ハリーは通信教育をするようです (マクシミリアン君)
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通信教育で賢者の石

 

 

 魔法薬学。魔法史。変身術。薬草学。天文学……ホグワーツでは、一人前の魔法使いになるための科目が、びっしりと日課を埋めている。入学したての頃は浮かれていた生徒たちも、テストの影に怯えながら生活をするようになるのである。

 

そしてここにも1人、そんな生徒がいた。

 

 

 

 

「………ハリー、ハリーっ!」

 

 強く身体を揺すられて、ハリーはようやく目を覚ました。机に突っ伏して、そのまま眠ってしまっていたらしい。顔を上げると、ハーマイオニーとロンがいた。周りは2人以外に人影はなく、誰もいない。

 

「……もう皆次の教室に行っちゃったわよ。急がないと」

 

「………ああ、ごめん」

 

 相変わらず、魔法史の授業の睡眠効果は抜群だ。あの単調な声で説明されては、誰だって寝てしまう。ビンズはホグワーツの教師などをするよりも、不眠症で悩む人たちに安らかな眠りを提供する仕事でも始めた方が儲かるんじゃないか……。

 

 ハリーは歩きながらそんなことを考えていたので、ロンに呼ばれているのに気が付くのにも少し時間がかかった。

 

「ハリー!」

 

「何だい?」

 

「さっきからずっと話しかけてるんだけど、ぼーっとしてない?」

 

「そうかな。僕はいつも通りと思ったけど……」

 

「いや、絶対注意力が散漫になってるわ」

 

 ハーマイオニーが口を挟んだ。ハリーがそちらを見ると、ハーマイオニーはいつになく真剣な顔で考え込んでいた。

 

「さっきの魔法史は仕方ないけど……変身術でも失敗ばかりだし、今日、薬草学では10点も引かれたでしょう? 最近のあなた、どうもだらしないわ」

 

「クィディッチの練習で疲れてるからかな。……まあ大丈夫」

 

「そうだよハーマイオニー。ちょっとくらい調子悪くても、せっかくシーカーになったんだから成績をちょっとくらい犠牲にしたっていいんだよ」

 

 ロンの言葉は、ハーマイオニーの地雷を踏んだらしい。じろりとロンを睨んで、

 

「じゃあ来年もハリーに1年生シーカー続けさせるつもりなの?」

 

「……そこまでは言ってないだろ。犠牲にするって言ってもある程度だよ。ある程度」

 

 

 

 

 

 

 クリスマス休暇。ハリーは「上手に使いなさい」というメッセージとともに置かれていたクリスマスプレゼントー透明マントを手に入れた。

 

「それって本物の透明マントじゃないか。偽物じゃなくて、本物の」

 

 ロンはそう言いながら、透明マントをしげしげと眺めていた。しかし、ハリーに届けられたもう一つのプレゼントが、透明マントの横に置いてあったのだ。

 

『学校の授業が難しくて分からない……クィディッチや死喰い人との戦いで勉強に集中できない……そう思ったことはないでしょうか?』

 

 C.K.ゼミホグワーツ講座、と書かれたカラフルな小包。ハリーは、小包に書かれている文字に、眼を釘付けにされていた。

 

 まさに自分だ。ハリーは小包を破り、中に入っていた広告に目を通した。どうやら魔法史や薬草学だけでなく、クィディッチや学校生活のガイド本も付録としてついてくるらしい。

 

(これだ!)

 

 ハリーは、立ち上がった。C.K.ゼミをやりたいーそんな気持ちが、彼を突き動かした。

 

「おい、どこ行くんだ、ハリー!」

 

「すぐ帰ってくる!」

 

 

 

 

「……ハグリット! これを見て!」

 

 ハリーがハグリットの小屋に駆け込むと、ハグリットは暖炉でカエルチョコレートを溶かしているところだった。

 

「おおいいところに来たな、ハリー。カエルチョコレートを溶かして、オタマジャクシチョコレートを作っていたところ……」

 

「ああ、本当だ。美味しそうだね。……ところでハグリット、C.K.ゼミって知ってる?」

 

「C.K.ゼミ? なんだそいつは」

 

「もっと魔法をうまく使えるようになる雑誌なんだ。これを見てよ」

 

 ハグリットはハリーの渡したC.K.ゼミの広告を読み、うーむと唸った。

 

「でもハリー、お前さんには魔法使いとして十分才能はあるだろう」

 

「駄目なんだよ、ハグリット。クィディッチも忙しいし、勉強と両立できるか不安なんだ」

 

「そうか……確かに数年後に闇の帝王が復活して戦いが始まりそうな気がするし、そうなると勉強面で不安が出てくるな……」

 

 そう言いながら、ハグリットは「C.K.ゼミ」を取るのに必要な金額を見て、眼を丸くした。

 

「でも高いな。お前さんの両親の遺産から金を引き出すこともできるが、これは無理だ」

 

「……ちょっと待って。今入れば入会費は無料なんだ」

 

「なんだと⁉」

 

「それに5色で書ける万年筆もついてくるんだ」

 

「……そうか。じゃあハリーはこれをこれから続けられるか?」

 

「もちのロンだよ」

 

 ハリーがそう言うと、ハグリットはぽんと膝を叩いて、言った。

 

「分かった。じゃあ今度このC.K.ゼミに申し込んでおく」

 

「ありがとう、ハグリット!」

 

 

 

 

 C.K.ゼミが届いて数週間で、ハリーは見違えるほどの成長ぶりを示した。クィディッチでは連戦連勝、勉強でもハーマイオニーと競い合っていた。

 

「どうしたんだい、ハリー? 頭でも打ったのか?」

 

「いや、C.K.ゼミのおかげだよ」

 

 ハリーとロンが校庭を歩いていると、どこからか人の話し声が聞こえてきた。1人は特徴的などもり声……クィレルだ。そしてもう1人はスネイプ。普通に聞くと、スネイプがクィレルを脅しているように聞こえる。

 

「……そろそろあの様子だとクィレルもスネイプに賢者の石を取る方法を教えちまうかもな」

 

 ロンが小声で囁いた。しかし、ハリーはスネイプこそが善玉で、悪はクィレルであることを知っていた。C.K.ゼミの付録、「あなただけのホグワーツガイド」によると、吸血鬼退治の際にヴォルデモートがクィレルに憑依したのだという。クィレルはヴォルデモートの復活のために賢者の石を探しているというわけである。

 

 ダンブルドアはクィレルを信用しているようなので、自分でクィレルを倒すしかないー

 

「ロン、ハーマイオニーと一緒に、先に賢者の石を回収して守ろう」

 

「ああ。今、クィレルが罠のことを全部喋っちゃったみたいだし、スネイプは今日賢者の石をとりにくると思う」

 

 本当はクィレルがダンブルドアの不在を利用してあの部屋に侵入するのだが、説明するのは面倒だし、「ホグワーツガイド」によるとチェスのところでロンは気絶し、クィレルと対決するのはハリーだけと書かれていたので説明は後でもいいだろう。

 

 

 

 

 

 なんやかんやあって先生方の仕掛けた罠を余裕しゃくしゃくで突破し、予定通りロンは気絶、ハーマイオニーを置いて、最奥部の「みぞの鏡」のある部屋に到着した。

 

「ハリー、君はちょっと待っていなさい」

 

 そしてそこにはやはり、クィレルの姿があった。みぞの鏡を眺め、ぶつぶつと呟いている。

 

「どうやったら賢者の石を手に入れられる……? ああ、主に石を捧げている私が見える……がどうやって……?」

 

 ゼミでやったシーンだ、と思ったハリーはおもむろに近づき、ポケットに手を突っ込む。すると鏡の中のハリーが苦笑いを浮かべ、ポケットに手を突っ込んだ。

 

 ポケットが膨らみ、ごつごつとした感触が手に伝わってきた。賢者の石を手に入れたのだ。それからあとは、クィレルに賢者の石を手に入れたことを伝え、ハリーに触れさせればいい。しかしその手順を踏むのは少し面倒だったので、クィレルのターバン頭を両手でがっしと掴んだ。

 

「ウヴォァァァ――――ッ!」

 

 クィレルが炎に包まれ、ターバンがほどける。そして蝋燭のように燃え盛るクィレルの後頭部から、みょうちきりんな魂が叫びをあげながらどこかへ飛び去ったのを見て、ハリーはふうと一息をついた。 

 

「C.K.ゼミを取っといてよかった……」

 

 

 

 

 

 

 

 進級試験も難なくパスし、グリフィンドールもクィレルを倒した功績で点数的にスリザリンをオーバーキルしたハリーは、パーティーで英雄として祭り上げられた数日後、ロンやハーマイオニーとともにホグワーツ特急に乗り込んだ。

 

「やっぱり君は特別だよ。マルフォイも君が超人すぎてグリフィンドールに喧嘩を吹っかけてこなくなったし」

 

「いや、僕は頑張っただけだよ。C.K.ゼミでね」

 

「そうか、僕もお母さんに頼んでみようかな……でも高いだろうし」

 

「その時は僕が紹介しよう。そしたら安くなるはずだよ」

 

「私も入るわ」

 

 ハーマイオニーが、呟いた。彼女はハリーを押さえて学年1位だったのだから、C.K.ゼミなど必要ないと思うのだが。

 

「なんでだい? ハーマイオニーは今のままでもいいじゃないか」

 

「……ハリーは何時間も勉強しなくても、ゼミで数十分やるだけで2位になってたじゃない。効率がいいのは明らかよ」

 

 こうして3人は休みの間もゼミと宿題をこなし、2年生から無双してセドリックとかシリウスを助け、同じく昔にゼミをやっていたヴォルデモートと対決して勝つのだが、それはまた別のお話。 

 



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