天を廻りて、戻りきよ (411ayumi)
しおりを挟む

プロローグ

 

 

 ―故郷への帰りを望んだ龍がいた。

 

 ―その龍が何を思って、帰ろうとしたのか、

 

 ―それが分からない。私には、分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 ………恋しかっただけなら、ああはならなかったのかもしれない………

 

 

 

 

 

 

 

 

             ※

 

 

 冬木市のある城……その城の中には、白髪の少女がいた。

 

 

「……またこの夢亅

 

 

 その夢を見たのは、これが最初で無かった。

 

 故郷へ帰り、生きることを望んだ、龍の夢。

 

 天を廻り、かつての地へ舞い戻った龍の喜びと、

 

 狩人に殺された、龍の怨み。

 

 どれも、悲惨なものであった。

 

 

「……イリヤ様、お顔の表情の方が悪い気がするのですが……大丈夫ですか?亅

 

「……大丈夫よ、セラ、問題は無いわ亅

 

 

 セラと呼ばれたメイドには、大丈夫と伝えるイリヤ。

 

 

「……始めるわ、“召喚の儀式”を……亅

 

 

 召喚の儀式―それは、“聖杯戦争”と呼ばれる戦争の駒……“過去の英雄”を召喚するための儀式である。

 

 聖杯を求め、英霊たちを使い魔とし、戦う。

 

 これが冬木で、何度も行われていた。

 

 イリヤは、右手を前に出す。

 

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。

降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ

 

みたせ   みたせ   みたせ   みたせ   みたせ

閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を破却する

 

     セット

―――――Anfang

 

――――――告げる

 

――――告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷く者。

 

されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――。

 

汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 

 光が覆う――それも黄金の光が

 

 

(違う! これは……何?)

 

 

 イリヤは、バーサーカーと呼ばれるクラスを召喚しようとした。だが、まるで違う何かが、その場に出ようとしていた。

 

 そして、光は消えた――――――

 

 

「……亅

 

 

 そこに立っていたのは、金髪の、民族風の服を着た若い青年だった。

 

 唯一人間らしくないところがあるならば、二本の角が生えていることだろう。

 

 

「……あなたは……誰?」

 

 

 恐る恐る、イリヤは質問をした。

 

 どこかで見たことがある……いや、あった。

 

 イリヤは、それを知っていた。

 

 

「……私の名前は、シャガルマガラ亅

「……クラスは、一応“バーサーカー”って言うのかな…亅

 

 

 

 天を廻り、その龍は、もう一度降りたったのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一話 古き記憶

 

 

「君が……マスターか」

「……」

 

 思わずイリヤは黙り込んでしまった。気迫……いや、その圧倒的な存在感に。

 

 リーゼリットとセラ……イリヤもまた反射的に身構えてしまう程であった。

 

「そう身構えないで……私は怖くないよ」

 

 シャガルマガラ……彼は笑顔で言葉を紡ぎ出した。

 

「リーゼリット……セラ……」

「ここから一旦出てちょうだい……二人で話がしたいの」

 

 イリヤは、重い口調で二人に告げた。

 

「……分かりました。行くわよ、リーゼリット」

「うん……」

 

 二人は、近くの門から出ていった。

 

 

「……バーサーカー…いや、シャガル、あなたは……」

「?」

 

 途中で言葉が詰まる。喋れなくなるくらいに感情が昂ぶりを見せているのだろうか?

 

 対するシャガルは顔に?であった。

 

「……それより聖杯戦争のルールは分かってるの?」

「まあ、一応」

 

 ニカッとした笑顔で返事するシャガル。

 

「……」

「でも」

「何?」

 

 突然言葉を掛けられ、困惑するイリヤ。

 

 そしてシャガルは、口を開いた。

 

 

「命は奪いたくない……」

「私は故郷へ帰りたいだけだ」

「!!」

 

 ……イリヤは、何かを感じ取った。既視感とか、そんな感じの何かだ。

 

「私は戦いたくない」

「戦えばきっと、また幾人もの人々が死んでいく」

「そんなのはゴメンだ」

 

 キッパリとした表情でシャガルは戦いを拒否した。

 

「……嘘よ、あなたは戦ってばかりだったじゃない」

「故郷へ帰るために、ずっと戦ってきたじゃない!」

 

 イリヤの怒号がその場に飛び交う。だが、それはどこか悲痛な声だった。

 

「……」

「どうして……君が」

 

 シャガルマガラは、何故知っているのか? そのことが疑問なのか、表情に現れていた。

 

「……でも、あなたは死なせない」

 

 それは、イリヤ自身にも分からなかったのだろう。

 

「あなただけは……絶対に」

「私が死なさせない。何があっても、絶対に」

 

 

 何故、こんな言葉を口にしたのかを……

 

 

 

 

 

 

          ※

 

 

 冬木市の、とある山。そこに、一人の青年がいた。

 

「……」

 

 街を見下ろす彼は、どこか不機嫌だった。

 

「“天廻龍”を皮切りに……“古龍”共や、それに匹敵する存在は必ずこの世界に現れる」

 

「……この世界の意思一つで、”煉黒龍“か、“祖龍”と言った災厄が現れるのも間違いは無いだろう」

 

「その前に私も住処を作らなければな」

 

 

 その場に突如、暴風が吹いた……その上、”その場だけに雨まで降り出した。“

 

 

「……それにしても本当に不便だ。私のような”古龍“は……だが」

 

「“嵐龍”……それが私の役目であり、存在意義……しょうがないか」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。