謝された。なんでも、その種類の木材には特殊な需要があるらしい。

 で、職人連中からプレゼントってことで新素材のベストをもらった。うわあすっごく着心地がいい。衝撃緩和力もばっちりだとか。これは嬉しい。

 

 

・笛鼠の月、4日

 森の中の開けた広間に出たところで、乱入してきた大量の鹿たちに襲われた。

 マジで死ぬかと思ったけど、たまたまその場にベオウルフがいて助かった。クロガネが遠吠えを駆使して相手を誘導し、引き離して隠れつつ孤立した鹿を一匹ずつ狙撃。見つかったら私とフロースガルが死ぬ気で時間を稼いで逃げる。そんな感じで辛うじて命をつなぎ、気がついたら鹿たちのほうがどこかに消えていた。助かった……ていうか、案外私たちとベオウルフは相性いいな。組まないか、とは、キャリア的にちょっと言いにくいけど。

 で、状況だけでも確認してから帰ろうと思って広間の奥を覗いてみて、本気でびっくりした。死体の山。うちいくばくかは格好からして衛士、そして残りの大半は鹿。どう見てもさっき暴れてた鹿の大群の残骸にしか見えないそれを前にして、どうやら生き残ったらしい二人の冒険者たちが、のんきにこっちへ向けて手を振っていた。

 グレイロッジ、というギルドに所属しているらしいその二人は、見かけとは裏腹にめちゃくちゃな凄腕だった。せっかくだからと同道した帰り道、いきなり出てきたこの前のでっかい花にバードのムズピギーがひょい、と矢を撃ち、ひるんだところに飛び込んだパラディンのマハが盾でごつん、とぶん殴って終了。先生、早すぎてなにもできません!

 そんなこんなで帰ってきて本日の探索終わり。なんか凄いもの見ちゃったなぁ……私たちも、ああいう風になれる日が来るんだろうか。無理っぽいけど。

 

 

・笛鼠の月、5日

 昨日の怪物の群れは、どうやら上にでっかい魔物が降りてきたせいでトコロテン式にでかい魔物が下に降りてきた結果ああなった、ということらしい。なるほどそりゃ大変だ。

 大公宮からはさっそく、腕に自信のない冒険者は樹海に入るのを控えろという通達が出た。……そりゃ無茶だろう。こっちのおまんまに関わる。そんなわけで無視していつものように樹海に行こうとした私たちを、フロースガルが引き留めた。そりゃもう、無茶苦茶すごい勢いで。

 彼曰く、いま五階に湧いている魔物のせいでそれ以下の階はひどいことになっているのだそうな。少人数で出かけてなんとかなる状態じゃないからやめとけ、と。――いや、あなたがそれを言いますか。と言いたかったが、黙っておいた。なんとなく、言わない方がよさそうな気がしたのだ。

 とはいえ貯えもそんなにあるわけでなし、どーしたもんだか。特殊弾丸撃ちまくりすぎて金も尽き気味だったし、と他人事のように言ったらマイトからにらまれた。ふんだ、私は事実を言っただけだもんね。弾丸撃ったのは私の指示だろって? うるさい。

 

 

・笛鼠の月、6日

 困ったときの酒場頼み、ということで行ってみた。

 親父にさっそくいい仕事紹介してくれよ、と言ったら、ものすごい勢いで飛びつかれた。なんでも、いまは樹海の異常事態に対処するべく有力な冒険者がほぼ出払っているので、人手がいくらあっても足りないとか。

 で、ざっと見た限り、樹海に行かなくて済む仕事で割のよさそうなのは……と見ていたら、パラディン急募! とかいうのを見つけた。なんでも、南の街道沿いに魔物が出没して困っているので、討伐隊を組むのだとか。しかしうちのパーティにはパラディンは――うん。マイト、やれ。

 というわけで大雑把に盾の使い方だけ教えて送り出した結果、見事ボロボロで帰ってきた。なにそれ、そんなに苦戦したのか、と聞いたら首を振って、

「ロッドテイルとかいう滅茶苦茶なおっさんがいて、そいつにたたきのめされた」

 なんだそりゃ。と聞くと、どうやらそのおっさん、荒れ狂う魔物の群れの中にマイトを文字通り放り込んだらしい。この程度の魔物にやられる奴にはパラディンは務まらん! とか言って。……よく生きて帰ってきたなあマイト。ていうかおまえ剣持ってなかっただろう、素手でどうしたんだそれ。と言ったら、どうも盾で銃隠しつつ接近戦で撃ち殺しまくったらしい。どう見てもパラディンの所業ではないと思うのだが、おっさんには気に入られたようで、素養があるからうちのギルドの道場で鍛えないか、としつこく薦めてくるのをなんとか断って逃げ帰ってきたのだとか。あっはっはそりゃ災難だ! と言ったら殺されそうな目でにらまれた。怖い怖い。

 ともあれ、まだちょっと資金不足が怖い。ここはもうひとつくらい仕事をやっとくべきか。

 

 

・笛鼠の月、7日

 よしマイト、次はメディックだ! と言ったら全力で拒否られた。……ちぇっ。

 しょうがないからもうちょっとマシなのを選ぶことにした。皮職人の依頼で、長い針が必要なので鼠を捕ってきてほしいと。そのくらいなら樹海でも一階で十分間に合うので、なんとでもなるだろう、と思って入った結果、例の巨大花に襲われた。ひー。

 で、特殊弾丸もなしにあっさり倒してしまってびっくり。自分たち、実はけっこう強くなってるんじゃないか。とか言ったらマイトが、そういうこと言い出す頃が命取りなんだよね、とかぼそっとつぶやいた。……ノリが悪いなあ。ちょっとは思い上がってもいいじゃないかっ。ばか。

 

 

・笛鼠の月、8日

 この分なら多少上の階に行っても大丈夫だろう、と思って三階へ。

 コウモリみたいな魔物がやたら多いなーと思いつつも普通に突破し、四階へ突入。したところで、ばったりベオウルフと出会ってしまった。

 で、ものすごい勢いで怒られた。ここは危険だからすぐに帰れ……って、いい加減てっぺんに来たので、私も言い返した。ならなんであなたたちはここにいるんですか。危険なのも少人数なのも同じでしょうが。そうしたら、

「自分はやらなければいけないことがある。

 五階にいる魔物、アレはキマイラと言う。私の宿敵だ。以前は逃したが、今度こそは討たねばならない」

 ――だから、大公宮にも報告してないんですか。

 ぎょっとするフロースガルにたたみかける。あなたは自分でその魔物を退治したいという、そのためだけにキマイラの居場所を隠しているんでしょうが。

「そ、それは、」

 騒動が長引いても、自分で片をつけたいという欲望のほうが優先ですか。

「違う。それは義務だ」

 そんなわけないでしょう! その仔たちが、そんなことを望んでいるとでも思っているんですか! だったらあなたは――

 

 ……あ、あう。

 もんのすごいことにいま気づいた。これ、私が知ってることに気づかれてはいけない情報なのでは……?

 マイトもフロースガルもぽかーんとしている。どうしよう。超気まずい。

「君は――そうか。『見える』のか」

 ぽつん、とフロースガルが言った。

 うなずいて、正直に自白する。見えるだけじゃなくて、話せるし触れます。

 ……そう。これが私の能力。

 あり得ないものと触れ合うことのできる、呪われた異能だ。

「そうか。

 ……君の言うとおりだ。これはしょせん、私のエゴなのだろう。

 だが、後に引くつもりはない。エゴなら、そのエゴを貫き通すまでだ」

 それが原因で、その仔たちが悲しむとしても?

「すまないとは思っている」

 ――ダメだ。話にならない。

 もうかける言葉もない。このひとは、自分が正しくないことを知っていて、それでもやり抜く決意でいる。

 ……それが、ひどく悲しい。

 最後に。背を向けて去ろうとする彼に、私は問いかけた。死ぬ気ですか、と。

「――わからない。

 ただ、生きては帰れないだろう。なぜだか、そんな予感がするんだ」

 そんな答えが、帰ってきた。

 

 熱くなりすぎたなぁ……まさか、能力までバレることになるとは。

 マイトはそれから一言も話さない。私も一言も話せない。

 これでも、一月くらい共にした仲だ。それなりに呼吸は合っていたし、気に入った関係でもあったんだけど、それもこれまでかね。

 無言のまま帰って、ともかく宿で休むことにした。はぁ……明日からどうしよう。



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第一階層(4):決戦! 大魔獣キマイラ

・笛鼠の月、9日

 ベッドでグダグダしてたらマイトにたたき起こされた。

 おまえね、いくらなんでも女の子の部屋に勝手に入ってくるのはマナー違反だろう。と言ったら、はぁ? みたいな顔をして、

「女の子ってタマじゃないだろ。ていうかそんな冗談言ってる暇があったら起きろ」

 ……は、ははは。冗談扱いッスか。ちょっと本気で傷ついた。

 で、宿の一階で朝食を取る。てっきりコンビ解消話でも出るかなぁ、と思ったのだが、マイトから出たのは意外な言葉だった。

「そもそも昨日の話がさっぱりわからなかった。もったいぶらずに説明してくれ」

 だ、そうで。なんでも、昨日は私とフロースガルが自分の知らないネタで話していると感じて、仲間はずれにされた気分で不機嫌だったそうだ。……それで一言もしゃべらんかったんかい。

 で、しょうがないから、私の能力の話からすることにした。

 

 私は、――死者、それも未練を持って死んだ類の死者を、見ることができる。

 見るだけじゃない。話せるし触れることもできる。死者の多くはとても単純な行動しかできないけど、情報を尋ねたりすることはできる。

 もちろん、多くの場合それらは非推奨な行動だ。死者の中には生者を恨み妬む類のものも多い。下手にコンタクトを取ると、祟られてひどいことになったりする。触らぬ死者に祟りなし、だ。この能力のせいで部族に迷惑をかけ、私はコロニーを飛び出さざるを得なくなった。

 ……言って聞かせると、マイトは「へー」みたいな顔をしている。おまえね、もうちょっとリアクション取れよ。不気味だとか怖いとか。と言ったら、

「え、なんでさ。いまのはおまえの能力の説明だろ?

 そんなこといいから早く昨日の話をしろよ。いい加減焦れてるんだからな、こっちは」

 とか言われた。……不気味がらないんだなこいつ。ちゃんとわかってるんだろうか。いいけど。

 で、要するにベオウルフってギルドは、いまはともかく昔はもっといっぱい獣がいたのだ。そしてその大半は、いま話題になっている五階の魔獣、キマイラによって殺された。

 仲間を大量に殺されながらもベオウルフはキマイラを傷つけ、撃退することに成功した。だが、そのキマイラも戻ってきた。仲間の敵を取るために、フロースガルはキマイラを自らの手で倒そうとしている。なにしろフロースガル以外にキマイラの巣の位置を知っている人間はいないから、いまなら他の人間に手柄を取られる心配はない。

「そんなの、無茶だろ。人数多くても勝てなかったってのに、死ぬ気かあいつ」

 さあな。

「さあな、じゃねえっ。いますぐ支度だ支度っ」

 は、なにが?

「なにがじゃないだろ。フロースガルより先回りして、さっさとキマイラを退治するんだ。

 おまえの能力使えば、フロースガルの死んだ仲間とコンタクト取れるんだろ。なら、条件は同じだ。いまからでも挑戦すれば、十分間に合う」

 …………

 お前……

「なんだよ?」

 天才。

 

 方針は決まった。

 ベオウルフ――フロースガルたちを出し抜いて、可及的速やかにキマイラを退治する。

 そのためには、まず五階にある磁軸の柱まで、たどり着かなければいけない。

 一度到達したことのあるベオウルフは、道を知っている以上、だいぶ有利。

 ……けれど、この混乱した状況なら。

 昔はいざ知らず、現状では同じ少人数ギルドとはいえ、うちのほうがベオウルフよりバランスのよい構成をしている。

 だから、ひょっとすれば、行けるかもしれない。

 

 即座に樹海へ向かう。磁軸から三階へ。蹴散らすように雑魚を駆逐して四階へ行き、また蹴散らすように進撃する。袋小路とかに行き当たって引き返したり、怪獣の群れから泣きながら逃げ出したりしつつも、夕方まで粘ってなんとか五階への階段発見。

 そして磁軸の柱に登録。明日からが勝負だ。

 負けないぞ、フロースガル。あんたが黄泉路へ向かう、その首根っこをひっつかまえて引きずり戻してやる。

 

 

・笛鼠の月、10日

 迷 っ た 。

 考えてみれば当たり前だ。死んだベオウルフの獣たちに案内してもらえばいい、とマイトは言ったが、そもそもどうやってその獣たちとコンタクトを取るんだか。というか彼らって、いつもフロースガルの回りにいるんだよね。これで彼が街にいればそのときにこっそり一匹とっつかまえておく、ということができるんだけど、昨日調べたところフロースガルはここ数日街に帰っていないことが発覚。――マジで無茶をする気らしい。あの馬鹿。

 ともかく、こうなりゃ五階をしらみつぶしに探索するしかない。地図を片手にいろいろ歩いていたら、花に襲われるわフクロウに叩かれるわ例の一階の怪獣が襲ってくるわ、そりゃもうすごいことですよ。

 で、前衛である私の体力が尽きて帰還。ごめんよマイト、ちょっとこの階の打撃、きつすぎ。

 

 

・笛鼠の月、11日

 前回に引き続いて探索、怪獣はなるべく相手にしないようにして、こそこそ移動。かなり大距離を移動して、そして気づいたら磁軸の前に戻ってきていた。

 ……さまよってるなぁ。

 で、今度は弾丸が尽きて帰還。この際だからもう、貯えとか気にせずに交易所でありったけ買うことにした。宿代払ったら本気で無一文だが、こうなりゃなりふり構っていられない。時間との勝負だ。

 

 

・笛鼠の月、12日

 ビンゴ。

 迷宮に入ってすぐ、私はその獣の影を見つけ出した。

 クロガネとは異なる、白いフォルムの獣。

 ――おう、お久し。

 私が声をかけると、そいつは小さく、ぉん、と吠えて、そしてゆっくりと歩き出した。

「いたのか」

 マイトの声に、うなずく。……そっか。こいつは当然、マイトには見えないはずだ。

 でも、間違いない。その獣は確かに、私たちをどこかへ連れて行こうとしていた。

 そして。

 

 獣の後を追ってついた場所は、ちょうどなにかの遺跡が倒壊したような感じの広間だった。

 そこに、配下の獣たちを従えて、ひときわ大きなフォルムの魔獣が一匹。

 執政院からの通達にあった姿形に間違いない。これが、私たちが探していた獣の王、キマイラだ。

 ……なのだ、けど。

「どうする」

 どうするって……取り巻きの数、多すぎるよなあ。アレ。

「六体。

 三、四階で何度か戦った相手だ。一体ずつならたいした戦闘力は持たないけど、まとめて相手をするとなると面倒だ」

 困ったね。

 考える。一番賢いのは、この場で倒すのを諦めて大公宮に連絡を取ることだ。

 そうすれば、たぶんすぐに強いギルドに連絡がいく。そしてグレイロッジとかロックエッジとかがんそロックエッとか、ともかくそのあたりのスゴいひとたちがやってきて、瞬殺してくれるだろう。

 その考えを、しかしマイトは否定した。

「それじゃダメだ。

 思い出せよ。その獣、いつもフロースガルの近くにいたんだろ。それはつまり、……フロースガル、この近くにいるってことじゃないか」

 ――なんてこったい。それじゃ、とっとと倒さないと時間切れになるってことか。

 そうなると打つ手がぐっと少なくなる。いったん街に帰るのはもっての他。なんとか隙をついて奇襲でもできればいいのだが、それでも勝てるかどうか。

「やるしかないだろ。行くぞ」

 逸るマイトを止める。それじゃダメだ。無茶は、不可能なまま実行するもんじゃない。

 この場合……そうだ、こうすればいいかも。

「なんか、手があるのか」

 ちょっと耳貸せ。

 ごにょごにょ……

 

 

 時間は過ぎ、樹海は夜の帳を迎える。

 周辺の獣を狩りに行く時間くらいあるんじゃないかと思っていたが、残念。キマイラの奴、食料は基本的に、下僕の獣たちに運んでこさせているらしい。……くそ、獣のくせに妙に知恵つけやがって。いいけどさ。

 そうして時間が経ち、十分夜も更けた頃……広間に、来客があった。

 最初に気がついたのは、取り巻きたちの一体だったらしい。ぎ、ぎー、と奇妙な鳴き声を上げ、あたりが妙に騒がしくなる。暗闇の中、広間の奥の闇から、弾丸のような黒い影が一気に距離を詰めてきているのが見えた。

 即座に取り巻きたちが襲いかかる。乱打され、それでもクロガネはまだ止まらない。襲い来る取り巻きを押し返し、単騎でキマイラの元までたどりつかんと地を踏みしめる。キマイラは静観。取り巻きたちの羽がクロガネを取り囲み、突進が徐々に力を失っていき、やがて完全に止められてしまった――その瞬間。今度はわきの茂みから、白銀の鎧に身を固めたひとりのパラディンが、手薄になったキマイラめがけて突進した。

「魔獣め、覚悟!」

 距離を詰める。慌てて取り巻きたちは取って返そうとするが、クロガネが追いすがってそれを邪魔する。混乱の中、一気にフロースガルはキマイラに近接し、

 ――横に待機していた最後の取り巻きに不意をつかれ、押し倒されて横転した。

「が!?」

 取り巻きたちのあざけるような笑い声。クロガネがフォローしようとするが、距離が遠すぎて間に合わない。もがきながら取り巻きを押しのけようとしたフロースガルに、キマイラはその大きな口を開き、燃えたぎる火炎をいままさに吐きかけようと――今だ。

「マイト、射撃開始!」

 どかん、と氷の特殊弾丸が口に突き刺さり、キマイラが悲鳴じみた咆吼を上げる。同時に私は、フロースガルの反対方向の茂みから飛び出して、彼に組み付いていた取り巻きを一刀で斬って捨てた。

「……君たち」

「加勢するよ、ベオウルフ。ひとりでなんて死なせるもんか。……さあ、立って!」

 

 キマイラが咆吼、こちらに突進してくる。が、ふたりして全力で盾で押さえ込み、突進を止める。

 止まったキマイラの胴に、ばん、マイトの弾丸がふたたび突き刺さる。怒ってキマイラはそちらに火炎を吐こうとしたが、

「させるか……!」

 フロースガルが割り込む。炎は盾に当たって弾けて消え、そして三発目の弾丸がキマイラの胴に命中。ぐらり、とキマイラの身体が傾いた。いけるか!?

 瞬間、背後で悲鳴。クロガネが、取り巻きたちの数体に取り押さえられてもがいている。残った取り巻きたちがマイトの方へ、って、それはまずい! 気を取られた瞬間、キマイラの尻尾がうなり、私とフロースガルは揃って吹っ飛ばされた。

 ――くそ、なにがどうなった!

 うめいて起きあがる。フロースガルは――と、様子を見て、絶句。尻尾の先にあった針みたいな箇所が刺さったのだろう、その胴体に深々と刺し傷があった。見ればわかる、致命傷。

「……私は、いい。それよりマイトくんは」

 顔を上げる。マイトは、取り巻きから逃げるべく、隠れていたくぼみを飛び出してきていた、ってそっちはクロガネにたかってた連中がいるっての! 案の定、奴らは力尽きたクロガネから離れ、マイトへと近づいていく。広場の中央に立ったマイトがこちらを向き、目が、合った。

 ――オーケー。諦めるのは、まだだ。

 なにか策があるのだろう、マイトのその表情に確信した私は、振り返って巫剣を抜き、いままさにマイトに向かって火球を吐きださんとしていたキマイラの口元に叩きつけた。悲鳴が上がり、あおりで私の服の袖口に火がってうぎゃああ熱い熱い熱い! 袖口を叩いて火消しを試みる私にキマイラが牙を剥き、そしてそのキマイラの額に――ちゅいいいいん、と音を立てて、どこから飛んできたのかわからない弾丸が炸裂した。悲鳴。

 マイトを見る。あいつは落ち着いた顔で通路の中央に立ち「……よし、成功」とつぶやく。よく見るとその回りの魔物たちが全員、急所を打ち抜かれて絶命していた。……角度を計算して、跳弾を利用して敵全員に弾を当てたのか。すげー。マイトじゃないみたい。

 と、キマイラの咆吼。いけね、まだ生きていやがる! 本気を出した突進を食らい、はね飛ばされて地面に叩きつけられる。めちゃくちゃ痛い。が、ここで終わるわけにはいかない。立ち上がって巫剣を構え、せいいっぱい威嚇。だがその威嚇も功を奏さず、すごい勢いでキマイラがこっちに体当たりをぶちかまそうと迫る。その身体にマイトの弾丸が一発入り、二発入り、三発入って相手の咆吼。もう絶命していてもおかしくないほどの傷を負って、なおもキマイラは止まらない。……こ、こりゃ本当にダメかな。と思ったその瞬間。

 比喩どころではなく弾丸となって、光り輝く一頭の獣が、キマイラの突進と真っ向からぶつかり合った。

 咆吼と悲鳴。キマイラがはね飛ばされ、獣が私をかばって立ちはだかる。

 ――って、なんだ。こいつ、さっき私たちを先導してた奴じゃないか。

 光る獣の咆吼。キマイラはたじろき戦意を失い、慌てて森の奥へと去っていく。……まずい、逃げられる! マイト撃て、と言ったら、ぶんぶんと頭を振られた。――ここで弾切れかよ。最悪。

 

 

 フロースガルは、白い獣を見て驚いたようだった。

「ドン・ガミス、……私を、迎え、に、来た、のか?」

 獣は、ぶんぶんと首を横に振った。

「そう、か……まだ、やりたいことが、ある、か。

 わかった。――私は、残りの皆と、行く。お前は、やりたいことを、やってこい」

 鎧を脱がして傷を見ようとした私を、彼は拒絶した。

「もう、助からない。ならば、私はここを死地としたい。

 ……すまんな、最後までわがままを言う」

 そう言って、彼は口を閉ざし、それからずっと、無言で死んでいった。

 クロガネは、相手の取り巻きに首筋の急所を噛みちぎられ、絶命していた。

 ……少しくたびれてはいたが、私とマイトはその場に穴を掘り、二人を埋葬することにした。

 形式上は公国民とはいえ、私たちには家族も、寄る辺もない。ただのアウトローだ。

 冥福を祈ってくれる相手もない。……だから、せめて私たちが祈ろう。

 ギルド、ベオウルフの、勇敢な冒険者たちに安らかな眠りが訪れますように。

 

 

 で、ぶっちゃけこの獣なんなんだろう。帰ってきても普通についてくるし、飯も要求するし宿が獣くさくなるとおかみさんから苦情言われるし、すげー困るんだけど。ていうか、さっきは見えてなかったのに、なんでマイトにまで見えてるの? こいつ。




特殊所持スキル紹介:


死霊会話(1/1)
所持者:イルミネ
 イルミネの持つ特殊スキル。強い想念を残して死んだ存在とコンタクトを取り、時には触れ合うこともできる。
 ただし、強い想念が怨念であることも多く、その場合、話しかけた瞬間に襲いかかってきたりもするので、あまり扱いやすくはない。
 時と場合次第では、情報収集に使えることもある、かもしれない。

 ……なお、実はこのスキルには隠れた側面があるが、それについてはスキル所持者であるイルミネすら、この時点ではまだ気づいていない。


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第二階層(1):みんなのふれあい講習会

・笛鼠の月、13日

 大公宮に昨日のことを報告したら、ものすごく感謝された。キマイラ撃退&巣の場所報告はやっぱりだいぶありがたかったらしい。おまけにかなりの額の報奨金ゲット。やったね!

 ……それでも赤字だけどネ。

 やっぱマイトの特殊弾丸は額が半端じゃない。ばんばん撃ちまくってたからなあ。実はちょびっとだけツケにしてもらっていた分を宿にきっちり納めると、残った額は全部弾丸の露と消えた。もったいない。最近は新素材の防具とかけっこう並んでるし、もっと買い込みたかったんだけど。あーお金欲しいなー。

 と、うだうだやってたら酒場の親父に目を付けられた。なんでも、貴族が遊びで狩りに出かけたところを討ち漏らした獣がいるんで狩ってこい、とかいう仕事で、必要経費は貴族持ち、さらに元々の報酬の額が超オイシい、という素晴らしい仕事だった。すげー。ていうか、他のギルドは立候補してきたりしないの? と聞いたら酒場の親父、胸を張って

「おうよ。なにしろ六階だからな。たいていの雑魚冒険者はそこまで到達できねえから、立候補しようがないのさ」

 ……六階かよ。いままで行ったことがない場所じゃないか。まあ、五階でもなんとかなったんだし、大丈夫かな、と思って仕事を引き受けることにする。

 で、かなりあっさりミッションコンプリート。すげー。ていうか相変わらずひっついてくる、白い獣ことシロ(ドン・ガミスなんて名前は知らん)が大活躍。逃げようとした相手を吠えて威嚇してすくませ、動きが止まったところを射撃して終了ー。こんなに役に立つ子だったとは。次から餌のグレード上げてやろうかな。

 そして六階到達。ここにある磁軸の柱は他と違って、なんと行き帰り両方ともできるスグレモノだ。おかげで次から、ここを拠点として活動できそうだ。

 

 

・笛鼠の月、14日

 六階、初の本格探索。

 鳥とかキノコとか、へんな魔獣が多い。でも強い相手はいないなぁ。とか思ってゆっくり歩いていたらかぼちゃ頭のデカブツとぶつかった。ゆっくりした結果がこれだよ!orz

 で、特殊弾丸を雨あられと浴びせて撃退。後で知ったことだが、あのかぼちゃ頭は気配がないわただの打撃がほぼ効かないわで、樹海の魔物の中でもぶっちぎりで嫌われてるらしい。楽勝過ぎて気づかなかったが、相性がよかったのかな。

 

 

・笛鼠の月、15日

 昨日に引き続き、樹海探索。

 石像みたいな魔物がたいへんウザい。空を飛べるからってこっちのガードをかいくぐってマイトをつついてくる。頭に来たので鬼力化使いまくってマイトでばんばん撃ち落としてたら体力が尽きて撤退。アレむかつくなー。なんとかならんものか。

 

 

・笛鼠の月、16日

 大量のかぼちゃ頭が巡回している広間発見。ウザっ! とか思ったが、ふと思いついた。こいつらは不人気だが私たちとはかなり相性がいい。てことは、他の冒険者が滅多に手に入れられないレア素材とか、簡単にゲットできたりするんじゃあ……?

 で実行。まずはシロに吠えてもらい、まんまとおびきよせられたところを急襲して弾撃ちまくり。結果、狙い通り珍しそうな素材が大量に入って大満足。いいことすると気分がいいなあ。

 

 

・笛鼠の月、17日

 予想外にも金にならなくて私涙目。

 や、交易所で大感謝されたんだけどね。いい素材を提供してくれてありがとう! って。でも買い叩かれた。なんでも、最近ではさらに上の階あたりからよさげな素材が大量に届くような体制ができていて、六階あたりの素材の価格が暴落しているんだとか。

 特殊弾丸撃ちまくったせいで一気に金が尽きかけ状態に。どーしよう。こらマイトおまえのせいだぞ。え、私がベンチャー気分で無計画に事業拡大したのが原因だって? うるさい黙れ。

 

 

・笛鼠の月、18日

 なりふり構わず酒場で依頼を漁ったらいいの発見! こらマイト逃げんな。

 というわけで、前に諦めたメディック募集がまた出ていたので再挑戦。治療スキルが必要らしいので私の部族秘伝の治療法を伝授ようとしたら、マイトの奴、そんなもん覚えなくていいからおまえがいけ、とか言いやがる。おまえね、私がたとえどんな正装したってメディックに見えると思うか? と言ったら、じろじろ眺めた後で

「悪かったよ……」

 とか言って観念した。……おかしいな。なぜかぶん殴りたくなったぞ、今。

 で、やっぱりボロボロになって帰還。うわ、おまえ難破船の船員の救助って仕事でどうしてそんな状況になったんだよ、と言ったら、かすれた声でぼそっと

「アシタさんに見つかった」

 ……いたのかよ。ていうか治療スキルもないのになにしに来たんだあの女、と言ったら「力仕事」と即答された。なんでも、おまえもどうせスキルないんだからこっち来い、といってむりやり力仕事班に回されたらしい。そしてこの惨状。あーそりゃ災難だったねえ、とゲラゲラ笑いながら言ったらめっちゃ殺意を込めた目でにらまれた。きゃーこわーい(棒読み)

 

 

・笛鼠の月、19日

 七階へ初進出。

 なんだかひどく狭い道やでこぼこした通路が多くて、おかげで体力が尽きるのが早い早い。早々に撤退してきた。

 帰ってから最近日課の酒場に顔を出したら、驚いたことに大公宮直々の依頼が張り出してあった。なんでも、七階と八階の正確な地図を作りたいので、できる限り多くの情報を求む、とか。なるほど、それはとてもタイムリー。ちょうどいいから、私たちもちょっと挑戦してみよう。

 

 

・笛鼠の月、20日

 グレイロッジという空気の読めないギルドが、新参ギルド相手に講習会を開くことになった。

 普通ならそういうのは無視すりゃいいんだが、困ったことに招待状が来てしまったんだな。パレッタ所属、パラディン、マイト様……パラディン?

 どうやら、前にパラディンぽい格好させて酒場の依頼こなしに出かけたときに出会ったパラディン、ロッドテイルとかいう奴の差し金らしい。んで、マイトが超絶行くのを嫌がったので、仕方なく私(と、シロ)が代理で出席だけすることになった。

 

 んで行ってみたら有無を言わさず道場に放り込まれた。タスケテ。

 仕方ないので模擬戦の相手を選ぼうとしたが、ちょっと遅れて行ったのが運の尽き。すっっげえ強そうなのしか残ってなかった。とりあえずいちばん弱そうな女の子たち三人のうち、マハは実は激強なのがわかりきっていたし、もうひとりは斧とかぶんぶん振り回してて怖かったので、最後に残ったノリが軽くてあたま悪そうなブシドーを相手に選んだ。

 ――反省。激烈に強いです、このひと。

 なにしろ、相手がなにをしているのかよくわからない。近づいて木剣振ろうとして気づいたらこっちがぶっ倒れてるんだけど、どこを打撃されたのかがよくわからない。仕方ないので二本目は距離を取るべく引いたら今度は歩いてるんだか走っているんだかよくわからない歩法でいきなり懐に飛び込まれ、もうダメもとで時間を稼ぐためにシロに突進を命じたらなんだかよくわからない体術で吹っ飛ばされて私まで下敷きになった。……きゅう。

 で、それを見ていたマハがけらけら笑いながら、

「そりゃそうなるよお。ワテナさん、うちで一番強いひとだよ?」

 ……そういうことは先に言って欲しい。

 

 その後は組を変えたりいろいろして、ぼちぼち。最初以外はそこまでボロ負けはしなかったが、勝てもしなかった。そりゃそうだ、私は基本的にディフェンス専門。マイトなしだとろくに攻撃手段がない。その割には頑張った、と思いたい。

 で、手本だとか言って、強いひと二人の模擬戦を見ることになった。赤コーナー、さっきのブシドーことワテナ。青コーナー、やっぱりさっき見かけた、斧振ってたソードマンことチ・フルルー。周りが頂上決戦だー、と沸く。なんでも、チ・フルルーはロックエッジのリーダーで、同時に同ギルド最強の戦士なのだとか。つまりこの試合、グレイロッジとロックエッジの最強同士の豪華対決なのだった。

「おー、おひさー。テキトーにがんばろーじゃん」

「はい。よろしくお願いしますね」

 ……その割には、当事者の二人にぜんぜん緊張感がないけど。

 木斧と木刀を構え合い、対峙。マハが審判の形になって、手を挙げて宣言する。では両者尋常に、勝負始めっ。

 ――動かない。

 チ・フルルーはにこにこしたまま。

 ワテナも涼しげな顔のまま。

 微動だにしない。

 ……………………

 おい。寝てるんじゃないかこれ。

 思ったそのとき、ふ、とチ・フルルーの視線が横に泳いだ。

 次の瞬間、瞬く間に近接したチ・フルルーが斧をぐおんっ、と振る。不意打ち。かと思ったらその場にワテナがいない。遠近感がおかしくなったんじゃないか、と思える不可思議な歩法で死角に回り込んだワテナが、木刀の先ですとん、と相手の膝のあたりを押さえる。と、チ・フルルーがいきなりがくんと態勢を崩して尻餅をついた。即座に追撃に移ろうとしたワテナだったが、今度はいきなり大きく後ろに飛び退く。その、いま首のあったあたりの空間に、木斧がギロチンみたいに空中から振ってきてざくっ、と地面に落ちた。――いつの間に投げたんだよ。あいたたた、よっこいしょ、とか言いながらチ・フルルーが斧を拾って立ち上がり、ワテナは平静に剣を青眼に構え、

 そしてまた、動かない。

 ……………………

「はい時間いっぱい。試合終わりです」

 寒っ。

 

 んで、後は雑談タイム。

 ロックエッジのパラディン、コルネオリとダークハンターのハラヘルス、がんそロックエッのブシドー、ネイホウとレンジャー、パベールの四人が話しているところにおじゃまして、いっぱい喋ってきた。この四人、全員かなりの経歴持ちなのだがなぜか気弱で、トップを走るギルドにいると胃痛がするという話で盛り上がっていた。あとパベールとハラヘルスはあのアシタの幼なじみだそうで、彼女の行状をひたすら謝罪されてなんか気まずかった。……いや、気に入らない相手だけど、そこまで悪いことしてるかなあ。あいつ。

 そのうちにハラヘルスが相棒(自称)のカースメイカー、カチノヘに連れ去られ(としか表現しようがない。マジで嫌がっているように見えたけど)、ネイホウは師匠と会う約束があるからと早退。代わりにマハとムズピギー、それからフリーでいろんなところを行き来しているイナーというレンジャーのひとがやってきた。イナーさん曰く、分け前が悪くないなら採掘手伝いくらいはするよ、とのこと。いや、それはありがたいけどうちのギルドには戦力のほうが足りないんです、と言ったら、そりゃダメだと即答された。なんでも、イナーさんは腕力についてはてんでダメなんだとか。格好だけならパベールよりはるかに強そうなのに、意外だ。

 後は馬鹿話。前も思っていたけどマハは落ち着いているわりに気が利いてノリもいい。ムズピギーはカケラも落ち着いていなくてものすごくノリがいい。おばちゃんの井戸端会議ばりの盛り上がり方をして、その場にいたコルネオリとパベールはあっけにとられていた。悪いことしたかな。

 

 そして解散。たいして身にはならなかったがえらく楽しかった。というか、これは講習会と題したふれあいイベントだろう……とは思った。面白かったので次やったらまた行くけど。なお、シロはチ・フルルーとエレさんにたくさんかわいがってもらってご満悦だった。エロ犬めが。




 第三のパーティメンバーが加わったので、紹介を。


3)ドン・ガミス
年齢:?
性別:?
クラス:ペット
アラインメント:?
 すでに死んだはずだったギルド『ベオウルフ』の飼い犬。通称シロ。
 なんでついてきているのか、なんで死んだはずなのに見えるようになったのか、なんでイルミネになついているのか、全部不明。
 ふさふさもふもふで普段はおとなしいのでわりと冒険者たちには人気がある。



特殊所持スキル紹介:

1)大集中(5/5)
所持者:チ・フルルー 箇所:頭
 次の攻撃の命中率が上昇する。
 重ねがけすると重複して上がっていく。

2)雅の歩法(5/5)
所持者:ワテナ・チャウネン
 回避率と命中率を上げるパッシブスキル。ワテナ級になると、まともに攻撃してもまず命中しない。

3)合気の極意(1/1)
所持者:ワテナ・チャウネン
 パッシブスキル。防御時に来た相手の攻撃に対して、カウンターで攻撃+足縛り+スタンを与える。ただし、構えを使っているときにはこの効果が発揮されない。

4)熊殺しギロチンカウンター(1/1)
所持者:チ・フルルー
 パッシブスキル。相手の攻撃に対して即死効果のあるカウンターを返す。斧装備時のみ有効。
 ぶっちゃけ即死効果が発動することは稀である。当たればダメージで相手は死ぬ。


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第二階層(2):魔弾と死喰い

・笛鼠の月、21日

 七階の探索を継続。

 以前にデコボコの激しいところをメモっていたら、えらく探索がスムーズに行くようになった。途中に超デカい猿がいてウザかったのでシロに呼び寄せてもらってマイトが狙撃して終了。だんだんスタイルが板についてきた。

 そして八階へ初進出。なんか私たち強くね?

 

 

・笛鼠の月、22日

 こ……怖かった。

 なんかもー大反省。強くね? とか思い上がりも甚だしい。つーかあのサラマンドラとかいうバケモノはなんですか。死ぬ。アレは死ぬ。

 巣の奥に抜け道があって助かったー。アレがなければいまごろ、私たちは全員仲良く蒸し焼きだった。よくもまあ生きて帰れたもんだと思う。見つけたシロは偉いっ。

 

 

・笛鼠の月、23日

 昨日不必要にサラマンドラおよび取り巻きに喧嘩売ったせいでまたも金が尽きた。この崖っぷちの金策もいい加減板についてきたところだが、いい加減マイトには観念してもらいたい。こら逃げるな。

 というわけでアルケミストのコスプrげふんげふん、いや、格好をさせて、テキトーに手持ちの符を持たせてから敵討ちで助っ人求むとかいうギルドの依頼に放り込んでみた。

 結果、ものすごい返り血まみれになってぐったりして帰ってきた。なんでも、アルケミストのふりをするためにわざと相手を近場までおびき寄せて、術式起動と称して零距離で特殊弾丸をぶっ放したらしい。そりゃ災難だ。なにが災難だって、洗濯を依頼された宿の従業員がかわいそうすぎて。と言ったらまた視線で人を殺しそうな目でにらまれた。きゃーこわーい(棒読み)

 

 

・笛鼠の月、24日

 朝、出ようとしたところをおかみさんから呼び止められた。

 この宿のスイートに泊まっている偉いひとが、狩りの合間に弁当を食べたいから作って届けてくれ、と言い出したらしい。ところがあいにくとリクエストされた弁当の材料が切れているらしく、しょうがないので八階で見つかったっていう珍しい果物を取って、それを届けたい。アンタたち八階のあたりを探索しているんだろ、ちょうどいいからやっておくれよ、だそうで。いつも世話になってることだし、報酬もわりとよさげだったので引き受けることにした。

 で、場所はわかっているので楽勝だろうとか思っていたのだが、これが厄介だった。まず取りに行こうとした途中でデカい魔獣にからまれ、必死で撃退。七階は最短経路を行こうとしたら道の悪いところを突っ切らなくちゃいけなくてひどく疲れ、六階はなんとか無事に行けたもののもう苦労するのも嫌だったから、五階はキマイラの巣を経由してショートカットしようと考えていたら――なんで復活してんスかキマイラ。

 

 幸運だったのは、相手にとっても不意打ちだったこと。

 とっさにシロが相手を押さえ込み、まごまごしているところに鬼力化をかけたマイトの銃弾が雨あられ。怒って突進してきたところをさらに銃撃し、貫通した銃弾が壁で跳ね返ってもう一撃。これでケリがついた。

 ……すげーあっけない。あれだけ苦戦したのはなんだったんだろう。

 ともあれ、いまはキマイラが目的じゃない。死んだキマイラなんて放っておいて四階へ走り、狩り場へ行ってなんとか果実を届ける。すっごい疲れた。もう気力もなく、帰って寝ることに。

 

 

・笛鼠の月、25日

 今朝、大公宮から迎えが来た。

 なんでも、昨日交易所に売った素材のなかにキマイラの尻尾が混ざっていたため、私たちがキマイラを討ったということが発覚したらしい。ちょうどまた五階以下の樹海が騒がしくなり始めたばかりの頃で、討伐隊みたいなのを組もうとしていた矢先に偵察の衛士がキマイラの死体を見つけたのだとか。一躍英雄だゼ。

 たくさん金ももらったことだし今日は休養に当てることにして、酒場でぐんにゃり。親父からは、おまえらぼーっとしてないで仕事しろよ、と呆れたように言われた。失敬な。それじゃ普段から仕事してないみたいじゃないかっ。

 それで、なんか妙な噂を聞いた。前に謝金をたくさんはずんでくれた狩り好きの貴族、彼がまた上のほうの階で遊んでいたところ、物騒そうな影が下の階層へ降りていくのを見かけたのだとか。おまえらも見かけたら退治しといてくれよ、って……前はこういうとき、「危ないから樹海探索は控え目にな」とか言われていたんだけどなぁ。気づいたら腕利きだと思われてるっぽい。いいのかなあ。

 

 

・笛鼠の月、27日

 ……日記を書いているのが27日なのだが、いちおう昨日と今日の分をまとめて書くことにする。もう死にそうに眠いけど、いちおう日課なんで。

 ここんところ毎日、朝に呼び止められている気がする。今度は手紙が届いたとか。薬泉院で馴染みの医者からの手紙で、森が枯れる病をどうにかしたい、ついては今晩20時に中央市街の広場にて落ち合いたい……むむ。面倒だが知り合いからとなると無碍に断るわけにも行かない。とはいえ今晩までは時間もあるので、とりあえず時間をつぶすためになにをするかと考えていたら、おかみさんから提案があった。ちょっと入り用なんで森に行っていくつか木の枝でも拾ってきておくれ、って。

 それでわざわざ七階まで行って仕事して、ついでに地図をテキトーに埋めて休憩して昼寝して気づいたらもう夜。慌てて中央広間に行ったら馴染みの医者はおらず、かわりにその助手と称する、やたら熱意に溢れたおねえちゃんが待っていた。なんでも、森が不自然に枯れる病気が流行っているから、調査するために手伝ってくれ、とか。めんどくさいなあ。とか言ったらマイトに怒られた。立派な仕事だし報酬も悪くない、ぐだぐだ言ってないでさっさと行くぞ! と。……かわいい子相手だからって調子に乗ってないか貴様。

 で、彼女を連れて樹海へ。入ってすぐ、異変に気づく。なんかものすごく騒がしくて、ついでにデカブツが森の奥から、ってこれ昨日酒場で噂を聞いた奴じゃないか! 慌てて彼女を守る態勢を取って迎撃準備。マイト大活躍でなんとか全部撃滅完了。しょっぱなからなんつー波乱だ……

 必要以上にびくびくしつつ九階へ行き、目的の箇所へ。たしかに森が枯れているところで、彼女はなんか枯れている木からぺたぺたとサンプルを取って「はい完了です」……これだけ? やけにあっさりしてるなー。なんか私の勘だともう一波乱あると思ったんだが「あ、アリアドネの糸忘れてきちゃった」待てやこのアマ。

 はい、死ぬ気で切り抜けました。こういうときに限ってでかい敵が行く手をさえぎったり、彼女があんまり悪い道は行けないからって七階で遠回りしたら猿のバケモノとばったり出会っちゃったりして。ことあるごとにこっちの傷を心配する彼女の心根には感心するが、正直そんな暇があったらそのサンプルを死守して欲しい。あとマイトはかっこいいとこ見せようとしてるのかもしれないが、単にウザい。自重しろ。

 そしてボロボロで帰還。もう嫌。寝る。

 

 

・笛鼠の月、28日

 一日近く寝たらだいぶ体調も回復したので、今度こそ普通に樹海へ。

 八階を歩いていてどーも変な空白が多いなーと思っていたのだが、昨日初めて九階に行ってみてよくわかった。八階、ブロックごとにかなり分割されてるのな。こりゃ九階を経由していかないと地図は作れないわ。

 というわけで今日は八階と九階を往復。けっこういい感じに地図が埋まってきた気がする。そろそろ大公宮に報告したほうがいいかも。

 

 

・天牛の月、1日

 大公宮に報告してみたところ、ものすごい大感謝された。

 なんでも、提出した地図の中にちょうど調査が行き届いていないところが大量に含まれていたらしい。けっこう多額の謝金が出てウハウハだった。

 それにしても、ずいぶん樹海も歩き慣れたなあ。そろそろ十階まで足を伸ばしてもいいかもしれない。

 

 

・天牛の月、2日

 その不可思議なじーさんは、出てくるなり一喝した。

「未熟なこわっぱどもが。

 大方、自分の実力に思い上がってこんな階層まで来たのだろうが、ここから先は未熟者が入れる場所ではない。おとなしく下の階層で小遣いでも稼いでいるのが似合いというものだ」

 ……はあ。そうですか。じゃ。

 挨拶して通り抜けようとした私の足下に、いきなりばちゅん、と銃弾が撃ち込まれた。

「面白い。この『魔弾』のライシュッツを無視するか、小娘」

 いや、無視しちゃいませんけど。つーか私、なんで喧嘩売られてるんですか?

 相手は一触即発のぴりぴりムード。私は困ったなーと思いつつも臨戦態勢。なんかマイトが後ろから訴えかけているけど、無視。

 と。シロが異様なうなり声を上げる。

 私も気配を感じて、思わず飛び退いた。

「爺や、また無茶を言っているのね。

 しょうがないなあ。ごめんね、悪気はなかったんだけど、ちょっとびっくりさせちゃったかな」

 言葉とともに、ぬらりと現れた、そいつは。

「いやね、この先なんだけど。悪いけど大公宮のほうで、行ける冒険者の数を制限しているのよねー。

 詳しくは大公宮に直接問い合わせて欲しいんだけど、そんなわけだからいったん――」

 あんた。『墜ちた』のか。

 唐突に尋ねた言葉に、彼女は嗤った。

「――ふうん、そういうのが見えるひとか。

 まあ、その表現は嫌いだけど。否定はしないかな」

 表現なんてどうでもいい。そいつは、普通の呪医が手を出す代物じゃない。

「普通じゃなければ手を出してもおかしくないでしょ。

 というか、伝承にあるんだから、使わない手はないと思うんだけど」

 そんなものに頼ってまで力が欲しいのか。

「…………。

 あなたは?」

 私?

「他に手段がなくなって、それしか道がなくて、冒険者なんて生き方を選んだ。そして、それに飽きたらず、更なる高みを目指している。

 それはいい。でも、冒険者である限り、いつかは限界が来る。これ以上先には逆立ちしたって進めない――そういう敵が、いつか目の前に現れる」

 それはアンタか。

「かもしれないわね。そうじゃないかもしれない。あたしが手を下すまでもなくあなたは倒れるかもしれない。あるいはあたしが倒れて、その先にあるなにかまでは到達できるかもしれない。

 けど、そこまでだ。呪医アーテリンデが予言するわ。上に行こうとする限り、冒険者たちにはどうしても法外な力が必要になる時が来る。それは倒しようのない敵と出会った時か、さもなくば――果たし得ない願いを、叶えようとした時。

 そうなったとき、……あなたは、どうするのかしらね?」

 悪いが私はその手は取らん。

「なんで?」

 一度試して、懲りた。

「ふーん、そう」

 ……これ以上話すことはないな。

「そうね。

 まあ、どうせすぐ大公宮に行って戻ってくるつもりだと思うけど。いいんじゃないかしら」

 じゃあな。

 

 相手が見えなくなるくらい引き返したところで、マイトがへたって座り込んだ。

「なんだよあの銃士。

 生きた心地がしねえ。とんでもねえ相手だ。たとえ一対三でも勝てたかどうか」

 ……情けないなあ。勝てる可能性あるならまだマシだろ。

「なんだよ、それ」

 あの呪医。あっちこそ、一対三でも絶対勝てないっつーの。

 ともかく途方もない。()()()()()()をあれだけ重ねておいて、未だに人間の輪郭を保ってられるのが信じられん。よっぽど高レベルの呪医で、しかも邪術使いと来た。あんなのに突っかかったって、一瞬で意識を喰われて終了だ。

「要するに両方バケモノってことだろ。なんだあの二人」

 口ぶりでは、冒険者らしいな。

「そんなことはわかりきってるだろうが」

 落ち着けよ。冒険者なら、街を拠点にしているはずだ。

 噂くらい聞けるだろ。ともかく、あんな不気味なのがうろついてるなら警戒しないとまずい。いつ寝首をかかれるかわかったもんじゃない。

「わかった。いったん帰るか」

 ああ。そうしよう。

 

 ……口ではそんなことを言いながら、心では理解している。

 あの二人があそこで退いた、真の理由。それは、現時点で私たちを敵と見なさなかったから。

 それは敵対心がどうとかいうレベルじゃない。単に、私たちが相手にならないほど弱かったから、見逃したというだけの話。

 

 帰って調べたところ、確かに大公宮では十階から奥へ行く冒険者を制限しているようだった。

 なんでも、炎の魔人、とかいう変な魔獣が徘徊しているのが原因だとか。こいつは他の魔物とは明らかに別格なほど強い上、退治しても退治してもしばらくすると復活するという特性があって、生半可な冒険者では危なくて先に進ませられないのだとか。

 さっそく許可を申請したが、しばらく時間がかかるとかいう答え。……ぬう。気ばかり焦るなぁ。べつに急いでるはずじゃなかったんだけど。




特殊所持スキル紹介:


死喰いの呪詛(9/10)
所持者:アーテリンデ
 死霊や悪霊といった類の特殊な存在を取り込み、自らの力へと変える禁呪。
 一緒に怨念を取り込むため、たいていの場合は高レベルにした時点でその怨念の影響で発狂する。耐えられる術者も、どこか人間離れした外見に変容していく。そして精神が徐々に汚染されていく。
 アーテリンデはこれを限界ぎりぎりまで高めている。あと一歩煮詰めてしまえば、彼女は迷宮に潜む怪物と成り果てるだろう。


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第二階層(3):試練! 炎の魔人

・天牛の月、3日

 さあ今日も元気に樹海へ、と宿の入り口を出たところで

「はいはいはい戻る戻る」

 とアシタに押し戻された。

 なにしにきたんだこのアマ。と思ったら、どうやら大公宮に申請した例の許可の審査官として来たらしい。外注かよ。どんだけ人がいないんだこの国は。

「んで、十階の奥に行きたいんだって? キミたちが?」

 なめくさった口調で聞いてくるアシタ。……嫌だなあ。絶対難癖つけて却下って流れだよ。と内心思いつつ、そうだと答える。

 するとアシタは肩をすくめて、

「前から思ってたけど。

 キミたち、なんで上を目指すのさ?」

 なんでって……そりゃ、その方が実入りはいいし……

「実入りはいいけど出費も多いし危険も高い。

 ぶっちゃけ、効率的じゃないと思うんだよね。六階とか七階で用心棒みたいな仕事して稼いでれば、安定収入でけっこういい生活維持できるのに」

 ……う。

「ね、なんで?」

 考えたこともなかった。

「マイトは?」

「……いえ、特に」

「ふうん。べつにいいけどさ。

 でも、まあ、ちゃんと考えておかないとそのうち怪我するわよ。樹海だって長いし、いつまでも上に行けるわけでもないんだからさ」

 そう言って、アシタはあっさり席を立った。……おい、審査は? と聞いたら、

「え、審査って?」

 と聞きやがる。あんた、なにしに来たのか忘れたのか。と聞いたら、うっしっしと笑って、

「だって審査ってあのデブ倒せるかどうかでしょ。なにか考えることある?」

 ……あー、つまり、私たちはその、えーと、ふとましい魔獣さんを倒せると?

「そりゃ倒せるでしょ。あんなザコ。

 まあ、間違ってキミたちが死んじゃってもあたしが責任を取る理由もないし、好きにしたら?

 ケケケ、せいぜい足掻け」

 すごい台詞を言い捨てて、去っていこうとする。

 その背中に、私は声をかけた。なあ、あんたはなんで樹海の上を目指すんだ?

 そうしたら、――こんな、途方もない答えが返ってきた。

「え、だって、上のほうが見晴らしよさそうじゃない?」

 

 高いところを無条件で好む馬鹿には聞くだけ無駄だったが、ともかく条件は整った。

 ふとましい――じゃなかった、炎の魔人。十階の主であるそいつを、私たちは倒さなければならない。

 それからもうひとつ。

 アシタの提示した謎かけ。それにも、自分なりに答えを出さないと。

 ……そっちのほうが、実は強敵だったりするんじゃないかなあ。とか思うのだ。

 

 

・天牛の月、4日

 念には念を入れて、一日下準備に当てることにした。

 酒場で情報収集……しても、あの二人組の情報はぜんぜん入って来なかった。が、幸いにも珍しくマハがここの酒場を訪れてくれたおかげで、だいぶいろいろな話を聞けた。なんで親父が鼻高々してるんだかはわからん。おまえ、なんにもしてねーじゃん。

 で、マハの話によると、あの二人組はエスバットという名前のギルドらしい。昔、エトリア組がハイ・ラガードへと流れ込んで来るか来ないかくらいの頃に大活躍していたギルドだったのだが、十五階でだいぶ仲間を失ってしまったらしく、それ以降はずいぶんおとなしくなってしまったのだとか。

「いま、十四階をみんなで開拓している途中だから、現役のギルドで最高階まで登り詰めたのがあのギルド。だからみんな敬意を払ってはいるんだけど……困ったことに、あんまり他とコンタクト取らないんだよねえ、彼ら。あたしたちとかと違って」

 だから地味な存在になってしまっているのだ、と彼女は言った。……地味、ねえ。あのインパクトは地味で済むのかどうか。

 マハが帰ったあと、マイトがこっそり聞いてきた。死んだあいつらの仲間とコンタクト取れないか、と。

 けど、無理だ。というか、見えない。あんな死の気配が漂うあの女の周りを見て、死んだ仲間など見極められるはずもない。それに、いたら既にあの女に喰われているだろう。

 そんなこんなで夕暮れ。後は交易所でしこたま弾丸を買い足し。シロは一日中食っちゃ寝生活。前々から思うが、死んでるから太らないっていうのはうらやましすぎて蹴りたくなる。

 

 

・天牛の月、5日

 十階、探索開始。

 えらくでかい敵が多い。首長竜とか。アレに突進してこられるとたいへん厄介なのだが、幸いにもは虫類なので氷の特殊弾丸がすごく効く。持ち合わせがあってラッキー。

 ……出費多いなあ。

 正直、さっさと上の階に行ってしまいたいところなんだけど、道がすごく複雑なんだよなー。挙げ句に出発地点すぐ近くに出る小道を発見しちゃったりしてがっくし。最初からこっちに行っていればだいぶショートカットできた、というかエスバットと会わなくて済んだんじゃないのか。

 

 

・天牛の月、6日

 探索、続行中。

 んで、磁軸の柱を発見。正直ありがたい。なにしろこれまで、十階に行くためには八階の磁軸から強行しなければいけなかったのだ。

 なんとなくもうこの近くに炎の魔人がいるような気がする。明日が決戦だ。気を抜かないで行こう。

 

 

・天牛の月、7日

 赤い樹海の奥。大きな広間になったその場所に、そいつはいた。

 デb……炎の魔人は、我々を見ても微動だにせず、こちらの動向をうかがっていた。好戦的ではないようだが、ただで通してくれるというわけではなさそうだ。

「不意打ちは無理だな。もう気づかれた。

 どうする、一度撤退するか?」

 ダメだ。あの場所は背後に回りづらい。最初から、あいつは不意打ちできない場所で待ち伏せしてるんだ。

「じゃあ、」

 やるしかないってことだ。――無茶、始めるぞ。用意はいいか。

 おん、と軽くシロが吠えた。

 

 マイトが銃を構え、狙いを定める。すると炎の魔人が、呼応するように吠えた……ってうるせええええええええええ! めちゃくちゃな音に森は震え大地はうなり、狙いを外したマイトの銃口があさっての方向に銃弾を吐きだした。――最悪。耳栓買っておきゃよかった、っていうかそういうのは教えてくれよ馬鹿アシタめ!

 落ち着け! とマイトに活を入れつつ鬼力化の術をかける。と、シロがどしゃああああ、とものすごい勢いで吹っ飛ばされた。――なんて腕力。そして気づいたら相手の身体が近い。やば、と思う間もなく相手が両手を広げ、と、そこでマイトの銃が炸裂。相手の身体に風穴を開け、きゃいん、と悲鳴みたいな声を上げて相手がたじろいた。……なんだいまのかわいい声。

 と、しかし即座に立て直した相手は突進してくる。慌てて体当たりで防ごうとしたわたしとシロを相手の両腕が包み込み、がっちりホールド。さ、さば折り……みしり、と背骨が悲鳴を上げ、ギブ、ギブ、とか言っているうちにマイトの銃弾炸裂、また悲鳴を上げて相手がたじろいた。……た、助かった。

 ともかくシロをサポートしないと。と、治癒の呪を掛けて体力を回復させたと思ったら相手がめちゃくちゃ熱い火の玉を吐きだしてシロ直撃。きゃいん、きゃいん、とか言って暴れてる。シロ、転がって火を消すんだ! とか指示してたらいつの間にか近づいて来てた相手にぶん殴られて吹っ飛ぶ。ぐええ、い、痛い……がら空きになったマイトはしかし、三発目の銃弾炸裂。また相手がたじろいて多少の余裕ができた。

 さすがに相手の体力にもかげりが見えてきたように感じたので、思い切って突撃。しようとしたらまたものすごい吠えられて耳が痛えええええええ。シロが混乱して走り回るが、意外にもマイトは今度は冷静だった。銃弾をがつんとたたき込み、跳弾でもう一発、二発。相手が悲鳴を上げる。よっしゃー行ける、と思った瞬間また抱き込まれてさ、さば折り……ぎゃあああ痛い痛い。わ、私はデブはダメなんだー! とか叫んでたらマイトの銃弾が今度こそ相手の眉間に突き刺さり、――それで、勝負がついた。

 

 強かったが、勝てない相手ってわけでもなかった。何度か心底痛かったけど、死ななくてよかった。あんなふとましい親父と抱き合って死ぬなんて嫌すぎる。

 そうして十一階に到達。……えーと、その。なんだこの白くて寒い空間は。



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