【凍結】もう1人のめぐねえ (神代麒麟)
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佐倉慈の妹編
「助けに来たよ、お姉ちゃん!」
最低2500字以上という制限も、区切りの良い所で終わらせられない原因の1つですし。
読んでみて違和感がある所が多々あるかと思われますが、ご了承ください。
SIDE 佐倉 慈
「めぐねえっ!めぐねえっ!」
背中の扉越しに由紀ちゃんの声がする・・・。だが、扉を開ける事は出来ない。目の前には【奴ら】になってしまった生徒達がゆっくり、しかし確実に私に向かって歩み寄ってくる。みんなを庇った時に右腕を噛まれてしまい、背後から背中をひっかかれてしまった。
(でもこれで教師として皆を守ることが出来た・・・。最後まで皆を・・・。)
気が抜けたのか両足に力が入らなくなり、扉にもたれかかったままズルズルと座り込んでしまう。背中と右腕が痛い。扉を開けようとする由紀ちゃんと目の前まで迫ってきている【奴ら】。何に対してかわからないが涙も出てきた。
そんなときだった。
「めぐねえっ!めぐね・・・えっ!めぐねえ!?」
私を呼ぶ由紀ちゃんの声が突然疑問形に変わった。
「めぐねえ!?どうしてここに!?」
「扉の向こう側で抑えていたんじゃ!?」
(胡桃さんと悠里さんの声も聞こえるわ・・・。どういうこと?私はここに「助けに来たよ、お姉ちゃん!」っ!?)
由紀ちゃんでも胡桃さんでも悠里さんでもない、私を「お姉ちゃん」と呼ぶ声が扉越しにはっきりと聞こえた。
SIDE ???
時は遡り、巡ヶ丘高校に到着する3時間前・・・
私は双子の姉を助けにキャンピングカーを走らせていた。
「巡ヶ丘市内に入ってから明らかに【奴ら】の数が増えてるわね。・・・っ!!」
交差点に大量の【奴ら】が右往左往しているのを見てブレーキを踏むが、
(決して・・・決して私の運転スキルが悪い訳じゃないわよね。寧ろ上手くなっているはずよ。4台目だけど。)
運転技術ではなく【奴ら】を引き飛ばす技術が向上していることに現実逃避をしながらキャンピングカーを走らせていると、ショッピングモールの看板が目に入った。
(お姉ちゃんとの合流を最優先させたいけど、何かここで調達しておいた方がいいかしら。最低限の食料や雑貨品はもう確保してあるけど、避難所になっているであろう巡ヶ丘高校でも物資が足りているかわからないし・・・。)
時刻はまだ14時だが、雲行きが怪しい。まだ雨は降ってこないだろうが、数時間以内には降ってくるだろうと考えて、私は駐車場にキャンピングカーを入れる。どうせ誰も困らないだろうと車を止めるスペースを無視してショッピングモールの入口に寄せて止める。愛用の改造刀を手に周囲の安全を確認、キャンピングカーから出た。
普段は買い物客で賑やかであろうショッピングモールは閑散としていた。
入口に止めてあるショッピングカートに目をやると、後ろの掲示板に貼られているショッピングモールのポスターに目が向いた。
《皆さまに愛されて20周年!リバーシティ・トロンへようこそ!》
もう沢山の客に愛されることのないショッピングモールのポスターが私には何処か寂しく見えた。
ショッピングカートは動かすと音が店内に響くが、そんなに長居するつもりもなかったためバックよりもこちらを選んだのだが・・・
(エレベーターもエスカレーターも止まっているんじゃショッピングカートは使いにくいわね。各階毎に使い分けて、上り下りの時は買い物籠を持ち運ぶしかないか・・・。)
エスカレーターのあるホールまでショッピングカートを押して進むと、ホールの一角に【奴ら】が何故か集まっていた。怪訝に思っていると集まっている【奴ら】の奥から
「い・・・嫌!来ないでっ!」
確かに声がした!
声が聞こえるや否や、ショッピングカートを【奴ら】のすぐ近くに突き飛ばす。壁にぶつかり大きな音を立てると、集まっていた全ての【奴ら】がショッピングカートに目を向ける。その隙に【奴ら】まで接近すると持っていた改造刀で3人の首をはねる。すると【奴ら】に囲まれていた女の子と目が合う。
「捕まって!一緒に逃げましょう!」
「は、はいっ!」
彼女の腕をしっかり掴み【奴ら】から離れる。もう物資の調達どころではないため、このまま入口に向かおうとするが、突然女の子がしゃがみ込む。
「どうしたの!?」
「足が、捻っちゃったみたいで・・・。」
女の子が痛そうに右足を抑える。だが怪我の具合を見る前にもっと恐ろしい現実を見てしまう。
「ウオオオオオオァァァァ・・・」
「ヴアアアアアアゥゥゥゥ・・・」
「嘘でしょう!?もうこんなにこいつら・・・。」
大きな音を立て過ぎた為か、四方八方から【奴ら】がにじり寄ってくる。
入口からも5人・・・5人!?5人位なら逃げ切れる!
こんな所で死ぬ訳にはいかない。
お姉ちゃんに合うことだけが最優先だ。
自分の命の方が大切に決まっている。
危険を冒してまで見ず知らずの女の子を助ける必要はないと自分に言い聞かせる。
後ろの女の子を見る。
すると女の子は足を痛めていた時とは別の絶望感を漂わせたような表情をしていた。
《
突然頭に響く誰かの声。【奴ら】がすぐそこまで寄ってきていることも忘れて目の前の女の子を注視する。この子の声じゃない。もっと幼い・・・聞いたことがあるような声。
《
「違う!!!」
無意識に改造刀の
「燃えた!?どうして!?」
女の子の当然の疑問に答える暇も無く、寄ってくる【奴ら】を次々と改造刀で切り裂いていく。改造刀に触れた【奴ら】は1人残らず燃え始める。突然火があがり、【奴ら】の動きが鈍くなった。改造刀のスイッチを切り、鞘に納める。
そして女の子に背を向けてしゃがみ込んだ。
「えっ?」
「走れないのでしょう!?乗って!」
「わ、わかりました!」
女の子が私の背に乗ってくる。しっかり背負えていることを確認し、入口に向かって走り出す。お・・・重いっ。体育は高3の時まではよかったが、それ以降運動をあまりしていなかったツケがこんな所で回ってきていた。
大学に入ってから碌に体を動かさず、甘いものばかり食べていた過去の自分に呪詛を吐きながら、ようやくショッピングモールを出ることが出来た。キャンピングカーを入口付近に止めておいて正解だったわね。
「さぁ乗って!」
「はい!」
女の子がキャンピングカーに乗るのを確認すると、私も運転席に座りドアを閉める。エンジンをかけて、キャンピングカーを走らせる。駐車場から道路に出て、お姉ちゃんが勤務している巡ヶ丘高校を目指して進んだ。
私は女の子を助けることが出来た。
以下注視した点
1.めぐねえの3人の呼び方・・・アニメ回想シーンでは、丈槍由紀を「由紀ちゃん」・若狭悠里を「悠里さん」と呼んでいる。しかし由紀の妄想めぐねえは丈槍由紀を「丈槍さん」・とあるがっこうぐらし!の悠里の説明書きに『めぐねえは悠里を「悠里ちゃん」と呼んでいる』とある。全てをしっかり確認した訳ではないため混乱を避けるために「由紀ちゃん」「悠里さん」にしました。恵飛須沢胡桃は「胡桃さん」だったと思う。1話冒頭で早くも創作に躓く要因となった原因その1である。
2.めぐねえの怪我・・・皆を庇い囮となっためぐねえ。しかしアニメでは右腕を抑えているのに対し、原作のめぐねえは左腕を抑えている。さらにアニメにて扉の前で座り込んだ際、扉に背中をつけていたためか扉に血が付着している。しかしその後、由紀が通った時には扉に血の跡すらついていない。おまけにめぐねえは頭からも血が流れているようにも見える。本作ではアニメを遵守し右腕と背中としたが、彼女は何処を怪我したのだろうか?1話冒頭で早くも創作に躓く要因となった原因その2である。
3.時系列について・・・ショッピングモールの女の子が1人脱出を試みる日とめぐねえが亡くなった日は本来全く別(のはず)です。しかしそもそも原作とアニメとで展開が違うのですから、これも本作設定と考えて下さい。
4.SIDE ???・・・めぐねえの双子の妹です。名前はもう決めていますが、あえてここではまだ非公開としています。登場人物が少ないと名前も出てくる必要も少ないですし、どうしても描写が増えてしまいますね。
5.改造刀・・・チートアイテムに見えますがいろいろとデメリットもあります。【奴ら】をはね続けたり、改造刀を振り回したりと一見チートキャラにも見えますが、本作ではチートキャラは出てきません。(ただしギリギリチートなアイテムは出てくるかも)
6.女の子・・・めぐねえ妹が助けた女の子。原作かアニメを見ている方は誰かわかると思いますが、まだ「女の子」と表記しています。原作やアニメと展開が違いますが、これも本作設定です。
7.めぐねえ妹に声をかける誰か・・・明らかになるのはまだ先です。本作のめぐねえ妹も「ショッピングモールにつくまでにいろいろなことがあった」ということです。
原作・アニメとの細かい矛盾点等は本作設定ということでご了承ください。本作内の矛盾点がないかどうか確かめるだけで精一杯です。2次創作って本当に大変なんですね。
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「私は樅路恵(もみじめぐみ)。あなたは?」
しかしほとんど進まない物語。理由は後書きにて。
SIDE 祠堂 圭
【奴ら】が突然町に現れてからショッピングモールに籠城すること10日間。私は一緒に籠城していた親友の静止を振り切り、1人ショッピングモールからの脱出を試みた。
その道中、あと少しで脱出出来るというところで【奴ら】に囲まれてしまったけれど、
偶然ショッピングモールに来ていた女性のおかげで私は助かった。
今は彼女の運転しているキャンピングカーの中。
逃げる時に右足を捻ってしまったけど、【奴ら】に殺されるよりはずっとマシだ。
「ここまでくれば一息つけるわね。」
助けてくれた女性がキャンピングカーを止めて、私の前に座る。
「大丈夫?何処か怪我は・・・確か足を捻っちゃったのよね?よければ見せてくれないかしら。」
「はい・・・。」
捻ってしまった右足を彼女に見せる。女性が足に触れると痛みがはしった。
「つぅ!」
「うん、捻挫みたいね。確かシップは救急箱に・・・。」
そういうと女性は近くにあった救急箱からシップを取り出してきた。よく見るとこのキャンピングカーにはお菓子が詰めてある箱や缶詰が入っている袋、日曜大工に必要な雑貨品等いろいろな物が置いてある。
「今貼ってあげるからじっとしててね。」
女性がシップを捻った右足に貼ってくれる。痛みが続いていた部分がじんわりと冷えてきた。
「あの・・・何から何までありがとうございます。なんてお礼を言えばいいか・・・。本当に助かりました。」
助けてくれた女性にお礼を述べると、女性は何処か困ったように
「お礼なんて・・・いえ、私もあなたを助けることが出来て嬉しいわ。」
そういうと女性はいきなり私を抱き寄せてきた。えっ、なになに!?
「よく頑張ったわね。生き続けるだけでも大変だったよね?。苦しくて辛くて怖かったでしょう・・・。」
抱き寄せた手を放して教師のように私の目線に合わせて話してくる。
「でももう大丈夫よ!もう怯えたり危険を冒したりする必要もないわ。これから【奴ら】が入ってこない避難所に向かうからね。」
にっこり笑って頭をなでてくれた。お母さんがなでてくれたみたいに。
こんな暖かい気持ちになったのはいつだったかな・・・。家族との何気ないやりとり、友達との学校生活を思い出すと涙が出てきた。
女性の胸に顔をうずめて泣き出してしまう。一言一言が暖かくて嬉しかった。
「すみません・・・その、いきなり・・・。」
「ふふっ、いいのよ。気にしないで!・・・・・・
「えっ?」
「そういえばまだ名前を聞いてなかったわね!私は樅路恵(もみじめぐみ)。あなたは?」
「あ・・・祠堂圭っていいます!巡ヶ丘高校の2年生です。」
(樅路さんっていうんだ・・・。さっき小声でごめんねって言ったような?)
「よろしくね祠堂さん!実はこれから行く避難所が巡ヶ丘高校なのよ。」
「巡ヶ丘高校が避難所になっているんですか!?」
「ええ、発電施設や浄水施設があるから避難所になっていると思うの。私の双子の姉もそこの教師なのよ!」
「樅路さんのお姉さんが?」
「私の自慢のお姉ちゃんよ!佐倉慈っていうのだけど見たことないかしら?私のように首に十字架を提げてて、私にそっくりな先生。確か担当科目は国語だったと思うわ。」
記憶を掘り起こしてみたけど、樅路さんのような容姿の先生は見なかった気がする。
「すみません、樅路さんのような先生がいたら覚えていると思うんですけど、ちょっとわからないです。」
「そ、そうなの・・・。今年は3年生の授業を主にしているからかしら?周りから『影が薄い』って言われてるみたいだし。」
樅路さんと同じ容姿の先生が『影が薄い』って、どれだけ存在感がない人なんだろう。
そういえば名字が違くて名前が同じ(めぐみ)なんだ。この話は聞かない方がいいかな。
「ってお姉ちゃんの話をしている場合じゃなかったわ!巡ヶ丘高校に行きましょう!」
そう言って運転席に向かう樅路さん。いや、その前にっ!
「あのっ樅路さん!」
「どうしたの祠堂さん?」
「実はさっきのショッピングモールにもう1人友達がいるんです!」
「ええっ!?」
樅路さんが来た道を凝視する。まだそんなに遠く離れてはいないけど、もうショッピングモールはここから全く見えない。
「祠堂さん、簡単にでいいから話してくれないかしら?祠堂さんと友達のこと。」
「・・・わかりました。」
私は親友の美紀のことと太郎丸という子犬のこと、美紀の静止を聞かずに助けを呼びに別れたことを話した。本当は続いていた籠城生活に耐え切れなくなって出て行ったことも含めて・・・。
「美紀はきっと一緒に助けを待ってくれなかったこと、怒ってます。出ていく直後に聞こえたんです。太郎丸に言ったと思う「うるさいっ!!」って怒鳴り声が・・・。」
「そうだったのね・・・。でも私はどちらが悪いという問題ではないと思うの。お互いの思うことを正直に言い合えるってすごいことよ。祠堂さんは私に助けを求めることが出来たのだからもっと自分に自信を持っていいんじゃないかしら?」
《ねっ?》と樅路さんはそう言ってほほ笑んだ。つられて私も照れてしまう。こんなに優しい人に助けてもらえて嬉しくなる。
「でもごめんなさい。祠堂さんの話を聞くに、今は救出を急がない方がいいと思うの。籠城場所にはまだ食料が残っているみたいだし、今ショッピングモールには【奴ら】が多く集まってきてる。私もお姉ちゃんが心配だし・・・嫌な予感がするのよ。」
「嫌な予感ですか?」
「ええ、だから今は巡ヶ丘高校へ向かいたいの。ダメかしら?」
「そんなことないですよ樅路さん!状況的にも今ショッピングモールは危ないですし、美紀には悪いけど先に巡ヶ丘高校に行きましょう!」
そう答えると樅路さんは「わかったわ、すぐに出発しましょう!」と言い運転席に向かっていく。
「あ、そうだわ。祠堂さんお腹すいてるでしょう?そこの箱にお菓子が入ってるから好きなの食べていいわよ!そっちの冷蔵庫に入ってるジュースも飲んでいいけど、一緒に入ってるお酒は飲んじゃダメよ♪」
「ありがとうございます!あの、圭でいいですよ。みんなそう呼んでるし。」
そういうと振り返った樅路さんが何故か悲しそうに
「ありがとう。でも名字で呼んでもいいかしら?普段からいつも名字で呼んでるから・・・。」
と断ってきた。
「そ、そうなんですか。かまいませんよ、祠堂で!」
「くすっ、ありがとね。」
そういうと今度こそ運転席に向かう樅路さん。名前のことはあまり触れないように気をつけようと思っていた矢先に地雷を踏んでしまったかもしれない。キャンピングカーが走り出す。私はお菓子の箱に入っていたポテトチップ(うすしお味)の袋を開けて食べだした。
(美味しい・・・ポテトチップってこんなにおいしかったかなぁ。)
「あ、そうそう!1つ言わなきゃならないことがあるんだけど・・・。」
「・・・なんですか?」
「実は私、無免許なの。」
この後、私は暴走するジェットコースターに乗っているような感覚に陥った。
以下注視した点
1.樅路恵が首に提げている十字架の描写について・・・いろいろと書き連ねたいことはありますが、宗教についての描写をすること(実在する宗教団体名称を出す等)は違反するかもしれないため、省きました。それでも樅路恵がどのような服装で身に着けているものは何かを描写したくて書き方に悩みました。わかりづらいですが、着ている服や靴、身に着けている十字架や時計まで佐倉慈と一緒です。だから1話で登場した由紀達も樅路をめぐねえと勘違いしているのです。
2.なかなか進まない物語・・・助けた恵と助けられた圭。一息つけられる場所にたどり着けば、自己紹介から情報交換や今後の方針等、同性であることもありこれくらい話が長くなるかなと思いました。同時に3話目も作成しようと思っていましたが、上記理由に苦戦し断念。
3.ポテトチップを食べる圭・・・こんな何気ない描写もしていきたいと思います。より登場人物に感情移入したり、彼女たちがどんな心境なのかを考えることが出来ると思っています。間違っても文字数稼ぎとかじゃないよ。
第2話は描写に苦戦しました。改めて2次創作の難しさを痛感しました。
物語がほとんど進んでいませんが、頑張って3話目を作成していきたいと思います。
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「もうだめだぁ・・・おしまいだぁ・・・。」
しかし3話が5000字を超えるとは思わなかったです。
あちこち小ネタがある本話ですが、楽しんでいただければ幸いです。
いいタイトルが思いつかなかった(笑)
SIDE 樅路恵
ショッピングモールを出発して2時間40分。私の計算では後20分程で巡ヶ丘高校に到着する。
嫌な予感が的中し、今にも雨が降り出しそうだ。しかし天気以上に車内の空気が重くなっていた。
ショッピングモールで助けた祠堂さんがソファーでぐったりしているのだ。
原因は「風邪をひいた」みたいな、体調不良によるものではない。
私の運転が
最初はキャンピングカーで【奴ら】を撥ねたり、何処かにぶつけたりする度に、大なり小なりの悲鳴を上げていたが、今はそれすらない。
いろいろと心配になってきたため、彼女に声をかけることにした。
「祠堂さん、起きてるかしら?」
「・・・・・・。」
「返事がない。ただの屍のようだ。」
適当に冗談を言ってみる。
「誰が屍ですか・・・。」
「じょ、冗談よっ!てっきり眠っていると思ってそろそろ起こそうと思ってたの。」
「【奴ら】を撥ね飛ばしたり、どこかにぶつけたりを何度もされたら眠れる訳ないじゃないですか。安眠よりも永眠しそうです・・・。」
「はうっ!ごめんね、運転が
「いえ・・・。助けてもらっていることは事実ですから。」
どうやら助けてもらっていることで、そこまで私に不快感を持っているわけではないようだ。
けど好感度は助けた時よりだいぶ落とした気がするわ。最初は「自分の命を助けてくれた素敵な女性」だったが、今は「運転が
(やっぱり子供は嫌いだわ・・・。)
「樅路さん、ちょっといいですか?」
子供との距離感や好感度について運転しながら考えていると、祠堂さんから声がかかった。
「何かしら、祠堂さん。」
「後どのくらいで学校につくでしょうか?」
「20分位だと思うわ。」
「・・・事故を起こさなければですか?」
「・・・ええ、そうだけど。」
(祠堂さんは何を恐れているのかしら?確かに私は運転が
「でもかなり早いですね。そういえば出発前に「嫌な予感がする」って言ってましたけど、もしかしてそれで急いでるんですか?」
「・・・やっぱり子供は鋭いわね。」
「?何か言いましたか?」
「いえ、なんでもないわ。急いでる理由だけど3つあるのよ。」
バックミラー越しに祠堂さんを見ると、彼女は表情を曇らせていた。不安にさせることなど言いたくはないけれど、私は現実主義者だ。運転は
「1つ目の理由は「学校に電話をかけてもつながらないこと」よ。」
「え?停電してるからじゃないんですか?」
「学校は災害時の緊急避難場所になる所が多いから、学校の校長室の固定電話は別電源になっている所が多く、停電時も普通はつながるはずなのよ。巡ヶ丘高校には発電施設もあるからね。」
「じゃあつながらないってことは、もしかしてみんな「そういう意味で言ったわけではないわよ?」・・・え?」
どうやら言葉を間違えたらしい。私は噛み砕いて説明をすることにした。
「固定電話は仮に停電していても留守電・・・メッセージを残すことが出来るのよ。電話がつながらなくてもね。けど今はそれすらも出来ないのよ。」
「それってどういうことなんですか?」
「巡ヶ丘高校の校長室の固定電話は中に内蔵されている電池の他に、発電施設からも電気をもらうことが出来ているはず。それが留守電すら残せられないとなると、発電施設に異常が起こりショートして壊れたか、考えられないけど誰かに壊されたか。どちらにせよ校長室の電話は壊れていて、こちらから校内の状況がわからないのよ。」
「そんなことってあるんですか?壊れたはともかく壊されたなんて・・・。」
「可能性は少ないけどね。」
(発電施設、浄水施設等がある巡ヶ丘高校。悪意のある人間に独占されている可能性には触れない方がいいかしら・・・。)
「それにしても樅路さんって巡ヶ丘高校の設備にすごく詳しいんですね。校長室の固定電話の機能なんて初めて知りました。」
「(やばっ!?)お、お姉ちゃんに教えてもらったのよ。お姉ちゃん、巡ヶ丘の教師だからこういうことも知っててね。」
流石に焦った・・・。半分は私の自業自得だが、こんなことで素性を知られたくなかった。
「そ、そうでしたね。お姉さんがいるんでした。」
「・・・2つ目の理由は「パンデミック発生から10日たっていること」よ。」
「え?10日たっているのがなんだっていうんですか?」
急いで話題をそらしたからか、また言葉足らずだったようだ。お姉ちゃんは国語教師なのに、なんで私はこうも口下手なのだろうか。
「ええと・・・。祠堂さん達はショッピングモールで籠城していたのよね?」
「え?はい、美紀と2人でいる前は、ショッピングモールの生き残りの方達といましたけど。」
「なら何故2人になってしまったのかしら?」
「それは・・・【奴ら】に噛まれていたグループのリーダーがそのことを隠していて、目が覚めた時にはもう2人に・・・。」
「確かにそのグループリーダーも悪いけど、それは彼だけが悪いのかしら?」
「どういうことですか?噛まれていたことを隠していたんですよ!?」
祠堂さんが声を荒げる。言いたいことはわかるが事はそう単純ではないのよ・・・。
「彼の気持ちになって考えてごらんなさい。【奴ら】に噛まれたらあなたはみんなに言えるのかしら?言ったらそのあとあなた達はどうするのかしら?」
「・・・・・・。」
バックミラー越しに祠堂さんを見ると、祠堂さんはうつむいて顔をゆがめていた。私が何を言いたかったのか、彼女にも伝わったのだろう。
「祠堂さんがいたグループだけじゃない。生き残った他のグループの人達にもそれは言えることなのよ。これから行く巡ヶ丘高校でも・・・。」
「そんな・・・。」
「でもね祠堂さん。他にもいろいろと言いたいことはあるのだけど、私が本当に言いたかったのはそのことじゃないのよ。」
「本当に言いたかったこと?」
「あなた達はみんな油断していたのではないかしら?」
「油断?」
祠堂さんは疑問符をついていた。
「パンデミック発生直後はみんな警戒出来ていたのかもしれない。でも数日もたてば、みんな気が緩んでしまうものなのよ。人はいつまでも集中して物事にあたることはできない。気を張っていたら疲れてしまうでしょう?」
「確かに・・・そうですよね。」
「そして油断による崩壊は巡ヶ丘高校では起こりやすいと思っているのよ。」
「な、なんでですか!?」
また祠堂さんが声を荒げる。これは考えたくないことなのだけど。
「巡ヶ丘高校は階段さえ机とかでバリケードを作って塞いでしまえば、【奴ら】も容易には2階や3階には行けない。屋上には発電施設と浄水施設に確か菜園スペースもあったはずよ。ショッピングモールとは別の意味合いで籠城に適している場所。生き残っている生徒達が気を抜いている様子がありありと思い浮かぶわ。」
3階を制圧し階段を机で塞ぐくらいなら、生き残った教師と生徒で出来たはずだ。けれど10日もたっている今、
「それで3つ目はなんですか?」
「3つ目は・・・。」
言う前に気づく、フロントガラスにポツポツと雨が降ってきていた。
「まずい!降ってきたわ!」
キャンピングカーのスピードを上げる。冷や汗をかきはじめたのが自分でもわかる!
「ど、どうしたんですか!?雨が降ってくると何かあるんですか!?」
私の焦りに気づいて祠堂さんもあわてているのが、バックミラーを見なくてもわかる。
「【奴ら】は生前の行動を無意識に繰り返すのよ!校舎の外にいる【奴ら】は雨が降ってきたらどういう行動をとると思う!?」
「まさか・・・校舎に雪崩れ込むとか言いませんよね!?」
「大いにありえることよ!考えてごらんなさい、祠堂さん!電話で助けも呼べない、脱出経路が限られた学校にいきなり【奴ら】が雪崩れ込んだら、油断していた生徒達がどうにかできると思う!?」
「・・・・・・。」
もう一度バックミラー越しに祠堂さんを見る。バックミラーには絶望の表情を浮かべた祠堂さんが映っていた。
どんどん強くなっていく雨。フロントガラスに大量に降りしきる雨に、私はここで重大な見落としに気づいた。
頭がどうにかなりそうだった。道を間違えたとか、また【奴ら】を撥ね飛ばしたとか、
そんなチャチなもんじゃ断じてねえ。
もっと恐ろしいシンプルで最悪な状況に・・・。
「し、祠堂さん。私、気づいちゃった・・・。嫌な予感よりも恐ろしい私達の状況に・・・。」
「な、なんですか樅路さん。さっきの話以上に恐ろしい事態なんてあるわけが・・・。」
「私・・・私・・・雨の中で運転なんてしたことなかったわあああああああああ!!!」
「\(^o^)/オワタ」
バックミラーを見ると、祠堂さんが何故か両手を上げて笑っていた。祠堂さんが壊れた!
「ええと、ええと!ワイパーはどうやって動かすんだっけ!?」
「確かそこのレバーを上げるんですよ!お父さんが言ってました!」
「このレバーね!」
樅路恵はレバーを上げた!
「プシュッ」と音をたてて泡が出てきた!
しかし雨ですぐに消えてなくなってしまった!
「「・・・・・・。」」
沈黙する私と祠堂さん。
「もういいです!!樅路さんはよく頑張りました!!ブレーキっ、ブレーキ踏んでください!!」
「ええ!?後ちょっとでつくのに!お姉ちゃんが危険な目にあってるかもしれないのに!」
「っ!?そ、それでもです!樅路さんがここで死んだら誰がお姉さんを助けるんですか!?」
「っ!?わ、わかったわよ!止まればいいんでしょ!ちょっとだけよ!」
樅路恵はブレーキを踏んだ!
しかし
さらに交差点を右往左往する【奴ら】を撥ね飛ばしてしまった!(宙を舞う【奴ら】3人を視認)
「「キャアアアアア!!」」
絶叫する私と祠堂さん。
「こ、これはあれよ!このまま巡ヶ丘高校まで行けって言う、神の啓示みたいなやつよ!ロザリオさげててよかったわ!」
「もうだめだぁ・・・おしまいだぁ・・・。」
喜々としてワイパーを動かすのを諦め、運転を続ける私。
某サイヤ人や某ラッコのように膝をつき、何かを諦め悲壮感漂う祠堂さん。
私と祠堂さんは何処か似ているような気がする。
「そんな・・・。」
「嘘でしょう!?」
私の嫌な予感は良く当たる。それは占いのような曖昧なものではなく、頭の中で計算し想定していたことだからだ。
校舎に雪崩れ込む【奴ら】。何故かほとんど割れている校舎の窓の奥にも【奴ら】が見え、1,2階は教室にも既に入り込んでいることがわかる。
私は駐車スペースにキャンピングカーを止めると祠堂さんに指示を出す。
「祠堂さんはキャンピングカーの中にいて!足を怪我しているうえにこの数じゃ守り切れない!私が出たら鍵をかけて!必ず助けに戻るから!」
指示を出しながらリュックに役に立ちそうなものを詰め込む。私は引き出しから2つの機器を取り出し、1つを祠堂さんに手渡す。
「これはなんですか?」
「無線機よ!これで離れていても会話ができる!」
もう1つの無線機をリュックに詰め込むと、救急箱に手を伸ばす。
この中には大切な物が入っている。救急箱からケースを取り出すと、注意深く詰め込む。あまり乱暴にすることはできない。
最後に改造刀を左手に持つと、祠堂さんと向き合う。
「じゃあ行ってくるわね。」
「絶対・・・絶対に死なないでください!約束ですよ!」
「ええ!約束よ!」
キャンピングカーから降り、ドアを閉める。背中越しに鍵がかかる音がした。吹き付ける雨が服をどんどん濡らす。
(確認はしていたけど、付近に【奴ら】は少ない。みんな校舎に
「めぐねえ!!!」
校舎から大声が聞こえた。
校舎を見回すが、誰も見えない。
私を呼んでいるわけではない。
「めぐねえ」と呼ばれている人は学校に1人しかいない。
私は校舎に駆け出した。
以下注視した点
1.校長室の固定電話・・・実は固定電話の話はそこまで重要ではありません。某探偵アニメで、固定電話の仕組みからアリバイを崩した話があったため、うろ覚えながら組み込んでみただけだったりします。巡ヶ丘高校の校長室の固定電話の仕組みなんてわからないため、本作設定ということでお願いします。
2.樅路恵は
3.樅路恵は現実主義者だ。・・・圭「どこが?」
4.樅路恵は佐倉慈の双子の妹だ。・・・閲覧者「どこが?」
第3話は小ネタに挑戦してみましたがいかがでしょうか?
細かい矛盾点等は本作設定ということでご了承ください。
次回からは巡ヶ丘高校籠城編です。
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巡ヶ丘高校籠城編
もう1人のめぐねえ
樅路恵「それもそうだけど、第1話でショッピングモールに16時に着いてその後3時間後に学校に到着したのよね?町中停電で3話冒頭あたりにはだいぶ暗くなっているはずだけど、よく私学校につけたわね。」
投稿者「そ、それはあなたがそのことも計算済みでゆっくり車を走らせたから・・・。」
樅路恵「19時に真っ暗で雨降ってて【奴ら】が雪崩れ込んでる学校に突撃してお姉ちゃん達助けられるの?」
投稿者「・・・・・・・・。」
第1話の16時の部分を14時に変更しました。
SIDE 樅路恵
私が今居る場所は、校舎横にある駐車場。正面の昇降口は【奴ら】で溢れかえっているため、校舎裏の窓から侵入することになるのだが・・・。
(何で窓が全部割れてるの!?あの
とある男に悪態をつきつつも、なんとか窓を開けて1階の廊下に侵入する。
「ヴァアアァァ・・・」
「ヴォオオォォォ・・・」
当然廊下を徘徊している【奴ら】が気づき、私に襲い掛かってくる。手にしている改造刀のスイッチを入れて【奴ら】に切りかかるが・・・。
(やっぱり燃えないわね。けど今はそれで充分!)
この刀は柄の部分にあるスイッチを入れると刀が高熱を帯びるようになってる。【奴ら】は火や熱に弱く、すぐに発火するため作成した対【奴ら】用の武器の1つだが、今【奴ら】はずぶ濡れ状態。この状態の奴らはこの程度では発火しない。しかし今は【奴ら】を倒すことではなく、お姉ちゃんを助けることが1番の目的。発火しないことは寧ろ好都合な状態だ。使い方にコツがあり欠点も多い武器だが、ここに来るまでの合間に作成が間に合ってよかった!
【奴ら】をやり過ごしながら階段前までたどり着く。
しかしそこでは大量の【奴ら】が階段を昇っていた!
「ヴァアアァァ・・・」
「ヴォオオォォォ・・・」
「アァアアァァ・・・」
「グォォオオォォォ・・・」
階段を昇ろうとしている【奴ら】、そして周りを別の【奴ら】に囲まれる。
しかし私は「こっちよ、あなたたち!!」と大声で階段に向かって叫ぶ。すると・・・
「ヴォオ、アアァァァ・・・!」
「グォォ、オオォォァァ・・・!?」
「アオォ、オォォォ・・・!?」
階段を昇ろうとしていた他の【奴ら】が振り向き、降りようとして・・・他の【奴ら】を巻き込みながら階段を雪崩落ちてきた。
【奴ら】は階段の昇りは苦手だが、下りはもっと苦手だ。1人1人は問題なく出来ても、複数人で下ろうとすると、今みたいに他の【奴ら】を巻き込みながら落下することが多い。周りにいた【奴ら】が倒れている【奴ら】に気を取られている内に階段を駆け上がる。
「めぐめえ!めぐねえぇ!」
また3階から声が聞こえる。おそらく
「アァアアァァ・・・!」
「っ!?まずっ!」
声に気を取られ、足元に俯せていた【奴ら】が右足を掴んできた!
「離しなさい!このっ!」
掴んできた【奴ら】の腕を改造刀で切り飛ばし、2階から3階へ駆け上げる。3階への階段はさっきよりも数がかなり少なく、改造刀で背中から切り分けながら進んだ。
ようやく3階に辿りつくと机が縦に積まれたバリケードがあり、その先に「めぐねぇ、めぐねぇ!」と叫んでいる女子高生と何故かシャベルを持った女子高生、あと胸がデッカイ女子高生が居た!造りに不安がある簡易バリケードを下から這って越えると3人に近づいて声をかけた。
「あなた達!」
「めぐねえっ!めぐね・・・えっ!めぐねえ!?」
「めぐねえ!?どうしてここに!?」
「扉の向こう側で抑えていたんじゃ!?」
3人目の女子高生の声と後ろの防火扉から大体の事情を察し、彼女達を無視して防火扉の向こうにいるであろうお姉ちゃんに声をかけた。
「助けに来たよ、お姉ちゃん!」
恵比寿沢胡桃 SIDE
身を挺してめぐねえがあたし達を助けようとしているのに、由紀は防火扉を叩きながら叫んでる。【奴ら】に噛まれていてもう助からないことはわかっていても助けたいし、由紀の気持ちもわかる。けどこのままここにいたら危険だということも、めぐねえの気持ちを裏切ることもわかっていた。だからりーさんと協力して由紀を防火扉から引き剥がそうとした・・・。その時だった。
「あなた達!」
振り向くとそこには・・・背中にリュックを背負い、何故か左手に刀を持っためぐねえがいた。
「めぐねえっ!めぐね・・・えっ!めぐねえ!?」
由紀が驚いてめぐねえに駆け寄る。
私とリーさんも駆け寄って声をかける。
「めぐねえ!?どうしてここに!?」
「扉の向こう側で抑えていたんじゃ!?」
けどめぐねえはあたし達と防火扉を交互に見やると、防火扉に駆け寄り
「助けに来たよ、お姉ちゃん!」
と大声で叫んだ。・・・え、お姉ちゃん!?
「お、お姉ちゃんって!?もしかして妹!?」
「そうよ双子の妹の樅路恵よ!よろしくね!」
(妹!?めぐねえって妹いたんだ!ていうか着ている服や普段身に着けてる物まで同じじゃんか!)
「妹・・・。」
隣ではりーさんが何やら俯いてブツブツ言っているが、それどころじゃない。じゃあめぐねえはまだ防火扉の前にいるってことだよな!?
「そうだ!めぐねえが防火扉の向こうにいるんだっ!」
「あっ!めぐねえ!めぐねえの妹さんも来てるんだよ!!開けてめぐねえ!」
じっとめぐねえ妹を見ていた由紀がまた防火扉を叩きながら叫びだした。
あたしも今度はめぐねえに開けるように防火扉に向かって叫ぼうとしたその時だ。
「開けないとお姉ちゃんの〇〇〇〇の画像や動画を全国にばら撒いちゃうわよ!!」
めぐねえ妹のびっくり発言にあたしだけでなく、叫んでいた由紀も俯いていたりーさんもめぐねえ妹を凝視した。
あと、防火扉の向こうからめぐねえの「ええっ!?」っていう声も聞こえた。
「め、めぐねえの〇〇〇〇だとっ!?」
急がないといけない事態のはずなのに、いきなりめぐねえのあられもない痴態を想像していまい、つい声を荒げてしまった。
「・・・?りーさん、〇〇〇〇ってなあに?」
「私に聞くの!?」
首を傾げて〇〇〇〇の意味を訪ねる由紀に、驚いて顔を赤面させるりーさん。
(由紀は〇〇・・・じゃなくて!今はそれどころじゃ「あらあなた、〇〇〇〇の意味を知らないのね!」・・・ておいっ!?)
必要以上に大声で由紀に必要のない知識を与えようとしているめぐねえ妹。
(ていうか本当にめぐねえの妹なのか!?確かに容姿はそっくりだが・・・)
「いい!?〇〇〇〇っていうのは「ガチャ」!?」
全員が一斉に防火扉を見た。防火扉が開き、顔を赤らめながらめぐねえが倒れこむように飛び込んできた!
けど、その後ろから
「ヴァオオァァ・・・」
「ヴォアアァォォ・・・」
大量の奴らが防火扉から入ってこようとしてきた!
「このっ!」
めぐねえ妹が防火扉を蹴って閉めようとしたが
「ヴァアアアァァ・・・」
「ひっ!」
【奴ら】の1人が防火扉に挟まり、由紀が悲鳴を上げる。まずい!
「ちぃっ!?」
するとめぐねえ妹は舌打ちをしたかと思うと、持っていた刀で【奴ら】の挟まっている部分を切り落とし、強引に防火扉を閉めた!す、すげえな・・・。
「そこのシャベルツインテっ!リュックに入ってるガムテープでドアを固定してっ!」
「だ、誰がシャベルツインテだよ!?」
この場にシャベルを持ったツインテールはあたししかいないが、そんなあだ名は嫌に決まってる。でも今はそれどころじゃないし、口答えしつつもめぐねえ妹が降ろしたリュックに手を伸ばす。
「そこのおっぱ「なんですって?」・・・あなたは防火扉を抑えててください、お願いします。」
「わかったわ!」
りーさんのあの怒気に押され、さしものめぐねえ妹も引き下がった。りーさん怒らせると怖いからなぁ・・・。
「わ、私は!?」
由紀も何か力になろうと、めぐねえ妹に詰め寄る。
「・・・丈槍由紀。あなたは階段から【奴ら】がこないか見張ってなさい。」
「え?う、うん。ラジャー・・・。」
手を動かしながら2人のやり取りに聞き耳を立てていたあたしは、疑問に思う。
(めぐねえ妹と由紀って面識あるのか?あまりいい感じじゃなさそうだけど・・・)
「あ、あなたたち・・・」
全員が声のする方に目を向けるとめぐねえが弱弱しく声を上げた。そうだ、めぐねえ大丈夫なのか!?
「私はもう・・・感染してるわ・・・。早く逃げて!」
「そんなっ!めぐねえを置いて逃げれるわけないだろ!?」
「そうです!保健室に行けばまだどうにか出来るかもしれません!」
「そうだよっ!めぐねえ!死んじゃやだぁ!!」
(そうだ、由紀だけじゃない。あたしもりーさんもめぐねえが死ぬなんて嫌だ!保健室に行けたところで望み薄なことくらいりーさんだってわかってるはずだけど、それでももうめぐねえと2度と会えない・・・いや、めぐねえが【奴ら】になるなんて考えたくもない!)
そう考えていると、めぐねえ妹が全員に「落ち着きなさい、あななたち!」と声を荒げた。
「2人とも手を止めないで!由紀、あなたもちゃんとバリケードを見張ってなさい!お姉ちゃんの怪我も感染も私が治すわ!」
めぐねえ妹はそう言うと改造刀についている血をハンカチで拭き、リュックから小さな長方形の箱を取り出した。
以下注視した点
1.樅路視点「エロ狸」・・・彼女の悪態からなんとなく誰か想像がつくと思います。しかし樅路にとってあまりいい人ではなさそうです。
2.改造刀について・・・4話から大活躍の改造刀についてですが、序盤で少し改造刀について解説しています。デメリットにも少し触れていますが、決して「濡れた敵には効果が薄い」だけがデメリットではありません。5話以降に触れていくと思います。
3.【奴ら】の習性・弱点等について・・・ほとんどは本作設定ですが、少し某ゾンビゲームの設定も含まれています。
4.校舎の構造とバリケード・防火扉・教室・特別教室の位置等について・・・アニメの知識しかないため、もしかしたら原作やアニメとの矛盾点が出てしまうかもしれません。その場合は本作設定とするか、構想の練り直しをすることになるかもしれません。
5.胡桃視点「一人称は{あたし}?{わたし}?」・・・調べてみても特にどちらとは明記されておらず、アニメを実際に視聴しても自分を「あたし」と呼んでるのか「わたし」と呼んでるのかが聞き取りづらく、やむを得ず「あたし」と聞こえた為「あたし」としました。間違っていたら修正します。
6.胡桃視点「めぐねえ妹」・・・1度皆の前で簡単に自己紹介を樅路がしていますが、胡桃は「めぐねえ妹」と現時点では呼称しています。実際にそう呼んでいるわけではありませんが、あの場では「樅路さん」や「恵さん」よりも胡桃らしいと判断し、現時点では心の中でそう呼称しています。
7.胡桃「め、めぐねえの〇〇〇〇だとっ!?」・・・
作者「め、めぐねえの〇〇〇〇だとっ!?」ガタッ!
みんな「め、めぐねえの〇〇〇〇だとっ!?」ガタッ!
めぐねえ「やめなさいっ!><」
・・・冗談は置いといて、樅路がこんなやり取りを唐突にしだしたのは、姉の方から防火扉を開けて出てきてもらうためです。由紀に〇〇〇〇の意味を教えようと必要以上に大声を上げていたのもこのためです。え?〇〇〇〇って何ですかって?読者のご想像にお任せいたしますm(__)m
8.防火扉の前で漫才やってる間にめぐねえ【奴ら】に殺されてない?・・・某バスケのアニメの3ポイントシューターを思い出してみてください。残り3~4秒の間に長々と3ポイントの重要性や己の信念を対峙しているライバルにあつく語る時のあんな感じなのだよ。・・・というのもありますが、一応理由はあります。5話以降にめぐねえの回想に出てくるかもしれません。出すかは未定なのだよ。
9.胡桃視点「めぐねえ妹と由紀の面識」・・・これも5話以降に少しずつ判明していきます。不定期更新者にありがちな複数の伏線を張る行為。作者もその1人です。
10.めぐねえ「あの・・・私のセリフ少なくないですか?」
作者「文字数の関係でこうなりました。他にも理由はありますが・・・まさか3500文字を超えるとは思わず、何処で切ろうかも迷いました。」
4話の更新が遅くなり申し訳ございません。待っている方なんて少ないかもしれませんが、気長にお待ちください。
第4話ではついにメインキャラ達と合流出来ました(やっとだよ・・・)
細かい矛盾点等は本作設定ということでご了承ください。
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疑惑のもう1人のめぐねえ
あまりに嬉しくてまさかの連続投稿です!
さすがに第6話はすぐに投稿出来そうにありませんが、頑張りたいと思います!
追記
第4話までに【奴ら】の首をはねる、腕を切る等のグロい表現がありましたが、第5話はよりきつい描写があります。ご了承ください。
若狭悠里 SIDE
「怪我も感染も治す?そんなことが出来るんですか!?」
私は自らを佐倉先生の「妹」と言う樅路さんの発言に疑問を投げかけた。当然の疑問だ。背中の怪我も酷いが、1度感染したら【奴ら】になってしまうもののはずだし、それを防ぐ手段なんてあるわけがない。けれど、皆が何かを言う前に彼女はこともあろうに佐倉先生の
「な、何をするんですか!?」
「まずは背中の怪我の出血を止めるわ!この改造刀はスイッチ1つで高熱を発するのよ!これで傷を焼いて止血するわ!」
「傷を焼くだと!?」
信じられない処置方法に胡桃も大声を上げる。確かに傷を焼いて応急処置が出来ると聞いたことはあるけど、それを本当にやろうとしているの!?実の姉に迷いなく!?
「そもそもその刀で【奴ら】を切ってきたんだろ!?そんな道具で治療なんて出来るのか!?」
「どのみちもう感染してるんだからノープログレムよ!」
「胡桃が言いたいのはそういうことじゃなくって、傷口を焼くなんて先生が耐えられれないって言ってるんです!」
こんなやりとりをしている間にも、樅路さんは佐倉先生のブラ以外の上半身の服を脱がし終え、床にうつ伏せで寝かせた。疲労困憊の佐倉先生は樅路さんにされるがままの状態になっている。樅路さんはうつ伏せに寝かした佐倉先生にまたがり刀を傷口に向ける。
「ほ・・・本当にやるの!?」
佐倉先生も顔を蒼白にさせて背中にまたがる樅路さんを見て尋ねる。
「大丈夫よお姉ちゃん!私は医者だから!」
「医者!?いや、そういうことを聞きたいんじゃなくてそもそもあなたはいったい「樅路さんってお医者さんなの!?」っ!?」
佐倉先生が何かを聞こうとした時、由紀ちゃんが遮るように聞き出した。
「もちろん嘘よ♪」
「「「「えっ?」」」」
ジュッ!!!
「っああああああああああ!!!?」
「「「め、めぐねえぇぇぇ!!!?」」」
本当に唐突で止める間もなく、彼女は高熱を発するという刀を傷口に押し付けた!時間にして3秒程だろうけど、佐倉先生の痛がり方から尋常じゃないほどの痛みなのは誰が見ても明らかだった。
「よし!出血はこれでたぶん止めたわ!」
「たぶんかよっ!ていうか逆に悪くなってないかこれ!?本当に大丈夫なのか!?」
「めぐねえ!めぐねえぇぇ!」
彼女の言動に怒りよりも驚愕が勝り、私は茫然と佐倉先生の傷口を見ていた。確かに出血もほとんど止まり、傷口も塞がったかもしれないが、早急にしっかりした手当てをしなければならない。
(いや、それよりもこの人はどうやって感染を
ガシャアン!!!ガランガラン・・・
今にも気絶しそうな先生も含め全員が音がした方向、バリケードの方を見た。
「アアアアアァァァァ・・・・」
「ヴォオオォゥゥ・・・」
「オオオオォォォゥ・・・」
(バリケードが破られた!!?)
樅路恵 SIDE
(くっ!?時間をかけ過ぎたわね!あんな大騒ぎしたら無理もないけど!)
お姉ちゃんの背中の傷口の応急処置は終わったが、まだ感染を防ぐ処置は終わっていない。それ以上にバリケードが壊され、大量の【奴ら】が押し寄せていることで女子生徒3人がさらに騒ぎ出した。
「ど、どうすんだよ!?さすがにあの数は私も無理だぞ!」
「逃げましょう!内側から鍵をかければ入ってはこられないはずよ!」
「めぐねえは!?めぐね「黙りなさい!!」ひっ!?」
ただでさえ丈槍由紀と
「すぐには【奴ら】も崩れてはいてもバリケードを超えてここまでは来れない!ここまで到達するのに・・・約15秒!胡桃さん!あなたは先行して生徒会室までの安全を確認しなさい!」
「はぁ!?なにを「行きなさい!!」っ!くそっ!」
有無を言わせず指示を出す私に対して悪態をつきながら1人生徒会室まで駆け出す胡桃という女子生徒。だが彼女には見向きもせず私はお姉ちゃんの感染を防ぐ処置に入る。取り出していた長方形の箱を開け、中に入っている
「なんですか、その注射器!?」
「説明してる時間はないわ!」
そう言いながら注射をお姉ちゃんの噛まれた右腕に打つ。
「はうっ!?きゅう・・・」
「めぐねえ!?」
注射を打ち終わるとお姉ちゃんはぐったりと床に突っ伏した。丈槍由紀がお姉ちゃんに駆け寄るが、相手をしている暇はない。注射器を捨てると改造刀を掴み、すぐ近くまで接近していた【奴ら】を切り伏せる。
「あなた達はお姉ちゃんを生徒会室まで連れてって!私が殿をするわ!」
「っ!わかりました!」
「ラジャー!」
大量に迫る先頭の【奴ら】を切り伏せながら少しずつ後退する。教室に1度入り、少しでも時間を稼ごうと「3年B組」の教室に入る。
(っ!?いや、今は気にするな!)
生徒の机や椅子が2,3倒れており、床や黒板・割れた窓も含めて教室中が血だらけの部屋で【奴ら】を数人倒してもう1度教室を出る。後ろを振り返ると想定していたよりも生徒会室に進めていない3人が少しずつ歩を進めていた。
私は殿を中断し、3人の元に駆け寄る。
「あなた達遅いわ!リュックはあなたが、刀は由紀が持ってなさい!」
リュックを下ろしちょっと怖い女子高生に押し付け、改造刀を由紀に渡し、お姉ちゃんを背負おうとする。
「・・・って重っ!!」
ショッピングモールで祠堂さんを背負った時は口には出さなかったが、今回は我慢できずに反射的に口から本音が出た。
「お、お姉ちゃ・・・んっ。ちょ・・・っとぉ、ダイエット・・・してっ・・・!」
ふらつきながらもお姉ちゃんに悪態をつきつつ生徒会室まで駆ける。背中から「そんなに太って・・・ないもんっ。」というお姉ちゃんの声が聞こえたが無視して歩を進める。両側から「めぐねえ太ったの?」とか「後にしましょう由紀ちゃん!」という会話を聞きながらようやく生徒会室にたどり着いた。
「皆大丈夫か!?防火扉からもう1つある端のバリケードまで【奴ら】はたぶんいないが、バリケードの向こうにはもう【奴ら】が昇ってきてたぞ!破られた方からも来てる!どうすんだ!?」
ソファにお姉ちゃんをうつ伏せに寝かせた直後、胡桃さんが戻ってきて状況を教えてくれた。おそらく職員室まできてるわね、1人じゃきつい・・・。
「胡桃さん・・・私に命を預けてくれる?」
私の言葉に胡桃さんは驚いて私を見つめたが
「わかった!あんたを信じるよ!」
「胡桃!?」
思った通り胡桃さんは承諾してくれた。この状況を最も理解しているのも彼女だろうと判断してのことだ。リュックと改造刀を2人から受け取ると次の指示を出す。
「私達が廊下に出たら扉を閉めて、鍵をかけなさい!お姉ちゃんの火傷は20分程流水で冷やしてから処置しなさい!お姉ちゃんの手当てが終わったら3人とも着替えて静かにしていること!由紀っ、出来るわね!?」
「う、うん!わかった!」
由紀の返事を聞き、私と胡桃さんは廊下に出た。
若狭悠里 SIDE
2人が出ていくと由紀ちゃんが扉を閉め鍵をかけた。扉の向こうからは指示を胡桃に出す樅路さんと返事をする胡桃の声、そして【奴ら】の声が聞こえる。
「りーさん、めぐねえの手当てをして・・・。私は着替えを用意するから・・・。」
「え、ええ。わかったわ由紀ちゃん・・・。」
扉の向こうに【奴ら】がおり、佐倉先生そっくりの樅路さんに指示されているからなのか由紀ちゃんの行動が早く、声もトーンを落として話しかけてきた。パンデミックが発生してから今日まで精神が不安定だったにもかかわらず指示されたことを迅速に取り組めているのは、やっぱり彼女と面識があるからなのかしら?。
そう考えつつ佐倉先生の背中の火傷の手当てを始める。
「佐倉先生。これから背中を流水で冷やします。痛むと思いますが堪えてください。」
「う・・・ええ、わかったわ。お願いね・・・。」
樅路さんの指示通り20分間流水で冷やし続け、右腕の噛まれた部分、後は頭からも少し血が出ていたため自分に出来る限りの手当てを行った。由紀ちゃんは着替えを持ってきた後も佐倉先生に水を飲ませたり、救急箱から包帯や消毒液や絆創膏等を取り出して私と一緒に手当てを手伝った。
廊下に大量の【奴ら】がいるうえに、大雨が降っている。時計を見ると既に午後5時30分を過ぎていた。暗くて治療を続けるのも大変で不安が尽きないけれど、1人ではないし佐倉先生も死んでいない。決して予断を許さない状況だけど、あの人のおかげで最悪の事態だけは回避出来たような気がするわ・・・。
「・・・ありがとう悠里さん。少し楽になったわ・・・。」
「無理しないでください先生。由紀ちゃん、先生の着替えをやりましょう・・・」
「うん、わかった・・・。」
佐倉先生はほとんど動けないため、2人で着替えを手伝った。
佐倉先生が防火扉で脱がされた洋服は持ってきていたが、今履いているスカートも含め血糊がべっとりついている。私が服を脱がしている間に由紀ちゃんには洗面台でタオルを濡らしてもらい、佐倉先生の体を拭く。
(そういえば胡桃と樅路さんはどうなったのかしら?治療に集中はしていたけど、悲鳴とかは聞こえなかったわよね?。だとしたら別の教室に立てこもっているのかしら?この学校の教室のほとんどは内側から鍵をかけられるからたぶん2人とも無事だと思うけど・・・。それにしても、あの人・・・。)
替えのジャージに着替えが終わるとようやくひと息つくことが出来た。
「本当に・・・本当にありがとうね・・・悠里さん、由紀ちゃん・・・。」
「今はゆっくり休んでください・・・。胡桃と佐倉先生の妹さん・・・樅路さんでしたっけ?2人が頑張ってくれてます。今は樅路さんを信じましょう・・・。」
「そのことなんだけど、悠里さん・・・。」
「わかってます佐倉先生。先生に打った注射もそうですが、あの人は何かがおかしいです。生徒会室とは1度も言っていないのに何故真っ先にここを指定したのかもわかりません。まるで最初からここで生活しているのを知っているみたいでした。あんな刀を持っていたことも気になるし、バリケードから防火扉までの【奴ら】が進む時間まで言えるなんておかしいです!」
「りーさん、しーだよっ・・・」
「ご、ごめんなさい由紀ちゃん・・・。」
樅路さんへの疑念を1つ口にすると次々と気になることが浮かび、最後には声を荒げてしまった。
「ヴァアアアァァ・・・」
バンバン!っと扉を叩く【奴ら】に気づき、慌てて口を押さえる。3分程黙っていると扉の向こうの【奴ら】は叩くのを止めて、また廊下を徘徊しだしたみたい。佐倉先生を見るとうつ伏せのまま目を閉じていた。
「おやすみなさい佐倉先生。もう2度と無茶なことはしないでくださいね・・・。」
由紀ちゃんも黙って頷いていた。もう2度と自分を蔑ろにするようなことはしないでほしい。
「悠里さん・・・由紀ちゃん・・・。最後に1つだけ、怖がらせたくはないのだけど・・・言わせて欲しいの・・・。」
「なんですか?」
「めぐねえ?」
以下注視した点
1.傷口を焼く(焼灼止血法)・・・出血面を焼くことで止血する方法。医学・医療の進歩に伴い人間に対してはされなくなった治療法だが近代以前に有効な止血方法として世界中で用いられていた。しかし今回の場合、めぐねえの背中の傷口はそこまで大きくなく、出血も焼灼止血法を用いてまでするほど酷いものではなかった。止血に成功してはいても、胡桃が「逆に悪化してないか!?」と、言うくらいである。しかし樅路がそんなことをしたのにもちゃんと理由があったりする。
2.【奴ら】を切った刀で処置をしようとする樅路・・・
胡桃「そんな装備で大丈夫か?」
樅路「大丈夫だ。問題ない。」
悠里「大丈夫じゃない。問題だ。」
めぐねえ「1番いいのを頼む。」
由紀「皆何言ってるの?」
3.治療のためにめぐねえの洋服を脱がしていく樅路・・・第4話で卑猥な発言をしている彼女ですが、実は樅路恵というこのオリキャラにはモチーフとなっているアニメキャラクターがいます。さて誰でしょうか?
4.樅路視点「丈槍由紀と
ちなみに作者は、丈槍由紀というキャラクターは好きです。
4.【奴ら】の到達時間を言う樅路・・・第4話までに度々樅路は
5.注射器・・・樅路がめぐねえに使用した感染を防ぐという注射器。この辺りから悠里は樅路に不信感を抱くようになる。
6.由紀視点「めぐねえ太ったの?」・・・樅路はめぐねえに「ダイエットして」とか言ってますが、彼女も3人がめぐねえと見間違うほどそっくりな容姿。第1話でも本人が少し触れていますが彼女も・・・。「
7.火傷の処置方法・・・「焼灼止血法というインパクトのある方法で樅路が止血する」という展開にしていこうと考えていましたが、この医療行為がどれだけ危険なものなのかを調べて、その後の対処方法をさらに調べました。
しかし悠里達が行った治療方法は
8.流水・・・生徒会室には確かに水場はあるが、人の背中をうまく流せ続けられるようには設計されていません。もうここは本作設定で出来たということに・・・。すみません><
9.悠里の心理状況・・・「妹」というワードが出る度に、顔をしかめる悠里。生徒会室での治療中の心理等を描写してみましたがいかがでしょうか?おかしなところが無ければよいのですが。
10.「
「大丈夫よお姉ちゃん!私は医者だから!」
「医者!?いや、そういうことを聞きたいんじゃなくてそもそもあなたは
第5話はいろいろと話が急展開をしていますが、いかがでしょうか?
物語を進める度に矛盾点がないか、おかしなところがないか等不安になります。そこまで神経質にならなくてもいいのかもしれませんが、読んでくださっている方々が少しでも楽しんでくだされば幸いです。
細かい矛盾点等は本作設定ということでご了承ください。
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数秒間の
樅路「私が言いたいことはわかってますね?」
麒麟「すみませんでした・・・。まさかあんなミスをするとは・・・。」
由紀「巡ヶ丘高校の組は1・2・3組じゃなくてA・B・C組だよ~。」
麒麟「なんで『3年2組』ってしちゃったかなぁ。3年B組に訂正しました。」
樅路「もう1つ。私が持ってきてるのってリュックよね?第3話で詰め込んでるのショルダーバッグになってるんだけど。」
胡桃「ぐだぐだだな。」
圭「そこまで物語に影響がないのは救いですけど。」
悠里「不定期更新で設定忘れてたって言い訳はなしですよ。」
麒麟「第3話のショルダーバッグをリュックに直しました。(小説投稿ってこんなにも難しいとは・・・)」
注意書き・・・設定をアニメ準拠としておりますが、3階の教室の場所について本作と矛盾があるかもしれませんありました。後書きに本作の教室場所の設定を載せておきます。
時間を巻き戻すこと20分 胡桃と樅路が生徒会室を出た直後
樅路恵 SIDE
「っ!?もうここまで!?」
生徒会室を出た私と胡桃さんが見たのは、生徒会室の手前にある物理実験室まで押し寄せてきていた【奴ら】の集団だった。
もう教室1個分の距離もない状況に胡桃さんも「どうするんですか!?」と聞いてくる。
私は履いているスカートをめくって両足に括り付けていた
「ちょっ!?って何ですかそれ!?」
「百聞は一見に如かず!見てなさい!」
引き金を引くと勢いよく水流が発射され最前列の1体の顔面に当たり、
「・・・は?」
「胡桃さんはこっちので後ろの張り付いてる【奴ら】を
「わ、わかりました!」
もう1丁の改造水鉄砲を手にバリケードに駆け出す胡桃さんを気に掛けることなく、次々と押し寄せる【奴ら】をピンポイントで顔面に当てて倒していく。
(このまま行けば奥の物理実験室の出入り口まで行けそうね!)
目の前に私がいるし、そもそも生前に物理実験室に用のある生徒が少なかったためか、誰も物理実験室に入って行こうとしない。バリケードをなんとかしたら物理実験室に胡桃さんと籠城するつもりのため大いに助かる。
ふと、隣の職員室の半ばまで来ている1人の【奴ら】に目が行く。【奴ら】の歩幅は全てほぼ同じのはずなのに、その生徒だけが他より遅く、両隣りを歩く【奴ら】に抜かれた。
(こんな時に
私の思考は
恵飛須沢胡桃 SIDE
持っていたガムテープと相棒のシャベルを置き、渡された水鉄砲を持って、私はバリケードまで走った。
(さっきの水鉄砲、そんなに遊んだことない私でもわかる!
バリケードにたどり着くと、5~6人の【奴ら】がバリケードを突破しようと張り付いていた。言われた通りバリケードから少し距離をとり、引き金を引いた。すると水流ではなく
「ヴァアアアァァ・・・!?」
「ヴォォオオォォ・・・!?」
「なっ!?」
するとバリケードに張り付いていた【奴ら】が倒れて苦しみだした。教室の机を組み立てて作ったバリケードだから所々に穴があって、奥の【奴ら】にも当たったんだろうけど・・・。
(この銃、間違いなく
「ガァアアアァ・・・」
「下から!?」
バリケードの下から【奴ら】の1体が這ってこようとしていた。私はバリケードの下に向かって引き金を引くと、霧状になった中身がバリケードの下に重点的にかかり、
「アアァァァ・・・」
這っていた【奴ら】はまともにかかったためか動かなくなった。
(考えるのは後だ!バリケードの真ん中から下を重点的にかけよう!)
バリケードに何度もかけると、【奴ら】はバリケード前で倒れるか、バリケードから離れていった。
(よし、もういいだろ!後は樅路さん、っ!?)
振り返った途端、突然廊下中を一瞬光が覆った。
1秒後、窓の外からゴロゴロと音が聞こえた。
(なんだ、「雷」か)
カシャン、ガチャン!!
「っ!?樅路さん!!?」
音が鳴った途端、樅路さんが水鉄砲と刀を落とした!しかも何故か【奴ら】が迫っているのに棒立ちしていた。
私は樅路さんに向かって駆け出した!
樅路恵 SIDE
廊下中を覆う一瞬の光の理由を思考する前に、光に照らされた【奴ら】を直視してしまう。そこにあるのは【奴ら】ではなく、巡ヶ丘高校に通っていた何の罪もない生徒達。私が守りたかった、もしかしたら
「あ・・・ああぁ・・・。」
(しかもさっきの子は丈槍由紀の友達の南照子「樅路さん!!」っ!?)
私を呼ぶ声に我に返るが後ろを振り向く暇も無い。【奴ら】が目の前まで迫っていたからだ!
私は改造刀で【奴ら】を薙ぎ払おうとし・・・左手に何も持っていないことに気づいた。
「ヴァアアァァ!」
「ひっ!」
咄嗟に斜め後ろに跳んで避けることが出来たが、リュックを背負っていたためすぐには立てない!
足で床に落ちている改造刀を手元に引き寄せ、掴んで【奴ら】に振る。しかしお尻を廊下につけた状態では薙ぎ払えず、【奴ら】に噛まれないようにこらえるのが精一杯だ!
「アアアァァ・・・!」
「オォォオオォ・・・!」
他の【奴ら】も私に集まってきたため、噛まれるリスクを冒して立ち上がろうとした時。
「樅路さんから離れろぉ!」
「ガッ・・・!」
改造刀で抑えていた【奴ら】が突然吹っ飛んだ!横にはシャベルを手に構える胡桃さん。
「下がりましょう!」
「はい!」
素早く立ち上がり後ろに回避する。噛みつこうとしていたためか、最前列にいた2人の【奴ら】が私がいた場所にうつ伏せに倒れる。
「胡桃さん!物理実験室に入って奥の出入り口を閉め鍵をかけて!【奴ら】は私が引き付ける!」
「わかった!」
手前の物理実験室の入り口から中に入って行く胡桃さん。奥の出入り口から【奴ら】が入って行かないように、私も「あなた達、こっちよ!!」と大声で【奴ら】に声をかける。
ガラガラバタン!ガチャッ!
奥の出入り口の扉が閉まり、鍵がかかる音がした。【奴ら】の相手を切り上げて、私も手前の出入り口から物理実験室に入って鍵をかける。
「はぁ、なんとか「まだよ!室内に【奴ら】がいないか確認!」っ!はい!」
これからしばらく籠城することになるのだから、例え動かない【奴ら】がいたとしても油断出来ない。1人でもいたら窓から捨てるつもりだった。しかし室内は荒れてはいるものの、私と胡桃さんの2人だけだった。
「どうやらいないようだな。」
「そうね、これで少しはゆっくり「アァァアア・・・!!」っ!?」
2人同時に声のする方を見る。どうやら物理実験室の
「だ、大丈夫なのかこれ・・・。」
「大丈夫よ!物理実験室と生徒会室は去年の今頃に改修工事を行ってて、強度が他の教室よりも強くなってるわ!」
「そういえば去年の今頃改修工事してたな!。なら大丈
「ガアァァァ!」バンバンバン!
「アアァァァ!」ダンダンダン!
「オオォォォ!」ガンガンガン!
「「・・・・・・・・。」」
「だ、大丈夫なはずよ・・・。」
「突っ込みたいけど樅路さんに文句言ってもしょうがないしな。」
「ふふっそうね・・・。少し休みましょう。」
改造刀を床に置き、私も床に座る。物理実験室の椅子は背もたれがなく、寄りかかれない。1度腰を下ろすと、どっと疲れが込み上げてきた。胡桃さんもシャベルと私が貸した改造水鉄砲を床に置き、私の隣に座った。物理実験室の廊下側は2ヶ所以外に窓もないため、窓を割って侵入されることはない。改造水鉄砲の1つを落とし、廊下も占拠されてしまったが、お姉ちゃんを含め校内に残っていた人達をとりあえず救うことが出来た。
「胡桃さん、本当にありがとうね。さっきは助かったわ!助けがなかったら今頃死んでいたかも・・・。」
「私も樅路さんを助けられてよかったです。」
「ふふっ。敬語を使わなくてもいいわよ。私はお姉ちゃんの妹だけど、教師じゃないからね・・・。」
「そ、そうか。わかったよ。ええと・・・。」
「樅路恵よ。樅路でいいわ。お姉ちゃんと名字が違うのは、その・・・家庭内の事情でね。皆が揃った時にまとめて話すわね。」
「わ、わかりました。樅路さん・・・。」
「気にしないで。」
実際に私とお姉ちゃんの関係はすごく複雑だ。双子の妹がいることすら知らないと考えていたけど、あの様子だと知ってはいたかもしれない。でも・・・
(あんなことをした後だし、良い印象は持たれてないだろうなぁ・・・。)
傷口を焼いたのは流石にやり過ぎたかもしれない。もちろん焼灼止血法を使った理由はあるけど、お姉ちゃんにはわかって欲しい。
「あの、樅路さん。」
「どうしたの?」
「これからどうする?一応籠城は出来そうだけど・・・。」
目を見開く。この娘はまだ手伝おうとしていた。確かにありがたいし、彼女の行動力には私も実際に救われた。しかし胡桃さんからは、私への信頼よりも『私がやらなければならない』という固定概念に近いものを感じ取った。
(お姉ちゃんと丈槍由紀が前線で【奴ら】と戦えるはずがない。
この10日間、最前線で戦い続けていたのはこの子なのだろう。しかし率先してつい先日までクラスメイトだった【奴ら】と戦おうとする女子高生なんているはずもない。あるとすれば【奴ら】になってしまった生徒との間に怨みでもあったか、それとも第3者か。
(いや、それでも【奴ら】と戦い続ける理由には浅い。とすれば、考えられるのは・・・。)
「樅路さん?」
私が指示をせずに俯いていることを疑問に思ったのか、胡桃さんが声をかけてきた。
「胡桃さん。今から全く関係ない質問をするわ。答えたくなかったら答えなくて構わないわ。」
「・・・?。なんですか?」
「パンデミックが発生した10日前、最初に【奴ら】をやむを得ず手にかけたのはあなたね?」
「!!?。なっ、なんでそれを!?」
やっぱり・・・。胡桃さんとはメンタルケアも兼ねていろいろと話したいこともあるが、それよりも重要なことがある。私は佐倉慈の妹なだけで、教師でもなければ
「わかったわ。悪いことを聞いちゃってごめんなさいね胡桃さん。」
「いえ、でもどうしてわかったんですか?」
「質問に質問で返すことは悪いとは思っているのだけど、もう1つだけあなたに聞きたいことがあるの。今から聞く質問には正直に答えて欲しいわ。」
「・・・今度は何ですか?」
以下、補足
1.教室の位置・・・ついにアニメと本作に矛盾が発生してしまいました。その第1号が教室の位置です。私が調べた限りでは、中央階段から向かって右側から3-C.3-B.3-A.資料室(寝室)のはずなのですが、本作は第5話で3年B組を経由してしまっています。生徒会室と職員室側(中央階段から向かって左側)にはB組がないため矛盾が発生してしまっています。訂正することも出来ましたが、①発覚したのが投稿から既に結構時間がたった後だった。②自分への戒めのため。訂正はしないことにしました。今後このようなことが起こらないように気をつけようと思います。しかし教室の位置について公式設定のようなものはないため、細かいことには目をつむっていただけると幸いです。
2.改造水鉄砲・・・微チート武器その2とその3。片方は通常の水鉄砲と同じように水が出ますが、射出速度は通常の物とは比較にならない程速く、中身もただの水ではありません。もう片方は霧吹きのように広範囲にまかれますが、こちらもただの水ではありません。この2丁の改造水鉄砲も一見チートアイテムに見えますが、もちろんデメリットもあります。この改造水鉄砲の危険性をちゃんと把握していない胡桃の行動次第では、2人もただでは済まなかったりする。ちなみに水鉄砲の改造方法やその威力についても調べてみましたが、思ったことが1つ。「改造水鉄砲は大変危険です。間違っても人に向けて撃つのはやめましょう。」
3.南 照子・・・アニメに登場している由紀のクラスメイトで友達。水色のカチューシャをつけた茶髪の女の子。何故樅路が知っているのかは次回以降で。【奴ら】化した彼女、実は
4.新型ワクチン・・・こんなものを持っている時点でただの一般人ではないことは一目瞭然だが・・・。
5.緊急避難マニュアル・・・正式名称は職員用緊急避難マニュアル。職員でもないのにその存在まで知っている樅路。いつまでもその存在も自分の素性も隠し通せないとは彼女も理解しているようだ。
アニメ準拠としておりましたが、矛盾が発生してしまい申し訳ありません。南 照子については前から丈槍由紀の友達が出てくる2次小説も面白いと思っていたため登場させました(【奴ら】化してますが)。チート武器が2つも登場しておりますが、片方は廊下に置きっぱなし、もう片方も残量が減っているためあまり使えません。というか使わせません。学校という施設にある限りあるもので何処まで出来るのか、という所に視点を置きたいと考えております。
細かい矛盾点等は本作設定ということでご了承ください。
今回の反省を踏まえて誤字脱字や明らかな矛盾点等があれば、感想にてご指摘いただけると幸いです。
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うんまい棒と「ありがとう」
ありがとうございます!嬉しい気持ちでいっぱいです!
頑張って続きを投稿していきたいと思います!
恵飛須沢胡桃 SIDE
突然現れためぐねえそっくりの双子の妹、樅路さんと一緒に私は物理実験室に籠城していた。いろいろ聞きたいことがあったけど、僅かな会話からパンデミックが起きた日に、私が手を汚したことを見抜かれたのには驚いた。さらに樅路さんは「緊急避難マニュアルという物を知っているか」と尋ねてきた。
「緊急避難マニュアル?いや、あたしは聞いたことないぞ。」
「・・・やっぱりお姉ちゃん、誰にも言わなかったんだ。」
頭を抱える樅路さん。緊急避難マニュアルってなんだ?そんなに大切なマニュアルならなんでめぐねえは言わなかったんだ?いや、それも気になるけど・・・
「樅路さん、めぐねえの感染ってどうなったんだ?さっき感染を防ぐって言ってたけど。」
「え、ええ・・・。感染して【奴ら】になることはないわ。さっきワクチンを打ったから。」
「ワクチン?」
「そうよ。私はこれでも化学者なの。【奴ら】から採取した血液から感染を防ぐ抗体を作ったの。」
「本当なのかそれ!?めちゃくちゃ凄いじゃんか!」
「く、胡桃さんっ。あんまり大声出すと
「ヴァアアァァ!」ダンダン!
「アアァァァァ!」バンバン!
「オオォォゥゥ!」ガンガン!
「・・・す、すみません。」
「大丈夫だと思うけど、大声は出さないようにね。」
「う、うん・・・。」
「あのワクチンはそう何度も作れるものじゃないわ。臨床試験回数もそこまで多くないし、同じ人に2度使えないデメリットもあるの。次また噛まれたら私でも対処できないわ・・・。」
「そうなんだ。でもめぐねえが死なないだけでも助かったよ。本当にありがとう樅路さん。」
樅路さんがいなかったらあのままめぐねえは最悪【奴ら】になってただろうし、運よく助けられたとしてもやっぱり感染はどうすることもできなかっただろう。
しかし何故か樅路さんは何も言わず、悲しそうな顔をしていた。
「?どうしたんですか樅路さん。」
「・・・お姉ちゃん。いや佐倉慈先生のこと、皆好きなのね。」
「ああ、ちょっと影が薄いとこがあるけど頼りになる優しい先生なんだ。」
「羨ましいなぁお姉ちゃん。私は教師に成れなかったから・・・。」
「え?」
(教師に成れなかった?)
「そうそう、これからどうするかだったわよね胡桃さん。」
「え?ああ、そういえばそうだったな。」
露骨に話題を変えられたけど、あまりいい話じゃないと考えて話題を元に戻した。
「もう戦わなくていいわ。」
樅路恵 SIDE
あまり触れられたくない話題から強引に元に戻した私は、「もう戦わなくていい。」と告げた。
「もう戦わなくていいってどういうことだよ?このまま朝まで籠城するのか?」
「いいえ。胡桃さんには手伝ってもらいたいことはあるけど、私がいる内はこれ以上戦わせたりはしないわ。」
胡桃さんを見ていると、どうにも危なっかしく感じてしまう。【奴ら】と最も対峙している彼女には優先的にメンタルケアが必要かもしれないわね。
「これから作戦を考えるのだけど、その前に無線機で祠堂さんと連絡を取りましょう。」
「祠堂さんって誰だ?」
「あなた達の後輩の女の子よ。リバーシティ・トロンで助けてここまで一緒に来たの。今はキャンピングカーの中にいるわ。」
「リバーシティ・トロン・・・。」
この反応はもしかして・・・いや、今はこれ以上余計な詮索はやめておきましょう。
「とにかく祠堂さんと連絡を取りましょう。・・・祠堂さん、聞こえるかしら?」
「・・・・・・・・。」
「返事が返ってこないぞ。っていうか無線に出てこないな。」
「慌ててて説明は出来なかったけど、スイッチ1つ押すだけで出れるわよこれ。」
「もしかしてそいつに何かあったんじゃ?」
「そ、そんなっ?祠堂さん、聞こえる?祠堂さんっ」
私は祠堂さんの身を案じつつ、彼女が返事をするのを待った。
祠堂圭 SIDE
拝啓 美紀 太郎丸
リバーシティ・トロンで別れてまだ3時間半程ですが、お元気でしょうか?私は今、巡ヶ丘高校の駐車場に止まっている大破したキャンピングカーの中で3本目のうんまい棒を食べています。1本目の(辛子明太子味)も美味しかったけど、2本目の(サイコロステーキ味)は本物のステーキを食べているかのような気持ちになりました。今食べている(コーンポタージュ味)はほんのり温かいコーンスープを味わっているような気分です。えっ、羨ましいって?私は樅路さんという女性に助けられてここまでこれたんだけど、キャンピングカーに揺られること3時間、何十人もの【奴ら】を撥ね、他の車やガードレールに何十回も
「美紀 太郎丸へ
私、生きてていいことあったよ。」
うんまい棒(コーンポタージュ味)を食べ終えると、
「このスイッチを押せばいいのかな?・・・もしもし?」
『祠堂さん!?よかった、繋がったわ。なかなか出なくて心配してたのよ。大丈夫?』
どうやら心配させてしまったらしい。うんまい棒を食べていたら夢中になってしまったみたい。ミネラルウォーターを一口飲むと気持ちを切りかえた。
「すみません、こっちは大丈夫です。そちらは大丈夫ですか?」
『大丈夫とは言えない状況ね・・・。お姉ちゃんはなんとか助けられたけど、バリケードを突破されて物理実験室に籠城中よ。』
「そ、そんな・・・。」
もうすぐ安全な場所で休めると思っていたのにこんなことになるなんて・・・。しかも物理実験室は3階。つまり校舎のほぼ全体が【奴ら】で溢れかえっていることになる。
ゴロゴロと音が聞こえる。雷まで鳴っているみたいだ。これじゃしばらく雨も止みそうにない。
『今後のことや現状について説明する前に・・・はい胡桃さん、自己紹介。』
『えっ、ここでか?』
(胡桃さん?生存者かな?)
『あ~聞こえるか?3年B組の恵飛須沢胡桃だ。祠堂だったか?よろしくな。』
「あ、はい。2年の祠堂圭です。よろしくお願いします。」
『自己紹介も終わったところで胡桃さんに聞きたいことがあるのだけど・・・。』
『なんだ?』
『よければ教えてくれないかしら?パンデミックが起きた時、学校で何が起きたのか。休憩と現状把握を兼ねてね。』
『・・・わかった。圭・・・もそれでいいか?』
「はい、私も知りたいです。」
樅路恵 SIDE
話を聞き終えた私は生々しい当時の出来事の話に絶句した。屋上に避難した先で思い人の先輩が【奴ら】に変わり、シャベルで倒したことも含めて・・・。誰かと付き合ったり好きになったりしたことがない私でも、彼女の気持ちは痛いほど伝わってくる。そこまで話す必要もなかったはずだが、彼女は吐き捨てるように最後まで話してくれた。
「ありがとう恵飛須沢さん。お姉ちゃんとみんなを守ってくれて・・・。」
「いきなりなんだよ、胡桃でいいぞ。皆もそう呼んでるし。」
「私にはあなた達を名前で呼ぶ資格がないから・・・。」
『「資格?」』
「本当はね、数日前に巡ヶ丘高校につくことが出来ていたはずなのよ。」
「え?」
恵飛須沢さんが驚いて聞き返してくる。本当に情けない理由で私は足踏みをしていたのだから。
「数日前には既に巡ヶ丘市にキャンピングカーでこれていたのよ。でも途中でお姉ちゃんが【奴ら】になっていたらって考えたら怖くなっちゃったの。その背中を押してくれたのが祠堂さんだったのよ。」
『私がですか?』
「いかにも今高校に向かっている最中みたいなこと言ったけど、ここに向かう決心がついたのはあなたとリバーシティ・トロンで出会えたからなの。祠堂さんは友達と喧嘩別れのような形で出てきたって言ってたけど、あなたのその行動のおかげでお姉ちゃんを助けることが出来たのよ。後少し遅かったらお姉ちゃんだけでなく最悪全滅していたかもしれない。」
事実、まだ助かってはいない。だが確かに祠堂さんの行動はお姉ちゃん達を助けた。
「恵飛須沢さんも先輩だけでなく、3階を制圧するのに何人か【奴ら】を倒したのでしょう?さっきも助けてくれなかったら死んでいたわ。あなたのおかげでお姉ちゃん達は助かったの。2人のおかげでお姉ちゃん達だけでなく私もこうして生きているの。本当にありがとう!。」
無線機越しに祠堂さんに、そして恵飛須沢さんにお礼を言って頭を下げる。お姉ちゃんが死んだら何のために全てを投げうったかわからなくなり、その後どうしたのか・・・。考えたくもない。
「だからあなた達はもう何もしなくていいわ。今度は私があなた達を助ける番よ。」
『何もしなくていいって、1人でどうするつもりなんですか?』
「やっぱり朝まで待つべきだ。物理実験室から出られないんだ。廊下の【奴ら】が減るまでじっとしているべきだろ?」
「そうしたいのは山々なんだけどね。いくつか理由があるのよ、それは・・・。」
理由を述べようとして私は言い淀む。確かにここで説明すれば2人とも納得してくれるかもしれない。廊下にいる
(そして、何よりも・・・。)
『樅路さん?』
「理由は・・・あなた達を助けたいからよ!」
大きな声を出してしまったからか、廊下を徘徊する【奴ら】がバンバンと扉を叩く。しかし恵飛須沢さんは何も言わず、黙って私を見据えていた。
『私達を助けたいから、ですか。』
「これは私の嘘偽りのない本心よ。それに出来ないことを気合や根性でどうにかしよう、なんて考えてはいないわ。出来るから助けたい。頼られているから応えたい。それが樅路恵なのよ。」
『私は樅路さんを信じていますよ。命を助けられたからだけじゃなくて、樅路さん自身を。車の運転技術は除きますけど・・・。』
「あ、あはは・・・。」
(落ち着いたら、運転の練習をするのもいいかもしれないわね。)
運転の出来るお姉ちゃんがいるのだから練習する必要はないのかもしれない。それでも今後のことを考えて弱音を吐く訳にはいかないと気持ちを高ぶらせ・・・、教習所を3日で追い出されたことを思い出して涙目になった。
「ぐすっ。と、とにかくもう少し待っててね。納得のいく作戦が練れたらまた連絡するわ。」
『?。わかりました、樅路さんもあまり無理をしないでくださいね。』
通信を切る。大まかな作戦は既に立ててあるため、最善の作戦を練ろうとして・・・恵飛須沢さんがじっと私を見ていることに気がついた。
「恵飛須沢さん、どうしたの?」
「え?ええと・・・。樅路さん、さっき防火扉の前で卑猥な言葉を言ったり、めぐねえの傷を焼いて処置したりしてたよな。あと皆に怒鳴ったりもしてたっけ?」
「はうっ・・・。ご、ごめんなさい。」
「いや、責めてるわけじゃないんだけどさ(いや多少は責めてるけど)。それでもやっぱりめぐねえの妹なんだなって思ったんだよ。あの状況からめぐねえを助けられたんだ。それだけじゃない、誰かのために一生懸命になってくれる所もめぐねえとそっくりだからさ。こうして樅路さんと一緒にいるとなんか安心するんだ。」
(お姉ちゃんと似ている・・・か。嬉しいはずなのに素直に喜べないのはなんでかしらね。)
いや、わかってはいるのだ。ただその答えから目を背けたいだけで・・・。それでも今だけは頼りになる佐倉先生の妹でありたい。
「ありがとね恵飛須沢さん。でもそれはこの状況をなんとかしてからにしましょう。最悪の事態は回避出来たけど、まだ誰も助かってはいないのだしね。」
「そうだな。でもどうやってここから出るつもりなんだ?」
「大まかな作戦はもう考えてあるから、手を動かしながら考えるわ。まずはカーテンを全部取り外しましょう。」
「カーテンを?そんなことしてどうするんだ?」
「ガムテープで縛ってロープにするのよ。そして窓から2階の図書室に降りるわ。」
恵飛須沢さんの「おまえは何を言っているんだ」と言いたげな顔は見なかったことにした。
以下、補足・・・と、おまけ
1.樅路恵の本業(化学者)・・・はい、本業は化学者です。そして成りたかったのが教師です。お察しの通りただの化学者じゃないのは一目瞭然?ですが、胡桃はワクチンの作成がすごいと考え、悠里のように不信感はまだ感じていません。
2.うんまい棒と圭・・・地獄の3時間を耐え、ようやく生を実感した圭。うんまい棒を3話にわたって食べてしまうのも仕方ないことと言える。
3.大破したキャンピングカー・・・扉の開け閉めは出来るが、もう動かすことは出来ないであろう多機能車。だが樅路は『まだいける!』と思っている。
4.何十回も
5.圭「私、生きてていいことあったよ。」・・・アニメ最終話で美紀が黒板に書いた圭へのメッセージ。本作では何かを悟った圭が美紀と太郎丸に向けて思いを巡らせている。
6.樅路「あなた達を助けたい。」・・・時折はぐらかしたり嘘をついたりすることがある彼女。しかしこれだけは唯一無二・絶対の彼女の行動原理。そのためならば必ず最善の行動を躊躇なく行う。それが樅路恵である。
7.教習所を3日で追い出された樅路・・・何があったのかはお察しください。
8.図書室の場所・・・位置的に考えると、図書室は左翼階段と中央階段の間の2階にあると考えております。
9.「おまえは何を言っているんだ」・・・とある総合格闘家が発言した言葉である。
10.由紀・悠里・めぐねえ「「「私達の出番は!?」」」・・・8話に登場予定です。初の丈槍由紀SIDEを考えております。
由紀「わーい!私視点だ~♪」(≧▽≦)
めぐねえ「私・・・出番・・・。」(´・ω・`)
悠里「先生・・・。」(=_=)
11.蓮見 巴旗・柚村 貴依「「私達の出番は!?」」・・・
貴依「照子が出たんだ!私達にも出番あるはずだろ!?」
巴旗「そうよ!照子だけなんてずるい!」
麒麟「ちゃんと出番はありますよ。」
貴依・巴旗「「よっしゃあ!」」
照子「どうせゾンビ役よ。」
貴依・巴旗「「ヴァァァァ!」」
というわけで、第7話でした。全然進まないので、次回はちょっと端折ります。あまりぐだぐだ物語を進めても面白みにかけますし。
細かい矛盾点等は本作設定ということでご了承ください。
誤字脱字や明らかな矛盾点等があれば、感想にてご指摘いただけると幸いです。
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狂気の片鱗と「妹なんていない」
佐倉慈の双子の妹【樅路恵】はショッピングモールで祠堂圭を助けて巡ヶ丘高校までやってきた。
足を怪我している圭を車に残し、1人【奴ら】が雪崩れ込む巡ヶ丘高校に突入し、なんとか慈と生き残った生徒達を助けることに成功した。
しかし廊下は完全に【奴ら】に占拠され、樅路と恵飛須沢胡桃は物理実験室に閉じ込められてしまった。
圭と連絡を取った後、樅路は窓から2階に降りようとするのだった!
麒麟「今回はまともに前書き書いてみたけど、どうかな?」
一同「『どうかな』って言われても・・・。」
樅路恵 SIDE
「じゃあ、行ってくるわね。」
「本当に窓から2階に降りるんだな。っていうかいろいろ省かれたような気がするんだけど。」
「カーテンを2人で全部取ってガムテープで1本に繋げて固定しカーテンロープを作ってもう1度祠堂さんに無線機で連絡。この状況を打開するための作戦を2人に説明して「「絶対無理」」と言われた後1つ1つ説明して納得させたわね。カーテンロープを窓枠に括り付けてガムテープでさらに固定している間に、リュックに入れておいた人力充電器で改造刀の電力をチャージ。カーテンロープを降りることを考慮し、リュックは置いていく代わりに背中に改造刀を背負えるようにこれもガムテープで固定して服に張り付けた。・・・特に省いた所なんてなかったわよね?」
「そうだな。やっぱめぐねえと樅路さんは違うってことは理解したよ。」
どこか呆れた様子で納得している恵飛須沢さん。あのやり取りで意見が180度変わったのは何故なのかしら?そう思いながらカーテンロープに手をかけようとして・・・恵飛須沢さんに左腕を掴まれた。雨でカーテンロープが濡れ始めているからあまり時間はかけたくないのだけど・・・。
「・・・作戦を説明した時に樅路さんが学校の関係者だってことは教えてもらった。今更だけど樅路さんがただの一般人じゃないってことも気づいてる。」
「・・・・・・。」
「話を聞いてた圭も、何も言わなかったけど気づいてるはずだ。けど、あたしが言いたいのはそういうことじゃないんだ。・・・こんな危険な作戦、あたしはしてほしくないっ。」
「えっ!?」
驚いたのは祠堂さんも気づいているだろうって言われたことではなく、「してほしくない」と言った後に恵飛須沢さんが抱きついてきたことにだ。
「もう嫌なんだっ!誰だろうと生きてる奴が死ぬのは!だからムグッ。」
「だめでしょう恵飛須沢さん。大きな声を出しちゃだめってさっきも注意したじゃない?」
「で、でもっ!」
「大丈夫。私は絶対に死なない。これだけは約束出来るわ。私は佐倉慈じゃないのだから。」
「え?」
私の自信と妙な答えにようやく恵飛須沢さんは落ち着いた。時間を取られるが仕方ない。
「私は誰かが死ぬことが周りの人間にどれだけ影響を及ぼすか知ってる。防火扉で身を挺してお姉ちゃんはあなた達を守ろうとしたのでしょうけどね。その後・・・食い荒らされためぐねえだったものか、【奴ら】に成り果てためぐねえが、あなた達にどのような影響を及ぼすのかを考えていないのよ。」
私があえて傷口を焼く手段をとったのもこの為だ。罪を理解し罰を受けてもらうことで、己の死が残された者達にどのような影響を及ぼすのかをお姉ちゃんには考えて欲しい。
「私は犠牲になってまであなた達を助けようなんて思っていないわ。私にはやらなければならないことがまだまだあるのだから。」
恵飛須沢さんの手をゆっくり外してカーテンロープを掴む。雨でもうかなり濡れているが、強度に問題はなさそうね。
「わかった。樅路さんを信じて待ってるからな!」
「ええ!」
カーテンロープを使ってなんとか2階の図書室まで降りることが出来た。幸い似たようなアスレチック攻略番組を見たことがあったため、落ち着いて降りれた。図書室にはほとんど【奴ら】がいなかったため、素早く廊下に出て扉を閉める。2階廊下もやはりほとんど【奴ら】はいなかった。
(やっぱり皆3階に移動しているわね。今のうちに残りを倒さないと・・・。)
背中に張り付けていたガムテープを取って改造刀を構える。この作戦は1階と2階の中央階段付近と昇降口の【奴ら】を倒さないと足を怪我している祠堂さんに負担がかかる。そのため出来るだけ音を立てずに素早く倒していく。中央階段右手にある「2年C組」に入る。
「ヴォォオオゥゥ・・・」
(1人だけ・・・。計算通りほとんど3階のようね。けど油断はしない!)
躊躇せず首をはねる。女子生徒だった【奴ら】の首から下はばたりと倒れ、転がっていた首も動かなくなった。一息つきたい所だけど、時間との勝負のためすぐに行動を再開。教室の出入り口の片方だけ鍵をかけて、もう片方から出て扉を閉める。
(よし、これで一応「2年C組」は安全・・・。次は1階!)
中央階段には幸運にも【奴ら】はいなかった。階段で倒すと死体が階段を転がり落ちて音が出るため非常に助かった。階段を降りて昇降口まで来るが・・・
(さすがにここにはいるか・・・。数は6人かな?早速使いましょうか。)
恵飛須沢さんに貸していた改造水鉄砲。スカートをめくってまた改造水鉄砲を手に取る。広範囲に音を立てずに攻撃できる切り札を早速使い、【奴ら】がもがき苦しんでいる間に1体ずつ倒していく。6体目を倒すと無意識にため息が出た。
(残り1発だったのだけど出し惜しみしてる場合じゃなかったし、仕方がないわよね・・・ん?)
ふと下駄箱にうつ伏せで倒れている女子生徒の死体が気になった。近づいても起き上がってこないため【奴ら】にはなっていないようだが、死体の損傷具合から【奴ら】になろうとしている時に死んだみたい・・・。
(いや、やっぱり何か変だわこの死体。でも暗くてよく見えないし、万が一にも起き上がってきたら・・・えっ?)
床に落ちている小さな金属と血まみれのアクセサリーを見つけた。特に前者は学校には落ちているはずのないものだった。周りを見渡し付近に【奴ら】がいないのを確認。改造刀を両手で持って死体を仰向けにする。ポケットに入れていたライターを出そうとして
ゴロゴロゴロ!!
雷が鳴った。
直前のフラッシュに今度はなんとか意識を保たせることが出来た。いや、彼女を見て絶句した。
丈槍由紀 SIDE
めぐねえの手当も終わって、私とりーさんは黙って椅子に座っていた。めぐねえはうつ伏せに寝ていて顔が見えないけど、ときどき背中の痛みからか声が聞こえてくる。
でもそんな小さな声も窓に打ちつける大雨と風の音や雷の音、それと廊下にいる
(めぐねえのそっくりさん今頃どうしてるのかなぁ?)
やっぱり気になったのは、めぐねえとまったく同じ顔をした女性のことだった。身長も着ている服も身に着けてる時計や首にかけているロザリオまで一緒だった。めぐねえの背中のけがのことはともかく、めぐねえを助けてくれた人だから悪い人じゃないことは確かだと思う。だけど・・・
めぐねえのあの一言がとても気になってる。そっくりさんは確かに「お姉ちゃん」と呼んでたし、めぐねえに対してとても親しそうだったのに・・・。
それともう1つ気になっていたのは、胡桃ちゃんやりーさんのことは知ってなさそうだったのに、私のことだけフルネームで呼んでたことだ。そっくりさんは私のことを知ってそうだったけど、私はめぐねえにしかあったことはないはずなのに・・・。
そこまで考えて、首をぶんぶんふった。悪いことを考えてると、どんどん自分が嫌いになっていく。別のことを考えよう・・・。
(そういえば
クラスメイトで友達の
「_________。」
(ん?)
さっきから雨音や廊下の悪い人の声にまじって、小さい声?が聞こえていたけど、それが少し大きくなった。
「いない・・・。いない・・・?「妹」なんて・・・?いも、うと・・・。」
「り、りーさん?」
目の前に座っているりーさんの様子が明らかにおかしかった。名前を呼んでも返事はなくて、ブツブツと独り言をつぶやいていた。
「あ、うあ・・・。「妹」なんていない・・・。りーさん・・・?『りーね、えっ』。」
「りーさんっ。どうし
ピカッ!ゴロゴロゴロ!!
突然雷が鳴った直前に部屋中光が覆い、りーさんの顔を見てしまう。
「ひっ!」
つい悲鳴を上げてしまい、足を机にぶつけてしまう。大きな音を出しちゃったけど、雷の音にかき消えたみたいで、廊下の悪い人が扉を叩いてくることはなかった。ぶつけたと言ってもそこまで痛くはないけど、ぶつけたところをスリスリとなでる。痛みが引いてきたら、窓にかかっているカーテンを音をたてないようにして閉めた。
こんなことがあったのにりーさんはいすに座ったまま独り言を続けていた。もう何を言ってるのかも聞こえないし、聞きたくなかったから部屋のすみっこに移動して床に座った。
(そっくりさん!胡桃ちゃん!)
生徒会室の外で戦っている2人を想うことで、私はおちつこうとした。
樅路恵 SIDE
昇降口から出ると大雨が全身に容赦なく降りかかってきた。幸い【奴ら】はあまりいないが、2~3人が私に気づき近づいてくる。相手をしたいけど、大雨と風の影響から万が一を考えて戦いを避けようと、校舎の左翼側にある駐車場に向かう。その途中、生徒ではない大人の死体4人が転がっていた。近くを通ると、腕や足・・・首が折れていることに気がついた。
(何で手足が・・・まさか上から落ちてきた教師達!?)
真上を、正確には3階の職員室を見る。4人の死体が落ちている場所の真上に職員室があるため、落ちた衝撃で折れたとしたら説明がつく。何があったのかはわからないが・・・
「グオォォォ・・・」
先程相手をしなかった【奴ら】が追いついてきた。暗くてよく見えないが、お姉ちゃんと仲が良かったという
今度こそ私は駐車場に駆け出した。
??? SIDE 昇降口
以下、補足・・・とおまけ
1.胡桃「いろいろと省かれた気がするんだけど」・・・これからの救出作戦を2人に話して、その通りにまた行動をするのってなんか違う気がする。全く話が進まないため強引に進めてみました。
2.改造刀の電力をチャージ・・・改造刀の切れ味は柄の部分に電力を貯める所があり、同じく柄にあるスイッチのオン・オフで切り替えることが可能・・・という設定。『チャージしなければならない』『いつ切れるかを計算しなければならない』等のデメリットがある。
3.人力充電器・・・人力充電ラジオみたいなハンドルを回して充電するタイプ。改造水鉄砲やこのような人力充電器を持っているのは、由紀やめぐねえのような非戦闘員にも出来る仕事を与えるため。
4.佐倉慈の罪と罰/傷を焼いて出血を止めた理由・・・樅路が焼灼止血法を行った理由その1。当然それだけが理由ではない。
5.似たようなアスレチック攻略番組・・・これにはあまり触れない方がいいかな?
6.背負っていた改造刀・・・リュックは物理実験室に置いてきています。リュックを背負った状態では改造刀を背負えないし、樅路の体重+リュックの中身の重みでカーテンロープが落ちる可能性があるためです。
7.2年C組にいた【奴ら】・・・特に他の【奴ら】と違いはないが・・・。
8.ポケットに入れていたライター・・・何かに使えないかとポケットに入れていたようだ。
9.丈槍由紀SIDEの漢字や文章の書き方・・・キャラクターによって言葉や考え方を選ばなければいけないのは結構難しいと私は思っています。特に丈槍由紀は難しいキャラクターで、不安定な精神状態でどのように言動をしていくのか捉えづらいです。今回彼女に白羽の矢が立ったのは、①丈槍由紀視点での文章を考えてみたかった。②丈槍由紀のクラスメイトの名前を由紀視点で出してみたかった。③というか、現状生徒会室籠城組の中で体力面・精神面で1番まともなのが彼女・・・という理由があったから。
10.
アニメでは3人をなんて呼んでいるのかはわからなかったため、本作の由紀はこのように呼んでいるという設定でお願いします。調べてみたのですが蓮見巴旗だけ公式での振り仮名がないんですよね。巴旗は「ともき」と読むと思うのですが・・・。
11.空気を読む雷・・・6話から雷が鳴り始めていますが、なんとも丁度いい?タイミングで鳴っておりますが偶然。そう偶然です。気にしない気にしない。
12.丈槍由紀の担任 神山先生の行方・・・アニメでは3話のパンデミック当日の回想話にて、最後にめぐねえ宛に電話をかけて屋上の鍵をかけるように伝えた後、消息不明となった。アニメでは最後に職員室にいた描写がありますが、本作では何処に・・・?
13.???SIDE・・・ここでは誰の視点でもありません。場つなぎ的な考えで入れてみたナレーションのようなものです。こういうのは必要なかったでしょうかね。決して文字数を稼ぎたかったとかじゃないですよ。
以下おまけ
14.蓮見巴旗が銃で撃たれて死んでいた。・・・
巴旗「何で銃で撃たれた死体役なのよ!?」Σ( ̄□ ̄|||)
貴依「どうしてこうなったw」\(^o^)/
照子「これはひどいw」\(^o^)/
15.丈槍由紀SIDE・・・の生徒会室・・・
丈槍由紀「めぐねえ助けて!りーさんが怖い!」(>_<)
悠里「るーちゃんるーちゃんるーちゃんるーちゃんるーちゃん・・・。」ブツブツブツブツ
めぐねえ「ミエナイキコエナイユキチャンゴメン」←(実はしっかり聞こえていたりする。):;(∩´﹏`∩);:
16.血まみれのチョーカー・・・
貴依「これ私のだよな!?もしかして私まだ生きてるとか!?」
照子「巴旗があれだったからね。」
巴旗「作者は上げて落とすタイプみたいだからな。」
照子・巴旗「「楽しみね貴依!」」(*‘∀‘)(*´ω`*)ニヤニヤ
貴依「・・・・・・。」(#^ω^)ピキピキ
第8話は省いた所が多いため補足説明がないとわかりづらかったり、無理矢理進めた感があります(特にカーテンロープの所)。ただここだけに時間をかけて表現すると、どうしてもグダグダな感じがしてしまい、やむなく詳細な描写は控えました。
細かい矛盾点等は本作設定ということでご了承ください。
誤字脱字や明らかな矛盾点等があれば、感想にてご指摘いただけると幸いです。
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巡ヶ丘高校に鳴り響く警報ベル
今年も『もう1人のめぐねえ』を宜しくお願い致します!
明日から学校やお仕事の方々!少しでもお力添えになれればと年末の第8話に続き、9話と10話を同時投稿です!月曜日からの通学・通勤前に、ちょっとでもお役に立てれば幸いです。
樅路恵 SIDE
豪雨の中校舎の脇にある駐車場にたどり着いた私は、すぐに違和感に気づいた。
「この匂い・・・ガソリン!?まさかキャンピングカーから漏れているの!?」
だとしたら火器の類は使えない。改造刀も発火の可能性があるためスイッチを押せない。それ以外にも問題はあるのだが、やはりここには【奴ら】が見当たらないのはラッキーだった。
(それにしても祠堂さんは連絡した時には何も言っていなかったわよね?割れた窓ガラスからガソリンの匂いくらい気づけるはずだけど・・・。)
キャンピングカーに近づきドアを3回ノック。するとすぐに祠堂さんがドアを開けてくれた。
「来たわよ!」
「無事だったんですね!よかったです!」
「大変よ!ガソリンが漏れてるわ!」
「ええ!?・・・っ!?ほんとだ!ガソリンの匂いがする!」
「何で気づか・・・な・・・?」
車内に入りドアを閉めて、用意してもらっていたバスタオルで洋服ごと水滴を拭いている最中に私はあることに気づく。
この香り
うんまい棒の
匂いだわ
さらに何の銘柄かを推理する樅路の1句
「・・・辛子明太子味とサイコロステーキ味とコーンポタージュ味のうんまい棒を食べてたわね祠堂さん。」
「な、何でわかったんですか!?ゴミ箱にビニール袋に包んで入れたのに・・・。」
「連絡した時にも言ったけど私は科学者よ。薬品の匂いを覚えてるようなものよ。ドヤァ」
「・・・いや、あんまり関係ないような気がしますけど。」
ドヤァと胸を張ったら祠堂さんに何故か呆れられた。私に対する祠堂さんの好感度が、数時間でここまで落ちるとは思わなかった。けど落ち込んでばかりもいられない。
「ガソリンの匂いに気がつかなかったのも、お菓子を食べてたのも、何も言うことはないわ。祠堂さんが無事でよかったわ!」
「え?は、はい。ありがとうございます!」
祠堂さんの無事に安堵していると、急に祠堂さんが少し照れて私から目を背けた。なんで?
「ええと、祠堂さんどうしたの?」
「樅路さんが心配してくれたことに関しては正直に嬉しいんです。ですけど、その・・・。」
「その・・・?」
「ふ、服が・・・。チラ」
「服?ああこれね・・・。」
外はもう薄暗く、校舎の中も電気がついていなかったため、私を含め皆気がつかなかったが、私の服は雨に濡れて下着が見えていた。
「だからどうしたの?」
「いやどうしたってその・・・。」
「今は非常時よ。どの道あなたもこれから校舎まで走る間に濡れるのだから覚悟しているものだと思っていたのだけど。」
この豪雨で【奴ら】が徘徊している中「傘でも差していこう」とでも思っていたのだろうか?だとしたら危機感が足りないと言わざるを得ない。ずっと比較的安全なキャンピングカーの中にいたからかもしれないが、今から数十分間はしっかりしてくれないと困る。
「祠堂さん、もう少しだけ頑張って。私も出来る限りあなたを守るわ。3階を【奴ら】が入ってこれない安全な
「っ!?はい!」
「持っていく物は用意してあるわね!ヨイショっと。」
荷物と言っても祠堂さんが持っていたバックだが、私の物も入っている。祠堂さんの足はだいぶ回復したようだが、あまり無理はさせられない。
「手をつないでいきましょ。少しは安心するでしょう?」
「樅路さん、ありがとう、ございます。」
「いえいえ♪じゃあ行きましょう!」
キャンピングカーのドアを開けると、2人とも強い雨風を受ける。【奴ら】の奇襲を受けるより遥かにましなため、何とも思わない。そもそも私は既にずぶ濡れだし。
ドアを閉めると私達は昇降口に向かって走り出した。
祠堂圭 SIDE
数時間前に樅路さんにシップを貼ってもらって安静にしていたおかげか、走っても思っていたよりは痛くない。それにさっき樅路さんに励ましてもらったことと、こうして手をつないでいることで安心して行動出来ている。今はそれだけで十分だった。
けど、昇降口前の校庭で私も樅路さんも足を止めてしまう。私達ににじり寄ってくるのは数人の【奴ら】と
「足利先生・・・。」
「長谷川教頭・・・。」
「「えっ。」」
雷で光った一瞬だったため確信はないけど、両足が折れていてほふく前進しているのがたぶん担任の足利先生だ・・・。首が折れたままよろよろと近づいてくるのがたぶん教頭先生・・・。
「・・・行きましょう祠堂さん。今は何も考えないように。」
「・・・はい。」
樅路さんも学校の関係者なだけあって教頭先生のことを知っていたみたいだけど、今は樅路さんの言う通り作戦通りに行動することだけを考えよう・・・。
校庭の広さと【奴ら】の遅さを考えれば大丈夫だった。落ち着いて教頭先生らを避けて昇降口に入ることが出来た。
「後少しで2年C組よ。頑張りましょう。」
「はい。」
昇降口に着くと6~7人程の【奴ら】が倒れていた。
「さっき倒したわ。でも何かに気づいたら手を握ってね。」
「わかりました。」
これも作戦だ。移動中にはあまり大きな声を出せない。だから手をつなぐことでいざという時に無言で相手に合図を出せる。
(っ!?前に1人いる!)
気がつけば既に手を握られ、樅路さんは【奴ら】と対峙していた。片手は私の手を握っているため、樅路さんは動きを制限される。しかし樅路さんはもう片方の手に握られた改造刀のリーチを活かして、あっという間に倒してしまった。
「また起き上がっ!?」
今度は私が手を握ったため、すぐに樅路さんは振り向く。倒したのとは別の【奴ら】が迫っていたが、すぐに改造刀で切り伏せた。
(ありがとう祠堂さん!)
(どういたしまして!)
声に出してもいないのに、そんなやり取りをしているような気がした。このまま気を抜かずに2階の中央階段すぐの所にある2年C組まで行こうと意気込んでいたけど、その後は幸運にも【奴ら】とは戦わず教室までたどり着けた。
2年C組のドアを開けて中に入りすぐに鍵をかける。内側からなら誰でも鍵をかけることが出来る巡ヶ丘高校の仕組みに今更ながら感謝していた。室内には首と胴体が離れている【奴ら】が1人倒れているだけみたいだ。
「じゃあ私は警報ベルを鳴らしに行くわね。教室を出たら鍵をかけてね。警報ベルを鳴らしたらすぐに戻ってくるわ。」
「はい、あと少しです。樅路さんも気をつけて・・・。」
樅路さんは笑顔で頷くと、教室を出て行った。すぐに鍵をかける。ここまで樅路さんの作戦通りに進んでいる。樅路さんにとっては2度目の校舎突撃なのによくこんなことが出来ると、驚くと同時に感謝していた。
けどまだ助かっていない。最後まで気を抜かないようにしなきゃと、自分をふるい立たせる。雨に濡れて体も冷えているし、今の内に出来ることをしようと思った。
(私の教室・・・2年C組がこんなことに・・・。)
暗くてよく見えないが、時折光る雷で普段縦と横に綺麗に整列されている机と椅子が倒れ散乱し、床や壁に血糊があちこちついている。次に倒れている【奴ら】をよく見ようとして
「っ!?彩香・・・ちゃん・・・。」
10日前、パンデミックが起きた日まで普通に喋っていたクラスメイトの友達。【奴ら】になってしまい、樅路さんに首をはねられたであろう彼女の亡骸が私の足元にあった。
ジリリリリリリリリリリリリ!!!
校舎全体に警報ベルが鳴り響いた。
15分前 樅路が物理実験室から図書室に降りた直後
恵飛須沢胡桃 SIDE
無事に樅路さんが図書室に降りれたことを確認し、ほっとしたあたしは黒板を見ていた。そこにはあたしと圭に説明するための警報ベルを使った作戦の詳細(樅路さん曰く作戦成功の証明の計算式)がびっしりと書かれていた。
※以下物理実験室脱出前の回想
「『1階の警報ベルを作動させて校舎全体の【奴ら】を1階におびきよせる』なんて絶対に無茶だ!圭も『無理』って言ってただろう!?」
「私も『大きい声を出すな』と言ったはずだが。」
「大きな音を立てて黒板にチョークで計算式を書いてる樅路さんに言われたくないんだけど・・・。ていうか、それなんだよ?」
キャンピングカーにいるという圭ともう1度連絡を取った際に、樅路さんの脱出作戦と3階を【奴ら】から奪い返す作戦を聞いて、あたしと圭は猛反対をしていた。特に声を揃えて『絶対に無理』と言ったのが『警報ベルを使う』作戦だ。無線機を通しての説明だと時間と手間がかかるため『あたしが納得したら』という理由で、1度無線を切って樅路さんと作戦について話していた。
「ようは警報ベルを使った作戦が上手くいくことを証明すればいいのでしょう?説明する相手が恵飛須沢さんだから、今回は数学で使用される記号論理学の証明方法を採用するわ。さっきも言ったけど、私も化学者だからこういうのは得意な方なのよ。恵飛須沢さんも高校3年生なんだから、用語の定義についてや仮定法・数学的帰納法は勉強したでしょうし、内容は理解出来るでしょう?」
「えっ!?ええと・・・。」
あたしは泡を食っていた。パンデミックが起きて10日間、勉強なんて全くしていないし、そもそもこの非常事態に数学の証明問題が出てくるとは思わなかったからだ。そしてなにより・・・
(あたし数学は苦手なんだけど・・・)
※決して数学もではない by胡桃
物理実験室は少し暗いけど、白のチョークで書かれているから書かれた数式は見える。
見えるんだけど・・・。
証明 A≒(ZSα×2+ZSSDα×2)÷10×3+γ (A=1分50秒)
ZSα≒ZSβ×3 ZSSDα≒ZSSDβ×3 ZSβ×2≒34 ZSSDβ×2≒300
「あの・・・樅路先生・・・。」
「えっ!?な、何かしら?」
「ごめん、全くわかんないんだけど・・・。」
教師を目指していた化学者、それが樅路さんだということは知っていたけど、仮に数学が得意だったとしてもこれは絶対にわからないはずだ。
「あのね恵飛須沢さん。別にあなたに解いてもらおうとしてるんじゃなくて、私が恵飛須沢さんにわかるように解説するのよ?まだ書いている途中だし、それに読者にもわかるように解説しないとダメでしょ?」
「あ、そうだよな。樅路さんが警報ベルを使った作戦の証明するんだった。・・・ん?読者ってなんだ?」
「じゃあまずZSαとZSβについて説明するわね。」
「おい、読者ってなんだよ!?」
今樅路さんがNGワードを喋ったような気がした。
「ZSαというのは、【奴ら】の通常の教室1部屋分の道のりの歩行時間よ。速度で表すとわかりにくいからここでは歩行時間を使っているわ。ZSβは【奴ら】の最大の教室1部屋分の道のりの歩行時間よ。」
「樅路先生、質問いいですか?」
「・・・恵飛須沢さん。ごめんなさい、先生はやめてくれるかしら。」
「えっ?なんでですか?」
「先生じゃないからよ。教員免許は一応持ってるけど・・・。」
先生に数学を教わっているような気持ちになってたから『先生』ってつけたんだけど。ていうか教師になれなかったのに教員免許は持ってるのか・・・。
「わかったよ樅路さん。質問なんだけど、『通常と最大』って【奴ら】って速さが変わるのか?」
「そりゃあ変わるわよ。目的もなくふらふらしているのが通常の歩行速度、捕食や音等に惹かれて一定の目標に向かって歩いてくるのが最大の歩行速度よ。ZSα≒ZSβ×3は教室1部屋分の通常の速度でかかる時間≒最大の速度でかかる時間×3。例を挙げるなら、人間が6秒で教室1部屋分を歩く時間≒2秒で走り抜ける時間×3と考えるとわかりやすいわね。」
「じゃあ廊下で【奴ら】と戦ってた時のがZSβで、通常の歩行速度の3倍だったのか。」
「正解よ!よくできました。」
樅路さんに頭をなでなでされた。恥ずかしいけど素直に嬉しかった。こんな風に褒められたのっていつ以来だろう・・・。
「ZSSDα≒ZSSDβ×3は?」
「【奴ら】の階段を下りる時にかかる時間よ。」
「階段を下りる時にかかる時間もさっきと同じなんだな。」
「その通りよ。ただし集団で階段を下りた場合、誰かがこけてドミノ倒しのように転がり落ちることがあるけど、立ち上がる時間も考慮に含めるとだいたいこうなるの。」
「すごいな樅路さん、そんなことまで知ってるのか。でも、なんでそこまで【奴ら】のこと知ってるんだ?」
ただの化学者でもこうまで【奴ら】のことを理解出来るものなんだろうか?まるで最初から【奴ら】の研究でもしていたかのような・・・。
「何故って・・・。う~ん、一言では上手く説明出来ないわ。こんな事態だもの。生きるために少しでも【奴ら】について調べようとするのは当然のことじゃないかしら?」
「そ、そうか。そうだよな。あたしも皆を助けるためにもっと何かするべきだったかな?」
確かにあたしもシャベルをふるったり、バリケードを作ったりする以外にもやれることはあったはずだ。今後はもっとやることを考えた方がいいな。
樅路さんが何処か焦っていたような気がしたが、すぐに話題を戻してきた。
「ZSβ×2≒34が【奴ら】が教室2部屋分の通過にかかる時間で、約35秒。ZSSDβ×2≒300が3階から1階まで下りるのにかかる時間で約5分よ。」
「これは実際に計測したタイムじゃないよな。」
「そうよ。最後に(ZSα×2+ZSSDα×2)÷10×3+γ 。この÷10というのは『普通の人間の歩行速度≒【奴ら】の通常の歩行速度÷10』からきているわ。さっきのZSβ×2≒34とZSSDβ×2≒300はこの法則を利用してたてた式。次に×3はZSα≒ZSβ×3を当てはめた式よ。」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。ええと・・・。」
「ZSα×2が【奴ら】の昇降口分と教室1部屋分のかかる通常の時間。+γが崩れたバリケードを【奴ら】が乗り越えるのにかかる時間や教室から廊下に出るのにかかる時間等のその他かかる時間ね。」
「だからちょっと待ってって・・・ん?」
そこまで聞いていくつか疑問が湧いてきた。
「なぁ樅路さん。証明ってわりには約とかその他とかあやふやなところが多すぎないか?そもそも【奴ら】が皆同じ行動をするとは限らないだろ?」
「恵飛須沢さん。これは答えが必ず存在するテストの問題じゃないのよ?それと今回は学生の恵飛須沢さんに馴染みのある記号論理学の証明方法を採用したけど、本来こういうのは一般用法の証明方法を使うの。」
「そ、そうなのか?」
「そうよ。ただ【奴ら】が皆同じ行動をするのは確かよ。」
「え?なんでそう言い切れるんだ?」
「【奴ら】は生前の行動を無意識に繰り返すのよ。校舎に【奴ら】が雪崩れ込んだのも雨が降ってきたから。恵飛須沢さんは地震や火事が起きて警報ベルが鳴ったらどうするかしら?」
「・・・校庭に避難するな。」
「でしょう?巡ヶ丘高校では年に2回も避難訓練をしてるからね。警報ベルが鳴った時、『自分がいる場所から何処を通って避難しなくてはいけないか』も巡ヶ丘高校は生徒と教師1人1人に覚えさせているから上手くいくはずよ。」
「なるほどな。今校舎にいる【奴ら】は、ほとんど巡ヶ丘高校の生徒と教師だ。それを逆手にとるわけか。」
確かにこれならうまくいきそうだ。これなら速度とか時間とか証明する必要なんて・・・いやまてよ?
「ちょっと待ってくれ。警報ベルってどのくらいの時間鳴ってるんだ?」
「素晴らしい。いい着眼点だぞワトソン君。」
「誰がワトソン君だ。ていうかワトソン君って誰だよ?」
「当然警報ベルがずーっと鳴ってるわけじゃない。だから警報ベルを鳴らした後に【奴ら】が1階まで下りる時間を証明しないといけないのよ。」
「そもそも警報ベルなんて鳴らしたら、学校の外からも【奴ら】が入ってくるんじゃ・・・。」
「そこはもう目をつむるしかないわ。廊下にいる100人程の【奴ら】の相手をするよりはマシでしょう?」
そこまでいわれると思わずため息が出た。確かに今も物理実験室の扉をガンガン叩いたり呻いたりする【奴ら】100人の相手なんて出来ない。ここまで声を出していても扉の壊れる様子がないのは嬉しいけど・・・。
「というかこの証明の数式途中なんだよな?まだかかるのか?」
「もうすぐ終わるわよ。あまり長すぎると読者も飽きるでしょう?」
「だから読者ってなんだよ!?」
「Aの説明をしないで済むなら話すわ。」
Aの説明?A=1分50秒のことか。ん、これってもしかして・・・。
「誰かの3階から1階までの避難のタイムか?もしかしてめぐねえの?」
「・・・・・・。」
黙りこくって目をそらしていた。若干顔も赤くなってる。図星なのかよ・・・。
「いや、でもおかしいよな。なんでめぐねえの避難のタイムなんて計測出来たんだ?」
あらかじめめぐねえの避難訓練の時のタイムでも計測してたっていうのか!?やっぱり樅路さんはこのパンデミックのことを「お姉ちゃんのタイムじゃない・・・。」・・・え?
「めぐねえのじゃないのなら誰のだよ?」
「・・・。3年C組の柚村貴依さんが避難訓練でC組から校庭を出るまでにかかった時間・・・。」
信じられないことに物理実験室の扉を叩いたり呻いたりする【奴ら】の音まで数秒間止まった気がした。
以下、補足・・・とおまけ
1.大破したキャンピングカーから漏れていたガソリン・・・
そりゃあれだけ酷い運転をしたらこうなる。車内でうんまい棒を食べていた圭は、お菓子の匂いと安堵でガソリンの匂いに気がつかなかった。実は圭も危ないところだったのだ。
2.圭が食べたうんまい棒の種類を言い当てる樅路・・・
なんとなく面白いと思って俳句まで詠ませてみた。樅路もうんまい棒は好きです。
3.雨に濡れて下着が透けて見える樅路・・・
実は普段からファッションには疎い樅路。非常時であり見られているのが同性ということを抜きにしても、彼女は羞恥心も欠けていたりする。
4.複数人出てきたオリキャラ・・・
足利先生:2年C組を受け持つ美紀と圭の担任
長谷川教頭:アニメ第3話のめぐねえの回想に出てきためぐねえを叱る教頭。
彩香ちゃん:2年C組の生徒で圭の友達だった。
3人とも【奴ら】となってしまったオリキャラ。主要キャラと関わらせることで、いろいろなアクションが考えられるため登場させました。
5.胡桃の回想・・・
かなり長くなってしまったため、やむなく途中までとした。
6.【奴ら】の歩行時間や階段を下りる時間等について・・・
完全に作者の想像です。歩行速度が2種類で最大速度が通常速度の3倍等はオリジナル設定です。
7.警報ベルの作戦を数式で証明しようとしたわけ・・・
樅路は化学者であり、化学者になる前から計算で何事も解決しようとする節がありました。これまでも巡ヶ丘高校までの到着時間や、【奴ら】が自分達のいる位置までにかかる時間を計算していたのもこれが理由です。
8.それにしては曖昧な証明・・・
合理主義に近い樅路にしては、約やその他や≒等、曖昧な言葉や記号を用いていた。実は胡桃に言い聞かせていた理由以外にも理由があったりする。
その他おまけ
9.数式に使われたアルファベットについて・・・
胡桃「あれってなんて意味なんですか?」
樅路「こんな感じよ」
ZS:Zombie=ゾンビ Speed=スピード(ここでは時間)
SD:Stairs=階段 Descend=下りる
胡桃「聞くんじゃなかった・・・。」
樅路「作者の英語力はたったの5よ。」
10.読者について・・・
胡桃「これあれだよな!?メタ発言ってやつ!」
樅路「知っているのなら突っ込んじゃダメよ。」
11.柚村貴依の避難訓練で計測されたタイムについて・・・
貴依「なんでここであたしの名前が出てくるんだよ!?」
巴旗「意外な人物から名前が出てきたわね。」
照子「もしかして貴依のことが好きだった~とか?」
貴依「はぁ!?いやいやそんなまさか・・・。」
第9話は文字数が多くなったため、もう半分を10話としました。
中途半端な所で終わっていると感じる方もいらっしゃるかもしれませんがご了承ください。
細かい矛盾点等は本作設定ということでご了承ください。
誤字脱字や明らかな矛盾点等があれば、感想にてご指摘いただけると幸いです。
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エロ狸とシスコン狐
本作では『めぐねえの父親はめぐねえが生まれる前に交通事故で死亡』としています。
ご了承ください。
そして祝!通算UA3000達成!
そして祝!10話達成!
そして祝!お気に入り50達成!
ここまで【もう1人のめぐねえ】を読んでいただきありがとうございます!
恵飛須沢胡桃 SIDE ※回想中
警報ベルを使った作戦の話をしていたら、何故か3年C組の生徒の避難にかかったタイムが樅路さんの口から出てきた。確かに他の学校と違って巡ヶ丘高校は避難訓練や災害に強い対策をしてる。けどさすがに個人の避難にかかったタイムなんて計測された覚えなんてない!そもそもなんで樅路さんがそんなことまで知っているんだ!?
「だからその・・・普通の人間のとある1生徒の避難タイムと、警報ベルを押した後に生前の行動を起こす【奴ら】のタイムを証明して比較すれば作戦が成功すると立証できるのよ。」
「ちょっと待て!なんで樅路さんがそんなことを知ってるんだよ!?そもそもどうやってその生徒の避難タイムを計測したんだよ!?」
「私じゃないわよ!?エロ狸って言ってもわかんないか。早乙女校長が勝手に計測してたのよ!」
「はぁ!?校長先生が!?なんで!?」
さすがにあたしは樅路さんの告白に狼狽した。まさかここで校長先生が出てくるなんて・・・。
「あいつは巡ヶ丘高校をかなり私物化してるのよ!学校のあちこちに盗さ・・・防犯カメラをつけてるの!」
「言ったよな!?今『盗撮』って言いかけたよな!?あの校長そんなことしてたの!?」
あの校長がそんなことをしてたなんて・・・。まさかあたし達も盗撮されてるんじゃ・・・。
「まさか更衣室とかトイレとかにもつけてたりするんじゃないだろうな?」
「大丈夫だと思うわよ。たぶん更衣室やトイレには仕掛けてないと思うわ。」
「待て待て待て!なんで樅路さんがそんなこと言い切れるんだよ!?」
「あいつは気に入った女子生徒しか追ってなかったからね。私が知る限り柚村さんしか隠し撮りとかしてなかったと思うわ。エロ狸も言ってたわよ。『儂は紳士じゃぞ!?柚ちゃんは帰宅部じゃ!更衣室やトイレに仕掛けたら余計なものまで写るじゃろうが!』って。」
「『余計なもの』って何だよ!?ああもう、どこから突っ込み入れりゃいいかわかんねぇ!」
思わず頭を掻きむしる。いったいどうしてこうなったんだ!?いつの間にか知らなきゃよかった校長の犯罪行為を聞かされていた。
「言いたいことも沢山あるだろうけど、そろそろ話しを進めるわよ?祠堂さんや読・・・皆も待ってるはずだしね。」
「・・・ああ、もうそれでいいよ。」
こんなことなら圭に代わってもらえばよかった・・・。
「実際の問題からして警報ベルのある昇降口から最も遠い3階の左翼側階段・・・生徒会室前の廊下にいる【奴ら】が、警報ベルが鳴り終わる前に1階まで下りていればこの作戦は成功するのよ。」
「じゃあ今警報ベルを鳴らせば【奴ら】は鳴り終わるまで全員1階に下りるんだな?警報ベルを鳴らした後、2階の2年C組でやり過ごせば下りてくる【奴ら】をやり過ごせるわけか。」
「本来警報ベルには音が鳴り続ける時間や音量も決まっているのだけど、巡ヶ丘高校の警報ベルは規定のより長く大きいように設定されているの。だから大丈夫よ。」
まただ。どうして樅路さんはここまで巡ヶ丘高校について詳しいんだろう?めぐねえですらこんなこと知らないんじゃないだろうか?でも・・・
「わかったよ。学校の設備と【奴ら】に詳しい樅路さんが言うんだ。信じるよ。」
「ありがとう恵飛須沢さん。あとで聞きたいことがあるなら何でも答えるから。」
「ああ。樅路さんのことや校長のこととかを皆にもな。」
「ふふっ。ええ、必ずね・・・。」
※回想終了
黒板の数式を見ていたあたしは、ため息をついて椅子に座った。バンバン叩いていた廊下の【奴ら】も今は呻き声を上げているだけだ。
(聞きたいことは山ほどあるんだ。絶対死ぬなよ樅路さん!)
ジリリリリリリリリリリリリ!!!
校舎全体に警報ベルが鳴り響いた。
佐倉慈 SIDE
生徒会室に籠城してからどのくらい時間がたったのだろう?由紀ちゃんがさっきカーテンを閉めたから室内は暗いけど、腕時計をしていたことを思い出し時間を見た。午後5時30分を過ぎていることからそれなりに時間がたったことはわかった。
私にとって幸運だったのは私そっくりの女性が打った注射が効いたのか、【奴ら】にならないこと。疲れているのか、それとも薬の副作用なのかはわからないが少し眠い・・・。でも目を覚ましたら【奴ら】になって由紀ちゃんと悠里さんを襲わないかと怖くて眠れなかった。
(いや違うわね。本当に怖いのは・・・)
2人には「妹なんていない」と言ったが、私には心当たりがあったのだ。偶然緊急避難マニュアルを見つけた時に、書類に走り書きで『樅路 恵』と書かれた職員の名前の隣に『佐倉 慈の双子の妹』と書かれていたからだ。
私の父親は私が生まれる直前に交通事故で亡くなったらしく、今は別居中の母親と2人で生活していた。だから瓜二つの双子の妹なんているはずがないと思っていたのに・・・。
背中の手当てを悠里さんがしてくれた直後、彼女の名前が樅路であることを知らされ、反射的に否定してしまった。けど助けに来てくれた彼女は本当に私達の身を案じていたように思う。(背中の大火傷はもっとやりようがあったと思うけど・・・)
「めぐねえ大丈夫?」
樅路恵について考えていると由紀ちゃんが声をかけてきた。自分も怖いはずなのに私の心配をしてくれる由紀ちゃんに、とても嬉しくなった。
「大丈夫・・・っていいたいけど、そろそろ背中の濡れタオルを交換してくれるかしら?後、お水も貰えると嬉しいわ。」
「うん、わかっためぐねえ。」
小声で返事をすると、背中のタオルを取って水場で濡らし始めた。そういえばどうして由紀ちゃんはカーテンを閉めたのかしら?部屋が暗いから由紀ちゃんも私の介抱が大変だし、部屋が暗いと逆に落ち着かない。雷を恐れたのかしら?
「悠里さん、悪いけどカーテンを
シャッ!!
「「っ!?」」
私も由紀ちゃんもビクッと窓の方を見た。さっきまで椅子に座っていた悠里さんがいつの間に窓まで移動しておりカーテンを開けていた。しかしそのあとは何も行動を起こさずにぶつぶつと独り言をつぶやいている。
「ゆ、悠里さん・・・。うぅ、痛い・・・。」
反射的に顔を上げたため背中が痛い。当分の間はうつ伏せのまま生活することになりそう・・・。だけどそれ以上に悠里さんの状態が気がかりだわ。一瞬見えた悠里さんは無表情だった・・・。
「め、めぐねえ。濡れタオル背中に置くね?」
「ええ、由紀ちゃんありがとう。・・・ふぅ!」
(痛い・・・。私が皆に迷惑をかけてどうするのよ。私が皆を助けなきゃいけないのに何も出来ないなんて・・・。)
手渡されたコップをうつ伏せのまま受け取り口に流し込む。喉がカラカラだったため本当にありがたかった。
「由紀ちゃん、本当にありがとうね。ごめんね心配かけちゃって・・・。」
「うっめぐね、えっ。死んじゃっヤダよっ。おいて、かないでよぉ・・・。」
「っ!?」
私の返事に反応して、由紀ちゃんが泣きながら手を握ってくる。由紀ちゃんの本心を聞いて自分が如何に間違った行動をとっていたかが鮮明に蘇る。確かにバリケードを作りパンデミックが起きてから日も立っていて、気を抜いてしまってことも私の落ち度だろう。緊急避難マニュアルを見つけて、このパンデミックのことや妹のことを1人で抱えすぎたことも間違いだったと今ならわかる。
だけど最もしてはならなかったのは、【奴ら】が雪崩れ込んで来た時に自分の命を捨ててでも由紀ちゃん達を守ろうとしたことだったのだ。確かに生徒達を守るという点では1番良い選択だったのかもしれない。けれどその後の残された由紀ちゃんは、悠里さんは、胡桃さんはどうなるの?私が・・・殺されて、或いは【奴ら】になって襲い掛かったら・・・。
握ってきた由紀ちゃんの小さな手を見て目を開く。由紀ちゃんの両手の指の内数本がすり減り、左手の甲を少し切っていた。たぶんだが防火扉を何回も叩いた時に出来た怪我だ・・・。
そして目の前には助けたはずの由紀ちゃんが泣きながら『置いてかないで』と言っている・・・。
(私・・・何をしてるの?)
このままじゃダメだ!無理に体を動かすことは出来ないけど、皆の心の支えにならなれる!もう自分の命を蔑ろにするような真似は避けなければならない。私はもう教師として以上に1人の生存者として生きるべきなのかもしれない。これからは皆で支えあっていかないと!!
ふぅ、と一呼吸して由紀ちゃんに語りかける。
「安心して由紀ちゃん。もう私は何処にも行かないわ。」
「めぐ、ねえ?」
「今までは教師だからって何でも1人で抱えすぎたわ。でもこれからは皆で一緒に考えて、皆で一緒に楽しく生きましょう。いきなり顧問が居なくなるわけにはいかないでしょう?」
「こもん?」
「ほら、学園生活部よ。」
ホワイトボードを指さし、由紀ちゃんも見る。そこには大きく『学園生活部』と、そして誰が描いたのか私っぽい顔が右下に描かれていた。
「大丈夫。胡桃さん・・・達も必ず無事に戻ってくる。それまでは私達に出来ることをしましょう。」
「う、うんっ。」
「じゃあまずは涙と鼻水を拭きましょう。私も出ちゃったから拭きたいわ。」
「ラ、ラジャー。えへへっ、めぐねえと一緒だー。」
そういうと由紀ちゃんはティッシュ箱とゴミ箱を持ってきてくれた。一緒に涙を拭って、鼻をチーンとかむ。さっきまでの泣き顔が嘘のように、由紀ちゃんは笑っていた。
(やっぱりこんな私でも生き続けることが何よりも大切なのだわ。それだけでこうして由紀ちゃんが笑顔になってくれるのだから。気になることは山積みだけど、1人で考えずに1つ1つ解決していくべきね。)
「めぐねえ、その、りーさんが。」
由紀ちゃんが笑顔を曇らせると、悠里さんの方を向いた。由紀ちゃんと会話をしている間も、窓の外を見ながら口をパクパクと動かしていた。
(少しだけ悠里さんの声が聞こえてたわ。確か『交通事故』『学校』『いや、それよりも病院に』『るーちゃん』って単語が・・・。もしかして悠里さんの)
ジリリリリリリリリリリリリ!!!
校舎全体に警報ベルが鳴り響いた。
??? SIDE
「警報ベル!?シスコン狐めやっと動きおったな!」
鳴り響く警報ベルはここ『地下区画』にまで響いていた。1階で鳴っているらしいけど【奴ら】が入ってこないか心配だわ。
「早乙女校長・・・。やっぱりシャッターを閉めておいた方がいいのでは?1階で鳴っているのなら【奴ら】が入ってきますよ!」
「前にも説明したじゃろうが、【奴ら】は生前の行動を繰り返すのじゃ。ここ『地下区画』は生徒も教師も知らんのだ。・・・じゃが、確かに警報ベルが鳴った後に入ってくる【奴ら】がいないとも限らんな・・・。よし、儂が閉めてこよう。柚ちゃんを頼むぞ!」
そういうと早乙女校長・・・いやエロ狸は『地下区画』の入り口のシャッターを閉めに行った。
(よかった、少しの間でもあの人の傍から離れられるわ・・・。)
パンデミックが起きた日、命からがら逃げこんだここには早乙女校長と、感染して【奴ら】になりかけた柚村さんがいた。彼女を保護してここに逃げ込んだという彼は、柚村さんに怪しげな薬を打った。すると驚くことに落ち着きを取り戻し、眠りだしたのだ。てっきり睡眠薬の類のものかとも思ったが、校長から打ち明けられた真実は驚愕の事実だった。
まさか巡ヶ丘高校とこのパンデミックは少なからず関係があり、校長自身も組織の中ではそれなりの地位にいたらしい。おまけに学校を私物化し、私が受け持つ3年C組に複数個の盗撮器と盗聴器を仕掛けていたようなのだ。
「戻ったぞ!シャッターは閉めてきた!柚ちゃんの様子はどうじゃ!?」
「・・・変わらずまずい状態です。まだ『初期感染者用実験薬』は3つ残っていますが、もうそれほど効果が・・・。」
「うう・・・ヴヴヴ・・・ぐグッ。」
部屋の隅にある簡素なベットに縛られている私が受け持っていた3年C組の柚村貴依さん・・・。最初は初期感染者用実験薬を打つことで【奴ら】への感染を防げたと思っていたが、その後何度も再発してはその度に薬を打ち続けた。しかし次第に持続時間が短くなってきているわ・・・。
「全くシスコン狐め!何があったというのじゃ!?確かにここ最近様子がおかしかった気がしてはいたが・・・。」
「その、佐倉慈先生の双子の妹さん・・・は、本当に来ているんですか?」
「うむ。バリケードとして使われていた柚ちゃんの机に盗聴器がついててな!30分程前に通過したのを確認済みじゃ!じゃがその直後に【奴ら】にバリケードを突破されたらしいが・・・。」
・・・その話はさっきも聞いていた。聞きたいことは盗聴器のことではないのだけど。
「本当にいらっしゃるのですね。佐倉先生に双子の妹さんが・・・。」
「本人は知らんじゃろうがな。昨年の体育祭に巡ヶ丘市のマスコットキャラクターの『めぐにゃん』が来たじゃろ?」
「昨年の体育祭、ですか?ああ、確か『巡ヶ丘市誕生30周年記念』とかで来ていましたが・・・。それが何か?」
「『めぐにゃん』の中にいたのが、シスコン狐こと樅路恵じゃ。」
「・・・嘘ですよね?」
そういえば去年の体育祭の教師による徒競走で、ビリだった佐倉先生を『めぐにゃん』が慰めていたような・・・。まさかあの中に双子の妹がいたなんて・・・。
「おかしいと思って問い詰めたらあやつじゃったよ。研究所を抜け出し校舎に忍び込み、到着した担当の人間を着替え中に催涙ガスで眠らせてトイレに監禁。1日着ぐるみの中で姉が勤める高校のイベントを楽しんでおった・・・。」
そういうと校長は頭を抱えて力なく笑った。
なるほど、このエロ狸が『シスコン狐』と呼ぶだけのことはあるわね。彼女も立派な犯罪者だわ。
「この『初期感染者用実験薬』を作ったのもあやつじゃ。シスコン狐のことじゃから、佐倉慈が感染した場合の計算もして、より強力な実験薬を作っているじゃろう。今はそれにかけるしかないのぅ。」
「【奴ら】にバリケードを突破されてから30分も立っているのですよね?大丈夫でしょうか?」
「大方3階の再制圧に時間をかけているのじゃろうな。あやつは『地下区画』のことも知っておるし、【奴ら】の研究最高責任者でもある。心配ないじゃろ。」
「・・・そう、ですね。」
改めて彼女の裏の顔のことを聞いて戦慄する。会うたびによく話す仲ではあるらしいが、立場的には校長よりも上らしい。そんな人間が今校舎に2人もいるのかと思うと、佐倉先生や生き残っているらしい生徒達が心配だ。
(丈槍さん、大丈夫かしら・・・。)
エロ狸の盗撮器に写っていた生存者達の中には、もう1人3年C組の生徒がいた。クラスの中でも浮いていたけど、柚村さん達と仲良くなって最近は明るい表情でいることが多かったのに・・・。
あの日屋上にいたらしい佐倉先生と一緒だったのは、本当に運がよかった。あの時は慌てていたから、佐倉先生の携帯に連絡をいれた直後はちゃんと伝わっていたか不安だったけど、少しでも役にたててよかったわ・・・。
「そろそろ儂らもいろいろと準備しておいたほうがいいじゃろう。あやつがきた時にすぐに行動を取れるようにな。」
「そうですね。私は柚村さんを診ています。校長は武器の準備をお願いします。」
「安心せい。もう武器の手入れも何もかも整えてある。このウィンチェスターM1887もな。」
ニヤリと笑ってショットガンを私に見せつける。『何で学校にショットガンが』という突っ込みもする気力がわかなかった。
(佐倉先生、丈槍さん、私達はここにいますよ!)
3年C組担任、神山昭子は改めて気を引き締めた。
以下、補足・・・とおまけ
1.樅路の行った証明が曖昧な本当の理由・・・
①作者は数学が得意な方ですが、樅路並みのスペック等到底持ち合わせていません。
②樅路が本気で作成成功確率やそのための数式を立てていたら朝までかかるため。
③そもそもこれは胡桃を納得させるための作戦。それらしい数式や難しい用語を並べれば彼女も頷くだろうと踏んでいた。
2.盗撮されていた柚村貴依・・・
貴依「ふざけんな!なんでよりによって校長に!?」
巴旗「本当に作者は期待を裏切らなかったなw」
照子「『余計なもの』とか言ってる所で紳士かも疑わしいけどね~。」
3.「聞きたいことがあるなら『何でも』答えるから。」・・・
読者「ん?今『何でも』って言ったよね?」
樅路「こ、答えられるものなら・・・。」
4.ようやく登場 佐倉慈 SIDE・・・
背中の大怪我で療養中の彼女。もしかしたら今回のめぐねえの新しい考え方に異議を唱える方もいらっしゃるかもしれません。ですがめぐねえに生きていて欲しかったという考え方は一緒だと思い、このような展開とさせていただきました。
5.狂気の片鱗 若狭悠里・・・
逆に現在2番目に危機的精神状態にある彼女。『双子の妹』という設定の【もう1人のめぐねえ】の都合上、避けて通れないのがこの状態。原作死亡キャラが本作では何人も救済され、ほぼ全員の状態が本作よりもよい方向に向かっている中、ただ1人樅路の登場がマイナスに働いている主要キャラ。めぐねえが「妹なんていない」と発言したことで、それまで交通事故の出来事を現実逃避していた彼女は、大切な妹を思い出した。結果的に見れば彼女も現実を見始め1歩前進しているのですが、間が悪かった。決して作者が嫌いなキャラとかではなく、今後の彼女の言動にも注目です。
6.若狭悠里の妹 るーちゃん・・・
本作はアニメを基準としておりますが、アニメには一切るーちゃんは出てきません。漫画の大学編で登場するキャラのため、こちらを参考にしていきたいと考えています。『交通事故』『病院』等と悠里はつぶやいていますが、彼女の安否は・・・
7.ついに登場『地下区画』と生存者・・・
ようやくここまで作成出来ました。登場させたいキャラが多くいたため、出せてよかったです!
8.盗聴もされていた柚村貴依・・・
照子「巴旗、両腕抑えて!私が両足抑えるから!」
巴旗「照子が両腕抑えてよ!いいじゃん貴依はまだ生きてるんだからさぁ!」
貴依「ヴァアアアア!!ガァ・・・ァアア!!」
貴依(HA☆NA☆SE!あの変態を噛み・・・いや切り裂いてやるんだ!)
巴旗「貴依になら噛まれてもいいとか思ってんじゃないか、あのエロ狸。」
照子「うん、寧ろ噛まれたいとか思ってるんじゃない?」
校長「Yes!Of course!」
3人「ひぃ!」
9.エロ狸、シスコン狐の正体・・・
シスコン狐は第10話で初めて登場した樅路のあだ名ですが、エロ狸はこれまでに何度か登場。その正体がオリキャラの早乙女校長です。
校長は柚村貴依を校内で秘密裏に盗撮・盗聴し、樅路は研究所から抜け出し秘密裏に体育祭に参加。服や身に着けているものまで一緒である。
お互い組織のメンバーであるが、こういう所も一緒で以外にも仲がよかったりする。
そして今まで怪しい言動が目立つオリ主樅路恵であったが、ついにパンデミックを起こした組織のメンバーであることが発覚。
10.『初期感染者用実験薬』作成者:樅路恵・・・
そんな変態の1人であるが、初期感染者実験薬を作り出したチームの主任でもある。『バカと天才は紙一重』というが、今チームはどうなっているのだろうか?
11.【奴ら】の研究最高責任者:樅路恵・・・
そんな薬を作り出した主任であるが、現在はまさかの組織の研究最高責任者である。まぁこんな人間でもなければ、【奴ら】に効果的な改造武器の作成や、それを使った立ち回り等出来るはずもないのだが。
12.校長先生の愛用銃 ウィンチェスターM1887・・・
事前に地下区画に備蓄していた武器の1つのショットガン。
実はとあるがっこうぐらしの2次小説の主人公も使っている愛用銃です。
13.生きていた神山先生・・・
???SIDEとしましたが、文脈から誰かが想像出来た方も多いかもしれませんね。
最後に名前を出しましたが、こういう表現もいいなと思ってあえて???SIDEとしてみました。
昭子「まさか私が生きているなんて・・・。苦労人が多そうだし、私も出来ることをやりますよ!」
第9話と第10話では、樅路恵の一面とその正体、そして新たな生存者が出てきましたね。次回からようやく巡ヶ丘高校籠城編も折り返しです。
細かい矛盾点等は本作設定ということでご了承ください。
誤字脱字や明らかな矛盾点等があれば、感想にてご指摘いただけると幸いです。
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佐倉先生と近くて遠いるーちゃん
神代麒麟「投稿が遅くなって申し訳ありません。今後も不定期更新となりそうですが、「もう1人のめぐねえ」を何卒よろしくお願い申し上げます。」ペコリ
樅路恵「評価をしてくださった方、ありがとうございます!」
佐倉慈「前話の投稿から日をまたいでいるから、前話までを見直してからみるとわかりやすいかもしれないわね。」
恵飛須沢胡桃「いやめぐねえ、そのための前書きコーナーだと思うんだけど・・・。」
丈槍由紀「そうだよね~。りーさんもそう思うでしょ?」
若狭悠里「・・・ふふふっ。」
祠堂圭「・・・若狭先輩?」
りーさん以外「「「「「「・・・・・・。」」」」」」
樅路恵 SIDE
中央階段を駆け下り1階の昇降口にある警報ベルを鳴らした後、すぐにまた階段を駆け上がる。【奴ら】が階段を下りてくる前に2年C組の教室に避難しなくちゃならない。幸い道中【奴ら】はおらず、2年C組まですぐに戻ることが出来た。
「祠堂さん、戻ったわよ!」
教室の扉をノックするが・・・何故か反応がない!?
「あ、あれ!?祠堂さん!?」
「あっすみません!今開けます!」
一拍間が空いて扉が開いた。すぐに中に入り、鍵をかける。
「はぁ~、少し焦ったわ。どうしてすぐに開けてくれなかったの?【奴ら】が3階から降りてきているのに・・・。」
「ご、ごめんなさい樅路さん。その・・・。」
祠堂さんが申し訳なさそうに俯くと、視線を教室の中央に向ける。つられて私も視線の先を追うと、私が首をはねた【奴ら】の死体が床に転がっていた。
(そういえば祠堂さんは
仕方なく窓にかかっているカーテンを取って死体に被せる。これで友達の死体を見なくてすむでしょう。
「ありがとうございます樅路さん。これで彩香も・・・。」
「いいのよ祠堂さん。それよりもこれで顔や体を拭いて。全部は拭けなくてもマシなはずよ。」
「あ、はい。助かります。」
祠堂さんのバッグに入れておいたハンドタオルを渡す。外に2分もいなかったが、この豪雨の中を走って私も祠堂さんもびしょ濡れだ。お姉ちゃんと全く同じのお気に入りの服なのだけど、背に腹は代えられない。
「アア・・・ヴヴヴゥゥ・・・」
「オオオ・・・アア・・・アア」
(中央階段から【奴ら】の声が聞こえる・・・。計算通り下に降り始めたわね。)
雨と雷の音しか聞こえない死んだ街に、警報ベルの音がけたたましく鳴り続けている。拭き終わった祠堂さんからハンドタオルを受け取って私も気になる所を拭く。
最後に改造刀を拭きだすと、祠堂さんが質問してきた。
「改造刀も拭くんですか?」
「そうよ。チャージに手間がかかる以外にも、雨の中では使えないデメリットがあるのよ。最悪ショートしてしまうわ。」
祠堂さんが驚いて改造刀を見つめる。この改造刀は電気で熱を発しているため、雨の中で使うと感電してしまう。スイッチを押さずにそのまま使うことも出来るが、この武器はそもそも雨の中で戦うことを想定していないからだ。
ガシャンガシャンガラララン!!
「っ!?今の「静かに」ムグッ」
(大きな音が右翼側階段の3階から聞こえた。この音はおそらく・・・。)
祠堂さんのバッグの無線機を取り出す。私が持っていた無線機は恵飛須沢さんに預けてあり、警報ベルが鳴りやむまでまだ時間がかかる。2人には警報ベルを使った作戦の全容を
私は無線機のスイッチを入れた。
丈槍由紀 SIDE
突然鳴り出した警報ベルの音についてめぐねえと話し合っていると、しばらくして何かが崩れる音が向こう側の階段辺りから聞こえた。
「めぐねえ・・・。もしかして今のバリケードが崩れちゃった音じゃ・・・。」
「大丈夫よ由紀ちゃん。生徒会室は去年補強工事をしてるからびくともしないわ。だから大丈夫
「アアアアアアァァ!!」ダンダン!!
((っ!!?))
そこまで大きな声を出して話していたわけじゃないのに、廊下の
「大丈夫、大丈夫よ由紀ちゃん。悠里・・・さん?」
「りー・・・さん?」
叩かれ続ける生徒会室のドアをじっと見続けているりーさん。りーさんもやっぱり怖・・・あれ?
(
(様子がおかしいわ!何で笑って
恵飛須沢胡桃 SIDE
(右翼側階段から何かが崩れたような音が聞こえた!この音は間違いなく・・・)
最悪な状況を考えていると、机に置いていた無線機が鳴り始めた!すぐにスイッチを押して出る。
「もしもし樅路さん?」
「もしもし、私恵♪今2年C組にいるのっ♪」
「えっ、樅路さん?」
「・・・ごめんなさいね。和ませようとしたのだけど無理があるわね。」
『こんな時にふざけないでください樅路さん。』
「わかったから2人共声のトーンを落として。警報ベルが鳴り続けてるとはいえ、あまり大声は出せないからね。」
((誰のせいだよ!))
おそらく圭も心の中で突っ込んでるだろうなとか思っていると、樅路さんが「落ち着いて聞いてね。」と前置きしてきた。
「2人とも校庭を見てごらんなさい。」
「校庭?」
言われて割れた窓に近づき校庭を見る。
(う、嘘だろっ!!?なんだよこの数は!!?)
雷で一瞬光った外の景色は、校庭だけでなく校門外の大通りにも大量の【奴ら】がうごめいていた!ぱっと見えただけでも300人はいる!よく見ると【奴ら】全員が
『な、なんですかこれっ。こんなの聞いてないですよっ。』
「落ち着いてと言ったでしょう?それと恵飛須沢さん、さっき右翼側階段から何かが崩れるような音が聞こえなかったかしら?」
「あ、ああ聞こえた。あれってもしかして・・・。」
「右翼側階段のバリケードが【奴ら】に破壊された音でしょうね。外の数百匹の【奴ら】も含め全て想定内よ。」
『想定内って・・・。』
「昇降口の入り口をよく見てみなさい。【奴ら】ほとんど昇降口に入ってこないでしょう?」
樅路さんに言われて昇降口の入り口付近を目を凝らして見てみる。確かにほとんど【奴ら】が入ってこない。寧ろ出ていく【奴ら】が多くて引き返しているようにも見える。
「今【奴ら】は《避難訓練中》なのよ。入っていくのがいたとしても、1階で鳴っている警報ベルに向かうでしょう。」
「そうか、じゃあ集まってきている【奴ら】はここまでこないんだな?」
『ええ。《避難訓練中》はね。」
「《避難訓練中》は・・・?ちょっと待ってくれ。じゃあ警報ベルが鳴り終わったら外の【奴ら】はどうなるんだよ?」
『あなた達も知っているでしょうけど、ここ巡ヶ丘高校は災害時避難場所に設定されているわ。巡ヶ丘高校のOBや付近の住人も皆ここへ向かう。ただの避難訓練と考えた【奴ら】は自宅に戻るかもしれないけど、そうでない【奴ら】は中に入ってくるでしょうね。』
『そ、そんな・・・。』
百人単位の【奴ら】がこれから校舎に雪崩れ込むことも確かに怖いけど、それ以上にこの異常事態全てが想定内でどうにか出来ると断言出来る樅路さんも怖い・・・。
「今から警報ベルが鳴り終わった後の作戦の詳細を説明するわ。まずは
「由紀ちゃん!!悠里さんを取り押さえて!!」
「りーさん!!ダメだよ!!」
「えっ!?」
(生徒会室からめぐねえと由紀の大声が!いったい何があったんだ!?)
『恵飛須沢さん、どうしたの?』
「生徒会室からめぐねえと由紀の大声が聞こえた!りーさんを取り押さえてって聞こえたぞ!」
『・・・・・・は?』
『何があったのかわかりませんか!?』
「いや、もう声はほとんど聞こえなくて『お姉ちゃんを信じましょう。』・・・え?」
あたしの返事を遮り、しかしきっぱりと『お姉ちゃんを信じる』と樅路さんは言い切った。
『お姉ちゃんは教師よ。
「お、おいっ!?はぁ~、なんなんだよ・・・。何が起こってるんだよ・・・。」
物理実験室から出られない以上、めぐねえと由紀に任せるしかない。りーさんに何があったかわからないけどあの2人ならきっと・・・。
佐倉慈 SIDE
よろよろと1歩ずつこの部屋唯一の扉に向かって歩く悠里さん。彼女が何をしようとしているのか、答えを導くのに数秒かかった。
(まさか扉を開けようとしている!?嘘でしょう!?)
慌てて由紀ちゃんに指示を出す。由紀ちゃんも悠里さんが何をしようとしているのか気づいて悠里さんに抱きつく。
「!?は、離して!るーちゃんがっ、るーちゃんがそこにいるのよ!」
(もしかして扉を叩いている【奴ら】を身内と勘違いしているの!?そんなことあるわけが・・・。でもこの状況はそうとしか解釈出来ない!)
私は一息深呼吸した。
感情的になっている生徒に同じように言葉をぶつけても相手は引かない。
由紀ちゃんもずっとは堪えられない。
ここからは間違った言葉や言い回しは許されない。
取り乱している悠里さんを必ず落ち着かせるのよ。
私なら出来る。
だって私は教師なのだから!
「悠里さん、落ち着いて聞いて。」
段階を踏んで、扉を叩いているのがるーちゃんじゃないことを説明する?
いいえ、ここはまず単刀直入に言い切るわ!
「外にいるのはるーちゃんじゃないわ。」
「そんなはずありません!るーちゃんが扉の向こうにいるのよっ!」
間違えた!?いや、反応してくれたことをプラスにとらえましょう!
「いいえ悠里さん。扉の向こうにいるのはるーちゃんじゃないわ。何故なら・・・。」
次はどう答える?
単刀直入に説明する?それとも段階を踏んで説明する?
感情的になっている今は、上手く説明が出来たとしてもその前に扉を開けてしまうかもしれない!
ただし、誰でも思いつく解答を最初に持っていくだけじゃだめだわ。
取り乱している悠里さんの興味を引く意外な答え。
「何故なら悠里さんが生徒会の役員じゃないからよ。」
「えっ、どうゆうことめぐねえ?」
「・・・私が生徒会の役員じゃないことが、るーちゃんと何の関係があるんですか?」
やったわ!悠里さんが止まった!
けどすぐに思考を切り替える。少しでも冷静になってくれた今なら、多少長い説明でも聞いてくれるはず!
「るーちゃんというのは悠里さんの妹さんのことよね?」
「そうですよ。瑠璃っていう大切な妹です。その妹が今すぐそこに
「瑠璃ちゃんっていうのね。なら悠里さん、どうして扉の前にいる瑠璃ちゃんが生徒会室の扉を叩いているのかしら?」
「えっ?」
「悠里さんは3年A組の園芸部よね?なら屋上か3年A組に向かうはずよ。そのことを知っているのかどうかに関わらず、どうしてここに悠里さんがいるって瑠璃ちゃんは考えたのかしら?」
「そ、それは・・・。」
悠里さんに会話の主導権を渡さず、悠里さんに疑問を投げかける。
扉の前にいるという瑠璃ちゃんが何故生徒会室を目指したのか?
悠里さんが冷静になってきたみたい。落ち着いたからこそすぐに自分でも納得の出来る理由を説明出来ない。
生徒会室は薄暗いけど、表情からイライラしているのがわかる。
ここで畳みかけるように質問をしたり、結論を言ってはダメだわ。
あえて間を与えて自分で考えさせることで、『妹がここまで来た』という自分が強引に導き出した答えを自分自身に否定させなければならない。
逆にそれさえできれば悠里さんなら・・・
「・・・・・・るーちゃん。」
私も悠里さんも由紀ちゃんも叩かれ続ける扉を見つめる。
聞こえてくるのは警報ベルの音と時々鳴る雷の音。
ドンドンと叩かれる扉の音。そして・・・
「アアア・・・ヴァァァァ・・・」
扉を叩く【奴ら】の声・・・。
悠里さんは床に座り込んでしまった。
「そう、ですよね。こんな状況で・・・るーちゃんがここまでこれる、わけないですよね・・・。」
「りーさん・・・。」
(よかった・・・。なんとか止めることが出来たわ。)
「佐倉先生、由紀ちゃん・・・。ごめんなさい。私、どうかしていたわ。こんな時に・・・。」
「いいのよ悠里さん。みんな辛いことや悲しいことを口に出さないで耐えていたのだから。私自身もそうだったから。」
「めぐねえも?」
「ええ、由紀ちゃん。『大人だから』『教師だから』と、何もかも一人で思いつめすぎたわ。だからこれからは1人1人の悩みをみんなで一緒に共有しようと思うの。一緒に考えた方が解決することも出来るかもしれないし、一人で悩みや不安を抱え込むよりも気持ちが楽になると思うわ。今すぐにというわけじゃないけどどうかしら?」
「いいと思います。私も今回のことで凝りました。家族のことが心配なのは私だけじゃないのに・・・。」
「・・・うん。」
(由紀ちゃん?)
「とにかく大事にならなくてよかったわ。・・・ぐっ!?」
「めぐねえ!?」
「佐倉先生!?」
限界だわ・・・。気にしないようにしてたけど背中が・・・。
「由紀ちゃん、またタオルを濡らして!私はもう1度傷の手当てをし直すわ!」
「ラジャー!」
ジリリリリリリリリリリリリリィィィン・・・
鳴り響いていた警報ベルの音が聞こえなくなってきた・・・。
警報ベルが止まったからなのか、意識が遠くなってきたからかもわからない・・・。
悠里さんと由紀ちゃんの献身に感謝しながら私は目を閉じた。
祠堂圭 SIDE
「警報ベルが鳴りやみました!」
「さぁ数百人の【奴ら】が雪崩れ込んでくるわよ!覚悟はいいかしら!?」
「よくないけどいいです!というか、恵飛須沢先輩に結局かけなおさなかったけど大丈夫なんですか!?」
「しょうがないじゃない!無線機で話してる最中に廊下の【奴ら】が教室の壁叩いてきたんだから!」
正直ものすごく不安だけど、【奴ら】が昇ってくる以上行動しなければならない。もう
「さあ扉を開けるわよ!」
「はい!」
ガララッ!!←教室のドアを開ける音
「「ヴァアアアア!!」」←【奴ら】の声
「「みゃああああ!?」」←2人の悲鳴
??? SIDE
未だ降り続ける雷雨は、巡ヶ丘市のとある建物にも容赦なく降り続けていた。
その建物の一室に一人の少女がベットの上で眠っている。
机には彼女のものと思われる熊耳の帽子とランドセルが置かれていた。
眠っている彼女の腕には点滴がつけられており、口元には酸素マスクがあることから、この建物が病院であり少女は重体であることが窺える。
しかし生命活動を確認できる装置には何も映し出されていない。
点滴の袋には何も入っていない。
病室の片隅に添えられている花瓶の花は枯れ、既に散っていた・・・。
病室の外についているネームプレートには、急いで作られたのか簡易的な名札がつけられていた。
以下、補足・・・とおまけ
1.【奴ら】となった圭の友達の死体を「
前話で樅路が組織の一員ということを晒したためこのように表記。「これ」呼ばわりする一方で【奴ら】が一瞬生徒達に見える等、矛盾した反応を見せている。
2.改造刀のデメリット・・・
チート地味た武器ですが、前話までに挙げた物以外にもこのようなデメリットがある。まだまだ細かいデメリットがあるが、ここでは割愛。
3.丈槍由紀「
現実逃避をしているというよりも、精神が不安定な状態。
しかしもとより明るくて優しい性格なため「自分よりも精神が不安定な仲間がいる場合」の行動力はすごいと思う。
4.「そこにいるのね、るーちゃん。」・・・
ついに精神崩壊を迎えたりーさん。生徒会室の扉を開けようとする。
5.その数300人以上!大挙として巡ヶ丘高校に押し寄せる【奴ら】・・・
十数分間にわたって死の街に鳴り響く警報ベル。放送室から流れるような音量とは比較にならない。樅路は全て想定通りと言っているが・・・。
6.佐倉先生・・・
本作でどうしてもやりたかったことの1つ。めぐねえ生存の2次小説は多いですが、佐倉先生にしか出来ないこと。教師が生徒を戒める展開を作りたかったです。
ウォーキングデッドという作品の「リー・エヴェレット」というキャラクターと佐倉先生が重なり、ウォーキングデッドのような言動の選択をさせてみました。
佐倉先生が国語教師だったであることもこのような展開にした理由の1つです。状況に応じてどのような言葉を選び・会話をすればよいのかを佐倉慈先生に考えて生徒を導いて欲しかったのでこのような内容に。
りーさんには悪いとは思っていますが、佐倉先生が活躍する話を作れてよかったです。
7.ガララッ!!←教室のドアを開ける音
「「ヴァアアアア!!」」←【奴ら】の声
「「みゃああああ!?」」←2人の悲鳴・・・
本作ではコメディ:シリアスを50:50になるように考えておりますが、流石に数百人の【奴ら】が上がってくる状態でほのぼのな会話は入れにくいです。
それにしても、樅路と圭の関係が自分で作っていて面白いです。
8.何処かの病院にいたるーちゃん・・・
本作では漫画版の設定を採用。何故病院にいるのかは次回以降で。
生死不明
ネームプレートに血糊がついているということは病院も既に・・・。
11話では、ついに精神崩壊したりーさんをめぐねえと由紀が止める話でした。
胡桃は3階の物理実験室。
めぐねえ・由紀・悠里はその隣の生徒会室。
そして樅路と圭は2-Cを出たところです。
もう少しで合流出来ますが、3階には・・・。
細かい矛盾点等は本作設定ということでご了承ください。
誤字脱字や明らかな矛盾点等があれば、感想にてご指摘いただけると幸いです。
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突然変異種【ヴォミター】と込み上げる疑念
実はオリ主樅路恵の絵を描いてみようとか思って試行錯誤してました。
しかし私は絵が下手でとても小説投稿と一緒には出来ませんでした。
絵も次話も気長にお待ちください。
注:原作とは異なる設定があります。そこは独自設定としてご容赦ください。
SIDE 祠堂圭
「はぁはぁっ・・・!」
「大丈夫祠堂さん!?もうすぐ3階よ!」
わかっている!隠れていた2年B組から飛び出して、鉢合わせした【奴ら】2人を樅路さんが切り伏せ隙を見て中央階段を上り始めた。さっきの2人以外【奴ら】がいなかったのは幸運だった。
だけど【奴ら】と鉢合わせた時に、痛めていた左足がさらに痛みだした!
「っ!大丈夫です!行きましょう!」
だからって2階から3階への階段も半分以上上ってきているのだからこんな所で蹲っている場合じゃない!
「私は3階に残っている【奴ら】を倒して、理科室と生徒会室に籠城している皆を助けるわ!ゆっくり上ってきて!」
そういうと樅路さんは先に階段を駆け上がり、見えなくなってしまった。
(作戦じゃ「【奴ら】は警報音でおびき寄せたからいない」って言っていたのにどうして・・・?)
少し考えたけど階段をまだ登り切っていないことを思い出し、私は手すりを掴んで1段1段と階段を上り始めた。
「やっと安全地帯にたどり着いた」と完全に安心しきっていた。
今、私は1人なのだ。足も怪我をしている。
1人にされたなどと露ほどにも思わず、
3階にたどり着いた私は目の前の崩れたバリケードを超えようとしていた・・・。
「ヴァァアアァァヴゥ・・・」
SIDE 恵飛須沢胡桃
警報音が鳴りやんでから、あたしはすぐ廊下に出られるよう中央階段側のドアの前で待っていた。愛用のスコップを握りしめる。けど樅路さんの言葉が頭によぎって握っていた手の力を緩めた。
「もう戦わなくていい。」
その言葉を思い出すと肩から力が抜けて息を吐いた。
(そうだ、樅路さんと圭が来るまで気を張り続ける必要はないよな。生徒会室から大声も聞こえなくなったし、めぐねえと由紀がりーさんをなんとかしてくれたんだよな。)
相変わらず外は雷雨が激しく、時折雨が吹き込んでくる。廊下側の出入り口前で待っているから直接雨がかかることはないけど、窓が全て割れているから雨が容赦なく入ってくる。理科室のカーテンはほとんど樅路さんが2階の図書館に下りる時にロープ代わりに使ってしまっているからだ。まぁパンデミックが起きてから理科室は誰も使っていなかったし、【奴ら】に荒らされたままの状態だったから今更汚れようとかまわないのだけど・・・。
何気なく樅路さんが黒板に書いた数式を見た。【奴ら】の警報音が鳴り終わってから3階に到達するまでにかかる時間が数式で証明されている。樅路さんが【奴ら】に詳しすぎることも気にはなっていたけれど、冷静に思い返してみるとあたしは彼女に違和感を覚えた。
(どうして【奴ら】のことをあんな
【奴ら】について語る樅路さんは妙に生き生きとしていた気がする。「化学者」と樅路さんは言っていたけど、私達と同じ「パンデミックの被害者」ならもっと苦悶に満ちた表情で【奴ら】の危険性を語るはず。【奴ら】についていろんなことを知っていたこともあったけど、【奴ら】の急襲の対応や樅路さんの気さくな人柄、何よりめぐねえの双子の妹ということもあって彼女に気を許しすぎていたのかもしれない。
(やっぱり樅路さんってこのパンデミックの「被害者」じゃなくて
コンコンッ!
「っ!?も、樅路さん?」
「ええ、やっとついたわ。すぐに開けて頂戴。」
(外から樅路さんの声がした!本当に警報音で一時的にでもあんなにいた【奴ら】を校庭に誘導できたのか!?)
すぐにドアを開ける。そこにいたのは
「恵飛須沢さん、私が来たからにはもう大丈夫よ!」
こんな状況にも拘わらず
「・・・・・・・・。」
「恵飛須沢さんどうしたの?」
「い、いやなんでもない。・・・あれ?圭は一緒じゃないのか?」
「祠堂さんならあそこよ。」
廊下に出て樅路さんが指を指した方向を見る。中央階段の前に崩れたバリケードがあって、圭はそれを超えようとしているのが見えた。だけど足の怪我の影響なのか、乗り越えるのに苦労をしてるみたいだな。
「それよりも、恵飛須沢さんあっちを見て。」
「『それよりも』って・・・。【奴ら】まだ残ってたのか!?」
振り向くと反対側の生徒会室のドアを1人の【奴ら】がバンバンと叩いていた。生徒会室からは特に物音はしてなかったはずだけど、何であいつだけ残ってるんだ!?
「恵飛須沢さん気をつけて。あれはただの【奴ら】じゃないのよ。」
「『ただの【奴ら】』じゃないってどう違うんだ?他の【奴ら】と全く同じに見えるぞ?」
「【奴ら】は『ヴォミター』というのよ。まぁよく見ておいて。」
そういうと樅路さんは『ヴォミター』とかいう【奴ら】に近づいて行った。
(『ヴォミター』ってなんなんだよ・・・。着てる制服から考えてここの女子生徒ってことはわかるけど・・・。)
樅路さんの接近に気がついたのか、そいつもドアを叩くのを止めて樅路さんによろよろと近づきだした。
「アアアアァァァァァ・・・」
ゆっくり距離を狭めていく両者だったが、突然樅路さんが廊下の端に寄った。すると深緑色の液体が樅路さんがいた場所に飛び散り、廊下に落ちた瞬間に「ジュッ!」と不快な音を立てた。
(な、なんだよあれ!!?)
素早く『ヴォミター』の横に回り込み、改造刀で首を切断する。スイッチを入れていたのか、両断した『ヴォミター』の首と胴体が発火して崩れ落ちた。
「見ての通り『ヴォミター』は近づくと口から強酸性の嘔吐物を吐いてくるわ。もちろん服どころか皮膚も簡単に溶けるわよ。【奴ら】は300匹中2~3匹程の確率で突然変異するのよ。通常種と見分けがつきにくいから気をつけてね。」
「・・・・・・。」
【奴ら】の突然変異種『ヴォミター』・・・。「そんなのがいたのか」とか「何でそんなことまで知っているんだ」とか、言いたいことが沢山ある。だけど目の前で起きた脅威に平然と対処し、こともなげに笑顔で解説してくる。
(めぐねえと同じ笑顔で・・・、しかも元は人間の【奴ら】を虫みたいに・・・。)
「恵飛須沢さん、さっきからどこか上の空よ?【奴ら】が階段を上ってきているのよ!?」
「そ、そうだった!悪い、切り替える!」
(あたしのバカ!理科室で「今は考えない」と決めたばかりだろう!それどころじゃないんだ!切り替えな
「キャアアアアアア!!!」
「なっ!?」
「祠堂さん!!」
中央階段を見ると、バリケードを超えようとしている圭に【奴ら】が1人迫っていた!
「もう1匹いたの!?」
「くそっ!!」
考えるより早くバリケードに向かってあたしは走り出した。だけどとても間に合いそうにない!だが突然泣きながらこっちを見る圭が驚愕の表情に変わった!?
「伏せなさい!!」
その刹那、学校全体に乾いた音が響き渡った。恐る恐る圭のいたバリケードを見る。そこには、
その瞬間を目の当たりにし、へなへなと座り込む圭がいた。
後ろをゆっくり振り返る。
そこには普段めぐねえが絶対にしない鋭い目つきで本物の拳銃を向ける
SIDE 若狭悠里
佐倉先生の怪我の処置を終えて、私と由紀ちゃんは静かに生徒会室に籠城していた。何の音も立てていないのに何故か生徒会室のドアを叩き続ける【奴ら】はとても不気味だった。だけど私達にはどうすることも出来ないため、さっきまで気を失っている佐倉先生の怪我の処置を続けていた。
由紀ちゃんは佐倉先生の手を両手で握って見つめている。さっきまで取り乱していた私がいうのも何だけど、精神的に不安定だったのは寧ろ由紀ちゃんの方だったはずだ。しかも今日はいろんなことが起こって体力的にも限界なはずなのに・・・。だけど私のように取り乱したりしないし、私が生徒会室のドアを開けようとした時も精一杯私を止めようとしてくれていた。
佐倉先生は・・・あの時間違いなく自分の命と引き換えにしてでも私達を助けようしていたに違いない。樅路さんが来てくれていなければ確実に死んでいたでしょう。私が取り乱した時も、冷静に言葉を選んで私を引き留めてくれた。
由紀ちゃんも佐倉先生も、いや胡桃も怪しさ満点の樅路さんでさえ自分に出来ることを精一杯やっている。
(それに引き換え私は何やってるのかしら・・・。)
私が今回やったことといえば、佐倉先生の怪我の処置くらいだ。取り乱して皆の足を引っ張ってる場合じゃないのに・・・。だけどるーちゃんのことを思い出してしまった今、今までのように冷静でなんていられない。だってパンデミックが起きた10日前の朝、私はるーちゃんと途中まで一緒に登校していたのだから。そして交通事故に巻き込まれてるーちゃんは・・・その後私、は・・・・・
「キャアアアアアア!!!」
「えっ!」
「な、なにっ!?」
私も由紀ちゃんも、突然廊下から聞こえた悲鳴に驚いて生徒会室のドアを見た。いつの間にかドアを叩く音はしなくなっていた。すぐ近くから胡桃と樅路さんの声も聞こえたような・・・。
パァァァン!!
「っ!?りーさん今の音って・・・。」
「銃・・・声・・・?」
(いったい廊下で何が起こってるの!?廊下に出て確認したいけど、何が起こっているのかわからない今、安易にドアを開けるわけには・・・。)
とにかく何が起きてもいいように準備するよう由紀ちゃんに言おうとした時、ドアがドンドンと叩かれた。
「丈槍由紀、若狭さん!すぐにここを開けてバリケードを作るのを手伝って!」
「樅路さん!?由紀ちゃん行きましょう!」
「う、うん!」
ドアを開けると焦った様子の樅路さんがいた。廊下に出ると中央階段前のバリケードの前で胡桃が・・・誰かしら?しゃがんでいる女性生徒を揺さぶりつつ声をかけていた。
「いろいろ聞きたいことがあるでしょうけど、時間がないわ。皆でまず中央階段前のバリケードを作り直す!ついてきてちょうだい!」
樅路さんが後ろを振り返り廊下を駆け出すが、私も由紀ちゃんも動けずにいた。
「2人ともどうしたの!?」
ついてこない私達に気づいて、樅路さんが戻ってきた。明らかに苛ついているのがわかる。容姿どころか服や身に着けている物まで佐倉先生と同じ。そんな人が普段しないような表情で声を荒げている現実に私は【奴ら】以上に恐怖していたから。
だけど由紀ちゃんはそのことよりも床に落ちている物を凝視していた。
「これ・・・
樅路さんも私も廊下に落ちている血まみれのカチューシャを見た。今日まで3階に籠城していたけど、廊下にこんなものは落ちていなかった。それに横には何かが燃えたような跡も残っていた。これって・・・ん?
「今は
由紀ちゃんも私も弾かれるように樅路さんを見る。いつの間に状況がそんなひっ迫しているなんて思ってもみなかったわ!
「そこの廊下に跳ねているドロッとした液体には絶対に触れないで!強酸性のうえに感染するわよ!指示はバリケードを作りながら説明するわ!」
そう言うと返事を待たずにバリケードに向かって走りだした。由紀ちゃんもカチューシャをちらりと見たけど、すぐに樅路さんの後を追って走り出した。
この時、私はカチューシャとは別の物に気を引かれていた。廊下にはカチューシャの他に水鉄砲のような銃が落ちていたから。おそらく樅路さんの私物でこれも【奴ら】に対抗できる武器なのだろう。当然
『そんなもの後にしなさい!』
わかっています佐倉先生。この人は信用できない。
私は銃を拾うと2人の後を追った。
以下、補足・・・とおまけ
1.どんどん悪くなってゆく樅路恵への不信感・・・物語が進むにつれて化けの皮が剥がれていく彼女。【奴ら】についてあまりにも詳しすぎるうえに、改造刀や改造銃等の武器を彼女だけが所持していることも疑心を深める要因になっている。
2.突然変異種『ヴォミター』・・・正式名称は『Vomiter』で、意味は「ゲロを吐く人」。某バイオハザードゲームにて出てくるゾンビと似ているが、本作では独自設定有り。『ヴォミター』の詳細は次話以降で。
3.『ヴォミター』になってしまった南照子・・・変異種になったからなのか警報音が鳴っても意に介さず、何故か生徒会室のドアを叩き続けていた。中にいたのはいつも明るくて、でも何処か放っておけない同じクラスの親友であった・・・。樅路恵の手によってあっさり倒されたが【奴ら】になっても身に着けたままだったカチューシャだけは燃えずに残った。
4.本物の拳銃を撃った樅路恵・・・前話に「大きい音が出る武器を持っている」とありますが、この拳銃がそれにあたる。胡桃視点であり一瞬の出来事、さらに悠里SIDEにすぐ視点を変えた為、描写が少ないです。樅路の所持していた拳銃の詳細は次話以降にて。
5.胡桃、呼び方が樅路さん→樅路恵へ・・・樅路恵が校内に飛び込んできてから最も長く一緒にいたのが胡桃。廊下で一緒に【奴ら】と戦ったり、理科室で作戦を練りつつこれまでの話をしたりして、樅路とは高校に籠城していたメンバーの中で最もコミュニケーションがとれている。だが、さすがに拳銃を撃ったことまでは見過ごせなかったようだ。
6.るーちゃんが交通事故にあった日時の設定・・・原作でるーちゃんが交通事故にあっているようなのですが、原作ではパンデミック前だったようです。どういうわけか、私はパンデミック当日にるーちゃんが交通事故にあったと思い込んでいたためこのような展開となっています。「どうしてるーちゃんが病院にて生死不明の状態なのか」「一緒に登校していた若狭悠里が何故当日そのまま学校にいたのか」にもちゃんと理由を用意しております。(そうしないと自分で考えた設定の中で矛盾が起きてしまうため)
7.「てるちゃんのカチューシャ」・・・ろうかにおちていたカチューシャ。くらくてあかいよごれがついちゃってるけど、よくてるちゃんがつけていたカチューシャだったはず。どうしてろうかにおちていたんだろう?
8.苛立たしげに声を荒げる樅路・・・余裕が無くなってきたのか、思い通り(計算通り)に動かない由紀と悠里に対して、つい声を荒げてしまった樅路。今がどれほど危険な状況なのか立場故に最も理解しているからこその言動だったのだが、実はそれ以外にも理由があったりする。
9.若狭悠里の猛省と決心・・・皆が自分に出来ることを必死にやっている中、妹のことを考え続け、取り乱して【奴ら】でいっぱいの廊下に飛び出そうとまでした。それらのことを猛省し、最後に彼女は落ちていた改造銃を手に駆け出しました。奇しくも佐倉慈に「妹なんていない」と注意され、樅路恵の本性の片鱗を垣間見た悠里も、樅路恵を完全に警戒対象として見始める。
12話ではついに圭と樅路が籠城組と合流出来ましたね。しかし後2分で大量の【奴ら】が上ってきてしまう事態に。樅路恵への疑念が膨れ上がる中、彼女達はバリケードを作ることが出来るのか。次話を気長にお待ちください。
※ここまで読んで下さり誠にありがとうございます!m(__)m
ここで樅路さんから1つ問題を出すそうです。
問1.私が声を苛立たしげにあげてしまった理由はなんでしょうか?
(複数回答可です。是非感想に「これだ」と思う理由を書いてみてください!
決して感想がもっと欲しいから」とか邪なことは・・・ゴニョゴニョ)
出番がなかった佐倉先生「何この茶番劇・・・。」
悲劇のヒロイン・南照子「1つの答えのヒントは『音』らしいわよ。」
細かい矛盾点等は本作設定ということでご了承ください。
誤字脱字や明らかな矛盾点等があれば、感想にてご指摘いただけると幸いです。
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正体を明かして
話がここまで出来ていたのですがいろいろとありまして・・・。
短いですがどうぞ。
SIDE 樅路恵
ようやく3階に到着した私と祠堂さんだったが、私1人先行して安全確保をしようとした判断は間違っていた。恵飛須沢さんと合流しているだろうと確信していた変異種『ヴォミター』を倒せたところまでは良かった。しかし足を痛めている祠堂さんを1人にしてしまったのは私の軽率な判断ミスだった。『300匹中2~3匹が突然変異する』と実験結果で記憶はしていたが、だからこそ「いても1匹」、「もう1匹程いたとしても銃で即座に対処可能」と考えていた。実際この通り対処出来たのだから、計算通りの過程である。何より【奴ら】のことを最もよく知っているのは私だ。私がウイルス開発最高責任者なのだから。【奴ら】の行動など手に取るようにわかる。
しかし彼女達にとっては予期せぬ想定外の事象であったはずなのだ。作戦発案時、【奴ら】が3階に残っている可能性があること、突然変異『ヴォミター』のこと、本物の銃を持っていること等までは話さなかった。敢えて話さないことで余計な混乱を与えたくなかったし、この作戦を決行して皆を助けたかった。
この考えが完全に裏目に出た。どんなに事が上手く運んでいても銃を使ったのは失敗だった。簡単に相手を殺せる武器を私なんかが持っていたら猶更だ。
さらに銃を発砲したことで、聴覚が十数秒低下したことは完全にイレギュラーだった。耳栓も無しに強力な銃を発砲したら耳鳴りを起こすのは必然。その結果、意図せず丈槍由紀と若狭さんへの指示が大声になってしまった。こんなことに気づけなかった自分に対して感情を表に出してしまった。その結果
「皆、手を動かしながら聞いて!これからバリケードの再構築の作戦を説明するわ!」
「「「「・・・・・・。」」」」
この始末である。現在私達は中央階段前のバリケードを総出で直している。崩れた机と椅子を立たせて階段前に置く。まだ持っていたガムテープをペタペタ貼って固定する。5人で行っているため、計算通りにバリケードが出来上がっていくが空気が重たい。誰1人返事をしてくれない。
「・・・だけどその前に、あなた達に正直に言わなきゃならないことがあるわ。あなた達も訝しんでいるのでしょう。「この人はパンデミックについて何か関わっているんじゃないか」って。」
ゴクリ・・・
誰かの喉が鳴る。やっぱりそうよね。ここまで怪しすぎる化学者を疑わない方がおかしい。若狭さんなんて敵意を隠そうともせず、私を睨みつけてくる。
本当はバリケードを作成し終わって、3階と屋上の安全が確保出来次第話すつもりだったが、こうなっては仕方ない。
「「えっ!?」」
「最高・・・責任者!?」
「・・・
祠堂さんと恵飛須沢さんは普通に驚き、若狭さんは最高責任者のワードに反応する。
だけど丈槍由紀・・・「めぐにゃん」って・・・嬉しいけど・・・。
「皆言いたいことや聞きたいことが沢山あるはずだけど、1つだけ信じて欲しいの。」
「いいえ、信じません。」
全員が即答した彼女を見る。若狭悠里が改造銃を私に向けていた。
「お、おい悠里!今はそんなことしてる場合じゃないだろう!」
私と恵飛須沢さんが理科室に避難する前に【奴ら】と戦った際落とした私の改造銃。それを拾っていたのね。自身が武器を持っている恐怖からなのか、銃を握る両手が震えている。それでも目にははっきり私を否定する意思を感じた。
「胡桃先輩の言う通りです!見えてないんですか!?聞こえてないんですか!?もう【奴ら】がすぐそこまで来ているんですよ!!」
「アアアァァァァ・・・」
「ヴァアウウアアァァ・・・」
「ヴヴゥゥアアアォォォ・・・」
「改造銃の中身は【奴ら】に当てるだけで倒せる専用の液体が入っているわ。正直に話すと人間にも洒落にならないダメージを与えられる。」
ちらりと後ろ、階段を見る。既に【奴ら】の先頭は階段を2階と3階の折り返し地点まで上ってきていた。
(3階到達までの残り時間を修正。【奴ら】への対応策を変更。)
脳内で瞬時に全てを計算する。漏れがないようにもう1度再計算と趣味レーションを行う。・・・オールクリア!
「今更私のことを信じてなんて言わないわ。『あなた達に1番信じてもらいたいこと』それは・・・」
一旦息を吸って吐く。そして彼女達に1番信じてもらいたいことを訴えた。
「お姉ちゃんは何も知らない!あなた達の佐倉慈先生は正真正銘世界で1番信じられる教師よ!」
お姉ちゃんの名前が出てきて4人とも緊張が緩む。本当は『緊急避難マニュアル』のことがあるから、一概に何も知らないはずはないのだが、少なくとも私達のような加害者側ではないことだけは分かって欲しかった。
「それともう1つ。これは信じなくても結構よ。信じるのではなく証明するのだから。」
「証明?」
「もうそこまで来てるぞ!」
若狭さんが疑問を口にし、恵飛須沢さんが階段を見て叫ぶ。
「そうよ。ただしこの問題は机上の計算を実技で証明するわ!あなた達4人を必ず守り抜いてみせる!そう・・・」
床に倒れ伏した顔の弾けた【奴ら】の前に立ち、改造刀の電源を入れる。
今、私はどんな顔をしているのだろう。
決まっている。この知識を初めて誰かを守るために活かせる喜びと、実験が出来る私個人の性格が出ているのだから。
熱が籠った改造刀をグサリとうつ伏せに倒れている【奴ら】に笑顔でぶっさす!
「ひっ!」
「な、何してるんですか!?」
丈槍由紀の悲鳴も祠堂さんの声も無視し、5回、6回と改造刀をぶっさす。すると死体が勢いよく発火した。
死体が燃えていることもお構いなしにそれを両手で引っ掴むと、未完成のバリケードの上から、階段をのぼってきている先頭の【奴ら】にぶん投げた。
「ヴァアアアアア・・・!」
「グァアウウゥゥ・・・!」
結果、雪崩のように階段を上ろうとしていた【奴ら】が崩れ落ちていった。おまけに、重なった【奴ら】に火が燃えうつっていく。
「全員1度しか言わないからよく聞いて頂戴。さっきも言った通り私はパンデミックを引き起こした側の人間。でもだからこそ【奴ら】のことはよく知ってる。それを踏まえてあなた達が取れる行動は3つ。」
背後の4人を見ずにバリケードを作成しながら彼女達に選択肢を与える。
「1つ目はあなた達全員お姉ちゃんのいる生徒会室に閉じこもり、私1人で3階へのバリケードを作る。2つ目は私と協力してバリケードを作る。3つ目は私を無視してあなた達だけで作戦を練ってどうにかする。30秒以内に4人で決めなさい!」
机を積み終えた私は、ガムテープで机同士を固定し始めた。
若狭悠里 SIDE
3つの作戦を立案した裏切り者は、言うだけ言ってバリケードの作成を再開しだした。
「よし、時間がないから多数決で決めるぞ!ちなみに3つめの案はなしだ!最高責任者様より良い作戦なんて思い浮かばないからな!どんな結果になっても恨みっこなしだ!」
(胡桃も思う所があるのか、皮肉めいたことを言っているわね。まあ当然だけれど・・・)
「私は当然1つ目よ。だって「圭は?あたしは2つ目だ。」っ!?」
理由を言おうとしたら胡桃に遮られたうえに、あの人と協力する案を胡桃は選んだ!?
「私も2つ目の案がいいと思います。」
「あなたまでどうして!?犯罪者と協力するつもりなの!?」
「私は樅路さんに助けてもらってなかったら【奴ら】に殺されていたからです。それに今は犯罪者の手も借りたい状況だということが若狭先輩はまだわからないんですか!?」
この圭という娘は樅路恵に助けられてここまで来れたのね。なら彼女を信頼しているのも仕方ないのかもしれないわね・・・。
「由紀は?・・・おい、由紀!?」
私も圭さんも由紀ちゃんを見る。由紀ちゃんはただ職員室の方をじっと見つめていた。
「由紀ちゃんどうしたの!?」
「まさか【奴ら】が職員室にいるのか!?」
「わかんない。でも・・・職員室から何か聞こえない?」
由紀ちゃんに言われて皆で耳をそばだてる。
雨の音・・・、雷の音・・・、ガムテープを貼るあの人の音・・・、そして・・・
「プルルルルルルル♪」
SIDE樅路恵
大急ぎでガムテープで机を固定してバリケードを完成させた。ここ中央階段が最も【奴ら】が雪崩れ込む数が多いと断定出来るため、そのことを考慮すればまだ不十分。しかし・・・
(・・・これでしばらく時間は稼げそうね。)
机と椅子のバリケードの隙間から階段下の【奴ら】を覗き見る。2階と3階の折り返し付近まで転がり落ちた【奴ら】が燃えている。窓ガラスが割れていて外から雨が吹き込んでいるため、そう長くは燃えていないでしょうけど十分な時間を稼げるだろう。
「めぐにゃん!職員室の電話が鳴ってるよ!」
「電話・・・?まさかあいつっ!丈槍由紀、このバリケードの中に柚村貴依さんの机ってある!?」
「ふえっ!?えーちゃんの机ならここのバリケードを作った時に使ったけど、何かあるの?」
「この学校のエロ狸こと校長先生はそのきーちゃんが大好きな変態でね、小型カメラや盗聴器がついているのよ!とにかく職員室に行くわよ!」
後ろで「ええ!?」とか「校長先生が・・・」とか言ってる彼女達と一緒に、職員室に向かった。
職員室につくと室内をざっと見渡して【奴ら】がいないことを確認する。簡易的ではあるが、電話が鳴り続けている状態で反応しない【奴ら】はいないだろうという判断だ。
「祠堂さんはドアの鍵をかけた後、室内を警戒して!丈槍由紀、恵飛須沢さん、若狭さんはこの2つの教員机の下にキャスターがついてるのが見えるかしら?」
「ああ、もしかしてバリケードに使うのか?けど大きすぎて職員室からは出せないぞ。」
「そうよ。だからバリケードに使うのは諦めてたんですよ。」
「あのねあなたたち・・・。いや、今はいいわ。職員室のドアは誰でも取り外せるようになっているわ。3人でロックを外して入口近くまで寄せておいて。バリケードまで運んだら3階の安全を確保して生徒会室に戻りましょう。そこで全てを話すわ!」
「・・・わかりました。樅路さんを信じます。」
職員室に限らず、部屋に出入り口より大きな物を入れたい場合、室内で部品を組み立てたりドアを取り外し出来るようにしたり等、方法は沢山ある。ちなみにキャスターを校長に指示してつけさせたのは私である。緊急避難マニュアルにドアの外し方も記載したはずなんだけど・・・?
「めぐにゃん、電話出なくてもいいの?」
「出るわよ!はぁ、あいつとはあまり話したくないのよね。」
ため息を吐きながら校庭で【奴ら】になっていた佐藤教頭の机で鳴っている電話に出る。
「もしも「さっさと出んか!このシスコン狐がぁ!!」「はぁ!?何言っちゃってくれてんのこのエロ狸!!」
久しぶりに聞く同志(私と同じ加害者側という意味で)の声。いきなりの罵声につい言い返してしまった。
「シスコン狐のことじゃ!姉のために最新のワクチンも持ってきているじゃろ!?柚しゃんがっ!柚しゃんがっ!このままだと完全に【奴ら】になってしまう!!」
「柚しゃんって・・・まだあんた以外にも生き残りがいるの!?」
「おるぞ、神山先生もな!・・・ええと、樅路さん?」
「っ!?神山先生ですか!?いつも姉がお世話に
「いいからワクチン急いで持ってきてくれ!柚しゃんがっ!柚しゃんがっ!」
「「黙れエロ狸!」」
神山先生まで電話の向こうで怒鳴った。まぁあれと10日間も地下にいたら、そりゃ精神的にもきついでしょうね・・・。
「とにかくエロ狸!こっちもあまり時間がないのよ!警報ベルを使ったことで【奴ら】の大群が押し寄せてきてる!柚村さんの手当ては神山先生にさせるから、あんたは校内の【奴ら】を少しでも引き付けて!ご自慢のショットガンは持ってる!?」
「あるぞ!手りゅう弾もな!」
それは聞いてない
「・・・まぁいいわ。シャッターを開けて音で【奴ら】を引きつけて頂戴。危なくなったらシャッターを下ろして構わないわ。2分間耐えれる?」
「もちろんじゃ!!儂の柚しゃんを任せたぞ!」
あんたのものでもない
「神山先生聞こえますか?」
「聞こえてます。・・・あなたのことは校長から聞きました。」
「!」
「でも今は何も聞きません。柚村さんを助けてください。」
(エロ狸、私のことも含めて全部話したか。でも今は好都合だわ。さすがお姉ちゃんの先輩、今の状況を一番理解している。)
「こちらこそ。必ず柚村さんを助けます。まずは柚村さんの容体を教えてください。」
こうして事態が切迫するなか、電話越しに柚村さんの処置が始まった。
以下、補足・・・とおまけ
1.神代麒麟「私達の戦いはこれからだ!」
皆 「「「「「この裏切り者~!!!!」」」」」
神代先生の次回作にご期待ください!
細かい矛盾点等は本作設定ということでご了承ください。
誤字脱字や明らかな矛盾点等があれば、感想にてご指摘いただけると幸いです。
え?「打ち切りっぽいのに感想も何もない?」・・・。
【凍結】のままということで・・・。
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