犬吠埼紅葉は勇者である (仙儒)
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プロローグ的な何か

 吾輩は勇者である。

 

 名前はまだn…嘘です。犬吠埼 紅葉です。

 

 「もみじ」とか女の子みたいな名前なんだが俺は男だ。

 

 妹に「風」と「樹」の二人がいる。

 

 まぁ、苗字と勇者と言う単語だけでわかる人物がほとんどだろうが、ここは「結城友奈は勇者である」の世界。

 

 大体お察しの通り、俺はテンプレ転生をかまして好き勝手生きてきた。

 主観的に捉えて「クズ」であると自負してる。

 

 

 いや、マジで。

 

 こんな「クズ」な俺のことを妹の風も樹も慕ってくれている。

 

 勇者部の皆もそうだ。

 

 何でなのかは未だわからない。良いところなんて顔以外無いし。

 

 別にナルシストなわけではない。容姿は別に転生特典では選んでいなかったのだが、母親は身内贔屓ぬいても美人だし父親も美形だった。

 いわば、容姿については約束されていたのである。

 

 前世フツメンだった俺は、今の容姿を誇ることはできなかった。

 

 ヘタレでチキン。そのくせ、思想と口だけはいっちょ前。

 

 あれ? 救いようが無くね?

 

 やっぱり、俺が「クズ」たる所以であろう。

 

 

 

 

 

 

 

 う~ん、だめだ。

 

 どれだけ現実逃避しても先に進めやしない。

 

 最後の決戦で、まさかのイレギュラーが発生。

 

 天の神が人型形態とか聞いてないんだけど! しかも、ありとあらゆる攻撃が無効化される無理ゲー。誰だよ、こんなクソゲー考えた奴。

 

 しょうがないので、自爆攻撃仕掛けて死んだと思ったら神世紀から西暦時代に飛んでいて。

 

 色々やらかした感が否めない中、西暦でもお役目を終え、お暇を貰った(戦死)と思ったら空中から凄まじい速度で落下していた。

 もう、何が何だか理解できない。正直、疲れたよパトラッシュ……。

 

 そんな馬鹿なことを考えているうちに、地面と接触……、見事にミンチよりひでぇや! 何てことに成るわけでもなく凄まじい衝撃と、何かが下敷きになり、壊れる音が響く。

 

「俺の扱い……、ひどくね?」

 

 思わずに口から漏れ出た言葉。

 

 てか、此処何処?

 

 見たところ、どこかの学校の屋上みたいだけど……。

 

 何となく、動くのをためらっていたら、屋上の扉が勢いよく開かれる。

 

 そこには、西暦時代世話になった巫女の一人に、勇者部のメンツが此方を驚いた顔で見ていた。

 

 ん? なんか良く見ると似たような顔ぶれのちびっこたちが居るな…、なんか警戒されてるけど、何でかね?

 

 この微妙な空気をぶち壊すため、俺は全力でネタに走ることにした。

 

「サーヴァント、アーチャー。選定の声に応じ参上した……、問おう。俺のような役立たずを呼んだ大バカ者はどこにいる?」

 

 いつもなら、呆れた顔をするか、ネタに乗ってくれる風だが、今回に限って何のリアクションも取ってくれない。勇者部のメンツもだ。

 

 き、気まずい…。

 

 やっぱり、皆あの事怒ってるんだろうな、とか色々な、そう、正に色々な考えがよぎり内心、冷や汗ダラダラなのだが、それを気取られてはいけない。

 

 そんなことを考えていたら、頭に引っかかるものがあった。あれ? 何で西暦時代の巫女に、神世紀のメンツが揃っているのか、と。

 

 普通ならばありえない光景だ。ちびっこたちも然り。

 

 そして、思い至る。ここってもしかしてゆゆゆい?

 

 やべー、ゆゆゆいとか俺やったことないんだけど。確か、赤嶺友奈って言う三人目の友奈がカギを握るってことだけは知っている。

 

 っということは、此処にいるメンツはまだ”天の神を倒していないのか”。嫌な話だな。

 

 ともあれ、事情は理解できた。これならば、少し先の未来で俺がやらかす黒歴史を知っているわけではないのだろう。俺一人だけ勘違いしてバカみたい。

 

 ともあれ、これは幸先が良い。

 

 土下座案件が必然的に帳消しになるわけだ。……、神世紀組には、が枕詞につくけど。

 

 なんか西暦組にはどう開き直ろうにも殺される未来しか見えないんだが…、どちらにしろ土下座回避不可か。

 

 

「……、あんた何者?」

 

 

 ―――え?

 

 その言葉で現実に引き戻される。問いかけてきた風の言葉に違和感を覚える。

 

 風は知人に対して、そんな言葉は絶対に言わない。

 

 皆の前に出て、こちらの出方を伺っている。

 

 ”本気で”警戒している皆の態度に思わずに皆を凝視してしまう。

 

 

 皆は何を言ってるのだろうか?

 

 見ているうちに気が付いたのだが、勇者部メンバーに中学生の”銀”の姿が見当たらなかった。ちびっこい銀はいるのに、だ。

 そこにたどり着いたときに、一つの仮説が頭の中に浮かぶ。

 

 本来、三ノ輪銀はお役目の最中にバーテックスにやられて死んでいる。俺と言うイレギュラーがいたから変わった運命だった。

 

 いつもならばフォローをとっくに入れるであろう若葉大好きな巫女が助け舟を出してくれないで、同じように此方を警戒している。

 

 ……、情報が足りないが、そう言うことなのだろう。

 

 このゆゆゆい世界は、「本来あるべき」世界から皆が呼ばれた空間なのだろう。

 

 ははは…、原作で須美に忘れられた園子の気持ちはこんな感じだったのだろうな。

 

 心に来るものがあるや。

 

 この場はノリでやり過ごそう。道化を演じるのには慣れているじゃないか。

 

 目を瞑り、息をはく。

 

「ただの…、弓兵だよ」

 

 そう言って笑う。ちゃんと笑えているだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不思議空間に飛ばされて、最初は戸惑ったものの、今ではいつも通りの日常を過ごしている。

 

 いつも通り放課後に勇者部の部室に集まり、皆で談笑していると、神託が降りたと大赦から緊急の連絡が来た。

 

 いつもならばスマホにメールか、巫女に話を通すだけの大赦からの連絡に少し驚く。

 

 内容は、新たな仲間が神樹様に呼ばれたので、それを迎えに行ってほしい。とのことだ。

 

「どんな人が来るのかな? ドキドキだね!」

 

「ええ、戦力が増えるのは良いことよ」

 

「おお、ゆーゆが輝いてるね~」

 

 話を伝えると、友奈がいつものように明るく言い、東郷がそれに賛同する。そこに加わる園子。

 何も言わないが、樹もどこかソワソワした雰囲気を出している。

 

 その光景を見て、少し笑みがもれる。

 

 勇者部結成当初から比べれば随分と逞しくなったものだ。

 

「で、場所はどこなのよ?」

 

「それが、場所までは言われてないのよね~」

 

「はぁ? 何よそれ」

 

 夏凛が聞いてきて、それに私が答える。迎えに行けと言っておいて、場所を言わないとか、相変わらず、あたしたちをおちょくっているのだろうか?

 一応、知っている? と言う意味を込めて、あたしたちよりも前にこの世界に呼ばれ、あたしたちよりもこの世界の情勢に詳しい西暦から来た巫女の上里ひなたに視線を向けるが、ひなたは首を左右に振るうだけだった。

 

(こっちも知らない、か)

 

 まぁ、知ってればそもそも緊急の連絡なんて来ないかと思い直す。

 

 正直な話、大赦は好きではない。むしろ憎んでいると言ってもいい。

 

 乃木、上里に並ぶ大赦の御三家と言われる犬吠埼家のご令嬢とは思えない考えに内心苦笑い。

 

 風自身、名家と言われる家にこそ生まれたものの、名家としての誇りよりも身内の方が大切であると考えていて、大赦の中では少し浮いた存在である自覚はあった。

 それについては両親も祖父母も理解があり、干渉することは無かった。

 

 周りは表面上は何も言わなかったが、影で心無い言葉を言っていること自体は知っていた。

 犬吠埼の名は地に落ちた、と。

 

 2年前に、大きな災害で祖父母、両親が亡くなり犬吠埼家の大赦の権力と、四国の経済を支える犬吠埼グループの莫大な遺産のみが残された。

 親類縁者を一気になくした私達の遺産目当てに挙って人が押し寄せてきた。

 

 有名税…、とは言ったもので数々の汚い大人のやり方で私達から遺産を取り上げようと詐欺師たちの対応に追われて亡くなった祖父母や両親に対する悲しみに暮れる余裕は無かった。

 表面上は良い顔をして近づいてくるが、隠し切れないその本性にさらされて、樹が人間不信一歩手前まで行ってしまいにっちもさっちもいかない状況になった時に現れたのが、皮肉にも嫌っていた大赦だった。

 上手いこと利用されるのはわかっていたが、あたしにはその選択肢しか残されていなかった。

 

 個人的に親交のあった、園子の父親の乃木の叔父様も、他の名家もあたし達の後継人になってくれるという申し出もあったが、当時のあたしには裏があると疑い、信じることができなかったのだ。

 

 大赦に協力を願った次の日から、嘘のように人が来なくなった。

 

 大赦が派遣する警備の人たちが常在し、そういった人々を追い払った。

 

 それから、あたしは大赦の命令に従って勇者部を作り、東郷や友奈、妹の樹を巻き込んでしまった罪悪感との戦いの日々だった。

 

「…、お姉ちゃん?」

 

 心配をにじませた声音が、私に届く。

 いけない。

 あたしは何でもないと笑いながら、首をふった。

 

「こんにちはー!」

 

「こんにちは」

 

「こんにちは~」

 

「おいーっす。良く来たわねちびっこ達」

 

 樹が何か言おうとした瞬間に、銀、須美、園子(小)の小学生組が元気に入って来る。

 

 これ幸いと、そちらに挨拶をして新しい仲間が来ることを話して、樹から来そうな追撃を煙に巻く。

 

 予想通り、脱線しかけていた話が元に戻った。

 

 園子ズが

 

「「ワクテカ色々ドキドキ~」」

 

 などと、わけのわからない踊りをし始めて皆でどんな状態よと突っ込みを入れる。

 

 でも、新しい仲間が加わることを歓迎しているのは伝わってきた。

 

 園子(中)が此方をチラチラ見ているのに気が付き、大げさに両肩をすくめた。

 

 叶わないわね。そう言う意味を込めて。

 

 もう一人の妹分のその気遣いに感謝しながら。

 

 

 

 まるで雷が至近距離に落ちたような轟音が響く。

 

 にぎやかだった部室が、一気に静まり返る。

 

 それも一瞬の出来事だが。

 

 東郷と須美が「「敵からの砲撃音よ!」」何てパニックになっている。取り敢えず、園子が暴走した時用に持ち歩き始めた小型ハリセンで二人の頭を叩き「馬鹿言ってんじゃないの」と言う。

 

 夏凛が「そのハリセンどこから出したのよ…」と小声で呟きながらも扉を開けて音のした方へ走りだす。

 

 釣られるように勇者部のメンバーが後を追い出す。

 

「今日雷予報何て出てましたっけ?」

 

「いいえ、今日は一日晴れの筈よ。友奈ちゃん」

 

 夏凛の後に続きながら、友奈が「傘持って来てないんだけど、どうしよー!」と的外れなことを口に出して、それに対して東郷が大丈夫だと助言する。

 それに対して友奈が「良かった。えへへ」と笑う。

 

 友奈なりの皆への気遣いだとは理解できるのだが……、その、もう少し何とかならないだろうか?

 

 前を走ってる夏凛が頭を抱えている。

 

 もしも雨が降ったとしても、私と友奈ちゃんの分はあるわ、とボソッと呟いたのは聞かなかったことにしよう。昇降口にずっと置かれている時代劇で出てきそうな傘が2本ずーっと存在感を主張し続けているのをなぜか思い出した。

 

 

『……ひどくね?』

 

 屋上に出る階段を登り切った所で、声が聞えた。

 

 誰かいるのか?

 

 もしそうなら、もしかしたら先程の落雷(?)のせいで怪我をしてるかもしれない。そう思いつつ屋上への扉をあけ放つ。

 

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

 

 あたしたちは全員言葉を失う。

 

 屋上に設置されていたミニ社は跡形もなく壊れて、その土台も見る影もない。

 

 散乱した破片を気にも留めず、金がそこに居た。

 

 あたしや樹とは質の違う、陽光を浴びて輝く金髪。染み一つない白い肌。造られた様な卵型の輪郭。見る人を吸い込むような深紅のルビーのような瞳。

 あたしたちと目が合うと金が立ち上がる。

 

 身に付けている黄金の甲冑には青い文様があしらわれている。

 

 腰部分からは真っ赤なマントが足部分まで垂れている。

 

 王だ……、王がいる。

 

 普通であればこれだけ金一色であれば衣装負けするし、悪趣味とさえ思ってしまうだろうが、目の前の人物はそれすら自らをより際立たせるものでしかなく、そこには一切の嫌味、嫉妬、人間の汚い感情を寄せ付けない圧倒的な芸術がそこに居た。

 

 その堂々とした佇まい。

 

 あたしたちとは次元が違うと言われているような存在感。

 

 故に、王と。

 

 そう、心が納得してしまった。

 

 瞳があたしたちを見る。思わずに目を逸らしてしまいたい衝動と目が離せないと言う矛盾した感情が体を硬直させる。

 誰かが生唾を飲む音が聞えた。

 

 バーテックスを前にした時でさえこうまで緊張すると言うことは無かった。

 

「サーヴァント、アーチャー。選定の声に応じ参上した……、問おう。俺のような役立たずを呼んだ大バカ者はどこにいる?」

 

 発せられた言葉にこれ程力を感じたのは初めてだ。

 

 跪いてしまいたい衝動を抑えつつ、問いかけに答えなければと頭を回転させる。

 

 目の前の(人物)は何と言った?

 

 サーヴァント? 意味は確か、従者とか…、召使い。酷い捉え方をすれば、奴隷を示すこともある単語。少なくとも目の前の人物に当てはめるのを躊躇ってしまう程に似合わない。

 

 痛い発言(中二発言)をしていると言われればそれまでだが、目の前に君臨する絶対者がそんな発言をするはずがないと言う、一種の核心のような妙な信頼感を感じる。何か重要な通過儀礼……、様式美? のようなものだろうか?

 

 

 そして、驚く。幾ら体が、心が目の前にいる絶対者だと叫んでいても、王が……、神である神樹様を下に見るような発言をするのは理解できない。

 少なくとも、今、人が存在できるのは神樹様の恩恵あってこそだ。

 

 最も、時代錯誤も甚だしい目の前の人物にあたしたちの常識、それを理解をしているかは別だが。

 

 ともあれ、何かを話さなければ。

 

 言葉を発してから此方の返答を待っているかのような沈黙が続く。

 

「……、あんた何者?」

 

 何とか搾り出すように問いかける。

 

 少し驚いたように目が見開かれたような気がしたが、それも一瞬のこと。

 

 瞳を閉じ、少し息を大げさにはく目の前の絶対者。

 

 あたしたちにのしかかっていたプレッシャーが無くなる。緊張の糸が解け座り込んでしまいそうになる体に活を入れなる。

 

「ただの…、弓兵だよ」

 

 そう言って悲しそうに笑う。

 

 …、なぜかその顔を見た時にズキリと胸が痛んだ。

 

 

 

 聞きなれた警報が成る。

 

「敵襲か…、役立たずではあるが、無能でないことは示さないとな」

 

 そう言うと踵を返して移動していった。

 

 凄いスピードで。

 

「ちょ、あんた、待ちなさ…、ええい! あんた達行くわよ!」

 

 勇者アプリを起動して、スマホをで位置を確認する。

 

 何故か、名前の表示の所には何も記入されていないそれは、確かに最短距離を馬鹿げたスピードで敵陣めがけて突貫している。

 

 今回に限って何故か敵がかなり多い。

 

 必死になって追いかけているが、距離はどんどん離れていく。

 

「ちょっとどうすんのよ! アイツ、もう敵とぶつかるわよ!」

 

 夏凛が叫びながら、速度を上げる。

 

「あ、あわわ! どうしよう! 速く助けなきゃ!」

 

「落ち着いて、友奈ちゃん!」

 

 軽くパニックになっている友奈に東郷が促す。

 

 何もできないあたしは内心で愚痴る。

 

 

 

 

 合流した時には、敵の半分はマップから消滅していた。

 

「凄い…」

 

 この言葉を漏らしたのは誰だっただろうか?

 

 手に持っている古いデザインの弓が弦楽器のような音を奏でる度に、敵がみじんに切り裂かれていく。

 

 あれ? 矢は?

 

 敵はどちらかと言うと、鋭い刃物のようなもので切り裂かれているような倒され方をしている。

 

 もしかして、樹みたいなワイヤーを使った攻撃なのだろうか?

 

 攻撃する隙を与えずに、次々に消滅していく敵。完全なワンサイドゲーム。

 

 それでも、仲間すらも盾にして遠距離攻撃を仕掛けるバーテックス。

 

 

 ―――切れ味を強化するか。

 

 

 そう聞こえた気がした。

 

 次の瞬間、あたしが使っている大剣と同じものを握って突貫する。

 

 振るう時に巨大化し、複数隊を切り裂く。そのまま、最小限の動きで敵の攻撃を避けながら、避けられない攻撃のみ大剣の腹を使ってはじく。

 大剣故の小回りの利かなさは変わらない筈なのに、それを全く感じさせない動き。

 

 武の境地。

 

 自然とそんな言葉が頭に浮かんだ。

 

 似たような武器でも、扱う人によってここまで違うのか。

 

 ただただ、圧巻だった。

 

 あたしも…、もしかしたらできるだろうか?

 

 何かが、胸の中で燻り始めていた。

 

 大剣を限界まで巨大化させて、ブーメランの要領で投げつける絶対者。

 

 まるで意思があるかのように、弧を描き敵を切り裂く。

 

 最後の敵には大剣が半ばまで刺さる。

 

 そのまま倒れたバーテックス。

 

 もう用は無いと言うように、此方に向かってゆっくり歩いてくる。

 

「あはは、今出せる限界を知りたかったんだ。君たちの活躍の場を奪ってしまってごめんよ。終わったから」

 

 人差し指で頬をかきながら話しかけてくる。

 

 その後ろで、大剣が半ばまで刺さっている敵が攻撃しようとしているのに気が付かずに。

 

「⁉ 危ない!」

 

 東郷が悲鳴に似た声を挙げる。

 

 

 ――――終わったって、言ったよね?

 

 背筋が凍りつく感覚がした。

 

 敵が爆ぜたのだ。

 

「ん? どうかした?」

 

 何事もなかったかのように振舞うその姿は、正に王そのものだった。




性懲りもなくまた、始めちまった!

後悔も反省もしていない。


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現状把握

続いちまったゼ☆


 最初にやらかした感はあるけど、皆が歓迎してくれた。

 

 エヌルタの灰油と王律権ダムキナも使ったが、正直使う必要性を感じなかった。

 

 今回は、敵さんの数が多かったおかげか、初戦…、それもチュートリアル戦闘に近い形なのにも関わらず”痛哭の幻奏(フェイルノート)”(正確には、その原型)が使えたので良しとする。

 

 まさかのネギを片手に敵を切り捨てるとか頭の可笑しい光景を見せずに済んだ。

 

 マジであのネギ何なの?

 

 風の大剣よりも純粋なランクでは全然上で、オリジナルの干将・莫耶とタメ張れるとか色々とぶっ飛んだ性能を誇っているからな~。

 

 そもそも、宝具扱いになっている時点でおかしいんだけどさ……。

 

 本当なら、もっと高ランク宝具で一掃したいところだが、戦闘が始まる前に、その戦いが有利になる高ランク宝具1つ(その戦いごとに変化する)に加えて、敵の強さ+ワンランク上の宝具までしか使えない。

 

 相手のレベルに合わせるという中々な舐めプ仕様になっていたりする。

 

 乖離剣エアとか転生してから2回しか使えてないんだけど。

 

 そのどちらも全力である天の理バージョンではなく、地の理バージョンである。

 

 まぁ、それにおいては抑止力的な何かが関与しているのだと思う。

 

 詳しいことはわからないけど……。

 

 それは置いといて、

 

 いや~、戦いの後の園子ズと銀、夏凛の興奮度合いが凄まじかった。

 

 流石は勇者部が誇る脳筋武闘派集団である。女子力(物理)は伊達ではない。

 

 ……俺の知ってる女子力とは違うけど。

 

 その光景に苦笑いしている風と友奈。お前たちも大概脳筋だからな? と、思わずに言葉にしてしまいそうなのをグッとこらえる、俺紳士。

 

 

 その後、大赦本庁に招集され、春信(夏凛の兄)をパシリにした。

 

 こっちの世界では割かしおとなしめだけど、夏凛のことを聞いてくる辺りシスコンは健在であると言えよう。

 

 俺のいた世界だとシスコンを拗らせすぎてヤバい奴だったからな。

 

 夏凛からバレンタインに義理チョコ貰ったら、包丁片手に犬吠埼グループの警備部精鋭を倒して俺のとこまで来たのはマジで驚いた。

 

 返り討ちにしたけど。で、豚箱にぶち込まれたのを札束で積んで助けた。

 

 あれ? 何で被害者の俺が金だしてんの? と言う疑問は無視。

 

 一応、それらしい理由としては警備部精鋭たちが全員何故か無傷で気絶していただけだったのと、俺が起訴しなかったからだが。

 

 後日、夏凛が土下座して謝ってきたのには流石の俺も焦った。

 

 次の日から、廃人状態で「夏凛…、夏凛」と譫言を口にしているとの目撃情報が春信ラブの人物から、聞いてもいないのに届けられた。

 その後、余りにも、春信ラブ(安芸)がうるさいため、渋々夏凛と春信の仲を取り持ったんだよな。

 

 ……、春信が暴走する原因を知っているために静観できなかったと言うのも大きな一因だ。

 

 夏凛と春信の両親は基本、夏凛に興味が無く、それよりも大赦で出世街道をアクセルベタ踏みで爆走しまくる春信のみを見ていた。より正確には春信の座っている椅子を見ていた訳だが。権力に目がくらむを体現したような状態であった。

 

 それには春信自身も気が付いてはいたが、昔はそんなことは無かったと言うのと、春信が義理堅い性格をしているからと言うので良好な関係が成り立っていた。

 春信に捨てられないようにごますりとご機嫌取りをしているのだから当然と言えるが。結果として、態々ご機嫌取りをする必要のない夏凛にはその皺寄せが行く。

 

 原作では誕生日を友達に祝って貰うと言う行為が初めてだと戸惑いながらも、どこか嬉しそうにしていたのが印象に残っている。ボッチ極めてるな、と失礼なこと思ったりしたが、まさか誕生日を祝ってもらうこと自体が初めての体験だったのを知った時は殴り込みに行こうかと本気で考えた。

 夏凛と出会ったのは偶々だったけど、原作よりもかなり早い段階で出会えたのは感謝してる。

 

 そりゃ捻くれもするよ。むしろ良くこの程度で済んだなと思う。

 

 春信は全力でぶん殴っといたけど。避けられているのはわかっていたし、距離感がつかめないと泣き言もらすとか、シスコンの風上にも置けない。

 

 全力で殴り合い(おはなし)した結果、色々と吹っ切れて変態にグレードアップしてしまったのはこの際置いておく。

 

 問題は、どこからかそれを二人の両親が聞きつけたらしく俺にもごますりを始めたことだ。

 

 酷い言い方をするならば、夏凛をプレゼントすると言う方向で話を持ち掛けてきた。

 

 今まで見向きもしなかったくせに、原石になりえると掌を返したのだ。

 

 俺は、大赦トップを張る御三家の一つ。犬吠埼家の長男。大赦の中での地位は不動のもの。加えて、四国の経済を支える犬吠埼グループの長としての地位もある。

 

 夏凛が俺に嫁げば、両方に大きな影響力とコネを持つことができる。嫁がないまでも手付き…、つまり愛人になれば庇護下に入ることも夢ではない。

 

 そうなれば、そのコネで犬吠埼グループの重席に身を置くことも可能だと考えるだろう。

 

 ほぼ、Noリスクでハイリターン。末恐ろしいのは「愛人でも良いんじゃないかしら? 今時、結婚だけが愛の形では無いわ。それにあの娘、顔は良いし、将来美人になるのは間違い無し」を前面に出して俺に娘を売り込んでいることだ。

 

 何としても俺を逃さない執念を感じた。

 

 信じられるか? これ、実の親がやってるんだぜ?

 

 今時、三流ドラマでももっとましな台本書くぞと言いたくなる。

 

 それに、俺は身内びいきは多分にするが、無価値を重席に座らせる程甘くは無い。

 

 そこら辺、俺は驚くほどシビアだったりする。

 

 後先考えないなら全権力を使って徹底的に潰し、縁を切らせてから夏凛を犬吠埼家の次女として引き取る事も考えたが、どうあがいても春信巻き込まれるし。最終的に春信の下に戻って落ち着くのが目に見えているのでしないけど。

 

 俺の父さん達に、それとなく事情を説明して、夏凛がうなずけば引き取る事を約束させた。流石に、同情を禁じえなかったらしい。

 ただ、それについては父さんたちが比較的あっさり頷いたけど、樹と風がギャン泣きして大変だった。どうも、俺に捨てられると思ったらしい。何処をどう捉えたらその答えに辿り着くのか疑問だが、俺の言動に対しては二人の感情の振れ幅は両極端なのを思い出す。

 

 完全な余談ではあるが、偶々ギャン泣きを聞きつけた父さんが入って来て、「樹と風を捨てるような事をすれば、紅葉を捨てるから安心しなさい」と遠まわしに父さんはお前たち二人の味方だぞとアピールしたが、樹も風も言葉通りに捉えたらしく、「「お兄ちゃんを捨てちゃダメ!」」と俺を全力で庇い、暫くの間二人に相手にされなくて枕を濡らしたらしい。娘を持つお父さんは大変だ。

 

 

 

 

 思考の海から上がる。俺が居ないと言うことは、夏凛は原作状態であるということだ。…、取り敢えず、気にかけて置こう。

 

 だが、今は風と樹が優先だ。

 

 幾つか簡単な質問をして、現状の犬吠埼家の事を整理する。この世界の皆が俺のことを知らない様子からして、原作通りの普通の家柄かと思ったら、俺の居た世界と殆ど変わらないらしい。御三家で財界の柱。

 変な所で世界の修正力的な何かが全力で仕事しているのに舌打ちしたくなるが我慢だ。

 元居た世界では俺がいたから何の問題も無かったが、此方では風が長女で家長だ。そこら辺がどうなっているのかが気になる。

 

 どうやら、風と樹の現状は大赦が後ろ盾になっているらしい。思わずに「乃木家どうした!」と春信に掴みかかってしまったが、気にしてる暇は無い。

 

 必然的に犬吠埼グループの実権の殆どが、大赦が手にしている事となる。幾らそう遠くない内に大赦が組織として崩壊するのは知っていても、生き残りが実権を持ち逃げする可能性は大いにあるし、今まで後ろ盾になってやったんだから席を用意しろとたかりに来る事も十分にあり得る。

 

 ゆゆゆいの設定は一種の夢時空。

 

 結論から言うと、ここでどう頑張った所で、本当に変えてあげたい現実の二人の環境に何ら影響を与えられないことだ。

 それに一番腹が立つ。

 

 おそらく、現実にこちらで過ごした日々の記憶は持って帰れないのだろうから。

 

 ならば、せめてこの世界ではそんなしがらみは無くしてやれよ! 夢の中でも世知辛いとかそれ何て嫌がらせだ!

 

 とにかく、パシリは使ってこそのパシリだ。

 

 俺の精神安定上の都合で春信には胃を痛めて貰おう。犬吠埼の権力や財は無くなったが、勇者としての肩書は未だにある。

 その為、衣食住に困ることは無く、こちらの我儘は大抵通される。

 

 余りにもうるさいようだったら、王の財宝の中にあった秘蔵の胃薬に勇者部の現状報告と言う名目で、夏凛の写真でも送ればおそらく黙るだろう。

 

 今後の方針は勇者部のメンバーの相手をしつつ、ニートになることに決定。

 

 自重なんてシナイを座右の銘としよう。

 

 

 

 そう言えば、戦っている時に出てくる馬鹿でかい神樹見て思い付いたことがある。

 

 一種の夢時空であり、本来存在しないはずの俺を呼べたのだから、理論上できるはず。

 

 試して見るだけ試してみるか。

 

 王の財宝の中の幾つかの道具を使えるかどうかを確認して、無意識に唇が吊り上がる。

 別にできなきゃできないでしょうがない。ダメもとでチャレンジしてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が住む場所は大赦が用意した寮になるのだが、それを蹴って合宿という名のご褒美で勇者部が泊まった旅館を活動拠点にすることにした。

 寮に入らなかった理由は、ニート生活がエンジョイ出来ないからと下らない理由なのだ。

 本当は手頃な貸家でも借りたかったのだが、こちらの世界では身分証明が出来ない。

 

 頼めば手配はしてくれるだろうが、時間がかかるし余り探りを入れられるのもいい気分ではない。

 

 とある少女の転校手続きやその他諸々を春信に丸投げし、灰色の髪の少女を寮に送り届けて早々に退去した。

 

 今頃、寮にいる小学生組と仲良くやっているころだろうと、立ち止まりニヤけそうになる顔に力を入れる。

 

 中学生の園子と美森の反応が楽しみだ。きっと感動的なものだろう。

 

「何か良いことあったんですか? 紅葉さん?」

 

「ん? いや、ちょっとな……、‼」

 

「? どうしたんですか?」

 

 

「いつからそこに⁉」

 

「? いつもどこでも紅葉さんの傍にいますよ」

 

 何それ怖い。

 

 なぜか寮に置いてきたはずの銀がいる。噓だろ、幾ら考え事をしていたとは言え、付けられていれば気が付く。プロでないこいつが付けていれば余計に、だ。

 もしかして、銀気配遮断のスキル持ってない?

 

 それから、色々な方法で巻こうとはしたのだが、ようやく巻けたと思ったところで銀が出て来る。

 終いには「これは運命です!」なんて言い出す始末。何が目的か聞いてみたら、老け薬が欲しいというので、渡してズラかった。

 

 

 無駄に細心の注意を払い、目的の場所へとたどり着いた。

 

 流石に巻けただろうと胸を撫でおろし、旅館の受付で手続きを終えようとしている時に受付の人に「そちらの方は?」と言われたので首を傾げる。俺一人の筈だが?

 

「妻の銀です。新婚旅行で来たんです」

 

 ……、旅館の人に自己紹介は不要。

 

 そして、勝手に変な設定付け足さないで!

 

 旅館の方も「まぁ、そうなんですか! おめでとうございます!」何て盛り上がって、誤解を解くのがめんどくなり、そのまま二人分の名前を書き込んでお願いした。

 

「では、郡様。精一杯おもてなしさせていただきますね」

 

「はい、お世話になります」

 

 銀が部屋まで案内をする旅館の仲居さんと何やら楽しそうに世間話に花を咲かせている。

 

 仲居さん。信じられるかい? そいつ本当は中学生なんだぜ?

 

 普段とは全く正反対の落ち着いた雰囲気を醸し出す銀を見ながらそんなことを考える。

 

 因みに、郡は母親の旧姓。西暦でも引き取った千景の旧姓でもある。四国では犬吠埼の名は大き過ぎるので使えない。咄嗟に思い付いたのがこの姓だった。

 

 

 

「紅葉さん、背中流しますね!」

 

「いいから、女湯に帰れ」

 

 この際、どうやって男湯に来たのかは気にしないこととする。

 銀の頭を鷲掴みにして、覗き防止の柵の向こうに投げ飛ばす。まるで漫画のように綺麗な弧を描き女湯の方に帰っていった光景を見て、やはりギャグ補正はいかなる場所、世界においても最強の補正であると認識する。

 

 ちょっと荒業すぎた影響からか、頭のネジを落としてきたらしい。

 

 元の世界では付かず離れずの距離があったが、今はその距離は無い。

 

 何だか勢いよく振られる犬の尻尾が見えた気がするが、きっと疲れているんだろう。今日一日で戦闘に加え、俺の居た世界の銀を呼び出すのに馬鹿みたいに魔力使ったし。

 精神的ショックも大きかった。

 

 他に客人がいなかったから良いものの…、全く。

 

 意外と胸があったな。

 

 

 部屋に戻ってくると、お約束と言うか、布団はくっつけられていた。

 

 テンションが天元突破して妄想の世界へ旅立っていたが、今は戻って来てソワソワいる銀。

 

 それを横目で眺めながら、電気を消して布団に入り込む。

 

「銀、一つ聞いて良いか?」

 

「何ですか? 何でも聞いて下さい。()()には敵いませんが夏凛よりはありますし、形には自信があります!」

 

 いや、美森はメガロポリスだからしょうがない。

 

 夏凛は同年代の子の中では大きい方ではあるはずだけど…、って今はどうでもいい。

 

「じゃぁ、遠慮なく。銀は今何年生(いくつ)?」

 

「………………」

 

 その沈黙はどっちのものかな? どちらにしてもすぐに返答が返ってこない辺りお察しではあるけれど。

 

 銀の様子がおかしかった理由はこれか。

 

 神樹を通して、俺の居た世界に縁を繋ぎ、銀を呼び出した。神樹が協力的な反応をしてくれなければ、もっと時間がかかっていたはずだ。

 

 そして、現れた銀は俺を見て名前を言ったから間違いなく俺が存在した世界線の銀であるとは認識した。勇者部で見た小学生の銀よりも大きかったので多分成功はしたのだろうと思って確認はしなかった。

 

 この銀の中での認識と俺の認識が同じかどうかはわからない。

 その可能性は微塵も考えてなかったわ。

 

 むしろ、俺の認識と同じだと言う可能性の方が少ないわけで…。

 

 たられば…、イフの話をすればそれこそきりがない。

 

 悪いことをしたとは思う。でも、そればかりは俺には何もできない。

 

 俺はマーリンタイプのクズらしい。良かれと思ってやったことが裏目に出て皆を傷つけるとか…。

 

 呼んでしまって、尚且つ、春信に手続きさせてしまったので合わせないようにはいかないんだよな~。

 それに、もう春信が風にメール送ってるだろうし。

 

 はぁ、とため息をついて目を閉じる。

 

 今日だけは、抱きついて涙を流している大きな銀を抱きしめて眠ろう。




主人公も大概脳筋。

因みに主人公の居た世界では、皆、全体的に原作より脳筋よりです。


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番外編
犬吠埼紅葉の章 NEW


「ッチ! あーあ、くだらねー人生だった」

 

 落ちながらそんなことを口にする。

 

 目はもう光を映していない。耳はもう音を捉えていない。

 

 全ての終わり―――。

 

 結局、自分は最後まで自分勝手だった。

 

 どこまで行っても「クズ」だった。

 

 俺に与えられた役目はわかっていたつもりだ。

 

 それは、転生何て体験して、神様に圧倒的力を与えられても変わりはしなかった。気持ちだけ大きくなっていた。

 

 それでも―――、

 

 踏み台だと理解はできていた。誰に言われたわけでもないけど、自分が己をそう定めていた。…自分以外の転生者に会ったこと無いけど。

 

 主人公に憧れた。

 ハーレムに憧れた。

 力に憧れた。

 全てに憧れた。

 

 

 

 でも、転生したからと言って俺そのものが素晴らしい物に代わるわけではない。世界が俺を中心に回るわけではない。まぁ、転生特典のスキルのおかげで権力とお金については問題なかった。大国相手に一人で正面切っての殴り合いで余裕に勝つくらいの力は持っていた。

 

 変に一般常識と前世の自分という反則もいいところのアドバンテージとも、ある意味呪いとも取れるもののおかげで「神童」なんて言われもした。

 

 記憶を引き継いで転生できたのは感謝している。そうでなければ、とっくにくたばっていただろう。

 そのことで、妹たちにはつらい思いをさせたと思う。

 正直、恨まれているんだろうな~、何て漠然と思っていた。

 

 怖くて、直接聞くことはできなかったけど。

 

 そんな、張りぼての「臆病」で「泣き虫」で「情けない」、正真正銘の「クズ」だと思っている。

 格好良いところなんて、親譲りのこの顔だけだ。

 

 いや、マジで今世の父さん母さんテラ美形。妹たちも身内贔屓抜いて美少女。

 

 成長するにつれて、メインで使う転生特典にモロ影響を受けて容姿は英雄王そのものとなっていた。幼少期はどこからどう見ても美少女で、性別をいつも間違われていた男の娘。…あれ? なんでだろう? 涙が。

 

 贅沢だってわかっている。でも、どうしてもこの容姿を褒められても誇ることはできなかった。

 前世ではいじめにこそなってはいなかったものの、「キモイ」と言われ続けてきた。

 

 自分でも、確かに可哀想なほどブサイクでは無いけど、イケメンかと言われれば首を傾げる位の微妙な顔立ち。自称「微少年」だ。

 後は年齢よりもだいぶ幼く見られている童顔だった。身長も平均よりも低かった。

 

 容姿については、こんなもん。才能も全てにおいて平均以上にできるかわりに、これと言った強みも無い。器用貧乏と親友に言われた。凹む。

 

 異性の友達は多かったが、それだけだ。モテたことなんて一度もない。

 

 そんなコンプレックスだらけの自分。

 

 転生特典で確かに頭は良くなった。それこそ、数千年に一人いるかいないか位の(扱いきれるとは言っていない)。出そうと思えば常人の何千倍の力も出せる(扱いきれるとry)。

 

 長々と語ってきたが、結論を言おう。俺「テラ凡人」。

 

 骨の髄まで染み込んでいる自己否定。

 

 ためいきがでる。

 

 

 元々生き方は器用な方ではなかったけど、さ。

 

 もうちょっと、こう、なんとかならなかったのかね~。

 

 恋愛にも憧れこそあれど、それらしいことはしてこなかった。今世も前世もDTだし。凹む。

 キスだってしたこと無いし。

 

 あ、妹たち(風と樹)妹分(園子)はノーカンね。あいつら、事あるごとにしてくるんだよな。最初は微笑ましかったけど、流石に10歳超えてからもキスしようとするのは心配だ。

 

 それから、恋愛できないなら、せめてDTくらいは捨てようとしたんだよ? 風俗で。

 

 金はあったし。

 

 でも、何でだろうな……。行こうとするたびに妹たちか、勇者部メンバーと出会い風俗には行けなかった。ハイライトの消えた素敵な笑顔で見つめられ続けて離れない。怖くて、引き剝がすことができなかった。

 

 意地になって強行作戦を何回か決行したが、なぜか途中で意識を失い自室のベッドの上で目覚めるという謎現象が多々あった。その後、大抵は誰かが傍に待機していて、何があったか聞くと「寝てたよ?」的なことをハイライトの消えた素敵ないい笑顔で言ってくる。

 

 どうしているの? いつからいるの? なんて怖くて、聞けない。

 

 同上の理由でAVにも手を出せない。流石に、買ってまで欲しいとは思わないので、レンタルビデオショップまで行くのは良いが、18禁コーナーに入ろうとすると自室のベッドの上で目が覚めるまでが様式美。

 

 エロ本も最初は買っていた。一応隠してはいるつもりだったが、いつの間にかパツキン妹ものに変わっていたり、年下ものに変わっていたり……。

 

 春信パシリに使って、ボインのチャンネーもの買いに行かせたら青い顔して年下ものしか買ってこない。本人曰く「これしか売っていなかった」らしい。ガタガタ震えていたのは気になったが、追及するのは気が引けた。

 

 取り敢えず、エロ本も買うのはやめた。

 

 勇者部のメンバーの肉食獣のような眼差しが怖い…。スマホもPCも論外。前に、美森がナチュラルに内容をボソッと言ってきて以来そういうのをスマホやPCで見るのをやめた。パスワードは毎回変えてるんだけどな~(´・ω・`)。ナンデ、ワカルンダロウナ。フシギダナ。

 青坊主だか、海坊主だかって名前の卵型? の精霊が時折背後から眺めているようなような気がするけど気のせいだろう。後、牛鬼と青い烏がやたらと絡んでくる。

 

 牛鬼は友奈の所にカエレ! 前世ではネット掲示板とかで色々論議の種になっていたが、正体には気が付いてるからな! 「た」で始まって「な」で終わる人。初代勇者の一人。神殺しの大偉業によって神の座まで上り詰めた脳筋少女。

 

 青い烏! テメェの正体もわかってんだからな! 若葉ードとユウキ(ひなた)! 風呂場にまで侵入してくるんじゃない!

 

 何で精霊に好かれてんの? 精霊の加護A+のせいか? 神樹の力によって具現化してる人口精霊とは言え「精霊」と付いてるだけあって効果があるのかね?

 

 謎だわ。しかも、どちらも正確には英霊に近い存在だし……。

 

 

 

 

 

「はぁ、あんだけカッコ付けたのに結局はこのざまだもんな」

 

 王律権ダムキナと言う名の王の財宝のバックアップ。今回は、禁じ手の中の禁じ手「カレイド・ステッキ」まで使って平行世界全ての天の神を一か所に天の鎖(エルキドゥ)で固定。乖離剣エアの力を使って「ありとあらゆる攻撃無効の何か」と「不老不死」とか言うチート権能を文字通り乖離…切り取って無理矢理無効化するという力技をぶちかました。

 

 ごめん、俺も大概脳筋だわ。

 

 それでも倒れないとか、頭がイカれてやがる。

 

 

 

 ―――だが、もう天の神の全能性は破堤した。

 

 後は友奈の全乗せ勇者パンチでとどめさせるだろ。

 

 仕込みも上々。後のことは乃木の叔父さんと春信に安芸が何とかしてくれる。

 

 神代を経て、人間は神と袂を別った。

 

 親離れをしたのだ。

 

 それを、紆余曲折ありすぎて、神の庇護下に一時的に戻ったが、あくまでも人間と神樹の共同戦線。

 

 神樹が人の力を恐れて、天の神と同じ末路を辿らないように俺が死んだ後も起動するとっておきのサプライズプレゼントが神樹の懐で発動するように細工を施してある。

 

 神はこの星の安全装置である以上、必ず人間の敵に回るのが目に見えてますし、おすし。それが速いか遅いかの違いだけ。キャス狐の言葉を借りるなら、神は人間のことなんて「アウトオブ眼中」って言ってたし。そう言う意味でならば、言葉は悪いが神樹の勇者を使い捨てにするようなおこないも理解できる。

 

 ここら辺は、種族の違いと言うか価値観の違いと言うか。とにかく、人間にはわからない感覚だよね。

 

 どちらに転ぼうが、神が人を導く時代は終わりを告げた。神が人の心の拠りどころであるのならば、それはそれで構わない。だが、あくまでも少し休む休憩所としてだ。物語の主人公になってはいけない。

 

 人がメインでならなければならない。

 

 そう言う考えになるのは英雄王の主観が混ざっている故なのか…それとも。

 

 敬意は払おう、理解も示そう、その来歴も悼もう。 ──だが、死ね!

 

 おおっと、電波デンパ。

 

 俺には人の愛がこういうものではないか? と推理はできるが、理解はできなかった。今振り返ると、前世はどこか機械的であったし、今世はだいぶ人間的であったが、どこか嚙み合っていなかった。

 

 

 落ちる。落ちる。落ちる。落ちる。落ちる。

 

 

 涙が次々と流れる。

 

 強がるんじゃなかった。柄でもないことするんじゃなかった。

 

 もっと、皆と一緒に時を過ごしたかった。妹たちが選んだ素敵な人と顔を合わせて見たかった。妹たちをくださいと頭を下げる未来の義弟を前に机を叩きながら「妹はやらん‼」と言う台詞を言ってみたかった。それで妹たちに「あんた(お兄ちゃん)は、あたし(私)の父親か!」って突っ込み入れられて、父さん母さんに酒瓶持ちながら報告に行って。

 

 妹たちの晴れ姿を見たかった。

 

 くだらねー惚気話聞いて、痴話喧嘩仲裁して。いずれ生まれる甥や姪の顔を見て。取り敢えず、甥や姪ができる度に祝福しながら義弟を殴るのがテンプレ。

 勇者部のメンバーや防人達で時々集まって昔話に花を咲かせて、とっても辛い感じの思い出だったはずの事を笑い話にして。

 正月には、皆の子供がお年玉せびりに来て。イベント好きな奴らだから、年中大騒ぎできっと楽しいだろう。

 

 そんな事を父さん母さんに「羨ましいだろ」て、報告兼自慢に行く。

 

 俺は結婚できそうにないし。

 

 

 自傷気味な笑みが浮かぶ。

 

 これが、俺への罰か。

 

 

 

 強い衝撃が襲う。

 

 別に痛みがあるわけではない。

 

 心眼(笑)が発動する。心眼(笑)は意外と便利で、視力を無くしても周りを見ることができ、一種の透視能力みたいな状態になる。服は透けないし、壁があればその向こうは見えないけど。

 

 耳が聞こえなくても、見えているのであれば口の動きで何を言っているか理解できる。まぁ、それを逆手に取られて皆の散華を肩代わりしていたのがばれて、皆に泣きながら説教をくらった。

 

 どうやら、あの灼熱の業火の底まで落ちたらしい。

 

 この体が特別製なのもあって、即死はしてない。ああ、感覚、痛覚、温感。凡そ人間の感覚殆どが機能していない状況。この状態がばれれば、間違いなく今度こそ監禁生活待ったなしだろう。

 

 

 今は、その感覚がない事に感謝だけど。

 

 

 まだ、終われない。

 

 保険は何十にもかけて置く。

 

 不発なら不発に越したことはない。

 

 魔術回路を開き、魔力を流す。天の神の追撃が迫る。

 

 敵さん、相当お冠らしい。

 

 無理もないか…、最早神の権能は無い。配下の神は俺の殴り込みでほぼ全柱、ご神体事砕いて葬った。立て直しは不可能。おまけに退路なし。

 

 高天ヶ原? ああ、なんかあの空間。一種の固有結界判定らしくて、エア使ったら崩壊した。いや~、マジでビビった。腐っても対界宝具。全力で使えなくても余波だけで疑似世界と言えど消し飛ばすとは。本気の天の理verで使えたらどれほどの力になるのか想像すらできない。

 

 さて、残りはあなただけですよ? 天照大御神。日本神話にて、頂点に立つ女帝。

 

 例え、神の権能を失おうとも神であることを失ったわけではない。

 

 例え、配下が、忠臣がいなくなっても、天照大御神一柱いれば偉業を達成できる。

 

 「創世光年」。それが天照大御神の目指した大偉業。地上の一切を滅し、また、一から全てをやり直す。

 

 今度こそ、失敗しないように無駄な物は全て削ぎ落す。自らの思い通りに運営できる気持ちのいい星造り。抵抗することは許されない。その考えが入り込む余白すら与えない。

 

 原罪の一。

 

 『憐憫』の理を持つビーストと人間を滅ぼすと言う同じ結論に至った「天の神々」。

 

 ただ、原罪の一とは違う。『憐憫』のビーストは「終わりある命の最後の悲しみ」に終止符を打とうとした。

 

 天の神々は「自らに並び立つ人間の進化の力に恐怖」した。

 

 愛故の暴走か、保身故の立ち回りか。

 

 天の神々の理由は実に「人間らしい」理由だ。正直な話、俺にはガキがおもちゃ買ってもらえなくて駄々をこねてるようにしか思えない。それで人類が滅びそうになってるんだから始末が悪い。

 

 加えて、悠久の時を存在し続けてきた故の自我の肥大化。人間なんぞよりも優れていると言う自負。

 

 

 頭の中にノイズと砂嵐まみれで碌に認識できない映像のようなものが流れる……。

 

 

 かつてあった圧倒的な力を振りかざした災厄に一方的に蹂躙された負の記憶。

 

 自分よりも上から見下ろされる恐怖。

 

 プライドも何もかもを捨てて、命乞いをした光景。

 

 今まで、自分たちに向けられてきた畏怖の念が無くなる。気持ちの良い、当たり前の光景が崩れる。

 

 人間なんてちっぽけな取るに足らない存在が神である我々に見向きもしない。

 

 そんなのダメだ、間違っている。

 

 気に食わない。

 

 もう一度、我々神の力を見せつけよう! 惨めに命乞いさせよう! その上で笑いながら殺そう。お前らのような奴らはいらないんだよと言ってやろう。

 

 

 

 

「ずいぶん、人間らしいな。天の神ってのは」

 

 全知なるや全能の星(シャ・ナクパ・イルム)にて、わかった真実に思わず漏れた言葉。

 

 つーか、アウトオブ眼中のくせに自分を無視するのは許さないとかどんだけかまってちゃんなんだよ。

 

 火鼠の衣と火避けの杖で、やり過ごしていたその攻撃がピタリとやむ。

 

 仙女を思わせるすまし顔を真っ赤に染めて震えている。

 

 配下を葬っり、神の権能すら無力化され、虫の息にも拘わらずとどめを刺しきれない苛立ち。

 

 そこに、神の頂点たる己を…、”人間らしい”と言ったか? そんな下等生物と同列に扱われる何て認められない。

 

 自尊心が許さない。

 

 最早、言葉は出なかった。許さない。

 

 その感情だけが、天照大御神を動かす。

 

 恐怖を振りまき惨めに命乞いをさせて、嘲笑いながら殺そう。そう思っていた余裕が無くなる。

 

 目の前にいる不敬を今すぐに消そう。

 

 天照大御神は切り札たる「鉾」を出す。日本神話に置いて、最初に地上に大地を創り出した創世の「鉾」。星を創る魔鉾。国造りの原型。

 

 本来、創り出すものだが、そこに込められた純粋な力は測り知れない。

 

 その星を創る魔鉾が俺に向かって”投擲”される。

 

 開放される神の一撃。

 

 避けることは叶わない。余波で神樹の結界を容易く貫き、残りの四国大陸だけならば簡単に消し飛ばせる。

 

 あれを無力化しなければ、これまでの死闘の意味が無い。

 

 後一秒後には俺を貫き、全てが無に帰る。

 

 どうする? あれを受け止めるのは今の俺では不可能だ。

 

 天之瓊鉾自体の原型は俺も持っている。国造りの原型としてのものと、支えるものとしての原型のものを。前者を取り出してぶつけて相殺するのはいいんだが、その場合神樹の結界も四国も一緒に余波で跡形もなく吹っ飛ぶ。

 

 後者は完全にアンティークであり、武器としては使えない。

 

 エアを握れない今、投擲された創世の一撃を相殺だけでなく、その圧倒的な破壊エネルギーを上回るだけではなく完全に打ち砕き呑み下す力が必要だ。

 

 そして、この宇宙にある限り必ず二面性が生じる。

 

 「創る」と言うことは、「壊す」までがセットとして扱われる。何かをすると言うことは最終的に否定されて終わるもの。

 

 それに相当する宝具は絶対数こそ少ないものの、それでも軽く万は超える数が王の財宝にはある。

 

 問題なのは、それをぶつけた時の余波が想像できない事。

 

 場所と被害を考えなければ悩まずに行動に移せた。

 

 そこまで考えて、小さな違和感に気が付く。

 

 ……そう言えば、プリズマ☆イリヤで子ギルがアンジェリカに王の財宝で攻撃して来た敵に対して、自分の宝物庫を全開にして宝具を取り戻すと言う荒業をやっていた。

 加えて、宝物庫の中は時間と空間…広さと言う概念が存在しない。入れようと思えばそれこそ、この星の質量を軽く上回るものも入れられる。と言うか、既に入っていて、現在進行形で増え続けている。

 

 目の前の空間が歪み、黄金の波紋が浮かぶ。

 

 投擲された魔鉾はその波紋の中へと消えていった。

 

 天の神は両目を見開いて驚いている。ハハ……、ワロス。

 

 今の天の神には神樹の結界を一撃で壊すほどの力は無い。とは言え、時間をかければ結界を侵食して神樹を倒しに来るだろうが…、それまで猶予はそこそこある。

 

 取り敢えず天の神を再び天の鎖で縛って一時撤退する。

 

 うへぇ…、しんどい。体が動かないので転移符で仮住まいに戻る。

 

 この戦いに赴くにあたり、自宅にある俺の使っていた物は全て捨ててきた。

 

 多分、此処へは戻ってこれないだろうと思っての行動。仮住まいはもし、生きて帰ってこれたらそこでひっそりと暮らそうと思って、芽吹の親父さんに依頼して造ってもらった。

 

 なぜか、国土さん家の亜耶さんが完成当初から掃除に洗濯、料理を作っては冷蔵庫に入れて行くという通い妻をしているのは気にしないことにする。

 

 いつの間にか芽吹のプラモとかが置かれて居たり、防人達の日用品がさも当然のように置かれているのは目を瞑ることとする。

 

 此処、合宿場じゃないんだけどな~。防人全員+アルファで寝泊まりしても余裕で布団と部屋とか余るけど…。

 

 そのことについて、亜耶が珍しく”皆さんだけズルいです”とむくれていた。

 

 巫女は適性があるとわかれば、大赦が引き取り面倒を見ることとなっている。そのために、巫女のほとんどがその余生を大赦内で隔離に近い形で過ごしている。下手したら学校とか行ったことがないんじゃないかな?

 

 実のところ、樹にも巫女としての適性があったりする。樹の占いが良く当たるのはこれの恩恵が大きかったりする。大赦が引き取ろうとしたが、樹が神樹の神託を受け取ることができなくて使えねぇ~な、いらね。と言う具合で普通に家で過ごせていた。

 

 万が一の時のために、樹には神託受け取れないように細工はさせてもらったけど。

 

 まぁ、それがあったとしても勇者としての適性の方が断然高いので、とんぼ返りになっていただろう…、巫女も勇者も凄く貴重な存在であるが、勇者は直接戦うので殉職者がほとんど。そのために、両方の適性がある者は余程、巫女としての適性値が振り切れていない限り勇者に回される。

 

 美森なんかがいい例だろう。美森は巫女としての適性もかなり高かったから、適性検査後、どちらにするかで意見が結構分かれていた。それでも、勇者の適性の方が高かったために長考の結果勇者に回された。

 

 勇者として選ばれた者の九割九分九里がお役目を終えることなく、その短い生涯を終える。

 

 それを考えると、精霊バリアがあったとは言え、生き残った勇者部のメンバーが如何に凄いかが浮き彫りになる。

 

 精霊バリアが無い時代から戦い生き延びた美森、園子、銀(原作ではお役目中に亡くなったが)とかチート通り越してバグキャラの領域だから。防人も同様。

 

 特に盾ぶん回して「助けてメブゥゥゥーーーー!!」とか叫びながら戦場を駆け回る異能生存体(加賀城雀)とか何なの? むしろ、此方が助けてほしいんだけど……。

 

 ドンッ、と言う音を立てながら背中から床に熱烈な挨拶を交わす。

 

 結構ふざけているが、体はボドボドダ! をガチで行っている。指一本動かせる気がしない。

 

 ここで孤独死とか、ちょっとしまらないな~。

 

 エリクサーを宝物庫を開けて、自分にぶっかける。一応、外傷は全て治った。

 

 …精神的消耗はどうしようもないが。

 

「どうしたんで……! 大丈夫ですか!!」

 

 噂をすれば何とやら。

 

 原作では今頃、千景砲の回路の一部になっているはずなんだけど……。俺が結界の外に出てから、どの位時間が経過したのかがわからんから、状況がわからない。

 

 まだ乾ききっていない俺の血とエリクサーで汚れるのも構わずに俺を介抱しようとする国土さん家の亜耶さん。

 

 そんなことよりも、

 

「亜耶、何でここにいるかはこの際どうでもいい。速くシェルターに入れ」

 

 俺の隠れ家は四国内で一番強い霊脈の上に建てられている。無論、外界と遮断する結界も張ってある。

 

 神樹が破壊され四国の結界が消滅しようと、四国の地が滅ぼうとこの家は存在し続ける。

 

 一種の世界として成り立っていたりする。

 

 その中でも地下シェルターにはまた別の対、神霊用の結界を張り巡らせ、空間を湾曲させ、広さだけならオーストラリア大陸よりも広い異空間となっている。

 

 電力も、ヴィマーナのエンジン取り出して発電機として使用している。時折、燃料となる水銀を投入せねばならないが、一回の稼働時間で四国が年間に使う電気の数千兆倍の電量を生成し、それを半永久的に貯蓄しておける電池も予備を合わせれば千を超えている。

 

 因みに電池の寿命は、使い始めてから500~600年前後。使わない状態ではこれまた、半永久的というあらゆる分野に喧嘩を売るスバラな品々になっている。

 

 食料に関しては北欧における”北風のテーブル掛け”を入れようと考えていた人数分は用意した。

 

 盗難防止用術式と、劣化、破損修復式も施しておいた。

 

 食料危機の心配は無い。一応、家庭菜園(世界規模)用に様々な植物の種も用意した。

 

 名付けて”地底都市四国犬吠埼支部”である。

 

 地価の結界は神樹よりも強固なもので、神、心霊の力ではどうあがこうと傷一つ付けられない。

 

 滅びは、シェルター内の人間同士が殺し合いの末共倒れする以外になかったりする。

 

 そのせいで、半神半人(現人神)である俺も地下シェルターには転移装置なしでは入れない。

 

 その転移装置は地下シェルターに設置してある一機と王の財宝の中にしかない為、俺が死ねば神、心霊の類は入る方法が未来永劫無くなる。

 

 宛ら、現代に置けるノアの箱舟なのだ。船じゃないけど。

 

 そんなわけだから、速くシェルターに入りんしゃい。危ないゼ☆。

 

「嫌です! 皆で生きて帰るんです! 待っててください。今、救急車を呼びます!」

 

 スマホを出して電話をかけようとしている亜耶。

 

 この隠れ家に張っている結界には認識妨害も含まれている。俺の認めた人が先導しない限り、この家に辿り着ける者はいない。

 

 他にも、悪意に反応して悪意の元を消す術式も作動している。もし、そう言った類の輩がそいつらを人質にとって案内させるかもわからんからだ。

 

 特に風。樹を人質に取られれば従わざる終えない所があるし。

 

 俺はスマホで救急車を呼ぼうとしている亜耶の頭の上に門を開く。

 

 そこから落ちてきた黄金のおもちゃのハンマー。

 

 そのハンマーは重力に従い、亜耶の頭に当たり”ピコッ!”と気の抜ける音を立てる。

 

 亜耶がスマホを落とし、目を回しながら俺の上へと倒れる。

 

「も…みじ、さん」

 

「……許せ、とは言わん。恨んでくれて構わない」

 

 人型オートマトンを王の財宝から出して、亜耶を運ばせる。

 

 英霊ですら、受けたら一瞬であっても行動不能になるピコハンを受けたのだ。半日は何もできないだろう。

 

 

 

 決着の時が近い。

 

 千里眼……、世界を見据える目によって友奈たちが動き始めた。

 

 もう、俺の出しゃばるところはなさそうだが、千里眼による未来予知に不確定要素が多すぎる。所々乱れて見えないのだ。

 

 後は若いのに任せて、俺は眠り耽るには不穏すぎる。直感もこのままでは大変なことになることを告げてきている。

 

 猶予は…、無いか。

 

 結局、戻ってきた意味なかったな。

 

 

 

 

 はぁ、とため息がでる。

 

 この戦いの勝利を以て、神との訣別の儀とする…か。その神の中には無論、現人神である俺も含まれている。

 

 この戦いで死のうが生き残ろうが、俺があいつらに生きて会うことは無い。

 

 

 王の財宝の中にある時返りの秘薬を頭から被る。

 

 戦いに挑む前の肉体状態に強制的に戻される。

 

 精神消耗による気怠さを除けば、何ともない。

 

 

 もう一度、家の中を見渡す。

 

 

 ―――さよなら、皆元気でね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザシュッ!

 

 胸を中心に焼けるような熱が支配する。

 

 フラグなんて立てるもんじゃねーな、つーかタイミングが悪すぎる!

 

 何で、転移してきたところで敵の攻撃にあわにゃならんのよ。

 

 魔術を行使して、痛覚を遮断する。心臓を今の一撃で潰された。

 

 即死すぎて逆に生きている状態だ。

 

「「おっ、お兄ちゃん……」」

 

 樹はともかくとして、風が俺をお兄ちゃんと呼ぶのは久しぶりだ。思春期に入ってからは兄さんか兄貴と呼んいた。

 

 樹も家族だけになると俺のことをお兄ちゃんではなく、紅葉さんと呼ぶし。

 

 園子は、(俺が)嵌められて見合いをしてからは、俺のことを旦那様~♡と呼んでいる。旦那様の後に絶対に余計なものが付いているような気がするけど、気のせいと割り切る。(それまではお兄さんと呼んでいた)

 

 そんなどうでもいいことを考えていると、勇者部のメンバーが俺の名を叫びながら駆け寄ってくる。

 

「ハ! 気にするな、致命傷だ! それよりもお前らだ、ばかもの! 無事か! 無事だな! ならば良し!」

 

 絶対魔獣戦線での賢王の迷台詞(誤字に非ず)を口にする。

 

 戦線維持のため、治療に戻ることはできない。

 

「俺のことは気にせず、その心を示すのだ! お前らの一時の感情で千載一遇のチャンスを見過ごすのか! たわけが!」

 

 カリスマA+が猛威を振るう。

 

 既に魔術・呪いの領域まで達している命令に、此方に駆け寄ってきていた勇者部のメンバー達が足を止める。

 

「成すべきを成せ」

 

 潤んだ14の瞳がこちらを見た後、攻撃後、俺を警戒して距離を取った天の神の元へと勇者の力で飛んで行く。

 

 「必ず戻って来ます」と微かに聞こえた気がした。

 

 皆と入れ替わるように若葉ードが此方にやって来て、人であったころの姿へと戻る。勇者の章最終話の光のシルエットとして現れた姿ではなく、ちゃんとした人間の姿になって。

 

 俺に肩を貸してくれる。

 

 若葉は全盛期の時の姿で現われている。俺の身長は182cmで若葉との身長差は19cm。身長差で逆に少し辛いのだが…、黙っておこう。

 

 

バード(若葉)、俺を神樹の元へ運んでくれ」

 

「……良いんですか」

 

 その質問にどれだけの思いが込められているのだろうか。重苦しく響く。

 

 その問いに対して、俺は体を支えるために俺の脇腹へと回されている手に自分の手を添えるだけ。

 

 添えた手から、若葉の細くて柔らかい手の感触を確かめつつ、

 

「頼む」

 

 それだけを告げた。

 

 若葉は何も言わず、

 

 俺を小脇に抱えるようにして神樹への最短ルートを全力で走ってくれる。

 

 俺を抱えている若葉が微かに震えているのは、きっと気のせいでは無いだろう。

 

 

 辛い役目を押し付けてしまったな。

 こんなに小さな手に重すぎる荷物を持たせてしまったことに強い罪悪感を抱く。

 

 

 やはり、こいつらは俺と違って、敵を倒す勇者ではない。その良き心を世に示すために選ばれた。

 

 

 

 心眼(笑)でちらりと友奈たちを見る。

 

 

 

 

 幻想的な虚空の花が咲き誇る。

 

 原作と違って最初から戦いに参加していたから少し心配したが、ここからは原作通りに事が運ぶようだ。

 

 神樹は原作通り人を信じて、自らを供物として友奈に全ての力を委ねた。

 

 友奈の神威の力が花弁として虚空に舞う。

 

 これは一つの神話の終わり。

 

 傷つき、泣きわめきながら託された未来へのバトンを次の世代に渡すマラソンがここに終着する。

 

 

 

 

 そのクライマックスを前にし、頬が吊り上がる。

 

 全乗せ勇者パンチが天の神を捉える。

 

 天の神はその神殺しの力に恐怖を覚えたのだろう。必死に抵抗し、反らそうとしている。

 

 ―――そんなの、我が許すわけないだろう?

 

 ここで仕留めそこなえば、次は無い。

 

 宝物庫が開く。

 

 黄金の波紋が天の神の後方に展開され、そこから鎖が天の神を縛り上げる。

 

 天の鎖。

 

 どこかの世界にて創世神をも縛り付けた大偉業を成し遂げた粛清の英雄。その体の一部を宝物庫に入れて武具として使っている神聖を罰する粛清宝具(神造兵装)

 

 その真価が遺憾なく発揮される。

 

 天の遺児は死して尚、英雄王の支えとなり続ける。その友情を、絆を羨ましく思う。

 

 

 友奈のパンチが天の神を貫く。

 

 天を覆っていた曇天に大穴が開く。それと同時に耳を劈く大声が木霊する。

 

 その力の限りで天の神を縛っていた天の鎖の圧力(物理)により、天の神は御神体ごと粉々に砕かれた。

 

 曇天に亀裂が入り、硝子が割れるような音と共に、青空が顔を覗かせる。

 

 神と言う強靭な器にてコントロールされていた膨大力が、本来の姿である自然エネルギーへと還っていく。

 

 

 まぁ、その自然エネルギーは神樹に吸収されているけど。

 

 

 

 けちのつけようが無い、完膚なきまでの完全勝利だ。

 

 

 

 戦いが終わり、樹海化が解けずに色を失っていた世界に色彩が戻っていく光景に驚いているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ありがとう。そして、お疲れ様。おめでとう。友奈(愛の神)

 

 天の神との戦いにおける、ターニングポイントに必ず現れていた友奈(彼女)

 

 その宿命がここに幕を閉じた。

 

 もう誰も彼女(友奈)を倒す必要はなく、誰も彼女(友奈)()を背負う必要もなく、誰もこれ以上の助力・成果を彼女(友奈)に求める事はない。

 

 これより先の未来に友奈(愛の神)が現れることは二度とはない。

 

 

 

 

 

 

 

 体に伝わる振動が止まる。意識を目の前に戻す。

 

 

 綺麗な桜の花が咲き誇っている。

 

 

 ……もう、侮称として”神樹”と呼ぶのは止めよう。

 

 

 

 ()名は”重桜”。

 

 

 まだ、土地神の集合体と言われ、統合される前の真の姿()。天の神の子孫の邪馬台国を納めた女帝たる巫女、卑弥呼が先祖たる天の神の”御姿(みすかた)”として祀った日本のシンボルたる桜の原型。

 

 

 嘗て、全ての大陸が地続きだった頃より数多の命を見守り続けた母なる大樹よ。

 

 桜は「豊かさ」、「知性」、「覚悟」、「潔白」、そして「潔さ」と日本人の精神的美学(主柱)の象徴。

 

 今でも、日本人に強く根付いている風習。彼岸。

 

 古代の日本人は四季の節目を彼岸(死後の世界)とした。(因みに、現世のことを此岸と言う)

 

 その節目()を辛気臭い顔で居るよりも笑って終えよう(送り出そう)という日本人の精神性を体現した行事。

 

 それが、永い永い時を刻み人間の出会いと別れにも結び付いていく。

 

 古代の日本人は人生を花に例えた。

 

 元来、花見=花看であって、花を”見て”雅に耽るのではなく。花を”看取る”ことを指す。

 

 そう―――神の御姿たる桜。その誕生を祝い、死を看取る神事。それが、形だけで現代まで残ったのが”お花見”。

 

 日本人にとって桜は一番身近な満開()散華()なのだ。

 

 それを今生の別れとし、次の生でもまた会おうねと言う使い古されたお涙頂戴設定。

 

 約束の原型。

 

 契約や、制約の原型はあれど、約束の原型は王の財宝に入っていない。

 

 その楽しくも切ない宴の締めくくり(別れ言葉)は、確か―――

 

「花や、またね」

 

 最大限の敬意を以てこの言葉を口にする。

 

 これ程似合う今生の別れ(言葉)は無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはそれとして、逝く前に身包み剥ぐけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「若葉…、ありがとう」

 

 支えていた手をやんわりと、外し、自らの力だけで大地に立つ。

 

 もう二度とは味わえない感覚だ。忘れないように一歩一歩、何時もよりもほんの少し力ずよく踏みしめる。

 

 これが、この足跡だけが英雄王や英霊、この星の力を扱うものではなく、俺自身が俺だけの力で、この世界に残せる唯一の行為。

 

 生きた証。

 

 例え、次の瞬間にこの仮初の世界から消えるとしても。

 

 何かが落ちたような音が聞こえた。

 

 心眼(笑)で振り返らずに後ろを見る。

 

 若葉が涙を流し、唇を噛み切り、それでも瞳は反らすことはしていない。

 

 

 ならば、俺が歩みを止めて振り返ることはしてはならない。

 

 若葉はここまで自分の意思を捻じ曲げて、俺をこの場へと運んできた。

 

 歩みを止めること。それは、ここまで連れてきてくれた若葉への最大の侮辱だ。

 

 

 黄金の波紋から武器を取り出す。

 

 英雄王しか持ちえない究極の一。

 

 乖離剣エア。

 

 神の権能が形になったもの。と言うか、人格がないだけで神そのもの。

 

 星の原初を模る全能の権能。刀身は三つの円管に分かれていて、それぞれにビッグバンが起こる前の原初の星が入っている。

 

 最早古すぎてどの伝承に於いても名前すらない、原初の神であり、死の国の原型。

 

 真名開放は、ビッグバンにより生じた破壊エネルギーを刀身より放出して敵にぶつける。

 

 シンプル故、最強で最恐、そして頂点。

 

 全力で使うことは、この宇宙に定着した概念を含めて全てを破壊し白紙に戻すことと同義。

 

 それは勘弁してつかーさいと抑止力が全力で介入してくるので英雄王ですら宝具の疑似展開しかできないのだ。

 

 使えば、問答無用で敵は死ぬ。何をしようが敵は死ぬ。を体現した天の理verですら疑似展開でしかないのだから開いた顎が塞がらない。

 

 ありとあらゆる概念すらねじ伏せて喰らい尽くす一撃。アーサー王の持つ聖剣の鞘以外は防ぐことは愚か、凌ぐことすら不可能な代物。

 

 と言うか、概念を反射する概念とかズルすぎない?

 

 エアの力はこの宇宙のありとあらゆる概念に至るまで、全ての法則の指針になったもの。

 

 聖剣の鞘はこの宇宙とは全く”別の法則で成り立っている”のだ。それもこの宇宙で生まれながら。

 

 意味がわからない。

 

 まぁ、それでも6次元以降の攻撃は通るんだけどさ。それを考えると、世界最古の電脳端末であるムーンセルはバグの領域だ。

 

 攻撃から、防御に至るまで現段階で8次元まで可能であるらしいし。

 

 そのムーンセルですら、干渉できない領域に行く手段を持っている英雄王も大概だが……。

 

 

 ここから先は、英雄王であろうと、否、英雄王だからこそ行わなかった偉業(愚行)

 

 神代に見られる神の領域の奇跡。

 

 その最奥、死者蘇生。

 

 単純な死者蘇生では、人間の知性による物理法則に決定され定着した現代において抑止力が全力で介入してくるために行えない。

 

 しかし、何事においても抜け道と言う名の例外が存在する。

 

 英霊の受肉がこれに当たる。

 

 蘇らせる魂は精霊として、神樹の中にある。

 

 それを神樹から切り離せば問題は無い。

 

 宝物庫から御神木でできた人形を西暦時代の初代勇者全員+α分取り出す。当たり前であるが、神樹の中にいる全ての魂の器は用意できない。

 

 故に、俺の独断と偏見によるエコ贔屓全開で引き抜きを行いう。

 

 なぜ、主要メンバーたちだけなのかと言うと、犬吠埼家の隠し部屋にてそいつらの名義での通帳と印鑑、カードが大切に保管してあったから。(ついでに、それらが使えるようにしてきた。流石に入っていた金額まではそのままとはいかずに、俺の個人資産から同額まで入れ直したけど)所で、通帳の中に”犬吠埼友奈”と”弥勒蓮華”って知らない名前もちらほら見かけたんだけど、誰なんだ?

 

 後、初代勇者ので高嶋さんちの友奈さんの相棒の郡千景の名が無かった。代わりに”犬吠埼千景”と言う名ならばあった。

 

 気になって調べてみたんだけど、でてきたのは何冊かの勇者御記と初代勇者たちの集合写真。

 

 何故か作中出会うことのない白鳥歌野と巫女の藤森水都の姿、それに秋原雪花とか、小波蔵棗とか俺の知らない人物たちが写っている。

 

 因みに、犬吠埼友奈と弥勒蓮華って娘の写真は出てこなかった。犬吠埼友奈に関しては、仮にも大赦の御三家たる犬吠埼家の名を名乗っているんだから写真位残せよ! と、思わなくもないのだが、一枚も残っていない所を見るに養子なのか、大赦にとって都合の悪い内容なので隠蔽されたのか。

 

 絶対に後者だと思うけど。その娘たちの時代にオカルト集団の集団自殺があったらしいけど、なにか関係があるんじゃないだろうな。

 

 例えば、ゴミ処理させていた…とか。

 

 今考えてもしょうがないことなので、これ以上考えるのはやめよう。

 

 それにしても、である。

 

 もしかしなくても、犬吠埼家の初代様(千景)は転生者だよね? だいぶ原作ブレイクして改変しちゃってるし。

 

 でも、家系図遡ってくと千景の前に俺と同じ漢字で”紅葉”って記してあるんだよね。誰だよ、マジで。

 

 性別が載ってないんだよね。俺以外の男の勇者が居た記録は残ってないし。

 

 

 

 それはそれとして。

 

 

 

 取り敢えず、通帳残すくらい繋がりの強い人物なのだろうと、先祖の意を汲んで蘇らせるリストに入れた。

 

 この御神木であれば、人間程度の体なら全てにおいて再現できる。

 

 後は、魂を入れれば勝手に馴染んで人間になる。

 

 

 

 乖離剣を神樹にぶっ刺して真名を解放する。乖離剣の間違った使い方である。

 

 何か、神樹の中の神たちが消滅を逃れるため挙って来たので、容赦なくエアで消し飛ばす。

 

 全知なるや全能の星(シャ・ナクパ・イルム)で確認をしつつ神は容赦なく消し飛ばす。さりげなく人形に入ろうとしていた神がエアの余波に当たって消滅する。

 

 ざまぁ。

 

 

 

 前代未聞の愚行を行いながら、俺は想いを馳せる。

 

 これまでの旅と、これからの旅を。

 

 自分がいた今まで(エピローグ)と、もう自分のいない、未来の夢(プロローグ)を。

 

 

 

 

 

 

 お目当ての魂たちを無事に回収し、人形に入れる。

 

 木でできた人形が人間の肌の色と、生命活動の証である呼吸が始まる。

 

 体は用意できたけど、着る服までは用意できなかった。

 

 それは流石に勘弁してほしい。

 

 俺は福眼以外の何物でもないけど。蘇りの料金と納得して頂こう。

 

 

 人形が一つだけ残っている。

 

 

 神樹を神樹たらしめる神々は消滅し、本来の姿である重桜へと戻った。

 

 

 俺の作った通帳、何故か一つ多く作っていた。俺自身は作った覚えはなかったんだが、間違いなく俺が終活の一環として作ったもの。

 

 自然と口が吊り上がる。

 

 どうやら運命は重桜を見捨てることをしないようだ。

 

 星の思惑通りに動くのは癪だが、散々滅茶苦茶をさせてもらった手前、最後位はその意に沿ってやるのも良いだろう。

 

 だが、ただその意思に従うのはむかつくのでちょっとした小細工はさせてもらう。

 

 天の鎖で重桜の核を縛る。

 

 そこにエアを向ける。

 

 

 ―――もう、これより先。神の力は必要ない。

 

 

 権能を削ぎ落す。

 

 重桜を神たらしめている力を削ぎ落す。

 

 世界を見据えている神の目の能力を奪う。

 

 世界との楔を破壊する。

 

 

 

 神樹の中に繋ぎ止められていた力がなくなったことで、そこにある魂たちが本来還るべき場所へと向かって旅立つ。

 

 良かった…、何とか全ての工程を神樹消滅前にやり終えた。

 

 

「な…ん、で?」

 

 その問いには答えない。

 

 流石は元神なだけある。他の皆よりも速く器に馴染んだようだ。

 

「門出祝いだ。”出雲神奈”と名乗るが良い」

 

 重桜の核たる女神は、神としての名は持ち合わせているが人としての名は無い。

 

 神格を失った少女に最早神の名は必要ない。

 

 重桜ではなく、神話にて、在り方を歪められた愛の神(■■■■)ではなく。友奈でもなく―――

 

 人として今ここに誕生した無垢なる少女に最初の指標を示す(名を与える)

 

 しかし、()()とは少し皮肉すぎたかと思うが、いいや。

 

 名のるか、名のらないかは彼女が決めることだ。

 

 力が抜け、崩れ落ちる。

 

 流石に限界らしい。

 

 それを神奈が抱きしめる形で、支える。

 

 唇に軽い衝撃が伝わる。

 

 驚いたが、それに抵抗する力はもう残っていない。

 

 何気に、ファーストキスだ。

 

 ファーストキスは涙を流す友奈と同じ顔の美少女。まぁ、悪い終わりではないかな。少女は全裸であることには目を瞑ろう。

 

 と言うか、神話に名高い女神として、女からそう言う行為に行くのは御法度じゃないの? 貴女、それで子供亡くしてますけど。

 

 あ、舌が入ってきた。

 

 どうでもいいが、胸部が美森並みだと記しておく。

 

 唇が離れると、抱きしめる力が更に強くなる。

 

 

 ―――おやすみなさい。

 

 

 少なからず感じていた死の恐怖が無くなる。

 

 心に響く優しい声音に答えるようにゆっくりと瞳を閉じ、永遠の眠りにつく。 




Q青い烏の正体

A皆大好き若バード。本来若葉一人だけだが若葉とひなたはセットだろうと言う作者の偏見により比翼の鳥として登場。比翼の鳥とか言いつつ、人間になって、主人公を支える役目をひなたハブってやってるとか言わない。後、比翼の鳥は仲睦まじい男女の夫婦を指す言葉だとかツッコミは受け付けないから。
 元ネタは日本神話で天皇の祖先を道案内した天の御遣いなので、実質天の神のパシリなのだが、ゆゆゆでは主人公たちを見守り導く立場をとっていたりする。調べてわかったときにパシリに嫌気がさして下剋上と思った作者は悪くない。



Qユウキにルビでひなたって書いてあるけどなんでなん?

A上里ひなたが、主人公が転生前の世界で見ていたSAOに登場した絶剣のユウキに似ているから。




Q主人公愛がわからんとか中二病?

A主人公は転生前、いじめにあっていた(主人公がいじめと認識していない)ため、他人に好意を寄せられることはまずないと童貞以外にも色々と拗らせている。転生後、千里眼と言う一種の神の目線を手に入れたことでその思考に拍車がかかりまくった。因みに転生前の人生に於いて、主人公は女顔で男子としては身長が低かったが、
同年代の少女から見れば高身長でスレンダーに見えたことと、なよなよして仕草が女よりも女らしく、男子に受けが良く嫉妬の対象となったことから、主に女からのいじめ対象になっていた。(悪口を言われる程度)




Q花見って…、あの花見?

Aどの花見かは知らんけど、春に咲き誇る桜を眺めるやつで合ってる



Q千景って転生者なん?

A主人公の勘違い



Q愛の神(友奈)と重桜って何?

A日本神話にて登場する女神。ネームバリューだけは凄いけど、結局なんの神なのかわかりずらい一柱。重桜は卑弥呼が先祖である天の神の御姿として祀っていたが、実際は天の神の親に当たるらしい。
 重桜=重ね桜。この場合、”重ね”とは、時間のことを指す。決して八重桜ではない。永い時を重ね(生き)た桜のことで、種類では無く桜の木の原型。そこ! アズールレーンとか言わない!
 どうでもいい補足として、桜は全て女性らしい美しさを示す美辞麗句として使われる。



Q”花や、またね”って?

A格好付けた別れ文句。花見の席で使われるらしい。本来の意味に習うなら「来世で会おう」になるんだが、文字通り言わぬが「花」だろう


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