鬼喰の血刃 (九咲)
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開幕【覚醒の血溜まり】

記憶の最初は血の臭いだった。森の中で積み上がる死体。オーケィ私の手は汚れてない。故に私のせいじゃない。

 

むせ返るほどの充満しているそれは自身には甘美なものだった。

 

例えるならばワインのような。質の悪いそれでも最高級のもののように感じてしまう事に違和感。そして多少の嫌悪感。

 

抗えない誘惑と自身の倫理観を天秤にかける。

 

ないなと頭を振る。

 

自身の倫理観を破るほどの誘惑となり得ないと結論づける。自身の倫理観が歪になってなければだけど。先程の嫌悪感はそれ。それを甘美と感じてしまった自分にか。

 

血肉を欲しがるなどと。倫理観がまず常軌を逸する事はなかったと安堵する。

 

「驚いたな。…極度の飢餓状態の筈だが。」

驚いたなという割には平坦な声音だった。

 

「…………いや、美味くなさそうだし」

 

 

いつの間にかいる青年。

美醜で言うならば美よりの青年だった。圧倒的なほど。

 

「………どちら様で?」

 

自分の声は思っていたほどに高かった。

どうやら女性のようだ。

 

「鬼舞辻無惨。聞き覚えは?」

 

「ないねぇ…そして私は誰かな?」

心当たりはない。初対面じゃないかな?

 

「【血霞麟(ちがすみりん)】そう名乗るといい、君には上弦の肆を与える」

 

ちがすみりん……ねぇ。ネーミングセンスはなさそう。

 

「断りまぁす!」

いきなりなんだろうこのイケメンは。まぁ私の好みからは外れるんだが。可愛い系だよ可愛い系。

 

「なに?」

怪訝そうな顔をする青年。意外だったのだろうか?

 

「………断るつってんの。マイケル・ジャクソ〇擬き。…………君の周りのそれのが美味しそうだしね」

 

青年の周りにいた異形。

 

異形の人型。

 

先程の血臭より激しく食欲を駆り立てる。

 

 

【血鬼術】

 

魂より刻まれた知識がそう言い放つ。異能が自身には刻まれた事を実感する。

 

 

自身を見下ろす。血のような着物に腰にかけた一振りの刀。

 

「ふふ、先程鬼化したばかりだというに。私の呪いを外したか。なんという逸材か。」

 

忌々しげに言う。

 

私は先程目を覚ましたというに記憶がない。

 

名前も知らない。履歴も分からない。

 

私は誰だ??

 

「私を奪ったのかな?鬼舞辻とやら」

 

刀に手をかける。抜く。綺麗なまでの金属音が響く。

 

柄から刃の先まで狂気なほど鮮血のような深紅。

 

「【黒死牟】」

青年は名を呼ぶ。

 

「……。」

 

【死】がそこにいた。まるで【死】が形になったかのような存在。

 

いつの間にか鬼舞辻の隣にいた。侍のような男。

 

六つの眼が此方を見ていた。異形の風貌。

眼に刻まれた【上弦】と【壱】

圧倒的強者。格上との遭遇に恐怖する。

私は【肆】相当と見られてると言うことね。

 

「………従え女。…………ならば命くらいは見逃してやる」

 

 

「パンナコッタ!!」

 

やなこった。

恐怖と同時にそそるのだ。喰らいたいと。

 

 

「……………私の餌にしてやるよ」

 

 

記憶がない。だが本能的に自身の力を最適化し結論づける。本能のまま異能を手順のまま起動させる。自身の丹田より流れ出る別の何か(・・・・)。無意識に展開する。

 

   【血鬼術・領域展開『血怪百鬼夜行』】

 

 

血液を使用して(あやかし)共を創成する。奇しくも死体が山ほどある。

 

ガシャドクロ。土蜘蛛。火車。犬神。管狐。鵺。

 

等々思い付くだけの妖怪を血液で作りだす。

 

それが私【血霞麟】の【血鬼術】。名前は貰うよ。思い出すまでの仮の名だけどね!!

 

 

「………………血の気の多いの女だ。ならば…死をくれてやろう【血霞】」

 

【黒死牟】という男も抜刀。

 

「……お前が死ぬんだよ!!」

 

血のガシャドクロが大口を開ける。

 

 

???の呼吸・壱の型【???】

 

目にとまらぬ一閃がガシャドクロを沈める。

 

「!!?」

 

 

「…。」

 

静寂。凪のような殺意。暴風のような荒々しいものではなくただただ静かな殺意。ああ、殺意だけで凍り付きそうです。

 

【黒死牟】は再び納刀。居合い使いかしらん。

 

いつの間にか鬼舞辻無惨は居なくなっていた。私に興味がなくなったのか、それともこの【死】が居るから私が堕ちるのが確定したと踏んでるのか。舐めているのかしら?

 

 

「………………………今代のがこれ程とはな。…鬼にしても思い通りにならんとは我の強い女よ。」

 

「…なに、私を知ってるの?」

 

「…知っている。と言ったところでどうする?」

 

「吐かせるに決まってるじゃない。」

鮮血のような深紅の刀を下段に構える。

…………銘は【神血】と言ったか。

 

 

血の呼吸・全集中(・・・・・・・)

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

一晩中、私の抵抗は続いた。

 

何百リットルという血液を使用してもその【死】を喰らうには至らなかった。

 

百鬼夜行を楯に逃げおおせる。恥だ。けど記憶がない私は赤ん坊のようなものだ。

 

私は誰なんだ。

 

 

私は鬼。奴らはそう言っていた。

 

人食いの怪物。…………私の知識はそう言っていた。

 

だがしかし違和感。私は…人より鬼のが美味そうにみえる。

逃げおおせる途中喰らった鬼は確かに美味だった。

 

鬼喰いの怪物。

 

「はは、どちらにしろ化け物かよ。」

 

いつの間にか深い森の中にある池に来ていた。日光すら届かない深い森。知識が正しければ鬼は日光に弱い。命が惜しければ避けていかねばなるまい。お天道様が恋しくなりそうだ。まぁこうなっても命は惜しいものは惜しい。

 

ここで休むかな。いい加減疲れた。くたびれた。空腹感は今のところないかな。先程済ませたし。

 

池に顔を覗き込む。綺麗な水面だ。私を映し出す。

 

…………齢二十前後の女性のようだった。

柔和とはほど遠い鋭い目付きに血のような真っ赤な癖のない長髪に深紅の着物。そして鬼の証の右額から伸びた前髪で隠せる程度の小さな角。口を開けると鋭い犬歯。

ザ・鬼と呼べるような風貌だった。我ながら容姿端麗の分類されるんじゃないかな?きゃぴるん!!…ってやる見た目ではない。どちらかというと冷たい印象受ける。我ながら。……自身の容姿に未だ齟齬があるのは記憶がないからか。

 

さて、どうしたものか。私が誰か。私は何故鬼になんかになってしまったのか。知る必要がある。先程の【黒死牟】と呼ばれた鬼が知っているようだ。聞き出さなければねぇ。

 

よしやっぱり吐かせる。吐かせて私が誰かを知らないとなんか気持ちが悪い。知らない分からないという事はここまで不快なのか。

 

そのためには強くならなければならないなと決意する。

先程の戦闘を鑑みて私自身弱いわけじゃないようだ。けれどあの【死】は強すぎるよう。圧倒的強者。喰らう側の生物。………………それも何か釈然とせず気にくわない。

 

これは鬼を喰らう鬼の物語で。

 

いずれ【血霞童子】とも呼ばれる人間が好きな変わった鬼の話だ。



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原作前・血霞譚
壱【鬼喰いの血姫と鬼狩り】


【鬼殺隊】

 

鬼を殺す非公式組織。鬼狩り【鬼殺の剣士】達が切磋琢磨する人間のための人間による鬼殺しの組織。

 

つまり私は狩りの対象。

 

まぁ、是非もないよね。悲しいけれど。

 

 

「麟様、どうします?」

 

「敵対するつもりはないのだぜ?雪ん子。……私様は人を喰った事がねぇ。むしろ鬼が主食。最近丸焼きがマイブーム。ミディアムレアで頼むんぜ」

 

「あたしは氷漬けオンリーですよ。麟様。火車にいってください」

 

「んー。辛辣。だけど可愛いから許す。可愛いは世界を救うのだ。」

 

「麟様おちゃらけるなら表情筋を動かして下さい。」

 

「えー、表情変わってない?こんなにも感情豊かなのに!!?」

 

「怖えです。台詞と顔が大分あってねーです。」

 

うそん。

 

もはや、呪いの域だ。私の呪いを解いてくれる王子様募集中。あ、お姫様も可。

 

私の隣を歩く美少女は【雪娘】。私の【血鬼術】の産物。

座敷童に似たような風貌だが歴とした雪女の少女バージョン。死体を私の【血鬼術】で仮初めの命を宿している。軽くチート。鬼になって幾星霜。鬼はいずれも鬼舞辻産。襲いかかる一方で会話もままならない。正直寂しいのだ。独り言も増えたし。この子を創り出せた時は狂喜乱舞したものよ。我が百鬼夜行は形作るだけだしね。

 

 

 

「………………。撒いた?」

 

「ようですね。」

 

対立するつもりはないのにまぁあっちも仕事やし鬼は脅威っちゃ脅威だしねぇ。

 

仲良くしたいよねぇ。せめて不可侵条約的なのを結びたい。

 

うるうる悪い鬼じゃないよぅ。

 

「きも」

 

ご褒美頂きましたー。

 

 

 

何故君はそう辛辣なのだ。その身体の性格に依存しているのかね?性格設定なんかはしていないし出来ない。元々の性格なのかなー。お姉さんは心配だなー。よそ様と仲良く出来るのかなー。

 

「…………」

 

鬼化して幾星霜。いくら経ったかは正確には分からない。

 

【雪娘】お雪を創り出したのも最近の話ではない。もう江戸の頃だ。惨殺事件のあった道場の近くの道場で毒殺されていた親子の死体。悲しい匂いがしたのでつい。

 

寂しさを紛らわす為に【鬼喰らい】の際助けられなかった命を糧に【血怪百鬼夜行】を創り出して居る。

 

妖怪を模したような姿をした彼らは私の力で家族だ。

 

つくづく人間離れしてきている。ま、鬼なんですけどね。

 

【鬼舞辻無惨】の配下の【十二鬼月】からは裏切りの鬼として疎まれ【鬼殺隊】からは狩りの対象。

 

そうした立場をうん十年続けたらそらストレスたまりますわ。

と考えながら歩いていると後ろに気配。迂闊。お雪も居て何をしてるんだがと我ながら反省し即座に振り向く。敵意のなさに反応が遅れたのか。

 

「……………そう逃げないで欲しいな。君と話がしたいだけなんだ。」

 

柔和な声音に振り返る。反射的に刀に手をかけるが敵意のなさに眉をひそめる。

 

「誰かな。」

 

「噂はかねがね聞いてるよ【血霞】の姫」

 

気品が溢れた柔和な男性だった。こんな日光をも遮る深い森には似つかわしくはないような男だった。

 

側には【鬼殺の剣士】が控えているが彼からも敵意はない。よく教育されてるね。

 

「どの噂かな?」

 

「【鬼喰】だよ。鬼舞辻無惨と対立する鬼がいると聞いてね。私の剣士()たちも助けられたようで」

 

「その割には狙われますけど?」

 

「そこは申し訳ないと思うよ。灸寿郎。」

 

炎のような髪型をした青年が頭を垂れる。

 

「俺も貴女に助けられた身で。…こうして話す機会を窺って居たのですが貴女が逃げる故。」

 

逃げましたけど。だって狩られると思いますやん。

 

「………まぁ敵意がないことわかったけれど何用かな?私は【血霞麟】」

 

「…………お雪」

私の後ろに隠れる。人見知りかよ。可愛い。

 

 

「私は産屋敷暉哉(うぶやしきかぐや)。彼は【炎柱】煉獄灸寿郎(きゅうじゅろう)

 

「鬼殺隊のお館様御自らとはアグレッシブですな。……危なくないですか?」

 

「柱を3人連れてるから大丈夫だよ。」

 

「確かに残り3人(・・)の殺意は凄いですね。……私様も敵愾心出ちゃいますよ。」

【柱】【鬼殺隊】最高戦力を4人を連れている様子。1人隠したのはなんでかなー?

足元の血溜まりから天狗の面を付けた赤い翼の男性が現れる。

 

「【鴉天狗】もしもの時よろ」

後ろに配置させ手をヒラヒラさせる。

「無いとは思うがなぁ。姫は気楽だなぁ」

のんびりした声で反応する。

 

「ははっ。まぁ此方の対応は君に対する警戒じゃないよ。【鬼舞辻無惨】さ。君に対する接触があるやもしれないから」

 

「こんな深い森にはおもてなし出来ず申し訳ないですが。座るとこもなく。」

お館様は構わないよと薄く笑いながら立ったままお互い対峙する。

 

「最近は【下弦】ばかりですよ。…【上弦】すら差し向けて来なくなりましたね。」

 

「下手な鬼を向けて君の力にされては困るんじゃないかい?」

 

「全く慧眼で。私様のファンですか?」

ふふんと鼻をならす。

 

「ファンだからこうして会いに来たわけだよ。麟。…見た目麗しい女性だって聞いたしね」

薄く笑いながら憶せず言ってくる。大物だわ。

 

「…口説きに来たんですか?部下を引き連れて」

 

「…在る意味そうだね。……停戦協定を結ばないかい?」

 

願ったり叶ったりだ。…此方からお願いしたいんだが。

 

「あら、それは願ったり叶ったりだけど。男女として口説きに来たわけではないのかしら。」

 

「麟様………」

じと目で見ないで。私様も女なのだ。

 

 

「お館様は既婚者だ。」

 

がっくし。期待させてんじゃねぇよ!(血涙)

 

 

「面白い人だ。人間より喜怒哀楽を持っているようだ。」

クスリと笑うお館様。

お雪が目を丸くする。私の無表情から喜怒哀楽の機微を分かるようだ。やはり上に立つお人は違うんだなぁ。

 

「…やっぱり王子様なのでは?寝取るしか……いだっ!!」

私の美尻を抓るなお雪!!痕になったら初めての時恥ずかしいでしょう!!?

 

 

「………………お客様だぞ。姫」

 

【鴉天狗】が呟く。

 

「私かな?君らかな?……まぁ上弦相当の私と柱4人いるこの場に来るなんて相当なおばからしい。」

クスリと笑う。鬼らしい嗜虐的な笑いをする。

 

「…私達が狩ろうか?」

【炎柱】君が聞いてくる。

 

「いやいや、お客様にやらせるなんて出来ないよ?私というのがどんなものか見ていただいてからどうするか決めたら如何かな?お館様?」

 

薄く挑戦的に笑う。

 

「そうさせて貰おうかな」

 

「…そう。行くよ【お雪】【鴉天狗】」

 

「はい麟様」

 

「合点。」

 

鼻腔には血臭がくすぐる。纏うは烈風と冷気。

 

後ろの2人の【血鬼術】

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

「数は?」

 

 

「…20だね」

 

 

「少なっ」

 

 

私達は深い森を進む。霧に紛れて進軍してくる20の鬼の気配を索敵する。

 

この深い森は私の領土。

 

索敵用の【血怪】が深い森全域に撒かれている。

 

私及び【百鬼夜行】たちはそれとリンクしている。

 

「下弦相当の鬼はいる?」

 

「……1体。…これは多分鬼舞辻の指示ではないと思う麟様…」

 

「功を逸った愚か者のようだ。」

 

「まぁすべての鬼の場所を把握している鬼舞辻が止めないならば鬼舞辻の指示みたいなものだよ。」

 

血の呼吸・弐の型【血車】

 

刀を抜き回転させ背後より襲いかかる鬼を斬り捨てる。

 

私の攻撃に合わせてお雪も上空の鬼に氷柱で顔面を貫く。

 

【鴉天狗】も風を纏わせた拳で2体の鬼を貫く。

 

「脆い。」

 

 

「私を殺して私を喰らって上弦に【入れ替わりの血戦】挑むんでしょう!!?隠れてちゃ三下も三下だよ!!?」

 

 

「言わせる…【血霞】ぃ…!!」

 

「あら、割とイケメンじゃない。まぁ私の好みじゃないけど」

 

上空より降りてきたのは20前半くらい見た目のホストのような見た目をした青年が現れる。

 

片眼には【下壱】と刻まれていた。【下弦の壱】か。何人目の【下弦の壱】だったか忘れちゃったわ。

私のせいで【下弦】の入れ替わりは激しい模様。まぁよく品切れしないものだ。

 

「異能の鬼である事を祈るわ。喰らう意義がなくなるもの。今はお腹空いてないし。」

 

いつの間にか周囲に気配。お館様もいる。気配は【柱】のようだ。

 

「【鴉天狗】【お雪】、あちらの雑魚の掃除はお願いね。コイツが親玉だから私がもてなしてあげる」

 

返事をした2人は即座に行動。うん優秀優秀。お気にの2人だしね。

 

「お姫様ぁ…オデも…」

 

「こら、自分から出て来るんじゃない。」

 

足元の血溜まりから大きな血の蜘蛛を形成する。

 

「…あれ、喰らうンダロウ?オデお腹空いて…」

 

【土蜘蛛】が【下弦の壱】の鬼を狙いを定める。

 

「まぁよし…食べちゃえ。悪いね名前も知らない【下弦の壱】。私に喧嘩売ったのが運の尽きってね?今更後悔した顔しないでよっ悲しくなるからさ。」

私は困った顔を見せる。

 

「【土蜘蛛】、行儀よく食べなよ。お客様も見てるからさ。」

 

「わがっだ」

 

「ひぃっ…!!?」

【下弦の壱】の鬼は何も見せ場もなく【土蜘蛛】に噛み砕かれ咀嚼される。

 

「…なぁんも【血鬼術】ないじゃないか。スカだね。」

 

「……見てくれましたか?お館様。」

 

 

視線の先には先程のお館様に【炎柱】を含む黒い隊服を身に纏う男女の4人の剣士。

【柱】の男女には恐怖と嫌悪感が目に見えた。悲しいなぁ。

けれどお館様は先程と表情は変わらない。

 

「悲しい顔をするんだね君は。」

 

「いつも通り無表情ですよ。おぞましいでしょう。きっと貴方たちは私を持て余すよ?」

 

私の後ろに鬼を殲滅した【鴉天狗】【お雪】が戻る。そして食事を終えた【土蜘蛛】が聳え立つ。

 

異形。我が【百鬼夜行】。私の家族。

 

「君は寂しい顔をしているんだね。」

 

 

「君は『人間』が好きなんだ。だから寂しさを感じる。だから、そうして『家族』をつくりだす」

 

 

「…」

図星のような気がする。自覚はなかった。

ほんとこの人初対面の私を見て本質見るなんて見る目あり過ぎるでしょう。

 

「さっきの話は本気だし変わりはないよ。……君を【鬼殺隊】にむかえたい。」

 

「………正気?【鬼殺隊】だぜ?文字に書いて読んで見てよ。」

 

「本気さ。君を【柱】にむかえたい。君は【呼吸】を使うだろう?」

 

本気のことばに本気の眼差しに言葉を失う。

 

 

【鬼】にして【剣士】という歪の存在となる。

 

これは原作より前。【鬼殺隊】先々代【産屋敷暉哉】と血柱【血霞麟】の邂逅の話。




今回の百鬼夜行

【雪娘】……お雪。麟のお気に入り。血鬼術は【冷気】
生前とは性格は変わっているが根幹は泣き虫。生前はあの子。

【鴉天狗】→お雪の父親の百鬼夜行。血鬼術は【烈風】だけど基本戦闘力は高め。

【土蜘蛛】→蜘蛛型の百鬼夜行。累君とは関係ない。
異能のないが巨大な血の蜘蛛なのでそれなりに強い。常に空腹。


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弐【鱗滝少年と血の剣士】

捏造鱗滝さん。捏造設定苦手なお人注意。


【血柱】の血霞麟は謎の【柱】であった。    

 

継子を持たず柱合会議にも参加しない。

 

謎の女性で噂は噂を呼び現【柱】たちでも会った事があるのは古株のものだけで新参者の【柱】や階級の低い剣士の間ではまことしやかに囁かれている存在と化していた。

 

噂だけではなく確かに存在しているのは確かであり【血柱】のおかげかどうかは定かではないが【鬼殺の剣士】の死亡率は彼女が【柱】となってから格段とおちて居るのは事実であった。

 

歴代柱たちと比べやはり別格なのだと。

 

 

 

「だ、そうですよ姫。よかったですねー。モテモテですよ?」

と薄く笑いながら笑いを堪えれず明らかに馬鹿にしてるのは赤い九つの尻尾を生やしている【玉藻の前】

所謂【九尾の狐】だ。

 

「人前に出れんし仕方なくね!!?柱合会議も大体日中だし!!?」

 

「はいはいワロスワロス」

 

ぎゃームキーにゃー!!玉藻殺す。性悪過ぎません!!?逸話の玉藻の前再現してるんじゃね!!?

美人だからって調子のるなよ!!?

 

「お、落ち着け姫。なっ?」

 

「やっぱり君は癒しだよ。もふらせろ【犬神】」

 

犬顔の人型の【犬神】。性悪の玉藻と違い主人思いのイケメンやわ。可愛くて仕方ないわ。

 

 

妖怪としての【犬神】は怖いんだけどさぁ。

 

 

【剣士】となって幾何か。鬼を喰って【百鬼夜行】を増やして鬼を喰って剣士を助けていたら【柱】たちも世代交代をし【血柱】が【鬼】であることを知って居る者も少なくなってしまった。

 

【血柱】は【血霞】家の女性が世襲するという嘘設定が蔓延していた。まぁ【産屋敷】家の取り計らいだとは思うけれど。

 

「今代のお館様の宿哉様にも感謝やねぇ。なぁ姫」

 

「そだねぇ…入りたての頃は鬼嫌いもいたしやりにくかったし。こういった感じのが動きやすい……って勝手に出て来んな。【鵺】」

 

エセ関西弁を話す様々な獣を合わせたような怪物は飄々と話す。【鵺】と呼ばれたそれは意に介さず欠伸をする。

 

「勝手に出るなってば4人以上出ると私様は貧血起こすぞ!良いのか!!」

 

「いいんやない?」

 

「私はやですよ。しばらくぶりの外なんですから。」

 

「俺消えとくわ。じゃあな姫」

 

ああ……モフモフ……理由付けて帰りやがった。性悪と自由気ままのこいつら残して……。

 

 

「……………あれっきり【鬼舞辻】の接触もないよねぇ…………下弦すら見ない。上弦も【壱】以外見たことないし」

未だ自分が誰かは分かってなく解決せずもどかしい。

 

 

「色々現実逃避するのもええけど…そろそろ現実直視したほうがええで。姫。その小僧どうするんや?」

 

どうするって?

 

「どうしよう?」

 

血霞麟に与えられた屋敷の一室に横たわる齢十を超えたくらいであろう少年を見て嘆息する。

 

名を【鱗滝左近次】という少年だった。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

いつの世も理不尽は存在する。

 

人による理不尽も鬼による理不尽も受ける側としてはたまったものではない。

 

理不尽は常に弱者に降り掛かる。

 

人間好きを自負している自分からしたら私はそれに対して嫌悪感があった。

 

振り払おうと思っていたしそれでも私の力には限度があった。

 

鬼による惨殺現場に遭遇するのは常だし幼子の死体を見るのはいつもきつかった。

 

 

先日の鬼狩りの際生き残りの少年を保護した。

 

 

名を【鱗滝左近次】という少年だった。

 

両親と思われる死体を前に茫然自失としていた彼を抱きしめ保護した。

 

泣いてはいなかった。強い子だと思った。

 

鬼に殺された少年が鬼である私が保護するのは気が引けた。

 

鬼殺隊に預ける。それが一番良いだろう。

 

 

「【八咫烏】」

赤い三本足の怪鴉は私の鎹鴉だ。

 

通常の鎹鴉は鬼である私には寄り付かないのでこの子が伝令係を担っている。

 

「伝えてくれる?」

 

 

「了解」

うーんイケボ過ぎませんかね?

 

それから鱗滝左近次少年が目を覚ます。

 

流石に異形の姿をした【百鬼夜行】達を消す。

 

1人は心細いのでお雪を出しておく。見た目は普通の美少女だから気にならないだろう。

 

「こんにちは。落ち着いたかしらん?少年。」

 

前髪で角を隠しているし今の私は一目で鬼に見えないのはお墨付きだ。

 

「…ここは…?」

 

「ここは私の家だよん。」

 

「貴女は…?」

 

「私は【血霞麟】鬼を狩る剣士だよ」

 

その言葉を少年は覚醒したばかりの頭で飲み込んだだろう。思考と逡巡が見て取れる。

 

「……お姉さん」

 

「何かな?」

 

「剣を教えて下さい」

 

「何故?」

 

「鬼を殺す為」

 

少年の目は真っ直ぐで断る術が私になかったのが間違いだったのかもしれない。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

鱗滝左近次少年は思った以上に頑固な少年だった。

 

飲み込みは早く努力を惜しまない奴だった。

 

鼻が利くらしい。

 

百鬼夜行の皆は不評だったが鬼の独特の香りがあるらしく香水を使用していたため鱗滝少年も誤魔化せていた。

 

鱗滝少年が向いていた呼吸は【水】

 

 

奇しくも私の呼吸は水から派生した【血】の呼吸であったため基本的なところは似通っていた。

 

私の教えは忠実に守り鍛錬を怠らなかった。

 

頑固すぎて身体を壊すまでやっていた。意固地になって励んでいた。

 

 

「左近次。君は何のために鬼を殺す?」

 

「復讐?弔い合戦なら私は此処で指導をやめる。」

 

ふと溜め込んでいた疑問を聞く。

 

 

「師匠はお優しいな……………」

 

此奴を拾ってから少年は青年に近付く成長期まで成長していた。年に似合わず大人びた顔をする。 

 

「………最初はそうだった。両親や妹達を殺した鬼を殺し尽くす為に貴女に教えを請うた。けれど……何故か気持ちに変化があって………貴女のように自分と同じような人間が出ないように【鬼殺の剣士】になりたいのだ。」

 

私と同じく中々表情を変えない鱗滝少年は薄く笑う。

 

 

私のように…か。鬼の私に言われる資格があるのだろうか。

 

 

こうして鱗滝少年は私の教えを忠実に守り鍛錬をし【最終選別】へ至る。

 

立派な剣士となった。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

「君の弟子は素晴らしい剣士だね。」

 

薄く笑うは【産屋敷宿哉(しゅくや)】鬼殺隊現当主の青年は先代の生き写しにしか見えない。

 

「そう?ありがと。あの子が優秀なおかげだけど?」

 

「……それで返事を聞かせて貰えるかな?」

 

「答えはNOだよ。ばかちん。鬼の私を口説くなんて正気かよ。鬼殺隊の当主の血筋に鬼の血を混ぜる馬鹿はいないだろよ。」

 

此処は産屋敷邸。彼は現当主。

 

未婚者で私に一目惚れしたとかで散々アプローチを受けたがその度断っている。

 

「そろそろ宿哉もいい年なんだからいい加減諦めなさいな。」

 

「そうだね。今回が最後にしようかな。……」

 

「そうしろそうしろ。産屋敷は何かとしがらみが多いでしょう?私様みたいなのに構ってたら後ろ指さされるよ」

 

「……君を悪く言う人は以前から減ったと思うけど。」

 

「所詮私は【鬼】だよ。宿哉。」

 

日の当たらない部屋でしかこうして友人に会えないしね。柱を護衛に付けないだけ最大限の信頼関係だと思う。

 

「あら、美味しい。【甘甘屋】の羊羹は美味しいわぁ…これ食べにきてるようなもんよ。」

 

羊羹を食べながらお茶を啜る鬼も私くらいだろう。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

緩やかながら時は過ぎていく。鱗滝少年はもう青年で【水柱】を務めるほどの剣士になった。

 

 

「あの小さな少年がねぇ」

 

「感想が完璧おばさんですよ麟様。」

 

「うっさい。」

 

「え、姫。おばさんなの?可哀想に。」

 

ニヤニヤ笑うな玉藻殺すぞ。

 

 

 

「……左近次?どうした?」

 

【血霞】邸の庭に立ち尽くす青年【鱗滝左近次】がいた。

 

何も言わず招き入れる。今日は月が綺麗だ。

 

 

鱗滝少年…いや青年は無言。張り詰めた無表情が見て取れた。

 

「お前の活躍は聞いているよ。左近次。唯一の弟子が柱とは鼻が高いよ。」

 

無言。

 

 

「相変わらず無理をしてるな馬鹿だなぁ。私様みたいに力を抜きなさいよ」

 

お雪と玉藻は察したのか彼が来てから消えている。

彼の前では【百鬼夜行】は顔を出したことはない。

お雪などの人型がお手伝いを扮してちょこちょこ顔を出したくらい。

 

「………………幼子を救えなかった。」

 

そうか。分かるよ。

 

 

「……兄を喰らった鬼になった弟を殺した。」

 

いつものことだ。私たちはいつも間に合わない。

 

「………剣士になってから救えなかった命のが多い気がする。」

 

 

独白は続く。

鉄面皮に磨きが掛かった彼の顔には微かな苦渋。

 

「また、鬼が憎くなる。」

 

「憎くていいんじゃないかな別に。復讐は良くないよと言っただけだよ左近次」

 

「……恩人の貴女が何故…【鬼】なんだ…」

 

「あらん。気付いてたの?」

 

「私は鼻が利く…最初から気付いて居たんだ。……最初は取って喰われるかと思ったが……鬼の匂いとは別に優しい匂いがした。」

 

「照れるね」

まさか気付いていた上で私に教えを請うてたとは。

 

「何故?」

 

「私は歪な鬼だ。左近次。…私は鬼を喰らう鬼だ。…それ以上に『人間』が好きだ。人間の優しさも営みも全て愛しい。……私はよき師匠ではなかったな左近次。私が憎いか?」

 

「鬼は憎い。…けれど貴女は別だ。」

 

そう、ありがとう。左近次。と私は薄く笑う。

 

「これあげるよ。左近次。」

 

「…これは」

 

「『厄除の面』、厄災を払うまじないをしてあるけど…もう一つお前に必要なまじないをしてあげる」

 

「まじない…」

 

「これを付ける間は迷わず違えず鬼を狩れる。」

 

赤い天狗の面を彼の顔に付ける。

 

「…似合う似合う。救えなかった命があったとしても迷うな左近次。救えなかった命があったとしても救える命もまたあるんだ。私にとってはお前だ。」

 

「……ああ」

 

 

こうして私は『人間』が好きだという事を自覚する。彼らの優しさ、迷いが愛しい。




今回の百鬼夜行。

【九尾の狐】→【玉藻の前】史実のお人とは関係ないし某良妻とは違い性悪。麟をからかう事をライフワークにしてる。血鬼術は【呪い】

【犬神】…イケメン犬顔。百鬼夜行の良心。モフリストの麟には困っている。
【犬神憑き】の血鬼術。

【鵺】…エセ関西弁の合成獣の百鬼夜行。
血鬼術は【雷鳴】

【八咫烏】→麟の鎹鴉。
中田穣治ボイスのイケボ。


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参【色を奪う鬼と柱と寂しい赤鬼】

捏造鱗滝世代【柱】注意。





終始穏やかな人生になればなと思っていた。

 

鬼になってから【鬼舞辻無惨】との遭遇は最初のあれ以来なりを潜めていたし上弦どころか下弦すら見ない。

 

まぁ一時期【下弦】を殺し尽くしていたから是非もないのだけど。

 

【鬼殺隊】に属してから【鬼舞辻】と遭遇したのは私くらいらしい。…いやまぁ【鬼】の私は遭遇したのは当たり前っちゃ当たり前なのだが。

 

 

…1人の柱が殺された。

 

 

【傷柱】相国寺裂傷(そうしょうじれっしょう)という傷だらけの青年だった。

 

私はあまり関わりはなかったのだが左近次曰く将来有望の若手ながら鬼狩り最多を誇る剣士だという。

 

私の領土のあの深い森内で殺されていたため発見者は私の【百鬼夜行】が壱【管狐】だった。斥候の役割をもつ【管狐】が発見し慌てて私に知らせてきた。最初は【柱】とは気付かなかったが奇妙な死体であったことが一因だった。

 

 

【色彩】がなかった。無垢なまでの白。

 

流れる血液さえも色がなかった。

 

「色が奪われているのか?」

 

 

「妙な【血鬼術】ですねぇ」

 

「喰ってないってことは食にそこまで頓着しない鬼かしらん。珍しいね。」

 

【上弦】すら喰らうのだが。鬼にとって食欲・飢餓感は逃れられない呪いだ。

 

まぁもしかしたら彼が嗜好外だった可能性もある。私も【鬼喰らい】も食の嗜好がある。見た目が麗しい上にかつ【血鬼術】持ちが美味しい傾向がある。

 

まぁ私の【血鬼術】に関係していたりするけれど。

 

色の奪われた死体。

 

下弦もしくは上弦相当の鬼。【柱】を殺したほどだ。

 

 

私の知っている上弦は壱【黒死牟】しか知らないし下弦は様変わりしてるだろう。

 

「とりあえず報告。ホウレンソウは大事。はっきりわかんだね」

 

「変な役職にいる麟様がいえることじゃないですよねぇ」

 

「変な役職とは失礼な。【柱】だぞぅ私」

 

「柱合会議にも出ない癖に」

お雪は鼻で笑う。他には人見知りするくせに。前には玉藻に泣かされた癖に私にはなんで辛辣かなぁ!!?デレツンか!!デレツンなのか!!?

 

「…………落ち着け姫様。」

 

おおぅ。どうした?【火車】

 

 

「色彩奪い。通称【色鬼】と呼ぶが……それらしき鬼を見たって情報があった」

 

【火車】と呼んだ燃える偉丈夫は低い声で言った。

 

「………誰?」

 

「【犬神】の憑いた鬼の1体だがな。まぁそいつも色を奪われてるが。異国の白い衣装を着た白い女らしい。」

 

「そんな奴鬼舞辻にいたかなぁ…まぁ【黒死牟】以外知らないからあてにはならないか」

 

 

「……そも鬼なのかしら?そいつ」

ふと、した疑問。

 

「【鬼】ぐらいしか思いつかんな姫。」

 

 

「そだね。まぁ【柱】を殺したんだ。【敵】なのは変わりはないだわね。」

 

大好きな【人間】に牙を剥いたのだ。敵には変わりはない。

 

「…麟様悪い顔してる…」

 

「食べたら美味しいかどうかしか考えてないかもな。」

 

人を食欲の塊に見るのはやめて頂きたい。グルメなのだよ私は!!まぁ見た目が麗しいの期待だけどね!!

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

柱合会議

 

珍しく夜分に行われた。柱たちは産屋敷邸に招かれて集まっていた。

 

「…夜に集まるなど珍しいのではないか?」

鳴柱・桑島 慈悟郎が言い放つ。

 

「【血柱】殿が主賓らしい」

炎柱・煉獄轟寿郎が答える。

 

「存在したのね【血柱】は」

 

涙柱・鎖天川瑠偉は口を挟む。

 

「……」

水柱・鱗滝左近次は無言を貫く。

 

「……【傷柱】の彼はどうしたの?いつも先に来てるじゃない彼は」

天柱・上臥原天(じょうがばらそら)は小さな身体をぴょこぴょこさせて訴える。

 

 

「彼の事が議題かな?彼の活躍には目を見張るものがあるしね」

 

やけに明るい口調の忍者風の男。

音柱・宇髄天竜はおちゃらけるように言う。

 

「彼は来ないよ。」

 

 

産屋敷宿哉はこの度夫婦となった灰髪の女性。灰羅(はいら)を連れ添い部屋に入ってくる。

 

「お館様、此度はお招き頂きありがとうございます。」

煉獄を筆頭に深々と頭を下げる。

 

 

「皆、元気そうで何より。けれど悲しい知らせを私はしなければならない」

 

上座に座る宿哉は沈痛な面持ちをしている。

 

「裂傷が戦死してしまった。彼の死に私は深く心を痛めている。」

 

 

「「「「!!?」」」」

 

驚愕する一堂は困惑を露わにする。

 

 

「馬鹿な!!?彼を殺せる鬼がいるというのですか!!?」

 

「後れを取るとは不甲斐なし…!!」

 

 

「どこの鬼かしら?」

 

 

 

 

「落ち着け。若人共。お館様の前はした無いわよ。」

 

我ながら凜とした声だわ。

 

 

普段着ない隊服に鮮血のような真っ赤な羽織。

背中には【滅】ではなく【喰】の文字。

 

【血柱】血霞麟ちゃん爆誕。かわええやろ?

 

まぁ無表情だから私様のお茶目な心の声は通じないんだけどね。

 

「誰かしら?貴女は」

 

「…【血柱】だわよ。今日はお集まり頂きありがとうね。」

 

「………仕切ってんじゃあないわよ!!いつも柱合会議に参加してないクセに!しかも鬼じゃない!!なに鬼が柱って!!喧嘩売ってんの!!?」

がなりだつ【涙柱】目の下の涙マーク可愛いね?

 

「………刀を抜くとはお館様の御前。不敬だぞ?鎖天川。」

 

「…」

 

背後より涙柱の抜刀する手を止める煉獄くんと私の前に立つ左近次。

ふー行動がイケメンね?

 

「何?あんたら鬼の肩持つの?そっちこそ不敬じゃない。」

 

「瑠偉。座りなさい。彼女を【柱】に定めたのは先代だ。申し立てがあるなら代わって私が聞くよ」

 

「いえ、……申し訳ありません…」

 

「こうなるからあまり出たくないわけよ。宿哉ごめんね?」

 

「構わないよ麟。」

 

「おや、美人さん捕まえたじゃん。初めまして。」

 

「噂はかねがね聞いてます。ふふふ面白い人。」

宿哉の付き添う灰色の女性は薄く笑う。おやまぁわりかし友好的。

 

「…お、お館様を呼び捨て…」

 

【涙柱】からの熱視線にドキムネだわ。

まぁ、彼女からのは当たり前の反応よね。一目で鬼ばれするとは中々慧眼ね彼女。

 

「【血柱】さんよぅ。集めたからさっさと話してくんねぇか…【傷】の坊主が死んだ理由を知ってんのか?」

【鳴柱】の桑島くんが急かしてくる。

 

 

「……【色鬼】って聞いたことあるかしら?」

 

【色鬼】と聞き首を傾げる一同。ま、そうよね。

 

「まぁ私が付けた暫定的な呼称だけど。【色彩】を【奪う】鬼よ」

 

「色を奪うって何よそれ血鬼術?」

 

「異能の鬼か」

 

「それがどうかしたの?」

天ちゃんが可愛らしく首を傾げる。やっぱり可愛いは正義だわ。

 

 

「昨日未明に彼の死体が私の担当警戒区域で発見されたわ」

 

「あんたがやったんじゃないの?」

敵対視し過ぎじゃんよ瑠偉ちゃんよー。

 

「【色】を【奪われて】死んでたわ。私たちには出来ない芸当だわ。」

 

「…達…?」

 

黙殺。【百鬼夜行】は秘密なのよ。

 

「【色鬼】と名付けたそれ。皆のところに似た情報無いかしらん?【柱】を殺したんだ敵でしょう?」

 

「……【色彩奪い】ねぇ…」

考え込む天竜くん。

 

「………うちの警戒区域で1件あったな」

左近次が口を開く。

 

「………真っ白な死体。鬼の食い散らかしにしてはあれだがたまに芸術家気取りの鬼がいるからそれと断じて居た」

 

「あらま」

 

「大事になるとは思わず。申し訳ありません」

 

 

「構わないよ。左近次。」

 

「まぁ『異国の白い衣装を着た白い女』を見掛けたらよろしくね。皆。」

 

背伸びして立ち上がる。やっぱり柱合会議はいたたまれなくてあれだなぁ。やっぱりわざわざ私様出なくてもよかったかなぁ変に爆弾入れただけな気がする。  

 

わりと親『血柱』な左近次や煉獄きゅんにあからさまな反『血柱』の鎖天川ちゃんが居るからなぁ。

 

和平は難しいなぁ。私はこんなにも『人間』が好きなのに。片思いつらたん。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

「ねぇ」

 

 

「殺気隠れてないよ鎖天川ちゃん?」

 

 

綺麗な黒い長髪にスレンダーな体型に泣き黒子みたいにある涙マーク。

 

【涙柱】鎖天川瑠偉は帯刀して私の帰り道を遮る。

 

 

「…そんなに鬼嫌い?」

 

「あったり前でしょう!!?害獣で害虫のあんたらなんて大っ嫌い!!!!死ねっ!!」

 

 

一定数、鬼殺隊には鬼に大事な人を殺された人間がなった剣士がいる。そう言った感情がつらくてキツい【鬼殺】を続け【柱】まで至るエネルギーになることも理解していた。

 

それが【鬼】である私にぶつかることも理解出来る。

 

「…人間と戦うつもりはないんだけど?鎖天川瑠偉」

 

「嘘つけ!!そうやって虎視眈々喰うタイミング見計らってるんでしょ!!」

 

 

   涙の呼吸・参の型【涙葬送】

 

鋭い連続した突きが放たれる。

 

  無刀・血の呼吸・零の型【血陽炎】

 

陽炎のように消えるような歩法で突きを全て躱す。

 

 

「ちぃ!!チョコマカと!!鬼の分際で呼吸なんか使うんじゃないわよ!!」

 

    涙の呼吸・㯃の型【時雨月泪雨】!!

 

 

    無刀・血の呼吸・弐拾壱の型【血雪崩】

 

鎖天川ちゃんの鋭すぎる居合いを血液の雪崩で受け流す。

 

「!!?」

 

「ごめんね。まともにやる気は無いぞぇ…私は人間が大好きだからね。私はけして傷付けない。喰らわない。」

 

「信じ…られるか!!」

 

 

「…【玉藻の前】」

 

「はいさ、何用でしょう?」

 

「【睡眠の呪】お願い」

 

「あいあいさ。今度イケメンの百鬼夜行作って下さいね!」

 

婚活かよ。

 

「【眠呪】朝までおやすみなさーい」

玉藻は軽めの呪いを彼女に振り掛ける。彼女は抗えず眠りに落ちる。

 

「貴女の人間好きは筋金入りですねぇ……足元いつか掬われますわよ。」

 

「人間の為に死ねるなら本望さね。」

 

 

「理解出来ませんわね。お姉様。」

 

異国の白い白い衣装を纏うの女がいた。顔の作りは日本人に見えるがどこか神秘的だった。

 

「だれだい。」

 

「貴女の言うところの【色彩奪い】の【色鬼】ですわ。」

 

薄く嗤う。

 

「幾重に隠された【産屋敷】邸に辿り着くなんて【鬼舞辻】すら至って無いんだけど?」

 

「ご安心を。私は貴女同様きゃつの【呪い】を外しております故」

 

「名乗れ。」

 

 

「【新月の純白】の【真白】ですわ。以後お見知りおきを。お姉様。」




今回の百鬼夜行。


【管狐】…群体型の百鬼夜行。担当警戒区域での斥候。見回りが仕事。思考は獣程度。

【火車】…燃える偉丈夫。気の良い男だがお雪避けられるのは悲しい。


オリジナル鬼

【新月の純白】真白…?????


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肆【敗北は苦渋の血の味?】

結果を言おう。

 

結論から言おう。

 

私は敗北した。

 

強くなったと自負していた。きっとそれは傲慢であったんだろう。

 

驕っていた。私は強いと勘違いしていた。

 

最初の【黒死牟】以来私は圧倒的強者と戦っていない。

 

雑魚を狩り家族を増やし家族に【血鬼術】を与え強くなった気でいた。

 

そんな事であの【領域(黒死牟)】に至れるのかよ。

 

 

私と同じ【領域展開】型の血鬼術を持った【新月の純白】に一方的にやられた。

 

 

「麟様!!麟様!!腕の色が!!色が!!!」

 

お雪め。泣くなよ。思った以上に痛くはないよ?

 

 

「…姫。利き腕だが申し訳ない。徐々に色が奪われてる。切り落とすぞ」

 

【鴉天狗】が私の日輪刀【神血】を私の右腕を切り落とさんと構える。

 

「いいよ、……死ぬよりマシさね。優しくね」

 

「ごめん!!」

 

激痛は一瞬。切り離された右腕は色を失い意味を失う。

 

切り離された事により【色彩奪い】の侵略は収まる。

 

 

「………ありがとう。【鴉天狗】」

 

鬼の再生力を使い傷口をふさぐ。腕は復元出来ない。まるで元の形を忘れたかような錯覚に陥る。右上腕から先がない。元々あったかどうか認識すら揺らぐ。

 

欠損少女りんちゃん爆誕。可愛い…よね?(困惑)

 

「……痛いとこつくよ。あの鬼は」

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

「……………『鬼』が『人間好き』は無理がありません?」

 

白い女は嘲るような雰囲気もなくただただ疑問に思った風に聞いてくる。

 

「あ?」

 

「いや、私には理解できませんもの。所詮彼ら(人間)にとって私達()は捕食者に過ぎません。」

 

 

「……」

 

彼女は言葉は刃となり我が心を引き裂こうとする。

 

「それは絶対的摂理で『鬼喰らい』の私達は異端ですわ。食物連鎖ってご存じ?捕食者と被捕食者は共存できません。そこの処はどうお考えで?」

 

煩い。知るか。黙れ。

 

 

いきなり現れて弁舌垂れるな小娘。

 

『領域展開【血怪百鬼夜行】』

 

私の周りに血溜まりが展開する。それから【お雪】【鴉天狗】【犬神】【鵺】【玉藻の前】【火車】【土蜘蛛】をメインにまだ仮初めの命を与えていない血の形だけを形取るあやかし達を創り出す。

 

 

「………私は私のやり方で生きてくンだよ。小娘。」

 

抜刀する。おぞましいまでの【赤】の日輪刀・神血を構える。

 

「気付いているんでしょう?無駄だと。いずれ破綻すると。目をそらしているだけですわお姉様は。さきの涙柱のお嬢さんが人間の本心ですわ。」

 

「黙れ。」

 

「黙りませんわ。ふふ。そんな事してないで私と参りましょう。【鬼舞辻無惨】を殺して私たちで鬼による鬼の為の鬼の楽園を創り出すのです!!!」

 

「【鬼舞辻】は自身が戻る方法しか考えていませんもの。生み出した鬼の事など駒程度にしか考えていませんわ。」

 

「ですからお姉様。【見えざる月】たる我等と共に…」

 

「断る。」

 

「……はい?」

 

「真逆だよ。やっぱり。…私は人間の為に鬼を喰らい人間の為に鬼を斬る。」

 

「……私は畜生には堕ちない。」

 

「無様。下劣。理解不能の極みですわ。お姉様。いえ【血霞童子】……せっかく【新月の深紅】の座差し上げようと思いましたのに。」

 

 

【領域展開・色彩神話再現(カラーズミソロジー・リクリエイト)

 

奪ったであろうあらゆる【色彩】が彼女の周りに浮遊する。24の基本色からの様々な色彩。

 

幾百を超える仔細まで分岐する色彩はそれを再現する。

 

この時代にそれを表現するすべは持たない。

 

陳腐な言い方なれば巨大な翼を持つ蜥蜴。

 

 

「私、異国の物語好きでして。ふふ、こういったものが好きなのですよ?」

 

「…趣味が悪いんじゃなくて?」

 

 

「貴女の百鬼夜行など有象無象に過ぎませんことよ?」

 

 

「姫、あれ単純な破壊力なら…100体の鬼相当じゃないですかね」

【玉藻】は顔を顰めながらそう言った。うそん…まぁ玉藻の見立てなら差異は無いのだろうが。

 

 

異国の白い洋装を纏う少女は嘲笑する。強大な色彩の怪物は此方の動きは見て狙いをすましてくる。

 

血の呼吸・扒の型【増層鉄血】

自身に巡る血流の速度を速め爆発的に運動能力を増幅し加速する。

 

「姫っ!!」

 

「我らが狼狽えてどうする」

【火車】が気を引き締める。

 

「姫をお守りするのだっ!!我らは姫より与えられた命!姫のために死なねばならない!!」

【鴉天狗】がいう。

 

「せやね」

 

「そうだな、…仮にも主人だしな」

 

【鵺】と【犬神】が続く。

 

 

「…私は……あの人に会うまで死ねません。……その機会をくれた麟様に……報わなきゃ」

お雪もさらに続く。

続々と続く【百鬼夜行】

 

 

「滑稽ですわ。虫唾が走りますわ。貴女の家族ごっこ。やりなさい【色彩神話】」

 

色彩の怪物の顎は大きく開く。圧倒的死の予感。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

「無様。…私が見込んだお姉様は所詮この程度でしたのね。…あの【上弦の壱】が気にしているからと気にしてみれば」

 

「はっ、お生憎様。…………好きに鬼の楽園を作ればいい。まぁ鬼殺の彼らが許すとは思えないけど」

 

「…………今の貴女にすら勝てない鬼殺隊など眼中に御座いませんわ。」

 

「…くっ。とんだおこちゃまね。彼等の強さを知らないものね。……鬼の楽園なんざ【世界】が許さないと思うぜ?【純白】ちゃん?」

 

色彩を一部奪われて座り込む私を見下ろす純白の少女を見上げる。

 

「…そのまま返ってますよ。【血霞童子】。やっぱり破綻してますよ。貴女は。人間を心酔しながら鬼を唾棄する。貴女自身は【鬼】であるくせに。……ただただ【人間の世界】に居場所が欲しいだけの我が儘女なだけですか」

 

ピンポン大正解だよ。

 

「………ふふ。貴女の行く末オモシロそうですね。どう破綻し裏切られ壊れていくかは見ものですよ。だから殺さないであげます。」

 

性格の悪いこって。そんな嗜虐的な笑みを浮かべてまぁ。

 

「自分が誰かも分からない愚かな女の人生。私の覇道の傍ら暇つぶしに見て差し上げますわよ。お姉様。」

 

踵を返し消える白い女。

 

「麟様!!腕が!!」

 

お雪が駆けて近付いてくる。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

それからはただ無為の時間が過ぎる。 

 

【鬼舞辻無惨】の気配もなく【見えざる月】とやらの接触もない。

 

ただただ物思いに耽る事が多くなった。   

 

心配そうにお雪が側にはいてくれた。どうかしたかと【百鬼夜行】も構ってくる。

 

 

最初は【私は誰であるか】という疑問から始まった。

 

それは未だ澱のように私の下に積み重なる解決されない疑問。

 

私のこの気持ちは失った記憶に起因するものなのかどうか。

 

答えはまだ出ない。

 

 

 

「…………師匠。お久しぶりだな。」

 

突然の訪問。

 

すっかり老け込んだ現役を引退し【育手】となった鱗滝左近次が尋ねてきた。

 

「あらま。すっかりお爺ちゃんだね。左近次」

 

「…そちらは相変わらずお変わりは無いようで。」

 

いやまぁ老いてく弟子と変わらない自分というのは結構来るね。

 

「まぁ最近は【柱】業もサボりがちだけどね。今代の子達は有能な子が多いし。」

 

【血霞】邸の居間で世間話をする。お雪が出してくれたお茶を飲む。つめた。

 

 

「……………………そっちの子は?」

 

左近次の後ろに隠れている宍色の髪をした口に傷がある少年と花柄の着物を着た黒髪の少女がチラチラッと此方を見ている。

 

「儂が保護した『鬼』に襲われた生き残りだ。」

 

「ははん。なるほど。似たようなことしているのね。左近次。こんにちは名前は?」

 

「…錆兎」

 

「真菰だよ」

 

私の優しい声掛けにおずおずと答える2人。

 

鬼に殺された生き残りだというに。

 

「私は【血霞麟】まぁ訳ありで剣士してるけど」

 

 

「鬼だよ私は。怖くない?」

 

前髪をかき分け角と口を開け牙を見せる。

 

わざわざと思うだろうけれど左近次も思うところあって連れてきたのだろう。

 

「…………鬼は怖い。」

 

鬼は怖い。

それは当たり前だ。

 

大事な人を奪われたなら尚更。

 

「……でもお姉さんからは優しい感じがする」  

 

真菰ちゃんの言葉に目を丸くする。

 

「俺もそう思う……」

と錆兎君も同意する。

 

 

「子供ってやつは素直だなぁ」

 

やっぱり私は『人間』が大好きだ。 

 

 

やっぱり私は人間の為に生きたいのだ。

 

例えそれが報われないものだとしても。

 

 

 

時は大正の時代へとうつっていた。

 



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原作開幕
弐の壱【幸せが壊れた時の血の匂い・壱】


「………錆兎」

 

「どうした真菰」

 

 

時は大正。

 

錆兎は幼いときから一緒にいた少女の言葉に振り返る。

 

「…ううん、なんでもないよ」

 

「変な奴だな」

 

2人は隊服をきて羽織をしていた。花柄の羽織を着ている少女は薄く笑う。

 

「柱合会議でしょう錆兎。ついてってあげようか?」

 

「いらん。……甘露寺さんに会いたいだけだろう?」

 

「蜜璃ちゃんに会いたいのもあるけど……麟さんに宜しくね。」

 

「ああ、珍しく出るみたいだからな。……だから夜分にやるんだろう。多分……あの件だと思う。」

真菰の言葉に首肯する。

 

 

「あらあら、錆兎くんに真菰ちゃんお久しぶりだね~」

産屋敷邸までの道中話しかけられる。

 

「胡蝶さん」

 

「あ、カナエさんだ」

 

「はい、カナエさんだよー」

 

蝶の髪飾りをしたのほほんとした女性が話しかけてくる。

隊服に羽織を着ている。

 

【花柱】胡蝶カナエだった。朗らかな雰囲気を持つ彼女は蝶屋敷と呼ばれる彼女の邸宅で鬼殺隊の医療機関を担う役割を持つ女傑であった。所謂鬼による孤児。主に女児や少女を引き取っている聖人でもあった。

 

彼女が『妹』をつれず行動しているのは違和感があり慣れないものであった。

 

「真菰ちゃんも柱合会議出るの?」

 

「出ないよー。錆兎の見送り。」

 

「あらあら仲良しなのね。ふふふ。羨ましいわぁ」

 

「カナヲちゃんは元気?」

 

「元気よ~。そろそろ最終選別に出るって頑張ってるわ。」

 

「そろそろそんな時期ですか」

 

「…………錆兎?義勇のこと思い出す?」

 

「少し…な。」

 

 

「さてさて、柱合会議に遅れちゃうわ!」

行きましょうと言ってくるカナエに頷く。

 

「じゃ私はここで。お館様んちにいくのは特別な行き方があるだろうし。【水柱】は錆兎だし。」

 

「お前もなる実力あるだろうに。」

 

「上に立つのは錆兎のが向いてるよ。私には責任とか面倒…………向いてないし」

 

「…お前らしいわ。」

苦笑し先に進む胡蝶カナエについて行く。

 

 

「………………幸せが壊れた時はいつだって血の匂いがするけど…あの人の匂いは好きだし錆兎頼むね。」

見送り踵を返し帰路につく真菰。

狐面をつけて歩く。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

産屋敷邸。柱合会議につき各【柱】が集まっていた。

 

【炎柱】煉獄杏寿郎は炎のような髪を揺らして各柱の到着を待つ。

最初に付いたのは彼だ。

 

「よもや。よもやだ。まさか日が落ちるまえについてしまうとは!!」

 

「遅刻するより良いだろうが。煉獄さん」

 

「時透少年久しいな!!息災のようで何よりだ!!」

 

「あっつくるしいようで何より」

 

若干嫌そうに席に着くのは【霞柱】時透有一郎。

 

「ははっ!!暗いぞ!!」

 

軽く舌打ちする有一郎を特に気にする様子なく笑う杏寿郎。

 

「3番目~。相変わらず煉獄さんと時透くんは早いですね!!」

ほわほわした雰囲気をした桜色の毛先が緑がかった三つ編みをした胸元が見えるよう隊服を着崩した女性【恋柱】甘露寺蜜璃も入ってきた。

 

「生真面目な男だしな。時透は口が悪いが」

 

あとに続くは蛇を連れた男。【蛇柱】伊黒小芭内。

 

「派手さが足りないな派手さが!」

【音柱】宇髄天元は騒ぎながら入ってくる。

 

「皆息災で何より誰も欠ける事なく集まれたこと嬉しく思う」

涙を流しながら読経する巨漢の坊さん風の男。【岩柱】悲鳴嶼 行冥。

 

「あらあら皆さんお久しぶりです!」

錆兎の前を進み部屋に入る胡蝶カナエは朗らかな挨拶をする。

 

「……相変わらず濃いメンツだなぁ」

錆兎も続き会釈し席に着く。

 

「錆兎、久しいな!!真菰は元気か!!」

 

「元気だよ宇髄。お前は相変わらず騒がしいな。」

 

早速絡んでくる天元に軽く嘆息する。

 

「錆兎くーん。また真菰ちゃんに美味しいもの食べに行きましょうって伝えといてー」

ぶんぶんと過剰な手振りをしながら言ってくる蜜璃に分かったと返事する。

 

「……あと不死川か?」

 

「…【血柱】殿が来るからなぁ……もしかしたら欠席やもしれぬ。」

 

「あれはあれで根は真面目な奴だ。サボるって発想はねぇだろ。」

煉獄の言葉にそう返答する悲鳴嶼と天元。

 

「だから構うなってつってんだろ!!血女ぁ!!」

 

「そんなこと言うなよさねみちゃん~」

 

「さねみちゃん言うな!!」

 

怒号。あぁ不死川に構うのは彼女くらいだ。

 

「彼女は不死川の何を気に入ってるのだろうか。よもや恋慕か!!?恋慕なのか!!?」

 

「まぁ!!キュンキュンします!!ねぇカナエさん!!」

カナエの手を握りながらキュンキュンする蜜璃。

 

「…………まぁ不死川が単純に鬼嫌いだからだろうけどなぁ」錆兎は小声で呟く。

 

「てめぇら!!勝手に盛り上がってんじゃねぇ!!」

 

 

閑話休題(それからどうした)

 

 

「やっほー、お集まり頂き皆ありがとうね。」

 

赤い髪を横に長く縛り馬の尻尾のように垂らし隊服に赤い羽織。背中には【喰】の文字を背負う年齢不詳の女性。夜の【柱合会議】には決まって参加する謎の柱。

 

「さねみちゃん~私のラブコール答えてよー」

 

「殺すぞ。血女。」

 

「わーい辛辣ぅ」

 

片腕の左だけで手を上げやれやれとする。

 

隻腕。それを不便としている様子はない。錆兎は前々から疑問に思っていた。

 

何故再生しないのか。

 

「……麟さん。良いかな。」

 

「いいよ。」

 

柔和な声の主に皆姿勢を正す。

 

「皆夜分にありがとう。皆元気そうで嬉しいよ。」

 

産屋敷耀哉とその妻・あまねが付き添い部屋に入ってくる。

 

「……それで早速で悪いけど麟さん。」

 

 

「…………貴女がとある子を鬼にしたって本当かな?場合によっては多恩ある貴女を処罰しなければならない」

 

 

その言葉の理解を即座に出来た【柱】はこの場にはいない。

 

先程のおふざけしていた彼女の顔に表情はない。

 

場には緊張が走る。困惑の色で染まる。

 

 

 



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弐の弐【幸せが壊れた時の血の匂い・弐】

場を支配するは緊張感。皆、麟さんの言葉を待っている。

 

俺自身、その場に居合わせていた為知っていた。

 

やはりこの事に対する言及。

 

「血女ぁ…どういうこったぁ!!?意味分かんねぇぞ!!?」

不死川は苛立ち怒声を麟さんに浴びせ掛ける。

 

「実弥静かに。彼女は説明するよ。」

 

お館様の言葉に直ぐさまぴたりと黙る。

 

「…………まぁ黙っていたつもりはないのだけれど。彼女を鬼化したのは認めるよ。そうしなきゃ死んでしまうような危うい状態であったから仕方なくね。」

 

「………そも、彼女が鬼化とは?鬼化出来るのは【鬼舞辻無惨】だけでは?」

不死川が疑問を上げる。そう一部しか知らない。

 

「私は【鬼】だよ」

 

その言葉に即座に不死川は抜刀。

 

彼女は正座したまま一瞥するだけ。

 

「鬼が人間面して何故ここにいる!!?血女!!?」

 

斬り掛かる不死川の前に彼女の足元からの血溜まりから【お雪さん】を形作る。

 

「…………麟様のお話中です。着席して下さい。不死川様。…………でなければ強制的にさせて頂きます」

冷気を纏うお雪。彼女の足元からピキピキッと凍結する。

 

「やってみろ!!」

 

「落ち着け。不死川。」

 

「……話を先に聞いてみてからだ。お館様のお許しを頂けるならば即座にこの鬼を処断出来る。」

 

俺と悲鳴嶼さんが不死川と雪のような少女の間に入る。俺と彼では逆のような心中だが。

 

「話を続けるね。さねみちゃん。…………事の発端は私の警戒区域内の山岳でとある家族が鬼に殺されていたの。まぁ残念だけどまぁよくあることだわ。…………襲った鬼というのが問題でね。」

 

淡々と珍しく感情を乗せず言う。普段無表情だが声は感情は豊かなのだが。

 

「…………【鬼舞辻無惨】の濃厚な気配が残っていたわ。……」

 

 

【鬼舞辻無惨】という名に皆驚愕する。ここ百年近く奴の足取りは掴めていなかった。

 

 

「【鬼舞辻】…だと……」

 

「そ。……まぁ1人生き残りがいたわけ。……死なせる訳にはいかないし。……まさか私に【鬼舞辻】と同じ力が宿るとは。まぁその子を鬼にしたらその力の残滓すら残らなかったけど。嘘じゃないよ。」

 

「………そこの少女とは違うわけかな?」

 

「【お雪】達は厳密には鬼じゃないよ。【血怪百鬼夜行】という私の【血鬼術】で死体に仮初めの命を与えてるだけだし。鬼のように誰かを喰らう必要は無いしね。まぁ私の口変わりになってる子は居るけど。基本的に【鬼】を食らうよ?」

 

「……てめぇ鬼はどこに匿っている?」

 

「……言うと思う?鬼殺しにくるでしょ?さねみちゃん。」

 

「あったり前だろうが…貴様の鬼だろうがどうせ【人】を喰っただろうが!!?てめぇもそいつも!!」

 

「私は生まれてから今まで【人】を喰らった事は無いよ。【鬼】が主食。……それにその子も鬼になってから食べてないよ。まぁ私みたいに【鬼喰らい】になるとは分からないけど」

 

「………はぁ?」

信用出来ねぇと言わんばかり。

 

「落ち着け。不死川。……お館様の御前だぞ。いい加減……」

 

「うるせぇ錆兎。てめぇは此奴の指南受けてたな?グルか?」

 

「麟さんの事何も知らない癖にがなるなよ。不死川。この場で騒ぎ立てるならお前を斬り捨てるぞ。」

 

いい加減目障りだと自分の中の血液が煮えたぎりそうな気持ちがあった。

 

 

「はいはい。若いなぁお二人さん。刀を収めなさい。お館様の前なんだから礼儀正しくね。お館様のご判断を聞かなきゃ」

胡蝶さんが間に入りのほほんとした感じに収めてくる。

 

「……構わないよ。カナエありがとう。……まぁ色々混乱はあるだろうから目をつぶるよ。けどこれ以上は分かるね?実弥」

 

「はい、お見苦しい所を申し訳ありません。」

 

 

「それで麟さん。貴女は……鬼殺隊に牙を剥くのかな?」

 

「ありえないよ。と言っても信用して貰えないよねぇ。……【鬼舞辻無惨】と同じ【鬼化】があったら皆不安でしょ。まぁもうないしするつもり無いのだけれど。まぁなんかあったら頸を切って死んであげるさ。けど……」

麟さんは調子を変わらずそう言う。

 

「その鬼にした子にお兄ちゃんがいてね。妹を人間に戻すなんて言ってるんだよ?可愛くてねぇ…かなえてあげたいじゃん?」

 

「……」

 

「その子、もし妹が人を喰ったら妹を殺して詫びて自死するってさ」

 

 

「だから鬼殺したいなら私を殺してから行けよ?若造共」

 

先程までの優しい声はなく圧倒的な威圧感が【柱】達を襲い掛かる。

 

【柱】達は麟さんの威圧に固唾を飲む。

 

 

(麟さん格好いい…あんな女性になりたいわぁ)

 

なんかキュンキュンしている甘露寺さんは捨て置こううん。

 

 

各々【柱】達は思うところがあるだろうが俺みたく好意的に思う人間は少ないだろう。

 

お館様は現状は不問としてくださったがその鬼が何かしたら麟さんは責任を取らざる得ないだろう。

 

不和。【鬼】であることが露見した。歴代【柱】達とも【鬼】であることが露見したことがあるらしいが…詳しくは聞いていない。

 

鬼嫌いのはっきりしている不死川を筆頭に皆【鬼】を当たり前に好ましく思っていない。

 

幼少より彼女と接していた俺や真菰とは違う。

 

…彼女の立場を顧みると心苦しい。

 

 

「錆兎。」

 

帰り道。麟さんが俺に声をかけて来る。やっと軽い調子で。

 

「麟さん…すいません何も出来なくて」

 

「良いよ良いよ。錆兎の立場もあるし。だけどまぁ怒っちゃ駄目だよ。お姉さん嬉しいけどさ」

 

軽く微笑む。無表情からの多少の差異だが俺にはようやく分かってきた。真菰はよく分かるらしいが。

 

「…………炭治郎と禰豆子のこと気にかけてあげてね。錆兎」

 

「了解」

 

「ふふっありがとう。錆兎。」

 

▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

幸せが壊れた時はいつだって血の匂いがする。

 

血の匂いは慣れた筈のものだ。

 

血は私の力であり源泉。

 

【人間】の血はもはや私には甘美なものではなかった。

 

腸が煮えくりかえるような怒りと泣き叫びたくなる衝動を私に襲い掛かる。

 

目の前の惨状を前に私は感情の嵐を抑えるのに必死だった。

 

【領域】に反応があった。

 

濃厚な腐臭。百年近く振りの奴の気配。

 

「…………あそこは…」

 

炭焼きの家族がいたはずだ。私の理想を具現化したかのような家族。

 

熱心な働き者の長男を筆頭に見たことがある。仲が良く自然と目に入っていた。羨ましかったんかな。

 

 

駆ける。駆ける。駆ける。

真冬の冷え込む山を駆ける。鬼の膂力に任せた走力にて駆ける。

 

「…………!!?」

 

 

小さな家。そして惨状。食い荒らしたあと。母親らしき死体は我が子を守らんと抱き締める。

凄惨に撒き散らした血液。凄惨に過ぎる惨状に腸が煮えくりかえる。

 

「麟様………」

 

「…鬼舞辻……無惨…!!」

 

濃厚な気配の残滓。奴もしくは濃厚に力を持つ鬼の仕業。

 

 

「こんなものの同類なのか私は……!!」

【鬼喰らい】とはいえ鬼は鬼。自身にも嫌悪感で腸が煮えくりかえる。

 

強い既視感。頭痛がする。鬼になってから無いような痛み。まるで欠けたものが無理矢理訴えてくる。

 

『お姉ちゃん、痛いよぅ…………助けてよぅ……』

 

 

なんだ、この記憶は。分からない。……糞っ!!

 

 

 

「うぅ……………お兄ちゃん…………」

 

微かな声。気付かなかった。足元に幼い弟を抱き締める血だらけの少女。

 

生きてる。

 

 

「……死なせてなるものか……………………【鬼舞辻】」

 

少女を優しく抱き締める。

 

知らない力の鼓動を感じた。死なせたくない。

 

「ど……な……た……?……みんな………死んじゃった………おに……ぃちゃん…………に…」

少女のかほそい声が更に小さくなっていく。

 

 

 

「こうするしかないのよ……ごめんね。……」

 

少女に自身の血を飲ませる。

 

それがどれだけ罪深いことか知りつつも。独善的と糾弾されても目の前の命が失われてしまうことを怖れて。

 

 

いつも私達は間に合わない。拾えなかった命の数を知っているから。

 

「許さなくて良いから。…………せめて…………生きて」

 

少女を抱き締める。

 

 

幸せを壊すのは血の匂いで私もまた幸せを壊してしまうのだろうか?




禰豆子の鬼化について改変。



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鬼滅の刃【竈門炭治郎の物語】
参の壱【最終選別前に】★


竈門炭治郎。それは俺の名前だ。今は狭霧山にいる。

 

鬼になった妹を救うため今日も今日で修行の毎日だ。

 

鬼殺の剣士になるため【育手】である鱗滝左近次さんの指導のもと受けている。

 

 

禰豆子が目覚めなくなって半年が過ぎた。

 

俺は禰豆子を人間に戻すんだ。あの子はみんなのためにも幸せにならなきゃ行けないんだ。

 

 

頑張れ!!俺!!長男なんだから頑張れ!!

 

 

 

「…………麟さん、なにしてんの?」

 

「まこもっちゃぁん!!相変わらず可愛いねぇ!!お嫁に来ない!!?幸せにするよ!!」

 

「それ、蜜璃ちゃんとカナエさんにも言ってたよね?」

 

「嫉妬かい!!?たはーモテる女は辛いなぁ!!」

 

「……………」

 

「落ち着け真菰」

無表情の真菰さんの肩にぽんと手を置く錆兎さん。

 

「………お師匠。日の光は平気なのか?」

 

「わけないじゃん。」

 

鱗滝さんは目の前の赤い女性に声を掛ける。…麟さんは全身の肌の露出を下げ顔も隠している。

 

あと血の傘が自動で彼女に掛かる日光を遮っていた。

 

 

……鬼だという。鬼殺の剣士の鬼。…………そして禰豆子を鬼にした人。

 

そうしなきゃ禰豆子は死んでいたと。感謝はしているけど。

 

 

「ごめんねぇ、青少年諸君。美人剣士の露出が零でぇ」

 

「麟さん麟さん。元々隊服そんなないよ露出」

 

「君はゲスメガネに会わなかったのかい?」

 

「あー…蜜璃ちゃんぇ…私はカナエさんに貰ったマッチと油で燃やしたし。」

 

「…ゲスメガネですか…?」

息絶え絶えの俺は立ち上がり聞く。

 

「隊の縫製係でねぇ。女性の隊員の隊服に情熱を燃やす子でねぇ……如何に露出した服を着て貰うかってやっててね」

 

「……………麟さん、彼に何か作らせた?」

 

「………………てへ」

 

「…………誰に着させるの誰に」

 

「真菰。着てくれないの?」

 

「着ないよ。」

 

 

鱗滝さんに錆兎さん、真菰さんとも親しげに話す彼女からはあのお堂で初めて遭遇した鬼とは違う優しい匂いがした。

 

 

「炭治郎。修行はまだ続くぞ。【柱】の2人が見てくれるのだ。気を引き締めろ。」

 

 

【柱】、…鬼殺隊で一番強い剣士が修行を付けてくれるのだ。頑張れ!!俺!!

 

 

 

 

 

無理でした。

 

 

キツいキツいキツい!長男だから耐えられるけど次男だったら駄目だった!

 

 

まず錆兎さん。基本的には鱗滝さんと似たような感じなんだが凄い!……水のように柔軟な動きで倒されていた。

 

真菰さんとにかく素早い。追いつけない。

いつの間にか背後取られてる。押されて地面と接吻。

 

 

そして麟さん。別格だった。何をして何をされているかも理解出来なかった。

いつの間にか膝をついていた。

 

これが【鬼殺の剣士】

 

「……一応の到達点を見せたよ。出来るよ炭治郎なら。ここまでおいで。私でも分からない鬼を人間に戻す道は険しいよ」

 

「……はいっ!!」

 

そうだ挫けるわけにはいかないから。

 

「………【呼吸】の習得。まずはそれから」

 

「どうしたら…?」

 

「死ぬほど鍛える。やっぱりそれしかないよ」

 

「そうだな。努力をいくらしても足りないからな。」

 

真菰さんに錆兎さんの言葉に気を引き締める。

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

さらに半年が過ぎた。

 

「炭治郎。儂が教える事は此処で終わりだ。」

 

鱗滝さんの言葉に鱗滝さんの方へ向く。

 

「ついてこい。」

 

この半年。長いようで短かった。

 

刹那のような半年が過ぎた。

 

 

それでも禰豆子は未だ目を覚まさない。

麟さんは寝ることで鬼が本来必要とするエネルギーを補給してるんじゃないかという。

 

それでもふとした拍子で死んじゃうんではないか不安だ。

 

 

「此処だ。」

 

森の中に開けた場所があった。

 

中心にはしめ縄を縛った巨大な岩があった。 

 

「この岩を斬ったら【最終選別】にいくことを許可する」

 

ただ一言言うと鱗滝さんは踵を返し片道を戻る。

 

え?

 

「鱗滝さん!!?鱗滝さん!!」 

 

 

 

やるしか無い。

 

 

岩の前に立つ。岩って斬れるものだっけ…?

 

いやあの三人なら斬りそう。

 

【呼吸】する。………………全身に血液を循環させる。

 

集中…!!

 

刀を振るうが虚しく弾かれる。

 

幾十幾百繰り返す。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

糞っ……!!足りない…!!足りないのか……!!

 

 

それから鱗滝さんや麟さん達に教わったこと繰り返す。

 

来た当時からは大分変わったが岩を斬るには至らない。

 

教わったこと日記に書いといてよかった。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

何回目の挑戦かは分からない。

 

刀と共に心まで折れそうだった。

 

集中…!!

 

刀を振るうが虚しく弾かれるのは変わらなかった。

 

 

糞っ!!

 

挫けそう!!負けそう!!頑張れ俺!!

 

 

「頑張れ!!」

 

弱い自分を鼓舞するため岩に頭突きする。

 

 

「うるさい。男が喚くな。」

 

 

え…?

 

 

顔を見上げると岩の上には狐面の少年がいた。

 

黒髪の狐面の少年は煩わしそうに呟く。

 

 

「男が喚くな。………………」

 

 

「誰……?」

 

「富岡義勇。…………さぁ刀を取れ」

 

「え?」

 

少年は木刀を構えて此方の鼻先へ向ける。

 

「お、俺は真剣だ!君は木刀じゃないか!!」

 

「…」

 

問答無用と斬り掛かってくる。

 

 

水の呼吸・全集中。彼の攻撃を防戦一方に受けるしか出来ない。

止まらない連撃。

 

「どうして…!!?」

 

「……いつまでそうしている。岩を斬れ」

 

「斬ろうとしてる!!けど足りない!!」

 

「足りないのはお前の覚悟だ。人を斬る。鬼を斬る。その甘えた気持ちは捨てろ!」

 

「世界はお前に優しくはない!!」

 

 

「岩を斬るための技術は彼等に教わっただろう!?自分のものに昇華しろ!!血肉としろ!!」

 

少年は声を張りあげ叱咤する。

 

 

「来い!!竈門炭治郎!!」

 

そうだ!!挫けるな!!負けるな!!

 

水の呼吸・全集中!

 

 

修行中微かに見えていた。隙の匂い。掴みかけていた感覚が実感する。

 

【隙の糸】がピンと彼に向けて張っていた。

 

刀を振るう。この一瞬防戦一方たった剣戟が俺が上回る。

 

狐面を両断する。

 

彼の表情が見えた。……無表情ながら小さく笑う。

 

君は誰なんだろう。

 

 

次の瞬間。彼は消え…両断された岩の姿があった。




大正こそこそ人物紹介

錆兎…現【水柱】。原作とは違い生存。そのため青年のため炭治郎からさん付け。
麟と鱗滝を尊敬している。

真菰……鬼殺の剣士。よく錆兎と行動し甘露寺蜜璃とは親友。
背や胸回りがあまり成長しなかったのが悩み。
麟から可愛がられているのは煩わしいこともあるが基本嬉しい。


富岡義勇……????


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参の弐【最終選別の戦い・表】

年号が!!年号が変わっいてるぅ!!(令和元年流行語大賞いけるで!!)

手鬼くん好きな鬼トップ10には入ります。


「炭治郎、気を付けていってこい。無事を祈る。」

 

鱗滝さんの言葉に万感の思いを感じる。

 

そうだ。これからが本番なのだ。

 

「私が最終選別の試験会場まで案内しよう。手助けはしない。ゆめゆめ期待するなよ。」

 

俺の頭に止まる一回りでかい赤い三本の足がある鴉はイケボで言ってくる。

 

麟さんの【鎹鴉】らしい。

 

「行ってきます。」

 

鱗滝さんの見送りの元藤の花が狂い咲いているという【最終選別】の試験会場へ単身向かう。鴉がいるが。

 

 

 

【八咫烏】の案内の元藤の花が狂い咲いている山にやってきた。【八咫烏】曰く藤襲山(ふじかさねやま)というらしい。

 

 

「うわ、綺麗だなぁ」

 

狂い咲く藤の花を見上げ暢気な声で言ってしまう。

 

「……鬼は藤の花を嫌う。封というやつだ少年。私の役割は此処までだ。鴉を連れた奴など怪しまれるからな。健闘を祈る。姫の期待裏切るなよ。炭治郎。」

 

「姫?」

 

「麟のことよ。あれは我らにとって姫のようなものよ。我ら【百鬼夜行】のな」

 

そう言い残し赤い鴉は羽ばたく。

 

 

「【百鬼夜行】…」

 

気持ちを切り替え藤の花が咲く道を進む。

 

進んだ先に開けた場所があった。何人もの剣士候補がいた。

 

ピリピリしている。皆緊張しているのだろう。

 

黄色い少年。傷のある少年。ボーとしている髪を横に一つくくりにしている少女などがいた。

 

「皆様方、鬼殺隊最終選別に集まって下さりありがとうございます。」

 

2人の似た黒い少女と白い少女が前に立つ。

 

皆の視線が集中する。

 

 

「最終選別の試験会場となっています藤襲山は麓から中腹にかけて藤の花が年中狂い咲いていております。

山の中には鬼がおります。皆様方には7日間生き抜いていただきます」

 

7日間。基本的に鬼が活動する夜がメインとなるだろう。

 

生き残ってやる。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

駆ける。駆ける。駆ける。

 

足場の悪い山道を駆けるがトラップまみれだった狭霧山に比べればたいしたことの無い。

 

……麟さんの血液の怪物に追い回される山道に比べれば本当たいしたこと無い。思い出して泣きたくなる。

 

 

「獲物だ!!久方ぶりの獲物だ!!」

 

鬼。鬼だ。鬼が伸びきった草むらをかき分け出て来る。

 

飢えた鬼は此方を見てニタァァと笑う。

 

刀に手を掛け抜刀する。

 

やれる!!竈門炭治郎!!俺はやれる男だ!!

 

鬼は膂力に任せ飛び掛かってくる。

 

 

「てめぇ!!先に俺が目を付けたんだどっかいけ!!」

 

別の鬼が割り込んでくる。いきなり2体の鬼だ。やれるだろうか。

 

「さきにとったほうの獲物だ!!久方ぶりの人肉だ!!」

 

2人の鬼は襲い掛かってくる。

 

   水の呼吸・全集中【肆ノ型・打ち潮】

 

見えた2体の【隙の糸】を目指し潮の流れのような動きで切り捨てる。

2体の頸を飛び瓦解する。

 

斬れた。鬼に勝てた。強くなっている。鍛錬は無駄じゃなかった。ちゃんと身に付いている。

 

瓦解した鬼を見て手を合わせた後に感じた強烈な腐臭。

 

なんだ!!?この腐ったような臭いは!!?

 

 

「うわぁぁぁあ!!?なんでこんな大型の異形がいるんだよ!!?こんなの聞いていない!!」

 

悲鳴を含んだ声に振り返ると追われる人とそれを追う大型の異形がいた。

 

全身に幾重に腕を巻き付けた大型の異形。

 

おぞましい。あれも鬼なのか…!!?

 

 

「ギャァァ!!?」

追われていた人は足を捕まれた。幾重の腕は集合し融合する。その腕は伸びその人を捕まえる。

 

怯むな。助けろ助けろ助けろ。俺は無力じゃない!!動け!

 

   水の呼吸・弐ノ型【水車】

 

 

身体を縦に回転させ水車のように腕を切り捨てる。

 

 

   「また来たなぁ…俺の可愛い狐が」

 

ギロリと此方を見下ろす鬼の目。おぞましい。

 

 

  「狐小僧。今は明治何年だ?」

 

「?…今は大正だ」

 

 

  「なにぃ…?…年号が!!年号が変わっているぅ!!!!」

鬼は咆哮する。 

 

  「俺が閉じ込められている間にまた年号が変わってしまったぁ!」

 

  「アアアァ!!ゆるさん!!鱗滝!!鱗滝め!!鱗滝め.!!」

 

鱗滝さん!!?

 

「お前、鱗滝さんを知っているのか!!?」 

 

 

「知っているサァ!!此処に閉じ込めたのは奴だからな!!」

恨みの篭もった声で言ってくる。

 

「忘れもしない四十七年前!!奴が鬼狩りをしていた頃!!江戸の時代!!慶応の頃だった!!」

 

江戸!?鬼狩り!!?

 

 

「嘘だ!!此処には二、三人食った鬼しかいないはずだ!!長くいる鬼なんていないはずだ!!選別で斬られるのと鬼は共食いするから!!」

 

先程追われていた人は叫ぶ。

 

「だが、俺は生きている。この藤の花の牢獄で。五十人は食べたな。そして。狐小僧お前で13人目だ。」

 

「な、なにがだ。」

 

 

「俺が喰らった鱗滝の弟子だよ。奴の弟子は喰らってやると決めてあるんだ。」

愉快そうにクスクス笑う鬼。

 

「特に印象に残っているのは黒髪のガキだな。陰鬱そうなガキだった。素早く強かった。」

 

え?でも、俺は会っている。

 

「目印なんだよ。その狐の面がな。鱗滝が彫った面の木目は俺は覚えている。あいつが付けていた天狗の面と同じほりかた。厄除の面といったか。それを付けていたから俺に皆喰われた。鱗滝が殺したようなもんだ。」

更に愉快そうに哄笑を浮かべる。

 

「これを言ったら黒髪のガキはキレたな。だから八つ裂きにしてやった」

 

自分の中に煮えたぎる何かを感じる。

 

それは紛れもない怒りだった。

 

 

怒りに任せ伸びてきた腕を斬り捨てる。

 

 

 

『…炭治郎、呼吸が乱れている。俺のことは良い』

 

 

捕まえようとする鬼の腕を交わして駆ける。一度でも捕まれば終わる。

 

水の呼吸・全集中!!

 

怒りで視野狭窄に陥っていた俺は横殴りをされ吹き飛ぶ。

 

意識が暗転する。

 

 

    『兄ちゃん!!』

 

 

茂の声に目を覚ます。何秒意識が飛んでいた?

 

ありがとう茂。

痛む身体に鞭を打ち立ち上がる。向かってきた腕を斬り捨てる。

 

くそ、すぐに腕はまた向かってくる。

 

ん?土から変な匂いが…!!?

 

跳躍。高く跳躍する。

 

地面を破り腕が生えてくる。

 

異形の鬼は驚愕の表情をうかべる。

 

だが…空中では次撃は躱せない。再び伸びてきた腕に死の予感を感じる。

 

させるか!!

 

頭突き!!頭の固さは折り紙つきだ!!

 

弾く。

 

そして奴の腕へそのまま飛び乗り駆ける!!

 

「狐小僧!!死ね!!」

 

   水の呼吸・全集中!!

 

 

奴の隙の糸の匂いを感じる。幾重の腕に囲まれた僅かな隙に隠れる奴の頸。

 

   『行け、炭治郎。お前は誰よりも大きく堅い岩を斬った男だ。』

 

 

   【壱ノ型・水面斬り】!!

 

 

水平の横に腕ごと【異形の鬼】の頸を斬る。

 

「オノレ鱗滝ぃ…!!」

 

 

 

奴の頸は飛び地面に鞠のように跳ねる。

 

巨大な腕に囲まれた身体は瓦解する。

 

 

「オノレ!!オノレ!!オノレぇええ!!」

 

頸だけの鬼は咆哮する。

 

「……ぁ………」

 

瓦解する寸前の鬼からは何故か【悲しい】匂いがした。

 

 

差し伸びた鬼の手は何故か握って欲しいような懇願を感じた。

 

握る。

 

「神様この人がまた生まれた時は鬼になりませんように」

 

勝ったよ。義勇。…他の皆も安心していいよ。鱗滝さんがいる狭霧山にかえるんだ。

 

『ありがとう。炭治郎。……錆兎と真菰。……そしてあの人を頼む。………………ああ見えて…………寂しがり屋だから。』

不器用な黒髪の少年の幻影。小さく笑ったあと踵を返し歩き始め消えた。

 

 

そして7日の夜を超える。

 

俺はようやく始まりの位置に立てるのだ。




大正こそこそ没ネタ。

今作所々生き残り逆転などの設定改変予定してますがギリギリまで剣士禰豆子と鬼炭治郎をやろうと悩み調べたら割とあるネタだったため断念。最初の構想通りそこは原作通りにしました。


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参の参【珠世という女性と鬼舞辻無惨】

珠世さんはアニメでもきっと美しいぞ!!(挨拶)


最終選別を超えて俺は【鬼殺の剣士】となった。

 

満身創痍で帰宅すると麟さんがいて優しく抱き締めてくれた。照れくさかったけど。

 

何より…禰豆子が目覚めていた安堵に号泣してしまった。鱗滝さんも禰豆子ごと抱き締めてくれた。

 

 

鬼になった禰豆子は更なる変化があった。顔の目の下に麟さんと同じ痣と髪の毛の毛先も麟さんと同じく血のような真っ赤な【深紅】へと変わっていた。

 

麟さんは禰豆子に謝っていた。

 

禰豆子は幼子のように言葉を話せなくなっていたが麟さんを母親のように思い抱きついておそらく許していた。

 

「う!!」

 

と笑いながら言っていた。感情も乏しくなっていた禰豆子の鬼になってからの初めての笑顔。

 

麟さんは可愛いなぁと抱き締めていた。麟さんにとって禰豆子は娘のようなものと愛でていた。

 

…最後の方は禰豆子も煩わしそうだったけど。

 

 

後日。刀鍛冶の鋼鐵塚さんが刀を届けに来てくれた。

基本的に話を聞いてくれなかった。職人気質な人は偏屈な人が多いとは聞くけど。

 

俺の日輪刀は黒。錆兎さんと真菰さんは青。麟さんは深紅。

黒…?鋼鐵塚さんは俺を【赫杓の子】といい赤になるのを期待したらしい。理不尽にキレられた。

 

麟さんが持つ【神血】と同じくくらいの刀を作るというのが一族の悲願らしい。

 

 

それからは鎹鴉が初任務を知らせに来た。

 

北西の町にて少女が消えるという怪奇。

 

 

沼のように地面に沈む鬼がいた。3人に分裂する16歳の少女を喰らう鬼。鬼にも食の嗜好があるらしい。

 

そういえば麟さんも食べる鬼にも嗜好があるって言ってたなぁ。見た目麗しいのが美味らしい。うーん同列に見えてきたぞぅ。まぁ麟さんは人間食べないし恩人だ。

 

…麟さんや鱗滝さんからきいた始まりの鬼【鬼舞辻無惨】。その名を聞いた所沼の鬼は震え始めた。

 

言えない。ただ言えないと繰り返し聞き出せなかった。

 

鬼を人へ戻す方法。知っているとしたら奴だけと麟さん言っていた。もしくは奴に近しい鬼ならと。

 

 

 

そして俺は次の任務に来ていた。

 

浅草。都会だ。山暮らしの俺にはキラキラしていた。

 

人が沢山いる。

 

「夜なのに。夜なのに。こんなに明るい…都会って都会って」

 

禰豆子を連れて人混みから逃げるように歩く。

 

 

「あれ、炭治郎様。任務ですか」

 

「あれ?お雪さん…?」

 

ふと知り合いの顔を見つけ安堵する。

 

麟さんのお付きの1人。年の頃は見た目は俺より少し上の少女。お雪さんだった。

 

「あれ、お一人でいるなんて珍しいですね」

 

「麟様がとある方とお会いになっておられますので周囲を警戒しておりますの。他の者もいますよ。」

 

「へぇ麟さん来てるんだ。」

 

「炭治郎様お腹空いてます?」

 

「へ?あ、はい」

 

「うどん食べに行きましょう。」

ニコリと笑うお雪さん。ドギマギする。

 

「むー」

 

「な、なんだよ禰豆子。」

 

 

お雪さんに連れられて屋台までくる。

 

「お月見で」「山かけうどんでお願いします」

 

お雪さんはお月見。俺は山かけうどんで注文。

 

「……食べるんですね」

 

「麟様の影響で。あの方真似事で美食家ごっこするのがお好きで」

 

察した。本来栄養は【鬼喰らい】で間に合い人間の食事から得られる栄養など彼女からすれば微々なもの。

彼女の【人間好き】を象徴する彼女の慣習。 

 

「…サボってて良いんですか?」

 

「私に炭治郎様の話を聞いて麟様に話す仕事が御座います故」

ニコリと笑う。ものは言い様だ。

 

まぁ他のお付きの人いるし大丈夫かな。 

 

 

……!!?

 

 

臭い。屍臭。

 

 

探していた。あの惨劇の麟さん以外の残滓。

 

 

反射的に駆けていた。お雪さんの言葉も聞かずに。

 

駆けていた。匂いの元を辿る。

 

悪逆で卑劣で傲慢な全ての邪悪を詰め込んだかのような匂いを辿り人混みを掻き分けて一人のスーツの男の肩を掴む。此奴が【鬼舞辻無惨】!!

 

「何か…ようですか?随分慌てていらっしゃるようですが……」

 

此奴!!此奴!!人間の振りをして暮らしてるんだ!!

 

「おとうさんだぁれ?」

 

「お知り合い?」

 

人間だ。女の子と女の人は人間だ。人間の匂いだ。知らないのか鬼で人を喰らうって。

 

「いいや困った事に知らない子ですね。人違いではないでしょうか。」

 

「まぁそうなの?」

 

 

「その子は私の使いだよ。久しぶりだね。…【鬼舞辻】」

 

奴が通行人に振るおうとした手刀を掴む……麟さん。

 

 

「………おや久しぶりですね【血霞】」

 

「すいません。奥さん。仕事の話でね。ご主人借りますよ」

男装をしている麟さんは薄く笑う。

 

「あらそうなの?主人がお世話になってます。……あちらで待ってます」

 

「ええ、すいません麗さん」

 

会釈して離れていく麗さんと呼ばれた女性。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

「…………………ようやく尻尾掴んだよ【鬼舞辻無惨】」

 

「………………この人混みの中やり合うのかな?人に与する君だ。人死は望むまい。」

 

「…………【青い彼岸花】見つかったかしらん?」

 

「見つかったならばこんな煩わしい事はせずにすむんだがな」

 

軽く嘆息し振り返る。

 

「……私の【百鬼夜行】が取り囲んでいるよ」

 

 

「………だからどうかしたかね?」

 

 

ギャアアアアア!!?

 

悲鳴。混乱。人混みの所々に鬼化した人々が人を襲い掛かる。

 

いつの間に。ち。

 

 

「君に興味はない。…邪魔ならばいずれ殺してやろう。今は目につきすぎるから」

 

殺意。気配を消して【鬼舞辻無惨】の近くに控えていた。

微かに見えた眼光には【上弦】【参】と刻まれていた。

 

 

悲鳴と混乱の中雑踏の中に消えていく。この人混みの中【上弦】との戦闘は人死には避けられない。免れない。

 

「何をしているか!!きさまら!!」

 

「この人達は違うんだ!!違うんだ!!」

 

騒ぎを駆けつけ鎮圧しようとする警察隊。混乱を収めようとし鬼になった者を庇う炭治郎。

 

警察隊。クソ鬼殺隊は非公式だから法的権力薄いんだよなぁ。面倒。

 

 

   血鬼術【惑血・視覚夢幻の香】

 

 

「貴方は鬼になってしまった者を【人】と呼んでくれるのですね。お助け致しましょう。麟さんのお知り合いのようですし。…麟さん鬼になってしまった方々の保護お願い出来ますか?」

 

美しい女性が少年を連れて現れる。この匂いは…幻覚?

 

「……珠世さんいきなり席外してごめんね。…わかったよ。皆!!」

 

 

「了解」「合点」「あいよ!!」

 

【鴉天狗】【火車】【犬神】という男性のお付きの人が現れる。鎮圧保護を行う。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

「…………狛治さん………?」

 

現場に駆けつけたお雪は懐かしい匂いを感じた。

ポロポロと涙が流れる。懐かしい匂いがしただけなのに。

 

貴方はどこにいますか?



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参の肆【友人】

珠世さんという女性は麟さんと同じく【鬼舞辻】の呪いを外した鬼だという。 

 

医者だという彼女は鬼舞辻と敵対する鬼であり麟さんと利害が一致する古い友人でもあった。

 

彼女もまた愈史郎という少年を鬼としていた。

 

彼女ならば鬼を人に戻す方法を知っているのではないかと期待する。

 

けれど彼女はまだその域には至っていないという。

 

そうだよ。なら麟さんは人間になっていたはずだ。

 

逃れ者と鬼舞辻無惨に狙われている彼女は鬼を人に戻す方法を模索している。

 

麟さんは彼女の活動し全面的に協力していたという。

 

「それなりに鬼の血を提供してるんだけどねぇ」

 

「麟さん【鬼喰らい】の血はもはや別のものへ昇華されているので参考にはしにくいのです」

 

「……一応さらに、調べて欲しくて今日の来たんだ。まぁ…まさか【鬼舞辻】に遭遇するとは思わなかったけれど」

 

「……改めて調べるとは?」

 

「…【新月】が動き始めたから。」

 

……【新月】……?

 

「あ、炭治郎は気にしなくて良いからね~。」

 

「分かりました。それで?サンプルはありますか?」

 

「あるよー。」

 

小さい血の蜘蛛が現れ吐き出す。注射器のような機能がついた小さな刃。

 

「………預かりました。…………愈士郎。」

 

「分かりました」と側にいた少年が預かる。

 

「ヤッホー愈史郎」

 

「ふん」

麟さんの言葉にそっぽ向く少年。

 

「ごめんねぇ愈史郎。珠世さんとの二人っきり邪魔しちゃってぇ」

麟さんは無表情ながらからかう。流石に意地の悪い笑みを内心浮かべているだろうと察する。

 

愈史郎さんは顔を真っ赤にした。あ……鈍い俺でも察した。

 

麟さんは楽しそうにしている。無表情だけど。

 

珠世さんとも軽い世間話をしていた。

 

鬼舞辻無惨の呪いを外した鬼同士。通じる所もあるのだろうか?

 

それから俺は珠世さんから鬼を人に戻す為の治療法確立の為鬼の血の採取を頼まれた。

 

麟さんも行っていたが中々成果を得られず鬼舞辻にちかい鬼に遭遇出来なかった。麟さん自身やることもあるらしく引き継ぐ形になる。

 

それに禰豆子も極めて特殊な状態らしい。二年間眠り続けた際体が変化して血肉を必要とせず凶暴化もしない。その奇跡は今後のかぎになるかもしれないと言っていた。

 

「………まぁ危険は承知でお願いします。炭治郎さん」

 

それ以外に道がなければやらないと行けないし。

 

「禰豆子以外の人達も助かりますよね。」

 

「…炭治郎も強くならないとね。まず【下弦】を倒せるようにね」

 

【下弦】…?

 

 

その後鬼舞辻の配下に襲撃された。

 

鞠をつく少女の鬼と矢印を操る鬼。朱紗丸と矢琶羽と呼び合っていた鬼だった。

 

愈史郎さんの【目隠しの術】で隠されたここを突き止められてしまった。

 

麟さんと俺と禰豆子と人数が増えたため精度が落ちたとのことだ。狙いは俺と逃れ者の珠世さん。俺…?

 

「……炭治郎。私は手を出さないよ。彼女らは守るけど。あの二人を禰豆ちゃんと二人で撃退しなさい。」

 

「常に呼吸を維持するよう意識して。…あの程度の鬼倒せなきゃ。」

 

 

「あの赤い鬼め。【十二鬼月】たる儂らを馬鹿にしおって。逃れ者と同じくあの方に背きおって」

 

「まぁ捨て置け。手をださんとゆうんじゃ。まずは耳飾りの鬼狩りをやるぞ」

 

【十二鬼月】鬼舞辻直属の配下。

 

俺と禰豆子で撃退する。

 

鞠の鬼は禰豆子。矢印を操る鬼は俺がやる。

 

禰豆子は異能を持たない鬼。沼鬼の戦闘の時に分かったけど禰豆子もやっぱり鬼で麟さんの影響か守らなきゃいけない存在ではない。

 

結果は辛勝。

 

辛くも矢印の鬼は撃破に至る。麟さんの助言。常に全集中を意識して戦闘を行ってみたが集中力と体力が足りないと感じた。  

 

鞠の鬼は禰豆子が追い詰めるも逆上。鬼舞辻の名前を珠世さんの自白剤のような香りの血鬼術で【呪い】が発動し死に至る。

 

この二人は十二鬼月ではなかったという。

十二鬼月は瞳に数字が刻まれている。

 

十二鬼月と踊らされていたのだろうか?おの鬼は。

 

鬼舞辻…無惨。

 

 

珠世さんたちはこの場所を離れるという。無事を祈る。

彼女らと協力していずれ禰豆子を人間に。

 

麟さんとも別れ次の任務へ行く。

 

 

 

 

出会いがあった。

最悪の出会い方じゃなかったかなと思う。

 

我妻善逸。……そして彼の兄弟子だという獪岳という青年。

 

我妻善逸は黄色い少年。最終選別で見たことがある少年。獪岳という兄弟子は彼を罵倒する。

 

鈍間の間抜けと。壱の型しか使えない雑魚がよく最終選別を生き残れたなと聞くに堪えない罵倒だった。黄色い少年はただただ俯き耐えていた。

 

「………………」

 

思わず間に入ってしまった。獪岳という青年は舌打ち。

 

「酷い言い草じゃないですか!!?」

 

俺は激昂していた。

 

善逸という少年は此方を見ていた。驚いた表情をする。

 

「関係ねぇ奴が話に割り込んでじゃねぇよ。この雑魚はな壱の型しか使えない雷の呼吸の使い手だ。そんな無様な奴は早めに死んどいた方がこれからのためだよ。」

 

「ああ、こういう糞はいずれすぐに死ぬだろうよ。言い返す事すら出来ねぇじゃねえか」

嘲笑。この人からは不満の匂いがする。

不平不満を常に抱えているような匂い。

 

「…任務の邪魔するんじゃねぇぞ。善逸。ジジィの後継は俺だ。お前は野垂れ死ね。」

 

思わず殴り掛かる。この二人の確執は知らない。

 

けれどあんまりだった。

 

殴り掛かろうとしたが反撃に合う。

 

「がはっ!!」

 

「てめぇみたいな偽善野郎も反吐が出る。…任務の邪魔だ。死ねよ。」

 

昏倒。意識が霧散した。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

「………ごめん」

 

覚醒してからは黄色い少年からは謝罪があった。

 

申し訳なさそうにする。

 

「最終選別にいただろう?俺は我妻善逸。…巻き込んでごめん」

 

「竈門炭治郎だ。……君の兄弟子のようだけど言われっぱなしでよかったのか」

 

「…悔しいさ。けれど……事実なんだ」

 

自嘲。自分自身に自信がないのか。

 

「君は……最終選別を生き残ったじゃないか」

 

「たまたまだよ。最初に鬼に遭遇したときに気絶した。目覚めた時は7日目で誰かに助けられたんだ。」

 

「…炭治郎。…俺は情けない男さ。」

 

暗い笑みだった。

 



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参の伍【那田蜘蛛山へ】

【蝶屋敷】

 

鬼殺隊の医療機関を併設する胡蝶カナエの屋敷。

 

最近運び込まれる剣士が多い。下位の剣士に限るが重傷の者も多い。

 

「アオイ~。宜しくねぇ」

 

「カナエさん!!?」

 

忙しさに目を回している。テキパキと手際の良い彼女すら目を回す忙しさだ。

 

医師の資格を持つの胡蝶カナエだけ。持ち場を離れるのは痛いが本業は【柱】だ。

 

「ごめんねぇ。任務だって。…いつも通りお願いね?」

 

「う、はい分かりました不肖神崎アオイ頑張ります!」

 

「ふふ良い子ね。アオイは頼りになるわごめんなさいね。帰ってきたら皆で甘いものでも作りましょ。」

 

ニコニコと励ますようにアオイの頬を撫でた後蝶屋敷を出る。

 

曇天。全く気分が滅入る。ダメダメ元気出してお姉さんしなきゃ!えいえいおー!

 

「……合同任務のようだ」

 

傷のついた狐面を付けた宍色の髪の毛の青年が立っていた。

 

「真菰ちゃんは?」

 

「別の任務だ。いつも一緒というわけではない」

 

「……何も言ってないじゃない」

くすくす笑う。

 

「………継子を連れて行くのか?」

 

いつの間にか側にいたカナヲに目を向ける錆兎。

 

「あら、何事も経験よ?…この子、無傷で最終選別クリアしたくらい優秀なのよ!錆兎くんもそろそろ継子見つけなきゃ」

 

「…俺はまだ新参の【柱】だからまだ自己研鑽でいっぱいいっぱいだよ」

 

「謙遜しちゃって~。水の呼吸は毎世代【柱】にいる呼吸だしウカウカ出来ないゾ」

 

「肝に銘じるよ。……今世代は継子を持っているのは貴女と岩柱くらいじゃないか?」

 

「なのよ~。不死川くんと伊黒くんは厳しいし。時透くんも厳しいのよねぇ。……宇髄さんも結局厳しいわぁ」

結局厳しいのかと嘆息する。

 

「煉獄さんと甘露寺さんは?」

 

「蜜璃ちゃんは伊黒くんがいる限り無理じゃないかしら?女の子の継子なら別だけど。……煉獄さんは探しているみたい。よもや!!よもやだ!!って言いながら」

 

我ながら煉獄さんの物真似は会心の出来だ。錆兎くんは鉄面皮。お姉さんは悲しいなぁ。 

 

「…麟さんは元気?」

 

「相変わらずだよ。半月前に会ったけどお変わりはなかった。」

 

道を肩を並べて進む。カナヲは黙々とついてくる。

 

「……麟さんが鬼って事は知っていたの?」

 

「…ああ。鱗滝さんに拾われてから彼女にも世話になっていたから。」

 

「…………そう。……【柱】の大多数は反【麟さん】よ?」

 

「…俺と甘露寺さんくらいじゃないか?あの人派は」

 

「あら、私も好きよ?彼女のこと。」

 

「…………妹さんと宵鷺のことは良いのか?」

 

「…………良くないよ。……でも彼女は関係ないもの。彼女からは本当に人間と仲良くなりたい気持ちは見えるもの。………………皆仲良くなればいいのに。」

 

「………そう、だな」

 

難しいことは知っている。そうあればと望む気持ちと許さないという気持ちは拮抗していずれ崩壊することも。

 

「やだー暗くなっちゃった。今回の任務なんだっけ?」

 

「那田蜘蛛山。……そこを根城にしている鬼がいる。任務に行った剣士達が帰還しない。お館様より直々に承ってきた。【十二鬼月】がいるやもしれぬと」

 

 

「だから【柱】二名の合同任務なのね。頑張りましょうえいえいおー!!」

 

我ながら空元気だ。全部曇天が悪い。

 

…………あの二人を思い出す。

 

胡蝶しのぶと宵鷺逢魔を。最愛の妹と鬼に姉妹を殺された少年を。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

俺、炭治郎は世話になった藤の紋の家から出て任務への道中にいる。

 

黄色い少年・我妻善逸と猪の毛皮のかぶり物をした野生児・嘴平伊之助の前回の鼓の鬼との戦いを経て仲間になった。

 

前向きに後ろ向きな善逸は一人での任務は怖いとついてくるし伊之助は何かと力比べを強要してくる。

 

前回の骨折が癒えた頃三人同時に指令がきた。

 

那田蜘蛛山。そこへ一刻も早く向かうようにと。

 

「待ってくれ!!待ってくれないか!!」

 

善逸がやけに凛々しい顔をしていう。

 

膝を抱え道に座り込みながら。

 

「怖いんだ!!目的地が近づいてとても怖い!!」

 

「何座ってんだこいつ気持ち悪い奴だな」

 

「お前に言われたくねぇよ猪頭!!気持ち悪くない普通だ!!俺は普通でお前らが異常だ!!」

 

えぇ…。

 

ん…?

 

「誰か倒れている!?隊服を着ている。鬼殺隊員だ!!大丈夫か!!?何があった?」

 

 

倒れている隊員に駆け寄るが勢いよく森へ引っ張られるように飛ばされる。

 

繋がっていた(・・・・・・)俺にも…助けてくれぇ!!」

 

隊員は森に飲み込まれるように消えていく。

不穏なまでの静寂。緊張感が走る。恐怖心が生まれる。それを飲み込むように口を開く。

 

「俺は行く。」

 

「俺が先に行く!!お前はガクガク震えながらうしろについてきな!!」

 

 

「腹が減るぜ!!」

 

そんな恐怖心をものともせず伊之助は前へ出る。

 

「伊之助…」

 

「腕がなるだろぅ…」プルプル小さく震えている善逸が突っ込む。

 

いざ那田蜘蛛山へ。



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参の陸【胡蝶カナエの憤慨】

那田蜘蛛山。そこは腐臭が漂う鬼達の餌場と化していた。蜘蛛の糸の繭に捕らわれた死体。

 

基本鬼は群れない。だがそれは下等の知恵の無い鬼の話。

 

鬼の中にも序列は存在する。力ある鬼の前に力の無い鬼はひれ伏し慈悲を乞わねばならない。

 

弱肉強食はこの世の摂理だ。こうして鬼達はこう効率的な餌場を確保する。生き残る為に。強くなるために。

 

 

全く以て反吐が出るわ。お姉ちゃんは憤慨している。

 

全て仲良くなれば良いとは思うけど。争いのない世界なんて小娘の戯言に過ぎないと斬り捨てられるように。

 

こういった場面はいつも私に現実を見せつけてくる。

 

鬼とは決して仲良くなどなれないと。

 

私の甘さが妹と妹と恋仲であった少年を失ってしまったと責め立ててくるようだと。

 

私はあれから毎回思い知らされる。

 

胡蝶カナエは元来底抜けに明るくのんびりとした性格だったと思う。

 

今はそれを取り繕うだけの人形だ。かつての胡蝶カナエを模倣する胡蝶カナエの抜け殻。

 

しのぶと逢魔くんを失っているのは誰のせい?

 

幸せそうな二人を眺めているのが私の幸せだった。

 

姉さんも早く相手見つけないとという言葉にはカチンときたけど。

 

それでも私は幸せだったんだ。それが私の居場所で私が居場所になれて幸せだった。

 

全てを投げ捨て忘れたいけれどまだ私にはアオイやカナヲもいる。

 

…泣いてるだけではいられない。私は…どうしたいんだろうか?

 

………仇を討ちたいのかな?分からないよ…しのぶ…逢魔くん…。

 

 

「胡蝶?」

 

錆兎くんの言葉に我に返る。

 

「あ、ごめんね少しぼーっとしてた」

 

あははーと誤魔化すように笑みを浮かべる。

 

「敵地だ気を抜くなよ?」

 

「あはは、そうだよねごめんね。…許せないねこの惨状」

 

「そうだな」

 

無惨にも転がる隊員達の死体。糸に繋がれ人形のように無理に操られていたのか有らぬ方向にまげられた四肢に首が凄惨さを物語る。

 

「ぁ……胡蝶…様…?」

 

息のある女性隊員が此方をかほそい息をし向いてくる。

既に死に体。余命は幾ばくも無い。医師で有る私には余計に分かってしまった。

 

見覚えがあった。…………何年か前の最終選別で剣士となり蝶屋敷より見送った子だ。

 

剣よりお裁縫やお料理が得意な子だった。

 

それでも慕っていた兄や可愛がっていた弟を鬼に殺されて鬼を倒したいと言っていた子だ。

 

長い髪の毛とくりっとした目が可愛い子だった。

 

その長い髪の毛は無惨にも抜け落ち可愛い目は片方潰れていた。

 

「あぁ…胡蝶様…お久しぶりです………最期にお会いできて……よかった……ごめんなさい……胡蝶様の言い付け守れませんでした……」

 

手が震える。

 

「………お兄ちゃんのとこいけますでしょうか………」

 

ええ、いけるわ。

 

「ありがとうございます……まだ…あの…鬼と戦っている子がいます……木箱を背負った子と黄色い子と猪の皮を被った子が………お願い…します……」

 

息を引き取る少女。

 

「胡蝶……」

 

「ごめんね。……もう少し早ければ……いつも私は遅いね……」

息を引き取った少女の頬を撫でる。

 

「行こ。錆兎くん」

 

私は立ち上がる。このどうしようもないほどの激情は。

 

【憤慨】という名前なんだろうと思うから。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

那田蜘蛛山の死闘。

 

 

我妻善逸は人間を人面蜘蛛に変質させてしまう人面蜘蛛の鬼を撃破し嘴平伊之助は蜘蛛顔の巨漢の鬼と戦闘していた。

 

 

「脱皮した……!!?」

 

木の上に掴まっていた巨漢の蜘蛛顔の鬼は脱皮した。

 

さらに大きく力強く膨張する。

 

「でけぇ…!!」

 

一回り以上大きくなった鬼は伊之助の倍以上の体格を有していた。

 

 

「やべえ…俺死んだ…?」

 

伊之助は走馬灯を見る。誰かの顔を思い出す。

 

 

負けねぇ!絶対負けねぇ!

 

「俺は鬼殺隊の嘴平伊之助だ!!かかってきやがれ!!ゴミクソが!!」

 

 

▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

「禰豆子…?」

花札の耳飾りの剣士は呆然と呟く。

 

 

 

 

白い少年の鬼。十二鬼月【下弦の伍】累こと僕に苦戦を強いられていた剣士とその妹。

 

花札の耳飾りの剣士の刀は根元から折れ剣士自身の心も折れ掛かっていた。妹も累の糸に縛られ手も足も出なかった。

 

「僕の家族の…邪魔を…させて…なるものか…!!」

 

鬼気迫る怒りのままの攻撃を繰り返す累。

 

累は家族に拘っていた。自身の力で数多の鬼を自身に似せ役割を与えることに固執していた。

 

理由は忘れた。忘れてしまった。

 

目の前にいる兄妹の真の絆に嫉妬した。

 

あの白い女のせいでさらに【在り方】が揺らぐ。

 

無惨様に報わなければと。だが何故というしこりを残したまま激昂する。この兄妹は殺す。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

全集中・水の呼吸・拾ノ型【生生流転】

 

怒濤の激流のような連撃を放つ。一撃目よりも二撃目のがつよくさらに三撃目四撃のが強い連続技だ。

 

白い少年の鬼の糸を連続して断ち切るように折れた刀で放つ。

 

「!!?」

 

妹の縛る糸の束縛を断ち切る。その糸から解放され落下の勢いのまま禰豆子はバク転する。獣のような俊敏さで即座に構え戦闘態勢。

 

唸る。瞳が真っ赤に爛漫に輝く禰豆子。

 

 

怒り。単純に怒り。兄を傷付けられた怒り。

その怒りが知らない力を紡ぐ。

 

簡易領域展開【爆血陣】

 

 

禰豆子の足元に赤黒い陣が展開する。

 

近付く糸を焼き切れる。禰豆子達に届く前にバラバラと焼き切れる。

 

「がぁ!!」

 

禰豆子は咆哮する。累の糸を残らず焼き切る。

 

「禰豆子…?」

 

妹の様子がおかしい。

 

禰豆子は異能を持っていなかったハズだ。目も真っ赤ではなかったハズだ。

 

これは麟さんの影響なのだろうか?

 

禰豆子の足元からは燃える臭いと血の臭いがする。

 

「………【血鬼術】かい?…あの白い女と似たような雰囲気だ。ひどく不快だよ。……眷属にしてやらない。…殺してあげるよ」

 

ひどく不快そうに眉をひそめながら言い放つ。

 

 

「糸の強度がこれ限界だとおもうかい?」

 

   【血鬼術・刻糸牢】

 

強靱な糸が刻む牢獄となって俺達を囲む。

 

 

「お前、もう良いよ。妹共々死ぬが良い。」

 

駄目だ。生生流転は止まってしまった。あの連続技以上の威力は折れた刀では出せない。

 

強靱な鋼のような糸は禰豆子の燃やす異能でも焼き切れないようだ。

 

くそ!!負けるわけにはいかないのに!!

 

死…。

 

 

走馬灯。それを見る理由は一説によるとその死を回避する手段を探しているんじゃないかと言われている。

 

 

 

『炭治郎。呼吸だ息を整えてヒノカミさまになりきるんだ。』

 

痩せ細る父の顔がよぎる。父さん。

 

 

    【ヒノカミ神楽・円舞】

 

燃えるような一太刀は糸を切り払う。生きているような動く糸をまばたきする間もなく新しい糸が張られていた。

もし今一旦引いたとしても水の呼吸からヒノカミ神楽に無理矢理切り替えた反動で動けなくなる。今やらないと!!禰豆子を守るん、だ!!

 

 

見えた!!隙の糸!!!!今まで見えなかったのが!!腕は頸までなら届く!!

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

『禰豆子……』

 

優しく響く母の声。懐かしく愛しく悲しい声。退行した思考の中でまどろみに落ちていた。

 

『禰豆子……』

 

簡易領域展開の反動か眠い。怒りすら霞む強烈な眠気。

 

血肉を必要としない禰豆子は睡眠は重要だ。

 

簡易領域展開はそれ程消耗する。

 

『今の禰豆子なら出来るよ…麟さんが下さった力……起きて』

 

 

『………お兄ちゃんまで死んじゃうわよ……』

 

母の泣きながらの訴えは強制的に覚醒をもたらす。

 

兄を失うわけには…………いかない。

 

 

【血鬼術・爆血】

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

禰豆子の燃やす異能は張り巡らせられていた糸を燃やしてくれた。

 

 

【累】という白い鬼の頸を目掛け俺達を刀で振りかぶる。全身全霊残った力で振りかぶる。

 

 

兄妹の絆は、絶てない。断たしてなるものか。

 

 

全身全霊込めた力は白い鬼の頸へ食いこむ。だが鋼より硬い鋼糸よりさらに硬い少年の頸の硬さがソレをはばむ。

 

くそ!!!!

 

拮抗。振りかぶる力とはばむ硬さは拮抗する。

白い鬼は憤怒の表情を浮かべる。

 

 

「巫山戯るな!!僕は此処で!!死ぬわけにはいかないんだよ!!あの白い女にあの方を冒涜されたまま!!」

 

白い女…?

 

鬼気迫る白い少年の表情に臆せず此方も切羽詰まっている。

 

 

力が足りない。

 

 

刀が爆ぜた。微かな起爆は勢いをさらに付けさせる。

 

禰豆子の異能。爆ぜた血は更なる勢いを与えてくれた。

 

 

「俺と禰豆子の絆は、誰にも引き裂けない!!」

 

 

白い少年の頸を刎ねた。



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参の㯃【錆兎の迷い。そして柱合会議へ】

半月前。血霞邸訪問の帰り道。鱗滝さんともうひとりの育て親同然の麟さんに定期的に顔を出している。

まぁ【柱】となってからは忙しく回数はめっきり減っていた。一週間に一度から半月ごとに。それから一ヶ月毎にと減っていた。

 

彼女は寂しそうな顔(真菰曰く)しているけれど訪問の度歓迎してくれていた。彼女は鬼という立場上隊の中ではかなり特殊で特別な立ち位置だ。

 

受け入れているものは少ない。

不死川を筆頭とする鬼嫌い。悲鳴嶼さんや伊黒辺りは敵視しており中立は煉獄や時透や宇髄は思うところはあるだろうがお館様の意向には背かないようだ。

友好的なのは甘露寺と表面的には胡蝶だ。

そして親同然に思っている俺と真菰は絶対的に信用している。竈門兄妹も同様だと思う。

 

彼女は基本的には隊には接触して来ない。柱合会議も彼女が議題なこと以外俺から伝えるようにしていた。

俺が柱になる前はどうしてたかは分からないけれど。

 

不死川がいる以上適切だと思う。奴の戦闘能力は剣士としては信用し出来るが鬼嫌いは異常ではあった。

 

鬼殺隊の面々は鬼を憎む理由は少なからずあるだろう。

家族や身内などを鬼に殺されて鬼殺隊に入るなどよくある話だ。

 

 

……親同然の麟さんを獣同然の鬼と同列にするのはやはり面白くない。

あの人は人間より人間らしい鬼だ。

 

優しくて理知的で美しかった。

 

いやいやいやなにを考えてるんだ俺は。麟さんだぞ。親同然だぞ。

 

 

「んで錆兎はいつ麟さんに告白するの?」

 

「……………は?」

 

隣を歩く真菰は訳分からない事を口にする。

 

 

「だからいつするの?」

 

俺は鳩が豆鉄砲打たれたような顔をしている筈だ。何を言っているんだ此奴は。

 

「…………何を言っているんだ真菰。面白くない冗談だ」

 

「うん冗談じゃないもん」

 

「尚更だ。………あの人は親同然だ。鱗滝さん同様育ての親同然だ。……………あの人にとって子供か良くて弟だ」

 

「…ふーん。否定はしないんだ?」

 

「……あ、いや………違うのだぞ?真菰。お前は勘違いしている。」

 

「珍しく饒舌。これはみつりちゃんとの話の種だね」

 

「…やめろ。いやまじで」

 

 

この感情は恋慕というものかどうか判断する材料は今は持たなかった。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

しくじったしくじった。私だけは今までしくじった事がなかったのに。この家族ごっこを。

 

私は森の中を駆けていた。

 

家族は皆寄せ集め。血のつながりなんかなく鬼狩り怖くて仲間が欲しかった。

 

能力は皆累のものを分け与えられていた。累はあの方のお気に入りだから許されていた。

 

最初に顔を変えなければならない。母親役は子供の鬼だった。だからか母親役に徹するのも下手くそだった。

 

顔や躰の変形は苦手で毎日叱責されていた。

 

私は私さえ良ければよかった。私はアイツらとは違う。それなのにしくじった。

 

 

…追われていた。逃げた先一匹の人間を捕まえた時に遭遇した鬼狩り。今まで来た雑魚の鬼狩りとは違う女の鬼狩り。

 

蝶の髪飾りを左右に付けた柔和な女だったが怖気が走った。

 

ニコニコと笑っては居たが……裏では笑って無いことが分かった。

 

「逃げるなんて酷いなぁ。白いお嬢さん?」

 

姉という役割を与えられた私は役割を忘れただ悍ましかった。

 

「仲良くしたいだけよ?ね?」

 

 

「仲良く…?」

 

 

「そう、仲良く。そうすれば世界は平和だし。失うなものなんてなくなると想うのよ?お姉さんは」

ただただ優しく微笑む。まるで蛇に睨まれた蛙の子は蛙心地。

 

「……仕方なく仕方なくなのよ。弱い鬼は強い鬼に従わなくては生きては行けない。」

 

どうしようもない言い訳のような独白。聖母のような微笑みでその独白を聞く鬼狩り。

 

 

「お嬢さんは何人食べたのかしら?」

 

 

「5人。…命令されて仕方なくよ」

 

「お嬢さんの力は溶解の力を有した繭。私は西から来たの。山の西側にに14の繭があったわ。…ふふっお姉さんは嘘は良くないと思うわ。80人は食べているでしょう?」

 

「…嘘じゃないわ」

 

 

「私は怒っているわけじゃないのよー?正確な数を確認しているだけだよ?」

ニコニコと笑う鬼狩り。

 

「確認してどうするのよ…」

 

「貴女が殺しただけ罰を受ければ貴女は罪は許されるの。そうしたら仲良く出来る。大丈夫!!お姉さんがいるから一緒に頑張りましょう!お嬢さんは鬼だから大丈夫よ」

 

「何するのよ…」

 

「ちょっとした拷問。……貴女が……あの子にした同じような事よ」

 

 

笑顔が消える。おぞましいだけの殺意。笑顔が綺麗な人から笑顔が消えるだけでこんなにも震える。

 

違う。この鬼狩りは最初から怒っていた(・・・・・)

 

   花の呼吸・弐ノ型【御影梅】

 

 

いつの間にか頸が刎ねられていた。

 

「………………お休み。あの子の苦しみはそんなものじゃ無いけど。私は苦しませる趣味は無いから」

 

無表情で此方を一瞥する事も無く。刀を納める。

 

胡蝶カナエの心中はただただ虚しかった。かつての教え子の無念を晴らしても何も払拭されなかった。

 

「師範。周りの鬼倒してきました。」

カナヲがひょっこり現れる。

 

「お姉ちゃんって呼んでって言ってるのに~。カナヲは優秀ねぇ。ふふふ」

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

血鬼術【殺目籠】

 

籠状の糸が力尽き伏せる竈門炭治郎を包み込む。

 

下弦ノ伍【累】は竈門炭治郎に頸を落とされる直前。自身の頸を切り落としていた。

 

鬼を傷付けるは陽光と陽光と同じような力を持つ特別な鋼で作られる【日輪刀】のみが致命傷たらしめる。

 

「…勝ったと、思った?残念自分で切り落としたのさ。」

 

【ヒノカミ神楽】で技を何故出せたかは分からない。しかし呼吸を乱発したせいか耳鳴りが酷く体中に激痛が走り視界が狭まる。

 

白い少年は頸を刎ねられたまま立ち上がる。

 

「可哀想に哀れな妄想して幸せだった?もういいお前も妹も殺してやる。こんなに腹立ったのも久しぶりだよ」

 

立て!!早く立て!!呼吸を整えろ!

 

 

「お前の妹の血鬼術は酷く不快だ。何故お前は燃えていない?僕と僕の糸だけだよね?イライラさせてくれてありがとう。」

 

「お前達を未練無く刻めるよ」

 

籠状の糸が狭まり収束していく。バラバラに刻まれた野菜のように、なってしまう。

 

 

が、ならなかった。

 

 

音もなく籠状の糸は切り刻まれる。

 

 

「俺が来るまでよく堪えた。後は任せろ」

 

宍色の髪をした狐面の青年。

 

 

兄弟子・【水柱】錆兎だった。

 

「次から次に!!僕の邪魔をするくず共め!!」

 

 

    血鬼術【刻糸輪転】

 

 

糸が網目状に広範囲に広がっていく。全て目の前の青年を切り刻むために。

 

 

 

水の呼吸・全集中拾壱ノ型【凪】

 

 

さらに音もなく錆兎はその名前の通りにゆったりとした動きで迫ってきた糸を斬り捨てさらに間合いを詰め累の頸を刎ねる。

 

 

鱗滝さんの技は拾まで。拾壱の型は錆兎と義勇が生み出したふたりだけの技。凪とは無風の海のこと。海水は揺れず鏡のよう。

 

錆兎の間合いに入った術は全て凪ぐ。無になる。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

この白い少年はただ寂しかっただけ。父母を探していただけの鬼。この家族ごっこは失った絆を埋めるためのもの。

失った記憶はそれを歪ませていた。分からなくなっていたのだろう。

 

他の柱は多分だからどうしたと唾棄するだろう。

 

だからと奪ってはいい理由にはならない。俺もそう思っている反面あの人がちらつく。

 

あの人は奪ってはいない。けどどうしようもなくあの人も【鬼】なのだ。

 

 

俺は迷っているのか?【鬼】のあの人と鬼に殺された義勇を天秤に掛けているのか?

 

…すまない義勇。俺は弱い人間だったのだろうか?

 

 

「……錆兎さん。…」

 

「…鬼に情けを掛けるなよ炭治郎。人を喰った鬼は子供の姿をしていても関係ない」

 

自分に言い聞かせるように。

 

「……殺された人達の無念を晴らすためこれ以上被害者を出さない為勿論俺は容赦なく鬼の頸に刃を振るいます」

 

「だけど鬼である事に苦しみ自らの行いを悔いている者を踏み付けにしない。…鬼は人間だったから俺と同じ人間だったから」

 

 

 

「……お前は」

 

真っ直ぐな弟弟子の眼差しに呆気に取られる。

 

 

「…そうだな。…麟さんと義勇に顔向け出来ないな。」

 

 

薄く笑った後もう一つの任務を思い出す。

 

 

「炭治郎。柱合会議へ行くぞ。お館様がお前達に会いたがっていらっしゃる。……傷だらけのところ悪いがな」



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肆ノ壱【柱合会議裁判】

6,000字オーバーになってしまった


「………………ついに来たか。」

 

隊士・竈門炭治郎。その妹【鬼】禰豆子の居場所が捕捉された。

 

厳密には最終選別の際に鎹鴉を付けられた時点で捕捉されていた。

 

沼の鬼戦、鞠の鬼と矢印鬼戦、鼓の鬼戦、そして那田蜘蛛山戦を経てすりあわせされたのだ。

 

鬼を連れた剣士。炭治郎の存在はお館様自体は容認してくれてはいるけど他の【柱】たちはそうはいかない。

いつまでも黙認という形にもいかない。

【柱】との接触は不可避だ。

 

 

柱合会議への場へと駆り出される。

 

 

「……よう、久しぶりだな。麟さんよ」

 

「御同行願おうか」

 

玄関先に現れる柱二人。忍ばない忍者・派手男【音柱】宇髄天元と巨漢の坊主【岩柱】悲鳴嶼行冥。

 

「……どうせならカナエちゃんと蜜璃ちゃんが良かったわ」

 

「………胡蝶は任務中だ。甘露寺は情にほだされるだろう」

 

「逃げやしないよ。逃げるなら今からでも逃げれるよ。…………その場合全員で来ることすすめるよ」

 

側に控え警戒していた零余子の頭を撫で立ち上がる。

 

「日輪刀は置いてって頂こう。」

 

「はいはい」

 

「意味をなさないだろうが【血怪】とやらを会議中出さないで頂きたい」

 

「時と場合と態度に寄るけどいいよ」

 

「悪ぃな。麟さん。柱全員の総意ではねぇ。……がやっぱりあんたは鬼だ」

 

「………分かってるよ。」

 

隊服ではなく真っ赤な着物のまま歩き始める。

 

炭治郎、禰豆ちゃん。……君たちは君たちの力で認められなければ意味は無い。

 

私の庇護はあくまで力による庇護。今のままでは軋轢はより、強くなる。

 

君たちはもう弱くない。私は君たちの強さを知っている。

 

信じてるよ。君たちの強さを。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

産屋敷邸。鬼殺隊のまとめ役【お館様】が住まう場所。

 

そこまで行くために目隠し耳栓、鼻が利く俺は鼻栓までされ抱えられ荷物のように連れられた。

 

累戦でついた傷に響くので優しくして下さい!

 

…………なんのため連れて行かれて居るんだろうか。最下位の位階の俺が最高位【柱】が集まる会議に。

 

心当たりは、ただ1つ。

 

妹・禰豆子のことだろう。9割9分9厘そうだろう。

 

認めて貰わねば。認めて貰わなきゃ。

 

 

下ろされる。目隠し耳栓鼻栓が外される。

視界が開け感覚も解放される。豪奢な日本庭園のようだった。

 

 

「柱の御前だ!!面をあげろ!!」

 

俺を取り囲む。9人の男女の剣士。隊服を身に纏う。中には錆兎さんの姿もある。

彼と同等それかそれ以上の雰囲気を身に纏う剣士達。

 

此が【柱】。鬼殺隊の最高戦力にて隊のまさしく【柱】

 

 

「此奴が鬼を連れた馬鹿な隊士ってのは」

 

傷だらけの青年は呟く。

 

「……まだ、子供ではないか」

 

「傷だらけ…可愛い」

 

「…………面倒臭い。」

 

「普段なら派手に処刑するんだがな!」

 

「…………そうだな、【血柱】殿もいる。……それをした時点で彼女は容赦なく我等を殺すだろう」

 

「…簡単に殺されはしないがな。奴は藤の花の簡易的な檻に入れているんだろう?しかも今はまだ正午だ」

 

「…物騒なことばっか言わないの皆。お館様の意思を聞かないと。」

 

 

「ヤッホー。炭治郎。久しぶり元気~?」

 

 

「り、麟さん!?」

 

視覚に入るのは庭から見える和室に藤の花に囲まれた所に座っていた。日光が届かない暗がりから手を振ってくる。

 

「やはり知り合い。……度し難いな少年」

 

「……………俺の弟弟子だ。」

 

「てめぇの処遇も関係あるからな覚悟しとけよ錆兎ぉ…?」

 

「……ああ」

 

「それでだ。餓鬼。その背負っている木箱に鬼が居るんだな?渡せ。」

 

「い、嫌だ」

 

「不死川くん。お館様を待たないと」

 

「…………必要ねぇよ。……鬼は即斬。俺はそう生きてきた。考えてきたんだが………………無理だわ。悪鬼滅殺。その女ごとその鬼も斬るわ。そうすれば憂いはねぇ」

蝶の髪飾りの女性の制止の言葉に反論する。

「同感だ。…………血柱、彼女みたいな特別扱いが増えれば鬼の根絶は夢のまた夢。」

 

「…悲鳴嶼さん達の言い分は分かる。だが【新月】という正体不明の勢力は如何する。鬼舞辻らの勢力でも手一杯だ。今のところ敵対意思が見当たらない彼女を処断しこちらの勢力を削るとは愚の骨頂だが」

 

傷だらけの青年と巨漢の坊様の言葉に炎のような青年は反論する。

 

「なんだ煉獄。反対するのかぁ」

 

「違う。現実問題の話をしているのだ不死川」

 

あれ?…禰豆子の話ではないのだろうか。

 

 

「お~い。話が逸れてるゾ。【新月】は私が滅ぼすんだから気にしなくて良いのに」

麟さんの言葉に数名の殺意が放たれる。

 

「血霞、理解しているのか?今日の処断で貴様の生き死にが決まるという事が」

 

蛇を連れた男性がネチネチ言っている。

 

「分かってるよ。君以上に。……その兄妹以上に私をどうにかしたいって事くらいさ………けど今日の主役は彼らだ。ないがしろにしたら可哀想だよ?」

 

「鬼風情が」

蛇の男性は舌打ち。剣呑な雰囲気が流れる。

 

「今日の【柱合会議】は所謂裁判の側面を持ちます。故に私【花柱】胡蝶カナエが公平な中立な立場をもって仕切らせて貰います」

 

「なんだと…聞いてネェゾ」

 

「……不死川くんや悲鳴嶼さんは反対派。錆兎くんや蜜璃さんは賛成派。性格上私が一番相応しいとお館様に任命されました。反論あるならお館様に不満があることになりますが」

 

胡蝶カナエさんという女性はにっこりと笑う。事務的に淡々と通達する。

 

「では【柱合会議】始めます。…………お館様お待たせしました。お見苦しいところを」

 

 

「いいよ、カナエ。難しい問題だ。実弥や行冥の意見ももっともだ。……久方ぶりだね。みんなの顔が見れて嬉しいよ。日々弱っていく自分が恨めしいよ」

 

 

「……お館様ご機嫌麗しゅう。いつまでも御壮健であられることを切に願います。してこたびの柱合会議は」

 

「うん。この前の続きみたいなものさ。麟さん。そんな罪人みたいな扱いは申し訳ないよ」

 

「構わないよ。…体裁みたいなものだよ。」

 

苦笑し気にしてないと返す麟さん。

 

「……私は炭治郎と禰豆子の事は容認している。私としては炭治郎と禰豆子のことを皆に認めて欲しいと思っている。」

 

「………嗚呼、お館様の願いでも承知しかねる…」

 

「派手に反対だ!鬼を連れた隊士など認められない」

 

「私はお館様が望むままに」

 

 

「…俺はどちらでもいい」

 

「信用しない信用しない。鬼はそもそも大嫌いだ。特に血霞という人間のふりをする鬼は更に嫌いだ」

 

「……俺は戦力的な意味で血霞殿を許容すると断言したうえでそこの少年を断じてしまっては筋は通るまい。俺は明言を避けよう!」

 

 

「鬼を殺してこそ鬼殺隊。竈門、血霞両名の処罰を願います。」

 

傷だらけの人の言葉に歯ぎしりする。麟さんは恩人だ。

 

 

「……では、手紙を」

 

お館様は側の最終選別にいた少女に似た白い少女に促す。

 

「はい、此方の手紙は元柱である鱗滝左近次様から頂いたものです一部抜粋して読み上げます。」

 

白い少女は手紙を広げ読み上げる。

 

『炭治郎が鬼の妹と共にある事をどうかお許し下さい』

 

 

『禰豆子は強靱な精神力で人としての精神力を保っています、飢餓状態であっても人を喰わずそのまま2年以上の歳月が経過致しました』

 

 

『俄に信じがたい状況ですが紛れもない事実です』

 

 

『もしも禰豆子が人に襲い掛かった場合な竈門炭治郎及び』

 

 

『鱗滝左近次、血霞麟、錆兎が腹を切ってお詫び致します』

 

え…?

 

目を見開く。唖然。呆然。その言葉に立ち尽くす。

 

涙が頬を伝う。

 

 

 

「…切腹するからなんだというのか死にたいなら勝手にしに腐れよ何の保障にはなりはしません」

 

否定。斬り捨てる傷だらけの人は麟さんを睨みつける。

 

麟さんは言葉を発せず静かに座っている。

 

「不死川の言うとおりです。人を食い殺せば取り返しはつかない!!殺された人は戻らない!」

 

 

「確かにそうだね。麟さんという前例は在るけど禰豆子が人を襲わないという保証が出来ない。証明が出来ない。」

 

ただとお館様は言い含める。

 

「人を襲うこともまた証明が出来ない」

 

 

「!!」

 

 

「禰豆子が2年以上人を喰わずにいるという事実があり禰豆子の為に3人の者の命がかけられている」

 

「それを否定するには否定する側もそれ以上のものを差し出され無ければならない」

 

「……っ」

 

 

「それに炭治郎は鬼舞辻に遭遇している」

 

 

お館様の言葉に【柱】の人達は目を見開く。

 

 

「!!?」

 

「そんなまさか…」

 

「血霞以外【柱】は誰も接触したことがないのに……!!」

 

「此奴が!!?」

 

「戦ったのか?」

 

「人相は血霞から聞いてはいるが…何をしていた?」

 

「根城は突き止めたのか!!?」

 

「おい、答えろ!!」

 

「黙れ俺が先に聞いているんだ」

 

「あー……」

麟さんは溜息をついている。

 

俺は繰り返し聞かれ混乱する。柱の人達に急かされ揉みくちゃにされる。

 

「鬼舞辻について…!!」

 

お館様がしっと人差し指を立てるとピタッと柱の人達。

 

 

「鬼舞辻は炭治郎に向けて追っ手を放っているんだよ。その理由は口封じかもしれないし麟さんが関係しているのかもしれない。私は麟さん以外が初めて鬼舞辻が見せた尻尾を逃したくない。恐らく禰豆子は鬼舞辻以外が作った鬼で奴にとって予想外の何かが起きていると思うんだ。」

 

 

「分かってくれるかな。……どうかな麟さん」

 

 

「……………私?確かに禰豆ちゃんは普通の鬼とは違う状態だね。私は鬼を喰らっているけど禰豆ちゃんはそうじゃない。私と同じになるか、また違うようになるのかなんとも言えないわ」

 

断言は出来ないよ。と薄く笑う。

 

 

「……………分かりませんお館様。人ならば生かしておいてはいいですが鬼は駄目です。承知出来ない。血霞てめぇだよ!!全ててめぇだ!!訳分かんねぇのは!!鬼の癖に鬼の分際で!!」

 

不死川と呼ばれた傷だらけの青年は抑えきれない激昂が麟さんにぶつけられる。

 

「………………」

 

麟さんは彼の言葉に返事をしない。多分言葉を並べても意味は無いと。ただ彼女からは悲しそうな匂いがした。

 

 

「俺が証明してやるよ!!貴様ら鬼の醜さを!!」

 

不死川さんは俺に距離を詰め吹き飛ばし木箱を奪った。

 

「あ!!?か、返して下さい!!」

 

「うるせぇ!!黙ってろ!!」

 

 

「おい鬼!!飯の時間だ!食らいつけ!!」

 

自身の腕を斬り出血させ禰豆子が入っている木箱に振り掛ける。

 

俺はやめろと叫び駆けるが蛇の青年に地面へ抑えつけられる。

 

「不死川、日向では駄目だ日陰に往かねば鬼は出て来ない。」

 

「お館様、失礼仕る」

 

彼は木箱を抱え跳躍。屋敷の奥へと日陰へ移る。

 

 

「…不死川くん!!このような真似許されるとでも」

 

「うるせぇ胡蝶!!」

 

胡蝶さんの言葉を無視して木箱を破壊する。

 

 

「やめろっ!!!!」と蛇の人の拘束を解こうとするがより、強い力で抑えつけられる。

 

禰豆子!!禰豆子!!

 

「出て来い鬼ィ!!てめぇの大好きな人間の血だぞ!!」

 

立ち上がる禰豆子の前に失血している腕を突き出す不死川さんは嗤う。

 

禰豆子は瞳孔を見開き息が荒く脂汗を大量に流している。

 

自身の強い衝動を我慢している。

 

「伊黒くん、強く抑えすぎじゃないかな」

 

「動こうとするから抑えつけているだけだが?」

 

「竈門くん、肺が圧迫された状態で呼吸を使うと血管が破裂するよ」

 

「血管が破裂!!響きが派手で!!よしいけ!!破裂しろ!!」ヒョ!!

 

「可哀想に…なんとも弱く哀れな子供だ……南無阿弥陀仏……」

 

 

ぐ…!!好き勝手に……!!麟さん………!!俺は俺達は報わなきゃ行けないのに…禰豆子を、人間に!!

 

より呼吸を、強く使用する。蛇の人の拘束に抵抗する。

 

「竈門くん!!」

 

胡蝶さんの言葉と同時に解放される。見上げると錆兎さんが蛇の人の拘束を解いてくれた。

 

「錆兎…貴様何のつもりだ?」

 

 

「薄情なもんだな!血女!!大事な鬼なんだろ!!?助けねぇのか!!?」

 

 

「………………ここで禰豆子を守るのは簡単な話だよ。不死川実弥。……けど私はその子達の強さを知っている。……私は信頼しているよ」

 

「てめえが死ぬ事になってもか?」

 

「当たり前でしょう。それが責任だよその子を鬼にした」

 

ただ涼しげに言い放つ。信頼していると。

 

 

「ああ、そうかよ!!」

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

どうしようもない、衝動に思考が弛緩する。

 

血。血液。血肉。人間。

 

人間……?

 

 

人は守り助けるもの。傷付けない。絶対に傷付けない。

 

 

皆の笑顔が(・・・・・)より一層意思を強固にする。

 

 

プイッ!!

 

 

全力でそっぽを向く。今できる私の全力の拒否だ。フンス!!

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

「どうしたのかな?」

 

お館様の問いかけに白い少女は答える。

 

「鬼の子はそっぽ向きました。不死川様に三度刺されましたが目の前に血塗れの腕を突き出されても我慢して噛まなかったです」

 

お館様は薄く微笑む。

 

「これで禰豆子が人を襲わないことが証明出来たね」

 

 

「「!!」」

 

 

「……ふふ、当たり前じゃない」

自信ありげに、優しく言う麟さん。

 

「それでも、禰豆子をまだ快く思わない者もいるだろう」

 

「証明し無ければならない。これから炭治郎と禰豆子は鬼殺隊として戦えること役立てること」

 

何だろうこの、感じふわふわする…。

 

「十二鬼月をたおしといで。そうしたら皆に認められ炭治郎の言葉も重みが変わって来る……麟さんの為でもあるんだよ炭治郎」

 

「俺は!!俺と禰豆子は鬼舞辻無惨を倒します!!必ず!!悲しみの連鎖を断ち切るやいばを振るう!!」

 

「今の炭治郎には出来ないからまず十二鬼月を倒そうね」

微笑むお館様の言葉に恥ずかしくなり真っ赤になる。

 

「はい」

 

 

笑いを堪える柱の人達もいるし錆兎さんは呆れてる。

 

それでも、麟さんの視線だけは優しかった。

 

「鬼殺隊の柱達は当然抜きん出た才能がある。血を吐くような鍛錬を、自らを叩き上げ死線をくぐり十二鬼月をも倒している」

 

「だからこそ柱達は尊敬され優遇されるんだよ炭治郎も口の利き方には気をつけるように」

 

「は、はい」

 

「それから実弥小芭内……あまり下の子に意地悪しないこと」

 

「「御意…」」

 

 

「………………麟さん何かあるかな?」

 

 

「カナエちゃん結局仕切れていないような」

 

 

「し、仕切れてたよ?麟さんの意地悪」

 

 

「…まぁ炭治郎と禰豆子の話はありがとうね皆。……認めるかどうかはこの子たち次第だけどね…まぁ一ついい機会だし……真面目な話をしよっか」

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

「私は誰なんだろう?」

 

鬼化した際真っ白だった自分の記憶。

 

「私は長く生きすぎた。」

 

 

「私は疲れた。……………私は鬼が嫌いだ。鬼が嫌いで人間が大好きだ…けど……」

首を横に振る。

 

 

「……………今回の議題の【色彩ノ鬼】は私が討ち滅ぼすから安心してお館様」

 

「麟さん?」

 

「……あと禰豆子と炭治郎のこと見届けて……死のうと思う。まぁ、禰豆子は鬼にしてしまった私の責任だ」

 

目を見開く錆兎と炭治郎。

 

「鬼舞辻と【新月】が、死んだ時最期の鬼となった時此処にいる誰かに頸を斬って欲しい。……出来れば実弥ちゃん」

 

「俺…だと」

 

「………………鬼嫌いの君なら迷い無くやってくれるでしょう。」

 

薄く笑う。

 

「……………麟さん…何故…!!貴女が死ぬ必要ないだろ…!!」

 

「……………………人は喰わなくてもやっぱり鬼は鬼でしかないよ錆兎。………せめて…私が誰かは知りたかったけど……今すぐ死のうって訳じゃない。…責務を果たすまでの存命をどうか許して欲しい鬼殺隊の皆」

 

 

「……先々代からの産屋敷の名において血霞麟の責務完了までの存命を許可するよ。…麟さん。貴女の生きる道は針の筵のようで茨の道で困難だ。…………出来れば貴女が死ぬ必要がない未来になればと個人的には思うよ。……皆の胸中はいろいろあると思うよ。すぐには納得しろとは言わないよ。けど私は…分かり合える日を望むよ」

 

柱の面々は肯定はしなかったが否定もしなかった。

 

お館様の望みを声高に否定は出来ないだろうがそれでも…前進はしているだろうとは思いたかったのもある。

 

血霞麟の鬼生は無駄ではなかったと思いたかった。

 

「ありがとう。それで少しは救われた。」

 

 

「………何これ、綺麗事の茶番劇。生温いわね今の鬼殺隊は。……反吐が出る」

 

「きゃは♪キモイ」

ケラケラ笑う空色の少女に心底不快そうな長身の黒髪の女性はいつの間にか庭先にいた。

 

彼女らの頬には【真白】と同じ色彩ノ紋様が見て取れた。

 

そして何より見知った顔だった。

かつて憎悪を向けられた相手だったけれど。

 

 

 

 



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鬼喰の血刃【血霞麟の物語】
参の弐【最終選別の戦い・裏】


豪華?2本立て。


我が愛しい竈門兄妹の兄・炭治郎は最終選別に望む。

 

「大丈夫かなぁ大丈夫かなぁ心配だなぁついて行きたいなぁ…頑張れるかなぁ炭治郎は…炭治郎は出来る子だけど心配だなぁ。…糞っ!!藤の花さえ咲いてなければ…!」

悶えている成人女性が1人。側に控えている雪娘こと【お雪】は我関せずで洗濯物を畳んでいる。

 

血霞邸。その居間にて座椅子にすわり悶えている。

 

ひどい薄着な赤い着物を着てリラックスしていた。

 

「…あれ子離れ出来ん母親のようにしか見えんな。」

 

「母親て。百年以上生きて処女な姫には無理があります。わたくしは臍でティー沸かせられますわ。」

 

【鴉天狗】の言葉に噴き出す【玉藻の前】

 

野郎。玉藻の前。鬼になる前はリア充かもしれないだるぅぅ!!?

 

野郎女子力の差を見せてやる。女子力は膂力(パワー)だぜ。

 

「麟様その発想がおもてにならない女性の発想ですよ」

お雪お前まさか。

 

「私は生前旦那様居ました(と思います)」

 

裏切り者ぉぉぉお!!!!

 

「情緒不安定だな」

 

「ですね、…更年期ですかね」

煎れてあったお茶をのむ【玉藻の前】

 

 

閑話休題(それで)

 

 

出掛けてくる。と目一杯のお洒落をした私はフンスと鼻をならす。

 

「結局出掛けますの?」

 

「君はこの前作った彼とイチャイチャしてればいいさ!!」

 

「はいその節はどうも。彼ピッピてばシャイでね~」

 

惚気るな。殺すぞ。彼ピッピとか別に羨ましくなんてないんだからね!!

 

とりあえずむかつくから【玉藻の前】は強制的に消す。しばらく出さねぇ。イチャイチャしてろ。

 

 

「……よし。炭治郎の勇姿見に行こうそうしよう」

 

「完全に孫か子供の参観日感覚ですね」

 

「お労しや姫」

 

哀れむな私を!!?泣くぞ!!?

 

 

【八咫烏】とリンクし【八咫烏】がいる場所へ飛ぶ。ふふふ我が【百鬼夜行】の力の1つよ。

まぁあまりにも領域圏外だと行けなくなるけど。

 

「此処が藤襲山かぁ…確かに麓らへんの藤の花凄いな。鳥肌ががが」

 

「鳥肌で済むんですね麟様」

 

「…………嫌なもんは嫌だけどね。」

 

「日光。藤の花。中々不便ですね。鬼も。」

 

 

「進化か退化か分からないさ。人間以上の膂力(パワー)敏捷性(アジリティ)の代償は大きいよ。【血鬼術】という異能。なにより【鬼舞辻】支配下という生きにくさ。」

 

 

「私だったら嫌だね。つくづく呪いが外れてよかったわ。【同族喰らい】も進化だと思うわ。……だから【新月】とやらも厄介そうだわ。」

 

真っ赤な着物で大和撫子みたいな風体で山道を歩く。

 

「さぁて。炭治郎はどこっかな~?【八咫烏】」

 

「姫。過保護が過ぎるぞ。少年の成長の妨げになるぞ」

 

私の腕に捕まりネチネチと言ってくる【八咫烏】

 

「あー五月蠅いなぁ。最近百鬼夜行は私に優しくない。」

 

むすっとする私にげんなりする隣のお雪。後で覚えてろ。

 

「…炭治郎は【大型の異形】の【手鬼】と交戦。我が分身がみているが見るか?」

 

      【百鬼・視界共有】

 

当たり前じゃん。【手鬼】ねぇ。

 

視界に映る。人の形を捨てた異形。多くの人を食った鬼は姿を変える鬼が中にはいる。

 

「こいつかなり喰ってるね。」

 

「…でも、下弦にすら劣る。炭治郎なら勝てるよ。」 

 

 

    「ならやってみるか【血霞童子】」

 

 

突然の腐臭。突然地面から生えた腕に拘束される。

 

「!!?」

 

 

   「ヒヒヒ!!!!【鬼喰らい】がどんなものかと聞いてみればたいしたことないな!!」

 

 

「…………」

 

炭治郎と交戦中の【手鬼】と瓜二つの鬼が目の前にいた。幾重の腕を全身に纏う異形。

腐臭と屍臭を身に纏い私を締め上げる。

 

……同じ鬼がいた?分裂体?中には分裂する鬼もいる。

 

確かに視界共有をしている右眼は未だ戦闘中の炭治郎と手鬼を映している。

 

「どういうからくりだ。」

 

   「ヒヒヒ!!言うと思うかよ!【血霞童子】ぃ」

 

「そらそうだ。……」

 

締め上げる力は強くなる。握り潰された。

 

「呆気ないのぅ!!【真白様】が気にする程度の鬼では無かったなぁ!!」

 

飛び散る血液。高笑いをする【手鬼】擬き。

 

「……【新月の純白】が……なんだって?」

 

血液が集合し私を形成する。

 

「あーあー。私のおしゃれ着が。……死ぬ覚悟きまってんだろね。お雪。日輪刀」

 

私の側にいるお雪から日輪刀【神血(しんけつ)】を取りだす。

 

「あの小娘め。ようやく動いたのか。……まぁ良い吐かせる。雑魚を差し向けたこと後悔させてやる。」

お雪に持たせて左腕で抜刀。

 

 

 

  「ふふふっ…見る目がないなぁたいしたことないぁ【血霞童子】我々が【真白様】に作られた我々が!!本体より弱いわけがないだろうっ!!」

 

死角から伸びる腕。連続し掴みかかる複数の腕が私を捕まえようと伸びてくる。

私はひらりと躱す。

 

「ははっ!!いつまで持つかな!!」

 

伸びる腕は地面から樹木から周りのあらゆるものから生え捕まえようと伸びてくる。次々と休む暇もなく生えてくる。

 

炭治郎が戦っている【手鬼】とはちがう戦いをしてくる。

まるで私用に難度を上げているよう。

 

私は全てギリギリで躱す。幾ら増えようが臭すぎるンだよ。モテねえぞ。糞鬼。

 

「麟様。誰か呼んでは?」

 

「いや、私がやる。」

 

血の呼吸・全集中常中。

 

左腕で持つ鮮血が如き刀を下段に構える。呼吸。鬼の筋肉は呼吸によりしなりが増す。

 

 

   血の呼吸・肆ノ型【血刃】

 

下段から上に向けて刀を振るうと血液の斬撃が飛び伸びてきた腕を真っ二つに両断する。

 

   血の呼吸・肆ノ型崩し【血刃二の太刀】  

 

そのまま無呼吸で2連の斬撃を左右に放ち左右から伸びてきた腕を6つ切り捨てる。

 

   血の呼吸・肆ノ型崩し【血刃三の太刀】

 

上下から伸びた腕を更に三の太刀にて斬り捨てる。

 

 

   「なにぃぃいぃ!!?」

 

 

「……腕は品切れかな?」 

 

「な、わけないだろ…!!?【真白様】申し訳ありません使わせていただきます!!」

 

  

  【血鬼術領域展開『多手蟻餓鬼地獄絵図』】 

 

 

領域展開型の血鬼術…だって……!!?

 

私とあの小娘位しか見たことがない。

自身の周りの空間に干渉する血鬼術なら見たことはあった。

 

【手鬼】擬きを中心に大量の腕がワラワラと沸いてくる。

 

視界全てを埋め尽くす程の【腕】。集合体恐怖症なら嘔吐ものだよこれは。

 

「俺は【手鬼ノ色彩】。【新月の純白】たる彼女の作品だ!!負けるわけには行かない!!」 

 

なるほど作品ね。……私向けのハードモードなわけだ。

 

「【血鬼術領域展開・血怪百鬼夜行『血手爛漫ノ陣』】」

 

 

私の足元より塗りつぶすよう現れる血液の腕達。狂い咲くように現れる血液の腕。

おおよそ百。

 

「目には目。手には手ってね。」

 

血液とは液体。液体とは流動体。故に無形。私が望むがまま姿を変える。

 

 

「【土蜘蛛】」

 

「あいよ。お姫様。」

 

「出して」

 

【土蜘蛛】は100本の日輪刀を吐き出す。もしもの時に作らせた【神血】擬き。どれも【神血】の域に至らんとした刀鍛冶達の渾身の作。

 

【神血】を見せた時目を輝かせてたもんなぁ刀鍛冶の人達。

私自身誰の作かは知らない私の日輪刀。

 

それを血液の腕達は持ち抜刀する。

 

100本の殺意が唸りを上げる。

 

 

「俺の手の方がおおいぞっ!!!!」

 

 

血の呼吸・肆ノ型崩し【血刃乱舞・百花繚乱】

 

 

ワラワラと沸いてくる腕の波濤を切り払う。

 

私は微動だにせず定位置にて相対する。

 

 

「舐めるなぁ!!」

 

 

【領域展開・多手蟻餓鬼地獄絵図】まさに多手で獲物を取り込まんとする蟻地獄のような領域展開だ。名の通り地獄絵図。

 

 

だけど相手は私様だ。てめぇらを殺すために私だって研鑽してきた。

 

伸びてくる腕達は全て百の血手が斬り捨て打ち払う。

 

自動ではなく手動。私の意思で全て処理しきる。

 

「どうしたどうした。数は其方が上なんでしょ?」

 

「オノレちがすみぃ!!」

 

百の腕が融合し、1つの巨大な腕を形作る。

 

 

「死ねっ!!」

 

捕まえようとするというよりもはや潰すという意思で殴りかかってくる。

 

それでも微動だにせず私は百の刃にてその腕を斬り捨てる。

 

「!!?」

 

 

「さてその隙。貰うよ。その頸堅そうだね。でも関係ない。喰らえ。【大喰らい土蜘蛛】」

 

 

【土蜘蛛】は大きな口を開け【手鬼ノ色彩】を喰らう。

 

 

「ヒヒヒ…!!これからは俺のような鬼には気を付けるンだなぁ…!!【真白様】はいつもお前を御覧になられているのだからな!」

 

喰われる間近亀裂のような哄笑を浮かべる。

 

不穏。良いぜ。全て殺してやる。

 

【土蜘蛛】が丸呑みすると奴が展開していた領域が消える。

 

 

「…………墨の味…ねぇ。……複製体かしら。……………【新月の純白】め。悪くない趣向だわ。私の【人間好き】分からせてやる。」

 

「麟様悪い顔してる…」

 

 

「姫。炭治郎も勝ったみたいだぞ?」

 

「あ、炭治郎の勇姿見れなかった!!」

 

八咫烏の言葉に地団駄を踏みたくなる。

 

 

「【新月】が動き始めたんですねぇ……」

お雪は小さく呟く。土蜘蛛は使った刀を回収していた。

 

 




表・炭治郎視点。裏・麟視点の話で所々分けて進めたいなぁと思います。


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閑話【血霞邸の1日】

外伝的なお話。お雪視点。


【血霞邸】

 

【血柱】で【血霞童子】たる彼女【血霞麟】様が住まうお屋敷。

 

産屋敷家の支援を受け【血霞麟】の剣士としての働きで建てられた屋敷。

 

彼女の領土たるあの【深い森】のほぼ中心に建てられていた。

 

深い森。つまり基本来客はいない。【隠】の人すら迷う深い森だ。

 

鬼にして剣士の彼女は日光をも遮るこの森でなければ生活は出来ない。屋敷から出なければ普通の場所でも良いのだろうがそういう性分ではなかった。

 

基本的には、寂しがりで他人との繋がりを求める性格のあの人。

 

屋敷にいる際は基本的に【血怪】として確立した個体は彼女のお力のもと実体化している。

 

【血怪】には二種類いる。意思のある【血怪】と意思のない形だけの【血怪】

 

意思のあるのが私たち【血怪百鬼夜行】なのだ。

 

一人でお住まいになられるには広すぎる邸宅。そもそも寂しがり以前に生活能力皆無なのだ。

 

サポートをするため我々がいる。…戦闘だけではなく彼女を手助けするためにこの【血霞邸】で生活していた。

 

 

私こと【雪娘】の【お雪】は麟様の割と古めの【百鬼夜行】だ。江戸の頃よりお供をしてきた。だからか基本的毎日顕在化している。…………いや私が顕在化していないと洗濯物やらがたまるわけでして。数少ない女性の【百鬼夜行】の玉藻さんは「は、なんでわたくしが家事なんかしなきゃならないんですか」ときょとん顔でしたし。えーえー生前は良いところのお嬢様だったんでしょうけど。

 

麟様の食事を作るため朝早く起きるのだ。

 

そう朝早く(・・・)。夜行性であるはずの鬼の麟様の食事をだ。【人間好き】の麟様の絶対の生活習慣。規則正しい生活に人間の食事をとる。まぁ【百鬼夜行】は取りませんし麟様の分だけですが。

 

…その癖朝弱いのはどうなんだろう?こちらも起こすのは習慣化しているし諦めはついている。

 

基本的に栄養素は【鬼喰らい】で賄うためこの食事は嗜好の趣がつよい。まぁ米に味噌汁。朝はそれであの人も満足する。  

 

 

「相変わらず早いな。お雪」

 

燃える偉丈夫こと【火車】さんが庭先で薪割りをしていた。

人柄的には問題はないが私は氷で彼は火。相性の問題で避けがちである。

 

「おはようございます。」

 

軽く会釈してそそくさ歩いて行く。彼は若干悲しそうにするが溶けるんです。

 

 

お米を炊き味噌汁を作る。最初は冷えたものを体質上出していたが最近は慣れたものである。

 

 

「……ようやるのぅ。姫の習慣にようつきあうわ。意味ないことやのに」

 

【鵺】さんが呆れたように言ってくる。

 

合成獣のような鵺さんは自由気ままだ。気が赴くままに屋敷内で生活している。

 

こう絡んできたのも気紛れだろう。

 

「皆さん自由気ままですから。他にやる人いないでしょうに」

 

「せやな。まぁ頑張り」

軽く欠伸をして歩き始める。どうせ夜の散歩とかいって夜更かししてたんでしょ。まぁ鬼ではないのですが性質的には酷似しているので【百鬼夜行】としては正しいんでしょうけどと嘆息する。

 

朝食の準備を済ませ麟様の寝室へ行く。

 

寝ずの番の【八咫烏】さん(分身)が扉の上の止まり木から此方をチラ見するがいつもの事なのですぐに興味を無くしたよう。通常の鴉より大きいから地味にビビります。慣れましたけど。

 

「麟様朝食出来ましたよ。」

 

当然一度目で起きるなら苦労はしない。

 

失礼といい入室。あーあー寝相悪いですよ。はだけてますよ。……だから嫁の貰い手がいないのです。

 

錆兎君あたり貰ってくれませんかねぇ。あの子は麟様尊敬してますし。…………幻滅しそうですが。

 

「うー…ぁー……」

 

「おや、今日はご自分で起きれたみたいですね」

 

 

「……………お雪さんや。なんですかぃその氷柱。」

 

「気にしないでください。ご飯ですよ」

 

「うぃ…」

 

眠そうな目をこすり身支度を整える麟様。

 

真っ赤な鮮血のような長い長髪を櫛でとかす。

傷みや癖毛も枝毛もない。羨ましいと思います。

 

「ありがと。お雪。」

 

用意した簡易的な和装に羽織を羽織って軽く微笑む麟様。

 

「いえ。」

 

麟様は女性にしては長身。小柄な私は並んで歩くとより小さく見える。なんかムカつくのでスネを蹴ります。

 

「いたっ!!?お雪さんやなんで!!?」

 

知りません。

 

 

食事を済ませ片付け。麟様お一人分なのですぐ終わります。

 

掃除。それは群体型の【百鬼夜行】である【管狐】さんに手伝って貰います。

 

【管狐】さんは動物くらいの知性なんで言うこと聞いてくれます。中には個性的な子もいますが玉藻さん達に比べて友好的で協力的です。

 

午前中で終わります。

洗濯も同時進行といっても麟様と私の分位しかしません。他の人は各々でどうぞ。

 

お昼。珍しく来客。

 

と言っても錆兎くんと真菰ちゃんです。

 

彼等が子供の頃からの付き合いなので鬼殺隊の多忙の間を縫って最低でも月一顔を出してくれている。こんな陰鬱とした真っ暗な深い森までよく来てくれます。麟様の人徳も馬鹿には出来ません。まぁ無表情ですしカリスマ性は多少なりあるようです。私からしたらズボラ駄目女にしか見えませんが。

 

麟様は子供が実家に帰ってきた母親が如く歓迎します。

 

まぁ麟様からしたら曾孫以上なんですけどねープークスクス。

 

さて錆兎くんと真菰ちゃんの分まで作らねばなりません。

 

かといってバリエーションはありません。

 

 

うどん。最近はまっているのです浅草で屋台をやっているのを食べて以来麟様含めはまっています。

あそこまでの域には至れませんがまぁまぁの出来です。錆兎くんも真菰ちゃんも美味しいって言ってくれました。

あの人にも食べて欲しいなぁ……。はて?あの人とは……?

 

午後。錆兎君たちは忙しいようで麟様は泊まって行きなよと名残惜しげでしたが帰って行きました。夜では絶対迷いますよここ。

 

【犬神】さんが周囲の警戒から帰ってくる。

 

犬顔のイケメン。数少ない【百鬼夜行】の良心。

 

麟様に対する忠誠心は【百鬼夜行】の中でも随一だが本人はそれを否定している。つんでれってやつかな?

 

「【犬神】さんお疲れ様。」

 

「ありがとう。……今日も変わりないぜ。……姫は?」

 

「…………鍛錬中ですよ。今行ったら鍛錬の相手させられますよ。まぁ今は父の【鴉天狗】が相手してます」

 

「げ」

と顔を顰める【犬神】さん。【血霞】邸には鍛錬場として道場がある。この時間になると麟様はいつも鍛錬なされていた。

物ぐさで面倒臭がりの彼女でも必ずやっている習慣。

 

「…………あれか」

 

「あれです」

 

かつての敗北と圧倒的格上への領域への研鑽。

 

「…報告は後にしとくわ。……特に何かあったわけじゃ無いし」

【犬神】さんは頭をかきながら歩き始める。

 

夕方。

【土蜘蛛】さんが珍しく顕在化していた。大型で大食らいの彼が顕在化するには必要血液量が多いため滅多に実体化しない。

麟様の口の役割を持っているため鬼を喰らうときが主な仕事だ。

 

「珍しいですね」

 

「オデだってたまには外の空気を吸いたいのだ。雪チャン」

 

「そですか。お腹空きますよ。」

 

「…最近姫は鬼を食べてない。お姫様は平気でもオデはキツい。……だから今日は出掛けてくる。」

麟様の許可を得て野良の鬼を食べに行くと豪語している。

そう気合を入れていた【土蜘蛛】さんを見送る。

 

 

夕食の下準備。夕食は【鴉天狗】が手伝ってくれました。

生前は親子の間柄であったらしいですがそこの記憶は曖昧です。

けど彼に対して何か申し訳ない気持ちと感謝の気持ちと気の置けない感情はありました。きっと家族だったからでしょう。

 

彼の作る料理は精進料理っぽくなるため麟様にはやや不評だったりしますがそれはまぁ良いでしょう。麟様もお料理を覚えるべきでしょう。

 

まぁこうして私自身誰かのために動ける事は嬉しく感じている。

生前あんなに看病してくれた大事な人がいた気がする。

 

靄の掛かった記憶は私の胸をきゅっと締め付ける。

 

 

夜。

麟様は食事を終え私のやることもほぼ終えていた。

 

麟様は相変わらず無表情で外からはクールでカリスマ性あるように見えるが内心は寂しがり屋の残念美人だ。

 

寝る前【百鬼夜行】の皆に構いにいく。煩わしそうにする者から悪くない面持ちでいるものと様々だ。

 

【百鬼夜行】は皆は皆麟様を信頼している。

 

…………だからこの人には幸せにはなって欲しかった。

 

この百年以上いくら人に裏切られただろう。罵倒されただろう。

 

それでも麟様は人間好きだと負けずに言う。時には巫山戯て時には真面目に。

 

 

我らはそれをサポートし続ければいけないだろう。

 

 

「………お雪さんや。お休み。」

 

麟様は寝室の前で振り返り言ってくる

 

「はい、お休みなさいまた明日です」

 

 

血霞邸の夜はまた更ける。



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裏の壱【純白たる彼女と蜘蛛山の鬼】

穢れ。慈しむは色彩。穢れの色彩はわたくしが一番恋しいもの。

 

穢れのないものはいない。

様々な色彩はこの世界を彩っている。

 

人には人の。鬼には鬼の。

 

人も鬼も全て愛おしい。

 

わたくしという純白を彩るための餌として。

 

 

「うーん。この色は有り余っているのですよねぇ。多少偏る傾向がありますのよねぇ。」

 

少女は年端のいかない少女だった。純白。全て純白。

 

足元近くまでいく長髪も瞳も最近ではまだ珍しい洋装に大きな帽子も全て純白。

 

そして目が往くのは額の二本の角。

 

彼女の足元には死体。色が奪われた死体。

お嬢様の風体の彼女には死の山。腐臭漂う森は似つかわしくは無かった。

 

「…………………イマイチ糊も悪いですわぁ。劣悪な粗雑な素材ですこと。」

 

彼女がいる場所は那田蜘蛛山。

 

 

十二鬼月・下弦の伍【累】が根城とする山である。

 

至る所にある蜘蛛の巣。蜘蛛の糸による結界。

 

山そのものがまるで蜘蛛の罠。

餌となる人間。狩りに来た剣士すらも絡め取り餌とする。

 

「餌場としては理にかなってますわね。まぁ居心地とかは捨て置きますけど。」

 

まぁ鬼に雨風しのげる家屋など有りはしないが。

 

「…………誰?」

 

其方もまた白い少女だった。白い蜘蛛の巣柄の和装に白い髪。独特の模様をした痣。

 

「あら、趣味が合いそうな様相ですこと。いい趣味してますわね。」クスクスニコニコと笑う。

 

「…………好きでこの格好しているわけじゃないわよ」

白い蜘蛛鬼は不満げに吐き捨てる。

 

「あらそう。残念ですわ。白とは素敵ですわよ。何も穢されず侵されず総てを塗り潰しますわ。」

 

「訳の分からないことを…あんたも鬼でしょ!!あいつに関わりたくなきゃよそ往きなさいよ!!」

 

くつくつマイペースに笑う白い鬼にしびれを切らし激昂する。そもそも現状に不満を抱えた鬼だから短気だった。

 

「短気は損切りですわよ。あれ違うかしら?せっかく可愛いんですもの。仲良くしましょ?」

 

いつの間にか間合いにいた。蜘蛛の少女の眼前。

 

幻想が如き美貌を兼ね備えた白い鬼は少女の頬を撫でる。

 

「……ふふっ。中々こういった【色彩】を持った鬼はいなくて。合格点花丸あげましょう。ふふっ…久しぶりに刺激されちゃいましたわ。」

 

 

「…………君…誰?」

 

「……おや」

 

「…累……」

 

白い少年だった。髪で顔を半分隠しこちらの少女と同じ独特な紋様が顔をあり蜘蛛の巣柄の白い和装。

 

微かに見えた左眼には【下伍】と刻まれていた。

 

「あら、お初に。…………ふふっ…ここの主かしら?」

 

 

「そうだけど。なに?………荒らしに来たの?」

 

「【新月の純白】の真白と申しますわ。以後お見知りおきを。」

 

「……………あの方が言っていた【血霞】や逃れ者以外のあの方のお力を外した不届き者か」

 

「生きにくくありません?鎖に繋がれた飼い犬みたいで」

 

「その質問に解答する権利は僕にはないよ。」

ただただ無表情にそう答える白い少年。

 

「でしょうね。それを口にするだけで死にますものね。…………小物ですこと。」

 

「あの方に対する侮辱は許さない。」

 

蜘蛛の巣を展開する。真白の左腕が蜘蛛の巣状に瓦解する。

 

「へぇ。飼い犬が一丁前に怒ってるんですの?【下弦】の5番目程度が。」

 

すぐに真白の左腕は再生する。

 

頸無し巨体の鬼。人面蜘蛛の鬼。白い女性が集まってくる。

 

「ここは僕の家族の場所だ!!外敵は!!あの人の敵は殺す!」

 

「家族ごっこですか。どこぞの赤い鬼と一緒ですね。まぁあれに比べれば粗雑で粗末なモノですが。力で抑えるとは程度が知れますよ?まぁ反吐が出ます。」

 

   【血鬼術・色彩奪】

 

「まぁ殺さないであげます。貴方を作品に加えてあげます。」

 

 

「さぁ貴方の【色彩】を見せて下さい。【累】くん?」

 

亀裂のような笑みだった。

 

 

踊れ踊れ。

 

世界は私の無地のキャンパスに過ぎません。

 

 

穢れに塗れた常世をわたくしという純白で【救済】して差し上げます。

 

不浄の常世を全て純白で塗り潰して【救済】して差し上げます。

 

 

それがわたくしの使命ですわ。鬼による楽園を。

 

 

欲に塗れた常世を全て全て。

 

 

「あはははははははははは!!!!!!素敵ですわよ!!累くん!!」

 

「貴方もわたくしの楽園で永遠に家族ごっこさせてあげますわ!」

 

真白の周りには倒れた蜘蛛鬼達。恨めしげに睨む【累】

 

 

「こうかな?こうかしら?」

 

彼女は【色彩】で空に彩る。

 

次第に色彩は実体を形作る。基本色から派生する全ての色彩は【累】を創り出す。

 

 

「僕は…【累ノ色彩】よろしくお嬢様。」

目の前には累。それは自身と瓜二つだと目を見開く。 

 

「そしてさようなら僕。今まで通り無様に生きると良いよ。」

 

自分自身は自分自身を否定する。

 

「…ふふっ…」  

 

白き麗鬼は嘲笑い恍惚の表情を浮かべる。

 

 

「…………いずれ……下弦ではなく上弦を。鬼舞辻貴方を私の作品にしてあげます。」

 

 



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裏の弐【術理解説と沼の侵略】

血鬼術。

 

鬼の異能。より人を喰らって力を得発現した力。

 

異能は多種多様で多岐に渡る。

 

地面を沼のように渡る鬼。矢印を操り指向性の強制力を持つ鬼。鼓を叩く事で爪撃を与えるなど種別で分ける事が困難で有るほど多種多様である。

 

強力な異能を持てば上弦へたり得るかはまた難しいことであった。いくら異能が強くても鬼の体が弱くては宝の持ち腐れである。

 

強力な異能。その中でも異質な力。

 

【領域展開】の【血鬼術】。

 

【血鬼術】の効果領域を拡張し周囲に影響を与える異能。

中には周りに干渉する【異能】もあるが広義的には当てはまるかもしれない。

 

 

【領域展開】と呼称する血鬼術を持つ鬼は現状2体。

 

【血霞童子】の血霞麟と【新月の純白】真白。

 

【血怪百鬼夜行】と【色彩神話再現】

 

後者に関しては領域内の【色彩奪い】とその色彩を使用し彼女が【作品】と呼ぶモノを構築すると推察される。

 

 

前者の【血怪百鬼夜行】は領域内の血液を操作し【血怪】を創成する。

 

内蔵血液量に左右されるが【鬼喰らい】により血液を貯蓄する機能と増血機能も有している。

 

その貯蓄量は目覚めた段階と比べ段違い。

 

人は血液量の半分を失えば失血死すると言われるが彼女は鬼であり再生能力を有しておる。戦闘で大量に血液を使用してもこれによる失血死はなく貧血する程度である。

 

【血怪創成】……意思を持つ【血怪】と意思を持たない【血怪】の2種いる。

お雪や【鴉天狗】などの死体を使用した【血怪】

死んで間もない死体に限る。意思は生前に依存するが記憶や性格は個体による。【血鬼術】を持つ。

 

意思を持たない【血怪】は流動体ゆえ彼女の想像力の産物で様々な形を取れる。が異能は持たない。

 

 

【鬼喰らい】…血霞麟の特異性。彼女は人を喰らわず鬼を喰う。本来鬼は【鬼舞辻】の呪いで共食いはするが人を喰らうほどの栄養価は得られない。格上の鬼を喰らった場合は別だがそれはその鬼が蓄えた力だ。

【鬼喰らい】は人を喰らった同等の栄養価を得られ更にその鬼が【血鬼術】持ちならその力を得れる。血霞麟の場合行使は出来ないが彼女の【百鬼夜行】に与えられる。

 

 

血の呼吸……鬼の【血霞麟】が有する独自の呼吸。

恐らく水の呼吸の派生。

【血鬼術】と合わせた独自の呼吸の為彼女以外は使えない。

鬼の膂力に呼吸による増強が可能。

 

 

 

それが【血霞麟】の力。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

【領域展開・血怪百鬼夜行『犬神憑き・群狼ノ陣』】

 

私の足元の血液がじわじわと展開し三十匹ほどの血の狼達が現れる。

 

「いけ」

 

血の狼達は訓練された統率された動きで森を掻き分け進む。

 

名も無い深い森。私の領土。

 

侵略されていた。汚染されていた。汚されていた。

 

沼に。至る所が沼に汚染されていた。

 

見た目は変わらないが沼に変化していた。

 

これは………【領域展開】………。沼の【血鬼術】。

 

「………【新月】とやらか」

 

「…だよね。【領域展開】の異能をあの手鬼もどき持っていた。」

 

肩に止まる八咫烏に返事する。私は岩の上に立つ。【沼化】しているのは【深い森】全域の4割。2時間足らずの侵攻だ。

 

「………………【色彩ノ鬼】か。」

 

恐らく【新月の純白】真白の手の者。

 

「……【領域展開・弐ノ陣『自動反射・百眼鬼ノ陣』】」

 

 

足元より更なる血液を展開。ギョロリと百の眼が見開く。

 

「がはっ!!?」

 

血液の槍が後ろより襲い掛かる鬼を貫く。

 

「…………沼のように腐った匂いだ。」

 

襲い掛かる鬼は瓦解するが手応えはない。

 

「姫。領域内反応多数。常時領域及び戦闘領域の切り替え行うか?」

 

「うん」

 

後述になるが『血怪百鬼夜行』には常時領域と戦闘領域の2種がある。

 

常時領域は【血霞麟】私及び【血霞邸】から深い森全域にわたる常時発動している【百鬼夜行】が顕現出来る領域だ。

 

戦闘領域は文字通り戦闘可能領域で常時領域より範囲が狭まるが本腰に戦闘可能となる領域だ。

 

「血の狼達を先行させてる。…【犬神】指揮を執って」

 

「はっ!!」

 

「恐らく分身出来る鬼だと思う。本体を探し出して。私が喰らってやる」

 

 

「姫。【色彩ノ鬼】の場合あまり意味を為さないのだろう?…【領域展開】の血鬼術は奪えない」

 

「…小娘も領域展開の使い手だからね。そうしているんだろ」

 

「…………姫様。…………南西の地区突破されました。そこ数が多いです。……姫様の読み通り全ての鬼は同個体。…………分身分裂した個体のようです。」

 

「お百。そのまま【眼】して全員の情報共有。……」

 

お百と呼ばれた陰鬱な女性は頷く。両腕にある百の眼は見開く。

 

百眼鬼(どどめき)】は【眼】の役割を持つ。

 

 

「沼化している地区。狼達進みにくいよう。……どうしますか?」

 

「………索敵にあの子達の鼻は必要だよ。……残存血液量気にしないで行くか」

 

【領域展開・参ノ陣【八咫烏・逢魔が時ノ陣】】

 

 

大量の血液の鴉達を創成する。

 

 

「散開っ!」

 

真っ赤な羽根を撒き散らし散開する鴉達。

 

上空を進む鴉に森の中を進む狼達。

 

「…姫様。交戦しています。1体1体が【下弦】相当。」

 

「…1体1体なら私が潰してやるんだけど如何せん数が多いな。そういう【領域展開】かな」

軽く舌打ち。

 

「沼化している地面。お雪ちゃんに凍らせます?」

 

「いい案だけど非効率だぁね。あの子の陣は私もまだうまく扱えないのよねぇ。…」

 

「凍らせた箇所も【沼化】してくる可能性もありますし」

お雪が顔を出す。

 

「麟様。残存血液量大丈夫ですか?」

 

「全然余裕。何十年溜め込んでると思ってんの?…【色彩ノ鬼】喰らっても貯蓄にならないのがウザイわ」

 

「…そうなんですか?」

 

「前の手鬼擬き食べた時墨の味というか無機物食べた感じ。まるで絵画やなんか食べた気分よ。不味いったらない。…小娘めちょこざいめ」

 

 

「姫。済まない。沼化6割超えてしまった。」

 

「いいよ」

 

【犬神】が膝をつき謝罪する。

 

 

「私にも遊ばせて。」

 

【犬神】が日輪刀【神血】を差し出し左手で抜刀。

 

目の前の一帯が沼化し澱む。沼より躍り出る10体の鬼。

 

一人一人が角の数が違うが同じ風貌だった。

 

かつて少女が消える怪奇で炭治郎が倒したはずの鬼。

 

【沼の鬼】

 

「腐りきった女だが!!【真白】様のため!!」

 

「喰らってやるっ!!」

 

「死ね!」

 

は?

 

「こちらはまだピッチピチじゃぼけぇ!!」

 

   血の呼吸・陸ノ型崩し【血風ノ残滓】

 

血風がすべての【沼鬼】を薙ぐ。容赦なく瓦解させる。

 

「まだ十代の肌じゃ!!ぼけぇ!!」

 

「…姫様。残念美人此処に極まり」

 

五月蠅い黙りなさい。 

 

 

沼地と化した一帯から50体ほどの沼鬼が現れ囲まれていた。

 

 




今回の百鬼夜行。

【百眼鬼】………陰鬱とした貞子みたいな姿の女性型百鬼夜行。両腕に百の眼がある。領域内の監視が彼女の役割だが覗き見が趣味なので他の百鬼夜行に嫌われている。
【犬神】くんが好きだが盛大にフラれている。


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裏の参【増殖する沼】

血の呼吸・玖ノ型奥義【紅蓮ノ(アギト)

 

血液の濁流は龍の顎を模して次々と沼の鬼達を喰らい瓦解させる。私は沼地に足を取れられず普段通り行動する。足場に即応出来ず何が【柱】だよ!歩法があるんよ?当てが外れたなぁ鬼。

 

剣閃に付随するそれは私の剣に追随する。

 

 

「…ちっ、きりがないわね。」

 

増殖を繰り返す沼の鬼達。一体一体はたいしたことは無い。

 

けれどその【数の暴力】は気分が滅入る!!厄介!

 

 

血の呼吸・玖ノ型崩し【紅蓮ノ顎・2連】

 

血の龍は二頭に別れ沼鬼達を喰らい続ける。

 

 

【血腕創成】

 

血で右腕を作り出し刀を構える。

 

 

血の呼吸・全集中【肆ノ型崩し・血刃乱舞『百花繚乱』】

 

無数の血の刃が咲き乱れるように沼鬼達の頸を斬る。

 

 

「…この女強いぞ俺!!」

 

「そうだな。私。」

 

「上弦相当だぞ。妬ましい!」

 

ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ

 

 

「歯軋りが五月蠅い黙りなさい!!」

 

歯軋りが五月蠅い沼鬼の頭を潰す。左右から襲いかかる鬼達。更なる増殖を繰り返す。

 

100体が取り囲む。

 

 

「そこ、設置しているよ。」

 

 

肆ノ型崩し【血刃『遅咲き紅蓮華』】

 

 

斬撃が起爆する。十数体を巻き込む遅咲きの斬撃。

 

「わぁ、えぐいですねぇ。罠ですか?」

 

【玉藻】がひょっこり顔を出す。

 

「……玉ちゃん。縛の呪い。…………本体見つけ次第やって?」

 

「あいあいさー。……でもどれが本体でしょ?」

 

首を傾げる。あざてぇ仕草するんじゃ無いよ。あざとさか私にはあざとさがたりないのか。指を顎に当てて首を傾げるなんてあざとさが足りないのか。

 

「……見つけるしかないでしょ?…………全員が本体ってなわけじゃないと思うけど」

 

「【血鬼術】とはわりかし理不尽の異能ですよ。生前術士やってましたけど…理不尽ですよ」

 

「そんなものかな」

 

「ですです。【血怪百鬼夜行】も理不尽の最たるものと理解して下さいまし。…死体に仮初めの命を与え奪った異能を与えるなんて」

 

そんなものか。まぁ【黒死牟(あいつ)】と【純白(小娘)】に勝てなきゃ意味は無い。

 

 

「まぁ、探し出す。玉ちゃんいくよ」

 

羽織を脱ぎ捨て髪の毛をポニーテールに纏める。

 

 

血の呼吸・扒ノ型【増層鉄血】

 

血流の速度を上げ鬼の躰ならばこそ耐えられる増強。

 

膂力と敏捷性が爆発的に上がる。音を置き去りにする。

 

「「「!!?」」」

 

沼鬼達は私を見失う。

 

 

大木を蹴る。爆発的な膂力は足跡を大木に残しひび割れる。 

 

 

血の呼吸・伍ノ型【憐憫の血雨】

 

 

豪雨のように降る連続の突きが放たれる。

 

沼鬼達は音しか知覚できない。

 

地面へ叩き付ける刺突の暴雨。有り余る暴挙は分身体達の残骸の山とする。

 

その残骸は沼に落ち新たな分身体を作っている。

 

この沼全域に分身体を溜め込んでいるとしたら?今はこの深い森7割は奴の領域展開に落ちている。

 

ほんと厄介な【領域展開】だこと!!

 

 

血の呼吸・肆ノ型崩し【血刃『早咲き紅蓮華』】

 

刀を振るう前に血刃達が咲き乱れる。

 

私の姿が現れるより先に斬撃が分身体達の頸を飛ばす。

 

「…うざったいうざったいうざったい!!」

【増層鉄血】の増強の速度域耐えられずボロボロになる隊服のまま苛つく。

 

更なる増殖を繰り返す沼鬼達に辟易する。苛々する。今度はおそらく200体程。本当呆れる。

 

「【血霞童子】。我らが領域展開【増殖獄三途沼ノ片割】をお前に破る事など出来ぬ!!なぁ俺!!」

 

「そうだな。私。……全ては【真白】様のため。お前もあの方の作品となるがいい。素晴らしい鬼による鬼の為の楽園の礎となるのだ!!」

 

……………くだらない。

 

使う。全て討ち滅ぼす。黒死を殺すための秘奥の壱。

奴と小娘を討ち滅ぼす為の術理。そのために研鑽を重ねていた。私の力は人のため。例え疎まれ唾棄されても。

 

浸域(・・)展開『血怪百鬼統合・血纏装束ノ陣』】

 

「姫様!!?その術理はまだ不安定です!!…使う血液量も増大します!そんな雑魚に使う術理では!!」

玉藻は叫ぶ。

 

「…一瞬だよ、この沼全て吹き飛ばす。……それで終わり。…死ね。沼鬼共。」

ボロボロの隊服の上に纏うは豪奢な血の装束。十二単まではいかなくとも豪奢で清廉な血液の装束。

 

血の呼吸・死ノ型【不退転ノ紅蓮華】

 

 

刹那。全ての沼は消え失せる。

 

 

「な、なぜぇ!!?なぜ此処だとわかった!!?血霞ぃ……」

 

私の装束が1つの槍となって沼鬼本体を貫く。

 

私は先程より4里離れた場所に居た此奴を貫いていた。

 

「どうしてだと思う?」

 

「ぐはっ!!?わからぬ!!何故だ!!何故だ!!何故だ!!何故だ!!」

 

「ばぁか教えないよ。死ね。愚図。鬼の偽物が。」

 

 

こういった救いようの奴は嫌いだ。

 

あーふらふらする。血を使いすぎた。浸域展開は駄目だわ。血を使いすぎる。

 

「姫様無理するから!!」

 

「あら、心配してくれるの?玉ちゃんが珍しい。無理してみるものね。」

 

「姫様!!」

 

「わ、怒らないでよもう」

 

「怒ります。あの【浸域展開】は不安定なものです!!下手したら姫様死にますよ?!!」

 

「上等じゃない?一匹の鬼が死ぬもの。……まぁ一匹残さず殺し尽くすまで死ねないわ。あ、珠世さん達や禰豆ちゃんは別だよ?」

 

「…………【浸域展開】は他の【血鬼術】に干渉するものです。先程は沼に入るなんて無茶!!」

 

「沼の中に入ったからこそ見つけられたからさ」

 

「…………前々から思ってましたけど姫様貴女…自分の命の価値低めに見積もってません?」

 

「…………だって【鬼】だぜ?」

 

「姫様!!」

 

「………ごめん…」

ふらっと玉藻に躰を預けるように倒れる。

 

「やっぱり貴女は……!!【鴉天狗】さん!!」

 

「おお、…全く無理をしよる」

 

 

 

 

「………………【血霞童子】今動けないようだね。絶好の機会だね」

 

「誰です!!?」

 

木の上に白い蜘蛛の巣柄の着物姿の少年が見下ろしていた。

「【沼鬼】もわりかし仕事したようだね。……なら僕が仕上げだ」

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

「よもや!!よもやだ!!【血柱】殿の監視をしていたならばこのような濃い気配の鬼がいるとは!!」

 

「けっ!血女ごと殺したらぁ……」

 

「それはお館様が許すまい。そうしたら私が君を止めねばなるまいぞ!不死川!ハッハハハハ!!」

 

「うるせぇ煉獄ぅ……てめぇから殺してやろうか」

 

燃えるような髪の青年と傷だらけの青年は深い森に足を踏み入れていた。



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裏の肆【朧の朱夢と燃え上がる炎と傷だらけの風】

朧気な夢を見る。

 

まるで他人の夢を追体験するような実感のない夢。

 

記憶のない私には過去が何たるかは分からない。

 

鬼になってからの意味を持たない道程のみで。

 

【人間】の時の記憶なんて一切合切ない。私は【人間】だったなんて実感すらもない。それでも魂が覚えていたのかどうか?私の夢かも分からない。

 

 

「華。君は………強情だな。」

 

「貴方も大概よ。」

 

軒先に立つ目の前の花札の耳飾りを付けた青年は嘆息する。

 

「共に鬼を狩ろう華。君には才能がある」

 

「………あの時は必死だっただけよ?元々剣の覚えがあっただけ。私達は子ども達を守らないといけないのだから」

 

黒髪の【私】は目の前の剣士の誘いをきっぱり断る。

 

「力は必要だと思うぞ華。……鬼という存在を知った以上子ども達の安寧を守るのも力ある者の義務だ」

 

「買い被りすぎよ剣士様。昔やんちゃしていた程度の孤児院を営むただの女よ?」

 

「ただの腕に覚えがある程度で狩れるほど鬼は甘くない。君の強さは守る強さだ。燻っているのは勿体ない」

 

「しつこいよ。……その【鬼殺隊】だっけ?には入りません!私さんは此処で子ども達を守るだけで手がいっぱいです。お引き取りを。」

 

ぴしゃりと戸を閉め耳飾りをした剣士を追い出す。

 

 

「…華姉?どうしたの?」

 

一番上の少女が後ろから来て首を傾げる。

 

「なんでもないよ。なんでも」

 

「もしかして口説かれた?華姉にもようやく春が…」

ニヤニヤと笑う少女。

 

「なにー華さんがモテないともうすかーウリィィィ」

 

「きゃー」

少女にじゃれつきごまかす。

 

「あーお姉ちゃん達遊んでる混ぜてー」

遊んでると思っている下の子達が集まってくる。

 

この子たちは私の宝で全てだった。この子たちを守ることが私の全てで私の精一杯だ。私は全てを守れるほど器用じゃないし強くは無いよ。××。

 

場面が変わる。

 

 

燃える燃える燃える燃える燃える燃える燃える燃える燃える。

 

食い荒らされた惨状。愛した子ども達。積み重なる死体達。吐き気を催す血の臭い。逆巻く負の感情を抑えきれず暴発し瓦解する。憎悪と怨嗟は咆哮となる。

 

 

ああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

「すまない。華。…間に合わなかった。まだ俺達は数が少ない。……手が回らないんだ。だから俺は君を…」

私には背後に立つのはかつて誘ってきたあの耳飾りの剣士だ。

 

守れなかった。

 

「いいよ」

 

守れなかった。

 

「…………なってあげる。剣士に」

 

 

私が弱いからだ。逆巻き渦巻く感情のまま振り向く。

 

「殺し尽くしてやる」

 

【私】が抱えるのは燃え盛る劫火が如く鮮血のように真っ赤な憎悪と怨嗟だった。

 

私の全てを奪った奴は許せない。許されない。

 

 

殺し尽くすまで私は死なない。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

「姫をお守りしろ!!」

 

【鴉天狗】は先頭に立ち気絶した主の前に構える。

 

「でも、姫様が気絶したならば戦闘領域は制限されます!」

 

「だからといってみすみすやられるわけにはいかぬ!!【お雪】と変われ玉藻!!私とお雪は特別製だ!!」

 

「はい!!」

 

玉藻が血溜まりとなりお雪に変わる。雪のような髪の毛に真っ赤な和装。

 

「…………【新月】って何が狙い?」

 

「分からぬ。……姫の【色彩ノ鬼】を作ることやもしれぬ。」

 

「【鬼舞辻】への対抗手段の為かな」

 

「あの小娘ならば自分でやれば良かろうに。自分の手を汚したくないのか」

 

蜘蛛の巣が至るところに侵略してくる。

 

「…血鬼術…」

 

「蜘蛛の巣の血鬼術のようだ。」

 

「火車さん呼ぶ?」

 

「奴は燃費がわるい。……我らで相対しよう。姫の残存血液量は無駄に出来ぬ。」

 

「最初の2体だから特別製だからね…全く麟様のお馬鹿。」

 

 

「…………鬼じゃないね…?」

 

「我らは百鬼夜行。我が姫君の産物よ。」

 

「ふーん。似たようなものだね僕達。僕はうちのお嬢の作品だよ。所謂鬼の色彩を用いた生きた絵画さ。」

 

白い少年は薄ら笑う。

 

「うちのお嬢は制作意欲が異常でね。……まぁそれはいいや。君らのお姫様も作品にしたいとさ。なに死ぬわけじゃないよ」

 

「断る。小娘の危険思想は重々承知している。去れもしくは死ね。」

 

「……まぁ予定通り強行突破といこうじゃないか。僕は【新月ノ伍】を与えられた【累ノ色彩】だ」

 

 

いきなりで悪いけどと呟く。

 

 

【領域展開・縛鎖獄蜘蛛巣(ばくさごくくもす)糸呪(しじゅ)

 

 

領域展開がなされる。色彩が展開する。白と黒の単一な色彩が周りを侵す。

 

白と黒が蜘蛛の巣状に展開する。

 

「これが僕の世界だ!!妖共!!餌になるか!!血霞を引き渡すか選ぶがいいよ!!」

 

 

「行くぞお雪。」

 

「うん」

 

 

簡易領域展開【破戒刹(はかいさつ)雪式(ゆきしき)

 

お雪は消え【鴉天狗】の足元に雪の結晶の陣が展開する。

 

「行くぞ【色彩ノ鬼】」

 

「君も【領域展開】使うんだね!!」

 

「お雪と二人でなければ展開出来ない拙いものだがな。威力は保証しよう。」

 

「それは楽しみだ。」

 

空間が蜘蛛の巣状にひび割れていく。

 

「【破戒刹・雪空式】」

 

霜を撒き散らす風を纏いながら手刀で蜘蛛の巣を切り払う。空を舞う。朱の翼を羽ばたかせ空を蹴る。

 

「…はは!!やるね!!」

 

【糸呪ノ繭】

 

繭状の蜘蛛の糸を展開する。

 

「なっ!!?」

 

「ふふふ。捕らえて蜘蛛共の餌にしてあげる。」

 

薄ら笑う【累ノ色彩】

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

「ふむ。蜘蛛の糸の【異能】か」

 

「報告にあった那田蜘蛛山と同じようだなぁ…胡蝶と錆兎の奴が任務にいっているはずだが」

 

「…ここから割と蜘蛛山は距離があるぞ。鬼の根城にしては範囲が広すぎる。」

むぅと首を捻る杏寿郎に皮肉げにわらう。

 

「悪鬼滅殺。討ち滅ぼすだけだ。煉獄。殺してから考えろぉ」

 

「いやはや短絡的過ぎるぞ。不死川。まぁ悪くない。」

 

蜘蛛の糸の巣や繭だらけの森を見て不敵に笑う二人。

 

「足を引っ張るなよ不死川。」

 

「てめぇこそなぁ!!」

 

地を蹴り散開する二人。蜘蛛の鬼が複数二人を取り囲む。

 

腐臭。それに構わず二人は抜刀。

 

 

炎と風。炎が風を生み出し風がより炎を強くする。

 

二人は相性はよい。お互いにお互いを焚き付けている。

 

 

悪鬼滅殺。討ち滅ぼすのみ。




【参ノ壱】に錆兎真菰成長イメージ挿絵追加しました。


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裏の伍【煉獄杏寿郎の憂鬱と不死川実弥の激昂】

煉獄杏寿郎は迷っていた。

 

先代の父上も先々代の祖父も【血柱】殿を尊敬していたという。

その前の曾祖父も【血柱】殿に恩義を感じていたという。

 

さぞ立派な御仁であるかと期待値が高まっていた事は認めよう。柱となり相見えて女性で有ることはかなり驚いていたことは認めよう。

 

歴代の【血霞】家当主は【血柱】となると聞いていた。

 

煉獄家は血霞家のためにあれと教えをもち育ってきたのだ。

 

だが父上、先代方々…【鬼】であるとは聞いていない。

 

更に生き残りの婦女子を【鬼】にしたと先刻の会議で言っていたのだ。

 

彼女の人となりを知るには日はまだ浅い。

 

故に私は彼女の味方になるべきか。それともこの不死川と同じく【鬼】は【鬼】と断じて斬り捨てるべきかと。

 

 

迷っていた。

 

私は間違えない為に迷わねばならない。

しかし迷うという事は彼女の事を認めたいという事はではないだろうか?

 

よもや。よもやだ。私はこんなにも優柔不断であったろうか?ただ、自問する。答えを得るために。

 

私は【炎】

 

全てを燃やす篝火になるための【柱】でなくては。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

不死川実弥は苛立っていた。彼が苛立っていたのは常だったがある女に関しては顕著だった。

 

気に食わない。ただ気に食わない。

 

最初は特別扱いの【柱】がいると聞いて気に食わなかった。

 

世襲制のボンボンがなにくわぬ顔でいていい場所じゃねぇ。傷みも辛さも知らねぇ温室暮らしが気に食わなかった。

 

俺は全てを失っている。ああだから気に食わなかったのだろう。

 

女だった。花よ蝶よと愛でられ育てられたお嬢様だろうと知ったこっちゃねぇ。柱稽古とかこつけてねじ伏せてやろうと勝負を持ちかけた。

 

結果は惨敗。見るも無残だった。

 

手も足も出なければ何したかも分からぬ無残さだった。

 

 

なんでだ!!?何故こんな女に!!?

 

更に気に食わないのがこの血のように赤い女の琴線に触れたのかはわからねぇが此方に構ってくるようになったというのが気色悪い上に鬱陶しい。

 

 

…………【鬼】。【鬼】だという。

 

気に食わない理由は分かったが今まで分からなかったことが腹立たしかった。

 

【血霞麟】

柱にて鬼。

 

鬼は全て殺し尽くしてやる。

 

俺は怒りの【風】吹き荒む激昂の【柱】

 

俺はお前らの生存は許さない。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

炎の呼吸【弐ノ型・昇り炎天】

 

 

風の呼吸【肆ノ型・昇上砂塵嵐】

 

炎と風の斬撃が糸の結界を斬り捨てる。

 

「……煉獄杏寿郎と不死川実弥…!!?」

 

「【柱】!!?」

 

「…………なに寝てやがる血女ぁ…情けねぇな……!!」

 

「よもや【血柱】殿が押されてるとは」

 

「あ、いや麟様は自業自得というか…起きていれば敵ではありませんよ」

 

「間抜けめ。…まぁ邪魔だ。どけ」

 

「我らが引き継ごう。……不死川。全殺だ」

 

「当たり前だぼけぇ。…最近は雑魚鬼ばかりで苛立っていたとこだ。」

 

「ハッハハハハ!!不死川は運がないからな!!」

 

「うるせぇ熱血馬鹿。俺だけで十分だ」

 

「柱が二人いて一人が見学とは面目も立つまい。分けろ不死川。」

 

燃えるような獅子の髪型の青年と傷だらけの青年は構える。

 

鬼殺隊最高戦力の十人のうちの二人。

 

二人が何故我らの警戒区域にいるのか。

 

今回は助かったが疑問が出て来る。まあおそらくは。

 

「姫の監視か」

 

「…………お館様の指示ではない。安心めされぃ。我らが勝手にやっているだけでは無い。私は見極めたいのだ!!ハッハハハハ!!」

 

「俺はちげぇぞ。殺す大義名分欲しいだけだ。」

ち、と舌打ちをする不死川。

 

「…………なら当てが外れたな。姫の【人間好き】は筋金入りだからな」

 

「信用ならねぇ。てめぇらは血女の犬じゃねぇか」

 

「然り。故に姫のために嘘などつけんわ。……あの人は鬼の全殺を望んでるゆえにな。」

 

「てめぇも鬼じゃねぇか」

 

「姫は自身をも憎悪してるのよ。…くんでほしいものだ。人間。」

 

「知るかぼけぇ……悪鬼滅殺。悪鬼滅殺。この世全ての鬼は討ち滅ぼすだけだ。」

 

 

     風の呼吸・全集中【暴風ノ激】

 

荒れ狂う風の斬撃達は【鴉天狗()】を捕らえる糸の繭を斬り捨てる。

 

「…好きにやれや。俺はあの鬼を殺すだけだ」

 

 

 

「……【鬼殺隊】の【柱】か。…今は君らに用はないのだけど。まぁ良いや。いずれお嬢様の障害となるならば数を減らして良いよね。」

 

白い少年の両端には蜘蛛の頭部を持つ巨体の人型と妖艶な雰囲気を持つ女性型の白い装束の鬼。

 

「父さん、母さん。任せたよ。」

 

 

そしてワラワラと沸いてくる白い蜘蛛たち。

 

 

「燃やしがいがあるというものだ」

 

「…………【十二鬼月】かぁ?」

 

 

「いや、あれは鬼舞辻無惨の呪いを外れし鬼。【新月の純白】の手のものだ。」

 

「…【新月の純白】…?」

 

今の世代には馴染み深くはなく一種の怪談となっていた。

 

「…祖父様から聞いたことがある。色を奪う鬼がいると」

 

「けっ。そんな世迷い言が鬼殺隊の書庫に残ってたなぁ…事実だったか笑えるな!」

 

 

    風の呼吸【壱ノ型・塵旋風・削ぎ】

 

 

風を切る斬撃が蜘蛛鬼達を薙ぎ払う。

 

不死川は既に奴らの間合いへ入る。

 

「誰だろうと鬼なら俺らの敵だ。死ねや!!」 

 

不死川は迷わず違えず蜘蛛鬼達を切り払う。慈悲や憐憫もなくただただ切り払う。

 

悪鬼滅殺。それが存在意義故に。

 

 

    炎の呼吸【壱ノ型・不知火】

 

怒濤の踏み込みによる火焔の袈裟切りを放つ煉獄。その威力は脆い蜘蛛鬼を容赦なく滅殺する。

 

「滅殺!!」

 

 

 

   【破戒刹・雪結晶羅針】

 

 

雪結晶の羅針盤のような陣が鴉天狗の足元に展開する。

 

「雑魚鬼は受け持とう。」

 

羅針に飲まれた蜘蛛鬼達は凍りつく。そして砕ける。

 

 

「やって。母さん。父さん。」

 

 

巨漢の鬼の咆哮が開戦の合図となる。




捏造風の呼吸。はたして不死川くんの戦闘は原作で来るのか俺氏懸念。

不死川くんは最初麟と恋愛させる案がありましたが書くほどビジョンが見えなくなり没。

6月25日
風の呼吸壱ノ型と伍ノ型が既出だったので訂正。

7月13日
肆ノ型判明したので訂正。


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裏の陸【色彩ノ鬼・蜘蛛糸地獄】

【領域展開・縛鎖獄蜘蛛巣ノ糸呪】

 

【累ノ色彩】を名乗る【色彩ノ鬼】の【領域展開】

 

糸とそれを生み出す蜘蛛の鬼の巣と化す【領域展開】だ。

 

 

糸による獲物を狙い定める1つの捕縛領域。

 

ワラワラと際限なく現れる蜘蛛の鬼達は此方を狙い定める。

 

主たる【白い少年】をさらに父なる鬼と母なる鬼を守る壁となる。

 

だが烈火の如き炎と荒々しい暴風の前には塵芥に過ぎない。

 

 

炎の呼吸・肆ノ型【盛炎のうねり】

「ハッハハハハ!!」

 

烈火の如き闘気を纏うは【炎柱】煉獄杏寿郎。

彼は炎を纏う刃にて糸を断ち切り蜘蛛の鬼を燃やす。

 

風の呼吸・参ノ型【穿ち曲風】

 

「張り合いがねぇ。」

 

烈風吹く死の風を纏い糸を断ち切り蜘蛛の鬼を細切れにするのは【風柱】不死川実弥。

 

 

炎と風。糸を操る蜘蛛の鬼である【累ノ色彩】からしたら相性は悪い。

 

「相性が悪いね。母さんはあの炎の奴を。父さんは傷だらけの奴をやって!!」

 

糸を操る女性型の蜘蛛鬼は煉獄へ巨漢の蜘蛛鬼は不死川へ襲いかかる。

 

白い女性は人型の蜘蛛を複数操り煉獄へ突貫させる。

 

巨漢は咆哮を上げ膂力に任せて不死川を殴り付ける。

 

二人は苦もなく躱す。柱の中でも練度の高い二人だ。より貪欲に強欲に力を磨き研鑽してきた。

 

悪鬼滅殺。一匹でも多く屠る為に。

 

燃える力と吹き荒む力は薙ぎ払う。

 

 

「流石は鬼殺隊最高戦力だね。だが僕にも矜持がある。【色彩ノ鬼】としてね。……」

 

領域展開【縛鎖獄蜘蛛巣ノ糸呪・溶解ノ檻】

 

周りの雰囲気がまた一切合切変わる。まるで胃袋の中のよう。咀嚼し嚥下して消化する。

 

 

「姉さん」

 

「ええ」

 

姉と呼ばれた白一色の少女はつまらなそうに立つ溶解の檻の要のようだ。

 

【領域展開・縛鎖獄蜘蛛巣ノ糸呪・巨蜘蛛ノ豪傑】

 

さらに父と呼ばれた鬼はさらに肥大化。肥大化を繰り返し木を超える高さまで肥大化した巨大な蜘蛛となる。

 

 

【領域展開・縛鎖獄蜘蛛巣ノ糸呪・操り人形ノ劇場】

 

母と呼ばれた女性の鬼は巨蜘蛛の背に立ち無数の糸の人型を作り上げる。全て彼女の手元より現れ操り人形となっているよう。

 

 

3種の【領域展開】の展開。全て溶かす溶解の檻に巨蜘蛛に無数の操り人形。

 

「厄介な。あの巨大な蜘蛛でも厄介そうな上に胃袋の中のように溶解液が流れ出てくる。そしてそれをものともしない糸の鬼か。ハッハハハ!!笑えるな不死川。このような異能の鬼見たことないわ。」

 

「弱音吐くのか?煉獄ぅなら尻尾巻いて逃げやがれ」

 

悪態をつく不死川は舌打ちし一瞥する。

 

「笑わせるな不死川。俺はこのような鬼を滅する為に研鑽し力を蓄えてきた。剣士冥利に尽きるというものだ」

 

不敵に笑う。不死川という風が煉獄という炎を焚き付ける。

 

迷いなく臆せずこの戦いに身を投じる。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

【柱】というものを侮っていたのかもしれない。

 

主【血霞麟】という力を常に目の当たりにしていた為に同じ柱であり鬼である主よりはと無意識に断じていたのかもしれない。

 

私は人間の強さと弱さを知っていたのにだ。

 

救えた拳と救えなかった拳があったと朧に覚えている。救って救えなかった少年の顔を思い出す。愛弟子で息子となるはずだった少年の強さは間違いなく人間の強さであったと思い出す。

 

【烏天狗】は目の前の強さを持った人間に微かな記憶が重ねていた。

 

人間の【意思力】の強さに。

 

 

炎の剣士は炎を纏い笑い糸の鬼を薙ぎ払い打ち払う。

 

風の剣士は巨蜘蛛の攻撃を交わし傷付きながらも怯まず攻撃を繰り返す。

 

意思力は【悪鬼滅殺】

 

ただ害なす鬼を討ち滅ぼす為だけに力を振るう。

 

鬼には出来ない。それを。

 

「姫が好きな理由も分かるやもしれぬなと」

 

自身もまた、構える

 

   

    【破戒刹・風式】

 

彼等を死なせない。姫に顔向けできぬ。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽

 

 

【累ノ色彩】は苛立っていた。二匹の羽虫に手こずっていた事に。

自身はお嬢の創作物で彼女に類する力を与えられた。

 

存在意義で存在価値で存在理由。

 

それがなければ唾棄されると確信する。彼女にとっては作品。愛着はあれど劣悪であれば捨てられる。

 

芸術家とは失敗作には興味はない。

 

失敗作と断じれば直ぐさま埃に被れる。その程度の価値に成り果てる。

 

それは嫌だ。有意義であると証明し続けなければならない。そうしなければならない。

 

「人間如きが僕の邪魔をするなよ!!」

 

 

巨蜘蛛は多量の溶解液を吐き出す。濁流のような溶解液が流れ出す。

 

二人をおおう。骨まで溶かす溶解度。飲み込まれたら塵芥となるだろう。

 

 

「なに!!」

 

「しまった!」

 

 

    【破戒刹・氷結式】

 

 

烏天狗が溶解液の濁流を凍らして風を纏う拳で砕き薙ぎ払う。

 

「……いけ!!鬼殺の剣士!!」

 

 

「うるせぇ!!言われなくてもな!!」

 

「かたじけない!!」

 

煉獄杏寿郎は上段に刀を構える。

不死川実弥は下段に刀を構える。

互いに鬼を討ち滅ぼすための鬼を殺すため鍛え上げた絶殺を誓った絶技を繰り出すため力を溜める。二人の刀に刻まれた【悪鬼滅殺】の文字を体言するために。

 

「炎の呼吸・玖ノ型奥義!!」

 

 

「風の呼吸・扒ノ型奥義!!」

 

 

二人の殺意が炸裂する。

  

 

 

 

   「【煉獄】!!」「【不死(しなず)神風】!!」

 

 

煉獄杏寿郎の怒濤の炎の燃える塊はその勢いのまま巨蜘蛛を薙ぎ払う。その強大なまでの威力はその巨体を討ち滅ぼす。横殴りに放たれた火柱は巨体に穴を開ける。

燃やし穿ち崩す。煉獄杏寿郎はそのまま巨体の穴を貫通し背後に出た。

 

不死川実弥はそのまま特攻。その名前の通り神風が如く特攻。捨て身の風を纏い糸の鬼達を薙ぎ払う。

 

狙いは【累ノ色彩】ただ一体。殺意を練り上げ突き進む。神風が如く速力でさらに特攻。特攻。特攻。

 

「死ねや!!」

 

 

【累ノ色彩】は糸の壁を創り出そうとするがその速力の前に間に合わない。

 

閃く一刀。清々しいまでの純然たる殺意が【累ノ色彩】の頸を刎ねた。

 

「なにぃ!!?」

 

「とれぇ!!おせぇ!!」

 

勢いは止まらず背後に行った不死川は反転更なる追撃を放つ。

 

    【不死神風・弐撃滅殺】

 

返しの太刀が胴体をさらに真っ二つにする。

 

「くっそぉおお!!!!!!」

 

 

「お嬢に殺されろ!!【柱】ぁ!!鬼の楽園にはおまえ達など餌に過ぎないんだからな!!」

 

頸のまま咆哮。激昂したまま瓦解していく【累ノ色彩】

 

 

「鬼の楽園たぁ…んな気色悪いもの認めるかよ」

 

瓦解していく頸を踏み付ける不死川実弥。

 

「………お嬢とは気になるな」

 

「…【色鬼】って奴かぁ?【鬼舞辻】一派とは違うんか?何時まで寝てんだ血女!!説明しやがれ!!」

 

眠る血霞麟の頭を蹴り上げる。

 

「か、仮にも女性ですよ!!?不死川様!!」

 

烏天狗より分離したお雪が慌てて止めに入る。

 

「知るかボケ。鬼なら丈夫だろう。アホ抜かせ。」

 

 

「………仮じゃなくても女性なんだよなぁ…バイ麟ちゃん……いったぁい……お嫁に行けなくなるじゃん!責任取って貰ってよ!!実弥ちゃん!!」

 

「てめぇみたいな醜女誰がいるか!!ボケ!!」

 

 

「醜女!!?」

 

覚醒したばかりの麟は不死川の暴言にショックを受けていた。

 

 

「…醜女……無表情だけどさ……愛嬌はないけどさ…そこそこ美人だよね…?お雪」

 

お雪に泣きつく。

 

「はいまぁまぁそこそこ美人ですよ」

 

「まぁまぁそこそこ!!?」

 

 

「喧しい女だ…くそ、敵視すんのも阿呆らしい。」

 

納刀する不死川。盛大に嘆息する。全身が軋む。

 

奥義【不死神風】

その名の通り捨て身の超速剣術。

人の身で至るには代償が必要な速度の世界。

 

柱【最速】の剣士。

 

 

「……ちっ」

 

 

………ゆる…さ……。

 

 

許さない。

 

 

「ゆるるさななないいぃいいぃ!!」

 

 

瓦解した筈の【累ノ色彩】

 

 

「「「「!!?」」」」

 

 

【累ノ色彩】だったもの。瓦解したまま立ち上がる。

 

 

「ゆるるさななないいぃ!!ぼぼぼくは………なるものか!!!!!!用済み用無しになどどど!!」

 

崩れる色彩は形を成さない。だが妄執は混ぜた絵の具のようなぐちゃぐちゃな色彩で巨大な蜘蛛を形作る。

 

「…………なんじゃこりゃ」

 

 

唖然。この世ならざる子供の落書きのような巨大な蜘蛛を形作る。

 

「僕は役立たずなどどどになるかかか!!!!」

 

 

ただ妄執。意味なし意義なし理由なしを怖れ怯え立ち上がる。

 

それが【純白の呪い】

 

 

「ち、化け物が」

 

「…死に際程恐ろしいものはないな」

 

柱二人は再び抜刀。

だがその前に血霞麟が突き進む。既に左手に真っ赤な刀を構え抜刀していた。

背中に【喰】の文字が二人の眼前に入る。

 

「私の敵だ。……二人はボロボロだ。下がって」

 

「うるせぇ」

 

「聞けぬな。貴女もボロボロではないか?」

 

 

「…私は【鬼】だよ。……ありがとうね助けてくれて」

 

「うるせぇつってんだろ!血霞!!」

 

 

「下がれと言っているんだ小僧。此処からは魑魅魍魎。悪鬼の戦いだ。」

一瞥すらせず血霞麟は威圧する。

 

 

「てめぇ!!訳分からないだろが!!鬼は鬼らしく…!!」

膝をつく。全身が軋む。

 

「……不死川下がるぞ!」

不死川を抱えその場を離脱する煉獄。

 

 

 

「ちがすみぃぃりぃぃん!!!!お前のいろろろはもちかかえるぇえ!!」

 

 

「哀れ。」

 

襲い掛かる【累ノ色彩】巨大蜘蛛の脚を一閃。斬り捨てる。

 

悲鳴ならざる咆哮。黒墨みたいな体液を撒き散らす。

 

 

血の呼吸・肆ノ型崩し【狂い咲き紅蓮華】

 

刀を幾回振るう。狂い咲き華が如く血の刃が咲き誇る。

 

巨大蜘蛛を連続して切り払い薙ぎ払い斬り捨てる。

 

 

「眠れ。せめて安らかにな。」

 

 

今度こそ瓦解していく。塵芥となり風に消えていく。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

「…………凡作で御座いましたわね。」

 

ボソリと呟く。

 

 

「あら、貴女にしては優しい評価なのね真白。おかわりは如何?」

 

対面に座る灰色の和装の妙齢の女性。

 

茶室のような場所で白い少女と灰色の女性は対面で優雅に座る。

 

「頂きましょう……中々駄作しか生み出せない我が身がもどかしいですわ」

 

「貴女に謙虚な気持ちがあったとは意外ね」くすくす笑う。

 

「五月蠅いですわね。【新月の灰色】灰羅さん」

 

真白の不機嫌さに愉快そうに笑う。

 

 

「くすくす。我等が悲願【鬼の楽園】達成の為期待してるわよ。」

 

 

「……【血霞麟】はわたくしの観賞動物ですから手を出さないでくださいましね」

 

「ええ、分かってるわ。野暮な事はしないわよ。」

 

ただただ愉快そうに笑う灰羅に顔をしかめる真白。

 

「……次の作品に着手しますので失礼しますわ。お茶美味しかったですわ」

 

立ちあがる。

 

側に控えた琴を奏でる女性が音色を奏でると真白の姿が消える。

 

「…ふふっ」

 

愉快そうに笑う灰羅の姿も消え琴の鬼も居なくなる。

 

 



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色奪ノ壱【見えざる月】

   

酷く不愉快な不快感。生前私は常にそれを抱えながら生きてきた。その不快感の正体は直ぐさま明らかになった。

人食いの鬼。夜な夜な人を喰らう人外の化生。

 

その畜生に対して極度の嫌悪感。不快感があった。

 

その影に怯え生きていかねばならないのか。

断じて否。刈り尽くしやる。

他ならぬ姉の死体の前にそんなことを幼き自分は考えていた。

鬼の食い残しと化していた姉の前にそれ以外の感慨がなかった私も十二分畜生だったと実感したのは大分後だったのは今となってはどうでもいい。

 

ただ刈り尽くし殺し尽くす。あの女はケチを付けた。鬼畜生が人間社会に混ざるなんて許されないしましてや鬼殺隊になど。排除してやる。沸沸とした怒りは蓄積する。いずれ意味すら破綻すると言うのに気付かぬまま。

 

 

「瑠偉ちゃん。お目覚めかな?」

 

「目覚めは最悪よ。……(そら)

 

「そう?私は快眠だったよ?」

 

空色の2つくくりの長い髪を左右に垂らしてぴょんぴょん跳ねる。快眠とは程遠い覚醒には煩わしかった。

 

「能天気なあんたが羨ましいわ。酷く最悪な目覚めよ。…………まぁいいわ。【血霞麟】にお返し出来るならなんでも」黒髪長髪のスレンダー体型の私は変わらず。

 

「……鬼嫌いの瑠偉ちゃんが【鬼】になるなんて笑えるね。拗らせすぎでしょう。ウケる」

 

ケタケタ笑う天。相変わらずうざったい。

 

「五月蠅いわね。【新月の空色】上臥原天。」

 

 

「どう致しまして。【新月の無色】鎖天川瑠偉ちゃん」

 

 

かつての鬼殺の剣士最高位【柱】の二人は鬼となっていた。知らない肩書きがすんなり出て来る。

 

「………ようやくお目覚めですこと。やはり鬼舞辻のようには行きませんわね。忌々しいことですが」

 

白い女。【新月の純白】真白が軽く嘆息する。

 

 

ここは白い屋敷だった。内装も外装も調度品も全て西洋風で真っ白とした屋敷だった。潔癖過ぎる純白は生活感を塗り潰していた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 

「あら、野蛮な顔ですこと。とりあえずは成功ですわね。【鬼殺の剣士】の【色彩ノ鬼】化は」

 

 

「…何かしらあんた」

 

「【新月の純白】ようこそ【見えざる月】へ。歓迎致しますわ。」

 

【見えざる月】?

 

「……【見えざる月】私達は見えない月【新月】の名を関していますわ。まぁ【鬼舞辻】産の【十二鬼月】を皮肉って付けましたけれども」

 

「私達ってことはあんた以外にもいるわけ?」

 

「勿論。【色彩】を与えられた者は【十二鬼月】に匹敵もしくは上回る力を有してます。貴女達元【柱】なので下弦の鬼は相手にならないでしょう。【空色】と【無色】?」

 

成る程ね…鬼の躰に【呼吸】か。

 

 

「まぁ、私は【血霞麟】にお返し出来りゃなんでもいいわ。」

 

「私は元々あばれたいから鬼殺隊にいたわけだしぃ…まぁ、暴れれるなら鬼でもいいや」

無邪気ににぱ~と笑う天。

 

「あんた…そんな理由で鬼殺隊にいたわけ?」

 

「ダメ?鬼なら何してもいいでしょ?ありゃ今自分が鬼だったわ。きゃは♪…皆復讐だの恩義だの忠義だの重くて敵わないわ」

 

「軽いのはあんたの脳みそでしょう。はぁ」

 

 

「…わたくしの為に働いて頂きますわよ?」

 

「【血霞麟】をやらせてくれるならなんでも」

 

「暴れれるならなんでも~♪にゃは♪」

 

即答。鬼になってしまった躊躇いもなく首肯する。

どうしようもない暗い怒りとただただ破壊衝動故に。

 

「結構ですわ。貴女にやられるなら【血霞麟】もそこまでの女という事ですわ。お好きに」

 

薄く笑う白い女。馬鹿にしたように笑う。気に食わない。あんたが私達を【鬼化】したのかは知らないが気に食わない。【色彩ノ鬼】?は、気に食わない。

 

「…そうそう【色彩ノ鬼】は厳密には【鬼】とは違います。……飢餓感、人食いを行う必要はありませんわ。…………ただただ私の【作品】であることお忘れ無きよう」

 

「…は?」

 

「?」

 

白い女はいなくなる。

 

「仔細は追って連絡します。自身と現状把握に努めてくださいましね」

 

 

「とりあえず情報収集かな?かな?」

 

「私は好きにやらせてもらうわよ」

 

「え~、協力しよ~よ!寂しいじゃん☆時代も違うみたいだし?元号も大正?に変わってるみたいだし。」

 

「……他の柱が存命してるかも知れないし鬼殺隊にかち合うのは面倒そうね。流石に現役じゃないでしょうが」

 

「鱗滝ちゃん辺り育手してそう。桑島ちゃんも」

 

「煉獄はお家が歴代柱継いでるし面倒ね」

 

「ま、…殺せば良くない?全殺全殺♪み・な・ご・ろ・し♪」

あはっと無邪気に殺意を語る幼い風貌に怖気が走る。

 

「………………そうね。」

 

 

白い屋敷を出る。真夜中。鬼の時間帯。

 

狩る側から狩られる側になろうともやることは変わらない。

 

憎い相手()を殺すだけ。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

私は【下弦の肆】名を零余子(むかご)という。

 

あの方の直属【十二鬼月】の末席に連ねる鬼の一人。

 

下弦から数えて4番目、上弦から数えて10番目の強さを現状有している。

上弦と下弦の強さは隔絶している。ここ百年【入れ替わりの血戦】を行われず上弦の地位は変わっていない。

 

私の知らない所で行われてはいたかも知れないが序列は変動していない。

 

それ程隔絶している。下弦ですら4番目の私は挑む気は無い。

 

……あの方は現状の【下弦】の状況に失望なさっていた。

 

全てあの【血霞麟】のせい。あの女のせいで【下弦】の価値は失墜していた。

 

あの女が誕生してから死んだ下弦は有に50は越えている。

 

あの方は呆れ果て失望なさってしまった。

 

故に私はあの女を潰すためあの女の動向を探っていた。

あの女の根城としている深い森に【血鬼術】を使用し潜り込んでいた。

 

累がいた。私より弱いはずの累が【柱】二人相手に激戦を行っていた。

 

悍ましかった。……けれど違和感。繋がるあの方の共有知識が教えてくれた。

 

【新月の純白】あの方のお力を外した鬼のその背徳的な力。

 

【色彩ノ鬼】…累の複製体だと。

 

 

……………………頭が痛い。

 

 

【血霞麟】をどうにかしたいのに別の鬼がいるとは。

 

 

戦術的撤退。そうしよう。

 

   【逃げるのか?下弦の肆。情報収集に徹しろ】

 

あの方のお言葉。はい、やらせて頂きます。

 

その場を離れず息を潜める。

 

結果は累の複製体の敗北で終結する。

 

【血霞麟】はより強くなっていた。【色彩ノ鬼】は化け物だった。

これ以上の情報はないと今度こそ撤退しようとする。

 

 

「逃がすかよ。なぁ鬼」

 

ファー!!?

 

赤い毛並みの犬人間に捕まってしまった。

 

 

………………捕まってしまった。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

「姫、女の鬼が潜んでいた。」

 

きゅーっと気絶した少女の鬼が目の前にいた。

 

「……………【十二鬼月】?」

 

「……………恐らく。」

 

 

「お馬鹿!犬神のお馬鹿!鬼舞辻にバレんじゃん!!拠点が」

 

「…すでに此奴がいるから既に遅いかと」

 

さねみちゃん達が帰ったあとが幸いか。

 

 

「……まぁ………良いこと思い付いた。」

 

「姫、悪い顔してるぞ」

 

「失礼ね、知的な顔って言いなさいな。その子起こして犬神。」

 

「いいのか?」

 

「玉藻。結界張って」

 

「はいはいさ」

 

「何する気だ?」

 

「鬼舞辻の呪いを発動させる」

 

「……殺すのか?」

 

「まさか。……よし、準備完了私はいつでも」

 

「姫に考えがあるならいいが起きろ」

 

少女の鬼を軽く小突く。

 

「わひゃ!!?な、なにぃ!!?」

 

「こんばんは。可愛い顔しているわね。初めまして……【下弦】………【肆】か。奇遇ね私勧誘されたとき【肆】だったのよ。【上弦】だけどね」

 

抜刀。首筋に突き付ける。

 

「…鬼舞辻の指示?」

 

「……独断よ…」強張る。おや下弦にしては恐怖に素直ね。

 

「……………………そう。君からは鬼舞辻に対しての怯えがある。恐怖で支配なんて小物ね鬼舞辻は」

 

「あ、あの方は…小物では……」

 

「小物よ」

嘲笑。最大級の嘲笑をぶつける。

 

「…………………き、鬼舞辻様は…!!……あ…」

 

唖然。その名を口にしてしまったことに絶望する。

 

直ぐさま変化が訪れる。口より巨大な口が吐き出される。

 

 

血の呼吸・壱ノ型【血纏斬り】

 

私の一太刀は伸びた腕を切り払う。

 

「え…?」

 

「………まだ呪いがあるはずだけど大抵この一度だけのはず」

 

 

    血鬼術【百鬼創生・禍ツ華(まがつばな)

 

 

血液が【下弦ノ肆】を飲み込む。

 

 

「姫、鬼を【百鬼夜行】化するのか!?」

 

 

「…前々から思ってた鬼を人にもどす方法の実験だよ。……最近下弦以上の鬼との遭遇なかったし好都合。」

 

まぁ【百鬼夜行】も所詮は人外だけど。

 

「人食い衝動の、有無は大きいはず」

 

飲み込む血液が【下弦ノ肆】に浸透し赤い髪赤い着物へ変換する。

 

「…成功かな…?」

 

「…え、えっと……」

ぽかんとしている元【下弦ノ肆】

 

「鬼舞辻無惨は小物。はい」

 

「き、鬼舞辻無惨は……小物……?」

そのまま繰り返し言ってしまい口を抑えるが呪いが発動する兆候はない。

 

「…呪いが外れたね。…………くっくく。鬼舞辻の悔しがる顔が楽しみ。さてようこそ我が【百鬼夜行】へ」

 

薄く笑う私に元【下弦ノ肆】は唖然としていた。

 




下弦ノ肆ちゃんは可愛い

ファンブックより下弦ノ肆ちゃんの名前判明したため訂正しました。


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閑話ノ弐【元下弦ノ肆・零余子ちゃんの憂鬱】

下弦ノ肆・零余子色々捏造。
ファンブックでも名前のみ判明。


私は元【下弦ノ肆】名前を零余子(むかご)といいます。血のような鬼たる彼女【血霞童子】には感謝している。

 

 

何よりあの方……いや、鬼舞辻から解放してくれた事は大いに感謝している。

 

そもそも鬼になったのも不本意で死にたくない一心で生き残っていたら何故か【十二鬼月】になっていた。

 

柱に遭遇したら真っ先に逃げていた私が下弦とは言え【十二鬼月】に数えられていたのだろうか。

 

身体能力自体累以下であるのも自負している。

 

 

私は【血鬼術】を二個持っている。これは上弦ですら単一のはず(…はず)

 

膂力が並の鬼の私が下弦たらしめた特異性。

 

「……二個…かぁ」

 

「様々な【百鬼夜行】に奪った【血鬼術】を与える麟様からしたらたいしたこと無いかも知れませんが」

 

「……ううん、私も根幹は【血液操作】だもん。副産物よん、それは」

 

「……………並の【血鬼術】より【血鬼術】してますよ。」

 

「そう?」

 

「…………麟様は普段はその恰好で?」

 

麟様の着崩した普段着に軽く目を逸らす。……見た目は若々しいし肌を晒すのはいかがなものか。

 

お綺麗なものだ。羨ましい。こちらとら成長止まって寸胴体型だというに。ギリギリ。

 

 

「どうしたの?…楽だからついね」

 

「いえなんでも……」

 

溜息をつく。……あの【血霞麟】がこうも女子力の低いお方だったとは。

 

「………なんだいその目は」

 

「イエナンデモナイレフ…」

 

 

こうして私は【鬼】ではなく彼女の【血怪百鬼夜行】の一員【血怪ノ鬼】零余子となった。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

【雪娘】ことお雪の場合。

 

氷結の力を持つ【血怪】が壱。私とそうは変わらない見た目にも関わらず【血怪百鬼夜行】では古株らしい。

まぁ、鬼も見た目は止まるし【百鬼夜行】は基本的に死体だからなんとも言えないのだが。

 

それでも見た目年齢が近い私が入ってきて嬉しいらしい。

 

まぁ男性型ましてや異形の多い【百鬼夜行】では仕方ないのかもしれない。

 

「零余子さん、家事経験はありますか?」

 

「……家事経験…?」

 

それ聞く?……【鬼】になって下弦までなったのだ。若輩の【鬼】ではなくそれなりの年月を重ねていた。

 

つまり家事など必要としていた生活とは程遠い。文明的とは言えない【鬼】の生活。中には人間社会にうまく混ざる鬼も居たのだろうが。

 

…つまり。

 

「…ない。」

 

記憶の限りしたことは無い。人食いはしたがグルメな方ではなかったし。人間の時の記憶なんて忘却の彼方だ。

 

「……久しぶりの【百鬼夜行】しかも女の子。…………【百鬼夜行】は【血霞】邸の日常生活でもそれぞれ役割あります。私は基本的家事担当です。しかしこの血霞邸。麟様始め横着な方々が多いです」

 

はぁ。

 

呆然と彼女の言葉を聞く。逃がさないという確固たる意思を感じた。あかんやつでは?

 

 

家事の基本とは?

炊事、洗濯、掃除。生活を営む上でどれかを疎かにすれば他も疎かになると彼女は語る。

 

どれかを疎かしていいという考えが浮かぶこと自体不適格だと彼女は語る。

 

「さぁ、やってみましょう」

 

ニコニコと笑う彼女に二の句が継げなくなる。やるよやるけどさ!

 

 

小一時間後。

 

炊事。

米を洗うと何故か粉々になった。

 

御味噌汁は何故か濃すぎる味になった。

 

「力加減と分量が雑ですよ!零余子さん!!」

 

あっれぇ……?

首を傾げる。巫山戯てなど勿論居ない。

 

「麟様と同じ大雑把なんですね」

 

ガーン。

私は女子力なかったのか…のか……。

 

 

掃除。

 

掃くだけだろ。それ位出来る。うん。

 

あ。

 

躓く。物を倒してしまう。しまいには壊してしまう。

 

ごめん…。

 

「注意力散漫ですね」

 

冷ややかな視線やめて。

 

 

洗濯。

 

まだやるんですか?とお雪からはもう諦観を感じる。

 

 

意地があるんだよぅ!!女の子にも!!

 

 

あ。

 

せっかく洗って干す洗濯物達を転んで泥塗れにしてしまった。

 

 

追い出されました。ちくせう。

 

 

 

【犬神】の場合。

 

 

家事に関して無能の烙印を押された私はとぼとぼと次へ向かう。

お雪に言われて来たのは私を捕まえた赤い毛並みの犬人間【犬神】が居る場所。血霞邸から離れた深い森の広場。

 

【犬神憑き】達血の狼の長。この【血霞邸】の警護が主な仕事らしい。

 

まぁ私も元【下弦】こと戦闘においては膂力に自信は無いもそれなりなはずだ。

 

…………いや【上弦】相当の麟様の力の顕現だよねこの人達。怖い。

 

【犬神】の周りには20体程の【犬神憑き】

 

それは憑いた下級の鬼達を狼の形へしているらしい。

麟様が食べるに値しない血鬼術を持たぬ下級の鬼の成れの果て。元鬼からしたら怖い。

 

「…………」

 

いや、何か話して下さい。怖い。

 

何が【百鬼夜行】の良心だよぉ…怖いって。

 

他の【百鬼夜行】がやばいってこと?

 

 

 

小一時間後。

 

意外と【犬神】さんは優しかった。ただ、女子の少ない【百鬼夜行】では接し方が分からなかったらしい。

 

うんいい人だったが私が彼の挙動に一々ビビった為仕事にはならなかった。小心者ものですいません。

 

 

だって彼、強面ですもん。

 

私、犬苦手だったわ。

 

【百眼鬼と玉藻】の場合。

 

【玉藻の前】さんのという数少ない女性型百鬼夜行の人はどうかと彼に勧められた。

 

血霞邸へ戻る道中髪の長い腕に包帯を巻いた陰鬱な女性に前を遮られた。え、どこから来たのこの人。

 

「【犬神】様に媚び売ってんじゃないわよ淫売」

 

盛大な舌打ちと共に恫喝されました。怖い。しかも呪われそう。

 

逃げる。

 

 

 

「あ~【百眼鬼】さんですわねぇ。彼女面倒ですわよ。【犬神】さんに絡むと絡んで来ますわよ。え?わたし?あははは、最初絡まれましたけど覗き見しか出来ない雑魚ぼこしましたとも。覗き見なら弱味握られそう?……狡猾さで私に勝てますかってものです。ちなみに雪ちゃんにも負けてますから彼女。」

 

意味深な笑みを浮かべる【玉藻の前】さん。

 

ちなみに彼氏といちゃつくとかですぐに追い出されました。

 

 

【鵺】の場合。

 

 

「わいの仕事?遊ぶことやで~」

 

羨ましいけど真似たら怒られそう。

 

 

【土蜘蛛】の場合。

 

「食べる」

 

以下同文。

 

 

【火車】の場合。

 

「力仕事全般だからいくら鬼とはいえ任せたら男が廃るから勘弁な。」

 

鬼でも膂力には自信無かった。

 

 

 

 

自身の無能さにちょっと泣きそう。

ここでも、失望されたら行く当て無いんだよなぁ。

 

縁側で膝を抱える。

私の私だけの唯一性は二個の【血鬼術】くらい。

 

 

名前の元になった【零にする力】と【余らす力】減少と増加の力を操る【血鬼術】

 

自身にはまだ持て余した力であると自覚はしていた。

 

使い方によっては上弦へと迫ると考えていた時期はあったが私自身は貧弱だった。故に下弦の肆で収まっていた。

 

その立場は今や無い。執着など無く呪いのような物であったが。今になっては解放されたとしてどう生きていけばいいか正直分からない。

 

故に見捨てられたら正直困る。

 

そういえば【血霞麟】とは【鬼喰らい】で【鬼嫌い】だ。【鬼】ではなくなった筈だから喰われないだろうが【鬼嫌い】ではあり私が人食いしていた事実は消えない筈だから……。あれ?なんで私は生かされているんだろう?

 

 

「どうした?新入り?」

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

【烏天狗】の場合。

 

 

【烏天狗】、天狗の面に胴着に赤い翼を纏う壮年の男性型百鬼夜行。

 

ここ数日中みてて分かったがお雪同様古株でこの百鬼夜行のとりまとめ役の麟様の腹心。

 

上弦に匹敵するであろう実力はあるかも多分下弦じゃ相手にならない。

 

……媚び売っておいたほうが良いかな?

 

「あ、えっと………」

 

「…大方、役割探しに奔走していたのだろう。気にしなくて良い。そのうち見付かるわ。」

 

「……はぃ」

 

「………お雪の奴が浮かれていた。友達が出来る。とな。百鬼夜行は自由気ままな奴が多くお雪の精神年齢が近い奴がおらなんだ。相手してやってくれ…生前は病でな友達は居なかった」

 

「…生前…?」

 

「お雪の奴はもう、あやふやだ。…婿のことしかもう覚えてはいまい。……私もまばらだ。……けど忘れる訳にはいかない」

 

「お雪は」

 

「私の娘さ。…………」

 

「そう、………友達になれるなら良いけど私は【人食い】だ。今はもう大丈夫だけど………罪は消えない。麟様は何故私を生かした?」

 

「……………麟様は【鬼】を嫌うが根幹は【略奪者】を嫌う。人でも鬼でもな。…………お前に罪の意識を自覚出来るなら……姫がお前を鬼から【百鬼夜行】にした意味がある。……あの人はそこまで考えているとは思えんがな」

 

「……………そっか」

 

私に意味が在るなら………嬉しかった。

 

今までの生きるだけの奪うだけの亡霊の罪を贖えるなら………私は頑張ろうと思う。

 

「ありがとうございます。……よろしくお願いします」

 

「お雪と仲良くな」

 

「はい」

 

意味を見つけるために。



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色奪ノ弐【柱合会議裁判・裏】

肆の壱から続いてます


「………………産屋敷邸も私の時とは別の隠し方していたから迷ってしまったわ。」

 

「私のお陰なんだから感謝してよね。きゃは♪」

 

長身の女と年端もいかない少女の奇妙な組み合わせ。え、くそ。小娘と同じ雰囲気を持っていた。

長身の女は男性が着る背広で羽織を着て長い黒髪で鋭い目付きに涙のマークが目元に。

少女は最近ようやく都会で見るようになった空色の洋装。

 

しかし旧知だ。その死んだはずの旧知はかつてと変わらない年頃で変容した姿。しかもこの産屋敷邸に現れた。

 

「誰だてめぇら…」

 

「此処がどこかわかって……」

 

柱達は臨戦態勢。各々は刀に手を掛ける。

 

「………鎖天川瑠偉、上臥原天なんで君たちが生きてるのかな?君たちは戦死したはずだ」

 

私は日光が当たるぎりぎりまで前に出る。

 

 

「そんなの決まっている。あんたを鬼殺するために地獄から蘇ったとでもいってあげるわ。つくづく今代の【柱】は間抜け面揃いらしい。この女に我が物顔で居座られてるのだから。鬼を殺してこその鬼殺隊でしょうが。間抜け共」

 

嘲笑。口角をつり上げ愉快そうに嘲笑する。

 

殺意を一身に受けなお怯まず嘲笑を続ける。

 

最高戦力【柱】達の殺意を受け流す。

 

「……ひゃは♪♪♪この子達貰って良い?瑠偉ちゃん!!」

 

幼き化生は目を見開き歓喜に溺れる。獲物を見つけた肉食獣が如く舌なめずりする。

 

「………今日は挨拶だけって言ったのはどこのどいつよ。天」

 

 

「…………上臥原天…だね」

静観していたお館様が声を上げる。

 

「お?は~いは~いは~いは~い。そぉでぇす。」

 

当てられた生徒みたいに元気よく返事する。

 

 

「上臥原家最期の君が鬼になっているなんて残念だよ。歴代最強の剣士であった【(そら)の呼吸】使う君を失ったのは損失だと先々代の手記に残っていたよ」

 

 

「………それは、光栄だなぁ。でもー今だから言うんだけど。上臥原家。アタシ以外鬼に殺されちゃったって言ったンだけど……殺したのアタシなんですよね!きゃは♪」

 

「上臥原家に相応しい振る舞い振る舞い振る舞いって五月蠅くてさぁ。【怪物】のアタシに無理言うなって感じなんですよね?にゃは!」

 

歪に狂い曲がった笑みを浮かべる幼き風貌には似つかわしくない狂笑。親兄弟を殺して躊躇いや後悔は微塵に感じない。

 

 

…かつての【柱】時代には片鱗すら感じ得なかった少女の本性に怖気が走る。

 

「あんた、鬼より鬼らしくない?」

 

「にゃははは褒めるなって。まぁいまは鬼みたいなもんだけど」

 

「そりゃそうね」

 

 

 

「………………私が狙いなら相手になるけど?」

 

私はかつての同胞がもう敵であると確信した。

人間でもうないなら斬り捨て無ければならない。

 

 

「……【人間】じゃないなら容赦なく殺せるってわけね。上等だわ。まぁ宣戦布告だけにするつもりだったけれどどうしようかしら」

 

「お預けなんて、アタシ我慢できないよ!」

 

猛禽類のような眼を見開き口角をつり上げる。

まるで鷲や鷹のような空を闊歩する略奪者のように獲物を見定める。

 

二刀の【日輪刀】を構える。

 

そう、上臥原天は二刀流の剣士だった。

 

「瑠偉ちゃん、先帰っててよ。そろそろ時間切れさね」

 

「……満足したなら帰って来なよ。あんたの【血鬼術(それ)】昼間活動するのに必要なんだから死ぬんじゃないわよ」

 

「逃がすかよ!」

 

宇髄くんが逃がすまいと追いかけるが上臥原天に蹴りを入れられ地面に叩き付けられる。

 

まるで獲物を足で捕まえる大鷲が如く。初動が見えなかった。皆一同に瞠目する。

 

 

「にゃははは!!!!アタシちゃんが相手だよ!!今代の【柱】の力味見させてよ!!麟ちゃんは陽光下で活動出来ないでしょう!指くわえてみてなよ!!」

 

 

「…君は……何故陽光下でも活動出来るのかしら?」

 

陽光は【色彩ノ鬼】も変わらず弱点の筈。

 

 

「内緒。まぁ【天】を関するアタシちゃんが空の下にでれないのはおかしな話でしょー?ね?」

 

 

おかしいねとクスクスと笑う。

 

 

「笑ってんじゃねぇよ!!糞餓鬼!!」

 

 

    風の呼吸・肆ノ型【昇上砂塵嵐】

 

「…胡蝶!!甘露寺!!お館様をお守りしろ!!」

伊黒くんの言葉にカナエちゃんと蜜璃ちゃんはお館様の前に立ち遮る。

 

   蛇の呼吸!!炎の呼吸!!岩の呼吸!!

 

 

と実弥ちゃんに続き伊黒くん煉獄くん悲鳴嶼くんが攻撃を重ねる。

 

 

     天の呼吸・壱ノ型【蒼穹纏(あおまとい)斬重(ぎりがさね)】  

 

 

上段から右手の日輪刀、下段からの左手のを振り払い全攻撃を弾く。

 

「にゃははは!!」

 

    天の呼吸・参ノ型【陽紅永遠契り(ひぐれないとわちぎり)

 

蒼き双刃が蒼き軌跡を残し打ち払い薙ぎ払い吹き飛ばす。

悲鳴嶼くんの巨体まで彼女の矮躯から想像出来ない鬼の膂力により吹き飛ばす。

 

    天の呼吸・㯃ノ型【天崩蒼ノ嘴(そらくずしあおばし)

 

 

上空からの鋭いいや鋭すぎる突きで時透くんを吹き飛ばす。

 

 

「それで柱かなぁ!!?アタシちゃんを愉しませてよ!!アタシちゃんの餓えを!!渇望を埋めて頂戴!アタシを天へ至る礎になって!!」

 

 

咆哮する。彼女は高揚し鬼として特徴がより強く濃く身体が変容した。

 

白い紋様が全身へ至る。こめかみより伸びる一本角。より鋭く伸びる犬歯。

 

そして背中より広がる猛禽類の空色の【色彩】の両翼。

 

 

「……空はアタシのものだ!!」

 

ビリビリと感じる威圧。風圧。

 

 

「…アタシは【新月の空色】上臥原天。喰らい尽くしてあげるよ!!!!」 

 

 



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色奪ノ参【かつて小鳥だった大鷲】

上臥原天は抑圧された少女だった。

 

上臥原家は由緒正しき名家だった。起源はいつにはなるかは彼女自身はとうにわすれた。彼女自体それはどうでもよかった。

 

各時代にて表裏問わず力を持つ由緒正しき名家だった。

 

 

 

明治時代において華族階級と呼ばれる貴族階級に属していた。

上臥原家当主・上臥原蒼穹は強欲な男だった。あらゆる分野において太いパイプを欲した。

十数人の妻を持ち何十人の子を成した。当主の座を奪い合い蹴落とした兄弟を種馬に使い子を成した。

男は無能なら奴隷にし女は政略結婚の駒として使用した。

大量に子を成したのはあらゆる分野とパイプを繋ぐため。

蒼穹にとって子とは政治のため立身出世のための道具に過ぎなかった。

 

明治時代、【華族令嬢】とは華族の体面、体裁のための道具に過ぎなかった側面が強かった。

時代柄男尊女卑が根強く政略結婚のため恐怖的な教育など当たり前だった。

 

そんな中上臥原天は7番目の夫人の次女であった。

 

他の娘達とは違い剣術に天賦の才を持っていた。

 

そして長らく失われていた上臥原家秘伝の【天の呼吸】を体得した事が彼女の不幸の始まりだった。

 

政界の重鎮に見初められた第二夫人の三女の(うたえ)さんや経済界の期待の若手を落としたという第六夫人の長女の偵絵さんの話を聞いても何も感じなかった。

 

ただ上臥原天に与えられたのは鬼殺隊とのパイプを作るため【柱】になれという役割だけを与えられた。

 

令嬢の礼儀作法もおとこを落とすための夜伽の技などではなくただ強さを求められた。

 

上臥原家は敗北者だという。

 

かつての鬼殺隊の始まりの剣士になれなかった者の末裔。

 

汚点だと父は言う。

 

「天。分かるだろう。そんな不名誉な汚点は濯がねばなるまい」

 

「はい、お父様」

 

「お前はただの刀だ。刀は斬るだけに存在する。それ以外の機能はいらない。」

 

 

その役割が確定してから今までの礼儀作法などの教育は廃され朝から晩まで寝る間も惜しまされ剣の稽古のみを強制された。

 

ただ、疑問もなく。

 

 

ただ、意味を知らず。

 

ただ、自分の意思もなく繰り返し繰り返し繰り返し繰り返すだけの毎日。

 

自分の意思とは介在せず操り主の糸の指示のみが理由だった。

 

それが上臥原家の【子】の当たり前だった。

 

 

ふとした合間に見る清々しいまでの空の【蒼さ】のみが上臥原天の娯楽だった。

 

 

何処までも蒼くどこまでも広がる空に自由を感じた。

 

自分は籠の鳥。

 

 

「………………ああ、綺麗だなぁ。アタシも君たちみたいに自由に飛んでみたいなぁ」

 

壊せば?

 

 

「え?」

 

 

コワセよ。上臥原天。君を縛る何もかも。

 

 

「………壊す…?」

 

 

ただ賢くコワセよ?意味が無くなるからさ。

 

「君は……」

 

お前だよ。

 

稽古場の鏡に映るアタシは亀裂のような笑みを浮かべていた。おぞましいだろうその笑みをアタシはすんなりと受け入れられていた。

 

 

アタシは羽ばたきたかったのだ。この足枷だらけの世界から。

 

それからは我が専心はどう、この上臥原家を討ち滅ぼすのみに収束する。

 

無駄に多い上臥原家。それを討ち滅ぼすには。その方法をのみ考え考え抜いていた。

 

皆殺しにするのは簡単だ。今の自分は鬼殺隊の隊員で鬼を躊躇なく殺していた。

 

笑い嗤って満面の笑みで殺戮し惨殺し蹂躙していた。

 

ただ困惑もなく噛み締めていた。

 

自分の手で薙ぎ払い縊り殺し命乞いする鬼を蹂躙するのは耐え難い悦楽だった。

鬼とはいえ他人の生殺与奪の権を握れた事に歓喜を覚えていた。

 

何をするにも父の顔を伺いいいなりになってきた自分が如何に馬鹿らしいのか鬼殺隊での生活で思い知らされた。

 

狂ったように笑いながらに鬼殺するアタシは他の隊員とは距離を置かれ孤立していたがアタシは充実していた。

上臥原家には味方なんかいなかったし母親もアタシには興味ないから孤立など当たり前だったのでどうでもよかった。

 

 

ふと自分と同じくらい年の頃の鬼を殺した時に思い付く。それなりの良家が無残に殺されていた。残念だとは思うがその光景に思い付く。

 

上臥原家を鬼に襲わせよう。そしてその生け捕りにした鬼を殺せばいい。なんだ簡単だ。

 

今まで悩んでいたのが馬鹿らしい。

 

…自分の手であの父親を下したかったが仕方あるまい。

 

 

実行は上臥原家の面々が集まる新年の集まりだ。

蒼穹の意向で必ずといっても全員集まる。体裁や体面を気にする男だ。

 

アタシは愛想笑いしながら頃合を待つ。

 

深夜近くまで蒼穹を含むお偉い様面々と酒盛りをするのは通例だ。酌をするのも我々女性の役目だった。

 

鬼殺隊でも上級の剣士になっていてまだ13だったアタシは警護をやらされていたがそれは好都合だった。

 

 

生け捕りにし飢餓状態にしておいた5体の鬼。

 

それを見回りの際に解き放つ。

 

もちろん侵入した形跡を作って。飢餓状態にして理性を失った鬼は直ぐさま脇目を振らず獲物を目掛けて駆ける。

 

嗤う。蹂躙される惨状に口角を釣り上げる。

 

上臥原家は街の外れにある。街の人間を毛嫌いする蒼穹の性根が幸いし気付かれるには時間が掛かる。

 

アタシは逃げ出す漏れた食い残しを斬り捨てる。

 

まだ生け捕りにしていた六体目を出す。

 

生き残りがいてはこの計画は意味が無い。アタシはいなかったことにする。全て殺せば証言など出ないのだ。

 

逃げ出す顔は見知った顔。上臥原家の子は他の子に興味がない。お互いに。躊躇などない。

 

「そ、天!!鬼が鬼が出た!!鬼殺隊の貴女の出番でしょう!!」

 

わめき散らす姉だった女は見るも滑稽だった。

 

後ろから来た鬼に喰われる。

 

アタシは歩を進める。

 

蒼穹の死に様を見るため。狡猾に他人を使い逃げおおせてるはず。

 

血塗れの夜の屋敷を進む。食い荒らされた死体に死体。

 

どれも面識があったが感傷はない。むしろ溜飲を下げる要因でしかない。

 

腐った家だ。無くなれば世のためだろう。

 

 

利益を生みはせず利益を啜りながら生きる毒虫のような家だ。

 

目指すは蒼穹の書斎。そこに逃げ込むだろう。

 

扉を開くと縮こまる父親。大きく自分を束縛していた存在だったとは笑えてくる。声を大にして笑いたいが我慢。今になってはただの滑稽な年老いた男にしか見えない。権力が剥がれた今の惨状では何の威光もない。

 

「お父様無事で?」

あえて心配そうに、声かけする。我ながら鳥肌が立つ。

 

「そ、天!!どこにいっていた!!?貴様何のための剣だ!!何のための鬼殺隊だ!!使えぬ娘だ!」

 

直ぐさま罵倒とは。立場を理解していないらしい。

 

「お父様、あの鬼はアタシの手引きで招き入れたのですよ。……聞こえますか?聞こえませんね。悲鳴も無くなったでしょう。ここに来るまでアタシは上臥原家全員と来賓の死亡を確認して参りました。あとはお父様貴方だけです。貴方が生き残って嬉しいです」

薄く微笑。

「は、え?」

 

蒼穹は、困惑。

 

アタシの後ろに現れた六体の鬼を見て目を見開き逃げようとする。

 

 

 

     天の呼吸・玖ノ型【灼・蒼の水平】

 

一閃。六体の頸が飛ぶ。瓦解する鬼達。惨状のための無様な傀儡。

 

 

「天、貴様……」

 

「上臥原家は今日にて最後です。アタシもこの穢れた血は遺したくはありません。けどアタシは好きに生きます。自由に空へ。さようなら。貴方をこの手で縊り殺して嬉しいです。」

 

斬首。それからは鬼に殺されたように見せかけるため解体する。

 

大量の百に近い死体。細かく検分はしない。

 

鬼殺隊であるアタシの証言のみが事実となる。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

上臥原家の鬼襲撃事件はアタシの証言のままなんの疑いもなく終わった。

 

むしろ悲劇の剣士と扱われお館様からの慰めの言葉まで頂いてしまった。

 

清々としていた。言葉にもできない解放感。

 

悲劇の剣士と扱われは表立って態度に出せないのが辛いが人間関係が希薄だ。

何回か任務で一緒の鎖天川瑠偉ちゃんは気遣いなんてしてくれる性格ではないのが助かるが。

 

 

アタシはいつも来ている空がよく見える野原に来ていた。

 

蒼かった。鳥が飛んでいた。

 

雲1つ無い快晴。アタシはこの蒼さを体感するために殺したのだ。親族を何の躊躇いもなく後悔もなく。

 

壊れている事に気付かず無邪気に倒れ空を見上げる。

 

 

アタシは永遠にこの(自由)を奪わせない。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

上臥原天は、自由を奪う者の対して嫌悪する。

 

彼女は自由でいるために生きている。

 

満たされるために。

 

 

「あははははははははは!!!!」

 

 

彼女は戦いを愉悦とする。

 

故に悪鬼と堕ちる。

 

 

   天の呼吸・玖ノ型【絶・翠の地平】

 

翼を羽ばたかせ舞い横に一閃し柱達を斬り凪ぐ。

 

「こいつっ…!!」

 

「…素早い。……ちょこまかとうざったいな」

 

不死川実弥と伊黒小芭内は吐き捨て顔を顰める。

 

「嗚呼………お館様の御身を危険に晒すなど柱の恥だ……許すまじ鬼」

 

鉄球を振りかざし上臥原天を空中より叩き落とそうとする。

 

「きゃは!!怪力!!そんな【日輪刀】あるんだねぇ!!」

 

旋回して鉤爪に変容した右脚で悲鳴嶼行冥の肩を掴む。

 

「……ぐっ!!」

 

 

威容。背面に猛禽類の両翼。右脚は鉤爪に変容したまるで鳥人のような見た目へ移行していた。

 

「……………きゃは!!」

 

悲鳴嶼行冥の巨体を掴み上昇。

 

「南無…!!」

 

 

    血の呼吸・肆ノ型重ね【血刃纏衝】

 

 

2重の血刃で上臥原天の鉤爪の脚を脛から下切り払う。

 

悲鳴嶼行冥は解放され地面へ受け身を取る。

 

 

「動けないと思った?天ちゃん?」

 

【神血】擬きを構える。

 

血霞麟は座敷から狙いを定める。

 

 

「…………きゃは♪」

 

心底楽しいと笑みを浮かべる。

 

 

抑圧されていた少女は自身の溢れる悦楽を抑える術を知らない。

 

 

 

 



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色奪ノ肆【天ノ血乱戦】

    血の呼吸・壱ノ型重ね【血鎧断(けっがいだち)呪鳴(かしりなり)

 

    天の呼吸・玖ノ型重ね【彼方への蒼】

 

共鳴する斬鳴と横長の斬撃がぶつかり合う。

 

呼吸の型を合わせた【重ね】技がぶつかり合う。

 

私の壱ノ型【血纏斬り】に㯃ノ型【血鳴謳】を合わせた中距離技を彼女の得意技【水平】と【地平】の重ね技【彼方】で相殺される。

 

アレンジの【崩し】も型を合わせる【重ね】も上臥原天彼女の発想を真似たもの。上臥原天は剣士として唯一無二の天才だ。恐らく【日】に一番近い剣士だ。

 

ち、狙いが定まらない。

 

私が動けるのは屋内に限られる。庭先にいる彼女を中距離から長距離の剣技に仕留めなければならない。

 

肆ノ型【血刃】を始め中距離から長距離は得意だが彼女は飛ぶ。上空へ行けば私は見えず見失う。

 

その気になれば屋敷ごと破壊され私は陽光に晒されお陀仏。

 

そうしないのは私だけではなく【柱】たちも相手しているから。

 

故に私がすることは手数ではなくタイミングを見極め致命傷を喰らわす事が肝要。

 

納刀。血液をより鋭く鋭利に破壊力を増幅させる。目を閉じる。血で右腕を作り出し柄に手を掛ける。

 

【全集中・深層】

 

より、深く。より、強く。より、鋭く。

 

集中する。感覚をより深く強く鋭く。知覚する。

 

 

感覚は世界と同調するため拡張する。【領域展開】の感覚に似ている。知覚の拡張。

 

見ていなくとも位置を把握出来る。

 

【領域展開】の【呼吸】への応用。鬼は人より優れた五感を持つ。

 

人もまた特化した五感を持つ人間もいる。

 

竈門炭治郎の嗅覚然り。我妻善逸の聴覚然り。嘴平伊之助の触覚然り。

 

 

私、血霞麟は五感及び第六感に優れている。【領域展開】の影響もまたある。

 

 

肆ノ型【血刃】が崩し【禍緋抜刀(マガツヒケン)紅蓮斬華(ぐれんざんげ)

 

 

超感覚の中【隙ノ感覚】をつらぬく。瞬時に居合する。

 

超速の居合断ち。

血液の飛来する斬撃は上臥原天を捉えた。と確実に思った最中彼女はにやりと嗤う。

 

あり得ない軌道。あり得ない駆動で頸をそらし躱す。

 

【柱】達の攻撃を躱しながら、なお此方の攻撃をも躱す。

 

上臥原天は愉しんでいる。戦闘そのものを愉悦とする戦闘狂い。

 

「あはっちゃんと狙いなよ。麟ちゃん?」

 

無邪気な純粋な笑顔。まるで恋人に向けるようなはにかみ。蕩けるような笑み。

 

 

   天の呼吸・玖ノ型重ね崩し【彼方への蒼・螺線】

 

 

横長の斬撃が螺旋状に放たれ柱達を切り捨てる。

 

 

「ごふっ!!」

 

 

「…く!!」

 

 

「糞が!!」

 

 

怯まず不死川実弥はなお食い下がる。

 

 

「あはっ♪今代の【柱】は優秀だにぃ。アタシの世代でアタシに勝ったことあるの裂傷クン位だったしぃ…アタシは麟ちゃんと遊ぶニャァ」

 

 

 

  血鬼術領域展開【永遠に蒼き天・天獄ノ無常】

 

 

彼女は両腕を広げて展開する。

 

 

  領域変生【弐双蒼翼鬼(アオキツバサ)(ツガイ)

 

展開する【蒼】が変容し2羽の巨鳥の大鷲となる。2羽は番の【色彩ノ鬼】の大鷲。

 

咆哮。色彩ノ鷲は現実のものとなる。

 

 

「領域変生…。」

 

「そう【領域変生】ただの展開するだけの【領域展開】とは違う。アタシの在り方を形とし【力】としたもの。アタシの在り方は【自由】と【略奪】…キミの【浸域】とは違うけど…強力だよ?」

 

2羽は【柱】達を睨めつけ威嚇する。色は鳥の形とし存在感を放ち威容となる。

 

「…【血鬼術】」時透くんは眉をひそめる。

 

 

「…幾百の【異能の鬼】達のそれとは一線を画すな【上弦】達に匹敵するかどうか、嗚呼度し難い」

悲鳴嶼くんも呟く。

 

【柱】達も、警戒を強める。お館様にまえに立つカナエちゃんもみつりちゃんも尚一層体を強張せる。

 

「天、君は…鬼となってまで何がしたいのかしら」

 

「アタシもなりたくてなったわけじゃないのよねぇ。【真白】ちゃんの制作の一環で作られただけだしぃ」

 

うーむと唸り始める天。年端も行かぬ少女故に買い物に迷うにしか見えない。

 

「まぁ、アタシとしては【鬼】となった今はやっぱり【鬼】からしたら不自由じゃん。陽光しかり。藤の花しかり。君たちしかり。……【不自由】は嫌いだよ。アタシを束縛する全て嫌い。大嫌い」

 

「だから【真白】ちゃんの意向には従うつもり。瑠偉ちゃんは知らないけどね。」

 

 

「…【鬼の楽園】か」

 

 

「は、夢物語だな。俺達がいる限りきさまらの安寧はねぇ。【色彩ノ鬼】とやらも関係ねぇ。悪鬼滅殺」

 

煉獄くんの言葉に実弥ちゃんが続ける。

 

 

「…ひゃは♪それが可能性あると言ったら?行っちゃおっかなー?どうせ君たちには止めるすべはないにぃ。」

 

 

「……なにかな」

 

嫌な予感がした。致命的に。

 

「……【鬼舞辻無惨】の【色彩ノ鬼】化。彼女は【始祖】の鬼を自身で創り出すことを至上の目的としてるんだよ。この意味を理解出来るかなぁ?」

 

 

始祖の、鬼の【領域展開】。

 

始祖の鬼化の血液。鬼舞辻は自身の【日光克服】が最重要で無闇矢鱈には増やしていない。

 

だが、【鬼の楽園】の為にその力が振るわれれば加速度的に【鬼】は増える。ネズミ講が如く。

 

 

「なるほど…確かに人は居なくなるわね。畜生め」

 

「そ。……そして【血液】の領域展開を持つ君はその礎になるのさ。」

 

「実験体ってわけ」

 

 

 

 

   領域展開【血怪百鬼夜行・餓娑髑髏ノ陣】

 

 

私の背後に足元から血液で創り出した赤い髑髏の巨体。

 

目を見開く柱達。あまり【領域展開】は見せていない。

 

私は彼らの前では剣士で有りたかった。が剣士としては天のが上だ。なり振りは構ってられない。

 

 

「…【血怪百鬼夜行】ねぇ。この日のひかりの中どうアタシに攻撃を届けさせるのかなぁ。」

 

 

ニヤニヤと挑発するように嗤う天。

 

 

「妖怪大戦争だにぃ!!」



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色奪ノ伍【深紅ノ記憶】

2話投稿なんかしてみる()


   浸域展開【血纏装束・対陽光ノ陣】

 

血液の装束を身に纏い駆ける。太陽の元に晒され身を焼く。【血纏装束】が即座に再生を繰り返す。瓦解を防ぐ。全身に身に纏う深紅の装束を肌を余すことなく覆う。

 

駆ける。駆ける。駆ける。

 

 

餓娑髑髏も後追いし2羽の【天鬼】に攻撃を喰らわす。

 

吹き飛ばすが直ぐさま旋回する【天鬼】

 

   

    血の呼吸・肆ノ型崩し【早咲き紅蓮華】

 

振るうより先に放たれる紅蓮の華のような斬撃が天の足元より咲き狂う。

 

「あはっ!!捨て身かな!?」

 

「まさか!!」

 

 

 

この【血纏装束】は再生を繰り返す血の布の全身鎧みたいな物。以前ならすぐ貧血を起こしていた。

 

零余子の【血鬼術】の【増減操作】の応用。【残存血液量】を増やし【血液消費量】を最低値にする。

 

まぁ常に陽光に晒されているから長くは持たない。

 

【血纏装束】に大半の血液量が廻るから今使用出来るのは展開した【餓娑髑髏】だけが精々。

 

「血液よこせや!!天!!」

 

「やっだよ!!」

 

 

超速の戦闘。交わる剣閃と剣閃・蒼と赫。

 

   

    血の呼吸・扒ノ型【増層鉄血】

 

加速。血液循環をより早く強く深くし膂力を上昇させる。縦横無尽に繰り出す朱の剣閃。

 

加速度的上がる攻撃を経験と予測だけで最小限度の動きで躱す。

 

にゃろ!!これだから、天才は!!

 

私みたいな凡才舐めるなよ!!

 

   

上空では【餓娑髑髏】と【天鬼】2羽は殺し合う。

嘴、鉤爪の攻撃を繰り返し喰らうが再生し殴る【餓娑髑髏】

 

 

 

 

 

 

    血の呼吸・壱ノ型【血纏斬り】

 

 

    天の呼吸・陸ノ型【天太刀(そらだち)威傘子(いかさね)

 

朱を纏う太刀と蒼を塗る太刀が交錯する。

 

 

増幅された膂力による振るわれた太刀を威力を殺し打ち払う。

 

 

にぃっと嗤う空の少女。死角からの二刀目が私の目を貫く。

 

 

「麟さん!!?」

 

鮮血が舞う。くそ!この【血纏装束】陽光を遮るだけのモノ。防御力は持たない。だから喰らうのは不味いのだ。

 

後退。貫かれ陽光に焼かれた左眼を抑える。

 

屋敷内に戻る。【餓娑髑髏】も2羽の大鷲に引き裂かれ霧散する。

 

【対陽光】の【血纏装束】は解ける。

 

 

「ちぃ…」

 

「麟様」

 

心配そうに側に来る零余子に大丈夫だと合図する。

 

「きゃは♪どうする?どうするよ?今日はアタシは遊びに来ただけだよ?つまりあれだよ」

 

 

「本気じゃないぜ?」   

 

 

一瞬で間合いを詰められる。目の前には嬌笑。戦闘に恋し酔う。少女に不釣り合いな悩ましい笑み。

 

 

私の襟元を掴み引っ張り庭先にまでひっぱり出される。

 

しまっ…!!?

 

少女らしからぬ怪力で抵抗もままならない不意打ち。

陽光の元晒されてしまう。太陽の光が私を焼き殺さんと爛々と輝く。

 

 

死の刹那。不意の記憶の残滓が綻ぶ。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

「…【天の呼吸】?」

 

【私】が鬼殺隊に入隊して幾許か。剣士も数は少なく忙殺されていた。

 

若い剣士も入っては来るが生き死にが常の鬼殺隊は戦死が常で万年人手不足。それでも後世の時代より更に少ない。

 

その中でも異彩を放つ剣士もいた。

 

 

「……文献しか存在しなかった【呼吸】を再現した少年だ」

 

「少年?」

 

「…どうした?」

 

「いや、…孤児院を経営した身としては子供が戦うのは複雑なだけ」

 

 

「そうか。華。…最近元気はないが」

 

 

「入隊してから元気なことあった?私が」

 

【私】は皮肉げに笑う。

 

花札の耳飾りの【彼】は否定はせずにただ首を横に振る。

 

【悪鬼滅殺】それだけなんだから。

 

 

「その【天の呼吸】の子がどうかしたの?継国クン」

 

「……………次の任務に彼が来る。先の大きな戦があっただろう。その負けた側が【鬼】に堕ちた。我等の出番だ」

 

 

「嫌ですこと。少数精鋭の私たちなのに。夜戦はお肌に大敵だわ」

 

 

「……【鬼月】がいる。お喋りな鬼がいた」

 

「【鬼月】?」

 

 

「……【鬼舞辻】はより強い鬼を作ろうとしているみたいだ。これは試作なんだろうとお館様が仰っていた」

 

「迷惑千万。」

うげっと私は顔を顰める。

 

「……頼むぞ架純華。その少年は独断専行するきらいがある。」

 

「はいはい。私がなんとかしろってことね継国クン……全く。君もそのコミュニケーション能力欠乏症も問題ダゾ」

 

「……否定は出来んな……」

 

「…しかし、天は照らすもので如何様になる。日は日で月は月で。……私のような人間性より君の人間性のが向いている」

 

「褒めてる?」

 

「…………もちろん」

 

 

宵の時間。闇夜が総てを塗り潰す。不穏な鴉の鳴き声が響き渡る。かつての戦場。合戦が行われた荒野。

今は【死者】と【愚者】のみ。

 

 

目の前には【百鬼夜行】

 

黒き鬼の大軍。足軽の軽鎧を来た死体達。顔をしかめたくなるような屍臭。

 

 

「てめぇらが【鬼狩り】か!!?」

 

「……………。……いかにも」

 

 

「うわっぶっさ」

 

「………華。」

 

「…御免なさい。気にしていたら。豚みたいで」

 

「肥えるだけ肥えた無能の将みたいで笑えて。ふふふ」

 

 

「貴様ぁぁぁぁぁあ!!やれぇえええ!!火縄銃隊前へ!!ってぇえ!!」

 

肥えた醜い将の格好をした【鬼】は火縄銃を構えた【死体】に命令を下す。

 

隊列を組み陣列を崩す事の無い死体達。

 

 

「あれ?」

 

「………【血鬼術】は優秀なようだ」

 

 

「継国クンは露払いをお願い。…御空クンは遊撃を。」

 

 

「やだ。僕は自由にやらせてもらうよ。オネエサン」

 

私の指示を無視してかける【天の呼吸】の使い手。碧賀御空(あおがみそら)クンは陣列を崩し切り払う。

 

 

「もう!!」

 

継国クンは火縄銃の弾幕をゆるりと躱しながら駆ける。露払いへ向かう。

 

 

「まぁいい…や!!御首級頂戴!」

 

真っ赤な深紅の長刀を抜く。女性が持つには無骨に過ぎるが美しい刀だった。

 

銘を【神血】

 

 

切り替える(・・・・・)

 

深紅の眼を見開く。

 

 

▽▽

 

 

殲滅。全殺。殺戮。滅殺。

 

 

行われたのはそれいやむしろ【死者】だったそれらは【全壊】させたに過ぎない。

 

死者を操る【血鬼術】

 

「まぁ有能な術であることは認めるけど?」

 

「…………術者が無能では宝の持ち腐れというもの」

 

「………へぇ。これが鬼殺隊の【柱】なんだね」

 

「…お姉さんを認めて言うこと聞いてくれるかなぁ?」

 

「僕より弱ければね」

青い少年は生意気な笑みを浮かべる。

 

「……【柱稽古】で虐めてあげる」

にへらと笑う。

 

 

「…………儂を無視して盛り上がってんじゃねぇ!!儂は終わりじゃない!!儂が有能じゃとあの方に認めて貰わねば!!」

 

「あはっやっぱり失敗作なんじゃ?」

 

「草生える」

 

 

    血鬼術【屍大鬼集躰】

 

 

無惨に転がる死体達がみちみちと不快な音を立てながら繋ぎ合わさっていく。

 

繋ぎ合わさった死体達は巨大な鬼と形になる。

 

 

「儂の最大限じゃ!!死ね!!!!!!」

 

 

大鬼は大きく腕を振りかぶる。

 

 

     血の呼吸・参ノ型【炸血華(さっけつか)

 

 

振るう。死体達の血液の流れを逆流され炸裂させる。

 

真っ赤な華を裂かすような炸裂だった。

 

 

「…なっ、…!!」

 

 

    水の呼吸・壱ノ型【水面斬り】

 

 

刹那。跳躍する。

 

 

斬り捨てる。【鬼】の丸々と肥え太くなった頸を両断する。

 

「わ、儂は…!!」

 

「死ね。鬼は悉く一切合切討ち滅ぼす。【鬼舞辻】も送ってやるから感謝しなさいよね」

 

黒髪が靡く。

 

 

「水と血?」

 

「……血の呼吸は我流だから気にしないで。水の派生だし」

 

「……二つの呼吸使うんだ。」

 

 

「見直した?」

 

「少しね」

 

 

「生意気」

くすっと笑う。あー死体臭い。水浴びたーい。

 

 

「……オネエサン。あれなにかな?」

 

 

 

 

重なる死体の向こう。真っ赤な人影。蹲るように寝ている何か。

 

その場に相応しくない身なりをした少女だった。

 

「君…!!」

 

駆け寄る。呼吸はしているみたい。

 

「捨て子?」

 

「まさかさっきまで戦闘してたんだよ」

 

「おかしい…けど見捨てる訳には行かない」

 

見殺しなんて出来ない。皆を見殺ししてしまった私には到底。

 

捨て子にしては身なりはしっかりしていた。

 

平民が来ているような服装ではない。

 

 

「…………華。どうした?」

 

 

「………捨て子、なのかなぁ?」

 

 

「んんっ、……………おぶけさま…?」

 

 

目を覚ます少女に声をかける。

 

「君名前は?」

 

真っ赤な髪に深紅の瞳。齢は十前後。

 

 

「………りん。ただのりん……」

 

 

「りんか。良い名前だね。どこからきたの」

 

 

「うーん………分からない。」

 

 

首をかしげる少女に後ろの2人は難色を示す。

 

 

「一緒に来る?」

 

「………………本気か華」

 

 

「当たり前でしょ。止めれる?継国クン?」

 

「………いや」

 

「うん!!」

 

「じゃ、架純りんだ君は今日から。」

 

抱き締める朱の少女を。

 

 

この日から架純華の運命がねじ曲がるのは当時の『私』は知らなかった。



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色奪ノ陸【どうか】

どうか、覚えていて欲しい。

 

君は愛されていた。

 

どうか、忘れないで欲しい。

 

君は許されていた。

 

 

どうか、許して欲しい。

 

 

君に呪いを、架してしまったことに。

 

 

【愛してるよりん】

 

 

だからどうか君は幸せになってほしい。

 

それだけが私の願いでした。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

覚醒。直ぐさま反転し立ち上がる。

 

陽光に晒された筈の我が身。それは確かに晒されいるはずだ。

 

 

「何故…?」

 

気が動転する。鬼化して百余年即死を意味するそれを忌避してきたはずだ。久方振りの陽光への感想よりも先に浮き出る疑問。

 

「【陽光反転】我が【領域展開】の【永遠に蒼き天・天獄ノ無常】の効果だにぇ」

 

亀裂の笑みを浮かべにししと嗤う。

 

「【陽光】からのダメージを回復・膂力増強へ裏返す【血鬼術】……擬似的に【日光克服】を成す【真白】ちゃんの最高傑作になるのがアタシさ!!」

 

「…なら何故私にそれをかけた?」

 

「つまらないじゃん。遊びたいのヨ。アタシちゃんはさぁ!!死んでから百余年眠って溜まったこの鬱憤晴らさせて頂戴!!」

 

    領域展開【血怪百鬼夜行・大犬神ノ陣】

 

 

巨大な血の狼を作り出し威嚇。獣の迫撃で天を殴り飛ばす。

 

「なら全力で【血霞麟】が相手にしてやる。…剣士としては君のが上だよ天。【領域展開】の使い方ならこっちが上だ。【領域変生】?いい発想だ。参考にさせて貰うよ【浸域】は強力だけど使い勝手悪いからね」

 

 

「麟さん」

 

「錆兎。皆離れて。……いや私達が離れるか。…………【犬神】」

 

「御意」

 

【犬神】は口を開け天を噛み掴み跳躍。産屋敷邸を離れる。私は【犬神】の背中に乗り突き進む。

 

 

 

広い荒野に移動する。

 

 

「…此処でしようぜ。…………ここならなんの憂いもないわ」

 

「きひ。ひゃは♪きゃは♪いいねぇ!!」

 

二刀を、構える。追随してきた2羽も彼女の後ろに舞い降りた。

 

その2羽は練度が違う。だが。

 

「【犬神】いけるよね?」

 

 

「姫。当然。」

 

好戦的笑みを浮かべる。獣人形態ではなく四足獣形態の彼はやる気に満ち満ちている。

 

 

私も【神血】を引き抜く。【犬神憑き】の一匹が持ってくる。遠吠え。

 

日輪刀【神血】やっぱり馴染む。

 

私の血を、啜り続けた【禍刀】

 

 

【全集中・深層】

 

構えるは【正眼】。集中。集中。集中。集中。

 

 

隙の在りすぎてどれが本当の隙か分からない。

 

術理も【本能】と重ねてきた【経験則】から。

 

奔放に見えて愚直に重ねてきた【反復】が所作から見える。

 

慢心する【天才】なら幾許かマシなんだが。

 

愉しむ為に彼女は油断も慢心する事も無い。

 

 

 

 

    血の呼吸・拾ノ型秘奥(・・)

 

 

更に深く神経を研ぎ澄ませる。より清廉により精錬させる。他の五感を置き去りに鋭利に鋭くなお深く。

 

1㎜の誤りも許さない許されない術理。精密な剣技を求められる。

 

この………剣技(・・)は。

 

 

血の呼吸の絶技にて術理を収束させたもの。壱ノ型から玖ノ型まで総てを合わせたもの。

 

故に絶妙な匙加減を要する。

 

 

【全集中・深層】

 

 

    天の呼吸・拾ノ型秘奥

 

 

亀裂のような笑みを浮かべる。目を見開き極限まで集中していた。

 

互いに構え【深層】まで、集中しにらみ合う。

 

 

朱と蒼。高まり合う殺意は互いに否定する。

 

 

絶殺。絶えず殺す。

 

 

虐殺。虐めて殺す。

 

 

我等が、専心は互いの否定にのみ準ずる。

 

 

   【深紅紅蓮】!!

 

 

    【果てなき天】!!

 

 

赤き刀より放たれるは極極大の深紅の放流が如き斬撃。

 

蒼き双刀より放たれるは極限の2重の斬撃。

 

ぶつかり合う否定と否定。

 

 

「きゃは♪剣技じゃアタシに勝てないンじゃなかったっけぇ!!?」

 

「君に負けるようじゃあの【真白(小娘)】に勝てないからね!!」

 

 

「そもそも【柱】時代から不可解なんだよねぇ!!【鬼】のくせに人間の味方するのかなぁ!!?」

 

 

「…好きに理由がいるのかよ!!」

 

本心。紛れもなく本心。

 

私は人間が好きだ。けれどそれが出ずる気持ちの源泉(オリジン)はわからなかった。

 

 

先程の死の刹那の失ったはずの記憶の残滓。微かな綻びは【あの人】を思い出した。

 

私はあの人に救われた。なら報わなければならない。

 

理由を思い出せた。

 

 

だから私はそれを否定させるべきではないと確信する。

 

 

   領域変生【血怪百鬼統合・氷狼ノ陣】

 

 

 

「行きますよ【犬神】さん」

 

「ああ、お雪」

 

 

雪が降る。雪原を走る狼のように駆ける。

狙いはもちろん2羽の空色の大鷲。空を蹴り跳ぶ。

 

牙と爪が奴らの飛翔の根幹たる翼を傷付ける。さらに咆哮。衝撃波となりもう1羽が攻撃してこようとするのを迎撃し叩き付ける。

 

「姫の邪魔をさせぬ!!」

 

「それが私達の使命!!」

 

 

凍てつかせる咆哮が2羽の翼を凍てつかせる。機動力を失い落下した2羽を【犬神憑き】の群れが咀嚼し食い尽くす。

 

食い尽くした【犬神憑き】達は遠吠えをする。

 

 

「ひゃは!!あの2羽をやるなんてねぇ!!それなりなんだけどなぁ!!!」

 

2羽が、やられても動揺はせずなお嗤う。

 

拮抗する濁流が如き斬撃と色彩の2重斬撃は此方が押され始める。

 

「くっ!!」

 

「姫!!」

 

 

 

   領域変生【血怪百鬼夜行・大蛇ノ陣】

 

 

2人を霧散させ新たに形成する。

 

 

大蛇となった血液が天へ食らいつく。

 

「!!?」

 

【果てなき天】の指向がぶれるその隙で【深紅紅蓮】を大蛇ごと叩き付ける。意思を持たない血液の塊であるため気にしないで巻き込む。

 

 

「ぎひっ!!」

 

 

天を横斜めに両断する。吹き飛ばされ崖に叩き付けられる。

 

「ひゃは♪首きれなかったのは残念だねぇ♪いひ♪あはっ♪あれれ~残念。時間切れだ。【陽光反転】の効力が切れるから早く日陰に行ったほうがいいよん」

 

不快な音を立てながら再生していく天の躰。

 

【陽光反転】の効力なのか再生力は普通の鬼とは段違い。直ぐさま接合され動かしている。

 

「今回は満足にゃぁ。……くふっ。死んじゃったら真白ちゃんに怒られるし殺しちゃったら瑠偉ちゃんに怒られるし。……また遊ぼうね。【十二鬼月】とやらともに遊べそうだし。生き返ってよかったぁ」

 

空色のツインテールを揺らし恍惚そうな笑みを浮かべ二刀を鞘へ収める。

 

「………逃げる気?」

 

「だから時間切れだってばぁ…そっちも満身創痍っしょ。…………無駄口聞いてる暇在るかなぁ……本当切れるよ効力。」

 

陽光が微かに肌を焼きじゅっと焼いた。切れかかっている。

 

「んふ。また遊ぼうね。麟ちゃん」

 

どこからともなく聞こえた琴の音が聞こえると、彼女は消えた。

 

 

 

私は直ぐさま産屋敷邸へ戻る。【陽光反転】の効力は切れ元の体質へ戻る。

 

有耶無耶になってしまった柱合会議。

 

炭治郎と禰豆子は一応は剣士として認められた。満身創痍のためカナエちゃんの蝶屋敷で預かってくれるという。

カナエちゃんなら安心だ。【常中】のことについてもお願いしようかな。

 

私は【新月】たる彼女達の抹殺を公式に受けることになる。

 

【柱】の彼等には【鬼舞辻】側に集中して欲しいから私の単独の使命だ。

 

「……構わないんだね麟さん」

 

「もちろん。私への恨みあるものもいますし【真白】という【見えざる月】の中核の鬼には因縁あるしね」

 

私は使命を理由に存命を許される。

こうして解散となる。錆兎は何か言いたそうだったけれど私は帰宅する。

 

 

「…麟様?」

 

「………………ごめんもう休むね」

 

「はい、お休みなさい」

 

 

自室へ入り寝転ぶ。

 

「………華姉……………」

 

 

記憶の綻びからの【あの人】を思い出した。

 

それがたまらず嬉しかった。

 

 

ああ、私は………少し取り戻せた気がした。  

 

どうか、また忘れないことを祈る。




次回新章【夢幻列車】編突入。


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【夢幻列車】編
夢幻ノ壱【不吉な招待状】


新章突入。

やりたい所まで近付いてきました。


【柱合会議】と【新月の空色】上臥原天との戦いから幾許かの日々が流れる。

 

私は暇を見つけ何かと蝶屋敷へ足を運んでいた。

 

炭治郎と禰豆子の兄妹の見舞いと機能回復訓練の進捗状況の為だ。

 

「あ、麟さん」

 

「…………お、鬼!!?た、た、炭治郎!!?禰豆子ちゃん以外に鬼の知り合いいるのぉ!!?なんなん!!?なんなん!!?あ、でも美人さんで、おまえぇぅええ!」

 

お、おう。美人とか言われると照れるね。

 

付き添いのお雪にもデレデレし始めた黄色い子は我妻善逸くんらしい。

 

友達か、良いことだねぇ。

 

「……勝負しろぉぉお!!」

 

猪突猛進と突っ込んでくる猪頭の少年。それを【犬神】が遮る。獣頭同士仲良くねぇ。

 

嘴平伊之助君ねぇ。

 

 

「はろろん。調子どー?」

 

赤い着物で暢気に声を炭治郎にかける。

 

 

「………怪我は良くなったんですけど……訓練が中々うまくいかなくて」

 

「全集中・常中?」

 

「……常中?」

 

「今炭治郎がしている訓練はそれが出来るようになるためのものさ」

 

全集中・常中。24時間常に【全集中】する呼吸法。心肺機能が強化される。【柱】を含む上級の剣士が当たり前に行っている【前提】の技術。

 

より、深く集中し感覚を鋭くする【深層】もあるが別な話。

 

「……何かコツはありますか?」

 

「…感覚的なものだしねぇ…」

 

鬼化して目覚めて普通に使ってたし鬼化してから得たのは【深層】の方だしねぇ。

 

「………………………………諦めないこと。繰り返す事。炭治郎は真面目だからね挫けないようにね」

 

炭治郎の頭を撫でる。15の子供が頑張りすぎだよ。

 

余り無理しないで欲しい。お姉さんは心配だよ。

 

なんか黄色い子も凄い顔で見ているからその子の頭を撫でてみる。

 

真っ赤になって倒れた。あらま。

 

 

 

「賑やかなのは困りますよ麟さん」

 

「ヤッホー」

 

すーっとカナエちゃんに近づく。

 

「カナエちゃんこの後暇?美味しい甘味処が…」

 

「じゃないです。大体お昼間出掛けられないでしょう?よく、ここまできたと感嘆しますけど」

 

「えー。なら日が沈んでから」

 

「任務ならまだしも夜出掛けるのはお姉ちゃんの模範行動的に駄目ですよー」

 

「くっ…ガード硬ぇ…」

 

「蜜璃さんと合わせて今度行きましょ。女子会です」

 

「うん、行こう」

カナエちゃんの手を握る。

 

 

「………………血霞さん女の子好きなの?」

 

「本人は両方いけるって。禰豆子もウチに来なさいとか言われてた」

 

「えー」

 

「………ちなみに俺も。」

 

「え、兄妹ごと!!?こわ!!?」

 

炭治郎も我妻くんも何か言ってた。

我妻くんも家族にしてやろうか?

 

「……………で、麟さん真面目な用事があるんですけど」

 

「………はいはい?」

 

 

「…上弦の弐について、何か知ってますか?」

 

 

「…………上弦の弐?……うーん。ごめんねぇ【上弦の月】に遭遇したことあるの【壱】だけなんだ」

 

「そうですか…」

 

【上弦の弐】の名前を出した一瞬彼女の目が深く澱んだ気がした。

 

「カナエちゃん?…」

 

「気にしないでください……ね?」

 

唇に指をあて首を傾げる。

 

「う、うん」

 

もしかして………【宵鷺逢魔】くんとしのぶちゃんの関係かしらん…?…まぁ、あからさまな地雷ポイントだから深入りは厳禁よねぇ。手伝えたら手伝うんだけどねぇ。

 

鬼にしか出来ないこともあるだろうし。色々揶揄って余計なお世話は無粋だしねぇ。信頼度はぶっちゃけ高くは無いし彼女からの。

 

多分彼女の態度に-はない。余程の悪人じゃない限り平等に接しているはず。

 

普通の+と特別の+があると読んだ。私はせいぜい-寄りの+。鬼だしね。

 

彼女とは仲良くしたい。何故かそう思う。

 

そうか、私は彼女と友達になりたいのだ。

 

「蜜璃ちゃんに、言っとくねん」

 

「お願いしますー。炭治郎くん達検診ですよー」

 

検診されてぇ。痛いお雪脛蹴らないで。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

「…………」

 

 

血を被ったような青年。子供のような笑みを浮かべ女子を喰らう。

 

『救っているのさ』

 

夜な夜な夢に出て来る。ただただ不快な鬼の笑み。

 

『この世に救いなど無く、極楽もない』

 

嘘。救いはある。彼等は私の救いだった。

 

『だから、俺が喰らってあげているのさ』

 

否。奪ったのはお前。お前だ!!

 

 

「…!!……またこの夢…」

 

定期的に、この夢を見る。この気持ちを忘れないためか。

 

「…お水飲んでこよう……」

 

胡蝶カナエは立ち上がる。羽織を羽織り台所へ。

 

「……………ふぅ」

 

 

「………きひっ」

 

「誰!!?」

 

闇色の少女が背後に立っていた。

 

体は細く髪を1つでまとめ和風な要素を持った洋装を着ている。何より面影があった。

 

「【宵鷺夜深】…覚えあるでしょう」

 

「逢魔くんの、妹さん……こんな夜分に何か御用かしら?」 

 

 

「御用。……用ねぇ。お兄ちゃんを返してよ。ねぇ」

 

「!!?……いや、…あの……」

 

「返してよ」

 

逢魔くんの訃報。それは送っていない。けして不義理ではなく場所を知らないわけじゃなかった。

 

 

彼は天涯孤独(・・・・)の筈。

 

 

「貴女生きてたの…?」

 

「死んでるわよ。死んでたわよ!!死んでたわよ!!」

 

猫のような縦長の瞳孔に、鋭い犬歯。鋭い爪。

 

そして、純白の紋章。

 

【色彩ノ鬼】

 

「貴女…鬼に…!!」

 

しまった、帯刀していない。

 

「安心して、何も取って食おうって訳じゃないの」

 

小柄で、細身で彼から聞いていた病床の躰から想像出来ない怪力で胸ぐらを掴まれる。

 

「お兄ちゃんを、殺したのは誰?」

 

 

「…」

 

「誰?」

 

「【上弦の弐】童磨……」

 

「そう」

離される。床に崩れ落ちる。

 

「ど、どうするの?」

 

「磨り潰して粉々にして間引いて殺す。報いを。応報を。悪因には悪果を。…………殺し尽くしてやるだけだわ。」

 

黒く暗く淀み澱のように積もった殺意。

 

 

「…私も…………殺したいのソイツ」

 

「…へぇ」

 

「…………分けてやらない。」

 

「そっちこそうちの妹の仇でもあるの。…………譲ってあげないよ」

 

「くふっ………なら早い者勝ちよ。義姉さん?」

 

「そうね。」

 

闇夜に溶けるように消えていく【宵鷺夜深】

 

「【新月の闇色】宵鷺夜深。よろしくね」

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

風雲急告げる【血霞邸】

 

 

一つの郵便物と鎹鴉の死体。その鎹鴉が持ってきた郵便物。血霞邸に届けたと同時に息絶える。

 

 

誰の鎹鴉かは分からないが丁重に埋葬した。

 

 

「……姫。不穏なものを感じるが」

 

「捨てちゃいましょう。なんかの罠ですって」

 

「…………うーん」

 

「どうしたの零余子」

 

「あ、いやこの郵便物に残る微かな残滓。どっかに見覚えが」

 

「なら【鬼舞辻】?」

 

「を装った【新月】の罠の可能性も」

 

不穏&不穏。

 

「開けてから判断しましょ。」

 

開封と同時に起爆したらやだし血の腕を作り出しそれで開封する。

 

「………無限列車の切符?」

 

「無限列車?」

 

「都会で走っている汽車よ」

 

「はぁ、汽車」

要領えないあやかし達。まぁ縁ないものね。

 

「走る鉄の塊よ。乗り物よ乗り物。人間の叡智よ。乗りたかったのよねぇ。わーい行こう行こう。」

 

「…いやいやいやいやあからさま怪しいですって。そんな招待してくれる知り合いいないでしょ!!」

 

お雪が叱責する。えー。

 

「そもそも死に体の鴉が運んで来たんだよなぁ。不穏ですよ不穏」

 

顔を顰める零余子。

 

 

「姫。手紙だ」

 

【鴉天狗】が渡してくる。

 

 

【この切符の日付に来なければ乗客全員喰らう】

 

 

と、殴り書きの血文字で書かれていた。

 

おおう。

 

「………………日付はいつ?」

 

「三日後の夕暮れだな」

 

「………上等じゃん、頭を使いやがって」



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夢幻ノ弐【Let's下弦のリストラ会議】★

感想ありがとうございます。個別に返せず申し訳ありません。

若干の本誌バレあります。


ベベン!!

 

琵琶の音色がそこにいるもの達の覚醒を強制される。 

 

上下左右逆様で歪に構成された屋敷だった。

 

!!?

 

なんだここは……!!?…。

 

あの女の【血鬼術】か?あの女を中心に空間が歪んでいるようだ。

 

我等【下弦の月】が集められたのか。伍の累と肆の零余子が居ない。

 

四人。

 

【下弦の壱】厭夢【下弦の弐】轆轤(ろくろ)【下弦の参】病葉(わくらば)

 

そして、俺【下弦の陸】釜鵺。

 

下弦だけが集められたのか。こんなの初めてだぞ。

 

べん!!

 

とまた琵琶の音色が鳴ると目の前に和服の女が立っていた。

視線は鋭利で絶対的な恐怖を内包していた。

 

誰だ。

 

「頭を垂れて蹲え。平伏せよ。」

 

その言葉に反射的に我等は平伏する。

 

無惨様だ。無惨様の声。分からなかった。姿も気配も以前と違う。凄まじい精度の擬態。

 

「喋るな。きさまらのくだらぬ意思でものを言うな。私に聞かれた事のみ答えよ。」

 

「累が殺され零余子は【血霞童子】の手に堕ちた」

 

「私が問いたいのは一つ。【何故下弦の鬼はそれ程弱いのか】」

 

「【十二鬼月】に数えられたからと言って終わりでは無い。始まりだ。より人を喰らいより強くなり私の役に立つための始まりだ」

 

淡々と無惨様は言うが苛立ちを含んでいらっしゃった。

 

失望と苛立ち。

 

「ここ百年余り上弦の顔ぶれは変わらない。鬼狩りの柱共を葬って来たのは常に上弦達だ。しかし下弦はどうか?何度入れ替わった?何度血霞に殺された?」

 

そんなこと俺達に言われても…。

 

「そんなこと俺達に言われても…なんだ?言ってみろ」

 

ギクッ。

 

思考が読めるのかまずい…!!

 

「何がまずい?…言ってみろ」

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

【鬼舞辻無惨】は己の血を分け与えたものの思考を読み取る事が出来る。姿が見える距離なら全ての思考を読み取りが可能。離れれば離れる程読み取ることが出来なくなるが位置は把握している。

 

位置は把握している。

 

が、現状【珠世】と【血霞麟】は自力で把握(呪い)を外している。

 

そして【新月の純白】に至っては血を分け与えた記憶はない。

 

不愉快極まる。

 

 

「お許し下さいませ!!鬼舞辻様!!どうか!!」

 

「どうか!!お慈悲をどうか!!申し訳ありません!!申し訳ありません!!」

 

変容させた左腕で締め上げる釜鵺は慈悲を乞う。

 

無駄だ。

 

 

変容させた左腕で喰らう。口を大きく開く左腕の怪物は釜鵺を咀嚼し嚥下する。

 

恐怖し逃げ出す病葉を捉え頸を掴む鬼舞辻無惨は淡々と言い渡す。

 

 

「もはや十二鬼月は上弦のみで良いと思っている。下弦の鬼は解体する。……【血霞】の餌になるだけだ」

 

「最期に言い残す事は?」

 

「私はまだお役に立てます!!もう少し御猶予を頂けるならば必ずお役に!!」

 

轆轤が縋るように弁明してくる。

 

「具体的にはどれほどの猶予を?…どう役に立つというのだ。今のお前の力で」

 

「血を…貴方様の血を分けて戴けるのであれば必ず順応してみせます!!」

 

「……何故お前の指図で血を分け与えてやらねばならない?」

 

怒気を孕む言葉に轆轤は焦り即座に否定する。

 

 

「ち、違います!!違います!!」

 

 

「何も違わない。お前は私に指図した。甚だ不愉快だ。」

 

「私の言うことは絶対で間違いなどない。」

 

轆轤の頸を吹き飛ばして変容させた左腕でさらに咀嚼し嚥下する。

 

 

「お前は、何か言うことはあるか?」

 

残された【下弦の壱】厭夢は恍惚の表情を浮かべる。

 

「夢心地に御座います。…貴方様に手をかけて戴けるなんて」

 

「私は他の者が苦しむ様を眺めるのが至福で御座います」

 

「最後にして下さりありがとうございます。」

 

 

 

「気に入った。」

 

尾のような肉塊で厭夢の頸に差し込む。

 

血を注入する。

 

 

「血をわけてやる。見事順応すれば更なる力を身に付けるだろう。役立てて見せよ。花札の耳飾りの剣士と【血霞】を殺せ」

 

 

「……古い恐怖支配ですこと。小物に見えますわよ。【鬼舞辻無惨】」

 

「…誰だ」

 

「お初ですわ、【新月の純白】真白で御座います」

 

白い鬼。潔癖なまでの純白。【色彩奪い】

 

 

【新月の純白】真白。白い洋装に白い長髪。白い帽子を身に纏う乙女。そして二本の角。頬に純白の紋章。

 

三日月のように裂けた笑みを浮かべスカートを持ち上げ優雅に会釈をする。

 

【挿絵表示】

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽

「貴様が……【真白】か」

 

「ええ、何度かご挨拶に上がろうかと思いましたが中々お会い出来る機会が御座いませんでしたので」

 

「鳴女」

 

「申し訳御座いませぬ。…下弦の弐に憑いていたようでした。」

琵琶の鬼は申し訳なさそうにしている。

 

「まぁよい。此処で殺してしまえば良いだけだ」

 

両腕を触手へ変容させ真白へ攻撃する。

 

「嫌ですわ。お話しにきただけですのに。」

 

 

    領域変生【色彩神話・白騎士】

 

真白の足元より白い騎士が現れ両断する。

 

「ンフフ。お話したいだけですのに。」

 

    領域変生【色彩神話・黒騎士】

 

漆黒の騎士が鬼舞辻の背後に立ち剣を突き付ける。

 

「その鼻持ちならない傲慢ちきねじ伏せてもよくてよ?」

 

前後に黒白の騎士。色彩の【創作物】。彼女の作品。

 

「…………ゆけ。」

 

 

ベベン!!

 

鳴女と呼ばれた琵琶の鬼が琵琶の音色を鳴らすと立ち位置が変わる。左右上下いびつに変わる。

 

 

鬼舞辻の位置は天井。黒騎士と白騎士が挟むのは巨大な蜥蜴のような鬼。

 

騎士たちは直ぐさま両断。黒き剣と白き剣は交差し肉を断つ。

 

「…………琵琶の方の【血鬼術】ですか!!便利ですね。ウチにも似たような鬼がいますけど!!」

 

 

【色彩ノ騎士】達を操り優雅に佇む白き令嬢の鬼は薄く笑う。

 

 

「……よく笑う鬼だ」

 

「感情表現が私の【芸術】には必要ですから。感情のない【作品】はただの駄作ですわ。」

 

 

「…………ふ。何用だ女。興が乗った。話くらい聞いてやる」

 

「話を聞いて下さるのですね。孤立無援故2体の騎士達の無礼許して下さいましね」

 

 

 

「して、どういう用件でわが無限城を土足で踏みにじった訳か」

 

「我等が【見えざる月】と同盟を結びませんか?」

 

「同盟だと?……私は貴様を鬼にした覚えがない。そんな出自不明の貴様と同盟など結べるか」

 

「…まぁ聞いて下さい。我らは【鬼ノ楽園】が最終目的です。あなた方にとって不都合なものは御座いませんわ」

 

「鬼の楽園だと?」

 

「そうですわ。鬼による鬼のための鬼だけしか居ない世界を作る素晴らしい世界を作るのですわ。……【人】という害虫を駆逐するのですわ」

 

「………貴様、【血霞】とは真逆の【人間嫌い】か」

 

「ええ、人など穢らわしく傲慢で薄汚い代物ですわ」

 

 

「…それには、同意だがな。駆逐とは思い切るな女」

 

「…貴方の【鬼化】という素晴らしい力をお持ちなのに未だ世界は人間がのさばっているのは理解出来ませんわ【始祖】」

 

「何が言いたい?」

 

「…貴方の力を下さい。その至高のお力お譲り下さい。」

 

「何が同盟だ小娘。」

 

 

ベベン!!

 

 

「【黒死牟】」

 

「……………………御意。」

 

     

      月の呼吸・壱ノ型

 

 

 

      色の呼吸・紫ノ型

 

 

琵琶の音色と共に現れた黒き【死】

 

 

欲して止まない【漆黒】

 

 

死神が如き【黒死】

 

 

     【闇月・宵の宮】

 

 

     【紫月(しづき)・奪剣】 

 

 

横薙ぎの月輪が付随する斬撃と黒騎士が放つ紫の剣がぶつかり合う。

 

 

「お初ですわ、【黒死牟】様!!お会い出来て光栄ですわ!!最強の鬼!!最強の剣士!!我が作品の参考にさせて頂けるならば!!感謝の極み!!」

 

白騎士が駆ける。 

 

    色の呼吸・銀ノ型【銀光一閃】

 

霹靂一閃に似た【銀光】が居合いがごとき速度の剣戟が【黒死牟】へ放たれる。 

 

「………確かに早い。速いが私には効かない」

 

目玉だらけの異形の刀で受け止め相殺する。

 

六つの異形の眼光が真白を捉える。刻まれた数字は【上弦】【壱】

 

最強の【鬼】は悠然と驕らず刀を構える。  

 




挿絵追加。画力が欲しいです。
真白の外見参考程度に。


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夢幻ノ参【黒白ノ戦線】

死神たる一撃が黒白の騎士達を横薙ぎに切り払う。

 

「流石ですわ。実に死神と相応しいお力。ンフフ。如何です?【新月の漆黒】として【見えざる月】にきませんか?【漆黒】の座は空席ですわよ?」

 

「………断る。そちらへつく理由はない」

 

 

「…それは残念ですわ……なら、古来より作法。弱肉強食にて力でねじ伏せ従わせるのも一興ですわ」

 

 

    領域展開【色彩神話再現・色彩の円卓(カラーオブラウンド)

 

 

様々な色彩の騎士達が【真白】を守護するように現れる。

 

「私の騎士達。私の作品集ですわ。ふふふ堪能して下さいまし。」

 

恍惚の表情を浮かべる真白に眉をひそめる黒死牟。

 

 

騎士達は息を合わせた攻撃を繰り返す。黒死牟は六つの眼でそれら全てを見極めギリギリのところで回避する。

 

 

黒死牟の動きは無駄のない剣士として極限に至ったもの。

鬼の躰に、【呼吸】

 

そのことに関しては【血霞麟】と【真白】より超越している。

 

剣士として到達点。鬼としても究極点。

 

それが【上弦の壱】黒死牟。

 

 

六つの眼光が刹那を見切り鬼の躰がその刹那に順応し月下の呼吸が更なる力をまたもたらしている。

 

 

複雑な異能はいらず研ぎ澄まされたそれは高みへと至らす。

 

 

    月の呼吸・壱ノ型【闇月・宵の宮】

 

 

先程放った【闇月・宵の宮】よりさらに付随する月輪が多い斬撃が放たれる。

 

付随する月輪は予測不可能な無作為な動きをし【騎士達】では対応出来ない。色彩へと戻る。

 

付随する月輪の動きに対応出来るのは細やかな感覚。超越した【直感】が必要。

 

複数を自動で操る【真白】では厳しい。

 

「お嬢様。わたくしにお任せ下さいませ。」

 

真白に傅く女傑。

 

「【イリス】完成の為尽力致します。」

 

「良い子ね。【色彩ノ席位】を貰えるよう頑張りなさいなマリー?」

 

「はっ!!」

 

銀髪の女傑は剣を抜く。錬られた殺意は暴風吹くが如き黒死牟へと向ける。

 

信仰なまでの忠義は怖れを払いただただ突き進む。

 

 

「……………………素晴らしい忠義だな」

 

微かな感嘆の言葉を、吐きながら殺意を緩めず刀を構え直す黒き死。

 

 

「お嬢様の、礎になって貰うわ【最強】」

マリーと呼ばれた銀髪は刀を抜く。

 

銀髪の女傑の名は【白銀川鞠衣(しらがねがわまりい)

 

 

纏うは【鬼殺隊】の隊服に銀の文字が刻まれた羽織に銀髪にあどけさを残すも力強さを内包した風貌。

 

 

【鬼殺の剣士】階級は甲の剣士である。

 

つまり人間(・・)だ。

 

 

 

    雷の呼吸・壱ノ型【霹靂一閃】

 

 

煌めく銀光。雷がごとき速度の居合いを放つ。

 

 

「………………雷の呼吸の使い手か。良き一撃だ。鬼殺の剣士が人のまま鬼につくなど稀有な事例だ」

 

   炎の呼吸・壱ノ型【不知火】

 

 

止めれた【霹靂一閃】から炎の一撃へと繋げる。

 

 

「…………むっ?」

 

白銀川鞠衣はバク転。宙へ舞い壁を蹴る。

 

    水の呼吸・壱ノ型【水面斬り】!!

 

水面を切り裂くような袈裟切りを放つ。

 

黒死牟はその一撃を弾くが怪訝におもい眉をひそめる。

 

 

「……………貴様。複数の呼吸を使うのか?…」

 

 

「ええ。基本の呼吸は納めたわ。………その月の呼吸とやらも欲しいのよ。」

 

銀色へ色変わりした【日輪刀】反射で白銀と黒銀へと変わる稀有な刀。

 

 

「………【柱】でないのが不思議だな。」

 

 

 

「全ては真白お嬢様の為。【柱】であっては不自由だもの。なる必要はないわ!!」

 

 

     雷の呼吸・壱ノ型【霹靂一閃・2連】!!

 

 

再び音速の居合いを放つ。2連目の【霹靂一閃】で無理矢理軌道を変え叩き付ける。

 

 

「…だが一つのものを極めてこそ至高の力となる」

 

 

 

     月の呼吸・壱ノ型【闇月・宵の宮】

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

「……………【鬼殺の剣士】を配下にしてしているとはな」

 

「違いますわ。配下を【鬼殺の剣士】にしたのですわ。ふふふ私のカリスマの成せる技ですわ。あの子は私を心酔し努力して基本の呼吸を納めるまでのことをしてくれましたわ。いい拾いモノでしたわ。…鬼殺隊の情報を得るのも容易い。」

 

【鬼舞辻無惨】はその言葉にぴくりと反応する。

 

 

「ええ、【鬼舞辻無惨】私に忠誠を誓いその力を献上するのであれば【産屋敷】邸の場所教えて差し上げてもよろしくてよ?」

 

嘲笑。鬼の首魁に対しての傲慢無礼な態度は彼女もまた強者たる所以か。

 

 

【鬼舞辻無惨】からすればやはり不愉快極まる。

出自不明。鬼の楽園を作るなどと世迷い言。

その力を寄こしなさいという不遜。

 

無惨の苛立ちは頂点へ至りつつあった。【絶対】という存在であった自分にこうも馬鹿にされたのは初めてだ。

 

「小娘。どうやら死にたいらしいな」

 

女性の姿である鬼舞辻無惨は並の鬼ならば戦意など喪失し頭を垂れ慈悲を乞う程の殺意を放つ。

 

白い令嬢は意に介さず薄ら笑みを浮かべる。

 

 

「貴方の絶対性など支配下においてなければ意味は在りません。…………だから小物なのですよ。カリスマ性を持つ者はそんなもの無くても惹かれ敬い頭を垂れる。」

 

「………貴様。もう口を開くな。貴様の世迷い言には興醒めだ。」

 

「図星なのでしょう?」

 

そう囁く令嬢の言葉と共に真白は両断される。

 

無惨らしからぬ感情的な反射的な殺意で触手と変えた右腕は刃のように鋭く真白を横薙ぎに切り裂く。

 

 

「…お嬢様!!?」

 

「…………余所見とは余裕だな娘」

 

 

「!!?」

 

 

 

「……………ふん、久方振りに感情的になってしまったかまぁ良い………黒死牟。鳴女、片付けろ」

 

 

「は、はい」

 

琵琶の女性は琵琶を鳴らし外へと排出しようとする。

 

 

「あはっ。潮時ですわ。引きますわよ鞠衣。」

 

「お嬢様!!」

 

「頸を切り落とされなければなんとかなりますわ鞠衣。………ふふふいずれそれすらも弱点たり得なくなりますわ。貴方のようにね」

 

並の鬼など比べ物にならない再生速度。両断された上下の躰はきれいさっぱり接着される。

 

「………お腹が晒されるのは恥ずかしいですわぁ…」

 

「お嬢様こちらを」

 

「ありがとう」

 

鞠衣と呼ばれた剣士は自身の羽織を主に羽織らせる。

 

 

「当初の目的は達成しましたし今回はこれにてお暇させて頂きましょう。」

 

スカートの裾を持ち上げ軽く会釈する。

 

彼女の側には白銀川鞠衣とは別に先程血を与えた鬼と同じ姿の鬼が立っていた。

 

本体はまだ血の順応の為に床に蹲っていた。

 

いつの間にか複製されていたのか。

 

 

「……これはついで。良さそうでしたので【血霞】への一手として使わせて頂きますわ。ご挨拶は以上ですわ。愚行して頂ければ幸い。いずれ頂きに参りますわ【鬼舞辻無惨】」

 

「………………逃がすと思うか」

 

一瞬で間合いをつめる黒き死。

 

 

「貴方もいずれ頂きに参りますわ。黒死牟様。鬼舞辻の所有物一切合切ね」

 

 

琴の音と共に消える白い令嬢達。

 

 

「……………面目もない。」

 

 

「………次こそ確実に殺せ。【上弦】の力を集結させてでも」

 

苛立ちと共に怨嗟を吐き捨てる【鬼舞辻無惨】

 

 

 

「上弦全員に伝えろ。【見えざる月】とやらに負ける事は許さぬとな。そして最後の【下弦】花札の耳飾りの剣士を必ず殺せ」

 

 

べべん!!

 

【鬼舞辻無惨】は消える。

 

 

「全て貴方様の御心のままに」

 

琵琶の鬼も黒き死も消えたその場所は最後の【下弦】はふらふらと立ち上がる。

【始祖】の血に順応し更なる力を得た厭夢は歓喜を覚える。

 

「必ずや殺して更なる力を。」

 

血と共に流れてきた【花札の耳飾りの剣士】の情報を刻み込み笑みを浮かべる。

 




大正こそこそ人物紹介【オリキャラ】

血霞麟(ちがすみりん)

年齢・目覚めてから100までは数えたが数えるのやめた
自称永遠の21歳
誕生日・9月14日(目を覚ました日)

出身地・深い森(目を覚ました場所)

好きなもの・甘味全般。人間。かわいい女の子。

趣味・散策、囲碁将棋などの対人遊戯

身長体重176㎝・55㎏


本作主人公の人間大好きの赤い鬼。
鬼にして柱の剣士。

【大正こそこそ噂話】
人間大好き過ぎて趣味嗜好まで人間の真似をしている。
流行に弱い。

自分では表情豊かなキュートなお姉さんと思っているが無表情なので初対面では敵を作りやすい。
一番の親友は鬼でも態度変わらなかった蜜璃ちゃん。
錆兎真菰鱗滝さんは百鬼夜行以外の大事な家族。


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夢幻ノ肆【ぶらり夢幻列車の旅】

アニメ19話に続き20話も最高でした


浮かれていた。

 

これは任務ですし乗客の命も掛かった大事なものだ。 

それにこの切符を送りつけてきた【鬼】は何者でどういう魂胆かは分からないが確実に麟様を陥れる為のものだろう。それは間違いない。

 

 

「どう似合う?最近の流行の洋装だってー」

麟様は新しく仕立ててもらった真っ赤な洋装を見せつけてくる。百歳児ですか貴女は。

 

「はいはいお似合いですよ麟様」

 

「投げやりだな!!?…零余子どう思う?。」

 

「お似合いかと。麟様スタイルいいですからねー…無駄に」

 

「無駄に!?…」

 

最近は零余子さんも麟様の扱いが分かってきたのか塩対応だ。零余子さん若干の私怨入ってませんか?

 

麟様はそう浮かれていた。

 

基本的に【深い森】での隠居生活。

 

浅草などの、都会の散策などはたまにしますが基本的に浮かれています。

 

まぁ楽しそうで良いんですけどねぇ。

 

今は赤い洋装を着て年甲斐もなくはしゃいでいるのを生暖かい眼差しで見守る。

 

時間は夕暮れ。日は沈み駅舎で問題の列車を待つ。

 

私、お雪と零余子さんで麟様に付き添う。

 

基本的に異形である【百鬼夜行】は、目立つ。角のある零余子さんは帽子を被って貰ってますが。

 

 

「お雪~。駅弁食べる?」

 

「頂きましょう」

キリッ。麟様の影響で食事は数少ない楽しみだ。

【百鬼夜行】は栄養取る必要ないはないが嗜好品として頂ける。

摩訶不思議ではありますけど心の栄養にはなります。

 

 

「むっ?…血霞殿ではないか」

 

燃えるような髪に炎のような羽織に隊服。特徴的な出で立ちをする一目で煉獄家の血縁とわかる姿の煉獄杏寿郎さんその人がいた。

 

購入している駅弁の数がおかしいがまぁ甘露寺さんに比べればまだ常識の若干の範囲外だ。

 

 

「やっほ~。杏くん。おひさ~」

 

「……その、呼び方は控えて欲しいわけではあるな」

 

「この前はありがとうね」

 

「是非も無し。【柱】として当たり前のことしただけだ。……貴女のことは多少認めてはいるがな。……よもやこのようなところで会うとは!!」

 

「お忍びだよー。まぁ遊びに来てるわけじゃないんだけど。そっちは隊服ということは任務かな?」

 

「うむ。」

 

麟様は煉獄さんに話しかけ談笑する。不死川さんに比べればまだ友好的な煉獄さんはそこまで塩対応ではなく元来の性格なのかそれなりに会話が弾んではいるようだ。

 

この前の会議で敵対する理由は今のところないのもあると思います。

 

 

「短期間のウチにその汽車で四十人以上の人が行方不明となっている。数名の剣士を送り込んだが全員消息を絶った!だから柱である俺が来た!」

 

「なるほどねぇ……私のところには脅迫染みた招待状が来たんだけど関係あるのかしらぁん?…」

 

「ふむ、血霞殿はプライベートかと思ったがそのような事情か。なるほど共同任務といこうじゃないか!」

 

煉獄さんは麟様に見せられた招待状を見て怒気を纏っていた。

 

なるほどまっすぐな人。まるで炎のようなお人ですね。

 

「そだね。…………私は【百鬼夜行】がいるから人海戦術染みた事は出来る。………固まってはあれだから一旦別行動しよう。一緒にいて万が一一網打尽に出来る術を持つ鬼かも知れない。」

 

「鬼は徒党を組まないが【鬼舞辻】などの意思が介在したら別であるからか!複数の鬼かも知れぬしな。何があれば鎹鴉にて連絡しよう!」

 

「こちらも【百鬼夜行】にて連絡するよ。…よろしくね杏ちゃん」

 

「うむ!……ここの駅弁はオススメと甘露寺にきいてな。血霞殿も食べてみると良い。」

 

「そうするよ。お兄さん。三つください」

 

「毎度」と煉獄さんに勧められた牛鍋弁当を麟様、私、零余子さんの分を麟様が三つ受け取る。

零余子さんの人食い衝動と必要性が無くなりみ零余子さんは私達と違い生きたまま百鬼夜行にしているので普通に食事が必要らしい。

 

別行動で去って行く煉獄さんに軽く会釈しながら購入した駅弁を麟様から受け取る。

 

「………鬼殺隊も動いているんですね」

 

「…零余子~?…置いてくよ~どうしたの?…」

 

「知っているような匂いがして…」

 

「もしかして現【下弦】?…」

 

「でもあまり下弦同士で交流はありませんでしたから。基本的に。……会ったことあるのは【伍】の累と【壱】の厭夢くらいでしたから。まぁ、顔見知り程度ですけど」

 

「……まぁ【下弦】程度ならなんとかなるでしょう。面倒くさい【血鬼術】じゃない限り……だけど」

 

「麟様。運が悪いですから悪い方向悪い方向に行くんですからそんなこと言わないで下さい縁起の悪い」

 

「ひどっ!!…まぁ幸運値は低いけどさぁ…………この前占い見て貰ったんだけどね」

 

「甘露寺さんに見て貰っただけでしょうに。本格的なモノではないでしょ麟様」

 

全く流行に弱いんですから。と軽く嘆息する。

 

 

あれは…あの黄色い頭に猪頭は我妻さんに山の王ですか。ということは炭治郎様もいそうですね。あの二人ではストッパーがいない組み合わせです。

 

あ、見失いました。炭治郎様たちも任務でしょうか。煉獄さんと同じ任務なら煉獄さんに合流するでしょう。

 

「どしたの。お雪」

 

「いえなんでも」

 

微妙に過保護だから余計なことしそうなんでだまっときます。

 

「そう?…ならそろそろ出発だから乗るよ~?やっぱり凄いねぇ。人間は。こんな大きいモノを走らせるなんて。弱者を喰らうしか能の無い鬼とは違うよ~」 

 

感嘆の声を上げながら汽車へと乗っていく麟様。べた褒めですね。

 

「まぁ江戸の頃からお供してますけど…こういった技術の進歩はまぁ確かに凄いですね」

 

「同意。山暮らしでしたから文明的ね…まぁいい経験ね。鬼ならこういった経験できないもの」

 

零余子さんも同意して3人並んで席につく。

 

「…………【八咫烏】」

 

『現状異常なしだ。どう仕掛けてくるか分からん気を抜くなよ姫』

 

「あいよ」

 

上空を飛び警戒する八咫烏と念話する麟様。

 

 

指定された日時の夜の時間帯となる。

 

乗客の命を賭けられた戦いが切って落とされる。

 

 

「その前に腹ごなし腹ごなし~」

 

台無しです。あ、確かに美味しそうな牛鍋弁当です。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

「…準備出来たかしら?【夢ノ色彩】」

 

「頃合いだね。【僕】も仕掛けに来るはずだ」

 

「紛らわしいわね。……【血霞】は来たかしら?」

 

「汽車へ乗り込んだのは確認済みさ。ただ」

 

「ただ何よ?」

 

「……………【柱】と3名の剣士も確認した」

 

「………それこそ【あんた】の出番でしょう?」

 

燕尾服を着た少年は薄ら笑みを浮かべる。

 

 

「そうだね鎖天川さん」

 

「ぬかるんじゃ無いわよ」

 

「もちろんだよ、夢ノ世界に沈めてあげるさ」

 

愉快そうに笑う【下弦の壱】厭夢の複製体【夢ノ色彩】



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夢幻ノ伍【死せるべく夢ノ足音】

夢という言葉がある。

 

将来設計の話ではなく睡眠時に見る夢の話。

 

夢にも種類がある。

 

こう在りたいという願望夢。今のままではいけない事を警告する警告夢。未来で起きることを示唆する予知夢。現状をそのまま夢となる現状夢。不安やストレスが反映される不安夢・ストレス夢。

 

 

悪夢、明晰夢、正夢、逆夢等様々だ。

 

 

それらの中でも特筆して取り上げたいとは回帰型と分類される夢。

 

過去のことを夢として見る過去夢。

前世のことを夢として見る前世夢。

他人からのメッセージが紛れ込む夢、魂の共鳴。

 

私が見る夢は多分過去の夢。失われた筈の夢。

 

紐解かれ始めた私の記憶。そう思いたかった。

 

優しい笑顔が事実であったと信じたかった。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

架純華は優しい女性だった。いつも子供達に重きを置く優しい女性。自身を省みずただ直向きに。その時の私は彼女の澱のような憤怒を知らなかったがそれでも。

 

私の理想の女性だった。

 

 

数居る【鬼殺の剣士】の中でも数少ない女性の剣士で2つの呼吸を扱う天才でもあった。

 

私を拾い育てくれている彼女は私にとって全てでありそれ以外はいらなかった。

 

りんとして生まれ意味を持たず捨てられ彼女に拾われ【架純りん】として生まれ変わった。

 

私には記憶が無かった。外的要因か心的外傷かは分からない。私には自身が誰なのか分からなかった。

 

それでも華姉が私を愛してくれているからそれは私にとって些末な事だった。

 

私は【架純りん】それ以上でも以下でもない。

 

それが私にとって世界だった。

 

料理が苦手な華姉の為に料理を覚えて洗濯や掃除をして、帰りを待つ。

 

それが私の幸せだった。

 

 

だったのだ。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

「麟様!!?」

 

敵の術中にはまったのか幾ら声をかけても覚醒をしない主に動揺する。

 

 

「お雪、落ち着いて!」

 

「でも!」

 

車内は異様な雰囲気だった。私達二人以外眠りに陥っていた。周囲の乗客は幾ら声をかけても覚醒をしない深い眠りに集団は陥っていた。

 

襲撃にしては搦め手に過ぎた。 

 

「……【八咫烏】さん!!」

 

「………無事か!!」

 

汽車の窓より深紅の鴉【八咫烏】が舞い降りる。

 

「異常は!!」

 

「…侵入者はなしだ。雪。汽車に最初から乗っていたやもしれぬ!!不覚!気付けぬとな!」

 

「………麟様が深い眠りに陥ってしまったわ。上弦相当の麟様が搦め手に足元を掬われてしまいました……多分並の鬼では無いわ。」

 

「………零余子。催眠の【血鬼術】を持つ鬼はいたか?…」

 

「…………【鬼月】同士は手の内を晒さないわ。基本的に協力はしないし…蹴落とす相手だもの。……あの人の命令で言われる以外の時は行動を共にはしないもの。…現【下弦】の手の内は知らないし【上弦】には会ったことないわ。」

 

「そうか。致し方あるまいに。…何故かは分からぬがお前ら二人が催眠に掛からなかっただけで僥倖。……姫が寝ている以上新たな【百鬼夜行】を出せまい。我等で原因を絶つのだ」

 

【八咫烏】の言葉に私達二人には緊張が走る。

 

 

「…雪、お前の日輪刀持ってきてるか?…」

 

「はい」

 

いつの間にか手に持つ鞘に雪結晶が刻まれた真っ白な刀。

 

「………………【日輪刀】?」

 

零余子さんは目を見開き此方を見る。

 

「…麟様や柱の皆さんほどではないけど【呼吸】が使えるんですよ。実は。弐ノ型までしかありませんけど。………江戸から仕える身。時間はありましたから。……【百鬼夜行】で使えるのは私だけですよ。時間がありません…零余子さん。ありがとうございます落ち着きました」

 

「う、うん」

 

「無理はするなよ雪。」

 

「はい。麟様は殺させはしません。【百鬼夜行】たる私の責務ですから。…行きますよ【八咫烏】さんは麟様の護衛を。……此方に現れるならば【八咫烏】さんの【血鬼術】で呼んで下さい。」

 

 

私達二人は駆ける。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

別車両。麟が眠りに陥ってしまった時とほぼ同時刻。

 

かまぼこ隊。竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助は【炎柱】煉獄杏寿郎と合流していた。

 

炭治郎は蝶屋敷を出てから確認したかったこと【ヒノカミ神楽】について彼に問うた。

 

彼も【ヒノカミ神楽】については知らなかったが煉獄家に所蔵された【炎の呼吸】に関する書物に関連されたことが記述されているやもしれぬと提言した。

 

また面倒見の良い彼の性根から面倒を見てやろうと笑う。

 

それから煉獄の任務のことを説明受ける。鬼が出る場所に移動しているのではなくこの汽車自体が鬼の被害の場所だと聞き三者三様の反応を示す。特に善逸は「おりるぅぅぅ!!」と騒ぎ始めた。

 

車掌が現れ切符に、切り込みを入れて貰った直後巨躯の鬼が車内に現れる。

 

「車掌さん、危険なので下がっていてくれ!!火急のこと故帯刀は不問にして頂きたい!!」

 

「その巨躯を隠していたのは血鬼術か、気配もさぐりづらかったしかし!!罪なき人に牙を剥こうなら!」

 

煉獄杏寿郎は燃えるような赫刀を抜刀する。

 

「この煉獄の赫き炎刀がお前を骨の髄まで焼き尽くす!!」

 

 

    炎の呼吸壱ノ型【不知火】

 

 

燃える一閃が鬼を両断する。

 

「すげえや兄貴!!見事な剣術だぜ!!おいらを弟子にしてくだせぇ!!」

 

「いいとも!!立派な剣士にしてやろう!!」

 

「おいらも!!」「おいどんも!!」

 

「みんな纏めて面倒見てやる!!」

 

 

「煉獄の兄貴ィ!!」「兄貴ィ!!」

 

 

 

現は夢に浸食される。

ガタン、ガタンと汽車の音のみが響く。

 

鬼の襲撃などなく鬼殺の剣士たちは夢へと沈む。

 

 

「夢見ながら死ねるなんて幸せだよね」

 

 



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夢幻ノ陸【淡く冷たく朧気な恋心(ゆきこいがたり)・壱】

私の記憶はまばらだった。

 

私の死因は井戸に撒かれた毒を服毒してしまった服毒死らしい。

 

所謂毒殺だったという。どうしてという疑問は浮かぶ。

 

詳しくは知らないと赤い女性は頭を振る。

 

隣にいる父らしき人物は申し訳ないと呟く。

 

理由を知りたかったわけではないと返す。

 

ただどうして私の記憶はまばらなのだろうと。

 

 

そして私の胸中に存在する淡い切ないこの気持ちは何なのだろう。

 

どうしようもなく寂しかったのだ。まるで大切な何かを置いてきてしまったとそれを忘れてしまった喪失感が去来する。

 

わたしの髪に付いていた雪の結晶を模した髪飾りを見て涙がどうしても止まらないのだ。止まらないんです。

 

 

赤い女性は何も言わず抱き締めてくれた。死んだ筈の私達が何故こうして生き返ったかは分からない。かりそめの命をくれたこの人に感謝は尽きない。

 

この虚しさと喪失感を思い出すまでこの人に尽くし仕えよう。

 

この、淡い雪のように脆い恋心の正体に微かに不安と期待を寄せながら。

 

…【狛治】という名前だけを抱き締めながら。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

    雪の呼吸・壱ノ型【雪月花】

 

私は真っ白な霜を撒き散らす氷のような刀身をした日輪刀を振るう。

 

氷のような刀身でも日輪刀共通の陽光の力を持つ玉鋼で打たれている。

 

実戦で抜くのは久しぶりだ。

 

乗客を食らおうとする鬼を切り払う。凍結させ粉々に粉砕する。

 

    血鬼術【凍歩幕】

 

私の足が付く場所が凍結していく。

 

凍らせる血鬼術。私の雪娘たる力を行使する。

 

汽車のあらゆる箇所が鬼の肉となり攻撃を加えてくる。

 

 

「…………邪魔です!」

 

 

    雪の呼吸・弐ノ型崩し【牡丹雪・淡恋語(あわこいがたり)

 

淡雪が如く緩急ついた剣閃が煌めく。

 

汽車の天井から生えた触手を斬り捨て凍結させ粉々にする。

 

まるで、この汽車の自体が鬼になったかのよう。

 

この8両編成の汽車が鬼の肉なのかも知れない。

 

炭治郎様の気配。あの子も戦闘へ向かっているようだ。

 

ならば合流すべきかもしれません。

 

私は致命的に体力がありません。長時間の戦闘は不可能。

 

全集中・常中も長くは持たない。短期決戦で麟様を叩き起こさなければなりません。我等は【百鬼夜行】一鬼だけでは百鬼夜行たりえないのだから。

 

 

「…零余子さん、…炭治郎様達と合流しましょう。」

 

 

「う、うん!!」

肉を爪で切り裂く零余子さんは返事をする。

 

「させるかよ。………貴殿らを殺すのが某らの役目よ」

 

「女子が二人。でもうまそうじゃねぇなぁ。」

 

「人ではないのだ。喰えはせぬよ。波浄(はじょう)

 

「…なら犯してバラすか。肉人形として飼ってやるのも一興だな雨円(うえん)

 

「相変わらずの悪趣味だな。だが好きにするが良い。瑠偉様よりすきにしてよいとの言付けだ」

 

「分かってらっしゃるよ瑠偉様は」

 

「ああ、あの方は【血霞童子】にしか興味ない。あの方は興味ないことには些事に過ぎないよ」

 

進むべき前両より全身に罪人の証の刺青を入れた破戒僧のような格好をしたげすた笑みを浮かべ巨漢の鬼が現れる。

 

後退すべき後両を阻むは長身の糸目の侍のような風貌の歪な刀を二振りを構えた鬼。

 

 

「貴方たちは…?」

 

「我等は【雨獄衆(うごくしゅう)】、【新月の無色】鎖天川瑠偉様より貴殿らの足止めを承った。」

 

「良いこと教えてやるよぉ。お嬢ちゃん。この汽車は我等【新月】と【鬼舞辻】の両陣営がいるぜぇ?【血霞童子】は俺達に殺されるんだぁ!!」

 

「波浄。無意味に情報を渡すんじゃない」

 

「いいじゃねぇか。どうせバラして殺すんだ。」

 

「………馬鹿にされたモノですね」

 

「お、お雪?」

 

「………けして私も弱くはありませんよ?【雨獄衆】さん」

 

日輪刀【雪白狗】を構える。可憐な少女は巨躯と長身の鬼の前に怯まず立ち向かう。

 

「援護は任せましたよ。零余子さん。初めての共闘ですね」

 

「うぇ!?…う、うん…ま、任された!」

 

「及び腰じゃねぇか!大丈夫かよ嬢ちゃん!!」

 

 

車両内の死闘の一幕はかくして切って落とされた。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

竈門炭治郎は、家族の夢に溺れていた。

 

それは渇望して切望した幸せな光景だった。

 

あまりにも縋りたくなる幸せの夢。

 

竈門炭治郎が弱かったならば縋り溺れ堕ちていた。

 

 

大好きな家族と送れるはずだった日常を謳歌したかった。

 

 

けれど、現実の禰豆子を置いてはいけない。彼女の爆血の炎が思い出させてくれた。

 

夢へと縛り付けていた病床の青年と繋がっていた綱を幸運にも焼き切ってくれ夢の自分の頸を切り覚醒へと至る。

 

俺は禰豆子を人間に戻さないと行けない。だから…どんなに幸せな風景だとしても涙を堪えて前を進まなきゃ行けない。後ろ髪に引かれながらも振り切る。

 

家族を失ったのは、どうしようもない竈門炭治郎の現実だから。竈門炭治郎は妹を、救うため前に進まなければならないと覚悟をしている。

 

覚醒。

 

この催眠の地獄の鬼を鬼殺するために。

 

刀を抜き前を向く。



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夢幻ノ㯃【夢現ノ開戦】

架純華は基本的に面倒見の、よい女性だった。  

 

ただどうしようもなく生活能力が著しく低かった。

 

鬼殺隊に入隊する以前の孤児院を経営する時もお手伝いさんに頼る始末で孤児の少女達にすら劣っていた。 

 

「ごめんねぇ……」

 

「適材適所でしょ華姉、私は華姉の役に立ちたいもの」

 

「うぅ可愛いやつめ。嫁に貰ってやるからね」

 

「華姉が嫁に行くんでしょ。いつ行くのさ」

 

「うぐっ」

 

華姉は男所帯で育ったらしい。武家の息女で男の子に恵まれず架純家の跡継ぎとして武芸を叩き込まれたらしい。だからか花嫁修業的なことをせず現在に至るらしい。何故孤児院を経営してたかは当時の私も知らなかった。 

 

彼女の気質からして家事には向かないのは見て取れた。

 

だからか役割ができたようで嬉しかった。

 

拾われて幾何か経ち15歳の少女まで成長した。珍しい真紅の瞳に真紅の髪だからか目立っていた私は外に馴染めずに居た。

 

友達等居なかったし架純邸に引き籠もることが多かった。

 

それに日の光が何故か苦手だった。皮膚の疾患なのかは分からない。長時間日に晒されると肌が爛れてしまう。

 

それ以外は健康体で体力は普通以上にあった。

 

それでも華姉という絶対的存在があれば私にとっては些事に過ぎなかった。

 

「りん?」

 

「うん?」

 

「りんは出掛けたくないの?…一度お医者さんによく見て貰ったらどうかな?」

 

本当に私を心配してくれていることが分かる真摯な表情だ。凛々しくて長身で私の理想だった。

 

艶のある黒髪につり目の切れ目のある瞳だ。スタイルもいい。

 

背が伸びずちんちくりんの私からしたら羨ましかった。

 

「……大丈夫だよ、華姉。私外より中のが好きだし。ね?」

 

特に気にした様子のない笑う私に軽く嘆息はするが二度は言ってこなかった。

 

それでいい。私は外の世界には興味はなかったのだ。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

「瑠偉様、【血霞童子】夢に陥りました。…………(さざなみ)が夢縛りの役を担います。」

 

「そう。意外と厄介ね【百鬼夜行】というやつは」

 

「く、くそ」

 

「戦闘向きじゃないようね鴉。所詮は鎹鴉でしょう。」

 

踏み潰すと【八咫烏】が血霞へと霧散する。

 

「無様に眠り腐って居るようね【血霞】このまま殺してはつまらないわ。けど……その腕もう片方も切り落としてあげるわ」

 

刀を抜く。透明な刀。無色で水晶のような摩訶不思議な鋼の色をした日輪刀を抜刀する。 反射によっては刀身は見えない刀だった。 

 

隻腕の奴の残された左腕を切り捨てるべく刀を振り下ろす。

 

 

    【自動反射(オートカウンター)・血刃】

 

血刃が、自動反射で瑠偉の攻撃を阻む。

 

瑠偉の腕より出血。

 

「タダでは眠らないってわけ?」

 

ペロリと舐めると直ぐさま再生する。

瑠偉は不快そうに眉をひそめる。血液が夥しい数の瞳を見開き睨めつけてくる。

 

「良いわ。漣。夢の中で殺してあげなさい。」

 

「はっ!!」

 

女学生の恰好した女は仰々しく返事をする。

 

【新月】の座を与えられた鬼は鬼を自分の部下へと塗り替える【権能】を与えられる。

【見えざる月】にて参謀の役割を持つ【新月の灰羅】の【血鬼術】の一端ではあるが。

 

【見えざる月】は【新月の純白】だけではなく灰色の女も中枢として機能している。

 

「まぁどうでも良いけど」

 

瑠偉はただただ【血霞童子】を殺したいだけ。

 

狂わした理由すら忘れているけど関係はなかった。

 

 

誰か愛しい人物の顔を忘れているけれど。

 

ただ純然たる殺意のみで今【色彩ノ鬼】として存在している。涙はとうに、枯れていた。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

    雪の呼吸・壱ノ型【雪月花】!!

 

    

    我流剣【雨月切り】!!

 

 

濁流が付随する剣閃を【雪月花】で凍らす。

 

目の前の鬼の侍の【血鬼術】なのでしょうか。

 

周りにいる眠る乗客はすべて人質。……汽車内で溺死という摩訶不思議な結果になってしまう。

 

「某の剣についてこれるとは見た目に違い熟練のよう。生前は辻斬りでならしたのだがな」

 

「…………こう見えて江戸の生まれですので」

 

「なるほど。少女に見えて同輩という訳か。……某も江戸の生まれよ。……くく、辻斬りに堕ちた身としてこう斬りがいがあるものと相まみえれるとは僥倖。」

 

「私程度で満足出来るなら先はありませんね。…鬼殺隊には私以上の剣士は腐るほどいますよ」

 

「それは楽しみだ。貴殿を殺してつまみ食いといこうじゃないか」

 

雨円は噛み殺した笑みを浮かべる刀をさらに構える。

 

異形の刀。刀の腹にさらに刀身が生えた刀。

 

 

その生えた刀身が濁流を付随する。濁流如き斬撃が応報する。喰らい喰らう。その濁流を喰らう前に凍てつかせる。

 

烏天狗(お父さん)が居れば簡易領域展開【破戒刹】があれば簡単な話なんだけど…)

 

いれば、あればのもしもの話は戦闘には不要と頭を振る。 

 

 

   雪の呼吸・壱ノ型崩し【狂い咲き雪月花】

 

凍気を纏う連撃を放ち濁流如き斬撃を砕き粉々にする。

 

 

私は麟様をお守りするだけ。霜を撒き散らす刀を構える。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

【百鬼夜行】としての初陣。それが正面衝突のしかも明らかのパワータイプの巨漢の破戒僧。格上。【下弦】相当かそれ以上。

 

いつも格上相手には逃走し生き延びてきた臆病者。それが私、零余子。

 

それは先日までの私。【鬼舞辻無惨】という恐怖に怯え生きてきた。

 

新たな主【血霞麟】様は【鬼舞辻無惨】とは真逆で私を家族として扱ってくれた。

 

報わねばその一心で恐怖を振り払い対峙する。

 

 

「良いねぇ、恐怖を振り払い頑張ってますという小動物感。可愛がりがいがあるというものよ」

 

波浄という坊主に相応しくない言動の巨漢は舌なめずりをする。ゾゾゾという悪寒が走る。

 

これ(破戒僧)は女の敵である凌辱者であるという直感があった。

 

「五月蠅い喋るな変態」

 

「おっと酷い言われようだ」

 

「変態以外の何者じゃないじゃない」

 

「そうか、ならおねだりできるまで調教し無ければ…なぁ!!」 

 

巨漢とは思えぬ俊敏さで距離を詰める波浄。岩のような拳が、私の身体を穿つ。

 

 

     血鬼術【増減操作・威力】

 

威力を最低値まで軽減させるが…!!?…

 

 

「あっつぅ!!?」

 

身を焼くような熱さが我が身を苛む。

 

「熱湯を纏う拳だぁ!珍妙な血鬼術のようだなぁ!!?」

 

増減出来る対象は複数指定できない。拳の衝撃と熱湯の熱さは別だ。

 

これが私の血鬼術の、使いにくさ。

 

 

それでも戦いようはある。百鬼夜行として【血怪】として相応しいように。

 

     血鬼術【増減操作・空気(・・)

 

 

精一杯のしたり顔をしてやる。気勢だけは負けてはいけない。私はもう【百鬼夜行】だから。



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夢幻ノ扒【漣ノ真紅無意識領域旅行(なにそれ聞いていない)

漣は【雨獄衆】として初めて塗り替えられた鬼であった。黒髪の三つ編みに女学生の格好をした地味目の女の、鬼。

 

鎖天川瑠偉は手足となる駒を欲していた。

 

鬼殺隊時代孤立無援状態に陥り死亡したことにより痛感していたからだ。自身のプライドの高さも重々承知していた。

 

だから自身を崇拝し忠誠を誓うような下僕を欲していた。

 

死にかけの鬼を選んだのは気紛れだったかそれとも直感めいたモノだったかもしれない。此奴はけして私を裏切らない忠実な僕になると。勿論枷的な契約を込みとして【雨獄衆】として雇用した。

 

 

驚いたことに【新月の灰色】から貰った権能は【鬼舞辻】の呪いをも外すモノだった。

鬼にとって【鬼舞辻】の呪いとは枷で有り縛りだ。

そういう連鎖であると理解して服従する縮図であった。

 

 

それから解放された事は夢心地だと漣は言う。足枷だと。ああ、此奴は私のために死ねると確信する。

 

ただ縛るモノが変わっただけというのに気付かず。

 

恐怖から崇拝にというくだらないものに変わっただけ。

 

あまりのくだらなさに失笑する。ああ、その盲信使い潰してあげるわ。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

【血霞麟】の無意識領域に侵入を果たした漣は【精神の核】を探す。

 

【夢ノ色彩】の【血鬼術】により夢へと侵入が可能となる。

 

場所は静かな邸宅だった。けして大きくはないが二人が暮らすには広い邸宅。

 

笑いあう黒髪の女性に【血霞麟】の少女時代と思われる真紅髪に真紅の瞳の少女。

 

かなりの深層の無意識領域と推察される。【夢ノ色彩】も元の【下弦ノ壱】も【鬼】の夢の中に入った事が無いため予想外の事象へ警戒するよう言われている。

 

人とは重ねた年月が違うため夢の厚みも違うのかもしれないと。

 

蛮勇とは言わざるを得ない。虎穴何たらよ。

 

漣は自身の忠誠を示すため真紅の【無意識領域】へと歩を進める。夢の住人に気付かれぬよう【精神の核】を探す。

 

いくら鬼とはいえ【精神の核】を破壊されては生きた屍となる筈だ。肉体の再生能力は【上弦】相当でも精神に対しても再生能力は働くのかは疑問であるし。基本鬼は我が強く【十二鬼月】程なら尚更。【新月】も同様だが核は核。精神の心の臓だ。

 

死に腐る筈よ。

 

 

歩を進めると場所が変わる。むせ返る血の臭い。

 

鬼ならばむせ返るはずもないのに嫌悪感を催す血臭。

 

【血霞麟】の【幸せな記憶】から暗転。

 

真紅の空間が其処にはあった。反射的に怖気が走る。我が身を抱き締める。

 

 

まるで血の海地獄。あらゆる真紅を塗りたくった空間。

 

地獄を彷彿させる血の地平。人気もなくただただ赤くただただ見渡すだけの赤い地平線。

 

【血霞麟】の本質を見た気がした。

 

【鬼】の為の地獄。そこはおぞましい寒気がした。鬼になってから希薄になっていた死への恐怖を再び想起させる。指の先は痺れ足は震え唇は色を失う。

 

 

「…………」

 

 

漣は【鬼喰らい】の【血姫】の噂を【雨獄衆】になる以前から聞いた事があった。

 

鬼を喰らう鬼。同族喰らい。【鬼喰(きじき)血刃(やいば)

 

 

我等の天敵。我等を喰らうだけの捕食者と。

 

 

少女の形をした化生がそこにいた。赤い装束を纏った赤い少女。無表情から一転。獲物を見つけたように薄く笑う。

 

少女の身の丈より長い赤い長刀が抜かれた。

 

あ、え、……なにそれ聞いていない。

 

夢の中で逆に殺されるなんて…!!?

 

 

一閃。それで私の意識は暗転した。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

「…………【夢ノ色彩】」

 

「なんだい?」

 

夢縛りをする漣と眠る【血霞麟】を見守る瑠偉は椅子に座り楽しそうにする厭夢の複製体・燕尾服の鬼の少年に声を掛ける。

 

 

「……………こんなんで血霞の秘密なんて分かるのかしら」

 

「君が何を知りたいのかは知らないけど【夢】とは無意識の情報の塊だよ、まぁ、知りたい事柄がすぐ見付かるとは思えないけどね。……まぁ本来は眠らして殺すだけの【血鬼術】さ」

 

「……………つまらない力だわ」

 

「勘違いしないで欲しいね。それは僕の本体の話。僕の与えられた【領域展開(ちから)】はそれだけじゃあない。…………君は本気の彼女に勝ちたいんだろう?」

 

「……………【色】も持たない分際で生意気言うわね」

 

 

「【見えざる月】においての地位なんか興味ないだろう?お互い。僕は他者の絶望を啜るだけの鬼さ」

 

「ち、性格の悪い奴ね」

 

「それこそお互い様さ。性格の良い鬼など直ぐに淘汰される。他者を蹴落として喰らい強くなる。それが摂理さ」

 

意地の悪い笑みを浮かべる鬼に不快感を示しながら視線を逸らす。

 

そうだ、どうであれ私は【血霞麟】を叩き潰せればそれで良い。それ以外些事だ。

 

前方の車両からは、戦闘の気配を感じる。

 

こいつの本体の【下弦の壱】がこの汽車の同化し乗客を人質に柱を含む【鬼殺の剣士】4名、鬼一匹と戦闘をしていた。

 

存外苦戦しているよう。そうだ【柱】はそれだけの力を有している。まぁ手伝うつもりはない。

 

この8両編成の8両目に来るならば撃退ぐらいはするがな。7両目にて雨円と波浄が【血霞】の手駒と戦闘をしているようだしね。

 

 

「情けないなぁ仮にも僕の本体だろうに。」

 

この8両目は同化させていないのは【夢ノ色彩】の力。

 

【血霞麟】を殺すための棺桶となる。

 

「いつまでちんたらしているのよ、漣。お前は無能なのかしら?」

 

 

「ああ、瑠偉様申し訳ありません……あぁあああ!!」

 

眠っていたはずの、漣は瞳孔を見開き苦痛の表情を浮かべる。瑠偉へ謝罪の言葉と共に悲鳴を上げたと同時に頸が飛ぶ。

 

 

「……な、」

 

 

「…にぃ?…」 

 

夢縛りをしていたはずの漣の頸が飛んだのは流石に驚愕する二人は警戒をする。

 

瑠偉は水晶如き刀身をした日輪刀【刃泪】を抜き構える。【夢ノ色彩】は目を見開く肉塊を曝け出し麟へ向ける。

 

 

「………………」

 

麟の前へ血溜まりが現れる。血溜まりが形を成してくる。

 

地獄が、現へと顕現する。

 

血の化生が少女の形を成してくる。

 

「……」

 

物言わぬ地獄が、確かな存在感を放ち薄く嗤う。手には身の丈より長い赤い長刀。流麗な殺意が禍々しさを内包していづる。

 

「………………【血霞麟】…?」

 

顔立ちは【血霞麟】とは違う。幼げではあるが【血霞麟】とは違う系統の可愛らしい風貌だ。それでも【血霞麟】だと瑠偉の殺意は肯定する。

 

余計に怖気が走る。少女の形をした地獄を見せられたと言おう無しに肯定出来る。あれは我等を殺す為のモノだと。

 

禍々しい真紅の長刀を水平に構える。瑠偉は即座に反応する。

 

 

    涙の呼吸・拾ノ型【水屑鮫雨(みずくずさめざめ)】   

 

 

獰猛で鮫が如き連続した突きを繰り出す。雨のような突きを繰り出す。

 

 

    血の呼吸・肆ノ型【血刃】

 

飛来させる血液の斬撃が全ての突きを相殺させる。

 

 

「!!?」

 

少女の形をした地獄は薄く嗤い続ける。

 

 

「上等じゃない。あんたに負けるなんて気に食わない。ええ、気に食わないわ!!」

 

ギロリと水晶如き鬼眼で真紅の血獄を睨め付ける。

 

最上級の殺意を練り上げぶつける。

 

 



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夢幻ノ玖【淡く冷たく朧気な恋心(ゆきこいがたり)・弐】

無限列車編劇場映画だと…(驚愕)


無限列車7両目。

 

【雪娘】対【雨獄衆】雨円はお雪の劣勢へ傾いている。

 

「はぁ…はぁ…」

 

肩で息をし始め呼吸はとうに乱れている。

 

場数を踏んでいる差は埋めがたい。生前から辻斬りと名を馳せた殺人鬼と病弱の小娘では自明の理。

 

凍てついた車内は乗客の体温をも奪う。くそ。

 

 

「それで終わりか、某は次の狩りに向かう訳だな?」

 

「逃がしません…よ!!」

 

    血鬼術【氷柱唄(つららうた)連弾(れんだん)

 

 

    我流剣【雨蜂突(うほうどつ)

 

降り注ぐ氷柱の雨をまるで串焼きのように貫き振り払う雨円。

 

侍のような鬼は挑発的な笑みを浮かべる。

 

    血鬼術【氷柱波・臥壁】!!

 

 

私は大きく床を踏み付けると氷柱が生え波のように彼を覆い被さる。

 

「……笑止」

 

 

    我流剣【雨月斬り】

 

ぱんけーきのようにスライスされてしまいます。くそ。

 

 

「視野が狭くなっているぞ少女。戦闘は如何に視野を広く持ち相手の隙をつくものだ」

 

「何ですか、敵の癖に説教ですか」

 

 

「勿体ないのだ。貴殿のように見た目麗しい少女と死闘を演じられるなどそうそう無い。…女子供等いつの時代も喰われるものにすぎぬからな」

 

「…【見えざる月】は、女性ばかりみたいですが」

 

 

「あれは化生、化け物。理の上の存在よ。………【血霞麟】も同じ。鬼の癖に人間が好きだと?…反吐が出る。人間とは喰らう程度のモノに過ぎん。【血霞麟】は相当の、いかれよ………だが貴殿のように食らえるならば愉しまねば」

 

「気色悪い上に馬鹿にされたようですね。それ以上我が主への冒涜度し難いです」

 

雨円という変態の言葉にカチンときました。私を知らない癖に。麟様を知らない癖に。

 

「事実であろう?貴殿は某より弱いし【血怪百鬼夜行】とやらはいかれを心酔する無能の集団だ」

 

「………怒りました。麟様に使用を禁止されてましたが知りません。……………貴方程度の鬼に侮辱されては【血怪百鬼夜行】の名折れ」

 

 

    術式展開(・・・・)羽怪雪(はかいせつ)・恋羅針】

 

 

私、お雪のみが使用出来る術式。背中に羅針盤のような雪結晶の羽根を生やす。

 

「…………ほう。」

 

「今更謝っても許しません。死をもって償って下さい」

 

「真逆、真逆だ。少女に畏怖するとはな!!だから死闘はやめられぬ!!鬼となって幾星霜。恐怖と忘れていたわ!!」

 

「だから私程度でそんなこと言っている貴方は小物なんです」

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

      無限列車7両目屋根上。

 

   零余子対【雨獄衆】波浄。

 

「……やるじゃねぇか」

 

強風に晒される屋上。車内から屋根上へと移る。お雪の戦闘もあり二つの戦闘には狭すぎる。

 

空気の増減を行い弾いた。空気の急激の増減による作用において発火。冷やされていた空間により反発された。

科学等程遠い『鬼』が分かってやってはいない。偶然の産物ではあったが場所を変える。お雪のサポートを期待出来ない正真正銘のタイマン。まぁお雪もギリギリだ。むしろサポートしなくては。

 

巨漢の破戒僧から侮蔑が消える。

 

理解しているはずだ。この強風。うまく熱湯を纏えない筈だ

 

賭けではあった。この強風に晒される屋上でも関係なく熱湯を拳に纏えてれるなら意味は無い。が予想通り流動的な熱湯をうまく纏えない様子だ。

 

 

「まぁ、だからなんだって話だけど」

 

私もこんな高速で動く鉄の塊の上での戦闘なんて慣れてるはずないじゃん。しかも相手は巨漢のパワータイプだし!この汽車から叩き落とした勝ちだが非力な私にあの巨体を叩き落とすなんて土台無理な話。

 

 

けどやるしか無いよね…!! 

 

 

    血鬼術【増減操作・風】

 

風の負荷を最低値にして駆ける。頭部目掛け蹴りつける。当然ふせがれる。知ってる。

 

 

「…はっ!!捕まえたっぜ!!お嬢ちゃんよぉ!!」

 

「わざと捕まったの間違い。」

精一杯の皮肉な笑みを浮かべる。触るな。気持ち悪い。

 

    血鬼術【増減操作・体重】

 

自身の体重の増加。100貫。重さにして小柄な私の約拾倍。375㎏。負荷を与える。筋肉の塊のような奴だが鬼の膂力を持ってもきついはずだ。

 

 

「!!?」

 

「かりぃなぁ!!」

 

「筋肉馬鹿め!!なら倍!!」

 

200貫!!750㎏!!

 

さらに倍の重量が波浄へと襲いかかる。波浄より先に天板が悲鳴を上げる。

 

「潰れろ!!」

 

「お前がな!!嬢ちゃん!!うちのボスが【領域展開】を使った。俺ら【雨獄衆】は液体化の特性が付与される。」

 

 

 

「俺という水に溺れな!!」

 

波浄の躰は水へと変形して球形の水の塊になり私を包み込む。強風をモノともしない強力な水の檻。

 

「んぐっ!!?」

 

息が出来ない。呼吸をしようともがこうとしようも意思がある水の塊は私を逃さない。浮力で増加した体重が意味を成さずそもそも私の集中力が途切れ解除されている。く、苦しい。

 

「がはははは!!溺れろ!!弱り切った所を可愛がってやるよ!!」

 

く、くそ……!!私は【百鬼夜行】としてこんな奴に負けるわけには…!!

 

 

     術式展開【破壊殺・羅針】

 

      

圧倒的な殺意が炸裂し水の塊が爆ぜる。

 

 

「げほ!!げほ!!な、なに…?」

 

私は水の塊が爆ぜて解放され嘔吐く。強風に晒され飛ばされないので必死。

 

無限列車の屋上戦は風雲急を告げる。

 

圧倒的強者が殺意を向けていた。

 

桃色の短髪に鍛えられた全身に刻まれた咎人の証の刺青。

 

そして、元【下弦の月】からしたら明確な圧倒的恐怖を感じた。

 

瞳に刻まれた上弦の文字と序列の数字。

 

 

三番目の強さを意味する【参】

 

 

「お前が、あの方が危惧する【新月】の手のものか」

 

「てめぇ!!…【十二鬼月】か!!」

 

「雑魚に名乗る名前など無い。同じ鬼として唾棄すべき弱さだ。恥だ。至高の領域まで彼方の末端だ。才能のない弱者がはこびる世界など吐き気がする」

 

「うるせぇ!!てめぇを喰らえば!!俺は色を与えて下さるだろうよ!!!!」

 

傲慢無礼に構える吐き捨てる破戒僧。不遜に笑う。

 

    「現実を見ろ塵芥め」

 

流れるような流麗な動きで拳を握り構える。清廉で研ぎ澄まされた殺意が全身より放たれる。全身が凍てつき震え上がるような殺意の檻。

震え動けず我が身を抱き締める。

 

     

    術式展開【破壊殺・羅針】

 

 

足元に展開される羅針盤のような雪結晶の紋様。

 

向かってくる波浄の躰を吹き飛ばし跳躍する。

 

 

    【破壊殺・空式】

 

 

宙に飛ばされた波浄の真上に跳躍し無限列車の屋上へ叩き付ける。頸に直接かかと落としを叩き付け頸がねじ切れる。

 

鬼の躰は陽光と日輪刀による斬首のみが死因たり得るため鬼同士の争いは無意味。

 

けど【上弦の月】と破戒僧は圧倒的格差があった。けして埋める事の出来ない存在の差。

 

繰り返される破壊と破壊。殴打と蹴り。ただ繰り返す一方的な虐殺。再生と瓦解。ただただ無意味に繰り返す。これはただの蹂躙だった。

 

 

折れたのは躰より破戒僧の心が先だった。

 

「こ、殺してぐれぇ…」

 

「…望み通り殺してやる。」

 

通り過ぎた枯れ木に投げつけ突き刺す。

 

 

「そこで太陽を待つが良い。せめて弱者に対する慈悲だ。」

 

桃色の短髪の【上弦の鬼】はつまらなげに吐き捨てる。

 

 

ただの蹂躙劇だった。圧倒的強者の常。私が苦戦した相手のつまらない幕切れだった。上弦()は此方を一瞥すらしない。私は羽虫だった。

 

 

不意に私と彼の間の屋上が瓦解する。

 

瓦解し出来た無限列車の屋上の穴より現れたのは先程の侍のような鬼と雪結晶の羅針盤のような翼を生やして雪の刀を振るうお雪だった。

 

 

「お雪!!?」 

 

私は目を見開く。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

雨円という鬼が浮かべるのは愉悦の笑みだった。

 

 

辻斬りとは所詮戦狂い。偏執的な嗜好を持って生きている。理解しがたいものであった。お雪にとっては首を傾げる領域のものではあった。

 

付き合うつもりはない。日輪刀【雪白狗】は氷柱を作り出す。

 

    

    雪の呼吸・参ノ型(・・・)氷柱剣(つららけん)鮮華(あざばな)

 

 

弐ノ型までしか扱えない筈のお雪は参ノ型を編み出す。

 

単一での実戦は今まで数少ない。基本的に【血霞麟】の補佐が多い。【血霞麟】なしの戦闘はほぼ無い。

 

神経が研ぎ澄まされなお鋭くなる。

 

 

冷気を吸収しさらに羅針盤のような羽が指向性を与える。

 

冷気に耐性があるとはいえ完全に効かないわけじゃない。

 

【百鬼夜行】は鬼程の再生力は持たない。元死体の為に致命的な破損は再死に繋がる。

 

 

けれどその刹那の為に力を発することもある。

 

付随する水流の刹那を断つ為の幾多の剣閃を放つ。

 

幾多の剣閃は冷気を纏う。氷柱を作り出す。

 

 

まるで鮮やか氷の華を咲かせるように。

 

   参ノ型【氷柱剣・鮮華】

 

「なにぃ!!?」

 

 

無数の氷柱が雨円を、貫く。四方八方から剣閃より生えた氷柱が幾重に侍の鬼の躰を貫く。まるで円形の華のように添えられた血の赤。

 

「はぁ…!!はぁ…!!」

 

【全集中・常中】より深い集中力は解け肩で息をする。

 

致命的な体力の無さは呼吸を整えるのを阻害する。

 

【羽怪雪・恋羅針】の羽根は瓦解し霧散する。

過ぎた力の代償に体が凍てつく。

 

左腕が軽く麻痺をする。戦闘継続には致命的。終わって下さい。この攻撃で。

 

 

「……素晴らしい一撃だった!!少女!!貴殿の覚悟に敬意を評して!!介錯を仕ろう!!」

 

氷柱まみれで尚戦闘を続ける人斬り鬼。血だらけで尚動く。これだから戦狂いは……。ふらっと軽く立ちくらみしながら握れる右手で日輪刀を構える。

 

 

「……………少女ながら至高の領域に至らずとも素晴らしい在り方だった。それに比べ見苦しいな。【雨獄衆】とやら」

 

ぞわっとする殺意が全身に走り緊張する。けしてお雪に向けられたモノでなくても身を強張らせる。

 

雨円からすれば死の鎌を頸に添えられたモノであろう。顔から余裕は消え反転。振り返った刹那。

回避する暇すらなく貫かれる。

 

「…よくも…邪魔を…!!至福の時を…!!某は…まだ!!」

 

「知らないな。元よりお前らは殲滅を命令されている。ただちに逝け」

 

 

……上弦………の参……?

 

 

【十二鬼月】に助けられたのでしょうか……まぁ、双方も敵対しているでしょうけど。

 

「……」

 

上弦の参は此方を一瞥する。目が合う。

 

え…?…………え……?え…?

 

桃色の短髪に全身に入った罪人の証の刺青。

見覚えはない。まばらな記憶はあてにはならないけれど。

 

彼を見た瞬間。敵対する警戒心や恐怖心より前に……………………ぽっかり空いていた喪失感が埋まった気がした。懐かしさと愛しさ。

 

「………狛治さん………?」

 

止められない涙と共に問うていた。霞む視界に彼の姿が歪む。

 

「…………知らないなお前など。…」

 

敵意はない上弦の参は踵を返す。待って!!行かないで!!思い出すから思い出して下さい!!

 

縋るような声かけを無視して跳躍する上弦の参。

 

 

あ……。

 

遠くなる彼の背中に呆けて見ているしか出来なかった。

 

膝をつきただ呆然と。

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

強く。より強く。よりさらに強く。誰よりも。

 

 

至高の領域まで至るためと鬼となり直向きに戦い続けた。

 

 

何のため?あの方の為?

 

 

守るため…?誰を……?

 

 

「…………………あの女は誰なんだ…」

 

修羅を生きる鬼はどうしようもなく大切な何かを忘れていた事を思い出すがそれが何かまでには至らない。

 

虚しさを内包して。座した負け犬にならないために。

 




先に2人邂逅。原作初登場では顔合わせしにくいかなぁっと悩んだ末。


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夢幻ノ拾【真紅の地獄(赦されない咎)

無限列車8両目。暴走する無限列車の中。激戦が展開する各車両でも異質だった。ただ赤い。赤い空間と変質する車両内。

 

     血獄の呼吸・壱ノ型【血纒斬朱(けってんざんしゅ)

 

朱が纒い、頸を狙う無慈悲な死神の鎌を思わせる一撃。

 

少女の姿ににつかわない容赦ない一撃に奥歯を噛み締めギリギリで躱す瑠偉はそのまま後転。

 

赤い少女はそのまま血液で骸骨兵を複数体作り出す。

 

死の恐怖はそのまま背後に纏わり付く。

 

 

「嗤わせるんじゃないわよ!!私はあんたを殺すために死の淵から鬼に堕ちてきたのよ!!訳の分からないまま再び死ねるかよ!!」両手で印を結び自身の在り方を拡張する。ただの怒りを外側へ向ける。それが私の領域展開。

 

   領域展開【雨獄憤怒ノ涙花謳(うごくふんぬのなみだはなうた)

 

 

自身の殺意をもって憎悪をもって領域展開と成す。

 

鎖天川瑠偉の一身は殺意と憎悪をもって構成される。

 

私の根幹はどうしようもない怒りだから。

 

私の記憶は淘汰し始める。怒りの涙を流している理由を。

 

 

『姉さん、……どうか赦さないで欲しい。』

 

赦さない。お前を殺した凡てを。弱くて強いお前を殺した報いを。

 

『ううん、僕の弱さをだよ姉さん』

 

理解できない断片の言葉。奪ったモノを何故赦しお前を赦さないのか理解できない。

 

私の憎悪は間違ってなんかいないのだから。

 

 

私の断片は薪となり篝火となる。水蒸気を撒き散らし雨となる。怒りの涙を。私の憤怒は雨のように叩きつける。叩き付けた雨は骸骨共を破砕させる。

 

 

【雨】の【領域展開型血鬼術】

 

上臥原天と同じ天候に影響を及ぼす血鬼術。

 

水の呼吸の派生である涙の呼吸の底上げは勿論。水に類する血鬼術を持つ【雨獄衆】の底上げにも繋がる。

 

 

それ以上に鎖天川瑠偉()は水になるのだ。

 

 

  涙の呼吸・玖ノ型奥義【雨太刀・死閃軍】

 

 

血獄の少女へ向け放たれた雨のような複数の水の刀を振り払う。殺意をもって殺意を練り上げ込めた一撃達。

 

 

 

    血獄の呼吸・壱ノ型【血纒斬朱】

 

その一撃達をすり抜け私の腕を斬り捨てる血獄の少女はいつの間にか背後にいた。

 

 

「くそ…!!舐めやがって…!!お前はなんだ…!!?本当に【血霞麟】か!!?」

 

 

「………違うよ。私はただの【朱】。地獄の鬼の一体。【血霞麟】の力の源泉。まぁ欠片のようなモノ。そこの眠鬼の力で一時的に目覚めただけ。領域展開は心の在り方を外側へ拡張するもの。【核】に触れようとした奴がいたから防衛するため一時的に目覚めただけだよ。この子の領域展開あってこそだけど」

 

眠る【血霞麟(怨敵)】の頬を撫でる血獄の少女。愛しそうに慈しむ。

 

 

「…今はその時では無いわよ雨の鬼。いや涙の鬼。気性にしては可愛い事ね。退きなさい。私に殺されては面白く無いでしょう?」

 

「…………そいつの味方なら殺しとくべきじゃないかしら?」

 

「それでは、つまらないもの。……………それでは私の地獄の糧にはならないから。私の【鬼喰】の赤い地獄にはね」

 

「………………お前いや真白を含めお前らは何なんだ?鬼喰らい共」

 

「…………………」

 

核心への質疑。鬼であって鬼でないもの。

 

「…さぁ?私達も【鬼】よ?ただ【鬼舞辻】のような紛い物とは違う。」

 

「私達は鬼に孕まされた人から生まれた存在よ」

 

 

「は…?」

 

けして交わることのない双方。人は鬼を愛せないし鬼は人を餌としか見ていない。

 

「…人を愛した(異端)と鬼を愛した(異端)がいたのよ?素敵でしょう?」

 

薄く嗤う血獄の少女は素敵でしょうと言い放つ。

 

気持ち悪い。さぶいぼがたつ。吐き気がする。吐瀉物を口に含んでしまったかのような気持ち悪さ。

 

嫌悪感。ありえない。ありえない。ありえてなるものか。

 

「有り得るわけ無いでしょうが!!」

 

 

「有り得るからこそ二極化した2人(朱と白)がいるのよ」

 

「あんたらは…!!」

 

「血霞麟と神代真白は姉妹よ。…まぁ麟は知らないし真白は認めないでしょうけど」

 

人間好きと鬼至上主義者。真逆の2人。

 

「神代りん。…ただ2人の忌み子。」

 

 

「巫山戯るのも大概になさい!!」

 

 

  涙の呼吸・壱拾壱ノ型【雨龍撃鉄流転ノ()

 

雨が水の龍となり嵐が如く咆哮を上げる。ただ一つの殺意の嵐。激情の渦。

 

「鬼への激情なまでの怨嗟。分かるわ。人間として正しいもの。私は人としての貴女の激情は受け止めてあげる。けど【鬼】なら容赦はしないさね」

少女らしからぬ老獪さを含んだ妖艶な笑みを浮かべる。

彼女を纏う朱は形を変え展開する。

 

    領域展開【血怪百鬼夜行】

 

 

    【血獄ノ陣・八岐大蛇ノ図】

 

 

八つ首の大蛇へと展開する血の地獄。雨の龍を八つ首の顎が咥え取り込み咀嚼する。

 

 

「く、糞が…!!」

 

悍ましさと怒りとの様々な感情で呼吸は乱れる。

 

「私は何のために【鬼】まで堕ちた!!力だ!!力が欲しい!!新たな力を得たら訳の分からないものが阻むんだ!!!!」

 

 

     【強制覚醒】

 

「落ち着きな。鎖天川さん。これが【血霞麟】の夢からこぼれ落ちたものなら強制覚醒させるよ。」

 

「【夢ノ色彩】…!!」

 

 

燕尾服の鬼の少年の手の平には【覚】と【醒】と刻まれた眼が見開く。

 

 

「僕の【領域展開】を展開する。後は引き継ぐよ。…元よりこれは僕の略奪だ。君は僕のそれに相乗りしただけ。引きなよ。……僕はイリスの為に【血霞麟】の朱を奪う。それがお嬢様の命令」

 

【血霞麟】への【催眠】の【血鬼術】をとく。

 

「…ちっ…!!」

 

血霞麟の覚醒により【血獄ノ鬼】の意識は薄れ赤い空間は紐解け始める。

 

「……残念だわ。私の意識が表立つ事なんてけしてないことなのに。けど私はこの子。この子は私…貴女の憎悪は受け止めてあげる。鬼は全て喰らい尽くしてあげるから」

 

「殺してやる!お前が誰であろうと私はお前を殺してやる!!!引き裂いてばらばらにして殺してやる!!!」

 

「気持ちいい程の殺意ね。」

 

ニヤリと笑いながらにして霧散する。

 

赤い空間は元々無かったように元の車両へと戻る。

 

「………休むわ」

 

「ゆっくり休むがいいよ。………僕は他の者が苦しむ様が好きだ。……苦悩して突き進む者が苦しむ様も好きだよ」

 

「悪趣味ね、ろくな死に方しないわよ」

 

「………作られた僕達に安息の未来は無い。君たち()より短命だ。お嬢様にとって一時の手駒に過ぎないよ。僕達はただの色の塊だ。」

 

だからこそと大仰に指揮者の如く腕を広げる【夢ノ色彩】

 

「悪辣に、この刹那を愉しまねば損だよ。」

 

 

「……鬼め」

吐き捨てるように水となり消える。雨が止む。

 

「そうだよ。【人間】を捨てられないのかなぁ?」

 

 

 

     血の呼吸・肆ノ型【血刃】

 

放たれた血の刃を躱す【夢ノ色彩】振り向くと血霞麟が覚醒し赤い刀を構えている。

 

 

「…不覚眠らせてしまうなんて。お雪達に迷惑かけた…お前が手紙の主かな?」

 

「正解。血霞麟。君の色を奪いに来たんだけど中に化け物を飼っているとは聞いてないね?まぁ君の本性か」

 

「何の話?」

 

「…いいさ僕は君が何者であろうとも興味は無い。人間好きの君の苦渋を見せておくれ。…この無限列車乗客全ては君への人質だ。あちらで【鬼殺の剣士】を相手にしている【(下弦の壱)】と【(複製体)】が相手さ。悪夢への片道切符。悪夢への旅をプレゼントするよ」 

 

 

   領域展開【夢獄夢幻列車ノ悪夢ノ跡】

 

 

 

悪夢が力となる。夢は反転し害を成す。

 

夢の領域が展開される。悪夢へと誘う眼が大量に周囲に開眼する。

 

もう一つの【無限列車】が【無限列車】に並走している。

 

 

「さぁ、苦渋に歪み屈服しなよ【見えざる月】にね」

 

 

「…冗談!!」

 

【血腕創成】右手を作り出し両手で【神血】を構える。

 

 

血霞麟対【夢ノ色彩】の悪夢の死闘の幕が上がった。

 



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夢幻ノ壱拾壱【悪夢ノ泡沫】

舞台は並走するもう一つの【無限列車】へと移る。

 

【夢幻列車】悪夢の監獄の中。奴の食糧庫。にて武器庫でもあった。

 

鬼は夢を見るのだろうか。鬼は夜の民。強靱な躰と再生力を持つ。睡眠はさして必要は無いが長い鬼生。

しばし昼の間眠ることはある。

 

血霞麟は夜眠るよう習慣付けている。人間らしく人間に憧れて。深い森という昼間行動出来る恩恵もあるけれど。

 

夢を見たことあっただろうか?かつての記憶の残滓を夢というならばそうかもしれない。

 

夢とは人故のものだと思う。

 

 

けれど目の前の惨状は度し難いほどの悪夢だと思う。

鬼となって幾星霜。【下弦の鬼】は様々な奴は見てきたとは思う。餌場や食糧庫を独自に持ち定期的に人を補給するようにしているのはその場しのぎで人を喰らう有象無象の鬼とは違うことも知っていた。

なるべく破壊するようにはしていた。

 

車両の座椅子や吊革に至る凡てが人であることを理解してなおその人達が生きていることも理解する。

 

【眠り】を強制されなお覚醒している者もいる。

 

老若男女にいたるまでの人間。

 

怒りで沸騰しそうとはたぶん初めてかもしれない。

 

それらは道具とされた人達でまだそれらが生きているという違和感。吐き気がする。

 

私は人の血の臭いに吐き気を覚えるようになっていた。

奥歯を噛み締める。憤怒で割れそうだ。

 

「………………乗客ではないよね」自分でもドスがきいた声音だと思う。

 

「怒っているのかい?僕の作品を見て貰おうかと」

 

「怒っている」

 

「僕は他人が苦しんでいる様が好きなんだ。苦悶の表情呻き声。絶叫。死への絶望。苦渋。そして諦観まで!最初から最後まで至る過程も大好きさ。これが僕の【領域展開】在り方は【死への軌跡】理に適っているだろう?」

 

恍惚な表情を浮かべ饒舌に大仰に話す。私の怒りを気にした様子もない。

 

「…………」

 

吐き気がする。まだ、食欲に溺れた魑魅魍魎の方が可愛げがある。

 

この鬼を殺すため刀をふるう。1秒たりとも存在させてやるか。

 

 

「そして僕の力だ。悪夢を現実化させるね。」

 

巨大な青い鬼が現れ奴の前を遮る。

 

「…そこのお爺さんはこの青い鬼に追い掛けられる夢を永延と見ている」 

   

     血の呼吸・壱ノ型【血纏斬り】

 

「単純な戦闘能力じゃ僕如き君には及ばない」

 

「人の悪夢の力は偉大だね。人は怯え恐怖し夢は常識を越えるような現実ではありえない事象すら夢の中では無限だ」

 

「夢幻と、無限。素敵な言葉だよ」

 

二つに裂かれた青い鬼の向こうで亀裂のような笑みを浮かべる。

 

「あそこの荷台は女の子」

 

 

「あそこの座椅子の男の子と恋人同士。彼等は同じ悪夢を見ている。一緒に磨り潰される悪夢さ」

 

後退。いきなり現れた塊は私を磨り潰さんと落下する。

 

この【領域展開】は【夢の現実化】

 

そしてその夢の源はこの【夢幻列車】の素材にされた人達が見る悪夢。此奴の【血鬼術】で永延と悪夢を見ている。

 

 

「ああ、…………なら」

 

 

【殺して】【死にたい】【助けて】

 

 

【悪夢から解放して】【もうやだ】【妻を妻だけは解放してくれ!!】

 

【ああああああ!!】

 

嘆願と怨嗟。ただただ絶叫と苦渋。苦悶の叫びが頭に響く。

 

 

「君にも聞こえるかい?彼等の絶叫が!!」

 

 

「……ああ、…ごめんね。…………解放してあげるから……」

 

 

     領域展開【血怪百鬼夜行】

 

私の周囲に血溜まりが、展開する。血のあやかし達が殺意を放つ。 

 

 

「殺してやる。【見えざる月】」

 

「お嬢様は人間嫌い。始祖の力を手に入れるまでは好きに間引けってお達しだ。人は増え続けるから食糧には困らないよね本当」

 

「…」

 

「何を怒る?人間好きの異端者。君は【鬼喰らい】だろうとも所詮は人外。化生。化け物だ。そんな奴が人間と共存なんて土台無理な話さ」

 

「…っ」

 

五月蝿い。そんなことは分かっている。

 

「お前には、関係の無い話だ!」

 

 

     【暴食ノ陣・土蜘蛛ノ図】

 

血の巨大な蜘蛛が顕現する。

 

「一つ、良いものを見せよう。」

 

下水を汚物でさらに煮込んだような笑みを浮かべ独りの少女を突き出す。首を掴みいつでも脳漿をぶちまけるぞと言わんばかりに。少女の愛らしい顔は恐怖に歪み震えている。

 

「思春期の多感な時期の夢はより常識外れだ」

 

少女は嫌々と、怯えそれが一層鬼の少年の性癖を刺激する。 

 

「この子はその中でも想像力豊かだ。この【領域展開】は夢の履歴をも克明と【現実化】させる」 

 

 

「この子は愛した人間に殺される夢を見る。繰り返し繰り返し毎回殺され方が違う夢を見る」

 

滅多刺しにされたり首を絞められ斬首、犯され酷たらしく毎回違う夢を見る。その少女が知らない殺され方もする。

 

恐怖や不安は夢を浸食する。

 

 

「ああ、この【最愛に殺される悪夢】が現実化したらどうなるだろう?君の最愛が殺してくれるよ」

 

   黒髪の女性が顕現する。夢が現実化する。

 

   【血霞麟】の最愛が目の前に現れる。

 

 

   【架純華】という女性が現れた。

 

   「華姉…………」

 

 躰が萎縮する。最愛を目の前に殺意が緩む。

 私は彼女を攻撃するなんて無理だ。

 

「驚いたな。同じ顔だなんて。血霞麟、君に双子でもいたのかい?いや【血獄】曰くそれは【お嬢様】の筈」

  

 忘れていた華姉の顔が克明と思い出す。私と同じ顔。 

 

 違う私が彼女になりたかった。その為に私は。

 

   

 幸せな記憶に塗り潰された私の咎を思い出す。

 

   

 彼女を殺したことを。殺してしまった事を。

 

「ひめさま……?」土蜘蛛の困惑の声も聞こえない。目の前の彼女から目を離せない。

 

   「久しぶりね。りん。」

 

変わらない声音。優しい表情。それに後ろめたさを思い出す。

 

 「私になって嬉しい?私になれた感想は?ねぇ聞かせてよ」

 

思考が弛緩する。かつての私には戻れてはいない。何を持って私は彼女を殺してしまった決を思い出せない。

 

  「私の姿が鬼ってどうも許せないのよね」

 

彼女は私の罪悪感による悪夢がそう言わせている。分かる。所詮は悪夢を現実化させるだけの血鬼術。本当の彼女を呼び出したわけではない。理解は出来ても躰と感情が追い付かない。

 

私はなんで最愛の育ての姉を殺してしまったのか分からない。

 

  「返して、ね。いい加減生きたでしょ。変わらないよ。貴女を愛してくれる人なんていないんだから。いたとしても居なくなるわ」

 

私は、人にはなれない。人を愛しているのに理解はされない。ううん、鬼殺の剣士に成り立ての頃より理解しあえてると錯覚していた。左近次を拾い育て彼が拾った二人を見守る。それでよかった。家族紛いみたいなもので。

 

貴女になりたかった。華姉。……多分貴女を殺した私には赦されないものなのかな。   

私の頭に諦観が掠める。弛緩した思考は判断を鈍らせる。私は目の前の悪夢を真実と誤認し始める。分からない。記憶のない私に真実が分からない。あの人はそんなこと言わないはずなのに。

 

     水の呼吸・壱ノ型

 

     水の呼吸・壱ノ型

   

 

 

     「「水面斬り!!」」

 

 

華姉の躰を斬り捨てる二閃。水面を断つ斬撃。

 

狐面を被る二人の剣士。宍色の髪の青年と黒髪の華奢な花柄の羽織を着た少女。二人の姿が目に映る。

 

「俺らがいる」

 

「そだね、麟さんはもう独りじゃない。」

 

「悪夢など幾度でも打ち払おう。」

 

 

錆兎と真菰。【現在】の【血霞麟】の最愛の子達。

 

 

二人の姿に闇に飲まれた思考に光明を差し始めた。



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夢幻ノ壱拾弐【家族ノ絆】

原作逸れしまくってるのを気にせず突き進むしかないだなって……

【夢幻列車】編書き切ってからまとめて投稿しようかなと思ったけどかかりそうなので一話あげます


錆兎と真菰。左近次が拾ってきた孤児達。

 

私の最愛。家族だと、思っている。

 

守るものという一方的な愛情だと思っていた。

 

彼等は強く私を助けてくれていた。

 

「飄々としている貴女がこんなにも弱っているとは珍しいな」

 

「男見せるチャンスじゃん錆兎」

 

「五月蝿いな。敵前だぞ」

 

「はーい。麟さん、大丈夫?」

 

二人は普段と変わらず構えている。

仏頂面の青年と不思議な愛嬌を持つ少女。娘や妹。息子や弟。それに類する愛しさがあった。

 

私の怯えは消えていた。私の咎は私が贖わなければならない。

「ふたりとも、なんで?」

 

「別の任務で近くにいた。…………内通者を探る任務ですよ麟さん」

 

「階級は甲。白銀川鞠衣。白銀川灰羅の孫。先々代の産屋敷宿哉様の奥方であったが…………鬼である可能性が上がったのです。その孫も剣士ですが不穏な動きをしているとお館様より承ったので」

 

「白銀川…………あまねさんの家系と一緒の神職の家系かぁ……妙に美味しそうに見えたのは鬼だからか。……錯覚されたのはあれかな……まぁいいや」

 

「…………麟さん?」

 

 

「ありがとう。二人とも…ありがとう【鴉天狗】」

 

「二人の意思だ。私は連れてきたにすぎぬよ。姫」

 

「…………私は嬉しいんだよ」      

 

 

   浸域展開【血怪百鬼統合・血纏装束】

 

 

血液の真紅の装束を纏う。領域を侵す【領域】を纏う【百鬼夜行】の装束を。

 

「…私は愛されていた」

 

 

私が思っていた以上に。華姉。ごめんなさい。

 

私はまだ死ねない。私が貴女を殺してしまったなら必ず私は私を殺すから。けど私が死んだら悲しんでくれる人が居るから今は許して下さい。

 

 

    【血纏装束・百眼全反射ノ柄】

 

装束に柄如き夥しい数の目が見開く。私は目を瞑る。夢に惑わされない。

百眼鬼の視線は真実のみを睨めつける。

 

 

「…………つまらないね。【強制悪夢ノ孕ノ眼】」

 

 

錆兎と真菰の偽者を作り出す。最愛を殺す夢を。

 

「性根の腐った鬼だ。俺らの偽者を作り出すなど」

 

「……だね」

 

 

 

 

     【全集中・深層】

 

より鋭く、より深く。集中する。

 

  血の呼吸・肆ノ型崩し【応報華・悪因】  

 

 

【神血】を鞘に納め居合いの型を取る。目を瞑り【百眼鬼】の視線と同調する。

 

 

【悪夢語り・現撃(うつつうち)

 

 

悪夢を弾丸のように撃ち出し現実化させ放ってくる。それは悪夢を詰め込み孕ませたもの。着弾と同時に現実化。

 

複数の鎌。鎌に切り刻まれる悪夢。

 

上に着弾した悪夢の弾丸は大量の落石を現実化させる。

 

 

「色をよこしな。血霞。」

 

 

 

     全反射の呼吸【血刃・応報華】

 

 

血の刃が全ての悪夢を斬り捨てる。

 

 

「ちぃ、こと戦闘能力は上弦相当。下弦の複製である僕では及ばない」

 

 

   血の呼吸・肆ノ型崩し【紅蓮華】

 

 

華が如き斬撃が【夢ノ色彩】の腕を吹き飛ばす。

 

 

 

「……ち、容赦ないことだね、君を揺さぶる事には失敗したらしい。仕方ないな。切り札を切ることにするよ。」

 

周りの人間(列車の一部)達が絶叫を上げる。列車も汽笛をあげ加速しようとしている。

 

    領域変生【暴走無限列車ノ(あざな)

 

歪んだ笑みを浮かべる。【夢ノ色彩】の体は列車と同化する。狂った笑みが響く。

 

 

「…………この夢を暴走させた。あははははは!際限ない悪夢が君たちを襲うよ!!とめてみなよ!!この夢ノ蠱毒をさ!!」

 

 

【やめてくれ】【やめてくれ!!】【やめてくれ!!!】

 

 

「…………。錆兎。真菰。」

 

自分の偽者を斬り捨てた二人に声を掛ける。

 

 

「…………なんです?」「なにかな」

 

 

「死んじゃやだよ」

 

「これでも【柱】です」「死なないよ。いつまでも子供扱いはやだな」

 

二人は日輪刀を構え直す。背中合わせに迎撃に構える。

 

 

領域展開【血怪百鬼夜行・犬神憑きノ陣】

 

 

遠吠え。血液の鬼狼達が足元よりいづる。そして犬神憑き共の長。人狼鬼【犬神】が現れる。

 

 

「……【犬神】様!」

 

「勝手に出るな。【百眼鬼】貴様は姫の眼だろう。職務を忘れるな。」

 

「……うぅ、……はい」

勝手に装束から出た陰鬱な女【百眼鬼】はしょげて装束へ戻る。

 

 

「優しくしてあげれば?」

 

「したら付けあがるから。姫、指示を」  

 

 

「……この人達はもう助からない。弔いを。せめて安らかに眠らせてあげよう」   

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

怒濤と言わざるを得ない。

 

炎柱・煉獄杏寿郎はただ一人。ただ一人で4両の乗客を鬼から守り迎撃する。

 

憤激、怒濤と攻撃を繰り返す。燃えつきることのない闘志で鬼を斬り捨てる。乗客をただ一人とも殺させない。

 

陽炎を残し常に移動を繰り返す。

 

 

煉獄杏寿郎はただの炎と化していた。ただ若者たちが鬼の頸を斬ると信じ己の責務を全うする。

 

外へ目を向ける。不可思議なことに併走するもう一つの列車。瞠目するであろうがあれには彼女の気配がある。なれば問題はあるまい。彼等同様信じ己は己の戦いに準ずる。

 

炎の呼吸・壱ノ型【不知火】!!

 

「よもや!!よもやだ!!」

 

彼女を信頼している自分に驚愕する。最初は不死川と同じ心境だった。ただ鬼と。

 

この心境いかにする。迷いなど自分らしくはない。

 

ただ心のままに心を燃やす。煉獄杏寿郎の生き様を貫くのみ。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

「一旦体勢を立て直す。いや【領域変生】を発現したからには僕はもう止まれない。」

 

領域は、暴走状態へと変生した。際限なく悪夢を汲み取り吐き出すだけの暴走列車。列車の一部に組み込まれた人間も時期に死ぬ。

 

まぁた集め直しか。まぁ人間は腐るほどいる。

 

 

ただ与えられた役割をこなせなければ死ぬ。【純白の呪い】異議なし意味なし存在する理由なしと堕とされる。

 

一度戦線から離脱はしたがやられるつもりはない。元々正面切っての戦闘には向いていない。ましてや標的は上弦相当の【柱】の鬼の剣士。そして【純白】の姉。

 

現状鑑みても美味しくはない。切り札の悪夢の少女は使えなかった。

 

やはり、あれを切るしかないか。

 

「状況芳しくはないようね【夢ノ色彩】」

 

「白銀川、鞠衣……」

 

日輪刀を携えた銀髪の女剣士。いまだ幼い風貌を残すものの怜悧な殺意を雰囲気に纏っていた。

 

【純白】の護衛にして懐刀の人間。

 

いつの間にかこの夢幻列車に来ていたのか。

 

「やぁ、順調……ではないね」

 

【夢ノ色彩】が相対したいや【下弦ノ壱】が知っている人間の中で誰よりも逸脱した人間。

 

鬼舞辻無惨の記憶の中の痣の剣士と同列。

その事実に警戒し不穏な空気を醸し出す。

 

▽▽▽▽▽

 

 

暴走状態の【夢幻列車】の車両を進む。無限列車と同じ8両編成の列車のはずがいつまでも先頭につかぬ歪な空間となっていた。

 

「麟さん。多分、一番後ろも同じになっているんじゃないか」

 

「多分ねー……やっぱり大元を絶たないとだめかー」

 

「姫、臭いも途切れている。というよりこの列車自体が奴の臭いしかしない」

 

「………………麟さん、前の車両で戦闘音」

 

「………………」

 

真菰の言葉に気を引き締める。

 

扉を蹴破る。目に入るのは複数の鬼に囲まれていた赤髪の鬼殺の剣士。

 

押されていた。窮地に陥っていた青年の剣士。

 

即座に抜刀。血の呼吸の肆ノ型の崩し(アレンジ)

 

 

    【早咲き紅蓮華】!!

 

 

最速の斬撃が咲き乱れ鬼共を切り飛ばす。縦横無尽に咲き乱れる血の刃。

 

「え、……なんだ」

驚愕する青年は目を見開く。

 

 

 

▽▽▽▽

 

【最愛に殺され続ける悪夢を見る少女】桐夜白梅は末期の死にかけだった。

 

夢幻列車の貨物室に乱暴に放置されていた。

 

赤髪は乱雑で体は痩せこけ死にかけの末期の結核患者だった。

 

呼吸は浅くヒューヒューと音を立てていた。

歩く事すら困難でこのような悪状況で命を繋ぎ止めていることは、奇跡だった。

 

 

【最愛に殺される悪夢】は確かに彼女にとって悪夢だった。けれど……最愛の兄にこの病の人生を絶って貰いたいのは願望だった。

 

意識は朦朧。眠れば殺され続ける悪夢。

 

助けて……兄ちゃん……。

    

 



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夢幻ノ壱拾参【狂信者・白銀川鞠衣】

白銀川鞠衣。

 

産屋敷家先々代の奥方。白銀川灰羅の孫。

 

それ以外の経歴は不明。灰羅以外の白銀川家は鬼殺隊とゆかりは無い。先々代の嫡子の末娘は凡庸に生きそして天寿を全うしている。

 

五年前の最終選別にて突破者ただ一人この白銀川鞠衣のみであった。藤襲山の鬼を殲滅。あの手鬼とは遭遇してはいないようだったが遭遇したとしても問題なく鬼殺出来ているであろう。

 

最終選別で既に上級の剣士の実力を有していた。

 

雷の呼吸・炎の呼吸・水の呼吸を使用した特異性が当時は話題になった。

 

次期【柱】と称されていた。

 

しかし、鬼殺の剣士になってからは【甲】となりそれなりの活躍をして凡庸に生きていた。

 

違和感。特異性を有していながら柱にもならずそれなりに生きているのか。

 

 

「……君か」

 

「随分手こずっているようだけど。」

 

 

暴走した【夢幻列車】の運転室にて銀髪の女剣士がいた。

 

【新月の純白】の子飼いの人間。この【見えざる月】の唯一の人間。

 

「………………五月蝿いな」

 

「自身の脆弱さで八つ当たりはやめてくれる?それで【真紅】は手に入りそう?イリスの色彩に【真紅】は必要不可欠なのだけど」

 

「人間風情が」

 

「別に私に当たったからお嬢様に反旗を翻したとかは言わないけれど。私のが強いわよ?お嬢様以外の誰よりも」

 

「……っ」

 

「人間嫌いのお嬢様に私が傍におかせて頂けてる意味を考える事ね。私は剣士として【日】の域にいる。」

 

浮き上がる半身を覆う痣。痣者。

 

「……下弦の複製如きがお嬢様の手を煩わせるなよお嬢様の命には必ず応えなさい」

 

「……分かっている。…………必ず色を持ってくる。」

 

「それでいい。」

 

「わざわざ言いに来るとは暇な事だね……」

 

「挑発?まぁ良いけど私には私の用事があるのよ……全てはお嬢様のためにね。……これを使いなさい。」

 

地面に色彩の入った注射器を置き銀髪の女剣士は琴の音と共に消える。

 

「やってやるさ。僕の愉悦のために最後までね……使い捨てには使い捨ての矜恃があるからね」

 

注射器を拾い澱んだ笑みを浮かべる。

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

「俺の名は桐夜(きりや)白兎(しろう)。……鬼殺隊・甲の剣士だ。」

 

赤髪の隊服をきた青年はそう言う。

 

「ここに居るのは任務?」

 

「いや……私情だ。妹が鬼に囚われている」

 

「妹さんも【鬼殺の剣士】?」

 

「いや……病床に伏せて居るので自分の住み家で休んでいたのを狙われた」

 

「……そう」

 

「貴女は……?」

 

「自己紹介がまだだったわね。……【血霞麟】【柱】の一人よ」

 

「【柱】……!」

 

「【柱】が三人も居るんだし安心しなよ。狐面の彼も」

 

「錆兎さんは存じ上げています。既知ですから」

 

「白兎。お前がいるとはどうした?お前程の剣士が遅れを取るとは、」

 

「買い被らないでくださいよ。俺は凡才だ。妹すら守れない」

 

「…………白梅ちゃん、捕まったの?」

 

「さっきの子かな……」

 

「知ってるんですか!!」

 

「……この空間の主の鬼が捕らえているなら。…………まだ、無事なはずギリギリのラインだけど。君と同じ赤髪?」

 

「はい。……」

 

「ついてくる?といっても……この血鬼術の領域に君を残すわけには行かないけれど一応聞いとく。桐夜くん」

 

「はい、ついて行かせて下さい。血霞さん」

 

「ん、物量戦になりそうだから……君にも戦ってもらうよ」

 

再び抜刀。

 

     【遅咲き紅蓮華】

 

再び沸いてきた悪夢の権化の鬼共を再び切り伏せる。置いていた遅咲き紅蓮の華が如き斬撃が咲き乱れる。

 

 

 

    【水車】!!【雫波紋突き】!!

 

 

錆兎と真菰も即座に行動し抜刀。技を繰り出す。

 

桐夜白兎も、抜刀。鉄色の無骨な日輪刀。

 

 

     鉄の呼吸・壱ノ型【黒金・斬鐵】

 

▽▽▽▽

 

 

床に無様に死にかけている桐夜白梅は兄・白兎へ罪悪感を抱いている。

 

痩せこけた自分。兄と同じ赤髪は栄養が足らずつやが無い。満足に歩く事も出来ずいつも兄の足手纏いになっていた。

  

結核を患った私は足手纏いだ。あの時死ぬべきなのは私なんだ。兄の仇討ちにすら足手纏いになっていた。

 

桐夜家は鍛冶屋の一族だった。

 

日輪刀を打つ鍛冶屋でも、異質だったと思う。自身も鬼殺の剣士として戦場に立っていた父は尊敬していた。

 

だからこそ、危険と隣り合わせだったことも重々承知していた。

 

私は治療のため母方の実家で療養していた。結核は不治の病として当時は絶望的なものであった。

 

私は緩やかな死を覚悟していた。兄は私が寂しくはないよう見舞いによく来てくれた。うつってはいけないと口では言っていたけれど嬉しかった。

 

末期を迎えていた私は突然の訃報に愕然とした。先に両親の訃報を先に聞く等想像だに出来なかった。生き残った兄の顔を見た途端私は私が死ねばよかったのにとただ思った。鬼に我が家を襲撃されたという。

 

兄は鬼殺の剣士となった。けれど変わらず見舞いに来てくれる兄に私は嗜める術はない。結核の私に顔を出してくれていることを嬉しく思いながら来て欲しくは無かった。

 

母方の実家の自分からしたら祖父祖母だった二人も私への甲斐甲斐しい世話に無理がたたり末期の私より先に死んでしまった。

 

「白梅、兄ちゃんと二人だ。大丈夫兄ちゃんがついているから」

 

「どうか、捨て置いて下さい。私は死にますから。兄ちゃんの足を……引っ張って生き長らえたくはないのです」

 

 

「…………俺はもう、失いたくないんだ」

 

 

兄の初めて見た弱った顔に言葉を窮した。でも私はもう長くはない。

 

どうか、私を殺して下さい。体の苦しみと心の苦しみとから解放してください。兄を解放するためにはもうそれしか。

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

悪夢の激しさはより一層深まっていく。

 

様々な悪夢が実体化し私達へ襲い掛かる。

 

針地獄。水責め。磔。火刑。あらゆる拷問、処刑方法が悪夢の形となり私達を責め立てる。

 

薙ぎ払う。

 

 

血の呼吸を持って薙ぎ払う。水の呼吸の派生である血の呼吸は多様性にこそ真価を発揮する。

 

桐夜白兎の手前【血鬼術】を使うわけには行かず犬神とは別行動を取っていた。

 

「流石柱ですね」

 

「一応現【柱】では古株だからね」

 

「悲鳴嶼さんより上なんですねお若く見えるのに」

 

「……ありがと」

 

100歳超えてますからねはい。

 

 

「麟さんお婆ちゃんだものね」

クスクス笑う真菰になんだと~とじゃれつく。

 

 

「緊張感を……」軽く嘆息する錆兎。

 

まぁ確かにわらわらと沸いてくる悪夢の鬼の軍勢にそれどころじゃない。

 

最悪なのはこの夢幻列車から炭治郎達が居る無限列車へとこの悪夢が移動してしまうこと。多分領域展開内だけの実体化だとは思うけど。

 

 

しかしこのあやふやな空間も問題だよね。……感覚を狂わしてさらに車両移動は恐らくランダムに移動している。ここはさっき印を付けた4両目。しかも無限列車と一緒の8両編成とは限らない。

 

 

「麟さん!!」

 

錆兎の呼びかけにはっとする。私と真菰。錆兎と桐夜くんの間を分断される。見えない壁だ。

 

切り離される。くそ、もっと警戒しとくべきだった。ここは【夢が溢れ出した領域】だ。なんでもありだ!!

 

「錆兎、桐夜くん!!」

 

「麟さん、だめ!!」

 

真菰が私の羽織を引っ張って後ろへ飛ぶ。完全に空間が分断され二人の姿が見えなくなる。

 

 

「しまった。戦力を分散してしまった」

 

「…………信じよ?麟さん。錆兎も【柱】だもん」

 

「そだね。……先に……あれを殺せばいい話だ。」

 

 

 

 

血の呼吸・玖ノ型奥義【紅蓮ノ顎】

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽



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夢幻ノ壱拾四【鉄ノ心】

夢幻列車編完結まで連続投稿。


桐夜白兎は凡才だ。剣士としても鍛冶屋としてもどちらつかずの未熟者。父親のようにはなれなかった。

 

【柱】という天才を見てつくづく思う。俺が強ければ弱く無ければ失わずにはいかなかったのかもしれない。

 

もし、なら。たらればの話は意味は無い。失った現実が現実で俺の弱さなんだから。

 

いくら泥臭くても地面に這いつくばってでも妹を守る。

 

病にかかり弱り切っても俺はせめて外敵からは守り通してやる。

 

病で弱り切っているあいつに何をしたらいいか分からない。せめて安息に眠れるならば俺は道化を演じよう。

 

だから……この悪夢の鬼とやら。

 

 

殺してやる。

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

鉄の呼吸・弐ノ型【鉄金・暮ノ鳥】

 

かたく鋭く呼吸を全身に巡らし鉄のように硬くする鉄の呼吸。攻防一体の岩の呼吸の派生。

 

極めればの話ではあるが。本来なら極めれば此方は傷つかず相手のみ傷付ける呼吸法ではあるが故自身を省みず傷付く技である全ての【型】

未熟者であるからこそ、自身にも返ってきていた。

 

自身が傷付こうとも怯まず臆せず俺は闘わなければならない。

 

 

白梅を返せ……!俺にはあの子しかいない……!

 

 

妄執が如き猛攻。

 

まるで鉄の鳥が啄むような突きを連続して突き刺す。

 

 

「……白兎!!」

 

錆兎の制止に構わず攻撃を繰り返す。

 

 

分断され錆兎と二人だ。血霞さんと真菰さんと分断された。恐らく空間ごと。

 

「逸る気持ちは分かるが……急いては白梅を助けられんぞ!!」

 

「分かってる……!けどあの子は末期の結核なんだいつまで持つか……!」

 

 

「尚更落ち着け、……救えるものも救えなくなるぞ。そんな状態では満足に呼吸も使えない。落ち着け」

 

錆兎の言葉に二の句を継げなくなる。

 

「俺もいる。…………助けるぞ白兎」

 

「ああ……」

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

竈門少年と猪頭の少年が追い詰めこの無限列車と同化している鬼の勢いが弱まってきているのを感じる。

 

多少なりとも攻撃の頻度に余裕が出てきている。

 

それでも攻撃の手を止めれば乗客を喰らい回復されてしまう。

 

少年達への最大の支援は補給をさせないに尽きる。

 

 

信じている彼等を。

 

「む?」

 

車窓から先程まで異様な存在感を放っていたもう一つの無限列車の姿が見えないことに気付く。恐らく血霞殿がいるあるはずであろうもう一つの戦場。

 

「……信じるしかあるまい!」

 

 

手出しは出来ずこちらも手一杯。彼女のことも信じるしかない。

 

 

竈門少年も黄色い少年も猪頭の少年も鬼の妹も。

 

そして彼女も。信じる事も【柱】の度量というもの。

 

両断。両断。両断。両断。

 

 

繰り返す両断。四方八方よりの鬼の触手を両断する。

 

 

煉獄杏寿郎はただひたすらに斬っていく。

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

血の呼吸・玖ノ型奥義【紅蓮ノ顎】

 

 

血鬼術と剣術の合わせ技。日輪刀【神血】は仕手の血液を吸い上げる鬼の麟だからこそ多用できる妖刀。日輪刀としては異様。鬼を断つ為の鬼の刀。

 

血液を貯めこめる領域展開型血鬼術とは実に相性は良い。

 

玖ノ型は拾ノ型に次いで【血の呼吸】の中で血液使用量が多い術理。

 

血液で龍を形作る。【大蛇ノ陣】に似て非なるもの。殺傷力は上。

 

 

真紅の龍の顎が攻撃を繰り出すが砂上の楼閣。蜃気楼を攻撃しているようで実体を捉えれない。

 

「……ち」

 

「麟さんだめ。攻撃を通さないもの……けどこれは私達を捕らえている牢獄だよ」

 

此方の攻撃を通さない癖に此方の動きを抑えつける実体のない悪夢の牢獄。

 

靄のかかった空間が四方八方にあり有耶無耶な空間が囲んでいた。

 

「真菰っちゃん。異変に気付いたらよろしくね」

 

「了解だよ」

 

二人は周囲を警戒し刀に手をかける。

 

 

 《血霞麟。君をまず封じ込めることにしたよ》

 

空間に響く【夢ノ色彩】の声。不快感を催す声音にも後がないという凄みがあった。

 

 

 《邪魔な君の連れを殺してからなぶり殺してあげるよ》  

 

「………………やってみろよ。この世で一番惨たらしく殺してあげる」

 

《おー怖い怖い。相対していたらその殺意だけで躰が竦みそうだ。》

 

実体を持たないが故にこの殺意を受け流し飄々と笑う。

気配は消えた。

 

「麟さん、錆兎は強いよ。」

 

「……普通の鬼なら上弦相手でも心配はしてないよ。けど悪知恵の働く【色彩ノ鬼】だ。実直なあの子だもん。心配だよ」

 

真菰の言葉に顔をしかめ不安に駆られる。

 

「もう、いつまでも子供じゃないってば麟さん。信頼してあげて」

 

「う、うん……」

 

「まぁけどだからって行かないわけにはいかないけどね。」

 

「そだね……【領域展開】には【領域展開】……格の差を思い知らせてやる。」

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

俺と錆兎は同期だった。最終選別で初めて彼を見た時は天才というものは居るんだなと痛感していた。

 

選別会場である藤襲山の試験用に放たれていた鬼は弱卒揃いとはいえ軒並み倒していたのを目を見張るものがあった。

 

そして冨岡義勇という少年も気の弱い所はあったがそれでも彼に劣らない天才だった。

 

俺は圧倒され卑屈にも彼等に嫉妬した。彼等のような才能があれば救えていたんじゃないかと。

 

 

その考えは直ぐさま改めてることになる。冨岡義勇が死んだ。

 

才能を持つものでも死ぬのだ。当たり前だ。

 

 

才能ないものはどうしたらいいのだろうか?

 

そんなの決まっている。

 

地べたをはいずりまわっても泥水を啜ってでも生き足掻く。

 

あの子が生きてて良かったと思える位に生きてて欲しい。

 

 

たとえ独善だとしても。

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

悪夢の連鎖は偶発性で連続性を持ち不規則だった。

 

 

収まったと、おもって気を抜きそうになるとまた発生する。

 

その不規則な連続が気力と体力を奪う。

 

 

 

   鉄の呼吸・肆ノ型【鉄鳴奏多(てつめいかなた)打ち】!!

 

鉄の震動のような打撃が膨れ上がった鬼を討ち滅ぼす。

 

 

   水の呼吸・拾ノ型【生生流転】!!

 

水流が如き流れる連続攻撃がまるで水の竜に見え鬼を斬り捨てていく。

 

わらわらと沸いてくる悪夢の鬼。そして発現する悪夢の事象。

 

悪夢の事象は現実離れした現実を発現する。

 

首のない乗客が群れとなってさらに囲んでくる。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「気後れするなよ白兎。これはまやかし。夢ノ残滓だ。」

 

「わかってる……!!けど……俺の家族もいる……!」

 

「……居ないのだろう。白兎。……」

 

 

「……当たり前の躊躇だと思うがなぁ。錆兎。誰でも弱点になる人物いると思うけど」

 

知っている声音。聞くはずのない声。

 

 

「義勇……?」

 

「久しぶりだね、錆兎」

 

少年の姿のかつての冨岡義勇が車両の接続部に立っていた。



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夢幻ノ壱拾五【強者と弱者】

冨岡義勇。死んだはず。俺の目の前で死んだ。救えなかった。助けられなかった。

 

わかってる。全てはまやかし。鬼の罠であることは。

 

それでも古傷は鮮明に痛み始める。呼吸は乱れ手先は痺れ頭痛がしてくる。

 

決めたはずだろう。悪夢など打ち払うと。あの人の為に。

 

「どうしたんだ?錆兎?はは。白兎のこと言えないんじゃないか?叱咤していただろう?」

 

わかってる。できの悪い偽物だ。義勇はそんな饒舌ではないしそんなこと言わない。

 

それでも古傷は新しい創痕のように痛む。

 

 

 

 

 

「……黙れ……偽物が……」

 

「酷いな。錆兎。俺は俺だよ。…………お前が見捨てたからこうなったんだろう?」

 

「違う……!見捨ててなんか、いない……!!」

 

 

「見捨てたのには間違いないだろう?俺は死んだんだから。」

 

 

救えなかったなら見捨てたと同義と目の前の悪夢は告げる。知っている。だから喋るな。

 

 

     水の呼吸・拾壱ノ型【凪】

 

 

「そんな荒ぶった呼吸で【凪】が打てるわけ無いだろう?なぁ錆兎。俺達二人で編み出した技なんだから」

 

だから喋るな。偽物が。

 

「…………麟さんを一緒に殺そう。ねぇ錆兎。誓ったじゃないか。あの人を殺すって」

 

……!?

 

 

「…………だまれ、侮辱するな。あの人と義勇を」

 

あの人を殺すって誓いなど有り得ない。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

水の呼吸の一門。鱗滝さんのもとで育った子供達はいろいろな経緯があろうが鬼による孤児だった。鱗滝さんに拾われ共同生活をしていた。皆は鱗滝さんが大好きだった。鱗滝さんに恩義を感じて皆【剣士】になるとつらかった修行に打ち込んでいた。つらかったが充実していた。

孤児になったのは弱かったからだ。皆鱗滝さんのために生き残ろうと鱗滝さんからもらった狐の厄除の面に誓っていた。

 

他の子供達と違ったことが俺と真菰にはあった。

 

血霞麟さん。鱗滝さんの師匠の女性。

 

その人と面識があったこと。彼女は水の子供達には距離を置いていた。

 

鬼による孤児。やはり麟さんは思うところがあるのだろう。

 

彼女は鱗滝さんの倍以上は生きた鬼なのだから。

 

 

俺と真菰はそれを承知で彼女と接していた。彼女の在り方が無表情ながらの雰囲気が俺達を害を成した鬼どもと違うと感じていた。

 

だから他の子供達にわかって貰おうとムリに彼女を子供達の前に連れ出した事もあった。

 

憎悪と嫌悪。ただひたすらにその視線を彼女は一身に受けてしまった。

 

それでも彼女はただ嘆息し優しい慈愛の眼差しを向けて帰っていた。

 

ただただ悔しかった。他の子供達も彼女は他の鬼どもとは違うとわかって欲しかった。

 

今となって自分勝手な駄々をこねていただけと理解している。

 

 

そんな中、一人だけ真菰以外に賛同してくれる奴がいた。

 

冨岡義勇。…………嫁入り直前の姉を殺された奴だった。

 

打ちのめされ塞ぎ込んでいた。鱗滝さんの声かけにもただうつむくだけだった。

 

最初誰でもそうだったけど義勇は人一倍優しい奴だった。懐いていた姉が目の前で殺されたのだから。

 

俺や真菰、他の子供達も似たような境遇であったから義勇だけが特別ではないのだけど。

 

ただ一室に塞ぎ込んでいた義勇に麟さんは訪れた。

 

 

謝罪と檄を彼に。慈愛に満ちたそれは。

 

 

俺達人間を喰らう鬼と同質には見えなかった。

 

 

それから義勇は前を向いて生きるようになった。

 

不器用ながらも弱気ながらも。

 

 

「錆兎。俺はあの人のために何が出来るだろう?」

 

修業の合間にそう呟く。

 

「生きて行けばいいんじゃないか?」

 

「そうかな、……」

 

「そうさ。死んでしまえばきっとあの人は悲しんでしまう。」

 

俺達は同じ気持ちだった。

 

幼い日に二人は同じ人を尊敬しあの人を悲しませない事を誓ったはず。

 

▽▽▽▽

 

 

「だから、義勇がそんな事言うはず無いだろう!あまり人間を舐めるなよ!!鬼ィ!!」

 

烈火の如く沸騰する怒りを携えて刀を構える。

 

 

「貴様らに殺された義勇をこれ以上冒涜するなよ!!」

 

   水の呼吸・弐ノ型【水車】!!

 

水車が如く縦の回転斬りを放ち義勇擬きの腕を斬り捨てる。

 

「ははっ、親友の腕を切り落とすなんて正気かよ!!」

 

 

「いつまでも義勇の皮を被ってるなよ」

 

 

     水の呼吸・拾壱ノ型【凪】

 

荒ぶる嵐のような怒りは静かな水面のような怒りに変換する。

 

【凪】、挙動すら見えぬ静の残撃が偽者の義勇を斬り捨てる。

 

 

「……………………義勇はそんな歪んだ笑い方はしない、覚えとけ鬼。」

 

 

《ははは、ならそっちの男から殺すとしよう、なぁ……桐夜白兎?君、この子を奪い返しに来たんだろう?》

 

「に、兄ちゃん…………」

 

つり革に縛られ吊らされた痩せこけた赤髪の少女が突然現れる。

 

「し、白梅…………!!?」

 

《結核を患っているね。僕が手を下さなくても時期死ぬよ。ふふふ、それでも必死になるなんて……嗤えるね。君妹を生かしたい?生かしたいんだよねぇ?お嬢様に鬼にしてもらえるよう提言してあげようか》

 

「……白兎、……落ち着け!」

 

「……さ、錆兎……駄目だ……俺は……お前程強くない……!!俺は妹を喪っては…………何も残らないんだよ……」

 

《さぁ、自分の首を斬りなよ。そうしたら考えてあげなくもないよ。素直に悪夢に落ちればこうはならなかったのにさ》

 

「白兎!!」

 

《おっと、動くなよ【柱】君らが邪魔し無ければ血霞だけですんだのにさぁ。早くしてよ血霞が本番なんだから。白銀川の奴が来てるから猶予ないしね》

 

「白銀川……?」

 

《関係ない話だよ。さぁ早くしてよ。》

 

白兎は刀を自分の首にかける。手は震えている。

 

▽▽▽▽▽▽

 

情けない死に様だ。錆兎。弱い奴は死に様すら選べない。

 

天才と凡才の壁は高く間を阻む崖も深いんだよ。

 

それでも必死に、妹だけを守りたいと足掻いていた。

 

 

妹を守れず妹は死にたがっている。この様はナンだろう?俺はナンだろう?

 

 

「駄目な兄ちゃんでごめんな。白梅。」

 

 

だから最後だけ。最後だけは足掻かせてくれ。

 

 

 

    鉄の呼吸・終ノ型【鉄心剣躰】

 

自身を【日輪刀】が貫く。躰を鉄の如く変質させる鉄の呼吸。日輪刀の材料である猩々緋砂鉄と猩々緋鉱石を定期的に【摂取】していた。血肉は日輪刀と同義の鉄となれるようにといかれた行為だと思う。

 

それでも、弱い自分を捨てれるならと行った。

 

此が意味を成した事など一度もない。それでも、俺は。

 

 

《なんだ!!》

 

    鉄の呼吸・玖ノ型【鉄拳・刃廻(じんかい)

 

白梅だけは返して貰う。跳躍。白梅を縛るつり革を斬り捨てるため鉄と化した拳を振るう。

 

    《おい、妹が死んでも良いのか!!》

 

いいわけないだろ!!

 

     《やめろ!!》

 

妹を縛るつり革を破り白梅の躯を抱きしめ床に落ち転がる。

 

「白兎!無理して!!」

 

「…………白梅……!!大丈夫か!!」

 

「に、兄ちゃん…………ごふっ」

 

吐血する。ああ、結核の躰を無理させたから……薬を……!!

 

《よくも、つくづく思い通りにならないなぁ……鬼殺隊ってやつは…………けれど滑稽だよ君は》

 

 

【夢ノ色彩】は姿を現し不愉快そうに苦笑する。

 

 

「なんてね、それ本当に妹かい?」

 

「え?」

 

「何を言っている?」

 

「兄ちゃん、一緒にシンデ?」

 

白梅だと思われる少女は崩れ醜い肉塊に変わる。ぐつぐつと爛れた醜い人型の肉塊。

 

「え、あっ…………俺は…………」

 

肉塊の触手は容赦なく鉄と化した白兎の胸を貫く。

 

「ごふっ」

 

「白兎!!」

 

「錆兎………………白梅を……」

 

俺の躯は壁に叩きつけられ鉄錆を混じった血をぶちまける。俺の躯は俺のように脆い錆びた鉄錆の躰へ変質する。

 

「はっはははははは!!無様だねぇ!!!!!!妹?それが妹だよ!!安心しなよちゃんと妹だよ!!」

 

「貴様……!!」

 

  

 

    血の呼吸・死ノ型【不退転ノ紅蓮華】

 

 

悪夢の靄の空間が鏡が割れるように亀裂が入り瓦解する。瓦解する悪夢の靄の空間の先に三角錐のような血液の槍を纏う日輪刀を構えた血霞麟さんがいた。

 

冷徹な雰囲気を纏い豪奢な真っ赤な装束を着る女性。

 

 

「……遅かったねぇ」

 

 

 

 

 



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夢幻ノ壱拾六【深紅と純白ノ誓約】

浸域纏開【血纏装束】を纏った際にのみ使用できる【死】ノ型の剣技。

 

追撃の【絶対必中】。対象を狙い続ける刺突の技。

 

それは視認する必要はなく一度対象の気配を確認しているならば攻撃を加えるまで追い続ける。追撃ノ刺突。

 

先の沼の色彩の鬼を討った技。それを使用し【夢ノ色彩】の居場所を特定したのだった。

 

 

「…………遅かったね、錆兎ごめん」

 

「……こちらこそすいません。俺がいながらにして……」

 

「ううん、こんな雑魚に手こずった私の腑抜け具合にいやにはなる【鵺】」

 

「了解や」

 

様々な獣を繋ぎ合わせた【血怪】が【夢ノ色彩】の背後に立ち【夢ノ色彩】に雷撃を喰らわす。

 

「ぎゃび!!」

 

「……手応えが、ねぇわ姫。既に実体ではねぇわ」

 

「想定内。【血怪百鬼夜行・雷鳴轟ノ陣】」

 

私の周りがばちばちと雷鳴が響き渡る。深紅の雷撃を乱発する。

 

「【血ノ雷鳴】【血ノ主命雷】【血ノ雷撃装】」

 

連続した雷撃、雷鳴、雷ノ槍を乱発する。靄の空間が瓦解し車両へ場所を戻す。

 

 

 

 

   血の呼吸・肆ノ型崩し【狂い咲き紅蓮華】

 

    血の呼吸・肆ノ型崩し【早咲き紅蓮華】

 

    血の呼吸・肆ノ型崩し【遅咲き紅蓮華】

 

雷鳴と合わせた咲き乱れる紅蓮の花が如き斬撃を放つ。

 

左右上下から発現しようとした【悪夢】の弾を顕現する前に斬り潰す。

 

錆兎。後についてきた真菰。そして血塗れで伏せる桐夜白兎を避けながら斬り捨てる精密な剣技。

 

「………………もう種は割れてるんだ。あまり私を舐めるなよ?小僧。」

 

ここにいる全員の背筋が凍るほどの殺気。血霞麟の本領。本性。

 

【色彩ノ鬼】である【夢ノ色彩】は怖気が走る。

 

けれど【夢ノ色彩】はそれと同等かそれ以上の悪意を知っている。

 

自身の創造主。神代真白を。白い鬼を。

 

あれに意味を意義を奪われるのは末恐ろしい。このまま血霞麟に殺されるのがましなくらいに。

 

「五月蝿いなぁ。血霞。それくらいで勝ったつもりなんて甚だおかしいよ。僕はあの神代真白の創作物だ。これで終わるわけ無いだろう?」

 

「…………終わらしてやるよ」

 

 

「こっちにも奥の手があるんだよ、諸刃だけどね!!」

 

白銀川鞠衣に、渡された注射器を自身の首に打ち込む。

▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

目の前が、霞む。死ぬのか俺は惨めで蒙昧だ。

 

あまりにも惨めだ。白梅の顔を見ずに死ぬのか。

 

俺の人生はなんだったんだろう。

 

妹も救えず妹は死を望む有様。家族の仇を討つことも出来ずこの様は無いだろう。

 

足掻かず慎ましく、妹の世話をして看取れればよかったのだろうか。身の程、身の丈を知ればよかったのだろうか。

 

凡人には凡人の矜恃はある。どんな不様でもどんな醜くても……俺は……あまりにも選択を間違っている。

 

「いや……だ……」

 

 

「このまま……終わるなんて……嫌だ。」

 

「力を下さい」

 

誰か力を。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

「使うか。そうそれが正しい。……お前はお嬢様の役に立つにはそうするのが正しい。見せてくれ。【色ノ麻薬】の効果の程を。窮極の鬼【イリス】へ至れるか」

 

白銀川鞠衣は夢幻列車の車掌室にて嗤う。銀髪の剣士はただ嗤う。

 

「………………この戦いの幕引きを」

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

「……はっはははははは!!はっはははははは!!!この高揚感!!はっはははははは!!!!」

 

 

狂ったように嗤う【夢ノ色彩】、その姿は変容していく。

 

より、硬く強く激しい色彩を纏う。個体としてより強靱に。今や下弦の複製体として遙かに超越している。白い鎧のような強靱な鱗を纏った威容と化している。

 

単純に上弦すらをも超えようとする意図すら感じる注射器のそれ。

 

「ははは!!いいねぇ!!最初から使っとくんだった!!」

このあらゆるものを超越した高揚感、万能感。あの小生意気な銀髪の剣士すら陵辱しねじ伏せれる。色彩の座位を頂ける。

 

    血の呼吸・肆ノ型【血刃】

 

飛来する血の刃を進化した【夢ノ色彩】は弾く。ちぃ。

 

「……ははは!!君の力もいまや僕には効かない!!」

 

    

「……調子乗るなよ、」

 

衝撃。私の下腹部が無情になにかに貫かれていた。

 

「「麟さん!!」」

 

錆兎と真菰が叫ぶ。

 

貫いていたのは肉塊の触手。この夢幻列車の一部。くそ、注意力散漫かよ。膝をつく。

 

 

「ははは!いまや僕は君の同格かそれ以上だ。」

 

 

単純な膂力増強。単純な強靱な肉体増強。この鬼に足りなかったものを補っているようだった。

 

 

あんの小娘(真白)に嘲笑われているようだった。

 

 

「………………【領域展開】!!」

 

【烏天狗】【犬神】【火車】、我が百鬼夜行の中でもとりわけ力自慢の三人を展開する。

 

 

「姫、我らが足止めしてるから回復に専念しろ」

 

「【烏天狗】の叔父貴、足止めどころか討ち取ってやるぞ」

 

「お雪と零余子二人も頑張っているんだ、俺達も頑張って行かねば」

 

「無理するなよ。おそらく無理な強化のはず。頼むよ三人とも」

 

 

3人はもはや元の【下弦の壱】とも判別出来ない白い鎧のような強靱な鱗を纏った鬼となっていた【夢ノ色彩】の前に立ちはだかる。

 

「はっはははははは!はっはははははは!アリンコみたいなものだよ!!君たちなんて相手にならないよ!!」

 

湧き出る力に高揚感からか調子づく【夢ノ色彩】、華奢な元々の姿はなく3メートルは超える巨躯となり立ちはだかる。

 

 

「分相応の力に酔い振り回される小物にしか見えないがな」

 

「……口だけならなんとでも言えるのさ!!主共々死ぬが良いさ!!」

 

風の拳を放つ【烏天狗】の間合いに入り踏みつける悪夢の鬼。襲いかかる二体の【犬神】と【火車】を背中から生えた2本の強靱な腕が二人を吹き飛ばす。

 

 

    

    水の呼吸・壱ノ型

 

 

        「「水面斬り!!」」

 

 

錆兎と真菰が悪夢の鬼の左右から頸を切り落とそうとするが強靱な鱗に覆われた頸はやいばを通さなかった。

二人は弾かれさらに生えた腕に叩きつけられる。

 

 

「錆兎!!真菰!!退きなさい!!」

 

「俺達だけ見てられるか……!!」

 

「鬼殺隊だもん……!!」

 

 

「……あははは!!訳分からないなぁ!!!まぁいいやどうせ君たちは死ぬんだ!!」

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

「…………ちぃ」

 

貫かれていた傷は一向に回復しない。色を奪う。かつて右腕を奪われた時と似ていた。

 

小娘の色彩奪いとは違い侵食はしない。それでも、傷は傷のまま。色を奪う。

 

「…………けふっ」

 

吐血する。鬼は回復する。だから多少の傷には頓着しない。ある意味慢心だった。

 

「…………けど、このままじゃいけないよね」

 

血怪達は錆兎と真菰を庇い立てしながら戦っている。

 

上弦すらをも超えようとする強靱な鋼のような巨躯を持った鬼は圧倒してくる。

 

あんな、化け物を量産でもしようとしているのか小娘は。

 

あれの美的センスからは満足できないだろうからおそらく試作。

 

「……回復しないなら動かないと……」

 

「麟様!!」「大丈夫ですか……!!」

 

「お雪、零余子……やっほぅ」

 

雪のような少女と小柄な鬼娘はようやく合流する。

 

「……どういう状況ですか」

 

「あれ……厭夢と同じ気配なんですけど……」

 

「……あれは【下弦の壱】の複製体。何やら投与してあの化け物に変わった」

 

「はい?」

零余子は訳が分からないと目をパチパチさせる。可愛いかよ。

 

「……さてね、…………私も行かなきゃ……」

 

再び右腕を血液で作り出し【神血】を握る。立ち上がる。

 

「麟様……この方……」

 

私の足を掴む桐夜白兎が死に体で有りながらこちらを幽鬼のような眼差しを此方を見ていた。

 

「……戦う……力を……下さい……俺は……俺は……白梅を……」

 

「…………私は見ての通り、鬼だよ。桐夜白兎。その私に頼んでる意味を……分かってる?」

 

▽▽▽▽▽▽▽▽

 

力が湧いてくる。これは周りの悪夢を力へと増強している僕の色彩の力だ。 

 

周りの人間を。ああ、核にしていた白梅とかいうメスの悪夢はやはり強い。それほど絶望、失望がありそれに裏返って渇望も強い。生きたいけど生きれないという裏表の絶望。ああ、なんて蜜のように甘い悪夢なんだ。死体になっても残留するほどの悪夢なんてそうはない!!

 

足掻くなよ!!血霞の配下!!鬼殺隊!!

 

僕は君たちを殺してあの境地に至る!!色の位を持つ鬼共の地位に!!

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

「このまま、…………俺は……死にます……けれどそれじゃ…………あまりにも……」

 

俺は血のような彼女を見上げる。冷たい雰囲気を持ちながら優しい感じはした。

 

額の小さな角に犬歯。猫のように縦長の瞳。

 

鬼だ。俺の人生をめちゃくちゃにした鬼と同じ鬼。

 

彼女がなぜ鬼殺隊にいるのだろう。

 

日輪刀を振るい鬼共と対峙しているのかは知らない。

 

初対面の俺には関係はない。

 

だけど彼女に、恨みを抱くつもりはない。ぐつぐつと煮えたぎるような悔恨だけが死に体の体を突き動かす。

 

「…………力を下さい」

 

弱い自分だけが嫌いだった。

 

「白梅を……奪い返せるだけの力を……」

 

 

 

     血鬼術【百鬼創生・禍ツ華】

 

血液が桐夜白兎を包み込む。存在を書き換える血鬼術。

 

血液の情報を書き換え自身の存在に近付け【百鬼夜行】として同一にする。

 

血霞麟として桐夜白兎を一部にする。力を与える。

 

 

人でも鬼でもない人外(あやかし)となる。

 

 

「…………ごめんね。人間。私にはこうするしか出来ないよ」

 

 

咆哮。血液から現れるのは鉄を繋ぎ合わせた巨人。

 

咆哮。ただただ殺意で鉄を繋ぎ合わせた巨獣。

 

咆哮。桐夜白兎だった鉄の人外は体を完全に血を纏う鉄の塊になる。

 

咆哮。鉄の塊は歪な巨大な人型として再誕する。



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夢幻ノ終劇【九十九血神ノ白兎(てつのはて)

「あぁぁあ!!」

 

咆哮。咆哮。咆哮。魂からの。

 

誰よりも幸せになって欲しかった。けれど病の人生を負わせてしまった。

 

桐夜白兎は後悔ばかりの人生だった。

 

弱いことはこんなにも罪なのか?奪われるだけの人生はいやだ。

 

   人間をやめてでも尊厳だけは取り返す。

 

妹の死体は俺が弔わなければならない!!

 

「かぇっせぇえ!!」

 

   領域展開【血怪百鬼夜行・九十九血神ノ陣】

 

 

桐夜白兎の死体は深い悔恨を残し新たな百鬼夜行へと変貌する。血液を纏う鉄を繋ぎ合わせた体をその悔恨だけが突き動かす。血怪【九十九神】器物が九十九年経つと自我が宿る妖の総称。九十九年分に相当する悔恨だけが鉄の体を突き動かす。

 

「君如きに用はないんだよ!!」

 

浸域纏開【縊殺(くびりごろし)夢獄纏骸(むごくてんがい)ノ獄彩】

 

 

血液を纏う刃金の巨大な縦長の異形に立ち向かうは悪夢を纏う異形。姿形は虚ろで朧気に霞む異形。故に無形。

 

想像力が創造力となる。悪夢を操作し実体化し纏う。

 

【浸域】とは侵す為に自身の領域を纏う領域。【纏域】とも呼称する。

 

【新月の純白】神代真白の恩恵。彼女の創作物故の最後の篝火。注射器の中身の【色ノ麻薬】

 

果ては死神の鎌を振り下ろされるのは必定。それでも生まれ落ちたならば意味が欲する。意義を。愉悦を感じるならあまりにも足りないまだ足りない。足りないんだよ!!

 

 

僕はまだ足りない!!

 

 

払拭されない悔恨と満たされない愉悦がぶつかり合う。

 

周りの列車を喰らい肥大化する【九十九神】の桐夜白兎は一本の巨大な鉄骨を刀として構える。

 

自分に叩き込んだ呼吸法を鉄の体にて使役する。

 

    鉄の呼吸・肆ノ型【鉄鳴奏多(てつめいかなた)撃ち】

 

大きな音を立て撃ち込んだ一撃は震動を与え中身を破壊する。

 

内側から破壊する鉄鳴の一撃は【夢ノ色彩】に痛みを与える。

 

巨体から与えられた一撃は破砕するには十二分。ただし夢は無形。再びつなぎ合わさる。

 

「はっははははは!!そんな一撃じゃ僕を殺しきれないよ!!」

 

   【悪夢纏・共生】

 

悪夢の鬼達がわらわらと沸いてくる。【夢ノ色彩】に纏わり付いて融合して巨体となっていく。無数の鬼が無造作につなぎ合わさった歪な巨体な異形となっている。

 

 

「「「僕を殺せると思うなよ!!これはこの列車の人間共の悪夢への恐怖心を鬼化させたものだ!!僕への畏怖が恐怖が力となるのさ!!」」」

 

「「「その、鉄の異形と共に色彩に死ね!!血霞麟!!」」」

    

 

 

     血鬼術【増減操作・血液量】

 

 

「これでいいんですか?麟様」

 

「……うん、これは彼に譲った彼の戦いだ。精一杯のサポートさ」

 

零余子の言葉に首肯する。ただ見届ける。彼を【百鬼夜行】にした責任もある。

 

    血鬼術【鉄操・血盟】

 

 

咆哮。自身に繋ぎ合わせた鉄骨を射出する。貫く。容赦なく加減なく憂いなく。ただ悔恨のままに。

 

五つ射出した鉄骨は巨体を貫く。膨張した悪夢はただただ貫かれる。

 

「がぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

狂化。自我もなく九十九神は駆ける。暴走する【夢幻列車】の車両を吹き飛ばしながら突き進む。

 

鉤爪状になっている両手でつかみ食い込ませる。

 

 

咆哮。咆哮。咆哮。逃がすまいと鉄の顎が食らいつく。

 

鉄の獣。鉄の巨獣。ただ血を纏う鉄の塊のはずのそれは明確な殺意を持って攻撃を繰り出す。

 

 

「……化け物め!!血霞の力は!!だが僕を舐めるなど!!」

 

    【悪夢纏・酸廻界】

 

 

酸の海という悪夢が再現される。鉄の躰を錆びさせる。

 

ただの鉄ならばここで終わる。だが。

 

血怪【九十九血神】桐夜白兎は血を纏う鉄の躰を持つ。

 

   血鬼術【鉄鬼招来・鉄砲杓】

 

鉄を砲弾へ練成。左腕を巨大な鉄砲へと変形させる。

 

爆音と共に発射。動きが鈍くなろうが関係はない。射出された砲弾は零距離で悪夢の鬼の塊を吹き飛ばす。

 

 

《白梅をかぇせぇぇえ!!!!》

 

さらに咆哮。ただの瓦解した鉄の心は剥き出しの心のまま咆哮する。

 

暴走する悔恨はそのまま飛びかかり悪夢の塊と化した鬼を撲殺しようと殴打を繰り返す。

 

《いい加減目障りなんだよ!!弱者の分際で!!》

 

 

    【悪夢纏・蠱毒地獄】

 

 

【夢ノ色彩】が纏っていた悪夢の靄が【九十九血神】にも纏っていた。むしろ餌を取り込むような捕食者のように悪夢の靄が纏わり付く。

 

《悪夢の詰め込みを受けるがいいさ!!》

 

《ぐ……が……》

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

桐夜白兎は、悪夢に囚われている。

 

妹に恨まれているのだと。そう思っている。

 

姿形は見えなくても彼女はきっと俺を恨んでいるだろう。

 

妹は楽になりたがっていた。けど俺は一人になるのを拒んでいた。俺のエゴで彼女を生かしていた。綺麗事を翳してただ彼女を生かしていたんだ。

 

 

俺の現実は既に悪夢なんだ。家族と妹を無意味に喪う。

 

あの鬼が見せる悪夢など紛い物でしか無い。あらゆる苦痛もあらゆる煩悩も全てあの子のために何も出来なかった悔恨に劣る。

 

だから彼女の顔して罵倒する悪夢は……悲しい顔をしている現実に劣る。

 

目の前の鬼が作り出した【桐夜白梅】はただただ俺を罵倒する。

 

恨み言。あらゆる罵詈雑言が白梅の虚像の口から発せられる。

 

ああ、分かってる。俺は物語の主人公にはなれない。

 

 

【兄ちゃんなんで、殺してくれなかったの】

 

ただ現実の彼女の言葉のみが俺の心を抉る。

 

心を鉄に出来なかった男の末路。躰だけを鉄にして悔恨だけでその鉄を動かす。

 

だからせめて彼女の尊厳だけは取り戻す。

 

人外へと身を落としたとしても。

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

血怪【九十九血神】は幾度の幾多の【夢ノ色彩】の悪夢の攻撃を喰らい鉄を繋ぎ合わせただけのガラクタになっていた。 

 

《血霞麟っ!!!!!!君の【血怪】はこのざまだ!!!!いい加減ぼくの手に下りなよ!!》

 

 

「麟様…………」

 

「今のお前、確かに上弦に匹敵するね。……使い捨てのお前でそのレベル。小娘は末恐ろしいよ……」

 

桐夜白兎へ目を向ける。ガラクタの山と化した鉄の巨人。ボロボロの巨体は意気をも感じない。

 

《それでいいの》

 

《……ち、がすみ……さん……》

 

《いいの?君の妹……奪い返したくないの?あの悪夢の渦巻く靄の一部になってしまうよ》

 

《……うばい……かえす……けど力が……足りない》

 

《…………意地の悪い質問だけど君を血怪にした私がいうのもあれだけど……私に魂を売る気ある?》

 

《……売ります。売りますから力を……白梅を……取り返して下さい》

 

《…………人間好きな癖に人外を作る私は赦されないかもね。ここに誓約を。ここに悪逆を。君の力を私に上乗せ出来る。……あの鬼を喰らうよ白兎》

 

《……はい、姫》

 

 

 

    浸域纏開【血纏装束・九十九血鎧ノ柄】

 

【陣】形成。領域展開の一段階目。【血怪】の力を領域へとただ展開するもの。

 

【図】形成。領域展開の二段階目。【血怪】の特性をより具体的に形成し更なるチカラを展開する。

 

【柄】形成。領域展開の三段階にて【浸域】の一段階目。【血怪】の領域展開の力を纏い【血纏装束】の柄として発現し領域を纏い力を発現する。他者を侵すの力。

 

 

鉄の【柄】を展開する。女武将な見た目の装束を纏う。赤い装束に赤い籠手に赤い具足に鎧に赤い兜。全身真っ赤な真紅の姿だった。

 

まるで地獄を駆る鬼。

 

「【浸域】というものを見せてやる」

 

抜刀。上段に構える。

 

  血の呼吸・拾ノ型崩し【真紅ノ太刀(あかきたち)

 

濁流如き【真紅紅蓮】を収束させ【神血】に鉄の塊が付随する。巨大な赤き太刀へと変換。

 

彼の悔恨を祓うべく構える。

 

《血霞麟!!!!色を寄こせぇえええ!!!!》

 

 

「あげないよ。私は私の役目を終えるまでは死ねない。鬼舞辻も真白も喰らって人間が安心して生きていける世界で最後の鬼として死ぬために。私の咎を贖うために」

 

華姉。私を赦さないで。貴女になってしまった私

を。   

 

拾ノ型崩し【真紅ノ太刀】を振るう。赤い閃光は悪夢の集合体の実体を核に捕らえ両断する。

 

【夢ノ色彩】を両断する。喰らった人間達は瓦解する。

 

一人の少女の死体を拾う。

 

《血霞ぃ……!!》

 

怨念がましく未練たらしく瓦解する躰のままこちらを睨めつける。

 

「ふん、……私の色を奪ってどうするのかしら?意味を喪うだけではないんでしょうけど」

 

《お嬢様の最高傑作の礎のためさ……殺されるがいいよ》

 

《【イリス】にね》

 

瓦解し粉々の色彩と戻る時もただただ愉快そうに笑う。

 

【イリス】……ね。よからぬことでしょどうせ。

 

▽▽▽▽▽

 

「白梅……」

 

夢幻列車は消えどこかは分からない野原で彼の妹を寝かしている。

 

既に事切れあんな状況だったにも関わらず穏やかな死に顔だった。本当死にたがっていたのかもしれない。

 

痩せ細った顔をしていても穏やかな死に顔だった。

 

あらゆる苦悶からも煩悩からも苦痛からも解放されたんだ。

 

「……おやすみ。白梅。ごめんな駄目な兄ちゃんで」

 

対して兄は死後も【怪】として咎を背負い続ける。

 

 

「……脅しておいてなんだけど、……【血怪】契約解いてあげてもいいよ。無理矢理ってのも好きじゃないし」

 

「…………大丈夫ですよ恩義位は感じてます。付き合いますよ。……聞いた話だとさっきみたいな鬼もいるんでしょう。…………鬼殺出来るならしたいです」

 

「私も鬼だよ?」

 

「……なら既に俺も鬼みたいなものですし。悪いな錆兎。……お前の忠告聞かなかったせいで迷惑かけた」

 

苦笑しながら鉄になった躰を見せてくる。

 

「……馬鹿野郎」

 

「……すまん」

 

 

「はいはい暗くなっても任務は続くよ。杏くんの方手伝いにいくよ。決着はついてるみたいだし」

 

「はい」

 

「……はい」

 

「もう、暗いなぁ。……生きてないけど生きてるし錆兎もゆるしてあげなよー」

 

「分かってる」

 

真菰の言葉に渋々頷く。多分義勇のこと思い出して居るんだろうけど。

 

 

前を向いてっと。

 

 

気を抜いていた所に濃厚な殺気のような鬼の気配が杏くん達の居るところへ現れる。

 

 

瞬間察する。…………【上弦】と。




次回、煉獄杏寿郎の物語。


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煉獄の赫刀【煉獄杏寿郎の物語】
煉獄ノ炎【心の炎】


竈門少年。猪頭の少年がこの列車を乗っといていた鬼の頸を切ったようだ。

 

濃厚で醜悪な列車と融合していた肉が瓦解した。

 

気配も霧散していく。

 

「ふむ!!若手が育っている事はいいことだ!継子にしたいものだ!!」

 

列車は脱線し横転してしまっているが怪我人は居るだろうが幸い死者はいない。黄色い少年。竈門妹の尽力よるものだ。

 

竈門妹の力も血霞殿に近しいものを感じる。彼女からも人をまもる意思を感じる。認めなければなるまい。

 

さて、後処理もあるし【隠】部隊に連絡しなければ。随分列車も走った。付き添いの【隠】とははぐれてしまったしな。

 

「少年達の様子も見なければ!」

 

 

▽▽▽

 

ボロボロで横たわる竈門少年を発見する。

 

 

「全集中・常中が出来ているようだな!!感心感心!!」

 

「煉獄さん……」

 

「常中は柱へと第1歩だからな!!柱まで10000歩あるかもしれないがな!!」

 

「頑張ります……」

 

「腹部から出血している。もっと集中して呼吸の精度を上げるんだ。からだの隅々まで神経を行き渡らせろ」

 

竈門少年は言われた通り呼吸をする。

 

「血管がある。破れた血管がある。もっと集中しろ」

 

 

ドクン。

 

「そこだ止血。出血を止めろ」

 

苦痛に歪める少年の額に指を当てさらに。

 

「集中」

 

「ぶはっ、はぁはぁっ!……?」

 

「うむ、止血できたな。」

 

「呼吸を極めれば様々なことができるようになる。なんでも出来るわけではないが昨日の自分より確実に強い自分になれる」

 

「はい」

 

素直な少年に笑いかける。気持ちの良い気性の少年だ。

 

「皆無事だ!!怪我人は大勢だが命に別状はない君はもう無理はせず……」

 

そう、声を掛ける途中後方より爆音。振り向くと天より何かが飛び降りてきた。

 

全身入れ墨の桃色の髪をした青年。両眼には上弦の参と刻まれていた。

 

突如の出現もすぐに大地を蹴り此方に……いや竈門少年か!!

 

   炎の呼吸・弐ノ型【昇り炎天】

 

下段から突き上げる斬檄で少年へ振りかざした奴の拳を両断する。

 

 

奴は後退。両断した奴の腕は直ぐさま再生。なめ取る。

「いい刀だ」

 

「なぜ、手負いのものから攻撃をした?理解出来ない」

 

「話の邪魔になりそうだった。俺とお前の」

 

「何の邪魔になる?君とは初対面だが既に君のことが嫌いだ」

 

本能とその鬼に直感めいた嫌悪感が顔を出した。

 

「そうか、俺も弱者は嫌いだ。弱者をみると虫唾が走る」

 

「君と俺とでは価値観の基準が違うようだ」

 

「そうか、では素晴らしい提案をしよう…………鬼にならないか?」

 

「ならない」

 

巫山戯た提案だ。ならない。即断で突っぱねる。

 

血霞殿は例外でやはり鬼は鬼だ。その鬼になるとはあり得ない。天と地がひっくり返ろうとも煉獄家としての矜恃をもってあり得ない。

 

「見れば分かる。お前の強さ柱だな?」

 

「その闘気練り上げられている至高の領域にちかい」

 

「俺は炎柱・煉獄杏寿郎」

 

「俺は猗窩座。何故お前が至高の領域に踏み入れないか教えてやろう」

 

「人間だからだ。老いるからだ。死ぬからだ。」

 

凶相で此方を指差して断言してくる猗窩座。

 

「鬼になろう。杏寿郎。鬼ならば百年でも二百年でも鍛錬し続けれる。鬼殺隊はいかれた【血霞】もいるだろう?抵抗もあるまい」

 

 

「老いることも死ぬこともそれが人間という儚い生き物の美しさだ」

 

「老いるからこそ死ぬからこそ堪らなく愛おしく尊いのだ」

 

「強さというものは肉体に対してのみ使う言葉ではない」

 

「この少年は弱くないし血霞殿は鬼で有りながら此を理解して慈しんでいる」

 

「侮辱をするな。何度でも言おう。君と俺では価値基準が違う。」

 

「俺は如何なる理由をもっても鬼にはならない」

 

 

    術式展開【破壊殺・羅針】

 

拳鬼は構える。雪結晶の羅針盤のような術式が展開する。

 

 「鬼にならないならば殺す」

 

 

  炎の呼吸・壱ノ型【不知火】!!

 

互いに大地を蹴り殺意を持ってぶつかる。

 

「今までは殺してきた柱たちに炎はいなかったな。そして俺の誘いに頷く者もいなかった」

 

奴は空中を飛び跳躍する。

 

「何故だろうな。同じく武の道を極める者として理解しかねる。選ばれた者しか鬼にはなれないというのに」

 

「素晴らしき才能を持つものが醜く衰えてゆく。俺は辛い。耐えられない死んでくれ杏寿郎!若く強いまま」

 

 

    破壊殺・空式!!

 

        肆ノ型【盛炎のうねり】!!

 

空中からの連打を火焔の波濤で阻む。

 

虚空を拳を打つとこちらまで攻撃がくる。一瞬にも満たない速度。このまま距離を取って戦われると頸を斬るのは厄介だ。ならば近づくまで!!

 

間合いをつめる!!

 

「素晴らしい反応速度」

 

打ち合う。打ち合う。打ち合う。

 

 

「この素晴らしい剣技も失われるのだ悲しくならないのか!!」

 

「誰もがそうだ!!人間なら当然のことだ」

 

動こうとする竈門少年が視界に入る。

 

「動くな!!傷が開いたら致命傷になるぞ!!待機命令!!」

 

「弱者に構うな!!全力を出せ!!俺に集中しろ!!」

 

   炎の呼吸・伍ノ型【炎虎】!!

 

      

      破壊殺・乱式!

 

虎を模した火焔とド級の乱打がぶつかり合う!!

 

殺意と殺意がぶつかり合い鬩ぎ合う。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

「死ぬな。杏寿郎。」

 

奴の言葉に顔をしかめる。左眼は潰れ内臓をいくつか潰れている。視界は半分になろうともまだ戦える。

 

 

「生身を削る思いで戦ったとして無駄なんだよ。杏寿郎。お前の素晴らしい斬撃で喰らわした傷も既に完治してしまった」

 

「対してお前はどうだ?潰れた左眼。砕けた肋骨。傷付いた内臓。取り返しがつかない。鬼は致命傷たり得ない。人間では鬼には勝てない。どう足掻いても」

 

 

関係ない。だからどうした。

 

 

「俺は俺の責務を全うする!ここにいる誰も死なせはしない!!」

 

1度に多くの面積を削り取り滅する。

 

 

 

炎の呼吸・奥義!!!!

 

 

「素晴らしい闘気だ、それほどの傷を負いながらその気迫、その精神力!!一分の隙のない構え!!」

 

歓喜に震える拳鬼は迎撃する為に構える。

 

「やはり鬼になれ杏寿郎!!!」

 

「俺と永遠に戦い続けよう!!」

 

闘気は互いに練り上げられ膨れ上がる。放たれる応酬する闘気は今奥義となり爆ぜる。

 

 

     玖ノ型【煉獄】!!

 

     術式展開【破壊殺・滅式】!!

 

破壊力絶大の奥義がぶつかり合う。爆ぜる。

 

互いの否定の威力は互いを討ち取るため容赦ないものとなりぶつかり合う。

 

 

▽▽▽▽

 

 

幼き日の回想が蘇る。かつての母の顔。凜とした美しい母だった。

 

「杏寿郎」

 

「はい!!母上!!」

 

「よく考えるのです。母が今から聞くことを」

 

「何故、自分が人より強く生まれたか分かりますか」

 

「…………ぅっ……」「……」「わかりません!」

 

「弱き人を助けるためです」

 

「生まれついて人より才に恵まれた人間はその力を世のため人のために使わなければなりません」

 

「天より賜りし力で人を傷付けること私腹を肥やすことは許されません」

 

「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務です。責任をもって果たさなければならない使命です」

 

「決してそれを忘れること無きよう」

 

「はい!」

 

「母はもう長くはありません。強く優しい子の母で幸せでした。後は頼みます。」

 

「血霞麟さん、彼女の助けになるよう。それも煉獄家の使命です。」

 

母の抱擁。母の言葉。それが俺の原点だ。

 

母上、俺の方こそ貴女に生んでもらえて光栄だった。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

俺の腹部を貫く拳鬼の拳。致命的な傷だ。吐血する。

 

それでも心の炎は燃え続ける。

 

 

「……死ぬぞ!杏寿郎!鬼になれ!!!鬼になるといえ!!」

 

拳鬼の言葉はもう一度否定する。ならない。

 

振るわれるもう一方の拳を掴む。

 

この鬼の頸を切り落とすまでけしてはなさん!!

 

夜明けが近い。拳鬼もそれを察したのか腕を抜こうと激しく抵抗する。

 

にがさん!!

 

 

「伊ノ助!!煉獄さんのために動け!!」

 

「お、おう!!」

 

 

少年達は俺の援護をしようと動こうとする。

 

 

 

    獣の呼吸・壱ノ牙【穿ち抜き】……!!

 

拳鬼は自身の腕をも犠牲にして跳躍する。

 

 

拳鬼は夜明けが近いことを感じ屈辱ながら駆けていく。

 

その拳鬼の後ろ姿に竈門少年は振りかぶり日輪刀を投擲する。拳鬼を貫く。

 

「逃げるな!!卑怯者!!逃げるな!!!」

 

その言葉に猗窩座は憤怒の形相を浮かべる。

 

 

「いつだって鬼殺隊はお前らの有利な夜に戦ってるんだ!!生身の人間がだ!!傷だって簡単には塞がらない!失った手足が戻ることはない!!」

 

竈門少年は叫ぶ。

 

「逃げるな!!卑怯者!!馬鹿野郎!!」「お前なんかより」

 

「煉獄さんのほうがずっと凄いんだ!!強いんだ!!煉獄さんは負けていない!!誰も死なせなかった!!」

 

「戦い抜いた!!守り抜いた!」「お前の負けだ」

 

「煉獄さんの勝ちだ!!」

 

「うぁぁぁあ!!」

 

少年は叫び続けていた。

 

もう、あの鬼の姿、気配はない。

 

 

「…………ごめん、炭治郎。杏寿郎。遅くなった。間に合わなかったね」

 

悲嘆で泣きそうな表情を無表情に精一杯している彼女が背後にいた。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

「麟……さん」

 

「ごめんね。いつも私は間に合わない。」

 

傷だらけの炭治郎の頬を撫でる。

 

「致し方あるまい。貴女も難敵と戦っていたのだ」

 

「君……致命傷なん……だよ杏寿郎。私は君とわかり合いたかったんだよ」

 

「なら、問題はあるまい。血霞殿。俺は貴女を鬼殺隊の仲間として認める。元々煉獄家は貴女に助けられた。それを認めていなかった俺の我が儘だ。貴女は鬼でも人より人らしい。」

 

「……杏寿郎。君は」

 

「君はまだ死ぬべき人間じゃない。そうだ血怪に生まれ変わらないか。多少不都合があるかもしれないが生きてるなら……!!」

 

「夜明けが近いぞ血霞殿。……少年達に話したいことがある。手短に言わせて頂く。俺を人間のまま人間として死なせてくれ。これは煉獄杏寿郎個人としての矜恃だ。ああ、もちろんやり残した事など沢山あるさ。だが俺の意思を彼等がきっと継いでくれるし貴女も汲んでくれるはずだ」

 

「だから俺は一片の悔いも残さず次代に托せる」

 

晴れやかな青年の微笑みが過去に見送ることになった剣士達を思い出させる。

 

次代には必ず……鬼を殲滅できる剣士達が生まれると信じている。

 

「…………鬼を殲滅し人間達笑って暮らせる世界を作るよ」

 

「…血霞殿。最後に貴女にも言っておこう。」

 

夜明けになる日が出る一歩手前。

 

「なに、かな」

 

「貴女は自分の幸せを考えてほしい」

 

…………!!

 

夜明けが近くなるため日陰へ逃げていく。

 

▽▽▽▽▽

完全に日が昇る。

「竈門少年、こっちにおいで」 

 

「最後に話のしよう」「思い出したことがあるんだ」

 

「昔の夢を見た時に」

 

「俺の生家、煉獄家にいってみるといい」

 

「歴代の炎柱が残した手記があるはずだ、父はよくそれを読んでいたが俺は読まなかったから内容は分からない」

 

「君が言っていたヒノカミ神楽についてなにか記されているかもしれない」

 

「れ、煉獄さんもう良いですから呼吸で止血してください傷を塞ぐ方法はないんですか」

泣き慌てふためく少年を嗜めるように言う。

 

「ない、俺はもうすぐ死ぬ。しゃべれるうちに喋ってしまうから聞いてくれ」

 

「弟千寿郎には自分の心のまま正しいと思う道進むよう伝えて欲しい」

 

「父には体を大事にして欲しいと」  

 

「それから」

 

「竈門少年。俺は君の妹を信じる。鬼殺隊の一員として認める」

 

「汽車の中であの少女が血を流しながら人を守るのを見た」

 

「命をかけて鬼と戦い人を守る者は誰が言おうと鬼殺隊の一員だ」

 

「胸を張って生きろ」

 

「己の弱さや不甲斐なさにどんだけ打ちのめされようとも心を燃やせ歯を食いしばって前を向け」

 

「君が足を止めて蹲っても時間の流れは止まらないし寄り添い悲しんではくれない」

 

「俺がここで死ぬことは気にするな。柱ならば後輩の盾となるのは当然だ。」

 

「柱ならば誰であっても同じ事をする若い芽はつませはしない」

 

竈門少年、猪頭少年、黄色い少年。

 

「もっともっと成長しろ。そして今度君たちが鬼殺隊を支える柱となるのだ」

 

「俺は信じる」「君たちを、信じる。」

 

 

母上

 

俺はちゃんと出来ただろうか?

やること果たすべき事全うできましたか?

 

《立派に出来ましたよ》

 

そう、真に後悔などなく笑顔で逝こう。

 

願わくば彼女も満面に笑みで笑えるような世界を。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

拳鬼は駆ける。日光をも遮る洞窟へ。1度ここで態勢を。

 

「…………お前、なのか狛治」  

 

「狛治さん……」

 

先程の雪のような少女と天狗の面をした胴着を着た男。

 

「追っ手か……!!」

 

「違うの、聞いて!!狛治さん!!」

 

「俺は狛治などではない!!俺は【上弦の参】猗窩座だ!!」

 

「いや、お前は忘れてるだけだ。そうだろう俺達がお前を見間違うことなんかないさ」

 

面を外す天狗の男。柔和は表情をした壮年の男。見覚えが……!

 

「…………もう、これ以上自分を痛めつけるな。」

 

「う、うるせぇ……俺は至高の領域に至るんだ!」

 

「何故?」

 

「何故……だとぉ……!」

 

「お前は守る為だけに戦う奴だよ狛治」

 

「うるせぇ!!うるせぇ!!!うるせぇ!!」

 

    破壊殺・羅針!!

 

    破戒刹・雪羅針!!

 

 

「………………取り込み中失礼。【上弦の参】だな?鬼」

 

銀髪の鬼殺の剣士が間に入ってくる。  

 

「誰だ!!」

 

「ただの剣士だがお嬢様より君ら上弦の誰かしらの色が欲しいと承ってったんだがな。」

 

銀髪の鬼狩りは悍ましく嗤い。

 

色を頂戴する。そう言い放った先の激闘はまた別の話。

 

この戦いの結果は知らずまたどうなったかは知らない。

 

親子は彼を逃してしまったと苦渋に歪む。

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

それから、煉獄杏寿郎の訃報は直ちに産屋敷・各柱に伝達される。

 

「……そうですか。煉獄さんが」

 

「……上弦の鬼には煉獄でさえ負けるのか」

 

「俺は信じない」

 

「波阿弥陀仏……」

 

「醜い鬼共は俺が殲滅する」

 

「そうか」

 

 

「二百人の乗客を一人として死ななかったか。杏寿郎は頑張ったね凄い子だ」

 

「寂しくはないよ、私はもう長くはないだろう」

 

「近いうちに杏寿郎やみんなのいる黄泉の国へ行くんだろうから」 

 

 

彼の死で鬼殺隊一層の結束にはなるだろう。彼女を除いて。それは今は知らない。




当初は安易に煉獄さん救済しよう!!なんて考えてましたが安易だったなぁと思いそこは原作通りになっちゃいました。


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【雨ノ帝都デ影蝶舞ウ】編
雨獄ノ壱【ずれ始めた世界で雨は涙ぐ】


新章突入。


純白。汚れなき空間。全て純白で彩られた大広間。

 

長いテーブルの先に純白の椅子に座るのは白い純白鬼嬢。【新月ノ純白】神代真白。

 

「それでおめおめ逃げてきたのね。まぁ【夢ノ色彩】が敗北したのは予定調和だけど。試作品の此を試したいだけだったし。お姉様の色を奪えるとは思ってなかったわ」

 

いつもの亀裂のような笑みもなくただつまらなげに無色の女を睨めつける。

 

鎖天川瑠偉もこの白を睨めつける。元々忠誠心の欠片もないが無能扱いは甚だ不愉快だった。

 

「瑠偉ちゃんってば昔から威勢だけだよねー」

 

「あ?」

 

「ほら、そういうとこ。アタシより弱いんだからつよがんなよ。【柱】時代も勝てたことある?」

 

「ち……」

 

「相性的にも夜深ちゃんにも勝てないんじゃなーい?」

 

「私に振らないでよ。鎖天川なんかに興味ないし」

 

「ぷっ!!ギャハハハ!!興味ないってよ!!瑠偉ちゃん!!」

やたら絡んでくる【新月の空色】上臥原天とこの場に興味なさげに前髪をいじり枝毛でも探している【新月の闇色】宵鷺夜深。

 

「天?……言いたい放題も強者の特権だけど品がありませんわよ」

 

「すいませーん。みゃは♪」

 

「…………それで嫌味言うためだけの茶会じゃないでしょうが」

 

「自覚はあるようね。瑠偉。……灰羅さん?」

 

「はいはい。」

 

真白に次ぐ上座でのほほんと洋菓子に舌鼓を打っていた灰色の妙齢の女性は私?と顔をしながら返事をする。

 

「……本当マイペースですわね?……あの試薬いけます?」

 

「いけるわ。うんうんいける。瑠偉さんの無色の特性悪くないしね」

 

「無色は何色にもなれる?塗りつぶす白と塗り変える灰色に匹敵しそうではありますわね」

 

「まぁ、瑠偉さんはこの体たらくだもの。全然生かし切れていないわ。何ものにも侵されなく侵す【真紅】絶対破壊の【漆黒】それに匹敵する無色ですもの。色にはそれぞれ特性があるわ。【色彩ノ鬼】が持つ【領域展開】を生かすためのね。【色彩ノ座】を持つ我々にはね」

 

「今の貴女はただの【色彩ノ鬼】と同義。せっかくの【色彩ノ座】ですもの。活用してくれなきゃ困りますわ……【領域展開】は在り方の拡張。それに【色彩】という欲望を織り交ぜないと。……意味はありませんわ」

 

怒り。怒りという無色の欲望。私の【雨獄】はいつになっても晴れはしない。

 

「そして本題。…………貴女の何色にでもなれる特性。試させてくれませんか?もちろん拒否権はありません。拒否すれば死体に戻すだけです。まぁ無色の特性は勿体ないですけど。言うこと聞けない御人形に存在価値はないでしょう?私、整理整頓する質でして。ほら、散らかったアトリエなんていやでしょう?」

 

薄く笑う。こいつの笑顔は薄気味悪い。過去遭遇したどの鬼よりも得体の知れない。そもそも鬼舞辻無惨以外の鬼とは何か分からない。悍ましい。

 

だが今更後には引けない。私の怒りはどうしようも無い。

 

「いいわ。やってやるわよ……どうせ捨てるものなんてないもの」

 

私は凡才だ。【柱】になったのだって何かの間違いだった。

 

ちっぽけなプライドとあいつとあの子に対する見栄だけが私の存在価値だった。

 

 

《瑠偉姉さんって凄いんだね。》

 

 

 

 

 

小さな嘘が始まりだった。

 

 

▽▽▽▽▽▽

【血霞邸】昼間。

 

【列車】事件から幾許か。煉獄杏寿郎の訃報から鬼殺隊内部での混乱は著しかった。

それ程彼の人格、影響力は大きかったと思う。

 

私へのバッシングは少なからずあった。面とはいわれはしないが少なくとも実弥ちゃんや伊黒君からの無言の圧はこたえた。

 

暗にお前が死ねば良かったと。

 

 

「いや、きついっすわ」

 

未だ慣れない。私自身鬼殺隊に入ってから何度も経験していることだ。命をとして戦う彼等(人間)を。道半ば死んでしまう彼等(人間)に。

 

生き汚く生き残る()に。目覚めた頃の無知に私様など言っていた自分すら懐かしい。陰鬱な思考の沼に沈みかける所に背部に衝撃。

 

 

「麟さん!!」

 

いきなり、後ろから抱きつかれる。基本的塩対応される私に無条件な好意をぶつけてくるのはすぐに思い付く。

 

 

「梅、来てたの?」

 

「久しぶり!」

 

振り向くと超弩級の美少女とそれに不釣り合いな強面の取り立てのお兄さんな痩せ細った青年がいた。

 

「こらぁ梅ぇ……麟さん困ってるだろがぁ」

 

「五月蝿ーい。久しぶりの麟さんなんだしいいでしょうー」

 

「久しぶりだね。……妓夫太郎」

 

「久しぶりだなぁ……相変わらず元気そうでよかった」

 

「律儀に帰ってこなくてもいいのに」

 

「そういうわけにもいかねぇ……俺らはあんたに助けられたしなぁ」

 

「麟さん私嫌いなの?」

 

「大好き!」

 

「えへー」

抱きしめ返すと頬を緩めるこの子を嫁に出すなんてムリムリ。私が貰う。

 

 

この子達は謝花妓夫太郎と謝花梅。私が拾った子の二人。

 

そして【血怪百鬼夜行】の一員。

 

 

二人は二人で一人。一人で二人。私から離れて単独行動が出来るため遠出をよくしている。見聞広めるため旅をさせているもの

 

正直この二人は【百鬼夜行】として戦いに使うつもりはない。

 

だって梅可愛いし。可愛いは正義。

 

 

「……私はいいんですか?確かに梅ちゃんほど可愛くはないですが」

 

「いやいや雪ちゃんも可愛いと思うよー」

 

「梅ちゃんに言われると嫌味に聞こえますねぇ。まぁ他意はないんでしょうけど」

 

お雪が嘆息する。

 

 

「………………今回は何処まで行ってきたの?」

 

「北の方!寒かった!!」

 

「骨身に染みる寒さだったなぁ……」

 

「妓夫太郎、ガリガリだもんねぇ。太れ!って言えないのがつらい」

 

「気にするなぁ」

 

「…………麟さんに一つ報告がある。今回帰ってきたのもそれがあるしなぁ」

 

「なに、改まって」

 

「…………【上弦の陸】に遭遇した」

 

「……【陸】?」

 

首を傾げる。まぁ【陸】なら……一応【肆】以上くらいなはず。

 

「いや、何だぁ……その【陸】がまずいんだぁ」

 

 

「……【胡蝶しのぶ】」

 

「え?」

 

「確か【花柱】の妹だろう?」

 

しのぶちゃんが鬼?

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽

 

 

「はいはい、来てくれたね二人とも」

 

 

万世極楽教と呼ばれた宗教の本拠地の屋敷の一室。

 

教主の笑顔の青年がいた。

 

 

「…………来るつもりはなかったんだがな」

 

二人と言われたが少年の一人しかし居ない。

 

闇色の瞳に闇色の髪の痩身長身の少年。瞳には上弦・陸と刻まれていたもの

 

 

「つれないこと言うなよ。上弦のメンツでなんたかんだ構ってくれるのは君たちくらいなんだから」

 

「それはお前がウザイだけだろう。童磨」

 

「辛辣ぅ…………彼女に変わってよ。女の子と話した方が楽しいし」

 

「変わったらボコボコに言われるだけだぞ。」

 

「それがいいんじゃ無いか」

 

「うぜぇ…………彼女は俺のだ。死ねよ童磨」

 

「【陸】の君が【弐】の俺に言うのかな」

 

「いずれ入れ替わりの血戦で食い殺してやるよ」

 

「そりゃ楽しみ。期待しているよ逢魔。名前似ている同士仲良くしよーよ」

 

「断る。……で呼び出した用件は?」

 

【上弦の弐】童磨と【上弦の陸】宵鷺逢魔は対峙する。

 

 

「【見えざる月】聞いているだろう?彼女らのせいで無惨様はお怒りなのさ。だから……新参者の君たちに手柄と経験をって思ってね?………一人標的を見つけてね。元【鬼殺の剣士】の鬼。シンパシーなんて感じちゃうよねぇ……?」

 

「殺せってわけか」

 

「全ては無惨様のためにね。期待しているよ。逢魔。しのぶちゃん」

 

「…………いいでしょう。やりましょう逢魔くん」

 

宵鷺逢魔の影より現れる小柄な少女。宵鷺逢魔と同じく上弦・陸と刻まれていた瞳に。鬼化する前に付けていた蝶髪飾りはなく髪も下ろし蝶柄の和装を着た【胡蝶しのぶ】が少女らしからぬ鉄面皮のままそこにいる。

 

「……」

 

「二人一緒にやりましょう?逢魔くん」

 

「ああ、そうだね」

 

退室した二人は手を繋ぐ。

 

無表情に笑わなくなったこの人を守るために。

 

 

 

 

 




遊郭編消滅。原作逸れ極まる。


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雨獄ノ弐【胡蝶の私は】

幸せの形とはなんだろう。私、胡蝶カナエはぼんやりと考える。

 

幸せは人によって形を変える。

 

強くなること?人を救えること?ううん違う。

 

心から笑える事だと思う。その笑顔の形こそが幸せの形だと思う。

 

私は笑えてるだろうか。継ぎ接ぎだらけの張りぼての笑顔こそが限界だと訴えている。

 

私は、復讐に徹することが出来るのか?意義を問う。

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

悲鳴嶼さんの元を離れ以来剣士となり蝶屋敷を建て私は柱になっていた。

 

しのぶも上級の剣士となり鬼狩りとして慣れたものであった。いつ死ぬかは分からない稼業ではあると理解はしている。

 

私は鬼の被害者の少女達の身元引受人紛いなこと始めていた。悲鳴嶼さんもかつて親のいない子供達を引き取り育てていたらしい。詳しい話は聞けていない。けれど鬼殺の道を選んだ理由は彼の性格を考えれば想像はかたくない。そんな彼の真似事を始めたのだろうか。私自身しのぶと二人では寂しかったのかもしれない。

 

そんな中、しのぶが黒髪の少年を拾ってきた。闇のような綺麗な黒髪に瞳。長身痩躯。年の頃はしのぶとそう変わらない。

 

柔和で穏やかな少年ではあったけれどうちに秘める憎悪は分かった。

 

けどしのぶへの恋心も、同時に分かった。

 

やたらとしのぶに構うし積極的だった。しのぶも思春期で悪態もつくが満更ではなさそうだった。微笑ましく私は嬉しかった。しのぶはいつも張り詰めた顔をしていたから。

 

 

両親を失い悲鳴嶼さんのところで最終選別へ力を付け鬼殺の剣士となり張り詰めた生活をしていた。

 

私は皆に囲まれあの頃とは違う幸せを感じていた。

 

ほんとに両親は復讐なんて望んでいるのだろうか?

 

私は彼女らの幸せを願う。誰もが手を取り鬼になった彼等も幸せを掴める世界を切に願う。

 

 

しのぶも刀をとることなく彼と仲睦まじく生活をする世界を夢想する。

 

 

▽▽

 

しのぶの血のついた髪飾りを拾ったと蝶屋敷出身の剣士の子が蝶屋敷へと戻ってきていた。

 

見間違えるわけがない。

 

私としのぶそして蝶屋敷の女の子は大小違えど蝶の髪飾りを付けている。繋がりのように。しのぶのは私のと同じ色をしている。

 

「カナエお姉ちゃん……?」

 

「……しのぶは任務、いつもと変わらないって……」

 

「カナエさん」

 

顔は蒼白。手が震える。

 

「カナエさん、しのぶお姉ちゃんの部屋に手紙が」

 

「え?」 

 

手紙を受け取り広げ読み上げる。

 

 

【仇を討ってくる】

 

 

ただ一言そう書いてあるだけ。

 

その後、彼女の鎹烏が戻ってきた。より強く彼女の死亡が確定としてしまった。

 

最愛の妹を失う。恋人になっていた宵鷺逢魔はまた最愛を失う。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽

 

 

憎悪とは、こんなにも人から笑顔を奪うものではあろうか。

 

しのぶを失い憎悪の塵が自分の中で沈殿しているのは自覚していた。

 

それ以上に憎悪している人がいるから多少は冷静になれていたと思う。

 

むしろ彼の心境のが心配だ。蝶屋敷の皆のお姉ちゃんの私がしっかりしなきゃ。うん、そうだ。

 

 

▽▽▽▽

 

「おう、まくん…………?」

 

彼の姿も消える。多分しのぶの死を認められないのだろう。もしくは仇を探しに。そうだ。彼に蝶屋敷に留まる理由はない。私に彼は救えないし止めれない。

 

「……ん…」

 

幼いカナヲが裾を引っ張ってくる。感情表現に乏しいこの子にすら心配をかけるくらい私は憔悴しているのだろうか。ううんいけない。ここには私一人じゃないもの。しっかりしなきゃ。しっかりしなきゃ。

 

私がしっかりしなきゃ。呪いのように枷のような重石が私に乗り掛かる。半ば自己暗示のように呟く。

 

 

私は、…………笑えているだろうか。そんな重苦しい日々の中しのぶに似た人物を見たという情報を掴む。

 

藁にも縋るような思いだった。

 

場所は帝都【東京都】日本の栄える中心地だった。

 

▽▽

【見えざる月】と【十二鬼月】どちらも【人間】、【鬼殺隊】からしたら共に脅威に過ぎない。

 

【炎柱】の殉死。柱相当の剣士の離反。情報の漏洩は鬼殺隊の根幹から脅かす事態に陥っていることになる。

 

産屋敷邸の居場所や刀鍛冶の里の居場所の変更を余儀なく実施しなければならない。

 

前回の元【柱】の鬼二体の急襲。それは恐らく白銀川鞠衣の手引きによるもの。

 

白銀川鞠衣の存在が【見えざる月】の情報源になっていると思われる。

 

体制の立て直しが急務とされる。

 

 

緊急柱合会議の場には殉死した【炎柱】以外全員召還されていた。

 

【岩柱】筆頭に【水】【蛇】【風】【音】【花】【霞】【恋】そして【血】が一堂に会する。

 

「……白銀川鞠衣。先代の奥方白銀川灰羅の孫か。その白銀川灰羅ってのも鬼ならそいつも鬼かぁ。恥だな。」

 

「そういえば私たち誰も面識があったことある?」

 

「故人の名をだすのもあれだが煉獄の継子であったことがあったな」

 

「柱以外の剣士の死亡率は高いから生き残りそれなりに強いならば印象に残るはずだし……」

 

「白銀川鞠衣の最終選別、当時は話題になった。期待の新人。しかもお館様の血縁とな。知ってのとおりお館様の家系お身体が弱い。直接ではないが血縁に強い剣士が育ったとお喜びになられていた」

 

がしかしと悲鳴嶼と句を繋ぐ。

 

 

「此程の剣士が目立った行動のないまま【甲】までいった。……お館様は怪我した剣士は必ず見舞いをなさる。ならば一度も大きな負傷もなし。…………なれば」

 

「間者ならば鬼を倒す必要もねぇが下級の剣士じゃ入らねぇ情報もある。【甲】という階級は絶妙だな」

 

「……【柱】の手が届かぬ所に配置される」

 

「……警戒区域の境か」

 

「うむ、それ故我ら【柱】より自由が利く。」

 

「迂闊ちゃ、迂闊だな派手にな」

 

「……」

 

「どうした、胡蝶先程から上の空だが」

 

伊黒の言葉に我に返る胡蝶カナエ。

 

「……なんでもないよ、つづけて」

 

「何でも無くはないよ、顔色良くないよカナエさん」

 

心配そうに顔に覗く甘露寺蜜璃。

 

「………………、もしかして既に聞いてる?知ってるのかなカナエさん」

 

今まで沈黙していた【血柱】血霞麟が口を開く。

 

▽▽

 

「なにがだ、貴様に発言権など無いのだが」

 

「辛辣。…………知ってるのかなカナエさん」

 

「……え、えっと何がかな」

 

心臓がばくばくする。冷や汗が止まらない。むしろ麟さんが知ってるのかな……?

 

「……」

 

「私の配下が【上弦の陸】と遭遇している」

 

「……なに」

 

「なぜそんな重要なこと黙ってやがったぁ!!?」

 

「……いや、言うつもりだったよ知ったの昨日だし。白銀川鞠衣の件も重要だし……まぁカナエさんにとってこっちのが重要かもね」

 

一触即発。煉獄くんが亡くなってから雰囲気は剣呑だ。麟さんに対しての。

 

今は関係ない。

 

「……私とその……【上弦の陸】がなに関係有るのかな」

 

むしろ【陸】より【弐】だ。

 

「……あちゃー……そこまでは知らないか。言うよ?言わなきゃならないかな。【上弦の陸】の外見は蝶柄の羽織を着た小柄な笑わない女の子」

 

「……複数の蝶を含む虫を操る【血鬼術】使い。」

 

「……蝶柄……の羽織。」

 

自身の羽織に視線を落とす。心臓がより脈動する。きゅっと締まる。視線は麟さんへ向けれない。

 

 

「……名前は【胡蝶しのぶ】そう名乗っていたらしい」

 

 

最愛の、妹の名前。同姓同名なんて有り得ない。……外見の特徴も合致する同姓同名なんて確率的にあり得ない。

 

「……胡蝶……しのぶだと」

 

私に視線が集まる。

 

 

「……はん、鬼に堕ちた隊士たぁ……滅殺するのがせめてもの情けだろ」

 

不死川くんの言葉に頭が沸騰しそうになる。

 

「さねみちゃん、言葉選べよ?そんなこと分からない君じゃないはずだけど」

 

麟さんは不死川くんの間合いに入っていた。反射的に抜こうとした不死川くんの腕を抑える。

 

「ちがすみぃ……!!」

 

一触即発の殺意と殺意。麟さんも珍しく怒ってる。

 

バァン!!

 

爆音がその場を征する。爆音のもとは悲鳴嶼さん。悲鳴嶼さんが両手を叩いて場を諫める。

 

「不死川。流石に失言だ。血霞殿も大人気ない。」

 

「ちぃ」

 

「ごめんねぇ。二人とも落ち着いて」

 

不死川くんの背後に立つ兄妹と思わしき二人の殺意が場をさらに冷やされる。

 

「てめぇら誰だ……!?」

 

「…………うちの子だよ。全く勝手に出てこない二人とも」

 

「だってこの人達、麟さんにひどいだもん」

 

「……麟さんより弱ぇくせになぁ」

 

「……はぁ」

 

ピリピリとした雰囲気はより険悪なものになる。

 

「やめろ。内輪揉めしている場合か。血霞殿への八つ当たりは控えろ。特に不死川。伊黒。お館様の御意思に反することになる」

 

二人はだまり肯定も否定もしない。蜜璃さんはこの剣呑な雰囲気におろおろし時透くんや宇髄くんは我関せず。

 

そして錆兎くんは黙ってはいるけど元々麟さんに言われていたのか我慢している。

 

周囲の剣呑な雰囲気が帰ってざわついていた冷静さを取り戻す。

 

「……カナエ」

 

「は、はい」

 

「私も似たような話を聞いている。私も彼女、しのぶを探していたからな」

 

悲鳴嶼さんはそう言う。私たち胡蝶姉妹は彼に救われ今に至る。多恩ある彼の言葉に救われる。私たち(・・・)は彼に報いなければならないの。

どこにいるの……?しのぶ……?

 

 

「…………みな心して聞け。お館様より【東京都】での大規模任務を承った。血霞殿を含む柱二名を先遣隊として派遣になる。柱二名は連れて行く剣士を選出せよとのことだ」

 

 

「私を……含む?」

 

「……東京都は広大だ。血霞殿の【領域展開】という力が必須になるだろうとお館様は考えておられる。血霞殿は一人で軍隊であると」

 

「もう1名、立候補はいるか」

 

「私いきます。悲鳴嶼さんいいですよね」

 

私は即座に返答をする。

 

「ああ……だがゆめゆめ立場を忘れるなよカナエ……」

 

 

「はい」

 

しのぶ……待っててね。

 

 



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雨獄ノ参【ずれ始めた世界の雨が止まぬ帝都】

今年最後の更新です


雨が止まぬ帝都。前代未聞の異常気象が見舞われた帝都。

 

あと数週間前やまぬなら水害に至るが天の気紛れとして祈るしかない現状。幸い勢いは現状弱く災害には見舞われておらず市民は不安な日々を過ごしていた。

 

それとこの止まぬ雨と共に不可解な事件をも市民をさらに不安を煽っていた。

 

人ならざる人。人でないもの。それがこの雨の中跋扈する。死傷者は零ではない。故に夜に外出する者はおらず人ならざるそれは日中行動しないと知らない市民は日中も行動はせず最低限必要なことのみになっていた。

 

最も厚い雨雲は日光をも遮っていた。

 

故に【幽都】と化していた東京都に鬼殺隊は足を踏み入れていた。

 

大規模任務先遣隊として血霞麟、胡蝶カナエ、竈門炭治郎が派遣された。

 

村ではなく町。町ではなく都。人の数は比べ物にはならず鬼は姿を隠すのも難しく鬼自身も自身を生き長らえるため避けているはずだった。

 

こういった状況は鬼からしたら美味しかった。少なからず漏れ出してくる人間達はいるのだから。

 

「……」

 

 

     血の呼吸・壱ノ型【血纏斬り】

 

 

朱線が鬼の頸を薙ぐ。直ぐさま瓦解。鬼にしては塵芥程度の魑魅魍魎。

 

「麟さん、気をつけて」

 

「わかってるよカナエさん」

 

華のような女性は血のような女性に声をかける。

 

「…………大丈夫君。癸の剣士を派遣って鬼殺隊も人手不足だぁね」

 

「俺も癸なんですけど麟さん」

 

「炭治郎は階級上がってるでしょ。庚でしょ今」

 

「え?」階級を示せ、はい復唱と言われ復唱すると手の平に庚の文字が浮き上がる。

 

「印知らないの?炭治郎くん」

 

「知りませんでした……」

 

「…………まぁいいや。ここからは【柱】引率の部隊構成されるから。」

 

癸の少年剣士に説明する。柱二名による部隊構成の大規模任務。全員の柱は派遣出来ないため交代の派遣になる。一回目の先遣隊は【血】【花】の構成。

 

胡蝶カナエと血霞麟は本人らたっての交代なしの派遣。鬼の血霞麟はある程度強靱な体力。そして胡蝶カナエは妹の探索のための嘆願だった。

 

「……カナヲ」

 

「はい、師範」

 

「お姉ちゃんでしょ。……この一帯に鬼いるか見てきてくれる?」

 

「はい」

カナヲは即座に行動し駆ける。

 

「俺も行ってきます!!」

 

「気をつけてね、十分ね」

カナヲの後に駆ける炭治郎を見送る。

 

 

▽▽▽▽▽▽ 

 

雨が止まない帝都。これは非公式の組織である鬼殺隊がとあるお偉い様から依頼された任務であった。

 

非公式、といってもこの世界少なからずそういった縁というものは存在する。産屋敷家も一枚岩では一組織を何代も存続させるには無理なものである。産屋敷家歴代は先見の明に長け彼等のその見通しに頼る人はやはり少なからずいる。綺麗なだけでは生きてはいけないが線引きはしてらっしゃるだろう。

 

今回の依頼主は縁は深い方で現状を憂れてらっしゃると。人ならざる者の滅殺をお望みという事らしい。

 

「頼みますよ麟さん」

 

現お館様。産屋敷耀哉は迷いのない言葉を私に投げかけた。杏寿郎の死で混乱があり針の筵のわたしにだ。変わらず生存の許可は続く。

 

「皆混乱してるだけだよ、それだけ彼の存在は大きかった」

 

「自身の疎まれさも理解してるよ。多分皆私が怖いんだ。人の心は揺らぐもの。私がいつ牙を剥くか畏れてるのよ」

 

「悲しいね貴女は。貴女は信用されることを諦めてるのかい?」

 

「…………かもしれないね。鬼殺隊になって百年。そこは変わらなかったから。」

自嘲気味に笑う。

 

「それでも私は人間が好きだから。分かってくれてる子もいる。今はそれで十分かな」

 

「…杏寿郎のため折れるわけにはいかないしね」

 

認めてくれたあの子のためにもね。

 

「そうか、なら何も言わないよ」

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

雨の帝都を駆ける。飢えた餓鬼が這いずり出てくる。いる人口に比例して、鬼もまた増える。

 

人間()にありつけない鬼もまた出てくる。

 

血肉に飢えた魑魅魍魎の鬼。劣悪な質の鬼達は燻っている。(人間)にありつけるのはこの縄張りの主。この都を縄張りにしていた鬼がいた。

 

【十二鬼月】に加わらんと企む鬼がいた。

 

喰らった人間は百から先は数えるのは辞めた。

 

「おい、今日のノルマはどうした!!?」

 

「す、すいません人間達は建物から出ず……!」

 

「なら襲っていぶり出せよ!!」

 

「…は、はい。しかし……これ以上は……」

 

      涙の呼吸・伍ノ型【狂い泣き涙雨】

 

鳥頭の鬼は首を残し吹き飛ぶ。

 

「て、敵襲!!日輪刀!!?鬼狩りか!!?」

 

縄張りの主たる獅子のような鬼の周りの鬼の群れは騒ぎ立てる。

 

「……まるで烏合の衆ね。まぁ群れない鬼がまぁこんなにも集まって情けないわね」

 

黒髪ストレートの長身の西洋の所謂スーツと呼ばれた洋装に雨の柄の羽織を羽織ったに涙の印を頬に付けた鋭い目つきの女は水晶のような刀を構える。

 

「……鬼……狩り……!!」

 

「違うわ。……私は鬼よ。けしてお前らみたいな有象無象とは流石に違うけど」

 

    血鬼術【雨獄ノ槍楔】

 

「………………!!?」

 

叩きつけるような雨が鬼達に降り注ぐ。肉塊に成り果てる。再生能力も劣悪で楔になった雨の槍に地面に縫われた鬼達。

 

「有象無象共はこの様。……お前はただのいばり散らすだけの縄張りの王なのかしら。上弦になるため下弦にはならなかった鬼。鬼舞辻無惨に見逃されてるみたいだけど」

 

「てめぇ…………」

 

獅子のような人型の鬼はぐるると威嚇する。

 

「名は?」

 

「あ?なんでてめぇごとき名乗らなきゃならん!!」

 

 

     血鬼呪【灰廻・崩染華】

 

灰色を纏う手刀が獅子のような鬼の心臓を貫く。灰色の鬼から与えられた権能を行使する。呪いを塗りつぶす。

 

 

「…………名は大事よ?お前らが鬼舞辻の名を名乗れないように」

 

手刀を引き抜くと【呪い】の核となる肉種が瑠偉の手の中でうごめていた。

 

「……平伏しろ。獅子。どうせ鬼舞辻には忠誠心なんかないでしょう?ねぇ。」

 

「私の名は【新月の無色】鎖天川瑠偉。名前を答えなさい。」

 

「【見えざる月】……だと、」

 

「ええ、答えろ。生きるか死ぬか。選ばせてあげるわ」

 

 

「……お、俺は……獅子鐘(ししがね)……序列はねぇが下弦には負けねぇ自負はある。そしていずれ上弦を殺す」

 

「良いわね。【無色】の力を試すには良い面構えだわ」

 

 

「見てなさい。真白。お前の思い通りなんてやらないわ。」

 

殺意を怒りを。

 

「私の怒りは私のだ。」

 

雨はより一層強くなる。白い鬼がほくそ笑むのもしらず。

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

雨が降る【幽都】町並みを影の蝶が飛んでいく。

 

気配もないそれに誰も気付かない。路地裏に少年少女に蝶が形作る。

 

「……これ、【領域展開】だね」

 

「忌々しい【見えざる月】の血鬼術でしたっけ」  

 

「うん、まぁ似たような事は出来るけど。……雨の【血鬼術】か」

 

「………………」

 

「どうした、しのぶさん」

 

「…………鬼殺隊来てますよ。」

 

「流石に此程異変…………来るよな。カナエさん来なければ良いけど」

 

「カナエ……?知り合いですか?」

 

「……!」

愕然とする。個々まで瓦解していることは彼女と同化している己でも把握してなかった。

 

鬼化した彼女は俺の肉体に依存しなければ存在出来ないほど歪だ。

 

「…………知り合いだよ。鬼殺隊時代のね。だから極力戦いたくはない」

 

「……そう、ですか。けど私達の邪魔するなら殺さないと」

 

「…………とりあえず俺らの目的はこの雨の血鬼術の担い手。鎖天川瑠偉という鬼だ。それ以外は些事だ」

 

「はい」

 

最愛の姉を忘れてしまっている。ならば俺は忘れない。

 

全て食い殺す。守るため。

 

 

鬼殺隊先遣隊。【新月の無色】。【上弦の陸】。

 

雨の帝都にて三つ巴の戦いが始まる。




来年も細々と更新したいなと思いますのでよろしくお願いします


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雨獄ノ肆【ずれ始めた世界は嘲笑う】

明けてました(今更)





水の呼吸と花の呼吸による剣戟が雨の都を跋扈する鬼の頸を切り落とす。

 

 

「…………カナヲ!数が多い無闇に突っ込んじゃだめだ!」

 

「……っ」

 

炭治郎の言葉を無視しながらカナヲは駆ける。

 

心のままに。そう彼に言われただから私は心のままに鬼を斬る。カナエさんのために。しのぶさんを見付けるために。

 

カナエさんはいつも無理に笑っていた。蝶屋敷の最年長として皆のお姉さんとして頑張っていたと思う。

 

けどその笑顔は、酷く脆いものだと思っていた。銅貨でしか物事を決めれない私でも大事な人の異常くらい感じて取れた。

 

カナエさんの力になりたい……彼に言われた言葉にそれは気付かされた。

 

逸る気持ちは焦りを。焦りは視野を狭める。目の良い私でもそれは当たり前のように起こる。

 

 

     水の呼吸・壱ノ型【水面斬り】!!

 

 

カナヲの死角から襲いかかる鬼を斬る炭治郎。

 

「……あ、ありがとう」

 

「二人なんだから協力しないと」

 

「そ、そうだね」

 

 

「せぇよぉぉ!!!!鬼殺隊だなぁ!!!?」

 

爆音のような咆哮のような声量で現れる鬼が一体。

 

「「!!?」」

 

「柱か!!?いや柱じゃねぇな!!!?なら死ね!!直ぐさま死ね!!柱を呼べよ!!なぁぁ!!?」

 

獣のような歪な四足獣のような鬼が叫びながら炭治郎、カナヲ両名の前に立ちはだかる。

 

ここは拓けたような広場、対面するように叫ぶ獣の鬼は嗤う。

 

「……五月蝿い」

 

「善逸がいたらキンキン五月蝿かっただろうな」

 

二人は直ぐさま構える。

 

 

「良いねぇ!!!!悪くねぇ!!だが成り上がるなら柱を殺さねぇと!!俺らは【十二鬼月】になるんだ!!」

 

 

四足獣の鬼は跳躍し二人に襲いかかる。

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

雨の東京都。中央の広場へ歩みを進める柱二名。

 

「……止まない雨ねぇ」

 

「……報告によるとひと月程雨が続いていると。梅雨でも無ければ時期はずれの乾燥しているはずのこの時期に」

 

「…………奇妙だね」

 

「うん、雨量は均一で雨降る強さもこの一ヶ月で変わらない。……だって」

 

「そして鬼か…………都会は人が居るけど割があわないとか昔会った下弦が言ってた気がする」

 

「……麟さんから見てどうかな?この雨。」

 

「うん、【領域展開】だよ。血鬼術。この東京都自体を縄張りとしている。…………【見えざる月】間違いないね。」

 

「…………そう」

 

 

「【十二鬼月】と【見えざる月】は敵対関係にあるしこの異常事態に【十二鬼月】が絡んでくる可能性は十二分あるよ」

 

「それ、ならいいんだけど」

 

「その上で聞くんだけど。良いかなカナエさん」

 

私は聞いておいていかなきゃいけない事ある。いざ対峙した時揺らぐのは確定だ。

 

尚、聞かなきゃいけない。

 

「……しのぶちゃんを鬼殺する?それとも炭治郎みたいに人間に戻す方法を模索する?」 

 

「……!」

 

「鬼の私が聞くことじゃないけど……私や禰豆子は稀有な事例だよ。【上弦】になったしのぶちゃんは多分相当数人を喰っている。それでも救う?」

 

「意地悪言ってるんじゃない。聡明な君ならいずれ気付くだろうし既に気付いているんじゃない?…………それから目を背けるなら私がしのぶちゃんを鬼殺する」

 

 

「……………………」

カナエさんの顔は苦渋に歪む。見てて心苦しい。気付いているんだろう。どうせ憎まれ役だ。迷いを持ったまま戦場に立たせては無駄死にだ。

 

放り投げた賽は戻らない。吐き捨てたつばもまた戻らない。

 

人を喰らった鬼の罪はまた贖えないのだ。

 

私と禰豆子は人の味を知らない。知りたくも無い。私に限っては衝動も潰えた。

衝動をも抑え未だ人食いをしない禰豆子の意思力は感嘆に値する。

 

恐らく人の味を知ってしまったしのぶちゃんをカナエさんは許容出来るかどうか。

 

 

「…………分かってます。最初から気付いていたよ……麟さん…………」

 

 

「……私、どうしたら良いのかなぁ…………復讐にも徹せない。しのぶを助けたい。私はどうしたら良いのかなぁ……」

 

 

 

「…………なら、隅っこで小さくなっててくださいカナエさん。決断出来ない貴女に此処に立つ資格は無い」

 

影の蝶が舞う。辺り一面が暗くなる。

 

 

「…………お、うまくん……」

 

「貴女が弱い人だとは思わなかった。脆く潰えていくなら止めはしない。しのぶさんは俺が守る……。今は鬼殺隊と事を荒立てるつもりはない」

 

闇色の髪に瞳。長身痩躯の少年の瞳には上弦の陸と刻まれていた。

 

そして日輪刀を携えていた。

 

 

▽▽▽

 

 

【上弦の陸】そう刻まれた瞳は鬼であることを否応なしに示していた。かつての弟のように思っていた妹の思い人。

 

柔和な雰囲気も今はなく闇をも思わせる冷たさを感じる。あの夜に会った彼の妹、【新月の闇色】宵鷺夜深に酷似していた。

 

「逢魔くん、なんで」

 

「理解が遅いカナエさん。俺は鬼だ。鬼なんだよ。それ以上でも以下でも無い。」

 

「し、……しのぶ……?しのぶは……しのぶも?」

 

 

 

「俺としのぶさんは二人で【陸】だ。今は彼女は寝ている。命拾いしたな……今の彼女に会えば貴女は多分耐えられない。今なら見逃してあげるよカナエさん。蝶屋敷に帰れ。」

微かに残る多分彼の優しさ……なのかもしれない。

 

 

「でも……私はしのぶを……!!」

 

「邪魔をするなら貴女でも容赦はしない……」

 

彼は彼の日輪刀【影涙】に抜こうとする。

 

   領域展開【血怪百鬼夜行・血帯ノ陣】

 

赤い帯が数本展開し彼の手を縛り上げる。

 

「………………」

 

「血霞……」

 

「麟さん……」

 

 

赤い鬼。鬼にして柱の剣士。歪な存在で人間好きを自称する風変わりな女性。私は彼女を正直受け入れられていなかった。……彼女が人間好きであることはなんとなく分かる。理解と納得は別で。どう接するかは未だ決めかねていた。

 

無表情の彼女は本気で怒っていた。

 

 

「…………宵鷺逢魔、だったかな」

 

「噂はかねがね聞いてるよ血霞麟。」

 

「上弦は君で会うのは二人目だ。黒死牟は元気?」

 

「残念ながら俺は新参者だから【壱】には会っていない。で?後ろのこいつはどういうつもりだ」

 

「君、鬼殺隊だっただろう?どういう経緯で鬼になったか説明してもらうよ。耀哉の前でね。」

 

これでもかってくらいの美少女が帯で彼を縛り上げ、痩せこけた柄の悪い青年が彼の首に鎌を突きつける。

 

「しゃべってんじゃねぇよ」

 

「大人しく麟さんの言うこと聞きなさい」

 

 

「これが噂の【領域展開】か、……鬼舞辻が頭悩ませてるらしい」

 

「名前……呪いは?」

 

「さぁ、まぁ今のところ鬼舞辻に俺を殺すつもりは無いよ。お前らに対抗させるために俺達は鬼にされたんだからな」

 

 

    領域崩壊【影冒(かげおかし)・蝶ノ舞】

 

 

影の蝶が花吹雪のように舞う。赤い帯と鎌を扱う二人はなぎ払えわれる。

 

「お前ら、【領域展開】の担い手の天敵だよ。領域を崩壊させる影と毒だ」

 

「今は事を荒立てるつもりはないと言ったよな鬼殺隊。俺はこの雨の鬼を殺しに来ただけだ。それでも邪魔立てするならつゆ払いするだけだが?」

 

影の少年の殺意は膨れ上がる。

 

「……カナエさん、一旦退くよ」

 

「り、りんさん……」

 

「そんな心がガタガタの状態でどう任務こなすのさ。…………【上弦の陸】宵鷺逢魔」

 

私は麟さんに抱えられる。体と心はグチャグチャで冷静な思考が出来ない。

 

 

「君等は鬼になってどう生きていく?」

 

 

「はっ。答える義理があるか【血霞童子】どっちつかずの異端者が俺達に説教出来るかよ。……鬼だぜ?さっきカナエさんに言っているお前に何が言える?てめぇは人間の為に生きてるらしいな?既に鬼の俺らは捨て置けよ。鬼狩り(・・・)

 

 

「そうだね、ぐうの音も出ないよ【上弦】」

 

    領域展開【血怪百鬼夜行・鴉隠れノ陣】

 

 

大量の血の鴉が麟さんの足元より飛び立つ。体が浮遊する感覚に陥る。

 

「…………カナエさん、いや胡蝶カナエ。出来ればこれっきりであることを祈るよ。しのぶさんは諦めてくれ。その方がお互い良いはずだ」

 

この場を去る時の彼の言葉が頭から離れなかった。

 

 

この場を離れる中こびりついて離れない気持ちが去来する。

 

「諦めれるわけないよ…………姉妹だもん……」

 

「…………」

 

「諦めれるわけ……無いじゃない……」

 

『姉さん』『姉さん』『姉さんってば』

 

何度も記憶に蘇る最愛の妹の顔。離れ離れになるのはあの子が嫁ぎに行くときだけと決めていたのに。

 

鬼に両親を殺され悲鳴嶼さんに救われ今までの人生私の隣にはあの子がいた。剣士になったのもあの子と一緒。

 

あの子が君を連れて来た時は祝い半分嫉妬半分。

 

私は…………あの子の喪失を認めない。

 

「認めないよ麟さん。私はあの子に会うまでは……」

 

「辛い現実が待ってたとしても?」

 

「逃げたら私はきっと後悔する。」

 

分かってます。ただの我が儘で現実を直視の出来ない小娘の戯言と笑ってくれてもいい。

 

私は私の夢想する世界を諦めきれないのだ。誰もが分かり合える世界を。人と鬼が分かり合える世界を。

 

 

「………………」

 

麟さんの表情が緩む。無表情の彼女は巫山戯ていても無表情なことが多い。けどそれは優しい表情だった。

 

「なら、とりあえず捕まえよう。会わないと話にならないよカナエさん」

 

「そう……だね、ありがとう麟さん。」

 

鬼の妹を救うこと。まずは鬼の彼女を受け入れなきゃ。

 

 

「麟さん、…………宜しくお願いします」

 

 

「う、うん……宜しく……?」

 

困ったような表情を微かにする。真菰ちゃんの言っていることがよく分かる。この人感情豊かだ。

 

 

重荷が微かに軽くなったような気がした。

 

 



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雨獄ノ伍【ずれ始めた世界は雨を呪う】

水の呼吸・肆ノ型【打ち潮】!

 

花の呼吸・弐ノ型【御影梅】!

 

 

血鬼術【咆哮弾・疎撃ち】!

 

 

水と花の術理の連携は初めてとは思えない程噛み合っていた。炭治郎の性根かカナヲの性格かは分からないが上手く作用して連携は上手く鬼の攻撃を凌いでいた。

 

カナヲを中心とした円状の斬撃に炭治郎は打ち潮を放つ。

 

だが獣のような俊敏さや膂力を持つ鬼を捉える事が出来なかった。

 

 

炭治郎の鼻とカナヲの目をもってしても捉えられてなかった。同じような野性を持つ伊之助ならば捉えられたかもしれないがこの場にはいない。

 

雨を降り続け隊服が濡れ動きが多少鈍くなっているのも一因かもしれない。また雨で匂いは掻き消え視界も悪かった。

 

咆哮が弾となる衝撃波も厄介で距離を詰めれず持久戦に持ち込まれてる。

 

いや、獣の狩りのように隙を見せれば即座に喉元を掻き切られるだろう。

 

    【咆哮弾・疎撃ち】!

 

獣の鬼は再び咆哮。その咆哮が疎らな衝撃波となり2人を襲う。聞くに堪えない罵倒と共に発生する衝撃波に二人は顔を顰める。

 

    【流流舞い】!!

 

疎らな衝撃波の間に水流のような流れるような動きで炭治郎は悪環境の中進む。

 

鬼殺の剣士は不利な状況に慣れている。鬼の有利な夜に戦うのは常だ。

 

    【ねじれ渦】!!

 

呼吸の連携技を使いねじれ渦のような回転斬りを放つ。微かに見えた【隙の糸】を狙う。

 

微かにぴんと張る【隙の糸】を断ち切る。

 

「てめぇ!!柱じゃねぇくせに!!」

 

横薙ぎに両断する。獣の俊敏さ故か頸ではなく胴体を両断する。

 

「炭治郎!」

 

「わかってる!!」

 

 

直ぐさま再び頸を狙う為に日輪刀を構え直す。視線の先には二体(・・)の獣の鬼。

 

      【咆哮弾・乱打ち】!!

 

 

「!!?」

 

両断したはずの上下が二体の獣へと分裂した。乱れ打ちされた衝撃波をまともに喰らってしまう。

 

「…………!」

 

「…………駄目だ!禰豆子……!」

 

吹き飛ばされた炭治郎の制止を聞かず背負った木箱から禰豆子は跳躍。かかと落としを分裂した獣鬼の一体に叩きつける。

 

 

「……鬼!だと……!!?」

 

「ああ!!てめぇが鬼を連れた花札の耳飾りの剣士かぁ!!?ひゃは!ちょうど良い!!!!てめぇを手土産に【十二鬼月】になってやる!!」

 

叩きつけられた鬼も直ぐさま立ち上がる。獲物を見付けたような歓喜の声を上げる。

 

3体、4体と増える四足獣の鬼はニタァァァと笑う。

 

「…………カナヲ、撤退しよう。麟さん達と合流しよう」

 

「う、うん……そうだね……」

 

「…………ん!!」

 

      血鬼術【爆血】!!

 

血液が爆ぜ爆撃するがこの雨の中十二分威力が出ない。

 

「むー!!」

 

禰豆子がむくれるが2人を掴み後退するため駆ける!!鬼の膂力を持って【鬼ごっこ】が始まる。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

桐夜白兎視点。

 

 

【九十九神】の血怪にて鬼殺の剣士の青年は幽鬼のようなただ住まいのまま進む。

 

白兎は【血柱】の継子という形でまだ鬼殺隊に籍を置いていた。自身の弱さを知ってなお血霞麟さんに力を与えられ鬼の殲滅を願う。もう安息を願う資格すら無いと自責する。

 

【血柱】から離れる事が出来ないので当然この大規模任務に駆り出される。【血怪百鬼夜行】の一員として。

 

「白兎」

 

「零余子」

 

「零余子さん、私の方が先輩なんだからね!」

呼び捨てが気に食わないのか威嚇してくる。

 

「……元鬼のくせに」

 

「麟様も鬼なんだから関係無いでしょうが」

 

「姫は人食いはしてないと聞くがな」

 

「いがみ合ってもしゃあないでしょうが。なんでこの組み合わせにしたかなぁ!!」

 

「…………さぁな」

 

姫の仲良くしなさいというお節介な気もするけど。

 

 

二人は歩を進め雨の中裏路地へと進む。

 

 

「………酷い鬼の残滓だ」

 

「……根城だったのかな」

 

地下へと進む入り口を見付ける。古ぼけた壊れかけの階段。酷い臭いもする。俺と零余子は顔を顰める。

 

「……誰も近づかない場所のようだな。下調べした【隠】のひとによると曰く付きの場所のようだ」

 

「曰く付き?」

 

「【神隠し】……【人攫い】にあうとな」

 

「……この街の鬼の餌場かな。でも【十二鬼月】ではないと思う。少なくとも下弦は」

 

「虎穴入らずば虎児を得ずってな。……行くぞ零余子」

 

「零余子さんだってば!」

 

階段をおりはじめる。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

【雨の東京】とある高台。

 

この雨の元凶。【新月の無色】は雨の降る帝都を見渡せる高台に来ていた。

 

「…………来たわね、【鬼殺隊】」

 

「き、鬼殺隊だと……!!」

 

「なに、怖いわけ?鬼殺隊が?」

 

「…………【血霞麟】が来たらどうする?鬼喰らいの鬼……」

 

「来るわね、確実に」

 

獅子の鬼【獅子鐘】は顔を顰める。

 

「私は【血霞】を殺したいのよ。今更降りれないわよ。獅子鐘。」

 

「……てめぇ……」

 

「逃がさないわよ獅子鐘。降りたってこの帝都を鬼の巣窟にするのだから。」

 

「私の私の為の私による軍勢とするのよ。私の百鬼夜行を作り出すわ。血霞にも真白にも負けないね。役に立つなら【十二鬼月】にだって引けを取らない地位を与えるわよ?まぁ強くならないとだけど」

 

「……本気か?」

 

「基本鬼は群れない烏合の衆だから狩られるのよ。此処の鬼は多少なりとも統率力があるわ。知恵があるわ小狡いけどね。」

 

「……俺の【血鬼術】だ。俺より弱い鬼を統率出来る。」

 

「名前の通り【獅子】ね面白い。」

 

 

「……使い潰してあげるわ。【無色】の特性、お前で試してあげる感謝しろ。」

 

 

      血鬼術【無色再誕・雨檻】

 

雨の楔を獅子鐘に打ちつける。

 

「て、てめぇ…………!」

 

「ああ、死にはしないわ。生まれ変わり書き換わるだけ。より強く。でも、初めてだから成功は保障しないけど」

 

亀裂のような笑み。あの白い鬼と同じような笑みを浮かべる自覚は今はない。

 

「…………」

 

私の怒りは私の。今は何もかもが憎い。

 

だが血霞麟、あんたが一番憎い。

 

 

「ここ東京を私の地獄【雨獄】、【幽世(かくりよ)】へと堕とす。【幽世】の力を持ってお前を殺す」

 

東京を見下ろし呟く。

 

 

▽▽▽▽

 

 

東京都、外れの小屋。【上弦の陸】宵鷺逢魔と遭遇から一旦ここに身を寄せていた。私は周囲を警戒しカナエは隅に座り込んでいた。

 

 

「………………炭治郎達と合流しないとねぇ」

 

「カナヲも心配だわ」

 

「【犬神】と【八咫烏】を放ったからすぐ見つかるよ」

 

「そっか」

 

「麟さん……」

 

「んー?」

 

「……麟さんって鬼なのになんで人間が好きなの?……」

 

「……変かな」

 

「うん、麟さんくらいだもの。…………私もしのぶがいなくなる前は鬼も元人間で助けたいなって気持ちは有ったけど……なんで?」

 

「好きに理由はないよ。それが私の存在理由。私は私として鬼になってからそう生きてきたしね。鬼になる前の記憶はなかったからそう思ってた………………好きになった理由は思い出した」

 

「理由……?」カナエは首を傾げる。

 

「孤児だった私を拾ってくれた姉の話。聞いてくれる?」

 

優しく不器用でお節介で……鬼を恨んでいた姉の話。

 

 



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