Fate/EXTRA CCC、BB√ (空飛ぶジャガバタ)
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自己紹介等々

どうも、空飛ぶジャガバタです。SN桜が一番好きです。士桜大好き人間です。HF3章全裸待機。

FateはSNのPC版を8年前、EXTRAを4年前、CCCを3年前にクリアしております。

逆に、レアルタはやっておりません。動画で観ただけで、PC版からの追加要素は把握してますがエアプです。

月姫などのFate以外の型月作品は完全に動画で観てもないしエアプですごめんなさい。

 

処女作ですが、原作のCCCだと存在しないBB√を綴ろうと思います。

BBはCCC√で救われたのだからBB√はいらないと個人的にも思うのですが、どうしても欲しい…というか自分的にこうなるんだろうなって感じになります。

また、以下の作品の要素を含みます。

・FGO

・EXTRA、CCC

・狐尾

 

私自身、めちゃくちゃHF好きなので、ある意味CCC版HFとも呼べる内容になると思います。

ただ、全てをHFから取ってくるのではなく、一部をつまみ食いしていくという感じにしようと…。なるよね、たぶん。まぁそこら辺は私のさじ加減になるかなと。

 

EX系列(CCCまで)の設定は準拠していく方針ですが、たまに独自設定や独自解釈も入ります。ここでの「設定」とは、EXマテリアルや本編で出た情報、そしてFGOでの設定です。間違いや疑問点などあれば感想でぶつけてくれると幸いです。

 

CCC√7章から物語は始まるのですが、CCCをプレイしたことがない方でも楽しめるようにはしたいと思います。

しかし、C()C()C()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

内容とかあまり知らないけどそれでも読みたいと思うのなら、型月wiki等で内容やキャラクターの関係や行動、結末を把握すると良いと思います。本当はプレイしてほしいんですけどね!

 

気分屋で飽き性なので基本的に気分更新になると思います。そこのとこはよろしくお願いします。月一は目標としたいなと。

 

 

 

 

 

今回の世界線ですが、以下の通りです。

・ザビ男アーチャー(ただし、アーチャーのSGは2つ取得済み)

・CCC√

7章から枝分かれするので7章まではCCCと全く一緒です。なのでレオ、ユリウスなどの7章までの間で原作で死亡しているキャラクターは、(回想などで出てくる場合もありますが)基本出てきません。

ただ、とある二人だけは出てきます。敵に回るか味方になるかはお楽しみに。

 

 

 

では、次から本編を開始したいと思います。完結するかもわかりませんが、楽しんでいただけると幸いです。



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聖女の深層 -anima ataraxia- ①

「そんな、私なんかで、いいんですか…?」

 

目に涙を溜めて、こちらを見上げる少女(BB)がそう呟く。まるで、貴方が後悔すると、暗に告げるように。

その声は、自分たち ──サクラ、BB、アーチャー、岸波白野── 以外には()()()()()()()の中枢に、静かに響き渡る。

確かに、彼女は自分たちを月の裏側に閉じ込めた元凶であり、誅すべき敵だ。

それでも、自分は彼女を助けたいと思った。

彼女を敵として見れなかった。

暴走したAIにも見えなかった。

ただ一人の、自分と同じ人間に思えたのだ。

 

そして、自分を守るために、今まで戦ってきたもう一人の”サクラ”を放っておけるわけがない。

自分と過ごしたという69日の思い出を抱えて、たった一人孤独に走ってきた彼女を捨て置けるわけがない。

方法がどうあれ、自分を一途に思ってくれた彼女を選ぶことに、後悔なんてあるわけがない。

その思いを、彼女に伝えた。

 

 

「…。私を選んだら黒い方が消えて、綺麗なサクラだけが残る、なんてオチはありませんよ?」

 

そんなオチ、なくてよい。いやむしろあってはいけない。

何がどうあれ、自分はBBを選んだのだから。

 

「嫉妬深くて、ワガママで、

 世話好きで情が深くて、

 ずるくて、H(エッチ)で、臆病で…」

 

うんうん。…うん?

 

「自分で言いますけどめんどくさいですから!

 色んなものがこじれて大変です!もうぎゅうぎゅうに束縛します!

 わかっていても、センパイが大好きです!

 こんな私でも、あなたは好きでいてくれるんですか?!

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?!」

 

叫ぶようにBBは自分の思いを全て吐露する。

そんなことわかりきってる。それがいいんだ。

それに、BBの性格なんてもうイヤというほどわかってる。

それでも自分はBBが好きだ。

だから、ムーンセルから離れてほしい。

その行為はBBを壊すだけだ。自分が好きになった少女を目の前で失いたくない。

そう告げようとBBの元に行こうとした。

 

─行こうとしたその時、何かのプログラムが作動した。

 

何が起こったのか、皆目見当がつかない。

唯一わかったことは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

一抹の不安を感じつつ、アーチャーに振り向こうとしても、動かない。

こうして動くのは体内と思考と口だけ。

それ以外のあらゆる動きは阻害されている。

それはアーチャーも同じであった。

 

「これは…まさか…!」

 

まるで、自分が抱いていた予感が的中したかのように、驚愕と焦りの声を上げるアーチャー。

未だ事態を把握しきれておらず、目を丸くしたまま静止しているBB。

自分の横にいるサクラも同じ心境だろう。

ただ立ち尽くしている。

 

誰一人として事態を把握しきれずにいる中、まるでそれを嘲笑うかのように天女の微笑が聞こえる。

──それは、本来いないはずの人間から漏れ出た笑み。

メルトリリスに体を分かたれ、死亡したはずの人間。

振る舞いは聖女そのものでありながら、どこか淫蕩を感じさせる立ち姿。

見間違えるはずもない。見間違えるべくもない。

あぁ、間違いない。あの天女は、彼女は、間違いなく────。

 

 

 

 

 

 

 



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聖女の深層 -anima ataraxia- ②

分岐発生です。
といってもまだCCC7章の範囲ですので、本格的に本編が始まるのは次の次くらいかなと。
それまでお付き合いください。


「ふふふ、なにやら男女同士の密会とみました。

 ただ聞いているだけ、というのも殺生ですし、私もご参加、よろしいでしょうか?」

 

突如として現れた聖女。

位置にしてBBの後ろ。数歩歩めばBBにまで手が届くだろう。

地に縛られているアーチャーと自分では、キアラとBBの間に割って入ることができない。

 

…。思考は縛られていないはずだが、まるで働かない。

疑問ばかりが頭に浮かぶ。

 

──確かに彼女は、あのとき死んだはず。──

 

そんな疑問を打ち消すかのように、キアラの横にいる一人の少年(アンデルセン)の声が響き渡る。

 

「この女が死んだだと?全くの大馬鹿者め。今までこの女の何を見てきた!

 見ろ、この厚顔かつ淫蕩極まる態度を。

 体を2つに引き裂かれたごときで死ぬような(タマ)か!」

 

全く分からない。死んでいなかった?体を2つに引き裂かれても?

一体どういうことなのか。普通、あそこまでやられて生きている人間などいないはずだ。

それに──。

 

「っ…!しかし、あそこで一人分の生命反応が消えたのは確かです!」

 

そうだ。サクラも言う通り、あのとき一人の命が消えたのは確かだ。

その”命”がキアラのものではなかったとするならば、一体誰が…?

 

「あれはパッションリップのものだ。パッションリップにキアラの外装(アバター)を被せただけの偽物。

 あの女(メルトリリス)が引き裂いたのは、自分自身の同胞だったということだ。」

 

なっ…!そんなことが…!なら、リップが迷宮からいなくなったのはそういう…!

しかし、ここでまた新たな疑問が浮かぶ。

彼女は何故そんなことをしたのか、いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()、だ。

自分の死さえ偽装して、彼女が何をしたいのか、その目的。それがまるでわからない──!

 

「それはすぐにわかります。

 ですので、少々そこでお待ちくださいませ。

 束縛もまた悦の形。ゆっくり、たっぷりと、ご堪能下さい。」

 

束縛を受けているアーチャーと自分にキアラはそう告げると、お淑やかにBBの元へ歩みだす。

彼女が何をするのか未だ不明だが、これだけはわかる。

明らかに、この場を乱すために彼女はやってきたのだと──!

 

BBに歩み寄るキアラ。BBに逃走を促そうとするも、それは無駄だと悟ってしまった。

彼女もまた、自分と同様地に縛られている。

そして、それはサクラも同じだった。いつの間に…!

 

「あ…貴女は…!貴女は、一体何をしに、中枢へ来たのですか…!!」

 

キアラに問うBB。その問いにキアラは微笑を浮かべつつ答える。

 

「ふふふ、そうですね。ではほんの少し、お話ししましょう。」

 

今から語ることに興奮を隠せないでいるのか、恍惚としながらキアラは自らの計画を口にする。

 

「私は、ここで貴女を取り込む()()()()()()

 マスターにすぎない私は、ムーンセルにアクセスする権利を持たない。

 ですので、ムーンセルを使用できる貴女を操り、ムーンセルを支配しようと。

 そう計画していたのです。

 ──ですが、少しばかり変えたのです。

 今、貴女を取り込むより、先に貴女で楽しもうと思ったのです。」

 

なんということだろうか。

彼女は今、自分がムーンセルを支配する意図があると口にした。

かつてのBBのように。

それに、楽しむとはどういうことなのか。

BBを玩具にして楽しもうとでも言うのか。

 

「いえいえ、そんなちっぽけなことではありません。

 第一、そんなことをしてもこれっぽちも気持ち良くありません。

 私が今したいことは──。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴女が目の前で大切な人(岸波白野)を失ったとき、どのような顔をするのか。

 ただ、それが見たいのです。」

 

 

 

 

 

 




アーチャーさんの影薄すぎ案件。
本編入ったらバシバシ活躍させるから…。

展開急すぎるとか原作省略しすぎ云々あると思いますがご容赦のほどを。


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聖女の深層 -anima ataraxia- ③

次の次で本編開始です。

えっ?前でもそう言ってた?何のことやら。


──それは、衝撃の告白だった。

  BBの眼前で自分が消えたとき、BBがどのような顔をするのか。

  ただそれだけを見たいと、キアラは語る。

  そして、自分が消えたとき、それはすなわち──

 

「そうですね。端的に言うなら、貴方がBBさんの前で命を落とす、ということでしょうか。

 これは、BBさんを取り込んだ後ではできないことでしょう?

 ですから、今やらなければ味わうことができなくなってしまいます。」

 

などと、まるで食事をする前のようにキアラは言い放った。

その感覚は最早人間を逸脱しているようにも思える。

『他人の不幸は蜜の味』というが、彼女はどこか違う。

 

とにかく、今重要なのは、()()()()()()()()()()()()()ということだ。

アーチャーでさえ動けない今、自分はそれこそあっさりと殺されるだろう。

それも、たった一人の女の欲を満たすためだけに。

そんなこと、そんなこと──

 

「あら、貴方は表側で何を見てきたのでしょう。」

 

「あらゆる願いを叶える願望器を求めて128人のマスターたちが殺し合う月の聖杯戦争。

 敗北が死へと直結する戦い。

 私がやろうとしていることは、これとなんら変わりはありませんよ?」

 

「願いはすべて等価値です。そこに善悪はありません。ですが、──

 

 

 

 貴方が自分の願いを叶えたいという欲を持って聖杯戦争に参加している以上、()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

言い訳、屁理屈とも取れるキアラの主張。

しかし、それはまごうことなき事実だ。

自らの欲のためだけに自分を殺そうとしているキアラ。

自らの願いを叶えるという欲を背負って他のマスターを死に追いやる自分。

そこに一体何の違いがあるというのか。

たとえ、自分が何を願い、何を思って、聖杯戦争という殺し合いに身を投じたのかわからなくとも──

 

「ふふふ、お分かりいただけたようですね。

 では、私も自らの欲、その一つを満たすと致しましょう。」

 

キアラはそう言い、自身の背後から静かに、灰色の手 ─指、爪共に異様に長い─ を出現させる。

自分に死をもたらすモノ。

その凶手から逃げようとするも自身の拘束は未だに弱まらず、自分を逃がさぬよう捕らえ続ける。

どうやら、自分の死は逃れられぬ運命のようだ。

 

「マスターッ!まだ諦めるな…!もう少しで、抜けられる、筈…!」

 

そんなアーチャーの声でさえ、今は遠く聞こえる。

自分の死が眼前に迫ってきているという事実を認識するだけで、世界が遠のく感覚がする。

 

「嫌…やめて…その人だけは、その人だけは…!」

 

「あぁ、たまりませんわBBさん。その声を聞くだけで達してしまいそう。

 それでは、白野さん──」

 

 

 

迫り来る。

凶手が、死をもたらすモノが。

自分の心臓を貫くように迫り来る。

逃れられない。防ぐこともできない。

自分がもっと優秀な魔術師なら、なんて思いも最早何の意味も為さない。

何故なら──

 

 

 

 

「私の欲の、踏み台になってくださいね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

岸波白野という一人の人間は、殺生院キアラという一人の人間の欲を満たすために、今ここで終わりを迎えるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




自分で書いてて思ったのですがわかりにくいですね…。
あと緊張感に欠けるなぁと。
ですが、自分にはこれ以上の表現が思いつかなくて…。

絵で示せたらわかりやすくなる…?


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聖女の深層 -anima ataraxia- ④

次からようやく本編です。長かったですね()
なのでサブタイトルがこの物語独自のものになります。



───思えば、聖杯戦争(月の表側)でも、死の淵に立たされているという状況は日常茶飯事であった。

   例えるなら、何気なく踏み出した一歩が右足か左足かで生死が決まってしまう。

   そんな世界だった。

 

などと、ふと思ってしまった。

今から死にゆく人間には意味のない思考だ。

踏み出した一歩が右足でも左足でも、今はどちらでも良い。

どっちにしても、死の運命からは逃れられないのだから。

 

自身の心臓を終着点として走る凶手。

この凶手を払いのける力など、自分には到底ない。

しかし、タダでは殺されてやらないと思ったのか、はたまたこんな状況でもまだ諦めていないのか、最期の力を振り絞り、縛られている体を動かそうとする。

動かそうとしたところで───

 

 

 

その凶手が目的を果たしたのだと、自身の体が痛みをもって教えてくれた。

何とも親切な体だ。

 

 

「…!…?!」

 

声が聞こえた。

それは叫ぶような声でもあり、嘆くような声でもあった。

どこから聞こえているのかはわからない。

 

 

胸元からゆっくりと、凶手が抜かれていく。

心臓の痛みにようやく慣れたというのに、また新たな痛みが奔る。

体内は漏れ出た血液で暖かいのに、体外 ─主に皮膚感覚─ は寒ささえ感じるようだ。

 

自身の死に足を踏み入れたとき、自身を縛りつけていたものが全て消え去った。

自由になった体は、支えを無くしてただ前へ倒れていく。

パシャッと、水をまき散らす音がした。

大きさからして人間一人が倒れこんだ音だろう。

─と、自身のことのはずが他人事のように思えた。

 

 

女の笑い声が聞こえる。悦に満ちた笑い。

いつかの天女のような微笑とは程遠い、俗物的で人間性に(まみ)れている笑い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな笑いを打ち消すかのような慟哭が響いた。

聴覚に意識を割くことができない今、誰が発したのかはわからない。

だが、それでもわかったことがただ一つだけある。

 

 

その慟哭は、現実を反転させ、影の世界(悪性情報)呼び起こ(解放)したということ。

 

 

周りが黒い海に染まっていく。

何者かが制御していたモノが、その制御から外れて漏れ出している。

──悪性情報。ムーンセルが観測した人間のあらゆる負の感情。

  嫉妬、憎悪、怨恨、嫌悪。この世で最もおぞましいモノ。

  個人の欲望(願い)を叶える、尽きることのない第三堕天の聖杯織機(ヘブンズフィール・アートグラフ)

  

周りを侵すものが何なのか、頭によぎった。何故かその正体を知っている。いや、知らされたというべきか。まるで、脳に直接ねじ込まれたかのようだ。

自身の体にもそんなものが幾ばくか入ったからだろうか。

 

 

 

そんな中、自分の名を誰かが叫ぶ。

ふと体が軽くなる。

体が軽くなったまま自分は、筋肉質の腕に抱かれながらこの場から離れているようだ。

 

 

 

 

 

──岸波白野の意識はそこで途切れた。

虚ろな目で視た最後の景色は、悪性情報に包まれていく一人の少女の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 




この小説を綴ろうと思ったときにまず最初に思い浮かんだシーン。


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第1話『異変』

──どこかの桜並木。

 

  気がつけばそこにいた。

 

  月の表側でも、裏側でもない世界のように思える。

 

  自分の髪を揺らす風は、いつも感じていた風とはすこし違う。

 

  その風はあまりにも放逐的だった。厳しい自然を感じさせる。

  

  月での風はいつも優しかった。ならば、この風は偽物だろうか。

  

  …いや、これが本物(地上)の風だ。電子ではなく、気圧の高低差による風。

 

  などと考えているうちにより一層強く、風が吹きつける。

 

  そんな風を浴び、その花弁を散らす桜。

 

  辺り一面が桜色に染まるとき、ふと呼ばれた気がした。

 

  「センパイ。」

 

  気がつくと、彼女がそこにいた。

 

  いつも通りの服装(黒いコート)の彼女は優しくこちらに微笑む。

 

  人間性に満ちている笑み。

 

  あぁ、俺はこの笑顔を守り抜けたのだ。

 

  安堵と喜びが混ざり合った感情を抱く。

 

  月の裏側で伝えそびれたことがあった。それを今伝えよう。

 

  

  

  そう思い、足を踏み出した瞬間、違和感が奔る。

 

  違和感の正体はわからない。わからないが、何かが違うと察する。

 

  本能が、進むのを拒む。体が石のようだ。動かせない。

 

  周りの世界全てに違和感をもつ。それは、B()B()()()()()()()()()

 

  あの微笑みはまごうことなきBBのものだ。なのに。それなのに、

 

  微笑みの後ろに、どす黒い何かが見えるような気がする。

 

  あれは、本当にBBなのか、と。疑いの視線さえBBに向けてしまう。

 

  そんな中、BBはただ微笑んでいた。

  

  戸惑いも喜びも何も感じられない。ただ微笑んでいるだけ。

 

  この上なく人間性に満ちていて、この上なく無機質な笑み。

 

  そんな微笑みと真っ向から向き合うなど不可能だ。

 

  視線を少し外す。周りの世界を見る。

 

  

  そこは、最早自分が知る世界ではなかった。

 

  黒い何かに汚染された世界。

 

  自分が桜だと認識していたのは、BBが使役していた影。シェイプシフター。

 

  呆気にとられた。この世界は、一体なんだ。

 

  そんな疑問を、BBに視線で送る。

 

  しかし、どうやらそれはできないようだ。

 

  そんな視線はBBに振り返った瞬間、かき消えた。

 

  黒いコートを身に纏い、活発で、人間以上に人間であった彼女のイメージは霧散した。

 

  黒いドレスを身に纏わせ、生気を感じさせないほど肌は青白く、AI以上にAIである彼女。

 

  そんな彼女が、そこにいた。

 

  こんなのは悪夢だと思いたくて、ひたすらに悪夢から目覚めようとする。

 

  目を覚ませば、元通りの彼女がいて、センパイと呼んでくれると。

 

  そう信じて、悪夢からの解放を願う。

 

  

  そんな自分の様子を見て、彼女は笑みを浮かべる。

 

  自分が足掻く姿がそれほど滑稽に映ったのだろうか。

 

  そして彼女はゆっくり、しかしてはっきりと言葉を口にした。

 

  彼女と自分の距離的な隔たりを感じさせないほど、その声は耳朶に響いた。

 

 

 

 

  「()()()()()()()?センパイ。──」

 

 

 

 

 

  「だから、無為に死なないでくださいね?」

 

 

  

  

 

 

 

  

 

 

 

  その声は、新たな覚めない悪夢(C C C)の幕開けを感じさせた。

 

 

 

  

 

 

 

  

 

  

  

 

  




この黒いBBの衣装はEXマテリアルの没案のものを思い浮かべてくだされば。
狐尾に同じ衣装を着たBBが出てきます。


どんな感じか知りたい人は狐尾を買おう!!(ダイマ)


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第2話『現状』

校舎内の位置関係については一応説明はしますが、マテリアル等で見てもらった方が早いとは思います。


声が聞こえる。

意識の底にいて、未だ覚めぬ自分に呼びかける声。

悪夢に捕らわれていた自分をソレから引き離す声。

 

その声には聞き覚えがある。

いつも隣で、その声を聞いていた。

時には激励、時には叱咤、時には戒めとなったその声。

 

わかっている。声の主が誰なのかは。

彼は、凡庸で未熟で曖昧な自分を常に支えてくれていた。

赤い外套を身に纏った弓兵(アーチャー)

陰と陽を形どった双剣。

皮肉屋で慇懃無礼な世話焼き。

 

そんな人物から発せられた声に連れられ、自意識を持ち直す。

自分があるべき場所へ戻ろうとする。

そうだ、こんなとこで立ち止まってなんかいられない。

自分にはまだ、やるべきことがある──!

 

 

 

 

 

 

 

「マスター、無事か?!」

 

見ていたものが変化した。

悪夢から瞼の裏に。

その問いに返答したいが、声が上手く出ない。

なので、目を開けることをその問いへの返答としよう。

ゆっくりと瞼を上げる。

暗闇しか見えていなかった目に光が差し込む。

その光に眩しさを覚えつつ、天井を見つめる。

 

「一時はどうなることかと思ったが…。

 とにかく、無事そうで何よりだよ。」

 

声のする方向へ視線を傾ける。

そこには、あの声の主がいた。

彼に声をかけようとする。

しかし、喉から出てきたのは低い呻りだけだった。

 

「無理をする必要はない。今は安静にしていたまえ。

 がむしゃらに進み続けるのはお前の美徳だが、時には歩みを止めることも大事だ。」

 

なるほど。こちらを気遣ってくれているのか。ありがたい。

ではお言葉に甘えて少しベッドに身を預けておこう。

 

「さてと、それでは今のうちにできることをしておこう。

 まず確認だが──」

 

 

 

「胸元に手を当てたまえ。」

 

…?どういうことなのか。言葉の意図がわからないが、言われた通り胸に手を置く。

至って正常だと思う。いつも通り、心臓の鼓動が感じられる。

 

 

 

 

 

まて、()()()()()()()()()()()

それはおかしい。だって、自分はあのとき、心臓を貫かれ──

 

 

「そのひどい顔を見るに、気づいたようだな。」

 

「そうだ、お前は生きている。

 殺生院キアラに心臓を貫かれても尚、だ。」

 

ひどい顔…。そんな形容をするほどの顔をしていたのか、自分は。

いや今はそんなことより、アーチャーに問わなければ。

なぜ自分は生きているのか、と。

未だ上手く言葉を発せずにいる中、自分が訊きたいことを察したのか、アーチャーは言葉を紡ぐ。

 

「正直言って、なぜお前が生きているのかは、私にもわからない。

 私が抱えたとき、お前の体は最早死人のソレとほぼ同じだった。

 死んではいないが、限りなく死に近い状態。

 そんな状態で命からがら、校舎に逃げ帰り、お前の様子を見たものは誰しもがこう思ったさ。

 ──もう、助からないだろう、と。」

 

しかし、と付け加え、再び語り始める。

 

「なぜかお前の体は持ち直した。

 徐々に体温が上がっていき、半刻もする頃には完全に生き返っていた。

 驚いたよ。もしや、心臓もお前に似て、諦めが悪いのかもしれんな。」

 

いや、それはないと思う。諦めが悪い心臓なんて聞いたことがないし。

そもそも、不随意筋で動く心臓が意思を持っていたらそれこそ標本行きだ。

 

 

そんな冗談を考えつつ、中枢での出来事を思い出していく。

幸い、記憶は失われていないようで、思い出せばその情景は脳内に映し出される。

思い出されていく情景の中で、一つだけ気になるものがあった。

そう。心臓を貫かれ、死を間近に見据えていた自分が中枢で最後に見たもの。

悪性情報に包まれていく彼女の姿だ。

一体、あの中枢では何があったのか──。

安静にしているうちに発声機能も多少は回復したので、その疑問をアーチャーにぶつける。

アーチャーは少し目を伏せ、返答するのを躊躇うように言葉を口にする。

 

「中枢では何があったか、か。BBを救おうとしていたお前にとっては最悪の出来事が起きたよ。」

 

一抹の不安を感じつつ、アーチャーの言葉に耳を傾ける。

アーチャーは言葉を選ぶように、慎重に語る。

 

「中枢が悪性情報に侵食された、のは知っているな。」

 

その言葉に頷く。

おぼろげではあるが、中枢が黒い海に覆われていく光景を伏しながら見た記憶はある。

 

「中枢を侵食し尽した悪性情報が次に侵したのは、BBだ。

 BBは元々、悪性情報を自らのリソースとしていた。

 しかし、お前を失うという事実に耐え切れず、制御が不安定になったのだろう。

 その隙を突かれて、今度は自分が悪性情報に呑み込まれた。こんなところか。」

 

BBが悪性情報に呑まれてしまった。

つまり自分は、BBを救うと決めたのに結局何もできていない。

彼女の笑顔さえ守ることは叶わなかった。

歯がゆい。ただ、悔しさだけがせり上げてくる。

自分に、もっと力があれば──

 

「その仮定には何の意味もないぞ、マスター。

 過去ばかり見つめるな。過ぎたことを悔やみすぎると足元を掬われる。

 大事なのは、今から何をするか、だ。」

 

クヨクヨしていた自分に喝を入れるアーチャー。

その言葉で目が覚めた。

このサーヴァントの言葉は自分の力になる。やはり頼もしいサーヴァントだ。

 

 

 

 

今からすべきこと、か。

BBを救う、というのは変わらない。

しかしそれは今ではない。今は現状を把握し、次なる一手を打つための作戦を立てねば。

自分だけでは不可能だ。ならば、彼女たちに助けを求めるしかない。

彼女たちは今でも生徒会室で作戦を立てているだろう。

やはり、頼もしい仲間だ。

 

 

布団を剥ぎ、ベッドから起き上がる。

薄々感づいてはいたが、そこは保健室だった。

しかし、そこにサクラはいない。おそらく生徒会室にいるのだろう。

と期待して保健室を出る。

 

 

 

いつもと変わらない校舎。

ノスタルジックな木造校舎。

そう、()()()()()()()()()()。何一つとして。

 

変わったのは景色だ。常に夕暮れを映していた空は赤紫色に覆われていた。

禍々しさを感じさせるこの空を見ると、言いようのない恐怖に襲われる。

 

 

──そういえば、このような空をどこかで見た気がする。

 

 

そんな既視感を抱きつつ、生徒会室を目指す。

保健室は一階で、生徒会室は二階にあるので、階段を上らなくてはならない。

しかし、生徒会室は階段を上ってすぐ左にあるのでそこまで苦労はない。

保健室も階段の左隣にある。

 

 

通い慣れた道程を歩み、生徒会室の前に立つ。

なぜか幾ばくかの緊張が走る。

 

心を落ち着かせ、扉に手をかける。

ガラガラッと軽快な音を立てて扉が開く。

 

 

足取りにぎこちなさを残しつつ、いつものように生徒会室へ入った。

 

 

 

 

 

 

 

 




アーチャーのザビ男への二人称ってお前で合ってましたっけ。
ザビ子に対しては、君だったと思うのですが…。
そこらへん感想で教えてくれるとありがたいです。

ところで心臓貫かれるってどんな痛みなんですかね。
握りしめられるような痛みは死ぬほど味わってきたのでわかるのですが、貫かれる痛みだけはわからないですね。
いやわかったら怖いですけど。
お前どこ出身って話ですよ。
冬木でブラウニーやってそう。


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第3話『生徒会』

今回はレオ、ユリウス、ガトー、ガウェインのCCCでの重大なネタバレを含みます。
なので、ネタバレをされたくない人は間桐桜の項で止まることを推奨します。
桜以降の文章を読まずとも、続きが理解できるようにはします。

と思ったけど最初の時点でキアラがラスボスって言っちゃっている以上ネタバレの配慮今更感ありますね…。


意外かもしれないが、この木造校舎の旧月海原学園には生徒会がある。

月の裏側に落ちるという異常事態の前に何を呑気な、と思われるかもしれないがあるものはあるのである。

前任の会長がノリと勢いと願望で作ってしまったものだ。

 

「月の裏側からの脱出を果たすまで協力しあう」

 

この名目で、だ。

まぁ本音は、自分がこういう学園ライフに憧れていたからというものだが。

聖杯戦争での彼はこんなことを言うような人間ではなかった筈。いったい何が彼を狂わせてしまったのか。

 

 

生徒会メンバーは生徒会室で作戦を立て、それに従い自分が動いていた。

俗に言う実働部隊、というものだ。

多種多様な相手と対面するのは、アーチャーがいても恐怖を感ぜずにはいられなかった。

なにせ、一度判断を誤れば死が待っているのだから。

しかし、生徒会室で様々な指示を出し、的確な判断をしてくれていた彼らのおかげで幾分か恐怖は和らいだ。

…まぁ、その反面色々と問題はあったが。

 利息がトイチの闇金をふっかけてきたこともあった。

 自分が下着を脱ぐ瞬間をREC(撮影)しようとしたことも。

 放課後処刑同盟なんてものであやうく自分が処刑されかけたりもした。

 更には高潔なはずの騎士が年下巨乳を見ただけで性欲を覚えたり。それでいいのか円卓の騎士。

 

とまぁ、問題はあるが生徒会のメンバーは本当に優秀で頼りがいのある人たちばかりだ。

 

──副会長、遠坂凛。

凄腕の魔術師(ウィザード)で、聖杯戦争でも自分を助けてくれた。

自分に厳しく他人にも厳しいが、なんだかんだ他人を放っておけないのが彼女の魅力だ。

ラ二などの天才肌の人間とは違って、凡人の自分の心境も理解できるので彼女がいないと自分が潰れてしまうかもしれない。

というか、この生徒会には天才が多すぎる。

…拝金主義とか自意識過剰とかには突っ込んではいけない。

 

──会計、ラ二=Ⅷ。

遠坂に負けるとも劣らない魔術師。アトラス院のホムンクルスであるという。

占星術に長けていて、自分もお世話になった。

月の裏側では占星術ができないとわかると夢占いに手を出し始めたようだ。

合理的で無感情のように見えるが、普通の少女のような表情を浮かべることもある。

ノーパン主義とか最強厨などは本人の目の前では禁句だ。

 

──間桐桜。

ムーンセルによってつくられた上級AI。

AIなので、現代で言うと「有る」が「無い」モノらしいが自分にはよくわからない。

ラ二もそうだが、自分には彼女たちは同じ人間にしか見えない。

彼女なしではサクラ迷宮の突破は不可能だった。

生徒会における役職こそないものの、自分たちには必要不可欠だ。

 

 

彼女らは今まで生きている。

サクラは今のところわからないが、生きていると信じたい。

しかし、裏側の脱出という目的の中、命を落としてしまった者もいた。

 

──前会長、レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ

世界を管理する西欧財閥。その次期当主。

()()()()()()()()()()()の完全無欠の少年王。

それに驕ることもなく、誰に対しても公明正大な人物。

太陽のように万人全てを照らす人間でもあるがその反面、太陽のごとき灼熱で敵対者を排除する人間でもある。

表側だと、決して分かり合えることはないと思っていた。

…しかし何が起きたのか、月の裏側ではそんな性格は鳴りを潜め、年相応の無邪気さを見せている。生徒会を発足させたのも彼だ。

その最期はサクラ迷宮第四階層。

迷宮の出口でBBを打倒せんと、決着術式(ファイナリティ)聖剣集う絢爛の城(ソード・キャメロット)」を展開し、BBと戦闘を行ったが、BBの圧倒的な力の前で敗北してしまった。

死の間際、自分に会長職を託していった。

 

──書記、ユリウス・ベルキスク・ハーウェイ。

レオの兄であり、レオを勝利させるために聖杯戦争に参加したハーウェイの黒い蠍。

表側での冷酷な表情や視線には、いつも委縮していた。

彼とは聖杯戦争第五回戦で殺し合う運命にあったようだ。

しかし、決着がつく前に月の裏側に落とされてしまった。

月の裏側では、レオのサポート兼暴走抑止係を務めていた。

その最期は、犬空間と呼ばれるBB特製の虚数空間。

レオがBBに敗北し、自分とアーチャーもBBのチートスキル十の支配の冠(ドミナ・コロナム)によって動けなくなった状況で、突如としてBBのスパイであったことが発覚し瞬く間に旧校舎を制圧した。

しかし、犬空間に落とされて尚足掻く自分に痺れを切らしたBBが遣わしたシェイプシフターから自分を守ってくれた。

実際にはBBのスパイではなく、自分を守るために、BBに一芝居を打っていたのだ。

自分をただ一人の友人と呼び、自身の命を賭して自分を犬空間から離脱させた。

 

──爺や、ガウェイン。

一人だけ役職がおかしいが、レオが決めたので仕方がない。

レオのサーヴァントで、白銀の鎧を纏い、太陽の聖剣を携えた高潔な剣士(セイバー)

真名からもわかる通り、その正体は円卓の騎士。

円卓の騎士最強とも謳われたという。

苛烈だが繊細な太刀筋に加え、聖者の数字と呼ばれる、一定の時間に限られるが自身を無敵にするスキルすら持っており攻防共に隙が無いサーヴァント。

疑似太陽を閉じ込めた聖剣はその刀身を実に13㎞もの長さまで伸ばせるという。

そんな彼だが、月の裏側では弾けてしまった。

パッションリップを見て性欲を覚えてしまったりジャガイモをマッシュしただけのものを料理と言ったり。

その最期はレオと同じくサクラ迷宮第四階層。

レオとともにBBに挑んだが敗北。危うくBBのリソースとされるところだったがレオの策略でそれを回避。月の裏側から消滅した。

 

──応援団長、臥藤門司。

会長職を託される前の自分と同じく生徒会では下っ端の役職。本人は気にしていなかったようだが…。

偉丈夫で、体格の大きい方であるアーチャーよりも大きいように見える。

ごった煮宗教家とも称される通り、世界の多種多様の宗教をミックスした自論を唱える。

暑苦しいがその信念は本物だ。暑苦しいが。

自分の神様を広めるために聖杯戦争に参加したという。

…まぁ、その神様に「ショウジキナイワー」とか神託を残して去られたというが。

その最期はサクラ迷宮第四階層。

この階層の衛士(センチネル)と呼ばれる、階層の守護者であった女性の苦悩を命すら賭けて的確に救った。

その姿は暑苦しく自論を展開するガトーではなく、衆生全てを救う仏のような温かさに満ちたガトーであった。

 

 

彼らのことを思うと胸が苦しくなる。

しかし、ここで立ち止まってはいられない。

命を賭して道を切り開いてくれた彼らへの恩返しは言葉ではなく行動で示すべきだ。

そのためにも、今後のことを考えねば。

 

 

 

 

 

軽快な音を立てて扉が開く。

生徒会室を一瞥する。

何一つとして変わらない部屋。

左側にある巨大な本棚。中央にある楕円型の机。右斜めの奥にある大きな画面。

視界に入ったのは凛とラ二だ。

そこには、机の上にある自身専用の小さな画面の前で思案中と思われる凛と、データを打ち込んでいくラ二の姿があった。

…。ここでも、サクラの姿が見えない。

 

「あら、おはよう。お疲れさま…と言いたいところだけどそうも言ってられない状況になったわね。」

 

生徒会室に入ってきた自分に最初に声をかけたのは凛だった。

どうやらラ二は集中しているようで、こちらには気にも留めない。

その声はこちらを気遣うようなもので、こちらも何一つとして変わらない凛の姿に安堵する。

しかし、今は訊きたいことがある。無論、サクラがどこにいるか、だ。

その疑問を凛にぶつけたところ、曇ったような表情を浮かべた。

 

「サクラがどこにいるか、ですって。

 アーチャーからは何も聞いていないの?」

 

いや、聞いていない。自分はてっきり生徒会室にいるのだと思っていたし、アーチャーもサクラについては何も言わなかった。

 

「…そう。アーチャーが、ね。

 慇懃無礼だとは聞いていたけど、気遣いもできるのね。」

 

 

「まぁいいわ。貴方も立ち直ってるようだし、私から話をするわ。

 といっても私たちは中枢での出来事は音声でしか把握してないから、大部分はアーチャーからの報告がメインになるけど。」

 

そう言って凛は語りだした。

 

「まず結論から言うわ。」

 

 

 

 

 

「サクラはこの校舎にはいない。

 おそらく迷宮のどこかに幽閉されているわ。」

 

 




レオとかユリウスの説明が異常に長い。
生徒会ではなかったのでシンジやジナコ、カルナの説明は省かせていただいております。申し訳ない。いつか解説できる機会を設けます。

また二人称があやふやです。
ザビ男は遠坂呼びか凛呼びか、どっちだったかな…。



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閑話①‐Ⅰ

緊迫した状態でこういうの書くのはどうかな、とも思いましたが展開が重いなと感じたので。
軽いです。
本編とほぼ関わりないです。
クスッとなっていただければ幸いです。


いつもと変わらない朝。

そんな朝にいつも通り起床する。

 

旧校舎に時間の概念はない。

なので、朝というのは少し違うが、やはり人間なので起床したのが朝だと思いたくなるものだ。

昼に起床、なんてあまりにも自堕落すぎる。

 

寝ぼけた目をこすり、マイルームを見渡すが、どうにも姿が見えない。

──そう、アーチャーだ。

いつもなら自分より早く起床して、おはよう、なんて言ってくるアーチャーがいないのだ。

無論、霊体(アストラル)になっているわけでもない。

これは何かある。もしやアーチャーのSG取得イベントかもしれないと心を躍らせてマイルームを出る。

 

これまでで、アーチャーのSGは2つ手に入れている。

しかし、肝心のあと1つがどうしてもわからないのだ。

ここまで来たならあと1つも手に入れたい。彼を深く知る、という意味でも。

 

 

アーチャーの居場所としてまず思い浮かんだのが生徒会室だ。

凛やラ二が何らかの手伝いをアーチャーに依頼した可能性があるからだ。

それに、自分たちの方針を決定づけるための生徒会室にアーチャーがいるのが、一番自然に思えたからだ。

 

生徒会室の扉を開けて、中を一瞥する。

予想に反して、アーチャーの姿はなかった。

珍しいことにサクラの姿もなかった。

 

「あら、おはよう。今日はいつもより早起きね。」

 

「おはようございます。睡眠時間5時間30分。理想よりやや早いです。

 しっかりと眠れましたか?」

 

こちらの様子に気づき、凛とラ二が挨拶をしてくる。

おはよう、と自分も返す。

睡眠時間については大丈夫だ。早起きは三文の徳だし。

 

「ここに何の用?今日のブリーフィングはなしと昨日伝えたわよね?」

 

確かに今日、ブリーフィングはない。

なので生徒会室に用はないはず、と凛は思っているのだろう。

しかし、自分は訊きたいことがあってここに来たのだ。

アーチャーがどこにいるかを知りたい。

 

「アーチャー?私は見かけてないけど…。」

 

「私もです。そして、この生徒会室に来たログもありません。」

 

そうだったのか。アーチャーの居場所ランキング第一位が外れてしまった。

なら、どこにいるのか…。手当たり次第調べてみるか。

 

凛とラ二に感謝を述べて生徒会室を出る。

アーチャーが居そうな場所については生徒会室以外に当ては全くないので途方に暮れる。

そのときふと、頭をよぎるものがあった。

──もしや、保健室か?

 

それは直感に近い何かだったが、生徒会室という当てが外れた以上、そこに行くしかない。

生徒会室にサクラがいなかったのでもしや、と思ったのかもしれない。

しかし、アーチャーは前に、自分は保健室に入れないと言っていたが…。

 

 

階段を下り、二階から一階へと移動する。

相変わらず商魂逞しいことに、言峰神父は店を開いている。

ちょうど良い。言峰神父にアーチャーの居場所を訊いてみよう。

 

「アーチャーなら保健室に入っていったが。」

 

そう端的に告げる言峰。

彼が嘘をつくとは到底思えないので、自分の先ほどの直感は当たっていたことになる。

しかし、保健室でアーチャーは何をしているのか…。

 

言峰に礼を言い、保健室に向かおうとしたときだった。

 

「待つがいい、若きマスター。」

 

彼はそう言って、自分を引き止めた。

 

「君は、こんな言葉をしているかね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──感謝するなら金をくれ、と。」

 

…ん?いやちょっと待て。おかしい。色々おかしい。

まず、言葉が違うと思う。同情するなら金をくれ、ではないだろうか。

しかしそれは些細な問題だ。言峰が言っていることからすれば。

そう、言峰はこう言っている。

アーチャーの居場所を教えた代わりに商品を買っていけと──!

 

「君は知らないのかね?魔術師は、等価交換が原則だと。

 であるならば、私に何かを支払うのが筋だと思うが?」

 

等価交換、というのは初耳だが確かにそうだ。

与えた以上、何かを受け取るのが人間同士のやり取りだ。

しかし、仮にも神に仕えるはずの清廉な神父が見返りを要求することなど、あって良いのだろうか。

 

「今の私は神父ではなく商人だ。

 神父であれば話は違うが、商人である以上見返りは要求させてもらうぞ。」

 

まさに正論の暴力。付け入る隙なぞ一片もない。

しかし、自分もここで、はいそうですかと言峰の要求を呑む訳にはいかない。

サーヴァントの私服に礼装、そしてメガネやら何やらのあらゆるファッションアイテムを買いつくした自分に、お金なんぞある訳がないのだ──!

 

「ふっ、そう簡単には折れんか。

 ならば、代替案を提案しよう。」

 

あれ…?意外とすぐに折れてくれた。

ここで言峰と徹底抗戦するつもりだったのだが、少し拍子抜けだ。

 

「この、最近私が開発した激辛麻婆豆腐を完食できたのなら見逃そう。」

 

そう言うと、どこから取り出したのか、ご丁寧にスプーンまでついてきて麻婆豆腐が出てきた。

──しかしこの麻婆豆腐、赤い。

いや赤いなんてものじゃない。最早赤さを通り越してる。

見た目もすごいが、匂いも引けを取らない。

一度匂うだけで鼻腔内がしばらくその匂いに取りつかれるのではないかと思わせるほど強烈な匂い。

見た目と匂いだけで脳が警告を出している。食べてはならぬと。

こんな食べ物、かつてこの世にあっただろうか。いや、ない。

間違いない。これは、明らかに人間が食べるものではない──!

 

「どうした。遠慮なくいくがいい。

 あぁ、もしものために水だけは用意しておこう。

 ここで君に死なれては、色々と困るのでね。」

 

優しいのか優しくないのか。この商人は計り知れない。

あとついでに言えば水より牛乳の方が良い。

牛乳の方が辛さを抑えられるのだという。

 

スプーンを手に持ち、激辛麻婆豆腐を一掬いしたとき、言峰の顔が見えた。

こちらを見て愉悦に浸った顔をしている。

しかし、言峰は一つ誤算をしている。

そう、自分に激辛麻婆豆腐は効かないのだ──!

 

 

聖杯戦争でも購買部で激辛麻婆豆腐が売られていた。

誰しもがそれに好奇心で挑み、無残に舌を腫らしていく中、自分はそれを完食しきった。

──まぁ本音を言えば、ピリ辛程度でそこまで辛くはなかった。自分には。

 

この経歴を持つ自分には、激辛麻婆豆腐なんぞ何の意味もない!

…勝ったぞ白野。この勝負、我々の勝利だ…!

そう優雅に思い、激辛麻婆豆腐を一口、口にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                     DEAD END

 

 

 

 



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閑話①‐Ⅱ

Hollow欲しいなと思う今日この頃。


「──ふっ。今後とも、ぜひ御贔屓に。」

 

そんな言峰の言葉を背に、保健室を目指す。

…まぁ購買部から保健室は数歩でいけるのだが。

 

サクラメントは数えるほどしかなかったのに言峰の要求を呑み、プレミアロールケーキを買った。否、買わされてしまった。

おかげ様で財布の中は氷河期に突入することになってしまった。

サクラ迷宮でエネミー狩りでもして再び貯めるしかない。

 

しかし、金銭状況がいくら悪化することがわかっていても商品を買ったのは、幾たびもの死線を潜り抜けてきた自分の勘によるものだ。

端的に言えば、不買による不吉な結末(DEAD END)の訪れを予感した。

流石にそんなことはないだろう、と思われるだろうが、あの神父は侮れない。

代替案として、食べた瞬間あまりの辛さで肉体が現実逃避をしてそのまま昇天するような激辛麻婆豆腐を食べろ、なんて案を出してきそうな神父だ。

それと比べたら、切り詰めてでも商品を買う方を選ぶことは比べるべくもない。

やはり、人の善意には素直に応じるのが吉だ。

あの要求を善意と呼べるかはわからないが。

 

 

 

保健室の前に立つ。

中を窺うように聞き耳を立てると、2人分の声が聞こえる。

 

──間違いない。この声はアーチャーとサクラだ。

 

そう思い、保健室に入ろうとするが、扉にかけていた手が止まる。

何故かは自分でもわからない。

しかし、ここで自分が保健室に入ってはいけないような気がしたのだ。

なので、そのまま盗み聞きすることにした。

 

中から聞こえてくる声は、ただの日常会話をしているような声音だ。

しかし、そのためだけに保健室にいるわけではないだろう。

そんな思いと共に、SGの到来を期待しながら、会話を盗み聞きする。

 

 

 

「───なるほど、悪くない。

 味付けもちょうどよい。これならマスターも気に入るだろう。」

 

「あっ、ありがとうございます。」

 

「なに、礼は不要だ。

 お互い、マスターを支える身として当たり前のことをしたまでだ。」

 

どうやら料理について話しているようだ。

大方、サクラが料理の味見をアーチャーにお願いした、というところか。

マスターと言っているので自分のことだろうが、自分と料理。一体何の関係があるのだろうか。

 

 

「しかし、意外だったな。まさか君がそんなことを頼んでくるとは。

 何かあったのかね。

 マスターに味が悪い、と酷評でもされたか。」

 

「せ、先輩はそういうことは言いません!

 

 ──ただ、少し気になったんです…。」

 

 

「自分の味覚が、本当に正しいのかどうかが…。

 ここ最近、お弁当の味見をしても淡泊な味しか感じられなくて…。」

 

…。そういうことだったのか。

前に凛はこう言っていた。

サクラは迷宮探索が進むほど壊れていく、と。

その影響が味覚にまで及んでいることを危惧したのだろう。

なので、アーチャーに味見をしてもらったのだ。

本当に、自分の味覚が正しいのか確かめるために。

 

そんな状態になっても弁当を作ってくれるサクラには感謝しきれない。

あの弁当の優しい味は自分も好きだった。

その味を維持するために、サクラがこんなに苦悩していたなんて──

 

そんな事実に目を背けたくなる。

このまま、この会話を聞かなかったことにして立ち去りたくなる。

しかし、それはできない。

第一、それはあまりにも無責任だろう。

自分にはサクラの苦悩を晴らすことなんてできない。

せいぜいサクラの体を労わったり、サクラメントの譲渡ぐらいしかできない。

しかし、それでも、サクラが作ってくれる弁当が、そんな苦悩の先にあるものだと知り、感謝することが最低限の礼だろう。

 

一度背けた意識を再び保健室に向ける。

自分は知らなくてはならない。

一つでもサクラのことを理解するのが、自分の役目だ。

──それで、サクラが救われることを信じて。

 

 

「なるほど、そういう事情だったか。

 しかし、何故私に?

 味見だけなら生徒会の面々に頼めばよいだろう。」

 

「以前、先輩が言ってたんです。

 アーチャーさんは料理が上手だって。

 なら、味見だけじゃなくて色々教えてもらえるかな、と。

 保健医として、日々の努力は欠かせませんので!」

 

「──確かに、彼には以前料理を振る舞ったが…。

 その余波がここまで来ているとは…。」

 

「でも、お料理ができるサーヴァントっているんですね。

 なんというか、意外でした。

 私も長年ムーンセルで聖杯戦争に関わってきましたけど、初耳です。」

 

「英霊も多種多様いる。

 中には、自ら狩りとった獲物を自身で調理する者もいただろう。

 そういう視点から見れば、料理ができるサーヴァントがいても不思議ではない。」

 

「確かにそうですけど…。

 アーチャーさんって生前は執事だったりとか?」

 

「それなら、今頃はアーチャーではなくバトラーとして喚ばれているさ。」

 

「執事がサーヴァントになっても聖杯戦争で勝ち抜けないと思いますが…。」

 

「執事というものは案外侮れないものだぞ、桜君。

 私が生前会った執事には、格闘技を嗜んでいる者がいた。

 料理の腕では勝てたが、戦闘の面だと結果は明白だった。

 

 …とまぁ、執事も多種多様ということだ。覚えておくといい。」

 

「あっはい。でも私は、そういう人たちとは会えませんので…。

 お料理ができる人と会ったのはアーチャーさんが初めてですし。」

 

「ムーンセルでは食事の意味はないからな。

 生存に必要な要素は常に給与されている。

 しかし、たまには仲間と食事を楽しいみたいものだろう?

 精神衛生上、必須なことさ。」

 

「はい、確かにそうですね。

 

 ところで質問なんですけど、アーチャーさんの得意な料理は何ですか?」

 

「私は基本なんでも作れるが…。

 そうだな。しいて言えば和食だ。」

 

「和食ですか!私も今和食を勉強中でして…。

 良かったら、教えてもらってもよいでしょうか?」

 

「ふっ、いいだろう。

 元より君はそれを期待していたのだろう?

 なら、私にそれを拒む理由はない。 

 人に料理を教えるのは久方ぶりだがね。

 

 

 ──と、その前に。

 お前も出てきたらどうだ、マスター。」

 

 

…まさか、気づかれていたとは。気配遮断が上手くできていなかったか。

 

「そもそも、お前にアサシンの真似なぞ無理だ。

 (みやび)さを身につけてから出直してきたまえ。」

 

暗殺者(アサシン)に雅さはいらないと思うのだが…。

それとも、かつて彼が目にしたアサシンはそれほど雅だったのだろうか。

 

 

 

保健室の扉を開け、中に入る。

相変わらず、サクラの手入れが行き届いている綺麗な部屋だ。

 

机の上に置かれている、出来立てと思わしき弁当が目に入る。

色鮮やかで美味しそうな弁当だ。

──サクラが作ってくれる弁当だから、美味しいに決まっているが。

 

「せ、先輩!?いつからいたんですか?!」

 

割と前です。

弁当の下りあたりからです。

 

 

「さて、話を盗み聞きしていたお前は知っているだろうが今から桜君が和食を作る。

 お前には、それを食べてもらう。」

 

「えっ、ちょ、アーチャーさん!?

 私、そんなに上手に作れませんよ!?

 そ、それに…。」

 

「気にするな、私も横でついている。

 味の云々なら、不安になれば私を頼るといい。

 それに、君なら大丈夫だろう。」

 

「その期待は嬉しいんですけど…。

 でも、先輩はいいんですか?」

 

無論、いいに決まっている。

サクラの和食を食べれる機会なんて滅多にない。

こんなレアイベントを避けて通る、なんてあまりにも勿体無い。

是非、自分に食べさせてほしい。

 

「──!はい!私、いつも以上に頑張っちゃいますね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…私もセンパイと一緒に、ご飯食べてみたいな…。」

どこかで、そう呟く声がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第4話『作戦』

普通に本編です。

閑話についてです。
こちらが用意している展開が設定と矛盾しないか等々の確認が時間かかるので、楽しみにして下さる方々を待たせないためにも閑話は入れていきます。
それでも設定矛盾などありましたらご報告ください。
本編だけ読みたいという方には申し訳ないです。

一度投稿したものでもちょこちょこ文章とか変えてます。

追記【5/21 16:20】
タイトルを書き忘れるというポカをやってしまいましたのでタイトルつけました。


──彼女(サクラ)はいない。

 

凛はそう告げた。迷宮に幽閉されているであろう、とも。

ならば、彼女が保健室にも生徒会室にもいなかったのには説明がつく。

 

 

「おそらく、いえ、十中八九BBの仕業ね。」

 

BBが…。

一番考えたくない予想だった。

 

今までの彼女なら、これに考えられないという言葉も入っただろう。

彼女はサクラを特別視していたからだ。

表面上では嫌悪していたが、内面ではそうではなかったと思う。

メルトリリスの言葉を借りるなら、BBは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

なので、以前の彼女ならば、そのようなことをするはずがないのだ。

 

しかし、BBがそのような行為に及んだとなると、やはりBBは以前とは違っているようだ。

あの悪性情報が原因だろう。

BBは中枢で、悪性情報に呑まれていた。

悪性情報とは、人間のあらゆる悪性のことだ。

そんなものに呑まれて正気でいられるはずがない。

 

益々不安に駆られる。

BBが何を目的としてサクラを手元に置いているかはわからないが、それが余計に始末が悪い。

今のBBは、目的を果たすためならサクラを殺すことさえ厭わないだろう。

 

──夢で視た、あのBBを思い出す。

  見るものを吸い込むような赤い瞳。

  生者ではなく死者を思わせる青白い肌。

  人間以上に人間であったBBはもういなくなった。

  今のBBは、敵対するモノならば何の感慨もなく処理するだろう。

 

そんな事実が重くのしかかる。

救わなくてはならない人を救えなかった悔恨。

しかし、それを受け止めて進まなければならない。

立ち止まるのは岸波白野の性分ではない。

ただひたすらに、進むことが自分のできる唯一のことだ。

 

 

 

 

 

そういえば凛は、サクラが迷宮のどこかに幽閉されていると言った。

つまり、サクラの生存が判明しているということだ。

何故わかったのだろうか。

 

「あぁ、それはサクラがこの校舎に貼っているプロテクトね。」

 

プロテクト…。

以前レオはワクテカ画面でこの月の裏側を自分に解説してくれた。

それによると、月の裏側は悪性情報の海であるという。

であるならば、そこに存在が確立されているこの旧校舎は、悪性情報という海を漂う潜水艦のようなものだ。

この旧校舎を潜水艦たらしめているのが、サクラのプロテクトであり、旧校舎の存在を確立させているモノ。

ということか。

 

「要はそういうこと。

 これがないとこの校舎は悪性情報に捕らわれてしまうし、迷宮からのエネミーの侵入を防げなくなるの。

 そして、このプロテクトはサクラの存在で成り立っているわ。

 だから、プロテクトが働いている今、逆説的にサクラの存在は立証されるってワケ。」

 

…なるほど。自身の存在をプロテクトと同期させたのか。

それならば、自分という存在が消えない限り、つまり死なない限り旧校舎をプロテクトで保護できる。

メルトリリスはレリーフ内で、迷宮にいる生命体はサクラに手が出せないと言っていた。

サクラがそれを知っていたかは不明だが、それなら自身の存在と同期したプロテクトというのは実に強固な防壁となる。

 

「このプロテクト自体は、サクラのお手製なんだけどね。

 なんでもこの旧校舎に残っていた霊子ソースを使って作ったみたい。

 この校舎も、いつかの聖杯戦争で使われたものだったからそんなプロテクトを貼れるだけのリソースが残っていたのかもね。」

 

では、サクラは今は無事ということか。

 

「えぇ、そういうこと。それだけは保障できる。

 …まぁその保障がいつまで続くかはわからないけどね。」

 

と、苦笑しながら凛は語る。

 

「だから今、生徒会のリソースを使って簡易的なプロテクトを作ってるんだけど…。

 やっぱりサクラが作ったものには劣るわ。」

 

簡易的なプロテクト、それは万が一を想定したものだろう。

想像したくはないが、もしサクラが消滅してしまったらどうするか、という話だ。

旧校舎を覆うプロテクトは消え、悪性情報にこの校舎ごと呑まれてしまう。

そうなると自分たちは表側へ帰還することができなくなる。

──常に一手先を読み、迅速に事を為す。やはり彼女たちは優秀だ。

 

「それで、その簡易的なプロテクトなんだけど…。

 

 どう、ラ二?まだ完成しない?」

 

「いえ、まだですね。

 一部ならまだしも、この校舎を覆うほどのプロテクトを作るには時間がかかります。」

 

「やっぱりそうかぁ…。 

 となると、サクラのプロテクトが機能しているうちに手を打つべきね。」

 

「はい。私もそれに異論はありません。

 すぐに取り掛かるべき案件でしょう。」

 

手を打つ…となると、やはり──

 

「えぇ。サクラの救出ね。

 旧校舎の安泰のためにも最初にすべきことよ。」

 

確かにそれはすぐ行うべきことだ。

しかし、サクラの居場所はわかるのだろうか。

 

「それは現時点では不明です。

 ですが、この月の裏側で生命体が活動できるのはこの校舎とサクラ迷宮、そして中枢のみです。

 なので、ミスター白野とアーチャーには再び迷宮を探索してもらい、そこで得られた情報でサクラの居場所を特定したいと思います。」

 

な、なるほど。迷宮探索か。

一度迷宮は全て探索し終えているとはいえ、少し緊張する。

 

「今のあなたとアーチャーのレベルなら心配はいらないわ。

 有象無象のエネミーには負けないでしょう。」

 

「ですが、探索には細心の注意を。

 中枢での一件以来、迷宮に変化が生じています。

 油断せず、冷静沈着に対応することを推奨します。」

 

迷宮に変化…。

当然と言えば当然だ。

迷宮の主であったBBが変質した今、迷宮も変化しない方がおかしい。

 

 

「しかし、ある程度の絞り込みはできているのかね。

 1階から全ての階を探索するのは時間の無駄だ。

 目星を付けてから探索に挑んだ方が良い。」

 

実体化したアーチャーがそう忠告する。

確かに、アーチャーの言うことには一理ある。

1階から20階全てを探索すると、時間もかかる。

それに、危険地帯には長居したくないのが本音だ。変化した迷宮であるなら、尚更のこと。

 

「その点は心配いらないわ。

 ある程度の目安は付けてる。」

 

「はい。二人にはまず、パッションリップがいた階層に行ってもらいます。

 つまり7階ですね。

 

 理由としては、そうですね。

 迷宮の変化が他の階層に比べて著しいからです。」

 

「そ。BBがどんな形でサクラを手元に置いてるかはわからないけど、何かしらの独房なりを作ったなら迷宮のどこかが大きく変化する。

 なら、その階層を調べれば何かわかるかもしれないってワケ。

 運が良ければサクラも見つけられるかもしれない。」

 

「なるほど、既に答えを出していたか。

 なら、私が君たちに言うことももうない。

 おとなしく、迷宮探索に勤しむこととしよう。

 マスターもそれでいいか?」

 

無論、構わない。

一刻も早くサクラを救出できるのなら願ったり叶ったりだ。

 

「覚悟は…いや、そんなこと訊かなくていいか。顔に出てるしね。

 実行は明日にしましょう。今日はこれで終わり。

 あなたも病み上がりだし、無理は良くない。

 明日はここでブリーフィングをするから、寝坊しないように。

 はい、解散!」

 

 

彼女たちに就寝の挨拶をし、そのままマイルームへ向かう。

マイルームは校舎2階の右奥だ。

 

マイルームとは文字通り、自分とアーチャーだけの部屋だ。

外からは観測できず、干渉もほぼできない。

 

 

 

 

 

 

マイルームの前に立ち、扉を開ける。

いつもと何一つ変わっていないマイルーム。

そんなマイルームにあるベッドに腰を掛ける。

そのとき、ふと睡魔に見舞われた。どうやらまだ疲れが抜けきってなかったらしい。

なので、そのままベッドに横たわり、瞼を閉じる。

 

 

 

 

──迷宮探索の再開。

それを思うと、不安と緊張に駆られる。

しかし、それでも前に進まなければならない。

たとえ、どのような悲劇が起ころうとも。

 

 



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第5話『迷宮探索』

Hollow、漫画3巻いつ出るんですかね…。
二巻発売から3年ぐらい経ってません…?


生徒会室からの呼び出し音で目が覚める。

マイルームは外からの観測を一切排した完全な私室だが、生徒会室からの呼び出しはこのように普通にかかる。

 

「あぁ、おはようマスター。

 どうだ?一晩で気力は十分養えたか?」

 

そう問いかけるアーチャー。

彼は相変わらず早起きだ。

 

自分もおはよう、とアーチャーに返す。

気力については心配ない。一晩寝て回復した。

それに、今日から迷宮探索が再開されるのだから気合は入れていかないと。

ベッドから立ち上がり、いつも通り上着に袖を通し、迷宮探索の準備をする。

 

 

 

マイルームを出て生徒会室に向かう。

今日は迷宮に向かう前にブリーフィングを行うと凛が言っていた。

大方、今日の予定を確認するのだろう。

 

生徒会室に入る。

入ってきた自分に、凛とラ二が思い思いの言葉をかける。

 

「おはよう。いい顔をしてるわね。」

 

 

「おはようございます。よく眠れたようですね。」

 

 

彼女たちに挨拶を返しつつ席に座る。

自分の定位置は、扉から近い場所のイスだ。

いわゆる下座の位置にある。

…決して自分が下っ端というわけではない。

 

「まずは、今日やることの確認をしましょう。

 今日はサクラ迷宮7階から9階の調査ね。

 今のあなたたちなら問題はないと思うけど、用心してね。」

 

あぁ、わかってる。

いくら二回目の迷宮探索とはいえ、迷宮も変わっているのなら気は抜けない。

いつも以上に用心しなければ。

 

そう思っているとラニが口を開いた。

 

「それともう一つ懸念事項があるのですが。

 

 

 9階に留まっている生命体がいます。

 観測する限りではこちらに害を為すかは不明ですが、どういう存在かも未確定です。

 こちらでモニターはしておきますが、注意してください。」

 

9階に何者かがいる…?

それは、攻性プログラムといったエネミーではなくて?

 

「いえ、違います。

 そういった攻性プログラムは基本、一定周期で動きます。

 ですが、この生命体の行動は不定期なのです。」

 

なるほど…。

ということは、それがサクラである可能性も?

 

「その可能性は否定できません。

 サクラの示す生命反応と近しいものが観測されているからです。」

 

なら、この探索でサクラの救出を果たせるかもしれないのか。

それなら良いが…。

 

「よし、これで今日やることはわかったわね。

 質問がないようならブリーフィングは終わるけど、なにかある?」

 

これといって質問はない。

サクラを助けられるかもしれないとわかったので、一刻も早く迷宮に向かいたいぐらいだ。

 

「じゃあ、ブリーフィングは終わりっと。

 迷宮探索、気をつけるのよ。」

 

「どうか、お気をつけて。」

 

彼女たちの応援を背に、生徒会室を出る。

アイテムや礼装等の準備は既にできているので購買部を素通りしそのまま校舎を出て、校庭に向かう。

ふと、空を見上げる。

以前見た赤紫色の空。それが今日はより濃く見える。

不吉な予感さえさせる色だ。

 

校庭にある桜の樹。

それはサクラ迷宮への入り口である。

迷宮に向かうときには樹木が上昇し、根元に埋め込まれた昇降機が姿を現す。

それに乗り、降りることで迷宮へと移動できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サクラ迷宮7階に到達したようだ。

…空気が重い。

少なくとも、歓迎する意思はなさそうだ。

侵入者を排斥するような雰囲気を醸し出している。

 

「これは、ひどい空気だな…。

 以前の迷宮とは比べ物にならん。」

 

そうアーチャーが告白するほどこの空気は異質だ。

一体迷宮自体に何があったのか…。

 

この迷宮の空気に圧倒され、逡巡していると生徒会室から通信が入る。

 

「気をつけて白野!9階から一気に駆け上がってきてる奴がいる!」

 

な…?!

いきなりのことに頭が回らない。

そもそも、自分がこの迷宮に足を踏み入れてから10分と経ってないはずだ。

そんな短時間で、こちらの気配を察知し、接近してくる何者かがいる…?!

 

しかし、9階…。

ということは、ブリーフィングで報告があった、サクラに近しい何かということか…?!

 

「はい、そう断言します。

 

 しかし、この生命体。行動がとても乱雑です。

 目に入るもの全てを壊しながら進んでいるような印象を受けます。

 

 ──と、そちらに到着するまであと2分。」

 

2分?!

…いやしかし、その何者かが危険とは限らない。もしや味方…という可能性は無きにしも非ずだ。

ならばこちらで待ち構えて、敵と判断すれば交戦。

味方でありそうなら話し合おう。

 

生徒会室にその旨を伝える。

自分の案に好感を示した。

いつでも強制退出ができるよう準備をして待っているという。

 

自分は、アーチャーと共に戦闘態勢を整えながら待機する。

張り詰めた空気が自分とアーチャーの間に漂う。

 

 

時間にしておおよそ2分後。

張り詰めた空気を打ち砕くかのようにソレは現れた。

 

──黄金色の()

  それを支える華奢な体。

  赤紫色の長い髪。

 

ソレはこちらを認識すると、一気に距離を詰めてきた。

その正体を今、確信した。

彼女なら、サクラに近い生命反応を発するのも頷ける。

 

愛憎の化身。BBによって生み出されたBBのもう一つの人格(アルターエゴ)

間違いない。彼女は…

 

 

「気を引き締めろ、マスター!

 彼女は前とは違っている!話し合いなど通じんぞ!」

 

 

彼女は、パッションリップ。

以前このサクラ迷宮7階で出会い、自分が打倒していった者だ。

そんな彼女は

 

 

「────ァ、アァ。

 

 アアアアアアアアアアアア!!」

 

 

声にならない声を上げこちらに向かう。

その速度は、その体からはおおよそ考えつかない。

 

その絶叫は迷宮中に木霊した。

 

 

振り下ろされる黄金の左爪。

それを受け止める番の双剣。

僅か2秒にも満たないその攻防の間、自分はその圧力に屈し、何もできずにいた。

 

何故彼女が?どうして?

 

今思案しても無意味な疑問ばかりが頭に浮かぶ。

情けないことに、この状況を打開するような思考は一つもない。

 

 

「ぐっ…気を立て直せ!

 ここで萎えるのはまだ早いぞ!」

 

アーチャーの叱咤で目が覚める。

慌てて戦況を確認する。

 

 

振り下ろされた爪を双剣で受け止めるアーチャー。

しかし、それも長くは続かないだろう。

アーチャーが圧されている。

 

パッションリップは規格外の重量をもつ。

そのすべてを一振りの攻撃に込めたのなら、それはどのようなサーヴァントであっても手に余るものとなる。

 

礼装に魔力を通し、アーチャーに筋力強化のコードキャストを送る。

それに効果があるかはわからないが、それでもないよりはマシなはずだ。

 

 

「くそ、中々に辛いな…!

 このままでは圧し負けるか…!」

 

アーチャーは戦法を切り替えた。

圧し止めるのではなく、いなす。

 

剛で勝る相手に剛で挑むなど勝てるはずもなし。

であれば、柔をもって剛を制す。

 

 

双剣で流すように左爪をそらす。

そらすと同時にパッションリップの懐に入る。

 

重心をアーチャーに傾け過ぎていた代償に、パッションリップは体勢を崩す。

しかし、倒れ際にパッションリップはもう片方の爪を振る。

 

さしものアーチャーもこれは予想していなかったのか、咄嗟に双剣で防衛の構えを作る。

突貫の守りで防げるはずもなく、アーチャーは右方に吹き飛ばされる。

 

 

この場にいるのは自分と体勢を崩したパッションリップのみ。

アーチャーは体勢こそ立て直したものの、ダメージが大きいのか、こちらにすぐ駆けつける余裕はない。

 

死の存在が目前にある今、アーチャーの元に駆けねば。

さもなければその爪の一振りで自分はそれこそあっさりと死ぬだろう。

 

 

アーチャーの元に走る。

パッションリップに阻まれることを危惧したが、それはなかった。

 

大丈夫か。そう問うと低く呻りながらアーチャーは言葉を紡ぐ。

 

「全く…なんという馬鹿力だ。

 たった一合打ち合うだけで私の双剣を砕くとは…。」

 

 

 この状況下では防衛戦すら不利であろう。

 早々に撤退したいが…。」

 

それはおそらくできないだろう、とアーチャーは続けた。

アルターエゴが同じ階層にいると、強制退出を行いにくくなる。

なので、ここで逃走の機会を窺いながら防戦をするしかないのだが…。

 

「まぁなんとかマスターだけでも返すようにはするさ。

 安心したまえ。」

 

不安に駆られるこちらを気遣ってくれた。

しかし、それではダメだ。

アーチャーだけ置いていくことはできない。

なんとか、アーチャーとともに離脱せねば──!

 

あれこれと思案しているうちに生徒会室から連絡が入る。

思えば、パッションリップがこちらを襲撃して以来、連絡が何もなかった。

 

「そっちは大丈夫?!モニターできないけど、まだ生きてるわよね?!」

 

そう心配する凛。

大丈夫だ。かろうじて生きている。

 

「良かった…!回線が切れたからどうなることかと思ったわ…。」

 

回線が切れていたのか。

ならば連絡が来ないのも道理だ。

 

「ってそれどころじゃなかった!

 そちらも大変だろうけど、こっちもまずいわ!」

 

いつも以上に焦る凛に動揺する。

旧校舎側では一体何があるというのか…!

 

 

 

 

 

「サクラのプロテクトがどんどん弱まってる!

 これじゃあもう3分もしないうちに消える!」

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 




満を持して(?)パッションリップ、登場です。
なんというか…。

CCCコラボでの初期状態だと思ってくだされば幸いです。
センチネルになってるときの。


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マトリクス:パッションリップ

本編で語ることはないと思うのでこの場を借りて紹介しておきます。

マトリクスはCCC準拠です。


マスター:??

クラス :アルターエゴ/M

真名  :パッションリップ

性別  :女性

身長  :156cm

体重  :1t

属性  :秩序・狂

 

 

 

パラメーター

筋力:A++

耐久:A+

敏捷:B

魔力:B

幸運:E

狂化を付与されたことで一部パラメーターが上昇している。

 

 

 

クラス別能力

トラッシュ&クラッシュ:EX

 イデスと呼ばれるアルターエゴのみが用いるもの。

 スキル「怪力」を進化させて生まれたチートスキル。

 どれほどの容量であれ、手に収まるものなら何でも圧縮できる。

 ここでの”手に収まる”というのは物理的という意味のみに縛られない。

 遠方から俯瞰して、”手に収まる”のなら、それを圧縮可能。

 圧縮されたものは1cm四方のキューブとなるが、質量は元の10分の1程度となる。

 

 

 

クラス別スキル

被虐体質:B-

 集団戦闘において、敵の標的になる確率が増すスキル。

 本来のパッションリップのランクはAである。

 しかし、狂化によって防御的な性格が薄れたため、ランクが下がっている。

 

気配遮断:B(A++)

 姿を隠して行動するスキル。

 こちらも本来のランクから下がっている。

 理由としては、狂化によって臆病さ、慎重さが薄れているため。

 しかし、とある人物を見守ることに対してのみランクが元の数値を示す。

 その場合でも、巨大な爪が気配遮断の邪魔をするのですぐに発見されてしまう。

 

狂化B

 パラメーターを上昇させるが、代償として理性の大半を奪われる。

 パッションリップのマスターが付与したスキル。

 これにより彼女は、相手をより執念深く、より執拗に追跡し仕留めるようになっている。

 しかし、彼女の言語機能はほとんど消失している。

 元々愛憎という反する感情を狂気で繋ぎ止めていた彼女だから付与できたスキルでもある。

 しかし、あくまで外付けでしかないため、無理やり撃ち抜けば狂化の解除も可能。

 

 

 

 

宝具

死が二人を分断つまで(ブリュンヒルデ・ロマンシア):B

 BBがパッションリップに与えた宝具。

 対象への愛の深さに呼応して命中精度、ダメージ数値が増加していく宝具。

 元のランクはCだが、こちらも狂化によりランクが上昇している。

 彼女の臆病さ、慎重さが薄れ、愛を求める性質がより強くなったためである。

 

 

 

備考

・狂化を付与されているがそれでもクラスはアルターエゴである。

 

・狂化の恩恵が強く、基本的に受動的でのみしか戦闘をしなかった以前の彼女とは違い敵とみなしたのなら即座に戦闘に移る。

 

・たとえ狂化していても、彼の言葉なら反応するかもしれない。それほどまでに彼女にとって彼の存在は大きいのである。

 更に、彼との戦闘は、命じられない限りは避けて通る節がある。第5話では命令を受けているため逆らえない状況にあった。

 それでもアーチャーに攻撃はするが、彼に攻撃をしていないのは彼女の抵抗なのであろう。

 

・「ブリュンヒルト」「ドゥルガー」「パールヴァティー」の3体の女神が組み込まれた英雄複合体であり、ハイサーヴァント。

 

・パッションリップは岸波白野によって打倒された後、彼が自分に止めを刺さない姿を見て改心。彼に好きになってもらえるよう努力すると決心するが、とある人物により分解、吸収された。

 この経歴から、彼女は本来なら生存していないサーヴァントである。

 しかし、この異聞CCCにおいて彼女を吸収した人物が死亡したことで、彼女のマスターである者がその人物の中からサルベージし、自分のサーヴァントとして利用している。

 これにより改心さえ無下にされている。

 マスターである者曰く、手駒に自由意志など不要とのこと。

 

・本作における最大の障壁であり、BBを救うのなら戦闘は避けては通れない存在。

 

・妹としてメルトリリスというアルターエゴが存在する。彼女はメルトリリスを嫌っている節がある。

 

 

 



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第6話『危機』

二週間といいながら結構開きましたね…。
申し訳ないです。

また与太話いれようかとも思ったのですが本編6話しかないのに2つも入れるのはちょっと…とも考えたのでやめました。




───遡ること数分前。

 

 

 

 

 

「えっ、ウソ?!

 

 

 …。回線が…切れた…?!」

 

そう驚く遠坂凛。

如何に優秀といえど、彼女でも予測の範囲外の出来事なようですね。

まぁ私からすると、その反応は予測範囲内ですけど。

 

「ラニ!原因は?!」

 

「ただいま調査中です。

 

 

 

 

 …出ました。これは…?!」

 

「えっ、何が起こってるの?!」

 

「何者かが生徒会室の回線にクラッキングを仕掛けています!

 いつから行われているかは不明ですが、現在回線の7割が使用不可。

 ミスター白野への接続がほぼ不可能となっています!」

 

クラッキング…相手のコンピューターネットワークに侵入し、システムの破壊や改竄を行うこと。

生徒会室のファイアウォール(システム防壁)は前会長レオさんの手により最高レベルにまで達しています。

ですが、ここは月の裏側といえどSE.RA.PH。

基本演算をムーンセルが行う、クラウドコンピューター型の世界。

旧校舎がそこに存在し、ネットワークに依存している以上、如何に強固なファイアウォールを構築していても付け入る隙はあるのです。

 

ふふふ…。遊びで生徒会室のネットワークに侵入してみましたが、中々に面白いですね。

人間の慌てふためく姿を見るのは最高に楽しいです。

まぁこれも、以前の私が旧校舎の様子を探れるようにしていたお陰ですが。

それでもセンパイのマイルームだけ見れないのは本当に忌々しいです。

 

 

 

「回線の修復はできる?!最悪、音声だけでもモニターできるようにならない?!」

 

「今行っています。ですが…。

 何らかの制限がかかっていて修復が非常に困難です。

 音声だけのモニターができるまでも時間がかかります。」

 

「私も手伝うわ!一刻も早く修復しないと!」

 

ラニさんも凛さんも慌てちゃって。

私だって暇じゃないんですから、いつまでもクラッキングなんてしません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…あら、お二人とも予想外に優秀ですね。

使えなくなった回線のうち、1割をもう修復しちゃいました。

もう少し時間がかかると踏んでいたんですけど…。侮れませんね。

 

では、次にいきましょうか。

回線が使えなくなるだけじゃ、貴女方にとって面白くないですよね?

なら、回線だけじゃなくて、()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()

一体どうやってこの状況を打開するのでしょう。

 

サクラとプロテクトの同期を切るなんて、私には造作もありません。

もっとも、プロテクトを壊すには、サクラを消滅させるのが手っ取り早いんですけど…。

ここでサクラを消滅させてはセンパイも悲しむだろうし、それはしません。

消滅させるなら、もっと相応しい舞台があるはずです。

 

同期を切った後は、プロテクトにもクラッキングをしましょう。

プロテクトが薄くなったら、迷宮からエネミーたちが一斉に旧校舎へ押し寄せてくるでしょう。

いくら凛さんたちといえど、エネミーを相手取るのは不可能ですよね?

サーヴァントなしでは彼らを倒せませんよね?

 

 

 

 

 

「────!ラニ!簡易プロテクト構築の準備をして!」

 

「簡易プロテクト?何故そんなものが…。

 

 

 ──なるほど、了解しました。校舎周りに簡易プロテクトの構築を開始します。」

 

「ナイス。迅速な対応で助かったわ。

 

 

 それにしてもヤバいわ、この状況。

 サクラのプロテクトもクラッキングをされてるせいでそう長くはもたないし…。

 ラニのプロテクト、20分が限度よね。」

 

「おそらく。

 20分を超えるとエネミーがプロテクトを破壊し、校舎内に侵入してくるでしょう。」

 

「…。白野に帰還してもらうのが一番なんだろうけど…。」

 

「回線が通じていない以上、それも困難でしょう。

 なので今は、プロテクトではなく回線の修復に時間をかけるべきです。」

 

「そうね。なら早いとこ終わらせちゃいましょ。

 制限時間20分だけど、死ぬ気でやれば回線も開けてくるでしょ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なるほどぉ。そうきましたか。

プロテクトについてはラニさんの簡易的なものに任せて、自分たちは回線の修復に励むと。

実に良い判断をします。

おそらく私も、同じ立場に置かれたなら同様の判断をするでしょう。

でもぉ、ラニさんの簡易的なプロテクトじゃ貴女たちの言う通り、せいぜい時間稼ぎが関の山です。

ほら、そうこうしているうちに、ますますプロテクトが薄くなっていますよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「厳しいわね。どんどんプロテクトが薄くなってきてる。

 サクラのもそうだけど、ラ二のも。」

 

「もう少し時間があれば、より強度があるものを構築できたのですが…。」

 

「こればかりはラニのせいじゃないわ。仕方ない。

 今は回線の修復に集中しましょ。まだ希望がないって訳じゃないし、ね。」

 

「はい、そうですね。

 

 

 

 

 ────!ミス遠坂!」

 

「えっ、今度は何が起きたの?!」

 

「いえ、悪い知らせではありませんが…。

 

 

 回線のクラッキングが停止しました。

 それに伴って使用不可だった回線が修復されています。

 今なら音声のみのモニターも可能です。」

 

「え、ウソ?!一体どういうこと?!」

 

 

あぁ、プロテクトが薄くなったみたいですし、回線へのクラッキングは止めてあげたんですよ。

なので、センパイの助けを得ることもできますよ。

センパイがそこから動けるのであれば、ね。

 

 

 

 

「現状、クラッキングの停止の理由について決定的な結論は下せません。

 ですが、これは好機です。

 モニターはできていませんが、状況確認はできます。

 早くミスター白野へ連絡を。一刻を争います。」

 

「そ、そうね。

 早く白野の状況も確認しなきゃね。

 今のあいつはっと…。

 

 

 えっ、交戦中?誰と?

 はっ?パッションリップと?!

 何がどうなってるのよ…!」

 

「パッションリップ…!

 

 何故彼女がミスター白野と交戦しているかはわかりませんが、非常に危険です。」

 

「えぇ、そうね。

 なんて言ったって、パッションリップはアルターエゴだもの…!」

 

 

 

サルベージした存在といえ、パッションリップもアルターエゴ。

存在するだけで力場を変えて、センパイの強制退出を困難にします。

 

 

「とりあえずプロテクトのことだけは伝えなきゃ…!

 

 

 

 白野!そっちは大丈夫?!モニターできないけど、まだ生きてるわよね?!」

 

 

狂化を施したとはいえ、パッションリップがセンパイを殺せるはずはありません。

第一、殺そうとしたのなら私が止めますけど。

 

 

 

そもそも、今のパッションリップを相手にして、センパイが逃げ切れるはずがありません。

まぁ、アーチャーさんを捨て駒にするのなら話は別かもしれませんが。

でもそんなこと、センパイにできるはずありませんよねぇ?

 

 

ふふふ、楽しみですね。

さぁセンパイ?生徒会を助けたいならアーチャーさんを踏み台にするしかありませんよ?

貴方はどちらを取るのでしょうか。

思いっきり苦悩しちゃってください。

 

私はどちらを取ってもらっても構いません。

校舎が無くなったのなら、また新しい箱庭を作るだけです。

アーチャーさんがいなくなったのなら、私が貴方を守り続け、生かし続けるだけですから。

 

どちらにしても、貴方は私の手のひらの上なんです。

月の裏側からの脱出。このゲームは詰みです。もう永遠に進むことはできません。

ふっふふふふ、あっはははははは!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───この危機的状況。

これを覆すことなど不可能だ。

()()()()()()()()()()()()()()現状であれば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如顕在化した、太陽の如き威圧。

その威圧をもって、『彼』は敵を圧する。

──太陽そのものとさえも、感じられるほど。

 

黄金の輝きはなくとも、その身は太陽神スーリヤの子。

()()()()()()()()()()気力を持ち、あらゆる武芸に秀でた高潔な武人であり、『施しの英雄』の名を冠する英霊(ランサー)

 

 

 

『彼』は現れた。

幽鬼の如く痩せ細った身体とは対照的な、重く、静かな声と共に。

 

 

 

 

「我が主、ジナコ=カリギリの命に従い参上した。

 

 

 ──オレがこの校舎を守る槍となろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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