電光超人グリッドマン ヒカリノキズナ (消しゴム)
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プロローグ

ここは桜ヶ丘。

インテリアスペース彩の地下室でいつもの三人……、いや四人が一つのパソコンを取り囲む。

 

直人、ゆか、一平、武史の四人は高校生になっても休日はこうしてここに集まっているのだ。

世界の人々はこの四人が魔王カーンデジファー、そしてその弟のネオカーンデジファーから二度世界を救っているのを知らない。全てを知っているのはこの4人だけなのだ。

 

「なあ、俺のプリン知らないか?」

直人はお店で使われなくなった代わりに地下室に置いた冷蔵庫に自分のプリンが入ってないことに気づいた。

「「「しらない」」」

三人はそう返すとおかしいなぁと直人が呟く。

 

「いいねぇ。時代が進むに連れてこうしてジャンクがどんどんパワーアップしてくのは。スペックが上がる度に興奮するぜ」

一平はいつもの調子で言う。

 

「またその話かい?」

「何度目よ、その話~?」

「一平、いつもそれだよなぁ」

武史、ゆか、直人は何度目だと言わんばかりに呆れた声で返す。

 

「お前ら三人は同じ高校で楽しくやってるだろうけどさぁ、俺は一人だけ違う高校で一人寂しく過ごしてるんだぜ。楽しみなのはジャンクくらいさ」

一平はまたいつもの調子で寂しそうに言う。

 

「だからこうして休日にここに集まってるんじゃない。大体、放課後も四人で遊ぼうとしても学校との友達付き合いで来れないって言ってるのは一平の方じゃない」

「あれ、そうだったけか?まあ細かいことはいいじゃねえか!」

「全くお調子者だなぁ、お前は」

「ははは…」

いつも繰り返されるやり取り。武史にとって友達の他愛のない会話は非日常であったがそれを日常と思えるほどこの三人との付き合いは長くなったのだと思うと自然と笑みがこぼれる。武史がいつまでもこの平和が続いて欲しいと思ったその時だった。

 

聴き覚えのある音がジャンクからしてきた。

 

「この音、アクセプターの音だ!」

直人が真っ先に気付く。

 

 

 

 

 

 

その時画面に映し出されたのは

 

 

 

 

 

 

「久し振りだな、みんな!」

 

電光超人グリッドマンその人である。彼は直人達と共に戦い世界を救ったハイパーワールドのハイパーエージェントである。

 

「グリッドマン!」

「久し振りじゃん!」

「会いに来てくれたの!?」

「どうしてここに?」

 

各々が突然の訪問に反応するが、グリッドマンは神妙な面持ちで言う。

 

「突然で悪いが君達の力が必要なのだ。だから私はここに来た。弟ももうすぐここに来るだろう」

「シグマが!?」

直人達はグリッドマンだけでなくグリッドマンシグマもここに来るということに驚き、同時にそれだけの緊急事態だということも理解した。

 

「かつて私が救ったここではない世界がもう一度何者かに破壊されようとしている。正体はまだわからないが……早く行かなければならない」

「その世界って?」

「説明は後だ」

思わずガクッとする直人。

 

「敵はどうやら次元を越えることの出来る能力を持っているらしい。私は敵が開けた次元の先に君達の気配を感じ、ここに来たのだ。君達にとってネオカーンデジファーとの戦いからはまだ一年程度しか経っていないが、私にとっては20年近く経っていることになる」

「次元だけじゃなく時も越えたのか!?」

「そういやちょっと顔が凛々しくなってるよーな……」

驚く武史の横で一平は少し違う所に着目している。

 

「いきなりで驚いたけど……グリッドマンのためなら何でも協力するぜ!」

「私、丁度ゴールデンウィークで家族が旅行中だし少しくらい家を空けても大丈夫よ」

「俺は母ちゃんにおこられるかもしれないから黙っていこうかな……」

「家に両親がいないから僕はいつでもOKだよ」

「ありがとう、みんな!」

直人達とグリッドマンは再び世界を、しかも違う世界を救うために新たな同盟を結んだのだった。

 

 

「武史はこの後来るシグマから事情を聞いて直接その世界に行ってくれ!」

「わかった!」

武史は頼もしい返事をする。

 

「直人、ゆか、一平は私と共にある世界に行ってほしい。そして一人のある少女に協力を要請してもらいたい」

「ある世界?」

「一人のある少女?」

「行くってどうやって?直人はアクセスフラッシュが出来ても俺とゆかは出来ないぜ」

直人達は各々が質問するが……

 

「説明は移動中にする。さあ、行こう!」

 

「ちょ、いきなり……」

「そんな無茶な……」

「きゃぁ!」

 

三人はジャンクに吸い込まれ、グリッドマンは出動した。

 

武史は相変わらず強引なところがあるなぁと思いながらシグマを待つことにした。



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第1話 グリッドマンが去ったツツジ台

所々作中で明言していない部分を私なりの解釈で書いているのであしからず。


3月、ツツジ台に春の季節がやってくる。

人との別れや出会いの季節である春はこの特殊な世界であっても現実と変わらず訪れる。

 

 

このツツジ台はかつて新条アカネという一人の少女が現実から逃げるために作ったコンピューターワールドのほんの一角である。

 

 

街も人々もこの世界のものは全て新条アカネが創造したものであったが、彼女が現実と向き合い心を開いたおかげで世界は広がり彼女が設定していないものまでもが誕生したことで、新たな一つの世界としてこれからも続くだろう。

 

そしてこの世界と彼女を救った三人は学校の帰り道の途中であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「裕太ぁ~、お前大丈夫なのか?進級テストで赤点何個かあったんだろ?まさかもう一回一年生やる気か?」

 

内海君はちょっかい半分、心配半分といった様子で響君の肩に手を置く。

 

 

「そんなわけないだろ!……他の教科は平均以上だったのになぁ」

内海君の手を払った後、わかりやすく落ち込む響君。

 

それもそのはずで、響君にはかつてグリッドマンが入ってた影響でグリッドマンと共に過ごした期間の全ての事を忘れていた。(そもそもグリッドマンの事を覚えているのは私と内海君とこの世界の守護者であるアンチ君と怪獣の女の子だけみたいだけど)

 

そしてその期間の授業分がごっそりと抜けてしまっていた。当然、その期間中もグリッドマンのおかげで赤点だらけ。

 

彼はあのとき目覚めてからなにも思い出せないでいる。

それは私達の関係も例外ではなく、あの戦いの日々も、アカネのことも、あの恐ろしい怪獣達も、怪獣少女やアンチ君も、新世紀中学生のことも、そして一心同体となって一緒に戦ったグリッドマンでさえも、彼の記憶にはない。

 

 

 

 

………当然、あの時の記憶もないのだろう。

 

響君が私の家まで来て私に告白したあの日。

 

突然のことでビックリしたけど、返事をしようとしたそのときに倒れてしまったので慌てて家にあげて寝かしてあげた。

 

今思えばその時にグリッドマンが響君の体に入って来ていたのだろう。タイミングが悪すぎるというかなんというか……。

私自身、未だにあの時の事に整理がついていないし響くんが思い出すまで待っててもいいかな……。

 

 

 

………とにかく響君は大変な状況なので内海君と私で勉強を教えてあげている。

 

 

 

地頭自体は悪くなく、むしろいい方だけど空白期間が長すぎたせいでほぼ一から教えることになっていた。

 

彼はそれを物凄く申し訳なさそうにしていたけど、私達からすればグリッドマンとして戦っていた彼の負担を考えればこの程度では返せないものだ。

 

「でもまあ、ウチの学校自称進学校の手前留年させることなんて極力しないはずだし、再試験が駄目でも追試と再追試ってあるんだから焦らなくてもいいんだよ?」

 

「でも………」

 

響君は今にも消え入りそうな声で言う。

 

「そんな心配なら三人で勉強だ!六花さん家で!」

 

そうそう、再試験に向けて勉強しないとね。

 

「って、あたしの家かよ!……別にいいけどさぁ」

 

すこし気だるく聞こえるように言う。どーせ暇だからいいんだけどね。

 

「いいの?お店やってるんじゃないの?」

 

心配性な人が一人。まあ、普通の反応とも言うけど。

 

「あの店なんてやっててもやってなくても一緒だろ」

 

「後でママに言いつけておくから」

 

「それだけはご勘弁を!あのほうじ茶ケーキは食いたくない!」

 

「冗談だってば!マジにしないでよー」

 

「アブねー、命の危険に晒される所だったぜ」

 

「人の店の商品をそこまで言う、普通?軽くショックなんですけど」

 

「そんな微笑みながら言われても説得力ゼロっすよ六花さん」

 

内海君とのやり取りでいつの間にか笑ってしまっていた。

 

グリッドマンと出会うまでは彼とこんなやり取りするなんて想像もしなかっただろう。

 

彼も私も、グリッドマンの一連の事件を乗り越えて一回り、二回りも成長出来たように感じた。

 

「じゃ、行こっか。響君」

 

「あ、うん……。」

 

テストの結果が良くなかったせいか響君は少し元気のない声で私に返事を返すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフ………。面白い世界があったものだ。あの三人はこれから始まる悲劇の登場人物にピッタリだ。

 

主演は……元グリッドマンの響裕太君で決定だな

 

所詮作り物の世界だが、余興には充分だろう。早速悲劇の根回しといくか……」

 

 




タイトルで◯・◯みたいなのは極力避けます。理由はいい感じの言葉が思いつかないからです。


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第2話 小さな異変

12.12話のネタバレあります。すいません。


「内海……いつも迷惑かけてごめん。勉強見てくれるのホント助かってるよ」

 

「友達が困ってんだから協力すんのは当然だろ?………それに裕太が進級出来ないと男友達いねーし…」

 

裕太が毎回のように申し訳なさそうにするのをみて思わず苦笑しながら俺は言った。切実な思いも少し混ぜながら。

 

今日はファミレスで勉強会。裕太の再試験に向けてラストスパートにさしかかっている途中だ。再試験がだめでも追試と再追試があるが、手を抜くことはできないと本人の希望もあってこうして俺は勉強を見ている。

 

六花は友達と新しく出来たドーナツ屋に行くらしい。そういやあのマスクも再試験があったはずだが……。

 

それにイツメンに加えてこの世界の新条アカネにそっくりのあの彼女も一緒らしい。

 

新条アカネが置き土産で置いていった新しく設定された人間なのか、それとも元々作った人の姿を新条アカネが使っていただけなのかそれは今でもわからない。

 

俺や裕太とも既に友達であり最初の頃は思わず『新条さん』と呼んでしまっていたが、最近慣れてようやく呼ばなくなったばかりだ。

 

彼女を見ると自分が未だに新条アカネのことを引きずっていると自覚させられる。彼女はもう戻ってこないとわかっていながらも、ある日ひょっこり彼女が帰ってくるんじゃないかと思わずにはいられない。

 

 

 

 

色々な事に想いを馳せてる俺の横で裕太はなにやらモジモジしながら………というには少し表情を強ばらせながら

 

「そういえばこの前六花の家にいた二人の子供って結局誰だったの?なんか二人で定期的にお風呂に入らせてもらってるみたいだけど」

 

怖い顔して何を聞いて来ると思ったらそんなことかよ!と思わず心の中でツッコミしながら俺は答える。

 

「あー、知り合い?」

 

適当か!と自分に心の中で再びツッコむ。

 

「いや、そりゃそうだろうけど……。俺の記憶がない時に知り合ったんだろ?二人とも俺の事知ってたし」

 

裕太はかつて自分の命を狙っていたヤツとこの世界の真実を教えてくれた怪獣の少女の事を忘れている。まあ、俺や六花が怪獣少女の事を詳しく知ったのは戦いの後なんだけど……

 

「まあ、お前が色々思い出してくれたらその時に話すよ」

 

「またそれ?内海も六花も記憶がない期間のこと全然教えてくれないじゃん。前教えてくれた時はすごく聞き慣れない言葉ばっかりで、からかわれてるのかと思ったし」

 

「そんなわけねーだろ!ただ、難しいんだよなぁ……」

 

裕太からすれば確かに不満だろうが、俺達からすればどう説明すればいいのかわからないのだ。裕太にグリッドマンや新世紀中学生の事を話しても思い出してはくれなかった。

 

グリッドマンは裕太の体に今までの戦いの日々が刻まれてると言っていたが、グリッドマンに関連するワードを裕太に言っても一向に記憶が戻る気配がない。

 

だから、俺と六花で裕太の記憶の事で作戦会議をするために二人でこのファミレスに通った時もあったなぁ。その時に六花さん軍団のしたっぱにみつかって

 

『あれ、六花もしかしてそっちが本命だったの!?』

 

『六花さん、ターボ先輩……お前らマジか……』

 

なんか変な勘違いされて慌てて否定したのを覚えている。

 

六花も『内海くんなんか絶対にありえないから!少しも魅力感じないし!』とさりげなく酷い言い様だったな……

 

「とにかく、いつか記憶は戻るはずだからあんま焦らなくていいんだよ」

 

「わかった……」

 

裕太は腑に落ちなさそうに言う。

 

「じゃあ最後に……ここのファミレスに六花と二人で来たってホント?」

 

おま、それをどこで……。

おそらく六花さん軍団のしたっぱ達の仕業だな……面倒なことしやがって……。

 

「別になんもねーからな?お前の記憶の事について二人で作戦会議してたんだよ」

 

変に嘘つくのはよくないと思い正直に話す。

 

「えっ、そうだったの!?ご、ごめん!二人とも俺のためにやってくれてたのに疑ったりなんかして!」

 

「まあ、わかってくれたならそれでいいさ。それより今は勉強だ!」

 

裕太はまた申し訳なさそうにする。

裕太からしたら死活問題だし誤解が解けてよかった。

 

それにしても六花もさっさと裕太との関係に決着させたらいいのに。変なところではぐらかしたり奥手なんだよな。

端から見てるとじれったいったらありゃしないんだ二人とも。

 

二人で目があった時目を逸らす癖に、目があってない時はずっと見つめ続けるし。裕太はともかく六花も自分で気付かないで見つめてることが多い。

あんま茶々入れないようにしてるけど寧ろ積極的に入れた方が良いのだろうか?

でもそれだと後が怖そうだな……主に六花さんが。

 

「あ、もうすぐ19時だ。ありがとう内海。今日も付き合わせてごめんね」

 

「気にすんなって。また明日な!」

 

裕太と別れファミレスを後にする。

 

って!今日ウルトラシリーズ最新作の主演がバラエティ番組に出る日じゃん!

 

ウルトラオタクにとって重大な事に気付いた俺は家へ駆け足で行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういえば裕太は最近些細なことでもすぐ謝ったり自分を攻めたりする。今日も何回謝られたか覚えてないくらいだ。

 

記憶が無いこと影響してるのだろうがアイツはグリッドマンだったんだ。ちょっとやそっとでへこむような奴じゃないし、心配しなくても平気だよな…………………………………

 

 

………………………

 

 

 

………………

 

 

 

 

………

 

 

 

 

俺はまだ知らなかった。この小さな異変を特に気にも止めなかった事を後悔するのを……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「将~、早く寝なさいよ~」

 

「わかったって。おやすみー」

 

「おやすみ~」

 

俺は部屋に入るとパソコンへ直行する。ほぼ日課と化したネットサーフィンでさっきのバラエティ番組のネットの反応を調べるためだ。

 

俺くらいのウルトラオタクはちゃんと出演者の番組以外の活躍もチェックするのだ。

いつか、握手会やタッチ会の時に「この前出演してた◯◯見ました!いつまでも応援します!」と、声を掛ける時のために。

そのため番組のやる一週間に一度だけでなく毎日がオタ活と言っても過言ではないだろう。

 

「あれ、おかしいな。パソコンの電源はつけたのに画面が真っ暗のままだ」

 

それもただの黒ではなく、より一層濃く吸い込まれそうな黒に見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

画面に赤い眼が映ったかと思うと、禍々しいオーラを纏い始め画面から腕が伸びてきた。

 

「やあ、初めましてだね。内海将くん」

 

「なっ…!?」

 

画面に映るそれはまるでかつて新条アカネを自分のために利用しこの世界に混乱と破滅をもたらそうとした『アレクシス・ケリヴ』を連想させるような悪魔だった。

 




トレギアさんは一応R/B映画後という設定です。


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第3話 悪魔の誘惑(内海将編)

今更ですが話数入れました。素で忘れてました。


「おいおい、挨拶をされたらちゃんと挨拶し返すのが礼儀だろ?」

 

パソコンから腕が俺の顔の前に伸びてくる。

 

目の前に起こっている事が信じられない。

だが、こいつは確実に俺のパソコンの中に入っている。

まるで、グリッドマンのように。

 

「お、まるでグリッドマンのようだと思ったみたいだね」

 

「!?」

 

パソコンの中に入っている悪魔は俺の思考を先読んでいた。それにグリッドマンの事も知っているみたいだ。

 

グリッドマンの仲間なのか?それともアレクシスの仲間?

 

そもそも何故俺の前に現れたんだ?

 

この悪魔の目的はなんだ?

 

まさか怪獣を呼び出すんじゃないだろうな?

 

頭の中で飛び交う思考を早く整理させようとするものの、落ち着こうとすればするほど焦りが加速し、既にシャツは冷や汗でびっしょりと濡れていた。

 

こんな俺でもこいつはヤバイやつだとわかる。あのアレクシスと同じ嫌な感じがするからだ。

 

俺はどうにか声を出そうとして深呼吸をしてから

 

「な、何者なんだよ、お前」

 

と、自分でもわかるくらい震えた声で悪魔へ言った。

 

「私はトレギア……君とお話をしに来たのさ。所謂世間話さ」

 

「は?」

 

思わず素で出てしまった言葉。世間話?そんなご近所付き合いじゃあるまいし、ますますコイツの考えてる事がわからない。

 

「安心したまえ。私は君をどうこうしようとするつもりは全くない」

 

俺に何もしないだと?じゃあコイツがここに来た理由はなんだというんだ?

 

どこまで信じればいいのかわからないが、とにかく危害を加えるつもりは無いらしい。

 

俺はこのトレギアというヤツに色々訊いてみることにした。

 

「グリッドマンの知り合いなのか?」

 

「他人も他人、そもそも会ったことすらないよ。もちろんアレクシス・ケリヴもね」

 

こいつ、アレクシスの事まで知ってやがった。やはりタダ者ではない。少なくとも味方ではないだろう。

 

「何故俺の前に現れた?」

 

「だから、世間話をしにきたと言ってるだろう」

 

「ふざけるな!」

 

「ふざけてなどいないよ。まあ落ち着きたまえよ」

 

こんな胡散臭い奴がなにも目的も無しにここに来るはずがない。警戒しながら質問を続ける。

 

「お前の目的は?」

 

「そうだな……アレクシス・ケリヴと似たようなものさ」

 

「退屈から逃れるためってやつか?お前も不死身なのか?」

 

「私はこの世界に遊びに来ただけさ。それに、残念ながら私は彼のように不死身ではない。生物としての格なら私の方が遥かに上だがね」

 

アレクシスと比較して自分を格上だと自信満々に言うが、俺にとってそれは嘘か本当かはわからない。

 

「この世界に随分詳しいみたいだな」

 

「新条アカネの作った世界に作られた人間達、そして君達グリッドマン同盟。これほど珍しく楽しい特殊な世界はないよ」

 

どこまで知ってるんだこのトレギアという奴は?新条アカネどころか俺達の間だけでしか知るはずのないグリッドマン同盟まで知っていた。

 

「君が思っている以上に私はこの世界を知っている。もしかしたらこの世界の住民である君より知っているかもしれないな」

 

トレギアは再び俺の思考を先読んで来る。こいつの言ってることは本当なのかもしれない。

 

「怪獣を呼ぶ気なのか?」

 

「今は怪獣を呼ぶ気はないよ、安心してくれ」

 

「今は……?」

 

「怪獣を呼ぶかどうか………それは君次第さ。だからこうして世間話をしに来てるのさ」

 

俺次第だと?それにこいつの言う世間話とはどうやら俺が想像しているものとは違うみたいだ。

 

「さて本題に入ろうか……新条アカネに会いたくないかね?」

 

「新条さんに……?」

 

こいつは恐らく外から来た存在だろう。つまりその気になれば俺と新条アカネを会わせる事が出来るということなのだろうか?

 

「君は自分の言葉を新条アカネに伝えていないみたいだしね。君のためのに作り物の君を彼女の世界に実体として出してやるよ」

 

トレギアの言ってる事はともかく、こいつの今までの口振りからすると本当にやろうと思えば出来る事みたいだ。

 

でも、新条さんは弱い自分と決別するためにこの世界を去った。

彼女にとって楽園だったはずのこの世界をだ。

俺がもし会いに行ったら彼女の決意を無駄にするようなものだし、俺自身会うつもりもない。

ただ、こいつの真意を探るためにわざとのったフリをするとにした。

 

「……本当に新条さんに会わせてくれるのか?」

 

「ああ。ただし、条件がある。」

 

「条件?」

 

「それは……響裕太との友情を終わらす事だ」

 

……ふざけるな。裕太の名前がいきなり出てきたと思ったら

友情を終わらすだと?

俺は自分の頭に血が昇るのを感じながらトレギアに言ってやった。

 

「俺の前に現れた理由はこれか?ふざけるな!あいつと友達をやめるなんてことするわけないだろ!」

 

「友達?彼は君の事を本当に友達と思っているのかい?」

 

「そうやって俺を揺さぶろうとしても無駄だ。あいつがどう思ってようと俺は裕太の友達だ。どんなことがあってもそれは変わらない!」

 

「言葉だけでは何とでも言えるよ。仮に彼が間違った事をしても止めることは出来るのかい?」

 

「止めてやるさ、それが友達だからな。そもそも裕太はグリッドマンだったんだ、絶対に間違った事はしない!」

 

俺がそう言うと満足したような声でトレギアは笑い出す。

 

「ハーッハッハッハッ!………失礼。それが君の答えだな?」

 

「そうだ。お前が何を企んでるのか知らねーが裕太に何かしてみろ。ただじゃおかねえぞ!」

 

「……了解した。君の考えはよーくわかった、私の世間話に付き合わせて悪かったね。また会おう……内海将」

 

そう言うとトレギアは俺の目の前で指を鳴らす。その瞬間俺の意識は遠くへ誘われた。

 

 

…………………………………………………

 

 

 

 

 

…………………………………

 

 

 

 

 

 

…………………

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

「将!遅刻するわよ!」

 

母さんの声で目が覚醒し始める。どうやらパソコンでネットサーフィンしてる間に寝落ちしてしまったらしい。

 

そう言えば昨日何調べたっけな?

そんなことをぼんやり思いだしてる暇があったらさっさと学校へ行けと後ろの鬼が今にも怒り狂いそうなので、さっさと支度をすることにした。

 

何か重大な事を忘れている気がする……。一抹の不安を感じつついつもの日常に戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「内海将、私が『本当の選択』を迫るのは君ではない……。君はこれから起きる悲劇の登場人物に過ぎないのさ。響裕太が間違った事をしたら止める………友達だから。確かに言質は取ったよ」

 

トレギアは不敵に笑い次の演出をするために行動を移した。

 

 




投稿日は適当に予約投稿でやってます。


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第4話 悪魔の誘惑(宝多六花編)

トレギアさんならこれくらい出来るやろってノリで書いていますのであしからず。


響君の再試験まで後二日に迫った放課後。

今日は響君はどうしても外せない用事があるらしいとの事で勉強会は中止になった。内海君は日直で残り、なみこもはっすも予定が合わなかったので今日は一人で帰っている。

 

響君の試験まで時間がないから心配ではあるがこれまでも継続して努力していたし、これで駄目でも追試や再追試があるので大丈夫だと思う。

 

亀傘公園を通るとこの世界の守護者であるアンチ君と怪獣少女であるアノシラスちゃんがベンチで佇んでいた。

 

「ちゃんとご飯食べてる二人とも?」

 

私は呑気に佇んでいる二人に声を掛けた。アノシラスちゃんの方は少し元気がないようにも見える。

 

「む、宝多六花か」

 

「六花ちゃん……」

 

この二人はグリッドマンが去った後、常に一緒に行動しているみたい。ただ、二人とも人の姿をしている割には人の慣習などがまだ分かっていないみたいだからお風呂と夜食にはなるべく招待している。

 

アンチ君は名前を覚えてくれたが、私達の中で未だに内海君の名前は覚えられていない。

 

「宝多六花、変わったことはないか?」

 

「変わったこと?どうしたのいきなり」

 

「この世界に何者かが侵入した」

 

「え!?」

 

この世界に侵入者が!?またアレクシスのような奴が来たら……。

かつてのように怪獣が現れ町が再び破壊されるような事が起きてしまうのかと思うといてもたってもいられない。

 

「正体はわかってるの?」

 

「いや……わからない。どうやって侵入したのかすらもな」

 

「ならどうやって侵入したのに気が付けたの?」

 

「それは……わたしのお父さんがいなくなっちゃったからだよ」

 

アノシラスちゃんは小さな声で言う。

 

「お父さんって……」

 

「アタシは二代目だって知ってるよね?悪い奴が現れたから退治しに行くって……。そのまま帰ってこないんだ」

 

「そんな……」

 

まさか私達の知らない内にそんなことが起こっていたなんて。それに敵は怪獣よりも強い存在だということもわかる。

 

「敵はどこにいるかわからない……気をつけて帰れ。俺はしばらくこいつの側にいたい」

 

そう言いながらアンチ君はアノシラスちゃんの肩に手を伸ばす。彼は傷ついた心に寄り添える優しい心を持つまでに成長したみたいだ。

 

「………わかった。何かわかったら連絡してね」

 

私は駆け足で家へ向かう。取り敢えず内海君に相談して何か対策を練るべきだろうか。

響君は……今までずっとグリッドマンとして危険な戦いをしてきた。

グリッドマンは彼の体に今までの戦いの記憶が刻まれていると言っていたが、彼の記憶は戻っていない。

命の危険と常に隣り合わせの事に無闇に巻き込むべきでないだろう。

 

そんな思考を巡らせている内に私は家に着いていた。携帯で内海君に連絡し、取り敢えずここに来て貰うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

ジャンクに電源がついてる事に気付く。

グリッドマンがいなくなってから一度も電源を入れていないはずなのにどうして?

 

ジャンクの画面を覗き込むと、画面が今まで見たことのないような黒いオーラに包まれ始め赤い眼が私を見つめていた。

まるで悪魔のように。

 

「ククク……」

 

不敵に笑い始めたかと思うとそいつはグリッドマンのように画面から私に語りかけてきた。

 

「初めまして、宝多六花。わたしの事は彼らから聞いているだろう?」

 

画面に映る悪魔は私の名前を知っている。それにこいつがアンチ君達の言っていた侵入者であることはすぐにわかった。

 

「あなたが侵入者……!」

 

「そんな物騒な言い方はよしてくれ。私は遊びに来た『お客さん』だよ」

 

知っていたのかわからないけど、アレクシスと同じ『お客さん』という言葉を使っている。

 

アレクシスのような存在であった場合、私だけでなくこの世界が危険に晒される。私は腹を括ってこの悪魔と対峙する。

 

「ここに侵入するときいた怪獣はどうしたの?」

 

「何の事かな?そんなものはいなかったよ」

 

恐らく嘘をついているのだがはぐらかされる以上こちらとしては追求し辛い。なので他の事から攻めてみる。

 

「何者なの?この世界に何をする気?」

 

「私はトレギア……この世界に遊びに来たのさ」

 

「ふざけないで!」

 

「ククク……」

 

まるで私をおちょくるような態度に憤りを感じる。

するとトレギアから私の気になっていることを喋り始めた。

 

「私はこの世界を監視していたのさ。新条アカネやアレクシス・ケリヴよりももっと俯瞰してね。当然、君達グリッドマン同盟の活躍も見ていたさ」

 

「監視……」

 

アカネもアレクシスだけでなく私達の事も知っていた。

 

「私はとにかく悲劇をこの眼で見たくてそのための脚本や演出をするのさ。悲壮感が溢れていればなおいい」

 

少なくとも最低なヤツだということは会って間も無くわかった。人を駒として認識してる様はアレクシスのようだ。

 

「宝多六花、私は君に質問をしにきたのさ。響裕太に関してのね」

 

「!?」

 

響君について?まさかグリッドマンに関する情報を聞き出そうとしているのだろうか?

 

「別にグリッドマンの事など知りたくないよ。私が興味あるのは響裕太だけさ」

 

「響君に何をするつもり?」

 

私は語気を強めて言う。

 

「君はこの世界を救うためならば響裕太と縁を切ることは出来るかい?」

 

「………何が言いたいの?」

 

「響裕太と縁を切れば私はこの侵略を今すぐ止めてやってもいいということだ」

 

何を言い出すと思えば………,

 

「私はそんなことは絶対にしない!」

 

私は迷い無く言い切る。

 

「この世界の危機と響裕太を天秤にかけて彼を取るのかい?」

 

「………響君は今まで怪獣とずっと戦い続けてきてくれた。彼の戦う姿を見て私は心を強く持つことが出来た。怪獣に対しても、アカネに対しても」

 

私はいつの間にか本心を吐露していた。

 

「私が今こうして自分の意思で立っていられるのも彼がグリッドマンとして最後まで戦ってくれたから。記憶が無くても真っ先に行動しているのは響君だった。そんな姿を見て私は自分が出来ることをするって決めてアカネに向き合えた」

 

「だから今度は私が彼を守る。どんな手段を使っても、私は彼のパートナーとしてずっと支える。彼の望みならなんでも叶えてあげたい」

 

「彼の望みか……。響裕太だって間違うことはあるだろう?」

 

「その時は私が正す。それに響君はグリッドマンだから間違うなんて事はない」

 

私はトレギアに向かって言い放つ。するとトレギアは気分をよくしたのか笑い始めた。

 

「ハッハッハッ!響裕太の事になると君達は途端に饒舌になるねぇ。………宝多六花、確かに聞いたぞ」

 

「『彼のパートナーとしてずっと支える。彼の望みならなんでも叶えてあげたい』とね」

 

納得した素振りを見せたかと思うとトレギアは私の目の前に腕を伸ばし指を鳴らした。

 

私はその音を聞いた瞬間、夢の世界に誘われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、六花ってば!」

 

内海君の声で目が覚める。あれ、私なんでここで寝てたんだろう……?

 

「やっと起きたか。全く、人を呼んでおいて自分だけ寝てるなんて危機感無さすぎるんじゃねーの?」

 

「ご、ごめん。それより今日アンチ君達から聞いた話なんだけど………」

 

私は正体のわからない侵入者について話、内海君と対策を練ることにした。

 

 



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第5話 悪魔の誘惑(響裕太編) 前編

感想を書いてくれた方ありがとうございます。これからは極力感想にも返信していこうと思うのでよろしくお願いします。


俺は無力だ。

いつ頃からかそう思うようになっていた。

 

記憶の無い俺は友達がいなければ何も出来ない。

勉強だって内海と六花がいなければどうなってたかわからなく、赤点が二個で済んだのも彼らのおかげだ。

……俺の力じゃない。

 

記憶を無くしてから勉強に日常生活と目まぐるしく忙しい時間が過ぎ去っていったが未だに記憶は戻らない。

どうやら記憶の無い時の俺も記憶を失っていたらしいし、元に戻らないんじゃないかと思うこともある。

 

この前の放課後、校内のスピーカーが壊れたので先生に頼まれて新品の物に交換したことがある。なんでも、音質も音量もかなり良いらしい。

その仕事を終えて教室に行くとクラスの人が俺を話題にしていた。『わざと記憶喪失のフリをして六花の気を引こうとしてる』、『あんなやつと友達の内海がかわいそうだ』と。

まるさんと古間さんと転校生の女の子は反論してくれていたが会話していた全員俺が教室にいることに気づいてないようだった。

 

どういうわけかわからないが、六花はクラスでの人気が突然鰻登りになった。俺の隣に座る転校生に次ぐ人気で時々男子の視線が痛いときがある。

 

内海も六花も俺と友達でいる事でクラスの人から陰口を叩かれていることなんて夢にも思っていないだろう。

……まるで二人の足枷のようになっている自分に腹が立つ。

 

 

 

六花も内海も前に比べてお互いによく話をするようになった。それこそ冗談を言い合えるくらいに。

 

俺は三人でいる度に疎外感を感じていた。

二人はすごく特別なものを共有しているように見えるからだ。二人だけが知る、二人だけの秘密。

恐らく俺の記憶に無い期間になにかあったんだろう。

好きな人と友達が持つ特別なもの………。

 

羨ましさや嫉妬のような感情が俺の中で芽生える度に自己嫌悪する。

友達にそういう感情を抱くなんて最低だ。ましてや勉強を教えてもらってるのに……。

記憶が無くならなければこんなこと考えなくて済んだのかなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね裕太。また家を空けることになっちゃうけどお留守番よろしくね」

 

「試験、がんばるんだぞ」

 

「いってらしゃい母さん、父さん」

 

試験まで残り2日に迫った日、家を空ける両親を送るために家に帰っていた。

 

家の掃除や両親の荷物の片付けなどがスムーズに終わり思ったより時間が空いた。

試験の事もあるし勉強しよう。そう言えば内海は日直だけどこの時間なら終わってるだろうし見てもらおうかな。迷惑かけている自覚はあるけど、再試験に合格出来てなかったらそれこそ申し訳ないし。

 

取り敢えず内海に電話してみるが電源が切れてるみたいだ。でも家にいるだろうし内海の家の電話番号をかける。 

 

「はい、内海ですが。ああ、響君」

 

「あの、将君いますか?」

 

「いいえ。家に帰った後宝多さんの家に行くって飛び出しちゃって」

 

「えっ……六花の家に?」

 

「そうなのよ。響君も行ってみたら?」

 

「………いえ、俺はいいです。突然電話かけてすみませんでした」

 

「ごめんなさいね。これからも息子と仲良くして上げて下さいね」

 

「………はい」

 

電話を切った俺は自分のベッドで仰向けになった。

 

内海と六花が一緒にいる……ただそれだけなのに心が凄く重く感じる。

俺が用事でいない時に家に二人でいる……、この前はファミレスにいたらしいし。

内海はそういう関係ではないと言っていたが、クラスにも付き合うのを人に言うのが恥ずかしくて表には出さない人がいるのを思い出した。

 

 

二人もそういう関係……なのだろう。

内海は俺が六花が好きなのを知ってて気を使っていたのかもしれない。

 

 

思えば俺は記憶が無くなる直前、六花に告白していた。しかし、なんて返事を貰ったかがわからない上にその内容も知るのが怖くて誰にも話してはいない。

 

でも六花がこんな俺の事を好きになるはず無いよな。仮に六花も俺と同じ気持ちならあっちから何か言うはずだろうし。何も言ってこないというなら俺は振られたんだろう。

 

バカみたいだな、俺。二人に勉強付き合わせて二人の時間を奪ってたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

………少し、二人と距離を置くべきなんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

そんな事を思っているとリビングのテレビに電源が突然ついた。タイマーで視聴予約でもしていたのだろうか?俺はリビングに確認しに行く。

 

テレビに電源がついてるにも関わらず何も映っていない。いや、俺の姿が反射して映ってすらない程の黒に画面が覆われていた。

 

するとそこから赤い眼が見えたかと思うと腕が伸びてきた。禍々しく不安になるようなオーラを纏い、テレビに映る悪魔のような奴は言う。

 

「響裕太……君の願いを叶えにやってきた」

 

「な、なんだよお前っ!」

 

その悪魔は俺の願いを叶えてやる、と語りかけてきた。

 

「私の名はトレギア……君を救いにやってきたのさ」

 

救うだって?胡散臭い上にこの悪魔に俺の悩みの何がわかると言うのだろうか。

 

「君は記憶を無くして以降、とても必死に頑張っていたんだね。とても苦しかっただろう。大好きな二人の友達にも迷惑をかけてるうちに、口癖のように謝ってしまうようになるのも頷ける」

 

「なっ…!?」

 

トレギアは俺の悩みをペラペラと喋り始めた。

誰にも言わなかった悩みを。

 

「勉強も日常も記憶がないせいで適応するのが大変だったろう。記憶がないのは自分のせいではないのに陰口を叩かれ、友達二人といても疎外感を感じ、かといって誰にも相談など出来るはずもなく……」

 

思わず黙りながらトレギアの言葉に聞き入ってしまう。こいつは恐らく、俺の事ならなんでも知っている。

 

「それもこれもグリッドマンのせいだ。………おっと、君はまだ思い出せずにいたんだっけね」

 

「グリッドマン……」

 

俺はこの単語を聞く度に胸が苦しくなる。何かとても大事な事を忘れている様な気がしていてもたっても居られなくなる。

内海や六花からこの言葉を聞いても何も思い出せなかった時に、二人とも凄く悲しそうな顔をしたのを覚えている。

それだけ大事なはずなのに俺は思い出せないでいる。

 

「それに君の友達の二人も薄情な奴らだね。君がこんなに苦しんでいるのに二人でイチャイチャしてさぁ」

 

「ふ、二人は関係ないだろ!」

 

俺は思わず声が出てしまう。

 

「どうして?君が用事と知った途端に二人で会ってるんだぞ。もしかしたら今頃君の悪口で盛り上がってるかもしれないな」

 

「いい加減にしろ!それ以上二人を悪く言うな!」

 

俺は今までに無いくらい大きな声でトレギアに激怒する。

 

「ククク……失礼、君の言う通りだ。二人は何も悪くない。悪いのは……君自身さ」

 

「そんなことわかってる!……でも、どうすればいいかわからないんだ……。記憶の無い俺は何も出来ない……」

 

俺は無意識のうちに本心の一部を吐露し始めてしまっていた。そんな俺にトレギアは心の隙をつくように語りかける。

 

「なら君の本心を晒けだすのだ。心の中で思っているだけでは溜め込んで傷付くだけだ。大丈夫、ここには私しかいないからな」

 

トレギアの言うことなど無視していいはずだったのに。心が弱ってるせいか俺は本心を晒け出してしまう。

 

「記憶がないのは俺のせいじゃないのに、いつも辛い事ばかりで……

 

 でもお前なら出来るって、響君なら出来るって言ってくれる友達がいた。でも、それだけ期待をしてくれるのがかえってプレッシャーで……結局テストで赤点だった。

 

 俺、何も出来ないんだなって思ったよ。努力しても二人に迷惑ばかりで俺はいつも二人の足を引っ張って……」

 

俺は目から涙を溢しながら言う。それを聞いていたトレギアは俺の目をじっと見つめながら

 

「大丈夫、私は君の味方さ」

 

俺は思わず安心してしまった。そうするとトレギアは本題だと言わんばかりに俺に語りかける。

 

「最初に言っただろう。君の願いを叶えてやる」

 

「願い……?」

 

「君の願いを当てて見せよう……それは『力』さ」

 

「『力』………?」

 

「君には『力』が足りないのさ。学力や行動力、コミュニケーション能力。君の心が傷付かないためには様々な力が必要だ」

 

『力』……。確かに俺の欲しいものなのかもしれない。

 

「そこでだ……君に二つの選択肢を与えよう。選ぶのは君自身だ」

 

「選択……」

 

「一つは、このまま『力』を得ず負け犬のように這いつくばるような思いをしながら、ずっと友達二人に迷惑をかけ続ける日常にもどる、か……」

 

「もう一つは、『力』を手に入れて弱い自分と決別し、二人と並び立つ……いやそれ以上の存在になる、か」

 

トレギアは俺に選択を迫る。

 

「選択を急がなくてもいい。今日はゆっくり考えたまえ。もし『力』を得たいのであれば明日、宝多六花の家のジャンクの前に来い。約束だぞ」

 

俺はトレギアに何も答えることができない。心も頭の中もぐちゃぐちゃになっているような気分だ。

 

「響裕太……明日また会えることを楽しみにしてるよ」

 

そう言うとトレギアはそのまま闇の世界へ帰ると、テレビが映りニュースの画面になった。

 

夢ではなかった……。トレギアの選択……俺は……

 

俺は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、六花の家では

 

「あれ、おっかしーな。携帯の電源切れてやがる。家だとまだ80%以上あったのに」

 

「ちょっと、真面目に考えてよ」

 

「わりぃわりぃ」

 

二人は裕太がどんな状況に陥っているのかも知らず、侵入者への対策を話し合うのだった。




裕太君がネガティブになっていますが定期試験の赤点に記憶喪失など、様々な事が重なった結果です。


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第6話 悪魔の誘惑(響裕太編) 後編

再試験前日。響君は学校には来なかった。

先生によると珍しく体調不良らしいし、今日の帰りにお見舞いでも行こうかな。

 

ふと内海君の方を見てみると見事にぼっちになっていた。まあ、響君が元気になるまでの間我慢してもらおう。

 

「ねぇ六花~、今日駅に新しくケーキバイキングのお店出来たの知ってる?行こうよー!」

 

なみこは私を後ろから抱きつきながら誘ってきた。

 

「あ、ごめん。今日はちょっと……」

 

「お、旦那の所にお見舞いですか?」

 

断ろうとすると、はっすがマスクをしていてもわかるくらいニコニコしながら冷やかしてくる。

 

「あー、やっぱし友達より男の方に行く感じ?友達としては応援したいけどちょっと複雑ー」

 

「仕方ないよなみこ。六花さんこうみえて一途だし」

 

「はいはい、わかりましたから」

 

二人は私をからかい始める。好き勝手言われてるがこう言うときは流すのが一番だ。

 

「じゃ、私達三人で行っちゃう!?響君も元気無いときに女の子三人が家に来たらきっと喜ぶよ!……まあ、私はサボりだと睨んでるけど」

 

なみこは私が流してるうちに話を大きくし始める。

 

「流石に可哀想だからターボ先輩連れて四人で行こう」

 

「賛成~!」

 

「ちょっと!?」

 

何が可哀想なのかよくわからない理論で4人で行こうとするはっすとなみこ。

 

「話は聞いたぜ。俺も裕太の家に行くよ」

 

突然話に入ってくる内海君。

 

「え、今までの話聞いてたの?マジでキモ……」

 

思わず心の中の言葉がそのまま出てしまった。

 

「キモいって言うのやめろよ……マジで傷つく」

 

「いや、キモいから内海君。そんなんじゃターボ先輩って呼ばれないぞ?」

 

「『ターボ先輩、そういう人だったんスね……。俺、信じてたのに!』」

 

「そのターボ先輩ってやつお前らしか言ってないだろ!」

 

内海君がいじられる形でワイワイしている。……まあ、私も一人よりかは4人で行った方が気は楽かな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再試験前日、俺は学校を休んだ。

理由はトレギアに会うためだ。

 

しなくてはいけないはずの試験勉強をしないまま俺は六花の家に着いていた。

 

そこには六花のお母さんがいた。

 

「あーら響君、学校どうしたの?」

 

「あの、えっと……」

 

思わず俺は言葉に詰まってしまう。

 

「あーいいのいいの。誰だってサボりたくなるときあるもんね。六花だってたまにサボってんだから。それより丁度良かったわ、ちょっと出掛けてくるから店番しててくれる?学校もうすぐ終わるし六花が帰ってくる少しの間だから。ね?お願い!」

 

「はい。わかりました」

 

ママさんからの思いがけない言葉に俺は快く承知したように見せた。

 

「じゃ、お留守番頼むね~」

 

ママさんはそう言ってどこかに行ってしまった。

 

俺はジャンクの前に立った。すると勝手に電源が入ったかと思うと画面に禍々しいオーラが纏い始める。

するとあの赤い眼が俺を見つめたかと思うと腕が伸びてきて俺に語りかけてきた。

 

「待っていたぞ……響裕太」

 

「トレギア……。俺を呼んでたよな?」

 

この悪魔の姿を見ていると改めて本当にこんな奴の言うことを聞いて良いのだろうかと思う。

 

「答えは出たかい?」

 

「……まだ、決まってない」

 

昨日からずっとトレギアの選択について考えていた。果たして心の弱さを克服するためにこんな方法で解決して良いのだろうかと。

 

「恐れる必要はない。『力』を手に入れたらきっと内海将や宝多六花の君を見る目は変わる」

 

「……でも」

 

「それにだ。君は『力』が欲しくなかったらこんな場所に来ていないはずだ。そうだろ?私の事なんか無視すればいい。でも君はここに来た」

 

「………」

 

「それは心の中で既に決めていたからさ。『力』さえ手に入れば弱い響裕太と決別出来る」

 

トレギアは一つ一つ丁寧に俺の心の紐を解こうとする。俺はなされるがままにされてしまう。

 

「君がもしここで選択しなかったら二度と『力』は手に入らない。お人好しの二人の事だ、彼らは君を放っておかずに助けようとするだろう。君はこの先の人生、ずっとあの二人に迷惑をかけ続けていいのかい?」

 

「……俺はどうしたらいい?」

 

「『力』が欲しいのなら自ら選択をしろ。心に強く願え。そしてその心を私に委ねるのだ……」

 

俺の……響裕太の答えは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい子だ。約束通り君に『力』を授けよう」

 

トレギアの声が聞こえると俺は漆黒の闇に包まれる。

 

だんだん体の自由が利かなくなる。自分が自分でなくなるような感覚に陥っていく。

 

「君にピッタリの姿にしてやるよ。ククク………フハハハ!ハーッハッハッハッ!」

 

トレギアの笑い声が店に響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひゃー、ここのマンションエレベーター無いとか聞いてないよ……」

 

「死ぬ……」

 

「たかが四階でしょ?しっかりしなよ二人とも」

 

なみことはっすを気にかけながら響君の住む階に着く。

 

「だめだ。裕太、家にいないみたいだ」

 

内海君は先に行ってインターホンを鳴らしたが人がいる様子はなかったらしい。

 

「うそ、なんで?」

 

サボりでも家で勉強でもしてるのかと思ってたけど、どうやら違うみたいだ。

 

「えーせっかく来たのになぁ。つまんないのー」

 

「死ぬ……」

 

ガッカリするなみこと今にも死にそうな運動不足のはっす。

 

しょうがないので響君にどこにいるのか電話をしようとしたその瞬間だった。

 

空が眩ゆく光る……いや光ると言うには余りにも黒く禍々しいものだった。

 

「きゃっ!?」

 

「ななななな、何事!?」

 

「うおっ!?」

 

轟音と共に地鳴りが起き、私達はバランスを崩してしまう。

 

するとはっすが何かに気づいた。

 

「あ、あれ!見てあれ!」

 

その方向を見てみると

 

「なにあれ……」

 

「あ、あれは……」

 

「黒い……グリッドマン……!?」

 

漆黒を身に纏った黒いグリッドマンがツツジ台に現れたのだった。

 



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第7話 友・達

「なんだよあのグリッドマン!?」

 

「なみことはっすは安全な所へ逃げて!私達は行かなきゃいけない所があるから!」

 

私と内海君は急いで私の家に行く。なみことはっすを巻き込むわけにはいかない。

 

二人とも何が起きたか理解できずに私達を見送っていた。でも何が起こっているのかわからないのはお互い様だ。

 

私達の目の前に現れたグリッドマンの姿をした黒い巨人は町を見渡している。漆黒のボディを身に纏い赤黒く光る瞳。

 

グリッドマンの真の姿ではなく私達に馴染み深いグリッドマンの姿が黒くなった様に見える。しかし、本物と決定的に違うのは…

 

「お、おいあのグリッドマン町を破壊しているぞ!?」

 

黒いグリッドマンは周りの建物を蹴りで破壊し始めた。

 

「あれはグリッドマンじゃないみたい!」

 

「てことはあれが侵略者か!グリッドマンと同じ格好しやがって!」

 

私達が出来ることは少ないが、いざという時は私の家に集まると内海君やアンチ君と約束してあった。

 

もしかしたら、グリッドマンが来てくれているかもしれない。そこには当然、響君も……。

 

「そうだ!響君に電話しなきゃ!」

 

私は黒のグリッドマンに気を取られててすっかり忘れてたが、響君の携帯へかける。

だが、響君は電話には出なかった。

 

「裕太……あいつ大丈夫かな?あいつ昨日電話してきたみたいなんだ。母さんにも連絡あったみたいだし」

 

「昨日?」

 

「あいつ、昨日俺と六花で一緒にいたこと気にしていたのかもしれない。説明は学校ですればいいかって思ってたんだけど……」

 

響君は学校には来なかった。響君の不在に黒のグリッドマン……何か嫌な予感を感じながら私達は走る足を更に速める。

 

 

 

 

次の瞬間、黒いグリッドマンがバランスを崩して倒れる。何故ならグリッドナイトが巨大化しキックをお見舞いしたからだ。

 

「アンチ君!」

「グリッドナイト!」

 

黒いグリッドマンは倒れた状態から跳ねて起きると、破壊活動から標的をグリッドナイトへと変えた。

 

まるで二人のグリッドマンが戦っている様な状況だ。

そしてついに私達は家に着いた。

 

急いでジャンクを確認するが電源が入っているだけで画面は真っ暗のままだった。

 

「グリッドマン?そこにいるの?」

 

私はそう声をかけると、画面が禍々しいオーラを纏い赤い眼がこちらを覗くように現れる。

 

「やあ、また会ったね。二人とも」

 

アレクシスを連想させるような悪魔がジャンクの中から私達に喋ってくる。

初めて見るはずなのに既視感を覚えている。

 

画面から腕が伸びてくると、私達の前で指を鳴らした。

 

 

 

その音を聴いた瞬間、私に忘れていた記憶が一斉に頭の中に押し寄せる。頭が痛くなり、心に不安を覚え、冷や汗をかいてしまうようなオーラを感じながら私は鮮明に思い出してくる。

 

恐ろしい悪魔との……トレギアとの記憶を。

 

「お前は…!」「あなたは…!」

 

「記憶のロックを解除した。思い出していただけたかな?」

 

内海君の様子を見る限りトレギアを知ってるらしい。きっと私と同じように記憶を封じられていたのかもしれない。

 

「あの黒いグリッドマンはお前の仕業か!」

 

内海君はトレギアに問い詰める。

 

「そんな言い方はよしてくれ。私は一人の少年の願いを叶えただけだ」

 

「一人の少年……?」

 

嫌な予感ほど当たるものだが、これだけは絶対に当たって欲しくないと心から思った。

 

「この世界でグリッドマンと一体化出来るのは彼しかいないだろう?」

 

「うそ……」

 

「まさか……あれが裕太……?」 

 

私の予感は当たってしまった。

絶対に当たってほしくなかったのに。

 

「皮肉な事にヒーローだった彼が今は自ら街を破壊している。しかも色以外全く同じ姿で。楽しくて仕方ないねぇ」

 

トレギアは私達を嘲笑うかのように言う。

 

「響君がそんなことするはずない!」

 

「お前が勝手に変えたんだな!裕太を返せ!」

 

私と内海君はトレギアに問い詰める。

 

「私は夢を提供してるだけさ。それに、彼自身がそう望んだのだ。だから私は『力』を与えたのだ」

 

トレギアはあくまでも響君が望んだ事で自分は協力しただけという姿勢を崩さない。

 

「何が夢だ!裕太がそんなもの望むはずがないだろ!」

 

内海君がそう言うと、はぁとため息をつきながら呆れた様子でトレギアは言う。

 

「響裕太がそんなことをするはずがない、『力』を望むはずがない……。君達は彼の何を知っている?」

 

「俺達は裕太の友達だ!お前なんかより裕太の事を……うおっ!?」

 

内海君の話を遮るようにトレギアは指の先を内海君の眉間にあてる。

 

「内海将、響裕太が何故『力』を求めたか教えてやるよ。それは君達二人のためだ。彼をあんな姿にしたのは君達のせいさ」

 

「私達の……」「ため……?」

 

響君が求めた『力』と私達の何が関係あるのだろう。

 

「彼は勉強に限らず日常的に君達二人の迷惑になってないかずっと悩んでいたのさ。君達は気づいてなかったみたいだけど」

 

私達は思わずトレギアの言葉に聞き入ってしまう。

……いや、聞くことしか出来なかった。

 

「彼は間違った事をしない、グリッドマンだから。君達はそう言っていたな。だが彼にはその時の記憶などない普通の少年だ。残念ながら君達の知っている響裕太とは別人みたいなものさ」

 

「彼は泣いていたよ。二人の足枷になりたくない、迷惑をかけないようにするにはどうすればいいとね。友達面するのは結構だが無意識に彼を傷つけるのはよしなよ」

 

トレギアに指摘される度に心当たりがあって胸が苦しくなる。私はさも当然のように響君をグリッドマンが入ってた頃の響君と同じ様に見てしまっていた。

 

「お、俺はそういうつもりじゃ……」

 

「『俺はお前なんかより裕太の事を知っている!』とかなんとか言おうとしてたけど、響裕太は私に君が知らない本心を晒けだしていたぞ。友達が聞いて呆れるね」

 

内海君は震えた声でトレギアに反論しようとするが直ぐにトレギアに返されてしまう。

すると今度は私にトレギアは語りかけてくる。

 

「君も響裕太が自分を好きって知ってるのに答えをあやふやにしたままだったね。親友と想い人が仲良くやってる姿を見たら悪い感情なんていくらでも出るだろうに」

 

「そんなつもりじゃ……」

 

「友達と口で言いながら彼を追い詰めて楽しかったかい?」

 

何も言えなかった。情けなくて、悔しくて。トレギアに言いたいことが沢山あるはずなのに言葉が出ない。

 

「仮に彼が元に戻ったとしたらどうする?どんな言葉をかける?まあ、どんな言葉をかけようが彼を傷つけるのは変わりないだろうがね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナイト爆裂光破弾!」

 

グリッドナイトの胸から放たれた光弾が黒いグリッドマンに直撃する。

 

しかし、黒いグリッドマンにはダメージどころか傷一つつかない。

 

グリッドナイトがもう一度放とうとしたその時、目にも止まらぬ速さで黒いグリッドマンが接近しそのままグリッドナイトの首を両手で掴みながら地面に叩きつけた。

 

「グハァ…!」

 

グリッドナイトは倒されたまま首を絞められ続ける。

すると、黒いグリッドマンから微かに声が聴こえるのに気が付く。

 

「早く……俺を……」

 

「響裕太なのか……?」

 

グリッドナイトは黒いグリッドマンが裕太であることを認識したのだった。




次回の話はなるべく明日に投稿出来るようにします。


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第8話 君達は何も出来ない

トレギアの策略によって響裕太は黒いグリッドマンへと姿を変えられてしまった。

そしてその黒いグリッドマンはグリッドナイトの首を絞め始めたのだ。

 

グリッドナイトは黒いグリッドマンの胸を両足で蹴り上げて吹っ飛ばし、どうにかして距離を取ることに成功したが、防戦一方な状況は変わらない。

 

 

 

「ククク……、一つ面白い事を教えてやろう。あの黒いグリッドマンは響裕太が自己嫌悪をするとパワーアップするように設定した。だから意識だけを保たせて体の自由を奪っておいたよ」

 

トレギアは笑いを堪えながら続ける。

 

「つまり街を破壊したことも、今こうやってグリッドナイトの首を絞めていたのも全て響裕太は認識している。彼が自分を責めれば責めるほどあの黒いグリッドマンは強くなるのだ」

 

とことん人の心を弄ぶトレギア。

六花と内海は怒り、画面の奥の悪魔を睨み付ける。

 

「どうした?何か言いたいのなら言えばいい。響裕太を止めたいのなら止めればいい。………君達もわかっているんだろう?自分達は何も出来ないと」

 

六花と内海は睨み付けていた目を思わず逸らして俯いてしまう。

 

「君達は新条アカネのためにグリッドマンと共に戦った約2ヶ月半を過ごし、自分達が成長したと勘違いしていたようだが……。実際命を懸けて戦い、世界を救ったのは響裕太とグリッドマンだ。君達は横で見ていただけに過ぎない」

 

「そんな世界を救ったヒーローを追い詰めてあんな姿にして……。そして今も君達はここで見てるだけだ」

 

トレギアの言う一つ一つの言葉が六花と内海の心に突き刺さる。

 

「見てみろよ、あのままじゃグリッドナイトはやられてしまうよ。恐らくあの黒いグリッドマンが響裕太と知ってしまったのだろうねぇ、明らかに大技を出すのを躊躇している。人に寄り添える心を持ってしまったがための悲劇だな」

 

一言だけでもいい、こんなふざけた奴に好き勝手言わせたくない。そう頭では思っていても二人は言葉が出ない。

 

「そうだ、このジャンクと響裕太の心を繋げてやろう。彼の思っていることを筒抜けにしてやる」

 

そうトレギアが言うと、ジャンクから裕太の声が聴こえてくる。

 

「なんで体の自由が利かないんだ!?早く止めないと!」

 

「響君!」「裕太!」

 

さっきまで黙り込んでしまっていた二人は裕太の声に反応する。裕太が必死に抗っている様子が伺える。

 

「私、ジャンクから響君に声が届かないかやってみる!」

 

「そうか、あの時の!」

 

六花はかつてグリッドマンと裕太にジャンクからメッセージを伝えたことがある。

 

「物は試しだ。やってみればいい」

 

トレギアはまるでこの先の展開を予め知っているような素振りで言う。

 

六花はキーボードに素早くタイピングし裕太に言葉を掛ける。

 

「六花と内海……?」

 

「ゆ、裕太!」「響君!」

 

見事に成功し六花はタイピングを続け裕太に言葉をかけ続ける。

 

『私達が絶対助けるから!諦めないで!』

 

「体の自由が利かないんだ……。もう町が壊れるのも、人の悲鳴を聴くのも嫌だ」

 

「元はと言えばトレギアに騙されたのが……いや、俺が弱かったのがいけないんだ。だから二人に一生に一度のお願いがある……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺を殺してくれ。そうすればみんな助かる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六花は自分の耳を疑った。だが、すぐにこれが現実だと理解できてしまう。

 

「何言ってんだよ裕太!?」

 

「あなたを絶対に死なせたりなんかしない!」

 

内海は自分の親友の言葉を信じられない。

それは六花も同様だ。

 

『響君、諦めないで!あなたを救う方法はあるはずだから!』

 

六花はタイピングで必死に裕太を説得しようとする。

 

「いいんだ。多分、そうするしかこの世界を救えないってわかるんだ。二人とも今までありがとう。だから、早く……」

 

二人の説得にも応じない裕太。

トレギアは堪らず大笑いをする。

 

「ククク………フフハハハハ!ハーッハッハッハッハッハッハッハッ!傑作だ!こんな素晴らしい悲劇があるか!?所詮作り物しかない世界だと馬鹿にしていたが、こうも私の思い通りになるとは!私もアレクシスの様に次の新条アカネを探そうかな?」

 

トレギアは気分を良くし再び二人を煽るように喋る。

 

「どうした内海将!友達が間違った事をしたら止めるのだろう?それとも友達だから彼の願いを叶えてやるのかい?」

 

「君もだ宝多六花。パートナーとして響裕太の望むことなら何でもやるんじゃないのか?」

 

嘲笑いながらかつて二人が口にした言葉で二人を問い詰めるトレギア。

 

「おっと失礼。彼の殺してくれっていう願いも君達じゃ叶えられないんだったね。友達の最後の願いも君達は他人任せじゃなければ叶えられない」

 

「君達は何も出来ない」

 

何も出来ないという言葉が二人に重苦しのしかかる。

今まで自分達がやってきたことが否定される気分になりながら。

 

六花は目に大粒の涙を溢しトレギアに言う。

 

「何が目的なの!?何のために響君を……。私達の世界でこんなことして何が楽しいの!?」

 

六花は思わず感情に任せたままトレギアに心に思っている事をぶつける。

 

「言っただろう?私は悲劇をこの眼で見るために脚本と演出をする。悲壮感が溢れていたらなおいい、とね」

 

「ふざけないで!」

 

「ふざけてなどいない。大体そんな戯れ言を言ってても君達が何も出来ないのは変わらない。君達が出来ることは、このままグリッドナイトが倒されてこの世界がめちゃくちゃにされるのを指を咥えて見ているか。それともグリッドナイトが響裕太を殺すのを黙って見ているかだけだ」

 

「さあ、私と共にこの愉快な悲劇を見学しようじゃないか。ハーッハッハッハッ!」

 

トレギアは再び高笑いし店中に声が響き渡る。

二人はその声を聴いてることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何!?」

 

ジャンクの画面が光ったかと思えば、突然トレギアは身動きが取れなくなる。

 

「まさかこれは……油断したな」

 

そのままジャンクは強制シャットダウンし、トレギアはそのまま闇に消えてしまう。

 

六花と内海は何が起きたかわからなかった。

すると後ろに気配を感じ振り向いてみる。

 

一人は怪獣少女のアノシラス(二代目)が、もう一人は眼鏡をかけた二人と同じくらいの年齢の少年だった。

 

「ありがとう、ここまで案内してくれて」

 

少年は怪獣少女にお礼を言う。

 

「ううん、君がこの世界に来てくれて良かった。彼を助けてあげて」

 

怪獣少女は笑顔でそう言う。

 

「僕はこの世界に来る前に予め作っておいた二つのプログラムを使ったんだ。一つはヤツが作った次元の穴を通っても気づかれないようにするステルスプログラム。もう一つはヤツをこの世界から追い出す破壊プログラム」

 

少年はそう言いながら二人の横を通りジャンクを起動する。ジャンクは正常に起動し、さっきまでいた悪魔はもういない。

 

「グリッドマンから話は聞いているよ。新条アカネが作ったこの世界のことも、アレクシス・ケリヴのことも、君達グリッドマン同盟のことも」

 

「あなたは一体……?」

 

六花は少年にそう言うと、少年は振り向いて答える。

 

「僕は藤堂武史。僕も新条アカネのように、かつてグリッドマンに助けられたんだ」

 

グリッドマンがかつて助けた少年はそのまま二人の顔を見つめる。

 

「内海将君、君は最後まで響裕太の友達として共にアレクシス・ケリヴと戦ってきたんだろ?」

 

「宝多六花さんも、新条アカネの心を救うのには君がいなければ出来なかった」

 

「グリッドマンは誰か一人でも欠けていたらこの世界を救うことは出来なかっただろうって言っていたよ。君達が何も出来ないなんて事はない。今までも、そしてこれからも」

 

武史と名乗る眼鏡の少年は二人を励ますように言う。

 

「後は僕に任せてくれ」

 

彼がそう言うと腕を捲り始める。

彼の腕に着いていたものを見て二人は驚愕する。

 

「あ、アクセプター!?」

 

武史の腕にアクセプターがついていたのだ。

 

「て言うことは……」

 

ジャンクには既に青いグリッドマンが宿っていた。

 

「青いグリッドマン!?」

 

内海はアクセプターに続き突然現れた青いグリッドマンに驚く。

 

「行くぞ、武史。響裕太を助けるために」

 

青いグリッドマンが武史に言うと武史は眼鏡を外した。そしてグランアクセプターを顔の横に掲げた。

 

「アクセース……フラッシュ!」

 

ツツジ台が青い光に包まれると共に轟音が鳴り響く。

 

黒いグリッドマンの前に青いグリッドマン、グリッドマンシグマが登場したのだった。

 



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第9話 グリッドマンシグマ

シグマの性格とかは適当です。


ツツジ台に現れた青いグリッドマンことグリッドマンシグマ。六花と内海は状況の整理が出来ないままツツジ台にいる三人のグリッドマンの行く末を見ることになるのだった。

 

黒いグリッドマンはシグマを見るやいなやいきなり襲いかかる。

 

しかし、黒いグリッドマンの大振りの蹴りを避けるとシグマキックで相手を軽々吹き飛ばした。

そして倒れていたグリッドナイトに手を差しのべる。

 

「速い!」

 

「もしかしてグリッドマンよりも……」

 

内海と六花はシグマの速さに驚いた。速さだけならグリッドマンを凌ぐのではないかと思うくらいに衝撃を受けた。

 

「グリッドマン……ではないな、何者だ?」

 

グリッドナイトは初めて見る青いグリッドマンに向かって言う。

 

「私はグリッドマンの弟のグリッドマンシグマ。立てグリッドナイト。グリッドマンを倒すのは君の使命なのだろう?」

 

シグマはグリッドナイトを起こすと鼓舞するように言った。

 

「お前に言われなくてもわかっている。だが、あの黒いグリッドマンは響裕太だ」

 

「それなら私にいい考えがある。あの黒いグリッドマンは響裕太が自分を責める事で強くなる。だから私のフィクサービームで彼の心に勇気を与えるのだ」

 

「つまり、俺に囮になれと?」

 

グリッドナイトはシグマの意図に気づく。すると、遠くに飛ばされた黒いグリッドマンは直ぐに起き上がり真っ直ぐに走って来た。

 

「理解が早くて助かる。……それに見ろ、君の必殺技や私のシグマキックではやはりヤツに傷一つつかない。だがフィクサービームで響裕太が前向きな心を取り戻せばヤツの攻撃力も防御力も下がるはずだ」

 

黒いグリッドマンが近づき二人は身構えていると空中に跳び、そのままキックを繰り出す。

 

「まずい!あのキックは!」

 

シグマはそう言うと二人はそれぞれ別の方向に避け、二人がいた地面にキックが当たると地面が広範囲に渡って陥没した。

 

「あれはネオ超電導キック。まさかグリッドマンの技も使うことが出来るとは……」

 

シグマは驚くと同時にこの黒いグリッドマンを生み出したトレギアの底知れない力を感じ取る。

 

「黒いグリッドマン!こっちだ」

 

グリッドナイトが挑発すると黒いグリッドマンはそのままグリッドナイトに再び飛び掛かる。

 

先程と同じく首を狙いに行ったが、グリッドナイトはそれを読んでしゃがんで避けると、そのまま抱き付きながらタックルして黒いグリッドマンを地面に叩きつける。

 

そしてそのまま寝技をかけ出来る限り黒いグリッドマンが動かないようにした。

 

「今だ!」

 

「よし!フィクサービーム!」

 

グリッドナイトが作った隙を逃さず、シグマは黒いグリッドマンにフィクサービームを当てる。すると暴れ始めたが、グリッドナイトに寝技をかけられていて身動きが取れずにいた。

 

グリッドナイトは黒いグリッドマン、裕太に呼び掛ける。

 

「聞こえるか響裕太!皆がお前を待っている!正気に戻れ!」

 

「響裕太君、自分自身を責めるんじゃなく許すんだ!」

 

武史もシグマの中から呼び掛ける。

 

 

「さあ、今がチャンスだよ!」

 

怪獣少女は二人に言う。

 

「内海君!もう一度響君に伝えてみる!」

 

「ああ、頼んだ!」

 

その状況を見ていた六花と内海はジャンクから直接裕太に言葉を掛けることにした。

 

『あなたは私達の足枷なんかじゃない。大事な友達で大事な人。貴方が私達を頼りにする以上に私達は貴方を頼りにしてる。だからトレギアの言ったことなんかに負けないで!』

 

「み、皆……お、俺……」

 

『貴方が苦しいと私達も苦しい。貴方が笑顔なら私達も笑顔になる。どんな事があっても私達は響君の味方、それだけは変わらないんだから!』

 

「そうか……俺、一人で抱え込んで……。一番大切なものを失うところだったんだ……」

 

グリッドナイトは自分の腕の中で黒いグリッドマンが次第に大人しくなり力も無くなっていくのを感じた。

 

黒いグリッドマンはそのまま動かなくなる。

 

赤黒い眼は白くなり体も光となって消え、グリッドナイトの横には響裕太が横たわっていた。

 

シグマは裕太だけでなく街全体にフィクサービームの範囲を広げ修復していく。

 

街の壊れたあらゆるものが直り、元通りになる。

 

「裕太!」「響君!」

 

裕太も街も元に戻ったのを確認して安堵する二人。

 

「良かった、本当に……」

 

内海はへなへなとそのまま力が抜けていったようにソファに倒れ込む。

 

「………本当に良かった。響君が無事で」

 

六花もジャンクの前でぐったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残念だ。思ったよりも早く悲劇が終わってしまったよ。全く、絆だの友達だのしつこく言う輩は総じて諦めが悪いものだな」

 

「「「!?」」」

 

六花、内海、怪獣少女の三人は声のする方へと顔を向ける。

そこには普段六花ママが見てる店の棚の上にあるテレビがあった。テレビの画面は漆黒に包まれ再び三人は赤い眼と対峙する。

 

「な、なんで生きてるんだよお前!」

 

内海はトレギアに指を指しながら言う。

 

「あんなプログラムで私を退治したと思っていたのかい?君にも言っただろう、私はアレクシス・ケリヴよりも生物としての格が違うと」

 

トレギアはそう言うと目線を怪獣少女に向ける。

 

「私は過去の失敗から学ぶタイプでね、もう一つ悲劇を作っておいたよ。ところで君のお父さん、まだ帰ってきてないんだよね?」

 

「……!まさか…」

 

怪獣少女が何かに気付く。

それは六花も内海も同様だ。

 

短期間であるがこの悪魔と接した事でトレギアの考える事を想像できてしまう、卑劣で最悪な想像が。

 

「私のお父さんを……!」

 

「ご名答!今度はこの世界の守護者がこの世界を破壊するのだ。安心したまえ、今度は純粋に強化させたし響裕太のようにはいかないよ」

 

そうトレギアが言うと同時に、ツツジ台に闇に包まれたアノシラスが現れた。

 

目の前で見た武史はかつて自分が洗脳させたものより遥かに凶悪かつ強力にされているのを理解した。

 

「藤堂武史といったな、彼。破壊プログラムはともかく彼のステルスプログラムに気づけなかったのは事実。彼の頑張りに免じて一週間の猶予を与えよう」

 

「猶予?」

 

六花はトレギアが言い出した猶予と言う言葉に疑問を持つ。

 

「これから一週間後、暇潰しに怪獣達を連れてこの世界を破壊することにするよ。なに、元々コンピューターワールドの何もなかった場所、あるべき姿に戻るだけだ。ああ、あのアノシラスを止めることが出来たらの話だけどね」

 

「ふざけやがって!」

 

「ククク……では、今度こそ失礼するよ」

 

トレギアはそう言うと闇に消えていった。

 

トレギアによって再びツツジ台に危機が迫る。

シグマとグリッドナイトはこの世界の守護者のアノシラスに立ち向かうのだった。

 




投稿遅れてすみませんでした。
ウルバトでジェロニモン狩ってました。


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第10話 vsアノシラス (前編)

5月23日にYOUTUBEにてザ☆ウルトラマン配信開始だよ!見るしかないねえアカネ君!



「響裕太は?」

 

「もう目が覚めて宝多六花の家に行っている」

 

「そうか……」

 

シグマはそう言うと目の前に現れた怪獣を見る。

 

「グリッドナイト、あの怪獣は……」

 

シグマはグリッドナイトに言う。一体化している武史も、かつて自分が洗脳したアノシラスがこうして自分達と戦うことになるとは思ってもいなかった。

 

「あの娘の父親だ」

 

「怪獣少女か……」

 

武史とシグマを六花の家に導いた怪獣の少女。

かつてグリッドマンに借りを返すためにこの世界の秘密を響裕太に明かした。

 

「気を付けろ。ヤツの攻撃は強力だ」

 

かつてアノシラスは裂刀怪獣バギラを倒したり、武史がアノシラスを模して作ったにせアノシラスはゴッドゼノンを破壊した程だ。

 

トレギアによって強化されたアノシラスは手始めにと言わんばかりに街の周囲を破壊していく。

 

「フィクサービーム!」

 

シグマはすぐさまフィクサービームを放つ。周りの建物が修復される一方でアノシラスにはまるで効果が無い。むしろフィクサービームを吸収し始めた。

 

「フィクサービームが効かない!?」

 

シグマのフィクサービームを吸収したアノシラスの角にエネルギーが集まっていき光始める。

 

アノシラスは角を震わせ音波を放つと、シグマとグリッドナイトは苦しみだした。

 

「ぐあああぁぁ!」

 

「グッ……!」

 

グリッドナイトは耳を塞ぐような仕草をするがまるで意味をなしていない。

シグマはどうにか角を掴んで音を震わせないようにするが、今度はエネルギー弾を発射しシグマは直撃を受けてしまい腕を離してしまう。

すると再び角を震わせ、更に大きな音波を放ってグリッドナイトとシグマを攻撃する。

 

 

 

「どうなってやがる!?何でグリッドナイト達はあんなに苦しんでいるんだ!?」

 

六花や内海にも音波自体は届いているが二人に影響はない。だからこそ苦しんでいるグリッドナイト達が不思議で仕方なかった。

 

「多分、そうトレギアが設定したんだと思う。昔、殺人音波を出してた所をグリッドマンに助けてもらったから……」

 

怪獣少女はかつて父が武史とカーンデジファーによって操られてしまった事を聞かされていた。

 

「私達は音を浄化する怪獣。前のときは良い心を持った人達の奏でた音楽で正気に戻った。でもそれはコンピューターワールドの外から発せられた音だったし、ここにあるスマートフォンやラジカセじゃ音量が足りない。このままじゃ二人ともたおされてしまう……あいつのせいで」

 

アノシラスは冷静にしかし、静かにトレギアの怒りを燃やしながら言う。

 

「どうすれば……」

 

「俺、大きい音量出せる所を知ってるよ!」

 

六花が打つ手なしという感じで呟くように言った瞬間、裕太が帰ってきた。

 

「響君!」「裕太!」

 

二人は裕太の無事に安堵する。

トレギアによってついさっきまで黒いグリッドマンになっていたために何か体に異常がないか、どう接したら良いのか等、六花と内海の頭の中には様々な感情や思考が巡る。

だが、当の本人はこの非常事態に夢中になっていて二人の心配を察する事までは気が回らない。本来なら気まずくなるような状況でも目の前の危機を無意識に優先した。

 

「学校の放送室のスピーカーが新しいのに変わったんだ、音質も音量もより良い物に。あの怪獣を学校に近づける事が出来たらきっと……!」

 

「ナイスだ裕太!」

 

「私、放送室の機械なら少し使える!」

 

三人は学校の放送室を目指すことになった。

 

「アノシラスちゃん、ジャンクからグリッドナイト達に怪獣を学校に近付かせるように言ってみて!」

 

六花はお店を怪獣少女に任せる。

 

「六花ちゃん、これ持って行って」

 

怪獣少女は店にあったキーボードを六花に渡す。

 

「みんなは気を付けてね」

 

アノシラスが小さく手を振る。

 

「行こう!」

 

裕太がそう言うと三人は学校へと走って行った。

 

内海は裕太の背中を見てとてもさっきまで自分を殺してくれと言っていたとは思えない程の頼もしさを感じていた。

 

(裕太……。お前は自分に『力』が無いと思っていたみたいだけど、それは違うぞ。最初に怪獣が出て来たときだって、いつだって、お前が最初に走り出していたから俺達もその道を進めたんだ。グリッドマンがいてもいなくても、お前は立派なヒーローなんだ)

 

 

 

 

 

 

怪獣少女は早速ジャンクからグリッドナイト達へ、怪獣を学校に近づけさせて欲しいと伝える。

 

音波の中、シグマは怪獣少女からのメッセージを受け取る。

 

「グリッドナイト、あの学校に怪獣を近づけるぞ」

 

「………わかった」

 

二人は力を振り絞りアノシラスの角を掴みながら学校のある方向へ押す。

 

アノシラスはエネルギー弾を二人に発射するが二人は角を離さない。

 

「力押しになるがこれが音波に手も足も出ない以上、一番の策だ」

 

グリッドナイトはそう言うと同時により強い力でアノシラスを押す。 

 

今度は角にエネルギーを集め直接攻撃をするがそれでも二人は角を離さず学校の方向へ押し出す。

 

すると再びエネルギー弾を発射するが明らかに二人を狙わずあらぬ方向へ飛んでいく。

 

「しまった!」

 

二人は気づいた。エネルギー弾の行方が学校へと向かっている裕太達に放たれていたことに。

 

「ヤ、ヤバイ!」

 

「危ない!」

 

内海はそのまま身を守るような仕草、裕太は六花の盾になるようにするが時既に遅し、そのまま直撃……したかに思われた。

 

エネルギー弾は何かに遮られるように三人の目の前から消え去った。

 

「無事か、三人とも!」

 

「あ……、余り無茶はするな」

 

三人の前にはマックスとサムライ・キャリバーが立っていた。この二人がエネルギー弾を防いでくれたのだ。

 

「マックスさん!」

 

「キャリバーさん!」

 

六花と内海は二人に助けてもらった事を感謝する。だがそれと同時に改めて今この世界が危険に晒されていることをこの二人によって確信させられた。

 

「ありがとうございます!ところで……誰?知り合い?」

 

お礼を言うものの、裕太だけは二人の事を思い出せていなかった。

 

「記憶がないというのは本当だったか……。改めて自己紹介といきたい所だがそう言ってる時間は無いようだ」

 

「お……、俺達が護衛する。もうすぐヴィットも来るしな……」

 

キャリバーが言うのと同時に空から戦闘機が現れ五人の元へやって来る。

 

「スカイヴィッターだ!」

 

「悪い、みんな待たせた!」

 

心なしかテンションが高いような気がするヴィット。

そう言えばスカイグリッドマンになった時も何時もよりテンションが高かった気がするなぁと内海は思った。

 

「戦闘機が喋った!?」

 

「後で説明するから!みんなヴィットさんに乗ろう!」

 

六花はそう言って裕太の腕を引っ張ってスカイヴィッターに乗り込んだ。

 

「少し飛ばすぞ!」

 

スカイヴィッターは学校へと発進した。

 

「み、店にはボラーがいる。怪獣少女の護衛を任せた」

 

「新世紀中学生がいるってことはグリッドマンも……?」

 

内海は当然の疑問を聞く。

 

「まだ来ていないがすぐに来るだろう。グリッドマンシグマとアクセスフラッシュした彼の友達と共に。その中には響裕太より前にグリッドマンとアクセスフラッシュをした者もいる」

 

マックスの言葉に六花と内海は驚く。

眼鏡の少年藤堂武史は、裕太の前にアクセスフラッシュをした人物の友達だった。

言わば自分達の先輩と邂逅することになるとは思ってもいなかった二人。

 

「マ、マスクのおじさん。その、俺とグリッドマンがアクセスナントカって……」

 

「おじさんではない。もうすぐ学校に着くぞ!」

 

裕太はマックス達に聞きたいことが沢山あったが取り敢えずまずは目の前の事を解決しようと決心した。

 

 




投稿遅れてすみませんでした。(二回目)


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第11話 vsアノシラス(後編)

投稿遅れました(三回目)


「着いたぞ!」

 

マスクをしたおじさんがそう言うと俺と内海を肩に担いで戦闘機から学校の屋上へと降りてくれた。

 

「……キャリバーさん?肩に担ごうとしてくれるのはありがたいんですけど……その、スカートなんで」

 

「……?そうか、不満ならこれで行こう」

 

「ちょっ、それもダメですって!」

 

六花は髭のおじさんにお姫様抱っこされながら降りてきた。なんだか少しだけ悔しい。

 

「よそ見をしている暇はないぞ裕太。見ろよ、あれ」

 

内海の言った方向を見るとシグマとグリッドナイトが怪獣を学校に近づかせていた。あと少しもすれば学校のスピーカーからでも音が十分届く範囲に入るだろう。

俺達は急いで放送室へ向かった。

 

放送室に着くと早速髭のおじさんがキーボードの音をスピーカーから出せるようにセットし始める。

 

「六花ってピアノ弾ける?」

 

「ちょっとだけなら。前にグリッドマンに教えてもらった曲もあるし」

 

グリッドマン……。俺がついさっき変身していたものの色違いらしい。

今もグリッドマンの仲間が必死に怪獣を学校に近づけさせている。

何も思い出せずにいるのにこのグリッドマンという言葉を聞く度に胸の鼓動が止まらなくなる。

内海や六花の反応からしても俺にとって何か特別なことだったのは確かなはずなのに、それでも思い出せない。

 

「こ、これで完了だ」

 

「六花、グリッドマンに教えてもらった曲を弾いてみるんだ」

 

準備が終わり髭のおじさんとマスクのおじさんが六花にキーボードを弾くように促す。

 

……マスクのおじさんが小さい声で俺に「私はマックスであっちはサムライ・キャリバーだ」と囁いてきた。さっきのおじさん呼びにショックを受けてたみたいだ。

 

「そろそろ弾いていいんじゃないか?」

 

「六花、頼むよ」

 

「うん。ちょっと自信ないけど……やってみる。」

 

俺と内海も促し六花はキーボードで曲を弾き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「グリッドナイト、学校が見えたぞ!」

 

「わかっている!」

 

アノシラスに攻撃をされながらも二人はどうにか学校に近づけさせる事に成功した。

 

「グオオオオオウウウウ!!!」

 

アノシラスが咆哮をあげると二人のグリッドマンを相手に力任せに暴れ始める。余りの衝撃に思わず二人は角から手を離してしまう。

 

アノシラスは再び角を振動させ音波でシグマとグリッドナイトを苦しめ始めようとしたその瞬間、学校の放送室を通じてスピーカーから音楽が流れ始めた。

 

 

~~♪

 

 

「この曲は……!」

 

武史はかつて自分が洗脳したアノシラスを浄化した曲を記憶していた。

そしてそれはアノシラス自身にも言える事だった。

さっきまでの凶暴性は無くなり、顔も心なしか優しい顔つきになる。

まるで懐かしい曲を聴いてリラックスしているようにも見えるアノシラス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃあ!成功したぞ!」

 

「いや、待て!あれを見ろ!」

 

内海の喜びもつかの間、マックスさんが異変に気づく。

 

怪獣を包んでいた闇のオーラは怪獣から少し離れた場所で実体化していった。

 

実体化した闇のオーラは先程まで俺が変身していた黒いグリッドマンそのものだった。

 

黒いグリッドマンは実体化した途端、二人のグリッドマン目掛けて突進し始める。

二人のグリッドマンはエネルギーをほぼ使い果たしているためほぼ無抵抗のまま黒いグリッドマンの攻撃を受けていた。

 

「グアッハァッ!」

 

「グッ……!」

 

怪獣が黒いグリッドマンにエネルギー弾を発射して止めようとするが傷一つつかない。

逆に黒いグリッドマンの方がエネルギー弾を発射し怪獣を攻撃した。

 

「あれはスパークビーム……!」

 

「やはりグリッドマンの能力をコピーしているのか!」

 

キャリバーさんとマックスさんが驚いた様子で戦いを見ている。

するとさっきまで俺達を乗せていた戦闘機も現れレーザーを連発して黒いグリッドマンを攻撃する。

 

「アンプレーザーサーカス!」

 

さすがの黒いグリッドマンもダメージが入ったようで膝をつき腕をクロスさせて身を守っている。

 

「まだまだ!」

 

再びレーザーを連発して攻撃する。

だが、黒いグリッドマンは一瞬の間に姿を消しており、レーザーはそのまま地面を貫いて消えてしまう。

 

「何!?」

 

黒いグリッドマンは戦闘機の上から現れそのまま地面に叩きつけた。すると戦闘機はそのまま消えて無くなってしまう。

 

「速い!グリッドマンシグマみたいだった……」

 

「ああ、コピーされているのはグリッドマンの技だけじゃないみたいだ!」

 

黒いグリッドマンは戦闘機を撃墜したことを確認すると再び怪獣や二人のグリッドマンの方向を向く。

 

「ヴィットがやられてしまったか。仕方ない、すぐに六花の家に行こう。ここにいてもやれることはもうない」

 

俺達は六花の家に行くことになった。

だが、黒いグリッドマンは待ってくれない。

 

二人の巨人と怪獣を痛めつけるように攻撃する黒いグリッドマン。

三体とももう動くことすらままならない。

 

「ヤバイ!あのままじゃ全員やられちまうぞ!」

 

内海は声を荒げる。

 

六花も不安そうな顔でこの状況をみつめている。

 

俺達全員がこの放送室から六花の家に着いてる頃には全てが終わってしまっているだろう。

戦況は絶望的でこのまま俺は何も出来ないまま終わってしまうのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

いや、心の中だけでも諦めちゃだめだ。

俺を助けてくれた二人の巨人や友達のためにも。

俺はどんな絶望的な状況でも絶対に諦めない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時不思議な事が起こった。

放送室の機器に電流が走り俺の体に入っていく。

 

「うあああぁぁ!!!」

 

「響君!?」

 

「裕太!?」

 

体に激痛が走る中、二人の心配する声が聞こえる。

 

「や、やっと来たか……!」

 

「待っていたぞ……!」

 

電流が治まると腕に何かが装着されているのに気づく。俺の腕には見覚えの無い腕輪が着いていたのだ。

……いや、見覚えがないだけで不思議と自分の体に馴染んでいる。

自分が無意識に今まで望んでいた物を手に入れた、そんなフワフワとした感覚を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……行かなきゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

無意識にそう呟き、放送室を出た。

 

理由も根拠もなく俺は走り出した。ただ、この行動が正しいという確信だけを持ちながら。

 

制止する二人を振り切って俺はコンピューター室まで来ていた。

 

そして一つだけ電源の着いたパソコンの前に立つ。

 

画面に映っているのはトレギアみたく悪魔のような純粋な悪ではなく、絶対的に正しい純粋な正義そのものだった。

姿形はグリッドマンシグマと瓜二つ。

 

「久し振りだな、裕太」

 

「……グリッドマン?」

 

初めて会うはずなのに不思議と名前を呟いていた。

 

「その通りだ裕太。だがその様子ではまだ記憶は戻ってないみたいだな」

 

「うん、でもここに来なくちゃいけないって気がしたんだ。記憶は無いはずなのにグリッドマンに会った瞬間、さっきまでの不安や恐怖を一切感じなくなったよ」

 

正直な俺の気持ち。グリッドマンは頷いてくれる。

 

「記憶はなくとも、かつての戦いの日々は君の体に刻み込まれている。さあ行こう裕太!私達の手でこの世界を再び救うのだ!」

 

「ああ!」

 

この後すべきことはこの体が覚えている。

 

「アクセス……フラッーーシュ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひ、響君は!?コンピューター室に入ったよね!?」

 

六花は裕太を追いにここまで来たが見失ってしまう。

 

「見、みろよアレ!あそこのコンピューター!」

 

六花は内海の言う通りコンピューターを見るとそこにはかつて自分達が怪獣と戦うために何回も見てきた画面だった。

 

「戦闘コードを打ち込んでくれ!内海!六花!」

 

「「グリッドマン!」」

 

声を聞いた二人の顔はみるみる希望に満ちた笑顔になる。

 

「つまり裕太はもう……!」

 

「うん!」

 

裕太がグリッドマンとアクセスフラッシュしたことを悟り六花は戦闘コードを打ち込む。

 

「アクセスコードは"GRIDMAN"」

 

打ち込みを終えると轟音と共にグリッドマンがツツジ台に現れる。

 

かつてこの世界を救ったヒーローが今度こそ帰ってきたのだ。

 

黒いグリッドマンはグリッドナイトやシグマ、アノシラスへの攻撃をやめてグリッドマンを見つめる。

 

「シグマ、グリッドナイト。よく頑張ったな。後は私に任せてくれ」

 

「グリッドマン……。武史のためにもそうさせてもらう」

 

「俺はお前を倒すために生まれた。こんな奴にやられるなよ」

 

シグマは消え、グリッドナイトは人間態に戻った。

 

 

 

黒いグリッドマンはスパークビームを撃つがグリッドマンも同じ技を撃ち相殺される。

 

黒いグリッドマンはスパークビームが相殺されたのを確認するとすぐさまネオ超電導キックを繰り出すがグリッドマンはまたも同じ技で対応する。

 

「グリッドマンのコピー技なら本人には効かないって事だな!」

 

「でも、それはあっちにも言えること……」

 

内海が黒いグリッドマンの技を無効化にしている事に喜ぶ一方で冷静に分析する六花。

事実、グリッドマンが攻め手を欠いていた。

 

黒いグリッドマンは今度はシグマと同じ位のスピードで攻撃をしてきた。

グリッドマンとシグマだと僅かにシグマの方が早いため結果的にグリッドマンは後手に回ってしまう。

 

しかし、グリッドマンも相手の攻撃を捌いて反撃の隙を伺っていた。

すると黒いグリッドマンは痺れを切らしたのか隙の大きい技を繰り出す様になった。

黒いグリッドマンが回し蹴りで転ばそうとしてきたがそれを見切りジャンプで避けるとそのまま蹴りを相手の首に当てる。

相手が怯んだ隙に再びジャンプをしてグリッドマンは超電導キックを黒いグリッドマンの胴体にお見舞いした。

 

だが黒いグリッドマンの防御力は凄まじくダメージこそは入っているものの並の怪獣やアレクシス・ケリヴなら真っ二つに出来る技を受け止めた。

 

グリッドマンは攻撃の手を止めること無くスパークビームを放ち、グリッドライトセイバーで攻撃する。

それでも黒いグリッドマンは真っ二つになることなく攻撃を受けきってみせた。

 

グリッドマンはグリッドビームで止めを刺そうとするが黒いグリッドマンにグリッドビームで返され再び技同士が相殺された。

 

「奴の狙いは恐らくエネルギー切れだ」

 

マックスはコンピューター室に入ると相手の狙いを予測する。

 

「マックスさんの言う通りだ。今はグリッドマンが優勢でもあの防御力じゃすぐ逆転されちまう!」

 

「何か方法はないんですか!?」

 

焦る二人。だがマックスとキャリバーは至って冷静だった。

 

「し、心配はない。もうすぐやって来る」

 

「や、やって来る……?」

 

キャリバーの声に反応したかのようなタイミングでツツジ台の空からサンダージェット、ツインドリラー、ゴッドタンクが現れた。

 

「なんだアレ!?」

 

「あれってまるで……」

 

見た事もないメカが現れ驚く内海。

 

六花はメカが新世紀中学生のアシストウェポンとしての姿に似ていることに気が付いた。

 

「あれはかつてグリッドマンと共に戦った英雄達がプログラムしたものだ。今頃六花の家でサポートしているに違いない」

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃六花の家では……

 

 

「グリッドマン!待たせて悪かった!」

 

ジャンクの前で直人、一平がグリッドマンの戦いを見守っていた。

 

「もう、地図持ってる一平が道に迷うからアシストウェポンを出すのが遅れちゃったじゃない。ボラーさんが来なかったらどうなってた事やら」

 

一平に文句を言いながらゆかはソファで疲弊している武史の額に濡れタオルを置いた。

横では新しいタオルを濡らしている怪獣少女もいる。

 

「おいヴィット、あいつが俺達の父親みたいなもんなんだよな……」

 

「まあ、人は見かけによらないって言うし」

 

ボラーは複雑な気分で一平を見ている一方でどうでもよさそうなヴィット。

 

「俺、こっち側もやってみたかったんだよなー!」

 

普段はグリッドマンと一体化し共に戦う直人だが今回だけはサポートに回る事になりワクワクしている。

 

「「グリッドマン、超人合体だ!」」

 

直人と一平の声に反応したグリッドマンはゴッドタンクの上に乗る。

 

ゴッドタンクが脚に、ツインドリラーが別れて肩に、サンダージェットが体に装着される。

 

「合体超人、サンダーグリッドマン!」

 

パワー350万馬力を持つサンダーグリッドマン。

 

黒いグリッドマンはすぐさまパンチやキックを繰り出すがサンダーグリッドマンには効かない。

少し離れてスパークビームを放つがびくともせず、続いてネオ超電導キックをするが弾かれてしまう。

最後にグリッドビームで攻撃するがとうとう一歩も動かせないままだった。

サンダーグリッドマンにとって黒いグリッドマンの攻撃は屁でもなかった。

 

「つ、強い!あのグリッドマン!」

 

内海と六花はその圧倒的な強さに驚く。

 

「へへーんだ!苦労して改良したおかげで前より更に強くなったんだぜ、あんな偽物の技にサンダーグリッドマンがやられるかよ!」

 

一平は自分のプログラムを誇る。

 

「行け、グリッドマン!この世界に平和を取り戻すために!」

 

直人の声と同時にサンダーグリッドマンが攻撃を始める。

 

サンダーグリッドマンは黒いグリッドマンの頭を左手で掴み、右手で何度も殴る。

 

黒いグリッドマンは逃げようとしてもサンダーグリッドマンの力が強すぎて逃げることが出来ない。

 

サンダーグリッドマンはそのまま右手に力を集め、そのエネルギーをサンダーアトラクターに溜めると、そのまま胸にあるサンダークリスタルから炎を放つ。

 

「サンダーグリッドファイヤー!」

 

高熱のエネルギー火炎を受けた黒いグリッドマンはのたうち回るがそれでも消えない。

 

サンダーグリッドマンは黒いグリッドマンがのたうち回る隙に右腕にエネルギーを再び集め必殺の破壊光線を発射した。

 

「サンダーグリッドビーム!!」

 

黒いグリッドマンは粉々に砕け散った。

 

サンダーグリッドマンはフィクサービームをツツジ台全体に注ぎ、元の街に戻した。

そしてアノシラスの傷も癒し、グリッドマンはジャンクへと戻っていく。

 

傷を癒されたアノシラスはコンピューターワールドの人目のつかない所へ帰って行った。

 

 

 

 

 

「よっしゃあーー!」

 

一平は手を鳴らして喜ぶ。

 

「かっこよかったぜ、グリッドマン!」

 

グリッドマンの勇姿を目に焼き付けた直人。

 

するとジャンクから裕太が出てきた。

 

「おっ、こっちに戻ってきたか。お疲れ様」

 

「ご苦労様、裕太君」

 

「え……?あ、ありがとう、ございます…?」

 

直人とゆかに労われる裕太。

 

「おい、武史が目ぇ覚ましたぜ!」

 

一平は武史が目を覚ました事に気づく。

 

「う……あ、あいつは!黒いグリッドマンは!?」

 

「グリッドマンが倒してくれたぜ。武史もお疲れ様」

 

「よ、良かった……。ありがとう直人」

 

武史はツツジ台に束の間の平和が戻ったことに安堵した。

 

「えっと……あなた達は?」

 

だが裕太は当然直人、ゆか、一平、武史を知らない。

 

「裕太、彼らはかつて君と同じ様に私と共に戦ってくれた者達だ。この世界を救うため再び私の力になってくれたのだ」

 

グリッドマンがジャンクから裕太に四人の説明をする。

 

「俺、翔直人。直人でいいよ。お互いグリッドマンに変身する仲間だぜ」

 

「おれは馬場一平。あのアシストウェポンは俺が作ったんだ!すごいだろぉ?」

 

「わたしは井上ゆか。グリッドマンの戦いのサポートは主に私と一平がしてたの」

 

「僕は藤堂武史。グリッドマンシグマに変身しているのは僕なんだ」

 

「よ、よろしく。俺は響裕太。裕太でいいよ」

 

各々がそれぞれ自己紹介を終えると内海や六花達が帰ってきた。

 

「裕太!無事か!」

 

「響君!良かった……」

 

喜ぶ内海とホッとして少し涙目になる六花。

 

「二人とも!」

 

裕太は二人に駆けよろうとしたが立ち止まってしまう。

よく考えたら自分は二人に迷惑をかけたばかりじゃないか。

たとえグリッドマンとしてこの街を救ってもそれは変わらない。

 

内海と六花も同様で自分達が裕太を追い詰めた事を思い出した。

元はと言えばトレギアのせいだがトレギアに指摘されなかったらずっと裕太を苦しめていたかもしれない。

それにトレギアが言った言葉を思い出してしまっていた。

 

『仮に彼が元に戻ったとしたらどうする?どんな言葉をかける?まあ、どんな言葉をかけようが彼を傷つけるのは変わりないだろうがね』

 

結果、三人は沈黙してしまい静寂な時間が訪れてしまう。

 

「なぁに黙りこくっちゃってんだよ三人とも!」

 

そう裕太の肩を叩いたのは一平だった。

 

「そうそう、言いたいことがあったらちゃんと言った方がいいわよ」

 

「君達はどんなことがあっても友達なのは変わらないだろ?」

 

ゆかと武史が三人に言う。

 

「喧嘩したり傷つけちゃったりしても、お互いに笑って許し合えるのが友達だろ?理由なんて関係ないよ」

 

直人がそう言うと直人の肩に一平が腕をかける。

 

「その通り!たとえプリンを食べられても笑って許せるのが友達さ!」

 

「プリン……?あっ!まさかお前が食べたのか!?」

 

「おいおい直人、友達なら笑って許そうぜ?」

 

そう言いながら店の外へ逃げる一平。

 

「それはお前の言っていい台詞じゃないだろ!捕まえたらギタンギタンにして絶交だ!待て一平!」

 

直人は一平を追いかけそのまま店の外に出てしまった。

 

その一部始終を見ていた三人は思わず笑ってしまっていた。

友達を許すといいながらプリンを食べられた事で絶交だと言う直人と直人の言葉を悪用する一平。

でも決して切れることのない絆を四人は持っていると確信できている。

自分達だって同じだ、そう気付かされた三人だった。

 

(そうだ……俺が言うべき言葉は謝罪じゃない)

 

「ありがとう二人とも。二人がいたから俺は戦えたよ。」

 

裕太は二人に感謝の気持ちを伝えた。

 

「ありがとうはこっちの台詞だよ。私達とこの街を救ってありがとう、響君」

 

六花も感謝の気持ちを裕太に返す。

 

「裕太、お前まだ勘違いしてるかもしれないけど別に俺達付き合ってないからな。俺と六花が一緒にいるときは決まって裕太の事を話してんだからよ」

 

「そ、そうだったんだ……。てっきり自分達が付き合ってる事を表にしないタイプかと……」

 

「やめてよ響君!内海君なんかこれっぽちも興味ないから」

 

「ひでぇ!?」

 

「それに内海君は他に忘れられない好きな人がいるからね」

 

「えっ、そうなの!?誰!?」

 

「いや、それはその……おい六花!なんで言っちゃうんだよ!?」

 

他愛のない会話をする中、三人は前よりも更に友情が深まった事を実感するのだった。

 

 

「何はともあれ、三人の友情が戻って良かった」

 

グリッドマンは腕組みをしながら頷く。

 

「でも今後に向けての作戦会議って雰囲気じゃねーな」

 

「まあ、明日でいいじゃん。一応一週間あるんでしょ?」

 

ボラーが愚痴る横で余裕の表情のヴィット。

 

「しかし、あれだな……。裕太は自分の気持ちが六花に筒抜けなのに気づいていない。六花も平気そうなフリをして裕太がいつそれに気付くか内心ドキドキしている事だろう。裕太がそれに気付いたら六花は裕太をどう思っているかを言わなくちゃいけない流れになるからな。まあ、好物だが」

 

「なに長々と気持ち悪いこと言ってんだよマックス!」

 

顔と体格に似合わずピンク脳なマックスにツッコミをいれるボラー。

 

「と、とりあえず一見落着して良かった……」

 

「うん、ホントに良かった……うひひひひ!」

 

怪獣少女はあの独特な笑い声を店内に響かせた。

 

 

かくしてツツジ台を襲った黒いグリッドマンは倒され、アノシラスも正気に戻すことが出来た。

 

しかし、それと同時に敵の強大さを感じるグリッドマン達であった。



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第12話 作戦会議だ!

黒いグリッドマンを倒し、友情を取り戻したグリッドマン同盟。グリッドマンだけでなく直人、ゆか、一平、武史の四人に新世紀中学生もこのツツジ台にやってきた。

 

謎の敵トレギア……。トレギアは一週間後、怪獣を連れて再びこのツツジ台にやって来ると言っていた。

 

そこで一行は六花の家で今後に向けての作戦会議をしていた。

作戦会議は明日でいい派だったヴィットも予想に反して早く帰ってきた直人と一平を見てやれるなら早い内がいいだろうと考えを改めていた。

新世紀中学生中心のマックス主導で話を進めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずは我々の敵であるトレギアについてだが……」

 

「ちょ、ちょっと待って。アンチ君は?」

 

私ははこの場にアンチ君がいないことに気付いた。

 

「ア、アンチについてはこれからまとめて説明する。あいつはわけあって別行動している」

 

「その通り。グリッドナイトの目的も含めてここにいる全員に情報を行き渡らせる」

 

キャリバーさんとマックスさんが答える。キャリバーさんもマックスさんも以前と同じ様に真剣かつ冷静に私達を導こうとしてくれている。

 

「話を戻そう。トレギアの目的だが、六花が言うには悲劇を見たいからと話していたらしい。悲壮感に溢れていたらなおいい、と」

 

「それだけのためにこんなことを……。なんというか嫌な感じだな……」

 

「ああ、趣味も気味も悪いヤロウだぜ」

 

直人君と一平君はトレギアに嫌悪の感情を抱いてるように見えた。

無論、ここにいる全員がそうだろう。

 

「我々が奴の存在に気付いたのはトレギアが開けたであろう次元の穴だ。奴の能力なのか持っている技術なのかはわからないが、我々の想像を絶する能力なのは確かだ」

 

マックスさんはトレギアの持つ能力を警戒していた。グリッドマンと共に様々な世界を救ってきたであろう新世紀中学生達も理解する事の出来ない力らしい。

 

「で、グリッドマンが次元の穴を調べたらお前らのいた桜ヶ丘とこのツツジ台が繋がってたってわけだ。そもそも時代の違う場所を繋げることの出来る奴なんか今までいなかった。それにあの黒いグリッドマンを見る限り怪獣の質も相当のモノだぜ」

 

「なんつーか、やってること無茶苦茶だよな……。現実世界とコンピューターワールドを繋げただけじゃなくて時代も越えさせる事が出来るなんてさ……痛ッ!?」

 

ボラーさんの解説を聞いた内海君はトレギアがいかに高い能力を持っているかを実感していたみたいだ。

ボラーさんにしっかりしろ!と言われながら脛を蹴られていた事には目を瞑ろう。

 

「それだけの力を持ってる割にはカーンデジファーみたく世界征服とかそういうタイプじゃなさそうね」

 

「まあ、どちらかと言えばアレクシスタイプかな。被害者もいるし」

 

ヴィットさんはゆかちゃんの言葉に返答すると同時に響君を見る。

 

「あいつ……俺の事を全部わかってるみたいだった。俺の心の弱さにつけこんで、俺が欲しい言葉を与えてくる…。俺だけじゃなくこの世界の事もよく知らないと出来ない事なのは確かだと思う」

 

響君はその後、自分がどのようにしてトレギアの罠に陥ってしまったかを丁寧に話してくれていた。

自分の弱い部分を晒けだす事は勇気のいることだ。

彼はこの一件で更に強い心を持つことが出来たのだろう。

響君の話が終わった後も、トレギアが私や内海君の事だけでなくアカネやアレクシスの事も知っていたのを伝えた。

トレギアが言うにはアカネやアレクシスより俯瞰してこの世界を見ていたらしい。

 

創造主のアカネや力を与えたアレクシスすらもトレギアの存在を把握してはいなかった。

アカネが来る前からずっとこの世界にいたアノシラス親子さえもそれは同じだ。

 

「僕が作った破壊プログラムはカーンデジファーに使ったものより性能を良くしたんだ。グリッドマンの力借りずともグリッドハイパービーム並の威力を出せるように」

 

「でも、あいつは消えなかったよ。それどころかダメージが入ってる様子も無かった……」

 

「少なくとも現状では我々はトレギアに全滅させられてもおかしくないだろう」

 

武史くんのプログラムのおかげで最悪の事態が免れたが対抗策になり得ない事もわかった。アノシラスちゃんの言う通りトレギアには屁でもないといった感じだったし。

グリッドマン含め、私達はこの状況をあまり好ましくは思ってない。

 

「ところで裕太……記憶は取り戻せそうか?」

 

「正直…全く。体は勝手に動いたけど、それだけって感じ……かな」

 

響君は残念そうに俯く。

 

「私は少なくともグリッドマンと一体化したら思い出すものだとばかりおもっていたが……」

 

マックスさんに限らず皆が思っていた事だろう。私はあの日々を今日のように鮮明に思い出せる。内海君もきっと一緒のはずだ。

 

「裕太の記憶だけど……もしかしたらトレギアが関係しているのかもしれない。多分六花も同じ事を体験したからわかると思うんだけど、トレギアに最初に会った時の記憶を一時的に忘れさせられていたんだ」

 

「そういえば……私も一緒だ。二回目に会ったときにアイツが指を鳴らしたのと同時に記憶が一気に蘇って……」

 

今でもその時の事を思い出すと背筋が寒くなる。嫌な記憶を脳の中に一気に詰め込まれた感覚だった。

 

「俺の記憶はトレギア次第か……」

 

「そのためにもあいつに勝つ方法を考えなくちゃな!」

 

少し落ち込む響君の肩をポンポンと叩いて直人君は励ます。

 

「やっぱこのジャンクの性能を良くしないとな!内海の持ってるスマホっていう板ぐらいにはしたいな」

 

「パソコン自体が古すぎてそこまでは出来ないけど、グリッドマンが全力を出しても問題ないぐらいにはした方が良いかもね」

 

一平君の概ね同意するヴィットさん。

 

「よし!じゃあ早速パーツ譲ってくれそうな所へ行こうぜ!」

 

「ちょっと待って!もう日が暮れるし明日は響君の追試があるからそれからでも良くない?第一みんなは住むところどうするの?」

 

「やべー、考えてなかったぜ……」

 

早速行動に移ろうとしていた二人を止める。直人君も一平君も考えるより先に行動するタイプなのかも。

 

「俺、親が今海外旅行中なんだ。男子高校生三人くらいなら全然大丈夫だよ。井上さんは、女の子だしさすがに……」

 

「なら私の家にこのまま泊まっていきなよ、ゆかちゃん!」

 

「本当に!?正直野宿も覚悟してたから助かるよ」

 

「良かったな一平、武史!」

 

「俺、腹ペコペコだぜ~」

 

「ありがとう二人とも。グリッドマンもここにいるみたいだし、安心だわ」

 

とりあえず四人の寝泊まりする所は確保できたみたい。響君の言う通りさすがにゆかちゃんを男子高校生が四人いる部屋に行かせるわけにはいかない。

 

「最後に……アンチもといグリッドナイトについてだが、彼は今新条アカネの世界にいる。詳しく言えば新条アカネのコンピューターの中にいる」

 

「新条アカネの!?」

 

「アカネの……!?」

 

アンチ君はアカネの世界にいたのだ。だけど、その理由もなんとなく察せる。

 

「トレギアと戦う以上戦力は欲しい。グリッドナイトはアクセスフラッシュが出来ていない状態のため完全に力を出せているわけではないのだ」

 

グリッドマンが解説してくれる。グリッドマン自身も誰かとアクセスフラッシュが出来ないとコンピューターワールドでの活動自体がままならないらしい。

つまり、アカネがグリッドナイトとアクセスフラッシュする必要があるという事。

 

「次、グリッドナイトがこの世界に来るときは新条アカネとアクセスフラッシュをしているときだ」

 

「でもグリッドマン、正直彼女が戦いに向いてるとは思えないわ。私達みたいにサポートするならまだしも……」

 

グリッドマンの言葉にゆかちゃんは反論する。

 

「正直、俺も。俺達は一度会っただけだけども、あんなか弱い女の子が戦えるとは思えない」

 

「……まあ、すごいかわいかったけどな」

 

一平君は置いとくとして直人君もゆかちゃんの意見に賛成した。

 

「ちょっと待て!お前達新条アカネの世界に行ってたのかよ!?」

 

内海くんはひどく驚いている。もちろん私もだが。

ここに来る前にこの三人はアカネに会ったらしい。

 

「彼女、この世界で自分の犯した罪を凄く後悔していたの。それに絶対に戻れない理由もあるって言ってて……」

 

「二度とあの世界には行かないってすげー意地張ってたぜ。アクセスフラッシュ自体、一心同体の文字通り心が拒絶してしまうとうまくいかないんだ」

 

私はアカネがそんな弱い人間ではないと言いたかったが心が弱かったからこそこの世界があるし、グリッドマンが来たことも事実だ。

それでもアカネが意地になってるのは私との約束のせいなのかもしれない。

 

「彼女はこの世界と決別して前を向くためにあっちの世界に行ったんだ。彼女が前を向いて進んだからこそこの世界は広がった。正直、新条さんには来てほしくないよ。決意が揺らいじゃったら彼女のためにならない」

 

内海くんは自分の胸の内を晒けだした。厳しい言葉を使っているがそれも彼女の決意を尊重するためだ。

そして私も続くように自分の胸の内を明かす。

 

「アカネにはこの世界に来てほしいけど、来てほしくない。でも、それを決めるのはアカネ自身だから」

 

「君達の意見はよくわかった。ただ、六花の言う通り決めるのは新条アカネ自身だ。どんな結果になってもそれを受け止める覚悟を持つように。今日はもう遅い、各自自分の拠点へ解散するとしよう」

 

マックスさんの最後の言葉で取り敢えずこの作戦会議は解散した。

ちなみに響君の追試が終わり次第手分けしてトレギア対策をすることになった。高校生組、新世紀中学生組に別れてジャンクのバージョンアップから始め最終的にグリッドマンもグリッドマンシグマもどちらもフルパワーが出せる性能を目指すことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「六花のママさんの料理、凄くおいしかった!」

 

「ふふ、チーズフォンデュもなかなかいけるっしょ」

 

解散後私とゆかちゃんは晩御飯を一緒に食べ、その後私の部屋で他愛のない話をしていた。

 

「ゆかちゃんの世界ってどんな感じなの?」

 

「多分、この世界の丁度20年前くらいの感覚だと思うわ。最初はあまり変わってないように思えたけど、だんだん私達には未来的過ぎるって思うようになったわ」

 

そういえば直人君達の服装はどことなく昔のトレンディドラマで見そうなかんじだったなぁ。

 

「凄く賑やかだよね、ゆかちゃん達」

 

「賑やか過ぎるのも考えものよ六花ちゃん。武史君も中学生から友達になったんだけど、仲良くなるにつれて直人や一平達と同じくらい陽気になっちゃって」

 

「マジィ?なんかそんな感じしないけど、武史君」

 

「元々真面目……というにはひねくれ過ぎてたけど良識は確実に直人や一平より上だもの。あの二人のイタズラ好きなところに似なくて良かったわ」

 

確かに、直人君と一平君は武史君に比べたらやんちゃさが全面に出てる気がする。

 

「それより六花ちゃんはどうなの?やっぱ響君と付き合ってるわけ?」

 

「へぇっ!?」

 

いきなり過ぎて思わずすっとんきょうな声を上げてしまう。

 

「あら、予想的中?」

 

「付き合ってないけど……。ど、どうして響君だと?」

 

自分でも少し驚く程に動揺していたためか声が震えてしまっている。

 

「響君も六花ちゃんも目が合う度視線を切ってはまた見て……って感じでお互いに意識しまくりよ」

 

「そ、そんなに?そりゃあまあ、目はちょくちょく合うかもしれないけど」

 

自分ではあまり意識してないつもりだったが周りから見るとバレバレなのかな……?

 

「彼、凄く純粋ね。彼はトレギアに利用されてしまって一度闇に身を堕としてしまったけどあなた達の友情で光を取り戻した。きっと白にも黒にもなりやすいのね」

 

私はアカネがこの世界を去ってからずっと響君を見てきて彼を理解しているつもりだった。

だけど今回の事件で彼の苦悩を知りもしないで追い詰めていた事を知った。

 

「仲直りというか、お互いにわかりあえたから良かったけど、このまま仲が悪くなっちゃったらどうしようって、そんなことばかり考えてた。響君の事何もわかってなかったし、一歩間違えたらグリッドマン同盟崩壊ってかんじだったし」

 

「そんなこと絶対ないわ。友情ってどんなことがあっても途切れない絆なんですもの」

 

「途切れない絆……」

 

「そう、トレギアもきっと友達いないのよ。だから絆というものが簡単に壊れるものだと思ってる。たとえそれが壊れてしまってもお互いに心を寄り添えばより強固なモノになるのに」

 

「うん……。そうだね」

 

絆は決して途切れない。グリッドマン、新世紀中学生、グリッドマン同盟、ゆかちゃん達、そしてアカネとも。

 

 

「二人ともー、デザートあるわよー、きてー」

 

ママの気の抜ける声が聞こえてきた。

 

「ママー、今行く~」

 

「デザート!?超楽しみ!」

 

私とゆかちゃんはママの待つリビングへ向かった。

 



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第13話 戦いの間で

俺達は学校前で追試を受ける裕太を待っていた。

 

昨日はあんな騒ぎがあったにも関わらず街や学校は元通りになっていたため通常通り学校は登校日になった。

 

当然、この世界に新条さんはおらず世界の人々は昨日の事件を覚えている。黒いグリッドマンやアノシラス、グリッドマン、グリッドナイトにグリッドマンシグマ……。

 

学校中がグリッドマン達の話題で溢れかえっていた。まさかその正体を知っているのはこの学校で俺達だけとはみんな思わないだろうな。 

 

「裕太、どうなんだろうな」

 

「俺より勉強出来るのに追試で進級怪しいとか厳しいな、この世界の学校は」

 

「……僕達の世界も厳しいからね、二人とも」

 

「そうよ。直人も一平も勉強しないと進級出来ないくらいの成績だって自覚あんの?」

 

他の世界から来た四人も裕太の事を心配しているようだ。そして人の心配をしてる場合じゃないといった感じで言った井上さんの言葉に直人と一平は「うへぇ」と声を漏らしていた。

 

直人は武史と井上さんと同じ学校へ行ったためその分周りのレベルが高く問題も難しいのでいつも赤点ギリギリらしい。

一平は三人と同じ学校へは行けなかったもののそれでも俺達と同じくらいの偏差値みたいだ。

まあ赤点を連発して裕太以上に進級の危機が迫っているらしいけど。

 

あちゃこちゃとしているうちに 裕太が昇降口から出てきた。

 

「お疲れ、裕太!」

 

「テストどうだった?」

 

「……今までで一番自信あるよ」

 

その言葉を聞いて俺達は安堵する。

裕太のテストという不安要素は無くなり本格的にトレギア対策へ乗り出すことが出来る。

 

「六花ー!はっすの追試お疲れ様記念にカラオケ行かなーい?……あれれ?何時もに増して大所帯じゃないですか六花さーん!?」

 

「えっと……これには深いワケが……」

 

裕太に続いて六花さん軍団も現れた。

……またターボ先輩といじられてしまうかもしれないと思い武史の後ろに隠れてみる俺。

 

「かわいいーーー!!」

 

耳をつんざくような大きすぎる声に驚く俺達。

どうやらその声の主は一平みたいだ。

 

「かわいいね君、今からデートしない?俺の奢りだからさ」

 

「あっ、あたしぃ!?え~と、いきなりすぎて困ったなぁ……たはは」

 

積極的にナンパし始める一平。口説かれてるほうも体をクネクネさせながら満更でもない感じに見える。

 

「また始まったよ一平の恋が」

 

「すぐ冷める癖にね」

 

直人とゆかは見慣れた光景だと言わんばかりに呆れている。

 

「……あんななみこ初めて見たかも」

 

六花は珍しいものを見た、といった感じだ。

 

「へぇー、意外と慣れてそうなのに」

 

裕太の言葉に六花は「なみこは純情なの!前だって……」と、裕太に対してなみこがいかに純情ないい子なのかと説き始めた。

裕太は裕太で真剣に「そうなんだ」と素直に聞き入れているのを見て思わず笑いそうになってしまう。

 

「頑張った主役のあたしを置いてけぼりってひどいと思わない?ねぇ内海?」

 

裕太と一緒で追試を受けていたはっす。ターボ先輩といじられると思い身構えてた俺は突然の内海呼びに少し拍子抜けしてしまった。

 

「……元はと言えば勉強してなかったのが悪いだろ?裕太と違って記憶喪失してたとかじゃないのにさ。……まあ、お疲れ様」

 

「あ、ありがと。まさか内海から労いの言葉を貰えるなんて思わなかった」

 

俺の言葉に目が少し見開いているように見えた。マスクで表情はよくわからないが多分笑っていたと思う。

 

「……昨日さ、怪獣現れた時に六花とどっか行ったじゃん。どこ行ってた?」

 

「そ、それは……」

 

俺は思わず口ごもってしまう。

 

「ごめん、ちょっと意地悪な質問だったかも。……

これから言うこと、あんま本気にしないでよ?」

 

何だろう?頷いてはみたけど彼女がこれから何を言うのかと少し緊張してしまう。

 

「六花も内海もさ、あの怪獣見た途端すぐに行動してたじゃん。どっかで見たことのある光景だったのに思い出せなくてさ。なみこと避難している時も二人であの既視感は何だったんだろうって話してたんだ」

 

「………」

 

「響もだけど、ずっと私達の知らないところで頑張ってくれてたんだろうなって。ずっと守ってくれてたんだろうなって感謝してたんだ。なんか気持ち悪いかもしんないけどさ」

 

俺達と距離の近い彼女達は感じていたのだろう。俺達がグリッドマン同盟としてこの世界を守っていた事を。

 

「……気持ち悪いなんてことないさ」

 

「え?」

 

「俺達は今までこの世界を守ってきて、また新しい脅威が現れて。誰にも気付かれないことだけどお前達みたいに感謝してくれる人達がいる。それだけで嬉しいし余計負けられないって思えるしさ」

 

「内海、それって……」

 

「……ま、冗談だけどな!なーに本気にしてんだよ!」

 

「おま……、はぁ。やっぱターボ先輩ってクソだわ」

 

「た、ターボ先輩って言うなって!」

 

裕太と一緒でたとえ記憶がなくてもこの世界の人達にもグリッドマンの戦いが体に刻み込まれているかもしれない。

戦いの間で俺は改めてあの悪魔からこの世界を守るんだという強い意志を持つことが出来た。

 

「なみこ~、みんな忙しそうだしあたし達だけで行こ~」

 

「う、うん!じゃあね六花」

 

「じゃあね」

 

一平だけが名残惜しそうに二人を見送った後、俺達はジャンクの部品を探すために街の電気屋を巡ることにした。

正直この分野では俺達三人は見ているだけになってしまったが。

 

しかし、四人ともプログラミングだけでなくコンピューターも組み立てられるとは。

グリッドマンも彼らに何度も助けられたと語っていたがどうやらそれは本当の事らしい。

巨大化プログラムもアシストウェポンも彼らの手によって作られたものだ。それは俺達の戦いにも欠かせないものであった。

 

そんなことを思っていると武史と直人とゆかはそれぞれ部品をアップデートするため買ってきてくれた。

 

「そう言えば一平は?」

 

裕太が武史に言うと武史が指をさした。そこには店員と交渉してる一平がいた。

 

「頼むよおじさん、どうせ使わなくなったものばかりなんだろ?金出すだけでもすごくいいと思わない?安くしてよ」

 

店長と思われる人は高校生に値切りの圧をかけられて困惑している。

しかし、一平のこういう時の面の皮の厚さは見習いたいところがある。

 

「ま、まぁ確かに使わないものばかりだしなんならタダでもいい「本当!?」ヒッ!?」

 

一平の喰いぎみの返答に軽い悲鳴をあげる店長。

 

「ありがとうおじさん!全部もらっていくね!みんな、ずらかるぞ!」

 

一平はそう言うと一目散に俺達を連れて電気屋を後にした。

 

……「ちょっと坊や!?全部とは言ってないよ~!!」と、涙声が聴こえたような……気のせいだろう、うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごいじゃん一平!」

 

「へへーん、まあな!能ある鷹は爪をかじるって言うだろ?」

 

天然なのかわからないが裕太が一平に感心し、一平は得意気になる。

 

「それを言うなら能ある鷹は爪隠すでしょ」

 

「今のって……いいのかな……」

 

良心を痛めてる六花とまたやったと言わんばかりに呆れる井上さん。

なにはともあれ一平の機転でグリッドマンが強化されると思えば……。

世界を救うためという大義が無ければ俺も良心を痛めていたかもしれない。

 

ぐぅぅぅ~~……

 

誰かの腹の虫が鳴った。

 

「わりぃ、さっきからお腹ペコペコなんだよ」

 

音の発生源である直人が空腹を訴える。

 

「そう言えばお腹へったなぁ」

 

「とりあえずパーツは手に入ったんだし飯にしようぜ!」

 

武史と一平の言葉もあってか皆で食事に行くことになった。

まあ、俺はともかく裕太は追試が終わったばっかでなにも食べてないだろうし。

 

「場所は……あっ!あそこの中華屋は!?」

 

「あそこにしようぜみんな!」

 

直人と一平が見つけた中華屋は問川のお父さんがやっているお店だった。

 

「どうしたの六花ちゃん?」

 

「ううん、なんでもない」

 

裕太は記憶が無いから知らないだろうがかつて新条アカネによって犠牲になった同級生がいた。

まあ、話をすれば長くなるし別に裕太や四人にわざわざ説明しなくてもいいだろう。

俺達は中華料理店『龍亭』へと入店した。

 

「いらっしゃい!テーブル席が空いてるからそっちへ座ってよ」

 

問川のお父さん……前ここに来た時は俺達がこの世界の仕組みを知らなかったとはいえ悪いことしたよな。

でも前来た時よりも凄く明るくなったというか元気になった印象がある。

最後に会ったときは生気が失われていたしな。

 

「どれも美味しそうだよなぁ。お、これ安いな」

 

「取り敢えずチャーハンと餃子は先に頼むとして……」

 

「どうせ頼むならゆっくり選ぼうかな」

 

各々が自分の好きなものをマイペースで選ぶ。

 

俺も何を選ぼうかな……どうせなら腹が膨れる量は食べたいなとぼんやり思っていたが、次の瞬間、俺の全神経を持ってかれる事が起こる。

 

「お父さーん、じゃ行ってくるね~!」

 

「おう。最近物騒な事ばかりだから気を付けろよ」

 

「大丈夫!すぐ近くのといこん家行くだけだし」

 

問川さきるが今ここにいる。

思わず六花と顔を見合わせたが、六花も驚愕している。

問川さきるが生き返っていたのだ。

新条アカネに他の同級生もろとも殺されてしまった悲劇の少女。

今日学校にはいなかったはずなのに。

 

「お、六花に響くんと内海君もいるじゃん。お父さんの料理安くて美味しいから是非常連になってよね!」

 

「ちょ、ちょっと待って!トンカワ、なんでここに……?」

 

「あっ、言ってなかったっけ?ここの中華料理店あたしん家なんだ」

 

「そ、そういうことじゃなくて……」

 

「あっ!ちょっと時間ヤバいからまた学校でね!ゆっくりしてってね~!」

 

問川さきるはそのまま外へ出ていってしまった。

また学校で……?まるで今まで学校に行ってたような口振りだ。

裕太も記憶が無いせいか見知らぬ人に名前を知られてておかしいなぁと呟いている。

俺は堪らず問川のお父さんに質問する。

 

「あ、あの!娘さん今日学校に来てました!?」

 

「……おかしな事を言うね、君。さきるはね、三学期は一度も学校を休んでないんだよ?」

 

「え……?」

 

問川のお父さんの言い方はまるで今までも学校に行ってたかのように話している。

 

「……あ!突然で悪いんだけど今日はお店はもう終わりなんだ。用事があったのをすっかり忘れてたよ」

 

話をそらすかのように問川のお父さんはいきなり店を閉めようとした。

 

「えーー!まだ何もくってねぇのに!」

 

「ごめんねぇ。お詫びに持ち帰りの餃子をタダであげるからさ」

 

「本当!?おじさん、太っ腹!」

 

直人と一平は掌を返すように餃子を持ち帰る。

結局、俺達はそのまま店を追い出されるように外へ出た。

 

「六花、問川さんなんてウチのクラスにいなかったよね?」

 

「いなかった……、というよりいなくなったはずだったんだけどね……」

 

「そもそもなんで生きてんだ!?」

 

「いなくなった?生きてる?一体どういうことなの?」

 

井上さんはある種当然の疑問をぶつけてくる。

戦いの間で既に事態は動いているのかもしれない。

俺はここにいる全員に問川さきるについて説明する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危なかったな。だが甘い。君の娘が生きている事に疑問を持つものを生かしてはならない。何故なら彼女は自分が既に死んでいると認識してしまえばそのまま消えてしまうのだからな」

 

「………」

 

「それに彼らは君の娘を殺した人間の友達だ。放置していれば必ず娘に危害が加えられるだろう。せっかく生き返った娘を失いたくないだろう?心配するな、私の言う通りにすれば全て上手くいく……」

 

問川の父は悪魔を受け入れているかのように大きく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新条アカネのコンピューターにいるアンチことグリッドナイト。

 

新条アカネは恐らく自分がこのコンピューターにいることを気づいている。ただ、彼に会うことで自分の決意が崩れる事を恐れているのだとグリッドナイトは理解していた。

ただ自分に出来るのは新条アカネが向き合うまでひたすら声をかけ続けること。

アカネの歪んだ心から怪獣として生み出された自分がグリッドナイトになったということは、新条アカネの心が前向きになった今、新条アカネも必ずグリッドマンのようなヒーローになれるはずだと。

 

ただ一人、いや仲間たちの思いを受けて待ち続けていた。

 

しかし、自身の野生のカンが辺り一面の空気が張り詰め始めていることに気づく。

 

 

アンチはまさかと思い振り返ると突然現れた禍々しい闇の空間からトレギアが出てくる。

 

 

 

「やあ、どうせ来もしないご主人様を待ってるのかい?」

 

 

 

顔の仮面に胸には何かを抑えつけるかのようにプロテクターを付けている。

赤く光る眼は何を見ているのか想像もつかない。

 

「……何をしに来た?」

 

「なあに、私も君のご主人様に会いに来ただけさ」

 

「それを聞いて会わせると思うか?」

 

グリッドナイトは戦闘態勢に入る。

 

「オイオイ、血の気が多いな。アーンチ」

 

言葉尻に音符が付きそうなくらい人を小馬鹿にする物言いをするトレギア。

 

「俺はグリッドナイトだ!」

 

トレギアはグリッドナイトのキックを軽くいなし、続く連続攻撃も全て最小限の動きで避ける。

 

グリッドナイトは自分の攻撃をまるで読まれているかのような身のこなしに苦戦する。

 

「どうした、アンチ?」

 

トレギアは煽るようにグリッドナイトの顔の前で自分の指を動かす。

 

「くらえ!」

 

グリッドナイトは距離を取りグリッドナイトサーキュラーに加えてグリッドナイトストームを同時にトレギアにぶつける。

 

二つの攻撃は防がれることなくトレギアに直撃した。

新条アカネのコンピューター内でとてつもない爆発が起こりあたり一面が煙に覆われる。

しかし、煙が晴れて出た来たのはまったくダメージを負ってないトレギアだった。

 

今度はナイト爆裂光破弾を撃とうとするがその前にトレギアが後ろに回り込み首を掴む。

 

「ぐっ……放せ!」

 

「君は目障りだから消えてもらうよ」

 

トレギアが淡々と口から出した言葉通り、トレギアは手にエネルギーを集めるとそれが黒い稲妻になりグリッドナイトの身体を一瞬にして巡る。

 

「ぐあああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

グリッドナイトはそのまま爆散して粒子になり消えてしまった。

 

「ククク……。君達の悲劇はまだ始まったばかりだぞ、グリッドマン達よ……」

 

禍々しい闇を出現させトレギアはそのままどこかへと消えてしまった。

 



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第14話 悪魔の誘惑(やまと編)

遅くなってホントにすいません。
停電がヤバすぎ&リアルが非常に多忙でした。


「グリッドナイトと連絡が取れない……」

 

キャリバーの報告にマックス達は嫌な予感を覚える。既にトレギアが動いているのは明白であり今後どういう行動に移るかわからない。

 

「まさか……やられたんじゃねぇだろうな」

 

ボラーが小さい声で呟く。

計画ではグリッドナイトと新条アカネがアクセスフラッシュをする事で三人のグリッドマンの力でトレギアに対抗するはずだった。

 

「みんな帰って来たらまた作戦会議だねこれは」

 

普段気だるそうにしているヴィットもこの緊急事態のせいかそういう様子を一切見せない。

 

「その前にグリッドナイトの様子を見に行くぞ。まだやられたかどうかはわからない。仮にそうだったとしても早期発見で助かる可能性がある」

 

「ボラーとキャリバーはみんなの護衛を、俺とマックスでグリッドナイトの様子を見に行こう」

 

ヴィットの言葉に他の三人が頷きマックスとヴィットは新条アカネのパソコンへと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なみことはっすは六花達と別れた後、カラオケに来ていた。

 

カラオケに来ている割には歌を歌わずに動画を見ている二人。

 

「ねぇはっす~、最近Arcadiaの動画つまらなくない?やまとさんどうしたのかなぁ?」

 

「なんか芸風変わったよね、どうしたんだろ。ま、わたしは応援するけど」

 

「そりゃあたしも応援するけどさ~、なんか物足りないっていうか」

 

推しのyoutuberの劣化を嘆く二人。

 

「合コンの時も六花とさぁ……あれ?なんか違和感あるような……」

 

「……なんかわかるかも」

 

自分達が苦労してセッティングしたはずの合コンの事についてあまり思い出せない事に二人は違和感を覚える。

 

「それよりさっきの一平くん、なみこどう思ってんの?」

 

「べ、別にどうもこうもないんだけど!?」

 

だがすぐに恋バナへと移るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~、最近スランプだよなぁ」

 

Youtuberとして有名になったもののここ最近の再生数がイマイチ伸び悩む。

ファンには口を揃えて昔のスタイルに戻って!って言われるけど、やり方変えた訳じゃないし正直今も昔も変わってないはずなんだけどな。

 

前に女子高生と合コンした時はレベルの高い子ばかりで俺もここまで来たかと思ったものだが、そこから動画が伸び悩むようになったのも事実。

 

エゴサしても合コン前後で全然ファンの反応が違う。

女の子にチヤホヤされながら広告収入やネット番組に呼ばれてお金を貰う生活が黄色信号だ。

 

「動画編集すっか」

 

いつものように毎日投稿するため動画を編集しようとパソコンのマウスに手を伸ばした。

 

するとパソコンの画面が突然黒くなったかと思った瞬間、禍々しい闇から赤い眼が見えるのと同時に腕が伸びて来る。

 

「やあ、youtuber。君の奥底に眠る感情を喚び醒ましに来た」

 

悪魔とも思える何かが俺に語りかけてきたのだ。

何が起きているのか頭の整理が出来ずに呆然としていた。

 

「君は動画の再生数が伸びず悩んでいるんだねぇ」

 

「ど、どうしてそれを……あっ、もしかしてファン?」

 

精一杯おどけてみる。

だが悪魔にハァと溜め息をつかれてしまう。

 

「私は君の動画が伸び悩む原因を知っているぞ。ファンが本当に望む君、いや、君達を」

 

「な、何言って……」

 

悪魔が指を鳴らす。すると俺の頭に記憶がなだれ込む感覚に陥る。

 

俺はyoutuberだけど、一人じゃなく四人で活動していたこと。

三人とも俺の知らぬ間に怪獣に殺されてしまっていたこと。

 

俺の親友、仲間達はもうこの世にいない。

その現実を約半年後にようやく思い知らされる事になるとは。

 

「う、うああああああああああ!!!!」

 

全身が震え吐き気さえする。

今までこの異常な状態を何も疑問を持たずにいたことに嫌悪感を抱く。

 

「君から大切な物を奪った奴の名は新条アカネ。この子さ」

 

悪魔が手のひらを開けるとそこに映像が映る。

合コンの時に一番狙っていた子だった。

 

「ア、アカネちゃんが……?意味わかんねぇ……」

 

「無理もない。君はこの世界の仕組みを知らないのだから」

 

悪魔はこの世界の仕組みについて話始めた。

 

この世界は新条アカネによって作られたということ。

怪獣は新条アカネが差し向けたこと。

色々と俺の知らなかったこの世界の真実を悪魔は次々と明らかにしていく。

しかしどれよりも衝撃を受けた事実を聞かされる。

 

「君自身も当然作り物さ。試しに君の本名を思い出してみるといい」

 

「何言って……俺の本名は……あれ?」

 

Youtuberとして活動している「やまと」というニックネームしか頭に浮かんでこない。

いや、そもそも俺には「やまと」という名前しかない。

この悪魔に指摘されなかったらずっと気づいていなかった。

新条アカネに設定された俺は「youtuberのやまと」という事でしかない。

 

「さて、本題だ……私なら君の友達を生き返らせる事が出来る。もちろん、私の提示した条件を守るというのであれば……」

 

薄ら笑いをしながら目の前の悪魔は俺に選択を迫る。

 

「君の選べる選択は二つだ。一つ目はこの世界の真実を知ってもなお君は何も行動出来ずに仲間を失った悲しみに暮れyoutuberとしても評価を下げ続ける虫ケラのように惨めな生活を続ける、か。二つ目は私の条件を受け入れ仲間と共に元の日常生活に戻る、か」

 

頭が追い付かない。こいつはまるで三人を生き返らせる事が出来ると言ってるように聞こえる。

 

「君の思っている通りだ。私の提示する条件さえ守れば君の大切な仲間は再びこの世界で生きていく事が出来る。全ては君次第さ」

 

おれの答えは決まっている、だがこいつを信用できないのが問題だ。

 

「先に条件を聞きたい。それからなら……」

 

「いいだろう。君に課す条件は一つ、新条アカネに復讐しろ。ひたすら怨め、君が心の奥底に眠らせている感情を、あるべきだったものを解放するのだ」

 

新条アカネに復讐……俺のあるべきだったもの?

 

「君のお世辞にも良いとは言えない心、その全てを新条アカネへの憎しみに変えろ」

 

憎い……そうだ。俺が本来あるべきだった感情は憎しみだ。3人の命を奪った新条アカネに対する復讐心だ!

 

悪魔が近くにいるせいだろうか。自分の心の奥底までどす黒いものが広がっていく感覚になる。

 

「最後に一つだけ……今から生き返る三人は自分が死んでいたことを認識したら人間として死を迎える。三人の命は君次第だ」

 

俺の意思は硬い。有井、タカト、今井……三人の命が蘇るなら何でもする。

 

「上出来だ、約束は守ろう。闇に身を委ねるがいい…」

 

奴が指を鳴らすと俺の意識は遠退いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これが俺達が問川について知っていることだ」

 

「新条アカネの怪獣によって殺された子達……か」

 

直人の顔もいつもと違う大人びた表情になっていた。

一平、井上さん、武史も同様に真剣な表情をしている。

 

内海の言う問川さんも俺の記憶にはない。

ただ内海の話から察するに、俺がグリッドマンと戦っていた時にもきっと彼女の存在はかなり大きいものだっただろう。

 

「いざそういう話を聞かされると、なぁ。新条アカネって本当に俺達と共に戦えるのかよ。そりゃあっちで会ったときはもう改心したって感じだったけどよ」

 

一平の意見は俺も思っていた事だった。記憶のない俺にとって内海や六花とは違いどうしても転校生と瓜二つと言われる新条アカネに対する印象が良いわけではない。

 

彼女はこの町に限らず人も世界も全て作り、ここの世界の神であったがゆえに作られた命に対して責任を持つことはしなかったのだろう。

 

彼女が人を殺したというのは事実であるが、今この世界にいないと言うことは責任を持って反省し自分の世界を生きているということにもなる。

グリッドマンが言うには彼女の力が無ければトレギアを倒す事は出来ないらしいし、もし力を貸してくれるならすぐにでもお願いしたいのもまた事実だった。

 

「確かにそう簡単に信じてもらえないかもしれないけど……アカネを信じて欲しい。アカネはきっとこの世界を助けに来てくれる」

 

六花の必死な素振りを見るとそれだけ新条アカネを大切に思っているかがわかる。

内海もそれは同様だ。

 

「宝多さんを、新条さんを信じよう、みんな」

 

武史が六花に続く。

 

「彼女は僕と一緒なんだ。例え一度道を踏み誤ったとしても友達がいれば正義の道だって歩めるはずなんだ。僕だって直人達がいなかったら日頃の鬱憤を晴らすためだけに人を殺めていたのかもしれない」

 

武史はかつて直人達と敵対していたらしい。

孤独だった心を直人達に救ってもらえたからこそグリッドマンシグマとして正義のヒーローにもなれた、と。

 

「……それもそうだよな。これから仲間になるやつを疑ってる暇なんて俺達にないしな」

 

一平は納得したのか語気が心なしか緩くなっている。

 

「でも、なんで問川さんは生き返ったのかしら?」

 

「トレギアの仕業かな?でもわざわざ生き返す必要なんてあるのか?」

 

生き返す必要……か。俺はふと頭によぎった事を皆に話すことにした。

 

「あいつは悲劇を喜劇のように楽しむ奴なんだ。俺の時も皆がいてくれなかったらあいつの悲劇のシナリオ通りだったに違いない。生き返らせた事には意味が絶対あると思うんだ……悪い方に」

 

「響君……」

 

「裕太の言う通りかもしれない。トレギアのする行動は何か必ず意味があるはずだ。奴が作る悪趣味な脚本通りにするために行動を起こしているに違いない!」

 

トレギアの目的はわからないがろくでもない事に違いない。今後のためにもとりあえず新世紀中学生のいる六花の家に行き、ジャンクの強化と問川さんの事を相談することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

誰か私を呼んでいる……?

気のせい……?

 

私の部屋へ入るとコンピューターから声が聴こえてくる。

 

 

前に会った三人組……グリッドマンとあの世界の事を知っていた。

もしかしたらこの声はあの人達のものなのかな?

 

グリッドマンと一体化した抜けてるけどやるときはやるあの男の子かな?

いや、ウルトラマンが好きなオタクで頭のいいあの男の子かな?

それとも、私の親友で大切なあの女の子?

 

恐る恐る私はコンピューターの電源をつける。

だけどコンピューターは何も映らなかった、私さえも反射せず黒い画面のままに。

 

コンピューターが壊れたのだろうか?

 

……何か凄い嫌な予感がする。

そう思った時には既に遅かった。

 

禍々しい闇が画面を包みそこから赤い目をした悪魔が私を見つめてくるのだった。

 



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第15話 元気?

Fight the futureーウルトラマンネクサスのテーマーの歌詞がSSSS.GRIDMANとリンクしててとても滾る
誰かMAD作ってくれ~


グリッドナイトの消息と問川さきるの復活……

 

六花の家に集まった一同は既に情報交換をした後だった。

マックスとヴィットは新条アカネのコンピューターに行ったはいいが中に入ることが出来なかったのだ。

既にトレギアに先回りされたというのは明白だった。

 

一方学校でもまるで今まで居たかのように振る舞われていた問川達。なみこはっすの二人ですら問川達が消えていたのが無かった事になっていた。

 

結局トレギアの指定した日の二日前まで、ジャンクのバージョンアップをすることは出来たが新条アカネへの接触やトレギアの狙いがわからないままで終わってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇはっす!新生Arcadiaだって!……って四人のまんまじゃん!」

 

「企画とかがいつもと違うって感じじゃないし、まあ迷走ってやつなんですかねー、なみこさん」

 

「でも今までのと違って四人が楽しそうにやってるのが嬉しいよね」

 

「うんうん、なんか原点回帰でいい感じ。ネタ切れでも動画あげてくれるのありがたみ感じる~」

 

「六花は相変わらずこういうの興味無さそうだもんね~……六花?」

 

私は驚愕した。Arcadiaが四人?前に三人が怪獣に殺されてしまい一人で活動していたはずだ。

もしかしたら問川達と一緒でなんらかの方法で生き返ったのだろうか?

 

「ねぇ、Arcadiaってなんか人数増えてない?」

 

私は二人に疑問をぶつけてみることにした。

 

「いやいや、元々四人だったでしょ?前の合コン覚えてない?」

「やっぱり興味無かったんだ~」

 

なみこもはっすも違和感を感じてる様子はない。

間違いない、問川達を生き返らせたヤツと同じものだ。

 

「ごめん、用事があったの忘れてた!」

 

私は皆が集まってるであろう自分の家へと急ぐ。

この埋め合わせはトレギアを倒して平和になってからにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は家に着くと直ぐにこの事について話した。

 

「問川さきるに続いて……新条アカネの怪獣によって殺されたはずの人間が生き返っている……か」

 

「やっぱトレギア……だよな、やってんの」

 

そう答えたボラーさんに頷くグリッドマン。

恐らくではあるがそんな事が出来るのはアカネとアレクシス以外だとトレギアしかいないだろう。

実際、アカネやアレクシスよりもこの世界で好き勝手にやっている事実もあるし。

 

「新条アカネの協力もグリッドナイトの行方もわからないとは困ったものだな」

 

マックスさんは珍しく頭を抱える。

いつも冷静に状況判断をしてくれるマックスさんでも私達の現状は厳しいと考えているみたいだ。

 

「おいおい、みんな暗い顔すんなって!その分ジャンクの強化が想定以上に出来たんだからよ!」

 

張り詰めてやや重い空気を一蹴するかの如く大きな声で切り出したのは一平君だ。

 

残り二日ではあるがジャンクの強化は完璧といっていい程のモノに仕上がったという。

毎日のように直人君、一平君、武史君、ゆかちゃんの四人がジャンクを改良してくれたのだ。

 

「いいか直人、裕太。君達二人のアクセスフラッシュを合わせたWアクセスフラッシュがあれば私達は更に強くなる。グリッドナイトがいない今、私とグリッドマンシグマだけがこのツツジ台を守ることが出来る唯一の存在なのだ」

 

響君と直人君がグリッドマンの話を真剣に聞いている。

一平君が言うにはジャンクのバージョンアップによって今まで出来なかったあれやこれが出来るようになるらしい。

 

「君達の腕についているアクセプターも強化されより私達の繋がりが強くなった。負担や疲労は増えるだろうがそれ以上のパワーを発揮できるだろう。もちろん武史やグリッドマンシグマも同様だ」

 

「……俺達が守るんだ、この世界を」

 

響君も直人君もどちらも険しいながらも引き締まった顔で自分のアクセプターを見つめていた。

 

「で、ジャンクのバージョンアップって具体的にはどうなったんだ?」

 

内海君が一般人代表として質問する。私も専門外の事はちゃんと聞いておこう。

 

「まずは処理落ちを完全に無くしたぜ。俺達の持ってるアシストウェポンを総動員しても余裕のよっちゃんよ!」

 

「当然グリッドマンやグリッドマンシグマ自身も本来の力を発揮してくれるはずだよ」

 

一平君と武史君が言うには怪獣軍団を従えてくるであろうトレギア相手にこちらも物量で真っ向勝負しようというわけらしい。

 

「後、これこれ!三人は初めて見ると思うけどこれがダイナドラゴンだ!一平に言って恐竜型にしてもらったんだっけ」

 

その他にもダイナドラゴンが変形するドラゴンフォートレスや電光雷撃剣グリッドマンソード、バリアシールドなど様々なアシストウェポンを紹介される。その他にもどういう技が使えてどのくらいの威力なのかを私達に教えてくれた。

 

ただ正直、私達三人は追い付くだけでいっぱいいっぱいだった。

見かねたゆかちゃんがグリッドマンのスペックやアシストウェポンの特徴をわかりわすくまとめたノートを作ってくれたのが無かったらリタイアしてたかもしれない。

 

それにしても直人君、一平君、ゆかちゃん、武史君の四人は本当に頼りになる。いとも簡単に凄いプログラムを組んでしまう。

それに比べて私達は……私の出来ることってなんだろう?

 

トレギアの言葉がよみがえってしまう。

『君達は何も出来ない』

前に、響君が私達と友達として、パートナーとしていてくれるだけで力になると言っていた。

でも結局それは私がいるだけで何もしていないのは変わらない。

 

アカネの時もそうだ。グリッドマンの側に、いや戦いの場からは遠く離れた所で応援していただけ。

そんな私にこれから何が出来るのだろうか?

 

「とりあえず今日は解散だな。今私達に出来ることをしよう」

 

私が思い悩むうちに今日の作戦会議が終わった。

トレギアの言っていた通りになってしまっている自分に腹が立った。

 

 

「裕太に内海、それに宝多さん。ちょっといい?話せないかな?」

 

珍しく武史君から私達三人に何か話があるらしい。彼は直人君や一平君、ゆかちゃんにはあまり聞かれたくないということなので家から少し離れた場所に集まった。

 

「どーしたの武史?」

 

「なんかあの三人に言えない悩みでもあんのか?」

 

武史君は周りに人がいないことを確認すると私達を一瞥して言う。

 

「これから言うことを出来ればあの三人には言わないで欲しいんだ」

 

「これから言うこと?」

 

「新条アカネの事と、僕の体験した夢のような現実を」

 

どういう事なんだろう?私達三人は顔を見合わせる。

でも武史君の真剣な表情に、少なくとも一平君がよくやる冷やかしではないことだけはわかった。

 

「君達も知ってる通り、かつて僕は新条アカネのように怪獣で人々を苦しめていた。孤独で癒えることのない心の傷をずっと他の関係ない人達にぶつけてきたんだ」

 

武史君がアカネと同じように怪獣を作っていたなんて今の彼を見るととても信じられないことだった。

彼がアカネに対して協力的なのはきっと自分と同じ境遇だった者同士何か理解できるものがあるのかも。

 

「ある日タケオという僕そっくりの顔をした奴が現れた事があるんだ。そいつは僕の正反対で運動神経も良くて気さくで勇気があって、なにより直人やゆかさん、一平ともすぐ仲良くなった。友達の出来たことのない僕はタケオに狂ってしまうくらいに嫉妬していたんだ」

 

孤独だった武史君にはタケオがあの三人と仲良くしている姿は眩しすぎたに違いない

 

「怪獣を送り込んでもタケオは人々を救って周りから称賛された。だから僕は……このカッターでタケオを殺そうとしたんだ」

 

「そのカッターってアカネの……!?」

 

武史君が言うにはたまたま同じカッターだったらしい。

響君はこれと同じ種類のカッターで自分が刺されたと想像もしないだろう。

 

「刺そうとした瞬間、タケオは笑うと小さい頃の僕になっていたんだ。黄色い紙飛行機を持って……。それは唯一僕を愛してくれた使用人との思い出の紙飛行機だったんだ」

 

「思い出の……?」

 

「僕の両親はエリート志向でね。小さい頃からずっと海外にいるのに僕をロボットのように命令してきた。今でも僕の家にかかってくる電話は直人達を除いたら両親の命令だけさ」

 

「当然友達を作ることなんて言語道断で勉強だけしてればいい。命令に背いた時にされるお仕置きが怖くて人を拒絶するようになっていた。そんな僕の心を落ち着かせられる唯一の人物が、使用人のお清っていうおばあさんだったんだ」

 

「お清は孤独や両親からの恐怖やプレッシャーに押し潰されそうな僕を優しく抱きしめてくれた。勉強が終わった後には美味しいご飯が出てくるし、両親に内緒で遊びに連れていってくれた事が何度もあった」

 

自分の小さな頃の夢はパイロットになって、お清を飛行機に乗せて世界を一周することだったんだ。と言う武史君の笑顔が儚く見えた。

 

「でも両親に遊んでいることがバレてしまったんだ。両親は飛ばした紙飛行機を、夢を踏みにじりながら僕を引っ張って行った。その後お清は解雇されて、使用人がいるとまた遊びかねないって言って僕は広い家で一人ぼっちになった」

 

武史君の家庭事情は思った以上に悲惨なものだった。

響君と内海君は顔を俯いてしまっている。

 

「そんな僕の心を救ってくれたのはあの三人だった。ひねくれてて卑怯者でどうしようもない奴で、敵だった僕を救いたいって言ってくれたんだ」

 

「新条アカネにとって君達は友達であり、僕にとってのお清や直人ゆかさん一平と同じ存在なんだと思う。君達三人じゃないと新条アカネの心は動かせない」

 

新条アカネの事は君達でなんとかするしかない。

彼女の孤独を理解できる君達じゃなきゃ。

そう言って武史君はそのまま響君達と帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武史君は私が何をすべきか思い悩んでいたのに気づいていたのだろう。私がすべき事を教えられた。

 

私はスマホのLINEアプリを開く。

前に作ったグループLINEにはなみこやはっす、Arcadiaの復活したメンバーも登録されている。

そこには当然……アカネもいる。

 

私はアカネのトーク画面に移ると前に私が送った文がそのままになっていた。

この頃はまだアカネが神様だなんて想像もしてなかった。

 

彼女はきっと今も現実を頑張っている。夢であり彼女の甘えでもある私に返事をくれるのだろうか?

 

『元気?』

 

たった二文字。これしか思い浮かばなかった。

彼女自身が現実を生きるために必死になっているのをわざわざ止めたくない。

 

武史君はきっと私達……いや私にアカネを連れてきてもらいたかったんだと思う。

でも私は頑張っているアカネの歩みを止めるような事をしたくない。

何故ならこの世界に来ることは彼女にとって逃げることだからだ。

 

自分でも不器用だなって思うけど結局これを送信した。

 

………あっ!やっぱり変えようかな!

もっと他にもいいのがあったかも!

いやそれとも………

 

「六花ちゃーん、おばさまが晩御飯を作ってくれたわよー」

 

「あ、はいはーい!いま行く~」

 

ゆかちゃんに言われて私はリビングに行った。

 




新しくでた小説まだ買えてない……( ノД`)…


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第16話 新条アカネ

「初めまして。ツツジ台の神様、アカネくん」

 

目の前の悪魔はかつてのアレクシス・ケリヴを彷彿とさせる姿をしていた。私の呼び方も恐らくアレクシスの真似をしている。何故この悪魔がその事を知っているのかもわからない。

 

「ククク……このパソコンの中にいるのが君の大好きな友達じゃなくて残念だったね」

 

「……私はあの時の自分には戻らない。だから早く帰って」

 

私はアレクシスと同じような奴が自分のパソコンに現れたと感じた。

かつてのアレクシスは甘言で私を騙しツツジ台を作らせたことからも相手にしないようにと努めることにした。

しかしこいつは私のことをどこまで知っているのだろうか?

すぐにパソコンから離れて部屋を出ようとする。

 

「私の名はトレギア。……おっと、そこのドアを開こうとしても無駄だよ」

 

私がドアを開けようとした瞬間にトレギアと名乗る悪魔は忠告してきた。

 

「な、なんで……!?」

 

ドアは何故か開かない。全身から嫌な汗が吹き出すのがわかる。

 

「なぁに、すぐに日常生活に戻るさ。私はただ君の友達が置かれている状況を伝えに来ただけだ」

 

トレギアがそう言うと画面から手を伸ばしてくる。

 

「かつて君が神として君臨した世界は間も無く私が用意した怪獣軍団によって消滅する」

 

「!」

 

ツツジ台が消滅する………?もしかしたら私を呼んでいた声はそれを伝えようとしていたのかもしれない。

 

前に会ったあの三人組の人達もツツジ台に危機が迫っているから来てくれと言っていた。

その時も私は約束を反古にする事は出来ないという気持ちとグリッドマンが来てくれているから大丈夫という気持ちがあり、断ってしまったが。

 

「あの声は……」

 

「声?それは君の作った忠実な負け犬のものだ。うるさいから私が処理しておいたよ。君は無視し続けていたんだからどうってことないだろう?」

 

まさかアンチが……?生きていた事に喜びを覚えると同時にアンチが殺されてしまった事にショックを覚える。

私が気付かない振りをし続けたせいで……。

 

「助けにいかなくていいのかい?友達に危機が迫っているんだよ?」

 

「でも……」

 

私の友達……六花との約束。二度と私があの世界へ逃げないように背中を押してくれた。

彼女の事だ、私が約束を破って帰ってきても受け入れてくれるだろう。

しかしそれは彼女の願いに反することにもなる……。

 

「そうかそうか。現実で充実してる今、あんな世界に行きたくもないだろう」

 

「……違う」

 

私はトレギアの言葉に憤慨しそうになる。確かにあそこは私にとって逃げる場所であるが同時に大事な友達のいる場所である。

 

「まあそれでいいかもしれないな。あっちの友達は君の事なんかどうでもいいみたいだしね」

 

トレギアどういう意味で言っているのか一瞬解らなかったがすぐにその意味を知ることになる。

 

トレギアが手を小指から順折り曲げてから開くと共に映像が現れる。

 

『正直新条さんには来て欲しくないよ』

 

心臓がドキッと激しく跳ねる。この声は内海くんのものだ。私に来て欲しくないと確かに言っている。

 

『新条アカネって本当に俺達と共に戦えるのかよ』

 

私に会いに来ていた一平君だった。

そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アカネには 来て欲しくない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一番大切な人から、一番聞きたくない言葉が出る。

胸が苦しくて息が止まりそうになる。六花すら、私にこの世界に来て欲しくないと思っていたなんて。

 

「君の友達との絆なんてそんなものさ。神様はもうあの世界にはいらないんだよ」

 

目から涙がこぼれそうになるのを必死に抑えながらトレギアを睨み付ける。

 

「おやおや、そんなに睨み付けても君が嫌われている事は変わらないよ。君の大事な人から貰った定期入れ、君の思った通りどっか行っちゃえって事だったんじゃないのかい?」

 

トレギアの一つ一つの言葉に心が傷ついてしまっている自分がいる。

でも辛い事や苦しい時でも逃げない、あの時の私とはもう違う。

たとえ求められていなくても、これ以上あの世界の平和を壊さないために、大切な人達を守るために。

心が重くなったまま、涙目でそう決心した。

 

「それでも私は……あの世界に行く。皆を助ける!」

 

涙で震えた私の言葉を聞いた瞬間、トレギアは私を嘲るように大笑いする。

部屋中に声は響き、パソコンを包んでたの闇のオーラは更に深まる。

 

「何をいい子ぶってんだよ」

 

トレギアはドスの効いた声で私に言い放つ。

鋭い爪をした人差し指を私の顔の前に持ってくる。

 

「グリッドナイトもいない、アレクシスがいなければ怪獣すら作れない。そんな役立たずがあの世界に行って何が出来る?」

 

「………やめて 」

 

「本当は怖くて行きたくないんだろ?私に言われたから仕方なく決心をしたフリをしただけだ」

 

「そんなことない!」

 

「あの時の自分と違う?どこまでも笑わせる奴だ。お前は何も変わっていない。ツツジ台を作る前から離れるまで何一つな」

 

私は夢中だった。ただただトレギアの言葉を聞きたくない、決心を揺らがせないようにと思いパソコンの電源切るためコンセントを抜く。

パソコンについた闇はそのままだったがトレギアはいなくなる。

 

「いない……良かった……」

 

安心したのも束の間、トレギアは私のすぐ横に立っていた。

 

「きゃあ!」

 

私は思わず声を上げ椅子から転げ落ちる。

そして恐怖から無意識にベッドの布団の中に隠れていた。

体の震えが止まらない。

 

そんな私の様子を見てトレギアは再び大笑いをする。

 

「やはり私の言った通りじゃないか。お前は何一つ変わっていない。卑怯者でずるくて臆病で弱虫で……どんな世界にいようとも変わらない、逃げ場所が変わっただけだ。作り物にすら見捨てられる、それが新条アカネだ」

 

もう私は反論する気力すら失われていた。

早くこの苦しい状況から時間だけが過ぎていくのを布団の中で待つ、昔の私みたいに。

いや、いつもの私みたいに。

 

あの世界にいる私の友達を、あいつは殺そうとしている。

それなのに私はここから動けない。

どこまでも……弱い人間だった。

 

「じゃあ私は失礼するよ、アカネくん」

 

トレギアがいなくなった、ドアも開くだろう。

でも私の心はさっきのドアよりも硬く閉ざされていた。

LINEの音が鳴ったけど見る気力も今はない。

ただただ泣きながら時間が過ぎるのを待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ククク……やはり絆なんて簡単に壊れるものだ。

絆を信じられなくなってからは早かったな。

 

絆など下らないもので他人にすがる位なら私は孤独でも闇を身に纏い光を超越する。

光も闇も変わらない、正義や悪も。

 

絆は一度繋がれば切っても切れない呪いのようなものだ。

そんなものに価値などない。

 

私が間違っていない事を証明してやる……奴らの絆を使ってな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒカリは絆だ」

 

「え?」

 

いきなり発せられた内海の言葉に俺は困惑する。

 

「おいおい前に言っただろ?俺の好きなウルトラシリーズのうちの一つの……」

 

「はいはい」

 

六花も呆れているようだ。

トレギアが怪獣軍団と共に攻めてくるまで残り1日となった今、こうして登校中でも対策を練ろうという事だったが開始早々内海が変なことを言って微妙な空気が流れる。

 

「まあ内海くんは空気読めないからね」

 

「うん、確かに。……あ、そうじゃなくて!内海は空気読めない時もあるけど良い奴で!」

 

「裕太……そういうフォローは逆に傷つく。……いや、そうじゃなくて!この言葉って俺達にも言えるよな!って話をしたくてだな……」

 

俺達にも言える?どういう事なのかと内海に聞くとニヤリとして早口でそのウルトラシリーズの設定とかを説明し始めた。

そういうところだよ……と心の中でツッコむ。

 

「武史が俺達三人じゃないと新条さんを理解してやれない、心を動かせないって言ってたろ?」

 

「確かにそうだけど……それが?」

 

「何とかして新条さんに俺達の言葉を伝えられないかな?新条さんだって知ってる人からのSOSの方が来やすいだろうし」

 

なるほど、新条さんが来ないなら直接こっちから行けば良いということか。でも新条アカネのコンピューターは近づけないんじゃ?

 

「六花、新条さんの連絡先知ってるだろ?それで繋がったりしないかな?」

 

近づけないなら他の方法でと言わんばかりの内海の言葉に六花はあまり浮かない表情をする。

 

「実はもうLINEで送ったんだ。既読はついてないし、ちゃんと送れてるかどうかも……」

 

「そっかぁ……いい作戦だと思ったんだけどなぁ……」

 

内海は落ち込んでしまう。六花もやはり浮かない顔で俯く。

 

「なあ、裕太って新条さんの事何か思い出せねぇの?」

 

「……実は少しだけ記憶があるんだよね」

 

「えっ!?」

 

「マジかよ裕太!?何で言わなかったんだよ!」

 

二人は驚いた顔をしていた。まあつい最近思い出しただけなんだけど。

 

「でも、正直あまり言いたくないんだよなぁ。内容的に」

 

「いやいや!もしかしたら新条さんがこっちの世界に来る手がかりがあるかもしれないし!」

 

「お願い響君!」

 

二人にここまでお願いされたら話すしかない。

 

俺が目覚めると新条さんがおれを看病していたみたいだったこと。

その世界で俺は新条さんと付き合っていたこと。

その他にも色々あって、グリッドマンや皆を思い出して夢から覚めようとした事まで覚えていたのでそこまで話した。それ以降は覚えていないので仕方ない。

 

断片的な記憶であるが、内海が言うにはどうやら夢を見せる怪獣に夢の中へ囚われていた時の事らしい。

 

 

「くぅー!お前夢の世界で新条さんと付き合ってたのかよ!キスとかしてねえだろうなあ!」

 

「へー……。ふーん、そう……」

 

内海はともかく六花はジト目で俺の目を見てくる。

隣で内海があくまで夢の話だとフォローしてくれるが六花はツーンとしてしまった。

 

「と、とにかく!もう明日にはトレギアが来るわけだし最後にグリッドマン達に相談してみようぜ!」

 

内海が雑にまとめた後、六花はいつものメンバーの方へと向かって行った。べ、弁明出来てない……どうしよう。

 

「……なあ、裕太。新条さんって本当に来てくれるかな?」

 

内海は少し暗い顔をして言う。

 

「そういえば前は内海と六花もあまり来て欲しくないって言ってなかった?」

 

「この世界に来るってことは新条さんにとって現実から逃げることになるだろ?それに今回の戦いは絶対に危険な事になる。友達がそんな目にあって平気なわけないだろ」

 

そっか。六花も内海も新条さんが大切だからこそここに来てほしくなかったのか。

新条さんの記憶について夢の中の出来事しか覚えていない俺も決して新条さんを悪人とは思えなかったし。

 

「お前も一緒だ。一番の友達なのに命をかけた戦いをさせてる自分が情けないんだ。だから少しでも役に立てそうな事があるか必死になって探してるんだ」

 

「内海……」

 

内海はいつも皆のために動いており、しっかりと戦いに出れるようにおれのサポートをしてくれている。

 

そんな友達のためにもトレギアには負けられない。

きっと新条さんは来てくれる。

俺はそう願わずはいられなかった。

 

 

 



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第17話 決戦前夜

明日にはもうトレギアとの戦いが始まる。

 

私はそう思うといてもたってもいられなくなる。

それはこの場にいるみんなも一緒みたいだ。

 

響君と直人君と武史君はグリッドマンと一緒に戦いでの確認をしているし、私と内海君はゆかちゃん、一平君とともにサポートの確認をしている。

 

「三人とも、君達の言っていたことだが……少し難しいかもしれない。現状、新条アカネのコンピューターにアクセス出来ないからどうしようもないのだ」

 

グリッドマンは申し訳なさそうに言っている。

アンチ君の安否がわからない時点で察してはいたけどやはりこうして言葉にされると悔しい。

 

トレギアがいる今、アカネが一緒に戦ってくれるか以前に無事でいてくれてるかどうかわからないのがもどかしい。

トレギアに何かされてないかと不安になってしまう。

 

響君も内海君も残念そうにはしていたがすぐに切り替えて色々な事を確認していた。

 

「裕太、内海、六花!ついに俺達の奥の手が完成したぜ!」

 

「奥の手?」

 

恐らく私達の頭の上には大きなハテナマークが付いていることだろう。

 

「その名も『追放プログラム』さ!」

 

直人君が自慢気に答える。

 

「私から説明するわ。これは物体の一部をプログラム化してこの世界に来れなくするように書き換えるの。トレギアは私達同様この世界でも生身に過ぎないから無理矢理プログラム化させて書き換える作戦よ」

 

「あいつに効くかどうかわかんねーけど、試してみる価値はあるって。倒すよりかは楽かもしれないしな」

 

「この世界に来れなくすればこれ以上この世界をあいつの好き勝手にはさせないように出来るんだ」

 

いつの間にかそんなに凄いものを作り上げていたなんて。

新世紀中学生達も驚いていた。

 

「さすが俺達の生みの親ってところかな?」

 

「た、助かる」

 

ヴィットさんもキャリバーさんも感心してる横で一平君を見ながら納得がいってない様子のボラーさんをマックスさんがなだめていた。

 

「しかし過信は禁物だ。奴に通用するかはまだわからない上に、グリッドマンの技でもビーム系の技と併用でしか使えない。使うタイミングはここぞというときでないといけないぞ」

 

その判断をするのは直人、裕太、君達二人だ。

そう言って二人の肩をポンと叩くマックスさん。

 

「シグマと僕は君達のサポート役になると思う。大丈夫、絶対足を引っ張ることはしないよ」

 

武史君の頼もしい言葉も出る。

 

「明日は恐らくここにいる全員含めて経験したことのない激しい戦いになるたろう。奴が約束を守るかどうかの問題もあるが、明日に向けてしっかり休息を取ってくれ」

 

結局グリッドマンシグマのこの言葉で、この日まで私達が出来ることはやりきったということでそのまますぐ解散になった。

 

みんなはそれぞれ拠点に戻っていった。

どうやらゆかちゃんはママの手伝いをするらしく台所へ二人で行ってしまった。

 

 

 

私はすぐに部屋に戻らずジャンクの前でグリッドマンと話をしていた。

 

「しかし、見違えたな六花。初めて会ったときは一人で抱え込んでしまうから心配していたが、今はちゃんと友達を信頼して抱え込まないようになった」

 

グリッドマンはそんな事考えていたんだ……。

心配かけちゃって少し申し訳ないな。

あの時は本当に毎日が驚きの連続だった。

グリッドマンはもちろんこの世界もアカネのことも。

 

「やはり新条アカネの事が心配か?」

 

「うん……。来てほしいけど、せっかく現実で頑張ってるのに私達が邪魔してるみたいで……」

 

「そんな事はない。新条アカネは決して君を、この世界を邪魔だとは思わない。六花が彼女に来てほしいと強く願えばきっと来てくれるさ」

 

グリッドマンが優しく頷いてくれた。

 

「ふふ……ありがと、グリッドマン」

 

肩の力が少し抜けた気がする。

グリッドマンは私の様子を見て励ましてくれたのかもしれない。

 

「ところでだ……裕太とはどうなのだ?」

 

「えっ!?」

 

思わずズッコケそうになる。

な、なんでいきなりそんなことを!?

 

「マックスに言われてな……。私が裕太の君への恋心をバラしてしまった以上責任を取れと」

 

マックスさん……。

 

グリッドマンに言われた時はドキッとしたな。

まあ言われる前から響君の気持ちに気づかない訳がないのだけれど。

あまりにもかわりやすくて率直な彼。

この世界でも、記憶が無くなっても私を思い続けてくれた。

 

「そう言えば……私は裕太が六花に告白した後彼と一体化したはずだったな。今の裕太はそこから私が帰るまでの記憶を忘れていたはずだから、君へ告白した事は覚えているんじゃないか?」

 

そ、そうなの!?

どうしよう……記憶が戻ったら答えようなんて悠長な事してる場合じゃなかったかもしれない。

 

「ちゃんと君の胸にある想いを彼に伝えてやってくれ。それが彼の力になるはずだ」

 

「うん……」

 

その後もグリッドマンと沢山話をした。

 

グリッドマンが去った後のツツジ台の事を話したり、逆にグリッドマンのその後を聞いたり。

 

「六花ぁ~、ゴハンよ」

 

ママが呼んでる。

グリッドマンにまた明日ねと言って私はリビングへ向かった。

 

「グリッドマン、大変だ」

 

「どうしたシグマ」

 

「ハイパーワールドが襲撃された。被害は一ヶ所のみ。だがそこには……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ裕太、これ食べていい?」

 

「いいよ、好きなだけどうぞ」

 

「よっしゃー!」

 

「二人とも、少しは遠慮しなって」

 

三人が来てから俺の家は騒がしい。

両親が出張でいない今、寂しさを紛らわせる事が出来るのはありがたいが。

 

~♪

 

「あれ、電話だ……六花から?」

 

どうしたんだろう?何か明日の事でトラブルでもあったのだろうか?

俺はすぐに携帯電話を通話モードにする。

 

(おい、俺達は一旦別の部屋に)

 

(オーケー、邪魔しちゃ悪ぃしな)

 

(裕太の部屋にいこう)

 

三人は気を使ってリビングから移動する。

……別にいいのに。

 

「もしもし」

 

『響君?ちょっと時間空いてるかな?』

 

「うん、空いてるけど……どうしたの?」

 

『えーと……あー……』

 

六花は何か話を切り出そうにも出せない、そんな雰囲気を出していたので俺から話を切り出す事にした。

 

「じゃあ俺からちょっといい?新条さんへのLINE、既読ついた?」

 

『それが……ついたんだけど返事が来なくて……。繋がったのは確かなんだけど』

 

既読スルーか……。

でも新条さんは今のツツジ台の状況を知っているはず、直人達が一度会っているし。

 

それにLINEが繋がったってことはこっちからアクションを起こせるかもしれない。

 

「LINEって電話出来るよね?それで連絡してみれば?」

 

『……本当は怖いんだ。この世界はアカネにとって忘れたい過去なのかもしれない、親友だと思っているのは私だけかもしれない……。本人の声で直接聞いたら私……』

 

そうだよな……。

六花が電話を躊躇するのは当然かもしれない。

俺達には新条さんが考えている事はわからない。

言葉にしなきゃ……想いは伝わらない。

 

「大丈夫だよ、新条さんはきっと来てくれる。仮に来なかったらトレギアを倒して一緒に会いに行こうよ。言葉は直接伝えないと真意がわからないかもしれないから」

 

『ふふ……ありがとう響君。ちょっと勇気出たかも』

 

好きな人が落ち込んでいるのを慰める事が出来て一安心する俺。

 

『響君、あの……ずっと前にしてくれた……の事なんだけど……』

 

「え、今なんて?」

 

消え入りそうなくらい小さな声で喋るので聞き取れない。

 

『だから!ずっと前に響君が告白してくれた返事を言いいたいの!』

 

「えっ!?」

 

突然の事に頭が追いつかない……そうだ!

俺告白したけど有耶無耶のままだった!

 

『あのね……その……』

 

「………」

 

『やっぱトレギアを倒してからでいい?』

 

「えっーー!?」

 

な、なんだよそれ!

すごいモヤモヤするぞ!?

 

『ご、ごめんね!でも絶対明日勝ってよ!それじゃないとあたしが響君へ返事できないから!』

 

そのまま六花は電話を切ってしまった。

な、なんと強引な……。

 

「おいおい、裕太ぁ~。なにイチャイチャしてんだよ~。で、どうだったんだよ?」

 

「告白したのか?されたのか?まさかもう付き合ってたり?ていうか耳赤いぞ!」

 

「宝多さんからだよね?馴れ初めも含めてその辺詳しく。僕達友達だろ?」

 

決戦前夜にて直人達による質問攻めという名のからかい、いじり大会の被害を受けてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰だ……私に問いかけてくる……?

何故?封印された私には意味がないことを知らないのか?

耳障りだから消そうと思ってもこの状態では私は何も出来ない。

 

声を聞くことも発することも今の私には出来ない。

 

 

「聞こえるか、アレクシス・ケリヴ」

 

「何……!?」

 

アレクシスにとって久しぶりに聞いたハッキリとした言葉だった。

そして同時に自分も発声する事が出来るのに気付く。

体の自由どころか実体もある。

いつの間にか封印が解かれ完全復活を果たしたのだった。

 

目の前には自分と同じような悪魔がいる。

アレクシスはこの悪魔が自分の封印を解いたのだとすぐ理解した。

 

「何者だ?どうして私の封印を解いた?」

 

「なぁに、君のそのカラッポの心を満たしてやろうと思ってね」

 

アレクシスは身構える。

強者が故に目の前にいる悪魔がただ者ではないと言うことがすぐにわかる。

このハイパーワールドに厳重に警備されていた筈の自分の封印を一人でいともたやすく解いたのだから。

 

「ツツジ台を破壊するのさ。当然そこにはグリッドマン

、そして新条アカネがいる」

 

「……私がお前に従うとでも?」

 

アレクシスは剣を出現させる。

かつてアンチを刺してグリッドマンに壊された赤黒い剣を。

 

「私に従えば一つ願いを叶えてやる。それに君が好きそうな脚本もあるんだ」

 

「願い……ねぇ」

 

下らないと一蹴し目の前の悪魔へ一瞬のうちに詰め寄り滅多刺しにする。

だが刺した感触はなく全てを避けられていた。

 

悪魔はアレクシスの後ろへワープした後、黒い稲妻をアレクシスに流し込む。

不死身の体にダメージが入るのにアレクシスは驚愕した。

 

「おいおい、いきなり攻撃する事はないだろ?」

 

「私の渾身の不意討ちを避けておいてよく言うよ」

 

アレクシスはこの短時間でこの悪魔に敵わない事を悟った。

不死身なため負けはしないが勝つことも出来ない、と。

 

「君の願いを叶えにやってきたというのに。君の願い……それは死だ」

 

「はっ、馬鹿を言うな。私は死ぬことはない」

 

「死さえあれば君の心が満たされない事などない。死から君の心は満たされる。私の言う事を聞けば死ねる体にしてやるさ」

 

そう言って悪魔は手に持っている二つのエネルギー体をアレクシスに見せる。

 

「これはこれは……、ククク……悪趣味な脚本だな」

 

アレクシスは二つのエネルギー体を見て悪魔に協力することにした。

 

「君の名前は?」

 

「トレギア。明日にはツツジ台のフィナーレが始まるんだ。そのため君もこの姿になってもらうよ」

 

そう言うとトレギアはアレクシスの額に指を当てると、そのままアレクシスをエネルギー体にした。

 

「友達……絆……そしてそれを信じた者が見る絶望……」

 

トレギアは笑いながら闇へと消えていった。

 

 

 



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第18話 開・戦

「全員集まったな」

 

六花の家に集まった一同をマックスが見渡す。

誰一人として覇気の無い顔をしておらず来る決戦に向け緊張感が高まっている。

 

「俺と直人と武史はいつでも準備OKだよ」

 

裕太の言葉に直人と武史が頷く。

 

「俺達だって!サポートは任せてくれよ!」

 

一平の言葉にゆか、内海も頷く。

しかし六花だけは少し浮かない顔をしていた。

その様子を横で見ていた裕太は恐らく新条アカネのことだろうと推測していた。

 

無理もない。彼女からしたら仮に新条アカネが来てしまっても相手は今まで戦ってきたどんな敵よりも強い存在だ。

彼女の優しい性格からして新条アカネだけでなく裕太達を含む大勢の人達が危険に晒される事を心配しているのだろう、と裕太は思った。

 

裕太は口パクで大丈夫?と六花に伝えると、六花は微笑んで頑張ってと口パクで返した。

 

「六花のママさん、今日は外出禁止だからな」

 

「も~、朝一で買い物済ませちゃいたかったんだけどねぇ。ま、皆の様子見てたら冗談って訳じゃなさそうだし。素直に従いますか」

 

ボラーの言葉に素直に従ってリビングへ行く六花ママ。

 

「や、奴がいつ来るか……油断は禁物だ」

 

「うむ、一旦リラックスという訳にもいかない。皆気を引き締めろよ」

 

キャリバーとマックスの言葉に一同はまた気を引き締めた。

トレギアが言うには怪獣軍団がこのツツジ台にやって来る。

それでもグリッドマンとグリッドマンシグマ、そしてそこに新条アカネとグリッドナイトが加われば自分達が有利に戦える。

 

トレギアの気まぐれなんかに負けてたまるかと直人が言ったその直後、

 

 

 

 

 

 

 

 

「危ない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴィットが直人の前へ出て雷撃を盾となって受ける。

雷撃が来た方向にはトレギアが立っていた。

 

「ヴィット!?」

 

直人が直ぐにヴィットを抱き抱える。ヴィットは肩に大きな風穴を開けられてしまっていた。

 

「ほう……今の一瞬でよく反応出来たものだ」

 

「トレギア!」

 

ほぼ全員が同じ単語を発する。

ヴィット以外の新世紀中学生はこの一瞬でそれぞれの武器をトレギアに向けた。

 

「フフフ……物騒だなぁ。開戦の挨拶に来ただけだよ」

 

「物騒?不意打ちしてきてよく言えたもんだな!」

 

ボラーの怒りの声を聞いてトレギアは気分を良くしていた。

 

「おやぁ?新条アカネがいないねぇ?もしかして神様に見捨てられちゃったのかい?」

 

トレギアは六花の方を向いて言う。

 

「あなた……アカネに何かしてないでしょうね!?」

 

「おいおい、私に当たらないでくれよ。見捨てられて傷ついたのかもしれないけどさぁ」

 

トレギアが六花を煽っているその瞬間、マックス、キャリバー、ボラーが一斉にトレギアへ攻撃をする。

 

だがどの攻撃も直撃したにも関わらず全くといってダメージが入っていない。

トレギアはそのまま三人に雷撃を撃ち込んだ。

 

トレギアの不意打ちにより新世紀中学生が負傷してしまった。

 

「やれやれ、血の気が多い事だ。最後の仕上げが終わっていないし、君達はさっさと怪獣達と戯れてもらうよ」

 

トレギアがそう言うとツツジ台の空に大きな闇のゲートが開く。

するとそこから無数の闇の塊が降ってきたかと思うと塊が怪獣へと形を変えたのだった。

 

「では、失礼」

 

そのまま闇に消えるトレギア。

 

「4人とも!早くジャンクの中へ!」

 

ゆかがそう言うと新世紀中学生がジャンクの中に入ってく。

新しく作った救急プログラムを使うことで短時間で回復することが出来るのだ。

 

「見ろよあの怪獣!武史が作った奴ばっかりだ!」

 

「ネオカーンデジファーの怪獣もいるわ!」

 

「新条さんが作ったのもありやがる。今までの怪獣オールスターってわけか!」

 

一平と内海が怪獣達の分析をする横でグリッドマン達が変身の準備をする。

 

「行くぞ!裕太、直人!」

 

「私達も行くぞ武史!」

 

グリッドマンとグリッドマンシグマの言葉にそれぞれのアクセプターを掲げる三人。

 

「「「アクセース………フラーーシュ!」」」

 

グリッドマンが裕太と直人、グリッドマンシグマが武史とアクセスフラッシュした。

 

轟音と共にツツジ台に降り立つ二大ヒーロー。

 

「雑魚はさっさと片付けるとしようか」

 

「了解だ」

 

早速向かってきたボランガ、メカバギラ、デバダダン。

 

二人はジャンプをして腕を組むとそのまま回転して三体を真っ二つにしてしまう。

 

「強い!」

 

「見たか!これぞ『電光回転切り』だ!」

 

二人のグリッドマンは電光回転切りを空中で解くと、そのままダブルグリッドビームで怪獣達を一気に殲滅する。

 

今の攻撃で沢山いた怪獣も半分近くに減っていた。

 

「いける……!」「やったぜ!」「油断は禁物だよ二人とも!」

 

裕太、直人、武史も手応えを感じつつも冷静に状況を見る。

 

ナナシBが二人の間を狙って光線を、マッドテキサスが銃を放つと二人のグリッドマンは離ればなれになってしまった。

 

ナナシBは抜き手に蹴りと連続攻撃をするがグリッドマンに全てを防がれる。

 

「あの時のようにはいかないぞ」

 

グリッドマンは一度距離を取りスパークビームを放つがナナシBに避けられながら詰められてしまう。

しかし、それこそグリッドマンの狙いでナナシBが近づいて来た瞬間にグリッドライトセイバーで真っ二つにした。

 

一方シグマの方にはマッドテキサスにスピード勝負を挑まれていた。

 

「私とスピード勝負をする気か?」

 

マッドテキサスは超スピードで動き銃を放つがシグマのスピードは更にその上をいく。

 

マッドテキサスがシグマを見失った次の瞬間、シグマスラッシュでマッドテキサスをズタズタに切り裂いた。

 

「早撃ち勝負は得意でね」

 

再びグリッドマンとシグマが一緒になるとダブルグリッドパンチ、ダブルグリッドキックで次々と怪獣を倒して行く。

二人のグリッドマンのパワーは正に無双状態だった。

たった数分で怪獣をほぼ殲滅してみせたのだ。

 

「よっしゃーいいぞグリッドマン、グリッドマンシグマ!」

 

「いいぞ裕太!」

 

「グリッドマン、グリッドマンシグマ!響君に直人君、武史君!頑張って!あと少し!」

 

一平と内海、六花が応援してる中、ゆかがトレギアの最後の言葉を気にかけていた。

 

(最後の仕上げって何なのかしら……?)

 

闇のゲートが再び闇の塊を出現させる。

 

8つの塊は怪獣へと姿を変えたがその怪獣を見て内海は驚愕をした。

 

「なっ……ウルトラ怪獣!?」

 

内海の大好きなウルトラシリーズの怪獣達がツツジ台に降り立ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早く逃げるんださきる!あんたたちもだ!」

 

問川父が娘と客に店の裏から出るように促す。

 

「怪獣が来やがった……」

 

客はArcadiaだった。やまとは怪獣の中に他の三人の命を奪った怪獣がいることに気づく。

 

「なあ、あの怪獣……俺達どっかで……」

 

三人はゴングリーを見て何かを思い出そうとしていた。

その様子を見ていたやまとは慌てて三人を怪獣から遠ざけようとする。

 

「あたしも……知ってる……あの怪獣……」

 

グールギラスを見た問川。

 

すると頭の中に何かが語りかけてくる。

 

 

思い出せ……

 

お前はあの怪獣に殺された……

 

お前は既に死んでいるのだ……

 

思い出せ……

 

問川はその声を聞いた瞬間、全てを思い出した。

グールギラスの火球に巻き込まれて死んだ自分を。

 

隣にいたArcadiaの今井、有井、タカトも一緒だった。

自分達がゴングリーに喰われたのを思い出したのだ。

 

「ごめんねお父さん……私……全部思い出しちゃった……」

 

涙を流しながら言う娘の言葉に問川父が驚愕したのも束の間、そのまま闇となって問川さきるは消えてしまう。

 

無論有井、タカト、今井もそのまま闇へと消えてしまった。

 

「う、うわあああああああ!!!」

 

「嘘だ……さきる……嘘だと言ってくれ……」

 

絶望する問川父とやまと。

 

「言ったじゃないか……死んだ事を認識したら消える、と 」

 

トレギアが二人の前へ現れた。

 

「ち、違うんだ…怪獣のせいなんだ!怪獣が現れたからさきるが……」

 

「俺もだ!俺のせいじゃないんだ!」

 

問川父とやまとはトレギアに必死に訴える。

 

「約束は約束だ。私も万能ではないんだよ、すまないね。……ただ、あの怪獣は恐らく新条アカネによるものだ」

 

新条アカネ……それはこの世界の神であり、二人の憎むべき相手だった。

 

「新条アカネが怪獣を呼んだせいで君達の大切な人達が死んでいったのだ……私も心苦しいよ」

 

二人は俯いて声を殺して泣く。

 

目の前の悪魔が心の中で大笑いをしているのも知らずに。

 

すると空の闇のゲートから降ってきた闇の塊がまた怪獣に変身する。

数は8体……丁度グールギラスとゴングリーによって犠牲になった人の数だった。

 

「何てことだ……見ろ、新条アカネは君達の大切な人達を怪獣にしてしまったぞ!このままではグリッドマンに殺されてしまう」

トレギアが手から出した映像を二人に見せる。

そこには怪獣の中に問川さきるやその同級生、Arcadiaの他メンバーが入っていたのだ。

 

「そんな……さきる!」

 

「ど、どうすればいいんだよ!」

 

狼狽する二人。

するとトレギアは両手で二人の額に指を当てる。

 

「私は憎しみを力に変えられる。ひたすら新条アカネを憎むのだ。そうすれば君達も怪獣になってしまうが……このまま大切な人達がグリッドマンに殺されるよりかはマシだろ?」

 

トレギアの言葉を二人は素直に受け入れてしまう。

 

元はと言えば新条アカネのせいなんだ……

 

あいつが俺から仲間を奪った!

 

あの女の子がさきるを奪った!

 

憎い……新条アカネが憎い!

 

「フフフ……」

 

トレギアは不敵に笑うと二人を闇のオーラに包んだ。

そしてそのまま二人は闇に消えた。

 

「愚かな人間どもだ……いや人間ですらない作り物だったな。たまたま中華屋で怪獣犠牲者が一緒になるなんて普通は考えないものだけどねぇ……フフハハハハ!!」

 

トレギアが高笑いすると手を銃に見立てグリッドマンを狙う。

 

「これが最後の仕上げだ……。響裕太、一度闇に堕ちた者がそう簡単に光に戻れると思うなよ……」

 

銃に見立てた手で撃つ振りをするトレギア。

 

 

するとグリッドマンが突然苦しみだした。

 

 

 

 

 

 

「どうしたグリッドマン!?」

 

シグマが駆け寄るとグリッドマンがそのまま突き飛ばした。

 

「直人、裕太!?どうしたんだよ!?」

 

武史はグリッドマンの目が黄色から赤黒く光るのを目撃する。

 

「まさか……操られたのか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「裕太、直人!どうしちまったんだよ!?」

 

「……駄目、タイピングで呼び掛けても反応しない!」

 

「トレギアの言っていた最後の仕上げってこれの事だったのよ!」

 

内海と六花が困惑する中、ゆかがトレギアの悪意に気づいた。

 

「まずいぞ!グリッドマンシグマ!武史!」

 

一平の声にも焦りが見える。

 

順調に行っていたと思われていた戦いは一瞬にして窮地に陥った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「形勢逆転だ……どうする?グリッドマン達よ……、少しは楽しませてくれよ」

 

そう言ってトレギアは闇の中に姿を消したのだった。

 

 



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第19話 合・体

長く空いた隙にグリッドマン新作にタイガの映画など沢山情報が解禁してしまった……。


グリッドマン達が戦うことによって多くの人達が学校へと避難していた。

 

その中にはなみことはっすもいた。

 

「ねぇはっす?私、ちょっとおかしいかも。こんな緊急事態にデジャヴ感じてる」

 

「へー、なみこもそうなんだ。私もどこかで体験したなぁなんてぼんやり思ってた」

 

「はっすも?」

 

「うん」

 

このデジャヴの答えにはたどり着けていない。

ただ、周りの人達の会話に耳を傾けるとも自分達と同じような内容だった。

 

「あのでっかい巨人……勝ってくれるかな?」

 

「勝ってくれるでしょ……たぶん」

 

昔、助けてもらった気がする。

黒い巨人を倒してくれた前にも、ああいった怪獣と戦って何度もツツジ台を救ってくれた。

でも、そんな気がするだけ。

 

それでも避難している人間の全員が心の中で巨人が勝つことを祈っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グリッドマン!目を覚ませ!」

 

グリッドマンシグマはグリッドマンに声をかけるが応答はしてくれない。

 

シグマがグリッドマンに気をとられている隙にマグマギラスとゴルゴベロスがシグマに攻撃を仕掛けてくる。

 

最初の攻撃は寸のところでシグマは避けたが後ろからグリッドマンに捕まれてしまい、2体の怪獣の攻撃を受けてしまう。

 

「グアッ……!」

 

マグマギラスのプラズマ熱線に、150メートルを超える巨体か繰り出す武器攻撃でゴルゴベロスはシグマを切りつける。

 

2体のネオカーンデジファー怪獣に加え、ウルトラ怪獣もシグマを攻撃しようよ集まってきており、まさに絶体絶命だった。

 

 

「グリッドマン、何してんだよ!」

 

「操られてるのよ、カーンデジファーの言いなり光線みたいなものよきっと!」

 

「どうしてウルトラ怪獣が!?」

 

「ウルトラ怪獣って……内海君の好きなあの?でもそれって架空の物語じゃ……」

 

ゴモラにレッドキング、エレキング、グドン、バードン、ゴルザ、ガンQ、マガバッサー……内海の好きなウルトラ怪獣が確かにツツジ台にいた。

 

「ネオカーンデジファーの怪獣もまだ残ってるんだぞ、グリッドマンが正気に戻ってくれないとまずいぜ!グリッドマンシグマだけじゃあの数は倒せねぇ!」

 

「こうなったらいきなりだけど全員出撃ね。このためにジャンクをバージョンアップしたんだもん」

 

一平とゆかがキーボードを打ち込み出撃準備に入る。

 

「ゆか、新世紀中学生は?」

 

「みんなバッチリ回復出来たみたい!……そうだ六花ちゃん!」

 

ゆかは六花の手を引っ張ってリビングの方へと向かって行ってしまった。

 

「………え!それはちょっと恥ずかしいよ………」

 

「大丈夫!彼を助けるためだと思って!」

 

六花とゆかの会話が断片的に聞こえる。

 

「なにしてんだあいつら……」

 

「おいおい、今ピンチなんだぜ!?」

 

一平と内海の心配もつかの間二人はリビングから帰ってくる。

 

「二人とも、ちょっとリビングに行っててくれない?全員出撃は私がやっておくから」

 

「やだよ!俺だって初めての全員出撃……」

 

「つべこべ言わないの!ちょっとの間だけだから!」

 

一平と内海はゆかに引っ張られそのままリビングへ投げ飛ばされた。

………二人とも痛い痛いと言いながら。

 

(ゆかちゃん……強い)

 

同じ女の子だが強引さが凄いゆかに驚く六花。

 

「アクセスコードは"GOD ZENON"」

 

「"POWERED ZENON"」

 

「"DYNA DRAGON"」

 

ゆかと六花がアクセスコードを打ち込み、ツツジ台の空が割れる。

 

サンダージェット、ツインドリラー、ゴッドタンクがゴッドゼノンに。

グリッドマンキャリバー、スカイヴィッター、バトルトラクトマックス、バスターボラーがパワードゼノンに。

そしてダイナドラゴンがツツジ台に降り立った。

 

ゴッドゼノンはマグマギラスとゴルベロスを力で押し出し地面に叩きつける。

 

ダイナドラゴンはドラゴンフォートレスに変形し多数のフォートレスミサイルをウルトラ怪獣達に発射し、グリッドマン達のいる場所に行かせないように誘導する。

 

狙い通り、怪獣達はドラゴンフォートレスを追うように移動し始める。そんな中バードンとマガバッサーが飛んで追いかけ始めた。

 

バードンは炎、マガバッサーは竜巻の攻撃をドラゴンフォートレスに放つがその攻撃をいとも簡単に避ける。

そして避けられた炎と竜巻はそのままウルトラ怪獣達に当たった。

 

「すごい……」

 

「ダイナドラゴンは変形して戦えるから頼りになるのよね」

 

六花とゆかはダイナドラゴンの活躍に喜ぶ。

 

「グリッドマン!さっさと目を覚ませ!」

 

ボラーの声と共にパワードゼノンの左拳がグリッドマンに直撃した。

 

「グ……なお……ゆう……目を……覚ま……」

 

グリッドマンの声が微かに聞こえる。

 

「グリッドマン自体には意識はあるようだが……」

 

「裕太と直人はそうじゃないみたいだね」

 

マックスとヴィットは直人と裕太の意識が無いことに気づく。

どうやらそれで力が弱ったところをつけこまれて操られてしまったらしい。

 

「フィクサービーム!」

 

シグマがグリッドマンにフィクサービームを当てるが正気に戻る気配はない。

 

「やはりトレギアに対策されてたか」

 

「や、厄介なやつだ」

 

ヴィットやキャリバーはトレギアの周到さを恨む。

 

「さ、ここに例のプログラムを打ち込んでみて!」

 

「い、いやプログラムというか……」

 

「恥ずかしがっちゃダメ!ここに思いの丈をぶちまけるのよ!」

 

ゆかの強い押しに思わずたじろぐ六花だったが、とうとう決心してプログラムを打ち込んだ。

 

「うん!プログラム転送!」

 

ゆかがenterキーを押すとプログラムが光となってグリッドマンに直撃した。

 

グリッドマンの目の色は正常な色に戻り直人と裕太は意識を取り戻した。

 

「なぁ、二人とも何してんのかな?井上さーん?早く戦況が見たいんだけどー?」

 

「おい、余計な事言ってゆかを怒らすなよ!ゆかは普段は優しいけど怒ると俺の母ちゃんの倍以上怖くなるんだぜ。鬼ババァならぬ鬼ゆか……」

 

「誰が鬼ですって~!?」

 

ゆかは一平の胸ぐらを掴み力一杯揺らす。

一平は目を回しそれを見ていた内海は涙目になる。

 

「あ、もう来てOKよ。乙女の大切な思いを見せるわけにはいかなかっただけだし」

 

一平と内海は納得しないままジャンクの前に戻る。

 

 

……プログラムという名の"愛"……か。

 

 

六花が小さい声でそう呟いたのだった。

 

「グリッドマン、裕太、直人!正気に戻ったか!」

 

「わりぃ、心配かけたなシグマ!」

 

「もう大丈夫だよ!ここから反撃だ!」

 

直人と裕太の声と同時にダブルグリッドビーム、ゴッドゼノンはゴッドパンチを放ち、マグマギラスとゴルゴベロスを倒した。

 

「よっしゃー!」

 

「後はあのウルトラ怪獣だけだな!」

 

カーンデジファー、ネオカーンデジファー、そしてアレクシスの怪獣達は一掃され、残りがウルトラ怪獣のみとなった。

 

「ねえゆかちゃん、あのプログラムがなんで有効だってわかったの?」

 

「昔も同じようなことがあったのよ。あの経験が役に立つ時が来るなんて想像もしてなかったわ」

 

六花はゆか達が自分達より遥かに修羅場をくぐり抜けているのを改めて感じた。

とっさの判断力や応用力がまるで違う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ……いいぞ。絆を信じる者は仲間がいれば、力を合わせれば強くなったと錯覚する。絶望へのカウントダウンはもう始まっているというのに。希望の光が強ければ強いほど、絶望の闇はより深くなる……」

 

「この世に闇も光もない。……だが、光が闇に堕ちる姿は嫌いじゃないのでね」

 

トレギアは空に割れた穴からウルトラ怪獣達に禍々しい闇のオーラを浴びせた。

 

ウルトラ怪獣達の目はみるみるうちに赤くなり凶暴になり始めた。

 

「よーし、このまま倒しちまえグリッドマン、シグマ!」

 

一平の掛け声と同時にグリッドマンが攻撃しようとしたその時だった。

 

「グリッドマン!みんな!攻撃をやめるんだ!」

 

武史が怪獣達の異変に気付く。

 

「何か聞こえないか?あの怪獣達から……」

 

「声?」

 

武史の言葉にゆかは怪獣達の声をジャンクから聞けるようにプログラムを組む。

 

「おい、この声ってArcadiaのメンバーじゃねーか!?」

 

「問川達もいる!」

 

内海と六花が怪獣達からArcadiaと問川達の声を発してることに気付いた。

 

「怪獣の中に人がいているってこと!?」

 

「パワードゼノン!ゴッドゼノン!ドラゴンフォートレス!お前らも攻撃をやめてくれ!」

 

一平の声を聞いたグリッドマン達は攻撃をせず相手の攻撃をいなすことにした。

だが凶暴化した怪獣達を止める術があるわけではなかった。

 

ゴモラの突進にパワードゼノンががっぷりおつの状態で止めるが、その隙をついたエレキングが尻尾でパワードゼノンの身体を縛り電撃を浴びせた後、ゴルザが光線を発射し直接してしまう。

 

「攻撃が激しくなっているぞ……!」

 

「ゆ、油断したら命を落とす」

 

「言われなくてもわかってるっての!」

 

「パワードゼノンでもこれだけダメージ貰われるとマズイね」

 

ゴッドゼノンはグドンの鞭に腕を縛られゴッドパンチを繰り出す事が出来なくなってしまうと、ガンQとレッドキングがゴッドゼノンをタコ殴りにしてきた。

 

バードンとマガバッサーは空中でドラゴンフォートレスを追いかけ続ける。幸いドラゴンフォートレスはまだ被弾していないが攻撃することも出来ない今の状況では2体の怪獣を引き付けて逃げるしかなかった。

 

グリッドマンとグリッドマンシグマは怪獣達に攻撃されている味方を助けるべく、出力の低いWグリッドビームを放つ。

出力を抑えることで怪獣達を撃破せずゴッドゼノンとパワードゼノンを敵の拘束から解放しようとした。

 

だが突然現れた火球と光線に阻まれてしまう。

 

「あれは……ゼットンとギャラクトロン!?」

 

内海はウルトラ怪獣の中でも強力な力を持つゼットンとギャラクトロンを見て驚く。

 

「知ってるの内海君!」

 

「ああ!あいつらの強さは半端じゃない!」

 

六花の問いに答える内海。

 

「さきるを……返せ……!」

 

「みんなを……奪った奴に復讐を……!」

 

他のウルトラ怪獣同様ゼットンとギャラクトロンから声が聞こえていた。

 

「!グリッドマン、シグマ!この怪獣も元々人間だ!」

 

問川の父とやまとが怪獣になってしまっていた。

 

一平はグリッドマン達に声をかけたが後一歩遅かった。

既に二人は攻撃を始めていたからだ。

 

グリッドマンは超電導キックでゼットンを攻撃しようとするがバリアで弾かれてしまいバランスを崩してしまう。

その隙を見逃さず火球を繰り出しグリッドマンは大ダメージを受けてしまう。

 

シグマは速さでギャラクトロンを圧倒しようとしたが、頭から生える長い尻尾のようなものに捕らえられてしまう。

更に腕が光の剣に変わり捕らえていたシグマの体を貫通させた。

 

シグマは残りの力を振り絞ってギャラクトロンの拘束から無理矢理脱出したがエネルギーの消耗も激しくあと僅かしか残っていない。

そこへゼットンが火球を放つが、グリッドマンがシグマの肩を組んで間一髪のところで避けさせる事に成功した。

 

しかし大ピンチであることに変わりがなかった。

 

一平の心配は杞憂に終わった。……最悪の形で。

 

「やべぇ!グリッドマン達が本当にやられちまう!どうにかなんないのかよ一平!」

 

「俺にもわかんねーよ!」

 

「二人ともしっかりして!」

 

内海と一平は焦ってパニックになってしまっている。

ゆかはその二人を落ち着かせようとするものの、ゆか自身もこの状況をどう切り抜けてよいかわからなかった。

 

「…………!」

 

六花はスマホのLINEの画面で新条アカネのトークページへと急いでアクセスし、メッセージを送った。

 



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第20話 英・雄

ここからオリジナル設定がどんどん出てくるのであしからず。


セットしてない目覚まし時計の針の音が聴こえる。

 

こうやって布団の中で過ごしてとうとう朝を迎えてしまった。

嫌なことから逃げているだけなのに、凄く体が重く感じる。

 

私は無力だ。

今もこうして布団の中で時間が過ぎるのを待っている。

昨日トレギアが来てから結局一度も部屋の外に出ることはなかった。

 

私が神様だった世界の親友がLINEでメッセージを送ってくれてもなお嫌なことから目を瞑ろうとしている。

 

……でも以前の私と違うのは心のどこかでこの状況ではいけないとわかっていることだ。

以前の私だったらこのまま逃げることに無理矢理理由をつけて納得したフリをしていただろう。

現実の世界を生きるために私の友達は力を合わせてアレクシスを倒してくれたのに、なにもしないでこの部屋にいていいわけがない。

 

でもトレギアが私の横に立っていた時、私は恐怖ですくみあがっていた。

アレクシスに悪意を向けられた時よりも、怪獣にされた時よりも遥かに震える恐怖を。

 

私はその時点で立ち向かうことを諦めてしまったのかもしれない。

いくら勇気を振り絞ろうと行きたくない、怖いという感情がどうしても出てきてしまう。

 

後一歩を踏み出せれば……そう考えている時点で私は本質的には何も変わっていないのだろう。

アレクシスに唆された時から、何一つ。

 

そんな時だった。

またLINEの通知が来た。

 

メッセージを見た方がいいのかな。

六花からだったらどうしよう。

見ずにいたら気づかなかったって事で許して貰えるのかな。

そんな事を考えてしまう私が情けなく、どうしようもなく弱い人間であることを自覚させられる。

 

その時、ふと定期入れが目に入る。

あれは六花が私にくれたものだ。

 

 

 

 

-----私はアカネとずっと一緒にいたい。どうかこの願いがずっと叶いませんように-----

 

 

 

 

私の設定からではなく六花自身から出たあの言葉。

彼女は私が敵だと知っても救おうと、友達でいようとしてくれた。

 

私があの世界でしたことは許される事ではない。

だからこそ私が前を向くために背中を押してくれた。

 

それなのに届いたメッセージを読まなくていいのだろうか。

……いいわけがない。

 

来て欲しくないと思われていてもそんなこと関係ない。

 

私は意を決してそのメッセージを見る。

やはり六花からだった。

 

 

 

 

「こっちの世界は危険だから絶対に来ちゃダメだよ」

 

 

 

 

メッセージを見た私は今までウジウジしていた事が馬鹿らしく感じてしまった。

 

私は自分の事しか考えていなかったんだ。

このメッセージで六花が今まで通り私の心配をしてくれているのがわかった。

 

そうだった。

私が現実に戻って来た時、六花や響君や内海君みたく人のために全力になれる人間になりたいと思っていたではないか。

 

友達のために懸命に現実を生きて成長しようと思ったから、仮に何かの間違いでまた会ったとき安心させられるような人間になろうと思っていたのに。

 

トレギアなんかの言葉に落ち込む必要なんか全く無かったんだ。

コンピューターの前に私は立つ。

私がすべきことは一つ。

 

「………ごめんね六花。あなたの約束を守れなくて」

 

そう私が呟いた瞬間、私の腕が光る。

 

私の腕には以前響君がしていたような腕輪が装着されていた。

 

するとコンピューターの電源が入り、画面が映し出される。

そこにはグリッドナイトがいた。

 

「遅かったな……新条アカネ」

 

「アンチ……どうして?死んじゃったはずじゃ……」

 

「今はグリッドナイトだ」

 

グリッドナイトが私とアクセスフラッシュするために来てくれたのだ。

 

「俺はお前の歪んだ心から作られた怪獣だった。お前の心そのものだ。でも、そんな俺でもグリッドナイトになれた」

 

「お前の心も同じだ。怪獣のように醜くてもヒーローに、グリッドナイトになれる。そのナイトアクセプターはお前の成長の証だ」

 

私は腕のナイトアクセプターを見る。

私の成した証は紫色に輝いている。

 

「お前の心が正しくあろうとする限り、お前の心から産まれた俺は何度でも蘇る」

 

「アクセスフラッシュと叫べ新条アカネ!ツツジ台を、俺達の大切な仲間を守るために!」

 

もう覚悟は出来ている。

大切なものを守るには自分から動かなきゃダメなんだ。

 

深呼吸をしてお腹の底から声を出す。

 

「アクセース……フラッーーーシュ!」

 

私はグリッドナイトと一体化し、コンピューターワールドの中に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツツジ台の空を眩い光が包む。

 

「な、何あれ!」

 

「眩しっ……!」

 

なみことはっすは空を見上げるとそこにはグリッドナイトが現れていた。

三人のヒーローがここに集結したのだ。

 

「き、来たか……グリッドナイト、新条アカネ!」

 

「アンチも無事だったのかよ!心配させやがって!」

 

キャリバーとボラーが喜ぶ。

 

「新条さん!」

 

「おっ!待ってました!」

 

「強力な助っ人登場だね!」

 

裕太、直人、武史も新条アカネの登場に喜ぶ。

 

グリッドナイトは早速上空からナイト爆裂光破弾を放ち、ゴッドゼノンやパワードゼノン、ドラゴンフォートレスから怪獣達を追い払う。

 

「ナイトヒール!」

 

グリッドナイトから放たれた光を浴びたグリッドマン達はみるみるうちにエネルギーが回復される。

 

「無事かグリッドマン、グリッドマンシグマ」

 

「それはこっちの台詞だ。よく生きてくれていた、友よ」

 

グリッドマンナイトとグリッドマンはお互いの腕を交差させる。

 

「だが状況は最悪に近いぞ」

 

「今の俺なら真の力を発揮できる。二人はフィクサービームの準備をしていてくれ」

 

シグマの言葉ににグリッドナイトが応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グリッドナイト!?もしかして……!」

 

「アカネ……!?」

 

「新条さんが……新条さんがグリッドナイトとして来てくれた!」

 

ゆかちゃんと内海君が喜ぶ一方で私はみるみる不安な顔になってしまっているのがわかる。

そんな私に一平君が話しかけてくれる。

 

「……六花俺さ、さっき六花が新条アカネに送ったメッセージ見ちまったよ。でもよ、その不安そうな顔はやめろよな」

 

「でも……!」

 

「信じて欲しいって言ったのはお前だぜ六花。新条アカネだって相当覚悟してなきゃここに来ねーよ。一番の親友が信じてやれなくてどうすんだ」

 

一平君に言われて私はハッとする。

 

私との約束を守って今まで来なかったアカネがこの危機的状況に来てくれたのだ。

危険だとわかっていても私達のために来てくれたというのに私ときたら。

 

「……頑張れ。頑張ってアカネ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グリッドマンとシグマはフィクサービームの準備をする。

 

しかし怪獣達がそれを見逃すはずが無かった。

ウルトラ怪獣達は一斉にグリッドマン達へ攻撃を始めた。

 

突進にしてくるもの、炎を吐くもの、光線を撃つものなど様々な攻撃を一斉に放つ怪獣達。

 

「グリッドナイトシールド!」

 

グリッドナイトが両腕を盾のようにして構えると大きな光の壁が現れてあらゆる攻撃を防いでみせた。

 

「すげぇ!グリッドナイトは『守る』力なのか!」

 

内海は興奮して大きい声を出す。

 

怪獣達がこれ以上の攻撃を無駄だと判断し攻撃をやめる。

そのタイミングこそグリッドナイトが狙っていたものだった。

 

「今だ!俺達三人のフィクサービームだ!」

 

グリッドナイトの掛け声と共にグリッドマン達はフィクサービームを怪獣達にかける。

グリッドナイトは新条アカネとアクセスフラッシュしたことでフィクサービームを撃てるようになったのだ。

 

一人の力がダメなら二人で。二人でダメなら三人で。

 

トレギアによって対策をされていた怪獣達も超高出力のフィクサービームによって穏やかな気持ちを取り戻しトレギアによって増幅した闇は完全に消え去った。

 

「何か……憑き物が取れたみたいだ」

 

「さっきまで感じていた憎いという感情が……」

 

問川の父とやまとも落ち着きを取り戻す。

 

問川達や有井達も正気を取り戻していた。

 

「「よっしゃーーー!」」

 

一平と内海がハイタッチをして喜ぶ。

 

「良かったわね、六花ちゃん」

 

「うん……うん……!」

 

ゆかが優しく六花に寄り添う。

六花も感極まりそうなのを抑えながら親友の勇姿を見守っていた。

 

 

 

ウルトラ怪獣達の前にグリッドナイトが立つとそのまま頭を下げた。

 

「貴方達は私のせいで沢山辛い思いをしてきた。こんなことで返せるとは思ってないけど……元凶を倒したらきっと貴方達の姿も元に戻る。私もいなくなる。だから、この世界で生きて欲しいです」

 

アカネは深々と頭を下げながら謝罪した。

 

「……私は今でも君がさきるにしたことを許せないよ」

 

「……俺もだ。友達を失うことがどんなに辛いことだったか」

 

覚悟はしてきた。どんな事を言われても仕方ないことをしたのだから。これが贖罪になるのであれば、と。

 

「でも、君が私達のために命懸けで助けてくれたのも私達はちゃんと知っている。ありがとう」

 

「ありがとう、神様」

 

問川の父とやまとはアカネにお礼を言った。

アカネは思わず涙ぐんだ。

 

「よかったね……アカネ」

 

六花もアカネは決して許された訳ではないとわかってはいた。それでも彼らからこんな言葉をかけてもらえるなんて想像もしていなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハーハッハッハッ!素晴らしい、私の想像以上だ新条アカネ。親友との絆を信じてヒーローとして帰還するとは。

一時的にグリッドナイトを始末した甲斐があるものだ。

もっと絆を信じろ。グリッドナイトの光の力に酔いしれるがいい。そうすればより深い甘美な絶望を味わえる……」

 

トレギアは笑いながらグリッドナイトを見る。

 

「少し脚本が変わってしまったのが癪だが……」

 

そう言った途端、ツツジ台の空に空いた闇のゲートからトレギアが現れた。

 

「フフフ……フハハハハハハハッ!」

 

笑いながらトレギアは自分の爪から引っ掻き傷のような光線を放ちゴモラ、レッドキング、エレキング、グドン、バードン、ゴルザ、眼Q、マガバッサーの八体を、問川さきるの同級生とやまと以外のArcadiaメンバーを切り裂く。

 

「おと………さ……」

 

「や………ま………」

 

問川達は涙声で最後の言葉を言えずにそのまま爆散させられた。

 

「さきるーーー!!!」

 

「みんな!!」

 

二人の悲痛な叫びがツツジ台中をこだました。

 

「うそ……」

 

「信じらんねぇ……トレギアの野郎!」

 

六花と内海とゆかが絶句するなか怒りに燃える一平。

 

トレギアはとうとう巨大化し、グリッドマン達の前に立ちふさがった。

 

「どうして殺す必要があったんだ!!」

 

「直にわかるよ。……ホラ」

 

直人の怒りの声にトレギアは応えると、ゼットンとギャラクトロンから怒りの、憎しみの闇のオーラが物凄い勢いで溢れでているのに裕太は気づいた。

 

「よくもさきるを!」

 

「お前を信じた俺がバカだった!くらえ!」

 

二体の怪獣が火球と光線をトレギアに放つ。

トレギアはその攻撃を避けると後ろに回り込み背中から黒い稲妻を流し込みゼットンとギャラクトロンを爆散させた。

 

「憎しみや闇のオーラは充分に集まった。もう用済みだ」

 

「トレギア!!」

 

淡々と怪獣達をいとも簡単に殺戮する姿に怒りを覚える裕太。

 

「本当は君達グリッドマンが迷いながらも彼らを倒すはずだったが……まさか警戒していたフィクサービームで突破されるとはな。まあおかげで闇のエネルギーは予定よりも多く手に入った」

 

「黙りやがれトレギア!」

 

「お、お前はこの世界にはいさせない」

 

「先程のようにはいかんぞ!」

 

「お前の体にも風穴を開けてやるよ」

 

新世紀中学生達がパワードブレイカーで攻撃をしようとした瞬間、トレギアは闇のエネルギーと共に3つの塊を空に投げた。

 

すると3つの塊は粉々に砕け散り、それぞれのグリッドマン達の目の前に闇のオーラが現れる。

 

やがてオーラは実体に変わり姿を現した。

 

「久し振りだな……武史。ふん、忌々しい姿だ」

 

「カーンデジファー!?」

 

「やあアカネくん。似合わないねぇ、その姿」

 

「アレクシス……!」

 

「忘れたとは言わせんぞグリッドマン……!」

 

「ネオカーンデジファー!?どうなってるんだ!?」

 

グリッドマンシグマの前にカーンデジファーが。

 

グリッドナイトの前にアレクシス・ケリヴが。

 

グリッドマンの前にネオカーンデジファーが。

 

かつての強敵が復活し自分達の目の前に現れたのだ。

 

 

 

「さあ、私は少し見物させてもらうとしよう」

 

 

 

トレギアは近くのビルに膝を組ながら座ったのだった。

 

 

 



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第21話 宿・敵

シグマと同様、ネオカーンデジファーの性格も雰囲気で書いてます。


トレギアによって復活した三大魔王。

 

カーンデジファー、ネオカーンデジファーの兄弟に加え、かつてこの世界で新条アカネを利用し自らの心の渇きを潤そうとしたアレクシス・ケリヴ。

 

「あいつがアレクシス……」

 

「そしてあっちの二人がカーンデジファーとネオカーンデジファー……」

 

ゆかと内海は互いに見たことのない敵をまじまじと見る。

どちらもグリッドマンが大苦戦した強敵だ。

 

「でもこっちの方が数は多いし前より強くなってるんだ!負けてくれるなよ、直人、武史、裕太!」

 

一平の声はジャンクを通して裕太達に届いていた。

 

「グリッドマン……我が兄の無念を晴らせなかったが、まさか兄と共に貴様に復讐出来る日が来るとはな」

 

「一度負けた癖にまた懲りずに復活しやがって。もう一度俺達が倒してやる!」

 

直人は力強い言葉で自分達を鼓舞するように言う。

 

「グリッドマンの弟グリッドマンシグマか。武史よ、楽しませてくれるだろうな?」

 

「あの頃の醜い僕はもういない。シグマ、人は変われるってことを証明するときだ!」

 

武史とカーンデジファーはかつて直人達に立ち塞がる敵だった。彼の弱い心から出来た醜悪なプログラムがハイパーワールドから逃げたカーンデジファーを惹き付けたのだ。

 

かつて仕える主であり友達だと思っていた武史は複雑な気持ちでカーンデジファーと対峙していた。

 

「神様ごっこはやめたのかいアカネくん?まさか作り物の友達を守るためにその姿になったのかい?出来損ない同士のアクセスフラッシュとはどこまでも私を楽しませてくれるね」

 

「あなたの言う通り私は出来損ないかもしれない。でも、友達との絆があればこんな私でも強くなれる!」

 

アカネは自分の弱さの象徴とも取れるアレクシスを倒す決心をする。

 

 

 

「トレギア、貴様の怪獣の怨念を寄越せ」

 

「おやおや、最初から飛ばすねぇ」

 

トレギアは空のゲートから怪獣達の怨念をネオカーンデジファーに降り注がせる。

 

ネオカーンデジファーは怪獣の怨念を身に纏い、魂を吸い込む。

そしてガイストカーンデジファーへと変身した。

 

「貴様達兄弟に倒されたが、一人になら負けはしない」

 

「あれはガイストカーンデジファー。怪獣達の怨念から魂を抽出し力にしたネオカーンデジファーの最終形態だ。裕太、直人!気を引き締めて行くぞ!」

 

グリッドマンがそう言うとガイストカーンデジファーへサンダービームを放つ。

だがガイストカーンデジファーは手を払いサンダービームをかき消してしまう。

 

続いてゴッドゼノンがゴッドパンチで背後から応戦するが、ダメージを全く負っていない。

ガイストカーンデジファーが背後のゴッドゼノンにビームを放つとゴッドゼノンは大ダメージを負ってしまう。

「ヤバい!ゴッドゼノン、緊急脱出だ!」

 

一平の言葉と同時にゴッドゼノンはツインドリラー、ゴッドタンク、サンダージェットに別れビームを回避した。

 

「小賢しいマネを……」

 

「バリアシールドを送るぞ!」

 

ガイストカーンデジファーがアシストウェポンに再びビームを放とうとするが、グリッドマンが一平から送られたバリアシールドを手にすると電光雷撃剣グリッドマンソードに変形させる。

そして不意を突くようにガイストカーンデジファーを切りつけた。

 

「ぐおおおぉぉぉ!!??」

 

ガイストカーンデジファーは体勢を崩しそのまま地面に倒れた。

 

「直人!グリッドマン!」

 

「ああ裕太!グリッドマン、超人合体するぞ!」

 

 

 

 

 

一方、カーンデジファーとグリッドマンシグマの戦いはカーンデジファーが優勢になっていた。

 

「いくら貴様が素早く動こうとワシに傷一つつかんわ!」

 

シグマが何回もカーンデジファーへ攻撃をするが、蝙蝠のような物体に分離して攻撃をかわし続ける。

 

「キリがない……!」

 

シグマはシグマスラッシュで蝙蝠の物体ごと切り刻もうとする。

だが避けられた上にカーンデジファーを見失ってしまう。

 

すると背後から現れたカーンデジファーが魔王剣デジファーソードでシグマを真っ二つにしようとする。

 

シグマは寸のところで魔王剣デジファーソードを白羽取りをしてそこから足で腕を攻撃し剣を落とさせるのに成功する。

だがそれでもカーンデジファーの攻撃は止まらずビームでシグマを追いかけ回す。

シグマが空を飛ぼうものなら自らも飛んで追いかける。

 

「武史よ、逃げてばかりでは勝てぬぞ?」

 

カーンデジファーは武史を挑発するような言い方をする。

 

「シグマ、前のようにハイパーグリッドビームのような出力の高い大技で無理矢理倒すしかないのかもしれない」

 

「ならばダイナドラゴンと合体しよう」

 

シグマはカーンデジファーの攻撃を避けながらドラゴンフォートレスに近づいていった。

 

ドラゴンフォートレスは地上に近づくとダイナドラゴンに姿を変えてドラゴンロアーで上空のカーンデジファーを撃ち抜いた。

カーンデジファーはそのまま地面へと激突する。

 

 

 

 

「パワードブレイカー!」

 

パワードゼノンはアレクシスを縦に真っ二つに切り裂く。

 

「フフフ………私が不死身なのは知っているだろう?」

 

アレクシスの体は復活しパワードゼノンへ赤い光弾を連射する。

パワードゼノンは威力に耐えきれず爆散したあとそれぞれのアシストウェポンに戻ってしまう。

 

「グリッドナイト、俺を使え!」

 

キャリバーがグリッドナイトに言うと自らがグリッドナイトの手の中に収まる。

グリッドナイトは逆手に持つとグリッドナイトキャリバーに変形し刀身が赤く染まる。

 

「ナイトキャリバーエンド!」

 

アレクシスを再び切り刻んだがアレクシスは再び復活した。

 

アレクシスはお返しにと自身の持つ二刀流の剣でグリッドナイトを十字に切る。

しかしアレクシスの攻撃はアクセスフラッシュで真の力を発揮したグリッドナイトの防御力に弾かれた。

 

「ほぅ……手加減してはお互いが不死身ということか。私も本気を出さなければ」

 

「新条アカネ、このまま持久戦に持ち込まれたら俺達は勝てない。あいつらの力を借りるぞ」

 

グリッドナイトは分散している新世紀中学生を見た。

 

「準備ならとうに出来ている」

 

「ならアレクシスを足止めしたいところだけど……」

 

マックスとヴィットが言葉にした直後、アレクシスがグリッドマンが投げたサンダーアックスでまたも真っ二つにされる。

 

「グリッドマン!」

 

「気が利くじゃねぇか!」

 

アカネとボラーはグリッドマンのいる方向を見る。

 

「今だ!全員で合体するぞ!」

 

三大魔王が怯んでいる間にグリッドマンの掛け声で総合体が始まった。

 

グリッドマンがサンダーグリッドマンに。

 

シグマがキンググリッドマンシグマに。

 

グリッドナイトがフルパワーグリッドナイトに。

 

「ほぅ……面白くなってきたな」

 

トレギアは足を組み替えて再びビルに腰を下ろして傍観する。

その様子を見て内海が考え込む。

 

「………まさかな」

 

「どうした内海?」

 

「いや、何でもないんだ」

 

一平の質問をはぐらかす内海。

だってそうだ。前から常々思っていたとはいえ言葉にすることすらおこがましいと思っていた事だ。

 

 

 

トレギアが『ウルトラマン』に似てるだなんて。

 

 

 

自分の好きなヒーローとは真逆の性質を持っている奴だ。

ベリアルのような悪のウルトラマンもいたが、まさかな。

そもそもウルトラマンは架空の話だし。

 

 

「合体したところでガイストカーンデジファーと化したこの怨念を貴様は止められぬ!」

 

サンダーグリッドマンにビームを発射するガイストカーンデジファー。

サンダーグリッドマンはよろけはするものの、腕を攻撃しX字にして突進しそのままガイストカーンデジファーを殴る。

よろけた所をさらに肩のツインドリラーを飛ばすドリルブレイクで追撃をすると、サンダーグリッドファイヤーでガイストカーンデジファーを焼き尽くすように勢いよく発射する。

 

「ぐあああああああ!!!このままでは怨念ごと燃やし尽くされてしまう……!!」

 

ガイストカーンデジファーは堪らずグリッドマンから逃げるように距離を取った。

 

「馬鹿な……サンダーグリッドマンの攻撃など効かないはずだ……」

 

「お前が倒された後、私はさらに強くなっただけだ!」

 

かつてサンダーグリッドマンを圧倒したガイストカーンデジファーは逆にやられているこの状況を現実のものだとは思えなかった。

 

 

「キンググリッドランチャーシグマ!」

 

シグマはカーンデジファーへひたすら光線技を浴びせる。

 

「ぐぅ……小賢しい真似を……!武史、貴様ごときに……!」

 

「生きてる者全ては成長する。人でも作り物でも関係ない!」

 

武史はそう言うと胸のクリスタルコンバーターから炎を噴射するキンググリッドファイヤーでカーンデジファーをガイストカーンデジファーのいる方へ押し出した。

 

「動きが遅くなっただけなんじゃないのか?なあアカネくん」

 

アレクシスは素早く剣で切りつけたり、蹴りや肘鉄などの連撃でフルパワーグリッドナイトの反撃を許さない。

 

「君はグリッドナイトと一体化して本当につまらない人間になった。前みたく私の心を満たしてくれそうにない」

 

アレクシスは両腕から強力なエネルギーを放ちフルパワーグリッドナイトを攻撃する。

 

「一人では何も出来ないのは変わらない癖にね!」

 

周囲は爆発が起き煙が立ち込める。

しかし煙が晴れると傷を負いながらも仁王立ちするフルパワーグリッドナイトが現れる。

フルパワーグリッドナイトはアレクシスの全力を耐えきってみせた。

 

「私一人では成長出来なかった。友達が、絆が私を強くしたんだ!」

 

アカネの魂の叫びと共にアレクシスをブレストスパークでガイストカーンデジファーの方向へ押し出す。

 

作戦通りだったのか、それとも無意識だったのか。

三大魔王は一ヶ所に集められた。

 

「兄者よ、奴らを一掃するためにも互いの光線を合わせようぞ」

 

「ふん、そうするしかないようだな弟よ。……アレクシス」

 

「君達に協力する気は更々ないけどね。彼らを抹殺したいという思いだけは一緒なんでね」

 

アレクシス、カーンデジファー、ガイストカーンデジファーの三人はそれぞれのフルパワーを光線の発射口に込める。

アレクシスは両腕に、カーンデジファーは左手に、ガイストカーンデジファーは体のあらゆる発射口に。

 

そして破壊力抜群の光線をグリッドマン達に放つ。

 

「私達も行くぞ!」

 

「ああ!」

 

「望むところだ!」

 

グリッドマンがシグマとグリッドナイトに声をかける。

 

「裕太、直人、武史、そしてアカネ!精一杯この光線に力を入れてくれ」

 

「わかった!」

 

「任せろ!」

 

「了解!」

 

「うん!」

 

グリッドマン達や変身者全員で光線へと力を込める。

 

サンダーグリッドマンとキンググリッドマンシグマが力を合わせて出す光線であるドラゴンスパイラルで三匹の光線の竜が現れる。

更にフルパワーグリッドナイトのフルパワーチャージで剣に力をためるとドラゴンスパイラルが剣に絡み付くように纏う。

 

そしてフルパワーグリッドナイトが勢いよく剣を振り下ろした。

 

「グリッドナイトフルパワーフィニッシュ!!」

 

フルパワーグリッドナイトが放った斬擊は三大魔王の光線を簡単に打ち破りそのまま三大魔王を粉々にする。

 

「………!」

 

直接攻撃を受けてないトレギアでも自分の目の前にバリアを貼って衝撃を和らげる。

それほどまでに強力な威力だったのだ。

 

「ぐああああぁぁぁぁ!!グリッドマン兄弟、またしても貴様達にいいいぃぃぃ!!」

 

「また貴様にやられるとは、武史ィィ!!」

 

「なんだこの力はぁぁぁぁぁ!?」

 

ガイストカーンデジファー、カーンデジファー、アレクシスは粉々に砕け散った。

 

二つの光線の衝撃は避難所でもある学校どころか、六花の家にまで押し寄せる。

 

「きゃあああああ!!」

 

「や、ヤバい!大丈夫なみこ!?」

 

なみこやはっす達はあまりの衝撃に尻餅を着いてしまう。

 

他にも同じような人がおり、学校中がちょっとしたパニックを起こしてしまった。

 

「みんな大丈夫か!」

 

内海が他三人を見渡す。

 

「ああ、すげー揺れたな」

 

一平はひっくり返りながら答える。

 

「ちょっとドキッとしたかも」

 

ゆかはスリリングだったとしか思っていないようだ。

 

「みんな無事で良かった……」

 

六花は全員の無事を確認してホッとする。

 

(最後はフルパワーグリッドナイトの攻撃だった。頑張ったね、アカネ)

 

心の中で親友の活躍に喜ぶ六花。

 

「カーンデジファー……僕にとって倒すべき存在だったけど、君の事を本当に友達だと思ってた時期もあったんだ。……今度こそさようなら」

 

武史は粉々に砕け散り粒子となったカーンデジファーが空の割れ目に吸い込まれるのを見ていた。

 

「ぐぐ……ハァ……ハァ……」

 

カーンデジファーとネオカーンデジファーは粉々に砕け散った。だがアレクシスはボロボロになりながらも復活を果たす。

 

「まだやるか?アレクシス」

 

「素直に捕まえられてハイパーワールドで一生を過ごすんだな」

 

グリッドマンとシグマはアレクシスを封印しようとする。

 

だがそこへ黒い雷撃が襲いかかる。

二人のグリッドマンは吹っ飛ばされてしまった。

 

「お勤め御苦労様。楽しかったろう?アレクシス・ケリヴ」

 

「なんの真似だ……グッ!」

 

トレギアは瀕死状態のアレクシスの頭を掴む。

 

「わたしの計画に協力してくれたお礼に君に永遠の死を与えに来たのだよ」

 

「ふん、出来るものならしてみろ。今まで誰もわたしに死を与えられなかったというのに」

 

「君は奴らを復活させるための闇のエネルギーとして利用させてもらうよ」

 

トレギアはそのままアレクシスに雷撃を流し込んだ。

 

「うおおおおおおおあああああああああ!!!!!これが……死……か…………」

 

「……アレクシスが」

 

「死んだ……だと……」

 

アカネとグリッドナイトは驚愕した。

 

「私の手に掛かれば不死に死を与えるなど造作もない」

 

アレクシスは粒子となって空のゲートへ吸収された。

 

「フハハハ!!!想像以上の力だ!この魔王のエネルギーで手始めに惑星テンネブリスで奴を復活させようか」

 

トレギアは空に大きく広がった闇のゲートを見て言った。

 

「では、失礼」

 

トレギアは空に割れたゲートへ飛び立とうとした。

 

「待て、誰が逃がすと言った」

 

「貴様の脚本はまだ終わってないだろう」

 

「トレギア、お前の敗北で終わる脚本がな!」

 

グリッドナイト、シグマ、グリッドマンがそれぞれトレギアの前へ立つ。

ついに最大の敵であるトレギアと対面する時が来た。

 

「おやおや、血の気が多いねぇ……。さっきのはちょっとした冗談だ、心配しないでいい。私の脚本はここからがクライマックスだからな」

 

トレギアはサンダーグリッドマン、キンググリッドマンシグマ、フルパワーグリッドナイトを見て不敵に笑うのだった。

 



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第22話 ウルトラマントレギア

ここから最終回まで◯・◯でやろうと思いましたがやめました


「ねぇはっす、何あの巨人!?スッゴい悪そう!」

 

「でも三対一だし、楽勝っしょ。さっきからスカしてムカつくしあいつ」

 

はっすはトレギアを快く思っていなかった。

ずっとビルに座って見物したかと思えば仲間を殺してしまった。まるで自分の道具のように仲間を使う姿を見て不快な気持ちにさせられたのだ。

少なくともはっすやなみこ達はそう感じていた。

しかし、それ以上にトレギアに対して言葉に出来ない、得体の知れない恐怖を二人は抱いていた。

 

 

「……なんか嫌な予感するんだ。気のせいかな?」

 

「あの悪い巨人に負けたりしない……よね?」

 

ここ最近ずっと巨人と怪獣達の戦いを遠くから見てきた二人。

立ち振舞いからして恐らくあの悪い巨人が今までの事件の元凶なのだろう。

証拠など何もないにも関わらず何故か強い確信を持っている。

グリッドマン達に勝って欲しいと思う一方でトレギアの底知れない闇に無意識に恐れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トレギア……」

 

「残念だよ響裕太。もし君が黒いグリッドマンのままだったらそのまま私の忠実な下僕にしてやろうと思っていたのに」

 

トレギアは残念そうに言う。

 

「お前のお陰で俺は自分の心の弱さを知った。ここでお前を倒して弱い自分と決別する!」

 

 

「裕太の心を弄び、問川さきる達の生命をなんとも思わない。そのうえ問川さきるの父親やArcadiaのやまとの命まで奪う……。ハイパーエージェントとし て貴様を許さない!」

 

「ククク……」

 

グリッドマンはトレギアに指を指して言う。

トレギアは不敵に笑うだけだ。

 

「トレギア!お前の顔面を一度でもいいからぶん殴ってやりたいって思ってたところだ!」

 

「ほぅ……恐いねぇ。殴ってみなよ」

 

直人の怒りの言葉に自分の顔を指でトントンと叩いて挑発するトレギア。

 

サンダーグリッドマンはその挑発通りエネルギーを右手に込めてトレギアの顔面を殴る。

 

「痛ってぇなぁ。中々いいパンチを持っているじゃないか」

 

ツツジ台に轟音が響く程の威力だったがトレギアは何事も無かったかのように手先から黒い稲妻を繰り出す。

 

稲妻を受けたサンダーグリッドマンは大きく吹っ飛ばされてしまう。

 

「グリッドマンが!」

 

「なんだあの威力!?サンダーグリッドマンが簡単に吹っ飛ばされちまうなんて!」

 

六花と一平はトレギアの技の威力に驚く。

 

「アレクシスとは生物としての格が違うとは言っていたが……」

 

「不死に死を与える程ですもの……」

 

内海とゆかはトレギアが今までの敵で一番強い存在だというのを改めて実感した。

 

 

トレギアがサンダーグリッドマンを攻撃した直後、キンググリッドマンシグマとフルパワーグリッドナイトが反撃に出る。

 

「よくもグリッドマンを!」

 

グリッドナイトが怒りの声を上げる。

二人のコンビネーションは抜群でまるでお互いがどこに攻撃するかをわかってるかのようにトレギアに連続攻撃をする。

だがトレギアは最小限の動きで二人の攻撃をかわすと装甲の薄い部分へ蹴りを入れる。

二人がよろめいている隙に自身の眼から破戒光線を出すと二人のグリッドマンは大ダメージを受けてしまう。

 

「駄目だ、僕達が合体状態だとスピードが鈍くて避けられる!」

 

「なら光線技で遠距離から攻撃しよう!」

 

武史の言葉にアカネが応える。

 

キンググリッドマンシグマはキンググリッドビームシグマを、フルパワーグリッドナイトはツインバスターグリッドナイトビームを放つ。

トレギアはまたも黒い雷撃を手から放ち光線同士を相殺させると煙が立ち込めた。

 

フルパワーグリッドナイトが煙の中に突っ込むとそのままグリッドナイトキャリバーを振り回してトレギアに攻撃する。

だがトレギアは煙で見えない筈の剣を簡単に避けてしまう。

 

「どうした。怒りで攻撃がワンパターンになっているぞ」

 

トレギアはそう言うと装甲の薄い部分を掴み雷撃を流し込む。

かつて自身を一時的な死に追い込んだ攻撃はフルパワーグリッドナイトであっても大きいダメージを受けてしまう。

 

フルパワーグリッドナイトの装甲は全て剥がれ素のグリッドナイトに戻った。

新世紀中学生達はエネルギーを使い果たしジャンクへ戻っていく。

 

「アカネ!」

 

しかし六花の声はアカネに届かない。

グリッドナイトはそのまま倒れてしまった。

 

「どうしよう……アカネが……!」

 

「大丈夫よ六花ちゃん!グリッドナイトはまだ消えてないもの!」

 

泣きそうになる六花をゆかは励ます。

 

「大丈夫かみんな!?」

 

一平が戻って来た新世紀中学生に声をかける。

しかし彼らはその声に答えられないくらい疲弊していた。

 

「すぐに救急プログラムに入れないと!」

 

「急げ!」

 

ゆかは救急プログラムをセットすると内海と一平と六花はすぐにジャンクの前へ新世紀中学生を運び、ジャンクの中へ入っていくのを確認した。

 

「グリッドナイトがやられちゃったねぇ。次は君達だ」

 

トレギアはサンダーグリッドマンとキンググリッドマンを指差す。

 

「裕太、ドラゴンスパイラルだ!」

 

「ああ!」

 

サンダーグリッドマンとキンググリッドマンシグマは再び力を合わせドラゴンスパイラルを発動させる。

三匹の竜の光線はそのままトレギアに向かっていく。

 

トレギアは腕を広げるとそのままドラゴンスパイラルに体を貫かせる。

 

「やったか!?」

 

内海の期待も虚しくトレギアは全くと言っていい程効いていなかった。

 

すると今度はトレギアが自身の体を回転させると自身が竜巻のようになりそのまま突進してくる。

トレギアはサンダーグリッドマンとキンググリッドマンシグマを回転で切り刻むと怯んでいる二人へ問川達を屠った技で攻撃する。

 

サンダーグリッドマンのアシストウェポンは完全に破壊され、キンググリッドマンシグマのダイナドラゴンも粉々になる。

グリッドマンとシグマの体にはトレギアの放った光線によって引っ掻き傷のような痕がのこった。

 

「響君!」

 

「裕太!」

 

「直人!」

 

「武史!」

 

六花と内海、ゆか、一平が同時に声を上げる。

トレギアによって三人のグリッドマンはあっけなくツツジ台で倒れてしまったのだ。

 

「どうした?もう少し楽しませてくれないか?脚本のクライマックスなのに締まらないなぁ」

 

トレギアは笑いを堪えながら言った。

 

「嘘だろ……裕太……」

 

「こんなの……こんなの嘘に決まってる……響君、アカネ……」

 

内海と六花は絶望する。

 

「俺達……負けたのか?」

 

「こんなにあっさり……これほどまでに力の差があったの?」

 

一平とゆかも呆然としてしまっていた。

 

今までどんな状況になっても諦めず戦いを見守った四人だったが、今は絶望のドン底にいた。

 

「ぐ……」

 

「……ハッ!?みんな大丈……」

 

グリッドナイトとアカネは気絶から目覚めた。

アカネは皆の無事を確認しようとしたがすぐに絶望的な状況であると悟った。

 

「ククク……ハーハッハッハッ!どうだい?新条アカネ。自分の心の弱さを克服し、自分の弱さの象徴だったアレクシスを倒し、絆の力で光に酔いしれていた矢先、一瞬にして絶望の淵に叩き込まれ闇を味わう気分は?」

 

トレギアは笑いながらアカネを挑発する。

アカネが挑発に乗れるほどの力も元気も残っていないのを知っているにも関わらず。

 

「ト、トレギア……」

 

「ほう、まだ息があったか」

 

裕太は力を振り絞って弱々しい声で言う。

直人も武史も、グリッドマンもシグマも意識自体はあるが喋る力すらない状況へと追い込まれてしまう。

 

「あっけない幕引きだったが……丁度いい。ツツジ台が無くなる前に私が何故君達を狙ったのかを教えてやろう」

 

トレギアはジャンプするとそのままビルに着地し、ビルのの上で説明を始めた。

 

「まずは自己紹介からだ。……内海将、私の正体は君の思った通りだ」

 

「ま、まさか……!」

 

「私の名はウルトラマントレギア。君の大好きなウルトラマンさ」

 

トレギアは自身をウルトラマンと名乗る。

 

「嘘だ!ウルトラマンは架空の話で……!」

 

「グリッドマンがいるんだ。ウルトラマンがいたっておかしくないだろう?私が何故闇の力を使っているかは……そこまで教えなくていいか」

 

内海はトレギアがウルトラマンだと信じることが出来なかった。

しかし、トレギアの胸のプロテクターに押さえ付けられているカラータイマーらしきものが何よりもトレギアがウルトラマンであることを証明していた。

 

「私の目的、一つ目は光の国を破壊するための下準備をしにきたのだ。君達に怪獣達を倒させて闇のエネルギーを奪う。問川さきる達や魔王達もより増幅した闇のエネルギーを吸い上げるため復活させたのだ」

 

「光の国……?」

 

「ウルトラマン達が住む星なんだ」

 

ゆかの質問に答える内海。

 

「ふざけんじゃねえ!問川の親父さんもArcadiaのやまとも殺してるじゃねぇか!」

 

一平は怒りで声を荒げる。

 

「彼らからは予想以上に闇のエネルギーを抽出出来たのでね。あのまま生きててもしょうもないやつらだったんだから死んでも問題ないだろう?」

 

「ひどい……!」

 

六花は悪びれもしないトレギアを軽蔑する。

 

「二つ目、この世には光も闇もないことを君達にわからせてやりたくてね。光の国の連中も君達も物事を一つの面からしか見ない。私の闇の誘惑で響裕太は自分の心をさらけ出すことが出来たのだ。お前達の言う光、つまりは友情に苦しめられた彼を救ったのは闇だったのを忘れたか?」

 

「確かに俺達の友情が裕太を苦しめてたのかもしれない。でも俺達の友情はあいつの孤独を救うことが出来たんだ!」

 

「孤独から救う……?馬鹿を言うな。お前達だけでは何も出来なかった癖に。君の様な光の者は孤独を、闇を悪いものかのように言う。光の力こそが正義だと誇示するかのようにね」

 

トレギアは怒りを抑えながら言う。

 

「闇も光も力の使い方次第だわ。武史君だって新条さんだって元々あなたの言う闇側の人間よ?」

 

「私の言っている事がわからないみたいだな。闇の力を今使っている訳でない彼らは論外だ」

 

あくまで闇の力を使ってるかどうかに拘るトレギア。

 

 

「そして三つ目、それはお前達の言う絆がどんなに意味の無いものかを証明しに来たのだ」

 

トレギアは声は心なしかより低くドスの効いた声になる。

 

「友達や絆が最強の武器と信じて疑わないお前達にわからせてやりたくてね。だから桜ヶ丘とこのコンビューターワールドにあるツツジ台の次元を繋げたのだ。案の定、こっちで問題を起こしたらすぐにお前達はこの世界に来た」

 

「そんなことのために直人君達を、私達を、アカネを……!」

 

「見ててイラつくんだよ。この世界を俯瞰して見てた時からずっと絆を壊したいと思っていたんだ。友達や友情を信じるお前達を絶望の闇に堕とすためにね」

 

「テメー!俺達の絆を馬鹿にするのか!?そもそも俺達の絆は壊れねぇよ!」

 

一平が大声でトレギアを怒鳴る。

 

「……ハァー。煩わしい奴らだ。二言目には絆や友情しか言えない下等な人間が。一人じゃなにも出来ないって言ってるのに気づかないのか?」

 

トレギアはイライラしてきたのか首を掻きはじめる。

 

「絆は呪いだ。切っても切っても纏わりつき解けない。光の力が好きなやつらは平気で軽々しく言いやがる。アイツもそうだ……!」

 

「アイツ……?」

 

裕太はトレギアの言うアイツが気になった。

 

「一度絆を軽んじて痛い目にあっていてね。それでも私は絆というふざけたものは信じないようにしているんだ。そして今、お前達を殺して絆がいかに意味のないものかを証明する!」

 

トレギアは両腕にエネルギーを集中させそのまま漆黒の雷撃をグリッドマン達に浴びせた。

 

「ぐあああああああああ!!」

 

「うおおあああああああ!!」

 

「うあああああああああ!!」

 

グリッドマンもシグマもグリッドナイトもトレギアの攻撃で只でさえ残っていないエネルギーが尽きようとしていた。

 

「や、やめて……!皆を殺さないで!」

 

六花が悲痛な思いで叫ぶ。

 

「どうした?お前達の光の力は、絆はその程度か?……ハッ、瀕死で声すら届いていないな」

 

「や、やめろ!」

 

「逃げてみんな!!」

 

「裕太、直人、武史、新条さん!!」

 

一平達はジャンクを通じて声を送るが最早グリッドマン達には届かない。

 

一人を除いて。

 

「絶対に……諦めない!ここで倒れちゃ……俺を救ってくれたみんなに顔向け出来ない!」

 

直人とグリッドマンの意識が無い中、裕太は気合いと意地で意識を保つ。

 

そして裕太の意識のままグリッドマンは立ち上がった。

 

その姿にトレギアは戦慄した。一瞬だけではあるが、トレギアに畏怖の念を抱かせる程の執念だった。

 

「……響裕太、その執念は認めよう。これで脚本は……物語は終わる」

 

トレギアは再び両腕にエネルギーを集中させ漆黒の雷撃を高出力で放った。

 

ツツジ台を爆炎が包み、轟音が響く。

 

トレギアはツツジ台の希望を全て打ち砕き、絶望の色へと染め上げた。

 

……そのはずだった。

 

「何だあれは!?」

 

煙の中からでもわかるくらいグリッドマンの体が光輝く。

その姿にトレギアは驚愕したのだった。

 



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第23話 ヒカリノキズナ

遅れました。申し訳ない。


「あの巨人、負けちゃうよ!」

 

「つーかアイツ強すぎじゃね……」

 

なみことはっすはグリッドマンとトレギアの戦いを見守っていた。

だが応援していたグリッドマンは絶体絶命だった。

 

「あの巨人が負けたらどうなるんだろう……私達」

 

「まあ、無事じゃすまないよね……」

 

ここ最近あまりにも現実離れした出来事がたて続いていたせいか緊張感が薄れていた二人。

この危機的状況により逆に冷静になってしまっていた。

 

そんな二人のところに一人の少女、怪獣少女が現れる。

 

「あれ、こんなところに小さい女の子」

 

「どうした?迷子になっちゃった?」

 

怪獣少女を見て迷子の子供だと勘違いする二人。

 

「グリッドマンに勝って欲しいでしょ?」

 

「グリッドマン……?あの巨人グリッドマンって言うの?」

 

「何で知ってるの?」

 

「あたし、彼に何度も助けられたから。そのお礼を今したいんだ。そのためにはここにいる人達の光が必要なんだ」

 

巨人の名前に人々の光……。

いきなりの話に二人は困惑してしまう。

 

「みんなで心を一つにしてグリッドマンを応援するんだよ。ガンバレって」

 

「いやいや、そんなんで勝てたらグリッドマン?も苦労しないって」

 

「そうそう」

 

子供の言うことを鵜呑みにしすぎたのかもしれない。

しかし、こんなバカバカしい事は無駄だとわかっているはずなのに、自分達の心はそんな無駄な事をすべきだと訴えてるような気がした。

 

「「……ガンバレー!グリッドマン!」」

 

二人は同時に大きい声でグリッドマンを応援する。

当然のように周りの人達の注目を集め顔が熱くなってくる二人。

 

周りの人々がなみことはっすに注目しているのを利用して怪獣少女は体を大きく使って話す。

 

「みんな!あの大きい巨人、グリッドマンを応援して!あたし達の声が届けば彼はもっと強くなる!」

 

怪獣少女の言葉に一番最初に反応したのは子供達だった。

 

「ガンバレー!」「がんばれグリッドマン!」

 

子供達の声に続いて段々大人達も応援する声が徐々に大きくなる。

 

「俺はあの巨人に助けられた事がある!」

 

「私も……昔、助けてもらったわ!頑張って!」

 

「俺達の町を救ってくれ!」

 

遂には学校に避難している全員がグリッドマンを応援しはじめたのだ。

 

「この声は私達アノシラスの力によって想いと一緒にツツジ台中に広がっていく。だから頑張って、グリッドマン!」

 

グリッドマンを応援する声と想いはアノシラスの音波と一緒にツツジ台中を駆け巡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝くグリッドマンに驚愕するトレギア。

 

「どういうことだ……!?」

 

トレギアは素早く状況を理解しようとする。

 

よく見ると瀕死寸前のシグマとグリッドナイトが数少ないエネルギーをグリッドマンに与えていたのだ。

 

トレギアの光線を防いだグリッドマンだったが、体の光は徐々に失われていった。

 

「フン……驚かせるな。今度こそ終わりにするぞ」

 

トレギアが光線を放とうとしたその時。

 

「がんばれグリッドマン!」

 

「負けないでー!!」

 

「根性見せろよー!」

 

「グリッドマーーン!!」

 

音波と共にツツジ台の人々の声が町全体に広がったのだ。

 

「これは……この世界の人達の声?」

 

裕太は暖かい気持ちになる。体の底から力が湧いてくるようだった。

 

「……耳障りだな。こいつらから先に消すか」

 

トレギアはそう言うと一番初めに学校へ向けて光線を放った。

 

「危ない!」

 

「あそこにはなみことはっすが!」

 

ゆかと六花は声を荒げて言う。

 

「「キャーーーッ!!」」

 

なみことはっすは悲鳴を上げる。

 

轟音が鳴り響くなか、何も感覚はない。死んでしまったのだろうかと思っていると怪獣少女が側に来た。

 

「大丈夫だよ。見てごらんよ」

 

二人が顔を上げると光線は光の壁によって弾かれたのだ。

 

そして周りをよく見て見るとアノシラス達の大群がツツジ台を囲うかのように並んでいたのだ。

 

「私のお父さんが色んな電子楽器に住む仲間達を連れてきてくれたんだ。さあもっとみんな声を出して!心の底からグリッドマンの勝利を願って!」

 

怪獣少女の言葉に呼応するかのように心地よい音波が町を包む。

ツツジ台の人々はより大きい声で、より大きい想いでグリッドマンを応援する。

 

その声はやがて光となってグリッドマン達を包む。

その光はグリッドマン達をキズを完全に癒したのだ。

 

そして、六花の家にいる四人も光に包まれた。

 

「なんて暖かい光なの……!?」

 

「これが……この町の人々の想いなんだわ!」

 

「見ろよ!グリッドマン達の傷が癒えていくぜ!」

 

「おい!俺達の腕についているのって……!?」

 

内海は自分達の腕に装着されているモノに驚いた。内海に言われて気付いた三人もビックリしている。

 

腕にはアクセプターが着いていたのだ。

 

「裕太……よく戦ってくれた」

 

「カッコよかったぜ、裕太」

 

グリッドマンと直人も目覚める。

 

グリッドマンが回復したシグマとグリッドナイトを起こし顔を見合わせた。

 

「なんだこの光は……!?ふざけるな!作り物分際でいきがるな!」

 

トレギアは町を包む光の壁を壊そうとする。

 

力一杯の黒色稲妻の光線をぶつけると壁にひびが入り始めた。

 

「時間はない。皆の心を一つに合わせるぞ!」

 

そう言うとグリッドマン達は光に包まれそのまま消える。

 

グリッドマンの掛け声を聞いた全員がアクセプターに手をかざした。

 

「行くぜ、みんな!」

 

一平がゆか、六花、内海に言う。

 

「「「「アクセース……フラッーーシュ!!」」」」

 

四人はジャンクの中へ吸い込まれて行く。

 

「みんな!」

 

「待ってたぜ!」

 

「さあ、反撃開始だ!」

 

裕太と直人、武史が四人を迎えた。

 

そこにはグリッドマンにシグマ、グリッドナイト、そして新世紀中学生がいた。

四人は精神世界に来ていたのだ。

 

そして……

 

「アカネ……!」

 

「六花……!」

 

二人は思わず抱き合う。親友同士の久し振りの邂逅に二人とも込み上げそうなものを抑えようと必死だった。

 

「ごめん……六花との約束……」

 

「ううん、来てくれて本当に嬉しかった……」

 

「六花、アカネ。今はまだ再会に喜ぶ時ではない」

 

グリッドマンは周りにいる仲間達を見回す。

 

「内海……どうやら君との約束も果たすことが出来そうだ」

 

「……!………ああ!」

 

グリッドマンは別れの時の内海との約束を覚えていた。

だが内海もまさか自分がグリッドマンになれるとは思っていなかった。

まさに光が起こした絆の奇跡だった。

 

「みんな!心を一つに!」

 

全員が目を閉じる。

全員が暖かい光りに包まれていく。

 

 

 

 

一方、突然消えたグリッドマンに困惑していたトレギアだが、自身の目の前に光が段々と集まっていくのをみるやいなや中心部に光線を放つ。

 

だが光線はかき消された。

 

やがて町全体を包んでいた光がその中心部に集っていく。

そしてそこから身体が光輝くグリッドマンが現れたのだ。

 

腕の両方にはグランアクセプターとナイトアクセプターが、そして胸のコアにグリッドマンのアクセプターが付いている。

 

「これって……俺達みんながグリッドマンになったのか?」

 

「すげー!身体中から、心の底から力が湧いてくる!」

 

裕太と直人は絆が生み出した光の力を実感する。

 

「また、絆の力か……反吐が出るッ!」

 

トレギアはグリッドマンに突進する。

 

「行くぞ!みんな!」

 

グリッドマンは突進してくるトレギアを迎え撃つ。

 

拳と拳がぶつかり合うとツツジ台に爆風が起こり、蹴りと蹴りがぶつかり合うと爆音が鳴り響き、光線と光線がぶつかり合うと爆炎が巻き起こる。

 

そんな時間が長い間続く。

 

町全体を音速以上の速さで飛び回る巨人達を人々は見ていた。

そして絶え間無くグリッドマンを応援していたのだ。

 

応援が続くかぎり、光が絶えない限りどんどん力が強くなるグリッドマン。

 

トレギアは光輝くグリッドマンが自分と同程度の強さになっていることに気付いた。

 

「本当にお前達は気にくわん。私は絆や友を最強の武器だと思う奴らに絶対に負けん!」

 

「それなら、お前は俺達に勝てない!」

 

裕太はトレギアを一蹴する。

 

「作り物がほざくな!一人でなにも出来ない失敗作が!」

 

「お前の言う通りだぜ。俺達は一人じゃ何も出来ない」

 

激昂するトレギアに直人は言う。

 

「私達は一人じゃ何も出来ない。あなただってそうよ」

 

「だから僕達は力を合わせるんだ!」

 

「力を合わせりゃどんな強大な敵にも負けないぜ。お前にだってな!」

 

直人に続いてゆかと武史と一平も言う。

 

「それはお前達が弱い存在だからだ!私は闇に身も心も堕として力を手に入れた!たとえ一人でも強大な力を持つことが出来た!光や絆がなくてもお前達を消すことなど造作もない!」

 

「なら今すぐ私達を倒してみろ」

 

トレギアの言葉にシグマが返した。

 

するとトレギアは距離を取って光線を撃ち始めた。

グリッドマンも格段に威力の上がったグリッドビームでトレギアの光線を打ち消していく。

 

「お前がさっき言ってた『アイツ』って……その親友もお前と同じウルトラマンなんだろ?たとえお前が闇に堕ちて道を踏み外しても、きっと今もどうにかして助けようとしてくれてる。それが俺の知ってる『ウルトラマン』だからな!」

 

内海の言葉を聞いたトレギアは何も言わずに攻撃を更に強めた。

 

「あなたは強い。でも間違っているのは自分でもわかってるでしょ!?」

 

「黙れ!」

 

六花の言葉にトレギアは益々攻撃を激化させる。

 

「光か闇かが全てではない。自身の力をどう使うかだ」

 

「俺のようにな」

 

グリッドマンとグリッドナイトがそう言うとグリッドマンは激化したトレギアの攻撃を全て防いだ。

 

「あなたと戦ってみてわかった事がある。あなたは私と一緒なの。ずるいところも、弱いところも」

 

「貴様と私が一緒だと?笑わせるな!」

 

アカネの言葉に憤怒するトレギア。

 

「俺はお前に一度騙されて力を得ようとした。でもそれは俺が内海や六花に向き合うためじゃなかった。二人と向き合うのが怖くて力に逃げてしまっただけだった。お前は俺や新条さんと一緒なんだ!」

 

「作り物と出来損ないめ……戯れ言すら言えなくしてやる!」

 

「トレギア、お前は光も闇もないって言ったな?でもお前は闇の力で俺達を陥れようとした。この矛盾が指し示すのはひとつだけだ。お前は光や絆が怖いんだ。光を恐れて、絆を信じられなくなって闇に逃げただけだ!」

 

裕太の言葉を聞いたトレギアは光線を撃つのを止めて顔を下に向けた。

力一杯の手の握り拳からは自身の爪のせいで傷が出来、エネルギーが漏れ出していた。

トレギアの体は痙攣しているのかと見間違いそうになる程怒りで震えていた。

 

「私が……光から逃げているだと……?」

 

次の瞬間、トレギアが解放した闇の力がツツジ台中を闇でつつむ。

 

「……決めたぞ。貴様達もこの世界も、桜ヶ丘も全て!……私の力で滅ぼす!」

 

トレギアは怒りに任せて、体を竜巻のようにして突進した。

 

しかし怒りに身を任せたトレギアの攻撃をグリッドマンは

簡単に避けてみせた。

 

「どうした?怒りで攻撃がワンパターンになっているぞ?」

 

「ふざけるな!!」

 

トレギアの連撃は続く。

タイミングよく繰り出されるキックやパンチ、一瞬でも隙をみせればグリッドマンの体のどこかに雷撃を流し込もうとするが、グリッドマンはトレギアの攻撃を全てかわしてみせた。

 

「小癪な……!」

 

トレギアは空のゲートから無数の黒い光線をグリッドマンへと降り注がせる。

 

グリッドマンを追尾する無数の黒い光線が襲う。

グリッドマンは空中へ飛ぶと光線同士が相殺するようにツツジ台の空を飛び回る。

 

トレギアはそこへ光線を打ち込むべくグリッドマンを追いかけ回す。

それでもグリッドマンはトレギアの攻撃を最小限の動きで避ける。

まるでさっきまでのトレギアのように。

 

そしてトレギアが段々と大振りの技を繰り出すようになる。

一つ一つの攻撃に僅かながらの隙が生まれるのをグリッドマンは見逃さなかった。

 

そして

 

「ここだッ!」

 

グリッドマンの超電導キックがトレギアに炸裂する。

 

「グハァッ……!」

 

トレギアに初めてと言っていい程の重いダメージを与える事が出来た。

 

グリッドマンの攻撃は続く。

グリッドライトセイバーで十字に切りつけ、サンダービームで動きを鈍らせるとグリッドビームで止めの一撃と言わんばかりの威力でトレギアを攻撃する。

 

トレギアの動きはフラフラと目に見えて鈍くなる。

 

「これで終わりだ!」

 

「………!」

 

グリッドマンはグリッドマンキャリバーを召喚するとトレギアをそのまま真っ二つに切ろうとした。

 

その時だった。

 

トレギアが突如闇に消えたかと思うと、グリッドマンの後ろに回り込み首根っこを掴む。

 

「私が隙を見せたと思ったかい?」

 

自身の持つありったけのエネルギーを黒い稲妻の光線へと変え、グリッドマンの体へ流し込む。

 

グリッドナイトを倒した技を受け、さすがにダメージを負うグリッドマン。

さらに闇のゲートからまたしても無数の光線が降り注ぎグリッドマンへと攻撃を始めた。

 

「ぐああああああ………!!……だが、私達は絶対に負けない!」

 

グリッドマンはトレギアの腕を掴み背負い投げをして地面に叩きつける。

 

トレギアはすぐに起き上がるとツツジ台中に広がった闇を自身の光線に集め始めた。

 

「みんな、これが最後だ。私達の想いを、絆を奴にぶつけるぞ!」

 

グリッドマンの言葉に全員が応えた。

 

グリッドマンも身体の光を光線に集め始めた。

 

「この世界ごと消し炭にしてやる!」

 

トレギアの光線は今までで一番の威力でグリッドマンへと発射される。

トレギアの周りのビルが一瞬にして消し炭になっていることからもとんでもない威力なのがわかる。

 

「グリッド……トリプルハイパービーーーム!!」

 

グリッドマンは両腕をグリッドビームを撃つ時の形にして両方から射出するだけでなく、胸のコアからも光線を出した。

 

両方の光線はアノシラスの光の壁内を少しの空間を空けることなく埋め尽くされた。

 

光線の威力は互角だった。

どちらも一瞬でも光線の威力を弱めた方が負ける……。

お互いが傷だらけで万が一どちらかが勝っても勝者が立っていられるほどの体力がのこっているのか。

グリッドマンもトレギアも紙一重だった。

 

そして。

 

「うおおおおおお!!!!!」

 

グリッドマンはそのままトレギアの光線を押しきってトレギアにぶつけた。

それと同時にアノシラスの光の壁は破壊された。

だがグリッドマンの光線は壊れた町を修復してもいた。

 

「見て!町が元通りになっていくよ!」

 

「一週間前と一緒だ……!」

 

「グリッドマンが勝ったんだ!」

 

人々が喜ぶのも束の間、トレギアは闇のゲートからグリッドマンを不意討ちで引っ掻き傷のような光線を連続で出した。

 

「ぐああああっ!」

 

グリッドマンはダメージを負うだけでなく隙が出来てしまう。

 

トレギアは光線を押しきられる直前にワープして避けていたのだ。

 

「終わりだ!グリッドマン!」

 

トレギアは自身の闇のエネルギーを体に集め彼の親友の技、ウルトラダイナマイトの様にしてグリッドマンへ突っ込んだ。

 

「今だ!俺達の奥の手だ!」

 

「『追放プログラム』を使うのよ!」

 

一平とゆかがそう言うとグリッドマンの体はより光のエネルギーを増した。

そして突っ込んでくるトレギアを迎え撃った。

 

「行くぜ!みんな!」

 

「お前こそ終わりだ!トレギア!」

 

直人とグリッドマンはトレギアのカラータイマーの部分へパンチを繰り出すとそのまま追放プログラムによって増した光のエネルギーを流し込む。

 

「な、なんだこの力は!?」

 

トレギアは光のエネルギーが体に流し込まれると自分の力が段々と失われる感覚がわかった。

 

「お前の体の一部をプログラム化したんだ。これでお前はこの世界も、僕達のいる桜ヶ丘の世界も二度と来れなくなる!」

 

四人の正義の結晶である『追放プログラム』。

武史はこの時のために自分達はこの世界に来たのだと悟りながら言った。

 

「ぐあああああああぁぁぁぁぁ!貴様らの様なちっぽけな存在に……!!」

 

「私は……また光に、絆に敗れるというのか!!?」

 

かつての親友を。

自分の運命に立ち向かったウルトラマンを。

家族の、兄妹の絆を信じるウルトラマンを。

 

刹那であるが思い出していた。

 

トレギアはグリッドマンに闇のゲートまで吹っ飛ばされるとゲートごと消えたのだった。

 

「勝った……のか?」

 

「俺達……やったんだよな……?」

 

「信じられない……」

 

「勝ったんだ……私達……グリッドマンとして……」

 

裕太と内海、六花、アカネは未だに実感出来ていなかった。

 

「ああ、勝ったとも。私達の絆の勝利だ」

 

グリッドマンがそう言うと直人達はおおはしゃぎで喜び出した。

 

「よっしゃあああ!」

 

「やったわ!私達、倒したのよ!」

 

「全く、いい気味だったぜ!」

 

「紙一重だったね、今回は」

 

「ま、まさか勝てるとは……」

 

「何言ってんだキャリバー!正義は勝つんだよ!」

 

「ま、みんな無事で何よりだね」

 

「みんな、よく頑張ったな」

 

グリッドマンは最後にツツジ台全体へフィクサービームを降り注がせるとそのまま消えていった。

 

ツツジ台の至るところで歓声が湧く。

 

「はっす!勝っちゃったよ!」

 

「さすがグリッドマン!信じてた~!」

 

なみこもはっすも大喜びで抱きあっていた。

 

「みんな、協力してくれてありがとうね」

 

怪獣少女がアノシラスの大群に言うと、彼女の父親以外は元のコンピューターワールドへ帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、お帰り~。みんな頑張ったねぇ~」

 

ジャンクから戻ると六花ママがご飯を用意して待っていた。

 

「ママ!?」

 

「あんた達、かっこ良かったよ。お腹すいてんでしょ?」

 

「イエーイ!六花のママさん最高!」

 

「あ、一平!俺の食うなよ!前のプリンみたいに!」

 

みんながワイワイ騒ぎながら食べようとするなか、二人の少女だけが浮かない顔をしてた。

 

「……行っちゃうの?アカネ」

 

「だって私、この世界にいちゃいけないから」

 

この世界に神様はいらない。アカネも六花もわかっていることだった。

 

「それに、六花との約束も絶対に守りたいから」

 

「……でも」

 

アカネのためを想うのであれば逃げ場所であるこの世界にいて欲しいと思ってはいけない。

でも、友達と一緒にいたいと思う気持ちに嘘をついてまでそれを通す意味はあるのだろうか?

 

矛盾した気持ちを精一杯抑えて作り笑いをする六花。

 

「なにしんみりしてんだよお二人さん!」

 

「そうそう、そんな意地はってないで素直に一緒にいたいって言えばいいじゃん」

 

直人と一平が言う。

 

「でも私、弱い人間だから。優しいみんなと一緒にいたら、この世界にまた閉じ籠っちゃうかもしれない」

 

アカネは弱々しい声で言う。

 

「それは違うよ新条さん!」

 

「だってあなた、ここへ逃げて来た訳じゃないわ。私達を助けるために来たんですもの。もう昔のあなたじゃないわ」

 

武史とゆかも続く。

 

「新条さん!俺、記憶ないからもっと新条さんの事知りたいんだ!」

 

「お、俺も!今の新条さんなら大丈夫だ!」

 

裕太と内海も続いて言う。

 

「友といる時間はとても大切なものだ」

 

「新条アカネ、俺はどっちでも構わない」

 

「……そう言えば、トレギアが作った次元の穴が修復していない。直に完全に塞がるだろうが万が一の事を考えると三日はここにいなくてはな」

 

グリッドマン、グリッドナイト、シグマが言う。

 

「……アカネ?三日だけでもいい。私はアカネといたい」

 

六花はアカネの手を握る。

 

「私も、六花と……みんなと一緒にいたい!」

 

そうして六花とアカネは互いに涙を溢しながら笑いあった。

 

「よっしゃぁ!残された三日分遊びまくるぞ!」

 

六花の家は笑顔に包まれたのだった。

 

「彼らがいなければ負けていた…。我々も精進せねば」

 

「た、助けられなかった命もある」

 

「俺達の責任だ。強くなんねーと」

 

「彼らが平和な世界をいきるためにも、ね」

 

新世紀中学生は裕太や直人達を見守りながら自身の更なる成長を誓うのだった。

 

「……ねえ、シグマ。ホントはすぐにでも帰れるんじゃない?新条さんが来るときトレギアもいたし次元の穴は塞がれてなかったけど問題なかったじゃないか」

 

武史がヒソヒソとシグマに言う。

 

「その通りだ武史。でも彼女が素直になるには口実が必要だと思ってな」

 

「へー、やるねシグマ!」

 

シグマの言葉に小さい声で感心する裕太。

 

「裕太、君こそトレギアがいなくなったなら記憶が戻ったんじゃないか?」

 

「……うん。トレギアを追い出した途端、昔の事全部思い出したよ。でももういいんだ、記憶なんて。こうやってみんなと強い絆で結ばれてるのが何より嬉しいんだ」

 

裕太は爽やかな笑顔を見せた。

 

武史はかつて黒いグリッドマンとしてこの町に現れた彼はどこにもいないと確信したのだった。

 



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