優しい提督さんと優しい秘書艦の愛宕さん (ていん?が〜)
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第1話「クソ山ブス子さんよぉ…?」

息抜きに書きました。
また、大和さんの本名は私がやる夫スレで使っているキャラの名前から使いました。


「ほ、本日より!狭間(はざま)鎮守府に配属されました!大和型一番艦、大和でひゅっ!」

 

あうう…大事なところで噛んでしまいました…。

やってしまった、と顔に出ていたのか提督さんは優しい顔で微笑みます。

 

「ハハ、緊張されている模様ですね。ではご紹介を、僭越ながら狭間鎮守府の提督を任せていただいております結城照美(ゆうきてるみ)と申します。そしてこちらが……」

 

「パンパカパーン♪秘書艦の高雄型二番艦の愛宕よぉ~!大和ちゃん、よろしくねぇ~☆」

 

「は、はいっ!よろしくお願いしひゃふっ!」

 

……また、噛んでしまいました。提督さんと愛宕さんはクスクスと笑っています。

はぁ…こんな様子でこの鎮守府でやっていけるのでしょうか?

私は配属先が発表された艦娘育成学校の卒業式のことを思い返します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甘神(あまがみ)ここあ、もとい大和型一番艦、大和。貴艦を狭間鎮守府への配属を任命する」

 

「へ?」

 

艦娘育成学校。それは深海棲艦から海域を奪還する艦娘を育成するための教育機関です。

 

高い倍率の入学試験に合格した(私の場合はギリギリ合格出来ました)新入生は、3年間のカリキュラムを経て、卒業式の時に適正艦娘の任命と配属先の鎮守府を発表されるのです。

 

授業になんとかついていけていた私が大和型の、それも一番艦の大和に任命されただけでも驚きなのに、あの実績のある狭間鎮守府に配属することになるなんて信じられません。夢でも見てるのかとほっぺをつねりましたが、夢ではありません。痛かったです。

 

「こ〜こあっ!やったじゃん!アンタ超エリート街道一直線じゃん!!」

 

川内型一番艦の川内もとい、学校での一番の親友である暁京子(あかつききょうこ)さんは笑いながら私の背中をバシバシ叩きます。

 

「京子さんこそ、笛有(ふえあり)鎮守府への配属おめでとうございます!初の女性提督であり新進気鋭のホープ、緋剣可憐(ひつるぎかれん)提督のいるあの笛有鎮守府に配属されるなんて羨ましいです!!」

 

「アッハハ!そういうここあだって今一番波に乗っているあの狭間鎮守府じゃん!しかもここは笛有鎮守府とよく演習してるって話だからまた近いうちに会えるかもだねっ!」

 

「えぇっ!その時はまたよろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今日が狭間鎮守府に配属され、執務室で結城提督と秘書艦の愛宕さんに挨拶をしたところです。

 

どんなところだろうと緊張していたのですが、提督と愛宕さんは暖かく迎えてくれてホッとしました。

 

その後、鎮守府に所属している艦娘の皆さんにも同様に挨拶をしたのですがこちらも優しく迎えてくれて、この鎮守府に配属されて良かったと心の底から思えました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、今日の練習は終わりよ。お疲れ様、大和」

 

「はい!お疲れ様です!」

 

狭間鎮守府に配属されて一週間、最初は慣れない仕事にてんやわんやとしていましたが、鎮守府の皆さんに助けられ、なんとか慣れることが出来ました。

今は先輩艦娘の陸奥さんに実戦練習に付き合ってもらっていたところです。

 

陸奥さんと別れ、入渠のためにドックに向かっていたら視線の先に提督と愛宕さんの2人組を見かけました。

そういえば配属された日以降、執務室以外で2人揃っているところを見たことがありません。

 

そう思っていると、2人はスタスタとどこかに向かって歩いています。

好奇心に駆られた私はコッソリと2人の後を尾行しました。

しばらく歩くと、2人は使われていない倉庫に入っていきました。

 

倉庫…提督…秘書艦…若い男女…イケメンと美女……

 

 

『愛宕さん……君は美しい…私の愛を受け止めてくれますか…?』

 

『て…提督……こんなところで……恥ずかしいわ///』

 

 

「い、いやっ!まさか!で、でも、もしかしたら………///」

 

あられもない妄想を振り払おうとしましたが、でも2人ははたから見てもお似合いです。表では上司と部下の関係であっても裏では禁断の職場恋愛の関係にあってもおかしくありません。

 

「……………………………………」

 

気がつくと私は倉庫の前に立っていました。いけないこととは分かっています。だけど中を見たい衝動が抑えられません。

 

「ちょ、ちょっと見るだけ………」

 

音を立てないように倉庫の扉を少しだけ開けて中を覗きました。

そこにはーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「なあなあなあなあなあ、クソ山ブス子さんよぉ…?いい加減、故郷の肥溜めに帰ってくんねえかなぁ」

 

「はぁ〜ん?童貞イ○ポ太郎クンが、なにほざいてんだぁ?テメエこそ荷物まとめて実家の下水道に帰ったらどうだよ?ウンコパパとおしっこママが待ってるぜぇ〜?」

 

「あ!?調子こいてっと、ぶっ殺すぞクソブス!!」

 

「やってみろや、返り討ちにしてやんよぉ!!」

 

 

提督と愛宕さんが青筋を浮かべた恐ろしい形相で睨み合いながら、互いの胸倉を掴み合っている光景がありました。




以上です。
こんな感じの作品です。


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第2話「タバコに火ぃつけろっつってんだろうがよぉ!」

大分前に艦これやらなくなったので
今どんなキャラが出てくるか分かりません。


「えっ?さっき提督と愛宕が倉庫で喧嘩してたですって?やあねぇ〜、あの2人に限ってそんなことあるわけないじゃないの〜!もしかして練習の疲れが残ってたりする?」

 

「えっ、あ……そう、ですね…気のせいかもしれません」

 

ドックの中で、私は陸奥さんにさっき見た光景を話しましたが、当然信じてもらえません。かくいう私も未だに信じられません。

優しくてカッコいい提督さんと同じく優しくて綺麗な愛宕さんが汚い言葉で罵り合い、殴り合う寸前だったなんて冗談もいいとこです。

 

(やっぱり疲れてるかもしれません……食堂でご飯を食べたら早く寝ましょう)

 

そう思いながらドックから出て、脱衣所に上がりました。

 

 

 

「ヨーソロ〜〜☆☆」

 

「ひゃっ!?」

 

脱衣所の扉を開けた目の前に愛宕さんが満面の笑みで立っていました。

意表をつかれた私は思わず変な声が出てしまいました。

 

「あっ、ごめんなさい大和ちゃん!驚かせちゃって」

 

「い、いえ……」

 

「あれ、愛宕もドックに入るの?」

 

「ん〜ん、私はもう入ったわ。ちょっと大和ちゃんに用があってね」

 

確かに脱衣所なのに愛宕さんは服を脱いでいません。だけど私に用とは何でしょう…?

 

「大和ちゃんこの後、時間ある?」

 

「は、はい、大丈夫です!」

 

「ありがとっ☆じゃあ服着たら私の部屋まで来てね♪」

 

それだけ言うと愛宕さんは脱衣所から出ました。

あっという間の出来事にポカン、となっていると横から陸奥さんが

 

「もしかして喧嘩するとこ見られたから口封じだったりして〜」

 

と、笑いながら茶化してきました。ま、まぁ、流石にそんなことあるわけがないですよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛宕さーん、大和です」

 

愛宕さんの部屋のドアをノックして呼びかけました。

するとすぐにドアが開き、愛宕さんが姿を現します。

 

「いらっしゃ〜い、さっ、入って入って♪」

 

愛宕さんに促され部屋に入ると、愛宕さんのイメージ通りの女の子らしい部屋でした。

あぁ、やっぱりさっき見た光景は幻覚か何かだったんですね。

 

「愛宕さん、私に何の用ですか?」

 

「ん~とねぇ、大和ちゃんに少し聞きたいことがあるの~」

 

そう言って部屋の鍵を閉める愛宕さん。えっ、何で鍵を閉める必要が…?

 

「はい、何でし「テメエさっき見たろ?」……はい?」

 

今、愛宕さん何を言ったのですか…?テメエ…?いやいやまさか愛宕さんの口からそんな汚い言葉が出るわけ…………

 

「倉庫の中でのことを見たのか見てねえのかはっきりしろやボケがっ!!!!」

 

「ひぃっ!!?」

 

聞き間違いじゃなかった…。般若のような顔で佇む愛宕さんを見てこれが現実なのだと強制認識させられました。

 

「見…見ましたぁ………」

 

あまりの怖さに声が震えてきます。こんなに怒鳴られたことなんて初めてです。漫画で見た『ヤクザ』がピッタリ当てはまる怖さです。

 

「ほ~ん……で、誰かに言ってねえだろうな?」

 

「だ、誰って………あっ」

 

マ、マズいです…ドックで陸奥さんに話してしまいました…。

 

「……誰に言った?」

 

「む…陸奥さんでひゅ……」

 

声が震えるだけでなくまたまた噛んでしまいました。嘘をついたら酷い目にあわされるような気がしてなりません……

 

「陸奥ねぇ~~……まぁ、奴なら後のフォローでなんとかなるか。過ぎたことは仕方無ぇし」

 

そう言いながらクマのぬいぐるみに手を突っ込んだと思えば中からタバコの箱を取り出し、一本咥える愛宕さん。

ファンシーなクマちゃんにそんなものが埋め込まれてることを知ったら駆逐艦の子たちが泣いちゃいますよぉ……

 

「オイ」

 

「は、はい…なんです「タバコに火ぃつけろっつってんだろうがよぉ!耳クソつまってんのかぁ!!」ひいいっ!!!」

 

鬼のような形相でライターを地面に叩きつける愛宕さん。すぐさまライターを拾ってタバコに火をつけます。うぅ…煙が臭いですぅ……

 

「はぁ~……やっぱラークに限るわぁ」

 

満面の笑みで煙を吐く愛宕さん。私の中の愛宕さんのイメージが崩れる音が聞こえます。

 

「で、分かってるだろうがこのこと言ったらタダじゃおかねぇゾ?ただでさえ鎮守府ではかったるい演技で通してんだ。部屋も演技のイメージで固めてるからおちおちタバコも吸えねえ」

 

「あ…あの……愛宕さんは提督さんと仲が悪いのですか……?」

 

「仲が悪いだぁ~~!?」

 

「ひいいっ!?」

 

そう言った途端、持ってたタバコの箱を握りつぶす愛宕さん。浮かんでる青筋の数も尋常ではありません。

 

「世界で一番死んでほしいに決まってんだろうがぁ!あーあー!セクハラでもして大本営から死刑にでもされねえかなぁ!!」

 

クマちゃんの顔をアイアンクローで絞めつける愛宕さん。あぁ…目が飛び出てるクマちゃんがかわいそうです……

 

「………あっ、ところでよぉ…おめえ名前なんつうんだ?」

 

「えっ……大和ですが………」

 

「本名はなんだっつってんだよ!!脳みその代わりに赤味噌でもつまってんのかテメエはよぉ!!!」

 

「甘神!!甘神ここあですっ!!!」

 

なんでこんなことさせられてるのでしょうか…?涙が出てきます……

 

「ブッ……ここあだぁ…?」

 

ニヤニヤと下品に笑う愛宕さん。そんな顔は見たくありませんでした。

 

「お前おもしれーな、気に入ったわ。※バンホーテンちゃんよぉ」

※世界で初めてココアパウダーを開発した食品メーカー

「えっ…バン……えっ?」

 

「……文句あんのかテメエ」

 

「い、いえっ!ありません!!」

 

「まっ、明日から楽しくやろうや、バンホーテンちゃん♪」

 

ケタケタ笑いながら肩に手を回してくる愛宕さん。

あぁ…1週間前の私に言いたいです。

私は今、この鎮守府に配属されて心の底から後悔してる、と……




愛宕さんが嫌いなわけではありません。
愛宕さんはパンパカパンで可愛いです。


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第3話「あ…おはようございます……昨日はヅア゛ッ!!!」

この物語は基本的に大和さん視点です。


見覚えのある天井。カーテンから漏れる朝日。まだ意識がはっきりとしませんが、布団から出て背伸びをします。

 

「……何か悪い夢を見ていた気がします」

 

昨日の夜は何がありましたっけ…?とてつもなく悪い出来事があったような………

その時、枕元に置いていたスマホがブルブル震えました。

誰かからメールがきたのかなと思い、メールを確認してみました。

 

 

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ヨーソロー♪

 

おはよー☆バンホーテンちゃん(^∇^)

 

早く食堂に来ないと

 

あなたの鳩尾にパンパカパーンチ(*≧∀≦*)

 

 

愛宕ちゃんより♥

 

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…………夢じゃなかったみたいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!おっはよぉ~~☆☆大和ちゃん♪」

 

食堂に着くと愛宕さんがブンブンと手を振り、私を呼んでいました。

周りを見るとちらほらと何人かの艦娘がいます。

あぁ、そういえばみんながいる前ではネコ被ってるって言ってましたね。

誰かがいる時だったら少なくとも昨日みたいな怖い愛宕さんに戻ることはありませんね。

そう思いながら愛宕さんの隣に座った時、ちょうど食堂に入ってきた陸奥さんが声をかけてきました。

 

「あらおはようお二人さん、昨日はどうだった?」

 

「あ…おはようございます……昨日はヅア゛ッ!!!」

 

答えようとした時、愛宕さんに足を踏まれました。つま先をグリグリと踏まないでください。地味にすっごく痛いです。

 

「アッハハ!大和ちゃん変なあくび~~☆☆昨日はねぇ~♪私の部屋で大和ちゃんと2人で女子会してたんだぁ~☆」

 

「あら、そうなの?何か大事な話があったかと思ってたわ」

 

「大事なお話だよぉ~~(≧◇≦)おかげで重要な情報を入手出来たのであります陸奥隊長!」

 

「へぇ~、なになに?」

 

「大和ちゃんの本名って、ここあちゃんっていうんだって!かわいいでしょ~~♪」

 

「ふふふ、そうなのね。2人が仲良くなっててお姉さん嬉しいわ」

 

いや、仲良くないです。脅されてる関係です。

そんなことは口が裂けても言えないまま、談笑する愛宕さんと陸奥さんを尻目に私は頼んだ朝食セットをもくもくと食べ進めていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バンホーテンちゃんよぉ、お前明日からの土日予定ある?」

 

出撃任務を終えて鎮守府に帰還した時に愛宕さんに声を掛けられました。

周りには私たち以外誰もいないので、怖い愛宕さんモードになっていました。

 

「えっ、いえ、何もないです」

 

「そーかそーか、んじゃアタシが遊びに連れてってやるよ。どうせこの近辺に何があるか分かってねえだろ?」

 

機嫌が良いのでしょうか、カラカラと笑う愛宕さん。

確かに鎮守府があるこの土地は初めてでこのような申し出は本来嬉しいのですが、愛宕さんが相手だと不安と言いますか………

 

「……オイ、何か失礼なこと考えてんだろ?」

 

「いっ!?いいいいいいいいえ!!!そんな滅相もありません!!!!」

 

「ふーん、じゃあアタシと遊びに行くぞ、返事は?」

 

「はいっ!!喜んで!!!」

 

「それじゃあドックから出たらアタシの部屋まで来い。あと泊りがけになるからいくつかの着替えと足の艤装、そして私服着て来い」

 

それだけ言って愛宕さんは先に行っちゃいました。着替えは分かるのですが、何で艤装も…?それも足の部分だけって………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準備を済ませた私が愛宕さんの部屋まで来ると、同じく私服に着替えた愛宕さんが部屋の前にいました。女の子らしいかわいい格好でしたので不覚にもドキッとしました。中身があんなのじゃなかったら素敵な休日になりそうなんだけどなぁ、と叶わぬことを思っていると愛宕さんに手を引かれどこかに連れていかれました。

 

「あの…どこに行くんですか?」

 

「あ?司令室だよ。あのクソに外出許可もらいにいくんだよ」

 

いや、無理でしょ。鎮守府の規律についてあまり詳しくありませんが、上官に対して私服って絶対許可おりませんよ。でも提督とと愛宕さんの喧嘩を見ちゃってるんですよね、下手したら私の目の前で喧嘩が勃発しそうで怖いです…。

そうこう思ってる内に司令室に着いてしまいました。

 

「提督ー!愛宕ですー!入っていーですかぁー!」

 

ドアをゴンゴン叩く愛宕さん。そんなに強く叩いたらドア壊れちゃいますよぉ…。

 

「………どうぞ」

 

しばらくの沈黙の後に中から提督さんの声が聞こえました。それと同時に愛宕さんに手を引っ張られ司令室の中に入りました。

司令室には執務作業をしている結城提督と秘書艦補佐の大淀さんがいました。特に大淀さんは私服の私達を見ると目を見開いていました。

 

「あっ、あな、あなた達!!なんて格好で司令室に入ってきてるんですか!?愛宕はまだしも大和まで!!」

 

「えー、もう今日のお仕事終わらせてるからいいでしょケチー」

 

「そういう問題じゃない!!!」

 

プクー、と頬を膨らませる愛宕さんに対して、カンカンに怒っている大淀さん。普通はそうなりますよ……

 

「まぁまぁ落ち着いて大淀さん。愛宕さんのこれは今に始まったことではありませんから。愛宕さん、今回も外出許可でしょう?許可を出す前に一つ聞きたいことがあります」

 

「なんですかー?」

 

「………大和さんをどこに連れて行くおつもりですか?」

 

そう言って愛宕さんを見つめる提督さんの顔はいつもの優しい笑顔ではありませんでした。いや、睨みつけるという表現が正しいでしょう。言葉は丁寧ですが、声も低くなっており、とっても怖いです。

 

「……大和ちゃんにこの周辺を案内しようと思っててぇ。この娘ここに来たばかりだから案内がてら一緒に遊びに行くぞー!ってね♪」

 

「……大和さん、それは本当ですか?」

 

「えっ…あっ……はい、そうです…」

 

急に提督さんに振られて思わず私はそうだと答えてしまいました。でも、もしいいえなんて答えてたら後で愛宕さんにどんな目にあわされるか分かりません。提督さんは「そうですか…」と何やら考え込んでますし、大淀さんは提督さんの雰囲気が急に変わったせいか涙目でオドオドしています。大淀さん、気持ちは痛いほど分かります。

 

「……愛宕さん、期間はいつまでを想定してしていますか」

 

「んーと、泊まりがけなんで日曜の夜には帰ってくるつもりでーす」

 

「そうですか………くれぐれも羽目を外し過ぎないように」

 

「はいはーい!分かってまーす!行こっ、大和ちゃん♪」

 

「えっ、ちょっ!?」

 

有無を言わさず愛宕さんに引っ張られ、司令室から出されました。

鎮守府を出てから愛宕さんに行き先を訪ねても「来れば分かる」としか答えてくれませんでした。

しかしこの時の私はよく考えるべきでした。

なぜ愛宕さんは着替えと一緒に艤装も持ってくるように言ったのか。

そして愛宕さんに酷い目に合わされることになっても提督さんの質問に対して、いいえ、と答えるべきでした。

でなければ『()()()()()』にはならなかったのに………




次回、休日編です。


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第4話「そうだバンホーテンちゃん、このクソガキと相撲とれよ」

大和=バンホーテンの図式がこの小説内で出来上がっております。


「あの…愛宕さん?」

 

「あん?」

 

「これからどこに行くのですか…?」

 

「しつけーなぁ…来れば分かるっつってんだろうが」

 

「いや…でも………」

 

すっかり日が沈み切った空にザザーン、と波飛沫の音が聞こえてきます。私達は鎮守府からしばらく歩いた先の人気の無い海岸にいました。夜の海にいったい何をしにきたのでしょうか?

 

「オイ、艤装つけたら海に入るぞ」

 

えっ、艤装の意味はそれですか?もしかしたらどこかの島に渡るのでしょうか?いやそれよりも…………

 

「主砲無しで渡っても大丈夫なんですか?」

 

この一帯の海域は取り戻したとはいえ深海棲艦が出てこないとも限りません。主砲や防具といった艤装を着けてなければ私達艦娘は人間と変わらないので、襲われたらひとたまりもありません。

 

「あ~?大丈夫だよ、むしろ邪魔なだけだし」

 

私の心配をよそに愛宕さんは足に艤装をつけると、スィーッと海を渡っていきます。

 

「オイぼさぼさすんな!」

 

「わっ、分かりましたぁ~!」

 

愛宕さんに怒鳴られたので、しぶしぶ足に艤装をつけて愛宕さんの後を追いかけました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく夜の海を渡っていると愛宕さんが急に止まりました。でも周りには何もありません。真っ暗な大海原が続いています。すると突然ボコボコと海面から泡が吹き出し、そして…………

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!!」

 

「でっ!出たあああああああああああああああああああ!!!!!???」

 

海面から深海棲艦、駆逐イ級が1体現れました。普段なら難なく倒せる相手ですが、今の私達は足以外に艤装を付けていない私服の人間。叶いっこありません。あぁ、もう終わりだと諦め目を瞑りました。

パパ、ママ、京子さん、先立つ不孝をお許し下さい……

 

 

「…………………………………………」

 

 

(あれ?)

 

いつまで経っても何も起きません。恐る恐る目を開けるとイ級は海面に浮かんだままその場から動いていません。いや、よく見るとガタガタと震えています。

 

「おーおー、せっかく来てやったのに何の準備も無しに出迎えたぁ舐めてんのか?」

 

「ピィ……」

 

「3分で用意して来いや、できなかったら……分かってるな?」

 

「ピィィッ!!?」

 

そう聞くや否や、イ級は瞬く間に海に潜り姿が見えなくなりました。

突然のことに頭が追い付かないでいると愛宕さんはケラケラ笑いながら話しかけてきました。

 

「ところでバンホーテンちゃん、お前ジョーズは好きか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャッハハハハwwwwwなんだあれwwタコ足のジョーズwwwタコザメwwwww」

 

缶ビールを片手におつまみが乗ったテーブルをバンバンと叩きながら大笑いする愛宕さん。

いや、あれはジョーズじゃなくてシャークトパスという別物の映画ですよとは言えず、隣で黙ってテレビに映る映画シャークトパスを見る私。

そして周りには戦艦ル級、タ級、レ級に空母ヲ級、戦艦棲姫、南方棲鬼、港湾棲姫など艦娘育成学校の教科書でしか見たことが無い強力な深海棲艦達が沈んだ顔で正座していました。

何でこうなったのか、少し時間を巻き戻しましょう。

 

あの後、駆逐イ級は同じ大きさの潜水艦を引っ張って浮上しました。そして愛宕さんに無理矢理乗せられるとイ級は潜水艦を引っ張ってドンドンと海の中を潜っていきます。そして愛宕さんに「着いたぞ」と言われ潜水艦を降りるとそこはなんと深海棲艦のアジト。

すぐに多くの深海棲艦に見つかったのですが、私達を見た深海棲艦達は子犬のように怯えていました。

愛宕さんに何がどうなっているのかを聞いたら

 

「コイツらがあまりにも命乞いしてくるからよぉ、見逃してやってる代わりに時々遊びに来てんだよ。まっ、アタシとしちゃ鎮守府よりここの方が伸び伸びと出来て最高だわ」

 

別荘みたいなもんだケケケ、と笑いながら干し貝柱を口に放り込む愛宕さん。暴力と脅迫による関係が出来上がっています…。ちなみに艤装を付けない理由についても、「艤装が無くても簡単にぶちのめせるし、何だったら無い方がやりやすい」と、とんでもないことをサラッと言われゾッとします。

出撃の時に遭遇する深海棲艦が愛宕さんにだけ当たらないように攻撃を仕掛けてた理由が分かった気がします。万が一にも愛宕さんに攻撃が当たればこのアジトもろとも沈められかねないんだと思うと深海棲艦達が可哀想に思えてなりません。

すると、ふとした疑問が頭によぎりました。

 

「あれっ、そういえば私達がここにいることって提督さんは知ってるんですか?」

 

「あ〜?知るわけねえだろ。あのクソに知られたらここでのんびり出来ねえし、そもそも艦娘が敵である深海棲艦のところに入り浸ってることが大本営にバレたら即刻死刑……いや、国賊、人類の敵扱いされて死ぬまで国に追い回されるだろうなぁ。まっ、アタシなら国だろうが負けねえけど」

 

…………それって、愛宕さんと一緒にいる私も共犯なのでは?冷や汗とともに全身の血の気が引きました。そんな私をよそに愛宕さんは「オイつまみ切れてんぞ!テメエら早く持って来いや!!」と深海棲艦達に怒鳴り散らしています。その時、

 

コツン

 

放心状態の私の頭に小石のようなものが当たり、我に帰りました。ぶつかった方向を見ると、深海棲艦の北方棲姫が涙目でこちらを睨みつけていました。

 

「カエレ…!オネエチャンタチヲイジメルナ!カエレ…!カエレ……!!」

 

泣きながら貝殻を投げつけてくる北方棲姫に港湾棲姫は急いで駆け寄りました。

 

「コラッ!ホッポ!ヤメナサイ!!」

 

「イヤダ!!オネエチャンタチヲイジメルコイツラハユルセナイ!!!」

 

「スミマセン!イマスグヤメサセマスノデドウカコノコダケハ……!!」

 

………完全に私達悪役ですよね、これ。いや、こんなことされて黙ってる愛宕さんじゃありません…。恐る恐る愛宕さんの方を見ると、いつのまにか愛宕さんは北方棲姫の目の前におり、北方棲姫の目線までしゃがみこんでいました。

 

「おうクソガキ、アタシ達に帰ってほしいか?」

 

予想とは裏腹にニコニコと話しかける愛宕さん。

 

「バーカ!バーカ!オマエラナンテハヤクカエレ!!」

 

「まぁ待てよ……勝負に勝ったら帰ってやる」

 

勝負……なんだか嫌な予感がします。そんな私をよそに愛宕さんは私の肩をポンと叩きました。

 

「そうだバンホーテンちゃん、このクソガキと相撲とれよ。クソガキが勝ったらアタシ達は潔く帰る。お前が勝ったらアタシ達はこのまま楽しく居座る。分かりやすくていいだろ?」

 

 

………はああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!??




次回、地獄の相撲対決。


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第5話「あのバカとお前のところの艦娘を交換したいぐらいだよ」

文章力のなさについてはすみませんが、目を瞑って下さい。


「……で、話って何だよ?」

 

とあるバーのカウンターでカクテルを傾ける結城照美(ゆうきてるみ)提督。鎮守府での笑顔は鳴りを潜めており、不機嫌そうに隣の女性に言葉を投げる。

 

「ハハハ、また『()()()()()()』に手を焼いてるのか?相変わらず君達は仲が良いな」

 

凛とした容姿に燃えるような赤髪の女性はカラカラと笑う。

 

「うっせーよ、『()()』。他人事だからって軽く見やがって、あのバカとお前のところの艦娘を交換したいぐらいだよ」

 

愚痴る結城提督をよそに「お断りだ」と笑いながら突っぱねる女性。この女性は狭間鎮守府と同じく成果を上げ、勢いに乗っている笛有(ふえあり)鎮守府の提督であり、結城提督の同期の『緋剣可憐(ひつるぎかれん)』であった。

 

「あー…話が脱線しちまったな。お前から話があるっつーから来たが、まさか週明けに行う『()()()()』の話じゃないだろうな?」

 

「その話はもうまとまってるだろう?今日は久しぶりに君と呑みながら世間話をしたいだけさ」

 

「ふん、そうかよ」

 

お互いにカクテルを飲み干し、二杯目を注文する結城提督と緋剣提督。

 

「1週間前に各鎮守府に新人艦娘が配属されただろう?もちろん私達『()()』の鎮守府にもだ。この時期が来ると楽しくて仕方がない」

 

「確かお前のところには軽巡川内。『()』のところには重巡羽黒、『()()()』のところは正規空母加賀、『()()』のところは駆逐艦吹雪だっけか?これまた癖の強いところに配属されたもんだな」

 

「君のところには戦艦大和だろう?意外と優等生やれてる君だから良い新人が配属されて良かったじゃないか」

 

「新人ねぇ……」

 

大和の話題が出た途端、結城提督は口をつぐんだ。その様子に緋剣提督は違和感を感じる。

 

「どうした?まさか問題ありの人物だったのか?」

 

「……いや、問題はねえ。荒削りな部分はあるが真面目で努力家、良い人材だ」

 

「だったら何が不満なんだ?」

 

「……あのバカとつるんでるんだよ。いや、それ自体は良いが今日あのバカが大和連れて外出許可を取りに来た。それも連泊でだ」

 

「あぁ…なるほど。彼女、かなりヤンチャだからね。心配なわけだ」

 

「今まではあのバカ1人だけだったから目を瞑ってたが、新人の大和を連れ回してるのなら話は別だ。何か厄介ごとに首突っ込んでなきゃいいんだがなぁ……」

 

そう言って結城提督はため息を漏らす。それに呼応するかのようにバンダービルトに添えられたチェリーがチャポン、とグラスの底に沈む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あぁ…なんでこんなことになってるのでしょうか……?)

 

「ひが〜し〜、バンホーテンのやま〜〜!に〜し〜、ホッポのうみ〜〜!」

 

深海棲艦のアジトの大広間で私と北方棲姫が向かいあってる中、愛宕さんが相撲の行司さんみたいに仕切っています。ノリノリで楽しんでますよあの人。外野の深海棲艦達は北方棲姫を応援してて完全にアウェーですし、かくいう私もサッサと負けて帰りたいのが本音なのですが、アッサリ負けたら愛宕さんに何をされるか分かりません。かといって小さい子相手に勝ってここに居座っても居心地は悪いですし、どうすれば………

 

「見合って見合って〜〜!はっけよ〜い、残った!!」

 

そうこう思っているうちに始まってしまいました。北方棲姫はポテポテとこちらに向かってきました。可愛らしいのですが、アッサリ勝負を決めるわけにもいきません。とりあえず受け止めーーーーーーーー

 

「んぐぅ"ほおっ!!!!?」

 

北方棲姫のゆるやかな体当たりを受け止めた瞬間、後方に勢いよく吹き飛ばされました。そういえばすっかり忘れていましたが、小さいとはいえ相手は深海棲艦の上位個体の姫級で、対するこちらは艤装をつけてない艦娘。勝負になるはずがありません……ガクッ……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………はっ!」

 

最悪の眠りでした。今思えば生身で深海棲艦に立ち向かうなんて、ゾッとします。生きてて良かった………って、あれ?見慣れない天井、見慣れない部屋、オマケにふかふかのベッドに入っている私。ここは一体…………

 

「よぉバンホーテンちゃん、遅いおはようだな」

 

ベッドの隣には愛宕さんが座っていました。えっと、私さっきまで深海棲艦のアジトにいたはずじゃ………

 

「お前、あのクソガキの体当たりをモロに受けたろ?すっかり気絶しちまいやがってたから、お前を背負って都市部のホテルまで連れてきたんだよ」

 

「あっ…そうだったんですか」

 

「…………悪かったな」

 

「えっ?」

 

愛宕さんの口から思わぬ言葉が出てきて、目を見開きました。

 

「お前があのクソガキに負けることなんざ分かりきってたが、まさかあんなことになるとは思わなかった。反省してるよ…」

 

プイッと向こうを向きながら話す愛宕さん。まさかこの人にも人間らしい感情があったなんて………

 

「………オイ、今失礼なこと考えてるだろ?」

 

「い、いやいやいやいや!!!!滅相もありません!!あっ、そういえば今って何時ですか!?」

 

「あっ?今か?『()()()』の午後4時だよ」

 

「午後4時ですか……だいぶ寝ちゃってますね…………って、ん?『()()()』……?」

 

「そうだよ、お前があまりにも起きねえもんだから1日半も時間を無駄にしちまったぜ」

 

えっ……1日半…土日丸々寝てたんですか……折角の休日が何も出来ずに丸潰れ…………

 

「聞こえるかー?あ〜…トリップしてやがるな。まっ、いいか。とりあえず便所行ってくるわ」

 

そう言って愛宕は部屋から出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋から出た愛宕は扉を閉めると、ポケットからスマホを取り出し、ある人物に電話を掛けた。

 

「よぉ、『()』。お前どうせ明日暇だろ。明日うちの鎮守府で可憐のとこの艦隊と『()()()()』やるから来いよ………あぁ、そうだなお前の艦隊もそうだが……そうだ、新しく入った『()()』も連れてきたらどうだ?面白いことを思いついたんだが………」




緋剣可憐提督のモデルはFAIRY TAILのエルザ・スカーレットです。


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第6話「次にその名を口走ったら本当に殺すぞ?」

合同演習編、始まります。


大数(たいすう)鎮守府。

 

狭間鎮守府、笛有鎮守府に並び成果を上げ続けている最も勢いのある鎮守府の一つである。

 

前任者の佐々木五郎太(ささきごろうた)提督の資材の横領、疲労を無視した連続出撃、艦娘への非人道的な扱いにより、佐々木提督の解雇はもちろんのこと、所属艦娘達の大量退職により当鎮守府の機能は完全に停止及び建て壊しも時間の問題だった。

 

そんな時、士官学校を卒業したばかりの九十九(つくも)一二三(ひふみ)氏が当鎮守府への着任を希望したことで何とか建て壊しは免れるものの、士官学校を首席で卒業した九十九氏の着任に反対の声は多かった。

 

だが氏は着任からわずか3年で鎮守府の立て直しに成功したばかりでなく数々の海域の奪還、危険指定深海棲艦の討伐、上位個体『()()』の捕獲等、数多の成果を打ち立てているのだ。

 

それ故に九十九提督の率いる大数鎮守府は艦娘育成学校の生徒が選ぶ着任したい鎮守府ランキング7年連続1位を取り続けている。

 

 

そしてその大数鎮守府の執務室で瓶底眼鏡にやや痩せこけた男性、九十九提督が佇んでいた。

手を組み、無表情で執務室の扉を見続ける九十九提督。程なくして扉は勢いよく開かれ、軽巡の那珂とその後ろから正規空母の加賀が入室した。

 

「おっはよー!提督ー!!」

 

「12秒の遅刻だ、那珂」

 

「もー!まだ朝の6時だよ!?そんなに細かいとお嫁さん出来ないよー!」

 

入室してきた那珂達に対して顔色を変えずに淡々と述べる九十九提督。那珂は上官の相変わらずな態度にプクーッと頬を膨らませ愚痴を言う。

 

「……お前達2人を呼んだのは、だ」

 

那珂の愚痴をスルーし、九十九提督は本題を話す。

 

「『()()()()』で本日の10時に狭間鎮守府にて、狭間艦隊と笛有艦隊が合同演習を行うと耳にしてな。これからお前達を連れて合同演習の観戦に行く。照美には許可を取ってある」

 

「特に加賀、お前には良い機会だ。トップクラスの艦隊同士の戦いをその目に焼き付けろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、狭間鎮守府の食堂にて、大和は沈んだ顔でテーブルに突っ伏していた。

 

「あぁ…私の休日が……休日が………」

 

「あはは…ドンマイ……」

 

テーブルの向かい側で苦笑する陸奥。

 

「災難だったわねぇ…愛宕と星を見に、山に登ってたら野生のイノシシの突進を喰らって1日半も気絶してたなんて」

 

「あははは……はは………」

 

事実と全く違うと心の中で突っ込もうとするもそれ以上にせっかくの休日を台無しにしたまま月曜日を迎えてしまった絶望に打ちひしがれる大和。もはや乾いた笑いしか出てこない。

 

「おーい、むっちゃーん」

 

食堂の入り口付近で陸奥を呼ぶ声がする。駆逐艦の陽炎だった。

 

「あら、どうしたの?」

 

「提督見なかった?今日の合同演習で聞きたいことあったんだけど」

 

「いえ、まだ見てないわ。そういえば愛宕もいないから2人で何か話してるんじゃないの?」

 

「あ~なるほどね~。よく2人きりになってるから隠れてイチャイチャしてたりして」

 

「分かるわ~ホントあの2人は早く結婚しろって感じよね~」

 

「「あっはははははははは!!!」」

 

「ははは……私の休日が無駄に……無駄に………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テメエ…自分がやらかしたことが分かってんのか!?」

 

鎮守府外れの倉庫、結城提督は怒りに顔を染め上げ、愛宕の胸倉を掴んでいた。

 

「大和がイノシシの突進を喰らって気絶しただとぉ…?よくもそんなデタラメが吐けるもんだな……あえて口には出さねえがテメエが『()()()()()()()()()』かは想像できる。テメエ1人が何しようが勝手だが他の艦娘を巻き込むのは許さねえぞ!!」

 

今にも噛みつきそうな猛獣のように結城提督は愛宕を睨みつける。だが当の愛宕はどこ行く風。胸倉を突かれながらもヘラヘラと笑いながら胸倉を掴む手を振り払う。

 

「あ~?だから謝ってるじゃねえか。それにあのガキは無事だったからいいじゃねえか。あんま細けえこと言ってっとハゲるぞ?」

 

「たまたま無事だっただけだろうが!!一歩間違えれば死んでたかもしれねえんだぞ!!」

 

「う〜る〜せえな~~!もうすぐ合同演習が始まるってのに、くだらんことで呼ぶんじゃねえハゲ」

 

「話はまだ終わってねえぞ!!待ちやがれ、『()()』!!」

 

「……!」

 

その途端、ピクリと止まる愛宕。そして振り返り、再び結城提督の前まで戻り、

 

 

「がぁっ……!!」

 

結城提督の腹に容赦のない蹴りをお見舞いした。たまらず嘔吐物が口から漏れ、結城提督は膝から崩れ落ちる。

 

 

「次にその名を口走ったら本当に殺す?」

 

氷のように冷めた眼で結城提督を見下ろすと愛宕はそのまま倉庫から出ていった。

残された結城提督は身体を動かせず、愛宕が出ていった先の扉を見つめることしかできなかった。

 

「………ケイ、俺にはお前が分からねえよ」

 

結城提督の呟きは誰にも知られることなく埃の舞う倉庫に埋もれていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前10時前、狭間鎮守府前の港に2つの小型船が停泊した。

 

「なんだ、一二三も来てたのか?君のところとも戦えるのは楽しみだな」

 

片方は緋剣可憐(ひつるぎかれん)提督の率いる笛有鎮守府第一艦隊と新人艦娘の軽巡川内。

 

「勘違いするな、俺達は合同演習の観戦に来ただけだ。それ以外に目的は無い」

 

もう片方は九十九一二三(つくもひふみ)提督とその秘書艦の軽巡那珂、そして新人艦娘の正規空母加賀。

 

「あーもー提督!ごめんね可憐さん悪気は無いの!」

 

「ははは、気にしてないさ。一二三は昔からこうだからな」

 

「那珂、なぜ今の言葉に悪意があったかのように言うのだ?俺にそんな気など毛頭無い」

 

「提督はちょっと黙ってようか!?」

 

緋剣提督は目の前のやり取りを微笑ましく見守るが、その横でこちらを見つめる加賀に気付く。

 

「君が一二三のところに新しく入った加賀くんだね?笛有鎮守府で提督をやっている緋剣可憐だ、よろしく」

 

「………………どうも」

 

加賀は小さな声でポツリと挨拶を返す。すると隣で九十九提督に雷を飛ばす那珂はすぐさま反応する。

 

「ちょっと!『()()()』ちゃん!!あいさつはしっかりしないと!!あっ、この子の本名は白波(しらなみ)さくらちゃんって言って……ちょっと人見知りなとこがあるんです!」

 

「………………………………」

 

那珂の弁明に呼応してコクリと頷く加賀。それを見て笛有鎮守府側の新人艦娘、川内が近づく。

 

「おっ、あんたも新人艦娘か~!私は笛有鎮守府に軽巡川内として着任した暁京子(あかつききょうこ)だよ!新人同士よろしくっ!」

 

「…………………………よろしく」

 

「だからあいさつはちゃんとしなさーーい!!!」

 

再び那珂の雷が落ちる。その時、緋剣提督の隣に控えていた秘書艦、長門がピクリと反応する。

 

「……来たか」

 

長門が見据える先には、結城照美(ゆうきてるみ)提督率いる狭間鎮守府第1艦隊と新人艦娘の戦艦大和が港に向かって歩いてきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほー!ここあーー!ひっさしぶりーー!!」

 

「京子さん!会えて嬉しいです!!」

 

演習用の観戦席にて、大和と川内の2人は喜びのあまり勢いよく抱き合う。

 

「………………………………………」

 

「あっ、これは失礼しました…。えぇ~と、あなたは……」

 

「この子は九十九鎮守府から来た正規空母加賀の白波さくらっていうんだって」

 

「さくらさんですね!私、戦艦大和の甘神ここあです!よろしくお願いしますねっ!!」

 

「………………………………………」

 

加賀は小さく頷く。そして海面上の演習場を見つめる。

 

「………重巡洋艦愛宕を旗艦とし、戦艦陸奥、軽巡洋艦天龍、駆逐艦陽炎、軽空母龍鳳、正規空母翔鶴で構成された狭間鎮守府第1艦隊。そして戦艦長門を旗艦とし、戦艦金剛、重雷装巡洋艦北上、重雷装巡洋艦大井、正規空母赤城、正規空母Ark Royal(アーク ロイヤル)で構成された笛有鎮守府第1艦隊…………」

 

突然饒舌に喋り出した加賀に、大和と川内はポカン、とする。

 

「お、お詳しいですね……」

 

「…………………どうも」

 

「あっ、2人とも!そろそろ演習が始まるみたいだよ!!」

 

川内が指差す演習場では狭間鎮守府第1艦隊と笛有鎮守府第1艦隊が互いに向き合っているところだった。

 

「さぁ~、ちゃっちゃと終わらせて帰るぞ~~…って大井っち、どうしたの?」

 

やる気なさげに手をブラブラさせる北上だが、相方の大井の顔が険しいことに気付く。

 

「………北上さん…聞こえませんか?」

 

「?…なにが?」

 

「何かが迫ってくるような……でも、どこにもそんなものは見当たらな……いや…違う………この音……海の中から……ッ!!?」

 

 

大井の声を遮るように狭間鎮守府第1艦隊と笛有鎮守府第1艦隊の間に突如、巨大な水柱が噴き出した。

あまりに勢いが強いためか、狭間・笛有第1艦隊の両艦娘の内の数名が吹き飛ばされた。

 

やがて水柱が治まるとその中から左の頬が大きく裂けた屈強な大男が姿を現した。

 

「テメエら面白いことやってんなぁ……俺も混ぜろや」

 

その男は班目(まだらめ)鎮守府の提督、班目豪(まだらめごう)であった。




九十九一二三提督はモデル無しのオリジナル登場人物で
班目豪提督のモデルはトリコのゼブラです。


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