完全無欠なアタシのヒーローアカデミア (とある世界のハンター)
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golden spirit
事の始まりは中国、軽慶市。『発光する赤児が産まれた』というニュースだった。以降各地で"超常"は発見され、いつしか"超常"は"日常"に、
世界総人口の約八割が何らかの"特異体質"である現在、個性を悪用する
光あれば影がある。それはその超常社会にも当て嵌るものだった。光にヒーローという言葉を埋め込むのなら、影はヒーローと相対する存在、
ヒーローという存在はある時を持って社会に首輪を付けられることになった。国が、世界が、力を持つ者を従えようとしたのだ。
ならばその逆の立場でもあるのは必然だと言える。超常が起こった際、いち早く裏社会をまとめ上げた人間がいた。自らをオールフォーワンと名乗る彼は、圧倒的な力を持っていた。そして狡猾な人間だった。彼は自分の腰が落ち着ける場所の確保に専念した。その頃には警察を初めとした、国の機関はまともに機能していなかったため気に留めてなどいなかった。しかし、とある私設の諜報機関は別だった。
その名も『ツキカゲ』。彼女らは迅速に超常社会に対応し、そしてオールフォーワンの存在に気付いていた。彼女らはその存在を危惧し、すぐさま排除すべきと考えた。彼女らはスパイ、隠密機動はお手の物。直ぐに暗殺計画を企てた。そしてそれは実行された。
結果は、失敗。オールフォーワンの圧倒的な力の前には為す術もなく、彼女らは呆気なく散ってしまった。それを機に、彼は各地の私設諜報機関を手に入れた駒を用いて排除する作戦を実行した。そして彼は遂に自らの椅子を固定したのだ。
それから幾年もの時を経て、彼に最初に敗れた私設諜報機関が復活を遂げた。当時の構成員6名の血筋を持っている者は、偶然か必然か同じ
オールフォーワンを倒すという意思。それを達成する為に必要なのは力だった。先祖達は『特製スパイス』を始めとする秘密道具を駆使して戦闘に身を投じていたが、このご時世それ等を現代に甦らせたところでどうこう出来る訳ではない。
ヒーローになるという決意を
「...という訳で、今日がそのヒーローになる為の第一歩。雄英高校の入試当日なのだけどー...って、もしかして怒ってる?」
「当たり前じゃないですか!! 私一人で行くって言ってるのに着いていくんだって駄々こねて!! そのくせ遅刻ギリギリになるなんて最悪です...」
和気藹々とは言い難い雰囲気に包まれる少女が二人。怒りの火花を散らしている若紫色の髪をした、ツインテールの少女の名前は相模楓。中学三年だ。
その隣を歩く、楓の怒号を苦笑いで誤魔化す橙色の髪をしたサイドテールの彼女の名前は八千代命。雄英高校の一年で、楓とはルームシェアをしている。
彼女達は街を駆け抜け、目的地である雄英高校へと向かっていた。今日は雄英高校の一般入試当日。即ち楓の入試である。
「というか、その説明はカトーさんから何度も聞いてますから! カトーさんの代から再誕して、師匠達が2代目、私達が3代目です!」
「おぉっ! さっすが楓、ちゃーんと分かってるねぇ」
「そのくらい誰でも分かります!」
電柱の僅かな足場を子供の遊びのようにして飛び跳ねていく彼女達は、漸く雄英高校のある丘の麓付近へと到着した。スマホの画面を覗けば、受付終了までは案外時間が残っているようだった。
「意外と速く着いたねぇ、ここからは歩きで行こっか」
「ですね。人もチラホラ見えますし、驚かせてしまうでしょうから」
民家の屋根から飛び降りた二人は、軽々と着地すると何事も無かったかのように歩き始めた。
風に靡く梅達は、花弁を散らせながら彼女達の歩む道に道標を巻いていく。だが、そんな事を知りもしない二人はただひたすらに足を進めて行く。
「この世に偶然なんてなくて、必然しか無いとしたら.どうなんでしょう」
「えっ、何々? まさか告白〜? するなら命からがいいな〜」
「違いますよ!? ...過去の一件の際、そのオールフォーワンとか言う
「ふっふっふっ、それは私の中に秘められし力が「あっ、もう校門見えてきましたね」ちょっ、早っ!?」
彼女達の視線の先には巨大な校舎とその校門が堂々としてそこにあった。受験生と思われる中学生達は遠くからでも分かるぐらいに沢山いた。
これらの数がライバルともなると、さすがに彼女でも堪えるものがあるのか冷や汗がタラりと顎を伝わるのが感じられた。
「...それじゃ師匠。行ってきます」
「忘れ物ない? 大丈夫?」
「師匠じゃないんだからしてませんよ。大丈夫です。完全無欠な私は、ビシッと合格して来ますよ! ちゃんといい子にして待ってて下さいね!」
止まっていた足を再び動かし、相模楓は校門目掛けて走り出した。弟子の新たな一歩を見届けた八千代命は、受験が終わるまでの間の暇潰しを探す事を決めた。
これは、新たなるツキカゲの物語であり、そして相模楓の物語である。
相模楓
個性:スパイスドープ
スパイスを服用する事で、身体能力を著しく上昇させる
効果時間や上昇率は特訓次第で伸びる。
【現在】
効果時間:10分
上昇率:5倍
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第一の挑戦
続きません。
「今日は俺のライブへようこそー!!!エヴィバディセイヘイ!!!」
━━━━━━━━...ライブ?
筆記試験を終えた受験生達は、千人単位の人間が席に着けそうな程闊大な講堂に集められていた。それぞれの席には次の試験──実技試験──に関するものと思われる資料が配られており、司会の雄英教師──プロヒーロー:プレゼントマイク──による入試説明がたった今開始された。
「セイヘーイ!!!」
筈だった。
「サンキュー八千代!今日のMCは来年ヒーロー科2年の八千代!ヒーローネーム:千代女にも来てもらってるぜ!!」
「いぇーーい!!!」
━━━━━━━━師匠!!?
講堂中の視線が注ぐ舞台上、プレゼントマイクの横にはバニーガール姿の命が同じようにマイクを握って立っていた。
何故、という楓の視線を感じた命はウインクを投げてみる。自分に投げられたと勘違いした女に飢える野郎の黄色い声を他所に、ジト目で返す楓。心做しか妬んでるように見える彼女の視線は不意に下へと落とされる。
━━━━━━━━仮想
楓が物思いに耽ける傍ら、試験説明は進んでいく。円滑に、とは言い難いが無事に説明が終わると、受験生達はプレゼントマイクによって指定された更衣室へと向かう。
━━━━━━━━なんですか師匠...
楓も更衣室へ向かおうと席を立ったが、命のアイコンタクトに気付き目を配る。
『頑張ってね、我が愛弟子。』
『言われなくとも分かってます。師匠。』
一秒にも満たない僅かな時間。朝の「行ってきます」にも近い感情の言葉を投げかけた彼女達は、既に師弟なのだ。
相模楓は、もう修行を積んでいるのだ。
━━━━━━━━問題は仮想
講堂を後にした楓は、更衣室で動きやすい服装に着替えていた。
「個性発動に必要な機器等を予め申請していた方は、バスに乗車される前に受験票を持って受付までお越しください。」
取り付けられたスピーカーから流れた報せを受け、楓は軽いストレッチを熟しながら受付へと向かう。多種多様な個性が存在するこの世界、食物をトリガーとした個性や機器を媒介に発動する個性もあるのだ。
楓もそんな個性の持ち主。彼女の個性は『スパイスドープ』。その中身はスパイスを服用することによって身体能力を上昇させるといったもの。スパイスにも様々な種類があるが、楓の1番相性が良いスパイスはローレル。スパイスの種類によって上昇率が変わるため、彼女が個性を発動させる時はいつも決まってローレルだ。因みに上昇率だが、予め特訓していた影響か通常の5倍だ。ローレル以外を服用すると、上昇率が著しく落ちてしまう。
「すいません、予め申請していた相模です。」
「はい、受験票お預かり致しますね。...はい、相模楓さんですね。こちら、お預かりしていた物です。どうぞ。それでは頑張ってください。」
「ありがとうございます。」
スパイスを受け取った楓は受付を後にして、それが入った小包をハーフパンツすぐ下の太腿のベルトに装着する。すぐに取り出せる位置にある事を確認した彼女は、そのまま複数ある試験会場行きのバスの一つへと歩を進めた。
「...デカ」
試験会場に着いた楓は、その会場の大きさに驚きの言葉を零してしまった。50mを超える巨人ですらくぐれてしまいそうな程巨大な門。そしてそれが不自然な大きさに見えない程の会場。中にはビジネス街とも見紛う程のビル群がある。こんな試験会場が複数個あり、さらに会場として使われていない施設がまだまだあると考えるとこの雄英高校は一体どれほどの敷地があるのか...どれほどお金を持っているのかと気が遠くなってしまう。
「はい、スタートー!!」
━━━━━━━━ッ!
試験会場に設置された巨大スピーカーから発せられた試験開始の合図。楓と同じ会場の者は思考停止、恰も豆鉄砲を喰らった鳩の様にしてスピーカーを仰いだ。
だが楓は違った。
彼女の視線の先には仮想
楓は素早くローレルを一つ取り出すと、口に加えて一口噛みきる。瞳は紅く染まり、脳が、身体が、みるみる活性化していくのが感じられる。
「今のアタシは、一味違う!」
右足に力を入れて踏み込むと、脱兎の勢いで仮想
「今のが2ポイントね...さぁ次!」
「はぁ...はぁ...」
39ポイント目となる仮想
そんな楓を遠くから眺める影が三つ。会場の壁の上部にあった。
「あちゃーやっぱり体力不足か〜。」
「私達の時もそうだったよね。やっぱり受験勉強に気を取られちゃうからかな...」
「しょうがないよ。ここ偏差値高いから。」
「いや〜、でもやっぱりヒーローなんだから体力付けなきゃ!勉強なんてその次だよ!」
「メイちゃんは勉強しなきゃダメだよ。毎回毎回初芽さん特製ドリンクに頼って...テストの後とかいっつも楓ちゃんがお世話してるじゃん。あれ使うと反動凄いんだから。」
「ドリンクに頼ったからお世話されたんじゃないよ!メイは常にフーにお世話されてるの!!」
「それ反論になってるの...?」
「ま、とにかくこれが終わったらフーにはみっちりと修行だね。」
「...さすがにそれ師匠に押し付けたりしないよね?」
「え?えへへーまっさかー。」
「あ、見て見て。0ポイント出てきたよ。」
「ホントだ!フーちゃん倒せるかな〜。」
「いや私のフーはそんな化け物じゃないから。ユッキー系列じゃないと倒せないって。」
「私あれ死ぬかと思ったんだよ!?師匠に0ポイント倒せって言われて!!」
「そういえばどうやって倒したの?」
「あーそれメイも聞きたい。」
「えっと...まず仮想
「うん?」
「その後電源スイッチになってるとこ探して...見つけられなかったけど回路はあったからそこ壊して。」
「...次元が違うね。」
「違わないよ!師匠と師匠の師匠は普通に倒したんだから!!」
「...うーん。」
「まぁ、スパルタ教育されてたらそうなるよね。あ、時間切れだ。」
「誰も倒せなかったね〜。」
「あ、あっちの会場のは壊されてるよ!ってかめっちゃ吹っ飛んでる!?すご!」
「よく双眼鏡無しで見えるね、モモち。」
「えへへ〜。」
「んじゃ帰ろっか。
三つの影は立ち上がると、恰も猫がブロック屏から飛び降りるかのように巨大な壁から降り立った。
影の一つは八千代命。現代のツキカゲの一員である半蔵門雪からの指示で、楓の試験の動向を伺っていたのだ。そしてあと2つ。桃色のショートヘアをした彼女は源モモ。黒色のロングヘアは石川五恵。共に雄英高校1年で、現代のツキカゲのメンバーだ。
「じゃあ2人とも。またね〜。」
「うん。メイちゃんもまた、学校で。」
「宿題やってくるんだよ〜?」
「は〜い。」
2人と別れた命は、心身ともに疲れたであろう弟子の姿を思い浮かべながら、今日の夕飯は私が作るのだと心に決めた。
━━━━━━━━やれやれ、また小言を言われるのかねぇ
どこか面倒臭がってる素振りを見せながらも、弟子が校門を出てくるのを今か今かと待っている。
その顔は、混沌とは真逆のように透き通る様な笑顔だった。
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