ソードアート・オンライン 〜瑠璃色の痕跡〜 (☆さくらもち♪)
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第1話【プロローグ】

久々の投稿になり、また新たにやってみる気持ちになりました。
初めましての方は適当な文章ではありますが見守っていただけるとありがたいです。


科学が発展し仮想世界という現実世界とは違う異世界へと進出していった世の中。

その開発者である『茅場晶彦』は天才的な量子物理学者は仮想世界を使ったゲームをも創り出していた。

『ソードアート・オンライン』と名づけられたそのゲームは世界中のゲーマーが喉から手が出るほどに欲しがるも、その数は10000という決して多くはない。

数万倍以上の抽選を得て手に入れたゲームは2022年11月6日に正式サービス開始を始める。

 

 

そんな中、10000人だけが手にで出来たそのゲームをプレイする少年がいた。

幼い容姿ながらも、人を惹き付けるだろう雰囲気や、妖しいものを感じさせる彼は普通の少年とは言えない。

 

「リンク・スタート」

 

重々しさが見ただけでも分かる仮想世界へと入るための機器である『ナーヴギア』を頭に被る。

少年の頭はもちろん、大人ですら覆える設計といえばその大きさは分かるだろうか。

仮想世界へ入るため言葉を紡ぐと彼の意識は現実世界から仮想世界へと移行していく。

 

 

 

 

 

無機質なアナウンス音声によるキャラクター設定は適当に済ませて、彼はSAOの世界へと降り立った。

現実世界では有り得ない世界観はファンタジー世界を連想させる。

元々SAO自体が魔法要素が一切ない剣の世界として創られている。

 

「おーい!そこの君ー!」

 

彼が設定を終えて街を適当に散策しながら歩いていると声をかけられていた。

声の主は紺色の髪が印象的で、どことなく天真爛漫な少女。

見た目だけでいえば美少女と言われるだろう美貌を持っていたが彼は強い警戒を抱く。

SAOのキャラクター設定は男女設定があるが、本人の自由になっている。

つまるどころ、ネカマと呼ばれる性別詐称が可能になっている。

誰もが目を向ける美少女だろうと大体は野郎だと相場は決まっているのがMMORPGというゲーム。

 

「良かったぁー……君ってこのゲームやり慣れてる感じだね?」

 

「……一応は」

 

「出来たらで良いんだけど、ボクに戦い方教えてもらえるかな?」

 

彼としては面倒ではあるものの今は特にやることが無い。

美少女だろうとあまり気にしない質なので暇を潰すついでと考えた。

 

「まぁ……良いですけど」

 

「ほんとに?!ありがとう!」

 

ただ教えるだけなのにこんなに喜ばれると思っていなかった彼は少し困惑するも、こういう人なのだろうと思考を終えた。

 

「あっ、ボクはユウキ。よろしくね!」

 

「……ルカです」

 

彼…ルカは早速ユウキにSAOでのルールやマナーを含めた情報を教えながら武具屋で必要な武器を購入させた。

ユウキが選んだのは片手直剣として扱われる店売りの武器。

SAOでは剣の世界と豪語している為か魔法は無いものの武器の種類はそこそこにあった。

その中でも片方直剣はSAOでは基本的な武器でもある。

 

「じゃあ、戦闘方法教えるので。フィールドに出ましょうか」

 

「はーい!」

 

始まりの街と呼ばれる街を出て2人はモンスターが跋扈するフィールドへと足を踏み出した。

 

 



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第2話

少し遅くなりましたがようやく2話投稿です。


ソードアート・オンラインでは安全圏内と言われる街を中心にフィールドが広がっており、フィールドに出たプレイヤーはあらゆるダメージを負うようになる。

モンスターからのダメージや、プレイヤーからのダメージなど様々だが。

ルカとユウキの2人も戦い方を教えるためにはフィールドに出なければならないので草原地帯に生息する青い猪である《フレンジー・ボア》を倒していた。

 

「えいっ!」

 

可愛らしい声が聞こえると青猪は原型を留めれずにデータ状の破片へと爆散していく。

ルカが予想外だと思った点が、ユウキは会話などからこういったRPG系ゲームをあまりやり込んでいないという点から初心者同然の実力だろうと踏んでいた。

だが実際に片手直剣を握らせて多少動きを教えただけで瞬く間に無駄のない最適な戦い方へとなっていた。

 

「才能……か。それも天性の」

 

ルカもその腕は認めざるおえない。

あれほどまでの戦いに対する天才性は世界にもそうはいない。

それでいて観察眼にも優れているところも分かっていた。

ユウキが倒していく青猪はどれも一瞬で倒されていた。

力技というよりも技術故になせる倒し方。

無駄な傷はなく、剣で突いたのだろう刺突の傷だけで青猪のHPを全て削り切っていた。

 

「ん……」

 

「よしっ……どうかな?」

 

「いいとは思います。初めてですよね?」

 

「そうだよ?」

 

初めてとは思えないが、声色や仕草などからも本当にそうなのだろうと分かる。

SAOをやる上で()()()()()()()というのが存在しており、これに強い適性があると脳とナーヴギアでのやりとりに誤差や遅延などがなくなる。

信号や刺激のやりとりもスムーズになる。

ユウキはその中でもかなり強い適性があると言えるほどの素質があった。

 

「えへへ、ありがとう!」

 

「いえ……元々センスがあったのだと思いますよ」

 

「それでも教えてくれたのは君だけだったからね。助かったよ」

 

リアルでもこんな子ならと思いながら、時間を見るとそこそこにいい時刻になっていた。

1度街に戻ろうかと考えていると、どこからか鐘の音が鳴り響いた。

その音はユウキも聞こえていたらしく、不思議そうにしていた。

そんな中ルカはなんとも言えない表情ではあったが。

 

「ユウキさん。自分はここまでみたいです」

 

「えっ?」

 

ルカは知っていた。

この先に起きることを。

史上最悪のデスゲームが始動するのを。

転移の光が始まり、収まっていくとユウキとは離れた位置に移動されたらしく、ルカが周りを見ると最初期の街である《始まりの街》の中心へと立っていた。

続々と他のプレイヤーも転移されて行っていた。

突然転移され、街に戻されたプレイヤー達は困惑や不安などを抱える。

その時に1人のプレイヤーが夕焼け空を指さした。

 

「おい!あそこになんかあるぞ!」

 

その指の先には夕焼け色とは違う血のような色。

《system announcement》と書かれていたその赤いパネルは小さな1つから群がるように空を蝕んでゆく。

やがて空一面が真っ赤になり、隙間があるのかのようにどろりとした赤い雫が垂れていた。

その雫はどんどん大きくなり、ひとつの人型へと変わる。

真っ赤なフードを被った巨大なプレイヤーへと。

しかしその顔は見ることが出来なかった。

 

「ようこそ、私の世界へ」

 

この騒然とした空間の中では似合わない台詞。

 

「私の名前は《茅場晶彦》。この世界でのゲームマスターでもある」

 

 

「さてお気づきの方もいるだろう。システムメニューからログアウトボタンが消滅していることに。だが、これは不具合などではない」

 

 

「繰り返そう。これは不具合などではなく、ソードアート・オンライン本来の仕様である」

 

 

「君たちは今後、自発的なログアウトは不可能だろう。現在現実世界では、ナーヴギアを取り外さないようにと報道などにより喚起がされている。しかし、残念なことに耳を傾けなかった者により凡そ300人余りがこの世界及び現実世界からも永久的に退場している。だが、もしも外部の人間や第三者により強制的に外そうとした瞬間に、ナーヴギアに搭載されている電子パルスによって君らの脳を焼却することだろう」

 

 

こんな狂った事を告げられても、ルカは何一つ動じなかった。

元より彼は開発側の人間であり、元より普通とはかけ離れた人外のような人間の失敗作。

彼自身が異常だと認識出来る内容ではないということだった。

 

「しかし、ただ閉じ込めた訳では無い。この世界の最頂点である第100層にて君らを待つ最終ボスを撃破する事により、ソードアート・オンラインはゲームクリアされ、現実世界への帰投が成される」

 

 

「君らは疑問に思ったことだろう。何故、茅場晶彦はこの様な事をしたのか。と」

 

 

「私の目的は既に達成されている。この世界を作り上げ、君達を招き入れた時点で」

 

 

「それでは、ささやかながらも私からのプレゼントを贈りたい。確認してくれたまえ」

 

ルカはメニューからプレゼントの中に入っているアイテムを確認する。

《手鏡》と表示されたそれをまだ取り出しはしない。

 

「これにて、ソードアート・オンライン正式リリース及びチュートリアルを終える。健闘を祈ろう」

 

その最後を告げられるとルカはすぐに準備を始めた。

手鏡による効果を知っていているためにその前準備だった。

人前に顔を晒すのを嫌う彼はストレージの中から身体をも隠せるローブを着込んだ。

その状態で手鏡を取り出すと、鏡から眩い光が溢れ出し、ルカを覆う。

光が治まると、鏡に映るのは一目見れば誰しもが羨む美貌。

そして何よりも白銀色の髪と宝石が嵌め込まれたかのような虹色が鏡の彼を見つめていた。

 

 

 



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第3話

デスゲームとなったソードアート・オンラインが始まって1ヶ月ほど。

手鏡を使ってからルカは容姿を隠せるローブを着ていた。

《隠蔽》と呼ばれる隠密行動に影響するスキルにも多少ながらボーナスが上乗せされたりと使い勝手がよかった為に、ローブが脱がれたことは無い。

1ヶ月もあれば迷宮区と呼ばれるフロアダンジョンもさすがに見つかるが、第1層のフロアボスは未だに討伐はされていなかった。

プレイヤーキャラクターが死亡すれば現実世界での自分自身も死ぬと分かり、迷宮区の攻略自体もあまり進まないというのが現状と言えた。

そんな中ルカは朝昼晩と迷宮区に篭る日々。

暇があればモンスターを倒してレベルを上げているためにルカのレベルは第1層ではもう上がることは無いだろうほどに限界が来ている《Lv18》。

ルカが迷宮区の入口近くで休憩を取ろうとすると、その入口近くで人が倒れているのを見つける。

《索敵》スキルでモンスターやプレイヤーがいないかくまなく探すも見つかりはしなかった。

 

「死にたがり」

 

倒れているプレイヤーにカーソルを合わせると残存HPはレッドゾーンに入っていた。

死にたがりなのかと思いながら、プレイヤーを抱き上げた。

身体の感触から女性なのだと分かった為、安全な場所に寝かせた。

 

「ん……ふぁ……」

 

本来は休憩するためだったために睡魔がやってきていた。

最後に寝たのはいつだったかと思いながらルカは目を閉じて意識を落とした。

 

 

 

 

 

眠っていたルカが違和感に気づいたのは夕刻ほど。

目を開けると女性プレイヤーは既に起きていたようで、ぼーっとしながら空を見ていた。

時折飛んでくる視線が違和感と感じたのだろう。

 

「はぁ……」

 

「死ねなかった気分はどうですか」

 

寝ていると思っていたのだろう。

ルカが声をかけた瞬間、見てわかるほどに身体が驚いていた。

 

「あ、あなた……助けたの?私を」

 

「他人に興味はありませんが、迷宮前で倒れられて死なれたら気分が悪くなりますので」

 

ルカの言い分に反論出来なかったのか女性はすぐに黙ってしまった。

居心地が悪かったのか、女性はすぐにルカに謝罪をした。

 

「この環境に耐えれる人なんて少ないですし、いっそ死んだのが良いんじゃないかという考えはありだとは思います」

 

「そう……」

 

「ですが……ここが仮想世界とは考えずに、1つの自分が生きる世界だと思っている方がよっぽと気楽だとは考えます。貴女は()()()()()()()()()()()()()のか。それを何日もかけて見つける事が大事かと」

 

独り言のように呟いたつもりのルカの言葉は意外にも女性には受け入れられたようだった。

 

「君は……何かやりたいことがあるの?」

 

「……目標を立てるのは苦手なので。やりたいことなんて特にないです」

 

「そう……分かったわ。貴方の言ったように私が私でいるためにこの世界で生きていく。死にたがりなんてもうしないわ」

 

そう言い放った女性の目は強い意志が秘められていた。

 

「貴方の名前、聞いてもいい?」

 

「知ったところで意味はないと思いますが」

 

「今後会ったらって考えないのね?」

 

「言った様に他人に興味はありませんから。名前も教える必要性を感じないだけです」

 

人嫌いなのに自分に説教する辺り元は優しいのだなと女性は思った。

 

「私は《アスナ》よ」

 

「教えてとは言ってないのですけど……はぁ……《ルカ》です。これでいいですか」

 

ツンツンしている所が昔の自分に重なったのか、アスナは弟が出来たような感覚になっていた。

そしてふと思い当たる。

自分よりは確実に年下だろうルカは独りでこのSAOに来たのだろうかと。

 

「ねぇ、ルカ君」

 

「……何でしょうか」

 

「親御さんとか……誰かと一緒にSAOを始めたりした……のかしら」

 

「それこそ貴女には関係ないでしょう」

 

一瞬にして冷たい声色になったルカに地雷を踏み抜いてしまったのだとアスナは後悔しながら謝罪をする。

あまりにも知り合って間近なのにも関わらずプライバシーを聞かれれば不快に思われるだろう。

 

「そのうち第1層のボス攻略会議が行われるそうです。貴女が決めた目標の第一歩として参加してきてはどうですか」

 

ルカはそれだけ言うと立ち上がって主街区の方へと歩いて行った。

ルカなりに彼女へヒントを与えたつもりだった。

アスナが言うように元々優しい性分だが人は嫌いという矛盾した部分がある。

 

「私も頑張らなきゃ」

 

またルカと再会出来るように、アスナは気合いを入れて愛用の細剣を持って迷宮区へと入っていく。

 

 

 



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第4話

第1層の迷宮区から最も近い位置に存在する街《トールバーナー》にて迷宮区の攻略会議が開かれていた。

参加人数は20人あまりと少なかったが、それでもこの現状を変えたいというプレイヤーなのだろう。

ルカもこの攻略会議には参加しており、1人だけで孤立していた。

 

「さて、みんな!今から第1層攻略会議を始めたいと思う!」

 

声高々に注目を浴びるのは見た目だけで言えば好青年。

だが人を惹き付ける雰囲気があり、リーダーシップがあると言えた。

 

「俺の名は《ディアベル》!気持ち的にはナイトやってます!」

 

緊迫とした雰囲気を一瞬にして変化させた。

ルカも感心するほど人心の掌握が綺麗に出来ていると感じれた。

 

「今回この攻略会議を開いたのは、俺のパーティーが第1層のフロアボスを見つけたからだ」

 

その情報は集まったプレイヤーにとってとても重要だ。

未だに第1層という壁を乗り越えれずにいるSAOプレイヤーからすれば希望の1つ。

最もルカはとっくにその場所を見つけており、取り巻きとボスの行動をある程度まで攻略しきっていた。

 

「第1層のボスを撃ち破る事が今の現状を切り開く1つの希望の星だ!だからこそ、今ここで力を合わせる必要がある!」

 

力強い言葉のディアベルに賛同するプレイヤーは多かった。

 

「じゃあ今からパーティーを組もう!みんな各々自由に組んで欲しい!」

 

ディアベルはとっくにパーティーがあるが、ルカにはない。

元よりルカはソロ専門のプレイヤーであり、パーティーなどといった協力行動は苦手としていた。

どうしようか、と悩んでいるとルカに声をかける者がいた。

 

「ねぇ、貴方」

 

「……はい?」

 

「パーティーには入っていない?」

 

「いえ、入っていませんが」

 

「なら、入ってくれないかしら?人数合わせでもいいから」

 

女性の声と判断し、その中でも最近聞き覚えのある声色。

完全に信に値するか未だに分からないが、パーティーの件はありがたいと思いルカは受けた。

 

「はい、構いませんよ」

 

すぐにルカの目前にはパーティー勧誘の画面が表情され、承諾のボタンを押した。

視界の左上にはパーティーメンバーの情報が表示され、入っているメンバー全員の名前が出ていた。

 

(3人……)

 

《Asuna》《Kirito》《Yuuki》の3人の名前が表示された。

 

「他の2人は……ほら、あそこ」

 

彼女の示した場所には少年と少女が座っていた。

特に少女の方ははっきりと分かる。

 

(あの子……確かユウキ、だっけ)

 

紺色の髪の美少女だったために何となく印象には残っていた。

悪いことをしたとルカは思いながら、考えないようにしていた。

だがあの様子ではしっかり生きているのだなと分かり安堵する。

 

「お互い知っている方がやりやすいでしょうし……合流しない?」

 

「分かりました」

 

あの時はあんなにも死にたがりさんだったのにも関わらず、今はしっかりと芯のある少女になっているのだなと分かった。

元より世話焼きな部分もあるのだろう。

それが少しルカにはむず痒さを抱かせた。

 

「キリト君、ユウキ。連れてきたよ」

 

「どうも、ルカです」

 

至ってシンプルな自己紹介にアスナは苦笑しながらも、キリトとユウキに催促する。

 

「キリトだ」

 

「ユウキだよ!よろしく!」

 

「改めて、アスナです」

 

お互い自己紹介を終えると攻略会議の編成もぼちぼち終わり始めているようでディアベルが真ん中へと戻り始めていた。

 

「さて、パーティーは組めたと思うから次はフロアボスについての情報を共有したい」

 

 

「ボスの名前は《イルファング・ザ・コボルド・ロード》。そのボスの取り巻きは《ルイン・コボルド・センチネル》。この辺りはβ時代と変わらなかったと聞いている」

 

 

「俺が率いるパーティーがボスのターゲットを取る。その間に他のパーティーは取り巻きであるセンチネルの処理をしてもらう。センチネルが終わり次第、ボス隊と合流してもらいたい」

 

 

「ここまでに何か意見や質問はあるだろうか?……なければこれにて会議は終えて当日に備えたい」

 

誰も声を発さない。

それが合図のように、ディアベルは会議を終えるため閉めようとする。

 

「ちょっとまってんかー!」

 

急な乱入者に騒然とするも、ディアベルは驚きはありながらも冷静に乱入者を見ていた。

 

「わいの名は《キバオウ》ちゅーもんや」

 

「それでキバオウさん。何かあるのかな?」

 

「あるに決まっとるわ!こんなかにβ上がりのもんが混じっとる!」

 

「βテスター達がどうかした?」

 

「βテスター共はワイらビギナーを置いて一目散に街を出ていったことや!それのせいで死んでった者に対する誠意を見せろちゅーことや!それが出来んと背中は預けられんし、預かれん!」

 

正論といえば正論なのかもしれないとルカは思考する。

だが、それと同時に。

何故無関係の他人に手を差し伸べねばならないのだろうと。

 

「……馬鹿みたい」

 

「……あぁ!?今の誰や!」

 

キバオウは自身へと呟かれた言葉の主を見つけようと全員を睨みつけながら探す。

そんな中、ルカはさも気にしていないように立ち上がってキバオウの元へと向かった。

 

「なんや、我」

 

「名乗る必要性を感じない」

 

「餓鬼が……舐めとんちゃうぞ」

 

「全員、自分が可愛い。だから手を出さないし、助けもしない。それが何故駄目なのか、理解ができない」

 

「β共は先にこのSAOをプレイ出来たんやろうが!なら情報を開示すんのが普通やろうがい!」

 

「それが既に分からない。情報を開示するのは個人の自由。貴方に指図される言われはない」

 

ルカの正当な正論に何も言えなくなってきているキバオウは悔しげながらも憎しみげな目はルカに向けていた。

一触即発の中、1人のプレイヤーが声を上げた。

 

「これが何か、知っているだろうか」

 

そのプレイヤーが手に持っているのは道具屋に置かれていたり、無料で配布されているガイドブック。

 

「当たり前や。ワイも持っとる」

 

「そうだろう。これは《始まりの街》の道具屋で無料で配布されているからな」

 

「なら、それがどうしたんや」

 

「これを作っているのはβテスターだ」

 

ガイドブックというお助け本、運営が、茅場晶彦が用意しているとは到底思えない。

であれば誰がその本を率先して作っているかなど自明の理だ。

 

「くだらない。何も言い返せないのなら最初から言わなければいいのに」

 

そう言い残すとルカは元の席から多少離れた位置に座った。

パーティーメンバーには迷惑をかけないようにと考えた結果である。

 

「βテスター達にも、その本人達にも言いたい事はあると思う。だが、今ここで争えば第1層の突破は出来ない。お互い協力し合うのが最善だ」

 

ディアベルの演説により、険悪な雰囲気は消える。

彼のリーダー的存在は戦力としては別であっても士気を上げる重要なポジションだった。

 

「それでは、これで以上とする!解散!」

 

ディアベルの最後の言葉を仕切りにプレイヤーは帰路へと向かった。

ルカも立ち上がってどこかに行こうとすると、手を掴まれた。

 

「待って」

 

「ん……」

 

ルカを引き止めようと掴んだのはユウキだった。

天真爛漫さは消えて、真剣な表情へと変わっている。

 

「今から何処に行くの?」

 

「……言う必要性は」

 

「パーティーメンバーだから」

 

「人数合わせと言われて入っただけです。協調性はないと自覚しているので」

 

それでも手を離そうとしないユウキにため息をつく。

 

「はぁ……少し外でぶらつくだけです。宿の場所はメッセージで送ってくれれば向かいます」

 

「分かった!ごめんね、引き止めて」

 

彼女を途中で放り出した負い目があるからか、罪悪感はあった。

一目見てルカに興味を抱かせた彼女だったために、普段は出ない感情が溢れ出ていた。

 

「全く……」

 

だがそれも嫌なものでは無かった。

自分でも極端だとは分かっていながらも治せるものではないと理解していたから。

だからこそ、こうして彼女によって人間らしさが感じれるのは感謝していた。

 

「適当に、数十分」

 

見上げた空の色は紅く染まろうとしていた。

それは、昔見た風景のように。

酷く懐かしく感じられた。

 

 

 



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第5話

夜闇の中、ルカは宿屋に入り指定された部屋へと向かっていた。

夕焼けの空はすっかり暗闇に包まれて、夜空が広がっていた。

 

「ん、と」

 

念の為に扉を3回ノックすると、中から声が聞こえた。

 

「どうぞ」

 

入ると少女2人がベッドの上に座っており、お風呂上がりなのか身体が火照っているようで多少染まっていた。

 

「ちゃんと、戻ってきたでしょう」

 

「うん!」

 

「では寝るので失礼しますね」

 

例えルカの見た目が幼い少年の背に見えても、精神的には大人びている。

よろしくない状況になる可能性を考えてルカは少女達の部屋を出ようとすると腕を掴まれる。

不意打ちのためにそのまま手を引かれていく。

 

「ちょっ、ユウキ!?」

 

「ルカ、外で寝そうだもん」

 

「はぁ……」

 

ユウキの言うことはもっともで、ルカはまともに宿屋を使わない。

外で寝るのは良いことではないがルカからすれば気にしないで終わってしまう。

 

「ユウキさん。あなたは女性で、僕は男性です。あまりにも無防備ではないですか」

 

ルカの今の状況はユウキに手を引かれてベッドに倒れている。

ユウキが位置を変えているのでルカは下でユウキが上の状況。

危機感が無さすぎると呆れ返っていた。

 

「僕から貴女に触れば即牢獄行きにされます。どいてはもらえませんか」

 

「やだ」

 

「外で寝ようと死にはしませんよ」

 

「だめ」

 

取り付く島もないな、と思いながらどうやって引き剥がそうと考えていると、アスナは諦めたらしい。

要は自分自身が何も手を出さなければ問題ないと結論に至り、ユウキと寝ることにした。

 

「はぁ……せめて同室なのですからアスナさんに許可は得てください」

 

「アスナ、いい?」

 

「……ルカ君は大丈夫なの?」

 

「大丈夫ですし、出すつもりもないので。外で寝ようと思っていたのですけれどね」

 

手を離すようにユウキに促すと、渋々ながらも名残惜しそうに離した。

 

「お風呂借りますよ」

 

隣の部屋にはお風呂がついている宿なので、ルカはついでながら入りに行った。

現実世界と違い、ボタン一つで装備が全て外されるので楽といえば楽だった。

ずっとローブで隠されていた白銀の髪が解放される。

現実世界の体をコピーしてアバターに映しているので、実際もルカの髪は白銀。

女性も羨むだろう美しさはありつつも、どこか幼さが残る顔。

光をかざせば煌めく腰まで届きそうな白銀の髪。

宝石を埋め込んだように角度で色が変わるように見える虹色の瞳。

 

「変わらない」

 

自分自身の身体なのに、嘲笑う。

ルカとて好きでこんな身体になったわけではないと分かっている。

それでも、普通の男の子のように生まれたかった。

 

「入ろ」

 

すぐにシャワーを出すと髪と身体を洗った。

ある程度磨けば多少は綺麗に見えるとルカも考えているので、雑には洗わない。

そのおかげでもちもちな色白の肌にサラサラな髪が手に入っている。

シャワーを済ませるとすぐに身体を吹いて髪も水分を取る。

 

「乾かせる、かな」

 

身体が柔らかいと自負しているルカでもさすがに背中に手が伸ばしきれない。

単純に身長が短いと手も相応に短い。

 

「ユウキさんかアスナさんに聞いてみよう」

 

断られたら適当にしようと思い、服を着て扉を開ける。

アスナは部屋に居ないようでユウキがベッドで寛いでいた。

 

「ユウキさん」

 

「なにー?」

 

「髪乾かしてもらえますか」

 

「いいよー」

 

ユウキがルカの方へ顔を向けると呆けたように固まった。

紛れもなくルカは見た目だけで言えば美少女。

それにルカは一切自覚をしていないが、そもそもあまり自分の容姿を好いていない。

 

「ルカ……だよね?」

 

「はい」

 

「綺麗、だね」

 

「そう……ですか?あまり気にしたことないので」

 

ぼふんと、ベッドに座るとユウキに背中を見せる形で身体を向ける。

手渡れたドライヤーでユウキも乾かしながら、ルカの髪の触り心地を楽しむ。

 

「さらさら……それにいい匂い」

 

匂いは無いが、ユウキからすれば何かしらあるのだろうとルカは気にしなかった。

 

「どお?熱くない?」

 

「はい」

 

「ずっと触っていたいなぁ……」

 

うっとりしながら髪の毛を乾かし終える。

それと同時にルカも立ち上がって髪を触り始めた。

 

「おぉ……さすが女の子です。綺麗に乾いてます」

 

「えへへ」

 

乾いていることを確認すると、ローブをまた着用する。

フードだけ外しているので銀髪がふんわりとしている。

 

「そういえば」

 

「ん?」

 

「ユウキさんはどうして僕に構うのですか?」

 

それはルカが再びユウキと出会ってから疑問に思っていたこと。

初めて出会った時はルカの容姿が今とはかけ離れているため、合致されることはまずないだろうと考えていた。

 

「なんでだろね。ボクもわかんない」

 

「気まぐれとかなら止めてください」

 

「ううん。気まぐれなんかじゃない。だけど……」

 

「……まぁ、少なからず僕も貴女に興味はありますから。構いません」

 

「へっ?」

 

「興味がなかったら素直に僕は拒絶してます」

 

ルカはユウキのベッドに潜って横になる。

端っこの方に身体を寄せているので寝てしまうのだろう。

 

「ルカ、寝ちゃうの?」

 

ユウキの問いかけには微かに聞こえる寝息。

部屋を出たきり戻ってこないアスナが心配になったが、メッセージで寝ることを伝えるとユウキもベッドに潜った。

先に寝たルカを起こさないようにしながら、恐る恐る抱いてみる。

 

「わぁ……」

 

男の子なのにも関わらず、柔らかい身体。

離したくない気持ちが生まれ、ユウキはそのままルカを抱きしめて寝付いた。

 

「全く……」

 

欲求に素直だなと思いながら、寝たふりをしていたルカはお腹に回された手を少し緩めて、ユウキに顔を向ける。

ユウキは完全に寝ており、幸せそうな表情で寝ていた。

 

「一目惚れ、なのかな」

 

初めて興味を抱いた女の子。

まだ自分自身の感情をはっきりと自覚するにはもう少し時間が必要なようだった。

 

 



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第6話

まだ完全に朝が出ているとも言えない時間にルカの意識は浮上していた。

睡眠時間が限りなく少なくても活動を可能に出来るようになっている為か、寝る時間も短かった。

 

「ん……」

 

ルカの隣にはユウキが寝ており、まだ目を覚ます気配はなかった。

アスナも同様だったため、起こさないよう静かにユウキのて手から抜け出てベッドを出た。

 

「あ……着てない」

 

チラつく自身の髪と普段の視界からフードが外れていた為すぐに直すと部屋を出た。

宿泊部屋である2階を降りると食堂にもなっていた1階には誰もいなかった。

NPCだけは存在しているので実際にはプレイヤーだけだが。

何もやることがない事が久々に出来てしまい、ただぼーっとしているのを数十分以上していると、起き始めたプレイヤーが出てきたのか2階から話し声が聞こえてきていた。

その中にはルカのパーティーメンバーであるユウキやアスナとキリトの声もあった。

 

「あっ、ルカー!」

 

「おはようございます」

 

「おはよー!」

 

花が咲いたように明るい笑顔のユウキに宿屋にいた男性プレイヤーは息を飲む。

SAOのプレイヤーアバターは現実世界の物を再現しているため、美少女であるユウキは現実世界でも美少女なのだ。

 

「……変なの」

 

その笑顔が自身に向けられているのは嬉しく思いながらも、それを他の男性に見られるのが少し不満に感じた。

 

 

 

 

 

第1層ボス攻略当日。

ルカ達は第1層のボス前にて他の攻略メンバーと共に集まっていた。

 

「そういえばルカって片手剣なんだね」

 

「なら俺とルカが前衛に入ったのがいいな」

 

キリトの提案に全員頷くも、ルカは多少思考に入った。

ボスであるコボルド王はディアベル率いる部隊が請け負うため、その他は取り巻きであるセンチネルの処理をしなければならない。

そのセンチネルが鎧を着込んでおり、《鎧通し》と呼ばれる技術を使うか体勢を崩さなければダメージが通らない。

技術的には不可能ではない。

ならば出来る。

 

「自分一人でも構いませんけど」

 

「あれを通すのは至難だぞ?」

 

「不可能ではないですし、無理そうなら辞めます」

 

「ならボクが後衛に入るよ。それなら問題ないでしょ?」

 

「……そうだな。俺とアスナ、ルカとユウキでやろう」

 

センチネルの対応を予め決めて終えると、ちょうど向こうでも準備も終えたのかディアベルが扉前に移動していた。

 

「みんな、準備終わったと踏まえて今からボス攻略を行う!」

 

ディアベルの言葉に一同は緊張と不安を抱えつつも、士気は落ちなかった。

 

「俺から一言。……勝とうぜ!」

 

その力強い一言に皆が頷き、ディアベルは満を持してボスフロアへと繋がる扉を開けた。

重々しく音を立てて開いていくと、巨大な柱がフロアを支えるようにそびえ立っていた。

一番奥には第2層へと繋がるだろう扉があったが、それは固く閉ざされていた。

攻略メンバー全員がまだ姿が見えないボスに警戒しながらフロア中心まで歩くと、入口の扉が閉まっていく。

そして先頭に立っているディアベル達の前には巨大な影。

 

「居たぞ!」

 

大声でかけられた声の瞬間に空から落ちてきたかのように重々しい音と共にやってきた。

《イルファング・ザ・コボルド・ロード》と表示されたコボルドの王。

体力を表すHPバーは4本であり、手に持つ斧とバックラーがあった。

コボルド王を守護するように柱から取り巻きである《ルイン・コボルド・センチネル》も出現し始めていた。

 

「それでは……全員、突撃!!」

 

ディアベルの号令と共に各々が決められたポジションと役割をこなす。

ルカもユウキと共に始めようとすると、センチネルの鎧を観察する。

 

(頭は、兜。身体的にも狙うのは兜と鎧の間)

 

完全な防具に見えたとしても、動きやすさの故に生じる隙間。

基本的な鎧は首回りは必ずと言っていいほど隙間があるため、そこを狙うことに決めた。

 

「ルカ?」

 

「ん……もう行ける」

 

ルカに殴りかかってきたセンチネルは一瞬にしてその原型を留めれずに破片へと砕け散っていく。

的確に、しかし確実にルカの《鎧通し》はセンチネルを即死させていた。

そんな光景を見ていたユウキはルカの動きに魅入られていた。

無駄のない必要最低限の動きだけで舞うように倒していくその姿に。

 

「ユウキさん」

 

「あっ!」

 

ルカに呼ばれるまでずっと見ていたのかと、恥ずかしくなりながらも、ユウキは自分の役目を全うすべくセンチネルに対応する。

そしてルカの動きを見ていてやり方のようなものが理解出来た感覚があった。

 

(ルカみたいに……鎧と鎧の間……)

 

ずっとルカが狙っているのは首。

そこを剣を横に水平にして突いている。

それを真似るように向かってくるセンチネルにやってみた。

 

「えいっ!」

 

声と共にセンチネルの首にはユウキの剣が刺さっていた。

そして一瞬にしてセンチネルの体力が無くなっていく。

 

「……やった!」

 

自分にも出来た事が嬉しかったのか、ユウキはどんどんセンチネルに目掛けて《鎧通し》を連発していく。

そんな中、コボルド王が突如として雄叫びを上げた。

ルカがカーソルを合わせてみると4本あったHPバーが残り1本にまで減っていた。

ベータテストの時にはコボルド王が残り1本になると持っている武器を投げ捨てて《タルワール》と呼ばれる曲刀を取り出す。

だが、全員が驚愕する。

 

(一緒なわけがない。タルワールじゃないんだから)

 

コボルド王が取り出したのはタルワールではなく。

《野太刀》という武器だった。

 

「俺が出る!」

 

ディアベルは走り出し、コボルド王に単独突撃していた。

武器も情報が変わっている事に気づいているのだろうが、それでも止まりはしなかった。

 

「ユウキさん」

 

「なに?」

 

「ここ任した」

 

それだけ告げるとユウキ達の視界からルカの姿が消えた。

一瞬にしてディアベルの隣にまで移動したルカは、スキルを発動させる。

 

(スキル発動……硬直……0.7)

 

コボルド王は野太刀を取り出してすぐさまスキルの構えを取っていた。

刀スキルでありながら、抜刀のように構えるスキルをルカは頭で検索する。

 

(旋車)

 

すぐさま何のスキルを発動させれば良いかを選び取ると、そのスキルを発動させるためのモーションを取った。

《ソニックリープ》を発動させてコボルド王の《旋車》と相殺した。

 

「……っぅ」

 

相殺出来ただけ良いものだろう。

ルカの片手剣は耐久値が無くなり、霧散していく。

さらに筋力が圧倒的に負けている状況での相殺によりルカの右腕は一時的に使えなくなっていた。

 

「君は……あの会議の時に」

 

「死なれると困るので」

 

「しかし……」

 

「無理やりじゃなくもっと正当な方法で貰える方法もありますが。あなたは戦う人じゃない、司令塔だ」

 

ルカの言葉が正しいと感じたのかディアベルは道を引き返す。

同様にルカもユウキ達から一瞬で離れたようにその場から抜けた。

 

「……感覚、ない」

 

右腕に対する負荷がかかりすぎたことを理解すると、ストレージから剣を取り出す。

左手に持つと近寄ってきていたセンチネルを斬り飛ばす。

 

「もうすぐ、終わる」

 

コボルド王が瀕死のために湧いてくるセンチネルも無限湧きに変化していた。

無心でずっとルカが斬っているとセンチネルの出現も止まっていた。

周りを見渡せば、キリトがトドメを刺しており、センチネルも消えていた。

ボスのHPも無くなり、破片へと散っていく。

《Congratulation》とフロア中心に表示され、第1層のボスが討伐された。

 

「勝った……」

 

「勝った。勝ったんだみんな!!」

 

フロア全体に喜びの歓声が響き、お互い噛み締めながら分かち合う。

ずっと一人でセンチネルを処理していたルカは座っていたが。

 

「なんでや!!」

 

そんな雰囲気を壊すように。

一人のプレイヤーの声が大きく響いた。

歓喜の声も止まり、そのプレイヤーへと向いていく。

 

「おかしいやんか!」

 

「キバオウさん、何がおかしいんだい?ボスは倒せたのに」

 

「そこのローブ着とる餓鬼と、トドメとったやつは知っとったんやろうが!?」

 

「……ボスの行動を?」

 

「せや!予め知ってたんならディアベルはんに教えとけば、あん時死にかける事もなかったやろうに!」

 

キバオウの言うことはもっともなのかもしれない。

だがルカは気づいていた。

この男はキリトの取った《ラストアタックボーナス》に。

危機に瀕していたディアベルを救ったルカに。

そしてベータテスターに嫉妬しているのだと。

 

「ただの嫉妬。醜い」

 

「……前から思っとったけどな。クソガキ、大人に舐めた口聞いとんちゃうぞ」

 

「そのクソガキに負けるのは誰」

 

「ベータ上がりが!」

 

会話を続けるのもくだらなくなってきていたルカはもう何も言わなくなったが、笑い声が上がった。

その主はキリトからであり、それと同時にルカも申し訳なさを感じてしまう。

 

「なんや。何が可笑しいんや!?」

 

「いや……下らないなと思ってな……」

 

嘲笑うようにキリトは笑いながらキバオウに向かって言い放った。

 

「俺はベータテスターだぞ?ボスの繰り出してくる攻撃なんて記憶してるに決まってる」

 

「なんやと……」

 

「俺は誰よりも上に登った!ボスの攻撃が分かったのは、他のモンスターで散々相手しまくっていれば覚えるに決まってるだろう?」

 

「そ……そんなん、チートやん。チートや!チーターやろうが!」

 

「ベータテスターでチーターだ!だから《ビーター》だ!」

 

キリトに投げかけられる罵倒、非難、嫉妬。

本来であれば自分自身が受けるものだったであろうそれをキリトが背負う。

そんな役目を自らさせてしまったことに罪悪感を抱いた。

 

「《ビーター》……いい名前だな?俺はこれからビーターだ!これ以降他のベータテスターと比べないでもらうか」

 

キリトはパーティーから抜け出ると第2層へと続く扉を開き、先へと進んでいく。

アスナやユウキは静かに見ていたが、怒りや心配をしているのだろうとルカは見てわかっていた。

 

「ホントに、下らない」

 

ルカも第2層へと上がろうと歩いていると腕を掴まれていた。

掴んできているのはユウキ。

 

「離してください」

 

「……」

 

泣き出しそうな顔をしていながらも、ユウキは縋り付きたいのだろう。

第1層のボス討伐は成されたのにも関わらず雰囲気は最悪で。

その感情をキリト一人で背負っていく。

ルカも見捨てるように行こうとしていたからだろうか。

 

「アスナさん。任せましたよ」

 

「……分かった……わ」

 

ルカは振り払うように。

誰にも抵抗はされなくなり、第2層へ続く先に向かった。

 

「う……ぁ……」

 

「ユウキ……」

 

「なんで……なんでぇ……」

 

抑えられなくなったユウキはアスナに抱きつきながら涙を零す。

後悔と自分の無力さを悔しがるように。

 

 

 

 



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第7話

久々の投稿です。
不定期更新なのであしからず。


どこからか、戦闘の音が聞こえた。

ルカがいる第35層に存在する《迷いの森》は知る人は知る危険地帯の1つ。

専用の地図か、完全踏破済みのマップを持っていなければ何もなしで抜け出すのが至難とも言われる。

当然ルカは完全踏破をしているので迷うことはないが、欲しい素材があって来ていた。

 

「ん……あっち?」

 

戦闘をしているのであれば基本的に横取りなどをするのはよろしくない。

人に押し付ける行為も。

だが観察ならば構わないためにルカはその現場を見に行った。

 

「……!………!」

 

戦闘の音や、プレイヤーの声からも1人で戦っているのだろうと予想しながら見に行く。

 

「ひっ……!」

 

カーソルを合わせれば瀕死ライン。

その周りには迷いの森で最強クラスとも言える猿人モンスター《ドランクエイプ》が群れで襲っていた。

 

「助け……入ったのがいいかな」

 

このまま見捨てればルカにも火の粉がやってくることもない。

だが助けれるのなら。

瞬く内にドランクエイプはその動きを止めたかと思えば破片状へと砕けていく。

 

「ん……」

 

ルカが剣を振り終えると襲われていたプレイヤーへと近づいた。

 

「ひっぐ……」

 

顔を下にして泣いており、遠目からでは分かりにくかったものの、少女と言える年齢のようで。

その子の近くに落ちていた白く輝く羽根を見て。

間に合わなかったのだと、ルカは悟った。

 

「……《ビーストテイマー》……か」

 

SAOの中でも最も少ない職。

本来であれば敵であるモンスターを従える。

その条件も難しく、該当モンスターを一定以上倒していると不可能というもの。

レベリングをするために倒していると必然となることは出来ない希少職だった。

 

「……蘇生、出来るかもしれないです」

 

「ほんと……ですか……」

 

少女にとって死んでしまったペットは心強い相方のような存在だったのかもしれない。

出なれければこれほどまで涙を流す事も無いだろうから。

 

「第47層に蘇生アイテムがあります」

 

「47……」

 

希望を見つけたと思ったのだろう。

だが少女のレベルは35層の安全マージンをギリギリ満たしている。

この階層に来るまでにもかなり苦労をした。

だからこそ47層に行くまでどれだけかかるのかと。

 

「……手伝いますよ」

 

「い、いえ!情報だけでも……有難いので……」

 

「蘇生出来るのは死んでから3日間だけです」

 

「それ、は……」

 

「……女性に興味はないので」

 

助けてもらったとはいえ、ルカと少女は初めて見る相手。

ルカとしてはどちらでも良く、身体目的ではないが信じてもらえるとは思っていない。

人見知りではありながらも、人嫌い。

少女の事を助けたのも見殺しにする必要がなかったからに過ぎなかった。

 

「どうして……ですか?。私を助けたのも、手伝ってくれるのも。初対面なのに……」

 

「……義理の妹に少し似てた、からです。それ以上はないので」

 

ルカのたった1人の家族。

義理だとしてもルカを受け入れてくれた妹。

何かが似ている程度だったが、それだけでも少女を助ける気になっていた。

 

「くすっ……分かりました。手伝ってくれませんか?」

 

「……いいですよ」

 

少女の名前は《シリカ》と教えられた。

ルカも自分の名前を言うとシリカにトレードで大量のアイテムと武具を渡す。

その殆どが女性専用だったためにルカ自身が使うことも出来ずストレージを圧迫していたのでちょうど良かったのかもしれない。

 

「自分にはいらないのであげます」

 

渡した武具やアイテムを全て通貨であるコルに換算すればかなりの金額に膨れ上がる。

だがそれを気にすることもなく渡していた。

 

「あの……ルカさんって《攻略組》なんですか?」

 

「……攻略組には属していないです。ソロ専門なので」

 

「そうなんですか?」

 

「……どうしても攻略組は慣れないです。人が多いので」

 

「なるほどです」

 

転移結晶を惜しげも無く使って第35層の主街区へと移動すると宿屋に向かった。

シリカが推すらしく、宿屋にしてはそこそこ多くのプレイヤーが食事をしていた。

 

「宿代まで……ありがとうございます!」

 

「余ってるから良いです」

 

ルカ達が宿泊しようと手続きをしようとすると後ろから話しかけられる。

 

「ちょっと」

 

ルカが振り向くと赤い髪が特徴的な長身の女性。

だがその言葉の節々に敵意を感じていた。

 

「ろ、ロザリアさん……」

 

「……あら、シリカじゃない。生きていたの?見たとこ、あの小鳥はいないようだけど」

 

「ピナは死にました……!ですがすぐに生き返らせてみせます」

 

「ふーん……?」

 

ビーストテイマーのペット蘇生アイテムは第47層。

シリカと一時期パーティーを組んでいたロザリアはシリカのレベルも知っていた。

 

「あんたがこの子に垂らしこまれた口?」

 

「……ご自由に想像していただいてどうぞ」

 

相手にするほどでもないと判断すると心底どうでもいい声色で返答した。

 

「見た感じ、強くは無さそうだけど?」

 

「……はぁ」

 

「あんたとシリカで47層なんて行けるのかしら」

 

「……対して強くもないので」

 

一々口を出してくるロザリアが面倒になり、ルカはすぐに部屋を取ると2階へと上がっていく。

シリカも同じく上がっていった。

 

「ごめんなさい」

 

「大丈夫です」

 

「私、あの人のパーティーに居たんです」

 

「……続きは部屋で」

 

「はい……」

 

プライベート設定が出来る個室ではないため盗み聞きをされる危険性を考えてすぐさま取った部屋へと入る。

一瞬シリカを入れることを躊躇ったが、すぐに部屋移動してもらえばいいと考えた。

ルカとシリカが部屋に入ると扉を閉めてプライベート設定をする。

《聞き耳》というスキルが高いとこの設定は意味ないがないよりマシだった。

 

「さっきの人、パーティーだったんですね」

 

「はい……」

 

「……と、なると何か問題があって抜けた又は追い出された?」

 

「いえ……私が抜けたんです。迷いの森なんて私一人でも突破出来ると」

 

「なるほど……ね」

 

第35層の敵を相手するのにギリギリなレベルで踏破しようとするなど無謀に等しい。

シリカのレベルもある程度予想ついているルカはそう思いながらも口にはしない。

パーティーによってはメンバー内での問題など日頃からされている。

特に口出しするほどでもないだろうと気にはしていなかった。

 

「一応渡した物で47層の敵は相手出来ると思います。レベリングも兼ねて貴女に倒してもらいますが……いいですか?」

 

「は、はい!」

 

「出来るだけ倒すのは手助けしません。パーティーも自分にも入ってしまうので組みません」

 

「分かりました」

 

「危険になったら助けます。なので安心して倒していってください」

 

第47層のモンスターは数種類しかおらず、その中でも2種類ほどしか敵対していない。

今回の蘇生アイテムの道のりには1種類しかいないため、慣れていけば簡単に倒せる相手だった。

安全マージンを超えていなくても渡した武具て充分カバー出来る範囲だと思考していると、閉めた扉から気配を感じていた。

 

「ルカさん?」

 

剣を引き抜くとスキルを発動させて扉に思いっきり当てた。

爆音とも言える音が響き、扉を開けると大慌てで下へ降りていくプレイヤーを見つけた。

 

「……情けない」

 

破壊不可オブジェクト設定であるため、扉には傷一つついていないが、あれば扉は壊れていただろう。

 

「盗み聞きされてたみたいです」

 

「えっ?でも《聞き耳》でも聞けないんじゃあ……」

 

「一応上げておけば宿屋ぐらいなら盗聴出来ます」

 

「じゃあさっきの会話……」

 

「来たばかりだったので殆ど聞かれてないと思います」

 

「良かった……」

 

表情に出るほどホッとした顔で安心しているシリカの危機感に不安を感じるも、気にしないようにした。

 

「じゃあ自分は出ますね」

 

ルカが部屋を出ようとすると、着ているローブを掴まれていた。

既視感を覚えるも、気の所為かと忘れた。

 

「あの……一緒に寝てくれませんか……?」

 

「……自分、男ですよ」

 

「は、はい。それでも……」

 

さすがに男女が同じベッドで寝るのはよろしくない。

ルカとてそういった気持ちが湧くわけではないが、常識的には醜聞になるだろう。

だがシリカの不安を考えて仕方なく一緒の部屋に居ることにした。

 

「はぁ……ベッドまでは一緒に居ません。椅子にでも寝るのでそれでいいですか?」

 

「椅子で……」

 

「僕が疚しい気持ちを抱く可能性を考えないのですか?」

 

「わ、分かりました……」

 

何故かシュンとしているシリカだが、さすがに一緒の寝床になりたいわけでもないだろうと思っていた。

椅子に座ってテーブルに腕を乗せて枕にすると目を閉じた。

シリカが完全に寝たのを確認してからルカも意識を落とした。

 

 

 

 

 

ルカが目を覚ますと、外から明るい光が差し込んでいた。

時刻を見れば朝の9時。

ベッドを見るとシリカはまだ寝ているようで起きる気配はまだなかった。

 

「ん……お風呂」

 

今のうちにお風呂に入ってしまおうと、ルカは風呂場へと向かう。

この辺りの動きも手馴れたもので、ぱぱっと服を脱ぐとシャワーを浴びる。

長い白銀の髪が水で反射されて光り輝いていたが、ルカからは見えていない。

すぐに髪も身体も洗い終わると風呂から出て身体を拭う。

 

「は……ふ……」

 

髪の水分を取りながら服を着るとベッドに座りながら拭っていく。

 

「ん……」

 

長い髪の扱いも長年付き合っていれば慣れるもので、すぐに拭き取るとローブを着る。

ルカが使っているタオルが便利なもので、ドライヤー要らずに髪を乾かせる。

 

「シリカさん」

 

寝ているシリカを起こすべく、声をかけてみるも起きる感じはしない。

 

「シリカさん、朝ですよ」

 

揺さぶりをかけながら声をかけると、ようやく目が覚めてきたのか、身じろぎしながらも目を開けた。

 

「ん~……?」

 

「朝ですよ、起きてください」

 

「ふぁ~い……」

 

身体を起こし、ベッドから出て真っ直ぐに洗面所へと向かったので大丈夫だろうとルカは彼女の準備が終わるまで待つことにした。

1時間ほどすれば、渡した武具を装備した状態でルカの前へとやってきていた。

 

「出来ました!」

 

「ん……じゃあ行きましょう」

 

「はい!」

 

2人が宿屋を後にすると、主街区の中心にある転移門で47層に転移する。

 

「あっ……わぁぁ……!!」

 

視界に広がる花々の畑。

第47層は有名なデートスポットでもあり、カップルが多く来ていた。

 

「ここ凄いですね!」

 

「モンスターも少なくて比較的平和な階層の1つですから。じゃあ行きますよ」

 

ルカが先導しながらも、道中にいるモンスターをシリカが担当して、蘇生アイテムがある最北西端に辿り着く。

 

「ん……?」

 

ルカの《索敵》に何人もプレイヤー反応があり、多少警戒しながらシリカと歩いていた。

 

「シリカさん、あそこの台座です」

 

ルカが示した台座には何もなかった。

だが、シリカが言われて近づくと、1輪の可憐な花が咲いた。

 

「これが……《プネウマの花》」

 

「ここで蘇生はまだ危険なので宿屋に戻ってからにしましょう」

 

「はい!」

 

目的のものが手に入り、帰路を急ぐとルカが急に止まった。

 

「ルカさん?」

 

「……バレてるよ。早く出てきたら?」

 

ルカが1つの木に向かって話しかけると、その蔭から女性が出てくる。

その女性はシリカも知る人物だった。

 

「ロザリアさん!?」

 

「あーら?よく分かったわね、あたしの《隠蔽》を見破るなんて」

 

「丸分かり」

 

「ふーん……ま、いいわ。その様子だとプネウマの花も手に入れたようね?じゃあ……その花、渡してくれる?」

 

「わ、渡しません!」

 

「そっ……じゃあ死んでちょうだい」

 

ロザリアの得物は長槍。

リーチも長く、モンスターとの間合いが取れて安全性が高い人気の武器のひとつだった。

 

「……そこで隠れてる人。この人殺していいの?」

 

いつ攻撃してくるかも分からないロザリアから目を離してルカは1つの木に向かって剣を投擲する。

それに観念したのか出てきたのは黒づくめの青年。

そして《血盟騎士団》と呼ばれる大手ギルドの副団長の姿があった。

 

「殺すのは止めてくれ。牢獄送りにしたい」

 

「……僕がやると殺しちゃうかもだから、そっちがやってくれる」

 

シリカに転移結晶を持たせて、血盟騎士団の副団長に彼女を預けると、木々の中へと潜伏する。

 

「……見世物じゃない」

 

「oh......バレてるとはなぁ……」

 

「僕に見つかったのが運の尽き」

 

「……そうらしいなぁ……」

 

ルカが剣を一薙ぎすると、話していたプレイヤーの頭が飛んだ。

 

「好奇心は猫を殺す。げーむ、おーばー」

 

無機質で濁った瞳は消し飛んだプレイヤーに目もくれず、転移した。

 

 

 

 

 

その後日。

SAO最悪のレッドギルド《笑う棺桶》の壊滅が告げられた。

それを成し遂げたプレイヤーを見たものはおらず、畏怖を込めて《幻想者》と呼ばれた。

 

「弱かった……な」

 

《幻想者》は呟く。

だが、その言葉にこもった静寂を理解出来る者はこの場に1人もおらず。

ただ孤独に座していた。

 

 

 



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第8話

アインクラッド第55層、ギルド《血盟騎士団》本部。

鉄の都とも称される場所にあるSAO最強ギルドにてとある会議が為されていた。

 

「正体不明のプレイヤー《幻想者》の捕獲作戦の会議を今から始めます」

 

会議の進行を進めるのは《血盟騎士団》の副団長を務めるアスナ。

《閃光》という異名を持つSAOプレイヤーの中でも強者として君臨していた。

 

「今回集まっていただいた皆さんの中には《幻想者》を知らない人もいると思います。そのため軽くですが説明をしていきます」

 

 

「《幻想者》とは正式なプレイヤーネームが一切不明な事から名付けられた名前です。事実、攻略組でもその姿を見つけるどころか気配すらありません」

 

 

「ですが、幻想者が出始めてからレッドギルド《笑う棺桶》の活動を聞くことが無くなりました」

 

「今回の作戦会議ではそれが偶然ではないから故にですか?」

 

気になったのだろう。

疑問に思ったプレイヤーの一人がアスナに質問をし、頷かれた。

 

「はい。攻略組が預かり知らぬ内に階層攻略が進んでいる時期が幻想者の出現と重なります」

 

「確かに……」

 

「ソロでの階層突破が可能である実力があれば《笑う棺桶》の単独討滅も可能である、と団長と私が判断をしました」

 

「それなら何故、皆を集めたんです?放っておけばいいのでは?」

 

「それも考えました。しかし、逆にこう考えられます。《幻想者》がもし、我々攻略組に敵対した際に対抗出来るのかと」

 

今回アスナがこの作戦会議を開いた大きな理由こそがそれだった。

ソロでの攻略は大いに結構。

しかしそれがプレイヤーに向いた瞬間に抵抗出来ないとなれば話は別だった。

最凶ギルド《笑う棺桶》はSAO唯一のレッドプレイヤーのギルド。

それを単独で討滅したということは攻略組よりも圧倒的な強者だった。

 

「……なぁ、アスナ」

 

「はい」

 

ずっと静かに聞いていた黒づくめの青年が口を開く。

 

「ラフコフを単独で潰した相手をどうやって捕獲するつもりなんだ?」

 

「それは……」

 

「対人戦を得意としていた《笑う棺桶》を独りで潰すぐらいだ。《幻想者》はそれ以上の技量がある」

 

「分かっています!」

 

「危険性はある。だが確実に勝算がないとこっちが全滅するぞ」

 

《黒の剣士》、《ビーター》と言われる事もあったソロプレイヤーであるキリトはそう判断した。

相手の手の内が一切合切不明であり、戦闘能力が分からない以上は全滅の可能性も視野に入れるべきだと。

 

「おや?まだやってるのカ」

 

そんな作戦会議の中、呑気な声が聞こえた。

 

「アルゴさん」

 

《鼠》と言われるSAO屈指の情報屋アルゴ。

SAOの殆どのプレイヤーから慕われ信頼や信用を勝ち取るやり手のプレイヤーだった。

 

「何しに来たんだ?」

 

「キー坊やアーちゃんに耳寄りな情報だゾ」

 

「……金取るだろ」

 

「今回は無しダ。オレっちからも頼みたい内容でナ」

 

最高峰の情報屋ならば手足になるプレイヤーは多い。

そんなアルゴが頼む内容が気になっていた。

 

「《幻想者》の居場所が分かったゾ」

 

「なっ……」

 

その情報はこの場にいるプレイヤー全員が欲していたもの。

 

「既にユーちゃんは聞いて先に向かったゾ」

 

「どこ!?」

 

「最前線の第73層の迷宮区ダ」

 

それを聞いた瞬間にアスナは会議を中止して転移結晶で向かった。

キリトも続いて転移する。

アスナにとってユウキは妹のような存在だった。

仲の良い親友でありながらも、姉のように接してくるユウキ。

その本人は攻略をしていない73層におり、危険しかないからこそ急ぐ必要があった。

 

「ユウキ……!」

 

儚く散りゆくのか。

それは彼女には分からない。

 

 

 

 

 

迷宮区に湧き続けるモンスターを出現した瞬間に倒すその姿。

無機質にただ作業で潰すのはまるで機械のようだろう。

半透明の刀剣がモンスターを狩り続け、消滅させていく。

 

「996……997……998……」

 

倒した敵の数だけを数えていると、《索敵》にモンスター以外が引っかかる。

プレイヤーに反応するそれは、迷宮区を走っているのか移動が異様に早い。

 

「ん……誰……?」

 

一体誰が走り回っているのだろうと思いながらも、興味を無くしてまた狩りを続けた。

《幻想者》と呼ばれし、正体不明のプレイヤー。

その正体はまだ子供の背丈だろう。

だが、世界に何も興味がないのだろう。

宝石のような虹色には何も映らない。

ボーッと出現しては消えていくモンスターを見ているだけだった。

だが。

それも数分で終わった。

 

「はぁ……はぁ……見つ、けたよ……」

 

「ん……」

 

息が切れており、荒い呼吸ながらも、子供をしっかりと見つめる。

《絶剣》と言われた少女。

そんな彼女がずっと欲していたのは。

ただ一人の少年だった。

 

「ルカ」

 

「見つかっ……ちゃった」

 

「ボクね。君の事、好きなんだ」

 

「うん」

 

「だから……その……。一緒に居て、くださ……ぃ……」

 

「僕は。好きなのか分からない」

 

悲しそうに。

ごめんね、と言った。

 

「ううん。それでもいい。ボクが教えてあげる」

 

「……分かった」

 

《幻想者》はそう言うと、ユウキに抱きついて転移結晶を掲げた。

転移先を呟くと、結晶から溢れる光によって2人の姿は迷宮区から消えた。

2人が転移したのは第48層。

のどかな景色が広がり、水車が存在する平和な階層の一つだった。

彼がユウキの手を引きながら、案内した先には一軒家があった。

 

「ここ、お家」

 

「ルカの?」

 

ユウキがそう聞くと頷く。

鍵を開けて中に入ると、キッチンとテーブルがあり、奥の扉には寝室やお風呂やトイレなどに繋がっている。

 

「僕は、ルカ」

 

「知ってるよ」

 

「SAOが始まる10年前。僕は孤児だった」

 

ルカが話をしながら、姿を隠すために使っていたローブを外して本来の姿をユウキに見せた。

 

「この髪も、この眼も。全て実験の結果」

 

 

「開発されたばかりの薬物の実験。それは全て研究所に引き取られた孤児に投薬された」

 

 

「結果、僕以外の子は全員死んだ。僕だけは薬物の耐性が強かったのか、全然死ねないの」

 

 

「でも、ずっと覚えてる。そこは、ずっと冷たい。子供は別々の部屋。だから誰もいない。お人形のようにいるしか出来ない」

 

日本どころか、世界の闇の1つ。

ルカが実際に居た場所はそんなところだった。

自分の周りはどんどん死んでいき、実験体が少なくなれば、また補充されていく。

最終的にはルカ以外の子供は投薬実験に耐えれずに全員死んでいた。

そんな場所にずっと居たからか、死への恐怖は一切なく。

むしろ、ルカは死にたがりだった。

 

「僕はもう成長出来ないの。薬で止まっちゃったから。なのに僕よりも大きい人に勝つ事は簡単だった」

 

「ルカ」

 

「寂しい。誰も居ないの。ずっと」

 

ルカ自身は自覚出来ないのだろう。

無意識に涙を流していた。

そんな彼をユウキは優しく抱きしめた。

 

「ボクがずっと一緒に居てあげる」

 

「……うん」

 

「君を探すの、苦労したんだよ?ずっと君を追いかけるために強くなって、色んなとこ回ったんだ」

 

「ん……」

 

「こうやって捕まえるまでに、1年ぐらいかかっちゃった」

 

ぎゅうっと離さないようにユウキは抱きしめて捕まえた。

 

「ねぇ、ルカ」

 

「ん……?」

 

「《笑う棺桶》はルカが潰したの?」

 

そのユウキの問いにルカは静かに頷いた。

完膚なきまでに殲滅したからこそ確かに言えた。

 

「そっか……」

 

数分以上そのままの体勢でいると、ユウキに少し重みがかかった。

 

「おやすみ、ルカ」

 

ルカを抱き上げるとユウキは奥の寝室に寝かせた。

そのままユウキも一緒にベッドに入ると、寝付いたルカを抱きしめながら眠りについた。

 

 

 



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第9話

普段よりも深いまどろみから目覚める。

時刻を見ればお昼を回っており、昨日の最後は夕刻だったため、かなりの時間寝ていたことになる。

 

「ん……」

 

隣にはユウキが寝ており、自分の足で寝室に行った記憶もないため、運んでくれたのだろうと察する。

1度起き上がろうとすると、途中で起きれずにベッドに倒れ込む。

ルカのお腹に手が回されており、ユウキが離すまいとしっかりと捕まえていた。

 

「ユウキ」

 

起きれないルカの暇潰しに、ユウキに触れて時間を潰す事にしたルカはユウキの方へ向く。

 

「……えい」

 

ツンツンと寝ているユウキの頬を突く。

柔らかい感触を楽しんでいるとユウキも覚醒してきたのか、目が微かに開こうとしていた。

 

「ぁ……ぅ……」

 

まだはっきりと目覚めていなくともユウキの目の前にはルカという大好きな相手が映っていた。

引っ付くように抱きしめると、ルカの首に頭を埋める。

 

「あぅ……くすぐったい……」

 

「んふふー……」

 

「ユウキ、起きてる」

 

「……ばれた?」

 

はっきりとルカを見ているユウキは寝ぼけていないと分かる。

それでもなお強く抱きしめるその手は緩むことは無い。

 

「ルカだぁ……」

 

「……もう逃げない、のに」

 

「ホントに?」

 

逃げる気がないルカは頷くと、ユウキの手が緩んだ。

その瞬間にベッドから抜け出る。

 

「友達、心配してない?」

 

「……してるかも」

 

「なら、一緒に行こう?」

 

「いいの?」

 

ユウキが言いたいのは、ルカが衆目に晒されて良いのかということ。

人嫌いのルカが人混みに居て大丈夫なのかが未だ分からない。

ユウキとルカはお互い知らない事が多すぎた。

 

「ん……ユウキが近くに居るなら。大丈夫」

 

「なら今から行く?」

 

ルカが頷くと、ユウキもベッドから降りて準備を始めた。

ルカもローブを着て容姿を隠すと、ユウキと共に家を出る。

相手に連絡をしているようで、行く場所を告げられた2人は待ち合わせの所へ向かう。

 

「あっ!アスナー!」

 

「ユウキ!」

 

待ち合わせにいたのはユウキの親友であるアスナ。

《血盟騎士団》副団長という座は決して暇ではないものの、このために時間を空けてまでユウキに会いに来ていた。

そして、2人は気づいていないが男性プレイヤーが虎視眈々と2人を狙っていた。

美少女でありながらも、自己をはっきりと持つ強い意志、分け隔てない性格、異名を持つ程の裏打ちされた実力。

はっきり言えばモテないわけがない。

 

「ん……ユウキ」

 

まだルカの中で育ちきっていないその想いでも。

自分以外の男に触れられたり、視線を集めるのが不満になっていた。

 

「嫉妬した?」

 

「……した」

 

ルカの感情が自分にだけ向かったことが嬉しかったのか、ユウキはくすっと笑う。

 

「アスナ。話したいことあるから場所変えない?」

 

「ええ。私もあるから」

 

人目を集めている自覚はある2人はルカを連れて、階層を移動する。

数分ほど歩くと一軒家の前で止まる。

 

「ここ私の家なの」

 

案内されたのはアスナの家。

階層によって家の相場があり、アスナの家がある階層はその中でもセレブ系が買うもの。

 

「上がって、2人とも」

 

アスナに言われ家に入ると、シンプルな家具が多いものの、装飾があったりとアスナ自身のセンスの良さが出ていた。

 

「さて……ユウキ。その子は?」

 

ずっとアスナが気になっていた相手。

ローブの中を見ようとすると逸らされてしまい、見えなかった為に素直に聞くことにした。

 

「《幻想者》だよ」

 

「こんなちっちゃい子が?まだ小学生ぐらいじゃない?」

 

「ボクと対して変わらないと思う。でも会ったのは第73層の迷宮区だから間違いないよ」

 

「……それで?その子どうするの」

 

「ずっとボクが探してた子だから。一緒にいるつもりだよ」

 

《幻想者》というプレイヤーが為してきた事は決して悪になるものは少ない。

《笑う棺桶》の単独殲滅こそ、危険性を感じさせるものの、こうやってアスナとユウキの前に居る分にはただの小さな子供だった。

 

「まぁ……ユウキがしっかり手綱を持つなら良いんじゃない?」

 

「持てるかな……」

 

ルカの事を深くはまだ知らないユウキは知らなければならない事が多い。

手綱を持つ所か、お互い知らな過ぎる為にユウキが想いを伝えてもルカが拒絶する範囲に入ってしまえばそれも叶わなくなってしまう。

捕まえて告げても不安は多いユウキだった。

 

「ユウキ、好きなんだね」

 

ルカから見たアスナの印象はそれが大きい。

親友という立場であっても妹の身を案じる姉のような人になろうとしていた。

 

「《攻略組》には、入らない。でもユウキと一緒には居る」

 

「……あなたが今までやってきた事を考えても、未だに危険と思う人は多いわ」

 

「そう思うなら、別に。人にどう思われるかなんてどうでもいいから」

 

ルカが今まで生きてきた上での思考の果て。

自分と身近な人以外は排他的な思考になったルカにとって他人からの評価などあってないようなものだった。

 

「随分と排他的ね……階層攻略が預かり知らぬ内に踏破されなくなるのなら《攻略組》としては何も言うことはありません」

 

《攻略組》メンバーの筆頭として。

《血盟騎士団》の副団長として。

アスナは様々な可能性を考えて、それで告げた。

 

「そしてここからはユウキの親友として言うのだけれど。その……付き合ってるの?」

 

アスナとして気になった部分がそこだった。

お互い指を絡ませながら手を繋いでいる事を考えれば分かるものの、本人たちから聞きたかった。

 

「ボクの方は言ったよ。ずっと好きで追いかけてたから」

 

「そう……それで、《幻想者》は冷たい言い方だし……名前教えてもらっていい?」

 

「……ルカ」

 

呟かれたように教えられたルカという名前に聞き覚えがあった。

 

「ルカ……もしかして第1層の時の……?」

 

その可能性を聞けば頷かれ、ユウキの執着にも納得してしまった。

 

「それは……ユウキが捕まえるのに必死になるわ……」

 

《幻想者》=ルカとなれば、ユウキの想い人は姿を見つけるだけでも必至。

そんな相手を捕まえるとなればユウキが死にものぐるいで強くなろうとする理由も理解する。

 

「姿は見せないのね」

 

「ん……」

 

アスナに言われルカはローブを脱ごうとすると、その手をユウキに止められてしまう。

不思議に思いつつ脱ぐのを止めるとユウキはぎゅうっと抱きしめる。

 

「たとえアスナでもルカの姿は見せないもん!」

 

「あなたね……」

 

ふしゃーと威嚇する猫のように断固拒否するユウキに苦笑しながらも、その後は談笑してアスナの元を離れた。

 

 

 

「ねぇ、ルカ」

 

「ん……」

 

「ボクって独占欲とか執着心とか色々強いみたい」

 

「何を、今更」

 

SAO最強プレイヤーとして君臨する《幻想者》を捕まえたユウキは普通ではないだろう。

 

「向こうに戻っても、一緒に居てね」

 

「……約束」

 

「うんっ!」

 

指切りなど、いつしたのか。

久しい約束のやり方だな、と。

ルカはたった1人の家族を思い出しながら懐かしく思った。

 

 

 



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第9話

兄様、兄様と。

雛鳥の如くついてきていた少年のたった1人の家族。

愛らしい外見と人見知りがありながらも優しい性格の持ち主。

 

いつからだったのだろう。

 

彼女の姿はいつの間にか消えてしまっていた。

兄様と開いていた可愛らしい声。

兄様と慕われていた少年が当主になった日から。

 

兄様と呼ぶ声はなくなってしまっていた。

 

 

 

 

ルカが眠りから覚めると酷く懐かしい夢を見ていた。

兄様と呼んでいた彼の義理の妹。

血は繋がっていなかったが、本当の兄妹のように仲が良かった。

 

「はぁ……」

 

元々は孤児同士だった2人だった。

実験体として生き残れていたのはなにもルカだけではない。

彼の義妹も辛うじて耐えれていた。

実験内容は多少なりとも変わるも2人して手に入れてしまったのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

寿命には影響が少なかった代償だろう。

己よりも肉体的強者を圧倒し、人間の脳では不可能といえる演算能力。

幼い子供が手に入れるには過ぎた力だった。

ルカにとってはSAOの世界というのは最大限発揮出来る世界ともいえる。

電気信号によってSAOのアバターを操作するが、元々の人間の脳にはリミッターがある。

それのリミッターをルカは取り払われている状態のため、人外じみた動きが平然と行える。

身体自体も実験により強化されているため、その動きに対する反動も耐えていけた。

 

「心配……」

 

早くSAOをクリアしたい。

そんな気持ちがルカの中にあった。

唯一の家族を失いたくはなかったのだ。

 

「ルカー?」

 

そしてルカの相手も紹介したい。

その2つだけがSAOから抜け出したい目的となった。

 

 

 

 

 

 

 

ルカの最愛のお相手であるユウキは悩み続けていた。

SAOには結婚システムがあり、自分とルカも……と思っていた。

だがルカの抱えているものを取り除き、お互い歩んでいかなければ拒絶されてしまうだろうと不安にもなっていた。

 

「どうしよう……」

 

ルカに対する愛情は消えるどころか日に日に燃え上がり続けているほど。

重い愛情と言われるものだが、愛情に飢えていたルカにとってはあまり気にしていなかった。

 

「うぅ〜……」

 

しかしユウキも大好きな相手だろうと拒絶された時はとても悲しくなってしまう。

ルカの事を知りたいと思いながらも臆病な一面があった。

 

「……どうしたの?」

 

唸り続ける恋人に疑問を持ちながらも何かあったのかと聞いていた。

 

「ルカぁ〜……」

 

「わわ……」

 

隣に座った瞬間に抱きつかれたルカはそのまま後ろに倒れ込む。

幸いにもベッドの上だった為に痛みなどはなかった。

 

「ボク……ボクねぇ〜……」

 

いつもよりネガティブになっている珍しいユウキが見れて優越感を抱く。

 

「結婚したいけどルカが断らないかって不安なんだよ……」

 

「結婚……かぁ」

 

SAOの結婚がそのままリアルにまで持ち込まれることはないものの、夢がある言葉であった。

 

「ボクって独占欲強いし……自分でも自覚するぐらい重いし……」

 

「別に……それは良いけど」

 

ルカからすればユウキ以外に興味を抱いた異性がいなかった。

アスナやアルゴといった彼女達はあくまでも知り合いや友人。

異性として意識をしていないのが現状だった。

 

「ユウキの事、好き、だよ」

 

唐突にユウキの耳元で囁かれた愛の言葉に頭の中がパニックになったユウキはそのままルカの上に跨ったままキスをする。

 

「ちょ……ユウキっ……んっ……」

 

「ねぇ……ルカ……」

 

「はぁ……な、なに……」

 

「しても……いい?」

 

それが何を指しているのか。

それぐらい今の状況とユウキの火照った身体で察してしまった。

 

「……ダメって言ったら?」

 

「……諦める、よ」

 

何かを焦るユウキの様子に変だと感じていると僅かだがアルコールの匂いがあった。

ユウキのステータスを見てみれば《酒酔い》と表示されており、それによって普段抑圧されていた部分が出できていた。

ルカをこうやって襲うのも、行為をしたいというのも全てユウキの内側にあるもの。

 

「……おいで、ユウキ」

 

両手を広げてユウキを迎え入れるとぎゅうっと抱きしめる。

不安にさせてしまったのは自分自身にもあるだろうとルカは思い、しっかりと行動で示した。

 

「不安に、なった?」

 

聞けばユウキが小さく頷く。

盲目的になりすぎて周りが見えていなかったのだろう。

ルカを好いているプレイヤーなど極わずか。

そもそも存在を知るものが少ないために不安になる要素がないだろうと野放しにしていたのだ。

 

「ごめん、ね」

 

ユウキの耳元で好き好きと言いまくっているとさすがのユウキも恥ずかしさで顔が真っ赤になってきていた。

 

「あぅあぅ……」

 

「今日、寒いから。一緒に寝よう、ね」

 

「うん……」

ルカが抱くことのない感情がユウキによってもたらされたものだと考えるならば。

自分はそれを教えてくれた少女にお返ししよう。

そう考えていた。

 

 




遅くなり申し訳ないです。
小説を書く意欲がなくなり、これ以降は完全に気まぐれで上げていくと思います。
投稿を止めるわけではないですが、次に上がるのはいつになるのか分かりません。
それでも良ければ気長にお待ちください。


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第10話

SAOでは衝撃的ニュースによって震撼していた。

1つはSAOでの高嶺の花として崇められている《閃光》の異名を持つ、血盟騎士団の副団長であるアスナの交際及び結婚。

その相手はSAOでトップクラスの戦力を持つ《黒の剣士》キリト。

妬み嫉みはあったものの、もう一つのニュースにより上書きされていた。

《絶剣》と呼ばれ超絶美少女でありながら最強クラスの剣戟を繰り出すユウキは低層から上層まで高い人気を持っていた。

アスナとは親友関係であり、所属ギルドはなく、ソロプレイヤーとして活動していた。

そんなユウキが結婚をいつの間にかしていたことが判明。

日時は明らかにされなかったものの、プレイヤーが気になった相手。

謎の階層攻略者として一時《攻略組》が追っていたプレイヤー。

名を《幻想者》として呼ばれ、最悪最凶ギルドの《笑う棺桶》の単独討滅を成し遂げたSAO最強の対人プレイヤー。

その正体はルカ。

幼いながらも人目を惹く容貌の持ち主だった。

目立つのを嫌うルカだが、ユウキというSAO美女に数えられる相手と結婚し、元々の腕前から取り上げられることは時間の問題だったのだろう。

結果としてルカはソロプレイヤーでありながら《攻略組》所属ではないものの、階層攻略者として参加をしていた。

無論ユウキも同様に。

 

「では……今回の作戦会議を開始したいと思います」

 

第七十五層のボス攻略会議。

クォーターポイントと呼ばれる二十五層毎に異常な程の強力なボスが待ち構えていた。

事実、二十五層では《軍》と呼ばれる《アインクラッド解放軍》が壊滅的状況になった。

五十層では、攻略ギルドとして名を持っていた《聖竜連合》も致命的な打撃により手を引いた。

クォーターポイントとして最後になるだろう七十五層はこれまでとは比べ物にならないと予想されていた。

 

「まず、七十五層のボス部屋の偵察部隊。団長によってその調査がありましたが、偵察部隊が壊滅したと報告を受けています」

 

その告げられた情報に会議に参加してきている攻略者はその情報に驚愕していた。

今までであればボスの見た目や攻撃方法を誘い出してからボス部屋からの撤退をしていた。

だが、偵察部隊が壊滅ということは撤退が出来なかったということになる。

 

「これを踏まえて、七十五層ボス及び、これ以降のフロアボスでは《結晶無効エリア》として考えていくことが重要になるでしょう」

 

「なら、回復結晶は使えない。ポーションの準備が必要だな」

 

「そうなります。出来る限りの回復手段としてポーションの在庫は多い方が良いでしょう」

 

生き残るため、死なないため。

その方法は様々だが、1番の回復手段だった《回復結晶》が使えなくなるのは攻略プレイヤーとして痛手だった。

《回復結晶》にも種類があり、オーソドックスな《回復結晶》は対象者のHPを8割即時回復する。

《全回復結晶》は対象者に降り掛かっている状態異常と対象者のHPを全回復する。

そして《治癒結晶》は対象者及びパーティーメンバーのHPの自然回復速度を上げる。

様々な効果をもたらす結晶アイテムは今までの階層攻略において重要なポジションを持っていた。

最も危険な時に緊急時で使える回復アイテムはとても有効であり、命の保険にも繋がっていた。

バフと呼ばれるステータス上昇もほとんどが結晶によって付与されるものが多い。

それらがボスフロアに入った瞬間使えなくなるために、入る前に使った分しか恩恵を得れない。

 

「今回の相手は未知数です。下手な攻撃は危険でしょう」

 

「ならアタッカーは減らし、タンクを増やすしかないということだな」

 

「ええ。アタッカー役の人でも実力者だけが可能かと」

 

慎重に重ねられた会議の結果。

ダメージソースとしてキリト、ルカ、ユウキ、アスナが基本的なダメージ役となった。

 

「決行日は一週間後とします。集合場所は第七十五層の主街区の転移門前。なにか質問などはありますか」

 

 

「ないようです。それでは以上とします。お疲れ様でした」

 

解散を告げられるとルカとユウキは自分たちの家へと帰っていく。

 

「ユウキ」

 

「んー?」

 

「……なんでもない」

 

何がが変だと感じたユウキだったが、それを指摘出来るほどの違和感ではなかったために気にしなかった。

だが、ここで気づくべきだったのだろう。

自嘲めいた、どこか危なげな雰囲気を出していた。

 

 

 

 

 

ユウキ達の家に大慌てで焦りながらやってきたのは、キリトとアスナ。

2人が見たのは、大泣きするユウキの姿。

本来ならばずっと傍にいるルカの姿はない。

そしてユウキの前にはルカが嵌めていたのだろう結婚指輪が置かれていた。

 

フレンド探知も、配偶者探知も、スキル的探知も。

何もかもを断たれてしまったユウキ達に行方をくらませたルカの姿を探すのは困難だった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

『ごめんなさい。

多分、君は泣いちゃうと思う。

だけどこれは君の手を借りる訳にはいかないから。

今の僕に君の物だと示す指輪は相応しくありません。

戻れる日まで、預かっていてください』

ーーーーーーーーーー

 

持ち主が消えた緋色の宝石が輝く指輪はどこか輝きが鈍くみえたのは、ユウキだけなのだろうか。

 

 

 



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第11話【終結】

第七十五層ボスフロア。

剣戟が続き、骸骨の狩り手がプレイヤー達を襲う。

百足のように長い躰に、骸骨の頭。

そして《攻略組》のタンク役をいとも簡単に消し飛ばす極悪な鎌。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「キリト君大丈夫!?」

 

「……正直きっつい。スイッチ!」

 

《二刀流》というキリトだけが持つエクストラスキル。

ただ単純に両手に片手剣を持てるというだけで防御性能や攻撃性能が格段に上がっている。

それでもなお、キリトのHPはイエローゾーンに入ることがあるほど。

 

「ユウキ!大丈夫ー?」

 

「うん。何とか」

 

何事もない。

そんな風に振る舞うも、ユウキはレッドゾーンに入る時があり、親友であるアスナは気が休まる時がない。

急に突如としてユウキ達の前から姿を消したルカ。

彼の存在はあまりにも大きかった。

彼ほどの戦力の代わりになる人物はいない。

それゆえに苦戦を強いられていた。

そしてユウキの心身もルカの失踪後から悲鳴を上げていてもおかしくないほどに疲労が溜まっていた。

 

 

 

《ザ・スカル・リーパー》は第七十五層にて座するボス。

HPは4本と多く、両前足の鎌の攻撃を直接くらえば例えキリト達でもひとたまりもない。

タンクという重装甲、高防御である存在が1発で消える。

それは《攻略組》の士気を大きく下げ、そして恐怖や不安を抱かせた。

だが、それも終わりを告げる。

キリトの《ジ・イクリプス》。

アスナの《スター・スプラッシュ》。

ユウキの《マザーズ・ロザリオ》。

最上級スキルの威力をもって、漸く。

攻略時間は2時間以上。

苦戦を強いられながらも、戦いの意志は潰えず。

骸骨の狩り手であるスカルリーパーは、その命を散らした。

 

《Congratulation!!》

 

フロア中心部に表示される英文。

そして開かれた第七十六層の扉と、消えた第七十五層の迷宮区へ戻る扉。

その両方が出現した事で漸くプレイヤー達は討伐したと実感した。

 

「勝った……」

 

「ええ……やっと……」

 

全員が疲労困憊で地面に座り込む。

武器が手から離れようが、ボスフロアに雑魚は寄っては来ない。

その安心感だけは確実だった。

 

「……さすがだな……」

 

キリトは疲れながら、周りを見た時。

目に入るのは、立ち続ける《血盟騎士団》団長のヒースクリフ。

 

「……?」

 

だがキリトはそこでふと疑問に感じていた。

何故ヒースクリフのHPはグリーンを保てていたのだろうかと。

いくら交代を他のタンク役としていたとはいえ、ヒースクリフ自身が持つエクストラスキル《神聖剣》でもイエローに入るレベルの猛攻だったとキリトは感じていた。

その違和感は以前、ヒースクリフとデュエルをした際にも感じていた。

キリトの反射速度はユウキの次に素早い。

彼自身もユウキが《二刀流》を持っていたとしてもおかしくないと思えるほどの反射神経。

だが、それはユウキの手ではなくキリトへと渡った。

そんなキリトですら反応が出来なかった。

いや、()()()()

人間が反応出来るスピードを超えていると思えるほどの僅かな行動。

 

(変だな……)

 

突如消えたルカ。

イエローに入らなかったヒースクリフ。

デュエルの時の異常なスピード。

 

「詰めが甘い。そう言われたことはないですか」

 

心地好い、高めの声。

それは迷宮区へ戻る扉から聞こえていた。

 

「違和感はありました。さすがに遅くなりすぎた、と思ってはいますが」

 

姿は分からない。

だが、子供ぐらいの身長。

一瞬ルカの姿が思い起こされるも、声の高さはこんなものではなかった。

 

「もっと早く気づくべきでしたが……僕の落ち度でしょう」

 

肩を竦めたのか、やれやれと。

反省はしている様にも見える。

そしてボスフロアへと入ってきた謎の人物に《攻略組》は警戒を上げる。

 

「ヒースクリフ。いや……茅場先生と言った方がよろしいですか?」

 

告げられた情報は。

SAOを最悪のゲームへと陥れた張本人の名。

それが血盟騎士団の団長ヒースクリフ。

疑いなどないと確信を持った上で告げられた。

 

「……ふむ。まだ考えていた段階では浅めに出していたのだが」

 

「浅めどころか、バレバレになると思いますね。生憎と僕は遅かったのですが」

 

「団長……?」

 

聞いていたアスナは嘘だと信じたかった。

自分を誘ってくれた恩人のような相手。

それが最悪の人間だなんて、と。

 

「私は、茅場晶彦。ソードアート・オンラインを作り上げたゲームマスターだ。彼の言ったことは、間違っていない」

 

否定ではなく、肯定。

酷い夢を見せられているような現実。

この場にいる全員が嘘だと信じたかった。

だが本人がネタばらしを。

嘘だとは思えなかったそれは。

 

「よ、よくも……俺らの……忠誠をおおおお!!!!!」

 

血盟騎士団の団員の一人がヒースクリフへと突撃をした。

愚直な一直線。

しかしその剣は届く前に、地に落ちた。

ヒースクリフと相対する謎の人物。

2人以外にヒースクリフがゲームマスターでの権限で《麻痺》状態にした。

耐性スキルをつけていようが一切の行動を許されない状態異常。

プレイヤーとゲームマスターの差が、現実を見せるように伝えられた。

 

「あまり長くない躰です。僕が死ねば、再び現れた勇者が貴方を倒しに行くでしょう」

 

「……いつか、君と交えたいと考えていた」

 

「ご謙遜を」

 

ヒースクリフの表情は変わらない。

無表情だ。

しかし声の抑揚は抑えきれない高揚を抱いていた。

 

「ですが、挑まれた戦いには全力でお答えしましょう」

 

ぶかぶかで、姿が見えない特殊な効果がかけられたローブから抜かれた武器。

妖しく煌めく二振りの刀。

 

「それが……君のエクストラスキルか」

 

「まだ誰にも見せたことはないでしょう。この場が初めてであり、この場で見納めです」

 

「デュエルなどという決闘は無しだ」

 

「……己が捌き、どこまで耐える」

 

「叶うのであれば、永い時を願おう」

 

彼が取り出したコイン。

真上にトスをし、コインは宙を翔ぶ。

沈黙が木霊し、お互いの動きを一遍も逃さない。

そして、コインが地に落ち、金属の音が鳴り響いた瞬間。

 

「……《無明剣》」

 

鞘無しでの一瞬で行われた抜刀の構え。

抜かれた刀身のスピードはシステムアシストを使ったヒースクリフですら反応が間に合わなかった。

 

「なっ……」

 

あまりの人間離れした速度に狼狽えるも、力任せに左手の剣で切り払う。

その時、剣の先端が彼のローブに引っかかった。

元々姿隠しの効果が付与されているだけのローブ。

耐久など無いに等しい。

切り破れたローブは消え、その姿が露わになる。

 

「え……?」

 

ぽつりと。

ユウキが呆けたように呟いた。

何故ここにいるの、と心の中で思ってしまった。

 

「ルカ……くん?」

 

真っ白な銀世界を閉じ込めたような、美しい白銀の髪。

何色にも見える虹色の瞳。

幼い風貌は、ユウキが見慣れていた姿。

 

「バレましたか。それとも……これが目的ですか?」

 

「勿論だとも。誰しもが君の姿を知りたいと願うだろう」

 

「そのために致命傷になってでもですか」

 

ルカが持つエクストラスキル《幻想剣》。

持ち主のイメージ力がなければ使いこなせない。

しかし使いこなせれば。

幻は現に影響する。

《無明剣》という抜刀技は、スキルとして登録されていない。

しかし、技名を紡げばそれがスキルとして動く。

オリジナルソードスキルが唯一手に出来る夢のようなスキル。

それが、《幻想剣》というスキルだった。

 

「っ……」

 

しかし強大な力は時に身体へダメージを。

《幻想剣》という力を手に入れた代償として、行使をする度に()()()()()()()()()()()()()()

現にルカの身体は行使によって、視界がぼやけていた。

 

「私が耐えれて、あと一度だろう。次で決めようではないか」

 

「いいでしょう」

 

ヒースクリフは表情を引き締め、盾剣を構え直す。

攻撃の姿勢ではなく、完全的な防御の構え。

反撃を狙うのではなく、受けきるために。

 

「《幻影描写》」

 

か細い声で紡がれた言葉は、具現化する。

ルカが知る限りの刀剣が青白く出現し、実態を持つ。

中にはキリトやアスナ、ユウキの持つ武器もあった。

 

「あなたの夢想は、形を変えて続いていくでしょう」

 

「そうだろうか」

 

「ええ。必ず」

 

その時の表情はどこか、嬉しそうな。

喜びに満ちたものだった。

 

「秘剣」

 

最期の詰め将棋を。

ルカは両手に持った刀を上に投げ飛ばし、目を閉じる。

常に最高の自分を。

そして、誰も到達出来なかった剣技を。

 

ルカの目の前に投げた二振が落ちてきた瞬間。

世界の空間が一時的に斬れた。

 

「《燕返し》」

 

六角の形で()()()振られた妖刀は、持ち主に従うように滑らかと動く。

寸分の狂いもない、ヒースクリフの目の前に繰り出されたのは、逃げ場のない回避不可の斬撃。

不可視でありながらも、その込められた殺気は尋常ではなく。

 

「私の負けだ」

 

「はい。僕の勝ちです」

 

逃げることなく、受けきったヒースクリフ。

真正面から、受け止めた斬撃。

盾が壊れ、剣が壊れ、鎧が壊れ。

そして、自分自身のHPも消えた。

ヒースクリフの前には《You are dead》と赤く表示されたアナウンス。

そのままヒースクリフは青白く光り、破片へと霧散していく。

 

 

 

 

 

ーーーーーゲームはクリアされました。

 

 

ーーーーーゲームはクリアされました。

 

 

ーーーーーゲームはクリアされました。。

 

 

ーーーーーゲームは………………

 

 

 

 

 

ヒースクリフを倒したルカ。

しかし、突如目の前が明滅する。

ルカがヒースクリフへトドメをさした剣技は、あまりにも負担が大き過ぎた。

脳の酷使により脳が耐えられなくなっていた。

 

「ぁ…………」

 

ふらっとよろめき、そのまま地に倒れた。

ヒースクリフが死んだことによりゲームマスター権限で付与された麻痺は消えていた。

すぐさまユウキがルカの元に行こうとする前にルカが倒れてしまった。

 

「ルカ!?ルカっ!」

 

ユウキが揺さぶるも、反応はなかった。

SAOから帰還するプログラムが働き始め、ボスフロアにいた団員なども白く光り輝き、続々と帰還していった。

 

「ねぇっ!ルカってばぁ!!!」

 

ルカの身体も同じく光り始める。

しかしその光り方にキリトが違和感を持った。

先程の帰還の光り方と違った。

 

「ルカ!死ぬな!」

 

死亡エフェクトの様にも青白く光るルカのアバター。

ユウキ、アスナ、キリトも帰還エフェクトが出始めていた。

 

「やだ!やだやだやだやだ!!!」

 

ユウキの辛い声が響くも、帰還が実行された。

その瞬間に、破片状のものが舞散った。

 

「やだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

泣きじゃくる悲鳴は、あまりにも酷い夢を見せられているようだった。

 

 

 

 




これにてSAOのアインクラッド編を終わりたいと思います。
フェアリィ・ダンス編の方になるのですが、進行上主人公であるルカが直接関係させるか不明です。
させたとしてもルカの無双で終わってしまいますので、もし希望があれば取り入れるかもしれないです。

ひとまず、かなり投稿期間が空いてしまいましたが、見て頂きありがとうございます。
これからの投稿に関しましてはいつも通り不定期更新とし、オリジナル小説なども触れてみたい感じです。
投稿した際にはもしご興味があれば見ていただけると幸いです。


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