普通の学生が「手違い」で異世界から来るそうですよ? (蘇我入鹿)
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第1話 プロローグ

新しく作り直しました。


キャラ設定+本編

 

楠木(くすのき) 大輔(だいすけ)

 

中3のときにある暴力事件を起こして一時期停学処分を受けていた。

それまでは「何も考えていない大人しい奴」と周りに思われていたが、事件後は「何を考えているか分からない危ない奴」としていじめられはしなかったが完全に孤立していた。 

 

現在は16歳の高校2年生で、中学の同級生がいない高校に入学して、大人しく目立たないように読書(趣味とかではなく、本を読んでいればあまり他人と関わらなくてもいいから)ばかりしていた。

勉強や運動は得意でも苦手でもない。

黒髪、黒目、顔は中性的、風紀に引っかからない程度の髪型、普通の容姿である。

性格は、暴力事件前は大人しく優しかった。今は大人しいということは変わってないが基本的に他人に関心がなく、自分を中心に損得勘定と空気を読んで動く性格になっている。

また、大輔は暴力事件を起こしてはいるが、正真正銘ただの人間であり勉強能力、学習能力、運動能力等は普通である(性格や言動、行動などはその限りではない)。

 

 

俺、楠木大輔は灰色の青春を送っている。

だから授業終了後、誰とも目を合わさず、誰とも話さず、1人読書を嗜みながら空気と化して教室を出る。

周りのリア充供は、わいわいきゃっきゃしている。

爆ぜろリア充!なんてことには一切興味がない。

というよりも、中学の時に起こした暴力事件で特に両親にはかなりの迷惑もかけたので、何のトラブルもなく高校を卒業し就職して早く自立したいと思っている。

だから、リア充とか関係なく他人に興味や関心を持たないようにしている。

そうやって、俺はいつものように今の自分を肯定しながら帰路に着いた。

 

ただいまも言わずに鍵を開けて家へと入る。

俺は暴力事件のこともあり地元を離れて1人暮らしをしている。

この家には面識のない遠い親戚が1人で住んでいたが病気で亡くなり、ちょうどタイミングよく、俺も地元を離れようと思っていたのですんなりとここに住むことが決まった。

お金関係は全部両親に丸投げしているが。

 

「まあ、学生が1人で住むにしては広すぎたけど」

 

平屋だが空き部屋が5つもあり、大人数でも泊まれるぐらい広いし、なぜかトイレが2つもある。

正直広すぎて引いた。

改めてこの家の広さに呆れつつ、自分の部屋に足を進める。

部屋に入ると、机の上に身に覚えのない紙……手紙らしき物が置いてあった。

 

「……ストーカーか」

 

わざわざ手紙を置きに来る空き巣はいないだろうし、両親なら電話かメールをすればすむ。それに俺の机じゃなくリビングでもいいし。

それでストーカーを疑ったんだが……さすがに自意識過剰だな。

 

「まあよく分からないけど、とりあえず見てみるか」

 

俺は考えなしに封を切った。

すると、

 

後悔(・・)多し異才を持つ少年少女に告げる。

 その才能を試すことを望むのならば、

 己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、

 我らの〝箱庭〟に来られたし』

 

 

「ん?いったい何のイタ―」 

 

ズラ――とは言葉が出なかった。

何の前触れも無く突然、大空に景色が変わっていた。

 

「ちょっ、えっ、なっ!?」

 

あまりの突然のことに頭が回らず言葉が上手く出てこないが、どうにか感情が状況を整理してくれた。

 

「死ぬううううううううぅぅぅぅぅ!!?」

 

そして、俺は幾つかの緩衝剤みたいな物で衝撃を和らげて着水した。

こうして俺は完全なる異世界に来てしまった。

 

 




次の話は早いうちに投稿します。


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第2話 黒ウサギと会うそうですよ?

ほぼ説明回です。


俺は岸へと這い上がり、へたりこんで辺りを見回すと俺と同じように濡れている人が3人いた。

全然気づかなかったが、俺以外にも一緒に落下してきたようだ。

 

「信じられないわ!まさか問答無用で引きずりこんだ挙句、空に放り出すなんて!」

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」

「……いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?

「俺は問題ない」

「そう。身勝手ね」

「……大丈夫?」

「に、にゃにゃにゃ……!」

「此処……どこだろう?」

「さあな。まあ、世界の果てっぽいものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねえか」

 

え?世界の果て?大亀?何の話だ?

というか、あの状況で何でそんな余裕があるんだコイツは。

 

「まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」

「そうだけど、まずは“オマエ”って呼び方を訂正して。――私は久遠飛鳥よ。以後は気を付けて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴女は?」

「……春日部耀。以下同文」

「そう。よろしく春日部さん。……野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」

「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しておけ、お嬢様」

 

心底楽しそうにしている逆廻十六夜。

高慢そうに顔を背ける久遠飛鳥。

我関せずながらも会話を気にはしている春日部耀。

 

俺は思った。

何で平然と自己紹介が出来て、何でこの状況に適応して、何で……楽しそうなんだよ。というか、俺がおかしいのか。

学校から帰ってきて、部屋に入って手紙を読んだら紐なし&パラシュートなしのバンジーをさせられて……そうか、これは夢か。そうだ夢に違いない。でなければ、こんなことは有り得えない……。

やっと少し落ち着いて、頭が回り始めての自問自答。

結論は訳が分からない状況ということだけが分かった。

 

「……本当に大丈夫?」

 

春日部の声で3人の視線が俺に集まっていることに気付いた。

続けて、

 

「何か私達のことを観察してたようだけれど」

「おい、腰抜け野郎。手でも貸してやろうか」

 

よく分からないが、3人とも腰を抜かしている俺に気をつかって?しばらく無視してたみたいだ。

なんとも斬新な気づかいだ。

心配するか馬鹿にするかは置いといても、普通気づかうならもっと他にやり方があるだろう。

 

「ああ、悪い、大丈夫だ。えーっと……何だっけ?」

「「「名前!!」」」」

「ああ、そうか。えーコホン、俺は楠木大輔だ。よろしく」

 

他人とこうやってフランク?に話すは久しぶりだな。

いつ以来だろう……。

 

 

――そんな4人を物陰から見ていた黒ウサギは思う。

(うわぁ……楠木大輔さん以外はなんか問題児みたいですねえ……)

召喚しておいてアレだが……お三方が人類最高クラスのギフト所持者であることを、なんとなく理解した。

しかし、

(あのお方……楠木大輔さんは本当に大丈夫なのでしょうか)

 

 

俺の自己紹介後、

 

「で、呼び出されたはいいけど何で誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた“箱庭”とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」

「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」

「……この状況に対して落ち着き過ぎているものもどうかとは思うけど」

 

口々にこの状況の文句を言っているが、

 

「俺的には、そもそも何でパニックの1つも起こさないのか、そっちの方が疑問なんだけど……」

 

とにもかくにも、この状況にすんなり適応しているこいつらは異常だ。

 

 

――(楠木大輔さん以外のお三方は、良くも悪くも適応するのが早すぎです。まあ、悩んでいても仕方がないデス。これ以上不満が噴出する前に腹を括りますか)

 

 

「――仕方がねえな。こうなったら、そこに隠れている奴(・・・・・・・・・)にでも話を聞くか?」

 

逆廻のその一言で俺以外の視線が一点に集まる。

物陰から出てきたソイツにはウサ耳があった。

ここにきて何かそこそこ見慣れたもの(・・・・・・・・・・・・)が出てきた。

コスプレか?

それなら、かなりイタイ奴だが。

それよりも、逆廻の発言が気になるので黙って話を聞くか。

 

「なんだ、貴方も気付いていたの?」

「当然。そっちの猫を抱いている奴も気付いていたんだろ?」

「風上に立たれたら嫌でもわかる」

「……へえ? 面白いなお前」

 

は?3人とも気付いていたのか?

な、なら、とりあえず、

 

「何だ、全員気付いていたのか」

 

冷静に平静に俺は空気を読んだ。

さっきのとんでも状況よりはましだったからか、今回は頭が回った。

ここで1人だけ気付いていなかったら“腰抜け野郎”からランクダウンしそうだし、これ以上恥をかきたくない。

 

「まあ、あんだけ熱い視線を送られたら気付くよな」

 

……これはちょっとまずかったか。

さすがにこれ以上の恥をかきたくなくて、適当なことをつい付け加えてしまった。

 

「「「……へえ」」」

 

久遠と春日部は驚いてはいるが逆廻だけが何か気付いたみたいに不敵に笑ってるし。

うーん“見栄っ張り”がプラスされたかも。

 

「や、やだなあ。黒ウサギは隠れていたわけではないんですヨ。出るタイミングを窺っていただけで。そんな怖い顔なされずにここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」

「断る」

「却下」

「お断りします」

「……えっーと、無理?」

 

俺は空気を読み続けるしかないみたいだ。

 

「あっは、取りつくシマもって、最後の方は迷うなら聞いてくださいヨ」

(肝っ玉は及第点。この状況でNOと言える勝ち気は買いです。それにしても楠木大輔さんはお三方とは違って普通の方みたいで良かったです)

 

ここからは目の前で起きたことをまとめる。

先に言うと俺は適当に空気を読んだだけなので静観していた。

が、あいつらは違った。

黒ウサギ?の耳を触ったり、鷲掴んだり、引っ張ったりして、散々に黒ウサギで遊んで、いや弄んでいた。

 

「本物なのか」

 

だんだんスケールが小さくなって変わる状況に、慣れてきた。

黒ウサギ?は、ぶつぶつと恨めしいことを呟いていたが、「さっさと進めろ」の一言で持ち直して、両手を広げ語り始める。

 

 

「ようこそ、“箱庭の世界”へ!我々は恩恵(ギフト)を与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかと召喚いたしました!――」

 

他のことも含めて黒ウサギの長ったらしい説明をまとめると、

・ギフトゲーム

修羅神仏などから与えられた恩恵(ギフト)を用いて競いあうためのゲーム。

この世界では、強盗や窃盗などの常識的に考えて犯罪と呼べるものを除けば、法とも言える。

主催者(ホスト)

ギフトゲームを開催した者。全ては自己責任。

・コミュニティ

まあ、俺達の世界の感覚で言うと町みたいなもの。

・箱庭

この世界のこと

 

ざっくりまとめるとこんな感じだが、俺的には黒ウサギの言った『あなた方は普通の人間ではございません』という言葉が頭の中をぐるぐる回っている。

俺は間違いなく普通の人間のはずだ。

逆に、俺以外の3人は黒ウサギの言葉を聞いても別段に驚きもせず反応していなかったので、『普通の人間(・・・・・)』ではないようだ。

ここで考えられるのは、あいつらは何かしらの異能、才能などの恩恵(ギフト)を持っているということだ。

つまり俺も、もしかしたら、万が一の可能性で、何かの手違いで、恩恵(ギフト)を持っているかもしれないと……。

普通の俺ならこんな中2病全開の著しく痛い発想は出てこないし、嫌悪しているだろう。

だが、俺も昔はヒーローとかに憧れた幼少期はあったのでやはり期待はする。

ただ願望はそうだが、現実は最初に思った通り心当たりが嫌というほどない。

さてどうするか。すでに俺の普通という感覚がマヒしてるし。

 

「待てよ。まだ俺が質問していないだろ」

 

静観していた逆廻が、威圧的な声を出す。

 

「……どういった質問ですか」

 

少しの間をおいて、真剣な表情で、

 

「この世界は……面白いか?」

 

久遠と春日部も無言で黒ウサギを見つめて返事を待つ。

その前に俺も山ほど質問したかったが、何もしなかった。

いや、出来なかった(・・・・・・)

俺はたとえ何かしらの恩恵(ギフト)を持っていたとしても、単純に帰る方法を聞きたいと思った。

ただし、この質問をした時に手紙に書いてあった『世界の全てを捨て』について、黒ウサギが元の世界の未練を聞いてくるだろうとも思った。

まあ、そのことは俺も適当に未練がある、と答えようと思っていたが、もし仮にあの手紙が世界に未練が無い者(・・・・・・・・・)だけにしか届かないような条件があったら話は変わってくる。

箱庭の世界にはリアルに修羅神仏がいるらしいし、人間如きの心の中なんて読めても不思議じゃない。

それでも帰りたいと言えばいいかもしれないが、本当に心の底で未練が無いと思っていた場合、俺はそんな世界に帰って生きていけるだろう(・・・・・・・・・)か。

そこまで考えたうえで、引きとめられて箱庭に留まった場合、「俺には恩恵なんて無い」と正直に話したとき、役立たずな俺を黒ウサギはコミュニティに入れてくれるのだろうか。

答えなんて出ない。

俺と黒ウサギは出会ったばかりで、お互い何も知らないのに拒否しないとは言い切れない。

あいつらはこのままいけば黒ウサギのコミュニティに入るだろうし、あいつらとも出会ったばかりで黒ウサギが拒否したときに説得とかをしてくれるか分からない。

まあ、今までのところ、逆廻以外はそんな奴らではないとは思うが。

俺にはこの短時間でその人の性格などが理解できるほど観察とかしたことが無いし、しようとも思ったことが無い。

まして、話を聞く限りこの箱庭の世界で1人で生きていける自信なんて全然無いし、恩恵を持っていない俺を入れてくれる他のコミュニティがあるかどうかも分からない。

これらを踏まえて何事もなければ流れ上、黒ウサギのコミュニティに入れてくれそうだし、何にしても箱庭の世界をもっと知らなければということも含めて、俺は何も質問せず黒ウサギの返事を期待もせずにただ待った。

 

「――YES」

 

 




次まではすぐに投稿するつもりです。


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第3話 ケンカを売買するそうですよ?

令和になったので本気出す・・・


「ジン坊っちゃーン! 新しい方を連れてきましたよー!」

「お帰り、黒ウサギ。そちらの3人の方が?」

「YES!こちらの4人の御方が……え、あれ?もう1人いませんでしたっけ?目つきが悪くて、かなり口が悪くて、態度が悪くて、頭が悪……ではなく、全身から“俺問題児!”ってオーラを放っている殿方が」

 

このウサギ、本人がいないからってけっこう言うな。

もっとへりくだるウサギかと思っていたんだが。

 

「ああ、十六夜君のこと?彼なら“ちょっと世界の果てを見てくるぜ!”と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」

 

そうだな、逆廻はすんごいスピードで駆けていった。

少なくとも、あいつが化け物で問題児ということが分かるエピソードになったな。

ちなみに、驚くことはもう止めた。俺はここが『ド○ゴンボール』の世界だと仮定することにした。

アレを基本に考えれば、ほとんどのことは乗り切れるだろうし。

むしろ、アレを超えるような世界なんて考えたくもないが。

 

「な、なんで止めてくれなかったんですか!」

「“止めてくれるなよ”と言われたもの」

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

「“黒ウサギには言うなよ”と言われたから」

「嘘です、絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう!」

「「うん」」

「大輔さんはなんで教えてくれなかったのですか!」

 

ガクリ、と落ち込んでいる黒ウサギ。

俺は閃いた。

逆廻という超問題児、それを止めない久遠と春日部の問題児、この3人に振り回される黒ウサギ。

そうか、黒ウサギのフォローをやればいいのか。

黒ウサギに恩を売っとけば、何もなくてもコミュニティには残れるかもしれない。

我ながらネガティブな発想だが、たぶん今はこれがベストだろう。

 

「悪いな黒ウサギ。気付いてはいたんだが、逆廻はちょっと問題児みたいだったから、“世界の果て”とかで、迷子にでもなれば大人しくなるかと思って」

 

こうやって模範生アピールしてポイントを稼げば、当面は大丈夫だろう。逆廻には悪いが。

 

「確かに、黒ウサギももう少し大人しくしてくれればとは思いますが」

「た、大変です!“世界の果て”にはギフトゲームのため野放しにされている幻獣がいます!」

「幻獣?」

 

黒ウサギによると凶暴なリアルファンタジーモンスターがいると。

それってヤバくね?

最悪、逆廻が幻獣に殺されても自業自得だが、それだと俺にも責任があることになるし。

何やってんだよ、あいつ。

 

「あら、それは残念。もう彼はゲームオーバー?」

「ゲーム参加前にゲームオーバー?………斬新?」

「冗談を言っている場合じゃありません!」

 

ジン坊っちゃん?が必死に事の重大さを訴えているが、久遠と春日部は肩を竦めているだけである。

そして、訂正があった。

久遠と春日部も超問題児だった。

 

「黒ウサギ、俺達(・・)も逆廻を助けに行った方がいいよな?」

 

俺の心に思ってもいない提案に対して、久遠と春日部は意外そうで迷惑そうな顔で俺を見る。

俺が行く?3秒で死ぬだろうけど。

この提案はリアルファンタジーモンスターがいるところに自ら助けに行くと提案すれば、俺には何かしらの恩恵があると思わせれるはずだし、仲間想いという印象を与えることが出来る。

まあ、本当に行くことになったら真実を話して土下座でも何でもやってコミュニティに入れてもらおう。

なんか、“箱庭”に来て空気と損得勘定でしか行動してないな。

俺の方がよっぽど問題児かもしれないな。

 

当の黒ウサギはやや複雑そうな顔つきで、

(大輔さんだけは、他の御三人様とは違うようですね。……心が痛いです。はあ、とにかくここは)

 

「その気持ちは嬉しいのですが、“世界の果て”の場所が分からない大輔さん達を行かせるわけには参りません」

 

俺が心から望む返事を貰っていることがばれないように「そうか」と呟いた。

 

「ジン坊っちゃん、申し訳ありませんが、御三人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

黒ウサギはジン坊っちゃんの許可を得て、艶のある黒い髪を淡い緋色に染めて、あっという間に跳んで行った。

踏みしめた地面には亀裂が入っていた。

どうやら黒ウサギは箱庭の創始者の眷属らしく、言動と態度があんななのに、実は凄いらしい。

てっきり、マスコット的な使用人か何かと思っていたのに。

ということは、ますます取り入らなければヤバい。

 

 

――それからお互いに自己紹介して(それぞれ下の名前で呼ぶことになった)分かったが、この子供はジン坊っちゃんではなく、俺の所属するコミュニティのリーダーだった。

あれ?そういえばコミュニティの名前って何だっけ?

黒ウサギの説明の時、ところどころ聞いてなかったし今更聞きづらい。

まあ、そのうち分かるだろう。

リーダーも黒ウサギと一緒で強い可能性がある。

黒ウサギもそうだがアニメとかマンガみたいに見た目だけで強さなんて計れるわけないだろう、と学習した。

リーダーに連れられて、吸血鬼がどうのこうの話を聞きながら、六本の傷がある旗を掲げるカフェテラスに入った。

 

ここで耀のギフトが少し分かった。

どうやら、生き物全てと会話出来るらしい。

つまり、『ドクタード○トル』ということだ。

ん?そういえば、臭いがどうとか言ってたような気がするがよく分からない。

ちなみに、飛鳥のギフトは素敵なものではなく酷いものらしい。

まあ、リーダーも何かギフトは持っているだろうし。なにせリーダーだし。

これで、ギフトを持っていないのは俺だけということがほぼ確定した……はあ。

 

「ところで、大輔君はどんな力を持っているの」

 

ん?俺? 

とりあえず、ここは、

 

「俺も飛鳥と一緒で酷いもので、あんまり人様に見せるような――」

「おんやぁ?誰かと思えば東区画の最底辺コミュ“名無しの権兵衛”のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」

 

とにかくデカい。

2m以上ある巨体でタキシードを着た、品の無そうな男が勝手に相席してきた。

とにかく怖いんですけど。

 

「僕らのコミュニティは“ノーネーム”です。“フォレス・ガロ”のガルド=ガスパー」

 

さすがはリーダー。

物怖じせずにはっきりと名乗りを…………東区画の最底辺?ノーネーム?ノーネームっていうコミュニティの名前なのか?最底辺なんて黒ウサギは言ったっけ?

 

「黙れ、この名無しめ。聞けば新しい人材を呼び寄せたらしいじゃないか。コミュニティの誇りである名と旗印を奪われてよくも未練がましくコミュニティを存続させるなどできたものだ――そう思わないかい、御令息と御嬢様方」

 

そんなことより、名無しで旗無し?えっどういうこと?疑問だらけなんだけど。

てっいうか、怖いからこっちを見ないで。

 

「失礼ですけど、同席を求めるならばまず氏名を名乗ったのちに一言添えるのが礼儀ではないかしら?」

 

さすが、お嬢様だな。逆廻がそう呼んでいたがまさに気品あるお嬢様だな。

………まあ、分かってるよ、飛鳥と耀が俺の方を見て「何か言え」みたいな顔をしたことは。

黒ウサギがいないから気を抜いていたけど、俺の評価ダダ下がりだな。

怖いもん怖いんだし、しょうがないだろ。

ここからは、飛鳥が主導で話を進めた。

時々、リーダーがガルド=ガスパーにちょこちょこ口を挟んでいる。

リーダーとはいえ子供が物怖じせずに言い返しているんだから年上である俺も湧き上がった勇気で、と思った瞬間もあったが、リーダーの挑発で怒ったガルド=ガスパーに肉食獣のような牙とギョロリとした目で見られ、湧き上がった勇気は蒸発した。

黙って静観(きょうふ)していると、飛鳥が「私達のコミュニティが置かれている状況」の説明を要求して、なぜかリーダーの代わりにガルド=ガスパーが説明することに。

 

分かったことは、

・俺の所属する予定のコミュニティは箱庭の最悪の天災とも言われる“魔王”というものに滅ばされたこと

・黒ウサギは〝箱庭の貴族〟とか呼ばれる凄いウサギらしい

・どのコミュニティに属さずとも30日間の自由が約束されていること

・フォレス・ガロはこの辺り一帯を支配していること

・フォレス・ガロに俺達が勧誘されていること

以上のことがだいたい分かった。

リーダーと黒ウサギには悪いが、そんな崖っぷちのコミュニティには入りたくない。

本当に、リーダーと黒ウサギには悪いとは思うが。

飛鳥と耀はどうするんだろう?

 

「結構よ。だってジン君のコミュニティで私は間に合っているもの。耀さんは今の話をどう思う?」

「別に、どっちでも。私はこの世界に友達を作りに来ただけだもの」

「失礼ですが、理由を教えてもらっても?」

「私、久遠飛鳥は――裕福だった家も、約束された将来も、おおよそ人が望みうる人生の全てを支払って、この“箱庭”に来たのよ。それを小さな小さな一地域を支配しているだけの組織の末端として迎え入れてやる、などと慇懃無礼に言われ魅力的に感じるとでも思ったのかしら。だとしたら、自身の身の丈を知った上で出直して欲しいものね、このエセ紳士」

 

ピシャッと言い切った。ガルド=ガスパーは怒りで震えていた。

リーダーも驚きつつ、喜んでいる。

さっきのリーダーの酷く暗い顔を見て、今の喜びに満ちた顔を見て俺は思い出した。

俺には恩恵が無いことを(・・・・・・・・・・・)

 

つまり、フォレス・ガロに入る

 ↓

そのうちバレる

 ↓

ギフトがあることを前提に勧誘された

 ↓

当然、追い出される。もしかしたら、殺されることもあり得る

 ↓

路頭に迷う

 ↓

新たなコミュニティを探す

 ↓

どこにも入れない

 ↓

結果、死ぬ

 

「――俺も、お前のコミュニティには入らない、ガルド」

 

危ない危ない。

選択を間違えるところだった。

 

「お……お言葉ですが――」

黙りなさい(・・・・・)

「…………」

 

ん?

突然、ガルドは不自然に口を閉じて黙り込んだ。

ガルドも混乱しているようだ。

飛鳥の命令?の所為なのか?

 

「私の話はまだ終わってないわ。貴方からはまだまだ聞き出さなければいけないことがあるのだもの。貴方はそこに座って(・・・・・・)私の質問に答え続けなさい(・・・・・・・・・・・・)」 

 

今度は椅子にヒビが入るほど勢いよく座り込んだ。

ガルドは身体の自由が完全に奪われている、もしくは支配されているようだった。

どうやら、これが飛鳥のギフトなのは確実のようだ。

“命令で相手を支配する”、さっき酷いものと言っていたが、人によってはそうかもしれないな。

ここからは、拒否もできない飛鳥による一方的な詰問が始まった。

詰問の内容はこうだ。

・さっきの話に出てきた「コミュニティに両者の合意で勝負を挑み勝利した」という言葉の真の意味を無理矢理、吐かせた。

・ガルドは子供を人質にとり脅迫したり、強引にコミュニティそのものを賭けさせたりしていた。

・そして、その人質は全て殺され、証拠隠滅のため食……。

・さらに、今の証言で裁くことは出来るが、その前に逃げれば、それまでだそうである。

外道過ぎる。

そんな外道のコミュニティに入ろうかと迷った俺の愚かさが憎らしい。

と、普通の人ならそうだろう。

だが、俺はこいつみたいな下種を知っている。

これだけは俺が普通の人とは違うところかもしれない。

怒りが込み上げてくるでもなく、ただひたすら、冷静に冷徹に、そして、あの時(・・・)みたいに冷酷になっていく自分がいる。

こんな自分を嫌悪しながらも。

飛鳥は指をパチンと鳴らすと、怒り狂ったガルドは本性を現した。

身体に黒と黄色の縞模様が浮かび上がり、虎になった。

正確には、俺の知識にある中でいうとミノタウロスの虎バージョンになった。

ガルドはその怒りのままに飛鳥に襲い掛かるが、

 

「ケンカはダメ」

 

耀がその細腕でガルドの剛腕を抑え込んだ。

どうやら、耀のギフトは生き物と会話するだけではないらしい。

さて、場が一瞬止まった今がいいだろう。

頭が冷酷なまでに冷え切っている俺は提案する。

 

「俺達“ノーネーム”は、“フォレス・ガロ”リーダー、ガルド=ガスパーにギフトゲームを申し込む」

 

 

 



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第4話 白夜叉に会うそうですよ?

「な、なんであの短時間に“フォレス・ガロ”のリーダーにケンカを売る状況になったのですか!?」

「しかも、ゲームの日取りは明日!?」

「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!」

「準備している時間もお金もありません!」

「一体どういう心算(つもり)があってのことです!」

「聞いているのですか3人とも」

「「ムシャクシャしてやった。今も反省はしていない」」

「本当に悪いと思っている。心から反省しています」

「黙らっしゃい!!それと、大輔さんは自分で提案して1番反省しているってどういうことですか!!!」

 

結局、俺もハリセンで叩かれた。

ギフトゲームを提案した時の俺は、最高に冷静だった。

飛鳥と耀、それにリーダーがいれば勝てると確信したからだ。

だから、ガルドに罰を与えるためには最善の方法だと思った。

しかし、リーダーや黒ウサギに指摘されて気付いた。

俺はギフトゲーム自体に関して何も知らない。

知らないということは、いくら冷静になったところで意味が無かった。

結果、圧倒的に不利なルールで戦う可能性が出てきた。

そして、もう何度めかのこの答えに行き着く。

俺には恩恵が無い。

かなりヤバいと。

 

「別にいいじゃねえか。見境なく選んでケンカを売ったわけじゃないんだから許してやれよ」

「い、十六夜さんは面白ければいいと思っているかもしれませんけど、このゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ? この“契約書類(ギアスロール)”を見てください」

 

“契約書類”は“主催者権限(ホストマスター)”を持たない者達が“主催者”となってゲームを開催するために必要なギフトだ。

内容は、

・参加者が勝利した場合、主催者は参加者の言及する全ての罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散すること

・参加者が敗北した場合、罪を黙認すること

本当に自己満足しかない。

 

「はぁ……仕方がない人達です。まあいいでしょう。フォレス・ガロ程度なら十六夜さんが1人いれば楽勝でしょう」

 

黒ウサギから聞いた話によると、逆廻は世界の果てで水神を殴り飛ばしたとのことだった。

黒ウサギ曰く「人間とは思えないデタラメな強さ」とのこと。

このゲームを提案した俺としては、責任も感じているので是非参加して欲しいのだが。

 

「何言ってんだよ。俺は参加しねえよ?」

「当り前よ。貴方なんて参加させないわ」

 

と、参加しない、参加させないで話がまとまってしまった。

 

「だ、駄目ですよ!御二人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」

「いいか?このケンカは、コイツらが売った(・・・)。そしてヤツが買った(・・・)。なのに俺が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」

「あら、分かっているじゃない」

 

黒ウサギが早々と落胆して諦めたが、当事者である俺は責任があるし、自分の命が危ない可能性もあるので、飛鳥に再び逆廻を参加させようと出来る限りの説得をしつつ提案したが、ただ睨まれて断られた。

そして、明日のギフトゲームのために、

 

「“サウザンドアイズ”?」

 

サウザンドアイズは特殊な瞳のギフトを持つ者達の群体コミュニティで、自分のギフトの正しい力を知るために鑑定してもらおうということになった。

正直、俺は不安もあったが僅かな期待もしていた。

俺には自分の恩恵に心当たりがない。

しかし、もしかしたら、俺が知らない、認識していないだけでギフトがあるかもしれない。

ガルドとのやりとり、黒ウサギの話から、逆廻、飛鳥、耀の3人はとんでもないギフトがあることが分かった。

ならば、一緒に召喚された俺だけがギフトが無いなんてそんなことはない、あるはずがない、と思いたい。

だって、同時に召喚されたんだから。

現に、俺はここまで何もしてないし、見せてないが、別に黒ウサギにも、飛鳥にも、耀にも、リーダーにもギフトが無いとは疑われてはいないはずだ。

逆廻だけは、疑うよりも好奇心からかしつこく聞いてくるが。

逆に、黒ウサギにはどうやら若干のヘタレながらも自分のギフトを簡単に人前で見せない思慮深い人みたいな感じているみたいだし。

だから、俺は本の少しだけギフトがあると信じている。

たとえ、それがどんなギフトでも。

そうでなければ、俺が呼ばれたのはただの間違いになる。

そうこう考えたりしていると(他は立体交差並行世界論?とかいうちんぷんかんぷんな話をしていたみたいだが)店に着いた。

すると割烹着の女性店員と黒ウサギが何やら口論を始めた。

どうやら入れてもらえないようだが、

 

「“名無し”はお断りです」

 

はっきりと分かりやすく門前払いをくらっていた。

なるほど、ノーネームというのはこういう対応がされるのか。

名前が無いというのはこういうハンデがあるのか。

すると、店内から着物風の服を着た真っ白い髪の少女が爆走してきた。

 

「いぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギイィィィィ!」

 

爆走少女は黒ウサギに体当たりして共にクルクル回りながら、浅い水路に落ち、黒ウサギがその少女をひっぺはがして逆廻の方に投げ飛ばし、逆廻が足で受け止めた。

さらに飛鳥にも堂々とセクハラ発言をしてドン引きさせていた……無茶苦茶だな、この世界は。

何はともあれ、この少女がサウザンドアイズの幹部の白夜叉ということだ。

とにかく、残念な奴だった。

 

「そこのもう1人の小僧、今、バカにしたろう」

 

白夜叉の和風な私室に案内されて、

箱庭の外門とかいうものを超巨大バームクーヘンに例えながら説明され、白夜叉が東側の最強の“階層支配者(・・・・・)”だと自慢され、

 

「……ではつまり、貴方のゲームをクリアできれば私たちが東側で最強ということになるのかしら?」

「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 

なぜ、誰彼構わずコイツらはケンカを売るんだ? 

ガルドの時も俺がケンカを売ったとはいえ、何もしなくても結局ケンカにはなっていたはずだし、逆廻の方も水神にケンカを売ったらしいし、バカじゃないのか。

ケンカしたって何にもならないのに。

黒ウサギは止めるが白夜叉がケンカを受けた。

ちなみに「おんしはどうする?」と聞かれたので、丁重にお断りした。

 

「おんしらが望むのは、“挑戦”か――もしくは、“決闘”か」

 

一瞬で爆発的な変化が起きた。

様々な情景が頭の中で回転する。

記憶に無い場所が何度も流れて、白い雪原と凍る湖畔――そして、水平に太陽が廻る世界だった(・・・・・・・・・・・・・)

 

「……なっ………!?」

 

箱庭に来た時とは違う、なんて言えばいいか分からない感覚だった。

 

「今一度名乗り直し、問おうかの。私は“白き夜の魔王”――太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への“挑戦”か?それとも対等な“決闘”か?」

 

魔王・白夜叉。

少女の笑みとは思えぬ圧倒的な凄味に、息を呑む。

 

「“挑戦”であるならば、手慰み程度に遊んでやる。――だが、しかし“決闘”を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」

 

よりいっそうな凄味で白夜叉は返答を待つ。

さっきまで、逆廻は白夜叉ののことをぶつぶつと、解説していたが流石に返事を躊躇っている。

俺もと飛鳥と耀は、ただ茫然としている。

怖さで言えば、ガルドなんて比べるのも烏滸がましい。

しばらくの静寂の後、諦めたように笑う逆廻が、

 

「参った。やられたよ。降参だ、白夜叉」

「ふむ?それは決闘ではなく、試練を受けるという事かの?」

「ああ。これだけのゲーム盤が用意できるんだからな。アンタには資格がある。――い

 

いぜ。今回は黙って試されてやるよ(・・・・・・・)、魔王様」

「……ええ。私も、試されてあげていいわ」

「右に同じ」

 

ここで決闘を受ける奴は、勇者ではなくただのバカだ。

力の差なんてとても口で説明できない程あるだろう。

それでも、負け惜しみとはいえあそこまで言える逆廻は凄いと思った。

 

「おんしはどうする?」

「ん?俺?」

 

威厳に満ちた目で、まっすぐに確実に俺を見ている。

さっき、断ったのに、なんでまた?

俺は再び丁重にお断りした。

 

「――そうか」

 

より威圧して俺を見ていた。

えっ、なんか最強に目をつけられたのか。

胡麻でも摺ろうかな。

しばしの黒ウサギの説教があり挑戦が決まった。

というか、これでこれだけの力を見せながら元・魔王らしい……考えるのを止めた。

 

『ギフトゲーム名 “鷲獅子の手綱”

・プレイヤー一覧

 逆廻十六夜

 久遠飛鳥

春日部耀

 楠木大輔

・クリア条件 グリフォンの背に跨がり、湖畔を舞う。

・クリア方法 力・知恵・勇気の何れかでグリフォンに認められる。

 

・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。 “サウザンドアイズ”印』

 

「私がやる」

 

結局、俺も入ってるし。

まあそれはいいとして。

やるき満々に自分でやるということで、逆廻と飛鳥、一応俺も耀に譲った。

耀は命を懸けてゲームを行い見事にクリアした。

クリア後に空を飛んでいる?耀のギフトを逆廻が解説してくれた。

あと、分かったのはそれはペンダントにしていた木彫り細工の御蔭らしい。

耀のギフト強すぎだろ。

詳しくは分からないが、友達にさえなればその生き物の特有のギフトが貰えるらしい。

単純に、ファンタジーの王道、ドラゴンと友達になればドラゴンの力が使えるということになる。

男のロマンじゃないか。

それと逆廻の頭はどうなってんだ。

頭良すぎだろ。

学があるだけならば、そんなに驚かないけど、何だよって言いたいくらいの知識量。

それで水神を殴り飛ばすギフト。

無茶苦茶じゃないか。

まあ、飛鳥はガルドとのやりとりで分かってるし、

3人まとめて全員チートじゃねえか。

これって、クリアできないギフトゲームなんてあるの?

一方、黒ウサギは当初の目的であるギフト鑑定を白夜叉に依頼する。

かなり困ったように俺達の顔を見ている。

 

「う~ん。……おんしらは自分のギフトの力をどの程度に把握している?」

「企業秘密」

「右に同じ」

「以下同文」

「以下同上」

「うおおおおい?いやまあ、仮にも対戦相手だったものにギフトを教えるのが怖いのは分かるが、それじゃ話が進まんだろうに」

 

おっと、ボケたのに誰もツッコんでくれない。

 

「ふむ。何にせよ“主催者”として、星霊のはしくれとして、試練をクリアしたおんしらには“恩恵ギフト”を与えねばならん。ちょいと贅沢な代物だがコミュニティ復興の前祝としてはギフトカードをやろう」

 

「ギフトカード!」

 

黒ウサギが驚いて、叫んだ。

 

「お中元?」

「お歳暮?」

「お年玉?」

「ライフを回復?」

 

「ち、違います!というかなんで皆さんはそんなに息が合ってるのです!?それと、大輔さんはこっち側ではないのですか!?……ギフトカードとは顕現しているギフトを収納でき――」

 

黒ウサギの説教を白夜叉が遮り、

 

「ええい、黙っとれい黒ウサギ。……では」

 

白夜叉がパンパンと柏手を打つと、俺達の目の前に光り輝く4枚のカードが現れた。

カードにはそれぞれの名前と、体に宿るギフトを表すネームが記されていた。

 

・コバルトブルーのカード

 逆廻 十六夜

 

ギフトネーム

“正体不明”

 

・ワインレッドのカード

 久遠 飛鳥

 

ギフトネーム

“威光”

 

・パールエメラルドのカード

春日部 耀

 

 ギフトネーム

“生命の目録”

“ノーフォーマー”

 

「そのギフトカードはですね、ギフトを収納できる超高価な――」

「つまり素敵アイテムことでオッケーか?」

「あーもうそうです、超素敵アイテムなんです!」

「そのギフトカードは、正式名を“ラプラスの紙片”、即ち全知の一端だ。そこに刻まれるギフトネームとはおんしらの魂と繋がった“恩恵”の名称。鑑定は出来ずともそれを見れば大体のギフトが分かるというもの」

「へえ?じゃあ俺のはレアケースなわけだ?」

「ん?……いや、そんなバカな」

「“正体不明”だと……?いいや有り得ん、全知である“ラプラスの紙片”がエラー起こすはずなど……。他のおんしらは何と出ておる?」

「私は“威光”よ。漢字の意味からしたら正しく出ていると思うわ」

「……私のは“生命の目録”と、よく分からないけど“ノーフォーマー”って出てる」

「…………」

「大輔さんのはなんと、出ているのでしょうか?」

「……俺のは………………たぶん、正しくは出ているとは思う」

 

全員が、俺のギフトカードを覗き込む。

 

・アッシュグレイのカード

 楠木 大輔

 

ギフトネーム

 

やっぱりか。

やっぱり無いか。

やっぱり手違いか。

 

「え?どういうことでございますか?」」

「何も書いてないじゃない」

「……これもエラー?」

「いや、そんなことはありえん。たとえ、エラーでも生意気な小僧のように何かしら(・・・・)出るはずだがの」

「ヤハハ、答えはもっと単純だろ?楠木にはギフトがない。そんなところだろ」

「…………」

「ちょ、ちょっとお待ちを。そのようなことは有り得ないのですよ。主催者からは『人類最高クラスのギフト所持者』だとお墨付きをもらったのですよ!?」

「楠木以外の俺達3人はちゃんとギフトを持っている。つまり、主催者の言う『人類最高』がどの程度を指しているかは別として、嘘は言ってないだろ」

「しかし、大輔さんが、」

「まあ、待て黒ウサギ。俺達4人は同じタイミングで落下した、これは間違いない。だが、イコール同一の主催者が召喚したとは限らないだろ」

「?」

「ようは、楠木だけが違う主催者によって同じタイミングで召喚された」

「まさか!?そんなことが」

「方法はさすがに分からねえが。お前なら知ってんじゃねえのか、白夜叉?」

「…………」

「さっきから黙ってるが、何か心当たりでもあんだろ?

「そうなのですか、白夜叉様?」

「……楠木と言ったな、おんしはどうやって“箱庭”に来たか分かるか?」

「……ああ。手紙を読んで、気付いたら空にいた」

「もっと詳しく、手紙の特徴(・・・・・)その周辺(・・・・)のことは分からんか」

「えっーと……部屋に入ると、机の上に手紙があって、それで……!」

「それで、何かあったか」

「…………そうだ、紙があった。手紙の下に紙が1枚」

「して、紙の色は何色だった(・・・・・・・・・)?」

「紙の色?確か……真っ黒だった」

「……そうか。……楠木よ、心して聞け。おんしを箱庭に召喚したのは――“魔王”だ」

 




毎週か隔週の金曜日に投稿する予定です。


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第5話 楠木大輔は手違いで呼ばれたそうですよ?

『魔王』

・“主催者権限”を悪様する者達を指し、魂と存在の全てを賭けてルールを定め、世界にそれを強制させる力を持っている

・魔王によるギフトゲームには必ず2つ以上のクリア条件、ゲーム終了条件がある

 

「おんしは、黒い紙“契約書類”は読んだのか?」

 

白夜叉の先の発言で、さすがの問題児たちも黙って俺とのやりとりを静聴している。

まあ、黒ウサギだけはかなりオドオドしているが。

 

「全く見てない」

 

その黒い契約書類を下に敷き、その上に綺麗に置いてあった手紙。

まあつまり、単純に上から順番に読もうと思っただけで何も見ていない。

 

「……そうか」

 

白夜叉は元とはいえ魔王と言っていた。

さっきは、その圧倒的な存在感で問題児たちをビビらせた。

今はさっきとは打って変わり、ただただ険しい表情で深刻に考え込んでいる。

俺は自分自身のこととはいえ、感覚的にも身体的にも何も違和感(・・・)などを感じていない。

しばらくの沈黙が流れ、

 

「おい!黙ってねえで、俺達にも説明しやがれ!」

 

逆廻が声を荒げ「ここまで聞いたんだから、俺達も知る権利がある!」とまくしたて、飛鳥と耀も続き訴える。

白夜叉が1度俺に確認を取り、

 

「そうか……。よかろう、分かっていることだけ簡単に説明してやろう」

 

静寂の中、白夜叉は口を開けた。

 

「おんしらは、“魔王”についてどのくらい知っておる?」

 

逆廻が代表して、自分の推測を交えて説明した。

白夜叉は逆廻の推測に時折、目を細めながらも淡々と聞いている。

……頭が追いつかない俺は半分くらいしか理解できてない。

 

「そこまで分かっておるとは、驚きだのう」

 

ことわざの“天は二物を与えず”。

これは一物すらない普通の人達が、妬み、恨みなどの負の感情から一物を与えられた者に“天は一物は与えたが、二物は与えなかった”といった場合に使う(俺談)。

つまり、天才に嫉妬して、「それは凄いけど、他はダメだね」と、自分のことを棚に上げて、天才をバカにするために使う。

俺もそういう風に考えていた。

だが、逆廻は“天は二物を与えた”といえてしまう。

俺と全く同じタイミングで箱庭に来たにも関わらず、神格を持つ凄い水神を倒し、箱庭のことをすでに理解している。

俺程度では足元にも及ばない、正真正銘の天才だ。

こういう奴が天才なんだと実感した。

飛鳥と耀も、逆廻と同程度だとは思わないが、一緒に呼ばれたのだから何かあるのだろう。

では、俺にはいったい何があるのだろうか?

空しい限りだ。

 

「この“箱庭”の世界は“立体交差並行世界論”が大いに関わっておる。それとは別に大いに関わっているものもあるが、今回は省かせてもらう。それで、小僧以外は来たばかりでまだ理解できておらんようだから簡単に説明すると、“魔王”が“主催者権限”を使って異世界の特定の人物(・・・・・)を、しかも他の召喚に紛れ込ませるなど、不可能(・・・)と言わざるを得ん」

 

白夜叉はそこで口を閉じ俺を見る。

そして、

 

「いくつあるかも分からん異世界から、特定の人物(・・・・・)を、時間、場所、タイミングなどを限定し、同じように黒ウサギが呼んだおんし達と、時間、場所、タイミングなどを限定して、運よく“契約書類”を見た(・・・・)その人物を召喚する。そのために、それらの膨大な情報の全てを一切の不備なく整えて、なおかつ“契約書類”に記載して“箱庭”に認められた上で、“魔王”として顕現して、初めて天文学的な確率で成功するかどうか」

 

バカな俺でも分かる。

いや、それは不可能でしょ、と……うん?

でも、それって……。

 

「――だが、ここで大きな問題がある」

 

真面目な声で、逆廻が白夜叉の話を遮る。

白夜叉も話を逆廻に譲り、逆廻が大きく間を開けて、勿体ぶって言う。

 

「楠木大輔、お前が本当に特定の人物(・・・・・)なのかということだ」

「……」

 

つまり、今の段階では確かめようがないと……。

鏡で見たら、なんとも微妙な顔を俺はしてるんだろうな。

当事者だからだろうけど、途中でなんとなく気付いてた。

結局、そのとんでもない低確率で狙い通りであろう逆廻達と同時に召喚された俺は、一見成功したように思える。

しかし、本当に成功したかどうかなんて、分からない。

俺が黒い契約書類を見ていない以上、確かめる方法がないからだ。

さらに、成功を疑う最大の理由は俺には恩恵が無い(・・・・・・・・・)

そんな俺を狙ってまで召喚する意味が分からない。

ホントに何度目かも分からない、同じ答えに行き着く。

頭の中にすぐに浮かんでくる。

なんつう、生きにくい世界なんだよ。

ただただ恨めしい。

 

「白夜叉様」

 

何もしゃべらなかった黒ウサギが言葉を発した。

その声には、さっきまでのオドオドはなく、

 

「今現在において、大輔さんには何か影響はあるのでしょうか(・・・・・・・・・・・・・)?」

 

……。

 

「私の見立てでは、なんの影響もないだろう」

 

白夜叉曰く「“魔王”のギフトゲームは正常に動いてはおらぬだろう」とのこと。

なんでもここまでの無茶苦茶していれば、参加者側にかなり有利なルールが織り込まれるらしい。

 

「俺が“契約書類”を読むまでは、中断しているようなものであると?」

 

白夜叉に肯定された。

通常ならば魔王のギフトゲームにおいて、「契約書類を読んでいないから」とかそんな理由で魔王に文句を言うなんて行為はバカにされるらしい。

そもそも、無理難題、理不尽なゲームを、ルールを、強制させるのが魔王というもので、だからこそ恐れられている。

今回の俺のケースは、非常に特殊で永きにわたる箱庭の歴史の中でも、最初からここまで参加者側に有利に作られている契約書類はないとのことだ。

だから、今は安心していいらしい。

とはいえ、いろいろ説明されて自分なりに理解して考えられること。

頭に引っかかるもう1つの現実、

 

「やっぱり、手違いで呼ばれたのか」

 

この呟きが、聞かれたかどうか俺は知らない。

黒ウサギに視線を戻すと黒ウサギは我がことのように安堵している。

それは仲間のためなのか。

もしくは、何か別の理由のためなのか。

俺としては、俺のことでいろいろとかなり気を使わせたことで悪く思っている。

だから、今は黙ってその好意を受け取っておこう。

白夜叉が「“階層支配者”として調べておく」とのことで、とりあえず、ノーネームの本拠に帰ることになった。

 

――2105380外門。

 

「ここから先が“ノーネーム”の居住区画でございます。この近辺はまだ“魔王”との戦いの名残がありますので…………」

「っ、これは……!?」

 

街並みに刻まれた傷跡を見た俺と飛鳥と耀は息を呑んだ。

だが、逆廻だけが廃墟に歩み寄って残骸を手に取る。

 

「……おい、黒ウサギ。“魔王”のギフトゲームがあったのは――今から何百年前の話だ(・・・・・・・)?」

「僅か3年前でございます、

「ハッ、そりゃ面白いな」

 

逆廻が普通に解説しているが、見て触っただけでこまで分かるとは……やっぱり凄いやつだな。

 

「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない」

「…………生き物の気配も全くない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないなんて」

「これが“魔王”の力……か」

 

黒ウサギが悲痛な記憶を、感情を押し殺して淡々と語りながら、風化した街を進む。

俺達は複雑な表情で続く、1人の例外を除いて。

 

「魔王――か。ハッ、いいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白そうじゃねえか……!」

 

話に聞いていた通り、本拠にはたくさんの子供達がいた。

人間だけでなく、猫耳、犬耳などいわゆる亜人?もいた。

問題児たちも三者三様の表情をしている。

黒ウサギ曰く「ギフトゲームに参加できない者はギフトプレイヤーの私生活を支えるのが義務」。

つまり、明日のギフトゲームが終われば、ギフトプレイヤーではない俺は、そっち側に回るわけか。

今後のことをちゃんと考えないといけないな。

 

逆廻が手に入れた水樹で女子は温泉に入ることになった。

ちなみに、ノーネームの水源は数キロ先の川からバケツで水を汲んできているとのこと。

生きる上で不可欠な水がそんな状況だったなんて。

本格的にヤバいな。

まあ、水樹があれば今後の水の心配はいらないみたいだが。

っていうか、逆廻のノーネームへの貢献度がすでに追いつけないレベルにあるんだけど。

 

温泉に入る前に、黒ウサギから謝罪された。

白夜叉との話を聞いて、

 

「今回の件で、我々ノーネームのことに巻き込んで申し訳ございません」だとか、

「私達が呼んだばかりにとんでもないことに巻き込んで申し訳ございません」だとか、

 

その他いろいろ。

「気にするなよ」とか、言えれば格好良かったんだが、流石にそこまでまだ俺は人間が出来ていない。

本音で言うと、「ふさけんじゃんねえ」と言いたい。

まあ、可愛い女の子に誠心誠意謝られて、罵倒するほど人間として腐ってもいないが。

 

「そのことは、明日のギフトゲームが終わって、白夜叉からの情報を聞いてまた話そう」

 

温泉へ黒ウサギを送り出した。

俺は女子風呂を覗きたいという思春期男子が考えそうなことが頭をがっつり横切ったが、

 

「バレる自信しかない」

 

飛鳥はともかく、耀は生き物の力を使えるし、黒ウサギの自称“素敵耳”はそうとう聞こえるらしいし。

こんな初日から、女子に嫌われたくないという理由で諦めた。

元の世界ならこんなことすら考えなかっただろうけどな。

そんな度胸が俺にあるわけないし。

 

「良くも悪くも、衝撃過ぎる出来事が多すぎて箱庭に染まったみたいだな(・・・・・・・・・・・・)

 

染まったついでに、さっき聞こえた「外の奴らと話をつけておくか」という逆廻の呟きが気になるし、

 

「ちょっと見に行こうかな」

 

昼間はガルドみたいな外道にビビッていた俺だが、僅か数時間でえらく度胸がついた気がする……

 

ズドガァン!

 

爆発音。

まあ、あいつ(・・・)だろうな。

俺は近くの物陰に隠れて様子を見ることにした。

 

「このジン=ラッセル率いるは“魔王”を倒すためのコミュニティ!“魔王”とその配下の脅威からお前たちを守る!」

「なぜなら、俺達のジン=ラッセルが“魔王”を倒すために立ち上がったのだから!」

「さあ、コミュニティに帰るんだ! そして仲間のコミュニティに言いふらせ! 俺達のジン=ラッセルが“魔王”を倒してくれると!」

 

逆廻は煌々とした表情で高らかに叫んでいた。

不審者?侵入者?は、口々にリーダーに「頑張ってくれ」と言い残し、あっという間に走り去った。

そういや、全員人間じゃなかったな。

慣れって怖いな。

 

「どういうつもりですか!?」

 

絶賛、1人かくれんぼ継続中。

 

「どうもこうもねえよ。“打倒魔王”が“打倒全ての魔王とその関係者”になっただけだろ。ヤハハ」

「笑い事じゃありません! 十六夜さんも見たはずでしょう!? あの恐ろしい“魔王”の力を!」

「勿論。あんな面白そうな力を持った連中とゲームで戦えるなんて最高じゃねえか」

「お……面白そう(・・・・)?十六夜さんは自分の趣味のためにコミュニティを滅亡させるつもりですか?」

「いいや。これは“ノーネーム”を発展させるために必要不可欠な作戦(・・)だ」

「さ、作戦? …………どういうことですか?」

「だが、その前に……おい!いつになったら出てくるんだ、恩恵無し(てちがい)!」

 

あいつ、気にしていることを。

というか、聞いてたのかよ。

 

「よう、リーダーに逆廻。一応言っておくけど、盗み聞きするつもりはなかった」

「そんなのはどうでもいい」

「だ、大輔さん……。いたのでしたら、何で止めてくれなかったのですか?」

 

ん?リーダーは気付いてなかったのか?

まあいいけど。

それとは別に黒ウサギもだが、リーダーにも俺はチート問題児たち(あいつら)と違うと思ってくれてるようだ。

嬉しい限りだ。

 

「悪かったな、リーダー。でも、よく分からねえが逆廻が妙に(・・)リーダーの名前を連呼してたから、何か考えがあるのかと思ってな」

 

第三者からしたら、誰でも気付くだろうが。

 

「ああ、その通りだ。御チビは俺達を呼び出してどうやって“魔王”と戦うつもりだったんだ?」

「えっと、あなた方を呼んで、水源を確保して、ギフトゲームを堅実にクリアしていきコミュニティを大きくするつもりでした。そうやって力をつけていけば、コミュニティの再建も」

「哀れな奴だ。そんな机上の空論で再建がどうのと、失望したぜ御チビ」

「な、」

「お前からも何か言ってやれ」

 

俺に振るなよ。天才(もんだいじ)が。

いや、コミュニティを大きくする方法なんてリーダーと似たり寄ったりな考えしか思い浮かばないし。

代案なしに意見するのは嫌いなんだが、

 

「リーダーには悪いが、俺も概ね逆廻と同じ考えだ」

 

まあ、多少言い過ぎだとは思うけど。

 

「あの惨状を引き起こした“魔王”から名と旗印を取り戻すとなると、リーダーのやり方だとどれだけの時間が必要になるかわかったもんじゃない」

 

出来るだけ、オブラートに、リーダーの考えを否定しないように。

もし、「どうすれば?」なんて聞かれても何も答えられないし。

ここは、問題児(てんさい)様に任せるのが1番だ。

 

「俺達には、名と旗印が無い。そのハンディキャップを背負ったまま、お前は先代(・・)を超えなきゃいけないんだぜ?」

「先代を……を超える……!?」

 

あの虎が言っていた「東区画最強のコミュニティだった」という言葉。

それを超えるってことは、単純に最強のコミュニティになれと。

まだ、来て数時間しか経ってない世界で。

リーダーもスケールがデカすぎて、俯いてるし。

 

「そこでだ、名も旗も無いとなると――他にはもう、リーダーの名前を売り込むしかないよな(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

なるほど。

リーダーも逆廻の意図に気付いて顔を上げた。

 

「僕を担ぎ上げて……コミュニティの存在をアピールするということですか?」

 

自慢げに笑って肯定した。

それなら、名も旗も無くてもリーダーの名前さえ有名になれば、十分に代わりになる。

例えば、バスケに全然詳しくない俺でもマイケル・ジョ○ダンの名前は知っている。

彼がスーパースターで、バスケが超上手くて、世界中から人気があって、バスケットボールの神様と言われていることも知っている。

だが、彼が所属していたチーム名(・・・)は知らない。

つまり、1人の傑出した人物がいたら、時にはチームを超えてその人物の名前だけが先行することはよくあることだ。

とにかく、今の俺達の状況ではそれがベストチョイスだと思う。

まあ、例外としてはリーダーの力は知らないが、おそらく客寄せパンダになりそうだけど。

さらに、逆廻は言う。

 

「ジン=ラッセルという少年が“打倒魔王”を掲げた」

「その一味に1度でも勝利する」

「結果、“打倒魔王”を胸に秘めた奴らが仲間になるかもしれない」

「そう。今回の1件はチャンスだ。相手は“魔王”の傘下、しかも勝てるゲーム。被害者は数多のコミュニティ。ここでしっかり御チビの名前を売れば」

「ま、他の“魔王”を引き寄せる懸念もあるが、倒せばいいだけだ」

 

間違いなく噂になる。

そして、噂は噂を呼ぶ。

どこまでかは分からないが噂はかなり広まるだろう。

逆廻の考えはこんなところだろう。

いつ、考えたんだよ!

全然ついていけねえよ!

俺にとっては、問題児(てんさい)についていけるかどうかの方が懸念だな。

なにはともあれ、リーダーは決心したようだ。

 

「明日のゲーム、負けんなよ」

「はい。ありがとうございます」

「負けたら俺、コミュニティを抜けるから」

「はい。……え?」

「はあ?」

 

 

 




次回は最初のギフトゲームになります。


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第6話 普通の学生がギフトゲームに参加しますよ?

『ギフトゲーム名“ハンティング”

・プレイヤー一覧  

・久遠 飛鳥

・春日部 耀

・楠木 大輔

・ジン=ラッセル

 

・クリア条件 ホストの本拠内に潜むガルド=ガスパーの討伐。

・クリア方法 ホスト側が指定した特定の武具でのみ討伐可能。指定武具以外は契約によってガルド・ガスパーを傷つけることは不可能。

 

・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

・指定武具 ゲームテリトリーにて配置

 

宣哲 上記を尊重し、誇りと御旗の下、ノーネームはギフトゲームに参加します。 “フォレス・ガロ”印』

 

――回想。

 

「お前はギフトゲームに参加するのか?」

「ああ、参加する」

「そうか。ま、せいぜい、死なない(・・・・)ように頑張れよ」

 

ヤハハと、なんか死亡フラグっぽいものを十六夜にたてられた。

 

「大輔さんは……その……ギフトが無い、と聞きました」

「ああ、そうだ」

「十六夜さんもおっしゃりましたが、死ぬ危険もあります。ですので、ここは僕達に任せてはくれませんか?」

「それはまあ、ジンの言う通りなんだが――」

 

ギフトゲームに参加するために必要なことはそもそもギフトのあるなしではなく、厳密には戦力(・・)になれるかどうかで決まる、と考え直した。

それは“ノーネーム”にいる120人もの子供達を見ていて、人海戦術がクリアに繋がるようなギフトゲームなら出来ることもあるだろうと、ふと思ったことによるものである。

それで、ギフトゲームに対する認識を改めて、『ギフトは無くても、俺にだって出来ること(・・・・・)はあるんじゃないか』と。

だがこの場は、

 

「それでも、ギフトが無い普通の人間である俺は参加しない方がいいのかもしれない」

「では、」

「たけど、あの虎ムカつくし野放しにはできないだろ」

 

回想終了――

 

「ガルドの身をクリア条件に……指定武具で打倒!?」

「こ、これはまずいです!」

「このゲームはそんなに危険なものなの?」

「いえ、ゲームはそのものは単純です。問題はこのルールです。このルールでは飛鳥さんのギフトで彼を操る事も、耀さんのギフトで傷つける事も出来ないことになります……!」

「……どういうこと?」

 

まとめると、ガルドは“恩恵(ギフト)”で勝てないと考えた。

それで、取った行動が“契約(ギアス)”ゲームのルールで対抗するというもの。

ルールを決めるのが“主催者(ホスト)”である以上、ルールを決めずに参加することはバカな行為である、とリーダーも落ち込んでいるが、提案したのが俺である以上俺にもかなり責任がある。

 

「自分の命をクリア条件にしたことで五分にまで持ち込んだってことか。面白くなってきじゃねえか、ヤハハ!」

「気軽に言ってくれるわね。……条件はかなり厳しいわよ。指定武具が何かも書かれていないし」

「とはいえ、倒す方法がはっきりと分かってんだから、作戦さえちゃんと立てればどうにかなるはずだ」

 

俺に出来ること、それは。

 

「そ、そうですよ!“契約書類”には『指定』武具と書いてあります!つまり、最低でも何らかのヒントがなければなりません。もし、ヒントが提示されなければ、ルール違反で“フォレス・ガロ”の敗北は決定!この黒ウサギがいる限り、反則はさせませんとも!」

「大丈夫。黒ウサギもこう言ってるし、私も頑張る」

「……ええ、そうね。むしろあの外道のプライドを粉砕するためには、コレぐらいのハンディが必要かもしれないわ」

 

黒ウサギは愛嬌たっぷりに、俺はポジティブに励ます。

やる気を見せる耀。

飛鳥もみんなの檄で奮起する。

売ったケンカで、買われたケンカ。

すごすごと引き下がることは出来ない。

その陰で、

 

「この勝負に勝てないと俺の作戦は成り立たない。だから負ければ俺はコミュニティを抜ける。予定に変更はないぞ。いいな御チビ」

 

十六夜が昨日のことを確認していた。

 

「心配するなリーダー。俺達なら勝てるさ。なんたって、俺も参加するんだし(・・・・・・・・・)

「大輔さん……。はい、絶対に負けません」

「ということだ、十六夜。鮮やかに勝ってくるからしっかり見とけよ」

「ヤハハ、楽しく見させてもらうぜ、恩恵無し(・・・・)

 

門を開けてゲームスタート。

と、同時に生い茂る森が門を絡めるように退路を塞ぐ。

 

――回想2

死亡フラグを立ててくれた十六夜とは、その後、男同士腹を割って?少し話した。

お互いの元の世界の情報を交換したり、リーダーに対して厳しいんじゃないかと苦言を呈したり……。

その流れで、十六夜と俺は呼ぶようになったが。

 

「俺は、お前を恩恵無し(・・・・)と呼ぶけどな」

「お前には期待してるんだぜ。俺の作戦に都合がいいゲームを持ってきたお前に。だが、それと同時に失望もしている。必要以上に自分を卑下しているお前に」

「“箱庭”に来て腰を抜かして帰りたそうにしてたお前が、進んで危険なことに首を突っ込んだこと」

「評価に値する。バカとも取れるが」

「だから、これ以上、俺を失望させるなよ」

 

凄い上からものを言われたが、天才(もんだいじ)の十六夜に評価されたのは嬉しかった。

箱庭に来るまでの数年間は他人に関心を抱かずに生きていた。

箱庭に来てからは、空から落下して、腰を抜かして、ガルドにビビッて、白夜叉にビビらされて…………。

自分に危険が及ぶとなってからは、自然と他人に関心を抱いていた。

やっぱ、こんな状況になると人間って変わるもんだな。

回想2終了――

 

と、まあ昨日こんなやりとりがあったわけだが、

 

「どうだ?」

「……大丈夫。近くには誰もいない。臭いで分かる」

 

犬にも20匹くらい友達がいる、耀談。

耀の五感は十六夜よりも優れているだろう。

だから、

 

「じゃあ、索敵は耀に任せて進むか」

「ええ、そうね。私達には何も出来ないから、耀さんに頑張ってもらうしかないわね」

「うん、頑張る」

「大輔君、1ついいかしら?」

「何だ、飛鳥?」

「このゲームになぜ参加したかはあえて聞かないわ。でも、貴方は一緒に落ちてきた(・・・・・・・・)昨日の大輔君よね?」

「おいおい、どういう意味だよ?」

「落ちてきたあと、腰を抜かしてずっと黙っていて、こちらから振らないと話さない、ガルドの時も全然会話に入ってこない、白夜叉の時もそうだった」

「けれど、今日は違う。朝は自分からあいさつするし、みんなにも普通に話しかけてるし、二重人格者なの?」

 

けっこうな言われようだな。

そう思われてたのは軽くショックなんだが。

元の世界ならこんな風には……いやそうでもないか。

この世界ではぼっちになる必要はないし、むしろマイナスだし。

 

「俺は昨日の俺だし、二重人格者でもない。そうだな……少し人との接し方を忘れてたみたいだ」

「……そう。でも、安心したわ。今の貴方は話しかけやすくていいわ」

「――見つけた!」

 

耀の言葉で、木々を調べていたリーダーもいつのまにか樹の上にいた耀に視線を向ける。

簡単に地面に着地した耀は、

 

「本拠の中にいる。影が見えただけだけど、目で確認した」

 

鳥のような目をしている。

どうやら、鳥にも友達がいるようだ。

 

「そういえば、鷹の友達もいるのね。けど、耀さんが突然いなくなって友達は悲しんでるんじゃない?」

「そ、それを言われると……少し辛い」

 

しゅんと元気をなくす耀。

 

「だからって、元の世界に帰ったらこっちの世界にも悲しむ人がいるぞ。主に飛鳥とか飛鳥とか」

「…………う、うん」

「ようはそんなこと気にしても仕方ないってことだ。耀だけに」

「大輔君、貴方ってそういう感じだったの?けど、そうね。今の言葉は忘れて、耀さん。こっちの世界で仲良くやっていきましょう」

「ありがとう、飛鳥。大輔も励ましてくれてありがとう」

「あの、みなさん?もうちょっと緊張感を持ちましょうよ」

 

そんなこんなで、

 

「リーダーの言う通り、ここからは警戒して慎重に行こうぜ」

「「おー」」

「……はあ」

 

恩恵の無い俺に出来ることは、

・リーダー及びプレイヤーの励まし

・暗くならないように盛り上げること

・問題児のコントロールまたはフォロー

・負傷者などを担いで逃げること

・頑張って助言すること

これが俺の出した答え。

俺にはこれくらいしか出来ない。

だから、多少のボケも入れて和ませ――

 

「あべし――!?」

 

スっ転んだ。

しかも、顔面から。

鼻血も出てる。

超恥ずい。泣きそう……。

起き上がりたくない。

 

「あら、間違いなく、昨日の大輔君ね。安心したわ」

「大輔は男の子だから、自分で立ち上がれるはず。頑張って」

「だ、大丈夫ですか?」

 

チックショウ…………。

ただ、悲しくハンカチを手にする。

 

門前

 

「大輔さん…………」

「黒ウサギ、さっきから表情がコロコロ変わってるが、あいつがどうしたのか?死んだか?」

「ええ、そうで……って何縁起でもないことをおっしゃてるのですか!?このおバカ様!!」

 

スパァーン

 

気を取り直して、豪華そうだった屋敷の前に着き、作戦を伝える。

耀の「ガルドは2階にいた」という情報から、

 

「リーダーは入り口に残ってくれ」

「ど、どうしてですか?僕だってギフトを持ってます。足手まといには」

「そうじゃない。2階で何が起こるか分からないからだ。だから、二手に分かれて、『指定』武具の捜索とガルドの様子を確認してくる。リーダーには退路を守って欲しい」

 

ジンは不満そうだったが、渋々残ることを引き受けてくれた。

 

「ちょっと待ちなさい!大輔君、貴方もここに残るのよ!」

「うん?なぜ?」

「なぜって、当たり前でしょ!貴方はギフトが無いのだから」

「私もそう思う。さっき見た感じだと、何か様子も変みたいだった」

「飛鳥に耀、もし『指定』武具を見つけたとして、1人でどうにか出来る物じゃなかったらどうする気だ?“契約書類”からじゃ、()大きさ(・・・)重さ(・・)条件(・・)も何も分からないんだし」

 

2人は黙る。

まあ、耀なら問題はなさそうなんだが……万が一、何かは分からないが持てなかった場合、扱えなかった(・・・・・・)場合、飛鳥1人では荷が重い。

飛鳥はギフトこそ持っているが、俺と同じで身体能力は普通の人間だからな。

 

「そう心配するな。危なくなったら、いの1番に逃げるつもりだから」

 

俺達3人は、正面玄関から中に入った。

木々に阻まれた階段を息を殺してゆっくり進む。

階段を上った先にある最後の扉の両脇に立ってタイミングを合わせて勢いよく飛び込む。

 

「ギ…………」

「――――…………GEEEEEYAAAAAaaaaa!!!」

 

門前

 

「い、今の凶暴な叫びは……?」

「ああ、間違いない。虎のギフトを使った春日部だ」

「あ、なるほど。ってそんなわけないでしょう!?幾ら何でも失礼でございますよ!」

「じゃあ、ジン坊ちゃんだな」

「ボケ倒すのも大概になさい!!!」

 

スパァーン

 

「前評判より面白いゲームになってるじゃねえか。見に行ったらまずいのか?」

「最初の取り決めにない限りは駄目です」

「何だよつまんねえな。“審判権限(ジャッジマスター)”とそのお付きってことにすればいいじゃねえか」

「だから駄目なのですよ。黒ウサギの素敵耳は、此処からでも大まかな状況が分かります。状況が把握できないような隔絶空間でもない限り、侵入は禁止です」

「チッ、……貴種のウサギさん、マジ使えね」

「せめて聞こえないように言ってください! 本気でへこみますから!」

 

(この鬼化植物……必ず彼女が関わっているはず。ならゲームは公平なルールで行われているはず。4人ともどうかご無事で。特に大輔さん)

 

目にも留まらぬ突進を仕掛けるガルドを受け止めたのは飛鳥を突き飛ばし庇った耀だった。

辛うじてガルドの突進を止めた耀は、

 

「逃げて!」

 

言葉がそれ以上続かない。

耀はガルドに部屋の外まで吹っ飛ばされた。

ガルドの姿は先日のワータイガーとかいうものではなく、紅い瞳を光らせる怪物そのものとなっていた。

入り口に残っていたジンは、叫び声を聞き階段の上まで来ていた。

 

「鬼、しかも吸血鬼!やっぱり彼女が」

「つべこべ言わずに逃げるわよ!」

 

標的を飛鳥とジンに定めたガルドが二人に迫る。

 

「GEEEEYAAAAaaaa!!」

「ま、待ってください!まだ、耀さんが――」

いいから逃げなさい(・・・・・・・・・)!」

 

飛鳥のギフトによって、ジンが飛鳥をお姫様抱っこで抱きかかえ、凄いスピードで逃げた。

俺は扉を開けた瞬間に廊下の奥に逃げていた。

最初に言った通りに。

 

「それにしても、ガルドは何で飛鳥達を追いかけなかったんだ?」

 

ガルドは屋敷の玄関付近で追いかけるのを止めて部屋に戻るために階段を上っていた。

そういえば、

 

「耀はどこに?」

 

再び部屋に入る耀を見つけて、部屋の中が見える位置まで廊下を進む。

 

「あれは……剣?『指定』武具か!」

 

だから、ガルドは屋敷から離れない。

いや、離れられない。

剣を守るために。

ということは、

 

「耀が危ない!」

 

剣を引き抜いた耀を見つけた、ガルドは猛然と突進した。

一瞬気付くのが遅れた耀は、避け損ねて右腕を引き裂かれた。

クソ、このままじゃ耀が……。

頭の中で走馬灯のようにフラッシュバックする。

 

あの日、あの時、あの場所、あの光景、あの感触、あの匂い、あの憎悪(おもい)

 

おれにはたすけられない。

おれにはちからがない。

おれにはなにもできない。

おれにはなにもない。

おれはかのじょをすくえない。

おれはまたくりかえす。

ふざけるな、

あのときとはちがう、

あいつはまだつめたくなってない、

あいつはまだいきをしている、

あいつはまだこころがうごいている、

あいつはまだいきている、

あいつはまだしんでいない、

 

耀はまだ生きようとしている、

もう繰り返さない。

 

「うおおおおおおおおおおおお!」

 

床に這いつくばる耀に、とどめを刺そうと爪を振り下ろすガルド、

 

「間に合ええええええええええええええええええ」

 

俺は無我夢中で耀とガルドの間に飛び込んだ。

そして、営利な長い爪が俺の腹を切り裂いた。

 

「――っが、はっ、うっ――……うん?」

 

痛みが全くない。

というか、掠り傷1つ無い。

これはいったい……。

 

「GEEEEYAAAAaaaa!!」

 

巨躯な足で力任せに吹っ飛ばされた。

 

「くっ」

 

俺は死ぬのか。

過去のトラウマで反射的に行動して死ぬのか。

悪くないかもな。

これが俺への罰なんだ。

彼女は俺を許してくれるかな。

ちょっとは許してくれといいな。

 

「大輔、捕まって!」

 

耀に言われるままに捕まって、フラフラと玄関まで飛んだ。

 

「おい、耀!」

 

そこで力尽きた耀を抱えて俺は屋敷を出た。

 

「誰?」

「俺だ」

「大輔君……耀さん!大丈夫なの!?」

「大丈夫じゃ……ない。凄く痛い。泣きたい」

「大輔さん、一体何が?」

「わ、悪い!それよりも、耀の傷の手当を」

「ジン君、これで応急手当てを」

 

飛鳥はリボンを渡し、白銀の剣を手に取り、

 

「今からあの虎を退治してくるわ」

「あ、飛鳥さん!?駄目です。1人じゃ無理です!悔しいですが」

「いや、俺も行く」

「だ、大輔さんまで何を!?」

「心配するな、リーダー。あいつの弱点が分かった(・・・・・・・)

「本当ですか!?」

「ああ、本当だ。(・・・)だから、応急手当てをしたら耀を連れて遠くへ逃げろ!」

「……」

 

耀は声に反応したのか、左手を振って応えた。

 

「任せろ!」

「任せなさい!」

 

リーダーと分かれて、屋敷へ走り出す。

ギフトカードを確認したが、やはり何も書かれていない(・・・・・・・・・)

さっきのは一体……。

コケたときは、血が出ていたし傷もあった。

コケたときと、さっきので違うのは……。

そういうこと(・・・・・・)なんだろうか。

 

飛鳥がおもむろに口を開けた。

 

「それで、弱点なんて本当に分かったのかしら?」

「大丈夫だ。ちゃんと、弱点は分かったから。……弱点はその剣だ」

「そんなの当り前じゃない!……はぁ、呆れた」

「けど、いい作戦は思いついた」

「GEEEEEYAAAAAaaaaa!!!」

「あら?やっと出てきたわね」

 

作戦とは屋敷に火をつけてガルドをおびき出すこと。

野生に帰っている今のガルドなら、本能的に逃げ出すと考えたがどうやら正解だったようだ。

直前に相手が虎だから、というか獣が相手ならと何となくマッチを持ってきておいたのも正解だった。

 

「じゃあ、俺が上手くここに連れてくるからあとは頼んだ」

「分かったわ」

 

飛鳥のギフトはギフトすらも支配できると、今聞いた。

 

「もう1度言うが、たとえ俺に何があっても俺を気にせずにガルドを倒せ」

 

俺は屋敷の前のガルドに、

 

「さあ、最後の勝負だ、ガルド!!」

 

挑発。

逃げ出す俺を、巨躯を揺らして追いかけてくる。

あともう少し、

 

「今だ、飛鳥!」

 

ギリギリで追いつかれた俺はとっさに反転して防御体勢を取り、そのまま後方に吹っ飛ばされた。

だが、これでいい。

 

「今よ、拘束なさい(・・・・・)!」

 

飛鳥の一喝で、周りの木々が一斉にガルドへと襲い掛かり拘束する。

 

「GEEEEEYAAAAAaaaaa!!!」

 

ガルドが絶叫して猛烈に抵抗する。

飛鳥は一切の怯みも見せず白銀の剣でガルドの額を貫く。

 

「GeYa…………!」

 

白銀の剣の激しい光と、歯切れの悪いガルドの悲鳴。

絶命したガルドに苦笑交じりの皮肉げな顔で敬意を表し声をかけた。

 

「今さら言ってはアレだけど……貴方、虎の姿の方が素敵だったわ」

 

 

 




毎週金曜日に投稿していく予定です。


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第7話 元仲間が帰ってくるそうですよ?

ゲームの終了と同時にフォレス・ガロを覆っていた木々が一斉に霧散していく。

 

「おい、そんな急ぐ必要ねえだろ?」

「大ありです!黒ウサギの聞き間違いでなければ、耀さんはかなりの重症のはず。大輔さんももしかしたら……!」

「黒ウサギ!早くこっちに!耀さんが危険だ!」

「耀さん!すぐにコミュニティの工房に運びます。あそこなら治療器が揃ってますから。ジン坊ちゃん、大輔さんは?」

「まだ、屋敷の方に」

「仕方ありません。十六夜さん、大輔さんと飛鳥さんもケガをなされていたら、連れて来てください。お願いします」

「ああ」

 

――俺は飛鳥がガルドを倒すのを見届けたゲームクリア後。

当然のように、飛鳥に「なぜ、ケガをしていないのかしら?」と問い詰められていた。

 

「分からん」

 

と一辺倒の答えを繰り返していた。

どうやら、ゲーム前にも言っていた別人説を再び疑っているらしい。

つまり、ギフトを隠していたのではないかと。

そして、隠したことで耀がケガをしたのではないか、と口には出さないが目で言っている。

俺だってギフトじゃないにしろ、もっと早く分かってれば、こんなことには……。

過ぎたことを考えても仕方がない。

 

「これが証拠だ」

 

何も書かれていないギフトカードを見せて、分かったら教えることを条件に渋々納得してくれた。

十六夜とリーダー合流し、飛鳥は耀が心配で急ぎ一人でコミュニティに帰った。

 

「楠木!なかなかの鮮やかな(・・・・)勝利だったな!ヤハハ」

 

ちっ、この問題児め。

 

「で、どうする、御チビ?」

「僕は結局……何も出来ず仕舞いでした」

 

ジンは申し訳なさそうに頭を上げる。

 

「耀の応急手当とか、ガルドの正体を見破ったりとか、ジンは自分に出来ることをちゃんとしたんだから、もっと誇っていいと思うぞ」

 

ガルドのことはさっき飛鳥から聞いた。

吸血鬼の力で鬼種になっていたことを。

 

「それは、そうかもしれませんが」

お前達は勝った(・・・・・・・)。なら、今はそれでいいんじゃねえの? 初めてのギフトゲームだったんだろ? 御チビは楽しめたか?」

 

苦い顔で首を振る。

気持ちは分からないでもない。

 

「昨夜の作戦……僕を担ぎ上げて、やっていけるのでしょうか?」

「他に方法は無いと思うけどな。御チビ様が嫌だと仰るのなら、止めますデスヨ?」

「いえ、やっぱりやります。僕の名前を全面に出すという方法なら、万が一の際にみんなの被害も軽減出来るかもしれないですし。僕でも皆の風よけぐらいにはなれるかもしれない」

 

こんな大変なコミュニティをジンが、子供が1人でまとめるなんて無理だ。

まして、魔王と積極的に関わっていく以上とてもじゃないが不可能だ。

だからこそ、俺がフォローしなければならない。

年齢的にも立場的にもギフトが無い俺がフォローするのが適任だろう。

 

「……そうか。なら、さっそく初仕事だぜ、御チビ」

 

ゲームが終わり、ジンは1000人を超えるフォレス・ガロの被害者(仮)にガルドを倒したことの報告などをした。

歓声を上げる者。

呆然と困惑する者。

人質のことを知り泣く者。

近隣の大手のコミュニティが無くなり不安になる者。

 

「1つ、重要なことをお聞きしたい」

「なんでしょうか?」

「いえ、その……まさか(・・・)俺達は貴方達のコミュニティ――“ノーネーム”の傘下に?」

 

ジンの表情が強張った。

助けて貰いながら感謝の言葉を口にするでもなく、失意の思いを口にされた。

非常に歯がゆい。

 

「今より“フォレス・ガロ”に奪われた誇りをジン=ラッセルが変換する!代表者は前へ!」

 

十六夜が高らかに宣告する。

一斉に衆人環視の的になる十六夜とジン。

十六夜がらしくない物言い続ける。

 

「聞こえなかったのか? お前達が奪われた誇り――“名”と“旗印”変換すると言ったのだ!コミュニティの代表者は前へ!列を作れ!“フォレス・ガロ”を打倒したジン=ラッセルが、その手でお前達に返還していく!」

 

「ま、まさか」

「もう、諦めていたのに……」

「俺達の旗印が返ってくるのか……!?」

 

「流れは作った。手渡す時に、しっかり自己主張するんだぜ?」

「わ、分かりました」

 

十六夜はジンに任せ、衆人から離れる。

 

「やっぱ、お前は凄いな」

 

素直にそう思った。

だが、「大したことじゃない」と本人は意にも介さなかった。

 

「俺からしたら、恩恵無し(おまえ)が無傷でゲームを生き残った方が凄いと思うんだが」

 

十六夜の表情がどうやってだと、笑みを浮かべ好奇心旺盛な顔をしている。

のらりくらりと、誤魔化せるはずもなく、

 

「俺も何が起きたか分からない」

 

正直に答えるが信じようとしない。

だから、白夜叉に聞こうと思ってるんだけど。

 

「それにしても、“旗印”ってそんなに大事なものなのか?」

「さあな。だが、効果は予想以上だな。ここまで喜ばれるとは。おっと、仕上げだな」

 

十六夜は後ろ手に手を振りながら、ジンのもとへ。

 

「“名前”と“旗印”を返還する代わりに幾つか頼みたいことがある。お前達の“旗”を取り戻した、このジン=ラッセルのことを今後も心に留めておいて欲しいというのが1つ。このジン=ラッセル率いるコミュニティが“打倒魔王”を掲げたコミュニティであることも覚えていて欲しい」

 

衆人が一斉にざわつく。

そりゃあ、信じられないだろうが。

 

「知っているだろうが、俺達のコミュニティは“ノーネーム”だ。魔王に奪われた“名”と“旗印”、それを奪い返すために魔王と戦うだろう。だから、覚えていてほしい。俺達は“ジン=ラッセル率いるノーネーム”だと。そして“名”と“旗印”を取り戻すその日まで、彼を応援してほしい」

 

十六夜らしからぬ饒舌ぶりだな。

何回、ジンの名前を出したことやら。

 

「ジン=ラッセルです。今日を境に聞く事も多くなると思いますが、よろしくお願いします」

 

その後、ノーネームの本拠に戻った俺達は耀の容体を確認する。

魔王に襲われたにも関わらず、ギフトを保管していた宝物庫は無事だったらしく、治療用ギフトを使ったので2、3日で治るとのこと。

良かった。

 

「それで、例のゲームはどうなった?」

 

十六夜の言葉に黒ウサギは泣きそうな顔になっている。

俺と十六夜、黒ウサギは本拠の3階の談話室にいる。

飛鳥は耀の側にいる。

話に戻ると、

 

「ゲームが延期?」

「はい……。中止の可能性もあるそうです」

 

黒ウサギはウサ耳を萎れさせ、俯き落ち込んでいる。

だけどその前に、

 

「ゲームって何の話だ?」

 

黒ウサギの説明を要約すると、

・元仲間がゲームの商品になった。

・ホストは白夜叉のところの傘下のコミュニティ。

・巨額の買い手が付き中止になった。

 

人身売買と無縁な国で育った俺からしたら胸糞悪すぎる。

神々が人身売買を黙認するとか……。

 

「ところでその仲間ってのはどんな奴なんだ?」

「そうですね……一言でいえば、スーパープラチナブロンドの超美人さんです。指を通すと絹糸みたいに肌触りが良くて、湯浴みの時に濡れた髪が星の光でキラキラするのです」

 

――だが、黒ウサギに勝る奴はいないぜ――

って言ってみたいなあ、byだいすけ。

 

「へえ?よくわからんが見応えはありそうだな」

「それはもう!加えて思慮深く、黒ウサギをとても可愛がってくれました。せめて、お話だけでもしたかったのですけど……」

「おや、嬉しい事を言ってくれるじゃないか」

 

はっとして、窓の外を見る。

コンコンと叩く窓の向こうで、にこやかに笑う金髪の美少女が浮いていた。

跳び上がるほど驚いた黒ウサギは急いで窓に駆け寄った。

 

「レ、レティシア様!?」

「様はよせ。今の私は他人に所有される身分だ」

 

黒ウサギが錠を開けると、金髪の美少女は苦笑しながら談話室に入る。

 

「こんな場所からの入室で済まない。ジンには見つからずに黒ウサギと会って話をしたかったんだ」

 

突然の来訪に驚くも、余程、嬉しかったのか黒ウサギは小躍りするようなステップで茶室に向かった。

 

「なら、俺と十六夜は席を外そうか?」

「いや、構わない。君達にも関係のあることだからな」

「どうした?私の顔に何か付いているか?」

「別に。前評判通りの美少女だと思ってな。目の保養に観賞してた」

 

ロリコンか!

と言いたい。

言いたいが、なんか凄い言い返されそうで言えなかった。

 

「ふふ、観賞するなら黒ウサギも負けてないと思うのだが」

「あれは愛玩動物なんだから、観賞するより弄ってナンボだろ」

「ふむ。否定はしない」

「否定してください!」

 

紅茶のティーセットを持っている黒ウサギは、今はハリセンを出せない。

だから、俺を見て「代わりにお願いします」と訴えている。

はあ、仕方ないな。

 

「そんなことより、紅茶飲もうぜ」

「だ、大輔さん!?」

 

いやいや、黒ウサギ。

否定できる奴なんてロリコンだけだろ。

 

黒ウサギは不機嫌そうな顔で紅茶を注ぎ、

 

「レティシア様と比べられれば、世の女性のほとんどが観賞価値がなくなります。黒ウサギだけが見劣るわけではありません」

「いや、全く負けちゃいねえぜ?好みでいえば黒ウサギの方が断然タイプだからな」

「まあ、黒ウサギは超美人だし、俺もそうだな」

 

黒ウサギは頬を染め、ウサ耳が紅くなった。

おそらく、いや、確実に俺と十六夜の思いは一緒のはずだ。

黒ウサギちょろすぎ。

 

「……黒ウサギ。まさか、男を侍らすとは……。大人になったな」

「レ、レ、レティシア様!?は、侍らすなんて、黒ウサギはそんなはしたない女ではありませんよ。黒ウサギの愛はいつか1人の殿方に捧げるために、200年貞操を守ってきて………このお馬鹿様!!」

 

スパァーン!

解せぬ。

 

「……して、どのようなご用件ですか?」

 

黒ウサギは話を戻す。

 

「用件というほどのものじゃない。新生コミュニティがどの程度の力を持っているのか、それを見に来たんだ。ジンに会いたくないというのは合わせる顔がないからだよ。お前達の仲間を傷つける結果になってしまったからな」

「やっぱり、貴方が……」

「……どういうことだ、黒ウサギ」

「ガルドに“鬼種”を与えたのは純血の吸血鬼たるこの私だ」

「何だと!?元仲間のお前が何で!?」

 

その所為で耀は大ケガをしたっていうのか。

ふざけんなよ。

 

「……話を続けてくれ」

 

詰め寄ろうとした俺は後ろから力付くで止められた。

振り返ると我慢しろと言わんばかりに、静かに立っている十六夜がいた。

 

「本当に申し訳ないと思っている。しかし、黒ウサギ達がコミュニティ再建を掲げたと聞いた時、それが如何に愚かで、どれだけの茨の道か……。黒ウサギ、それが分からないお前ではないだろう」

「……」

「そこで私は1つ試したくなった。異世界から呼び出してまで招いたギフト保持者である彼らが、コミュニティを救えるだけの力を秘めているのかどうかを」

「そ、その結果は?」

「生憎、ガルドでは当て馬にもならなかったよ。ゲームに参加した彼女達はまだまだ青い果実、それに、そこの彼は飛びきりのイレギュラー。これでは判断の使用がない。……こうして足を運んだはいいが、さて。私はお前達になんと言葉をかければいいのか」

 

あくまでも仲間のためにか……。

だが、実際には本来より難易度の高いゲームをするはめになりケガ人が出た。

理解は出来ても、納得は出来ない。

そして、静聴していた十六夜が口を開けた。

 

「違うね。アンタは言葉を掛けたくて古巣に足を運んだんじゃない。古巣の仲間が今後、やっていけるか、安心したかっただけだろ?」

「……ああ。そうかもしれないな」

「その不安、払う方法が1つだけあるぜ」

「何?」

「簡単な話だ。その身で、その力で、試せばいい。――どうだい、元・魔王様?」

「ふ……なるほど。それは思いつかなんだ。実に分かりやすい。下手な策を弄さず、初めからそうしていればよかったなあ。そっちの彼はどうする?」

 

正直、俺は迷っている。

耀がケガをする原因になったコイツを許せない。

だが、耀は生きている。ケガも二、三日で治る。

あとは耀が許すか許さないかにで決まる。

おそらく、優しい耀なら許すだろう。

だから俺は、

 

「確認だが、それは仲間を思ってのことなのか?」

「ああ」

「そうか。なら、俺からは何も言わない。十六夜に任せる」

「へえ?いいのか?」

「今の俺は感情的な判断しか出来ない。だから、お前に任せる(・・・)

「そうか……。で、ゲームのルールはどうする?」

「どうせ力試しだ。手間暇かける必要もない。双方が共に一撃ずつ撃ち合い、そして受け合う」

「立っていたものの勝ち。いいね、シンプルイズベストってやつ?」

 

笑みを交わした2人は窓から中庭へ飛び出した。

 

「黒ウサギ、呆けてないで俺達も見にいくぞ」

「そ、そうですね。何かあったらいけませんし」

 

黒ウサギも、慌てて窓から2人を追いかける。

俺は1人寂しく階段を降りた。

中庭に着くと、2人は天と地に位置していた。

 

「吸血鬼って、空も飛べるもんなのか?」

「それはさっき、俺が言った」

「でも、それじゃ十六夜が不利だろ?」

「それも言ったぜ」

「黒ウサギ~」

 

もう1度説明してくれと頼む。

黒ウサギの解説を聞く前に勝負が始まる。

レティシアがギフトカードから槍を取り出した。

 

「互いのランスを一打投擲する。受け止められねば敗北。悪いが先手は譲ってもらうぞ」

「好きにしな」

「ふっ――――!ハァア!!!」

 

怒号と共に天空から槍が放たれる。

流星の如く大気を揺らしながら十六夜に迫る。

 

「カッ――しゃらくせえ!」

 

殴り付けた(・・・・・)

 

「「「――は……!??」」」

 

十六夜、お前デタラメ過ぎだろ。

驚かないと決めていたが、それでも驚かざるを得ない。

ん!

レティシアは十六夜の跳ね返した槍の残骸を避けようと――しない!?

アイツ、死ぬ気か!

一瞬、頭に死を選ぶだけの理由が浮かんだが全力で否定した。

死を持って償うなど、償われた側のことも考えやがれ。

だから俺は、

 

「レティ――」

 

叫ぼうとしたが、既に黒ウサギが助けに入っていた。

地上に降りてきた黒ウサギの手には、

 

「ギフトネーム・“純潔の吸血姫(ロード・オブ・ヴァンパイア)”……やっぱり、ギフトネームが変わっている。鬼種は残っているものの、神格が残っていない」

「っ……!」

「元・魔王様のギフトって、吸血鬼のギフトしか残ってねえの?」

「……はい。武具は多少残してありますが、自信に宿る恩恵は……」

「ハッ。どうりで歯応えが無いわけだ。他人に所有されたらギフトまで奪われるのかよ」

「いいえ……魔王がコミュニティから奪ったのは人材であってギフトではありません」

 

黒ウサギの話にレティシアは申し訳なさそうにしている。

 

「レティシア様は鬼種の純血と神格の両方を備えていたため“魔王”と自称するほどの力を持ってたはず。今の貴女はかつての十分の一にも満ちません。どうしてこんなことに……!」

「…………それは」

 

言葉にしようとして口を閉じ、俯いて目をそらす。

その姿に十六夜は鬱陶しそうに頭を掻いている。

 

「まあとりあえず、屋敷に戻らないか」

 

俺の提案に3人は従った。

会話なく中庭から屋敷に戻ろうとする俺達に異変が起きたのはその時だった。

顔を上げると同時に遠くから褐色の光が俺達に射し込み、レティシアが叫んだ。

 

「あの光……ゴーゴンの威光!?まずい、見つかった!」

 

声が焦りに染まっている。

レティシアは俺達を押し飛ばし光の前に立ち塞がる。

 

「ゴーゴンの首を掲げた旗印……!?だ、駄目です!避けてくださいレティシア様!」

 

翼の生えた靴を履いている騎士達が大勢空にいた。

黒ウサギが叫びを上げる。

その声よりも先に俺は動いていた。

十六夜と黒ウサギは、ゴーゴンと聞いた瞬間に、何か別のゴーゴン関連を頭に思い浮かべたに違いない。

現に黒ウサギは旗印を気にしていたし。

だが、俺は違う。

逆にそっち方面の詳しい知識が全然ないため、ゴーゴンと聞いてイコール石化と思い反射的に動けた。

だから、俺はレティシアを助けるために動いた。

 

「レティシ――ひでぶ」

 

しかし、コケた。

足がもつれてコケた。

身体が頭についていかずコケた。

そして俺も褐色の光を受けた。

まあ石化してないが。

自信は無かったがやはりしなかった。

俺を見た2人は驚いてはいたが、ガルドとのギフトゲームで黒ウサギは俺の謎の力をウサ耳で知り、十六夜には話したらしい。

だからこそ、当の本人が分からないことを聞かずに、あえて無視して目の前で石化したレティシアに気を向ける。

 

「いたぞ!吸血鬼は石化させた!すぐに捕獲しろ!」

「例の“ノーネーム”もいるようだがどうする?」

「邪魔するようなら構わん、斬り捨てろ!」

 

目の前で石像と化したレティシアは捕獲された。

 

「まいったな、生まれて初めておまけに扱われたぜ。手を叩いて喜べばいいのか、怒りに任せて叩き潰せばいいのか、黒ウサギはどっちだと思う?」

「と、とりあえず、大輔さんを連れて本拠に逃げてください」

 

空の騎士達は、吸血鬼を捕まえられてよかったや、取引が中止にならずよかったと口々に言っている。

だが、その言葉の1つを見逃さなかった黒ウサギは、

 

「箱庭の外ですって!?一体どういうことです!彼らヴァンパイアは箱庭の中でしか太陽の光を受けられないのですよ!?そのヴァンパイアを箱庭の外に連れ出すなんて……!」

「我らの首領が取り決めた交渉。部外者は黙っていろ!」

 

空には100を数える騎士の軍勢が本拠の上空で待ち構えていた。

 

「これだけの無礼を働いておきながら、非礼を詫びる一言もないのですか!?それでよく双女神の旗を掲げていられるものですね、貴方達は!!!」

 

激昂する黒ウサギを騎士達は鼻で笑い、

 

「ふん。こんな下層のコミュニティに礼を尽くしては、それこそ我らの旗に傷が付くわ。身の程を知れ“名無し”が」

「な、なんですって……!!!」

 

黒ウサギはからバチコン!と堪忍袋が爆発したような感じがした。

気持ちは痛いほど分かる。

1発ぶちかましてやれ、黒ウサギ!

 

「ありえない……ええ、ありえないですよ。天真爛漫にして温厚篤実、献身の象徴とまで謳われた“月の兎”をこれほどまで怒らせるなんて……!」

 

空気が変わった。

黒ウサギの放つ威圧感に、上空の騎士達はたじろぐ。

黒ウサギが右腕を掲げると、雷鳴のような爆音が周囲を支配して、その右手には光輝く槍が掲げられていた。

 

「ま、まさかインドラの武具!?」

「あ、ありえん!最下層のコミュニティが神格を付与された武具を持つはずが……!?」

「本物のはずがない!どうせ我らと同じレプリカだ!」

 

騎士達は驚嘆の声を口にしている。

よく知らないが、イケ!黒ウサギ!

 

「その身で確かめるがいいでしょう!」

 

熱膨張した空気が、雷鳴を轟かせる。同時に黒ウサギの髪が緋色に染まる。

黒ウサギが光輝く槍を天に向かって撃ち出そうと力を込めたその時、

 

「てい」

「フギャ!」

 

十六夜(もんだいじ)が後ろからウサ耳を引っ張った。

あさっての方向に放たれた槍は天空を数キロに亘って明るく照らした。

マジで何やってんのアイツ!?

 

「お、ち、つ、け、よ!お前は白夜叉と問題を起こしたいのか?つか俺が我慢してやっているのに、一人でお楽しみとはどういう了見だオイ」

「フギャア!!?って怒るところそこなんですか!?」

 

ああ、そうか。

あの旗はサウザンドアイズか。

……十六夜、グッジョブ!

 

「い、痛い、痛い!い、いい加減にしてください十六夜さん!?今はあの無礼者共に天誅を」

「もうみんな帰ったぞ」

「え?」

 

あれ?

いつの間にか誰もいない。

 

「いえ……あれはまさか、不可視のギフト!?」

「空飛ぶ靴があるなら間違いなくそうだろうぜ。それにそう怒るな。アイツなんて、ずっと地に突っ伏して悔しがってんだから」

 

黒ウサギは髪も元に戻り、

 

「ええっと、大輔さんが悪いわけではないので、責任を感じる必要はありませんよ?」

「……いや、その、身体が痺れて動けないだけなんで。……その、助けてください」

 

ここまで、俺は地面に倒れたままだった。

恥ずかしいしかない。

 

「ヤハハ!何だ動けなかっただけか。情けねえな。ヤハハ!」

 

十六夜、お前分かってて言ったろ!

この野郎、覚えとけよ。

 

「えっ!?だ、大丈夫ですか、大輔さん!?今すぐ、治療用ギフトを持って来ますので少々お待ちを」

 

それから、しばらく。

黒ウサギが治療用ギフトを持って来ると共に、十六夜の指示で飛鳥も連れて来た。

俺は黒ウサギに治療されていると、飛鳥には「はあ。だらしない」と。

もうやめてよ。

 

「まあ、なんだ。結局、あの場で動けたのはお前だけだった。俺も黒ウサギも何も出来なかった」

「それは誉めてんのか?」

「勘違いすんな。俺はお前如きに遅れを取ったことが気に入らないだけだ!」

 

そんな言い方しなくてもいいだろ。

 

「だからこそ、俺のプライドを傷つけた元凶をぶっ潰しにいくぞ」

「行くってどこにだ?」

「ハッ、決まってんだろ!」

 

十六夜は獰猛な笑みで答えた。

 

「白夜叉のとこだ!」

 

 

 

 

 



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第8話 直談判するそうですよ?

――サウザンドアイズ東側支店・離れの家屋。

 

「うわお、ウサギじゃん!うわー実物初めて見た!噂には聞いていたけど、本当に東側にウサギがいるなんて思わなかった!つーかミニスカにガーターって随分エロいな!ねー君、うちのコミュニティに来いよ。三食首輪月付きで毎晩可愛がるぜ?」

 

中にいた男は黒ウサギの全身を舐めまわすように視姦してはしゃいでいた。

黒ウサギは脚を両手で隠し困惑している。

 

「分かりやすい外道ね。先に断わっておくけど、この美脚は私達のものよ」

「そうですそうです!黒ウサギの脚は、って違いますよ飛鳥さん!」

「そうだぜお嬢様。この美脚は既に俺のもんだ」

「そうですそうですこの脚はもう黙っらしゃい!!」

「よかろう、ならば言い値で買おう」

「売・り・ま・せ・ん!あーもう、真面目にしてください!!!」

「そうだぞ、お前達。真面目な話、黒ウサギの美脚はコミュニティみんなのものだ」

「もう!大輔さんまで!!!!黒ウサギも本気で怒りますよ!」

「馬鹿だな。怒らせてんだよ」

 

スパァーン!×4

 

やっぱり、いつぞやの前言は撤回だな。

黒ウサギを弄らずにフォローするなんて出来るはずがない!

だって、楽しいんだもん。

フォロー2割の弄り8割。

 

「あっはははははははは!え、何?“ノーネーム”って芸人のコミュニティなの。もしそうならまとめて“ペルセウス”に来いってマジで。道楽には好きなだけ金をかけるのが性分だからね。勿論、黒ウサギさんの美脚は僕のベッドで毎夜毎晩好きなだけ開かせてもらうけど」

「お断りでございます。黒ウサギは礼節も知らぬ殿方に肌を見せるつもりはありません」

 

黒ウサギはプイッとそっぽを向く。

 

「へえ?俺はてっきり見せる為に着てるのかと思ったが?」

「ち、違いますよ!これは白夜叉様が開催するゲームの審判ををさせてもらう時、この格好を常備すれば賃金を三割増しすると言われて嫌々……」

「おい、白夜叉」

「なんだ小僧」

「超グッジョブ」

 

ビシッ!

と親指を立てて語り合う2人。

俺も小さく見えないように親指を立てる。

代弁ありがとう十六夜。

ナイス白夜叉。

 

「へえ、大輔君もそういう風(・・・・・)に見てたのね」

「飛鳥、さん?」

 

見られてたああああああ!

飛鳥が俺達を冷ややかな目で見て、少し距離をお取りになられた。

異世界でも女の子に嫌われるとつらい。

男の真理だな。

 

「白夜叉、本題に入ろう、ぜ?」

「――“ペルセウス”が私達に対する無礼を振るったのは以上です。この屈辱は両コミュニティの決闘をもって決着をつけるべきかと思います」

 

謝罪ではなく直接的に罰を与えたい。

黒ウサギの提案に俺達も賛成だった。

 

「“サウザンドアイズ”にはその仲介をお願いしたくて参りました。もし、“ペルセウス”が拒むようであれば“主催者権限”の名の下に」

「いやだ」

「……はい?」

「いやだ。決闘なんて冗談じゃない。それにあの吸血鬼が暴れ回ったって証拠があるの?」

「それなら彼女の石化を解いてもらえば」

「駄目だね。アイツは1度逃げ出したんだ。出荷するまで石化は解かない。それに口裏を合わせないとも限らないじゃないか。そうだろ?元お仲間さん?」

 

一応の筋が通ってるだけに、コイツの嫌味な笑いが癇に障る。

 

「そもそも、あの吸血鬼が逃げ出した原因はお前達だろ?実は盗んだんじゃないの?」

「な、何を言い出すのですかッ!そんな証拠が一体何処に」

「事実、あの吸血鬼はあんたのところに居たじゃないか」

 

ぐっと黙り込んだ黒ウサギ。

悔しいが正論なので言い返せない。

 

「まあ、どうしても決闘をしたいのならちゃんと調査しないとね。……もっとも、調べられて1番困るのは全く別の人だろうけど」

「そ、それは……!」

 

視線が白夜叉に移る。

みんな口には出さない。

レティシアが商品として扱われていた。

商業コミュニティが商品に逃げられるような杜撰な管理をするわけがない。

そこから逃げ出したとなれば答えは1つ。

誰か(・・)が手引きをした。

これ以上迷惑をかけたくない黒ウサギの気持ちも分かるし。

 

「じゃ、さっさと帰ってあの吸血鬼を外に売り払うか。愛想のない女って嫌いなんだよね、僕。特にアイツは体も殆んどガキだしねえ――だけどほら、あれも見た目は可愛いから。その手の愛好家には堪らないだろ?気の強い女を裸体のまま鎖で繋いで組み伏せ啼かす、ってのが好きな奴もいるし?太陽の光っていう天然の牢獄の下、永遠に玩具にされる美女ってのもエロくない?」

 

分かりやすい挑発。

に、飛鳥が乗ろうとするのを止める俺。

で、黒ウサギは十六夜が止め……ず、

 

「あ、貴方という人は……!」

 

怒りで震える黒ウサギが今にもキレそうだ。

ここで手を出したら、

 

「しっかし可哀想な奴だよねーアイツも。恥知らずな元お仲間さんの所為でギフトまでも魔王に譲り渡す事になっちゃったんだもの」

「……なんですって?」

 

やっと落ち着かせた飛鳥が声を上げる。

レティシアの状態を知らなかったから当然ではあるが。

 

「報われない奴だよ。“恩恵”はこの世界で生きていくのに必要不可欠な生命線。魂の一部だ。それを馬鹿で無能な元仲間の無茶を止めるために捨てて、他人の所有物っていう屈辱を受けてまで駆けつけたってのに、その元仲間はあっさり自分を見捨てやがる!目を覚ましたこの女は一体どんな気分になるだろうね?」

「……え、な」

 

顔面蒼白になる黒ウサギ。

黒ウサギは、いや、俺達は絶句する。

レティシアのキフトネームが暴落していた理由……。

クソッ。

無粋なことを聞いちまった。

ルイオスは笑いながら黒ウサギにスッと右手を出す。

 

「ねえ、黒ウサギさん。取引をしよう。吸血鬼を“ノーネーム”に戻してやる。代わりに、僕は君が欲しい。君は生涯、僕に隷属するんだ」

「なっ、」

「一種の一目惚れって奴?それに“箱庭の貴族”という箔も惜しいし」

 

再度絶句する黒ウサギ。

ワードワードだけを取ればプロポーズにも聞こえる。

それはそれで許さないが。

と、目を離した隙に、

 

「外道とは思っていたけど、此処までとは思わなかったわ!黒ウサギ!こんな奴の話を聞く義理は無いわ!」

 

とうとう我慢出来ず飛鳥が怒鳴った。

 

「ま、待ってください飛鳥さん!」

 

まさか……黒ウサギ。

 

「ほらほら、君は“月の兔”だろ?仲間の為、煉獄の炎に焼かれるのが本望だろ?君達にとって自己犠牲はって奴は本能だもんなあ?」

「……」

「ねえ、どうしたの?ウサギは義理とか人情とかそういうのが好きなんだろ?安っぽい命を安っぽい自己犠牲ヨロシクで帝釈天に売り込んだんだろ!?箱庭に招かれた理由が献身なら、種の本能に従って安い喧嘩を安く買っちまうのが筋だよな!?ホラどうなんだよ黒ウサ

黙りなさい(・・・・・)!」

「っ……!?…………!!?」

 

この流れはまずい。

 

「貴方は不快だわ。そのまま地に頭を伏せてなさい(・・・・・・・・・・)!」

「おい、女。そんなのがつうじるのは――格下だけだ、馬鹿が!!」

 

激怒したルイオスがギフトカードから変な鎌を取り出して飛鳥目掛けて振り下ろす。

 

「女の子にそんな危ない物を向けるなよな、お坊ちゃん」

「な、なんだお前……!何で腕が斬れていない(・・・・・・)!?これには“星霊殺し”の恩恵があるんだぞ!!」

 

ルイオスだけでなく白夜叉も驚いていた。

とっさに腕を出して庇ったわけだが、その鎌ってそんなに凄いギフトだったの?

 

「ええい、やめんか戯け共!話し合いで解決できぬなら門前に放り出すぞ!」

「……。ちっ。けどその女が先に手を出したんだけどね?」

「ええ、分かってます。これで今日の1件は互いに不問という事にしましょう。……後、先ほどの話ですが……少しだけお時間をください」

「ま、待ちなさい黒ウサギ!貴方、この男の物になってもいいというの!?」

「……仲間に相談する為にも、どうかお時間を」

「黒ウサギ、お前……」

 

飛鳥から顔を背ける黒ウサギ。

黒ウサギがいなくなればレティシアが帰ってくる。

レティシアを諦めれば黒ウサギは残る。

それを知ったレティシアは何かしらの犠牲を払ってでも黒ウサギを取り戻すだろう。

そして、黒ウサギもまた……。

2人は会うことも出来ずに繰り返す。

そんな結末にしてたまるか!

どうにかして、決闘に持ち込まなければ……。

 

「オッケーオッケー。こっちの取引ギリギリ日程……1週間だけ待ってあげる」

 

クソッ!

何も思い浮かばない。

 

「ところで、“ペルセウス”のリーダーってお前か?」

 

長いこと黙っていた十六夜が口を開けた。

こうなったら十六夜(もんだいじ)頼みだ。

いつもみたいに、喧嘩を売ってくれ。

 

「あぁ?そうだけど、今さら何聞いてんの?」

 

ほら、何か言ってやれ、十六夜。

 

「はあ」

「――ちょっと待てよ。今のため息ははなに?」

「名前負けしすぎ。期待した俺が馬鹿だった。……そういう意味さ」

「はっ。今なら安い喧嘩でも安く買うぜ?」

 

そうだ買え、十六夜。

そのためにわざわざ挑発……を?

再度、ため息をついた?

本当に興味がなかっただけ?

え?

ルイオスは帰った。

 

「十六夜、どうするんだ?このままってわけには」

「まあ、考えはある。だが今はあっち(・・・)だろ?」

 

現在進行形で黒ウサギと飛鳥がヒートアップしていた。

 

「どういうつもりなの黒ウサギ!」

「……」

「私達を呼びだした貴方がコミュニティを離れるのは、責任の放棄に他ならないわ!」

「……そんな、つもりは」

「いいえ、嘘よ!貴方は仲間の為に自分を売り払っても構わないって思っている!だけどそんな無駄なこと、私達が絶対に許さないわ!」

「む、無駄って……仲間とは何物にも勝る、コミュニティの宝でございます。ましてや魂を削ってまでコミュニティの窮地に駆け付けたレティシア様を見捨てては、我々の義が立ちません!」

「だけどそれは貴方が身代わりになる事じゃない!そんなの無意味だわ!」

「仲間の為の犠牲が無意味なはずがない!」

 

ああもう、

 

「うるせえ!!」

「「えっ!?」」

「俺はまだ白夜叉に用があるからお前らは帰れ!十六夜、あとは任せた」

「……はあ。今回だけだからな。お嬢様、駄ウサギ帰るぞ」

「ちょっと、お待ちを!!」

「い、十六夜君!?」

 

十六夜は2人を無理矢理引きずって帰って行った。

白夜叉の自室にて、

 

「何か分かったのか?」

「“箱庭”の上層に掛け合って分かったのは、おんしは間違って召喚されたのではなく、正当な方法で正しく楠木大輔が召喚されたということだけじゃ」

「そうか」

 

間違いじゃない、か。

 

「それより、おんし、さっきのはどういうことだ?」

 

ガスパーとのゲームでのこと、ゴーゴンの光を浴びたこと、コケて血が出たことなどを説明した。

 

「ゲーム中にコケるとは」

 

と、憐れみの目で見られたりした。

 

「ふむ、やはり原因は“魔王の契約書類”であろうの。その効力で攻撃から守られ……おんし、さっき黒ウサギから叩かれていたの?」

「ん?ああ。そういえば……痛かったな」

「ということはおそらく……おんしに向けられた敵意がある攻撃全ては“契約書類”によって守られる。だが、敵意が無い、もしくはおんしが敵と認識いない者の攻撃からは守られない。うーん、かなりデタラメの効力だの」

 

黒ウサギのツッコミは愛情がこもっていると。白夜叉談。

否定はしない。

 

「それで守りはいいが、俺には攻撃の手段が無い。だから、すぐにでも受けられるギフトゲームはないか?」

 

おそらく、攻撃で死ぬことはない。

だが、敵を倒す手段が無い以上勝つことも出来ない。

足手まといにはならないかもしれないが、ギフトゲームに参加している意味もない。

 

「おんしには悪いが、無害ではあると分かっていてもここまで異例だと“主催者”にも教えねばならん。それでも参加出来るゲームとなると必然的に難易度が上がる。それに、さっきの説明で小僧の鎌を知らなかったことから鑑みると……おんしの知識でクリア出来るゲームはほぼ無い」

 

確かに神話などの話はほとんど知らない。

ペルセウスも名前くらいしか知らない。

ゴーゴンも石化する目があるってことしか知らない。

やっぱり生きにくい世界だ。

 

「すまんな。何も力になれんで。今は仮に“契約の力”とでも名付けるが、まずはそれを深く知ることが重要だ」

「そうか……そうか」

 

俺は帰ろうと立ち上がる。

 

「本当にすまない。その、なんだ、相談ならばいつでものるぞ」

 

俺は白夜叉に顔を合わせずに、

 

「じゃあ、白夜叉。さっき、俺の召喚は間違いじゃないと言ったが、俺からしたら手違い(・・・)であって欲しかった」

「……」

 

おそらく、困惑しているだろう白夜叉に礼を述べて帰路に着いた。

 

 

――翌日。

楠木大輔の朝は早い。

朝、風呂に入ろうと浴室に行くと飛鳥と遭遇し引っ叩かれる。

昼過ぎ、耀に会おうと部屋に行き、部屋に入ると包帯の巻き替え中で物を投げつけられる。

夕方、黒ウサギを励まそうと部屋に行き、ちゃんとノックして黒ウサギがドアを開けようとしたので避けようとしたらバランスを崩して胸を触りぶっ叩かれる。

昨夜のことで神様が慰めようとしてくれたのか。

完全にいらん世話なんだが。

 

――翌々日。

現在の状態ではギフトゲームの役に立たない俺は、ノーネームの子供達と一緒に掃除に励む。

この無駄に広い本拠の掃除は骨が折れる。

そして、3人には謝るタイミングを逃してしまった。

 

『大輔さんはゲームには参加しないの?』

『大輔さんはギフトがないらしいよ』

『可愛そうな人なの?』

『それに変態だよ』

 

「おーいチビ共、聞こえてるぞ。俺は変態じゃないし、ゲームには一応参加するぞ」

 

『でも、ギフト無いんじゃないの?』

『そんな。危ないよ』

『仲が悪いの?』

『触ったらしいよ』

 

「よし、1つ良いことを教えてやる。“能ある鷹は爪を隠す”。俺が本気を出すとゲームにならないからな(・・・・・・・)。だから、アイツらの成長のために今はゲームへの参加を控えてるだけだ」

 

『へえ、そうなんだ』

『格好いい』

『じゃあ、黒ウサギのお姉ちゃんより強いの』

『でも、変態なんでしょ?』

 

「ああ、当然だ。黒ウサギにだって十六夜にだって、俺は負けはしない(・・・・・・)ぜ」

 

『『わあ、凄い!』』

『『女の敵だって』』

 

こうして、俺の朝は始まる。

嘘はついてないからな。

決して変態じゃないからな。

それに、天に誓って見てはないし。

あれから、5日。

俺は子供達と掃除をしたり、料理を作ったり、クッキーを作ったり、勉強していた。

黒ウサギと飛鳥はギスギスしている。

耀はそんな2人をどうすればいいのか分からずあたふたしている。

俺はその3人とろくに会話もしてない。

というか、避けられている。

ジンは部屋にこもって勉強中。

十六夜は4日前から本拠に帰ってきていない。

こんなバラバラな状態である。

どうするか……。

 

ドガァン!

 

この音は!

アイツしかいない!

案の定、十六夜がドアを蹴り破っていた。

テーブルの上には大きな球が2つ。

 

「ん?それ何だ?スイカか?」

「そのくだりは終わった」

 

何でも戦利品だそうだ。

 

「逆転のカードを持ってきたぜ。これでオマエが“ペルセウス”に行く必要はない。後はオマエ次第だ、黒ウサギ」

「ありがとう……ございます。これで胸を張って“ペルセウス”に戦いを挑めます」

「とりあえずは、これで元通りだな」

「「「大輔(君/さん)は言う事があるでしょう」」」

「ごめんなさい」

 

本当に元に戻った。

 

 

――ペルセウス本拠

 

「名無し風情が、海魔(クラーケン)とグライアイを倒したのか!?ハッ……まあいいさ。2度と逆らう気が無くなるぐらい徹底的に……徹底的に潰してやる」

「我々のコミュニティを踏みにじった数々の無礼。最早言葉は不要でしょう。“ノーネーム”と“ペルセウス”。ギフトゲームにて決着をつけさせていただきます」

 

 

 

 



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第9話 星の彼方に誓うそうですよ?

『ギフトゲーム“FAIRYTALE in PERSEUS”

 

・プレイヤー

 逆廻 十六夜

 久遠 飛鳥

 春日部 耀

 楠木 大輔

 

・ノーネーム ゲームマスター

 ジン=ラッセル

・ペルセウス ゲームマスター

 ルイオス=ペルセウス

 

・クリア条件

 ホスト側のゲームマスターを打倒

・敗北条件

 プレイヤー側のゲームマスターによる降伏

 プレイヤー側のゲームマスターの失格

 プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合

 

・舞台詳細・ルール

 ホスト側のゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない。

 ホスト側の参加者は最奥に入ってはいけない。

 プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く)人間に姿を見られてはいけない。

 姿を見られたプレイヤー達は失格となり、ゲームマスターへの挑戦資格を失う。

 失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うだけでゲームを続行する事はできる。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。 “ペルセウス”印』

 

「姿を見られれば失格、か。つまりペルセウスを暗殺しろってことか?」

「それならルイオスも伝説に倣って睡眠中だという事になりますよ。流石にそこまで甘くは無いと思いますが」

「YES。そのルイオスは最奥で待ち構えているはずデス。それにまずは宮殿の攻略が先でございます。伝説のペルセウスと違い、我々はハデスのギフトを持っておりません。不可視のギフトを持たない我々達には綿密な作戦が必要です」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。まだ“契約書類”を読んでないし理解してないから」

「ヤハハ。黒ウサギでも理解してるんだ。ウサギ以下なんて恥ずかしすぎるぜ」

「い、十六夜さん!?黒ウサギを舐めすぎでございますよ!飛鳥さんと耀さんもそう思いますよね」

「えっ……ええそうね。この程度ウサギでなくとも理解できるわ。ねえ、耀さん」

「うん。簡単簡単」

 

コイツら……。

 

「黒ウサギ、ハリセンを貸してくれ」

「えっ?はい。どうぞ――痛!痛いです!何をするのでございますか!?」

 

うるせえ!駄ウサギ!

 

「――役割を3つに分けよう」

 

・ジンと一緒にゲームマスターを倒す役割

・索敵、見えない敵を感知して撃退する役割

・失格覚悟で囮と露払いをする役割

 

「春日部は鼻が利く。耳も眼もいい。不可視の敵は任せるぜ」

「うん。任して」

「黒ウサギは審判としてしかゲームに参加することができません。ですから、ゲームマスターを倒す役割は十六夜さんにお願いします」

「あら、じゃあ私は囮と露払い役なのかしら?」

 

かなり不満そうにしている飛鳥。

確かに飛鳥のギフトがルイオス本人に効かなかった以上仕方がないことだ。

 

「悪いなお嬢様。俺も譲ってやりたいのは山々だけど、勝負は勝たなきゃ意味がない。あの野郎の相手はどう考えても俺が適してる」

「……ふん。いいわ。今回は譲ってあげる。ただし負けたら承知しないから」

「で、俺は何をすればいい?」

「「「何も」」」

「は?」

「は、じゃねえよ」

「逆に何が出来るの?」

「ううん。何も出来ない」

「「「大人しくしてろ」」」

 

勝手にまとめるなよ。

打ち合わせでもしたのかお前ら。

 

「俺にだって出来ることはあるだろ」

「お前の事は白夜叉からだいたい(・・・・)のことは聞いた。お前が黒ウサギ達に話してないから親切にも俺が話しておいた。感謝しろよ」

 

勝手に話すなよ!

まあ、気まずくて話せなかった俺も悪いが。

確かに俺じゃ囮にもならないし露払いも出来ない。

見えない敵の索敵も出来ない。

ルイオスにも勝てない。

ルイオスに辿り着くまでのジンのボディーガードも十六夜の方が適任だ。

それでも何かしらあるはずだ。

 

「それを踏まえて、今回の作戦でお前が出来ることはない」

「分かってはいるけど、何か」

「勘違いするな。今回の作戦(・・・・・)でって話だ。作戦外ならある」

「一体何なんだ、十六夜?」

「それはな……――」

「話を戻しますが、必ず勝てるとは限りません。非常に厳しい戦いになると思います」

 

半分耳を疑いながら黒ウサギに注目が集まる。

 

「……あの外道、それほどまでに強いの?」

「いえ、ルイオスさんご自身の力はさほど。問題は彼が所持しているギフトなのです。もし、黒ウサギの推測が外れていなければ、彼のギフトは――」

「隷属させた元・魔王様」

「そう、元・魔王の……え?」

「もしペルセウスの神話通りなら、ゴーゴンの生首がこの世界にあるはずがない。あれは戦神に献上されているはずだからな。それにも関わらず、奴らは石化のギフトを使っている。――星座として招かれたのが、箱庭の“ペルセウス”。ならさしずめ、奴の首にぶら下がっているのは、アルゴルの悪魔ってところか?」

「「「アルゴルの悪魔?」」」

 

十六夜の説明に俺達は首を傾げる。

 

「十六夜さん……まさか、箱庭の星々の秘密に……?」

「まあな。この前星を見上げた時に推測して、ルイオスを見た時にほぼ確信した。あとは、手が空いた時に調べて答えを固めたってところだ」

「もしかして十六夜さんってば、意外に知能派でございます?」

「おいおい黒ウサギ。何をいまさら」

 

つくづく思う。

問題児(こんなん)とタメなんて。

 

――宮殿正面の入り口

 

「そうだぜ、黒ウサギ。俺はドアノブを回さずに開けられるからな」

「………………参考までに、方法をお聞きしても?」

 

十六夜はそれに応えるかのようにヤハハと笑い、

 

「そんなもん――こうやって開けるに決まってんだろ(・・・・・・・・・・・・・・・)ッ!」

 

轟音と共に白亜の宮殿の門を蹴り破った。

白亜の宮殿は五階建ての作りとなっている。

最奥が宮殿の最上階にあたり、進むには絶対に階段を通らねばならない。

敵が配置されているのは間違いない。

十六夜の門を蹴破った音で遠くから敵の号令や足音が聞こえる。

正面の階段前広間は、囮役の飛鳥の奮戦で大混戦となっている。水樹のギフトを使って。

飛鳥は見られた時点でゲームマスターへの挑戦権を失っている。

そのこともあってか、飛鳥は真紅のドレスを靡かせ八つ当たり気味に白亜の宮殿の破壊に勤しんでいた。

一方、十六夜、耀、ジンと俺の4人はその隙に息を殺して奥へと進んでいた。

 

「人が来る。皆は隠れて」

 

耀は緊張した声で指示する。

耀の高性能な五感は不可視のギフトでも感知出来る。

さらに、感知して見えない敵に奇襲を仕掛ける。

 

「な、なんだ!?」

 

敵の驚愕の声が上がる。

すると虚空から兜が現れ気絶した敵も現れた。

 

「この兜が不可視のギフトで間違いなさそう」

「ホレ、御チビ。お前が被っとけ」

 

十六夜が兜を拾い上げてジンに被せた。

ジンの姿がは一瞬で姿を隠す。

ルール上ジンが見つかったら即敗北になる。

記憶が確かなら。

耀がジンのいたところを見ながら、

 

「やっぱり不可視のギフトがゲーム攻略の鍵になってる。どんなに気を付けたところで姿を見られる可能性は排除できないもの。最奥に続く階段に護衛をつけなければ、どうやってもクリア出来ない」

「連中が不可視のギフトを使っているのを限定しているのは、安易に奪われないためだろう。……なら最低でもあと1つ、贅沢言えば2つ、万が一を考えたら3つは欲しいところだが……」

 

確実に最奥に進むためには2つ必要だ。

もう1つあればルイオスとの戦いを優位に進められる。

 

「けど、高望みはしないで堅実にいったほうがいいんじゃないか?」

「まあ確かにお前の言う通り、欲をかいて失格になっちまったら元も子もねえしな……。よし!御チビ、作戦変更だ。俺と春日部で透明になってる奴を叩いてもう1つ奪う。ギフトを渡せ」

「は、はい」

 

何もないところからジンが現れて十六夜に兜を渡し、

 

「本命はルイオスだ。春日部には悪いが」

「気にしなくていい」

「いいとこ取りみたいで悪いな。これでもお嬢様や春日部にはソレなりに感謝しているんだぜ。今回のゲームなんかは、ソロプレイで攻略出来そうにないし」

「だから気にしなくていい。埋め合わせは必ずしてもらうから」

「俺もな、十六夜」

「ヤハハ。お前は今後の働き次第だな」

「そうか。期待してるぜ。じゃあジン、俺達は隠れるぞ」

 

俺とジンはそれぞれ柱の後ろに隠れる。

鏡で状況を見る。

十六夜の姿が消えるのを確認する。

しばらく、襲いくる敵を倒し続ける。

 

「どうだ、春日部。分かるか?」

「ううん……飛鳥が暴れている音や、他の音が大きすぎてちょっと……わ!?」

 

突然、耀が吹き飛んで壁に叩きつけられた。

耀はさっきまでは五感で感知していた。

それが出来なかったってことは、ついに俺の出番か。

 

「おい春日部!一度引くぞ!」

 

十六夜の声がしたと思ったら、倒れていた耀が空中に浮いた。

が、その所為で透明になっていることが敵にバレて2人とも吹き飛ばされた。

俺は見えない敵の注意を引こうと俺は柱から飛び出して走った。

とりあえず、走り続けたが何もなかった。

 

「俺は眼中にないと……はあ。なら仕方ない。先に進んで撹乱でもするか」

 

十六夜は言った「それはな……囮、身代わり、楯、言い方はいろいろあるが。つまり、お前の役目は都合のいい捨て石だ」。

ショックはショックだけど分かっていたことだしそこまでは……やっぱり悔しい。

とはいえ、俺は俺の出来ることをするだけだ。

俺は敵に見つからないように息を殺して進んだ。

結果、

 

「まさか、俺が1番乗りとはな」

 

偶然にも抜け道を見つけたわけだが。

おそらく、暴れている耀や飛鳥、最奥へのメイン階段の方へ敵は集中しているのだろう。

運よく俺はまだ見られていない(・・・・・・・)ようだし。

ならば十六夜、俺はお前にこの言葉を送る。

俺は最奥、最上階へ通じるドアを開けて、

 

「別に、ルイオスを倒してしまっても構わんのだろう?」

 

最奥は天井はなく教科書とかで見たことのある闘技場のようなところだった。

 

「だ、大輔さん!?」

 

もの凄く予想外だったらしく、素っ頓狂な声を上げている。

 

「よう、黒ウサギ。ソイツに変な事されなかったか?」

「いえ、そのようなことは……って、十六夜さんとジン坊ちゃんは?」

「あの2人なら順調にここに向かってるはずだ」

「――ふん。まさか辿り着くとはね。でもまあ、僕1人がいれば十分だけどね」

 

ルイオスが椅子から立ち上がり口上を述べる。

 

「ようこそ白亜の宮殿・最上階へ。ゲームマスターとして相手をしましょう。……あれ、この台詞を言うのってはじめてかも」

 

――数分後。

激闘になることもなく、複数の武具のあるルイオスに一方的にボコボコにされた。

まあ痛みは無いからいいんだけど。

ただあちらさんは、

 

「名無し風情が調子に乗るからだ」

「どうなってる?」

「一体お前は何なんだ!?」

 

と、分かりやすく動揺してくれているのでやり甲斐はあった。

当然、黒ウサギはぎゃあぎゃあ騒いでいたが。

十六夜に言われた通りに時間稼ぎも出来たことだし、十六夜曰く「ルイオスを最奥から出すな。万が一出てこられたら俺は問題ないが御チビが駄目だ」。

ルイオスの性格上無いとは思うが、時間が経っても勝利の知らせがなくて、業を煮やしその不可視のギフトを使い奇襲され、石化のギフトを使われたら勝てないだろう。

だから、時間稼ぎ自体は納得した。

ちなみに本音はと聞き「それじゃ面白くねえだろ?」と

十六夜らしい答えが返ってきた。

でもまあ、そろそろ心が限界なので、

 

「場も暖めたことだし。じゃあ、俺はギブアッ――」

 

ドカァーン!

 

俺が丁寧に閉めたドアを頼もしい問題児によって蹴り破られた。

 

「よう、十六夜。お先だぜ」

「ヤハハ!楠木、お後だぜ」

「準備運動くらいはさせたから存分に戦えると思うぞ」

「ヤハハ!それはありがてえ。長すぎる前哨戦にイライラしてたとこだ。さあ、楽しく戦おうぜ!ルイオス!」

「いいだろう。お前にもそこの馬鹿と同じ目に合わせてやる!」

 

俺はルイオスから離れ避難する。

振り返るとルイオスは空飛ぶ靴で空中にいた。

 

「そこの馬鹿の所為で僕は疲れたんでね。お前らの相手はコイツだ。目覚めろ――“アルゴルの魔王”!!」

 

光は褐色に染まり、白亜の宮殿に甲高い女の声が響き渡る。

 

「ra……Ra,GEEEEEEYAAAAAAaaaaaaa!!!」

 

耳をつんざく不協和音を発している魔王アルゴール。

体中に拘束具と捕縛用のベルトが巻かれており、女性とは思えない乱れた灰色の髪を逆立たせて叫び続ける。アルゴールは両腕を拘束するベルトを引き千切り、叫びが大きくなる。

「ra、GEEEEEEYAAAAAaaaaaa!!」

「な、なんて絶叫を」

「避けろ、黒ウサギ!!」

 

え?

十六夜が黒ウサギとジンを抱き抱えるように飛び退いた。俺もアルゴールからさらに離れた。

直後それはいくつか落ちてきた。

 

「いやあ、飛べない人間って不便だよねえ。落下してくる雲も避けられないんだから」

「く、雲ですって……!?」

 

落下物をよく見ると雲っぽい形をしていた。

死なないとはいえ、こんなギフトを持ってる奴と俺は戦ってたの?

……もうマジ無理。

 

「今頃は君らのお仲間も部下も全員石になっているだろうさ。ま、無能にはいい体罰かな」

 

不敵に笑うルイオス。

俺達が石化してないのはルイオスが手を抜いたんだろう。

っていうか、反則だろソレ!?

どうやって勝てっていうんだよ!?

マジで普通の力しかない俺は足手まといにしかならない。

ならせめて、

 

「下がってろよ御チビ。守ってやれる余裕はなさそうだ」

「すいません……本当に何も出来ず……」

「御チビ、お前の目論見はレティシアが戻ってくることで魔王に対抗するつもりだったんだろ?」

「……はい。でも、僕らにはまだ貴方がいます。貴方が本当に魔王に打ち勝てる人材だというなら――この舞台で、僕達にそれを証明して下さい」

 

ジンの決意を聞きながらやっと駆け寄った俺は、

 

「ジンのことは任せろ。お前はとっとと勝て」

「OK。よく見てろよ、お前ら」

 

散々威張ってたんだ。

絶対に勝てよ。

 

「さ、それじゃ準備はいいかよゲームマスター」

「ん?全員でかかってこないのかい?」

「おいおい自惚れるなよ。オマエ如き、時間稼ぎもいらねえし、うちのリーダーが戦うまでもねえ」

「――は!名無し風情が、精々後悔するがいいッ!!」

「ra、GYAAAAAaaaaaa!!」

 

ルイオスはアルゴールよりさらに上空に飛び、陰に隠れながら炎の弓で攻撃する。

 

「喝ッ!!」

 

一喝で炎の矢を弾き飛ばした。

もう漫画だろ。

 

「チッ!押さえつけろ、アルゴール!!」

「RaAAaaa!!LaAAAA!!

 

甲高い叫び声を上げながら両腕を降り下ろす。

それを簡単に受け止めた十六夜は、真正面から力比べをしている。

 

「ハッ、いいぜいいぜいいなオイ!!いい感じに盛り上がってきたぞ……!」

 

押し合いにならず、十六夜はアルゴールをねじ伏せた。

その隙をついてルイオスが、

 

「図に乗るな!」

「テメェがな!」

 

ルイオスはハルパーを片手に斬りかかるも逆に空に蹴り飛ばされた。

さらに、十六夜は跳躍して追いつく。

怒りに任せてハルパーで斬りかかるるが、十六夜は難なく受け止めて地面に向かって投げ飛ばす。

 

「ガッ!」

「Gya……!」

 

ルイオスはアルゴールに重なるように叩きつけられた。

 

「い、今のうちにトドメを!石化のギフト使わせては駄目です!」

 

おい、審判が口を挿んでもいいのかよ。

と思ったが、

 

「だそうだ。とっとと終わらせろ、十六夜!」

 

さっきの褐色の光を使われたらヤバい。

 

「アルゴール!宮殿の悪魔化を許可する!奴を殺せ!」

「RaAAaaa!!LaAAAA!!」

 

謳うような不協和音が響き渡り、壁は生き物のように脈を打つ。

地面から蛇の形をした石柱が十六夜を襲う。

 

「ジン!逃げるぞ!」

 

俺とジンは全力で十六夜から離れる。

 

「もう生きては帰さないッ!この宮殿はアルゴールの力で生まれた新たな怪物だ!貴様にはもはや足場一つ許されていない!貴様らの相手は魔王とその宮殿の怪物そのもの!このギフトゲームの舞台に、貴様の逃げ場は無いものと知れ!!!」

 

ルイオスの絶叫と、アルゴールの不協和音が響く。

白亜の魔宮は変幻し続けて、無数の蛇となった宮殿に十六夜は呑み込まれた。

 

「そうかい。つまり、この宮殿ごと壊せばいいんだな(・・・・・・・・・・・・・・)?」

「「「え?」」」

 

俺達は嫌な予感がした。

十六夜はその拳を魔宮に向かって振り下ろした。

直後に宮殿全体が震え、闘技場が崩壊し、4階、3階と落下する。

 

「わ、わわ!」

「ジン坊ちゃん!」

 

崩れゆく地面に巻き込まれないように逃げる。

ジンが落ちそうになるところを突き飛ばして俺は落下する。

とはいえ、いい感じに瓦礫が崩れたので階段にして登る。

 

「おい、ゲームマスター。これでネタ切れってわけじゃないよな?」

 

登り切った俺が見たのは上空で激しく顔を歪めていたルイオスが、突然、凶悪な笑顔を浮かべるところだった。

 

「…………もういい。終わらせろ(・・・・・)、アルゴール」

 

アルゴールが褐色の光を放とうとしている。

さっきのより明らかに光が大きい。

 

「黒ウサギ!お前がジンを、俺達を助けたら反則になる!」

 

黒ウサギの助けを止めさせる。

だけど、さっきのとは違い本家本元をくらったらゲーム中は動けなくなるだろうし、今度は身体の痺れだけで済むかどうか。

俺が動けなくなったらジンを守る奴がいなくなる。

 

「クソッ!どうする!?」

 

下に落ちてもさっきは宮殿中を石化させたから意味が無い。

 

「足場も無茶苦茶だし、もう逃げ場は空しかないか……」

 

十六夜みたいな跳躍力はねえしな。

空を見上げて、

 

「アイツみたいに飛べたなら」

 

そうすれば守れるのに。

その瞬間、世界を石化させた光が放たれる。

そして、俺は空を飛んでいた(・・・・・・・・・)

 

「は!??」

 

ルイオスみたいに靴から漆黒の翼が生えて飛んでいた。

何で飛べたかは全く分からないけど、考えるのは後だ。

慌ててジンを抱えて空に逃げる。

 

「――……カッ。ゲームマスターが、今さら狡いことしてんじゃねえ!!!」

 

十六夜が褐色の光を、踏みつぶした(・・・・・・)

 

「ば、馬鹿な!?」

「“星霊”のギフトを無効化――いえ、破壊した!?」

「ありえません!あれだけの身体能力を持ちながら、ギフトを破壊するなんて!?」

 

何が何だかさっぱり分からない。

十六夜が凄いってことしか分からない。

 

「さあ、続けようぜゲームマスター。“星霊”の力はそんなものじゃないだろ?」

「残念ですが、これ以上のものは出てこないと思いますよ?」

「何?」

「アルゴールが拘束具に繋がれて現れた時点で察するべきでした。……ルイオス様は、星霊を支配するには未熟すぎるのです」

「――ハッ。所詮は七光と元・魔王様。その程度ってことか」

「それでは、このギフトゲーム、勝者はノー――」

「待て。黒ウサギ!」

「何ですか大輔さん……って!?どうして空を飛んでいるのですか!?」

「ヤハハ。お前の方がよっぽど面白いぜ!今から勝負しねえか?」

「絶対嫌だ!」

 

お前の攻撃じゃ契約の力で守れないし!

ただただ痛いだけだし。

 

「それより、ルイオス。俺と素手で勝負しろ!」

 

黒ウサギが何か言っているが、十六夜がウサ耳を引っ張り黙らせた。

 

「もし、お前が勝ったらレティシアを返すことだけで許してやる。ただし、俺が勝ったら……そうだな、“旗印”でももらおうか」

「な、何!?」

 

俺は空から見下して挑発した。

さっきのボコボコにされた恨み、晴らさでおくべきか!

 

「クソォ。舐めるなよ名無し風情が!」

 

ルイオスがふらふらと空に舞い上がり俺に殴り掛かる。

こいつは今まで“ペルセウス”という名の下で好き勝手にしてきたのだろう。

だから、殴り合いとかしたことがないようだ。

その拳は馬鹿みたいに一直線にとんできた。

だから、軽く躱して俺はルイオスの顔面を殴り、そのまま腕を掴んで漆黒の翼頼みに地面に叩きつけた。

 

「俺は気が済んだ。あとは、好きにしていい」

「ヤハハ。やっぱお前おもしれえな。じゃあ、ペルセウス。次はお前達の“名”をもらおうか」

「や、やめてくれ……」

「そうか。嫌か。なら来いよ(・・・)命懸けで――俺を楽しませろ!」

「負けない……負けられない、負けてたまるかあ!!」

 

翌日。

レティシアの石化を解き、

 

「「「じゃあこれからよろしく、メイドさん」」」

「「「え?」」」

「え?じゃないわよ。だって今回のゲームで活躍したのって私達だけじゃない?貴方達はついてきただけだったもの」

「うん。私なんて力いっぱい殴られたし。石になったし」

「それ私も」

「つーか挑戦権を持ってきたの俺だろ。所有権は俺達で等分、3:3:4で話はもう付いた!」

「何を言っちゃってんでございますかこの人達!?大輔さんからも何か言ってくださいよ」

「いや……っていうか俺は!?別にいらないけど、俺の所有権は!?」

「話を聞いて冷静に考えたら大輔君は何もしていないじゃない」

「結局、倒したのは十六夜だし」

「にも関わらず、なぜかパワーアップ」

「「「逆にふざけるな!」」」

 

アレ?

いつから俺は黒ウサギのポジションに成り下がった!?

おい、黒ウサギ!

仲間が出来たみたいな顔をするな。

 

「俺が悪かった。すみませんでした」

 

実際には何の努力も無しにパワーアップ。

はたから見たら狡いな。

パワーアップというか漆黒の翼については、白夜叉曰く「全ての攻撃から『守る』。全てだから、空中に逃げることでしか守れない時は空も飛べるだろうよ」とのこと。

自分でも思うが、相変わらずデタラメな効力だな。

つまり、『守る』とは直に攻撃を受けて守った方がいいのか、空に飛んで躱して守った方がいいのか。

常に最善の方法で契約の力が守ろうと発動するというわけだ。

圧倒的な防御能力と思えるが攻撃力は全く無いので、ギフトゲームの直接的的なクリアはほぼできない。

使い勝手は何とも言えない――

 

「今回の件で私は皆に恩義を感じている。君達が家政婦をしろというなら、喜んでやろうじゃないか」

「箱庭の騎士がメイドさん!?レ、レティシアさまあ……」

 

黒ウサギの悲痛な叫びと共にレティシアのメイドが決まった。

 

“ペルセウス”との決闘から3日後の夜。

子供達を含めた“ノーネーム”一同は水樹の貯水池付近に集まっていた。

 

「えーそれでは!新たな同士を迎えた“ノーネーム”の歓迎会を始めます!」

「だけどどうして屋外の歓迎会なのかしら?」

「うん。私も思った」

「黒ウサギなりに精一杯のサプライズってところじゃねえか?」

「そこは素直に楽しいでいいだろ」

 

問題児(ツンデレ)共が。

 

「それでは本日の大イベントが始まります!みなさん、箱庭の天幕に注目してください!」

「……あ!」

 

箱庭の夜空を飾る満天の星空に連続した流れ星、いや、流星群が流れていた。

 

「この流星群を起こしたのは他でもありません。我々の新たな同士、異世界からの4人(・・)がこの流星群のきっかけを作ったのです」

「「「「え?」」」」

「先日、同士が倒した“ペルセウス”のコミュニティは、敗北の為に“サウザンドアイズ”を追放されたのです。そして彼らは、あの星々からも旗を降ろすことになりました」

 

俺達は絶句せざるを得なかった。

そして、箱庭凄すぎるの一言に尽きる。

 

「星座の存在さえ思うがままにするなんて……ではあの星々の彼方まで、その全てが、箱庭を盛り上げる為の舞台装置という事なの?」

「そういうこと……かな?」

 

飛鳥と耀の2人は茫然としている。

 

「……アルゴルの星が食変光星じゃないところまでは分かったんだがな。まさかこの星空の全てが箱庭の為だけに作られているとは思わなかったぜ……」

「何を言ってるかさっぱりだけど、本当に凄いな」

「ふっふーん。驚きました?」

「やられた、とは思ってる。世界の果てといい水平に廻る太陽といい……色々と馬鹿げたものを見たつもりだったが、まだこれだけのショーが残ってたなんてな」

「ああ。星座は見るもので、上げたり下げたりするなんて普通は思わないしな」

「お?それいいな。いい目的が出来た」

「おや?なんでございます?」

あそこに(・・・・)、俺達の旗を掲げる。……どうだ?面白そうだろ?」

「それは……とてもとってもロマンがございます!」

 

この世界に無理矢理呼ばれていろいろあったけど、今はとりあえず。

 

「面白いな“箱庭”は」

 

 

 

 




次から新章に入ります。


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第2章 え?魔王襲来?
第10話 北側に行くそうですよ?


新章に入ります。
感想などをお待ちしております。



『黒ウサギへ。

 

北側の4000000外門と東側の3999999外門で開催する祭典に参加してきます。

貴方も後から必ず来ること。あ、あとレティシアもね。

私達に祭りの事を意図的に黙っていた罰として、今日中に私達を捕まえられなかった場合3人ともコミュニティを脱退します(・・・・・・・・・・・・・・・・)

死ぬ気で捜してね。応援しているわ

 

PS ジン君は道案内に連れて行きます』

 

「つーわけで、北側まで連れてけやコラ!」

「いきなり脅迫とは礼儀を知らんのう、小僧。まあ座れ」

 

 

――ペルセウスとの戦いから1ヵ月。

俺はこの間にいくつもギフトゲームに挑んだが1つもクリアできなかった。

まあ、ギフトゲームの数をこなしただけあって契約の力の扱いは上手くなった。

それでも役立たず1歩手前なので白夜叉に相談をしにきたところだったのだが……。

 

「ちょっと待て。北側の祭りをどうしてお前達が知っているんだ?」

「へえ。大輔君は知っていたのね」

「知った上で私達に黙ってたんだ」

「っ!?」

 

これはマズったかも。

 

「白夜叉。俺の話はあとでいいから――」

 

今のうちに黒ウサギのところに……。

 

大人しく黙って座っていなさい(・・・・・・・・・・・・・・)

 

くっ立てない。声も出ない。

俺の契約の力はさらにパワーアップして痛みすら防ぐことができるようになったが、味方、正確には俺が味方だと思っている者からの攻撃は相変わらず防げない。

 

「招待者としてそんぐらいのことは考えておった」

「話が早くて助かるぜ。980000キロなんて遠すぎだからな」

 

え、何その距離?

もしかして、北側までそんなにあるの?

だから、黒ウサギも黙ってたのか。

境界門とか言うものを使えば一瞬で行けるらしいが費用がコミュニティの全財産と同額って言ってたからな。

 

「だがその前に、1つ問いたい。おんしらが魔王に関するトラブルを引き受けるとの噂があるそうだが……真か?」

「ええ。それなら本当よ」

「それはコミュニティのトップとしての方針か?」

「はい。“名”と“旗印”が無いので、これが1番いい方法だと思いました」

「その“打倒魔王”を掲げたコミュニティに東の“階層支配者”から正式に頼みたいことがある。よろしいかな、ジン殿(・・・)?」

「は、はい!謹んで承ります!」

 

おお。

すっかりリーダーらしくなったな。

 

「さて、何処から話そうかの……。ああ、そうだ。北の“階層支配者”の一角が世代交代をしたのを知っておるかの?急病で引退だとか」

「え?」

「そうか……。此度の共同祭典は北の一角“サラマンドラ”の世代交代に端を発しておる。ところでおんしら、“階層支配者”についてはどの程度知っておる?」

 

「私は全く知らないわ」

「私も全く知らない」

 

俺も首を横に振る。

 

「俺はそこそこ知ってる」

「“階層支配者”とは箱庭の秩序の守護者であり下層のコミュニティの成長を促すために設けられた制度だ。そして、秩序を乱す天災“魔王”が現れた際には率先して戦う義務がある。その義務と引き換えに我々“階層支配者”は様々な特権を与えられているのだ」

「けど、そうですか。“サラマンドラ”とは親交があったのですけど……まさか頭首が替わっていたとは知りませんでした。それで、今はどなたが頭首を?やっぱり、長女のサラ様か、次男のマンドラ様が」

「いや。頭首は末の娘――おんしと同い年のサンドラが火龍を襲名した」

「サ、サンドラが!?え、ちょ、ちょっと待ってください!彼女はまだ11歳ですよ?」

 

11歳か。

いろいろ苦労してそうだな。

 

「あら、ジン君だって11歳で私達のリーダーじゃない」

 

ごもっとも。

苦労だけならうちのリーダーも負けてないかもな。

 

「そ、それはそうですけど……!いえ、だけど、」

「なんだ?まさか御チビの恋人か?」

「ち、違っ、違います!失礼な事を言うのは止めてください!!」

 

ん?

普通に怪しいな。

でも、ノーネームのリーダーと階層支配者じゃ報われそうには……いや、まだ分からないか。

 

「それで?私達に何をして欲しいの?」

「実は今回の誕生祭だが、北の次代マスターであるサンドラのお披露目も兼ねておる。しかしその幼さ故、東のマスターである私に共同の主催者を依頼してきたのだ」

「あら、それはおかしな話ね。北は他にもマスター達がいるのでしょう?ならそのコミュニティにお願いして共同主催すればいい話じゃない?」

「……うむ。まあ、そうなのだがの」

 

ああ。

これはアレだな。

 

「幼い権力者を良く思わない組織が在る。――とか、そんなところだろ?」

 

飛鳥の顔が目に見えて不愉快になる。

俺もこんなところまで世界が変わっても同じということにがっかりした。

詳しい事情をと白夜叉が重々しい口を開こうとしたので耀が気が付く。

 

「ちょっと待って。その話、まだ長くなる?」

「ん?んん、そうだの。短くともあと1時間程度はあるかの?」

「それはまずいかも。……黒ウサギに追いつかれる」

 

コイツら、何かしやがったな。

 

「し、白夜叉様!どうかこのまま、」

「ジン君、黙りなさい(・・・・・)!」

 

ジンの口が無理矢理閉められた。

こうなったら、

 

「ううう、ううう」

「何かしら、大輔君?あら、忘れてたわ。もう話していいわよ」

「おお、やっとしゃべれた。お前らは――」

「白夜叉!今すぐ北側へ向かってくれ!」

「む、むぅ?別に構わんが依頼は受諾でよいのか?」

「ちょっと待って。人の話――」

「構わねえから早く!事情は追々話すし何より――その方が面白い(・・・・・・・)!」

「そうか。面白い(・・・)か。ならば仕方ないの」

「待て、白――」

 

パンパンと手を叩いた。

 

「北側に着いたぞ」

「「「「――……は?」」」」

 

マジで?

 

 

――東と北の境界壁。

4000000外門・3999999外門 サウザンドアイズ旧支店

 

店から出ると熱い風が体を吹き抜けた。

一瞬で移動した“サウザンドアイズ”の支店がある高台からは街の一帯が展望できた。

赤壁と炎とガラスの街。

 

「東とは随分と文化様式が違うんだな」

「東側より楽しそうだな」

「……むっ?それは聞き捨てならんぞ小僧共。東側だっていいものは沢山あるっ。おんしらの住む外門が特別寂れておるだけだわいっ」

 

まあ、あの辺にはこれといって何もないしな。

 

「今すぐ降りましょう!あのガラスの歩廊に行ってみたいわ!いいでしょう白夜叉?」

「ああ、構わんよ。続きは夜にでもしよう。暇があればこのギフトゲームにも参加していけ」

 

ゴソゴソと着物の袖から取り出したチラシを見ていると、

 

見ィつけた(・・・・・)――のですよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

ズドォン!!

 

絶叫と共に爆撃のような着地。

声のした方を見ると、遥か遠くの巨大な時計塔にそれらしきシルエットがかろうじて見えた。

一瞬でそのシルエットは跳んできた。

 

「ふ、ふふ、フフフフ……!ようぉぉぉやく見つけたのですよ、問題児様方……!」

 

緋色の髪を戦慄かせ、怒りのオーラ全開の黒ウサギ。

マジギレしてないか?

一体今度は何したんだよ、問題児共(アイツら)

 

「逃げるぞッ!!」

「逃がしませんッ!!」

「え、ちょっと、」

 

十六夜は飛鳥を抱きかかえて高台を飛び降りた。

耀は旋風を巻き上げて空に逃げようとするも、

 

「わ、わわ、……!」

「耀さん、捕まえたのです!!もう逃がしません!!!」

 

耀のブーツを掴み黒い笑みをこぼしている黒ウサギ。

 

「後デタップリ御説教タイムナノデスヨ。フフフ、御覚悟シテクダサイネ♪」

「りょ、了解」

 

黒ウサギは明らかに怯えている耀をこっちに投げつけて耀を俺が受け止めて。

っていうのは無理で、そのまま白夜叉にぶつかった。

 

「きゃ!」

「うわ!」

「グボハァ!お、おいコラ黒ウサギ!最近のおんしはいささか礼儀を――」

「大輔さん!耀さんのことをお願い致します!黒ウサギは他の問題児様を捕まえに参りますので!」

 

俺の返事も待たずジャンプしていった。

 

「耀、とりあえず、ちょっとおも…ではなく上から降りてくれるか」

「……」

 

無言で降りられた。

 

「そ、その言葉のあやだ。つい、反射的に出ただけで」

「別に私は何も言ってない」

「悪かったって。謝るから」

「……」

「何でもするから」

「……」

 

けっこう怒ってるな。

確かに女の子の体重に触れるなんて最低だけど。

でも、飛鳥ならまだしも耀はそんなこと気にしないと思ってたんだけどな。

 

「……おんしらも私を無視するのか」

 

現在“サウザンドアイズ”の支店の座敷でお茶を啜りながら耀が白夜叉に事の経緯を話している。

俺は座敷の縁側で鹿威しを見ながら耳を傾けている。

 

「ふふ。なるほどのう。おんし達らしい悪戯だ。しかし、“脱退”とは穏やかではない。ちょいと悪質だとは思わなんだのか?」

 

そりゃ黒ウサギも怒るだろうな。

ガルドのコミュニティに入ろうかと考えもした俺が言えた義理ではないが、さすがにやりすぎだな。

 

「うん。少しだけ私も思った。だけど、黒ウサギだって悪い。ちゃんと言ってくれればよかったのに」

 

言ったら言ったで、な……。

だから、黒ウサギに相談された(・・・・・)俺も黙ってたわけだし。

正確には秘密にしたがっていた黒ウサギの背中を押しただけだけど。

 

「普段の行いが裏目に出た、とは考えられんのかの?」

「それは……そうだけど」

「まあまあ。耀も反省してるし、その辺で勘弁してやってくれ」

 

縁側から座敷に向き直り続けた。

 

「箱庭に来て1ヵ月以上一緒にいる耀達を信頼しないで黙ってた俺も悪いしな。黙ってて悪かったな、耀。ごめん。だから、黒ウサギを許してやってくれ」

 

頭を下げて謝る。

 

「えーっと、その……」

 

どうしていいか分からず、あたふたしている。

俺が謝るなんて思ってなかっただろうし、耀というか問題児たち(アイツら)は対等な人に謝られる状況に慣れていないしな。

俺は白夜叉に目配せして、

 

「ところで、おんしに出場して欲しいゲームがあるのだが」

「え、うん。……どんなゲーム?」

「これなんだがな――」

 

これは一緒に過ごして分かったことだが、元の世界ではちゃんとした(・・・・・・)対等な交友関係を築けなかったようだ。

俺も高校ではそんなの築けてないが。

ギフトゲームと黒ウサギで遊ぶ時以外は基本的に1人でいるし会話も無い、余所余所しさもあった。

 

――ペルセウスとのゲームが終わって1週間くらい経った頃に黒ウサギから相談を受けた。

 

「どうにかならないでしょうか?」

「難しいんじゃないか。俺も見てきたけど、飛鳥と耀はそういうのが(・・・・・・)下手なだけみたいだから慣れろとしかいえないし」

 

飛鳥は耀に積極的に話しかけてはいるが、耀はキョドってぎこちなくなってるし、飛鳥は飛鳥でぎこちない耀と打ち解けようとするも慣れていないから逆にあたふたしている。

そして、会話が思うように成り立たず気まずくなって距離を取る。

というか、初めての友達にお互いがお互いに気を使い過ぎていて、嫌われたくないから踏み込めずにいる。

これはいつになるかは分からないが、時間が解決してくれるだろう。

 

「まあ、問題は十六夜(アイツ)だよな」

 

十六夜は話しかければ返事もするし、話しかけてもくる。

別にコミュ障でもない。

でも、十六夜のはある意味業務的(・・・)なものだった。

必要最低限なコミュニケーションだけで全く近寄ってはこない。

 

「なんていうかアイツは友達とか、そんなものには興味が無い(・・・・・)って感じだからな」

「そうですね…………」

 

これは俺も黒ウサギも同意見なんだが、十六夜は興味が無いことは切り捨てる傾向がある。

そんな奴をどうこうするのは骨が折れる。

 

「黒ウサギの考えを聞いてもらってもよろしいでうか?」

「いいけど?」

「相談しておいてあれなのですが、黒ウサギは今は(・・)このままでもいいと考えています」

「ん?……続けてくれ」

「はい。――皆さん問題児ですがコミュニティの事をちゃんと考えてくれています。確かに、コミュニケーションなどに問題はありますが、まだ慣れていないだけだと思います。その、だから、今は黒ウサギが我慢すればいいと考えました」

 

ん?

我慢?

何の話だ?

 

「……黒ウサギを弄ったり、弄んだり、耳を引っ張ったり、顔に落書きしたり、追いかけ回されたり、服をいやらしくしされたり、タライを落とされたり、セクハラされたり、埋められたり、自作ポエムを読まれたり、落とし穴に落とされたり、変なあだ名を付けられたり、川に突き落とされたり、――」

「いやいやいやいや」

 

問題児共(アイツら)何やってんの!?

半分以上知らないし。

俺がいない時に……。

 

「黒ウサギ、そんなことされてたのか!?」

「はい。黒ウサギもそんなことさえ我慢するだけで、御三人方がコミュニケーションを取ってくれるなら今はこのままでいいかと」

「そうか…………っていいわけないだろ!!!」

 

献身の象徴ドMなの!?

いやドMだろ!!

 

「お前が先にダウンしたらどうするんだ!」

 

おそらく、アイツらはそれぞれで遊んでただろうからここまでやっていることは知らないだろう。

 

「そうなってみろ、アイツらでも責任を感じるはずだ。それで、唯一のコミュニケーション媒体がなくなれば、ますますコミュニケーションなんて取らなくなるぞ。だから、適度に遊ばれて……」

 

アレ?

やっぱり黒ウサギには遊ばれてもらわなければならないのか?

 

「いやいや、やっぱり駄目だろ!」

「あ、あの大輔さん?」

「とにかく、アイツらには俺から言っとくから、お前はもっと抵抗しろ!」

 

それが出来ないからこんな状況になってるんだったな。

黒ウサギを放っておくわけにはいかないし、しち面倒だが仕方ないか。

 

「はあああ……もう分かった。黒ウサギ!俺も協力するからアイツらをどうにかするぞ!」

「は、はい!ありがとうございます。頑張りましょう、大輔さん!!」

 

黒ウサギの満面の笑み。

守るためにも頑張るか、いや頑張るしかないのか――。

 

こんな感じで2人で3週間、コミュニケーションを取らせるためにあらゆる事をしてきた。

それはまた別の機会に。

 

「ねえ大輔、話聞いてる?」

「ん?ああ悪い。何だっけ?」

「おんしには招待客(ゲスト)としてギフトゲームに出場してもらう」

「大輔に拒否権はないから」

「……はい?」

 

 

 



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第11話 北のフロアマスターに会うそうですよ?

仕事が忙しい。。。


『ギフトゲーム名 “造物主達の決闘”

 

・参加資格、及び概要

 

・参加者は創作系のギフトを所持。

・サポートとして、1名までの同伴を許可。

・決闘内容はその都度変化。

・ギフト保持者は創作系のギフト以外の使用を一部禁ず。

 

・授与される恩恵に関して

 

・“階層支配者”の火龍にプレイヤーが希望する恩恵を進言できる。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームを開催します。

 “サウザンドアイズ”印 “サラマンドラ”印』

 

 

「創作系のギフト?」

「今、説明したばかりなのだが。簡単に言うとだな、製作者が存在するギフトのことだ」

「いや、俺持ってないし。参加資格ないんじゃないの?」

「ふっふふ、私は“主催者”だぞ。その権限を使えば1人や2人“招待客”として参加させるのは簡単だ」

「権力の乱用だろ……で、参加出来るのは分かった。けど、何でサポーターじゃなくて参加なんだ?」

「私がお願いした」

「理由を聞こうか、耀?」

 

参加したところで、必ず耀もしくは耀以上の強い奴と戦うわけだから、少なくとも絶対に優勝は出来ない。

それだったら俺が耀のサポーターをして優勝出来るように援助した方が効率がいい。

 

「私達が活躍すれば“ノーネーム”の宣伝になる。それと……大輔とも1度戦ってみたいから」

「え?俺と戦いたい?」

 

以外だった。

十六夜はしょっちゅう戦いを挑んでくる。

俺をサンドバッグにしようと。

だが、耀はそんな素振りすら見せたことがない。

 

「大輔だって優勝すれば念願のギフトが手に入るし、損はない。それに、参加はさっきの罰だから」

 

そういえばそうだったな。

だったら最初から考える必要なんてなかったな。

 

「分かった。参加する」

 

ギフトゲーム1回戦。

契約書類によれば決闘内容がその都度変わると書いてあったはず。

それなら内容次第では耀に勝てる可能性がほんのわずかだけある。

そう思って気合いを入れ直したのだったが……。

ゲームの会場はいわゆるコロシアムみたいなところだ。360度観客席で囲まれている。

今まさにゲームが始まろうとしている。

 

「はあ、マジかよ……」

 

審判から発表された決闘内容は“押し合い”だった。

ルールは円形のフィールドから出たら負け、といういわゆる相撲のようなものだった。

そして、相手は石垣の自動人形で、大きさが10メートルほどあった。

さらに、優勝候補らしい。

無理だろ。

案の定客席からは、

 

『こんなの勝負にならねえ』

『とっとと降参しろ』

『ノーネームが調子に乗るな』

『ノーネームは引っ込め』

 

などの罵詈雑言が飛び交っていた。

少し燃えてきた。

審判の「よーい」の掛け声で両足に力を入れる。

 

「始め!」

 

俺は全力で石垣の自動人形の足に突っ込んだ。

だが、案の定……、

 

「くぅッ!?びくともしないッ!!」

 

駄目だ。

全然駄目だ。

このルール下では漆黒の力が上手く発動しない(・・・・・・・・)

生物でもない人形相手では敵意とかを感じ取れない上に、少なくとも命が保障されているこのルール下では漆黒の力の出力が上がらない。

しかも、こんなデカい相手に勝ち目なんてあるわけ――

 

「っ!?漆黒が消える……!」

 

ドオーンッ!!

 

俺の体を守る、自称『絶対防御』分以外の漆黒の力を使い切ったため、俺は勢いそのままに反対側の客席の下の壁に頭から激突し減り込んだ。

会場内には笑い声だけが響き続けた。

 

「大丈夫、大輔?」

 

俺は今、控え室で耀に治療されている。

まあ、激突する瞬間に絶対防御が前方に展開されたから無傷だったので、治療といってもただのメンタルケアなんだけど。

 

「ごめん、大輔。私が無理に参加させたばっかりに恥をかかせちゃって」

 

恥か。まあそうだよな。

頭から激突して壁に突き刺さって、会場は爆笑の渦だったからな。

俺としては諦めずに頑張ったって達成感があるから、そんなんでもないのだが。

それに良くか悪くか負けるのには慣れたしな。

 

「別に耀の所為じゃない。俺の詰めが甘かっただけだ。それにそろそろ耀の番だろ?俺のことはいいから行ってこいって」

「……うん。………でもやっぱり」

 

責任を感じてかなり落ち込んでるな。

根は優しい子だからな。

 

「分かったわかった。じゃあ、これは貸しだ。あとで返してもらうから。それでいいな?」

「……うん。大輔はこれからどうするの?」

「そのなんだ、さすがに居心地は悪いからその辺をぶらぶらしてくる。すぐに戻って来るから耀は負けんなよ」

「私は大丈夫。勝ち続けて絶対に大輔の仇も取るから!」

 

耀と別れてから、何かするでも見るでもなく、気晴らしに会場周辺を散歩することにした。

すると、遠くで人だかりが出来ていた。

近づくたびに野次馬の叫び声が聞こえて、

 

『アレを見ろ!“月の兔”が誰かと戦っているぞ!』

『2人が建物の上で止まったぞ』

『凄い!アレが“月の兔”の力か!』

『おい!?何をする気だ!?』

 

『『『あ、あの人間滅茶苦茶だああああああ!?』』』

 

その理由は分かった。

というか、途中から見えていた。

十六夜が派手に時計塔をぶっ壊すところが。

 

「十六夜はともかく、黒ウサギまで何やってんだか」

 

いつものことながら、このあとどうする気だよ。

あ!十六夜と黒ウサギが警察っぽい奴らに連行されていった。

俺は2人を追いかける。

これはアレだな。

 

「後デタップリ御説教タイムダナ。フフフ、覚悟シロヨ、黒ウサギ」

 

――“サラマンドラ”本拠

 

「随分と派手にやったようじゃの、おんしら」

「ああ。ご要望通り祭りを盛り上げてやったぜ」

「胸を張って言わないで下さいこのお馬鹿様!!!」

「それはお前もだ黒ウサギ!!」

 

スパァーン!

 

黒ウサギと十六夜をハリセンでしばいた。

遅れてやってきたジンは頭を抱えている。

 

「ふん!“ノーネーム”の分際で我々のゲームに騒ぎを持ち込むとはな!相応の厳罰は覚悟しているか!?」

「これマンドラ。それを決めるのはおんしらの頭首、サンドラであろ?」

 

北側の新しい階層支配者。

お飾りってわけか。

実質は兄のマンドラが仕切っているということだろうな。

 

「“箱庭の貴族”とその盟友の方々。此度は“火龍誕生祭”に足を運んでいただきありがとうございます。貴方達が破壊した建造物の1件ですが、白夜叉様のご厚意で修繕してくださいましいた。負傷者は奇跡的に無かったようなので、この件に関して私からは不問とさせて頂きます」

「へえ?太っ腹な事だな」

「お前はもっと反省しろよ」

「うむ。おんしらは私が直々に協力を要請したのだからの報酬の前金とでも思っておくが良い」

 

白夜叉様様だな。

あんな巨大な時計塔の弁償なんてマジで俺達のギフトを売るくらいしないと払えないだろうし。

ホント十六夜は反省しろよな。

 

「ふむ。いい機会だから、昼の続きを話しておこうかの」

 

白夜叉の目配せでサンドラとマンドラ以外を下がらせた。

この場に残ったのは、十六夜・黒ウサギ・ジンと俺の4人。

 

「ジン、久しぶり!コミュニティが襲われたと聞いて随分と心配していた!」

 

サンドラは人が居なくなると、硬い表情と口調を崩し、満面の笑みでジンに駆け寄った。

 

「ありがとう。サンドラも元気そうでよかった」

「魔王に襲われたと聞いて、本当はすぐに会いに行きたかったんだ。けど、お父様の急病や継承式のことでずっと会いに行けなくて」

 

仲睦まじい光景だな。

ノーネームのリーダーと、片やフロアマスター。

文字通り桁違いの差はあるが同じような立場の2人。

思えば11歳でコミュニティのリーダーをしているジンには気兼ねなく話せる同年代の友達がいない。

だから、もの凄く新鮮に感じたし思うところがある。

 

「それは仕方ないよ。だけどあのサンドラがフロアマスターになっていたなんて――」

 

突然……ではない。

 

「その様に気安く呼ぶな、名無しの小僧!!!」

 

マンドラは怒りを露にして剣を抜きジンに向かって降り下ろす。

マンドラは最初から俺達をよく思ってはいない。

時計塔の1件を置いといても、箱庭では“ノーネーム”はこんな扱いを受けることが当たり前だと身を持って体験をしている。

故にある意味敵地であるここに来たときから警戒していた。

俺は剣がジンに届く前に守ろうと身体を差し出したが、その前に十六夜が受け止めた。

 

「……おい、知り合いの挨拶にしちゃ穏やかじゃねぇな。止める気無かっただろオマエ」

「当たり前だ!サンドラはもう北のマスターになったのだぞ!この共同祭典に“名無し”風情を招き入れ、恩情を掛けた挙げ句、馴れ馴れしく接っされたのでは“サラマンドラ”の威厳に関わるわ!この“名無し”のクズが!」

 

箱庭では真っ当な言い分かもしれない。

だが、仲間を殺そうとした、この事実を看過出来るはずがない。

 

「マンドラさん、アンタはどうやって責任を取るつもりだったんだ?」

 

俺は十六夜を押し退けて、侮蔑するでもなく、挑発するでもなく、ただ冷静になり冷徹に判断して冷厳に告げた。

 

「責任だと!名無しの小僧1人を殺したところで何の責任があるというのだ!!」

「そんなの決まってるだろ?“火龍誕生際”の中止だ!」

「何!?どういう意味だ小僧!」

「うちのリーダーとそちらのフロアマスターは見た限りかなり仲がいい。そんな友達を目の前で殺されて、アンタの補佐が必要な11歳の子供が耐えられるわけがない。そうなればフロアマスターは戦えない。フロアマスター無しでどうやって戦うのかと」

「戦うだと!?貴様ら名無し如き、サンドラ無しでも相手にならんわ!」

「まだ誰を敵に(・・・・)回したのか分からないのか?」

 

俺は表情も声音も変えず続けた。

 

「俺達は白夜叉に、東側最強のフロアマスターにわざわざ依頼された。つまり“ノーネーム”は最強のお墨付きのコミュニティ。そのコミュニティのリーダーが殺されて、そこの金髪も含めた3人の問題児が黙ってるわけがない。こっちには“箱庭の貴族”もいる。それに共同の主催者である白夜叉も少なくともアンタ達に味方することもない。元はと言えば、俺達は白夜叉の依頼でここに来た。だから、依頼の最中にこっちの誰かが死んでもそれは自己責任だ。だが、義理堅くお優しい白夜叉様が責任を感じないわけがない」

 

俺は一呼吸つきマンドラに冷酷に問いかけた。

 

「アンタ達は最強の問題児と最強のフロアマスターに勝てるのか?」

 

ここで始めてマンドラは事の重大さに気づいたようだ。

 

「クッ……、」

「大輔よ、気は済んだか。マンドラも剣を収めて下がれ」

 

マンドラは渋々引き下がる。

それを見て俺も引き下がった。

黒ウサギとジンは普段とは違う俺に戸惑っていたが、

 

「ヤハハ。最高に似合ってなかったぜ。だいたい、お前は甘過ぎる。俺なら有無を言わさず、“サラマンドラ”を叩き潰すぜ?」

「だからこそ、そんなことにならないように俺はただ現実的な事実(・・・・・・)を警告しただけだ。そうだろ十六夜?」

「……ったく、よくお分かりのようで」

 

十六夜は肩を竦めて、やれやれと引き下がった。

 

「さて、本題に入らせてもらおうかの。おんしらにはこの封書を見てもらいたい。そこに依頼した理由が書かれておる」

 

十六夜が手紙を受け取る。

 

「――……、」

「“サウザンドアイズ”も余計な事をしてくれたものだ。『南の幻獣・北の精霊・西の英雄・東の落ち目』とはよく言ったもの。此度の件も東が北を妬んで仕組んだ事ではないかと皆が思っておる」

 

マンドラの呟きを無視して内容を確認した十六夜は背中越しに俺達に渡した。

其処にはただ一文、こう書かれていた。

 

『火龍誕生際にて、“魔王襲来”の兆しあり』

「……なっ、」

 

黒ウサギとジンは絶句しているが、俺は冷静なまま頭を整理していた。

 

「それで、俺達に何をさせたいんだ?魔王の首を取れっていうなら喜んでやるぜ?つーかこの封書はなんだ?」

「うむ。ではまずそこから説明しようかの。まずこの封書だが、これは“サウザンドアイズ”の幹部の1人が未来を予知した代物での」

「未来予知?」

「うむ。知っての通り、我々“サウザンドアイズ”は特殊な瞳を持つギフト保持者が多い。様々な観測者の中には、未来の情報をギフトとして与えておる者もおる。そやつから誕生際のプレゼントとして贈られたのが、この“魔王襲来”という予言だったわけだ」

 

実質、魔王からのプレゼントか。

 

「それで、この予言の信憑性は?」

「上に投げれば下に落ちる、という程度だな」

「それ、予言なのか?上に投げれば下に落ちるのは当然だろ」

「予言だとも。何故ならそやつは“誰が投げた(・・・・・)”も“どうやって投げた(・・・・・・・・)”も“何故投げた(・・・・・)”も解っている奴での。ならば、必然的に“何処に落ちてくるのか”を推理することが出来るだろ?これはそういう類の予言書なのだ」

「はい?」

 

黒ウサギ達はもちろん、マンドラとサンドラに至ってはその事実に愕然としている。

頭が冷静なままの俺は、犯人も、犯行も、動機も、全てが分かっている事実を理解し思考する。

 

「ふ、ふざけるな!!全て把握しておきながら、なぜ魔王の襲来しか教えない!!」

「に、兄様……!これには事情があるのです……!」

 

憤るマンドラをサンドラが必死に宥めている。

 

「つまり、今回の“魔王襲来”を仕組んだ人物は当事者にも教えることが出来ない立場(・・・・・・・・・・・・)の人物ってことか、白夜叉?」

 

白夜叉は俺と目を合わさず、歯切れの悪い返事をする。

 

「まさか……他のフロアマスターが、魔王と結託して“火龍誕生祭”を襲撃すると!?」

 

ジンの叫びに白夜叉は申し訳なさそうに悲しげに深く嘆息した後、

 

「まだ分からん。だが、誕生祭の共同主催候補が東のマスターである私に回ってきたほどだ。北のマスター達が非協力的だった理由が“魔王襲来”に深く関与しているのであれば……これは大事件だ」

 

再び絶句する黒ウサギとジン。

だが、首を傾げていた十六夜は、

 

「それ、そんなに珍しいことなのか?」

「さ、最悪の事ですよ!秩序の守護者で下位のコミュニティを守るはずのフロアマスターが魔王と結託するなんて」

「けど所詮は脳味噌のある何某だ。秩序を預かる者が謀をしたいなんてのは、幻想だろ?」

 

ジンの気持ちは分かる。

だが、俺と十六夜がいた世界では権力者が道を踏み外すことは珍しい話ではなかった。

 

「なるほど、一理ある。しかしなればこそ、我々は秩序の守護者として正しくその何某を裁かねばならん」

「けど目下の敵は、予言の魔王。ジン達には魔王のゲーム攻略に協力して欲しいんだ」

 

魔王襲来の予言があった以上、これはノーネームの初仕事でもある。

ジンは事の重大さを受け止めて、

 

「分かりました“魔王襲来”に備え“ノーネーム”は両コミュニティに協力します」

「うむ、すまんな。協力する側のおんしらにすれば、敵の詳細が分からぬまま戦うことは不本意であろう。……だが分かって欲しい。今回の1件は、魔王を退ければよいというだけのものではない。これは箱庭の秩序を守るために必要な、一時の秘匿。主犯には何れ相応の制裁を加えると、我らの双女神の紋に誓おう」

「“サラマンドラ”も同じく。――ジン、頑張って。期待してる」

「わ、分かったよ」

 

ジンが緊張しながら返事をすると白夜叉が哄笑を上げた。

 

「そう緊張せんでもよいよい!魔王はこの最強のフロアマスター、白夜叉様が相手をする故な!おんしらはサンドラと露払いをしてくれればそれで良い。大船に乗った気でおれ!」

 

実際、白夜叉が1人いればなんとかなるのだろう。

だけど、こんなことを言われて十六夜が黙っているはずがない。

 

「今回は露払いでいいが――何処かの誰かが偶然に(・・・・・・・・・・)魔王を倒しても、問題は無いよな?」

「よかろう。隙あらば魔王の首を狙え。私が許す」

 

2人の交渉が成立したようなので、

 

「黒ウサギ、俺は……あ!耀のこと、忘れてた」

 

 

 



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第12話 色々とあるそうですよ?

謎クロスオーバー。
何か分かる人はいますかね・・・。


「あっ!耀のこと忘れてた……今さら戻れないな」

 

冷えきっていった頭が暖まったことで思いだした。

過去のあのことで本当に頭に来たら逆に冷静になることは自分でも分かってはいた。

ただ、こうも簡単に他人のことでなるとは思ってもいなかった。

人としては悪くないかもしれないが、実力以上の事をしてしまったらあとが大変だからな。

分不相応な期待をされても困るし、とブツブツ考えながら赤壁の歩廊を散歩した。

 

「おーい、そこの少年君ー」

 

突然、後ろから話しかけられた。

振り返ると、ピンクを基調とした可愛らしいフリルを着た中学生くらいの女の子がいた。

 

「何かご用で?」

「あなたは楠木大輔君、ですよね?」

「……お前、何で俺の名前を知ってるんだ?」

 

俺はすぐに漆黒を展開して臨戦態勢を取り始めた。

 

「そう警戒しなくても大丈夫ですよ。私は戦う気はありませんから。私はある人から楠木大輔君の様子を見てくるように頼まれただけなので」

「様子だと?」

「見たところ、問題なく使えているようですね。やっぱり愛の力は偉大ですね」

「愛?いったい何の話だ!」

「それは大輔君を守っている力のことです」

「んっ!?ってことは、お前が言うある人というのは、俺を呼んだ奴のことか!!」

「そうですよ。ずいぶんと心配していましたよ。では、大輔君の様子も確認できたので、失礼します」

 

ペコリと丁寧に頭を下げて女の子は走り去っていった……――

 

「って、逃がすかよ!!」

 

俺は漆黒の翼を展開して、歩廊を駆け抜けていく女の子を飛んで追いかけた。

そして、洞穴には入られた。

洞窟内にはキャンドルグラスや銀の燭台、紅い巨人などがあり、名前や作品名が書いてあるので、ここは展覧会場のようだ。

 

「クソッ!アイツ、どこに行った!」

 

箱庭に呼ばれてやっと向こうから接触してきたのに。ここで逃がすわけにはいかない。

しばらく探し回っていると、突然、蝋燭の火が一斉に消えてパニックになった人々が騒ぎだした。

 

「このままじゃ、人混みに紛れて逃げられる……」

 

だが、止める手段がない。

と、頭を働かせていたら聞きなれた声がした。

 

いいから協力し合って逃げなさい(・・・・・・・・・・・・・・・)!!!」

 

逃げ惑う人々を一喝して統率している、

 

「飛鳥!大丈夫か!」

 

ネズミ相手に剣を振り回している飛鳥がいた。

 

「大輔君!?ええ、私は大丈夫よ。でも、この子が狙われているの!」

 

飛鳥の服の中に何かいた。

 

「この子?……妖精?いや、精霊か?まあ、とりあえず、俺の肩につかまれ。飛んで逃げるぞ!」

 

飛鳥を肩に抱えて飛ぶ。

俺の漆黒の翼は俺以外の生物などを抱えて飛んでも何故かスピードが落ちない。

守るというために、必要ならば出力が上がるらしい。

そして、ネズミに追われたまま出口が見え始めたその時、黒い影が這い寄り無数の刃がネズミを襲った。

 

「――鼠風情が我が同胞に牙を突き立てるとは何事だ!?分際を痴れこの畜生共ッ!!」

 

無数の影はネズミを悉く斬り刻んでいく。

俺と飛鳥は地面に降りて、声でレティシアが駆けつけたのだと思っていた。

だが、そこにいたのは普段の幼い容姿のメイドではなく、妖艶な香りを纏う美麗な大人の女性だった。

俺は以前、黒ウサギが言っていた言葉を思いだし納得した。

 

「術者はどこにいるッ!?姿を見せろッ!!このような往来の場で強襲した以上、相応の覚悟あってのものだろう!?ならば我らが御旗の威光、私の牙と爪で刻んでやる!コミュニティの名を晒し、姿を見せて口上を述べよ!!!」

 

激昂したレティシアの声だけが洞穴内に響く。

まあ、とりあえず、飛鳥が確認がてら、

 

「貴女……レティシアなの?」

「ああ。それより飛鳥と大輔。何があったんだ?多少数がいたとはいえ、鼠如きに後れを取るとは……らしくない」

「レティシア。別に俺に気を使わなくていいぞ」

「そんなことより、貴女、こんなに凄かったのね」

「あのな主殿。褒められるのは嬉しいが、その反応は流石に失礼だぞっ。私はコレでも元・魔王にして吸血鬼の純血!誇り高き“箱庭の騎士”!神格を失ったとはいえ、畜生を散らすのは造作もない事。あの程度なら幾千万相手しても間違いないっ」

 

「そう……けど、私は……」

「あすかっ!」

 

おお。

飛鳥の胸元という羨ましい場所から、さっきのとんがり帽子の精霊が飛び出てきた。

泣きながら、嬉しがりながら飛鳥の顔に抱き着いている精霊。

 

「いいじゃねえか。その子を助けられたんだし」

「やれやれ。すっかり懐かれたな、飛鳥。日も暮れて危ないし、今日のところは連れて帰ろう」

「じゃあ、2人は先に帰ってくれ。俺はもうちょっとここら辺を散歩してから帰る」

「そうか。大輔のあの力があれば大丈夫とは思うが、気を付けるのだぞ」

 

俺は2人と別れて、さっきの女の子を探した。

けっこう長い時間探し続けたが見つからず、完全に日も暮れたので仕方なく宿に帰ることにした。

 

 

宿に帰ってからは、まあ大変だった。

俺の本職にして天職である説教(ツッコミ)が火を吹いた。

まず、はた迷惑なおいかけっこをしていた十六夜と黒ウサギに説教。

その後に謎の(ちょっとイタそうな)女の子のことを相談しようと思っていたが、説教のせいで時間が無くなり、女性陣は露天風呂に入りにいった。

残された俺達は、それを真面目に覗くかどうかと十六夜が言い出したので、俺とジンで説教タイムに突入。

そして、

 

「……おお?コレはなかなかいい眺めだ。そう思わないか楠木?」

「……」

「黒ウサギやお嬢様の薄い布の上からでもわかる二の腕から乳房にかけての豊かな発育は扇情的だが相対的にスレンダーながらも健康的な素肌の春日部やレティシアの髪から滴る水が鎖骨のラインをスゥッと流れ落ちる様は視線を自然に慎ましい胸の方へと誘導するのは確定的にあ――」

 

スパァーン!

スパァーン!

 

黒ウサギと飛鳥によるダブルハリセン炸裂。

 

「まあまあ、2人とも。十六夜の言い方はともかくとして。その何だ……2人のことが奇麗だって褒めてるんだし」

 

俺のもう1つの天職である、フォローをしっかりこなした。

こなしたハズだ。

 

「男ならお前もそう思うだろ、楠木?まあお前がマニアックなロリとか熟女とか男のほうが好みっつーんなら別だけどな」

「俺の好みはいたってノーマルだ。なんなら黒ウサギとか飛鳥はストライクゾーンど真ん……っておい!何を言わせんだよ、お前はッ!!」

「別に健全でいいじゃねえか。ヤハハ!」

 

十六夜に乗せられたせいで、めちゃくちゃ気まずい。

黒ウサギと飛鳥は顔を真っっっ赤にして目を背けている。

耀は「私は……」と呟きながら、なぜか残念そうにうつむいている。

そんな空気に耐えられず、俺は逃げるように露天風呂に向かった。

 

その後、来賓室にて問題児3人と、白夜叉、黒ウサギと俺が集まっている。

さっきの一件で気まずい俺は十六夜と白夜叉の黒ウサギ弄り(ぼうそう)を延々と止められず、ジンとレティシアが来るまでそれが続いた。

 

「――ええ本題に入るが、明日の決勝の審判を黒ウサギに依頼したいのだ」

「は、はい。分かりました。明日のゲーム審判・進行はこの黒ウサギが承ります」

「ついては審判衣装なのだが……いや、私からの話は終わりだ」

 

何か言いかけていたが、レティシアが白夜叉をひと睨みして白夜叉は黙った。

楽でいいな。

 

「白夜叉。私が明日戦う相手ってどんなコミュニティ?」

「すまんがそれは教えられん。“主催者”がそれを語るのはフェアではなかろ?教えてやれるのはコミュニティの名前までだ」

 

パチン、と白夜叉が指を鳴らす。

現れた契約書類を見て、飛鳥が驚いて声を出した。

 

「“ウィル・オ・ウィスプ”に――“ラッテンフェンガー”ですって?」

 

どっちもどっかで見たような気がする……。

 

「うむ。この2つは珍しい事に六桁の外門、1つ上の階層からの参加でな。格上と思ってよい。詳しくは話せんが、余程の覚悟はしておいた方がいいぞ

白夜叉の真剣な忠告に、頷く耀。

一方の十六夜は、“契約書類”を睨みながら物騒に笑っている。

 

「へえ……“ラッテンフェンガー”?成程、“ネズミ捕り道化(ラッテンフェンガー)”のコミュニティか。なら明日の敵はさしずめ、ハーメルンの笛吹き道化だったりするのか?」

 

え?と俺と飛鳥が声を上げたが、その隣に座る黒ウサギと白夜叉の驚嘆の声にかき消された。

 

「ハ、“ハーメルンの笛吹き”ですか!?」

「まて、どういうことだ小僧。詳しく話を聞かせろ」

 

黒ウサギと白夜叉が驚愕の声を出す。

 

「ああ、すまんの。最近召喚されたおんしは知らんのだな。――“ハーメルンの笛吹き”とは、とある魔王の下部コミュニティだったものの名だ」

「何?」

「魔王のコミュニティ名は“幻想魔道書群(グリムグリモワール)”。全200篇以上にも及ぶ魔書から悪魔を呼び出した、驚異の召喚士が統べたコミュニティだ」

「しかも一篇のから召喚される悪魔は複数。特に目を見張るべきは、その魔書の1つ1つに異なった背景の世界が内包されていることです。魔書の全てがゲーム盤として確立されたルールと強制力を持つという、絶大な魔王でございました」

「――へえ?」

「けどその魔王はとあるコミュニティとのギフトゲームで敗北し、この世を去ったはずなのです。……しかし、十六夜さんは“ラッテンフェンガー”が、“ハーメルンの笛吹き”だと言いました。何かご存じなら万が一に備えご教授して欲しいのです」

「なるほど、状況は把握した。そういうことなら、ここは我らが御チビ様にご説明願おうか」

「え?あ、はい」

 

ジンは分かるの?

俺なんて昔、読んだはずのハーメルンの笛吹きの話の流れくらいしか思い出せないんだけど。

 

「“ラッテンフェンガー”とはドイツという国の言葉で、意味はネズミ捕りの男。このネズミ捕りの男とは、グリム童話の魔書にある“ハーメルンの笛吹き”を指す隠語です。大本のグリム童話には、創作の舞台に歴史的考察が内包されているものが複数存在します。“ハーメルンの笛吹き”もその1つ。ハーメルンとは、舞台になった都市の名前のことです」

「ふむ。ではその隠語が何故にネズミ捕りの男なのだ?」

「グリム童話の道化師が、ネズミを操る道化師だったとされるからです」

 

ネズミを操るか。

飛鳥が驚いているが考えていることは一緒だろう。

だが、俺はこの事に触れたら色々聞かれるから黙っとくしかないな。

第一、そうと決まった訳じゃないし、飛鳥の判断に任せるか。

 

「……となると、滅んだ魔王の残党が忍び込んでおる可能性が高くなってきたのう」

「YES。参加者が“主催者権限”を持ち込むことが出来ない以上、その路線はとても有力になってきます」

「うん?なんだそれ、初耳だぞ」

「おお、そうだったな。魔王が現れると聞いて最低限の対策を立てておいたのだ。私の“主催者権限”を用いて祭典の参加ルールに条件を加えることでな。詳しくはコレを見よ」

 

光り輝く羊皮紙が現れた。

 

『§火龍誕生際§

・参加に際する所持項欄

1、一般参加は舞台区画内・自由区画内でコミュニティ間のギフトゲームの開催を禁ず。

2、“主催者権限”を所持する参加者は、祭典のホストに許可なく入る事を禁ず。

3、祭典区画内で参加者の“主催者権限”の使用を禁ず。

4、祭典区域にある舞台区画・自由区画に参加者以外の侵入を禁ず。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

“サウザンドアイズ”印

“サラマンドラ”印』

 

確かにこのルールなら魔王が襲ってきても“主催者権限”は使えない。

 

「けど驚きました。ジン坊っちゃん、どこで“ハーメルンの笛吹き”を知ったのです?」

「べ、別に。十六夜さんに地下の書庫を案内しているときに、ちょっとだけ目に入って……」

 

照れくさそうに答えるジン。

十六夜と一緒にいつも書庫に籠ってはいたが、ここまで知識を蓄えていたとは。

頼もしいリーダーになってきたな。

 

「ふむ。何にせよ、万が一の際はおんしらの出番だ。頼むぞ」

 

さて、難しい話も終わったし、本来なら謎の女の子ことを相談したいんだが、

 

「それでは夜も遅いですし、この辺で御開きということで」

 

と、黒ウサギの一言で寝ることになった。

そして、布団に入り重大な事を思い出してしまい、俺は絶賛後悔中。

 

「結局、耀に謝ってない。はあ……」

 

 



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第13話 ウィル・オ・ウィスプと戦うそうですよ?

すみません。
完成してないのに連続投稿していました。


「――ウィル・オ・ウィスプに関して、僕が知っている事は以上です。参考になればいいのですが……」

 

舞台袖でジンとレティシア、三毛猫と戯れている耀に対戦相手の情報を確認している。

ことを物陰から見ている俺。

ちなみに、十六夜達はサンドラの計らいで本陣営のバルコニーの特等席にいる。

 

「大丈夫。ケースバイケースで臨機応変に対応するから」

「本当に誰のサポートもいらないのか?万一の際を考えて行動した方がいいと思うのだが」

「大丈夫、問題ないよ」

 

あくまでも助勢を断る耀。

耀は気付いているだろうが物陰から出て、

 

「いや、駄目だな。俺がサポーターとして出る」

「……[私は好みじゃないって言ってたのに]……」

「ん?何だって?小声でよく聞こえなかったんだけど?」

「……必要ない。私1人で出場する」

「なら、俺をサポーターとして認めることで、昨日の貸しを返してもらおうか」

「そ、それはズルい[……でも嬉しい]

「あの後応援にも行けなかったし。それに、仇も取ってくれたんだろ?だから、そっちの借りも返させてくれよ」

「……分かった。でも、足を引っ張らないでね、大輔」

「善処はする」

 

まあ正直、どこぞの難聴野郎と違って途中の小声も聞こえてたんだが。

それに対して正しい答えが分からないからスルーした。

そうこうしていると、黒ウサギの入場の合図があったので通路から舞台に出る。

 

「そういうわけだから、耀のことは任せろ」

「お願いします、大輔さん」

「頼んだぞ、大輔」

 

俺も続いて舞台に出たが、その瞬間――俺達の眼前を高速で火の玉が横切った。

 

「YAッFUFUFUUUUUUuuuuuu!!」

「「わっ……!」」

 

ドスン、と2人仲良く尻もちをついた。

ことこどく男として格好つかないことには慣れた。

いや、慣れたくはないのだが。

 

「あっははははははははは!見て見て見たぁ、ジャック?“ノーネーム”の2人が無様に尻もちついてる!ふふふ。さあ、素敵に不敵にオモシロオカシク笑ってやろうぜ!」

「YAッFUFUFUUUUUUuuuuuu!!」

 

ドッと観客席の一部からも笑いが起きた。

昨日もそうだったがやはり“ノーネーム”が決勝まで残っていることが不満なのだろう。

俺は気にしてないが。

まあ、耀に至っては火の玉の正体に夢中だしな。

 

「その火の玉……もしかして、」

 

ツインテールにゴスロリのスカートを揺らしながらアーシャは高飛車な声で嘲った。

 

「はぁ?何言ってんのオマエ。アーシャ様の作品を火の玉なんかと一緒にすんなし。コイツは我らが“ウィル・オ・ウィスプ”の名物幽鬼!ジャック・オー・ランタンさ!」

 

火の玉は取り巻く炎陣を振りほどいて姿を現した。

燃え盛るランプと、実態の無い浅黒い布の服。

人の頭の数10倍はあろうかという巨大なカボチャ頭。

まさに、ハロウィンでよく見るカボチャのお化けだった。

 

「私の晴れ舞台の相手をさせてもらうだけで泣いて感謝しろよ、この名無し」

「YAHO、YAHO、YAFUFUUUuuuuuuuu~~♪」

 

俺は何事もなかったように立ち上がり、

 

「……審判、相手の挑発行為が目に余るので失格にして欲しいんだけど」

「ちょ、アンタ!なに、問答無用で失格にさせようとしてんの!」

 

黒ウサギは「決勝戦でそれはちょっと」ということで、アーシャには警告をしていた。

俺はアーシャを無視して耀に手を貸して立ち上がらせた。

 

「大した自身だねーオイ。私とジャックを無視するなんて。私達に対する挑発ですかそれも?」

「「うん」」

 

カチン!ときた顔をしているアーシャ。

俺は本当にただの戦略的挑発だが、耀は一見大人しそうに見えてかなり負けず嫌いだ。

さっきの挑発返しだろう。

それに見かねた黒ウサギがちゃっちゃとゲームを始める。

黒ウサギの合図で白夜叉の時みたいに景色が変わり、ゲーム盤へと移動した。

 

「この樹……ううん、地面だけじゃない。ここ、樹の根に囲まれた場所みたい」

「ということは、根の中ってことか」

「あらあらそりゃあどうも教えてくれてありがとよ、名無しのお2人さん!」

「「……」」

 

フイ、と2人でアーシャを無視する、

 

『ギフトゲーム名 “アンダーウッドの迷路”

・勝利条件

1.プレイヤーが大樹の根の迷路により野外に出る。

2.対戦プレイヤーのギフトを破壊。

3.対戦プレイヤーが勝利条件を満たせなくなった場合(降参含む)

 

・敗北条件

1.対戦プレイヤーが勝利条件を1つ満たした場合。

2.上記の勝利条件を満たせなくなった場合。』

 

「――“審判権限”の名において。以上が両者不可侵で有ることを、御旗の下に契ります。プレイヤーの方は、どうか誇りある戦いを。此処に、ゲームの開始を宣言します」

 

ゲーム開始後、しばしの沈黙のなか、アーシャが口を開いた。

 

「睨み合っても進まねえし。先手は譲るぜ」

「……?」

「ま、さっきの1件があるしね。後でいちゃもん付けられるのも面倒だし?」

 

ツインテールを揺らしながら余裕を見せるアーシャ。

 

「そこのゴスロリは“ウィル・オ・ウィスプ”のリーダーなのか?」

「え?あ、そう見える?なら嬉しいんだけどなあ♪けど残念なことにアーシャ様は、」

 

リーダーと間違われて嬉しかったのか、満面の笑みで質問に答えてくれた。

その隙に耀を先に行かせた。

 

「オ……オゥェゥウウケェェェイ!とことん馬鹿にしてくれるってわけかよ!そっちがその気なら――」

「なあ、そろそろ正体を現したらどうなんだ、ジャック・オー・ランタン?」

「YAHO?」

「お前のことはジンから聞いている。ちゃんと意思があるんだろ?」

「ヤホホ!そうですか。知っていましたか」

 

ジンが言うには、ジャックはもしかしたらただの名物幽鬼ではなく、かなり厄介なギフトを持っているかもしれないとの話だった。

となれば、俺じゃ勝てるわけもないし、

 

「俺と決闘(1VS1)で勝負しようぜ」

 

時間稼ぎするしかない。

耀のギフトならこのカボチャを足止めさえすれば、あっちのゴスロリはどうにかなるだろう。

 

「さあどうする?カボチャ野郎!」

「ヤホホ……成程成程、そういうことですか。ならば、ここは敢えてその決闘は断らせて頂きます」

「何!?」

「現状、我々は貴人方のゲームメイクに乗せられています。そして、私の正体を知ってなお決闘を挑むということは私を攻略できるだけの恩恵、もしくは何らかの対抗手段を貴方は持っているのでしょう」

「ああそうだ。お前を倒すだけのギフト(とっておき)を持っているからな!」

 

このカボチャ、頭が良すぎるな。

 

「倒すですか。失礼ながら、先ほど尻餅をついた貴方がですか?」

「さ、さっきは驚いてびっくりしただけだ。けど、マジで戦えばお前に勝てる」

 

恥ずかしいことを思い出させんなよ、カボチャ野郎。

 

「不死にも勝てると?」

「か、勝てるとも……――っ!?」

 

はあッ!?

というか、不死!?そんなこと聞いてないぞ、ジン!

 

「ヤホホ、一瞬躊躇いましたね。正直なことは美徳ですが、ことギフトゲームにおいては命取りですよ」

 

クソッ、しまった。

余計な事を考えてて素が出た。

だが、

 

「まあ、バレたもんはしょうがない。けど、こうやって時間稼ぎも出来たことだし、まだ俺達が有利だ」

「ヤホホ。私がこうして会話をしているのは貴人方に敬意を表してのことです」

「敬意?」

「私の正体を知っていたのだから不意討ちも出来たはず。しかし、それを良しとせず、目的はどうであれ正々堂々と挑まれた。ですので、私もその心意気に応えたというわけで御座います」

 

さすがは上層のコミュニティ。

ほぼ読んだ上で、敢えてってか……。

 

「さらに言うならば、紳士を自称しているこのカボチャめの性格を利用して、こうなる(・・・・)ことも作戦の範囲内なのでは?」

「……いったい何のことやら」

 

そう。

ジャックの言っていることは当たっている。

今回のこの作戦の概要は俺とジンが立てた。

この作戦はこのカボチャを足止めすることに特化している。

そのためにカボチャのいくつかの性格をシミュレーションして、それを利用するところまで考えている。

そして、最終手段。

 

「本当に自分の弱さが嫌になるな……。それでどうする?俺はここを通す気はないぜ?」

 

力づく。

これしか俺には残されていない。

 

「そうですね。ここまでのゲームメイクをしているとなれば、あちらのお嬢さんにはアーシャでは勝てないでしょう。ならば、私は追いかけざるをえないため、そこを通らせてもらいますよ」

 

手に持つランタンが揺れる。

その瞬間、俺の回りを火柱が取り囲んだ。

 

「熱ッ!!これは……!」

「無闇やたらに動かなければ何のことはありません。それでは、ゲーム終了まで暫しの間、大人しくしていて下さい」

 

そう言い残すとカボチャの姿が消えた。

そういえば、ジンが“ウィル・オ・ウィスプ”のリーダーは、『生と死の境界に現れた悪魔』とか言ってたな。生と死の境界、狭間の世界がどうとか……。

 

「限定的な瞬間移動のようなものが使えるのか。だけど、考えたところで仕方がない!」

 

轟々と燃え盛り続けら炎。

俺は深呼吸をして、身体の前面だけを覆うように漆黒を展開する。

 

「じゃあ、行きますか」

 

俺は一思いに炎へ突っ込んだ。

 

「アチッ!!」

 

かなり熱かったがどうにか炎を越えられた。

漆黒の密度を高めて前面に展開していたから、ダメージとは別の純粋な熱さに耐えることが出来た。

マジで修行しておいて良かった。

俺はそのまま漆黒の翼を出現させて、フルスピードで追いかけた。

途中「え?ちょ、ちょっと!?」というゴスロリの声も無視して追いかけた。

 

「見えた!」

 

勢いに任せて、

 

「とおりゃ!!」

 

ライダーキックをかまして、カボチャを吹っ飛ばした。

 

「だ、大輔!?」

「耀!大丈夫か!?」

「私は大丈夫」

 

ところどころにかすり傷はあるが目立ったケガはない。

 

「予選でも使用していた闇と形容すべき力ですか。少し驚きましたよ。ヤホホ」

 

あれだけスピードが合ったのに無傷か。

だが、勝利条件は野外に出ることだ。先に出さえすれば……。

 

「1つ御伺いしたいのですが、どうやって炎の壁から出たのでしょうか?」

「まあ、勇気と気合いってとこだな」

 

間違ってはいない。

 

「ヤホホ。いやはや、死なない程度に加減はしていましたが地獄の業火を受けて無傷とは、非常に驚きで御座います」

「「地獄の業火!?」」

 

俺と耀の声が洞窟内を木霊する。

そんな、炎に俺は突っ込んだのか?

事実を知った今、たとえ無傷だろうともう1回突っ込む勇気が全然湧かない。

とはいえ、それはおいといて、

 

「俺が足止めするから、耀は先に行け」

「……うん」

「話が纏まったようなので、改めて名乗りを上げましょう」

 

ジャック・オー・ランタンは腕を大きく広げ、轟々と燃え盛る炎を背に叫ぶ。

 

「己が系統樹を持つ少女、並びに、闇に魅入られし少年よ!生と死の境界に権限せし大悪魔!ウィラ=ザ=イグニファトゥス製作の大傑作にして、聖人ぺテロに烙印を押されし不死の怪物――このジャック・オー・ランタンがお相手しましょう!」

 

業火の炎で燃え盛り、大炎上する樹の根の空洞。

あの炎の瞳が放つ威圧感に押し潰されそうになる。

それでも、俺は怯まず下がらない。

ここまできたら、諦めたくない。

そう思った矢先、

 

「――降参」

 

そんな消え入りそうな耀の声が聞こえた瞬間、元の舞台に戻ってきた。

 

「勝者、アーシャ=イグニファトゥス!!」

「……耀」

「ごめん、大輔。色々してくれたのに」

「けど、何で……」

「こんなゲームで命を、心を削るようなことは……仲間として……許すわけにはいかない」

 

自分を責めるかのように俯く耀。

声をかけられない俺を見かねてか、ジャックが、

 

「春日部嬢に、楠木君。素晴らしいゲームでした。惜しむらくは、両者の気持ちが一致していなかったことでしょう」

 

確かにそうだ。

俺は多少の無茶をしても耀を勝たせてやりたかった。

だが、耀は仲間が傷つくくらいなら勝てなくていいと思っていた。

これじゃ、勝てなくて当たり前だな。

 

「これから先、同じようなシチュエーションもあるでしょう。その時に後悔しないためにもしっかりとコミュニケーションを取ることをお薦めしますよ。ああいや、どうにもお節介が過ぎましたね。ヤホホ」

「おい、オマエら!名前は何て言うの?出身外門は?」

 

不機嫌そうなアーシャと耀が話しているとジャックは俺に近付いて来た。

 

「先程、御自身の事を弱いと仰りましたが、与えられた作戦を遂行し成功させた(・・・・・)事は御立派だと思いますよ」

 

それは、本気を出さざるを得なかったということだろうか。

 

「…………まあ、今は素直にその言葉を受け取っておくかな」

 

俺達に必要なことも俺に必要なことも分かったし。

 

「俺達はまだまだ弱い。これから強くなってやる」

 



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第14話 魔王が襲来するそうですよ?

感想などをお待ちしております。


『ギフトゲーム名 “The PIED PIPPER of HAMELIN”

 

・プレイヤー一覧

・現時点で3999999外門・4000000外門・境界壁の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ。

 

・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター

・太陽の運行者・星霊 白夜叉。

 

・ホストマスター側 勝利条件

・全プレイヤーの屈服・及び殺害。

 

・プレイヤー側 勝利条件

1.ゲームマスターを打倒。

2.偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。 “グリムグリモワール・ハーメルン”印』

 

 

上空から雨のようにばら巻かれていた黒い封書。

俺はその1つを手に取る。

 

「これと同じものがあの日、机にあったのか」

 

おそらく、俺だけだろう。

この黒い羊皮紙を見て感慨に浸っているのは。

 

「大輔!見て!」

 

耀が指差す方を見ると、十六夜達がいた場所は黒い風吹き荒れていて明らかに何か起きていた。

 

「とりあえず、合流するぞ」

 

俺と耀は飛んだ。

バルコニーが見えてきて、黒い風がある一点を中心に収束しているのが分かった。

その周りには飛鳥とジンしかいない。

バルコニーに着地して、黒い風の中を改めて見たら、

 

「白夜叉!?何で閉じ込められてるんだ?」

 

最強のフロアマスターが抵抗しても壊れない黒い風の檻。

俺にはこの状況に少し心当たりがある。

 

「大輔君に耀さん!ええ、今からそれを聞くところよ」

「よし!よいかおんしら!今から言うことを一字一句違えずに黒ウサギに伝えるのだ!」

 

普段の白夜叉からは考えられない緊迫した声。

今がそれだけ非常事態で想定外なのだと分かる。

 

「第1に、このゲームはルール作成段階で故意に説明不備を行っている可能性がある(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)!これは一部の魔王が使う一手だ!最悪の場合、このゲームはクリア方法が存在しない(・・・・・・・・・・・・・・・・・)!」

「なっ……!?」

「第2に、この魔王は新興のコミュニティが高い事を伝えるのだ!」

「わ、分かったわ!」

 

その簡素な説明で少しの時間も惜しいことが伝わってくる。

 

「第3に、私を封印した方法は恐らく――」

「はぁい、そこまでよ♪」

 

ハッと全員が声の方へ振り返った。

そこには布地が少ない白装束の女が、3人の火蜥蜴、“サラマンドラ”の同士を従えていた。

 

「あら、本当に封じられてるじゃない♪最強のフロアマスターもそうなっちゃ形無しねえ!」

「おのれ……!“サラマンドラ”の連中に何をした!?」

「そんなの秘密に決まってるじゃない。貴女に助言されないうちに、そこの子達にはご退場頂こうかしら♪」

 

白装束の女はフルートを唇にあてる。

奏でられる不協和音に呼応して火蜥蜴は血走った瞳を俺達に向けて跳びかかってきた。

 

「飛鳥!」

 

体長2メートルはあろうかというその巨体を上段蹴りで薙ぎ払う。だが、体重が違いすぎた。着地と共に再度跳びかかってきた。

 

「耀は飛鳥を!俺はジンだ!」

 

お互いに1人を抱えて飛んで逃げる。

操られているだけの火蜥蜴を無闇にケガさせるわけにはいかない。

 

「あら、今の力……グリフォンか何かかしら?随分と変わり種の人間じゃないの。見れば顔も端正で中々可愛かったし……よし、気に入った!貴女は私の駒にしましょう!」

 

嬉々として声をあげていた。

俺達は無視して飛び去ったが、音が、宮殿内に高く低く魔笛が響き渡った。

 

「あ……駄目だ、コレ……!」

「きゃっ!」

「耀!飛鳥!」

 

突然崩れ落ちて、そのままうずくまった。

2人の容体を確認しようと急いで近付き、

 

「私は大丈夫よ。でも、耀さんが……」

 

耀はガクガクと痙攣している。

俺は3人も抱えて飛べない。

 

「飛鳥は走って逃げろ。俺が耀も抱えて――」

「ジン君!」

「は、はい!」

「先に謝っておくわ。……ごめんなさいね」

 

飛鳥は申し訳なさそうな哀しい顔を浮かべ、

 

「コミュニティのリーダーとして――耀さんを連れて黒ウサギの元へ行きなさい(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

「……わかりました」

 

ジンは言われるがまま、耀を抱えて走り去った。

この時間的ロスで追いつかれた。

 

「……あらら?貴方達だけ?」

 

「私達に任せて先に逃げたわ。貴女程度の三流悪魔、私達で十分ですって」

「いや、何言ってんだ!俺達も逃げるぞ!」

「大輔君こそ何を言ってるの!ここでこの三流悪魔を止めないと、どれくらいの被害が出るか分からないわ!」

「そうかもしれないけど、」

 

俺は言葉に詰まった。

ジャックに言われた事が心に響く。

とはいえ、飛鳥の言うことも一理ある。

コイツはフルートの音で操ることが出来るようだ。

確か、笛吹き道化は“人とネズミを操る道化”。

それならそれ以外への支配力はそんなに大きくは無いはず。

なのだが、現状火蜥蜴を操れている以上、人とネズミ以外も操れるのだろう。

時間が経てば経つほど、味方が減り、敵が増える。

魔王とのギフトゲームでそれは間違いなく不利になる。

 

「……ふぅん?逃げないのかしら?」

「ああ!よく考えたら三流悪魔程度、俺達の敵じゃないからな!」

「ふふ、いいわぁ♪予想以上にいい人材が転がってるじゃない!目移りしちゃうわねホント!」

「全員――そこを動くなッ(・・・・・・・)!!!」

 

は?と唖然とする白装束の女。

しかし、その直後、ガチン!と火蜥蜴も含め女を拘束した。

飛鳥は白銀の十字剣をギフトカードより取り出し、懐に飛び込んだ。

 

「――っ……!!この、甘いわ小娘!!」

 

飛鳥は拘束を振り払った女に剣を弾じかれ、一撃をお腹にもらいその場に座り込む。

女はさらに飛鳥を攻撃しようとした。

 

「そうはさせるか!」

 

漆黒を展開し俺と飛鳥を包み込み防御した。

 

「やっぱりソレ、やっかいね。坊やは引っ込んでなさい!」

 

そう言うと女は笛をひと吹きした。

すると、操られた火蜥蜴達が俺を囲み押さえ込みにきた。

操られている上に殺意が無いため、漆黒の出力が上がらない。

純粋な力比べでは全く歯が立たず、俺だでなく漆黒さえも押さえ込まれた。

 

「飛鳥!!」

 

飛鳥は動けないんだ。

俺が守らないと。

俺は翼任せに女に突っ込んだ。

だが、何度目かの魔笛が響き渡った。

女の前には火蜥蜴達が立ち塞がり、俺の突進を受け止められてしまった。

 

「それ以上はダメよ♪坊やには手を出さないって、約束だからね。大人しく拘束されてね♪」

「約束だと!?それはいったい誰のことだ!!」

「ふふ、教えるわけないじゃない♪」

 

あの女の子が言ってた奴のことか。

だが、今はそんなことはどうでもいい。

飛鳥を助けないと――クソッ、駄目だ!振り解けない。

俺の素の力はただの普通の人間ものでしかない。

屈強な火蜥蜴らに取り押さえられたのでは全く動けない。

漆黒の翼も重すぎて飛ぶことも出来ない。

 

何で、俺は、いつも、いつも、肝心なときに、何も、出来ないんだ。

 

「じやあ、坊やはそこで大人しく見ててね」

「飛鳥!!逃げろ」

 

どうにか起き上がろうと女を睨みながら、身体を起こそうとしている飛鳥。

 

「綺麗な子。さっきの子もいいけど、総合では貴女の方が素敵よ♪」

 

ズドンッ!!!

もう1度お腹を蹴り上げた。

 

「飛鳥!!」

 

飛鳥は動かなくなった。

 

「よくも飛鳥を!!!」

「ふふ、そんなに凄んじゃって。可愛いわよ坊や♪」

 

この女を今すぐにでもぶっ飛ばしたい!!

漆黒を力任せに振りほどこうと暴れるが、

 

「あらあら、この子がどうなってもいいのかしら?」

「……っ……クソッタレ!!」

 

飛鳥は別の火蜥蜴に抱えられている。

 

「ふふ、それでいいのよ。あっちの最強のフロアマスターも抵抗しているようだけれど、あの黒い風は決して破れないわ」

 

女はバルコニーで魔笛を奏でる。

見させられている俺の目に映るのは、次々と支配されていく参加者達が同士討ちや破壊活動をする惨状だった。

俺は女に向かって止めるように叫ぶ。

だが、女は意にも介さず奏で続ける。

十六夜は何をしている!

アイツの力があれば止められるのに!

俺は無力だ。

いくら努力しようと、俺には誰も救えない。

その時、

 

ドォッゴォォォンンン!!

 

聞き覚えのある雷鳴が天に轟いた。

 

「“審判権限”の発動が受理されました!これよりギフトゲーム“The PIED PIPPER of HAMELIN”は一時中断し、審議決議を執り行います!プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中止し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください!繰り返します――」

 

黒ウサギの“審判権限”。

そうかジンが伝えたのか。

まだ、終わってはいないんだ。

まだ、取り返しはつくんだ。

 

「まだ……まだ諦めるわけにはいかない!俺が救えないのなら、それだけの力がある奴に!そのためなら、俺は……――何だってやってやる!!」

 

 




次回、はぐらしていた女の正体がわかります。。


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第15話 魔王と交渉するそうですよ?

謎の少女の正体が発覚します。


大祭運営本陣営、大広間。

負傷者がぞくぞくと運ばれてきている。

俺がここに来たときにはすでに十六夜がいた。

十六夜は俺の顔を見るなり、

 

「なんつう顔をしてやがる」

「ああ」

「気負い過ぎんなよ。まだ、始まったばっかりなんだぜ」

「ああ」

「ヤハハ。ちょっと、歯を食いしばれ♪」

「……は!?え、ちょ、いきなり何!?」

 

十六夜は問答無用で拳を振りかぶる。

俺は反射的に目を瞑った。

が、殴られることはなく、

 

「いつものバカ面に戻ったな」

「バカ面ってお前。……黒ウサギと一緒にすんなよ」

「ヤハハ!お前はいつも通りでいいんだよ。柄にもねえ事をしても足をすくわれるだけだぜ」

「ああ、よく分かってる」

 

柄にもない、か……。

仲間から求められた役割、そして、俺が望んだ役割、コミュニティ“ノーネーム”のフォローとツッコミ(精神的支柱)

それは、コミュニティが、仲間がピンチの時ほど絶対にブレずに支えること。

たが、俺の考えていることは本来の役割とは正反対のことだ。

とはいえ、その時が来るまで俺は果たすべき役割を全うしなければ。

俺は十六夜に気合いを入れてもらった。

 

「もちろん手加減はしてくれるよな?」

 

少し後悔しつつ、十六夜の高笑いと共に顔面に一発。

意外なことに本当に手加減してくれた。

その後、俺達を見つけた黒ウサギとジンは、急いで駆け寄って来た。

 

「十六夜さんに大輔さん、ご無事ですか!?」

「俺達は問題ない。他のメンツは?」

 

十六夜の問いに、ジンは顔を下げた。

ジンが悪いわけではないが、俺と同じように自分の無力さが悔しいのだろう。

ジンは重い口を開ける。

 

「みなさんの今の状況なのですが……。耀さんは外傷はないのですが、まだ意識が戻っていません。レティシアは“審判権限”の発動が受理されて宣言をしている時に、反則ギリギリの攻撃を受けて重症。飛鳥さんに至っては姿も確認出来ていません。……すみません、僕がもっとしっかりしていれば……」

 

耀は耳が良い。

だから、魔笛が効き過ぎているだけだろうからそのうち目を覚ますだろう。

飛鳥はやはりあの女が連れていったのだろう。

しかし、レティシアの離脱は大きな戦力ダウンだ。

 

「御チビを責めるわけじゃねえが、もう少し審判決議が早ければ、こっちの戦力を削られずに済んだわけか」

「白夜叉様の伝言を受け取り、すぐさま審議決議を発動させたのですが……少し遅かったようですね」

「そもそも審判決議ってのはなんのことだ?」

「“主催者権限”によって作られたルールに、不備がないかどうかを確認する為に与えられたジャッジマスターが持つ権限の1つでございます」

「ルールに不備?」

「YES。ジン坊ちゃんの伝言によると『今回のゲームは勝利条件が確立されていない可能性がある』との事でした。真偽はともかく、ゲームマスターに指定された白夜叉様に異議申し立てがある以上、“主催者”と“参加者”でルールに不備がないかを考察せねばなりません。それに1度始まったギフトゲームを強制中断できるわけですから、奇襲を仕掛けてくる事が常の魔王に対抗するための権限、という側面もあります」

「要するに強制的なタイムアウトみたいなものか。無条件でゲームの仕切り直しが出来るなら、かなり強力な権限じゃねえか」

「いえ、そうとも限らないのですよ。単刀直入に説明しますと“このギフトゲームによる遺恨を一切持たない”、という相互不可侵の契約が交わされるのですヨ」

「つまり、ゲームで負ければ報復行為を理由にギフトゲームを挑むことが出来ない、一発勝負ってことか」

「YES。ですので、負ければ救援は来ないものと思ってください」

「ハッ、最初から負けを見据えて勝てるかよ」

 

十六夜が失笑していると、大広間の扉が開いた。

大広間に入ってきたのはサンドラとマンドラの2人だった。

 

「今より魔王との審議決議に向かいます。同行者は6名です。――まずは“箱庭の貴族”である、黒ウサギ。“サラマンドラ”からはマンドラ。ホストからの指名で楠木大輔。その他に“ハーメルンの笛吹き”に詳しい者がいるのならば、交渉に協力して欲しい。誰か立候補する者はいませんか?」

 

サンドラの緊張した声が大広間に響き、俺の頭にはより響いた。

 

「なんで俺?」

「大輔さん、何をしたのでございますか?」

「ヤハハ。丁度いいぜ」

 

十六夜はジンの首根っこを掴まえ、

 

「“ハーメルンの笛吹き”についてなら、このジン=ラッセルが誰より知っているぞ」

 

俺そっちのけで、十六夜の悪そうな声が大広間に反響する。

 

「……は?え、ちょ、ちょっと十六夜さん!?」

「めっちゃ知ってるぞ!とにかく詳しいぞ!役に立つぞ!この件で“サラマンドラ”に貢献できるのは、“ノーネーム”のリーダー・ジン=ラッセルを置いて他にいないぞ!」

『“ノーネーム”が……?』

『何処のコミュニティだよ』

『信用出来るのかしら』

 

十六夜の捲し立てに激しく反応した。

サンドラもキョトンとした顔でジンを見ている。

ならばここは、

 

「“ノーネーム”のリーダー・ジン=ラッセルはあの“ペルセウス”ギフトゲームで勝利したぞ!」

『それは本当なのか?』

『ありえねえ』

『おい、他に立候補者は――』

 

俺の発言でどよめきはあったが効果はなかった。

しかし、他の同行者が現れる気配はない。

 

「他に申し出がなければ“ノーネーム”のジン=ラッセルにお願いしますが、よろしいか?」

 

サンドラの決定にどよめきは起こる。

たが、やはり他の同行者が現れることはなかった。

自分達には何も出来なくても、自分達の命運を“ノーネーム”に託すのは不安なのだろう。

ジンも俺達の発言による周囲の反応を聞き、空気を察して揺れている。

 

「馬鹿かオマエ。毎夜毎晩書庫で勉強してたのは何のためだ。此処で生かさなくてどうする」

「そ、それは」

 

ジンがあそこまで勉強していた事は、昨日知ったばかりだ。

ジンはリーダーとしてコミュニティの為に努力していた。

 

「ジンは俺達の旗頭なんだ。ジンが前に出ないと俺達は後に続くことも出来ない。違うか?」

「……っ……」

「もう寄生虫だの何だの言われたくないんだろ?変わりたいって言ったじゃねえか。ならちょっとカッコいいところを周りに見せつけて、名を挙げてやろうぜ、リーダー(・・・・)

「は、はい……!」

 

十六夜に初めてリーダーと呼ばれて嬉しかったのか勢いで返事をするジン。

結局、何で俺が指名されたかは分からないと言われた。

 

 

――境界壁・舞台区画。大祭運営本陣営、貴賓室。

 

「ギフトゲーム“The PIED PIPPER of HAMELIN”の審議決議、及び交渉を始めます」

 

俺達の対面には、白黒の斑のワンピースを着た少女の魔王を真ん中に、その両隣に軍服のヴェーザーと白装束のラッテンが座っている(名前は十六夜から聞いたのだが)。

そして、

 

「……俺を指名したのはやっぱりお前か?」

 

その3人から離れたところにあの謎の女の子が座っていた。

 

「その通りです。そこの魔王さんが約束を守らないから、心配していたんですよ」

 

そう言うと、可愛らしいふくれっ面で少女の魔王を睨み付ける。

 

「あら?何かしら?」

「とぼけないでください!聞いていませんよ!あらかじめ参加者に――」

「フロン、それ以上しゃべったら、貴方達との約束も考えた直さないといけくなるわよ?」

「そ、それは……ぐぬぬ」

 

やや不穏な空気を察した黒ウサギはコホンとひとつ咳ばらいをして、厳かな声で告げる。

 

「まず“主催者”側に問います。此度のゲームですが、」

「不備は無いわ」

 

少女の魔王は断言する。

 

「今回のゲームに不備・不正は一切無いわ。白夜叉の封印も、ゲームのクリア条件も全て調えた上でのゲーム。審議を問われる謂われはないわ」

「……受理してもよろしいので?黒ウサギのウサ耳は箱庭の中枢と繋がっております。嘘を吐いてもすぐ分かってしまいますヨ?」

「ええ。そしてそれを踏まえた上で提言しておくけれど。私達は今、無実の疑いでゲームを中断させられているわ。――言ってること、分かるわよね?」

 

斑の少女は涼やかな瞳でサンドラを見つめる。

サンドラは苦々しく答えた。

 

「不正がなかった場合……主催者側に有利な条件でゲームを再開させろ、と?」

「そうよ。新たなルールを加えるかどうかの交渉はその後にしましょう」

「……わかりました。黒ウサギ」

「は、はい」

 

少し動揺したように頷いた黒ウサギ。

ここまでハッキリとした態度を取ってくるとは思わなかったのだろう。

黒ウサギは天を仰ぎ、ウサ耳をピクピクと動かす。

肝心の十六夜はといえば、マンドラに何か聞いていた。

そして、黒ウサギの耳が止まり少し萎れた。

 

「……。箱庭からの回答が届きました。此度のゲームに、不備・不正はありません。白夜叉様の封印も、正当な方法で造られたものです」

 

……これで俺達、参加者側は一気に不利になったわけか。

 

「当然ね。じゃ、ルールは現状を維持。問題はゲーム開始の日取りよ」

日取り(・・・)?日を跨ぐと?」

 

サンドラが驚きの声を上げる。口にこそ出さなかったが俺達も同じだ。

明らかに劣勢である参加者側に、ケガの回復や謎を解く時間を与えるというのだから当然だろう。

 

「ジャッジマスターに問うわ。再開の日取りは最長で(・・・)いつ頃になるの?」

「さ、最長ですか?ええと、今回の場合だと……1ヵ月でしょうか」

「じゃ、それで手を――」

「待ちな!」

「待ってください!」

 

十六夜とジンが同時に声を上げた。

ということはここからが勝負ってわけだな。

 

「……なに?時間を与えてもらうのが不満?」

「いや、ありがたいぜ?だけど場合によるね。……俺は後でいい。御チビ、先に言え」

「はい。主催者に問います。貴女の両隣にいる男女は“ラッテン”と“ヴェーザー”だと聞きました。そしてもう1体が“(シュトロム)”だと。なら貴女の名は……“黒死病(ペスト)”ではないですか?」

「ペストだと!?」

 

ジンと十六夜以外は驚愕した。

俺でもその疫病は知っている。

世界史の授業で、14世紀に大流行してヨーロッパの人口の3割が死んだと習った。

 

「……。正解よ。私の名前は黒死病(ペスト)。そして私のギフトネームは“黒死斑の魔王(ブラックパーチャー)”よ。よろしければ貴方とコミュニティの名前を聞いても?」

「……“ノーネーム”、ジン=ラッセルです」

 

ペストは意外そうな顔をした。

まあ、名無し如きが正体を暴いたのだから当然の反応だろう。

 

「そ。覚えておくわ。……だけど一手遅かったわね。私達はゲーム再開の日取りを左右出来ると言質を取っているわ。そして、言っていなかったことがある」

「え……?」

「参加者の一部には(ペスト)の病原菌を潜伏させている。無期生物や悪魔、もしくは楠木大輔みたいな特殊な力で守られてでもない限り発症する、呪いそのものを!発症まで最短で2日。1ヵ月後まで何人生きていられるかしら」

 

最悪だ。

かなりの死者が出るのもそうだが、問題はそれだけではない。

1ヵ月後の時点で肉体的にも精神的にも戦える者がいったいどれくらい残るだろうか。

このままでは戦う前に負ける。

 

「ジャ、ジャッジマスターに提言します!彼らは意図的にゲームの説明を伏せていた疑いがあります!もう1度審議を、」

「駄目ですサンドラ様!ゲーム中断前に病原菌を潜伏させていたとしても、その説明責任を主催者側が負う事はありません。また彼らに有利な条件を押し付けられるだけです……!」

 

悔しそうに黙るサンドラ。

その姿を涼やかな微笑で見つめながら、ペストは俺達に問う。

 

「此処にいる人達が、参加者の主力と考えていいのかしら?」

「……」

「マスター。それで正しいと思うぜ」

 

黙りこむ俺達に代わりヴェーザーが答える。

 

「なら提案しやすいわ。――ねえ皆さん。此処にいる楠木大輔以外のメンバーと白夜叉。それらが“グリムグリモワール・ハーメルン”の傘下に降るなら、他のコミュニティは見逃してあげるわよ?」

「なっ、」

 

俺以外!?

 

「私、貴方達の事が気に入ったわ。サンドラは可愛いし。ジンは頭いいし」

「私が捕まえた紅いドレスの子もいい感じですよマスター♪」

「ならその子も加えて、ゲームは手打ち。参加者全員の命と引き換えなら安いものでしょ?」

 

微笑を浮かべ、愛らしく小首を傾げるペスト。

しかしそれは、従わなければ皆殺し(・・・・・・・・・)にすると言っている。

ならば、

 

「俺以外、という理由を聞きたいんだけど」

 

十六夜とジンは、状況を打破するために考え込んでいる。

だから、俺はいつものように自分に時間稼ぎ(できること)をするだけだ。

 

「魔王様からしたら俺は弱すぎていらないってことなのか?」

「あら?何も聞いてないようね、楠木大輔。そうね、私が教えられるのは、貴方にはあの人との約束で此方からは手を出せないってことだけかしら。貴方から挑んで来る分にはその限りではないけれど」

「なら、その約束とやらを反故にする。それで、再開を早くしろ」

「確かに当事者でもある貴方が言うのなら、約束を反故にすることはできる」

「なら、」

「でも、それをするとそこの愛マニアが黙ってないでしょ?」

「当たり前です。約束を反故にするなら、私は大輔さん達に味方します!」

「え?」

「ほらね。……でも、ここでフロン達と縁を切るのもこれからのことを考えたらアリね。……決めたわ。約束は正式に反故にするわ」

 

妙な話の流れにはなったが、意図せずして戦力?が増えた……のか?

当のペストはこれ以上話すことはないと、俺から目を逸らしジンを観察している。

それに気付き、考えが纏まったジンは話を切り出す。

 

「あの、よろしいですか?」

 

ジンの言葉に全員が集中する。

ここまでの会話でジンに俺達は期待し、ペスト達は警戒する。

 

「貴方達“グリムグリモワール・ハーメルン”はもしや、新興のコミュニティなのでしょうか?」

「答える義務はないわ」

「なるほど、新興のコミュニティ。優秀な人材に貪欲なのはその為か」

 

十六夜がすぐさま畳み掛ける。

ペストは黙り込み、

 

「おいおい、このタイミングの沈黙は是ととるぜ?」

「……だからなに?私達が譲る理由は無いわ」

「いいえあります。だって貴女達は、僕らを無傷で手に入れたいと思っているはずですから。もしも1ヵ月も放置されたら、きっと僕達死んじゃいます」

 

ジンは捲し立てる。

 

「そう。死んでしまえば手に入らない(・・・・・・・・・・・・・)。だから貴女はこのタイミングで交渉を仕掛けた」

 

ジンは絶対の自信を持って言い切った。

だが、それでもペストは言い返す。

 

「もう1度言うけど。だからなに(・・・・・)?私達には再開の日取りを自由にする権利がある。1ヵ月でなくとも……20日。20日後にすれば、病人の人材を、」

「では発症したものを殺す」

 

ギョッと全員が全員がマンドラを見る。

 

「例外はない。縦令サンドラだろうと“箱庭の貴族”だろうと……この私であろうと殺す。フロアマスターである“サラマンドラ”の同士に、魔王へ投降する脆弱なものはおらん」

 

俺達は絶句する。

それがブラフだとしても過激すぎると。

 

「黒ウサギ。ルールの改変はまだ可能か?」

 

だが、やはり十六夜だけは違った。

 

「へ?……あ、YES!」

「交渉しようぜ、“黒死斑の魔王”。俺達はルールに“自決・同士討ちを禁ずる”と付け加える。だから再開を3日後にしろ」

「却下。2週間よ」

 

2週間は長すぎる。

どんどん交渉して短くしなければ。

 

「今のゲームだと、黒ウサギの扱いはどうなってるんだ?」

「黒ウサギは大祭の参加者ではありましたが、審判の最中だったので15日間はゲームに参加できない事になっています。……主催者側の許可があれば別ですが」

「よし、それだ!魔王様、黒ウサギは参加者じゃないからゲームで手には入らない。けど、黒ウサギを参加者にすれば手に入る。どうだ?」

「……10日」

 

10日じゃ、まだ長い。

何か他に交渉出来るモノは……。

 

「ゲームに……期限を付けます」

「なんですって?」

「再開は1週間後。ゲーム終了は……その24時間後(・・・・・・・・)。そして、ゲームの終了とともに主催者の勝利とします(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

ジンの最後の交渉が言い渡された。

 

「……本気?主催者側の総取りを覚悟するというの?」

「はい。1週間は死者が現れないギリギリのラインです。そして、それ以上は精神的にも体力的にも僕らは耐えられない。だから全コミュニティは、無条件降伏を呑みます」

「――……」

 

ペストは口に手を当てて不機嫌そうな顔で思案している。

悔しいが俺には交渉に使えるようなモノは何も持ってない。

ここはリーダーに任せるしかない。

 

「ねえジン。もしも1週間生き残れたとして……貴方は、魔王(わたし)に勝てるつもり?」

「勝てます」

 

ジンはさも当然のように断言する。

まったく頼もしいリーダーになったな。

 

「…………そう。良く分かったわ」

 

ペストは不機嫌そうな顔を一転させて、笑った。

 

「宣言するわ。貴方は必ず――私の玩具にすると」

 

そう言い残して“黒死斑の魔王”は消え、1枚の“契約書類”だけが残った。

 

 

 

 




当初の予定と違い仲間?にしてしまいました。


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第16話 1つ覚悟を決めるそうですよ?

補足……楠木大輔は漆黒の闇の力で守るという観点から、特に死に至るような病気になりません。


『ギフトゲーム名 “The PIED PIPPER of HAMELIN”

 

・プレイヤー一覧

・現時点で3999999外門・4000000外門・境界壁の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ(“箱庭の貴族”を含む)。

 

・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター

・太陽の運行者・星霊 白夜叉(現在非参戦の為、中断時の接触禁止)。

 

・プレイヤー側・禁止事項

・自決及び同士討ちによる討ち死にを禁ず。

・休止期間中にゲームテリトリー(舞台区画)からの脱出を禁ず。

・休止期間の自由行動範囲は、大祭本陣営より500メートル四方に限る。

 

・ホストマスター側 勝利条件

・全プレイヤーの屈服・及び殺害。

・8日後の時間制限を迎えると無条件勝利。

 

・プレイヤー側 勝利条件

1.ゲームマスターを打倒。

2.偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

 

・休止期間

・1週間を、相互不可侵の時間として設ける。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。 “グリムグリモワール・ハーメルン”印』

 

大祭運営本陣営、客室。

俺はベットで寝ている少女を見ながら、1人今後の事を考える。

そして、俺を呼んだという魔王の関係者であるフロンは俺にギフトと霊格の一部を預けたことで無害認定され、感染者や怪我人の治療にあたっている。

ちなみに、俺を呼んだ魔王に関しての情報はこのゲームをクリアしたら教えるということになった。

 

「……ん。大輔?」

「やっと起きたか、耀」

「あれ、私は……なんで寝てたの?」

「ラッテン、白装束の女の魔笛で気を失ってこの客室に運び込まれたんだ」

「……そういえば、そんな気がする。あれからどうなったの?ギフトゲームは?魔王は?」

「今は中断中だ。あれから2日経っている」

「2日も!?……ごめん。みんなの足を引っ張ってばかりで。今度こそ“ノーネーム”の為に役に立とうと思ってたのに……」

「今度こそ?今までだって、」

「違う。私は何もしてない。ガルドの時も大輔と飛鳥の2人が頑張ってたのに私は何も出来なかった。“ペルセウス”の時もそうだった。だから、今回の魔王は私がと思ったのに……悔しい」

 

耀は布団を握りしめ、俯く。

俺から顔を逸らす瞬間、目に涙が浮かんでいたのが見えた。

こんな状態じゃ飛鳥達の事も言えない。

 

「まだゲームは終わってないんだし、これから挽回すればいいだけだろ?落ち込んだって仕方ないぞ」

 

俺は耀がそんな風に思っていたなんて知らなかった。

俺からしたら、十六夜・飛鳥・耀のそれはただの贅沢な悩みだとさえ思う。

だが、俺も含めた周囲の期待と、思うように活躍出来ない自分にギャップを感じているのかもしれない。

それは同じ立場の者にしか分からない感情なのかもしれない。

もしかしたら、飛鳥も……。

 

「とりあえず、今はゲームの再開までにしっかりと体調を調えよう。俺もリベンジしたいし協力するぜ」

「本当にありがとう。なんか大輔には世話になってばっかりで……。大輔は兄弟とかいたの?」

「いや、いない。急にどうしたんだ?」

「兄弟とかいたらこんな感じなのかなって。十六夜を怒ってる時とか、ジンを励ます時とか少しお母さんも入ってるけど、お兄ちゃんみたいだしね」

「おいおい勘弁してくれよ。あんな弟もいらないし子供も欲しくないぜ。強いて言うなら、姉を甲斐甲斐しく世話する弟がいいな、俺は」

「弟とか似合わない」

「うん?そうか?」

 

というか、ジンはともかくアイツらの世話するくらいなら、黒ウサギを世話する方が何100倍もマシなんだが。

 

「2日ぶりにしゃべったからかな。少し体が重い。ごめん、大輔。私少し寝るから、次に起きたと――」

 

ベットから上半身だけを起こしていた耀は急に後ろに倒れた。

 

「だ、大丈夫か?」

「う、うん。だいじょ……ばないかも」

 

顔色が悪い。

それに呼吸が荒い。

 

「ま、まさか……」

 

頭の中に最悪の展開が駆け巡る。

 

「待ってろ!今すぐ黒ウサギを呼んで来るから!」

 

黒ウサギの治療中、部屋の外で待つ。

部屋から出てきた黒ウサギはウサ耳を伏せる。

 

「……やっぱりか」

「はい。感染しています」

 

クソッ。

飛鳥に続いて耀までもが俺の目の前で。

 

「黒ウサギ、俺が耀を看病するから、レティシアは黒ウサギに任せる」

 

重症を負ったレティシアはまだ目覚めていない。

 

「ですが、耀さんは女の子ですし、黒ウサギが耀さんも看病した方が、その、よろしいと思うのですが」

「違うな黒ウサギ。少なくとも俺は感染しないんだから俺の方が適任だ。まあ、俺が感染したところで戦力の低下には繋がらないし」

 

黒ウサギが万が一感染しようものなら、このギフトゲームに勝つ確率は大幅に低くなる。

あの十六夜ですら認める黒ウサギの力はかなりのものだからな。

 

「それと何か言い淀んだが、別にやましいことなんてしないからな。体を拭いたりとかは他の奴に、フロンあたりに頼むから」

「……分かりました。それでは耀さんのことはよろしくお願いします」

 

こうして俺は耀の看病をすることに。

それからは大変だった。

激しく呼吸が乱れたり、凄い汗をかいたりと症状が出始めた。

耀が言うには元々体が弱いらしい。

だから、俺は耀の部屋に泊まり込み一段落つくまで看病を続けた。

 

「いったん落ち着いたし、誰かに頼むか」

 

コンコン。

 

部屋をノックする音。

俺はノックの主を招き入れた。

 

「大輔、耀は大丈夫か?」

「レティシア!?意識が戻ったのか!?っていうか、もう動いて大丈夫なのか?」

「皆に心配をかけてすまない。それに、これでも純血の吸血鬼だ。もう動く分には問題ない」

 

俺は耀の部屋に籠っていたので、外がどうなっているのか詳しく聞いた。

 

「外は酷い有り様だ。黒死病の感染が止まらず、どんどん増えている。それに従ってフロアマスターであるサンドラの求心力も弱まって、批判が出始めている」

 

批判の内容はまんまと魔王の侵入を許した上に、黒死病による感染者が増えている事に対するものらしい。

確かにこれが俺達の世界の話なら、こんな状況にしてしまった時の政府は解散せざるを得ないだろう。

 

「レティシア、耀の事を頼んでいいか?俺は書庫にいる十六夜に会ってくる」

「それは構わないが、……なるべく人と会わないようにな主殿」

「ん?ああ分かった」

 

黒死病の蔓延と魔王のギフトゲームということで、みんな気が立っているってことか。

暫く歩いた後、どうやら道を間違ったみたいで書庫が見つからない。

仕方ないが誰かに聞くしかないな。

 

「あの、すみません。書庫への道を、」

『お、お前は!?』

『何しに来やがった!』

『さっさとここから出ていけ!』

「俺はただ道を聞きたいだけなんですけど」

 

その辺にいた人間や獣人が俺を何故か睨んでいる。

 

『お前みたいな魔王の手先はクタバレ!』

『そうだそうだこの裏切り者!』

『ルールさえなければ殺してやるのに!』

 

魔王の手先!?裏切り者!?

確かに少し心当たりはあるが、その事を知っている人はこなり少ないはず。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。人違いじゃないのか?」

『とぼけんじゃねえ!あんときのゲームで言ってたじゃねえか!』

「ゲーム?」

『あの黒い力が何よりの証拠だ!』

「は!?いったいなんの事を言っているんだ?」

『しらばっくれてもムダだ!どうせあんとき一緒にいた小娘も仲間なんだろ!』

『なんだあの小娘は死んじまったのか?』

『ざまあみろ!』

『死んで当然なんだよ!』

『どうせならオマエもあんときに一緒に燃やされれば良かったのによ!』

 

数10人からの罵詈雑言。

俺は思い出した。

確か、ジャックが俺の事を「闇に魅入られし少年」と評した。

それが、今の混乱と不満と不安で曲解されて広まったってわけか。

ふざけんじゃねえ!!

十六夜達は魔王を倒すために努力してるんだ!

飛鳥はお前らを助けるために捕まったんだ!

耀は一生懸命に黒死病と戦ってるんだ!

それを馬鹿にしやがって!!

大事な仲間を馬鹿にしやがって!!

ヒーローの背負う宿命なんてクソ喰らえ!!

 

『出ていけ!』

『仲間の命を返せ!』

『絶対に許さねえ!』

 

漆黒の闇に守られている、怪我もせず血も出ない身体に無数の石がぶつけられる。

より一層、怨嗟の声が上がる。

こんな奴等のために戦う十六夜が、黒ウサギが、ジンが不憫でならない。

だから、俺は自分を捨てる。

仲間が祝福されるために。

悪いな十六夜、みんな。

今が俺にしか出来ない事をする時みたいだ。

俺は漆黒の翼を最大までに展開し、飛翔し見下す。

 

「ゴミ共が今更何を言う!!お前らがいくら喚こうと魔王の手によって滅びる運命は変わらん!!」

 

俺は大仰に大袈裟に高らかに叫んだ。

 

「お前ら弱者は生きている価値すらない!!」

『言わせておけばこの野郎!』

『ぶっ殺してやる!』

『仲間の仇!』

「殺れるものなら殺ってみろ!!この俺、“大悪党”楠木大輔に傷の1つでも負わせてみろ!!フハハハ!!」

 

俺の嘲笑に怒り狂い投げられる物なら何でも投げている。

俺はそれを空中で躱し続ける。

その時、

 

「みなさん!落ちついてください!」

『サンドラ様!』

『フロアマスター様!』

『アイツに死の制裁を!!』

「みなさんは巻き込まれないように遠くへ避難してください!」

 

民衆は全てサンドラに押し付けて逃げる。

誰1人戦おうとしない。

 

「それでどうする?フロアマスター?」

「ジンの同士である貴方が、何故このようなことを!」

「ジンの為でもある。聞いた話だと民衆の統制に苦労してるみたいだな」

「……はい。私が未熟なばかりに、皆には迷惑をかけています。だからこそより一層の努力を」

「たぶんそれじゃ駄目だ。もう努力どうこうじゃ間に合わない」

 

1度失った求心力はそう簡単には取り戻せない。

真っ当な方法ではの話だがな。

 

「だから、俺が悪役を演じて批判の矛先を全て俺に向けさせる。とんだ茶番たけど、そうすればゲーム再開までに間に合うぜ?」

「しかし、それは……」

「迷うなサンドラ!フロアマスターならどんな手を使ってでも魔王を倒す!そうじゃないのか!!」

「……」

「覚悟が出来たら俺を倒して捕まえろ!それで魔王に勝てるんだ!」

 

魔王に勝ちさえすればみんなも救えるし、俺も救われるのだから。

 

「さあ来い!フロアマスター!!」

「――なら、代わりに俺がぶっ飛ばしてやるぜ!」

「十六夜!?」

 

 

 



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第17話 怒り怒られるそうですよ?

少し小説情報を編集しました。


「アイツ、思いっきり殴りやが……まあ手加減はしてくれたんだろうけど」

 

俺は十六夜に1キロ程ぶっ飛ばされ、いくつもの壁に激突しやっと止まったところだ。

とはいえ、漆黒を展開していたので痛みなどはあまり無いが。

 

「いつから見てたんだ、十六夜?」

 

既に俺の元へ追い付いた十六夜。

だが、俺の質問には答えない。

暫く沈黙が続いた。

その間にサンドラも追い付いた。

 

「今回の件はさっきので勘弁してやる。だから、次にこんなフザケたことしやがったら、お前を“ノーネーム”から追い出す」

「十六夜にしては寛大だな。俺としてはもっと色々と言われると思ったんだがな」

「まあ、今回の件は未だに謎を解けていないこと、それに伴うこの現状を放置していた俺にも責任がある」

「相変わらずの上から目線だな」

 

十六夜は何でも出来る。

故に、出来たはずのことが出来なかった時、自分の責任にする。

それは責任感が強いと言えるかもしれないが、裏を返せば自分以外に期待をしていないということだ。

このことは俺達全員が心の奥底で感じている。

だが、決して口には出さない。

俺達の弱さが十六夜をそうさせているのだから。

 

「だがこうなった以上、最大までに利用しないとな」

「え?」

 

十六夜の瞳が鋭く光る。

 

「そうだな。魔王を率いれた大悪党様には大罪人。となると民衆の批判を1人に向けさせるには市中引き回しの上、目立つところに晒して、鞭打ち1000回ってところか?」

「えっ、ちょ、ちょっと十六夜さん!?」

「当然、こんくらいの覚悟はあったんだろう?」

「あ、いや、それは……」

 

そこまでの覚悟あるわけないだろ、と言いたい。

実際にそんなことになったら、痛みはどうにか出来るが、どう考えても精神が死ぬ。

普通ならそこまではしないと思うのだが、十六夜ならやりかねない。

 

「それは同士に対してすることではないと思うのですが」

 

サンドラがフォローに。

頑張ってくれ。

 

「フロアマスター様は他所のコミュニティに意見するのか?」

「これはフロアマスターとしてではなく、ジンの友達としての意見です。コミュニティの為に、皆の為にした自己犠牲に対してそこまでの仕打ちは必要ないと思います」

 

よく言ったサンドラ!

 

「ご立派な意見だな。じゃあお前は、また今回みたいな事が起きたら毎回誰かを人身御供にするってわけだな?」

「そんなことはしません!もし、次に同じような事があっても別の方法を、」

「いや無理だな。1度この方法で乗り切ったら、次も絶対に同じことをする。する方もさせる方も仲間だけは理解しているからと、逃げ道を作って何度も何度もする」

「そ、それは……」

「言っとくが、自己犠牲を否定してるんじゃないぜ。俺は自己犠牲が慢性かするのが駄目だって言ってるんだ。だから、次に同じような事をさせないために見せしめも兼ねて厳しくすべきだって、言ってるだけだ」

「……」

 

おーい、サンドラさん!?

 

「まあ、これは俺の意見だ。実際の当事者はお前だ。お前がどうするか決めろ」

 

十六夜はぶっきらぼうにそう告げて、サンドラから顔を背けた。

サンドラは何度か俺と十六夜を見て、

 

「今回の件で楠木さんには悪役になってもらいます。そのため、非常に心苦しいのですが楠木さんには独房に入って頂きたいのですが……どうでしょうか?」

「俺は別にそれで構わない。そのくらいは覚悟していたからな」

 

十六夜の案に比べたら何100倍もマシだ。

俺とサンドラはその十六夜を見る。

 

「俺の仲間の迷惑極まりない行動に対して寛大な処置に感謝するぜ、フロアマスター」

 

お前が言うか。

 

「楠木。御チビ達には俺から言っといてやるが、黒ウサギとレティシアの説教には覚悟しとくんだな。お前がどれだけ迷惑をかけたか身を持って知りな。ヤハハ!」

 

十六夜は笑い飛ばした。

アイツらの説教は嫌だな。

仲間を本当に心配しての説教は心にガンガン響くからな。

 

十六夜のあの意見は俺に釘を刺すためだろう。

今後、二度とこんなことはするなと。

やっぱりツンデレだな。デレないが。

いや、十六夜がデレを見せる時は尋常じゃないくらいヤバい時だけだろうな。

 

俺は独房に連行された。

 

「本当に申し訳ございません」

 

連行する間、ずっと平謝りしっぱなしのサンドラ。

俺はサンドラにデコピンをした。

 

「っ!?」

 

「別に気にするな。魔王に勝つ為にやったことだし。それより、十六夜の事は変な誤解をしないで欲しい。アイツはアイツなりに俺の事を考えての発言だからな。まあ、過激過ぎて怖かったけど」

「楠木さんはお優しいのですね……。私なんて頑張ると決めたばかりなのに、このようなことになって……」

「過ぎたことを気にしても仕方ないだろ?」

「…………」

 

十六夜に怒られたばっかりで、かなり気が引けるんだが……仕方ない。

さっきの延長ってことで勘弁してくれよ。

 

「よし分かった。そんなに責任を感じたいなら好きなだけ俺が責めてやる。……現状を見れば一目瞭然だ。お前は無能で馬鹿で間抜けで役立たずだ!お前はフロアマスターになって調子に乗ったんだ!そんな力も無いくせに血筋だけで選ばれただけなのにな!挙げ句の果てに、魔王との交渉の時は馬鹿なのにでしゃばりやがる!ジンが止めなければどんな条件を押しつけられたことか!フロアマスターになったからって自分が有能になったわけじゃないんだ!お前はガキで弱虫で泣き虫な虫けらのまんまなんだぜ!」

 

本格的に泣き始めたサンドラ。

よくもまあ、俺もこれだけ心にもないことが口から出たな。

心が……心がもの凄っく痛い。ズキンズキンする。

それでも心を鬼にして言うしかない。

 

「泣いてる暇があったら、俺のことを晒すなり辱めたりして悪役に仕立て上げろ!そして、皆を纏め上げて必ず魔王に勝て!!」

「ぐすん、ぐすん……」

「返事は!」

「……は、はい」

「返事が小さい!!」

「はい……ぐす。あ、あのひっく、く、楠木さん……」

「俺のことは大輔でいい。あんまり苗字は好きじゃないんでな」

「は、はい。大輔さんの、えっぐ、犠牲をひっく、無駄にしないためにぐす、頑張ります」

「分かったらさっさと行け!!」

 

サンドラは涙を思いっきり拭い、

 

「はい!」

 

駆けて行った。

そして、俺は壁に何度も何度も頭を打ち付けた。

 

「…………ああ、死にたい」

 

どんな事情があったにしても、女の子を泣かせるなんて恥ずかしくて、情けなくて、悔しくて、最低だ。

そんな自己嫌悪に陥っていたら、

 

「楠木大輔!!!サンドラに何をした!!!」

 

怒りに満ち満ちた絶叫が建物内で木霊した。

激高しているマンドラが数十人を引き連れて独房に押し寄せた。

全員が凄まじい殺気を放っていた。

あれ、けっこうヤバイかもしれない。

 

「兄様、これは違うんです!」

「ええい!サンドラは黙っていろ!今ここでこの“ノーネーム”を血祭りに上げてやる!!」

 

怒りの赴くまま、抜刀するマンドラ。

すると、

 

「いい加減にしてください!!」

「サンドラ!?」

「今すぐに此処から出ていかなければ全員拘束します!!!」

「しかし、サンド――」

「聞こえませんでしたか?今すぐにと言ったのですよ?マンドラさん(・・・・・・)

 

サンドラの低い声が耳につく。

お陰で拷問も受けずにすみそうだが、それよりもマンドラを始め全員が呆然唖然とした。

そんな顔も、声も、態度も出来るとは。

馬鹿みたいにポカンと口を開けているマンドラを部下達は半ば引きずる感じで出ていった。

 

「ごめんなさい。兄様が変な誤解したみたいで、本当にごめんなさい」

「別にそんなに謝んなくていいぞ。まだ、何もされてないし」

 

まだ、だけど。

 

「そんなことより、」

 

ドンガラガッシャーン!

キャー!!

 

「だ、大輔さん?大輔さん!」

 

見覚えのあるウサギがドタバタあたふたして跳んできた。

 

「大輔さんどういうことですか?ジン坊っちゃんに聞いたレティシア様に聞かされた耀さんに教えられた十六夜さんから聞きましたよ。年端もいかない女の子に手を出して捕まったって。嘘ですよね?嘘と言ってください!そのような劣情が溜まっていたことに気付けずにすみませんでした。それに、他所様のコミュニティに手を出すくらないなら黒ウサギに言ってくれれば。これでは飛鳥さんや耀さんにも顔向け出来ません。大輔さんが悩んでいたことも露知らず、ちょっと挑発的な格好していた黒ウサギにも責任があります。だから、こうなってしまった以上、私も一緒に謝り倒しますのでどうか早まったことはしないでください。コミュニティに残った子供達も――」

「おい、黒ウサギ!何を口走っているんだ!」

「大輔さんと黒ウサギは、そ、その……大人の関係だったのですね」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。凄い勘違いをしているぞ、サンドラ。ほら、黒ウサギも何か言ってくれ!」

「――大輔さんは十六夜さん達の問題行動をいつも怒ってくれていました。黒ウサギも気づかない内に大輔さんに甘えていたみたいです。その所為で大輔さんのストレスが知らず知らずの内に溜まってこのようなことに。天真爛漫にして温厚篤実、献身の象徴とまで謳われる黒ウサギならその程度のストレスなら問題はありませんが。大輔さんは仲間思いで優しくて、たまに黒ウサギをやらしい目でみたりするビビりでチキン野郎でございますので、いくらヘタレでもストレスに負けてそのようなことをするかもしれないという懸念を持つべきでした。あの時も――」

 

俺は初めて思った。

駄ウサギ許すまじ!

 

ゴツン!

 

「痛い!?大輔さん、いきなり殴るなんて酷いでは――」

 

ゴツン!

 

「2度も!?……大輔、さん?お顔が怖いですよ?」

「駄ウサギ!!黙って正座!!」

「は、はいでございます」

 

黒ウサギを説教した。

本来、この件で説教されるのは俺のはずはんだがと、考えながら今までの鬱憤を晴らすように説教した。

それと同時に事情を説明した。

分かったことは、

 

「十六夜……。覚えてろよ」

 

アイツが適当なことを黒ウサギに吹き込んだばっかりに、あまり知りたくないことも知るはめになった。

 

「本当に本当に申し訳ございませんでした」

「もう謝んなくていいから。疲れたし」

「大輔さんは何を仰っているのでございますか?」

「は?」

「大輔さん♪静かに正座しましょうね♪」

「……ああやっぱり」

 

ここからは黒ウサギのターンだった。

十六夜に怒られた件をよりクドく、より感情的に説教された。

 

「それと先程話したことは忘れてください」

「黒ウサギが代わりに、体を――」

「あー、あー、聞こえませんよ」

「ガキかよ」

「あの御2人は本当に恋人とかではないのですよね?」

「そうだけど。なあ黒ウサギ?」

「ここここここ恋人だなんて……」

 

おい、ウサ耳まで赤くするなよ。

こっちが恥ずかしいだろ。

 

「……[まだチャンスはある]」

 

……。

サンドラ、俺はどこぞの難聴野郎じゃないんだぞ。

普通に聞こえてるのだが。

 

「話は終わったか?とうしろう共?」

「ん?十六夜、いつからいたんだ?」

「つい、さっきだ。本当はもっと速く着くはずだったんだが、そこの駄ウサギが速すぎて見失ってな。で、どうせ追いつけないならとコイツを探してたんだが、少し手間取った」

 

薄々思っていたが、黒ウサギの方が速いのか。

あの十六夜に1つでも勝てるものがあるなんて“箱庭の貴族”って凄いんだな。

まあ、そのスピードでいざ勝負をしたところで黒ウサギが十六夜に勝てるとはこれっぽっちも思わないけど。

まあそれはそれとして。

 

「それはどういう状況なんだ?」

「それは今から話す」

 

なぜか十六夜は超ふくれっ面のフロンをわきに抱えていた。

 

「それでだ。サンドラ、駄ウサギを連れて場を外してくれ。今からコイツと大事な話をする」

 

 




感想などをお待ちしております。


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第18話 ゲームが再開されるそうですよ?

大変お待たせしました。
忙しくて時間がかかりました。
やや短いですがどうにか投稿できました。



「――もうひどいです、プンプン!」

 

超ふくれっっっ面で怒っているフロン。

十六夜に無理矢理連れてこられたことより、まるで物を運ぶように小脇に抱えられたことが『乙女心が傷ついた』と嫌だったらしい。

 

「んー……そのなんだ。それは、まあ悪かったとは思っている」

 

十六夜は十六夜で黒ウサギについていけなかったことに腹が立っておりその結果、フロンの扱いがかなり雑になったらしい。

 

「まあ私も大人なので、そのことは許してあげます」

「で、それはそれとして。こっち側についた以上、お前にも協力してもらうぞ」

「わかってます。ペストさんたちの好きにはさせません!」

 

フロンは協力する条件の1つに黒死病をばらまかないことを約束していたが、その条件を破られ、多くの人が苦しんでいるのは見捨てることができないとのこと。

そのため、中断以降は献身的に感染者や怪我人の治療などにあたっていることもあり、もうすっかり仲間と認識されている。

普通に良い奴だった。

 

「で、お前には当日――」

 

この後、十六夜とフロンと対魔王の攻略を話しあった。

 

 

――当日。

ゲームの再開と同時に激しい地鳴りが起きて、煌焔の都が全く違う別の街並みに変わった。

俺も含めて参加者達は出鼻をくじかれて動揺する。

 

「まさか、ハーメルンの魔道書の力……ならこの舞台は、ハーメルンの街!?」

「おいおいマジか!」

 

ジンの叫びに俺以外も反応する。

 

「うろたえるな!各人、振り分けられたステンドグラスの確保に急げ!」

 

動揺している参加者達をマンドラが一喝するが動揺は止まらない。

それに、街並みの変化のせいで、

 

「ジン!これじゃあ、ステンドグラスの場所が分からない。どうする?」

「あっているかどうかは分かりませんが、予測はついています」

「よし分かった」

 

俺は漆黒の闇を真上に直線状に展開した。

それにより、一時的に注目が俺とジンに集まる。

ちなみに、先日の俺の一件における疑惑はサンドラが表立って強引に否定したのでとりあえずは有耶無耶になっている。

 

「み、みなさん!教会を捜してください!ハーメルンの街を舞台にしたゲーム盤なら、縁のある場所にステンドグラスが隠されているはず。“偽りの伝承”か“真実の伝承”かは発見した後に指示を仰いでください!」

 

ジンの声が響き渡る。

けど、何人かしか動き始めていない。

 

「マンドラ!!」

「ッ!何をしている!教会だ!教会を捜せ!」

 

マンドラの号令でやっと動き出す。

それからしばらくして、ステンドグラスが見つかり始める。

ジンは素早く判断して指示をする。

けど、順調に攻略が進むこともなく、

 

「ジン、魔王一派のお出ましだ」

 

屋根の上にネズミを操る悪魔ラッテンが立っていた。

 

「飛鳥さんはどこにいるんだ!?」

 

ラッテンはジンの叫びに返事もせず、魔笛を奏で始める。

操られた何10匹もの火蜥蜴が襲ってきた。

 

「ラッテン、お前には1週間前苦汁をなめさせられた。けど、今の俺はあの時とは一味違うぜ!」

 

――昨日。

 

「――堕天使フロンが奉ります。彼我の国の魑魅魍魎、月光の百鬼夜行、氷血、絢爛、灼熱、絶花、兎兎、渇血、葬霊、毒、魔ッシュルー夢、牙竜、ドゴール、etc……願わくは、かの者に力を与え給え。あと、世界が愛で満たされますように――」

「……その適当な口上はなんなんだよ?」

「ただの趣味です。それよりも、これで大輔さんのあの力がかなりパワーアップするはずです、明日には」

「明日?その時間差はどういうことだ?」

「さあ?なんででしょう?」

 

と、小首を傾げて疑問符を頭に浮かべるフロン。

と、首を垂れて溜め息混じりに頭を抱える俺。

突っ込みどころが多すぎて何から言えばいいのか。

 

「まあまあ。わからないことはいくら考えてもわからないですよ」

「……はあ」

 

ああ、これはアレだな。

無駄に可愛いからちょっと目を背けていたが、こいつははアホだ。かなりのアホだ。

と、それはさておき――

 

「だ、駄目です大輔さん!参加者と戦っては、」

「……同士討ちは失格になる、か。ちゃんと分かってはいる」

「ふふふ♪でも殺さなかったらいいんじゃない?殺さないように手加減しながら、自分も殺されないようにすれば、ほら。万々歳って奴よ」

 

ラッテンは笑みを浮かべて見下している。

 

「ああ、だからその手でいくんだよ」

「はい?それ本気で言ってるの、坊や?」

「そ、そうですよ!それで大輔さんが失格になったら、もう……、」

 

ジンの言いたいことは分かる。

だからこそ、これ以上アイツらのペースに乗せられるわけにはいかない。

 

「マンドラ!お前ら“サラマンドラ”は人間ごときに小突かれても(・・・・・・)別に平気だよな?」

「当然だ!我ら“サラマンドラ”の同士にそんな軟弱者はおらん!」

「ってわけだ。教えてくれてありがとう。オ・バ・サ・ン」

 

俺は漆黒の闇の形状を変化(・・・・・)させて、ラッテンの魔笛で操られた火蜥蜴を片っ端から攻撃する。

もちろん、漆黒の闇の基本能力は絶対防御なので、攻撃といっても槍のように尖らせて小突いて隙を作り捕まえる。

いうならば、アタック&キャッチといったところか。

まあ、こうでもしないと急ごしらえでは火蜥蜴のスピードやパワーに対抗できないから、ただの苦肉の策なのだが。

それからしばらく――

 

「……うん。もう無理」

 

最初はパワーアップした漆黒を使う練習とか、ストレス発散もできて一石二鳥だと張り切っていた。

けど今は、

 

「きっつい」

 

全然集中力も体力も持たない。

漆黒の闇のコントロールが超疲れる。

細かい操作は途中で諦めて、大雑把な形状変化で適当に捕まえていたが、付け焼き刃ではこれ以上は無理だ。

なので、、いつものように俺を覆うように漆黒の闇を展開して打開策を考えることにした。

すると、

 

「見つけたぞ、ネズミ使い!」

 

黒い翼を広げ見下す、煌々と靡く金髪の超美少女、

 

「レティシア(大人モード)!」

「ネズミ使いの道化。飛鳥を返してもらうぞ!」

「フフフ。“箱庭の騎士”の力、見せてもらおうかしら?」

 

レティシアの影がどんどん大きくなり巨大な龍へと形を変える。

ラッテンも魔笛を奏でる。

 

「我が同士を傷つけた報い、今此処で、」

「レティシア、待て!お前、怪我がまだ治ってないだろ!」

「そのようなことは関係ない!私はその為に……今、立ち上がらず、いつ立ち上がるというのだ!」

 

レティシアは体に鞭打って立ち向かう。

本来ならば、自分の恩恵を、霊格を、失ってでも“ノーネーム”の、昔の仲間の元へ駆けつけたレティシアに俺達がとやかく言うのは筋違いというものだ。

だがそれでも、今の仲間である俺達には、

 

「レティシア、お前の覚悟は分かった。だから、死ぬことだけは俺が絶対に許さない。そこでだ。妙なことに今の俺達はお互いの弱点を補いあえるとは思わないか?」

「ふむ。確かに絶妙だな」

「ってなわけで攻撃〔防御〕は頼んだぞ!!」

 

俺達は同時に戦闘体制に入った。

レティシアは無数の影を、龍を模した数十もの全ての影を火蜥蜴に向かって繰り出す。

その影は次々と火蜥蜴の意識を刈り取っていく。

そして、その影をすり抜けて討ち漏らした数匹の火蜥蜴が無防備のレティシアに迫る。

 

「やらせない!」

 

漆黒の闇を展開し、レティシアを覆う。

もちろん、全ての攻撃を容易に防ぐ。

攻防連携の影と闇のコラボレーション。

 

「防御に専念すれば、たとえ魔王の攻撃でも防げると、お墨付きももらってる。さあ、どうする?」

「あらあら、中々良いコンビネーションね。……そうね。なら、もう蜥蜴には頼らないわ――」

 

すと、魔笛のリズムが変わり、曲調も妖しさを増し、ラッテンの霊格が膨れ上がった。

 

「現れなさい。シュトロム!」

「「「「「BRUUUUUUUUUM!!!」」」」」

 

全身に風穴が開いた陶器の巨人が無数に各地に現れた。

 

「あの時、遠くで見えていた奴か」

 

色んなところのステンドグラスの捜索隊から悲鳴が上がっている。

 

「さあ、ここからが正念場だ!」

 




ディスガイア勢の設定はそこそこいじって、箱庭の世界に無理矢理合わせたりしてます。



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