アイドルマスターシャイニーカラーズ 銀色の革命者 (ヒロ@美穂担当P)
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人物紹介など
マシン紹介


ここではそれぞれの人物が乗る車の紹介をします。
どこかで変更点が入った部分も入れています。


夢斗搭乗車種・・・三菱 ランサーエボリューションⅩ GSR(CZ4A)

ナンバープレート番号・・・宇都宮 304 に 41-11

カラー・・・クールメタリックシルバー

 

エンジン仕様

4B11+GTⅡ7460 KAI

ブースト1.6kgで最大500馬力→560馬力(NOS使用で+20馬力)

 

足回り

サスペンション・・・HKS

ブレーキ類・・・エンドレス

 

内装類

快適装備撤去

ロールケージ

BLITZ製追加メーター一式

スパルコ製フルバケットシート

 

外装類

チャージスピード製フロントバンパー+ダクト付きフロントスプリッター+カナード(カーボン製)

サイドスカート

リアバンパー

FRPボンネット(吸気ダクト付き)

エアロミラー

GTウイング

フルフラットアンダーフロア(アルミ製)

リアディフューザー(カーボン製)

 

タイヤメーカー

TOYO TIRES

ホイール

RAYS GLAMLIGHTS57CR-X

 

 


 

 

咲耶搭乗車種・・・三菱 ランサーエボリューションⅨ GSR(CT9A)

ナンバープレート番号・・・八王子 306 せ 63-08

カラー・・・ブラックマイカ

 

エンジン仕様

4G63(2.2L仕様)+ARMS M7963→TO4Z

ブースト1.4kgで最大460馬力→ブースト1.5kgで最大650馬力

 

足回り

サスペンション・・・カヤバ→オーリンズ

ブレーキ類・・・エンドレス

 

内装類

快適装備撤去

ロールケージ

BLITZ製追加メーター一式

RECARO製フルバケットシート

 

外装類

カナード付きフロントバンパー→オリジナルランデュース製フロントバンパー2ピース+フロントアンダーウイング(FRP)

C-WEST製サイドステップ

リアバンパー→オリジナルランデュース製リアアンダートレイ

FRPボンネット

カーボンエアロミラー

VARIS製オールカーボンGTウイング

(改装後)オリジナルランデュース製フロントオーバーフェンダー(+20mm、FRP)

 

タイヤメーカー

GOODYEAR

ホイール

RAYS VOLKRACING28N

 

 


 

 

美穂搭乗車種・・・マツダ サバンナRX-7GT-X(FC3S)

ナンバープレート番号・・・品川 302 る 78-34

カラー・・・クリスタルホワイト

 

エンジン仕様

13B-REW載せ替え(2ローター・ペリフェラルポート仕様)+TD07-25G(ハイフロー加工・ツイン)

ブースト2kgで最大500馬力

(NOS使用で+40馬力)

 

足回り

サスペンション・・・RE雨宮(特注)

ブレーキ類・・・プロジェクトμ

 

内装類

快適装備撤去

ロールケージ

追加メーター一式

メーカー不明スピードメーター(320kmフルスケール)・タコメーター(10000回転スケール)

スパルコ製フルバケットシート

 

外装類

自作固定LEDライト付きフロントバンパー

サイドスカート

リアバンパー

ボディカラーカーボンボンネット(吸気ダクト付き)

ガナドールミラー

FreeStyle製GTウイング

フルフラットアンダーフロア(アルミ製)

リアディフューザー(カーボン製)

 

タイヤメーカー

TOYO TIRES

ホイール

BBS FZ-MG

 

 


 

 

浩一搭乗車種・・・マツダ アンフィニRX-7type-R(FD3S)

ナンバープレート番号・・・群馬 302 ふ 67-54

カラー・・・コンペティションイエローマイカ→イノセントブルー

 

エンジン仕様

13B-REW+GTW3884R-62

ブースト1.2kgで最大450馬力(スクランブルブースト使用時570馬力)

 

足回り

サスペンション・・・アラゴスタ

ブレーキ類・・・ブレンボ

 

内装類

快適装備撤去

ロールケージ

Defi製追加メーター一式

BRIDE製フルバケットシート

A'PEXi製ブーストコントローラー

 

外装類

カナード付きフロントバンパー

KNIGHTSPORTS製サイドスカート

C-WEST製リアハーフバンパー

カーボンボンネット(吸気ダクト付き)

エアロミラー

GTウイング

 

タイヤメーカー

YOKOHAMA

ホイール

YOKOHAMA ADVANRacing RG

 

 


 

 

遥搭乗車種・・・スバル インプレッサ WRX STi(GDB-C)

ナンバープレート番号・・・品川 304 ね 63-27

カラー・・・WRブルーマイカ

 

エンジン仕様

EJ20+GT2835

ブースト1.4kgで最大440馬力

 

足回り

サスペンション・・・BLITZ

ブレーキ類・・・ブレンボ

 

内装類

快適装備撤去

ロールケージ

BLITZ製追加メーター一式

RECARO製フルバケットシート

 

外装類

ings製フロントバンパー

CHARGESPEED製サイドボトムライン

VARIS製カーボンヒートシールド

GANADOR製スーパーミラー

VARIS製オールカーボンGTウイング

 

タイヤメーカー

TOYO TIRES

ホイール

WORK EMOTION CR Kai

 

 


 

 

蓮搭乗車種・・・マツダ アンフィニRX-7type-R(FD3S)

ナンバープレート番号・・・山形 304 み 75-09

カラー・・・コンペティションイエローマイカ

 

エンジン仕様

13B-REW(クロスポート仕様)+T78 33D

ブースト1.2kgで最大600馬力(NOS使用で+40馬力)

 

足回り

サスペンション・・・オーリンズ

ブレーキ類・・・エンドレス

 

内装類

快適装備撤去

ロールケージ

追加メーター

プロドライブ製ステアリング+NOS噴射スイッチ

BRIDE製フルバケットシート

 

外装類

フロントバンパー

サイドスカート

RE雨宮製ADHOOD9

RE雨宮製ADMIRRORTYPEⅠ

VOLTEX製GTウイングTYPEⅡ

テールランプを後期型の物に変更

 

タイヤメーカー

TOYO TIRES

ホイール

RAYS GLAMLIGHTS57CR

 

 


 

 

美世搭乗車種・・・日産 スカイラインGT-R V:spec(BNR34)

ナンバープレート番号・・・石川 301 み 30-26

カラー・・・ライドオンレッド→ブレイクルージュ

 

エンジン仕様

RB26DETT(2.8L仕様)+T88-34D

ブースト1.4kgで最大580馬力→最大650馬力(NOS使用で+70馬力)

 

 

足回り

サスペンション・・・HKS

ブレーキ類・・・エンドレス

 

内装類

MFD以外の快適装備撤去

ロールケージ

グレッディ製追加メーター一式

MOMO製ステアリング+NOS噴射スイッチ

スパルコ製フルバケットシート

 

外装類

C-WEST製N1フロントバンパー→C-WEST製N1フロントバンパーⅡ

C-WEST製サイドステップⅡ

カーボンボンネット(ブラック塗装)

カーボンエアロミラー

GTウイング→メーカー不明GTウイング

(改装後)Abflug製リアバンパー

 

タイヤメーカー

TOYO TIRES

ホイール

RAYS GRAMLIGHTS57DR

 

 


 

 

基矢搭乗車種・・・日産 スカイラインGT-R(BNR34)

ナンバープレート番号・・・品川 305 と 77-77

カラー・・・ベイサイドブルー

 

エンジン仕様

RB26DETT(N1ブロック)+TD06SH-25G(ツイン)

ブースト2.8kgで最大1200馬力→800馬力

(NOS使用で+120馬力)

 

足回り

サスペンション・・・アラゴスタ

ブレーキ類・・・ブレンボ

 

内装類

快適装備撤去

ロールケージ(ワンオフ)

追加メーター

スパルコ製フルバケットシート

 

外装類

C-WEST製フロントバンパー

サイドスカート

Abflug製リアバンパー

FRPボンネット(ダクト付き)

エアロミラー

GTウイング

 

タイヤメーカー

BRIDGESTONE

ホイール

ENKEI Racing RPF1RS

 

 


 

 

基矢搭乗車種・・・スバル インプレッサ WRX STI(GDB-F)

ナンバープレート番号・・・品川 374 て

・4-96

カラー・・・WRブルーマイカ

 

エンジン仕様

EJ20(2.2L・コスワースコンプリートエンジン)+GT3578R

ブースト1.8kgで最大800馬力

 

足回り

サスペンション・・・クスコ

ブレーキ類・・・APRACING

 

内装類

快適装備撤去

ロールケージ(ワンオフ)

追加メーター

レカロ製フルバケットシート

 

外装類

フロントバンパー

サイドスカート

リアバンパー

FRPボンネット

ドアミラー

GTウイング

 

タイヤメーカー

BRIDGESTONE

ホイール

YOKOHAMA ADVANRacing TC-4



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人物紹介

ここでは登場人物達の紹介をしていきます。
一部のオリキャラは画像あり(カスタムキャストで制作。蓮は「疾走のR」から引き続き)。
誕生日を迎えて年齢が変わった場合は変わった時も書いてます(例外あり)


なお、デレステ風にウワサあり。
アイドルのウワサはあくまで「ここでの」設定なので信じないように。


星名夢斗

搭乗車種・・・三菱 ランサーエボリューションⅩ GSR(CZ4A)

誕生日・・・4月15日

年齢・・・18→19歳(STAGE4以降)

出身地・・・栃木県

趣味・・・太鼓の達人をやる

血液型・・・B型

オーラ色・・・青

 

主人公の1人。現在大学1年。大学に入るために地元栃木県から上京してきた。相葉夕美と津上浩一はクラスメイト。

自動車部所属。1年生にして部のエースドライバー。いろんな物を自作してはエボに装着している。

いわゆる「天才」でありあらゆる技術が完璧。そして車の限界が視覚的に見えている。しかし、天才であるが故に自分より劣る実力の相手の気持ちを理解出来ないという欠点を持つ。

また、相当な気分屋であり「るんっ」と来ないとやる気が出ない。

実は大の特撮好き。南条光や小宮果穂と一緒に特撮ごっこをする事も。

過去に妹がいた。しかし、交通事故で他界。その事故は「渋谷駅前交差点発砲事件」に関係。目の前で妹の死を見てしまったために深い心の傷を持つ。

 

 

・星名夢斗のウワサ

ある商店街のパン屋の常連らしい。

 

【挿絵表示】

 

 

白瀬咲耶

搭乗車種・・・三菱 ランサーエボリューションⅨ MR GSR(CT9A)

誕生日・・・6月27日

年齢・・・18→19歳

出身地・・・高知県

趣味・・・色々な所に出かける

血液型・・・A型

オーラ色・・・黄

 

主人公の1人。283プロに所属する新人アイドル。スカウトされるまではモデルをしていた。周りの人を喜ばせるという事を心から好む。ただ、行き過ぎたサービス精神のあまりファンへの壁ドンなど若干無理しすぎな所がある。1年前に敗れた悪魔のZへのリベンジを狙っている。ドラテクは非常に高レベル。

 

 

・白瀬咲耶のウワサ

背が高い男性といると落ち着くらしい。

 

 

小日向美穂

搭乗車種・・・マツダ サバンナRX-7GT-X(FC3S)

誕生日・・・12月16日

年齢・・・18歳

出身地・・・熊本県

趣味・・・ひなたぼっこ

血液型・・・O型

オーラ色・・・黄

 

主人公の1人。346プロに所属するアイドル。アイドルという夢を追いかけて地元熊本を出てきた少女。蓮とは幼馴染である。

車の運転については全くの素人だったが、蓮のレクチャーを受けて実力を開花させていく。

現在は新人アイドル達を支える先輩として活躍する。相変わらず照れ屋な所は健在。

 

 

・小日向美穂のウワサ

最近はさくらんぼが好きらしい。

 

 

瀬戸遥

搭乗車種・・・スバル インプレッサWRXSTi(GDB-C)

誕生日・・・7月2日

年齢・・・18→19歳(空を目指した少女と地上に煌めく六連星以降)

出身地・・・東京都

趣味・・・ショッピング

血液型・・・A型

オーラ色・・・紫

 

新しく設立された芸能事務所「283プロダクション」に入社した少女。大学に行かずに入社した。真面目な性格だがそれ故に融通が利かない。行動や言動の節々から年頃の女性らしい一面を覗かせる事もあるが、色恋沙汰には奥手。からかわれる事が多く、結華からは「日課」と言われる始末。

 

 

・瀬戸遥のウワサ

両親は結構なエラい人らしい。

 

【挿絵表示】

 

 

津上浩一

搭乗車種・・・マツダ アンフィニRX-7type-R(FD3S)

誕生日・・・7月15日

年齢・・・18→19歳

出身地・・・群馬県

趣味・・・ライブに行く

血液型・・・A型

オーラ色・・・緑

 

夢斗のクラスメイト。相葉夕美の大ファン。それ故に入学式で夕美と馴れ馴れしくしていた夢斗と喧嘩した。

怒られた後に、夢斗がトラブルを起こさないように監視をする意味で夢斗と友達になる。

愛車のFDは蓮に憧れて買った車。ドラテクは中の上。

トラブルを起こす夢斗の行動に最初は呆れていたがその度に大小問わず周りに変化が起きていたため、夢斗の行動を認めるようになった。

過去のトラウマを抱えていた夢斗を立ち直らせるきっかけも作った。

 

 

・津上浩一のウワサ

料理の腕は店を持てるレベルらしい。

 

【挿絵表示】

 

 

長谷川友也

搭乗車種・・・トヨタ スープラRZ(JZA80)

誕生日・・・12月23日

年齢・・・22歳

出身地・・・千葉県

趣味・・・レース観戦

血液型・・・O型

オーラ色・・・赤

 

夢斗達が所属する自動車部の部長。現在大学4年生。裏では首都高を攻める首都高ランナーとして活躍する。

おおらかな性格。夢斗の言い分を聞いて夢斗を勧誘するための方法を考えるなど、部員の考え方を尊重する。

お人好しだが、ソレが仇で帰ってくる事が多い苦労人。

 

 

・長谷川友也のウワサ

釜飯が好きらしい。

 

 

工藤聖真

搭乗車種・・・日産 スカイラインGT-R(BCNR33)

誕生日・・・6月5日

年齢・・・22歳

出身地・・・埼玉県

趣味・・・カラオケ

血液型・・・A型

オーラ色・・・緑

 

夢斗達が所属する自動車部の副部長。お人好しだが貧乏クジを引きやすい友也の手助けをする。下級生の夢斗達には割と平等な立場で接する。愛機R33は幼少期に近所の解体屋に転がってたモノを高校1年生の時から4年掛けて直して形にした。

その見た目や言動からチャラ男と言われる事が多く、実際そんな感じの性格だが自分が信じた事には誰よりも力を尽くすタイプ。

実家がクリーニング店で後を継ぐように言われてるが、本人はコレを嫌っている。本人は将来日産の工場で働きたいとの事。

 

 

・工藤聖真のウワサ

R33を買う前はS15が好きだったらしい。

 

 

片桐マサキ

搭乗車種・・・トヨタ スープラRZ(JZA80)

誕生日・・・7月29日

年齢・・・44歳

出身地・・・奈良県

趣味・・・ゴルフ

血液型・・・A型

オーラ色・・・赤

 

蓮が所属するチーム「D-LINE」の監督。

自身もかつてはスーパーGTの前身にあたる全日本GT選手権に参戦しており、カストロールTOM'Sスープラを駆り1997年にシリーズチャンピオンを獲得した過去を持つ。

前線を退いた後、監督としてスーパーGTにも関わった。

現在はスーパー耐久に活躍の場を移している。

長年の活躍から「ミスターGT」の異名を持つ。

 

 

・片桐マサキのウワサ

ゴルフの腕はプロ級らしい。

 

 

鈴木一義

搭乗車種・・・日産 スカイライン2000ターボインタークーラー RS-X(DR30)

誕生日・・・10月27日

年齢・・・46歳

出身地・・・神奈川県

趣味・・・ゴルフ

血液型・・・B型

オーラ色・・・なし

 

スーパーGTで活躍するモチュールの監督。美世をスカウトした。かつては自身もドライバーとして日本国内のみならず、海外でル・マン24時間レースに参戦したりするなど大活躍していた。数々のレースでチャンピオンの常連となった事からファンからは「日本一速い男」と呼ばれる。

歴代スカイラインに全て乗った事があり、愛車はR30後期型とR32を所有。

特にR30は当時のクラスでは最強と言われるほどのチューンを施している。

 

 

・鈴木一義のウワサ

R30のチューン費用は聞かないでほしいらしい。

 

 

小日向蓮

搭乗車種・・・マツダ アンフィニRX-7type-R(FD3S)

誕生日・・・4月27日

年齢・・・19→20歳(STAGE6以降)

出身地・・・山形県

趣味・・・車をいじる

血液型・・・B型

オーラ色・・・黄

 

前作「疾走のR」主人公の1人。

オールスターライブの日にアイドル達を身を呈して守った。

その後、ドライバーを募集していた「D-LINE」にスカウトされた。

今も非常に高いドラテクを持っており、技術は今も向上し続けている。

その技術は蓮のFDを見ただけで咲耶と夢斗が威圧感に飲まれた程。

現在はレーサーをやりながら事務所のアイドル達と過ごせるよう頑張っている。

 

 

・小日向蓮のウワサ

周りからかわいいと言われる事が多いらしい。

 

【挿絵表示】

 

 

原田美世

搭乗車種・・・日産 スカイラインGT-R V:spec(BNR34)

誕生日・・・11月14日

年齢・・・21歳

出身地・・・石川県

趣味・・・車、バイクいじり

血液型・・・O型

オーラ色・・・赤

 

前作「疾走のR」主人公の1人。

前プロデューサーの突然の死に茫然自失と化していたが、蓮と出会った事で大きく変わった。

オールスターライブの日に銃で殺されそうになった所を蓮に助けられた。

その後、夢だったレーサーになる誘いを受けて正式にデビュー。アイドルとレーサーを両立しながら過ごしている。

カート上がりのドラテクは高く、スーパーGTデビュー戦でベテラン選手を圧倒する速さを見せつけた。

 

 

・原田美世のウワサ

コロッケが好きらしい。

 

 

岩崎基矢

搭乗車種・・・日産 スカイラインGT-R(BNR34)、スバル インプレッサWRX STI(GDB-F)

誕生日・・・不明

年齢・・・不明

出身地・・・不明

趣味・・・車で走る

血液型・・・不明

オーラ色・・・青

 

プロドライバーとして活躍する男性。元はアマチュアドライバーとして様々な競技で活躍していたところスカウトされた。プロ入り後にスーパーGTに参戦。チームインパルに所属しカルソニックインパルGT-Rを駆り活躍する。スーパーGTでの競り合いから美世に興味を持つ。

その正体はかつて首都高で伝説になった『迅帝』その人。

しかしある出来事をきっかけに首都高を降りた。

愛機R34は自分の師でもある藤巻に預けていたが、藤巻の判断で美世に渡る事になり愛機R34を託す。

もう1台の愛車インプレッサはジムカーナ用に使用していたモノを首都高用に改修した。しかしプロ入り後インプレッサを使う機会がなくなりガレージに眠らせていた。

 

 

・岩崎基矢のウワサ

レーサーになる前は医者を目指してたらしい。

 

 

 



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プロローグ
STAGE0 天才とアイドル


初めましての方は初めまして。お久しぶり!の方はお久しぶりです。
連載は2作目、短編含むと3作目です。
前作「疾走のR」の続編です。新主人公が登場します。もちろん前作の人物達も登場します。前作を見てなくても楽しめるけど、最大限楽しむなら前作「疾走のR」も読もう!!


2011年12月25日。

765、876、346の3つのプロダクション合同ライブの日にそれは起きた。

渋谷駅前交差点(スクランブル交差点)を占拠した男がいた。占拠された交差点の中にはアイドルが乗るバスがあった。

「……何故ここまでする」

「お前が関わる全てが気に入らねえ」

「何の罪もない人を巻き込むのが僕への復讐の為にやる事か!?」

名もなきあるプロデューサー(少年)が男に向かって叫ぶ。

男は復讐のためだけにこれだけの事をしているのだ。一般人も巻き込もうとしている。

少年はこの場の全員を助けようと動く……。

 

 

 

 

 

 

 

この物語は後に「渋谷駅前交差点発砲事件」と呼ばれる事件が起こる一ヶ月前から始まる……。

 

 

 

2011年11月。

夜は一気に気温が下がり、冷え込む季節になった。

来月からは雪が降る。子供は雪だと無邪気に喜ぶ一方で大人は雪かきに追われるのもあり、大人にとっては嫌な季節だと思う冬。

そんな冬が目前に迫る栃木県。

 

 

 

落ち葉が積もり路面を覆う。

ここいろは坂では秋になると見られる風物詩。猛スピードで駆け抜ける車は365日見られるが。

かっとんで行くのは青い「トヨタ MR2」(SW20)。

ヘッドライトが照らす路面は落ち葉だらけ。落ち葉を踏んで足元を持っていかれそうな状況だ。

MR2のドライバーは苦戦していた。

自分は「いろは坂最速」である事を忘れそうになるくらい追い詰められていたのだから。

離れない後ろの車をバックミラーで確認するとますます焦りが現れる。

「くそっ。なんだアイツ……今まで見たことが無い!!」

ミスなくスイスイと差を縮めてくる後ろの車。

MR2のドライバーはこんな走り方をするドライバーを知らない。

地元の人間ではないと思った。後ろの車をこのいろは坂を走ってる時に見た事がない。

だが、その考えを否定するしかない。後ろの車は完璧にラインを攻めていた。ブレーキングポイントも完璧。この走りを地元以外の人間が出来るわけがない。

「何モンだよお前はぁっ!」

 

 

「そんなにブレーキ踏まなくてもイイだろ……。今のトコあと2秒は踏めるだろ……」」

前のMR2の光るテールランプを見ながら、彼は呟く。まだまだMR2の限界に達していない走りに彼は退屈さを感じた。

「……おいおい。そんな『遊び』がアンタの本気か……?」

レベルが低すぎる。彼の目から見ればただの遊びにしか見えない走り。本物とは言えない。

もちろんMR2のドライバーは本気で走っている。MR2を追う彼があまりにも「速すぎる」のだ。

「こんな走りで最速だったらここの『最速』の定義はもうナイだろ」

彼の目は死んだ魚のような目になっていた。こんなつまらないヤツをいろは坂最速と言うには物足りない。

 

 

だいぶ下ってきたMR2。もう余裕はなく、今にも破錠しそうな状態だった。

「落ち着こうって思ってもムリだ……!こんなヤツにケツをつつかれて落ち着けるわけがない!」

後ろの車のブローオフバルブが抜ける音がMR2のドライバーには「今抜いてやる」というカウントダウンのように思えた。気のせいのはずだが抜ける音が大きくなってる気もする。

「……っ!」

悪寒が走る。このままだと危ないーーー。MR2のドライバーは直感的に感じた。

次の瞬間、真横にそいつが並んでいた。

「もうアンタのケツ見んのはヤだよ……」

一気に加速していくその車。この先はキツい右のヘアピンだ。

彼はリズミカルにシフトダウン。ヒール&トゥをして3速から2速にギアを落とす。そしてサイドブレーキを引く。

MR2のヘッドライトが照らすその車のシルエット。

「ラン……エボ!!」

ライトの光を反射し銀色に輝くランエボ(エボⅩ)

別次元の立ち上がりでMR2を一瞬にして引き離す。

「なんだよ……。今までヤッてきたランエボとは違う!」

わずか2コーナーでエボⅩはバックミラーからMR2を消す。MR2のドライバーは視界に入らないエボⅩを必死に追いかける。

だが。MR2は落ち葉に足元を持っていかれる。

「うわあああああ!!」

幸運にも、クラッシュは避けられた。

MR2のドライバーは冷や汗で服がびっしょり。秋なのにこんなに汗をかくと明日にでも風邪をひいていそうだ。

 

しばらくするとエボⅩが戻ってきた。

MR2のドライバーはエボのドライバーがどんなやつか見てやろうと思った。

ウインドーが下がり、エボのドライバーが顔を出す。若い。18歳くらいか。

「大丈夫ー?」

「……なんともない」

「よかったねー。アンタ」

「お前……名前は?」

「俺?俺はーーーって電話……。ちょっと待って」

エボのドライバーが電話に出る。

「もしもーし。あ、俺だわ。うん。え?マジで?」

誰と電話してるかは知らないがコイツはなんて軽いやつなんだとMR2のドライバーは思った。

 

「わりー、待たせちゃって。んで、なんだっけ?」

「名前を聞きたい……!」

待たせたと言ってるが本当に待たせてた。かれこれ40分電話してた。

これ程までの長電話をするエボのドライバーも悪いが、それが終わるまで律儀に待っていたMR2のドライバーもどうなのか。待たされ続けてMR2のドライバーはイライラしていた。

「名前?俺、星名夢斗(ほしなゆうと)

「聞いたことないな……」

「あの技術はどこで手に入れた?」

すると夢斗という青年は言う。

「手に入れたって……。そんなのないし」

「は?ふざけてるのか」

「ふざけてなんかないし!むしろ俺はどうやったらあんな走りでいろは坂(ここ)最速って言われるのか知りたい!」

「てめえっ!」

「フツーに走ったらもっと踏めるトコでアンタは踏んでないじゃん!」

「お前の普通はどこだ!?」

「至って真面目だよ!」

夢斗は思った事を言っているだけだ。だが……。

「お前は俺達ができない事を『普通』って言ってるんだからな!?」

「普通じゃん!」

夢斗の言う「普通」は常人には理解できない物だった。

言い争った後、夢斗は言う。

「もーっ!そんな言うんなら俺より速くなってよ!」

黙り込むMR2のドライバー。「無理」と思った。

夢斗はエボを走らせ夜のいろは坂を下っていく。

 

星名夢斗はずば抜けた技術を持っていた。あらゆる事が完璧にできる。彼は「天才」と呼ばれていた。

だが、それ故に自分より劣る相手の気持ちがわからない。

いや、他人その物がわからないという事である。

彼自身とは違う行動や考え方をする他人は彼の目には摩訶不思議に映るのである。

 

ある時に自分自身も他人から見たら不可思議である唯一の存在だと気づき、他人への関心を強くした夢斗。

しかしそれは、彼は「誰の事も理解出来ず、そして誰からも自分を理解されない」という事である。

 

こうして自分の考え方と周りが合わないまま、いろは坂最速になってしまった夢斗。失意の夢斗は栃木を出る。

 

 

 

2012年。

やがて夢斗は目的を持たないままT大学の入試を受ける。ほぼ全問正解で入試問題をクリア。入試成績はトップだった。

入学式は4月。まだ時間がある。

大学の部活を見て回る。「自動車部」の文字を見て足がそちらに向く。だが、夢斗は気づく。

「なんで人いねーの?」

自動車部の部員達がいるが見学に来た人は1人もいないのだ。そこに部員と目が合う。

「おっ!君、ここ入らないか!?」

「いいっすね。何やるんすか?」

「まあ、競技への参加だな。例えばーーー」

長い話に付き合わされた。

 

 

 

「ーーーってわけだ!!どうだ!?」

「つまんなそう」

「おいーーー!!」

競技の事とかを語られたが夢斗は興味ナシ。帰ろうとする夢斗を部員達が引き止める。

「待って待って!まだ終わってない!!」

「俺はそんな事したくないんすよ」

「ぐぬぬ……。あ、でもこれはやりたいと思わないのか?」

「?」

「首都高を走るんだよ」

「……どーいう事すか?」

夢斗の目が輝く。

「……俺達は極秘裏で首都高を走るチームとして活動してんだ」

「もちろん非合法。コレがバレたら俺達はみんな退学だ」

「でも、首都高を走るのがたまらないんだよ。どうだ?」

「……キョーミあります」

「そう来なくちゃな!!」

 

 

4月、入学式。

夢斗は相変わらずだ。すると夢斗の隣に1人の少女が座る。

「こんにちは!」

「うっす。……あ、アンタはなんて言ったっけ」

アイドルってのは知ってる。名前が出ない。

「……相葉夕美だよ。君は?」

「星名夢斗」

「夢斗君か……。いい名前だよ」

「そうすか?地元では痛い言われましたけど」

「素敵な名前だよ!大切にしなきゃ!!」

「……そうすか」

アイドル相葉夕美が隣に座ってる。それだけで普通の男にとっては羨ましい事だ。しかも話しかけられてる。

だが、夕美が話してる男はなんてヤツだ。失礼にも程がある。そんな視線が周りから向けられるが、夢斗は気にせず夕美と話す。

「アンタ、いくつ?」

「もう少しで19歳になるの。15日が誕生日だから」

「マジ?俺もだわ」

「すごい偶然だね!」

誕生日が同じ日で盛り上がる2人。

「クラスは?」

「2組だわ」

「同じだ……!」

なんだこの偶然。そんなツッコミがこの空間に無言で放たれる。

「……さっきからなんスか?」

突然夢斗が呟く。その声はさっきまでの軽い口調から一気に鋭い物になっていた。

「気に入らないんだよなぁ……。お前みたいなのが相葉ちゃんと話してるのが!!」

1人の男が近づいてくる。

「……俺は別に話しかけたワケじゃないし。夕美が話しかけてきた」

サラッと呼び捨て。呼び捨てされた夕美は抗議するが夢斗は続ける。

「気に入らないならさ、そっちが夕美と話せばいいんじゃね?なんでそれをやってないアンタに俺は怒られないといけねーの?」

「自分が行動してないくせになんで俺に怒るの?」

「てめ……!お前は立場をわかってんのか!?」

「立場?別に俺と夕美はここでは同じじゃね?」

「『アイドル』と『一般人』のお前が馴れ馴れしくしてるのがダメだろ!」

「俺はさ、立場とかそーいうのはナイって考えるヤツなんで」

「この……!」

「もしさ……アンタが上級生だとしても俺はこんな態度なんで」

「お前の同級生だわ!!」

「うわウザい……」

「てめえ!!」

男が掴みかかってきた。夢斗は軽く体を動かす。

「ったく、なんなんだよ……」

掴みかかってきた男を逆に掴み返して、背負い投げ。

「がっ……」

「頼むからさ、関わんないでくれます?」

「俺はテキトーなんで。夕美といてもいなくても関わんないでくれ」

 

この後、2人揃って怒鳴られた。夢斗は反省の色ゼロ。

夢斗は自分は悪くないと思っていたのだ。

夕美といるのがそんなにダメなのか。話したいなら、話せばいいだろ。

そんな事を考えながら、説教タイムを過ごす。

 

 

「長い……。2時間も怒鳴るなよ……。先生(そっち)の喉痛くないの?」

「お前はよくそんな事言えるな……」

説教タイムが終わり、部屋から出てきた2人。夢斗はやっぱりこの態度。夢斗に掴みかかってきた男はげっそりしてる。

「そーいやアンタ、名前なに?」

「……津上浩一(つがみこういち)。お前は?」

「俺は星名夢斗」

「星名ね……。お前高校で友達いなかっただろ」

「ま、いないね」

「しょうがねえな。俺がお前の友達になるわ」

「結構です」

「この……。あのな星名、お前1人だと絶対トラブル起こしまくりの常習犯になるぞ」

「お前は、周りがわかってない。立場関係ないってお前言ったけど、それはアウトだぞ」

「夕美はここにいる以上、同じじゃね?」

「それでも最低限のラインは守れ。普通はあんな事出来んわ」

「えー。夕美はあんな話してくれたのに?」

「ちょっとは遠慮しろ……」

「どっちにしろ、お前がなんかしないように俺が見る。そうしないとお前が心配だ。例えお前がウザがっても、付きまとうぞ」

「ストーカー……」

「断じて違う」

「……ま、わかったよ。浩一」

「……まあ呼び捨てはいい」

こうして奇妙な友人関係になった夢斗と浩一。

 

2人は駐車場に行く。

「コレがお前の車か?星名」

「そ。コレしか俺にとって大切なものはない」

夢斗が銀色のエボⅩを指す。

「お前、中々すげえ車乗ってるんだな」

「全然。浩一は?」

「ふっふっふ。見て驚け」

「えー。どうなのよ」

「オイ」

浩一が向かった先は黄色いFD3Sがあった。

「コレが俺の相棒だ!」

「そうか」

「反応薄っ!」

「地元でよく見たからるんって来ないんだよ」

「るんってなんだ?つかお前……どこから来た?」

「栃木県宇都宮」

「ほー。アレか、峠走ってただろ」

「いろは坂最速だったんで」

「嘘だろ……。いや、マジか……」

夢斗の発言に妙な説得力があって考えを変える浩一。

「お前さ、相葉ちゃんとどんな関係?」

「え〜、話し相手」

「アイドルを話し相手かよ……。お前、やっぱ普通じゃない」

「よく言われる」

「褒めてないからな」

 

こうして入学式でいきなりトラブルを起こした夢斗だが、何だかんだでアイドル(相葉夕美)と知り合い、浩一(友達)が出来た。

 

 

 

 

同じ頃、別の大学。

かなりハイレベルな学力がないと入れない所だ。

そこに彼女はいた。

「自分が皆を喜ばせる事ができるように……」

背が高く、容姿端麗な彼女は周りの注目を集める。

「白瀬さん、ありがとう」

物を貸してた。こんな小さな事でも、周りが喜んでくれたらいい。

 

 

帰り道。モデルの仕事をやっていた彼女。どうしても何かが足りない。周りを喜ばす為にも何かが。

そんな彼女の想いが見えないカメラマン達によって撮影は進む。

「はい、OKだよ!」

「ありがとうございました」

撮影終了。不満が残る。そこに来た1人の女性。

「やあ、私に何か用かな?」

「え、はい……」

「私を見ていたと思ったのだけど……気のせいだったかな」

「いや、気のせいじゃないです。確かにあなたを見ていました。……あ、私は芸能プロダクションに勤めてる者で……」

「フフ、なるほど。つまり、私をスカウトしたいのかい?」

「はい。さっきの撮影を見ていて素質を感じました。あなたはアイドルになる気はないですか?」

「へぇ、私がアイドルか……」

「ええ、ぜひあなたをアイドルとして、プロデュースしたいんです!」

私がアイドル……。

「でも、見てのとおり私はアイドルらしくはないんじゃないかな?」

「もっと、アイドルにふさわしい子はいっぱいいるのにどうして、わざわざ私なんだい?」

「あなただからこそ、プロデュースしたいんです!あなたには、アイドルの素質が十二分にあります!」

「堂々としていて、自分の魅せ方を知っています!それだけでも、すごい武器です!」

「ぜひ、私にあなたをプロデュースさせてほしい!」

魅せ方が武器か……。

「……なるほどね。フフ。よし……その誘い、受けさせてもらうよ」

「本当ですか!?でも、こんなに早く決めていいんですか?」

「自分からスカウトしてきたのに、おかしなことを言うね」

「す、すみません。ずいぶんあっさりしていたのでつい……」

「アナタの私を思う気持ちに、応えたいと思っただけだよ」

「つまり、私を選んだアナタに興味を引かれたんだ」

「それは光栄ですが……」

「どうかしたのかい?」

「い、いえ、なんでもないです。それでは、事務所で詳しい話をさせてもらえないでしょうか?」

「ああ、よろしく頼むよ」

「改めて、私は白瀬咲耶だ。私たちの新たなる第1歩を、共に歩みだそう」

「私は、瀬戸遥です。白瀬さん、よろしくお願いします」

私がアイドルか……。これなら、もっと多くの人が喜べると思った。彼女の為にアイドルとして、全力を尽くす事を誓おう。

彼女となら、どんなに高い場所へでも昇っていけそうな気がする。

 

 

彼女に連れられて来た小さな建物。窓には「283」とある。

「改めて、私は283プロダクション所属プロデューサーの瀬戸遥です」

「ここではアイドルのプロデュース活動を行っています」

「……アイドルはどこだい?」

「……その事ですが、今スカウトの真っ最中なんです。今日白瀬さんをスカウトしたばかりで……」

「今の所は、『イルミネーションスターズ』と『アルストロメリア』だけで……」

話し合ってると、男性が1人入ってきた。

「彼女は……スカウトしてきたアイドル候補生か?」

「はい。白瀬咲耶さんです」

「まだまだ人数が足りないな……」

「あなたは?」

「私は社長の天井努だ」

「社長でしたか……。失礼」

「白瀬さん。あなたはどうしますか?」

「どうと聞かれても……。私はまずどうするのかが見えないのだけど」

「すみません!まず白瀬さんはこの作業を終わしてからーーー」

彼女の手際が悪い。

「社長〜。プロデューサーさんを助けてくださいよ〜」

振り向くと眠たそうな表情をした女性がいた。

「はづき……。そういうのはお前がやるものだ」

遥が説明する。

「あの人は七草はづきさんです。ここの事務員をしています」

「事務員と言っても私はアルバイトですよ〜。だからここの社員はプロデューサーの遥さんだけですよ」

「本当かい?」

「はい。ここはまだ設立されたばかりなんですよ」

 

遥の手際の悪さの理由がわかった。

彼女はここに入社したばかりの新人プロデューサーだったのだ。

 

この後、いろいろ手続きをして283プロを後にする。

撮影現場に置いていた私のエボⅨ()に向かうと遥がいた。

「白瀬さん?何故ここに?」

「私の車を取りに来たんだよ」

「この車が?」

「そうだよ」

「プロデューサーこそ何故ここに?」

「私も同じ理由です」

咲耶のエボⅨの向かいには青いインプレッサがあった。遥の車はそれらしい。

「一緒か……」

「白瀬さんはどこに向かうんですか?」

「自分の家さ。それと……」

「咲耶でいいよ。プロデューサー」

 

こうして私、白瀬咲耶はアイドルになった。

 

 

 

 

この物語を動かす人物はあと一人。

最後の1人である彼女は……。

 

 

「蓮さん、その日の予定は何が入ってますか?」

電話で話す少女は346プロダクション所属アイドルの小日向美穂だ。

彼女もこの物語を動かす1人だが、今はそうではない。彼女がそうなるのはまだ先の話である。

 

 

立場も身分もそれぞれ違う3人。

3人が物語を動かすきっかけを作るのはもう少し後の事だ。

 




新しい物語が始まりました。
「天才」夢斗とアイドル達がどのように物語を動かしていくかに注目です。

物語のネタの解説です。
・いろは坂最速のMR2
頭文字Dに登場する「小柏カイ」のパロディです。ただカイが乗っていたのはNAの「G-Limited」ですが、ここではターボモデルの「GT-S」です。
・星名夢斗の性格
普段は軽くおちゃらけてますが、スイッチが入ると「変わる」夢斗。
普段の性格は「湾岸ミッドナイトC1ランナー」の主人公「瀬戸口ノブ」と「バンドリ」の「氷川日菜」を足して2で割ったような性格。ぶっちゃけ日菜の要素が強いです。「るんっ」って言ってる事でわかると思います。
ノブ、日菜共に原作で「天才」と言われるシーンがあるので参考にしました。
・津上浩一の性格
入学式で夢斗と揉めた彼ですが、揉めた後に夢斗がトラブルを起こさないように見張る意味で友達になった彼。夢斗に振り回されてますが彼も他人を放っておけないという性格があるんです。
・主人公は3人
夢斗、咲耶、美穂の3人が主人公です。ここに複数のサブキャラや前作の人物も関わります。
特に前作の人物達は大きいです。





前作「疾走のR」から1年後を舞台にしたこの作品。
自分は他人を理解出来ず、また自分は他人から理解されないという悲しい事を体験し続けた天才主人公「星名夢斗」。
何かが足りず、アイドルという新しい扉を開いてアイドルになった一方で過去の敗北を抱える「白瀬咲耶」。
努力をし続けた幼なじみは自分の憧れの人でもある青年を追いかけたいと願うアイドルの「小日向美穂」。
このバラバラな3人がどのような物語を描くのか。
次回もお楽しみに!
感想、評価、誤字脱字指摘など待ってます。


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第一部 革命伝説始動編
STAGE1 体験、超高速ステージ


周りとぶつかる夢斗。
彼が見せる技術。そして彼が抱え続けた過去。夢斗は新天地東京で何を思うのか?
そして、物語は動き出す。


夢斗が入学してから数日が経った。彼は相変わらず周りとぶつかる事が多い。その度に浩一が夢斗の発言の解釈を相手に伝えるという事が今の所毎日のようにあった。

今は授業開始前の休み時間。

「夢斗……。マジで意識してるか?敵を作るなって」

「してるさ。あいつらの考え方がおかしいし」

「意識してないって言うんだぜソレ」

今朝も女子と喧嘩。浩一が何とか説得したが、こんな調子じゃ自分が持たない。

そこに教師が入ってきた。今日から始まる新しい授業の教師。今日の授業内容は、オリエンテーションだ。

「名前と出身、部活動の紹介をしてくれ」

こうして生徒は1人ずつ紹介していく。

 

「星名ー。お前の番だ」

「センセー。俺は『せな』じゃなくて『ほしな』ッスよ」

「おお、悪い」

「星名夢斗。栃木から来たッス。……部活動?」

「部活動に入っているなら言ってくれ」

夢斗が浩一を見る。

「部活動入ってねえ……」

「俺もだ……」

「何言ったらいい!?」

「俺に聞くな!」

「センセー!入る『予定』はOK!?」

「構わんよ」

「じゃあ自動車部!!」

やがて浩一も呼ばれる。

「俺は津上浩一です!群馬県出身!俺も自動車部に入部予定です!」

「え?お前群馬なの?」

「初めて知ったのかよ!!……あ、そういや言ってなかったっけ」

「今初めて聞いた。群馬か。アレか、あの豆腐屋のいる所」

「そうだな」

 

 

 

オリエンテーションを終えた夢斗達が向かっていたのは、自動車部の部室。

「浩一はさー、部活動見学で自動車部行った?」

「行ったけど?」

「なんでここ見学者いないんだ?」

「夢斗。お前それ知らずに行ったのか」

「自動車部はな、裏では首都高を走るチームなんだよ」

「その無法地帯っぷりを恐れて新入部員が中々入らないんだとさ」

「首都高を走るってのは聞いた。無法地帯って……」

「色々悪評があるんだよ。ここ」

やがて部室に到着。

部室の戸を開けると部員達がこちらに視線を向ける。

「お!君達は入部希望者か……って君もか」

夢斗を見て呟く部員。

「うっは、俺有名人らしい」

「そうだな、悪い意味で」

浩一が呆れる。

「入部希望で来ました!」

「おお、君と……君か」

「俺の扱い悪くね?」

「当たり前だろ……」

 

 

 

「俺は自動車部部長の長谷川友也(はせがわともや)だ」

「俺は副部長の工藤聖真(くどうしょうま)

軽く説明した後、見学。

そこではジムカーナの大会に出るための練習をしていた。

「あれ、インテですよね」

「そうだ。ここのクルマさ」

浩一が指した先の車は「ホンダ インテグラtype-R」(DC2)。

パイロンを中心に綺麗にターンしていく。

VTEC特有のエンジンサウンドを轟かせ加速していく。高回転までブン回していく。

「上手いですね〜」

「アイツはFF乗らせればダントツで早いんだよ。『FFのスペシャリスト』って俺達は呼んでるぜ」

「……もうちょい舵角小さくなんないかな」

「夢斗……。大人しく見ろ」

「浩一君と言ったっけな。君は車持ってるかい?」

「浩一であってますよ。俺はFDを」

「FDか。いい車じゃないか」

「君は何に乗ってる?」

友也が夢斗に聞く。

「俺すか?エボⅩ」

「ランエボか。どんな感じだ?」

「『ちょっと』いじったくらい」

「済まないが二人とも今車を持ってこれるか?」

「あ、はい全然大丈夫です!」

「何やるんです?」

「この後わかるさ。楽しいぞ」

言われるがまま2人は車を取りに行く。

 

駐車場に着いた2人。

「何やるんかねぇ……」

「まさかこの後いきなり首都高行くんじゃ……」

「いや、それはねーよ。こんな早くに……」

そこに夢斗に声をかける少女が1人。

「やっほー。夢斗君」

「おっす、夕美」

「相葉ちゃん!」

夕美は入学式での夢斗と浩一の喧嘩の後も夢斗とよく話していた。席が隣なのでよく話す。

「やっぱ相葉ちゃんの笑顔が眩しい……っ」

「きもいぞ、浩一」

「キッパリ言いすぎだろぉぉぉ」

浩一の叫びを無視して続ける。

「夕美はこれから仕事か?」

「うん。新曲のレコーディング」

「へー。なんて曲?」

「フフ、秘密!」

「えー、秘密って聞くと余計知りたい」

そこに浩一が答える。

「あ、わかった!『お花の妖精使いフローラル夕美』のエンディング曲!」

「何だそれ?」

「すっご〜い!大当たりだよ!」

 

説明しよう。「お花の妖精使いフローラル夕美」とは女児向けのアニメである。アイドル達が出演するのもあり、大きなお友達も見る大人気番組である!

 

「新エンディング曲のレコーディングがこの後あるんだ。夢斗君達は何やってたの?」

「自動車部の見学。車持ってきてくれと」

「この車が夢斗君の車?」

「そうだ。これ以外俺にとって大事な物はないね」

「大切に乗ってる事はいいと思うよ。あ、そろそろ行かないと!」

「やべ、俺も行くわ」

シートに座り、イグニッションキーを回す。

エンジンが始動し、夢斗はエボを発進させる。

「夕美ー、行ってくるわー」

「うん、頑張ってねー!」

浩一もFDに乗り込み、FDを発進させる。

 

 

数分後。

部室前には黄色いFDと銀色のエボⅩがあった。

「これから君達の技術を見る。これ次第で競技のメンバーも選ぶ」

「とはいえ、君達はまだ免許取ってから車に乗る時間は浅いと見込んだ。基本ができればまずいい」

「とりあえず、先にどっちがやるか決めてくれ」

ジャンケンして決めた。

「げっ、俺かよ」

「ま、やってみ」

浩一が先にやる事になった。

 

やる事はまず高速スラローム。

その後に8の字からのパイロンを目印にスピンターンして戻る。

最後は低速コーナーを連続で抜けてゴールだ。

こう言っただけではどうって事はないように見える。しかし、この様に「競技」としてだと捉え方が変わる。

「競技メンバー選ぶってなったら頑張らないと……」

このテストは競技メンバーの選考も兼ねた物だ。タイムを出せなければ意味が無い。

「ちなみにクラッシュして車が壊れる事はまずないから安心してくれ。パイロンやパッドがあるから」

浩一のFD3Sがスタート。やはりこういう事には慣れてないようで、スピードが出ていない。

「もっと踏め……っ」

焦りが出ている浩一。高速スラロームはクリア。直後に待ち受けるのは8の字だ。

「やばっ」

入った直後、スピードが出過ぎてスピン。慌てて復帰するがこのミスで12秒近いタイムロス。

パイロンを目印に折り返して、ゴール直前の連続低速コーナーエリアに入っていく。

危ない所があったが、何とか無事にゴールした浩一。

「はぁっ、はあっ」

思い切り踏むという事がないとこれだけの事でこんな息の上がり様だ。

「おいおいスピンするなよ……」

「夢斗……。お前はどうだ」

「……楽だろ」

「言ったな。ホントだといいな。もし大口叩いて俺より遅かったら、今までのお前の発言も口だけだったって思う事にするからな」

「そっか」

夢斗がかったるそうな調子でエボに乗り込む。エンジン始動。4B11が唸る。

「よーい、スタート!」

合図と同時にエボⅩが飛び出していく。4WDのエボⅩだけあってスタートダッシュが速い。

高速スラロームをするエボⅩ。ほとんどエボはロールしない。外から見てもわかる程足が極端に硬い。

だが、驚くのはそれじゃない。全く無駄のないスラロームだ。ほぼハンドルを切らずにスイスイと抜ける。

「なんだありゃ。一切無駄がない」

部員達が驚く。浩一も驚愕する。

「上手い……!」

直後には8の字。

だが夢斗は涼しい顔して8の字ドリフトをしていた。

「エボをどうやったらあんな振り回せるんだ……!?」

4WDのエボは4輪全てが駆動する事もあって各車輪のグリップ力が高い為、舗装路でのドリフトは困難を極める。それはエボⅩだけではなく、ライバル車のインプレッサなど4WD車全てに言えることだ。

だが、夢斗はそんな事関係ないと言うように余裕でエボをドリフトさせていた。

8の字した直後、夢斗はフルスロットル。

爆音を上げてエボⅩが猛スピードで突っ込んで行く。

「やべえぞ、クラッシュする!」

「オーバースピードだ!!」

部員達が慌てる。浩一も心配する。

「夢斗……。お前死ぬ気か!?」

 

 

猛スピードで走るエボⅩのコックピット。夢斗に焦りは全く無い。ステアリングを切る。

すると荷重移動が発生し、フェイントモーションに入った。

「よっ」

すかさず夢斗はサイドブレーキを思い切り引く。

全てのタイヤから白煙が上がり、エボは真横を向く。横を向き始めた瞬間にアクセルオンでテールスライドを維持する。

エボⅩが見えなくなる程の白煙が上がり、エボを見れない。

スライドコントロールを行ってパイロンスレスレに旋回する。

「ヤバいぞ、アイツすごい上手いっ!」

「なんだアレ、あんな完璧な4駆ドリ初めて見た!」

友也も驚いた表情だ。

「彼は一体何者だ……?」

浩一に聞く。

「アイツは……地元栃木でいろは坂最速だったらしいです。俺は半信半疑でしたが……。あれを見たら信じるしかありません……!!」

「いろは坂最速……!?銀色のエボⅩ……まさか、彼が噂になっていた少年か!」

 

その噂とは、正体不明の銀色のエボⅩがたった一夜でいろは坂最速になったと。だが、そのエボⅩは「走った事がない」いろは坂を一度のアタックでマスターし、いろは坂最速だったMR2を破ったのだと。

 

最後の低速コーナーも綺麗にドリフトで繋げて抜けてきた。文句無しのゴール。

タイムは浩一のFDが出したタイムを30秒近く上回っていた。

「な……」

「へっへー、どうだ」

友也が驚いた表情で記録を見る。

「今までここに入部したヤツ全員がこれをやったが……歴代最速記録を更新したぞ……!」

部員達は驚きを隠せない。

夢斗の記録は歴代最速記録だったのである。

「嘘でしょ……!?」

「友也……もしかしてこの子超大型新人だよ!?」

「だな……」

友也が夢斗に聞く。

「これだったら確実に君はここのエースドライバーだぞ」

「ジムカーナの大会が今度ある!出てくれないか!?」

「イヤっすよ」

「何故!?」

「俺は言いましたよ。そんなつまらなそうな事やりたくないって」

「俺はそっちが言った『首都高を攻める』って事に惹かれて自動車部(ここ)に来たんすよ」

「もし、俺をそのジムカーナの大会で使うために入部させるってなら俺はここには入りませんよ」

夢斗の発言にざわめく部員達。部長の誘いを蹴った。普通に見ればとんでもない事態である。

「夢斗ー!!お前何言ってんだ!」

浩一が夢斗に怒鳴る。しかし夢斗は聞かない。

「浩一……。もしお前までそうさせたいなら俺はこの学校辞める」

「はっ!?」

「俺は今まで自由なんて無かった……。ここに来たのも深い意味はない。目的が無かったんだよ……。とりあえず大学行けばいいって思ってな……」

「そんな中で唯一自由を感じれると思ったのは、『首都高を攻める』って事が出来る自動車部(ここ)の存在だ。だがもしも競技の為に俺を入れるなら結局俺は自由なんて無いじゃんか。同じ様な事しかしないならそれは『自由』じゃねーじゃん」

「首都高を攻めるって言うアンタの言葉を信じて俺は来た!ソレがないんなら俺はココを辞める!!」

夢斗の発言に静まり返る部員達。浩一も黙るしかない。友也も考え込む。

やがて友也が口を開く。

「君は何故……そこまで『自由』にこだわるんだ?」

「俺は……ずっと一人だった。誰にも俺の考えをわかってもらえないし……。俺が何を言っても理解しようとさえしなかったんだ!!」

浩一なら身に染みてわかる夢斗の性格。

「理解しようとしないヤツらと関わるのがもう辛かった……。だから俺は地元を出てきた」

「自分が決めた『常識』で周りを縛る!ソレが違う奴を自分達のグループから追い出そうとする!俺の考え方に自由ってないのか!?」

「峠だって……周りの事を取り入れようとせず『遊び』しか出来ないくせに上手い奴には嫉妬する……。いろは坂を走ってたヤツはみんなそういう目で俺を見てた」

「でも……首都高ならそんな事ないと思った。同じ目的の為に人が繋がって走る……ソレが走り屋じゃないのかって」

「もしアンタ達が地元のヤツみたいな事をするなら……俺は出ていく」

夢斗の主張を聞いた部員達。

夢斗は「周り」から理解されず、周りの「普通」を押し付けられたーーー。それに耐えきれず地元栃木を出て「首都高」という自由を求めこの部に来たと言っているような物だ。

「君の言い分はわかった。では君はどうしたい?」

「首都高を走る。俺はそれ以外したくない。ジムカーナなんて峠走ってたら簡単にしか見えないから……」

「ジムカーナは峠を走るみたいに同じ事するだけだ……。ソレが嫌いなんだ……。同じ事を繰り返すだけってのが」

「でも首都高なら『同じ事』がない。いつでもその走りしかないから」

友也が口を開く。

「君のその技術は是非欲しい。だが……君は競技はやりたくないんだろう?しかしな、君が走らなくても他の人が走らなければいけない。君は他人に教えるのは得意か?」

「全然。わからないって言われる」

「君のその走り方をみんなの手本にしたいんだ。君は走らなくてもいい。君は首都高に専念すればいい」

「友也!」

部員が叫ぶが友也は続ける。

「君は……常に新しい事をしたいんだろう?」

「そうっす」

「君が走りのコーチになってくれないか?教える事で発見もある」

「いいすね」

「そして君が一番したい首都高を走る事が君のやる事のメインだ……。どうだ?」

夢斗が口を開いた。

「ソレなら俺はやりたいっすね」

「交渉成立だな」

友也が手を差し出し夢斗も握り返す。

「浩一君はどうする……?」

友也が浩一に問う。

「俺もココに入ります。夢斗の技術はよくわかりました。でも夢斗はその技術の上手な使い方をわかってない……。もし俺がいないと夢斗は絶対にその技術をわかってもらえないから……」

「そうか……」

友也が部員を集め、告げる。

「みんな、今日から星名夢斗君と津上浩一君が入部した!みんな仲良くしてくれ!」

拍手が起こる。

「さっきはあんな言ってすまなかったっす」

「いいさ。俺も自分で言って忘れてしまってたからな」

 

部活動終了後、帰ろうとしていた夢斗達に友也が告げる。

「今日の夜空いてるか?」

「予定はないっスよ?どうしたんすか?」

「来れるなら今夜11時に大黒PA(パーキングエリア)に来い。首都高を走るぞ」

「来たーっ!待ってました!」

夢斗のテンションが上がる。

「あの……どうするんです?」

「首都高を覚える為に走る。首都高は覚えておいて損は無い」

「時間厳守で大黒集合!いいな!?」

「はい!」

「了解っす」

友也の話を聞き、学校を後にする。

 

 

 

 

PM11:00。

大黒PA。車が数台ある以外はガランとしている。

銀色のエボと黄色いFD、それと赤いスープラと黒いR33だ。

「今日は首都高を覚える為に走る。いいな」

各自それぞれの車に乗り込み、大黒を後にする。

 

 

いよいよ首都高を走り始める4台。一般車が少し多い。平日の夜は仕事のトラックも多い。

「しっかりとついてこい。遅れるなよ」

友也のスープラが先頭に夢斗のエボ、浩一のFD、工藤のR33を引っ張る。

やがて少しずつスピードを上げていく。

「うわ……速い」

浩一は法定速度以上のスピードに恐怖を抱く。一方で夢斗は未知の体験にワクワクしてた。

「コレが首都高……!るんってきた!」

エボⅩを加速させる。友也のスープラにピタリと張り付く。

「おっ、踏むね。だがここからはその余裕は続くかい」

湾岸線鶴見つばさ橋。3車線をめいっぱい使い一般車をかわして速度を上げる。

浩一は200kmオーバーの世界を初体験。恐怖でアクセルを踏む右足が震える。

「……っーーー」

夢斗のエボⅩのスピードメーターも200kmを指す。峠では味わえないこのスピード感。夢斗のテンションを上げていく。

 

「……!」

友也が何かを見つける。黒いエボⅨだ。

「バトルはこうやるんだぜ」

友也のスープラがエボⅨをパッシング。するとエボⅨがシフトダウンし、加速。バトルを受けるという合図だ。

「そう来なくちゃな……!」

友也のスープラは加速していく。置いていかれる夢斗達。

「は……速い!」

「おお。かっとぶねえ」

R33のドライバー工藤もエボⅩとFDを追い抜きバトルに参加する。RB26の大パワーがR33を前に進ませる。

「GT-R……やっぱ痺れる!」

浩一は感動。

「置いてかれたら迷子じゃんか……」

夢斗はエボを加速させる。

 

 

「へえ、今やる気じゃなかったけど……いいか」

黒いエボⅨを運転する咲耶が後ろのスープラを見て戦闘態勢に入る。

「私に最後までついてきてくれるかい!?」

エボⅨを加速させるとバトルに突入していく。

 

 

「速いって!長谷川さんバトルに入った!?」

「だろ。あれが首都高のバトル……」

首都高でのバトルは夢斗に大きな衝撃を与える。

 

 

「自由」を求めて首都高を目指した夢斗。彼が目指した首都高は彼に何を思わせる?




なかなか天才の考え方を言葉にするのが難しい……。

ネタ解説です。
・夕美のレコーディング
「お花の妖精使いフローラル夕美」のED曲のレコーディングに向かった夕美ですが曲は「シンデレラガール劇場」でも流れた「Dreaming Star」です。
・夢斗の過去
夢斗の性格の元になった「氷川日菜」のように「天才」という夢斗。
しかし、その才能を妬まれ自身を理解しない「他人」に縛られるのが嫌で栃木から上京したのです。
天才も天才なりに苦悩するのです。自由が好きな夢斗にとっては理解されない事がとても辛いのです。


次回、夢斗初バトル!!


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STAGE2 惹かれ合う2人

夢斗、首都高での初バトル!
そして、エボは進化する!!


友也のスープラが咲耶のエボⅨを追う。友也のスープラは約570馬力。一方で咲耶のエボⅨは最大460馬力。スープラの2JZ-GTEの前には4G63のパワーでは分が悪い。事実、スープラはジリジリとエボⅨに近づいている。

「……どうだ」

友也はエボⅨの真後ろに着く。

扇島付近。ここからは本物のパワーが要求される超高速エリア。

「……っ!」

エボⅨの前に出ようとする友也のスープラだが、一般車が多く中々前に出られない。もし抜くタイミングをミスすれば一般車を巻き込みかねない。それでもエボⅨには食らいついていた。

 

 

「やるね……。でも、まだまだこれからさ」

ブーストコントローラーを操作し、ブースト圧を上げる咲耶。コントローラーを操作する音が車内に響く。

モニターには1.4と表示される。これがエボⅨの最大ブースト圧である1.4kgだ。

それに応じてエボⅨは速度を上げる。逃げにかかったのだ。

「面白い!」

友也も追い上げて行く。その後ろには工藤のR33もいた。

「おいおい、友也。置いていくなよ」

「悪い悪い、楽しくて」

 

やっとの事で追いついた夢斗達。浩一は頑張ってアクセルを踏んできた。

「長谷川さん達が速すぎるって!……あれ夢斗は?」

夢斗のエボⅩは浩一の少し先にいた。だが、少しずつだが浩一から離れていく。

「ゆ、夢斗?」

「悪い、俺も行ってくる」

「ちょ!?」

そう言うと夢斗のエボⅩは浩一のFDを置いていく。

「夢斗〜!置いていくなよ〜!」

 

 

横羽線を抜けC1エリア内回りに到着。

咲耶は今まで何とか持ちこたえていた。友也のスープラを抑えるのに必死だった。それも超高速エリアで。しかし、C1に入ったらこちらの物だ。

「悪いけど……ここでやる」

浜崎橋から銀座区間へ。

コンクリートに囲まれて圧迫感を感じる。そこをハイスピードで走る。

タイトなS字が続く。コーナリングマシンのエボⅨが颯爽と抜けていく。

友也のスープラはここで若干遅れをとる。

「重いスープラでは……」

トンネルを抜けた後に待ち受けるのは3つの橋脚が待ち受けるC1エリアの難所地帯だ。この橋脚に吸い込まれるように刺さり、愛車を犠牲にする走り屋は多い。

エボⅨがコーナーイン。まず3台は橋脚を避ける。この危険地帯で果敢に攻める友也のスープラ。1つ目の橋脚を抜けるとエボⅨの真横に並ぶ。さすがは走り込んだ時間が長いだけある。

2つ目。これもクリア。だが、工藤のRが失速してしまう。

「やべ、ガスケットやったか……」

ガスケットをヤってしまい、R33は引き下がる。

残ったのは咲耶のエボⅨと友也のスープラの2台。

「うっしゃあ!どうだ!」

サイドバイサイドのまま、最後の橋脚へ。その直前には、ジャンプスポットがある。これでコントロール不能になり壁に吸い込まれるのはよくある事だ。

2台は一瞬浮く。その直後に着地の衝撃が車内に伝わる。

2台は最後の橋脚もクリア。アクセル全開で江戸橋分岐前の区間を走る。

「行けっ」

直後の急なコーナーを目前にして友也はブレーキングを一瞬遅らせ、エボⅨの前に出る。

そこから細かいスピードコントロールをして神田橋方面に向かう。形勢が逆転していた。

しかし、咲耶も黙っていない。スープラの後ろに着きプレッシャーをかけていく。

神田橋周辺のコーナーは緩やかだ。しかし、路面が荒れているのもあってステアリングが取られやすい。気を抜いた瞬間にコントロールを失うのも不思議な事ではない。

「タイヤがきついか……っ」

友也のスープラはタイヤの消耗に苦しんでいた。その大パワーがタイヤを追い詰めていた。

コーナーを抜けた2台の眼前には千代田トンネルが見えてきた。

「……!!」

一瞬だが、スープラがスライドした。咲耶はこれを見逃さない。

ブレーキングを始めるスープラ。真後ろにいたエボⅨがラインを変える。エボⅨがインを刺したのだ。

「ここでか!」

友也は横に並ぶエボⅨを見る。自身が外側にいるためにアクセルを踏めない。エボⅨが再び前に出る。

「まだ……っ、あっ!」

友也がアクセルを踏んだ瞬間、リアタイヤが流れ出す。ハーフスピンに入ったスープラを何とか止めたが、エボⅨには完全に離された。

「らしくねぇミスだな……」

友也のコンセントレーションは完全に消える。

後ろから眩しい光が飛び込み、思わず友也は目を細める。後ろから聞こえてくる少し高めのエンジンサウンド。

銀色のボディがスープラのヘッドライトの光を跳ね返す。

「な……無茶だ!」

夢斗のエボⅩが友也のスープラを追い越してエボⅨを追う。

「君はココを初めて走るんだろう!?」

「そーっすけど。でもちょっとやってみたいっす」

電話越しに聞こえる声は、なんとも呑気な声だ。

「首都高の怖さを知らないのか……!?」

友也は夢斗の思考回路がどうなっているかを知りたいと思った。恐らくこの考えは友也だけではなく、夢斗を見た人全員が思うことだろう。

そんな友也を置いていく夢斗のエボⅩ。前を走るエボⅨを追いかけていく。

 

「……?」

咲耶は後ろに見えるエボⅩに違和感を感じていた。エボⅩのその動きは首都高初心者その物。しかし、時折見せる動きは只者ではない研ぎ澄まされた動き。このギャップに違和感を感じていたのだった。

自分を追いかけてきている以上、引き下がるのも後味悪い。

「やらせてもらうよ……」

エボⅨを加速させる咲耶。それに追従する後ろのエボⅩ。

C1の路面をもろともせずに走る咲耶のエボⅨだが、後ろのエボⅩも負けていない。パワーは咲耶のエボⅨが上。だが、その差が帳消しになるコーナリングスピードでエボⅩは詰めてくるのだ。

「……!?なんだこの車!?」

思わず咲耶は焦りを見せる。着実に差が詰められているーーー。

 

 

「あのコーナリングスピードはなんだ……!?」

友也が夢斗のエボⅩを見て呟く。見た目はほぼノーマルのエボⅩがエボⅨに近づいていくその姿は奇妙な絵面だ。GTウイングを付けているエボⅨにノーマルのリアスポイラーのエボⅩが近づいている。ダウンフォースがまるで違うのに何故。

しかし、友也は夢斗のエボⅩに一つの弱点を見た。

「あの足回り……。少しのミス一つで一気に足をすくわれるセッティングか……!」

ジムカーナのテストの時に見せたあの極端な足の硬さだ。夢斗の反応速度に合わせる為の物だと友也は推測した。しかし、あの硬さは小さなミスも許容しない。ミスした途端にコントロールを失うようなピーキーなセッティングだったのである。

「頼む……ムリするな!」

 

「離れないっ」

咲耶のエボⅨは追い詰められていた。なんだアレは。咲耶はプレッシャーに追い詰められていく。

「あんな車……見たことがないっ」

 

「行けるっ」

夢斗はエボⅩを限界までプッシュしていく。友也が言うようにノーマルのリアスポイラーのエボⅩでここまで咲耶を追い詰めていたのは夢斗のそのコーナリング技術にあった。しかしエボⅩの足はミスが許されないあまりにもリスクが大きいセッティング。反比例するその組み合わせでここまで走れていたのがおかしい事だ。でも、夢斗はソレが関係ないというように走る。

「行けーーーっ」

 

2台は新環状右回りに入る。相変わらずエボⅩは離れない。咲耶は集中力が切れかかっていた。

「うっ……!」

焦りからくる小さなミスが咲耶自身を追い込んでいた。このままだと破錠しかねない。

大井Uターンに入る2台。夢斗のエボⅩが咲耶のエボⅨを追い抜こうとする。

ところが……。

「やべえ!?」

無理に追い抜こうとした結果、坂道の頂点の見通しが悪くコーナーの先が見えない。これに驚いた夢斗は反射的に回避行動を取る。しかしこれが元でエボⅩのバランスは崩れスピンしかける。

「やっべーーーっ!」

辛うじてクラッシュは避けたが、エボⅨが続く。

「危ないっ」

 

「……っ!?」

咲耶はステアリングを切り、バランスが崩れたエボⅩをぎりぎりで回避する。

「えー!?」

「フツーはぶつかるよ今のっ!?」

夢斗は驚きを隠せない。完全に俺が負けた。

「いや、すげえわ。これが首都高のバトルか……」

 

 

大井パーキングエリアに来た夢斗達。エボⅨから降りてきた人物に驚く。

「女の子!?」

まず浩一が驚く。

「すごいな……」

友也が驚きを漏らす。あれ程の腕を持つ上に美人。

「スゲーな、アンタは」

夢斗がタメ口で接する。

「おい夢斗、人を置いていってこれは許さんぞ」

浩一が静かにキレる。

「すみませんね、このバカが迷惑かけて」

「私は平気さ。私の名前は白瀬咲耶」

「俺は津上浩一って言います」

「俺は長谷川友也って者です」

友也が敬語になっている。

「俺、星名夢斗。咲耶、あの技術俺に教えてくれ!」

「夢斗……!」

浩一が夢斗をひっぱたく。

「いってー!何すんだ!」

「初対面の人、しかも女の子にそんな口の聞き方があるかっ!」

「私は構わないよ。むしろ私も君の技術に興味があるものでね」

「えええ!?」

「結果はああだったけど、勝負としては私の負けだ。あの技術はどうやって得たんだい?」

「咲耶さん、こいつに聞いてもダメっすよ。まず言ってる事わからないんで」

「そーだな。グッて踏んでギャって曲げる!車が吹っ飛ばないようにドンって抑えればOK!」

「わかるかっ!」

「なるほど……」

「わかってる!?」

「何となくわかるさ。君の走り方を見ればわかるんだ……」

「咲耶さんもすげーっす」

「そうかい?普通だと思うけど」

「あ……」

浩一は察した。咲耶も夢斗と同じだと。

「やべえ……ついていけない。バトル的にも会話的にも」

「……だな」

友也もそう思うしかなかった。

この後それぞれのルートを通って家に帰る。

 

 

数日後。

部の集まりがあった。ジムカーナのメンバーの話し合いのためだ。だが、約1名いない。

「夢斗……どこいった?」

「今日学校来てたか?」

「いえ……見てないっす」

夢斗が無断欠席(いない)。学校にも来ていないのだ。

「電話も繋がらないし……」

「事故とかじゃないよな」

友也が心配する。結局、話し合いは夢斗抜きで進められた。

 

 

その夜、浩一は再び首都高にいた。夢斗ならここにいてもおかしくないと思ったのだ。

「アイツ……本当に人を振り回すヤツだな」

ここを初めて走った時はまともにアクセルを踏めなかった。慣れろ、と念じながらアクセルを踏む。

「アレは夢斗……か?」

銀色のエボⅩが見える。しかしシルエットが全く違う。

とはいえエボⅩのナンバープレート番号は紛れもなく夢斗のエボⅩの番号だ。

「あいつはナニやってた……!」

キレ気味でFDをエボⅩの横に着ける。エボⅩを運転するソイツの顔は忘れるわけない夢斗の顔。しかしリアフェンダーには「WORKS-R」と謎のステッカーが。

「なんだコレ……?」

するとエボⅩが急加速。FDを一瞬にして置いていく。

「!?」

加速が別物になったエボⅩを呆気に取られて見る浩一。

「待てコラ」

浩一も負けずにFDを加速させるが、エボⅩには追いつけない。

「このヤロ……。遊ぶってか!?」

エボⅩとFDは新環状を走り抜ける。しかしエボⅩはこの間とは見違えるような速さだ。

「コーナーを一つ抜けると差が広がるっ!」

大小関係なくコーナーを抜けると確実に差が広がっていた。

エボⅩのコーナリングフォースがGTウイング装着で高められているにしてはあまりにも効果が大きすぎるのだ。ウイングだけではあんなコーナリングスピードは出るわけない。

「エアロが変わってるけど……それだけではムリのはず」

なら何故。バケモノじみたスピードで曲がれるんだ。浩一がわかった限りで付いているのはリアディフューザーとGTウイングだけ。ただし、見えているのは「リア」だけだ。

「……ディフューザー?」

何故エボⅩにディフューザーを……?

 

「浩一……お前のFDではムリだぜ。この新生エボⅩについてこれたら褒めてやるけどな」

散々人を振り回しといてこんな事を言う夢斗。

この数日間、あの時の走りで「足りなかった」物をエボⅩに加えていたのだ。ちょっと遠くにも行って作ってもらった物もある。

高揚感を感じるエキゾーストノートを聞きながら、アクセルを踏む。もっと踏みたい。

「この音イイぜ……」

ワンオフで作ってもらったマフラーの奏でるハイトーンのエキゾーストノートは夢斗のテンションを高めていく。

「あの時は『確実に』踏めなかった……。でも」

「今のエボは『確実に』踏めるっ!」

4速にシフトアップ。ブローオフバルブが抜けるカン高い音が響く。

超高速でコーナーを抜けていくエボⅩを見るしかない浩一。追いつけないと判断したのだ。

「お前……エボをいじってたのか」

「くっそー、アイツはそういう事はしっかりするヤツだもんな」

夢斗の努力を認めるしかない。

 

ちなみに翌日夢斗は当然だが友也に怒られた。

「だが反省しない」と夢斗はやっぱり言う。

 

「あの技術は私が持てる物じゃない……」

咲耶は夢斗の技術に注目する。が、それは自分の手には出来ないと感じた。

「あの時の車のように……絶対的な速さが欲しいっ」

1年前、手も足も出ずに完敗した蒼い車。あの車の前を走りたい。その為の技術が欲しい。

「いつか前を走るさ。今度は勝つよ」

 

 

夢斗と咲耶、2人の天才が会う。エボを駆る者同士が会った時、物語は大きく動き出す……。

 

 

 

 

 




夢斗と咲耶、2人の天才の初バトル。
夢斗は負けましたが、実力者咲耶を追い詰めた。
そしてエボⅩは首都高を「走る」為のマシンに進化!

ネタ解説です。今回ほぼネタないけど……。
・夢斗のミス
咲耶を追い詰めた夢斗ですがラストはコントロールを失い、クラッシュしかけてます。これは「湾岸ミッドナイトC1ランナー」でノブと荻島の初バトルが元になってます。ノブは荻島に追い詰められて最後はハーフスピンしています。






首都高での初バトルで夢斗は何を見つけたのか?
そして夢斗のエボⅩは何があったのか?
物語は「伝説」を追いかけた者達を巻き込んでいく。
首都高に情熱を燃やす者達の物語は加速する!


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STAGE3 進化する革命者

夢斗のエボの進化の秘密が明かされます。
エボといえばあの人!というわけで「湾岸ミッドナイト」からあの人が登場!
「銀色の革命者」初のクロスオーバー!!


「夢斗、お前エボをどういじったんだ」

浩一が夢斗に聞く。

「大雑把に言うと空力面の改善だけだな」

「嘘つけ、それ以外もやってるだろが」

「あ、バレた?」

「当たり前だろ、あんなパワー出てなかったろ」

「確かにエンジンもちょっとやったけど……ほぼ手を付けてないぞ」

「メインは空力面だ」

先日見せたあのコーナリングスピードは確かに空力面の改善がなければ出せない程のスピードだった。もしチューン前(純正)のエボⅩだったら確実に吹っ飛んで壁に直行するようなレベルだった。

浩一は夢斗のエボⅩを見る。

「フロントはスプリッターとカナードだけ?」

「そうだぜ。手作りだけどな」

「……はい?」

「つか、スプリッターやディフューザーは自作だ」

「おいおいおい」

「これ……本物のカーボンじゃねえか!」

「そーだけど?」

「どうやって作ったんだコラ。こんな複雑な物よく作ったな」

「型に繊維流せば作れるだろ」

「それでこんな高クオリティの物作れるお前が怖いわ」

「俺は手先器用なんでね」

技術もあるし物も作れる。なんだこの完璧超人。そんな事を思った浩一。

「けど、俺でもめんどくせーって思う事はあるぞ。例えばフルフラットアンダーフロア」

「はあ!?」

フルフラットアンダーフロアとは車体下部に装着して走行風を整流する事で車の挙動を安定させる物だ。整流効果は絶大で、普通ならレーシングカーに付けるものを夢斗は自作したと言うのだ。

「トモさーん、リフト使っていいすか?」

「構わんぞ」

夢斗がエボⅩをリフトにかけリフトアップ。リフトアップされてエボⅩの裏側が見える。

「うわ……マジだ」

そこには銀色に光るアンダーフロアがあった。

「アルミを形にするのめんどいもん(笑)」

「アルミ……!?」

「ちなみにいつでも取り外し可能!楽だろ?」

夢斗の発想どうなってんだと思った浩一。そこに友也も来るがやはり驚く。

「これ全部自作とは……。本当になんでもできるな」

「フロントバンパーはチャージスピードに自作パーツ合体ですよ。リアバンパーは不明品加工にディフューザー装着。GTウイングは無加工。ボンネットはFRPに変えて。マフラーはワンオフっす」

「ワンオフぅ……?」

浩一がもう一つ気になっていたのがカン高くなったエキゾーストノートだ。マフラー変わったと思ったがワンオフとはどういう事だ。

「作ったのか?」

「いやいや、マフラーは無理っすよ。プロの職人がいるんで」

「ま、こっから大阪まで行ってやってもらったっす」

「待て待て。大阪って何」

「マフラー作った人居るとこっす」

「ついでに大阪のランエボ乗りの人とも知り合ったんスよ〜」

「どーいうことやねん……」

週末が休みという事もあり、夢斗の言う「マフラー職人」と「ランエボ乗りの人」に会いに行く事になった。大阪まで。

 

週末の夜。一同は阪神高速環状にいた。

「俺、初めて大阪来たぜ……」

「友也さんも初めてか……」

浩一と友也を後ろに夢斗の新生エボⅩが先頭だ。

「夢斗はここに来たんだろ?ルート教えてくれよ」

「もう少しで『いる』ハズだけど……」

そう言った夢斗の視界には青いランエボⅤが見えた。

「いたいた!」

夢斗のエボⅩが加速する。慌てて友也達も追いかける。

「ちょ、早いって!」

「このスープラじゃ相手にできないな……」

 

「おー来たか。……お友達もぎょうさん連れてきたみたいやな」

青いエボⅤを駆る男は後ろから来た銀色のエボⅩとそれに続くスープラとFDを見る。

「なんか変わってへんか?」

この間と見た目が違う。その事に軽くツッコミを入れながらエボⅩを先導する。

「ま、お友達はココが初めてやろうし……教えたる。ココの走りを」

エボⅤはグイグイと加速。第4世代のエボⅩの2世代前の車とは思えない動きを見せる。

かつて大阪環状エリア最速と呼ばれた男が駆るランスブルーのエボⅤはハイレベルな走りを見せつける。

「うわ……やべえ」

実力者の友也をしてこう言わせるエボⅤの男。

「気ィ抜いたら置いてくで!」

夢斗のエボⅩがエボⅤを追う。改めて見ると夢斗のエボⅩは変わった。

咲耶のエボⅨとのバトルで「足りなかった」物を理解し、エボⅩに取り入れるーーー。

夢斗の天才と言われる所以はココだ。そもそも高い技術を持った夢斗。しかし、修正点を見つけて分析、これを走りに表すという事が夢斗は非常に優れている。

その応用力の高さこそが夢斗の速さの理由である。

「食らいつくかぁ」

エボⅤにぴったりくっつくエボⅩ。全く離れない。

一般車も多い中短いストレート区間で300kmに迫るスピードで勝負する2台。4G63と4B11が咆哮を上げる。

「かーっ、息が続かんわー」

「まだまだ慣れねえとダメかー」

2台は減速していく。ウインカーを出し高速を降りる。

果たしてこれをバトルと呼んでいいものなのか。浩一達は呆然とする。

「夢斗は……どんどん変わっている」

 

 

4台はとある倉庫の前に到着。そこにはスコーティアホワイトのエボⅥがあった。

エボⅤから降りてきた男。

「オレ、神谷英次(エイジ)。ユウト、数日ぶりやな」

「こんばんわっすエイジさん。あ、紹介します」

夢斗が浩一達に自己紹介させる。

「俺は長谷川友也って言います」

「俺は津上浩一です」

「ふたりともヨロシクな」

エイジが夢斗に聞く。

「ユウトは今日なんでこっち来たん?まさかそのエボⅩの自慢かー?」

「いやいや。エボⅩのマフラー作ってくれたシゲさんの紹介ッスよ」

「ほー。シゲさん今いるで」

「マジっすか。ちょうどいいっすね」

夢斗達に連れられて浩一達は倉庫の中に行く。

そこに待ってたのは渋いオヤジとエイジと歳が近い男。

「おお、来たか」

「よっ、天才エボマスター」

「天才エボマスター……?」

浩一が首を傾げるが夢斗は続ける。

「ども。俺のエボのマフラーどこで作ったって聞かれてこうなったっす」

「ははは。俺の作るマフラーは今でもいい音出しているって証明してるんか」

「シゲさんのマフラーほんまいい音ですからね」

「紹介が遅れたが……俺は稲田。シゲって呼んでくれ」

「俺は神谷マキ。アニキが世話になったみたいやな」

「エイジさんの兄弟ですか?」

友也が聞く。

「いやいや、アニキはオカンが俺とは違うんよ。異母兄弟ってヤツよ」

「へー……」

浩一がシゲに聞く。

「夢斗のエボのマフラーはあなたが作ったんですか……?」

「ああ。最初はそんな気なかったんだがね。でもエイジが連れてくるんだ。負けたよ」

 

 

 

 

数日前の出来事。

夢斗は首都高を走っていた。あの時の咲耶の走りをモノにする。そう思い走り込んでいた。そこに現れたランスブルーのエボⅤ。

「おっ、エボⅤか。イイじゃんっ!」

夢斗にとって第3世代のエボより前のエボは珍しい。エボⅤを追い始める夢斗。

「エボⅩ……。威勢がイイな。でもそれでどこまでやるんや?」

エイジは夢斗のエボⅩを引き離しにかかるが離れないエボⅩに驚いていた。

「こりゃあ上手いなあ!今どきこんな上手いヤツに会うとはなー」

「けど……車が腕に追いついてない……?なんやねんこいつ」

ドライバーが車より速い。逆に車がドライバーの足を引っ張っていたのだ。

「……面白いやっちゃな、遊んだるわ」

エイジは夢斗のエボⅩを引っ張る。

 

 

「さすがにしんどいで……。これだから歳を取りたくないんよ」

何とエボⅩを引っ張るうちに大阪に着いてしまったのだ。全く離れずに着いてくるエボⅩのドライバーに根負けしたのである。

だが、エイジは見てて面白いと思った。

自分の走りを取り込み、自分の走りに取り入れて新しい走り方を作り出す。こんな事が出来るエボⅩのドライバーに興味を持ち始めていた。

「俺はここで降りるわ……」

降りようとするとエボⅩも続く。

「……ストーカーじゃないよな?ったく、熱心なヤツだな」

コンビニで顔を合わせた2人。エイジはエボⅩのドライバーの若さに驚く。

「お前さん、歳幾つや?」

「もーちょいで19っす」

「はー……若いなー。その年であの運転はどうやってるか気になってたわ」

「俺は普通にやってるだけっす」

自分でもわかっていない。彼は物凄い高レベルな事をやっているのだと。

「はっはっは!お前さん気に入った!名前なんて言うんや」

「俺は星名夢斗」

「ユウトか……。俺は神谷英次ってモンや。同じランエボ乗り、仲良くしよーな」

「ユウト、お前のエボⅩは見てて気になるトコだらけや。俺が見てもいいか?」

「いいっすよ。特に変えてないけど」

コンビニを出てある倉庫へ向かう。

「シゲさーん!います?」

「おお、エイジか。なんだ、見ない顔じゃないか」

「こんばんはっす」

「俺ちょっと気に入ったんよ。ユウトのエボ見るからさ……」

夢斗のエボⅩがエイジによってチェックされていく。

 

その間に夢斗はシゲと話す。

「夢斗か……。この車が初めての車か?」

「そっす。俺はこれ以外に乗りたいのはないんで」

「シゲさんは何やってんすか?」

「マフラーを作ってるさ。カンで作るんだよ」

「エイジのエボⅤのマフラーも、ブラックバードのマフラーも」

「ブラックバード?」

「そう。かつて首都高を支配した帝王(モンスターマシン)さ……。俺の知ってる人がそいつのチューンに関わってた」

「東京から来たお前は知ってるだろ?」

「いや……知らなかったっす。俺は元々栃木から来たので」

「首都高を本気で走るヤツは一度は見た事がある……そんな車だった」

やがてエボを見終わったエイジが出てくる。

「ホンマに変えてないんやな……。足が違うくらいでEg(エンジン)とかはほぼノーマルだ」

「よくコレでついてきたな」

「コーナリングは俺の得意分野なんで!」

「給排気系すらノーマルとは……せや!シゲさんがエキマニとか作ればええんや!」

「くっく、人使いが荒いな……」

シゲが苦笑いしながら立ち上がる。

「夢斗、今エボのエキマニとか外せるか?」

「OKっすよ」

「シゲさん特製のマフラーはいいで〜。俺が保証する!」

「はっは。さて、やってみますかい」

夢斗がエボⅩのエキマニやマフラーなどを取り外す。

シゲはこれをじっくりと見た後、器材を持ってきて作業を始める。エイジはエボⅤに乗りどこかに行く。

シゲが作業してる姿を夢斗はじっくり見ている。

「こんなん見てて楽しいか?」

「うん。こーやって車を変える物を作るのを見てみたかったからさ」

「お前は本当に変わったヤツだな……。エイジが気に入るのもわからんでもないな」

「変わったヤツってはよく言われます(笑)」

やがてエキマニやマフラーが完成。できたてのパーツをひとつひとつ丁寧にエボⅩに取り付けていく。

そこにエイジが戻ってきた。何やら色々持って。

「コレ、余ってたけど使うか?」

「え、いいんすか?」

「もらっとけもらっとけ。大阪人は助け合いが当たり前やからね」

エイジがどっさりと持ってきたのはエボⅩ用のパーツ。家からパーツを持ってきたらしい。

「昔俺はチューニングショップをやろう思ってたけど……実家を出て行ったオヤジの後を継いで、継母と連れ子のマキの面倒を見ながら借金だらけの青果店を立て直すハメになってな。ユウトみたいなヤツ見るとチューニングショップやりたかった時の事を思い出すんだよ」

「マキ?」

「俺の弟よ……。実の弟じゃないが……大切に面倒見てきた」

「アニキ〜、言わんくていいから」

「おお、マキ。こいつがユウトだ」

「アニキから聞いたで。ヨロシクなユウト」

「こっちこそよろしく。マキさん」

エイジとマキの手も借りながらエボⅩにパーツを付けていく。

 

1時間後、エイジ達が持ってきた様々なパーツを付け、それに加えシゲ特製のマフラーなども付けられたエボⅩが完成した。

「変わっただろ。どうだ?」

「イヤ本当すごいっす。これなら追える!」

夢斗がエボⅩのエンジンをかける。チューンされたエボⅩは比べ物にならないようなエキゾーストノートを奏でた。

「うっはーー!!スッゲー!」

「すっごいるんって来たっ!!」

「やっぱシゲさんすごいワ。コレで夢斗は伸びる」

「エイジ……」

そう語るエイジをシゲは懐かしい思いで見る。

(かつて東京に行った時あっちで見た物を今度は大阪に来た東京からのよそ者に伝えるか……。変わったな、エイジ)

「どうや?一本走ってみるか?」

「ちょーどいいっすね。新しいエボを試したいと思ってた!」

生まれ変わったエボⅩがエイジのエボⅤを追いかけ阪神高速に入っていった。

 

 

 

 

 

 

「いろいろありがとうございました。何から何までやってもらって」

「いいさ。ユウトは若い頃の俺を思い出さしてくれるしな」

「東京で『あの車』を追っていた頃の俺……最も走りに情熱を燃やした時だ」

エイジはあの夜を忘れない。とびきりの舞台(首都高)で最高のライバルと戦えたあの日の夜を。

「せや、これ貼ってけ」

エイジが夢斗に差し出したのは「WORKS-R」ステッカー。

「餞別や」

「何かあったら俺達が助けになる。今度は俺達が現役のお前達を支える番や」

夢斗はステッカーをリアフェンダーに貼り付ける。

「うん、ええナ」

別れ際にエボⅩから顔を出して手を振る。

「世話なりましたー!」

「元気にしてなー!」

銀色のエボⅩは大阪を後にした……。

 

 

 

「なるほど〜これがこの間の無断欠席のワケか!」

「いででででっ!ストップ!タンマっ!」

浩一に頭グリグリされる夢斗。

エイジが友也に呟く。

「普段はこんなノリ軽いヤツなのになぁ。走りに入るとスイッチ入る」

「よくわかります。無謀っていうかなんて言うか……」

エイジが夢斗に聞く。

「ユウト、このエアロってどうした?」

「え?自作っす」

「はー……やっぱスゴいわ」

「シゲさんのマフラーにぶつからないようにアンダーフロア作るの大変でしたから」

シゲが笑う。

「バカヤロー、傷つけたら許さんぞ(笑)」

 

 

 

阪神高速最速の兄弟「神谷エイジ」と「神谷マキ」、そして「シゲ」に会った夢斗。

同じランエボ乗りの2人とシゲに夢斗は何を見つけたのか?

 

 

 

 




同じランエボ乗りの神谷エイジと神谷マキに出会い、夢斗のエボⅩは新次元の速さを得る。
かつて「伝説」を追ったエイジの走りを見て夢斗はどう変わるのか?


ネタ解説です。
・夢斗が制作したエアロ
エアロと言っても、スプリッターやディフューザーですが。夢斗は自宅近くのガレージでこれらを制作しました。
ちなみに実際にそういう物を用意すれば自分でもカーボンパーツは自作できます。
ただ、夢斗が「めんどい」と言うようにアンダーフロアは自作はめちゃくちゃきついです。ぶっちゃけ完成品買った方が早いです。
・エイジ達の夢斗の呼び方
「ユウト」と呼ばれてましたが、これは大阪の人の喋り方が聞こえ方的に名前の発音がカタカナっぽく聞こえるからです(偏見)
「湾岸ミッドナイト」でも大体の人物の名前がカタカナで書かれてるし……。(アキオだとか、零奈は「レイナ」ってなってるし)
・神谷エイジ、神谷マキ、シゲさん登場
「湾岸ミッドナイト」から3人が登場。本編でもアキオ達とのバトルを経験したエイジ。本編後も阪神高速最速の称号を保持。
やがて第一線を引いたものの、気まぐれに阪神高速を流していました。
マキもエイジと共に阪神高速最速を保持していました。
ちなみに文中でもあるように2人は青果店を経営しています。
エイジは仕入れのために東京を訪れ、帰り道で夢斗のエボⅩと遭遇して大阪まで夢斗を連れてきたのです。
シゲさんも本編後もマフラー制作を続けており、今ではマフラー制作だけに限れば国外にも通用する程の腕になっています。
「伝説」のマシンに関わった彼らが夢斗のエボをチューンしたのです。
・夢斗のエボⅩ
今回、夢斗のエボⅩの進化の秘密が明かされました。
夢斗自身が発言してるように空力面の改善がメイン。エンジンも多少チューンされました。主にタービン変更などが行われてます。
時系列としては「STAGE3数日前(足回りやエンジンのチューン)→STAGE2終盤(スプリッターなどの制作及び装着)」です。
なお、モデルになった車両は存在しません。強いて言うなら「グランツーリスモSPORT」に出てきたGr3のエボをベースにしてストリート仕様にした感じです。見た目は「湾岸ミッドナイトマキシマムチューン」に登場するエボⅩが装着できるエアロセットFが近いです。ただし、アンダーフロアはもちろんカナードなどがないため完全再現は出来ません。ボンネットはFRPボンネットA。


湾岸マキシで夢斗仕様を再現するのに必要な物
・クールシルバーメタリックのエボⅩ
・エアロセットF
・FRPボンネットA
・エアロミラー
・GTウイングC

これらの組み合わせで再現出来ます。ただしホイールの「RAYS GLAMLIGHTS57CR-X」がマキシにない、フロントバンパーにカナードがない、リアバンパー形状の違いなどからあくまで「再現」ですが。







夢斗のエボⅩは「伝説」を追った者達の手でチューンされた。
走りに情熱を燃やした男達の思いを乗せて進化したエボⅩは首都高で輝くマシンになった。
夢斗は咲耶のエボⅨを追えるのか?




エイジ達の話し方が関西弁ぽくなったか不安です……。
そこは許してください……。
次回はバトルはなしです。


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STAGE4 誕生日(バースデイ)、天才同士の出会い

バトルなしです。(重要)
今回日常回です。日常書かないと物語進めないし……。
……嘘です、私が書きたかっただけです(直球)
豆知識もあるよ!(100%いらない)

今回はアイマス以外の作品とのクロスオーバーあり。
「混ぜんな!ぺっ」という方はブラウザバックをオススメします。


俺は星名夢斗。今日はイ〇ンに出かけている。何故かって?今日は俺の誕生日だから自分への誕生日プレゼントを買うんだよ。一人暮らしだからプレゼントは自分で買う。

え?ボッチじゃんって?うっさい、ボッチって言うな。

残念だが、俺はボッチでは無い。友人といるからだっ!

「夢斗君、何買うか決めたの?」

俺は夕美と来ていたからだっ!

夕美と誕生日が同じ俺。どうやら夕美も俺と同じ理由で来たらしい。

友人じゃなくね?って思うだろう。俺にとっては「話し相手」だからね。だが同じ目的でここにいる以上、「友人」って見ていいじゃん。(手のひら返し)

浩一?あいつは今日来ない。あいつはFDをいじるって言ってた。何かこの間大阪行ったあと俺のエボⅩより速くなると言って対抗心が出たらしい。

とりあえず浩一の話題はここまで。(無慈悲)

俺は自分の誕生日プレゼント買う事と夕美への誕生日プレゼントを考えなければいけない。女の子の誕生日にプレゼントやらないは俺はイヤだ。

決して夕美に頼まれて仕方なく買うワケじゃないぞ。(真実)

 

「あー……花瓶とか?」

「いいね!どんな感じ!?」

ええ。適当に花瓶って言ったらそれOKかよ……。やべ、思いつかねえ。

「えー……わからん」

「ちょっと!?決めてから言おうよ……」

あーあ。こりゃ呆れられるわ(今更)

とりあえずちゃっちゃと決めて俺のプレゼント買おう。

 

 

「うっはー!!いい感じ!!」

浩一はご機嫌だ。FDのチューニングが終わり新品のエアロが付けられて見た目が変わったFDを見て機嫌がいいのだ。

「うし、ちょっと走りに行くか」

浩一はナラシがてらイ〇ンに行く事にした。

 

 

何だかんだで花瓶を買った夢斗。

「最近はこういうオシャレな物あるんだな……」

「花を引き立てるいい感じのデザインだね」

「そうだ!夢斗君お腹空いてない?」

「腹減ったなー。夕美腹減ったの?」

「私はそんなに。夢斗君がお腹空いてないかなって思って」

「ちょうどいい時間だし、ご飯食べよっか」

フードコートに2人は入っていく。

 

いろんな店を見て回るがとにかく人が多い。栃木のイ〇ンでもこんな人見た事ないぞ。

「人が多すぎだろ……」

これしか言えない。人がうぜえ(本音)

俺は無難にす〇家で牛丼を食べる事にした。栃木ではラーメンをよく食べてた。親がラーメン好きだからね。影響を受けた。

ファッションは影響受けないのに食には影響を受けるのはなんで?(哲学)

せっかく東京いるわけだし変わった物食おうと思っただけだ。まあ牛丼も栃木で食えたけど。

「おねーちゃん、これ食べようよ!」

「全く……」

「あはは……」

隣のサーティ〇ンにも人が多い。デザートに食おうかな……。てか、夕美食うかな。

程なくして呼ばれた。完成したら注文した人を呼ぶあの機械に小さい頃はびっくりしてたもんだ。だっていきなり音が鳴るしぶぶぶぶってなるじゃん。(ビビり)

牛丼(大盛り)を食べ終わった。こっちの牛丼もウマい。栃木で食ってたやつより美味い。

牛丼はラーメンと比べるとちょっと安い。栃木ではラーメン食ってたけどそれは親のせい。自由に食べれるなら牛丼とか食うし。

夕美はパスタを食い終わったとこだ。

パスタとラーメンだったらどっちが得なのかね?誰か教えて。

「アイス食う?」

「じゃあいただきます」

女の子に奢らせるワケにいかないからね。俺が払いそれぞれのアイスを食べた。

 

 

「夢斗君はこれからどうするの?」

「俺は特に。ちょっと遊びたいくらい」

「私は少し買い物したいかな。明日の撮影の為に必要な物買いたいから」

「どーする?」

「1時間後にここ集合でいいかな?」

「おっけー」

俺は夕美と別れ、ゲーセンに向かう。

音ゲー好きなんでね。音ゲーは俺にとって日課みたいな物だ。

 

 

浩一がイ〇ンに到着。このまま帰ろうと思ってたが、飲み物が冷蔵庫に入っていなかった事を思い出し買い物する事にした。

牛乳やファ〇タをカゴに入れる。

「ちょっと高くね?」

浩一の地元群馬県はよくセールをやってた事もあり、値段の高さに混乱していた。

 

 

「津上君?」

俺を呼ぶ声。振り向くと……。

「相葉ちゃん!?」

相葉ちゃんがいた。どうして。

「相葉ちゃんはなんでここに?」

「今日誕生日だからプレゼント買いに来てたの。そしたら夢斗君と会って」

「夢斗もいるのか……。あれ?夢斗は?」

「遊んでくるって」

「はー……」

「津上君はどうしてここに?」

「あっ、俺は飲み物買いに……」

この後会計した。やっぱ東京の物の値段高くないか……?

 

 

「部活動どうなの?」

「楽しいよ。部長さんはいい人だし……」

やべえ、相葉ちゃんと歩けてる。こんな体験まず出来ねえよ。

相葉ちゃんやっぱり可愛いな……。あっ、花の香りがする(馬鹿)

「いい人か……。私のプロデューサーもいい人なんだ。ただ、ちょっと優しすぎる気もするけど……」

「へー……」

「でも、プロデューサーは私の1つ上なの」

「えっ」

「今日で私と夢斗君が19歳。もう少しでプロデューサーは20歳」

「去年来たばかりの新人だったの。前のプロデューサーが事故で亡くなったから代わりに」

「へえ……?」

相葉ちゃんのプロデューサーは何者なんだ。もう少しで20って今は俺達と同年齢か。優しすぎるし、しかも「事故で亡くなった」前のプロデューサーの代わりってなに。

「今はレーサーとして活躍してるの」

「レーサー!?誰、マジで」

「名前はーーー」

 

 

ここは346プロダクション。

「っくしゅん!」

「大丈夫?風邪じゃないといいけど……」

「何だろう……?」

突然くしゃみが出た。アイドルが青年を心配する。

 

 

 

夢斗はゲーセンにいた。太鼓の達人をするためだ。

「そーいや、なんで俺アイドルと普通に買い物してんの?」

今まで気にしてなかったが、冷静になると何故現役アイドルと一緒に買い物していたのか。しかも一般人の夢斗と一緒にいる所を週刊誌に撮られた物なら確実に文〇砲が飛んでくる。

 

もしこれが事務所に知られたなら俺は確実に呼び出されるよね。責任取れとか言われるよね。

これ以上考える前に俺の番になったので考えるのをやめた。

 

「っしゃー!さいたま2000!!」

張り切ってやろうとしたら突然女の子が入り込んできた。サーティ〇ンにいた子だ。

「はっ?」

一言何か言ってから入ってくれ……。

だが後ろに順番待ちの人だっている。そんな状況で1人でやるのも悪い。

仕方ないので女の子も入れる。再び気合いを入れ直して「さいたま2000」のおにを選択。すると女の子もおにを選ぶ。

「……ふう」

絶対泣かす。勝手に入ってきた事を後悔しろっ!

 

かなり速いBPMの「さいたま2000」。登場当初はレベルが他と比べるとケタ違いだったために★10なのだが、★11とも言われていた事があった。だが、ナンバリングが進む事に難易度は下がり、新筐体になってからはついに★7まで下げられた。

クリア自体は前半で稼げればOK。しかしフルコンを目指すとなると話は変わる。

 

「くっ……」

腕がキツイ。のに、隣の女の子の顔は余裕があるように見える。

「ーーーーーっ!!」

 

結果発表。

お互いフルコン。スコアは僅かに俺が勝った。けど、隣の女の子の余裕そうな表情を見て、闘争心に火がついた。

ぜってーその表情を変えてやる!!

 

夢斗が選んだのは「やわらか戦車」。

当時、ブームにもなったアニメのテーマだ。

夢斗はこれの裏おにを選ぶ。

ドンだーなら誰もが知る裏譜面の怖さ。連打が一切なく、16分音符がほぼ休みなく流れてくるのだ。その数なんと381個。しかもそれが2回も流れてくるのだ。

その高難易度故にドンだーからは「重戦車」や「やわらかくない戦車」という通称で呼ばれる。

旧筐体では難易度は★10だったが、新筐体では★9に降格している。

かつてはバラエティジャンルではトップクラスの難易度を誇り、最大コンボも889コンボと最多だった。とはいえ今でも難易度は高い。

 

「しゃっ!」

俺は気合いを入れてバチを握る。

そして始まる体力勝負。

「うおおおおおお!!」

凄まじい勢いで太鼓を叩く。目でどんとかっ

を見分け、反射的に手を動かす。

一瞬だけある間を使い隣を見ると女の子の顔は変わってない。

なんだ……やっべ、意地でもその表情変えてやるぜコラァ!

 

夕美と浩一はゲーセンの前に来ていた。

「相葉ちゃんも遊ぶの?」

「んー、たまにかな?」

浩一は人だかりを見つける。

「なんだ……?」

気になったので2人は人だかりの隙間から見える光景を見る。すると見覚えしかない顔が見えた。

そこには物凄い雄叫びを上げて太鼓を連打する青年と少女が見えた。

「うおおおおおおあああああ!!」

「負けないよーーーーーー!!」

物凄い高レベルで張り合う2人。

この人だかりはこの2人のプレイを見ていた人達がだんだんと数を増やしていたのだ。

「!?」

「夢斗君!?」

思わず夢斗を呼ぶ夕美。だがその声は聞こえていないらしく、連打の勢いは変わらない。夢斗の目は据わっていた。

「何この高レベルの争い……」

「あんな叩けるなんて……やべえ」

「気合い入りすぎでしょ……見てて恥ずかしい」

ギャラリーの声は様々。

とりあえず今夢斗を呼んだら自分達が知りあいと思われるのが嫌だ。終わるのを待つ。

 

数分後。

「「どうだ!!」」

2人が同時に叫ぶ。スコアは……。

「「同じ!?」」

まさかの同点。連打がなかったために良判定が多い方が勝ちなのだが、なんと2人は全良していたのだ。

「「るんってきた!!」」

「「え?」」

全く同じリアクションの2人は顔を見合わせる。

「るんってなんだよ!?俺のパクんな!」

「あたしのだよ!?あたしのパクんないで!」

大喧嘩に発展する。

「つーかお前なんであんな上手いんだよ!!」

「だってできるもん!!」

「それ言ったら俺もそうだわ!」

とんでもない理屈を言い合う2人。周囲の視線を気にせずに言い合う。

だが、それも程なく終わる。

「日菜!何やってんの!?」

「おねーちゃん!?」

「夢斗君!!やめて!」

「げっ!夕美!?」

それぞれ引っ張られていく。そして仲良くお説教。

「すみませんでしたあああ!」

「おねーちゃんごめん〜!!」

「紗夜……許してあげたら?」

「相葉ちゃんストップ!」

だがそのお説教も強制終了だ。

「あれ、アイドルの相葉夕美ちゃんじゃ……」

「そっちもアイドルの氷川ちゃんじゃない?」

人が今度はこっちに集まってきた。

「あ、人違いです!!」

「なんで変装してないの!?」

「え〜、めんどくさいし」

慌ててこの場から逃げるように離れるのだった。

 

 

「すみませんでした!日菜が迷惑かけて!」

「こちらこそ夢斗君が迷惑かけてしまってごめんなさい!」

夢斗と張り合ってた女の子の姉と思われる女性と夕美がお互い謝っていた。

「おねーちゃんがなんで謝ってるの?」

「……!!」

夢斗と張り合ってた女の子が姉に睨まれ口を閉じる。

「夕美ー、なんでよ?」

「夢斗君はちょっと静かにして!」

「アッハイ」

夢斗も夕美に黙らせられる。

「2人共太鼓の達人上手いなー」

浩一が言う。だが……。

「「え?」」

何言ってんだ、という目で見られる浩一。

「ちょま、どういう事……?」

2人は全く同じ答えを浩一に言う。

「「フルコンよゆーでしょっ」」

2人だから言える答えに浩一は気が遠くなるのを感じたのだった。

「なんなんだ天才って……」

 

 

 

 

 

彼女達と別れた後。

3人は歩いていた。とても気まずい雰囲気である。

「夕美ー、悪かったって」

「もう、夢斗君は……っ」

「そもそも私達より一個下の女の子になんで張り合うの?」

「俺は負けず嫌いなんで」

「だからってあんなしなくてよかったじゃん!」

「すみまソーリー」

ふざけた夢斗を見る夕美。笑顔だが何か背後から出てる。夢斗も思わず謝る。

「……ふざけましたすみません」

「誕生日なんだし……ちゃんとお祝いしたら許してあげる。夢斗君の家で」

「すまん夕美なんて言った」

「夢斗君の家でお祝いしようって」

これは本当にやるつもりだと夢斗は思ったが考える事をやめた。

 

「夢斗君の車に乗るの初めてだよ〜」

「俺も誰か乗せるの初めてだわ」

夢斗のエボⅩに夕美を乗せて出発する。

 

「寂しい……」

浩一は自分しか乗ってないFDを走らせるのだった……。

 

 

 

数十分後。

夢斗の家に着いた。マンション近くにあるガレージにエボⅩを閉まって部屋に入る。

ワンルームマンションであるが、それなりに広い部屋だ。ただ。

「物散らかりすぎじゃね?」

浩一が部屋を見て一言。

一応ゴミ屋敷みたいな事にはなってないがいろんな物が床に散らかってた。

「そう?」

「汚ねえよ」

浩一は普段から部屋は綺麗にする事を心がけてるために夢斗の部屋が汚く見えるのである。

「掃除しろよ……」

「えー、こっち来て忙しくて整理できてねーもん」

「え?これ引越し荷物なの!?」

「にしてはいらない物多いぞ……」

 

 

 

夢斗が適当に食べ物を作りそれをみんなで食べた。

「主役がそんな動かなくても……」

「いや、お前が作った飯食えるか心配」

「ちゃんと自炊出来るからな!?」

「つーか夕美が作ればよかったんじゃね?」

「相葉ちゃんが主役だろ……。相葉ちゃんに料理させるなら俺がやる」

「私は料理得意だよ?」

「だってよ浩一」

「相葉ちゃんは座ってていいから……」

 

 

 

ご飯を食べ終わった後にはプレゼントタイム。

「さて、お待ちかねの誕生日プレゼントはなんだろな」

「お前それ目当てだろ」

「当たり前だよな?」

「違うだろ」

「まず夢斗君に……ジャーン!」

夕美が取り出したのは花のストラップ。

「車の鍵に付けれればいいかなって!」

「お。鍵に何か付けたいって思ってたから……サンキュー夕美」

「えへへ……」

今度は夢斗が渡す番。

「選んでる時に見られてるからバレバレだが……花瓶。大事に使ってくれよ」

「うん!大事にするからねっ」

最後に浩一が夢斗と夕美にそれぞれプレゼントを渡す。

「まず夢斗。お前にはこれ」

浩一が渡したのは芳香剤。

「え……なにこれ」

「芳香剤だけど」

「……多分使わずに置いてると思うぜ」

「いらねえならよこせ。FDに付ける」

「嘘だって!貰っとくよ」

その次に夕美に渡す。

「相葉ちゃんにはこれ。飾ってくれたらいいかなって」

浩一が渡したのは花束。

「すごい……っ!ありがとうね津上君!!」

「そう言ってくれると嬉しいよ」

「俺と態度違うんだけど……」

「知るか」

 

 

 

ちなみに夢斗が自分へのプレゼントとして買ったものは新しい腕時計。

夕美はエプロンを買ったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そーいえばプロデューサーの誕生日近いよね」

「プロデューサーが来てから初めて誕生日を迎えるのかー」

「ここに来て初めてか……。サプライズしようよ!」

346プロのアイドル達は盛り上がる。

 

 

 

 

 

 

天才同士は様々な所で共通点がある。

他人を理解出来ず、かつ自分は他人から理解されない。

夢斗は今日を他人といる事で「誕生日」を理解された。他人の「誕生日」を理解した。

夢斗の日常に「他人」が関わり夢斗を変えていくーーー。




ほぼ100%私の趣味が出てます。
なお、東京の物の値段は私が住む山形と比較しての感想です。実際どうなんですかね……?

ネタ解説です。
・太鼓の達人
夢斗がやっていた太鼓の達人。夢斗は自作したマイバチも持っていますが、ここでは持っていませんでした。
なお、この物語は2012年という設定なので筐体がバナパス対応の新筐体になった直後の「〜ver」と付く前の「太鼓の達人」となっています。(稼働開始は2011年11月16日)
2012年7月に「KATSU-DONver」にアップデートされてますが、ここではまだ4月なので最初期のバージョンです。
・氷川日菜、氷川紗夜、今井リサ登場
「バンドリ!」から「パステルパレット」から日菜、「Roselia」から紗夜とリサが登場。
あくまでゲスト登場です。これは前作「疾走のR」から続いてます。前作では「羽沢つぐみ」、直接の登場は無かったものの「若宮イヴ」が登場してました。
日菜は夢斗の性格や天才設定の元にもなっているので登場させたいと思っていました。この物語でもやはり天才の日菜。
紗夜は原作よりもかなり柔らかい性格です。
リサはほぼセリフが無いものの、面倒見がいい所は原作通り。



今回、「バンドリ!」の人物達と交流がありました。
特に「氷川日菜」は夢斗と同じ「天才」であり、そして「他人を理解できない、自分は他人から理解されない」という所も同じです。
ただ、それについての捉え方は2人それぞれ違います。
日菜はプラスに受け入れてるのに対し、夢斗はそれを自身を傷つけている物と考えてしまってます。
考え方が正反対の2人は何か通じる物があるのです。が、それは2人にしかわかりません。






ちなみにどうでもいいのですが皆さんは太鼓の達人はどれくらいできますか?私は「モモイロver」からやってます。
しかし、私はおにがほぼ出来ません……(下手)







次回、「L'Antica」結成!
咲耶は何を思うのか?


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STAGE5 運命の鍵を回す時

咲耶と遥のスカウト活動は前途多難!?
遥は無事にアイドルを集められるか!?
そして……「L'Antica」結成!!


咲耶が283プロのアイドルになって数日が過ぎた。

遥1人で頑張ってスカウトしてきたアイドル達と顔を合わせる。

「やあ、君の名前は?」

「私は……幽谷霧子」

「霧子か……私は白瀬咲耶。よろしく頼むよ」

今日遥がスカウトしてきたのは2人。

「放課後クライマックスガールズ」のメンバーになった「小宮果穂」とそして「幽谷霧子」の2人だ。

 

 

 

「あと1人……!!」

そう言う遥の顔は疲れが出ている。

「プロデューサーが無茶して体調を崩したら元も子もないさ……。休んだらどうだい?」

「咲耶さん……ありがとう。でも……」

遥は無茶をしていた。霧子も心配そうに遥を見る。

「プロデューサーさん……休んでください」

「ま……まだここからですから」

そう言っている遥の足はふらついている。歩こうとした途端、バランスを崩して転びかける。霧子と咲耶が慌てて支える。

「こんな状態ではムリだ!プロデューサーが倒れたらみんなどうすると思う!?」

咲耶が遥を叱責する。

「アイドルに怒られるなんて……私はダメですね……。すみません、少し休みます」

咲耶が遥をソファまで連れていき寝かせる。

「プロデューサーは無理しすぎだ……。いくらなんでも1人ではあんな量の仕事こなせるわけがない」

「あと1人か……」

咲耶は遥のデスクに置いてあったユニット編成案を見る。

「あとは私達のユニットだけか……」

ユニット仮名「アンティーカ」。ユニットメンバーは自分も含め現在4名。

白瀬咲耶、三峰結華、田中摩美々、そして今日スカウトされた霧子の4人。

だが、遥が言うにはユニットのリーダーになるようなメンバーがいないとの事。

「どうするのかな……」

「大丈夫さ。プロデューサーは仕事はきっちりやる人だからね」

結局今日のスカウトは中断する。

 

 

 

 

数日後、再びスカウトするため街へ出た遥。この間と違い、咲耶も一緒だ。

「目立ちやすい咲耶といたら人が来るかも」という遥の提案だ。

「……まあ人は来るだろうし」

「すみません……」

 

 

数時間街を歩いたが、スカウトに応じる人はいない。

明らかに咲耶目当てで近づく人が多い。遥がスカウトの話をすると退散してしまうのだ。

「うう……」

「私は大丈夫だ。最後まで頑張ろう」

 

 

 

さらに頑張ったが結局今日スカウト出来た人はいなかった。

「明日も頑張らないと……」

「そうだね。私も支えになるさ、プロデューサー」

重い足取りで事務所に向かう2人。2人は明日の確認をした後に事務所を後にする。

 

 

 

 

 

 

PM10:20。

首都高に2台はいた。

「さて、行くか!」

咲耶のエボⅨが闇を切り裂いて行く。

「咲耶さん……」

遥のインプレッサがその後に続く。

遥はある程度の実力を持つ首都高ランナーだ。咲耶には及ばないがそれでもその辺の走り屋には負けない実力を持つ。

遥のインプレッサは水平対向エンジン特有のサウンドを響かせて先を行く黒いエボⅨを追う。

2人は2時間程首都高を走ったのだった。

 

 

 

 

翌日。今日は遥1人で街を歩く。

咲耶だって大学生だ。授業を欠かす訳にはいかない。咲耶自身は問題ないと言っていたがやはりアイドル業と学業の両立ができないといけない。咲耶を学校に行かせ自分1人で来ていた。

「足がパンパン……」

一日中歩いている事がココ最近ずっとだ。かなりツラい。

「ふう……」

遥は休憩のために電化製品店の前で立ち止まる。

見本として置かれてるテレビではニュースがやっていた。今はスポーツ関連のコーナーだ。

サッカーの特集の後に少し変わったスポーツのニュースが流れてきた。

「さて、次は『アイドルのレースデビュー』です!」

「346プロダクションのアイドル原田美世さんがスーパーGTでドライバーとしてデビューしました!」

「原田美世……?」

遥は聞いたことない名前に首を傾げる。

「フ〇テレビの取材陣は彼女にインタビューを行いました」

「デビューが決まった時の気持ちは?」

「いやー……!とにかく嬉しいとしか言えなかったです。小さい頃からずっと目指してたので」

「小さい頃からですか……。美世さんは全日本カート選手権に出ていたと聞きましたが」

「はい。優勝はできなかったけど何回か入賞はしましたね……。家庭の事もあって途中でやめてしまったけど」

「来週デビュー戦ですが意気込みをどうぞ!」

「あたしにとっては憧れの舞台で走れる事がとても嬉しいです!そこでの走りで自分の持つ物全部出してきます!」

美世のインタビューが終わり、美世の所属する「MOTUL」の監督鈴木一義のインタビューが流れる。

「原田さんはとてもいい腕を持っています。まずは我々が夢を叶えた彼女の支えになれたらいいなと思っております」

 

インタビューが終わり、レースの映像が流れる。

「おおっとっ!34号車が5番手の38号車ZENTSC430をオーバーテイクしていくっ!!」

テレビの中では赤いGT-RがSC430をインから追い抜くシーンが流れた。

「34号車のドライバー原田は今日このレースが初陣です!しかし彼女の走りはとにかく高レベルだっ!」

「あーーっとっ!ここで行くか34号車!!スリップストリームから出て前を走る32号車EPSONHSV-010を抜きにかかるっ!」

これが初めてのレースだと言うのか。GT-Rを駆る彼女の走りは熟練の走りその物。

レースの映像が終わった後に結果発表。美世のチームMOTULは結果4位。

レース終了直後のインタビューも流れる。

「初レースどうでしたか!」

「やっとこうやって走れてとても嬉しいです!!」

そう語る彼女の顔は笑顔でいっぱいだった。

 

 

 

 

翌日、朝からオーディションを開催した遥。

さすがにキリがなかったため、オーディション開催に踏み切った。

オーディションを受けに来た人たちを見て色々説明していく。

やがて人を呼ぶのは最後になった。

「どうぞ」

部屋に入ってきた女性。

「失礼します!月岡恋鐘、20歳ばい!あっ……です!今日はよろしくお願いします!」

「ええ、よろしくお願いします」

「それと今回はあなたの良さを知るための審査なので方言とか気にせずに話しやすい喋り方でいいですよ」

「え?よかと?助かるわ〜、標準語は変に緊張するけん、うちの実力を出し切れんもんね〜」

「なるほど……それは楽しみですね。じゃあまずは出身から聞かせてもらいましょうか」

「うん。うちは〜、長崎の佐世保出身!上京してきたばっかやけんちょっとまだ訛りがでるんよ」

「長崎ですか……行ったことないですね」

「ホント!?もったいなかよ〜それは!長崎はば〜りよかとこやけん、絶対来るべきたい〜!」

「うちん地元は魚が新鮮で美味いし、人はみんな優しいしホントよかとこばい〜!」

「あなたの話を聞いているとなんだか行ってみたくなりますね……」

恋鐘は嬉しそうに話す。

「んふふー。そうやろ〜?うち、こういうコメント?みたいなんも得意なんよ〜」

(なんだか、すごい楽しそうに話す人ですね。それに自信に満ち溢れている所もいいですね)

遥は恋鐘の話し方に興味を持つ。

「それでは次の質問です。今日はどうして283プロを受けてくれたんですか?」

「それは……うち、絶対アイドルになりたかけんね!やけん、オーディションは全部片っ端から受けとーよ」

「と言うことは他のオーディションも受けてるって事ですか……。結果って聞いても大丈夫でしょうか?」

遥が聞いた途端、恋鐘のテンションが下がる。

「それが……なぜか、全部不合格やったばい……」

「え……全部……。それで……へこんだりしないんですか?」

再び聞くと今度は恋鐘のテンションが上がる。

「え?まっさか〜!そんなもんするわけなかよ〜」

「うちはアイドルになるために生まれてきたけん。オーディションに落ちたくらい、なんてことなか!落ち込んでる暇があったら、練習練習ばい〜!」

遥は恋鐘の考え方に感じる物があった。

(なるほど……。元気で自信満々なのはアイドル向きですね。どこか人を引きつけるような魅力がある……)

そして遥は決断する。

「……よし!決めました!月岡恋鐘さん。いきなりですがオーディションは合格です!」

「私があなたをトップアイドルにしてみせます!これからよろしくお願いします!」

聞いた恋鐘の表情は驚きと疑いが混ざった表情。

「え……ホントに?ホントにホント?」

そして喜びに溢れた表情に変わる。

「や、やったー!とうとう、うちもアイドルばい〜!」

「よ〜し、うちがアイドルになったからにはあっという間に1番になるけん、まかせとってね〜!」

「ええ。期待してますよ、月岡さん」

「月岡さんって……なんだかくすぐったかね……。うちのが年下なんやし、恋鐘でよかばい〜!」

「えっ」

「?」

遥が驚く。

「あれ、月岡さんって20歳ですよね……?」

「?そうばい」

「私より年上なんですよ……」

「ええ〜っ!?うち、ずっと年上って思ってたばい!」

「私は今年で19歳です……」

「……んー、いいけん!恋鐘でいいばい!」

「……はい!じゃあ、改めてこれから一緒に頑張りましょう!恋鐘さん!」

「うん!うち、ばりばり頑張るけん、よろしゅう頼むばい!プロデューサー!」

 

 

 

 

遥は「月岡恋鐘」をスカウト。

その日の夕方にはリーダーが決まってなかったユニット「アンティーカ」のメンバーも決めた。リーダーは恋鐘だ。

 

 

 

翌日、「アンティーカ」のメンバー達は顔合わせ。

「うちは月岡恋鐘!みんな、よろしくばい〜」

まずは恋鐘が自己紹介。

「どうも、三峰です!……あ、三峰結華って言うの!三峰って呼んでね〜」

「私……幽谷霧子。皆さん、よろしく……お願いします」

「霧子〜!全身ケガしてるばい!」

「これはケガしてるわけじゃないんです……。でも……包帯の理由は……秘密です♪」

「よかったばい……」

「わたしー、田中摩美々。テキトーにやってくんでよろしくー」

最後は咲耶だ。

「私は白瀬咲耶。アイドルとして全力を尽くしたい!」

気合いの入った紹介に恋鐘と摩美々が反応する。

「咲耶〜!うちらみんなで頑張るたい!!」

「めんどくさい系〜?」

そこに結華が提案する。

「そうだ!三峰はみんなをあだ名で呼ぶんだけど皆はあだ名で呼ばれてもいい?」

「うちは大丈夫たい!!」

「私もいいよ……」

「テキトーに呼んでもいいですよ〜」

「私は構わないよ」

「それじゃ、こがたん!」

「それ、うちの事?」

「ピンポーン!」

「次にまみみん!」

「まみみはそれでもいいですよ〜」

「次にきりりん!」

「私かな……?」

「最後に〜さくやん!」

「なるほど……」

こうして、顔合わせして盛り上がる一同。

そこに遥が来た。

「皆さんはユニットの名前はこれでいいですか?」

「はい!三峰、提案があります!」

「結華さんどうぞ」

「アンティーカってのはイイよ!でもカタカナって感じじゃないんだよ!」

「英語って感じがいいと思うんだ。Pたんどう?」

「英語……ですか。いいですね」

「結華〜どう書くばい?」

「オシャレでかっこいい感じがするように……うん、いいかも!」

結華が紙に書いた文字は「L'Antica」。

「わあ……かっこいい」

霧子が呟く。

「いいんじゃないですか?」

摩美々が興味なさげに言う。

「ばりかっこいいたい!」

恋鐘がキラキラした目で見る。

「いいね……結華」

咲耶も微笑む。

「でっしょー!?」

書いた結華も満足げだ。

「Pたん!どう!?」

遥に聞く。

「なるほど……皆さんはこれでいいですか?」

「もちろんばい!」

「まみみはいいですよ〜」

「いいですよ……」

「賛成だ」

遥が告げる。

「皆さんのユニット名は『L'Antica』で決定です!」

「やっぱりこういうのが決まると気合いが入るよ〜!」

恋鐘が遥に聞く。

「それでっ、うちらはどう活動するたい?イメージはどんな感じたい!?」

「……決まってないです」

「えっ」

「5人でユニットを組むってしか決まってないんですよ……」

「ええ〜っ!?」

 

 

 


 

 

 

 

次の日、休みを使い5人でカラオケに行っていた。

「お互いを詳しく知ろう!」という結華の提案だ。

「わあ〜、きれいで広か部屋やね。このカラオケボックスは当たりばい!」

「ふふ、確かにこれならみんなでゆったりできそうだ。さて、誰から歌う?」

恋鐘が手を挙げる。

「はいはーい!うちから歌ってもよか?」

「まずはうちが盛り上げると!みんな続くたい!」

「うちの故郷、長崎を歌った演歌から〜!いっくよ〜!」

 

「さすがこがたん!聞かせる歌って感じ」

「恋鐘ちゃん、上手だった……」

「そう言ってもらえると嬉しか!この歌、うちの十八番のひとつやけん!」

「さあさ、みんなどんどん入れてくたい!……あー!結華、それよかねー!」

この後それぞれが得意な曲を歌っていく。

 

 

 

「あれ?きりりん、まだ歌ってなくない?」

「そ……その……わたし……みんな、上手だなって……」

「それは嬉しいな。でも、霧子の歌も聴いてみたいよ」

「おーっ!今度は霧子の番とね。待ってたばい!」

「あ……あの……うん……よし……!」

霧子がリモコンを操作し、曲を入れる。

「よ……よろしく……お願いします!……1、2、3〜♪」

 

 

「「「「おお〜!」」」」

「へぇ、ゴシック系……と言えばいいのかな、意外だけど、霧子はこういう曲が好きなんだね」

「うちはこがん曲あまり聴いたことなかったばい!でも、かっこよかね!」

「私はちょうどこういうの、時々聴いているんだ。結構好きかな」

 

 

結果、皆このような曲が好きな事が判明。

「割とみんなの共通項だったり?やー、まだまだお互い知らないこともあるんだねぇ」

結華が言う。

すると突然、恋鐘が言う。

「うち、これでやってみたか!」

「……?」

「ユニットのコンセプトばい!うちらはゴシックでやっていきたか!」

恋鐘の提案に咲耶がノる。

「なるほど……!それはいい考えかもしれないね。衣装にも色々とこだわりが出せそうだ」

霧子が聞く。

「わ、わたしは……そういうの、好きだけど……みんなは……いいのかな……」

すると摩美々が一言。

「……みんな、いいって言ってるんだと思うケド」

結華も言う。

「そうそう!共通の趣味を見つけるって難しいし、これはきりりん大手柄だよ!」

「よし、決まりたい!うちらのユニットのコンセプトは、ゴシックばい!」

これからさらに話そうとしたら、時間になった事を伝える電話が鳴った。

5人はファミレスに行き、アイデアを出し合った。

結果、イメージが固まり衣装の制作もスタート。

トラブルもありながらも、5人は互いを支え合いながらレッスンを続ける。

 

 

 

 

 


 

「……希望を謳う、か。私にとっての希望は……あの銀色のクルマを操る彼」

咲耶はエボⅨの前に立ち、心境を愛機に打ち明けるかのように呟く。

「彼は……気づいてない。周りを大きく動かす力を秘めている」

青年(夢斗)は確実に「大きな波」を呼び寄せる存在。

「彼を追ったら……私はあの車を超えれるかい?」

自分の中で何かが動き出そうとしている。

運命の鍵を回せーーー。

「私は変わりたい。彼は私を変える、そんな存在なんだ」

翼で希望へ翔べーーー。

 

 

 

 

 

 

 

彼女は、1年前に「伝説」に敗れた。

スピードの神に反逆し、そして愛されたスピードの化身。当時誰もが成しえなかった圧倒的なパワーを持った「悪魔」と呼ばれた存在。

彼女は呆気なく敗れた。異次元の如きスピードの前には為す術もなかった。

彼女はその「悪魔」と呼ばれた「伝説」に敗北した事で、「伝説」への複雑な想いを抱え続けた。

あの車の前を走るーーー。

それだけを願うも、叶わなかった。

 

 

 

 

でも……。

今ならそれが叶うかもしれない。

彼は私の中の「何か」を変えてくれた。

「何か」は言葉では表せない。けど、私自身を変えたのは事実なんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「L'Antica」が結成されて咲耶はアイドル活動を本格的に始動する。

遥と共に先の見えない空を目指す。

 

 

 

 

星名夢斗、白瀬咲耶の2人は出会う。

2人の目的は違えど、同じ舞台で共に走る「仲間」であり、そして馴れ合わない「相手」同士ーーー。

夢斗を「希望」として見る咲耶。彼女は夢斗を「伝説」に匹敵する存在として目指す。

 

 

エボを操る2人は首都高を大きく動かす「革命者」として「革命」を巻き起こし、やがて「伝説」になる。

革命伝説の鍵は今、開かれるーーー。




咲耶、本格的にアイドル活動スタート!
そして……物語は動き出す。


ネタ解説です。
・283プロのプロデューサー「瀬戸遥」
オリキャラの少女。前作「疾走のR」の主人公「小日向蓮」と同じくプロデューサーです。ただ、主役ではありません。
性格としては「マクロスデルタ」の「ミラージュ・ファリーナ・ジーナス」みたいに真面目な性格だがそれ故に融通が利かないです。
また、苦労人でもあり摩美々のいたずらに引っかかる、ぶっ飛んだ個性を持ったアイドル達に振り回される事がとにかく多い……。
しかし、どんなに苦労しても必ず最後まで自分の信念を曲げない強い意思を持ってます。
・L'Anticaの結成
今回ついに結成されたL'Antica。
ここでは結華が名前の文字を決めた事になってます。この物語では結華が物語を動かすきっかけを作るような人物になっています。
なお、カラオケに行く流れはシャニマスのイベント「廻る歯車、運命の瞬間」が元です。詳しく見たいならシャニマスやろう!(宣伝)



L'Antica結成。
咲耶は夢斗との出会いで何かを感じた。一方夢斗も咲耶や浩一達との出会いで嫌っていた「他人」への関わり方が変わっていく。
2人の出会いは偶然か必然か。
2人の出会いから始まるこの物語は首都高を走り続けた者達も動かしていく!




今回、少し書き方を変えてます。
試しに水平線を入れてみましたがどうですか?意見をください!




「革命伝説始動編」完


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流星の帰還編
STAGE6 舞い戻る流星


新章突入!
そして帰ってくる「首都高最速」!
物語は絡み合う!!


4月下旬。

ここは346プロダクション。朝から大勢のアイドル達が忙しく事務所を動き回る。

理由は……。

「早く早く!プロデューサーが来ちゃう!」

「昼に来るんでしょ……」

「昼はあっという間に来るからとにかく早く!」

「えぇ……?」

「プロデューサー、喜んでくれるよね」

そう、プロデューサーの誕生日のお祝いである。

1年前にここに来た時のようにみんなで迎えるのだ。

「しまむー、これどこ!?」

「それはそっちのテーブルに!」

「凛ちゃんはこの箱の中の物取ってください」

「……っしょっと、なんか重くない?」

「プレゼントですから。豪華な物が入ってるって聞きましたよ」

「ぎゃー!!あーちゃん助けてー!!」

「未央ちゃん!?」

 

 

忙しそうに、でも楽しそうに準備するアイドル達を見て呟く。

「蓮君が来てちょうど1年か……。……あの時は初々しさ溢れてた(笑)」

「美世さんもその時は新人でしたよね?」

「あたしの方がここにいるのは長いよー?仕事をしていたかは別として」

「仕事しましょうよ……」

「えー、あたしその時は写真撮影とかキライだったもん。……今もだけど」

「美世さんあんまり変わってませんね……」

「あー、自分でもわかる(笑)」

「というか美穂ちゃんがあたしより先輩じゃない。あたしまだ1年目だよ?レーサーになったばっかりだし」

「蓮さんよりは確かに長いですけど……。人生経験としては蓮さんが先輩ですよ」

「それ言ったらあたしも蓮君の先輩だよ?」

「美世さんは人生経験でも芸能活動でも蓮さんの先輩ですもんね」

そう話し合うのは小日向美穂と原田美世だ。

「あの日」にプロデューサーに助けられた2人。プロデューサーがいなかったら今の2人はない。

「美穂ちゃんはプレゼント用意した?」

「はい!気に入ってくれたらいいな……」

「あたしも色々考えたよ」

2人はプロデューサーが来るのを待つ。

 

 

 

 

 

昼前。

事務所の駐車場に黄色い(FD)が入ってくる。降りてきた青年。1年前と同じように彼は入ってきた。

彼が事務所に入った瞬間。クラッカーが炸裂する。そしてアイドル達が一斉に声をかける。

「「「プロデューサー、誕生日おめでとう!!」」」

驚くも、すぐに笑顔を見せる青年。

「ありがとう、皆さん」

「蓮君はいくつになったのかなー?」

早苗が聞く。

「20歳ですね……」

「やっぱり若い……っ」

奥で川島さん達が驚いた表情しているのが見えた。

夕美が蓮を見て言う。

「ハタチかー。ハタチってどんな感じなのかな?」

「僕はあんまり変わったって感じしないです……。お酒飲めるようになったって言われても僕はお酒好きじゃないので」

「え〜、蓮君酒に強そうだけどな〜」

「あはは……」

 

 

 

蓮を迎えて会話を交えながら食事。

「いやー1年か。ここでの仕事は楽しいかい?」

今西部長が聞く。

「ええ。大変だって思う事はあっても嫌だって思った事はないです」

武内Pも話す。

「プロデューサーとしても頑張ってますよ。蓮さんは」

「武内さんに言われると照れますね……」

「いやいや、本当の事ですよ」

そこに美世が来た。

「蓮君この間の開幕戦すごかったじゃん!開幕で優勝出来たんだもの!」

「ありがとうございます。D-LINEのみんなで掴めた優勝が嬉しいです」

先日、蓮はプロレーサーになって初めてのレースを経験した。

スーパー耐久開幕戦。富士スピードウェイで蓮は最初に86を駆り、D-LINEを上位に導いた。

数時間に及ぶレースを制し、D-LINEは優勝したのだった。蓮がいなければ勝てなかったレースであった。

「でも、僕はまだまだです。もっと頑張りたいです!」

「さっすが努力家!」

「競技経験は美世さんの方がずっと長いですし……」

「一発の速さは蓮君には叶わないよ?」

レースの話をする2人を見て武内P達が呟く。

「夢の舞台に立てて輝いている……。楽しそうにやれている事がよくわかります」

「ですね……。蓮君と美世ちゃん2人ともアイドルとプロデューサーの仕事もやりながらレーサーとしても頑張ってる……」

「2人とも充実した事ができてるなら良いじゃないか。祝おう」

賑やかに話をしながらご飯を食べる。

 

 

 

 

 

ご飯を食べ終わった後に、蓮へのプレゼント渡し。

最初に卯月達ニュージェネレーションの3人から。

「プロデューサーさん!卯月からのプレゼントですっ」

卯月が出したのは手作り肩たたき券。

「ありがとう、卯月さん」

「プロデューサーは肩こりしなさそうだけどなー」

「未央ちゃん!?」

「だって若いじゃーん。ね?」

「たまに辛い事がありますよ。肩たたき券があったら助かります」

「プロデューサーさんだって大変ですから!あって助かる物がいいと思ったので」

「なるほどね〜」

次に未央。

「プロデューサーに未央ちゃんからのプレゼントだぞ☆」

未央が渡したのは星のブレスレット。

「綺麗でしょ?」

「ええ。大事にします」

最後に凛。

「感謝の気持ちに……」

凛が渡したのは花。白っぽい花びらには紫色の模様がある。

「これはシャガって言うの。……花言葉は『私を認めて』、そして『決心』」

「プロデューサーはずっと頑張ってる。新しい事にチャレンジし続けた。その度に、プロデューサーは『決心』して最後まで諦めなかった。それが形になったらなと思って」

「決心……か。うん、忘れずに頑張るよ」

 

 

その後も、プレゼントをもらい最後に美世と美穂が渡す番になった。

まずは美世。

「プレゼントとしてはベタな選択かもしれないけど……気に入ってくれたら嬉しい」

美世が蓮に渡したのは新しいワイシャツ。

「大事に使いますよ。美世さん」

「最後まで使ってよ?」

「もちろんです」

最後は美穂だ。

「いろいろと迷ったけど……これなら蓮さんは気に入るかなって思って……。どうですか……?」

美穂が渡したのは太陽の形をしたペンダント。太陽の形をしたぶら下げられた部分の中心は虹色に輝き、根元には星形のプレートがある。

「私とお揃いですよっ」

「太陽のように輝くという意味が込められてるそうです」

美穂からペンダントを受け取った蓮はその場で首にかける。

蓮が首にペンダントをかける時に美穂の言う通り美穂の首にも同じペンダントが見えた。

「似合ってますよ。蓮さん」

「ありがとう、美穂ちゃん」

そう話す2人に全方向から色々な思いが濃縮された視線が向けられていた。

……悪い意味で。

「……ふーん」

「しぶりんストップ!」

「これはズルくない?」

「気持ちはわかるよ?でも今は抑えてっ!」

不穏な空気に成りかける場だった……。

 

 

 

 

 

こうして誕生日パーティーをした後はいつも通りにレッスンや営業などがあった。

ただ、2つ以前と異なるのは美世は専用のレッスンがある事、そして……。

「28、29、30……ッ!」

蓮が筋トレの為にレッスンに参加している事だった。2人のレッスン及び筋トレはアスリート並みのレベルであった。

2人はレーシングドライバーだ。美世も蓮も体力が無いわけではない。美世に至ってはダンスだけなら事務所のアイドルの中ではトップクラスである。

しかし、それは「アイドル」としての事。「レーシングドライバー」としてだと話が変わる。

300km以上も出るレーシングマシンは瞬間的にかかるGがすごい。最大で2Gという力がかかる。これは簡単に言うと、自分自身が2人自分に乗っているようなモノと思っていただきたい。

それだけのGに耐えるためには必然的に筋力が必要だ。

その間にも心拍数は普通では絶対にならない程にまで跳ね上がる。

例えばF1ドライバーの「カミカゼ・ウキョウ」こと片山右京が鈴鹿サーキットで行ったテストでは1分間の心拍数は直線で140〜150回、コーナーでは160〜165回だった。

これは決して悪い数字ではない。どんなドライバーでも、コーナリング時やブレーキング時にはあっという間に毎分20回程心拍数が上がるのだ。

F1ドライバーが口を揃えて「モナコが1番疲れる」と言うのはその為だ。観戦している側にすれば、もっともスローなサーキットでのレースはベルギーなどと比べれば迫力に欠けるが、ドライバーにしてみれば、カーブだらけの狭い公道は常に危険と隣り合わせ。そのために、ほとんどのドライバーの心拍数は、約2時間のレースのあいだ、ずっと毎分170回にもなると言う。

これに加え緊張だってある。その中で数センチ単位という精密なコントロールを要求される。

ドライバーの肉体にかかる負担は陸上競技などのアスリートと比べても変わらないのだ。

F1だとただ一度のレースでフルマラソンを走りきるくらいに体を酷使するそうだ。

 

レーシングドライバーは「ただ」マシンを走らせるだけと思う人が多い。

だが、ドライバーがやる事などを知れば彼らが競い合うための「アスリート」と思えるだろう。

 

インターバルで友紀に渡されたアクエリのキャップを開けようとする蓮。

「よいしょ……アレ!?」

キャップを開けれない。美世も同様にキャップを開けられていなかった。

「ちょっとちょっと、大丈夫?」

友紀に開けてもらいようやくアクエリを飲めた2人。

キャップを自力で開けられないくらいに体力を使っていたのだ。

 

「プロデューサー達大丈夫だよね?」

友紀が心配する。

「大丈夫ですよ……。ここでへばってたらレースではもっと苦しいですから」

「足りないモノをしっかりと手に入れて走りに生かす!それがあたし」

「いや、すごい。2人のメニューやったら絶対動けなくなるよあたし」

インターバルも終わり美世達は再びメニューを再開したのだった。

 

こうして今日のレッスンなどを終わらせた美世と蓮。

2人は話し合いながら廊下を歩いていた。

「どうしてもキツイのはあるよね」

「僕はもうちょっと背が伸びないかなって思ってますね」

「蓮君、それ程背が高くないもんね」

蓮の身長は168cm。美世とは5cmしか変わらない。1年前から2cmは伸びているが。

「もうちょっと大きくなりたいです……」

「ははは……」

そこに歩いてきたアイドルが1人。

「おっす、プロデューサー」

結城晴だ。彼女は今年中学生になった。

「晴ちゃん、どうしたの?」

「聞きたい事あるけどさ、昨日はロー○ンにいたか?」

「いや……いないけど。どうかしたの?」

「プロデューサーのクルマにそっくりなクルマがあってさ。色も同じ黄色で」

「……?」

「プロデューサーはクルマはアレしか持ってないんだろ?」

「そうだけど……」

「いやー、プロデューサーだと思ったぜ」

「晴ちゃんが間違えたくらいそっくりなFD……?」

美世が首を傾げる。

「ニセモノがいるって事……?」

「ニセモノなんてそんな……」

「でも、今こうやって言われるまでプロデューサーだと思ってた」

 

 

ニセモノ疑惑が浮上し、そのFDを探す為に2人は久しぶりに首都高に上がる。

しかし、それらしきFDは見つけられなかった。2人は明日再び探す事にした。

 

 


 

 

 

 

 

翌日。

夢斗はある公園に向かっていた。何やら金属製のケースを持っていた。中身は見えない。

やがて、公園に着いた。

 

「すー、はーっ……」

夢斗は深呼吸する。凄まじい集中力を発揮し始める。

体をしっかりと動かし、準備を整えた。

そして金属製のケースから「ある物」を取り出す。

取り出した「それ」に夢斗はカードを入れる。

夢斗は「それ」を一気に腰に巻き付ける。すると電子音が鳴り始める。

キュイイイッ、キュイーンキュイーンキュイーンと電子音はまるで「準備完了」というように鳴る。

夢斗は左手を腰の横側に持ってきて、反対に右手の人差し指を伸ばしながら手のひらを自分に向ける。キレのいい動きで右手を返す。

最後に夢斗は気合いを込め叫ぶ。

「変身っ!」

素早く左手を前に出し右手を引き、「それ」のハンドルを引く。

すると「それ」に入れられていたカードが入る部分が回転し、スペードのマークが現れた。

そして電子音声が鳴る。

TurnUp(ターンアップ)

「うおおおおああああっ!」

その音声が聞こえた瞬間、夢斗は前に向かって走り出したのだった。

そう、夢斗がやっていたのは特撮アニメ「仮面ライダー(ブレイド)」に登場する主人公「剣崎一真」が変身する「仮面ライダーブレイド」の変身ポーズだったのだ。

夢斗は仮面ライダーが大好き。と言うより特撮が大好き。

夢斗は仮面ライダーのベルトを初めとしたグッズをたくさん集めていた。

そして夢斗は日課である「変身ポーズをする」という目的の為に公園に来たのだった。

夢斗はベルトを外し、もう1つベルトを取り出す。

その後に夢斗は携帯を取り出す。いや、「携帯電話型変身アイテム」を取り出した。

「仮面ライダー555(ファイズ)」のベルトだったのだ。

夢斗はファイズフォンのキーを操作しコードを入力する。

「555」と打ち込むと電子音声が鳴る。

StandingBy(スタンディング・バイ)

夢斗はファイズフォンを畳み、上に掲げて叫ぶ。

「変身っ!」

ファイズフォンをドライバーに差し込み、横に倒すと電子音声がまた鳴った。

Complete(コンプリート)

夢斗は決めゼリフを言う。

「俺には夢がない。でもな、夢を守る事はできる!」

漫画だったら「ドヤァァァ……」とか「バァアア〜ン」って言った擬音が現れてるだろう。夢斗は満足そうだ。

「あーーーっ!仮面ライダーファイズ!!」

満足そうな夢斗を現実に引き戻す声。夢斗は固まる。

「なぁっ!仮面ライダーファイズだろ!?」

「すごいですっ!ヒーローみたいです!!」

2人の女の子が駆け寄ってきた。

「なあ……どこから見てた?回答次第で俺は灰になるぞ……?」

「ファイズの変身ポーズ始めた所だ!」

「叫んでましたよね!?うおおおおって!」

女の子達にズバズバ言われて夢斗は精神的にキてた。

「恥ずかしがる事ないぞ!あたしだってヒーローが好きだから!」

「あたしもです!ジャスティスレッドみたいになりたくて、あたしも特訓してるんです!」

「はは、フォローか?」

夢斗のメンタルはボドボドダ!!

 

緑髪の少女は夢斗に近寄る。

「あたしも学校では、そういう話題は出さないさ。そういうの出して距離を置かれるのが怖くてな……」

「でも、こうやって同じ物が好きな人を見て嬉しかった!だから、あたしもっ!」

少女はそう言うと思い切り手を握り込む。ギリギリギリと音がするほど。

両腕を動かし自身の左側に両腕を持ってくる。

「変……身っ!!」

両腕を今度は体の右側に素早く持ってくる。

夢斗がそのポーズを見てそのライダーを言う。

「これは……っ!仮面ライダーBLACK!!」

少女は仮面ライダーBLACKの変身ポーズをやったのだった。

 

 

 

「なっ!恥ずかしくないだろ!?」

「人前でやるとか俺はゴメンだ」

「目立つのがあたし達だからそれが出来なきゃヒーローみたいになれません!!」

「はい?」

「あたし達、アイドルだから!!」

「……マジで?」

「はいっ!」

赤髪の少女が元気よく答える。

その時、緑髪の少女が何かを思い出したらしく、慌てる。

「まずいっ!時間が無い!」

「あたしはこれから行かないと行けない所がある!名前は!?」

「俺?星名夢斗」

「夢斗か……!あたしは南条光!!ヒーローを目指してるアイドルだっ!」

「光ね……」

「さらばだっ!夢斗!!」

そう言うと光は走り去って行った……。

 

 

 

 

 

「光ちゃん行っちゃった……」

「……あははは」

なんて日だ……俺の隠してた日課バレた……。

 

 

赤髪の少女が夢斗を見てる。

「あの、大丈夫ですか?」

「大丈夫だったらいいんだけどなーうっは」

夢斗の目は死んでる。

「あたしも行く所あるんですけど……一緒に来てくれますか?」

「はい?」

「あたし、ちょっと遅刻しそうなんです!」

「理由に使うってか?」

「いえ!一緒に来てくれるだけでいいんです!」

赤髪の少女に連れられて夢斗は歩き出した。

 

 

 

 

「あたしは小宮果穂っていいます!」

「……星名夢斗」

「夢斗さんは何をやってるんですか?」

「大学生だよ。クルマバカの」

「大学生……!!すごいです〜!!」

「勉強難しそうなのに、勉強出来るオーラが出てます!」

「いや、俺実際クラストップだし」

「すごいです〜!」

夢斗は何でも「すごい」と言ってくれる果穂に親近感が出てきた。

「果穂は高校生とかそのくらいか?」

「あたしは中学1年生ですっ」

「マジで?」

「はいっ、この間入学式あったばかりなんです」

果穂の身長上、夢斗は彼女を高校生と勘違いしてたのだ。174cmある夢斗と果穂が並んでもあまり違和感がない。

「この身長でこの間まで小学生ってか……」

「最初プロデューサーさんにも高校生って間違われちゃいました」

「プロデューサー……?ああ、プロデュースするって言ったっけ」

夢斗は夕美を基準としてアイドルの事を考えていた。

「果穂はさー、なんでアイドルを目指したんだ?」

「ヒーローみたいに困った人を助けたいんですっ!」

「スゴくてかっこいいヒーローアイドルになりたいです!!」

そう言う果穂は迷いなき瞳をしていた。

 

 

やがてある建物の前に着いた2人。

「283……?」

283(ツバサ)プロです!」

果穂と2人で建物に入る。

「すみませーん!遅れちゃいました!!」

「お、果穂……誰だソイツ!?」

「ちょっと、果穂その人から離れて!」

「果穂に手を出すなら……」

不審者扱いされる夢斗。

「待て待て、俺は果穂に着いてきただけだが」

「何故果穂に着いてきたか聞かせてもらおうかしら……?」

一触即発の空気になる場。そこに果穂が入る。

「夏葉さーん!夢斗さんは悪い人じゃないですっ!」

「果穂を騙してるわね!?」

「だーかーらー!違うって言ってんだろ!?」

今まさに夏葉が飛びかかろうとした時。

「なんだい……騒ぐと上まで響く……夢斗?」

「アレ?咲耶?」

「咲耶さんは夢斗さんと知り合いなんですかっ!?」

 

 

咲耶に事情を説明し、納得してもらった夢斗。不審者騒ぎになった為に283プロのアイドル達みんなと顔を合わせるハメになった。

「夢斗さんはすごいんですよっ!成績はクラストップだって言うんです!!」

「さくやんも勉強できるよね?」

「ああ」

そこに遥が入ってきた。

「星名さんですね。……不審者扱いしたのは謝罪します。すみませんでした」

「いーのいーの。俺、果穂と遊んで着いてきただけだしさ」

「それだけ聞くとダメじゃない?」

智代子が言う。

「ま、どうしても俺が悪いんなら果穂に俺がナニしてたか聞けばいい。俺の黒歴史を知ったら、俺を見る目がアレな目になって俺が死ぬゾ☆」

「……何したの?」

「知ったら俺をガキと思うぞ。実際、俺はガキみたいな考え方だしさ」

「そんな事ないです!夢斗さんは立派な考え方をしてますよ!」

果穂が言う。

「こんな純粋な果穂を汚すとか俺は死んでもやらんぞ」

「ええ……?」

果穂と夢斗に何があったか聞けない一同だった……。

 

 

 

 

 

283プロを後にした夢斗と咲耶。

「咲耶はアイドルやってたんだな」

「ふふ、隠してたワケではないけどね」

「咲耶はなんでアイドルになった?」

夢斗が質問を咲耶にぶつける。

「たくさんの人を喜ばせる為に……って言うのかな」

「へー……。アイドルになったワケはやっぱそれぞれなんだな……」

夢斗は夕美や光、果穂、そして咲耶と言ったアイドル達はそれぞれの目的を持ってアイドルになった事を知った。

みんな「誰かのために」という共通点を持っていた。

 

「送るよ。夢斗は家どこだい?」

「え?いいの?俺は八王子だ」

「私も八王子に住んでるさ」

「住む所一緒か」

「私は元々高知に住んでたさ。高校に入るためにこっちに来たんだ」

「俺と似てんなー。俺は大学入るために栃木から来たんだわ」

「そっくりだね、私達は」

「だな」

2人はエボⅨに乗り、出発する。

 

 

帰り道に首都高を走る黒いエボⅨ。

「そーいや、咲耶っていつからここを走ってんだ?」

「1年前さ……」

「結構走ってる時間は長いんだな……」

「免許を取ってからすぐ行ってた。そこで首都高の『マナー』を学び、走った」

「『マナー』……」

「連日のように走ってた私の前に1台の車が現れてね、私は負けた。手も足も出ずに」

「咲耶が完敗……?」

「その通りさ……。『あの車』は棲む次元が違った」

「以来、私はその車を追い続けた。けど、再びその車は現れる事はなかった。でも、私はあの車に勝たないと前に進めないって思う」

「私の走り方はその車の走り方をイメージしたモノさ……」

まだまだ一般車が多いC1エリアを駆け抜けるエボⅨ。一般車を縫うように避けながら、速度を上げていく。

 

 

夢斗は前に1台の車を見つける。

「FD……。浩一か?」

前に見える黄色いFD。浩一のFDに見える。

しかし。

「……!?」

FDからほとばしるオーラ。

夢斗がその車を明確に「脅威(強敵)」と見たのだ。その車が咲耶も同じように見えたらしい。

「あれは……やばい」

夢斗がこう漏らす。夢斗自身、これだけのオーラを放つ車を初めて見た。

「すっげえ……。むちゃくちゃ上手いって見ただけでわかる」

「ああ……!あれは速い!!」

咲耶もFDに対して、畏怖を覚える。

 

FDは首都高を降りた。

しかし、2人はあのFDが放っていたオーラの威圧感に飲まれていた。

「咲耶……。俺、冷や汗止まんねえ」

「私も手が震えてる……っ」

エボⅨは少し先のランプで降り、夢斗を降ろした。咲耶は帰路に着く。

 

 

 

「さっきのエボⅨ……速い」

「あたしも思ってたよ、それ」

FDを運転する蓮と助手席に座る美世。あれだけの技術を持った走り屋を見るのは久しぶりだった。

しかし、本来の目的の「ニセモノを見つける」は達成ならず。再び日を置いて探すことにした。

 

 

 

 

夢斗と咲耶はお互いの立場を知る。

そして、再び首都高に戻ってきた蓮と美世。

4人が再び会うのは近かった。

 

 




ついに登場した前作「疾走のR」主人公「小日向蓮」。
成長した彼は夢斗達とどう関わるか。


ネタ解説です。
・「あの日」
これは作中の2011年12月25日の出来事。
詳しくは「疾走のR」を見よう(宣伝)
・アイドル達のプレゼント
卯月の肩たたき券は「シンデレラガールズ劇場」から。
未央は元ネタなし。
凛は家が花屋という設定を生かして。最初は桜をプレゼントにしようと思いましたが、誕生花がシャガだったので。花言葉は説明されている通り「私を認めて」「決心」です。
美世と美穂も元ネタなし。
なお、美穂が渡したペンダントは実際に市販されています。メーカーはわかりませんでした……。なお、劇中で言われてた意味はここでのオリジナルです。
美穂が渡したペンダント

【挿絵表示】

・夢斗の日課
特撮が大好きな夢斗。特に仮面ライダーが好き。ここでは出ませんでしたが、ウルトラマンとかいろいろ持ってます。
ちなみに夢斗がやった変身ポーズのライダーである「仮面ライダーブレイド」は私が好きなのでこの選択は私の趣味。
「仮面ライダーファイズ」は後述の光に合わせてです。ちなみにファイズは私の弟が好きなライダーです。
・「灰になるぞ・・・?」
これは「仮面ライダーファイズ」で怪人の「オルフェノク」が倒された時に灰になっている描写から。
ここでは夢斗のボドボドのメンタル(ボドボドはミスではありません)が崩れそうな様子を表してます。
・ボドボドダ
これは「仮面ライダーブレイド」での「橘さん」こと「橘朔也」のセリフ「俺の体はボロボロだ」が元ネタ。滑舌の悪さから「ボドボド」と聞こえるのです……。
何かと仮面ライダーで出た表現をよく使う夢斗です。
・南条光、小宮果穂登場
特撮好きのヒーローアイドルこと「南条光」「小宮果穂」が登場。
2人は同じ中学校に通っており、光は3年生、果穂は1年生です。やはり特撮好きという事で仲良くなり、2人は友達です。
光の誕生日が9月13日(カイザの日)なので夢斗がブレイドの次にやる変身ポーズを「仮面ライダーカイザ」が登場する「仮面ライダーファイズ」にしました。
光自身がやったポーズの「仮面ライダーBLACK」は光の名前から考えました。(南条=「南」光太郎、光=「光」太郎。南光太郎はBLACK、RXに変身する主人公)






ついに登場した蓮。
ここから本格的に前作の人物が登場します。前作を読まなくてもある程度は読めますが、少しわからなくなる所があると思います。



今回、STAGE4のように私の趣味出てます。
私自身仮面ライダーが好きです。それもあってデレマスでは美穂ちゃん以外の担当が光、シャニマスが果穂ちゃんです。
やっぱり趣味じゃないか(呆れ)
皆さんはどの仮面ライダーが好きですか?
私は昭和はBLACK、平成はカブト、電王です。
つい先程「ジオウ」見て「カブト」の人物が登場する事に歓喜してました。





走り続けていた人物を巻き込んで進む物語。
夢斗達は彼らにどう立ち向かうのか?


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STAGE7 プロとして、夢を掴んだ者として

今回、蓮の動きがメイン。
プロドライバーになった蓮の心境は。
そして蓮と夢斗、激突!!


蓮は今日は346プロにはいない。

今日はD-LINEの86のテストの為、鈴鹿サーキットにいたのだった。

 

「すみません、もう少しリアのブレーキ弱く出来ませんか?」

「リアですか……」

「もう少し弱い方が僕はやりやすくて……」

「わかりました、やってみますね」

メカニック達に86の調整をしてもらってる蓮。

蓮は白いレーシングスーツを着ている。事務所で着る見慣れたあの黒いスーツではない。

 

「どうだい。86の調子は」

蓮に声をかける男性。

D-LINEの監督である片桐マサキだ。

自身は現役時代にスーパーGTの前身にあたる全日本GT選手権に参戦しており、カストロールTOM'Sスープラを駆り1997年にシリーズチャンピオンを獲得した過去を持つ。

その後、最前線を退いたが監督としてスーパーGTにも関わった。

現在はスーパー耐久に活躍の場を移している。

新チームの発足の為にドライバーを募集、そこに蓮が入ったというわけだ。

「いいですね、すごく。86はフットワークがいいから、勝負に出る時にすごい心強いです」

「君の一発の速さはすごいさ。それは誰もが認める。けどね、やっぱり総合的な速さが重要なんだ。新人ってのもあると思うけど……。とにかく君の今年の目標は総合的な速さを確実に付ける事だ。一発が速いっていうドライバーはたくさんいる。どんな状況でも速いのがベストさ」

「はいっ」

蓮は調整が終わった86に乗り込み、再びテスト走行に出た……。

 

 

「もう少し、足が硬い方がいいな……」

蓮は調整された86の動きに合わせる為に走り方を変えていた。

86のブレーキのセッティングを変え、さっきよりはブレーキングした感じが合う。

しかしヘアピンコーナーでの立ち上がりの際、足の柔らかさから来るロールが気になっていた。高速域ではそれは現れない。

「……!」

ホームストレート前のシケインでそれが顕著だ。蓮が得意とするコーナリング勝負ではこれじゃ使い物にならない。

蓮はもう2週走り、再びピットイン。

またセッティングを変えて走っていた。

 

 

 

 

「これがサーキットかー!」

「ここが鈴鹿サーキット……。すごい」

「サーキット初めてか。ま、無理もないか」

夢斗達は鈴鹿サーキットに来ていた。

部員達は自分の愛車で国際サーキットを走る事を楽しみにしていた。ちなみにこれは部活の行事の一つだ。

サーキットを回るだけでも楽しい。普段テレビ中継で映らないような所を見るだけでもワクワクする。

夢斗は浩一と行動していた。サーキットを見て歩こうと。

「夢斗歩くの早い!!」

「俺はフツーに歩いてる」

夢斗の速さについていけない浩一。夢斗は目をキラキラさせていた。

「……!!」

「おい、夢斗!」

突然夢斗が走り出し、どこかに向かう。浩一はいきなり走り出した夢斗を追う。

 

 

 

 

グランドスタンドに夢斗はいた。

浩一がやっとの思いで夢斗に追いついて文句を言おうとするが……。

「……」

無言で何かを見る夢斗の気迫に押されて文句が引っ込んでしまった浩一。夢斗のこんな目を初めて見た。

「夢斗……?」

浩一が夢斗に声をかけた瞬間。

バァアアアアアッ……

1台の86が目の前を駆け抜けていく。

「うっわ、速ええ!!」

浩一は興奮するが、夢斗の目は変わらない。

「夢斗?」

「……めちゃくちゃ上手い」

「!?」

浩一は驚愕した。あの夢斗がこう言うのは友人になってから初めてだ。

「ちょっと追いかける!」

「は!?」

夢斗はそう言うと同時にエボⅩの元へ走る。

駐車場に置いていたエボⅩに乗り込み、コースインしてしまったのだ。

 

「夢斗がコースイン!?」

浩一からの連絡を聞いた友也は驚いていた。本来コースインはできない。何故なら、今は「D-LINE」の貸し切りだったから。

夢斗を追いかけようにもコースに入れない。かと言って電話に素直に出るやつでもない夢斗。

夢斗が戻ってくるのを待つしかない。

 

 

 

 

「待って!ウチの車じゃないのが入ってる!」

「!?」

「どういう事だ!?」

D-LINEは混乱していた。貸し切りでサーキットを使ってたはずなのに、一般車が入っていると言うのだ。

「……まあ、待て」

マサキがチームクルーをなだめる。

「入ったヤツ……面白そうだぞ。小日向君の刺激になるといいな」

 

 

「一般車がいる?」

「はい。恐らく、ホームストレートに着く前に合流します」

蓮は無線から入った情報に首を傾げていた。だが、その一般車に退去命令が出ていない。どういう事なのか。

蓮がスプーンカーブを立ち上がる。その時一瞬だが、バックミラーに車が映った。

「……!!」

西ストレート。アクセル全開で走る86。ここでコース中の最高速を記録する。スプーンカーブで見えた車が近づいてくる。

「速いーーー」

蓮の86の後方にまで近づいたその車。

もうはっきりとシルエットが見えた。銀色のエボⅩだ。

86は130Rに飛び込んでいく。それにエボⅩも続く。

シケインでは蓮の技術で差を付ける。だが、最終コーナーホームストレートに向けて加速していく右コーナーでの速度はエボⅩが勝っていた。

そのままサイドバイサイドになる86とエボⅩ。ホームストレートを1歩も退かずに駆ける。

全長800mのホームストレートを抜け、1コーナーに差し掛かる。スピードが乗ったまま、100Rの1コーナーを通過、減速し60Rの2コーナーを回る。

エボⅩが有利なのは目に見えて明らかだった。

S字コーナー。86はエボⅩに負けていた。空力面での大きすぎる性能差が出ていた。

3つ目の左コーナーで2台が再び並ぶ。蓮はエボⅩのドライバーを見る。

「……若い」

自分とほとんど変わらないであろう青年がエボⅩに乗っていた。エボⅩは速度を上げ、86を引き離した。

蓮はアクセルを抜く。

 

 

 

「あれが……プロの選手ってやつか……」

夢斗はエボのコックピットの中で呟いた。

この間見たあのFDから出ていたオーラを持っていた。顔はわからなかったが、いつか素顔を見てやりたいと思った。

 

 

 

この後、コースを出た夢斗は滅茶苦茶怒られた。

 

 

 

夢斗達が去った後。

「エボⅩの彼……上手い」

蓮はこう告げた。

「どうだい。彼は君の刺激になったかい」

「ええ!負けられないです!」

蓮はあの技術を持つ青年に興味を持ち始めた。

 

 

 

 

 

5月。

346プロに新人アイドル達が入ってきた。

武内Pが言うには346プロに新人アイドルが加入するのは1年振りだという。

1年前に加入した新人アイドルこそ美世だ。

全7人の新人アイドル達を迎えるべく蓮は応接室に向かった。

 

 

「Pサマ!こんにちはクズだよっ!」

「待って待って!どうしたの!?」

「学校続かなかったしこれでアイドル向いてなかったら本気でやむよ!?頼むよPサマ!ぼくを救って!その力でアイドルにして!!」

「とりあえず落ち着こう!?やむって何!?」

「りあむちゃんをなんとかしてね蓮君」

「ちひろさん!?」

 

「どーも。砂塚あきらデス。ファッションとSNSが好きな普通の女子高生」

「よろしくお願いします、あきらちゃん」

 

 

「山形県出身、辻野あかりって言います!よろしくお願いします!」

「山形……?同じだ」

「え?」

「僕と住んでる所が同じなんだ」

「んご〜っ!?」

「山形のりんごを広めていきましょう!!」

「え……っと」

 

 

「私、黒埼ちとせ。よろしくね」

「ちとせさん、よろしくお願いします」

「ねえ……私、長くないと思うの。だから、今が楽しければいい。多分アイドルとしても、ハードなお仕事はできないでしょ?」

「……?」

 

 

「私は白雪千夜。私が唯一持ってるものの名前です」

「千夜ちゃん、よろしくね」

「お嬢様の戯れに付き合い、事務所にやって来て舞台に上げられて。……滑稽だと思っただけだ」

「千夜ちゃん……?」

「お前はどうなんだ。私のような者をプロデュースと称して面倒を見なければならないのですから」

「そんな事ない!みんな大切なんだ!ひとりひとりが輝く為にみんないる!」

「ごめんねプロデューサーさん。千夜ちゃんはちょっと口下手なの。でも……本当は優秀でいい子なの。それに笑顔は世界一可愛いんだから」

「……あなたが可能性を引き出して。千夜ちゃんを私の僕ちゃんじゃなくしてあげて。あの子を、あの子らしくしてあげてほしいの」

「どういう意味なの?」

「あの子は……大切な物を全部失ってるから」

「え……」

「冗談だよ!プロデューサーさん」

 

ちとせはこう言ったが全く冗談とは思えない発言。

ちとせの「長くない」、「大切な物を全部失ってる」は本当だと蓮は感じた。しかし、深く踏み込む訳にはいかない。踏み込んで彼女達を傷つけるかもしれない。

それは避けないといけない。だが、彼女達を支えられるよう頑張らないといけないと蓮は思った。

 

 

「凪はアイドルになります。Pに声をかけられたら、アイドルになる運命から逃れられないとか、そうでもないとか。でも、はーちゃんもアイドルするなら、それはそれでエモいな」

「……武内さんかな?とにかく、よろしくね」

 

「久川颯、今日からお世話になります!よろしくお願いします!」

「よろしくね、颯ちゃん」

 

 

 

こうして新人アイドル達と顔を合わせた蓮。

個性が強い彼女達を蓮はプロデュースする事になる。

 

 

 

 


 

 

蓮と顔を合わせた後に女子寮に来た久川姉妹。2人はあるアイドルに出会う。

「えっと2人は……」

「うわーっ!小日向美穂ちゃん!ほ、本物だー!かわいいー!!」

「あはは、ありがとう。初めまして、小日向美穂です」

美穂だ。美穂は先程終わったロケから帰ってきた所だった。

「双子……なのかな?」

「あっ、そうです!双子!久川颯です!こっちは凪!よろしくお願いしますっ」

「アイドル……想像してたよりも普通の人ですね」

「まあ、女子寮(ここ)で生活してる時は普通に過ごしてるんだ」

美穂は2人に女子寮を初めとした施設の案内をしていた。

ある程度話した所で美穂は休憩を入れる。休憩してる2人に自身の身の上話をする。

「美穂ちゃんはアイドルになるために地元熊本からやってきたと」

「うん。アイドルになるってのもあるけど、もうひとつ理由があるの」

「もうひとつ?」

「うん、蓮さんとの約束があったから」

「蓮ってあの小日向って言うプロデューサーですか?」

「そう。私と蓮さんはそれぞれのお母さんが同級生で仲が良かったの」

「それもあって蓮さんとは小さい頃から関係があるの」

「へー……」

「高校受験の前に蓮さんと約束したの。『アイドルになったら私がステージに立っている姿を見届けてくれますか?』って」

「おお……」

「蓮さんは約束を守るために346プロ(ここ)に来たの」

「蓮さんは高校にいた時に何かあったらしくて、一時期蓮さんは廃人化してたらしくって」

「廃人化……?」

「いろいろあって蓮さんは立ち直ってここに来たの。でも最初に望んでた夢を一旦諦めてたって」

「諦めてた?」

「蓮さんは最初プロレーサーになりたいって言ってたんだ。でも、私との約束を守るためにそれを封印してたって」

「今はプロデューサーをやりつつレーサーとして頑張ってるんだ」

「ひゃー、すごい大変そう……」

「実際大変だって。でも、蓮さんは自分の夢に挑戦出来てるのが嬉しいって言ってたんだ」

「……すごい人ですね」

「私、憧れてるの。蓮さんみたいになれたらなって」

美穂は自分の心境を2人に零す。

「あっ、ごめんね。私が勝手に話しちゃって」

「私は全然大丈夫です!美穂ちゃん……じゃなかった、美穂さんのアイドルになった理由を聞けてよかったです!」

「凪も……とてもワクワクしてます」

「そっか……。2人共いいかな?」

「はいっ!」

「オッケーです」

 

 

美穂は2人を連れて事務所を回った……。

 

 

 

 

2人の案内を終わって2人を見送った後。

「蓮さんみたいに……。なりたい……」

蓮が遠くに行ってしまう。だんだん蓮から離れていく自分。

自分も蓮を追いかけたい……。

 

 

 

「お願い……。遠くに行かないで……」

彼女の願いは虚しく虚空に消えた。




蓮と夢斗、初めての出会い。
サーキットの結果は夢斗が勝ったものの、首都高ではどうなるのか!?

ネタ解説です。ネタ今回あまりないけど……
・D-LINE監督「片桐マサキ」
「D-LINE」の監督として登場した彼は、かつてスーパーGTにも関わってた過去を持ってます。
モデルは「ミスターGT」という異名を持つ「脇阪寿一」選手です。様々なレースで活躍し、普段は軽妙なトークと明るいキャラクターが目立つ人です。
・新人アイドル達
久川姉妹の会話は2人が初登場したイベント「O-Ku-Ri-Mo-No Sunday!」が元。ちとせ、千夜もイベントで「Fascinate」が登場した時のコミュが元になってます。




蓮と夢斗のサーキットでの初バトル。
そして346プロに来た新人アイドル達。新人アイドルに関わる事になった蓮。
そして……蓮への思いを持つ美穂。
様々な出来事が1つに繋がる……。




次回、蓮と夢斗が首都高でバトル!!
現「首都高最速」の蓮は夢斗とどう戦う!?


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STAGE8 憧れと理想、現実

首都高最速VS天才!!
この出来事は様々な出来事に繋がる。


「FDを見た?」

「うん。蓮君のFDそっくりだけどちょっぴり違うの」

「腕はそれなりって感じ。でもやっぱり『本物』って感じではないね」

「一緒に走ってる車がいるからわかるけど」

「一緒に?」

「そう。銀色のエボⅩ」

「エボⅩ……」

「知ってるの?」

「多分。この間D-LINEの86のテストの時に一般車がサーキットに入ってきて」

「え、何それ」

「すごく速かったですね……。車もだけどドライバーも」

「蓮君がこう言うとは……」

美世は蓮がこう言う程のエボⅩのドライバーが気になっていた。

「今日も出てみる?」

「ええ」

2人は営業に出ていく。

 

 

 

 

「だーーーっ!調整めんどくせー!!」

「うるせぇ!」

大声で不満をぶちまけて怒られているのは夢斗だ。

ジムカーナに参加するメンバーの為に部のクルマのセッティングをしていたが。

ちまちまとした作業がキライな夢斗は不満タラタラ。

「くっそー、心が削られるっ!」

「元々セッティングってこういう事だろうが!」

浩一が夢斗にキレる。

「つか、お前フツーは俺らがまずできない事を『簡単』って言うくせに俺らでも出来る事をめんどいって言うなっ!」

「え〜」

「まあまあ、夢斗は1回走ってきたらどうだ?」

友也が夢斗をなだめる。

「うっす」

夢斗はそう言うとエボⅩに乗り込み、練習場所の広場……ではなく校外に出る。

「ちょっ」

「まーたサボりか」

浩一はもういつもの事と諦めてる。遠くなっていくエボのリアを眺める友也。

「……自由だなー(諦め)」

 

 

 

 

 

 

 

「……暇」

エボに乗って学校を(勝手に)出てきた夢斗だったがやる事がない。

「……バチもねえし」

太鼓の達人やろうと思ったらマイバチを持ってきてなかった。

何か食べたいワケでもないし、買い物する気もない。

目的もなくただ歩いていた。

気がつくとスクランブル交差点に着いた。

「……ここでか」

夢斗は去年のクリスマスにあった事件のニュースを思い出していた。

「こんなトコで大胆な事やったんだな」

2011年12月25日。クリスマスに起きた事件。

ある男が復讐の為にアイドル達が乗ったバスを占拠して恨みを持つ男を殺そうとした事件。

にわかには信じ難い話だが本当にあった事だ。

「……そんな事考えたくねえな」

夢斗は交差点に向かって歩いていく。

 

「あれ?夢斗くーん!」

夢斗が声のした方に振り向くと夕美がいた。

「お、夕美じゃん。どーした」

「仕事終わりだったんだ!夢斗君は?」

「……暇で抜け出してきた」

「サボりはダメだよ……」

「あっそうだ、ドライブ行こうぜ(唐突)」

この後、夕美を連れてエボでドライブに行くのだった。

 

 

 

 

 

「ったく、戻ってこなかったですね」

「技術はあるが……それを疑うレベルの気分屋だしな……」

結局、夢斗が戻らないまま部活は終わった。

浩一はFDに乗り、首都高へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

浩一のRX-7はC1エリアを走っていた。

テクニカルコースのC1は技術を磨くのにもってこい。

とにかく上まで気持ちよく回るエンジンが奏でるロータリーサウンドに酔いながら走らせる。

浩一は前に見慣れた車を見る。

「にゃろー、やっぱりいた」

銀色のエボⅩだ。

「俺はどこまでやれるか……」

浩一はエボⅩをパッシング。

 

「眩しいだろが……浩一」

車内で文句を言う夢斗。

「ヤるか……うっし、飛ばす」

バトルモードに入った夢斗の目が鋭くなる。普段のおちゃらけた様子が一瞬で消えた。

「夢斗君……待って」

ただし、夕美を乗せたままだが。夢斗はドライブと称して首都高に来ていたのだ。

「えー!?なんて言ったー!?」

聞こえてないフリをしてエボⅩを加速させる。

「待ってええええ!」

 

 

バトルモードに入ったエボⅩを追いかけ始める浩一のFD。

「コイツ本当バトルになったら人が変わるもんな」

浩一も4月最初からはかなり腕を上げた。しかし、やはり夢斗は別格。夢斗のエボは国産スポーツカーで1、2を争うコーナリングマシンであるFD3Sを上回るコーナリング性能を見せる。

「FDより速く曲がれるのがまず反則だろ」

浩一のFDも大改装が行われて首都高を攻めるクルマに生まれ変わった。300kmオーバーというスピードで走る上で欠かせないダウンフォースを発生させるGTウイングも装着。

だが、エボⅩが発生させているダウンフォースはFD3Sが発生させるダウンフォースを遥かに上回っているのである。

「フラットフロアって反則だろ……」

しかし、浩一は気合いで限界を上げていく。

「踏んでいけーーーっ」

夢斗のエボがブレーキングする。だが浩一はコンマ2秒遅れてブレーキングを開始。コーナーからの脱出速度はエボⅩが有利かと思われたが、車重の差から浩一のFDが僅かに早く立ち上がる。FDはエボの前に出た。

「どうだっ!」

浩一が初めて夢斗の前を走った瞬間である。

 

 

 

 

汐留S字に差し掛かる2台。

すると2台の車が見えた。紅いR34と黄色いFDだ。

「えっ!?」

「あー。『待ってた』って感じだな」

「プロデューサー!?」

「は?」

「プロデューサーの車なの!」

 

 

 

「ホントだ、そっくり。……エボⅩ」

蓮はFDの後ろに見えるエボⅩを見ていた。

「その腕はどうなのかな!?」

美世は戦闘態勢に入る。

美世のR34はいつでも飛び出せる体制。しかし、蓮のFDは様子を見ている。

「……」

蓮はFDを先行させる。

「蓮君!?」

美世は蓮が先に行かせた事を不思議に思っていた。FDの後にエボⅩが続く。

蓮は右に並ぶエボⅩを見る。しかし。

「夕美ちゃん!?」

蓮は夢斗のエボⅩに乗っていた夕美に驚愕。しかも夕美がこちらに気づいたのもあり、蓮はエボⅩのドライバーが夕美を誘拐したと誤解してしまう。

「待って!!」

蓮はアクセルを踏み込み、エボⅩを追いかけ始めた。美世はいきなり加速した蓮のFDに驚いた。

「何があったの!?」

美世も慌ててRを加速させる。

 

 

 

 

「!?」

夢斗は突然追いかけてきた後ろのFDから凄まじいプレッシャーを感じた。

浩一のFDを追い抜き、FDから逃げる。

「なっ!?速っ!」

浩一のFDをぶち抜いていくもう1台の黄色いFD3S。

「今のは……まさか!?」

 

 


 

 

遡ること一ヶ月前。4月15日。

浩一は夕美と話してた所、彼女のプロデューサーの正体を知りたいと思った。

「去年来たばかりの新人だったの。前のプロデューサーが事故で亡くなったから代わりに」

「今はレーサーとして活躍してるの」

プロデューサーであり、レーサーでもある夕美のプロデューサーは一体。

「レーサー!?誰、マジで」

「名前はーーー」

 

 

「小日向蓮」

 

 

 

 

浩一は雷に撃たれたような衝撃が走った。

小日向蓮は自分が憧れている存在。

去年の12月25日にあった首都高最速を争うバトルで見事勝ち、「首都高最速」の称号を手にした存在。

浩一もその噂だけなら聞いていた。でも、詳しくわからない。何者なんだと。

だが、蓮はプロレーサーになった。スーパー耐久に参加するのだと聞いた。そして、彼が所属するチーム「D-LINE」の監督は数々のレースに参加した「ミスターGT」こと片桐マサキ。

新興チームの監督がレジェンドドライバー、そしてマシンをドライブするのは自身の憧れである蓮。これだけのあまりにも豪華とも言えるチームの名前を知らないハズがない浩一。

でも、なぜプロデューサーなのか……?

 

 

「小日向蓮……!?」

「知ってるの?」

「あの人は俺達にとって超絶有名人なんだ!」

「どういう事?」

「蓮さんはーーーいや、何でもない。相葉ちゃん、今の俺の言ったことを忘れて欲しい」

「津上君……?」

 

 

 

 

 

相葉ちゃんが知らないならいい。俺達の知ってる彼は「反社会的」な意味で有名人なんだ。

公道300kmというありえないコトをやって有名になる。もちろん犯罪者だって自覚している。

彼がプロデューサーだとしてもこの事は本当のことなんだ。

俺は小日向蓮さんに憧れてFDを買った。黄色いFDを。

下手くそだけど、俺は彼をいつか見たいと思っていた……。

 

 


 

「嘘だろ……!?本当に小日向蓮さんだと言うのか!?」

自分の望みが叶った。けど、なぜ夢斗を追うんだ……?

追いかけてるとはいえ、バトルとは言いにくい感じだ。

 

 

「くっそ、速っ!」

夢斗は離れないFDに対しフラストレーションが溜まっていた。

「コーナリング速度は勝ってるのに……なんで離れないんだよっ!」

蓮のFD3Sは夢斗のエボⅩに近づいていく。夢斗はさらにアクセルを踏む。

「やめて夢斗君!危ないっ」

「静かにしてくれ夕美っ!」

夢斗に夕美の声が届かない。絶望的な状況への抵抗だった。

 

 

「なんか、危ない……」

美世はゆっくりと、だが確実にバランスを崩していくエボⅩに危機感を感じていた。

 

 

 

4台は新環状へ。

9号深川線。中速コーナーが現れる。

エボⅩの方が速いはずなのに蓮のFDが確実に近づく。

「ーーーっ!!」

夢斗は破錠寸前。いつ終わるかわからない。それでも踏まないと追いつかれる。

「!!」

蓮は回避行動。

エボⅩがコーナーへの侵入スピードをミスし、体制が崩れた。

 

「っは!しまったーーーーーっ」

夢斗はバランスを崩してスピンしそうになるエボⅩに気づき、冷静さを取り戻す。だが、気づいた時にはもうスピンが始まっていた。

エボⅩは呆気なくスピン。立て直せない。

「クッソーーーっ」

木の葉のようにくるくる回るエボ。

「夕美ちゃん!」

蓮はスピンするエボを見る事しか出来ない。

(無事でいてっ!)

 

 

何回も回ったエボⅩはようやくスピンが止まった。奇跡的にどこもぶつけてない。

美世達も合流する。

一方エボの車内は。

「……ダメだった」

「え?」

夕美は夢斗の方を向く。これだけ危ない事をした夢斗に怒りをぶつけようとしたのだが。

夢斗のそのテンションの低さにびっくり。そのテンションの低さの前に怒りがどっかに行き、夢斗への心配の強さが勝った。

「俺は……下手くそだ」

「……」

「上手すぎるだろ……」

 

 

 

 

 

最寄りのパーキングエリアに揃う4台。

「美世さん、プロデューサー!」

「夕美ちゃん、大丈夫ですか?」

「私は平気だけど……」

「とりあえず……君」

美世が浩一の方を向く。

「君は蓮君のニセモノ?」

「美世さん!!……ごめんね」

蓮が浩一に謝る。

「こちらこそすみませんでした……」

「え?」

「俺、蓮さんのマネで目立ってて……本人に申し訳ないって思ってたのに、やめられなかったんです」

「クルマに乗る以上、似てる事だってあるよ。気にしなくていいんだ」

「蓮さんはそう言っても心の俺が許さないんです……。すみませんでした。俺、FDの色変えます」

「いいんだ!無理に変えなくても!」

「これは俺の問題なんです」

 

 

 

 

 

「えっと、君は……」

「……星名夢斗」

夢斗は相変わらずテンション激低。

「すごかったよ。僕も本気で行かないと追いつけなかった」

「あの時見てて思った。絶対に速いって」

「あの時?」

「うん。鈴鹿サーキットで走ってたでしょ」

「鈴鹿……。まさか!」

「うん。あの時の86のドライバーさ」

「……そりゃ速いわけだわー」

「あの時は全然敵わなかったけど……」

「いや、FDから出てるオーラがヤバいっすもん」

「……またいつか走らないかい?」

「もちろんOKッスよ。今度こそ勝ちますから」

 

 

 

 

「星名夢斗君……。彼は絶対に伸びていく。その実力が一気に伸びる事があれば首都高はもちろん、あらゆるステージで負けない」

「おっ?ライバルできたの?」

「ライバルって感じではないですね……でも」

「首都高を走る『仲間』は間違いないです」

 

 

 

蓮達と別れた後。

浩一と別れ、夕美を乗せて家に向かう夢斗のエボ。

「あの人が夕美のプロデューサーか。いや、スゲーな」

「……夢斗君」

「なんだ?」

「私と約束して」

「?何を」

「『絶対に無事で帰ってきて私と会う』って」

「なんで?」

「プロデューサーもだけど……いつか突然私達の前からいなくなってしまいそうで怖いの……。だから」

「無事に帰ってきて。それだけ守ってほしい」

「……わかってる。夕美と会わなきゃ俺はヒマだもん」

「それに夕美みたいに俺を待ってる人はいる。浩一とかトモさんとか……。1人だけもう待てなくなった人はいるけどさ……」

「俺は絶対に死なねえ。これが俺が夕美に守る約束だ」

「もし、破ったら……どーしよ」

「決めてから言おう!?……あ、でも死んじゃったらどうしようもないんだ……」

「ともかく俺は死なない。死なずに夕美をイジる為に必ず会いに来る」

「ちょっとー!!イジらないでよー!」

「はっは、わりー(笑)」

 

 

 

 

数日後。

約束通り浩一のFDは黄色(コンペティションイエローマイカ)から色が塗り替えられ青色(イノセントブルー)になった。

そして夢斗もある目的を作る……。

 

 

 

 

 

「首都高最速」の蓮と出会った夢斗。

蓮との首都高バトルは完敗。

しかし、夢斗は蓮とのバトルで自分の目的が固まる。

夢斗達は首都高を「生き抜く」首都高ランナーになっていた。




首都高最速の男に完敗した夢斗。
しかし、その事がきっかけで夢斗はある目的が生まれた。
夢斗は蓮を目標として見てるのかそれとも。


ネタ解説です。
・浩一のFD
美世にそっくりと言われてますが、実際結構そっくり。まあ、それが元で今回の出来事があったワケですが。
ちなみにモデルになった車両は「RE雨宮」が製作した「雨宮μ過給圧上昇7」がモデルです。ユーザーが簡単に作れる仕様でのタイムアタックマシン。チューンは最小限に止められており、ワイドボディ化はせずエアロも簡素な物で軽量化も殆ど行われていません。
エンジン本体も補機の強化と、ブーストアップしただけのライトチューンに止められていますがSタイヤで筑波59秒台を叩き出しています。
なお、湾岸では再現度が低いです。頭文字Dではある程度再現可能です(それでも限界があるけど)
浩一のFDは前期(チューニング前及びチューニング後)と後期バージョンがあります。


浩一のFDを再現するのに必要な物(湾岸ver)
なお、それぞれあるので分けて紹介。

前期(チューニング前)仕様
・サンバーストイエローか追加カラーのイエローのFD
・YOKOHAMA ADVANRacing RG
チューニング前はこれだけ。

前期(チューニング後)仕様
・チューニング前仕様の構成に加えてエアロセットE
・GTウイングA
これでOK。

後期仕様
カラーリングをイノセントブルーマイカにして前期(チューニング後)仕様の物を揃える。

湾岸では完全再現無理です。



頭文字Dでの再現に必要な物
前期(チューニング前)ver
・コンペティションイエローマイカのFD(1型)
・YOKOHAMA ADVANRacing RG

前期(チューニング後)ver
・前期の組み合わせ
・KNIGHTSPORTS製サイドスカートTYPEⅠ
・C-WEST製リアハーフバンパー
・RE雨宮製ADMIRRORTYPEⅠ
・C-WEST製GTWINGALUMINIUM II
・RE雨宮製ADHOOD9(CARBON)
・TRUST製パワーエクストリームTi-Rマフラー
これで大体似る。ただし、フロントバンパーのみ再現不可

後期verは
・前期(チューニング後)verの組み合わせ
・イノセントブルーマイカ
これでOK。

ただし両ゲーム共に後期仕様は完全再現不可。
理由は浩一のFDは「イノセントブルー」です。「イノセントブルーマイカ」ではないのです。他にフロントバンパーなどの再現ができないこともありやはり「あくまで似てる」という認識でお願いします。




首都高最速の男は夢斗の前に大きな壁として立ち塞がる。
夢斗は完敗したが、首都高最速の蓮に認められる技量を持っていた。
このバトルが夢斗に「目的」を見つけさせる。


次回は日常回。
それぞれの日常の中に繋がりがある。


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STAGE9 RX-7

日常回。
ちなみに何気に初めて事務所を越えてアイドル達が交流します。



憂鬱な気持ちで迎える授業。

「あ〜、だり〜」

「真面目に勉強しよう?」

隣の夕美に言われる夢斗。無理もない。

週始めの授業は休日気分の学生にとって避けられない地獄の1週間の始まりを告げる合図みたいなモノだ。

「もう少し寝たかったぜ……」

「頑張ろう?ね?」

「え〜」

「夢斗、やる気出せよ!」

「そう言う浩一はどーよ?」

「俺は真面目に勉強したい」

「マジで?」

「マジだ」

「嘘つけ〜」

「星名?静かにしろ」

教師が夢斗を注意する。

「怒られたじゃねえか……」

「これは俺のせいじゃねえ。お前だろが」

「津上君も夢斗君もケンカしない!」

「ごめん相葉ちゃん」

「夕美〜めんどくさい」

「どういう意味!?私が!?」

「いや授業だけど(キッパリ)」

「おい……教室出るか?」

「……サーセン」

教師に2回目の注意を受ける夢斗。何故か浩一と夕美も流れ弾が当たる。

「「ごめんなさい」」

 

 

 

 

 

休み時間。

「おい……放課後奢れ。なんでお前のせいで俺達も怒られるんだコラ」

今日は自動車部はオフ。

「食いついたのそっちでしょ」

「うぐ……。でも元はお前だろ」

「そうだよ、夢斗君が声掛けてきたじゃん」

「あ〜、そうだった」

ダルそうな声で返す夢斗。そのまま何を奢らせるのか聞く。

「何食う?」

「私はパンケーキ」

「どこでもいいからハンバーグ」

「りょーかい」

「えっ」

夢斗が素直に奢る事に驚く浩一。

「夕美はあの珈琲店でいいか。浩一はコ○スのお子様メニューで」

「おいいいい!!」

「ぎゃあああああああああ!!」

浩一にヘッドロックされて悶絶する夢斗。

「ジョーダンだって。ま、コ○スでいいだろ」

「これでいいか?」

「いいよ!」

「賛成」

次の授業に向かう3人。この後もやはり怒られる夢斗だった……。

 

 

 

 


 

 

 

場所は変わってあるスタジオ。

咲耶は写真撮影の為にスタジオにいた。

元はモデルをやっていただけあり、撮影は非常に早く進む。

「流石ですね……。何かコツってあるんですか?」

遥が咲耶に聞く。

「うーん……。余り深く考えずにやってるだけで……特には」

程なく最後の撮影も終わった。

 

 

 

その後にL'Antica全体での撮影。

「こがたんもうちょい動いて」

「うちももう少し動きたい……」

「だるいー」

個人撮影のようにはいかないようだ……。

 

 

 

 

ユニット全体での撮影が長引いた。結果、気がつけばお昼になっていた。

「疲れた……」

結華は顔に疲労が出ている。

「みんな……お疲れ」

霧子が皆を励ます。

「プロデューサー、後の予定は?」

「この後は……。インタビューですね」

「インタビューが終わったら、今日の仕事は終わりですね」

「がんばろ〜」

「まみみんだらしないよ!しっかりしないと!」

「さっきみたいな顔してた三峰に言われたくない」

「えっ」

この後一同は移動し、インタビューを受けた。

 

 

 

 

 

「……お疲れ様でした」

遥が言う。遥の前には疲れ切った表情をしているL'Anticaのメンバー達が。

「話が長い……」

「めんどくさかった〜」

「方言がわからなくてもう一回聞き直されるのが辛かったばい……」

「大丈夫……?」

「休ませてあげよう、霧子」

この後、遥が次の仕事の説明をした後自由解散。

「コ○ス行こうよ!」

「なんで?」

「新作パフェが出てるんだ〜」

「パフェ……食べたいばい!」

「皆で行こうよ!」

「賛成〜!!」

5人はコ○スへ向かう事にした。

 

 

 


 

 

「あーーっ!」

三好紗南はマ○オカート7をやってた。

彼女が持ってる3DSの上画面にはク○パが赤甲羅で足止め食らって4位まで順位を落としている様子が映ってた。

「プロデューサー速い!」

蓮が操作するヨ○シーが復帰する紗南のク○パをあっさり追い抜く。

「いや、僕はあんまりこういうゲームやった事ないよ」

「嘘ぉ!?」

結局蓮のヨ○シーが1位。

「ぐぬぬ……」

「紗南ちゃん上手いよ。僕は全然順位上げれなかったし」

「プロデューサーはちゃっかり1位なってたじゃん!」

「あはは……」

そこに現れた「永遠の2番手」と呼ばれるマ○オに出てくるル○ージの服を着た女性。

「蓮君?紗南ちゃん?」

「ひいっ!ごめんなさいちひろさん!」

「紗南ちゃんと一緒にやってて……。というよりちひろさんなんでル○ージの服を着てんですか……」

「コスプレですよ。蓮君サボりじゃないですよね?」

笑顔だが、何か重圧を感じる。

「……すぐ戻ります」

「あたしも……」

2人はそれぞれの仕事場所に戻るのだった。

 

 

 

 

いろいろあるが、こうしてそれぞれ1日を過ごす。

 

 


 

「夕美はどうする?」

「うーん、パフェ食べようかな」

「浩一は?」

「ビーフハンバーグステーキで」

「俺なんも決めてねー」

夢斗達は約束通りコ○スに来ていた。奢りは夢斗。結局、あの後毎時間怒られた。しかも夢斗に関係ないはずの浩一達も毎回巻き添えを食った。

「お前怒られねえための努力は」

「あ?ねえよそんなモン」

浩一の発言を遮り、ドヤ顔で言う。

「コイツ、ステーキの鉄板に顔突っ込めばいいのに」

「あはは……」

「俺決まり。カルボナーラ」

「夢斗君カルボナーラかー」

「前に夕美がスパ食ってたのが気になって」

「おい、どういう事だ」

「あー、誕生日の時の……」

カランと音がした。店員がいらっしゃいませといい、客を案内する。

その案内された客達は夢斗達の隣に来た。

「「「「「あっ」」」」」

「あっ」

L'Anticaのメンバー達だった。

 

 

 

 

 

 

「相葉夕美ちゃんが目の前に……っ」

結華は大喜び。

「偶然だね、夢斗」

「咲耶達は何かの帰りかー?」

「そう、さっきまでインタビューやっててね」

「ほ〜。インタビューって何聞かれんの?」

「ふふ。知りたいかい」

夢斗と咲耶が話すのを横目に浩一が結華に聞く。

「夢斗とは知り合い?」

「まーね。ゆうくんが果穂ちゃんと一緒に来てね……」

「結華、それ言わなくていいから(良心)」

「結局何があったかは果穂ちゃんしか知らないよ」

「……夢斗。絶対に迷惑かけただろ」

「いーや」

「それより夕美ちゃんとクラス一緒とはね〜。ゆうくんどうよ?」

「別にー。喜ぶのは俺じゃないし。喜ぶのは浩一だ」

「この大学入って良かったと思う(真顔)」

「へぇ〜」

「憧れのアイドルが同じクラスってまず普通はないし」

「確かにね〜」

初対面の結華達とあっという間に馴染んだ浩一達。

「そうだ!パフェ食べようよ!」

「三峰達もパフェ食べたくて来たんだ〜」

そう言うとガールズトークのスタートだ。

 

 

 

キャッキャウフフしてる女子達を見る男ふたり。

「いやー、眼福」

「うるせー」

「おま、女子についてお前何ともないの?」

「うん(即答)」

「かーっ、お前さっぱりし過ぎだって」

「俺は女はあんま関わんねえもん。俺が関わる女って夕美と母さんくらい」

「あと……」

「?」

「知らなくていい」

夢斗の声が一瞬だけ、殺気を持った声になった。

「何した、夢斗」

浩一が聞くも夢斗にはぐらかされた。

 

 

 

 

「いやー美味しかったね!」

「うん!また食べたいね」

パフェを食べ終わった夕美達がコ○スから出てくる。

約束通り夢斗が全額払った。

「割とパフェ高いんだな」

「美味しかったよ夢斗君」

「つか、夕美はパンケーキ食べんだろ……」

「あっ」

「咲耶達はこの後どうすんだ?」

「私達はこの後帰るけど」

「そっかー、気をつけて帰れよ」

「ああ」

咲耶達と別れ夢斗達は今度は珈琲店に向かう。

 

 

 

 

「いらっしゃいませ!」

珈琲店の店員の女の子が夢斗達を迎える。

「あっ!プロデューサー!」

夕美が蓮を見つける。

「夕美ちゃん。夢斗君達も一緒に?」

「うん。夢斗君が奢ってくれるって」

蓮が夢斗を見ると夢斗の顔は「奢らされてる」と告げていた。

「……夕美ちゃんは何を頼むの?」

「夢斗君おすすめの季節のスイーツパンケーキ!」

「なるほど……」

この後、3人はそれぞれ注文した。

 

 

注文した物が来るまでの間。夢斗達は話し合っていた。

「プロデューサーはなんでここに?」

「行きつけの店なんですよ。ここのコーヒー美味しいんです」

蓮がそう言うとさっきも来た店員の女の子が嬉しそうにこちらを見る。

「仕事は?」

「営業帰りだったんだ」

夢斗が蓮に質問する。

「レーサーって言っても普段何してんすか?」

「僕がレーサーをやってるのはたまに。大体はプロデューサーの仕事がほとんどだね。9割プロデュース業、1割レーサー」

「まあ、もう少しでレースあるんだけどね。来週に第2戦があるんだ」

「なーる」

「美世さんも今週第2戦」

「美世?」

「紅いGT-Rに乗っていた人だよ」

「あの人もレーサーなのか」

「うん。GT500で活躍してる」

「えっ!?」

浩一が驚く。

「美世さんは今年からGT500に参戦してるんだ。まだまだ新人って扱いだけど……。美世さんはモチュールのドライバーさ」

「すげー……」

夢斗と浩一は驚きで開いた口が塞がらない。

「お待たせしました!季節のスイーツパンケーキです!」

パンケーキがテーブルに置かれる。

夕美は美味しそうにパンケーキを食べた。

 

 

 

 


 

 

同時刻。

中古車屋には不釣り合いな制服姿の少女がいた。

「車ってどう選べばいいんだろ……?」

小日向美穂だ。学校帰りに来たらしい。

いろんな車が置いてあるが、気に入るような車はない。

「……?」

美穂はある1台の白い車に視線を向ける。

その車は今の車にはない独特なシルエットをしていた。

低いフロント部分。ヘッドライトが最初どこにあるかわからなかった。しかし、「フタ」がある事に気がついた。

「開くんだ……」

蓮のFDもヘッドライトが開くからわかった。

そしてリアの辺り。蓮のFD3Sに似た雰囲気があった。

そしてリアハッチには「SAVANNARX-7」というデカールがあった。

「RX-7って……蓮さんの車だよね」

車に詳しくない美穂でも蓮が乗るRX-7の名前だけは知っていた。

SAVANNAって何かとか細かい事はわからない。でも、RX-7という事は確か。

「217万円か……。きついかな」

美穂はこのRX-7に視線が釘付けになっていた。

 

 

 

悩んだ末に美穂は家族にも相談。結果、美穂本人の意思で購入に至った。RX-7が美穂の元に納車されたのは4日後の事だった。

白いRX-7を眺める美穂。

「私の車……」

自分の車という響きがとても良いものだ。美穂は蓮も車を持った時こんな気持ちになったのだろうと思った。

「よろしくね、ななさん」

RX-7から7を取り「ななさん」と呼ぶ。

 

 

「はっ!?」

安部菜々が周囲を見る。

「今、ナナを呼びましたか……?」

佐藤心が答えた。

「菜々パイセン、どうしたの」

「いえ、何でも……」

 

 

 

 

 

 

「蓮さんと居たい……」

目的が叶いそうだ。やっと自分から蓮へ近づける。

今東京にいない蓮を思う。

「頑張ってください。私も頑張ります」

美穂はFC(RX-7)の右フロントフェンダーを撫でた。




ユルい日常はよく書きたくなるんですよね。
そして美穂が本格的に物語に関わります。

ネタ解説です。
・事務所を越えて交流
今回346プロの相葉夕美と283プロのL'Anticaのメンバー達が交流。シャニマスも他の事務所とのコラボやって欲しいですね……。
・L'Anticaのメンバー達と夢斗
夢斗は色々あって283プロのアイドル達と知り合いになってます(何があったかはSTAGE6を見よう!)

L'Anticaのメンバー達の夢斗の呼び方
恋鐘→夢斗
摩美々→夢斗
霧子→夢斗さん
咲耶→夢斗
結華→ゆうくん

・蓮がいた珈琲店
これは「疾走のR」でも登場してます。気になる方は「疾走のR」三章を読んでみてください。なお、コラボネタなので注意。







ついに最後の主人公「小日向美穂」が動き出す。
彼女は何を思うのか。
次回、「流星の帰還編」ラスト!!


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STAGE10 追いかけていくその背中

今回事故描写あり。
苦手な方は注意!!ダメな方はブラウザバックを強く推奨!!



ついに美穂が登場。
彼女にとっての首都高はどうなるのか。



蓮、美世は現在東京にいない。

それぞれのレースの為に移動していたのだった。

蓮はスポーツランドSUGO、美世はツインリンクもてぎにいた。

 

 

 

蓮は1時間半をミスなく走りきり交代。

D-LINE86は最終的にクラス2位でレースを終えた。

 

美世はセカンドドライバーとしてスタンバイしていた。しかし、34号車は電装系トラブルにより無念のリタイア。

そのため、美世は走れずに終わってしまった。

「走りたかったな……」

美世の落胆は大きい。

 

 

2人はこうして2日間に渡ってのレースを終えた。

蓮にとっては確実に進歩があり、美世にとっては悔いが残る2日間になった。

 

それぞれの帰り道。

蓮はマサキに反省点を話し、改善点を言われてた。

「詰めるのはよくなったけど、今度はタイヤのグリップをキッチリ使い切る事が目標だな。君の武器の一発の速さを生かすも殺すもそれ次第だ。目一杯使い切ることを考えるんだ」

「はい……」

「しかし、総合面では確実にレベルアップしてる。自信を持っていけ」

「はいっ!」

蓮は再び現れた改善点を直す為に努力する。レーサーはこれを何回も繰り返して速さに変えていくのだ。

 

一方、美世はテンションが低い。無理もない。期待して待っていたのにトラブルという形で強制的に走れなくなってしまったから。もてぎを美世が走ったのは予選のみだった。

「う〜……」

ため息をつく美世を一義が慰める。

「すまなかった、原田さん。次のレースは君が全力で走れるようにする。この悔しさを次回にぶつけてほしい」

「……はい」

レースという以上こんな事はある。美世が落ち込むのもあるが、その時運転していたドライバーが1番悔しいモノだ。それでもチーム全体にこのショックは響く。

美世達モチュールのメンバー達は夜の高速を走っていく。

 

 


 

 

翌日。

夢斗達は部活動中。友也によって今月末に控えている全日本ジムカーナに出場するメンバーを決めていた。

「小林と工藤だな。夢斗は出ないんだろう」

友也が言う。

「出ますよ」

「だろ……って今なんて言った」

思わず聞き返す友也。

「俺、出たいっす」

「はっ!?どうした!?」

夢斗の発言に驚く一同。

夢斗は「ジムカーナなどに使うなら部に入らない」と言っていた。それを破るなら学校を辞めると言うように。

しかし、夢斗は自分の意思でやると言ってるのだ。

「俺は本気で勝ちたいって思う人がいるんですよ。だったらやりたい事を選んでたら俺は速くなれない」

「あの人……小日向さんに勝ちたいって」

「夢斗……まさかお前小日向さんに勝つ気なのか」

浩一が驚きを隠せない表情で夢斗を見る。

「ああ。あの人は純粋に目標だって思った!」

「プロレーサーに勝とうとするお前の姿勢がやべーよ」

浩一のFDの色が変わった際に何があったか聞いた友也達なので蓮の事は知っている。

「ったく、つくづくお前のその姿勢は真似出来ないな」

笑いながらも夢斗の姿勢を評価する友也。夢斗の向上心の強さは周りを動かすような「力」だ。

「まあわかったが……残ってる車はアレだけだぞ」

友也が言う「アレ」とは旧式のカローラレビン2door(AE86)だ。友也曰くこの自動車部が設立されてからあるベテラン……と言えば聞こえはいいが実際は時代遅れのロートルだ。

某漫画の影響で乗った部員は多い。が、漫画のようにならずにレビンを降り、他の車に乗り換える部員がほとんどだった。レビンにこだわって乗っていた部員も大会ではろくな結果を残せなかった。そのためあえてハチロクに乗る部員は今は1人もいないのである。

「別にいいっすよ。FR車に乗ってみたかったし」

夢斗はFR車には乗った事がない。運転はもちろんだが助手席に座ってでも乗った事がないのだ。

「俺は4駆の動きしか知らないし。新しい事へのチャレンジってるんって来る!」

「……変わったな、夢斗」

夢斗の姿勢が変わった事に感心する部員達。

夢斗は「首都高最速」に完敗して自信を失いかけた。手も足も出なかった。

だがそれはむしろ向上心に繋がったのだ。今度は勝つという目的ができたことで夢斗のモチベーションになり、夢斗の考え方までも変えたのだ。

「今までの俺では勝てない……。だから俺自身が変わる」

今までここまでの挫折がなかった夢斗だからこそ蓮とのバトルでの敗北が大きく夢斗に影響を及ぼしてるのである。

「トモさん早く練習させてー!」

やる気が満ち溢れてる夢斗に振り回される事は誰もが感じてた。

 

 

 

 

 

「カウンターがいるのがね……」

FR車を初運転した夢斗の感想。4WD車ではアクセルで曲げるのが基本。だがFR車はカウンターを当てないとそのままスピンしてしまう。FR車のドリフトはこれができないと成り立たない。

「初めて……だよな」

友也が怪しむ。「初めて」の割にほぼ基本ができてるのだ。

しかし夢斗は納得いかない様子。友也に教えてもらおうとやって来た。

「トモさんはドリフトできるんすよね」

「まあそれなりに」

「俺を助手席に乗せてちょっと走ってください。その後に俺を降ろしてもう1回」

「ああ、お安い御用だ」

夢斗を助手席に乗せて友也が運転するハチロクは走り出す。

 

 

高回転まで回る4A-Gのエンジンサウンドが鳴り響く練習広場。

友也が運転する様子をじっくり見る夢斗。中速コーナーに差し掛かり友也はクラッチ蹴り。その瞬間ハチロクの回転数は跳ね上がり、リアから流れ出す。滑り出したハチロクをステア操作でコントロールしてドリフトでコーナーを抜ける。

「今何したんすか?」

「クラッチ蹴りだ。ハチロクとかパワーがない車だとドリフトのきっかけを作るのもキツいんだよ。クラッチを一瞬蹴れば回転数を上げてきっかけを作れる。アンダーパワー車でのドリフトではこれがないとまず苦労する」

「なるほど」

「ブレーキングドリフトとかまず難しいんだよな……。パワーないから持ってくまでに苦労するし」

ハチロクはパイロンをくるっと回り、スタート地点へダッシュ。

 

 

「お願いします」

今度は夢斗を降ろしての走行だ。友也が乗るハチロクは再び走り出した。

 

「助手席はわかるがなぜ降りたんだ……?」

友也は夢斗の考えがわからない。助手席に乗って自分の動きを見てマネするのはわかる。だがなぜ降りたのかわからない。車に乗ってやり方を見る方が余程いいのに。

友也のハチロクは同じルートを走る。

 

 

 

夢斗は無言でハチロクを見ていた。

ただのスキール音にも耳を澄ます。フロントタイヤの切れ角に注目する。

普通なら気にしないようなところまで注意深く観察する夢斗。

夢斗にはハチロクがどのように見えているのか。

 

 

「しゃーしたー」

友也のハチロクが走り終わり、降りてきた友也に礼を言う。

「なんかわかったのか?」

「もうバッチリ」

「ええ……」

夢斗の回答に呆れる友也。

「じゃやってみます」

そう言うと夢斗は再びハチロクに乗り込んだ。

ハチロクを発進させ、コースへ。

 

 

 

「!?」

友也は驚愕。夢斗のその走り方は確かに自分の走り方が元になってる。しかし夢斗は自分の走り方をコピーしたかと思いきや自身のアレンジを加えて完成度を飛躍的に上げていたのだ。

クラッチ蹴りをして回転数を上げてドリフトのきっかけを作るのは同じ。しかしその後の踏み方が友也とは根本的に違った。

友也はアクセルペダルを踏む深さを変えて調節して曲がる。

しかし夢斗はアクセルはほぼ全開。最小限のステア操作と軽いブレーキタッチだけでドリフトしていたのだ。

「嘘だろ……」

 

 

夢斗が戻ってきた後。

「どうやったんだ?」

友也が夢斗に聞く。

「いやー、俺なりに考えてみただけっす」

夢斗はこう言うが、友也から見たら別次元のパフォーマンスだった。

「今日初めてなんだろ?FR車は」

「そーっすよ」

「それであれだけの動きになるのがすごいぞ」

「って言っても、細かいトコの詰めは全然ですよ。まだやれる」

「もう1つ聞いていいか?なんで俺の隣に乗った後降りたんだ?」

友也は一番聞きたかった事を聞く。

それに返ってきた夢斗の回答。

「大体のやり方を最初トモさんのやり方と重ね合わせたんスよ。それで俺のやり方で同じ事をどれだけ完成度を高いものにできるかって」

「トモさんの隣でまず動きを見る。その後に車の外から見て外から見た動きをどれだけ変えれるかを考えてたんですよね」

「なっ……」

夢斗の答えが途方もなく高レベルだった。

 

 

まず友也の動きが自分のやり方に近い事を確かめる。その後に外から同じ事をするハチロクを見てどれだけの変更ができるのかを考えてたと言うのだ。

「まさか見ただけで覚えたって言うのか!?」

「そーっすよ」

「!!」

見ただけで覚えるという天才っぷりを見せつけられた友也。

「本当にすごいヤツだよ……」

友也が部室に戻った後も夢斗はハチロクで練習を繰り返していた。

 

 

 


 

 

「さくやーん!終わったー!?」

結華が聞いてきた。

「ああ。ちょうど終わった所だ」

結華の前には営業を終えたばかりの咲耶がいた。

「今日の仕事はこれで終わりだけど……」

結華は咲耶を誘ってどこかに行こうとしてるらしい。

「いや、私は行きたい所がある」

咲耶が結華の考えを先読みしたかのように答える。

「えっさくやん三峰の考えわかるの」

「なんとなくさ」

咲耶の答えに結華は思いついた。

「そーだ!さくやんの行きたい所について行っていい!?」

「いいよ」

「軽いっ!?」

咲耶があっさりOKした事に軽く驚く。

「ただ結華にとってはつまらないと思うけど」

「いーよ全然!さくやんが何してるか知りたいし」

「ふふっ、どうかな……」

咲耶と結華はエボⅨに乗り込む。

「なんかすごいよね。車の外からでも何かすごいってわかる」

結華が自分が感じたそのままの感想を言う。

「ありがとう。でもまだまださ」

「……?」

咲耶と結華が乗るエボⅨが駐車場を出てある所に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM6:30。

部活動終了。夢斗はハチロクを倉庫にしまい帰り支度をしていた。

「夢斗くーん!」

「来たか」

夢斗がいつも通りという風に夕美をエボⅩに乗せる。

今日夕美は校内での活動をやってたらしい。それに合わせて夢斗が迎えに来てた。

「ごめん、遅くなった?」

「いや、俺も今終わったとこだし」

「カルく遊ぶわ……」

「えっ」

夢斗の遊ぶ発言は首都高行きを意味する。

 

 


 

 

PM9:00。

蓮のFD3Sが湾岸線を走っていた。

「美世さん元気だしてください」

「う〜。もてぎ走りたかったぁぁ」

美世の愚痴が止まらない。

美世の気分転換に湾岸に出ていた蓮。

すると後ろから車内に眩しい光が入り込む。

「バトルはあまりやりたくないけどな……」

仕方なく戦闘態勢に入っていく蓮。

 

 

「さくやん助けて!いや本当に!!」

叫ぶ結華を助手席に乗せた咲耶のエボⅨが蓮のFDを追う。

「この間は勝負にすらならなかったけどっ」

咲耶がブーストコントローラーを操作しブースト圧を上げ、FDの前に出るべくスピードを上げていく。

この時点でメーター読みで260km。このスピードの中で平然としてる咲耶に恐怖を覚えた結華は誰にも届かない助けを求める。

「死にたくないいいいい!助けてーーー」

 

 

 

湾岸線を猛スピードで走る2台の車。

蓮と美世が乗るFD3Sと咲耶と結華が乗るエボⅨ。これを追う1台がいた。

「待ってたよ……夢斗君」

蓮がバックミラーに映る銀色のエボⅩを見て呟いた。

「今度こそっ!!」

この間はボロクソに負けた。だが再び同じ事をするワケに行かない。

280kmというスピードで一般車を避ける為に超高速スラロームを繰り返してFDとエボⅨに近づく。

これだけの速度でスラロームを繰り返しているのに関わらずしっかりと体制を維持出来るのは夢斗が製作したフルフラットアンダーフロアなどのパーツのお陰だ。矢のようにまっすぐ進むエボⅩを夢斗は完璧にコントロールしてる。夢斗の集中力は今までないくらいに高かった。

 

 

 

 

だが夢斗の渾身のプッシュも長くは続かない。

「ダメか、水温が上がるっ……」

エボⅩは水温上昇により無理な加速ができなくなっていた。

メーターが指す水温は106度。油圧も低下している。

一度は咲耶と蓮に近づいていたがジリジリと後退するエボⅩ。

その時バトルに1台の車が入ってくる……。

 

 

 

 

「FC……?」

蓮は前に白いFC3Sを見つける。

一方夢斗のエボⅩの車内では夕美が驚いた表情でFCを見ていた。

「あれは……」

「知っているのか、夕美」

「うん……あの車に乗ってるのは」

 

 

「なんで美穂ちゃんが!?」

FCをパスした時に横を見たらFCを運転していたのは美穂だったのだ。

蓮は動揺していた。何故FCを美穂が運転しているのか。

FDとエボⅨが美穂のFCを追い抜く。するとFCもスピードを上げてきたのだ。

「無理だ……」

蓮はFCを見て呟く。美穂のFCはドリ車だ。湾岸で勝負するような車ではなかった。

 

 

 

「行かないでください……」

美穂はぽつりと呟く。やっとこうやって蓮を追いかける事ができた。しかし蓮のFDは遠くに離れていく。FDの後ろ姿が小さくなっていく。

「置いていかないでくださいっ」

美穂はアクセルを踏み込む。

 

 

美穂はこれが初バトルだ。

相手は現首都高最速と言われる蓮とトップクラスの首都高ランナーの咲耶、そして天才夢斗だ。どう見ても勝ち目がない。

それでも蓮のFDを目指して踏む。自分から近づいていくという思いを胸に。

だが、美穂の思いを否定するかのようにFCはコンディションを悪化させていく。水温油温ともに上昇、油圧低下、さらにはタイヤとエンジンもタレていた。中古だったFCのメンテナンスが出来てなかったのだ。

しかし、蓮のFDと咲耶のエボⅨはクーリング走行の為に減速していた。これを逃すまいとFCをフル加速させる。

 

「やべえぞアレ」

夢斗がFCの状態を危惧していた。FCのドライバーはオーバーヒート寸前のFCを無理にプッシュしているのだ。オーバーヒート寸前の車を無理に加速させるFCのドライバーの技術のなさに危機を感じていた。

FCはマフラーから白煙を吹き出していた。危険な状態という事は誰が見てもわかる事だった。

 

 

「もう少し……っ」

美穂のFCは蓮のFDと咲耶のエボⅨに迫る。FCのボンネットからは蒸気が漏れていた。しかしそれを気にする事無くFCのアクセルを踏み続ける。

「速い!!」

蓮が横に並ぶFCを見る。1番左の車線に蓮、中央に美穂、右の車線に咲耶という並び。3台が並んで湾岸を駆ける。

「さくやんなんかヤバイよ隣の車!!」

「その通りだなっ」

ロータリーサウンドが甲高くなる。

FCのエンジンの吹けが急に良くなった事に美穂は気づかなかった。「ソレ」はエンジンブローの前兆だった。

 

 

 

 

どこまでも加速していきそうな錯覚。

このままどこまでも走りたい……。そう思った美穂。

 

グシャッ、と音がした瞬間ものすごい破砕音が聞こえた。何かが連鎖的に壊れる音。その直後、FCのコントロールを完全に失った。

「……え?」

タイヤがロックしFCの体制が崩れていく。

美穂は回転数が急低下していくタコメーターを見る。

「どういう事……?」

タコメーターから目を離した美穂が次に見たのは壁だった。

次の瞬間FCは壁に激突。フロント部分が大破。なおも止まらずFCは今度は反対側の壁に接触。助手席側のドアが歪みリアスポイラーが吹っ飛ぶ。それでも勢いは変わらず複数回壁に接触し、最終的にFCは一瞬宙に浮く程の接触の後に完全に止まった。

 

 

 

「美穂ちゃん!!!」

蓮がブレーキペダルを踏む。蓮のFDは一気に速度が落ちてみるみる後ろに消えていく。

「なんて事だ……っ」

咲耶のエボⅨもスピードを落とす。

「ヤバいよアレ!!生きてる!?」

結華が動揺を隠せない声で無事を祈る。

 

 

「美穂ちゃん!」

夕美が叫ぶ。夢斗も目の前で起きた大クラッシュに驚きを隠せない。

「マジか!?死ぬなよ……!!」

路面にオイルなどが混ざった液体が残り、FCの動きを表していた。所々にFCの部品が散乱している。

全員はFCのドライバーの無事を祈っていた。

 

 

 

FDがFCの前に止まる。

FCはフロント部分が見るも無残な姿になり、ボディは目で見てわかる程大きく歪み、リア部分はテールランプが割れていてリアハッチのガラスが粉々になっていた。足回りも折れていて右フロントタイヤが真横を向いており、左フロントタイヤに至っては千切れていた。

FDから蓮と美世が降りる。蓮は美世に指示を出していた。

「美世さん、救急車を呼んでください!緊急ダイヤルと!後ローダーを!!」

「わかった!!」

美世は急いで電話を掛けて各種対応を行い、内藤に電話。

「健さん!ローダー持ってきて!!事故起きたっ!」

「いきなりどうした。場所は」

「湾岸下り!バトル中に事故った!」

「少し待ってろ。すぐ向かう!」

内藤に電話し終わった美世が見たのは大破したFCの歪んでいるドアを開けようとしている蓮の姿だった。

「待ってて!すぐ助けるっ!」

やがて夢斗達も合流。

「うわ……大丈夫かこれ!夕美は乗ってろ!出たら危ない!」

「結華、警察に電話してほしい」

「わかった!」

 

 

ようやくFCのドアを開けた蓮。

「美穂ちゃん!」

FCの車内もぐしゃぐしゃになっていた。フロントウインドウは大きなヒビが入り、若干ガラスがない部分もあった。

悲惨な状態のFCの車内にはぐったりしてる美穂が。

「美穂ちゃん!!しっかりして!!」

大声で呼びかける蓮。美穂は蓮の声で目を覚ます。

「美穂ちゃん!」

「蓮……さん?」

「待ってて!すぐ出すから!」

蓮は美穂が付けていたシートベルトを外し、美穂を抱えて車内から出す。

「蓮さ……ん。ごめんなさい……」

「謝らなくていいんだ……っ。謝るのは僕の方なんだ……!」

「……」

美穂の腕が力なく下に落ちる。

やがて救急車や消防車のサイレンが聞こえてきた。

 

 

 


 

 

 

車のラジオから流れる交通情報が状況を告げる。

ガガッ湾岸線にて事故発生。こちら交通管制センター、ただいま湾岸線にて事故発生。下りで乗用車が単独事故を起こした模様」

「現在湾岸線は事故のため下り東雲JCT(ジャンクション)より通行止めとなりました」

大規模な渋滞が発生する。

内藤は交通規制が出る前になんとか事故現場付近に入る事ができた。

「こりゃかなり大きそうだな……」

 

 

 

 

 

救急車に乗せられる美穂。美穂の付き添いの為に蓮も救急車に乗り込む。自身も約半年前に救急車に乗せられている。

美世に自分のFDを頼み、美穂と共に病院へ向かう。

2人を乗せた救急車は現場を後にした……。

 

 

 

 

 

夢斗は「蓮打倒」という目的を持った。

その最中、再び蓮と咲耶と出会いバトル。バトル中に突然美穂が現れた。

そして美穂は初バトルで大クラッシュという事態になってしまう。

だが皮肉にもこの出来事があってこの物語の最後の「主人公(役者)」が現れた。

伝説は混乱の中で加速していく。




美穂登場。
しかし彼女の初バトルはまさかの結果に……。


ネタ解説です。
・クラッチ蹴り
友也がやってその後夢斗もすぐにマスターしました。
実際コレはハチロクなどに乗ってる人がよくやるテクです。
個人的にはD1に参戦している日比野選手や植尾選手が印象深いです。
・咲耶のエボⅨ
紹介ができなかったのでここで。
モデルはG-FORCEのデモカーとHKSの「CT230R」(ただしベースはエボⅦ)を参考にしてます。
G-FORCEのエボはVIDEOオプションの中の企画「ストリートスーパーラップ」に登場した青いエボです。性能面はもちろん、スタイリングも纏まってカッコイイです。個人的に大好きなチューニングカーの1台です。
HKSのCT230Rは筑波サーキット55秒切りという前人未到の記録を叩き出した直後に全損した前身機「TRB-02」に代わって制作された車両。自社パーツを使って徹底的にチューニングされており、特にボディはパネルの大半をカーボンに変更する等で大きく軽量化、4WDとしては破格の1068kgという軽さです。
筑波で53秒589というレコードタイムを樹立。その性能の高さを見せつけました。
このレコードは長らく破られなかったのです。


湾岸、イニD両方で再現可能。イニDが非常に再現度高いです。
湾岸マキシで咲耶仕様を再現するのに必要な物
・カスタムカラーのブラックを持ってるエボⅨ
・エアロセットE
・FRPボンネットC
・エアロミラー
・GTウイングA
・RAYS VOLKRACING28N

イニDで再現するのに必要な物
・ブラックマイカのエボⅨ
・JUN製フロントバンパースポイラー
・C-WEST製サイドステップ
・ings製リアバンパー
・VALDIsport製ボンネット
・GANADOR製スーパーミラー
・VARIS製オールカーボンGTウイング
・RAYS VOLKRACING28N(MERCURY SILVER)
・HKS関西製Rチタンマフラー


コレで再現可能。イニDは咲耶のエボⅨそのものと言えるくらい再現度高いです。(とはいえ完全再現不可)


・美穂のFC
今回初登場していきなり大破したFC。ドリ車と言われてるようにエアロ面は派手。
湾岸で言えばエアロセットCみたいなエアロです。
馬力は劇中では明らかになってませんが、一応430馬力程度という設定です。



美穂がやっと物語に関わります。
この話を書いてる時に私の担当と言うのもあって怪我させたくなかったけど、それだと不自然とか色々あるので怪我させてます。
本当にごめん美穂ちゃん……。


FCは大破。
果たして美穂は無事なのか?
そして……首都高最速に情熱を燃やした者達は再び立ち上がる。
新たなモンスターマシンが目覚めようとしていた!!




私情で申し訳ないのですが、私は6月中旬に中間試験が控えており、更新が遅れます。
極力早めに投稿できるよう努めますのでよろしくお願いします。





「流星の帰還編」完


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究極のFC編
STAGE11 傷跡


新章突入!
今も昔も情熱は変わらない!豪華なコラボがココにある!!


昨日の湾岸線での事故から一夜が明けた。

約4時間に渡っての通行止めは今は解除されている。

この事故はニュースに出る事はなかった。

何故ニュースにならなかったかは誰にもわからない。

しかし、これは幸運だったかもしれない。アイドルが事故を起こしたという事が知られれば騒ぎになるだろう。ニュースになってないため、ファン達には知られないだろう。

 

 

 

 

ここは内藤自動車工場。

工場の正面にある大扉の前にはセルフローダーが止まっている。その荷台には無残に壊れた元の姿とはかけ離れた白いFC3Sが載っていた。

 


 

時間を遡ってAM1:00。

事故発生後の現場では大破したFCをローダーに載せようとしてる内藤と美世がいた。

「こりゃあひどいナ……」

車を整備するのが仕事の内藤。整備のベテランである内藤をしてこう言わせる程のFCの破損状態。

致命的なダメージを受けているのは誰もがわかる。

内藤が右側のリトラクタブルライトが無くなっていたり、ツブれたラジエーターなどが見えるフロント部分からエンジンを覗き込む。エンジン回りのパーツが衝突の衝撃で無くなってるか壊れているのがわかるが、一番大きいのはパーツが無くなってる部分から見えるエンジン本体。

外からでもわかるエンジンの状態。ローターハウジングにクラックがあり、中のローターがハウジングを傷つけていたのである。

エキセントリックシャフトが折れており、これによりローターが暴れた事がエンジンブローの原因である事がわかった。

「健さん、早く載せよう」

美世が内藤に呼びかける。

「だな……」

2人は協力してFCをローダーに載せていく。

やがてFCを積み終わり、内藤が運転するローダーは現場を後にした。

美世も蓮のFDに乗り込み、この場を後にする。

 

 

 

 

 

それから数時間後のAM7:30。

今日美世はオフなので内藤と共にFCのチェックをする。

「と言ってもね……」

ぐしゃぐしゃになったFC3Sをどうしようと言うのか。

美穂本人に聞こうにも彼女はこの場にいない。

蓮によれば美穂の怪我は軽いものだったという。しかし、様子を見る為に1週間は入院するとの事。

あの時蓮のFD3Sが出していたスピードは時速300km。これに並んでいたFCもほとんど変わらないスピードが出ていたはずだ。にも関わらず軽傷で済んだのは奇跡と言っていいだろう。

とはいえ美穂の選択は決まってるだろう。

「さてと……」

ローダーからFCを降ろし、工場奥に運び込む。

 

 

 

 

場所は変わってある病院。

病室に入っている患者の名前に「小日向美穂」の名前はあった。

彼女1人だけが入る病室にいたのは蓮。

「……」

目を覚まさない美穂を見る蓮。

「本当にごめんね……」

蓮は美穂に言う。

彼女を1週間休ませるという事を蓮自身が事務所に知らせている。

なぜかと聞かれたが、蓮は家族の都合で病院にいるとだけ告げている。真っ赤な嘘だ。美穂の家族は元気だ。ただ、美穂が怪我した事は伝えている。

 

 

「……蓮さん」

「美穂ちゃん……!!」

美穂が目を覚まし、蓮を見る。

「痛……」

「あんまり激しく動いちゃダメだよ」

怪我が軽いとはいえ、やはり体に痛みがある。

2人は話し始めた。

「美穂ちゃんはあのFC……いやあの車をどこで買ったの?」

「中古車店で。蓮さんの車と同じ名前だったので」

「……いつ買ったの?」

「先週の月曜日に契約して車は金曜日に来たんです。ちょうど蓮さん達がいなかった時に」

蓮と美世は金曜日に東京を出てそれぞれサーキットに向かっていた。そのため美穂がFCを納車した事を知らないのである。

「そっか……」

「美穂ちゃんはあの車をどうするの」

蓮は聞く。

「私はななさんに乗りたいです。蓮さんを追いかけたくて」

「美穂ちゃん……もうやめてほしい」

蓮が美穂を諭そうとする。

「元はと言えば僕のせいなんだ。僕があんな事してなければ美穂ちゃんが怪我する事だってなかった……」

「だから……お願い」

しかし。

「ごめんなさい、蓮さん。私は辞めたくないです」

「あの時は私がななさんをちゃんと分かってなかったんです。今度はちゃんとななさんを分かっていたい」

「それにもしも辞めてしまったら蓮さんがさらに離れるような気がして……」

美穂の言葉を聞いた蓮はしばらく考えた末に美穂に話す。

「わかった。美穂ちゃんは……降りないんだね」

「今度は僕が美穂ちゃんを精一杯守る。美穂ちゃんがみんなと会えるように」

「それに……美穂ちゃんは頑固だし。僕と同じだよ。決めた事は絶対曲げない」

「とはいえFC……美穂ちゃんの車はボロボロになってるんだ」

「行ってみる?車の所に」

「お願いします」

この後、外出手続きを済ませて蓮のFDは病院を後にする。美世が届けてくれたFDだ。

 

 

 

「蓮さんの車ってななさんとだいぶ違いますね」

「うん……」

FDで内藤の工場に向かう2人。美穂の頭には包帯が巻かれており、頬には絆創膏が貼られていた。

彼女は蓮の操作に注目してる。

「蓮さんってとても丁寧に運転してますよね」

「そうかな……」

「はい。優しいってわかります」

実際、蓮の運転は丁寧。車に負担を掛けるような乗り方をしていない。

FDはやがて工場に到着した。

「着いたよ」

「はい」

2人はFDを降りる。降りた2人を迎えたのは美世。

「蓮君!美穂ちゃん!!美穂ちゃん大丈夫!?」

「私は大丈夫です」

「よかった……。蓮君どうしてここに?」

「美穂ちゃんにFCを見せたくて」

「FC今あるよ。着いてきて」

2人は美世に連れられて工場の奥に進む。

 

 

工場の奥。

そこには様々な部品が無くなっており、痛々しい姿に変わったFCが鎮座していた。

「ななさん……」

美穂はFCに近づいていく。涙が頬を伝っていた。

美穂はぐしゃぐしゃになったFCの右フロントフェンダーを撫でる。

「ごめんなさい……」

その言葉はFCを傷つけてしまった事への謝罪なのか。それともFCを「理解」っていなかった事の謝罪なのか。それは美穂自身にしかわからない。

 

 

 

 

 

「蓮さん、美世さん。ななさんって直りますか」

気が済むまで泣いた後、蓮と美世に聞く。

美世が答えを言う。

「ななさんってFCの事か。美穂ちゃん、正直に言うと難しい」

「私達の力では難しいんだ……」

美世の言葉に愕然とする。

「でもね……。可能性はある」

美世の言葉を引き継いで蓮が言う。

「そういう事のプロの人と知り合いなんだ。その人達の力を借りればいけるかもしれない」

「それじゃあななさんは直せるんですか!?元に戻るんですか!?」

「うん。元通りになるさ」

「やった……!!」

美穂の表情に笑顔が戻った。

「とりあえず美穂ちゃんの体が治ってからだね」

「はいっ!」

 

 

 

「ありがとうございました。ななさんの事を考えていただいて」

「いーよいーよ。美穂ちゃん蓮君と似てるもん。頑固なトコが(笑)」

「えへへ……」

美穂は再び蓮と共に病院に戻っていった。

 

 

 

 

 

「事故……。大丈夫だったのか」

友也が夢斗に聞く。

先程夢斗が昨日の事を言ってきたのだ。

「小日向さんが言うには軽い怪我で済んだらしいっす」

「そうか……」

「夢斗、気をつけろよ」

「わかってますよ。夕美との約束もあるし」

「おいコラどういう事だ」

「浩一には関係ねーよ」

夢斗達はいつも通り部活していた。

 

 

 

「夕美ー、今日何もなかったのか?」

夢斗が夕美に声をかける。

「うん……。今はそれどころじゃなくてね」

「……昨日の事か?」

「ううん。プロデューサーがいなくて」

「小日向さんがいないのか?」

「うん」

「まあ、看病じゃね?」

「あっ……」

美穂の入院は蓮以外にはその場にいた人物しか知らない。

「怪我は軽いって言ってたけどな」

「そっか……。早く退院するといいね」

「だな。仕事あるだろーし」

夢斗はいつものように夕美を送って家に帰る。

 

 

 

 

 

深夜。蓮はある事を考えている。

パソコンを見ていたら日をまたいでいた。見ていたのはヤ○オクのページだ。

ブローしたFCの13Bは再起不能と判断されていた。ハウジングなどが粉砕されていたのだ。

その為中古エンジンを探して新たにFCに載せる事を決断した。

その中で程度がイイFD3S用の13B-REWがあった。蓮はこれを即決購入。

ユーノスコスモ用の20B-REWも選択肢としてはあった。しかし、エンジン特性が13Bとはまるで違う。美穂がそのパワーを扱いきれるかを考慮した。それに13Bで無くなったらソレは美穂の知る「RX-7」ではなくなる。蓮もエンジン換装はあまり好きではない。

「とりあえずどんな感じにするかだよね……」

美穂は自分を追いかけるのが目的。当然湾岸での最高速バトルも考慮しないといけない。

「湾岸だけに絞れば……」

そうなれば高回転域を多用する。それにピッタリなのが「ペリフェラルポート加工」だ。

ペリフェラルポートは、吸排気の気流の方向がローターの回転方向と一致するため吸排気抵抗が少なく、特に高回転域でのフリクションが少なく、高出力が得られる。

高回転域までスムーズにブン回るフィーリングはロータリーエンジンの特徴をよりはっきりさせたと言えるのだ。そして高回転域でのパワーやトルクが向上し、パワー「だけ」を追及した正真正銘レース向けのエンジンへと姿を変える。

しかし、ソレはレースでの利点。

まず低回転域での圧倒的なトルク不足が目立つ。まず扱いにくい。そして鬼のようにガソリンを食う超高燃費エンジンへと化ける。排気音も爆音となり、普通に公道を走るようなエンジンにはならなくなる。

ガソリン代で美穂に負担を掛ける訳にはいかない。だからといってそれを捨てたら湾岸では勝ち目がない。美穂の目的は達成できない。

「難しいな……」

しかし美穂は「本気」でやろうとしている。

「……仕方ない」

蓮はFCの修復プランを考えていく。数時間後に一通り考え終わった。気がついたら朝6時。

「あ……っ。やばい」

慌てて出勤準備をしてFDに乗る。

結局蓮は一睡もせずに事務所に向かうのだった。

 

 

 

 

「プロデューサー大丈夫?」

蓮に聞くのは渋谷凛だ。

「なんとか……」

そう言う蓮は疲れが出ている。

一睡もせずに事務所に来てそのまま直ぐにデスクワーク。レースとはまた違う過酷な蓮の「仕事」だ。

「私がちひろさんに聞いてくるからプロデューサーは休んで」

「いやいや、まだ頑張れますから」

変な所で頑固な性格している蓮。無理にでも仕事をやろうとしていた。

「……未央、助けて」

「えっ、私!?」

「仕方ないじゃん、プロデューサーが休まないんだもん」

「休まないのはわかったけど何で私!?」

「未央ならどうにかなるかなーって」

「適当!!でもまあ、未央ちゃんが頑張るよ」

「プロデューサー、未央ちゃんとコーヒーでもどう?」

「あ、欲しいです。ちょうど眠気覚ましに欲しかった……」

「え、休憩どころか続けようとしてる〜!!」

蓮は結局コーヒーを飲みながら仕事を休まずやり続けたのだった。

 

 

 

「蓮君どうしたんでしょうか……」

ちひろが困り顔で武内Pに言う。

「わかりませんね……」

蓮は明らかに疲労が取れていない様子。しかし無理をしてやろうとしている。このままだと確実に体を壊すだろう。

「少し蓮君を休ませます」

ちひろは決断した。もし蓮が体調を崩したらここでの仕事はもちろん、レースでも支障が出る。

ちひろが仕事途中の蓮に声をかける。

「蓮君休みましょう?ね?」

しかし。

「すみませんちひろさん。まだやれます」

「みんながあなたを心配しているの!もしあなたがいなかったらみんな心配するの!だから……今だけ休んで」

「……すみません、少しだけ休みます」

ちひろの説得に負けて蓮は仮眠室に行く。

 

 

 

 

仕事終了後。

蓮はある工場にいた。そこには美世の姿もあった。

工場の奥に運び込まれたのはあのぐしゃぐしゃになったFC3S。

「お願いします、高木さん」

蓮に高木と呼ばれた男が口を開く。

「いきなり北見さんから電話が来た時は何事かと思ったよ……。まあ、事情は聞いた。やってみるさ。今も首都高に情熱を燃やすヤツを見れるのがね、俺も手伝いたい」

「高木さん、僕もやります」

「えっ」

「ほう……?」

美世が驚いた顔で蓮を見る。

「この車を僕一人では直せない。けど、僕はこの車が直るのを自分は見ているだけっていうのが許せなくて。だからお願いします」

「お前のFDをざっと見たがお前はアレを1人で仕上げたんだろ?」

そう。蓮のFDは全て自分で仕上げたのだ。

ネットに頼らず、試行錯誤を繰り返して組み上げた。長い時間と金をかけて仕上げた愛機。

「あれほどの性能を発揮できるクルマを自分1人で作るのは難しいコトだ。大体のヤツは人任せだ。ショップだとかそういう所に。だがな、お前はクルマに向き合おうとする姿勢がある。ソレがないヤツはいつかクルマに裏切られる」

「深くクルマに向き合う姿勢があるお前はクルマを想う気持ちは強い。そしてそのクルマのドライバーのコトも思っているんだろう」

「手伝う以上、妥協はしないぞ。徹底的にやる」

「わかりました」

「お前のFDよりも高いレベルになるぞ」

「はい!」

 

 

 

美世が明日の仕事の為に帰った後も蓮と高木は作業を続けていた。

大きく歪んでいたボディはある程度は戻っている。歪んだ跡は残っているが、それでも事故直後と比べると綺麗になっている。

蓮は高木に質問する。

「高木さんは『悪魔のZ』のボディを作ったんですよね?」

「……ああ。懐かしいな」

悪魔のZ。首都高に存在する伝説のマシン。

かつて蓮は悪魔のZと首都高最速を争っている。Zのドライバーは蓮や美世も知っている。

「どんな気持ちであの車のボディを作ったんですか……?」

「希望……と言うべきか。あの車は」

「希望……。北見さんも言ってました」

「誰もが成し得なかった事をやろうとする為に生まれた存在。ソレを自分の手で生み出す挑戦ってトコか」

「だからこそあの車はアキオのパートナーだったんだろうな」

「……」

大体の作業が終わった頃には夜9時を回っていた。本来の営業時間を過ぎていた。

「すみません、こんな時間まで」

「いいさ。こうやってお前が手伝ってくれるからだいぶ早く進んでるさ」

蓮は工場を後にする。

 

 

 

蓮は家に帰ってきた後すぐにパソコンを起動。

ネットでFCのエアロを見ていた。しかし理想形のエアロはない。

「作って貰えるかな」

蓮はある人物に電話をかける。

やがて話し終わった後、蓮は教えられた店の名前を紙にメモする。

紙には「SSマッハ」と書かれていた。

これだけやって蓮は就寝。

 

 

 

次の日も仕事をみっちりとやってから教えて貰った店へ行く。

中に入った蓮を迎えたのはオヤジ。

「おおっ、お前か?北見が言ってたのは」

「北見さん話を回してたんだ……。はい、僕です」

「俺は佐々木元。まあ、ガッちゃんとでも呼んでくれ」

「それで何のエアロ欲しいって?」

「いえ、ワンオフで作っていただきたいんです」

「はっ!?」

「北見さんから聞きました。あなたはかつてワンオフエアロを作っていたと」

「あなたの力を借りたくて来ました。お願いします」

蓮は頭を下げる。

「いいね〜。ちょうど俺もヒマしてたトコだ。イイじゃん、ヤってやるぜ」

「クルマはなんだ?」

「FCです」

「FCか……。FCはドコに?」

「FCは今ココにないんです。事故で壊れて。今高木さんの所にあります」

「高木が……。ひょっとしてお前他にもいろんなとこに関わってんだろ」

「はい。FCを本物のマシンにするために」

「お前はスゴいヤツってわかるよ。俺はこーいうヤツに力を貸すヤツだからナ」

「おっしゃ!デザインは俺が考える!イイか!?」

「はい!お願いします!」

2人はアイデアを出し合いながらFCのエアロデザインを練り上げていく。

あまりにも熱中しすぎて奥さんに怒られたが。

 

 

 

 

翌日。

蓮は今日はオフだ。いや、オフにされた。

この数日間の蓮の様子を見かねたちひろ達に強制的に休みにされたのである。

蓮はいつもの時間通りに起きる。昨日は深夜までエアロを考えていた。その為蓮は良くて5時間程しか寝ていない。

ここの所ロクに休めていなかった蓮。当然体調にその影響が出ている。体は重いし、頭痛もする。

蓮は頭痛薬を飲み、リポビタンDを流し込む。

万全とは言えない体調で蓮はFDに乗り込み、あるショップへ向かう。

 

 

 

蓮のFDが止まる。

そのショップには「RGO」とあった。

店に入った蓮を迎えたのは女性。

「こんにちは、あなたが小日向サンね」

「ええ。こんにちは、大田リカコさん」

リカコと呼ばれた女性。

彼女はかつて悪魔のZに挑んだ「神谷エイジ」が駆るランサーエボリューションⅤをチューンした。その後、悪魔のZのエンジンに手を入れた事がある。

今は引退した父、大田和夫の跡を継いでRGOの代表を務めている。

「もう用意はできてるわよ」

「ええ」

蓮はあらかじめここに置くように依頼していた木箱を開ける。

その中には13B-REWが入っていた。エンジンとは別に、補機類やスペアパーツ一式が袋に入れられていた。

木箱の中身を運び出し、奥の作業場に置く。

そこにはRGO関係者ではない男の姿が。

「待ってたぜ。こうやって再びロータリーを組む事になるとはな」

「すみません、無理を聞いていただいて」

「FCは俺がよく知ってる。アンタの手伝いをしたくてな」

内藤健二だ。かつて「追撃のテイルガンナー」と呼ばれたトップクラスの首都高ランナー。美世の師匠でもある。

彼はかつて、赤いFC3Sで最前線を走ってきた。一線を退いた後に内藤は当時の美世を隣に乗せたこともある。

美世はその時の事がきっかけで首都高を走りたい、と思ったそうだ。

ロータリー車に強いRGO、しかもRGO代表で「悪魔のZ」にも手を入れた事がある太田リカコ。

かつて最前線を走ってきた首都高ランナーであり「追撃のテイルガンナー」と呼ばれたロータリーマスター内藤健二。

ロータリーエンジンを知り尽くした2人が手がけるというだけでも期待は大きい。

そして、エンジンの仕様を考えるのは現「首都高最速」であり、現役レーサーの小日向蓮。

このメンバーでハンパなエンジンを作るなんて誰も思ってない。やるからには絶対に妥協を許さない。

ロータリーにこだわる者達の情熱が注がれようとしていた。

 

 

 

 

カチャカチャとメガネレンチを動かす音が聞こえる。

この場には3人しかいない。

今日は代表自らが出るという事もあり、従業員達は蓮達が作業できるように場所を空けていた。

内藤は蓮の考案通りにペリフェラルポート加工を行っていた。

蓮はパーツの組み付け。内藤が加工したパーツを組み合わせていく。

リカコは蓮が組み付けたエンジンをチェック。コレがしっかり出来ていないとロータリーエンジンの精度はガラリと変わる。その為、細心の注意が必要だ。

1mmの誤差も許さない非常に精密な作業。たかが1mmと言う人は本物のチューンドロータリーがわからない。

非常にデリケートなエンジンであるロータリーエンジン。だからこそ、組み上げる人の技量が問われる。言い換えれば自分の車への知識がそのままエンジンの精度に繋がると言っていいだろう。その為、ロータリーエンジンを載せた車に乗る人は車を「理解」っている事が前提なのだ。夢や憧れだけで乗るのは難しい。

ロータリーエンジンはコンディション次第で最大限パフォーマンスを発揮できるし、最悪エンジンを壊しかねない。

 

RE車に乗るからにはそれ相応の経済性、技術、そして知識がなければREの本当の領域に入れない。

金がなければ維持できない。運転がヘタなら車は壊れる。そして分かってなかったら走らせる意味がナイ。

それを承知でREを選ぶーーー。

 

 

 

大体の形になる頃には夕方になっていた。

昼食を食べた以外、蓮は休憩していない。

蓮の前にはとりあえずの形になった13Bがあった。タービンなども付いている。この後馬力の測定だ。

リカコがエンジンを始動させる。クランキングを始めたエンジン。エキセントリックシャフトが動き、ローターが回転し始める。

ひとまずエンジンの始動は成功。あとはどれだけ馬力が出ているか。

ゆっくりと回転数を上げていく13B。ロータリーエンジン特有の高いロータリーサウンドが作業場に響く。耳を塞がないと鼓膜が破れそうな程大きな音がする。その間にも計器の針は動き続ける。

数分後、針の動きが止まる。

「460馬力……!」

まだちゃんとした出来ではない。しかし一発目の測定でここまでパワーが出ている。

「まだまだ行けるね。どう?」

「ですね。さらに煮詰めていきたいです」

「扱いやすさも考慮して……。理想になるまで何回でもやるよ!」

「FCを象徴するモンだ。コレがしっかりしてなけりゃFCはポテンシャルを引き出せない」

3人は閉店までエンジンのセッティングを続けたのだった。

 

 

 

 

 

伝説のマシンに関わった者達の手でFCの再生が進む。

完成はまだ先だ。




「湾岸ミッドナイト」から多数の人物登場!
また、「首都高バトル」からも登場!
美穂のFCはどんなマシンになるのか。

ネタ解説です。
・「湾岸ミッドナイト」の人物達
今回、「湾岸ミッドナイト」から多数の人物達が登場。いずれも本編終了後と考えてください。
ちなみに何故蓮が彼らと知り合いかというと、蓮は「疾走のR」で「悪魔のZ」生みの親「北見淳」と面識を持っています。彼に相談した所、教えて貰ったのです。

まず、高木優一。
「悪魔のZ」のボディを作り上げた人物です。「湾岸ミッドナイト」本編でも大破炎上したZのボディを蘇らせました。また、「ブラックバード」のボディをパイプフレーム+カーボン外装という超軽量ボディに変えたりしてます。
本編終了後は長らくボディを手がける事がなかったものの今回、美穂のFCのボディを直す為という蓮の依頼を受けたのです。

次に佐々木元。
ガッちゃんと呼ばれる彼。「湾岸ミッドナイト」本編で「相沢圭一郎」ことケイのJZA80スープラのエアロを制作しています。ちなみに今でもセルシオのエアロが一番売れています。
今回FCのエアロ制作を依頼してきた蓮に全面的に協力してます。

最後に大田リカコ。
彼女は文中で触れているように「湾岸ミッドナイト」本編で「神谷エイジ」のエボⅤをチューンしてます。その後悪魔のZにアキオと北見以外で唯一Zのエンジンに手を入れた人物です。
この物語では「湾岸ミッドナイト」続編「C1ランナー」終了後に父である和夫の後を継いでRGO代表になっています。
ただし、「湾岸ミッドナイト」本編では山中に次期RGO代表にふさわしいと言われているが断っています。これは物語の都合上設定無視。
今回蓮の依頼に父譲りのチューニングセンスで後述の内藤と共にエンジンを組んでいくのです。

・内藤健二登場
「首都高バトル」から「追撃のテイルガンナー」でお馴染みの「内藤健二」が登場。
前作「疾走のR」でも登場してましたが、あまり深くは物語に関わりませんでした。ですが、今作で非常に大きな役割を持ちます。
前作「疾走のR」から読んでる人は美世との関係がよくわかると思います。
FCを駆る歴戦の走り屋が蓮に協力して完成する美穂のFCはどうなるか。





「湾岸ミッドナイト」「首都高バトル」の人物達も巻き込んで動く物語。蓮が美穂を思って形にしていくFCは首都高を変える車になるのか。
次回、夢斗激走!!


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STAGE12 目覚める天才(夢斗)、エースドライバー

美穂のFCは形になっていく。美穂自身も技術を得ていく。
そして……夢斗激走!


湾岸での事故から2週間が経った。

美穂は退院して仕事に復帰。ただ、なぜ休んでいたかは聞かれて里帰りとだけ告げた。

今は前と変わらない生活を送っていた。ただ一つ、自分の車がない事を除いて。

「蓮さんどこだろう?」

美穂は蓮を探す。ここの所蓮は気がつくといなくなる。

特に休憩時間の1時間は必ずいない。そして帰ってくる蓮は疲れてるのだ。休憩してないようにしか見えない。たまに顔に汚れが付いてる事もある。

「……美穂ちゃん?」

「あ、すぐ行くよ!」

五十嵐響子に声をかけられて慌ててトレーニングルームに向かう美穂だった。

 

 

同時刻。

大学では明後日に向けて練習している夢斗がいた。明後日は全関東学生ジムカーナ選手権だ。それに向けて部員達は本番さながらの練習を繰り返していた。

夢斗が駆るハチロクレビンの叩き出すタイムは誰も破れなかった。しかも夢斗は走る度にタイムを短縮するというとんでもない進化をしていた。

その為、夢斗のライバルは夢斗自身と友也に言われたほど。

 

「トモさーん!ハチロクのタイヤもうダメっすわ!」

「あれ、さっきも交換してなかったか?」

「そうっすけど」

ハチロクのタイヤは約20分前に全部新品タイヤに交換している。その新品タイヤのグリップを使い切ったと言うのだ。

「……後で新品タイヤ買っとくから。とりあえずお前はコレでラストな」

「あざーす!!」

夢斗は新品タイヤをもらい、すぐさまハチロクのタイヤを交換し始める。

「誰よりもタイヤの使い方が上手いな……」

友也の言った事は本当だ。実際ブレーキングでは絶対にミスしない。

また、限られた状況の中で目一杯タイヤのグリップを使い切る事も上手い。夢斗のタイヤのグリップの使い方は誰も真似できないのである。

勝負所で確実に勝てるよう、グリップを残しておくなど夢斗のタイヤの使い方はレーシングドライバーに匹敵する。夢斗の走り方が蓮の影響を受けて高いレベルにステップアップしてるのだ。

「うっし!」

再び夢斗のハチロクが走り出し、本番のコースを模した練習広場を駆け抜ける。

 

 

 

夢斗のハチロクは豪快なドリフトで突っ込んできた。

パイロンをタッチするかしないかのギリギリで回り、スラローム。

ジムカーナは短時間で終わる。普通のレースなどよりは所要時間は圧倒的に短い。

しかし夢斗は他のメンバーとは約6秒という差をつけている。

そんな夢斗の走りに刺激された部員達のタイムも早くなるなど夢斗自身が周りにも影響を与えてるのだ。

実際、夢斗がメンバーになってからの団体でのタイムは最初のメンバー案の時より圧倒的に早くなっている。

 

 

「夢斗だけで3セット使ってるぞ、友也」

聖真が友也に言う。

「パワーがないハチロクでタイヤを使うとはな……」

レビンは150馬力。他の車でインテRとCR-Xがあったが夢斗は「ハチロクじゃないと合わない」と言う為、急遽エントリーしていた車両をハチロクに変更したのだ。その為、他の部員達もハチロクで練習するハメになった。友也達はタイヤをそれほど使わないと考えていたが、その考えは完全に外れた。夢斗の攻め方が別次元と言うべき。

 

 

 

帰宅した後も夢斗は過去大会の動画を見る。優勝したチームの走り方を分析していく。

一通り見終わった後、夢斗は目を瞑る。脳内に浮かぶコース、そしてハチロクの車内。浮かび上がるイメージに合わせて夢斗は手を動かし、足を動かす。正確に左手が動き、そこにないイメージ上のシフトレバーを動かしシフトアップ。

イメージトレーニング。夢斗のソレはグ○ンツーリスモをやるよりも効果があるのだ。

 

 

 

同時刻。

ここは高木の工場。作業スペースには歪んだ跡が消えたFCのボディがウマに掛けられていた。

午前中に蓮がここにやって来て作業していったのだ。

ボディは綺麗になっておりボディ剛性アップが行われていた。車内にはクロモリ製ロールケージが入っている。

後は最後の仕上げを終えればFCのボディの修復は完了だ。

これにエアロやエンジン、メーター類を付けるとFCは形になる。

高木はFCの最後の仕上げに取り掛かった。

 

 

 

 

 

場所は変わってSSマッハ。

蓮はガッちゃんとエアロの制作を行っていた。話し合いの末、決まったデザイン。

FCの元のスタイリングを大きく崩すことなく、超高速域で車を安定して走らせられるようにデザインはシンプルだ。

フロントバンパー側に固定ライトを装備。リトラクタブルライトを排除し空力面でのアドバンテージを得る。

リアバンパーは空気を引き抜くため純正バンパーから僅かに変化がある程度といったくらいシンプルなバンパー。よくわからない人は純正品にしか見えないだろう。

リアウイングはFreeStyle製のGTウイング。

超高速域で「戦う」為のワンオフエアロ。本気の作り込みだ。

2人はまだ見ぬFCを想像しながら作り上げていく。

 

 

 

 

 

 

翌朝。

RGOの作業場では13Bがテスト中であった。

多少パーツを見直した。

また、少しでも燃費を改善しようと試みていた。だが、燃費が良くなればパワーが犠牲になる。パワーと燃費をバランスよく両立させるという高いハードルにぶち当たっていた。

パワーと燃費のバランスが崩れないギリギリのラインを模索中だったのだ。

リカコはテストの結果を見て呟く。

「ピークパワーは8200回転で発生か。……低速域をどうするかだよね……」

13Bの最大トルクは8200回転で発生する。13Bは9000回転まで回るようになってる。その為、かなり踏み込まないとまず前に進まない。また、エンジン特性上ガソリンをやはり食う。ペリ加工してさらに燃費が悪化しているのだが、この結果ではバトルどころではない。

低回転ではただでさえ扱いにくいロータリーペリの特徴が浮き彫りだ。

「そうだ……!小日向君も使ってるアレなら!」

リカコは蓮に電話をかける。

 

 

 

「蓮君、電話よ」

ちひろが蓮に知らせる。

ちひろから電話を引き継いで蓮が応答する。

「はい、小日向です」

「小日向君?」

「リカコさん、どうしました?」

「キミ、NOS持ってる?」

「NOSですか……。僕のFDにはありますけど……あっ、そういう事ですね!?」

「そ、あったり〜」

蓮はリカコの言いたい事が瞬時に理解出来た。

NOSはエンジンを冷却しつつ、パワーを引き上げる為の手段だ。アメリカではポピュラーなチューニング方法だ。

蓮のFD3Sにも装着されている。また、美世のBNR34にも。

 

リカコはNOSの搭載を提案したのである。

ロータリーエンジンは低回転域の燃焼安定性が悪く低回転域でのトルクとレスポンスは同出力のレシプロエンジンと比べて劣る傾向にある。街乗りなど主に低回転域で走る際には、燃費および運転性(ドライバビリティ)で不利である。

だが、NOSを使えば低回転域での燃焼率を向上させる事ができる。亜酸化窒素をエンジン内に噴射すると、エンジンの燃焼に伴う高温により乖離して、遊離した酸素がガソリンの燃焼を助ける。

気化する際は−60度程で周囲の熱を奪うため、エンジンの加熱を抑制でき、かつ吸気温度の低下により空気の圧縮率も向上するのだ。

NOSを低回転域で噴射すればロータリーエンジンが苦手とする立ち上がり勝負でもトルクをしっかり発揮できる。

蓮はリカコのアイデアを取り入れたエンジンの使い方を脳内でイメージ。

ロータリーエンジンが苦手な低回転域はNOSを噴射。NOS噴射により低回転域を補助してロータリーエンジンの真骨頂である高回転域に繋げる為のアシストとするのだ。

 

リカコの提案を把握した蓮は急いでヤ○オクなど様々なサイトを片っ端から探し回る。やがてNOSを見つけ、落札した。

 

 

夕方。

仕事が終わった蓮はスマホにメールが入ってる事に気がつく。

「俺、明日大会っす。良かったら見に来てくれますか?」

夢斗からのメールだ。

「夢斗君大会か……。明日はオフだし行けるか」

蓮は返信。

「蓮さーん!」

美穂だ。レッスン終わりだったようだ。

「美穂ちゃんお疲れ様。ボーカルレッスンどうだった?」

「まだ、表現が上手くできてないって言われて……」

「頑張って!美穂ちゃんは誰よりも努力してるんだから。自信を持って!」

「はいっ!」

「美穂ちゃん、車乗ってく?」

「乗ります!」

2人が乗ったFDは事務所の駐車場から出る。

 

 

「蓮さん?寮はこっちじゃないですよ?」

美穂は蓮がいつも通り寮に送ってくれると思っていた。しかし、寮に行くルートから外れた。

ちなみに美穂はFCがない間だけ蓮に迎えに来てもらっているのである。

やがて、無人の広い駐車場に到着。

「美穂ちゃん。僕の車を運転してみて」

「ええっ!?」

「美穂ちゃんがななさんを運転した時に困らないようにね。ななさんをちゃんと乗れるように」

「ななさんを……。やってみます!」

 

 

黄色い蓮のFD3Sがゆっくり動き出す。

運転席に美穂が身を預ける。助手席には蓮。蓮が美穂に乗り方を教えていく。

「ゆっくりと繋いで……。そう!」

蓮に教えて貰いながら美穂は蓮のFDを操る。

40分もやっていたら美穂は基本をマスターしていた。

「よくできたね、美穂ちゃん。あとはコレを首都高で使えるかだね」

再び蓮が運転席に移る。蓮は慣れた様子でFDを運転。首都高へ入っていく。

 

 

 

「……!は、早い!」

美穂は環状線をスイスイと走るFDに驚きを隠せない。そして初めて体験する蓮の「首都高」での走り方。

蓮は無駄のないスムーズな動きで一般車を回避しつつ、FDを前に進ませる。

 

「あれは……この間の」

蓮は前を走る咲耶のエボⅨを見つける。だが今バトルをする気ではない。蓮は一旦パーキングエリアに入る。

 

 

「上手い……」

咲耶はパーキングエリアに入っていった蓮のFDを見て言う。「首都高最速」は伊達ではない。

この後も咲耶はしばらく流すことにした。

 

 

 

 

パーキングエリアから出てきたFD3S。だが今FDを運転しているのは美穂。

140kmを超えたあたりから美穂の視界の見え方が変わり始める。

前にいる車が自分に向かって飛んでくるかのような錯覚。実際は300km出したことあるが。

美穂は恐怖と焦りで体が強張る。

「ーーーっ!!」

「落ち着いて!自分が固くなったら心も固くなる!心が固くなったら悪い流れになってしまう!」

「すぅー……はぁー……」

美穂は深呼吸。するとさっきまでと視界が変わって見える。

「だ、大丈夫。大丈夫……!」

美穂は落ち着きを取り戻した。

するとさっきまで若干ぎこちなかったFDの動きに軽快さが現れ始めた。

「わかった……!!」

美穂は少しずつ踏み込んでいく。ゆっくりとFDが速度を上げていく。

「美穂ちゃん乗れてるよ!車を『理解」ってる!」

蓮の言う通り、美穂はFDを把握していた。今の美穂はさっきまでの恐怖感などはもう無く、絶大な安心感を持って運転できていた。

 

「さっきの車……」

再び咲耶のエボⅨと合流。エボⅨが隣に並ぶ。

「なるほど……」

咲耶は状況を把握。エボⅨを加速させた。

「わっ!?」

ビックリしてる美穂を見て、蓮は咲耶の意図を汲み取る。

「美穂ちゃん、追いかけてみて」

「えぇ〜っ!?」

 

「上手い……。この間とは大違いだ」

咲耶は後ろにいる美穂が運転するFDを見る。この間湾岸で見た時と別人かと思うくらいに動きが変わった美穂。

「いつか本気でやろう」

咲耶のエボⅨは降りる。

 

 

「あ……」

「美穂ちゃん。大丈夫?」

「大丈夫です。あの人上手だなーって」

「うん。上手い」

蓮は咲耶の技術の高さを評価していた。蓮も認める程の「速さ」を持つ咲耶はトップクラスの首都高ランナーだ。

FDもその先のランプで降りた。

 

 

 

 

 

「ありがとうございました」

「いやいや、美穂ちゃんがしっかりと聞いてくれる事が嬉しかったんだ。こっちがお礼を言いたいな」

「蓮さんはどうやって上手になったんですか?」

「……ずっと繰り返してたから、かな」

「私も頑張って蓮さんを追いかけます!」

「そっか……。そうだ、美穂ちゃん」

「なんですか?」

「明日美穂ちゃんはオフだっけ?」

「はい。どうしたんですか」

「明日ちょっと行きたい所があってね、美穂ちゃんも一緒に行かないかなって」

「行きたいです」

蓮は美穂に明日の朝に迎えに来る事を伝える。美穂を寮に送り蓮は帰宅した。

 

 

 

 

翌日。

富士スピードウェイ内の全関東学生ジムカーナ選手権大会会場。

友也達はチームのテントを立てていた。そこにはハチロクレビンが。ロールケージなど保安装備が付けられているレビンは戦闘的。ただ、友也達のチーム以外でFR車はS14だけ。他はほとんどホンダのFF車ばかり。

浩一が夢斗に聞く。

「お前、こういう大会ってどうなのよ」

「俺はコレで初体験だぞ」

「マジか。入部前のお前はこんな感じの事を嫌ってたが……」

「ぶっちゃけ今もヤだ。けどな、負けられないし」

言うまでもなく蓮の事だ。

「負けられない言う割にリラックスしてるな」

「どうにでもなる」

「ええ……」

いつも通りの夢斗の様子に困惑する浩一。

やがて開会式が始まり、説明の後に競技開始。

夢斗は「そんな詳しく言わんでも」と言っていたけど。

 

 

 

それぞれの大学の車が攻めていく。シビックやインテRなど様々な車がコースを走る。

エンジントラブルなどでリタイアする大学もあったが、ほとんどの大学は完走する。

 

「ここはガッ!ってやるだろ」

「スゲーなお前」

浩一にツッコまれる夢斗。他の大学の車の動きを見て改善点を述べていく。

見ただけでわかる夢斗だからできる事だ。

「……勝算は」

「100パー」

「ズバって言えるお前がすげえよ」

100パーセントと断言してみせる夢斗。

「おい、もう少ししたら準備しろよ」

友也に呼ばれる夢斗達ドライバー。

いつもの様子で準備し始める夢斗。表情こそ普段通りだが目は本気モードになっていた。

 

 

「車が軽く動いてる……!」

美穂が軽快に動き回る車を見て言う。

「ななさんもあんな動きができるんだよ」

「そうなんですか!?」

驚く美穂を横目に蓮は競技を見てた。

自分もレーシングドライバーだ。だが、ジムカーナはやった事がない。でも、蓮の峠上がりの技術はあの場にいても十分に通用するだろう。

「やあ、こんにちは。……大丈夫かい?」

蓮と美穂が振り向くと咲耶がいた。

「こんにちは、白瀬さん」

「平気ですっ」

咲耶は美穂と病院で顔を合わせている。その為、お互いがアイドルである事も知っている。また、蓮にもその際に会っている。

「白瀬さんは何故ここに?」

蓮の質問と同時に咲耶を呼ぶ声が。

「さくやーん!待ってよー!」

「咲耶さーん!」

L'Anticaのメンバー達と遥だ。

「さくやんはこれを見たかったの?」

「ああ。ちょっとね」

咲耶は続けて蓮に話す。

「私達はロケで来てたんだ。ロケが終わって近くを回っていたらこれがやっててね、見たくなった」

「お兄さんは誰?」

結華が怪しがる。ムリもない。

蓮は私服に伊達メガネをかけて変装、美穂もお忍びコーデだったのだ。

「僕は君に会ってるよ。結華さん」

「えっ、ファン!?」

「アイドルに関係する事をやってるよ。割と目立たないけど」

「え、何だろ!?」

「あなたは……」

遥が蓮に質問しようとするが。

「続いてナンバー16!T大学!!」

夢斗達が呼ばれたのだ。蓮達がそちらに注目したため質問しそびれる遥。

スタート地点にはハチロクレビンが見えた。

 

 

 

全21チーム中16番目のスタート。

出走順は小林→聖真→夢斗。

ラストに夢斗が走る。この順番は友也が決めた。

「エースはお前だ」という友也の言葉を聞き、夢斗は最後を選んだのだ。

 

 

ハチロクがスタート。

今の車から見たら軽量なボディを4A-Gが前に進ませる。ミスなくそれぞれのポイントをクリアしていく。

ハチロクが帰ってきた。タイムは1分16秒757。悪くないタイムだ。

2走目も無事に走り切った。タイムは1分14秒420。

 

 

次は聖真。

副部長のプライドがある。聖真は全力でプッシュしていく。

1走目は1分14秒398。早い。

2走目も順調かと思われた。しかし、ターン時にスピードが高すぎて僅かに体制が崩れて失速。タイムは1分15秒148。

「くそ、やっちまった……」

聖真はうなだれる。

 

 

聖真が乗るハチロクが帰ってきた。

「すまねえ、やらかした」

「いいっすよ。俺がどうにかするし」

「こういう時のお前が心強いな」

友也が夢斗の発言を聞いて言う。

「見てて相手は大して上手いとかじゃないし。フツーにやる」

夢斗はこう言ってるが、去年の個人順位1位もいた。それすら上手いわけじゃないと言ってるのだ。

「やべ、夢斗バケモンだわ」

「最初からですよ、工藤さん」

聖真に軽いツッコミを入れる浩一。

ハチロクに乗り込もうとする夢斗。その時夢斗は視線を観客席に移す。

ヘルメットを被ってるため自分の顔はあちらには見えてないだろうが、夢斗は見に来ている人物達をしっかりと見た。

 

 

「夢斗か……」

咲耶はこちらを見てきたドライバーを夢斗と直感的に判断した。

「え、ゆうくんなの!?」

結華が驚く。

「ああ、夢斗さ」

蓮はハチロクに乗り込む夢斗を見る。

「蓮さん?」

「美穂ちゃん、彼の走りをよーく見てね」

「?はい……」

ハチロクに乗った夢斗は友也からのアドバイスをもらってた。と言ってもアドバイスって言うものでもないが。

「とにかく無理せず無事に戻ってこい」

「え?俺とことん詰めてやりますよ」

「……はっはっは、やっぱり上を目指そうとするお前の姿勢には負けるな」

「行ってこい。お前の走りを見せつけてやれ」

「……ラジャー」

夢斗のハチロクは発進。……コール切りながら。

 

 

 

「なんだありゃ」

「アホだ」

「T大学1年暴走族説」

観客や他のチームのメンバーからの反応は様々。……悪い意味でだが。

実はこの大会に出場してる1年生は夢斗のみ。その為元々目立ってたのにコレだ。

「うるせえ!」

浩一が文句を言う。だが、友也だけは何も言わない。

「見せてやれ。天才ドライバーの走りを」

 

 

スタート地点にスタンバイしたハチロク。アクセルを煽り、回転数を上げてスタートの瞬間を待つ。

「スタート!」

スタッフが旗を振ると同時にハチロクが飛び出していく。

夢斗はアクセルを床まで踏みつける。

ルートを進んでいくと2つパイロンが見えた。その瞬間夢斗はクラッチを蹴る。ハチロクのリアタイヤが一気に流れ始める。豪快にハチロクをドリフトに持っていき、パイロンの間を抜けて片方のパイロンにピタリとついて元のルートを辿って再びパイロンを目印にターンして高速でスラロームなどをしていく。

最後はフルスロットルで駆け抜けていく。

ハチロクはゴール。1走目のタイムは1分10秒877。

暫定だがなんと個人順位トップ。

「まだだ……!!」

夢斗の目はキレていた。まだ全然自分の理想に届かない。

 

 

 

「おいおい嘘だろ!?」

「1年生か!?速すぎだろうが!」

「魅せるドリフトだろアレ」

他の大学のメンバー達に衝撃が走る。初参戦のハズ。なのにいきなり個人トップというバケモノじみたコトをやってるのだ。

だが……。

ウォン、ガアッァァァァ、バンッ!!

「何だ!?」

音のした方を見るとハチロクが……。

ハチロクのエンジン音はまるで「イラつき」を表してるようだった。アフターファイアがマフラーから吹き出す。

「もっとだ……。もっと速くっ!!」

 

 

「!?」

咲耶はハチロクの異変に驚く。

「どうしたんだろうゆうくん」

結華は不思議がる。

「あれは一体……?」

遥が首を傾げる。

「蓮さん……?」

蓮はハチロクを見て思う。

(限界をさらに超えていこうとしているのか……。君ならできる。夢斗君、頑張れ!)

 

 

「夢斗どうした!?」

友也達が駆け寄ってきた。

「いやー……。ちょっと自分にキレそうで」

そう言った夢斗の目は本気でキレていた。目が「声掛けたらコロス」と告げていた。

「お、おう……」

夢斗のあまりの迫力に後ずさる友也達。

ハチロクは再びスタート地点へ。

「スタートっ!」

旗が振られ、ハチロクは走り出す。

 

 

「おい、アレどうなってる!?」

観客や大学のメンバー達が凝視する。

その先には先程よりもアングルが大きくなったドリフトでコースを走るハチロクが。

元々ドリフト多様のスタイルだった夢斗のハチロクの動きがさらにヤバいレベルになっていた。

エンジンは限界までブン回っており、エンジンブローするのではないかと思う程。夢斗はハチロクを限界まで酷使してタイムを削り取っていく。

「踏めええええっ」

ハチロクの動きは1走目より大きな動きなのに格段に速くなっている。キレが違う。

「なんでさらに速くなってるんだ!?」

見る者全員を沸かせている夢斗の走り。

 

 

「すごい……!」

美穂はハチロクの動きに釘付け。

「夢斗君……。彼は、さらに変わる」

蓮はまだ見ぬ夢斗の可能性を思い描く。

「……!!」

咲耶は衝撃を受ける。

「さくやん?」

「咲耶?」

結華と恋鐘が咲耶に声を掛けようとした。しかし、今まで見た事がない咲耶の驚きに満ちた表情に思わず息を呑む。

「やはり……彼はあの車に立ち向かえるかもしれないっ」

夢斗の技術はもはやただの「走り屋」では済まないレベル。

 

 

 

スキール音が響くコース。

ハチロクは破錠寸前ギリギリすら無視して猛プッシュを続ける。

「行けえっ!」

クラッチ蹴りで回転数を上げ、エンジンが苦しげな音をさせる中でもアクセルを緩めない。

「あの負けた時の俺はバカだった……。でもな……。俺は勝ちたい!俺がどこまでやれるか知りたいっ!」

最後のターン。ハチロクは誰が見ても明らかに速すぎるスピードで突っ込んできた。

「あいつ死ぬぞ!」

「壊れた!?」

 

 

 

「ああっ!?」

結華達は猛スピードで突っ込んでいくハチロクを見る。

「夢斗……!」

咲耶は不安を浮かべてる。

「夢斗君……!!」

蓮も夢斗のハチロクを見る事しかできない。

 

 

ハチロクは大きくリアを振り出す。直後に間髪入れずにクラッチ蹴り。

ハチロクはほぼ真横を向く。いや、90度以上の角度だ。

「ケツ進入!?」

友也は驚愕。

「初めてみた!」

浩一や聖真達も驚きを隠せない。

「なんて角度のドリフトなんだーーっ!?」

実況もハイテンションだ。

夢斗は0.1mm単位でアクセルペダルを踏む深さをコントロール。

常人では絶対にできないレベルのペダルワーク。

神業と言えるレベルでハチロクをコントロールし最後のターンを立ち上がる。

「すっげええ!!」

「あいつめちゃ上手い!!」

ハチロクはゴール。途端拍手が上がる。

 

 

 

「ゆうくんスゴい!!」

結華達が興奮した口調で話す。

「ああ。なんて技術だ」

咲耶は夢斗の進化し続ける技術に驚きを隠せない。

 

「すごかったですね、蓮さん」

「うん。美穂ちゃん、彼は美穂ちゃんといずれ戦うよ」

「えっ?」

「彼も首都高を走ってる。上手いよ」

「私追いかけれるかな……」

美穂は彼と走る事をイメージする。

 

 

 

 

 

夢斗の2走目の結果が出た。

結果は……。

「1分8秒283…!嘘だろ、10秒突破したぞ!!」

「歴代新記録だ!」

「なんだこの1年!」

 

 

 

結果を見た友也達も興奮した口調。

「よくやったな!!」

「夢斗、アレどうやったんだ!?」

「いやー。フツーに」

「嘘つけ〜!本気出しただろ」

「あ、バレた?」

「お前目がスゴい事なってたしよ〜!!」

 

 

この後、全てのチームが走り終わった。

結果はT大学は団体順位1位。

そして個人順位は夢斗が2位を4秒も離しての圧巻の1位。

閉会式で賞状が渡されていく。

 

 

賞状を貰った後夢斗達は記念撮影。

歴代最速記録を更新した夢斗は他の大学からも注目されていた。

写真撮影にちゃっかり入ろうとしてる奴もいたくらい。

写真撮影後、撤収作業をしていた夢斗の元に来客が。

「おめでとう、夢斗君」

「すごかったですね!」

蓮と美穂だ。

「小日向さんどーもっす」

「夢斗君とてもいい走りができていたよ」

「小日向さんに言われるとちょっと嬉しいかも」

「あ、あのっ」

「どうした美穂」

「夢斗さんのように私、走れますか」

「走れるさ。小日向さんに教えてもらってるとか羨ましいし(笑)」

 

 

「誰だあれ?」

「さあ?」

「つか、隣の子可愛い」

夢斗と話している2人に注目する部員達。そこにL'Anticaのメンバー達が。浩一は駆け寄る。

「あれ、咲耶さん達どうしたの」

「ロケの終わりに寄ったんだ」

「へー」

その瞬間、強い風が吹いた。

「わ……っ」

「あっ」

蓮が被っていた帽子が風に持っていかれて地面に落ちる。美穂も帽子を飛ばされてしまった。

「小日向美穂ちゃん!!」

「え、マジで!?」

部員達が一斉に美穂達の方を向く。だが同時に表情が青ざめる。

「え……あれって小日向蓮じゃ」

「首都高最速の小日向蓮!?」

「『公道の流星』じゃねーか!!」

「プロレーサーじゃん!」

友也達ならず、他の大学のメンバー達も蓮に注目。

「あ……」

蓮は美穂を連れて少しずつ後ろに下がる。

「うっは、ヤバそう(笑)」

こんな状況でもやはりブレない夢斗。

「つーか、こっちにも美人がいる!」

今まで向けられなかった視線がL'Anticaのメンバー達にいきなり向けられる。

「待ってくれー!!」

蓮やL'Anticaのメンバー達は慌ててこの場を離れたのだった……。

 

 

 

 

 

「星名夢斗……。彼の走りをもっと多くの人に見てもらいたい」

そう呟く男は笑みを浮かべていた。

夢斗の走りはこんな所で終わらせるにはあまりにも勿体ない。この技術を多くの人に注目してもらいたいという個人的な願望。

男は愛車オデッセイに乗り込み会場を後にする。

 

 

 

 

 

美穂のFCは着実に形になっていく。

同時に美穂は蓮のレッスンを受け、実力をつけていく。

夢斗は大会初参加で個人順位1位。そしてチームを1位に導いた。

蓮を目指す夢斗の実力は確実に周囲に大きな動きを作り出していく。




美穂は蓮の教えを受けて技術を得る。
FCは首都高を知り尽くした者達の手で完成が近づいていく。


ネタ解説です。ネタは今回コレだけ。
・蓮のアドバイス
緊張した美穂に言っていることは「湾岸ミッドナイト」で登場する「ユウジ」が言っていた事が元。



ちなみに大会の結果は2016年度の結果を元にしています。
FR車で参加する所がほとんどないんだなーと。




夢斗は大会初参加にして個人順位1位&総合優勝という成績を残す。
夢斗の走りは蓮に近づいていた。
夢斗の技術に興味を持つ男は一体何者か?


次回、夢斗と蓮が魅せる走りで大暴れ!


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STAGE13 2人の峠最速、疾走

始めに言っておきますがこの物語はフィクションです。
フィクションです(大事な事なのでry)
そのため実名の人物が出てきても、実際の人物には関係ありません。
何故実名の人物を出した!ゆ゙る゙ざん゙!!(南光太郎)という方はブラウザバック推奨。



蓮と夢斗が魅せる!
2人が見る者全員を興奮の渦に巻き込む!!


6月上旬。

湾岸での事故から1ヶ月近くが経とうとしていた。

そんな中、346プロに1件の仕事が舞い込んで来た。

「ライブ……ですか」

蓮は聞き返す。

「そう。しかもモータースポーツの開会式での特別ゲストとしてオファーが来ているんだ」

今西部長が答える。

「確か……D1グランプリって言ったな」

「D1グランプリ!?」

蓮はビックリ。

「エキシビションマッチって言っていたな。誰が出るかはまだ決まってないけど」

蓮はD1グランプリはDVDでよく見ていた。また、小さい頃に一度福島県にあるエビスサーキットで行われた際に行った事がある。

蓮にとってドリフトは自分のドラテクに深く結びついているのだ。

「ちなみにだが……君にもオファーがある。ドライバーとしてね」

「僕が!?」

今西部長が言った事に思わず倒れそうになる蓮。憧れていた所で走れるならぜひやりたい所。

「やります。ずっと夢でした」

こうして蓮はなんとD1グランプリのゲストとして出走する事に。

 

 

 

場所は変わってT大学。

自動車部の部室にはトロフィーが飾られており、記念写真もある。

夢斗は浩一に呼ばれて職員室に向かっていた。浩一が言うには友也に夢斗を呼んでほしいと言われたそうだ。

「トモさん俺に何かあるったって俺はそんな事ねーからな……。サボりくらいしか思い当たる節がねえ」

職員室に入る夢斗。

「失礼しゃーっす」

夢斗を迎えたのは友也。

「おお、夢斗。ちょうどよかった」

「トモさん何か用事っすか?サボりで怒られるのヤなんすけど」

「サボりは確かに言ってやりたいトコだが今回はそんな事じゃないぞ。それよりも大きなニュースだ」

「へ?」

「とにかくついてこい」

友也に連れられて校長室へ。

 

 

「校長室初めて入った……」

「実を言うと俺も初めてだ」

「マジすか」

「ああ。ここに入る事が普通にしてたらありえないからな」

友也はバカやったらここで怒られると遠回しに言っている。

2人が待っていると校長が見慣れない男を連れてきた。

「こんちはーっす」

「どうも」

「やあ、長谷川君。彼は?」

「彼は星名夢斗です。この間の大会で個人順位1位になったんです。彼に今日そちらが用があるんでしょう?」

「ああ、その通り」

「誰すか?」

「え、お前オプションとか見ない?」

「見た事ないっス」

「あれだけ上手いのにそういうのは全く興味ないんだな……」

「そこまで詳しく言われても俺はわかんねーし。俺は感覚派なんで(笑)」

「とにかく……この人は鈴木学さんだ。D1の解説をしている人だ」

「D1か……」

夢斗もD1という名前だけは知っている。

「D1にいるようなヒトがなんで俺に?」

鈴木学が口を開く。

「君のあのドリフトをもっとたくさんの人に見てもらいたくてね。D1ならたくさん人が来る。君の技術を見せるいい機会だ」

「へー……。つまり俺に走ってくれと」

「そういう事さ。ハチロクでね」

「あ、この間いたんすね……ムリっす」

「何故っ!?」

「ハチロクヤってますし」

大会の際、夢斗の限界を無視した走りによりエンジンのバルブなどが壊れていたのである。

「あ、でも俺の車ならあるッスよ」

「車?」

「エボⅩですよ」

「エボⅩ……。エボでD1参加してる選手はいたが……」

「FR化してないっスよ」

「つまり4駆のままなのか!」

「そーっすよ」

「実はラリースト目指してる?」

「いや全然。むしろ首都高走りたいし」

「首都高ランナーか……。オプションのコーナーに首都高を走る読者がいた(笑)」

「あー!湾岸の○葉くんかー!」

友也が言う。

「ま、ともかく君に出てもらいたい!どうだ!?」

「全然いいですよ。こういう事やってみたかったし」

「話は決まりだな!」

「星名君と言ったな」

「校長?」

「やってこい。君の才能はもっとたくさんの人の目に止まるように生かせ」

「ちなみにどれくらいできる?」

学が聞く。

「エボのコトすか。エボを知り尽くしてるので」

「わーお……」

「何なら乗ってみます?」

「是非!(震え声)」

 


 

自動車部の練習広場。

夢斗の銀色のエボが止まっている。前には夢斗と安全のためにヘルメットを被った学が。

「全開で頼む」

「大丈夫すか?足が震えてますケド」

「平気だ」

「……ならいいっすけど」

2人はエボに乗る。

学は浩一に4点式シートベルトをキツく締められる。

「こーでもしないとマジで体が持たないので」

「お、おう」

「準備出来ました?」

「ああ。頼む」

「ラジャー」

夢斗のエボⅩがゆっくりと走り出す。

 

 

 

「これが最初のコーナーか……」

「行きますよー」

「えっ」

その瞬間、エボⅩはほぼ真横を向いた。

「ぎゃああああああっ」

学が悲鳴を上げる。

「……しまった」

夢斗は呟く。だがそれは学には聞こえない。

真横を向いたエボは一瞬だが強い抵抗を受ける。それに合わせてヨコ向いてたエボが勝手にまっすぐに戻ろうとする。

「クソっ」

夢斗はサイドを引いて誤魔化す。

なんとかスライドに持っていき、アクセル全開。カウンターを当てない全開4輪ドリフト。

「助けてくれええええっ」

立ち上がった直後に振りっ返し。強烈なヨコGが学を襲う。

「うぎゃああああああっ!」

4B11の高いエンジン音が広場に響き渡った。

 

 

 

戻ってきたエボⅩから降りてきた学は真っ青な顔していた。

「はあーっ、やべえよ!なんつートルクだよ!あんな角度になっても踏みとどまれるのがすげーよ!」

さすがは様々な選手のハイパワー車の横に乗ってドリフト体験した男。夢斗のエボの特徴を言っていく。

「でもアレ本調子じゃないっすよ。寧ろ不調」

「はっ!?」

「いつものセッティングだったからダウンフォースが強すぎるんすよ」

最初の進入で抵抗を受けたのはその為。首都高を300kmというスピードで走るエボⅩの武器が自作パーツによる高ダウンフォース。しかし、それがあまりにも強いために横を向ける際に影響を及ぼしたのだ。

「と言っても外すのめんどいんですよねー。フロア」

「フロアってアンダーフロアか。ヤベーな」

学は落ち着きを取り戻した後、夢斗に告げる。

「君の実力はわかった。今月末にD1エキシビションマッチがあるから。そこで思い切り走れる」

「なーるー」

学はオデッセイに乗って学校を去る。

 

 


 

 

後日。

蓮はRGOにいた。ボディが完全に修復され、ガッちゃん特製ワンオフエアロを纏った白いFC3Sが今、トライアンドエラーを繰り返して完成した13Bを載せられようとしていた。

13Bは調整の末、ブースト圧を2kgに設定。

ブースト2kgで500馬力、これにNOSも加えると40馬力上昇する。

リカコの手でエンジンを搭載されるFC3S。最後の仕上げが終わったFC3Sは復活する。

「じゃ……早速やってみる?」

とりあえず形になったFC。後は実走での結果を見て調整を繰り返す。

蓮が車内のシートに体を預ける。右手でキーを回してエンジンを始動させる。

クランキング後、甲高いロータリーサウンドを轟かせる。

何回かアクセルを煽ってみる。タコメーターの針は遅延なく追従する。レスポンス重視のセッティングは非常に高い効果を発揮していた。

「シフトアップは8200回転!いい!?」

リカコからの説明を受け、蓮が乗るFCは発進する。

「クラッチが重い……」

やはり低回転でのトルクが絶望的にない。結構踏まないとトルクが発生しない。

蓮も同じロータリーエンジンを載せるFD3Sに乗っている。大体乗り方は同じだ。

そうはわかっていてもこのFCと自分のFDの大きな違いに困惑していたのである。

ある程度街中を流してFCに慣れた後は本命の首都高だ。

 

 

ヒュイイイイイイイッッ

横羽線上り→湾岸線東行きというルートで走るFC。

荒れた路面にコントロールを持っていかれる事もない。

蓮がわざわざ千葉県まで赴き、RE雨宮でサスペンションを特注で製作してもらった甲斐があった。しなやかに動く足はドライバーに路面状況を正確に伝える。

FC3SはこのFCが戦うステージとして設定された湾岸線に入る。

合流した後、つばさ橋からフルスロットル。

スピードメーターが300kmを指す。

「すごい……。高木さんが言っていた通り……矢のように真っ直ぐに進むっ」

高い安定感を発揮するボディ。コントロール不能という不安を一切感じさせない。

まだ昼というのもあって一般車が多い。一般車を避ける為に減速、落ちたブーストが再び立ち上がるまでが速い。タイムラグを感じない最高のセッティングだ。

「……美世さんと夢斗君!」

後ろに紅いR34と銀色のエボⅩが見える。

 

 

「完成したんだね……」

「おおっ、すっげえ」

そのまま超高速バトルに入る3台。

パワーで有利な美世のR34が前に出る。続いて蓮、夢斗。

排気量が最も高い美世のR34はエボⅩとFCを引き離しにかかる。1.3LクラスのFCと2Lのエボ。元々2.6Lあり、さらにチューンされて2.8LになったRB26には勝ち目が薄い。

しかし。FCは状況次第でR34を凌駕する非常に高レベルの運動性を持つ。

特注の足とワンオフエアロが生み出す安定感を持った動きはR34のアテーサE-TSを凌駕する程の旋回性能だ。

「嘘っ!?」

美世のR34にコーナーで詰めるFC。夢斗のエボⅩはFCのラインを綺麗にトレースしていく。

「ついていける……」

夢斗のエボはFCの旋回速度を上回る速度でコーナーを抜ける。

 

 

「うっ!」

蓮は一瞬だが流れたリアを抑える。夢斗のエボⅩのあの安定感に満ちた走りをバックミラー越しに見る。

「……!」

一般車がいない3車線。3台はフルスロットル。

「行けえーーーー!」

美世のR34はNOSを噴射。

「離れるっ」

夢斗のエボは全開。にも関わらずR34に引き離される。

「前にーーー」

蓮のFCはロータリーペリの真価を発揮する高回転域に入る。

自分のFDとはまた違った感じ。クロスポート加工を施したFDの13Bと違い、FCの13Bは純粋に高回転だけを狙ったエンジン特性。回してパワーを出す、それはロータリーに限らずどんなエンジンもそうだ。

だが、この13Bはそれを強く感じられる。自分がエンジンを回していると感じさせる。

「!1台だけ」

3台の前には一般車が。真ん中の車線しか空いていない。全開で通れるのは1台だけ。

3台は一歩も引かずに走り抜けようとする。

「ダメか……」

夢斗はFCとR34に離された。そもそものパワーの差を考慮するとよく粘った方だ。

FCとR34が一般車に近づいていく。残り1kmほどで一般車に追突する。絶対に前に出るという事だけ考えてアクセルを踏み抜く。

「コレでやれるか……」

蓮はステアリングに取り付けられたスイッチに親指を伸ばす。

スイッチが押された瞬間、NOSボンベからガスがガソリンと共にハウジング内に噴射される。

それぞれのシリンダー(ハウジング)内に噴射され、燃焼状態を均一にできる。これがダイレクトポートショットと呼ばれる方式である。

パワーの上限が非常に高いうえ、エンジンコンディションを管理しやすいので、競技用途では100%この方式が採用されている。

本来なら低回転域の補助のために使うが、短時間ならという賭けに出たのだ。

NOSを使用したFCは加速。R34の前に出ようとする。NOSを使っているR34よりも速いスピードでFCは前に出る。

「……空気抵抗かっ!」

美世はFCの加速に驚きながらFCが前に出れた理由を分析する。

FCはフロント部分が低い。それはR34も同じだがFCは特長でもあるリトラクタブルライトを廃している。その分、空気抵抗の軽減に繋がったのだ。

そして、軽さだ。美世のR34も軽量化を行い、ノーマル1500kg台から約1300kgにまで軽量化している。だがFCはノーマルで1300kg台。徹底的に軽量化されたFCはなんと1100kgを切っている。

「やられた……っ」

美世は失速。一般車の間を白いFCが抜けていく。

 

 

 

「すごい……。この車を美穂ちゃんは操れるかな……」

まだまだ改善点は多いが、完成直後1発目のバトルでこれだけのパフォーマンスを発揮したFCの完成度は確かな物。

蓮は首都高を降りた。

 

 


 

 

そして迎えたD1グランプリエキシビションマッチ。しかも今回はテレビ○京とのコラボ。

「さあー始まりました!D1エキシビションマッチ!今日はスペシャルゲストを迎えてのエキシビションマッチです!」

大勢の観客がスタンドにいるお台場特設コース。

コース外のそれぞれのチームのブースにもたくさんの人がいる。写真撮影や選手にサインを書いてもらったりなど、D1開幕前から人が押し寄せる。

 

 

「はえー、ホントすごいな。ザ・ドリ車って感じだ」

そう呟く夢斗の首元にパスポートがぶら下がっている。「関係者」とあるそれは夢斗が今日走るという事を表している。

「ん?」

夢斗はブースにいたイメージガールとは違う女性を見つける。

「あれ?アイドルだよな……」

名前が出てこないが、夕美と同じ事務所のアイドルだ。アイドルが誰かと話している。

「プロデューサーのレーシングスーツかっこいい!」

「ありがとうございます」

「小日向さんじゃん!」

「夢斗君!?」

「小日向さん走るの!?」

「うん。まさか夢斗君も?」

「そうっすよ」

「ゲストとして走るんだ。夢斗君も走るなんて知らなかった……」

「俺も小日向さんがここにいるなんて思わなかったっス。アイドルが何故ここに?」

「開会式のライブに出るんだって」

「はー……」

直後、学の声が。

「この後、346プロダクションのアイドル達によるスペシャルライブが行われます!」

「時間か……。用意して!」

「「「OK!」」」

Triad Primus(トライアドプリムス)の3人がコース内の特設ステージに向かう。

「こうやって見るとプロデューサーなんだなって」

夢斗が思ったことを言う。

「まあね……。みんな一人一人個性がある。そうやってたくさんのアイドルと接するとね、例えば僕の発言が受け入れられる子がいればそうでない子も当然いる。でもそれは間違いじゃない。むしろ正解なんだ。僕がやってほしい事を嫌々やるのはその子も辛いし、何より言った僕自身が1番辛い。嫌なら『嫌だ』って言ってもいい。僕が強制するワケじゃない。僕は皆の考え方を大切にしたいから」

「考え方を大切に……」

夢斗は蓮の言葉に「クる」物を感じた。

「さ、僕達も準備しようか!」

「了解っス!」

2人はそれぞれの愛機に向かう。

 

 

「まず最初にTriad Primusの渋谷凛、北条加蓮、神谷奈緒による『Trinity Field』スペシャルバージョンです!」

今日のために曲の雰囲気を若干変更。曲のイメージを大きく変えず、しかし疾走感溢れるユーロビート調にアレンジしたスペシャルバージョンだ。

「みんなー!!私達の歌を聴いてーーーっ!」

曲が流れ出す。すると選手達のマシンが3人の周りをドリフトする。

「憧れた夢の階段をあの日からがむしゃら登ってきた」

「でも何か胸の奥底で」

「『違う』と疼く」

3人の歌声が曲に合わせて盛り上がっていく。

「互いの魅力(ちから)

「信じることや」

「ぶつかることで」

「「「磨き合えるよ」」」

3人のテンションが最高潮になり、サビに入った。

「「「迸る光螺旋を描いて行き、空を貫くほどにスパークした」」」

「「「失くせない!仲間(ライバル)絆とこの友情は!」」」

「過去も」

現在(いま)も」

未来(あす)も此処に或る」

「「「重なり合うTrinity Field」」」

 

 

曲終了後、盛大な拍手が送られた。

Triad Primusの3人がステージを降りた後にステージに立ったのはLiPPSの5人。

「にゃはー!ゴムの匂いがするー!」

「タイヤね。志希、落ち着いて」

志希を落ち着かせた奏は観客に問う。

「みんなは……こういう勝負事って好き?」

「私は勝負事には結構強いのよね。今日の事だって、優勝を目指して競い合うんでしょ?」

「私達の歌は恋の勝負を表してるーーー」

 

流れ出したのは「Tulip」。こちらもユーロビート調にアレンジがされている。

5人は最後まで熱唱したのだった。

 

 

アイドル達が歌い終わった後。いよいよ夢斗と蓮の出番だ。

「まずは今年デビューしたばかりのプロレーサーから。彼はスーパー耐久に参加しています。彼は普段アイドル達をプロデュースするプロデューサーでもあり、またある時はレーサーと2つの顔を持っています!」

「その名は小日向蓮!夢を追いかける青年がこの場でどんな走りを見せてくれるのかっ!」

「愛機FD3Sがスタート地点にスタンバイしております!」

蓮はアクセルを煽る。早く走りたいというようにFDが咆哮を上げた。

スタートランプが点灯。その瞬間蓮のFD3Sは飛び出していく。

「さースタートしました!黄色いFDが飛び出して行く!!」

ロータリーサウンドを轟かせFDが姿を表す。

大きなフェイントモーションでリアを振り出し、FDが飛び込んできた。

「豪快にリアを振り出してきたっ!白煙モクモクだー!」

白煙を出しながら1コーナーに進入したFD。角度があり、インパクトも強い理想のドリフトだ。

蓮にとってはこれが久しぶりのドリフトだ。あの日のバトルを最後に蓮はドリフトをしていなかった。いや、できる状況ではなかった。

そのため蓮にとっては1年ぶりのドリフトになるのだ。しかしその腕は衰えてない。

昔よりずっとパワーがあるFD3Sを昔と変わらず扱えている。

蓮のFDはノーミスで走り切った。

 

 

 

 

「すごい!峠上がりとは聞いておりましたが、これは圧巻です!」

「峠上がり?」

夢斗は聞こえた事に思わずオウム返し。

「なるほど……。るんって来た!」

夢斗はやる気満々。自分と同じく蓮も峠上がりという事がわかって対抗心と言うかなんて言うのか。とにかく夢斗は気合いが入った。

 

 

 

 

「さあ、次は期待の新星です!彼は普段は学生。しかし一旦車に乗ると誰もが真似できない技術を見せつける天才ドリフターに大変身する!」

「先月行われた全関東学生ジムカーナ選手権初参加にして個人順位1位。その速さでチームを団体優勝に導いた凄腕!」

「その名は星名夢斗!愛機ランエボがスタート地点に着いた!」

スタートを待つ銀色のエボ。今日のためにアンダーフロアを外し、空気抵抗でドリフトの妨げにならないようにしてきた。

「今、スタートしました!」

エボⅩが飛び出す。4駆特有のスタートダッシュ。

「さあー見えてきたランエボ!どんなドリフトを見せてくれるのかっ!?」

高いエンジン音を響かせてエボⅩが1コーナーに突っ込んでいく。

 

エボⅩはやや大胆なフェイントモーションからサイドブレーキで最初の動きを作る。

「なんて角度だーーーっ!完全に真横を向いているっ!角度が戻っていないーーーっ!」

4駆車は横を向いた状態でアクセルオンをするとFR車と違い、細かい修正ができない。全てのタイヤを使うためカウンターを当てられないのだ。カウンターを当てるとその方向にあっさり吹っ飛んでしまう。また、FR車のようにアクセルを抜いてコントロールしようとするとアンダーステアになり、かえって挙動が乱れてしまう。一度振り出したらもうミスが許されないのだ。

そのために4駆ドリは難易度がFR車のドリフトとはケタ違い。

 

だが、4駆ならではの点もある。まずコーナリングスピード。4駆でのドリフトがまずできたとしても根本的に「速い」ドリフトになりにくい。そこから「速い」ドリフトにしていくのが4駆ドリの完成度のレベルの物差しと考えていいだろう。

WRCに出場するような選手のドリフトは角度が大きくかつ速くコーナーを抜けていく。観客から見れば見てる人を沸かすテクニックだ。しかし選手にとっては「速く走る」為のテク。

ラリーでも最近はドリフトよりグリップで走った方が速いとする意見もある。しかし、グリップ走行で曲がるよりもドリフトでコーナーを曲がっていく方が速い事もあるため一概にどちらが速いとは言い切れない。ドリフトならグリップ走行よりも格段に小回りできるためタイムを短縮できるからだ。

そのような事もあり、ドリフトとグリップにはそれぞれの長所がある事を心に留めておいてほしい。

 

 

夢斗のエボⅩはウォールスレスレに接近。

「うわっ、近い!!当たりそうだーっ!」

ウォールギリギリを攻め、綺麗に抜けていく。

「なんてギリギリのドリフトだっ」

「エボであんなドリフトできるのか」

観客から驚きの声が広がる。FR車でないエボⅩであんなに上手いドリフトをしている。しかもソレをやっているのはハタチになってない青年。あれ程の凄腕ドライバーを見た事がないだろう。

ハイトーンのエキゾーストノートがかき消されるほどのエンジン音がお台場を包む。

 

 

 

「いやーっ、本当にすごいっ!実は私、彼のドリフトを一度体験してるんですよ」

「踏み方がまるで違うんです。4駆ドリ特有の『踏んで曲げる』がはっきりとわかるって言うか。とりあえず言える事はあの振り回し方は耐えれません……(苦笑)」

「さて、次は2人による追走です!」

 

 

 

蓮と夢斗は準備完了。

黄色いFD3S(RX-7)と銀色のCZ4A(エボⅩ)がスタート地点に見える。

「この2人の追走は予測不能!!どんな追走を見せてくれるのかっ!!」

一本目は夢斗のエボⅩが先行で後追いは蓮のFD。

スタート地点に並ぶ2台を見るアイドル達。

蓮を知っている様子の夢斗(青年)が乗るエボ(クルマ)に視線が集まっている。

「さあスタートしました!」

2台が全開で発進。

「ランエボが先行そしてFDが追うっ」

「さあどう来るかぁぁぁぁーーっ!来たーーーっ!!」

「FDがっ、FDがエボⅩに接近するーっ!危ない危ないってー!!」

蓮のFDがエボの運転席側のドアにぶつかりそうな程接近。カンペキにサイドロックオン。

「プロデューサーすごっ!」

アイドル達の視線は白煙を出しながら銀色のエボに詰め寄る黄色いFDに釘付けになっている。(プロデューサー)のものすごい高等技術に魅せられていた。

「振り返してっ、やはりビタビタだーっ!」

最後までエボから離れず、食いついた蓮のFD。

 

 

「追走ってこーいう感じか……!るんって来たっ!」

夢斗は追いかけられてる時に蓮の走り方を見たのだが、その時見えた動きだけで自分の「追走」のやり方を組み立てたのだ。

2台は再びスタート地点へ。今度はFDが先行、後追いがエボⅩだ。

「今度は先行FD後追いエボⅩっ、さあどう来るーっ」

 

 

蓮はFDを振り出す。同時にエボⅩが大きく動いて自分と全く同じ動きをするのを見た。

その瞬間だった。(自分)以上のスピードで滑り出し、突っ込んでくるエボⅩが横に見えたのは。

「速いーーーーーっ!!同時振りから一気に差を詰めたーーーっ!」

学がハイテンションで今起こった事を話す。

夢斗のエボⅩは同時振りから蓮のFDがイン側を向くよりも早くFDに近づいたのだ。

「おおおおおおおっ」

「すげーっ!!」

観客達の興奮が最高潮になる。

「う……わ……っ」

モニターを見ていたアイドル達も今起こった事に衝撃を受けていた。

「プロデューサーの車に当たるっ」

「すごいわね……」

お台場(ここ)にいる全員が夢斗のやった事に衝撃を受ける。

一本目の蓮の走りのようにミス1つない走りで夢斗は後追いを終えた。

 

 

「2人の素晴らしい走りに皆さん拍手をどうぞ!」

会場中から上がる拍手。

夢斗と蓮が見せた走りは大勢の印象に残っただろう。

 

 

 

この後はエキシビションマッチがスタート。プロドライバー達の単走、追走が繰り広げられた。

見学している夢斗の元に蓮が来た。

「お疲れ様、夢斗君」

「そちらこそ、お疲れ様っす」

「夢斗君……1つ頼んでもいいかな?」

「俺ができる範囲でならなんでもイイっすよ」

「作ってもらいたいんだ、FCのアンダーフロアとディフューザーを」

「はい?」

「美穂ちゃんのFCに足りない物は空力面……。夢斗君のエボに付いているような物を作ってほしいんだ」

「夢斗君の相手になる車に手を貸してほしいって、僕もおかしいと思ってる。でも、これは夢斗君に頼みたい」

「だから……お願い」

夢斗は少し考えて答えた。

「イイっすよ。むしろ速くなった車が相手になるって俺は燃えるし。何より小日向さんの頼みですし」

「いいのかい?」

「もちろん」

「ありがとう、夢斗君……!FCなんだけど明後日夢斗君の所に持っていく。明日FCを使う用事があってね……」

「了解っス」

 

 

 

 

 

 

大勢の前で大活躍を見せた夢斗と蓮。

そして、ひとまず形になったFC。

自分を倒すかもしれないクルマに力を貸す事になった夢斗。

FCの完成は目前に迫る。




FCが形になる。完成が近づく。
夢斗と蓮はドリフトで魅せた。
そして夢斗は蓮にFCのパーツ制作を依頼される……。
自分を倒す事になるかもしれないFCの制作に関わる事になった夢斗は!?


ネタ解説です。
・鈴木学登場
「D1グランプリ」でお馴染みの鈴木学氏が登場。実際の学氏とここでの出来事は関係ありません。
かつてレーサーとして活躍し、いろんな事をやった後にマナブ・スズキ・レボリューション(MSR)を立ち上げました。車体に貼るバイナルグラフィック専門会社です。
そしてD1でのMCをやっているのは周知の事実。
ちなみに本人はドリフトができません。
愛車オデッセイは実際に過去に乗っていた車です。
・D1グランプリ
大会正式名称「全日本プロドリフト選手権」。通称「D1グランプリ」。
単に速さを競う一般的なモータースポーツとは異なり、ドリフト走行における迫力や芸術性をポイント化し競い合います。
詳しく説明するとダルいのでYouT○beで見て(宣伝)
スーパーGTに参戦している谷口信輝選手などが参戦しています。
・ライブ
Triad PrimusとLiPPSがライブしましたが、これは2008年に行われたお台場戦でm.o.v.e.のライブが元ネタ。
その時は頭文字Dエクストリームステージの主題歌を披露してました。
・D1への4駆車参加
熊久保信重選手がインプレッサやエボⅩ、エボⅨをFR化して参加していました。また、手塚強選手がBNR32スカイラインGT-RをFR化+34顔にした通称「B324R」で参加していました。
しかし、4駆のままで参加した選手は国内ではなし。例外的に世界的に有名なラリーストであるケン・ブロック氏がフォード・フィエスタでD1に参加した事があります。



書きたい事たっぷりと書けた(満足)
自分としてはドリフトが好き。でもグリップもいいね。
つまり決められない(優柔不断)
ちなみにどうでもいいのですが、私はD1は小さい頃に2005年のスポーツランドSUGOで行われた際に行きました。その時に野村謙さんと写真を撮ってもらいました。
また、手塚強選手は私の父が個人的な知り合いでサインを書いて頂いたりもしました。


今回ユーロビートバージョンで登場した2曲がYouTubeにあったのでリンクを置いておきます。作者さんのアレンジがとてもいいので他の曲もぜひ聞いてみてください!

・Trinity Field
https://m.youtube.com/watch?v=i_F5CWTqkNg&list=PLzFD68EPmSMKk7ivoIFphDZQGHUBg-H_V&index=29&t=0s


・Tulip
https://m.youtube.com/watch?v=LswR6tt1R7Y&list=PLzFD68EPmSMKk7ivoIFphDZQGHUBg-H_V&index=2&t=0s


FCが走り出す。
夢斗と蓮がドリフトで魅せた。
FCの完成は目前に迫る!!


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STAGE14 繋がる思い

再び「湾岸ミッドナイト」の人物が登場。
ついに究極のFCが完成する……!


D1エキシビションマッチの翌日。蓮はFCに乗って大阪にいた。

教えてもらったある職人の元に行くためだ。

今のFCも悪くないが、僅かに排気抵抗がある。ロータリーのそのフィーリングを損なっている事を感じたために給排気系の変更を提案した蓮。リカコ達に相談した後、リカコが旧知の男に電話をかけ、その男に紹介された男の元に行く事になったのだ。ちなみにリカコが話した男は蓮も知っている。

 

 

「……速い」

後ろから近づいてくる車。まだ一般車が多い時間帯の中、車の間を掻い潜って蓮が運転するFCに近づいていた。

青色(ランスブルー)のエボⅤがFCのテールランプを追う。

「この辺で見ないヤツやナ……。腕はどーだ」

神谷エイジが駆るエボⅤだ。蓮のFCに並ぶ。

「若いナ……。アイツと同じくらいちゃうんか」

FCのドライバーを見て一言。

しかし、FCから出ているオーラはエイジが今まで見たことがほとんどない様なレベル。エイジが知る限りあれだけのオーラを持った車はあの2台だけ。

「ん……?品川ナンバーって事は東京か。あっ、そーいう事かいな」

エイジは(FCのドライバー)にハンドサイン。

 

「降りてくれ……?」

蓮はエボⅤのドライバーが見せたハンドサインの意味を理解。

先行するエボⅤに続いて高速を降りる。

街中ではその爆音で周りから視線を浴びる。その視線は少なくとも「嫌悪感」が込められた視線だ。

そんな視線を気にすることなくエボⅤとFCはロー○ンへ。そこでエイジと蓮は顔を合わせる。

「えっと、僕なにかしましたか……?」

「いや、お前は何もしてへんよ。品川は東京の地区やろ?」

「そうですけど……」

「俺の知り合いから連絡があったんよ。もしかしたら東京から来るヤツいるって」

「FCに乗った兄ちゃんが来るかもってナ」

「あの……知ってるんですか?」

「シゲさんだろ?FC用のマフラーとか一通り作ってたで」

「そうです!」

「なら、話は早いな。俺は神谷エイジ」

「僕は小日向蓮です」

エイジのエボに続いて蓮のFCはロー○ンを出る。

 

 

 

「シゲさーん!いた!」

「おお、エイジか。来たんか」

「シゲさんの言うお客様来たで」

エイジが蓮を連れてきた所は工場。中にはオヤジが。

「こんにちはー」

「大人しい兄ちゃんだな」

蓮がシゲに挨拶する。

「あの……稲田さんですよね」

「ああ、シゲと呼んでくれ」

「お前北見さんに聞いたんだろ」

「そうです。FCの給排気系を作ってもらいたくて」

「どれ、見てもええか」

「どうぞ」

蓮はエイジとシゲを工場の前に止めているFCの前に連れていく。

FCを見るシゲの目が途中で変わった。そして驚きが顔に出る。

「この車……一体どんなチューンをしたんだ!?」

同じくFCを見ていたエイジも驚愕。

「このFC……バケモノや。お前は一体どうやってこのFCを作った?」

蓮は2人の質問に答える。

「色々な方に手伝ってもらいました。僕一人では作れない。でも人に最後までやってもらうのが僕としては許せなくて。自分もFCに手を入れてます」

「エンジンはRGOで組んで」

「RGO!?」

「RGOってリカコいたろ」

「はい。リカコさん達に協力してもらったんです」

「リカコがか……。こんなすごいクルマにしたんか……」

この後他の部分の説明の後、工場の中にFCを入れる。

 

 

 

「エイジさん、レンチ取ってください」

「あいよ」

蓮はシゲ特製の給排気系パーツを装着していた。FCの下に潜り、マフラーを取り付けていく。エイジがエキマニとインマニを取り付けていた。

装着後、エンジンをかけて軽くエンジンを煽ってみる。

ハイトーンのエキゾーストノートがチューンドロータリーの音を引き立たせる。

「すごい……」

蓮は心に直接飛び込んでくるようなエキゾーストノートに震えていた。

「シゲさんホンマに色んな車のマフラー作れますよね」

「そうかぁ?」

「ええ、ホンマに。この間エボⅩのマフラーその場で作ったやん」

「エボⅩ……?まさか銀色の?」

「……?そうやけど」

「星名夢斗って言ってましたか、そのドライバーは」

「ああ、アイツすごいで……ってユウトを知ってんのか!?」

「ええ、夢斗君と知り合いなんです。エイジさんのエボにあった『WORKS-R』ステッカーが夢斗君のエボにもあって……」

「ああ、ユウトにやった。餞別にな」

「なるほど……」

「つーかユウトを知ってるとはな……。アイツは普段はおちゃらけてるけどナ」

 

 

 

「ありがとうございました」

「ああ、ユウトによろしく言っといてくれな」

「ええ!」

蓮が乗るFCは大阪を後にした。

 


 

翌日。

大学に向かおうとマンションを出た夢斗。そこにあったのは白いFC3S。

「えっ……。そう置くの」

夢斗も思わず困惑。FCのダッシュボードに紙が置いてあったので見てみると……。

「パーツ製作よろしくね。乗っていってもいいよ。P.S.エイジさんがよろしく言っていたよ」

「……エイジさんに会ったのね」

夢斗はエボⅩに乗ろうとするが、FCを大学に持っていかないといけない。

パーツ製作用の機材を全て大学に置いているためだ。

「……めんどくさいけど」

夢斗はエボⅩに乗り、一度大学にエボを置いてくる。その後、部のローダーを(勝手に)持ってきてマンションまで戻りFCを載せて大学に戻る。

 

 

 

 

「うーっす」

浩一が部室に入る。しかし誰もいない。

「あり……?」

すると僅かに物音が聞こえた。音がした方向は部の車を置いている倉庫の方。

浩一が倉庫の扉を開けると……。

「夢斗!?」

「……」

夢斗がなんかやってるのが見えた。浩一の声が届いてないらしく、物凄い集中力で作業してる。

「FC……?」

浩一はリフトに掛かっているFCに気がつく。

やがて作業が終わったらしく、機材を止める夢斗。

「お、浩一か」

「夢斗、このFCなんだ?てかお前は何やってんの」

「小日向さんに頼まれてFCのパーツ作ってる」

「はい?」

「浩一、ちょっとこれ持って」

「あっつ!重いっ!!」

夢斗が浩一に持たせたのはアルミ製のアンダーフロア。できたてなので熱い。熱された金属に迂闊に触ってはいけない。

 

 

 

やがてリアディフューザーも完成。こちらはドライカーボン製だ。

「すげえなー。こうやってエボのパーツ作ったんだろ」

「そ、エボよりは簡単だけどな」

「さてさて付けるか。浩一も手伝ってくれ」

「しょうがねえナ……」

2人がかりでアンダーフロアとディフューザーを取り付けた。

「こうやって見るとこのFCやべえな……。何かこう、チューンのレベルが違う」

「ソレ俺も思った。小日向さんの考えた結果がこんなモンスターとはな……」

 

 

 

 

同じ頃、ここは346プロ。

蓮はユニットのメンバーを決めるためパソコンを見てた。そこに。

「蓮君、少し話があるの」

「ちひろさん?」

ちひろに連れられ、廊下に出る。

「蓮君は……何故そこまで仕事をやってるの?」

「あなたの体調が心配。なんでそこまで自分を追い込んでいるの」

どうやらここ最近の蓮の働く様子についてらしい。

「どうしてもお金を必要としてるんです」

「あなたはプロデューサーもやりながらレーサーもやってるんでしょ?どうしてそこまで……」

「そう言えば美世ちゃんから聞いたんですけど……。車を直してるって」

「そうです。でも僕の車じゃないです」

「美穂ちゃんの車です」

「なんで!?」

ちひろの声が若干怒りを含んだ声になる。

「あなたに関係ないじゃないっ」

「関係あるんですよ……っ!」

「!?」

蓮の声が変わる。

「僕がそもそもああいう事をしていなければ美穂ちゃんが怪我しないで済んだ……っ!でも美穂ちゃんは怪我してしまった……。僕を追いかけたせいで!」

「僕は美穂ちゃんに僕を追いかけるのをやめて欲しいって言った。けど……美穂ちゃんは降りなかった。そうなったら美穂ちゃんは考えを曲げたりしない。僕もそういう性格だからわかるんです」

「だから……美穂ちゃんを怪我させてしまった事への責任なんですよ、コレ。せめて自分が手を入れた車が美穂ちゃんを守ってほしいから……」

「美穂ちゃんの怪我……」

「だから……そのために。美穂ちゃんの車を直す為に。大体600万ってトコですかね」

「そんな大金を……!?」

「美穂ちゃんには一切払わせてないです。全部僕のお金です」

「いい加減にしなさい!」

ちひろの怒声が廊下に響く。だが。

「きゃっ」

蓮がちひろに詰め寄る。

「これは僕の勝手です……!ちひろさんがどう言おうとこれは私情です」

「だから僕は考えを変えたりしないですよ……!これは僕がしてやれる『償い』ですから!」

「だから……。もう少しだけ」

蓮の訴えを聞いたちひろ。少し考えた末に蓮に言う。

「わかったわ。ただし、あなたが何かトラブルを起こしても私達は一切関与しません。いいですか」

「最初からそのつもりです」

 

 

 

 

ちひろとの話が終わった後3時間近くパソコンとにらめっこしていた蓮。

「くっ……」

蓮は背筋を伸ばした。長い時間ぶっ通しで作業してたため体の色んな所が軋む。

「プロデューサーさん?」

蓮に声をかけたのはちとせだ。

「ちとせさん、どうしたんですか?」

「あなたが無理し過ぎだって、武内さんや他のアイドルも言っていたよ。あなたを休ませられないかって。文字通り何もしないで休む。まあ、あなたの場合死んだら止まりそうだけど」

「さすがにそれはキツいですよ……」

押し殺した笑いと共に答える蓮。

周りから見たらきついジョークにしか見えない。

「まあ、本当にハードな事をやってるワケがあるのはわかるよ。あなたのその理由は誰かのためにだってわかるの」

「……すごいですね。その通りです」

 

 

「簡単に言ったらお金がいるんですよ。最初の作業で自分が持っていた貯金がもうなくて」

蓮の発言を聞いているのはちとせといつの間にかいた千夜。

「自分がそうさせてしまった責任を取る……って言うのかな。そのために。でも僕としてはお金では絶対に取れない責任なんですよ」

自分が関わった事を話した後、先程の言葉が来る。

「美穂ちゃんは関わっていけなかった。でも関わってしまった。それも僕のせいで。だから今僕のやっている事はただの罪滅ぼしです」

一通り語った後、ちとせがゆっくり口を開く。

「美穂ちゃんには未来があるんでしょ?むしろあなたの『ソレ』を見て彼女は新しい選択肢(未来)を見つけたのかもしれないよ。あなたが私達を輝かせる……女の子を輝かせる魔法をかけたように。可能性を引き出したんだと思うの」

「最も一般には認められない、理解されない可能性だけどね」

「……本当にその通りですよ。自分の目標のために時間、お金を使っている。僕は馬鹿ですよ。だからこそ美穂ちゃんにはそうなってほしくなかった。僕は美穂ちゃんを守る義務がある」

蓮は外を見ながら言った。その視線の先には曇り空が見えた。

 

 

 

 

その日の夜。

大黒ふ頭に銀色のエボと白いFCがあった。

夢斗が蓮にFCを引き渡す。

「本当にありがとう、夢斗君」

「いいっすよ。美穂の車をこんだけのすっげー車にした小日向さんもスゴいし」

「いや、僕じゃない。みんなだよ。夢斗君も当然入る」

最後の調整のために夢斗のエボと蓮のFCは湾岸線に向かうのだった。

 

 

 

 

 

夢斗の手も借りて完成した新生FC。

蓮の思いが詰まったFCが美穂(パートナー)を求めていた。




ついに完成したFC。
様々な人物の技術、そして蓮の想いが込められたFCが走り出す。



ネタ解説です。今回少なめ。
・リカコとエイジ
「湾岸ミッドナイト」でエイジのエボⅤをリカコがチューンしています。また、エイジと会ってからリカコの出番が大きく増えてます。
ここでは今もたまに連絡を取り合ってる事になってます。



最近湾岸あんまできてない……。分身進めたいなーと思いながら。
学生は辛い(白目)



ついに完成したFC。
リカコや高木と言った伝説のマシンに関わった者が作り上げたマシンは美穂を待つ。



次回、「究極のFC編」完結!



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STAGE15 パートナー

ついに美穂の手に戻るFC。
彼女は生まれ変わったFCを操れるのか!?



蓮が大阪に行って数日が経った。

白いFCがRGOで最後の調整を受けていた。

「給排気が変わってだいぶ良くなってるね〜」

リカコがチェックの結果を見て言う。

「すごいです……とにかく音が自分の中に直接届くって言うか……」

「夢斗君のエボと同じ音がするんです」

シゲの作ったマフラーの音の事を伝える蓮。

リカコが話す。

「FCと同じエキゾーストノートだったわよ。ブラックバードは」

「……確かに」

蓮はブラックバードと戦った事がある。その際に聞いた高揚感を感じるハイトーンのエキゾーストノートが心に残っていたのである。

「……よしっ!」

リカコが調整を終えた。

「これでFCは本当に完成よ」

「ありがとうございました。何から何まで手伝っていただいて」

「いーのいーの。久しぶりに本気になってエンジンを組めた。常にどんなセッティングにしたらいいか、考えるの楽しかった」

「リカコさん、工賃は……」

蓮が工賃の事を切り出す。

「いや、いいわ。あなたが守りたいと願う人への手助けをしたまでよ」

「僕は工賃を受け取って頂きたいんです。そう言うの抜きにして。僕はあくまで『仕事』として皆さんにこのFCを手掛けて頂いたんです。だから……」

「……気持ちだけ貰っておくわ。小日向君」

この後もなかなか蓮が引き下がらず、結局は本来の工賃の約1割の金額をリカコが貰う事で解決した……。

ちなみにこの後蓮が訪れたSSマッハなどFCを手掛けた所の人物達もリカコのような応対になるのだった。

 

 


 

 

翌日。

美穂はインタビューを受けていた。蓮は用事があって一旦いなくなると言っていた。自分一人でインタビューを受けている。

アイドルになってそれなりになったが、やはり緊張する。あがり症は完全に克服できたわけではない。

「私はーーーー」

 

 

 

 

やがて一時休憩のためにインタビューは中断。休憩中にお茶を飲みながらスマホを見る美穂。新着メッセージがあったので見る。

「ごめん、もう少しで終わるから1人で待ってられる?」

蓮からのメッセージ。

「……待ってられますよ。蓮さん」

 


 

幼少期は蓮とよく一緒に行動していた美穂。蓮とはぐれたりした時、どんな所にいても蓮は必ず美穂の元に来た。いつも通りの笑顔で「大丈夫?」と声をかけてくれた蓮。

彼の存在が美穂の中では大きな物になっていたのは中学生になった辺りから。

彼を意識してしまう。小さい頃は「蓮くん」と呼んでいた。気がついたら「蓮さん」になっていた。親戚みたいな関係であったはずの彼との関係が美穂にとって「憧れの人」では済まないような事になっていた。

その頃に自分の夢を強く意識するようになった。テレビの中のアイドルに憧れた美穂。

自分もアイドルになって自分を変えたい。そして自分がもっと多くの人を変える事が出来たら。

美穂は夢を叶えた自分を見てほしくて蓮に1つの約束をする。

『私がアイドルになったら私がステージに立っている姿を見届けてくれますか』

蓮とこの約束を結んだ後、美穂は上京。地元熊本を出てきた。

蓮も一度自分の目指していた夢を諦めてまで美穂と346プロで出会う事になった。

自身が「壊れて」でも美穂との約束を守るために。

 

 

こうして今美穂と蓮は同じ場所で過ごせている。美穂の「約束」がなかったら今の2人はない。そもそも2人は別の道に進んでいたかもしれないし美世や夢斗にも関わらなかったかもしれない。

全ての始まりはこの2人の「約束」が元だ。

 


 

「お疲れ様でした」

インタビューを終えて美穂は待機部屋に向かう。

「お疲れ様、美穂ちゃん」

そこには用事を終わして戻った蓮がいた。

「蓮さん!」

「ごめんね、1人にさせて」

「私は平気でした!蓮さん」

「そっか……。後は明後日の確認しなきゃね」

「はいっ」

2人は明後日の仕事の詳細を聞いてビルを出る。

 

 

駐車場から黄色いFDが出てくる。

夕方で帰宅ラッシュの真っ最中である街中を進むFD。

「こうやって見ると都会だなーって」

「何回見ても……東京に住んでいる感じがしないや」

田舎から上京した2人。蓮は山形から、美穂は熊本から。

キラめくネオンが眩しく映る繁華街やライトアップされる東京タワーなど地元ではまず見ない光景。

キラキラした街中を抜けて蓮が運転するFDはある駐車場に着いた。

そこにあったのは初めて見た時と大きく姿が変わった白いFC。見た目が変わっているが、直感的にその車が「ななさん」とわかった美穂。

「ななさん……?ななさんですよね!?」

「うん。ななさんだよ」

FDから降りた美穂はまっすぐFCの元へ。

「ななさん……」

あの日ぐしゃぐしゃに壊れたFCが今目の前にある。

「蓮さん……ななさんが直ってる!」

「ちゃんと綺麗になったよ。そして……追えるように」

「美穂ちゃん。行ってみる?」

「……はい!」

2人の車は駐車場を出て首都高へ向かう。

 

 

 

 

蓮のFDが先行し、美穂が運転するFCがその後を追う。

「すごい……」

生まれ変わったFCの動きに驚きを隠せない美穂。

自らと一体感を感じるFCの動き。FCを自分の手足のように動かせる。

「もう1人の私……」

今、FCは自分の分身と言うのがピッタリだろう。

美穂の感覚とFCがシンクロしていく。

「心に音が伝わる……」

ペリフェラルポート加工が施された13B。そしてシゲ特製マフラー。

ロータリー特有の甲高いエンジン音(ロータリーサウンド)とハイトーンのエキゾーストノートが美穂の心にダイレクトに届く。

モチベーションがアガる音。美穂の意識は前を走るFDに近づく事に集中していく。

 

 

「FCを乗りこなせてる……」

バックミラーに映るFCを見て呟いた蓮。

ちょくちょく美穂にドラテクを教えていたがソレは(自分)のFDでの事。美穂は自分のFC()に乗るのはほぼ1ヶ月ぶり。にも関わらず、大きく仕様変更されたFCを扱えてるあたり腕は確実に上達している。

 


 

数時間前。

美穂に引き渡す前の最後の実走。駐車場に待っていたのは赤いFCと男。

「出来上がったか」

「はい」

内藤だ。蓮の頼みを聞き工場の奥に眠っていた自身のFCを引っ張り出してきたのだ。

「お嬢ちゃんのために……という目的でお前さんはたくさんの人に関わった。RGOだとか普通なら個人があそこまで関わる事はまずできない。でもな……その肩書きがあるんだ。それがあってこうやってコネがあるわけだ」

「首都高最速」という称号を背負う蓮。そんな彼の「頼み」だからこそ、伝説のマシンに関われた。「伝説」を見てきた者達が蓮を信じてる。

「そうですね……。僕はその時代を見てきた訳じゃない……けど」

「そういう『伝説』をいつの時代にも残したいって言うコトもあるんじゃないか、と」

どんな時にも周りとは違う、それが有名になってやがて「伝説」と呼ばれるようになる者が必ずいた。

「悪魔」も「迅帝」も。そうやって。

 

 

湾岸線。

白と赤のFCが突っ走る。

「迅帝」を追いかけ続けた内藤が駆る赤いFCは蓮が駆る白いFCをブチ抜こうとしていた。

 

「速い……!!」

歴戦の首都高ランナー内藤を前に思わず音を上げそうになる蓮。

性能差がある現役マシンを旧型の(FC)で撃墜していく。

鬼気迫るFCがテールに迫り、撃墜(おと)すまで絶対に離れない事から付いた通り名が「追撃のテイルガンナー」。

「まだまだ……っ!」

蓮のFCが5速にシフトアップ。スピードメーターが300kmを指した。タコメーターが7500回転を突破。

 

「……行けるか」

内藤のFCが一瞬だけの全開に入る。FCの前には一般車ナシ。オールクリア。

アクセルを踏み抜いてFCを前に走らせる。蓮のFCと内藤のFCが並ぶ。

「負けないっ!!」

蓮が本気で踏んでいく。蓮の気合いに答えるようにFCの13B(エンジン)が吠える。

ロータリーペリ独特の甲高いエキゾーストノートを太陽が照らす湾岸線に轟かせていく。

 

 

隣の白いFCが爆音を上げて自分を離そうとしている。

「少し……ツラいか」

内藤のFCは先程からペースが僅かに落ちている。

何しろ、このFCがバトルするのは数年ぶり。本気で走る事がなかったのもあり、エンジンはタレていた。

むしろこんなコンディションで蓮が操るFCと互角(タメ)で走れていた事が驚異的だ。

内藤のFCはやがて大きくペースを落とす。その瞬間、白いFCが内藤のFCを突き放す。

白いFCからは黄色い(オーラ)が立ち上るのが見えた。

 

 

 

「アンタは上手くやっていけるさ。美世を頼むよ」

「もちろんですよ、内藤さん」

大黒ふ頭で話す2人。蓮が立ち去ろうとすると。

「アンタがこのFC()を直した理由……。アンタが大切にしてるお嬢ちゃんをしっかりと守って見せろよ。もし、それができなかったら俺はアンタを許さない」

「もちろんです。僕は美穂ちゃんを巻き込んでしまった責任があるから。だから絶対に守るって決めたから!」

 

 

 


 

 

 

(自分なりの走り方をしてみる)

美穂は蓮の走りをなぞっている。でも、今度は自分の走り方を見つけるために。

FCは蓮のFDに迫る。

「私が見つけるんだ……。追いかけるための走り方を!」

蓮のFDに引っ張られる美穂のFC。黄色いオーラを纏うFDにシンクロするかのように美穂のFCからも黄色いオーラが現れた。

「心地いい……」

蓮は気がついたらこんな事を言っていた。美穂と自分の走りの波長(リズム)が重なっていく。

 

 

 

 

 

 

ここは346プロ女子寮前駐車場。2台のRX-7が止まっていた。

「まるでもう1人の自分って感じです」

「乗れていたよ、美穂ちゃんはFC(ななさん)をちゃんと理解(わか)ってた!」

「私……やっとななさんを理解(わか)る事ができたんだ……」

再びFCに乗る事ができた喜びでいっぱいの美穂。そんな美穂を見て蓮も微笑む。

「そうだ……美穂ちゃん確か明日オフのはず」

「そうなんですか?」

「うん」

「私……ななさんとちょっとドライブ行こうかなーって思いました」

「いいね、ななさんと色んな所を見ておいで」

「はいっ」

「じゃあ、ま……た」

蓮がふらついたと思った瞬間蓮が倒れた。

「蓮さん!?しっかりしてください!!」

蓮を起こそうとするが反応しない。美穂は慌てて自分の部屋に蓮を連れていく。

 

 

 

「疲れてるんだろうな……」

目を覚まさない蓮を寝かせてる美穂。武内Pやちひろが言うように最近蓮の働く量があまりにも多い。普通なら2人から3人で分担して4日で終わらせる作業を蓮はたった1人で2日で終わらせて他の仕事に入るという。

蓮がどれだけ優秀でもこれでは体が先に壊れてしまう。そのために武内Pやアイドル達みんなで蓮を休ませようとしてた。だが、実際に蓮が休んだのはこの約1ヶ月の中で僅か2回だけだった。それも命令で。

「……まさかななさんを直すために?」

確信はないがそんな気がする。だが聞こうにも蓮が目を覚まさない。

「……」

蓮の寝顔を見る。蓮の寝顔は小さい頃から変わらない。

昔から全然変わらない。優しさも頼れる所も。

「いつもありがとう、蓮くん」

もう10年以上使っていなかった呼び方。

いざやったら照れた。恥ずかしい。

「ーーーーーっ!!」

顔が真っ赤になった。恥ずかしくなり布団に潜り込む。

 

 

 

 

 

 

翌朝。

廊下を歩くアイドルがいた。

「美穂ちゃん起きて来ないね〜」

城ヶ崎美嘉と小早川紗枝だ。

「いつもならとっくに起きてるはずやけど……。どうしたんやろ?」

2人が起床時間になっても起きてこない美穂を起こすために美穂の部屋に行こうとしていた。

「あれ?」

美嘉が駐車場にある2台の車に気づく。

「プロデューサーの車と……あれは?」

蓮のFD()があるのはわかったが、隣にある白いFC()は初めて見る。

「美嘉はん、行こか」

「あっ、うん」

2人は美穂の部屋の扉をノックし入る。

「美穂ちゃーん、朝だよー……えっ!?」

「プロデューサーはん!?」

2人が見たのは向かい合って寝てる蓮と美穂だった。

「ププププ、プロデューサー!?」

「これは一体なんやろか……」

 

 

 

この後、他のアイドルがやってきて騒ぎが大きくなった。

結果2人はしばらくこの事でいじられ続ける事になった。特に2人が揃っていた時のいじられ方は346プロ内で語り継がれる事になった……。

 

 

 

 

 

伝説に関わった者達の手も借りて完成したFC。

そしてFCを操るのは美穂。

彼女とFCは今、舞台(ステージ)に立ったばかりだ。

 

 

 

 




ついに美穂の元に戻ったFC。
彼女が駆るFCからは憧れの人と同じ光が溢れていた……。


ネタ解説です。
・美穂のFC
ついに完成したFC。ベース車両は後期型GT-X。
モデルはRE雨宮のマシンである通称「風林火山号」が元。
ただし中身は全くの別物。
湾岸や頭文字Dでは再現できないため、今回はパーツなどを記載しません。
・美穂と蓮の約束
これは短編「小さい日向の少年と少女」から続く約束です。わからない人はぜひ見て(宣伝)



「首都高バトル」から登場する内藤のFCが蓮とバトルしましたが、皆さんは首都高バトルではどのライバルが好きですか?
私はユウウツな天使が好きです。
ラストが何かラブコメでありそうな状況になった……。
だが私は謝らない(キリッ)



次回、美世が異国の地でバトル!
美世にとって初めての海外戦はどうなる!?



「究極のFC編」完


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激走の夏編
STAGE16 夏の熱戦


新章開幕!
美世初の国外戦はどうなるのか!?


7月。

美世は現在国外だ。ここはマレーシア。

マレーシアの首都クアラルンプールの郊外セランゴール州セパンにあるセパン・インターナショナル・サーキットに来ていた。

F1の舞台にもなっているこのコース。スピードが乗りやすくも、激しいバトルが起こりやすい。

そしてこのサーキットの特徴は年間を通して高温多湿である事。

このサーキットはほぼ赤道の直下に位置する。その気候からドライバーは体力的に厳しいレースを強いられる。

スーパーGTに至っては毎年6月開催ということで特に暑さにドライバーが苦しみ、毎年のようにクールスーツが故障し熱中症の症状に陥るドライバーが現れるのだ。そのため2009年にはあるチームのGT-Rが、暑さ対策としてレーシングカーとしては極めて異例のエアコン搭載でレースに参戦した程である。

ただ、今年はサーキットのスケジュールの都合から7月に開催される事になったのだ。

「暑い……」

薄着になっても汗が止まらない。ポカリを流し込みながらピットへ向かう美世。

「原田さん、大丈夫かい」

鈴木が美世を気遣う。

「大丈夫ですよ」

元気に返す美世。

「あたし……海外に行くの今回が初めてなんですよね。だからソレもあって楽しみで」

美世の目は輝いていた。

 

 

 

予選。

スーパーラップ方式で行われる。様々なチームのマシンが全開でホームストレートを駆け抜ける。

 

「原田さん、まずはここに慣れてほしい。無理はしないように」

「了解です」

美世が乗るGT-Rがピットアウト。コースインだ。

赤いRが咆哮を上げた。

 

 

「アンダーが……」

美世はアンダーステアに悩まされていた。13、14コーナーは外側(アウト)に荷重を残しながら旋回するため、アンダーステアが生じやすい。

セッティングが合っておらず、美世は攻めれない。

美世は何とか奮闘し、スターティンググリッドは5番となった。

 

 

 

予選後。

GT-Rから降りた美世は足が地面に着いた途端へたりこんでしまった。

「はあーーっ、暑すぎるっ」

極限状態でタイムを削りにいく事。それは限界まで神経を張り詰めているのだ。

小さいミスを許さないタイムアタックは見てる方がはらはらするが、ドライバーはそんなレベルの話ではない。

今、張り詰めていた糸がプツンと切れて美世はへたりこんだ。

高温のマレーシアでここまで攻めた美世。初めてここを走ったにしては上出来だろう。

「原田さん、明日に備えて後はゆっくり休んでくれ」

「はい……」

美世はもう最初の元気がなくなっていた。

 

 

 

翌日。

決勝日の今日はスタンドに多くの観客が押し寄せる。現地の観客もいれば、日本から来たファンもいる。スタンドには美世の応援団も見えた。

 

 

各チームは最終セッティングで大忙し。

モチュールのピット内では鈴木が美世にアドバイスをしていた。

「最初は徹底的に食らいついてほしい。やはり、他のチームとの熟練度が違う。だが、原田さんは吸収が早い。イけると思ったら勝負に出てほしい」

「はい!」

アドバイスを受けた美世は準備に取りかかった。

 

 

国家斉唱と開会宣言の後、フォーメーションラップ十分前のアナウンスが流れた。

ここで、ドライバー以外はピットに戻る。

 

エンジンスタートのアナウンスが流れると共に、各車エンジン始動。

フォーメーションラップが始まると、サーキット中が緊張感に包まれる。全車がローリングラップを開始。

タイヤに熱を入れるべく、美世は車を左右にウェービングする。

灼熱の路面がタイヤに熱を帯びさせる。

 

 

全車隊列を整え、ペースカーはピットロードへ入る。直後にまずはGT500クラスがレーススタート。

少し後にGT300クラスがスタートした。

 

(遅いっ!!)

美世のGT-Rが前を走るSC430をぶち抜いた。スタートダッシュで出遅れたSCを相手にせずにとにかく上位に食らいつこうとする。

 

 

25周目で美世は2番手に着く。

前を走るのは青いカルソニックGT-R。美世は驚異の集中力で差を詰めていく。

「あたしが前に……っ!出るっ!!」

美世は前を往く青いGT-Rをブチ抜く事に理性を回す。

 

 

 

34周目。

美世のモチュールGT-Rのタイヤは限界を迎えようとしていた。初期制動で体制が崩れそうになる瞬間を何回も起こしていた。

もうリスクしかない状況だった。しかし、それは前のカルソニックGT-Rだって同じだ。

美世に張り付かれたままずっと首位を走っていた。不用意にピットインなんてできない状況。当然、タイヤがタレている。

限界寸前の2台のGT-Rがデッドヒートを繰り広げる。

「……っ!!」

モチュールGT-Rが狙ったラインから僅かに外れた。

狙ったラインから外れて立ち上がりが鈍る。カルソニックGT-Rがワンテンポ早く立ち上がる。その差は0.8秒。

マシンも美世(自分)も限界まで追い込まれた。

その時、美世の脳内にガラスが割れて砕け散るイメージが浮かぶ。

同時に美世の視界が変化し、思考が加速する。

これが美世の特殊能力である「ブレイク」。

 

 

 

 

「行けえぇぇっ」

美世のGT-Rがフルブレーキング。カルソニックGT-Rがブレーキングに入ってからワンテンポ遅らせてのブレーキングだ。

フルブレーキングし、ブレーキローターが赤熱する。

赤と青のGT-Rが闘争心をむき出しにしてコーナーの奥深くまで突っ込んでいく。

青いカルソニックGT-Rが引き下がった。この時点で美世のモチュールGT-Rは前に出た。

(やった!!)

だが、美世は大きなミスを犯す。このコーナーは14コーナーであるという事を忘れていたのだ。

カルソニックGT-Rよりも速く、そしてブレーキを遅らせたためにスピードが乗りすぎたのだ。

(あたしのバカーーーっ!!)

タイヤのグリップはとっくに残っておらず、食いつかない。美世のGT-Rはアンダーを出した。GT-Rはどんどんラインから外れ、コースオフしかけた。左側のタイヤをコース外にはみ出させながらも何とか立て直す。しかしこれが原因で美世はカルソニックGT-Rから離れてしまったのだった。

この後美世は順位を落とさないように全力を尽くしてピットイン。セカンドドライバーに後を託す。

 

 

 

レース終了後。

表彰台に美世は立っていた。美世が立っていたのは2番目に高い所だ。

 

 

スーパーGT第4戦リザルト 

エントラント:NISMO

マシン:MOTUL AUTECHGT-R

予選:5位

決勝:2位

(31ポイント、総合ランキング5位)

 

 

 

表彰式終了後。

美世はピットに戻ろうとしていた。明日からのオフの事を考えながら歩いていた美世を呼ぶ声。

「原田さん、少しいいかい」

美世を呼んだのは美世と競り合ったカルソニックGT-Rのドライバーである岩崎基矢だ。彼は元々走り屋だった過去があるらしい。アマチュアとして活躍していた所、スカウトされたという。

「岩崎さん?」

美世は意外な人物に声をかけられた事に少し驚きながら話す。

「原田さん、とてもいい走りだったよ」

「ありがとうございます。岩崎さんをあと少しで抜けると思ったけどあたしがミスってしまって(笑)」

「ベテランでもミスする事はあるさ。俺も原田さんが後ろにいる時内心焦っていた」

「次は負けませんよ?」

「俺も負けないさ」

そう言った岩崎からは青いオーラが見える。

美世は岩崎から出てるオーラを見てかつて見た蒼いR34GT-Rを思い出した。

(あのオーラ……。あの車と一緒……)

 

 

 

 

美世がゴールする少し前。

ここは346プロ。蓮は休憩時間にiPhone(スマホ)でスーパーGTの中継を見ていた。

「美世は『勝った』のか?」

蓮に聞くのは向井拓海だ。

「うーん、僕は『互角』だと思う」

先程のブレーキング勝負の事だ。美世はアンダーを出してしまったが、そこまでの「運び方」について拓海は聞いている。

「美世さんの詰めはよかった。僕もあそこまではやれなかった。最も、アンダーを出したのはあるけどね……。でもカルソニックの方も目でわかるような破錠を見せなかった。ミスした瞬間全部が崩れそうな状態をひた隠しにしてよく耐えたなーって思った」

「よくわからねーけど、美世はあの青い車と互角に戦えたんだな!?」

「僕が言えるのはそのくらいかな」

「やっぱスゲーよなー、美世は」

蓮は声に出さずに思う。

(カルソニックのR35のドライバー……。何だろう?Zやブラックバードと似てるようで違う気がする)

 

 

 

 

 

場所は変わって283プロ。

「ああーーっ!モチュールが膨らんだっ!!カルソニックが前に出たーーーっ」

テンション高めの声での実況が部屋中に聞こえる。ライブ中継を見てる遥。そこに咲耶が来た。

「珍しいね、レースを見てるなんて」

「咲耶さん。このGT-Rのドライバーがアイドルって言うのもあって気になって」

「アイドル?」

「はい。346プロの原田美世さんなんですよ、このモチュールGT-Rのドライバー」

「へえ……」

 

 

 

 

 

「夜が長い……」

浩一は青いFDに乗って八重洲線を走る。夢斗に呼び出されていたのだ。

「くっそ、ヘンな用事だったらシバく」

現在の時刻は深夜12時。日付が変わった直後である。何しろ浩一が夢斗のメールを受け取って家を出たのがつい20分前。寝ようとしてた時に呼ばれたのだ。

「夢斗と……この間のFC」

前を走るのは夢斗の銀色のエボと夢斗が作っていたパーツを付けた白いFC。

「小日向さんが直してるって言ってたFCか……。小日向さん乗ってんのかな」

浩一の予想は半分当たり。残り半分がハズレなのは……。

「小日向美穂ちゃん!?」

そう。FCを運転するのは「小日向」美穂だ。

浩一がFCに並んでウインドウの向こう側に見えた顔にびっくり。

「遅いぜ、浩一」

夢斗がバックミラーに映った青いFDを見て言う。

夢斗のエボはFCとFDを置いていく。

「あっ、待てや」

「速い……!蓮さんの言ってた通り!!」

 

 

 

 

数分後……。

「やべえ……っ!?」

先程までの夢斗の余裕は消えている。今、夢斗は本気になった。

浩一のFDが見えなくなるのはいつもの事として美穂のFCが夢斗のエボを追い込んでいたのだ。

しかし。それは「FCが」速いのだ。まだ、ドライバー(美穂)より(FC)の方が速い。

「ついて来いよ……っ」

夢斗のエボは最後のギアである5速で八重洲を走る。FCは離れずに一定の距離をついてくる。

「小日向さんにレッスンしてもらってるだけあるなー……。普通に上手い」

天才夢斗をしてこう言わせた美穂の実力。今はまだ蓮はおろか、夢斗にも届かない。しかし、美穂の実力は確実に蓮に近づいているのである。

2台はC1エリアに入った。ここからは純粋に実力が問われる箇所が一気に増える。

FCはエボⅩのS-AWC(スーパーオールホイールコントロール)を凌駕する運動性能を見せる。ハイテク電子機器が多く採用されるエボⅩをアナログなFCが追い回すという光景を後ろから追ってきた浩一は見た。

「夢斗をここまで追えるなんて……」

黄色いオーラを纏いながら夢斗のエボに続くFCを見て浩一は漏らす。

 

 

「美穂ー、フツーに上手いじゃん」

「私はまだ全然下手っぴですよ……」

「いや美穂ちゃん、俺より上手いよ?」

「浩一が下手くそなだけだろ」

「そうだな(ヤケクソ)」

「夢斗さん、あの……」

「どした?」

「ライブチケット……いりますか?」

「いる(迫真)」

「ひゃっ!?」

浩一が一瞬で美穂の前に来た。夢斗ですら浩一の動きを視認できなかった程。

「来週のライブ……です」

「おい浩一、美穂が怖がってんじゃねえか。まー美穂、俺はいい。浩一(このアホ)に渡してやってくれ」

「ルビ酷くね!?」

 

 


 

翌週。

「みんなーーーっ!!」

「「「「ワアアアアアァァァァ!!!!」」」」

ライブ会場を歓声が満たす。

アイドル達がキラキラとステージで輝いている。

 

 

「相葉ちゃーーーん!!」

「うるせー……」

浩一と夢斗だ。美穂が渡したチケットがペアチケットだったので浩一が夢斗を強引に連れてきた。

ちなみに夢斗はライブ初体験。浩一は4回程行ったことがあるらしく、サイリウムなどを当然のように持ってきていた。

初体験の夢斗は何も持ってない。要するに地蔵になっている。

今ステージに立っているのは夕美。

彼女が歌っているのは新曲「Dreaming Star」だ。彼女が主役のアニメ「お花の妖精使いフローラル夕美」のエンディング曲として使用されてる。

コールに合わせて一斉に声をあげるファン達。

「「「オーーーッ、ハイッ!!!」」」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「また来てくださいねーーー!!」

夢のような時間は長いようで短い。しかし、その間の事は忘れられない体験。

 

 

ライブ終了後。

「いやーーーっ!相葉ちゃんよかったろ!?夢斗!!」

「こんなテンションのお前初めて見たわ」

大興奮で話す浩一といつものテンションの夢斗。

しかし夢斗の目は少し変わっていた。

「ま、コレがライブなんだなーって思ったわ」

「今度のヤツも行こうぜ!」

「お前だけで行け。疲れる」

浩一が自分のFDに乗るのを見て夢斗は思う。

(コレを見に行きたかったんだろ……)

 

 

 

 

 

ここは283プロ。

遥はアイドル達を集めていた。

「皆さんにここに集まってもらったのは……」

「来月開催するファン感謝祭についてです」

「ファン感謝祭……」

咲耶は聞こえた事を繰り返していた。

「ユニット皆でやる事を自由に考えていく……全ては皆さんのアイデア次第です」

遥が説明を終えて部屋を出た後、全ユニットのメンバー達は一斉に話し出す。

「さくやーん!さくやんは何か案ない?」

結華が聞く。

「私は……」

 

 

L'Anticaのメンバー達のやる事はまだ決まらなそうだ。

 

 

 

 

その日の夜。

咲耶は愛機エボⅨで首都高に出ていた。先程雰囲気組のコルベットを撃墜したばかりだ。

バックミラーに光が入り込み、車内を照らす。

「何だ……?」

後ろを見た瞬間、咲耶は鳥肌が立つのを感じた。

「1年振りか……!!今度は負けないっ!」

蒼いS30。その名は「悪魔」。1年前の因縁再び。

「前を走る、その為にずっと走り続けてきたっ」

エボⅨは再び戦闘態勢に入った。

 

 

 

「あの車は……1年前に見た」

Zを操る少女は去年見たあの車を見て言う。

その頃から「速い」とわかっていたが、今はそれがより強く主張されてる。車から見えるオーラ()が去年とは桁違いになっている。

「私も本気で行きましょう、ぜっと」

少女、いや四条貴音が駆るZは咲耶のエボⅨを追う。

 

 

 

 

 

灼熱のマレーシアの激闘で美世は惜しくも優勝を逃す。

しかし確実に実力を見せた美世。

そして再び現れた悪魔のZ。咲耶は追うべき車との因縁の再会を果たす。




美世にとって人生初の海外の地でのレースは惜しい結果だったが、成長を感じられる結果にもなった。
そして咲耶は因縁の相手と再び出逢う。


ネタ解説です。
・セパンサーキット
美世初の海外戦の舞台セパン。文中にあるように1年通して高温多湿。
物語の都合上、ここでは7月開催になってますが本来は6月に開催するのが普通です。
・ブレイク
美世の特殊能力「ブレイク」。これはガンダムSEEDの「SEED」って思うとわかりやすい……かも。
詳しくは「疾走のR」を見てください。
・ライブシーン
夕美が着ている衣装は「夜の一輪」の衣装。要するにフェス限の衣装。
ちなみにデレステでは現時点で「Dreaming Star」は実装されてません。そのためライブシーンは彼女の持ち歌の「lilac time」で撮影してます。許してください。



「小さい日向の少年と少女」加筆修正しました。
誤字修正がメインですが、新たに加筆箇所あり。加筆した部分はこの「銀色の革命者」に続きます。具体的に言うとSTAGE6で描かれなかった部分となります。
こっちも呼んで頂けると嬉しいです。
https://syosetu.org/novel/187707/1.html

また、この話の数日前の話として外伝「空を目指した少女と地上に煌めく六連星」がありますのでぜひ見てください。STAGE15.5ってとこです。
https://syosetu.org/novel/196611/1.html

再び現れた悪魔のZ。
咲耶は立ち向かえるのか!?


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STAGE17 因縁のドッグファイト

再び出会った「悪魔のZ」。
咲耶はどう立ち向かうか。


少しだけ外伝要素あり。
「空を目指した少女と地上に煌めく六連星」も読んでみてください。



「簡単には負けないっ」

咲耶の黒いエボⅨが環状線を突っ走る。1年前にあっさりと「悪魔」に敗れた咲耶にとって苦い記憶がある場所だ。

 

「やりますね……」

貴音をしてこう言わせる咲耶の走り。

1年前とは比べ物にならない程レベルが上がった咲耶の走りは貴音と互角に勝負できている。

「離せる!」

咲耶のエボはフルブーストに入る。

最大ブースト1.4kgに入り、かつエボの運動性もあって徐々にZを離していく。

「勝てる……!!」

しかし……。

「そんな、追いついてくるのか!?」

Zは全開(フルスロットル)で逃げるエボⅨに迫りつつあった。

 

 

 

2台は湾岸線へ。神奈川方面に向かう。

「また、走りましょう」

貴音のZが咲耶のエボの前に出る。スピードの象徴であるその姿。Zは妖しげなオーラを咲耶に見せる。

「ーーーーーっ!!」

Zのテールランプが離れていく。咲耶は焦りからコンディションが悪化していたエボに気づかなかった。

ドシュッ、パパパパッ

エボから白煙が吹き出す。同時にエボのパワーがみるみる無くなっていく。

「そんな!?」

やがてエボⅨは完全に止まってしまった。

「まだ私は……あの車の足元にも届かないのか」

エボを壊してしまった咲耶は意気消沈。

 

 

 

 

翌日。

夢斗のスマホにメールが。

「突然すまないね。私の車を直す事はできるかい?」

「咲耶のエボが壊れたのか……?珍しくないか?」

夢斗はエボⅩに乗り咲耶の家に向かう。

 

 

「つか咲耶ん家行くの初めてなんだけど」

咲耶の家は教えてもらったが、用事がないため行く事がなかった。だが咲耶の頼みというのもあり、家に来たのだ。

咲耶の家は夢斗と同じくマンション。

インターホンを鳴らして少し待つと黒髪の美少女が出てきた。

「おはよう、夢斗。いきなりすまないね」

「いーや平気だ。エボは?」

「ガレージにあるさ。ついてきて」

咲耶に続いてガレージに来た夢斗。そこには黒いエボⅨが鎮座している。

「全然パワーが出なくなってね……。エンジンなんだろうけど私にはさっぱりでね」

「なーるほど。ま、俺はエボの整備は俺のエボⅩしかやった事ねえからな。自分以外のエボやるのはるんって来てるし」

「頼むよ」

夢斗はエボのエンジンルームを見る。

 

 

数分後。

「うーん……こりゃ降ろさないとムリだわ」

「そうか……」

「つーわけで持ってくぜ、エボ」

「えっ?」

10分後、夢斗が大学からローダーを持ってきた。

ちなみに美穂のFCを持っていく時も勝手に使った事が浩一にチクられて怒られた。だが夢斗は反省してない。

 

 

 

 

 

友也は倉庫にないローダーを探していた。

「またか」

夢斗がいつも予測できない行動をする為、こういった事には慣れていた。

やがてエンジン音が聞こえてきた。部のローダーだ。

「やっぱ……ってオイ」

ローダーには黒いエボⅨが載っていた。そして助手席に咲耶が。

「どういう事だよ……」

降りてきた夢斗に問う。

「何してんの」

「え?咲耶のエボ壊れたーって聞いて。家では詳しくわかんねーからこっちに持ってこれば、機材とか揃ってるし」

「つまり直すためにと」

「そうっす」

「白瀬さん?」

「はい?」

「後は夢斗に任せてください」

「ええ、そうさせてもらいます」

 

 

 

エンジンクレーンでエボⅨの心臓である4G63が降ろされる。

夢斗と友也がエンジンをチェック。

「あー……。これはバラすか」

「咲耶ー、予備のパーツとかないの?」

「持ってないな」

「しゃーねー、買うか」

「何だったんだ?」

浩一が聞く。

「ヘッドやってるカンジだな。腰下まではイってなかったけど」

「ヘッド周りの消耗品がないっぽいんだわ。だから買う」

 

 

 

夢斗がエンジンをバラしてる時に何気なく聞く。

「ヘッドやったみたいだけどさ、何か追ってたのか?」

その瞬間咲耶の顔に変化が現れた。

「ああ……。『悪魔』だ」

それを聞いた友也達は皆驚く。

「『悪魔』!?」

「?」

……夢斗除いて。

「1年前に負けたんだ……。手も足も出なかった。そして再び負けた」

部員達にどよめきが広がる。

「『悪魔』って何だ?」

「夢斗……。知らないのか!?」

友也がびっくり。

「首都高の伝説のマシンだぞ!?」

「わかんねーっす」

「マジか……。ま、簡単に言うとヤバい車だ。事故でオーナーを何回も変えた車。意志を持つように走るらしい」

「聞いただけでヤバそうッスね」

「これは事実だ」

「でも、俺わかんないし……。あっ、小日向さんに聞けば!」

夢斗はメールを打つ。送信から数分経って返事が。

「知ってる!?バトルした!?」

今度は夢斗がびっくり。

「小日向さんは知ってるだろ」

浩一が一言。

「だって『悪魔』と『ブラックバード』と戦って首都高最速になってるんだし」

「そーなの!?」

初めて知る事実に驚愕する夢斗。

「つか、『ブラックバード』ってどっかで聞いたような……。あ!思い出した!」

夢斗のエボⅩのマフラーを作りに大阪に行った時にシゲから少し話を聞いたのである。

「見たことないけどサ」

 

ある程度動けるまでに修理されたエボⅨ。ただ、バトルには耐えれない為飛ばすなと夢斗に言われた咲耶。

咲耶は待っていた間部員達に質問攻めされていた。

 

 

「パーツ届いたら連絡するからそん時にもう一回こっちに来てくれ」

「わかった。ありがとう」

「エボⅩ以外をやれるなんて思ってなかったからイイぜ」

本調子ではない物の、動けるようになったエボⅨで大学を後にした咲耶。

 

 

 

その日の夕方。

L'Anticaのメンバー達は感謝祭の事を決め終わり、ダンスレッスンに励んでいた。

「恋鐘、この動きがちょっと気になった」

「そうたい?」

「ああ。少し遅れてると言うか……」

「咲耶ー、恋鐘は私達に合ってたよ?」

摩美々だ。

「咲耶がズレてるように見えたケド」

「三峰も思った。さくやん何かあった?」

結華達に指摘されて咲耶は俯く。

「どうしたの咲耶」

「……悪い、少し休ませてくれないか」

咲耶はレッスンルームを飛び出す。

「咲耶!?」

慌てて咲耶を追いかけるメンバー達。

「プロデューサーさん、咲耶さんが……!」

霧子は遥に連絡。

 

 

 

 

 

街中に消えた咲耶を探すメンバー達。

「何があったんだろう……?」

「咲耶があれ程までに取り乱すの初めて見たー」

「咲耶ー!悩みがあったら聞くばい〜!」

「こがたん声抑えて!」

ゴオオッッ

後ろから青いインプレッサが来た。遥だ。

「咲耶さんはこっちに行ったんですか!?」

「そうばい〜!プロデューサー、咲耶を助けてほしいばい!」

「ですね。まず見つけないと……!!」

 

 

 

 

人混みの中を歩く咲耶。

勢いに任せて飛び出してきたが、どうしようとしたのだろう。

飛び出して何をしたかったのか。

「あり?咲耶じゃん。どした?」

振り向くと夢斗が立っていた。

「……夢斗」

「なに暗い顔してんだよ、普段通りじゃない咲耶見んの俺初めてだぜ?」

「……そうだね」

 

 

咲耶は夢斗に悩みを打ち明ける。

Zに再び負けた事で心に大きなモヤがあるという事。Zの存在が大きく、自分を支配しているという事。

「咲耶はさー、上手いじゃん。その『悪魔』を目指すのはいいと思う。俺は見たことねえけど」

「でもさ、自分の走り方を忘れたらダメじゃね?」

「……」

「結局は『ソレ』に近づけても自分は自分だろ。完全にコピーしたらロボットじゃん、そんなの。俺はこえーよ」

「自分の走り方がまずあるだろ。それをないがしろにしたらダメだと思うぜ、俺は」

「なるほど……。夢斗の走り方ってどうやって身につけた?」

「ま、練習かな」

「夢斗らしいな……」

悩みが少しずつ晴れていくのを感じる咲耶。夢斗なら『悪魔』に普通に勝ってもおかしくない、そんな気すらしてきた。

「あ、いたばい!」

「ゆうくんもいるし」

「咲耶さん!」

L'Anticaのメンバー達と遥がこっちに来る。

「行ってこい」

「だね……。ありがとう、夢斗」

 

 

咲耶が合流した後、軽く遥と話す夢斗。

「咲耶はちょっと悩み抱えてんだ。ま、因縁みたいなモン」

「因縁……」

「『悪魔』って知ってるか?俺はあんまわかんね」

「知ってます。アイドルが乗ってるらしくって」

「へ?」

歩いてたら遥のインプレッサの前に着いた。

「インプ乗ってんだな」

「まあ……それなりに走れますけど。あなたは首都高を走ってますね」

「よくわかったな」

「咲耶さんも走ってるので。同じ感じがするんです」

「あんたも走ってんのな」

「はい。咲耶さんには届かないけど……」

「俺も咲耶のエボⅨにエボⅩで最初追いつけなかったし」

「エボⅩ……。多分どこかで見ましたよ」

2人は静かに戦闘態勢に入っていた。

 

 

世界ラリー選手権、通称「WRC」に参戦していた三菱とスバル。

日本のWRCカーと言えば三菱のランサーエボリューション、スバルのインプレッサと名が上がる。

インプレッサは世界的に見ても搭載してる車が少ない水平対向4気筒ターボエンジン「EJ20」を搭載し搭載位置からもたらされる低重心による運動性能が武器。

ランサーエボリューションは電子制御、大出力に耐えうる事ができる直列4気筒ターボエンジン「4G63」を搭載。メーカーが手を入れた技術が武器だ。

最も、夢斗のエボⅩは4G63ではなく、4G63に変わって新開発された直列4気筒ターボエンジン「4B11」を搭載しているが。そして6速DCTのツインクラッチSSTを新採用。これは日本車で初搭載された物だ。

なお、夢斗のエボⅩのミッションは従来のように5速MTである事を述べておく。

 

 

WRCという舞台で争った2台。WRCから三菱とスバルが撤退した後もそれぞれのファンからの人気は高い。

それ故に反りが合わない事が多いが……。

とは言え、それぞれの長所があるのもまた事実。

インプレッサは低重心から来る運動性を生かした走りで勝負する。

ランエボは電子制御を駆使した走りで勝負する。

「ドライバーの技術」と「車の技術」がそれぞれの武器だ。

 

 

「ストップ、2人とも!」

結華に止められる2人。

「Pたんもゆうくんも張り合わないの!」

「私は……少し星名さんと走ってみたくて」

「俺はインプに勝ちたくてね」

……スバリストとミツビリストは反発しあうのである。

 

 

283プロの業務終了後。

駐車場に銀色のエボはいた。隣には青いインプレッサが。

戻ってきた遥を待っていた夢斗。

「待ってたぜ……」

「待たせてすみません……。じゃあ、やりましょうか」

2人はそれぞれ愛機に乗り込む。

EJ特有の低く響くエンジン音と4Bの高めのエンジン音が駐車場を包む。

 

 

都心環状線(C1)内回り。

芝公園ランプを通り、銀色のエボⅩと青色のインプレッサが猛スピードで駆ける。

エボが先行している。千代田トンネルでオーバーテイクされたインプレッサが後ろに続く。

「速い……!同じ排気量なの!?」

遥は夢斗のエボに圧倒されていた。夢斗のエボⅩは排気量を変更しておらず、2Lのままだ。遥のインプレッサも排気量は2Lから変わってない。

それでもエボのスピードがインプレッサと違う。

コーナリングスピードはもはや根本的に違う。先程通った千代田トンネルで抜かれた時も遥のインプレッサより20km近く速いスピードでエボは曲がり、インプレッサを抜いた。

「くっ……」

狭いC1を舞うように走るエボⅩ。交通量が多いのが関係ないように銀色のエボは駆ける。

 

 

「ん……?」

夢斗は前に見える蒼い車を見る。妖しいオーラに包まれるその車。

「やべぇ、小日向さん並にヤバい!」

初めて蓮のFDを見た時と同じ感覚がした。

 

 

「あの車……!『悪魔』!!」

遥は夢斗のエボの前を走る蒼いZを見て言う。

「勝てるとは思ってないけどっ」

遥はインプレッサを加速させる。

 

 

「まさか……コイツ?」

夢斗は蒼い車を見て呟く。この旧車が咲耶を負かしたと言うのか。

「ヤベー雰囲気ありありだし……。ありえるな」

すると後ろからインプレッサが飛び出して行く。前の蒼い車をぶち抜いた。

「おっ、攻めるね〜」

夢斗は呑気に言う。が、次に起きた光景を見て夢斗の考えが変わる。

流していた蒼い車が加速し始める。その加速は加速力(トラクション)の塊であるエボⅩを超える物だった。

「……やべー」

夢斗の目が戦闘モードに入る。

本気じゃなければ負ける、そう判断した。

 

 

 

「小日向蓮達と同じ……」

Zを操る貴音は後ろの銀色のエボ()を見て言う。

あの銀色の車を操るのは何者なのか。

 

 

「待ちやがれー!」

エボⅩはアクセル全開でC1を攻める。

「見せてもらいましょうか……」

貴音がZを加速させ、夢斗のエボを離そうとする。しかしエボがコーナーでグイグイと差を詰めてくる。

「……!?初めて見る走り方!」

貴音は夢斗の走り方に驚いていた。

今まででこのZ以上のスピードでコーナーを曲がってみせたのは蓮と美世だけだった。

夢斗のエボはZよりも格段に速いスピードでギャップの激しいC1の路面を走っているのだ。

「面白いっ!!」

貴音が本気になった。久しく感じる「高揚感」。

 

 

 

「まだまだぁ!!」

遥がZから逃げる。しかしそれを嘲笑うかのようにZが前に出た。直後、銀色のエボが続く。

「『悪魔』と渡り合えてる!?」

夢斗のエボのテールランプが離れていく。

 

 

2台がもつれ合うようにして湾岸線へ。

「くっそー、最高速勝負苦手なんだよ」

そもそもが2Lクラスのエボ。L28改3.1Lツインターボ仕様のZとは分が悪い。

馬力(パワー)も違う。エボが500馬力に対しZは「最大」で800馬力出るらしい。抑えていても600馬力は余裕であるZ。Zがエボを離そうとしていた。

「ま、無理だわ」

夢斗はアクセルを抜いた。その瞬間エボは空気に押されて失速していく。

「くっそー、また会ったら今度は勝つ」

再び戦う事をもう考える夢斗。

 

 

 

「あの車……。素晴らしいですね」

貴音は銀色の車とそのドライバーに強い興味を持つ。

 

 

「あの……」

遥は完全に蚊帳の外だった……。

 

 

 

咲耶は悪魔のZと再び出会う。

結果はまたも完敗。再び敗北した事で自信を失いそうになるが夢斗の助言で再び立ち直る。

そして夢斗もZと遭遇。負けはしたが、貴音を圧倒する実力を見せた。

そして貴音も夢斗に興味を持つ……。




悪魔のZに敗れた咲耶は夢斗の助言で復活。
その夢斗自身も悪魔のZを見る……。結果は負けたが貴音は夢斗を蓮達と同じ「戦うべき相手」として見る……。


ネタ解説です。
・貴音とZ
これは前作「疾走のR」からの設定。
・ランエボとインプレッサ
これは昔からのライバル。詳しくすると長いので気になる方は調べてみてください。


スバルのファンが「スバリスト」と言われるなら三菱ファンだってあるんじゃ?と思い調べましたが、そういうのはないらしい……。
そのため三菱ファンの事をここでは「ミツビリスト」と呼んでます(センスねえな)
詳しい方教えてください!というよりコレよりいい呼び方あるって方教えてください!!


次回、夢斗の悲しい過去が明らかになる……。
夢斗の過去に何があったのか。


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STAGE18 悲しみの故郷

夢斗の抱える悲しみ。
彼を変えるのは「仲間」。


STAGE0、1の内容が少し絡みます。
見ておくといいかも。


夢斗が悪魔のZとバトルしてから数日後。

注文してた咲耶のエボⅨのパーツが届いていた。そのため咲耶を呼び、エボⅨの修理を行っていた。

「これで直っただろ」

「ありがとう、夢斗」

「つーか咲耶の言う『悪魔』ってヤツに会ったかも」

「本当かい?」

「蒼い車だった。バケモンみたいな加速してた」

「……その通りだな」

 

 

 

翌日。

今日は部活動の日。……のはずだが。

「夢斗がまた来てねえ」

浩一は言う。夢斗が勝手に休むのはいつもの事。のはずだが。

「ああ、夢斗なら実家に戻るって言ってた」

友也が言う。

「実家?あいつの実家って確か……」

「栃木だ」

「なぜこのタイミングに……」

 

 

 

場所は変わって栃木県宇都宮市内某所。

夢斗は共同墓地にいた。星名家の墓の前で手を合わせる夢斗。

「……」

やがて夢斗は墓地を後にした。

 

 

お盆はまだ先だ。

しかし夢斗はここに来る理由があった。お盆のシーズンになると友也達の引退を前にするため忙しくなって来れなくなるからだ。その前にここに来ておきたかった。

 

 

「ただいまー」

「おかえり夢斗!」

夢斗を迎えたのは夢斗の母親だった。

夢斗は父が離婚した後、母親が女手1つで育てていたのだ。

 

 

「学校はどう?」

「楽しいよ。ま、部活はサボる事多いけど」

「もーアンタは本当に気分次第で物事を決めるんだから……」

「コレは一生直んないな」

親子にとって久しぶりの会話。

「ばあちゃん元気か?」

「ばあちゃんは元気よ。夢斗が帰ってきたらお小遣い渡して欲しいって言ってたわ」

そう言って1万円札を取り出す母。

「サンキューばあちゃん!」

「直接会ってお礼言えたらいいけど……。ばあちゃん家は遠いからね……。あたしが後で言っておくわ」

祖父母とは別居しているのである。

 

 

 

「ちょっと出てくる。今日の夜にはここ出ないといけないし」

「そう……。ちゃんと皆に会ってきなさいよ」

「わかってるって」

夢斗はエボⅩで家を出て地元の友人の元へ向かう。

 

「おっ、星名!!」

「よお、変わんねえじゃん」

「……そう言う星名も」

友人からの視線は歓迎の気持ちなんてない。

 

 

夢斗は幼い頃から周りに距離を置かれていた。

天才故に周りの気持ちがわからず、そして周りは夢斗の考え方を理解できなかった。

自分をわかってくれたのは家族だけだった。

 

 

一通り友人と会った夢斗。

会った友人全員夢斗を見る目は同じだった。

「差別」をする目だった。

 

 

 

その日の夜。

家を出て東京に戻る前に自分の部屋の整理をしていた。

ベッドの隣に置いてある棚の最上段にある写真立て。

写真立ての中の写真には幼い頃の夢斗ともう1人の家族が。

「悪い、また行かないといけないんだ」

その人物に申し訳なさそうに言う夢斗。その人物はもうこの世にはいない。

 

 

 

 

母に別れを告げ夢斗が寄ったのはいろは坂。

半年前に自身が最速になった所だ。

「なあ、バトルしないか」

夢斗に声をかける男。

「ああ……いつかのMR2……」

半年前に夢斗に敗れ、いろは坂最速の名を奪われた男だ。

彼はMR2を降りてNSX(NA1)に乗り換えていた。

「いいけど……」

 

 

夢斗の銀色のエボがいろは坂を降りていく。

後ろからは赤いNSXが迫る。

「上手くなったな……」

半年前に夢斗曰く「つまらない走り」をしていた男は格段に走りのレベルが上がっていた。

2台の実力は拮抗しているように見えた。

だが、実際は一方的。

 

 

「本当にコイツの上手さって何なんだ!!」

ヘアピンコーナー1つ抜けると目でわからないような僅かな差が生まれている。それがもう何回も繰り返されている。

本当に少しずつだが離れていっているーーー。

 

 

ブローオフバルブが抜ける音がいろは坂に響き渡る。

結果は夢斗が勝利。またしても負けたMR2の男。

「お前は……何なんだ!?」

「さぁ……。俺が知りたい」

「ふざけんなぁ!」

「悪いけど後はもう喋るな……」

「……!?」

MR2の男は夢斗の目が地獄を見たような目になっている事に気がついた。

心無しか夢斗が感情的になっているようにも見えた。

 

 

MR2の男が立ち去った後。

どうしようもない気持ちのやり場。

「ああああああああああああああぁぁぁっ!!」

何故自分を理解しようとしない。何故弾く。

夢斗の悲しみが闇の中に消えていく。それが良いものになって返ってくる事はない。

「なんでだあああああああっ!!」

夢斗の叫びがいろは坂に吸い込まれていく。

 

 

味方がいない。

そんな中でずっと生きていた夢斗。彼の悲しみは深い……。

 

 

翌日。

夢斗が住むマンションに向かう少女が1人。

彼女は夢斗の部屋の前に来た。インターホンを鳴らして少し待つと寝癖だらけの青年(夢斗)が。

「あ……れ?夕美じゃん」

「おはよう、夢斗君」

相葉夕美だ。何故こんな早朝から来たのか。

そんな夢斗の考えを先回りするように言う。

「津上君が連れてきてくれって。夢斗君は私の言う事なら聞くからってね」

「あー……」

「とりあえず支度して、大学行こう?」

「夕美ってさ、世話焼きって言われてない?」

「言われるかもっ!」

 

 

支度を済ませて2人で朝ごはんを食べた後大学へ。

「夏休みまであとちょっとだな……」

「だねー。夢斗君は何か予定あるの?」

「俺達はトモさん達の引退に合わせてなんかやるんだと」

「そうなんだ。私はロケとかが毎日あって大変だよ……」

「忙しそうだなホント。小日向さんも忙しいだろうし」

「プロデューサーは私達アイドルに合わせていろいろな所に行くから私達よりも大変だよ?」

「加えてレースか……。よく体壊さないな」

「体壊すギリギリには何回もなってるって言ってた」

「あの人ならなりかねないな……」

 

 

やがて大学へ着いた。

2人揃って歩いてるため周囲からの視線が……。

「夕美さーん、離れてくれー」

「ダメ、夢斗君逃げるでしょ?」

「否定はしないけどさ」

結局教室まで離れなかった夕美。浩一には驚かれたが。

「何で相葉ちゃんと歩いてんだコラァ」と言われたが夢斗の気にすることではなかった。

 

 

放課後。

夢斗達は来月に控えた友也達の引退に合わせてやる事を考えていた。

そのために友也達がいない時を見計らっての会議。

「ケーキとか買って食うとかどうよ?」

「えー、友也さんそんなイメージないぜ。むしろソレ聖真さんのイメージだ」

「あー、わかる」

「みんなでメシ食うのは決まりって感じだけどナ」

「えー?走ろうぜ皆で」

夢斗だ。

「チームって言う割にそういう事してねーもん」

「あ……」

他の部員達も気づいたようだ。

「昔の暴走族みたいに軍団で走るとかどうよ?」

「いいなソレ」

「それならいいかもな」

「聖真さんが喜びそう」

聖真は街道レーサーといったルックの車が好き。暴走族のようなファッションも好みとの事。

「いつやるよ?じゃあ」

「極力交通量少ないタイミングに出来たらなー」

部員達が盛り上がる。話し合いは進んだ。

結果、8月の中旬に決行する事が決定した。

 

 

 

「夢斗ー。昨日実家行ったんだろ」

浩一が声をかけた。

「ああ、母さん元気そうだった」

「……お前、別の用事だろ。帰った理由」

「……そうだな」

夢斗の目は正気を保っていない。

「何があったかは俺は聞かない。でもな、お前はもっと他人を頼れ。何もかも1人で抱えるな」

「お前は気づいてないだろうけどな、お前は皆を動かす原動力だ。お前が迷ったら皆も止まる」

「だから迷うな。いつもズバって決めるお前でいろ」

「……だな」

浩一の言葉を聞いた夢斗。

先程までの正気を失っていた瞳には光が戻っていた。

 

 

 

その日の夜。

夢斗はエボⅩで湾岸線を走っていた。

セダン車のエボⅩは湾岸線を筆頭に超高速ステージが不向きな車だ。

それでもオーバー300kmに持っていく。当然技術を要する。

首都高でのスピードを考慮し、空力面を強化したエボ。

しかしそれは新環状線や八重洲では非常に強力な武器になるが、湾岸では足枷になる。

それを自身の技術で補うために走り込んでいるのだ。

「レーンチェンジっ!」

250kmを超えたあたりから追従性が落ちる。いつ吹っ飛ぶかわからなくなるギリギリのライン。

猛スピードで左右に舞うエボⅩ。一般車を避けていくと……。

「GT-R?」

ベイサイドブルーのGT-R(BNR34)

そのGT-Rからは蒼いオーラが出ていた。

「……何でこんなヤバい車と会うのよ?小日向さんとかこの間の蒼い車とかさ」

 

 

「エボⅩ……?腕はイイみたいだが」

後ろの銀色のエボⅩは抜くかどうか迷ってるようだ。

「ヤる気はないか……」

男は後ろのエボⅩをもういちど見た後、速度を上げて離れた。

 

 

 

 

夢斗は故郷栃木に戻った。

しかし友人達の視線は昔から続く「差別」の込められた視線だった。

理解されない悲しみ。

 

 

 

東京で浩一や夕美といった人に関わり、夢斗は理解されている……。

 

 

 

 

そして……。夢斗にはもう1つの大きな悲しみがあった。それは友人達の視線の中でも唯一夢斗が理解してもらえる存在だった。

 




「理解されない」という悲しみ。
誰からもわかってもらえなかった夢斗。東京での友人達は夢斗を理解する。
そして夢斗にあるもうひとつの悲しみ。
それは友人達に理解されない中での夢斗の唯一の味方と言える存在だった。それを失った夢斗は考え方すら変わってしまう程の大きな心の傷跡が残ってしまった……。



今回真面目な話なのでネタはありません。


最近暑い日が続きますが皆さんは大丈夫ですか?
私はまいりそうです。


次回、夢斗のエボⅩパワーアップ!!


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STAGE19 伝説のマシン

明かされる美穂のFCの「ポテンシャル」。
時を超えて再び動き出す「伝説(迅帝)」。


一方、夢斗のエボは「封印」が解かれようとしていた。
夢斗の秘策とは!?


ここは内藤自動車工場。

整備のために預けられていた車は美穂のFCだ。

「……よくこれだけの車になったモンだ」

内藤が呟く。

「ですね。普通のチューニングカーとはレベルが違うし」

美世もFCを見た感想を言う。内藤が真剣な表情で言う。

「このFCは……『迅帝』のRと同等かそれ以上の性能(スペック)を持っている」

「え!?」

内藤の口から出た言葉に衝撃を受ける美世。

「このFCは普通の人には乗りこなせない。それくらいお前もわかるだろ」

「そうですけど」

「とんでもない車を考えたもんだ、お前のプロデューサーは」

そう語った内藤の目はFCを「脅威」として見ているようだった。

今までにない様子の内藤を見て美世も黙るしかなかった。

 

 

昼。

雨が降ってきた。授業中窓の向こうを見ている夢斗。

(はよ終わんねーかな)

……暇そうだ。何しろ今授業でやっている事は復習。夢斗の得意な分野だったのもあり、一番最初に終わらした。ただ、全員が終わらないと次に進まないため夢斗は退屈なのだ。

「夢斗君、これどうやるの?」

夕美が聞いてくる。

「ソレ簡単。この式を持ってきて……」

「あ、そっか……」

教えるのは本当はそれほど得意ではなかった夢斗。しかし夕美や浩一、そして部の仲間達に教える事が多くなったのもあって他人に教える事が上手くなった。

 

 

授業後。

まだ雨は止まない。夢斗はエボⅩの元へ向かう。

雨に打たれる愛車を見る夢斗。

エボが雨に打たれた回数はまだ片手で数える事ができる。

「……あの日も雨だったな」

ある日を境に夢斗は雨を嫌うようになった。再び思い出すのが嫌だから。それは夢斗の深い心の傷。

 

 

放課後。

エボのセッティングをしていた夢斗。夢斗はパーツをエボに取り付けていた。

美穂のFCや蓮のFDに対抗するための秘策である。

そしてエボⅩにある「封印」を解いているのだった。パチパチとキーボードを叩く音だけが聞こえる。

 

 

一通り終わした後エボのエンジンをかけてチェックする。

ゴォッァアアアアアアア

レスポンスが改善され、パワーも向上している。

「……これでやれるかなー」

いつも通りの調子で呟く夢斗。しかし目には自信が満ち溢れていた。

 

 

 

次の日。

部活が友也達の都合でなくなったために早く帰り、日課をやってた所だった夢斗。

前とは違い、光も一緒だ。

2人はUSBメモリっぽい「ガイアメモリ」を持ってた。

「サイクロン!」

「ジョーカー!」

2人はそれぞれメモリをベルト「ダブルドライバー」に差し込む。

サイクロンメモリを差し込んだ光が倒れる。倒れ込む直前に光はサイクロンメモリを夢斗に投げて渡す。

光からサイクロンメモリを受け取った夢斗はサイクロンメモリを差し込む。

続いて夢斗自身が持ってたジョーカーメモリを差し込みドライバーを動かす。

ドライバーが「W」型になり、音声が流れ出す。

「サイクロン!!ジョーカー!!」

決めポーズをキメて光と夢斗は言う。

「「さあ、お前の罪を数えろ!」」

 

 

「お、仮面ライダーか……」

見知らぬ男が見ていた。

「うそーん」

夢斗は固まる。蓮もいたのだ。

「あはは……こんにちは、夢斗君」

蓮といた男が夢斗達に近づく。

「仮面ライダーは俺もスキなんだ。だから、練習したけど見せることがなかったヤツを見せるチャンスだな」

そう言うと左腕を突き出し大きく回す。そして右腕を左側に伸ばす。

「変身っ!!」

「「スカイライダー!?」」

男は「スカイライダー」の変身ポーズをやったのだ。

 

「言い忘れたけど俺は赤羽根って言うんだ」

「赤羽根……変わった苗字っすね」

「まー言われるよ。そうだ、南条光ちゃん」

「あたしを知ってるのか!?」

「ああ。プロデューサーと探しに来たんだ」

「ごめんね、光ちゃん。そろそろ時間……」

「あっ」

 

 

別れ際に夢斗は蓮に言う。

「今度は自信ありますよ」

「楽しみだね」

夢斗は自信まんまんに言う。それほどまでに手を入れたエボがイイ感じになったようだ。

 

 

 

同じ頃に咲耶は今度のライブの練習中。

この間は思わず飛び出してきてしまったが今度は大丈夫だ。

「この動きがこうなれば」

「おお……咲耶かっこいいばい!」

「私も……頑張らなきゃ」

気合いの入った咲耶にL'Anticaメンバー達も練習に熱が入る。

 

 

346プロダクションの女子寮前。整備から帰ってきたFCを眺める美穂。

「本当に上手く走れないとななさんは窮屈だろうな……」

自身の技術ではFC(ななさん)を思い切り走らせてあげられない事に苦悩する美穂。

「頑張らなきゃ」

 

 

 

ここは内藤自動車工場。

内藤は旧知の仲間から送られてきた写真に驚きを隠せなかった。

「また……走り出したというのか。誰か狙ってんだろ」

その写真には首都高を走る蒼いGT-R(R34)が。

「壱・撃・離・脱」とサイドに大きくあるベイサイドブルーのボディ。

内藤が昔追いかけ続け、結局は一度も前を走った事がない蒼いR34スカイラインGT-R。

 

「迅帝よぉ……お前は何で一旦逃げた」

この場にいない「迅帝」に問う。

 

 

 

 

 

PM11:20。

横羽線を疾走する銀色のエボⅩ。以前よりエンジン音が大きくなっている。

路面が荒れている横羽線をものともせずに駆け抜ける。

「さぁ、やろうぜ」

夢斗の視界に現れたもう1台のランサーエボリューション。

「負けないよ、夢斗」

エボⅨを操る咲耶がバックミラーに映るエボⅩを見る。

戦闘態勢に入る2人の表情は真剣そのものだ。

 

 

横羽線から湾岸線東行き方面へ。

2台共にベストコンディション。ブーストのタレなし、水温油温共に適正レベル。

最高の状態で走る2台。

「来たっ!」

湾岸線合流直後に現れた黄色いFD3S。蓮だ。

 

 

「全開はこちらにとってキツい……」

咲耶のエボⅨは夢斗達のマシンに比べるとパワーがない。

フルブーストで460馬力のエボⅨ。しかし夢斗のエボⅩは500馬力程、蓮のFDはそもそも600馬力あり、これにNOSも加えて640馬力に達する。夢斗ならまだしも蓮には歯が立たない。

パワーが最も重視される湾岸線というエリアでは勝ち目が薄い。

しかしパワーだけなら夢斗も咲耶のエボⅨと同じハンデを背負っている。

馬力(パワー)差は50馬力くらい、しかも同じセダンベースの車。超高速域での安定性は低い。

ただしそれは純正(ノーマル)での話だが。

夢斗のエボⅩは自作パーツを多数装備し超高速域でのどっしりした安定感を得ている。

その自作パーツが生み出す超高ダウンフォースはあの悪魔のZをも上回るスピードでC1のコーナーを曲がれるのだから。

 

 

「絶対離れるもんかっ!」

咲耶は夢斗のエボⅩの後ろに潜り込む。スリップストリームだ。

夢斗のエボⅩは非常に高いダウンフォースを発揮する代償に非常に空気抵抗が大きい。

そのため夢斗のエボⅩは空気抵抗を軽減するのにもってこい。スリップストリームの効果は絶大なのだ。

事実咲耶のエボⅨは少しずつだがエボⅩとの差を詰める。

 

 

3台は絡み合いながら湾岸線を走る。

そして……。

 

 

シュウウウアアアアッ

「役者は揃ったな!!」

夢斗がバックミラーに見えた白いマシンを見る。

 

 

「やってみる!ななさん!!」

美穂のFC3Sが甲高いロータリーサウンドを轟かせてやってきた。

高いモチベーションでFCを操縦する美穂。それは自分がFCに相応しいかを試すようだった。

 

 

 

 

蓮のFD、美穂のFC、咲耶のエボⅨ、そして夢斗のエボⅩ……。

4台は夜のごく短い時間の空白の中でのバトルに臨む。




「迅帝」に匹敵する恐るべき性能を秘めた美穂のFC。
「封印」を破った夢斗のエボⅩは美穂や蓮に敵うのか?
再び走り出した伝説の蒼いR34は何を求めて走るか?




ネタ解説です。
・スカイライダーと赤羽根P
「スカイライダー」の変身ポーズを披露した赤羽根P。
これは赤羽根健治さんが「劇場版仮面ライダーディケイド完結編」でスカイライダーの声を担当した事から。ちなみに映画内では他にも「仮面ライダーファイズ」の声も担当しました。




今回かなり短いです。次回は長くなる(たぶん)
次回で第一部完結!!



やれる事はやった夢斗。
苦悩しつつも、自分の「やれる事」を探す美穂。
目指すべき相手を超えるために走る咲耶。
夢斗の成長を喜ぶ蓮。

そして……。再び蓮、夢斗、美穂、咲耶の4人が激突する!
4人の争いは伝説になる!!


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STAGE20 革命の夜空

いよいよ第一部完結!!バトルの勝者は誰だ!?
それぞれのプライドにかけて争う!!


「よく来たな……」

美穂を褒める夢斗。

美穂は決意を固めて湾岸(ここ)に来た。覚悟がなければ300kmオーバーの世界では生き残れないし踏んでいけない。

「行くぜっ」

夢斗のエボが前を走る蓮のFDに襲いかかる。凄まじいトラクションでFDの前に出る。

「やはり……エボの加速はすごい」

前に出てきた銀色のエボⅩのテールランプ。

「行けるっ!!」

続いて咲耶のエボⅨが飛び出す。エボ2台がFDの前に並ぶ。

 

 

4台は湾岸線を出てぐるっと回って新環状左回りへ。

ここで夢斗のエボⅩは蓮を引き離す。

コーナリングマシンFDよりも速い速度で銀座区間を走るエボⅩ。咲耶はそれを追う。

「抜けるーーーーっ」

「!?」

咲耶のエボⅨの内側に突然白いFCが現れた。

 

 

「くっ……」

圧倒的なスピードで黒いエボⅨに迫るFCを見る蓮。

銀座区間に入った後にペースを上げた美穂のFCに離されたのだ。

「さすが夢斗君……!!」

夢斗が作り美穂のFCに付けられたアンダーフロアとリアディヒューザーの効果は絶大。

FCのコーナリングスピードは夢斗のエボⅩに匹敵していた。

コーナリング技術が武器の蓮もこれには負けてしまう。

 

 

FCがエボⅨの内側に潜り込む。

インに詰めれないため咲耶はスピードを落とせざるを得ない。

「何て速度だ!」

エボⅨをオーバーテイクしたFCが前のエボⅩに近づく。

 

 

「俺が作ったとはいえ……こりゃやべー」

230kmで銀座エリアを抜けたエボとほぼ同じくらいのスピードで通過してきたFC。

自身が作ったパーツの効果を身をもって体験するはめになった。

 

 

一般車が前に見えた。避けるために咲耶と夢斗は右の車線へ移る。

咲耶は軽くブレーキを踏み、右へ。その前にいた夢斗のエボもちょんブレで減速と同時にアクセルオフ。その瞬間だった。

ボッボボボボ、パアッ

銃声のような爆音が響く。

 

 

「アンチラグシステムか……!」

蓮は爆音について思い当たるモノを言う。

 


 

アンチラグシステムを知らない方のために説明しよう。

そもそもターボチャージャーは、エンジンから排出される排気のエネルギーにより排気タービンを回転させ、タービンと接続されているコンプレッサーを駆動することで、空気をエンジンへ送る。それが一般的に「過給」と呼ばれるのである。そのため、減速のためにアクセルペダルを戻すと排気エネルギーが減少し、タービン回転数が徐々に下がる。その後再加速のためにアクセルペダルを踏み込んだ際、タービン回転数が再び上昇しコンプレッサーが機能するまで遅延時間(ターボラグ)が生じ、この間は十分な過給が行なえずに期待した機関出力を得られない。

 

その対策として、タービン直前のエキゾーストマニホールド内で未燃焼ガスを燃焼させて排気ガスのエネルギー不足を補いタービン回転の低下を防ぐのが目的の「アンチラグシステム」である。

 

 

使用例としては、中低速での加速力や運動性を重要視するWRC等のラリーやダートラ、ジムカーナ。静止状態から加速するドラッグレース。

車重が重いル・マンに参戦する車両やスーパーGTなどのGT車両……といったように競技車両に搭載されるのがほとんど。

 

 

ただし、その性質上ガソリンの消費が激しい。減速時にフューエルカットしないため燃費の悪化が著しく、スーパーGTでは予選だけ使用し決勝では作動させない例もある。

また、火を噴くのがアンチラグシステムと勘違いする人が多いが、それは誤り。

ソレが起きてるときは車にダメージが発生しているのだ。火が発生しタービンやエンジン、配管が損傷している証拠だ。

アンチラグシステムが正常に作動しているのをどうやって判断するかと言うと「太鼓を叩いてるような音がして、火を噴かない」。

もし、音が銃声音だったら燃焼が不十分な状態でシステムが作動している事になる。

 

 

これがアンチラグシステムの説明だ。

ちなみに「アンチラグシステム」はトヨタでの呼び方である。(他にALS、フレッシュエアシステムとも言う)

ちょっとラリーに詳しい人は「ミスファイアリングシステム」とこれを呼ぶが、この名称はスバルでの呼び方。

某漫画で登場するエボⅢが搭載してるとしてコレをミスファイアリングシステムと呼んでいたがこれは間違い。

実際は三菱はこのシステムを「二次エア供給システム(PCCS)」と呼称する。

だが、その漫画での「ミスファイアリングシステム」があまりにも広く伝わったために間違って覚える人も多い。

 

 

ちなみに「ミスファイアリングシステム」は日本でしか通用しない呼び方らしい。世界でこのシステムがわかる名称は「アンチラグシステム」だそうだ。

 

 


 

 

「失速しない……!!」

蓮は爆音を響かせて駆けるエボⅩを見る。エボⅩはコーナーから立ち上がるスピードが以前と違った。

 

 

 

何故夢斗は今になって二次エア供給システムを作動させたのか。

それは首都高のコーナーだ。

 

 

ただでさえコーナーを抜ける速度が速い夢斗のエボⅩ。

しかしアクセルオフしないと曲がりきれないコーナーも当然ある。いくら空力面に優れても立ち上がり自体は普通なのだ。

それを解消するために今回二次エア供給システムの作動に踏み切った。

何故早くからやらなかったかと言うと……。

「ガソリン食うじゃん」

「配管類のトラブルやだ」

……何とも夢斗らしい理由。

爆音のワケは今まで使ったことがない二次エア供給システムの調整が不十分なために不完全燃焼が起きているのだ。

しかしシステム自体はちゃんと作動している。

「加速が途切れねえ……。いいなこれ」

それほどまでに立ち上がりのスピードの違いが顕著なのだ。

 

 

美穂のFCはあと少しの所でエボⅩを抜けない。

「何で……?」

もうちょっとなのに前に出られない。それが何故かわからない。

変わらない状況に息苦しさを感じていた。

「うう……」

夢斗のエボⅩがFC、エボⅨ、FDをリードして環状線を走り抜けていく。

 

 

「どこで仕掛ける……?」

咲耶は美穂のFCのテールランプを睨む。環状でのコーナリング勝負はまず勝ち目がないに等しい。

夢斗のエボと変わらないスピードで曲がるという狂った性能してるFC。

だったら直線区間(ストレート)。でも車のパワーはこの4台の中では自分のエボⅨが一番低い。

「粘るしかないか」

咲耶はFCの背後に潜り込む。オーバーテイクのチャンスを狙うために機会を待つ。

 

 

4台はC1エリア外回りへ。

変わらず夢斗のエボⅩが先頭、これにFC、エボⅨ、FDが続く。

「あー……仕掛けるだろうな……」

先程から大きな動きを見せない蓮のFD。あまりにもアクションが全くない事が不気味に見える。

なにか仕掛けるために今ペースを上げずにいるのかと夢斗は推測する。

 

 

「何故来ない……」

後ろの黄色いFDは自分を抜こうとする気配はない。

咲耶のエボⅨに一定のペースで追従するFD。背後霊のようだ。

「やるならもう抜いているだろう……?」

バックミラーに入り込むヘッドライトの光。

 

 

芝公園ランプに来た4台。

咲耶がペースを上げてFCを抜こうと動く。

「……!!」

咲耶のエボⅨはスリップストリームを抜けて一気にFCに並ぶ。

「わ……っ」

真横に並んだエボⅨに驚く美穂。負けじとアクセルを踏む。

狭いC1を並走するFCとエボⅨ。

「ーーーーーーーっ!」

美穂は恐怖からアクセルを抜いた。

過給圧(ブースト)が落ちて失速するFCを横目に夢斗のエボⅩに迫る咲耶のエボⅨ。

 

突然エボⅩの右ウインカーが点滅した。

「八重洲線に!?」

蓮は夢斗の選んだルートに驚く。八重洲線ならある意味C1以上にテクニカルなエリア。しかしそれでは首都高のバトルと言いにくい。

咲耶は夢斗の考えがわからない。

「何を考えてる……?夢斗」

 

 

4台は八重洲線外回りに。

京橋JCT(ジャンクション)付近の急な坂を凄まじいトラクションで駆け上がったエボⅩが直角に近いコーナーをクリアしていく。立ち上がりで銃声音を轟かしてエボⅩは加速する。

咲耶のエボⅨがブレーキランプから光を伸ばしてコーナーの奥まで突っ込んでいく。

「曲がった!?」

美穂は咲耶のテクニックに驚く。

見ていた蓮も度肝を抜かれた程だ。

「なんて……ブレーキング」

ギリギリまでブレーキングを遅らせていた。

少しでもタイミングを誤れば曲がりきれずに壁に刺さる。

蓮ですら「曲がれない」と判断するレベルでのレイトブレーキだったのである。

「……まだ『ココ』じゃない」

蓮は一気にアタックする突破口を見つけようとしていた。

 

 

神田橋JCTから八重洲トンネルへ。

夢斗のエボⅩはペースダウン。

「水温だろうな」

蓮は先程までのハイペースを失ったエボⅩを見る。

 

 

「オーバーヒートは避けたいけどな」

水温計が指す温度を見てこう漏らす夢斗。水温計が表してる水温は95度。油温も少し高い。

「調整不足ってホントヤダ」

調整をしっかりやっていなかったのは自分だが。

二次エア供給システムの影響もあり、水温油温の上昇が早い。アクセルオフする回数が多い八重洲では尚更だ。

「でも踏まねえとナ」

「耐えろよ……。俺のエボっ!!」

 

 

夢斗のエボⅩは水温油温の上昇に苦しみながらもなんとか八重洲エリアで首位を死守。

横羽線を通過して湾岸線へ入った。

このバトルのゴールにしてエボの最大の泣き所である。

「前にーーーーーっ」

美穂のFCはフルスロットルで前に出ようとする。

「前に出られたら負けだっ」

夢斗が焦りを見せる。この4台の中で総合的な性能は美穂のFCが最も高い。FCが作られた目的である「湾岸線での最高速勝負」。

この湾岸線はFCの領域なのである。

FCが咲耶のエボⅨをパス。同時に蓮が飛び出してきた。

「このタイミングで!?」

咲耶のエボを抜いて夢斗のエボⅩに並ぶ。

 

ヒュアアアアアアアッ

咆哮のようなロータリーサウンドが4台の排気音(エキゾーストノート)をかき消す。

夢斗エボⅩ、美穂FC、蓮FDが並ぶ。咲耶のエボⅨが夢斗のエボⅩの後ろに。

4台は超高速で湾岸を駆ける。

「行けるっ……」

周りから見たら明らかに「狂ってる」と見られる行為。

それでも今だけはそんな事を気にしない。いや、気にしていれない。少しでも迷いがあれば終わりだ。

 

「やるしかないか……!」

夢斗はブーストコントローラーを操作。モニターには「1.6」と表示された。エボⅩが耐えられる最大ブーストだ。

続いて夢斗はステアリングに取り付けられたボタンを押す。新たに装備したエボの秘密兵器であるNOSの噴射スイッチだ。

エボⅩは急加速し始めた。

「エボⅩが加速していく……!!」

蓮はスピードが上がったエボⅩを見る。

「僕も……やるっ!!」

蓮もステアリングのボタンを押し、NOSを噴射して加速する。

「ななさん、お願い!!」

美穂は超高回転域までエンジンを回す。滑らかに加速していくFC。

咲耶も3台に負けないように耐える。

「持ちこたえてみせる!!」

 

 

4台はつばさ橋へ。

4台の前には2台のタンクローリーが見えた。空いているレーンは中央のみ。通過できるのは1台だけ。

「踏み込めえっ」

夢斗はエボⅩが発揮できるありったけのパワーで前に出ようとする。

「行けるーーーーーーっ!!」

蓮はFDを前に走らせる。

 

 

「ーーーーーだめっ!!」

美穂が突如ブレーキ。FCは後退する。

「!?」

蓮が美穂のFCに気を取られる。

気を取られた蓮の眼前にタンクローリーのタンクが広がる。美穂のFCに気を取られた一瞬の間にタンクローリーが迫っていた。

ぶつかると判断して蓮は回避行動を取り、蓮のFDは完全に失速した。

夢斗の左右に並ぶ車がいなくなった。

2台のタンクローリーの間を2台のエボが通過する。

 

 

「ここで決める!!」

咲耶のエボⅨが夢斗のエボⅩに並ぶ。

全開で2台のエボが湾岸を突っ走る。2台は大黒ふ頭ランプへ差し掛かる。

バババッとエボⅩの二次エア供給システムの作動音が壁に反響する。

「貰ったっ!!」

咲耶が前に出ようとした瞬間、前の車が突然レーンチェンジ。咲耶の前に出た。

「しまった!!」

咲耶のエボⅨは急ブレーキをかけたが、それがきっかけで大きく体制を崩した。

エボⅨは夢斗のエボⅩに接触しそうになった。しかし……。

「なんだ、今のは!?」

夢斗のエボⅩは瞬間移動していたかのように咲耶の前に出ていたのである。

咲耶が体制を崩した瞬間には前にもう「いた」。

咲耶は今何が起こったのか説明できない。要するに某漫画のポ○ナレフ状態になった。

「すごいな、夢斗……」

咲耶は遠ざかる銀色のエボⅩを見る。その銀色の槍騎兵は燃えるような青いオーラを纏っていた……。

呆気にとられた咲耶がふと空を眺めると……

「流星群?」

無数の流れ星が夜空を切り裂いていく。星の雨のようだ。

流星はまるで夢斗のエボⅩに向かって降るよう。

「星か……。流星のように確かに見えて、でも一瞬で見えなくなる……。そうだろう、夢斗」

 

 

 

 

流星はこのあともしばらく流れ続けた。

各地でこの流星群を見た者達もいる。

 

「おー、綺麗だなー」

原田美世だ。彼女は自分の家から見ていた。

流星群を見るなんて小学校以来の美世。

 

 

「流星群……」

瀬戸遥は仕事帰りに。とても綺麗な空をいつまでも眺めていたいと思った。

 

 

 

 

「この空は……何かを呼んでいる」

四条貴音は星が降る夜空を見ていた。自身の故郷で見たような光景。その時見た景色は貴音の心を強く動かした。今起こってる事もきっと何か大きな事が起こるのかもしれないのだと貴音は考える事にした。

 

 

 

「今願い事をしたなら、叶うのかな?叶うかどうか知らないけど……」

男は願う。とびきりの相手と戦いたいと。

 

 

この流星群はニュースにもなった。

予想されてなかった突然の流星群。様々なメディアで取り付けられた。

ごく僅かな時間だけ、はっきりと存在して消えた……。そんな流星群。

 

 

 

 

流星群(それ)は夢斗が呼んだのかはわからない。

呼んだとなったら夢斗は人間ではない。しかしあの流星群はあの場にいた者達が引き寄せたモノだということは明確。

 

 

 

 

昔、奇跡のような事を起こして「常識」を覆す「革命者」が歴史の中に存在した。

周りを変える「才能」があった。自分の「運命」ならず、周りの「運命」すら動かす事が出来た。

現代の中で「革命者」と呼ばれるような存在はほとんどなくなったかもしれない。

 

 

しかし……。

「首都高」という場所でなら「革命者」と呼べるかもしれない者がいる。

「伝説」を超えるかもしれないような、想像がつかない「力」を持った青年。

彼が乗る鋼鉄のマシン(騎兵)は「戦う」ために恐るべきパワーを持った。

周囲の空気を震わせるような本物のチューンド()。その姿は「首都高(戦場)」を支配するような存在感を持ち。

銃声のような「咆哮」を上げて走る。その咆哮はどんな時も「止まらない」という意思表明のように。

 

 

 

そして「彼」は最初は周りの誰からも理解されなかった。

ずば抜けた「才能」を持ちながらそれを恐れられ、周りから距離を置かれた。

故郷で数少ない「理解者」を失い、彼は東京(新天地)へ旅だった。

そこでやっと自分を理解してくれる「仲間」と出会った。

時に「仲間」であり、そして争う「相手」。

決まった関係がない中で彼は周りと交わって変わった。

 

 

彼らは目的こそ違えど、同じ首都高(場所)を走る。

ある者は憧れの人物を追いかけるために。

またある者は「伝説」を超えるために。

 

 

 

 

目的が違う者達をも惹きつける。

彼が関わって、あらゆるモノが変わる。

ある時は、「伝説」を再び「首都高(戦場)」へ舞い戻らせて。

またある時は、「伝説」を追った者を動かして、自らに協力してもらった。

直接の関わりがなくとも、彼が関わった出来事がきっかけで「伝説」に匹敵する「力」を持った車が生まれ、そしてそのドライバーも走る意思を持った。

このわずか数ヶ月の間にこれだけの事が起きている。

 

 

 

彼の及ぼした影響は大きい。

そしてこれからもそれが大きくなるだろう。

彼はいつもの軽い性格でいる。だがそれが周りの変化を起こすきっかけになる。

いつもはそんな素振りを見せない。しかし「本質」を見せたら必ず変わる。

 

 

 

 

彼の名は星名夢斗。

彼は周りを動かす大きな力を持つ。

彼が駆る愛機。それは「ランサー(槍騎兵)」という名を持つ。

そして……。もうひとつその名前に意味がある。

それは「エボリューション(革命)」。

革命を起こす槍騎兵を駆る青年。その騎兵は眩しいような銀色の姿。

不可能を覆す「革命」を巻き起こす青年と彼の手足となって戦う騎兵。

 

 

 

 

 

人々は「銀色の革命者」と呼んだ……。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「何だか楽しみだな」

男は言う。根拠があるわけでもないのにワクワクが止まらない。

「どうした?」

男に問う。

「いやーよくわかんないけど。何かワクワクする」

「変なヤツだな」

 

 

「俺の車を超えるかい?」

男はまだ見ぬ強敵に問う。顔も見た事がない相手に。

蒼いR34GT-Rは走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

「楽しそうなアイツを見るのは久しぶりだな……。アイツを止めるヤツは誰だろうな……」

男は嬉しそうな表情を浮かべる一方でその表情の奥に悲しみがどこか見えた。

「アイツは終わらせようとしている……。そこまでするか」

 

 

 

 

 

夢斗、蓮、美穂、咲耶の4人の激戦は夢斗の勝利で幕を閉じた。

若干不本意な形になるが蓮に勝った夢斗。

夢斗の通った後には流星群が降り注いだ。その流星群は4人が引き寄せたモノだろう。

そして夢斗が及ぼす影響は前も今も、そしてこれからも大きな物となる。

 

 

 

首都高を駆ける銀色のエボⅩ。

それを駆る青年は「銀色の革命者」と呼ばれた……。

新たな「伝説」が加速する。

そして「伝説」は再び首都高へ舞い戻る。

速いヤツが伝説(ドラマ)を作る。




深夜の夜空を流星群が埋め尽くす。
激戦を制したのは夢斗。その姿は「銀色の革命者」と呼ばれた……。



ネタ解説です。
・アンチラグシステム
夢斗が解いた「封印」はコレ。エボの場合は「二次エア供給システム」ですが。ラリーやスーパーGTで使われるのがほとんどです。ちなみに市販車では排出ガスの規制に引っかかるので普段は作動しません。ですが内蔵自体はされてるので作動させると機能します。
夢斗は首都高でのコーナーでの立ち上がりを考慮して作動させました。
余談ですがエボでも二次エア供給システムを搭載してない車両も存在します。エボⅦのグレードの一つ「GT-A」が装備してません。
・後半の語り
STAGE20までの出来事を簡潔に説明してます。どれがどれか調べるのもアリかも。



第一部完結!!
次回から第二部に突入です!!伝説を巡るバトルはさらに加速する!!
首都高バトルの人物達が物語に深く関わります。もちろんアイマス要素もたっぷりと!




次回、時代を超えて語り継がれる名機が首都高を駆ける!!
その勇姿は色褪せない!







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第二部 惹かれ合う者編
STAGE21 GT-R


日産の名車GT-R。
おじさん世代が憧れたレースで活躍するR。時代を超えて走り続ける「魂」。


第二部スタート!!
伝説を追う者の物語はこれからが本当のスタートライン!!


7月下旬。美世は横浜にいた。

最近GT-Rのメンテを任せる事が多くなった美世。

アイドルであり、プロレーサーである事もあって自分のGT-Rのメンテに時間が割けないためだ。

そのためセパンでのレース後に岩崎から教えて貰った「FUJIRacing」でRのメンテをしてもらっていた。

そこの経営者「藤巻直樹」とはここに初めて来た時に意気投合。

聞けば彼自身もGT-Rに乗っているそうで彼の所有している紫色のR32GT-Rは各地のサーキットでコースレコードを樹立しまくっているのだ。

美世もそのR32を一度目にした事がある。

筑波サーキットで雑誌の企画でイベントがあった時にスーパーラップに参加していたのを目撃している。その時にR32をドライブしていた人物こそ藤巻だった。

その際美世は売り子としての参加だったが。

咆哮と錯覚するようなRBサウンドが美世の印象に残ってるのである。

 

 

今日はオイル交換などの日常的なメンテに加えて新パーツ導入の相談に来たのだ。

Rを知り尽くしていると言っても過言ではない藤巻なら自身のRをどうチューンしていけばイイか教えてくれる。

 

 

作業を行っている藤巻達。それを横目に美世は工場奥に鎮座する紫色のR32に近づく。

「……すごい」

改めて見るとチューンのレベルが違う。自身のR34がまだ可愛く見える。実際は美世のR34もストリートマシンとしてはオーバースペックなのだが。RB26DETT改2.8リッター仕様約600馬力、加えてNOSも使って700馬力に迫る美世のR34。

しかし「首都高」では美世のR34すらまだちょっとしたチューンドカーとして見られるのだ。

首都高全盛期には700から800馬力クラスのモンスターマシンがゴロゴロいた。中には1000馬力オーバーすら存在。

そう考えると美世のR34は「まだ」常識の範囲内だ。

くどいようだが、その「常識」は首都高ランナーとしての「常識」だ。一般人から見たら何でもスーパーカーだとかレーシングカーに思えるだろう。

 

「原田さんは首都高を走ってるだろう」

いきなり声をかけられてびっくりする美世。振り向くと藤巻が立っていた。

「あー……いえ」

しどろもどろになって答える美世。美世を見て苦笑いする藤巻。

「隠しきれてないさ……。原田さんは気づいてないかもしれないけどオーラが並じゃない。本気で走り込んでるのがよーくわかる」

「俺も隠してたけど……。俺も首都高を走ってた。そのRでな」

「なっ……」

告げられた衝撃の事実に固まる美世。

 

 

メンテ終了後、美世は内藤自動車工場へ。

内藤に話を聞くためだ。

藤巻の事を話すと案の定、藤巻について内藤が知ってる限りの情報が返ってきた。

かつて藤巻は首都高最速となり、大暴れしていた事。

その時に付いた通り名が「パープルメテオ」である事。

そして、ある時に「迅帝」に敗れたのだと。

 

「迅帝と藤巻(アイツ)はちょっとした縁があるんだよ……」

「えっ」

「アイツはな……」

「美世さーん!」

美世を呼ぶ声に遮られる。そこに立っていたのは蓮。

「美世さん書類書くの忘れてますよ!ちひろさん怒ってます」

「え……っ?」

蓮が見せたのは数日後の仕事の誓約書などたくさんの書類。

「ああああああああーーーーーーっ!!」

慌てて蓮と事務所に向かった美世。

 

 

 

「藤巻……。お前はなんでアイツをまた走らせた」

内藤は誰もいない工場でこぼす。

 

 

 

事務所に到着した直後にちひろに怒られた美世。

「あううう……っ」

「今回は美世さん悪いですよ」

2人が廊下を歩く。美世だけでなく、蓮も美世に書類を出すのを促してなかったとして怒られた。

 

 

「プロデューサー?」

渋谷凛だ。蓮に用があるようだ。

「どうしたんですか?」

「プロデューサーいないかって言う人がいて」

「ほら……前イベントで一緒にいた」

「あっ」

 

 

「小日向さん忙しそうだなー」

夢斗だ。エボⅩの助手席(ナビシート)には光が座ってた。

「夢斗のクルマってカッコいいなー!何かハイテクって感じだな!!」

「だろー!?」

夢斗が日課(特撮ごっこ)の後光を送るついでに蓮に用があるために346プロへ。

エボをカッコいいと言われて珍しくご機嫌な夢斗。

 

「いた、夢斗くーん!」

「おっ、小日向さん来た」

「プロデューサー!」

光がエボを降りる。夢斗と話す蓮。

「光ちゃんを送ってくれてありがとう」

「イイっすよ全然。日課の後だったし」

「そーだ小日向さん。小日向さんって次のレースいつですか?」

「来月半ばに」

「見に行きたいッスね」

 

 

 

(プロデューサー)と知らない青年が駐車場で話してる。

「誰?」

「イケメンだー」

「大きいねー。楓さんくらいありそう」

アイドル達が夢斗に注目。

 

 

「ごめんネ、そろそろ会議があるんだ」

「何のですか?」

「合同ライブの打ち合わせがね。もう少しで来るって言ってたけど……」

少しすると低く腹に響くようなエンジン音が聞こえてきた。

「あっ」

夢斗が反応する。

「どうしたの?」

「イヤ、知り合いなんで」

すると青いインプレッサが駐車場に入ってきた。涙目のようなヘッドライトが目立つ。

ドライバーも夢斗に気づいた。

 

 

 

インプレッサから降りた遥と夢斗達が話す。

「星名さんが何故ここに……?」

「いや、俺はそっちがココに来たのが何でか聞きたい」

「私は打ち合わせのために」

「俺は小日向さんに用があってさ。ついでにアイドルの送迎」

「えっ」

「はじめまして、瀬戸遥さん」

「こちらこそ、小日向……蓮さん」

遥は気のせいか嬉しそうだ。

「あなたに会えて光栄です」

「いや、僕はまだまだ新米だよ……」

遥はFDを見て言う。

「これが首都高最速のマシン……」

「瀬戸さん、大げさですよ。僕はそんなに大きな事と思ってないですよ」

「ちょっと前に夢斗君に負けてるし……」

「えっ!?」

「俺としては不本意だったけどな」

 

 

蓮と遥が事務所へ入りこのまま会議に入るため、夢斗は346プロを出ようとする。そこに。

「待ってー!!」

「え、俺?」

美世だ。汗ダラダラの美世が夢斗に聞く。

「キミ、迅帝って知ってる!?」

「ナニソレわからん」

「蒼いR34!!」

「ますますわからん……あ、待って、見たかもしれない」

「ホント!?」

「うわ近い」

 

 

夢斗に話を聞いた後。

美世は数年前に見たあの蒼いGT-Rを思い出していた。

上京直後に見た蒼いそのボディ。美世はその蒼いGT-Rに憧れたのだ。昔見た赤いR。そして迅帝の蒼いR。

美世は憧れのマシンを追うために憧れの車に乗った。

 

 

PM8:50。

今どき首都高ではまず見ない車が横浜エリアを走っていた。

R30スカイラインだ。後期型の通称「鉄仮面」。

 

 


 

 

今の車とは一味違うエンジン音。FJ20というスカイラインではほぼ搭載されなかった直列4気筒エンジンを積む。スカイライン伝統の直列6気筒エンジンではない事を批判する声が上がる事がある。

 

しかし、当時としては最高クラスの性能を誇ったのだ。

実際にソレを証明するように発売当時のキャッチコピーは「史上最強のスカイライン」だった。

また、FJ20型は「ケンメリ」の愛称で親しまれるKPGC110型GT-Rに搭載されたS20型以来8年ぶりのDOHCエンジンであったため、GT-Rの名称を望む声も多かったそうだ。

その証拠に、スカイラインでは異例である4気筒モデルでの丸四灯テールランプが採用されたのだ。これ以外に4気筒モデルで丸四灯テールランプが採用されたのはR32型スカイラインのグレードの一種「GXI」のみ。

R30で「GT-R」がなかったのは開発主管の桜井眞一郎氏が「4気筒モデルである以上GT-Rとは命名できない」という考えからだそうだ。そのためR30は「RS(レーシングスポーツ)」というグレード名になったという。

 

 

FJ20はR30スカイライン以外にはS110型、S12型シルビア&ガゼールといった辺りに搭載された。

短命なエンジンだったが、エンジン自体の完成度は非常に高かった。

一般的な量産エンジンと違い、熟練の職人が経験に裏打ちされた技術でひとつひとつ手作業で組み立てていたのだ。

 

そのため市販車用エンジンとしては、かなり高い完成度を誇っており、日産のエンジンといえば名が上がるあのRB26DETTを超えると言われるほどである。

 

 

 

しかしかなり気難いエンジンで、販売していた日産すら調整しきれないと言われる程に神経質なエンジンだった。

メンテナンスフリーが進んでいた1980年代のエンジンでありながら、少しでも気を抜くとご機嫌斜めになったり、エンジンそのものと補助機の相性の悪さなどで、泣かされたユーザーも多いという。R30ではそれほど問題になってないが、同じFJ20を搭載したシルビアRS、ガゼールRSはインマニなどが変わったせいで極端にピーキーなクルマになった。

実際、FJエンジンを搭載した車のトラブルのほとんどがエンジンの補機類のトラブルだ。

エンジン自体がトラブルを起こすこと自体がまず稀だとか。

 

だが、完璧に調整されたFJ20エンジンはメカ好きには堪らない音を奏でる。

FJ20の荒々しいフィーリングを体験すると、後発であり、日産の直列4気筒エンジンの傑作ともいえるSR20エンジンでは満足できないと言う人もいるくらい。

 

 

 

このようにGTーRの再来と言われたR30だが、ヘッドランプにスカイラインの「S」マークがあったり、ドアインサイドハンドルは当時の流行りらしくメッキ仕立てであったり、ハンドルコラムの裏側に小さなランプがある、左側のスイッチを照らしていたりと、細部の一つ一つにまで気を使い、コストと手間を掛け、品質に拘って開発されたことがよく分かる。

 

 

現在はR35GT-Rのエンジンに手を入れる日産の特別なメカニック達を「匠」と呼ぶ。こういった職人達の血が今の「匠」に受け継がれている事がわかる。

 

 


 

 

「もっと踏んでも全然大丈夫ですよ」

「いやー怖くて」

美世と鈴木一義だ。美世は鈴木の愛車R30に乗っていた。

歴代スカイライン全てに乗った事があり、プライベートではこのDR30スカイラインとR32GT-Rを所有している程スカイラインを愛する男、鈴木一義。

彼の愛車R30を運転しているのは美世。

 

 


 

 

25分前。

夢斗と話した後首都高を走っていた美世。パーキングエリアで休憩していたところ、シブいR30を見つけて思わず眺めていた。そこに鈴木が現れたという訳だ。

それまで鈴木がプライベートで何に乗ってるか知らなかった美世。

美世は鈴木に自身のR30に乗らないかと持ちかけられた。まずお目にかかれないのもあるため、この機会を逃すまいと美世が運転する事に。

 

 

 


 

 

 

「踏み切れないかも」

「原田さんのR34の方がよほどすごいですよ。このクルマもトシだからな(笑)」

鈴木はそう言うが美世から見たら普通に現役のマシン。

 

 

美世はパーキングエリアでこのR30を見た時に驚愕した。

見える範囲の改造だけで足回りはフロントがS14型シルビア用のパーツ、リアはBNR32型GT-R用の足回りをメンバーごと持ってきたのだ。

他にも相当なレベルで手が入っており、美世は軽く引いた。

鈴木に聞いてエンジンを見せてもらったが、エンジンも当時出ていたOS技研の2.4Lキットで排気量アップ。これにTRUSTのT88-33Dタービンを組み合わせ、設定ブーストは1.6kg。コンピュータはHKSなど本気の作り込みだった。

鈴木曰く新車でこのクルマを買ってから何年もかけてこのRをチューンしてきたとの事。

本人は冗談っぽく言うが当時はサーキットでは負けなしだったそうだ。

 

 

彼は現役時代にBNR32型スカイラインGT-Rを駆り全日本GT選手権などで数多くのチャンピオンを獲得した。

それもあり、ファンからは「日本一速い男」と呼ばれるようになった。

それはモチュールの監督になった今でも変わることは無い。

 

 


 

 

今度は鈴木が運転する。

人生の半分をRと生きてきた彼の走りを美世は体験する事になった。

 

「……凄いですね」

「いやいや全然(笑)。まだマージン残してますから」

「ちょっ……なあああああああ」

 

大胆に、しかし速い鈴木のドライブ。

このR30が自分のR34のご先祖さまという事を念じながらナビシートに座る美世。

しかし鈴木のドライブはもしかしたら自分がR34でバトルしても置いていかれる、そう思った。

 

 

コーナーから立ち上がるR30。

離陸する……そう錯覚するかのようなドッカンターボによる加速を見せる。

シフトチェンジするとアフターファイアを吐き、危なげな雰囲気を見せる。

しかしそんな危うい雰囲気溢れるR30を鈴木は完璧にねじ伏せていく。

その姿はまさしく職人のようだ。

 

 

 

「これが『日本一速い男』のドライブ……」

「本気は出してないですよ?」

パーキングエリアに戻ってきた2人。

美世の紅いR34と並ぶ赤黒のR30。そのデザインは今でも色褪せることは無い。

 

 

 

 

 

その頃FUJIRacingでは、蒼いGT-Rが置かれていた。

「また……頼みますよ」

「……」

藤巻は相談を受けていた。再びこのRを蘇らせてほしいと。

 

 

 

 

 

日本を代表するスポーツカーGT-R。

時代を超えて語り継がれるその活躍。初めてGT-Rを名乗ったスカイライン時代から変わらない。

今GT-Rはスカイラインの名を冠していない。それでも世界中にそのファンがいるのだ。

 

 

 

 

かつて首都高最速と呼ばれた男である藤巻。

美世は藤巻のR32になにかを感じた。

そしてスカイラインを愛する鈴木のR30を運転した美世は鈴木の高い技術を体験した。

同じ頃藤巻の元を訪れた男が一人……。

伝説のマシンと共に戦場に戻ろうとしていた。




今40歳くらいの方は一度は耳にしてるであろうその名前。
スカイラインの名が消えた今も「R」の魂は受け継がれている。



ネタ解説です。
・FUJIRacing
「藤巻直樹」が経営するショップ。彼についてはもうバレてそうですが。知ってる方は感想などでネタバレするのはご遠慮ください。
元ネタは電装系のパーツで有名な「BeeRacing」とGT-Rチューンで有名でドラッグレースでも活躍する「ガレージザウルス」。
・遥のインプレッサ
当初はそんなに設定を考えてなかったけど短編も書いてるので書こうかなと。文中にあるように涙目のようなヘッドライトが特徴的な通称「涙目」ことGDB型インプレッサ中期型。俗に言う「C型」です。
・R30の解説
非常に書くことが多かったために大きく書きたかったトコだけ文で書いてます。レースはどうだった?って知りたい方は「シルエットフォーミュラ」で検索!



熱狂的GT-Rファンが世界中にいる現在。
レースで戦うために生まれたクルマは今やあらゆるフィールドで戦う。ただのレースだけでなく、ドリフトもする今。
こうやって考えるとすごいですよね。





次回、夢斗の悲しい過去が明かされる。
大きな心の傷を持つ彼を浩一達は助ける事はできるか。


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STAGE22 奪われた「未来」と掴む「未来」

今回バンドリの人物が出ます。
他作品が嫌いな方は注意。



明かされる夢斗の悲しい過去。夢斗が他人を嫌う理由とは。
浩一達は夢斗を助ける事ができるのか。


8月上旬。

夢斗は大学祭の準備のために夕美と浩一とでイ○ンに買い物に来ていた。

だいたい必要な物を買った夢斗達。ちなみに夢斗達のクラスは焼きそば屋をやる。

 

 

「夢斗君どこー?」

「あのやろ……またか」

浩一と夕美はいきなり消えた夢斗を探していた。

今思えば今日の夢斗はどこか様子がおかしかった。

ここに向かう途中、交差点を渡ろうとした時夕美の手を思い切り掴んでいた。

その時の夢斗の表情は何かを恐れるような表情だった。

 

 

 

 

 

「あっ!いた!!」

「夢斗ー!!」

2人が夢斗を見つけた。夢斗は誰かと話してる。

「ん?浩一じゃん」

「勝手にいなくなるな……って前の」

夢斗と話していたのは以前ここに来た時に夢斗と太鼓の達人で張り合った女の子だった。姉も一緒。

「っつーワケでやるか、太鼓の達人」

「今度は負けないよ?」

「日菜、やめなさい……ってもう!」

2人はゲーセンに走っていった。

 

 

 

太鼓の達人が終わったあと。

「くっそー、可があと一つ減れば勝ったのに」

「ふふーん」

……どうやら負けたらしい夢斗。

そんな2人を待っていたのはやはりというか当然というかお説教。

 

 


 

 

「いいよな……。姉妹って」

「どうした夢斗」

「あーやって話せるのっていいよな……」

「お前一人っ子か?」

「いや……。俺には妹が『いた』」

「『いた』……?」

「ああ。事故で死んじまったんだ……」

「事故……!?」

そう言った夢斗は悲しみや怒りがごちゃ混ぜになったような複雑な表情を浮かべていた。

「夢斗君……?」

「どうしたんですか?」

「俺には大切な妹がいたんだよ、ヒナのねーちゃん」

 

 


 

 

数年前。

星名夢斗には妹がいた。

彼女の名前は「星名奏夢(かなめ)」。夢斗とは4つ年が離れている。

彼女は何をやるにしても非常に優れていた。スポーツ万能、学業優秀、そして習い事としてやっていたピアノは上達が非常に早く、講師が驚くほどの速さでメキメキと腕を上げて行った。

また、彼女は絵を描くことが好きだった。

学校の休み時間とかヒマがあればとにかく絵を描いていた。その絵は休み時間の約30分で描ける絵とは思えないクオリティだった。

彼女曰く「見た物が頭の中に映像として残る」らしい。

そのため風景なども覚えていればたとえその風景を直接見なくても描けるのだ。

これ程までに優れたモノを持つ彼女は兄の夢斗の事が大好きだった。

学校から帰ってくれば夢斗と話す。

「お兄ちゃーん!」

「カナ、おかえり。学校どうだった?」

「今日ねー!先生に褒められたよ!国語のテスト学年1位だって!!」

「よかったなー!」

とても仲のいい兄妹だった。

 

 

 

時は流れて夢斗18歳の夏。

奏夢は14歳になり、中学2年生になっていた。

夢斗は高校最後の年だった。

 

 

「お兄ちゃん、ただいま!」

「おー、おかえりカナ」

夢斗は部活には所属していない。

中学時代にバスケ部に入っていた夢斗。しかし夢斗の活躍を妬む周りの部員との対立、そして顧問にすら嫌われていた。やがて孤立した夢斗は部活に嫌気がさして退部。

そんな経験もあり、高校では部活に入っていなかった。

奏夢はこの頃アイドルに憧れていた。

少し前に346プロのアイドル達によるライブを初めて見た時に自分の夢が決まったらしい。「アイドルになる」と。

その際に見た相葉夕美に憧れてたという。

 

 

 

 

11月始め。

夢斗は車を納車する手続きをした。

その車こそ夢斗の愛機エボⅩだった。夢斗は新車でエボⅩを納車している。

 

 

エボⅩを納車した夢斗。

奏夢は夢斗のエボⅩに乗る事を楽しみにしていた。

エボⅩに乗って色々なところに出かけて風景をたくさん描きたいと言っていた。

 

 

 

「その日」は雨が降っていた。

明日エボⅩで出かけようと提案した夢斗。奏夢も楽しみにしていた。

2人で色々な事を話しながら、街中を歩いていた。

「天気いいといいなー!」

「今日がこの天気だからなー。明日はいい天気だといいな」

「うんっ!」

2人は交差点に入り横断歩道を渡る。

夢斗が渡り終える直前、奏夢が横断歩道の中で止まってしまう。彼女がいつも付けているブレスレットが切れて落ちたのだ。

慌てて拾おうとする奏夢。

夢斗が奏夢の元に行こうとしたその瞬間。

 

パアアアアアアアッ、グシャアッ!!

 

 

 

夢斗の眼前に血飛沫が飛び散る。

何が起こったかわからず、夢斗は奏夢を呼ぶ。

「……カナ?」

そう言った夢斗の眼前には血まみれで倒れてる奏夢が。彼女から血溜まりがどんどん広がっていく。周りの通行人が悲鳴を上げる。

「なあカナ……?しっかりしろ!?……カナ!!」

奏夢を轢いた車は消えていた。轢き逃げだ。

 

 

 

周りの通行人が救急車を呼び、警察も来た。

夢斗は母に連絡。信じたくない現実が夢斗の意識を支配していた。

大雨の中で夢斗は自分の何かが音を立てて壊れていくのがわかった。

 

 

 

 

 

数時間後、奏夢は亡くなった。

彼女はあまりにも多くの事を残して逝ってしまった。

夢斗との約束、アイドルになるという夢、何もかもを置いていってしまった。

結局彼女は一度も夢斗のエボⅩに乗ることなく死んでしまった。

 

 

 

 

 

奏夢が亡くなった後、毎日のように両親は喧嘩。家族の仲はボロボロになっていた。

夢斗はそれに耐えられなかった。

何より自分をわかってくれる存在を失った事が夢斗にとって大きかった。

唯一の味方だった彼女を失った夢斗は毎日を孤独の中で過ごす事になったのだ。

 

 

 

やがて両親は離婚。

夢斗は母親と共に暮らすことになった。

しかし奏夢を失った夢斗はまるで別人かと思う程変わり果ててしまった。

何をするにもやる気がない、生気を感じない。

また、極端に興味を失う事がありその時は興味があっても次の瞬間には興味が失せてしまってるなど夢斗の精神に大きな影響を及ぼした。

学校でもほとんど動かなくなり、元々誰からも見向きもされてなかった夢斗だがついには担任からも「いない」扱いされた。

 

 

気晴らしにならないかと夢斗はエボⅩでいろは坂までドライブ。

そうしたらいろは坂(そこ)最速の男の話を聞いた。

ソイツを負かすと何かなるかなと。夢斗はソイツを打ち負かした。

しかしそれでも自分の技術を疑われた。何故なのか。

何をやっても自分を認めてもらえない。

奏夢は夢斗の事をわかってくれていた。だがもう彼女はいない。

 

 

 

これがきっかけで夢斗は将来を考える事を放棄してしまった。

夢斗は目的もないまま進学。

 

 

 

大学受験後。

死んだ目の夢斗は自動車部に立ち寄った。

話を聞いて最初はくだらないと思っていた。所詮競技で競い合うだけ。どうせ自分が勝ったらまた妬まれる。

つまらなくなって帰ろうとした夢斗。しかし、友也(部員)が言った事が夢斗に響く。

「首都高を走るんだよ」

「ただ」公道を走るだけのハズなのに、何故か夢斗の心を激しく揺らした。

何故。でも感じたモノは夢斗を強く揺らす。

 

 

「……キョーミあります」

こう言った夢斗。首都高なら自分の何かが変わるかもしれないと感じて。

 

 

 

 

今年4月。

「こんにちは!」

「うっす。……あ、アンタはなんて言ったっけ」

アイドルってのは知ってる。誰だっけと考える夢斗。

「……相葉夕美だよ。君は?」

相葉夕美。奏夢の憧れだった少女だ。

「星名夢斗」

「夢斗君か……。いい名前だよ」

「そうすか?地元では痛い言われましたけど」

「素敵な名前だよ!大切にしなきゃ!!」

「……そうすか」

 

 

夕美と話していたら、浩一が近づいてきた。

馴れ馴れしく話していた夢斗に怒りを顕にしている。

「気に入らないならさ、そっちが夕美と話せばいいんじゃね?なんでそれをやってないアンタに俺は怒られないといけねーの?」

「自分が行動してないくせになんで俺に怒るの?」

今まで自分が受けていた事への気持ちを吐き出すようにして浩一へ反抗する。

「てめ……!お前は立場をわかってんのか!?」

「立場?別に俺と夕美はここでは同じじゃね?」

「『アイドル』と『一般人』のお前が馴れ馴れしくしてるのがダメだろ!」

ああ、またか。何でも「区別」したがる。

「俺はさ、立場とかそーいうのはナイって考えるヤツなんで」

「この……!」

「もしさ……アンタが上級生だとしても俺はこんな態度なんで」

小学校からずっとそうだった。

上級生と喧嘩になる事はいつもの事だった夢斗。その時は完膚なきまでに上級生を叩き潰していた夢斗。

上級生でも遠慮なしにボコボコにするためにやがて夢斗に喧嘩をふっかける上級生すらいなくなった。

「てめえ!!」

浩一が掴みかかる。軽く体を動かして回避。

掴みかかってきた浩一を逆に掴み返して、背負い投げ。

「頼むからさ、関わんないでくれます?」

「俺はテキトーなんで。夕美といてもいなくても関わんないでくれ」

自分一人で生きていこう。誰とも関わらなければあんな思いをする事だってないから。

 

 

 

浩一との喧嘩で教師に説教された後。

「そーいやアンタ、名前なに?」

「……津上浩一。お前は?」

「俺は星名夢斗」

「星名ね……。お前高校で友達いなかっただろ」

「ま、いないね」

避けられたから。

「しょうがねえな。俺がお前の友達になるわ」

「結構です」

いらない。どうせ俺を捨てる。

「この……。あのな星名、お前1人だと絶対トラブル起こしまくりの常習犯になるぞ」

ああそうだよ。

「お前は、周りがわかってない。立場関係ないってお前言ったけど、それはアウトだぞ」

周りなんて興味無い。

「夕美はここにいる以上、同じじゃね?」

「それでも最低限のラインは守れ。普通はあんな事出来んわ」

「えー。夕美はあんな話してくれたのに?」

「ちょっとは遠慮しろ……」

「どっちにしろ、お前がなんかしないように俺が見る。そうしないとお前が心配だ。例えお前がウザがっても、付きまとうぞ」

「ストーカー……」

「断じて違う」

「……ま、わかったよ。浩一」

「……まあ呼び捨てはいい」

夢斗と浩一の関係は最初は監視のために結ばれた関係だったはず。

しかし今では親友のように話している。

 

 

 

駐車場に行く2人。

「コレがお前の車か?星名」

「そ。コレしか俺にとって大切なものはない」

本当はエボ(それ)以上に大切な人がいた。でも思い出したら辛くなるから出したくない。

「お前、中々すげえ車乗ってるんだな」

「全然。浩一は?」

「ふっふっふ。見て驚け」

「えー。どうなのよ」

「オイ」

 

 

 

自動車部入部の際。

「ジムカーナの大会が今度ある!出てくれないか!?」

「イヤっすよ」

「何故!?」

「俺は言いましたよ。そんなつまらなそうな事やりたくないって」

「俺はそっちが言った『首都高を攻める』って事に惹かれて自動車部(ここ)に来たんすよ」

反抗する夢斗。その場の全員がざわめく。

「浩一……。もしお前までそうさせたいなら俺はこの学校辞める」

「俺は今まで自由なんて無かった……。ここに来たのも深い意味はない。目的が無かったんだよ……。とりあえず大学行けばいいって思ってな……」

「そんな中で唯一自由を感じれると思ったのは、『首都高を攻める』って事が出来る自動車部(ここ)の存在だ。だがもしも競技の為に俺を入れるなら結局俺は自由なんて無いじゃんか。同じ様な事しかしないならそれは『自由』じゃねーじゃん」

「首都高を攻めるって言うアンタの言葉を信じて俺は来た!ソレがないんなら俺はココを辞める!!」

夢斗が自動車部の勧誘を受けた時に感じたモノ。

それは「自由」。首都高なら「同じ」走りは絶対にない。いつでもその時の走りだけだ。

そして限界がない走り。とにかく上を目指そうとする者達がたくさんいる。

友也が聞く。

「君は何故……そこまで『自由』にこだわるんだ?」

「俺は……ずっと一人だった。誰にも俺の考えをわかってもらえないし……。俺が何を言っても理解しようとさえしなかったんだ!!」

「理解しようとしないヤツらと関わるのがもう辛かった……。だから俺は地元を出てきた」

「自分が決めた『常識』で周りを縛る!ソレが違う奴を自分達のグループから追い出そうとする!俺の考え方に自由ってないのか!?」

「峠だって……周りの事を取り入れようとせず『遊び』しか出来ないくせに上手い奴には嫉妬する……。いろは坂を走ってたヤツはみんなそういう目で俺を見てた」

「でも……首都高ならそんな事ないと思った。同じ目的の為に人が繋がって走る……ソレが走り屋じゃないのかって」

「もしアンタ達が地元のヤツみたいな事をするなら……俺は出ていく」

 

 

そして友也が口を開いた。

「そして君が一番したい首都高を走る事が君のやる事のメインだ……。どうだ?」

「ソレなら俺はやりたいっすね」

「交渉成立だな」

「浩一君はどうする……?」

「俺もココに入ります。夢斗の技術はよくわかりました。でも夢斗はその技術の上手な使い方をわかってない……。もし俺がいないと夢斗は絶対にその技術をわかってもらえないから……」

 

 

初めて首都高を走った日に咲耶と遭遇した。

「やらせてもらうよ……」

咲耶の黒いエボⅨを追う夢斗のエボⅩ。

パワーの差を帳消しにするコーナリングスピードでエボⅨに迫る。

「……!?なんだこの車!?」

「離れないっ」

咲耶のエボⅨを追い詰める。

 

 

最後こそ自分のミスで負けたとはいえ、夢斗は今まで感じたことがなかった高揚感を感じた。

咲耶と顔を合わせて言う。

「俺、星名夢斗。咲耶、あの技術俺に教えてくれ!」

他人にこう言うのは初めてだった。

 

 

 

その後神谷エイジとの出会いを経て、エボは進化。

しばらく後に蓮のFD3Sとのバトルで完敗した夢斗。

その際に夕美にこう言われた。

「……夢斗君」

「なんだ?」

「私と約束して」

「?何を」

「『絶対に無事で帰ってきて私と会う』って」

「無事に帰ってきて。それだけ守ってほしい」

夕美は悲しげな表情を浮かべていた。それが亡き奏夢と被った夢斗。

「……わかってる。夕美と会わなきゃ俺はヒマだもん」

「それに夕美みたいに俺を待ってる人はいる。浩一とかトモさんとか……。1人だけもう待てなくなった人はいるけどさ……」

「俺は絶対に死なねえ。これが俺が夕美に守る約束だ」

 

 

夢斗は目的を作った。一つ目は蓮に勝つ事。

そしてもう一つは奏夢の分まで生きていく。

亡くなった彼女の分まで精一杯生きる。それが自分が奏夢にしてやれるたった一つの約束だから。

 

 

 

この出来事の後、蓮達と再びバトル。美穂のFCも交えて。

しかしその最中に美穂のFCが大クラッシュ。

目の前で起きた惨劇。

「マジか!?死ぬなよ……!!」

路面にオイルなどが混ざった液体が残り、所々にFCの部品が散乱する現場。

その凄惨な光景はあの日を思い起こしそうになった。

(もう……俺の前で誰も死ぬなっ!!)

 

 

そんな夢斗の願いも届いたのか、美穂は怪我をしながらも生還。

そして蓮の働きで美穂のFCは蘇っていった。

 

 

 

夢斗の過去はあまりにも重い。

今でも「ソレ」を乗り越えられておらず、今でもたまに夢でうなされて苦しんでいる……。

 

 

 

 


 

 

 

 

「そんな事が……」

「そーいう事だ、浩一」

「じゃあ、轢き逃げ犯は」

「捕まったよ。1ヶ月後に」

「え」

「ライブの日だよ」

 

そのライブこそ、蓮や美世達が狙われた「渋谷駅前交差点発砲事件」が起きた日の事だったのだ。

「ヤツは逮捕されたヤクザ共のメンバーだった……。事件の準備のために移動していたアイツらがカナを……っ!!」

拳を握り締める夢斗。その目は本気で怒りを表していた。

「プロデューサーが撃たれた時の事……!?」

「小日向さんが撃たれた?」

「うん。プロデューサーは銃で撃たれて意識不明になっていたの」

「嘘だと言ってくれよ夕美……!!小日向さんがソイツと関わったせいでカナが殺されたみたいじゃんか!!」

蓮に怒りの矛先が向こうとしている。夢斗は涙が溢れだしていた。感情を抑えきれなくなっていた。

「なんでだよ!!なんでカナが死ななきゃいけなかったんだよ!!カナはこんな俺よりもずっといい奴だった!カナは生きていれば絶対に夢を叶えてアイドルにだってなれていた!!カナは俺よりもずっと『天才』だった!!カナが幸せに生きて欲しかったっ!!」

胸の内を吐き出した夢斗。

「なのに……っ」

「夢斗……」

「夢斗君……」

「そんなくよくよしてたらるんってしないよ」

「ヒナ……。そりゃわかってるさっ!!」

壁を怒りのままに殴る夢斗。

「辛い事があったって事はあたしもわかった。けどね……そんな前の向き方じゃダメだよ」

「じゃあどうするんだ!?」

「みんなを見て……。そうすればそれだけでも違うよ」

「その『みんな』が俺を避けてるんだよ!!」

「んーん。周りを見て」

言われるがまま夢斗は周りを見る。視界に夕美と浩一が映る。

「夢斗君は人一倍周りを気遣う事ができてるよ。そしてみんなと繋がってる」

「夢斗……俺はお前がすごいって思ってるさ。お前は周囲をひっくり返せるヤツじゃんか。前も言ったろ?」

 


 

「でもな、お前はもっと他人を頼れ。何もかも1人で抱えるな」

「お前は気づいてないだろうけどな、お前は皆を動かす原動力だ。お前が迷ったら皆も止まる」

「だから迷うな。いつもズバって決めるお前でいろ」

 


 

 

 

「お前って『生きるのに不器用』って言われるだろーな、社会に出たら。でもさ、友達となら少しは考えを変えたっていいんじゃないか?」

「夢斗……やっぱりお前はすげえよ。……けどよ、もう……いいんじゃないか?自分で自分を縛るのを」

「……」

夕美も言葉をかける。

「夢斗君にはたくさん助けてくれる人がいるじゃない!プロデューサーや津上君、部長さんに!それに私だって助ける事はできる!」

「誰もお前を『見捨てる』って言ってねえよ。むしろ、俺達はお前を『助ける』って言ったさ」

「奏夢ちゃんの分まで生きようよ!」

「妹が乗りたかったお前のエボを走らせ続けるのがお前ができることじゃないのか?」

「走らせ続ける……?」

「今だけ辛いって事はいくらでもある!けどその後に必ずるんってくる事がある事だって知ってるから!」

日菜が夢斗に言う。

「だからさ……。お前は自由に生きろ。縛られるのは嫌じゃなかったのか?」

浩一が夢斗を励ます。

「……そっか」

夢斗の声が先程までとは違う声になった。

「浩一達は俺を捨てないのか?」

「ああ。お前はほっとけねえし」

「夢斗君だって人だし弱いトコとかあるもん。弱いトコがない人なんていないよ」

日菜が続ける。

「みんなそれぞれの『個性』ってあるじゃん?あたしの友達はね!ドジだけど誰よりも努力してる子にみんなを大切にして武士道に憧れてる子、周りをよく見ていて面倒見がいい子に誰よりも音楽の知識がある子だったりで一人一人違う!!」

「あたしも最初はみんなとは足並みが揃えられなくて大変だった……。あたしができる事がみんなはできない。『なんで?』って何回も思ったよ。それであたしとおねーちゃんはギクシャクしてた時があったし」

そう言われた姉が目を逸らすが日菜は続ける。

「みんなできる事は違う。あたしもできない事はある。おねーちゃんと別々に過ごすとか」

「ソレは関係なくね?」

夢斗のツッコミを聞き流して続ける。

「できない事があるのは当たり前。たまにできない事すらできるって人はいるけどね。できる人ができない人と同じ見方をすればイイと思うんだ。もちろんその逆もそう。できない人はできる人の気持ちを思いやる事だって忘れちゃダメだよ」

「見方……」

「夢斗の考え方はド直球だからさ、夢斗に合わせた考え方しないとやってられないし」

「俺に合わせて……」

夢斗は浩一達が「自身に合わせていた」という事を初めて知った。栃木でそんな事をされた事がないために浩一達の配慮に気づいていなかった。

「お前は突っ走るけどさ、想定外の返しに弱いじゃん。俺らがフォローしなきゃお前一人でどうにかなりゃいいけどさ、『できなかったら』って考えないだろ」

浩一の指摘は実際その通り。「できない」と考えない夢斗。「できる」事しか考えてない。

「それでもお前は一直線だろ。お前の信じて進んだとこがいつも何か起きる場所だ」

浩一が夢斗に出会ってから夢斗と行動するといつも何かがあった。クラスメイトとの喧嘩、超有名首都高ランナーと知り合う、大会で優勝……。他にも挙げたらキリがない程。毎日が飽きない。最も、だいたい自分が貧乏くじを引くのだが。

「俺はいつからかお前が引き起こす事に慣れちまった。悔しい事にな」

苦笑しながらも浩一は夢斗のやる事を肯定している。

「お前の無茶は俺らが拾ってやる。お前のぶっ飛んだ発想で周りを動かしてみろ」

「サンキュー……浩一」

夢斗の声にはいつもの調子が戻っていた。

「俺はるんってくる事をいつも見つけたい!俺が死んだあと天国(あっち)のカナに自慢できる事をたくさん作りたい!!」

「だからさー!みんな俺を手伝ってくれ!!」

「……復活だな」

浩一は笑う。夕美も微笑んでいた。

「じゃーもっとるんってくる事しよーよ!」

「だなー!!」

夢斗と日菜は駆け出して行った。

「あ、コラ待てや……ったくよ。とんでもねえヤツと会っちまったよ、ホント」

やれやれと首を振りながら浩一は夢斗達を追う。

「よかった、夢斗君の笑顔が戻って……」

夕美も続く。

 

 


 

 

 

 

「『天才』って何かしらね。周りを惹きつけることにかけては真似出来ない……」

紗夜()が呟く。

日菜()は自身が妬む程の才能を持っている。

努力をした自分を才能だけで追い抜いてしまう日菜()

日菜()が言った通り自分が日菜()を避けていた。

でも、ぎくしゃくした関係をお互いに向き合って変えていった。

 

 

気がついたら自分が周りに変化をもたらそうとしていた。

ある時は自分が変わるべきか迷うバンドメンバーを導いた。

またある時はバラバラになったバンドに対して責任を感じたメンバーと共に解決策を探した。

今の自分が見たら過去の自分は精神的に余裕が無い、と見えるだろう。実際そうだった。

ひたすら自分が目指す目標のために努力を重ね、妥協を許さなかった。他人にも、そして自分にも厳しかった。

でも、周囲との交流を経て自分は成長した。それは自分だけでなく、日菜()もだ。

誰も理解できない、そして誰からも自分が理解されないという事実を見ても「寂しいとは思わない」「あたしじゃない人がいるから、あたしの存在が自分の中でより確かなものになる」と言った彼女。

バンドメンバーが自分の事を受け入れ、理解しようとしてくれている事に対しては純粋に嬉しいと感じている彼女。

夢斗()日菜()のように周りに理解されようとしているなら自分達のようにまた「彼」も変わると信じた。

周り(友達)が自分を変えていく事は『天才』もやはり普通の人間なのね……」

 

 

辞書では生まれつき優れた才能を持った人間を「天才」というそうだ。

凡人と天才は決して相容れない。それは青年(夢斗)が今までそうだったように。努力を才能で上回る少女(日菜)のように。周りからは理解できない事。

少女(日菜)が他人を理解できない。青年(夢斗)が他人から理解されない。

『天才』は『普通』からは関心を寄せられない。

 

 

 

しかし、「出会い」によって変わることもある。

日菜(少女)がバンドメンバーとの出会いで大きく変わった。

そして夢斗(青年)は嫌っていた『他人』との交流を見直す事で彼は変わった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「「るんってきたーーーー!!」」

『天才』は『凡人』から見れば別の次元の存在に見えているのかもしれない。

それでも『天才』だって人間だ。『凡人』と同じく悩み、時に傷つくことだってある。

周囲がその「悩み」を見抜く事ができるかで『天才』が抱えるモノは軽くもなるし重くなったりもする。

夢斗は(奏夢)という存在を失った事で一時期はもう死んでもおかしくないくらいにまで追い詰められていた。

周りから理解されない苦しみを抱え続けていた。人生を放棄さえしていた。

 

 

それでも。

必死にもがき続けた夢斗。

たった一つのきっかけで自分を変える事が出来た。

時間はかかった。約20年近くの時間を必要とした。

しかしその価値はあったと言えよう。

今こうやって信頼出来る『友達』がいるのだから……。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

場所は横浜某所。

「……」

蒼いR34が鎮座する工場。傷だらけのボディは年月の経過を物語る。

藤巻はある人物の依頼を受けてこのRを預かっている。自分ならこのRを修復する事は容易な事。

しかし藤巻は敢えてそれをしないつもりでいる。

(彼女に頼みたい……。彼女はこのRを修復できるだろう)

藤巻は蒼いRを修復するべき者を既に決めていた。

 

 

 

 

 

『伝説』のマシンを修復するべき人物は『伝説』を追う存在……。




実質バンドリ回じゃないか(困惑)
やっぱりシリアスは上手く書けない……。今後の課題かな。



ネタ解説です。
・「見た物が頭の中に映像として残る」
これは「MFゴースト」の登場人物「カナタ・リヴィントン」こと「片桐夏向(カナタ)」の母親と本人が持つ「映像記憶」能力が元。
・エボⅩの入手経緯
夢斗は新車でエボⅩを納車してますが、新車で自分の車を買ったのは夢斗のみ。蓮や咲耶は中古でそれぞれ入手してます。
・事件の発端
「渋谷駅前交差点発砲事件」が関係してます。あの日の事が様々な事に関係してるのです。
・一人一人の個性
日菜が説明しているのは「Pastel*Palettes」のメンバー達。
順に「丸山彩」、「若宮イヴ」、「白鷺千聖」、「大和麻弥」です。
・「ギクシャクしてた時があったし」
これはガルパのストーリーを見るとわかるのですが姉「氷川紗夜」と妹「氷川日菜」はぎこちない仲でした。深く言うとネタバレするので気になった人は「ガルパ」をやってみよう!(ダイマ)




夢斗の過去は同じような出来事を経験した「如月千早」の過去を元に書いています。
弟(妹)を交通事故で失った、両親が離婚など共通点が多いです。
ちなみに私はアニマスは「約束」回が一番好きです。(隙あれば自分語り)
また、「バンドリ」の人物「氷川紗夜」と「氷川日菜」を出したのは「天才」と「凡人」から見たモノの違いを明確に描写したかったため。夢斗の性格の元になってる日菜と合わせたかったからです。



次回、283プロ感謝祭!!
咲耶はどんな気持ちで感謝祭に臨むのか。


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STAGE23 空へ羽ばたけ

最初に言っておきますが、作者はライブに行った事がありません。
そのため「ライブでこんな事ねーよ」という点があるかもしれません。お許しください。



感謝祭ライブ本番!!
L'Anticaのメンバー達が一丸となって臨むライブは!?


ここは283プロ。

明日に控えた感謝祭本番を目前にしてそれぞれのユニットメンバーの練習は本番そのもの。

 

 

 

「ワン、ツー、スリー、フォー!」

はづきがカウント。それに合わせL'Anticaのメンバー達が振り付けをこなしていく。

シューズが床に食いつく音とはづきのカウントだけがレッスンルームに響く。

確認のために今の動きをやったのだ。次は実際に曲に合わせてだ。衣装も着て行う。

 

 

「摩美々、いいかい?」

「んー、ど〜ぞ」

摩美々が咲耶にアクエリを渡す。咲耶の汗の量は他の4人よりも多い。

8月という1年で最も暑い時期。ステージ衣装も着て行うリハーサルはサウナスーツを着ているのと変わらないくらいであろう暑さだ。

 

 

 

熱中症に注意を払いながらリハーサルを終えた。

咲耶達L'Anticaは高いビジュアルが評価された。

「やったばい〜!!」

「本番頑張ろう!」

「……うん!」

明日に控えた感謝祭本番へ向けて気合が入るメンバー達。

 


 

 

 

帰り道。

咲耶の黒いエボⅨが街中を回ってるともう見慣れた銀色のエボⅩが前に見えた。

 

 

 

「明日本番なんだなー」

夢斗は咲耶と話す。咲耶を見つけたのもあり、話そうと珈琲店に咲耶を連れて話していた。

「ああ……。初ステージさ」

「咲耶一番目立ってそう」

「そうかい?」

「うん(肯定)」

「ふふっ……。でもね、目立つのも大変さ」

「だろーな」

「しかも感謝祭だから多くの人が私達を見る。他のユニットと一緒にライブをするわけだ。嫌でも注目される」

「つまり逃げ場なしか(笑)」

「そうさ……」

咲耶は笑ってるが、プレッシャーを感じているとわかる。

「私が上手くやれるか……不安でね。恋鐘や結華、摩美々に霧子……私が足を引っ張らないようにと思ってる」

「……案外自信ないんだナ」

「……ああ」

咲耶の表情は暗い。

 

 

 

「お待たせしました!」

女の子がコーヒーを運んできた。

「ありがとう……」

「あざーす」

「どうしたんですか?」

店員の女の子が咲耶に聞く。

「ちょっと自分に自信が持てなくなってね……。困ってるんだ……」

「自信持っていいと思いますよ!モデルやってる私ですけど羨ましいと思います!」

「綺麗な黒髪に長身、何よりかっこいいです!」

「ふふ、ありがとう。私もモデルをやっていたんだ」

白髪の女の子がキラキラした目で咲耶のいい所を言っていく。

「でもね……。それでもダメだ」

「そんな事ないです!お客さんはとても凛としていて人を惹きつける人なんだとわかります!私は周りに影響を与えるのが素晴らしい事だと思ってます!私が憧れてるブシドーの理想形です!!」

「武士道?」

「ブシドーです!」

「ブシドーマジブシドー(思考放棄)」

夢斗の訂正はどうやら訂正になってないようだ。

「イヴちゃん、ストップ!」

もう一人店員の女の子が出てきて白髪の女の子を止める。

「ごめんなさい!……でも、かっこいいです」

「ありがとう」

咲耶が微笑む。女の子は堕ちた。

「……はぅ」

「わっ、ツグミさん!?」

顔を真っ赤にした茶髪の女の子を白髪の女の子がキッチンへ連れていく。

「何やってんだよ咲耶」

「?」

コーヒーを飲んで2人は店を後にする。

 

 

 

 

「簡単にしか言えないけどさ。ま、ガンバ」

「もちろんさ。私の最高のパフォーマンスでファンを喜ばせる!!」

咲耶のモチベーションは高い。L'Antica(ユニット)のみんなで明日のステージを最高のモノにする。

 

 

 

 

その日の夜。

咲耶と別れた夢斗はセ○ンイレブンに寄ろうとしていた。

「お……ありゃ?」

青いインプレッサが一瞬だけ見えた。遥……と思ったが。インプレッサはこちらに見向きもせずに去った。

「ハデだな」

自分のエボⅩも相当エアロが派手なのだが。

 

 


 

 

そして次の日283プロの感謝祭ライブが開催。

「う……緊張する……」

霧子が緊張感から弱音を吐く。

「大丈夫さ……。みんな一緒じゃないか」

咲耶が霧子を励ます。

「みんな〜準備はいいばい!?」

「三峰はOKだよ!」

「摩美々もいいですよ〜」

「ああ、行けるさ」

「う、うん……!大丈夫……!!」

L'Anticaのメンバー達が集まりステージに出ていく。

 

 

 

 

 

感謝祭ライブ、開幕。

「みなさん!今日は楽しんでいってくださいね!!」

真乃が進行を務める。

「「「「「わあああああああああああ!」」」」」

会場がファンの歓声で揺れる。新人アイドル達が多い283プロ。新興プロダクションの感謝祭でここまで観客が来るのは驚きだ。

「まずは『Spread the Wings!!』です!聞いてください!」

イルミネーションスターズ、アルストロメリア、L'Antica、放課後クライマックスガールズのアイドル達がステージに並び立つ。

16人のアイドル達が圧巻のパフォーマンスを見せる。

「今、はじまる奇跡ーーーーーー」

「翼を広げて君とどこまでもーーー」

16人全員が歌い上げていく。「夢」という大空に飛び立つように。

彼女達は「歌」で空へ羽ばたくーーー。

 

 

 

曲終了後。

「次はユニット対抗のライブを行います!」

 

 

これは283プロの4つのユニットがそれぞれの曲でパフォーマンスを行い、観客はアイドル達のパフォーマンス終了後に投票を行い、集計数が一番多かったユニットが天井社長からMVPと表彰されるのだ。

 

 

「まずは私達イルミネーションスターズが!」

「私達のパフォーマンス……最後まで見てください!!」

「じゃ、やろっか!真乃、灯織!」

「「うん!!」」

真乃、灯織、めぐるの3人が歌うのは『ヒカリのdestination』。

真乃の歌い出しから曲は始まる。

「ヒカリのdestinationーーーーー」

「微かなキラメキだったーーー」

「始まりだってーーー」

「気付かないまま追いかけてたーーー」

灯織とめぐるが続き、パフォーマンスが始まった。

観客達のコールが波打つようにステージまで届く。

「「「「おーーー、はいっ!」」」」

 

 

 

「ありがとうございました!」

「灯織きっちりしてるねー。あ、投票よろしくねー!!」

「次は『L'Antica』で『バベルシティ・グレイス』です!L'Anticaのみんなの歌も聞いてくださいね!」

 

 

真乃の進行後、ステージにL'Anticaのメンバー達が現れた。

メンバー達はクールな表情でステージに立つ。

「うちらの歌を……聞くばい!!」

恋鐘が言う。流れ始める曲。

それに合わせてステージ上の空気が一変する。

「ソラは遠くて居るのはただ虚ろな太陽」

「淀んだ空気の中で」

「言葉が、ココロが、隔てられて霞んで見えない」

「双眼鏡を覗いても」

恋鐘と結華が歌う。続いて摩美々と霧子。

「でも1つだけ残されてる」

「「ボクらを繋ぐモノ」」

咲耶と結華が言い切る。

「「さあ始めようか」」

「「錆び付いた運命の鍵を回して!」」

サビに入った途端、ボルテージMAX。

彼女達のテンションの昂りに呼応するようにコールも大きくなっていく。

 

 

 

 

 

「うちらのパフォーマンス、どうだったばい!?」

「ぜひ……投票お願いします……」

L'Anticaのパフォーマンス終了。メンバー達がステージを降りた後も観客達には先程の余韻がまだ残っている。

 

 

「次は『ALSTROEMERIA』で『アルストロメリア』です!」

甜花、甘奈、千雪の3人がステージに上がる。

「私達の幸福論で会場の皆さんが笑顔になるように頑張ります!!」

「みんなー、甘奈と甜花ちゃんと千雪さんから目を離さないでねー!!」

「て……甜花、頑張る……!」

 

 

 

「気絶しそうしどろもどろ」

「花盛りタレイア」

「まともな神経が繋がらないアダージョみたい」

甘奈が歌い上げていく。恋をして頭が心に追いつかなくなって思考回路がショートしてしまいそうな様子をアダージョに例えていく。

「凛々しくいよう強くなろう」

「天と地がディストーション」

「夢をみることも忘れてしまうのかな」

続いて甜花が。自己評価が低い自分を変えようとする甜花自身のパーソナリティにハマる。

「ふくらむ蕾が傷だらけでも」

「優しくそっと」

「「「手をとってくれますか」」」

千雪が甜花と甘奈と一緒に歌う。まるで千雪が甜花と甘奈に関わりを持って2人と変わるように。

ホップな曲調とは裏腹に色々と考えさせられるような歌詞。

曲の中で3人の物語が紡がれるーーー。

 

 

 

 

「私達の歌はどうでしたか?」

「甘奈達頑張ったよー!!」

「甜花も……頑張った!……後でお寿司食べたいな」

「甘奈も甜花ちゃんと一緒にお寿司食べたい!」

「あらあら……。後でみんなで食べましょう」

3人の微笑ましいやり取り。まさに「家族」のようだ。

 

 

 

 

「最後は『放課後クライマックスガールズ』で『夢咲きAfter school』です!」

イントロが流れ出す。

何かが現れる前フリのようなリズムが刻まれて彼女達は現れた。

Everybody Let’s Go!(エブリバディーレッツゴー!)

果穂の掛け声と同時にメンバー達が動く。

「「「「「Viva After school Yeah Yeah」」」」」

「「「ハイッ!ハイッ!」」」

観客達が歌詞に合わせてコール。

 

 

テンション高めに、会場全体が盛り上がる。

観客達とアイドル達が一体感を出してライブを楽しむ。

「「「「「靴ズレもしそうだけど」」」」」

「「「「「未来へ全力で駆けて行く」」」」」

No.1!(ナンバーワン!)

「世界 最上 最愛 掴みたい」

「「咲こうとしたその日が花盛り」」

「「手を取り合い 」」

「「「「「空 指さして」」」」」

「「「「「夢は 絶対 一切 離さない」」」」」

会場全体が彼女達のテンションに包まれる。

「「「「「私たち CLIMAX(さいこうちょう)」」」」」

「「「「イェイ!!」」」」

 

 

 

「「「ワアアアアアアッ!!」」」

曲が終わってもその熱気は凄まじい。

「あたし達のパフォーマンスッ、どうでしたかーーー!?」

「私達のパフォーマンスとてもよかったよね!!」

「まだまだこんなモノじゃないでしょう、智代子」

「夏葉ちゃんストイックすぎ!」

「あたし達に投票、よろしくお願いしまーす!!」

 

 

 

 

全4ユニットのパフォーマンス終了後。観客達が投票のために動く。

「俺はやっぱりイルミネかな」

「果穂ちゃんの笑顔にやられました(迫真)」

「馬鹿野郎!千雪さん達アルストロメリアだろうが!」

「咲耶様かっこよかったー!!」

パフォーマンスの感想を述べながら投票していく観客達。

 

 

 

 

舞台裏。

「私達どうだったかな……」

「真乃〜、私達なら大丈夫だって!」

「うちらはどうなったばい?」

「さあ……。楽しみに待とう」

「甘奈達頑張ったよね?千雪さん」

「ええ……。甘奈ちゃんも甜花ちゃんも頑張ったじゃない!」

「結果を知るのが怖い……」

「チョコー、そんな事言ったらいつまでもわかんねーよ」

結果が気になってしょうがない様子だ。

 

 

 

 

このあとはユニット間のマル秘トークなどで進行される。

アイドルの意外な一面が明らかになったりなど観客もアイドルも盛り上がった。

 

 

そしていよいよ結果発表。

アイドル達がステージ上で発表を待つ。観客達も自分の推したユニットがMVPになるかと緊張した表情を浮かべている。

 

 

「突然だが、ここで今日の感謝祭で特に輝いていたユニットを表彰しようと思う」

舞台裏から天井社長が出てきた。紙を開き結果を告げていく。

「ベストモデル賞、ベストテクニック賞L'Antica!!」

「嘘っ!?」

「うちらがMVPじゃない!?」

MVPは最後に発表される。この時点でL'AnticaはMVPではない事が確定しているのだ。

「ベストボーカリスト賞、放課後クライマックスガールズ!」

「……悔しいわね」

そしてMVPの発表。

「MVPは……」

「イルミネーションスターズだ」

 

 

「え……嘘!?」

「真乃!灯織〜!私達MVPになったんだよ!!」

「ほわ……。まだ実感が湧かなくて……」

イルミネーションスターズの3人が喜びあう。

 

 

 

「真乃さんすごかったですっ!!」

「おめでとう、真乃ちゃん」

「ありがとうございます、果穂ちゃん。千雪さん」

「灯織〜、よかったね」

「灯織。すごいよかったぞ!」

「ありがとうございます。摩美々さん、樹里」

「めぐるちゃんおめでとー!」

「めぐるちゃんよかったね!!」

「ありがとー智代子、甘奈!」

それぞれのユニットメンバー達がイルミネの3人に賞賛を贈る。

 

 

 

 

感謝祭終了後。

「悔しいばい……」

「まののん達の努力すごかったもんね……」

L'Anticaのメンバー達はイルミネーションスターズの活躍を褒めている。

しかし自分達も目指していたMVP(目標)に届かなかったという悔しさ。

「……ここでくよくよしてちゃダメばい!次で勝つばい!!」

「そうでなくちゃね!こがたん!」

「だね」

L'Anticaのメンバー達は早くも次のステージを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……いや、1人だけ違った。

「……何がダメだった?」

咲耶は自問自答する。

あの振り付けはどうだったか。キレのある動きだった。

歌はどうだったか。意識して歌った。

「私はもっと頑張らないと……皆に合わせられない」

 

 

 

 

 

 

 

 

283プロ感謝祭に臨んだ咲耶。

メンバー一丸となって臨んだ本番。

しかし目指していた目標(MVP)には届かず。

咲耶は自分がユニットから置いていかれていると感じ始める……。




ユニット一丸となって臨んだライブ。
目標のMVPに届かなかったL'Antica。咲耶は苦悩する……。



ネタ解説です。
・珈琲店の少女
この回以外にもちょくちょく登場している「バンドリ」の登場人物である「羽沢つぐみ」。今回は「Pastel*Palettes」から「若宮イヴ」も登場。彼女は原作通り羽沢珈琲店でバイトしてます。モデルでありアイドルでもある彼女を同じような立場である咲耶と絡ませたかったためです。
・感謝祭ライブ
大体はゲームの通りの設定です。……だけどゲーム中では283プロ内のユニットだけで競ってるハズなのにそれより多い数のライバル。どういう事なの……
・ライブの曲選
「SHINYCOLORS1stLIVE」が元。「夢咲きAfterschool」とか絶対コール楽しそう(小並感)



地方民の私にはこれが精一杯でした(撃沈)
ライブ行ってみたいな……。




次回、歴戦の首都高ランナーが集う。
赤きロータリーマイスターが狙う相手は!?


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STAGE24 追いかけるテール(後ろ姿)

「首都高バトル」から懐かしい人物達が登場!
知ってる人は「懐かしい」と思うかも。



『迅帝』の動向を探る内藤。
彼の前に現れた人物とは!?


深夜。

赤いFCが湾岸線を疾走する。内藤のFCだ。

何故このタイミングでFCを走らせているのか。

「アレか?」

前を走る黄色いRX-8に注目する内藤。すかさずパッシングする。

RX-8がウインカーを出してパーキングエリアに入る。内藤のFCも続く。

 

 

 

「……よう」

「久しぶりね、『追撃のテイルガンナー』。あまり変わってないわね」

「そっちこそ変わってないんじゃないか?『12時過ぎのシンデレラ』」

お互い車から降りて話す2人。内藤と話すのはかつて首都高でトップクラスの実力を持っていた『12時過ぎのシンデレラ』こと林原美津江。

「で、私に何の用なの?いきなり呼び出しておいて」

彼女を呼び出したのは内藤自身だ。

「『迅帝』は今何やってる」

「……彼はまた走ろうとしてるみたいよ。誰が標的(ターゲット)かは知らないけど」

内藤が知りたかった事。それは『迅帝』の動向だ。

数年前に首都高を降りた迅帝()が何故再び首都高を走っているのか。

「聞いたらイイんじゃない?彼をよく知るヒトに」

「聞いた。アイツも知らないみたいだ」

内藤の言う「アイツ」は藤巻直樹だ。彼は迅帝に敗れた過去があるのだが、その後迅帝の師匠になったのだ。

「……なんだろーね。彼はいっつも考えてる事がわからなかったもん」

「お前なら知ってると思ったけどな」

「そう?私も知らない物は知らないし」

「……そうか」

内藤がFCに乗り込もうとする。

「待ってよ。人をこんな夜中に呼び出しておいてそれだけで済ますつもり?」

「……んなワケねえだろ。どうせ『コレ』を望んでんだろ」

「ザッツライト。久しぶりに走りたくなった」

「しょうがねえナ。俺にカマ掘られんじゃねーぞ」

「その余裕がこのエイトの前に通じるかしらね」

 

 

 

 

 

パーキングエリアを出た2台。

黄色いRX-8が先行、赤いFCが追走だ。RX-8がハザードを3回点滅させた。バトル開始の合図だ。点滅終了と同時にRX-8がロケットのように加速していく。

「行くか……」

続いて内藤のFCが速度を上げて前のRX-8に追従する。

 

 

 

「やるわね……。その腕は健在か……」

林原はバックミラーから消えない赤いFCを見る。

スリップストリームを狙える射程圏内にFCが入っている。

「それとも……。刺激を受ける事でもあったのかしらね」

 

 

2ヶ月前。

自身も製作に関わったFCを駆る蓮とのバトルで蓮に敗れた内藤。

その際に蓮から感じた強い熱意。

彼にロクにメンテをしていなかったFCを蘇らせるという行動をさせた。

当時のセッティングから少し変更されたFC。より彼の走りを伸ばす仕上がりになった。これならどんな車のテールも突っつき回せる。

 

 

「離れない……っ」

いくら振りほどこうにもFCはぴったりとついてくる。

鬼気迫る走り。ほんの一瞬でも気を抜いた瞬間撃墜される。

『追撃のテイルガンナー』の本領発揮である。現役時代の輝きは色褪せていない。

 

 

「私も本気で行かないとダメね」

林原もRX-8の性能(ポテンシャル)を最大限引き出すべくハードプッシュ。

5速8900回転、279km。6速に入れてさらにスピードが伸びていくRX-8。

深夜になって魔法が解ける……事はなく、むしろ魔法がかかったようにスピードが上がる。

「ついてこれる!?」

 

 

 

「美世のプロデューサーがあんなにやってるんだ……。長く走ってる俺がチンタラやってんのが恥ずかしい」

蓮の走りは勢いがある。全盛期の自分だってあんな走りができていたはずだ。

しかしバトルをする事がなくなった結果、考え方が「守り」に入ってしまっていた。

だから蓮の走りが内藤を突き動かすには十分すぎる程のきっかけになった。

ペースアップして逃げるRX-8を撃墜(オト)すべくFCが猛然と追う。

 

 


 

 

場所は変わって横羽線。

紅いR34GT-Rがゆっくりと走っていた。

「おーねがいー、シンデレラー♪」

美世だ。彼女はとても上機嫌だ。

何があったかと言うと次の仕事で車雑誌関係でインタビューを受ける事になり、自分の車を見てもらえるからだ。

コツコツと自分で仕上げたRをたくさんの人に見てもらうことが楽しみだった。

ウッキウキで走ってる美世のR34の後ろから爆音が聞こえてきた。

「ん?」

音に気づいた時には美世のR34をパスして2台の車が前に出ていた。

「健さん?……とあれは誰?」

赤いFCが内藤の車だとはすぐにわかった。もう1台のRX-8は初めて見る。

「健さんが本気で走ってるの初めて見たかな……?ま、追うか」

R34がスピードを上げて2台を追い始める。

 

 

「美世か……。ちょうどいい、アイツとのツーリングだ」

「置いてかれんじゃねえぞ」

内藤のFCが一気にRX-8をまくった。その見事な動きに美世も思わず見とれる。

「すごい……。全然現役じゃん」

一気に突き放す。そう言わんばかりにFCは横羽線を疾走する。

 

 

 


 

 

 

3台が横羽線を駆ける一方。

ここは都心の方にある765プロ。

「音無さん、帰りましょうか」

「ですね」

赤羽根Pと音無小鳥が残業を終わして事務所を後にした所だ。

 

 

 

「最近貴音が走ってるって聞かないんですよね」

「前みたいな事がないだけイイと思いますよ……」

「……ですね」

話しながら歩く2人。

765プロに所属するアイドル「四条貴音」。彼女はある時に呪われていると噂されるある1台の車を手に入れて変わった。

まるで何かを探すように走る。その行為が周りからみたらどれ程危険な行為か。

法定速度を軽く超過している。それだけでも危ないのに彼女は「争う」ように走る。

去年は彼女の行動が問題になっていた。今は落ち着いているように見えるのだが……。

「お……」

「どうしたんですか?」

「あの車……」

黄色いFD3Sが止まっている。そのFDの持ち主もいた。

「小日向君じゃないか!」

「あ、赤羽根さん」

蓮だ。

「何してたんだい?」

「僕は帰る途中だったんです。赤羽根さんは?」

「俺も残業終わらして帰ってたトコだったんだ」

「大変ですね」

「君も大変だろう?プロデューサーにレーサーに」

「あはは……」

 

 

 

「貴音ちゃんは……今は走ってないはずです」

蓮は告げる。

約半年前に彼女は自分達と戦った時に走る意味を見つけた。それがきっかけで彼女はもう走っていないはずだ。

「でも貴音はあの車に今も乗っている。多分今も俺達の知らない所で走ってるんだろう」

「……有り得ますね」

「蓮君はなぜこの車で走るの?」

小鳥が聞く。

「……夢のため、ですかね」

 

 

「そろそろ行きます」

蓮がFDに乗り込む。すると赤羽根Pが運転席の方まで来て蓮に言う。

「小日向君ーーー」

 

 

 


 

 

 

場所は再び横羽線。

状況は変わらず内藤のFCが先頭。続いてRX-8とR34だ。

林原が勝負に出る。オーバーヒート覚悟の全開だ。

「こうでもしないと無理じゃん?」

スピードを上げてくるRX-8。

「今度は俺が食われるかっ」

先頭を走る赤いFCの後ろにRX-8が食いついている。

スリップストリームからのオーバーテイクは時間の問題。

 

 

 

その時だ。

周りの空気が変わったのは。

 

 

「あれは……っ!?」

「来たか……。俺はこの瞬間を待っていたんだっ」

「『迅帝』……」

 

 

蒼いボディのBNR34(GT-R)

「壱・撃・離・脱」と大きく書かれたサイド。

纏うオーラは別次元といえる領域。伝説のマシンに相応しいオーラを纏う。

「あ……」

美世の脳裏に東京に初めて来た時の事が流れていた。

バスの窓から見た蒼い車。

それこそが迅帝のR34。美世の憧れ。

 

 

 

「ケリ付けるぜ迅帝!!」

内藤のFCが先程まで出ていた速度よりもさらに早い速度で前に進む。

 

 

「ちょ……速すぎるっ」

美世のR34は一瞬でチギられ、蒼いR34のテールランプがみるみる遠くなっていく。

全然相手にならなかったのだ。

「ぐううううっ……!!」

あまりにもあっけない敗北。何よりも相手にされなかったという悔しさ。

 

 

 

 

「腕は落ちてねえな……」

軽口を叩きつつ逃げる内藤。迅帝のRはまだ遠いがいずれ追いつかれるだろう。

林原のRX-8はバックミラーから消えていた。戦意喪失したようだ。

後ろから確実に近づいてきている蒼いR34が現れるのを待つ。

 

 

 

「まだ走ってたのか」

懐かしいライバルとの再会。何年も前に争ったのが最後。なのに今でもその時の事が鮮明に思い出せる。

赤いFCのテールランプ目がけてRは加速していく。

フルチューンのRBの咆哮は大気を震わせる。

獲物を追う猛獣のような加速でFC(標的)を狙う。

 

 

 

「くそっ」

内藤は焦りを隠せなくなっていた。

バックミラーに映った光。このままだと確実にブチ抜かれる。

そう思った時にはR34がFCのリアバンパーに軽く接触していた。スリップストリームの恩恵を受けるためにギリギリまで近づいていたのだ。

「こっちがヤラれるかっ!くそっ!!」

FCは先程までのバトルの負担もある。水温油温共に危険域。タイヤも持ちそうにない。

 

 

「やらせてもらう!」

蒼いR34がFCの前に出る。

「!!」

鮮やかな追い抜き。R34はそのまま離れ始めた。

FCを凌駕する大パワー。内藤はR34の丸いテールランプを睨む事しかできなかった。

 

 

 

「あの紅いR……」

男は先程パスした紅いRに強い興味を持っていた。

どこかであのオーラを放つドライバーを見たことがある。

「誰だっけな……」

彼はRを走らせて夜の闇に消えた。

 

 

 

 

「……完敗か」

内藤は歯噛みする。数年ぶりのリベンジは敗北という結果に終わった。

しかし内藤の闘争心に火がついた。現役時代に情熱を燃やしていた自分が戻ってくるのがわかった。

そして美世達は「今」燃えている。現役の美世達の思いが伝わった。

 

 

 

「やっと見れた……。『迅帝』」

自分が走るきっかけになった蒼いR34GT-R。この目で再び見ることが出来た。

美世の中の歯車が再び回り出す。1年前に『悪魔のZ』と『ブラックバード』を追っていた時のように。

 

 

 

 

 

蓮は赤羽根Pの言葉が頭に残ったままだ。

「もしも貴音が走っていたら、止めてほしい」

「赤羽根さん……。貴音ちゃんはたぶん止まらないですよ」

 

 

 

 

伝説を追う者達はお互いに引き寄せ合う。

『迅帝』を追う者達が集まる。そして現れた『迅帝』。

事が大きく動き出すための最後のきっかけ(ピース)が今揃おうとしていた。

 




歴戦の首都高ランナーの走りは衰えを知らない。
むしろ今の首都高ランナーに刺激を受けてレベルアップしていく。
そして……迅帝現る!!




ネタ解説です。
・12時過ぎのシンデレラ登場
「首都高バトル」から「12時過ぎのシンデレラ」こと林原美津江が登場。アメリカ帰りのサッパリした性格の女性です。ここでは「首都高バトル01」の乗機RX-8に乗っています。RX-7は過去に乗ってたという設定。
迅帝に憧れており、その事もあって迅帝の動向を知りたい内藤に呼び出されたのです。
・迅帝登場
ついに姿を現した迅帝。まぁ、実は前に登場してますが……。
ここで登場する愛機BNR34スカイラインGT-Rは「首都高バトル01」に登場する仕様です。そのためエアロは買える物で構成されてるためプレイヤーも再現可能です。




首都高バトルを語る上で欠かせない迅帝。
ちなみに私が好きな迅帝のR34のデザインはスマホ版「XTREME」に出るモデルです。





次回、明かされる迅帝の正体。彼は何故首都高を一度降りたのか。
そして美世は迅帝と対面する!!
次回「惹かれ合う者編」完結!


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STAGE25 首都高(戦場)に伝説は(はし)

美世の憧れの存在「迅帝」。
蒼いGT-Rは彼女に決断をさせる。





8月中旬、夢斗達は2日間の大学祭。今日は最終日の2日目。

「麺が足りねえ!」

「ソースよこせ!!」

「野菜足りねえよ!肉多いって!」

殺人的な忙しさ。昨日は学内だけだったが、今日は一般の人もいる。その数はアイドルのライブに来るくらいとはいかなくても普段の学校とは思えない程の人数。

絶え間なく接客が続き、ストレスが溜まる。「客来んな」。この場の全員がそう思っている。だが客にキレる訳にはいかない。

「あざっしたーーー!!」

「焼きそば2つーーー!!」

「安くてウマい焼きそばはいかがっスかーーー!!」

キレないように大声で発散しているのだ。それは傍から見たら怒鳴ってるようにしか見えないのだが。

 

 

「焼きそばどうですかーー!?」

夕美が呼び込みをしているだけあって、人が多い。さすがアイドル。

「夕美ー、休憩回って大丈夫!?」

「大丈夫だよ!」

呼び込みも大変だ。並んでる人を列にまとめてるがトラブルも少なくない。

大学祭初日の昨日は割り込みがあって揉める事があった。

その時の仲裁(制裁)は夢斗がやった。手段が手段だったために担任にクソキレられたのは言うまでもない。

 

 

「焼きそば3つ貰えますか?」

「焼きそば3つーーー!!」

「あ、やべぇ!肉ねえよ!」

「値下げしろ!肉ねえの謝れ!」

「いやー、すんません。肉今切らしてて。50円引きの1個150円でどうすか」

「うん。買うよ」

「ありがとーございます!!」

買い出し班も大忙し。交代で買い出しに行くのだが休みがない。

 

 

 

「すみませーん!3つくださーい」

「ハイOK!!」

夢斗が屋台の奥から出てくる。

「ハイ焼きそば……って小日向さん」

「忙しそうだね、夢斗君」

蓮だ。美世と美穂も一緒。

「わりー、ちょっと抜ける」

「星名!?」

接客をサボって夢斗は出ていった。

 

 

 

「なるほどねー……」

蓮は仕事終わりに夕美が大学祭に出てるという事で見に来たらしい。

美世達も行きたいと言うため、2人を連れてきたとの事。

今夕美は呼び込みをしている。

「戻らなくて大丈夫なの?」

「へーきへーき。浩一がどうにかしてくれるし」

浩一はクラスの出し物を考えるのに関わってる。簡単に言えばリーダーみたいな物。全体の指揮を浩一が担当しているのだ。

理由はまず料理が上手。浩一が作った焼きそばはクラス全員が絶賛した程。一人暮らししているのもあるがそれだけでは出ない味。センスがある。そのため浩一の焼きそばのレシピをまとめて調理班に渡してある。

次に「マトモ」だから。クラストップの成績だが問題児の夢斗にツッコミを入れられるほぼ唯一に近い存在だからだ。

ちなみに夢斗にツッコミを入れられるのはあとは夕美だけだ。しかし夢斗のやる事がぶっ飛んでるのもあり、ツッコミができてもそれを止められないのである。

そのため浩一が選ばれた。……ほぼ後者の理由で選ばれた浩一は「納得いかない」と言っていたが。

 

 

 

「うん!美味しい!!」

美世が美味しそうに焼きそばを啜る。

「そーいや会えたんすか?『迅帝』ってのに」

それが聞こえた途端に美世は夢斗の方を向く。

「うん……。あたし全然相手にならなかったけどね」

「迅帝って?」

「すごい人ってだけ分かればいいかな。美穂ちゃん」

「あっ!夢斗君いたし!」

夕美に見つかった。

「もー!!こっち大変なのに!!」

「いやいやすんませんね……」

夕美に引きずられて夢斗は連行される。

「夕美ちゃんも大変だね……」

蓮もついて行く。

 

 

 

 

このあとは特にトラブルなく大学祭は終了。

強いて言うなら夢斗がエボを使ってパフォーマンスしようとして友也や浩一達に止められた事くらい。

 

 

 

翌日。

美世は藤巻に呼び出され横浜にいた。

「なんだろ……」

藤巻に呼び出されるのは今までなかった。

「こんにちはー」

工場に入る美世。

「どうも、原田さん」

美世を迎えたのは藤巻だ。

「あの、話ってなんですか……?」

「おお、聞きたいんだね。ついてきて」

藤巻に続き、工場の奥へ。そこにはブルーシートが掛けられた車が。

藤巻がブルーシートを取り、現れたその車。

「え……っ。このR!!」

それは『迅帝』のR34GT-Rだったのだ。

「原田さん、こう思っただろう。『なんで迅帝のRがあるんだ』って」

「そうです。何故……」

「俺が昔首都高を走っていたのは多分知ってると思う。どうだい?」

「知ってます。健さんが教えてくれました」

「内藤か……懐かしい。そこはまあ置いといて。俺はRで首都高を走ってた。当時は『悪魔のZ』や『ブラックバード』が現役だった時代さ」

「今はどうなのか知らないけど……。その辺は原田さんが詳しいはずさ(笑)」

「ですね……(笑)」

「その時に1台のRが俺の前に現れた。蒼いRがな。そのRのドライバーこそ……」

「『迅帝』……」

「その時から中々速かった。でも俺を超えられなかった」

「だから俺を『師匠』と呼んで弟子入りしたのさ。アイツは俺の後をいつも追っていた」

「だが……。アイツはある時首都高に姿を現さなくなった時期があった。そして戻ってきたアイツは初めて見た時とは違うRに乗っていた。俺はこのR34に敗れたんだ……」

「アイツはそのまま首都高最速の座を俺から奪い取った。そして首都高の伝説として君臨し続けた」

「でも……それは長く続かなかった。アイツはある日突然首都高から姿を消した。そのまま俺との関係も消えた……」

「アイツはプロレーサーとしてデビューしたからって言ってたが、もう1つ何かを隠しているようだった……。でも俺にはわからなかった」

「この車はアイツから直してほしいと頼まれてね。でも俺はこのRの修理を原田さんにやってもらいたい」

「へっ!?」

「俺は原田さんの事をアイツを超えられるドライバーだと思っている。原田さんもこのRに何か思う事があるだろう」

藤巻の言葉は的確に美世の心を動かす。

「あたしに……あたしにっ!!やらせてください!!」

「そう言ってくれて嬉しいよ」

「えっ!?えええ!?」

現れた人物は岩崎だったのである。

「俺の車なんだ、そのR」

その言葉を聞いた美世は頭の中でバラバラになっていたピースが一つになるのがわかった。

「俺がこの車の面倒を見ないといけないのは分かってる。でも、このRに俺はもう手を入れられない」

「でも……原田さんはRの事をよく知ってる。ドラテクもあってチューンもできる。原田さんのRだって自分で手がけてると聞いたし」

美世が藤巻を見ると藤巻は笑っていた。藤巻が岩崎に教えたと確信した美世。

「原田さんは俺のRを見たんだろう?」

「はい。この間も」

「そして数年前に走っていたこのRを見ました」

その時こそ迅帝が現役だった時。今から6年も前になる。

「あたしはそのRを見て決めたんです。同じRに乗っていつか追いたいと」

美世を見た岩崎は少し考えて言う。

「わかった。原田さんに俺のRを託す」

「Rのセッティングは原田さんが出してくれ。なあに、俺はどんな車でも乗る。パワーを落とすとか足を別物にするとか何でもいい。原田さんが手を入れた最高のRで俺は最高の走りをする」

「そして……いつかやろう。原田さんが見た俺がどんな走りをしていたのか知りたい」

R()に手を入れるのは原田さんだ。だから俺のRの事は全部筒抜けさ。長所から短所、そして弱点とかも全部知り尽くすだろう。でもそれがいいさ」

岩崎は絶対的な技術を持つ。しかしチューニングカーに理解が深いのは美世。

走りの岩崎と技術の美世。お互いの長所が見えている。だからそれぞれに足りないモノがわかる。だが岩崎は美世が勝る「技術」面をさらに伸ばしてるのだ。要するに岩崎が背負う「ハンデ」だ。

「俺のRを参考にして自分のRをチューンするも良し。とにかく最高の勝負にしよう」

「わからない事は藤巻さんに聞けばいい。この人は俺のRをよく知ってる」

首都高最速と呼ばれた「パープルメテオ」こと藤巻直樹。そして「迅帝」こと岩崎基矢。

首都高最速を本気で成し遂げた2人。その愛機はGT-R。Rを本気で走らせる事に関してはこの2人を超えるドライバーはまずいないだろう。

「……わかりました。やってみます」

美世がこれほどまで責任感を感じて物事をやるのは初めて。

憧れの存在に自分が手を入れる。プレッシャーもあるし、そしてワクワクもあった。

「一度乗ってみるかい?」

岩崎が聞く。『迅帝』の走りを間近で見るチャンス。

「お願いします!」

 

 

 

PM4:00。

ここは湾岸線。横浜から大井方面へ向かうのは迅帝の蒼いR34スカイラインGT-R。

運転するのは岩崎。助手席(ナビシート)には美世が座る。

 

 


 

 

今の車と比べても古さを感じさせないシルエットのスカイライン。R35が出た今でもRB系GT-R最後のモデルとして非常に人気が高い。というよりRB系GT-Rの人気が急上昇しているのだ。

今から約10年前に生産を終えた「スカイラインとしての」GT-R。数年後にR35型GT-Rがデビューした。しかし当初の評価は低かった。その後何回かマイナーチェンジを施されて今日の評価を受けてるR35だが、R35のアンチはその理由にスカイライン伝統の直列6気筒を捨てた事をまず出す。

R35GT-Rのエンジンは排気量3.8L、V型6気筒の「VR38DETT」。「TT」という表記からわかるようにツインターボを装備。

これに対し第二世代GT-R通称「RB系GT-R」は排気量2.6L、直列6気筒の「RB26DETT」。こちらもツインターボ装備。

直列とV型。6気筒というのは同じだがその構造は根本的に違う。

古くからのGT-Rファンは直列6気筒を載せるGT-Rにこだわる。そのためV型になったR35を「邪道」と言う人もいる。

アンチがそれ以外の理由を出すとなれば「スカイライン」の名を外したからか。

やはりGT-Rはスカイラインがなければその名は存在しないようなモノ。

一応スカイライン以外にGT-Rの名を冠した車は存在する。ただし日産ではないのだが。

いすゞのベレットがGT-Rの名を冠してる。しかもスカイラインよりも先にGT-Rを名乗った(厳密にはGTR。マイナーチェンジ後はGTtypeR)。

だが「GT-Rといえばスカイライン」という人がほとんどだ。ベレットが先にGT-Rを名乗ったと今の人に言ってもまず信じてもらえないだろう。

それ程までに「スカイライン=GT-R」のイメージは大きいのである。

また以前も話したと思うがR30スカイラインは当時最高クラスの性能を持ちながらGT-Rを名乗る事が許されなかった。直列4気筒の「FJ20」を搭載していたからだ。

GT-Rファンは「『直列6気筒』『スカイライン』というのがGT-R」という決定事項みたいなイメージを持っている。

もちろんR35が好きなGT-Rファンもいる。しかしGT-Rはスカイラインでなければと主張する人もいる。

そしてR35のアンチ以外にもR35が嫌いという人が出す理由は「走るフィールドの変化」だ。

スカイライン時代のGT-Rはサーキットで戦うために開発された。これは「スカイラインGT-R」を初めて名乗ったPGC10型スカイラインから続くコンセプト。

R32型GT-RがグループAでの勝利を目指して開発、ケンメリことKPGC110型GT-Rの生産終了から実に16年振りの復活を遂げた。

R32GT-RがグループA規格で行われていた日本のツーリングカーレース最高峰であった「全日本ツーリングカー選手権」のレギュレーションに対応させるために作られてその結果、「GT-RにはGT-R」という図式が成り立つ程の活躍を見せた。GT-Rが速すぎたためにグループAが消滅するきっかけにもなったのだ。

その後はスーパーGTなど様々なレースで活躍を続けたGT-R。R34型GT-Rが2003年に撤退するまでスカイラインGT-Rは活躍した(スーパーGTからR34撤退後の日産のマシンはフェアレディZだった)。

スカイラインGT-Rの戦績は輝かしいがそれは「国内」のレースでの話だった。

R35GT-Rは「世界」を見据えて開発されたのである。

「新次元マルチパフォーマンス・スーパーカー」と言われたようにR35は「スポーツカー」だったスカイラインGT-Rとはジャンルが違った。

世界中のスーパーカーに対抗するために作られたR35。一般的に「スーパーカー」と言われる事が多いが日産側は「スポーツカー」という認識である。

しかしそんな事は普通に車に乗る人から見たら関係ない。

スカイライン時代はちょっと背伸びすれば一般人でも買える値段だった。

しかしR35はごく初期型は買う事はできるかもしれないが、現在のモデルは1000万円を超える値段だ。

これでは一般人に手が届く所ではない。値段設定からして「世界」のスーパーカーに対抗しているとも取られる。

 

話が少し逸れたが、本題に戻ると世界のレースで戦うために作られたR35。

2009年にFIAGT選手権のGT1クラスに参加した(ただしこの時はテスト参戦だったため賞典対象外車輌としてのエントリー)。その後も参加し続けてる。

他にも活躍はあるが、ここで終わる。

レース以外でも日常生活を見据えているR35。「誰でも、どこでも、いつでも」スーパーカーの魅力を味わうことができると評されてるようにスポーツ走行以外にも重点が置かれていた。それもあり、上のジャンルが振られたのだ。

 

 

新世代と旧世代。

それぞれに拘りがあるGT-Rファン。どちらを選ぶとなれば自分の好きな方に必然的に選択肢は向く。

そして美世と岩崎はそのどちらにも乗ったからわかる。

旧世代(R34)新世代(R35)。それぞれの長所も短所もハッキリと分かってる。

それでも選ぶのが難しいーーー。

 

 


 

 

「この時間も混んでるしなあ(笑)」

岩崎は全開で行きたそうだが、一般車が多く踏めない。

先程から全然スピードを上げていないのだ。

「岩崎さんは何故一旦走るのをヤメたんですか?」

美世が質問する。

「……俺は愚かなヤツだ。俺は走る事しか頭になくってね。当時の俺は本当に狂ってた」

「大切な人も守れなかった馬鹿野郎さ。俺は恋人を失った」

岩崎が語った事。当時彼には恋人がいたが彼女は病床に伏していた。彼は走りに没頭したために彼女と会わず、ある日彼女はこの世を去った。

自身の行為で彼女を助けれなかったという現実を突きつけられて岩崎は走る意味を失い、表舞台から去ったという。その際に藤巻との関係も消滅。

彼女を助けれなかった事を悔やみ、医者になるために勉強していたが挫折。

生きる意味を失いそうになっていた所、アマチュアレースでの活躍を聞きつけたレース関係者にスカウトされてスーパーGT入りしたとの事。

 

 

「そんな事が……」

「だから俺はもうRをチューンする資格はない。本当は乗るのも大きな罪だけどね……」

悲しみが見えるその横顔。

「だから誰かに負けたら俺はRを降りる。永遠に」

「俺を負かすかもしれないのが原田さん、君だ」

 

 

 

「おっ、やるかい」

R34の後ろにZ33とS15が。パッシングされた。

「このRの本気をナメるな」

グゥオオアアアアアアアア

R34は咆哮のようなRBサウンドを轟かせる。

数秒後にはS15の姿は見えなくなった。残るはZ33。

キュイイイイイイイイイイッ

シーケンシャルミッション特有のギアノイズが車内に響く。

岩崎は5速から6速にシフトアップしZを突き放す。その走り去る姿はまさに「壱撃離脱」の一言。

 

 

(すごい……)

運転する岩崎を横目に思う。

スーパーGTで見た「レース」の走りは美世が驚くような技術でいっぱいだった。しかし今の岩崎の走りは「ストリート」での走り。ストリートならではのレギュレーションなどに縛られない大胆な走りは純粋に速さを追求した無駄のない完璧な走りだった。

「どんな手段を使ってでも前に出る」そう言わんばかりの勢いで駆け抜けていった。

 

 

 

「本当にすごい車ですね」

「……コイツの凄さで取り返しのつかない事になってしまったけどな」

「あっ、ごめんなさい!」

「大丈夫さ。気持ちの整理はついてる」

岩崎のR34は今から10年以上前の車とは思えない性能を誇った。

これほどのモンスターマシンを美世は直していく事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

『迅帝』が駆るBNR34スカイラインGT-R。

美世は迅帝こと岩崎基矢の頼みでこの伝説のマシンを修復する事になった。

そのRは自身の憧れの象徴でもあった。美世はこのRに何を思うのか。

 

 

 

 

そして……最後のピースがハマった。

時代を超えた伝説のマシン達が集うのはもう少し後の話である。

 

 




ついに明らかになった迅帝の正体。岩崎は自身の行為で大切な人を失っていた。
そんな彼が持つR34を託された美世は……。





ネタ解説です。今回これだけ。
・岩崎の過去
これは「首都高バトル(テン)」の設定が元。「医者を目指してた」というのはPSP版の職業が「医者」になっているためそれを利用しました。




今回迅帝を書くにあたり、大体は「首都高バトル01」辺りの迅帝が元になってますが一部は「首都高バトルⅩ」も入ってます。
01をあまり本気でやってなかったのもあってⅩの要素が目立つと思います……。ご了承ください。




次回、蓮の故郷山形へ!
夢を目指した彼が見る故郷は。





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創りあげていく物編
STAGE26 「(約束)」は破られない


今回の話は外伝「小さい日向の少年と少女」の内容が関わります。
そのため読んでからこの話を読むことを推奨します。




故郷山形で蓮は何を思う。
始まりの地で明かされる2人の約束の意味は。


8月下旬。

夢斗達は友也達の送別会を終えた後だった。部の全員で首都高を走った最初で最後の機会であった。

最後の最後まで夢斗に振り回された友也達。

3年への引き継ぎを経て友也達は引退した。

 

 

 

その後夢斗達は様々な競技に参加する事に。

夢斗の活躍でラリーの大会で部は地方戦優勝。本戦出場のために夢斗達は近畿地方へ向かった。

 

 

 

 

 

 

場所は変わって山形県。

蓮の故郷だ。今日はテレビ番組の収録のためにやってきていた。

ここは新庄市。今日は新庄市の名物の食レポや新庄東山焼の制作体験をする事になっている。

「新庄市だけじゃなく山形ってラーメン屋さんが多いですよね」

美穂が言う。美穂は山形に来るのは初めてだった。

「というより麺系料理の店が多いんだよね」

蓮が説明する。

「りんごを広めなきゃ……」

「あかりちゃーん、もう少しで収録始まるからねー」

「はーい!」

新人アイドル達もだんだんアイドルの仕事に慣れてきたようだ。

 

 

「こちらが新庄市名物のとりもつラーメンです!」

番組の司会の女性が解説する。

「もつって合うんですか?」

美穂が聞く。

「もつがすごい美味しいんご」

「ラーメンは美味しいでしょ!そうでしょプロデューサー!」

あかりが元気いっぱいに蓮の方を見る。なお現在収録中だ。

「う、うん……。すごい嬉しそうだね、あかりちゃん」

「だって久しぶりに山形に帰ってこれたもん!そしてラーメンが食べられるし!」

「あはは……。僕も帰ってくるのは1年ぶりだし」

 

 

 

 

ラーメンを食べた後は東山焼の制作体験。

「うう……上手く形にならない……」

「我が友よ……禁忌に触れるな……」

神崎蘭子だ。

「なんて言ったんご!?」

「ああ、大丈夫!見ないから!!……たぶん」

「分かってるんご!?」

蓮は蘭子の言葉を理解できる。蓮曰く「美穂ちゃんといたからわかる」……らしい。

蘭子と美穂は熊本県出身。蓮は山形なので関係はないはずなのだが、幼い頃から美穂といる事が多かったのがあるのかもしれない。

ちなみに先程の言葉の意味は「プロデューサー、内緒です」という意味だ。東山焼がどんな形になったのかは彼女のみが知る。

 

 

「灼熱の業火が……我が身を焦がす(日焼けしちゃう)」

「暑いね……」

「みんなごめんね、あと少しで終わるからもうちょっとだけ待ってね」

8月も終わりに近いとはいえこの猛暑だ。

蓮が関係者と打ち合わせ中。この後5分後に打ち合わせが終わり宿泊先の宿へ向かう事に。

蓮がFDに乗ろうとした時にスタッフが声をかけた。

「小日向さん、久しぶりの故郷(ふるさと)を楽しんだらいかがですか?」

スタッフ達の計らいで蓮は実家へ向かう事にした。

「あのっ!」

「美穂ちゃん?」

「私も行っていいですか!?」

「うん、いいよ。母さん達も美穂ちゃんに会いたいだろうし」

こうして蓮と美穂は蓮の実家へ向かう。当然美穂は蓮の家に行くのは初めて。

 

 

 

「ただいまー!」

「おかえり、蓮。1年ぶりかしら?」

「だね。すごく懐かしい感じがする(笑)」

「お、お邪魔します……」

「あら美穂ちゃん!?ちょっとお父さん!!」

蓮の母が慌てて茶の間にいる父を呼んでくる。

「……なんかごめんね」

「私は大丈夫です」

 

 

 

 

美穂を交えての蓮と両親の会話。

「美穂ちゃん大きくなったね〜」

「アイドルの仕事大変じゃない?」

「大変な時もあるけど……蓮さんと一緒だから大丈夫ですっ」

「蓮がヘンな事言ったら怒ってもいいからね」

「いやいや言わないから……」

「蓮さんは誰よりも大変なはずなのに……私は弱音を吐く蓮さんを見たことがないんです」

「僕がへばったらみんなが心配しちゃうからね……。みんなに迷惑をかけてしまうし」

アイドル達の前では例え年下のアイドルにも優しく接する蓮。だが、美穂はそんな蓮の「自然体」を幼い頃から見てきた。

今、美穂が見ている蓮は「プロデューサー」という立場から解放されて「小日向蓮」という一般人として過ごしている姿だ。

 

 


 

 

夜。蓮のスマホが鳴り響く。

「はい小日向です。……はい」

「……わかりました。はい、伝えておきます」

電話が終わった蓮が戻ってきた。

「何の用だったんですか?」

「帰り道の道路が土砂崩れで通行止めになったって。東京方面に帰る手段がないんだ」

「土砂崩れ……」

「迂回路もないし……。みんな明日まで帰れない」

「蘭子ちゃん達は大丈夫だって言ってた。明日以降合流してなんとか帰る形かな……」

 

 

 

「どっちにしても何もできないし……」

「そうだ、蔵王まで行ってきて大丈夫かな」

両親に聞く蓮。

「構わないぞ」

「行くのはいいけど美穂ちゃんに何かあったら許さないわよ」

「わかってる。ケガさせるワケにいかないからね」

蓮のFDに美穂も乗り込み、FDは蔵王山へ向かった。

ちなみに美穂のFCは家の隣の倉庫に置かれてる。

 

 

 

「蓮さん……道が『見える』んですか?」

蓮のFDは蔵王山を猛スピードで駆け上がっていく。アクセルを全く緩めない蓮を見て美穂は聞いた。

「わかるよ。何ならアスファルトのシミもわかる」

「……えーっと、蓮さんはここをどのくらい走ったんですか」

「この車を買ってから大体半年くらい」

 

 

 

 

蓮は高校最後の年にFDを購入。クラス全員で蔵王を攻めた。

蓮は自身が長所とする記憶力の高さを生かして蔵王という(コース)を覚えた。雨の降る日も雪の降る日も走り続けた。

完璧な走りで勝利を重ねた蓮はやがてクラス最速になった。

蓮に畏怖を込めて付けられた異名が「公道の流星」だった。

しかし蓮は最終的にある事が原因で精神(ココロ)が壊れてしまった。

それ以来蓮は蔵王を走らなくなり、346プロに就職するのに合わせて蓮は東京へ旅だった。

そのため蓮はおよそ1年ぶりにこの蔵王を走っている。

 

 

 

 

 

帰り道。FDはヘッドライトが照らす道に沿って蔵王を下っていた。

「……」

「……」

2人は口を開かず、FDが進む道だけを見ていた。

聞こえるのは13B(エンジン)が吠える音、タービンが過給する音、タイヤのスキール音、風に揺れる葉っぱの音。

自然が奏でる音以外にする音はFDが発する音だけだ。

 

 

 

「蓮さん、後ろっ」

FDの後ろにM3(E46)が。煽ってきている。

「追い越すなら早くしてほしいな……」

しかし一向に追い抜く気配がない。

 

 

「古臭い国産車は突っつき回したくなるぜ!」

「ヤっちゃいましょうよ!ねえ!!」

金持ちの走り屋気取りの男達。BMWという外国のメーカーの車で国産車を馬鹿にしている。

 

 

 

 

「飽きた。さっさと消えちまえ」

M3がFDを追い抜く。

その時M3がFDを抜く際にFDに幅寄せしてきた。

「蓮さんっ!!」

運転席側に寄ってきたM3。

蓮はブレーキを踏み、ステアリングを切ってM3を躱した。

「……そういうことか」

蓮の声が普段の調子とは違う。

「美穂ちゃん、少しだけ我慢してね」

「すぐに終わらせるから……!」

蓮が静かにキレた。

 

 

 

 

「さっきのヤツが来た!?速いっ」

男達は後ろからロケットのような勢いで迫る黄色い車をバックミラーで見る。

カーブ1つ曲がると一気に近づかれる。しかもさっきまではそれほどスピードを出していなかったためわからなかったが後ろに迫る車は相当なチューンが行われている。360馬力あるM3を軽く上回るパワーだ。

このM3が相手にならないと悟った男達。

 

 

「振り切った……?」

バックミラーに眩しく入っていた光が消えた。

安堵した男達。

シャァァァアアアアアアッ

「うわあああっ!?」

「なんだっ!?」

そこには黄色いFD()が。消えた光が再び視界に入ったと認識した時には「いた」。

「まさか……ヘッドライト消してたのか!?」

「嘘だ、こんな事ありえない!!」

 

 

「すごい……!」

美穂は蓮のそのテクニックに驚きを隠せない。

蓮がヘッドライトを消し、再びヘッドライトを点灯させた時には前に出ていた。

ヘッドライトを消したまま100km以上のスピードで走行したのだ。

蓮の驚異的な記憶力の高さが為せる技術である。

M3の前に出た蓮のFDは一瞬で消えた。M3がコーナーを曲がった時にはテールランプの光が残像のように線となって見えるだけ。

やがて完全に振り切られたM3は甲高いスキール音を聞いた。FDがアクセル全開のドリフトを決めている事は想像に難しくなかった。

「バケモノかアイツ……」

 

 

 

 

 

 

「ごめん、大丈夫?」

冷静さを取り戻した蓮。

「ちょっとだけ怖かったけど蓮さんの運転だから大丈夫です」

「こうやって上手くなったんですか?」

「そうだね。その時の自分がいなきゃ僕は346プロにいないし」

 

 


 

 

家に帰ってきた2人。

そのまま2人は母親に蓮の部屋に押し込まれる。部屋がないため蓮の部屋を2人で使ってくれと。

 

 

「蓮さんの部屋……」

蓮が最後に自分の部屋を見たのが約1年前。昔から部屋には色んな物が綺麗に纏められて置かれてる。車のプラモデル、ドリフト天国など車関係の雑誌、高校時代の教科書など。

「母さんが掃除してくれたのかな……」

部屋の物はホコリを被ってない。本棚の本は発売された順に並べられている。

「あ……」

美穂が蓮の勉強机の上にあるモノを見つける。

「私と……蓮さん」

勉強机に立てられていた写真立ての中に入っていた写真は幼い頃の2人が写っていた。

「中学生になってこの机を買ってもらった時にこの部屋を掃除してたらね、母さんがどこかから見つけてきた写真なんだ」

写真には「1999/07/01」とあった。この時蓮は7歳、美穂は5歳である。

「美穂ちゃんはこの時からあまり変わってないんじゃないかな?」

「そんな事ないですよ。むしろ蓮さんが変わってないんだと思います」

こう言ってるが、実際2人ともあまり変わってない。

もちろん成長して変わった所はある。心も体も大人に近づいていた。

蓮は今年20歳になり、大人になった。美穂は今年で19歳になる。

しかし、幼い頃から変わってない2人の共通点。「(約束)」だ。

 

 

 

当時高校受験を控えていた中学生の美穂と当時高校2年生の蓮が結んだ「(約束)」。

アイドルになり、ステージに立つ美穂を蓮が見届けるというモノだった。

結果的に美穂はアイドルに、そして蓮はプロデューサーになった。

そして蓮は約束を守った。蓮はもう一つ夢を作る。「アイドル達みんなの力になりたい」と。

幼少期に憧れてたプロレーサーにもなった蓮。

美穂は憧れのアイドルになり、自分を変えてくれたアイドルという姿で今度は自分が周りを変える。

 

 

夢という未来は2人の約束のカタチ。1人では見えなくても2人なら見える。

 

 

 

 

「あの時は運命かな……って思った。アイドルを目指した美穂ちゃんと僕が会えるなんて思ってなかった。しかもアイドルに最も近いプロデューサーっていう立場になって。昔は離れ離れだったけど今は違うから」

幼なじみの美穂(少女)が本当にアイドルになり、(こちら)も新人とはいえプロデューサーになった事は美穂(あちら)も驚いただろう。

 

 

 

「そろそろ寝ない?」

「ですね」

部屋を出ようとした蓮。しかし。

「蓮さん?」

美穂に呼び止められる。

「僕はちょっと用事があるから(大嘘)」

「寝るって言ったのは蓮さんですよ?」

「そうだけど……」

「蓮さん……一緒に寝てください」

「……いろいろとまずいから待って。美穂ちゃんがここで寝た方がいい。僕はFDの中で寝てくるから」

「車の中だと寝れないと思いますっ」

「僕は大丈夫だから」

「うー……」

蓮が部屋を出ようと動こうとした途端美穂が蓮にくっついてきた。

「こうすれば!」

「ちょっ!?」

「蓮さんが行くなら私もついていきますから」

「……わかった」

美穂をFDで寝かせるワケにいかず、美穂の願いを聞く蓮。

 

 

 

 

 

「お布団あったかい……」

「う、うん……」

布団の中には蓮と美穂が。美穂(のお願い)に負けてこうなった。

そもそも布団が小さいのもあり2人は密着。ほとんど身動きが取れない。

「蓮さんってあったかいですよね。優しくて……」

「……そうかな?」

「だって私達アイドルをちゃんと見ているじゃないですか。誰一人置いていかないし、もし置いていかれたら蓮さんは絶対に助けに来るから」

 

 

幼少期から優しい性格だった蓮。

ケンカもキライ。しかし大切な人やモノを傷つけられたら立ち向かう。

蓮のその姿を見てきた美穂は蓮という存在が心強い存在になった。

 

 

 

「だから、あの日も私達を庇って……」

去年のクリスマスの日。765、346、876といった3つのプロダクション合同ライブの日に蓮への復讐を狙う男がアイドル達ごと蓮を殺そうとした。

蓮はその身を呈してアイドル達を守った。蓮は銃撃され、失血により意識不明の重体に陥った。

しかし蓮は奇跡的に生還。アイドル達は誰一人として怪我人を出す事はなかった。

 

「違うよ美穂ちゃん」

「え?」

「庇ったんじゃない。あれは僕がやらなきゃいけなかった事だよ」

「だってみんなを守るのが僕の役目だから」

どこまで行っても蓮はまず他人を考える。自己犠牲というレベルをはるかに超えている。

 

 

「そう言って……蓮さんが私達の前からいなくなってしまいそうで怖かったです。美世さんも言ってたけど苦しい時も全部抱え込んでそれでも弱音を吐かないのが……蓮さんが無理をしてるって思うようになって」

「蓮さんは人に頼られる事は多いけど自分が誰かを頼るって事をあまりしないから……」

実際蓮が誰かを頼る事は少ない。

「頼る事が僕は苦手なんだよね。いつも頼られる立場だから逆に自分が誰かを頼るってなると慣れてないんだ」

 

蓮は346プロの大半のアイドル達より年上。シンデレラプロジェクト第1期生の最年長であった新田美波と現在同い年(20歳)。しかしそれ以外のアイドルより年上。346プロ最年少アイドルである市原仁奈や龍崎薫(現在10歳)とは10歳も年が離れてる。

一応美世が蓮より年上なので美世を頼る事もできる。しかしアイドルである美世に負担をかけたくないという蓮の思いからそんな事はない。

 

 

「それでも蓮さんはもっと私達に悩みを言ってもいいんです!私達はいつも蓮さんに悩みを言ってるのに蓮さんだけ……何も言わないって不公平な気がして」

「ありがとう、美穂ちゃん」

そう言った蓮は肩の力が抜けたようだった。

 

 

「……」

気がついたら蓮は眠っていた。

「私、蓮さんに助けられてばっかりですね。でも、嬉しいです」

恥ずかしくて本人の前では言いづらい感謝の言葉。

 

 


 

 

いつからだったんだろう。

私のこの気持ちはいつからあるんだろう。

泣いたりしてた私をいつも助けてくれた。年上なんだけど同い年見たいな接し方。私の目線に合わせて話してくれた。

ヒーローみたいな人だと。

男の子は「悪い人をやっつける」のがヒーローだと言うと思う。

でも私は「困ってる人を助ける」のがヒーローの姿じゃないのかなって思った。

そういえば昔いじめっ子にいじめられた時に蓮さんに助けてもらったな……。その時のこと蓮さんは覚えてないと思う。けど私は覚えてます。

自分が傷ついても、私を守ってくれた。

 

 

 

 

そんな蓮さんの姿を見て私は決めた。

アイドルになると。小さい頃から私を支えてくれた蓮さんみたいに……っていうのとはちょっと違うけど。憧れの人と過ごした日々の中で私は思った。

蓮さんに変えて貰った自分。今度は自分が誰かを変えたい。

 

 

いざアイドルになったら大変だった。

初めてのお仕事はトークショー。あがり症の私は苦手な事。

結局本番では緊張しちゃってトークショーを上手く進められなかった。

なんだかんだでトークショーの依頼がまた私に来た。「照れてる美穂()が可愛かった」かららしくって。

でも私はこれじゃダメだと思った。そんなんじゃ蓮さんに見せられないって。

私は仲間達といろんな事にチャレンジした。

 

 

 

 

そして去年。

「蓮さーん!いた!本当に蓮さんだ!」

346プロに入社した蓮さんを見た時嬉しかった。なんでかは今でもわからない。

 

 

「美穂ちゃん」

「なんですか?」

「『約束』守るから。これからよろしくね」

「……こちらこそよろしくお願いします」

私と蓮さんは同じ目標に向かって歩いた。

 

 

 

やがて『約束』は守られた。

怪我した体で私がステージに立つ姿を見届けた蓮さん。

しかし346プロの中で流れてたウワサが怖くて蓮さんと話せなかった。

「蓮は346を辞める」どこからか出回ったウワサ。根拠はどこにもないはずだった。

けど私は根拠があると思ってた。『約束』を果たしたから346(ここ)を去るのではないかと。

でも蓮さんは346に残った。

「346プロは『家』みたいな存在」と蓮さんは言ったそうです。美世さん情報。

だからアイドルにまるで家族のように接するのかもしれない。

 

 

 

 

小さい時からとても近い距離で接していた私達。

今は一定の距離がある。私がそういう距離を自分で決めて作ってしまったのかもしれない。

それでもこの気持ちは初めて抱いた時からずっと変わっていない……。

 

 


 

 

「あら〜」

翌朝、向き合って寝ている2人の姿を母に撮られた。

さらに2人が蘭子やあかり達と合流する際に以前の事(女子寮での事)を聞かれて2人は返答に困った。

その時美穂が口をすべらせて蓮の家で2人で寝た事を言ってしまい、事務所内で2人への視線が痛いモノになったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは内藤自動車工場。

「……ふー」

美世だ。美世が整備してるのは客の車ではない。

あの日岩崎から預かったBNR34だ。

R34は一通りパーツを外されている。まずはチェックからだ。

「……歪んでる」

美世はBピラー周りに歪みを見つけた。

藤巻が言うにはなんと最大で1200馬力出ていたというこのR34。

それだけの超高パワーによる負荷がボディにこうして現れている。

「あたしのR、馬力(パワー)普通に負けてるし」

美世のRはNOSも使いギリギリ700馬力に届かない。500馬力以上の差があるのだ。

 

 

「こうやって見るとすげぇモンだな」

「健さん」

美世が振り向くと内藤が立っていた。

昔からこのRを見てきた内藤。だがじっくりとこの車を見るのは初めて。

「ボディ歪んでるな」

「でしょ?」

「どうするつもりだ?」

「高木さんのとこに預けようかなと。あたしボディは専門外だし」

「何なら俺がやってもいいぞ?」

「高木さんで」

美世はRのボディ修復を頼もうとしていた。高木ならこのRをより強靭に蘇らせる事もできるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

思い出の地山形。

そこで蓮と美穂は「約束」を再確認する。

そして美世は岩崎のRの修復を始める……。




2人の約束。
それはこれからも続く。




ネタ解説です。今回山形ネタ多いです。
・新庄市の名物
劇中でもあるようにラーメンや東山焼が有名。特にラーメンは山形県を代表するようなモノ。ラーメン以外にもそばなどが多く「麺系料理の店が多いんだよね」という蓮の発言そのままなんです。
・蘭子の言葉
「闇に飲まれよ」など独特な言葉が特徴的な神崎蘭子。アニメ版シンデレラガールズでは赤城みりあがシンデレラプロジェクトの中で唯一?その意味を理解できていました。武内Pはノートのメモと照らし合わせて意味を推測してました。慣れれば理解できる……らしいですが。
蓮は熊本育ちの蘭子と同郷の美穂と接するため蘭子の言葉が理解できた……のかも。
・写真の日付
幼き頃の蓮と美穂の写真の日付の「1999年」は関係ないですが「7月1日」は速水奏の誕生日なのです。
・「以前の事」
これはSTAGE15の出来事。気になった方は読んでみてください。




ちょくちょく以前の話を出したがるクセをどうにかしないと(無理)
まーたラブコメみたいな話になった……。




ちなみに趣味でやってるグランツーリスモSPORTでエボGr3のリバリーを今回登場した神崎蘭子仕様にしました。この話書いてる時に神崎「蘭」子と「ランエボ」を合わせて「蘭エボ」って考えたのがきっかけなんて言えない。
タグは「imas」「anime」「346」で登録してます。使用はご自由にどうぞ。
リバリー名「神崎蘭子 ランサーFE 346レーシングSPL」

【挿絵表示】







次回、夢斗は悪魔のパートナーに会う事に!?
モンスターマシンが夢斗に牙を剥く!


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STAGE27 ベストマッチする存在

タイトルは某仮面ライダーに関係ない(かも)



765プロからアイドル登場!
夢斗はとんでもない車に会うはめに!?


8月が終わるのが目前のある日。

夢斗は夕方の渋谷の街を歩いていると……。

「なにしてんのこの人」

美人の女性が街頭にもたれかかって寝ていた。

「うーん……」

典型的な酔っ払いである。

 

 

 

「ったく、なんでこうなんの」

夢斗はその女性をおぶって移動していた。おかげで周りからの視線がすごい。しかしその視線は「おかしな物」を見る視線ではなく「疑惑」が詰まった視線だ。

「酒くせえし。つーか胸でかくね?」

なんだかんだこういう人を放っておけない夢斗。ただし最後のはいらなかった。

「……んぅ」

どうやら起きたらしい。

「って誰!?」

「いてててっ、何すんだよ!?」

起きた女性に叩かれる夢斗。

「キミ、私をどうするつもり!?」

「アンタが路上で寝てるからせめてもうちょいマシなトコで寝れるように移動してたんだよ!!」

「……あっ」

酔いつぶれて寝た事を思い出したらしい女性は落ち着きを取り戻した。

「なにやってんの私……」

「とりあえず酒臭いっすよ、ハナ曲がりそうなアルコール臭」

初対面の人にも容赦ない夢斗。

 

 

 

「ごめんね、そもそも私が悪かったのにあんな言い方しちゃって」

「別にいいんすけどね。おねーさん何してたの?」

「仕事で失敗したからヤケ酒」

「……んで寝てたと」

「はい……」

「ま、イイけど……。大人って酒で全部ヤな事忘れられるからラクですよねー」

「そうもいかない事はあるけどね……」

「んで、おねーさんどうするのさ?」

「765プロシアターに連れてってくれる?」

「あー……いいっすけど。もしかしておねーさんアイドル?」

「うん、百瀬莉緒っていうの」

「莉緒ねー、シアターってどこあんの?」

「もしかして私の呼び方?イイわね!シアターはね……」

夢斗は百瀬莉緒をシアターまで送るはめになった。

 

 

 

「これがキミの車?」

「そっす」

駐車場に止めてあったエボⅩ。

「綺麗な銀色ね」

「そうっすか?」

「話のように綺麗な銀色だなって」

「どういう事すか?」

「私達の先輩……私達より年下だけど先輩のアイドルがね、綺麗な銀色の車を見たって」

「キミかどうかはわからないけど……」

「たぶん違う」

「そうだ、キミって言うのもアレだしキミの名前って何?」

「星名夢斗」

「夢斗君か……。夢斗君、お願いね」

「りょーかい」

莉緒がエボに乗ろうとするが……。

「あだっ!?」

「ロールバーには気をつけて……遅かった」

ルーフに沿って張り巡らされていたロールバーで頭をぶつける莉緒。

「ぐうぅぅ……」

「莉緒ねーって実は結構ドジるカンジ?」

「そんな〜!!」

事実である。

 

 

 

「なんか普通の車じゃないよね……」

「そりゃそーっすよ」

「夢斗君っていくつ?」

「19歳っすよ」

「私の5つ下なの!?若いっ」

「俺大学生っすよ。……そーいやアイドルって言ってたけど346プロとかと関係あるんすか?」

「あるわね……去年のクリスマスは合同でライブしたし」

「……そうっすか」

夢斗の心の傷が関係するため詳細は触れないでおく。

 

 

 

 

 

 

なんだかんだあってライブシアターに到着。

「早かったっしょ?」

「うん!夢斗君運転上手いわね〜」

「競技やってる身なんで」

夢斗は莉緒を降ろす時に1台のある車を見つける。

「あれ……この間の」

蒼いZ()が駐車場にあるのだ。

 

 

 

「莉緒ねー、あの車誰乗ってんの?」

「ああ、あれはね「面妖な!!」

莉緒が話してるのを遮って聞こえた声。

「莉緒、この者は何者なのです!?」

「貴音ちゃん待って!私送ってもらったのよ!」

「……もしかしてその車のドライバーっしょ」

「……ぜっとの事ですか?」

「ゼット……Z!?あれZなのか!?」

夢斗は80年代以前の車には疎い。夢斗のイメージのZは2000年代に入ってから生まれたZ33型からのイメージしかない。

そのため70年代以前の初代フェアレディZことS30型を知らないのだ。

「咲耶がZに……!?」

「この車を知ってるのですか?」

「俺は関係ないけど知り合いがな」

「……!思い出しました。貴方は前にこのぜっとと戦った!」

「ああ。振り切られたけどな」

貴音と夢斗からはオーラが出ている。莉緒はなんの事かわからずポカンとしている。

「ああっ、莉緒!」

赤羽根Pがシアターから飛び出してきた。

「どこ行ってたんだ!?」

「あっ!プロデューサーくん!」

赤羽根Pに問い詰められる莉緒。

「あの子!あの子に送ってもらったの!」

「君は……あの時の」

「お久しぶりっす、赤羽根さん」

「すまない、莉緒が迷惑かけただろう」

「へーきっすよ。それよりあの車って一体何なんすか?」

「あれか……」

 

 

 

 

 

 

 

「……こわっ」

赤羽根Pから悪魔のZについて一通り聞き終わった夢斗は開口一番この一言。

「そんな車に小日向さんは挑んだってか……。俺とんでもない人と知り合ってたんだな」

「貴音はもう走ってないハズだ」

「そういえばZと戦ったってどういう事なの夢斗君?」

莉緒が突然会話に入ってきた。

「いや、あの車と戦ったんすよ。その通りに。あっさり振り切られたけど」

「……貴音?」

赤羽根Pから目をそらす貴音。次の瞬間貴音は猛ダッシュでシアターから出ていった。

「はえー……」

「……小日向君の言う通りだったな」

 

 

 

 

「じゃ、行きますんで」

「ああ、気をつけて」

夢斗のエボⅩはシアターを後にした。この後莉緒は馬場このみに怒られることになった。

 

 

 

 

 

 

翌日。

「アイドルが乗ってる……」

芝浦PAで夢斗と話していた咲耶は夢斗の伝えた事に驚いていた。

「俺あの車がZってわからなかったぜ」

「そうだ夢斗、今度私のエボをチューンしてほしいんだ」

「すげー突然ですね……。ま、イイけど」

「もう今のままではZにも夢斗にも勝てない」

「……なる」

 

 

 

湾岸を軽く流してた2台のエボの前に蒼い車が見えた。

「……!!」

貴音のZだ。

 

 

 

 

再びPAに入るエボ2台とZ。

「貴女がZのドライバー……」

「ええ。私は四条貴音」

「私は白瀬咲耶。283プロのアイドル」

「アイドル……。アイドルがこうやって走ってるのは……何故でしょうね。駄目だとわかってるのに」

「本当だね。でも目的があるから走るのはそちらも同じじゃないかい?」

「勿論です。この車で私が走る意味を見つけるために」

「私の走る目的は……その車の前を走るためさ」

咲耶は戦闘態勢に入っていた。

「ぜっとの前を……」

「あれ、俺空気?」

「貴方は昨日の……。名前は」

「星名夢斗」

「星名夢斗……。私は貴方と手合わせしてみたい」

「小日向蓮や原田美世のような何かを持つ貴方は一体何者ですか」

「さあ?周りからは変人とか言われるただのてぇんさぁいだ」

「天才……」

「ま、俺はそれが本当に『Z』か知りたいんだ。呪われたとか、神様とかは俺は知らない。車である以上、普通の車だと思う」

「言ってる意味がわからないですが……。とにかく私はぜっとを信じてますよ」

「咲耶、俺のエボに乗れ」

「ああ」

「あの車が本当に呪われてんのか……俺はよくわからん。けど咲耶は俺よりあの車を見てるんだろ」

「だから咲耶があの車が本当にヤバい車か見極めてほしい」

 

 

 

貴音のZと夢斗と咲耶が乗るエボⅩが発進。

本線に合流した途端にZはどんどんスピードを上げていく。

「あれが……40年前の車なのかって思うぜ。エボが加速競争で置いていかれるってやべー」

参考に述べておくと貴音のZは現在600馬力程。それに対し夢斗のエボⅩは560馬力。NOSを加えて580馬力となる。これだけ見るとパワーの差は少ないように見える。

しかし悪魔のZは600馬力、トルク80kg。

基本設計が古いL型エンジンを載せているとは思えないモンスターマシンなのだ。

 

 


 

 

ここでL型について軽く触れておく。

日本製乗用車にSOHCが導入され始めた時期に開発された、(ウェッジ)形燃焼室を持つターンフロー型直列4気筒エンジンもしくは直列6気筒エンジン。初代フェアレディZに搭載される以前の1965年から生産されていた。基本型式は「L」。その後に続く数字は大まかな排気量を表す(例として「L20」ならL型の2000ccクラスといった意味)。

現在はL型といえば直列6気筒エンジンという認識だ。

 

 

競合メーカーでクロスフロー型シリンダーヘッドを持つエンジンが続々と開発された1970年代以降も、日産はあえてカウンターフロー型を踏襲し生産し続けた。

頑丈な鋳鉄製ブロックベース構造、チェーンによるカムシャフト駆動など耐久性を重視したことから、その構造ゆえに本来は高回転向けでなく決して軽快なエンジンとは言い難い。スポーツ走行に向いていないのだ。

反面扱いやすい、堅牢、長寿命といった長所を持っていた。

 

 

また、鋳鉄製のブロックを持つことでエンジンの耐久性は高い。

ボアアップ(内径拡大)などが容易に行える。そのため排気量アップを狙ってチューンするのがL型チューンの鉄板。

L型はチューニングベースとしても優秀だったのである。

実際、排気量2.8リッタークラスのL28を排気量3134ccに拡大、これをツインターボ化したのが悪魔のZに乗る「L28改3.1Lツインターボ」と呼ばれるモノだ。

 

 


 

 

L28と出ているが実は日本では当初お宝級の存在だったのだ。

当時は海外に輸出されたZがL28を搭載するに留まったのみ。国内のZには搭載されなかったのだ。

 

 

そのためこの悪魔のZが生まれる背景はかなり複雑な物。

悪魔のZを作り上げた「北見淳」は長い時間を経てL28を載せたZを入手した。

彼はあらゆる物を犠牲にして狂ったようにZに入れ込んでいった。

しかし完成したZはまるで操れる者がいなかった。ある者は帰らぬ人になり、またある者は長い闘病生活を送ることになった。

 

 

やがてある男の元にたどり着いたZ。

当初こそ、彼を拒絶するように事故を繰り返した。

ある時に廃車になってもおかしくない程の大クラッシュを経験。

しかし彼はZを蘇らせた。蘇ったZは彼を認めたようだった。

そして彼が駆るZは伝説となった……。

 

 

しかしそれは長く続かなかった。

パートナーを変えたZはやがてある少女の元に渡る。

彼女こそ今のZのパートナーである四条貴音だ。

 

 

 

 

 

 

「上手い……。あの時感じた物は確かな物でしたか」

貴音は夢斗の走りに感嘆していた。

確実に進化している彼の走りは必ずこのZを脅かす物になるとわかる。

「彼は……。目指す物はあるのでしょうか」

 

 

 

「……逃げられたらキツイな」

夢斗は苦しい状況に頭を抱える。

最高速のノビは明らかにあちらが上。以前のように振り切られるのがオチだ。

「……来る」

咲耶が言ったその瞬間だった。

Zがモードが切り替わったかのように加速したのは。

 

 

 

 

「や……ばっ」

Zが離れていく。

夢斗達の目の前から一気に消えていこうとする。

「あかーん!!」

夢斗が思わず叫ぶ。

「これだ……。私はずっとこの加速に負けていたっ」

咲耶は離れていくZのテールランプを見て言う。

 

 

 

 

 

 

「やはり悪魔なんだろうか」

夢斗は漏らす。

「だね。あれに勝つのは……どうしたらいい」

「……あっ!!」

夢斗がいきなり叫ぶ。

「勝利の法則は決まったっ!」

「はい?」

「いや言った通り。咲耶のエボのチューン案だ」

自信マンマンに言う夢斗。こうなった夢斗は止まらない。

「絶対るんってするエボになるぜ」

 

 

 

 

 

 

一方貴音の方は……。

「星名夢斗は素晴らしい技術を持ってた。しかし……私を倒すのは彼じゃない」

「白瀬咲耶……。貴女はぜっとを超える」

来るべき戦いを予見するのだった。

 

 

 

 

 

 

やがて訪れる戦いに備え、咲耶のエボⅨは改修が行われる事に。

生まれ変わるエボⅨは悪魔に迫れるか。

 

 

 




悪魔のZとそのドライバー貴音に出会った夢斗。
咲耶の狙う相手と走った夢斗は咲耶のエボをチューンするアイデアをひらめく。






ネタ解説です。
・「あれZなのか!?」
夢斗は1980年以前の車をほぼ知りません。
元々夢斗は車にほぼ興味がなかったため……という設定ですが、この辺りは後の話で書こうかなと思ってます。
・貴音の動き
前作「疾走のR」後も走り続けていた貴音。ただ以前のように走る事は少なくなっていました。余談ですが貴音がシアターを出るシーンは「ぷちます」版の貴音が参考になってます。ぷちますを見てたので脳内再生しながら書いてました。
・Zの誕生背景
「湾岸ミッドナイト」本編内ではL28が当時日本国内で入手困難だったと語られてますが、実際は1975年生まれの2代目ローレルや5代目グロリアにはL28が搭載されてます。あれ……?
他にも北見がZを初めて目撃した際の描写に矛盾点があります。
ツッコミ所が多いですがなんやかんやでZを作り上げた北見さんすごい(小並感)
・「勝利の法則は決まった」
仮面ライダーファンならわかるかもしれないネタ。
これは「仮面ライダービルド」(2017年)の主人公「桐生戦兎」の決めゼリフ。
夢斗とは「天才」など共通点があります。
他にも今回のタイトルにある「ベストマッチ」も関係。やはり関係あるじゃないか……。
何故夢斗が数年後のライダーのセリフを話したかは永遠の謎……。



生誕50周年を迎えるフェアレディZ。
日産というメーカーが総力を挙げてレストア企画を考えるなど大切に残された名機は世界中の人々に愛される……。
いいですよね……。





次回、迅帝のRの秘密が明らかに!!
そして咲耶のエボⅨは進化する!!







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STAGE28 悪魔に抗う力

明かされる岩崎のGT-Rの秘密。
そして進化したエボⅨはどんな車になったのか!?


ここは高木の工場。

1台の蒼い車が運びこまれていた。岩崎のR34GT-Rだ。

美世は高木にR34のボディ修復を依頼するために来たのだ。

だが高木はRを見た途端驚きを浮かべてた。

「コイツは……あの時の……」

「知ってるんですか!?」

「ああ……。前にやったんだ」

高木が語った事。今から10年程前に当時の岩崎がこのRのボディを加工してほしいと来たという。

当初高木は拒否していたが、毎日のように頼みに来る岩崎の姿勢に折れてR34のボディを加工したという。

あの悪魔のZのボディを作り上げた時のように高木はRのボディを加工したと。

 

 

 

 

「ではお願いします」

「ああ、できたら連絡する」

高木にRを預けた美世。

「……本当に色んな物に繋がってるね。Z」

 

 

 

「懐かしいな。……こんな歪み方はZでも見なかった」

高木はRの歪んだピラーを見る。

悪魔のZすら上回るパワー。Zのさらに上を行く存在。

あの時やった車がZのような大きな存在になった。

加工した時を懐かしみながら作業に取り掛かった。

 

 


 

 

9月。

咲耶はいつも乗っている黒いエボⅨ……ではなく銀色のエボⅩに乗っていた。

何故かと言うと以前夢斗にエボのチューンを依頼していた咲耶だが、夢斗がしばらくエボⅨを借りると言ってきた。その間咲耶は車がないため夢斗が自身のエボⅩを貸しているのだ。ざっくり言えばお互いの車を交換している。

「乗り手に応えるのが上手な車だ」

夢斗のエボⅩの性能(パフォーマンス)に驚く咲耶。夢斗の操縦に追従できるだけの性能を持つエボⅩ。ピーキーなエボⅩと天才夢斗だから為せる走りだ。

このエボⅩを初めて運転した時、咲耶はエボの運動性についていけなかった。振り回されたのだ。

だが苦労したのは最初だけでコツを掴んだ咲耶は自身のエボⅨのようにエボⅩを操れるようになっていた。

しかしそれでも大きな違いがエボⅩとエボⅨにあった。空力面だ。

市販のエアロパーツで構成されている咲耶のエボⅨだが、夢斗のエボⅩは根本的に違う。

夢斗のエボⅩは自作のアンダーフロアなど多数のパーツを装着。チャージスピード製のバンパーに作ったパーツを合体させるなど市販パーツの面影を残しつつも別物に仕上がった。

その超高ダウンフォースが生み出す操作感はどう頑張ってもエボⅨでは作れない。

だから夢斗の走りは鋭くキレた走りなのである。

 

 

 

283プロに出社した咲耶。

甲高いエキゾーストノートが歩く通行人の注目を集める。

「あれ?さくやんこの車ゆうくんのだよね」

出てきた結華が咲耶に問う。

「そうだけど……」

「ゆうくんの車乗ってきて何かあったのかなーって」

「まあね」

 

 

 

 

283プロのアイドル達は11月に行われるアイドルフェスタに参加する事になった。

これには765プロや346プロなどのアイドルも参加する。

「先輩アイドルと共演する場面もあるので失礼のないようにお願いします」

「あと、もう一つお知らせがあります」

遥が部屋の入口の扉を開ける。部屋に入ってきた3人の少女達。

「新たに芹沢あさひさん、黛冬優子さん、和泉愛依さんの3人が本日から283プロの仲間になります!」

「3人は『Straylight(ストレイライト)』として活動します。彼女達はまだわからない所も多いと思うので皆さんも彼女達を助けてあげてください!私も頑張ります!!」

説明を終えた遥が部屋を出る。アイドル達はそれぞれ自己紹介をした。

 

 

 

 

 

「あの車ってなんて言うんすか?」

あさひが咲耶に質問する。

「マジかっこいいよねー」

愛依が言う。

「あさひ!先輩に馴れ馴れしい口調しない!……すみません!あさひが迷惑かけてませんか?」

冬優子が咲耶に謝る。

「そんな事ないさ。私の車に興味を持ってくれるのが嬉しくてね」

「三菱のランサーエボリューションさ。まあ、あれは借り物だけど。私が持ってる車もランサーエボリューションさ」

「おおー!」

「何なら乗ってみるかい?」

「いいっすか!?」

「ああ」

「乗りたいっす!」

「あさひ!……すみませんお願いします」

咲耶はワクワクしてるあさひと諦めムードの冬優子をエボⅩに連れていく。愛依は行かないらしい。

なお、リアシートが取り払われてる夢斗のエボⅩ。冬優子はロールバーが張り巡らされた後部に乗るはめになった……。

 

 

 

 

 

まだ昼間の湾岸線。

「さーて……行くか」

咲耶の目が変わる。その瞬間ステアリングを握る手に力が入る。

アクセルペダルを踏む右足にゆっくりと力が加わっていく。それに応えるようにタコメーターの針が高回転域を指す。

カン高く吠えるエボⅩ。自分を直接刺すような音が響く。

「音が……っ」

遮音材のないエボの車内は外の音がダイレクトに響く。耳を裂くような爆音。そして路面のギャップを拾って伝わる振動。

冬優子は耳を塞いでいる。しかしあさひと咲耶は表情を変えない。

「すごいっすねー」

「いや、この車は私では扱いこなせない。すごいのはこの車を操るドライバーなんだ」

「どういう事っすか?」

「この車は借り物だと言ったけど、この車は持ち主が全部作り上げた。そして……『この車』を速く走らせる事ができるただ一人の天才さ」

 

 

 

 

 

「……何あれ」

冬優子が2人にギリギリ聞こえる声で言う。後ろから何かが迫ってるらしい。

「……凄そうっす」

あさひが表情を僅かに変えた。

しかし咲耶はわかっている。迫る車が何か。そしてそのドライバーも。

 

 

 

 

迫る黒い機影。

銀色の騎兵と対になる存在の黒い騎兵。

悪魔に立ち向かう力を手に入れて。悪魔を討つ槍だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たーーーーーーーーッ」

銀色の騎兵(エボ)の横に姿を表した黒い騎兵(エボ)

生まれ変わった姿を咲耶に見せつける。そして運転席に見えるいたずらっぽい笑いを浮かべた青年。

「仕上がったんだな……」

 

 

 

 

「これならやれるんじゃないか、咲耶」

夢斗は言う。悪魔のZに立ち向かうための咲耶の「翼」。

 

 

 

 

2台の騎兵は疾走する。

黒い騎兵が銀色の騎兵の前に出ている。

「なんてパワーだっ」

以前とは比較にならないようなパワーを得たエボⅨ。

エボⅩは4速以降の加速で完全にエボⅨに負けていた。

新生エボⅨのテールランプが咲耶の前に見える。

「あの車って……」

「私の車さ」

あさひがもう一回エボⅨを見る。

「あれが……?」

「そうだ」

そう言っている咲耶自身も驚きを隠せない。しかし同時に確信を持った。あの悪魔のZと「戦える」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

パーキングエリアで2台が並ぶ。

「少し大きくなったかな?」

「フロントフェンダーを交換してる。20ミリくらい幅広げてな。だから構造変更しないといけないけど。めんどい」

咲耶と夢斗が話し合う中、あさひは聞く。

「なんで車に入れ込んでるんすか?」

「えっと、誰だ?」

「芹沢あさひ。新人アイドルさ」

「あさひね……じゃあ聞くぜ。あさひはさ、なんでアイドルになろうと思った?」

「面白いって思ったから!」

「面白い……なるほどな。今はそれでいいけどさ、そのおもしれー物を極めるってコトをやった事あるか?」

「んー……ないっすね」

「競技やってるヤツもそうだしアイドルもそうだけど興味本位で始めた事は長く続かない」

「『面白い』それはいい。楽しいって思えるのが一番だよそりゃ。でもな、苦しい事とかヤな事に直面すると逃げ出すって事ってあさひは経験した事……たぶんねえな。けどあさひが体験しなくても少なくとも周りのヤツはそんな経験をしていると思うぜ」

「楽しか体験してないとめんどくせー事を嫌う。とにかく自分に都合良ければいいってな……」

「俺と咲耶は目指してる物がある。そのためにめんどくさい事をわざわざやる。表面でしか物事を見てないヤツはそういう苦労を知らない」

「周りから見れば馬鹿くせェ事にマジになるバカがいるんだよ。主に俺」

「咲耶もそのバカに足を突っ込んでる。しかも俺よりもずーーっと前にな」

「だから目指す物のために少しずつ色んなコトを積み上げていくんだよ」

 

 

「えと、夢斗さんで合ってるっすかね?夢斗さんの目的って一体なんすか?」

「夢斗でいいぜ。俺の目的ね……今ははっきりとしたモンはない。でもな、曲げずに守ってるモノはある」

「コイツだ」

夢斗が指したのはエボⅩ。

「形見……っては言わないけど。コイツをずっと走らせないといけないワケがあってな」

今は亡き奏夢()が乗る事が叶わなかった車。約束を果たせずに消えてしまった彼女の願いを運ぶように。

「悪かったな、くだらねー話を長々としちまって」

「そんな事ないっす!頑張るワケにもいろいろあるんだなって思って。積み上げるってなんか響くなーって」

あさひは何かが決まったらしい。その何かは彼女自身にしかわからない。しかしその答えは夢斗と咲耶はわかってるだろう。

 

 

 

 

帰ってきた咲耶達。今度は黒いエボⅨに乗って。

「お、戻ってきてる」

結華がエボⅨを見て言う。

「変わってる……?」

エボⅨの変化に気づいたようだ。

しかし結華は不安を感じた。

(さくやんは……どこまでやろうとしているの)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。

高木の手によって仕上がった蒼いR34のボディが美世に引き取られていた。高木の説明を聞く美世の表情は真剣。

「一度歪んじまったモノは完璧に元の姿には戻らない……。わかるだろう」

「尽くせるだけの事はした。あとはそちら次第だ」

「わかりました……」

「あと、アイツに言っておいてくれ」

「?」

「『ケリつけろよ』って」

「どういう意味ですか……?」

「迷いにな。アイツは悩みながら走り続けた。このRを走らせるなら迷いを断ち切れってな」

「はい」

美世はRを引き取って内藤自動車工場へ持っていく。

 

 

 

 

 

 

 

ラチェットを使って作業する音が響く工場。

「美世、これ食っとけ」

内藤が差し出したのはコンビニ弁当。

「体壊すなよ。お前は一応アイドルって立場だろうが。そしてレーサーだ」

「はーい」

内藤から貰った弁当を素早く食べ終わってから再び作業に入る美世。

アイドルとレーサー2つの仕事の合間に行う作業。時間があまりない分少しでも作業をしたい。

美世は手馴れた手つきでRのパーツを取り付けたりと作業を進める。

 

 

 

 

 

 

 

そして夜は自身のR34で首都高へ。

岩崎の走りをイメージしながら走る。

(ここでっ)

アクセルオフ。アクセルが抜けたRは鼻先(ノーズ)をコーナーのイン側に向ける。

(ーーーーーーダメだ)

同じタイミングで同じ事をやっても差がある。コンマ数秒の差。

たかがと思うのは命取り。たとえコンマ数秒という差でも首都高ランナーにとっては大きな差である。

埋められない差。美世はその差に打ちひしがれる。

 

 

 

 

 

「どうしようか……」

美世は愛機に悩みを打ち明けるように言う。

同じR34(クルマ)。それはわかってる。しかしそれだけで収まらない違いがある。

迷いを抱えたまま美世は自宅へ向かう。明日からレースのために移動するのだ。悩む暇はない。

仮眠を取るべく美世は自宅へとRを走らせる。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ずっとパワーがある……。力強く前へ走れる!!」

黒いエボⅨが環状線を駆け抜ける。

(どこからでも追従できるレスポンス)

以前よりトルクが太くなり、かつ瞬時に対応する。

(何故ーーーーこんなにも上手く仕上げられる!?)

夢斗がチューンしたエボⅨは咲耶と最大限シンクロしていく。

まるで自分の血がエボに流れてるように。「車」という無機物であるエボⅨが「生き物」という有機物になる。

 

 

 

ストレートをフル加速で抜けていくエボⅨ。

エボが苦手とする中速域が気にならない。そのまま超高速域に突入する。

(200kmからのふらつきもない)

ランエボに限らず、インプレッサなどセダンベースの車は200kmを超えると腰高感が顕著になる。安定感が失われているという事だ。

しかしエボⅨはどっしりと構えてるような安定感を生み出している。

どの速度域(レンジ)でも安定感を失うという事はクラッシュを意味する首都高という場所。

咲耶のエボⅨは夢斗のエボⅩ……とは行かなくても非常に高い安定性を持っている。比べるのが夢斗のエボⅩだから差がハッキリしすぎなだけで実際咲耶のエボⅨもかなり高いダウンフォースを発揮している。夢斗のエボⅩが異常なだけだが……。

 

 

 

性能が向上したエボⅨだが、それを操る咲耶の技術向上もある。

少しの間とはいえ非常にピーキーな夢斗のエボⅩに乗り、操れるようになった咲耶。

丁寧に操る技術が要求されるがある程度大胆な動きも実現可能な夢斗のエボⅩ。

今のエボⅨが夢斗のエボⅩに近い特性になったのも大きい。

改修されたエボⅨにすぐに慣れたのも夢斗のエボⅩと操縦感覚が似てるのだ。

(行けるーーーー!限界のその先までーーーーっ)

 

 

咲耶の技術とエボの技術がベストマッチして生まれる速さ。

インプレッサの強さの「ドライバーが発揮する技術の引き出し」とランサーエボリューションの「車の技術」が一つになった形だ。

ライバル同士の長所がドライバー(咲耶)(エボⅨ)でまとまっている。

 

 

 

 

 

「これなら……」

咲耶はイメージの中でも離れていく悪魔のZのテールランプを思い描く。

この生まれ変わったエボⅨならやれると確信する。

 

 

 

 

 

 

夢斗の手で生まれ変わったエボⅨ。

そしてエボⅨを駆るのは悪魔のZを狙う白瀬咲耶。

一方美世は迅帝の走りとの差に打ちひしがれる。

彼女の走りは憧れを超えられるのか。

 

 

 

 

 

 

 




より高いレベルの走りができるようになったエボⅨ。
咲耶は悪魔を追えるか。




ネタ解説です。
・岩崎のR
ここでは「湾岸ミッドナイト」に登場する高木がボディを加工した事になってます。せっかく湾岸ミッドナイトと首都高バトルをコラボさせてるのだからこれくらいやりたい!と思って。
・ストレイライト登場
「芹沢あさひ」「黛冬優子」「和泉愛依」の3人が登場。ちなみにここでの冬優子は本性を表す前。
・進化したエボⅨ
夢斗のエボⅩを凌ぐパワーを手に入れたエボⅨ。
改修後のエボⅨのモチーフは「オリジナルランデュース」のエボ。当時筑波サーキットでエボ最速だったJUNオートのエボを超えるタイムを出すために持ち込まれた車両を参考にしました。
そのため咲耶のエボⅨもフェンダーを変更しています。




私情で申し訳ないですが来週は恐らく更新できません。
行事が重なってキツいです……。




次回美世が再び岩崎とバトル!!
負けられない勝負を制するのは!?


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STAGE29 ぶつかり合うプライド

再び戦う美世と岩崎。
超高速バトルの勝者は!?


ここは富士スピードウェイのピット。

ミーティング中のメンバーの中に美世の姿はあった。

今日はスーパーGT第6戦。前回のスポーツランドSUGOでの結果は4位。

ランキング競争も終盤に入ってるため何がなんでもここで勝ちに行きたい所。

そのためモチュールのメンバー全員が表情を引き締めている。

 

 

「原田さんは今回セカンドドライバーを頼む。まず原田さんはココの攻め方を見てほしい」

「わかりました」

赤いGT-Rがピットアウト。コースインだ。

美世はピット内で静かに出番を待つ。

 

 

 

 

 

 

レース開幕。

一斉にマシンが1位目指して走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

「モチュールここは苦しいっ!エプソンの前に出られない!」

ハイテンションな実況がコース中に響く。

現在モチュールGT-Rは5位。

富士スピードウェイ最大の特長であるホームストレートでオーバーテイクを狙う34号車だが前に出られない。

しかし「その時」を狙うべくプレッシャーをかけ続ける。

美世もモニターを睨むかの如く見ている。

 

 

 

「よし……行ける」

鈴木が呟く。

実はモチュール陣営はタイヤ無交換作戦を行っていたのだ。

事実他のライバル達のマシンがタイヤ交換のためにピットインしているがモチュールのみはコース上に残ったまま。

順位を少しでも上げるための作戦。しかしそれ故にタイヤ消耗は激しくミスが許されない諸刃の剣とも言えよう。

鈴木の読み通りモチュールGT-Rは着実に順位を上げる。

 

 

しかしライバル達も黙って見てるわけにはいかない。

燃料補給とタイヤ交換を終えたマシンが続々とピットアウトしていく。

 

 

 

2周後、モチュールはピンチに陥る。

後ろには岩崎操るカルソニックGT-RとゼントSC430が迫っていた。

(隙を見せたら終わりだぜーーーーっ)

岩崎が猛プッシュ。

激しくプレッシャーをかけられるモチュール陣営。

若干ペースを乱され、このままだと確実に抜かれる。

 

 

 

 

その時鈴木が動く。

鈴木が無線でドライバーに通達する。

「この周でピットインだ。原田さんの出番だ」

「原田さん、行けるかい?」

「もちろん!」

 

 

 

 

 

 

メカニック達が一斉に動き出す。美世も動く。

メカニック達はタイヤやインパクトなどそれぞれ物を持ち、GT-Rのピットインに備える。

 

 

 

 

「おーっと?モチュールここでピットインか!?」

「後続のカルソニックが首位になった!」

「タイヤを交換してませんでしたからね……。ここで巻き返しを狙っているのかと」

モチュールGT-Rがピットインする間に岩崎のカルソニックGT-Rが首位になる。

 

 

 

 

 

「ジャッキ上げろ!」

「リアタイヤOK!」

「フロントよし!」

メカニック達のスピーディな作業の中で美世は素早くマシンに乗り込む。

新品のタイヤに履き替えられた赤いGT-Rがピットアウト。

首位を走る岩崎のカルソニックGT-Rを狙うべくコースインだ。

 

 

 

 

コースイン直後のタイヤは全く食いつかない。

レース専用のタイヤはグリップ力が市販品のタイヤに比べて遥かに高い。

その代わり構造の違いから寿命が非常に短い。

熱で表面のゴムを溶かしてグリップさせるという構造上どうしても長く使えない。またタイヤの温度管理が非常に難しく、最大限グリップを発揮出来る温度がシビア。

新品のタイヤになったためタイヤに熱を入れないと食いつかないのである。

 

 

 

 

しかし美世はそんな事気にしない。

一つ一つのコーナーで確実にタイヤに熱を入れていく。

首都高(ストリート)で積み上げた技術を駆使し、前のマシンを追う。

 

 

 

(来たか)

サイドミラーに見えた赤い車を見て岩崎はアクセルを踏む右足に力を込める。

近づく赤いGT-Rはたった今ゼントSC430を抜いてきた。2位に浮上したモチュールGT-Rが岩崎の背後に迫る。

 

 

 

「モチュールがっ!モチュールがカルソニックに迫るーーーーっ!!」

「原田の怒涛の追い上げでモチュールが2番手っ!岩崎のカルソニックGT-Rを射程圏内に捉えているーーーー!」

「今日の原田は乗れている!今日は何かが起こるレースになりそうだーーー!」

実況が会場全体を興奮させる。

 

 

 

 

 

 

(さすが岩崎さん……っ!簡単に前に出してくれない……)

岩崎のGT-Rに阻まれ美世は前に出られない。

首都高でも速く、そしてサーキットでも速い。「最速」は伊達ではない。

 

 

 

 

2台のGT-Rのバトルがモニターに映るモチュールのピット内。

全員が祈るような気持ちで見守っていた。

鈴木が無線で美世に指示を送る。

「原田さんの方がタイヤはいい。カルソニックの方がタイヤを酷使しているはずだ……」

カルソニックGT-RはモチュールGT-Rのピットインの前にタイヤ交換を行っている。

そして首位を狙うために猛プッシュをしていたのだ。

首位になった現在、さすがに抑えているとはいえタイヤは確実に消耗している。

「突破口を見つけてぶち抜くんだ。原田さんならやれる」

 

 

鈴木が今回美世をセカンドドライバーにしたのは理由があった。

美世は富士(ここ)を走った事がないわけではない。美世は休日にサーキットを走る事があるのだが、その中で富士も走った事がある。

今回の一番の理由が美世の調子だ。

前回のスポーツランドSUGOでは順位自体は振るわなかった物の、一時は1位を維持し続けていた。しかも1位になるまでの順位の上がり方も凄まじく1周に3台以上追い抜いた事もあった。

絶好調の美世に今回賭けたのである。

 

 

 

 

「……!?」

岩崎は軽い衝撃を受ける。

後ろの赤いGT-Rからリアバンパーを軽くつつかれたのだ。

ギリギリまでスリップストリームの効果を高めるための美世の行動だ。

スリップストリームしてる後ろの車にリアバンパーをつつかれるというレース人生で初めての経験である。

「なら、こっちもやるしかナイじゃん!」

 

 

 

コカコーラコーナーを立ち上がる2台。

カルソニックGT-Rはウェイトハンデを背負うためモチュールGT-Rに差を縮められる。

すぐ後ろに肉薄してるモチュールGT-Rを振り切るべく岩崎は100Rでの突っ込み勝負に出る。だが美世のGT-Rを100Rで引き離しても直後のヘアピンで追いつかれてしまう。

(ハンデがなきゃいいけどなっ)

 

 

 

 

もつれ合いながら2台はパナソニックコーナーに向かう。

テンションが極限まで高まった美世の意識が変わる。「ブレイク」だ。

 

 

 

「モチュールとカルソニックがっ、パナソニックコーナーへ突っ込む……うわーーっ!!」

 

 

「「「おおおおおおおっ」」」

観客がどよめく。

 

 

見えたのはカルソニックGT-Rよりも速く突っ込んでいくモチュールGT-Rとそうはさせないと言わんばかりにラインを締めて首位を守ろうとしたカルソニックGT-Rだった。

 

 


 

 

(行っけええ)

カルソニックGT-Rより速く美世のGT-Rがコーナーイン側に付こうと動く。

それに気づいた岩崎が美世のラインに被さるように動いた。

 

 


 

 

「2台がっ!すごい争いだーー!」

美世が若干無理をして高いスピードで突っ込む。岩崎のGT-Rよりも僅かに速くコーナーへ入った。オーバースピード気味にモチュールGT-Rは軽く(アウト)に流れる。

しかし美世は曲げた。モチュールGT-Rがインに入る。

「接触っ!!軽い接触がありながらも2台とも譲ろうとしない!!」

アウトにいた岩崎のカルソニックGT-Rが美世のGT-Rに軽く接触したのだ。

厳密には美世がアウトからインに入ろうとした岩崎とぶつかったのだが。

岩崎と美世は1位を取るべく全力で戦っている。

 

 

 

ホームストレートで轟音を轟かせつつカルソニックGT-Rの背後に迫るモチュールGT-R。

(決める!)

第1コーナーを目前にフルブレーキングする2台。

しかし美世のRは一瞬だけタイミングを遅らせて岩崎に並ぶ。

「ここで仕掛けるのかーー!!」

「並んだっ!!サイドバイサイドだ!!」

岩崎がイン、美世がアウト。

美世のGT-Rが岩崎のGT-Rに被さるようにアウトからインへ。

 

 

 

 

 

速い。岩崎が美世のRに抜かれた。

カルソニック陣営は大混乱に陥る。

 

 

 

 

「行ったあああああ!!34号車の原田が前に出たあああっ!!」

「岩崎の12号車をアウトから大胆にオーバーテイク!!あの状況で仕掛けるとは誰一人予想できませんでした!」

美世は一歩間違えたら自身がオーバーランしそうな状況だったのである。

しかもインの岩崎がコーナー侵入に圧倒的に有利だったのを覆すオーバーテイクだった。

スタンドから大歓声が上がる。

 

 

 

 


 

 

 

 

「……すげえ」

夢斗が漏らす。

「見てよかった?」

蓮が夢斗に聞く。

「もちろんッスよ。こーやってプロのレースを見れるなんてあんまりないっスから」

蓮が美世のレースを見ると夢斗に言ったら夢斗が食いついてきたため夢斗は蓮についてきてここに来た。

「小日向さんもあんな感じにレースするんスか?」

「僕は耐久レースだからああいった感じとはちょっと違うけどね。でも大体同じだと思ってる」

「レース自体時間が長いから注目されにくいけどね」

「へぇー……」

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「モチュールGT-Rはカルソニックの猛追に耐えられるか!?」

ファイナルラップが近くなりモチュールのピット内に緊張感が漂う。

 

 

 

 

(さっきは驚かされた。けど、こちらだって度肝を抜く技はある)

岩崎は再び前に出るべくアクションを起こす。

 

 

 

「カルソニックが飛び込んできた!」

ダンロップコーナーに青いGT-Rが突っ込む。タイヤをギリギリまで使ってのブレーキング勝負。

(う……わっ)

美世は思わず後退してしまう。

マージンを限界まで削って攻める岩崎は再び美世の前に出る。

「岩崎が、岩崎が再び首位に返り咲いた!」

「カルソニックが1位!モチュールは再び首位に戻れるか!?」

 

 

 

 

 

(やっばーーーーー)

美世の前を再び走っている岩崎のGT-R。

(次がファイナルラップ)

(どうする!?このままじゃっ)

混乱して思考が止まりかけてる美世。

しかしギリギリ残った集中力である事に気づく。

(リアタイヤが終わってる)

カルソニックGT-Rはリアタイヤのグリップが残っていなかった。先程から僅かにリアタイヤがスライドするのを美世は見ている。

何より岩崎は美世よりも長く走行している。集中力が切れていてもおかしくない。

(やるしかないでしょ!!絶対勝ちに行く!!)

 

 

 

「ファイナルラップ突入!!勝つのはカルソニックかそれともモチュールか!?」

会場全体のテンションが最高潮に達する。

 

 

 

(タイヤが……!いいぜやってやる!!)

リアタイヤの消耗に苦しみながら走行する岩崎。

(絶対前に出る!!)

僅かな集中力で前のGT-Rを仕留めようと狙う美世。

 

 

 

 

 

「くぅ!!」

美世はインについてブロックするカルソニックGT-Rの前に出られない。

100Rを抜けてヘアピン。2台はラインを綺麗に立ち上がる。

 

 

 

「どうするっ!!」

美世は本当に後がない状況に飲み込まれそうになっていた。

相手は首都高最速の岩崎。あっさり自滅するような事は望めない。

その時不意に美世の脳内に内藤の言葉が浮かんだ……。

 

 

 

 

 

ダンロップコーナーからネッツコーナー。

軽くブレーキを踏みながら曲がって最終コーナーのパナソニックコーナーへ。

岩崎のGT-Rがブレーキを踏んだ瞬間だった。

 

 

 

 

「なにっ!?」

岩崎が右を向いた。見えたのは赤いボディ。

美世が最後の最後に突っ込み勝負に出たのだ。

(お願いっ!!)

岩崎のある動きに賭けた美世の作戦。

それは……。

 

 

 

 

 

「しまったーーーーーーーっ」

岩崎のGT-Rのリアタイヤがブレイクし縁石から車体半分がはみ出てしまう。

失速した岩崎のGT-Rの前を赤いGT-Rの丸いテールランプが通り過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

美世の脳内に浮かんだ内藤の言葉。

「相手は必ず油断する瞬間がある。それを突いて前へ出ろ」

初めて美世が首都高でバトルした帰りに内藤が言った言葉。

その時は「そうですか」と終わっていたが、今になって考えてみると内藤の走り方を表している言葉。

「追撃のテイルガンナー」と呼ばれた彼の走りは旧型の(FC3S)で最新の車をチギる走り。

それは油断した相手を後ろからぶち抜く事だ。スリップストリームで相手の後ろに張り付き、キメる。

美世は土壇場でこの言葉を思い出しイチかバチかで岩崎のミスを誘ったのだ。

 

 

 

美世の目論見通り岩崎はミスして体勢を崩す。

美世は失速する青いGT-Rをぶち抜いていく。

 

 

 

「赤いGT-Rが!!モチュールが大逆転して優勝だーーーー!!」

赤いGT-Rがゴールラインを超えた瞬間会場中が大歓声を上げる。

 

 

 

 

「原田さんおめでとう!!」

「え……?あたしが勝ったの……?」

未だに信じられない様子の美世。

しかしやっと結果を認識できると体の内側から感情が溢れ出した。

「ーーーーーやったあっ!!」

 

 

 

 

スーパーGT第6戦リザルト 

エントラント:NISMO

マシン:MOTUL AUTECHGT-R

予選:4位

決勝:1位

(58ポイント、総合ランキング3位)

 

 

 

 

 

表彰台の真ん中に立つ美世。

こういったレースで表彰台の真ん中に立つ経験は初めてではない。カートをやってた時に優勝経験があるからだ。

しかし憧れの舞台で優勝できた喜びは格別。

 

 

 

 

 

「美世さん……良かったですね」

喜びが溢れる美世を見て嬉しそうにする蓮。

「夢斗君?」

夢斗は何かを考えてるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表彰式終了後。

撤収作業をしてる美世の前に岩崎が。

「おめでとう、原田さん」

「ありがとうございます、岩崎さん」

「俺もまだまだみたいだ」

「そんな事ないですよ。あの状況での突っ込みはあたしにはできませんでした」

「……次は負けない」

「あたしもです」

 

 

「そういえば……車はどうだい」

言うまでもなくあの蒼いR34GT-Rの事。

「ボディ修復が終わってエンジンのセッティングをしてる途中です」

「そうか……」

「あと一つ……言っておきたくて」

「なんだい?」

「『ケリつけろよ』って言ってました」

「もちろんさ……。もう俺は迷わない」

 

 

 

 

 

 

帰り道。

夢斗はレースの光景を思い出していた。

(プロ……。思い切り競い合える舞台か……)

美世のレースは夢斗に残す物があった。

 

 

 

 

 

 

 

美世は岩崎との激闘の末、悲願の初優勝。

同時に岩崎とのもう一つの戦いも迫っている事も感じていた。

 




岩崎を下し初優勝を飾った美世。
美世の姿は夢斗を動かした。





ネタ解説です。
・タイヤ無交換作戦
これは当時スーパーGTに参加していたRE雨宮(クラスはGT300)が行った作戦。2009年ではタイヤ無交換作戦というギャンブルを行い、開幕戦岡山から第4戦セパンまで、4戦連続表彰台という大偉業を成し遂げました。これがあまりにもすごかったため他のチームも行った程。
・実況の内容
今回の実況は年度関係なくネタが出てます。気になった方はスーパーGTをチェック!



やっと行事がある程度片付いた……。お待たせしまい申し訳ありません。
それと次回はバンドリから登場する人物あり。苦手な方は注意。





次回、「夢」とはなにか。
憧れか、目指すモノか。それとも思い描く未来か。
「夢」を追いかける者達の明日は。


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STAGE30 歪まない信念

目指す物は何か?人が生きている上で何度も問われるであろう事。
そして答えは人それぞれ。
目指す物のために本気になる者達の答えは。


9月下旬。

夢斗は学校帰りに寄る所がある。

明日の朝飯のパンを買うために商店街のパン屋へ向かう。

 

 

 

「いらっしゃいませー!」

「うっす。来たぜ……おっ」

「あ、夢斗さん!」

パン屋には先客が。アイドルの島村卯月だ。

蓮とよく会うのもあって夢斗はアイドルにもよく顔を合わせる。なので夢斗の存在を知る346プロのアイドルも多い。

 

 

 

「夢斗さんも買いに?」

「おう。俺ここの常連だし」

「割と最近じゃない?」

「俺は10回以上来たら常連だと判断される、って思ってるぜ沙綾」

「ほぼ毎日チョココロネを買いに来る人がいるよ」

「あっそれじゃあ俺負けじゃねえか!?」

「あははは……」

店の手伝いをする少女「山吹沙綾」と卯月とダべる夢斗。

沙綾は()の手伝いをしながらバンドをやってるそうだ。

 

 

 

 

「夢斗って悩みなさそうだよね」

沙綾が言う。

「そうか?割とある」

「夢斗さんは悩まなそうな感じです」

「卯月……。俺だって悩むわ。例えば晩メシとかで悩むぜ」

「割と普通の悩みですね」

「でも俺も人に言えないような悩みも持ってる。沙綾は弟とか妹いるじゃん」

「俺はそういうの『なくなっちまった』からさ」

「……わり、変な事言っちまったな」

「そう悩む事は別に悪いことじゃないと思うよ」

「そっか」

 

 

 

 

「さてと、買うか……。沙綾おすすめのパンはっ!?」

「私のおすすめはグラタンパン!」

「フライパンじゃねコレ」

「うん。フライパン」

「『パンはパンでも食べられないパン』っていうなぞなぞを形にしたパンだよ」

なぞなぞ(ソレ)に対抗するためだけに作ってね?ま、グラタン好きだし買う」

「ありがとう!お会計は……」

この後滅茶苦茶パンを買った。

 

 

 

卯月と歩く夢斗。

「夢斗さんって不思議ですよね」

「いつもの事じゃね」

「そうじゃなくて……。周りの人と分け隔てなく接する事ができるなって」

「初対面なのに気さくに話せるのが羨ましくて」

「そういう礼儀とかが俺はないだけだな(笑)」

「でも……いいな」

 

 

 

 

 

 

「気をつけて帰れよ」

「はい!夢斗さんも」

2人は別れて歩く。

「……悩みか」

 

 

 


 

 

 

翌日。

期末試験前なので帰りが早かった夢斗はある人物を見つける。

「遥?」

「星名さん?どうしてここに」

「俺は帰り道。遥は?」

「私は果穂さんを探しに。学校はもう終わってるはずなんですが……」

「なんで?」

「今日は二学期が始まる日だからお昼に終わるって聞いてたんです」

「俺も探す。暇してたし」

「助かります!」

夢斗は遥と共に果穂を探す事になった。

 

 

 

 

 

 

「いねえ……。どこだ」

かれこれ20分近く探してるが見つからない。

「あとは……公園か」

いつも夢斗が日課をしてる場所の公園をまだ見てない。

「行くか」

 

 

 

 

 

夢斗が公園に向かうと何か言い争ってる声が聞こえてきた。光の声だ。

「違う!!みんなに勇気を与えるのがあたしの目指すヒーローだ!!」

「遊びなんじゃねえの?」

「あたしは本気だっ!」

「わー怖い(棒)」

「ふざけるなっ!!」

喧嘩してるらしい。止めに入ろうとする夢斗だが……。

 

 

 

 

「そんなのが夢ってどうなんだよ?」

「そんなのって言うな!」

「仮面ライダーの見すぎだろ。中学生の見るもんじゃない」

「「「はははははは!!」」」

「ーーーーーーーー!!」

光のヒーローについての考え方を笑ってるらしい。複数人の笑いが公園に響く。

夢斗は光の後ろに果穂を見つけた。

「果穂……」

「果穂さん!」

遥が現れる。

「プロデューサーさん!」

「果穂さんと光さんに何をしてるんですか!?」

「こんな歳でヒーローになりたいって言うの?幼稚園児かって」

「果穂さんはヒーローのようになりたいって頑張ってます!努力してる人を笑うなんて!!」

「大体……何やってるんですか!」

「小宮をいじってたら南条が来たんだよ。夢を笑うなってさ」

「果穂……。果穂は悪くない」

「光ちゃん……」

「それもヒーローってか?はっはっは!!」

 

 

「……はーん。大体わかった」

夢斗が動く。

 

 

 

 

 

 

「変身!!」

HENSHIN(ヘンシン)

「!?」

腰にベルトを付けた夢斗が光達の前に現れる。

「おばあちゃんが言っていた……(大嘘)。子供の願い事は未来の現実……。それを夢と笑うのはもはや人ではないってな!!」

「だから笑うなよ……!!何もわかってないクセに人の夢を笑うんじゃねえよ!!」

「なんだお前!?」

「星名さん!?なにやって……!」

「星の名を持ち、夢を(カタチ)にする男!!俺の名は星名夢斗」

「なんか変人が来た!!」

「夢斗!?」

「夢斗さん!!」

仮面ライダーカブトの主人公「天道総司」のような名乗りと(天道)が劇中で言う俗に言う「天道語録」をちょっと変えた事を言いながら夢斗が出てきた。

 

 

 

 

 

「お前らは……なんで笑う?」

「ヒーローなんて幼稚園児が目指すような物じゃん!」

「ほー……。つまり俺は幼稚園児と」

「まー、俺は変人だし」

「変人!!変人!!」

「うるせーな」

「お前も南条達の仲間だろ」

「ん?仲間って誰が言った?俺は光達とは日課をやる仲間だ」

「仲間じゃん!?話通じねえ!!」

「通じねえのはテメーらだ」

夢斗の口調が変わる。

 

 

 

「光と果穂はさ、みんなが笑顔でいれるように頑張ってる。それくらいはわかるだろ?わかれよ(脅迫)」

「脅してませんか?」

遥が軽くツッコミを入れるが夢斗は続ける。

「俺にはな、夢がない!」

「でも、守ってる物はある。それもたくさんな」

「俺がどんだけバカをやってもそれを認めるヤツがいなきゃ俺がバカとも知られない。アイドルもそうだ。レッスンをすげー頑張ってもファンがいなきゃ注目すらされねえ」

「光達がそうしてる様子を想像できんのか?」

「できねえ。仮面ライダーとかでやるような特訓(笑)をしてそう」

「あのな、仮面ライダーの特訓はなんでやってるかわかるか?」

「悪役に負けた、だからもっと強くなってリベンジする。お前らはそんなくらいにしか思ってないだろう」

「でもよ、その時に主人公が色んな事に気づいてるって知ってるか?」

「自分の弱さはもちろん、周りの人間の思いとか自分の目的を見つめ直したりとかさ」

「目的を持って生きるのがエラいっては言わないけどその目的を笑うのはどうなのって俺は言いたいんだわ」

「仮面ライダーが子供の目指すこと?それ言っちまったら19歳大学生の俺は大人の皮被ったガキじゃん」

「痛い大人(正論)」

「うん、痛いな(納得)」

「ちょっと!?」

遥が呆れる。

「まあ俺よりも歳上で今でもライダーに憧れるヒトはいるだろ。さすがに仮面ライダーにはなれないってはわかってるだろうが」

「なれなくても目指すことはできるだろ?」

 

 

 

 

「じゃあ誰か守る時も自分の体を張れんのか!?」

木製バットを持ってきた少年。

「汚いですよ!!」

遥が批判するが何の効果もない。

「守って……見せろっ!!」

光にバットが振り下ろされる……。

 

 

 

 

 

 

「……はっ?」

少年の持ってたバットが吹っ飛んだ。

「……!?」

光も目をぱちくりさせてる。光の前に夢斗が立っていた。

「こんな武器(モン)で夢は諦めねえ。だろ?」

夢斗がキックでバットを吹っ飛ばしたのだ。

「光。とっとと果穂連れて逃げろ」

「ああ!!」

光と果穂が公園から逃げる。

「待ちやがれ……っ!?」

威勢よく声を出した少年が凍りつく。夢斗が迫る。

夢斗のその目は少年に迫る危険を表した目。

逃げようにも足が動かない。夢斗の気迫に圧倒されて動けないのだ。

逃げれなかった少年は夢斗に掴まれる。

「なぁ……。とっととやめればよかったのに」

少年を掴む夢斗の手の力は凄まじく、振り解けない。

「つまんねーな、ホント」

夢斗が手を離して少年を解放する。解放されて尻もちを着く少年。

「ふざけんなあああっ」

バットを再び手に取り、夢斗を背後から殴ろうと迫った。

「危ないっ」

遥が夢斗に呼びかける。

 

 

 

 

 

「いい加減にしろ馬鹿野郎がっ!!」

ベルトのスイッチを1、2、3と順に押してカブトゼクターのホーンを動かす。元の位置にホーンが戻ると「RIDERKICK(ライダーキック)」と電子音声が鳴る。

音声が聞こえた途端夢斗が振り向きざまに回し蹴りを放った。

少年が持っていた木製バットが真っ二つに折れるほどのキック。

持っていた武器を失い、唖然とする少年。

少年に先程の操作を再び行いながら迫る夢斗。

「大人がこんな事を子供にすんのか!?」

「別にいいじゃん。テメーが俺を警察に突き出しても俺はなんともねえ」

完全に恐慌状態に陥る少年。

「……終わりだ」

「ライダーキック」と音声が鳴り夢斗が右足を振り抜く……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんてな。嘘だ。さすがにそんな事しねえから」

「……!?」

少年の目前には夢斗の右足が止まっていた。

「そんな事したら俺はおまわりさんのお世話なるじゃん。そんなのヤダよ」

「でもな……」

「?」

「もしもまたこんな事があるようなら……」

 

 

 

 

「今度こそこの右足で頭をぶっ飛ばすからな?」

そう言った夢斗の顔自体は笑顔だったが目がバケモノのような目になっていた。

夢斗からは凄まじい圧力が出ており、本気でやると本能でわかった。

「俺はふざけはするが嘘はつかねえ。それが俺」

少年が周りを見回すと仲間達がいなくなっていた。夢斗のその迫力に恐怖し逃げたらしい。

やっと立ち上がった少年はすぐさま逃げ出す。もうこれに懲りてこのような事はしないだろう。

 

 

 

 

「あの……」

「ん?どした遥」

「何故そこまで夢を大切にしようと思うんですか?わかるんですけどやりすぎな気がして……」

夢斗の行動は明らかに過剰なレベル。近所の人が見ていたりしたら通報されかねない。何せ夢斗は木製とはいえバットをキックで折る、中学生を蹴ろうとしたなどやってる事は普通に犯罪者のソレ。

「ばーか、フリだ。あの時俺の右足が当たってたらそれこそ俺はおまわりさんのお世話になるじゃねえか」

「つーか右足軽く痛え」

そりゃバットを折る程の力で蹴っているのだから足も痛いだろう。

「遥はさ、夢ってなんだと思う」

「夢は……私が目指す目標。ゴールラインみたいな物」

「そうやって夢って何かわかってるのはいいんだ。夢を形にできずヘニョヘニョなヤツが夢をはっきりと持ってるヤツを笑うのが許せなくてな」

「夢を目指せるのがありがたいって思わないのかねえ」

「……」

遥は知らないが夢斗の過去には悲しい事件が関係している。

事件(それ)で失った妹の存在。夢を目指してた中で亡くなった彼女。

だから夢斗は人一倍夢を笑うヤツに容赦ない。

 

 

「星名さんの夢って一体?」

「まだはっきりとしてねえ。けど、俺がやれる事を生かせる事をしたいなって」

「星名さんには『走り』があるじゃないですか」

「『走り』……。そうか」

夢斗は何かを思いついたようだ。

 

 

 

「そういえば……星名さんって何かやってたんですか?あのキックは普通ではないです。私は自衛隊格闘術を何回か見て自分も少しはできますけど……。星名さんのやった動きはあまりにも洗練されていて……」

「光達も言ってただろ?ヒーローを目指すには努力だろ」

夢斗は幼少期からの仮面ライダーごっこで自身を鍛えていたのだ。それ故に格闘術も優れてる。さすがに軍人などには歯が立たないだろうが自衛程度なら十分通用するレベル。

「でもさ、あんな風に暴力は振るわないだろ。アイドルは」

 

 

 

(夢を目指せるのがありがたい……)

夢斗の夢への考え方。

自分は夢をただ目標としか考えてなかった。そんな事を言ったら夢斗に「夢ってのはそんな単純な物じゃねえんだよ」と言われるだろう。

それほど夢斗の言葉には強い説得力がある。夢を何かと問いかけられるようだ。

 

 

 

 

「つーか前から思ってたけどさー。星名さんって呼ばなくていいんだぜ?夢斗でいい。呼び捨てでもいいわ」

「堅苦しいの俺はキライでさ。別に同い年だからいいじゃん」

ある意味誰に対しても「フラット」な夢斗。

夢斗が敬語を使う相手はいない。例え相手が蓮でも。少しは話し方が変わるがタメ口残りの話し方だ。

「じゃあ……夢斗」

「いいな。そんな感じ」

そして他人と交わっていける。最もこれは最近になってからできるようになった事だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、果穂の話ではいじめっ子はもうちょっかいを出さなくなったらしい。寧ろ果穂か光を見ると逃げるんだとか。よほど夢斗が怖かったのだろう。

だが自分を笑っていた少年の事も光は許した。

「わかってくれたらそれでいい」と言っていたそうだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「よし……」

ここは内藤自動車工場。

蒼いR34GT-Rがリジットラック(ウマ)から降りて地面に着地する。

美世の手で仕上げられたR34は全盛期の姿を取り戻していた。

「後はもうちょっと調整したら完成かな……」

そう言い終わった直後美世の意識はブラックアウト。美世は睡魔に負けた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、無茶しやがって」

内藤が美世を事務室へ運ぶ。

「……本当に形にするとはな」

自身の宿敵でもある迅帝のR34を美世はたった1人で仕上げた。

「超えて見せろ。お前はやれるさ」

内藤はそう言い残して仕事へ戻る。

 

 

 

 

 

 

 

本物の伝説が動き出そうとする。

その車はある1人の首都高ランナーの憧れでもあり、そして夢を決定づけた。

首都高から姿を消しても、彼女はその車への憧れを強く持ち、自身も同じ車に乗った。

その車は蒼い。そして彼女が乗る車は対になるような真紅。

 

 

 

 

 

「待ってて……ください」

美世の寝言だ。彼女は夢の中でも迅帝の事を見ているらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。

悪魔のZを走らせていた貴音はふと何かを感じて反対車線に目を向ける。

反対車線に見えたのは黒いランサーエボリューション。咲耶だ。

そのままZとエボⅨはスライド。

 

 

「進化している……」

エボⅨから迸るオーラ。それは本物の領域に達したオーラ。

 

 

「前を走るさ。絶対に」

咲耶は超えるべき相手に打倒宣言をする。

進化したエボⅨがZと戦う日もそう遠くはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

動き出す伝説とそれを狙う者達。

迫る「その時」。革命のような出来事が夢斗達に迫る。




迫る決戦。
首都高ランナー達は走り続ける。





ネタ解説です。
・島村卯月と山吹沙綾
これは2人の中の人の「大橋彩香」さん繋がりで。
・「フライパンじゃねコレ」
これは「ガルパ」内の4コマ「もっと!ガルパライフ」内のネタ。食べられるフライパン……いいな。
・「おばあちゃんが言っていた……」
「仮面ライダーカブト」の主人公「天道総司」の祖母が言っていた言葉を天道が話すいわゆる「天道語録」。なお、夢斗の祖母は生きてます。他にも仮面ライダーネタあり。
・「自分も少しはできますけど……」
遥の両親は自衛隊に所属。この辺りは外伝「空を目指した少女と地上に煌めく六連星」を読んで貰えればと。




「銀色の革命者」を書き始めてもう少しで半年になるんだなと気がついた。投稿ペース遅いなーと思いながら。
次回から物語がクライマックスに向かい始めます。







次回、美世が仕上げたR34が岩崎の手に返る。
美世が仕上げたRに岩崎はどんな感想を残すのか?
そして夢斗はあるアイドルに過去の自分を見て……?



「創りあげていく物編」完


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革命前夜編
STAGE31 目覚めの紅


いよいよ持ち主の元へ返る伝説の車。美世の手で蘇ったGT-Rは再び走り出す。
一方夢斗は……。


9月の最後の日。

蒼いR34が首都高へ。シートに座るのは美世だ。

岩崎に引き渡す前の最終調整をしている所だ。

(乗れば乗るほど魅せられていくのがわかる)

美世が岩崎のR34を運転するのは今回が初めてではない。

しかしその度に感じる高揚感。自分が車とシンクロするのがわかる。

自分の思いのままに動く。それが当たり前。

岩崎のR34の動きは限りなく自分そのものと言えるような正確性を持った動き。

 

 

 

(4速へーーー)

シフトチェンジしてもその加速は一瞬たりとも途切れない。

いつまでも加速していくような感覚。

回転数という縛りがなければどこまでも回るだろう。

 

 

 

 

「おっ、やる気?」

いつの間にかS2000がR34の後ろにいた。

ゆっくりとアクセルを踏み込んでいきR34はS2000を離していく。

S2000も追いつこうとするが差は歴然。

(こんなにすごい車は負けない……。こういう車があたしの理想)

S2000はバックミラーから消えた。

(でも……この車は……。あたしの車じゃない)

そう、この(R)は岩崎の車だ。

 

 

 

 

「大丈夫……問題ないかな」

高木が仕上げたボディは問題ないようだ。とはいえ少しでも不安があればダメだ。そういう車に美世はしたくなかった。

そのためR34の心臓部であるRB26のセッティングを変更。最大1200馬力出るセッティングから大きくパワーを落として最大800馬力にまで下げた。

その分あらゆるステージで最大限のパフォーマンスを発揮しやすくなった。

また、美世が新たに投入した新パーツによりレスポンスなどを改善。

全盛期の時よりも速くなっているかもしれないのだ。

 

 

 

「迫れるかな。この車に」

最近ずっとそんな事を考えている。自分で仕上げた車が今度は敵になる。

憧れでもあり敵でもある車。複雑な気持ちを抱きながら美世はRを走らせる。

 

 

 

 

 

 

 

その後再び自分のRに乗って岩崎のRに近づくために走る。

同じアプローチでも結果はまるで違う。

(どうしたらいい?)

踏めない。迷いが大きくなっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰宅後。

無意識に自分のRを見ると……。

「なんか変わった……?」

気のせいか紅色が微妙に変わったように見える。

「気のせいだよね」

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

美世は部屋のカレンダーをめくる。

10月になった。そして今日は岩崎にGT-Rを引き渡す日だ。

準備をして待ち合わせ場所の辰巳PAへ向かう。

冷え込んできた東京の朝の中を蒼いGT-Rは走る。

 

 

 

 

 

 

 

待ち合わせ場所に着いた美世。

「あれ?あのR32って……」

紫色のR32GT-Rが止まっていた。とりあえずRをR32の隣に停める。

R32から降りてきた人物。

「岩崎さん!藤巻さんも!」

藤巻もいることに驚く美世。

「原田さんすごいな……。本当に直してみせた」

藤巻は美世の仕上げた岩崎のRを見て言う。

藤巻を感心させるほどの美世の仕上げ方。これまで数々のGT-Rを仕上げた藤巻がここまでレベルの高い仕上がりになったGT-Rを見るのは初めてだった。

「岩崎、乗ってみたらどうだ」

「ちょうど俺も乗ってみたいって思ってた」

「原田さん、教えてほしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PAを出発する2台のGT-R。

先に出てきたのは「迅帝」と呼ばれ首都高最速と呼ばれた蒼いR34。続いて迅帝以前の首都高最速だった「パープルメテオ」のR32。

伝説のGT-Rが再び首都高へ戻ってきた。

 

 

 

 

「だいぶパワー落とした?」

「はい。ボディの負担を考慮して800馬力に」

「NOSはそのままで。フルショットで920馬力は出るかと」

「パワーが落ちたって事を感じないな……。寧ろ扱いやすい。どんな状況でも踏めるって思うな」

「ありがとうございます」

岩崎に感想を言われて喜ぶ美世。

憧れのマシンを自分の手で修復し、持ち主の岩崎に絶賛された事が美世は嬉しかった。

 

 

 

 

2台は湾岸線へ。

多摩川トンネルからフルスロットルでRはカッ飛んでいく。

「足も悪くない……。これならドッグファイトで武器になる」

 

 

 

(すごい)

美世は岩崎の技術に驚いていた。

美世にチューンされたR34を少し乗っただけでもう乗りこなしている。

セッティングなども全部変わっているのにソレを気にする様子は見られない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「原田さん、ありがとう。俺のワガママを聞いてもらって」

「いいんですよ。何より……この車はあたしにとって特別な存在ですから」

岩崎と別れた後は藤巻に送ってもらい家に帰った美世。しかし帰ってきても岩崎の運転のインパクトが強く残っていた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

翌日、283プロへ向かう銀色のエボⅩ。

「なんだ?遥が呼び出すなんて初めてだぞ」

朝早くに電話がかかってきて283プロへ来て欲しいと言われ、朝食を素早く食べて来た夢斗。

 

 

 

 

 

283プロに到着。

「あ!夢斗さん!」

「お、果穂。ゴーバスターズ見てるか?」

「はい!この間はギャバンがすごかったです!あのっ、ところでギャバンってなんですか?」

「今から30年前だからな……知らないのも当然か。俺も生まれてないし」

特撮談義をしつつ、部屋へ。

「うーっす。遥いるか?」

「あ、夢斗君だ!プロデューサーは今はづきさんと話してるからまだ戻ってこないよ」

めぐるが出迎える。

「めちゃくちゃ暇だわ。めぐるー、遊ばね?」

「いいね!何やるの!?」

「……とにかく遊ぼうぜ(無計画)」

この後夢斗は果穂とめぐると色んな遊びをして時間を潰した。

 

 

 

 

「すみません、待ちました?」

遥が戻ってきた。遥が部屋を見ると3人が3DS(ゲーム)で対戦していた。

「プロデューサー!夢斗君がズルいよー!」

「ちゃんとした戦法だわ」

「夢斗さん強いです!!」

「……もう少し手加減したらどうですか」

「ムリ」

たとえ遊びでも手を抜かない男、それが夢斗。

 

 

 

 

「んで話ってなによ」

「夢斗に頼みたい事があって……。11月にあるアイドルフェスタのお手伝いを頼みたくて」

「裏方の仕事ってやつかい?やるけど」

「ありがとうございます!」

遥の頼みを引き受ける夢斗。

 

 

 

 

「夢斗さんっていい人ですよね!」

「そうですね……。誰にでも一定で。ある意味一番親しみやすい人だと思います」

果穂の言葉に共感する遥。

誰にでも同じ態度。よく言えば「フラット」。悪く言えば「無礼」。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

283プロからの帰り道。

夢斗はゲーセンに寄る。趣味の太鼓の達人をやるために。

「ん?あれって……」

夢斗が見たのは太鼓を叩いてる1人の少女。夢斗も知っているアイドルだ。

「やるか」

 

 

 

 

「もう1回だけ……ひゃっ!?」

「わり、一緒にやらせてくれ。智絵里がどんだけやれるか気になってさ」

緒方智絵里だ。彼女は太鼓の達人で凄腕のドンだーだとファンに知られてる。

バラエティ番組の企画で太鼓の達人で勝負する企画の際、大会に出たような実力者にも勝っている程の腕前。

 

 

 

 

「よし……!」

「んじゃ、俺も本気でやる」

2人が選んだのは「エンジェルドリーム」。

難易度はおにの裏。通称「裏鬼」と呼ばれる難易度。

 

 

 

「天使が降りてきたら」

「羽わけてもらおう」

2人は真剣な表情でバチを動かす。

周りに少しずつ人が集まる。しかし2人は目もくれずに譜面を捌いていく。

 

 

 

 

「さぁーー!」

サビに入り2人のバチの動きが変わる。素人から見ればとんでもない動き。

 

 

「「同じ夢の色たどりつけるから〜」」

気がついたら歌っていた。歌いながら最後までやりきった。

 

 

 

結果は2人ともフルコンボ。

「やった……!!」

「上手いなー。さすがガチ勢」

全良を達成した2人。

そんな2人に近づく男達。

「智絵里ちゃん上手いね〜。今度は俺とやってほしい」

「あ、あの……」

「いいからいいから。さ、やろう」

無理やり智絵里を引っ張ろうとする男。だが。

「がっ……!?何しやがる!!」

夢斗が男を蹴っ飛ばしたのだ。

「あのな……お前ら智絵里の事をなんだと思ってんの?自分とやってる事が同じだからって好き勝手やるって違うだろうが。常識勉強し直せガイジ」

「この野郎……!!」

夢斗に殴りかかるが逆に夢斗の重い一撃をモロに食らう。

「一応智絵里を助けるため、っていう名目だ。たとえ俺を殺っても智絵里が証人になるからテメーは捕まるだろうな。あくまで俺は正当防衛っていう認識だ」

「智絵里、逃げるぞ」

「わわっ……」

2人は店を飛び出して逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いな、怖い思いさせて」

「大丈夫です……。えと、夢斗さんですよね」

「ああ。そっか、智絵里は俺と直接会ったことなかったな」

智絵里は夢斗の事を「ピンキーキュート」のメンバーの卯月と美穂から聞いてたが直接の面識はなかった。

「夢斗さんってなんで初めて会う私にこんなに優しくしてくれるんですか」

智絵里は聞く。襲われかけた際に夢斗が男達から智絵里を助けた。もし夢斗が助けていなかったら今頃智絵里はどうなっていたかわからない。

「優しくっつーよりはあん時は単純にやべえって思ったからな。一応俺もアイドルに関係してるし見過ごす訳にはいかなかった」

「優しいは違うと思う。俺はやる事をやっただけだって思ってる。周りからもみくちゃにされるほど怖いモンはないし。しかもそれが見知らぬ人でも自分のファンでさ」

「でも守るべきラインを守れてねえのはファン失格じゃねーかって。浩一の姿勢を見習うべきだっての」

ファンでもモラルを守らなければならない。ソレを守れないのはファンどころか社会的にも失格だ。

 

 

 

 

「夢斗さんは誰かを頼るってできるんですか?」

智絵里が夢斗に尋ねる。

「……昔の俺はそうじゃなかった。俺は周りから疎まれてさ。みんなから突き放されてた。裏切られたり見捨てられたりとよくあったよ」

「でも、俺は1人になっていることで周りからの助けに気が付かなかった。夕美達に教えてもらわなかったら今でも俺は1人で生きていこうとしたと思う」

 

 

夢斗と周りの違いが生んだ深い溝。

それを埋めたのが夢斗が嫌っていた「周り」。

 

 

「智絵里は小日向さんとか頼んないのか?」

「頼ります。けど……どうやって声をかけたらいいのかわからなくて」

「とにかく声を自分からかけないと変わんない。小日向さんなら話をちゃんと聞いてくれるだろうしさ」

 

 

 

 

やがて夢斗は智絵里を346プロまで送った。

去り際に智絵里は言う。

「今日はありがとうございました。……なんだか夢斗さんの話が心に残って」

「困ったら周りに聞く。これ一番大事な」

「はいっ」

「あと、楽しかったぜ。また一緒にやろうな」

 

 

 

 

 

「誰かを頼る……昔の俺はそんな事しようともしなかったな」

智絵里に見た過去の自分。

自分みたいな体験を繰り返させないために夢斗は他人のために生きる。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

美穂のFCが美世を迎えに来ていた。

美世のRが点検のために藤巻の元に置いてあるため美穂がわざわざ迎えに来たのだ。

「ごめんねー、あたしの車点検しててさ」

「大丈夫です!それに私のななさんのこともあるし」

 

 

 

 

346プロへ到着。

美世が仕事の準備をしていると珍しい人物がいた。

「あれ、歌織ちゃん?」

「美世ちゃん!」

765プロのアイドル桜守歌織だ。彼女が悪魔のZと共に走ってきた「ブラックバード」を駆る。なおブラックバードという名だが銀色だ。

彼女自身は現在首都高を走ってない。どうやら父といろいろあったらしい。

 

 

 

 

「貴音ちゃんがまた誰か狙ってるの?」

「ええ。黒い車を」

「あー……」

美世は誰かわかった。ちなみに美世も彼女とは面識がある。

 

 

 

 

「……そーいや歌織ちゃんはなんでいるの?」

「お仕事の打ち合わせで。亜季ちゃんと一緒に」

彼女は今週末の自衛隊基地訪問ライブに出る。大和亜季と合同でやるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方。

346プロ女子寮ではいつものような光景が。

「美穂ちゃーん」

「響子ちゃん?」

「味見お願いします!」

響子特製カレーの味見を頼まれる。

「もう少し濃い方が私は好きかな?でもみんなが食べるならこのくらいがいいかな」

「なるほどっ!ありがとう美穂ちゃん!」

 

 

 

「……私普通ではなくなってるのかな」

美穂はふとそんな事を思った。

普通の女の子と自分で思ってたがよくよく考えてみるとおかしい。

まず自分のやってる事。「アイドル」という非日常的な体験。自分はそれに憧れた。それはまだいい。

次に車。これが一番の問題。普通に公道を走るならまずいらない程の高性能車。しかもそれで首都高を走る。

何やってんだろう……と美穂は思った。

 

 

 

 

変化が起こる夢斗達。近づく決戦。

首都高ランナー達はまた明日を迎える。

 




返還されたR34。岩崎はこのRで戦うべき相手と戦う。
一方美世のRに変化が……?




ネタ解説です。
・Rのチューン内容
大幅なパワーダウンが行われた岩崎のR34。文中では「ボディ保護のため」となってますが、メタ的な理由では「1000馬力オーバーは差が大きすぎる」という事からです……。
・パープルメテオ
岩崎の師匠であり、かつて首都高最速であった「藤巻直樹」ことパープルメテオ。今回愛機R32と共に登場。
愛機R32はガレージザウルスのR32がモチーフです。
・「ギャバンってなんですか?」
2012年2月26日から2013年2月10日まで放送された「特命戦隊ゴーバスターズ」。その31話と32話で映画「宇宙刑事ギャバン THEMOVIE」とのコラボがありました。
「宇宙刑事ギャバン」が1982年に放送されて2012年当時で30年が経過しています。そのため果穂ちゃんはギャバン自体を知らなかったのです。夢斗はメタルヒーローも知ってますが。
・緒方智絵里と太鼓の達人
緒方智絵里役の大空直美さんは太鼓の達人プレイヤーとして有名。それが反映されてか智絵里もアニメ版シンデレラガールズで太鼓の達人をプレイするシーンがあります。
彼女と夢斗がプレイした「エンジェルドリーム」はデレステでもカバーされています。そのメンバーの中に智絵里もいます。ぜひやろう(宣伝)
・桜守歌織登場
前作「疾走のR」では準主人公だった歌織。ここでは走りません。
理由は去年の出来事が関係している模様……。





私事ですが今月末に東京モーターショーに行ってきます。モーターショー初めてなので楽しんできます。





次回、夢斗の速さの秘密が明らかに!?
常人では理解不能な夢斗の能力が明かされる!



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STAGE32 見えるモノ

夢斗の驚異の能力が明かされる!
天才の走りの秘密とは!?


10月のある日。

夢斗は蓮と話していた。

「小日向さんってなんでFDが好きなんスか?」

「他とは違うエンジンだから、かな。レシプロはよく見るし。今ロータリーはほとんどないからね」

「小日向さんFDの運転上手いっすもん。FDはピーキーだって浩一が言ってたけど小日向さんってソレ感じるんすか?」

「あるな〜。早めにカウンター当てないとスピンしたりとかあるし」

「逆に聞いてもいい?夢斗君はエボを乗りにくいって感じた事はあるかい?」

「ないっすね」

「即答かー。僕は四駆に乗った事はないから比較できないけど……。エボを上手く運転するコツってあるのかな?」

すると夢斗の答えが返ってきた。

「コツ?ないっすね。そもそも動きが『見える』んで」

「……!?どういう意味?」

「んー……。自分でも説明しにくいっす」

 

 

 

 

 

「俺もよくわかんないけど、色んな所の動きがなんとなくわかるんすよ。例えばこれ以上ステアリング切ったらスピンするとか。あのラインまでなら踏めるとか。そういうのが目で見えるんす」

夢斗の話した事に唖然とする蓮。

「いつの間にかそういうのができる……いや違う。わかるようになったっす」

 

 

 

 

 

夢斗が幼かった頃。まだ奏夢が生きていた時の事だ。

夢斗は物の動きを捉える事に長けていた。それはもはや未来予知の領域と言えた程。

だが、信じて貰えなかった。「アニメの見すぎ」と言われた。

しかし夢斗の言うことを聞かないと本当にその通りになった。それはそれで気味悪がられる。

奏夢はそんな夢斗を理解できた数少ない存在。

 

 

 

夢斗の「ソレ」は今は視覚的に車の限界がわかるというモノ。夢斗の視界にはリアルタイムに車の状態が見えている。タイヤの切れ角やタイヤのグリップが耐えられる限界などが。

夢斗が何らかの操作を行えば見えている情報もその度に変化する。

 

 

その「見える」ライン以内だったらどんなコントロールもしてみせる夢斗。

周囲から見たら明らかなオーバースピードでも曲がる。

何故そんな事が可能かは夢斗本人もわからない。しかしこれがあるからこそ夢斗の走りは成り立っている。

 

 

 

以前に友也が夢斗のエボの足回りの極端な硬さを指摘した事があるのだがその際の友也の指摘はある程度当たっている。

「夢斗の反応速度に合わせる」という推測を立てた友也だがその推測にはひとつ足りない物があった。

それは夢斗の限界領域を上げるための方法という事だった。

夢斗のドライビングに純正の足では全く追従できなかった。その結果試行錯誤しながら乗った結果足回りの硬さを変える事で一応の解決にはなった。しかしそれでもエボが夢斗の足を引っ張った。

何もかもが夢斗の求めるモノに足りなかったのだ。

 

 

 

 

咲耶と初めてバトルした際に咲耶のエボⅨについて行く事ができたのは夢斗の技量が大きい。もしも浩一がエボⅩを運転していたらそもそも勝負になってないだろう。

そんな「未完成」のエボⅩで「完成」したエボⅨを追えたのが奇跡だ。

 

 

 

最終的に夢斗のエボがスピンしたのは「慣れ」も大きいがその際の状況も関係してる。

その時夢斗は初めて首都高を走った。

それこそミスせずに走れたら1人前の首都高でいきなりのバトル。夢斗でなくともむちゃくちゃの一言。

 

 

そして「動揺」だ。咲耶のエボⅨを抜こうとした際、ブラインドコーナーであったためコーナーの向こうが見えなかった。驚いた夢斗が回避しようとした時にコントロール可能な「ライン」をオーバーしたのだ。

 

 


 

 

この物語を読んでいるあなたもイメージしてみよう。

綱渡りをやっていて「自分は落ちない」と言っている人を例にしてみよう。

その人は一定の条件の中でやっているとする。

「観客が静かにじっと見ている」という条件でイメージして頂きたい。その人がミスしない理由が見つけられるだろうか。

観客は静かだ。だが、観客がおんぶしていた赤ちゃんが泣き出してうるさくなると考えたらどうか。

綱渡りしている彼は赤ちゃんを泣き止ませようと動く親、赤ちゃんの泣き声などが意識に入ってくる。

あなたも作業中にうるさくされて気が散るなど体験した事があるだろう。

 

 

彼はその結果綱渡りを失敗したとする。

赤ちゃんの泣き声などという「想定外の事」に調子を乱されたというのが彼の失敗理由。

 

 

 

話を戻すと夢斗がスピンした理由の中には「外部要因による動揺」がある。

例えずば抜けた技術を持った夢斗でもミスだってする。

天才だって普通の人間だ。

 

 


 

 

咲耶とのバトル後、大阪に向かいエボⅩをアップデートした夢斗。

大きく姿を変えたエボⅩの大きな変更点は足回りだ。

以前の足回りから変更した結果、エアロ装着で新たに得たダウンフォースと合わさって超高速コーナリングが可能となった。

その旋回速度は首都高ランナー御用達のコーナリングマシンであるFD3Sすら置いていく。

しかしその分操縦難易度は高くなり、並のドライバーではエボⅩを曲げられない。乗るドライバーが夢斗だけだというのもあってほぼデメリットになっていないのだが。

 

 

性能が向上したエボⅩは夢斗の求めていた基準に達した。

特に限界がさらに引き上げられたのもあってそれまで以上に夢斗の走りにキレが増した。その結果、蓮のFDや咲耶のエボⅨと互角の勝負ができるようになった。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「こうやって聞くと夢斗君はすごいなって」

「聞き慣れてますよ、そういう事」

夢斗の話した事に衝撃を受けたが、ソレを夢斗の強さと認めた蓮。

 

 

「そうだ、僕のFDに乗ってみてくれないかな?夢斗君の技術がエボ以外でも通用するのか知りたくて」

「あー、イイですけど。浩一にFD乗せて貰えなくてFDってどんな感じか知りたかったんスよ」

蓮は自身のFDを夢斗に運転させて首都高へ上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロータリーってすっげー!!」

蓮のFDを運転している夢斗の感想。

レシプロエンジンとは構造が根本的に異なるロータリーエンジン特有のフィーリング。滑らかな加速でスピードを上げるFDに夢斗は感動する。

 

 

 

 

「慣れてしまえばスゴい楽しいっス」

「でしょ?峠走ってたから走らせるのが楽しくてね」

軽快にC1エリアを走るFD。夢斗の運転するFDは蓮の運転と少し異なる動きはあれども基本的な動きは全く同じ動きをしている。

 

 

 

「そういえば……夢斗君は車の限界が見えるって言ったけどどうやってそれを処理しているの?」

気になっていた事を聞く蓮。

リアルタイムに情報が見えるという事は当然それらを処理しつつ車の操作を行っているわけであり、夢斗はそんな中でどんな運転をしているのかが引っかかっていた蓮。

 

 

「俺はふっつーに運転してるだけッスね。運転してると見える物がどんどん変わっていくからそれを解決できる動きをヤるだけで。っていう事を浩一に言ったら『んな事できるか』って言われて」

 

 


 

 

ちょっと前に夢斗に蓮と同じような事を質問した浩一。

夢斗からの返答は大体蓮が聞いた事と同じなので省く。

 

 

 

「情報ね……」

夢斗はリアルタイムに情報を処理しつつ車の操作を行う事を聞いた浩一。

「んじゃ、体験してみるか?俺の見えてる物」

「へ?」

そんな浩一に夢斗が用意したのはニンテンドーDS。初期型のモノだ。

「今から浩一はDSで脳トレやってもらう」

「脳トレ懐かしー」

 

 

 

脳トレを始めた浩一。

「んで、コレやれ」

今度はPS3のグ○ンツーリスモ5を浩一にやらせる。

夢斗がセットしていたコースはニュルブルクリンク24h。浩一だけで走るタイムアタックだ。

使う車はロータリーエンジンのチューニングで有名な「RE雨宮」のチューンドカーである「雨宮μ過給圧上昇7」。

一般のユーザーでも作れるような仕様ながら筑波サーキット59秒台を記録したチューンドカーだ。

夢斗のルールで車は一切セッティングを変えていない。要するに吊るしだ。

 

 

 

 

「なあ、コレ意味あるの」

「まだコレウォーミングアップだぞ」

車の動きを確認するため浩一はコースを2周した。しかし特に変わった事は今の所やっていない。

「っつーわけでホイ」

「おい、今やってるだろが」

夢斗がハンコンを握る浩一にDSを渡す。当然できるわけがない。

「無理だっつてんだろ!?」

「あー、わかったよ!んじゃ俺が問題言うから解きながら走れ!」

夢斗がDSを持ち、浩一に問題を言っていく。

「問題!俺が今から読み上げる文をひらがなで表すと何文字になるか言え!」

「『都会に疲れて田舎暮らしを始める』!」

「は!?えーとっ、19!!」

「当たり!次っ『為せば成る為さねば成らぬ何事も』!」

「えっと、17!?」

「当たり!次はーーー」

 

 

 

 

 

「おい、ホント意味あんの!?」

「あるからやってんの。今のでダメとか次やれんぞ。これからが本番だわ」

夢斗がコースはそのままにマシンを変更。選ばれたのは……。

「おい待てや!」

夢斗が選んだ車は「TVR」の「サーブラウスピード12」。

この車は最大出力811馬力、そして車重はなんと1020kgというモンスターマシン。実車は装備は最小限に留まりABSすらも装備されていない。あまりの危険度から市販が不可能と判断されて発売が中止される程の車だった。

 

 

そんなモンスターマシンを走らせるのはニュルブルクリンクという世界最大のサーキット。

「あと、こうな」

夢斗はコースの天候を豪雨に設定。ただでさえコントロールが困難なじゃじゃ馬を雨の中で走らせるという超高難易度。

しかも夢斗のルールでタイヤはレーシングタイヤに設定される。レインタイヤなしでの雨の中の走りは困難を極める。

「んで、3位以内に入れなかったら罰ゲームな」

レースだ。相手(CPU)は最高難易度。極めつけにアシストなどは全てオフ。

 

 

「もちろん問題も解きながら。今度は自分で持ってな」

DSを渡された浩一。

「間違ったらケツバットな」

「理不尽」

 

 

 

たった1周。

車はアシスト一切なしで運転する。晴れの日でも手を焼くようなモンスターマシン。

そして多数の情報を処理しながらのレース。どう考えても無理ゲー。

 

 

 

 

 

 

「無理じゃボケ」

浩一は7位でレースを終えた。14台中7位。

「はーいんじゃ罰ゲーム」

夢斗は浩一の後ろに立ち……。

「ライダーキック」

 

ドゴオッ

 

「ああああああああああああ」

 

 

 

 

浩一の名誉のために言っておくと浩一は夢斗から出された問題は全問正解。

情報処理はなんとかなったが、やはり車が大きい。ブレーキング時のミスなど重大なミスを3回した。それでもある程度順位を上げた浩一は評価できる。

 

 

 

 

 

「お前やれや」

「おう」

今度は夢斗が全く同じ条件でやる。

 

 

 

 

 

 

 

約10分後。

「どうなってやがる」

夢斗はしっかりと1位を取った。夢斗は全くミスをせずにスピード12を走らせたのだ。

 

 

 

 

 

 

「んで、どういう事だ」

「脳トレは情報処理。実際俺の頭は脳トレ以上の膨大な情報が常にあるんだ。脳トレで根をあげたらお前が俺になったらお前脳みそパンクするぞ」

情報処理。リアルタイムに変化し続ける車の状態を判断して車のコントロールの限界に迫る夢斗。

 

 

「スピード12は車の動き。頭の中で情報をチンタラ捌いていたら車の操作が疎かになるだろ」

夢斗の言う通り問題を考えていたらもう次のコーナーが目の前に迫り、慌てて操作していた浩一。それが理由でブレーキングミスもあった。

化け物を制御しつつ必要な事を選んで実行する。言葉にしても普通ではない。

 

 

 

 

「んでまとめると?」

「必要なのは情報処理能力と空間認識能力。あとは俺でしかできねえよ」

「ざっくりすぎだろ」

「すげえ量の情報を一瞬で処理しながら車を狂いなくコントロール。ちょっとでも気を抜くと破錠」

 

 

 

 

 

夢斗のその能力をまとめると「車の限界などが視覚的に見えている」。

その分相当なレベルの情報処理能力や空間認識能力が要求されるため、夢斗だから可能なのだ。

また、他車の動きも見えている。以前友也の運転するハチロクの動きを見てアレンジを加えたり咲耶のエボを避ける事ができたのもこの能力があってできた事だ。

 

 

 


 

 

 

 

 

「それは浩一君が無理って言うよ」

「俺にとっては普通なんで」

夢斗はFDを自由自在に動かせるまでになっていた。短期間であっという間にFDの特性を掴んだのである。

 

 

 

 

「おもしれー……」

口から出た夢斗の言葉。今まで感じたことのない楽しさ。

FDならではの楽しさが夢斗を刺激する。

(楽しー)

 

 

 

 

 

 

 

「FD楽しーッスね。俺じゃ小日向さんの運転に届かねーっス」

「初めてであれだけできれば全然大丈夫だよ。すごいな、夢斗君」

夢斗の意識に飛び込んだFDの走り。エボとは違う感じが夢斗を満たした。

「るんってする!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢斗のドラテクに関わっていた能力。そして「それ」を理解する蓮。

エボとはまた違うFDに乗った夢斗は何を思ったのか?




夢斗の速さの秘密。
それは限界が目でわかると言う物だった。それを強さと見る蓮。
そして蓮のFDを運転した夢斗は……?





ネタ解説です。
・浩一が使った車
「雨宮μ過給圧上昇7」は浩一のFDのモデルになった車です。詳細は本文にあるので省略。
「サーブラウスピード12」はグランツーリスモ2での初登場時点では「じゃじゃ馬」を軽ーく通り過ぎたとんでもない化け物マシンで、まともに走らせることはほぼ不可能でした。
その反面プレゼントカーとしては最高額の売却額(5000万Crだっけ?)を誇り、お金不足を助けました。
ここで登場するのはGT3以降の仕様。余談ですがGT2ではコンセプト仕様が収録されてました。
・「すげえ量の情報を一瞬で処理しながら車を狂いなくコントロール」
夢斗の速さの秘密。情報が見えていてリアルタイムに変わるそれを処理して走ると言う物。
簡単に説明すると「ガンダムW」のゼロシステムや「鉄血のオルフェンズ」の阿頼耶識システムみたいな物が夢斗の視界に常にある、って感じ。そのため、「情報を処理できないと……脳が壊れる」by夢斗





ロボットアニメでありがちな「脳に情報が送られる」ってどんな感じだろう?怖くて体験したくないですけど。
あと夢斗の紹介を少し加筆しました。




次回、『ライバル』に乗る夢斗。
技術が全ての車を夢斗はどう操る!?


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STAGE33 ローテク

電子機器だらけのエボⅩの反対の車といえば……?
夢斗はどう乗りこなすか?


ここは都内某所のビルの会議室。

夢斗は以前遥に依頼されたアイドルフェスタのお手伝いのために遥に同行していた。

「すっげー真剣ッスね」

「私語はなしでお願いします」

夢斗が周りを見渡すと関係者達が見える。どう見ても偉い人もいる。

「小日向さんも真剣だなー」

 

 

 

 

 

「……はい、こちらで手配しますので。……お願いします」

1年前に似た会議に出席した蓮。あの時は武内Pといたが今日は自分1人。

「瀬戸さん、ユニットはどうするんですか?」

「ユニットは5つ。全員出します」

遥を見ているとまだ新米だった時の自分を思い出す蓮。1年前の事が懐かしく思える。

「赤羽根さんは?」

「もちろん全員だ」

研修のためにハリウッドに行ってきたという赤羽根P。

天海春香など超有名アイドルをプロデュースしているだけあってベテランの風格を見せる。

 

 

 

 

「あざーっす」

「タメ口しない!」

「ええー」

「ええーじゃなく……!」

「瀬戸さんも大変だね……(笑)」

「夢斗君を手伝わせるならそれ相応のメンタルがいるよ……」

蓮や赤羽根P(体験者)達は語る。自由な夢斗を止めるのは困難。

 

 

 

 

 

会議後……。

「もう……」

「わりー、楽しかった(笑)」

げっそりした遥とは対照的にキラキラして出てきた夢斗。

夢斗への注意で疲れ果てている遥。一方、会議の様子が面白かったらしく「るんっ」と来たらしい夢斗。

 

 

 

 

「帰り運転してください」

「お、了解」

「えっ」

夢斗があっさり受け入れた事にびっくりする遥。てっきり「やだ」と言うと思っていた。

「インプ運転してみてえし」

夢斗の意外な発言。

夢斗と遥はWRCを共に争った三菱とスバルのファン。ミツビリストとスバリストという関係。

そんな夢斗がライバル車インプレッサに乗るのだ。

 

 

 


 

 

 

正午。

昼間の首都高を走る一般車はピークの時間帯よりは少ない。

 

 

 

 

 

副都心エリア3号渋谷線。

高樹町付近のストレートをフル加速で走る青いインプレッサ。

 

 

 

「セッティングがすごいドンピシャだ……。ちょっと気になるとこあるけど……。走らせてて楽しい」

夢斗をしてこう言わせる遥のセッティング。特に足回りがよく出来ている。

「足回りは妥協しませんからね」

自信満々に言う遥。彼女の言葉に嘘はない。父にアドバイスを受けながら仕上げた遥の仕上げ方はほぼ完璧。夢斗の操縦に追従できている。

 

裏を返せば普通の人のセッティングで夢斗の操縦を追えるのが驚異的なのだ。

夢斗がセッティングすれば恐ろしくピーキーで普通の人は乗りこなせないじゃじゃ馬になる。

だが遥のセッティングは普通の人でも扱え、そして夢斗のドライビングにも対応できるのだ。

夢斗が絶賛する足回り。遥のインプレッサは夢斗の意思を形にする。

 

 


 

 

「そーいやこれってなんだ?」

ドライバーズコントロールセンターデフ(DCCD)をイジる夢斗。

「ちょっ、いじらないでください!」

 

 

DCCDを知らない人のために説明しよう。

そもそも4WD車にはフロントタイヤとリアタイヤの回転差を解消するためのセンターデフと言う物が装備されている。

スバルはこれに差動制限力をドライバーの任意に変更できる装置を加えた。それをDCCDと呼んだ。これによってフロント・リアのトルク配分を変更しているかのような挙動を車両に与えた。

 

 

大まかな構造としてはセンターデフに、フロントとリアに決められた比率で基本トルク配分を行うプラネタリーギヤと電子制御で差動制限を行う電磁式LSD機構を組み込んだ物。

ドライバーはセンターデフのロック率を直結からフリーまで、運転中に任意に設定することができる。

 

 

遥のインプレッサはGDB(2代目)

GDB型は二度に渡るフェイス変更を受けた。遥のインプレッサは涙目と呼ばれるアプライドモデル名「C型」。

C型では丸目ことA型、B型での基本前後トルク配分45.5:54.5から初代インプレッサ(GC・GF)と同じ35:65に戻した。

また、車の挙動やドライバーの意思に応じてセンターデフのロック率を自動で設定するオートモードが追加搭載された。

 

 

なぜトルク配分を初代インプレッサと同じに戻したかと言うとA・B型のトルク配分ではアンダーステアが頻発したためである。

ステアを深く残した状態からの立ち上がりでアンダーを誘発する事が4WD車、そしてインプレッサの中でも丸目では比較的顕著に出る。

ある雑誌での企画でGC8とA型を乗り比べてのアタックでフロント45.5とフロント35の違いがサーキット走行でははっきりしているのだ。

そのような事もあり、一般ユーザーの要求に合わせたのだろう。

 

 


 

 

赤坂見附付近。

DCCDをいじった夢斗がインプレッサを曲げる。……いや、滑らせる。

「こんな……っ。こんな場所で滑らせないでっ」

遥が夢斗に訴えるが意味なし。

白煙の中、4輪スライドしながらS字コーナーをクリアするインプレッサ。

夢斗は一般車をドリフトで避けながら走ってるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……嘘でしょ」

美世はバックミラーで見えた光景に唖然とする。

インプレッサが映画のワンシーンのように一般車の間をドリフトで抜けているのだ。

首都高でこんな豪快なドリフトをするドライバーは初めて見た。

 

 

 

 

「GT-Rならやれるか?」

夢斗はR34(美世)の撃墜を狙っている。

「あれって原田さんじゃないですか。……いけない事はないんじゃ」

「んじゃ、やってみる」

「えええ!?」

夢斗はR34に迫る。紅いGT-Rを撃墜せんとばかりに猛加速。

 

 

 

「やる気……ってわけかぁ!」

3速に落としRを加速させる美世。戦闘態勢に切り替わっていく意識。

集中力が高まり、ステアリングを握る手に力が入る。

気がつけばバックミラーにインプレッサのヘッドライトの光が眩しいほどに入っていた。

 

 

 

 

西新宿JCT。

狭い道を並走する2台。有利なのはR34。

だが、夢斗は焦らない。

「……曲がれっ」

クラッチを蹴った。エンジンの回転数が跳ね上がり、リアタイヤが流れ出す。

インプレッサは暴れだした。

「何やって……!?」

遥は夢斗のやっている事の意味がわからず混乱。

「ドリフトですけど?」

「わかってます!でもなぜ……」

甲高いスキール音を響かせながら先のコーナーへ向かって突っ込んでいくインプレッサ。

 

 

 

「そんな……できるかっ」

美世はインプレッサのドライバーがやっている事に軽い目眩を感じた。

200km以上出ているインプレッサ。コーナーインには速すぎる。明らかなオーバースピード。

 

 

 

 

「ほいっ!」

サイドブレーキを引いた夢斗。

インプレッサはラリーに出る車のように真横に近い角度を向く。

インプレッサはR34の外側から被さるようにしてコーナーへ。

「こっちが……不利じゃん」

コーナースピード自体は美世の方が速い。しかしインプレッサのドリフトに当たらないように減速するしかないのだ。インプレッサは壁とR34に迫る。

 

 

 

「そんな!?」

遥は自分の目を疑った。

自分のインプレッサがR34の前に出ているのだ。

 

 

 

「なんで……できるんだ!?」

美世は自分の眼前に見えるインプレッサの腹を見て驚く。

一般車がいて、しかも首都高。こんな状況でドリフトできる技術が美世に衝撃を与える。

 

 

 

 

 

インプレッサが前に出る。

低いボクサーサウンドが轟き、インプレッサのテールランプが遠のく。

「……完敗か」

美世はアクセルを抜く。完敗したのだ。

 

 

 


 

 

 

下道に降りて美世達は合流。

「あんな所でドリフトって……」

「なんとなーくッスよ。なんとなく」

「それがおかしいんですよ!?夢斗の運転見てると命がいくつあっても足りないです!」

「夢斗君すごすぎでしょ」

 

 

 

 

遥と美世がモータースポーツ談義している中、夢斗は遥のインプレッサを見ていた。

「アナログ……」

 

 

 

「どうしたんですか、夢斗」

話が終わったらしく、遥が戻ってきた。

「やー、インプレッサってアナログだよなって」

「どういう事ですか?」

「いやほら、エボって電子機器多いじゃん。AYCとか……。エボⅩはS-AWCだっけか」

AYCはアクティブ・ヨー・コントロールの略。

ハンドル角、速度、ブレーキ、旋回時のGなどセンサーを基に後輪左右の駆動移動をコントロールする。コーナリング中に発生するヨー・モーメントを制御し旋回性能を向上させるシステムだ。

一方、S-AWCはスーパーオールホイールコントロールの略。

三菱が開発したアクティブディファレンシャル「アクティブセンターデフ」にAYCなどの機能などを組み合わせた物と思ってほしい(ちなみにアクティブディファレンシャルの例としてはスカイラインGT-Rの「アテーサE-TS」が該当する)。

 

 

 

「小日向さんのFDに乗ったり、遥のインプ乗って思ったけどそういう『ハイテク』に頼らないじゃん。全部ドライバーの腕じゃん。だから使いこなせれば無茶苦茶速いじゃんか」

「全ては自分自身が車の速さを決めるってな」

 

 

 

 

夢斗は蓮のFDに乗って思った。

(メカ)に頼らないから生まれる蓮の走り。その一方、自分のエボは電子機器が多い。誰でも速く走る事はできる。しかし、それだと自分の腕が反映されているかは疑問。

 

 

だから夢斗は純粋に自分の腕が問われるFDやインプレッサに乗って思った。

『ローテク』な車で速いドライバーは強いと。

 

 

 

 

「んじゃ、またね」

「原田さん、今度のアイドルフェスタ頑張りましょう!」

「もっちろん。アクセル全開でいくよ」

夢斗達はそれぞれの向かう所へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あたし……どうしようかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美世の迷い。

自身の技術に自信を失いかけていた。

 

 

 




夢斗の技術が美世に衝撃を与える。
美世の精神は不安定になっていく……。




ネタ解説です。今回はこれだけです。
・「ハリウッドに行ってきた」
「劇場版アイドルマスター 輝きの向こう側へ!」のラストでハリウッドに研修へ行った事から。ここでの赤羽根Pは帰国後という設定。





次回、夢斗に敗れた美世。
彼女の苦しさは車にも及び……。



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STAGE34 迷走する走り

今回短いです。短編並に短い……。



美世の走りにキレが無くなっていく。
そして……。


美世が夢斗達とバトルしてから数週間。

美世はこの所走りへのモチベーションが失せていた。

夢斗の走りに大きな衝撃を受けてしまい、自身の走りの意味を見失いかけていた。

美世の走りは正統派。しかし夢斗は美世と共通点はあれどその走りは全くの別物。

常人ならやらない事を夢斗は躊躇いもなくやる。それが美世に大きな事としてのしかかっていた。

 

 

 

 

 

ここは内藤自動車工場。仕事中の美世だったが……。

「はぁ……」

ため息しか出ない。最近こんな調子だ。

「おいおい、しっかりしてくれ」

内藤も心配している。

「あたしアイドルもやってレーサーもやって……大変ですよ。ははっ」

確実にヤバい美世。

「……後の仕事俺がやる。お前は休め」

「はーい……」

美世はフラフラとした足取りで工場を出ていった。

 

 

 

 

 

R34に乗って街へ来た美世だが、その運転にはどこか危うい雰囲気が出ている。

先程も前方不注意で危うく前のバスに追突する所だった。

気晴らしにならないかと街中を歩く美世。

 

 

 

 

 

 

街中。

止まっている車が気になる様子の金髪ショートの少女が。

「咲耶、このクルマってなんだ?」

「スカイラインさ。『GT-R』って呼ばれてる。R33型のスカイラインGT-Rだ」

「GT-Rかー。かっこいいな……」

「ん……誰?」

「……美世さんか」

「咲耶、知ってるのか?」

「ああ。原田美世さんさ」

「アタシは西城樹里。よろしく」

「アイドルか……頑張って」

「あ、はい……」

呆気にとられた表情の樹里と不思議そうな顔をした咲耶を背に美世はまた歩きだした。

 

 

 

 

 

 

「蓮君は今何してんだっけ……」

蓮は今日はスーパー耐久のため不在。

美世は蓮の予定なども頭から抜け落ちていた。もう考えるのも苦しい程に。自分に自信を持てていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

蓮が帰ってきた。今回はデフブローに見舞われてしまい、リタイアしたという蓮。

美世を見て心配するが……。

「美世さん、大丈夫ですか」

「あたしは平気だよ、ありがとうね」

無理をしてるのが見え見え。

 

 

 

 

 

 

仕事が終わった後、蓮は内藤自動車工場へ。

美世の事を聞くためだ。

「美世さんどうしたんですか?内藤さんなら知ってると思って」

「誰に負かされたかは知らないが、自信がなくなってるんだとよ。相当キたみたいだ」

「誰なんだろう……」

蓮は美世が夢斗に負けた事を知らない。

 

 

 

 

 

 

PM11:50。

日付が変わる10分前。蓮はFDに乗って湾岸を走っていた。

「今日はいないのかな……」

蓮は美世を探しているが見つからない。

美世は不満などを溜めると湾岸でかっ飛ばす。それを理解してる蓮は湾岸に探しに来たが美世のRの姿はない。

結局美世は見つからなかった。

 

 

 

 


 

 

 

 

次の日。

美穂は仕事で咲耶達283プロのアイドル達と合流。

「咲耶さんの車ってすごいですね……。上手く言葉にできないけども」

「蓮さん達の車みたいだけどもそれらとはまた違う『特別感』があって」

「特別感?」

咲耶は聞き返す。

「はい。言葉にするならそんな感じです」

 

 

 

 

 

美穂達の今日の仕事は来月のアイドルフェスタの宣伝写真の撮影。

「はーい笑ってー!」

カメラマン達に写真を何枚か撮られた後、集合写真の撮影。

モデル慣れしてる咲耶と共に笑顔を見せる美穂。照れ笑いではない心からの笑顔だ。

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様でした!」

写真撮影が終わり、休憩に入る。蓮は遥に美世の事を聞く。

遥からの返答は夢斗が美世に勝ったと言う事だった。

「夢斗君か……」

「夢斗は命知らずなんですよ。あんな所でドリフトする思考が理解できません」

「なるほど……」

「原田さんを見かけないですね。全然」

遥も最近首都高で美世を見てないそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

仕事が全て終わり、283プロへ戻る遥達。

そこに……。

(あれ、原田さんじゃ?)

紅いR34GT-Rが交差点の向こうに見えた。しかし確かめる事は叶わず、遥達の車は左折。

(原田さん……かな)

 

 

 

 

 

 

 

 

PM10:30。

新環状エリアを紅いR34が走る。

(はぁ……)

美世は悩みを抱えたまま。目に映る道をただ走るだけのままである。

 

 

 

 

 

 

箱崎分岐へ差し掛かるR34。

美世はぼんやりとしていてオーバースピードで突っ込んだ事に気づかなかった。

(……はっ!!)

美世は慌ててステアリングを切り、減速しようとするも遅かった。

路面のギャップを拾い、アンダーステアのまま壁に向かって外へはらんでいく。

「曲がれえええええ」

美世の操作に応えないR34は右フロントから壁にヒットする。

「うっ」

ヒットした瞬間車内の美世にまで伝わる大きな衝撃。

壁ヒットから跳ね返ったR34は右フロントから白煙を出していた。壊れた右フロントフェンダーがタイヤの表面を切っていたのだ。

それでもGT-Rは止まらず、今度はリアバンパーを壁に当てた。

同時にリアウイングが吹き飛び、ステーしか残ってない。二度に渡る壁ヒットの後GT-Rはスピンして完全に停止した。

 

 

 

 




近づく「その日」。
だが美世のRは……。





ネタ解説です。今回もこれだけ。
・樹里とR33
樹里役の永井真理子さんはR33GT-Rが愛車。
TE37を履き、カーボン?ボンネットを装備するなど本格的。他にもR'smeetingに行ってくるなどGT-Rが好きだとスゴく伝わります。




次回、壊れた美世のRは……。
そして迎える決戦!美世と岩崎の最初で最後のストリートバトルが始まる!


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STAGE35 決戦前夜

ついに訪れる決戦。
美世のGT-Rは迅帝に迫る本物のモンスターとなる!!


「くぅ……いったぁ」

やっと止まったR34GT-R。フロント部分は半壊、リアウイングも失った他、損傷した部分多数。

「エンジンは無事か……」

なんとか自走可能な事を確認し首都高を降りた。

 

 

 

 

家に着いた後破損した箇所を応急修理。

とはいえバンパーやリアウイングは替えがないためウイングレス、半壊したフロントバンパーはガムテープで落ちないようにするなど本来の姿とは程遠い。

表面が切れた右フロントタイヤを含めた全てのタイヤを交換。

明日も仕事なので美世は作業を中断して眠りにつく。

 

 

 

 


 

 

 

 

翌日。

蓮はいつものように346プロへ出勤。だが今日は蓮のいつも通りはなかった。

アイドル達が駐車場に集まっている。

(……なんだろう?)

駐車場に入り、アイドル達の視線の先を見ると……

「えっ、一体何が!?」

昨日までとは全く違う姿の紅いGT-Rがそこにはあった。

 

 

 

 

「美世さーん!!何があったんですか!?」

美世の元に駆け寄る蓮。美世は暗い表情で答える。

「箱崎でやっちゃった……」

その瞬間蓮は全てを察した。

「……怪我は」

「あたしは平気。でも……」

出ない言葉の先は言うまでもなくGT-Rの事。

 

 

 

その日美世は事情を常務達に話す事となった。

その結果、美世は2週間雑用をする事となった。

だが武内Pが言うには美世の処分は極めて異例だとか。

普通だったら無期限謹慎などもおかしくないらしい。

にも関わらず、美世がこれだけで済んだのはアイドルフェスタへの参加も控えておりそしてレーサーとしてのキャリアの事もあるのだろう。

 

 

 

 

 

 

翌日、美世は横浜にいた。

破損したGT-Rの修復のためにFUJIRacingにGT-Rを持っていった。美世はRをローダーで持っていった事を述べておく。

 

 

 

 

藤巻にGT-Rを見てもらった後。

「こりゃハデにやったねえ」

「……あたしの不注意でこんな事になってしまって、Rに申し訳なくて」

「岩崎さんとの勝負が迫っているのに……このまま走れないのが辛くって」

岩崎とのバトルの日は11月上旬。残りはあと約2週間。それまでにこのGT-Rを修復しなければならない。

 

 

 

「……本気で岩崎を目指す覚悟はあるか」

「はい。あたしがこうやってGT-Rに乗る理由を作ってくれた人だから。だからこそあの人を追うんです」

「あの蒼いGT-Rはあたしや蓮君、みんなを繋いだクルマだから」

覚悟を決めた美世。表情はレースの前のように引き締まっている。

「……ならばコレを持っていくんだ。GT-Rは原田さんに応えるさ」

倉庫の奥から藤巻が持ってきたダンボール箱。その中身は……

「C-WESTのフロントバンパーに……Abflugのリアバンパー!?」

「それにこのGTウイング……岩崎さんのGT-Rと同じ」

R34用のエアロパーツだ。しかも未使用品。

 

 

 

「これは岩崎のGT-Rのスペアパーツだ。予備にとあいつに頼まれてね。本来はあいつのモノだ。だが岩崎は『いい』と言うだろうさ。あいつは原田さんとのバトルを望むなら……こんな事に文句を言わないさ」

「それに……お礼だろうさ」

「どういう意味ですか?」

「時代の流れの中で静かに消えていく自分を覚えていてくれた……原田さんが今こうやって岩崎の事を意識しているのが嬉しいんだろう」

「俺としてもあいつに負けたのは悔しいさ。だから俺が手を入れたGT-Rで岩崎(あいつ)に勝って欲しくてな」

「原田さん、GT-Rのチューンをするぞ」

「はい!」

かつて首都高最速と呼ばれた男によるGT-Rチューン。「パープルメテオ」によってGT-Rは仕上がる事になる。

 

 

 

 

 

家に帰った後、美世は蓮に電話。

藤巻から貰ったエアロ類の塗装を蓮にやってもらい、FUJIRacingに持っていく。

すると蓮も……

「僕にもチューンさせてください!RBは僕もやった事あるので」

「えっ、なにそれ初耳」

「高校にRB系のエンジンがあって……ヒマを見つけていじってたんです」

「小日向君か。原田さんの助けになるかい」

「もちろん!アイドルの皆さんを助けるのが僕の役目ですから!」

こうして蓮と藤巻によって美世のGT-Rの心臓部RB26はチューンされていく。

その後も着々とGT-Rはチューンが行われ、その姿は迅帝を模した姿となった。

迅帝が蒼いGT-Rなら美世は紅いGT-R。色以外迅帝そっくりの姿になった。

 

 

 

1週間後、美世のGT-Rは完成した。

藤巻と蓮によってチューンが施されたRB26はブースト1.4kgで650馬力を叩き出す。

これにNOSを加えて720馬力を発生する。

本物の怪物(モンスター)になった紅きGT-Rは咆哮した。それは生半可な見かけだけの怪物を黙らせる。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

深夜の湾岸線。

暴力的なエンジン音を轟かせるのは蒼いGT-R。岩崎だ。

 

 

 

(アクセルを床まで踏み抜きたくなる衝動)

美世が組んだRB26は踏む気にさせる「なにか」があり、岩崎は言葉に表せないソレを感じながらR34を加速させる。

 

 

 

「……!!」

岩崎は鳥肌が立つようなプレッシャーを感じて先を見る。

その先に見えた車はもう一つの「伝説」だった。

 

 

 

岩崎はその車をパス。蒼い2台の車が並ぶ。

(……悪魔のZ)

Zのドライバーも気づいたようで目が合った。

 

 

 

時代を駆け抜けた伝説のマシン。伝説のマシン達は出逢った。

本物だけが持つ特別なオーラを纏う蒼いマシンは言葉を交わさなくても走りでお互いを知る。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

11月、美世と岩崎のバトル前日。

蓮と美穂は内藤自動車工場にいた。工場の表には黄色いFDではなく白いFCがあった。

蓮のFDは車検のため現在蓮の手元にない。

 

 

 

 

「内藤さん」

「わかってる。美世だろう」

蓮の言いたい事がわかってる内藤。

「あいつを見届けてくれ。自分を形作った『憧れ』に挑むあいつを」

「もちろん。美世さんはそのために頑張ってましたから」

 

 

 

「あと……これをお前達に使って欲しい」

内藤が持ってきたダンボール箱。中身はIパターンのシーケンシャルミッションだ。

「これは……」

「かつて迅帝を追うためにと用意したモンだ。だが、コイツが俺の手元に来る頃にはヤツは首都高を降りた」

「俺が置いてきた情熱のカケラだ。それを今現役で走るお前達に託す」

シーケンシャルミッションを託された蓮。美穂のFCにシーケンシャルミッションを載せるべく作業を始めた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

そして決戦当日。

346プロでいつものように仕事をしている蓮の元に常務が。

「もし何かがあったら原田を止めろ。最悪解雇でも構わん」

常務の口から出た言葉。

「……はい」

蓮はただ返すしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(すみません……僕は止めません。原田さんが今まで積み上げてきたモノを壊すなんて僕にはできませんから)

(それに……僕だって見てみたい。「伝説」の走りを)

常務の命令に反する蓮。自分だって1人の走り屋だ。「迅帝」の走りを見てみたい気持ち。

そして美世にとって非常に大きな意味を持つ相手。

アイドル達の味方として動く蓮は上の立場である常務の命令が許せなかった。

例え逆らってでもこれだけはやると蓮は決めていた。

 

 

 

 

 

PM7:00。

仕事が終わった蓮は一度家に戻り、風呂に入ったり夕食を食べるなど一通りの準備を終わらせた後、美穂に電話。

20分後に迎えに来るそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

PM7:40。

ここは内藤自動車工場。

蓮と同じように風呂などを済ませた美世は愛機R34の最終チェックをしていた。

「空気圧問題なし……」

「オイルも大丈夫!」

生まれ変わったR34は美世の熱意が注がれたように紅く輝いていた。

その隣には迅帝をずっと追いかけてきた赤いFC3Sが。内藤は美世の作業を静かに見守る。

 

 

 

 

 

「……終わったか」

「うん。いつでも行ける」

「んじゃ、ボチボチ行ってみるか」

美世と内藤はそれぞれ愛機に乗り込む。

 

 

 

 

キュルルルルルルッグゥォッオオオオーッ

 

 

紅いR34と赤いFCの雄叫び(エキゾーストノート)がお互いを奮わせるように轟いた。

自分自身に気合いを入れていくかのように美世は何回かアクセルを煽る。

エンジンは吠え、跳ね上がる回転速度計(タコメーター)の針にシンクロするように美世のテンションも高まる。

 

 

 

 

 

美世のR34を先頭に出発。美世のR34に続いて内藤の赤いFCが走り出す。

 

 

 

 

 

10分程走ってローソンに到着。待っていたのは白いFC。

「美世さん!」

蓮だ。そして美穂も一緒だ。

「あたしの全部を出し切る!この日を待ち望んでいたから!!」

「だから!!あたしは悔いのない走りをする!」

美世は力強く語った。

 

 

 

 

 

集合場所である辰巳PAへ向かう3台。紅いR34GT-R、そして白と赤のFC3S。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

PM8:40、約束の時間20分前。

辰巳PAにはたくさんの車が止まっていた。週末というのもあり車が多い。

ただ、止まっている車は休憩のために来た人の車ではない。走り屋達の車だ。

 

 

 

「『迅帝』ってどんな車だ?」

「ばっか、そんなのも知らないで来たのかよ。R34だよ。『壱撃離脱』ってある目立つ車だ」

「『壱・撃・離・脱』だ二度と間違えるなデコ助」

賑わうパーキングエリア内。首都高の伝説と呼ばれた走り屋「迅帝」が復活してバトルするという噂が走り屋達の間で流れ、走り屋達が迅帝を一目見ようと集まってきたのだ。

 

 

 

 

 

「アイツは……誰とやるんだ?」

「さあね。でもいきなり戻ってきたくらいだからよっぽどすごい奴なんでしょ」

「昔からアイツは俺らと関わろうとしなかったからな。アイツが何しようが知る術が無かったし」

かつて迅帝の実力に最も近い走り屋として敬意と畏怖を込めて呼ばれたチーム「十三鬼将(THIRTEENDEVILS)」のメンバー達が集まっていた。

迅帝と同じく、メンバー達はある時を境に次々と首都高を降りた。

しかし、迅帝が戻ってくると聞き真相を確かめるべく戻ってきたのだ。

 

 

 

「相変わらず……変わらないな。お前」

「歳は取ったわよ?」

「言わなかっただけだ」

年齢トークで臨戦態勢になってるのは「12時過ぎのシンデレラ」こと林原美津江と「夢見の生霊」こと君嶋陽平。

かつてのJGTCに参戦していたNSX(レーシングカー)のような外観をした黄色いNSX(NA2)とこちらも黄色いRX-8の前でしょうもない理由でのケンカが始まった。

 

 

 

「まだか……」

漆黒のJZA80(スープラ)の前に立ち、迅帝を待つのは「スネークアイズ」久永一。

かつて迅帝に破れ、走りの腕を上げるべく渡米。アメリカでのストリートレースで頂点に上り詰めた後、日本に帰国するが首都高には

迅帝はもう居なかった。

それもあり彼は迅帝にいつかリベンジをと考えていた。

そして迅帝は戻ってきた。これを受けて動きだした時、何者かが迅帝にバトルを挑むと聞いた。

迅帝を離れていた首都高に再び戻らせるような出来事があったと確信した。迅帝を首都高に復帰させた走り屋を見ようとやってきたのだ。

 

 

 

 

 

「来たぞーーーっ」

その瞬間、賑わっていたパーキングエリア内が嘘のように静かになる。

現れた蒼いスカイラインGT-R。そのボディを包むオーラは口先だけは達者なトーシロ達を黙らす威圧感となる。

 

 

 

 

「おいおい、本当に来た」

「マジかよ」

十三鬼将のメンバー達ですら本当に迅帝が来るとは思ってないメンバーがほとんどだったため、目の前に見える迅帝のR34に驚きを隠せない。

 

 

 

 

「本当に……現れた」

「よう……久しぶりだな。迅帝」

林原も君嶋も驚いていた。だがその驚きの表情にはどこか嬉しさも見えた。

 

 

 

 

 

「なんだあのR32は?」

迅帝のR34に続いて姿を見せる紫色のR32GT-R。

「『パープルメテオ』……」

「どういう風の吹き回しなんだ?パープルメテオまで来るなんて」

 

 

 

「連絡はあったのか?」

「もう少しで着くと」

藤巻と話す岩崎。その光景はかつての師弟関係その物だった。

2人、いや、この場の全員が待つ。迅帝(伝説)に挑む挑戦者を。

 

 

 

 

 

 

 

ゴッォアアアアアアアアアア

 

 

 

 

「来たか……」

「そうだな……。お前の全部を出し切れ。それが彼女への礼儀だ」

「もちろん。彼女がいなければ……俺は走ろうと思ってないだろうし」

「憧れというモノを背負って俺は生きてたんだ」

自分という一人が彼女の憧れになった。「自分」だから彼女はここまで来たのだから。

 

 

 

 

 

ヴォゥアアアアアアアアアア

 

真紅のR34が現れた。続いて赤いFC、最後に白いFC。

3台とも「本物」であることが伝わる。迅帝に挑むのは誰かと3台に注目する一同。

 

 

 

紅いR34が蒼いR34の隣に来た。降りてきたドライバーは……

「原田さん、待っていたよ」

「あたしも……この日を待ってました」

 

 

 

 

 

 

「あれって……原田美世?」

「レーシングドライバーの原田美世だよな」

「アイドルもやってるよ」

「ウソォ!?」

迅帝に挑む人物がまさかの人物である事が判明し驚くギャラリー達。

 

 

 

 

「嘘でしょ?」

林原が否定しようとする。しかし。

「本当だ」

「『追撃のテイルガンナー』……」

内藤が林原に事実だと伝える。

「どういう事なの?彼女は一体……」

「走り屋だ。アイドルでレーサーで……そしてアイツを追いかけるために走っていた」

「アイツは俺の工場で働いてんだよ」

「……何年か前に従業員が入ったって言ってたわね。変人のあんたがやる工場で働く人がいるのってそん時は思ってたけど彼女が……」

「そうだ。今から6年前にアイツは地元石川から上京してきた。当時工場に住み込みで働いてな。あいつに車のイロハを教えたのは俺だ。あとな、俺は変人じゃないからな」

「変人でしょ。ロリコンの車バカ」

「ああそうだな(棒)」

 

 

 

 

「あと……あの2人は?」

白いFCの前に立つ2人の青年と少女。少女はともかく、青年の方はこういう車に興味がなさそうな大人しげな感じ。

「プロデューサーとアイドルだ。ただし、プロデューサーは普通じゃないが。美世と同じくレーサーをやってる」

「レーサー……!?」

「美世はスーパーGTのGT500クラスでモチュールのドライバーとして活動してる。岩崎とはそこからライバルだ」

「プロデューサーの彼はスーパー耐久に参戦したばかりの新人だ。……まだまだ伸びるさ」

「『首都高最速』である彼は美世と二人三脚で歩んでいる」

「首都高最速!?どういう事……はっ!!」

「そうだ。去年のクリスマスの日にあったバトルの勝者だ」

「『公道の流星』……今日彼は美世達を見守るためにやってきた」

「小日向蓮……。んもー、可愛いカオしてる」

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、始めようか」

「はい」

見つめ合う美世と岩崎からは対を表すような紅と蒼のオーラが見えた。

お互いのRに乗り込む2人。

 

 

 

 

(悔いのない走りをしよう、R)

美世はエンジンを始動させた。

 

 

 

 

 

(やるからには……やる。それが俺なりの礼儀)

岩崎はふと外を見る。するとパーキングエリアに異質な車が入ってきた。

 

 

 

 

 

「悪魔のZ!?」

「なぜこのタイミングで……」

首都高の伝説である迅帝と同じ存在である車。

「悪魔のZ」と呼ばれるS30のフェアレディZだ。

ミッドナイトブルーのボディからは妖しさが漏れていた。

 

 

 

Zから降りてきて紅いR34へ直行する貴音。

「原田美世……」

「貴音ちゃん!」

「貴女の走る理由をここで果たしてくださいまし。私がぜっとで走る意味を見つけれたように」

「もちろん!だからあたしは止まらない!」

 

 

 

 

直後に蒼いR34へ向かう貴音。

「Zのドライバーは君だったのか」

「ぜっとの『ぱーとなー』であるべく走るだけ……」

「パートナー……か。原田さんはたくさんの人に助けられてるなあ」

「俺も……」

そう言い残して岩崎のR34は発進。続いて紅いR34。

最後に白いFCが夜の戦場(首都高)へ飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(行こうか!)

岩崎のRは猛加速していく。

それに合わせて速度を上げていく美世のR。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伝説との戦いが始まった。頂点に立つ存在に挑む美世。

彼女を突き動かす存在はあの日のように駆け抜けていく……。

 

 

 

 

 

 




生まれ変わった美世のGT-R。しかし変わったのは中身だけではなく……?
長い夜が始まろうとしていた。






ネタ解説です。今回首都高バトルネタ多数。
・美世の新たなR34
生まれ変わった美世のR34は岩崎のR34の色違いっていう感じです。性能面ではマインズのR34を参考にしています。
・十三鬼将登場
「首都高バトル」の他に「街道バトル」シリーズなど元気のレースゲームでの名物的存在。林原や藤巻は加入後という扱い。
ここで登場した君嶋のNSXは「峠の伝説」に登場したものとします。
・久永一登場
「首都高バトル(テン)」のラスボスとして登場した彼。原作通り愛機は80スープラです。詳しい説明は本文でしてるので省きますが。この物語中では夢斗や美世達とは戦いません。
「首都高バトルⅩ」での出来事が微妙に違う方向に進んだら……という感じになった結果、として登場させました。




先日東京モーターショーに行ってきました。初めてビッグサイトに来たのもあってだいたい迷子でした。そこで川畑選手の180やRE雨宮のFDを見ました。生で見るD1マシンはやっぱりかっこいい(小並感)



いよいよ「銀色の革命者」も大詰めに近づいてます。
まず最初に美世と岩崎のバトル。実質「疾走のR」の本当の最終回かも。





次回、伝説の車が美世に牙を剥く!!




「革命前夜編」完


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革命の軌跡編
STAGE36 不敗神話


美世は迅帝の走りにどう対抗する?
超高速ドッグファイトは止まらない。


「その新しくなったR……どうだっ!?」

岩崎のRは速度を上げながら湾岸を駆け抜けていく。

美世のRは一定の距離を維持しながら少しずつ距離を詰めていく。

 

 

 

 

「いいよ……R!もっと行ける!」

藤巻と蓮によって組み上げられた新生GT-Rは美世の操縦に応える。

部分的にとはいえ岩崎のRと同じパーツが組み込まれた美世のRは岩崎のRに引けを取らない。

 

 

 

 

 

空港トンネル手前。

3車線の緩やかなバンクコーナーを抜ける3台。蒼紅のGT-Rと純白のFCが走り抜けていった。

 

 

 

 

 

 

「上手いな……」

岩崎はFCのドライバーの技術に感嘆していた。丁寧な走りでありながら速さも確保している。だが、岩崎が驚いている一番の部分はここ一発の爆発的な速さだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

FCの車内。

普段美穂が運転しているFCだが今日は蓮が運転していた。

美世を見守ると言ったものの、自身のFDは車検で手元にない。それでも美世の所には行かないといけないため美穂に頼んでFCを持ってきてもらったのだ。

 

 

「岩崎さん……すごいな。攻撃的な走りだけど破錠感がない……」

首都高はリスクを承知で攻めてもリターンは小さい事が多い。無理に攻めて自爆するのがほとんど。

そのため首都高ランナーはある程度の余裕(マージン)を残す走りが鉄則。

しかし岩崎はそんなモノ関係ないと言うばかりの攻めの姿勢を見せていた。

恐れを知らないかと思う程のプッシュだ。だが、これ程のプッシュができるドライバーは岩崎だけではない。夢斗もだ。

 

 

 

蓮のプッシュ自体は並のレベル。

プッシュの勢いは夢斗の方が上なのだ。しかし夢斗でも蓮を超えることができない部分がある。それが岩崎の言う一発の爆発的な速さだ。

 

 

 

「蓮さん、美世さんは勝てるんですか?」

美穂が聞く。

「どうかな……。岩崎さんの実力は僕も知らないから……」

「でも……美世さんならきっと」

「……美世さん、頑張って!」

美穂は美世にエールを送る。

 

 

(岩崎さんの走りは見てきた。スーパーGTで見せたあのプッシュができるんだ。遅いわけがない)

(けど……美世さんはやるだろう。岩崎さんを超えるような「なにか」を……)

 

 

 

 

 

 

 

大井から横羽上り入り。

テール・トゥー・ノーズのまま走る2台のR34。

 

 

(ブースト良好、エンジンは問題なし)

湾岸から長時間全開走行を続けていたがコンディションは良好。

以前の仕様では高回転域での水温上昇が早く、肝心な時に踏めない事があった。だが今のRなら気になりもしない。

 

 

 

 

(原田さん……このRは最高だ)

岩崎は心で美世に告げる。それは美世には聞こえていなくともその走りで美世に伝わる。

美世の仕上げたRは岩崎の求めていたモノを形にしたと言うべき完成度を誇った。

最高の走りがこのRで出来て美世と戦える。それだけでも岩崎は嬉しかった。

 

 

 

 

 

横羽を上って行く2台のGT-R。

膠着状態を突破しようと美世が動いた。

 

 

 

 

「……なるほど」

スリップストリーム。美世が選んだ行動だ。

(そういえば……富士でつっつかれたな)

9月に行われたスーパーGT第6戦で岩崎はスリップストリームで岩崎に食いついた美世にカルソニックGT-Rのリアバンパーをつつかれている。

 

 

 

(近づくんだ……!)

だんだんと自身に迫ってくる前の蒼いGT-Rのテールランプ。

富士の時のようにギリギリまでRを近づける。

 

 

 

 

 

「なるほどな……面白いじゃん!」

岩崎はトップギアである6速にシフトアップ。アクセルペダルを床を突き破らんばかりに踏み込んだ。

「くぅ……っ」

800馬力を発揮するRB26が吠える。先程までの加速とは全く異なる暴力的な加速に岩崎は震える。それは恐怖心をも上回る興奮による物だ。

美世のR34のヘッドライトの光が離れていった。

 

 

 

 

 

「さっすが岩崎さん……前のようにいかないか」

美世のテンションは高まる。前を走る相手をぶち抜くという目標、そしてその相手が岩崎。燃えない訳が無い。

美世は自分の持つ全ての技術を総動員して立ち向かう。

 

 

 

 

 

C1エリアへ突入した3台。

危険度トップクラスのこのエリアを怯むことなく突き抜けていく。

 

 

 

(超高速エリアでもテクニカルエリアでもこのRは応える)

(意識が一体化する)

どんな攻め方をしてもRは岩崎に逆らう素振りを見せない。

 

 

 

 

 

銀座区間。

いい路面とは言えないこの区間でフルスロットルで駆けるR。

車が若干跳ね、コントロールを奪われそうになる。だが、岩崎と美世はコントロールを失わずに狭いC1エリアを突き進んでいく。

 

 

 

「行ける」

蓮はFCで限界ギリギリまで攻める。C1エリアでは軽量なFCは速い。

蓮のテクニックと相まってFCは岩崎達よりも高いスピードで車がハネる路面を走る。

黄色いオーラがFCを優しく包み込んでいた。

 

 

 

 

 

 

(流れるRをコントロールするのがどれ程の難しさか)

(500馬力を超えた途端、一気に激変する操縦感覚)

(俺達はそれすら優しいようなモンスターを操っているんだ)

ドライバーの意思とクルマの動きが合わなければクルマは破錠する。

800馬力に到達するようなマシンを駆る以上、そんな事があったら命取りだ。だから首都高ランナーは車との「対話」ができて初めて1人前と言えよう。

 

 

 

 

 

C1から再び横羽方面へ入る。

GT-Rの最大の武器である馬力(パワー)の出番だ。

車任せにアクセルを床まで踏みつけ、速度を上げる。後は車次第で決まる。

 

 

 

 

「原田さん……」

岩崎は美世のRを初めて見た時の事を思い出していた。

あの時は自分を脅かすような存在ではなかった美世のR。

しかし今は自分に並ぶような実力者になった美世が駆るGT-R。遅いワケがない。

「だから……戦えるのが本当に嬉しい」

 

 

 

 

 

(そして……俺のGT-Rを超える。原田さんは俺のRを意識に焼き付けて……速くなる)

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ねえ、彼女は勝つの?」

林原が内藤に聞く。

「知るかよ。俺でも勝てなかったヤツにアイツが勝てるって言い切れねえよ。でもな」

「アイツは勝敗を気にしてないと思うぜ」

「どういう意味?勝つために挑んだんじゃないの」

「憧れなんだよ、アイツにとってな。だから一緒に走る事ができるだけでアイツは十分だろう」

「優劣を求めたがるのがヒトってもんだ。勝ち負けってのをはっきりさせたいがためにな。アイツもそんな奴だ」

「でも、今日だけはそんなの関係ない」

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

(ヤバい、めちゃくちゃ楽しい)

極度の興奮状態から美世はテンションがハイ。その瞬間美世はブレイクを発現する。

岩崎のRに引っ張られていた美世のRが岩崎のRの前に出ようとしていた。

「いいね……最高だっ」

岩崎も全力で迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

「……!?」

蓮は美世のRに違和感を感じた。

自分が美世のRを紅く塗装した訳だが、塗装の輝き方が変化している事に気づく。

(変化しているって言うのか!?まさか……)

 

 

 

 

 

 

コーナー1個をインベタのラインで抜けていく。270kmというスピードでのラフな操作は姿勢を乱し、最悪クラッシュだ。

ギリギリまでテンションが上がっている美世と岩崎だが、操作は精密機械のように正確。2台のR34は同じラインで走行する。

 

 

 

 

プレッシャーに抗う美世。岩崎の存在感はまるで山のようだ。それでも。

(熱く……なれるっ!ヤメれないんだーーー)

 

 

 

 

 

 

 

(原田さん……君に組んでもらって嬉しかった。このRは俺が今までに乗ってきた車の中で最高の車だ)

(このRの心臓……RBは俺のもうひとつの心臓だ)

(でもすまない……俺は)

「それ」は岩崎のこのR34での最後の走りを示す言葉だった……。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「もう1年になるのか……」

青年を狂わせる事になった出来事から1年。彼はやっと前に進めるようになった。

「後で行くからさ。待っててくれよ」

 

 

 

 

誰もいなくなった部屋に残された写真。

それは「夢」が詰まった大切な1枚だ。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「湾岸……ここでケリを付けよう」

湾岸線に入った2台のR34。

狂ったスピードでの超高速バトルが再び始まる。

 

 

 

 

勝つのは「挑戦」か「伝説」か。

決着の時が迫る。




争う2台のGT-R。
紅いGT-Rと蒼いGT-Rは「速さ」だけを決めるために戦う。
そしてその時は迫る。




今回はネタなしで真面目に書いたはずなのに短い……。
次回はもっと長くなる……はず。





次回、伝説のマシンとのバトルの行方は!?
そして……紅きGT-Rが覚醒する。


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STAGE37 覚醒の紅(ブレイクルージュ)

美世と岩崎のバトルは極限の領域に到達する!
そこにたどり着いた美世のGT-Rは……!!



湾岸を直進していく2台のR。

(余裕なんてないっ!けど)

美世のRはまだ切り札が残っている。NOSだ。NOSを使用する事で70馬力分パワーが上がり、その間は720馬力を発揮する。

しかし岩崎のRもNOSはある。しかもそもそものパワーで既に差がある上、NOSを使っても差を縮めるのは難しく、NOSを使用しても200馬力の差がある。

美世はどこでNOSを使うかを見極めるべく、機会を狙っていた。

 

 

 

 

(マージンがなくなった……。流石だよ)

美世の紅いRとほぼ差がなくなる岩崎の蒼いR。このままだと岩崎の前に美世のRが出る。

 

 

 

 

美世は震えるような丸二灯テールランプの赤い光を見ながら考える。

いつ抜くか。それだけを。

その思考速度の中では一瞬の瞬きですら美世には永遠のように感じられた。

 

 

 

 

 

心臓の音が大きくなる。ドクン、とはっきりと聞こえそうな程。

その瞬間を待つ。

 

 

 

 

一般車が視界から消える。オールクリア。

「ここだーーーーーっ」

ステアリングに付いているNOS噴射スイッチに親指を伸ばす。

スイッチを押し込むとシリンダー内にNOSガスが噴射され、その瞬間パワーはさらに上がる。

美世の紅いRは咆哮し、蒼い標的(ターゲット)を狩ろうと加速する。

もちろん岩崎も黙って見ている訳はない。岩崎もNOSを使い、Rを加速させた。

2台のGT-RのRBサウンドは地響きのように周りを揺らさんと轟いた。

自分が前に出ると言わんばかりに並ぶ2台のGT-Rは加速を止めようとしない。

 

 

 


 

 

 

(あたしは、幸せだ)

(もっともっと走りたいんだ!)

 

 

 

 

「美世さんのRの色が変わってませんか?」

美穂も美世のRの色の変化に気づいた。明確に色が変わっていた。

 

 

 

 

(ステージに乗って輝いた……。ステージで輝いて……目覚めた)

(あの紅は『ライドオンレッド』じゃない)

 

 

 

(あの紅色は……『ブレイクルージュ』って言うべきなのかな)

美世の紅の変化。色を作った蓮でも予想していなかった事だ。

ボディの輝きが美世に呼応するかのように増していく。

(僕の色じゃない。『美世さん』の紅色なんだ)

 

 

 

 

 

 

「まっだまだぁ!!」

美世の高いテンションはGT-Rを突き動かすエネルギーのようだ。

それに応えるようにRB26も吠えた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

超高速エリア湾岸線。

ここで最後まで踏み抜く事ができるのは本当に僅かな人間だけだ。

そしてそれができる美世と岩崎。

 

 

300kmオーバーでのスラロームを繰り返しつつ加速を続ける2台。少し離れた位置に蓮と美穂のFCが続く。

 

 

 

 

(300km以降は……苦しい)

いくら蓮の技術があってもパワーの差は埋められない。

美世のR34の丸いテールランプが離れていく。

(美世さん……)

 

 

 

 

 

トンネルを抜けると街頭が並ぶ。

道を教えるソレに照らされてボディが輝いている。

「最後の……足掻きです」

美世はR34の最後の武器(NOS)を使う。これで前に出られなかったら負け。

 

 

 

(頼んだよ!!)

Rに頼むようにしてNOS噴射スイッチを押し込む。

GT-Rの過給音が大きくなり、体感できる限りで最高の加速を見せる。

 

 

 

310km。美世のRが蒼いRと並んだ。まだ互角。

 

 

315km。エキゾーストノートがあらゆる音を無にする。タコメーターの針の動きが止まりそうになる。

 

 

320km。加速が終わると感じた美世。それでもアクセルは踏み続ける。

空気の壁がRを押し戻そうとする。壁を押し返そうと吠えるR。

 

 

325km。美世のRの加速が完全に止まった……。

しかし……!

 

 

 

 

(まだ!あたし踏み切ってない!!)

岩崎のRの背後に食らいついた。スリップストリームを再び狙う。

深夜とはいえ車が多い。一瞬でも読み違えば一般車へ突き刺さる状況で果敢に攻める美世。

そして訪れた一瞬のチャンス。

「いっけーーーーーーーーーっ」

残ったNOSをフルショット。最後の武器を使う。

 

 

 

 

「やっぱり……天才だ、原田さん」

美世のGT-Rが並ぶ。そして追い抜かれる様子に直面しても岩崎は笑みを浮かべていた。

(……俺はもう悔いはないさ、原田さん)

 

 

 

 

 

 

美世はリアバンパーをつつかれた事に気づいた。トン、と静かに。

美世のRをつついた岩崎のRは息がたえだえになっているかのように失速していった。つついた時も最後の力を使ってバトンを渡したみたいに。

美世がそう思った瞬間……

 

 

 

 

 

 

ギャアアアアアアアアァ……

 

 

 

ガッシャアアアアアッ

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「岩崎さん!!」

燃え上がる蒼いR34GT-Rに駆け寄る美世と蓮。

蓮が燃えるRから岩崎を助け出した。

「岩崎さん!」

「原田さん……俺は平気だ」

「それより……ありがとう。俺は今まで乗った中で最高のGT-Rに巡り会えた。原田さんがやらなかったら、こんな最高の走りはなかった」

「でも、Rが……!!」

「元々眠らせるつもりだったんだ。原田さんも気づいてたハズだ。Rのボディの終わりに」

美世が高木の工場に岩崎のRを持っていく前に見つけたボディの歪み。

大パワーと引き換えにするボディの寿命。ボディが歪んだ時点で岩崎のGT-Rはほぼ死んでいたと言えたのだ。

「それでも……このGT-Rを覚えてくれていた原田さんの前にこのGT-Rを出さないのは俺自身が許さなかった」

ボディが終わっているGT-Rで美世とのバトルを望んだ岩崎。

それはこのGT-Rでの最後の走りを覚悟していたからだ。そして今それは成し遂げられ、GT-Rは役目を終えた。

「これで俺は……プレッシャーから解放される。『迅帝』っていうプレッシャーから」

「そして、過去からも」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「迅帝が事故った!?」

「マジかよ!?」

辰巳PA内は大騒ぎ。

十三鬼将メンバー達も動揺を隠せない。ただ1人、藤巻を除いては。

 

 

 

(それで……満足か?Rを降りて……)

(お前はまだ『ある』だろ?)

 

 

 

雲に隠れて時折見える月を見て藤巻はこの場にいない岩崎に問う。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「美世さん、行きましょうか」

蓮が美世に聞く。

「うん。みんなが待ってるだろうし」

美世は自身のRに岩崎を乗せてこの場を去る。蓮と美穂のFCも続いて闇の中へ消えていった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

翌日。

走り屋達は昨日のバトルの話題で賑わっていた。

伝説(迅帝)を下したアイドル原田美世。ストリートでの勝負でも美世が岩崎を超えたと。

 

 

 

 

 

 

 

「本日をもってアイドル活動を再開する事を許可しよう」

美世は2週間の雑用が終わり、常務から復帰を認められた。

しかし美世はあまりいい顔をしていない。

目の前で憧れだった車が無くなってしまったからだ。

あの後岩崎のGT-Rから出た火は消し止められたが車体の大部分が焼失。

生き残っていた部分も再利用ができない状態と判断され、GT-Rは廃車となったそうだ。

だが岩崎は「これでよかった」と言っていたらしい。「GT-Rで最後に戦えたのが原田さんで本当に嬉しかった」と。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

数日後、スーパーGT最終戦。

雨が降るツインリンクもてぎでのレース。美世は第2戦では予選しか走れなかった。やっと決勝レースでここを走れるのだ。

慣れた様子で準備を終わして美世のGT-Rはピットアウト。

 

 

 

 

 

決勝レースはGT300クラスで菊地真一レーシングのGT-R GT3がスピンするなど波乱のレース展開に。

GT500クラスでもデンソーSC430がコースオフするなど雨の中で激しい順位変動が何回も起きた。

そんな中で激しい首位争いを繰り広げていたのは美世のモチュールGT-Rと岩崎のカルソニックGT-Rだった。

 

 

 

 

(ここだーーーーーーっ)

岩崎に激しいプレッシャーをかけられながらも美世は粘る。

レインタイヤを履いても自身からマシンのコントロールが失われるような路面で激しいプッシュ。岩崎の本領発揮である。

 

 

 

 

 

 

 

最終コーナーを立ち上がった2台のGT-R。

その光景は先日のバトルにどこか似ていた。

あと一歩及ばなかった岩崎の青いGT-Rが美世の赤いGT-Rに続いてゴールラインを通過していった。

美世は1位でゴールラインを通過したのである。

 

 

 

 

 

 

美世達モチュールはチームランキング3位でシーズンを終えた。

ドライバーランキングは6位であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

レース後。

それぞれチームが集まってパーティーが行われている東京都内某所のホテル。

様々なチームの監督達が話す中、美世は岩崎の元へ。

「また負けたよ(笑)」

「……はい」

美世はまだ岩崎のGT-Rの事が離れず、岩崎と話しても若干暗い。

「……原田さんが覚えているだけで俺はあのRを走らせた意味があったと思うんだよ」

「たとえみんなが忘れていても……原田さんだけは覚えていてくれた。それだけでも俺は嬉しいさ」

「……」

ここで岩崎が思い出したように美世に聞く。

「そういえば……原田さんは知ってるかい?『銀色の革命者』って」

「えっ!?知ってます!」

「俺も噂でしか知らないけど……銀色のランエボだそうだ」

「そうです、銀色のエボⅩです」

「原田さんのプロデューサーも関係してるんじゃないかい?FC……いや、普段はFDに乗ってる原田さんのプロデューサー」

「あたしも『彼』は本当に革命者って思いましたよ。フツーの学生が東京(こっち)に来てから次々すごい事を起こすきっかけになるなんて」

「原田さんが知っているなら頼みたい。『彼』と俺は戦ってみたい」

岩崎の口から出た言葉に開いた口が塞がらない美世。

「え、でもGT-Rが……」

岩崎は愛機GT-Rがない。どうやってバトルしようというのか。

ライバル(相手)となる車で俺は戦うさ」

「……まさか!?」

「ああ、そのまさかさ」

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

平日のある日。

「そろそろ行かねえとな……」

「どこに行くの?」

夕美が夢斗に聞く。浩一はバイトに行っている。

「宇都宮。もうすぐで『あの日』だからさ」

「……そっか。夢斗君、『いつも話せて楽しいよ』って伝えてあげてほしいな」

「わかった」

 

 

 

 

 

(1年……。俺はやっと前を向いて進めるようになった)

 

 

 

 

 

 

エボⅩで移動していた夢斗のスマホから着信音に設定しているブルー○ードが流れ出す。

「もしもし誰っすか?」

「夢斗君?」

「ああ、美世さん?どーしたんですかいきなり……。つかどうやって俺の番号知って」

「夢斗君にバトルしたいって人がいてね……それだけ教えようと。あ、蓮君に教えて貰ったからネ」

「小日向さんならいいや。で、俺に挑みたいって?」

「うん。どうしても戦いたいって」

「……ま、いいんですけど。誰でもばっちこいなんで。んで何時っすか?」

「来週の土曜日の夜10時に大黒で待ってるって」

「……わかったっスけど遅刻するかもしんないっス」

「遅刻しないでお願い」

 

 

 

 

 

電話が終わった後夢斗はため息をついた。

「なんでよりによって『あの日』なんだよ……」

 

 

 

 

 

 

夜、久しぶりに浩一とC1(外回り)を走る夢斗。

浩一は春の頃とは比べ物にならない程腕を上げていた。

(いい車だよな……。『遊び』と『本気』の狭間で上手くバランスが取れてる)

(ああいうのがチューニングカーの手本だろうな)

浩一のFDは快適性を損なわない程度にチューンされている。しかし本気で走っても通用する性能。

それに対し自身のエボⅩは走りだけを求めた車。普段の足として使うにはあまりにも不便。誰かを乗せるのも向いてない。足が硬い、2シーター、ロールケージで乗り降りしにくい、遮音材ナシと嫌われる要素の塊みたいな車だ。

 

 

 

 

 

「見てろ、FDの底力をっ!!」

浩一がミサイルスイッチオン。その瞬間FDはエボⅩをオーバーテイクしようとどんどんスピードを上げた。

 

 

 

「なんかやったな……」

FDの加速を見ていた夢斗はステアリングに取り付けられたNOS噴射スイッチを押し込む。するとエボⅩもさらにスピードを上げていく。

エボⅩとFDが並ぶ。後は前の車を回避しながらどこまで踏めるかのチキンレースだ。

 

 

 

 

霞ヶ関トンネル付近。

(だめーーーっ)

「!?」

夢斗は謎の声を聞いた。その直後……

「浩一っ!!逃げろっ!!」

 

 

 

 

 

「うわ!?」

浩一のFDの前を走っていたトラックが軽自動車に追突。トラックに押されて吹っ飛んだ軽自動車が浩一のFDの前に出てきたのだ。

「ーーーーーーーーっ」

浩一はスピンで逃げようとするが場所が場所だ。下手したら自分が事故を起こすきっかけにもなる。

「どうする!?」

そう言う間にも目の前に迫る軽自動車。万事休す。

 

 

 

 

 

キュイイイイイイイイイッ

 

 

 

「させません!」

夢斗のエボⅩの背後から飛び出してきたのは蒼いS30。悪魔のZだ。

Zは浩一のFDを押し出す。FDはギリギリの所で軽自動車を避ける事ができた。

今度はZに追突したトラックが迫るが貴音は加速してすり抜けた。

「あぶねっ!!」

夢斗のエボⅩもドリフトして回避。この場を切り抜けた3台だった。

 

 

 

 

 

 

 

下道に降りた後3人は合流。

「助かった……。ありがとう、貴音ちゃん」

「ぜっとが『助けたい』と言ったような気がしまして……ただそれだけです」

「なんだったんだ……一体」

「夢斗?」

「誰かがあぶねえって教えてくれた気がするんだよ。もしもそれが聞こえなかったら浩一は今頃死んでると思う」

「そ、そんな事言うなよ……!?」

「これはマジだ。貴音がいたからよかったけどさ」

「星名夢斗……。貴方は霊が見えるのですか?」

「いや、俺霊感ないし。でもさ、はっきりと聞こえたんだ」

「……こわっ」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

翌週の金曜日。現在午後8時。

夢斗は荷物をエボⅩに詰め込んでいた。これから栃木に向かうのだ。

東京から宇都宮までは約100km。トバせばそれほど遅く着かない。

夢斗はエボⅩのシートに座り、エンジンを始動させる。

 

 

 

 

「んじゃ……行くか」

まだまだ賑やかな東京の夜。ネオンで眩しい街中をエボⅩはつむじ風のように走り抜けていった。

 

 

 

 

 

 

東京郊外から離れるとあっという間に都会らしさが消え、田舎らしさが溢れる景色が見えてきた。

駐車場での1時間の仮眠を挟んで再び出発した。

 

 

 

 

 

 

 

夢斗が栃木県に入る頃には日付が変わっていた。現在午前0時。土曜日になった。

夢斗にとって一番迎えたくなかった日である。

 

 

 

 

 

 

 

 

美世と岩崎のバトルは激闘の末、美世が勝利。しかし美世の目の前でR34は焼失してしまった。だが岩崎は夢斗とのバトルを望む。

そして夢斗は1年前の悲劇が起きた『あの日』にバトルする事に……。




美世と岩崎のバトルは衝撃的な結末で幕を閉じた……。
だが岩崎の走りはまだ終わっていない。岩崎が狙っていたのは銀色のエボⅩだった……。




ネタ解説です。
・ライドオンレッドからブレイクルージュへ
美世に共鳴するかのように色が変わった紅いGT-R。元ネタであるアイテム「ブレイクルージュ」はモバマスで「ブレイク」する際に必要なアイテムです。ここでは美世の特殊能力「ブレイク」と結びつけて蓮が呼んだ色となってます。
・浩一のバイト
外伝「星色の花は天使の手に」での出来事が関係してます。「物が多い工場の秘密基地っぽさは異常」は今回の話の数日前の出来事でした。
・夢斗のスマホの着信音
いきものがかりの「ブルーバード」です。少し前に「ガルパ」でカバー曲として追加されました。





今日は美世の誕生日!ということでグランツーリスモSPORTでモチュールオーテックGT-Rをベースに美世の痛車を制作しました。
ベース車は14年度のモデルですがデザインは13年度のモノを元に様々な年度のデザインが入ってます。細かい所の再現度が低いですが許して。なおゼッケン番号は美世が物語で乗る34号車と同じ34と日産のエースナンバー23の2種類があります。
13年度にした理由は次回作でGT-Rが非常に重要な役割を持つ車になるからです。また、次回作が13年を始めとするので。

リバリー名:原田美世 MOTUL AUTECHGT-R
タグ:imas、346、h34

【挿絵表示】



リバリーの使用はご自由にどうぞ。




次回、夢斗の全てが変わってしまった日に明かされる真実。
夢斗が走り出した理由。そして夢斗の今。
革命者達は伝説に挑む。


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STAGE38 始まりの日と革命の日

夢斗が走り出したきっかけ。
彼の全てが変わってしまった日は夢斗の暗い部分を作った。しかしそれは新しい物を生み出す日にもなる。


午前5時。

太陽が顔を覗かせる地平線。眩しく輝く太陽を見る青年が1人。

「晴れたな……」

夢斗だ。エボⅩの中で車中泊していた。

1年前のこの日は午後から雨が降っていた。そして起きてしまった悲劇。

 

 

 

 

午前7時。

夢斗はファミレスで朝食を食べた後実家へ。仏壇の前で手を合わせる夢斗。

(また……来たぜ)

 

 

 

 

「夢斗、あんたどうするの」

「行くぜ。拝まなきゃいけねーじゃん」

母に寺に行くか聞かれる夢斗。もちろん行くと答える。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ありがとうございました」

住職に挨拶をして寺を後にした夢斗達。夢斗本人は念仏をちゃんと唱えていた。

1年前は奏夢の死を受け入れられず、葬式に集中できていなかった。念仏を唱えたりすると奏夢がいないという現実を突きつけられたからだ。

そんなこともあったため、ちゃんと念仏を唱えれるようになっただけでも大きく夢斗は成長したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢斗?どうしたんですか」

「遥?咲耶も……」

声を掛けられた夢斗が振り向くと咲耶と遥が立っていた。

「俺は……」

「あら、夢斗の知り合い?」

夢斗の母が咲耶達に聞く。

「そうですね……」

「夢斗が迷惑かけてないかしら」

「俺めちゃくちゃかけてる自覚あるわ」

「ほらもう……」

「夢斗はなんだかんだで周りに交わるのが上手なんですよ」

今度は遥が自己紹介。

「申し遅れましたが……私は芸能事務所283プロダクション所属プロデューサーの瀬戸遥と申します」

「プロデューサー?あなたすごいわね!」

「まだまだ新人ですけど……アイドルのみんなと頑張ってます!」

「白瀬咲耶です。夢斗には……たくさんの事を教えてもらってます」

「え?そんな事なくね?」

「夢斗は気づいてなくても私達は教えてもらっているのさ」

「わり、ちょっと行くわ」

「私達も一緒に大丈夫でしょうか?」

「いいわよ。こんな日だけど夢斗に仲のいい人がいる事が私嬉しいの」

夢斗の母が言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

少し移動して共同墓地へ。

「星名家」と彫られた墓石を綺麗に掃除する夢斗達。

「お墓……」

「遥達に言ってねえっけか?妹がいたって」

「初耳です。まさか……」

「ああ。妹……奏夢の命日だ。1年前のこの日に交通事故で殺されちまった。12月25日の事件に関係してる」

「渋谷駅前のあの事件に……」

「事件を起こしたヤツらにな。小日向さん達も関わってる」

 

 

 

 


 

 

 

 

拝んだ後。

「少しここに残ってていいか?」

「いいわよ」

母達が一足先に墓を後にした後、残っているのは夢斗と遥、そして咲耶の3人だけ。

 

 

 

「夢斗のお母様は明るい方ですね」

遥が言う。

「そうか?カナが死んだ後はいつも喧嘩してた」

「……妹さんはどんな方だったんですか?」

「あいつは俺以上になんでもできた。あいつはやらないって言うだろうけど……もし走り屋になったらあいつは俺以上にエボⅩを乗りこなしてたかもしれないな」

「夢斗以上に……この兄あっての妹か」

驚きを隠せない咲耶。

「カナはアイドルになりたいって夢を持ってた。カナだったら余裕でなれただろうな。夕美みたいになりたいって言ってたよ」

「相葉夕美さんですか……」

 

 

 

 

 

 

正午。

夢斗の母にお昼ご飯を作ってもらって夢斗達と一緒にご飯を食べた遥と咲耶は夢斗と共に宇都宮を散策していた。

「なんにもないだろ?東京と違ってさ」

「そんな事ないさ。栃木ならではの発見だってあるさ」

「咲耶は高知から来たっけか。高知って何が有名なんだ?」

「カツオとかだね」

「はえー……」

 

 

 

 

「前から聞きたかったんですが夢斗はなぜエボに乗ろうと思ったんですか?」

遥の質問。この天才がなぜランエボという車を選んだのか。

「親父がモータースポーツ好きでさー。ガキの頃からスーパーGTだとかF1とか見たよ。でも俺は好きだとは思ってなかった」

「でも、WRCを見てそん時見た赤い車だけはなんか頭から離れなかった。それがエボだった。三菱がWRCにまだ参戦してた時の最後のエボだった」

「エボⅥですか?」

「ああ。そこから俺は三菱の車……エボを知ろうと足を踏み入れた」

「その時の俺はエボしか頭になくってさ。それ以外のメーカーの車とか全然知らなかったぜ。加えて昔の車は全く興味なかった(笑)」

「だから貴音の車が最初Zだってわからなかった」

夢斗が知る車の年代は2000年代前だと1980年代から1990年代の間を少し知っている程度。ただしその少しはFC3S・FD3S型RX-7、RB系GT-Rやシルビアなどメジャーな車に限る。

それに70年代、70年代以前は夢斗は全くわからないのだ。そのためTE27型スプリンタートレノ・カローラレビン(1972年)やヨタハチことスポーツ800(1965年)などは見ても答えることができない。その辺の知識は浩一に負けているのだ。

浩一はクラシックカーについての知識も深いため、夢斗が浩一に勝てない唯一の事だ。

 

 

 

 

 

「話戻すとエボ乗りたいってなるワケよ。んで免許取った時にちょうど現行販売されてるエボⅩがマイナーチェンジ入ってさ。それ欲しくて金貯めた」

「ま、つい先日またエボⅩマイチェン入ったけどな(笑)」

夢斗が購入したエボⅩは2011年10月20日にマイナーチェンジが行われたモデルだ。

そして数週間前(2012年10月10日)にエボⅩは再びマイナーチェンジが行われた。

 

 

 

 

「んで俺はエボを買った。んでカナと出かけようと約束していたんだ」

そして起きてしまった1年前の悲劇。

「これがきっかけで親父は車を嫌うようになっちまった。悲しいけどこれホントの話なのよね」

約束は果たせない。そして狂っていった周り。狂いから抜け出す頃には何もかもが変わり果てた夢斗。

 

 

 

 

 

「なんだか私と似てますね」

遥が言った。

「なんでよ?」

「お父様の影響で車が好きになった……私も親の影響でインプレッサに乗ると決めたから」

「その車はWRCという舞台で戦い、その活躍からファンがいる。私もスバリストですから」

「なるほどなー。……咲耶ってなんでエボⅨを選んだ?」

「私自身を変えたかった。そのきっかけさ」

 

 

 

 

 

 

「咲耶も今日行くんだろ?」

「ああ。決着をつける」

咲耶も夢斗と同じように今日バトルをする。相手は因縁の相手である悪魔のZを駆る四条貴音。

夢斗の手によって悪魔のZに迫るスペックとなった黒いエボⅨでZを狙う。

 

 

 

 

その後夕方に栃木を出発した夢斗達は集合場所に向かう。

 

 

 

 


 

 

 

 

夢斗達が栃木を出発する少し前。

美穂は落ち着かない様子で廊下を歩いていた。この間見た美世と岩崎の走りが強く残り、頭から離れない。自分も走り出したい。それだけが美穂の頭にはあった。

一刻も早く行動したい。そう思った時には美穂は美世を探していた。

 

 

 

 

 

「美世さーん!美世さーん!!」

「美穂ちゃん?どうしたのそんな慌てて」

「走りたいんです、私も」

「美世さんなら夢斗さん達がどこを走るかわかりますよね」

「美穂ちゃん、本気なの?」

「本気です。この間の美世さんの走りが私を動かしてるんです!」

「……湾岸線だよ。私も行くから」

「はい!」

 

 

 

 

(私が夢斗さん達より速く走れるなんて思っていない!けど!)

(私は走りたい!今までは蓮さんについて行っただけだったけど)

(今日の走りは自分が走りたいから走るんだ)

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

出張中の蓮に届いたメッセージ。

「美穂ちゃんも行くって」

美世からだ。

「僕は行けないけど……美穂ちゃん。無事に帰ってきてね」

(FC……美穂ちゃんを守ってほしい)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは765プロライブ劇場(シアター)

蒼いS30Zに乗り込むのは銀髪の少女。貴音だ。

「ぜっと……。『彼女』との走りを楽しみにしているのですか?」

無機質な存在であるはずのZと会話する貴音。答えが返ってくるはずがない。しかし貴音はZの言葉がわかっているかのように話す。

「私も……楽しみです。彼女には全力を出して戦うのが礼儀だと思います」

「だから……頼みますよ。ぜっと」

L28が吠えた。「準備完了」と言わんばかりにエンジン音が轟き、Zは走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

それを見ていた赤羽根P。

「貴音……」

走りをヤメない貴音。当初こそ必死にやめさせようとしたが貴音は降りなかった。赤羽根Pはいつしか考え方も変わった。

(貴音……走るのはいい。でも、これだけは絶対に守ってくれ)

(みんなの元に無事に帰ってこい)

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

PM10:00、大黒ふ頭PA。

そこには蒼いS30Zと黒いエボⅨ、蒼いインプレッサと銀色のエボⅩが静かに佇む。

そこに3台の車が入ってきた。

紅いR34GT-R、白いFC、そして最後に入ってきた蒼い1台。

「鷹目……」

GDB型インプレッサ。それは遥のC型以降のモデル「F型」だ。鷹目のようなヘッドライトが戦う車と言うことを直感的に理解させる。

そしてサイドに大きく描かれた「壱撃離脱」。

降りてきた男は……。

「岩崎基矢さん……!?」

遥は驚愕。しかし夢斗は全く動じない。

「なんかすげーインプ」

……いつも通りだった。

 

 

 

 

「俺は岩崎基矢だ。よろしく」

「星名夢斗っす」

「君のことは原田さんから聞いてる。……すごい事するね、君は」

「イヤイヤ。俺はフツー」

「自分の事を自分でもよくわからないって事か。話題だぜ君。いや、『銀色の革命者』」

「え、なにそれ」

「!?知らないのか!?」

「初耳っすけど。え、俺そんな言われてんの!?」

「知らなかったのか……」

「あのインプ見たことあるよーな」

夢斗は1度このインプレッサを見た。その時は派手だとしか思っていなかったが。

「このインプはRの魂を継いでいるんでね」

 

 

 

 

 

 

「しっかし岩崎さんがインプを出してくるとは……」

「原田さんも知らなかったんですね」

遥が美世に聞くと美世は肯定する。

「岩崎さんが言うには昔ジムカーナやってた時の車だったのを改造したって」

「夢斗と似てる……」

「どういうこと?」

美世は遥の発言の意味がわからない。

「夢斗は部活でジムカーナの大会に出たりしてます。岩崎さんも昔ジムカーナをやってたんですよね?」

「『ジムカーナ上がりの首都高ランナー』なんですよ。2人とも」

「……そうか!」

岩崎はアマチュア時代は峠を走り込んでいた。その経験もあってジムカーナも得意である。一方夢斗はいろは坂最速。そして全関東学生ジムカーナ選手権に初参戦で優勝している。しかも個人記録と団体記録両方。

似た者同士な2人の決定的な違いは車だ。テクニックのインプレッサとメカのエボ。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「さて、やりましょうか。白瀬咲耶」

「ああ。今夜ケリをつける」

先に咲耶のエボⅨが出発。その後に蒼いS30が続く。

咲耶達は夢斗達とは別のルートでバトルする。場所は咲耶が初めてZを見て、そして敗れた場所でもある新環状だ。

 

 

 

 

 

 

「私達も後から追います」

美世は美穂と共に夢斗達を追う。美穂と美世はそれぞれ愛機に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

「さあ、始めるか」

「りょーかいっス」

こんな時も呑気な夢斗。エボに乗ろうとすると遥もエボに乗ってきた。

「……なによ?」

「私も乗せてください」

「インプで来たらいいじゃん」

「私は岩崎さんの走りを見たくて。……って言っても信じないでしょうけど」

「うん(即答)」

「本当は夢斗が死なないために。今日あなたが死んだら妹さんの後を追う事になる……。そればかりは絶対にあってならないから」

「いや死なないから。そこまで疑ってる?」

「どうも胸騒ぎがするんです」

「勝手にしてくれ……」

こうして夢斗はエボに遥を乗せてパーキングエリアを出発。行き先は湾岸だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

(もう始まってるかな……)

346プロを出てきた蓮。今日は早く美世と美穂が帰った。美世が夢斗にバトルの事を伝えてると聞き、その相手が岩崎と知った蓮。

だが、2人のバトルに美穂もついて行くと聞いた時は驚いた。

 

 

 

 

「会えるかわからないけど……」

黄色いFD3Sが動き出す。向かう先は首都高。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……Z)

空高く輝く星を眺める。

またの名を「ルシファー」という明けの明星が高く高く東の空に見える。

手は届かない。それでも。

 

 

 

 

(お前は……争い続ける)

Zが何をしてそしてどこにいるのかわかる。まるで見えるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついに始まった今夜だけのバトル。

絶対に交わらなかったはずの人物達が集う。首都高という戦場(フィールド)で伝説が生まれようとしていた……。




ついに迎える決戦。
革命者達は伝説を越えられるのか。




ネタ解説です。
・奏夢のアイドル象
明確な設定はしてませんが、もしも彼女がアイドルになったら絵が得意なアーティストアイドルになるかなと。デレマスやミリマス風にタイプ分けするならデレではパッション、ミリマスではVo、ミリシタではAngelといった所。星井美希や本田未央といった個性の系譜のアイドル達に近い感じです。デレでのタイプがパッションなのは彼女の憧れである相葉夕美にちなんでです。
・高知の名物
咲耶の出身地は高知県。高知県ではカツオの一本釣りが有名でその歴史は400年以上。カツオのたたきが美味しいんだとか。
ちなみに私は当初咲耶の出身地を東京だと思ってました……。
・「最後のエボ」
エボⅥがWRCに投入された2001年は第1戦や第3戦で優勝を果たした三菱でしたが、第10戦ラリー・ニュージーランドを最後にWRカーへ移行したため、WRC最後のGr.車両であるランサーエボリューションをベースにしたワークスマシンの系譜は終焉を迎えました。そのため市販車ベースとしてのエボの参戦はここで終わりました。一応三菱はその後もWRCには参戦しましたが2005年にワークス活動を休止。業績が悪化した三菱自動車工業の経営を立て直すべく、自社の再生計画を優先的に行うためでした。
夢斗の発言は市販車ベースのエボとしての最後のエボという意味。WRカーとしてのエボは参加してました。
・「全く興味なかった」
STAGE27の伏線回収。エボを知る事に集中したあまり夢斗は他のメーカーの車をほぼ知らないのです。
・岩崎のインプレッサ
「首都高バトルⅩ」に登場するインプレッサがモデル。性能面はAVOターボワールドのGDBインプレッサを参考にオリジナル設定を加えてます。それにしても何をしたら2トンという車重になるんだろ……?


先日学校の行事でアメリカに行ってきました。そこでカマロやコルベットはもちろん、ガッツリチューンが行われている日本車なども見ました。アメ車を登場させれたらなぁ……(出せるとは言ってない)




いよいよ大詰めに入る物語。年内に完結するかな……?
最後まで頑張るので応援よろしくお願いします!




次回、伝説が夢斗達を阻む。
追い詰められる夢斗に勝機はあるのか!?


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STAGE39 激突、伝説VS革命者

始まった「伝説」達とのバトル。伝説は革命者達を阻む。
夢斗達に勝機はあるのか。


ここは新環状エリア。

銀座区間を疾走する2台の車があった。1台は首都高の伝説として恐れられる「悪魔のZ」。そしてもう1台は悪魔を討たんと追う黒いエボⅨだ。

 

 

 

 

(このエボでもこの区間を全開(フルスロットル)で抜けるのは正気じゃない)

(とはいえあちらだって同じはずなんだ!)

橋脚にぶつからないように回避、そして橋脚地帯を抜けたらアクセルペダルを踏み込んでいく。

黒いエボⅨは悪魔を貫こうと突進するかのような加速を見せた。

 

 

 

 

 

「曲がってくる速さが段違いです……。でも、私達は負けません。そうでしょう、ぜっと」

貴音の意思がZに伝わる。Zは「もちろん」と言うようにさらに加速する。

 

 

 

 

 

(あのZと一体化するような信頼感)

(あのZを絶対に裏切らないってわかる)

(パートナー……この言葉が一番似合うのは君達だろう)

 

 

 

「……私は心のどこかでエボを信じていなかったかもしれない。全開で踏んでいる時でもどこかで疑っていたのかもしれない」

(でも……夢斗を見て考え方を変えた。夢斗は誰よりも車の事を理解しようとしている)

(自分のエボⅩ、美穂のFC、そして私のエボⅨ。自分から触って……深く知ろうとした)

(そして夢斗は……乗り手の事を考えた車にできる。結果、美穂の望みも実現できた。そして私のエボは……)

 

 

「今、悪魔と最高の戦いができているーーー」

「だから……信じて前に進む!!」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって湾岸線。

蒼いインプレッサと銀色のエボⅩがもつれ合うように走る。

 

 

 

「どんだけパワーあるんだよっ!?あれインプだよな!?」

「私だって……信じられないです。どれほどのパワーが……?」

インプレッサのテールランプが夢斗の視界から消えそうだ。

現在、明らかに夢斗のエボⅩが不利だ。差は広がる一方。

 

 

 

 

(悪いな……こっちだってプライドがある)

インプレッサのコックピットでは岩崎が本気の表情をしていた。

自分は迅帝としての役目を終えた。しかし、走りをやめたわけではない。「挑戦者」として岩崎は走っている。

 

 

 

 

 

つばさ橋を直進していき、インプレッサは横羽線に入った。

横羽線はドライバーも車もごまかしが効かない。純粋に車の仕上がりとドライバーの腕が問われる。

荒れた路面がボディを突き刺す。路面に足元をすくわれそうになる。

そんな路面を何の迷いも見せずに突っ切るインプレッサ。少し遅れてエボが続く。

 

 

 

(首都高ではとにかくパワーがいる)

(モアパワー、モアトルク。それが重要視される)

(このインプレッサはそれを両立できた。このエリアで暴れる事ができるんだっ!!)

800馬力というパワーを叩き出すEJ20(エンジン)。水平対向エンジン特有の重心の低さからもたらされるフットワークの良さが横羽線で最大限発揮される。

 

 

 

 

羽田トンネル出口付近でインプレッサのクーリング走行を狙い、近づいた夢斗のエボⅩ。

「にゃろー、もっかい加速されたらまーためんどくさい事なる」

「夢斗……」

「なに?」

「あのインプレッサのコーナリングスピードがエボと同じ気がするのですが……」

「……!?」

 

 

 

 

 

その瞬間、夢斗の中で何かが飛んだ。

エボの走りからは繊細さが消えていく。夢斗の意識を包み込もうとする感覚。

 

 

 

(俺は……っ。俺は!!)

「絶望」への抵抗。意識が飲み込まれかける中必死に抗う。

 

 

 

 

エボⅩの、言い換えれば夢斗唯一の武器。コーナリングだ。

600馬力オーバーの車がゴロゴロいる首都高ではエボⅩの560馬力は低パワーカテゴリに属する。それでもハイパワー車に今まで対抗できていたのはエボⅩのエアロパーツがもたらす高ダウンフォース、そして夢斗の技術からだった。

レーシングカークラスのダウンフォースを発揮する夢斗のエボⅩ。これだけで大きな武器だ。コーナリング技術に優れる蓮のFDすら置いていくような別次元の速さで曲がる。これがなければ夢斗の今までの走りはない。

そして夢斗自身の技術。ジムカーナなどで培った技術が夢斗の速さを形作る。

 

 

 

 

 

 

それが通用しない。

今まで負けなしの武器が通用しない。夢斗の持つパフォーマンスが否定される。

 

 

 

 

 

 

「夢斗、落ち着いてください!!」

「……っ!!」

焦りを見せる夢斗。そんな夢斗を初めて見た遥。

いつもおちゃらけてる夢斗がここまで追い詰められている。遥から見たら「異常事態」以外言葉が出てこない。

 

 

 


 

 

 

 

 

場面は再び変わって咲耶達の元へ。

咲耶のエボⅨは悪魔のZを捉えようとしていた。Zのテールランプの赤い光が咲耶の視界いっぱいに入ってくる。

 

 

 

「振り切りましょう……」

Zが先程までとは違う動きを見せる。妖しげに揺れたその蒼いボディは咲耶を突き放す。

 

 

 

 

「来たか……!」

Zのあの加速の前に敗れた記憶。しかし今の咲耶はそんな記憶が霞むようなテンションだ。

「さあエボ……私達も行こうか!」

吠えるエボⅨ。咲耶のテンションが最高潮に達した。

フルブーストのエボⅨが轟音を轟かし、疾走する。

超高速でコーナーを抜けて立ち上がりでZとの差を詰める。4WD車であるエボの本領発揮だ。

 

 

 

 

 

 

「く……っ」

明確に貴音が動揺した。このZをもってしても今の咲耶とエボⅨを突き放す事ができない。

「想像以上の進化……!貴女達は……」

 

 

 

 

 

 

 

「夢斗……。もし私が君に会うことがなかったらこんな走りができなかっただろう」

「初めて君に会ったあの日も……君に驚かされた。初めて走る首都高を君よりも首都高を走り込んでいる私よりも速く走ってみせた」

「夢斗……君は走るためにあらゆる事ができる。誰も成しえなかった事すら」

「そして……あの日も」

 

 

 

 


 

 

 

 

流星群が夜空を彩った夏の日のバトル。

あの時は勝負に夢斗と共に最後まで残った咲耶。しかし勝負としては咲耶はほとんど負けていた。

それでも最後まで夢斗の走りを見て咲耶は思った。

広い広い首都高を誰よりも速く、そして自由に駆け抜けた。そんな夢斗の走りが自身を変えてくれるだろうという望み。

 

 

 

 

今の自分の走りが「自由」かと聞かれたら「まだ」と言うだろう。だが、いつか形にできるように。

夢斗の走り()が自分の「走り()」に混ざって新しい走り()になる。

 

 

 


 

 

 

 

(夢斗……。私は飛びたい!!)

その瞬間、エボⅨからは黄色いオーラが出現。そのオーラの色は何も見えない空を照らす光のように……。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

一方の夢斗達の状況は最悪の一言。

冷静さを失った夢斗の走りはグダグダ。岩崎のペースに飲み込まれていた。

夢斗達を後ろから追う美穂も状況の悪さがわかった。

「夢斗さん……」

 

 

 

 

 

 

二次エア供給システムが作動して銃声のような爆音と一緒に炎を吹き出すエボⅩ。

岩崎のインプレッサもミスファイアリングシステムを当然のように使っており、夢斗が低速コーナーで詰めようとしても立ち上がるスピードが圧倒的。

高速コーナーも低速コーナーも速い。夢斗は気が狂いそうな状況でマージンを限界まで削って攻めていた。

 

 

 

 

 

 

 

(エボ……。耐えろ……)

(俺も耐えるからさ……。最後まで諦めんな……っ)

極限まで集中力を張り詰めた夢斗が駆るエボⅩからは青いオーラが現れる。

 

 

 

 

 

「君は速い。速いよ。でも……その脆さはなんだ?」

夢斗は確かに速い。岩崎のこのインプレッサにここまで着いてこれる。それだけでも褒めれる事だろう。

しかし、その走り方はあまりにもリスクが大きい。それに加えてドライバーの状態がはっきりとし過ぎている。夢斗の動揺や焦りがバレバレなのだ。槍と言うよりは諸刃の剣としか言えない。

 

 

 

 

「こんのォーーーーーーッ!!」

「夢斗!無理ですよ!」

明らかなオーバースピードで突っ込み、案の定姿勢を乱して失速するエボⅩ。それでも事故らないのは夢斗がギリギリのラインで操れているから。

しかしそう何度もそれができるワケではない。夢斗が限界を迎えるカウントダウンは秒読み段階に入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢斗君は今どこに……」

黄色いFDに乗って首都高に入った蓮。現在地は湾岸線。流し始めて30分は経ったが夢斗達の姿を見ていない。

(無事に帰ってきて……みんな)

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「……さて。そろそろ行こうじゃないか」

「スピードの化身を超える車を見てみたいっていうオレのワガママに付き合わせてしまってすまないナ」

「僕ももう一度だけ……Zをこの目で見たいので。断る理由がないですヨ」

「くくく……。今夜みたいな夜はもう来ないだろうさ。だからこそオレは首都高へ行きたい」

 

 

 

 

 

 

 

(Z……)

 

 

 

 

 

 

 

ボボボォォォオオオオオオオ

 

 

 

 

蒼いZが動き出す。

時代を越える車を同じ名の車で追いかける。特別な存在だったあのS30(Z)にこのZが敵うとは思ってない。でも、Zに会うには同じ名を持つ車じゃないと会えない気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう一度……あの最高速ステージへ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




自身の唯一の武器が通用しないという最悪の状況で必死の抵抗をする夢斗。夢斗は危険なレベルまで踏み込んでしまっていた……。
そして悪魔のZを探す人物達の正体と目的は……。





今回はネタありませんが、ちょくちょく以前の話が入ってます。見返すのもありかも?





次回、絶望の中で夢斗は……!?
咲耶と貴音のバトルも決着が迫る。バトルの勝者は!?
そして……首都高にあの男が戻ってくる。「相棒」は彼に応えるのか!?


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STAGE40 伝説を塗り替える者、それは「革命者」

最後に重大発表あり!見逃さないように!



ついに打たれる終止符。バトルの結果は!?
そして……夢斗は目的を作る。


湾岸線を320kmオーバーで走るエボⅨとZ。極度の緊張状態の中でありえないくらいアドレナリンが分泌される。視界が変わり心拍数が跳ね上がる。

非日常なスリルが生むモノ。選択肢を間違えたら結果はどう転んでも元の生活を送れなくなる。選択肢を間違えないという選択肢はもうない。

 

 

 

それでも首都高を走る理由。

それは「誰が一番速いのか」それだけを決めるため。

普通に考えて馬鹿げてる。何の意味もない。自慢にもならない。

 

 

 

 

 

 

「でも……やめようとは思わなかった」

「この首都高の空気を知って引き返せなくなった」

「走り続けてきて、今こうやって最高の走りに繋がった」

「そう考えると……私とエボの走りは決して無駄なんかじゃなかった」

 

 

 

 


 

 

 

 

 

同時刻。

ここはとある番組の生放送中の会場。内容は歌唱祭と題したアーティスト達の歌番組だ。

そこにいるのは765プロが誇る歌姫である如月千早だ。

 

 

 

 

 

「続いては765プロの蒼き歌姫如月千早です!曲は『目が逢う瞬間』!」

 

 

 

 

 

「たくさんの人の波」

「あの人だけは分かるーーー」

 

 

 

 

 

 

「夢斗達が近づいている……!!」

微かに聞こえた夢斗のエボⅩ特有のハイトーンのエキゾーストノート。

 

 

 

 

 

「Ahーーーー」

「奪ってほしいーーーーーーー」

 

 

 

 

 

 

ファアアアアアアアアアアア

 

 

 

 

「目と目が逢う」

 

 

 

 

咲耶と貴音の前に蒼いインプレッサが現れた。しかしその後ろに続いているはずの銀色のエボの姿はない。

「夢斗は……!?」

 

 

 

少し遅れて銀色のエボⅩがやってきた。しかしいつもの余裕はどこにもなく、夢斗らしくない焦りが見える。

 

 

 

 

「夢斗!もうヤメましょう!このままでは本当にあなたが死んでしまいますよ!」

遥の必死の叫びも今の夢斗には届かない。

夢斗の必死の抵抗虚しく、岩崎のインプレッサとのアドバンテージは広がる。

 

 

 

「俺らはまだ終わんねえ……!そうだろう!?エボッ!!」

全身全霊でインプレッサに迫ろうとする。間違いなく今夜の夢斗は今までで最高の調子で乗れている。それをも上回る岩崎の技術。プロとアマの差がハッキリしていた。

 

 

 

 

 

 

時速300kmオーバーの世界。

スピードはいつだって裏切ろうと機会を伺っている。

 

 

 

 

 

「あと少し……っ!!」

夢斗のエボⅩがやっとインプレッサをロックオンしたその時。

 

 

 

 

ギャアアアアアアアアア

 

 

 

 

 

「夢斗!!」

咲耶の眼前で起きた出来事はあまりにも衝撃的だった。

銀色のエボⅩが外へはらんでいく。ズルズルと流れていったエボⅩは蒼いインプレッサから遠ざかり、そのまま単独スピンに突入した。

300kmオーバーでのコントロール不能は死を意味するーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢斗ーーーー!!」

遥は死を覚悟した。明日には新聞に死者として自分の名前が載るだろう。

 

 

 

「……」

夢斗はコントロール不能になったエボを立て直す気も無かった……

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「……ちゃん」

「お兄ちゃん」

 

 

 

 

「……?」

自分を呼ぶ声。その声は夢斗には馴染み深い声。

 

 

 

「お兄ちゃん」

「……!?カナ……?」

そこには奏夢がいた。1年間に死んだはずの奏夢が夢斗の前に立っていた。

夢斗は悟った。自分は死んだのだと。目の前にいる奏夢は自分を迎えに来たのだと。

「ははっ……カナ。俺、死んじまったみたいだ」

「最後の最後まで……俺は誰も信じられなかった」

「上っ面だけだったよ、信じていたって」

 

 

 

「お兄ちゃん……お兄ちゃんは死んでないよ」

「どういう事だ?」

「ここはお兄ちゃんの精神世界。お兄ちゃんの心の中だよ。私はお兄ちゃんのイメージの中の存在」

「お兄ちゃんは生きてるよ。最も、このままだと死んじゃうけど」

「いや……もういいんだ」

夢斗は諦めた様子だった。

「俺は約束を守れないやつだし。カナがいない日常に虚しさを感じ続けながら生きるのがもうしんどくてしょうがなくて……。周りが俺を信じても俺が周りを深くまで知ることができないんだ」

「だから……もう俺はいいんだ。ここで死んじまった方がよっぽど楽だ」

 

 

 

「違うよ……っ!お兄ちゃんはなんでそんな後ろ向きなの!?」

奏夢の涙声。

「お兄ちゃんは私の分まで生きるって言ってくれた!お兄ちゃんがそう言ってくれたのがすごい嬉しかったんだよ!」

「お兄ちゃんの周りの人達はいつだってお兄ちゃんの味方だったよ!お兄ちゃんが挫けたって隣にいてくれた」

「お兄ちゃんがみんなの支えにもなっているから!みんなの力にだってなれるの!」

夢斗の頭に浩一の言葉が不意に浮かんだ。

(お前は気づいてないだろうけどな、お前は皆を動かす原動力だ。お前が迷ったら皆も止まる)

 

 

 

「だから生きようよ!一度しかない人生を精一杯生きようよ!!」

「私もお兄ちゃんの力になるから!だから!」

「お兄ちゃんはすごいって!みんなが認めてるから!!」

 

 

 

泣く奏夢の頭に手を乗せる夢斗。

「カナにここまで言われてしかもカナを泣かせたんだ。俺だって……プライドがある」

「俺は今さっきまでの自分をぶん殴りたいって思ってる。うじうじした俺をな!」

「カナ、俺はもうカナに会えないのはわかってる。だから俺はっ!!」

「カナに再び会える時まで悔いのない生き方をしてみせる!バカな俺でも……これだけは……絶対に守ってみせる!!」

 

 

 

「お兄ちゃん……」

「ああ、反撃開始と行くか!!」

夢斗の手に奏夢の手が添えられる。その瞬間夢斗の体に力が溢れ始めた。

 

 

「エボ……ッ!!俺に、俺達に力を貸せ!!」

 

 

 

 


 

 

 

 

超高速スピンしていたエボⅩが壁にぶつかるギリギリで体制を立て直した。

銀色のエボⅩは槍のように真っ直ぐに突き進んでいく。

 

 

 

 

「速い!あれがエボⅩなのか!?」

咲耶は先程とまるで違う車のようなエボⅩの加速に驚いていた。まるでRB26に載せ替えられたと錯覚しそうな勢いで迫るエボⅩ。

エボⅩは最後尾から先頭を走っていた岩崎のインプレッサにあっという間に追いついてしまったのだ。

 

 

 

 

「何をしたかは知らないが……!面白い!」

岩崎がついに本気を出した。さらにペースアップするインプレッサにエボⅩが追従する。

爆走する2台を追いかけるエボⅨとZも激しく争う。

 

 

 

 

 

 

「ここで突き放す……!!」

岩崎のインプレッサは発揮できる全てのパワーをエボⅩを突き放す事に回す。

だが……!!

 

 

 

 

 

(なんでさらに伸びていくんだ!!)

(こっちはもう踏んでいけないんだっ)

 

 

 

 

エボⅩは離れていなかった。最初の苦戦が嘘のようにエボⅩはインプレッサに近づいているのだ。

 

 

 

 

(夢斗に一体何が……!?)

遥は一変した夢斗の走りに驚愕を隠せない。最初焦りを隠さなかった夢斗がスピンした後からまるで別人のような走りを見せている。そんな夢斗に応えるかのようにエボⅩも変化が起きていた。

明らかにエンジンの吹けが良くなっており、回転が非常に軽い。そしてパワーが桁違い。夢斗によればNOSを使うと580馬力に達するというエボⅩ。だが今だけはそんなパワーが出てるとは思えない。岩崎のインプレッサを超える加速をしているのだ。体感とはいえ700馬力以上は出てるだろう。

 

 

 

 

 

 

超ロングストレートが姿を表す。岩崎と夢斗は並んだ。

2人の闘争心がぶつかり合う。「俺が前に」。そう言わんばかりに蒼いインプレッサと銀色のエボⅩは突き進む。

 

 

 

 

「いっけえええええええええええっ!」

夢斗の叫びに呼応するようにエボはさらに加速。

「まだだっ!」

岩崎も負けじと加速。この時点で2台のスピードは330km。

 

 

 

 

 

 

 

「うぉぉおおおおおおーーーっ!!」

エボⅩがインプレッサの前に僅かに出る。抜かれた岩崎は巻き返しを狙うが……。

 

 

 

 

「これ以上は……!!」

6速(トップギア)、8800回転。これ以上はエンジンが終わる。そう判断した岩崎はアクセルを抜いた。

 

 

 

 

 

「あの光は……」

蒼い炎のようなオーラに包まれたエボⅩの内側から金色の光が出ていた。あの光が夢斗から出ているオーラとは思えない。あれは一体。

 

 

 

 

(こっちは……350kmだった。あのエボ……一体何km出ていたんだ!?)

岩崎がアクセルを抜く直前にスピードメーターが指していたのは350km。350km出ていたインプレッサをさらに突き放せる程の加速を見せたエボⅩ。

ありえない。それしか言葉が出ない。しかし、インプレッサの前にエボⅩが出たという事実だけがそこにある。

 

 

 

 

 

 

(俺もまだまだか……)

岩崎は悔しさよりも不思議な爽快感を感じていた。

頭が真っ白になるような体験を久しぶりにできた。岩崎の表情が緩む。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

咲耶達も勝敗が決まろうとしていた。

咲耶のエボⅨがZを外側(アウト)から抜きにかかる。Zが内側(イン)。Zが有利な状況。

 

 

 

 

「ぜっとが流れたら当たる……。それでも攻めるとはっ」

貴音のZが外へ膨らんだらエボⅨに当たる。接触するというリスクを取ってまで前に出ようとエボⅨは速度を上げた。

(信じてる……エボ!)

エボⅨはZに被さるように前に出た。四駆のメリットを最大限発揮してZを抜いた。Zも離されないとばかりにスロットルON。

 

 

 

 

2台のスピードは時速330km。エボⅨは全く姿勢を乱さずに直進していった。ZはエボⅨのテールに近づくものの、前に出られない。

「ぜっと!」

貴音の思いはついに届かずZはパワーを完全に失った……。

 

 

 

無我夢中で運転していたため、Zの前を自分が走っている事にしばらく気が付かなかった咲耶。ようやく状況を把握すると張り詰めていた糸が切れた。

 

 

「私が……勝ったのか?」

「私が……悪魔のZの前を走ってるのか」

やっと事実を認識した咲耶。喜びもあるが喪失感も感じた。

 

 

 

 

 

「ぜっと……よくやりましたね」

Zを労る貴音の表情はどこかスッキリとしていた。

 

 

 

 


 

 

 

「お兄ちゃん」

「私、もう行かなきゃ」

「どういう事だよ、カナ」

奏夢が突然言った。夢斗は奏夢に理由を聞くが……。

「私がお兄ちゃんと会えるのは今日だけだから」

今日は奏夢の命日。この世とあの世の境目が最も曖昧になる日。

今日と言う日だけ現世に奏夢はやってくる事ができたのだ。しかし、今日はあと5分で終わろうとしている。5分後には次の日になるのだ。

「そんな……。早すぎる」

「ごめんね、お兄ちゃん。帰らないとこの世とあの世の境目を永遠に彷徨う事になるの」

 

 

 

「わかった。……カナ」

「また会えるんだよな?」

「……うん」

「そん時はゆっくり話したいぜ」

「私も。こんな状況でお兄ちゃんと話す事になっちゃってごめんね」

「いいんだ。カナがいただけでもーー」

 

 

 

 


 

 

 

 

 

岩崎のインプレッサを撃墜した銀色のエボⅩの車内。

「すごいですよ夢斗!あの岩崎さんに勝ったなんて!」

「もう、どうしたんですか夢斗……!?」

遥が運転席の方を向くとそこには涙を流す夢斗の姿が。

「カナがいたんだよ……。信じないだろうけどカナがそこにいた」

「カナに助けて貰わなかったら俺は負けた」

「妹さんが?……信じます。私は」

「え?」

「夢斗が大切に思う物を笑うなんて私は出来ませんから」

「あなたの涙は『本物』ですよ。心からの涙です」

 

 

 

 

 

 

 

集合場所に戻った一同の元に遅れて蓮が到着。

「夢斗君……美穂ちゃん。無事で何よりだよ」

「俺はあと少しでやばいってなりましたけど」

「夢斗が立て直さなかったら私も死んでましたけど!?」

「……負けたよ。原田さんのプロデューサーさん」

「彼のあの走りは俺達はできない。彼だけの走りなんだよ」

「最もそれを知っているのは君だろう」

岩崎の言葉を肯定する蓮。夢斗の走りはどこかぶっ飛んでいて、しかし速い。それを見てきた蓮は自然と頷いていた。

 

 

 

 

 

バァァアアアアアアアアア

 

 

 

 

 

「なんだ……?」

一同の前に現れた蒼いZ34。見たことがない。

 

 

「あれは……」

いや、ただ1人。美世だけはZのドライバーを知っていた。

 

 

 

「Z……また会えたな」

「元気そうだぜ。相変わらず」

 

 

 

「北見さん!一体どうして……」

蓮はZ34から降りてきた人物に驚いた。

彼は北見淳。悪魔のZを作り上げた「地獄のチューナー」の異名を持つ男。

なぜここに。そしてもう1人は何者だ。

 

 

 

「アキオさん……」

「やあ、久しぶり」

美世はある人物と1年振りの再会。

彼の名は「朝倉アキオ」。かつて悪魔のZを駆り、首都高にその名を轟かせた伝説の男。首都高の伝説は彼から始まった。

 

 

 

 

「アキオ?まさか……」

「朝倉アキオさ。もう一度だけZに会いに来た」

岩崎もその名を知る首都高の生きる伝説。岩崎や藤巻よりも前に首都高を駆けた男なのだ。

 

 

 

「貴方は……」

「俺はかつてそのZに乗っていた。……たぶん現役の君には届かないだろうけど」

悪魔のZの現在のパートナーである貴音と対面するアキオ。彼女はZを速く走らせられると伝わる。

「いえ、貴方は本物とわかります。貴方は私よりも長くこのぜっとに関わっているのですから」

「……ありがとう。でも降りてしまった俺をZは再び認めるかな……」

「認めるでしょう。貴方が本気でぜっとの事を思っているならぜっとだって応えるでしょう」

 

 

 

 

 

「もう一度だけ……乗せてくれ」

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

アキオがZに乗り込む。

十数年振りに乗るZの車内はアキオが乗っていたあの時のままだ。隣には今のZのパートナーである貴音が。キーをひねりエンジン始動。

Zの心臓部たるL28は咲耶とのバトル直後でも元気よく回る。

アキオは久しぶりに、しかし慣れた手つきで発進前のチェックをしていく。

「水温OK、油温OK、アイドル問題なし」

「OK。ーーーーZ」

アキオの中で欠けていた物が戻ってくる感覚があった。

「さて……行くか」

 

 

 

 

 

 

パーキングエリアを出発した蒼いS30Zに続く夢斗の銀色のエボⅩ、岩崎の蒼いインプレッサ、美世の紅いR34、美穂の白いFC、蓮の黄色いFD、そして咲耶の黒いエボⅨ。

 

 

 

 

日付が変わっても湾岸線には車が多い。物流を担う大型トラックなど一般車が多い。

 

 

 

「湾岸はよく走ってるけど……車こんな多いっけ?」

「私達から見たら普通ですけど」

「だよなー……。昔の俺でもそう言いそうだ(笑)」

悪魔のZを降りてもZ34で走っていたアキオ。しかし昔と比べると走る頻度は落ちていた。それもあってか一般車の多さに困惑しているようだ。

「君は……なぜZを選んだんだ」

「まともではないこのZを乗り続ける理由……それを知っておきたくてね」

Zに乗り始めたばかりの頃はアキオもZに手を焼いたものだ。Zに自身を拒否されて事故を起こす事もあった。

それでもアキオはZに乗り続けた。普通ではないZに魅入られていた。

自分がZを降り、Zは新たなパートナーと巡り会う。自分もZに再び乗る。しかしそのZはS30の後継機であるZ34型。

 

 

 

「私はぜっとに似ているのかもしれません」

「どういう事だ?」

「私は幼い頃に故郷を離れているのです。ぜっとも造り手の元を去り、各地を転々としていたとお聞きしております」

「生まれの地を離れて、向かった場所で出会いがあり。私達は似た者同士だと言われた事がありまして」

「ぜっとと言う車は存在感を感じると周りから言われます。もしも私が港でぜっとと出会う事がなければ今日という日はありません」

貴音がZと初めて出会った時、Zはボロボロの姿であった。朽ち果てそうになっていたZのその姿は貴音に一種の存在感を示した。

そんなZになにかを感じた貴音はZを「物の怪」と呼びながらもZが生きていると認めていた。その貴音の行動はZを降りる前にアキオが言っていた「長く生かしてほしい」という願いを守る物だった。

 

 

 

「ぜっとは妖しい魅力を持つ、と教えられました。実際その通りに。でもそんな所に私は堕ちていきました」

「君もか……」

Zの持つ魔力はいつだって人を惹きつける。この場の全員がそれを知っている。

 

 

 

(ーーーーZ)

(お前は再び俺を認めてくれるか)

(お前を見放した俺を呪ってもいい。いっそ殺してもいい)

(けど俺はお前じゃないといけないんだ)

 

 

 

 

多摩川方面を加速する蒼いS30。前方に車はない。オールクリア。

 

 

 

(もう一度ーーーー)

(その領域にーーーーーー!!)

アキオが操る悪魔のZがしなやかに加速する。一気にスピードメーターは300kmを指した。

 

 

 

(310km)

200マイルに迫るスピード。久々に感じるスピード感。アキオは忘れかけていた感覚が蘇っていた。

 

 

 

 

(素晴らしい……)

数十年振りにZに乗るというアキオだが、全くそんな風には見えない。Zの現パートナーである貴音の目から見ても毎日のように乗っているような走りだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつまでも生きる、か」

「北見さん?」

蓮のFDのナビシートに座る北見は呟く。

 

 

北見は19歳の時にあの蒼いZを初めて見た。そしてZに全てをつぎ込み、そのZは「悪魔」と呼ばれた。

そのZに魅入られてZに乗った者はZに拒まれてしまった。ある者はこの世を去り、またある者は長い入院生活を送る事になり。

それでも何回でも蘇って走り出したZ。求めていた真の乗り手がアキオだった。

アキオも当初はZに拒まれた。何回も。それでもアキオはZを見放す事無くZを信じ続けた。

アキオをパートナーと認めたZは最前線を走り続けた。ランエボやS2000など新型の車と渡り合った。

その姿から時代を越えて走り続ける車とも呼ばれた。

スピードを求め続けた最速の蒼い化身。その車はいつまでも走り続ける。

 

 

 

 

 

 

「やっぱ……速い!」

岩崎のRを下した美世のR34がZの前に出れない。首都高の最前線を走り続けたベテランであるアキオが駆る悪魔のZは本当に速い。

美世は1年前にアキオに初めて会った際にアキオと走っている。アキオはその際Z34で美世のR34と走っているが美世はZ34に全くついていけなかった。しかもアキオはその時全く本気を出していなかった。

 

 

 

 

「本当に不思議な車だな……」

Zのテールランプを見ながら岩崎は思う。

S30型こと初代フェアレディZが発売されてから今年で43年。もう少しで半世紀前の車になるS30Zが最新型の車に負け無しというにわかには信じがたいことだ。しかしそれは事実。

加えて「悪魔」と呼ばれているその背景には物騒な噂もある。

某所で「首都高に巣食う魔物」「何十年も前に走っていた伝説の走り屋の亡霊」と呼ばれる悪魔のZがかつての乗り手と戻ってきた。

ごく僅かな間だが首都高全盛期に首都高を盛り上げた伝説の車と伝説のドライバーが再び超高速ステージに姿を見せている。それだけで今日首都高に来た意味がある。

 

 

 

 

 

 

 

「Z……行くぞ」

アキオがアクセルを踏み込んだ。空気を震わせるエンジン音が轟き、Zは前に前に突き進む。

 

 

 

 

(320kmーーーーーーッ)

時速320km(200マイル)に到達してもなおスピードを上げる。

どこまでも突き抜けて行くZは地平線の彼方へ消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

首都高を降りて大黒へ戻った一同。

Zから降りたアキオはどこか寂しそうに、しかしスッキリした表情を浮かべていた。

「ようやく俺は悔いが無くなった。結局一度降りたZに自分の意思でまた乗る事になるとは俺も思っていなかったけど……。ありがとう」

「私もぜっとをより深く知る事ができました。ぜっとは貴方の走り方を形にしているようでした」

「自分の手足のように……自在に操る。私もまだまだだと」

「そうか……。Zをよろしく頼むよ」

 

 

 

 

アキオと北見はZ34に乗り、大黒を後にした。岩崎や蓮、美穂達も帰り大黒に残ったのは夢斗、遥、咲耶の3人だけになった。

 

 

 

「ようやく終わった……。これで私も降りれる」

咲耶の発言が引っかかる夢斗。

「どういう事だよ……咲耶」

「私はずっと降りるタイミングを探していた。何故首都高を走り続けているのか。自問自答を繰り返していた。自分の中で答えは出ていた。悪魔のZに勝つためにと」

「やっと勝てた。目標を達成して私は走る意味がもうないんだ」

「だから……私は」

「……戦え」

「夢斗?」

「もう一度俺と戦え!」

 

 

 

 

 

「咲耶はそれでいいんだろうけどさ。俺はダメだ」

「初めて俺を負かしたのは咲耶だ。そして咲耶は俺より長く走ってる」

「悔しいんだよ、正直。咲耶は前に言った。『たくさんの事を教えてもらってます』って。むしろ俺が教えられてんだよ」

「だからさ……俺がもっと上手くなったら俺と本気で戦え。今度は俺が勝つからさ」

いつもの軽いノリで言う夢斗だが、夢斗の眼差しは真剣そのもの。

「……そうか。夢斗、夢斗は何を求めている?」

「?」

「首都高に。なぜ走る?」

「自由があるから、かな。そして『みんな』がいる」

「んで、俺が勝ちたいって思うのが咲耶ナ」

「伝説に勝っても夢斗がこだわるのは私か……。ふふ、本当に変わっているね」

「そりゃあ天才なんで(笑)」

 

 

 

 

 

「しかしプロドライバーに勝ってしまうとは……。夢斗、何か決めました?」

遥が夢斗に質問する。岩崎はスーパーGTで活躍するドライバー。モータースポーツの最前線で活躍しているのだ。そんな岩崎に勝ってしまった夢斗。

「俺もモータースポーツやってみたいって思った。ストリート上がりの人が大勢に注目される事ができるのが俺は羨ましくて」

「公道では『なんだコイツ』ってなる事がサーキットに行けば『あいつスゲーじゃん』ってなるのがな(笑)」

「だって車ぐらいしか俺の取り柄ないし。それをフルに活かしたい」

「夢斗らしいですね……。実は私もモータースポーツに関わりたいと思ってました」

「はい?」

「プロデューサー、それは初耳だよ」

「実は父の知り合いから相談を受けて。まだ決めたわけではないですが……」

「最も、プロデューサー業が続けられるか怪しくなるので決めかねてますが」

「小日向さんはレーサーしながらプロデューサーやってるじゃん」

「あ、本当だ……」

「遥って妙なとこ抜けてるよな」

 

 

 

 

 

 

「さてと、遅いし帰るか」

「ですね」

「ああ。行こうか」

エボⅩ、エボⅨ、インプレッサが大黒を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

(変わってる……本当に)

(でも……悪くないですね。あの『変わってる』は)

夢斗は変わってる。しかしその方向はいい意味で。

目指している物にとことんまっすぐな夢斗の考え方は遥を動かす。

(夢斗は周囲を一変させる。いつか必ず)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(私にこだわる……か)

自分よりもレベルが高い相手を打倒しても自分と戦う事を望む理由。

(みんながいる……)

首都高を走り始めた頃の咲耶は周りに誰もいなかった。周り全てが敵だった。

しかし貴音のZに負けた後に少しづつそれが変わり始めた。そして出会った夢斗。

(なぜ人を惹き付けられるんだい、夢斗)

 

 

 

 

 

 

 

 

(何やろうかね、モータースポーツ)

プロドライバーを本気で目指そうと決めた夢斗。しかし何をやるか決めていなかった。しかし岩崎や蓮との出会いが夢斗の進路を決めたのは確かな事。

(明日決めよ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって346プロ女子寮。

部屋のベッドに寝転がる美穂は夢斗達の走りを思い出していた。

「私は前を走るよりもずっと側にいて見届けたい。蓮さん達が頑張る姿勢を応援したい」

「私は私なりの走り方で蓮さん達について行く」

テクニックは蓮達に及ばない。それでも見届ける。憧れを近くで見続けたい。

(ななさんと一緒に走りますから)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伝説を打ち破った革命者達。

伝説との出会いを経て革命者達は未来へ再び進み始める。

 




ついに打たれた終止符。そして悪魔のZに再び乗ったアキオ。
伝説達との出会い、そして走りを経て夢斗達は……。






ネタ解説です。
・美世とアキオの再会
前作「疾走のR」で美世とアキオは会っています。その際美世はアキオにあっさりと完敗しています。さすが伝説の男。
・悪魔のZにまつわる噂
「首都高バトル」シリーズで登場する最後のライバル「???」。どう見ても悪魔のZにしか見えないこのZ。このZの解説文の中からいろいろ噂を持ってきてます。





次回、ついに最終回。夢斗達の選ぶ道は。
そして……。
「俺は決めた」










〜次回作予告〜


あたし、如月明日翔(きさらぎあすか)は幼なじみの柊木希(ひいらぎのぞみ)と共に普通の大学生活を送っていた。
ただひとつ、首都高を走る走り屋という事を除いて……。



疾走のRから続く物語の最終章。
蓮が、夢斗が、そして明日翔が首都高を駆ける。首都高ランナー達の物語(ドラマ)のゴール地点!
新小説「アイドルマスター 最高への挑戦」連載予定!!



「銀色の革命者」最終話をゆっくり待っててください。


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エピローグ
STAGEFINAL 輝く色


ついに最終回。
しかし物語はまだまだ終わらない。


首都高ランナー達の決意。彼らは何を選び、進むのか。
そして待ち受ける衝撃のラスト。







夢斗達のバトルから一週間後。

ここはとあるドーム。アイドル達が一同に集い、準備している。

以前遥が夢斗に手伝いを依頼したアイドルフェスタだ。765プロのアイドルや346プロのアイドル達が最終チェックを行っている。

 

 

 

「お、莉緒ねー」

「あっ、夢斗君じゃない!どうしたの?」

「俺は283プロの手伝いしろって頼まれたんだよ。莉緒ねーは何歌うんだ?」

「あたしは『オーディナリィ・クローバー』をみんなと歌うの。あたしはイケメンを演じるのよ〜」

「莉緒ねーが男装すんのかー。なんか……想像つかない」

「え〜!?」

 

 

 

 

 

「おーい、ゆうくん仕事ー!!」

「あっ、やっべ」

結華に呼ばれた夢斗は慌てて持ち場に戻る。そんな様子を見ていた貴音達765プロのアイドル達。

「彼は自由ですよね……。縛られないっていうか」

秋月律子が言う。貴音も頷く。

「星名夢斗はその名のように空高くにある星のように掴めないのです」

「……確かに。貴音も縛られないからそういうのがわかるんでしょ」

「!?」

 

 

 

 

 

 

一方こちらは346プロ陣営。

やや緊張している美穂と開演を待つ美世がパイプ椅子に座っていた。

「うう……っ」

「美穂ちゃん、そんなガチガチにならなくていいんだよ?」

「そうですけど……やっぱり緊張しちゃって」

「大丈夫、みんなだって同じ気持ちだと思うよ。あたしも心の中では怖いって思ってるよ。でもさー、こんな大きな舞台なんてまずないじゃん?」

「だから楽しもう。美穂ちゃん」

「はい……っ!」

美世の言葉で落ち着きを取り戻した美穂は振り付けの確認を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今話した通りです。皆さん、頑張りましょう!」

283プロのミーティングが終わり、アイドル達が自分達の出番を待つ。

L'Anticaのメンバー達は早くステージに立ちたいと思っていた。

 

 

 

 

「咲耶ー?」

「夢斗?どうしたんだい」

夢斗に声をかけられた咲耶。

「咲耶達ってさ、こーいう時にプレッシャーって感じるモンなのか?」

「そうだね……。今こうやって普通に話しているように見えても……」

「内心は怯えているのかもね」

そう言う咲耶の手は小刻みに震えていた。

「なんからしくねえな。咲耶がこんなんなってんの」

「そう言う夢斗だって焦りを見せるそうじゃないか」

「なっ!?あっ、遥か!」

「でも……夢斗も焦るんだなって安心した」

「ええ……」

「天才でもミスがないワケじゃない。そうだろう?」

「だな。本当にいたら俺はソイツの事をター○ネーターって呼ぶぜ」

「ふふっ……本当に面白いな、夢斗は」

 

 

 

 

 

 

「夢斗君普通に馴染めるなー……」

咲耶と話す夢斗を見て蓮は呟く。普通の人だったらアイドルが目の前にいれば間違いなく緊張するだろう。しかし夢斗はアイドル相手でも普通にタメ口で話している。

良くも悪くも「壁」がない。ある意味夢斗のような接し方がプロデューサーとしては正しい。蓮はだいたいのアイドルよりも年上。アイドルを呼び捨てで呼んだりとそういう事があってもいい。しかし蓮はそういう事ができない。そこはプロデューサーとしては少々ズレている。

 

 

 

 

 

 

「美穂ちゃん、準備はできてる?」

「はい!私、今回楽しもうって思います!」

「うん。みんなで思い切りやろう」

蓮と美穂は歩き出す。今回美穂はソロで『空と風と恋のワルツ』を歌う。さらに蓮のサプライズで新衣装を着てだ。

「美世さんもどうですか?」

「あたしは準備万端!いつでも行ける」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてフェスタ開幕。

続々とアイドル達がステージに出ていく。まず765プロのアイドル達が出ていく。トップバッターは菊地真。

披露するのは『迷走Mind』。

 

 

 

 

「みんなー!ボクと一緒に楽しんでいってねー!!」

真の凛々しさが最大限に発揮される。観客からの歓声も大きい。会場中の視線が全て真に向けられる。

 

 

 

 

 

 

「みんなー!!ありがとうー!!」

真がステージを降りた後にステージに出てきたのは……。

 

 

 

 

 

 

 

「私の……私達の感じる風が」

「皆さんにも届きますように!」

ワンピースのような白いドレスを身に纏う美穂がステージに立つ。

そのドレスは彼女が初めてステージに立った日のライブ前に着ていたワンピースのように。

「憧れ」を「現実」にしてみせた証だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございましたー!!」

美穂がステージを降りた後も歓声は途切れない。美穂渾身のステージ。

努力を惜しまなかった彼女の積み重ねが形になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舞台裏で待つのは咲耶達L'Anticaのメンバー達。

「みんな……行くばい!」

「三峰も頑張るよ!」

「みんな……頑張ろう!」

「本気出しますかー」

「私の全てを出し切ってみせる!」

 

 

 

 

 

ステージに立つ5人。その面構えは困難をくぐり抜けてきた「強さ」が見える。

 

 

 

「うちらの新曲……『ラビリンス・レジスタンス』を心に焼き付けるばい!!」

 

 

 

 

 

 

「僕は何度だって声をあげながら」

「行くんだ ラビリンス・レジスタンス」

 

 

 

迷いながらも。それでも抗う。一歩一歩前に進むために抗う。

歌詞の一つ一つを力強く歌い上げていく。

 

 

 

 

 

「うつむけば薄汚れた」

「クツが目に入るけれども」

「無様だと捉えるのか」

「抗いと感じるのか」

 

 

 

 

彼女達の歩んできた道は困難が常に隣にあった。

挫折しそうな時もあった。でも逃げる事は一度たりともない。

咲耶達の歩みを表した歌詞が終わり、「前に進み続ける」そう言わんばかりの歌詞に入り始めた。

 

 

 

「何度だって声をあげながら」

「行くんだ ラビリンス・レジスタンス」

「刺さった心臓つらぬく矢を」

「自分で抜きながら」

 

 

 

 

 

 

 

曲が終盤に入り、会場中のボルテージMAX。

「何度だって声をあげながら」

「行くんだ ラビリンス・レジスタンス」

「刺さった心臓つらぬく矢を」

「自分で抜きながら」

 

 

「きっと抗って彷徨っているだろう」

「君と同じでいたいよ」

 

 

「また昇って闇を打ち消す」

 

 

「あのタイヨウのように」

 

 

L'Anticaのメンバー達は高まったテンションのままに歌いきる。

 

 

 

 

 

 

 

大歓声がドーム中を揺らす。

咲耶は今までにない達成感に包まれていた。

 

 

(また昇って闇を打ち消す、か)

(本当に太陽みたいな存在だな……夢斗)

(……いや、違うか。太陽とかあらゆる星になれる存在なんだ……)

自分を動かした夢斗という存在。

彼はきっかけ次第でどんな星にもなりうる。

そんな夢斗にいつも動かされてきた自分。それは今までも、そしてこれからも続くだろう。

 

 

 

 

 

 

この後、様々なアイドル達のステージがそれぞれ行われた。

閉会式を迎えた時のアイドル達の表情は「やりきった」と主張していた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

11月下旬。

夜の闇が包むのは栃木県日光市の中にある多数のヘアピンカーブがある坂道。いろは坂だ。

そしていろは坂を疾風のように駆け抜ける銀色の車が。

 

 

 

「やっぱぜんっぜん遅いなー……」

夢斗だ。久しぶりにいろは坂を走っている。

元々いろは坂最速の称号を持つ夢斗。そして今は「迅帝」を打ち破った「銀色の革命者」という称号を引っさげている。

 

 

 

首都高に比べるとあまりにも遅い。時速300kmに迫るスピードで走る首都高に比べるといろは坂は眠くなるくらい遅い。

しかし夢斗のテクニックは冴える。ヘアピンを確実にクリアして次のコーナーへカッ飛んでいく。

 

 

 

サイドブレーキを駆使してドリフトするエボⅩ。エボⅩが巻き上げた落ち葉が宙に舞う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エボⅩはいろは坂からしばらく走った所にある共同墓地へ。

奏夢が眠る墓だ。迅帝と戦ったあの日にも遥達とここに来ている。

 

 

 

 

 

 

 

(……カナ)

(俺は決めた。周りをぎゃふんと言わせられるようにスゲーヤツになってみようって)

(文句なんて言わせない。それが俺だって示すために)

(……俺は死ぬまで止まらねぇからさ。行けるトコまで行ってやる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢斗が立ち去った後。

墓の周りに積もっていた落ち葉が風で巻き上がる。ヒラヒラと落ちる落ち葉の中に浮かぶ光。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頑張って、お兄ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日に東京に戻った夢斗。

街をぶらつきエボⅩを置いていた駐車場に戻る途中。

 

 

 

「お、一番星」

日が沈み、夕焼けが見える空の中に見えた輝く一番星。

 

 

 

「一番星だよ!蘭ちゃん!」

「本当だ……」

「キラキラしてるー!!」

「ちょっ、香澄待てってば!」

「手、届かないや」

「おたえ!一緒になら!」

「お前ら待てって!誰か助けてー!!」

「やれやれ……」

「嬉しそうじゃん、蘭」

「そんな事ないし」

「え〜?見つけた時嬉しそうだったよ〜?」

「モカ、そんな事ないって」

「ひーちゃん、蘭は嬉しそうだったよね?」

「うん!ウキウキしてるのがわかったし」

「諦めろって、蘭」

「巴……」

 

 

 

 

一番星を見てはしゃぐ少女達を横目に夢斗は思う。

「星……ね。ったく、なんで俺は星に縁があるんですかね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

首都高速道路。

そこはスピードに魅入られ「首都高最速」を目指す者達が集い、「走り」という物語(ドラマ)を紡ぐ場所。

 

 

 

 

 

 

 

光に照らされる銀色の車。

その車は「革命」を成し遂げる。そしてその車を操る男は天才。その技術はまるで夢のように限界が見えない。

 

 

 

 

 

 

車をすり抜けて走るその車は様々な走りを経験した。

曲がりくねったコーナーのような経験をして……それでも真っ直ぐに走り続ける。

 

 

 

 

 

 

夜空に浮かぶ一等星のように。

彼らの革命(挑戦)は終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

オフだった蓮は出かけた先で「ピンキーキュート」のメンバー達とばったり会い、彼女達と歩いていた。

 

 

「みんなお腹空いてない?」

蓮が3人に聞く。

「私は少し……」

卯月は小腹が空いたようだ。

「私も……」

美穂と智絵里もお腹が空いたらしく、蓮の事を見る。

「うーん、どこがいいのかな……」

蓮が携帯(スマホ)で店を調べる。その間に美穂が買った洋服の袋を持ち直す。

 

 

 

 

「あれ?美穂ちゃんにプロデューサーもいるじゃん」

「おー、デートかなー?ゆい達もまーぜーてー!」

「ちょりーっす☆プロデューサー!」

 

 

美穂達が声をかけられた方を向くと「セクシーギャルズ」のメンバー「大槻唯」「城ヶ崎美嘉」「藤本里奈」の3人が立っていた。

 

 

 

 

「唯ちゃん達はオフなの?」

「そーだよー☆」

「プロデューサーの私服初めて見た気がするんだけど」

「あー……確かにみんなとオフで会う事なかったし」

「プロデューサーの私服見てあげたいなー。いいよね?」

「ごめんね、今度で……」

 

 

 

 

「美穂ちゃんもせっかくプロデューサーといるんだしなんかアプローチかけた方いいよ?」

「えっ!?」

「キスとかどう?」

「唯ちゃん大胆すぎない!?」

「えー?美穂ちゃんが攻めないだけだと思うよ?」

唯にタジタジな美穂。

「えぅぅうううう……っ!?」

美穂はオーバーフローして……。

 

 

 

 

「……美穂ちゃん!?」

蓮も思わずフリーズした。というよりもこの場にいた全員が事態を飲み込めなかった。

美穂は勢いのままに蓮にキスしたのだ。当然、美穂は顔を真っ赤にさせている。

 

 

「えへへ……攻めましたよ、蓮さん」

恥じらいが残る顔で美穂は言う。自分の意思で「攻めた」。

 

 

 

「プロデューサー……!!」

「これはダメでしょ……」

「プロデューサーさん……」

「美穂ちゃんやりすぎだったんじゃ……」

 

 

その場にいたアイドル達からの視線が蓮に刺さる。卯月と智絵里からも。

 

 

 

 

この後蓮と美穂は中々話せなくなった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

同時刻。

ここは富士スピードウェイ。

JAFグランプリ富士スプリントカップ出場のために美世は富士に来ていた。

天候はあいにくの雨。しかしレース中断になるような雨ではない。

 

 

 

ここはモチュールのピット。

暖気してある赤いGT-Rを横にミーティングを行うメンバー達。

鈴木からの指示を聞いた美世はいつものように準備を終わらしてマシンに乗り込む。

 

 

 

「……よしっ!!」

いつになく気合いが入っている美世。スタートはまだかと待ち遠しそうな様子。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてレースが始まった。

美世のGT-Rは首位を狙うべく第1コーナーへ突っ込んでいく。雨天という難しい状況の中で果敢に攻めるマシン達。

第1コーナー脱出時に先頭にいたのは岩崎のカルソニックGT-R。

美世は岩崎から少し遅れて6番手でコーナーを立ち上がる。

 

 

 

 

 

3周後。

「行ける行ける……」

快調な様子で走っている美世。現在5番手。首位のカルソニックGT-Rを射程圏内に捉えている。美世はここからどう差を詰めるか考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

(……っ!?)

一瞬だけ頭痛がした美世。「ソレ」はよかった。

しかし……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと?34号車がペースを上げたぞ?」

「周りが踏めない状況でただ1台、ペースアップしている!」

実況も思わず戸惑う。モチュールGT-R(34号車)は突然ペースアップ。

雨の中でのペースアップはリスクが大きい。状況次第でリターンは大きいが正直リターンがほぼ皆無な状況。

しかもGT-Rは踏みにくい後半セクションに入っている。ホームストレートならともかく、ダンロップコーナーを始めとしたテクニカルなコーナーが続いてる。

 

 

 

 

ペースアップ事態は珍しい事ではない。

問題なのはそのペースの「上がり方」だった。

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだって!?」

首位を走行していた岩崎が驚愕した。34号車はセクションタイムを更新し続けているとピットから告げられたのだ。

1周1周確実にタイムが削れている。尋常ではない事態に岩崎も焦る。

 

 

 

 

「さぁー、34号車がっ!39号車を、デンソーをオーバーテイク!」

「うわっ……ふらつきながらコーナーを立ち上がった!見ているこちらが恐怖を覚えます!」

あまりにも不安定な走りを見せるモチュールGT-R。しかし確実に岩崎のカルソニックGT-Rに迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

(もう……止まらない……)

脳が焼き切れると錯覚する程の思考速度。それと同時に理性が消えていく。

 

 

 

 

「うわーーーっ!!34号車がアウトから抜いた!!」

「恐ろしい攻め!ここは退くしかない!」

「34号車が圧巻の攻めを見せるッ!原田が乗れている!!」

ハイテンションな実況がコース中に熱気となって広がる。

 

 

 

 

(あとは……っ!!岩崎さんだけっ!!)

美世のモチュールGT-Rがついに岩崎のカルソニックGT-Rをロックオン。

 

 

 

 

 

(なんて速さなんだ……このままでは……っ)

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方。

美穂と歩いてた蓮が持つ携帯(スマホ)が鳴る。

 

 

 

 

「はい、小日向です。……はい。……え」

バサッ、と買った物が入る紙袋が蓮の手から落ちた。

同時に蓮の頬に冷や汗が流れる。蓮の顔から生気が消えていく。

「蓮さん……?どうしたんですか?」

明らかに様子がおかしい蓮を心配する美穂。

 

 

 

 

電話が終わった後。

「美穂ちゃん、ちょっと行ってくる。突然……こんな事なっちゃって。本当にごめん」

蓮は美穂を置いて走っていった。

 

 

 

 

 

 

「ズルいですよ……蓮さん……!私だって蓮さんの力になりたいのに……!」

「いつも……っ。私に迷惑かけないために……」

自分を自分以上に大切に思う蓮だから。そんな蓮の気遣いが今の美穂にはあまりにも重い物となってのしかかる。

今度は自分が蓮の助けになりたい。美穂はそう思っていた。しかしまた助けられた。

 

 

 

「う……っく。……蓮さん……っ」

蓮の支えになれない自分が情けなく、美穂は涙を流した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日起きたある出来事は走り続けてきた者、そしてこれから走り出す者の人生を変える重大な出来事となる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、知ってる?紅いスカイラインの話」

「何それ。知らない」

「……同じスカイライン乗りとして気にならないの?」

「特には、ね」

「『紅のシンデレラガール』が姿を現さなくなった……そうだよ」

 

 

 

 

 

 

 

話す少女2人の前にあるのはアクティブレッド(赤色)のBCNR33型スカイラインGT-R。

ところどころに傷があるGT-Rを横目に話す少女達。

 

 

 

 

「なんか……退屈。バトルが単調すぎてつまんない」

「……そうも言えなくなりそうな気がする」

「なんで?」

「んー……なんとなく」

「なんとなくって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「面白い事あるといいな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼女達に人生でとびきりの体験がすぐ近くに迫っていた……。

 




夢斗は進む。まだ見ぬ明日へ。
そして物語の主人公になる人物達は集う。





ネタ解説です。
・蓮のサプライズ
美穂がここで着用したのはシンデレラフェス限定SSR「日向の乙女」の衣装。
・「ライブ前に着ていたワンピース」
モバマス、デレステのSレア「はにかみ乙女」の特訓前で着ていたワンピース。
・一番星と少女達
「バンドリ!」からPoppin’PartyとAfterglowのメンバー達が登場。ぶっちゃけこれをやりたいために夢斗の名前を考えた感じです(オイ)





ついに銀色の革命者完結!
しかし蓮と夢斗達の物語はまだまだ終わらない!新しい主人公を迎えて物語はラストステージへ……!





「銀色の革命者」完


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