日向晶也LV1 (@silky)
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第1章
メル友、倉科明日香


もしも幼少期、日向晶也が連絡先を交換していたら。


「そろそろ、行かなきゃ」

「ああ、じゃあ元気で」

「……ぐすっ」

「おい、泣くなよ。さっき言ったろ、そういうのはナシだって」

「でも……」

「しょうがないな……ちょっと待ってて」

「えっ?」

「はぁっ、はあっ……ほら、これ」

「これ……なあに?」

「俺が大切にしてるやつ」

「これ……いいの?」

「そうだよ、これがあれば何処にでも飛んでいけるんだ。宇宙まででも」

「飛んで、いける」

「だからこの先お前が一人でどうしようもなくなったら、その時は、これをぎゅっとして、お願いしろ。空に向かってな」

「空に向かって、お願い……?」

「そしたら飛んでって助けてやるから」

「ほ、ホントに?」

「おう、絶対にだ! なにせ空はどこへだってつながっているからな」

「……ありがとう。じゃあ、これ大切にする!」

 

 

「ああ、じゃあな――明日香!」

 

 

 

 £≡

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

 

 その日、俺は朝から全速力で通学路を走っていた。

 

「くっそ、間に合うかな……?」

 

 ポケットから出したスマホで、今現在の時間を確認する。

 

「7時55分……ギリギリか……!」

 

 時計は残酷なまでに現在時刻を示している。

 再びポケットに現実をしまいこむと、俺は必死に両足を交互に前に出し、先を急いだ。

 

「だいたいアレだ、あんな夢見るからいけないんだ。あんな内容じゃ、寝つきも……」

 

 一人でブツブツ自意識に文句をつけていると、

 

「あれ、何してるんだ、あの子」

 

 一心不乱に駆けていた道路の先に、女の子が一人、這いつくばっていたのだった。

 

「ショックです……困りました。このままだと家に入れません。なんで転校して初日に鍵を落とすとか信じられない、やっちゃいました……」

 

 わざとやってるのか? と疑われるほどに、元気よく自らの境遇を一人で語っている。

 状況を聞く限り、それなりに大変な状況のはずなんだが、あの無闇な明るさはなんなんだろうか。

 

 何をしてるんだかと思いながら、女の子の横をすり抜ける。

 約束までもう時間がないが、むしろその約束自体が意味のないものとなってしまった。

 というわけで、俺は銀の物体を拾って道路を這う女の子に声をかけた。

 

「もしもし、そこのお嬢さん」

 

「えっ? あ、はいっ」

 

 俺がナンパ男みたいに声をかけると、女の子は這った状態から立ち上がり、シャキッと『気をつけ』の姿勢でこちらを向いた。

 

「な、なんでしょうか?」

 

 その顔を見て、ちょっと息を飲んだ。

 大きく見開いた目と、その下にバランスよく配置された小さな鼻と口。

 ……可愛かった。ちょっと、見とれてしまうほどに。

 

「あ、あの……?」

 

 女の子の言葉に、我に帰る。怯えが見え隠れしていて、何か誤解があることを悟った。

 

「あ、えっと、困ってたみたいだから。探してた鍵ってこれかな?」

 

 彼女の目の前にホルダーも何も付いていない、素の状態の鍵を差し出した。

 

「あ……ああっ!」

 

 声が上がるのと同時に、女の子の両手が俺の手ごと、鍵を包み込んだ。

 

「ありがとうございます! こ、これですっ! 家の鍵ですっ、すごいです! あの、どうやって見つけたんですか?! それになんで探してたのが鍵だってわかったんですか?」

 

「いや、たまたま偶然に目に入ったからで、別にすごくもなんとも」

 

「そんな、謙遜なんかしないでください。はぁ〜、やっぱり島の人ですね、親切ですね! 仇州は人情の国やけん、心配せんでよかよ、っておばさんが言ってた通りでした!! 仇州男児、って言うんですかね、なんかこういうの、憧れます、カッコいいです!」

 

 憧れとかかっこいいのハードルが下がりすぎだろ。

 

「ありがとうございます、恩人ですっ! えっと……あの……」

 

 ようやく女の子の一人語りも終えたみたいで、お礼を言おうと、名前を聞きたがっている様子を見せた。

 もちろん名乗るつもりだがその前に、

 

「あの、さ」

「はいっ、なんでしょう!」

「いや、あの……手」

「はい?」

 

 そこでようやく、女の子は自分の手をじっと見つめる。

 面白いぐらいに、その顔色はキューっと赤くなると、

 

「うわわっ!」

 

 パッと手を離し、ペコペコと頭を下げた。

 

「ご、ごめんなさいごめんなさい! 私ったら今日初めて会って名前も知らない人の手を握ったりして、もうとてもすみません!」

 

 頭を下げつつ、自分への罰のつもりなのか、ぺちぺちと頬を叩いたりしている。

 

「はぁ〜、もう、なんでわたしこういう時に勢い余ってやってしまうんだろう……」

「や、別にそれは気にしなくていい……それよりも」

 

 俺は意地悪な笑みを浮かべて女の子に告げた。

 

「今日初めて会ったなんて心外だな、明日香」

「えっ、え? ……えぇえええええっ?!」

 

 パチクリと目を瞬かせた女の子、倉科明日香は、まじまじと俺の顔を改めて見つめると、ようやく俺の顔を思い出したらしく、

 

「も、もしかして、まま、まーちゃんですか!?」

 

 まーちゃん、それは昔から明日香が俺、日向晶也を呼ぶ時に使うあだ名だった。

 

「そ。小さい頃からずっとメール相手だったまーちゃんだよ。今日も停留所で会う約束してただろ?」

「でで、で、でも! ま、まーちゃんがお、男の子だったなんて……っ。確かにかっこいい女の子だな、なんて思ってましたけど……」

「あー、やっぱり明日香は勘違いしてたのか」

 

 メールをしていて、そうなのかな、ということは時折あった。

 まぁ、俺もあえて指摘はしなかったが。

 

「まさか王子様がお姫様かと思ったら王子様で……ああっ、もう頭がパンクしそうです……」

 

 小さい頃の俺は、髪を伸ばしていた。だからよく女の子と間違われることもあり、なんだかこの反応が懐かしい。

 

「まぁ、その辺はおいおい慣れてくれたらいいよ。それより学校に行こうか。通うのは明日からだけど、まだ手続きとかが残ってるんだろ?」

「はい。なので今日は学校までの案内よろしくお願いします、まーちゃん」

 

 妙にまーちゃん呼びがくすぐったい。メールだとあまり気にしなかったけど、もしみさきたちに聞かれたら面倒なことになりそうだ。

 だけど、恥ずかしいからと言って呼び方を変えさせるのも子供っぽいし、これはこれで新鮮な感じでいいと思う。

 

 チラっとスマホで時間を確認する。

 

 8時10分。まだまだ余裕がある。

 

 これなら歩いても遅刻しないが、せっかく久奈浜に転校してきたのだから特別な体験をさせてあげたかった。

 

「んじゃ、そっから行こうか」

 

 停留所を指さし、言った。

 

「え、そこからって何もないですけど……バスでも来るんですか?」

 

 明日香は目をパチパチさせながら、首を傾げた。

 

「違う違う。グラシュのことはもう聞いてる?」

「ぐら……しゅ……。あ、これのことですか? だいたいのことは聞いてますが、実はいまいちよく分かってなくて」

 

 履いている学校指定の靴を指さし、答える明日香。

 

「そうこれ。使ったことはないよね?」

「まだ無いですけど、あの、一体何を?」

「じゃあ、俺がサポートするから行こうか」

「えっ? あ、あのっ」

「本当は先に講習してあげたほうがいいんだけど、ペアリングで飛ぶから安心して」

 

 明日香を先導して、停留所へと向かう。

 

「周りは……大丈夫だな」

 

 念のため、飛行通路を確認し、周囲の様子を目視する。

 

「飛行禁止のランプも点いていない。じゃあ次は、靴の確認だ。明日香」

「は、はいっ」

「靴、履いたままでいいから、ちょっと片方を前に突き出してみて」

「はい、こうですか……?」

 

 差し出された靴の周囲を、こちらも目視で確認する。

 

「よし、異常なし。じゃあ反対側も」

 

 同じく、もう片方の靴も確認する。

 

「はい、OK。じゃあちょっと深呼吸してみようか、すってみて」

「深呼吸、ですか、はい、すぅ〜〜〜〜っ……」

「じゃ、はいて」

「はぁ〜〜〜〜〜っ……」

「はい、んじゃ行こう」

「あの、行こうってどこへ……わわっ!」

 

 まだ疑問が残っている明日香の手を取ると、俺は停留所の縁に立ち、ドアの開閉ボタンを押した。

 

 そして、自分のグラシュの電源をONにする。

 

「両足を軽く前後に開いて」

「は、はいっ」

「じゃあ次に、かかとを軽く浮かせて」

「こ、こうですか?」

「そうそう。それじゃ1、2の3で飛ぶから、しっかり手を握って、あとは流れに任せて力を抜いて」

「飛ぶって……ここから、飛ぶんですか?!」

「うん。じゃ行くよ」

「ちょっ、ちょちょちょまーちゃん?!」

 

 テンパり具合が最高に可愛い。思春期の男の子が好きな子にイタズラしたくなる心境がよく分かった。

 

「1、2の……」

「え、えええっ、ちょっと、あの、そんなことしたら落ち、落ち……」

「3、FLY!!」

「わあっ、わああああっ?!!! 落ちちゃいますぅううううっ!」

 

 明日香はその日、空に堕ちる。




【設定】
日向晶也LV1……原作日向晶也とは似て非なるもの。まーちゃん。転校してくることになった10年来のメル友、明日香と待ち合わせしていたが、初恋の女の子のちょっとエッチな夢を見て盛大に寝坊した。なお、初恋の女の子は現在不明。モブ子の可能性大。

倉科明日香LV1……美少女転校生。メル友相手のまーちゃんに100%の信頼と好意を寄せる。自分は百合なのかと思っていたが、まーちゃんが男だと知って困惑している。前の学校では乙女ゲーヒロインムーブをしていたはずだが、全ての男を振って、見事に美少女(モブ)ハーレムを築き上げた猛者。



原作から乖離するのはもう少し先の予定です、はい。
既に設定で乖離していると思うのは気のせいです、はい。
ツヴァイが出るのをずっと待ってます、はい。

続きます。


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空飛ぶ願い

ほのぼの需要が高かったので反映しました。
みんな笑うほのぼの世界。
徐々に原作乖離しつつありますね。
そして、文章が乱れつつありますね(笑えない)


「わぁ……」

 

 初めての空中浮遊も明日香はしばらくすれば慣れた様子で、嬉々として遠ざかる地上を見下ろしていた。

 適応能力の高い子だ。昔はあんなに気弱そうだったのに、人とは成長する生き物だということをまざまざと思い知らされる。

 

「見てください、まーちゃん! トビウオが! トビウオさんがいます!」

 

 そして、興奮してはしゃいだ拍子に、ぎゅっと抱きしめられてギョッとする。

 背中に感じる柔らかな感触に耳まで真っ赤になってしまう。人とは成長する生き物だったと実感した。

 

「すごいですね。この靴があったら、本当にどこへでも、一瞬で飛んでいけちゃいそうです。……昔、まーちゃんが約束してくれたみたいに」

「……覚えてたのか」

「もちろん。だから、これも大事にしてたんです」

 

 そう言って明日香は髪飾りに手を伸ばした。よく見るとそれは、昔、明日香との別れ際に渡した当時の宝物、ゼフィリオの壊れた翼だった。

 

「それ、確か渡した時に明日香が壊したって勘違いした羽だよな」

「はい。形もなんだか可愛かったので髪飾りにしてみたんです。どうです? 似合ってますよね?」

「ああ、似合ってる」

 

 むしろ、明日香ほどの美少女になればなんでも似合うだろう。でも、そんな無粋なことは言うつもりはない。

 それよりも、頭の中にあるのは、子供の頃の記憶だ。

 

『この先お前が一人でどうしようもなくなったら、その時は、これをぎゅっとして、お願いしろ。空に向かってな』

『空に向かって、お願い……?』

『そしたら飛んでって助けてやるから』

 

 その言葉は、泣いていた明日香を慰めようとしたものだった。

 同時に、俺の心の弱さを現したものでもあった。

 空に手を伸ばせば届くと、誰よりも空に近いのが自分だと信じれたあの頃。

 

 俺はなにを思い、空と向き合っていたのだろう。

 

 心締め付ける黒い感情が、今では当たり前のように胸の内にある。

「息苦しさの中で空を飛んで、まるで馬鹿みたいだ」と幼い頃の日向晶也は笑うのだろうか。

 

 分からない。

 でも、確かに言えることは一つある。

 

 それは、俺が一歩踏み出すことができたということだ。

 

「まーちゃん?」

「ああ、ごめん。ぼーっとしてた」

「分かります。綺麗な景色ですもんね」

 

 見下ろしながら明日香が言う。

 思い馳せていたのは記憶の方だったのだけど、わざわざ否定はしない。

 

 

 俺も好きだから。

 空から見下ろす、この景色が。

 

 

 

 

 

 

 =£

 

 

 日本の南、南洋の更に南に位置する、四つの島からなる街、四島市──。

 人口5万人の地方都市であるこの街は、一見すると、ただの田舎町に見える。

 しかし、ここは現在、ある種『異世界』と言って差し支えないほど、変わった光景が広がる場所となっていた。

 

 反重力子の発見により発明された、夢の空飛ぶ靴、アンチグラビトンシューズ、通称『グラシュ』。

 

 羽も使わず、エンジンも使わず、身体能力のみで飛ぶことができるこの靴は、人間に新しい視界をもたらした。

 空港法との兼ね合いにより、未だ民間レベルでの自由使用には制限が多かったが、一部の地方都市では、実験的に使用が解禁されていた。

 

 そのうちの一つで、全国的にも最もグラシュの使用が多いと言われているのが、ここ四島市なのだった。

 その利用は若年層を中心に、全世代に渡って広がっていった。

 

 中でも学生の利用者は非常に多く、四島の中のひとつ、ここ久奈島においても、日常的に通学の手段として利用されていた。

 

「ん? あれは──」

 

 

 

 

 

 

 空の旅もそこそこに学校が見えてきた。

 

「あそこの停留所に降りるから準備しといて」

 

 学校横にある停留所を指差して着地の姿勢に入る。まだ着地には慣れていないだろうから、地面すれすれまで降下するつもりだ。

 

「はい、到着……と」

 

 自動で速度を弱めてくれるシューズの力を利用し、俺たちは学校の停留所へ降り立った。

 

「ほら、明日香。もう手を離しても大丈夫だぞ」

「え、え? あ、はいっ」

 

 言うと、おそるおそるという感じで、ようやく明日香の手が俺の手から離れた。

 流石にしがみつきは至福だったが体裁が悪かったので、せめてということで手を繋いでいたのだった。

 それだけでもよからぬ噂の原因になりそうだったので、早めに解消しておくのがいい。

 

「すごく、すごくすごく楽しかったです! 今までで一番わくわくして、なんだかもうっ、興奮が止まりません……っ! まーちゃん! 私に飛び方を教えてください!」

「ドウドウ。落ち着け明日香。気持ちは分かるけど、今は無理だ。これから手続きがあるんだろう?」

「ううっ、そうでした。忘れてました」

「まぁ、明日にでも教えてあげるから──」

「きょ、今日からとかってダメですかね?」

 

 明日香は、もじもじとしながら、チラチラとこちらの様子を伺ってくる。

 駄々をこねる子供みたいだと自覚があるのか、けれども羞恥しながらも、それでも「はやく空を飛びたい」という気持ちには嘘をつかなかったようだ。

 

 思わず微笑ましくなって笑う。

 

「いいよ、でも放課後な。明日香は手続きが終わったら先に帰るんだろ?」

「はいっ、小一時間で終わるみたいです」

「なら、学校が終わって準備ができたらメールするから。それまでお預けだな」

「先に飛んじゃうというのは」

「ダメだ。最初は指導員がいないと、思わぬ事故が起こるかもしれないからな」

 

 俺も、初めての時は白瀬さんと葵さん──各務先生に見てもらった。

 今思えばそれはとても幸運なことで、そして、あの時と同じことを今度は自分がするのだと思えば感慨深くなる。

 とにかく、過保護過ぎると思うけど明日香には我慢してもらうように説得すると、「分かりました!」といい返事が返ってくる。

 

 十年間、別に会いに行こうと思えば会えなかったわけじゃないけど、それでも会っていなかった明日香がこんなにも明るくなったことに少しの違和感がある。でも、それは成長したということで、なにより純粋に、こんなにも美少女に育ってくれたことが一人の友人として誇らしかった。

 

 明日香と話しながら歩いて行くと、そのまま正門にたどり着いた。

 そこに見知った人を見かけた俺は頭を小さく下げて挨拶した。

 

「おはようございます」

「あぁ、おはよう。なんだ晶也。ガールフレンドがいたのか?」

 正門をくぐるとき、そこには旧知でもある各務先生が朝の挨拶のために立っていた。

 

「えっ、いや、その……っ」

「違いますよ。小さかった頃に一緒に遊んでた子です。からかわないでください」

「……まーちゃん」

 顔を真っ赤にして慌てふためく明日香が可哀想だったので素早く訂正する。

 心なしか明日香が残念そうな目で見てくるが、各務先生を相手に僅かにでも弱味を見せるのは危険だ。

 

「悪い、悪い。晶也が鳶沢以外の女の子と一緒にいるのが珍しくてな」

「その言い方もからかってるでしょ」

 

 明日香が「鳶沢? さん?」と頭を傾げていたが、あまり突っ込んで欲しくなかったので正門をくぐり抜け、誤魔化すように教室棟を指差した。

 

「職員室は、こっちの教室棟の一階にある。入ってすぐ見えるところだから、迷わないとは思うけど……」

「はい、ありがとうございます。その時は誰かを頼ってみます」

「うん、それじゃ放課後」

「はいっ! 行ってきます!」

 

 ペコッと頭を下げると、そのまま職員室のある教室棟へ。

 

「さて、と……」

 

 明日香と別れて、俺は正門へ向かって振り向いてみると、各務先生と目が合い、その口元は面白いものを見たとでも言うように笑っていた。

 

 嫌な予感を感じる。

 具体的によく分からないが、あの人はたまに俺を追い詰めて楽しむ節があるからだ。

 余計なことしないでくださいよ。

 強い意志を込めてアイコンタクトを送るが、薄く笑って返されるだけだった。

 結局俺はモヤモヤとした感情を抱きながら、教室へ足を運ぶことになった。

 

「大丈夫だ。ああ見えて各務先生は理不尽なことをさせない人だ。何も心配することはない」

 

 自分に言い聞かせながら、教室へ入ると自分の席について息をつく。

 

「ねぇ、さっき手を繋いでたの……誰?」

「……出し抜けだな」

 

 そこへ唐突にクラスメイトが現れた。

 鳶沢みさき。クラスの女子でも呼び捨てにしているのはこいつくらいで、なんだかんだでよく喋る知人以上、友達以下。

 そしてこいつは、こういった唐突な会話の入りを、特に朝方よくやらかす。

 

 朝に弱く、それは毎朝後輩に起こしてもらわないと学校に遅刻するレベルの重症だ。

 だが、今日はひと味違った。

 

 剣呑そうな表情で、その瞳の奥には確かな理性を宿して射抜いてくる。

 もはや朝と昼で別人のように成り果てていることが慣れているため、朝方でここまで低血圧でない姿は、逆に「誰だ」と思わせるほど ……なんというか怖かった。

 

「よく見えてたな」

「そりゃ見えますよ。真白とふたりで後ろにいたからね」

「えっ!?」

 

 なにそれ怖い。

 もしかして抱きつかれていたところも見られたのか? 

 どうにかはぐらかしたいと思案するが、それは許されなかった。

 

「それでぇ……あの子、誰?」

 

 その笑顔には心なしか威圧感すら放ってくるみさきに、俺はとうとう屈して、全て吐かされる。

 尋問は、ホームルームが始まるまで続いた。




お久しぶりです。
沢山の(?)アンケート回答ありがとうございます。
この作品に求める需要を見て真顔になった作者です。
あらすじ的に修羅場一強かなと思えば、真逆を行きましたね。
そんな需要に応えるために遅れましたと嘯いてみます。
とりあえず、期待に添えるよう頑張ります。

そして今気づいたんですけど、お気に入り20件達成してました。
そしてありがたいことに感想まで。
ありがとうございます!


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詰めの甘さ

コメントありがとう。
まさかまだ読んでくれているなんて思わず、というか作品自体ほぼ忘れかけていた作者です。
設定厨っぽいところがあるのでネタはたくさん思い付いたんですがプロットの進展一切なし。
一人で満足してました。ごめんなさい。
というわけで2時間ほど頑張ってアプリを開きながら書きました。
短いです。



 あの後、みさきからの尋問を先生がやってくるまでなんとか乗り切り、ホームルームで呼び出しを受けた。

 そして放課後。

 

「晶也ー! 放課後だよっ放課後!」

「……知ってるよ」

「あー、やっと、今日がはじまるんだー。何しようか何食べようか無限の可能性が私を襲うよ!」

 

 割と心配になってくる朝とのテンションの差はこの一年でだいぶ慣れていた。高校へ上がるまでは昼からしか会ったことがなかったので知った時には驚きが強かったが、もうすでにそういうモノなんだと考えている。

 

「もー、みさきの豹変っぷりは相変わらずすごいよねー。友達やってて心配になるレベルだもの」

「青柳もそう思ってたのか?」

「思う思う。最初はこの子絶対、午前と午後で双子が入れ替わってると思ったもん」

 

 絶妙な表現だった。

 それにしても知らなかった。

 クラス委員をしているみさきの友達で部長の妹。よくマネージャーとして高い能力を見せる一方で愉快な一面をもつ、こちらはまともな人間である。

 他人についてどう思うかなんて話は意外としてこなかったので新鮮に感じたけど、そういえば部活のこと以外で話すことは少なかった。

 

「人を心の病気みたいに言わないでよね。私は自分にしょーじきに生きてるだけだよ?」

「ほんと羨ましい性格だな」

「うん、わかる」

「あはは、晶也ってばめんどくさい性格だもんねー」

「……めんどくさい男でごめんなさい」

 

 若干、拗ねた声が出ていた。

 みさきが言いたいことは分かっている。

 何せ、俺は自分の我儘にみさきを突き合わせているようなものだった。

 その我儘について文句の一つ二つあっても、それは受け入れなければならない。

 

「あはは、ごめんごめん。そんなつもりなかったんだって。お詫びにうどん奢るからさー」

「いいよ別に、この後用事があるし」

「今日は休養日だよ、日向くん?」

「部活とは別件で先生に呼び出されたんだ」

 

 嘘である。

 呼び出されたのは昼休みのことだ。

 そこで俺のグラシュの公認指導員としての資格についての相談になったが、頼まれるまでもなかったということで解決している。

 ならなぜ嘘をついたかと言えば、明日香との約束があるからだ。

 空を飛ぶ練習をみると約束している。

 あまり長く待たせると先走って練習を始めないか心配だった。

 

「じゃあなみさき、青柳。また明日」

 

 

 

「……タイミング悪いなー、もー」

「あはは、みさき、日向くんをデートに誘うの失敗しちゃったね」

「……失敗してないし」

 

 

 

 €€€€€≡

 

 

 

「あっ」

「っと」

 

 教室を出たところで、女の子とぶつかりそうになった。

 見覚えがあるツインテールだった。

 

「ごめん、大丈夫?」

「いえ、こちらこそ不注意ですみません。……って晶也先輩?」

「悪かったな有坂」

「あ、いえいえそんな」

 

 ふたりしてひとしきり恐縮し合う。

 

「有坂は今日もみさきを迎えに来たんだよな」

「はいっ、もちろんです!」

 

 もちろんの意味が分からないが深く関わらないが吉だ。

 

「みさき、呼ぼうか?」

「ありがとうございます。助かりますっ」

 

 有坂はこうして人当たりはいいのだが、どうも人見知りのきらいがあった。

 なんとなく放っておけない気がしてお節介だとは思いつつも、こうして助けようとする。困ったことに、嬉しそうにするものだからなかなか止められないでいた。

 

「おーい、みさきー」

 

 俺は教室の中のみさきに、真白の存在を教えると、

 

「じゃ、俺はこれで」

「あれ、今日はご一緒されないんですか?」

「ああ、先生に呼び出されたんだ」

「そうですか。ありがとうございました、晶也先輩。また明日お会いしましょう」

「ん、また明日。それじゃ」

 

 元気に見送ってくれる後輩を背に、俺はその場をあとにした。

 

 

 

 

 £≡

 

 

 

 

「おーまたせー」

「みさき先輩っ! んぎゅーっ!」

「いやいや、そんなにくっついてこなくていいよ真白ちゃん」

「ってあれ、晶也はもう行っちゃった?」

「はい、あちらへ。もう行っちゃいました」

「……職員室と反対方向に?」

「え……?」

 

 

「……まさかーー例の手繋ぎちゃんか」

 

 

 




青柳窓果LV10
原作でも最初から最終形態だったスーパーヒロイン。
ヒロインにはなれない。


有坂真白LV10
前年の中等部全国一位の実績をもつ。
真白曰く、身体が飛び方を知っていた。
市ノ瀬莉佳とすでに友人。実力も拮抗している。
原作でハーレムを作ろうとした猛者。


ところで知ってますか?
spriteが復活しますよ?
ツヴァイの可能性ありますよ?
シナリオライターを中心に人材募集をかけているそうです。
詳しくわ公式Twitterをチェックしてください。リンクはつけません。


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フレンドシップ

【Zwei】の情報をもっといろんな人に知ってもらってみんなで応援したいですが、あまり過剰にやりすぎるのはハーメルンに迷惑なので今日かぎりであらすじ欄でのみ、ひっそりと情報を載せておこうかと思います。

それはそうとコメントありがとう。
煽てられたので本日二話目の投稿です。


「びっくりしました。まさかまーちゃんが、コーチの名人だったなんて、わたし知らなかったです!」

 

 明日香は目をキラキラさせていた。

 確かに、明日香が知っているとすれば選手としての日向晶也だろう。

 それもだいぶ昔に活躍しているだけでここ最近は特にこれと言って目立った覚えはない。一部の掲示板やブログなどで去年の秋季大会、準優勝したみさきのセコンドをしていた俺を何者だと盛り上がっていたが生憎と名前を出していたのはみさきのみだったので特定されるには至らなかった。昔と今の俺を結びつけるのは難しいだろう。

 

 それに選手とコーチの能力はイコールではないので、明日香の反応も分からないわけではない。

 

「名人とかじゃないよ、慣れてるってだけで」

「そうなんですか? でもすごいです! すごすぎますっ!」

 

 明日香はいろいろなハードルの基準が低いみたいだ。

 

「久奈浜で生活するには、グラシュの扱いをマスターするのがとても重要だと聞きました」

 

 そういえば、公認指導員の話を持ちかけてきたのは先生だった。

 ということは明日香はクラスメイトになる確率が高くて、この話をしたのも先生だろう。

 ……あの人、余計なこと言ってないよな。

 

「なので、頑張って覚えますので、ご指導よろしくお願いしますっ!」

 

 長い髪ごと、ふぁさっとお辞儀をした。

 き、気の入りようが凄い。

 

「う、うん。俺に教えられることなら」

 

 まぁ、あれだけ興味を持っていたんだ。

 この食いつきようは当然でもあった。

 

「じゃあ、グラシュの基礎知識から教えていきます」

「はい、コーチ!」

 

 こうして今後定期的に開かれることになる俺と明日香の講習が始まった。

 

 

 

 

 £≡

 

 

 

 

「よし、基礎知識はここまでにして、それじゃ今度は実際に飛ぶ練習をしようか」

「待ってました、コーチ!」

「詳しい歴史についてはまた今度な」

「うっ……!」

「調子いいなぁ、もう」

 

 というわけで俺は明日香の横に回ると、シューズの踵にあるスイッチを入れた。スカートだと意識したかもしれないので、動きやすい服装にしてくれてありがたい。

 

「そういえばそのジャージって」

「前の高校の時の体操着です」

「へぇ」

「今も連絡を取り合ってる友達と交換したモノなんです」

「交換? 体操着を?」

「はい、お別れの時は色々と交換するみたいで、お友達といっぱい交換しました」

「お気に入りのマグカップとか、ハンカチとか、制服のボタンやシャツだったり、……あっ、でもこの髪飾りはちゃんと断りました。まーちゃんとの大切な思い出だったので」

 

 ……いい話なんだろうけど、明日香のお友達がちょっと怖い。

 本土では当たり前なのか? とりあえずこの話題は封印しておこう。

 

「……よし! じゃあ起動したからまずはさっきやったみたいに足を前後に軽く開いてみて」

「さっきと同じように……ですね」

「うん、そのまま、バランスを保ちつつ、軽くでいいから両足の踵を浮かせて」

「はいっ」

「よし、じゃあ後は自分のタイミングで、シューズに命令を出せばゆっくりと浮き上がるよ」

「え、ス、スピードとか大丈夫ですか、急に早くなったりとか」

「車と一緒で、最初はゆっくりだから、その心配はないよ」

「わ、わかりました!」

 

 明日香は深呼吸して姿勢を整えると、

 

「い、いっせーのーでー……」

 

 身体をキュッと上へと伸ばし、

 

「FLY!!!」

 

 ブゥンと機械音が微かに響き、ピインと涼やかな起動音と共に、明日香のグラシュに羽のオブジェが生えた。

 

 

「わぁ……す、すごい……」

 

 そして、ゆっくりと、その身体が宙へと浮かび始めた。

 

「う、浮きました、動きました!! や、やったっ、わたし、飛んでます、飛んでますよっ!」

 

 よほど嬉しかったのか、プールではしゃぐ小さな子のように、こちらに向けて手を振り回している。

 手をバタバタさせて見ていて微笑ましい光景だ。

 だが、そんな時間も長くはなかった。

 

「わ、わわわっ、きゅ、急にバランスがぁ……!?」

 

 明日香の身体がガクガクとプレはじめた。

 手足をバタつかせ、やがて明日香の身体は仰向けになり、そして。

 

「きゃああ、おっ、落ち、落ち、落ちます〜っ!!」

 

 そのまま、スピードを落としつつ、お尻から地面へと落下したのだった。

 

 

 

 

 

 £≡

 

 

 

 

 ふとスマホを取り出した。

 電源をつけて時間を確認。

 気がつけばもう夕方の5時を回っていて、あたりもそろそろ暗くなろうとしていた。

 そのままカメラを開いて、ビデオに切り替える。

 フレームに映すのは今日、再会した十年来のメル友である明日香だ。

 

 録画スタート。

 

「きゃあ、きゃああ、落ちる、落ちる〜!」

 

 明日香は地面に落下してもなお、両手でもがき、両足をバタバタさせていた。あたかも陸に揚げられた(トビウオ)のような姿だが、美少女は何をしても美少女だった。

 

「落ち……って、あ、あれ?」

 

 録画ストップ。

 スマホをしまい、尻餅をついたままの明日香に手を差し伸べる。

 

「いつの間にか地面に降りてただろ? これもグラシュの機能のひとつなんだよ」

 

 掴んだ手を持ち上げ、よいしょと立ち上がらせた。 

 

「さて、今日はこのあたりにしておこうか」

「まーちゃん今、何か撮ってましたよねっ!?」

「気のせいじゃないか?」

「ピコンって聞こえました!」

「ドウドウ。落ち着け明日香。あまり帰りが遅いと親も心配するんじゃないのか?」

「うぅうう、後で絶対に消してくださいね。……親にはまーちゃんと練習してくるって言ってあるのでまだ大丈夫です」

「……」

 

 俺は無言で首を縦に振り、頷きながら思った。

 もしかしてそれって、親もまーちゃんが女の子だと思っているんじゃないでしょうか、と。

 

「だから、その……」

 

 もじもじと、恥じらうようにして、上目遣いで明日香は言った。

 

「も、もう少しだけ、練習を手伝ってください」

「いいよ、もう少しだけやろうか」

 

 我ながら即答とはちょろいものだ。

 でも、それだけの価値があると、胸の内から湧き上がる思いが告げている。

 

 ただ、それだけ。

 

「ありがとうっ、まーちゃん!」

 

 その一言が、なによりも俺を狂わせる。

 

 

 ーーだからキミの笑顔は愛おしい、なんて。

 

 

 なにが「だから」なのか、俺は知らない。

 




日向晶也LV1
思春期。女子人気が高いが遠巻きに見られることが多いので色恋に耐性がない。普通に話せる異性の友達は、だいたいフライングサーカスが絡んだ話題なので大丈夫。悪友を名乗るみさきとだいたい一緒にいることも原因。

倉科明日香LV1
無自覚に百合ハーレムを作り上げ、転校する際には泣いて、謎のお別れの交換会をした。もらい泣きである。
原作ではただの講習会だったのに対して、今作ではプライベートレッスンのため成長加速フラグが立つ。



頑張ってみさきと真白のシーンを抜いて話題を追加。
原作改変ですがバタフライエフェクトが決定的になりそうなのは大会が始まる頃です。つまり共通ルートはだいたい同じ内容になるので、ご注意ください。
該当シーンと見比べると如何に原作が素晴らしいか理解できます。


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エターナルフォースブリザード

いつの間にかお気に入り80件超えてました。
コメントも含めてありがとうの投稿です。



「送ってかなくて大丈夫か?」

「はい、家はすぐそこですし、こんな時間まで付き合ってもらいましたから」

「遠慮しなくていいのに」

「そこは、あれです。親しき仲にも礼儀あり、というやつです」

 

 砂浜から家の近くの停留所まで、練習もかねて今朝と同じように手繋ぎで帰ってきた。

 明日香の家は反対側へ向かうものの、それほど遠いわけではない。

 男の子としては送っていきたいと思ってしまうが、明日香は別にいいと断っている。流石に、ただの友達がそこまでしゃしゃり出るのも何か違うだろう。

 

 そういうわけで明日の朝、一緒に登校するために待ち合わせの約束をして今日のところは解散することになった。

 

「それじゃ、おやすみなさいコーチ」

「コーチ呼びが抜けてないぞ、明日香」

「あはは、本当ですね。うっかり他の人がいる前で言わないように気をつけないと」

「確かに、人前でコーチって呼ばれたら気恥ずかしいから、できれば二人きりの時だけにしてくれると助かるよ」

「はい、分かりました! 二人だけの秘密ですね!」

 

 明日香は急にウキウキとし出した。秘密が大好きなんだろうか。こんな子どもっぽいところを見つけるたびに昔のことを思い出す。

 気弱でおとなしい、まさにか弱い女の子そのものだった姿は、今の明日香からは想像できないだろう。

 俺も変わってしまった自覚があるが、それと同じくらい明日香も変わっている。

 

「それじゃ、また明日。気をつけてな」

「はい!」

 

 たーのしみっ、たーのしみー、と明日香は、本当に楽しみな様子で、ぴょんぴょん飛び跳ねるように帰っていった。

 

「早く、うまく飛べるようになればいいな」

 

 去っていく明日香を見ながら、祈った。

 どうか、彼女は俺と同じ道を歩みませんように。

 

 

 楽しい気持ちを、忘れませんように。

 

 

 

 

 £≡

 

 

 

 

 今日は部活がないことを事前に知らせていたが、遅くに帰宅したことを親は特に気にもせず、おかえりー、と迎えてくれた。

 ただいま、と一言だけ返して二階の自室へ向かう。

 本土ではARを進化させたMRというものが流行っているらしく、それを聞きつけた母さんが取り寄せたデバイスが、階段を登ろうとしたところで鳴った。

 機械に弱めの母さんは、最新のアプリを扱えることが嬉しいらしく、家の中で意味もなく通話を求めてくる。

 四島で他にMRを使っている人は居ないからな。

 

 どうせならさっき直接言えばと思ったが、これに付き合うくらい安い親孝行だ。

 

 あたかも、宙へ浮かんでいるように見える着信マークをタップする。

 

「もしもし」

『そうそう、晶也、お隣さん今日引っ越してきたから」

「えっ、ついにお隣誰か引っ越してきたの?」

 

 驚いた。二年前から空き家だったお隣だ。誰か住み始めるような気配がなかったのでいきなりだとは思うけど、そうとなれば隣の家に向かう窓のカーテンは閉めておかないといけない。

 

「昼間、業者さんが家具運び込んでいたからね。家主さんとはまだご挨拶できてないんだけど、その家の子がおソバを持って来てくれてね。晶也と同じ年くらいのしっかりした子で可愛いかったわよ。やったわね」

「……へぇ、そうなんだ」

 

 通話中のアイコンをはじく。母さんの冗談はさておき。

 引っ越しで俺と年の近い子ならこっちに転校してくることになる。明日香もそうだけど4月も半ばの中途半端な時期に転校生って、俺だったら耐えられそうにない。

 

「困ったことがあれば助けてあげないとな……」

 

 自室の扉を開けて入ると、外から光が入っていた。

 おそらく、お隣さんはこの部屋の存在を忘れているのだろう。

 気まずいなぁとは思いながら、せめて一言だけ挨拶しようと思い至ったところで、フリーズ。

 

「え」

「へ?」

 

 まるで時間停止の魔法にかけられたように、二人して微動だにせず、そのままの体勢を維持し続けていた。

 視線が縫い付けられたようにお互いの顔を見つめ合う。

 

「………………」

「………………」

 

 一言、挨拶するつもりだった。

 こんばんは、と一言だけ言ってカーテン閉める。

 たったそれだけのはずだったのに、目に映る光景の衝撃に、頭が一瞬真っ白になって混乱する。

 

「ど、どうも……」

 

 なんで、目を逸らすだとか、後ろを向くだとかしなくて声をかけたんだろう。

 やがて、破裂寸前の何かから溢れ出した声とともに、

 

「……………きっ、……」

 

 決壊した。

 

 

「きゃああああああああああぁぁぁあああ!?」

「うわああああああああああぁぁぁあああ!?」

 

 

 俺も釣られて悲鳴をハモらせる。

 彼女の悲鳴が窓越しでも大きかったのもあるが、目のやり場のないあられもない姿に、覚えのない感情が止められなかった。

 

「わ、悪い! すぐにカーテン閉めるから!」

「ヤだ、来ないで! 近寄らないでください!」

「いや、そういうつもりじゃなくてっ」

 

 不慮の事故なのに、まるで変質者になった気分だ。

 このままじゃ拉致があかない。

 

「っていうかそっちがカーテンを閉めれば……」

 

「あ」

 

 ちょっと間抜けな声を残して、シャッとカーテンが引かれる。

 続いて俺もカーテンを引き、目に毒な光景が遮られた。

 

「はぁ……」

 

 ようやく息をつく。けど、見てはいけなかったものを見てしまった感覚が消えてくれない。

 今のはちゃんと事故だって分かってくれるのか?

 最初から印象が最悪だなぁ、これは。

 こんなはずじゃなかったのに。

 

 

 

 結局、その日は謝罪も弁解もさせてもらえる機会は訪れなかった。

 

 

 

 

 £≡

 

 

 

 

「顔赤いし、さっき大声で叫んでたけど、何かあったの?」

「なっ、何でもないから!」

 

 




日向晶也LV1
生まれて初めて同じ年頃の女の子の際どい姿を見た。たまに見る初恋の子のエッチな夢より興奮して小一時間ほど顔が真っ赤になっていた純情少年。事故の親バレはなんとか防ぐ。

市ノ瀬莉佳LV5
みんな大好きなヒロインみたいなヒロイン。ラッキースケベに愛されし者。
去年の全国大会準決勝、真白に惜敗するも、その能力の高さを知らしめた。
人気が低いのは……偶然、かもしれない、かもしれなくもないかもしれない。
因みに作者のストーリー攻略順序は莉佳→真白→みさき→明日香。
他意はない。

アンケートは満場一致の作られるようですね。
詳しくは公式Twitterを見ろ!


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間違え少年と集結フォーリズム

感想ありがとう!
砂糖院さんまで一気に駆け抜けられるんじゃないか?
そう思って失速した原因の一部置いときます。



 昔から間の悪い子だと周りから言われ続けて来た。

 中でも一番間が悪かったのは、みさきとの出会いだった。

 たまたま、いつものように砂浜の上空で練習していたら、当時初心者だったみさきと出会った。

 そして世界大会を目前に控えていた時期にーー初めて挫折を知った。

 今なお悪夢として忘れられない出来事だ。

 

 だが、昨日のアレはもっと危険だった。

 下手すれば俺は死んでいた。

 社会的に。

 

 だとすれば今日のこれは、たいそう間が悪いと言えるもので……。

 

「行ってきます」

「行ってきます」

 

 同じタイミングで家を出る。

 お隣さん同士、それは知らんぷりできる距離でもなく、

 

「「あ」」

 

 俺と彼女は、互いに視線を結びつけた。

 

 

 

 

 

 £≡

 

 

 

 

 

 俺も明日香との待ち合わせがあり、彼女も登校するため立ち話しているわけにもいかず、同じ停留所を目指して並んで歩く。

 

「あ、あのさ」

「っ!」

 

 警戒マックスだった。

 話しかけると彼女は身を硬らせ半歩距離をとってくる。

 さりげないだけに、心の傷は深くなる。

 

 だが、それも仕方のないことだ。

 俺が加害者かどうか話し合う余地があっても、彼女は間違いなく被害者だった。怖がるのも無理はない。むしろこうして並んで歩いてくれるだけ優しいまであった。

 

 とりあえず昨日のことは全力で謝っておこう。

 

「その、昨日はごめん」

「い、いえ、昨日のことは私も、不注意で……」

 

 どうやら、あれから色々と考えていたのは一緒みたいだ。

 絶対に許さない! なんて言われたらどうしようもなかったので、落とし所を作ってくれたのには感謝しかない。

 まぁ、気まずさは残るわけだが……。

 

「そ、そうだ、自己紹介がまだでしたね」

 

 沈黙を破ったのは彼女だった。

 この空気に耐えられなかったのだろう。昨日の羞恥を投げ出して、意地でも明るくしようと頑張ってくれている。

 笑顔が引き立っているのを見れば一目瞭然だ。

 

「そ、そういえばそうだな。昨日、家に来てくれたみたいだけど俺は居なかったし」

 

 もしその場にいれば、こじれずにすんだのだろうか。

 そんなイフなんて考えても仕方ないのでなんとか話題をつなげるために思考を割く。

 

「俺は日向晶也。久奈浜学院の二年です。これからお隣同士よろしくお願いします」

「ご丁寧にありがとうございます。私は、市ノ瀬莉佳っていいます。先週から高藤に転校することになって、本土からやって来ました。一年生なので日向さんは先輩ですね。こちらこそよろしくお願いします」

「ああ、その制服やっぱり……だから家を出るの早いのか」

「そういう日向さんも早いですよね。私の方が遠いと思うのですが……?」

「俺は友達と待ち合わせしてるんだ」

「なるほど。いいですねー、そういうの。私も昔は友達といつも一緒だったんですが、その子が転校してからはいつも一人で。……一応、中学のときの友達がこの辺りに住んでるみたいなんですが、生憎と別方向みたいで……」

 お互い緊張も解れてきた、と思う。

 自然な会話の流れで、話題はいつの間にか移ろっていく。

 

「四島でうどんといえば、ましろうどんだな」

「あっ、知ってます。実はわたしの……中学のときに知り合った方の友達なんですが、彼女の家がそこでして。今度の休みに遊びに行く予定なんです」

「え、有坂と知り合いなのか?」

「はい。ということは日向さんも真白と顔見知りなんですか? なんだか、思ってたより世間って狭いんですね」

「四島が狭いっていうのもあるだろうけどな」

 

 外を歩けば見知った顔ばかり。

 そのため近所付き合いなど横の繋がりが深い。

 俺もあまり交友関係は広くない方だけど、それでも四島にある各校に一人は必ず知り合いがいる。まぁ、チャットで知り合っただけの顔も名前も知らない知り合いだけど。

 

「あっ、おーい! まぁーちゃーん! おはようございまーすっ!」

 

 しばらくして停留所へ着いた。

 元気に大手を振って出迎えてくれる明日香を見て、自然と笑みが溢れてくる。

 

「あの方が日向さんのお友達さんですか?」

「ああ、あの子も丁度転校してきたばかりで、もし良かったら紹介するよ」

「……そうなんですね。でしたらお願いします」

 

 あれ? 今のって笑ってる顔だったよな?

 心なしか威圧感すらある。

 この表情はよく知っている。みさきがたまに向けてくるから。

 

 でも、みさきの場合はFCの話題だけを続けていると勉強嫌いが転じて出てくるのだが、いかんせん、市ノ瀬さんとの付き合いは短いからどう言った意思表示なのか分からない。

 

 ……考えていても仕方がない、か。

 

「あれ、まーちゃん、その子は?」

 

 とてとて、と近づいてきた明日香は不思議そうに首を傾げた。

 

「紹介するよ。昨日、家の隣に引っ越してきた市ノ瀬さん」

「はじめまして。市ノ瀬莉佳って言います」

「で、こっちが俺の友達の倉科明日香」

「こちらこそはじめまして。倉科明日香です」

 

 両方を仲介する立場として、どちらも若干ぎこちなさを感じるけど波長は合うんだろうなと予想している。どっちも丁寧な言葉を使うし、何より可愛い。

 四島へ来たばかりで頼る人が少ない身同士で仲良くなれるはずだ。

 

「それにしても、友達って言ってたのに、ガールフレンドだとは思いませんでした。彼女さんだったんですね?」

「はわわっ!?」

「こら、あまりからかうなって。明日香がおもしろい動きになっちゃっただろ」

「……ということは、彼女さんじゃないと?」

「違う違う、俺と明日香はそんな関係ーー」

 

 ふと、脳裏に過ぎった、昨日の笑顔を思い出して顔が熱くなる。

 あのときは一瞬だったけど、俺を救ってくれる未来が見えたような気がした。それがどうしても、信じられなくて……何より、可愛いよりも愛おしいという感情が出てきたことに羞恥してしまった。

 

 俺と明日香は、メル友だ。

 昔、よく遊んで、しばらく離れ離れになって。

 それでも、繋がり続けようとした……大切な関係。

 なのに、おこがましいだろう。

 ただ、友達というだけの関係なのに。

 好きすら伝えていないのに、愛おしいなんて絶対に間違っている。

 

「俺と明日香は、友達だよ」

「すごく長い葛藤があったように見えましたけど」

「冗談でも彼女だって自慢したら、俺と明日香の関係が壊れちゃうからな!」

「ま、まーちゃんが壊れた」

 

 明日香が近寄ってきて心配そうに顔を覗き込んでくる。

 女の子の甘い匂いが鼻をくすぐった。

 

「ふふ、仲がいいんですね」

「それはもう、友達を超えた存在だからな」

「え、もしかしてそれって」

「まーちゃん……」

 

 頬を染めてもじもじする明日香がまた可愛い。

 そして、微笑ましそうに俺を見てくる一つ年下の少女が視界に入って、なんだか、表現し難い感情に襲われた。もにょる?

 まぁ、どうでもいい。

 今のテンションが振り切った俺を止める術はない。

 

「そう、俺と明日香は友達以じょーー」

「へぇ、晶也くんは朝から女の子二人も侍らせていいご身分ですなぁ」

 

 時が止まる。

 驚きだとかそんなんじゃなくて、テンションが振り切った俺を曝け出すことを自重する。冷や水を浴びたように思考がクリアになって、いつもの調子を取り戻す。

 

「どうしたんだ、みさき。それに有坂。こんなところで朝練か?」

 

 みさきは笑っていた。

 

「まさか。ただ、ちょっと早く目が覚めたから一緒に登校でもしようかなって」

「そうです! みさき先輩すごいんですよ! いつもならわたしが起こしに行くまで全く起きる気配がさらさらないのに今日は嵐でもくるのか身支度全部終わっていて、少しションボリです」

「ちょいと真白ちゃん? 愛しの先輩のこと少し誤解してない?」

「誤解なんですか?」

「うぐっ……じ、事実だけど」

 

 久々に真白にやり込められているみさきを見て思った。

 

 相変わらず、間が悪い。

 




もはや晶也くんの間違えが、勘違い展開を引き起こす。
「友達を超えた関係とは?」

日向晶也LV1
「俺たちは友達以上の親友/メル友だ!」

明日香視点
「俺たちはまだ友達の関係だけど、もう先へ進んでもいいんじゃないか?」

莉佳視点
「俺たちはまだ友達以上恋人未満の関係だ」


共通ルート中ですがまずは明日香ルート解放(明日香の思い込み)
これを防ぐにはみさきちゃんがもう数秒声をかけるのを遅らせなければならなかった。当の本人は一刻もはやく声をかけなければと思っていたけど。

次回は部活です。


それはそうと遅れましたがextra2決定ヤッホイ!
晶也くんのオレツエーが原作で見られると思うと期待が抑えられません。
……オレツエーあるよね?


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ナイストゥーミートゥー○NEW

やあ、待った?(約二年ぶり)


「あの、まーちゃん、この方たちは?」

 

 きょとんとした顔で明日香が質問してくる。

 気にするなと言いたいところだが、それよりも早くみさきが降りてきて明日香の目の前に降り立った。

 

「はじめましてー、うちの晶也がお世話になってまーす!」

「おい、だから降りるなら停留所に……」

 

 だめだ、聞く耳を持っちゃいない。

 なぜかみさきが明日香に興味津々そうに、戸惑う彼女の周りをぐるりと回って身だしなみチェックをしている。

 

 その隣では、有坂と市ノ瀬さんが両手を絡ませてぴょんぴょんと飛び跳ねて旧交を温めていた。

 

「えっ、うそ。まさかこんなとこで会うなんて思わなかった」

「こっちこそだよ。ひさしぶりだね真白」

「うん、ひさしぶり、莉佳!」

 

 だいぶ微笑ましい雰囲気で、後輩組は安心して見られる。

 だと言うのに一方で、明日香とみさきの対面には謎の緊張感が強いられた。

 

「ふむふむ、なるほど、こういうタイプもあるのか」

「あ、あの……まーちゃん……っ」

 

 まじまじと観察する目についに耐えられなくなった明日香が情けない声で助けを求めてきたので首の後ろの襟を掴んでみさきを引き剥がす。

 

「およ?」

「やめろ。明日香が怖がってるだろ」

「にゃーん」

「…………はぁ」

 

 猫の真似をして誤魔化そうとするみさきに思わずため息が出る。こいつの調子に合わせたら、話が一つも進まないだろう。

 

「こいつの名前は鳶沢みさき。一応クラスメイトだ」

「わっ、人の自己紹介かってに取らないでよぉ。昨日からどう挨拶しようか考えてきてたのにー。てか一応って、いる?」

「はいはーい! わたしは有坂真白ですっ、みさき先輩の配下というか、しもべというか、そんな感じでよろしくです!」

 

 みさきが不満そうにしている横に有坂が飛びつく。

 明日香はようやく名前を知れた二人に対して、居住まいを正すと、ぺこりと頭を下げて挨拶を返した。

 

「鳶沢、さん? ……あっ、名乗るのが遅れました。倉科明日香です。まーちゃんとは幼馴染で、本土から引っ越ししてきたばかりです。これから久奈浜学院に通うことになってます。よろしくお願いします!」

「おいそこツインテール、どこに笑う要素があるのか言ってみろ」

「ま、まーちゃん……ぷふっ」

 

 クソガキめ……。いや、有坂は構ったら喜ぶやつだ。大人になってこれ以上の追及はよそう。

 俺と有坂のやりとりで少しの時間が空けられてから、何か裏のありそうな笑顔のみさきが、うんっ、と頷いてから手を伸ばした。

 

「改めまして、晶也と同じクラスの鳶沢みさきです! 常にお腹を空かせたキュートな女子高生で、うどんとお菓子をくれたらどこでもついて行きまーす。気軽にみさきって呼んでね?」

「……はい、みさきちゃん。わたしのことも明日香って呼んでもらえたら嬉しいです!」

「うん、よろしくねー、明日香」

 

 おそらくみさきが考えていたという自己紹介の痛々しさに、思わず空を仰いだ。それでいいのかと思いつつも、明日香がみさきに伸ばされた手に応えて握手を交わしたのを見て、当人同士がそれでいいなら口を挟むべきでは無いのだろうと結論付ける。

 

「あ、わたしは真白でもましろんでもお好きなように呼んでください、明日香センパイ!」

「はい、真白ちゃんって呼ばせてもらいますね」

 

 真白と明日香の呼び方が決まったあと、見守っていた市ノ瀬さんが前に出て声をかけてくる。

 

「日向さん、もうそろそろ学校へ向かわないとなんで、お先に失礼しますね」

「ああ、悪かったな、なんか巻き込んだみたいで」

「いえいえ、日向さんがプレイボーイなのは今日お話しした瞬間からビビビっと来てましたから」

 

 まだ警戒されてるのか?

 ……いや、少し笑った感じ……揶揄っているのか。

 朝から同じ学校の女生徒三人にかこまれていたら言い訳のしようがない。別にそんな関係では無いのだが、市ノ瀬さんから見れば変わらないんだろうけど。

 誤解であることは承知だろうし、これぐらいの距離感なら気まずさもなくて済むからありがたい。

 

「じゃあね、真白。また時間ができたら遊びに行くから」

「うん、美味しいうどん食べさせてあげるから絶対来てね!」

 

 少し離れた先にある停留所へ向かった市ノ瀬さんは姿勢の良い体勢でグラシュを起動させて空へ舞った。行き先は俺たちと反対の福留島方面だ。

 

「はぁ……すごく綺麗です」

「ああ、驚いた。基本に忠実でブレがひとつも感じられない」

 

 上昇角も、そこから水平方向へ切り替える滑らかさも、どれひとつ見ても完璧に完成されている。

 

「すごい綺麗なフォームですよね? 莉佳って全国大会でも優勝候補の一角だったんですよ」

「なるほど。有坂が知り合ったのは全国大会ってことか。ならFCをやってる選手だったんだな」

「はい!」

 

 元気よく、有坂は頷いた。

 

「……勝てる自信はあるのか?」

 

 昨年、中学生の部、夏の全国大会。

 その栄冠を手にした久奈浜の“暴れ姫”は、遠くなっていく市ノ瀬さんの背中を見送りながら口元を笑わせた。

 

「負ける気がしないです!」

 

 

 

 

 

£≡

 

 

 

 

「えふ、しー……」

 

 ――思い出してください。

 

「ん……?」

「あの、みさきちゃん」

「どうしたの?」

 

 ふと頭を過ぎたのは、日が落ちかけたオレンジ色の空の光景。

 夕方の柔らかな光の中で、二人とも夢中になって、一心に飛び続けた……記憶にない記憶。

 

 この久奈浜へ来てからまだ見ていない、幼馴染(日向晶也)の陰ひとつない笑顔が、そこにあった。

 

「FCってなんですか?」

 




感想ありがとう!ちゃんと全部目を通してます。続きを書けたのも、感想を見て気分が上がったのでそのおかげもあると思います。まじて感謝!

砂糖院さんについては触れないであげてください。
うちでは佐藤印の砂糖を売りにするお嬢様に改変されているんです(震え声)
俺たちの佐藤くんとはまた別の存在なので許してください。


以下ネタ

日向晶也LV1のもつイメージ
明日香←世界一かわいいかもしれない、胸がデカくなってる……、親友、幼馴染、無防備、
みさき←トラウマ、美人、中学からの悪友、うどん星人、胸がデカい、頭良い、存在が理不尽
真白 ←FCの天才、ツインテール、生意気、クソガキ、構ってちゃん、貧乳、レズ、陰気、ゲーマー
莉佳 ←育ち良さそう、隣人、家庭的、胸はそこそこ、ザ・後輩、なんだか怖い

おまけ(挿入する場所に迷ったので逆に挿入しなかった会話)

「で、なんで晶也センパイは莉佳と一緒にいたんですか?」
「……ジト目で睨むな。今日はばったり会っただけで家がお隣さんなんだよ」
「え? ギャルゲの主人公にでもなるつもりなんですか?」
メメタァ


余談

extra2 面白かった!
みんなその後二次創作を漁ったんでしょうね。久々に感想がきてたのでみんな考えることは同じなんだなって思いました。もちろん僕も漁りましたとも。漁るほど作品がなくて満たされなかったんですけどね……orz
あおかな虹増えろ(切実)
結局は自分で供給するのが手っ取り早いので、久々にアプリを開いて文体や表現を取り込む作業をしてヒロインたちを喋らせることに成功しました。やったぜ!

ここからはネタバレになるんでextra2履修未の方は読まないことを推奨。



履修した感想としては、みさきルートの続きのストーリーと言うわけで+αを予想していたわけですが、すっかり騙されていましたね。
本編完結後のストーリーっていうか、あの最終章の大団円はまだ完結じゃなく、このextra2によってみさきルートがようやく完結されたって感じました。なので当初予想していた+αはextra2のその後なんだよなって。それを期待していただけにできればそこまで本家で作って欲しいけどextra3、4すら出てない以上流石に厳しいだろうし、みなもIFルートや謎に満ちた邪神ちゃんの新シリーズなど新作も控えていて晶也くんの俺tueeを見る機会はおそらくツヴァイがラストチャンスなんじゃないかなと。そこで見られなければ、三年生編や代替わりしてそこで前作主人公枠で暴れてもらうなりしないと厳しそう。本家ではほぼほぼ見られないかもしれないのが普通にショックです。

それはそうと内容は充実のひとことでした。みなもと真白の掛け合いが最後チラッと見れましたし、なんやかんやみさきは二人の後輩とすっごい親密な距離にいるんだなって遅まきに思いました。年下キラーっていうか、年下相手にしている時のみさきの余裕がほんとたまらなく好き。態度がほんと露骨。これが同年代や年上相手なら途端に余裕が消えて一杯一杯になるところとか、そうは見えないけど全力で生きてるんだなって個人的に感想を持ったりして楽しかった。

で、総評としては晶也くんの「自分が誰よりも怪物だって知らしめたい」みたいなこと言ってた復帰への強い思いを知れたり、みさきが今を足掻いている心情の動きやみさきルートに関わったキャラクター一人一人が丁寧に作り込まれていて、生きているように動いているのが鳥肌ものでした。良い買い物だった。
というか本編履修した人はextra2履修しないのはもったいない。みさきルートが一番スポコン要素が丁寧です。確かに挫折ギリギリに立つような闇が隣り合わせにある感覚が息苦しくもあったけど、それが良いっていうか、ただのゲームでここまで心揺さぶってくるのは素直に見事。

結論、買って損なし。おーいみんな、エロゲしようぜ!(ナカジマ)


ps えちシーンであの笑いポイント耐えられた人いますか? あれはspriteからの挑戦状なのでしょうか? 教えてエロい人!


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番外編
砂浜の再会─1/2


冒頭から独白入ります。


 小さかった頃は、無敵だった。

 何にだってなれると思ってたし、だれにだって勝てると思ってたし、どこにだって行けると思っていた。

 この世には無限の可能性が広がっていて、俺はちょっと背伸びするだけで、そこを見ることができた。

 空に、手を伸ばすだけで。

 

 

 小学校に入って、何度目かの夏。

 俺は空を飛ぶための翼を手に入れた。

 これまでは手を伸ばしても掴めなかった空が、やっと、その尻尾をつかめたように思った。

 懸命に走った。空を駆け回って、次へ次へと、進んでいった。

 小さかった頃に見上げた空に、一番近くにいるのが自分だと思っていた。

 

 これがあれば、どこへも行けると。

 誰よりも先に、彼方へ行けると。

 

 ──そう、信じていた。

 

 

 だから、その時が来た時、俺は本当に、何も見えなくなってしまった。

 前に誰もいなかったはずなのに、そこに『誰か』がいた時。

 行けるはずだった彼方が、遠く先へと、霞んで消えてしまった時。

 もうそこには、俺がいる場所が存在しないように思えた。

 

 彼方にあったはずの蒼の世界は、俺のものでは、なくなってしまった。

 

 伸ばした手は空を切り、掴んだ手のひらの中にはちっぽけな可能性しか残らなかった。

 

 

 

 

 

 [圧倒、『天才』日向晶也、最年少世界大会制覇]

 

 だからなんだって言うんだ。みんな知らないだけで、俺より凄いやつがいる。

 勝つ度に増していく期待という名の重圧に苦しめられながら、世界大会で頭の中にあったのは本物の『天才』の飛ぶ姿だった。

 

『凄いな。キミはそういう風に飛ぶんだ。これ、面白いね』

 

 ズブの素人だったはずのそいつは、俺とまったく同じ飛び方でピッタリとくっついてくる。

 同じ場所で飛んでいるのに、同じ競技をしているのに。

 俺は必死なのに、そいつは面白いと言った。

 

 ふざけるな。俺が何年もかけて積み上げてきた技術を奪って、楽しそうにするな。

 楽しくできなくなった俺に、その笑顔を見せるな。

 

 この時、決定的な何かが起こってるんだって思ってた。

 勝つとか負けるとかそんなんじゃなくて……もっと単純で、もっと大切なものにようやく気付いた。

 

『ねっ? ね〜! もっと凄い飛び方して見せてよ」』

 

 俺が持ってかれなかった感情を持ったまま、そいつは飛んでいた。

 歯を食いしばって必死でやって俺はここにいるんだ。

 楽しいって気持ちをどこかに落としてしまってまで、ここにいるんだ。

 

 お前みたいに面白いと言うやつに、一瞬でも、一箇所でも負けたら、俺は──。

 

 振り切ってやるッ! 

 

 そう思って、ギリギリの前傾姿勢で加速した瞬間だった。

 

『……遅いってば』

 

 そう言いながら、そいつは俺を真横から抜き去っていった。

 

『え?』

 

 一瞬、世界が止まった気がした。

 

 蒼の彼方を飛ぶそいつの姿に、未来の俺の姿が重なって見えた。

 今の俺は、未来の俺に負けたのだ。

 俺と言う人間の可能性が、全部、奪われた。

 

 

 ──その才能を前に勝てないと思った。

 

 今はまだ勝てるだろう。でも、明日はもっと飛べるようになっていて、いつかは勝てなくなる。俺でなくても、俺と同じ飛び方ができるやつが勝てるようになる。

 まるで生き地獄だ。

 FCを変える天才とまで呼ばれた日向晶也は、その日、自分が飛ぶ理由を失ったのだ。

 

『もう、いいよ』

『え』

『もう試合はやめだ』

『どうして?』

 

 不満そうにそいつは言った。

 どうしてか? そんなの決まってる、俺の全てが言い訳のしようもないぐらい否定される前に辞めたかったからだ。

 

『これ以上やってもつまんないから。じゃあな、やりたかったらあとは一人でやってろよ』

 

 強がるのが精一杯だった。

 もう、疲れたんだ。

 嫌いになったなんて、絶対に言えない。

 誰よりも好きだったからこそ負けなくなかったし、誰よりも好きだったからこそ、誰よりもFCに愛されていると思いたかった。

 でも、残酷な現実は心を蝕んでいく。

 

 何もかもが、憎く思えた。

 過去の自分が楽しそうに飛んでいる写真が目障りで、部屋に飾られたトロフィーが無性に自分を苛立たせる。

 家に帰った俺は、ただ破壊衝動の赴くがままに、全てなかったことにしようとして──。

 

 翼をくれた人たちが自分のように喜んでくれている写真を見て、目の前が見えなくなった。涙が止まらなかった。

 

 そうだ。俺は期待されたくてFCを始めたわけじゃない。

 順番が違う。

 初めは憧れだった。

 自由に空を駆け回る姿に憧れて、自分も飛べるようになって、期待されたかったのだ。

 

 この時、俺は一つの決断を出した。

 

 もう、楽しく飛べないのなら。

 せめて最後だけは期待に応えよう。

 重くのしかかる期待すらも、この履き慣れた翼で受け止めよう。

 

 心の折れた自分ができる、大切な人たちへの贖い。

 期待されたくて飛んでいたのに、期待してくれたのに翼を折る決意をした俺の、最後の挑戦。

 

 

 ジュニアの世界大会を難なく制覇した。

 俺は心配をかけないために平静を装って、指導してくれた葵さんにFCを止めることを告げる。

 

『晶也……』

『葵さん、俺、自由に空を飛んでみるよ』

 

 トロフィーや賞状はダンボールの中にしまい込んだ。

 試合用のグラッシュも押入れの奥にしまって尚、未だに胸のくすぶりは治らない。

 だけど、かつて本物の天才と戦ったその場所に改めて立ってみると、思った以上に心は落ち着いていた。

 

 たまに吹き付けてくる海風が、横を抜き去っていく光景を思い出させる。

 でも、それも一瞬だけ。

 雲ひとつない蒼の彼方には、なにもない。

 

 考えてみれば、プレッシャーに押しつぶされそうになっていたあの時に全ての力を出せたとは言い切れなかった。全ての技術において負けていたわけでもなかったし、辞めたからこそ、初心者がある時突然急激に伸びることも、俺自身がそうであったことも思い出す。

 

「はは……なんだ、馬鹿みたいじゃん、俺」

 

 要は、一番弱ったのは俺の心だ。

 明日香に、泣き虫だった友達に強がって助けてやるなんて言って、空が繋がっている話をしたのもそうだ。

 当時まだ俺が翼を得て間もなかった頃、好きだったアニメのフィギア、ゼフィリオンの羽を託したあの時。

 誰よりも繋がりを感じていたかったのは他ならぬ俺の方だったのだ。

 思い合っていれば寂しくない。俺だけの一方通行になることが怖くて、明日香と約束を交わした。

 

 

『この先お前が一人でどうしようもなくなったら、その時は、これをぎゅっとして、お願いしろ。空に向かってな』

『空に向かって、お願い……?』

『そしたら飛んでって助けてやるから』

『ほ、ホントに?』

 

『おう、絶対にだ! なにせ空はどこへだってつながっているからな』

 

 

 

 それは、明日香に向けた言葉であり、俺自身にかけた言葉でもあったのだ。

 

 

 

 

 

 浜辺を歩きながらスマホを取り出す。

 

『今日の海辺の空がすごい綺麗だった』

 

 そんなメールを打ち、その光景を添付写真に収めようとレンズを向ける。

 

 その時、目を奪われた。

 

 

 

「飛ぶにゃーん」

 

 長い髪がたなびいた。吹き付ける海風を切るようにして、少女が空へと舞い上がる。

 遠目から見ても容姿が整っていることが分かった。

 聞き覚えのないグラシュの起動キー、見覚えのない制服、見慣れない顔。

 

 

 だが、だが、俺は彼女を知っている。

 

 

 

『……お前、名前は?』

 もしかしたら、経験者かもしれない。

 違うと思いながらも、俺はあの時、無理やり試合を切り上げた去り際、聞いたことがある。

 

 

 

 少し変わったが聞き覚えのある声、そして、少し違和感こそあるものの、ギリギリの前傾姿勢があまりにも見覚えがありすぎた。

 

 

「まさか──ッ」

 

 今の今まで、忘れていたはずの、彼女の名前が蘇る。

 

 俺を負かし、挫折を与えて、消えていった本物の『天才』。

 

 

『──鳶沢。鳶沢みさき。なんかごめんね、下手なのに付き合ってもらって。あんまりにも綺麗に飛んでるからつい同じように飛びたくなったんだ』

 

 

 砂浜の少女との再会。

 それは、中学に上がって一度目の夏のことだった。




【設定】
日向晶也LV1……原作日向晶也とは似て非なるもの。トロフィーとか新聞とか壊しちゃうのもったいなかったから改変した。ちょっとだけメンタル強化して、吐きそうになりながらも世界制覇させてみた。憑き物が晴れたような顔でFCを辞めると言われた各務先生は複雑な心境である。尚、FCが嫌いになったわけじゃないことを見抜かれているので、各務先生は責任を感じて原作通り久奈浜学院の保健体育教師を務めている。原作と同じように、学校内や外でも友達は同年代の女の子が中心。むしろ世界大会を経て知名度が補正された分、女子人気が高くなった。

鳶沢みさきLV??……友達思いな美少女。原作では陽の明日香と対をなす陰として描かれる。朝に弱く、昼のテンションとのギャップが激しいと話題に。天才肌でなんでもそつなくこなすことができ、故に劣等感を持つ機会に恵まれなかった。そのため、原作通りならメンタルの弱さが仇になるのだが……


ちょっとずつ原作改変。グラシュや世界観について色々と飛ばしたけど、見てる人はだいたい原作プレイ済みと仮定してます。
出来るだけ文体を完コピしたくてアプリを開きながら書いてるんですけど、目的のシナリオを探すのに一苦労しますね。
次回からみさきちゃんにも喋ってもらいます。

続きます。


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砂浜の再会─2/2

予告通り、みさきが喋ります()


 体を捻り加速する。

 放銃された弾丸のごとく、蒼の世界を貫くシルエットはあの時を思い出させる。

 

『うわぁ、そんな飛び方もあるんだね。っと、これ、バランスとるの難しいや』

 

 記憶にある飛び方と多少変わりこそしたが、より滑らかな動きになっているのはその技を制御している証だ。

 

 思い出すのは、俺を追い詰めてみせた原石とすら言える圧倒的な才能。

 効率よりも使いやすさを突き詰めた、──人の技を掌握することに長けた天性の怪物。

 

 俺が教わり、奪われた技術は、センスがあるのが前提として積み重ねた努力によって効率性を突き詰めたものだった。

 より早く、より高く。誰よりも彼方へ行くために、誰よりも正解だった葵さんを溶け込ませた模倣。

 俺はその、溶け込んでいく感じが好きで、もっともっと進んで行こうと思えたが、彼女の──鳶沢みさきの根源は全く違ったものだった。

 

 空を飛びたい。同じ気持ちでありながら、俺は最強(誰よりも強い飛び方)を目指し、鳶沢は最高(自分が楽で楽しめる飛び方)を選んだ。

 

 今こうして改めて見てわかるのは、ブランクがあったとしても、今の俺でも勝てるくらいの実力。今まで思ってきた不安の正体がこうもあっさりと解消されては拍子抜けもいいところだ。

 

 だから、違和感が残る。

 鳶沢みさきという人間の全部を分かったつもりになって決断を下すのは早すぎる。あの頃、急激な飛躍を果たした野良試合からほとんど成長が見られない──もっと言えば、掌握による改悪のせいで完璧だった飛び方が崩れて、弱くなったように感じた。

 

 

 

 それは、可笑しなことだ。

 あの時、俺が彼女に未来の俺の姿を見たのは、彼女が掌握したものが、思い描いていた理想通りの飛び方だったからだ。

 変な癖も見当たらないし、あえて飛び方を変えているとも考えにくい。

 

 何かが、可笑しい。

 

 この胸のざわめきが示すのは一体何なのか。

 もう、思い出したくなかった相手だったはずなのに。

 

 

 彼女のことが気になって仕方ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピロリン

『まーちゃん、宇宙人が! 宇宙人が写り込んでます?!』

 

 ピロリン

『おーい、まーちゃーん?』

 

 ピロリン

『( ゚д゚)まーちゃんに都合のいい女扱いされた……』

 

 

 

 

 £≡

 

 

 

 

 

 

「……やっぱ無理かー。ここに来たらもしかしたらって思ったんだけどなぁ」

 

 鳶沢みさきは覚えている。

 夏休みを利用して祖母の住まうこの島へ訪れる。

 幼い頃から変わらない恒例行事だ。

 その中でも、ひとつだけ、鮮明に記憶している出来事があった。

 

 当時、四島は他県に先んじて実験的にグラシュ──反重力粒子を応用したアンチグラビトンシューズを導入して、『空を飛べる島』として日本中の話題となっていた。

 今でこそ地方都心でも空を移動することもできるが、しかしそれも決められたルートのみとなっている。四島のように停留所であればどこへでもいける、というわけにはいかないのだ。

 

 空を飛んでみたい。祖母のことが好きだったのもあるが、買ってもらったばかりのグラシュを試すために早く四島へ行きたいと思ったものだ。

 買ってもらったばかりの翼を持って、よくお母さんが連れて行ってくれた浜辺へ走り向かう。

 

 そこで、みさきは出会った。

 運命なんて大げさなものじゃないけれど、その出会いはみさきに対して大きな影響を与えた。

 

 FC。フライングサーカス。

 先に空にいた子供が、まるでジェット機を思わせるように、空を飛ぶ。

 水平に加速したかと思えば、急降下と急上昇を繰り返し、見ているだけでワクワクするような飛び方だった。

 

『おーい! おーい!』

 

 大手を振りながら声を張った。

 ちょうど浜辺の辺りに近づいてきた頃で、その子は気がついたみたいで、

 

『どうした?』

 

 降りてくる姿勢すら、かっこいいと感じるくらい興奮していた。

 

『それって面白いの? やってみたいんだけど……』

 

『お願いだから飛ばさせてよ!』

 

『いいよ、これはフライングサーカスっていうんだ』

 

『ふらいんぐ……さーかす?』

 

『最高に面白いスポーツの名前!』

 

 

 その記憶は、みさきがFCを始めることになる原点のようなものだ。

 見ているだけで楽しかったし、真似するだけで嬉しくなった。

 まるで空が自分だけの世界みたいに、必死になりながら、飛び回った。

 

 だから、心残りがあるのは自分があの時引き止めた──今なお誰よりも綺麗な飛び方をしていたと思わされる髪の長い子が、下手な自分と飛ぶことによって急に怒って帰ってしまったことだ。つまんないとまで言わせて、初心者だったからなんて言い訳しようとは考えれなかった。

 

 あとで知ったことだが、その子はFCどころか世間では有名だったらしい。

 聞くところによると世界大会で圧勝してしまえるほど実力が突出した選手で、二代目飛翔姫と呼ばれる同じ年のスターだった。

 

 憧れた。日向晶也。驚くことに美少女だったと思っていた子が実は男の子だったなんて知り、密かに敗北感を覚えながらも、過去の試合で飛んでいる動画を探し出しては何度も繰り返し再生した。

 

 夏休みも終わり四島を離れると、FCというものが途端に遠くなった。地域で活動しているクラブチームに入ってみても、日向晶也のようなドキドキするような飛び方には巡り会えなかった。

 すぐにチームで一番強くなったけど、所詮は日向晶也の猿真似でしかなく、日が経つごとに夢の立会いの時のような飛び方はできなくなっていた。

 

 動画を見てると思うのだ。

 できれば、もっと横で見ていたかった。

 

 過去のことをいつまでも引きずっても仕方がない。

 だけど、まるで空の全てを操るような、あの時のドキドキするような体験をみさきは求めていた。

 

 

 だから、期待した。

 あの時、FCを始めてした場所で飛んだら、また思い出せるかもしれない。

 

 綺麗で、早くて、かっこよくて。

 最っ高に楽しかった空の記憶を、思い出せるかもしれない。

 

 

 そう思い、中学に入って初めての夏、いつものように大好きな祖母の家を訪ねて、ぶらぶらしてくると言って思い出の場所に足を運んだ。

 

 けれど、分かったことは、望みはそう叶うものではないということ。

 

 

 鳶沢みさきは、楽しかったことだけを覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 だから、『それ』は運命の訪れだと思った。

 

 

 

 £≡

 

 

 

 

 

「なぁキミ、それっておもしろいのか?」

 

 

 

 ──やっぱり晶也は、リスキーなことするんだね。

 

 

 心の何処かで。

 知らない誰かが、そう言った。




てっきり『飛翔姫』が晶也の二つ名と勘違いしてました。
実際には葵さんの二つ名で、晶也の二つ名は(おそらく)ありませんでした。
なので勝手に二代目として修正します。

『四島』であるべき箇所が『四国』となっていました、
四国に何しに行くんだみさき……うどんか? ってなったので修正します。


続きません


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