ぬわああああん異世界勇者の相手するの疲れたぁぁんもおおおおん (輝く羊モドキ)
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異世界勇者は当然の如くチート持ち!

 来る日も来る日もチートチートチート……お前等人間共は本当にワンパターンだよなぁオラァ!!

 やれ『そなたは選ばれし勇者の~』だの、やれ『貴殿こそ我等人間族の希望の~』だの、次から次へと異世界からチート勇者呼び出しやがって。なにポンポンと厄災クラスのバケモン共をこの世に解き放ってんだアホか!!

 全属性魔法適性はもはや当たり前。物理攻撃無効や完全魔法耐性なんて序の口、酷い奴はダメージ完全反射って何だよ!?どうやって勝つんだそんなバケモンに!!

 

「そんなチート勇者相手に勝利を収める魔王様も大概だと思いますが」

「うっせ!」

 

 くっそ、こんな事なら召喚魔法なんぞ作らなければ良かった。なんなんだよあの人間共、何をどうやったら遠くから瞬時に物を呼びよせる魔法が異世界から生き物を引きずり落とす魔法に変わるんだよ。頭おかしいんじゃねえの?

 

「面白半分で、かの魔法大国の一大学院に召喚魔法を見せびらかしたからだと思いますが」

「うっせ!」

 

 だってあのクソ学院長が『魔王とか名ばかりだろプゲラwww悔しかったら完全オリジナル魔法でも作ってみろやwww』とか喧嘩売ってくるから仕方ないだろ!

 

「状態異常耐性あっても煽り耐性ゼロ魔王」

「うっせ!」

 

 火水土風に光闇属性以外の完全オリジナルとか無茶振りだろ!

 んな事はどうでも良いんだよ!問題は増え続けるチート勇者だ!

 

「いっその事、一定以上の魔法文明を持ってる国全て滅ぼしてしまえばいいのでは?」

「お前のその発想は何処から来るんだ!?」

 

 そんな事すれば永遠に人間族の敵になるだろうが怖ぇーよ!

 

「既に神敵扱いされていますし今更では?」

「うっせ!」

 

 ちょっと聖女って呼ばれてたメスガキに手を出しただけじゃん!神って奴は本当に器が小さいな!

 

「魔王様の粗末なモノ程ではないと思いますが」

「急に言葉の聖剣でざっくり切りかかってくるの止めてくれない!?」

 

 俺だって男なんだから!そういうのかなり気にしてるんだから!

 

「おや、気にしてるのは髪の毛の薄さだけでは無かったのですか」

「ハゲじゃねーし!?」

 

 ちょっとオールバックにした時にデコの広さに絶望を感じるだけだし!?朝起きた時に枕元にごっそり毛が落ちてた時に胸のあたりがキュってなるだけだし!?

 

「大丈夫ですよ魔王様、例え貴方の髪の毛程に部下からの人望も薄くても私は貴方に付き従いますから」

「別に髪薄いとは思ってねーし!?部下にめっちゃ慕われてるし!?」

「ついこの前、龍姫が勇者側に寝返ったのをお忘れで?ああ魔王様、その年で健忘症はあまりにも……」

「アレは俺の人望云々って言うより勇者のチート能力だろいい加減にしろ!つーかその勇者だよ!何なんだあいつ等次から次へと来る癖にどいつもこいつも俺等に対する敵愾心深すぎじゃねぇ!?」

「召喚された勇者たちは元々あたまがへいわなせかいで生まれ育ち、こちらの世界に召喚された際に得た能力による全能感から一種のトリップ状態に陥っていると予測されます。その時にこの世の不条理の責任が全て魔王様にあるかの様な説明を受けて、二つ返事で魔王討伐を了承するようです」

「急にヤク漬け状態の奴に死出の旅路の用意させるとか闇深すぎるだろ……怖っ」

「しかもヘタに力を持っている状態ですので何かしらのトラブルが起きた際に発生する事態は災害レベルですからね」

 

 その災害すらも全部魔王()の所為にされる訳かい。はいはいワシの所為ワシの所為。

 最近で言えば、火属性特化チート勇者による『擬似太陽異変』で帝国が滅んだり、モンスターテイム特化チート勇者が『ゴブリン王国』を建国し、異常繁殖したゴブリンが一時期人界の10分の1程の規模を支配するだけでなく魔界にまで溢れてきたり、支援特化チート勇者が聖公国を不死者の楽園(イモータルワールド)に変え、神の炎で大陸ごと消えた『神罰』の件もあったり……

 最近だけでこの規模とか人界もうじき滅びるだろjk……

 

「もしかして勇者って馬鹿なのではないか?」

「馬鹿王にでも察せる程とは余程ですね」

「今なんて?」

「魔王様は賢くお強いですねと言いました」

「おっおう、急に褒めるんじゃねえよ」

「……フッ」

「今何で鼻で笑った」

 

 というか人間共もなんで見えてる地雷を踏みに行くのか。と殺現場すら見たことのないクソガキにいきなり『魔族殺してきてちょ♥️』でパニックにならない訳がないだろ。

 

「1.召喚された勇者(笑)を既に完成されている破壊兵器程度にしか思っていなかった召喚者の怠慢。

 2.召喚された勇者(笑)に支配の魔法を掛けるも、生物を殺したショック程度で解除される召喚者の慢心。

 3.そもそもそんな事にまで気が回らない無能。

 のどれかだと思いますが」

「馬鹿なのはこの世界の人間族だったか……」

「そして馬鹿じゃない人間族に召喚された勇者がこの魔王城までやってくると」

「ざけんな」

 

 マジでふざけんな。この一ヶ月毎日の如くチート勇者が魔王城に攻め込んでくる上に、城下町なんてえげつない程に被害が甚大。既に一般市民は比較的安全な遠くの町に避難させているとは言え、勇者による理不尽な略奪から守る為に魔王軍の訓練兵すら防衛に当たらせざるをえない。しかもその戦闘によって死亡する兵の蘇生にも膨大な人員と魔力を割かなければならない。

 蘇生の魔法を使える奴を予め増員しておいてよかったと心底思う。じゃなけりゃ魔王たる俺までも前線で蘇生の魔法を使い続ける事になっていた。

 

「蘇生の魔法用の外付け魔力タンクを補充し続けるのと何が違うんです?」

「時間効率が違うだろいい加減にしろ!」

 

 誰が無限魔力タンクじゃボケぇ!最近じゃチート勇者の相手しながら魔力タンク補充してるけども!

 

「その上広範囲殲滅魔法用の防御結界、魔王城及び周囲の城下町内に直接転移するのを防ぐ防御結界、耐性を持った勇者以外を無力化する弱体化結界の維持管理。全く呆れる程に働きますね」

「そう思うんならもうちょっと労われ俺を!」

 

 どの結界魔法も未だに取得適正者が見つかってないオリジナル魔法だから必然的に俺が使わなければならないという。

 っかーつれーわー!かー!魔王の名に恥じないレベルで自在に魔法造り出せるとこれだからなー!っかー!

 

 勇者に殺される前に過労死するわタコ。

 

「魔王様、四天王が一、水迅から通信魔法が入りました」

「繋げ」

『魔王様ぁぁぁぁぁ!!ゆーしゃ、勇者が星落してあばうあー!』

「結界内なら死なん。勇者を結界内に入れないように適当にがんばれ」

『かしこまりぁああー!』

「叫ばんと通信できんのか……」

「魔王様、火雅から通信魔法が入りました」

『魔王様!勇者がなんかエラい軍勢引き連れてきたっス!オレの炎が一切効いてねえっス!』

「城下町の戦闘区画に引き入れろ。そこで火葬にでも何でもしてしまえ」

『了解っス!』

「『了解』は俺に使うなっていつも言ってるっス」

「魔王様。風理から通信が」

『まおーしゃーん!ゆーしゃがとんできましたー!』

「叩き落とせよ」

『あいしゃー』

「一々通信入れんな……」

「土虞からです」

『はぁい魔王様ぁ。勇者が地面から生えて来たんだけどぉ』

「埋め直しなさい」

『ゴーレムの具材にしちゃったから嫌よぉ』

「お前に至ってはなんで通信してきたんだよ」

「魔王様、勇者から通信が」

「勇者から!?」

『聞け魔王!これ以上無辜の民を傷つけるというのなら容赦は……』

「んな話耳にタコ出来るくらい聞いてんだよ!むしろ無辜の民傷つけてるのお前等量産型勇者!民家に押し入って壺やら箪笥やらの中身荒らし回ってるそうじゃねえか!」

『黙れ!それもこれもお前等魔王軍が……』

「そういうのも聞き飽きてんだよ魔族とモンスターの区別もつかない野蛮人共が!態々通信魔法使ってまで言うことか!」

『きさ』ブツッ

 

「……今日はもう寝ていいか?疲れたわ」

「よろしいのですか?既に勇者がこの部屋に続く階段の中程におりますが」

「それ一番先に報告するべきじゃないかなあ!?」

「魔王は此処かぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

「馬鹿みてえにうるせえ奴来た!」

「貴様が魔王か!!!!!!!聖女を奪い返しこの剣の錆にしてくれる死ね!!!!!!!」

「人格破綻のヤベー奴じゃねえか会話しろやせめて」

「魔王様も人格破綻のヤ」

 

ザ・ワールド!!

 

「貴様を切り捨てるのに9秒も要らん!!!!!!如何な防御もこの聖剣の前に紙に等しい!!!!!!そして我が異能、時止めと合わされば神すら敵では無いわ!!!!!」

「さっきからマジでうるせえよ自己主張激しすぎるだろこの勇者」

「な、馬鹿なっ!!!!!?なぜ止まった時の世界で動ける!!!!!?」

「時間止めてくる奴なんて初めてじゃねえからだよ言わせんな」

「くっ、だが止まった時間の中では魔法は使えまい!!!!!剣の腕で我に勝てまい!!!!!!」

「いや、普通に魔法使えるし。剣の腕もお前よりマシだわ」

「話が違うぞ女神ぃぃぃぃぃぃいいいいい!!!!!!!」

 

 うるさい口を聖剣(笑)ごと切り裂き、返す刀で止まった時ごと勇者を切り捨てた。

 

そして時は動き出す

 

「バい奴で……あれ、勇者は?」

「転移魔法失敗して壁の中にでも居るんじゃね?それよりお前さっきなんて言っ」

「魔王様、また勇者反応です」

「またかよ!?三将軍は何してんだ!?」

「勇者に殴り飛ばされて蘇生待ちの様ですね」

「あいつ等全員!?物理無効持ちもいたはずだが!?」

「なんか物理無効無効持ちみたいですよ」

「頭おかしいんじゃねえの!?何簡単に耐性突破してんだ!」

 

 次の瞬間、魔王の間の床がぶち抜かれた。

 床の破片が飛び散り、開いた大穴から一人の男が這い出てきた。

 

「……お前が魔王か」

「いやいやいや、破壊不能オブジェクトを平然と壊さないでくれませんかね」

「何言ってんだ?まあいい、お前自身に恨みは無いが……世界の平和の為に倒させてもらおう」

「うるせえ禿げ頭!お前等勇者が出しゃばらない方がよっぽど平和な世界だったわ」

「禿げっ……テメェ、人が気にしている事を!」

RP(ロールプレイング)だったら他所でやれ!俺等魔族を巻き込むな迷惑だ!」

「何をごちゃごちゃと訳の分からんことを!」

 

スキル:異能無効空間(ステゴロ)

 

「っ!コイツは……!」

「先手必勝!」

 

 禿げ頭の拳が迫る。咄嗟に肘で防御するが、ミシリと嫌な感覚を覚える。

 魔法が使えなくなっている。いや、魔法どころか魔族としての先天的なスキルすら使えなくなった。

 

「俺のスキル:異能無効空間(ステゴロ)はこのスキル以外のあらゆる魔法、スキルを無効化する。例え魔王とて魔法が使えなければただの人に過ぎないだろう?最後に頼れるのは結局己の肉体のみだ」

「……なるほど。これはしてやられた。まさかこんな方法で俺の防御結界を突破するとはな」

「魔王様。観察の結果、現在この魔王の間全体がそのスキルの範囲内の様です。城下町に張られている各種結界は現在無事な様子。ですが魔王様の魔力リンクが途切れてる現状早く対処しなければ最悪の事態になるかと」

「わかった。やはりお前の目は良いな」

「ふん、この俺に勝てるとでも?頭髪(すべて)を犠牲にして得たパワーの前に倒れるのはお前だ」

「勝つさ。俺を誰だと思っている?」

 

この世界の支配者。『魔王』だぞ?

 

「戯言を!喰らえ必殺マジシリーズ『マジ殴り』」

「だからそういうRP他所でやれって」

 

 禿げ頭の拳に対し、指を絡めるように回し、指関節、手首、肘、肩をクッションにして威力を完全に殺す。

 

「な、馬鹿な!?軽く触れただけで岩すら粉々にする圧倒的パワーだぞ!?」

「鍛えた魔族の身体は鋼鉄なんぞ遥かに凌ぐほどに強靭になる。知らなかったのか?」

 

 この世には通称『魔素』と呼ばれる物質群がある。魔族はその他種族と違って生まれながらにして体内に魔素を分解、吸収する器官が備わっており、魔力と呼ばれるエネルギーに変化する。魔力は魔法の元になるエネルギーだが、魔法以外にも使い道はある。その一つが身体の強靭化だ。身体を鍛える際、筋繊維一本一本に混ぜ合わせるように魔力を通す事でより強く変化する。ドワーフや巨人が人間より生まれつき力が強いのは、生まれつき筋繊維に魔力が通っているからだ。

 

異能無効空間(ステゴロ)なんつー御大層なスキル使ったところで結局地力が違うんだよ」

「ぐ、んぬぁああああ!!!」

 

 力任せに腕を振り回した所で、当たらなければなんてことは無い。

 

「お前、そのパワー任せで技術面のトレーニングなんて全然してなかったろ」

「黙れ黙れ黙れぇ!!!」

 

 もはやガキの喧嘩レベル。技も何もあったものじゃないテレフォンパンチに手を添えて真上に投げ飛ばす。腕を振るうベクトルがそのまま上に向かい、禿げ頭の身体が錐揉み回転しながら落ちてくる。

 落ちて来たタイミングに合わせ、掌を押し当てる。自身の腰から肩、肘、手首、指先にまで魔力を順番に、流れるように、それでいて閃光の様な速さで通す。

 

「魔導拳!」

「ぶがあああ!!!」

 

 禿げ頭の重心に直撃し、真横に吹き飛んでは魔王の間の壁をブチ破ってそのまま遥か遠くの山を越えて飛んで行った所まで見送った。

 

「……魔王様」

「なんだ。俺はもう今日は休む。もう勇者以外の事で呼ばないように。一日七勇者ってなんだよ、呼び過ぎだろくそ人間共が……」

「あの……」

「だからなんだって」

 

「『魔導拳』って、魔王様が考えたネーミングですか?」

「……は?」

 

「いや、だって『魔導拳』ですよ?なんですかその意味不明な技名。魔力使った拳なら『魔力拳』では?魔法使った拳なら『魔法拳』では?何処から『魔導』が生えて来たんですか?」

「……」

「なにちょっとカッコつけた言い方に変えてるんですか?そもそもそういった技名なんて一々声に出して恥ずかしくないんですか?なんで心の中だけに留めておかないんですか?それに……」

もう止めろよぉ!!別にいいだろ必殺技に名前付けたってよぉ!!ちょっとカッコつけた技名にしたっていいじゃねえかよぉ!!」

「いい年して未だに厨二病とか恥ずかしくないので?」

「いい年しては余計だちくしょう!!誰だこんな奴側近にした奴!」

「当時まだ幼かった聖女を拉致して光源氏した魔王様では?」

「『光源氏した』って何!?くっそ、こんなのに成長するとか聞いてないぞ!過去の俺何してんだ!」

「子供サイズの魔王様も成長しましたか?」

「マジで余計なお世話だドちくしょう!!」

 

 世界があらゆる意味で俺を殺しに来てるとしか思えない。

 

「さあ魔王様、今日もまだ始まったばかりです。この後は女神族の長が謁見を希望してますのでその対応、その後そのまま精霊族が一族全員引き連れて嘆願に来るのでその対応、巨人族の勇者が魔王と一騎打ちを希望してますのでその対応、それが済んでから昼食ですがその際に元帝国の第一王女から第四王女との会食、会食後ですが人狼族が魔王軍幹部待遇として扱うなら仲間になってやると調子に乗ってるので立場を解らせてやるのと新しいダンジョンの建設予定地の下見、その後魔王軍訓練施設に赴いて兵士達に激励の言葉をお願いします。夕食はその後ですがエルフ族との会食も兼ねてます。食事が終わったら入浴になりますがスライム族の女王と裸のお付き合いも兼ねてますのでそれまでに精を果たさない様お気を付けください」

「まてまてまてェ!!何その過密スケジュール!!何も聞いてねえんすけども!!」

「今言いましたので」

「そんなスケジュールなら事前に言っとけよ常識的に考えて!!え、何!?女神族の長が何だって!?精霊族!?巨人族の勇者と一騎打ちって言ったか!?その後なんか色々有ったな!?スライム族の女王!?」

「魔王様程の強さを持つ雄との子なら大抵の種族なら受け入れるかと」

「そういう事言ってんじゃねえよ!え、マジ!?マジなん!?マジなんなん!?過労死するってのが冗談じゃなくなってるんですが!?」

「大丈夫ですよ魔王様。蘇生の魔法は私も使えますので魔王様が過労死してもすぐに蘇生してあげますから」

「死んでも逃げられないッ!!!」

 

 ああ、こんな……こんな事になるなら世界征服なんぞしなければ良かったッ……!!

 

「あ、もし勇者が襲撃してきても今日の予定は一切ずらせませんので一瞬で処理してくださいね」

「魔王が心置きなく政務出来るようにしとけよ配下共ォ!!」

「無理でしょう」

「冷静かよ元聖女っ!!」

 

 

 

 今日も今日とて魔王は働く。この世界の支配者として。

 

「さあ魔王様、お伝えした予定以外にも当然いつもの書類仕事がありますのでさっさと処理してください」

「ちくしょうなんで世界征服してまでこんな事しなきゃならんのだァァァァ!!!」

 

 行け魔王!頑張れ魔王!世界の命運はお前の肩に掛かっている!!

 

『まおーしゃーん!りゅーおーがゆーしゃととんできましたー!』

「ちょっとは休ませろよおおおおおおおお!!!」

「あ、魔王様そこ計算ミスってますよ」

「なんで経理書類まで俺が処理しなきゃなんねえんだよおおおおおお!!!」

「しょうがないじゃないですか。魔族って基本的にINT低いんですからこういう計算出来ないんですから……」

「書類仕事出来る種族雇えよおおおおおお!!!」

『まおーしゃーん!りゅーおーがー!』

「だあああああもおおおおおお!!!」

 

 魔王の闘争の日々は続く!

 

「続いて堪るかこんな日々ぃぃぃ!!!」

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 そう、それは正に天啓とも呼べる発想だった。

 

「魔王、覚悟しろ!」

「覚悟するのは貴様だ、勇者!コレを見よ!」

「な、これは!?」

 

 異世界勇者の相手をするのに疲れた俺こと魔王は遂に現状を打破する方法を見つけたのだ。

 

「『回帰魔法発動条件表』……!?」

「それはお前が住んでいた元の世界に返す為に必要なモノをリストアップしてくれる魔法紙だ。さあ条件を読み上げろ勇者よ!」

「っ、元の世界に帰れるのか!!?」

「当たり前だ!こっちに召喚する魔法があれば送還する魔法もあって然るべきだと思わなかったのか?」

「だ、だが俺は魔王を……」

「よく考えろ勇者よ。突然断りもなく訳のわからない場所に無理矢理連れて来られて、しかも帰る事も出来ない上に無理難題を押し付ける。そんな奴等に果たす義理なんて無いとは思わないのか?」

「う、ぐぅ……」

「俺なら条件さえ整えばお前等異世界勇者を元の世界に戻す事が出来る。ならもう争う必要は無いと思うんだがな?」

「く、元の世界に帰す代わりに言う事を聞けと言うつもりか!」

「そうは言ってねえだろ。いいからその表を読み上げてみろっつーの」

「……」

 

座標 ■■.■■.××.××

必要LV 95

スキル 全属性耐性 魔法吸収 サイコキネシス

装備 女神の奉剣

 

「な、なんだこれは……!」

「お前の元の世界の座標……まあ転送魔法みたいなもんだ。そこに送るのに必要なお前のスキル、装備。要するにコッチの世界に来たときに得たチート能力、チート装備を捧げろってことだ。レベルは単純に転移する際に必要となる魂の強度だ。それ以下だと転移の衝撃に耐えられず死ぬぞ」

「俺のこのスキルを奪うつもりか!?」

「バカ、お前が住んでた世界にまでスキルを持っていく気か?必要ねえだろ普通に生きる分には」

「だ、だが……」

「スキルを捨てて元の世界に戻るか、この世界で死ぬまで過ごすか選べるだけいいと思うがな。レベルが足りないというのなら俺が『クエストブック』を渡してもいい。装備が手元にないなら同じ程度のレアリティの装備を天界からでも奪って来るんだな」

「……」

「考える時間が欲しいなら好きにしろ。俺はエルフよりも遥かに長生きする。但しこれ以上お前が暴れるのは許さん。その時はお前を排除する。……ま、賢い選択をすることを祈る」

「俺は……」

 

 

 

 

 

「いやーマジで発想の勝利だわー!!お天道様も想像しねえ、これ以上ないほどの解決策!俺、かしこ~い!!」

「魔王様……」

「毎日毎日うざったいほどに暴れる勇者(笑)は強制送還!多少話のわかる勇者(笑)は肉体労働に使うだけ使ってポイ!使える勇者は書類業務任せて、色々理由つけて終身雇用!俺はもう座ってるだけ!やー、一時はマジで魔王辞めて異世界にでも逃亡しようかと思ったが「は?」ナンデモナイデス」

「魔王様、確かに異世界から召喚された勇者を配下に置くその詐g……悪魔染みた発想力には心底けいべ……畏敬の念を隠しきれませんが」

「隠しきれてないのは本音では?」

「ともかく、その様に得た駒など使いこなせるのですか?腐ってもチート勇者ですよ?」

「既に勇者の性根が腐ってるからセーフ」

「そういうことを言っている訳ではないのですが」

「イッツジョーク、魔王ジョーク。HAHAHA」

「魔王様、ついに睡眠時間を削ってまで公務をすると言うのですか。嗚呼、私感動のあまり震えが止まりません」

「馬っ鹿お前これ以上仕事増やす気か!?」

「ジョークですよ」

「(その割には目は本気だったんだよなぁ)」

 

「ま、勇者の話に戻るが、話の通じない馬鹿にはとっととお帰り(命の保証は無い)頂くし、話のわかるやつは早く帰りたいからって俺に媚び売ってくるから扱いやすくて助かる」

「では有能な勇者は?終身雇用と言っても、帰りたがる勇者をどのように引き留めておくのですか?洗脳魔法なんて当たり前のように弾くじゃないですか」

「それなんだがな、ぶっちゃけ俺は特に何もしてないんだわ」

「はあ?」

「某勇者曰く『え!?一日8時間しか働かなくていいの!?しかも毎週二日休み固定で貰える!?オレもう此処に永久就職するわ』との事」

「……えーと?」

「『ああ、もう毎日終電から始発の間の4時間で風呂と万年床に寝転ぶ生活から解放されるのか』とか、『もうクソ上司に理不尽な怒りを受ける事も無い』とか、『味が……味がする……飯の味が……何年ぶりだろうか……』とか呟きながら号泣してたな」

「異世界怖ぁ……」

「まあ何呟こうが俺の代わりに書類仕事完璧にこなすならどうでもいいな」

「流石魔王様。その血も涙もない判断に脱帽致します。よ、冷血漢。人非人」

「え、何……お前が手放しに誉めるとか怖いんだが……」

「(もしかしなくても魔王様もINT低いのでは……?)」

『はぁい魔王様ぁ。ちょっといいかしらぁ?』

「ぁん?なんだ土虞か。通信魔法使うならちゃんと名乗ってからっていつも言ってるだろう」

『そんな事どぉでもいぃじゃないのぉ、それより緊急連絡よぉ。勇者が徒党を組んで魔王城に接近してきてるわぁ』

「なんだと!?」

「ど、どういう事でしょう。魔王様の策によって勇者は魔王様と敵対する意義がかなり薄いというのに……」

「……なんかガチで焦ってるお前って珍しいな」

「言ってる場合ですか!?」

「とりあえず土虞、ゴーレムで潰せるだけ潰しとけ!」

『それなんだけどねぇ魔王様ぁ、元聖女様ぁ。なぁんか勇者達の様子がおかしいのよぉ』

「様子だぁ?勇者の様子がマトモだったことが有ったか?」

「無いですね」

「よーし土虞、勇者らを叩き潰せ」

『ちょっとぉ、聖女様までソッチに回ったら抑えが効かないじゃないのぉ』

「聖女じゃなくて元聖女です。ソッチって何ですか」

『と、とにかくぅ、勇者たちの様子がおかしいのよぉ』

 

 

 

 

『なんかぁ、変な黒い服着て「正社員雇用希望」って書いてあるプラカードを持ってるのよぉ』

「「!?」」

 

 魔王の受難は続く!

 




平成最後に投稿するかぁ……

やっぱ令和最初の投稿にするかぁ……

意 志 薄 弱 羊

これだから無能作者はほんと……しかも令和になって結構時間たってるし。
仕方ないねゴールデンウィークだし。十連休だし。

なお作者にゴールデンウィークは無かったもよう。くそが。



・世界観
 世界にはものすごく大きく分けて三つの種族が居る。『人族』『魔族』『モンスター』
『人族』は魔素を分解・吸収する器官を持たない人型生物全般。
『魔族』は魔素を分解・吸収する器官を持つ知能生物全般。
『モンスター』は魔素を分解・吸収する器官を持つ『魔族』以外の生命体全般。
 魔族は知能を持ってモンスターは知能を持っていないと考えておk。女神族も魔族の一種。モンスターは本能のみで生きる。
 人族の中でも支配意識の高い『人間族』は世界の覇権を握りたいがために邪魔な魔王を消そうと色々してる。異世界から勇者を召喚するのもその一環。
 世界は『人界』『魔界』『天界』の三界に分かれており、比較的容易にそれぞれの界に行き来できる。三界以外の世界の事を異世界と呼んでいる。
天界
↑↓
人界
↑↓
魔界
の三層に分かれており、魔界には魔素が溢れているが天界には魔素は一切無い。人界は場所によって魔素が濃かったり薄かったりする。
 魔界ではあらゆる動植物がモンスターとなっている。モンスターは某勇者曰く『特殊調理食材』。調理するスキルを持っていなければ可食部は極僅かな上、モンスターは死ぬと約半日で『素材』以外は消えてしまう。そもそもモンスターに勝てなければ食べることも出来やしない。故に魔界では農業や畜産業がほぼ成り立たないので食糧危機。人界の食料が無ければ滅びの危機を迎える。
 魔界と人界では交易をしていた時代もあった。だが人間族が不当に関税をかけまくった所為で魔族の怒りを買い、人界は魔界の侵攻を受けてその大半が魔王軍に支配された。実質植民地。

・魔王
 勇者がチートなら魔王はバグ的存在。その強さで魔界を支配した唯一王。あらゆる種族の特性を持っている。ある意味合成素材。
 魔の王と名乗るだけあり、魔法において右に出る者はおらず保有魔力は無限。様々なオリジナル魔法を開発しては配下に覚えさせている。ただし開発したはいいものの自身以外に適正者が居ない魔法も多い。
 最近の悩みは暴走した勇者(笑)が荒らした国を復興する費用の捻出方法。

・人間族
 人族の中でも繁殖力に優れている、条件さえそろえばあらゆる異種族と交配できる種族の総称。厳密に言えば異世界から召喚される勇者とは異なる種族。
 自身で魔力を生成する力を持たないが、魔素を加工し魔法を扱う技術を持っている。

・女神族
 天界に棲息している精神寄生生命体。人界に生息する生命体の心に寄生して活動している。
 教会等に捕食用の分体を潜ませ、主に信仰心を食べている。その際、より強い信仰心を生み出すために信者に幻覚を見せる事もある。
 人間族が異世界から勇者を召喚する際、必ず天界を通る。その時に発生するエネルギーを女神族が加工し、勇者の魂に入れる事によって所謂チート能力を勇者が得る事になる。つまり異世界チート勇者は女神族の悪ふざけによって生まれた。

・勇者
 元々は女神族では無い、本物の『神』の祝福を受けた者及び『神』の代行者としての役割を与えられた者がそう呼ばれる。異世界からひっきりなしに召喚される者は正確には勇者では無い。
 異世界勇者は『召喚される際落ちる感覚を味わった』と口をそろえて言う。これは勇者召喚魔法の元となった遠くから瞬時に物を呼びよせる魔法の特性をそのまま引き継いでいるから。物体を右から左に1メートル動かすより上から下に1メートル落とす方が遥かに労力が少ないのと一緒。
召喚の際同じ高度の世界座標から呼ぶより、高い高度の世界座標から呼ぶ方が必要魔力が遥かに低く、世界間を落下するエネルギーが女神族によって加工されチート勇者になる。結果的には万々歳。

・聖女
 女神族の分体の中でも特に力を持っている存在。
 天界に本体が存在する女神族が人界の様子を調べるために自由に動き回れるほどに多くのエネルギーと時間を注いで作られた人型生命体。要するに女神族が作ったアンドロイド。
 数多の人間に接触することで直接信仰心を吸い上げることが出来るのだが、余りにも力を込めて作ってしまったがために替えの利かない程に高コストとなった上に今は魔王によって攫われて魔界に居るために完全に女神族から切り離されている。
 現在は、元々埋め込まれていた擬似人格『聖女の理性』の上に魔界の魔素によって半分モンスターとなった意識『本能の欲望』が組み込まれて、精神は普通の人間と変わらない。

 魔王が寝ている間にこっそり髪をカットして毛を撒いておくくらいにはおちゃめ。


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魔王軍は高給料でやりがいのある、アットホームな職場です!

名も無き一読者 様 前話の誤字報告ありがとうございました。


・レベル
 魂の強度。強い相手を倒したり、困難を達成したりすることによって上昇する。
 魂が強ければ比例して肉体も強くなる。さらにレベルが高ければ高い程スキルを獲得しやすくなり、蘇生の成功確率が上がる。
 生物が死んだ場合、肉体から魂が剥離し魔界の最奥にある輪廻の沼と呼ばれる場所に移動する。完全に移動しきる前に死んだ肉体の再生が完了し、魂を呼び戻し定着させる儀式を終えることが出来れば蘇生することが可能となる。ただしこの場合、脳損傷による死者の記憶の欠落やレベルの低下等のデメリットがある。
 魔王が開発した蘇生の魔法はレベルが一定以下だと効果が発動しないが、魂から肉体を再構成するのでデメリットが無いチート。

・クエストブック
 神が勇者を鍛える為に作ったとされるマジックアイテム。中に書かれているアイテムを捧げたりモンスターを討伐することでより早くレベルを上げる事が出来るらしい。

・精霊族
主に天界に生息している。魔法を使う種族と契約と呼ばれる共生をすることによって活動している。



「特技は?」

「イオナズンです」

「要らん!次ィ!」

「えー、御社をー志望した理由はー、経営理念にー共感をー」

「長い却下!次ィ!」

「採用してくれなきゃここを毒沼に沈めますよ」

「危険思想勇者(笑)は強制送還よー!「ちょ」はい次ィ!!」

 

 来る日も来る日も面接面接面接……お前等勇者共は本当にワンパターンだよなぁオラァ!!

 使えねえ特技!INT低そうな自己アピール!チートスキルを笠に着た脅迫!もーウンザリじゃボケェ!!!

 

「全属性魔法適性持ちです!」

「魔族は大体全属性適性持ちだ馬鹿垂れ!召喚魔法適性か瞬身系スキル備えてから来やがれ!労働施設(タコ部屋)行き!」

「そんなー!」

「次ィ!」

「全能力カンスト!」

「元帝国の歴代国家元首初代から順番に全てフルネームで答えよ!」

「えっ、はっ……!?」

「カンストしても元のオツムが悪くて使い物にならん!労働施設(タコ部屋)行き!」

「はっ……えええええ!!!」

 

 こんなんばっかりだあーもう!!元帝国国家元首の名前が言えなくて書類仕事も大使も出来るかっ!

 

「次ィ!」

「ふっ……ふふっ……ふふふふふふ」

「陰キャはお呼びじゃねえ!」

「ふぅっ!?ふぁ、あ、あのえーと……」

「『ステータス開示』っ!」

「ふひあっ!?」

 

 Nicra

AGE 19 ♀

▼動かないドールマスター

LV.12

HP 50 MP 6700

STR 8 DEX 999

INT 999 LUK 5

スキル:状態異常耐性 魔法耐性 魔力補給 精神統一 多重詠唱 分割思考 魔力糸

◆土妖精ノーラの関心

 

「ふ、ふぇっ!?ななななんでステータス画面がっ!?」

「……おいネクラァ!」

「に、ニクラでしゅっ!」

「お前元の世界に帰りたいか!?」

「……ふぇ?」

「帰りたいかって聞いてんだよ!」

「きゃ……帰りたくないでつ!」

「採用ぉ!」

 

「……ふあ?」

「採用っつってんだよ!今からスグ土虞のとこでレベル上げつつ『高速思考』と『精密操作』、『遠見』に準じるスキルの取得!平行してこの業務マニュアルと基本知識辞典の読破!特に基本知識辞典の魔法大国基礎知識の項は全文ソラで言えるくらいに脳に叩き込め!」

「ふふぁ、ファァァァッ!!?」

「全部完了したらお前専用の自室を支給してやる、好きに改装しろ!労働時間以外の空き時間は()立図書館の甲種閲覧許可証で好きなだけ本を読むもよし!娯楽施設の異世界産のゲームで遊ぶも良し!必要なモノは申請が通り次第支給してやる!質問はあるか!?」

「ふへぁ!?え、えぅ、えと、おぅ、お給料は……」

「お前専用の自室を支給するまでは月に金貨2枚分!支給後は金貨5枚、ただしノルマ未達成は絶対に許さん!」

「き、きんかごまい……あふぅ」

「他に質問はあるか!?無ければすぐに土虞の所に行け!」

「ふぁ!?かかかかかひこまりまひたっ!!」

「あっ、待て。最後に一つ言うことがある」

「ふあぃ……?」

 

「ニクラ、お前には期待している。お前なら出来る。だから頑張れよ」

「ぅぁ……ひゃい///」

 

 パタパタと跳ぶ様に駆けてゆくニクラから視界を外し、小休止を入れる。

 

「……くくく、ふふふ、ふはははは!!これで4人目だ!吹いている!風が!俺に!やはり俺、天才かッ!!」

「なにをアホな事言ってるんですか魔王様」

「なんだ聖女。お前の割り振りはもう終わったのか」

「ですから元聖女です。やはり3時間で100人もの勇者(笑)を相手にして脳味噌腐りやがりましたか」

「なんか急にスレてないかお前」

「別にそんな事は御座いませんわ。私というものがありながら乳臭い小娘4人を抱き込んだ魔王様には感服致します」

「なにお前、そんな嫉妬するようなキャラじゃなかっただろ」

「は、はあ!?嫉妬!?元とはいえ聖女の私が嫉妬なんてする筈無いですし!?」

「じゃあヤキモチか」

「意味変わらないでしょう!?大体何故あんな勇者(笑)な奴等を雇用する事に決めたんですか!?能力値だけなら他にもマシな奴が居たでしょう!?顔か!?乳か!?乳採用なのか!?」

「僻んでんじゃねえよまな板聖女」

「あーりーまーすー!美しいラインのおっぱいがちゃんとあーりーまーすー!美乳ですー!」

「微乳の間違いだろ盛ってんじゃねえよ乳だけに。お前寄せて上げるブラ使ってソレって知ってんだぞ」

「何で知ってんだテメェ殺すぞ」

「イマドキ冒険者でもそこまで口悪くねえよ」

 

閑話休題

 

「それで魔王様。魔王様の言う通りに勇者を二つのグループに分けましたが……なんの意味があったんですか?」

「単純に採用、不採用の分水嶺だ」

「滅茶苦茶重要な事じゃないですか!?あんなチンケな魔道具だけでそんな事が解かるんですか!?」

「チンケって……あそこまで単純な構造にするのに苦労したんだが……」

「勇者(笑)に振りかざしただけで赤とか緑とかに変わる魔道具の何処に苦労したって言うんですか」

「だからその赤とか緑とかに変わる所だろうが。アレは一目で勇者のステータスの種類を判別することが出来る優れモノだぞ」

「……え、なんて?」

「だから勇者のステータスの種類を判別するモノだって」

「ちょ、ちょーっと待ってください。ステータスってアレですよね。『神のギフト』とも呼ばれる最も身近な神秘で、究極の個人情報でもあるアレですよね……?」

「ふーん……(無関心)」

「いやなんですかその興味なさげな相槌は!?魔王様貴方他人のステータスに触れることは禁忌だと知らないんですか!?過去に他人のステータスを暴こうとした者がどんな罰を受けたかご存じないと!?」

「どんな罰受けたかとか知らねえわ。唯一天教の信者じゃねえし」

「貴方創造神様舐めとりやがりますですか!?」

「なんでお前そんな過剰反応を……ああ、そう言えばお前元とはいえ聖女だったわ」

「ええそうですよ!元とはいえ唯一天教団の聖女ですよ!とは言っても信仰を捨てたつもりは無いですが!?」

「良かったじゃん。今日の事で教団から破門されて、名実共に元聖女だ」

 

 ああああああ!!!とかつてない程に大声で取り乱す元聖女。よく分からんが教義的に他人のステータスを暴くことはNGらしい。

 

「まあそんな事はどうでも良いんだ」

「そんな事!?」

「俺が言ったのはあくまでもステータスの『種類』だ。そもそも『ステータス』ってどんなものか知ってるか?」

そんな事……『ステータス』とは創造神及びそこに連なる神からの贈り物であり、広い世界の中で神が興味を持った相手を見失わないようにする目印でもあるという説が最も有力です。当然、神が興味を持つほどに優れた者でなければ『ステータス』を得ることは無いと言っても良いでしょう」

「では何故勇者(笑)が『ステータス』を得ている?()()()()()が神の興味を引くとは到底思えないな」

「う……それは……えーっと……」

「答えは簡単。勇者(笑)が召喚される際にニセモンのステータスを貼っつけられるからだ」

「え……ニセモノ?」

「お前は知らないだろうが、遥か昔『ステータス偽造の魔法』が人間族の偉そうな奴等を中心に流行った事がある。人間族至上主義で見栄っ張りな王族(アホ)の考えそうな事だわな。『ステータス』が神の関心を得ている証明になるならそれを偽造するなんてな」

「そんな事が……」

「まあ今となってはほぼ失われた魔法だな、俺もわざわざ復活させる程に興味なんて無いし。んで、その失われた魔法が今になって戻ってくる訳だ。悪ふざけの好きな女神族によってな」

「女神族……この前謁見に来た……」

「もう来ることはねえだろ。んな事はいい、とにかく異世界から勇者が召喚される時に勇者を適当に強化する訳だが、何を思ったか女神族がテキトーに数値を弄ったステータスを勇者に張り付ける。勇者大喜び、召喚者大喜び、女神悪戯成功で大喜び。アホらしいな全く」

 

「話が逸れまくったが漸く本題に戻ろうか。あの魔道具は『ステータス』と『偽ステータス』を判別することが出来る、種類を判別するってのはそういう事だ。まあ、俺なら2~3秒で本物のステータス持ちかそうじゃないか見ただけで分かるがなにぶんあの数だからな」

「そ、そういう事ですか……いや、待ってください。結局それで分ける意味はあるんですか?」

「あるさ。『偽ステータス』には信憑性は無いが本物にはある。何より神に目をつけられる位には優秀だという証拠だからな」

「なるほど確かにそうで……いや、なにステータスを暴く前提で話してるんですか?まさか勇者相手にステータスを見せろと言うつもりですか?バk「『ステータス開示』!」は」

 

 Sugarwaffle,Applepie,Layercake,Icecream,Eclair

AGE 28 ♀

▼魔王が好きすぎる元聖女

LV.75

HP 1850 MP -

STR 650 DEX 373

INT 562 LUK 450

特性:天眼

スキル:信仰の地lv.EX 賢者の頭脳lv.EX 愛lv.EX 魔王探知

◆魔神の祝福

 

「は、え、えっ!?」

「これが元聖女のステータスか」

「っ!?見るな!見ないで!」

「うん、まあ……うん」

 

 

「ツッコミどころ多すぎて何から言えばいいのやら」

「忘れろォォォォ!!!」

 

 閑話休題

◆シュガーワッフル・アップルパイ・レイヤーケーキ・アイスクリーム・エクレア 略してサリア

 信仰の地:貴方の居る場所こそがサンクチュアリ。物理・魔法・状態異常耐性 味方ステータス100%上昇 範囲内オートリジェネ 確率で敵性行為無効化

 賢者の頭脳:考える事において右に出る者は無し。神速思考 未来予測 無詠唱 魔法再生 魔力無尽蔵吸収

 愛:誰かを常に思い続けている。特定の相手に対し特効

 

「魔道具が緑に変わった勇者グループは講堂に、赤に変わったグループは最上階の星見の間に移動している最中です」

「そうか。なら先に緑のグループから対処するか」

「……一応聞きますが、あの大勢の勇者たちを一網打尽にするつもりですか?中には危機察知スキルを持った勇者も居るのに無謀では?」

「なぜ?」

「それは……もしあの数の勇者が一気に暴れ出したら幾ら魔王様でも対処することは不可能です。約100人は居るのですよ?」

「なら話は簡単だ。()()()()()()()()()()()()()()()()

「というと?」

「魔王城には万が一の際にシェルターとして使える場所が多いのはお前も知っているだろう」

「勿論です。勇者が頻繁に攻め込んでくる昨今、蘇生できない(レベルの低い)非戦闘員が逃げ込める場所を魔王様と一緒に沢山作ったのは私ですし」

「この講堂もその一種だが、かなり特別でな。壁は破壊不能オブジェクト、扉は金剛鋼製。だがその真髄は完全密室にした際に異空間に繋ぐことが出来る、部屋全体が転送魔法陣となる仕組みだ」

「え、さらっと言ってますが普通に凄い技術では……?」

「頑張った!」

「アッハイ」

「転送先の異空間に非常用食料や水があるが数は限られている。あの人数で長期間異空間に滞在することは想定してない作りだからな、そう遠くなく奴等は仲間割れして食料を奪い合う。そうして衰弱した所で送還魔法でポイよ」

「思った以上にエグイ方法だった。というか貴重では無いとはいえ折角の人的資源(ドレイ)候補をそんな簡単に捨ててよいのですか?」

 

既に10人程度で手一杯なのに50人も100人も要りません!

確かに!

 

「勇者問題が解決すれば他に急いで解決しなきゃいけない問題が有るでもなし。便利な土木作業員(のうきん)が数人いればそれで良い」

「書類仕事も数人で回せばかなり楽になりますからね」(高速思考・多重思考前提の量)

「更に何らかのトラブル対応用に大国専属の勇者をつければ俺の仕事は実質100分の1程度。期限ギリギリの書類と緊急事態に同時に対処するために魔力と精神力を削る必要もないお……」

「時を止める癖に大袈裟な……」

「最近は特に時を止めている時間より時を巻き戻す時間の方が多いお……」

「巻き戻……ええっ……?」

「昨日一日だけで1歳歳をとったお……」

「何故もっと早く言わなかったのですか!?」

「言えるわけないだろ。ただでさえ俺に回って来るはずの書類をお前にかなり処理してもらっている上にそんな情けないこと言えるか」

「っ、し、知っていたのですか……」

「当たり前だバカモン。俺に隠れてコソコソしたかったら魔界の外でするんだな」

「……」

「まっ、勇者共が仕事できるようになったらお互いに時間とれるだろ。そんときゃー一緒にデートにでも行くか?」

「っ!し、仕方ないですね!魔王様のストレスたまりすぎて爆散されても困りますし!たまにはストレス解消に付き合ってあげなくもないですが!」

「たまにでいいのか?」

「っ!っ!」

 

 照れ隠しに殴ってくる元聖女。だが素のSTR()は俺より高く地味どころじゃなく痛いので止めれ。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

「昔々、創造神の下に集まった神々が、今で言う人界を支配するのに相応しい種族を各々が造って比べ合ったッス。ま、デザインコンペみたいなモンッス。何やかんやあってそのコンペに優勝した種族が『人間族』ッス。でも人間族以外にも優秀賞を貰った種族はそれぞれ天界・人界・魔界で繁栄する事が許されたッス。それが一般の歴史書で言う『生命創造』と呼ばれる出来事ッス。そして同時に人間族が最も優れているという『人間族至上主義』も発生したッス。ま、神に選ばれた種族って事でチョーシに乗った訳ッスね。今現在では既に神に見放されている事を棚に上げて、『世界を支配すべきなのは我々人間族だ』っつー考えであの手この手で魔王様に歯向かって来るッス。あんた等みたいな勇者召喚もその一環ッス」

「あー。それでエルフ族とか龍族とか勇者達(わたしたち)に非協力的だったのかー」

「ッス。ただ人界には魔王様の支配を望まない種族もそこそこの数いるッスから、そういうたぐいは比較的勇者に協力的ッス。ま、自分たちの人的被害は皆無で適度に援助してやれば勝手に敵を倒しに行くんスから勇者を排除する意味もないッスからねー。ちなみにエルフ族・龍族・悪魔族・精霊族・魔王様は『生命創造』の時に優秀賞を貰った種族で、今でも比較的自由に天界・人界・魔界に行き来することが許されている種族ッス」

「エルフ・龍・悪魔・精霊にしれっと並んでる魔王に顔中草まみれやで」

「ででででも、めぎゃみしゃまはかにゃりの頻度で人界にくりゅって言ってたしゅお?」

「なんて言ってるか分からんッス」

「ふぇ!?」

「女神はかなりの頻度で人界に来るって言ってる」

「可笑しくねー?女神族はコンペで優秀賞貰ってねーじゃん」

「おかしくねッス。だって女神族は悪魔族の亜種ッスから。エルフ族に対するダークエルフみたいなモンッス」

「ふぉ!?」

「悪魔族は魔界の濃い魔素に適応した結果、魔素と僅かな食糧だけで生命活動を維持する事が出来るように進化したッス。その代わり魔素が薄い所だと体調不良を起こしたり、場合によっては死に至るッス。故に人界に出るためには生命活動を一旦止めた霊体になるか、所謂『契約』という形で常に魔素を供給されてなきゃいけない訳っすね。女神族は常に生命活動を止めた霊体のままで行動する事に特化した種族ッス。その結果魔素が要らなくなったッスが、生命活動が止まっているということは成長も繁殖活動も何も出来ねッス。その為に人界の生命体に寄生する形で生命活動を行うッス。進化の過程で全く違う種族になったとも言えるッスが、元は一緒ッス。あと気質的に悪戯好きって所も変わらないッス」

「女神族って勝手に『神』って名乗ってるけどダイジョブなんか?」

「大丈夫も何も、勝手に神を名乗ったくらいで一々腹を立てるほど神は狭量でも無ければ、そんな事気にもとめてないッス。そもそも創造神及びその一派の事を我々は便宜上『神』と呼称してるッスけど実際に神々が自分たちの事をなんと呼んでるかも知らねッス。故に本当にどーでもいいんじゃねーッスかね?」

「草」

「というか、人間族は何かと神を信仰したがるッスけど神がこの世界に何かをすることなんて本当に数えるほどしかないッスよ?さっき言った『生命創造』と『勇者選定』、あとは世界が自然修復不可能な程にブッ壊れた時に元に戻す『終焉シナリオ』くらいなモンっすかね」

「名前が物騒すぎて草ァ!」

「生命創造はさっき聞いたけどー、勇者選定と終焉シナリオって何ー?」

「勇者選定っつのは、この世界がブッ壊れかねない問題(トラブル)が起きる時にその問題を解決する者を決める事ッス。終焉シナリオはその勇者が解決に失敗した際に、世界を完全にブッ壊して作りなおす事らしいッス」

「雑ゥ!」

「何故神がその問題(トラブル)とやらを解決しない」

「んー。例えばッスけど、ボトルシップって知ってるッスか?あの作るのクソ難しいアレッス。ボトルシップがこの世界、作り手が神ッス。それくらいのサイズ感があるって考えるッス。作りかけのボトルシップの中にデカい虫が入り込んだッス。それを何とかしようにも力加減を間違えたらボトルシップが壊れるッス。ならどうするか、ボトルシップに入り込めて虫を何とかできる存在を創ることで解決しようと神は考えたッス。それでもどうしようもなければ諦めて全部壊してでも虫を追い出すッス」

「きゃ、きゃみがきょの世界で力をふりゅうにはきょのせきゃいはちぃしゃしゅぎうってことですか?」

「ん?ん?何言ってるかわかんねッスけどそうッス」

「なんか放置ゲームみたいだなーこの世界」

「ステータスなんて物あって今更では」

「オレからすりゃこの世界は魔王様がプレイヤーの内政シミュレーションゲームなんスけどね」

 

「かがー!まおーしゃんがよんでるー!」

「ふぉ!?ふぉおぉおぉぉぉおおぉおぉ!!?きゃわわわわわわ……」

「ん?なにーこいつー?」

「風理ッスか。何の用で呼んでるかは聞いたッスか?」

「おー?おー……わしゅれたー!」

「伝令やめたらいいんじゃないッスか?」

「やだー!」

 

「ネクラ勇者ぁ?そろそろ休憩時間は終わりよぉ?」

「ひょ!?でででででもまままままだ勉強時間では」

「貴方INT高いんだから勉強なんて死にかけながらでも出来るでしょぉ?魔王様の事もあるし、今日中にレベル50にあげるわよぉ」

「あ”あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”!や”た”ぁ”ぁ”ぁ”!」

 

「(汚い高音)」

「……ニクラの奴何をあんな嫌がってんだー?」

「ニクラは土虞の監修の元、スワンプゴーレムに浸かりながら無限湧きアンデッドゴーレムと戦わせられるらしい」

「アwンwデwッwドwゴwーwレwムwwwあの臭くてキモくてグロい奴ですなwww」

「内臓と血管そのままみたいな見た目のアレかー。キツイなー」

 

「それも輪廻の沼の中で」

「」

「」

 

「え、あの……地獄という言葉でも生ぬるいあそこで?」

「あの居るだけでもSAN値直葬されるような怨嗟の声が大音量で聞こえるあそこで?」

「あの目の前で死者が何度も死に続ける場面を見せられ続けるあそこで」

「……」

「……」

 

「あたい今度ニクラに会った時甘いモンでも奢るわー」

「拙者のフィンガーテクでマッサージを施すでゴザル」

「良い抱き枕買う」

「悪いと思うなら君らのクエストブックをニクラちゃんに渡せばー?」

「それで代わりに輪廻の沼でレベリング?ハハッワロス……」

 

「……水迅……」

「様をつけろよボンクラ新入社員(下っ端)共♪」

「何の用」

「用がなきゃ会いに来ちゃダメかーい?」

「キャラじゃないでしょう」

「はっはー。会ってまだ一日も経ってないのにボクのキャラを把握できるんだー?」

「私達はまだ勉強時間。レベル上げはまだ先」

「リ、リル殿……このお方は……?」

「おやぁ~?ワタシを知らない~?」

「……魔王直属の侵略兵団、四天王の水迅。またの名を『水神スライム』」

「っ!?嘗て人界一の国土を持っていた山の国を沈めたってーあの……!?」

「ぷるぷるっ!ボクは悪いスライムだよ!気軽にスイ様って呼んでね!」

「スwラwイwムwwwRPGゲームではド定番のザコモンスターですz」

「んん?今あっし等スライム族の事をなんて言ったザコ勇者?」

「ガッ!ゴボッ!!」

「ヒッカちゃん!?」

「んっんー?魔族の中でもかなり古い種族であるオレらスライム族を?ザコって言った?モンスターって言った?んん~?」

「ゴボボッ!」

「す、水迅、様……どうかお怒りをおさめください」

「黙れゴミムシ。魔王様に気に入られたからって調子乗ってんじゃねえよ。ブッ殺してやろうか、あぁ?」

 

「すいじーん!だめー!」

「風理?ボクの邪魔をするのかい?」

「するー!だってこいつらまおーしゃんのてしただからー!まおーしゃんのきょかなくしょぶんしちゃーめっなのー!」

「……チッ、それもそうだな。おいボケ勇者、これくらいで勘弁してやる。だが次は無いですわよ?それではごきげんよう」

「おいゆーしゃ!おまえらまおーしゃんのやくにたたないならそんざいかちないからなー!さっさとつかえるよーになるのー!」

「ゴホッ、ゴホッ……」

「わかったらさっさとべんきょーするの!へんじ―!?」

「わ、わかったでゴザル……」

「……了解」

「頑張りまーす……」

 

 

 

「……ホワイト魔王城かと思ったら人材ブラックだった件」

「あたい達無事に暮らせるのかな……」

「勇者として24時間国にこき使われるよりマシと思うべき」

 

「あ”あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”た”す”け”て”え”え”え”ぇ”ぇ”ぇ”!」

 




続いちゃった♡


・ステータス
 別名『神のギフト』お歳暮ではない。
神「お、なんか面白そうな作品やんけ。お気に入り登録しとこ」
的なノリで生命体につけられる。
 ステータス画面は誰でも見る事が出来るが、ステータス画面を表示することは本人しか出来ない、筈だった。
 唯一天教ではこのステータス画面を無理矢理表示させる事はNG。教皇からの遺憾の意砲発動不可避。
 表示される項目は、名前、年齢、性別、異名、レベル、HP、MP、STR、DEX、INT、LUK、特性、スキル、他の存在との紐づけ。
 名前、年齢、性別、レベルはスキル:看破及びそれに類するスキル等で見る事は出来るが、それ以外の情報は見る事は出来ない。
 異名とは神目線からその人物を見た時の印象。ツイッターのハッシュタグみたいなモノ。
 HPは体力を示す。攻撃を受ければ減るし、全力で走っても減る。0になったらすぐに死ぬと言う訳ではない。
 MPは魔法力を示す。主に魔法を使う事で消費する。0になると発狂する。魔族の場合はMPが尽きると死ぬ。
 STRは主に肉体的な強さを表す。STRが高ければ力が強く頑強になり、持久力も高い。
 DEXは主に器用さを表す。DEXが高ければ精密な動作が可能になるが、だからと言って訓練せずに右手と左手で全く違う絵が突然描けるようになったりするわけではない。
 INTは主に精神的な強さを表す。INTが高ければ理解力や記憶力が良くなり、魔法の威力や軽減率も上昇する。だからと言って突然天動説から地動説に切り替えることが出来ると言う訳でも無い。
 LUKは周囲に与える影響力を表す。高ければ所謂『運が良い』事が起きやすい。カリスマ性のある人物はLUKが高い。だからと言ってニコポナデポがいきなり通用する訳でも無い。
 スキルは魂に刻まれた異能。特性は肉体で覚えた特殊な技術。
 他の存在との紐付けは、主に悪魔族や精霊族との契約によって発生する。該当のステータスに補正が掛かったり、スキルが使えるようになる。稀に契約をせずとも他の存在と紐付けられることもある。
 一般的な人間族のステータス
AGE 25 ♂
▼(異名)
LV.10
HP 100 MP 100
STR 10 DEX 10
INT 10 LUK 10
◆(他の存在との紐付け)

・貨幣
 昔は各国で独自の貨幣が流通していたが、魔王軍が世界征服をした際に統一された。
 金貨、粒金、銀貨、粒銀、銅貨、粒銅と種類がある。名前は各国で流通していた貨幣の名残で、本物の金、銀、銅が使われているわけではない。
 金貨一枚約10万円。粒金一枚約1万円。銀貨一枚約1000円。粒銀一枚約100円。銅貨一枚約10円。粒銅一枚約1円。
 金本位制度ではなく管理通貨制度が採用されている。無論管理者は魔王。
 通貨の偽造は犯罪だが、バレなければ不問と公的に認めている。但し通貨全てには偽造防止魔法が掛けられ、不正使用が判明した際には一年以上に渡って持ち主を遡ることができる記録魔法も掛けられている上にあらゆる店で偽造通貨探知魔道具の常設が義務付けられている。偽造させる気ねえなさては。

・ニクラ
 魔法大国のデイリー召喚によって呼ばれた元ニート。かつての名前は奪われ、奴隷のようにコキ使われていた。スイカ。
 得意技は大量の小型ゴーレムを使ったゴリ押し。

・ヒッカ・ビッキー
 聖公国のデイリー召喚によって呼ばれた元学生。名前を奪われて、聖公国の勇者兼生きた魔力タンクとして使われていた。メロン。
 魔法力を使い潰され発狂する。魔界に捨てられたが、スキル:魔法再生によって言動がおかしい程度に回復する。
 戦闘スタイルは『鉄鎖の魔法』で相手を拘束し、バフで自身を強化して殴るバトルメイジスタイル。一対一なら実質強い。

・リル
 元帝国の十連ガ……召喚によって呼ばれた元社会人(黒)。名前を奪われ以下略。晩白柚。
 必殺技は『氷結の魔法』で敵を凍らし、『爆破の魔法』で粉々に砕く『フリーズボム』。

・ラナ・ドレイク
 野良召喚士のピックアップガチャ召喚で呼ばれた元看護師。支配の魔法で云々。リンゴ。
 死んでなければ大丈夫なヒーラー。強力なバフ、デバフを使いこなすソーサラーでもある。

・元聖女
 ブドウ(誇大表現)

・水迅
 スライム族最強の戦士。四天王一強い。たゆん。
 スライム族は全身が脳ミソ兼筋肉兼内臓なのでデカければデカいほど強く賢い。更に環境適応能力も高く、様々な場所で活動できる。
 強いスライム族ほど強力な魔法耐性を持っている上に強靭なので物理耐性も高い。
 パニックになると口調が溶け、魔王の前だとポンコツになる。

・火雅
 精霊族の中でも火を司る分野のトップ。魔王軍の中でも、魔王に次いで長く生きている。男の娘。
 魔法制御は四天王一。特に火属性魔法は山一つ焼き尽くす大火力から絨毯を焦がすことなく抜け毛だけ燃やす小火力まで自在。
 精霊族には寿命という概念は無く、何らかの要因で死んだ場合新たに別の存在が生まれる。

・風理
 『大厄災』の二つ名を持つハーピィ族の女王。四天王の中でもっとも若い。ゆさっ。
 風属性複合魔法の威力は非常に高く、スキル:魔法無効あるいは属性完全耐性を持っていない者は削り殺される。
 ハーピィ族は話すことが得意ではなく、記憶力も低いため舌っ足らずな子供と会話しているかのような印象になる。
 特技は複合魔法『火焔旋風』『霰吹雪』『槍突風』『晴嵐』。闇属性は得意ではないが使えないこともない。

・土虞
 悪魔族と人間族のハーフ、魔女族の王女。ぽよん。
 土属性と闇属性特化型。二つ名は『コフィンゴーレムの魔女』
 意思無きモノを支配し、地形ごと敵を粉砕する豪快さと、敵の死体をそのまま利用し敵を恐慌状態に陥れる残虐さで魔王軍の世界征服に大きく貢献した。普段はペットの猫を可愛がっている。自称猫吸いマイスター。

・元聖女
 無っ。(無慈悲)


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魔族も人族もみんな友達!ただしモンスターと勇者(笑)、テメーらは駄目だ!

羊に感想を与えるととても喜びます。
羊に評価を与えるとすごく喜びます。

W・W 様 前話の誤字報告ありがとうございました。

・モンスター
 身体の大部分を魔素で構成されている生命体。総じて知能は低く、昆虫程度の知能しかない。
 人族が見た目だけで魔族とモンスターを見分けるのはかなり難しい。何故ならどう見ても人型なのにモンスターな種族が居たり、どう見ても植物なのに世間話が可能な程知能を持っている種族が居るから。ただ魔族なら同じ魔族かモンスターかの判別は可能。日本人が中国人、韓国人、日本人を見分けられるみたいなモン。日本人がガーナ人、エジプト人、ケニア人を見分けられないみたいなモン。

・ダンジョン
 元々は魔王軍が人界を侵略する際に作った戦闘拠点。悪魔族等が活躍しやすくするために魔界から濃密な魔素が吹き出る構造。
 魔王軍が人界を制覇した際にダンジョンは一時放棄されたが、濃密な魔素が絶え間なく吹き出る所為でモンスターが大量発生した。だが人界に元々棲息していたボウケンシャなる不可思議生命体が好き好んでダンジョンに大量発生したモンスターを狩りに狩っては狩り尽くし、得た素材を売却することで大金持ちになった。
 その事に目をつけた魔王は人界に放置されていたダンジョンを再整備、遊園地染みたアトラクションに改装した所大当たり。大盛況の大混雑、連日連夜ボウケンシャが通い詰めては内部から大量の素材を抱えて帰ってくる。戦争が終わった事で一気に冷え込んだ経済がV字回復。素材を基に作ったポーションはボウケンシャが買い占め、素材を基に作った武具はボウケンシャが買い占め、ポーションや武具に使えない様な素材も嗜好品に加工したり、丈夫な建材として使えたりと使い道は多岐にわたる。果てはダンジョンを中心に町が出来たり、新たな雇用の場が出来上がった。
 ここぞとばかりに魔王が資金を投資しダンジョン町を更に開拓。次々とボウケンシャ以外の種族も移り住み、現在では巨大交易都市になるまで成長した。
 広い人界に点在するダンジョンはその全てが魔王によって再度整備され、ボウケンシャ達の一攫千金夢の舞台と変化した。そのボウケンシャ相手にする商売も次々と都市に来るようになり、素材を加工する職人も次々移り住んでは多くの弟子を育てるようになった。

・ボウケンシャ
 魔王軍が世界征服を成す前から存在した命知らず共。元々は未開の地を切り開く者の事を指していたが、魔王が世界を征服した後、主にモンスター討伐を生業とする者をボウケンシャと言う様になった。
 主な生息場所は世界各地にあるダンジョン都市。稀に人界や魔界の未開の地に出没する。好物は一狩り終えた後の酒。


「ぼ、ボーケンシャソーゴキョーリョクカイ?」

『そー、冒険者相互協力会。所謂ギルドってやつですよー』

 

 勇者共を雇用し暫くの時間が経った。多少時間は掛かったものの、俺が実際想定していた以上に時間をかける事無く雇用した勇者共は使えるようになった。

 既にそれぞれが大国で起きたトラブルに対し迅速かつ正確に対応できるようになり、書類仕事もほぼ全てを処理する事もでき、俺に回ってくる書類は嘗ての千分の一、世界の支配者としての俺の意思決定を必要とする書類のみとなった。素晴らしい。

 これによって俺の仕事は十分の一程度にまで減ったのだ。

 

 ……書類が千分の一なのに対し俺の仕事はまだ十分の一残ってるのかとか思う。いや、前みたいに一日フルで時間止めて、更に時間を戻してまた一日フルで時間を止めるみたいな事をする必要も無くなったから楽になったと言えばそうなんだがな……。世界征服してから時間を止めなかった日が無いぞ未だに……。

 

「いや、異世界からの言語で言われても困るんだが。お前等勇者共の言う所謂ってこっちの世界じゃ通じねえから」

『むー。まあそんな事はどーでもいいですー。ともかく、今ダンジョン都市は盛りに盛って昼も夜も大盛況ー。加工職人も輸送商人も毎日てんやわんやで嬉しい悲鳴が止まらないと苦情が来るくらいですー』

 

 大きく仕事が減ったとはいえ、逆に増えた仕事もある。それが各地からの報告だ。今はラナ・ドレイクによるダンジョン都市の全般報告を聞いている。

 

「良い事じゃねえか。職人は造りたいモンを好きに作れるだけの素材が大量にある。商人は稼ぐチャンスが次から次に降り注ぐ。何が不満だ」

『ソレですねー』

「どれですねー?」

『ダンジョンの出入りに税を掛けてるとはいえ、結局は冒険者たちは好き勝手にダンジョンに入っては好き勝手にモンスターを狩って帰ってくる訳ですからねー。時たまモンスターの素材がかなり偏ったりするんですよー』

「はぁん。それで?」

『ですからー、職人さんが欲しい素材があったとしてもー、冒険者がその素材を持ってこないと作れないじゃないですかー』

「んなもん時の運だろ」

『そーなんですけどねー。ここで業突張りの商人が出張る訳ですねー』

「なんで」

『魔王様は色んな事に精通してますけどー、人間の欲望にどこまでも正直になれる所までは流石に理解が及ばないみたいですねー』

「ディスってんのかおい」

『いやー、そういう訳じゃないですー、魔王様のそういう所大好きー。ま、本題に入りますねー。職人さんは素材が欲しいから色んな商人に当たる訳ですよー。それで強欲な商人はその素材が流通する前に買い占めちゃうんですねー。そうして独占した後、その職人さんに売りつける訳ですよー、法外な値段で』

「……普通買うか?法外な値段で?」

『普通はそうなんですがね。職人さんは普通じゃない人ばっかなんで、破産するのが頭では分かっていても一度造りたいと思ったら我慢できなくなるみたいでしてー。それで莫大な借金を抱え込んだ職人さんが首が回らなくなって夜逃げしたり、自身を身売りしたり、家族を身売りしたり、酷いのになると一家心中……みたいなー』

「……大問題じゃねえかぃ」

『あ、分かりますー?あたいの所に報告が上がってきた頃には既に判明してるだけで3%の職人及びその家族が行方不明、5%の職人が吊っちゃったみたいでしてー』

「大問題じゃねえか!」

『そこで最初の話ですよー。まー名前はともかく、魔王様名義の公的な機関が仲介に入ることで商人による素材の独占を防ぎ、職人さんに適正価格で販売するって寸法ですー。場合によっては職人さんから依頼を受けて冒険者に仲介する事も出来るようにしますー。そうすれば必要な素材が何時まで経っても入荷されないって事もないですねー?』

「……なるほど。最初は何言ってんだこのアホとか思って悪かったな」

『そんな事思ってたんですかー?』

「許せ。ともかくその冒険者相互協力会の概要は理解できた。企画書をすぐに作成して提出しろ」

『えへへー、理解が早くてとっても助かりますー。そう言うと思って既に企画書は通信中に作ってましたよー。転送しますー』

「そっちこそ理解が早くて助かる。よし、届いたぞ。企画書を読んでるから詳細を伝えろ」

『かしこまりましたー。冒険者相互協力会、以後ギルドといいますー。ギルド設営に当たってですがダンジョン都市の中央搭にそのまま追加する形でギルド本部を作れば良いと考えますー。それとダンジョンに入る冒険者から徴収する税金はギルド運営に一括して纏めるべきですー。正直ダンジョン入口で税金徴収するのは非効率と思ってますー』

「それは俺も思っていた。具体的にはどうするつもりだ?」

『電子マネー決済方式を採用しましょー』

「で、でんしまねー?」

『企画書にギルドカード云々ってありますでしょー?そこにも概要は書いてますがー、冒険者って基本的に決まった住居を持ってないんですー。言い換えればほぼ常に全財産を持ち運んでる訳ですー。まあ土地とか家財道具とかは、生活スタイル的に不要だからそーなるんですがー。いくら金貨が小さく持ち運びに優れると言っても限度はありますー。そ、こ、でー……ギルドカードに所持金の情報を魔法なりなんなりで登録しちゃうんですー。ダンジョンに入る際には所持金の情報から税金分を自動で差っ引いちゃうんですー。ギルドからの報酬金の受け取りは所持金の情報に追加しちゃうんですー。どーです?便利そうでしょー?』

「……凄いな、目から鱗とはこの事か。なるほど……貨幣の信用さえあればブツ自体を無くすことも可能か……。これなら前から陳情のあった貨幣の問題が完全に無くなる。ただの金属だとスライム族は大量に持ち運べないと前から言われてたし、小さすぎると巨人族が使いづらい、かといって大きいと妖精族がそもそも持てない。……全部解決だ。ギルドカード自体も企画書だと白金製だが必要な魔法さえ刻めれば木製だろうが紙製だろうが……ギルドカードもカード型である必要は無いんじゃないか?それこそ身体の一部に魔法を直接刻み込むことでも実現出来そうだ。魔法耐性のある種族はそれこそカード型でも良いだろうし……」

『魔王様ー?』

「ラナ・ドレイク!」

『は、はーい?』

「よくやった!お手柄だぞ!褒賞を与える!俺に出来る事なら何でも叶えてやろう!」

『な、何でも!?』

「ああ!お前はそれほど凄いアイデアを出した!さあ何でも言うがいい!」

『な、何でもー?いいのー?本当にいいのー?じゃ、じゃーあー……魔王様と……デーt「魔王様。そろそろ定例会議の時間です」

「ん?、もうそんな時間になったか。ドレイク!褒賞の内容はまた今度聞くから考えとけよ!それと企画書にサインをしておいた!全ダンジョン都市にギルドの設営を許可する!ついでに業突張りの商人をリストアップしておいてくれ!」

『ぅ~……かしこまりました魔王様ー。明日の正午までには全ダンジョン都市にギルド本部が出来てると思いますー……それでは失礼しますー……』

 

 ブン。と通信魔法が切れる音が響く。

 にしてもダンジョン都市……魔王軍の資金繰りの一環で設営したが、もはやこの世界に無くてはならない程に巨大に成長した正に経済の核であり文化の核でもある重要拠点だ。当然その核を担う冒険者も職人も商人も重要である……が。

 

「今回の件は些か目に余るなぁ……!」

 

 血の気の多い冒険者が暴れるのは大目に見てやる。職人が開発した新技術が各地で文明格差を生み出す程度なら笑って許してやる。商人が多少の暴利で稼いでも目こぼししてやる。

 だが、死者が出るのは戴けない。

 

「元聖女。冒険者が一般人を殺傷した場合の刑罰は?」

「利き腕の剥奪、及び意図せず殺害した場合は蘇生した被害者の報復行為を受ける義務。意図した殺害の場合更にアンデッドになり200年奉仕活動です」

「無許可の殺傷兵器の製造及び販売を行った場合は?」

「両手指の剥奪。大量破壊兵器及びそれに類する物の場合該当種族の平均寿命の50%相当の懲役刑です」

「上限金利を超過した金利分を取り立てた場合は?」

「財産全ての没収。特に悪質なものと認められた場合は該当のドラゴンの心臓あるいは同等額の支払い義務が生じます」

 

 今回の件は既存の刑罰では処罰できない、うまく法の穴を突いた方法だと褒めてやろう。だが、それだけだ。

 

「元聖女、この世界での最高裁は誰だ?」

「魔王様です」

「法律を定めるのは誰だ?」

「魔王様です」

「統治するのは誰だ?」

「魔王様です」

「ならば俺の意志一つで新たな法を定め、それを犯す者に裁きを与える事は可能か?」

「勿論、世界は魔王様の名の下に支配されおります故」

 

 三権分立?権力の集中?知った事か!俺が気に入らないから処罰する。その事に口出しする奴は俺がこの手で消してやろう。

 

「寄生し奪おうと躍起になる、小賢しいだけの屑共め。商い人を名乗ることすら不愉快だ」

「ダンジョン都市全てを一時的に封鎖しておきます。明日の昼食会前には解除されるでしょう」

「よくやった。ラナ・ドレイクからリストが届き次第処刑を実行する。いつでも予定をずらせるように準備しておけ」

「かしこまりました」

「さて、定例会議だったな。今日の議題はなんだ?」

「人界の北極圏に発生した超大型モンスター、通称『レヴィアタン』の討伐隊の編成及び支援金の割り振り。それと遠征路の設定ですね」

「……1時間で全部決まるか?」

「その為に魔王様が参加するのですよ」

「また俺の貴重な1時間が削られるのか……」

「私の1時間も削られているのをお忘れなく」

 

「「……ハァ」」

 

「魔王様、間もなく会議の開始時間です。会議場所は北方王国の大会議場です」

「あぁー、マジで会議出たくねぇー。北極圏に直で移動出来れば俺が直接叩いてくるのによぉ……」

「先遣隊の情報通りならあらゆる攻撃を軽減し1ダメージしか与えられず、HPも異常な程高いことから少数よりも大人数で袋叩きにした方が効率的でしょう。計算上魔王様一人が絶え間なく攻撃し続けた場合、5日間で討伐できますが魔王様を5日間も一か所に拘束できませんので」

「魔王軍動員出来ればなぁ」

「極地に適応出来る者達はほとんど居ませんからね……」

 

 グダグダとしながら転移魔法の準備を終える。

 

「あと10秒で開始時間です」

「あぁー……あのクソ王共全員死んでねえかな……」

「そんな一大事魔王様の耳に入らない訳無いでしょうに」

 

 刹那、景色が一気に変わる。

 荘厳な石作りの世界に、趣味の悪い垂れ幕、垂れ幕以上に趣味の悪い会議用円卓。そして趣味の悪い衣服を身に纏った会議の参加者達。無意味に金や宝石が散りばめられた、実際に使われることなんて一切想定されてない椅子に座りながら軽く見回して会議の参加者が全員揃ってるかを確認する。

 一通り見回した直後会議室の扉が開き、一人の男がズンズンと歩いて唯一空いていた椅子に座った。

 

「いやぁ遅れた!まあそれもこれも我に用意された部屋が狭く小汚い上に迎えの一つも寄越さない北方王国の気の利かない無能さが原因な「黙れ」は」

 

 俺は座ったまま召喚した剣を振るい、30メートル程離れた位置に居たその男の首だけを斬る。

 俺が首を斬り終わると同時に元聖女がその男の首を手元に召喚し、『不死の魔法』を掛けた。

 

「は?な、え?」

「やあ初めまして。お前は確か諸島帝国の代表だったな。お前は魔王たるこの俺の貴重な数秒を無駄に出来るほど偉いようだ」

「あ、首?は。我の、身体、は」

「お前のその素晴らしい態度に免じて、明日以降に発行される地図全てから諸島帝国の名を消そう。ああ、なに気にするな。俺の部下にはそういう事が得意な者が居る。お前は何もしなくていい」

「は、く、あ、ああああああああああああああ!!!!」

 

 元聖女が『静音の魔法』を掛け、首を元あった位置に戻した。

 

「ああ、気を付けるように。あまり大きく暴れると首がくっつかないうちにまたもげるぞ。さて全員揃った事だし会議を始めようか」

「前回の最後に伝えた通り、今回の議題は北極圏に発生した大型モンスター『レヴィアタン』の討伐隊の結成、討伐隊支援金の負担割り振り。遠征路の設定です。レヴィアタンの性質上、召喚勇者を使った少数精鋭は無意味です。『一般歩兵』以上の能力を持った戦闘部隊、救護や補給等の後方支援部隊。その他戦線を維持するのに必要な雑事云々合わせ、人間族換算で約5万人が今回必要な人員数であるとの試算が出ました」

『ご、5万人……!』ザワ

『そんなにも強大なモンスターなのか……!』ザワ

「なお今回の討伐隊に魔王軍は一切参戦しない」

「なっ、そんな!余りにも惨すぎます!かの大型モンスターが暴れでもしたら我が国は終わりだ!」

 

 俺の言葉に対し、席を立って喚く偉そうな赤衣の男……現在レヴィアタンに最も近い国の王だったな。情報通りなら確かに暴れでもしたら真っ先に滅びるだろうよ。

 

「だからなんだ?」

「なぁっ!?」

「人界のど真ん中にでも現れりゃ話は別だが、ヤツが出現した場所は北極圏。魔界に多少影響はあれど、大きな被害を受けることは無い。輸入品だって代替可能なモノばかりだ。故に無理してまで討伐する必要は何処にもない。だがこうして定例会議の議題にしてやってるのは、人界に広く影響があると予測されるからだ。そもそも奴の存在が確認されてからかなり時間が経つが未だに活動らしい活動はしていないだろう。重要度も緊急度も低い、なのにこうして会議に俺が参加しているだけありがたいと思え」

「くぅ……」

「言いたい事は終わりか?ならとっとと話を進めるぞ。レヴィアタン討伐に必要なのはとにかく頭数だ。各国代表はそれぞれ配備可能な人員数を述べろ」

 

 俺が世界を征服してから、近隣諸国との小競り合いはあっても大きな戦争はほぼ無くなった。戦争なんてする余裕が無い上にそんな事しようものなら俺が国家元首を挿げ替えるからな。……まあとはいえ、軍事力が完全に無いと外交上不利になるのは言うまでも無いからどの国も軍事縮小をしても完全に捨てては無い。俺が世界征服する前なら大抵の国なら5万程度なら用意できただろう。

 ま、その軍勢を遥か遠くの北極圏に遠征に出せるかどうかは別問題だろうがな。

 

「森の国、我等エルフ族の精強なる戦士達約2000人配備可能。北極圏でも我等なら独自で半月は行動可能と見ている」

天の国、我が龍族の民1000人配備可能である!北極圏を征くのであれば役に立つぞ!5万でも10万でも我等なら余裕をもって寒さから守ってやろう!ガハハハハハ!!

「砂の国、オーク族6000、ドワーフ族1000配備可能だ……です。軍事物資の準備と荷運び、任せろ……です」

「火の国、一般兵5000名配備可能です。内訳は戦闘隊2000名、後方支援隊3000名でございます」

 

「……どうした、何を黙りこんでる?俺は各国代表全員に聞いているんだ。沈黙が答えか?」

 

 俺の言葉で、慌てて手元の資料を荒らす人間族国家の代表共。ああ全く、お前らは本当に学ばないな。

 

「……まさか、まさかとは思うが貴様ら。前回の定例会議から時間があって、しかも丁寧に次の議題を説明してやったにも関わらず、貴様らは会議に必要になりそうな資料を纏めて来なかったと?」

素晴らしい!これ以上魔王様に無駄な時間を使わせるその気概!諸君らの英雄的行為、末代まで語ってやろう!

「ま、待て!違うのだ!これは……そう、情報を簡潔に纏めてから発言を……」

「エルフ、龍、オーク、それと火の国王。各々の長はすぐに纏めて発言をしたが?貴様らは何時になったら発言する?」

 

 コツ、コツ、と趣味の悪い椅子のひじ掛けを指で叩く。音が会議場に響く度に無能王共の額に汗が浮かび上がる。

 

「……なるほど。つまりこの場には各国代表は森、天、砂、火の国の4名しか揃ってないということか。おかしいなぁ、定例会議の場には国の代表しか入れないとルールを定めたのだが、俺の記憶違いか?」

「過去の議事録に確り記載されております、魔王様」

「そうか、なら代表以外が入り込んだらどうなると決めたかな?」

「その者と、その者の所属する国の国家元首は責任を取って処罰されること。魔王様が納得できる処罰でなかった場合その国の国民全ては魔王様の一存で如何様にも処分される。と決まりました」

「……だ、そうだ。さて、幸いなことに顔見知りが揃っているから、所属国家は簡単に特定できたな。アズラ・ガーラ、お前は新公国出身だったな?今の国家元首は誰だ?」

「ヒッ!?お許しを!お許s」

 

 無様に這いつくばって許しを求めたので許してやる。首一つでな。

 

「お前が国家元首だろ。無能晒してんじゃねえ。……次、首を落とされる国は何処だ?これ以上会議を止めるんじゃねえよ、なあザザ・ルガマ・ド・イーザ」

「ッッ!あ、わ、我々、イーザ聖公国は、聖騎士団2000、名、一般兵はっ、8000名、所属っ、こ、国内の各領地に平均約にせっ」

 

 舌を斬り落とす。

 

「……ッッ!!」

「俺は何て聞いた?討伐隊に配備可能な人数を答えろと聞いたはずだが?聖公国の軍事規模なんて聞いてねえんだよ。あぁ、よし分かった。これ以上時間を掛けるようならお前らの首をすげ替えてやる。右から、順番にな……」

 

 そう言って右端にいた奴に視線を向ける。可哀相に、今にも人形にでも変化するのではないかというほどに血の気が引いている男が手元の書類をがさついている。何が悪いってお前らの考えが足りない、出来の悪い頭で国の代表になった自身だからな。

 

「ヒッ、ヒッ、我々水の国はっ、ご、ぁ、4000名配備可能、です!」ハッ、カヒュ、

「ふん、良い良い、やればできるではないか。次」

「っぁ、魔法大国、1000名配備……可能……」

「次」

「西方、共和国に……ゃ、1500名……配備可能……」

「次」

「ひ、光帝国……3500名……配備可能……です」

 

 

 

 隣にいた木の国の男の首を落とす。

 

「俺が一々声出さなきゃ言葉も出せねえか?あ?」

 

 不死の魔法を掛け、乱雑に元に戻す。

 

「き、ききき木の国2000名配備可能!」

「中央自立地区3000人配備可能でございますっ!」

「北方王国1000名配備可能ですっ!」

「き、極北魔法国家は配備可能な人員はありません……」

 

 一通り発言が終わった。頭の中で十露盤を弾き、計算と平行し事前に纏めておいた情報を引き出す。

 まあ見事にどいつもこいつも、本来配備可能であろう人数からかけ離れてやがる。だが一度口に出した以上、発言の責任は取ってもらわないとな。

 

「ふん。総計三万千人か、五万人には程遠い……が、人間族の何倍も働けるエルフ族、龍族、オーク族にドワーフ族が揃っているから大した問題では無い。だが単純な手数がもっと欲しい所だな。そうだな……ああ、そう言えばイーザ聖公国に騎士団と歩兵合わせて1万人居たな。よし、それ全部配備しよう。異論はあるかザザ・ルガマ・ド・イーザ」

「ッ!ッッッ!!」

「無いようだな、これで約4万人。新公国、お前の所なら5000人配備出来るだろ。後はそうだな、冒険者共を臨時で雇って調整すればいいか。極北魔法国家、金貨幾らくらいなら用立てられる?」

「うっ……えー……金貨1万枚程度ならすぐにでも準備できます」

「ふぅん、冒険者を長期雇うにしては少し心もとない金額だ……なに?諸島帝国が無償で金貨10万枚出せると?素晴らしい殊勝な心掛けだな」

 

 大口を開けて何かを言っている諸島帝国代表だが『静音の魔法』の掛かっている奴には例え体内で爆弾が爆発しても虫の羽音以下の雑音しか聞こえないだろう。

 立ち上がって大きく両手を振るが、ああそんなに暴れると

 

「ひぃッ!!?」

 

 首がくっついていないのにもかかわらず暴れるから当然、首が身体からずり落ちる。血しぶきが隣に居た中央自立地区代表と森の国代表の服に掛かった。不憫な。

 

「さて、討伐隊の頭数は揃えられたな。残りは討伐隊支援金の負担割り振り、遠征路の設定か。遠征路だが、知っての通り北極圏では様々な魔法の使用が制限される。転移の魔法もそうだ、直接レヴィアタンの元に転移して叩く事は出来ない。故に転移出来る所に一度集まりそこから行軍を開始する。極北魔法国家、北極圏の詳細な地図を出せ」

「は、はいっ!」

 

 テーブルの上に広げていた資料の内の一枚を取り出して見せる極北国王。元聖女が風の魔法でそれを手元に手繰り寄せ、幻影の魔法で大会議場の壁に映し出す。

 俺は映し出された幻影に被せる様に虚像の魔法を使う。

 

「薄い黄色で塗られた範囲が極圏、魔法の使用が制限される場所だ。見ての通り極北魔法国家の大半が入っている。レヴィアタンが居る場所は此処だ。地図の縮尺とレヴィアタンの大きさを合わせるとおおよそこの程度になる」

 

 レヴィアタンの体はまるで蛇の様に細長く地図上に現れる。

 

「これは……かなり大きいですね……」

我が龍族の民全てを合わせてもまだ足りなさそうだな!

「見ての通りレヴィアタンは極圏のほぼ中心に位置取っている。だがその巨体から尻尾と思われる部分は極圏の端からかなり近い位置にある。ここなら遠征路を限りなく短く設定できるだろう」

「魔王様、意見具申申し上げます」

「構わん、言え」

「はっ、レヴィアタンは現在ほぼ活動してはおりませんが、討伐隊が攻撃を開始した際には流石に抵抗活動をすることが予測されます。その時に尻尾と思われる位置に居た場合、尻尾の一振りで部隊は壊滅する可能性が高いと思われます」

「その可能性は確かにあり得るな。それで?」

「討伐隊を複数に分けて複数個所から攻撃すると良いと考えました。事前に得ている情報通りならレヴィアタンはドラゴン種の異常個体でしょう。ドラゴン種の脅威はその巨体から繰り出される突進や尻尾の薙ぎ払い、強力な属性ブレスと噛みつきですが、逆に言えば脅威はそれくらいなのです。攻撃パターンを読め、ドラゴンの硬い鱗を貫けるだけの武器があれば誰でも討伐することは可能」

「馬鹿言うなエルフの小娘!ドラゴンと言えば数多の英雄が挑み、そして散っていった究極のモンスター種なのだぞ!そんなものを討伐できるのは選ばれた者のみ!それを誰でも討伐できるだと!?ふざけた事を抜かすな!」

「ああ、失礼。より正確に言うとフヌケた人間族以外なら誰でも、というべきでしたね」

「な、なんだと貴様!」

「黙れ光帝国。森の国も無駄に挑発する言動を控えろ」

「ぐっ」

「わかりました。ドラゴン種討伐のセオリーで言えば、正面に立たず常に側面から攻める。レヴィアタンが物理法則を無視した動きを見せない限り側面に張り付き続けて叩き続けられれば被害は限りなく少なくなるでしょう」

「なるほど」

ガハハハハハ!!ドラゴン種の討伐セオリーと言うのなら我々も一つあるぞ!奴等の弱点は口腔内!奴等がブレスを吐く時に強靭な槍で口ごと脳天をぶち抜く!それが最も手っ取り早い!

「そんな事出来るのは属性ブレスを受けても耐えられる龍族(あなたたち)だけです」

「ですがレヴィアタンの頭の向きだけでも固定し続けることが出来れば側面に張り付く討伐隊の安全も確保できるのではないでしょうか?例えばですが、レヴィアタンの眼前に龍族が張りついてヘイトを稼ぐとかどうでしょう」

火の国の王よ、中々面白い事を言う!

「良い案だ。討伐隊は二つに分け、それぞれレヴィアタンの左右側面に付く。そしてヘイトを稼ぐタンク役だが天の国王、良い人材は居るか?」

ガハハハハハ!!()()が出来る命知らずなど、龍族の勇者である我のみで十二分ッ!!

「心強い言葉だ。と……なると、討伐隊を1ヵ所から進軍させるのは些か非効率だな」

「ま、魔王様!意見具申申し上げます!」

「なんだ、極北魔法国王」

「この極圏の、我等極北魔法国家とほぼ反対の位置に約1万人を収容可能な軍事拠点があります。討伐隊を二つに分けるのなら、この拠点を使わない手は無い……かと!」

「ほう、前時代の物か?まあいい、使える物はなんでも使おう。とはいえ少し小さいな……」

「魔王様、我々砂の国の技術をもってすれば3~4日で拡張可能だ……です」

「ふむ、んならその拠点の拡張は砂の国に任せよう。極北魔法国家、良いな?」

「勿論です……!」

 

 もう一度地図を見る。極北魔法国家、軍事拠点の位置をそれぞれ映し出し、レヴィアタンと接触するまでの時間を計算する。

 

「我々エルフ族なら拠点からレヴィアタンに接触するまで1週間もかからないな」

貴様等サバイバル特化の種族とそれ以外の種族の足の速さを一緒にするな!まあ我等なら2~3日程度で接触できるだろうがな!

「空を飛べる龍族が何を言っているんでしょうかね。我々火の国の精鋭達ならばおおよそ半月程度で接敵可能でしょう。ただ気になるのは極圏の自然現象でしょうか」

 

 地図上に何本もの光の線を引きながらアレコレと言葉を交わす天、森、火の国王達。極圏の内側、数多の等高線が複雑に絡み合っている中を縫うような光の線が残っていく。時々極北魔法国王が光の線を指差し、異常現象が発生しやすい場所を説明しながら線を消していく。

 それをポカンとマヌケな表情で見つめる数多の国家元首。

 そうして僅か数分、極北国家と軍事拠点からレヴィアタンに繋がる二本の線が残った。

 

「魔王様、遠征路は設定できました。我々の想定ではレヴィアタンの討伐遠征に60日程度必要であると進言致します」

「ご苦労。では最後、討伐隊支援金の負担割り振りだが、これは討伐隊における貢献度の低い国に優先させて負担するように。水の国、西方共和国、お前等は最低でも金貨5万枚、魔法大国、お前の所は金貨10万枚は最低でも負担してもらおうか」

「なっ!?横暴ですぞ!!」

「何故そのような暴挙を!」

「ほぉ、お前等の国の規模から考えるにそれぞれ4000人、1500人、1000人の動員は適正だと?他の国は人界の一大事に自国の安全を削ってまで動員しているのにか?光帝国なんて軍属のほとんどを投入してるぞ?イーザ聖公国は1万人動員してるぞ?」

「そ、それは……しかし……我等にはそれほど人的余裕は無く……」

「なら代わりに金銭で支援するのが道理だろう。違うか?」

「そ、それなら森の国の2000人配備は適正なのですか!?あの国の規模ならあと3倍は配備出来るでしょう!」

「お前達人間族がエルフ族を攫いに来ないと確約するのなら3倍と言わず5倍は配備出来るのだがな」

「そら見たことか!魔王様!このエルフは戦力の出し惜しみをしているではないですか!森の国にも正当な負担をさせるべきです!」

「ならばお前が人間族代表で人攫いをしないとエルフ族に確約するか?この俺の前で」

「なっ……!それは……!」

「人攫いの被害は俺の耳に届いている。大体が未遂に終わっているとは言え、それでも年に何人ものエルフが攫われているとな。そしてその犯人が人間族であるということも」

「それは……それは今の話とは関係ない事でしょう!」

「関係大ありだろ、馬鹿か。森の国からすれば人攫いによる被害はレヴィアタン以上に無視できない事件。だがそれが解決するのならばレヴィアタンに総力であたると言ってるんだ。お前が『人間族はエルフ族を攫わない』と確約し、最大限の努力をするのならエルフ族の戦士1万がレヴィアタン討伐に出向くと言ってるんだ。勿論森の国には国の規模相当の負担をしてもらうが、既に限界近い人的負担を強いている以上負担額は少なくするべきだろう。だがお前等はどうだ?人的負担はまるでなく、金銭負担も少なくしてほしい?ふざけた事を言うんじゃねえよ、ああ?」

「で、ですが……」

「ですがも何もねえんだよ西方共和国代表。今お前に二つの選択肢がある、お前が人間族代表としてエルフ族に『人間族はエルフ族を攫わない』と確約するか、最低でも金貨5万枚を用意するか、だ。無論エルフ族と確約したらお前は死ぬ気でそれを守れよ。その後もし人間族によるエルフ攫いが起きたらお前は勿論、お前の一族どころか議会に居る者の一族全てをアンデッドに変えて永遠に奉仕活動させるからな」

「あ……ぅ……き、金貨5万枚用意します……」

「水の国は?」

「ヒッ!?わわわ、我々も金貨5万枚用意いたしますででです!」

「魔法大国は?」

「わ、我々は……や、やはり討伐隊に5000人配備する事に」

「却下。もう討伐隊に余計な人員を入れる必要は無い。ましてやお前等魔法大国の軍隊の足の遅さは有名だからなぁ、これ以上遠征に時間掛けさせる訳にいかないだろう?」

「し、しかし冒険者なんぞを雇うより我々の準備する精鋭の方が!」

「困りますなぁ。想定した遠征路は冒険者の、それも北国出身の優秀な人材を揃える事を前提とした遠征路と日数なのですが」

「5000人配備するなら初めからそう言え。魔王様にこれ以上無駄な時間を掛けさせるな」

「ぐ、ぐぐぐ」

いいから貴様は金貨10万枚を出すと言えば良いのだ!

「ぐ、き、金貨10万枚……用意いたします……!」

 

「……さて、もう時間だ。残りの支援金負担の割り振りは次に回そう」

「はい。それでは次回の定例会議の議題ですが今回で決まっていない支援金負担の割り振り、討伐隊の装備を決めたいと思います。残りの時間はレヴィアタン討伐以外に会議するべき議題を決める時間にしたいと思います」

「支援金負担だが、国の規模と討伐隊に配備した人数を考慮しておおよその金額をリストにして纏めた。次の会議に討伐隊への貢献度を確定させる、その金額は目安だと思え。以上」

「はい、それでは人界定例会議を終了します」

「ぁ、御待ちを魔王様!」

「待たない。俺は忙しいんだ」

 

 無駄に装飾が施された椅子から立ち上がり、元聖女の腕を掴んでそのまま転移魔法を発動。

 景色が変わり、転移した先は魔王城の私室……では無く魔界の人狼族の集落、その族長の家に併設されている会議室に出た。

 

「……まだ誰も居ねえ」

「人狼族は時間にルーズですから」

「あいつ等月の満ち欠けに敏感なくせになんで時間に鈍感なんだ?」

「時計文化が根付いていなかったから……でしょうか……。それよりも魔王様、今日の定例会議ですが時間の流れが遅く感じたのですが」

「お前よく気が付いたな……気が付かれ無い程度に時間圧縮魔法を使ったんだが」

「じ、時間圧縮……」

「下手に時間魔法をあのクソ王共の前に使う訳にもいかん。だが時間を75%に圧縮した程度なら体感余り変わらないと思ったんだがな」

「……もはや何も言いますまい。(この前もそうですが平然と時間操作するなぁ魔王様)」

「つーかマジで俺が居なくても定例会議くらい出来るようになれよな……。元聖女、議長育成の件はどうなってる」

「やはり本質的な問題が大きいですね。森の国王が議長ではその他人間族の王に舐められ、当人も人間族を見下した態度を改めないですし、天の国王と砂の国王は種族的にそういうのに向いていないですし、火の国王では抑止力と言う意味では役者不足。そういう事に長けた勇者()を召喚したほうがまだ現実的ですよ全く」

「頭痛が止まらねえなぁオイ」

 

「お、魔王様!もう御着きになられていたのですか!」

「もう御着きになられていたのですかじゃねえよ糞狼、時間過ぎてるだろうが!他の奴等はどうした」

「え?まだ開始時刻からたったの5分しか経ってないですぞ?」

「開始時刻の意味知ってる?お前の脳味噌を土塊と取り換えてやろうか?」

「はっはっは、御冗談を!なあにもうじき揃いますぞ!どれ、時間も余っておるんじゃしワシと一発シケこもうではないか!」

「お前みたいな獣臭いジジ口調ロリバカはマジで守備範囲外だからカエレ、と言うかさっさと全員呼んで来いこの色ボケ犬」

「むむっ、衆人観衆の中でシケこむと。うーむ流石にワシもかなり恥ずかしいのじゃが、魔王様のご希望なら」

「耳まで腐ってんのか、その首が落ちないうちにさっさと呼んで来い」

「つれないのう。群れの長たるもの、もっと心にゆとりを持ってじゃな」

「テメエは時間感覚を持て、話はそれからだ」

「仕方ないのう」

 

「おい聖女、この2分でさっきの1時間より疲れたんだが」

「元聖女です。安心してください、この会議が終われば次はスライム族との会合、その後はニクラに魔法教育論を、昼食を挟んでヒッカ・ビッキーとリル両名による魔界の未探索エリアの報告、新しく雇った勇者の育成状況の確認、悪魔族とトレント族とオーガ族による人界の田畑の途中報告兼会議。まだまだ予定が詰まっておりますよ魔王様」

「はっはー久しぶりのデスマーチだぜー」

 

 あぁ^~脳細胞がぴょんぴょんするんじゃぁ~

 

「元聖女、癒しが欲しい」

「おっぱい触ります?」

「無いものを触るとか哲学かな?」

「死にたいようですね」

 

「魔王様!おっぱい触りたかったらワシのを貸そう!」

「よし駄犬、お前はそのまま火葬」

「そう言うな!ほれほれ、そこの小娘より豊満じゃぞ~」

「壁と比べる時点でお察しだよ脳味噌ピンク犬」

「やはり死にたいようですね」

 

『魔王様ー。くだんの業突張り商人リストアップ終わりましたー』

「1時間でよくやった素晴らしいだが今はちょっと俺の精神状況が悪い」

『あらー。おっぱい揉みます?』

「なんでお前等そうおっぱい揉ませたがるの揉むけど」

「魔王様?」

「そういう訳だ後でな」

「それはどっちの意味での後でですか?おっぱいですか?」

「後で処刑しに行くからな!」

『ならリストの商人達を纏めて拘束しておきますー』

 

 

「あ”あ”あ”も”お”お”お”身体一つじゃ足りない”い”い”!!!」

「魔王様、重婚は罪ですよ?」

「そういう意味じゃねえよ!!」

「強いオスは多くのメスを囲う権利がある、気にせんでもよいぞワシは気にしない。まあ魔王様がそばに居るのならワシは何番でも」

「もう黙ってくれませんかねぇ!」

 

 

 

 

 

「そうか、増えればいいのか」

「「!!?」」

 

 




 後日魔王城の一室で魔王が複数で書類作業をしている所が見られたとか。

・レヴィアタン
HP %Γ¨Ωヽ MP 0
STR *** DEX 5
INT 0 LUK 2
 ドラゴン種の異常個体。身体がとてつもなく大きく、あらゆる攻撃ダメージを1にする絶対的な防御を持っている。しかしその巨体故に鈍重で、自身を支え切れていない。移動するにもナメクジ以下の速さでしか這いずることが出来ない。

・極圏
 人界の最北端と最南端に位置する異常空間の総称。北極圏は常に吹雪いて、南極圏は常に灼熱の溶岩が溢れ出ている。
 極圏の内部では様々な異常事態が報告されている。主な報告例は時空間の異常や通常ではありえない大きさの動植物の発生、反重力物質の塊でできた島等。そんな空間の地図を作った極北魔法国家はガチの偉業。
 極圏内は放出系の魔法の使用が制限される。自身の肉体の内側に作用するタイプの魔法は使える。

・不死の魔法
 その名の通り『死ななくなる』状態異常を付与する魔法。『死ななくなる』状態だと例え心臓が爆散しようとも脳が爆散しようとも全細胞が焼き尽くされても『死なない』。
 不死の魔法を掛けられた瞬間から肉体は腐り始め、時間が経つとゾンビに変化するが、腕のいい回復魔法使いなら治療することが可能。
 元々人間族のとある王が不老不死を求めて開発させた魔法。その王は生きたまま埋葬された。
 魔王はこの魔法を改造し『不老の魔法』(肉体的な変化が無くなる)、『不老不死の魔法』(肉体的な変化が無くなり、魂が肉体から離れなくなる)、『不壊の魔法』(あらゆるダメージを即座に回復する)、を作った。なおどれも回復魔法で治療可能。

・エルフ族
 長命、美男美女揃い。肉体的な強さはそれほどでもないが、サバイバルが得意な種族。
 例え砂漠のど真ん中や氷山、火山、海の上だろうが平地の草原並の速度で移動することが出来、生き残る事にかけて他の追随を許さない程に生存術に長けている。その為狩猟に必要な各種道具の扱いや野草、キノコ類の知識、更には猛毒耐性に優れている。
 特に魔法を扱う事に長けたエルフはハイエルフと呼ばれ、魔素の濃い場所に適応進化したエルフはダークエルフと呼ばれる。

・龍族
 長命、種族的に体力が高く頑丈(STRが高い)。詩を愛し、人に化けては吟遊詩人の真似事をしている。プライドが高く、ドラゴン種(モンスター)に間違えられると激おこ。
 本来の姿は巨大な蛇の様な姿だが、昔に人化の魔法を魔王に教わってからは種族全員が使えるようになり、かなり気軽に人間世界に繰り出していたりする。
 体を覆っている鱗はとても硬く頑強。並大抵の魔法ははじき返してしまう。
 龍族の勇者だった天の国王は魔王との一騎打ちの末敗北、魔王の軍門に下る。魔王の元で戦う中で人間族が支配していた人界に疑問を抱き、魔王が世界を征服した事で人界に蔓延っていたあらゆる種族間問題が(ほぼ強引とはいえ)解消された事で魔王に心底陶酔する事になった。
 一人娘が勇者(仮)にかどかわされ、行方不明になった事で勇者絶対ブッ殺すおじさんと化す。

・オーク族
 短命(寿命約100年)、種族的に頑丈で器用。イノシシ頭の人型。
 よく人間族を攫っては孕ませるなどと誤解を受けるが、オーク的美的感覚だとむしろ人間族は皆不細工。
 似た種族でゴブリン種(モンスター)が居る。子供オークと大人ゴブリンはほぼ似た体格。

・ドワーフ族
 短命、種族的に力持ちで器用。ちっちゃい、大の酒好き。
 主に金属類の加工技術に優れ、勇者(本物)の力に耐えられる武具を作ることが出来るのはドワーフぐらいなもの。
 魔王が普段使いしている覇剣『ガラスソード』はドワーフの武器長渾身の傑作、だが魔王は気軽に使いつぶす。
 覇剣『ガラスソード』は南極圏で採集された星の核と呼ばれる最硬の金属を使って造られているが、魔王の全力の一振りで壊れてしまうから『ガラスソード』と銘打たれた。だが『ガラスソード』以外ではそもそも全力を出せない事から文句なしの名剣である。

魔王「わり、また壊れちった」
武器長「お、お、オレの力作が……」

・火の国
 別名ニンジャ国家。ニンジャ!?ニンジャナンデ!?
 正規兵どころか訓練兵、一般市民に至るまで人間離れした身体能力を持つ怪物国家。空気にプロティン含まれてる。
 火の国王はかつては暗愚王と言われていたが、魔王が世界を征服してから一気に賢王と呼ばれるようになった。なおやってること自体はほぼ変わって無いもよう。

・人狼族
 高い不死性を持ち、鋭い爪と牙で獲物を砕く。
 一応魔族扱いとはいえ脳みその出来が悪く、本能で生きている。強い者が美しいという価値観を持ち、世界征服した魔王に種族全員で戦争を仕掛けるも返り討ちに。それ以降全員が魔王に忠誠を誓い、メスの人狼族は魔王に一目惚れした。割と絶滅の危機である。



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腰痛肩こり目の疲れ薄毛や脱毛症口臭肌荒れすり傷切り傷打撲骨折脱臼痙攣腱鞘炎水虫あかぎれささくれワキガ切痔水疱瘡うつ倦怠感吐き気胃痛消化不良目眩性病勃起不全便秘軟便血尿四肢欠損に効くエリクサーは如何!?

勇者視点でお送りいたしたかった。


 

『最近目の疲れがひどい』

「んんwwwそういうのは拙者の専門外でしてwwwラナ娘に頼むべきそうすべきwww」

『既に頼んであるんだよなぁ』

「それで回復しないとか草」

『しかも『すみません魔王様ー、魔王様の目の疲れだけではなく腰痛、肩こり、胃痛どれもが肉体にとって正常な状態である、といった状況でしてー……魔王様いったい何時からこんな体なんですかー……』とか言われちゃったわけよ。わかる?俺の気持ち』

「わ か ら ん(ジャガー感)」

『控えめに言って年寄り扱いとかもうね、爆笑。笑うしかないわ』

「wwwww」

『何笑ってんだ殺すぞ』

「控えめに言って理不尽では?」

 

 わかるマーン!!(挨拶)

 拙者ヒッカ・ビッキー!何の変哲もない勇者でござ早漏(爆)!ただ人と違う所は魔王様に見初められたって所かなー!趣味はサボテン育成。

 拙者こう見えて最強格の勇者でおまんがな!その実力を買われ今魔王様から魔界の未探索エリアを探索してる最中でありまーす!やー、流石未探索なあるだけあるべー!精強な魔王軍が探索を諦める魔境!エグイ能力を持ったモンスターの巣窟やったり、極圏並の異常空間が牙をむいてきたり、怪物級のモンスターが襲ってきたり、もー大忙しの日々ですたい!

 

 私近いうちに死ぬなコレ。

 

 マジで何なんだよココ。何で私一人だけなんだよココ。誰か助けてよココ!!マジで魔境すぎて吐く。何で未探索なのか一瞬で理解できるわ。ボスケテ。

 でも何故探索しなきゃいけないのかも理解できるわ。何故なら私がこうして探索し続けられるのも未探索エリアで発見した『レベル増強剤EX』と名付けた木の実を食ったり、『魔力限界突破薬EX』と名付けた薬草を食ったり、『肉体強化剤EX』と名付けたモンスターの肉を食ったりと、食ってばっかだな拙者。ともかく異常な恩恵が豊富に見つかるのじゃ。暗黒大陸はココだった……?

 

「ともかく魔王様。近いうちに探索を一旦きりあげて帰るからよろしくぞなもし!」

『成果は当然あるんだよな?』

「勿論でござろう!魔王様に良さそうなモノを幾つか見つけたぞ!」

『俺に良さそうかどうかは置いといて、有用そうか?』

「ほっほん!薄毛に抜群に効くこの『毛生え草』や短小包茎に効くこの『ズルム毛虫』、性的な意味で夜寝られなくなる『ムササ媚薬』等等色々みつけたにゃー!」

『確かに凄そうだがなんで俺に良さそうなんて前置きしたんだテメェ』

「wwwww」

『誤魔化すな』

 

 まあそんな事はどうでもよい!我、この探索を一旦切り上げたら自室でごろ寝するんだ……。

 

ガサッ

 

「……」

『……どうした』

「スマヌ魔王様。一旦通信を切らせてもらう」

『は?おい』ブツッ

 

 はーつっかえ。拙者と魔王様のファニームーン(誤)な時間を邪魔しおって。絶許。つーかセーフティゾーン超えてくんなや。何処のドイツじゃメキシカン。一対一なら最強(魔王様除く)のバトるメイジ勇者舐めんなや?お?

 

ガサガサッ

 

「……」

●「……」

 

 どう見ても(ブリオン)です本当にありがとうございました。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

「……と言う訳で未探索エリアの調査自体は順調。ただやはりと言うかモンスターが強力すぎる。魔王軍から調査団を投入する際そこがネック」

『……成程な。ッチ、有用な素材は多い癖に安定供給は難しい、か。かといって軍に犠牲を強いるほどに有用かと言えばそうでもない……死んでも蘇生可能とはいえ、肉体が完全に無くなると蘇生難度も上がる。そもそも死んだという記憶はトラウマになり易いからな。何ともしがたい』

「私からすれば肉体が完全に消滅しても蘇生できると言う魔王様に驚きを隠せない。それより如何する?私が間引くとしても、探索拠点を作るとしても、単純に手が足りない。私一人で素材の採集も限度がある」

『とりあえず拡張ポーチいっぱいになるまで採集を続けてくれ。『鑑定の魔法』で調べきれなかった有用な効果が見つかるかもしれんから魔素濃度の高い植物類や鉱石類もな』

「かしこまりました」

 

 ブツッと魔王様との通信を切る。

 

「……魔王様はナチュラルに人間(ヒト)使いが荒い」

 

 そんな扱いには前から慣れているけど。まあその前と今を比較したら睡眠時間がしっかりとれるだけ今の方がマシではあるが。

 さて、時間は有限。魔物避けの魔道具を解除し、セーフティゾーンから抜け出す。

 ここは魔界の未探索エリアの中でも特に危険な区画の一つ、『塵界魔境』端。この辺りは強力な魔物達のテリトリーの境目であり、比較的安全圏である。

 安全圏とはいえ、比較対象が強力な魔物であるからここでも油断は出来ない、故に魔物避けの魔道具を設置してセーフティゾーンを作っていた。休憩と食事を終え、魔王様との定期連絡も終了。探索を再開する。

 しかし魔王様の無茶振りもまた酷い。持たされている拡張ポーチに入る容量は家一軒分どころかマンション一軒分は入るほど巨大。それをいっぱいになるまでとは……濡れる。

 

ザリッ

 

 異音、迎撃。音の発生源を見ずに氷結の魔法で拘束する。一瞬の躊躇の代償は常に自分の命。躊躇わない。

 

「あ”っッ!!やっ、助けて……っ!」

 

 子供の声。聞こえた方向に顔を向ける。視界の先には、頭部に小さな角を生やした魔族の子供が居た。

 

「ひっ……!」

 

 怯え、死の恐怖に震えている子供を私は容赦なく爆砕した。

 

 瞬間、子供の足元の地面が盛り上がり、大きな深海魚の様なモンスターが現れた。

 

『グラブ・フィッシャー』

 頭部から伸びた疑似餌を使い、モンスターを捕食する。素材:肝・疑似餌

 

 私の『鑑定の魔法』がその正体を説明する。あのモンスター……『グラブ・フィッシャー』はこの辺りでは何度も見かけている。そもそもこんな魔境に、私の氷結魔法を受けて命乞いをするような存在など居る筈が無い。もし居たとしたら……それは目の前のモンスターの様に、擬態や不意打ちに特化したようなモンスターだ。

 『グラブ・フィッシャー』は目と耳が退化した代わりに触覚が発達したモンスター……らしい。魔王様がそう言っていた。そもそも『塵界魔境』は常に砂嵐が起きている異常空間。ただの視覚では役に立たず、聴覚も吹き荒ぶ砂で使い物にならない。そんな中で使える感覚も限られ、適応するために進化していったモンスターの様だ。一見無害そうな魔族の子供を疑似餌にするのも、ソレを捕食しようと近寄るモンスターを逆に捕食するための様だ。まあ、そんな事はどうでも良い。

 

「『アイスクレイドル』」

 

 魔法で出来た氷の籠はモンスターを閉じ込め、じわりじわりと体力を奪っていく。悪趣味なモンスターだが、殺せば素材が残る。そしてその素材は中々に有用そうだから狩る理由になる。

 体力をある程度奪ったところで、一気にモンスターの心臓ごと爆砕する。魔王様曰く『首狩りスキル』の一種らしい。『首狩りスキル』とは、相手のHPの残量関係なく死に至らせるスキルだと言う。首を斬り落とせばHPなんて関係ないような気もするが、そう言う訳でも無いらしい。なんにせよ、私がモンスターの心臓を爆砕する技は、相手モンスターとのレベル差関係なく殺せる技だが、殺す為にはある程度体力を奪う必要があるそうだ。何故そんな必要があるのかは説明を受けてもよく分からなかったが、魔王様が言うにはそうなのだ。

 まあともかく『グラブ・フィッシャー』を殺し、崩壊していく身体を後目に残った素材を回収する。

 

『グラブ・フィッシャーの肝』

 強力な回復薬の元になる。

『グラブ・フィッシャーの疑似餌』

 とても精巧に出来た魔族の子供人形。内臓まで再現されている。

 

 疑似餌は爆砕したはずだが、何故か素材としてまたドロップする。不思議だ。

 魔王様が難しい言葉で説明していたが、理解できなかったのでそういうもんだという認識でいい。

 さて、肝と疑似餌を拡張ポーチに入れても、全容量の1%にも満たない。朝から採集し続けてもまだ容量は3分の1程度しか埋まっていない。このペースだと拡張ポーチがいっぱいになるまでに日が暮れて夜が明ける。久々の徹夜で濡れる。

 

「さて、採集を続けよう」

 

 辺りは砂嵐が吹き荒び、立っているだけで皮膚が裂け出血を強いられる。故に私は氷結の魔法を応用し、自身の体にぴったり沿う様に魔法の氷で出来た鎧を纏う。視界を確保する意味はあまりないので、顔は完全に覆い、呼吸も風魔法の応用で酸素を供給し続ける。

 この世界は強くなければ生き残れないし、環境に適応出来ない者から死んでいく。そして生き残れても次から次へと生存競争が繰り広げられ、進化を止めた者は絶滅する。非常に非情な弱肉強食の掟。弱い者が生き延びる為には泥水を啜ろうが毒草を齧ろうが何としてでも生きるという決意が必要だ。それが無ければ……強い者に食われるか搾取され続けるだけだ。

 嘗ての私は弱者だった。そして何としてでも生きるという決意を持たなかった愚か者だった。朝も夜も無く、死ぬまで働かされる日々。自業自得だ、本気で現状をなんとかしようという意志も決意もなかった。こうして異世界に呼ばれ、なお奴隷の如く強制的に働かされる日々は私自身が招いた因果だったのだ。

 

 魔王様に見初められるまでは。

 

 私の意志は魔王様によって打たれ、作り直された。まるで脆い銑鉄が鍛冶師によって打ち鍛えられた刀に変わるように。私は意志を持ち、決意を抱いた。

 肉体はこの異世界に召喚された際に強くなった。

 精神は魔王様によって鍛えられ、強くなった。

 だが魂は弱いままだ。

 

 それでいい。

 私の肉体は強い。生半可な攻撃ではやられはしない。

 私の精神は強い。適当な魔法には敗けはしない。

 私の魂は弱い。()()()()()この世界で生き残れる。

 私には強者の矜持なんてない。だからこそ勝ち続ける事が良いことだと思わない。

 私には強者の意識なんてない。だからこそ必要なら地に這い、泥を啜る。

 弱者が生き残るには強者から隠れ忍ぶしかない。

 強者は、より強き者や自然に勝ち続けなければ生き残れない。

 そして私は、目的のためなら手段は選ばない。最善で、確実に。

 

 

 『塵界魔境』には、確認されていないが数多ものモンスターが潜んでいる。そして、その全てのモンスターは例外なく異常環境を生き抜く()()()()()を持っている。

 例えば、先ほどのグラブ・フィッシャー。疑似餌に釣られた獲物を必ず仕留めて食らう為に強力な魔力を使い、疑似餌を基点とした圧縮・転送魔法で獲物を自身の胃のなかに直接送り消化する。

 例えば、吹き荒ぶ砂。散り飛ぶ砂に紛れている小さなモンスターは、自身を吸い込んだ獲物の肺に取り付き、腑を食らう。そうして獲物を内側から食い尽くした後、また砂に乗じて獲物を探す。

 例えば……

 

 

 ズゥゥゥゥゥン……

 

 

 ……山のように、巨大なモンスター。比喩無しに富士山並みの巨体を守護する甲殻はあらゆる攻撃を、その下の肉まで通すことはない。そしてあの巨体を維持するために必要な食事量も相応に多く、一度動き出したら地平線を食い尽くすまで止まらない。

 

 そんなバケモノでも、『塵界魔境』では食物連鎖のトップではないというから笑いも出ない。次の瞬間には他のバケモノの胃袋の中なんて当たり前の世界。まさしく、魔境。

 

 

 

 

 

 そんな世界で「採集終わるまで帰れま10!」やるとか濡れる。()は大火事、()は大水、これなーんだ?私だ。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 地獄。

 

 地獄だ。

 

 私は今地獄に居る。

 

 なぜ、どうして、と詮無き言葉が頭の中をぐるぐる回り続ける。

 

 これが私の罪だと言うのか。

 

 これが私の罰だと言うのか。

 

 私はこんな地獄に落されなければならない事をやってしまったのか。

 

 私は……

 

 私はただ……

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()!!

 

 

 

()()()()()()()()()()というのが貴女の罪よぉネクラ勇者ぁ?」

「あ”あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”!!」

「貴女はあらゆる義務や責任を放り出して引きこもっていたそうじゃない?ブクブクと肥え太ってぇ、自室でごろごろしてぇ、光も浴びずぅ、風呂にも入らずぅ。何かを創る事もせず、ただただ呼吸して、食事して、糞して寝るだけ。うわぁ……うんこ製造機とは貴女の事を言うのねぇ」

「い”や”あ”あ”あ”あ”!!」

「手先は器用なくせにぃ、何か作ったりすることもせずに自身を慰める事にしか使わない。頭の出来は良いくせにぃ、口八丁で親を騙かして延々と楽しよう……うーん、ドロりとしたクズねぇホント」

「み”き”ゃ”ぁ”ぁ”ぁ”!!」

「そして魔法大国に召喚されてぇ、()()()勇者として持て囃されるも性根がニートである事が即バレして馬車馬のように働かされてぇ……可哀想ねぇ、まるで丸丸と太った豚が無理矢理走らされているよう……可哀想すぎて嗤えてくるわぁ」

「き”に”ゃ”あ”あ”ぁ”!!」

「顔は良くてもぶくぶくと肥えた身体がゴミ貴族を思わせるわぁ。良かったわねえ無様に肥え太ってて、お陰で男性のおトイレ役にすらなれないなんて何が幸運に繋がるか分かった物じゃないわねぇ」

「ひ”ぎ”ゃ”ぁ”ぁ”ぁ”!!」

「そうして使いつぶされてさよなら~……ってなる直前に逃げだせてぇ、醜い脂肪をぶるんぶるん震わせながら命からがら魔界に堕ちてぇ、死の恐怖におびえながら戦い生き延び……あらぁ?貴女この時には随分痩せたのねぇ?豚子鬼(ブタゴブリン)みたいな見た目からかなり変化したわねぇ。ストレス痩せかしらぁ?」

「ひ”に”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”!!」

「……さっきから本当にうるさいわねぇ。状態異常耐性持ちじゃなかったら『消音の魔法』で口塞いであげるのにぃ」

「しし死んじゃうのでゃめてくだひゃいいいい!!」

 

 死ぬ!死んじゃう!無理無理無理無理!吐く!吐く吐く吐くぅ!!

 『土人形創造魔法(ゴーレムメイカー)』『岩石射出魔法(ブロックキャノン)』『束縛糸(バインド)』『木人形軍団創生魔法(ドールワーカーズ)

 『鋼鉄創造魔法(クリエイトメタル)』『地形操作魔法(アンチエネミー)』『魔力盾生成(シールド)』『重力場歪曲魔法(ブラックホール)

 『世界樹の守り(プロテクト)』『砂嵐葬送(サンドストーム)』『岩人形軍団(ストーンレギオ)ぅぼrrrr

 

「あらぁ、吐いてる暇なんて無いわよぉ?『屍人形王国創生魔法(アンデット・ワールド)』」

「死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅぅ!!!」

 

 無理!無理無理!これ無理な奴!!

 倒しても倒しても無限に湧いて出てくる死人の群れに正気を削られながらも魔法で薙ぎ倒す。薙ぎ倒す度に自分のレベルが上昇していくのが分かる。そして自分のレベルが上昇していくにつれ、死人の群れが硬く強く変化していく。

 私と土虞さんの地力が違い過ぎる。私が十の魔法に対して、土虞さんはたった一つの魔法を詠唱するだけで全てをぶち壊してくる。私が勝っている所と言えば、言葉に発しなくても魔法を発動できる所と発動速度。土虞さんが一つ魔法を詠唱している間に、私は十も二十も魔法を発動できる。逆に言えば、私の十二十の魔法が土虞さんの一つの魔法に勝てないということだけど。

 そして無詠唱、多重詠唱はかなり脳に負担がかかる上膨大な魔力を必要とする。私の現在の魔力値が常人の約100倍以上あるとはいえすぐに枯渇してしまう。常に魔力補給のスキルを使い続けないと魔法の反動で死ぬ。

 逃げようにも自身を包むようにまとわりつく泥人形の足枷が逃げるのを阻止する。というか逃げる事に意識を割いた瞬間死人の群れに押しつぶされる未来しか見えない。

 

 うん、これ無理☆

 

「うふふ、負けたらゾンビちんちんで敗北レイプしてあげるから必死に頑張るのよぉ?」

「一思いに殺してくだひゃい!」

「ダメよぉ、死んでも簡単に蘇生できるんだものぉ」

「鬼!悪魔!さですと!」

 

 ゾンビで処女散らすのは嫌ぁ!!魔力全てを使ってでもそんな未来は回避する。

 

 スキル『魔力解放』を会得しました。

 

 ……!この感覚は、スキルを覚えた時の!

 

「『魔 力 解 放(リ リ ー ス) !!!』」

 

 全身の魔力が体外に溢れ出てくる。自身にまとわりついていた泥が弾け落ちて、尚魔力は留まる事を知らぬかのように身体から溢れ出る。

 これもしかしてヤバイ状態では?

 と思考を巡らした次の瞬間、手足が吹き飛んだかのような激痛に襲われた。

 

「ぁギッ!!?」

 

 痛みのあまり声を上げた瞬間に更なる痛みが身体を襲い、全身の細胞一つ一つを丁寧に擂り潰されていくように思える感覚が駆け巡る。

 ショックで気絶した次の瞬間には更なる痛みで目を覚まし、そして意識が途切れ目を覚ます。視界が真っ赤に明滅し、呼吸もままならず、腹の中が灼けるように痛い。

 声にならない声を上げて抵抗しようにも意識と身体は完全にバラバラになってしまった。

 スキル:精神統一のお陰で発狂することは無く、自分自身を斜め上から見下ろすように客観視する。今の自分は正に魔法の反動を受けている状態だ。ただし自分が知っている状態より100倍ヤバイけど。

 狂う程の痛みによってまともな思考が出来なくなったが、スキル:分割思考により辛うじて守護できた思考力をつかって溢れ出る魔力に点火する。

 

 

 

 点火された魔力は、純粋な爆発力となって辺り一帯を吹き飛ばした。

 

 

 

 気が付けば、自身は何も無い巨大なクレーターの中心に立っていた。

 ゆっくりと戻ってくる思考力はスキルの恩恵で次々に分割されていき、様々な事を考え始めた。

 

 先程の痛みは過剰に魔力を消費した事による反動ダメージ。魔力解放とは自身の限界まで魔力を消費し、破壊力に変換するスキル。土虞さんは何処に行った?まさかさっきので消し飛ばした?

 

 ねとぉ、と夏の日光を浴びた泥の様な温度の手に足を掴まれた。

 

「ハぁい♥」

「ひぇ」

 

 ズるぅリ、と冒涜的な音を立てながら私の影からハい出てkる土虞さn。

 

「うふ、うゥふふふフふ、よくモやってくれたわねぇ?」

「あ、ア……」

 

 うねうね、ぐねぐねと躰を再構成しnaがらひたひたひたひたひたひたと歩く歩く。

 暗い位昏い目が光光光る。よく分からないうちに私の身体がからだの身体で体の身体が影影影影影に沈め沈む沈め

 

「だからぁ、貴方には特別に『ゴホウビ』をアげようとオもってねぇ?」

「ぁ……」

 

動かな動け動く動き動けけけそうで沈む影が

 

太陽が昇り昇り月が落ち落ち落ち落ちて影が延びび空が昏く昏く昏く昏く昏く昏くくらくらくらくらくら

 

ぬるい手がつかつかつか掴み私を引き引きヒキひきずって締め締め締め締め締め締め締め締め

 

苦しい苦しい苦しい苦しい

 

喉の奥に何かが入り込んでくる。

 

やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやあ

 

 

 

 

魔王様

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごちそうさまでしたぁ♡

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

「いやー戦争特需というかレヴィアタン特需というかー。もー素材が素材なので職人街はお祭り騒ぎですよ魔王様ー」

「そうか」

「ついでと言うかオマケと言うかー、レヴィアタン討伐のせいか冒険者の数も爆発的に増えて世界中のダンジョンがひっきりなしに稼働し続けてますー。『ギルド』もものすごく忙しくなって雇用の増加につぐ増加。お金があっても人が足りなすぎて働けなくなった欠損障害者からスラム街の孤児に至るまで片っ端から教育しては現場に送ってますー。もー超好景気、どんな形でも働ける人材が必要な魔王領に他所からどんどん人材が入って来て、経済的にも文化的にも超成長期といって差し支えないかとー」

「そうか」

「まあ他の国からすれば人口の流出が激しすぎてヤバイみたいな事もあるみたいですがそんな事は知った事無いですしー。ダンジョン都市及び領地の拡張は人口増加に伴い段階的に進行してますしー。そう遠くないうちに名実共に魔界・人界の覇者として魔王様が君臨することになりますよー」

「そうか」

「だからー、滅茶苦茶頑張った私にもごほーび的な何かがあっても良いと思うんですよ魔王様ー」

「そうか」

「……魔王様ー?」

「そうか」

 

「あー……ラナ、その魔王様は分身体ッス」

「……分身体?」

「五感は共有しているらしいッスけど、書類作業等に使える最低限の思考能力を有してるだけの、いわば等身大魔王様人形みたいなもんッス」

「えっ……つまり私の報告は?」

「本物の魔王様には届いてる筈ッスけど……」

「……」

「んな『自分不満です!』って顔されても困るッス」

「だって私は魔王様に『よくやった(イケボ』って言われたくて頑張ったんですよー!それなのにこの仕打ちはあんまりじゃないですかー!?」

「仕方がねえッス。なんせ魔王領の人口が爆発的に増加した影響で()()書類仕事が爆増したッス。勿論ラナの仕事量も知ってるッスけど、それ以上に魔王様の仕事量も増えてるッスから多少の不満は我慢しろッス」

「ムキー!なんで魔王様いつも働いてるのよー!」

「世界の管理なんて元々一人の手でやるもんじゃねえッスからねぇ」

「なら四天王と呼ばれる貴方達も魔王様を手伝いなさいよ」

「ジブン、シュゾクテキニ、ムリナンデ」

「急に片言にならない!」

「ほ、ほら。四天王は魔王様の夜のサポートもしてるッス。役に立ってるッスよ?」

「……」

 

 

 

あんた等の所為でチ○コ痛いって相談されるんだけど?

マジすんませんでしたッス

 

 

 




管理職は大変だなぁ!
そして気が付けば半年経とうとしていた。きっと天狗の仕業。


・魔界の未探索エリア
 精強な魔王軍が探索を諦めるほどの危険地帯の総称。人界の極圏とは比べ物にならない程に危険な事が多い。
 未探索エリアの中には魔王軍が確認出来ていない魔族の部族や異常な特性を持った素材が隠れている。
 時空間のねじれやスキル無効、即死エリアは当たり前。能力値やレベルを失う事も。レベルを失った場合、魂の強度がほぼ0となりそれ以上強くなることは無くなる。蘇生が不可能になる。それでも魔王様なら……魔王様ならきっと何とかしてくれる……!!

・魔法の反動
 自身の力量を超えた大魔法やMP総量を上回る程の魔法力を行使した場合に起きる現象。個人差があるが、スキル:精神統一を会得していない者は発狂し、自身の最大HPと寿命が大幅に減少する。精神統一を会得している者は現在HPを大幅に減少する程度に抑えられる。

・四天王
 全員が理を外れている程に強いが、書類仕事にはめっぽう弱い。どれくらい弱いかというと
 大丈夫?魔王軍の四天王だよ?
 と言われるくらい誤字脱字が多い上に単純に字が汚い。
 魔王から「お前等は書類仕事しなくていい」と言われるくらい。
 探索能力もあまり高くなく、戦闘能力、殲滅能力ばかりに特化している。
 最近は魔王軍所属の勇者が育って来たお陰(所為)で出番も無くなっている。つまり……おっとここまでにしておこう。


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