とあるギンガのPartiality Vivid (瑠和)
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第一章
プロローグ


えー皆さま初めましてのかたは初めまして彪永と申します。本日よりこの小説を頑張って書いていきたいと思います!応援よろしくお願いします。

感想、投票、評価、随時お待ちしております。


次元世界ミッドチルダ。「この世界」にはこの世界の中心となる人物たちがいる。

 

一人目は、この世界でJS事件やマリアージュ事件、そしてある大きな事件の解決に関わった青年、橘アキラ(現アキラ・ナカジマ)。アキラはある実験で生み出された生物兵器だったが今は普通の人間として人生を歩んでいる。彼は過去に大切な人物を失い、絶望の底にいた。それをギンガ・ナカジマが救った。そのことがきっかけとなり、ギンガとアキラは付き合い、そして結婚した。そして今では管理局108部隊の戦闘部隊隊長だ。

 

二人目はギンガ・ナカジマ。アキラと一番深い繋がりを持った人物だ。アキラと結婚し、今は一児の母だ。

 

 

三人目はノーリ・ナカジマ。ノーリはアキラのクローンであり、とある事件で戦力として利用されていた。しかし今はアキラたちに引き取られ、ヴィヴィオたちと同じSt.ヒルデ魔法学院中等科1年生でありアインハルト・ストラトスとはクラスメイトである。

 

 

この物語はこの三人が中心となる物語である。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー新暦79年4月ー

 

次元の海の中心世界、ミッドチルダ都市型テロ「JS事件」の発生と解決から4年が経過していた。そして、同じく都市型テロで管理局地上本部に多大なダメージを与え、街にも大きな爪痕を残した「黙示録事件」からすでに3ヶ月が経過していた。

 

被害を受けた街の西側はまだ再建がむずかしいところだった。だが3か月も経てばほとんどの人が日常に戻っていたり新たな生活を送っていた。

 

 

そしてとある日の朝、ナカジマ家ではギンガ・ナカジマとその旦那であるアキラ・ナカジマが朝食の準備を完了させたところだった。

 

ここのナカジマ家はこの二人の家であり、ゲンヤや元ナンバーズたちはいない。まぁ要するにギンガが結婚し、アキラと建てた二代目のナカジマ家だ。家に住んでいるのはギンガ(21)、アキラ(21)、娘のアリス(四ヶ月)、ノーリ(12)、ギンガの妹にあたるセッテ(17)の5人である。

 

「さて、みんな起こそうか」

 

「うん」

 

この物語はこの新しいナカジマ家の鮮烈な物語である。

 

「じゃあ行ってくるぜ」

 

「行ってきます」

 

ヒルデ魔法学院中等科一年生のノーリは朝早くに出かけ、それとほぼ同タイミングでセッテも108部隊に出かける。

 

「いってらっしゃい」

 

「気ぃつけろよ」

 

そう言ってギンガとアキラの二人が見送った。ちなみに二人はセッテと同じミッドチルダ管理局地上陸士108部隊所属しており、アキラは戦闘部隊の隊長でギンガは副隊長であるが、今は一年の産休をもらっている。

 

「あ、おはようございます!」

 

ノーリの背後から少女の声がした。振り返ると、高町ヴィヴィオとその友人二名が手を振っていた。彼女らはノーリと同じ学校の初等科である。

 

「ああ、おはよう」

 

「ノーリさん、今日放課後格闘技(ストライクアーツ)の練習しに行くんですけど一緒にどうですか?」

 

「ノーヴェもセッテも早上がりだから来るって」

 

「そうか、じゃあ参加させて貰おうかな。あ、ヴィヴィオ、大人モードの練習ははかどってるか?」

 

「はい!おかげさまで!」

 

ノーリはヴィヴィオの変身魔法の先生で、格闘技に関してはヴィヴィオが少し経歴が長かった。ノーリの基本的な武器は剣や魔法だが、ヴィヴィオに勧められて始めたのがきっかけだった。

 

「じゃあ放課後、校門で!」

 

「おう」

 

初等科と中等科は校舎が離れているのでヴィヴィオ達とは途中でお別れだ。ノーリが中等科校舎に向かおうとした瞬間、その真横を同じ中等科の少女が通った。ノーリと同じクラスのアインハルト・ストラトスだ。

 

「アインハルトさん」

 

ノーリが呼び掛けるとアインハルトは振り向いたが、会釈をしてまた歩こうとする。

 

「待ってくれよ、落としたぜ」

 

ノーリの声にアインハルトが再び振り向く。ノーリの手にはアインハルトの学生証があった。

 

「失礼しました。ありがとうございます」

 

「ああ」

 

 

-ヒルデ魔法学院中等科校舎 廊下-

 

 

 

ノーリとアインハルトはそのまま一緒に教室まで歩いてきた。

 

「ノーリさんのご家族は、みなさん強いのですね………」

 

「まーな。にしてもなんで俺の家族のことなんて気にすんだ?」

 

「いえ………ただの移動中の会話です」

 

「ま、いいけど」

 

ノーリはそのままスタスタと教室の自分の席に歩いて行った。教室の前でアインハルトは立ち止まり、小声で呟いた。

 

「すこし………確かめたいことがあっただけで」

 

 

 

 

 

続く



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第一話 襲撃!覇王を名乗る少女

どうも、さぁ、待望の第一話です。この時点でかなり本編とは話がかわるかもです。

感想、投票、評価、随時募集中です。


ーある日ー

 

 

 

この日はSt.ヒルデ魔法学院の進級日だった。いわゆる始業式である。

 

その日のナカジマ家(アキラ・ナカジマ家)

 

「アキラ君」

 

「ん?」

 

「これ見て。ヴィヴィオから」

 

絶賛子育て中のギンガの端末にヴィヴィオから写真が送られてきていた。写真に写っているのはヴィヴィオとその友人、リオ・ウェズリー、コロナ・ティミルの三人だった。

 

「おやおや。これはまた楽しそうな写真だな」

 

「うん♪4年生の進級記念にって」

 

「そうか…じゃあ俺らも送るか」

 

「そうだね」

 

ギンガとアキラは娘であるアリスとともに三人で写真を撮ってヴィヴィオに送り返した。そして送ってからすぐに返信が来た。

 

「ん?」

 

「早いな」

 

送信者を確認すると、それはヴィヴィオではなくゲンヤたちがいるほうのナカジマ家からのメッセージでウーノからだった。

 

ちなみにウーノは、スカリエッティとともにJS事件の協力者だったが、アキラに説得され、チンクらとともに今はナカジマ家に身を置いている。

 

「ウーノからだ」

 

「なんだって?」

 

「今日の夕飯をこっちでやらないかだって。お父さんが友達から旅行のお土産にいいお肉もらったからって」

 

「そうか。じゃあお言葉に甘えさせてもらおうか」

 

アキラは笑って答えた。

 

 

 

ーナカジマ家(ゲンヤ家)ー

 

 

時刻 21:00

 

ちょうど夕飯の時刻にアキラとギンガ、そして学校から帰ってきたノーリと仕事が終わったセッテとともにナカジマ家に来ていた。

 

「おいっス~アキラ!久しぶりっス!」

 

「おう」

 

「以前より男らしくなったんじゃないか?」

 

「そうかもな」

 

アキラは着くや否やナンバーズに囲まれた。アキラは3か月前起きた黙示録事件の後、とある人物に3か月間鍛えられていたため、ナンバーズに合うのは3ヶ月ぶりだった。

 

「お疲れ様です。上着預かります」

 

「ああ。ありがとなウーノ。さ、飯にしようぜ」

 

アキラは上着をウーノに預け、席に着く。すでに食卓には大鍋が四つほど置かれていた。

 

「おう、久しぶりだな。アキラ」

 

「……ああ」

 

「そうだ。皆さん今日、部隊の方で話した連続傷害事件……いやまだ事件ではないんですがそのことで皆さんに話したいことが」

 

セッテが全員席に着いた時点で彼女がこの日108部隊で少し話されたことを切り出した。

 

「事件じゃない?なんじゃそりゃ」

 

「これを」

 

セッテはデバイスから写真を表示した。そこには倒れたがたいのいい男と、それを倒したように見える女が映っていた。

 

「被害者は主に格闘系の実力者。そういう人に街頭試合を申し込んで…」

 

「フルボッコってか」

 

「あたし知ってるッス!ストリートファイターってやつっス」

 

「そうです。まだ被害届が出ているわけではないので事件として扱ってませんが、私たちも狙われる可能性がありますし。特に…」

 

セッテが心配そうな顔でアキラとギンガを見た。その顔が意図する思いをアキラは汲み取り、笑ってセッテを撫でる。

 

「心配すんな。俺が負けると思うか?それに、ギンガにはいつも俺がついてる」

 

「はい…お二人が負けるとは思ってません。ただ、お二人とも今は産休で街にいることが多いので、狙われやすいのではないかと」

 

「そうだな…ま、そんときゃ返り討ちにしてやるよ」

 

「アキラ君…」

 

「そんなことより飯だ飯。食おう……どうした?ノーリ」

 

ノーリはじっとセッテが表示した女性を見ていた。そのことにアキラは疑問を持った。

 

「いや、どこかで見たことあるような……」

 

「そうなのか?」

 

「………気のせいだろう。食べよう」

 

その話題はそこで切れ、今度は高町家の一人娘であるヴィヴィオの話に変わった。今日ギンガが買い物しているときに、本日ヴィヴィオの進級祝いの料理の材料を買いに来ていたなのはに会ったのだ。

 

そこでヴィヴィオに新しいデバイスをプレゼントすることを聞いたのだ。

 

「そうかヴィヴィオがねぇ…」

 

「高町んとこの嬢ちゃんか今いくつだっけ?」

 

「10歳だな。初等科4年だから」

 

ゲンヤの疑問にノーリがいち早く答える。

 

「さすがいつも一緒なだけあるな」

 

「お前もだろノーヴェ。いや、ノーヴェ師匠?」

 

ノーヴェに言われ、ノーリが返す。ノーヴェはノーリに言われ、顔を真っ赤にする。

 

「そ、そんなんじゃねぇよ!ただ一緒に練習してるだけ…まだまだ修行中同士ペースがあうからさ…」

 

「そうか…俺としてはお前がそんな風に丸くなってガキどもに好かれてんなら何でもいいと思うがな」

 

アキラはアリスの頬をつつきながらいった。

 

「…どーも」

 

照れながらノーヴェは答える。

 

「ああそうだ。来週俺とギンガで聖王協会の方に行こうと思うんだが、お前ら来るか?」

 

「うん」

 

「では姉も久しぶりに行くとするかな」

 

「あんまり大勢で行くのは推奨できないが……まぁいいや」

 

 

 

その後も様々な話をして、その日の夕飯は大いに盛り上がった。

 

 

 

-翌週 聖王協会-

 

 

 

聖王協会本部のとある一室。ここでは一人の少女がここ一年ほど眠っている。そこにセインが入ってきて眠っている少女の顔色を見たあとカーテンを開けた。

 

「今日もいい天気だよ。そうそう、午後からアキラ達とが来るってさ。楽しみだね。イクス」

 

眠っている少女の名前はイクス。かつて冥府の炎王と呼ばれた古代ベルカの王の一人だ。

 

 

 

-13:45-

 

 

 

数時間後、イクスが眠る部屋にアキラとギンガ、そしてヴィヴィオが入ってきた。

 

「お邪魔しますっと…」

 

アキラが扉を開けて入るが、イクスは目覚めるわけではなくただ眠っている。

 

イクスは古代ベルカから何度か覚醒するも基本的には眠り続けていたが、最近起きた事件がきっかけで再び目を覚ました。しかし正しい覚醒の仕方をしなかったため、再び眠ってしまっていた。アキラやスバルと悲しい別れ方をして。

 

「ごきげんよう。イクス」

 

「よう。見舞いに来たぜ」

 

「久しぶり」

 

アキラ、ギンガ、ヴィヴィオの三人はイクスのベッドの隣に座る。

 

「顔色いいじゃねぇか」

 

「お加減、良さそうでよかった」

 

アキラはギンガからアリスを預かり、イクスの手をアリスの手と繋がせる。

 

「ほら、アリスがまた大きくなったんだ。手、前より大きくなったろ?」

 

「…アキラ君またたくさんの人を護ったの。それにまた強くなったんだよ。だからイクス。いつ起きてもいいからね、アキラ君が護ってくれるから」

 

「ああ」

 

 

 

-カリム・グラシア執務室-

 

 

カリムの執務室にはお見舞いを終えたアキラとギンガ、チンクの三人が集まっていた。

 

「ごきげんよう。アキラ二尉、ギンガ準尉」

 

「お久しぶりです。カリム」

 

「お久しぶりです」

 

「アリスちゃんも」

 

カリムがアリスに優しく微笑む。アリスも笑ったような気がした。

 

「どうも、わざわざ……」

 

「いいえ。それでお話しっていうのは、例の襲撃犯のことですね

?」

 

カリムがチンクに訪ねる。

 

「はい。我ながら要らぬ心配だとは思うのですが、格闘技の実力者を狙う襲撃犯。彼女が自称している『覇王』イングヴァルトといえば」 

 

「ベルカの戦乱期…諸王時代の王の名前ですね」

 

「ヴィヴィオの母体である「最後のゆりかごの聖王」オリヴィエ聖王女殿下や、ここのイクスヴェリア陛下とも無縁ではありません。まぁ一般の歴史には冥府の炎王は男性でアガリアレプトという名前なので、イクスヴェリア陛下が狙われるなんていうことも早々ないかと思うのですが…」

 

チンクの言う通り、この世界では冥府の炎王イクスヴェリアは一般的な名前ではない。女でもない。

 

アガリアレプトという男だというのが一般的な歴史として扱われている。アガリアレプトはイクスの代わりに冥王としてその役割を担っていた。

 

アキラはそんなアガリアレプトのDNAをベースに作られた人造魔導士だがそれはまた別のお話。

 

「ヴィヴィオやイクスに危険が及ぶ可能性が?」

 

「なくはないかと」

 

チンクが今回同行したのはイクスやヴィヴィオの身を案じてカリムにこの事を伝えるためだった。

 

「騎士カリム。これを渡しておきます」

 

アキラはカリムに通信機を渡した。

 

「これは?」

 

「ギンガと俺が持ってるのと同じものです。俺にとっちゃギンガが一番ですが、今はイクスも心配なので。側面に付いてる黄色いボタン押してもらえれば俺がすぐ駆けつけます。緊急時に使ってください」

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

その後の談笑のあと、アキラたちは聖王協会に身を置いている他ナンバーズに挨拶をしてその日は帰ることにした。

 

 

 

-ナカジマ家-

 

 

アキラはセッテが帰ってくる前に夕飯の支度を済ませてしまおうとして早めに準備をしていた。ギンガも手伝おうとしたが、アリスがぐずってしまったので世話に手一杯になってしまった。

 

そして、調理を始めようとしたちょうどそのとき、アキラは材料と調味料が足りないことに気づいた。

 

「ん…あれ……ギンガー!醤油の変えもうなかったか?」

 

「あ、ごめんなさいアキラ君!ちょうど切らしてて…」

 

「ああ。いい、大丈夫だ。ちょうど材料も足りないからちょっと買ってくる。ノーリ!」

 

アキラは自室にいるノーリを呼んだ。

 

「どうかしたか?」

 

「ちょっと買い物に行ってくる。ギンガのこと頼む」

 

「わかった」

 

ギンガをノーリにまかせてアキラは買い出しに出掛ける。アキラはギンガ第一に生きているし、3ヶ月前の黙示録事件でギンガが拐われたこともあって基本的にギンガを一人にしないようにしてる。

 

どうしても一人にする場合は必ず誰かをつけさせるしギンガにも先程カリムが渡された通信機と同じものを持たせている。それほどアキラはギンガを愛してるし、護りたいと思っているのだ。

 

 

 

-ミッドチルダ街中-

 

 

 

同じ時間、ヴィヴィオたちとストライクアーツの練習をしたあと、救助隊の装備調整によばれたノーヴェが一人で夜道を歩いていた。

 

そのとき、ノーヴェの上空から声がした。

 

「ストライクアーツ有段者、ノーヴェ・ナカジマさんとお見受けします」

 

「!」

 

ノーヴェがすぐに上空を見ると、街灯の上に一人の少女が立っていた。セッテに見せてもらった画像に写っていた連続傷害事件の主犯だ。

 

「あなたにいくつか伺いたい事と、確かめさせていただきたい事が」

 

「質問すんならバイザー外して名を名乗れ」

 

ノーヴェは突然現れた相手に冷静に対応する。ナンバーズ時代に比べればさすがに少し大人になったようだ。

 

「失礼しました」

 

女性は素直にバイザーを外した。

 

「カイザーアーツ正統、ハンディ・E・S・イングヴァルト。『覇王』を名乗らせて頂いてます」

 

バイザーの先には整った顔と冷たい瞳、そしてその瞳は碧と紫のオッドアイだった。

 

「噂の通り魔か」

 

「否定はしません」

 

イングヴァルトを名乗る女性は街灯から降り立った。

 

「伺いたいのはあなたの知己である『王』達についてです。聖王イクスヴェリアのクローンと、冥府の炎王アガリアレプト」

 

その事を聞いた瞬間、ノーヴェの表情が強ばる。

 

「あなたはその両方の所在を知っていると」

 

「知らねぇな」

 

ノーヴェは食いぎみに答えた。

 

「聖王のクローンだの冥王陛下だのなんて連中と知り合いになった覚えはねぇ。あたしが知ってんのは、一生懸命生きてるだけの普通の人間だ」

 

その言葉に、イングヴァルトは関心を示したがすぐに別の事を話す。

 

「理解できました。その事については他を当たるとします。ではもうひとつ確かめたいことは、あなたの拳と私の拳、どちらが強いのかです」

 

イングヴァルトが言った言葉の意味はつまりは決闘の申し込みだ。

 

ノーヴェはそれを受けた。自身が管理局側の人間である以上危険と思われる人物を放置しておけないこと、そしてヴィヴィオ達の身を案じての受諾だった。

 

二人は少し離れて戦闘準備をする。

 

「防護服と武装をお願いします」

 

「いらねぇよ」

 

ノーヴェは防護服も武装もなしに勝負を受けた。相手をなめているわけではない。そもそもまともに決闘をする気もない。

 

不意打ちとスタンショットでさっさと捕縛すれば済む話だと考えていた。

 

「そうですか」

 

「よく見りゃまだガキじゃねーか。なんでこんな事をしてる?」

 

「…………強さを知りたいんです」

 

ノーヴェの質問に若干の間を開けてイングヴァルトは答えた。ただのストリートファイターではなく、なにやら理由のあるように見えた。

 

「ハッ!馬鹿馬鹿しい」

 

ノーヴェはその答えに軽く笑いながら構える。

 

そして、わりとなしに離れた距離だと言うのに立っていた場所から一気に距離を積めるジャンプとともに膝蹴りを放った。

 

「ーっ!」

 

イングヴァルトはその膝蹴りをギリギリガードするが、さすがに驚いていた。その速度と威力と合図もなしに攻撃してくる卑怯さに。

 

ノーヴェはそのままスタンショットを放った。イングヴァルトはそれを受けきり、少し後方に下がらされたが耐えた。

 

(ガードの上からとはいえ、不意打ちとスタンショットを受けきりやがった…)

 

かなり威力で放ったつもりだがイングヴァルトは表情ひとつ変えていない。多少の加減はあったとはいえノーヴェも戦闘機人だ。その一撃を防ぎきる時点でかなりのやり手だと言うことは明白だった。

 

(チッ、言うだけのこたぁあるってことか)

 

不意打ちによる気絶、捕縛が失敗した以上、本気で叩き潰す以外の選択肢はなくなってしまった。ノーヴェは仕方なく自身のデバイスであるジェットエッジを取り出して構える。

 

「ジェットエッ…」

 

ジェットエッジを起動させて防護服とバリアジャケットを装備させようとした時、ノーヴェの腕を誰かが掴んだ。

 

「!」

 

「何やってんだお前」

 

ノーヴェの腕を掴んだ人物、それは買い物袋を持ったアキラだった。

 

「アキラ…!」

 

「まぁ察するに、件のストリートファイター殿がお前に喧嘩吹っ掛けてきて、お前が受けるも勝てるかわからなかったからデバイスを出したって感じか」

 

アキラが分析するとノーヴェは少し罰の悪そうな顔をする。

 

「まぁ……大体そんなところだよ」

 

「喧嘩するのは結構だがな。セッテと違って正式な局員でもねぇお前が街中で不用意にデバイス出してんじゃねぇ!」

 

「あたっ!」

 

アキラはノーヴェを小突く。

 

「あなたは……アキラ・ナカジマさんですね?」

 

二人の様子を見ていたイングヴァルトが訪ねた。

 

「おう。ご存知いただいており、光栄です。覇王様」

 

アキラは皮肉も込めて言った。

 

「彼女の保護者ですか?」

 

「んー、いや。半分当たりって感じかなぁ。俺ぁこいつの姉貴の旦那。まぁ義理の妹だな」

 

「…そうですか。できれば邪魔しないでいただけますか?私は今、ノーヴェ・ナカジマさんとどちらの拳が強いが確かめているので」

 

イングヴァルトは丁寧にアキラに退いてもらえるように頼んだ。

 

「産休中とはいえ俺も一応局の人間だしなぁ…同意の上とはいえ決闘をする身内と連続襲撃犯をわかりましたって見逃すわけにもいかねぇんだよなぁ………あ、そうだ」

 

アキラは最初から用意していた答えをわざと悩みながら導いた。

 

「俺と戦ってくれねぇか?」

 

「え?」

 

「俺はノーヴェより何倍も強いし、お前も雑魚をチマチマ潰してるだけじゃいつまでも強さなんかわからねぇだろ?ここは一つ、大物をぶっ潰した方がお前の言う強さってのも分かりやすくなるんじゃねぇか?」

 

「誰が雑魚だ!?」

 

「お前は黙ってろ」

 

アキラの言葉にカチンときたノーヴェが噛みつくが、アキラは気にしない。そんな中、イングヴァルトはアキラの提案に悩んでいた。はあまりよいものではないにせよ、このまま只で返してくれそうになかった。

 

「わかりました。どのみち、退かないのであれば力ずくでも退いてもらおうと思っていたので」

 

「そうか。んじゃ、やろうか」

 

アキラは手に持っていた買い物袋をノーヴェに押し付け、前に出る。

 

「では、参ります」

 

「おう。来い。…ああ、そうだ」

 

アキラはなにか思い出し、両手を広げてその場に立った。

 

「…?」

 

「お前、ノーヴェにすでに一発貰ってんだろ。ハンデだ。どこでも好きなとこに来いよ」

 

アキラは最初の攻撃をイングヴァルトに譲ると言うのだ。

 

「いえ…そういうわけには…」

 

「へぇ。案外真面目なんだな。でもこのままじゃ不公平だろ?いいから一発、打ってみな。本気でな」

 

「ですが…」

 

譲合いの勝負になってしまった。しばらく二人は話すがお互い譲る気はない。

 

「いいから来いよ。早くしないと……俺が先に」

 

 

 

「狩るぞ」

 

 

 

最後の三文字を言われた瞬間、イングヴァルトは自身が斬られ死ぬイメージを見た。全身から冷や汗を流し、膝をついた。

 

「あ……」

 

「…」

 

「はっ…はっ…はっ…」

 

顔から血の気が引く。呼吸が過呼吸になり、流れた汗が頬を伝う。脳にこびりついたイメージが消えない。

 

(やらなきゃ…やられる……)

 

イングヴァルトは全身に力を入れて立ち上がる。そして、アキラに突進した。

 

「あれ?耐えちった?」

 

アキラは殺気と魔力圧による気絶を狙ったがイングヴァルトは予想を上回ってそれを耐えきった。それどころか殺気に恐れ、殺されたくないという恐怖とともにアキラに反撃してきた。

 

イングヴァルトはアキラの目の前まで接近し、構えた。

 

「思ったより早いな」

 

「覇王!断!空!拳!!」

 

イングヴァルトは全力の断空拳をアキラに当てた。殺されないために、生きるために、アキラに全力全開を当てたのだ。

 

「……」

 

「…」

 

精神が乱れ、多少型にブレがあったとはいえ、イングヴァルトは全力の奥義を繰り出した。本来、イングヴァルトのイメージではアキラは断空拳を食らって吹っ飛ぶと思っていた。

 

だが、結果は思い通りにはならなかった。アキラはびくともせず、その場に立っていた。

 

状況が飲み込めないまま、イングヴァルトは後方に飛んだ。

 

(私は………全力の断空拳を……放った!)

 

アキラから距離を取り、構え直そうとする。

 

(型に多少のブレはあったかもしれない!それでも!こんな…!)

 

「ちょっと痛かったぜ」

 

アキラはいつの間にか真横にいた。恐怖のあまり、イングヴァルトの息が止まる。そして彼女は反撃するより先になにか大きな音とともに気絶した。

 

 

 

 

続く



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第二話 剔抉!覇王を継ぐもの

早くも第二話。4000文字くらい書きましたが、一言で言うとアインハルトの正体がバレるってだけです。次回はなるべく早くに出したいですね。


108部隊のアキラ・ナカジマは、最近ミッドチルダを騒がせているストリートファイター、『覇王』とノーヴェの「喧嘩」に割り込んだ。

 

イングヴァルトと名乗る少女はアキラに全力の「覇王断空拳」を放つが、アキラはびくともしなかった。

 

 

 

-イングヴァルトが気絶する少し前-

 

 

イングヴァルトは自身の必殺技、「覇王断空拳」が効かないことに驚愕し、大急ぎで後ろに飛んだ。

 

刹那、アキラはイングヴァルトの真横に飛んだ。イングヴァルトとノーヴェが一瞬目を離した隙にだ。

 

イングヴァルトがアキラの存在に気づくか気づかないかくらいのタイミングで、アキラはイングヴァルトに声をかける。

 

「ちょっと痛かったぜ」

 

その声でアキラに気づいた瞬間、アキラはイングヴァルトの顔の目の前で手を叩いた。

 

死が訪れるかもしれない恐怖の中、極限まで緊張の糸は張りつめられ、脳はたくさんの情報を取り入れようと無意識のうちに五感を張り巡らせる。

 

そこに大きな音を目の前起こされると柏手の音でも脳に衝撃を与える。

 

イングヴァルトがその衝撃を食らって目の前が真っ白になった瞬間、間を開けず、アキラはイングヴァルトのうなじを手刀で叩いて気絶させた。

 

倒れかけたイングヴァルトをアキラは支えてやる。

 

「あい、いっちょあがり」

 

「はえぇ…」

 

ノーヴェは戦うまでもなく終わらせたアキラに驚いていた。

 

気絶したイングヴァルトは武装形態が解除され、少女の姿に戻る。

 

「やっぱ変身魔法だったか……おいノーヴェ」

 

アキラはノーヴェを呼んだ。

 

「ちょっとこいつの服とか漁れ。なんか身分証明になるものなきゃ家に届けられねぇ」

 

「へいへい」

 

相手はまだ少女なので男のアキラがやたらに触るものではないと、ノーヴェに任せる。

 

ノーヴェが身体チェックをするとポケットから鍵が出てきた。

 

「持ってんのはこれだけっぽいな…」

 

「貸しロッカーのキーか。このカラーと形…たぶん駅前の古い型やつだな。ちょっと荷物持ってくるから。その子俺の家に運んどいてくれ。ゲンヤさんには俺から連絡しておく」

 

「わかった」

 

「ああ、俺の買い物袋忘れんなよ」

 

「わかってる」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

-翌朝 10時42分-

 

「ん…」

 

イングヴァルトと名乗っていた少女は、知らない部屋の中で目を覚ました。

 

「……ここは?」

 

目を覚ました彼女は昨日の記憶が曖昧だった。なんとか思い出そうとしているとき、部屋の扉が開かれた。

 

「あら、起きた?」

 

赤ん坊をつれた髪の青い女性が部屋に入ってきた。ギンガだ。

 

「あの…ここは……いったい」

 

「ここは私と…」

 

「俺の家だ。お目覚めかい?覇王様?」

 

ギンガの後ろからアキラが顔を出す。

 

アキラの顔を見てイングヴァルトはすべてを思い出す。ノーヴェに勝負を申し込んだこと、そこに割り込んできたアキラに全く敵わなかったこと。

 

「アキラ…ナカジマ…」

 

「おう。覇王ハンディ・E・S・イングヴァルト改め、St.ヒルデ魔法学院中等科1年生、アインハルト・ストラトス」

 

「ごめんなさい。ロッカーに預けてあった荷物、回収させてもらったの。大丈夫。全部持ってきたから」

 

「…そうですか」

 

アインハルトはどこか気まずそうにしている。

 

「まさか正統派のイングヴァルトの子孫に会えるなんて思ってなかったぜ」

 

アキラにイングヴァルトの子孫だということを言われ、少しアインハルトは驚く。

 

「…どうしてそのことを」

 

「その髪の色と左右で違う色の瞳、俺に当てた技。イングヴァルトの血統を持つ者の特徴だ」

 

「……物知りなんですね。あまり一般常識ではないと思うのですが」

 

「ちょっとばかし古代ベルカについてはツテがあってな」

 

三人で話してると、部屋の扉がノックされ、セッテが入ってきた。

 

「アキラさん姉さん。朝食の準備が……あ、アインハルトさん。目を覚まされたのですね。おはようございます。初めまして、セッテ・ナカジマです」

 

セッテはアインハルトが起きてるのを確認すると、笑顔で挨拶した。

 

「ど、どうも…」

 

「まぁ事情やらなんやらはあとで聞かせてもらうからよ。とりあえず飯食って一緒に学校に行ってこい」

 

「……一緒に?」

 

アインハルトはアキラたちと一階の居間に降りて、扉を開けると既に一人、食卓に座っている少年がいた。ノーリだ。

 

「あ…」

 

「よっ」

 

「ノーリさんは……アキラさんのご子息だったんですか!?」

 

「んぁ?あー…まぁそんなとこだ」

 

本当は違うが、説明すると長くなるし色々複雑なのでアキラは流した。それから全員で席に着き、朝食を食べてセッテは管理局に、アインハルトとノーリは学校に向かった。

 

 

 

-登校中-

 

 

 

「にしても襲撃犯がお前だったとはな」

 

「…ご家族にご迷惑をおかけして…すいませんでした」

 

登校中、アインハルトとノーリは話していた。アインハルトはアキラたちに迷惑をかけたことに申し訳なさを感じているらしい。

 

「あ?気にするなよ。あいつらにとっちゃそれが仕事だからな」

 

「はい…」

 

ノーリはアキラたちが別に迷惑していないことをわかっていたから別にアインハルトを攻めたりもしなかった。それに、ノーリはそれ以上に気になっていることがあった。

 

 

 

-放課後-

 

 

 

放課後、授業を済ませたノーリとアインハルトはナカジマ家に帰ってきた。

 

「ただいま」

 

「お邪魔します…」

 

「お帰りなさい」

 

帰ってきた二人をギンガが迎えた。二人は居間のテーブルに座っているアキラの前まできた。居間には他にスバルとノーヴェがいた。

 

「よっ」

 

「あ…ノーヴェさん」

 

ノーヴェはこの騒動に巻き込まれた一人でもある。ティアナは一応連続傷害の一件を纏めるために、そしてスバルはティアナにくっついてきたのもあるが、妹を心配してっていうのもある。

 

スバルとティアナも非番なのでこれといって迷惑の被る話ではない。

 

三人が席に着くと、ギンガは焼いておいたクッキーと紅茶を持ってくる。

 

「はいどうぞ」

 

「あ、お構い無く…」

 

「食べながらでいいから、お話聞かせてもらえるかな?」

 

アインハルトは小さく頷いた。

 

「で、なんだ。自分の強さを知りたいんだっけか?あとは聖王と冥王について聞いてたらしいが?」

 

アキラはとりあえずノーヴェに聞いておいた情報を話して事実確認をする。

 

「強さを知りたい…。確かにその通りです。私は、古きベルカのどの王よりも強くあること……それを証明したいんです……」

 

「それは…どうして?」

 

ギンガが訪ねた。アインハルトは少し俯いてから話を続ける。

 

「……かつて、武技において最強を誇った一人の王女がいました。名をオリヴィエ・ゼーゲブレヒト。後の「最後のゆりかごの聖王」と呼ばれる存在になった人です。覇王イングヴァルトはオリヴィエに勝利することができなかった……」

 

「……………それで?冥王はともかく、聖王はクローンだし、人格もたぶんまるで別物だ。今の時代の二人を倒したところで意味がないのはお前もわかってるんじゃないか?お前自身がイングヴァルトとは違うように」

 

アキラが指摘をする。アインハルトが知らない可能性もあるが、普通に考えてこの時代に生きてるクローン、ヴィヴィオが数百年前のオリジナル、オリヴィエと同じとは限らないのはアインハルトはなんとなくわかってるだろうと思ったのだ。

 

「確かに私はイングヴァルトとは違います。今の時代の二人に会ってどうしたかったかといわれても、自分でも、わからないのが現状です」

 

おそらくアインハルトも二人を叩きのめしたいのではない。どうにかして覇王が一番上なことを証明したかったのであろう。

 

「ですが………私はどうしても、強さを証明したかったんです…。覇王の血は、歴史の中で薄れてますが、時折その血が色濃く蘇ることがあります。アキラさんの指摘した通り、この目と、碧銀の髪、覇王の身体資質と覇王流(カイザーアーツ)…それらと一緒に少しの記憶も受け継いでいます」

 

「記憶?」

 

「はい……特に濃いのは、あの日の記憶…。私の記憶にいる彼の悲願なんです。天地に覇をもって和を成せる…そんな王であること。弱かったせいであの日、彼女を救えなかった、守れなかった……そんな後悔が、数百年分、私のなかにあるんです…」

 

アインハルトは涙ながらに訴えた。今のアインハルトはアインハルトとしての人生を歩めていない。毎日のように見るかつての記憶に縛られ、イングヴァルトの生まれ変わりのような人生を送っている。

 

「……なるほどね」

 

話を一通り聞くと、場の空気はすっかり重くなっていた。ギンガは念話でアキラに相談する。

 

(アキラ君、どうしようか。このままもう街中で決闘しないようにって注意して終わらせるのは簡単だけど…)

 

(さすがにそれで終わりって訳にゃいかねぇだろうな。余計なお世話かも知れねぇが、関わっちまった以上放っておく訳にもいかねぇだろうよ)

 

どうしようか、スバルたちにも念話で聞きながら相談していると、ノーリが口を開いた。

 

「…だったら、とりあえず闘ってみるか?聖王と」

 

「え?」

 

「聖王のクローン、高町ヴィヴィオ。戦ってみたらどうだ?」

 

「い…いいのですか?」

 

「ノーヴェ。いいよな?」

 

ノーリは一応師匠的立場にあるノーヴェに尋ねた。

 

「そうだな…ヴィヴィオが何て言うかにもよるとは思うが…」

 

ノーリはアキラたちを見た。この提案になにか問題はないかと目で訴えたのだ。それにギンガが答える。

 

「アインハルトの問題は、正直なところ解決する術はないと思う。過去の歴史に介入はできないし……私たちが…ううん、あなたがとれる道は二つ」

 

「二つ…」

 

「私たちと一緒にやれることをやってみるか、イングヴァルトの記憶を消すか」

 

「記憶を消す…?」

 

ギンガの提案に、アインハルトは驚いた。当然だ。そんなことを気軽に提案できるわけがないからだ。驚いているアインハルトにアキラが説明を加えた。

 

「俺はちょっと特殊な魔法が使えてな。記録や記憶を書き換えることができる。もちろん人間の記憶に干渉もできる。どうする?俺は正直なところ、これは最終手段だと考えているが?」

 

「……」

 

アインハルトは答えを出すのに戸惑っているように見えた。その様子を見てアキラはそっと助け船を出す。

 

「まぁ、そんな焦って決めるもんでも…」 

 

「いえ」

 

アキラの言葉をアインハルトが遮った。

 

「やらせてもらえませんか?聖王…いいえ。ヴィヴィオさんとの戦い」

 

 

 

続く



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第三話 衝突!覇王と聖王

第三話。いいペースで書いてるつもりなのに話の進みが異様に遅い気がします。感想、評価、投票随時募集しています。


アインハルトはアキラたちと相談し、聖王のクローンどあるヴィヴィオと戦うことにした。その後、ティアナたちとともに署に出向き、その日は厳重注意で解放される。

 

「…」

 

帰り道、アインハルトは悩んでいた。これで本当によかったのか。確かにヴィヴィオと戦えることは喜びではある。だが、ヴィヴィオはアインハルトの拳を、覇王の悲願を受け止めてくれるのか、「受け止めるに値するのかどうか」。しかし、それ以上に引っ掛かっていることがあった。

 

(アキラさんに私の拳が敵わなかった…)

 

「私は…」

 

 

 

-翌日-

 

 

 

アインハルトとヴィヴィオの対戦を見るために、関係していたアキラ、ギンガ、ノーヴェ、ティアナ、スバル、そしてノーヴェに呼ばれたチンクらは待ち合わせ場所のカフェに来ていた。

 

「にしても、お前ら産休中とはいえ暇そうだなぁ」

 

頼んだアイスコーヒーを飲みながらノーヴェが言った。

 

「まぁね。子育てしてるとはいっても、夫婦で挑むと結構暇な時間があったりするし。特にアリスが大人しいし」

 

「そうだな……でも、アリスはずいぶん大人しいが、一回泣き出すと結構大変でな。なー、アリス」

 

ギンガに抱かれ、眠っているアリスを撫でながら言った。

 

「へぇーまぁそれはそれで二人が幸せならいいんだが、なんでお前らまでいるんだよ!」

 

ノーヴェが振り返りながら言った。今回の一件にほぼ関係のないウェンディ、ディエチ、オットー、ディード、ウーノ、セッテが来ていた。

 

「えー、別にいいじゃないっすか」

 

とウェンディ。

 

「時代を超えて聖王と覇王の出会いなんてロマンチックだよ」

 

とディエチ。

 

「私は単に非番で暇だったので」

 

とセッテ。

 

「私も…あなたたちが家にいないと暇なのよ。食事の準備もないし」

 

とウーノ。

 

「陛下の身に危険が及ぶことがあったら困りますし」

 

「護衛としては当然」

 

と、ヴィヴィオの護衛であるオットー、ディードが言った。

 

「すまないなノーヴェ、姉も止めたんだが」

 

「うう」

 

チンクに言われると、ノーヴェは強く出れず渋々了承する。とりあえずノーヴェは余計な茶々は入れないように言っておいた。

 

「ノーヴェ!みんなー!」

 

そこに元気な声が聞こえてくる。ヴィヴィオがやってきたのだ。さらにヴィヴィオの友人であるリオとコロナがやってきた。

 

「おお、騒がしくてわりぃ」

 

「ううん、全然」

 

ノーヴェとヴィヴィオの仲はとても良好に見えた。

 

「いつの間にか仲良くなってまぁ…」

 

「いいことじゃない。義妹が元気にやってるなら…」

 

「そうだな……ん?」

 

アキラが二人を見ていると、背後から視線を感じた。

 

振り返ってみると、そこにはコロナがいた。アキラと視線が合うと、コロナは顔を真っ赤にしてリオの後ろに隠れた。

 

「…どうした?」

 

「えっと…あの……私…」

 

「…?」

 

「失礼します」

 

「おっす」

 

コロナがリオの後ろにごにょごにょしているとき、学校が終わったノーリとアインハルトが到着した。

 

「アインハルト・ストラトス参りました」

 

「連れてきたぜ」

 

ノーリはアインハルトをつれてヴィヴィオの前にまで来る。

 

「ヴィヴィオ、こいつが…」

 

ノーリがアインハルトを紹介しようとするとそれより先にヴィヴィオが挨拶を始めた。

 

「えっと…あの、はじめまして!ミッド式のストライクアーツをやっている、高町ヴィヴィオです」

 

ヴィヴィオは元気に挨拶をし、手を差し出した。

 

(この子が…)

 

「ベルカ古流武術、アインハルト・ストラトスです」

 

アインハルトは自己紹介をしてヴィヴィオと握手をした。アインハルトは目の前の少女を見ながら考えていた。確かにオリヴィエに似ているが、オリヴィエ本人ではない。だが、その紅と翠の瞳は間違いなく聖王女の印だった。

 

ギンガとアキラは二人の様子をそっと見守っていた。

 

「うまくいきゃいいんだがな…」

 

「そうね…」

 

「ああ、そうだ。どうかしたのかコロナ」

 

アキラはさっきのことを思いだし、コロナの方を見た。コロナは依然リオの影に隠れたままだ。

 

「え、えと…な、なんでもないです!」

 

「そうか…」

 

アキラは特に気にする様子もなかったが、その状況をナンバーズが見ていた。そしてすぐに机の中央に顔を寄せてひそひそと話し出した。

 

「な、なんなんスかね?あれ…」

 

「うん…アキラさんは気にしてないけど、普通じゃなかった」

 

「まさかコロナお嬢様がアキラさんに気があるのでは…」

 

「でもコロナお嬢様とアキラさんは今回が初対面なのでは?」

 

「一目惚れ…?」

 

「いやでもアキラさんもなんやかんや有名人だし…」

 

「少し前、雑誌に載っていたしな」

 

「なに話してんだ?」

 

「「「わぁ!」」」

 

ナンバーズで内緒話をしてたところにアキラが来ていた。

 

「もういくぞ」

 

「う、うむ…」

 

アインハルトたちが合流したことで、全員スポーツコートに向かうことになっていた。

 

 

 

ースポーツコートー

 

 

 

ヴィヴィオとアインハルトは競技着に着替えてコートにたつ。アインハルトは相変わらずポーカーフェイスだが、ヴィヴィオはどこか楽しそうだった。

 

「じ、じゃあアインハルトさん!よろしくお願いします!」

 

「はい」

 

アインハルトは返事をしつつ、ヴィヴィオを見た。

 

(本当にこの子が覇王の拳を…覇王の悲願を受け止めてくれる?)

 

アインハルトが構えて、ベルカ式の魔法陣を展開する。その構えと魔力から感じる圧にヴィヴィオは一瞬背筋をゾクッとさせた。

 

「んじゃスパークリング4分1ラウンド。射砲撃と拘束はなしの格闘オンリーな」

 

ノーヴェがルール説明をしてラウンドが開始される。

 

「レディ、ゴー!」

 

開始してすぐに動いたのはヴィヴィオだった。数回跳ねてウォーミングアップすると、そのままアインハルトの懐に飛び込んでいった。

 

そして下から一撃。その一撃は防がれるも、ヴィヴィオはさらに二撃、三撃と追撃する。

 

「ヴィヴィオ……ガキにしちゃよくやるじゃねぇか」

 

アキラやヴィヴィオとあまり関りがない人間はヴィヴィオの動きの良さに感心する。

 

「練習頑張ってるらしいから」

 

「ああ。文系にしてはな」

 

アインハルトは反撃はせずヴィヴィオの技を受け続けていた。自身の拳を受けさせるべき相手かどうかを見極めているのだ。

 

(まっすぐな技……きっと、まっすぐな心…)

 

ヴィヴィオを見ながらアインハルトはヴィヴィオの拳を確認した。まっすぐで、きれいな心。暗い戦争の記憶なんて微塵も感じない

 

(だけどこの子は…だからこの子は)

 

アインハルトは決めた。そして申し訳なさそうな顔をして構えた。

 

その時、ノーリに電撃が走った。

 

「…っ!」

 

(私が戦うべき王ではないし)

 

そのままヴィヴィオの攻撃を避けたことで生まれた隙に、ヴィヴィオをふっとばした。

 

「!」

 

ヴィヴィオはそのまま壁に向かって吹っ飛ばされたが、オットー達より早くアキラが受け止めた。

 

「大丈夫か?」

 

「は…はい…」

 

ヴィヴィオは少しびっくりしている様子だったがすぐに表情を明るくした。アインハルトの実力にビビったのではなく、驚き、感心したのだ。

 

(す…すごい!)

 

(私とは違う)

 

アインハルトはそこでヴィヴィオに見切りをつけ、スパーを中断して振り向いた。自身の問題に巻き込むべきでないと判断したのだ。

 

「お手合わせ、ありがとうございました」

 

その反応を見て、ヴィヴィオはすぐに駆け出す。

 

「あ、あの!私!何か失礼を!?」

 

「いいえ」

 

「じゃ、じゃあ、あの、わたし弱すぎました…?」

 

「いえ。「趣味と遊びの範囲内」でしたら充分すぎるほどに」

 

アインハルトはヴィヴィオが不真面目だと言いたいわけではない。自身が相手にしたいのは格闘技ではなく戦争を、相手を殺す覚悟のある闘いができる相手だった。だからヴィヴィオは違うと言ったのだ。

 

「申し訳ありません。私の身勝手です」

 

「あの、待ってくだs」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

俺がアインハルトストラトスと出会ったのは、数ヵ月前。

 

まだ初等科にいたときだった。5年生のとき初めてクラスが一緒になった。

 

その時の俺は友人関係はまぁまぁ、でも恋愛なんかに興味はなかったから、女子に対して特別な感情を抱くことはなかった。

 

だが、アインハルト・ストラトス。彼女だけは違った。碧銀の髪とオッドアイの瞳。一目で他の子供とは違うことがわかった。

 

だがそれでもこれといって気になるわけではなかった。自分が関わることでもないと思った。回りと少し壁を作っているような気がする以外に変わったところもなかった。

 

そして、学校行事でアインハルトとコミュニケーションをとることがあった。

 

そのとき初めて気づく。アインハルトと話していると心がざわつく。

 

脳裏に誰かの顔がちらつく。

 

俺が知っている人間ではない。俺じゃない誰かの記憶。

 

知りたい。俺はそう思った。いや、きっと本当は知る必要なんかない。だが、なぜだろう。俺の本能はその記憶の人物を知りたがっている。アインハルトの技を見た瞬間、その欲望が今までよりずっと大きくなっていくのが分かった。

 

知りたい!あれが誰なのか…。いや、知る必要がある!

 

そのためには…そのためには…!

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「待ってくれ!」

 

ノーリはいつのまにか駆け出し、アインハルトの手を取っていた。周りのメンツは驚いていたし、何よりノーリ自身も驚いていた。

 

「ノーリ!?」

 

「ノーリさん!?」

 

「あ…」

 

ほとんど考えもなしにアインハルトの手を掴んだノーリが一番焦っていた。

 

「えっと…」

 

「どうした?ノーリ」

 

ノーヴェが話しかけてきた。ノーリも色々特殊な人間だ。なにか理由があると思って助け船を出したのだ。

 

「…アインハルト……さん。俺と戦ってくれないか?」

 

「え?」

 

予想外の提案で、アインハルトも驚く。

 

「お前の「拳」、俺なら受けられる」

 

「あの…いったい何の話で…」

 

アインハルトは少し自身の気持ちに嘘をつきながら「なんの話か分からない」という表情をした。だがそれを見透かしているかのようなノーリの眼は本気だ。

 

「そんな気がするんだ………だから、ヴィヴィオ、ノーヴェ、悪ぃ。次は俺にやらせてくれないか?」

 

「え…あ…」

 

ヴィヴィオは戸惑っている様子だった。アインハルトもそうだ。二人は助けを求め、ノーヴェび視線を向ける。

 

「あーどうすっかな。じゃあまぁまた少ししたら試合組むよ。今度はスパーじゃなくて練習試合をさ」

 

ノーヴェは少し悩んだ後、三人に提案した。

 

「じゃあ……それで頼む…。その……急にすまなかったな。アインハルト」

 

「…いえ」

 

ノーリは少し落ち着いたのか、自身の行いを謝罪してアキラアたちの方へ戻っていった。戻っているとき、ヴィヴィオとすれ違う。

 

ヴィヴィオはすれ違いざまにノーリの表情を見た。ノーリの表情はどこか重そうだった。自身が知らないところで何かが起きている。それを理解したが、ヴィヴィオは口には出さずにノーリを見送った。

 

その日はとりあえずそこで解散となった。

 

 

 

-高町家-

 

 

 

ヴィヴィオはその日の夜自身の部屋で思い悩んでいた。

 

(私が弱すぎて、がっかりさせちゃったのかと思っていた…でも多分それ以上に理由があるのかもしれない……ノーリの言葉と、アインハルトさんの反応…きっと何かあるんだ…。だけど、伝えたい…)

 

ヴィヴィオは拳を天井に向けた。

 

(私の全力と……私の思い…)

 

 

 

-ナカジマ家(アキラ宅)-

 

 

 

ノーリは自身の部屋で鏡を見ながら立っていた。

 

「お前は…誰だ?」

 

自身にあんな行動をさせた誰か、それが誰なのかわからずノーリは悩んでいた。正直あんなことを言って公開をしていた。だがもう試合をすると約束してしまった以上、後には引き下がれない。

 

「だが、アイツをあのまま放置もできねぇ……。できることなら…救いてぇ」

 

ノーリは自身の掌を見て拳を握る。

 

「でなきゃ俺の罪は……」

 

 

 

続く



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第四話 鮮烈!覚醒の眼

これにて原作一巻が終わりました。次回からは二巻の合宿会に入っていきます(多分)。
目覚めよ!その魂!


ノーヴェが組んだ練習試合が行われる日の朝。

 

ギンガはいつも通りの時間に目を覚ました。そんな彼女の横にはアキラがアリスとともに眠っている。

 

「ふぁ……」

 

ギンガはアキラは起こさずに布団から出る。そして部屋から出て居間に向かった。朝食の準備のためだ。

 

居間の扉を開けると、珍しくノーリが起きていた。

 

「あ、ノーリ」

 

「ああ。おはよう」

 

「珍しいね。こんなに早く」

 

普段ノーリが寝坊助な訳ではない。彼は基本的に朝食ができるまで起きてこないのだ。

 

「ちょっと変な夢を見た…それでな」

 

「あら。どんな夢?」

 

「…ギンガ。お前は、エレミアって知ってるか?」

 

「…知らない……かな。なにそれ?」

 

「いや、いいんだ…あんま気にしないでくれ。さ、朝飯の準備しよう。手伝うぜ」

 

ノーリは無理に明るく振る舞っているように見えた。だが、ギンガはあえてなにも聞かずにいつも通り対応した。

 

「大丈夫よ。今日は大切な練習試合なんでしょう?テレビでも見てリラックスしてなさい」

 

「…わかった。なんか、あれだな。ずいぶんお母さんが板についてきたな」

 

ノーリはギンガに感じた率直な意見を言った。

 

「あら、なに?お父さんみたいなこと言って」

 

「俺はアキラの片割れみたいなもんだ。ずっとお前を見てた。その記憶はもうアキラに渡しちまったが。昔に比べりゃお母さんらしくはなってきたよ」

 

「喜んでいいのやら悲しんでいいのやら…」

 

ギンガは複雑な顔をしながら朝食の準備を進める。ノーリは少し難しそうな顔をしながらその姿を眺めていた。

 

ノーリは色々な事情が絡み、アキラのクローンとして生まれ、アキラと繋がっていた。そして、アキラの目を通じて見てきた記憶があったがそれもすべて、アキラに返した。

 

だからノーリの記憶はほとんどないはずだった。だが最近、ノーリの頭の中に妙な記憶が混じることが増えている。それはアキラの目を通じて得た記憶でも、ノーリ自身の記憶でもなかった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

-アラル港湾埠頭 13:20-

 

 

 

試合場所となるアラル港湾埠頭にはすでに前回のヴィヴィオとアインハルトのスパーを見に来ていた面子が集まっていた。

 

「ヴィヴィオ、本当によかったのか?」

 

ノーリはヴィヴィオと話していた。前回のスパーの結果にヴィヴィオが不満を持っていたのは明らかだ。それをほぼ無理矢理譲ってもらったことでノーリは罪悪感を感じていた。

 

「大丈夫!私の本気を見てもらいたいって気持ちも確かにあるけど…。でも、アインハルトさんと戦いたいんですよね?」

 

「ああ…」

 

「じゃあ、大丈夫です。頑張ってください!」

 

ヴィヴィオは快く承諾してくれていた。ノーリ戦いも応援する気満々だった。ノーリはとても明るいヴィヴィオを見ながら苦笑いで頷いた。

 

「ありがとう。恩に着る」

 

その時、背後から声がした。

 

「アインハルト・ストラトス。参りました」

 

アインハルトがやってきた。ノーリはヴィヴィオ達から離れ、アインハルトの前に立つ。

 

「…」

 

「今日はよろしく頼む。アインハルトさん」

 

「よろしくお願いします」

 

「じゃあ、準備するか」

 

ノーリは懐からデバイスを取り出した。それはノーリが以前まで使っていたデバイスではなかった。

 

「アキラ君あれって…」

 

「ああ。前のは黙示録事件の時に壊れちまったらしい。だからヴィヴィオとのストライクアーツのとき用にってな。特別なものはなにもない。むしろあいつの年頃のもつデバイスとしては妥当さ」

 

「武装形態」

 

「格闘形態」

 

二人とも大人モードになって構えた。アインハルトの大人モードを初めてみた全員が驚く。

 

「アインハルトさんも大人モード!?」

 

「今回も魔法はナシの格闘オンリー。5分間一本勝負」

 

今回もレフェリーはノーヴェ。間もなく練習試合が開始するとなると、二人の間に緊張が走る。

 

「レディ、ゴー!」

 

(ノーリさん……クラスメイトとしての関わりは少ないけれど…昔ちょっとだけ話したときの印象を今でも覚えている…。笑っていても、心の中は笑っていないような、そんな感じ………いや、それよりも、ノーリさんが先週おっしゃった言葉の意味…)

 

そう、ノーリは先週アインハルトに対し「お前の拳、俺なら受けられる」といったのだ。格闘技としてではない。事情を知っているのならそれは「覇王」としてのアインハルトの拳を向けてもいいと言う意味だ。

 

(……本当に?)

 

アインハルトは心配そうな顔をしながら構え、一気にノーリに突撃しながら右拳を放った。

 

「!」

 

ノーリは急に飛んできたアインハルトの拳を両手でガードした。しかし、アインハルトはそのまま左ジャブ、再度右ストレートと繰り出す。

 

ノーリはそれをすべてガードで受けた。

 

「…!。ああ!!」

 

ノーリはアインハルトに見つけた僅かな隙にブローを繰り出したが、アインハルトはギリギリで避け、カウンターに顔面へストレートをお見舞いした。

 

「ごっ……」

 

ノーリはその衝撃で2、3歩後退する。

 

「ノーリさん…」

 

観客がノーリを心配そうに見守る。簡単に負けそうに見えたのだ。

 

「…中々いい拳だな」

 

「お誉めいただき光栄です。ですが、加減はしません」

 

アインハルトは再びノーリに殴りかかった。しかし、ノーリはその拳をガードするのではなく左手で受け止め、すぐさま横に投げた。

 

「!」

 

それによりアインハルトが一瞬体制を崩した隙を見逃さずガードよりも早く腹部に蹴りをお見舞いした。

 

アインハルトはその蹴りに耐えつつも後ろに押される。

 

「はぁぁぁぁ!」

 

ノーリは追撃に右ストレートを放ったがアインハルトは掠りながらもなんとか避け、下からカウンターを打ち込む。

 

ノーリはアインハルトのカウンターを右足でガードし、上から左拳でアインハルトの頬を殴り落とした。

 

アインハルトはバランスを崩しながらも片手を地面に着き、腕の力だけで全身を後方に跳ばし、ノーリから離れた。

 

「はぁ…はぁ…」

 

アインハルトの表情はずっと無表情だったが、流石に苦悶の表情が出てきていた。

 

「…今のところ、ノーリが押してるね」

 

「うん…」

 

アインハルトはノーリから視線を外さず、構え続けながらも考えていた。

 

(確かに…ノーリさんは強い。パワーも、スピードも……でも、それ以上に…殴られる度、蹴られる度に感じる……これは一体なに?)

 

ノーリも似たような状況だ。

 

(……あいつの拳を受ける度に、あいつに一撃いれる度に、記憶が鮮明になっていく気がする……俺じゃない、誰かの記憶……)

 

「お前は誰だ…」

 

「…はぁ!」

 

再度戦いが始まる。アインハルトが放つ右拳をノーリは左手首で受け流す。次の攻撃を紙一重で避け、その次の攻撃は完全に避けた。

 

(……読まれている!?)

 

アインハルトは先程と違い、完全に回避してきたことに驚く。しかもただ単に避けてるわけではない。「見切られている」。その感覚があった。

 

(わかる…)

 

ノーリはアインハルトの攻撃を避けながら軽い反撃を加える。アインハルトの攻撃を見ているのだ。

 

(構え……右ストレート、からの右肘、次は上段蹴り!)

 

アインハルトはノーリの予測した通りの動きをする。そして、強力な一撃をアインハルトの顔面に加えた。

 

「…!」

 

「…」

 

(確かに…ノーリさんも強い。なにか感じるものがある気もする。だけど…!)

 

顔面に強力なのをくらい、倒れるかと思われたアインハルトは足を踏ん張らせ、一瞬で構え直した。

 

(きっと私の拳(痛み)を向けていい相手じゃない…。私の事情を向けていい相手じゃない……だから!)

 

予想外の復帰の速さに、ノーリは対応しきれていなかった。

 

(しまっ…)

 

「覇王!断空拳!!」

 

アインハルトの覇王断空拳がノーリの腹部にモロに入った。

 

「……………っ!」

 

ノーリは足を踏ん張らせ、覇王断空拳を耐えた。しかし、そのままの姿勢で大きく後ろに下がらさせられ、ダメージも尋常じゃないものだった。

 

「…」

 

(断空拳を堪えきった…!?いや、だとしてもダメージは…)

 

「…あぁ」

 

ノーリが小さく声を漏らした。

 

「…?」

 

「うぁぁぁ!あっ!あぁぁぁぁぁ!」

 

ノーリら天に向かって吠えた。次の瞬間、ノーリの足元に魔法陣が展開され、ノーリの身体から魔力が放出された。その魔力はそのまま天に登る。

 

ノーリの咆哮は近くにいたヴィヴィオに、アインハルトに、世界に響く。

 

「ノーリ!?」

 

「ノーリ!」

 

「ああ!」

 

「うっ…」

 

アインハルトは何とか耐えたがヴィヴィオが膝をついた。オットーとディードが駆け付ける。

 

「ヴィヴィオ!」

 

「陛下!」

 

「どうしました!?」

 

「今…記憶が……オリヴィエの…記憶が」

 

「聖王の…?」

 

ヴィヴィオの症状を聞くと、アインハルトが口を開く。

 

「私もです…」

 

「アインハルトも…?」

 

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……」

 

魔力放出が終わり、ノーリが顔を正面に向けると全員が驚く。

 

ノーリの髪の毛は茶髪から翡翠色に代わっていた。さらに右目が紫に、そして左目が赤色のオッドアイになっており、全身には虹色の魔力を纏っていた。

 

「…」

 

「おい…ノーリ?」

 

ノーヴェが恐る恐る声を掛けるが、返事はない。ただ眼前のアインハルトをひたすら見つめている。

 

「ノーリ!」

 

「…」

 

やはり返事はない。だが、ノーリはアインハルトに向かって歩き出す。

 

「返事しろノーリ!」

 

「ノーリ!!」

 

「…」

 

ノーリはただアインハルトに向けて歩を進める。ノーヴェは慌てて二人の間に入った。

 

「くそ!何が起こってやがる!アインハルト、悪いが試合は中止だ!」

 

「いえ!」

 

アインハルトが珍しく感情を強く表に出して拒否した。

 

「やらせてください!彼と!」

 

「はぁ!?」

 

「今の彼なら、私の拳を受けてくれるにふさわしい相手に思えるんです!」

 

「何言ってんだ今そんな…」

 

「これがきっと、ノーリさんが言っていた、拳を受けられる状態なんだと思います…」

 

「だが…」

 

ノーヴェは複雑そうな表情をしていた。今回はアインハルトの問題を解決することも視野に入れている。ここでアインハルトの意思を無視することはできない。

 

「やらせてやれよ」

 

アキラが言った。

 

「何かあったら俺が止める」

 

「…わかった。なんかあったら頼むぞ。アインハルト!無理するなよ!!」

 

「はい!」

 

アインハルトが構え、ノーヴェが下がった。ノーリは以前黙ったまま歩いてくる。

 

「……行きます!!」

 

アインハルトはノーリにとびかかり、右拳をお見舞いする。しかし、ノーリは片手で受け止める。ノーリは受け止めたアインハルトの右腕を掴み、捕まえた。

 

「…」

 

(動かな…)

 

「…」

 

アインハルトは急いで反撃に出ようとするがそれより早くノーリが拳をアインハルトの腹に食らわせた。それと同時に手を離し、アインハルトは吹っ飛ぶ。

 

「うう!」

 

「アインハルト!」

 

「大丈夫です…」

 

アインハルトはすぐに体勢を直す。ノーリはアインハルトに突撃する。しかし…

 

「ぐ…」

 

ノーリは途中で止まり、腹部を押さえながら膝をついた。

 

「え…」

 

「く……あぁ…」

 

なんとか立ち上がろうとしたがノーリはそのまま地面に倒れ、大人モードとバリアジャケットが解除された。アインハルトはノーリが止まって安心したような、残念そうな表情をした。そこに、アキラがやってきた。

 

「さっきの断空拳が遅れて来たんだろうな。微妙な幕引きで申し訳ないな」

 

アキラがノーリを背負いながら言った。そしてそのままノーリを日陰までもっていく。

 

「おい、オットー、ディード。救急箱持ってきてるんだろ。持ってきてくれ」

 

「はい!」

 

アインハルトも武装形態を解除してノーリの近くまで行く。

 

「…」

 

「面倒ごとに巻き込んじまったみたいになってすまなかったな」

 

ノーヴェがアインハルトに謝罪する。

 

「いえ……むしろ原因は私にありますから」

 

「………どうだった?あいつは」

 

「…とても良い実力者だと思います。彼自身も、さっきの状態も」

 

「そうか…」

 

「…ノーリさんは、ヴィヴィオさんたちといつも鍛えているのですよね?」

 

「え…ああ、まぁ。そうだな」

 

「ヴィヴィオさん」

 

急にアインハルトが話しかけてきてヴィヴィオはびっくりする。

 

「は、はい!」

 

「先週は、失礼なことを言ってしまいました………訂正します」

 

「は、はい……」

 

「…どうした急に」

 

急にアインハルトがヴィヴィオの実力を認めたことに疑問に感じたアキラが聞く。

 

「ノーリさんの拳に、彼自身が私の為に放ってくれる拳の思いの中に「俺の仲間は俺と対等にやれるくらい頑張っている」という思いが…感じられたからです。……こんな理由では…だめでしょうか。もっとちゃんと…」

 

どうやらアインハルト自身先週のことにかなり罪悪感を感じていたようだった。うまく謝るタイミングを見付けられず、そして一度出した言葉を簡単に撤回していいものか悩んでいた。

 

そんなアインハルトの様子を見てアキラは微笑む。

 

「いいんじゃねぇか。なぁヴィヴィオ」

 

「はい!私は全然!」

 

笑顔で答えてくれた。アインハルトはどこかほっとしていたようだ。だがアインハルトが安堵したその時、足から力が抜けてアキラの隣にいたギンガに倒れ掛かってしまう。

 

「あら?大丈夫?」

 

「あれ…どうしたんでょう私…」

 

「最後の一発が響いたみたいだな」

 

「大丈夫です…私は…」

 

ギンガから離れ、ちゃんと立とうとしたがまたふらつく。それをアキラが支えてやる。

 

「まぁいいから。楽にしてな。それとも俺は嫌か?」

 

「い、いえ…」

 

アインハルトはそのままアキラに支えられていた。

 

(さっきの状態のノーリさん…とても…私に近いものを感じた……もう一度…拳を交えたい……いや、それだけじゃない…私は、「もう一度彼と戦いたいと思っている」…。そしてヴィヴィオさんとも…。いったいどうしてしまったんでしょうか…)

 

新暦79年、春。

 

こうしてノーリ・ナカジマとアインハルト・ストラトスは出会った。これは彼女たちの、鮮烈な物語の、始まりの始まり。

 

 

 

 

 

続く



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第五話 懐旧!コロナとアキラ

前回までに起きた事態の収集の回です。次回から第二巻の異世界旅行編です!

あと、本日0時になのは公式から重大発表があるみたいですね!なんでしょう?Force復活?新アニメシリーズ?新劇場版?はたまたアプリリリースか!?楽しみです!


-時空管理局 面会室-

 

 

ここは時空管理局本局の管理下にあるある監獄施設の面会室だ。そこにはアキラが来ていた。向かいには眼鏡をかけた男が座っている。

 

男の名前はウィード・スタリウ。次元犯罪者で、マッドサイエンティスト。アキラやノーリを作り出した張本人だ。

 

「珍しいね。君から私に会いに来るなんて」

 

「色々確認したいことがあってな。ノーリのことだ」

 

「ノーリ君の……なにかあったのかい?」

 

「ああ。これを見てくれ」

 

アキラは先日の練習試合の様子を録画していたものを見せた。

 

「ほう…これは…」

 

「覇王イングヴァルトの子孫と格闘技の練習試合をしてみたときだ」

 

「へぇ…」

 

「…単刀直入に聞く。ノーリはなんのために作られた?」

 

アキラ、ノーリは二人とも人造魔導士である。しかし、ノーリはアキラと魂が繋がったある種のクローンとして創られたが、元々は別のプランで造られていた人造魔導士だった。

 

アキラはウィードにその元々のプランを聞いたのだ。

 

「ふむ……ノーリ君…彼はね、イングヴァルト…覇王流を継ぐものとして創られたんだ。そしてあわよくば、ヴィヴィオちゃんの代わりにゆりかごを動かすものとして」

 

「ヴィヴィオの?」

 

「ああ。スカリエッティがヴィヴィオを必要としただろう?あれは知っての通り、ゆりかごを動かすためだ。僕はスカリエッティの命令でヴィヴィオが造られる前に、そのゆりかごを動かすに値する器を持つものとしてノーリ君を作った」

 

「…」

 

「だが、ノーリ君は覇王としての器はあったが聖王としての器は…ゆりかごを動かせるだけの適合はなかった。ためしにオリヴィエの…DNAも加えてみたが……適合率は変わらず、僕もナンバーズの製作に取りかかることになったから、結局ノーリ君は廃棄して…あとはまぁ、知っての通りさ」

 

「…そうか」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

-ナカジマ家(アキラ宅)- 

 

二人の練習試合あと、ノーリは眠ったままだった。一応医者にも見せたが眠っているだけ命に別状はないという。だが、翡翠色はそのままだった。

 

アキラは試合のあと帰り際に本局に寄り、ウィードから話を聞いていた。

 

「そう…ノーリ君はイングヴァルトの…」

 

「ああ。しかもそれだけじゃない。聖王の血も流れている。後に俺のクローンに改造されたが、覇王と聖王。二人が近くにいたことで眠っていた血が、記憶が蘇ったんだ。……そして、恐らくあの断空拳で」

 

「完全に覚醒した…」

 

「ああ…」

 

そのとき、ノーリが目覚めた。

 

「う…」

 

「ノーリ!」

 

「ん…アキラ……?ギンガ…二人とも……ここは?」

 

ノーリは少しぼんやりしているが、どうやら普通のノーリの様だった。

 

「家だ。大丈夫か?何があったか覚えてるか?」

 

アキラに尋ねられ、ノーリはなんとか思い出す。

 

「……たしか、アインハルトと戦って……なんか重い攻撃を食らって…負けたのか?」

 

「…覚えてないか……」

 

「いや、なんだろう…なんか、暗い…重い記憶が…俺の中に…流れ込んできて……」

 

「ノーリ。見てみろ」

 

アキラは手鏡をノーリに渡す。ノーリはなぜ急に手鏡を渡されたのか疑問に思いながらも、渡された手鏡で自身の顔をみる。

 

「!?な、なんじゃこりゃあ!」

 

ノーリは自身の髪を見て驚いていた。まぁ当然だろう。ギンガはノーリの身に何があったか教えてやったが残念ながらノーリは何も覚えていないという。

 

 

 

-翌日-

 

 

 

翌日、ノーリは念のため学校を休んだ。そしてその日の午後、ナカジマ家のチャイムが鳴った。

 

「はい」

 

アキラがチャイムに反応すると、玄関にはヴィヴィオ、リオ、コロナ、アインハルトが来ていた。

 

「どうしたお前ら」

 

「今日は休むって聞いたので。念ためお見舞いに…」

 

「そうか。わざわざご苦労様。上がってくれ」

 

四人は家に上がりノーリの部屋まで向かった。そこで、ノーリの部屋から出てきたギンガと出会う。

 

「あら、みんな。どうしたの?」

 

「ギンガさん。ノーリさんのお見舞いです」

 

「あら、わざわざありがとうね」

 

「だう」

 

ギンガがにっこり笑うと、抱かれているアリスがまるで四人に挨拶をするように手を挙げ、声を出した。

 

「あら」

 

「ああ!アリスちゃん!!」

 

「またちょっと、大きくなりましたね!」

 

ヴィヴィオたちがギンガに寄ってアリスを近くで見る。アインハルトは三人の行動に驚いていた。やはり女の子の眼には赤ん坊というのは可愛く見えるようで、アリスはヴィヴィオ達に人気があった。

 

(……赤ちゃん…アキラさんたちの)

 

「お前はいかないのか?」

 

「え!」

 

アキラがいつの間にか背後に立っていた。

 

「いえ…その…」

 

「アインハルトさん?」

 

ヴィヴィオがアインハルトのことを見る。アインハルトは少し溜めてからアリスの方に歩みだす。ギンガはアインハルトの目線まで腰を落として彼女がアリスに触れられるようにした。

 

「……」

 

アインハルトは少し緊張しながらアリスの頭をそっと撫でた。

 

「ひあっ……」

 

「え…」

 

「ふあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

アインハルトが撫でたとたんアリスは泣き出してしまった。

 

「あ、あぁ!す、すいません!」

 

「あらあら、ちょっと人見知りしちゃったかしら。一回あってるはずなんだけどね。きにしないでね」

 

「は…はい」

 

「ご機嫌斜めだったか?よしよし」

 

「あ、ノーリは今起きてるから、会ってあげて」

 

ギンガとアキラはアリスをあやしながら今に向かった。

 

 

 

-ノーリの部屋-

 

 

 

「わざわざありがとうな…お見舞いなんて」

 

「いえ、気にしないでください」

 

「ところでアインハルトはどうしたんだ?」

 

アインハルトはどこか落ち込んでる様子だった。

 

「いえ…」

 

「あはは…」

 

ヴィヴィオ達は意外なことで傷付いているアインハルトを見て苦笑いを浮かべていた。ノーリは事情が察せず頭に「?」を浮かべていた。

 

 

 

-居間-

 

 

 

数十分後、お見舞いを終えた。四人が下りてきた。アリスはアキラとギンガにあやされ、ベビーベッドの上で眠っていた。

 

「ありがとうございました。お邪魔しました」

 

「おう。ありがとうな」

 

「それから…」

 

ヴィヴィオ達はまだなにか用事があるようだった。

 

「…?どうかしたか」

 

「アキラさん…」

 

ヴィヴィオ達の奥からコロナがもじもじしながらアキラの前に来た。アキラはコロナの目線までしゃがみ込む。

 

「ア、アキラさん!これどうぞ!!よかったら受け取ってください」

 

コロナがなにやら可愛らしい装飾がされた箱をアキラに差し出した。

 

「……おう。ありがとうな」

 

予想外の行動に驚きながらもアキラは箱を受け取った。

 

「あら、可愛い。よかったじゃないアキラ君」

 

「ああ……でも、どうした急に?」

 

アキラはコロナからプレゼントをもらう記憶がない。なぜこんなプレゼントをくれたのかと尋ねた。

 

「あの、実は私…助けられているんです…。アキラさんに…二回ほど」

 

「そうなの?」

 

「………そ、そうなのか」

 

驚いたギンガに聞かれる。しかし、アキラには全く記憶がなかった。そこでコロナはその時の様子を細かく話してくれた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

あれは、六年前の話です。私は家族で山上りに出かけていました。普通の山で、これと言って危険があるわけではなかったはずなんです。

 

でもその日、不幸にもある動物園から猛獣が逃げ出していました。それも知らずに私たちは山へ。しかも不幸が重なって私は山の中で迷子になって…。

 

そして出くわしてしまったんです。その猛獣に。

 

「グォォォォォォ!!」

 

「キャアァァァァァァァ!!!」

 

鋭い爪、大きな牙をもった猛獣で、私は出くわした瞬間に腰を抜かして動けなくなり、泣きながら後ずさるのがやっとでした。

 

そして様子を見ていた猛獣がついに襲い掛かってきた瞬間、私は死を覚悟しましたが、間に誰かが割って入って、猛獣の爪を刀で防いでいました。

 

「…!」

 

「…ぁ……」

 

白いトレンチコートに、片目が見えないくらい長い茶髪の男の人。少し薄汚れたように見えるその人が守ってくれました。

 

「くそっ!なんでこんなところにこんな猛獣が……おい!無事か!」

 

「は…あぁ…うぁぁぁ!」

 

その時私はパニックになっていて、とても受け答えできる状況ではありませんでした。

 

「グォォォォォォ!!」

 

「チッ!仕方ねぇ!」

 

その人は私を抱えて逃げてくれました。

 

「怪我はねぇか!親は!」

 

「うぁ!あぁ!」

 

相変らず受け答えはできず、私はただ泣き叫んでいるだけでした。それでもその人はお荷物になっている私を見捨てず連れて逃げ続けてくれました。

 

「!…頭丸めろ!!!」

 

次の瞬間、私はその人に思いきり投げられました。一瞬酷いことをされたのかと思いました。私は投げられましたがあまりけがはなく、顔を上げるとその人が猛獣に掴まれ木に叩きつけられていました。

 

「が……」

 

「あ…」

 

その人は血を吐いて倒れました。猛獣は私に標的を変え迫ってきました。

 

「グルル…」

 

「はぁ…あぁぁ」

 

「待てよ」

 

「!」

 

ですがその人はすごくつらそうな顔をしているのにフラフラになりながら立ち上がって、猛獣を止めました。

 

「そのガキに…手ぇ出すんじゃねぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

そして、一瞬のうちに猛獣に数か所の斬撃を与えて猛獣を倒しました。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、」

 

「あ…あ…」

 

「怪我はねぇか?」

 

「は、はい…あの……ありが…」

 

「コロナー!コロナー!」

 

お礼を言いかけたとき、お父さんたちが私を探しに来てくれて、それで少し目を離した隙にその人はいなくなっていました。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「その後、ネットでそんな風な人が人助けをしていることを知りました。少ししたらその人の目撃情報もなくなって…。あのJS事件の後、事件解決の英雄の一人としてアキラさんの記事が載っている本を見付けました」

 

「なるほどな…」

 

アキラは昔、風来坊のようにミッドの街を彷徨い、人助けをしていた時期がある。後にギンガを助けたことから彼女のお節介で管理局に入ることになるのだが、その彷徨っていた時期にコロナを助けたのである。

 

「アキラ君は覚えてる?」

 

「どうだったっけな。あの頃助けた人間の数なんぞいちいち覚えちゃいねぇからな…。ただ、そんくらい小さいガキを助けたことはなんとなーく記憶にあるようなないような」

 

「ちなみにコロナちゃん。二回目は?」

 

「三ヶ月前の事件です」

 

「…そんなことあったか?」

 

「あの、シェルターを守ってくれたときです」

 

三ヶ月前起きた黙示録事件。そのとき現れた黙示録の獣と呼ばれる破壊兵器。それが放った魔力砲は大地を抉り、地下避難用シェルターの天井を破壊した。黙示録の獣はさらにシェルター内を焼き尽くそうとしたが、アキラが命懸けで守ったのだ。

 

「ああ、あのときの」

 

「だから…本当にありがとうございました!」

 

「………ああ、まぁ、なんだ。ど、どういたしまして」

 

アキラは微笑んでコロナの頭を撫でた。そしてなぜか、アキラの瞳から涙がこぼれた。

 

「え…?」

 

「………あれ、おかしいな。何で俺…泣いてんだ?」

 

「嬉しいんじゃない?いままでこんなにちゃんとお礼言われたことなかったし。それに、護った人が生きててくれたことに」

 

「…。そう、なのかもな」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー数週間後ー

 

アキラ達のもとにルーテシアから連絡が入った。

 

『アキラさん!ギンガさん!お久しぶりです』

 

通信画面に元気な

 

「よう。ルーテシア」

 

「ルーちゃん。久しぶり」

 

『はい!アキラさん、ギンガさん。もうお話は聞いてますか?』

 

「ああ」

 

「ええ」

 

ルーテシアが言っているのはヒルデ魔法学院の試験後の四日間の試験休み、ルーテシアがいる異世界、カルナージへの大自然旅行ツアー&オフトレを行う話だ。

 

『ノーリが来るのは知ってましたけど、やっぱりお二人も来るんですか?』

 

「俺たちはほとんど遊びに行くようなもんさ」

 

「アリスにそっちの世界の自然を見せてあげたくて」

 

『わかりました!ではアリスちゃん共々楽しめるプランを用意してお待ちしてます!』

 

「ああ。頼んだぜ」

 

そこで通信は切れた。アキラはちらりと視線を横に移す。

 

「だってよ」

 

「おう…」

 

アキラの視線の先にはノーリがセッテに教えてもらいながら必死に試験勉強に取り組んでいた。

 

「ここ、間違えています。もう一度やってみましょう」

 

「ら、ラジャー…」

 

 

 

-無人世界カルナージ-

 

 

 

「ガリュー!やっぱりアキラさんも来るって!」

 

ルーテシアは岡の上に立っているガリューに言った。いや、話す相手は誰でもよかった。ただ喜びと興奮を誰かに伝えたかったのだ。

 

「こうなったら益々頑張らなきゃね…」

 

彼女は一応召喚士ではあるが、それ以外の才能に長けていた。彼女は今必死に建築作業に取りかかっている。大切な友人と、命の恩人たちを迎え入れるために。

 

 

 

続く



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第六話 往訪!無人世界カルナージ

さぁ、二巻に入りました。なのはの重大発表はまさかのライブ。キャラソンまで入ったとしてもギンガの曲はない。悲しい。

今のタイトル二字熟語に「!」をつけて別の名前にしてるんですけど思ったより難しいので次回辺りから廃止にしようかななんて思います。


ー陸士108部隊ー

 

ここは陸士108部隊の部隊長室だ。そこにはゲンヤとセッテがいた。

 

「申し訳ありませんゲンヤさん。まだまだ新人の私が4日も休んでしまって…」

 

セッテはゲンヤに頭を下げた。

 

「いいってことよ。休みっていってもオフトレだろ?それに、お前さん結構頑張ってるからなぁ。たまの休みくらい満喫してこい。社会見学ってとこでも役に立つだろう」

 

セッテも今回のオフトレに参加するのだ。今はそのための休み申請だが、ゲンヤは不許可など出すわけがなかった。

 

「ありがとうございます。それではセッテ・ナカジマ。四日間の特訓休暇。いただきます」

 

セッテはもう一度頭を下げ、部隊長室を後にした。

 

(あのメンバーで戦うとのことことですが…どうなるんでしょう。それに、ルーテシアお嬢様のいる世界に行くのは初めてですね。楽しみにしておきましょう)

 

セッテはあまり表には出さないようにしているがとてもワクワクしていた。

 

「…共にいきましょう。スライサーエッジ」

 

『OK』

 

セッテは自身のデバイスに話しかけて笑っていた。

 

そして、ノーリも何とか試験を乗り切り、家ではアキラが車に荷物を詰め込んでいた。

 

「準備できた?」

 

「おう。荷物もこれで最後だ」

 

「じゃあ、空港に向けて出発しよう。アキラ君、運転よろしくね」

 

「ああ。途中でセッテを拾っていくか」

 

 

 

-カルナージ-

 

 

 

無人世界カルナージはクラナガンから臨時次元船で約4時間。標準時差は7時間。1年通して温暖な大自然が恵み、豊かな世界。大都会であるクラナガンと違い静かで小川のせせらぎ、野原を駆け抜ける風の吹き抜ける音がする世界で、大都会クラナガンの雑踏を忘れさせてくれる所だ。

 

アキラ達ははなのはたちと合流しルーテシア・アルピーノとその母、メガーヌ・アルピーノが住んでいるアルピーノ家に向かって歩いていた。

 

自然が豊かな道を歩いているとその先から紫色の髪を揺らしながらこちらに走って来るのが見えた。

 

「お」

 

「はっ、はっ、はっ、みんなー!」

 

ルーテシアだ。アキラそれに気づき、手を降ってやる。

 

「おーい!」

 

「アキラさん!」

 

ルーテシアは走ってきた勢いのままアキラに飛びついた。

 

「おっと」

 

「なっ」

 

「久しぶりです!アキラさん!」

 

「ああ」

 

「三か月前の事件の映像を見ていたんですが、アキラさんが無事で本当に良かったです…」

 

ルーテシアはアキラに媚びているような態度で話していた、周りの目など一切気にせず。

 

彼女、ルーテシア・アルピーノはJS事件の時、アキラに救われている。また、事件中たまたま会ったときにただの子供と勘違いされ、優しくされた経験から事件後になつかれたのだ。

 

「ルーちゃん。久しぶり。また少し大きくなった?」

 

ギンガはアキラに抱きついているルーテシアを力ずくで剥がしながら再開の挨拶をした。ちなみにギンガはルーテシアがアキラになついていることを当然快く思っていない。子供相手だろうと容赦などはない。

 

そういった部分ではアキラとギンガ、似ているところはある。

 

「あらら、ギンガさんも久しぶりです」

 

ルーテシアはギンガに微笑む。彼女はギンガの想いもなんとなくわかっている。ルーテシアも既婚のアキラを取ろうだなんて思ってはいない。そこに恋愛感情がないと言ったら嘘にはなるが叶わぬものだということは理解している。ただ、一番苦しかったとき助けてくれた、優しくしてくれたアキラに父親のような感覚でなついているのだ。

 

「あら、みなさん。ようこそ」

 

そこにルーテシアを追ってメガーヌがやってきた。

 

「メガーヌさん。こんにちは」

 

「お世話になります」

 

なのは達が挨拶をする。アキラとギンガも軽く会釈をした。

 

「みんな来てくれて嬉しいわ。食事もいっぱい用意したからゆっくりしていってね」

 

「ありがとうございます」

 

軽い挨拶の中、アキラがメガーヌの前に来た。

 

「俺たちまで来させてもらって、ありがとうございます。これ、つまらないものですが。俺たちが焼いたケーキです」

 

アキラが事前に作ってきたケーキを手渡す。

 

「あらありがとう。でもいいのよ?全然気にしないで?」

 

「いえ、そんな。以前来たときもなんだかんだ良いものが渡せずちょっと気にしてたんです」

 

「わぁ!アキラさんのケーキ!?」

 

アキラ達が作ってきたケーキにルーテシアが反応してきた。アキラは笑顔でルーテシアを撫でる。

 

「ああ。俺たちからの気持ちさ」

 

「ありがとうございます!」

 

その様子を後ろでみていたなのは、フェイト、スバル、ノーヴェの四人は唖然としていた。

 

「アキラさんが普通に敬語使って社交的挨拶してる…」

 

「なにか悪いものでも食べた?」

 

「頭でも打ったか?」

 

「風邪引いてるのかも…アキラ君大丈夫?」

 

フェイトが心配してアキラの額に手を当てる。

 

「言いたい放題だなあんたら」

 

アキラは軽くキレているがなのは達の意見ももっともだ。そもそもアキラはなのはたちに敬語を使ったことはほぼない。一応呼び方は「なのはさん」ではあるが六課時代に慣れ親しんだ名残で敬語は使ってなかった。

 

一方で子供達は。

 

ルーテシアは初対面のリオとアインハルトに挨拶し、髪の色が変わってしまっていたノーリに驚いていた。

 

「……こりゃまた派手にイメチェンしたわね」

 

「イメチェンじゃねぇよ」

 

「メールで聞いてはいたけど……すごいわねぇ…」

 

「まぁ困ることはねぇがな。この頭になったあと学校に行ったら染めたのかって勘違いされたこと以外は」

 

ノーリは頭を掻いて笑う。そこにアインハルトがやって来て申し訳なさそうに頭を下げる

 

「ノーリさん…その、すみません。私のせいで」

 

「ああ?なぁに気にするなって。お前が謝ることじゃねぇよ」

 

ノーリは変わらず笑顔だ。

 

その後、エリオとキャロが合流。初めまして同士が挨拶を終えたところで、大人組はトレーニング。子供組は川遊びにいくことになった。

 

「どっちにも属さないおしどり夫婦はどうする?」

 

メガーヌがアキラたちを見て言う。

 

「おしどりって…」

 

アキラがおしどり夫婦と言われたことに照れている間にギンガが答える。

 

「そうですね、最近してないトレーニングをするのも良いかもしれませんが、あくまで旅行がメインなので子供たちと川にでも行こうと思います。ね?アキラ君」

 

「…ん?あ、ああ。そうだな。アリスにも色々見せてやりたいからな」

 

「じゃ、子供達は着替えてロッジ裏に集合!」

 

「「「はーい!」」」

 

 

 

ー川ー

 

 

 

川に着いた子供達はアインハルトを除いて一気に川に入っていく。アキラとギンガはそんな子供たちを眺めている。

 

「…」

 

「アインハルトさんも来てくださーい!」

 

「ほれ、呼んでるぞ」

 

ノーヴェが肘で押す。しかし、アインハルトはあまり乗り気でないようだ。理由は簡単だ。アインハルトはノーヴェにトレーニングだからと言われ、来たのだ。水遊びのためではない。

 

その旨をノーヴェに小声で伝える。

 

「あの、ノーヴェさん、私はできればトレーニングを…」

 

「まぁ準備運動だと思って遊んでやれよ。それに、あのチビ達の水遊びは結構ハードだぜ」

 

アインハルトはノーヴェに言われ、確認も含めて川へ向かった。

 

そして、水着の上に来ていたパーカーを脱ぐ。そこに、水の中に潜ってウォーミングアップしていたノーリが顔を出した。

 

「ぷはっ…ふぅ………なっ……あ…」

 

ノーリがアインハルトの姿を視認した瞬間、彼の視線が、アインハルトに釘付けになる。

 

「………どうしました?」

 

ノーリの視線にアインハルトが気づく。ノーリは慌てた。

 

「えっ……あ、ああ。すまない。なんでも…ないんだ」

 

「……そうですか」

 

アインハルトはノーリの返事を聞いてそのまま行こうとする。だが、ノーリはアインハルトを引き留めるように声をかけた。

 

「あ!その………とても…似合っていると思う。その…水着」

 

「あ、ありがとうございます」

 

二人の間になんとも言えない空気が流れる。だが、ヴィヴィオ達の方からリオの元気な声が聞こえた。

 

「じゃーみんな!あっち岸からこっちまで往復競争しよー!」

 

「おう!いいな!それ!アインハルト!行こう!」

 

「あ、はい」

 

みんなとは少し離れた位置の二人だけのちょっとした会話。誰に聞かれる筈もない。普通なら。だが、その二人の会話を聞き、様子をみていた人物が一人だけいた。

 

「……ほう?」

 

ルーテシアだ。ルーテシアはなにか悪巧みをするような顔で二人を見て、怪しく笑った。

 

「ルーちゃん!早く早く!」

 

「うん、今いくー」

 

一方でアキラとギンガは少し離れたところで散歩をしていた。

 

「ガキ共は元気だな」

 

「いいことだよ。ノーリも前に比べたら明るくなって…」

 

「…そうだな。以前に比べてずっと笑顔を見せる時が多くなった。元気になってくれてよかったよ」

 

「あう…」

 

二人が話していると、アリスが川の方に向かって手を伸ばしていることに二人が気づく。

 

「ん?どした?アリス」

 

「お水が気になる?」

 

ギンガは川の前にしゃがみ、アリスの腕をそっと川の流れに触れさせる。

 

「だう…」

 

「ふふっ、気持ち良さそう」

 

「そうだな…………っ!」

 

大きな音と共にギンガたちに向かって大きめの水しぶきが飛んできた。ギンガの右側にいたアキラが瞬時に左側に移動し、氷結魔法で水を凍らせて足から放った蹴圧で氷となった水飛沫をすべて吹っ飛ばした。

 

「アキラ!悪ぃ!」

 

水飛沫を飛ばした犯人はノーヴェだった。ノーヴェはアインハルトに水切りの手本を見せていたのだ。

 

「気ぃつけろ!ギンガに水がかかったらどぉするつもりだ!」

 

「悪かったって!」

 

「たくっ」

 

アキラはその場から飛び、川の中に入った。

 

「…おい…なにを…」

 

ノーヴェが不安そうな顔をする。

 

「水切りの手本だろ?俺がいいのを見せてやるよ」

 

アキラは怪しい笑みを浮かべた。

 

「ヤバッ…お前ら逃げ」

 

「フッ!」

 

アキラは綺麗な構えから鋭い拳を素早く前に出した。

 

刹那、アキラの前の川の水が吹っ飛び、川の底が見えるどころか底の地面は抉られ、ノーヴェが拳の衝撃をうけて吹っ飛んだ。

 

「ノーヴェ!」

 

「たくっ…」

 

水柱は高く上がり、川の水が吹っ飛んだ部分が戻ったことで大きな波が上がった。

 

「ぁぁぁぁぁぁあああああ!」

 

吹っ飛ばされたノーヴェは川の深いところに着水した。水面にぶつかったダメージは大きいが、深い位置に落ちたため、川底にぶつかることはなかった。

 

「ノーヴェさん!」

 

「ノーヴェ!大丈夫か」

 

ヴィヴィオ達が心配してノーヴェに駆け寄る。少ししてから水面からノーヴェが顔を出した。

 

「ぶはっ!はぁ、はぁ。アキラの野郎…」

 

「大丈夫ですか」

 

アインハルトもさすがに心配して来た。

 

「ああ。アインハルトも気をつけろよ。あれ怒らせたら見境ないからな」

 

「誰がガキ相手にキレるかよ」

 

「うお!」

 

いつの間にかアキラがノーヴェの横の岩の上にいた。アキラとノーヴェが言い合い、それをヴィヴィオ達がなだめてる中、アインハルトはアキラが放った水切りの場所をみていた。

 

(ノーヴェさんの水切りもすごかった……でも、それ以上…。飛距離も、威力も…段違い。私たちやノーヴェさんと違って服も着ているからその分水の抵抗もあるはずなのに…)

 

「もー、アキラ君ったらこんなにびしょびしょにしちゃって…」

 

「大丈夫だよ」

 

ギンガに服を濡らしたことを咎められると、アキラは指を弾いた。すると、アキラの服に染み込んでいた水分が浮き上がり、氷となって落ちた。

 

「ほい、乾いた」

 

「もう…………あ、アインハルト、みんな、驚かしてごめんね?」

 

「いえ、大丈夫です……ノーヴェさん、もう少し、水切りやってみても?」

 

「え?ああ。やってみろ」

 

アインハルトは再び構える。

 

(私も…あんな風に……!)

 

アインハルトの放った拳圧が水面を貫き、高く水柱をあげた。

 

ヴィヴィオ達お子様組が川で遊んでいる中、大人達旧六課組(+セッテ)はアスレチックで障害物レースみたいなのを行っていた。

 

そしてその休憩の中、スバルとなのはは平然としていたが、最近現場ではなくデスクワークが多くなっていたフェイトとティアナはグロッキー状態となっていた。お昼となった時、一度アルピーノ家へと戻る。

 

「はーい!みんなー、お昼ですよー!集ー合ー♪」

 

『はーい!』

 

メガーヌの呼びかけで集まってくる子ども達。

 

大人組みは一足早く訓練を終えていたのか、調理の手伝いや配膳に参加している。

 

「ところで、ヴィヴィオとアインハルトちゃんはどうしたんでしょう?」

 

「あらあらまあまあ…二人ともまるで生まれたての小鹿みたい」

 

「水斬りの練習ずっとやっていましたからね」

 

ヴィヴィオとアインハルトの二人はあれからずっと水斬りをしていた為、足腰にガタが来ていた様だ。

 

そして食後。

 

食器を片付け、皿を洗うタイミングでルーテシアが切り出した。

 

「アインハルト、ノーリ。悪いんだけどお皿洗っといてくれない?」

 

「んー」

 

「あ、はい」

 

「あ、なら私も…」

 

自分も手伝おうとヴィヴィオが挙手したとき、ルーテシアがそれを止める。

 

「ううん、ヴィヴィオとコロナとリオにはちょっと手伝ってほしいことがあってね」

 

「え?」

 

「ごめんね。二人とも!あとでケーキでもご馳走するから。お願いね!じゃっ!!!」

 

ルーテシアはヴィヴィオたちを連れてその場を駆け足で去っていった。

 

「…なんだあいつ……」

 

「…とりあえずさっと済ませましょうか」

 

「…そうだな」

 

二人は洗い物を始める。そしてその様子を少し離れた茂みからルーテシア達がみていた。

 

「ルーちゃん…いったいなにを…」

 

ルーテシアは用があると言って洗い物をする場所を離れたが、そのまま裏道を通って二人が見える位置に来ていた。

 

目的を聞かれたルーテシアは双眼鏡で二人を見ながら怪しげに笑う。

 

「ふふふ…私の第六感が言っているのよ……あの二人は、くっつくってね!」

 

「…くっつく?」

 

 

 

ー水場ー

 

 

 

ノーリとアインハルトはルーテシアたちに見られていることなど知らずに洗い物をしながら話をしていた。なんてことはない、他愛のない話だ。

 

「ノーリさん達は、いつもノーヴェさんからあの様に指導を?」

 

アインハルトはいつもノ―ヴェに格闘技を教わっているのかを尋ねる。

 

「そうだなぁ。最初はヴィヴィオが教わってたらしいが…。そのあとコロナやリオ、俺が混ざってった感じかなぁ。まぁ、ノーヴェも救助隊の仕事とかあるから、いつもってわけじゃねぇしな。でも、なんだかんだ面倒見てくれてるんだよな。ノーヴェのやつ、口は悪いし目付きも悪いしケンカっぱやいがその実、優しいところもある」

 

「そう、ですね。私の時も、そうでした…他人の筈の私を気にかけてくれて、ずっと独学(ひとり)だった私を外へ引っ張ってくれました」

 

「そりゃ、良かったな。俺もそれが正解だったと思う…」

 

そんな話をしている最中に、同じ皿を取ろうとして二人の指が偶然触れあった。

 

「あっ」

 

「ん」

 

二人はすぐに腕を引いた。

 

「…」

 

「…」

 

少しの沈黙。その場には水道が水を流す音だけが響いていた。

 

「キタキタキタキター!いい感じの雰囲気!」

 

「ルーちゃんバレちゃうよ!」 

 

奥の茂みではルーテシアが興奮を押さえられずに、小声ではしゃぐ。だが運よく?ノーリたちには聞こえなかったようだ。

 

アインハルトは気まずい空気をどうにかしたくて、ひとつ話題を見つける。

 

「あの、ノーリさん」

 

「どうした?」

 

「ひとつだけ訪ねたいのですが…その、川遊びの時に見てしまったのですが身体に……傷が…」

 

ノーリはアキラのクローンとして生まれ、すぐに引き取られたわけではない。都合のいい兵器として利用されるだけされ、幾重の傷を負ってきた。そして三ヶ月前に起きた事件でも新たに傷を負った。

 

そんな彼の身体は年齢にそぐわない傷痕がいくつもあった。

 

「……まぁ、色々あったのさ。聞きたきゃ話すが。少し長いぞ?」

 

 

 

 

続く



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第七話 欲火!望む力、望まれる力

久々にアキラとギンガのイチャラブを書いてみました。


ノーリは洗い物を終えてからアインハルトと散歩がてら自分の過去について話した。ノーリ自身別に気にしている内容ではなかったが、今アインハルトたちに嫌われるのは損が多いのでかつて殺しを繰り返したことは黙っていた。

 

「色々あったのですね…」

 

「色々あったんだよ………ところでよ。お前は覇王の記憶を継承してるってのはどれくらいのそれなんだ?」

 

ノーリはいい話の切り口を見つけ、思いきって聞いてみた。

 

「え?」

 

「俺のことを話したんだ。お前のことも教えてくれよ」

 

「あ……そう、ですね。喋らせてばかりというのは申し訳ありませんよね」

 

その二人の様子を、ルーテシアたちはまだ監視していた。

 

「やっぱりいい感じね~あの二人」

 

「あの、あんまり二人の世界に介入するのもどうかとおもうんだけど…」

 

こんなことをするのは野暮ではないかとヴィヴィオが言うがルーテシアはやめる気はない。それどころか森の中で二人きりでいる情景に興奮してしまっている。

 

「バレなきゃ平気だって。それに、新しくできた大事な友達がもし今後この事で悩んでたら役立てるでしょ?」

 

(それが一番野暮だとおもうんだけど…)

 

ヴィヴィオは思ったがルーテシアの言っていることも一理あるので黙っていた。

 

そしてアインハルトは自身が覚えている覇王の記憶について話始めた。

 

乱世の時代を生きた、短い生涯の記憶。悲しい記憶。オリヴィエとの思い出。ノーリはその話を聞くことに徹底した。ただひたすらにアインハルトの言葉を聴き、たまに頷き、話を途切れさせないように質問も一切せず。

 

「……クラウスは彼女を止められなかった。運命を変えることは出来なかったのです。皮肉な話ですが、クラウスは彼女を失ってから強くなりました。すべてをなげうって武の道に打ち込み、一騎当千の力を手に入れて……」

 

ここで、一度アインハルトは口を閉じた。ノーリは首を傾げた。

 

「……?」

 

「実は、そのあとの記憶が私にはないんです。彼がどのように強くなっていったか。身体は覚えているのに記憶がないんです。そのせいで、思い出せない技もいくつかあります。身体は動こうとしてるのに記憶が追い付かず、うまく動けないことも…」

 

「…」

 

「失礼。話が逸れました。そんなこんなで強くなっても、望んだものは手に入らないまま、彼も短い生涯を終えました」

 

ここでノーリがはじめて口を開く。それは、アインハルトの話をもっと聴きたかったからだ。なんだかいま聞かなければこれで話が終わってしまうような気がした。

 

「…………望んだもの?」

 

「本当の強さです。守るべきものを守れない悲しみをもう繰り返さない強さ。彼が作り上げ、彼が磨きあげた覇王流は弱くなんかないと証明すること。それが私が受け継いだ悲願なんです」

 

アインハルトは自身のことを説明しきった。その事はノーリにも伝わったらしく、ノーリが質問をした。

 

「…一個だけいいか」

 

「はい」

 

「お前がどんな記憶を持って、何をしたいかはわかった。そんで、仮にこの先、お前が何らかの方法で覇王流の強さを証明したとして……お前は幸せか?」

 

「え…?」

 

ノーリの質問に、アインハルトは硬直する。だが、ノーリはその一瞬だけで「今聞くべきことでない」と判断し、アインハルトに背を向けた。

 

「いや、すまん。なんでもない。忘れてくれ」

 

「…」

 

「みんなのところに帰ろうぜ」

 

「はい…」

 

二人は家の方に向かって歩き出した。帰り道の中、アインハルトは色々と思考回路を巡らせていた。

 

(さっきの質問はいったい…。私を心配してくれた…ということなのでしょうか…。ノーリさん自身もたくさん辛い思いをしてきているのに、私のことを気遣って…?ああ、いけない。私が暗い性格で、暗い話ばかりしているから…)

 

アインハルトは歩きながらノーリの背中を見る。川遊びのとき見た傷痕を思い出す。

 

(いままで辛い人生だったのですよね…。私なんかと比べたら全然。本当は他人を気遣う余裕なんか、きっとないのに…。きっと私の話を聴きたがったのも私のために…。表には出さないけどすごく優しい方……)

 

ノーリの話の聞き方は、内面に色々溜め込んだ人の話を聞いてやるやり方だった。不安なことも人に話すと楽になるって言うあれだ。実際アインハルトも話して少し楽になっていた。

 

(このまま暗い空気のままでは、ノーリさんの気分もますます暗く…なにか、ノーリさんが喜びそうな話は…)

 

アインハルトが考えてから約1分二人の間には沈黙が流れ、砂利を踏みしめる二人の足音だけが鳴り響く。

 

(何も思い付かない…)

 

二人の間に虚無の時間だけが流れる。アインハルトが困り果てているちょうどそのとき、なぜか一人でアリスの面倒を見ているアキラがやって来た。

 

「おう」

 

「アキラさん…」

 

「なんだ。お前ら二人か…。ああそうだ。スバルたちがこれから模擬戦だとよ。見学にでも行くか?」

 

「行くか?アインハルト」

 

「はい!是非」

 

(よかった、ちょっと笑顔を見せてくれた)

 

アインハルトはホッとして小声でアキラに礼を言う。

 

「アキラさん、ありがとうございます」

 

なぜか礼を言われ、アキラは疑問符を浮かべていた。

 

「ヴィヴィオさんのお母様もやるのですか?」

 

「ん?ああ。そうだが?」

 

アインハルトはまだなのはが管理局のエースオブエースの一等空尉で教導官なのを知らなかった。ノーリはその事を前提になのはも模擬戦に参加する話をしていたので「当然だろう」という顔をしている。

 

「お二人とも優しくて、家庭的でほのぼのとしたお母様で素敵な方だと思っていたのですが、魔法戦にも参加するなんて少し驚きです…」

 

「なのはさんは俺と同じくらい強ぇ魔導士だぞ」

 

二人と歩いていたアキラが何気なく教える。アインハルトはそれを聞くと「理解できない」という顔をして硬直していた。

 

 

 

ー訓練用廃市街地風アスレチックー

 

 

 

廃市街地に仰々しい音が鳴り響く。スバルとなのはがぶつかった音だ。

 

「でぇぇぇぇ!」

 

スバルは一撃をなのはに防がれた直後に離れ、その後ろからティアナが砲撃を放った。

 

「ファイヤー!」

 

ティアナの攻撃はうまく避けるなのはだったが、回避を終えた瞬間、ティアナが叫んだ。

 

「今!セッテ!!」

 

なのはは砲撃を避けたつもりだったがうまく誘導されていた。そして、ビルの影からセッテがなのはの背後めがけて二本の刃を振るった。

 

しかし、驚異的な反射神経でなのはは振り返った。なのははティアナの声と、わずかなセッテの動く音に反応していたのだ。

 

だが、そこまでやれるのもティアナの予想の内。後方から現れたセッテは、ティアナの幻影だった。

 

「!」

 

「…!」

 

本物のセッテは上から来ていた。セッテの渾身の直下切りをなのははなんとかレイジングハートで防ぐ。

 

「ん…」

 

その様子をアインハルトは目を輝かせて見ていた。

 

「なんというか、みなさん動きっぱなしですね…あれ?」

 

アインハルトが率直な感想を言っていると、アスレチックの奥の方でギンガが訓練をしているのを見つけた。

 

「ギンガさんも…」

 

「ああ。動きたくなったとか言って俺にアリス任せて行っちまった。まぁ、ギンガもしばらく家のことばっかだったからな。たまに身体動かすのも悪くないだろう」

 

ギンガの行動を、アキラは寛大な目で見ていた。

 

「…局の皆さんは、いつもこれくらい鍛えているものなんでしょうか…」

 

「……そうだな。立場は違えど、みんな命張る現場にいるんだ。強くならないといけないからな…」

 

「…」

 

「アインハルトさん少し抜けませんか?」

 

ヴィヴィオがアインハルトに声をかけた。

 

「こういうの見ちゃうと身体うごかしたくなっちゃいますよね。ですから、むこうで軽く一本」

 

自身の欲に加えアインハルトの気持ちを汲み取っての提案だった。

 

「はい。是非」

 

アインハルトが承諾したとき、ヴィヴィオの方を誰かが叩いた。

 

「俺もいいか?」

 

ノーリだ。

 

「はい、もちろん♪」

 

三人は森の方へ向かった。

 

 

 

-訓練終了-

 

 

 

「ありがとうございましたー!」

 

訓練が終わり、全員が片付けをしていると、そこにアリスを抱いたアキラがビルを伝って飛んできた。

 

「アキラ君。どうかした?」

 

「おう。なのはさん。終わったのか?」

 

「うん。ちょうど今」

 

「そうか」

 

アキラはなのはに訓練が終わったことを確認するとギンガの方へ歩み依る。

 

「…?。あ、アキラ君ごめんね、アリスのこと見てもらっ…きゃあ!」

 

片手にアリスを抱いているアキラは、ギンガを片手でお姫様だっこのように持ち上げた。そしてギンガの荷物を肩に抱える。

 

「ちょ、ちょっとアキラ君!?」

 

「疲れただろ?あっちまで運んでやるよ」

 

「そ、そんな…悪いし……それに、その…汗かいてるし………」

 

そう言われた瞬間、アキラはギンガの首もとに顔を近づけ、匂いを嗅いだ。

 

「!!!」

 

「大丈夫だよ。そんな臭いやしねぇ。それにそんなこと今さら気にしねぇよ。夜には汗ばんだ互いの身体を密着させてる仲だろ?」

 

「そうだけど…」

 

「大丈夫。俺から言わせりゃギンガはいつだっていい匂いだよ…。汗の匂いすら…スゥ…いとおしい」

 

「もう……恥ずかしいよ…」

 

「じゃっ、行くぜ」

 

アキラはその場から高く飛び上がり、アルピーノ家を目指した。その場に残された全員は呆然としている。

 

「ティア」

 

「なに?」

 

「あの二人見てると口から砂が出そうなんだけど」

 

「わかる」

 

「フェイトちゃん…なんだか胃が痛いよ」

 

「私はなんか口のなかがすごく甘い…。チョコとか熟れたマンゴーとか甘いもの一気に口に詰められたみたい」

 

「相変わらず仲良いですね。お二人とも。家でもあんな感じなんですか?」

 

なのは達のコメントに苦笑いをしながら、キャロがセッテに訪ねた。

 

「ええ。人前だろうが家だろうがお構い無く。飽きもせず」

 

セッテは遠い眼しながら答えた。

 

その日の訓練は終わり汗をかいた一部女性陣はそのままルーテシアに案内され、風呂へと向かった。ギンガも一緒だ。アキラとエリオとノーリはメガーヌの夕食の準備を手伝っている。

 

キッチンでは手慣れた手つきで調理するメガーヌと、多少調理に不馴れな感じが出ているエリオ、軽い手伝いだけのノーリ、素早く的確に黙々と作り続けるアキラがいた。

 

「相変わらずアキラ君は速いわね~」

 

メガーヌが感心しながら言う。アキラは以前、JS事件から日が浅い時にルーテシアに招かれ、ここに来ていた。そのときにアキラの料理を披露したのだ。

 

「ま、これでも一家を支える亭主ですから。それに大昔にあるお嬢様の家で習ったり、義兄貴に教わったり……」

 

「羨ましいです。あ、今度教えてくださいよ」

 

エリオが言う。アキラは一旦手を止めて笑う。

 

「なんだよ。キャロに良いとこみせたいってか?」

 

「えっ…いえそんなつもりじゃ…」

 

アキラに茶化され、エリオは否定するが顔は赤い。純粋な気持ちでアキラに言ったが、やはり真相心理にはそういう部分もあるみたいだ。

 

「照れんなよ。たまにはカッコいいところ見せたいんだろ?」

 

「え…えっと…」

 

「良いわね~青春って感じで」

 

 

 

ー温泉ー

 

 

 

温泉では女子たちがキャイキャイ騒いでいた。アリスはまだオムツが取れていないので湯船には浸かれないが、ルーテシアが用意してくれた小さな桶に温泉を入れてそこに浸からせていた。湯船に浮く仕組みになっているので、ギンガの視界にいられる。

 

「気持ちいい?アリス」

 

桶の湯に浸かっているアリスにルーテシアが聞いた。アリスはルーテシアの顔に手を伸ばしながら小さく声を出した。

 

「うにゅ」

 

「気持ちいいって」

 

ギンガが代弁すると、ルーテシアは笑う。

 

「それは良かった。楽しんでくれてありがとう」

 

「ルーちゃんは経営者体質ね。お客様の笑顔が代金って感じ?」

 

「あら。そうかしら」

 

幸せそうに話し合う二人。このまま幸せな時間が続くと思った矢先、事件が起きた。

 

ティアナとキャロがルーテシアの元へ駆けてきた。

 

「ルーちゃん!湯船の中になにか飼ってたりしてない!?」

 

「えー?飼ってないよ?温泉に住むような珍しいペット飼ってるなら真っ先に紹介してるし」

 

ルーテシアは笑顔で答え、二人は「たしかにそうだ」という顔をしていた。

 

「何かあったの?」

 

ギンガが尋ねる。

 

「なにか、温泉の中でなにかに触られて…」

 

「なんだかこう…ぬるっと…」

 

「ル、ルーちゃん!」

 

「なにか出た!なにか!」

 

そこに、ヴィヴィオたちも駆けてきた。気のせいやさっきキャロたちがいた湯船だけの話ではないようだ。

 

「なにかいるのかしら…」

 

次の瞬間、ルーテシアが何かに触られ、悲鳴を上げる。

 

「あっ!?」

 

「ルーちゃん!?」

 

ルーテシアの悲鳴にギンガが驚いているが、そのつぎに悲鳴を上げたのはギンガだった。湯船の中で何かにおしりを一瞬だがたしかに触られたのだ。

 

「きゃっ!?」

 

ギンガは悲鳴を上げてすぐに「はっ」として口を押さえる。だがもう遅かったギンガの悲鳴が響いた刹那、ガラスの割れる音がし、その約2秒後にバリアジャケットを纏ったアキラが上空から舞い降りた。

 

そして湯船の中のギンガとアリスが入っている桶をつかんですぐに湯船から飛び出して近くの塀の上に乗った。

 

「大丈夫か!?」

 

「うん…無事」

 

ギンガが「遅かった」と思いながらアキラの顔を見るとアキラは一応顔にタオルを巻いて視界を覆っていた。回りは裸の女性なので考慮はしてきたようだ。

 

「お前らは!」

 

「大丈夫です…」

 

驚異的な早さと女湯だろうとなんだろうと突っ込んでくるアキラに驚きながらもルーテシアたちは返事をした。

 

「なにがあった?」

 

「うーん…痴漢…というかいたずら?目に見えない何かに身体を触られて…」

 

「…なるほど」

 

アキラは状況を聞くと静かになった。集中力を研ぎ澄まし、気配を探っているのだ。すると、今度はセッテが被害にあった。

 

「ひゃん!」

 

「……そこか」

 

アキラは塀から飛び上がり、セッテが飛び上がった湯船に狙いを定め、足を振りかざす。

 

「刃脚」

 

アキラの足から斬撃が放たれ、温泉に命中する。その攻撃に驚き、一瞬姿を表した犯人をアキラは逃がさなかった。

 

アキラは地面に着地したと同時に二人を下ろし、犯人がまた物体の中に逃げる前に温泉のお湯を操作した。

 

「アイスクリエイト!」

 

「えぇ!?アキラ!?なんで…うわわわ」

 

お湯がその犯人を捕らえ空中に投げ出した。そしてアキラは追撃を加える。

 

「ジャイアントアイスナックル」

 

お湯が集合し氷結することで完成した巨大な氷の手が拳を握り、犯人を殴り飛ばした。

 

「あー!」

 

よくみてみるとそれはセインだった。セインはアキラのジャイアントアイスナックルの威力で結構吹っ飛んだがそのまま湯船に向かって落ちていく。

 

「なんだセインか」

 

「そんなとこだろうと思った」

 

「おぉぉぉぉぉ!」

 

目隠しをして気配だけで狙いを定めているアキラはアキラが追撃しようとしたのをギンガとセッテが全力で止めに入った。

 

「ストップです!アキラさん!」

 

「ストップ!アキラ君!!」

 

「…いいのか?」

 

「ただのセインのいたずらよ。心配ないわ」

 

「なんだよ…」

 

アキラはジャイアントアイスナックルを解除してため息をついた。

 

そのアキラの姿に驚いている人間は二人いた。一人目はアインハルト、そしてもう一人はコロナだった。

 

この日のこの出来事をきっかけに、二人の…特にコロナの運命は大きく転換していくことになる。だがそれはもう少し先の話

 

 

 

 

続く



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第八話 開戦!無人世界の小戦争

お久しぶりです。約二ヶ月ぶりです。ここのところ全く音沙汰なしですいませんでした。普通に忙しかった&この辺の話考えるの大変だから少し避けてたっていうのが理由です次回とかも早めに出せたらいいなって思ってます。それではどうぞ

あ、リリカルライブ当たりました。日程が合えば行きたいですね。


カルナージ、アルピーノ家の露天風呂でイタズラをしたセインは正座をさせられてた。

 

「さて…」

 

そこに目隠しをしたままのアキラが歩いてくる。

 

「言い残すことはあるか」

 

アキラは氷でクリエイトした刀をセインの首もとに当てた。

 

「いやいやいやいや罰が重くない!?」

 

「問答無用」

 

「はい、アキラ君ストップ」 

 

ギンガはアキラをなだめながら後方に引っ張る。

 

「けどよぉ」

 

「でももけどもないの。女湯で起きたいざこざに男のあなたが首突っ込むこと自体おかしいんだから」

 

アキラは少し納得いってなさそうだったが、ギンガに逆らうはずもなく渋々従う。

 

セインは回りから色々言われ、責められながらも何だかんだ許された。翌朝の朝食を作ると言う条件付きだがその代わりこっちの世界に泊まれたりするのでどちらかと言うとセインにメリットがある条件だった。

 

「…ま、解決したんならいいや。俺は戻るぞ。騒がせてすまなかったな」

 

アキラはこれと言って問題にならないであろうことを察し、そのまま去っていった。

 

 

ーその日の夜ー

 

 

 

夕食を済ませたメンバーはそれぞれの寝室に向かった。アキラ達男組は遅れて風呂に入りに行った。

 

「にしても初日から災難でしたね」

 

風呂に浸かっていると、エリオが話しかけてきた。

 

「なにがだ?」

 

「さっきのセインの件ですよ。女の子達から殴られててもおかしくなかったんじゃないですか?」

 

「俺より弱いやつらの拳なんて恐れるに足りねぇよ。そんなのより、ギンガになにかがあることの方が怖い」

 

「流石ですね…」

 

エリオは苦笑いを浮かべながらも見事だと思った。軽い会話を終えると、アキラはふとノーリの方を見た。ノーリはただぼぅっと夜空を眺めている。

 

「どうかしたか?」

 

「…」

 

「…?。ノーリ!」

 

アキラに、名前を呼ばれてノーリはハッとしてアキラの方を向いた。

 

「な、なんだ?」

 

「いやどうもしねぇけどよ…なんかボーッとしてるなと思ってよ。どうした?悩みごとかなんかか?」

 

「いや…………なんでもねぇよ。考え事してただけだ」

 

なにかある。なんとなくアキラはそう思った。だがあえて言及はせずに流した。

 

「そうか…なんか悩みがあるなら、いつでも相談しろよ」

 

「…ああ」

 

ノーリは悩んでいた。少し前のアインハルトとの模擬戦で起きたこと。

 

そして、それからずっと頭のなかで記憶が再生される。自分じゃない、誰かの記憶。だがそれはモヤがかかったようにけして鮮明ではない。

 

だから余計に気になる。誰の、なんの記憶なのか。

 

ノーリはため息をついて顔を洗った。

 

(らしくねぇよな)

 

それ以上は気にしないようにして、温泉を、この世界を楽しむことにした。過ぎたこと、今考えてどうにかなるものではない。そう思ったのだ。

 

 

-翌日-

 

 

 

翌日、ほぼ全員が訓練場に呼び出された。今日模擬戦を行うメンバーだ。だが、その場に今回ほぼ旅行に来ていた筈のアキラとギンガも呼び出されている。

 

アキラは模擬戦の組み合わせを見て微妙な顔をしていた。

 

「おいなのはさんよ。なんで旅行気分の俺らが模擬戦に参加することが決まってんだ」

 

組み合わせ表にはノーリ、セッテ、がいるのはもちろん、アキラとギンガの写真が載っている。

 

「え?きっと二人なら参加すると思って」

 

「ああ?俺ら旅行に来てんだそんなのに参加する分けねぇだろ。バトルマニアだけでやってな。なぁギンガ…」

 

「え?」

 

アキラがギンガの方を見ると、ギンガは驚いた表情で顔を赤くする。ギンガは既にトレーニングウェアに着替え、身体をほぐしていた。

 

「ギンガ…」

 

アキラは頭を抱えてため息をついた。そんなアキラの背後になのはとフェイトが笑顔で近づいてきた。

 

「ギンガはやる気みたいだけど…どうする?」

 

「それに、訓練は欠かさないようにしないと」

 

「はぁ…今回っきりだ。今度はやるならやるでちゃんと連絡最初から寄越せよ」

 

「うん♪」

 

アキラはうんざりした顔で準備に入る。アキラはバッグから紐を取り出し、刀の唾と鞘を絡めるように紐を巻き始めた。

 

「なにしてるの?」

 

ギンガが訪ねる。

 

「相手が元六課の連中ならモノホンの刀でも避けてくれるし、危険じゃないように当たってくれるが、ガキ共相手じゃそうもいかねぇだろ。模擬戦だから、手を抜きすぎるわけにもいかねぇしな」

 

アキラは刀を抜き身で使うのは危険なので刀を鞘に納めた状態で使おうと言うのだ。

 

「ふぅん…じゃあ私が相手の時は抜いてくれる?」

 

「お前に刃は向けない。俺と当たるまえに負けといてくれ」

 

「ひどい!」

 

「もしくは俺が即死するかのどちらかだな…。なによりも大切なお前に、刃向けるなんてするくらいなら、死んだ方がマシだ…」

 

「アキラ君…」

 

二人の夫婦漫才を、フェイトとなのはは哀しそうな目で見ていた。

 

「フェイトちゃん…なんだか胸がモヤモヤするよ…」

 

「なのは私も」

 

 

 

 

ー模擬戦会場-

 

 

 

アキラとノーリは なのは、ヴィヴィオ、リオ、ルーテシア、エリオ、スバルがいる青組。ギンガとセッテはフェイト、ティアナ、キャロ、コロナ、アインハルト、ノーヴェ

のいる赤組となっていた。

 

「それじゃあ、赤組行くよ!」

 

「青組も、せーの!」

 

 

「「「「「セーット!!アーップ!!!!」」」」」

 

 

全員が同時にバリアジャケットを纏った。中々拝めない光景だ。

 

そして、準備が整ったことをメガーヌが確認すると、模擬戦開始の合図となる銅鑼を鳴らした。その音で全員が動き出す。

 

それぞれ、同じ役割を任された相手を倒すために。

 

 

 

ーGW側ー

 

 

 

GW アキラ・ナカジマ LIFE2800

「やれやれ、何でこんなことになるんだか」

 

アキラは鞘に納めた状態の刀を担ぎながらビルからビルへと飛び移っていく。

 

「あ!」

 

そんなアキラの前にフェイトが現れた。

 

「いきなり手加減無用の相手かよ…セッテのがやりやすかったんだがな…」

 

「そんなこと言わないでよ。さぁ、楽しくやっていこう」

 

 

いっぽうそのころ、別の場所ではセッテがエリオとエンゲージしていた。セッテは日常よりも鋭い目付きでエリオを睨みながらも丁寧に挨拶する。

 

GW セッテ・ナカジマ LIFE 2800

 

「お手柔らかにお願いします」

 

「こちらこそ…」

 

-FA側-

 

FA ギンガ・ナカジマ LIFE 3000

 

ギンガはウィングロードを展開し、敵陣へ進んでいる途中でスバルに出くわしていた。

 

「ギン姉が相手かぁ!よろしくね!」

 

「手加減はしないわよ」

 

「もっちろん。むしろ本気でやって欲しいかな!」

 

「なら!望み通り!」

 

ギンガが飛びかかり、スバルも動いた。二人の蹴りがぶつかり合い衝撃が炸裂した。

 

 

また、別の場所ではノーヴェとノーリがエンゲージしている。

 

 

FA ノーリ・ナカジマ LIEE 3000

 

 

「いくぜお師匠殿」

 

「へ、嫌味なやつだ」

 

ノーヴェは構える。ノーリも同じように構えた。動きや戦い方は、互いに知っている。互角の戦いが繰り広げられるように思われた。いや、そうなるようにノーヴェが組み合わせを選んだのだ。

 

だが、展開は違った。

 

「!!」

 

戦闘が開始されてから僅か20秒、ノーヴェは思うように動けなかった。最初の一手、二手、それらが見たことない形で放たれたのだ。

 

ノーヴェの隙をつくのは当然のこと、変化球の攻撃を次々と繰り出す。

 

(なんだこりゃ!?構えがむちゃくちゃに見えて、そうじゃない……)

 

ノーヴェ LIFE 3000→2740

 

「おぉ!」

 

「ちっ!」

 

ノーヴェは何とか攻撃の隙を見つけてノーリの攻撃を受け止めて押さえた。

 

「ずいぶん変わった攻撃してくんじゃねぇか…。そんなん教えた覚えはねぇけどなぁ」

 

「戦場は常に想定外…相手が想定内だと思わないことだ。それに、男子三日合わざればなんとやらって言うだろ!」

 

「言って……くれる!!」

 

ノーヴェはノーリを突き飛ばすと同時に自身も後退して距離を取った。

 

(ちっ、教えたこと以外やるなって言いてぇとこだが言ってることは正しいし、何より型も美しい…やっかいだぜまったく!)

 

「押していくぜ!!」

 

一気に間を詰めようとしてきたノーリに、ノーヴェはガンナックルから魔力弾を連射した。ノーリはそれを一度大きく避け、そして今度は接近しながら飛んでくる弾を拳で相殺しながら接近していく。

 

「…!」

 

「ふっ!!」

 

ノーリはある程度距離を詰めると、そのままガンナックルの射線上から外れるように飛び、ノーヴェに殴り掛かった。ノーヴェはその攻撃にうまくカウンターを返した

 

つもりだった。

 

次の瞬間中を飛んだのはノーヴェだった。

 

「!?」

 

ノーヴェは地面に叩きつけられると同時に起き上がり、ノーリを見た。

 

「何しやがった!?」

 

「カウンターカウンター…急にやられるとビビるだろ?」

 

(違う…今のは…完全に殴られるはずだった…。身体が勝手に動いたとでも言うのかよ?)

 

一瞬の反撃、それはノーリの意思ではなかった。それどころかさっきまでの戦闘もまるで自身の頭の中にスーパーコンピューターがあるように感じた。相手の反撃に対する最適解を自動で実行しているような気分だった。

 

(くそっ、どうなってんだよ…)

 

 

 

ーアキラVSフェイトー

 

 

 

「ところで、アキラ君はGWでよかったの?」

 

フェイトが上空からアキラに訪ねた。質問の意図は簡単だ。アキラは基本的に陸戦で空戦能力はない。それでもGWに選ばれたことが気になっていたのだ。

 

「ん?ああ。あんたにゃまだ見せてなかったか」

 

アキラは一瞬にっと笑い、姿勢を低くして足に力を込める。

 

「行くぜフェイトさん!」

 

そういうと、アキラの背中から魔力の翼が発生した。正しくは白い魔力の触手のようなものが数本絡み合い、翼のような形を成している程度だ。

 

「!!」

 

「おぉぉぉ!!」

 

アキラはそのままフェイトに向かって飛んだ。ジャンプによる飛躍ではない。確実に飛行と呼べるものだった。フェイトに充分接近したアキラは拳を向けた。

 

「っ!」

 

フェイトは瞬時にシールドを展開した。しかし、アキラの拳はそれをやすやすと打ち砕く。

 

「嘘!?」

 

「せいっ!」

 

そのままフェイトの腕を掴み、自身の方に寄せてショルダーアタックを食らわせた。フェイトはその衝撃に耐えきれず、近くのビルに突っ込んだ。

 

「いたた…」

 

フェイト LIFE 2800→2550

 

「どうだ?」

 

「なるほど…伊達にトレーニングしてきたわけじゃないみたいだね…」

 

「当然だ。さぁ、楽しくいこうぜ?」

 

先ほど自身に向けて言われた言葉を挑発気味にフェイトに返した。

 

 

 

続く



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第九話 決行!2on1バトル!

一週間以内の更新です。丁度いい感じに筆が乗りました。次回も早くだしたいです。あえて反省点を書くなら前作の主人公が目立ちすぎているという点でしょうか。まぁまだコミックス3巻のところなので、その辺はご愛嬌。

感想待ってます


元機動六課とヴィヴィオとその友人ら、そしてアキラたちによる訓練模擬戦。開始から数分、拮抗した戦闘が繰り広げられていた。

 

GWアキラLIFE2800VSフェイトLIFE2300

GWエリオLIFE2700VSセッテLIFE2700

 

FAスバルLIFE2850VSギンガLIFE3000

FAノーリLIFE2950vsノーヴェLIFE2500

 

基本的に同じ役職の人間同士が戦っていたが、ここで少し動きが変わり始める。ヴィヴィオを中破させたアインハルトがCGを務めるなのはの元へ向かったのだ。

 

そしてそのことに気づいたルーテシアがアキラにアインハルトのところへ向かうように指示した。

 

「…チッ、ヴィヴィオがやられたか。悪ぃなフェイトさん」

 

「え?」

 

アキラは接近戦をしていたフェイトからいったん距離をとった。なにか来ると察したフェイトは急いで構える。

 

「はぁ!!!」

 

アキラは背中の魔力翼をうねらせてフェイトに攻撃した。翼はまるで竜巻のような形になってかなりの速度でフェイトに襲い掛かる。フェイトはとっさにシールドを展開したが力で押し負け、防ぎながらもビルへ突っ込んだ。

 

フェイトLIFE2300→2140

 

「あの翼…中々油断できない」

 

フェイトが顔を上げるとアキラが懐刀を出していることに気づく。

 

「この試合で出せる全力を出す。あんたならこれくらいじゃやられねぇって信じてるぜ」

 

「え?」

 

「散桜」

 

次の瞬間、フェイトが突っ込んだビルが切り刻まれ、崩れ落ちた。

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

フェイトの悲鳴が轟いた時にはアキラはアインハルトの元へ飛んでいた。まさかいきなりビルを瓦礫に変えられるとは思っておらずフェイトは思いっきり崩壊に巻き込まれてLIFEを大きく削られた。

 

普段のフェイトなら避けられたかもしれないが、模擬戦という油断が招いた結果だった。

 

フェイトLIFE2140→1740

 

一方、なのはの元へ向かっていたアインハルトの前にアキラが現れた。アキラは翼を消滅させて地面に着地した。

 

「元気そうじゃねぇか」

 

「…」

 

アインハルトは無言で構える。

 

(一度、戦わずして負けた相手。実力の差は理解していますが、今はしのごの言っている場合ではありません……全力にて打倒して見せます!)

 

「行きます!」

 

「応!来やがれ!」

 

アキラは突っ込んでくるアインハルトに対し刀をしまって対抗する。アインハルトはただ構えてるだけのアキラに殴り掛かる。アキラはアインハルトの拳を掌で受ける。次の一撃、アインハルトのアッパーを避ける。さらにアインハルトは避けたアキラに飛び蹴りを食らわせるがアキラは両腕で防ぐ。

 

「はぁぁぁぁ!!!」

 

追撃をかけようとしたアインハルトに対し、アキラは拳を構え懐に入り込む。

 

「しまっ…」

 

「イプシロン」

 

腹部に強力な一撃を食らい、アインハルトは吹っ飛ばされる。

 

アインハルトLIFE2300→1700

 

(ねじ込まれるような一撃…剣撃だけじゃなく、格闘も…)

 

「ん?」

 

アキラLIFE2800→2700

 

アキラは気づかないうちに反撃を食らっていた。

 

「へぇ…」

 

(あいつの技術じゃねぇな。とっさの事態にヴィヴィオを真似たか)

 

アキラは冷静にアインハルトを解析していた。

 

「くっ…まだまだ…」

 

アインハルトは立ち上がり、再びアキラに向かっていく。今度は一撃に込める威力を低くし、拳の連撃をアキラに放つ。アキラは何とかガードする。

 

アキラLIFE2700→2590

 

「素早い拳、さすがだが…」

 

アキラはアインハルトの手首を掴み、そのまま背負い投げをした。だが、アインハルトはうまく受け身を取ってダメージを回避する。

 

「ッ!」

 

アインハルトはすぐに起き上がったがアキラはまだ腕を離しておらず、すぐに引っ張られる。

 

「逃がさねぇよ」

 

「!」

 

アキラが拳を振り上げて、魔力が溜まっているのが見えたが、避けようと思っても腕がしっかり掴まれているために動けない。

 

「……っ!!!」

 

アインハルトはなんとか逃げようともがく。その様子を遠くから見ていたノーヴェが言葉をこぼした。

 

「違う、そうじゃねぇ。覚えたことを思い出せ」

 

(脱力した静止状態から、足先から下半身へ…)

 

「!」

 

(下半身から上半身へ……回転の加速で拳を押し出す!)

 

水切りの要領で放たれた拳はアキラの手の拘束を砕き、そのまま衝撃波へと変えた。アキラはそれを食らい、吹っ飛ばされて瓦礫に突っ込む。

 

アキラLIFE2590→1490

 

予想外に放てた攻撃にアインハルト自身が驚き、喜んだのもつかの間、瞬間でアキラが反撃に来た。

 

(速い!)

 

「一閃必崩!ジェッド!アックス!!!」

 

アキラの足から放たれた強力な衝撃波が後方のビルごとアインハルトをぶっ飛ばした。

 

「あぁぁ!!」

 

アインハルトLIFE1700→21 LIFE100未満のため治療まで活動不可

 

アインハルトはその一撃にLIFEを殆ど持っていかれ、活動不可となった。アキラはアインハルトにやられた腕を動かしながらアインハルトを見る。

 

「ふぅ…いい拳だったぜ。悪くない」

 

アキラがアインハルトに向けていった。が、そのアキラは上空から降ってきた巨岩に押しつぶされる。

 

「!!」

 

その光景にアインハルトが驚いていると、更にコロナがゴライアスに乗って空から降りて来た。

 

「やりました!奇襲成功です!!」

 

「コロナさん」

 

「アインハルトが注目集めてくれたおかげでアキラさんの隙がつけました」

 

コロナはどうやらリオをうまく振り切り、しばらく隙をうかがってたようだった。

 

「そうですか…良かったです」

 

二人がよろこんでいると、アキラを押しつぶした巨岩が下層からひびが入り、粉々に砕けた。そしてめり込んだ地面からは白い触手がうねり、翼の形を形成した。

 

「…」

 

「…」

 

「……こんなんで倒せると思ってもらっちゃ困るぜ」

 

アキラLIFE1490→1260 岩石直撃の瞬間に翼で防ぎ軽傷

 

「さすがに一枚岩ではいかせてくれませんね」

 

「書いて字のごとくな」

 

その時、アインハルトは召喚魔法によってキャロに回収されていた。それを確認すると、コロナはゴライアスを動かしてアキラに対する。

 

「しかし、君とリオなら同等くらいかと思ったんだがな」

 

アキラは二人ならずっと拮抗した状態で動きはないという意味でいった。

 

「いくら少し動きを止めたからって、それから敵がうごかないと思いますか?」

 

「……フェイトさんか。最悪アインハルトと同時に相手にする予定だったが、そっちに行くとはな…」

 

(けどまぁ、俺を追いかけてこなかったのは不正解だったんじゃないか?)

 

「行きます!!」

 

「おう。来な」

 

「ギガントナックル!!」

 

 

 

ゴライアスの巨腕がアキラを襲う。アキラは背面に飛んで拳を避ける。だが空ぶって地面に当たった部分からの衝撃波とアスファルトの欠片がアキラを襲う。

 

「うお!」

 

アキラLIFE1490→1400

 

「ゴライアス!!グランドゲイザー!!」

 

「チッ!氷牙!!」

 

そのままゴライアスが追撃を仕掛けてきたがアキラは足に氷の鎧を装備し、飛んできた岩石を全て蹴り返した。

 

「嘘!?」

 

跳ね返された岩石がゴライアスに命中し、バランスを崩す。

 

「もらった!」

 

アキラは一瞬の隙を見逃さず、ゴライアスに突っ込んだ。そして氷の鎧を纏った足でコロナの乗っているゴライアスの左肩を粉砕した。

 

「きゃあ!!」

 

落とされたコロナはなんとか綺麗に着地するものの、目前にアキラが迫っていた。(やられる)、コロナがそう思った瞬間、彼方から弾丸が飛来し、アキラの足を止めた。

 

「この弾丸、ティアナか!?」

 

アキラは次々と飛来する弾丸を避けつつ打ってきた相手を予想する。

 

「コロナ!フェイトさん!アキラさんとなのはさんの足止め、お疲れ様です!」

 

「なに!?」

 

アキラは瞬間でサブモニターを開き、戦況を確認した。するとフェイトと戦っていた筈のリオがいつの間にかルーテシアに回収され、回復に専念していた。

 

(リオがやられ、フェイトさんがなのはさんを足止めしてたか…だが!)

 

「皆さん!少し早いですが例の作戦実行します!」

 

「オーライ…チェーンバインド!」

 

ルーテシアが指示をした。それを聞くとアキラはゴライアスにチェーンバインドをかけ、動きを止めてコロナの前から飛んだ。

 

戦況はそれなりの変化を見せていたリオとヴィヴィオは回復し、前線へ戻っていた。だが赤組はアインハルトが行動不能に、そして激闘の末、ノーヴェもノーリによって行動不能となっていた。

 

そしてそこへ青組の2on1の作戦が発動する。CGであるティアナ、そしてゴライアスが封じられたコロナは無視し、2on1の状況が作られた。

 

キャロの元へアキラとルーテシア、フェイトのもとへなのはとエリオ、ギンガの元へ継続してスバル、そして増援にリオが現れ、セッテにはヴィヴィオとノーリが相手となった。

 

「2on1…」

 

 

 

ーセッテVSヴィヴィオ、ノーリー

 

セッテLIFE2000

 

ヴィヴィオLIFE2600

ノーリLIFE820

 

「なるほど、2対1ですか…。ですが私の刃は7本。それでも互角以上に戦って見せましょう」

 

セッテ相手に2対1の状態に持ち込んだものの、ヴィヴィオには一抹の不安があった。ノーリの残りライフが少ないことだ。ノーヴェを活動不可にしたのはいいものの、大きくライフを、そして体力を失っていた

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

「ノーリさん、息が切れていますが?」

 

「はっ……お前が2on1じゃかわいそうだと思ってな。ハンデだ」

 

ノーリはあくまでも強がった。

 

「そうですか。では、お言葉に甘えさせていただきましょう」

 

セッテはいきなりノーリを狙い、ISでコントロールする刃を5本飛ばし、自身も両手に刃を持ってノーリに突っ込む。

 

「私を!」

 

二人の間にヴィヴィオが入り込み、アクセルシューターを数発放った。

 

が、セッテはその攻撃を全て躱し、とっさにヴィヴィオが放った拳もよけてヴィヴィオを抜いた。

 

(抜かれた!?)

 

それも当然だ。最近は大人しくしていて目立つことはないが、あくまでもセッテはナンバーズのトーレに並ぶ戦闘力の持ち主だ。間違ってもヴィヴィオに後れを取ることはない。

 

「ノーリさん!」

 

「くっ……だらぁァァァァ!!!!」

 

ノーリは飛んできた5本の刃を全てほぼ同時に受け流した。

 

「!!」

 

(やりますね。ですが、私のブーメランブレードの精度は並ではありません!)

 

セッテは受け流された刃を全てノーリの元に戻るようにコントロールした。

 

「ぐっ!」

 

ノーリは後ろに飛んで刃を避けたつもりだったが、刃はさらにノーリを追撃する。体力的にはもう避けるので精一杯に見えた。

 

「っ!!」

 

「ノーリさん!今っ!くっ!」

 

セッテはそのままノーリを追いついめる。ヴィヴィオはなんとか足止めしようとするが簡単にあしらわれ、無視される。

 

「二人係でも…」

 

「チッ、逃げているだけじゃ埒が明かねぇ!」

 

ノーリは避けることをやめ、思い切って前に出た。数本の刃に掠りながらも、セッテに近付く。

 

ノーリLIFE820→770

 

「だらぁ!」

 

そしてセッテの顔面に向けて強めの蹴りを放った。キレイに決まったと思われたが、その一撃はギリギリ防がれた。

 

「…結構強めに行ったつもりなんだがな」

 

「残念ながら」

 

さらに背後で鉄を殴ったような鈍い音がした。

 

セッテの後ろにはセッテのデバイスの刃が集合し、作られた盾に拳をぶつけているヴィヴィオがいた。ヴィヴィオが背後から襲撃しようとしたが、気配だけで防がれたのだ。

 

「場数が違いますので…」

 

刹那、セッテは二本の刃の切先をノーリに向ける。ノーリが回避行動をしようとしたが、間に合わない。

 

「双刃・天輪撃!!!」

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ノーリはその一撃を何とか防ぎながらもビルの中へ突っ込んだ。

 

「ノーリさん!?」

 

「2人がかりで私を潰すつもりが、とんだ誤算になってしまいましたね」

 

(なのはママやノーヴェと戦ってる間に忘れていた………競技ではなく、戦場しかしらない人の強さ…!)

 

セッテは周りに合わせた加減と言うのが不得手だった。なるべく加減はするようにセッテもしているが、やはり強さが滲み出ているようだ。

 

(一人だけどやるしかない!)

 

そう思ったヴィヴィオが構えた瞬間、ノーリが突っ込んだビルの一部が吹っ飛んだ。

 

「!」

 

「!?」

 

二人がその事に驚き、ビルを見た。そこには、バリアジャケットがボロボロになりながらも、まだ立っているノーリがいた。

 

ノーリLIFE770→100

 

しかも、様子は普通ではない。

 

紫と赤色のオッドアイ、そして全身に纏われた虹色の魔力。以前アインハルトと戦ったときに発動した状態になっていた。

 

 

 

続く

 



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第十話 終結!無人世界の小戦争

なんだかんだ時間がかかってしまいました。遅れてすいません。近々シンフォギアの小説を出そうと思ってます。今までの書きかけの小説の反省を活かし、書き貯め中です。ので、少しこちらが遅れるかもしれないです。悪しからず

感想待ってます。


セッテをヴィヴィオとノーリ、二人係で相手をしていた時に事態は発生した。ノーリが、前回アインハルトと戦った時にノーリがなった姿に再びなってしまったのだ。

 

「…」

 

「ノーリさん?」

 

「う…ぐぅぅ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ノーリは吠えた。前回と同じだ。だが、今回は前回と違うことがいきなり起きる。

 

前回はゆっくり動きすぐに倒れた。しかし今回は、いきなり地面を砕くほど強く蹴って飛び、セッテに急接近した。

 

「!」

 

「はぁ!!」

 

まだ少し距離があると思い、セッテは防御の準備をしていなかった。ノーリはそれよりずっと手前で拳を放った。するとその衝撃波がセッテを襲い、瓦礫まで吹っ飛ばした。

 

「くぅ!」

 

セッテLIFE2000→1900

 

「…行くぞ」

 

ノーリは瓦礫に突っ込んだセッテに向かって構えを取る。その構えを見たときヴィヴィオは、ハッとした。

 

(あの構え…)

 

(覇王…)

 

足先から練った力を、拳から打ち出す。それを放つ姿はヴィヴィオの眼にはアインハルトの姿と重なっていた。

 

「断空拳!!!!」

 

「嘘!?」

 

形はよく似ているように見えた。しかしその威力は、アインハルトのそれと同等とは思えなかった。セッテが身の危険を察知してスライサーエッジの刃を全て集合させ、盾にした。しかし、ノーリが放った断空拳から放たれた衝撃波はその盾を砕いてセッテを吹っ飛ばした。

 

セッテLIFE1900→1100

 

「なんて威力…」

 

(ライフのほぼ半分を持っていかれた…直接拳が当たってたら全部持っていかれてたかもしれませんね)

 

「…」

 

セッテは吹っ飛ばされたものの、何とか立ち上がりまだ無事な刃を持ってノーリと対峙する。

 

「え!?続けるんですか!?」

 

その様子を見たヴィヴィオが驚き、セッテに訪ねる。

 

「この事態にアキラさんが気づいて無いはずはないです。止めに来ないということは問題なしと判断したということでしょう」

 

たしかに、この異変になのはもフェイトも、アキラも来ない。気付いていながら無視しているのだ。

 

「ああ。続けるぞ」

 

「!」

 

明らかに異常と見えるノーリが喋った。ヴィヴィオはセッテの判断を不承不承ながらも了承し、ノーリの横に行く。

 

「ノーリさん…?」

 

「なんだ」

 

「…大丈夫なんですか?」

 

「…ああ」

 

どうやら意識ははっきりしているらしい。ヴィヴィオは肩を並べることに不安を覚えながらも構える。

 

「じゃあ、私から仕掛けます」

 

「ああ」

 

ヴィヴィオは一抹の不安を残しながらもセッテに飛び掛かる。だが、セッテは攻撃を仕掛けてきたヴィヴィオを踏みつけてノーリの方に向かった。

 

「私を踏み台にした!?」

 

(ノーリさんの残りLIFEは僅か100。かすり傷でも行動不能にできます)

 

セッテは先程と同じく、ノーリを狙いに行った。そしてスライサーエッジの刃を三本同時に飛ばした。

 

「…」

 

ノーリは飛んできた刃を先ほどと同じ様に捌いた。だが、その動きはさっきとは全く違った。さっきまでは攻撃を捌けはするものの、その動きはさながらマリオネット、動かされているような、どこか迷いがあるような動きだったが、今はまるで迷いはない。

 

さらに刃が戻って来る前にセッテの方に飛んだ。

 

「くっ!」

 

セッテが刃をノーリに向かって振ったが、ノーリは紙一重でその攻撃を躱した。セッテは驚いた。まさかその一撃を避けられるとは思ってなかったのだ。

 

「破!」

 

セッテは鳩尾に強力な一撃を受けた。

 

「ぐぅ!」

 

セッテLIFE1100→800

 

セッテはギリギリで背後に飛び、ダメージを和らげた。しかし、吹っ飛んだ先にはヴィヴィオが待ち構えていた。

 

「しまっ…!」

 

「リボルバー……スパーイク!!!」

 

「うあぁぁぁぁぁ!!」

 

セッテLIFE800→0

 

空中でとっさのガードもできずヴィヴィオのリボルバースパイクをもろに食らい、セッテは撃墜された。

 

「はぁ……はぁ…」

 

セッテが倒れると、ノーリの状態が元に戻った。虹色の魔力が消え、瞳の色も元に戻る。だが元に戻り、気が抜けた瞬間背後から飛んできたセッテのスライサーエッジの刃が直前に迫っていた。

 

「危ない!」

 

「っ!」

 

ヴィヴィオLIFE2000→1700

 

その刃を直前でヴィヴィオが防いだ。セッテが最後になんとか一矢報おうとした一撃だったが、失敗に終わった。

 

「悪いな…」

 

「いえ!」

 

 

 

-リオ、スバルVSギンガ-

 

 

 

「さぁ!今から本番だよギン姉!!」

 

「行きますよギンガさん!」

 

「面白くなってきたわね。ねぇリオ、大人モードは秘密兵器だったのよね?」

 

ギンガは戦闘中、二人の攻撃をいなしながらにリオに聞いた。

 

「え?は、はい!」

 

「じゃあ、私もとっておき出しちゃおうかな」

 

「え?」

 

ギンガの口から驚く発言が出た。

 

「私も無駄に三か月過ごしたわけじゃないから!」

 

ギンガはリオの放った炎の龍を避けると同時に後方に飛び、二人から距離を取って構える。

 

「黒星」

 

ギンガの足のブリッツギャリバーのコアから魔法陣が展開され、そこから刀が一本出現した。ギンガはそれを掴み、鞘から抜いた。

 

「ギン姉が剣を!?」

 

「行くわよ!はぁ!」

 

ギンガは刀を構えてウィングロードの上を走り出す。

 

「リオ!」

 

「はい!」

 

リオ魔力で生成した炎の龍をギンガに向けてはなった。ギンガは刀でその龍を切り払った。そして宙に舞った龍を成していた炎を刀ですくい、刀にその炎を纏わせた。

 

「嘘!?」

 

「火炎返し、炎打の型!!」

 

刀に炎を纏わせた状態で、ギンガはウィングロードを駆け抜けてリオに向かっていく。そんなギンガの前にスバルが割り込む。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「せぇぇぇぇぇぇい!」

 

スバルの拳とギンガの刀が衝突する。炎が巻き上がり、衝撃波が辺りを襲った刹那、スバルが吹っ飛ばされた。

 

「ああ!」

 

スバルLIFE1950→1700

 

競り合いにスバルが負けたのだ。

 

「スバルさん!」

 

「もうひとつ!」

 

ギンガはそのままリオに狙いをつけて突っ込んでいく。リオは少し恐れながらも構えをとる。

 

「雷龍波!!」

 

「ふっ!」

 

ギンガは紙一重でリオの雷龍を避けながらもリオに接近し、咄嗟にリオが展開したシールドごとリオを切り捨てた。

 

リオLIFE→1500→500

 

 

 

-アキラ、ルーテシアVSキャロ-

 

 

 

「アルケミック・チェーン!」

 

キャロがほとんど牽制程度に放ったアルケミックチェーンをルーテシアとアキラは避け続ける。

 

「うふふ♪当たらなーい当たらなーい」

 

ルーテシアが調子に乗る。アキラとともに攻撃に来ているのでキャロの火力では自分たちは撃墜されないだろうと思っていたのだ。

 

「当たらなくていいんだよ。だってこれは、撃墜のための布石だから!」

 

「ナイスですキャロさん!!」

 

声がした瞬間、アキラたちの横にいつの間にかコロナがゴライアスに乗ってきていた。そして破壊されていない左腕を二人に向ける。

 

「ん」

 

「え」

 

「ゴライアスパージブラスト!ロケットパーンチ!!」

 

ゴライアスの左腕を飛ばし、今のライフでは即死レベルのダメージの技を放った。

 

「うそーーーーー!?」

 

ルーテシアLIFE2200→0

 

「チッ」

 

ロケットパンチが命中する直前、アキラは鞘付きの刀を帯刀して腕を構えた。

 

「無刀・空絶!」

 

アキラはコロナの飛ばした強力なロケットパンチを手刀で真っ二つにした。

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

その場にいた、コロナ、キャロ、アインハルトが驚愕した。

 

「ボーッとしてんな………ジェッド!ランス!!」

 

「しまっ…きゃぁぁぁぁぁぁ!」

 

キャロLIFE1700→0

 

アキラが足で放ったジェッドランスによってキャロが撃墜された。そしてその直後にアキラがコロナを睨む。

 

「あわわ、どうしようブランゼル!」

 

『現状から彼をうまく避けるのは難しいかと』

 

「そんなー!」

 

そうこうしてるうちにアキラがコロナの目の前まで来ていた。

 

「遅ぇ!アクセル!スマッシュイプシロン!」

 

コロナは両手で防ごうとするもアキラの拳に吹っ飛ばされ、その威力と落下ダメージで撃墜された。

 

「おらぁぁぁぁ!!」

 

「!」

 

アキラが二人を撃墜した瞬間、キャロに治療されていたノーヴェがアキラに突っ込んできた。

 

「リボルバースパイク!」

 

「当たらねぇよ」

 

ノーヴェの奇襲をアキラはなんとか避ける。

 

「だらぁぁぁ!!」

 

「なに!?」

 

ノーヴェは攻撃を受ける覚悟有にアキラに飛び掛かった。両手で抱きしめられ、アキラは中々抜け出せない。

 

「なんのつもりだ!」

 

「お前じゃ避けられる可能性があったから、これくらいやらなきゃダメなんでな!!ティアナ!!」

 

「ノーヴェ!ナイス!」

 

ノーヴェが向いた方向にはティアナがおり、クロスミラージュには魔力が収束されていた。アキラは青い顔をする。

 

「まさか…」

 

アキラが考えた通りだ。スターライトブレイカーを放つ準備を完了させていたのだ。

 

「赤組、生存者一同!なのはさん中心に広域砲を打ち込みます!!ノーヴェはそのまま!動ける人は合図で離脱を!」

 

「……ノーヴェ。お義兄ちゃんが一個教えてやる」

 

「なに?」

 

「人を取り押さえるとき、その姿勢は良くない。バインドばっかに頼ってるから基礎的なことを忘れる」

 

アキラは身体の前で合わせ、力を込めて両手を挙げた。するとアキラを取り押えていたノーヴェの手が簡単に外れた。

 

「しまっ!」

 

「じゃあな!」

 

「待っ…!」

 

アキラはノーヴェを放置し、スターライトブレイカーが放たれる前にその場を離脱した。

 

「たくっ!なんなんだよこれは!!」

 

「「スターライト!ブレイカー!!!!」」

 

二人が放った集束砲同士がぶつかり合い、その反動であらゆる場所で爆発が起こった。

 

「うおわぁぁぁぁ!!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

-チームブルー-

 

「あーーん!!や~ら~れ~た~!」

 

なのは SLBを相殺しきれず撃墜

 

「うーん…」

 

エリオ SLBにて撃墜

 

「あたたた…大丈夫?リオ」

 

「あんまり大丈夫ではないです…」

 

スバル SLBを防ぎきれず撃墜

 

リオ SLB着弾前に既にギンガにやられ撃墜

 

 

 

-チームレッド-

 

 

 

「うう…やられちゃった」

 

フェイト SLB着弾直前にエリオの一撃で撃墜

 

「くっそー!アキラのやつ!」

 

ノーヴェ SLBにて撃墜

 

「あたたた…」

 

 

 

 

 

 

-上空-

 

 

 

「アキラ君…これチーム戦で私たち敵同士なんだけど」

 

「そういやそうだったな」

 

ギンガ LIFE500 SLB着弾直前にアキラに守られ生存

 

アキラ LIFE300 SLB着弾直前にギンガを救出し生存

 

ギンガは翼を使って飛んでいるアキラにお姫様だっこをされていた。

 

「つい癖でな…」

 

「……てい!」

 

「ごふぁあ!?」

 

アキラはお姫様抱っこをしているギンガにアッパーを食らわされた。

 

「ごめんね、あくまでも模擬戦だから…」

 

「ふっ…構わんさ…」

 

アキラ LIFE300→0

 

 

 

-ティアナside-

 

 

「なんとか生き残った……」

 

ティアナ LIFE110 SLBをなんとか相殺

 

「他は……っ!高速接近反応!?これ…スバル!?」

 

「じゃなくてヴィヴィオです!」

 

「俺もいるぜ!」

 

走ってきたのはノーリとヴィヴィオの二人だった。

 

ヴィヴィオ LIFE500 SLB着弾直前にアキラにビルの陰に投げ込まれ生存

 

ノーリ LIFE100 ヴィヴィオに庇われ生存

 

「うそぉ!二人も!?」

 

ティアナは全力で接近してくる二人に対して魔力を何発か放つ。苦肉の策だ。ノーリはそれを見ると自身の手を見た。

 

「……はぁぁぁ!」

 

ノーリはヴィヴィオを抜いてヴィヴィオの前に出た。

 

「ノーリ!?」

 

「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

ノーリはティアナの放った魔力弾を受け止め、それを、投げ返した。

 

(今の…アインハルトさんの…)

 

「いい!?」

 

予想外の方法で返されたティアナがうごけずにいるとその前にアインハルトが降り立った。

 

「覇王!」

 

「!」

 

「空破断(仮)!」

 

アインハルトは着くやいなやこの戦いの中で編み出した空破断(仮)をノーリに向けて放った。空破断はノーリが返したティアナの弾丸を掻き消し、ノーリに迫る。

 

「く!」

 

ノーリはその一撃を何とか避けた。

 

「ティアナさんは、やらせません」

 

アインハルトLIFE1350

 

ティアナの前に威風堂々と立つアインハルト。だが

 

「ごめんアインハルト、今のでやられちゃった」

 

ティアナLIFE110→0

 

「ええ!?」

 

ノーリが前に出てティアナの攻撃を凌いだ瞬間、後ろのヴィヴィオがソニックシューターを放ち、ティアナを落とししたのだ。

 

「……状況的にこっちが不利だな」

 

「そうですね…」

 

二人はアインハルトに対峙する。

 

アインハルトLIFE1350

 

ノーリLIFE100

 

ヴィヴィオLIFE500

 

「行きます!」

 

「ああ!」

 

「はぁ!」

 

アインハルトはまずノーリを狙って拳を放った。ノーリは紙一重で避け、反撃するも避けられた。

 

(くそ!かすっただけでも行動不能になっちまう!迂闊に前には出れねぇ!)

 

「やらせません!」

 

ノーリの状況を察してヴィヴィオが前に出る。

 

「てぇい!」

 

「!」

 

だが、ヴィヴィオももう体力が残っていない。防御よりになってしまい、すぐに後退した。

 

「もう…LIFEが…」

 

「くそ………ヴィヴィオ!一か八かだがやるしかねぇ!」

 

「…うん!」

 

二人はここに来るまでの間考えていた二人でできるコンビネーションを実行することにした。

 

(なにかくる!)

 

二人は構え、同時に走り出した。アインハルトも警戒して構え直す。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」

 

「……っ!」

 

「はぁ!」

 

ノーリが最初に飛んだ。それにつられ、アインハルトも上を向く。

 

「ソニックシューター!」

 

その隙にヴィヴィオが瞬間を狙ってソニックシューターをアインハルトに向けて撃った。

 

(最初はソニックシューターだけに陽動役を任せたけど、今度は私含め3つの陽動!どれかひとつでも通れば隙は必ず!)

 

(そうヴィヴィオさん達は考えているようですが、ノーリさんは虫の息、ソニックシューターを旋衝破でノーリさんに撃墜できればノーリさんの追撃はほぼない!そのあとでヴィヴィオさんを討てば…)

 

アインハルトは旋衝破の構えをとる。

 

(この勝負、こちらの勝ちです!)

 

「覇王流…旋衝破!!」

 

アインハルトはヴィヴィオのソニックシューターを受け止め、それを上空のノーリに向かって投げた。この一撃でノーリは撃墜される想定だった。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

しかし結果はアインハルトの予想の斜め上を行った。

 

「!」

 

アインハルトに受け止められ、投げられたソニックシューターを、さらにノーリが掴んで投げ返したのだ。

 

「!?」

 

予想外過ぎる状況に、アインハルトは対応できずソニックシューターを受けてしまった。

 

アインハルトLIFE1350→1100

 

「今だ!」

 

「はい!」

 

さらにヴィヴィオの追撃。アインハルトは当然防げずにその追撃を受け、瓦礫に突っ込んだ。

 

アインハルトLIEE1100→950

 

「くっ…」

 

アインハルトは瓦礫から立ち上がり、再び構える。

 

(受け身ではやられる…攻めなければ!)

 

身体の重心を前に向け、そのままヴィヴィオに向かって走り出した。

 

「てぇぇぇぇぇい!」

 

アインハルトのストレートから戦闘は再開される。それのまま左ジャブ、再度右ストレートと連撃を繰り出すが、すべてヴィヴィオに避けられる。

 

(見きられている!?いや、ヴィヴィオさん自身は反応しきれていない?)

 

そう考えた時、なにかに気づいたアインハルトが視線をヴィヴィオから一瞬外し、ノーリをみた。

 

ノーリがアインハルトの一挙手一投足に注目していることに気づく。ノーリがアインハルトの動きを見て、ヴィヴィオに動きの指示をしていることにアインハルトが気づくと同時にアインハルトの顎に衝撃が走った。

 

アインハルトがノーリを見ている隙を逃すはずもなく、ノーリの指示もあってヴィヴィオが強力なのを繰り出したのだ。

 

「…っ!」

 

アインハルトLIEE950→600

 

これでようやくLIEEの合計値が並んだ。アインハルトも油断していたわけではない。だが、戦闘の疲労と二人の予想外のコンビネーションに圧倒されていた。

 

だが、ようやくLIFEが並んだとヴィヴィオが思ったのものつかの間、殴られ吹っ飛ばされかけていたアインハルトに足で一撃入れられてしまった。

 

「ぐぅ!?」

 

「ヴィヴィオ!」

 

ヴィヴィオLIEE500→0

 

「…」

 

アインハルトLIFE600→400

 

ヴィヴィオは撃墜されたが、うまくカウンターでアインハルトに一発入れられた。

 

これでLIFE差は300。文字通り虫の息のノーリとまだ僅かに余裕のあるアインハルト。しかし、良い威力の攻撃が決まれば、と考えるとアインハルトも油断はできない。

 

「…」

 

「…」

 

「いくぞ!アインハルト!これが最後だ!」

 

「行きます!」

 

二人は駆け出した。アインハルトの拳がノーリに迫る。ノーリはそれを姿勢を低くして避けた。

 

ノーリは姿勢を低くした状態から足に力を込め構えた。

 

同時にアインハルトも構えた。

 

「「覇王!」」

 

「断!」

 

「空!」

 

「「けぇぇぇぇん!!!」」

 

ノーリはアッパー式に、アインハルトは打ち下ろし式に覇王断空拳を二人同時に放った。

 

ほば同時に二人の断空拳は命中した。二人は意識を失い、地面に倒れて変身が解除された。

 

ノーリLIFE100→0

 

アインハルトLIFE300→0

 

引き分けにより、勝負がついたかと思われた時、ちょうどそこに生き残ったギンガがやってきた。

 

「あれ?もう終わっちゃった?」

 

 

 

青組…撃墜8名

赤組…撃墜7名 生存1名

 

試合時間20分07秒

 

赤組、ギンガのみ生存のため赤組の勝利

 

 

続く

 



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第十一話 決心!ノーリの決断

割と速いペースで出せました。ちょっと自分でも驚いています。
ちなみに今回は子供組メインで話を作りましたがその裏で何が起きていたかをR-18版であとで出します。
それはどちらかというと「とあるギンガのPartiality」本編のお話なので新しくVivid版のR-18は作らずR-18版とあるギンガのPartialityに掲載します。お楽しみに!

感想お待ちしてまーす!


「オリヴィエ!…オリヴィエ!…」

 

「クラウス!」

 

 

 

 

「ん………はっ!?」

 

模擬戦が終わりアインハルトと相討ちとなって意識を失っていたノーリが目を覚ました。

 

「ノ、ノーリさん?」

 

目を開けて最初に視界に入ったのは頬を赤らめているヴィヴィオだった。なぜヴィヴィオが頬を赤くしているのか、その理由はすぐにわかった。

 

いつの間にかノーリの腕がヴィヴィオの手を掴んでいたのだ。どうやら目を覚ます直前に掴んだようだ。

 

「……す、すまん」

 

「いえ…」

 

その場には二人しかいなかった。試合が終了してから各々が自由に休憩を取っている中、中々目覚めないノーリの看護をヴィヴィオが引き受けたのだ。

 

「おう、起きたか」

 

なんとなく気まずい雰囲気になっていたところにノーヴェが来た。

 

「ノーヴェ」

 

「一回集合してから休みに入るぞ。立てるか?」

 

「ああ…」

 

少しふらつきながらもノーリは立ち上がって皆が待つ場所まで向かった。

 

 

 

 

「ありがとうございましたー!!」

 

一斉に挨拶をしてとりあえず一回戦は終了を迎えた。皆でわいわいやっている中、アインハルトだけ少し不満そうな顔をしていた。

 

(合宿2日目のメインイベント、合同陸戦試合は最後の最後、生き残っていたギンガさんがいたことで赤組…私たちのチームの勝ち。あのときは目の前の相手に夢中になってしまったからギンガさんがいることに気づけなかった…。まぁ、たぶんギンガさんが残った一番の理由は…)

 

アインハルトはちらりとアキラをみた。アキラは今少しなのはたちの説教を受けている。

 

理由はもちろん敵チームのギンガを助けたことにあった。アキラは夫として当然の行為かつ集束砲同士のぶつかり合いの中での救助は中々できないと主張。まぁ当然なのはは聞き入れないのだが。

 

アインハルトはようやくアキラという男を少し理解しつつ目を背けた。

 

(まぁ、勝ったことですし良しとしましょう。本当はもっと戦いたかったけど…)

 

「じゃ、おやつ休憩と陸戦場の再構築したら2戦目いくからねー」

 

「2時間後にまた集合!」

 

「はーい!」

 

「え?え?」

 

アインハルトはなのはたちの知らせにキョトンとしていた。

 

「2戦目?」

 

「ん?聞いてなかったか?」

 

その様子に気づいたノーリが今回の模擬戦の内容をより詳細に伝える。今日1日で3戦やること、その中で作戦を組み直したりメンバーの入れ換えを行うこと。

 

「まぁあと2戦は確実にやるってワケダ」

 

(またやれる…!もっと戦える!)

 

アインハルトの瞳に輝きが宿ったことを確認すると、ノーリは少し苦笑いになった。

 

(生粋のバトルマニアだな…)

 

「よかったです。もっとやりたかったので」

 

「あーそうかい。よかったな」

 

ノーリは伝えるべきことを伝えたと思い、その場を去ろうとすると、アインハルトが引き止めた。

 

「待ってください」

 

「んぁ?」

 

「あの………さっきの試合中に使った技、どこで覚えたんですか?」

 

「技ぁ?」

 

「はい」

 

アインハルトが言ったのは、最後の戦闘の時にノーリが使った「旋衝破」と「断空拳」のようなもののことだ。

 

「教えてください」

 

(最後に受けた技…あれは正直記憶が曖昧で断空拳かどうかというのはわからない。でもあの私が投げ返した技をさらに投げ返したあの技……あれは一朝一夕で覚えられる技なんかじゃ………)

 

「……昔から練習してた。それだけさ」

 

「…………そうですか」

 

アインハルトはそういうとノーリに背を向け、歩き始めた。

 

 

はぐらかした

 

 

アインハルトはなんとなくわかってしまった。ノーリは、良くも悪くもまっすぐな人間だということを短い付き合いながらもアインハルトは理解していた。

 

だからこそすぐにわかった。

 

(なぜだろう、彼に対してなにか不安を感じている。うまく言葉にできない…なにか)

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

そして、その後の試合は展開を変え、マッチアップ相手も少し変わって、3戦目はチーム構成もトレードで入れ替わって。熱く、激しく、陸戦試合は過ぎていって……

 

 

 

-子供組-

 

 

「あ~う~」

 

ヴィヴィオ、コロナ、リオ、アインハルトは仲良くベッドの上で倒れ、起き上がれなくなっていた。

 

「無茶しすぎだ」

 

そんな四人をノーリがアリスをあやしながら見ていた。

 

「なんでノーリさんは大丈夫なんですか?」

 

「……まぁ。ペース配分には慣れてる」

 

「…」

 

(また、はぐらかした)

 

アインハルトはノーリの反応がまたごまかしたということがわかった。だが今回はあまり気にならなかった。それよりも、戦いを通して知った少女たちの実力にただ、素直に驚いていた。

 

「アリスちゃーん」

 

「だう」

 

ヴィヴィオ達は身体が動かないながらもアリスを愛でていた。

 

「一緒に寝たら明日元気でそう…」

 

コロナがアリスの頭を撫でながら言った。

 

「ならそうするか?」

 

「………そういえば、ルーちゃんは?」

 

ヴィヴィオがふとこの場にいないルーテシアのことをノーリに訪ねた。

 

「ああ、アイツなら…」

 

 

 

-温泉-

 

 

 

さっきまでスバルたちが入っていた温泉に、アキラは今一人で浸かっていた。

 

「ふぅ…」

 

夜空を見上げながらアキラは自身の右手を見た。ややダメージが残っている。

 

(あいつら…加減したとはいえ、なかなかやるじゃねぇか)

 

その時、入り口が開く音がした。アキラはノーリかエリオがやってきたのだと思い、特に誰かを確認しようとはしなかった。

 

「お疲れ様です♪」

 

「ああ!?」

 

入ってきたのはルーテシアだった。胸にタオルを巻き、おちょこととっくりが乗せたお盆を持っている。

 

「何やってんだお前…」

 

「なのはさんやママ、ギンガさんもお酒飲むみたいだから、アキラさん一人で寂しいかなぁって…」

 

「いらねぇよ。部屋に戻れ」

 

「そういわずに」

 

ルーテシアはアキラを無視してアキラの隣に入って来る。彼女は笑顔だ。その笑顔を見ながらアキラはルーテシアの置かれている立場についてふと考える。昔聞いた話だと物心ついたころには彼女に父はいなかったらしい。そして、少し大きくなってからは母は意識不明、スカリエッティに利用され女の子らしい、普通の生活はできてなかった。

 

甘えたい年に甘えられる存在もいなかったことを考えると彼女に同情してしまう。

 

「……一本だけだ」

 

「…ありがとうございます」

 

アキラはルーテシアにお酌されて夜空を肴に一杯を楽しんだ。

 

「アキラさんは…ギンガさんのどんなところを好きになったんですか?」

 

「んあ?なんだよ、ませたこと聞くじゃねぇか」

 

「そういうお年頃なんです」

 

「…そうだなぁ」

 

 

 

-子供組-

 

 

 

「って感じじゃねぇか」

 

「なるほど…いいタイミング狙ったわけですね」

 

ノーリはルーテシアの一連の行動は見ていた。ヴィヴィオ達も苦笑いしながらなんとなく納得していた。

 

「お待たせしました。栄養補給のドリンクと、アリスさんのミルクです」

 

そこに差し入れを持ったセッテがやってくる。

 

「ありがとうございます」

 

「サンキュー」

 

ドリンクが全員に行き渡ると、セッテはアリスを預かってミルクを与え始めた。

 

「なんか、セッテさんがアリスちゃんのお世話している場面が多く見てる気がしますね」

 

ふと、コロナが思ったことを口にした。

 

「……まぁ、私やノーリさんが世話をすることも多々ありますね」

 

「多分あの二人…特にアキラの方は、親になるってことをちゃんと受け入れられてねぇんだ。二人でいられるときや、自由な時間をどうしても欲しがっちまう……んじゃねぇか。まぁあいつらも子育てで頼れる先輩もいない中頑張ってる方だと思うぜ」

 

「そうなんですか…」

 

なんとなく空気がわるい感じがしたので、この部屋にやってきた本来の目的を果たすことにした。

 

「そうだ、アインハルトさん」

 

「は、はい」

 

セッテに急に話しかけられ、アインハルトは少し驚く。

 

「どうでした?今回の試合は」

 

そう聞かれ、アインハルトは自分の胸に手を当てた。3回にわたる戦いで、知ったことを、見てきたことを思い返して自分の未熟さを反省した。

 

「はい…とても勉強になりました」

 

「スポーツの魔法戦競技も熱くなれるものでしょう」

 

「はい………色々と反省しましたし自分の弱さを知ることもできました。私の見ていた世界は本当に狭かったと」

 

「そうですか…では、こんなのはどうでしょう」

 

楽しんでくれたというアインハルトに対し、セッテはとある映像を表示した。

 

「DSAA公式魔法戦競技会。出場可能年齢10歳から19歳。個人計測LPを使用して限りなく実践に近いスタイルで行われる魔法戦競技。管理世界から集まった若い魔導士たちが魔法戦で覇を競う。インターミドル・チャンピオンシップ」

 

セッテからDSAAの詳細を聞いた時アインハルトの瞳が輝いた。そして、知れば知るほど心が沸き立つのを、アインハルト自身が感じ取っていた。

 

「私たちも今年から参加資格があるので、出たいねって話してたんです」

 

「全世界から魔法戦自慢が続々集まって来るんです!」

 

「数は少ないですが格闘型の人も!」

 

「まぁ…テメェの実力確かめるには、ちょうどいいってこったな」

 

「…ノーリさんも出るんですか?」

 

「ああ。俺はどっちでもよかったんだがヴィヴィオ達がな」

 

ノーリはそっとヴィヴィオ達から目を反らす。

 

「だってせっかく一緒に鍛えてるんですから!一緒にやりたいじゃありませんか!」

 

ヴィヴィオは身を乗り出してノーリに訴えかける。ノーリはめんどくさそうにあしらった。

 

「へーへー。近いっての」

 

「あら、インターミドルの話?」

 

そこに、寝間着に着替えてきたルーテシアがやってきた。満足そうな彼女の表情を見るにアキラとの混浴は終わったようだ。

 

「おう、よく追い出されなかったな」

 

「まぁ、アキラさん昔から優しいから」

 

「ルーちゃんも今回は出るんだよね!」

 

「そう!みんなと出られるの待ってたんだから!インターミドルに出る強い子はほんとに強いからねぇ、自分の力はどこまで通用するか確かめるのはなんだかんだ楽しみよ」

 

ルーテシアが話に加わり、みんなでワイワイとインターミドルのことについての話が盛り上がってきた。そんな中で話を聞いていて、アインハルトは自身の胸の鼓動が高鳴っていくのを感じていた。

 

(…一日戦い続けて身体はもうくたくたなのに、どうしてだろう新しい戦いがあると聞いて、まだ見ぬ強い相手がいると知って、心が沸き立つのを止められない…)

 

その様子を、ノーリは遠目で見ていた。

 

「…………やっぱ…オメェにゃ向いてねぇよ」

 

ノーリはボソッと呟いた。

 

「ん?なにか言った?」

 

ノーリの声をわずかに聞き取ったルーテシアが反応した。ノーリはため息を一つして立ち上がった。

 

「なんでもねぇよ。俺ちょっと外の空気吸ってくら」

 

ノーリはそういって部屋を出て行ってしまった。そんな彼の後ろ姿を見ながら、ルーテシアがヴィヴィオ達に訪ねた。

 

「…なんかノーリ変わった?前はあんなんじゃなかったような…」

 

そういわれ、ヴィヴィオも少し表情を曇らせる。ルーテシアと同じ感想を、ヴィヴィオも少していたようだ。

 

「そうだね…本当にここ最近だよね。どことなくちょっと冷たいっていうか…」

 

 

 

ノーリは廊下に出て、軽く外に出れる場所を求めて月明りがさす廊下を歩いた。

 

(こんなこと、きっと自分勝手なだけだって理解はしている…それでも)

 

「ノーリ?」

 

その時、ギンガを抱きかかえ、自分たちの部屋に向かっているアキラにばったり出くわした。

 

「ん?」

 

「やっぱノーリか。ちょうどよかった。色々事情込みでよ、アリスのこと今晩頼めるか?」

 

ノーリはアキラに抱きかかえられているギンガを見た。強めなアルコールの香り、赤く染まった頬。ノーリは大体事情を察する。

 

「心配しなくても、今夜はヴィヴィオ達がすでに一緒に寝ようとしてる勢いだ。セッテもいるし大丈夫だろう」

 

「悪いな」

 

「ん~早く行こぉ?」

 

ギンガがアキラに甘ったるい声で話かける。酒に酔っているようで、普段は見せない一面を見せている。

 

「ああ。じゃ、ノーリまた明日な」

 

「……アキラ。お前も父親になったんだから少しは自覚持てよ。最も、お前の信条は察するがな」

 

そういわれ、アキラは少し黙ってしまう。なにやらアキラにとって少し意味深な言葉だったようだ。

 

「………わかってるさ」

 

「ならいい」

 

そこで会話を終わらせ、去ろうとしたとき今度はアキラがノーリを引き留めた。

 

「ノーリ」

 

「なんだ?」

 

「体は大丈夫か?」

 

「…ああ」

 

「………あんま、無理すんなよ」

 

「無理はしてねぇし、身体は元気だ。ま、なんかあったらお前が止めてくれや」

 

そう言い残し、ノーリは去って行ってしまった。その場に残されたアキラは小さくため息をついた。

 

「……カラ元気に見えっけどな」

 

 

 

-練習場-

 

 

 

ライトアップされた練習場の真ん中で、ノーリは月を見上げる。

 

「俺は俺のなすべきことをする………たとえ自分勝手な自己満足だったとしても…俺は、あいつの為に…」

 

 

 

 

 

続く



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第十二話 変化!運命の分かれ道

ここが大きく本編と変わる回です。この辺書くの超楽しかったのですぐかけました。明日か明後日最新話を投稿します。あと、R-18は少し遅れます。投稿出来たら追記しときます。


色々あった日の翌朝。今日が旅行兼トレーニングも最終日だ。そんな日の早朝、ノーヴェはなんとなく早く起きてその辺を散歩していた。

 

「ノーヴェ」

 

そこに、早朝だというのに起きていたアキラがやってきた。

 

「おう。アキラか。昨日はギンガが大変だったんだって?」

 

昨日ギンガにとある事態が起きていた(R-18参照)。その話はノーヴェにも伝わっていた。だが、アキラは案外気にしていない。

 

「なんてことねぇよ。それより、お前にちょっと話がある」

 

「?」

 

ノーヴェはアキラに言われるままテラスのテーブルに案内された。立ち話で終わらないところをみると、長くなるのだろうと思った。

 

「コーヒーでも飲むか?」

 

「別にいい。で、話って?」

 

「ああ…お前があのガキ共のコーチやるって話だ」

 

「…」

 

少し、ノーヴェは目を反らした。ノーヴェは実力とセンスはあるが人に教えるという経験はない。

 

足りないのは経験だった。そんな自分が子供たちのコーチになるということに対して全くもって不安がないというわけではなかった。

 

そのことに対して誰かからなにか咎められるかも知れないという不安はあった。そのことを言われると思ったのだ。

 

「ああ、お前がコーチやるってことに関しては別に俺は気にしてねぇ。好きにやればいいさ………お前にとっても、ガキ共にとってもいい経験になるだろう」

 

「じゃあ、なんだよ?」

 

「……俺が気にしてるのは、コロナだ」

 

「コロナ?」

 

アキラの意外な発言にノーヴェは驚く。昔あったことがあるという話は聞いたが、それだけでアキラが動くとは思わなかったのだ。

 

「お前、あいつに何をどう教えようとしてる?」

 

アキラが聞いてきたのでそれに答えるべくノーヴェは密かに作っていたトレーニングメニュー手帳を取り出した。

 

「……まず、大まかにだが…決まってるのは「魔力抑制バンド」による魔力そのものの成長、それからゴーレムクリエイトの速度向上と、ゴーレムクリエイト阻止対策………こんなとこだな。あとは本人の成長に合わして工夫するって感じだ」

 

「………ノーヴェ。一日だけでいい。俺にあいつの監督を勤めさせてくれ」

 

「え?」

 

「俺も一応教導官だ。人の成長に関しては一般人よりかあるつもりだぜ。そんでもってもしその一日であいつが自身の可能性を見出した時、その後の監督は俺に一任してほしい」

 

「…」

 

ノーヴェの反応を見る限り、あまり乗り気でない様だ。

 

「オメェの言いたいことはわかる。ズリィって言いたいんだろ」

 

「…」

 

こくりとノーヴェは頷いた。確かにアキラは教えるのがうまいとギンガから聞いたことがある。名教師というわけではないが、経験もあるし少なくともノーヴェよりもうまく教えられるだろう。だが、ヴィヴィオとアインハルト、リオはどうなるのだという話だった。

 

「俺もその辺はあいつらに悪いと思ってる。だから、アイツらにはちゃんと話す………ただ、これだけは覚えておいてくれ」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

こうして激闘のオフトレツアーは終了し、一同はミッドチルダへ帰ってきた。スバル含め大人たちは帰宅、アキラとギンガ、そしてノーヴェと子供たちはともに喫茶店へ向かった。

 

 

 

-喫茶店-

 

 

 

喫茶店でアキラは先ほどノーヴェに話したことをコロナたちに話した。

 

「…とまぁ、そんな感じだ」

 

「…私が、アキラさんから直々に?」

 

予想はしていたがやはり困惑しているようだ。アキラの実力や実績は他人から聞かされた話でも、今回の合宿の中でも理解できていた。

 

「…嫌ならいい。本人と、その周りから嫌だって声が一つでもあるなら俺はノーヴェに一任する」

 

「…」

 

ノーヴェは困惑する子供たちの顔を見ながら、アキラに言われたことを思い出した。

 

(ただ、これだけは覚えておいてくれ。アインハルトはこの先、多分あいつらの中じゃ一番伸びていくだろう。リオもリオで基礎はできている。あいつの実家の戦い方を学んでいけば個性とともに強くなっていくだろう。ヴィヴィオはあまり戦闘向きじゃない。だがアイツなりの戦い方は身についてきている。ノーリは最初から戦い慣れてる。ほっといてもアインハルトに追いつくくらいになるだろう。つまりは………あまり言いたかないがコロナの現状は実力不足だ。工夫すりゃ伸びるだろうが、三人に追いつくかどうかってところだな)

 

そんなことはわかっている。だからこその2か月の特訓がある。それにそんなこと、本人たちの前で口が裂けても言えるわけがない。ノーヴェは下唇を噛んで彼女たちに任せるしかなかった。

 

「…わ、私は…」

 

長い沈黙のあと、コロナが口を開いた。

 

「私は、受けて……みたい………です」

 

「…コロナ」

 

「この四人の中で私が一番実力がないってこと自分が理解してます…でも」

 

「お前がいいっていうならいいが、周りはどうだ?」

 

コロナの話を遮るようにアキラが言った。自身を否定するような、みじめにするような話をさせないようにしたのだ。

 

「異議なしだ」

 

ノーリが言った。

 

「私も、意義はないです」

 

「私も」

 

「もちろん私も」

 

「みんな…」

 

満場一致で決定した。だが、その直後にヴィヴィオが立ち上がる。

 

「ヴィヴィオ?」

 

「私は……ううん。私たちは。コロナがアキラさんに教わって強くなったとしても、それを卑怯だなんて思わない。でも、もしコロナと戦うことになっても、私たちは全力で戦ってコロナに負けないし、ならなくてもコロナと同じところに立ち続けて見せる!」

 

ヴィヴィオはそういってコロナに拳を差し出した。コロナは笑って拳を合わせた。

 

「うん♪」

 

その様子をみてノーヴェはずるずると椅子の背もたれを流れた。

 

「はぁ……ひやひやしたぜ…一時はどうなるかと…」

 

みんなでワイワイやっている状況を、ノーリは冷たい目で見ていた。そしてそっと立ち上がった。

 

「………………悪いがノーヴェもうちょいひやひやしてもらうぜ」

 

「あ?」

 

「お前らに大切な話がある。アキラがいるならちょうどいい」

 

「ん?」

 

なにやらアキラがいたほうがいい話らしいが、ノーヴェは当然、アキラもその話の内容はわからなかった。

ノーリはそんなアキラたちを尻目に、アインハルトの方を向いた。

 

「アインハルト」

 

「…はい」

 

「お前に決闘を申し込む。記憶をかけて」

 

「!?」

 

「!?」

 

「!」

 

その場にいた全員が驚愕した。当然である。突然の決闘の申し込み、しかも記憶をかけるという話だ。唐突すぎて誰も理解が追いついていない。

 

「…ノーリなんの冗談だ」

 

「冗談でこんなこと言うかよ。まぁ、安心しろ記憶をかけるって言っても当然全部じゃねぇ。覇王に関する記憶の部分だけだ。アキラならそれができるだろ」

 

アキラのISハッキングハンドを使えば確かに記憶を入れ替えることはできる。正しくはアキラの腕は基本上書きしかできないので、負けた方の記憶を元々なかったように上書きし、その分の記憶を買った方に植え付けるということだが。

 

「まぁ…な」

 

「アインハルト、お前も、俺が持っている記憶が欲しいだろう?」

 

「どういうことですか?」

 

「……お前と初めて戦った時から…いや、会ったときから、俺の中で覇王の記憶が蘇り始めていた……今の俺は、覇王イングヴァルトの記憶を持つ。お前と同じ覇王流の継承者だ」

 

「…っ!」

 

(アキラ!マジなのか!?)

 

(…ああ。大マジだ。あいつは覇王の遺伝子をベースに作られた人造魔導士だからな)

 

(あのとき…)

 

ヴィヴィオは昨日の模擬戦の初戦を思い出していた。セッテと戦ったとき、ノーリが放った技。やはりあれは覇王断空拳だったのだと再確認した。

 

「成る程…だから私と覇王流の名をかけて戦いたいと…」

 

「ああ。そうだ」

 

アインハルトは割りと乗り気な表情を浮かべていた。そこにノーヴェが割り込む。

 

「待て待て!いくらなんでもそんなのコーチとして認められないぞ!大体、古代ベルカの記憶なんかに縛られて戦うなんて…」

 

今を生きる若い者が過去の記憶に踊らされ戦うことはないとノーヴェは言った。だが、ノーリは真っ直ぐな瞳で返した。

 

「だからこそだ」

 

「は?」

 

「だから戦うんだ」

 

「???」

 

「それに、記憶はかけても技はかけてねぇよ。覇王流の技は使い続けても問題ねぇ」

 

ノーリの言ってることがわからず、ノーヴェが困惑してるとアキラがため息をついた。

 

「はぁ…別にいいじゃねぇか。好きなようにやらせろよ」

 

「アキラ…」

 

「記憶云々をどうするかは俺が決める。だから、とりあえず戦ってみたらどうだ?アインハルトととしても、記憶を託すに相応しいかどうか確かめるためにも」

 

アキラはアインハルトに提案する。何をするにしても、まずはやってみればいいだろうとアキラはいっていた。

 

「いえ…」

 

アインハルトは首を降る。

 

「もし私が負けるようであれば、ノーリさんの言う通り記憶を渡しましょう…」

 

意外な回答だった。全員が驚いたが、アキラはアインハルトがおとなしく記憶を渡すと言った理由がなんとなくわかった。

 

「正統な血筋としてのプライドか?」

 

「…はい」

 

「なら決まりだな」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー三日後ー

 

アインハルトとノーリは再び アラル港湾埠頭に来ていた。周りには関係者一同が集まり、心配そうに二人をみていた。

 

「……今回の決闘を受けてくれたことに感謝はする。だが、手は抜かねぇ」

 

「はい」

 

「いくぞ」

 

「武装形態」

 

「戦闘形態」

 

二人は大人モードになり、バリアジャケットを装備した。今にも戦闘が始まりそうな雰囲気の中、アキラが間に入る。

 

「おう、ちょっと待て」

 

「アキラ?」

 

「アキラさん?」

 

「お前らこれ付けろ。2ヵ月後に予選控えてんだろ」

 

アキラは腕輪を二人に渡した。

 

「これは?」

 

「DASSで使われてるクラッシュエミュレートシステムだ。疑似的にダメージが再現される。どれだけ痛かろうと、骨が折れようとそれは疑似的なダメージになる」

 

「…ありがとうございます」

 

アキラは観戦しているギンガたちのところまで戻った。アキラが戻ると、ノーヴェが質問してきた。

 

「アキラ、お前どこであんなもんを?」

 

「ん?ああ。まぁ、俺の手腕があればちょちょいとな」

 

「…」

 

二人がシステムを付け、沈黙が始まり、風の切る音だけがこの場に響いていた。二人は足に力を入れ同時に走り出した。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁ!」」

 

そしてほぼ同じタイミングで飛び上がり、同時に拳を放つ。二人の拳はぶつかり合い、二人は相討ちとなってともに吹っ飛ばされた。

 

「ぐぁ!」

 

「くぅ!」

 

二人は起き上がり、戦闘を再開する。

 

「はぁ!」

 

「あぁ!」

 

二人は戦いながら、様々なことを考えていた。

 

(俺の中で蠢く記憶……これはまごうことなき覇王イングヴァルトの記憶!だが、抜けている部分がある……。オリヴィエとの別れの時間…そこを持っているのはアインハルト、お前だぁ!)

 

ノーリの上段蹴りがアインハルトの頭に直撃する。アインハルトは一瞬体制を崩したが、すぐに反撃した。

 

(合宿の時に思ったことは間違いではなかった……やはりこの戦い方は覇王流………それも、たぶん私より上手い…!)

 

経験の差もあるだろうが僅かながらノーリがアインハルトを押している。そしてそこには、同じ覇王流でも、技術の差が確かに存在していた。

 

「おぉぉ!」

 

「空破断!」

 

「覇王!旋衝破!!」

 

「!」

 

アインハルトが放った空破断をノーリが旋衝破で返した。そのことに辺りがざわつく。

 

「あれは…旋衝破…」

 

「本当にノーリさんは…」

 

(…旋衝破……あれは…あれを……)

 

アインハルトは歯を食い縛った。

 

旋衝破習得まで、アインハルトはずいぶん長い時間をかけた。

 

苦しかった。辛かった。

 

なのに、ノーリは。

 

いま目の前にいる相手は全くの苦労をなしにそれを習得し、いとも簡単に操っている。

 

違う。お前のそれは、そう簡単に使っていい技じゃない。覇王の悲願を知らない人間が、覇王流を名乗って良い訳がない!

 

アインハルトの中に、嫉妬と怒りが混ざりあった感情が渦巻いた。

 

「はぁぁぁぁ!」

 

「ぐっ!」

 

急に、ノーリが頭痛を発生させる。アインハルトが負の感情を沸き立たせたことでノーリがそれを共鳴してしまったのだ。

 

どうあれ、隙を作ってしまったためにアインハルトの接近と攻撃を許してしまう。

 

「覇王!断空けぇぇぇぇぇぇん!!!!」

 

ノーリに断空拳が直撃し、土煙が舞い上がった。衝撃は後方のビルにまで影響した。

 

「…決まった………のか?」

 

全員が状況を確認しようと目を凝らす。土煙が晴れ、視界が良好になったとき一同が目にしたのは、ともに倒れていない二人だった。

 

アインハルトの拳を、ノーリが片手で押さえている。そして、彼の周りにはよく見ると虹色の魔力が出現していた。

 

「違う」

 

「……?」

 

「お前の拳は、こんな風に振るっていいもんじゃねぇ!!」

 

ノーリの瞳が紫と赤に輝き、足を地面に叩きつけた衝撃波でアインハルトを吹っ飛ばした。

 

「くぅ!」

 

ノーリは力業でアインハルトと距離を取ると、一度戦闘態勢を解除した。そして、アインハルトに語り掛けた。

 

「お前は……覇王流の悲願とやらを叶えてどうしたいんだ?」

 

「………」

 

 

 

続く



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第十三話 激闘!ノーリVSアインハルト

もう前回のをあげた時点で完成していたのでさっさと次回も上げようということで。次回辺りからはトレーニング編が入ります。
感想お待ちしてます。R-18はもう少々お待ちを…


一番最初の記憶は、どこかわからない研究所の中。生体ポッドの中で揺らぐ視界。瞳を閉じると、どこかの景色が流れ込んできた。

 

それは、橘アキラの…アキラ・ナカジマのものだった。

 

俺とアキラは繋がっていた。アキラはまだ未完成で廃棄される予定だった俺に、目の前で大切な人を失った絶望と嘆きの感情だけ渡した。それがあいつの能力だった。

 

俺は恐らくその際にあいつの…DNAだの魔力だのを食らっちまったんだろう。それから俺は成長する度にあいつに似てきた。

 

そして俺にはある指名があった。アキラから渡された感情は怒りと悲しみだけ。その感情で考えられたのは、もう二度と大切なものを失わないためにどこまでも強くなるってことだった。まぁ、実際は大切なものが何かもわからずただただ力を求めていただけだった。

 

俺はある程度成長してからある男に利用され、アキラやギンガ、機動六課と戦った。

 

 

 

 

 

「結果は…まぁ、負けたようなもんかな。だが、色々あって、俺は今もあいつらと一緒に暮らしてる」

 

決闘中、ノーリは自身の出生について話していた。カルナージでも少し話したがそれは本当に一部にしか過ぎなかった。

 

「………俺がこんなこと話したのはな。今のお前が、昔の俺に重なって見えるからだ。そうやって死者の記憶に踊らされて亡霊みたいに戦いを求めて…お前の悲願とやらに終わりはあるのか?仮にそれに証明できたらお前に何が残る?」

 

「…」

 

今回の決闘は、単に覇王流の名をかけての戦いとか、記憶が欲しいとかそういう話ではなかった。ノーリがアインハルトを心配して決闘を申し込んだのだ。

 

「インターミドルの話を聞いていて、瞳を輝かせているお前が………………………………あんなに楽しそうにしていたお前が求める力は命のやり取りや削りあいをするための力じゃねぇ!アスリートとしての力だ…」

 

「アスリート………」

 

アインハルトは立ち上がりながら自身の心情を思い返していた。カルナージでの模擬戦が楽しかったこと、自分の、覇王の悲願とは全く関係ない戦いに興味を抱き、期待をしていたこと。

 

ノーリの言われた通りかもしれない。だが、認めたくないのが本心だった。

 

「だが、お前がその力を求めてもお前の中の記憶がそれを邪魔している…。お前の求める力とお前ら一族の悲願をかなえるための力はベクトルが違うからだ。だったらお前は悲願なんぞ重いものを背負う必要はない!お前は!ただの!現代に生きる普通の!12歳の女の子じゃねぇか」

 

(だからこそだ……か)

 

ノーリの話を聞いていたノーヴェは、先日ノーリが言っていた言葉の意味を理解していた。古代の記憶に縛られて戦うことを咎めたとき、ノーリは「だからこそ」と返してきた。ノーリとしてもそうしたかったのだ。アインハルトを、古代の記憶から解放してやりたかったのだ。

 

「ですが私は……」

 

「無理を言ってるのはわかってる。だから戦って白黒はっきりつける。お前が勝てば俺はもう何もいわねぇよ。だが俺は、お前はお前としてインターミドルに出て、試合に勝って欲しい。無駄なしがらみは捨てろ。そういう、重苦しいのは俺みたいなやつに全部任せてくれ……………お前には、笑顔が一番似合うと思う」

 

「……………ノーリさんが、どんな思いでこの戦いを挑んだかわかりました…。正直、今の私の思いは………私でもわかりません…。ですが、私を思っての決闘なら、私全力で答える義務があります………っ!」

 

アインハルトは構え直した。

 

「…」

 

「この決闘に、私をもすべてを掛けます」

 

「いくぞぉ!」

 

ノーリの身体に纏われている虹色の魔力がより一層大きくなり、ノーリはアインハルトに向かって走っていった。

 

「せぇい!!」

 

「ーーっ!!」

 

ノーリの拳がアインハルトのガードに突き刺さる。先ほどよりも明らかに威力が上がっていることをアインハルトは体感した。

 

「はぁ!」

 

アインハルトの反撃の蹴りはノーリに躱され、カウンターを食らわされた。

 

「今のカウンター……」

 

「ああ。ヴィヴィオの動きによく似てる…」

 

観戦していたヴィヴィオとノーヴェがノーリの動きに気づく。もちろん戦いながらアインハルトも気づいていた。

 

「空破…」

 

一旦距離をとったアインハルトが空破断の構えを取った。それに対し、ノーリは再び旋衝破の構えをとる。だがその瞬間アインハルトは空破断を中断し、その位置から飛び膝蹴りをノーリに向かって放った。

 

「甘い!」

 

顔面に向かってきたアインハルトの膝を、ノーリは首を曲げて避け、その足を掴んだ。

 

「!」

 

「どぉぉぉらぁ!!」

 

そのまま地面に向かってたたきつけた。

 

「がっ…」

 

さらにノーリが追撃を仕掛けたが、アインハルトは転がって避け、全身を使って飛び、体勢を立て直した。

 

「はぁ、はぁ」

 

「…」

 

(明らかにさっきより強くなっている……あの姿の状態で戦うのは初めて………でも、この強さ…)

 

「……そろそろ、幕引きと行こうじゃないか」

 

ノーリは追撃をせず、アインハルトに提案してある姿勢をとった。

 

「!」

 

(この構え………間違いない……ならば、私も!)

 

「…」

 

アインハルトも構えた。

 

「「覇王!!!断空拳!!!!!」」

 

二人の断空拳が衝突した。それによる衝撃波と魔力波が同時に辺りを襲った。ヴィヴィオ達は互いに支えあい、アキラはギンガをかばうように守る。それほどの衝撃だった。

 

二人の拳は衝撃を互いにもろに受け、鈍い音がする。

 

「ああああああ!!」

 

そして、断空拳の打ち合いに負けたのは、アインハルトだった。アインハルトは吹っ飛ばされ、地面を転がった。

 

「ぐぅぅ…」

 

アインハルトが手首の辺りを掴んで悶えていた。どうやらクラッシュエミュレートが発生し、断空拳を放った拳が砕けたようだ。

 

「アインハルト!」

 

「来ないでください!!」

 

駆け寄ろうとしたノーヴェを、アインハルトが静止させた。

 

「まだ…負けてませんから…………」

 

フラフラになりながらアインハルトが立ち上がる。

 

「これは、私の、私たちのこれからを決める大切な闘いなんです……………こんな簡単に諦めていい戦いじゃ…ないんです!」

 

「…お得意……いや、切り札であり誇りでもある断空拳で負けてもまだあきらめないか。なら、圧倒的な力の差ってやつを見せつけてやる」

 

ノーリはゆっくりと構え、拳を握った。そして、少しずつ全身に力を籠め、魔力を高める。

 

するとノーリが全身に纏っている魔力の色が、虹色から緑に変わった。アインハルトの魔力光と同じ色だ。

 

「…っ!」

 

「これは、お前は知らないし、この先どうやっても習得できない技だ」

 

「その技は…」

 

「破城槌!」

 

「!!」

 

低い姿勢の状態でノーリは右足を地面に叩きつける。それによって衝撃波を発生させ、アインハルトの動きを一瞬止める。そして断空拳を放つ要領で拳を一気に引く。技が放たれる瞬間、ノーリの拳の前になにか光が発生した。その輝きとともにノーリはアインハルトに向かって突っ込み、拳を前に出した。

 

「覇王!!流星拳!!!」

 

輝きを放つ拳をアインハルトに向けて放った。直撃の刹那、アインハルトは身体を無理やり動かしてまだ動く左腕で断空拳を繰り出す。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

しかし、最後の断空拳は簡単に打ち破られ、ノーリの拳がアインハルトの胸部に命中した。アインハルトは直撃した直後に、背後にあったビルに突っ込んだ。

 

「アインハルト!」

 

「アインハルトさん!」

 

ギャラリーがアインハルトのもとへ駆けていく。アインハルトはこの一撃で意識を失っていた。少しすると武装形態も解除された。

 

「…アインハルトのバリアジャケットをが解除されて意識もない………ノーリの勝ちだ」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「う…」

 

アインハルトは目を覚ました。最初に目に入ったのはノーリの顔だった。周りにはアインハルトを心配した仲間たちがいる。ノーリに抱き抱えられ、眠っていたようだ

 

「みな……さん」

 

「アインハルト、大丈夫か?身体に不調はないか?」

 

ノーヴェが話しかける。

 

「はい……」

 

意識ははっきりしているようだ。

 

「私は、負けたようですね……」

 

「ああ。俺の勝ちだ」

 

「…」

 

(不思議と、悔しさを感じない……あんなに必死に戦ったのに…負けたのに)

 

アインハルトは、悔しいどころか少し清々しい気持ちでもあった。

 

「…約束です。どうぞ、私の記憶を持っていってください」

 

「……本当にいいんだな?」

 

「はい」

 

アキラが最後に確認をする。アインハルトは悩まず答えた。覚悟は出来ていたようだ。

 

「じゃあ…」

 

アキラがアインハルトの頭に左腕で触れ、記憶の閲覧および改竄を開始する。

 

「………?」

 

「どうしました?」

 

「お前……イングヴァルトのこと思い出せるか?」

 

「え…?」

 

アキラに言われ、アインハルトはイングヴァルトの記憶を思い出そうとした。しかし、思い出せなかった。正しくは部分的にしか思い出せない。

 

「……断片的にしか、思い出せません…」

 

「…どういうことだ?」

 

「いまの衝撃で記憶が飛んだ…とか?」

 

「いや、のわりにはアインハルト自信の記憶はしっかりしてる……」

 

「まぁ、断片的にでも記憶が残ってるならちゃんと全部封印してやってくれ…」

 

「…わかった」

 

アキラはアインハルトの断片的なイングヴァルトの記憶に封印をかけ、そのコピーをノーリの記憶に移植した。

 

「これでいいか?」

 

「…………ああ。アインハルト」

 

「はい…」

 

ノーリは座っているアインハルトの目線までしゃがんだ。

 

「これからは、笑って生きてくれ。きっと、お前の笑顔は…………素敵、だと、思うから」

 

照れ臭そうにノーリは言った。

 

「………私は」

 

(笑ってやれよ。いまだけでも)

 

念話でノーヴェが言う。

 

(こいつもこいつなりの信念でお前を助けたいと思ったんだ……)

 

「…こう、でしょうか」

 

アインハルトはぎこちないながらも笑顔を見せた。それをみたノーリは少し驚いた顔をしてから立ち上がった。

 

「……悪くないと思うぜ」

 

ノーリはそう伝え、その場を去る。その後ろ姿にはどこか、哀愁が漂っているように見えた。

 

「………さて、まぁ一件落着ってことでいいのか?」

 

「そうだな」

 

「ならアインハルト。お前にインターミドルに向けての特訓メニューを教える。記憶がなくてもお前は覇王流の使い手だ。そのことだけは忘れるな」

 

「……はい!」

 

ノーヴェが伝えるとアインハルトは力強く答えた。記憶は失ったが、やる気は失ってないようだ。

 

「お前らも、準備はいいか!?」

 

ヴィヴィオたちにも聞く。

 

「押忍!」

 

全員が気合い十分な返事をした。

 

 

 

つづく。



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第十四話 追憶!決断の理由

上手く文章が書けないけどこんな話を書きたいって気持ちが抑えられずに投稿します。ちょっと文章が下手ですが目をつぶってください。それではどうぞ


「……」

 

決闘が終わってからすぐ、ノーリは決闘場を後にし、なんとなく街中を歩いていた。通りすがる人々は、ノーリの顔を見てひそひそと話している。

 

それもそのはずだ。ノーリは涙を流していた。泣きながらただひたすら歩いていた。

 

(こんな…こんなことがあったのか…)

 

アインハルトの記憶を手に入れて、ノーリの頭の中の記憶は完璧になった。それは、イングヴァルトの人生丸々追体験したようなものである。

 

(決闘したのは、間違いじゃなかった……こんな記憶…アインハルト一人に背負わせていいものじゃない………)

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー時は3日ほど遡るー

 

 

 

ノーリは合宿先の自身の部屋の中で自主トレをしていた。時間は深夜だ。

 

ヴィヴィオ達女子組は一緒の部屋だがノーリは男なので念のため一人個室になったのだ。そして自主トレ中、誰もいないのに訪ねるように独り言を呟く。

 

「………アインハルト。君は、本当にそのままでいいのか?」

 

「知りたいか?」

 

「…誰だ!?」

 

声が聞こえた。ノーリが辺りを見回す。

 

「…!?」

 

声が聞こえただけではない。周りの時間が止まってる。自分以外の時間が、風も、鳥も、人も、すべてが止まっている。

 

「これは…」

 

「アインハルトがこの先なにもしないとどうなるか、知りたいか」

 

目の前に、白い髪と白いローブを纏った男が現れた。

 

「…お前は」

 

「まだお前には名乗ってなかったな、俺の名前は、とりあえずはリュウセイとでも覚えておいてくれ」

 

リュウセイと名乗る白いローブの男。この男、今まで幾度となくアキラやギンガたちの前に現れ、サポートをして来た。時間停止や他者の武器の精製等、常識外れの魔法を使う魔導師だった。

 

「……なんの用だ」

 

「お前、アインハルトに恋をしているだろう?」

 

「……?」

 

「ふ…まだ自分の心に気づいていないか。まぁいい」

 

リュウセイが手を挙げると景色がぐにゃりと曲がり、別の景色へと変わった。

 

「!?」

 

ノーリは一瞬にして別の場所へ移動させられていた。どこかの採掘場にみえる荒野。一通り見回すがそこに見覚えはない。

 

「ここはいったい…」

 

「特性のリングだ」

 

「なに?」

 

その時、背後から足音が聞こえてきた。ノーリが振り返ると、後方から誰かが歩いてきているのが見えた。

 

「碧銀の髪に黒をベースに金のラインで飾られたバリアジャケット、赤いラインの入ったバイザー。少し様子は違うが間違いなくアインハルトだった。

 

「………あれは?」

 

「可能性だ」

 

「可能性?」

 

「未来の可能性………お前がこのままなにもしなかった場合、あり得るかもしれないアインハルトの未来の姿だ」

 

「あれが…」

 

「…」

 

ノーリが呆然としていると、アインハルトは構えをとった。

 

「はぁ!」

 

「なっ!」

 

そしてそのままノーリに向かって突進してくる。ノーリは間一髪躱し、体勢を立て直す。

 

「なにしやがる!」

 

「残念ながらいまのあいつに声は届かん。だが、戦わなければ死ぬぞ」

 

リュウセイは嘲笑しながら言った。

 

「ざけんな!クッソ!戦闘形態!」

 

ノーリは不本意ながらも大人モードになり、バリアジャケットを纏った。

 

「ボディランゲージでやつをみてみろ」

 

「悪いが少し眠っててもらう!」

 

ノーリはアインハルトに向かっていく。そして手前に来た辺りで右拳を放った。

 

「!」

 

「…」

 

アインハルトに向けて放たれた拳は、片手で防がれた。

 

「のぉ!」

 

ノーリは直ぐ様右足でアインハルトの顔面を蹴る。それでもアインハルトはびくともしない。だが、ノーリの蹴りの衝撃で、バイザーが外れてその素顔が見えた。

 

「…!?」

 

アインハルトの瞳を見た時深い、深い闇のなかにいるような気分になる。暗い瞳だった。

 

「なんなんだよ…その瞳は……」

 

「覇王」

 

アインハルトが再び構えた。ノーリはそれに気づき、すぐにアインハルトから距離を取った。覇王断空拳ならば当たらない距離まで下がったのだ。

 

しかしその直後、その判断は間違いだと知る。

 

「流星拳」

 

気づけば、ノーリは中に浮いていた。アインハルトの拳が光ったと思ったら腹部へのダメージと全身の衝撃と共にノーリは吹っ飛ばされていた。

 

飛ばされてる最中、ノーリはアインハルトの腕を見た。

 

「…」

 

彼女の腕はボロボロだった。皮膚にはたくさんの傷跡があり、とても女の子がしてていい肌ではなかった。

 

「ごあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

ノーリは背後にあった岩盤に突っ込み、そのまま地面に倒れこんだ。

 

「ぐ…あぁ……」

 

「…」

 

さらにアインハルトが追撃しようとして来たとき、再びノーリ以外の時間が止まる。そして、倒れたノーリのもとへリュウセイが来た。

 

「…わかったか。お前に」

 

そう訪ねられた。主語もなく分かりにくい質問だったが、ノーリはその意を汲み取り、アインハルトを見ながら答える。

 

「ああ………言葉で伝えられなくてもわかった。いまのあいつは、一人だ」

 

「正解だ」

 

「あいつの拳に乗っているのは、覇王流の歴史や、プライドや凄さなんかじゃない。孤独だ。深い……深い…孤独」

 

「………あくまでもあのアインハルトはひとつの可能性に過ぎない。この先の未来、お前の近くにいるアインハルトがああなるかもしれないし、ならないかもしれない」

 

「…それを俺に伝えてどうしたい?」

 

「……ひとつだけ、アインハルトがこうならない未来を、お前が創ることができる。お前にしかできないことだ」

 

「なに?」

 

「あのアインハルトは、覇王流の記憶に囚われ、イングヴァルトも子孫らが手に入れることを望まなかった力を手に入れてしまった未来だ。裏覇王流と呼ばれる力」

 

ノーリはさっき食らった技を思い出す。「覇王流星拳」、恐らくそれだろう。

 

「記憶の覚醒が始まり、裏覇王流を手に入れたアインハルトはどんどん強くなっていった。己の身体への負荷も考えず。その力を引き換えにアインハルトは仲間との関係を切った。ヴィヴィオやノーヴェが引き戻そうと色々やったが、それすらアインハルトの強さの前では意味をなさなかった。最終的にアインハルトは一人になり、果てしない強さを手に入れた。それがあのアインハルトだ。裏覇王流の記憶に覚醒する可能性があるのはインターミドルの試合中にエレミアの子孫と戦う時だ。その前までにお前が決めろ彼女に干渉するか…しないかを」

 

「俺は、あいつに干渉するとしたら何をすればいい?」

 

「今から教えよう」

 

その説明を聞き終わるか終わらないかくらいのタイミングで再び景色が歪み、ノーリはもとの場所へと戻っていた。未来のアインハルトも、リュウセイももういなかった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

その後、ノーリはアインハルトの、アインハルト自身も気づいていない本心を感じ、干渉することを決めた。

 

そしてアインハルトと決闘し、勝ってアインハルトの記憶を奪ったわけだった。

 

「…」

 

「あら」

 

そこにたまたま、夕飯の買い物帰りのウーノが通り掛かった。

 

「ウーノ…」

 

ノーリが遅れてウーノを視認し、慌てて涙を拭う。

 

「…泣いているの?大丈夫?」

 

「なんでもねぇ…」

 

「どこか怪我でもしたの?」

 

ノーリに何かあったのではとウーノが迫ってくるが、何もないとノーリはごまかし続ける。

 

「なにか理由があるのでしょう?」

 

「いいから!」

 

ノーリは走ってウーノの前を離れた。

 

「…」

 

その様子を、近くのビルの屋上からリュウセイが見ていた。

 

「ノーリ。お前には「王」の資質がある。その力、無駄にするなよ」

 

リュウセイはそう呟くと景色に溶けるように消えていった。

 

 

 

ーナカジマ宅ー

 

 

 

ノーリはしばらく街中を歩き、日が沈んでから家に帰った。玄関の扉を開けると、丁度そこにギンガがいた。

 

「……っ!………ただいま」

 

気まずそうにノーリが言った。ギンガはそれを見て微笑みながらノーリを迎えた。

 

「おかえりなさい」

 

「…」

 

ノーリがそのまま居間に行くと、アキラがアリスをあやしていた。

 

「遅かったじゃねぇか。あんま遅いと補導されるぞ」

 

「……わかってる」

 

特に、アインハルトとの決闘についてなにか言ってくることはないようだ。

 

「…なにも、言わないのか」

 

「お前の決めたことで、アイツらも了承してんだろ。だったら俺らがいまさら何のかんのいうことじゃねえよ。テメェはテメェの道を勧め。困ったんなら頼れ。大人が口だせんのは、そこくらいだ」

 

「…サンキュな」

 

ノーリは礼を言った。だがその時、顔の筋肉に違和感を感じた。

 

「…?」

 

それが何なのか、その時のノーリにはよくわからなかった。だが、それに気づくのはもう少し後の話になる。

 

「ノーリ」

 

「あ?」

 

背後から声がかけられた。ギンガだ。ノーリが振り替えると、ギンガに手を差しだされた。

 

「これ、あなたへのプレゼント」

 

ギンガの手には掌サイズの箱が乗っている。ノーリは頭に「?」を浮かべながらもその箱を受け取った。

 

ギンガの顔を見ても何も言おうとしない。表情で「開けてみて」と言っている。ちらりとアキラの顔を見るが、アキラも何も言わない。

 

ノーリは疑問符を増やしながらも箱を開けるとその中には、懐中時計が入っていた。

 

「…懐中時計?」

 

金色の懐中時計。中心付近に宝石のようなクリスタルパーツがある以外は普通の懐中時計だった。鎖をつかんで引っ張り出してみると、クリスタルパーツが急に光る。

 

『hello new master』

 

「うぉ!喋った!?」

 

「お前のデバイスだ」

 

アキラが言った。

 

「え…?」

 

「インターミドル、出るんだろ?だったらちゃんとしたデバイスがねぇとな」

 

「前まで使ってた練習用デバイスより断然性能が高いわ。アキラ君がマリーさんや八神指令に頼んでくれてたの」

 

「…あ、ありがとう」

 

ノーリがアキラに例を言う。アキラは少し照れ臭そうな顔をしつつ、冷静に返す。

 

「礼にゃ及ばねぇよ」

 

「その子、名前がまだないから…名前、つけてあげて」

 

ギンガに言われ、懐中時計型デバイスに視線を移すと、再びクリスタルパーツが光る。

 

『please』

 

「名前…か…。そうだな………新しいデバイス……」

 

ノーリは少し悩みつつ、答えをだした。

 

「俺にとってお前はインターミドルを勝ち抜くための新たな刃だ。だから、名前はノヴァラミナ」

 

 

 

-5日後-

 

 

 

二人の決闘から5日が経った。チームナカジマは各々用意されたプランでDASSのインターミドル予選に向けてトレーニングをしていた。

 

ヴィヴィオはカウンターヒッターの、リオは春光拳の、アインハルトとノーリはお互い覇王流の使い手としてともにミカヤのトレーニングを受けている。

 

そして今日、コロナがアキラのトレーニングを受けるかどうかを判断する日になった。コロナは今日までオットーにトレーニングをしてもらっていた。

 

「おう」

 

「アキラさん!」

 

トレーニング場にアキラと、アリスを抱えたギンガがやって来た。アキラたちにコロナが駆け寄る。

 

「ギンガさんにアリスちゃんもこんにちは!」

 

「こんにちは」

 

「だう」

 

「さぁ、この5日でどう成長したかとりあえず見せてもらおうか」

 

「はい!」

 

とりあえずアキラはオットーになにを中心にトレーニングをしたかを聞き、まずは普通にゴーレムクリエイトを行わせた。

 

コロナはゴーレムのコアとなるクリスタルを地面に投げ、術式を展開。

 

「叩いてくだけ!ゴライアス!」

 

地中からゴライアスが出現した。

 

「言われた通り、召喚しましたけど…」

 

「おう。ご苦労さん」

 

ゴライアスの上からコロナが訪ねると、アキラは笑顔で応える。と、同時にアキラが腕を垂直に上げた。

 

「無閃・絶刀」

 

「!!!」

 

アキラが腕を振り下ろすと同時にゴライアスは真っ二つになる。コロナはなにも出来ず、急にバランスが崩れたゴライアスから落ちたが、アキラにキャッチされた。

 

「悪いな。驚かせたか」

 

「いえ…」

 

「んじゃ次は今できる最速のスピードでクリエイトしてみてくれ」

 

「は、はい…」

 

今度も言われた通り、この5日間で鍛えた生成スピードの上昇を見せ、ゴライアスを生成した。

 

「ゴライアス!」

 

「絶刀」

 

ゴライアスを生成するなりまたアキラにまっぷたつにされた。今度は慣れたのかコロナは綺麗に着地する。

 

「…なるほどなぁ」

 

「アキラさん、これはいったい…」

 

いったいアキラがなにをしたいのかよくわからないコロナが聞いてきた。

 

「見ろ」

 

アキラは真っ二つにした二つのゴーレムの破片を持ってくる。

 

「わかるか?これはお前の作った二つのゴーレムの切り口の部分だ」

 

「…はい」

 

と、見せられたところで指した違いは見えない。

 

「俺は、お前の二回目のゴーレムに対して最初よりも弱く攻撃を放った」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ。俺の予想では切り口は両方とも真っ二つになると思っていた。だが二つ目の切り口は荒い。俺の攻撃力が真っ二つにさせるに至らなかったワケダ。これはお前のゴーレム生成の上手さを表してる。ゴーレムマスターによるゴーレム生成の速度上昇の訓練では大体の場合、硬度を犠牲に速度を上げる場合が多い。うまくなれば硬度も保てるんだが、お前は最初から硬度を保っている」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「俺の見込んだ通りだ。お前は、「魔力の並列運用」のセンスが高い。これならお前はもっと強くなれる」

 

アキラほどの人物に実力を認められた。コロナにとってこれ以上嬉しいことはなかった。それだけに留まらず、もっと強くなれるという事実に、ワクワクが押さえられなかった。

 

「わ、私!強くなりたいです!」

 

「その意気だ。じゃあ今日の俺の訓練を乗り越えられたら今後は俺がみてやる。だが、できなきゃお前はまだその程ではないと判断してノーヴェの訓練に戻すいいな」

 

「はい!」

 

力強く返事をするコロナに対し、アキラはあまり良い顔はしなかった。

 

「…どうしました?」

 

「コロナ」

 

「はい」

 

「お前はアインハルトと同じ選手(アスリート)だ。それに対し俺がいつも教えてるのは命の削り合いが起きてる現場での戦い方だ。俺がこれから教えるのはそれに近いものになる。だが決して忘れるな。お前は戦士でも兵士でもない。あくまでも選手であることを忘れるな」

 

「…大丈夫です。わかります。アキラさん。ありがとうございます」

 

「わかってんならいい。さぁ、訓練を始めるぞ」

 

アキラはコロナにクリスタルコアを渡した。

 

「…これは、ゴーレムのコアですか?」

 

「ああ。俺がマリーさんに特別に作らせたスペシャルコアだ。こいつを使ってゴーレムを創れ。それが今日お前がクリアするべき訓練だ。以上」

 

「え?」

 

「じゃ、がんばれよ」

 

「ま、待ってくださ…」

 

その場を去ろうとするアキラを止めようとしたときアキラが自ら立ち止まった。

 

「ああそうだ」

 

「…?」

 

「俺はお前の魔力並列運用技術に見込みがあると言ったな。だが、それ以上にお前の頭の良さ、そして想像力にも見込みがあると思っている」

 

アキラはそう言い残しギンガの元へ歩いて行った。

 

「…」

 

コロナはポカンとしながらその場に立ち尽くしていた。アキラにトレーニングを見てもらえると聞いていろいろ期待していたのにまさかこんなこととは。

 

若干期待外れだと思いながらもコロナはいつも通りゴーレムクリエイトを行おうとした、しかし。

 

「!?」

 

魔力回路に予想以上の負荷がかかり、その場に跪く。

 

「これは…」

 

オットーがその様子を見ながら驚いていた。

 

(間違いない…あのコアからゴーレムを創造するにはかなりの技術がいる…かなり複雑な魔力運用をしなければならない…コロナお嬢様)

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

-ヴィヴィオのトレーニング-

 

「へぶ!!」

 

ノーヴェの顔面にヴィヴィオの拳がめり込み、吹っ飛んだ。

 

「ノーヴェ!大丈夫!?」

 

ヴィヴィオが心配してかけてきた。

 

「おう、悪ぃ…」

 

「今日、ちょっとぼーっとしてない?大丈夫?」

 

「…確かに。そうかもしれない。今日はアキラがコロナにテストしに行く日なんだ」

 

ノーヴェはコロナを心配していた。信用しているとはいえ、アキラに認めてもらえるだろうか、もし認められなかったら、コロナはショックを受けてしまわないだろうかと。

 

「そうなんだ」

 

「そのことが引っかかっててな…すまん。集中する」

 

ノーヴェは無理やりコロナを忘れようとしたが、ヴィヴィオがそれを止める。

 

「……気になるなら、連絡してみたら?そうしたほうが集中できると思うし。私は大丈夫だから」

 

ヴィヴィオはさぼりたいわけではない。彼女もコロナを心配しているのだ。ノーヴェはそのことがなんとなくわかっていた。

 

「そうだな。そうする。悪いな」

 

「ううん」

 

ノーヴェはヴィヴィオから少し離れ、アキラに連絡をとった。しかし、コールするが中々でない。

 

(遅いな…)

 

[おう!ノーヴェか!どうした!]

 

やや焦り気味なアキラの声が聞こえてきた。

 

「あ、ああ…ちょっと、コロナのことが気になったんだ。どうだ?コロナは…」

 

[はっ、心配ねぇ…。お前結構見る目あると思ってたが、そうでもねぇかもな」

 

不穏な言葉を聞かされる。もしかして見込み違いだったか?そんな考えがノーヴェの脳裏によぎる。

 

「…どういう意味だ?」

 

[俺としても見込みはあったが大したもんじゃねぇと思っていた。だがとんでもねぇ!ダイヤの原石を掘り当てた気分だよ!]

 

 

 

 

続く



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第十五話 始動!インターミドル予選!

なのは15周年おめでとうございます!今日絶対出したかったので少々未完成でしたが上げました!


-朝-

 

 

 

「そんなわけで特訓を続けてもうひと月。いよいよ選考会と地区予選の始まりだ」

 

朝の公園。5人の前で選考会と地区予選の結果を受け取ったノーヴェが、軽いトレーニング終わりの全員の前で話を始めた。

 

「わかってるとは思うが、個人戦だからチームメンバー同士で戦うこともある。それは大丈夫だな?」

 

「はい!」

 

「スポーツなんだし、恨みっこなしです!」

 

「誰が相手だろうが…加減はなしだ」

 

全員の意気込みを確認すると、ノーヴェは発表することに決めた。

 

「よし、お前ら5人の参加ブロックを発表する」

 

地区予選の各々の参加ブロックはヴィヴィオが4組、リオが5組、ノーリが2組、そして…アインハルトとコロナが1組、同じ組になってしまった。

 

「…」

 

「コロナさん…」

 

「まぁ、ゼッケン番号が離れてるからノービスクラスにいるうちに当たることはねぇよ。予選で当たるとしたらエリートクラスになってからだ」

 

それを聞いて二人も周りも少し安心する。だがいつか戦うことになるかもしれないことに変わりはない。

 

「…アインハルトさん」

 

「…はい」

 

「負けませんよ」

 

一瞬、コロナの目つきが変わった。声にも力強さがあった。それを感じ取りつつもアインハルトはいつも通りに振舞った。

 

「はい。こちらこそです」

 

「………ノーリ、お前に言っておく。2組には一昨々年の優勝者がトップシードにいる」

 

「一昨々年?」

 

「ジークリンデ・エレミア」

 

「!!」

 

その名前に、ノーリが少し過剰反応したように見えた。

 

「…」

 

「敗戦記録は出場辞退だけで戦って負けたことは一度もねーっていう生粋のエリートファイター」

 

「………エレミア」

 

「…こいつを倒さなきゃ都市本戦には進めねーってわけだ…………ノーリ?」

 

「え、あ、ああ。望むところだ」

 

各々の出場組と、相手の確認を終えた5人は手を重ね、気合いを入れる。

 

「チームナカジマファイトー!」

 

「おー!」

 

新暦89年度、この日、全員の第27回インターミドルチャンピオンシップ参戦と出場組が決まった。このときから、運命は動き出す。彼女たちの鮮烈な物語と、過去への懐旧。ノーリとアインハルトの未来。すべての運命が動き始める。

 

高町ヴィヴィオ(10)

Style ストライクアーツ

Skill カウンターヒッター

Magic ベルカ&ミッドハイブリッド

Device セイクリッド・ハート

 

 

コロナ・ティミル(10)

Style ゴーレム創成

Skill ゴーレム操作

Magic ミッドチルダ

Device ブランゼル

 

 

リオ・ウェズリー(10)

Style 春光拳+ストライクアーツ

Skill 炎雷変換

Magic 近代ベルカ

Device ソルフェージュ

 

 

アインハルト・ストラトス(12)

Style 覇王流

Skill 断空

Magic 真正古代ベルカ

Device アスティオン

 

ノーリ・ナカジマ(12)

Style 覇王流

Skill ???

Magic 真正古代ベルカ

Device ノヴァラミナ

 

そしてここ、とある管理世界のある屋敷の中。そこにも一人、インターミドルに参加を待ち望んでいるものが一人。

 

「…」

 

イリエタ・リスト(18)

Style 極王式魔導戦技

Skill ???

Magic ???

Device ???

IM参加履歴 4回

最高戦績 世界代表戦優勝

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

-大会選考会当日-

 

 

選考会当日、ノーリらチームナカジマは会場に到着、セレモニーを終えた各メンバーは準備に取り掛かっていた。

 

「ふぅ…」

 

ノーリは会場内のベンチに腰をかけ、ペットボトルの水を何度も口に運んでいた。ノーリは自身が緊張していることに驚きつつも緊張を隠そうとしていた。

 

「ノーリさん」

 

「ん?」

 

そこにたまたま通りかかったアインハルトが来た。

 

「先ほどから落ち着かない様子ですが…」

 

「はっ、笑え。緊張してるみてぇだ」

 

「いえ……」

 

アインハルトはそっとノーリの手に自分の手を重ねた。

 

「…?」

 

アインハルトの手は震えていた。ノーリと同じく緊張をしていたのだ。それだけではなく、顔の表情筋もややひきつっているように見えた。

 

「ふ……お前にしては珍しいな」

 

「ノーリさんに負けたあの日から、色々なことを前より衝撃的に感じます。世界が広くなった気がします」

 

「そうか…」

 

「この緊張も……あなたのおかげなんでしょうか。でも、不思議ですね」

 

「なんだ?」

 

「あなたと手を繋いでいると、自然と緊張が和らいでいく気がします」

 

「…………俺も、そんな気がする」

 

そんな二人の様子を、遠くから眺めていた人物が一人いた。ギンガの同僚で、親友であるメグ・ヴァルチだ。

 

「…」

 

「メグ!」

 

そんなメグのところにアリスを抱えたギンガと、アキラが現れた。メグは今日、ギンガに誘われてチームナカジマの試合を見に来ていたのだ。

 

「お待たせ。行こうか」

 

メグと合流したことでギンガはさっそく席に向かおうとする。

 

「うん…ねぇギンガ」

 

「どうしたの?」

 

「周りの目を気にせずイチャイチャすんのは遺伝するのかしら?」

 

「…どういうこと?」

 

「いや…」

 

 

 

そして選考会が開始され、ノーリ以外の全員の試合が終了した。八神家の代表選手であるミウラの試合も終了し、心臓をバクバク言わせながらリングを降りて歩いていた。

 

「はぁ…はぁ…」

 

「大丈夫か?」

 

師匠兼コーチであるザフィーラがミウラを心配する。

 

「は、はい師匠…」

 

まだ緊張しているミウラが廊下に入ったところで足を躓かせ、転びかけた。

 

「あ…」

 

バランスを崩したミウラを、ザフィーラよりも早く誰かが支える。

 

「…大丈夫か?」

 

「は、はい…すいませ……あ!ノーリさん!?」

 

顔を上げたミウラが自分を助けてくれた人物の顔をみて驚いた。

 

「ミウラっつたか?勝ったみたいだな」

 

「はい、は、初めまして。ミウラ・リナルディと申します。お話は常々…」

 

「ご丁寧にどーもな、次は俺が結果見せないとな。足元気をつけろよ」

 

「はい…」

 

ノーリはリングに向かっていった。ノーリが来たのはHリング。相手はゼッケンナンバー666の少女。武器を持っていない格闘型のようだ。

 

「頑張ってください、ノーリさん」

 

ノーリのコーチはウーノが務めていた。

 

「ああ…」

 

『Hリング、ゼッケン666VSゼッケン108、レディ・ゴー!!』

 

「はぁ!!」

 

少女が構え、ノーリに向かってきた。だがノーリは構えてすらいない。ただ立っているだけだ。

 

「ノーリアイツ何やってんだ!?」

 

「やられちゃう!」

 

控室のノーヴェやヴィヴィオが心配する。

 

少女の拳がノーリの顔面に向かって飛んできた。だがその拳が届くよりも先にノーリの素早く、鋭い蹴りが少女の横顔に命中した。

 

ノーリは上段蹴りを当てた後、その勢いのまま180度回転し、少女に背をむけた。少女は意識を失い、その場に膝から崩れ落ちる。

 

「が…」

 

「…」

 

『え…Hリング、選考終了!勝者ゼッケン108!』

 

ノーリはそのままリングを降りた。

 

「お疲れ様。どうだった?」

 

「…まぁ、こんなもんだろう」

 

ノーリは当然ながら汗一つかいていない。ウーノが用意したタオルも持たずにリングから離れていった。そんなノーリの戦いぶりを、控室からミウラが瞳を輝かせながら見ていた。

 

「すごい…」

 

 

 

-後日 高町家-

 

 

 

チームナカジマの選考会は最高の結果で終わった。そんなチームナカジマを祝って高町家で祝賀会が行われた。

 

ノーリに誘われアキラたちもそこにいた。なのはとフェイトの用意したフルーツタルトを食べながら色々なことを話していた。

 

「アキラさん!どうでした!?私の試合!」

 

嬉々としてコロナがアキラに訪ねた。

 

「あ?まぁ、良かったんじゃねぇのか」

 

アキラはフルーツタルトを頬張りながら答える。その言い方に、ギンガが少し注意した。

 

「もう、アキラ君。もう少し言い方あるんじゃないの?」

 

「そうだよ。もっと誉めてあげるとか」

 

「次も頑張れとか、伸び盛りなんだから」

 

「アキラさんのトレーニングを頑張ってたのは認めて貰いたいっていうのもあると思います」

 

ギンガから始まり、なのは、フェイト、ヴィヴィオと口々に言った。

 

「なんだよ、よってたかって…」

 

「あ、あの、私別にそんなんじゃないので…大丈夫です…」

 

コロナは恥ずかしそうに言ったがアキラがちゃんとしないと周りが許してくれなさそうな雰囲気だった。

 

「はぁ……ワリィが俺はあんまし意見を変える気はねぇよ。だがまぁ、期待してない訳じゃねぇ。本当によくやったと思ってる。次もこの調子でな」

 

「…はい!」

 

(こういう時の女の結束力ってすげぇよな…)

 

アキラの災難を横目で見つつタルトを食べていると、ノーリの皿の近くにアスティオンがやってきた。

 

「にゃあ」

 

「ん?猫…じゃねぇなぬいぐるみ?」

 

「あ、ティオ!だめです。ノーリさんのお皿が…」

 

「ティオ?ああ、お前のデバイスか」

 

ノーリが撫でてやるとティオがノーリの腕に乗り、そのまま肩に上り、頬ずりをして来た。

 

「なんだなんだ」

 

「ああ、ティオ…」

 

アインハルトが慌ててティオを回収しに行く。

 

「にゃぁ~」

 

「よくなついてますね…」

 

「…ま、髪の色も似てるしな……」

 

「…可愛いな」

 

再びアスティオンを撫でようとしたとき、ノーリの指がアインハルトの指に触れる。その瞬間、ノーリの脳に記憶が急に再生された。

 

「ぐぅ…!?」

 

「ノーリさん!?」

 

『うーん名前はどうしよう』

 

『もう、気が早いですよ』

 

『でもやっぱり楽しみだからね…』

 

「アス……ティオン」

 

「え…?」

 

ノーリの指がアスティオンの顎を撫でる。その瞳は、周りにはわかり辛かったが紫と青になっていた。

 

「この子を任せたよ」

 

「ノーリさん?」

 

「…ん?俺、なんか言ったか?」

 

「いえ、よく聞こえませんでしたが…」

 

「疲れてんのかな」

 

そんな高町家の居間の様子を、リュウセイが眺めている。

 

「…お前はどの未来を選ぶ」

 

そんなリュウセイの横には、銀髪の少女が立っていた。

 

 

 

ーさらに後日ー

 

 

 

チームナカジマにミウラやシャンテ、ルーテシアは無事エリートクラスに昇格した。

 

そしてミウラは強敵となった天瞳流抜刀居合師範代ミカヤ・シェベルに勝利し、地区予選第一試合を突破。チームナカジマもノーリを除き、これといった苦戦もなく勝利した。

 

そして今日はノーリの第一試合の日。

 

「ノーリさん!ファイトー!!」

 

『さぁ!まもなく始まります!予選2組第一試合!対戦者は現在同チーム内の仲間たちが初参加ながら次々と勝利を続けるチームナカジマの逆紅一点!ノーリ・ナカジマ選手!これまでの敵はすべて瞬殺しています!仲間たちの声援を受け、今リングに上がります!』

 

ノーリはエリートクラスに上がるまでの選考会の試合はすべて蹴り一撃で倒してきていた。

 

「…いよいよデビュー戦だ。いくぞ、ノヴァラミナ」

 

[yes]

 

対戦相手の少女がバリアジャケットを装備する。ノーリもノヴァラミナのリュウズの部分を押すと、大人モードになり、バリアジャケットを装備された。

 

そのバリアジャケットを見たアインハルトが少し首をかしげる。

 

「どうしました?アインハルトさん」

 

「いえ………なんだか、私のバリアジャケットに似ているような」

 

互いの準備が完了したところで、試合のゴングが鳴った。

 

「空破断!!」

 

開始と同時にノーリが空破断を敵に向けて放った。

 

「ふっ!」

 

敵はジャンプで空破断を避けた、だが、飛んだ瞬間目の前にノーリがいた。

 

「うそっ…」

 

「覇王、断空拳!」

 

空中で回避姿勢を取る前に、少女は覇王断空拳を受けてリング外の壁に叩きつけられた。

 

LIFE12000→0

 

「あがっ!!」

 

ノーリの断空拳は相手の一撃でライフを削り切った

 

『き、決まったー!!まさに秒殺、いや、瞬殺!』

 

「な、なにしやがったんだ?」

 

「空中で断空拳を放つなんて…」

 

「あれは…断空拳を放つ要領で、つまり足先から力を練りだす要領を含めたジャンプで力を蓄えたまま飛んで断空拳を放つ技術です…。あれでは…」

 

アインハルトの眼には、いま勝利したノーリの後姿が、イングヴァルトの後姿に見えていた。

 

 

続く



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第十六話 異変!蠢く影

ちょっとした事件が始まります。ちょっと短いですがご容赦を。次回はアインハルトVSコロナ!ここで盛り上げますのでお楽しみに!


ノーリ・ナカジマ(予選2組)

1R 0分15秒 KO勝利

累計被ダメージ0

FB 覇王断空拳

 

第一試合が終わり、ノーリはさっさとリングを降りた。

 

「…お疲れ様」

 

「疲れてねぇ」

 

ウーノが差し出したタオルを手で避け、ノーリは選手控室へ向かっていった。

 

「……」

 

(身体が、疼く。この会場内に強い奴……古代ベルカと関わりが強い奴がいる)

 

ノーリは自身の中で上がり続ける魔力を感じ取りながらぐっと拳を握る。身体が欲している。人物を。そんなノーリの前に誰かが駆けてきた。

 

「待て!アインハルト!」

 

「アインハルトさん!」

 

ノーリの前に現れたのは、アインハルトだった。させて頂きます。さらにそれを追ってノーヴェ達も現れる。

 

「ノーリさん…」

 

「アインハルト?」

 

「ノーリさん、あなたは、何をしようとしているのですか?」

 

「あ?なにって…そりゃ」

 

突然のアインハルトの問。それに疑問を覚えながらも答えようとしたとき、突然ノーリの両目の色が赤と紫色に変わった。

 

「!」

 

そして、背後を振り向く。そこには、フードで顔を覆った少女がいた。

 

「…?」

 

少女もノーリに気づき、立ち止まる。

 

「君…」

 

「お前…」

 

「さっきの戦い見てたよ。君強いんやねぇ」

 

少女は笑ってノーリの戦いを評価した。どうやらさっきの戦いを観戦していたようだ。だが、それを見てただ「強い」という感想しかもっていない。語彙力がないのか、強いのか、はたまたノーリの強さを認知できていないのか。

 

「エレミア…」

 

少女は、エレミアという名前。そう、一昨々年の優勝者ジークリンデ・エレミアだった。ノーリとはシード戦で当たる予定だ。

 

「ん?ウチのこと知ってるの?なんやありがたいなぁ。君とは組が同じやったよね。三回戦、よろしくなぁ」

 

「ああ…」

 

ノーリが答えると、そこにもう一人の金髪の少女が来た。

 

「あ!見つけたわよジーク!」

 

「あ、見つかった!!じゃあ!次も頑張ってな!」

 

「待ちなさい!ジークそんなもの食べてないでもっとバランスよく!」

 

二人は走って行ってしまった。

 

「ノーリさん…」

 

アインハルトは、ノーリからあふれる覇王の魔力を感じていた。まるでついこの間までの自分を見ているようだった。

 

「うぐっ…」

 

ノーリは頭を押さえて少しよろめく。再び開けたノーリの眼はもとに戻っていた。

 

「すまねぇ…気分が悪い。控室で休んでくる」

 

「あ…はい…」

 

ノーリはふらふらとその場を立ち去る。追い付いたが行く末を見るために二人を見守っていたノーヴェたちが出てきた。

 

「いったいどうした…」

 

「私には、ノーリさんがかつての私…いえ、それ以上にイングヴァルトに近づいているように見えて……心配、なんです。ノーリさんが、ノーリさんでなくなってしまうような気がして…」

 

「…」

 

どことなく、いつも以上に感情が表に出ている気がしたアインハルトだが、ノーヴェはそれ以上に彼女のこの先の試合でのメンタルを心配した。ノーリを気にして試合に負けてしまっては目も当てられない。

 

「気持ちは分かるが、今は自分のことに集中しておけ。二回戦はすぐだぞ」

 

「…はい」

 

とは言ったものの、ノーヴェはやはりノーリのことも心配だった。

 

(なんとかしたほうがいいのか…)

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

そして時は進み、チームナカジマは二回戦も難なく突破。そこまでは良かったが、この日…事件は起きる。ミカヤとのトレーニングが終わりアインハルトは一人、夜道の帰路を歩いていた。

 

「…ノーリさん」

 

相変らずアインハルトの頭にはノーリのことがあるらしい。ノーリが望んだこととはいえ、彼を覇王の悲願へと誘ってしまった。そのことに対する自責の念があったのだ。

 

更に彼女には悩みがもう一つある。明日がコロナとの試合ということだ。恨みっこなしとはいえ、自身へ好意を寄せている、いわゆる「友人」と戦わなければならない。そこにやや、心の揺らぎがあった。もし以前のアインハルトだったら迷いはなかっただろう。

 

だが、覇王の記憶から解放された彼女は違ったようだ。

 

 

 

 

そして…そんな彼女の背後に近付く怪しい影。色々考え、悩んでいたアインハルトは背後から近づく人間に直前まで気づかなかった。

 

「にゃぁ!!」

 

「!!」

 

ティオの叫びでアインハルトは背後の人物に気づいた。だが次の瞬間、アインハルトの視界は稲妻のような音と共に暗くなった。

 

 

 

-翌日 大会会場-

 

 

 

大会会場ではチームナカジマが大騒ぎをしていた。

 

「どうだ!?見つかったか!?」

 

『だめだ、見つからねぇ。連絡もつながらねぇ』

 

アインハルトが失踪したのだ。それが確認されたのは今日の朝だった。アインハルトの保護者役であるウェンディ達がアインハルトの家を訪ねたが反応がなく、アキラを緊急収集して家の鍵を開けるもそこにアインハルトはいなかった。

 

会場内やミカヤの道場など心当たりは探したが見つからなかった。

 

「アインハルトさん…」

 

「あいつが急にいなくなるなんて……あいつ自身が行うとは考えられねぇ。やっぱり何らかの事件に…」

 

ノーヴェは壁を殴った。

 

「クソっ!」

 

「大丈夫よノーヴェ。いまアキラ君やチンクたちも必死に探してくれてる。すぐに見つかるわ」

 

焦りを見せるノーヴェをギンガがなだめる。

 

「…ああ」

 

 

 

-とある廃倉庫-

 

 

 

アインハルトは足音で目を覚ます。瞳を開くとそこは知らない廃倉庫。

 

「ここは…」

 

「お目覚めですか?お嬢さん」

 

「……え?」

 

眼を覚ましたアインハルトは自身が鎖で縛られていることに気づく。そして目の前には見知らぬ男。自身の置かれている状況を理解するとアインハルトは暴れ始めた。

 

「これは…!誰ですかあなたは!どうしてこんなことを!!」

 

アインハルトは叫びながら腕力で鎖を破壊しようと試みる。

 

「ははは。まぁ落ち着きなさい。その鎖は特別製でね。魔力を抑え込みます。いくら君でもそのままじゃあ破壊は難しいですよ」

 

「私を…誘拐したんですか!?」

 

「ええ」

 

「何のために!」

 

「もちろん君が必要だったからですよ。覇王イングヴァルトの血と体質、そして記憶を引き継ぐ、アインハルト・ストラトス君?」

 

「…っ!」

 

アインハルトは驚く。チームナカジマ以外に話したことのない事実を知っている人間がいたことが驚きだったのだ。

 

「何千年と前に死んだはずの人間の魂、記憶、体質を持った人間が稀に生まれることはあるが、ここまで色濃く出ている人間は初めてですよ。アインハルト君」

 

「…何が、目的なんですか!私を返してください!!」

 

「目的……私は残念ながら末端の人間でね。細かい目的は知らないんですよ。ただ、我々のリーダーは「王」を作りたいと」

 

そう説明しながら男は何かしらの装置を取り出した。先端に電波受信のアンテナのような歪んだ円盤のついた銃をアインハルトに向ける。

 

「さぁ。覚醒の時間です」

 

「なにを…」

 

何をされるかわからないアインハルトの恐怖を他所に、男はその銃のトリガーを引いた。円盤から波動が照射される。

 

それを身に受けた瞬間、アインハルトは急激に苦しみ始めた。

 

「あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

両目の紫と緑の色がより濃く、はっきりと輝き、髪の毛は僅かに逆立ちながら全身に緑色の魔力を纏い始めた。

 

そう、ノーリが稀に陥る状態とよく似ていた。

 

 

 

-同時刻 大会会場-

 

 

 

「うぐっ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「ノーリ!?」

 

「ノーリさん!?」

 

大会会場でアインハルトを待っていたノーリが突然苦しみ始めた。頭を抱え、膝から崩れていた。

 

「くっ……なんだよこれ!」

 

ノーリの瞳は紫と赤のオッドアイに輝き、魔力があふれ始めている。

 

「大丈夫!?ノーリ!」

 

ギンガたちが駆け寄ろうとした瞬間、ノーリは顔を上げた。顔を上げたノーリはだれを見るでもなく、壁しかない方向を見つめていた。

 

「!?」

 

「あっちだ…」

 

 

「え…?ちょっと!?」

 

ぼそりと呟いた後、ノーリは突然立ち上がって会場の外へ向かって走り出した。

 

「ノーリ!!」

 

「あたしが追いかける!ギン姉はチビ共を頼むな!」

 

「う、うん!」

 

ノーヴェはノーリを慌てて追いかける。ノーリは凄まじいスピードと小柄な体で人込みを避け、会場を飛び出した。

 

(クソっ!全然追いつけねぇ!)

 

 

 

-廃倉庫-

 

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

廃倉庫ではアインハルトの悲鳴が響き渡っていた。だが、それをみても男は実験をやめない。それどころかパソコンの画面を見ながら疑問符を浮かべている。

 

「…おかしい…予想反応値の半分もいかない。どういうことだ?彼女の体質、そしてこの反応。間違いなく彼女は「器」足り得る筈…」

 

男はパソコンの画面を睨みながら考えていた。

 

「ぐぅぅ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

アインハルトが一際大きな声を上げた瞬間、廃倉庫の天井が破られる。

 

「!?」

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

バリアジャケットを纏ったノーリの仕業だった。ノーリは廃倉庫に突入するなり男の持っている銃型の装置を蹴り壊す。

 

「!!」

 

「ノーリさん…?」

 

ノーリは既に覚醒状態に入っていた。ノーリは軽く振り返りながら横目でアインハルトを確認した。瞳に涙を浮かべ、明らかに疲弊しているアインハルトを見てノーリはさらに魔力を増加させる。

 

「お前が……お前がぁぁぁ!」

 

「チッ!」

 

男は緊急用のスイッチを押した。すると、壁を破壊して戦闘用に改造された警備用ロボが4機現れ、ノーリに襲い掛かる。

 

「有象無象がぁぁぁぁ!」

 

ノーリはロボに向けて拳を振るう。そこから放たれた空破断がロボ4機を一気にスクラップに変えた。

 

「なっ!」

 

「俺の大切な友達を……よくもこんな目に…」

 

ノーリは憤りながらさらに全身から魔力を噴出させる。

 

「だらぁぁぁぁぁ!!」

 

ノーリは容赦なく全力の断空拳を男に食らわせた。男は壁を貫き、地面をスライドしながらぶっ飛んだ。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「はぁ、はぁ…」

 

苦しみにもがく男をノーリは踏みつけ、拳を振り上げた。

 

「覇王…」

 

「この力……そうか、君が…真の器…」

 

「断空…」

 

「そのくらいにしておけ」

 

ノーリが殺意すら込めた一撃を振り下ろそうとしたとき、その腕を途中アキラのバイクに乗せられなんとか追いついたノーヴェが止めた。

 

「…」

 

ノーリはノーヴェに腕を掴まれながらもその腕を無理やり動かそうとする。

 

「ノーリ!」

 

「落ち着け馬鹿野郎」

 

ノーリの頭を、アキラの左腕が捕まえる。

 

「IS、ハッキングハンド」

 

アキラのISであるハッキングハンドを食らってノーリは気絶した。アキラは気絶したノーリを抱え、男に手錠をかける。

 

「たくっ……。ノーヴェ。アインハルトの安全を確認してこい」

 

「あ、ああ」

 

ノーヴェをアインハルトの確保に向かわせ、アキラは男を無理やり起き上がらせる。

 

「で、お前は何が目的だ?」

 

「……私は末端の人間さ。何もしらんよ」

 

「まぁいい。もう警邏も呼んである。てめぇはブタ箱域確定だ」

 

「…」

 

「アキラ!アインハルトは無事だ!ケガもない!」

 

ノーヴェはアインハルトを保護してやって来た。アキラはアインハルトの目線にしゃがみ、肩を掴んだ。

 

「大丈夫か?試合には出れるか?」

 

「はい。少々頭痛がしますが大丈夫です」

 

「オーライ。なら俺が会場まで送ろう。ノーヴェ、こいつとノーリ頼めるか」

 

ノーヴェは「やれる」と頷いた。それを確認するとアキラはアインハルトを連れて会場までバイクを走らせた。

 

「飛ばすぜ!しっかり捕まってろよ!アインハルト!」

 

「はい!」

 

 

続く



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第十七話 接戦!アインハルトVSコロナ!!

お久しぶりです!出すのに少々時間が掛かってしまいましたが個人的によく書けた方だと思います!原作とはまったく違う展開なのでお気をつけて!


第三回戦が始まるまであと5分を切っていた。

 

「もう準備時間に入ってます。これ以上遅れるとなると…棄権ということに…」

 

これ以上の遅れは待てないと大会側が保護者役であるギンガに説明する。だが、ギンガはアキラ達を信じ、何とか待ってもらうように頼み込んでいた。

 

「お願いです!もう少し待ってください!きっともうすぐ…」

 

「ですが…」

 

大会側の人間も困り果て、いったいどうしようかという風になったとき、廊下を駆けてくる音が聞こえてきた。

 

「申し訳ありません!遅くなりました!!」

 

アインハルトだ。

 

「アインハルト!」

 

「アインハルトさん!!」

 

駆けてきたアインハルトにチームナカジマの面々が集まった。

 

「大丈夫でしたか?」

 

「心配したんですよ」

 

「ご心配をおかけして申し訳ありません。私は大丈夫ですので、さぁ試合をしましょう」

 

「アインハルト、大丈夫なの?」

 

ギンガが尋ねる。アインハルトは小さく頷いた。

 

「はい。むしろ身体から魔力がみなぎっています…」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

『さぁ!激戦区の予選1組で三回戦まで上がってきた初参加のルーキーはなんとゴーレムマイスター!しかし驚くべきはその戦闘力!ゴーレムマイスターを名乗りながら一度もゴーレムを使用していません!』

 

コロナは戻ってきたノーヴェとともにリングインした。

 

『同じく初参加古流格闘戦技「覇王流」の使い手!アインハルト・ストラトス選手!アインハルト選手はここまでの試合はいずれもほぼ無傷の1ラウンドKO!驚異のハードヒッターです!そして二人は同じ学校の先輩後輩!同じチームの研鑽しあう同士!運命の対決の結果は!?』

 

「アキラ君、アインハルトちゃん本当に大丈夫?」

 

観客席でギンガがアインハルトを救助し、ここまで送ってきたアキラに訪ねる。

 

「とりあえずやれるだけの検査はしたが問題はなかった。少なくとも命に係わる異常はないはずだ」

 

そうは言ってもアキラは少し心配だった。一応病院に行くことを勧めたが、それでもアインハルトはリングに上がることを選んだ。

 

そして両者がリングに上がり、試合開始のゴングが鳴った。ゴングが鳴ってすぐに、アインハルトはコロナに向けて空破断を放った。コロナのゴーレムクリエイトを防ぐためだ。

 

「ガイアプレート!!」

 

コロナはその空破断をリングの床から出現させた岩盤の盾で防いだ。しかし空破断の威力は高く、岩盤は砕て粉塵を放った。

 

(よしっ!コロナさんが受け身に入った!この隙を狙って!)

 

アインハルトが前に出るも、粉塵の中からコロナが飛び出してきた。

 

(でも!)

 

前に出てくる可能性は低いと思っていたがアインハルトは慌てず、すぐさま足技でコロナを牽制しようとした。

 

しかし足が上がらない。

 

(!?)

 

足にはいつの間にかロックバインドが施されていた。アインハルトが隙をみせた瞬間、コロナは掌をアインハルトに向けた。

 

「ブラスト!」

 

アインハルト・ストラトス LIFE15000→14700

 

小型の砂塵の竜巻がコロナの掌から発生し、アインハルトを吹っ飛ばした。足を封じられていてもガードはできる。アインハルトが受けたダメージは小さかった。アインハルトが反撃をしようと態勢を立て直したとき、その視界にコロナはいなかった。

 

「!!」

 

(コロナさんが消え…)

 

消えたわけではない。上に飛んだのだ。

 

 

 

-一か月前-

 

 

 

「コロナ、あらゆる武術に通じる基礎は分かるか?」

 

訓練中、アキラは体力を使い果たしバテバテのコロナに訪ねた。コロナは疲れた頭で考え、自分なりの答えを出した。

 

「……歩法、でしょうか?」

 

「中々いい答えだ。俺が見込んだだけのことはある。だが、残念ながらハズレだ」

 

「…」

 

「あらゆる武術は理と虚に従っている。理とは鳶飛魚躍構造と本質から導き出される必然のこと。虚とは避実撃虚、けして力まず相手の空隙を撃つこと。鳥が飛ぶように、魚が躍るように、自らの身体を正確に操作する。そして水の流れが自然と岩を避けるように、相手の攻撃を躱し………

 

 

 

(これがみんなで練習して、アキラさんに鍛えて貰った格闘戦技と私のゴーレム創成を重ね合わせた)

 

………正にその隙を突く」

 

コロナは空中でゴライアスの腕を自身の腕に装備し、アインハルトを殴った。

 

(私の創成戦技!!!)

 

「!!」

 

アインハルト LIFE14700→12000

クラッシュエミュレート:左右前腕 中度打撲

 

「く…っ!」

 

アインハルトはその攻撃を何とか防ぐもダメージは大きかった。さらに粉塵に囲まれ、コロナを見失ってしまった。

 

「ゴーレムクリエイト…………出でよ巨神、創成者コロナと魔導器ブランゼルの名において」

 

「させません!」

 

粉塵の中からアインハルトが飛び出し、コロナに攻撃を仕掛けた。

 

(コロナさんのゴーレム創成は速い!でも、この速度なら)

 

アインハルトはこのタイミングで邪魔をすれば創成は阻止できずとも必ずダメージは入れられると考えていた。

 

その様子を観客席で見ていたアキラはにやりと笑う。

 

「遅い」

 

「叩いて砕け!ゴライアス!!」

 

アインハルトの真下からゴライアスが出現し、アインハルトは飛び跳ねて避けた。コロナはゴライアス上に乗って操作を始めた。

 

「ゴライアス!ギガント!」

 

「ティオ!」

 

『にゃぁ』

 

「ナックル!」

 

コロナのゴライアスとアインハルトの拳がぶつかり合う。

 

(砕け……ないっ!?)

 

アインハルトはゴライアスの腕を砕く気概で拳を放ったのにもかかわらず砕けなかった。アインハルトは驚愕しながらいったん離れる。

 

アインハルトLIFE12000→11830

 

「ぐっ!」

 

アインハルトの拳に裂傷が発生していた。砕くどころか逆にダメージを受けていた。アインハルトは驚いた顔でコロナを見る。

 

(……此処までとは…!)

 

「ゴライアス!アースウェーブ!」

 

「はぁ!」

 

ゴライアスが地面を蹴り、それによって発生した物理的衝撃がアインハルトを襲う。アインハルトはジャンプでそれを躱し、ゴライアスの腕に乗りそのままゴライアスの破砕に移行しようとした。

 

「ゴライアス!アームパージ!!」

 

アインハルトがゴライアスの腕にのった瞬間、肩から腕を外した。

 

「!?」

 

ゴライアスの腕が外れたことで、バランスを崩したアインハルトの目の前にコロナが現れる。

 

「ハンマーアーム!」

 

コロナの腕には岩でできた球体が装備されており、それでアインハルトに殴りかかった。だが、アインハルトも一枚岩ではないとっさにけりを繰り出し、コロナの腕のハンマーアームを砕いた。

 

「砕牙っ!」

 

アインハルトLIFE11830→11700

 

コロナLIFE15000→14100

クラッシュエミュレート 右手首捻挫

 

コロナは右手をやられた時、すぐさま左手を前に出してブラストを放った。

 

命中はしなかったものの、目の前から離すことはできる。だがアインハルトは離れた直後に空破断をコロナに向けて放った。

 

「ふっ!」

 

コロナは空破断を蹴りで掻き消した。其のことにアインハルトはもちろんチームナカジマ全体が驚いた。

 

「…」

 

そこで、1ラウンド目が終了し、二人はインターバルに入る。

 

『ここでゴングが鳴りました!正しく接戦!なんと熱いバトルでしょうか!一進一退のバトルでした!』

 

「大丈夫ッスか?アインハルト」

 

「はい…」

 

セコンドのウェンディとディエチがやってきた。

 

「予想外でした…。コロナさんがまさか、ここまで強くなっているとは…。完全に油断してました」

 

此処までの試合の結果では、実力が僅かにコロナが上回っているようにも見える。

 

「…怖いのは具体的対策が練れないところです。まだコロナさんは本質を全然見せていない」

 

 

-観客席-

 

 

 

「コロナ…」

 

「あんなに強く…」

 

アインハルトは、チームナカジマの中では確実に実力が一番上だった。だがそれに食らいつけていけている。コロナは明らかに強くなっていた。

 

「…」

 

アキラはインターバル中のコロナをみながらここ2ヶ月の彼女の訓練を思い出していた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「まさかアレをいきなり起動させるとは、思ってなかったぞ」

 

訓練場には大量の岩の破片が転がっている。アキラが制御しきれなくなったコロナの召喚したゴーレムを止めた後だ。

 

「あ、ありがとうございます。それから、すいません」

 

「…大丈夫か?さすがに魔力回路に負荷がかかりすぎてんじゃないか?」

 

「す、少し辛いですけど…大丈夫です」

 

コロナは元気に振るまって見せるがアキラには空元気なことは見通されいた。

 

「無茶しやがって…まさか起動できるとは思ってなかった。そこそこのところで及第点が出せればよかったんだが…」

 

「……私は、ヴィヴィオ達と同じ速度で歩きたいんです」

 

「あ?」

 

「格闘技が大好きでいつかママを護れるくらい強くなりたいって話すヴィヴィオはいつも素敵で…春光拳と炎雷魔法をもっとマスターしたいって頑張っているリオは格好よくって頼もしくて……ご先祖様の意思を継いで本当の強さを手に入れたいって一生懸命なアインハルトさんはすごく立派で、いつも優しくて私たちの前に立って先導してくれて、誰かの為に尽くしているノーリさんは本当に格好良くて……、わたしはそんなチームの一員として恥ずかしくない一員でいたいんです!だからあと!あともう少しだけみんなと同じ目線で…っ!」

 

そこまで言ったところで、コロナの頭にアキラの大きな手が乗った。

 

「皆まで言うな。お前の気持ちはよくわかったよ」

 

「…アキラ……さん」

 

「正直、俺はお前に焦るなって言いてぇ。お前がそんな風に思ってるなら、このまま俺が教えないでノーヴェの指導に従ってほしい…が」

 

アキラはコロナの手を見る。コロナの手にはアキラが渡したゴーレムのコアが握られている。そして、先程そのコアを使ってゴーレムクリエイトを行ったことによって発生したダメージで所々から血が出ている。

 

「ここまでやらせちまったし、「アレ」を使えるならその才能を放っておくわけにはいかねからな明日から辛くなると思うが、頑張れるか」

 

「……はい!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

インターバルが終了し、コロナとアインハルトは再びリングに上がる。

 

アインハルト

インターバル回復+4300

LIFE15000

 

コロナ

インターバル回復+900

LIEE15000

 

二人ともダメージは完全回復し、振り出しに戻ったところで試合再開のゴングが鳴った。

 

最初に動いたのはアインハルトだ。アインハルトはゴングが鳴っても動かず、瞳を閉じたコロナに容赦なく襲いかかる。

 

「コロナ!?」

 

「コロナ!!」

 

(上手くできなくて、楽しくないって思ったこともある。でも、ノーリさんが励ましてくれた、ノーヴェ師匠が導いてくれた、アキラさんが強くしてくれた!)

 

今までの訓練を思い出していた。そして瞳を開き、瞬時に構える。アインハルトの拳が当たるまでまだ余裕はあった。

 

アキラと訓練したとき、アキラはもっと速く迫っていた。それに比べれば、アインハルトの速度などまだまだ遅い。

 

(だから勝つんだ!)

 

アインハルトの拳を姿勢を僅かに低くすることでコロナは躱した。

 

「!」

 

「ハンマーアーム!」

 

(相手が誰だって!)

 

コロナの岩の球体付きの拳がアインハルトの腹部に直撃した。

 

(速いっ!ガードが間に合わなかった!)

 

アインハルトLIEE15000→12500

 

「クリエイション!」

 

「!」

 

吹っ飛んだアインハルトがまだ空中にいる間にコロナはすぐに術式を展開し、アインハルトの上空に石柱、いや、巨大な石の杭を作り出す。

 

「パニッシュメント・パイル!」

 

「っっっ!!!!」

 

石柱はアインハルトに直撃した。粉塵が巻き上がるがそれ以外に動きはない。アインハルトはまだ石の杭の下だ。

 

『なんとっ!カウンターからの岩石の杭!これはアインハルト選手、耐えられなかったかっ!』

 

「………」

 

少しすると、石の杭にヒビが入る。

 

「!」

 

そのヒビは杭全体に広がり、最終的に石の杭は砕け散った。そしてパニッシュメントパイルで発生したリングのクレーターからアインハルトが出てきた。

 

「助かりました…ティオ…」

 

『にゃー!』

 

アインハルトLIFE12500→6800

 

ティオのダメージ緩和とガードするのではなく逆に杭に向かって拳を打ったことが功を成し、ダメージはそこまで大きくならなかったようだ。

 

それでも大ダメージなことは変わりない。

 

(コロナさん……本当に、本当に強くなられました…でも、わたしも負けられません!これまで優しくしてくれた皆さんのためにも!)

 

「はぁぁぁぁぁ!」

 

「コメットブラスト」

 

向かってくるアインハルトに対し、コロナは冷静に魔力弾と小型の石の杭を飛ばした。

 

アインハルトはあえて旋衝波を使わずにコメットブラストを完全回避しながら突き進む。

 

「!」

 

「でぇぇぇぇい!」

 

「ガイアプレート」

 

アインハルトの目の前に再び岩盤が出現する。だが進撃の覇王にそんなものは関係ない。岩盤を破壊してコロナに襲いかかろうとした。

 

しかし岩盤の先にコロナはいない。

 

「!」

 

(しまっ…)

 

コロナがいない理由がすぐに思い当たり、急いで対策しようとしたときには遅かった。アインハルトにゴライアスの拳が命中した。

 

「ぐぅぅぅぅ!」

 

アインハルトLIFE6800→3800

 

とっさの判断で防御が間に合ったがダメージは大きい。

 

「まだです!ガイアプレート!デュアル!」

 

左右からアインハルトを挟むようにリングの床が捲り上がる。アインハルトはそれに挟まれた。

 

「…」

 

アインハルトLIFE3800→980

CE 脳震盪 左腕部骨折

 

2枚のアインハルトを挟んだ岩盤は砕けちり、アインハルトはその場に力なく倒れる。

 

「……」

 

『アインハルト選手ダウーン!カウント1!2!』

 

 

(敵の接近時に一瞬姿を隠すことで視界遮り、相手が岩盤を破壊することによってできる僅かな時間でさっき創ったゴーレムに乗って反撃。しかも最初から自分がリング縁にいることで最終的にガイアプレートデュアルを避ける場所を与えない……見事だな)

 

 

 

 

続く



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第十八話 炸裂!守護神の怒り!

楽しい。大きく変わった運命!さぁ!どうなるか。
アインハルトVSコロナ、決着です!

感想、評価、投票随時募集中です!


誘拐事件に巻き込まれながらもなんとか参加を果たしたアインハルトとコロナの試合が始まり、第2ラウンドにまで及んでいた。だが第二ラウンド開始後、アインハルトは手も足も出ずコロナにいいようにやられ、地に伏せていた。

 

『3!4!』

 

既にカウント4まで言っているがアインハルトは起き上がる様子はない。

 

「アインハルト!!しっかりするッス!」

 

「アインハルトさーん!」

 

「…」

 

観客席やセコンド席からアインハルトを呼ぶ声が上がる。しかし、アインハルトが起き上がる気配はない。依然リングに突っ伏している。

 

『5!6!』

 

「アインハルトォ!!」

 

もうだめかと思ったとき、観客席から人一倍大きい声が聞こえた。声の主は事件現場から戻ってきたノーリだった。

 

「しっかりしろ!アインハルトォ!!立て!立ち上がれ!」

 

その声が届いたのかアインハルトの指がピクリと動く。

 

 

(声が…する…………わたしを呼んでいる……でも、頭がくらくらする…身体が重い………このまま、地面に伏せていれば…楽になれるのだろうか…)

 

『7!』

 

(だけど…)

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「よし、では一度休憩に入ろう!」

 

ここはミカヤの道場。ノーリとアインハルトは二人ともここでDASSの試合の訓練をしていた。ちょうど今休憩に入ったところで二人は道場の隅に行って水分補給を行っていた。

 

「ノーリさん」

 

「ん?」

 

「前々から気になっていたことを訪ねてもよろしいでしょうか」

 

「なんだ?」

 

「どうして私に笑顔が似合うと思ったんででょうか……自分でいうのはあれなのですが…、私は人に笑顔を見せたことはありませんし…正直、笑顔が似合うとは、思いません」

 

その質問に、ノーリは少し驚いたような表情をして、考えてから答えた。

 

「………なんとなく、だ」

 

「え?」

 

「なんとなくそう思った。あ、いや、その、悪く捉えないでくれ。少なくとも笑うことに意味はある。それに……」

 

「?」

 

「………お前の笑顔が見たい。本当のお前の笑顔が、本当のお前が…」

 

それを聞いてアインハルトは少し顔を赤くした。

 

「…そういっていただけるのはありがたいのですが…いまだにその、笑い方が良く分からなくて」

 

「試合によ、戦いがいのある試合に勝った時、きっと表情は緩むと思う。だからよ、その、見せてくれよ。勝って、勝って勝ち続けて。めっちゃ強い奴を倒して、その時、最高の笑顔を俺に」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

『8!』

 

(まだだ!)

 

アインハルトの腕がうごき、掌を地面に叩きつける。

 

「!」

 

重たい身体を無理やり動かし、アインハルトは何とか身体を起き上がらせた。

 

「まだ……やれます!」

 

(見せるんだ!覇王の悲願をその身に受けてくれたノーリさんためにも!ここまで私を引っ張て来てくれたノーヴェさんたちのためにも!最高の笑顔を!)

 

「ティオ!お願いします!!」

 

『にゃあぁぁぁ!!』

 

アインハルトLIFE980→6480

クラッシュエミュレート回復

 

「さすがです。アインハルトさん!」

 

「…」

 

アインハルトはちらりと観客席の方を見た。そしてその目でノーリの姿を確認した。

 

「参りますよ!コロナさん!」

 

(…っ!。魔力の波長が変わった!)

 

アインハルトはゴライアスに突撃していく。コロナは当然ゴライアスで反撃する。ゴライアスの反撃をアインハルトは飛んで回避し、ゴライアスの腕に乗った。

 

「アーム…」

 

(また腕を外してくる…でも、それよりも速く動けば!)

 

「ティオ!」

 

『にゃあ!』

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

アインハルトはコロナがゴライアスの腕を外すより先にゴライアスの腕を駆けあがっていった。

 

「!」

 

「覇王!」

 

「トライシールド!」

 

「空破断!!!!」

 

(重い!!!)

 

空判断を何とかシールドで防ぐものの、コロナは抑えきれずに吹っ飛んだ。

 

「でぇぇぇぇ!!」

 

更にアインハルトは吹っ飛んだコロナに追撃に出るべく、ゴライアスから飛んだ。空中のコロナに対し地面に叩きつけるように足を振り上げる。

 

「パニッシュメントパイル!!!!」

 

「!!!」

 

コロナは自らの上空に巨大な石の杭を精製し、自分に向けて、尚且つアインハルトを巻き添えを食らうように撃った。

 

「!?」

 

「!!」

 

パニッシュメントパイルがリングに打ち込まれ、二人はそれに巻き込まれる。その衝撃で操者を失ったゴライアスも崩れた。

 

『まさかまさかの自身を巻き込んで追撃を阻んだコロナ選手!二人の安否は…』

 

粉塵が晴れ、二人の姿がだんだん見えてくる。

 

コロナLIFE15000→9800

CE 左腕骨折

 

アインハルトLIFE6480→3200

CE 右足首捻挫

 

(足をやられた!これはまずい……っ!)

 

(思ったより削れなかった…でも、あのままやられてたらダメージはきっともっと大きかった…っ!)

 

二人は何とか立ち上がり、構える。

 

(左腕はもうだめ…ラウンドの時間もそんなにない…ゴライアスを再生成してももう動きは読まれる…ここでは見せたくないけど、「アレ」を使うしかない!)

 

「ティオ!少し無理をさせますが、付き合い願います!!」

 

『にゃああ!!』

 

アインハルトLIFE3200→5100

CE 回復

 

(ティオの回復能力!そんなに多用はできないだろうけど、やっぱり厄介だ!)

 

「でぇぇぇぇぇ!!」

 

アインハルトが回復した身体で突貫する。

 

「っ!」

 

コロナは反撃をせず、防御と回避にまわった。だがアインハルトは容赦なくコロナをガンガン攻める。

 

「くっ!」

 

コロナLIFE9800→8500

 

「はぁ!」

 

アインハルトの拳がコロナを吹っ飛ばした。左腕がクラッシュエミュレートによって骨折しているため、右腕だけのガードでは防ぎきれないのだ。

 

「…っ!」

 

「一気に決めます!」

 

「コメットブラスト!」

 

向かってくるアインハルトにコメットブラストを飛ばしたがアインハルトは止まらない。それどころか旋衝波でコメットブラストを一部投げ返しながらも近づいてくる。

 

(ゴーレム操作の応用で折れた腕を動かすことは不可能じゃない…でも、それだと攻撃と同時にダメージが発生する…使えない!)

 

「ぐぅ!」

 

投げられたコメットブラストがコロナに着弾し噴煙が巻き上がる。

 

コロナLIFE8500→7300

 

コロナの防御が崩れた瞬間、アインハルトが砂埃の中からコロナの目の前に現れた。

 

「これで!」

 

「!」

 

(近い!ガイアプレートもマイストアーツも間に合わない!)

 

「覇王!断空拳!!」

 

断空拳がコロナの腹部に命中した。コロナは吹っ飛ばされ、場外の壁に激突する。

 

「…」

 

『きっ、決まったー!凄まじい威力の覇王断空拳!コロナ選手、絶対絶命かー!』

 

「ま……だです…」

 

コロナLIFE7300→30

CE 軽度脳震盪 肋骨、右足亀裂骨折 

 

 

アインハルトは目を丸くした。確実に決まった、そう思っていたからだ。

 

「コロナちゃん……あの状況で…」

 

「ああ。あいつ、とっさの判断でネフィリムフィストを使いやがった」

 

観客席で観ていたアキラとギンガは断空拳が決まる直前、なにかが見えていたようだ。聞きなれない単語を聞いてリオが疑問を覚える。

 

「ネフィリムフィスト?」

 

「コロナのある意味での最終兵器にして、最悪の技だ…。それを使ってアインハルトの断空拳をなんとか凌いだんだ」

 

コロナは場外からなんとかリングインする。だがヒビの入った足を引きずるその姿は痛々しいものだった。

 

「君、大丈夫かい?」

 

レフェリーも心配してコロナに駆け寄るが、コロナは手で大丈夫だという意思表示を表す。

 

「大丈夫です…やれます!」

 

「コロナ!もうそのへんにしとけ!これ以上は…」

 

「コロナお嬢様!」

 

「大丈夫です!」

 

ノーヴェとオットーが止めに言ったがコロナは聞かなかった。コロナの意思により試合は再開される。だがもうコロナは戦えるようには見えなかった。足までやられ、もはや立っているのがやっとの状態だ。

 

「コロナ…」

 

『さぁ、試合が再開されました!なんとかLIFEを二桁残したコロナ選手ですが、果たして!』

 

「コロナさん…」

 

(ああ…やっぱりアインハルトさんは強いな………こんなボロボロでも無理に勝ちに行こうとしてる時点できっと技術とかその辺で私は負けてる。でも、あんなに練習したんだ!それを全部見せられないのは嫌だ!アキラさんにも申し訳ない!だから!)

 

「アインハルトさん!」

 

「は、はいっ!」

 

「アインハルトさんにはゴライアスまでと決めていましたが、見せます!わたしの全力!」

 

「…はい、全力にてお受けします」

 

「目覚めよ巨腕!!」

 

(創成ロスゼロ!?)

 

試合再開してからほとんど時間は経っていない。それでコロナは創成を行った。創成時間がゼロなわけではない。ずっとこれを召喚するために耐えていたのだ。

 

アインハルトを巻き添えに放ったパニッシュメントパイルのあとからずっと。

 

「薙ぎ払え!ガーディアン・アンガー!!」

 

「これはっ!」

 

地面から現れたのは、巨大な一対の籠手。アインハルトやヴィヴィオらはこの籠手に見覚えがあった。

 

(アキラさんがセインさんを殴り飛ばしたときに出した氷の腕によくにている…!)

 

「ガーディアン・アンガー!ライト!メテオナックル!」

 

ガーディアン・アンガーの右籠手が拳を握り、アインハルトに向かって飛んでいく。

 

「くっ!」

 

アインハルトはガーディアン・アンガーの攻撃をジャンプで避ける。ゴライアスのロケットパンチのような自由飛行をしてくるものに対しては旋衝波が使える。しかし、この籠手は操作されて飛んできている。旋衝波では返せないのだ。

 

(ここは、創者狙いに行くしか!)

 

アインハルトはコロナに急接近する。

 

「ガーディアン・アンガー、捕まえて」

 

「!」

 

さっきの拳はアインハルトは十分に避けられる速度だった。これなら捕まることはないと思っていたが甘かった。ガーディアン・アンガーの右籠手がさっきの倍以上の速さでアインハルトの背後から迫った。

 

「あうっ!」

 

(しまった……)

 

「ぐぅぅ…」

 

アインハルトはガーディアン・アンガーに捕まり強く握られる。

 

アインハルトLIFE5100→4100

CE 左右腕捻挫

 

「ガーディアン・アンガー!フィニッシュ!」

 

両腕を軽く潰されたアインハルトは空中に投げられた。そのアインハルトに左籠手が拳を握った状態で迫る。

 

「…………っ!」

 

(嫌だ!………嫌だ!負けたくない!)

 

負けたくない。その一心でアインハルトは空中で体を捻り、足を振りかざす。

 

「砕牙!!」

 

「ナックル!」

 

アインハルトの蹴り技とガーディアン・アンガーが激突するもその威力は明らかにアインハルトが負けていた。

 

「エンド!」

 

ガーディアン・アンガーに殴り飛ばされ、アインハルトはリング縁に激突する。

 

アインハルトLIFE4100→0

 

アインハルトは気絶し、LIFEもゼロとなった。

 

『決着ー!!接戦に継ぐ接戦!正に名勝負!アインハルト選手の1ラウンドKOを越え、残りLIFE20でコロナ選手、まさかの逆転勝利!』

 

「!」

 

勝利し、ほっと安堵した時にコロナは驚く。ガーディアンアンガーの中指が砕け落ちたのだ。

 

「…」

 

(最後の…)

 

アインハルトの最後の反撃がコロナのガーディアン・アンガーを一部ではあるが破壊したのだ。それを見てもあまりなにも感じない。

 

壊れたから次はどうしたらいいかと言うことを考えなくて良いのを感じた瞬間改めて試合が終わったのを感じ、コロナはその場にぺたんと座ってしまった。

 

「コロナ!」

 

「コロナお嬢様!」

 

セコンドの二人がコロナに駆け寄る。

 

「ノーヴェ師匠、オットー……」

 

「無茶しやがって…馬鹿野郎…」

 

ノーヴェがコロナを抱えながらも叱った。

 

「ごめんなさい……でも、勝ちたかったんです……ここで負けたら…皆さんに申し訳ないですし…なにより、証明したかったんです」

 

「…そうか。けどな、コロナ」

 

ノーヴェは視線をコロナから観客席に向ける。コロナも観客席を見た。

 

視線の先にはチームナカジマの仲間たちやその友人や知り合いたちがいる。どうやらコロナの勝利を喜んでいるような感じだった。

 

「お前の友達は、お前が弱いからって見捨てるような連中か?」

 

「そんなことはないってわかってたような気はします……でも、不安で………私、焦ってたんですかね…」

 

「かもな」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

コロナが試合を終え、ベンチに座っていると、そこにアキラがやって来た。

 

「アキラさん…」

 

「77点ってとこだな」

 

開口一番アキラは今回の試合の点数を言った。微妙な点数にコロナは苦い表情をする。

 

「…」

 

「前半はよかったが後半が危なっかしかった。まぁ、アインハルトの以上な回復力とダメージ軽減は想定外だったが、それを差し引いても危険な戦い方だ」

 

「すいません……」

 

「だがまぁ、よく頑張った。教えたかいがあるってもんだ」

 

「ありがとう、ございます……」

 

「次も頑張っていこうな」

 

アキラはそう言ってコロナに拳を付き出した。コロナも頷き拳を重ねる。

 

 

 

続く



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第十九話 激動!それぞれの心!

今回は主に間話ですねー。(*´・ω・`)
次回からたぶんエレミアVSノーリだと思います。


「きっと、お前の笑顔は………素敵、だと、思うから」

 

私は、出来損ないだ。

 

「オリヴィエ!オリヴィエー!」

 

ノーリさんの思いも、クラウスの思いも、ノーヴェさんたちの思いも…誰の思いにも答えられず、ただ負けて、負けて、負け続けてただひたすら生き恥をさらし続けて………

 

私はなんの為にここまで戦って…私が格闘技を続ける意味は?チームナカジマに居続ける意味は…

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

アインハルトが目を覚ますとそこは、見知らぬ天井だった。その視界に最初に入り込んできたのはティオだった。

 

「にゃあ?」

 

「ティオ…」

 

「目、覚めたか?」

 

声がした。声がした方を見ると、そこにはノーリが座っていた。

 

「ノーリ…さん」

 

どうやらここが選手用の医務室であることをアインハルトは理解した。それと同時に自分が試合に敗北し、ここに運ばれてきたことも思い出した。

 

「…そうでした私、負けたんですね」

 

「残念だったな。だがまぁ、良い戦いだったと思うぜ」

 

「…」

 

 

 

(ナックル!エンド!)

 

 

 

敗北の瞬間をアインハルトは思い出す。するとアインハルトは身体を大きくビクンと動かし、震え始めた。

 

「アインハルト!?どうした!?」

 

ノーリはアインハルトの様子を見たノーリが心配する。

 

「!」

 

アインハルトは心配し、近づいたノーリにすぐさま抱きついた。一瞬、何が起きているか理解できていなかったがすぐにノーリは慌てふためく。

 

「な、なにして…」

 

「ごめんなさい……もう少しだけこうさせてください…」

 

「…」

 

僅かに震えた声と身体。それだけでアインハルトの状態を知るのには十分だった。ノーリは何も言わず、アインハルトの背中に、そっと手を回す。

 

その様子を扉の隙間からノーヴェは見ていた。

 

「…」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

その日、コロナとアインハルトの試合の後にはにはルーテシアの試合くらいしかチームナカジマに関わりのある試合はなく、夕方には帰り支度を整えていた。

 

「みなさん、すみませんでした」

 

帰り、アインハルトはヴィヴィオたちに頭を下げる。

 

「ええ!?なんでアインハルトさんが謝るんですか!」

 

「……コロナさんと戦ってこう言うのは少し、気が引けますが、このなかで一番年長でしっかりしなきゃなのに…一番最初に負けてしまって……チームの気合いを落とすのでは…と」

 

アインハルトなりにチームの年長としての誇り、みたいなものがあったようだ。

 

「そんな、大丈夫ですよ。組み合わせ次第なんですし」

 

「まだノーリさんもいますしね…あ!決してアインハルトさんに期待してないとかそんなんじゃなくてですね!」

 

「はい。大丈夫です…わかります。ありがとうございます…。では、みなさんに」

 

チームナカジマはそこで別れた。それぞれ次の試合に、次の訓練に備えて。

 

帰りの車の中で、アインハルトは一人思い悩んでいた。

 

「…」

 

(彼の優しさに甘えてしまった……敗戦のことを思い出したとき、怖くなった。急に…理由はわからないけど、とても怖く…)

 

アインハルトは、敗戦がトラウマになりかけていた。先程病室で陥った状態はその兆候のような、いや、もしかしたらすでに症状になっていたかもしれない。

 

(その思いを、あの私を、彼なら受け止めてくれると思ってしまった………私のために覇王の悲願を受けてくれたノーリさんになら…)

 

気を落としていると、手の中のティオがアインハルトの様子を心配したのか肩にまで登り、頬擦りをしてきた。アインハルトはティオの行為で後ろ向きな考えになっている自分に気づく。

 

(……私は弱い。だから、強くならなきゃ………覇王の末裔としてではなく、チームナカジマの年長者としてでもなく、いつか、彼が助けを求めて手を伸ばしたとき、その手を掴めるためにっ!)

 

一方、こちらも帰り道の車の中。アキラの運転する車で、助手席にギンガ、後ろにノーリ、ノーヴェを乗せていた。

 

(…なぁ、アキラ)

 

ノーヴェが運転中のアキラに念話で話しかけてきた。

 

(なんだ。今運転中だぞ)

 

(…ごめん)

 

思ったよりすぐ引き下がったノーヴェの表情をバックミラーで確認し、アキラは小さくため息をつく。

 

(……まぁいいさ。なんだよ)

 

仕方なく話を聞くことにした。アキラにとって念話しながらの運転なんて造作もない。

 

(………私は、うまくアイツらを指導出来てんのかな…)

 

(……さぁな。ま、素人にしてはよくやってる方じゃないのか)

 

(でも…)

 

急にそんなこと相談してきた理由をアキラは何となく察し、少し厳しめに言う。

 

(自信がねぇならやめた方がいいと思うぞ)

 

(!)

 

(選手よりもコーチが先に自信なくしててどうすんだよ。アインハルトは負けたが、とても諦めているようには見えなかったぜ?そんなんで、お前は教え方が悪かったとかそんな感じで諦めるのか?それとも、やめてぇのか)

 

(そんなわけ…!)

 

(じゃあ、がんばれよ。曲がりなりにもお前はあいつらのコーチだろ。テメェの教えを信じろ。コーチがテメェの教え方を信じられなくなったらあいつらは何を信じて試合に出ればいいんだ。テメェを曲げるな。テメェを信じて、ガキ共を信じて、突き進めよ)

 

(…ありがと)

 

「着いたぜノーヴェ」

 

話している間にナカジマ家(ゲンヤの家)に着いていた。

 

「あ、ありがとう……じゃあノーリ、また明日な」

 

「ああ」

 

アキラはノーヴェを下ろし、自宅へ向かって運転を始めた。帰宅中、ギンガがアキラの顔を見てクスクスと笑った。

 

「な、なんだよ」

 

「ううん。相談お疲れさま、お義兄ちゃん」

 

そう言われ、アキラは急に顔を赤くする。

 

「っ!と、盗聴でもしてたのかよ?」

 

「何となくそうかなって思っただけ。何年アキラ君の表情とか、視線を研究してきたと思ってるの?」

 

「…そうかよ」

 

 

 

ー翌日ー

 

 

 

アインハルトの部屋の目覚ましが鳴り響く。それとほぼ同時にアインハルトは目覚ましを止めた。

 

「ふぅ…」

 

ノーリに記憶を渡して以来、アインハルトの目覚めも寝つきもいいものだった。だが。現在時刻は午前5:30。彼女がこんなに早く起きたのは理由がある。

 

アインハルトはトレーニングウェアに着替えて家を出た。そして、まだ薄暗い朝の街を走り始めた。

 

(強くなるんだ!誰よりも!)

 

アインハルトはもう負けてしまった。この先はしばらく休んでいても問題はない。しかし、彼女自身前から独自の訓練はしていたし、昨日負けたことによる決意から再び猛特訓を始めていた。

 

しばらく走っていたアインハルトはナカジマ家(アキラ宅)の前に来る。

 

「…」

 

ナカジマ家を少し眺めた後、再び走り始めようとした。その時横から声がした。

 

「なんか用か」

 

「アキラさん!」

 

この家の主、アキラだった。どうやらアキラも庭で個人的なトレーニングをしていたらしい。シャツ一枚にジャージのズボン。片手には木刀が握られている。

 

「なんでしょうか…」

 

「いやそりゃこっちのセリフなんだが」

 

「あ、私は、その、自主トレを…たまたま……………たまたま!ここに着いただけで!すいません、失礼します!」

 

アインハルトはなにか慌てた様子で来た道を戻ろうとした。

 

「待てよ」

 

「は、はい…」

 

「朝飯、食べてくか?」

 

「え…」

 

「これから作るところだからよかったら食ってけよ。まだだろ?」

 

アインハルトはすこし考えてから頷いた。アキラはにこりと笑って、手で「おいで」と合図した。アキラについていき、家の玄関に入っていった。

 

「あ………アキラ君……おふぁよ…」

 

「ギンガ…」

 

アキラはやっちまったという表情を浮かべる。

 

ギンガは完全に寝起きだった。しかもアリスに授乳させている。昨日、二人の夜は激しかった。そのおかげでギンガは寝不足だった。だが、朝になってアリスがおなかを空かせて泣きながら起きてしまったのだろう。なので寝ぼけながらも起き出し、アリスに授乳しながら階段を降りてきたところにアキラたちが入ってきてしまったのだろう。

 

「…」

 

「……?あれ…アインハルトちゃ…」

 

ギンガは少ししてからアキラの少し後ろにいるアインハルトの存在に気づく。すると、ギンガはそのまま居間に入っていき、アキラたちの視界からフェードアウトした。

 

「…」

 

「…」

 

ギンガが居間に入って言った瞬間、セッテの声が聞こえてくる。

 

「あれ、ギンガね…え?あの、ちょ…」

 

数秒後、いつもの凛々しく、美しいギンガが居間から出てきた。

 

「あら、アインハルトちゃん。おはよう。こんなに朝早く…何の用かしら?」

 

「いやもう遅いから……ギンガ、ちょっといいか?」

 

 

 

-アキラとギンガの部屋-

 

 

アキラは二人分の朝食をもってアインハルトとともに自室に来ていた。

 

「おう、上がれ」

 

「ありがとうございます…」

 

アキラは部屋の中の小さな机に朝食を起き、座った。アインハルトもアキラと向き合う形で座る。

 

「いただきます…」

 

「おう」

 

アインハルトはアキラの用意してくれた朝食を口に運んだ。相変わらず美味しい。そう思いながら少し幸せそうな顔をした。

 

アキラはその表情を見ながら微笑む。

 

「ここにいるのがノーリだったらよかったんだがな」

 

「え?」

 

「いや…さて、わざわざ二人きりになったのはちょいと理由があってな」

 

「はい…」

 

「今後、お前はどうしたいかって話、本当はノーヴェの仕事なんだがあいつは今、まだ生き残ってるガキの世話で手一杯だからな。まぁ単なる俺のお節介だ」

 

アインハルトはそこまで聞いて食べる手を止めて、アキラの方を見た。妙に真剣な眼差しだ。

 

「…アキラさんは、どうして私たちのことをそこまで?」

 

「どういう意味だ?」

 

「だって、私やコロナさんはアキラさんの教え子でもないですし…アキラさん自身、コーチをやっているわけでも何でもありませんし…」

 

たしかにその通りだ。アキラは単にノーリの保護者であり、育休中とはいえただの局員。いくら義理の妹とはいえ、アインハルトやコロナの為に此処まで面倒を見てくれる理由はない。

 

アキラも食べる手を止めて話し始めた。

 

「……俺に比べれば、ノーリはずっと社交的で、明るい」

 

「…」

 

「ヴィヴィオ達にとっては頼りになるお兄ちゃん、みたいな立場で十分気が許せるんだろう。相談役にもなってる………でもな、あいつは、一人なんだ」

 

「一人?」

 

「生まれのこととか、その辺の重い話はヴィヴィオ達にはできないんだろう。だからと言って俺らにもなんとなく相談しづらいのかあんま話してくれねぇ。思春期ってやつかもな。あいつは高みを目指してる、いや、妙に力を得ることにこだわっている。それには理由がある気がする。そんな理由をあいつから聞き出せるくらい、アイツの思いを受け止められるくらいに強くなってほしいって考えてるのも…理由だ」

 

「…」

 

 

 

ー翌日ー

 

 

 

時は流れ、今日はヴィヴィオとリオの大切な試合の日となった。ヴィヴィオは八神はやてのやっている道場の門下生、ミウラと。リオは特攻番長のハリー選手との対戦の日だ。

 

「じゃあお前ら今日は気ぃ引き締めて行けよ!!」

 

「はい!」

 

「頑張ります!」

 

二人の気合いの入った返事のあとに今日は試合のないメンバーが二人に声をかける。

 

「ヴィヴィオさん、リオさん、ファイトです!」

 

「リオ、ヴィヴィオ、一緒に勝ち上がろう!」

 

「油断するなよ」

 

仲間たちの声援を受けて二人は顔を見合わせ、満面の笑みで親指を立てた。

 

しかし…

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

結果は散々なものになった。ヴィヴィオはミウラに、リオはハリー相手に善戦はしたが結局KO負けした。どちらも相手が強いことは明白でこの展開も十分に考えられた。

 

試合終了後、会場の廊下でコロナはなんとなく窓の外を眺めている。

 

「…」

 

「なにしてんだ」

 

「ノーリさん!」

 

そこにノーリがやって来た。

 

「いえ…なんでもないです…」

 

「…アキラに教わったこと、あいつらに悪いなぁ…とか思ってんじゃねぇか?」

 

「…っ!」

 

図星だった。コロナは一人でアキラに教わり、結果的にチームナカジマの誰より強い。だが、一人だけ別の人物から鍛えられ、やはり不公平なのではと思ったのだ。

 

「…下らねぇことで悩んでんじゃねぇよ。いいか、全員がアキラに教わったからって全員お前みたいに強くなれるわけじゃねぇ」

 

「…でも」

 

コロナの態度にノーリはため息をついた。そしてコロナの隣に立つ。

 

「覚えとけ。お前だからアキラの訓練に着いていけたんだ」

 

「え…」

 

「お前は前までチームナカジマじゃ一番目立たない存在だったさ。魔力量、格闘技術、魔法技術、どれをとっても。だが、お前は根性ひとつで俺らに、アキラに食らいついて来たんだ。その根性が実を結んで今の結果がある」

 

仮にヴィヴィオやリオが同じくアキラに教わったとて、アキラの訓練に耐えられるかと言われると微妙なところだった。

 

根性があり、芯の強いコロナだからこそ、アキラに教わることができたのだと言うことを伝えたかったのだ。

 

「ノーリさん…」

 

「だから少なくとも、ヴィヴィオたちやノーヴェの前では胸を張ってろ。でなきゃあいつらに失礼だ」

 

「…はいっ!」

 

コロナは力強く返事をした。表情を見る限り迷いは消えたようだ。ノーリは安心すると、コロナの胸部に視線を向ける。

 

「ま、物理的にゃ張れる胸もないがな」

 

それを言われたとき、コロナは一瞬何を言われてるのか理解できなかったがその言葉の意味を理解したとき、顔を赤くしてノーリに叫ぶ。

 

「せ、セクハラですよ!?」

 

「ジョークだ」

 

ノーリはそれだけいって去っていってしまった。コロナが小さくため息をついたとき、なにかに気づいた。

 

「…?」

 

今の、最後の会話の違和感。なにかが、足りない。その事に気づいたが、その違和感は解明できなかった。

 

 

続く



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第二十話 慈愛?ノーリの変化

あけましておめでとうございます。本年初の投稿となります。まもなくリリカルライブ始まりますね。楽しみです。今回は残念ながらノーリVSエレミアではないです。盛り上がりはないような感じですが、後に続くための大切な話です。


試合が終了し、全員が帰路についたその翌日。ノーリはいつも通り学校へ向かった。

 

「あ、ノーリさん!おはようございます!」

 

「ああ…」

 

負けてしまったヴィヴィオ、リオと会うのは少し気が引けたが、いつも通り待っていてくれる彼女たちを待たせるわけもいかず、到着する。しかし、彼女たちは思ったよりいつも通りだった。

 

「じゃあ、行きましょうか!」

 

「おう…」

 

 

 

-ナカジマ家(アキラ宅)-

 

 

 

「どうでした?ヴィヴィオちゃんの様子とか…」

 

『…あんまりショックは受けてなさそうだったけどね……でも、見せないようにしてるのかも…』

 

ギンガはなのは、フェイトと通信で話していた。話題は昨日のことだ。ヴィヴィオは落ち込んでいないか心配になったのだ。

 

「まぁ、気にしてないんだったらいいんじゃねぇか。きっと、アイツらも成長するさ」

 

その通信にアキラがアリスを抱きかかえながら現れる。アキラの言葉に、フェイトは眉を顰める。

 

『そうかな…』

 

「ああ。ガキってのは気づかねぇうちに強くなって、立派に成長してるもんさ」

 

 

 

-昼休み-

 

 

 

いつもはみんなで過ごす昼休み。でも今日、ヴィヴィオは一人で屋上にいた。クラスの中の委員の仕事があり、ついさっき終わったばかりでリオやコロナと一緒に過ごせなかった。

 

それも理由のひとつだが、一人になりたかったのも理由だ。

 

「…」

 

なのはが作ってくれたお弁当を開き、サンドイッチを口に運ぶ。それを租借しながら今朝の出来事を思い出していた。

 

教室に入ったとたん、クラス中から友人たちが駆け寄ってきた。DASSはTV中継されている。それを見られたことで一躍ヴィヴィオたちはクラスの人気者になった。

 

友人たちのまえでは明るく振る舞った。負けなんか気にしていない。そもそも優賞なんてできないのが当たり前だと。

 

だが、しかし。

 

「………っ…」

 

ヴィヴィオは食べる手を止め、俯いた。それと同時に、スカートに涙がこぼれ落ちた。

 

「うっ……ううっ!うっ…うぁぁぁ…」

 

なのはの前でも、フェイトの前でも、誰の前でも流さなかった涙は、溜まりに溜まって一人きりの今このときに溢れたのだ。

 

ここなら誰にも聞かれない。見られない。そう思っていた。

 

「うるせぇな…」

 

「!!」

 

どこからか声がした。ヴィヴィオが辺りを見ると、いつの間にか背後にノーリがたっている。

 

「ノーリさん…なんで……いつの間に…」

 

「んだよ。気づいてなかったのか?あそこで寝てたんだよ」

 

ノーリが指差したのはベンチだ。どうやら横になっていたノーリがベンチの背もたれの影に隠れてしまっていたらしい。

 

「……なに泣いてんだよ」

 

「………今朝…………起きてから学校に来るまでの時間が、いつも通りで…まるで昨日の負けが…夢みたいで……」

 

「…もっと勝ちたかったか?」

 

「…っ!」

 

その通りだった。ヴィヴィオはそのことを改めて言葉にされると涙がさらに零れ落ちた。

 

「……はい…っ!」

 

ノーリは小さくため息をついてヴィヴィオの頭を優しく掴み、自身の胸に着けた。

 

「ノーリさん…」

 

「泣きたきゃ泣け。一人でしょい込むのはつれぇだろ………まぁ、その、俺じゃ嫌だってんなら、別にいいが」

 

ノーリはそういうが、ヴィヴィオは胸を貸された瞬間、さっきまで、広出泣いていた時とは違う安心感に包まれた。

 

「いえ……ごめんなさい…少しだけ、胸を貸してください……」

 

「…気にすんな」

 

 

 

-帰り道-

 

 

 

ノーリは学校が終わり、ミカヤの道場でのトレーニングを終えた帰り道になんとなく海岸を歩いていた。海風が少し緊張している自身の心をほぐしてくれているような気がした。

 

次の次の試合相手は世界チャンピオン。ジークリンデ・エレミア。「裏」の覇王流を試せる相手であり、勝てるかわからない相手だ。正直チャンピオン以外の相手はほとんどノーリの視界に入ってなかった。

 

自身の拳を見つめそれを前に突き出す。

 

その時、その拳の先…浜辺の先に誰かいるのが見えた。見慣れたジャージ姿、短い黒髪。リオだった。もう彼女は敗北し、身体を休めろと言われていたのに浜辺を走って自主トレをしていた。

 

「…」

 

「あ、ノーリさん!」

 

しばらく眺めていると、リオの方もノーリに気づいた。そしていつも通り元気に駆け寄ってきた。

 

「何やってんだ?」

 

「あはは……なんかじっとしてられなくて…ノーヴェ師匠には身体を休めろって言われましたけど、ちょっと、自主トレを…」

 

「…」

 

ノーリはリオの足を見る。

 

「何時間やってたんだ?」

 

「え?えーっと……ほんの、1時間くらいですよ」

 

「アホ言うな。そんなことがわからねぇほど俺の眼は未熟じゃねえよ」

 

リオの靴と足はかなり砂で汚れていた。よく見るとかなり息が上がっているし、ジャージにまで汗が染みている。家に帰ってから今までかなり長いことトレーニングをしていたのだろう。

 

「…え、えへへ、ノーリさんにはお見通しですね……実はもうずっと前から…」

 

「俺じゃなくても見抜かれる…………悔しかったか」

 

さっきまで明るく振るまっていたがリオはとうとう素を見せ始めた。

 

「…はい」

 

「負けりゃ誰だって悔しいだろうさ。気を紛らわすためにトレーニングしていたって感じか」

 

「はい…その通りです」

 

ノーリは自身のバッグからまだ使ってないタオルを取り出してリオに投げた。タオルはリオの頭に乗る。

 

「え?」

 

「まだ使ってねぇタオルだから安心して使え」

 

「…いえ……大丈夫です」

 

リオはタオルを取ってノーリに差し出した。

 

「…」

 

ノーリはリオに投げたタオルを掴んでリオの顔の汗を拭い、頭の汗を拭き始めた。

 

「わわわ!」

 

「風邪ひくぞ」

 

「…はい」

 

ノーリがリオの頭を拭いてると、リオが口を開いた。

 

「今なら、誰も聞いてませんかね…」

 

「…」

 

ノーリは手を止めて、海の方を見る。

 

「今日は波が少し荒いな。波音が耳障りで、タオル越しのお前の声なんて聞こえねぇな」

 

「………わたし、悔しいんです…。コロナより、先に負けたのが…」

 

「…」

 

「わたし、チームナカジマの初等部の中で唯一格闘技を…春光拳をやっていて、一番自信があったのに、私の道場のためにも、ノーヴェ師匠のためにも、もっと、勝ちたくて………情けないですよね、恨みっこなしって、あたしが言ったのに…」

 

「運が悪かっただけ、っていうのは簡単だがな。実際、実力が足りなかった。仕方ないさ。誰も彼もが勝てるわけじゃない。勝者がいれば、敗者もいる。それが競技の世界だ」

 

「…」

 

「悔しいと思うのも当然だ。情けないことなんてあるかよ。お前らは充分頑張ったよ。つい二か月前までノービスがいいとこだったお前らがよ。都市本戦を目前にできたんだ。よくやったよ」

 

ノーリはリオにタオルを首からかけてやり、そのままその場を去っていった。

 

「…」

 

「風邪ひくなよ。もうお前はリングにゃ上がれないが、その元気さにみんな元気づけられてるんだからよ」

 

去り際、ノーリはそう言い残して去っていった。リオはかけられたタオルを握り、俯いていた頭を上にあげた。

 

 

 

-数日後-

 

 

 

ヴィヴィオやリオの試合が終わってから数日五、ノーリの第三戦があった。結果はノーリの完勝。1ラウンドKOだった。

 

「…」

 

試合に勝利したノーリは相変わらず何も言わず、リングを降りた。

 

「タオルはいらない?」

 

近くに来た保護者役兼コーチのウーノが訪ねる。ノーリは軽く頷いて控え室へ向かった。その様子を、チームナカジマは見ていた。

 

「やっぱり、変わったよね」

 

試合が終わってからリオが言った。

 

「え?」

 

「ノーリさん……なんか、変わったよ…………前とは違う気がする…」

 

その言葉にコロナが反応する

 

「私も、それ思ってた。なんかノーリさん、最近になって変わったよね……なんていうか、違和感がある…。なにがって言われると、具体的には説明できないけど…」

 

「…」

 

(生まれのこととか、その辺の重い話はヴィヴィオ達にはできないんだろう。だからと言って俺らにもなんとなく相談しづらいのかあんま話してくれねぇ。思春期ってやつかもな。あいつは高みを目指してる、いや、妙に力を得ることにこだわっている。それには理由がある気がする)

 

アインハルトは三人が話しているのを聞きながらアキラの言葉を思い出していた。なんだかノーリの戦い方が過去の自分に見えてしょうがなかったのだ。唯一の違いは、自分に比べ、ノーリは圧倒的に強いことだったが。

 

「ノーリさん…」

 

アインハルトは以前からノーリの言動に不安を覚えていた。そしてその不安さらに大きくなっていた。以前ははぐらかされてしまった感じなったが、今度こそ問いたださないといけない時が来ているのはではないかと思っていた。

 

周りが言うようにノーリは変わったことをアインハルトも感じている。いや、周りが感じている違和感をより具体的に理解していた。

 

 

 

-翌日 学校 昼休み-

 

 

 

試合が終わった翌日ではあるが、ノーリは学校に来ていた。その顔には疲れの表情はない。昨日の試合などノーリにとって大した障害ではなかったのだろう。

 

そして昼休みとなり、ノーリは食事の為に食堂へ向かおうとした。そのノーリの前にアインハルトが現れた。

 

「アインハルト?」

 

「あの、一緒にお昼食べませんか?私、お弁当作ってきたんです」

 

「あ?」

 

アインハルトの提案に若干戸惑いながらも断る理由もなく、ノーリはその誘いに乗った。二人は誰も来ないような屋上に向かい、お弁当を食べることにした。

 

「その…どうぞ……」

 

「…」

 

アインハルトが差し出してくれた弁当。中身はおにぎりと卵焼き、タコさんウィンナー、漬物、野菜の煮物と一般的なメニューだった。だが、一般的なお弁当とは大きく違う部分があった。

 

それは、形だ。漬物以外のメニューは形が何というか。ぐちゃっとしていた。卵焼きもやや焦げている。

 

「……あの、その、すいません!お料理なんてその…ほとんど初めてで……か、形は悪いですがその、味の方は…多分…大丈夫だと思われましてその…」

 

ノーリはお弁当の形と、アインハルトの指を見た。絆創膏がいくつかの指に貼ってある。おそらくアインハルトも結構苦労をしたのだろう。

 

「はぁ…」

 

ノーリはため息を出しながらもおにぎりを一つ掴み口に放り込んだ。

 

「あっ…」

 

ノーリはおにぎりをゆっくりと租借する。その様子をアインハルトは心配そうに眺めていた。味見は一応したが、正直そこまでおいしいといえるものではなかった。

 

「…………んごくっ。ふぅ。まぁ、うまい。塩が多い気はするが」

 

「そ、そうですか…それは良かったです」

 

アインハルトはほっと胸を撫で下ろした。ノーリは指に着いた米粒を舐めとり、アインハルトの方をみた。

 

「で?要件はなんだ?わざわざ弁当まで用意して」

 

「え?」

 

「話があるんだろ?なるべくちゃんと話せる状況で。だから弁当まで用意したんだろう?」

 

ノーリはアインハルトの考えを見通していた。アインハルトはさっきまで自身の作った弁当の出来に顔を赤くしていたが、少し唇を噛んでから真面目な表情を見せる。

 

「わかっているのであれば……率直に聞かせていただきます」

 

「…」

 

アインハルトはノーリと面と向かい合って目を合わせた。

 

「以前にも聞きましたが、ノーリさん。あなたは何がしたいのですか?」

 

 

 

続く



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第二十一話 激烈!ノーリVSジークリンデ・エレミア

お久しぶりです。いよいよノーリVSジークの試合です。またここから大きく話がうごきます。


「俺の、やりたいことか」

 

アインハルトのの質問をノーリが繰り返す。アインハルトは頷く。

 

「…はい」

 

「俺は、ベルカの天地に覇を成すこと……それが俺のやりたいことだ」

 

「!!」

 

同じだった。かつてのアインハルトの考えと。その答えによってアインハルトは確信した。今のノーリは自分が渡した記憶のせいでイングヴァルトの思想に染まってしまっていることを。

 

「ノーリさん…っ!」

 

「……アインハルト、これは俺の選んだ道だ」

 

アインハルトの話を遮ってノーリが話した。

 

「え…?」

 

「俺が選んで、俺が進む道なんだ。俺の、初めての決意なんだ。お前を覇王の呪縛から解いて、お前の成し遂げたかったことを俺が叶える………」

 

「…」

 

「数か月前の事件で俺は、恩人も大切な人も守れないどころか無闇にでしゃばって迷惑もかけた。だから俺はもっと力が欲しい。もっと!もうなにもなくさないために!いや!それだけじゃない…俺は……2年前…」

 

ノーリの瞳はいつの間にか、またオッドアイに変わっていた。

 

「2年前…?」

 

「いや、なんでもないさ………アインハルト、以前お前は自分の求める強さは表舞台にはないって言ってたらしいな。だがそれはお前の中の覇王の記憶に取ってってだけでお前自身は違う。そうだろう?」

 

「…」

 

「俺は、ヴィヴィオたちと一緒にいるから今はここにいる。だが最終的にはこの力でみんなを守りたい。そこが俺の終着駅。俺はそこに行きたいんだ」

 

「ですが…」

 

「…話は終わりだ。弁当、ごっそさん」

 

ノーリは念のため弁当の礼を言い、その場を立って屋上を出ていこうとした。少なくともイングヴァルトの思想に支配はされていなくとも、ノーリは普通ではないと感じアインハルトはノーリを引き留めようとした。

 

「待ってください!!まだ…」

 

アインハルトはノーリを追いかけようとする。しかし、その瞬間に世界中の時間が止まる。アインハルト以外の。

 

「………え?」

 

世界の時が止まり、アインハルトはその異変にすぐ気づいた。目の前のノーリが止まり、そして屋上の貯水槽の上に一人の男が立っていたからだ。

 

白い髪に白いローブを靡かせる男。リュウセイだ。

 

「…そう焦るな………」

 

「だ、誰ですか!」

 

アインハルトは突如として現れた男を警戒して構えを取る。しかし、リュウセイは一瞬でアインハルトの前から消え、背後に出現した。

 

「!」

 

「俺の名前はリュウセイ。この世界の管理人だ」

 

アインハルトがとっさに放った後ろ回し蹴り。それは空を切り、背後にいたはずのリュウセイはアインハルトの真横にいた。

 

「まぁ落ち着けよ」

 

「…」

 

アインハルトは攻撃の意思を見せるのをやめた。本能的に、勝てる気がしなかったのだ。その辺は実力者であるアインハルトだからこそ察したとでもいうべきか。

 

「………世界の管理人であるあなたが一体…なんの、様ですか?」

 

臨戦態勢は解除したが警戒は未だにしている。リュウセイは少しため息をつき、時間停止で止まっているノーリを見る。

 

「俺は、正直お前らはどうでもいいと思っている。俺が求めるのは、ギンガが良い未来をたどることだ」

 

「ギンガさん…?」

 

なぜ、こんな人物が一管理局員、なんなら特別な力を持たない一般人を気にするのかアインハルトは理解できなかった。それとも、ギンガ・ナカジマには何かあるのか?と、様々な考えが脳に浮かぶ。

 

「いや、そんなことは話すべきじゃなかったな。忘れろ。ともかくアイツには、ノーリには今は迷ってほしくない。あいつの信念を貫いてほしんだ」

 

「どうしてですか?」

 

「あいつは救いたい人間がいるんだ。そのためには今は強さを求めるしかない」

 

「救いたい…人?」

 

今のノーリに救いたいと思うくらいの人物がいるということに驚いた。いや、驚き以上に、なにか、ショックのようなもやもやした気持ちがアインハルトの中に生まれる。

 

「詳しくはアキラにでも聞け。ノーリに聞いても話しちゃくれねぇよ」

 

「でも、私はノーリさんを救いたいと…」

 

いつも間にかアインハルトの前には誰もいなくなっていた。時間も動き出し、ノーリは歩いて屋上から出て言っていた。

 

屋上に吹く風の音に交じってリュウセイの声が聞こえてきた。

 

「今はまだ、その時じゃない………」

 

「…」

 

(ノーリさんは、以前と比べて大きく変わった…それは……)

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

-数日後 第一会場-

 

『4回戦のスタートとなります予選2組の試合!地区予選最大の注目試合は特別日程のプライムマッチで開催されております!』

 

会場内にはいつもに増して熱気が漂っていた。全試合一発KOで終わらせているスーパールーキーと無敗のチャンピオンとのプライムマッチ。盛り上がらないわけがない。

 

「なんや、注目されて恥ずかしいなぁ…」

 

控室でチャンピオンであるジークはもじもじとしていた。

 

「仕方ないでしょ。チャンピオンの試合なうえに相手はスーパールーキー。…あなたが負けるとは思ってないけど油断しないでね」

 

ジークの知り合いであるヴィクターが釘を刺した。

 

「うん…全試合秒殺なせいでほとんどデータがないけど、あれは間違いなく古流武術。この間負けちゃったアインハルトちゃんとおんなじやね。判断力、観察力、パワー、スピード、テクニック。どれをとってもずば抜けてる勝っても…笑わへん理由は何なんやろか」

 

「…あまり、相手に入れ込みすぎなようにね」

 

ヴィクターがジークの性格を考えて忠告する。

 

「うん大丈夫…。あ、もうこんな時間か…ありがとな、ヴィクター。行ってきます」

 

ジークはいつも通りに会場に向かっていった。そんな姿を見てヴィクターは仕方ないか、という表情を浮かべる。

 

 

-試合会場-

 

 

 

『予選2組4回戦プライムマッチ!ブルーコーナーからは4戦4勝!全試合が秒殺!正しくスピードスター!期待のスーパールーキー!!「覇王流」ノーリ・ナカジマ!!!」

 

「レッドコーナーからは前々回大会の覇者!未だ無敗の総合魔法戦技チャンピオン!!ジークリンデ・エレミアァァァァァァ!!!!」

 

「「「「「「ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」」」」」」

 

会場が揺れ動くほどの歓声が響き渡った。

 

「凄いわね…」

 

まさかこれほどとは、という表情でウーノが驚く。

 

「飲まれるなよ。ノーリ!」

 

「問題ない。相手が誰だろうと叩き潰すだけだ」

 

いつも通り冷静に対応し、リングに上がろうとしたとき、背後から大きな、元気な叫び声が聞こえた。

 

「「「「「ノーリさん!ファイトーーーーー!!!!」」」」」

 

アインハルト、ヴィヴィオ、リオ、コロナ、そしてミウラからの声援だった。ノーリは振り向かずに拳を上げて反応した。

 

『おおっと小さなチームメイトたちからの熱い声援!ノーリ選手の応援メンバーも豪華な顔ぶれ!ノーリ選手これは心強いでしょう』

 

その姿を見ながら二人はリングインをした。ジークのセコンドとなったエルスが今回の試合について相談した。

 

「さてチャンピオン、今回の試合はどういった組み立てで?」

 

「いつもと同じや。エレミアの技で楽しませてもらうよ。見てくれるみんなのことも」

 

ジークは向かいに立っているノーリのことを見た。

 

「あの子のことも!」

 

二人はリングの中央に向かい、試合開始の準備を進める。

 

『予選2組プライムマッチ!試合開始です!!』

 

試合開始の合図が鳴り響き、二人のライフが表示された。

 

ノーリ・ナカジマ LIFE 20000

 

ジークリンデ・エレミア LIFE 20000

 

「…」

 

ノーリとジークが構える。ノーリにとっては緊張の一瞬のはずだ。しかし今の彼にはそんなことは関係ない。ただひたすらに目の前の相手を叩き潰し、勝利を奪い取る。ノーリの心にあるのはその一点だけだった。

 

ノーリは先制を取り、ジークに突撃した。

 

(速い!)

 

「はぁぁぁぁ!!!」

 

ノーリはいつも通り一撃にて終わらせるべく、ジークの鳩尾を狙って覇王断空拳を放つ。

 

「覇王!断空拳!!!」

 

本気で、一撃で終わらせるために狙って放った断空拳はジークにガードされた。ガードされたどころかダメージすら入らなかった。

 

「…っ!」

 

ジークはノーリの腕を弾き、魔力弾を精製してノーリに打ち込んだ。ノーリはその攻撃を紙一重で躱し、反撃に出る。

 

その反撃を、ジークは受け止め次の技につなごうとした。ノーリはそれを瞬時に警戒し、掴まれた腕とは逆の腕でジークの顔を掴んだ。それにより、ジークは一瞬視界を塞がれる。その一瞬でノーリはジークの顎に膝蹴りを当てて脱出した。かと思われたがノーリが離れた瞬間に魔力弾をノーリに撃った。ノーリは脱出することに手いっぱいでそれは避けることも防ぐこともできなかった。

 

「…」

 

ノーリLIFE20000→19820

 

「…」

 

ジークLIFE20000→19820

 

ノーリは腕の魔力弾が命中し、焦げ付いた場所を払いながら思った。

 

(さすがに一撃では終わらなかったか…さすがはチャンピオンか……ジークリンデ・エレミア…)

 

『いきなり瞬きすら許されな接戦!ノーリ選手のこれまでの秒殺記録に泥を付けたのはチャンピオン!さすがチャンピオンです!』

 

「今の一瞬、判断できたのはさすがやな」

 

「…」

 

ジークはノーリに笑いかけた。しかしノーリは反応しない。

 

「君の試合を見たときから、君のこと気になっとったんよ。きっとウチ等は似てるって」

 

「黙れ」

 

ノーリは構え直してジークに告げた。

 

「お前は俺になんか似てない。いや、似ることなんて……できるものかっ!」

 

その言葉に、ジークは少し苦い表情をしたがいつもの笑顔に戻った。

 

「………まぁ、今は試合中やお話はあとでにしよか」

 

そう言ってジークは魔力弾を複数出現させた。

 

「エレミアの技、受けてもらおうかー」

 

「エレミア…」

 

その魔力弾は通常の魔力弾ではない。その密度は見ただけでもわかるほどの高密度。いうなれば紙のボールと鉄球くらいの違いだ。

 

「あれ、受ければ最悪ダウンしますよ」

 

ウーノが冷静に判断する。大丈夫なのかどうかを確認するようにノーヴェに言うが、ノーヴェは別に心配していない。それは会場で見ているヴィヴィオ達も一緒だ。

 

「ノーリさんにはあれがある!」

 

「…」

 

「ゲヴェイア・クーゲル………ファイアっ!」

 

複数の魔力弾がノーリのいた位置に撃ち込まれ、爆煙が舞う。そして、ジークは最後の一発を構える。

 

「カノーネ!」

 

トドメを刺そうとしたとき、爆炎の中から魔力弾が飛び出してきた。

 

「!!」

 

突然のことにジークはとっさにそれを弾く。

 

(返してきた…っ!?でも…)

 

爆炎が晴れたがそこにノーリはいない。

 

「!」

 

「おぉぉぉぉ!!!」

 

ノーリはジークの背後から襲撃した。ノーリはがら空きのジークのうなじに蹴りを放った。だがノーリの攻撃をジークはぎりぎりで防ぐ。

 

「くっ!!」

 

「……すげぇな。あのノーリとかいうの」

 

「そうね…」

 

観客席のハリーとヴィクターが二人の試合を見ながら話していた。

 

「攻撃の瞬間、ジークのあの高密度の魔力弾を投げ返し、爆煙に紛れて背後に回る…技術もさながら、スピードもまさかここまでだなんて……まぁ、ジークも十分に反応しているけれど…」

 

リング上のジークは、今度は逃れられないようにしっかりと受け止めた足を掴み、離さずに抱え込む。

 

「せぇーの!!」

 

ノーリは投げ技を食らい、倒された。

 

『投げぇーーー!!そしてそこから、関節技!!!』

 

さらに関節技を行われ、ダメージが上乗せされる。

 

ノーリLIFE19820→16110

 

「…っ!!」

 

ノーリは関節技を受けながらも拳に力を溜め、関節技の形の関係上目の前にあるジークの足の脛に向かって全力の一撃を加えた。

 

(突衝牙!)

 

「!!」

 

ジークLIFE19820→18750

 

ダメージ自体は大したことはなかったがジークが痛みで関節技を緩めるほどのダメージだった。その隙にノーリは逃げ出し、構えなおす。

 

だがジークも逃がさない瞬時の立ち上がりと同時にノーリに再度投げ技を食らわすために飛びつきに行く。しかし、ノーリはそのジークが身体に触れようとしたときにそれより早くジークの懐に入り込む。

 

「っ!」

 

「はぁ!」

 

鳩尾に一撃。ジークが反応する前に撃ち込んだ。そのダメージは中半端ながらも確実にジークの体内に響いた。

 

ジークLIFE18750→16110

 

「けほっ…あはは、やるなぁ…。中々目がいいやんね」

 

ジークは撃たれた鳩尾を押さえながら笑った。

 

「その笑みは強者故の余裕か」

 

その笑顔を見て、ノーリはほとんどダメージも入ってないことと、笑顔はごまかしでも何でもなく、本当に笑ってるだけだと感じた

 

「あ…ごめん失礼やったかな?ウチ、強い子との試合は楽しいし、君にも楽しんでほしいかなーって」

 

「楽しむ…?だったら今度はその薄ら笑いもできないように潰してやる」

 

「おー怖いなぁ…。ていうか逆に聞いていいかな?」

 

「…」

 

「なんで君は笑わへんの?」

 

 

続く




次回!(もしくは次々回)現在更新がなくなってはいますが連載中の「とあるギンガのPartiality」で大暴れしたあの人物が再登場!お楽しみに!


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第二十二話 暴走!新たなる影

筆が乗ったので高速投降!ここから少々本編にない事件が始まりますがそこまで長くやりません。ご安心を。すぐにVivid本編に戻ります。


第四回戦が開始され3分も経っていないのにノーリとジークは大接戦を繰り広げていた。そしてノーリは試合中にジークになぜ笑わないかを聞かれた。

 

「…俺が?」

 

「君の試合、見せてもらったけど、勝っても、仲間の声援を受けても、君は絶対笑わない…それは、どうして?」

 

ジークに聞かれ、ようやくノーリは自身の身体に起きている異変に気付く。自身が笑ってない。記憶を辿ってこれまでの自分を思いだす。

 

いつから?

 

なぜ?

 

「…笑って……ない?」

 

ノーリは動揺を始めた。その動揺に気づきジークは深入りするべきではないと感じた。

 

「…試合中に話すことやなかったね。じゃあ、こうしよっか、ウチが勝ったら君の話を聞かせて?」

 

ノーリは深呼吸をしてからさっきまでのことを割り切り、構えた。

 

「勝手にしろ。勝つのは俺だ」

 

さっきまでの調子に戻ったようでジークは安心した。そしてぐりんと腕を回す。

 

「ほんならスパーンと殴り合おか!実はヴィクターともハリーとも、これで仲良くなったんや。さーいくよ?」

 

「…」

 

「鉄腕、解放」

 

ジークが自身の拳に口づけをすると、魔力があふれ出して拳からひじ上までを包む鎧が展開された。その魔力に当てられ、そして「鉄腕」を解放して構えたジークの姿を見て、ノーリの記憶が蘇る。

 

ノーリは胸を押さえてその場でぐらつく。

 

「うっ!ぐっ………あぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「!?」

 

ノーリが叫ぶと足元に魔法陣が展開され、身体から虹色の魔力があふれ出した。

 

『おおっとぉ!ジーク選手の鉄腕開放とともにノーリ選手も魔力を放出!なにか奥の手があるのでしょうか!?』

 

「ぐ…うう…」

 

ノーリの眼は紫と赤のオッドアイになり、全身に虹色の魔力を纏う。

 

「ちょ…大丈夫?」

 

「君、大丈夫かい?」

 

ノーリは胸を押さえながら冷や汗を流している。ただならぬ状態に、レフェリーは当然ながら、対戦相手のジークも心配する。

 

「はぁっ……はぁっ…はぁっ………問題…ねぇよ…」

 

ノーリはレフェリーの腕を振り払い、ジークの前に立つ。

 

「調子が悪いなら、棄権した方がええと思うよ?ウチも、コレ出したからには加減が難しなるからな」

 

ジークがノーリのことを思って警告する。だが、ノーリは聞く気がないのか再び構えて動かない。

 

「……わかった。ならいくよ」

 

ノーリの意思を読み取ったジークは動いた。すべてを破壊するその拳を以て。

 

『チャンピオン動きました!そしてノーリ選手にラッシュラッシュ!』

 

ノーリはジークの攻撃をまずは腕のガードで受けた。しかし、鉄腕での攻撃はただのパンチすら破壊力は何倍にも膨れ上がらせていた。

 

「っ!」

 

ノーリLIFE16110→15130

CE 右腕中度打撲

 

「ふっ!」

 

「ぐぅ!」

 

ノーリLIFE15130→14020

 

ダメージでガードが甘くなったその一瞬を狙い、ジークはノーリの腹部に強めの一発を入れる。

 

「!!」

 

「シュペーア・ファウスト」

 

ノーリはその一撃で吹っ飛ばされ、リング外の壁に激突した。

 

『決まったー!ノーリ選手、動く暇すら与えられずにリングアウト!』

 

「…」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

一目惚れって訳じゃない。

 

そもそも、本当に好きなのかもよくわからない。

 

だが少なくとも、俺はアインハルト・ストラトスという少女を助けたいと思った。

 

彼女から記憶を受け取って、日々の中で見る夢はいつもイングヴァルトの記憶。彼と、彼が好意を寄せ、そして友として、戦友として関わり深かった聖王オリヴィエとの記憶。

 

彼女は生まれたときから腕がなかった。それでも一国の王として武術を身に付け、如何なる時も強くあった。最終的に、イングヴァルトすら敵わない程に。

 

だから、彼女は、オリヴィエは、ゆりかごの王となった。

 

だが、ひとつだけオリヴィエを王にしない方法があったかもしれない。

 

ある出会いさえなければ。

 

彼女は腕がない。だから当然義手をしていた。しかしそれは技術の未発達故に粗悪品と呼べるものだった。

 

そんな中、ある友が渡してくれた義手はとても良いもので、彼女はより強くなった。

 

それさえなければ、彼女はゆりかごの王にならなかったかもしれない。

 

それさえなければ、彼女は守られる存在として強さを得なかったかもしれない。

 

それさえなければ、何百年と後悔することもなかったかもしれない。

 

それさえなければ、ヴィヴィオが生まれ、ヴィヴィオ含め多くの人間が悲しんだJS事件も起きなかったかもしれない。

 

それさえなければ、もっと良い過去があった。

 

それさえなければ、よかった。

 

 

 

       そいつさえいなければ

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「…」

 

ノーリは立ち上がり、リングに向かって歩く。

 

ノーリLIFE10490

CE 腹部強度打撲

 

「君、大丈夫かい!?」

 

「ノーリ!おいノーリ!」

 

心配して駆け寄ってきたレフェリーとノーヴェ達を無視してリングに上がる。

 

「ノーリ!」

 

「…」

 

ジークも黙ってノーリを見つめる。一応試合続行の意思はあると見て試合は再開された。

 

「エレミアの末裔」

 

「!?」

 

ノーリがようやく口を開いた。その言葉に魔力派がのせられているのではないかと言うくらいノーリには魔力が満ち溢れていた。

 

「これより、貴様を倒す。全力にて来るがいい。全力の貴様を倒した上で、その忌々しい腕の鎧を砕き、四肢を潰し、我が前に平伏させる。喜べ、絶滅タイムだ」

 

その言葉を口にしたのを皮切りに、ノーリの瞳は両方とも赤に変わり、全身を覆う魔力は色が虹色から黒へと変わった。

 

「……なるほど、ウチのご先祖様関係みたいやね…でも、全力のエレミアを相手にして五体満足で帰れると思ってもらったら困るよ」

 

刹那、ノーリの視界からジークが消えた。瞬時に移動し、ノーリ死角から攻撃を仕掛けた。

 

しかし、その攻撃をノーリは避ける。

 

「!」

 

「図に乗るなよ。塵芥」

 

完全なる奇襲を避けたことに全員が驚く。ノーリはジークが次の手を出す前に反撃した。

 

左のパンチ。ジークはそれを避けようとした。だがノーリはその拳を寸止めし、蹴りでジークを吹っ飛ばす。

 

「…っ!」

 

ジークLIFE16110→12630

 

「…はぁ!」

 

「…」

 

ジークの反撃。ノーリは再びそれを避け、カウンターを決めた。さらにほぼ同時にももに一撃入れ、バランスを崩した瞬間に膝蹴りをジークの顎に叩き込んで上にあげた。

 

「速い………筋肉の動きを最低限に、尚且つ最高の力で打撃を打ってる」

 

観客席のミカヤがノーリの動きを解析する。

 

「でもなんだか…」

 

「うん…」

 

「怖い…」

 

上空に飛んだジークが動く前にノーリは上空へ飛び、彼女をリングへ蹴り落とした。

 

『ダ、ダウーン!!なんということでしょう!今回初参加の新人がチャンピオンをリングに寝かしました!誰がこのような事態を想定できたでしょうか!』

 

ジークはダウン判定を取られ、カウントが数えられ始める。

 

「…まずいわね」

 

「え?」

 

「ああ、まずいな」

 

観客席にいたジークと関わりのある全員が眉を寄せた。

 

「今の一撃で、多分ジークが切り替わる。みんな、よく見ておくんだ。今からエレミアの神髄が見れるからね」

 

ミカヤがヴィヴィオ達に伝えた。

 

ダウンしたジークがゆらりと立ち上がる。その表情にはさっきのような気さくな笑顔はない。冷徹な瞳だけだった。

 

「ノーリ!ガードも反撃もなしだ!何が何でも避けろ!!」

 

セコンドのノーヴェが叫んだ。しかしノーリは返事も何もない。

 

「ノーリ!!!」

 

「ガイスト・クヴァール」

 

ノーリの前からジークが消えた。そして魔力を纏った鉄腕ですべてを破壊するべくノーリの背後に現れた。

 

「ノーリ!!!!」

 

「ノーリさん!!!」

 

「避けろ!!!!」

 

ジークを知る誰もが避けようともしないノーリを見て「終わった」と悟る。

 

 

だが結果は違った。

 

 

ノーリはジークの一撃を受け止めていた。片手で。全力で受け止めたわけでも、捨て身で食らったわけでもない。その証拠にダメージ判定が一切出ていない。

 

「…なるほど、イレイザーの魔法か。正しく破壊者にふさわしい魔法だ」

 

ジークはすぐにノーリから離れた。

 

「だが、まるでこの我を倒すには程遠い」

 

ノーリは一瞬でジークの目の前にまで飛び、腕を振り下ろした。ジークはガードではなく反撃で対応するが、弾かれたのはジークだった。

 

「!」

 

「終わりだ」

 

ジークがもう片方の腕でノーリに攻撃を仕掛けるが、それは目にもとまらぬ速さで放たれた裏拳で無力化された。しかも左腕が無力化されたことを悟り、飛んで逃げようとしたが同じ要領でジークは右足も潰される

 

ジークLIFE12630→11420

CE 左腕右足感覚麻痺

 

「極星撃」

 

そして動けなくなったジークに今まで見せたこともない技を放った。ジークはまだ動く右腕でガードを図ったがそのガードも虚しく、ジークはリング外の壁に叩きつけられた。

 

ジークLIFE11420→3210

CE 右拳粉砕骨折

 

『チャンピオン!リングアウトーー!!!!!ですが、ここで1ラウンドが終了!!勝負は次ラウンドに持ち越されます!』

 

「…まさかジークが………」

 

「んな…なんなんだよあいつ…」

 

観客席のハリー達がノーリを恐れを持った目で見た。ラウンドが終了し、壁まで吹っ飛ばされたジークにセコンドたちが駆け寄る。

 

ノーヴェは未だにリング状に立っているノーリの方を見た。しかし、ノーリは頭を押さえて俯いている。

 

「ノーリ…?」

 

「うぅぅ……ぐぁぁぁ………あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

ノーリは上を向いて、吠えた。足元に魔法陣が展開され、大量の黒い魔力が上に向かって放出された。その魔力派は会場全体に影響を与えるほどだった。

 

「!?」

 

「なんだこれ!?」

 

「…ノーリっ!」

 

「…………これ…なん?」

 

ジークが自身の腕を見て驚く。自身の腕から魔力が流れ出し、それがノーリも元へ吸収されていた。

 

会場内を見渡すと同じような現象が起きているのはジークだけでなかった。ヴィヴィオ、ヴィクター、アインハルト、そしてアキラ。見知らぬ一般人数名が同じ状態だった。

 

「アキラ君…大丈夫?」

 

ギンガがアキラに訪ねる。

 

「………ギンガ、「黒星」出してくれ。さすがに止めたほうが良さそうだ」

 

「…うんっ」

 

ギンガはブリッツギャリバーから黒星を出現させた。これはギンガがカルナージでの模擬戦で使用した刀だ。この刀の本来の持ち主はギンガではなくアキラだったのだ。

 

「さてと…」

 

アキラはギンガから黒星を受け取ると、懐から拳銃を取り出し会場を撮影しているカメラを全て狙い撃つ。

 

一方リング上ではノーリがいまだに魔力放出とを続けていた。

 

「感じる…感じるぞ……この場に古代ベルカの血を、魔力を、記憶を引き継ぐものは大勢いるな…っ!」

 

ノーリは一通り会場内を見回した後、ジークを見た。

 

「だが、まずは貴様の息の根を止めなければな…」

 

「ノーリ!?」

 

ノーヴェが慌てて止めに入ろうとしたが、ジークに近付くノーリの背後に、黒い刃が煌めいた。

 

「アクセルスラッシュ」

 

ノーリはその気配にギリギリ気づき、回避した。攻撃してきたのはアキラだ。アキラの攻撃でノーリな魔力放出と吸収は止まる。

 

「何やってんだオメェ」

 

「…貴様……図が高い。平伏せ」

 

ノーリは腕を振り上げ、イレイサーの魔力砲を放った。イレイサーが放たれた瞬間、アキラはノーリの背後を取っていた。

 

「お前ノーリじゃねぇな。誰だ?」

 

背後から喉元に刀の刃を当ててアキラが尋ねた。

 

「はて……我は誰だ?」

 

「なに?」

 

その時、アキラに向けて魔力弾が飛んできた。アキラはすぐさまそれを避けた。すると、アキラとノーリの間に一人の男が上空から降ってきた。

 

「!?」

 

「…?」

 

「我が王。少々お眠りを」

 

男がノーリの方を向いて笑う。その瞬間ノーリの首に麻酔弾が撃ち込まれ、数秒後に意識を失って倒れかけるが、男が支えた。

 

「てめぇ!!」

 

アキラは黒星で男に切りかかったが男は瞬間移動で消えた。

 

「…どこに………」

 

「ここだよ。アキラ・ナカジマ」

 

男はノーリを抱えながら会場に設置されている大画面の上にいた。男だけでなく数人の同じ様な格好の仲間と思われる人間も数人いる。

 

「我々の名はアーク!クラウド・F・オーガスに支援をしていた組織である!結局管理局を潰せなかった彼女に代わって、今度は我々が宣戦布告しよう!」

 

二ヶ月前このミッドチルダで起こった黙示録事件。その首謀者であるクラウド・F・オーガス名前を出した。どうやら新たな犯罪者達のようだった。

 

「はっ!くだらねぇ!ノーリは返してもらうぞ!!」

 

アキラは刀を構え、翼を出した。そして大画面の上まで一気に飛んだ。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「遅いよ」

 

男たちは次元転移魔法で消えた。ギリギリで間に合わずアキラの刀は空を切った。

 

「…くそっ!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

数分後、会場には管理局員が集まっていた。前代未聞の事件であるDASS試合中の誘拐事件。大きなニュースになるだろう。

 

「にしても、あんたらほんと色々事件に巻き込まれるわねぇ」

 

事件担当捜査官としてギンガの同僚であるメグが来ていた。

 

「ほっとけ」

 

「アキラ、ギンガ。どーせあんたらは止めても、特にアキラは勝手に捜査するだろうって。これ渡せって上の人間に言われたわ」

 

呆れ顔でメグは二人に捜査許可証を渡した。

 

「…ああ。ありがとな」

 

「ありがとう…」

 

「それ持ったらさっさとあんたらは行きなさい。此処は私らで捜査するから」

 

「ん?どこに?」

 

「…………この事件を最も知ってるであろう人間のところよ。関わり深いあんたらの方が話を聞けるだろうって。許可証渡した最大の理由がそれよ」

 

 

 

-海上隔離施設-

 

 

 

アキラたちは久しぶりに海上隔離施設に来ていた。海上隔離施設のある部屋に来るのは、ナンバーズの更生授業を行っていた以来だろうか。

 

「…」

 

アキラとギンガは扉を開け中に入る。

 

「………待っていたぞ。久しぶりだな」

 

部屋の中で二人を待っていたのは、黙示録事件の首謀者、クラウドだった。




はい!前回言っていたのはクラウドのことでした!!無印(前作:とあるギンガのPartiality)を読んでない人向けに説明を作っておくかもしれません。次回もお楽しみに


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第二十三話 邂逅!ノーリへの手掛かり

次回は無限書庫探索編です!


感想、評価、投票随時募集中です!!


「捜査協力って聞いたが?倒した連中が雁首揃えて何の用だ」

 

「口のきき方は変わらねぇが、前よか可愛げのある姿になったじゃねぇか」

 

アキラはクラウドの姿を見て言う。事件当時は身体に一切気を遣わなかったので髪はぼさぼさで目の下にはクマがあったが、隔離施設に入ってからは健康的な生活とケアもされているので表所は明るく見え、髪はさらさらだった。

 

「放っておけ」

 

「あ、ギンガ…」

 

後ろから声がした。

 

「あら、あなたたち…」

 

牢屋から連れてこられた、黙示録事件でクラウドの下に付いていた「ゼロ・ナンバーズ」と呼ばれた戦闘機人たちがやってきた。

 

ゼロナンバーズは3~9番までがおり、事件中に6番、9番が戦死した。生き残ったのは3番「サード」、4番「フォース」、5番「フィフス」、7番「セヴン」、8番「エイトス(偽名フランシス)」の5人だった。

 

「二人が来たのって事件協力の話だっけ」

 

フィフスがクラウドに聞いた。

 

「ああ。別に協力しない理由もないだろう。お前らも知っていることがあれば話してやれ」

 

「んー」

 

5人はクラウドの周りに座った。

 

「で、何の話だ?」

 

「お前らに支援していたと言ってる「アーク」という組織についてだ」

 

「はぁ?」

 

クラウドはその名前を聞いた瞬間、呆れ顔になった。

 

「ほっておけあいつらなんぞ。威勢がいいだけの能無し宗教団体だ。奴らが動いたからってなにもできん」

 

「だが、現に奴らは動いた。何者なんだあいつらは」

 

「フランシス。お前データ管理していただろう?教えてやれ」

 

クラウドは自身で説明するのが面倒だったのか、データ管理役であったフランシスに任せた。

 

「はい……「アーク」は私たちに兵器等の支援をしていただいた…ジェイルスカリエッテイから始まった私たちの事件の末端組織みたいなものです。古代ベルカ以前に存在していたとある神…のようなものを信仰している組織です」

 

「神の様なもの?」

 

神と言い切らないところにアキラは疑問を感じた。

 

「はい。古代ベルカ以前から古代ベルカ中期まで生きたと言われている人物、「ダズマ」。一部地方及び次元では神と崇められています。彼らの目的は現世にダズマを甦らせ、その力を以てこの世界を統べる…だそうです」

 

そこまで言ったところでクラウドが呆れ顔で続ける。

 

「しかもやつら、大層なことを言ってる割にはこれといって計画を確実にする当てもないらしい。なにやら実験もやっていたようだが、成功はしていた様子はなかったな」

 

「そうか…だが…」

 

アキラはさっきのノーリの姿を思い出していた。黒い魔力、赤い目。それはもしやダズマの意識なのではと考えた。クラウドは放っておいても良いと言っているが実際のノーリが誘拐されているわけだし、念のためノーリのことをクラウドに伝えた。

 

「……なるほど、少なくともノーリの中にはもう一つの人格を生み出されていると見ていいだろうな。暴走の原因等はわからないが、とりあえずやつらのアジトの場所ならわかる。それを教えておこう」

 

「助かる」

 

「だがあまり期待はするな。私が捕まったことで、奴らもアジトを変えたかもしれんしな」

 

クラウドは手を差し伸べる。アキラが端末を渡し、そこにアジトの場所を記録し始めた。

 

「それから、ダズマについて先に調べておけ。知っておけばアジトへのヒント、そしてもしダズマと戦うことになったなら対策を練れるだろう」

 

「それはいいが…どうやって?」

 

「エレミアを当たれ」

 

「なに?エレミア?」

 

エレミア、つい最近聞いた名だ。ノーリが対戦したあの黒髪の少女。彼女の名前もエレミアだった。

 

「ちょっと聞いた話でな。あの宗教団体が出来たきっかけはエレミアが残した情報が始まりだと聞いている。そこに何かしらのヒントがあるだろう」

 

 

 

-とあるホテル-

 

 

 

アキラは己の伝手を使って今回の事件に巻き込まれた人物や関係者たちを集めた。

 

「こんなところで油売っててええん?」

 

そう訪ねてきたのは八神はやてだ。彼女も現場で魔力を吸われた一人であり、そして、古代ベルカの継承者でもある。今回は彼女の協力も必要だった。

 

「とりあえずクラウドからもらった情報はメグに渡しておいた。突入はやつらに任せるさ。俺は、親として、あいつの保護者としての役目も果たさにゃならねぇし今は情報がほしい」

 

「そう…」

 

「うおぉぉぉぉぉ!なんじゃここはぁぁぁ!」

 

用意した部屋の入り口から下品な叫び声が聞こえた。

 

「来たか」

 

集まったのはDSAA競技選手のハリーとその仲間達、ミカヤ、エルス、ジーク、ヴィクトーリア、ミウラ、チームナカジマの面々、そしてアインハルトだった。

 

「皆さん、来てくれてありがとうございます。簡単なものですが、食事も用意したのでどうぞ」

 

ギンガが集まった面子に言った。すると、チームナカジマの面々を覗いた全員が一瞬静かになった。

 

「…?」

 

そして複数人であつまってヒソヒソと話始めた。

 

「なぁ、あれってノーリのお父さんとお母さんか!?」

 

「そのようですけれど…」

 

「いや、それにしたって…」

 

(((若い…っ!)))

 

ギンガとアキラを知っている人間以外ほぼ全員思ったことだ。当然だ。ノーリは義理の子でアキラのクローンなのでノーリと二人の年齢の差は少ない。

 

それを知らない面子は自分等とほぼ年が変わらないように見える若さに驚いていた。

 

「あの………なにかへんなところあったかしら…」

 

「どうかしたか」

 

「あ、いえ…」

 

「なんでもありません。お気遣い感謝です!」

 

みんなで食事を始めた。みんな豪華な食事を前にはしゃいでいるが、やはりどこか心から楽しめていない様だった。当然だ。試合中に選手が一人誘拐されたのだから。

 

「…みんな、食いながらでいい。話を聞いてくれ。俺はアキラ・ナカジマ……そんな有名じゃねぇが一応管理局の陸尉だ」

 

「はい!私知ってます」

 

そういって元気に手を挙げたのはエルスだった。

 

「かつて、そしてつい先日ミッドチルダを救った大英雄の方ですよね!!」

 

「そんな大層なもんじゃないさ。成り行きで気に入らない連中をぶっ飛ばしただけだ」

 

「おお!ノーリの父ちゃんはそんな強いのか!」

 

「ちょっと、無礼かつ失礼ですわよ」

 

「それはいい。知っての通りノーリは俺らの家族だ。俺も全力であいつを助け出す。だがその前に、今回あいつと関わった君たちに頼みがある」

 

管理局の方から頼み事とは。予想外の言葉に全員顔を見合わせる。アキラの横にギンガも立って共に頭を下げた。

 

「今回あいつが暴走して試合を滅茶苦茶にしたのはあいつが望んでそうしたわけじゃない。そのことを分かってほしい。あいつのことをどうか、選手として見捨てないでやってほしい!」

 

「お願いします!」

 

「…」

 

はやて含め全員がその姿を見て呆気にとられた。そしてそれと同時に、二人は戦士でもあるがやはり一人の親なのだと思った。

 

「そんな…私たちは…」

 

「別に…なぁ」

 

全員別にそんなことはしないというような空気だった。それを感じてアキラは頭を上げ、ジークに歩み寄った。

 

「ちょっといいか」

 

「は、はい」

 

アキラがジークの手首を力強く握る。

 

「っ!」

 

ジークは表情を歪め、握っていたフォークを落とした。

 

「…え?」

 

「ジーク…あなた…っ!」

 

ヴィクターが駆け寄り、ジークのジャージの袖を捲る。ジークは手首の辺りが腫れ、赤紫色になっていた。

 

「これ……まさか…試合の時に…」

 

「ち、違うんよ!これはその…さっきちょっとぶつけて」

 

「試合の時、ノーリにやられたんだろう。最後に放ったあいつの技……俺もノーヴェも見たことがない。恐らく力に物を言わせた滅茶苦茶な攻撃だったんだろう」

 

ノーリが暴走し、エレミアの神髄の状態のジークさえ圧倒した力。その力はクラッシュエミュレートを貫通し、ジークの骨を砕いたのだ。だが、ジークはノーリに罪の意識を、目を周りから向けられないために黙っていたのだ。

 

「折れちゃいないだろうが最低でもヒビは入ってるだろう」 

 

「…………これで、ノーリが戻ってきた後の試合に出るつもりだったの?」

 

「……」

 

「まさか、その状態でいることが私への罪滅ぼしとでも思っているのかい?」

 

ミカヤが尋ねた。

 

「…どうやろな………でも、ノーリ君に悪い目が向けられたらいややって思ったんはたしかや」

 

ジークも同じ経験がある。ミカヤ相手にクラッシュエミュレート越えの攻撃を放った。それで試合は一時中止。試合再開の日にジークは現れず、ミカヤの不戦勝となったが先の試合をできる身体ではなく、その年は辞退した。

 

その時世間から向けられた視線は、ジークはよく覚えていた。

 

「前にも言ったが、去年は私も君も全力で戦っただけ。その結果がああなっただけだ」

 

「…」

 

ジークは申し訳なさそうに少しうつむいた。

 

「それに君は今、私の……いや、ここにいる選手全員の目標でもある。それがそんな怪我を放置して選手生命でも断たれたら、その方が怒るよ」

 

「…ありがとな、ミカさん」

 

どうやら、こっちはこっちで丸く収まりそうだ。それを確認し、アキラは改めて全員に訪ねる。

 

「…ノーリが選手でいれば、お前らも同じ目に合うかもしれねぇぞ。それを踏まえて考えてほしい。それでも君たちは、アイツを、ノーリを選手として認めててくれるか?」

 

その問いに対する答えはその場にいた全員もう決まっていた。ハリーが代表して答えた。

 

「はっ!あいつが全力で来るならこっちも全力で潰すだけですよ!その結果ケガするんでも上等!」

 

ハリーの答えに同意するように皆が頷いた。アキラはちらりとジークの方を見た。その視線の意味をジークは理解して微笑む。

 

「ウチも答えは一緒です」

 

「…ありがとう」

 

アキラはその場にいた全員に改めて頭を下げた。

 

「とりあえず、医者は呼んである。診てもらってから本題に入るとしよう」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「さ、これでもう大丈夫。無理はしないでね?」

 

「はい、おおきに」

 

ジークは腕にギプスを着けられたが、とりあえず選手生命にはきたさないとわかった。そしてアキラはジークの前に座る。

 

「さて、ここに来てもらった本題は君の先祖についてだ。教えてくれないか。知ってる限りのことでいい」

 

「うーん、協力したい気持ちはあるんですど…残念ながらウチはあんまりご先祖様の事覚えてないんです」

 

「なに?」

 

「ジークはエレミアの技や体質は受け継いでいますが、記憶は受け継いでいないんです」

 

その事情をジークに代わってヴィクターが説明する。

 

「彼女の先祖に関する情報は、彼女の実家にもほとんど残っていないのです。なにぶん流浪の一族でしたから…」

 

「そのエレミアが残した手記ってのがあるらしい……………なんでもいい!なにか知らないか?」

 

アキラが訪ねるも、ジークとヴィクターは首を横に降る。

 

「ごめんなさい…」

 

「………そうか」

 

アキラは目に見てわかるくらいがっくりと肩を落とした。そこに、セッテが部屋に現れる。

 

「セッテ」

 

「アキラ義兄さん。悪い知らせです………」

 

セッテは周りにいる人間を見て一旦黙る。事件とは無関係な人間の手前で話して良いのか微妙だったからだ。アキラはそれを察する。

 

「……………構わん。言え」

 

「残念ながらクラウドの情報にあったアジトは廃棄済みでした。新しいアジトの場所に繋がりそうな手掛かりや痕跡もなしです」

 

「…まぁ予想通りだ」

 

アキラは立ち上がり、部屋の大窓に手を突く。その表情は苦悶に歪んでいた。早く助けなければならないという思いが焦りを前に出す。

 

「くそっ………」

 

拳を強く握ったアキラにギンガが寄り添う。だがそこにヴィヴィオもやってきた。

 

「あの…」

 

「…」

 

アキラに反応がない。

 

「あのぅ…」

 

再度呼び掛けても反応はない。頭の中で解決法を模索しているのだろう。ギンガが肩を叩いて呼びかける。

 

「ん?ああ。すまねぇ。どうした?」

 

「あの、私「エレミア」って名前が冠された武術家の手記を無限書庫で見かけたような気がして…」

 

「本当か!?」

 

アキラがヴィヴィオの肩を掴んで尋ねる。急なことに驚きながらもヴィヴィオが答えた。

 

「は、はい…あの、オリヴィエに関する資料資料もあるかなって思って…」

 

「いつか探索したいねって言ってたんです…」

 

コロナとリオも近くに来た。

 

「よし……」

 

アキラは立ち上がってぐっと拳を握った。

 

(………道はつながった。まだだ、まだ諦めるわけにはいかねぇ)

 

 

 

続く



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第二十四話 探索!未整理区域!

いつもよか少し短いです。でもちょっと場面変更が微妙になったのでここで切りました。

感想、評価、投票随時募集中です!


アキラ達は拐われたノーリの手がかりを手に入れるべく、「エレミア」が残した手記を探すためにヴィヴィオ達と共に無限書庫へ探索に向かうことを決めた。また、エレミアの子孫であるジーク、先祖つながりのヴィクター、その他選手仲間のミカヤ、ハリーとその仲間たち、エルス、ミウラ達も過去の繋がりや記憶を清算し、すべてを見届けるために探索に同行することにした。

 

 

 

-管理局本局-

 

 

 

「おう」

 

「あ、アキラ二尉!ギンガ準陸尉!お疲れ様です」

 

アキラたちは管理局本局の無限書庫にメンバーを連れてきた。ヴィヴィオはそもそも司書であり、コロナとリオは面識と入場許可証くらいはあるのでわざわざ受付を通らなくてもよいが、他はそうはいかない。

 

「ああそうだ、中は無重力だから気を付けろよ」

 

「そうなんですか?」

 

「やべぇ、俺今日スカートなんだが…」

 

無重力だということを聞いたハリーやその他がアキラを見つつ少し困った顔をした。

 

「ああ、別に俺ぁギンガ以外を女としてみる気はねぇし、お前らみたいなガキに興味はねぇから安心しな。それに今回は一応事件の調査だ。俺が行かないわけにもいかねぇから諦めろ」

 

アキラはそう告げると無限書庫へのゲートに向かって歩いて行った。

 

「随分、口の悪いのね」

 

「あんな感じですが本当はすっごく優しくて、頼りになる方なんですよ…」

 

ヴィクターが呟いたことに、アキラをよく知り、尚且つかつて助けてもらったこともあるコロナが助言をした。

 

「まぁ、それはなんとなく感じていますわ。でなければギンガさんとの結婚も、ノーリさんを救うのに必死になったりもしないでしょうし、ミッドチルダを救った大英雄なんて呼ばれないわよね」

 

そういったヴィクターの態度は柔らかかったコロナは少し安心する。そんなやり取りをしながらアキラたちは無限書庫古代ベルカ区画へ転送された。

 

 

 

-無限書庫 古代ベルカ区画-

 

 

 

全員が同時に転送され無重力空間に放り出された。

 

「おぉーーー!?」

 

無重力に慣れてないメンバーがバランスを崩している。それぞれが近くにいた仲間に支えらえつつ体感を掴んでいく。

 

「わわっ…」

 

最初は大丈夫だったアインハルトがバランスを崩した。それをアキラがそっと支えてやる。

 

「大丈夫か?」

 

「は、はい…ありがとうございますノーリさ…………あ」

 

ノーリとよく声が似ていたアキラに支えられたことでアインハルトは勘違いをしてしまう。アインハルトは顔を赤くしてそっと顔を反らしたが、アキラは微笑んだ。

 

「ありがとうな……あいつのことを思っててくれて」

 

予想外な感謝をされ、アインハルトは驚きつつも申し訳なさそうな表情をした。

 

「……彼がああなったのは私の責任でもありますから………」

 

「あ?」

 

「先日、私が誘拐されたのを覚えていますか?あの「アーク」という組織………きっと最初に狙っていたのは私です。ですが、私は思った通りの力を持っていなかったんでしょう。そして私を助けに来てくれたノーリさんを見て、私に求められていた力を持っていたと確信させてしまったんでしょう…だから」

 

「…」

 

アキラはアインハルトの額にデコピンを食らわせた。

 

「あうっ!」

 

アインハルトは後方に回転しながら軽く吹っ飛ぶ。それをはやてが支えた。

 

「ガキがいっちょ前に責任感じてんじゃねぇよ。事件の解決とそれに関わるいろんな事情の終息は大人の仕事。それにこれはあいつが望んだことだ。お前のせいじゃねぇよ」

 

「ですが…」

 

「それに、責任があるってんなら俺の方だ」

 

「え?」

 

「明らかにここ最近のあいつはおかしかった。それを、知っていながら止めなかった。なんであれ、誰かの為に戦っているあいつを止めたくなかった。それを、こんなことになるまで放っておいた。もっとなにか…できることがあったはずなんだがな」

 

「おーい!アキラさーん!アインハルトさーん!はやてさーん!行きましょー!」

 

ヴィヴィオに呼ばれた。

 

「さぁ、行こか」

 

「はい」

 

はやてとアインハルトは無重力空間を進んだ。

 

「ああそうだガキ共!」

 

アキラが未整理区画に入る前、ヴィヴィオ達を呼んで止めた。全員が振り向いたところでアキラが胸ポケットから小さな装置を取り出した。

 

「これを各グループに一つずつ渡しておく」

 

未整理区画にエレミアの手記がありそうな部分は10か所に絞り込めている。手分けしようということで彼女たちグループを5つに分けた。

 

「これは何ですの?」

 

彼女たちに渡されたのはボタンが一つだけついている謎の装置。

 

「聞かされたと思うがここはアホほど危険だ。護衛用のシステムが可能性がある。だが間違っても戦おうとはするな。お前らには戦う力はあるかもしれないが、「プロ」じゃねぇ。自分の力がどこにでも通じると思うな。そのスイッチを押せば、俺、ギンガ、ノーヴェ、はやてさんが持ってる受信装置に救難信号が来るから。必ず俺らを呼べ」

 

全員が快く承諾をした。彼女たちには力がある。それは確かだがその護衛システムに勝てるとは限らない。取返しのつかない大けがをすることもある。

 

それを危惧してアキラは装置を渡したのだ。プライドの問題から受け取らない娘もいるかと思われたが、どうやらその辺の線引きは、ちゃんとできているらしい。

 

「でも一次調査ではそんなのはなかったんじゃ…?」

 

ヴィヴィオが疑問府を浮かべる。

 

「らしいが、そういうのが出てくる確率はゼロではない。それにこん中は迷宮型だ。迷った場合にも使え。ここはどこも同じような見た目でな、どこから来たのか、どこへ向かうのか、わからなくなることもある。変な装置で隠し通路に入れられたりもな」

 

「なるほど、じゃあ!それでは行きますよ!調査スタート!」

 

5つのグループに分かれたアキラたちは未整理区画の調査を開始した。

 

アキラ、ヴィクター、コロナの三人。ギンガ、ミウラ、ヴィヴィオの三人。ハリーとその仲間、エルスの五人。ミカヤ、リオの二人。アインハルト、ジークの二人のグループだ。

 

「アキラさんたちも来るんですね」

 

コロナが不思議そうに尋ねた。入り口でははやて、ノーヴェが待っているてっきりアキラもそうするものだと思ったのだ。

 

「あいつらは保護者。俺とギンガは事件の調査だ。だからお前らが捜すのを待ってる余裕もねぇ」

 

「なるほど」

 

アキラは無限書庫での検索魔法で本を周りに展開しながら説明した。その様子を疑問に思ったヴィクターがアキラに質問した。

 

「エレミアの手記はタイトルでわかるんでしょう?どうしてそんなに調査しているのですか?」

 

「少しでも「ダズマ」に関わりがありそうなら全部調べてる。早く助けてやらねぇとな」

 

「…」

 

自分の子供のことなのだから必死になるのは当然かもしれない。口は悪いし態度も横暴。だが、コロナが言っていた通り、アキラは本当は優しいのだと思った。

 

「………ん?」

 

一瞬眉を動かし、アキラが調査の手を止める。

 

「どうしたんですか?」

 

「妙な魔力を感じるな………誰だ?」

 

アキラは辺りを見回す。アキラの言葉にヴィクターとコロナが辺りも見回す。まさか本当に調査で確認されなかった防衛システムがあるのかと思ったのだ。

 

「……」

 

「いや……」

 

アキラはまた調査に戻った。

 

「気のせいみたいだ」

 

二人はほっとして本棚にエレミアの手記がないか探し始めた。

 

 

 

-ジーク・アインハルトチーム-

 

 

 

二人も捜索を進めていたがエレミアの手記は見当たらなかった。そんな捜索の途中に二人はそこそこ楽しく(?)話せていた。互いの呼び方や探している本の内容等。戦うことが叶わなかった二人だが、アインハルトの意思をぶつけたのはノーリだ。そこからアインハルトが何を思って戦ってきたのかをジークは感じ取っていた。

 

だが、その平穏な時間はすぐに終わりを告げた。

 

「アインハルト・ストラトス、ジークリンデ・エレミア」

 

聞いたことのない声が二人の後ろから聞こえた。しかし、振り向いた瞬間その声の主を確認する暇もなく、巨大な悪魔が二人を食らった。

 

「…っ!」

 

二人は悪魔の中で衣服を脱がされ始める。

 

(なにが起きたかわかない!?でも!あれだけは!)

 

アインハルトは魔術で気絶させられるまで何とか抵抗を続けた。二人は小さくされて瓶に詰められる。まだ意識が残ってたジークが瓶から見たのは金髪の少女だった。少女はジークに声をかけた。少女の名前はファビア・クロゼルク。DASSに出ていた選手の一人だった。

 

「エレミア、あなたにはあとで聞きたいことがあるから別の瓶………まずはエレミアの手記を……」

 

それを聞いた時、ジークは一瞬でBJを装着し、更に鉄腕を装備して内側から瓶を粉砕して脱出した。しかし、脱出したのもつかの間、背後から使い魔に爆撃された。

 

その隙に少女は戦線離脱する。

 

(あれでエレミアはしばらく動けないはず……あとはオリヴィエの末裔とエレミアの手記を…)

 

この少女による被害は既にハリー・エルス組、ミカヤ・リオ組が会っていた。

 

 

 

-アークのアジト-

 

 

 

ここは今回世界に宣戦布告したアークという組織のアジト。ノーリは寝かされていた祭壇の上で目を覚ました。

 

「………ここは」

 

ノーリが起き上がると、視界に一人の男が見えた。男はノーリの視界に入るや否や膝まづく。

 

「お目覚めですか、我らが王」

 

「王?……お前は、だれだ?ここは一体……」

 

ノーリは思ったことをそのまま言った。記憶があいまいで意識を失う前のことを覚えていないのでただひたすら聞くことしかできないのだ。

 

「ここはあなたを崇拝する組織、アークの祭壇でございます。そして我が名はアレス。貴方様の臣下と思っていただき、なんでも言いつけてくださいませ」

 

「アーク?臣下?なんで俺に慕う?」

 

「それは貴方を…「ダズマ」様を最高神と信じ信仰しているからです」

 

「ダズマ……?俺はノーリだ」

 

それを聞いた瞬間、アレスが驚いた顔で頭を上げた。

 

「……まさかまだ器の意識が残っていたとは…。覚醒が完璧ではなかったのか。仕方ない「記憶」を集めるか…」

 

アレスは立ち上がり、ノーリをバインドで縛った。

 

「なっ!!なんのつもりだアンタ!!」

 

「君の意識に用はない。今は眠っていたまえ。舌を噛んで死なれても困る」

 

「な………に…」

 

ノーリは何かしらの魔法をかけられ、再び眠りについた。

 

「さてさて、どうやら「記憶」の持ち主が集まっているようだ。少々ダズマ様の復活の手伝いをしてもらうとしよう」

 

 

 

続く



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第二十五話 登場!呪いの魔女っ娘

お疲れ様です。展開はだいぶ変わりますがこの事件的な流れは多分後3~4話で終わります。

感想等随時募集中です


「逃がさへん!!」

 

ジークは使い魔相手に周りを気にせず全力で攻撃していた。しかし、対象が小さく攻撃は中々当たらなかった。使い魔はひらりひらりと攻撃を避け、ファビアとは逆の方向へ行く。

 

「はうぅぅぅ!!」

 

ジークはその後を追おうとして転んだ。

 

「あうぅぅ…なんでブーツが…」

 

ジークは起き上がって足元を確認する。するとブーツが脱げているだけじゃなく自身の身体に異常が起きていることに気づく。全身的に小さくなっていた。靴が脱げた理由もそれだった。

 

「なんやこれーーーーー!!!」

 

 

 

-アキラ・ヴィクター・コロナ-

 

 

 

ジークが暴れた振動を最初に感じ取ったのはアキラだった。そして、すぐにそちらに向かおうとした瞬間、目の前に悪魔の大群が現れた。小さなぬいぐるみのような悪魔だが、臨戦態勢を取っている。

 

「…どうやら邪魔してくるらしい」

 

「…やる気のようです」

 

「上等ですわ!」

 

(通信ができない…隔絶系の結界を張られたか。だが俺とギンガの通信機は隔絶結界内でも通信ができる。それで連絡が来てないってことはまだギンガにはなんもねぇんだろうが……)

 

アキラは懐から各グループに配ったスイッチと同じものを取り出し、押した。すると自動的にアキラの通信機に緊急連絡が入る。それだけでなく、同じ装置を持たされたノーヴェ、はやて、ギンガにも緊急通信が向かっただろう。

 

「な」

 

「何してるんですか!?」

 

「じゃあダーグリュンのお嬢様、コロナ。はやてかノーヴェが来るまでなんとか頑張れ」

 

そう言ってアキラはスイッチをヴィクターに渡し、背中から魔力翼を出現させてその翼で悪魔の大群の一部を薙ぎ払った。そして翼の加速力で包囲網を抜けた。

 

「ちょ」

 

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」」

 

(ギンガに何かがあってからじゃ遅い。許せ)

 

アキラは一気に未整理区域の中を抜けていった。

 

『アキラ君!?いま緊急信号が…』

 

アキラの通信機にギンガから連絡が来る。

 

「ああ。俺が鳴らした。ギンガよく聞け。近くにヴィヴィオとミウラも聞いとけ。なにかしら異変が起こってる。俺が行くまでそこを動くな」

 

『ヴィクターさんとコロナちゃんは?』

 

ギンガに聞かれるとは思ってなかったのかアキラは少し考えてから答える。

 

「コロナは強い娘だ。ダーグリュンのお嬢様も丈夫だしきっと大丈夫だ。うん」

 

『ええ………』

 

 

 

-ギンガ・ヴィヴィオ・ミウラ-

 

 

 

『ともかく動くな。お前ら先に保護して周りの連中を……』

 

ギンガが通信している最中、それを後ろから見ていたミウラとヴィヴィオだったが、背後に現れた気配に気づいた。

 

「………!」

 

「ミウラ・リナルディ、ギンガ・ナカジマ、ヴィヴィオ・タカマチ」

 

声がしたことと自身の名前を呼ばれたことにでギンガも振り向く。

 

「あの娘………」

 

「これを見て」

 

全員が「それ」を見てしまった。次の瞬間ファビアの持っていた悪魔が巨大化し、三人を丸のみにした。

 

 

と思われた。

 

 

「テメェ……」

 

完全に全員飲み込んだと思っていたファビアの上から声がした。その声を聴いたとき、ファビアの全身に重い圧力のようなものを感じ、足から力が抜けた。さらに全身から冷や汗がぶわっと溢れる。

 

「ギンガに何している…っ!」

 

「………っ!!」

 

ファビアが視線を上に移すと、そこにはミウラとギンガを抱えたアキラが浮いていた。

 

「アキラ君…」

 

「アキラさん…」

 

二人はアキラに助けられたことをようやく気付いた。だがそこにヴィヴィオはいない。とっさに助けられたのは二人だけだった。

 

(ヴィヴィオまでは助けられなかったが関係ねぇ。あのクソガキさっさと潰せば終わる話だ)

 

「…………っ!ア、アキラ・ナカジマ!これを見て!」

 

アキラにも同様の手段を使う。冷静にそれをみたアキラの前に巨大な悪魔が出現し、アキラを飲み込もうとした。

 

「そんなもんが通じるとでも思ってんのか」

 

アキラは翼を変形させ、竜巻のような形にして悪魔を吹っ飛ばした。

 

「お前……誰を敵に回したか分かってんのか?」

 

アキラは二人を離し、拳を鳴らす。完全にキレてそうなアキラを二人がなだめようとする。

 

「アキラさん…」

 

「相手は子供ですから…」

 

「知らねぇよ。誰であれギンガに敵対するなら誰であれぶっ潰す」

 

かなり強気なアキラに対し、

 

「…失せよ光明(ブラックカーテン)」

 

三人が敵意をむけてない間にファビアが先行をとる。三人の周りが一気に暗くなった。そして三人が視界を失っているうちに再度悪魔に飲み込ませようとした。

 

「…一閃必斬、竜閃円陣舞!!!」

 

アキラは懐から出した脇差で辺り一帯を吹き飛ばす奥義を放った。その一撃で周りの本棚、そして迫っていた悪魔を吹っ飛ばした。

 

「!!」

 

魔法の効力が切れ、三人の視界が晴れる。

 

「そんな小細工で勝てると思うな……さて、懺悔の準備は…」

 

「アキラ君ストップ!」

 

明らかにやばそうな雰囲気を醸し出すアキラをギンガが止めた。

 

「…ギンガ」

 

「…私が話す。ファビア・クロゼルクちゃんよね?インターミドルで見たことあるわ。どうしてこんなこと……ヴィヴィオちゃんを返してくれない?」

 

なぜこんなことをするのかと聞かれたファビアは答える。

 

「私は魔女だから。ほしいものがあったら魔法を使って手に入れる」

 

そういって再び臨戦態勢に入る。戦う意思を確認したアキラは小さくため息をついて笑う。

 

「いい覚悟だ。それがお前の信条なら、なら俺はギンガに敵意をむけた人間を誰であろうと叩き潰すことを信条としよう」

 

次の瞬間、アキラはファビアに殺意と魔力圧をぶつけた。さっきアキラの声を聴いた時の数倍強い魔力圧だ。常人ならすぐ失神するだろうが、ファビアは生まれ持っての魔力耐性で何とか意識を保とうとする。しかしそう長く持たず、泡を吹いて気絶しかけた。

 

だが、二人の間に何者かが割り込んだことでアキラの魔力は遮られた。

 

「!?」

 

「やれやれ、小さな女の子をあまり怖がらせるものではないと思うよ」

 

現れたのは、アークの構成員の一人「アレス」だった。

 

「テメェ!」

 

「あなたは……」

 

「ちょっと用事があってn」

 

アレスが話し終える前にアキラは翼で先制攻撃を取った。しかしアキラの翼はアレスが盾代わりに出したマントに当たると消滅した。

 

「!?」

 

「対魔力マントだ。魔法は通じない」

 

余裕の笑みを浮かべるもつかの間、視覚からBJを纏ったギンガが殴り掛かった。アレスはその攻撃を躱し、マントを自在に伸縮させてギンガを縛ろうとする。それより早くアキラがギンガの手を掴んで助け出し、それとほぼ同時に脇差をアレスに投げた。

 

脇差はアレスの頬に掠っただけだったが、アキラの本命は脇差ではない。つま先に装備した氷の爪をアレスの心臓めがけて振った。

 

「っ!」

 

アレスはアキラの足を爪を避けて受け止め、一旦離れた。

 

「これほどとは……さすがは管理局の二尉と準陸尉。一筋縄ではいかないか」

 

「黙れ。いいからさっさとノーリ返せ」

 

「それは難しいね。彼はようやく見つけた器、依り代なんだ」

 

会話中にアレスは指を弾いた。するもう一人のアレスがファビアの前に現れる。

 

「!?」

 

「初めまして。クロゼルクのお嬢さん」

 

「…あなたは?」

 

ファビアは少し驚きながらも冷静に尋ねた。警戒されないためか、アレスはにっこりと笑って手を差し伸べながら自己紹介をする。

 

「私の名前はアレス。君に協力したい」

 

「協力?」

 

「ああ。君がなぜこんなことをしているのかは知らないが、君が邪魔されないように協力しよう」

 

「それをしてあなたになんの得があるの?」

 

「ああ、もちろんタダでは協力しない。まぁ、すべて終わってから話そう。なぁに大したものを求めるつもりはないよ」

 

敵意はない話し方だ。恐らくファビアの持つ何かを求めての行動なのだろう。そこにアレスから足止めを食らい続けているアキラがファビアに叫んだ。

 

「おいガキ!間違ってもそんな奴らに協力するなよ!」

 

だがそんなアキラの叫びに対しファビアは一瞬視線をアキラに向けただけで何も言わなかった。ファビアはアレスに向き直り、幼いながらも強気な目線をむけた。

 

「?」

 

「私は自分でほしいものは自分で手に入れる。誰の助けも借りない!これは私の復讐!!」

 

ファビアは高く飛び上がり構えた。交渉が決裂したことにアレスはやれやれという表情を浮かべて手に持っていた本を開いた。

 

「仕方ない。手荒な真似はしたくなかったがね」

 

「!」

 

刹那、アキラはギンガにアイコンタクトを送った。ギンガはそれに気づいて頷き、ファビアに向かってウィングロードを伸ばして走り出した。当然アレスがその後を追おうとするがアキラがそれを遮りつつギンガに何かを投げ渡した。

 

「ブラック…」

 

ファビアが攻撃を仕掛けるがアレスはそれより早く本にある一行をなぞった。

 

「ランサーブレイク」

 

アレスの周りに魔力槍が出現し、それがファビアに狙いを定めた。

 

「させない!!」

 

ギンガの拳がアレスの背中を捕らえる。しかしギンガの攻撃はアレスの身体をすり抜けた。

 

「!」

 

「残念」

 

(やっぱりこっちは幻影…なら!)

 

ギンガはそのままアキラから受け取ったボール状ものをファビアに向かって投げる。それはファビアの目の前で煙幕を大量に発生させた。

 

「逃げて!ファビアちゃん!」

 

「…!」

 

ギンガは叫んだ。いくら悪さをしているとはいえ一般人。テロリストの襲撃に巻き込むわけにもいかない。

 

「ファイア!」

 

だがアレスもギンガが叫んだのとほぼ同じタイミングで攻撃を放った。魔力槍は煙幕の中に突っ込んでいったが誰かに当たったような音はしなかった。

 

「…逃がしたか」

 

「テメェの思い通りにさせるわけねぇだろクソったれ」

 

アキラが言ったがアレスは笑みを見せた。

 

「本当にそうかな?」

 

 

 

-ファビアサイド-

 

 

 

「助けられた…あの人たちに…」

 

ファビアは箒で飛びながら色々考えていた。

 

「屈辱…だけど…」

 

あの二人はノーリの保護者ということは知っている。まさかあそこまでの実力者たちとは思ってなかったが、助けてくるとは思ってなかったのだ。

 

心がもやもやする。

 

そんなことを考えていると、目の前に少女が現れた。

 

「…あなたは」

 

「時空管理局嘱託魔導士ルーテシア・アルピーノ!盗聴・窃視及び不正アクセスの件でお話聞きにまいりました!」

 

「ならルーテシア・アルピーノ、これを見て」

 

ファビアはさっきと同じ手法でルーテシアを食らおうとした。だがルーテシアの表情は余裕だ。

 

「ソニック」

 

高速移動魔法でファビアの攻撃を回避する。

 

「名前を呼んで相手を飲み込む。古典的な技だねぇ。大人しく降参したほうがいいよ?でないとお姉さんがお仕置きしちゃうから」

 

確実な実力差を見せつけた上でルーテシアは怪しい笑みを見せた。

 

「魔女をあまり舐めないほうがいい」

 

「投降する気はなしっと…んーじゃあしょうがないねぇ」

 

ルーテシアがクスッと笑うとファビアの前方にルーテシアの召喚獣である画びょうのような虫が大量展開された。

 

「!」

 

それに驚いている間にルーテシアはファビアの背後に回り込んだ。直前に気づき、ファビアは振り返ったがそこには既にルーテシアの掌が目の前にあった。

 

「…っ!」

 

「遅い」

 

魔力砲をファビアの顔面目掛けて放とうとしたとき、その手に何者かの掌が割り込みルーテシアの攻撃を相殺させた。

 

「なっ…」

 

「やれやれ、彼女は我々にとって必要なのだよ」

 

アキラとギンガが相手をしている筈のアレスがファビアの前に現れた。

 

「!」

 

「君に用はない。サヨナラだ」

 

アレスが本に書いてある一行をなぞるとファビアがバインドで縛られ、本から紫色の霧が発生してルーテシアを包み込んだ。

 

「あっがぁ!!ぐっ!!」

 

霧に包まれた瞬間ルーテシアは苦しみ始め、吐血した。

 

「あがっ!ア…ぐぅ……ゲェ…」

 

吐血に収まらず、更に嘔吐し血涙を流し始めた。霧は毒であり命に係わるほどの毒性を持っていた。数秒いただけでこの症状。抵抗する暇もなくルーテシアの命は一気に削られていった。

 

(意識が…遠のいていく…死ぬ…このままじゃ………本当に…死…)

 

気絶するのか、死ぬのか、意識がなくなる寸前にルーテシアは大きな手で抱かれる感覚を感じた。

 

 

 

続く



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第二十六話 幻惑!アレスの襲撃!

あと3話くらいで終わらせたい。ギンガの戦闘スタイルの関係上中々活躍させられないのが悩み。次から活躍できるかな?あと、最近ヴィクターがお気になので登場回数増えます。ファンの人がいましたら刮目ください。


ノーリが誘拐されたことから始まった一つの事件。アキラはその手がかりを探すために無限書庫の未探索区域へ向かった。しかし、不幸なことにそこでまた今回の事件の延長線上の事件が起きてしまった。ルーテシアはその最中で瀕死の重症を負った。

 

「……んぅ?」

 

アレスが放った毒霧を受けたルーテシアは死にかけ、意識を失っていたが、今意識を取り戻した。

 

「大丈夫か……」

 

目を覚まして最初に視界に入ったのはアキラの顔だった。ルーテシアはアキラにお姫様だっこで抱かれている。

 

「アキラさん…」

 

「良かった…」

 

まだ毒のダメージが残っているのにも関わらずルーテシアにっこりと笑う。

 

「えへへ……やったぁ…ギンガさんの定位置だぁ」

 

ルーテシアはそう言って抱かれたままアキラに抱きつく。アキラはルーテシアを撫でながら抱き返す。

 

「もうほとんど毒素は抜けてる。病院で目とか肺に以上がないか見てもらえ」

 

ルーテシアはこくりと頷き、少し目に涙を見せた。

 

「すいません…わたし、役立たずで…」

 

「いや。わざわざ協力してくれたんだ。それだけでもありがたいさ」

 

「……………現状はどうなってるんですか?」

 

「ああ……実はな」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

-数十分前 コロナ・ヴィクター組-

 

 

 

「ふぅ…数ばかりかと思いましたが中々これは…」

 

「厄介ですね」

 

二人の前に現れる大量のファビアの使い魔。それはなぎ倒してもなぎ倒しても沸き続けていた。挑発のつもりか人質にとったリオたちの瓶を持った悪魔までいる。

 

「いい加減にしてほしいですわね」

 

その時、一部の使い魔が一気に薙ぎ払われた。コロナたちも驚き、そちらの方向を見る。

 

「初めまして、ダールグリュンのお嬢様」

 

現れたのは一人の男。男は現れるなりヴィクターに対して挨拶をした。

 

「……あなた、あの時会場に現れた不届き者ですわね」

 

コロナは始め誰だかわからなかったが、ヴィクターはすぐに目の前に現れた男に気づいた。会場でノーリをさらった人物。

 

此処に現れたのもアキラと対峙している筈のアレスだった。

 

「不届き者とは手厳しい。私たちはただの宗教者だ。そして、世界の為に身を削っている」

 

「だったら今すぐノーリさんを返しなさい」

 

ヴィクターは強気に対応した。

 

「私たちは世界をリセットする。我らが神の力を以て。それが人類の救済となると信じている」

 

「…………どうやら話すのは無駄のようですわね」

 

あきれ顔になったヴィクターは髪を整えながらため息をついた。そして改めて自身の槍斧型デバイスのブロイエ・トロンベを持ち直す。すると辺りに小さな静電気が起き始めた。ヴィクターが魔力を上昇させたことで帯電が始まったのだ。

 

その迫力に、辺りの使い魔たちは怖気づくほどだった。

 

「居場所を吐く気は?」

 

「ないね」

 

ヴィクターは深呼吸を行ってからデバイスを構えた。

 

「であれば、力尽くで取り返しますわ」

 

「ヴィクターさん!」

 

加勢しようとコロナが近づくが、ヴィクターは手をコロナの前に出し、加勢を拒んだ。

 

「下がってなさい。此処ではあなたの魔法はうまく発動できないでしょう」

 

「…」

 

ごもっともだった。此処ではゴーレム召喚が出来ない。召喚できても満足に動かせない空間、且コロナ自身無重力空間での戦闘経験はない。ヴィクターの足手まといになってしまう可能性があった。

 

「あなたにはあの小悪魔共が邪魔してこないように援護をお願いしますわ」

 

「…はい!」

 

コロナのできる最大限の役割を伝えた。コロナは元気よく返事をする。

 

「やれやれ。そもそも私はこんな話をしに来たんじゃない」

 

「こっちはその話しかする気はありませんが、何か要件があるなら一応聞きましょう」

 

戦闘態勢を解かずヴィクターは答えた。なにか交換条件などを話してくるかと思ったのだ。

 

「我々についてきてもらえないかな?君の力が必要なんだ」

 

「フフっ。なんというか…」

 

その話を聞いたとき、ヴィクターは急に笑い、そして小さく息を吐きだした。

 

「ここまで盗人猛々しい殿方は始めてみましたわ!!!」

 

ヴィクターはキレた。そして辺りに電撃を発生させながらアレスに飛び掛かった。

 

「四式「瞬光」!」

 

電撃を纏った槍でアレスに一突きしたがそれはアレスの身体を通り抜け、ヴィクター自身も通り抜ける。

 

「!?」

 

「やれやれ」

 

「また分身系ですの?まったく…」

 

振り返えりつつヴィクターは辺りを見回す。近くに術者がいないかどうか探したのだ。

 

(それらしい気配は感じませんわね)

 

「なら!」

 

ヴィクターはブロイエ・トロンベを頭の上で回転させながら電撃魔法を帯電させる。

 

「…?」

 

「コロナ!ガードを張りなさい!」

 

加減のできない攻撃のため、コロナにガードを張るように指示をした。

 

「は、はい!」

 

「七十八式!!雷襲波廻撃!!!」

 

叫び声と同時に回転させているブロイエ・トロンべから四方八方に電撃を散乱させた。

 

「きゃあ!」

 

無限書庫の本棚、壁、柱、そしてコロナの張ったシールドに電撃が命中するが肝心のアレスには命中しない。

 

(手ごたえもなし…………術者は近くにいない?)

 

「………ランサーブレイク」

 

「!」

 

アレスが反撃を行った。その攻撃はヴィクターにしっかり命中する。ダメージ自体ダールグリュンの鎧の前では大したことないが、あちらの攻撃は通じるというのは厄介だ。

 

「ぐっ!三十二式!黄雷撃!」

 

ヴィクターはさらに掌から電撃を放ったがそれもすり抜けた。

 

「………っ仕方ありませんわ!コロナ!撤退いたしますわよ!」

 

「ええ!?」

 

ヴィクターはコロナの方へ一気に飛んだ。

 

「不良娘どもはイレイザーで脱出できるでしょうが、こっちの攻撃が当たらないのでは勝負にもなりませんわ!」

 

「…わかりました!」

 

「はや……っく!?」

 

逃げようとしたときヴィクターが背後から攻撃を受けて止まった。

 

「ヴィクターさん!!」

 

「逃がしてくれるわけではない様ですわね……コロナ、あなたは行きなさい」

 

「え?」

 

「彼が用があるのはわたくしのようですし…あなたは行って………アキラさんを呼んできてください」

 

「でも…」

 

コロナは辺りを見回す。アレス以外にもファビアの使い魔たちがいる。これを一斉に相手するのではさすがに危険なのではと思ったのだ。

 

そのことを察してか、ヴィクターはブロイエ・トロンべを思いっきり振った。その衝撃波で使い魔たちが一部吹っ飛ぶ。

 

「私を誰だと思っているんですの?インターミドル都市本戦第三位、雷帝の血を(ほんの少しだけ)引くヴィクトーリア・ダールグリュンですわよ?これくらい、なんてことありませんわ……………信じなさい」

 

ヴィクターはコロナに向かって微笑んだ。

 

「……すぐに戻ります!!」

 

コロナはアキラが向かった方向に飛んだ。コロナを見届けたヴィクターはアレスに向き直る。

 

「良かったのかい?仲間を逃がして。まぁ私としては君にしか用がないから良いのだがね」

 

「あなた方の相手なんて私一人で十分ですわ」

 

ヴィクターは余裕の表情でブロイエ・トロンベの槍先をアレスに向けた。

 

 

 

ー数分後ー

 

 

 

アキラとギンガはアレス相手に手こずっていた。いや、仕留めるのは簡単だ。だがアレスは幻術を得意とし、逃げるのは得意だった。何より殺してしまっては手掛かりがなくなってしまう。

 

「糞が…」

 

「ははっ。殺せないっていうのは厄介だね。私は気にしないが」

 

アキラは歯噛みをする。どうにか捕らえる方法はないものかと模索するが中々いい手段が見つからない。そんなとき、そのフィールドにコロナが飛び込んできた。

 

「アキラさん!」

 

「コロナ!?」

 

「ヴィクターさんが………」

 

そこまで言ったとき、コロナはさっきまで目の前にいた男をここでも目にして驚愕する。

 

「なんであなたがここに!?」

 

「…っ」

 

その言葉でアキラはすべてを察し、アレスから一旦距離を置く。

 

「氷点の花よ!盾尽く我らを護り、檻尽く脅威を封じよ!氷獄天華!!!」

 

アキラは手の前に魔力を集束し、それをアレスに向けて放った。アレスはその攻撃に対魔力マントで防ごうとしたが、命中する手前で爆散した。

 

「!?」

 

爆散した場所から氷の花が出現し、その花から五枚の花弁が伸び、アレスを包み込んだ。

 

「…これは」

 

「そいつは氷の監獄。残念ながら抜け出すことは出来ねぇ。その代わりこっちから手出しも出来ねぇが…ギンガ!」

 

「うん!」

 

ギンガはミウラを、アキラはコロナを抱えてヴィクターの元へ向かった。

 

「アキラ君さっきのは…」

 

「あれは氷の檻に閉じ込めて相手を凍死させる技だ。閉じ込めたやつが死なねぇと解除もされねぇ。できれば使いたくなかったが、ガキの安全には変えられねぇ」

 

「仕方ないね…」

 

その道中、向こう側から異常を通信機で知り、やってきたはやてが現れる。

 

「アキラ君!?」

 

「はやてさん!」

 

「ガキ共頼んだ!!」

 

そして現れたはやてにコロナを預け、アキラは先に行く。

 

「ええ!?ちょっ…」

 

「アークの構成員がここにきたファビア…DSAA参加選手を狙ってきました!すぐにこの区域に応援を呼んでください!」

 

ギンガもミウラを預け、アキラの後を追った。

 

「ええ!?」

 

その場に取り残されたはやては、子供を置いても行けずどうしていいかわからず唖然としているしかなかった。

 

そして二人は、ヴィクターが戦っていた現場に到着する。

 

「ヴィクトーリア!」

 

「おや、遅かったね」

 

そこには、分身体と思われるアレスに抱えられてぐったりしているヴィクターとがいた。

 

「ヴィ…」

 

「時雨露走」

 

ギンガがそれをみて叫ぶ前にアキラがアレスに攻撃を仕掛けていた。居合切りの要領で刀を抜きつつ突進し、アレスの首を掻っ切ったがそれは通り抜ける。

 

「くそっ、また本体じゃねぇ…」

 

「その子を放しなさい!」

 

ギンガが構える。しかし、追い詰められているのにしてはアレスは余裕の表情だ。

 

「残念ながらこの娘も我々の計画に必要になった。もらっていく」

 

「はいそうですかって渡すわけねぇだろクソったれ」

 

「攻撃も当てられないくせに何を………っ!?」

 

アレスの分身の身体が急に一部乱れた。

 

「これは…」

 

「アレス・マートン。お前の得意魔法は霧の魔法だろ?」

 

アキラは聞いてもいないアレスのフルネームとその得意魔法を言う。アレスはそのことにさすがに表情から余裕の色が消える。

 

「なぜ私のことを…」

 

アキラは刀を納刀しながら答えた。

 

「テメェが支援してた組織のトップはもうこっちの味方ってことだ」

 

「…クラウド君か……」

 

アレスは無念そうな顔をしながら消滅していく。

 

「相性が悪かったな。俺は氷の魔法が得意なんだよ。お前は霧っていうスクリーンに映された幻影だ。霧って言っても所詮は水。凍らせればお前も消えんだろ」

 

「さっきの一撃…氷結魔法が付与されていたわけか……だが、いい。この娘は返そう…一番の目的の物は、もう手に入る…もう私は君の檻から抜け出したよ」

 

「なんだと!?」

 

「クク…もう少し魔法の腕を磨き給え…」

 

その言葉を残してアレスの分身は消えた。それによって宙に放り出されたヴィクターをアキラはすぐに抱えた。

 

「おい!大丈夫か!」

 

「…………アキラさん?」

 

「良かった……大丈夫か?」

 

「怪我はない?」

 

二人の問いかけにヴィクターは頷く。まだ意識が朦朧としている感じではあるが、何が起きたかは理解はしているようだ。

 

「なにか、睡眠薬のようなものを浴びせられたようで、特に怪我とかは…」

 

「なら良かった。俺らは行くが…お前を一人にも出来ねぇな…」

 

「わたくしは大丈夫です…それより犯人を…」

 

「あたしらが付くから安心しな!」

 

奥から聞き覚えのある声がした。魔女に捕まったハリー達がイレイザーの魔法で脱出していたのだ。ハリーとその仲間たち、エルス、リオ、ミカヤの面子だ。これなら一人残していくよりも良いだろう。

 

「ここは私たちに任せて、アキラさんたちはあの男を!」

 

「すまねぇ頼んだ!」

 

「ごめんね!今ノーヴェが向かっているから!!」

 

二人はすぐに飛んだ。アレスの言動で既に彼の目的は分かっている。次の目的はファビアだ。アレスは、アークは古代ベルカの記憶を持った人物を集めている。

 

ファビアに協力すると言ったのはそれが理由だろう。そこに通信が入る。

 

『アキラさん!ギンガさん!』

 

「ルーちゃん!」

 

「どうしたこんな時に!」

 

『私今、あなた方と同じ場所にいます!ある少女を追っているんですが…』

 

ルーテシアが表示したのはファビアだ。

 

「その子ならさっき見かけて、今別の連中に追われてる可能性がある!その子の保護、頼めるか!?」

 

『了解!』

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

そしてルーテシアはファビアを追い詰めるも、氷の檻を抜け出したアレスに攻撃され、死にかけた。毒霧の中、ルーテシアは意識を失う。

 

「サヨナラだ」

 

「ルーテシア!!」

 

その毒霧を強力な吹雪が掻き消した。現場に駆け付けたアキラが放った吹雪だ。毒から解放されたルーテシアをギンガが支える。

 

「また君か…」

 

「こっちとしてはまたテメェかって言いてぇんだよ!ファビアを解放しろ!」

 

アキラは刀の切先をアレスに向けた。アレスの手の中には恐らく何らかの方法で意識を奪われたファビアが抱えられていた。

 

「残念ながらそうはいかない!クロゼルクの子孫、クラウスの子孫、オリヴィエのクローン、そして…」

 

アレスは手に持っている本を開いてアキラに見せる。その本のページにはジークが封印されていた。

 

「エレミアの子孫。本人は覚えてなくても深層心理に記憶は宿っている。それで十分…」

 

刹那、アレスの腕が切り落とされた。

 

「!!」

 

「死ね」

 

もうアキラは容赦しなかった。完全に殺しに行っていた。次の攻撃で首を落とすつもりだったがその攻撃を寸止めした。

 

「てめぇ…」

 

「何のための人質だと思ってる」

 

アレスはヴィヴィオとアインハルトが捕らえられている瓶を自身の首に当てアキラの刀が来る位置に置いていた。

 

「…?」

 

「…ランサーブレイク」

 

アキラは瓶を見ながら眉間にしわを寄せていた。その隙にアレスの攻撃を食らい、吹っ飛んだ。

 

「アキラ君!」

 

吹っ飛んだアキラをギンガがキャッチした。

 

「……」

 

「やってくれたね……まったく」

 

アレスは腕の止血を行いながら本を構えた。

 

「さぁ、もう油断はしない………人質の命がどうなってもいいなら、来るがいい…」

 

「………っ!」

 

ギンガはどうするのが正解か、アキラの顔を見る。だが、アキラは不思議と焦っている様子はなかった。

 

「行けよ」

 

「アキラ君!?」

 

冷静な態度で返した。ギンガが理由を尋ねようとしたがアキラは手で静止を促す。

 

「人質取られちゃどうにもならねぇ。悔しいが、見逃すしかなさそうだ」

 

「賢い選択だ」

 

アレスはにやりと笑うと転移魔法を行って消えた。すぐにギンガが掴みかかってきた。

 

「アキラ君どうして!」

 

「落ち着け。さっき、瓶の中のアインハルトが俺に伝えてくれた」

 

アキラがアレスの首を斬れず止めたとき、瓶の中からアインハルトがジェスチャーで伝えたのだ。

 

「アインハルトの野郎、服もデバイスも奪われてるくせして俺の渡したあのスイッチだけ持ってやがった。あれは持ってるやつの位置情報もわかる………つまり…」

 

そこまで言ってギンガがハッとする。

 

「アークのアジトが、ノーリの居場所がわかる!」

 

「その通りだ。アインハルト達もすぐ助けに行くぞ!」

 

「うん!今度こそ」

 

「ああ、取り返すぞ!」

 

 

 

続く



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第二十七話 降臨!神を継ぐもの!

後2話か1話ほどで終わり、Vivid本編に戻ります。それでもここのストーリーは大切なんで是非読んでくださいw

感想、投票、評価随時募集中です!!


無限書庫内で起きた襲撃事件。敵の撤退から30分経った現在。アキラはギンガをバイクの後ろに乗せてバイク専用装備、ブラックレイランサーを装備させて発進準備を整えていた。

 

誘拐されたアインハルトが持っていた通信機によって既に敵組織「アーク」のアジトは掴んでいる。敵が追跡を捲くために様々な次元を転移したが、最終的にミッド西部の海に浮かぶ島で止まった。もう向かうだけであったがアキラはとある人物を待っていた。

 

「アキラさん!」

 

アキラを呼ぶ声と共に車が到着した。運転手はメグで助手席には待っていた人物、セッテが乗っている。セッテは車から降りると、アキラに向かって駆けた。

 

セッテはその手に柄が白い刀を持っている。

 

「お待たせしました」

 

「ああ。そっちに事件に関わった連中がいる。事情聴取やらなんやらは頼んだ」

 

セッテから刀を受け得取るとアキラはそれを背負い、無限書庫から出た少女たちを指さす。

 

「了解しました」

 

アキラはセッテにあとを頼むと、バイクのエンジンを入れた。

 

「行くぞギンガ!」

 

「うん!」

 

「「ウィング!ロード!!」」

 

バイクからウィングロードが発生し、アキラとギンガは海の上を走っていった。

 

「お嬢様!」

 

二人が去ったあと車からヴィクターの執事、エドガーが下りてくる。

 

「ご無事で…」

 

「ええ。まだちょっと、くらくらするけど。それよりエドガー、大会は今どんな感じ?」

 

頭を押さえつつもヴィクターはエドガーに訪ねた。

 

「大会……ですか?」

 

「ノーリ選手をどうするか、大会そのものをどうするかって話よ」

 

意外な話題だったが、エドガーは言われた情報を取り出すために端末を取り出した。

 

「大会側は、なるべく早く再開させる考えのようです。恐らくノーリ選手は棄権扱いにされるかと」

 

話を聞いたヴィクターは小さくため息をついた。

 

「………行くわよエドガー」

 

「どこにですか?」

 

「大会主催者グループに。不良娘、エルスさん、それからミカヤさん。あなた方にも協力してもらってもよろしいかしら」

 

指名された三人は顔を見合わせる。

 

「ん?俺達が?」

 

「それからエドガー、声をかけられるなるべく上位のDASS選手を集められるだけ集めて頂戴」

 

エドガーはなぜそんなことを言ってくるのか分からなかったが、とにかく言われた通り連絡先のデータを開いた。

 

ヴィクターは自身の肩をそっと触った。さっきのアキラに助けられた時の触感がまだ残ってる。

 

(良かった………大丈夫か?)

 

「ダールグリュン家たるもの、受けた恩は何十倍にもして返しますわ」

 

 

 

-ミッド西部 海上-

 

 

 

アキラはアークのアジトに向けてバイクを走らせていた。そこにはやてから通信が入る。

 

『ギンガ、アキラ君。無限書庫でエレミアの手記を見付けたよ』

 

「本当ですか!?」

 

「なんかダズマに関する情報はあったか!?」

 

『時間もないからまとめると、ダズマはかつて存在していた神に等しい力を持った人物で、諸国の王とも接触があったらしい。そして古代ベルカの戦乱の時代、この星を壊滅させるほど巨大な隕石からこの星を護り散ったらしいんよ。ダズマは放浪者で、同じ放浪の一族だったエレミアと友好的な関係だったらしくて、ダズマの死に際にも立ち会ったらしいわ』

 

「………結局被害をいたずらに増やしただけでそれしか情報は得られないのかよ…っ!!」

 

アキラは苛立ちを感じた。子供たちを危険にさらしておいて大切な情報を手に入れられなかった。罪悪感がアキラを襲う。

 

『アキラ君にそこまで罪はないよ。行きたいって言ったのはあの子らやし、うちらもすぐに動けんかったのも問題やった』

 

「そうだよ…アキラ君はみんなを助けてくれたんだし、むしろ一番頑張ったって…」

 

「そういうことにしておこう。さぁ、目的地が見えたぜ」

 

島が近づいてきた。どこから突入すべきか考えていたとき、島からなにか飛んできた。

 

「しゃぁ!」

 

「!!」

 

飛んできたのは人間だった。その男はアキラのバイクに刃をむけたが、バイクに装備されたブラックレイランサーの鎧に弾かれた。

 

「ぐぅぅぅぅ!!!」

 

「へぇ、硬いじゃん。そのバイク」

 

攻撃を弾かれた男はウィングロードの上に降り立った。

 

「…アークか」

 

「当たりじゃん?俺はシエン。はぁ!!」

 

シエンと名乗った男はウィングロードの上でいきなり切りかかってくる。アキラはすぐにエンジンを入れた。

 

「ギンガ!掴まれ!」

 

「うん!」

 

二人はバイクでウィングロードから飛び降り、島に着陸した。当然男は追ってくるが、アキラはバイクをすぐに発進させて振り切ろうとする。

 

「ロック!」

 

後ろから追っかけているシエンが叫ぶとアキラたちの前に巨大な何かが降り立つ。

 

「!?」

 

「うぉぉぉぉ!!」

 

それは巨漢の男だった。敵であることを視認したアキラはブラックレイランサーに搭載された砲塔を起動させ、巨大な魔力砲を男にロックと呼ばれた男に向けて撃った。

 

「ぬるい!」

 

ロックは魔力砲を腕ではじいた。

 

「なんて奴だ!!」

 

アキラは急いで方向を変え、二人からある程度距離を取ったところで止まる。

 

「これ以上は行かせないわけじゃん?」

 

「我らが神の復活の邪魔はさせぬ」

 

二人はアキラたちの前に立ちはだかった。アキラとギンガはバイクを降りてバリアジャケットを装備した。

 

「悪いが邪魔をするのが俺らの仕事でね」

 

「ノーリも、他のみんなも返してもらうわ」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

-アークアジト内-

 

 

 

「きゃあ!!」

 

アジト内でアインハルトは閉じ込められてた瓶から出される。アレスは用意しておいた毛布をアインハルトに渡す。

 

「やぁ、覇王の末裔ちゃん。とりあえずこれでも羽織ってくれたま…」

 

「武装形態!!」

 

すかさずアインハルトはバリアジャケットを身にまとい、アレスに襲い掛かった。

 

「覇王!空破断!!!」

 

「おっと」

 

アレスは空破断を回避し、魔導書を出した。

 

「スリープミスト」

 

「!」

 

魔導書から睡眠作用のある霧を発生させ、アインハルトを包み込む。それを食らったアインハルトはすぐに膝をつき、壁にもたれかかった。

 

「悪いがもう少し眠っててもらえるかな?なぁに、傷はつけないさ。身体にも手を出さない。眠っている間にすべて終わる。そう…全て…」

 

「くっ……ノーリさん…」

 

薄れゆく意識の中、祭壇に寝かされているノーリが視界に映った。助けたいという思いでノーリに手を伸ばす。

 

「ん?ああ、彼か。もう彼には会えないだろうが、なぁに。心配することはない。ダズマ様がもたらす世界の方が、素晴らしいとすぐ理解するだろう」

 

(ああ…だめだ……意識が…ノーリさん…ヴィヴィオさん…チャンピオン………それから、あの魔女の…女の子…私が…………助…け………)

 

「四人…まぁ、足りるだろう。さて、実験を始めようか」

 

アインハルトを生体ポッドに運び、システムを起動させる。ヴィヴィオ、ジーク、ファビア、アインハルトが入った生体ポッドが起動し、四人の記憶の奥の奥に眠る先祖の記憶を掘り起こす。

 

「う…うう…」

 

「ああ!!」

 

「あぁあぁぁ!!」

 

「ぐぅぅぅ…!」

 

先祖の記憶の中の、ダズマと触れ合った記憶を掘り出してそれをノーリの頭の中で繋げ、ダズマの人格を作り出す。

 

「ダズマ様は過去に多くの王と触れ合った、その触れ合った記憶の客観的な人格をベースとして新たな人格を創る…さぁ、我らが王、復活の時です」

 

記憶がノーリに送り込まれた。

 

「う……あぁぁ…ぐぅぅ…あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ノーリは呻き声を上げながら体を捩る。身体から虹色の魔力が発生し、それが緑に代わり、最終的に黒くなる。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ノーリの身体に黒い模様が入り始める。それが全身に回ると同時にノーリが目を開ける。その瞳は深紅に染まっていた。

 

 

 

-アジト外-

 

 

 

アジトの外でアキラはシエンと、ギンガはロックと戦闘を続けていた。以外にも腕は立つ二人であるのと、早く助けに行きたい気持ちが焦りを生み、うまく戦えてなかった。

 

(くそっ…もう………殺すしかないか!!)

 

殺さないよう戦っていたアキラだったがアキラに限界が来た。一旦刀を収納し距離を取る。

 

「一閃必殺…………」

 

居合切りで首を切り落とそうとしたとき、アジトをカモフラージュした山から魔力で形成された光の柱が発生した。

 

「!?」

 

「なに!?」

 

「おお………我らが王の復活だ…」

 

「残念だったじゃん公僕………復活の儀は成功した!!」

 

「クソったれ…!」

 

復活に成功したことによって二人に生まれた隙。その隙にアキラは抜刀した。

 

「時雨露走」

 

シエンの右足を切り落とし、間髪入れずロックめがけて飛んだ。

 

「獅子皇爪撃」

 

アキラの刀がロックの足も斬り落とす。返り血で赤く染まったアキラを見て、ギンガは少し怯えた表情をした。

 

「アキラ君……」

 

「………悪い。怖がらせたな」

 

「こんなやり方…」

 

「死にゃしねぇよ。急ぐぞ。間に合わなく…!」

 

刹那、アキラはギンガをかばうように抱きかかえた。ギンガの視線の先にあった偽装山が爆散した。アキラはその爆発を察知し、ギンガを抱きかかえたのだ。そして爆発した場所から誰かが空中に浮かび上がっていく。

 

「あれは………」

 

「ノーリ?」

 

浮かび上がっているノーリの上着はなく、髪は全体的に立ち、赤黒く発光してる。

 

「………俺が、また、目覚めてしまうとは…」

 

「ノーリ!!」

 

「ノーリ!!」

 

アキラは翼で、ギンガはウィングロードでノーリに向かって飛ぶ。

 

「………お前たちは」

 

「お前………ダズマか?」

 

「それとも、ノーリ?」

 

質問に対し、ノーリは少し考えてから答える。

 

「………我の名は、ダズマ。神の代行者だ」

 

「ダズマ様!!我らが願いを!どうか、我らに力を!!」

 

ダズマの下でアークの構成員たちが叫んだ。ダズマはそれを瞳だけ動かして見る。

 

「…………ファンタジーツリー」

 

ダズマが呟くと、頭上かにミッドでもベルカでもない複雑な魔法陣が展開されてそこから触手が伸びた。

 

「やめろ!あいつらは…」

 

力を与えるのかと思ったアキラはダズマに静止を呼びかけるが、ダズマは止める様子はない。

 

「心配するな」

 

伸びた枝はアークの構成員を次々と包み込む。それはシエンやロックも例外なく。

 

「…これは……」

 

「彼らの目的は、「悪」とまでは言わないが「善」ではない。故に眠っていてもらう…」

 

「………どうやら話してわからねぇ奴でもなさそうだ。なぁ、アークの言いなりになる気はないんなら、返してくれないか?ノーリの身体を」

 

少なくともアークには肩入れしないとわかったアキラは念のため交渉に出た。もしこちらに味方してくれるなら何も言わずとも返してくれる可能性は高かったが、こちらの味方と決まったわけではない。

 

「それは………できない」

 

「なに?」

 

「私は、私の眼は世界を見た。この世界の全てを。そして知った。世界の醜さを。悪意だ。この世界は悪意が満ちている」

 

なにやら達観した意見を言い始めた時点でアキラは交渉を諦めていた。腰にある刀に手を添えて戦闘態勢に移行していた。

 

「…で?」

 

「少なくとも、我が生きていた古代ベルカの時代。その時代にも戦争はあった。その戦争には少なくとも正義あった互いにな。祖国のため、仲間のため、家族のため。しかし、今の世界の人は多くが己の欲ためにしか動かん」

 

「それでテメェはどうすんだ」

 

「世界を管理する。上に私一人がいて、それ以外が上も下もない平等な世界にする。それが我にできることだ」

 

「そうかい。なら、さっさとまた眠れ。現代にテメェの居場所はねぇよ!」

 

アキラは抜刀してダズマに切りかかった。切るつもりはない。峰打ちで終わらせるつもりだ。しかし、刃が届く前にアキラはダズマの出現させた枝にくるまれた。

 

「!!」

 

アキラは必死に抵抗するがうまく脱出できずにどんどん枝に包まれていく。

 

(なんだこりゃ!斬れねぇのにこっちを確実に捕獲してきやがる!)

 

「アキラ君!きゃぁ!!」

 

アキラを助けようとしたギンガも巻き添えになる。ギンガに被害が出た瞬間、アキラの目つきが急に変わったが、それはすぐに力ないものへ変化した。

 

「ぐ………ギン……ガ」

 

枝に完全に飲み込まれると、アキラは段々意識が薄れていきすぐに意識を完全に失う。その様子を観察しながらつぶやく。

 

「結局どうあがいても、人と人とが争いをなくすことは不可能だ。だから眠れ。その身朽ち果てるまで」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「…」

 

アキラは目を覚ますと、見覚えのある、懐かしい庭園に立っていた。

 

「なんで………ここに」

 

見間違えるはずもない。ここはかつてアキラが護衛し、ミスで死なせてしまった少女、セシルとその家族が住んでいた屋敷の庭園だ。

 

「アキラ!」

 

ぼーっと立っていると背後から声がした。懐かしい声だ。聞いたのは何年ぶりだろうか。ずっと、ずっと聞きたかった元気な声。

 

「セ………セシル」

 

「うん!ほらこっち来て!ギンガも待ってるんだから!」

 

振り向くと、庭園のベンチにはギンガが手を振っていた。

 

「…あ、ああ………」

 

疑問はすぐに消え、アキラはセシルについていった。

 

 

一方、ギンガは自宅の庭で立ち尽くしていた。今、アキラと住んでいる家ではなく、実家の方だ。

 

目の前には、小さい頃のスバルと若いゲンヤ、そして死んだはずの母、クイントとそのクイントに抱っこされた幼いアキラだった。

 

「ギンガ、そんなところで何してるの?」

 

「ギン姉~!!」

 

自身の腕を見ると自分自身も昔の姿に戻っていることに気づいた。だがそんなことはすぐどうでもよくなった。

 

「うん今行くね!」

 

 

 

続く

 



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第二十八話 謀略!アレスの罠!

後2話くらいでこの事件は終結します。その次の話で一旦Vividをひとくくりさせます。


「う…」

 

アインハルトは生体ポッド内で目を覚ました。辺りを見回すといくつかの生体ポッドと木の根のようなものが壁一面を覆っていた。

 

「どうなって………ぐ…」

 

アインハルトは無理やり内側からポッドの出口を開き、そこから出た。

 

「……あれは…」

 

天井に空いた穴の先にいたのはどこかおかしな姿のノーリがいた。その中身がダズマであることは知らないが、ノーリではないことは気づいた。更に、いくつかのポッドの中に見覚えのある人物がいることにも。

 

「そうだ!ヴィヴィオさん!チャンピオン!それに…魔女の方…」

 

アインハルトは急いで生体ポッドのコントロール画面を弄ってヴィヴィオ達を解放した。

 

「大丈夫ですか!?皆さん!!」

 

「…………アインハルトさん?」

 

「うーん……ハルにゃん?」

 

ジークとヴィヴィオは目を覚ました。

 

「良かった。大丈夫ですか?どこか痛んだり…」

 

「大丈夫だと思います…」

 

「ウチも…小さくなったこと以外は…」

 

「大丈夫ですか?」

 

「うん、この魔女っ娘に言えば多分治してもらえると思うから」

 

そこからどうするか、考えていた時にアインハルトの裾を何者かが掴んだ。

 

「にゃあ」

 

「ティオ!」

 

「え?ティオ?あ、クリスも!」

 

ティオとクリスがやってきていた。この二機は無限書庫内で衣服と共に剥がされたが、アキラが回収して連れてきていた。そのことをクリスが身体の動きで伝える。

 

「良かった。少し安心できますね……」

 

「でも、アキラさんたちはどこに…」

 

「わからんけど、とにかくここを出よう。上にいるのがノーリなら二人もきっと上や」

 

ヴィヴィオとアインハルトは大人モードになり、ファビアはヴィヴィオに背負われてアジトの中を駆けまわる。

 

道中、壁を覆っている木の根の先に人が包まれているのを見つける。

 

「これは…」

 

「助けなくていいんでしょうか……」

 

「それは局員の仕事。うちらはとにかく元気な姿で家に帰るのが仕事や!」

 

先導するジークが伝えた。ヴィヴィオは納得いっていない様子だったが綺麗ごとを言ってられない状況なのも確かだった。

 

(もし、二人が今も戦っているなら音がないのは不自然や……嫌な予感がする……)

 

三人は何とかアジトから抜け出し、アジトの外から状況を見た。するとそこには驚きの光景が広がっていた。

 

「!」

 

「これは……」

 

「………」

 

アジトの中心部から巨大な樹が生え、その前にはまるで樹を護るようにノーリが浮いていた。

 

「ノーリさん……」

 

「あれはもうノーリ君やないね……」

 

三人も状況を理解した。そして、それと同時にアキラとギンガを探す。

 

「………アキラさんは…どこに……」

 

「あそこ!」

 

ヴィヴィオが指を指した先には木の枝に包まれて、眠っているギンガがいた。三人は急いでアジトを上り、ギンガの元へ向かった。

 

「ギンガさん!」

 

「アキラさんもいます!」

 

完全に予想外の状況で三人は焦る。少なくともヴィヴィオは絶対にアキラとギンガが負けるとは思っていなかった。二人の実力はここにいる誰よりも知っている。二人ならきっとノーリを助けてくれると、思っていた。

 

「そんな……」

 

「ギンガさん!しっかりして!ギンガさん!!」

 

「ギンガさん!!」

 

木の枝に包まれたギンガは眠っていた。

 

 

 

-ギンガの精神世界-

 

 

 

ギンガは幼い姿である筈もない世界を楽しんでいた。クイントが生きていて、アキラが一緒にいる世界。ギンガが管理局で戦うことも、アキラが悲しみを背負うこともなかった世界。

 

「ほら、ご飯できたわよ。ギンガ、運ぶの手伝って」

 

「はーい!」

 

キッチンに駆けていくとき、ギンガはその足を止めた。

 

「…」

 

「ギンガ?」

 

「………」

 

ギンガは視線を庭に向けた。庭には見知らぬ少女がいた。二色の眼の金髪少女。何かを必死に叫んでいるがガラス窓越しだからか何を言っているのか聞こえない。

 

「……何を…言っているの?」

 

「…出て……………そこから……出て!」

 

出てと言っていることに気づく。ギンガは疑問符を浮かべる。

 

「どうして?なんで?」

 

「…」

 

そこに、幼いアキラがやってきて窓を開けた。

 

「アキラ君?」

 

アキラは何も言わない。ただ黙って微笑み、ギンガの背中を押した。ギンガは押された勢いで庭に飛び出す。ギンガはそのまま少女に手を引かれて庭の先へ走っていった。

 

 

 

-現実世界-

 

 

 

「はっ!?」

 

ギンガが目覚めると目の前にヴィヴィオとジーク、アインハルトがいた。

 

「貴方たち…」

 

「ギンガさん!!」

 

「ギンガさん大丈夫!?」

 

さっきまで夢の中にいたギンガはいきなり目の前に現れたヴィヴィオ達に困惑するが、すぐに状況を思い出した。

 

「はっ!……アキラ君、アキラ君は!?」

 

「あそこです…」

 

ヴィヴィオの指さす先にはいまだに眠っているアキラの姿があった。アキラはアインハルトに声をかけられているが反応はない。

 

「ヴィヴィオさん、こっちもお願いします!」

 

「はい!」

 

ヴィヴィオはアキラの元へ走り、アキラを包んでいる枝を掴んで引きちぎった。ギンガはその姿を見て驚く。さっき自分やアキラが枝を掴もうしたとき、手や刀は枝をすり抜けた。それは今も同じだ。見たところアインハルトもその様子だ。

 

なのにヴィヴィオだけはしっかり掴んで破壊している。

 

「どうして…」

 

「私にもわかりません!それよりギンガさん!アキラさんに呼びかけてください!!」

 

「………うん!」

 

ギンガは枝の中から抜け出してアキラの近くに行き、その腕を掴む。しかしその時、後ろから途方もない魔力を感じた。全員が振り向くとその先にいたのはダズマだった。

 

「なにやら騒がしいと思えば………」

 

「ノーリ……」

 

「ノーリさん」

 

変わり果てた姿のノーリを目の当たりにして、三人は驚く。

 

「どうやってそこから抜け出したか知らんが、お前たちも眠れ。ファンタジーツリー!」

 

ノーリが腕を前に出すとファンタジーツリー、即ち本部に伸びた巨大な樹から枝が伸びてヴィヴィオ達を包もうとする。

 

「皆さん私の後ろに下がってください!」

 

ヴィヴィオが前に出る。

 

「アクセルシューター!!」

 

ヴィヴィオが放った魔力弾は枝を破壊した。そのことにダズマは驚く。

 

「なに?」

 

「ギンガさん!アキラさんを早く!」

 

「うん………アキラ君!アキラ君!!」

 

 

 

-アキラの精神世界-

 

 

 

「………」

 

アキラは夢の世界でセシルと遊んでいた。その様子をギンガも微笑ましく眺めている。

 

「どうしたの?アキラ」

 

「…………」

 

アキラはその世界を見渡す。

 

「アキラ?」

 

「アキラ君?」

 

「…………悪いな、セシル」

 

アキラは一通り見てからセシルに微笑んだ。アキラが滅多に見せない顔だ。

 

「?」

 

「ごめんな、俺はもう後ろは振り返らないって決めたんだ」

 

刹那、世界にひびが入り、砕け散った。

 

 

 

-現実世界-

 

 

 

「もうこれ以上は…」

 

ヴィヴィオはその場の全員を護りながら枝を弾き続けていたがそろそろ限界が訪れていた。元々ヴィヴィオは持久力がないのだ。

 

疲労によって生まれた隙に、新たな枝が迫る。完全にヴィヴィオは隙を突かれ、やられたと悟る。しかし、その枝を何者かがぶった切る。

 

「!」

 

「悪い、待たせたな」

 

アキラだ。

 

だが、アキラはヴィヴィオを救ってすぐに倒れてしまう。

 

「アキラさん!?」

 

「すまねぇ………目覚めてすぐじゃ……うまくいかない」

 

アキラは跪いてヴィヴィオに支えられる。

 

「………貴様たち…どうやってファンタジーツリーを切った?」

 

「さぁな………」

 

ファンタジーツリーを切れた理由はアキラは自身の技でやったことは分かっていた。だが、ヴィヴィオが触れられる理由がわからない。

 

「………そうか、お前も」

 

ダズマはヴィヴィオを見て何かを悟る。

 

「ギンガ、こいつら連れて早く逃げろ。ノーリは、俺が何とかする」

 

アキラは何とか立ち上がり、刀を構えた。ギンガならウィングロードを使って何とか逃げ切れるかもしれないと考えたのだ。

 

「………うん!」

 

ギンガは少し悩んでから頷いた。ギンガにとっても苦渋の決断のはずだ。それでもいまはこの少女たちの救出が先決だ。

 

「逃がさん」

 

ギンガが逃げようとした先にファンタジーツリーの枝が壁を作るように伸びてきた。ヴィヴィオ一人でこれを突破するのは難しいだろう。

 

「…」

 

「お前たちも早く眠れ」

 

「…………ヴィヴィオ。悪い、協力してくれ」

 

そう簡単に行くとは思ってなかった。アキラはヴィヴィオに耳打ちする。そして作戦を念話で伝えた。民間人、それも子供に協力を煽るのは少し無理があるが、今はもうなりふり構っていられない。相手は強力な魔導師、使役するのは触れることすらできない幻影の樹。

 

使える手は使うしかなかった。幸いダズマ以外の敵はファンタジーツリーのなかで、ダズマも殺す気はないと思われる。失敗しても死ぬことはないと考えたのだ。

 

「…はい!何とかやってみます!」

 

「すまねぇ……ギンガ、ヴィヴィオのこと頼んだ」

 

「うん!ウィング!ロード!!!」

 

アキラが作戦決行の合図を出すと、ギンガがウィングロードを展開してその上をヴィヴィオが走り始める。ギンガもその後を追いかけた。

 

アインハルトはファンタジーツリーからファビアを抱えながら逃げる役割を頼まれた。

 

「でぇぇぇぇぇぇ!!」

 

ヴィヴィオはファンタジーツリーを一部ぶっ飛ばしてその先へ進んでいく。

 

「どこへ………まさか!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ダズマがヴィヴィオの目的に気づいた瞬間、アキラが目の前に迫っていた。とっさにアキラの剣撃をシールドで防ぐ。

 

「ぐっ!…………貴様ファンタジーツリーを…」

 

「ああ、とりあえず折らせてもらうぜ」

 

「なぜだ、なぜ安楽な夢を受け入れない!」

 

「夢なんてしょせん夢だろうが!俺が望むのは、ギンガと共に紡ぐ、現実の未来だ!」

 

ダズマに反撃させないため、ヴィヴィオに注意を向かせないにアキラは必死に猛攻を続ける。

 

「夢だろうと同じだろう!」

 

ダズマは一旦距離を置いてから魔力剣を拳から出現させ、アキラに突進した。

 

「んなもんただの逃避じゃねぇか!」

 

アキラはダズマの剣を受け止めながら叫んだ。

 

「確かにすべてが理想通りに行くのが一番いいだろうさ!そんな世界なら、大切な人を失うこともない…けどな、そうじゃねぇんだよ!そうじゃないから人生は美しいんだ!それを乗り越えることに意味があるんだ!それぞれの人生を、その瞬間瞬間を必死に生きてるんだ!テメェがどうやって今の世界を知ったのか知らねぇがな!一人一人の人生も見もしないで!上部しか知らねぇようなやつが、世界を好き勝手して言い分けねぇだろ!」

 

そのアキラの叫びを聞いた時、ダズマは目を見開く。なにか、驚いたような表情だったがアキラにファンタジーツリーの枝が迫ったためにいったん離れた。

 

「クソっ!」

 

「…お前、まさか…………」

 

アキラを見ながらダズマは表情を動かさない。何かすごく驚いているようだ。アキラに何かを語り掛けようとしたとき、ダズマの腹部から血があふれた。

 

「…っ!」

 

「なっ………」

 

ダズマの腹部を魔力槍が貫いていた。

 

「これは……」

 

ダズマは跪き、血を吐く。その背後にはアレスがいた。どうやら他のアークの構成員がファンタジーツリーに捕まっているときに一人見つからない場所にいたようだ。

 

「は、はは…やっと、ここまで来た………いただくぞ!その力!」

 

アレスは跪いたダズマの身体にジーンリンカーコア押し付ける。その瞬間、アレスの身体から魔力が、力がジーンリンカーコアに吸われ始める。

 

「ぐ………あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ダズマ…!クソったれぇ!」

 

アキラは立ち上がってアレスに突進した。アレスはその突進を避け、後ろに下がった。その行動に

 

「はははは!もう遅い!ダズマの力のほとんどはここだ!!」

 

「てめぇ、どういうつもりだ。テメェは、ダズマを慕っているんじゃねぇのか」

 

「………いいや。それは表面上さ。私は、ダズマを恨んでいるのさずっとずっと復讐したくて、だから復活させたのさ…この力を使って、この世界を破壊する!それが私の復讐だ!!」

 

「ざけんなぁ!!!」

 

アキラは残っているアレスの片手をぶった切ろうとしたがそれより早くアレスは自身の胸に押し付けて融合させた。

 

「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

アレスの体内に魔力が吸収される。それによる衝撃でアキラは吹っ飛ばされた。ダズマの魔力を体内に取り入れることによって、アレスの身体にノーリの肉体に入っている模様と同じ模様が入る。

 

「クソっ!」

 

「お前が管理しようとした世界は私が破壊する!こんな世界、私とて未練はない!」

 

 

 

続く



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第二十九話 堂々!アキラの力!

何とか完成させました…。あと2~」3話でいったん切ります。(何回言ってんだこれ)
コロナやらなんやらで世間は大変ですが皆さんは大丈夫でしょうか。私は少々忙しいです。次回を上げるのも少々時間がかかるかもしれません。

次回もお楽しみに!


私の生まれた家は、宗教にご熱心な家族だった。

 

まぁ、それだけならただの、「少し変わった家族」くらいだったろう。私自身家族に不満を持ったことはなかった。

 

私の家族が変わったのは、私が12歳の時。

 

私の両親は、「ダズマ」を信仰していた。個人的な信仰で、どこの宗教組織にも所属していなかった。そんなとき、一人の男が家にやってきた。

 

男はダズマを信仰する巨大な宗教組織の一員だった。僕の両親は、当然その組織に入った。いや、入ってしまった。その宗教を仕切っている男は、ダズマを身に宿したなんていう嘘で、人を…金を集めてる男だった。

 

俺の両親も騙され、金を貢ぎ続け、金を稼ぐために危ない仕事に手を出して捕まった。

 

そうして最終的に家族は崩壊。幸せなはずだった家族はバラバラになった。僕は男に復讐を誓った。

 

しかし、男とその組織はすぐに捕まった。信者に犯罪侵させてまで金を貢がさせたことが露見して。復讐の相手を失った僕は、家族が崩壊した根底のダズマに復讐することを決意したんだ。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「お前………そんな理由で、不特定多数の人々を巻き込んでいいと思ってんのか!!」

 

アキラは憤るが、アレスは少し切なそうな顔をした。

 

「……アキラ・ナカジマだったね。君は、何か心の支えになるような物はあるかい?」

 

「なに?」

 

唐突な質問だった。アキラが反応に困っているのをみてアレスは続ける。

 

「察するに、君のそばにいたあ紫色の髪の女性……だろうか?僕にとっては家族だった。例え、宗教にハマってようが、狂ってようが………家族さえいてくれればそれで…」

 

「…」

 

「その家族も……復讐の相手も失った。生きる意味を全部失ってしまったんだ。だから、これは僕の復讐なんだ。世界に対する…」

 

「今すぐこんな馬鹿な真似は止せ……」

 

アキラは何とかアレスを止めようとするが聞く耳は持たない様だ。

 

「もう遅い!ここまでやったんだ!いまさら引き下がれるか!」

 

アレスは腕を前に出し、魔力を集束し始めた。その手の狙う先は、アキラではない。管理局地上本部だ。

 

「よせ!!」

 

「世界の全てを破壊し!ルールを作り変える!!誰もが平等の世界は私が作る!消え去れ管理局!!!」

 

魔力集束率は明らかに一発で管理局の本局の建物を消滅させるには十分な魔力量だった。ここで阻止すれば飽和しきれないエネルギーが爆発を起こすだろう。

 

「クソったれぇ!!!」

 

アキラは射線上に向かって飛び出した。翼をだして海上を可能な限り速く管理局に向けて飛んだ。

 

「防げるものか!管理局諸とも消えるがいい!」

 

アレスはアキラごと消すつもりで高密度魔力弾を放つ。アキラは出発前にセッテに持ってこさせた刀を構える。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

魔力弾は海上のアキラに命中したと同時に大爆発を起こした。着弾地点真下の海の表面は蒸発するほどの高熱が発生していた。

 

(思ったより爆発が小さいな……まぁいい。あの男は死んだだろう)

 

「アキラさん!?」

 

そこにファビアを背負い、ファンタジーツリーから逃げ回っていたアインハルトが現れた。急にファンタジーツリーの枝が折って来なくなったため、様子を見に来たのだが、それをアレスに見られてしまう。

 

「ああ、まだ無事だったのか」

 

「!」

 

アレスの様子がおかしいことにアインハルトはすぐに気づいた。さらに、血を流しながら倒れているノーリ、及びダズマにも気づいてすべてを察する。

 

「ノーリさん…」

 

「どうするんだい?クラウスの末裔。大人しく私に従うなら、手荒く扱うのはよそう」

 

「逃げろ………クラウスの末裔!」

 

苦しそうな声で誰かが言った。それはダズマだった。腹部を貫かれ、力のほとんどを奪われながらもダズマは起き上がり、アインハルトをかばうように立ち上がった。

 

「なんのつもりだ?ダズマ」

 

「我は誰の死も望んでいない。私の力が悪用されることもな。だから貴様を倒し、力を返してもらう!」

 

なんとか起き上がるも、ダズマはすぐに倒れかける。それをアインハルトが支えた。

 

「私より魔力量がないのになに言ってるんですか…。それに、「それ」は貴方の身体じゃありません。それ以上その身体を使うのは、私が絶対許しません!」

 

「…」

 

アインハルトの言葉にダズマは驚いた顔をした。

 

「ファビアさんを、頼めますか…。ファビアさんに手を出しても、ノーリさんの身体をそれ以上酷使しても、私はあなたを許しません!覚えておいてください!」

 

ダズマにファビアを預け、アインハルトはアレスに対峙した。力の差は歴然だ。しかし、アインハルトには引くという選択肢はない。

 

正しくは逃げたところでどうしようもないのが分かっていた。ここは小さな島。逃げる先もない。目の前でアキラが死ぬのを見てしまった。此処で全滅してはアキラが死んだ意味はないと思ったのだ。

 

「力の差は分かっているだろう?なぜ戦おうとする?」

 

「せめてもの時間稼ぎです!覇王!空破断!!」

 

空破断をアレスに向けて放ったがそれは簡単に防がれる。しかし想定内だ。アインハルトは一気に接近し、断空拳をアレスに撃ち込んだ。

 

「断空拳!」

 

「…」

 

断空拳すら片手で防がれる。すぐに後方に飛ぼうとしたが、それより早くアレスが魔力槍をアインハルトの腹部に向けて放っていた。

 

「!!!」

 

死を覚悟した。しかし二人の間に何者かが入り込み、魔力槍を防いでアインハルトを抱えてダズマの前まで飛んだ。

 

「…アキラさん?」

 

「悪い。遅くなった」

 

現れたのは、透き通った紫色の鎧を纏ったアキラだった。

 

「なに?」

 

完全にアキラを殺したと思っていたアキラが現れたことにアレスが驚愕する。

 

「あの爆発をどうやって生き残った…」

 

「悪いな、この鎧は絶対に破られねぇ。例え、神であろうとな」

 

アレスはダズマの力を使ってアキラの纏う鎧を解析しようとした。ダズマの力の最も優良な部分は解析能力にある。

 

ダズマは原初を知っている。原初を知っているということはすべての事象、物体が原初からどのような進化を辿って生まれたかを知ることが出来るということだ。

 

(どんな手品だろうが…このダズマの力の前では何の意味も持たないことを………)

 

しかし、解析は失敗した。原初を辿れないのだ。それはアキラの纏う鎧が少なくともこの星で生まれたわけではないことの証明だった。

 

(馬鹿な………!!)

 

そんな中、ダズマはアキラを見て何かに気づいていた。

 

(そうか………お前が…)

 

「なんなんだお前はぁァァァァ!!」

 

突然逆上したアレスが途方もない数の魔力槍を展開し、アキラに向けて飛ばした。

 

「無駄だ」

 

それに対してアキラが手を前に出すと鎧から紫色の結晶が発生し、剥がれ落ちてアキラの前に飛ぶ。結晶は刺々しい形から盾のような形に姿を変え、アレスの魔力槍を全て防ぎきった。

 

「馬鹿な……馬鹿な…」

 

 

 

-ギンガside-

 

 

 

ファンタジーツリーのを折りに来たギンガたちはその根元へ辿り着いていた。

 

「あれが…」

 

「結構太いですね…どうしましょう、わたし、あんなもの折れる魔法なんて持ってません…」

 

この中でファンタジーツリーに触れられるのはヴィヴィオだけだった。その理由はダズマがファンタジーツリー召喚した時、ファンタジーツリーに触れられる条件に「クローン」を設定したからだ。ダズマの使うノーリの身体がクローンの身体だったので唯一触れられる条件を追加したのだ。

 

どうにかして折ってくれとアキラに頼まれたが、ヴィヴィオ一人の力ではとても折れそうにないのは困った問題だった。

 

「大丈夫。ヴィヴィオちゃんウチに任してや」

 

そう名乗りを上げたのは、ギンガに背負われていたジークだった。ジークはファビアに小さくされたままだったのでギンガに守られていた。

 

「ジークさん、何か手段が?」

 

「いまウチはこんなことくらいしか役に立てんし…」

 

そういってジークは掌に魔力を集中させる。身体が縮んでいるせいか普段は簡単にできることでもかなり労力が必要な様だった。少し時間をかけ、ジークは一つの魔力球を生み出した。

 

「はぁ、はぁ、こ、これにヴィヴィオちゃんの魔力を込めてあの樹に当てて…………触れられんのはヴィヴィオちゃんだけでもほかの魔法にヴィヴィオちゃんの魔力が加わればきっと当たる」

 

ジークが生み出した魔力球はイレイザーの魔法で作り出した魔力球だ。ジークの持てる魔力をほとんど使って作ったこの魔力球なら太すぎる樹の一本や二本破壊するには十分な威力を生み出すだろう。

 

「なるほど!ありがとうございます!」

 

ヴィヴィオは魔力球を受け取り、それを宙に放った。そして自身が込められるだけの魔力を足に込め、魔力球を蹴り飛ばした。

 

「アクセル!ブラスト!!!」

 

魔力球は樹の根元に飛び、見事ファンタジーツリーの根元を吹っ飛ばした。

 

「やった!っ痛!わわわ!」

 

ヴィヴィオは着地に失敗し、その場にこけた。

 

「ヴィヴィオ!」

 

「大丈夫!?あっ………」

 

ヴィヴィオの足にはそこそこの傷があった。あくまで他人の作った魔力球を全力で蹴り飛ばしたのだ。ヴィヴィオ得意のセイクリッドガードは足周辺に展開させていたとはいえイレイザーのダメージに耐え切れなかったのだ。

 

「ヴィヴィオちゃんごめん…」

 

「いえ…これしか方法がなかったわけですし…仕方ないですよ!」

 

ヴィヴィオは謝ってきたジークに対し笑顔で返した。お互いが謝罪合戦をしていたところに、アキラが飛んできた。

 

「おう」

 

「アキラ君!」

 

アキラの肩にはノーリとファビアが担がれていた。さらに少し遅れてアインハルトがアキラが結晶で作ったボードに乗って飛んできた。

 

「皆さん!ご無事で!」

 

「アインハルトちゃんも!ノーリってことは、終わったの?」

 

ギンガがアキラに担がれたノーリを見て尋ねるがアキラは首横に振る。

 

「いいや、まだだ。こいつはまだダズマだがもう脅威はない。応急処置は済ませたから」

 

「ノーリさん!」

 

「ノーリ!」

 

アキラはまだノーリのダズマをヴィヴィオに預けた。ダズマは腹部を連れぬかれたことで出血がひどかった。

 

「ひどい………何があったんですか?」

 

「アレスの野郎がこの樹に捕まってなかった。ダズマの隙を突いて力を奪ったんだ………来たぜ」

 

アキラたちを追ってアレスがやってきた。

 

「大層な口叩いた割にはさっきから逃げの一手じゃないか……」

 

「悪いな。テメェを殺さずに捕まえるにはギンガの力が必要なもんでな」

 

そういうとアキラの横にギンガが立った。

 

「頼めるか、ギンガ」

 

「もちろん!」

 

アキラの力は強力過ぎた。加減できないではないが、ちょっとした感情の変化で相手を殺しかねないのがこの鎧の欠点だった。

 

そこでギンガが代わりに戦う方法が考案された。「ギンガを護る」ということに意識を集中させれば相手を殺すこともなく、ギンガが傷付くこともない。

 

「じゃあ…」

 

「待ってください!」

 

戦闘を開始しようとした時、背後からアインハルトがやってきた。

 

「…私にも、戦わせてください!」

 

「…アインハルト」

 

「ノーリさんを傷つけ私たちの過去を、先祖を利用したこと、許せません!」

 

「………ああ。お前は俺が守ってやるから安心してぶっ飛ばしてこい」

 

「っ!はいっ!!」

 

まるで自分は簡単に倒されると言われているようでアレスは完全に頭に来ていた。これまでの言動から、中々感情的になることはない男だと思われたが、身の丈に合わない力のせいか妙に感情的になりやすくなっていた。

 

「私を………なめるなぁァァァァ!!!」

 

「散開!!」

 

アレスが物量に物を言わせた攻撃を放ってきた。アインハルトとギンガはそれぞれ左右に飛んで攻撃を避けた。

 

ギンガが右から攻撃を仕掛ける。アレスは魔力槍をギンガに飛ばすがその前に結晶の盾が出現してギンガを護った。

 

「くっ!」

 

更にギンガはアキラに守られた刹那、盾の下からアレスに接近した。

 

「リボルバーブレイク!!!」

 

アレスはその攻撃をもろに食らい、吹っ飛ばされる。

 

「アインハルト!」

 

「はいっ!砕牙!」

 

アレスが吹っ飛ばされた先にアインハルトが現れ、蹴りを食らわせた。

 

(なぜだ!ダズマの力なら、大抵の攻撃は効かないはず…………………あれは!)

 

アレスはアインアルトの足をみた。アインハルトの足には、薄くアキラの結晶が張られていた。アキラの結晶であれば攻撃は通る。しかもアインハルトもギンガも基本的に格闘技がメインだ。ダズマの攻撃の解析能力で最適な防御がし難かった。

 

(あれの力…………これでは………)

 

成す術もなく、アレスはどんどん追い詰められていく。

 

「馬鹿な…」

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「おぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「いっけぇ!ギンガァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

「覇王!断空拳!!!」

 

「アサルトライジングインパクト!!!」

 

ギンガとアインハルトは同時に最後の一撃をアレスに撃ち込んだ。アレスの抵抗は全てアキラの結晶で妨害され、抵抗にすらならなかった。

 

「くそ…くそぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

アレスは攻撃を食らって近くの壁に叩きつけられた。

 

 

 

続く



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第三十話 辞退!DSAA不参加!

今回からは原作でいうところのヴィヴィオとアインハルトの試合の回です。それが終わったら一区切りします。まぁなるべく早く上げていきますのでコロナの暇つぶしにでもどーぞ


「はぁ、はぁ…………」

 

島に生えた樹木、ファンタジーツリーは消滅を初めていた。アレスは倒され、完全に気絶していた。

 

「全部………終わったの?」

 

「ああ。終わったんだ」

 

アキラは肩の力が抜けていないアインハルトの頭に手を置いて気を落ち着かせる。成り行き且アキラがいるとはいえ、命の取り合いをしたのだ。気張る筈だ。

 

「ア、アキラさん………」

 

「もう終わった。大丈夫だ」

 

「は、はい……」

 

アインハルトは急に気が抜けてへなへなとその場に座り込んだ。アキラは意識を失ったアレスに魔力錠をかけて捕獲する。ギンガもアインハルトのそばでメンタルケアを行っていた時だった。ずっと気を失っていたファビアがようやく目を覚ました。

 

「ん………」

 

「………」

 

しかし、ファビアのすぐ近くにあった柱にひびが入り、崩壊を始めた。

 

「!!」

 

「ファビアさん!」

 

「魔女っ娘!?」

 

ヴィヴィオとジークの叫びでアキラたちも気づき、ギンガは走り出し、アキラはファビアに向けて結晶を飛ばした。

 

だがそれよりも早く、ファビアが瓦礫の下敷きになるより先にファビアを奪取した人物がいた。ノーリ、いや、ダズマだ。

 

「……良かった」

 

「え?」

 

救ったファビアを見るダズマの瞳は左右で違う色をしていた。ダズマだったときは両目とも赤だったが今は紫と、青色。

 

「今度は間に合ってよかった………クロゼルク」

 

「………クラウス?」

 

刹那、ファビアの脳内に記憶が蘇った。ファビアの先祖がクラウスたちと過ごした思い出。今まで夢に出ていた悲しい記憶ではなく、楽しかった思い出。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

-ノーリの精神世界-

 

 

 

まるで宇宙空間の様な、無限書庫の様な浮遊空間には三人の意識があった。一つは眠っているが、主人格であるノーリの意識、そして今ノーリの人格を支配しているダズマ、そしてアインハルトの先祖、クラウスの意識だった。

 

「誰かの意識があるのは知っていたが………お前か」

 

ダズマはクラウスの見て言った。

 

「………私が意思を持つには十分すぎる記憶が彼の中にあったからね」

 

「……だが、もういいのか。お前の子孫やクロゼルクの末裔に何か言わなくて………何より、オリヴィエの…」

 

「いい。この体は彼であり私ではない。今は彼らの時代だから、彼らで乗り越えていくさ。それくらいの強さを持っていることは彼を通してみてきた。それから、彼女は彼女であってオリヴィエではないよ」

 

「そうか………」

 

「これからも私たちの記憶で苦しむことがあるかもしれないが、彼なら乗り越えられるだろう……それに、世界も…任せられる相手が見つかったのだろう?」

 

「っ!………ああ。そうだな。時代遅れの人間が干渉するのはこれまでだ」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「大丈夫か!?」

 

「ファビアさん!!」

 

すぐにその場にいた全員が駆け付けた。

 

「………アキラ・ナカジマ」

 

「!」

 

ノーリの瞳は再び赤になり、主人格はダズマに戻っていた。アキラはやや警戒しながらダズマに近付いた。

 

「なんだ?」

 

「お前がいてくれれば、世界は、安泰かもしれない」

 

「なに?」

 

「俺の力を打ち砕いたその鎧、その結晶、それは俺が止めて地球上に降り注いだ隕石を構成していた鉱石だ……宇宙産であれば俺が知らないのも無理はない」

 

エレミアの手記によるとダズマは隕石を止めたことで死んだとここに来る前に聞いた。そのことだろう。その隕石を構成していた鉱石がアキラの刀を成し、鎧を成していた。

 

故にダズマの力では突破できなかった唯一の壁だったのだ。

 

「……」

 

「その力と、お前の体内に眠る力……それがあれば…この世界はきっと青空のままだろう…」

 

「…そうかい」

 

「無理やり呼び出されたとはいえ、色々と迷惑をかけた。すまなかったな」

 

「ああ」

 

「この世界を、頼んだぞ」

 

その言葉を最後にダズマは瞳を閉じた。するとノーリの髪の色が元に戻り、全身に入っていた奇妙な模様は消滅した。主人格がノーリ戻り、ダズマの意識は消滅したのだ。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

-三日後-

 

 

 

事件が収束し、三日が経った。

 

アークを名乗っていた組織の人間はファンタジーツリーに捕らわれたまま意識を失っていたのでそのまま捕獲された。

 

アレスは魔力を一切発動できないように拘束された。とはいえダズマの意識消滅と共にアレスの力も消滅した。これ以上の被害は出ないだろう。

 

そして、ノーリは既に大会には出られないであろうと考えていた矢先だった。

 

アキラ宅にヴィクターが訪問してきていた。事件の時、無限書庫で救出してもらった礼に来ていたのだ。

 

「それにしても命助けてやった礼が菓子折り一つとは、お嬢様も結構庶民的なところがあるんだな」

 

アキラはもらった菓子をいただきながら口を滑らした。

 

「ちょっと!アキラ君!」

 

「!」

 

アキラはとっさに口を押えた。

 

「すまねぇ……ちょっと疲れててな…」

 

「まぁ色々、ありましたからね。仕方ないとは思いますわ。でも、口を滑らしたということはそう思ってるってことでしょうね」

 

ヴィクターは席を立ってアキラの座ってる横に座り、腕を抱き込んだ。アキラの腕に柔らかい感触が触れる。

 

「なっ!」

 

「命一つ分のお礼ですものね。だったらダールグリュン家跡取り娘の純潔なんかでいかが?」

 

ヴィクターはアキラの耳元でささやく。

 

「ば、そこまで求めてねぇよ!やめろやめろ!!」

 

「私、身体には結構自身がありますわよ?」

 

アキラは慌ててヴィクターの手を振りほどく。ヴィクターはクスクスと笑いながら離れた。

 

「お嬢様。御戯れも程々に」

 

「フフ、冗談ですわ♪流石にまだ結婚したての旦那を狙うほど節操なしではありませんから。それに、奥さまも怖いですし」

 

「はっ!」

 

その一言でアキラは真横にいたギンガの殺気に気づく。

 

「アキラ君?」

 

ギンガはにっこり笑顔でアキラの頬を引っ張る。戦闘機人の怪力で引っ張られるのだ。ちぎれそうな位の痛みだった。

 

「なんでだぁ~~~」

 

夫婦漫才を横目に、ヴィクターは席に戻る。

 

「ですが、当然こちらも菓子折り一つで礼が済むとは思ってませんわ。こちらが本日お伺いした本当の理由。エドガー」

 

「はい」

 

ヴィクターに命じられたエドガーは懐から封筒を取り出し、アキラに渡した。

 

「……なんだこりゃ」

 

「来週再開されるDSAAの試合トーナメント表ですわ」

 

「………?何でそんなもん……」

 

アキラは疑問に思いながら封筒を開けた。そしてトーナメント表を見てみるとそこには、ノーリの名前が記されいていた。それも、ジークに勝って次の試合に進むことになっている。

 

「これは……」

 

「ダールグリュン家たるもの、受けた恩は何十倍にもして返しますわ」

 

「お前……これどうやって」

 

「ダールグリュン家はDSAAに多大な支援金を収めております。さらにお嬢様が名声のある有名選手を集めてちょっとしたストライキを起こしたのです。ノーリ選手が復帰できる前に大会を再開するのなら私たちはでないと。ジーク選手は怪我してるからもう次の試合は難しいということで不戦勝という形にしました。本人も了承済みです」

 

「そういうこと。これで借りは返したということでよろしいでしょうか?」

 

「ああ…ただ、その前に解決しなきゃいけない問題があってな…」

 

 

 

-喫茶店-

 

 

 

「試合に出ないってどういうことだよ!」

 

「どうもこうも、本人が言っていることよ。大会は辞退して、もう選手もやめるって」

 

喫茶店に集まっているのはノーヴェ以外の大人たちを除いた無限書庫を探索したメンバーだ。

 

新たに発生した問題、それはノーリが選手をやめると言い始めたことだった。

 

「まぁ、なんとなく気持ちは分かるような気はするけどね。自分のせいでかなりの人間に迷惑をかけたと思っているんだろう」

 

「あたし等があんなに頑張って大会にねじ込んだって言うのによぉ…」

 

ハリーもヴィクターと共にストライキに参加したメンバーだ。まぁ主な交渉はヴィクターだったが協力したのは確かだ。

 

「あなたは大会役員にメンチ切ってただけでしょう」

 

「なんだとメガネコラ」

 

またハリーとエルスで喧嘩が始まりそうな雰囲気になる。ヴィクターは小さくため息をついて仲裁に入る。

 

「とにかく!今は彼をどうするか、よ。このまま終わりにするのか、それとも私たちでどうにかするのか」

 

「ウチは、このままノーリとお別れなんて嫌やと思う」

 

ジークが一番に言った。

 

「私もです!」

 

「私も!」

 

コロナとリオが続いた。それに関しては全員が同意するように

 

「それはきっとこの場にいる全員がそうだろうね。問題は、どうやって彼を引き戻すかだ誰かなにか考えはあるかい?」

 

ミカヤが先頭に立って考えをまとめようとした。そこにヴィヴィオが手を上げた。

 

「あの、それに関して私に考えがあります」

 

 

 

-病院-

 

 

 

「試合?」

 

ここはノーリの病室。そこにギンガが来てヴィヴィオ達から試合の提案があることを伝えた。

 

「ええ。ノーリと試合がしたいって」

 

「言っただろ。俺はもう選手をやめるって」

 

「そんなこと言わずに……」

 

病室の外ではルーテシアとアキラが待っていた。

 

「どう思います?」

 

「まぁ難しいだろうな。なんであんなこと言い出したか定かではねぇが、相当しょい込んじまってんだろうな」

 

しばらくするとギンガが病室から出てきた。表情を見るに説得はうまくいかなかったようだ。

 

「やっぱり本人が望まない限りは……」

 

「だとしてもこのままでいいわけがねぇ……無理矢理ってのは不可能じゃねぇがあんま気が乗らねぇしな……」

 

「説得に自信があるんですか?」

 

ルーテシアが聞いてきた。

 

「うーんまぁ、ないわけでもねぇな」

 

「だけど…」

 

アキラとギンガが話している横でルーテシアは少し考え、アキラの袖を引っ張った。

 

「?」

 

「ちょっといいですか?」

 

アキラはそのまま廊下の奥に引っ張られていく。

 

「なんだ?」

 

「どうぞ」

 

ルーテシアは顔を反らしたまま写真を二枚渡した。

 

「…」

 

アキラはその写真の内一枚を受け取り、そのまま病室まで歩いていく。そして病室の中から2人の声が聞こえてきた。

 

「あ、アキラ?」

 

「行くぞ」

 

「は?」

 

「ちょ、なにす…おおぁ!?」

 

病室の扉が開くとノーリを脇に抱えたアキラが出てきた。アキラはそのままノーリを連れてどこかへ歩いて行った。

 

「……ルーちゃんなに渡したの?」

 

「これを」

 

ルーテシアがニヤニヤしながら出したのはルーテシアの全裸の写真だった。

 

「!?」

 

「アキラさんはもう一枚のギンガさんの隠し撮りの写真を持っていきました」

 

「い、いつの間に…」

 

「えへへ、カルナージに来た時お風呂場で隠し撮らせていただきました。あ、安心してくださいアキラさんはギンガさんのしか取りませんでしたよ」

 

「犯罪よ…?」

 

ギンガは微妙な顔をしながらルーテシアに言った。

 

「あの日の夜のこと、正確にはギンガさんも犯罪者になりかねませんよ?おあいこです。そのうちアキラさんで遊ぶために取っておいたものですけど、まぁ今はノーリの復帰が最重要ですからアキラさんに無理矢理やってもらいました」

 

ルーテシアにとっては結構奥の手だったはずだ。それを使ってまでということは彼女もノーリの復帰を強く望んでいるということだろう。

 

 

 

-院内 トレーニングルーム-

 

 

 

アキラはトレーニングルームにノーリを投げ入れた。

 

「痛!」

 

「さぁ試合に向けて練習だ。もう時間がねぇんだからな」

 

「やらねぇよ俺は」

 

かたくなに断るノーリを見て、アキラはため息をついた。

 

「…お前が何を思ってるかなんて大体想像がつく。けどよお前が思ってる以上にみんなはお前を思ってるんだ」

 

アキラがそういうとノーリは少しばつが悪いような表情をした。どうやらそれくらいは分かっているようだ。

 

「お前が連中ともう関わりたくないってんなら勝手にすりゃいい。けどよ、ケジメ位はきっちり付けろよ」

 

「………わかった」

 

 

 

 

続く



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第三十一話 激突!アインハルトの想い!

ずっと書きたかったシーンです。勝手に色々設定追加してますがまぁ二次創作なんで多めに見てください。


-4日後 聖王教会-

 

 

この日、DSAAの大会が再開される3日前。聖王教会の庭で試合は行われることになっていた。今回の試合を行うのはアインハルトだった。提案したのはヴィヴィオだったが、事件の中でヴィヴィオは足を負傷したため、アインハルトが出ることとなった。

 

この試合には多くの観覧者が来ている。この試合はヴィヴィオが提案した「本気の想いのぶつけ合い」がメインとなっている。

 

さらに先日、全員でエレミアの書記を呼んだ。ノーリだけが知っていた覇王イングヴァルトの過去。それが皆の知るところとなった。ノーリが今まで抱えてきた記憶。それと彼はこれまで、そしてこれからどうやって向き合っていくのかが皆の注目するべきところだった。

 

「すいませんアインハルトさん…なんだか背負わせるような形になってしまって……」

 

「いえ、気になさらないでください。私自身、彼に言いたいことはありましたから」

 

「え…?」

 

「それから、ノーヴェさん」

 

「なんだ?」

 

「試合中に、長い話になったり、ちょっとした無理をするかもしれませんが………その時は止めないでいただきますか?」

 

ノーヴェは少し考えてから頷いた。

 

「会話は大会では最悪反則行為にされるがまぁ、今回は試合を組んだ事情も事情だし、公式試合じゃない。許容範囲なら許可する」

 

2人が話していたとき、アキラに連れられてノーリがやってきた。

 

「……」

 

「ノーリさん…」

 

「おいノーリ!テメェ勝手にやめるとか言ってるらしいなぁ!」

 

来て早々ハリーがノーリに噛みついた。

 

「別に、俺の勝手だろ」

 

「ああ!?おいアインハルト!やっぱあたしと変われ!」

 

喧嘩腰のハリーに比べてノーリはずいぶん冷めている。その会話にヴィクターが割って入った。

 

「やめなさい。ノーリ、試合はしてくれるみたいだけど、やっぱりやめる意思に変わりはないの?」

 

ノーリは黙って頷いた。

 

「そう……」

 

「俺は別れを伝えるためにここに来たんだ。その前に試合がしたいって言うから、最後に一戦だけ付き合ってやる」

 

「そう……」

 

何とも言えない空気の中、審判役のノーヴェがやってきた。

 

「二人とも準備はいいか?」

 

「ああ」

 

「はい」

 

「なら二人ともバリアジャケット装備!!」

 

ノーヴェに言われ、二人ともそれぞれのデバイスを出し、バリアジャケットを展開した。

 

「武装形態」

 

「戦闘形体」

 

「二人とも開始位置に」

 

2人はある程度離れた位置に立ち、合図を待つ。アインハルトの気合いは充分だが、ノーリはどこかどうでも良さそうな、気合いのない顔だった。

 

「…」

 

「ラウンド1……開始!!」

 

ノーヴェの開始の合図と同時にアインハルトはノーリに一気に接近し、顔面に向けて蹴りを放った。鈍い音が教会の庭に響く。

 

「……」

 

アインハルトの蹴りはノーリに綺麗に決まった。しかしノーリは微動だにせず棒立ちのままだ。攻撃で仰け反るわけでもそれを防いだわけでもない。

 

「ふっ!」

 

アインハルトは追撃に右ストレートを鳩尾に撃ち込むがそれももろに食らった。だが姿勢は崩すことはない。

 

「………!」

 

「終わりか」

 

「っ!」

 

更に追撃に行こうとしたとき、ノーリは一気に姿勢を低くしてアインハルトの右手と首を巻き込む形で抱きしめ、そのまま押し倒した。

 

「肩固め!」

 

「ノーリさんが絞め技!?」

 

(想定外だ!ノーリさんがこんな技使うなんて……)

 

完全に絞め技を決めながらノーリは耳元でささやく。

 

「お前が何してぇのか知らねぇけどよ……もう…」

 

(くっ、固い……っ!抜け出すのは至難の技だ…でもそれは、格闘技ならの話!)

 

アインハルトはノーリの脇腹に拳を当て、体を動かす。

 

「空破断!」

 

「!」

 

ノーリは空破断の威力に耐えきれずに吹っ飛ばされたが、すぐに体制を建て直して構える。

 

(空破断だと!?今のが!?今までと断然威力が違う…)

 

「げほっごほっ!」

 

アインハルト咳き込みながらもなんとか起き上がり、構えた。

 

「どうやら、ちったぁ鍛えてきたみたいだな…」

 

「はい……ノーリさんと私の戦績は3戦1敗1分、1回は無効試合です今のところ私の敗北です。実力は大体ですが今回だけは絶対に勝たせていただきます。この胸の思いを拳に乗せてあなたに届けるために」

 

「…………そこまでして俺に思いを届けたいならいいぜ。受けてやる」

 

ノーリは両手を広げて仁王立ちになる。それを見て、アインハルトは一旦構えを解いた。急に戦闘意思を見せなくなったアインハルトにノーリは疑問を抱く。

 

「…?」

 

「やっぱり………私達が望んでる通りに戦うんですね、あなたは」

 

「なんだと?」

 

「あなたのお話を、この四日間いろんな方に聞きました。アキラさんを始め、色々な方に。貴方の生まれ、これまでの事。そして、少し見えてきました。貴方という人間が」

 

「…」

 

「あなたは、これまで多くの人を助けてきました。これまでずっと、誰かのためにしか生きていないのではないんでしょうか」

 

「……っ!」

 

その言葉にノーリは驚き、ギャラリーはざわつき始めた。

 

「誰かのためにしか……」

 

「それって……どういうこと?」

 

ノーリはどこか心当たりがあるような様子だ。だが、それを否定する姿勢でアインハルトに対応する。

 

「……何を証拠にそんなこと…」

 

「証拠ならいくらでもあります。学校でのあなたの行動、数か月前の黙示録事件、私を救ってくれたこと、ヴィヴィオさんやリオさん、コロナさんへの励まし。さっきだってそうです。私があなたに想いを伝えたいと言った時もあなたはそれを全身全霊で受け止めようとしてくれました。不特定多数の大勢の人の望み、それを黙って全部引き受けているんです。あなたは」

 

「………」

 

「あなたの無償の優しさ。人助け。それには理由があるんじゃないんですか?」

 

「知らねぇな。そんなんテメェの勝手な思い込みだろうが!!」

 

ノーリにしては珍しい剣幕でアインハルトに叫んだ。そして試合に戻そうと構える。するとアインハルトは「仕方ない」という表情である名前を口にした。

 

「リンネ・ベルリネッタ」

 

「…っ!!!」

 

ノーリはハッとして止まった。

 

「それが、あなたをそんな風にした原因なんじゃないんですか」

 

「……………っ!………っ!しら…ねぇな」

 

ノーリは汗を流しながら葛藤した様子を見せつつも必死に否定した。苦しそうな様子のノーリを見てアインハルトは小さくため息をついてとりあえず終わりにすることにした。

 

「そうですか。まぁ今はそれならそれでいいです。貴方を倒したうえでお話させていただきます」

 

「………上等だ。やれるもんならやってみやがれ!!!」

 

ノーリは構えてアインハルトに突っ込んだ。アインハルトも構える。今度はさっきの棒立ちと違う。ノーリは攻めの構えだ。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

「くっ!」

 

ノーリはアインハルトに反撃の余裕を与えない連打を繰り出した。アインハルトはギリギリガードするが確実にダメージは蓄積される。

 

(速い!いや、それ以上に攻撃もガードも完全に動きを見切られている!)

 

アインハルトの隙を見つけて腹部に思い一撃を入れる。そしてアインハルトの背中を掴み、膝撃りを連発。無理やり姿勢を起こさせて強力な頭突きを食らわせた。

 

「がっ…」

 

それでアインハルトはダウンさせられる。

 

「さすがにノーリさんは強いですね……」

 

「当たり前だ。あいつはお前らに比べて死戦を多く潜り抜けてきた。いうなれば命のやり取りをしてきた方が多い。その分「人の壊し方」は上手い」

 

ノーリの力を見て驚いているコロナたちにアキラが説明した。

 

「カウント!1!2!3!」

 

「…………まだやれます!」

 

アインハルトは何とか起き上がり、構えなおして試合が再開される。

 

「オラァ!」

 

「ぐぅぅぅ!」

 

再びノーリの猛攻が始まる。

 

「ああ、アインハルトさん防戦一方…」

 

「これじゃまた………」

 

「……っ!」

 

ノーリは強力なブローを決めると思わせた振りを見せた後、素早く右足をアインハルトの左足に当てた。その一撃はアインハルトの右足を壊すには十分だった。

 

「-----ッ!」

 

姿勢の崩れたアインハルトに対し、ノーリは大きく腕を振り上げた。

 

(覇王…)

 

「アインハルトさん!」

 

「ああ!」

 

(断空拳)

 

容赦なく振り下ろし式の断空拳をアインハルトに打った。完全に決まった。ギャラリーもノーリ自身もそう思った。

 

しかし、次の瞬間アインハルトのアッパーカットがノーリに決まる。

 

「!?」

 

「…っ!」

 

(舌を噛んで無理やり意識を保ったか…)

 

舌を噛んで気絶を免れ、断空拳を食らった瞬間大地に拳を突き立ててダウンを防いだ。さらに最後の力を振り絞って油断したノーリに一発入れたのだ。

 

「1ラウンド終了!インターバル60秒だ!」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、ごほっ!」

 

「アインハルト!」

 

アインハルトは血を吐いてその場に跪いた。舌を噛んだ代償だ。

 

「………」

 

ノーリはその様子を見ながらもタオルで汗をぬぐって背を向けた。

 

「大丈夫!?」

 

「はい。ティオ、頼めますか?」

 

「にゃあ!」

 

ティオの回復能力でアインハルトは身体と口の傷を癒す。

 

「………どうしてそこまでする。お前がそこまでして想いとやらを届けたい人間か?俺は」

 

アインハルトは口の周りに着いた血を拭ってノーリを見る。

 

「……ノーリさん自身の自己評価は知りません。ですが、私にはここまでして想いを届けたい相手です。そして、ヴィヴィオさんから教わったんです」

 

「?」

 

 

 

-4日前-

 

 

「本気の試合?」

 

会議でヴィヴィオが上げたアイデアは、本気の試合で想いを伝えることだった。

 

「はい。でも私は足怪我してますし、試合はアインハルトさんにやってもらいたいと思います!」

 

「わ、わたしですか?」

 

「はい!実力的にアインハルトさんがノーリさんに一番近いと思いますし、コロナは次の試合に響くといけないですし…」

 

アインハルトは少し困り顔だった。その様子を見てミカヤが少し口を挟む。

 

「確かに本気でぶつかり合うしかない時も必要なのかな」

 

「ミカヤさん…」

 

「みんなの意見はどうかな?」

 

「まぁとりあえずそれでいいんじゃね?あいつの事情なんて難しくてよく分かんねぇし、殴り合いの方がわかりやすいしな!」

 

「そうね。下手に励ましたりだとか、説得するよりもその方がいいかも」

 

他のみんなもおおむね賛成の様だった。試合選手が多いせいか脳筋な考えの者が多いようだ。

 

「本当にいいんでしょうか…」

 

アインハルトはまだ納得していない様だった。ヴィヴィオは試合を提案した理由をアインハルトに語りだした。

 

「……私、オリヴィエのクローンだって話は前にしましたよね。過去の記憶はないけど体質は受け継いでて、「鍵」としてゆりかごを甦らせるためだけに生み出されたのが私です。大好きだった優しい人まで私はこの手で殺しかけました。心も身体も自分の思うようにならなくてどうしていいかわからなくて、だけど助けてくれた人がいたんです。私の涙も痛みも運命も受け止めてくれた人が。私がその人から教わったのは、ぶつかり遭わなきゃ伝わらない思いがあるってこと。打ち抜く力は想いを届けるためにあるんだって事」

 

「……」

 

「アインハルトさんとノーリさんが初めて戦った時のことを覚えていますか?」

 

「あ、はい……」

 

「その時もノーリさんは私の想いをアインハルトさんに届けてくれるために拳をふるってくれました。でそれと一緒です」

 

「なるほど…」

 

 

 

-現在-

 

 

 

「私たちにとってノーリさんは頼れる方であると同時に大切な仲間でもあるんです!ノーリさんを倒せるくらい強いことを証明して、もっと私たちに頼ってもらいます!誰かの為の戦いだけをして負債を背負い続けたあなたの負債を私たちにも背負わせてもらいます!」

 

「………は、笑うこともできなかったような奴がずいぶん成長したじゃねぇか。でもよテメェ程度の実力で俺が倒せるといいな」

 

アキラの挑発の後、ラウンド2が開始される。開始と共に、アインハルトは胸を押さえた。

 

「ティオ!!」

 

「!?」

 

アインハルトの叫びと共にアインハルトの足元から魔力が放たれる。

 

「確かに今の私の実力じゃ難しいかもしれません。ですが私も無策で来たわけじゃありませんので!!」

 

「これは………」

 

「モードリリース!!!ライジング!!」

 

『にゃぁーー!』

 

アインハルトのバリアジャケットのデザインが変わっていく。全身に金のラインが入り、袖がなくなり、腰のリボンも細くなった。そして拳と足の脛に金色の鎧が装備された。

 

「………何だその姿は…」

 

「この日の為に、アキラさんとルーテシアさん、八神家の皆さんに協力してもらって開発したフォームです…………参ります!」

 

「!!」

 

刹那、アインハルトの姿がノーリの視界から消えた。

 

次の瞬間、アインハルトの上段蹴りがノーリに炸裂する。ノーリはそれをなんとか防御するも腕から鈍い音が聞こえる。

 

(く…っ!)

 

「はぁ!」

 

続いてアインハルトの右拳がノーリの腹部を狙う。それもなんとかガードしたが大きく後ろに下がらされた。

 

(重てぇ………!)

 

「ふっ!」

 

「やろぉ!」

 

さらにアインハルトは一瞬で間合いを詰める。ノーリはカウンターを狙ったがその一撃は空を切った。アインハルトは瞬時にノーリの前から死角に移動し、重たい一撃を脇腹に食らわせた。

 

「がはっ!」

 

(その上恐ろしく速い!)

 

ライジングモードでノーリを圧倒しながらアインハルトは一つの可能性を考えていた。

 

(イングヴァルトの記憶を引きついで、助けてもらったことは感謝しています。でも、そのせいであなたはふさぎ込んでしまった。もし……もしあなたが私の代わりになってなかったら、あなたと私の立場は逆だったかもしれません)

 

アインハルトはさらに加速し、ノーリの背後に回る。そして背後からノーリを蹴り上げ、地面に落ちる前に再度殴り飛ばし、さらに上へ上へと突き上げていく。

 

最後にアインハルトは一気に上空へ飛ぶ。その高度は殴り飛ばされたノーリよりも高かった。そして拳を構え、狙いをノーリに定めた。

 

(記憶を失っても私は貴方に言われた通り覇王流を捨てなかった。捨てずにいたから出会えた人たちが、心を許せる、共に笑える仲間たちが出来た。貴方もその一人だから!)

 

「絶対助けます!!!」

 

ノーリはアインハルトの拳をガードしたが簡単にそのガード抜かれ、凄まじい速さでノーリは地面の岩盤に叩きつけられた。

 

ノーリはすぐに起き上がって来ない。

 

「あれは決まったかしら」

 

「ちょっと無理かもしれませんね…」

 

 

 

続く



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第一部最終回 決着!紡がれる手

ここで一旦Vividの更新は終了し、本編である「とあるギンガのPartiality」をメイン活動に戻します。続きの更新はしばらく先になりますが、待っててください。

5月6日より「とあるギンガのPartiality」の新章がスタートします!それまでにこちらと本編に本編のダイジェストを作っておく予定ですお楽しみに!



感想とか待ってまーす!


生まれてから、生きている意味が分からなかった。周りの連中は俺にやさしくしてくれた。多くの人に迷惑をかけた。だからせめて他人の役に立つため生きることにした。

 

その第一歩となる、あの学校での生活。俺の学力調査と学校生活の練習の様な感じで一時的に通った学校。

 

そこで出会った一人の少女。俺はその子を救えなかった。

 

だから助けると決めた。困ってる人がいるなら誰だろうが絶対助ける。それで俺がどんな負債を背負ったってかまわない。

 

そう決めた。一人で戦い続けると決めたつもりだった。

 

だが俺は一人じゃなかった。俺が助けるために伸ばした手がやがて紡がれ、こんなに多くの人を繋いでくれていた。俺はそれから目を反らしていただけだったんだ。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「…」

 

ノーリは目を開けた。

 

「7!8!」

 

カウントが聞こえてきた。ノーリは無理やり身体を起き上がらせる。

 

「立った!」

 

(一人じゃきっと起き上がれなかった……あいつらと出会ってからの時間、アイツらと過ごした時間が、過去が今の俺に力を与えてくれるんだ…)

 

「まだいける…!」

 

立ち上がったノーリは天を仰ぐ。

 

「……俺を倒して拳で想いを伝えるか…」

 

「…?」

 

「行くぞ…」

 

ノーリが構える。その瞳はさっきと違う、光が宿っていた。

 

やっといつものノーリに戻ったとアインハルトは感じた。だがあえて何も言わず同じように構える。

 

「はっ!」

 

(来る!)

 

ノーリはその場から一気に飛んで攻撃を仕掛けた。チャージ攻撃だ。しかしその攻撃は空を切る。アインハルトは上に飛んでノーリの背後に回っていた。

 

背後からアインハルトは攻撃を仕掛けるが直前、空中で振り向いたノーリがその攻撃をガードする。重い一撃を受け止めながらノーリは着地する。だがアインハルトは間髪入れずに間を詰めて蹴りを当てた。ノーリは吹っ飛び、柱に激突した。

 

「凄いです…ノーリさんの攻撃が全然当たってない…」

 

「ええ、判断のスピードが尋常じゃないのね」

 

「判断のスピードはあいつだけがやっているわけじゃねぇ」

 

「え?」

 

「あのモードの強みは中のティオが相手の動きをラーニングし、相手の動き予測する。攻撃の際は考えられるすべてのパターン計算、最善の一手を選出してアインハルトに教えている。見てみろ」

 

アキラに言われ、よく目を凝らすとアインハルトの眼の色が変わっていることが分かる。普段は紫と青の二色だが、今は緑色だ。

 

「ユニゾンみたいなもんさ。ティオが機能維持し続ける限り、アイツに攻撃は当たらないし、アイツの攻撃は避けられない」

 

「それってアリなの…?」

 

ギンガが疑問に思って聞いてきた。

 

「一応公式大会に聞いてみたが問題はない。技術的サポートは俄然ありだし、そもそもこのシステムを使いこなすこと自体一種の才能なんだ。あれはそう簡単に扱える代物ではない。ま、魔法なしの格闘オンリーの大会なら話は変わって来るが」

 

アキラが説明している間にもアインハルトはノーリをどんどん追い詰めていく。更に追撃をかけようとアインハルトが構えたが、急に止まった。そして胸を押さえて跪く。

 

「ぐ!ぅぅぅ……」

 

「…?」

 

「アインハルトさん!?」

 

「あのバカ…」

 

アインハルトの動きに疑問を持ったヴィヴィオ達が心配しているとアキラが呟いた。

 

「何が…」

 

「あの力はかなり無茶な力の運用なんだ………通常でもギリギリなのにロクなインターバルも入れずに連続運用してるせいでリミットが来てるんだ」

 

「ええ!?」

 

「…」

 

 

 

-3日前-

 

 

 

「はぁ?自己強化能力ぅ?」

 

「はい」

 

ここは3日前のナカジマ家アキラ宅。アキラはアインハルトがコロナに負けてからアインハルトの相談を受けていた。いや、どちらかというとノーリを何とか助けられないかという会議の様なものだった。試合の開催が決定してからアインハルトは自己強化能力が作れないかとアキラに相談にきていた。

 

「悔しいですが現状、ノーリさんに太刀打ちできる力はありません。今だけでもいいんです。太刀打ちできる力が……ほしいんです。トレーニングだけでは埋め合わせられない彼との間を埋められる力が」

 

「…仕方ねぇ。まぁノーヴェ次第だなそんなやり方をあいつが認めなきゃだめだ。いいな」

 

「はい!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

そして昨日の夜完成した最新のシステムがこのライジングシステムだった。全身の運動力、筋力、様々な能力を強引に引き上げる。それによって発生するバックファイアをアスティオンの回復能力で常に治癒させて辻褄をあわせるという強引な強化だった。

 

「正直な話付け焼刃な上に諸刃の剣だ。だから制限時間は2分程度にとどめておいたんだが…」

 

「でもまだ2分経ってませんよ?なのに何で…」

 

「2分ってのはあくまで最高のポテンシャルでの話だ。ラウンド1の時に食らったダメージも合わさって、アスティオンの回復許容量をオーバーしちまったんだ…最悪無理やり解除を…」

 

アキラが考えながら話しているとアインハルトが叫ぶ。

 

「まだです!」

 

「!?」

 

「まだやれます!まだやります!まだやらせてください!」

 

軋む身体を起こしてアインハルトは構える。その様子を見ながらノーヴェがアキラに視線を向ける。アキラは小さくため息をついてまだやらせる判断を下す。

 

「まぁいいんじゃねぇか。ただし、危ないと判断したら俺が強制的に止める。いいな」

 

「はい…」

 

(身体が軋む……朝まで訓練した時よりもっとひどい……でも、それでも、今は、私は!)

 

ノーリはアインハルトを見ながら立ち上がる。

 

(馬鹿野郎…そんなことしたら選手生命が終わるかもわからねぇんだぞ!お前がそれ以上戦うってんなら、俺が…………救う!!)

 

そのノーリの想いに応えるかのように、ノーリのバリアジャケットの腰にぶら下がっていた懐中時計兼デバイスのノヴァラミナが赤く輝いた。

 

「……あれは…」

 

「あれ…なんなの…?」

 

ノーリはノヴァラミナを持つ。

 

「この輝きは…」

 

(このタイミングか……)

 

「ノーリ」

 

アキラがノーリに話しかけた。

 

「そいつのリューズを回して短針を3時に合わせてリューズを押せ」

 

ノーリは言われた通りにリューズを操作し、短針を3時に合わせてそれを胸の前に構えて親指を立てた。

 

「あれって何なんですか?」

 

「ノヴァラミナ…あいつのデバイスは、4段階で進化する………いや、アイツの力に応じてロックを解除していく。その条件はあいつの魔力値や戦闘力が特定値以上になること。そのタイミングがついさっきやってきたってことだ」

 

「行くぞ…」

 

ノーリはリューズを押した。すると足元から魔力が放出され、そこから発生した二つの魔力輪がノーリを包んでバリアジャケットを再構築した。

 

『completed after phase2』

 

「あれは……」

 

ノーリのバリアジャケット本体にはそこまで大きな変化はなかった。少々尖った感じになり、黒いラインが増えた程度だが、それ以上に驚くべき変化があった。

 

腕に拳から肘上にかけての装備がついていた。やや形状は異なるが、そこにいる誰もが見たことのある装備。見間違うこともない、それはまごうことなき

 

「鉄腕…」

 

(そんなもん追加した記憶はねぇ……まさか!)

 

アキラはその様子を見て頭の中の考えがすべてつながった。

 

「そうか…そういうことか!あいつの力は、「人から力を奪って自分のものにする力」!」

 

アインハルトの試合が終わった後、アキラが記憶の操作をするまでもなくノーリは記憶を持っていた。そして先日の事件の際、ダズマの記憶を手に入れるために会場にいる人間全員から記憶を探して魔力と共に記憶を吸収していた。

 

そして今、ノーリはあの日吸収したジークの魔力を糧に鉄腕を生み出した。

 

「まさか……あの事件の日に吸収した魔力を自分の中で培養して自分の力へと変えたというの?」

 

「そういうことだ…」

 

その様子を、教会の屋根から白いローブを来た男、少し前にアインハルトの前に現れたリュウセイが見ていた。

 

「まず一つ………」

 

ノーリは自身の姿に驚き、鉄腕をまじまじと見ている。

 

「………これが、俺の力」

 

アインハルトもその姿に驚きながらも構える。ノーリは試合中であることを思い出し、同じように構えた。

 

「お前が俺に思いを伝えるためにそんな無茶な戦い方をするなら、俺が止める!」

 

「その前に私が倒してあなたを助けます!」

 

二人は同時に飛んだ。

 

ノーリの拳がアインハルトを捕らえる。しかしアインハルトは瞬間でノーリの横に回り、拳を放った。さっきまでだったらここでノーリが殴られていたところだった。

 

しかし今度は違った。ノーリがその攻撃を直前で回避したのだ。

 

「!?」

 

「はぁ!」

 

ノーリは一拍置いてから反撃した。アインハルトは何とか避けて距離を取った。

 

(私の速度を上回った!?そんな馬鹿な……いや、あれは!)

 

ノーリの瞳の色は赤く輝いていた。その目に見覚えはあった。ノーリの身体がダズマに乗っ取られていた時と同じ色だ。

 

「………ノーリさん?」

 

まさかまた乗っ取られたのかとアインハルトは確認を取るためにノーリの名を呼んだ。

 

「どうやらこいつは、ダズマの置き土産みたいだ。未来予知とまではいかねぇが、少し先の未来くらいは見えるらしいぜ」

 

「!!」

 

それを聞いて、ジークがハッとした。

 

「聞いたことあるよ…赤く輝く瞳は未来を見る千里眼の瞳。古代ベルカの時代にだけ言われてたことや」

 

「未来を見る力…」

 

アインハルトは少し考えて胸に手を当てた。そして瞳の色をもとに戻して構える。それをみてノーリも瞳を閉じ再度開ける。ノーリの瞳の色はもとに戻る。

 

(お互いのスピードとパワーは同等!)

 

(だったら小細工も無用!)

 

未来予知の力と行動計算で先読みする力。能力的に大差はないが未来予知し未来予知してくるであろう攻撃を予測しでは鼬ごっこだ。もはやその力は使う意味がないと判断し、力のぶつけあいで終わらせることにしたのだ。

 

再度二人は突進し、ぶつかり合った。かなりのスピードで競り合いが続く。

 

「速い……」

 

小細工抜きでのお互い古代ベルカ式の格闘勝負。そしてカイザーアーツでの戦い。互いの強みも弱点も分かっている。戦いは完全に互角に進んでいた。

 

しかし、ノーリはアインハルトの動きの中で隙を見つける。

 

(今!)

 

ノーリはほぼゼロ距離で腕を大きく引き、腕に魔力を溜めた。

 

「!?」

 

「ガイスト・クヴァール!」

 

ノーリが黒い魔力を腕に込めた一撃を放った。それはまさしくジークの技だった。アインハルトはそれをギリギリで躱したがバリアジャケットが一部削れる。

 

(外し…)

 

「覇王!断空拳!!」

 

アインハルトが反撃に断空拳を放ったがノーリはそれを両手で受け、後ろに下がらされながらも受けきった。

 

(いきなりは辛かったが防ぎ切った!これで…!?)

 

ノーリはすぐに反撃の手段を考えたがそれはすぐに遮断された。アインハルトが見たことのない構えをしていたからだ。

 

「覇王!」

 

(来る!)

 

「琥皇風牙断!!!!」

 

アインハルトの拳から放たれた風の一撃。それはライジングモードでのパワーでのみ打てる空破断の強化版だ。

 

ノーリはその一撃に飲み込まれ、琥皇風牙断は地面を抉ってノーリの背後にあった教会の壁を粉砕した。

 

「決まった!?」

 

「覇王!」

 

巻き上がった粉塵の奥から輝きが見えた。

 

「!」

 

アインハルトはすぐに回避の姿勢を取ろうとした。前回ノーリに負けた敗因である「覇王流星拳」であることが分かったのだ。

 

しかしそれよりもずっと早くノーリは飛び出してきた。

 

「流星拳!!!」

 

(これで決まる!!)

 

(まずい!でもせめて!)

 

アインハルトはせめてカウンターを決めようと右足を前に出した。

 

(カウンターの構え!だが俺の拳が速い!!)

 

まもなく拳がアインハルトに到達する直前、アインハルトの顔がノーリの前から消えた。

 

「!?」

 

ノーリの流星拳は空を切り、ノーリ自身もアインハルトの真横を通りすぎる。

 

アインハルトは1ラウンドでやられた足のダメージは完治できていなかった。動けないほどでもなかったのだが、それが今ライジングモードのバックファイアが引き金となってまた痛みが強く出た。

 

その痛みでバランスを崩し、結果ノーリの流星拳を交わすこととなった。

 

慌ててブレーキをかけてノーリが振り向こうとするが、偶然によって生まれたチャンスを活かす考えはアインハルトの方が速かった。

 

バランスを崩した直後に右手を大地に叩きつけ、それを軸に180回転、ノーリより素早く振り返る。

 

そして姿勢を直さずそのまま大地を蹴り上げ、ノーリに向かって飛んだ。その際に練り上げた力を拳に集中する。

 

「覇王!」

 

(ガード!カウンター!…ダメだ間に合わない!)

 

「断!空!けぇぇぇぇぇぇぇん!!!」

 

死力を尽くした最後の覇王断空拳。それはノーリの鳩尾に見事命中し、ノーリは岩に叩きつけられた。

 

痛む足を大地に擦り付けアインハルトは着地する。そして、ノーリがまだ動いているかは関係なく拳を構えて歩き出そうとした。

 

「止まれ」

 

「え?」

 

アキラに引き留められた。そこでようやくアインハルトはタオルがフィールドに投げ入れられていることに気づいた。

 

ノーリも既にギンガに介抱されている。

 

「あれ…」

 

「アインハルト、お前の勝ちだ」

 

レフェリー役のノーヴェがやって来てそれを伝えた。

 

「お前にもノーリにも説教したいことは山ほどあるがそれは後だ。行ってこい」

 

「は、はい!ノーリさん!」

 

「ノーリさん!」

 

アインハルトはバリアジャケットを解除してノーリに駆け寄った。ヴィヴィオたちも釣られて走りだし、ノーリ近くへ来た。

 

「……運のいいやつだ。まさかあんな展開になるとはな…」

 

「…確かに運なのかも知れませんが…それ以上にきっと、皆さんの想いが、私に味方してくれたんだと思いたいです…」

 

「想い…」

 

ノーリは横になりながらギャラリーにいる全員を見た。そしてやられたダメージであまり動かない腕を無理矢理持ち上げ、己の手を見つめる。

 

「この手はずっと、困っている人間に掴ませて可能な限り希望のある方へ投げるだけの腕だと思ってた…一人きりで………」

 

「…」

 

「なぁ、アインハルト」

 

「はい…」

 

「俺のこの手は、まだお前と繋いでいていいか?」

 

そう言われたアインハルトはノーリの腕を両手で包み込む。

 

「当たり前じゃないですか…」

 

「お前らにありえないほど迷惑をかけたんだぞ……それでも俺を…」

 

「本来だったら、私がダズマの依り代になっていたかもしれなかったんです。ノーリさんは、私を助けてくれたんです!それに、」

 

その手にヴィヴィオ、リオ、コロナの三人の手も添えられる。

 

「私たちも付いてます!」

 

「それにヴィクターさんもジークさんも……みんな付いてます!」

 

「みんな一緒の、チームナカジマじゃないですか!」

 

「ノーリさんのように、過酷な道は歩んできてません。ですがそれでも、ノーリさんの重荷を少しくらい背負うことはきっとできます!だから……だから…一人きりなんて言わないでください…っ!」

 

しゃべっているうちにアインハルトの瞳には涙が溜まり、最後には溢れだしてしまう。ノーリは空いている手をアインハルトの頬に添えて、親指で涙を拭った。

 

「なに泣いてんだよ………勝者がよ…」

 

「すいません…なんだか…」

 

「あのときにも言っただろ………笑ってくれって…」

 

「…はい……」

 

「俺も、これからは笑って生きていくから」

 

そう言ってノーリは微笑んだ。あのアインハルトとノーリの記憶をかけた決闘から、初めて見せたノーリの笑顔だった。

 

アインハルトはその笑顔を見て笑った。アインハルトは気づいていた。あの日からずっとノーリの笑顔がなかったことを。だからノーリに笑ってほしかったのだ。

 

それがようやく叶い、自然と溢れた最高の笑顔だった。

 

(今からもう一度始めよう。俺たちのこれからを)

 

 

 

続く



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第二章
第一話 リンネ・コネクト 0078


四か月ぶりの更新です。ノーリの過去編です。


俺はある事件で作り出されたアキラ・ナカジマ、当時橘アキラのクローンだった。最終的に俺は死ぬ予定だったが、結果的に助かってアキラたちの家に保護されることとなった。

 

そして海上隔離施設に入れられ、常識を学んで割と早く外に出ることになった。

 

「学校か…」

 

「ああ。どうだ?」

 

「お前らが通うべきだって言うなら行く」

 

俺はいままでアキラと視界が繋がっていた。その視界を通して色々見て、勉強してきた。だが当時は俺のなかには怒りと悲しみの感情しかなかった。

 

同い年の人間より多少人生観は達観してるが、一緒にいれば子供らしさも戻るだろうとアキラたちは思っていたらしい。

 

最初は監視の意味も込めてヴィヴィオらと同じ学校……ヒルデ魔法学院にしようとしたが、一流のお嬢様お坊っちゃま学校より自由度が高い学校のが俺の成長に良いと考えて、私立ではあるがより一般的な学校へ通わせた。

 

その学校の名前はロズベルク学校。

 

 

-ロズベルク学校-

 

 

 

「転校生の、ノーリさんです」

 

「……ノーリ・ナカジマっス」

 

正直知らねぇ人と慣れあうのは苦手だった。でもアキラたちの想いを無駄にはできなかったし、それは俺がまだ人間らしくないからだと思った。人間らしくなるためにはしょうがねぇって思った。

 

「なんだかワイルドな感じ…」

 

「声ちっさ!」

 

見た目は同い年だが俺に比べれば全然人生経験の浅い子供。どう接すればいいかわからないうちに数か月の時間が経った。

 

ある日の体力測定の後俺は下級生の女の子一人と一緒に呼び出された。

 

そこで言われたのは俺達にはスポーツ選手や格闘選手になる才能があるそうだ。だが俺は遠慮した。今俺に必要なのは常識と普通の暮らし。

 

変わった日常なんていらなかった。だから俺はどうでもいいと言ったし、もう一人の女の子も乗り気じゃなかった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「失礼します」

 

俺とその子は一緒に職員室を出た。

 

「……見ない顔だな」

 

「え?」

 

俺の記憶では来たばかりの時、全校集会などで見た限り白髪の女子はいなかった。だからなんとなく気になっていた。

 

「あ、え、えっと、リンネ・ベルリネッタです。最近この学校にきたばかりで…」

 

「そうか…お前もか、いやそうだろうな」

 

「お前もって?」

 

「ああ、俺はノーリ・ナカジマ。俺も2、3ヶ月前に入………いや、転校してきたばかりなんだ」

 

本当は入学だが、経緯の説明が面倒だったから転校ということにしておいた。

 

「そうなんですか…」

 

「はは、仲間だな」

 

「そうですね」

 

その時は他愛ない会話で終わったが、再開の時はすぐに訪れた。

 

先生から話が合ったのは週末の放課後。休日を挟んでの週明け。俺は校舎裏で飯を食っていた。まだクラスになんとなく馴染めないのと色々俺への参照の声が理由だ。食堂や教室で友人と一緒に食ったことはあったが、会話に入り込めなかった。

 

流行りのTV番組や本の話なんかは俺にはできなかった。

 

そんな時に校舎裏にリンネが現れた。

 

「あれ?」

 

「ん?お前は確か、リンネ」

 

「えっと、えっと…」

 

名前を思い出せないようなのでもう一度教えた。

 

「ノーリだ」

 

「ノーリさん!すいません思い出せなくて…ノーリさんは私の名前覚えててくれたのに…」

 

「気にすんな。一度会ったきりの名前覚えてる方が珍しい。で、どうした。こんなところに」

 

「あはは…実はお恥ずかしい話、クラスの友達から逃げてきたんです…。体力測定のことでみんなに色々言われちゃって。すごいね、とか……。悪い気はしないんですけど、ご飯の時くらい落ち着きたくて」

 

「俺も一緒だが、飯はいつもここで食ってる」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ。情けない話、クラスになじめなくてな…」

 

「……あの、私もここを使ってもいいですか?」

 

「…なんでだ?」

 

「その、私もたまには落ち着ける場所が欲しいですし、ノーリさんとお話ししたいです。おんなじ転校生で、おんなじ体力測定優秀者として……それに何だかこういうの、秘密を共有しているみたいでワクワクするんです!………だ、駄目でしょうか」

 

「いや。別に構わねぇよ」

 

「ありがとうございます!」

 

それから、数日。俺はリンネと一緒によく昼飯を食う仲となっていた。正直な話、アイツと一緒に飯を食う時間は楽しかった。

 

そしてある日の放課後、俺が帰り道を歩いていると公園に一人の老人が倒れていた。中々見えにくい位置に倒れていたので他の人物にも気づかれなかったようだ。

 

「!」

 

「うぅ…」

 

「おい爺さん!大丈夫か!」

 

俺はすぐにその老人に駆け寄った。

 

「はぁ、はぁ、ああ、す、すまない…持病の発作が…」

 

「大丈夫か?救急車呼ぶか?」

 

「い、いや、それより……家族に…家に薬が…」

 

「…家か。家は近いのか?」

 

「少し…遠いな………」

 

その時、俺は連絡することを控えた。近くの大通りで先ほど事故が起こっていることを知っていた。仮に家族を呼んでも車で来るならそこで足止めを食らう可能性が高い。だからと言って徒歩や自転車でも時間がかかりすぎる。

 

「爺さん、家の方向は?」

 

「あっちだが…?」

 

「わかった」

 

俺はその爺さんから家の特徴と住所を聞き、そのまま爺さん抱えて大人モードになった。そして、ビルの上まで一気に飛んだ。

 

「!?」

 

「しっかり捕まってろ!あんたを家までデリバリーだ!!」

 

俺はビルからビルへ飛び移り、最短ルートでその爺さんを自宅に運んでやった。

 

「着いたぜ」

 

門も飛び越え、敷地内に飛び込んだ。

 

「あ、あなた誰で………旦那様!?」

 

たまたま近くにいたメイドが俺らに気づいた。

 

「発作だ。薬あるだろ?持ってこい」

 

「は、はい!」

 

俺が伝えると家から使用人が何人も出てきて爺さんを回収していった。俺はその場に取り残され少しすると、家から夫妻が現れた。

 

「君がお義父さんを運んでくれたのかね?」

 

「ん?ああ」

 

「どうもありがとうございます……」

 

「礼には及ばねぇよ」

 

ノーリはそれだけ言ってもう帰ろうとした。

 

「待ってください、お疲れでしょう?上がっていってください。お礼はまた改めてさせていただきますが、とりあえずお茶だけでも…」

 

その夫妻は義理堅いのかなんなのか知らないが俺に礼をしようとしてきた。

 

「だから礼には……」

 

「ノーリさん?」

 

その時、聞き覚えのある声が背後から聞こえ、振り返るとそこにはリンネが立っていた。

 

「リンネ?」

 

「やっぱりノーリさん!どうしてここに!?」

 

俺は大人モードだったが、リンネは俺だと気づいたらしい。

 

「リンネの知り合いかい?このお兄さん…」

 

「…ああ」

 

俺は大人モードを解除し、元の姿にもどった。そこでその夫妻は俺がロズベルク学校の制服を着ていることに気づいた。

 

「リンネの学校の…」

 

「ここはリンネの家だったか…」

 

「そうですが…?」

 

「おじいさん、大切にしてやれよ」

 

なんだか面倒なことになりそうだと感じたノーリはそう言い残して塀を飛び越えていった。

 

「ええ!?ノーリさん!?」

 

 

 

-翌日-

 

 

 

「ノーリさん!」

 

いつも通り校舎裏で昼飯を食っていると、案の定というか、やはりというか、嬉々としてリンネがやってきた。

 

「おう、どした」

 

「昨日、おじいちゃんを助けてくれたって…ありがとうございます!」

 

「気にすんな」

 

「それで是非、ノーリさんを私の家にご招待したいと…」

 

「いいよ別に、礼には及ばないことだ」

 

「いえ、恩人に礼をしないなんてベルリネッタ家の名前に傷がつくと母が…」

 

「…」

 

俺はしばらくリンネの誘いを断ってたが、しつこく誘ってきた。断り続けるのも申し訳なくなってきたし、不承不承ながら了承した。その翌日、学校は休日だったから俺はリンネの家に招待された。

 

 

 

-ベルリネッタ邸-

 

 

 

「いやはや、まさかリンネの学校の先輩にお義父さんを助けていただけるとは…」

 

「おじいちゃんを助けてくれて、本当にありがとうございます」

 

リンネはお茶を運びながら俺に礼を言った。正直そこまで感謝されるようなことでもないと思ったが、どうやらリンネはあの爺さんにえらくなついてるらしい。

 

「気にすんなって……俺は別に…」

 

「どうぞ、この間お母さんと一緒に作ったクッキーです。お口に合えば良いのですけど…」

 

「おう…」

 

クッキーは上手かった。さすがはお嬢さんという感じだった。

 

「リンネー!ちょっとお手伝い頼めるかしら」

 

「はーい!」

 

リンネが席を離れたタイミングで、少しリンネの父親の表情が強張るのを感じた。

 

「ノーリさん。この度は本当にありがとうございます」

 

「あ、ああ。まぁ、その………どういたしまして」

 

「実は今回君を招待したのはお礼以外にも少し用事があってね…」

 

「用事?」

 

「用事というよりお願いに近いんですが……最近、あの子…リンネが無理に笑っているように見えるんだ…」

 

「…」

 

リンネの父から、リンネの様子が最近おかしいことを聞かされた。本人は特に何もないと言っているが、きっと学校で何かあったんじゃないかと思ってるようだった。

 

きっと自分たちに心配させないために何もないと言っているから、見かけた時で構わないから俺に学校の様子を見てほしいと頼まれた。

 

別に断る理由はなかった。だから俺はその頼みを聞いた。

 

その後、リンネが焼いたケーキをいただいて、爺さんに挨拶し、リンネの部屋へと誘われ、幼馴染と彼女が受け継いだ「スクーデリア」を見せてもらった。

 

 

 

-翌週-

 

 

 

それから数日が経った。俺とリンネの関係に変化はなかった。しかし、リンネを注視してみると確かに明るい笑顔の裏側に何かある感じはした。

 

そしてある日、俺はたまたま昼飯の後にリンネがハンカチを忘れていることに気づいた。リンネは昼飯後にすぐに教室に戻ってしまったから俺はその次の休み時間に届けに行った。

 

そこで、初めてリンネの父親から聞かされたことを理解した。

 

俺がリンネのクラスに会いに行くと、たまたまリンネがトイレから出てくるタイミングで俺は声を掛けようとした。

 

「あ、リン…ネ!?」

 

トイレから出てきた彼女はびしょぬれだった。そしてその表情はいままで見たこともないくらい暗いものだった。

 

「………!ノーリさ…」

 

俺の存在に気づくと彼女は走って逃げて行ってしまった。

 

「リンネ!!」

 

すぐに追いかけようとしたが、リンネが去ると同時にトイレの中から笑い声が聞こえた。

 

「…?」

 

状況は明らかに異常だった。その中で聞こえてくる笑い声に俺は違和感を持った。いや、きっともうその時点で核心には至っていたんだろう。

 

驚きを隠しきれずに俺はそこが女子トイレであることを忘れ、そっと扉を押した。

 

「あはは!入ってまーすってあははははは!」

 

そこで笑っていたのは三人の少女。恐らくリンネのクラスメイトだろう。そして内一人の手にはバケツが持たれていた。

 

そこまで証拠が出揃ってしまえば答え合わせは簡単だった。リンネの父親の言葉と最近の彼女の表情に見え隠れしていた違和感の原因。それは全てそこにいた三人が元凶だった。

 

「…………お前らか」

 

「あははは………え?」

 

「ちょっ、ちょっとなにあなた…」

 

「ここ女子トイレなんだけど!」

 

「答えろぉ!」

 

俺は怒りをあらわにしてバケツを持っていた少女の胸倉を掴み、奥の壁に叩きつけた。

 

「痛!」

 

「お前らがリンネの笑顔を曇らせてんのか!?答えろ!」

 

「はぁ!?何言ってんのあんた…」

 

「ちょっと離しなさいよ!」

 

「先生呼んでくる!」

 

「お前がぁ!」

 

勢いあまって、拳を振り上げる。

 

「私たちがあいつに何かしたって証拠はあるの!?」

 

「!!」

 

確かに今のところあるのは状況証拠だけだ。彼女たちが何かをやったという言い逃れできない証拠はない。

 

「……っ!」

 

俺の拳は少女の真横を通り抜けてその後ろにあった窓ガラスをたたき割った。

 

「…」

 

「先生こっちです!」

 

「ちょっと、何やっているの貴方!」

 

そこに仲間の一人が連れてきた教師がやってきた。正直そんなものはどうでもよかった。どうしてこんなことになっているのか、それが知りたかった俺は教師を無視し、トイレを飛び出した。

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

(リンネ…どこだ!?)

 

教師の静止を振り切り、全力でリンネを探しに行った。通りすがりに教室を見たが、そこにいる様子はなかった。そこで俺は急いでいつもリンネと昼食を食べている場所に向かった。

 

 

 

ー校舎裏ー

 

 

 

予想通り、リンネはそこにいた。リンネは濡れた制服を脱いで体育着に着替えていた。

 

「ノーリさん…」

 

「リンネ…………これ」

 

俺はそっとリンネにハンカチを渡す。

 

「……ありがとうございます。ここに忘れてたんですね」

 

「…………いつからだ?」

 

「………前の体力測定の時から…」

 

俺と出会ったあたりからだ。そんな前からあんなことになっていたことに俺は全く気付けていなかった。

 

「少し前に、お前上履きを履いてなかったよな。あの時ももしかして…」

 

リンネは小さく頷く。

 

「…っ!」

 

(気づけたはずだ!もっと早く!俺は…何を!)

 

「どうして隠してた…家族に、先生に、何なら俺に相談してくれればもっと…」

 

「心配も迷惑もかけたくなかったんです…お願いです!お父さんやお母さんにはこのことは…」

 

「だが…」

 

「あと少しすればきっとあの子たちも飽きるから…」

 

そこに、俺を追いかけてきていた教師が追いついてきた。

 

「やっと見つけました…、ノーリさんですね?職員室まで来ていただきます」

 

「……お前の想いは分かった。だが何かあったらすぐに言えよ……力、貸すから」

 

 

続く



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第二話 リンネ・ネメシス 0078

リンネとノーリのお話。続き


俺は職員室でこっぴどく叱られ、更にアキラたちまで学校に呼ばれることになった。俺の処分は保護者であるアキラたちと話合って決めることになった。

 

なぜ下級生に暴力を振るったのか、その理由を俺はかたくなに言わなかったからだ。教師にいじめのことが伝われば自動的にリンネの両親にも伝わるだろうと思ったからだ。あいつの気持ちは何となくわかった。

 

この判断が後に間違いだったことに気づくがその時の俺は知る由もなかった。

 

ともかくその時はそれが正解だと思い込んでいた。俺が守ってやればいいと、できもしないことをしようと考えていた。

 

「ノーリ」

 

一人で黙秘を貫き、結果保護者との話し合いが終わるまで個室に閉じ込められてたが、そこにギンガがやってきた。

 

「ギンガ…俺の処分は決まったか?停学?転校?何なら檻に戻るか?」

 

「そんなことにはならないわ。アキラ君も私も、理由なしにあなたが暴力を振るうような人じゃないって知ってるから………だから、私にだけ何あったか教えてもらえないかしら?私たちも先生方も、理由が無きゃかばいきれないのよ」

 

「……誰にもいわないか?」

 

「私が聞いて、納得できる理由だったらそれでこの話はおしまいってことで学校と話してあるわ」

 

俺はギンガにだけ真実を話した。その結果、俺は無罪放免となった。だが、最後に俺の居場所が悪くなるかもしれないと告げられた。

 

その言葉通り、それから俺の居場所は居心地が悪くなった。噂話が広がる速度というのは早いもので、俺の学年まで広がるのは訳なかった。

 

正直それが何だという感じで俺は無視した。俺なんかよりリンネの方がずっと辛い。だから俺は耐えられた。そもそも俺はクラスに友人は少なかったのだから、どうでもよかった。

 

それから俺はなるべくリンネのそばにいて周りににらみを利かせていた。俺自身がいくら嫌われようとかまわない。せめてリンネを守ってやりたかった。そのおかげか少し悪質ないたずらは減ったように思われた。

 

 

 

ー1ヶ月後ー

 

 

 

「ノーリさん!」

 

一ヶ月経ったある日リンネは珍しく笑顔で校舎裏にやってきた。

 

「どうした?」

 

「実は…」

 

リンネが言うには、いじめをして来た三人組の中の一人が他の二人を説得していじめをやめさせるように言ったらしい。リンネはやっと安心できると喜んでいたが、俺はそうは感じなかった。

 

人間はそう簡単に変われない。俺みたいな最初からほとんど空っぽだった人造魔導士はともかく、ついこの間まで悪意を向けていた人間がそう簡単に変われるだろうか。

 

奴らの悪質ないたずらに、対しリンネは何の反応も示さず、更に俺という邪魔者の介入でさぞ彼女たちにとって「面白くなかった」結果になったのではないかと俺は考えた。しかし、やっとほっとしたリンネに厳しい現実を突きつけるわけにもいかないと思った。

 

それに、彼女は純粋だ。あいつらが再び裏切るなんて信じたくないだろう。

 

「そうか、良かったな………リンネ」

 

「はい!なのでもう、ノーリさんにご迷惑はお掛けしません。安心してください」

 

「………リンネ」

 

「はい?」

 

「これ、やる」

 

俺はリンネに持っていた腕時計を渡した。ただの気休めだったがお守り代わりにと思った。

 

「腕時計…?いえ、そんな受け取れません!」

 

「いいから。持っとけ」

 

「は、はい…」

 

「………気を付けろよ」

 

「?」

 

 

 

ー翌日ー

 

 

 

俺の嫌な予感は当たってしまった。翌日の4時間目終わりの昼休み、リンネの母であるローリー・ベルリネッタから電話がかかってきた。

 

『もしもし!?ノーリさんですか?』

 

「ああ、ローリーさん。どうも」

 

『実は今、お父さんが…リンネの祖父が発作を起こしていて…』

 

「こないだの爺さんが!?」

 

『はい…それでリンネに連絡入れたんですが、あの子、通信に出なくて』

 

「!!!」

 

『学校にも連絡したんですが、リンネが見当たらないって……ノーリさん、なにかご存じではありませんか?………ノーリさん?ノーリさん!?』

 

俺はすぐに教室から飛び出していた。嫌な予感がしていた。そしてそれがきっと当たってしまったんだと察していた。

 

「リンネ…!」

 

校内をバタバタと駆けまわっていると、階段の踊り場に落ちている紙が目に入った。本当にたまたまそれに気を引かれ、拾い上げる。

 

そこには「四階西トイレ」と書かれていた。さらにはこの前リンネの家で見せてもらったスクーデリアのイラストも描いてあった。

 

「クソ!」

 

四階の西トイレに到着すると、そこにはリンネが倒れていた。

 

「リ………リンネェェェェェ!!!!!」

 

それから、俺は午後の授業を無視してリンネを抱えて病院まで飛んだ。その後、病院で爺さんは息は引き取ったが、唯一幸いだったのはリンネが途中で目を覚まし、最期のほんの数分でも爺さんと話せたことだった。

 

 

 

ー病院待合室ー

 

 

 

「………」

 

待合室で待っていると、リンネとローリーさんがやってきた。

 

「爺さんは…」

 

「先ほど息を引き取りました…ノーリさん、本当にありがとうございました。ノーリさんのおかげで……本当に一瞬でしたが、祖父と………話すことが出来ました…」

 

「そうか……なら、よかった。でも、すまなかった。俺、あんたらの使用人が迎えに来てるって知らなくて……そのせいで遅くなっちまった。本当にすまなかった…っ!」

 

「いいんです……何も話せなかったよりずっとマシでしたから……それに、私も申し訳ありません」

 

リンネは俺が渡した腕時計を差し出した。腕時計は壊れ、針は止まってしまっていた。

 

「突き飛ばされたときの衝撃で、壊れてしまったようです……弁償、もしくは修理してお返しします」

 

「……いや、いい。それより、ちょっとだけ返してもらえるか?」

 

「………はい」

 

「あとで返す……少し待っていてくれ」

 

「………」

 

俺はこういう時の為にこの腕時計を用意していた。腕時計の内部に盗聴器を仕掛けておいた。無用な盗聴を防ぐために着けている人間の魔力周波数が不安定になったときに盗聴を始める仕組みだ。事件が起きたときの盗聴さえうまくいっていれば、証拠にはなる。

 

(証拠にはなるが………無断盗聴で少なくとも何かしらの処罰は受けるだろうな……リンネからの信頼も…)

 

だとしても、救いたかった。やつらに罰を与えたかった。だから俺は、すべてを敵に回す覚悟で腕時計のデータを取り出した。

 

 

 

ー翌日ー

 

 

 

俺はリンネのクラスの教室で朝から張り込んだ。予想通り、誰よりも早くリンネは教室にやって来た。

 

「よう」

 

「!」

 

俺の予想外の登場に、リンネは驚いているようだった。

 

「ずいぶん早いな」

 

「……いつもどおりです」

 

「お前が何をしようとしてるか、大体察しはついてる」

 

「なんの話ですか?」

 

「いまのお前の眼は、お金持ちのお嬢様の眼じゃねえ。血肉に飢えた野犬の眼だ」

 

「…」

 

俺は腕時計の盗聴器の話をした。うまく証拠は残っていた。そして腕時計は事故のタイミングで止まっている。これらがあれば少なくとも傷害罪で訴えられると伝えた。

 

しかし俺は甘く見ていた。彼女の復讐の炎の量を。

 

「ノーリさん私のために尽くしてくれて本当にありがとうございます。私は彼女たちに何も望みません。私が望むのは……彼女たちへの制裁です」

 

「…っ!」

 

そう言い残し去ろうとするリンネの前に俺は立ちはだかる。

 

「ばか野郎!あんな連中のためにお前がお前の居場所を削る必要はないんだ!俺がやつらに制裁を下す!自分のやったことがどれだけ重い罪だったか必ずわからせてやる!だからお前は動くな!俺の親は両方とも管理局でそこそこ高い地位にいる。必ず役に立つ!だからお前は…」

 

「……………申し訳ありません、ノーリさん」

 

次の瞬間、俺の腹に強い衝撃が襲った。

 

「がっ…」

 

「これは、私のケジメなんです。ごめんなさい」

 

俺の身体はその時、俺が暴れた事件の直後で弱っていた。普段ならいくらパワーが強いと言えど子供の力で気絶させられるほどやわではなかったはずだ。だがこの時ばかりは身体が付いていけなかった。

 

「ま………て……リン…ネ」

 

俺は薄れ行く意識の中、リンネの胸の中で歯ぎしりをした。

 

「ごめんなさい……」

 

「…」

 

それからしばらくして、俺は校舎裏で目を覚ました。いつもリンネと昼飯を食べていた場所に寝かされていた。身体を冷やさないためか、リンネの制服の上着を掛けられていた。そして手元には盗聴システムが外された腕時計が置かれていた。

 

「………リンネ!!!」

 

俺は大慌てでそこから動いた。どこに向かおうか考えながら走っていると何やら人だかりができていることに気付いた。そこに向かうと、救急車に運ばれる少女が見えた。

 

「!!」

 

運ばれているのは、リンネをイジメていた三人だった。状況はよくわからなかったが、少なくとも学校で負うような怪我ではなかった。

 

「………………」

 

(護れなかった……)

 

俺はその場に崩れ落ちた。手は尽くしたはずだった。それなのに、彼女を守ることができなかった。俺は力のなさを嘆いた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「それからだ…俺が力を求めるようになったのは」

 

ノーリとアインハルトの試合が終わり、ノーリはこれまでの経緯をチームナカジマや、仲間たちに話していた。ノーリは腕時計を取り出す。

 

腕時計は未だに壊れたままであった。

 

「あいつの時間は、きっとこの時計みたいに止まったままなんだ。だから、俺は…」

 

「そんなことが…あったんですね」

 

「ああ、あった。それからあいつはいろいろあってフロンティアジムに入って、この世界に入った。あいつの眼に以前のような優しさはない。あいつはまだ救われてない。だから俺はあいつを…」

 

「助けたい……のですね?」

 

ノーリの言葉をアインハルトが代弁した。

 

「ああ…」

 

「だったらなおさら、今やめるわけには行かなかったのでは…」

 

「力を求めた結果があの事件になっちまったって言っても過言じゃねぇ………これは俺の問題だ。これ以上、俺の事情にお前らを巻き込みたくなかった………だから俺は」

 

「水臭いです!ノーリさん!どうして今まで話してくれなかったんですか!?」

 

ノーリの態度に対して急に怒ったのはヴィヴィオだった。

 

「え?」

 

「私たちはまだまだ子供ですけど……少しはノーリさんの力になれると…思ってます。だから…」

 

話しているうちに気持ちが高ぶってしまったのか、ヴィヴィオの声は段々と嗚咽がかってきて来る。そんなヴィヴィオを慰めるように、ノーリはヴィヴィオの頭に手を乗せた。

 

「そうだな……そうだったんだよな、悪い……」

 

 

 

ー聖王教会 廊下ー

 

 

 

一通り話を聞いたアインハルトは、一旦お手洗いに行くために外に出ていた。すると、廊下でくつろぐようにたたずんでいたアキラを見付ける。

 

「アキラさん」

 

「おう、アインハルト」

 

「ノーリさんの…リンネさんことを、アキラさんは…」

 

「ああ。知ってたさ」

 

「…」

 

アインハルトの瞳には「知っていたのならなぜ助けなかった」という疑念が見えた。アキラは質問を見越して先に応える。

 

「だがあれはあいつの問題さ。俺は保護者だが、だからと言って全部に関わるべきじゃない。だから、お前があいつを助けてやってくれ」

 

アキラはアインハルトの肩に触れた。アインハルトは小さく頷いた。

 

「はい…っ」

 

「アキラさん!」

 

そこに、オットーが駆けてきた。

 

「大変です!」

 

 

 

続け



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第三話 リード・エントリー 0079

話は現在に戻り、新たな展開へ


オットーからの報告を聞いたアキラは必死に聖王教会を走っていた。その足は、とある部屋に向かっている。そしてたどり着いた部屋の扉を勢いよく開いた。

 

「イクス!!!」

 

開いた扉の先には、未だに眠っているイクスがいた。しかし、その上には小さなイクスが乗っていた。

 

「イクス………」

 

小さなイクスは浮かび上がり、アキラに手を振った。

 

「どうなってんだこりゃあ………」

 

アキラはその光景に呆然としつつもゆっくりと小さなイクスに近付く。「それ」が何なのかはアキラにはよくわからなかったが、感覚的にイクス自身であることは理解できた。

 

そして、イクスの起きている姿をみたアキラは意識せず涙を流した。アキラはイクス、マリアージュが起こしたマリアージュ事件に関わっていた。かつてイクスに代わってイクスが収めていた国を治めた「アガリアレプト」の遺伝子を基として作られた人造魔導士のアキラはイクスとの関わりが自然と深くなっていた。

 

「あれ、涙…」

 

イクスはクスリと笑ってアキラの涙を拭ってやる。アキラは何とも言えない表情で笑い、小さなイクスを抱きしめた。

 

 

 

-翌日-

 

 

 

昨日はノーリとアインハルトのこともあり、アキラはヴィヴィオ達にイクスのことは話さずに翌日に連絡させた。そして今日、ヴィヴィオとスバルはその連絡を受けて大急ぎで教会にやってきた。

 

「イクスが目覚めたって本当!?」

 

「あー目覚めたっていうか…」

 

「実際見てもらった方が速いかな?」

 

スバルとヴィヴィオがイクスの寝ている部屋に入ると、そこには既にギンガとアキラ、そしてアリスがいた。

 

「ギン姉!」

 

「アキラさん!」

 

そしてギンガの手の上には小さなイクスがいた。スバルとヴィヴィオに気付いたイクスはふわりと飛び上ってスカートの裾を持ち上げ、小さく頭を下げた。

 

「あはは…」

 

「ごきげんよう…」

 

その後、イクスの状態を説明し、とりあえずいつもの面子にイクスを紹介することとなった。とりあえずイクスを連れて全員が集合している公園へと向かった。

 

「というわけで、改めて紹介します。イクスさんで~す」

 

「…へぇ」

 

イクスに挨拶されたがノーリはいまいちな反応だった。

 

「あれ?ノーリさんあんま乗り気じゃない?」

 

リオに言われたノーリはリオの方をぐりんと向いてこれまた微妙な表情をする。

 

「これを見てもなんも思わねぇのか」

 

ノーリは杖をついて歩いていた。昨日の決闘ではクラッシュエミュレートが発動していたが、帰宅してからフェーズが上がったバックファイアが遅れてノーリを襲い、動けなくなったのだ。それは今朝になっても変わらず、なんとか集合時間には多少動けるようになったものの、今でも動きづらいのは変わらない。

 

「…」

 

イクスは飛び上りノーリの前にまで来た。

 

「……どした」

 

イクスはノーリに頭を下げて挨拶をする。

 

「……悪いが俺は、あんたのことを知らねぇんだ。オリヴィエのかすかな記憶やイングヴァルトの記憶全体を探ってもあんたとの関りは…」

 

「違いますよ」

 

ノーリの言葉を遮るようにヴィヴィオが言った。

 

「あ?」

 

「イクスさんはノーリさんに挨拶をしているんです」

 

「…」

 

それを聞いたノーリは少し驚いて姿勢を正した。

 

「そいつは悪かった。大した愛想もないが、仲良く………友達に、なってくれるか?」

 

ノーリが照れくさそうに言い、指を差し伸べるとイクスはにっこりと笑って頷き、ノーリの指に小さな掌を重ねた。ノーリはこれまでアインハルトやヴィヴィオ、ダズマの事件など自身の身体の中にある古代ベルカの王たちとの関りばかりだった。正直古代ベルカ関係ばかりでうんざりしていたのだ。

 

古代ベルカの血縁者としてではなく、ノーリ自身に目が向けられているのは割と珍しかったのだ。イクス自身も青空と笑顔を所望しているのだ。古代ベルカのあれこれを引っ張る理由はなかった。

 

その後、各メンバーの紹介が終わった後、イクスを連れてプールへ行く流れとなった。

 

 

 

「で、なんで俺まで連れてこられんだよ」

 

さっさと帰ろうとしたノーリは半ば無理やり引っ張られてプールに連れてこられていた。

 

「リハビリ代わりにちょうどいいだろう。お前は次の試合までに身体を直しておかないといけないんだからな」

 

今のところDSAAで生き残っているのはチームナカジマの中ではノーリとコロナの二人だ。もうすぐ試合を控えている二人にとってもプールの運動は中々良い運動だった。

 

ノーリは寝ていたいようだがもうそんな悠長なことも言ってられなかった。

 

「それに、目の保養にもなるんじゃないか?」

 

そういってノーヴェはアインハルトを指さす。アインハルトは新しい水着を買い与えられていた。やる気のなさそうなノーリを見たアキラが機転を利かせて用意したものだった。

 

「…………俺は別に…」

 

ノーリは少し頬を赤らめて顔を反らした。

 

「ノーリさーん!」

 

しばらくプールサイドにいたノーリはヴィヴィオ達に呼ばれ、重い腰を上げてプールに向かった。

 

「へいへい」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

それから数日後、ノーリとコロナは準決勝へと向かった。このまま順調に勝ち進んでいけばノーリは都市本戦前の決勝でミウラとぶつかることとなる。

 

だが、そんなことはノーリにとって問題ではない。仲間から託された想いを背負い、前へ進むだけだ。

 

「おぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「はぁぁ!」

 

さすがに準決勝ともなるとノーリは秒殺はできなくなってきた。それはノーリの心情の変化の影響もあった。

 

『おおっと!ノーリ選手どうしたことでしょうか!今まで以上にやりづらい様子!』

 

「………っ!」

 

(射撃一本で鍛えた相手か………厄介だが………)

 

『ここでラウンド1が終了!インターバルに入ります』

 

ノーリはリングから降りて椅子に座る。コーチ役のウーノとディエチが駆け付ける。

 

「大丈夫?」

 

「厄介な相手ね。常に距離を保ってくる」

 

「いいや。これでいい」

 

「え?」

 

「最初はどんな奴かわからなかったが、どんな動きかは大体読めてきた。奴は次のラウンドも同じ手法を取って来るだろう…いや、別の手法を取ってきたって問題ない」

 

そういってノーリはリングに戻っていった。ノーリがこの試合に勝てば、次は決勝戦でミウラと戦うこととなる。都市本選に行けば大体知った顔になる。であればここで奥の手を見せても問題はないとノーリは考えていた。

 

「ノーリさん!頑張ってください!」

 

「ノーリさん!!」

 

(それに今は、アイツらの声援もある………)

 

以前はヴィヴィオ達の声援なんて聞こえてなかった。それが今はとても心地よく聞こえ、身体の奥底から力がみなぎって来る。

 

「行くぜ!」

 

ラウンド2開始直後、ノーリはデバイスのリューズを回し、スイッチを押した。ノーリのバリアジャケットは変化し、腕に鉄腕が装備された。

 

「フェーズ2………」

 

「!?」

 

対戦相手であるエリー選手はそれに驚きつつも戦法は変えずに射撃を放ってきた。しかしそれを気にせずノーリは姿勢を低くして構える。ノーリの腕には黒い魔力が溜まっていく。

 

「ガイスト・クヴァール」

 

対戦相手の視界からノーリが消えた。

 

「!」

 

次の瞬間、ノーリはエリー選手の背後に現れ、ガイスト・クヴァールを放った。その一撃はリングを抉り、エリー選手を場外までふっ飛ばした。ほぼノーダメージだったエリー選手だったが、その一撃でライフが全て削り取られた。

 

『決着~!ここまで不利に思われたノーリ選手でしたがここにきて奥の手が炸裂しました!』

 

「………はぁ!はぁ、はぁ、」

 

しかし、ノーリもその一撃にすべてを賭け、集中したために試合終了と共にノーリは緊張の糸が切れ、その場に座り込んだ。

 

「ふぅ…」

 

試合後、着替える為に更衣室に向かったが、その途中で観客席から移動してきたミウラが現れた。

 

「ミウラ」

 

「お疲れ様です。ノーリさん」

 

ミウラは試合を終わらせたノーリに労いの言葉を掛ける。

 

「ああ。次はお前だな」

 

「負けませんから」

 

「こっちだってな」

 

最初は仲間として、そして次の対戦相手として軽い交流を交わす。次の決勝戦、それは2週間後だがノーリやチームナカジマにはそれより前にやることがあった。

 

 

 

-St.ヒルデ魔法学院中等科-

 

 

 

「というわけで学園祭の出し物について厳正なる投票を行いました結果!我がクラスの出し物は「スポーツバー」に決まりました!」

 

ノーリ達のやること、それは学園祭だった。試合も大切だがそれ以上に学校生活も大切にすべきことだった。

 

(スポーツバーねぇ…まぁ悪くないかな)

 

基本的にノーリはこの手のイベントは乗り気ではなかったので進行はクラス委員に任せていた。

 

「あとアインハルトさんとノーリさんも!」

 

「んあ」

 

全く話を聞いていなかったノーリは急に名前を呼ばれて驚く。

 

「二人ともインターミドル選手なんだし格闘勝負のコーナーとかどうかな?」

 

「あ、そっか」

 

「すごい強いんだよね?」

 

「ノーリさんは決勝まで行ってるって…!」

 

数週間前に起きたダズマの事件は局が伏せたため、ノーリが関わっていたことはほとんどの人間が知らなかった。よってノーリはインターミドルの強い選手的な理解のされ方をしていた。

 

あの事件が明るみに出ていたらこんなに仲良くはしてなかっただろう。

 

「まぁ、腕っぷしに自信はあるが………」

 

「万が一お客様や私はともかくノーリさんが怪我をするといけませんし…」

 

「そっか、まだ試合控えてるんだよね…」

 

「ではこんなのはどうでしょう?」

 

 

 

-放課後-

 

 

 

「アームレスリングの選手!?」

 

「らしいぜ」

 

「なぜかそうなってしまいまして」

 

放課後、アインハルトとノーリはヴィヴィオたちにクラス内の出し物でアームレスリング係りになってしまったことを伝えた。

 

「私はともかく、ノーリさんはまだ試合が残っていますから、無理をしないようにという意味で私に勝てたらノーリさんへの挑戦権を得るという形です」

 

「それって…」

 

「ノーリさんに挑戦するの無理なんじゃ…」

 

「ある程度加減はしますよ」

 

そういってアインハルトはクスリと笑った。昔のアインハルトならこんな笑い方はしなかったろう。本当に変わったことが伺える。そんな時、遠くから手を振られる。

 

「おーい!」

 

手を振っている人物はヴィヴィオ達にとって知らない人物たちだった。

 

「アインハルトさーん!ノーリさーん!」

 

「お話し中ごめんね?こんにちは、皆さん」

 

「こんにちは!」

 

現れたのは黒髪の少女と桜色の髪の短髪の少女だった。

 

「私、アインハルトさんのクラスのクラス委員!ユミナ・アングレイヴです!」

 

「初めまして。私はただのストラトスさんとナカジマさんのクラスメイトだけど、ユミナの幼馴染のリード・S・ロノアです。よろしくね」

 

「今日はごめんね?急に話振っちゃって」

 

どうやらユミナはアインハルトとノーリに謝りに来るついでにスポーツファンなのでヴィヴィオ達に会いに来たらしい。リードはその付き添いみたいだ。

 

ユミナがアインハルトとノーリに話している時、リードがコロナのところへ歩み寄る。

 

「?」

 

「コロナちゃんだっけ?」

 

「は、はい…」

 

「なにか迷ってる?ううん、緊張してるのね」

 

「え?」

 

「自慢じゃないけど、私、目と記憶力がいいの。いつもと表情が違うとすぐにわかっちゃうの…………お節介だったかしら?」

 

「いえ………当たってるので…いいです」

 

「次は準決勝よね?頑張って。応援しているわ」

 

「ありがとうございます…」

 

話を終えたユミナとリードは「またね」といって去っていった。コロナが緊張しているわけ、それはもうじき行われる準決勝戦がヴィクターとの試合だからだ。

 

「……コロナ」

 

「はい」

 

「頑張れよ」

 

言葉ばかりだがノーリはそれを伝えた。コロナは小さく頷いた。ヴィヴィオ達のクラスの出し物は決まっている。魔法喫茶だが、午後の部でコロナを中心にかわいらしいゴーレムたちの出し物がある。

 

それに笑顔で参加するために、次の試合には勝たなければいけない。コロナは気合いを入れていた。

 

 

 

-数日後-

 

 

 

準決勝会場にコロナとヴィクターが入場する。

 

「さぁコロナさん、行きますわよ?」

 

「はい!ヴィクターさん!!」

 

 

 

続く



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第四話 コロナ・リバース

ほぼ一年ぶりです。今年はせわしないですね。ここら辺は本編に存在しえないお話です。
コロナVSヴィクター、二人とも推しです。こんなご時世でコロナへの風評被害がありますが、みんなでコロナ・ティミルを応援しましょう!


-DSAA準決勝-

 

 

今回の準決勝試合はコロナとヴィクターの二人となった。お互い知っている者同士の戦いであり、ダズマ事件では無限書庫内で共に戦った仲だ。

 

今回初参加であるコロナが都市本戦準決勝まで行ったヴィクター相手にどこまでやれるかが見ものだった。

 

「行きます!」

 

「来なさい!」

 

最初に動いたのはコロナだ。短剣モードのブランゼルを武器に突貫した。武器の扱い的にもリーチの差でもコロナに不利な選択だ。

 

「アイツ何を!」

 

「はぁぁぁぁぁ!」

 

突っ込んでくるコロナに対し、ヴィクターはブロイエ・トロンベを横に振る。コロナはそれをジャンプして躱し、振り向きざまにブランゼルを振ったがヴィクターはブロイエ・トロンべで受ける。しかしパワーも重さも足りないコロナは競り合うまでもなくふっ飛ばされた。

 

コロナはふっ飛ばされる直前に後ろに飛んで力を逃がしつつうまく着地した。ヴィクターはコロナを追撃するがコロナは攻撃をギリギリのところで避け続ける。

 

「捨て身のつもりかしら?」

 

「そんなわけないですよ…………叩いて砕け!ゴライアス!!」

 

「!!」

 

次の瞬間、ヴィクターの背後からゴライアスが出現し、避ける隙を与えずにゴライアスが右腕を振り下ろし、ヴィクターを潰した。拳が命中すると同時にコロナは高く飛び、ゴライアスに乗った。

 

「…」

 

ゴライアスの一撃で発生した粉塵が晴れる。そこにはゴライアスの拳を片手で受け切っているヴィクターがいた。

 

ヴィクターLIFE18000→17950

 

『コロナ選手!自分を囮にした作戦でヴィクター選手に先制ダメージ!しかし、さすがは雷帝!びくともしません!』

 

遠隔操作のため、若干威力が落ちているとはいえたったこれだけのダメージとは雷帝の硬さは伊達じゃない。

 

「なるほど………ではお返しと行きましょう。八式!鉄拳!!!!」

 

ヴィクターはブロイエ・トロンべを上空に投げ、空いた手でゴライアスの拳を殴った。するとゴライアスの拳から肩にかけて一気にヒビが入り、砕けた。

 

「!」

 

「コロナさん、あなたの創成ロスが少ないゴーレム精製、お見事ですわ」

 

ヴィクターはコロナに誉め言葉を送り、落ちてきたブロイエ・トロンべを掴んで飛んだ。

 

「今度はこちらが見せてあげますわ。雷帝の一撃!」

 

(来る!)

 

コロナは慌ててゴライアスを操作し、砕けていない左腕をヴィクターに振った。ヴィクターはブロイエ・トロンべを頭上に構える。

 

「七十七式!斬斧両断!!!」

 

ブロイエ・トロンべをまっすぐに振り下ろしたと同時に、ゴライアスは真っ二つに割かれた。それどころかリングにまで綺麗な切り口を残した。

 

「なっ………」

 

ゴライアスは崩れる。何が起きたかコロナは理解できてない状態で地面になんとか着地した。

 

「そんな…」

 

『こ、これはすごい!コロナ選手の創製したゴーレムの腕を拳一つで砕いただけでなく、それを一気に真っ二つ!』

 

「…」

 

(あのゴーレム…想定以上に固い……)

 

ヴィクターは最初にゴライアスの拳を砕いたときからその固さに気づいていた。その強度で襲われると危険と判断したヴィクターは少し無理があったが即座にゴライアスを破壊する手に出たのだ。

 

クラッシュエミュレートの判定が出なかったのが不幸中の幸いだったが、今ヴィクターの腕にはゴライアスを切った反動がかなり響いている。

 

「コロナお嬢様!落ち着いて!まだ手も時間もあります!」

 

コーチのオットーが叫ぶ。

 

「うん!私は大丈夫!」

 

コロナは自慢の頭脳を今必死に動かしていた。

 

(まさか一撃で破壊されるとは思ってなかった……でも、まだ手段はある!)

 

決意を固め、コロナは構える。

 

(さっきは創成時間が短かった…そして、切りやすい形だった。なら、あれを使うしかない!)

 

「アースクエイク!!」

 

コロナは地面に手を当てて地面をえぐりながら相手を攻撃する衝撃波を繰り出した。だがヴィクターはその衝撃波にブロイエ・トロイベの剣圧を当てて相殺する。

 

「!」

 

(小手先の技じゃやっぱりダメだ!時間を稼ぐには…)

 

「マイストアーツ!」

 

コロナが魔方陣を展開するとコロナの全身に岩の鎧が装備された。

 

「あれは…」

 

「行きます!」

 

岩の鎧を纏ったコロナはヴィクターに突進していった。

 

「四式!瞬光!」

 

ヴィクターは愚直に突進してくるコロナに一撃を放った。しかし、コロナはその一撃を岩の鎧が付いた腕で挟んで止める。

 

コロナLIFE18000→17500

 

「なっ!」

 

「はぁぁぁぁぁ!」

 

コロナはブロイエ・トロイベを挟んだ状態から弾き、一気にヴィクターの懐に潜り込んだ。

 

「虎砲!」

 

「!」

 

ヴィクターLIFE17950→16500

 

多少のライフを犠牲に放った一撃は強力だった。特にこの岩の鎧はかなり固いのでその固さも相まってそこそこのダメージが入る。そのまま追撃に入ろうとしたが、ブロイエ・トロンべの刃がコロナに迫った。

 

「!!」

 

瞬時にコロナは後ろに飛んで避ける。

 

「やりますわね………」

 

「そちらこそ………」

 

(まだだ!まだ時間が必要だ…!一撃でライフを全部持っていかれるかもしれないけど…まだ粘れ!)

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

「っ!」

 

コロナはハンマーアームを装備し、果敢にヴィクターに迫る。致命傷になりうる攻撃をギリギリで避け続けて、コロナは時間を稼ぐ。

 

(明らかに何かをしようとしてる!これ以上は………)

 

背後に回ったコロナに対し、ヴィクターはブロイエ・トロンべの下にある仕込み光剣による居合抜きを放った。ヴィクターにしては速い攻撃に対応しきれず、コロナはそれを食らってしまう。

 

コロナLIFE17500→10000

 

「お嬢様!!」

 

「ッ!」

 

コロナは場外にふっ飛ばされそうになりながらもギリギリで耐えた。

 

「あなたとの闘いは楽しいですが、こちらも勝つために来ているので…………残念ですが、もうそろそろおしまいにさせていただきます」

 

ヴィクターは光剣を戻し、両手に電撃を蓄積させる。

 

「ヴィクターさん………私も同じ気持ちです。ですが、もう準備はできました」

 

「!!」

 

ヴィクターはすぐさま動いた。

 

「ゴーレムクリエイト!!!ゴライアス!!ヴァージョン3!!」

 

しかしもう遅い。地面から巨大な何かが飛び出し、ヴィクターに食らいつく。

 

「アースシェイカー!!!!」

 

地面から出現したのは、巨大な蛇型のゴーレム。これまでコロナが使ってきたゴライアスとは全く形の違うゴーレムだった。

 

「ッ!」

 

ヴィクターはアースシェイカーに食らいつかれたまま場外の壁に叩きつけられた。

 

ヴィクターLIFE16500→12500

 

「ぐ………」

 

「はぁ、はぁ……」

 

ヴィクターはアースシェイカーから解放される。場外にふっ飛ばされたため、一時戦闘が終了し、カウントが取られる。

 

「カウント1!2!3!」

 

「まだいけます………」

 

再びヴィクターがリングに上がったタイミングでラウンド1終了のゴングが練り響く。

 

『ここでラウンド1終了!意外過ぎる展開に、会場は驚きに満ちています!!』

 

「大丈夫ですか?お嬢様」

 

「ええ………少し不覚を取ったわ………初参加のルーキーと侮っていたわけではないけれど、少し予想外……」

 

一方のコロナも休憩に入っていた。

 

「無茶しやがって………」

 

「えへへ……」

 

アキラとのトレーニングで得た力をコーチであるノーヴェに断りをいれずに使ったことを案の定怒られてた。

 

「まぁ、そう怒るな。俺が許可を出したんだ」

 

アキラは関係者としてリング付近まで来た。

 

「だからってあんな無茶な力の使い方………」

 

「無茶じゃねーよ。こんなことくれーで身体に支障が出るほどこいつはヤワじゃねぇ。それができるからこいつは今ここにいるんだ」

 

「………」

 

「コーチ……」

 

コロナはノーヴェを見る。

 

「信用してやれよ、お前の弟子を」

 

「わかった。でも、危険だと感じたらすぐタオルを投げ入れるからな」

 

「はいっ!」

 

ノーヴェはため息をつきつつ、アキラにコーチタオルを渡した。

 

「お前が始めたことだろ。ちゃんと責任とれよ」

 

「了解だ」

 

LIFEを多少回復した二人は再度リングに上がる。コロナはアースシェイカーの頭の上に乗る。

 

コロナLIFE10000→12000

 

ヴィクターLIFE12500→14000

 

「行きます!」

 

アースシェイカーが起動し、地面を抉りながらヴィクターに迫る。

 

「最初は驚かされましたが………この雷帝に二度は通用しませんわ!」

 

ヴィクターはブロイエ・トロンべを横向きに構え、両手を前に突き出す。魔力を全身に通わせ、両手足に力を籠める。

 

「五十八式!鉄塊!!!」

 

アースシェイカーの強力な体当たりをヴィクターはまともに受け、ステージギリギリまで追いつめられるが何とか抑え切った。

 

「くぅ……っ!」

 

ヴィクターLIFE14000→13500

 

「っ!」

 

「コロナ!叩け!」

 

アキラが叫ぶ。コロナはアースシェイカーから飛び、ゴライアスの腕を自身の腕に装備してヴィクターに迫る。

 

「マイストアーム!スパイラルフィンガー!!」

 

「二十三式!刃咬!」

 

回転しながら迫る巨腕をヴィクターは白羽取りで受け止める。回転している岩塊を両手で無理やり受けてたので当然LIFEは一気に削られる。

 

「ぐぅぅぅっ!」

 

ヴィクターLIFE13500→12000

 

「はぁ!」

 

しかし多少の無理は伴ったとはいえヴィクターはスパイラルフィンガーの回転を止めて見せた。スパイラルフィンガーをも受け止め切ったヴィクターはコロナを投げ飛ばし、ブロイエ・トロンべを構えて飛んだ。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

狙いはコントロールを失って止まっているアースシェイカーだ。

 

「三十九式…」

 

「パニッシュメントパイル!!!」

 

アースシェイカーを破壊しようとした瞬間、ヴィクターの上空に突如として岩の杭が出現する。

 

「なっ…!」

 

躱しきれず、ヴィクターはパニッシュメントパイルをくらい、地面に叩きつけられた。

 

「……」

 

粉塵が晴れる。そこにはそれなりのダメージを負ったヴィクターが片膝をついていた。

 

ヴィクターLIFE12000→11000

 

(完全にこっちのペースだ!このまま押し切る!)

 

コロナはアースシェイカーに飛び乗り、一気にヴィクターに迫る。しかし、そう簡単に追撃は許されなかった。ヴィクターは立ち上がるとブロイエトロンベを頭上に構えて振り回す。そうして電撃を蓄電したブロイエトロンベをアースシェイカーに攻撃される直前に地面に叩きつけた。

 

「百式!神雷!!!」

 

シャンテ戦で見せた会場機材に影響を及ぼすほどの電撃技だった。広範囲に放たれた電撃を防ぐ間もなく、コロナとアースシェイカーはまとめて吹っ飛ばされた。これほどの電撃を食らえばシャンテと同じように感電し、動けなくなると思われた。

 

しかし、吹っ飛ばされたコロナは空中で姿勢を制御して着地した。

 

「!?」

 

コロナLIFE12000→4580

 

クラッシュエミュレート:左半身感電

 

「はぁ………はぁ………」

 

「驚きましたわね。まさか今のでまだ立っていられるなんて」

 

シャンテのときと違いヴィクターは追撃には出ていなかった。まだ意識を残していたこと、そしてただならぬ気配を察知したからだ。

 

(追撃して仕留めきれるライフでもありませんし、それに、空中にいた彼女に追撃しようとしたとき感じた魔力流………まだなにかあるっていうんですの?)

 

左半身が麻痺しているのにも関わらずコロナは何とか立ち上がる。

 

(シャンテの試合映像見てなかったらやられてたな………)

 

コロナはシャンテの試合映像を参考にヴィクターとの戦い方を研究していた。いくらシャンテの防御が薄いとはいえ、一気にライフを削った神雷には警戒していた。コロナは予備動作から神雷が打たれることを察知し、アースシェイカーを盾にし、さらに多重防御で何とか守り切ったのだった。

 

「アースシェイカー!」

 

コロナは再びアースシェイカーに乗る。

 

「ジャイロクラッシャー!!!」

 

アースシェイカーの首の周りからさらに6本の小さい蛇の首が出現し、ヴィクターを囲う様に迫る。さらに正面には本体の首が迫っており、背後はリングの縁。もはやヴィクターに逃げ場はなかった。

 

「残念ながらもうあなたの技は通用しませんわ」

 

そう呟き、ヴィクターはブロイエトロンベを構えた。

 

「神雷式!剣!!!」

 

「!!」

 

刹那、ブロイエトロンベから巨大な雷の刃が出現し、伸びてきた首ごとアースシェイカーを切り裂いた。

 

アースシェイカーを破壊されたコロナはそのまま落ちたが、倒れはせずに何とか姿勢を保つ。

 

「神雷はそもそも周囲に電撃を放つだけの技ではありません。」

 

「……」

 

「試合開始から蓄電した電撃の一部を放電しつつ、電撃のリミッターを解除する大技………それが神雷」

 

「そんな大技を隠していたなんて……流石です」

 

「ありがとう。でもどうするの?頼みのゴーレムは粉砕され、次のゴーレムを出す前に私はあなたを倒しきる自信があります。できれば、これ以上手の内を見せたくはないのだけれど……」

 

「ご心配ありがとうございます。ですが、ゴーレム操作だけが、私の強さではありませんから」

 

そう言ってコロナは構える。

 

「まぁ、言って聞くタマじゃないわよね」

 

ヴィクターも構える。

 

(とはいえ、残りライフは僅か。左半身が動かないなら左側から一気にせめてゲームエンド………)

 

そう思うはずなのに、ヴィクターは心のどこかでまだ試合が終わらないような気がしていた。

 

(…)

 

「神雷式!速!」

 

瞬間移動と変わらぬ速さでヴィクターはコロナの左斜め後ろに移動した。

 

「神雷式!剣!!!」

 

予想通り左半身が麻痺しているコロナはすぐに反応しきれず、そのまま雷の剣で切り裂かれて終わるかと思われた。しかし、コロナは雷の剣を寸での瞬間で躱し、そのままヴィクターの懐に入り込んだ。

 

「イプシロン!!!」

 

「!?」

 

ヴィクターは腹部に強い衝撃を受け、吹っ飛んだ。

 

ヴィクターLIFE11000→10670

 

「くぅ…」

 

ヴィクターがコロナを見ると、左半身が麻痺してるとは思えない構えをしていた。

 

「ネフィリムフィストフルコントロールモード……」

 

 

 

続く



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第五話 コロナ・エフォート

コロナとヴィクターの試合、決着です。しかし、この先全部オリジナルで書かなくちゃならないのがつらい。


ネフィリムフィストフルコントロールモード。自分自身を外から操作することで戦う戦闘方法。例え腕が折れようと、拳が砕けようと術者の精神と魔力が持つ限り戦い続けられる。最凶にして最後の戦闘方法。電撃により左半身が麻痺していたコロナはフルコントロールモードで自身の身体を無理やり動かし、なんとか戦闘を続行させたのだ。

 

「それが奥の手というわけね?」

 

「…はい」

 

(悔しいな………どれだけ努力して頑張って覚えた技も一撃で粉砕されて。まだルーキーの私はこんな無茶な戦法しか取れない…)

 

コロナは目の前のプロを見て自分の未熟さを、そしてプロの強さを実感した。

 

(残りの魔力も時間ももう僅か、きっと私は負ける…だけど、そんな予感だけであきらめるつもりはないし、やれるところまでやってみせる!)

 

「まさかそんな裏技を持っていたなんて………その応用を考えた頭脳はほめてあげたいところですけど、とても褒められる闘い方とは言えませんわ!」

 

自らの選手生命を無視した戦い方はプロであるヴィクターからすれば認められるものではなかった。

 

「百も承知です。ですが、私を支えてくれた人のためにも、あきらめるわけにはいかないんです!」

 

「お説教が必要なみたいですわね!」

 

「マイストアーツ!」

 

コロナは再び岩の鎧を見に纏い、構えた。それと同時にヴィクターは光の速さでコロナに接近し、ブロイエ・トロンベを振った。コロナは瞬時に後方に下がり、光弾を打ち込もうとしたがその場には既にヴィクターはいない。

 

「神雷式、召雷・鳥!」

 

上か声がした。急いで回避行動を取ろうとしたがすでに遅い。鳥の形を形成した雷がコロナを襲う。コロナはとっさに岩盤を出現させて盾代わりに使ったが簡単に砕かれ、コロナは吹っ飛ばされた。二度のゴーレム生成によってコロナの体力、魔力、そして判断力や反応速度あらゆるステータスが低くなっていたことが原因といえるだろう。

 

「ぐぅぅぅぅぅ!!!!」

 

コロナLIFE4580→1240

 

岩盤と岩の鎧で防いだおかげで即死は免れたものの大ダメージを負った。そして吹っ飛ばされているコロナにヴィクターが仕掛けに行く。ブロイエトロンべの刃が迫った時、ブランゼルに事前に登録された回避プログラムがネフィリムフィストで体動かす。

 

コロナの意識はその攻撃を認知していなかったが、ネフィリムフィストで体を捻り攻撃を回避した。

 

「!」

 

完全に決められると思って放った一撃。それを避けられヴィクターは一瞬動揺する。だがコロナは何が起こったのかすでに察知し、次の行動に出た。

 

「サンドストーム!!」

 

砂嵐が巻き起こり、ヴィクターの視界を一瞬覆う。そしてその砂嵐の中から岩の鎧の拳が飛んできた。

 

「くっ!」

 

ヴィクターはそれをブロイエトロンべで切り払うがそれはコロナが殴ってきたのではなく拳の部分だけミサイルのように飛ばしてきていたのだった。そしてコロナ本人はもうすでにネフィリムフィストを使った高速移動でヴィクターの背後に迫っていた。

 

「だぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「神雷式!招雷・蛇!」

 

背後に現れたコロナに対し雷の蛇を出現させたがコロナはそれも何とか回避する。コロナの移動がもう少し遅く、ヴィクターが気付くのがもう少し早ければ当たっていた攻撃。コロナの臨機応変の早さ故にこのチャンスが生まれたのだ。

 

「ジェッド・ランス!!!!」

 

ヴィクターの懐まで潜り込み、低い姿勢から地面を強く蹴って全体重を乗せての鳩尾に向けたアッパー。それは雷帝の厚い装甲を貫くのには容易だった。

 

ヴィクターLIFE10670→7420

 

強力な一撃をもらったヴィクターはそのまま吹っ飛ばされる。それを見逃す手はなかった。

 

(今しかない!!!)

 

コロナはネフィリムフィストフルコントロールモードを解除し、ブランゼルを起動した。

 

「ゴーレムクリエイト!!刃の如く敵を蹴散らし!盾の如く我が身を護れ!創主コロナと魔導器ブランゼルの名のもとに!降臨せよ!ゴライアス・ヴァージョン4!!ゴライアスΩ!!!!」

 

地面から刺々しい見た目のゴーレムが出現した。腰に剣を携えたコロナが扱うゴーレムの中でも最強のゴーレムだ。アキラとの特訓で最初に渡された特別なコアから生成され、暴走したのをアキラが無理やり破壊することで止められた最強の巨神。

 

「………これは」

 

ゴーレム生成中に体勢を立て直したヴィクターはゴライアスΩを見て驚きと恐怖をその身に感じていた。プロ故にその強さを感じ取れてしまった。

 

(これは………砕けない…全力を持って破壊できるかどうか…)

 

「ゴライアス!フィンガーバルカン!!」

 

ゴライアスが指をヴィクターに向けると指の先端から岩の弾丸が無数に発射された。ヴィクターはフィールドを一気に駆け抜けることで何とか避ける。

 

「六式!閃光!」

 

ヴィクターは走りながら魔力弾をコロナに向けて放つ。ゴライアスの目の前でそれは大きな閃光を放ち、コロナの視界を奪う。

 

(閃光弾!しまった!)

 

その隙にヴィクターはリング端から一気にゴライアスに向かって飛び、ブロイエトロンべを振り上げた。

 

「神雷式!斧!!!」

 

ブロイエトロンべの先端に生成された雷の斧がコロナに迫る。しかし、その攻撃をゴライアスが腕で防いだ。創者が狙われたことを察し、ブランゼルが動かしたのだ。ヴィクターの斧はゴライアスの腕に突き刺さったが切り裂くまでには至らない。

 

(防がれた!なんて硬度!!)

 

「アースシェイカー!」

 

コロナの掛け声でゴライアスの腹部が開き、中から先ほど出した蛇型のゴーレム「アースシェイカー」の小型版が出現し、ヴィクターを咥えて地面に叩きつけた。

 

「あぐっ!」

 

ヴィクターLIFE7420→7150

 

ヴィクターはすぐに立ち上がり構える。

 

(あのゴーレムの腕………よく見たらアインハルトさんとの試合で使っていた腕のゴーレムに酷似して…………え?)

 

ゴライアスの硬度に驚いたヴィクターはゴーレムを観察する。その時、とあることに気づいた。

 

(左腕が………ない?)

 

さっきまであったはずのゴライアスの左腕がない。右腕を前に出す姿勢を取っていたため気づきにくかったが確かに左腕がない。

 

「クラッチ!」

 

(しまっ…!)

 

気づいたときにはすでに遅い。分離したゴライアスの左手がヴィクターが地面に叩きつけられた時の砂埃に紛れて彼女の背後に迫っていた。そしていま、分離した左腕はヴィクターをしっかりと確保し、離さない。

 

「ぐっ………」

 

「ゴライアス!」

 

コロナが叫ぶとゴライアスの胸部が開き、内側から砲塔が出現した。そしてゴライアスの胸のあたりが赤く光り、エネルギーが溜まっていくのが目に見えた。

 

「ゴライアス!ブレストマグマキャノン!!」

 

(あれを食らうのはマズイですわ!!今のライフじゃ受けきれない!!!)

 

ヴィクターは掴まれている腕から何とか脱出を試みるが、大技を繰り出そうにもその予備動作が取れないため破壊もままならない。バインドでの拘束でならいくらか脱出方法はある。しかし、圧倒的物量による拘束の前にヴィクターは成す術がない。

 

「お嬢様!!」

 

(いや!まだ手段はある!この腕も結局はゴーレム!抵抗すれば維持のための魔力を消費せざるを得ない!!)

 

「三式!雷波!」

 

拘束されながらもヴィクターは身体の周りに電撃波を放ち、自慢のパワーで自身を拘束している腕を何とか押しのけようと力を籠める。

 

「くぅ…っ!」

 

コロナはつらそうな顔をする。最終兵器のゴーレムの維持、キャノンのパワーチャージ、分離行動させている腕の遠隔操作、すべてに魔力リソースを回している。ここでの抵抗はすごくコロナにとってつらいものだった。

 

(いまにも魔力回路が焼き切れそうだ…でも!ここまでやったんだ!ここでぇぇぇぇぇぇ!!!!)

 

「諦めてたまるかぁぁぁぁぁぁ!!!!ファイアァ!!!!!」

 

限界を超えたコロナの叫びがフィールドにこだまする。

 

ゴライアスの胸部からマグマを纏った巨岩が発射され、それがヴィクターを掴んでいた腕パーツごと吹き飛ばす。リングの一部が融解し、そこから大量の煙が上がってヴィクターの状態がわからなくなった。

 

(お願いです………もう………)

 

既に限界を迎え、ヴィクターが倒れていることを願うことしかできないコロナ。煙が徐々に晴れていき、状況が見える。

 

煙の先には、ヴィクターが立っていた。

 

「……はぁ………はぁ……はぁ」

 

ヴィクターLIFE7150→240

CE→左腕から左胸にかけて大火傷

 

「そんな……」

 

ヴィクターのバリアジャケットは左半身部分がほとんど吹っ飛び、何とか左胸を隠せる分くらいしか残っていなかった。

 

ブレストマグマキャノンが発射された直後、抵抗を続けたおかげかわずかに緩んだ指の隙間から左腕を出してとっさに「神雷式・盾」を発動した。生成されたばかりの雷の盾はブレストマグマキャノンを完全に防ぎきることはできずにすぐ消滅したが、それでも盾のおかげで何とかヴィクターはライフを残したのだ。

 

「ゴライアスΩ!!!」

 

コロナの叫びでゴライアスが拳を振り上げる。しかし、振り下ろす直前にその動きが止まった。

 

ゴライアスに乗っていたコロナが意識を失い、ゴライアスから落ちたのだ。そしてその落ちた先にはいつの間にかアキラが立っており、コロナを優しく受け止めた。

 

「ここまでだ…魔力切れだな……レフェリー、この試合、コロナのギブアップだ」

 

「しょ、承知しました………準決勝戦、第一試合!勝者、ヴィクトーリア・ダールグリュン!!!」

 

歓声が沸き上がる。どんでん返しに次ぐどんでん返し。初参加のルーキーでありながらここまで善戦したコロナを観客全員が称えた。少し悲しいのはその賞賛を本人が聞けなかったことだろうか。

 

「………あら?」

 

少し気が抜け、ブロイエトロンべの刃を下におろした瞬間、ブロイエトロンべの刃が大きく刃こぼれした。

 

「………」

 

ヴィクターはそのまま選手入場口に戻って行った。

 

「お嬢様、大丈夫ですか?」

 

「………正直、勝った気はしないわ。今回勝てたのは、本当にたまたま。ほんのわずかの魔力の差。私も倒れる直前だったもの…」

 

「お嬢様……」

 

エドガーはこんなヴィクターを見たことがなかった。普段高貴で、たまに面倒見のいいお母さんのような一面もあるが、ここまで落ち込んでいる姿はなかった。ヴィクターは壁を殴った。

 

「ここまでの悔しさを感じたことはありませんわ………っ!こんな勝ち方………っ!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ぱちりと目を開く。そこは病室だった。

 

「ここは…」

 

「よう」

 

声がした。横を見るとかつてコロナを助けてくれた恩人であり、師匠であるアキラがいた。コロナは記憶がはっきりしてなかったが、アキラさんがここにいて、ここで自分が寝ていることで全てを理解した。

 

「そっか、私……負けちゃったんですね」

 

「ああ。負けた。というか、ギブアップを俺がさせた」

 

「そうですか………………勝ったって………思ったんですけど」

 

「よくやったよ。お前は。ほんの少しの差だったんだ」

 

「だけど…」

 

声が嗚咽がかる。コロナは涙を必死に我慢した。なぜか泣いてはいけないような気がしたのだ。アキラに情けない姿を見せたくなかったのかはわからない。

 

「………その調子だ。泣くほど悔しいならきっと次はもっと強くなれる」

 

アキラはそう言い残し、病室を出た。アキラが部屋を出たのは部屋の外に気配を感じたからだ。その感じた気配に扉を開けるとともに出会う。

 

「あ…」

 

「アキラさん…」

 

ヴィヴィオとリオだった。

 

「俺はガキの相手は苦手でな。あとはお前らに任すわ」

 

ヴィヴィオの頭に手を置いてアキラはその場から去っていった。二人は顔を見合わせて病室に入っていく。

 

「ヴィヴィオ、リオ」

 

「コロナ、大丈夫?」

 

コロナと二人は少し話した。最初の試合の話、ヴィヴィオの試合の話、リオの試合の話。そして、今回の試合の話。

 

「本当にすごかったよ。コロナ!」

 

「うんうん、ルーちゃんと戦った時と大違い!びっくりしちゃった!」

 

「…………試合中、なんども心が折れそうになったんだ。アインハルトさんのときもそうだった。あぁ、私はまだまだなんだなぁって思わされた。だけど、その度にいままでの教えが私を支えてくれた。技や考えた技術が決まったとき本当に嬉しかった。これがノーヴェさんの言ってた最高の瞬間なんだなって、わかったんだ」

 

「それは、わたしもわかる」

 

「わたしも…みんな褒めてくれたし、立派だったって………」

 

彼女たちの周りにいる大人たちは決して負けたことを責めたりする者はいない。大人たち自身が血反吐を吐くような努力をし続けてきたからたとえ格闘技の試合とはいえ努力を理解できない者たちはいなかった。

 

だが、だからこそそんなやさしさが彼女たちの胸を痛めた。

 

「だけどさ…………やっぱり勝ちたかったよね」

 

「当たり前だよ…」

 

「コーチや応援してくれる人たちに喜んでほしかった…」

 

「そうだよね、もっともっと……勝ちたかったよね」

 

もちろん負けたくないという気持ちもあるだろうが、それ以上に一生懸命自分たちのために尽くしてくれた仲間に申し訳が立たなかった。それが悔しくて彼女たちは涙を流した。

 

その声をアキラは扉越しに聞いていた。

 

そこに、ノーリとトレーニングをしているはずのアインハルトが現れる。

 

「あ、アキラさん」

 

「…………よう」

 

「…」

 

アキラの存在を確認してから、部屋の中の状況を察しアインハルトは帰ろうとした。

 

「いかなくていいのか?」

 

「………ノーリさんに心配だから見に行って来いと言われたのですが、この調子なら問題はないかと。それに、最初に負けた人間が励ますなんて…」

 

「んなこたぁ気にすることねぇよ。ま、お前がそういうなら無理にとは言わん。お前も頑張れよ」

 

「…はい!」

 

 

 

続く



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