TR-6 (インレ)
しおりを挟む

ありがとう、ガンダム

 宇宙世紀0090.5.8 第一次ネオ・ジオン抗争が終結して1年と4ヵ月が経った。

 エゥーゴは、地球連邦軍の外郭部隊「ロンド・ベル」として再編され、反地球連邦組織の掃討に当たっている。皮肉な話だ。反地球連邦なんて名前のくせして、今や体制の番犬と化しているのだから。我々から役目を奪って、奴らさぞかし鼻が高いことだろう。

 しかし連邦政府も無策なものだ。我々が居なくなったら居なくなったで、ネオ・ジオンにダカールは押さえられて、コロニーは落とされて……。それでまた同じような組織を作っている有様……。

「奴等がグリプスからMK-Ⅱさえ奪わなければ、こんな面倒くさいことにはならなかったかもな」

 コクピットの中で独り言つ。

「アレクサンドロス少佐、艦長からの伝言です」

「何だ?」

 オペレーターの言葉に耳を傾ける。命令ではなく、伝言というのが気になる。

「今更愚痴愚痴言ってもしょうがないでしょ、とのことです」

「艦長に伝えておいてくれ。全てにおいて正しいって」

 そう言って、オペレーターとの通信を一時、中断する。あとはメカマンのとっつぁんに機体の整備状況を確認するだけ。

「とっつぁん。この細脚でまともに動くのか?」

「心配要りませんよ、少佐。何なら長靴でも履かせましょうか?」

「いいよ、ありがとう。補給もそんなにない中、やりくりしてくれてさ」

「なんてことないですよ。少佐、いってらっしゃい」

「あいよ、大尉も達者でな」

 カタパルトに脚部を乗せて、体勢を低く取る。

「オペレーター、敵は……」

「アイリッシュ級2隻とクラップ級1隻です。モビルスーツは、ジムⅢが10機、未確認機が1機、以上です」

「こっちは、アレキサンドリア級1隻にモビルスーツ1機だ……。如何に此奴でもどうにもならんな、こりゃ……」

 数をぶつけられたら、いくらマシーンの性能が良くても勝ち目がない。

「まぁ、泣き言言っちゃいられないか。行ってくる」

「御武運を……」

「ありがとさん。アレクサンドロス、ガンダム・ウーンドウォート出るぞ!」

 幻のガンダムが、俺の死装束になるとはねぇ。

 

 

 

 

 

 

 出撃して直ぐに、3機のジムⅢが襲いかかってきた。

 手持ちのビームキャノンの照準を1機に合わせて、トリガーを引き撃ち落とす。すると残りの2機もウーンドウォートが勝手に照準を合わせて、撃ち落とした。こいつ、本当に便利だ。

「お前がもう少し早く生まれてくれていたらなぁ」

 モビルアーマー形態に変形させて、一気に敵陣の中に突っ込み、バルカンとビームを浴びせる。まぁ、ジムなんざ此奴で十分削れる。

 しかし何が悲しくて、俺はジムを落としているんだ? ジムは連邦軍のモビルスーツなのに。俺たちも元々はれっきとした連邦軍の一員だったってのに。どうしてこんなジオンの連中がやっているようなことをしなきゃいけないんだ。

「俺たちの上前をはねて、さぞや気分がいいだろうなぁ! 宇宙人ども!」

 モビルスーツ形態に戻り、近くにいたアイリッシュ級にビームキャノンを撃ち、艦橋にヒートソードを叩きつける。

「さあ、どんどん来い! 地獄旅行に案内してやる!」

 

 

 

 

 

 

 モビルスーツを叩き伏せ、撃ち抜き、アイリッシュ級の艦橋を破壊し……。至る所、残骸だらけ……。しかし面倒な奴が残っている。例の未確認機だ。

「シールドブースターは弾切れ。頭部バルカンの装弾数も心許ない」

 不味いな。一応、バーザム用のビームサーベルは持っているが、そいつもどこまで持つか。

 未確認機は、ゲルググに似た機体だった。白と朱色というやけに目立つ色合いの機体だ。此奴は確か、アムロ・レイがカラバにいた時に乗っていた機体だったな。するとパイロットは、あの一年戦争の英雄か。

「おやおや、とうとう運の尽きか……。おい、バビロン。こちらガンダム、聞こえるか」

「何ですか?」

「運の尽きだ。アムロ・レイが居る」

「何ですって……」

「バビロンを放棄した方がいいだろう。艦長に脱出するよう伝えておいてくれ。それと愛してるってな」

 通信を切り、ヒートソードを構える。ジムⅢの残骸からビームライフルを奪い、ゲルググ擬きに突進する。

「何とかやってみるさ! 頑張ってくれよ、ガンダム!」

 

 

 

 

 

 

 ビームライフルを牽制に撃ち、放り投げる。ジムを踏み台にして、滅茶苦茶に逃げ回りながら、何とか接近戦に持ち込もうとする。しかし流石ニュータイプ。こっちの考えが見えているみたいに、狙い撃ちしてくる。

「いい加減、近づきたいところだが」

 かなり無謀だが、シールドブースターのIフィールドを使いながら、グレネードを躱しつつ突進する。避けられたところをバルカンでビームライフルを破壊して、シールドブースターを突き込む。

 奴の左腕が吹き飛んだところで、隠し腕のビームサーベルで追い討ちをかける。しかし向こうも此方と同じ手を使って、隠し腕を破壊して、此方を蹴り上げた。

「ぐっ」

 コクピットの中がデカイ振動で揺さぶられる。

「まだまだっ」

 此方も残りのバルカンを乱射しながら距離を取る。さあて、そろそろ限界かな。

「少佐! 全員の脱出が完了しました!」

 急に通信が入ったかと思えば、オペレーターが良い知らせを持ってきてくれた。

「本当か……? そいつは良かった……。皆、元気でなって伝えておいてくれ……。オペレーター、身体には気をつけろよ……」

 さあて、脱出が完了したとなれば……、俺のお役目は御免ってとこだな。

 モビルアーマー形態にゆっくりと変形させる。そしてアムロを無視して、クラップ級目掛けて全速力で突進する。

「なるべく遠くに逃げてくれよ……。少しでも時間を稼ぐから」

 爆発音がし、機体が振動した。破損箇所はブースト・ポッド。不味いな、推力が落ちていく。

「まぁ、亀みたいに遅い方が此方にも気が取られやすかろ……う。おかわりをもらったみたいだな。熱くなってきた……」

 そろそろ爆発四散するだろう。せめてクラップ級を沈めたかったが、叶わないようだ。

「よく頑張ったな。ありがとう、ガンダム……」

 例の言葉を言い終わった時に、ガンダムは爆散した。

 その言葉を聞き届けて安心したかのように……。

 




如何でしたか?
ガンダムTR-6というのが、面白い機体なのでお題にしたいと思い書き上げてみました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。