スペインからの帰国子女 (かるな)
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第一話

 初めましての方は初めまして!そうじゃない方はお久しぶりです!

 かるな という者です。

 今まで色々な作品を書いていたのですが、今回は今まで書こう書こうと思って中々書けずにいたイナズマイレブンを書こうと思います。初代の方はだいぶ作品数が多く、展開が被ってしまうかなと思ってアレスの方で書いていきます。

 かなり久々の執筆ですが、甘えずに頑張ります()

 それと、執筆していない間にハーメルンの新機能が追加されてらしいですが、まだ使い方が良く分かっていないので、追々試していこうかなと思います!

 前置きが長くなりましたが、最後にもう一つだけ!今のところは後書きに作品に関しての重要なことなどを書いていくので、よろしければ最後まで読んでいってください!


 僕は"神矢 ユーリ"。物心ついたころからサッカーボールで遊んでいた。13歳(中学1年生)となった今でもサッカーを続けている。

 

 6歳から親の仕事の都合でスペインに住んでいて、地元のクラブチームにも所属していた。

 

 向こうの言葉や文化には中々慣れなかった。今でもまだ理解できないことの方が多い。けど、サッカーの用語やプレーで分かり合えたから、サッカー以外に遊びを知らなかった僕にとって不自由は無かった。

 

 毎日楽しい生活だった。そんなある日、中1の11月に日本からサッカーのお偉いさんが俺の家に来た。

 

 その人はほとんど僕のお父さんとお母さんの3人で話をしていた。その人が言っていた内容はよく分からなかったけど、お父さんとお母さんはすごく悩んだ顔をしていた。

 

 お父さんとお母さんがたまにスペイン語で会話をしてたから、聞き耳を立てていた僕でもある程度理解は出来た。

 

 サッカーに関係していることは確かだけど、それが僕にも関係あるかは分からなかった。

 

 ただ、かなりの頻度で「日本のため」や「強化委員」って言葉が出ていて、僕は難しい話なんだろうと思ってその日は部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お偉いさんが来てから一週間ぐらい経ってから、お父さんが僕に真剣な表情で話を話しかけてきた。

 

 

 「ユーリ。日本は好きか?」

 

 

 一瞬、何でこんな事聞くんだろうと思ったけど、僕はすぐに返事をした。

 

 

 「勿論!向こうにいたことはあんまり覚えてないけど、楽しかった気がする!」

 

 

 僕がそう言うとお父さんは笑顔になった。それが少し嬉しくて、僕はその後のお父さんの話に何も考えずに頷いていた。

 

 次の日にお母さんとも話をした。似たような話だったけど、お母さんは少し悲しそうだった。

 

 でも、僕が日本のことが好きだということを伝えると、お父さん同様笑顔になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから一週間が経って、お母さんとお父さんは僕を連れて世話しなく買い物を始めた。

 

 家具や電化製品、洋服や日用品などなど。

 

 サッカーに使う道具もたくさん買ってくれた。それから学校やクラブに行って、お父さんとお母さんが難しい話を先生や監督としていた。

 

 その後すぐにお別れ会や試合をやった。最初から最後まで泣いてる子や必死に涙を我慢している子、最初は怒っていたのに結局最後は泣いてしまった子とかが沢山いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからはあっという間で、気付いたら僕は空港にいた。

 

 お父さんとお母さんは分厚い手紙を僕に渡してくれた。お母さんは泣いていて、お父さんが必死に宥めていた。

 

 自分の荷造りに熱中していて気付かなかったけど、お父さんとお母さんは一緒には行かないみたいだった。

 

 離れるのはさみしいけど、お父さんが僕を勇気付けてくれた。

 

 僕は日本から迎えに来たらしい髭が濃くて怖いおじさんと一緒に飛行機に乗った。席は座り心地がとても良くて、昔乗った時とは比べ物にならない気がした。

 

 飛行機に乗っている間、一緒にいたおじさんがビデオを見せてくれた。

 

 どうやらサッカーの試合らしい。そのビデオには僕の友達がたくさん映っていたから、片方はスペインのバルセロナオーブというチームだと分かった。

 

 でも、もう片方のチームは見たことがない人ばっかりだった。

 

 黄色と青のユニフォームを着ていて、とてもゆっくり動いていた。

 

 シュートは必殺技だけど勢いが無くて、キーパーはなんて事の無い普通のシュートを必死にキャッチしようとして何回もミスをしていた。 

 

 

 「おじさん、このチームは何処の国の小学生?何でクラリオ達はこの子達と試合してるの?」

 

 

 僕は純粋に聞いただけだったけど、おじさんは凄く困った顔をしていた。

 

 それから日本に着くまで、おじさんに日本のサッカーのことをたくさん教えてもらった。

 

 空港を出てからは別の大人の人が迎えに来た。おじさんが言うには中学校にあるサッカー部の監督らしい。

 

 僕はその人に軽くお辞儀をして、これから通う中学校まで連れて行ってもらった。

 

 




 いかがでしたでしょうか?と言ってもまだ原作と絡みは無いですが・・・。

 強化委員としてユーリ君を使っていくのですが、どの中学校に行かせるかはまだ決まっていません!

 できれば雷門・利根川以外にしようかなとは思っていますが、オリ中学校を考えるのも中々キツイですね。オリを書いてる人たちは本当に尊敬します。サッカーって人数多いし・・・。

 まだユーリ君のキャラをイメージしきれていないかもしれませんが、性格は穏やかな方です!もし行かせたい中学校があったら、 @karuna_runa までお願いします!質問箱やDMなどに案をぶち込んでもらえるとありがたいです(T-T)。

 感想やご指摘、意見などもお待ちしております!!!


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第二話

 今日はオリ監督さんが出てきまーす!




 空港でおじさんと別れて今度は違う大人の人、しかも女性にこれから通う中学校へと連れて行ってもらうんだけど、何故か僕たちはまだ空港にいた。

 

 

 「神矢ユーリ君、だったよね?」

 

 

 空港で初めて会った時に挨拶はしているが、その時はスペインから一緒に飛行機に乗っていたおじさんもいたため、二人っきりで話すのは初めてだ。

 

 それに結構若い方みたいで、子供の僕が言うのもおかしなことかもしれないけど、一目で可愛いと思ってしまった。

 

 

 「これからユーリ君が通う学校なんだけどね、さっきも言った通り結構遠いの。だから着くまでの間、先生にユーリ君のこと色々教えて欲しいな」

 

 

 こちらを向いてニッコリと笑う女の人に、僕は少しドキドキしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「疲れました・・・しかも暑い・・・」

 

 

 空港から電車やバスを使って向かうのかと思ってたけど、なぜか僕はまた飛行機に乗って別の空港にいた。

 

 スペインから日本、そして東京から現在地までずっと飛行機に乗ってたから、身体が悲鳴を上げているみたいだった。

 

 

「ごめんね、本当は一日東京に泊まってから行くつもりだったんだけど、明日サッカー部の試合があるから早く戻らないといけなくて・・・」

 

 

 僕がぐったりしていると、女の人が申し訳なさそうな顔をする。

 

 

「いえ、事情があるならしょうがな・・・・・・え?サッカー部の試合?」

 

 

「言ってなかったっけ?明日は私たち海洋学園と、大海原中の練習試合なの。ちなみに、私は海陽学園サッカー部顧問の霧菜です。よろしくね、ユーリ君♪」

 

 

 空港から出るときに気付いた事だけど、どうやら僕は沖縄に来てしまったらしい。

 

 まだ日本にいた時に名前は聞いたことがあったけど、実際に行ったことはなかった。

 

 

「長旅で疲れてるだろうから、今日はゆっくり休んで試合に備えてね」

 

「ありがとうございます。あの・・・来たばっかなのに試合に出してもらえるんですか?」

 

「それは試合の様子を見て考えます。とりあえず、学校に向かいましょう。明日の集合場所は海洋学園だから、学校からユーリ君の家まで送るので、道を覚えておいてね」

 

 

 こうして僕と霧菜先生は、海洋学園へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校を案内されて、今日の所はこれで用が済んだ。

 

 学校から車で新居まで送ってもらった。

 

 

「じゃあねユーリ君。明日は10時集合だから、遅れないように。もし遅れたら、我が海陽学園サッカー部活伝統の外周だからね」

 

 

「き、気を付けます・・・」

 

 

 最後にニッコリとした笑顔を見せてくれた先生だったけど、少しだけ怖さを感じた。

 

 やっぱり先生だから、時間には厳しいのかもしれない。

 

 霧菜先生に別れを告げて、車が走っていったのを確認してから家に入った。

 

 

「うわぁ・・・大きい!」

 

 

 お父さんとお母さんから話は聞いていたけど、一階建ての家で、一人暮らしをするには大きすぎるくらいだ。

 

 リビングに行くと、まだ開かれていない段ボール箱が山積みにされていた。

 

 

「うへぇ・・・」

 

 

 ほとんどがサッカー用品だけど、今からこれを開けるのは結構きつい・・・精神的にも肉体的にも。

 

 そう思って、先生の助言通りに今日の所はお風呂に入ってすぐに寝ることにした。

 

 




皆さん読んでいただきありがとうございます!

まずは手始めに練習試合ですね!ユーリ君含め、海洋学園がどういうサッカーをするのか、楽しみにしていてください!



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第三話

ついに初の練習試合!

はたして主人公は試合に出られるのか!


「やっちゃった・・・」

 

 

 今僕は、寝間着姿のままベッドの上で項垂れている。

 

 なんでそんなことをしているかと言うと・・・

 

 

「もう10時過ぎてる!!」

 

 

 確か今日の練習試合の集合時間は10時だったはず。今から準備しても絶対に11時は超える。

 

 しかも起きてから思い出したけど、段ボールの中にサッカー用品が入ってるから・・・もちろん試合に使う道具も入ってるわけで・・・。

 

 

「あの荷物を開けるのは気が引けるし、今から買いに行くわけにも行かないし、そもそもお店何処にあるのか知らないし・・・あーどうしよう!!」

 

 

 頭を抱えて叫んでいると、チャイムのなる音がした。

 

 

「もしかして霧菜先生が迎えに!?」

 

 

 ベッドから飛び出て急いで玄関を開けると・・・

 

 

「やっと出てきた!ってかまだ寝間着じゃない!?監督の言った通りやっぱり寝坊してたのね・・・。さっさと支度して試合行くわよ!11時には試合始まるんだからね!?さっさと支度する!!」

 

 

 銀髪でツインテールの女の子が立っていた。しかもかなり怒っている様子で、ドアを開けた途端にシュートの嵐のような言葉を浴びせられた。

 

 そしてあっという間にリビングまで上がってきたかと思ったら、すぐに段ボールを開け始めた。

 

 

 

「それ僕の荷物・・・」

 

「知ってるわよ!監督からある程度聞いてるから、アンタは早く顔でも洗ってきなさい!!」

 

「は、はいっ!!」

 

 

 言われるがままに顔を洗って歯を磨く。寝癖を直している時間は無いから、服を着替えようとリビングに戻って寝間着を脱ぐ。

 

 

「女子の前で脱ぐなっ!!」

 

「わぷっ!」

 

 

 突然顔に衣服が飛んできた。そういえば、リビングでは先程の女の子が段ボールを開けて荷物を漁っている最中だったことを思い出した。

 

 

「ご、ごめん・・・ってこれ練習着!?ありがとう!」

 

 

 投げ渡された練習着を着てタオルや財布、スマホをバッグに詰めると、丁度彼女が試合に使う道具を諸々見つけたらしく、鬼の形相で詰めていく。

 

 

「ほら、さっさと行くわよ神矢!」

 

「あ、ありがとう!あの、君の名前は・・・」

 

「セツナ!銀条セツナよ!!」

 

 

 名前を名乗りながら玄関を飛び出していく銀条さんを必死に追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、間に合った~」

 

「はぁ・・・はぁ・・・。アンタ速すぎ、何でそんなに速いのよ・・・」

 

 

 走り続ける事15分。何とか試合開始には間に合ったようで、両チームがアップをしているようだった。

 

 

「ほらでも!試合開始には間に合ったよ!!」

 

「おかげでこっちは体力が底を着いたわよ・・・」

 

 

 とりあえずベンチに荷物を置くため、銀条さんと二人で向かったのだが・・・

 

 

「ねぇ銀条さん・・・」

 

「嫌よ。自分で何とかしなさい」

 

 

 ベンチの傍からこっちを見ている霧菜先生がいた。顔はニッコリしているのにとても怖い。

 

 隣にいる銀条さんに助けを求めたけど、スタスタとベンチの方へ向かってすぐにアップに混ざった。

 

 何でか分からないけど、大好きな試合の日なのに今日はすぐにでも帰りたい気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ、確かに昨日言ってたけど、ほんとにやるなんて・・・」

 

 

 今僕は、試合が行われているグラウンドの周りを止まりもせずひたすら走り続けている。

 

 スペインに比べてかなり暑いけど、海風のお陰で何とかなっている。

 

 チラチラと試合を見てるけど、この前飛行機で見た雷門中という学校よりも海洋中は劣っている感じがした。

 

 聞いてた限りだと、大海原中はこの沖縄でもトップレベルの実力を持つようで、監督含めメンバー全員のテンションが高いことを除けば納得出来た。

 

 

「あの7番、全体のリズムが分かってる。そのせいでさっきからこっちの動きにタイミングを合わせられてる・・・」

 

 

 特に大海原中の7番は、選手に〇〇ビートと指示をしており、どうやらそれが秘訣みたいだ。

 

 僕は音楽の事はよく分からないけど、あの7番をどうにかしない限りひたすらペースを握られてしまう。

 

 

 どうにか打開策を見つけようと考えていると、不意に銀条さんの声が聞こえた。

 

 

「神矢!避けなさい!!」

 

 

「え?」

 

 

 

 声のした方を向くと、ボールがこっちに向かって飛んできていた。

 

 ゴールの傍を通っていたときだったので、多分シュートだろう。

 

 

「っ!」

 

 

 咄嗟に身体が動いて、そのボールを胸でトラップした。

 

 そのままボールをキーパーに返したんだけど、何故か皆ポカンとしていた。

 

 少しして銀条さんが僕の方へと走ってきた。

 

 

「ど、どうしたの銀条さん?」

 

「少しジッとしてなさい」

 

 

 割と真剣な声で言われたせいで、気を付けの姿勢をとってしまう。

 

 

「ひゃっ!ちょ、銀条さん!?」

 

「変な声出すな!必殺技が当たったのよ?!無事な・・・訳・・・え?」

 

 

 ワサワサと俺の胸のあたりを触って無事を確かめる銀条さんだけど、特に僕の身体に異常が無い事が分かると信じられない顔をする。

 

 

「うそでしょ・・・アンタ何者?」

 

 

 シュートを止めただけなんだけどな・・・

 

 




~キャラ紹介~
霧菜 麻衣
海洋学園サッカー部の顧問。非常に穏やかな性格だが、怒ると怖いらしい。沖縄に住んでいるが地元ではない。出身は東京。

銀条 セツナ
ポジションMF:火属性:女:二年生

キャラ設定は後々纏めて出します!

全開の2倍弱の文量だったんですが、ひたすら走って終わりました・・・。

次回はちゃんと試合書きます()


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第四話

やっと神矢くんの出番です!


「ユーリ君には後半の頭から出てもらいます」

 

 

ハーフタイムに入って全員が集められた直後、霧菜先生から交代を宣言された。

 

前半はずっとグラウンドの周りを走っていたためアップは完璧である。

 

 

「僕のポジションは何処ですか?」

 

「そうね・・・まずはOMF(オフェンシブミッドフィールダー)をやってもらいましょう。連携がまだ取れないと思うけど、そこは気にしないで。今日の試合はあくまで練習。ミスしたって全然いいわ。じゃあ皆・・・・・・前半あれだけやられたんだから、このままじゃいけないわよね?」

 

『はいっ!』

 

 

 ハーフタイムが終了し、各チームの選手が指定のポジションへと着く。その途中、相手の大海原中の選手が一人、僕の方へと走ってきた。

 

 

「おーい!」

 

「えーっと・・・誰ですか?」

 

 

 その人はピンク色の髪の毛をしており、色黒で額にゴーグルを付けていた。

 

 

「おう!俺は綱海条介っつんだ!さっきは悪かったな、あのシュート俺なんだわ。流石にディフェンスラインから狙うと入んねぇなぁあっはっは!」

 

 

 そう言いながら僕の背中をバンバンと叩く。結構強く叩かれた感じがしたけど、不思議と悪い気はしなかった。

 

 自分は大丈夫だと伝えると、綱海さんはお互いの健闘を祈ってフィールドに戻っていった。

 

 

「神矢、ちょっといい?」

 

「どうしたの銀条さん?」

 

 

 僕も自分のポジションに着こうとすると、銀条さんに引き留められた。

 

 

「アンタこのチームの事多分知らされてないだろうから先に言っとくけど、シュートは基本10番のおにい・・・アイツが打ってるの。チームの中じゃ一番サッカー歴長いし、信頼出来るわよ。それと11番のアイツには足元にパスを出すこと。それ以外はあんまり気にしなくていいわ。細かいことは追々覚えなさい」

 

「うん、了解。銀条さんにもどんどんパス出すから、よろしくね」

 

「初っ端から一人でドリブルされるよりはいいけどアンタ、アタシ来る途中散々走らされたお陰で結構きついのよ。ま、いいわ。早く行くわよ」

 

 

 銀条さんにも背中を叩かれる。これが沖縄の気合の入れ方なのだろうか。僕も急いで位置に着く。

 

 

 

ピーー!!

 

 

 笛の音と共にこちらのボールで試合が始まる。すぐにFWの11番からパスを出され、それをトラップしてからボールを受け取る。

 

 顔を上げると敵味方共にまだ動きは無い。どうやら僕の出方を伺っているようだった。

 

 

「じゃあまずは・・・」

 

 

 左サイドの銀条さんの方を見ると彼女もこちらに気づいたみたいで、軽く頷いてくれる。

 

 

「銀条さん!」

 

 

 朝の彼女の走りを考え、少しだけ前にパスを出す。

 

 出したのだが・・・・・・。

 

 

「え?ちょっ・・!」

 

 

 丁度取れる位置に出したはずのパスに、銀条さんは慌てて飛びつこうとした。

 

 けど、走ったはずの彼女はそのパスに追いつかなかった。

 

 笛の音が鳴って大海原中のスローインが指示される。相手がボールを準備する間に、僕は銀条さんの元へ駆けつける。

 

 

「ごめん銀条さん、もう少し手前だっわぷっ・・・!」

 

 

 全部言い終わる前に彼女に片手で頬を挟まれる。

 

 

「アタシの話聞いてなかったの?」

 

「ご、ごめん!普通に出したつもりだったんだけど・・・」

 

 

 僕が必死に謝るとパッと手を放してくれた。

 

 

「最初だしいいわよ。タイミングとかはそのうち分かるようになるわ。まずはしっかりボール取り返しなさい!(さっきのパス、ボールがほとんど見えなかった・・・まさか、ね・・・)」

 

 

 銀条さんはそう言うと僕の胸に拳を軽く当ててきた。

 

 

「音村!」

 

 

 相手のスローインから試合が再開され、大海原中のキャプテンである音村さんという人にボールが渡る。

 

 音村さんはプレスに来たうちDFを一人かわすと、パス相手を見つけるべく顔を上げた。

 

 

「今だ!」

 

 

 僕はその瞬間を見逃さず、後方から身体を入れるように距離を詰めた。

 

 

「っ!?」

 

 

 音村さんが怯んだ瞬間にボールを奪い、身体の向きを反転させる。

 

 これで僕がボールを持った状態で一対一に持ち込めた。

 

 

「君とやるのは初めてだ。君のリズム、感じさせてもらおう」

 

「悪いんですけど、僕音楽苦手なのでやめておいた方がいいですよっと!」

 

 

 左へ行くと見せかけて、初動より速度を上げて右へ駆け抜けた。

 

 

「チェンジオブペースか・・・やっかいだね。でも、全体のリズムを捉えることはそう難しくはない」

 

 

 抜き去る直前、音村さんはニヤリと笑っていた。

 

 そのままドリブルで持ち込もうと考えたけど、銀条さんの言葉を思い出してパスコースを探した。

 

 すると、丁度ハーフタイムで銀条さんから教えてもらった、11番の人が相手の最終ラインのDFのマークを振り切ったところだった。

 

 

「よし!」

 

 

 今度は11番の足元へパスを出す。パスが足元ということもあり、さっきの様にスルーすることもなく11番の足元にすっぽりと収まった。

 

 

「リターン!」

 

 

パスを受けた11番が相手を背負いながらパスコースを探している内に、僕は右側にズレながら上がっていく。

 

 

「っ?!任せたよ!」

 

 

ポストプレーをしていた11番は何故か少し驚いていたけど、直ぐに僕の方へリターンパスを出してくれた。

 

僕が走り込んでいる位置はハーフラインとペナルティエリアの間ぐらい。キーパーは前に出ておらず、このままシュートという訳にはいかない。

 

 

「だったら、ここしかないよねっ...!」

 

 

僕は前方に向かってボールを蹴った。

 

 

「あそこからシュート!?神矢のやつ何考えて......違う、これは...!」

 

 

僕が放ったシュート性の'パス'は、左サイドから中へ走り込んできていた10番の子がしっかりと合わせ、ゴールネットを揺らした。

 

 




試合はまだまだ続きます!


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第五話

大海原中戦決着!


 僕のパスから10番がゴールを決め、押し込まれ気味だった試合の流れを変えることが出来た。

 

 流れが変わったことで動きのテンポも変化し、大海原中の音村さんはリズムをもう一度捉えることに集中しているみたいだ。

 

 

「今のうちに追加点が欲しいね」

 

「神矢、気持ちは分かるけど、まだ監督からの積極的な攻めの指示は無いわ。今は連携を取ることに集中しなさい。なんせ、アンタのパスにまだ皆慣れてないんだから」

 

 

 銀条さんが右手首に付けたイレブンバンドを見ながら、少し歯がゆそうな顔をする。

 

 どうやら、彼女も音村さんがこっちのリズムに対応する前に追加点が欲しいらしい。

 

 しかし連携を重視することも頷ける。公式戦ではないし、今は監督の指示に従った方がいいかもしれない。

 

 

 「分かった。繋がらなくても、今はパスを出すことに専念するよ」

 

 「アタシも皆にアンタの事は伝えとく。気負いせずに頑張りなさい」

 

 

 銀条さんに背中を叩かれて気合を入れられる。その後すぐに自分のポジションに着いた。

 

 

 ピーー!

 

 

 笛の音と共に試合が再開される。大海原中はFW2人を中心にドリブルで攻め込んでくる。ボールをカットしに前線からプレスや必殺技でボールを取りに行くけど、音村さんが指示を出してそれらを綺麗にかわしていく。

 

 

「リードしててもディフェンスの方法はそこまで変わらないから、今までのリズムで対応できるんだ・・・」

 

 

 僕はすぐにフォローに入ろうとしたけど、僕の行く手には音村さんが立ちはだかった。

 

 

「君を行かせるわけにはいかないな」

 

 

 大海原中は細かいパスを回して攻め込んでくる。前半を見ていて思ったけど、どうやら海洋学園は、オフェンスをするときは連携で、ディフェンスは個人技で行っている。

 

 そのせいで、相手がパス回しで攻めてきたときに上手く対応できない。

 

 今も相手にシュートを打たせないようにするだけで精一杯のように見えた。

 

 

「新人がディフェンスに参加しないと怒られそうなんで、行かせてもらいます!」

 

 

 音村さんにフェイントをかけて抜き去った・・・・・・はずだった。

 

 

「先程からずっと君の動きを見させてもらった。確かに君の変則的な動きはやっかいだ。だけど、君が無意識に持っているリズムさえ分かれば、動きを合わせるのはたやすいさ」

 

「っ・・・!」

 

 

 難しいことは分からないけど、いくらかフェイントやチェンジオブペースを仕掛けてみて分かった。

 

 理由は分からないけど、どうやら音村さんは僕の動きが分かっているようだった。

 

 僕が音村さんのマークを外せずに苦しんでいる間にとうとう押し込まれてしまい、一点を返された。

 

 

「そんな・・・」

 

「ふっ、いいリズムだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピーー!

 

再び笛の音で試合が再開される。

 

 

「くっ・・・!」

 

 

ボールを受けて直ぐに、また音村さんが僕のマークに付く。

 

 

「これで終わりにさせてもらおう」

 

 

フェイントをかけて抜こうとするけど、振り切ったと思った時には目の前に音村さんが立っている。

 

パスを出そうにも皆完璧にマークされてしまっている。ここで絶対にボールを取るという強い執念を感じる。

 

 

「(やるしかない・・・か。)音村さん、僕もそろそろ終わりにしたいと思ってました」

 

「君のリズムは完璧に把握している。僕を抜くことは不可能だよ」

 

 

僕はフェイントをかけることをやめてゆっくりと音村さんから少しだけ距離を取る。一瞬動きを止めた音村さんだけど、釣られてすかさず距離を詰めてきた。

 

 

「ふっ!」

 

 

そこにタイミングを合わせるように僕は速度を上げた。でも音村さんは分かっていたようで、切り返して僕の進行方向へ身体を入れようとしてくる。

 

けど、僕の動きはこれで終わりではない。

 

 

「何っ!?」

 

 

僕は音村さんが動き始めた瞬間に動きを止め、先程よりも加速して音村さんを抜き去った。

 

 

「くっ、何て速さだ・・・!」

 

「銀条さん!」

 

 

そのままサイドを駆け上がっていた銀条さんへパスを出す。音村さんを抜くために後ろに下がったときに、銀条さんとアイコンタクトを取っていた。

 

 

「なんでアタシのときだけこんなに走らせんのよっ・・・神矢!後で覚えてなさい!!」

 

 

銀条さんが何か言っていたけど聞こえなかったことにしよう。僕はパスを出した直後もそのまま走り続け、中央からそのまま相手のゴールの左前まで走る。

 

丁度左サイドにいたFWが僕と入れ違うように位置を入れ替わった。

 

 

「銀条さん、パス!」

 

「うおおぉ・・・ちゃぶだいがえし!」

 

 

パスに追いついた直後の銀条さんにパスを求めると、相手のGKが早い段階で必殺技を出してきた。

 

地面を円盤状にめくって壁を作っている。僕は今ゴールに対して斜めだが近い位置にいる。相手の判断は正しいと思う。けど・・・

 

 

「スルーしただとっ・・・!」

 

 

センタリングをダイレクトでボレーの体制を取っていた僕だが、ボールは僕の傍を素通りした。

 

 

「いっけぇ!」

 

 

そしてボールの行先には、先程僕とすれ違ったFWが・・・

 

 

「くらえっ!アンカーショット!!」

 

 

FWの足に集められたエネルギーが、錨状になってボールを後押しする。

 

そしてそのままゴールへと突き刺さった。

 

 

 

 

ピッ・・・ピッ・・・ピピーー!!!

 

 

 

トータルで2-1、僕の日本でのサッカーデビューは勝利で幕を閉じた。




すこし急ぎ目に書いたので、誤字やおかしな表現があったかもしれません・・・


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第六話

今回は新たにオリキャラが出てきます!
皆さんしっかり覚えてあげてください!


 海洋学園グラウンドで大海原中を2-1で下した僕たちは、試合が終わった直後に部室でミーティングを行っていた。

 

 皆が集まって床に座っているが、僕は皆の邪魔にならないように後ろの方に座って霧野先生の話を聞いている。

 

 

「この後は解散ですが、皆さんにお知らせがあります。今日から我が海洋学園イレブンになった神矢 ユーリ君です。彼は強化委員としてスペインからやって来ました。ユーリ君、簡単に自己紹介をお願いします。」

 

 

 先生に促されて、僕は前に出てから自己紹介を始めた。

 

 皆からの視線が集中して緊張してしまう。深呼吸をしてから、笑顔を作って話し始めた。

 

 

「皆さん始めまして・・・っていうのも可笑しいかな、さっきまで一緒に試合してたし。僕の名前は神矢ユーリ、スペインから来ました。向こうにいた時のポジションはMFで、主にボランチをやっていました。皆さんこれからよろしくお願いします。それと、何か質問があれば遠慮なく聞いてください」

 

 

 自己紹介は特に問題なく行えたはず。あんまり長話をする必要もないし、皆からの質問は出来るだけ答えるつもりでいる。とにかくゆっくりと皆との距離を縮めていこう。

 

 質問する気配が無かったのか、霧野先生が一回手を叩いて場を仕切りなおした。

 

 

「ユーリ君は雷門イレブンとは別に強化委員として我が海洋学園に来てくれています。それにスペインからの帰国子女でもあるので、向こうのサッカーのこととかを聞いて自分のプレーの参考にしてみてください。では、今日の所はこれで解散とします」

 

 

 『はい!』

 

 

 霧野先生は話を終えると部室から出て行った。皆それを確認すると立ち上がり、部屋から出る者、その場で話を始める者、僕の方へ来てくれる人に分かれた。

 

 

「ねぇねぇ!えーっと・・・神矢くんだっけ?初めまして!僕は浅見 暁(あざみ とおる)、ポジションはDF!小学校の時は野球をやってて、サッカーは中学から始めたんだ!これからよろしくね!」

 

 

 赤い髪で襟足にかかるぐらいのミドルヘアな浅見君。所々髪が跳ねており、ニコニコとした笑顔と明るい雰囲気が印象的だった。

 

 差し出された手を握り返して握手をする。すると浅見君は満足した表情で頷いた。

 

 そしてその浅見君の隣にもう一人茶髪でショートヘアの子がいた。その子は浅見君と入れ替わりで僕の目の前に来た。

 

 

「俺は鉄垣 銑十郎(てつがきせん じゅうろう)って言うんだ。見ての通りGKをやってる。よろしくな」

 

 

 鉄垣君も同様に手を出したので、僕もそれに応じる。

 

 浅見君のような満面の笑みではないが、僕に気を許してくれているのが分かる。

 

 

「二人とも僕に話しかけてくれてありがとう。実は誰も話しかけてくれないんじゃないかって心配してたんだよね・・・」

 

「分からないことは何でも聞いてくれ」

 

「僕はどっちかというと神矢君に色々聞きたいな!まだサッカーに慣れてないし!」

 

 彼らのお陰で結構いいスタートを切れたと思う。二人とも話しやすそうだし、最初に会った銀条さんも口調は厳しいけど結構彼女の方から話しかけてくれてだいぶ助かっていた。

 

 しばらく二人と会話をしていると、部室に残っていたメンバーの一人が僕らの方へと近づいてきた。

 

 

「浅見、鉄垣、少し神矢を借りていいか?」

 

「うんいいよ、銀条!挨拶できたし、僕らは自主練でもしようかな!」

 

「そうだな。今日の試合で反省すべき点はいっぱいあった。少しでも時間を改善に充てるべきだろう」

 

 

 そう言うと、浅見君と鉄垣くんは部室を後にした。

 

 

「今日の試合、お前のパスのお陰で得点できた。ありがとな」

 

「えーっと・・・・・・あっ!10番の!」

 

 

 顔を見ただけでは分からなかっけど、着ていたユニフォームの番号から思い出すことが出来た。

 

 今日の試合で度々連携を取ったFWの子だ。

 

 

「お前ならあの場所にパスを出すと思って走りこんだんだよ。後半最後のプレーも、お前と目が合った瞬間分かった気がした。これからもどんどん俺にボールを回してくれ」

 

「こっちこそありがとう。事前の打ち合わせをしてなかったから成功するか分からなかったけど、上手くいってよかった。ところで・・・君の事はなんて呼べばいいかな?」

 

 

 二人で試合の振り返りをしている最中、ふと気になったことを聞いてみた。

 

 これから積極的に連携をしていくかもしれない相手ということもあり、名前を知ることは重要である。

 

 

「そうだな・・・・・・とりあえず俺の名前だが、銀条蓮基(ぎんじょうれんき)だ。他のやつらはよく蓮基って呼んでるよ」

 

「銀条蓮基君・・・銀条・・・・・・あれ?どっかで聞いたような・・・」

 

 

 どこかで聞いたような苗字だと思い必死に思い出す。もちろんスペインの方で聞くことは無いので、おそらく日本にいた頃か戻ってきた後に聞いた名前だろう。

 

 

「銀条はアタシの苗字!そして蓮基はアタシの兄よ」

 

 

 蓮基君の後ろから銀条さんが現れる。

 

 

「そういえばセツナ、今日の試合にはユーリと一緒に来ていたな」

 

「霧野先生に頼まれたのよ。ユーリ君は絶対に寝坊するから、迎えに行ってあげてください~って。案の定寝坊してたんだけどね・・・!」

 

「その節はごめんなさい・・・」

 

「セツナは世話好きな所があるからな。多分勝手に部屋に上がって色々漁ったと思う。すまないな」

 

 

 蓮基君が今朝の銀条さんの行動をピッタリと言い当てた上で謝ってくる。すると隣にいたが顔を真っ赤にして蓮基君に怒鳴り始めた。

 

 

「怒鳴るってことは、図星だな?」

 

「そうだけど・・・言いかた!漁ってなんかないわよ!神矢の支度を手伝ってあげただけ!そうでしょ神矢!?」

 

「え?あ・・・うん」

 

「そこはしっかり肯定しなさいよ!!」

 

 

 今度は僕の方へ言い寄るセツナさん。とは言え結構漁ってたように見えていたので、これからその片づけをするのは気が引ける。

 

 かと言って支度を手伝ってくれたのは素直にありがたかったし、事実助かっていた。

 

 

「なぁユーリ、この後お前の家に行ってもいいか?セツナが迷惑かけただろうし、その後始末ってことで。それに色々と話したいこともあるしな。あと呼び方の話だが、銀条だとセツナと被るからな。出来れば名前で呼んでくれ」

 

「迷惑かけられたのはア・タ・シ!!」

 

「そこまでしてもらうわけには・・・セツナさんのお陰で試合に間に合ったのも事実だし・・・」

 

「ほら!神矢もこう言ってるし・・・!」

 

 

 セツナさんがしつこく食い下がるが、結局僕の家に行くということで話が纏まり、着替えなどの身支度のためいったんそれぞれの家へ戻った。

 

 




キャラ紹介

・浅見 暁(あさみ とおる)

 髪色:赤
 髪型:襟足が肩にかからないぐらいまで

・鉄垣 銑十郎(てつがき せんじゅうろう)

 髪色:茶
 髪型:短髪(ツーブロック)


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第七話

今回は少し長めです!


 大海原中との練習試合から数か月が経ち、僕はだいぶサッカー部に馴染んできた。

 

 学年も上がり、新3年生は受験のため引退。

 

 残った僕たち2年生と、新たに加わった1年生とで新体制が出来上がった。

 

 今日もいつものように練習に参加するべく海洋学園グラウンドにいる。

 

 一緒に過ごした月日のわりに少しずつではあるがチームメイトとも積極的に話せるようになった。今のところはFWの銀条 蓮基君(10)、MFの銀条 セツナさん(6)、DFの浅見 暁君(2)、GKの鉄垣 銑十郎君(1)、そして新しくFWの聖坂 景君(11)にMFの古旗 玲夢君(5)とも話すようになった。

 

 そんなことを思いながら練習を始めようと皆が準備をしていたら、始まる前に全員が集められ、霧野先生からあることを告げられた。

 

 

「今日は皆さんに大事な報告があります♪」

 

 

 何故だか今日は霧野先生の機嫌がいい。表情はいつもと変わらず笑顔だけど、声にいつも以上の明るさがある。

 

 ただそんな霧野先生とは対極に、他のメンバーの表情はあまり良くない。

 

 

「聖坂君、これはどういう・・・?」

 

 

 僕はたまたま近くにいた聖坂君にこの状況の説明を求めた。すると聖坂君は苦笑いのまま僕の方を向いた。

 

 

「監督がこういう時って、大抵強いところとの練習試合なんだよね・・・」

 

 

 僕たちは沖縄の中学校であるため相手校の数が少ない。それに加えてその中でも上位に位置する学校と言えば、僕たちの海洋学園と以前戦った大海原中の2校である。

 

 そうなると必然的に他の県の中学校との試合になるけど、その場合飛行機や船などで移動することになる。

 

 やはり試合のためとはいえ移動時間が長いのはつらいのだろう。大海原中との練習試合以降、他校との練習試合は無かったため、他県との試合のための移動手段には少し期待している。

 

 

「多分神矢君が考えてることとは少し違うかな」

 

「え、そうなの?」

 

 

 どうやらそうではないみたいだ。ならばいったい何なんだろう・・・。

 

 僕が悩んでいると、実際に監督の話を聞いた方が早いよと聖坂君に言われた。

 

 

「来週の土曜日に練習試合を組みました!相手は東京の帝国学園です♪」

 

 

 霧野先生が対戦相手を告げると、皆がどよめいた。

 

 それ程強い相手なのだろうか?ここに来てから全開のフットボールフロンティアについて少し調べていたけど、帝国学園は確か全国大会の一回戦で世宇子中という学校にボロ負けしたはずだ。

 

 しかもその世宇子中は決勝で雷門中に敗れている。さらには雷門中もクラリオ君達が率いるバルセロナオーブに完敗。やはり今回も僕はサポートに回るべきだろう。

 

 

「そしていつもの様に、皆さんには課題を出したいと思います♪」

 

 

 その一言で皆の士気がさらに下がっていく。おそらく聖坂君が言っていたことはこの課題に関することだろう。

 

 思いつく課題と言えば、ボールタッチやシュートの回数に制限をかけたり、新たな技やタクティクスの実戦投入など色々なことがある。

 

 少なくとも、このチームに足りないことを気付かせる、あるいはその場で改善させるためのものであることは確かなはずだ。

 

 いったいどんな課題を・・・。

 

 

「今回の帝国学園との試合・・・・・・10点以上の差を付けて勝ってもらいます」

 

 

『えっ!?』

 

 

 10点・・・!?

 

 それはいくらなんでも・・・。

 

 霧野先生の表情を見る限り冗談ではないことが分かった。さっきまでのにこやかな表情ではなく、真剣である。

 

 声のトーンもいくらか下がっていた。

 

 

「帝国学園にはかつて天才ゲームメーカーと呼ばれていた鬼道 有人君がいましたが、彼は現在星章学園に強化委員として配属されています。今の帝国学園となら、これくらいは問題ないと思いますよ」

 

 

 僕も含めて皆はまだ、開いた口が塞がらないといった様子だ。

 

 場の空気が静まり返ってしまった中で、ある人物が突然立ち上がった。

 

 あれは・・・蓮基君?

 

 

「よく聞けお前ら!相変わらず監督の課題はむちゃくちゃだが、俺にボールを回せ!10点ぐらいすぐに決めてやる!!」

 

 

 蓮基君の一言で皆は、特に1年生の子達はやる気を取り戻したみたいだった。

 

 それにしても、以前から思っていたけど蓮基君に対するチームの信頼度はとても高いように感じる。

 

 以前セツナさんが言っていたようにシュートは基本蓮基君が打っている。海洋学園のFWは3人いるけど主な得点源は彼。けど、他のFWがシュートを全く打たないのは気がかりだ。

 

 次の帝国学園戦、本当に10点以上の差を付けるのなら、他のFW二人の得点も必ず必要になる。

 

 

「では皆さん、早速練習を始めますが・・・・・・今日から試合まで、練習は走り込み以外禁止とします」

 

「なっ!?待ってください監督!走り込みだけで課題をこなせるとは思えません!やはり必殺技や連携に時間を使った方が!」

 

 

 霧野先生の指示した練習内容に、いつも冷静なはずの聖坂君が反論した。確かに走り込みも重要だけど、それだけでは到底攻撃力は上がらない。

 

 ポストプレーを行い攻撃の中心となる役割を担っている聖坂君だからこそだろう。でも、今年の海洋学園は1年生が入っても控え選手がいないので、試合を走り切るスタミナは確かに重要だ。

 

 だけど走り込みならメンバー全員が毎日行っていることである。並大抵の学校よりかは遥にスタミナがあるはずだ。

 

 

「聖坂、監督の指示に従うべきだ。今まで監督が間違ったことを言っていたか?」

 

 

 そんな聖坂君を鉄垣君が宥める。聖坂君は元々熱い性格ではないので、すぐにいつもの調子を取り戻した。

 

 

「他に意見のある子はいますか?いないようでしたら、早速練習を始めてください♪」

 

 

 それから試合までの間、今までに無いくらい長い距離を、多くの坂を、全身に負荷をかけながら行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが帝国学園・・・」

 

 

 試合当日。僕たち海洋学園は、予定していた帝国学園との練習試合のために帝国学園を訪れていた。

 

 これは本当に中学校なのだろうか。ここまで大きく、さらには道路まで敷かれているような学校はそうそう無いだろう。

 

 

「早速グラウンドへ向かいますよ。くれぐれも迷子にならないように気を付けてくださいね?特に・・・ユーリ君?」

 

 

 霧野先生が僕の方を見てニッコリと笑う。その後に続々と皆が僕の方を見てきた。中には苦笑いや呆れ顔、今にも怒り出しそうだが必死に耐えているメンバーもいた。

 

 それもそのはず、僕たち海洋学園は飛行機に乗って東京へやってきたのだが、東京の空港へ着いた時、僕が迷子になってしまったのだ。

 

 実の所、空港内のトイレに行った帰りに日本の売店がとても珍しくて寄り道をしてしまった。

 

 その結果、ものの見事に迷い、皆と合流できたのは予定していた空港を出発する時間の1時間後。

 

 僕を探しに走り回っていたセツナさんにはこってり叱られ、聖坂君からはフォローのしようが無いといった表情をされた。

 

 

「では行きますよ。玲夢君、沙漠君、ユーリ君をしっかり見張っていてくださいね」

 

 

 僕の後ろにいた玲夢君と琴音 砂漠(ことね さばく)君が返事をした。霧野先生を先頭に2列で進んでいく。沙漠君が最後尾で、その前に僕と玲夢君が並んでいる。

 

 

「なんでぼくがお守なんか・・・はぁ、めんどくさい・・・」

 

「そう言うんじゃねぇよ玲夢。折角神矢先輩と話せるチャンスが出来たんだ。ここんとこランニングばっかで碌に会話できなかったからなぁ」

 

「お前・・・僕が先輩だって忘れてるだろ?」

 

 

 気だるげに喋るのが玲夢君で学年は僕と同じ2年生。そんな彼に対してかなりラフな喋り方をするのが1年生の沙漠君だ。玲夢君と沙漠君は役割こそ違うものの同じMF。お互いに通じるものがあるようで、よく二人で話をしているのを見かける。

 

 

「二人はほんとに仲がいいね」

 

「俺は神矢先輩と仲良くなりたいっすけどねぇ。スペインにいた時の話とか聞かせてくださいよぉ」

 

「お前ホントやだ・・・」

 

 

 控室に到着するまでの間、3人での会話を楽しんだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからスターティングメンバーを発表します。と言っても、11人しかいないからポジション発表ですけどね」

 

 

 皆が着替え終わり、アップが始まる前に今回のスタメンが発表された。

 

 

 

FW 銀条 蓮基(2年) 聖坂 景(2年) 飛渡瀬 武蘭(ひとのせ ぶらん)(1年)

 

MF 神矢 ユーリ(2年)

    銀条 セツナ(2年)        琴音 砂漠(1年)

             古旗 玲夢(2年)

 

DF 逢野 岱゙貂(2年) 浅見 暁(2年) 漸次 楓(2年)

(おうの だいてん)

GK            鉄垣 銑十郎(2年)

 

 




次回から帝国学園戦!!!


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第八話

試合書くのって大変ですね・・・


 帝国学園との試合が今まさに始まろうとしていた。今回の試合で一番気にしなくてはならないのは以前霧野先生が言っていた課題、10点以上の差を付けて勝利する事。

 

 若干の不安はあるけれど、帝国学園だって最強ではない。

 

 ゲームメイカーがいないのならば、付け入る隙はいくらでもあるはずだ。

 

 

 ピー―!!

 

 

 ホイッスルが響き、試合が始まる。

 

 前半は帝国学園のボールでスタートした。事前に僕は相手チームの試合動画などの資料を使って選手のデータを頭に入れておいた。そのお陰で選手の特徴はある程度分かっている。ただ2人を除いて・・・

 

 

「はんっ!ちょろいなぁ!!」

 

「なっ・・・!」

 

 

 FWからボールを受け取った不動君が聖坂君と対面する。ボールを奪おうとする聖坂君だけど、不動君はトリッキーなボールさばきで聖坂君を抜き去った。

 

 僕は不動君と、強化委員として雷門中から来ている風丸君のデータを知らない。

 

 ポジション的に聖坂君の後ろは僕なので彼を止めるべく動いた。ただここは無理にボールを取ろうとせずに不動君の動きを見極めることにした。

 

 まずは周りをすばやく確認し、今通されてはいけないパスコースをまず塞ぎながら少し距離を開けて不動君の前に立つ。

 

 

「へぇ・・・この俺とやろうってか?」

 

「小手調べだよ。お互い新参者同士、仲良くしようね」

 

「はっ!お前の事は噂に聞いてるぜ?お前の力、見せてもらおうか!!」

 

 

 不動君が僕に向かってドリブルで突っ込んでくる。その途中でボールを跨いだり視線をずらしたりなど様々なフェイントを仕掛けてきた。だが、やはりフェイントをしようとする意識が強いのか、簡単に嘘だと分かってしまう。

 

 ひとしきり相手をしたことで、不動君の特徴がだいぶ理解できた。

 

 もうこれ以上彼の動きを見る必要は無いだろう。今度は風丸君の方を見てみたいけど彼はDFの位置にいるから、今はやめておくことにした。

 

 僕は不動君に少し隙を見せるような動きをし、パスを促す。

 

 

「甘いぜっ!!」

 

 

 不動君は僕の誘導に乗ってくれて、右サイドを駆け上がってきたMFへとパスを出した。

 

 

「行ったよ、沙漠君!」

 

「任せてくださいってぇ!」

 

 

 右サイドには沙漠君がいるので彼に任せることにした。彼にとっては初陣であるが、動きを見た感じでは気負いはしていないみたいだった。

 

 沙漠君の性格なら当然とも言える。彼はパスを受けた直後のMFにスライディングをし、ボールを奪った。

 

 

「よっしゃあ!」

 

 

 ボールを奪った沙漠君はそのままドリブルを開始する。そのまま相手DFを躱し、前線の武蘭君へパスを出す。

 

 パスを受け取った武蘭君はDFにプレスを掛けられながらもそれを振り切ってフリーとなった。そのままシュートを打つかと思いきや、逆サイドの蓮基君へとパスを出した。

 

 

「ナイスパスだ飛渡瀬。行くぞ・・・アンカーショット!!」

 

 

 パスを受けた蓮基君がそのままシュートを放つ。以前よりパワーは上がっているけど、シュートコースが甘い。

 

 キーパー正面だ。そのお陰で相手キーパーは焦ることなく技を出す。

 

 

「ハイビーストファング!!」

 

 

 シュートを見極めたキーパーは両腕を広げてボールに飛びついた。そしてタイミングよく両腕を振り、ボールを挟み込んだ。

 

 そのまま危なげなくボールの勢いは止まった。相手のキーパーは余裕な表情をしており、対する蓮基君は驚いた表情だ。

 

 

「ドンマイ銀条君!どんどん打っていこう!」

 

 

 聖坂君が蓮基君を励ましたところで、相手キーパーがボールを大きく蹴りだした。

 

 蹴られたボールは右サイドへ。本来沙漠君が守っているはずのエリアだ。でも、今そこに彼はいない。

 

 彼は先程まで攻撃に参加していた。しかもドリブルで相手の陣地に深く侵入していたため、そこから戻ってくることなど不可能だ。

 

 しかもいやらしいことに弾道は低くて早い。ディフェンスラインを下げて体制を立て直す暇もない。そこへ相手のMFが走りこんでいる。得点が決まったと確信したせいか想定していなかったのだろう、右サイドバックのポジションにいる漸次 楓(ぜんじ かえで)さんは戸惑っていた。

 

 

「走りなさい楓(かえで)!!」

 

 

 どんな指示を出そうかと考えていると、セツナさんが声を張り上げて指示を出した。

 

 それを聞いた楓さんは意を決したようにボールに向かって走り出した。

 

 

「なにっ!?」

 

「これは・・・」

 

 

 楓さんは走り始めるとどんどんと加速し、相手がボールをトラップしようと足を出すよりも早くボールをカットした。

 

 セツナさんの指示はあったものの、走り始めはかなり遅かったはず。

 

 あのタイミングでカットするのは難しいはずだ。反応が遅れた場合は大体相手を足止めして味方が戻ってくる時間を作るのが定石。無理に突っ込んでかわされてしまっては目も当てられないだろう。

 

 

「や、やったぁ!取れたよセツナちゃん!」

 

 

 パスをカット出来て喜ぶ楓さんだが、すぐさまカットされた相手がボールを取り返しに来た。

 

 

「楓さん!こっちだ!」

 

「させねぇよ!」

 

 

 ここでボールを奪い返されては再びピンチになってしまう。すぐに楓さんの前に前方に立ってパスを求めると、僕の方へ不動君が走ってきた。

 

 僕はすぐに周りを確認し、他のパスターゲットがあるかを確認する。

 

 

「玲夢君へ!」

 

「え?あ、うん!」

 

 

 最初は僕がパスを要求していたため、完全に僕へ出そうとしていた楓さんは、突然の変更に戸惑いながらも玲夢君へパスを出す。

 

 ボールを受け取った玲夢君は一旦足元へボールを収めるとそのまま動かずに立ち止まった。

 

 

「・・・・・・どうしよっかなぁ」

 

 

 一旦試合を落ち着かせたいのか、玲夢君はボールをキープしてパスターゲットを探している。

 

 すると、今度は左サイドバックの逢野 岱貂(おうの だいてん)君が駆け上がってきた。

 

 

「ぼさっとしてんじゃねぇよ玲夢!ボール寄越せ!」

 

「そんなに急ぐなよ・・・ったく」

 

 

 玲夢君はしぶしぶといった様子で岱貂君にパスを出した。それを受け取った岱貂君は前方を確認すると、そのままロングパスを出した。

 

 

「さっさと決めろ蓮基!」

 

「言われなくても今度こそ決めてやるさ!くらえ・・・アンカーショット!!」

 

 

 パスを受け取った蓮基君は振り向きざまにシュートを放った。ディフェンダーは意表を突かれたようで反応できていないが、キーパーはそうではなかった。

 

 一本目と同様に再びハイビーストファングで完璧に止められてしまう。これではいくら打っても得点はおろか、流れをつかむことすらできない。

 

 

「風丸、もういいだろう?」

 

「あぁ、ここからは帝国のサッカーだ」

 

 

 GKとDFの風丸君が何やら話をしている。僕の位置からは聞こえないけど、どうやら何か仕掛けてきそうな雰囲気がある。

 

 カウンターが来るかと思ったら、GKは傍にいた風丸君にパスを出した。

 

 その位置から攻めに来るつもりだろうか。海洋イレブンは先程の反省を生かして、風丸君が動き出す前に守備に戻ってきている。

 

 この状態ではドリブルで崩すのは難しい。そうなれば必然的にパスを中心に来るだろう。

 

 

「皆上がれぇ!」

 

「何だとっ!?」

 

 

 風丸君が号令を出すとともに帝国学園のフィールドプレイヤーが駆け上がってきた。風丸君のマークに付いていた蓮基君は咄嗟の事に対応できず、突っ込んでボールを取りに行ってしまう。

 

 それを簡単にかわした風丸君は、MFの不動君にパスを出す。

 

 僕は相手の勢いを止めるために不動君へとプレスをかけた。

 

 

「わりぃけどお前の相手をしてる暇はねぇんだよ」

 

「くっ・・・!」

 

 

 僕と不動君の距離が詰まる直前、彼はバックパスをして僕のプレスを躱した。

 

 パスを受けた相手のDFは右サイドへとボールを展開してきた。僕はその後を追おうとしたけど、すぐさま縦へのロングパスを出されてしまう。

 

 でもそこには沙漠君がいるはず。そこで何とか時間を・・・

 

 

「しまった・・・!」

 

 

 相手MFのマークに付いていた沙漠君だったけど、相手のフェイントに引っ掛かってしまって抜かれてしまう。

 

 そのまま右サイドを駆け上がる相手MF。沙漠君の後ろを守っていた楓さんは既にFWをマークしている状態で、どうすればいいか分かっていない様子だった。

 

 その隙を付いた相手MFはそのまま中へ切り込み、逆に楓さんがマークに付いていたFWは外へと開く。

 

 

「ど、どうすれば・・・」

 

 

 楓さんは完全に迷ってしまっているようだ。MFのマークに付けば外に開いたFWがフリーでボールを受けてしまう。逆にそのままFWに付いていけばMFにボールを運ばれて、そのままシュートを打たれかねない。

 

 海洋学園のフォーメーションはDFの枚数が3枚と少ないため、かなり難しい選択だろう。

 

 

「楓、マークを変えなさい!」

 

「う、うん!」

 

 

 再びセツナさんの指示により楓さんが動いた。また動き出しは遅かったが、持ち前のスピードで何とか追いついた。

 

 しかし今度は左サイドにパスを出されてしまう。それに反応した岱貂君がボールを受けた相手に激しいプレスをかけたが・・・

 

 

 「くそっ!」

 

 

 蓮基君同様、突っ込んだだけの守備でボールが取れるはずもなく簡単にかわされてしまう。それを見たセンターバックの暁君急いでがカバーに入るが、これにより中央のDFは楓さんだけになってしまった。

 

 楓さんにマークを突かれていたMFはそれを見ると彼女を振り切って抜け出してくる。そこに丁度タイミングを合わせてパスが出されてしまう。いくら楓さんが速くても、体制が悪い状態でシュートを打つまでに追いつくことは出来ない。

 

 さらに追い打ちをかけるようにボールを受けたMFはダイレクトでシュートを打ってきた。

 

 

 そのシュートはGKの銑十郎君の手を弾き、ゴールネットへと突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユーリ君、貴方には知ってもらう必要があります。このチームの弱点を。貴方がこのチームでやるべきこと・・・」

 

 

課題である10点以上の得点をこなす前に先制点を決められてしまった海洋学園。選手全員が焦りを見せるも、監督である霧野はただ一人、不敵な笑みを浮かべていた。

 

 




ホントはこれを昨日上げようと思ってたんですが、疲れから眠ってしまいました・・・



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第九話

まだまだ試合は終わらない!


 帝国学園との練習試合が始まった。僕たち海洋学園は、霧野先生から課された10点以上の点差を付けて勝つという課題をこなすため練習をしてきたのだけど・・・

 

 

「10点差を着けなきゃいけないのに、1点取られちゃった・・・」

 

 

 右サイドバックを任されている楓さんは今にも泣きそうな表情である。この失点の責任が自分の判断の遅さによるものだと感じているからだろう。

 

 

「切り替えなさい楓。相手は強豪校よ?そう上手くいくものじゃないわ」

 

 

 そんな彼女をセツナさんが優しく励ました。その反面・・・

 

 

「逢野!アンタDFなのよ?!もっと慎重にディフェンスしなさいよ!」

 

 

 蓮基君の方へ向かっている最中の岱貂君にセツナさんが怒鳴った。彼は今回の失点に一番絡んでいる人物だ。しかし彼はセツナさんを無視し、蓮基君の方へ向かった。

 

 無視されたセツナさんはその場で地団太を踏みながら顔を赤くしてさらに怒っていた。それを今度は楓さんが宥める。

 

 

「悪い・・・」

 

「気にするな岱貂。すぐに取り返してやる。なに、1点ぐらい変わらないさ」

 

 

 岱貂君が蓮基君に謝罪をした。どうやらこの二人は仲が良いらしい。それにしても、蓮基君のシュートが通じない今、新たに得点方法を考える必要がある。

 

 

「ねぇセツナさん」

 

「何よ?」

 

 

 岱貂君に無視されたせいか、心なし機嫌が悪いセツナさん。

 

 彼女の隣にいる楓さんが再び宥めると、今度こそいつものセツナさんに戻ってくれた。

 

 

「攻め方を変える必要がある。そのために協力してほしいんだ」

 

「攻め方を変える?」

 

 

 セツナさんは怪訝な顔をする。少ししてから、話してみなさいと言ってくれたので、提案することにした。

 

 

「今の僕たちの攻撃パターンは一つしかないんだ。蓮基君にパスを回して、そのままシュートを打つ。今まではそれでよかったかもしれないけど、今は完璧にそれが抑えられている。彼も気づいてないはずはないんだけど・・・。話がそれちゃったね。攻め方を変えると言っても、単純にシュートを打つ人を増やすだけなんだ」

 

「アタシにも打てってこと?」

 

 

 打てなくはないけど・・・と考えるそぶりをするセツナさん。

 

 恐らくは必殺シュートを持っていないのだろう。帝国学園のキーパーは思っていたよりも反応が良い。普通のシュートではまず決まらない。そうなるとあのハイビーストファングを破る必殺技が必要になる。

 

 

「必殺シュートが打てそうな人は他にいないかな?」

 

「残念だけど、アタシたち2年の中で打てるのは蓮基だけよ。今までアイツがシュートを決めてたから、誰も必殺シュートの練習はしてこなかったのよ」

 

 

 これは想定外だ。確かに今まで蓮基君がシュートを打っているところはほとんど見たことないが、まさかそもそもが打てないとは思っていなかった。

 

 

 となると残りは1年生。武蘭君と沙漠君だ。プレーを見た感じ二人とも初心者ではなさそうだけど、武蘭君のプレーは少し引っ掛かる所がある。

 

 ただそれが何なのかは分かっていない。とにかく今はその二人に任せてみるとしよう。

 

 

「セツナさん、パス回すからよろしくね」

 

「前みたいに取れないのは嫌よ?」

 

 

 そう言いながらもニヤリと笑うセツナさん。以前みたいに体力に余裕があるからだろうか。ひとまずここで話は終わりにし、試合再開を待つ。

 

 

ピー―!!

 

 

 再開のホイッスルが鳴り、試合が再開した。

 

 僕は聖坂君からボールを受け取ると、そのままセツナさんへとパスを回す。

 

 

「んっ・・・!」

 

 

 僕のパスに飛びつくように反応するセツナさん。相手は僕のパスに反応できなかったらしく、驚愕の表情を浮かべていた。

 

 

「(相変わらず速いけど・・・何とか反応出来るし追いつける!)神矢!」

 

 

 そのまま少しドリブルをしたセツナさんは、僕にリターンをくれた。

 

 ボールを受け取った僕はそのままドリブルを開始した。すると、前方から不動君がボールを奪いに来た。

 

 

「貰ったぁ!」

 

「沙漠君!」

 

 

 今度はすかさず逆サイドの沙漠君へパスを出す。しかし、それを狙っていた相手がスライディングでパスカットを試みた。けど・・・

 

 

「何て速さだ・・・!」

 

「うおぉぉぉ・・・と、届いた!(今までパスを出されたことはあるけど、取れたのは初めてだ・・・)ナイスパスっすよ神矢先輩!」

 

 

 沙漠君の方も何とかトラップできたみたいで、相手に詰められる間に僕にボールを返す。

 

 僕が味方にパスを出して受け取ったらリターンをする。それを何度か繰り返し、気付けば僕たちは帝国学園のゴール前まで来ていた。

 

 

「絶対にシュートを打たせるな!」

 

 

 相手キーパーがDF陣に指示を飛ばす。すると武蘭君、景君、セツナさん、沙漠君にそれぞれマークが付く。

 

 そして僕には不動君と・・・

 

 

「これ以上好きにはさせない!」

 

「調子に乗りやがって・・・!」

 

 

 この試合で始めて対面する風丸君だ。彼は雷門から来ているということもあってそれなりに興味はある。クラリオ達に負けてから数か月が経った。あれからどれくらい成長しているのだろう・・・

 

 それを見極めるべく、僕は二人に突っ込んでいった。

 

 

「2対1で勝てると思ってんのかよ!舐めんな!」

 

「待て不動!」

 

 

 僕に釣られて飛び出してきた不動君を躱し、風丸君との一騎打ちに持ち込む。

 

 右へ身体を揺さぶってすぐに左へ抜けようとする。すると風丸君はそのフェイントには引っ掛からずに付いてきた。しかし・・・

 

 

「ボールが・・・?!」

 

 

 僕のフェイントに食らいついてきた風丸君だったけど、肝心なボールの行方を見ていなかった。

 

 フェイントをかけている最中に、僕は右サイドの武蘭君へとパスを出していた。

 

 

「行けぇ!武蘭!!」

 

 

 同じ一年生ということもあってか、沙漠君が大きな声で激励する。

 

 意表を突いたパスにより、帝国DFは反応できず、武蘭君は完全なフリーだ。

 

 相手のゴールキーパーも僕のDFをしていた風丸君に僕が隠れており、パスの出どころとタイミングは分かっていないはず。

 

 もし必殺シュートが無くとも、得点できる可能性は十分に高い。

 

 誰もが得点を期待していた。が・・・

 

 

「銀条さん!」

 

 

 なんと武蘭君は逆サイドの蓮基君へとパスを出した。パスを受け取った蓮基君はフリーだったということもあり、そのままシュートを打った。

 

 

「今度こそ決めてやる!アンカー・・・ショットォ!!」

 

 

 今回の試合3本目とな蓮基君の必殺シュートが帝国ゴールを襲う。

 

 しかし・・・

 

 

「馬鹿な・・・!」

 

 

 相手のGKは、蓮基君の渾身のシュートを今度は片手で止めてしまった。

 

 どうやら、蓮基君のシュートを完全に見切られてしまったらしい。

 

 

「帝国も舐められたものだな。この程度のシュート、いくらでも止められる」

 

 

 右サイドからシュートを打つと見せかけて左サイドからのシュート。一見意表を突いたように見えるけど、今までの流れから蓮基君がシュートを打ってくることは想定内だろう。

 

 相手GKの身体の向きは最初から僅かに蓮基君の方を向いていた。相手DF陣もわざと蓮基君にパスを出させるようにマークを外していた。本来彼のマークについているはずの風丸君が、僕の方に来たことが何よりの証拠だった。

 

 

 ピピー!!

 

 

 僕たちは流れを掴むチャンスをものに出来ず、未だに得点0で前半を終了した。

 

 




これどうやって10点とるんだろうなぁ・・・


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第十話

間が空いてしまいました・・・


 僕たち海洋学園は帝国学園との練習試合を行っていた。霧野先生から課された10点以上の差を付けて勝てという課題をこなそうとしていたが、なんと先に先制点を取られてしまった。

 

 前半戦が終了し0-1で帝国学園が1点リードしている。海洋学園のエースストライカーである蓮基君のシュートは全く通用しなかった。これだけでもチーム全体の士気にかかわるのに、問題は他にもあった。

 

 

「おい武蘭!お前ぇどういうつもりだ!!」

 

 

 皆がベンチに座って給水やら汗を拭いたりとしている中、沙漠君が武蘭君の胸倉を掴んで何やら問い詰めていた。

 

 楓さんが二人を止めようとしたけど、セツナさんに放っときなさいと言われてしまい引き下がった。

 

 

「何でシュートを打たなかった!?お前ぇフリーだっただろうが!神矢先輩の作戦だって分かってたろ!!」

 

 

 沙漠君は怒りが抑えきれないらしく、ずっと同じ剣幕で武蘭君を責め立てる。

 

 彼が怒るのも無理はない。僕は攻め方を変えるとき、事前に沙漠君と武蘭君の二人に作戦を伝えていた。

 

 内容はとてもシンプルなもので、今まで通り攻撃に参加しつつ、積極的にシュートを打ってもらうというものだ。

 

 僕のパスで相手の隙を突くことが出来れば、相手のGKがハイビーストファングを使う前に得点を決めることが出来るはずだった。

 

 しかし武蘭君は絶好のタイミングでパスを受けたのにフリーの蓮基君へとパスを出した。一見正しい選択の様に感じるけど、それは相手の罠。

 

 蓮基君のシュートが恐れるに足らないものだと確信した相手のGKがDFにマークを外すよう指示したのだ。その結果、相手の思惑通りにシュートを打たされ、完璧に止められてしまった。

 

 おそらくこの作戦はもう使えないだろう。たとえ蓮基君がシュートを打たなくとも、少なからず蓮基君以外の誰かがシュートを打とうとしていたことはバレているはずだ。

 

 

「同点で後半を折り返せたかもしれないんだぞ!?」

 

「沙漠君、そのくらいで」

 

 

 これ以上続けさせるとハーフタイムを無駄にしてしまうため、僕は怒り心頭の沙漠君を宥めることにした。

 

 不服そうな沙漠君だったけど、しっかりと説明してあげると納得してくれたようで、スミマセンと一言謝罪してくれた。

 

 彼をベンチに座らせると、次に僕は武蘭君の方へと歩み寄った。

 

 

「沙漠君がごめんね。あそこまで言うとは思ってなかったけど、彼の気持ちも分かる。10点差を付けなきゃいけない今、少しでも早く点が欲しい場面だったはずだよ。必殺シュートを持っていなくても、さっきのタイミングなら十分得点を狙えた。何で打たなかったの?」

 

 

 僕が質問すると武蘭君は俯いてしまった。このまま黙り込んでしまうのかと思いきや、彼はゆっくりと口を開いた。

 

 

「ボクが打つよりも、銀条先輩が打った方が確実だと思ったので」

 

 

 はっきりとそう言った武蘭君だったけど、その表情は後悔しているような、ためらいのある表情だった。

 

 僕はこれ以上追求することはせずにそれぞれベンチへと座って給水を始めた。少しして霧野先生が皆の前に立って話を始めた。

 

 

「課題クリアまで後11点ですね。不可能ではないと思いますので、最後まで諦めずに頑張ってください」

 

 

 霧野先生は以上ですと言うと、そのまま手に持っていたタブレットを弄り始めた。

 

 皆あっけにとられてしまった。もう少し戦術的な指摘があるだろうと思っていたのだろう。しかし先生がこれ以上喋る気が無いことを感じると、皆不安そうな表情になってしまった。

 

 

「後半もこのまま行くぞ。蓮基にボールを回せ」

 

 

 すると後半の準備を終えた岱貂君が皆の前に立って指示を出した。しかし皆の反応は薄い。それを見た岱貂君は見るからにイライラとし始めた。

 

 

「・・・蓮基のシュート、散々止められてただろ?」

 

「玲夢てめぇ・・・今までも蓮基のシュートで点取ってきただろうが!蓮基以外に誰が決めるんだよ!!」

 

 

 岱貂君が座っている玲夢君に詰め寄る。胸倉を掴んで無理やり立たせ、玲夢君が持っていた飲み物が芝の上に落ちる。

 

 今にも岱貂君が玲夢君を殴りそうな勢いだが、そんな状態でも玲夢君の表情は変わらなかった。

 

 

「・・・いるだろ?帝国学園に通用しそうな奴が一人」

 

 

 玲夢君はチラッと僕の方を見る。それにつられて岱貂君も僕の方を見てきた。かなり怖い・・・。僕は助けを求めようと隣にいたセツナさんを見ると、巻き込むなと言わんばかりに睨まれた。

 

 

「こいつ、今まで一回もシュート打って無いんだぞ?」

 

 

 こいつとは失礼な。確かに岱貂君とは全く喋っていないけど僕はちゃんと彼の名前を知っている。あ、これは一方的なだけか。

 

 そんなやり取りをしているうちに、主審が笛を鳴らしてハーフタイムが終了した。

 

 僕たちは結局ハーフタイムを有効に活用できずに後半を迎えてしまう。コートチェンジを行い、笛を始めて後半が始まった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピー・・・ピー・・・ピピーー!!!

 

 

「こ、こんなことが・・・・・・」

 

 

 試合終了の笛と共に風丸がフィールドの上に崩れ落ちる。他の帝国学園メンバーも疲れ切った様子で立ち上がれずにいた。スコアボードには1-18と書かれており、帝国学園対海洋学園の練習試合は、海洋学園の勝利で幕を閉じた。

 

 

「まだこれ程の差があるとはな」

 

 

 練習試合の様子を観客席から見ていた鬼道有人は静かにその場を立ち去った。そのまま現在在学している星章学園へ帰るべく帝国学園内の通路を歩いているときに、ポケットに入れていた携帯から着信音が鳴り響いた。

 

 

「・・・灰崎か。どうした」

 

『どうしたじゃねぇよ。見に行ってんだろ?帝国の練習試合。どーだったよ』

 

 

 電話の向こうから聞こえてくる挑発的な声に、鬼道は静かに返した。

 

 

「帝国は負けた」

 

『はっ!そーかよ。ま、あんな雑魚相手に手間取るようじゃ俺の敵じゃねぇ。んで、相手はどこだったんだ?』

 

「あいつらは、たった一人の選手に負けた・・・・・・んっ!?すまないな灰崎、話は帰ってからする。切るぞ」

 

 

 電話の向こうから怒鳴り声が聞こえるが、鬼道は構わず電話を切った。

 

 鬼道はその場に立ち止まり、奥から歩いてくる人物を待った。

 

 

 

「初めまして、霧野監督ですね」

 

「あなたは・・・鬼道有人君ですね。初めまして、海洋学園監督の霧野です」

 

 

 鬼道に話しかけられた霧野は笑顔で対応する。お互いに相手の表情から軽い探りを試みるが、鬼道はゴーグルをしており口元は無表情、霧野は笑顔を崩さずに保っている。

 

 

「監督の噂は色々な人から聞いていました。データ収集に長けており、選手それぞれに別々の指示を出す。一見それはチーム連携を崩すように見えるが、結果的にチームの力を最大限に引き出している」

 

「聞かなくても資料に残っていたでしょうに・・・と言うのは野暮でしょうか?」

 

「ふっ。流石に過去の資料とはいえ、女性の年齢を探るような事はしたくなかったものですから」

 

「ふふふ、これは先輩としてしっかりと指導するべきでしょうか?」

 

 

 霧野は鬼道に先程まで浮かべていた物とは違う笑みを向けると、彼はそれをものともせずに遠慮しておきます、と返した。

 

 お互いにひとしきり静かに笑った後、霧野はすぐに表情を変えた。

 

 先程とは違う、何かを見透かそうとする顔だ。

 

 

「さて、本題は何ですか?」

 

「では単刀直入に聞きます。なぜあのような指示を出したんですか?」

 

「あら、私は試合中に指示を出したつもりはありませんよ?」

 

「試合中の話ではありません。ハーフタイム中に海洋学園の選手たちが言っていたことです」

 

 

 おそらくそれは10点以上の差を付けて勝てという指示の事でる。元々帝国学園に在籍していた鬼道にとって、海洋学園イレブンに出された指示は思うことがあるのだろうか。

 

 

「一歩間違えればチームを崩壊させかねない指示です。ですが、あなたが賭けに出るような事をするとは思えません。何か確信があったに違いない」

 

「勿論確信はあります。ですが、私の思い通りになるか、それとも君が言うように崩壊するか、それはあの子達次第ですよ・・・・・・それと、帝国学園はあなたの星章学園と、私たち海洋学園に敗れたことで新たに監督を招き入れるそうです。これで帝国学園も少しは昔の様に強くなれるでしょう」

 

 

 霧野はそう言うと、用があるので私はこれで、と言ってその場を後にした。

 

 




イナイレの強さ関係って不思議ですよね


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第十一話

帝国学園って不憫ですよね・・・


 「うぉーほっほっほ!それでは皆さん、今日の練習はここまでとします・・・が!その前に少しだけお話がありま~す」

 

 

 雷門中の新監督である趙金雲が練習中であった雷門イレブンに声を掛ける。すると選手がすぐに監督の所に集まった。

 

 

「どうしたんですか監督?」

 

 

 練習道具を片付けていたマネージャーの大谷つくしと神門杏奈も、自分たちの作業を中断して集まった。

 

 

「では子文くん、今日の夕刊を読み上げてください」

 

「はい!」

 

 

 監督に指示をされた李子文はいつの間にか皆の前に現れ、手に持っていた新聞を広げて読み上げた。

 

 

「本日行われた帝国学園と海洋学園との練習試合ですが・・・18-1で海洋学園の圧勝。前半を0-1で折り返した海洋学園は、後半怒涛の攻めで大量得点。強豪校である帝国学園を下した海洋学園は更に注目を浴びること間違いなし・・・と」

 

 

『18-1!?』

 

「なんだその無茶苦茶なスコアは・・・」

 

 

 小僧丸が驚愕の表情でポツリと言葉を漏らす。他のメンバーも帝国学園の名はもちろん知っているため、小僧丸同様の反応を見せる。

 

 

「海洋学園は今までフットボールフロンティアの全国大会には出場していませんでした。毎年予選止まりで、帝国学園を倒せるほどの力があるとは思えませんが・・・あ!ありました!海洋学園の選手一覧です!」

 

 

 マネージャーである大谷がタブレットで海洋学園について調べた結果を皆に見せる。皆がその画面の前に集まり、まるで団子のようだ。

 

 

「俺たちと同じで11人しかいないのか・・・」

 

 

 稲森は自分たち雷門と同じ人数の海洋学園に親近感を抱いていた。

 

 

「新加入の選手は3人程ですね。1年生の二人は少年団の時のデータがありますね・・・ですが2年生の人はデータが無いようです・・・名前は神矢ユーリ君ですね!」

 

「ほほぅ・・・これが噂の神矢君ですか」

 

 

 趙金雲は大谷からタブレットを受け取ると、スクロールをしながら神矢の写真をまじまじと見始めた。

 

 

「監督、知ってるんですか?」

 

「えぇ、まぁ噂程度ですが。彼も円堂君達同様、強化委員として海外から召集されていたのです」

 

 

 趙金雲のカミングアウトに、雷門サッカー部一同が再び驚きの声を上げた。

 

 

「ぜひ一度、手合わせをして頂きたいものですねぇ・・・おーっほっほっほ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝国学園との練習試合に勝利した僕たちはこの練習試合のために取っていた東京のホテルに戻ってきていた。しかし、今の僕たちの雰囲気は試合に勝利したチームのものではない。

 

 一人を除いて海洋学園イレブンの全員がさっきまで夢でも見ていたかのようにボーっとしている。そんな中、メンバーを集めて軽いミーティングを行った後、一旦自由行動となった。

 

 

「皆さん、自由行動ですが21時までには部屋にいるように。各部屋に回って点呼を取るので、それまでに居なかった場合はペナルティです。それでは、解散!」

 

 

 手をパン!と叩いて締めくくった。

 

 

「神矢先輩、この後一緒にご飯でもどうっすか?」

 

 

 ミーティング内容をメモするために使っていた筆記用具を片付けていると、隣に座っていた沙漠君が僕を夕飯に誘ってきた。

 

 

「別に構わないよ。でも、ホテルのレストランは高いから行くなら外食にしよう」

 

 

 沙漠君は僕の提案を快く受け入れてくれた。その後荷物を一旦部屋に置いてくるために自室に戻って片付けていると、同室の銑十郎君が戻ってきた。

 

 

「神矢、一緒に飯でもどうだ?」

 

 

 銑十郎君も僕を夕飯に誘ってくれた。同室だからというのもあるかもしれないが、彼とはそこそこ話す仲であったため、さらに深めるチャンスである。

 

 しかし僕は先に沙漠君と約束してしまっている。確か沙漠君と銑十郎君が普段会話をしているのを見たことはない・・・

 

 

「ありがとう。でも、先に沙漠君と約束しちゃってて、一緒でもいいなら・・・」

 

「構わない。アイツとは話をしてみたいと思っていた」

 

 

 それなら良かった。じゃあ早速、沙漠君と待ち合わせをしているロビーに向かうとしよう。

 

 携帯と財布を持って銑十郎君と一緒に部屋を出る。そのまま二人で待ち合わせ場所に向かう。すると、先にいたらしい沙漠君がソファに座っていた。僕は彼に声を掛け、銑十郎君も一緒にということを伝えると、彼は快く受け入れてくれた。

 

 その後何処で食べるかの話し合いになったけど、沙漠君と銑十郎君は東京に来たのは初めてのようで何処に行くべきか迷っているようだ。

 

 かく言う僕も、東京に来たことはあっても基本目的は空港であるため、食事に関してはかなり疎い。

 

 

「店どうします?東京なら何処も美味しそうっすけど」

 

「ラーメンはどうだ?」

 

「いいかも。向こうじゃあんまり食べれないしね」

 

 

 あまりゆっくり決めていると直ぐに点呼の時間になってしまうため、早速携帯を使って場所を調べ、現地へと向かうことにした。

 

 流石東京と言うべきか、凄まじく人がごった返している。

 

 僕たちは目の回るような人ごみを抜け、やっとの思いで目的のラーメン屋さんに着いたのだが・・・

 

 

「すっげぇ行列・・・」

 

「噂には聞いていたが、ここまでとは・・・」

 

「ラーメンって凄いんだね・・・」

 

 

 行列を目の前にしてたじろぐ僕たちだが、折角ここまで来たのに新しく店を探してそこまで行くのは時間が無駄になってしまう。

 

 このまま列に並んで待つのも時間がかかるが、今日の試合の疲れからかこれ以上動きたくないという僕たち3人の心理が働き、お互いの意見を聞くまでもなくそのまま列に並んだ。

 

 

「あら?アンタ達もここに来たのね」

 

 

 列に並んだ直後、後ろから聞きなれた声が聞こえた。

 

 僕たちはすぐさま振り返ると、そこにはセツナさんと楓さんがいた。

 

 二人とも僕たちと同じように人ごみを抜けてきたらしく、少々ぐったりとしていた。

 

 

「調べたところ、ここが一番有名だと書いてあったからな」

 

「ま、そんな所よね。折角東京に来たんだし、来て損は無いわ」

 

「つーか、なんすかその格好・・・」

 

 

 沙漠君がセツナさんの格好を見て指摘する。彼が言ったように、セツナさんの今の格好は普段見ている彼女の私服とはまるで違った。

 

 いつもはTシャツにデニムの短パンといった軽やかでラフな格好をしているのだが、今日にいたっては少々可愛らしい格好だ。

 

 

「何でもいいでしょ?今日はそういう気分だったのよ」

 

「セツナちゃん・・・・・・東京に来る前に・・・ショッピングモールでこの服を買ったんだよ。東京に行くなら・・・・おしゃれしなくちゃって言って―――」

 

「ちょっと楓!?余計な事言わなくていいのよ!」

 

 

 服装についてはぐらかそうとしたセツナさんだったが、隣にいた楓さんが全て暴露してしまった。

 

 それを聞いた沙漠君は弄りのネタが出来たと言わんばかりにニヤニヤし、僕はいつも強気なセツナせんの意外な一面を見れてほっこりとした表情を浮かべた。

 

 僕ら二人とは別に銑十郎君は特に表情を変えていなかった。

 

 

「アンタら二人、後で覚えときなさい・・・!」

 

 

 いつもならこの辺でパンチやキックが飛んでくるのだが、今僕達は行列に並んでいる最中。

 

 人前を気にしたセツナさんは怒りと羞恥に震えながら必死に耐えている。これは帰った後色々気を付けた方がいいかもしれない。

 

 待っている間ひたすら雑談をしていた僕たちは、体感的には思っていたよりも早く店の中に入ることが出来た。

 

 

「何かおススメとかあるのかしら」

 

「たぶん・・・これ」

 

「オオモリヤサイマシマシカラメマシアブラスクナメニンニクというやつだな」

 

「なんすかその呪文みたいなの・・・」

 

 

 料理の写真は無いが説明文はしっかりと書いてあった。どうやら通常のラーメンより量は多いみたいだが、その分野菜や肉なども多く食べれるらしい。

 

 誰もそれを食べたことが無いので未知の領域である。

 

 

「今日はだいぶ動いたし、少しぐらい多くても食べれるんじゃないかな?」

 

「後半はアンタしか動いてないけどね・・・」

 

「じゃあ全員同じのってことで。すんませーん!」

 

 

 食べるものが決まったところで、沙漠君が店員を呼んで人数分の注文をしてくれた。

 

 その後に僕と沙漠君で全員分の水を用意し、ラーメンが来るまで再び雑談を始めた。

 

 

「い、今更なんだけどさ・・・・・・今日の試合はごめん!後半僕だけで試合しちゃって・・・」

 

 

 会話が一段落したところで、僕はおずおずと言った様子で謝罪した。

 

 内容は今日の練習試合のことである。霧野先生から課された10点以上の差を付けて勝つという課題をこなすために頑張ってきた僕たちだったけど、帝国学園に一点を許して前半を終えてしまった。

 

 更には蓮基君のシュートは全く通用せず、武蘭君は相変わらずシュートを打つ気が無かった。

 

 なので僕たちは攻め手が無く途方に暮れていたのだ。僕は悩みに悩んだ末、ある手段を取った。

 

 それは・・・

 

 

「あだっ・・・!」

 

 

 僕が謝罪をしている最中に、なんとおでこにデコピンを食らった。

 

 そこそこな強さだったため、思わず額を抑えながら犯人と思われる人物の方を向く。

 

 

「ほんっと今更よね。言うならミーティングの時に言いなさいよ。でも・・・アンタのお陰で勝てたし、課題もクリアできた。アンタ抜きじゃ絶対に無理だったわよ」

 

「それに・・・神矢君のプレー・・・・・・すごかった」

 

「俺が不甲斐ないばかりにすまなかった」

 

「神矢先輩はもっと胸張ってくださいっすよ」

 

 

 それぞれ違った反応を見せるセツナさんたち。そんな彼らの反応に、僕は少し戸惑ってしまう。

 

 

「でも・・・」

 

「いつまで気にしてんのよ!そりゃあ、全員が全員快く思ってるわけじゃないでしょうけど、間違いなくアンタは正しいことをしたわ」

 

 

 僕が未だにくよくよしていると、セツナさんが喝を入れてくれた。

 

 そんな言葉に僕は少し救われたのか、心が軽くなった気がした。

 

 

「まぁ、俺の思った通り神矢先輩は凄かったっすよ。おっ!ラーメン来たみたいなんで、早速食べ・・・ま・・・」

 

 

 丁度タイミング良く店員さんがラーメンを持ってきてくれた。のだが、その量は僕たちの想像をはるかに超えていた。

 

 大きめのどんぶりにこれでもかという程に乗せられた野菜とニンニク。面は恐らくその下に大量に埋まっているのだろう。さらに器の淵側に溜まっている大量の油。そして肉厚に切られたチャーシュー・・・・・・

 

 それを見た僕たちは、一瞬言葉を失った。

 

 

「ま、まぁ・・・時間はまだ全然あるわ。少しずつ食べましょ」

 

 

 セツナさんの言葉に全員が頷き、箸を手に取って食事を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何とか食べきれたっすね・・・」

 

「もう限界だよ・・・」

 

「これがラーメン・・・」

 

 

 僕たち男性陣は何とかラーメンを感触することが出来た。お腹をさすりながら、3人とも水を少しずつ飲んで休み始める。

 

 しかし問題は女性陣だ・・・

 

 

「これ以上は・・・」

 

「む・・・り・・・」

 

 

 セツナさんは何とか2/3を食べ終えた。あの小柄な体格によく入ったものだ。それに引き換え楓さんは、見た目的には半分減ってはいるのだが食べたほとんどが野菜。麺はほぼ丸々残ってしまっている。

 

 

「少し席を外すぞ」

 

 

 そう言って銑十郎君は席を立った。恐らくトイレに行ったのだろう。何気ないその行動が、大きな意味を持っていたことを僕たちは知らない。

 

 

「・・・ねぇ琴音?」

 

「なんすか?」

 

 

 箸を止めたセツナさんが、顔を俯かせて沙漠君に話しかけた。

 

 何故だろう・・・嫌な予感がする。

 

 

「アンタさっき、アタシの服装について笑ってたわよね?」

 

「な、何のことだか・・・」

 

 

 沙漠君も気づいたらしく、顔を反らして何とか逃れようとする。

 

 

「選ばせてあげるわ・・・・・・このラーメンを食べるか・・・アンタの鞄の中にリバースするかよ」

 

「な、何てこと考えやがる!!」

 

 

 セツナさんからとんでもない問題発言が聞こえたが、きっと気のせいだろう。

 

 だから沙漠君が顔を引きつらせながら冷や汗を流しているなんて絶対に気のせいだと思いたい。

 

 

「か・・・神矢・・・・・・くん」

 

「もしかして楓さんも・・・わっ!」

 

 

 何となく予想は付いていたけど、どうやら楓さんも限界らしい。

 

 口元に右の手のひらを当てて涙目でこちらを見ている。こころなしか身体も少し震えている気がする。そして空いている左手でどんぶりを少しずつ僕の方へ・・・

 

 

「い、頂きます・・・」

 

 

 流石にこの状態の楓さんに無理強いをさせるつもりはない。そもそも誰も知らないでこのラーメンを頼んだのだ。誰も悪くない・・・

 

 僕と沙漠君は、意を決して麺を食べ始めたのだった。

 

 




僕もラーメン食べたい()


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第十二話

投稿時間が安定しないのが悩みです・・・
書き溜めって難しいですね


 帝国学園との練習試合を終えて東京から沖縄に帰ってきた僕たちは、次の日から今まで通り練習を始めた。

 

 今までと少しだけ違うのは、走力トレーニングはそのままに練習が全体練習から個人練習に変わったところだ。

 

 監督からの指示は一つ。各々足りない部分を自由に練習せよということだけ。僕たちはその指示に従い、それぞれが練習を始めた。

 

 

「行くわよアンタ達!」

 

「・・・何でボクまで」

 

「DFの練習だからね~。古旗はDF寄りの癖に全然守備しないし~」

 

 

 個人練習といっても、必ず一人で行わなければならないわけではない。

 

 自分の足りないと思ったところが同じ選手同士で練習するのも一つの選択肢だ。僕たちは今、3vs3でミニゲームを行っている。

 

 ルールはOF3人、DF3人にGKを1人加えて攻守を固定して行っている。

 

 OFはセツナさん、沙漠君、僕の3人。

 

 DFは玲夢君、暁君、楓さんの3人でに加えてGKの銑十郎君がいる。

 

 この練習の目的はDFの連携。流石にDF陣だけで守備の練習は出来ないため、僕たちOF陣が手伝っているのだ。

 

 

「じゃあ始めるよ!」

 

 

 僕が3人の真ん中に立ち、沙漠君にパスを出してゲームをスタートさせる。

 

 特に今回はポジションを決めてやっているわけではないので、状況に応じで自分がどこにいるべきか、誰をマークするべきかという状況判断が必要になってくる。

 

 

「銀条先輩っ!」

 

 

 沙漠君が僕にリターンをする。そのまま今度は逆サイドのセツナさんにボールを出そうと思っていたのだが、丁度タイミングよく玲夢君が彼女へのパスコースを塞ぐ位置に立った。

 

 僕はセツナさんへのパスを辞め、もう一度沙漠君の方を向く。

 

 それに気づいた楓さんがすぐさま沙漠君のマークへ付くべく走り出した。それを確認した僕は、楓さんが動いたことによって出来たスペースに向かって沙漠君へのパスを出した。

 

 

「あっ・・・!」

 

「カバー任せて~!」

 

 

 楓さんのカバーに入った暁君が沙漠君に一対一を仕掛けようとしたのだが、沙漠君はダイレクトで再び僕にパスを返した。

 

 

「行くよ、銑十郎君!」

 

「来い、神矢」

 

 僕はパスを受け取ると、そのままシュートの体制に入った。

 

 今回はDF陣の連携強化のための練習であるため、威力よりはコースを重視してシュートを打つ。

 

 銑十郎君は先程沙漠君がいたサイドの方へ移動していたため狙うは逆サイド。上手く狙えたと思ったんだけど・・・

 

 

「はぁ・・・あのバカまたやったわ」

 

 

 セツナさんが額を手に当ててため息をつく。楓さんは苦笑いで、銑十郎君もやれやれと言った感じだ。

 

 

「てか、浅見先輩あれとどいちゃうんすか・・・?」

 

「軽く蹴ったつもりは無かったんだけど・・・」

 

 

 僕が打ったシュートはゴールに入ることは無かった。しかし、GKである銑十郎君が止めたわけではない。

 

 なんと、先程まで沙漠君の方にいた暁君が反応し、僕のシュートに飛びついていたのだ。

 

 ただ一つ問題が・・・

 

 

「浅見、アンタ何回言えば分かるのよ!手使うなって言ってるでしょ!!」

 

 

 そう、暁君はシュートを止めたものの、方法は手だったのだ。

 

 彼はGKではないため勿論ハンド。これまで練習中に何度か手が出てしまうことがあり、そのたびにセツナさんに怒られている。

 

 

「ご、ごめんって~・・・。中々野球の癖が抜けないんだよねぇ、あははは!」

 

「セ・・・セツナちゃん・・・・・・抑えて」

 

 

 セツナさんに怒られるたびに笑って返す暁君。これがいつもの光景であるが、日に日にセツナさんの怒りが増しているような気がする。

 

 その後も何回かミニゲームを繰り返し、キリの良い時間までやったところで、僕たちは一度休憩を入れることにした。

 

 

「流石に沖縄は暑いね・・・東京の涼しさが恋しいよ」

 

「・・・今更何言ってんだよ。まぁ・・・神矢がこっちに来たのが涼しい時期だったし、無理もないか」

 

 

 給水をしてからグラウンドに寝転んだ。海洋学園のグラウンドは人工芝であるため、気温が高いとすさまじい程の熱気がこもる。

 

 それを忘れていた僕は、寝転んだ際の熱気で起き上がる気力を無くしてしまった。

 

 

「神矢先輩?大丈夫っすか?」

 

「う~ん・・・おやすみ・・・」

 

「そんなところで寝たら脱水症状に・・・・・・神矢先輩、真面目に起きた方がいいっす・・・」

 

「もうちょっとだけ・・・むにゃ・・・」

 

 

 沙漠君が寝そべっている僕の身体を左右に揺らして必死に起こそうとする。しかしその揺れでさらに心地よくなってしまい、僕は一向に起きなかった。

 

 

「神矢先輩っ!マジでヤバいですって!」

 

「うぅ、ねむ・・・い・・・あれ?」

 

 

 僕が目を開けると、僕の顔を覗き込むようにして見ている人物がいた。

 

 しかも今は丁度お昼なので、寝転がっている僕が目を開けると日光が入ってくるはずなのだが、そんなことは無く、丸い何かが僕の上にあった。

 

 これは・・・日傘?

 

 海洋学園にいる人物の中で日傘をさしている人は殆んどいない。生徒は勿論のこと先生側も少ない。僕たちに用がありそうな人で日傘をさしている人物と言うと・・・・・・

 

 

「お、おはようございます霧野先生・・・」

 

 

「はい、おはようございますユーリ君。確かまだ練習中だったはずですが、よく眠れましたか?」

 

 

 今まで感じていた暑さが嘘のように消えていき、逆に冬でも感じることは無いと思う程の寒さが襲ってきた。

 

 俗にいう冷や汗だ。僕の目の前にはニッコリと微笑む霧野先生の顔が。日傘のお陰で逆光は無いため、はっきりと先生の顔が見える。

 

 

「さてユーリ君、これは何の練習ですか?できれば詳しく教えていただきたいですね♪」

 

「あわわわ・・・!さ、沙漠君っ!」

 

 

 先程まで僕を起こそうとしていた沙漠君に助けを求めるが彼は申し訳なさそうに顔を反らした。他にもセツナさんは自業自得だと言わんばかりの顔、楓さんは苦笑い、暁君はいつも通りの笑顔、銑十郎君に至っては僕の方を見てすらいない。

 

 

「ユーリ君がまだここの気候に慣れていないことは分かっています。それに伴った休憩は勿論許しますし、そもそもイレブンバンドで皆さんの健康状態もある程度分かるので、無理をさせるつもりもありません。ですが・・・グラウンドに寝そべるのは頂けませんね」

 

「はい・・・ごめんなさい・・・」

 

 

 項垂れる僕に、霧野先生は言葉を続けた。

 

 

「本当なら罰として学校からビーチまで30往復程が妥当でしょうが、今回はお使いで手を打ちましょう」

 

「お使い・・・ですか?」

 

 

 霧野先生は懐からメモが書かれた紙を取り出すと、それを僕に渡してきた。

 

 そこにはぎっしりと買い物リストが書かれておりその多くがサッカー用品である。おそらく備品の補充や練習に使う新しい道具などだろう。

 

 

「お金は勿論部費から出るので、安心してください。それと一人だと大変でしょうから、皆さんで手分けしてお願いします。他の6人も一緒に。その方が時間を節約できますからね」

 

 『え?』

 

 

 唐突に買い物に駆り出されることになった僕たち。人数が増えれば楽にはなるけど、流石に7人は多いような・・・

 

 

「連帯責任ですので♪」

 

『・・・・・・。』

 

「うっ・・・!」

 

 

 6人からジト目を向けられ、僕は自然と正座をしていた。

 

 

「では、今日中にお願いしますね♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・何で僕まで」

 

「あはは~・・・こればっかりは古旗と同感」

 

「全くよ・・・」

 

「でも・・・・・・・皆でやった方が・・・確かに早いよね」

 

「効率的だな」

 

「今練習時間中なんすけどね」

 

「ホントにごめん・・・」

 

 

 僕たちは監督に頼まれた者を買うために、近くのスポーツ用品店まで来ていた。

 

 僕は沖縄に来てからよくこのお店に通っている。皆もそうみたいで、店の中でばったり出くわすこともざらではない。

 

 

「こんなことになるなら、いつもみたいに起こせば良かったわ」

 

「あの起こし方は勘弁・・・」

 

「服びしょびしょになるしね~」

 

「しかも巻き込むのやめてほしいんすけど・・・」

 

 

 セツナさんの言う起こし方とは、大きなバケツ一杯に入れた水を寝ている僕たちの顔にぶちまけるという方法だ。

 

 確かにしっかりと起きれるのだが、いかんせんビックリするのでやめて欲しい。

 

 

「これとこれと・・・後はこれもだね」

 

「随分多いな」

 

「監督にしては・・・珍しい・・・」

 

「・・・カートにして良かったよ」

 

 

 次々とカートに用品を詰め込んでいく。頼まれていた物を全て入れたところで、僕たちは会計を行った。

 

 ざっと3万円ぐらいだろうか。店員さんに金額を言われた僕たちはギョッとしたが、先生から渡されたお金で十分買える範囲だった。

 

 僕はおつりを受け取るとそれを封筒にしまう。そのまま皆で袋を手分けして持ち、店を後にした。

 

 

「今日はホントに暑いね・・・」

 

「神矢君・・・大丈夫・・・?」

 

「確かに例年より暑いな」

 

「しょうがないわね・・・ほら、あそこでアイスでも買ってきましょ」

 

 

 セツナさんの提案により、僕たちは近場のアイスクリーム屋さんで休憩することにした。

 

 いつもは混雑している時間帯だけど今日は運が良かったみたいだ。念のため他の人にとられないように素早くテーブルを確保すると、皆疲れからか誰もテーブルから離れようとしなかった。

 

 

「行ってきます・・・」

 

 

 誰に言われることもなく、僕の身体は自然とカウンターの方へ動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~・・・癒されるわ」

 

「確かに美味いな」

 

「流石有名店だね~」

 

「・・・ところでさ、ここのアイスってそこそこ高かったと思うんだけど、よく人数分買えたね」

 

 

 玲夢君がふとそんなことを言う。すると、他の皆も確かにそうだという反応を示し、全員僕の方を向いた。

 

 

「お金なら大丈夫だったよ。だってほら・・・・・・さっきの御釣りがあったし!」

 

『・・・・・・。』

 

 

 その後学校へ戻った僕たちは、学校とビーチを30往復させられたのだった。

 




神矢君ってかなりの問題児だよね()


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第十三話

早く試合してぇ・・・


 僕たち海洋学園は、開催間近のフットボールフロンティアの予選に向けて練習を行っていた。

 

 以前と変わらず各々の足りない部分を鍛えるためにトレーニングを行っているのだが、今日は珍しく早くに練習が終わったのだ。

 

 使った道具を片付け、シャワールームで汗を流した後にジャージに着替えて僕たちは部室へと集まった。

 

 練習中に霧野先生からイレブンバンドを通して連絡があったのだが、何やら重要事項らしい。

 

 海洋イレブン全員が揃ったところで、霧野先生が話を始めた。

 

 

「皆さん、とうとうこの季節がやってきましたね!」

 

 

 今日の霧野先生はいつもより機嫌がいい。何か良い事でもあったのだろうか?そういえば以前も似たようなことがあった気がする・・・

 

 

「今回は少し違うかな」

 

「わっ・・・聖坂君!?ビックリさせないでよ・・・」

 

「ごめんごめん。因みに何処が違うのかって話だけど・・・まぁ聞いてれば分かるかな」

 

 

 至極真っ当なことを返してきた聖坂君は、それ以上何も言わずに霧野先生の方を向いた。

 

 霧野先生は皆に紙の資料を配ると、嬉々とした様子で今回の事について話し始めた。

 

 

「ユーリ君を除いた今の2年生たちは知っていると思いますが、今年もフットボールフロンティア予選に向けて合宿を行いたいと思います!」

 

 

 笑顔を絶やさずに言う先生とは対照的に、去年も経験したであろう2年生たちは絶望したような表情をしていた。

 

 先生が合宿について一通り説明した後、今日は解散となった。

 

 

「合宿っすか。先輩たちの反応を見る限り、あんまり良い感じはしなさそうっすけど・・・」

 

「遊びに行くわけじゃないからね。実戦経験を積ませたいんだと思うよ」

 

 

 僕と沙漠君は帰る途中にスーパーへと寄っていた。そろそろ僕の家の冷蔵庫にある食材が切れてしまうため、その買い出しなのである。

 

 最初の頃は一人で買いに来ることが殆んどだったけど、1年生が入ってきてからは沙漠君が一緒に着いてくることが多くなった。

 

 特に誘っているわけでもないし頼んでいるわけでもないのだけれど、彼は勝手に着いてくる。

 

 僕は彼の事を鬱陶しいとかは思っていないので理由を聞かないし、追い返したりもしない。

 

 話し相手にもなってくれるのでとてもありがたいのだ。

 

 

「そういえば神矢先輩、最近悩み事でもあるんすか?休憩中とかよく考え事してるみたいだったんで」

 

「よく見てるね。たいしたことじゃないんだけど・・・このチーム、あんまり必殺技の練習をしないんだなって思ってたんだ」

 

 

 そう、僕たち海洋学園の練習メニューはとてもシンプルだ。

 

 朝練はひたすら砂浜を走り、午後連は基礎練習こそ行うもののそれらはランニングの合間に行われる。

 

 そして練習の最後にまた砂浜を走るという徹底的に自分の身体を追い込む練習だ。

 

 走ると言っても色々あるのだが、簡単に言うと持久力や瞬発力など全てを鍛え上げている。

 

 お陰で練習時間内での必殺技の練習は皆無。練習が終わった後に自主的にやる者はいるが、中々形にはなっていないよだった。

 

 

「おかげでだいぶ走れるようになりましたけどね」

 

「沙漠君、最初はすぐにバテてたもんね」

 

「あれは神矢先輩に合わせようとしたからっすよ!技術だけじゃなくて走りも凄いって、正直お手上げっすよ」

 

 

 僕たちの練習は基本的に各々にノルマが課されている。勿論ノルマ以上の練習をこなしてもいいのだが、あまり無理をすると霧野先生からストップが入ってしまう。

 

 そのため、自分がさらに磨きたいものに比重を置いて練習を行うものが殆んどで、皆で何週走るだとか、何回筋トレを行うだとかは一切行っていない。

 

 自分たちが満足するまで行うのだ。

 

 

「そういえば、神矢先輩がスペインにいた頃はどんな練習をやってたんすか?」

 

「うーん・・・基本的に自己練習が多かったかな。スペインのチームと言っても、全員がスペイン人ってわけじゃないからそれぞれ自分の足りないものがはっきりしてたんだよ。それと監督やコーチがアドバイスをくれたりね。あ、勿論連携はしっかり全員でやるよ。後は実戦あるのみって感じかな。だから、海洋学園の練習は結構僕に合ってたりするんだよ」

 

「うちの監督、結構変わってるって思ってたんすけど、世界で考えると普通なんすかね」

 

「どうだろう・・・でも、自分で足りない部分を補うのは重要だと思うけどね。よし、今日の所はこれぐらいでいいかな。合宿もあるから、あんまり買って腐らせちゃうのも嫌だしね」

 

 

 いつもより中身が少ないカートをレジまで運び、会計を済ませる。

 

 そのまま帰路に着き、僕は家の前で沙漠君と別れた。

 

 家に入って買ったものを一通り冷蔵庫に詰めた後今日の練習で使った服を洗濯にかける。ついでにお風呂を沸かし、今日の疲れを取ることにした。

 

 

「日本のお風呂ってやっぱりいいなぁ~」

 

 

 スペインでは味わえなかった長風呂を毎日味わえる日本に僕は満足していた。サッカーのレベルこそまだまだ世界の足元にも及ばないけど、こればかりはトップレベルだろう。

 

 携帯で音楽を流しながら入浴を楽しんでいると、不意に流していた音楽が止まり、着信音が鳴り響いた。

 

 

「こんな時に・・・・・・もしも~し」

 

『何よだらしない声ね』

 

「なんだセツナさんか・・・」

 

 

 電話が鳴った時にはすぐに出るようにとお母さんから教えられていたためつい出てしまったが、相手はセツナさんだった。

 

 彼女はなんだって何よ!アタシじゃ悪いわけ!?と叫んでいる。

 

 

「ご、ごめんって・・・ところでどうしたの?こんな時間にめすらしいね」

 

『・・・少し練習に付き合ってほしいのよ』

 

「えぇ、今お風呂に入ってるんだけど・・・」

 

『あぁ・・・通りで声が響いてるわけね。なら無理にとは言わないわ。いつもの砂浜で練習してるから、気が無たら来て頂戴。それじゃあ』

 

 

 僕が返す前にセツナさんは電話を切ってしまった。彼女にしては珍しく、あまり元気がない様子だった。

 

 それに少し焦っているように感じる。

 

 

「明日にでも話を聞いてみようかな・・・」

 

 

 流石に既にお風呂に入ってしまったため身体も心もオフの状態だ。今から練習する気は起きなかったため、明日詳しく聞いてみようと思ったところで、再び携帯から着信音が鳴り響いた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神矢来ないなぁ~・・・」

 

「流石にこの時間じゃ来ねぇって言ったのに・・・」

 

 

 一度それぞれの家に帰った海洋学園のイレブンの数名が、普段使っている砂浜で特訓を行っていた。

 

 目的は単純にスキルアップである。普段の練習から基礎体力や走力は鍛えており、本人たちも力が付いているのは実感している。

 

 しかし肝心な技術的なスキルは未だに身に付いていない。正確に言うと身に付いていないわけではないのだが、以前のような帝国学園と行った試合の内容を繰り返すわけにはいかないのだ。

 

 先程から彼らは、ペアを組んで一対一を繰り返し行っている。

 

 

 

「そろそろ休憩にしましょ。無理は良くないわ」

 

 

 

 セツナの掛け声で各々が休憩に入る。1時間ほど前からこの練習を行っており、ある程度回数をやってからペアを変えて再度行う。

 

 これをひたすら繰り返しているのだ。

 

 

「やっぱり・・・練習の後だと・・・疲れるね・・・・・・」

 

「無理はするな」

 

 

 楓は地面に座り込み、そんな彼女に銑十郎が飲み物とタオルを渡す。

 

 全員身体は付かれているが何か物足りない様子である。それもそのはず、以前の練習試合でユーリのプレイを見せられて以来、皆それに追いつこうと必死なのだ。

 

 

「やっぱり、神矢に来てもらうのが一番だよね~・・・」

 

「・・・・・・アイツ風呂入ってたんだろ?流石になぁ・・・」

 

「でも、事前に言えば神矢先輩なら来てくれると思うっすけどね」

 

 

 暁や霊夢、沙漠もユーリの存在を必要としていた。

 

 そんな皆の様子を見ていたセツナは、一旦場を引き締めるべく手を叩いた。

 

 

「ほら、休憩終わり!さっさと続きやるわよ!」

 

「相変わらず休憩みじけぇ・・・」

 

「これも練習の一環だからね~」

 

「こういう時のセツナさんって、霧野先生に似てるよね」

 

 

 セツナが先程したように手を叩く行為は霧野先生がよく行う仕草だ。その仕草が様になっており、皆がオォ~と頷く。

 

 

「バ、バカなこと言ってないで始めるわ・・・よ・・・って神矢!?アンタいつからいたのよ!」

 

「さっき来たばっかだよ。丁度皆が休憩してるとき」

 

 

 セツナさんの反応で僕の存在に気付いた皆は、一斉に僕の方を向いた。

 

 全員が全員驚いた顔をしているのでちょっと面白い。

 

 

「メンバーは今日の練習の時と同じなんだね。ところで、どんな練習をするの?」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい。アンタ今日は来ないもんだと思ってたわ」

 

 

 セツナさんの一言に皆がうんうんと頷く。

 

 

「ホントはそのまま寝ようかと思ったんだけど、気が変わってね」

 

「ま、何にせよ来たからには最後まで付き合った貰うわよ」

 

 

 その後僕が支度を終えたところで練習を再開した。

 

 まさかこの練習が、後々大きな変化をもたらすことを僕たちは知らなかった。

 




アレスの天秤のゲーム発売まだかな!
多分ワールドホビーが終わってからだな!


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第十四話

めっちゃ久々です!



 僕たち海洋学園は今、再び東京に来ている。

 

 以前来た帝国学園の近くではないが、それでも周りの景色は全く変わらない。

 

 流石東京と言うべきだろうか。そして僕はまた、この東京の地で迷子になっていた・・・・・・

 

 

「ここ・・・どこ?」

 

 

 辺りを見回してもビル・ビル・ビル!もはや方向感覚などすでに無くなっていた。そしてこういう時に限って携帯のバッテリーが切れている。近くの地図を見ても全く分からない。もはや手詰まりだ・・・

 

 

「どうしよう・・・これじゃあまた監督とセツナさんに怒られる・・・」

 

 

 以前も同じように迷子になり二人にこってりと怒られているため、想像しただけで寒気がしてしまう。

 

 今回は自由時間があるということもあり、一人でゆっくりと色々なお店を回りたかったのだが、前科があるためお守を付けられそうだったのだ。

 

 何とか皆を説得して自由を手に入れたのだが、この有様である。

 

 しかし不幸中の幸いと言うべきか今は自由時間。集合時間までに戻ってこれればセーフである。こういう時は一旦落ち着くべきだ。そう考えた僕は、その場で大きく深呼吸を始めた。

 

 

「あのー、どうかしましたか?」

 

 

 心を落ち着かせたところで、急に後ろから声を掛けられた。

 

 振り向くと、そこには見たことあるようなジャージを着たマネージャーらしき人が二人立っていた。

 

 一人はセミロングで栗色の髪色。もう一人はロングでピンク色の髪色の女の子たちだ。先程声を掛けてくれたのは恐らく栗色の子だろう。

 

 

「見たところこの辺の学校の生徒ではないみたいですね」

 

「実は部活の合宿で来てて、道に迷っちゃったんだ・・・」

 

 

 女の子たちの前ということあってあまり情けない姿は見せたくなかったのだが、早歩きで移動する東京の人に話しかける勇気は僕にはない。

 

 そのため今はこの二人の女の子が唯一の頼みの綱である。

 

 

「形態の電源も切れちゃってて、道が調べられないんだ。もし良かったら道順を教えてもらえると助かります・・・」

 

「流石に慣れない土地では道順を覚えただけでは難しいと思いますが・・・」

 

 

 今度はピンクの子がそう答えた。確かにそうだ。知らない土地、しかも東京のように建物が多く、目印となるようなものも見つけにくい場所では自殺行為とも言える。

 

 

「じゃあこうしましょう!私はこの人を目的地まで届けるので、杏奈ちゃんは先に戻っていてください!」

 

「そしたら私も一緒に行った方が・・・」

 

「荷物持ちながらじゃ大変だと思うし、皆の練習の手伝いもあるから、私一人で大丈夫だよ」

 

「そこまで言うなら・・・」

 

 

 杏奈さんと思われる人物は渋々といった様子だったが納得したらしく、自らの目的地へと向かった。

 

 

「じゃあ早速行きましょう!それはそうと・・・貴方の名前を教えてもらってもいいですか?」

 

 

 そう言えばまだ名乗っていなかった。僕も彼女の名前を知らないが、やはりここは助けてもらっている僕から名乗るべきだろう。

 

 

「僕は神矢ユーリって言います。中学2年生です」

 

「私は大谷つくしです!中学3年生なの。よろしくね!」

 

 

 笑顔で自己紹介をするつくしさん。いつも僕が見ている女の子の笑顔とはだいぶ違うので何だか少し緊張してしまう。

 

 

「目的地を教えてもらってもいいですか?」

 

「はい!えっと、このホテル何ですけど・・・」

 

 

 こうして僕は、つくしさんというガイドさんと共に、ちょくちょく東京観光をしながら集合場所へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、ここです!助かった~・・・」

 

「それでは私はこれで!あ、これ私のメールアドレスです!もしまた東京に来て困ったことがあったら、遠慮なく頼ってくださいね!」

 

「ホントにありがとうございます・・・!」

 

 

 僕のためにわざわざ時間を割いてくれたつくしさんにひたすら頭を下げて、感謝の意を伝える。

 

 つくしさんと別れた僕は、皆に悟られないように何食わぬ顔でホテルへ入ろうとした・・・その時だった。

 

 

「自由時間中に他校の女子とデートなんて、随分気が緩んでるのね・・・神矢?」

 

 

 不意に掛けられた声に条件反射で寒気を感じてしまった。相手は勿論セツナさん。どうやら見られていたらしい。というか一つ納得できない言葉が・・・

 

 

「デートじゃないって!道に迷ってたところを助けてもらって・・・・・・あっ・・・」

 

「ふ~ん・・・やっぱりそういうことだったのね」

 

 

 腕を組んで僕の方を見るセツナさん。僕はまるで蛇に睨まれた蛙だ。少しずつ僕との距離を縮めてくる彼女だが、僕は逃げることが出来ずにいた。

 

 

「アンタ言ったわよね?今回は大丈夫だからお守はいらないって。言ったわよね?」

 

「・・・はい」

 

 

 僕はその後、集合時間ぎりぎりまでセツナさんのお説教を聞き続けるのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自由行動を終えた僕たちは借りたグラウンドで早速練習を始めた。今回の合宿の目的はまだ伝えられていないけど、それでも僕たちは一生懸命練習をするだけだ。

 

 しかし翌日に練習試合を予定してあるため、練習自体はいつもよりハードではなく、ボールを使った練習を中心に行った。

 

 

「そう言えば神矢先輩。監督の服装が行きと違うんすけど、何かあったんすかね?」

 

「初めて見る格好だよね・・・」

 

 

 練習をこなしながら沙漠君が監督の方を見てそう言うので、僕も横目で確認する。

 

 確かに行きよりも服装が華やかになっている気がする。沖縄の洋服店は結構見て回ったつもりの僕だけど、ああいった服は見たことが無い。

 

 

「あれは監督の趣味なんだ。毎回遠征や合宿をやるたび、空いた時間で服やアクセサリーを買ってるんだよね」

 

「監督もまだまだ乙女ってことっすかねぇ」

 

「そういえば霧野先生っていくつなんだろ?」

 

 

 そんな話をしながら、僕たちは今日の練習を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では皆さん、今日の対戦相手と試合中の課題を連絡します♪」

 

 

 ホテルを出発する前にロビーへと集められた僕たちは、ようやく本日の対戦相手の学校と、課題を教えてくれた。

 

 

「まずは対戦校ですが・・・木戸川清修です。豪炎寺修也君が強化委員として加わったチームですね。他にも有名な選手だと、武方三兄弟ですね。一昨年は準優勝、去年はベスト4の強豪チームです。ですが、問題ないですね♪」

 

『(どこらへんが問題ないんだ・・・)』

 

 

 笑顔を保つ霧野先生だが皆の顔は暗い。もう見慣れた光景だけど、やはりこの表情の差は面白い。

 

 ざわめき始めた皆を静かにさせるために手を叩く霧野先生。皆が静まったところで、霧野先生は今回の課題について話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木戸川清修グラウンドへと到着した僕たちは、荷物を整理してからウォーミングアップを開始する。

 

 僕たちはグラウンドの半分を借り、もう半分は向こうのチームが使用している。

 

 

「木戸川、すげぇ連携だよなぁ」

 

「・・・・だから何でお前は神矢以外にそんなに軽いんだよ。・・・豪炎寺さんが入ってから、連携に力を入れるようになったらしいぞ。元々高かった攻撃と、弱点だった守備が連携によって強化されてる」

 

「玲夢マジでよく知ってんなぁ」

 

「・・・お前ホントやだ」

 

 

 もうそろそろ試合開始のため、アップを切り上げて支度をする。

 

 両チームともにグラウンドに整列し、挨拶をしてからポジションに着いた。

 

 そして笛の音と共に木戸川清修との練習試合が始まった。スタートは木戸川清修ボール。3トップの武方さん兄弟が駆け上がる。その三人をフォローするように全体のラインが上がる。

 

 

「まずは神矢!お前の力を見せてもらうぞ、みたいな!」

 

 

 帝国戦の影響で僕は随分有名になってしまったのかもしれない。海洋学園のFW陣をあっという間に抜き去ると、そのままの勢いで僕に勝負を挑んできた。

 

 3対1じゃ流石に分が悪いけどそれでもやれることはある。武方三兄弟の長男が真ん中でボールを持っているので、彼から少し距離を取る。

 

 すると、やはりそのまま突っ込むつもりはないのか、左にいる次男にパスを出そうとする。

 

 その瞬間に僕はインターセプトをしようと動き出したけど、パスの速度が明らかに早い。

 

 

「残念だったな」

 

 

 パスの方向を見ると、案の定次男がそのパスをスルーしてその先に走りこんでいた豪炎寺さんにパスが渡った。

 

 

「玲夢君!頼んだ!」

 

「・・・監督の指示とは言え、この戦法は流石にめんどくさい」

 

 

 すぐ後ろにいる玲夢君は、僕と同じように豪炎寺さんと少し距離を開けて守備を行った。

 

 やはり強化委員だけあって周りは見えているようだった。玲夢君の守備範囲を素早く察知し、前方へのパスは通らないと判断した豪炎寺さんは、後ろから駆け上がっていた仲間へとパスをする。

 

 そのリターンをロブパスで受け取った豪炎寺さんは、玲夢君を抜き去った。

 

 そのまま一気にゴール前まで行くかと思ったが・・・

 

 

「・・・っ!そんな!」

 

 

 玲夢君のカバーに入ろうとした暁君が距離を詰める前に、豪炎寺さんは、シュート態勢に入っていた。

 

 

「ファイアトルネード!!」

 

 

 虚をつかれたGKの銑十郎君はシュートに反応できずにゴールを許してしまった。これが豪炎寺さんなのかと、海洋イレブンはさらに警戒を強めたのだった。

 

 

「様子見にしては随分緩かったな」

 

「・・・。」

 

 

 自陣へ戻る最中の豪炎寺さんにそう言われた僕は、少しムッとしてしまった。そして今日のこの試合を境に、僕の名前が全国に知れ渡ることとなる。

 

 




アレスの天秤を再構築して一から放送し直すのとかどうでえしょう?


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