東京喰種:re Le mat (瀬本製作所 小説部 )
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My hidden heart




こんにちは、瀬本さんです。




今作は東京喰種:re cinderellaの外伝ですが、東京喰種:re cinderellaを読んでなくても読めるように書いていきます。

東京喰種:re cinderellaと主な違いとして


1:東京喰種:re cinderellaに出ているメインキャラクターは出ません(もしかしたら名前だけ出るかも)。

2:東京喰種:re cinderellaはアイドルマスターシンデレラガールズに対し、こちらはアイドルマスターシャイニーカラーズ 要素があります。

などが挙げられます。


東京喰種:re cinderellaの外伝ということで、もしかしたら今後の展開のヒントが見れるかもしれません。


長くなりましたが、どうぞよろしくお願いします。





あれから東京の街は変わった

 

 

 

 

 

 

かつては高層ビルが立ち並び、多くの人が歩き、夜も輝き続ける大都会

 

 

 

 

 

 

そのまま一度も崩れることなく大きくなると思われた

 

 

 

 

 

 

しかし、突如東京の街に現れた“竜”によって街が破壊され、混乱を生じさせた

 

 

 

 

 

 

建物が壊され、多くの死傷者を出したこの動乱は戦時中の東京以来の被害を生み出した

 

 

 

 

 

 

動乱から翌年

 

 

 

 

 

 

竜によって破壊された東京は徐々に復興が進んでいった

 

 

 

 

 

 

それは人間の手だけではなく、敵であった喰種も協力しあって復興を進めていた

 

 

 

 

 

 

東京は今、喰種と人間が共生する場所となりつつあった

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

東京都13区

 

 

夜の暗闇に反するように輝く街。昼も夜も賑わうこの街は若者がよく歩き、空が暗さを反抗するように輝く街の光。夜はまだまだ始まったばかりだった。

 

(今日ははんべーもいないからつまんないですね)

 

夜の街中に黒髪のショートカットに赤いヘアピンをし、少女と間違えてしまうほどの中性的な男性が夜の13区に歩いていた。どこか不満そうに丸いキャンディーを口に入れながら、小柄な体に合わない銀色の大きなアタッシュケースを肩手でふらつくように歩いていた。

 

 

 

彼の名は鈴屋什造(すずやじゅうぞう)

 

 

 

彼はただの若者ではなく、東京保安委員会(TSC)の保安官だ。

以前は喰種対策局(CCG)の特等捜査官なのだったが、竜の動乱後喰種対策局(CCG)は解体され東京保安委員会(TSC)が発足したことにより最高位である『竜将』となった。什造が特等保安官ではなく『竜将』になったのは実績と実力が他の保安官に比べ物にならないほど功績を挙げていた。まだ年が26にも関わらずここまで功績を上げるのは天才に等しい存在だ。

 

(全くはんべーはなにしたんですかねー??)

 

いつもなら什造の部下である阿原半兵衛(あばらはんべえ)がいるのだが、途中13区支部からなぜか呼び出しがあったため什造の元から離れてしまった。什造はせっかく自分を構ってくれる半兵衛がいないため、舐めていた飴を無くした口を少し膨らませながら街夜のを歩いていた。退屈そうに街の中を歩いていると....

 

(ん?)

 

退屈そうに歩いていた鈴屋の横に制服を着た高校生がふらりと通った。

 

「.....」

 

その少女は補導されることに恐れを知らずにどこかおぼつかない顔でゆらゆらと夜の街を歩いていた。

 

(...こんな時間に、夜遊びですか)

 

13区はかつては喰種が多く存在し、喰種による事件があとが絶えない危険な場所であったが、鈴屋什造率いる鈴屋班によって完塞が達成された。しかしそれは竜による動乱が起こる前のことである。竜の動乱よりは街が破壊されその後はの復旧が進んでいるのだが、災害の混乱によって喰種だけではなく人間によって起こされた犯罪が少々目立つようになった。それで13区内に所属する保安官の活動は喰種対策や喰種に対して捜査をするのだが、ここ最近では警察と同様街のパトロールや未成年者に注意を促すことなどの警察に任していた仕事も一つになり以前より仕事は増えている。什造はやれやれとため息をした後、什造の横を通り過ぎた少女に近づいた。

 

「そこのあなた、あぶないですよー?」

 

什造はその少女に男性とは連想しにくい声で呼びかけると少女はピタリと足を止めた。

 

「...何か用ですかぁ?」

 

その少女はのろのろと振り向き、ゆっくりとした口調で嫌そうな目つきで什造を見る。紫色をしたふわふわとしたツインテールをした髪に、制服にパンクのファションをした少女で美しいを顔をしていた。普通の人が彼女を見たら不真面目な女子高校生だと認識するだろう。

 

「こんな時間に歩くのはダメですよー」

 

「....?」

 

什造が少女に注意するとその少女は鈴屋の言葉に目を細めた。まるでこの人は何を言っているの?と。

 

「....なんでそんなこと言うんですかぁ?」

 

「ん?」

 

「そう言っているあなたも、そうじゃないですかぁ?」

 

その少女はどこか軽蔑するような笑いをいた。什造はその少女とほぼ同じ身長で、見た目から保安官とはわかりにくい容姿であったからだ。

 

「違うですよー、僕は立派な大人ですから大丈夫です」

 

「大人?そうは見えないですケドー?だったら、証明してくださいよー?」

 

「仕方ないですねー」

 

什造はめんどくさそうに言うと持っていたアタッシュケースを下ろしポケットに手に入れた。什造は保安官のため保安官手帳を所持している。それを少女に見せれば什造はただの人ではなく保安官だと証明される。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーしかし

 

 

 

 

 

 

「ありゃ?」

 

すると捜査官手帳を探していた什造はあることに気がついた。何度もポケットに手を入れても保安官手帳らしきものが見つからないのだ。何度もポケットを漁るが、それらしきものが見つからない。什造のポケットにあったのは携帯電話とくしゃくしゃになった一枚の1000円紙幣。

 

(あーそうでした...うっかり半兵衛に渡してましたね...)

 

什造はいつもお世話役でもある半兵衛に必要な所持品を渡しているため今は持っていない。半兵衛は今13区支部にいるため呼び出すのに時間がかかる。什造は下ろしていたアタッシュケースを持ち上げ、どうすれば自分が保安官だと証明できるか考えた。流石に什造が持っているアタッシュケースの中身を見せても理解葉されないだろうし、モラル上めんどくさいことになる

 

「おやおやぁ?見つからないのですかぁ?」

 

するとポケットを入れたままの什造を見た少女は目を細めどこか煽るように彼に声をかけた。その少女の顔を見た什造は「...なんですかー?」と聞くと...

 

「だったら、何か"甘いもの"でも食べに行かないですかぁ?」

 

「"甘いもの"?」

 

什造は少女の発言に疑問を抱き、一体なんだろうと更に聞こうとしたその時だった。

 

「ふふ〜ん♪それは着いてからのお楽しみですよー」

 

突然少女は什造の手を取り、什造にどこに行くのか告げられずに夜の街の奥に向かった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

什造が少女に連れてかれたのは街の中にあったファミリーレストランだった。そこは24時間営業しているため夜でもお店は開いている。

 

「へぇー、あなたは男なんですねー。高校生と見えなくもないですケドー?」

 

「よく言われますので、ぜんぜん気にしないです」

 

什造と少女はテーブル席でお互いが向き合う形で座っていた。店内は夜遅くということか他の客の姿が1、2人しかいないほどガラガラに空いていた。

 

「そういえばー、何で私のお誘いに乗ったのですかぁ?」

 

「僕もちょうど甘いものが欲しかったので」

 

本来ならば什造が足を止めてそのまま補導するべきなのだが、補導すべき立場である什造は自分を連れていかせた少女を補導することなく一緒にファミリーレストランに入っていた。普通ならば保安官と女学生が一緒に行く真似をしたら大問題になるが、什造の姿が中性的のおかげか周囲から怪しまれずに入店ができた。

 

「それにしても、夜の街を歩いて危ないじゃないですか?」

 

「危ない?別にいつもこうですケドー....てか、あなたの方がめちゃめちゃ怪しいですよー?」

 

「だから僕は東京保安委員会(TSC)の保安官です」

 

「本当にその保安官ですかぁ?」

 

 什造は東京保安委員会(TSC)内では多くの保安官に尊敬される人物なのだが、今は保安官として証明できるものはなく少女の視点から見る什造は女の子みたいな男性だ。什造が何度も少女に自分は保安官だと話していると、少女が「あ、きた」と言うと店員さんが一つのパフェが什造たちが座る席に向かっていた。そのパフェは什造が頼んだものだった。パフェを届けた店員さんは二人が座るテーブルのちょうど真ん中にパフェを置き、二人の元から去っていった。その瞬間、少女はスプーンを取り出しパフェを取ろうとすると、什造はそのパフェを素早く自分に元に下げた。

 

「あれれ?どうしちゃったんですかぁ?」

 

「僕のパフェを取らないでください」

 

什造は嫌そうな顔で少女を見た。

 

「えー、なんでくれないのですかぁ?」

 

「これは僕が頼んだものなので、それにあなたはなぜパフェを頼まないのですか?」

 

什造がそう聞くと少女はふふっと笑い。

 

「私、今お金持ってないんですよねぇ」

 

少女はそう言うとポケットから電車の定期券をテーブルに出し、これ以上持っているものがないと表現するように両手をパッと見せた。

 

「持ってないんですか?悪い子じゃないですかー」

 

「そうですよぉ、私、悪い子ですから」

 

少女はそう言うとふふっと笑った。

 

「それにしても、お兄さんは結構イジワルな人ですねぇ」

 

「お兄さんじゃないくて、ジューゾでいいですよー」

 

「じゅーぞですかぁ?面白い名前ですねぇ」

 

摩美々はふふっとからかっているような笑いをした。

 

「あなたの名前はなんですか?」

 

「私ですか?田中摩美々(たなかまみみ)っていいますー」

 

「マミミですか?」

 

「うん、だから、私に一口ぐらいくださいよー」

 

そういうと摩美々はスプーンを持ち、パフェをすくう準備をしていた。おそらく彼女は中々諦める気はないだろう。什造はそんな姿をした摩美々にため息を一つした後...

 

「まったく悪い子ですねえ」

 

什造はどこか諦めたかのようにパフェを少し前に出した。そうすると摩美々はふふっと満足そうに持っていたスプーンでパフェをひとすくいをし、口に頬張り「私、悪い子ですからぁ」と什造にどこかバカにするように笑った。

 

「なんでマミミは一人で歩いていたんですか?」

 

「ただの放浪ですよー?」

 

「危ないですよ?今13区は喰種だけでじゃなく、人間が起こした犯罪が増えているので早く帰ってください。特に喰種は危ないので"変な所"に行かないでくださいね?」

 

什造は摩美々に強い口調で注意をした。什造たちがいる13区は以前のような血の気の多い区ほどではないものの、危険な場所に戻りつつある。什造は長く喰種と戦ってきた為喰種に対しての危なさは知っている。

 

「......そうですかぁ」

 

什造の言葉を耳にした摩美々はふざけた様子をせず、落ち着いた様子で聞いていた。先ほどまでは什造に対して舐めた態度をしていたのだが、先ほどとは一変して大人しく聞いていた。

 

「まぁ、そんなに言うなら、じゅーぞに免じて、今日は帰ってあげますねー。さよーならぁ」

 

摩美々はそう言うと席から立ち上がり、お店から出ていった。お店の窓から見える摩美々は駅の方向へと向かっていた。

 

(...."変な子"もいるんですねー)

 

什造はそう考えるとパフェを口に頬張り始めた。パフェは摩美々に少し食べられたのだが、什造は残念な気持ちを抱かず『まぁ、いいか』とパフェをスプーンで口に入れた。普段の什造なら怒るべきところなのだが、摩美々に対しては自然と怒るという選択肢が浮かばなかった。什造は理由を考えず一人パフェを食べ続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーその時だった。

 

 

 

 

 

 

(ーーーっ!)

 

するとパフェを食べていた什造はピタリと手を止めた。ちょうど一人の男性客が什造が座る席を通り過ぎた時に何か"匂い"に気がついた。

 

(...今、"鉄の匂い"がしましたね...)

 

什造にとっては仕事で慣れた匂い。その匂いをしたら間違いなく"ヤツら"がいる証拠でもあり、どこかで人間(ヒト)を殺した証拠だ。その匂いをした主は摩美々が席を立ち上がった時に同じく立ち上がり、摩美々についていくようにお店から出ていった。

 

(...まさかですかねえ?)

 

什造は急いでパフェを口に入れ、アタッシュケースをガタガタと音を立てながら取り出し、ぼろぼろの千円札を机に置きすぐにお店から出ていった。おそらく什造の横を通り過ぎた男は摩美々をターゲットしていたと思われる。

 

(...まったく、マミミは駅に向かってないじゃないですか)

 

男の跡を辿ると駅に向かっておらず、薄暗い路地に向かっていた。おそらく摩美々はそこに向かったと思われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

什造は胸の奥にイライラとした感情を生み出し、男が向かった方向に急いで向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一歩遅れてしまえば、彼女が殺されてしまう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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He's Joker

人だかりの少ない夜の街に歩く、私。私がこの街に訪れた時は明かりがあったのだが、今ではサビがちょこちょことあるシャッターで閉まっていた。

 

私の名前は田中摩美々(たなかまみみ)。夜の13区に歩いていた高校生だ。ふつーの高校生が歩いていけない時間帯にも関わらず平然と歩いていた、私。そしたら当然誰かが声をかけてきた。その人はナンパをしてきたチャラい男ではなく、よく補導してくる警察の人ではなかった。その人は東京保安委員会(TSC)の保安官で、名前はじゅーぞと言う。

 

(じゅーぞってなんであんなに女の子ぽかったんだろう?)

 

じゅーぞと出会った時を国語で読んだ小説の言葉で表すなら、私は不思議でたまらないと使いたくなる。初めじゅーぞを見た時は同じ女の子だと思った。保安官とか警察の人って公務員だからめんどくさい人が思い浮かぶけど、じゅーぞは他の人違って独特な服で、男の人にも関わらず女の子ぽい高い声で私に声をかけたのだ。じゅーぞーとファミレスに行く前まではじゅーぞーが本当に東京保安委員会(TSC)の人だと全く信じなかった。

 

(まぁ、話してて面白い人だなぁっと思ったなー)

 

じゅーぞと別れた私は駅へと続く道に歩いていた。什造からそのまま家に帰るよう言われたんだけど...

 

 

 

 

 

しかし私は、じゅーぞの言葉をそのまま受け入れるつもりはなかった。

 

 

 

 

 

(私は悪い子ですからねー)

 

私ははじゅーぞに軽蔑するかのように嘲笑い、歩いていた歩道から抜けて人気(ひとけ)のない建物の裏に歩いていた。そこは街の光が行き届かない暗い小道で、生ゴミの嫌な匂いが立ち込めれおり、換気扇の音が怪しさを顕れていた。じゅーぞはここに私が行っていることは思ってはいないだろう、と考えていた私。

 

 

 

 

 

その瞬間だった。

 

 

 

 

「っ!」

 

 

 

 

突如、後ろから誰かの手が私の口を塞ぎ、そのまま暗闇へと引き摺り込まれた。闇に引き込まれたと同時に私は視界を失い、意識も同じく消え去ってしまった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「...?」

 

意識が徐々に取り戻した、私。

目をゆっくりと開けると先ほどいたはずの狭い小道ではなく、薄暗い高架橋の下に倒れていた。周りを見渡そうとしたその時

 

「お、やっと目覚めたか」

 

すると私の後ろから誰かの声が聞こえた。私は後ろに振り向くと何人かの男が私を見下ろすように冷たい視線で見ていた。

 

「.....っ!!」

 

「おや?俺たちに驚いたあまり話す気はないようだな?」

 

一人の男が地面に倒れる私に近づき、私の顎をぐいっと上げた。私は周りの男たちの顔を見て言葉を出すことができなかった。彼らの目をよく見るとその男たちの両目は赤黒く染まっていた。この男は人間ではなく、前まで散々テレビで取り上げられていた喰種だとわかったのだ。まさか自分の目で出会うとは考えもしなかった。

 

「さっきいた店でお前をマークして正解だったな。今まで喰ってきた馬鹿と同じ道に進んでよかったなあ」

 

男はそういうと、周りの男たちは冷たくあざ笑う。私は喉に何かかが詰まっているかのようにしゃべれない。私の目の前にいる男は赤黒い目で私をまっすぐと見る。

 

「さてと...ただ喰うだけじゃ物足りねぇな?なにせお前はいい女だ。体も顔も他の女のよりいいもんだ。普通に殺しちゃもったいない」

 

男はそういうと私の顎を掴んでいた手を、そのまま私の腕を掴んだ。

 

「...いやっ!」

 

私は自分の手を掴んだ男の手を振り払う。

 

「おっと、やっと声が聞けた。そう怖がんなよ。ただ痛めつけて死ぬより快楽を得て死んだほうがいいだろ?俺はこういうの最高に好きなんだよ」

 

男の下劣な顔を見た時、怯える私は胸の中でこう思ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はここで死ぬんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

周りにいる男たちは私を殺す以外に何をやるかは、目の前の男の瞳で結果がわかる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんで私は言う通りにしなかったんだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時じゅーぞの言葉をそのまま従えばよかったのに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後悔と死への恐怖を抱いていた、私

 

 

 

 

 

 

 

ーーーその時だった

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、マミミは本当に悪い子ですねえ」

 

「っ!!」

 

緊迫した空気の中、女の子とに似た高い声が空気を一掃するように声が響き、私の周りにいた男たちは声がした方向に振り返った。私はその声を耳にした時、ピンっと気がついた。まさかと思い声がした方向を向くと、先ほどファミレスで別れていたはずのじゅーぞが右手に銀色のアタッシュケースを持ちながら立っていた。

 

「なんだてめぇ?俺たちに殺されてぇか?」

 

何人かの男は突然現れたじゅーぞに睨みつけるが...

 

「全く目つきの悪い喰種ですねー。僕をそんなに見つめても何変わらないですよ?あとその子を離してください、嫌がってますよ?」

 

じゅーぞは睨みつける喰種たちを怖がることなく笑い、私に指をさした。

 

「悪いなぁ、この女は俺らのもんでね」

 

私の目の前にいた喰種がじゅーぞにそう言うと、私の肩に腕を回した。

 

「まるで夜の繁華街にうろつくチャラ男ですか。そんな強引にやってもすぐに逃げられますよ?彼女の肩から離れないなら、僕が離れさせますよ」

 

「なんだと..?」

 

「だから、僕がこの手で離させましょう」

 

じゅーぞは恐怖を抱く様子もなくそのまま私の元に近づき、私を触れようとしたその時。

 

「おい!てめぇ!!」

 

私を掴んでいた喰種は私の肩に置いていた手でじゅーぞの胸元に掴んだ。

 

「ありゃりゃ。とっても沸点が低い喰種ですね〜」

 

「さっきから調子こいた態度で喧嘩売ってんのか?!おい!」

 

じゅーぞは怖がる様子もなく、「はははっ」とただ笑っていた。

 

「それにしても僕を知らないのですか?もしかしてあなたはまだ東京(ここ)に来たばかりの喰種ですね」

 

「てめぇを知ったことか。お前みてぇな白鳩(ハト)はすぐに死ぬ雑魚だろ?」

 

「おお、いい度胸ですね〜。最近ここで喰種の捕食事件が連続して続いていたのは、あなたたちのようですね。確か女性をターゲットにした喰種集団というの正解でしょうか?」

 

「それがどうしたんだよ?あの動乱後の東京(ここ)はヒトを喰うにはうってつけだろ?」

 

「せっかく人間と喰種が一緒に生きようしようとしているのに、あなたたちが問題を起こしたらダメじゃないですか?まったく迷惑なヤツは嫌ですねー。ああ、そうか、あなたたちはそんな能力はない低能ですね、あってますか?」

 

「うっせぇな....ヒトだったら、なんでも喰えりゃいいだろ!!くそガキが!!」

 

怒号が耳に痛いほど響き渡る。まずい、私よりも先にじゅーぞが死んでしまう。でも怖いあまり動けない。それに私は喰種と戦う能力はない。

 

「まず先におめぇからぶっころしてやるよ!!」

 

ああ、まずい。じゅーぞが殺されてしまう。殺されるのにじゅーぞー自身は怖がる様子もなく煽るように笑っていた。何しているの?

 

「...まったく、おバカな喰種ですね」

 

じゅーぞがそう言った瞬間、動かなかった私の目を見ると、私に向かってこう言った。

 

『マミミ、逃げてください』

 

じゅーぞがそう言った瞬間だった。

 

「がぁぁああ!!!」

 

するとじゅーぞを掴んでいた男が急に叫び出した。先ほどじゅーぞの胸元をがっしりとしていた腕が、じゅーぞーの左手にいつの間にか現れた小さなナイフであっという間に切断された。胸元を掴まれたじゅーぞはすたっと地面に着地し、左手にあったナイフをくるくると回した。

 

「これであなたは女の子の肩に腕を回せないですね」

 

「痛ぇぇなぁぁクソが!!!」

 

じゅーぞを掴んでいた喰種は切断された腕を片手で抑え、声をあげる。

 

(...今だっ!!)

 

周囲の喰種がじゅーぞに注意を向いた瞬間、私はすぐさま立ち上がり物置の奥に逃げた。

 

「おい待て!!クソアマ....っ!!!」

 

何人かの喰種は私が逃げたことに気がつき、追いかけようとした時、突如声が止まり、ばたりと倒れる音がした。

 

「僕を置いて背を見せるとは経験が浅い喰種ですね」

 

私の後ろで一体何が起きたのかわからないが、多分じゅーぞが何かをしてくれた。私は焦る思いを抱えながら、急いで物置の奥に逃げていった。

 

 

「...さてと、マミミが離れたのでお仕事を始めますか」

 

 


 

 

薄暗い高架橋の下にいた、僕。僕は早速喰種と戦うことになりました。

 

(喰種は...今は6体ですね)

 

先ほどマミミを追いかけようとした喰種2体を倒し、あとはリーダーと思われる喰種の腕を切り落とし、今に至っています。

 

僕がどうしてこの状態になったのかはマミミの行動を見ればわかります。彼女を追った男はただの社会のお荷物の人間ではなくやっぱり喰種でした。彼をマークしたのはマミミが席に立ち上がりお店に出た時、その男はちょうど同じく席に立ち上がり、僕の横を通った時に血の匂いがふと鼻に感じました。それで僕は男の跡をついて行ったら、高架橋下という喰種の溜まり場にぴったりな場所にたどり着きました。

 

「て、てめぇ...!よくも俺たちの仲間をぉ!!!」

 

そのマミミを追いかけた男は僕を掴んでいた腕を失い、強い口調で言っているとわりにあっけない姿になっていました。状況を見る限りこの喰種はリーダーだと思われますが、案外弱いかもしれません。

 

(それよりも先ほどマミミに嫌なものを見せましたが....状況的に仕方ないですね)

 

さっきマミミに腕を切断するところを見せてしまいましたが、喰種に殺されるよりはマシです。マミミには申し訳ありませんですが、僕は今戦いに集中しないといけません。

 

「おいっ!お前ら!さっさとこのガキをぶっ殺せ!」

 

リーダーの喰種がそう言うと僕の周囲にいた下っ端の喰種たちはそれぞれ違う形の赫子を体から表し、一斉に僕に襲いかかった。襲いかかってきた喰種は5体。新米の保安官だったら状況が読めずに攻撃されるかもしれません。だけど、僕は違います。

 

「一気に来るとは、面白い喰種ですねえ〜」

 

僕は包囲される前にすぐに前から脱出し、手前にいた喰種の手足を僕が持っていたナイフ型クインケ"サソリ”で順番に切り落とし、最後に頭首に突き刺しました。通常喰種は人間と違い体が丈夫なため、ただのナイフや鉄砲の攻撃を受けても無傷です。しかし僕が持っているものはクインケと呼ばれる保安官が持つ対喰種武器で、喰種の体に傷を与えることができ、殺すことができます。

 

「あぁがぁ...!」

 

「はい、一匹目」

 

僕がそう言うと首を突き刺していたナイフを抜きとり、手足を切断され首に大きな深傷を負った喰種はばたりと倒れ、体に生えていた赫子が消え去りました。

 

「調子のんじゃね、ガキ!!」

 

1人が尻尾のような赫子で僕を突き刺そうとしましたが、僕は体を瞬時に避け、左手にもう一本サソリを取り出しナイフを頭に命中させました。

 

「僕をガキと言っても、おそらく僕はあなた達より大人ですよ。これはある意味補導ですよ、補導」

 

これはどんな時もそうですが、感情的になるのではなく楽しめなきゃダメです。彼らはおそらくは10代後半か20代前半の若い喰種ばかり集まった集団。先ほど戦っている喰種たちの攻撃は感情に任せっきりで先を考えていません。まさに若気の至りですね。

 

「こ、こいつ....マジで強えぇ..」

 

僕を襲ってきた三人の喰種はあっという間に2体を倒した僕を見て圧倒されたのか攻撃をやめ、のそのそと後ろに下がった。

 

「あなたたちぐらいだったらサソリだけで十分でーーー」

 

僕はくるくるとサソリを手で回し、余裕が入った声を言ったその時だった。くるくると回していたサソリが突然吹き飛びました。

 

「俺を忘れんじゃねぇよ」

 

「おやおや、あなたは口だけではないようですね」

 

先ほど片腕を落としたリーダの喰種の背中から羽の形をした赫子が現れていました。その赫子のタイプは羽赫で射撃型の赫子です。リーダーの喰種は「おらおらおら!!」と背中に生えた赫子で僕に赤い弾幕を放ちます。

 

(...少しやるようですね、この喰種は)

 

僕はすぐに攻撃を避けるが、反撃のタイミングが見つからずにただ避けていました。羽赫のめんどくさいところは攻撃範囲が広いところです。他の赫子だとタイミングは掴めれますが、羽赫だとわずかながら掴みづらい。あとこのリーダーは先ほどの態度とは違い、この強さはおそらくレートS以上。この集団の中では一番強いはずです。

 

「これでどうだ!!」

 

するとリーダーの喰種は逃げていく僕に一度弾幕を放つのをやめ、そして逃げ回る僕を追いこすように集中的に弾幕を放ちました。一応その弾幕は頑張れば避けれますがーーー

 

「ーーー仕方ないですね」

 

僕はそう言うと弾幕の弾着地点にわざと入り、持っていたアタッシュケースで弾幕を防いだ。アタッシュケースに赤い宝石の形をした弾幕が被弾、ケースの取手に弾幕が着弾した振動が伝わりました。

 

「なんだよ?俺の攻撃に耐えきれないのか?」

 

「いえいえ、確かにあなたの攻撃は強いのですが、今この箱の中に強いクインケがあるんですよ」

 

「....は?」

 

だいたいナイフ型のクインケ"サソリ"だけで済ますことが多い普段の捜査では使うことのないクインケ。よっぽど相手が強くない限り使用しないのだが、どうやら今回はその使用する場合のようです。

 

『おいで、ジェイソン』

 

僕は誰かに囁くように呟きアタッシュケースの取手にあったボタンを押すと固く閉ざしていたケースがパカっと開き、取手を持っていた手には長い棒が現れ、棒の先には大きな赤い鎌の刃がぎらりと姿を表しました。

 

「これでよし」

 

そのクインケの名前は13`s ジェイソン。僕が高レートの喰種を倒し作ったクインケで、"あの時"以来久しぶりに手にできて気持ちが湧きあがります。

 

「あ、あれは...!」

 

すると一部の喰種が什造が持っているクインケに何か気がつき、好戦的な顔が一気に真っ青になった。

 

「な、なんだよ、お前ら!!」

 

リーダーの喰種は怯え始めた仲間に異変を感じ、怒りが混じった声で士気を整えさせようする。周りの下っ端喰種は気がついているが、どうやらリーダーは僕の正体に気づいていない。

 

「ぼ、ぼ、ボスっ!!この白鳩(ハト)は死神ですよ!あの有馬の...!!!」

 

「死神...?...っ!」

 

リーダの喰種は少し考え、そしてやっとハッと目が開いて気がついた。

 

「...やっと気がつきましたか」

 

「おめぇが....あの死神の鈴屋か?」

 

「ええ、理解するのに遅かったですね。でも残念ながらさっさと死んでもらいます。あなた方は彼女に良からぬことし、殺そうとしたのですから」

 

 

僕は死刑判決を告ぐ裁判官のように静かにそう言うとジェイソンをぎゅっと握り、リーダーの喰種に急接近をし、ジェイソンを大きく振りかざした。

 

 

 

 

 

 

 

この喰種は大きな大罪を犯しました

 

 

 

 

 

大人になっていないマミミに危害を加えたのだから

 

 

 

 

 

そんな喰種は殺されても問題ないですよね?

 

 

 

 

 

 


 

 

つい先ほどまでただ暗かった高架橋は、數十分後には赤い血肉が散乱する殺人現場と同様に光景へと変わっていった。

 

「一仕事を終えましたね...」

 

周囲にいた喰種を一掃した僕は頭を少しかき、一息つきました。いつもなら一体か二体程度の喰種と戦いますが、今回は久しぶりに大人数の敵と戦いました。

 

(久しぶりにちょっと本気を出してしまいましたね...)

 

僕がここまで本気で戦ったのはあの竜の動乱以来です。もちろんあの人との戦いも同じく含みます。

 

(....マミミのことを忘れていけませんね)

 

本気で戦ったあまり守るべき人を忘れてしまった、僕。僕はマミミが逃げた方向に振り向きました。

 

「マミミー?出てきてくださいー?」

 

僕はおそらくマミミが隠れているだろう物置の方向に名前を呼びましたが、返事がまったく返ってきませんでした。

 

(...怖がっているんでしょうか?)

 

先ほど腕を切ってしまった光景をみてしまったのか、この喰種どもに何か怖いことをされたのかマミミは真っ暗な物置から顔を出してくれません。返事も全く聞こえなかったため僕は仕方なく自分から探しに行くことにしました。

 

(どこにいるんですかねえ?)

 

パタパタと履いていたスリッパを鳴らしながら一歩一歩進むたびに段々と暗くなっていく視界。マミミは僕が戦っている時一人で隠れていたと思います。まだ18の女の子が危険な目に出会うとなると心に深い傷を負うのは間違いありません。

 

「...っ」

 

しばらく歩いていた僕はピタリと足を止めた。

 

「見つけましたよ、マミミ」

 

「...........」

 

物置の間に人影を見つけました。そこには両耳を手で塞ぎ、しゃがんでいた紫色をした女の子。その子はマミミでした。

 

「...?」

 

マミミは僕の声を耳にするとゆっくりと目を開いた。

 

「...じゅーぞう?」

 

「ええ、そうですよ?」

 

僕はそう言うとにこりと笑いました。場を和らげようとしたのですが、今考えてみれば少々怖い行為をしてしまいましたね、僕。

 

「......うん」

 

薄暗いながらマミミは小さく頷きました。見た感じ体には傷はなく、態度は落ち着いていました。

 

「マミミはここにいてください。僕は応援を呼びますのでーーー」

 

僕はそう言い立ち去ろうとしたその時だった。

 

「...待って」

 

マミミは突然僕のシャツを掴み、応援を呼ぼうと立ち去ろうとした僕を止めました。

 

「あの、マミミ。これじゃ応援が呼べないんですが...」

 

「お願い、ジューゾ。そばにいて」

 

小さな声でまっすぐと僕の目を見る、マミミ。顔では怖がっている様子はなかったものの、マミミの瞳は恐怖で怖がっているように見えました。僕は「仕方ないですねえ」とため息をつき持っていたジェイソンを床に置き、マミミの横に座りました。物置の間ということもあり少し窮屈でしたがマミミは不満の声は上げず黙っていました。

 

(...何もしゃべりませんね)

 

マミミの隣に座ったものの沈黙がただ続いていました。僕は早く現場処理をしなければなりませんですが、マミミはそうはさせてくれません。早く他の保安官に報告したくても携帯などの連絡手段がありません。まさにお手上げな状態です。

 

(それにしても...マミミは僕と同じ身長なんですね...)

 

暇であまりに僕は横で静かにしているマミミを見ると、マミミは僕と同じ身長だと気づきました。初めマミミと会った時は自分と同じ身長であると意識しなかったものの、体がかなり密接しているせいか今更ながら気がつきました。それにマミミの髪はまるで紫の綿あめが2つついているように見えて、マミミはふつーの子ではないことも同じく気がつきました。

 

「....どーしたんですか?」

 

僕がマミミをあまりにもジロジロと見ていたせいか、ついにマミミは口を開いた。

 

「いや...マミミは不思議な子ですねえっと思ったんです」

 

「...そお?じゅーぞの方が不思議だと思うケドー?」

 

「ええ、そうですねえ。少し特殊ですけど」

 

先ほどまで硬かった空気が徐々に和やかになってきました。昔から僕は変な人と言われてきたせいか冗談が言えます。

 

「ねぇ、じゅーぞ」

 

「ん?」

 

「その首にある糸ってどうなってるの?」

 

マミミは僕の首についてあった赤い糸に気になった様子で指を指しました。

 

「ああ、これはボディステッチと言って体に縫うヤツです」

 

「ボディステッチ?」

 

「体に糸を通して縫うヤツで、もちろん痛いですけどピアスをつける感覚だったら問題ないですよ」

 

「へー、今度私もやろうかな?」

 

「ダメですよ。マミミの肌はとても綺麗ですので、傷がついたら大変です」

 

「えー、私ピアスしてるのにそのボディーなんちゃらはダメなの?」

 

「失敗したら血が出ますからね。あとこれはボディーステッチですよ」

 

「それだったらピアスと同じじゃん」

 

マミミはそう言うとファミレス以来の笑顔を出した。暗い物置でしかも一歩前に出てしまえば喰種の死体が転がっている場所にも関わらず僕たちは楽しく会話をしていました。マミミとしばらく会話をしているとーーー

 

「鈴屋先輩!!」

 

すると奥から一人の男性が息を切らしながら僕たちの元にやってきました。その男は黒い長髪をし高身長の男で僕が知っている人でした。

 

「あ、はんべーじゃないですか」

 

彼の名前は阿原半兵衛(あばらはんべえ)。僕と同じ保安官であり、僕の部下です。

 

「鈴屋さんがご無事でよかったです。現場で鈴屋さんの姿がなく喰種の遺体だけあったものなので私阿原半兵衛は大変心配しておりました」

 

「僕は簡単に死にませんよ。あとこの喰種たちは東京以外にやってきた者共です。僕を見ても怖がることもなく襲いかかったので、駆逐しました」

 

ぼくは立ち上がり床に散乱する喰種の死体に指をさし、悲惨な光景を反するかのようにはんべーににこりと笑顔で言葉を返しました。はんべーは怖がる様子を出すことなく、「また県外からの喰種ですか..」と僕の返事を重く受けっとった。

 

「それにしてもどうしてはんべーは僕がここにいるとわかってんですか?」

 

「ちょうどやるべきことが終わった時、周辺住民から13区の高架橋付近で何やら喰種の争いが置きているとのご報告を耳にし、もしや鈴屋先輩ではないかと私阿原半兵衛はすぐに向かいました」

 

「さすがはんべーですねえ」

 

はんべーは僕の部下というよりかなりの世話焼きさんです。しばらくはんべーと話していると、はんべーは僕の後ろで座っているマミミにやっと気がつきました。

 

「あの鈴屋さん?」

 

「ん?」

 

「...えっと、そちらの方は?」

 

「ああ、この子はこの喰種たちに襲われだったんですよ。僕はこの子を家に返すので、はんべーは現場処理をお願いしますね」

 

「...え?ちょっと、鈴屋先輩?それはどういーーー」

 

「さあ、マミミ。目を閉じてくださいね」

 

「え?あ、うん...」

 

僕はマミミがちゃんと目を閉じたことを確認するとマミミの手を引っ張り、はんべーを残して現場をあとにしました。はんべーとの会話はいいのですが、まずはマミミを早く帰らせることが大切です。

 

 


 

じゅーぞに手を引っ張られ、高架橋下から出た、私。外に出たあと、じゅーぞは私を道路の縁石を座らせ、「ここで待ってください」といい、先ほど『この子を家に返すので』と言ったのにも関わらずじゅーぞは再び高架橋下へと向かった。

 

(...行っちゃった)

 

ついさっきまではじゅーぞとくっついていたせいか一人に取り残されても恐怖心が生まれなかった。あんなにおびえていたのになんでだろう?そう考えていると東京保安委員会(TSC)の保安官の人たちが続々とやってきて、さっきまでいた高架橋下はブルーシートで封鎖された。

 

(じゅーぞって一体何者だろう?)

 

じゅーぞは確か東京保安委員会(TSC)の保安官だと知っているのだけど、あんなに強そうだった喰種の集団をたった一人でやっつけたのだ。流石にふつーの保安官だなんて言えるわけがない。そう考えているとーーー

 

「お待たせしました、マミミ」

 

「あ、じゅーぞ」

 

ブルーシートで被された入り口からじゅーぞがヒョイっと顔を出し、私が座る縁石の元に戻ってきた。

 

「お待たせてしまって申し訳ないです」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

私がそう言うとじゅーぞは「それはよかったです」と私が座る縁石の横に何気なく座った。

 

「...どうだったの、さっきの喰種って」

 

「ええ、久しぶりに本気を出したほどですので強かったですね」

 

「久しぶりって、どのぐらい?」

 

「だいたい去年ぐらいですね」

 

「去年って...それまでは本気で戦ってなかったの?」

 

「ええ、そうですよ」

 

ジューゾはそう言うとにこりと笑った。ちなみに言うけどじゅーぞは先ほどまで喰種と戦ったばかりだ。それにも関わらずどうして笑顔が出せるのかわからない。どうしてそこまで笑顔を出せるのか、ふと考えているとーーー

 

「それよりも、マミミ」

 

すると笑顔を出していたじゅーぞがそう言うと空気が一変した。

 

「マミミはなんで僕の言うことを聞かなかったんですか?」

 

じゅーぞはまっすぐと私を見ながらそう言った。ずっと同じトーンで私に話していたにも関わらず、今じゅーぞが話している感じはどこか厳しく聞こえる。

 

「....」

 

私は口を閉ざしてしまった。私がじゅーぞの従わなかったのは事実だ。でもどう返せばいいのかわからない。

 

「...ごめんなさい」

 

私はどんな言葉を言えばいいのか考えた末、私はじゅーぞに単純な謝りしか思い浮かばなかった。明確な理由を言うべきなんだかけど、じゅーぞには通用するかわからなかったから、結局そうなってしまった。あと一人で多くの喰種を倒したじゅーぞなら私に何かするのか少し怖かった理由もあるけれど...

 

「...マミミが無事だけでもよかったです」

 

じゅーぞは落ち着いた声でポンっと私の頭に手を置いた。

 

「...うん」

 

「喰種に命を奪われなくても、手足を奪われてしまった人がいるんですよ。今回マミミが無傷でいられたのは、たまたま運が良かったかもしれませんね」

 

通常の私ならば耳に入らない言葉だけど、今の私は本気で死ぬんじゃないかと思ったためか深く感じられる。

 

「....」

 

「まあ、流石の今回の"いたずら"は度が過ぎていますのでやめてください」

 

じゅーぞの言葉を耳にした私はにやりと口を少し歪ませ、あることを思いついた。

 

「そうだね...今度じゅーぞに会ったらいたずらをしますよー」

 

「え?今度ですか?またマミミに会えるんですかねえ?」

 

「またどこかで会えるんじゃないかな?」

 

私はそう言うとふふんっと鼻で笑った。

 

「とりあえずTSC(うち)の車をでマミミの家まで送るのでーーー」

 

「自分で帰れる」

 

「...え?」

 

私はじゅーぞの言葉を遮り、じゅーぞは突然私の口から出た言葉にぽかんと口を開いた。

 

「本当にマミミ一人で帰るんですか?」

 

「うん、また喰種に襲われるのは勘弁だからこのまま駅に帰る」

 

「....」

 

先ほどファミレスで嘘ついて家に帰らなかったためかじゅーぞは私の言葉に疑うような目でじっと見ていたが....

 

「...マミミの態度を見る限り、本当に帰るっぽいですね」

 

「ぽいって、まみみは本当に自分の家に帰るよ」

 

じゅーぞは結局私の言葉を信じたらしい。流石にまた同じパターンに入ろうとは思わない。次こそはじゅーぞの助けがなくて間違いなく死ぬ。

 

「まぁとりあえずマミミがそう言うならば帰ってくださいね。えっと時間的には...頑張ればすぐ電車に乗れて帰れますね」

 

「時計ないのにどうしてわかるの?」

 

「...勘ですよ」

 

「勘って、じゅーぞってやっぱり変だね」

 

「マミミも同じく変では?」

 

「それはどうかなぁー?」

 

私はじゅーぞをからかうように小さく笑った。さっきまで喰種に拐われたのに、じゅーぞと楽しく話ができたせいか怖かった記憶が思い出さずに笑ってられる。

 

「さてと...マミミは本当に帰ってくださいよ?」

 

「うん、このまま帰るねー。さよーならぁ」

 

私はふらりと立ち上がり、そのままじゅーぞの望み通りに帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

その時の私はまた会えるとは本気で思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

その時の私も、きっとじゅーぞも同じくそう思っていたはず

 

 

 

 

 

 



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