エスパー少年とオカルト少女 (リョーマ(S))
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エピソード 0
始まりの話


 

 

 

 ホウエン地方トクサネシティ。本島から少し離れた平坦な島にポツンとある街だが、宇宙センターがあるお陰か、けっこう都会の街だ。ジムもあるため、ポケモントレーナーの往来も多い。

 そのジムがエスパータイプを専門にしているためか、この街に住む人達も、心なしかエスパータイプのポケモンを持つ人が多い気がする。

 ウチの家族もそうだ。母さんはサーナイトとエーフィを持っているし、父さんもチャーレムを持ってる。爺ちゃんなんて本人そのものが“サイキッカー”で、手持ちすべてがエスパータイプのポケモンだ。

 まったく迷惑この上ない……。

 この世界で、サイキッカー、いわゆる超能力を持つ人間は、そう珍しくない。トクサネジムのトレーナーにも超能力を持つエスパータイプ使いのトレーナーが何人かいると聞く。

 俺、カズヤもそうだ。爺ちゃん譲りなのか、俺自身も超能力を持っている。具体的にはテレキネシスとマインドコントロールとかだ。赤ん坊の頃は見境なく物を動かしたりして、母さん達も(主に爺ちゃんが)手をやいたみたいだが、自我がしっかりし始めた時を境に、コントロールできるようになった。いまではレベルの低いエスパータイプのポケモン並みに超能力を使えるようになった。

 だが、その影響なのか、あるいは代償というのか、現在の年齢が7歳にも関わらず、精神年齢はそれ以上にまで成長してしまった。これが良いことなのか悪いことなのかは分からないが、とりあえずポジティブに受け止めて「皆より少し早く大人になれた」と考えてる。

 

 

 

 そんな少し大人びたサイキッカーの俺、カズヤ。今日は手持ちのラルトスと一緒に、公園へ遊びに来ている。ちなみに、このラルトスは今年の誕生日に母さんがくれたポケモンだ。母さんのサーナイトの子供というわけではないけど、まだ小さな子供のラルトスだ。最近【ねんりき】を覚えたばかりで、自分のモンスターボールを使って俺とキャッチボールをするのがマイブームらしい。

 

「いくよー、ラルトス」

「ラルぅ!」

 

 俺も自身のテレキネシスを使ってラルトスにモンスターボールを渡す。ラルトスは【ねんりき】で飛んできたモンスターボールをキャッチすると、「ラルぅ、ラルぅ」と鳴きながら、自身の周りをゆらゆらと浮遊させる。

 まだ少し安定して浮かせることに慣れていないみたい。

 

「大丈夫?」

「ラル!」

 

 手元はおぼつかないが、ラルトスは『うん!』とはっきりとした返事をする。やがてモンスターボールが一点に固定して浮遊するようになると、ラルトスが胸を張るポーズを取ってこっちに顔を向けた。

 

「ラル!」

「はははっ。うん、うまいうまい。上手になったね」

「ラールー!」

 

 ほめられて嬉しいらしく、ラルトスは明るい声で鳴いた。そして今度は、ラルトスが【ねんりき】で浮いたモンスターボールを俺の方へ飛ばす。俺はその飛んでくるボールに手をかざすようにして、テレキネシスでコントロールするよう意識を飛ばした。

 ラルトスの念力のコントロールから外れたボールは、今度は俺の放つ念にコントロールされ、宙に浮く。ラルトスが【ねんりき】で浮かせたモンスターボールは上下をしっかりと固定して浮遊するが、俺のテレキネシスで浮いたモンスターボールは、まるで無重力中にあるみたいに浮遊している。同じ超能力でも、ポケモンと人間とでは微妙に何かが違うらしい。

 俺はジャグリングのように自身の周りにボールを浮遊させた後、再度ラルトスに渡した。すると今度はラルトスが俺の真似をして、ジャグリングのようにボールを操った後、ボールを返す。

 そんな不思議なキャッチボールをしばらくした後、やがて俺は自身の手で、飛んできたモンスターボールを掴んだ。

 

「……ラルトス」

「ラル?」

 

 『なに?』と訊くように、ラルトスは顔を傾けた。

 

「ごめん、ちょっと休憩。疲れた」

「ラールー」

 

 額から出てきた汗をぬぐい、俺はモンスターボールを懐に仕舞った。ラルトスはもうちょっとやりたかったらしく少し不満げだ。

 サイキッカーといっても流石に精神力はエスパーポケモンにはかなわない。

 大人になれば少しは長く使えるようになるかな?

 

「ラルラルぅ」

「ん?」

「ラルラぁ、ラルラルぅ」

「うん。良いけど、公園からは出ないでね」

 

 ラルトスは「ラルぅ!」と元気に返事をすると、中央にある噴水がある水場へ駆け出した。

 どうやら、まだ遊び足りないらしい。

 

「……ふぅぅ」

 

 水場の水をバシャバシャやっているラルトスを確認して、俺は辺りに休める場所がないか探した。

 すると、近くにベンチが3つ並んでいた。右端のベンチには身なりの良い老夫婦が座っており、仲良くおしゃべりしている。左端のベンチにはケッキングがぐったりと寝そべって昼寝をしていた。

 そして、中央のベンチには女の子が一人ポツンと座っている。女の子は全身真っ黒な服で少しボッサリとした髪をしていた。少し暗い雰囲気ではあるが、別にイヤな感じはしない。

 俺は、女の子が座っているベンチの空いている部分に座ろうと、足を進めた。

 

「……あの」

 

 俺が声をかけると女の子はピクッと反応して、こっちに目を向けた。目を向けたといっても、目元が前髪で隠れているため、目が合っているかは分からない。

 

「そこ、座ってもいいかな?」

「……ぁ……ん」

 

 なにかあたふたとしているようだが、やがて女の子はコクっと頷いた。

 

「ありがとう」

 

 お礼を言うと俺は女の子の横に腰かけた。ベンチは子供の俺にとっては少し大きく、脚が少しぷらーんとしてしまう。

 

「はぁぁ」

 

 俺はベンチにもたれてラルトスを見た。ラルトスは水場にいたアメタマやウパーと一緒に楽しく遊んでいた。

 

「………」

「…………ん?」

 

 そうやって、しばらくポケモンたちの様子を眺めていると、ふと横にいる女の子がチラチラとこっちを見ているのに気づいた。

 俺は女の子に目を向けるが、すると女の子はすぐに顔をそらした。

 なんだろうと不思議に思いながら俺は前を向く。だが、また少しすると女の子はチラチラとこっちを見始めた。

 

「……えっと、なにかな?」

 

 その視線に耐えかねた俺は、女の子を見ながら首を傾ける。

 

「ん……」

「うん」

「……ぃ」

「う、うん?」

 

 なにかを言いたいってことはひしひしと伝わってくるが、女の子は小さな声を洩らせど一向に言葉を口にしない。

 

「………」

「………」

 

 言葉が出るのを待っていると、最終的に女の子は黙ってしまった。

 どうしたものかと軽く頭を抱えた末、俺は仕方ないと思いながら、自身の超能力を頼ることにした。

 ホントはやりたくないが、仕方ない。

 俺は俯いている女の子を見ながら、彼女の頭の中を探ろうと意識を飛ばす。

 すると、俺の頭の中に彼女の意識が流れ込んできた。

 

(どうしようどうしようどうしよう黙っちゃった。ひょっとして怒らせた? 私のせい? やっぱり知らない人をジロジロ見るのは失礼だった。早く謝った方が……でもでも今ここで私が謝ったらかえって変……うぅぅ……というより、そもそもこれって私が悪いのかな? 確かにこんな雰囲気になったのは、私がジロジロ見ちゃったのが原因だけど……でも、いきなり知らない男の子が横に座ったら誰だって見ちゃうものだし……うん、そう。だから私は悪くない……あーでも、だからってこのままじゃ、ずっと気まずいままだし……うぇーん、助けてヒトモシぃ!)

 

「………」

 

 静かな様子とは逆に、内面はかなり騒がしかった。

 よく見たら顔も少し赤いし……まぁ、典型的な人見知りさんだ。

 あと、ヒトモシって誰だろ?

 

「……えーっと、その、ごめんね。邪魔だったかな?」

「ぇ……!」

 

 俺は頭の中を探るのをやめ、女の子に話しかけた。

 

「ひょっとして、実は友達がここに座ってたけど、言えなくて『うん』っていちゃった、とか?」

「………」

 

 女の子は無言でゆっくりと首を横に振った。

 

「そ……」

「……うん」

「ち、が……」

「……うん」

 

 女の子が一生懸命なにかを伝えようとしているのは分かるんだけど、残念ながら、どれも言葉になっていない。

 

「モシ!」

「うわぁ!」

 

 もう一度頭の中を探ってしまおうか、と悩んでいると、突然、俺と女の子の間に陰が過った。

 

「モシモシー!」

「このポケモンは……?」

 

 鳴き声を聴いて視線を下ろすと、一匹のポケモンがいた。短くて大きい蝋燭のような形をしている。

 そのポケモンは俺と女の子の間のベンチの上に立って、俺をジーっと見ていた。

 

「えへっ」

 

 そして突然、俺と同じくポケモンを見た女の子が、声を出してニヤリと笑った。

 

「えへへへへっ……この子、私のヒトモシ……」

 

 女の子は笑いながら、そのポケモン、ヒトモシを両手で抱え上げる。さっきの言葉が出てこなかった態度はどこへ行ったのか、女の子が口にした言葉はハッキリとしたものだった。

 急に態度が変わったことに少し驚いた俺だけど、今なら普通にお話ができるかもしれないと、考えを切り替えた。

 

「へぇ、ヒトモシっていうんだ。初めて見たなぁ」

「この子と私、カロスから来た。ヒトモシはホウエン地方(こっち)にはいないから当然」

「そうなんだ。そのヒトモシは君のポケモン?」

「うん、こっちに来る前にイッシュにいるお婆ちゃんからもらった。えへへっ」

「そうなんだ」

 

 女の子はニヤニヤ笑いながら、ヒトモシをぎゅっと抱いた。

 

「そういえば君、名前は?」

「……ヒトミ」

「そっか。俺はカズヤ。よろしくね、ヒトミ」

「……うん。えへへへっ」

 

 ヒトミは、またニヤリと笑った。奇妙とまでは言わないが、なんというか、独特だ。少し変わってる……俺が言ってはいけないな。

 

「……あなたは?」

「ん?」

「あなたの、ポケモンは、いないの?」

「ううん、いるよ。ほら、あそこ」

 

 俺は「ラルトスー!」と、水場で遊んでいたラルトスに声をかけて、ラルトスを呼び戻した。

 自分が呼ばれたことに気づいたラルトスは、よちよちと俺の元まで走ってくる。足元まで来てくれたラルトスを、俺はヒトミと同じように抱き上げた。

 

「ラル?」

 

 『だれ?』とラルトスはヒトミを見ながら顔を傾けた。

 

「かわいい子。はじめて見た」

「そうなんだ。このトクサネシティではそんなに珍しくないって聞くけどね」

「……でも、ゴーストタイプじゃなさそう」

「うん、ラルトスはエスパータイプとフェアリータイプだよ」

「……残念」

「あははは……」

 

 ラルトスの姿を一通り観察しきったヒトミは、抱き上げていたヒトモシを地面に下ろした。

 合わせて俺もラルトスを地面に下ろす。

 

「モシ!」

「ラル! ラルラルラー!」

 

 揃って地面に足をつけて早々、ヒトモシはラルトスに声をかけた。いきなり近づいてきたヒトモシにビックリしたラルトスは、慌てて俺の背後に逃げ隠れる。そして、足元から顔を出すようにしてヒトモシの様子をうかがった。

 後で気づいたことだが、ラルトスにとってゴーストタイプはかなり相性が悪い。

 俺は怖がるラルトスをなだめつつ、ゆっくりとヒトモシの前にやった。ヒトモシに敵意が無いことが分かると、やがてラルトスは自分からゆっくりと前に出て、ヒトモシとコミュニケーションをはかりに行く。

 

「ラルぅ……ラルラル!」

「モシモシ!」

 

 俺とヒトミはその様子をそばで眺めていた。やがて、ラルトスとヒトモシは互いにじゃれあいだし、仲良く遊びだした。

 

「ヒトミはゴーストタイプのポケモンが好きなの?」

「うん、大好き。えへへへへっ」

 

 本当に大好きなんだろう。今までに無いくらいニヤけてヒトミは笑った。

 

「……あなたは、どう?」

「うーん……ウチってエスパータイプな家系だから、ゴーストタイプはあんまり……」

「そう……」

「あぁー、だからって嫌いってわけじゃないから!」

 

 見るからにどんよりとして肩を落とすヒトミに、焦りを覚えた俺は、慌てて言葉を返す。

 

「え、えっと、その……ゴーストタイプにも好きなポケモンはいるっていうか……あっ、ほら、カゲボウズとか、かわいいよね!」

「……うん、カゲボウズは良いポケモン」

「だ、だよねぇ。あはは……」

 

 カゲボウズという名前を聞いた途端、陰気な空気が散ってヒトミは、またニヤリとした笑みを取り戻した。

 

「うん。進化したジュペッタが可愛い。えへへっ」

「ポイントはそこなんだ……あはは」

 

 ヒトミのニヤニヤ笑いに合わせるように俺は口を引きつらせて苦笑いした。

 

 

 

 それからしばらく、俺とヒトミはおしゃべりを続けた。

 お互いの好きな食べ物やポケモン、将来なりたいものや行ってみたい場所、俺がサイキッカーであること、ヒトミが少しだけ霊能力が使えることなど、色々なことをたくさん話した。

 ヒトミとの会話は楽しくて、気がついたら辺りはオレンジ色に染まり、公園の木の上には夕日がのっていた。

 

「日が暮れてきたね。そろそろ帰らないと」

「……うん」

 

 俺とヒトミはポケモン達を連れて公園の入口まで一緒に歩き、外で足を止める。別れ際、ヒトミは不安そうに顔をうつむかせ、俺の方へ眼を向けた。

 

「……また、会える?」

「もちろん。また明日も遊ぼうよ」

「……うん! えへっ、えへへへへっ」

 

 コクッと大きく頷いて、ヒトミは笑った。独特な笑い方はそのままに、その笑顔は今までにないほど明るかった。

 

「ラルラル!」

「モシモシ!」

 

 お互いのポケモン達も、俺たちの足元で『また遊ぼう!』とハイタッチをした。

 

「じゃあ、またね!」

「うん。また明日」

 

 俺たちは手を振って別れを告げ、俺はラルトスと共に、ヒトミはヒトモシと共に、それぞれ帰路についた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ホウエン地方トクサネシティ出身、サイキッカー少年のカズヤ。

 その仲間のポケモン、ラルトス。

 

 カロス地方出身、オカルトマニア少女のヒトミ。

 その仲間のポケモン、ヒトモシ。

 

 やがて、二人はそれぞれの夢を叶えるため、旅に出る。

 これは、その始まりの物語である。

 

 

 

 






アベンジャーズ エンドゲームと名探偵ピカチュウを見たら、なんか思いつきまして、暇つぶしに書いたら意外にも書き切ってしまった。

リクエストが多ければ続く……かも?



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これからの話

 

 

 

 カロス地方出身のヒトミ。

 ホウエン地方トクサネシティに引っ越してきた彼女は、ゴーストポケモンとオカルトが大好きな女の子だ。

 そんな彼女が、いま一番気になっているのは……。

 

 

 

 ***

 

 

 

 

「ラルー」

「ん、なに?」

「ラルラル、ラルラルラー!」

「えっ、ホント?」

「ラル、ラルぅー……」

 

 『いくよー』と張り切るラルトスに、俺は期待のこもった眼差しを向けた。

 

「ラル!」

「おぉ!」

 

 ラルトスが一鳴きすると、突如、その横にラルトスの分身が現れた。俺は驚いて目を大きくする。形や大きさ、色合いなど、分身体の姿はラルトスの本体と全く見分けがつかない。

 本人が教えてくれたとおり、ラルトスは【かげぶんしん】を覚えたみたいだ。

 

「やったねラルトス!」

「「ラルー!」」

 

 分身と一緒にラルトスは胸を張った。

 

「ラル、ラルラー」

「えっ?」

「ラル!」

「おぉー!」

 

 また鳴き声を上げると、分身が増え、もう2体ラルトスの分身体が目の前に現れた。

 

『『ラルラールー?』』

 

 計4体のラルトスは一列になり、声を合わせて『どれが本物でしょう?』と楽しげに訊いてきた。

 

「あはは。えぇーと……これ」

「ラル!」

 

 4匹のラルトスを流れるように見た後、俺は一番右にいたラルトスを指さした。

 ラルトスは驚いて、思わず鳴き声を洩らす。それと同時に、分身体だったと思われる3体のラルトスが姿を消した。

 残ったのは当然、俺が指で示した本物のラルトスだけだ。

 

「ラルー、ラルラールラル?」

「そんなの見たらすぐに分かるよ」

「ラールー?」

 

 『どうして分かったの?』と少しあたふたした様子で訊ねるラルトスが、なんだか可笑しくて、自然と笑みがこぼれた。

 

「だってラルトスの感情が伝わってきたの、一人だけだったもん」

「ラルラー、ラールー!」

 

 ラルトスの額に指をのせて理由を教えると、ラルトスは『そんなのズルいー!』と、むくれた表情になった。

 

「あははは。少し大人げなかったかな?」

「ラルッ!」

 

 腰に手を当てて怒ったポーズで、ラルトスは『そう!』と大きく鳴いた。

 ……ごめんね?

 

 

 

 

 とある平日の昼間。サイキッカー少年こと俺、カズヤは、特に何をするでもなく、自身の家でラルトスと共に、まったりしていた。

 年齢もそろそろ10歳になろうとしており、トレーナーとして旅立つ日も近い。

 もちろん、狙うはポケモンリーグ制覇だ。トレーナーになるからには、やっぱりチャンピオンに勝ってリーグに名前を残したい。(殿堂入りともいう)

 だから、こんな風にまったりできるのも、あと数ヶ月程度のことだ。今はこのほのぼのとした時間を大切にしておきたい。

 

「カズヤー!」

「ん?」

 

 優しく頭を撫でながら、ラルトスのご機嫌を取っていると、ふと部屋の外から母さんの声が聞こえた。

 

「なにー、母さん」

「ヒトミちゃんが来てるわよー!」

 

 ヒトミが?

 

「なんだろう……。行こう、ラルトス」

「ラル!」

 

 突然の訪問に、俺は疑問を感じながら部屋を出た。

 急いで玄関の戸をあげると、そこにはヒトモシを連れた、暗い紫色の服を着た女の子が一人立っていた。

 ボサボサの長い髪が腰辺りまで伸びていて、初めて会ったときは目元まで伸びていた前髪は、今ではきちんと整えられ、彼女のパッチリとした大きな眼がはっきり見えるようになっている。

 

「こんにちは、ヒトミ」

「うん、こんにちは。カズヤ」

 

 俺が玄関から顔を出すと、ヒトミはニヤリと、その独特な笑みを強めた。

 ヒトミとは初めて会ってから、もうかれこれ2年くらい、ずっと一緒にいる。人見知りな彼女は、はじめは俺とも慣れない言葉で話していたが、毎日遊んだり出掛けたりしているうちに、自然に(素で)話してくれるようになった。

 

「えへへっ!」

「モシモシ!」

 

 ヒトミの足元でヒトモシが笑いながら飛び跳ねる。

 

「ラルー!」

「モシー!」

 

 俺の足元でラルトスが手を振ると、ヒトモシも手を振って応えてくれた。頭上にある青紫の火がゆらゆらと揺れる。

 ラルトスとヒトモシも、俺とヒトミと同じくらい一緒に時間を共にしてきた。タイプの相性が悪いことなど、もはや些細な問題だ。

 

「どうしたのヒトミ、今日は調べものがあるから遊べないって言ってなかった?」

「えぇ。それについてなんだけど、ちょっとカズヤに手伝ってほしくて……」

「俺に?」

 

 ヒトミは、かなりのオカルト好きだ。ゴーストポケモンの次くらいに、怖い話や都市伝説、大昔の神話、ホラースポットや古代の遺跡といったオカルトに関するものが大好きだ。よくそれらについて調べてるみたいだし、古本に書かれた伝承や占いを実験・検証したりもする。

 この前も、奇妙な言い伝えがあるとかで、宇宙センターの近くにある“白い岩”を二人で調べに行った。

 結局なんにも無かったけど……。

 

「別に手伝うのは良いけど、なにするの?」

「……これよ」

 

 そういって、ヒトミは肩にかけていたバックから一冊の本を取り出した。その本は所々傷んでいて、見るからに年季が入っていることが分かる。

 

「ここにヒトモシを使った、とても興味深い“おまじない”が書かれていたの。その確認に付き合ってほしくて」

「おまじない?」

 

 おまじないか……。

 ポケモンの技に【おまじない】ってあるけど、それじゃないよね。普通おまじないってひとりでやるイメージがあるけど、二人でやるおまじないって、なんだろう?

 

「分かった。どうすれば良い?」

「ありがとう。それじゃあ、まずはね……」

「おぉー、これはこれは!」

 

 ヒトミがなにか言おうとした途端、しわがれた声が遮った。声がした方に眼を向けると、そこには甚平のような灰色の服を着た老人と頭にピンク色の大きな真珠をのせたポケモンがいた。

 

「カズヤの友達か?」

「爺ちゃん、おかえり。バネブーも」

「バネブー!」

 

 バネブーは自身のバネのようなしっぽを使って大きく弾んだ。

 やって来たのは、散歩から帰って来たウチの爺ちゃんとバネブーだった。バネブーは爺ちゃんの手持ちだ。歩き回るのが好きで、よく爺ちゃんの散歩について行っている。

 

「それとも彼女かの?」

「ふぇッ…………うぅぅ」

 

 爺ちゃんが変なことを言ったせいで、ヒトミはうつむき、だんまりとしてしまった。前髪が垂れ、目元が隠れてしまっている。

 俺と気軽に話してくれるようになったヒトミだが、だからといって人見知りがなおったわけではない。ヒトミの家族や俺以外と話すときは、極端に口数が少なくなってしまう。こんな変なことを言われたら、なおさらだ。

 

「この子はヒトミ。前に話したでしょ?」

「あー、君が例のヒトミちゃんか……。はじめまして、カズヤの爺ちゃんじゃ」

「……ど、どうも、はじめ、まして」

 

 ヒトミは小さな声で返し、ペコリと頭を下げた。

 

「おや? カズヤが言うには、素直で元気な可愛い女の子と聞いておったんじゃが……人見知りさんなのかのぉ、ヒトミちゃんだけに」

「なっ!」

「爺ちゃん!」

 

 また爺ちゃんが誤解を与えかねないこと(加えてくだらないギャグ)を口走ったので、俺は声を上げて爺ちゃんを睨んだ。

 いや、『素直で元気な可愛い女の子』って言ったのは本当だけどさ……。

 

「……カズヤ、が、わたしを、かわ、いい……って……わ、たし……が、かわいぃ?」

 

 ヒトミは口をぱくぱくと開け、なにやら呟いている。

 何を言っているか気になったが、声が小さくてまったく聞き取れない。

 

「ワッハッハ。若い二人の邪魔をしてはいかんな。行こうバネブー」

「ブー!」

 

 爺ちゃんは大声で笑いながらバネブーと一緒に家の中に入っていった。

 

「たくもう……ごめんね。ウチの爺ちゃんが」

「……別に、平気」

 

 爺ちゃんがいなくなって、ヒトミの口調が元に戻った。うつむいていた顔も前を向き、お互いに眼と眼が合っているのが分かる。

 まだ、ほんのり顔が赤いのが少し気になるけど……大丈夫かな?

 

「それより行こう。ここじゃあ邪魔になるから、いつもの場所で!」

「う、うん、分かったよ」

 

 すごい早口で話すヒトミに、俺は反射的に応えて後を追った。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ヒトミが向かった先は、ヒトミと初めて会った公園だった。

 

「それで何すればいい? ヒトモシを使ったおまじないって聞いたけど……」

「うん、ちょっと待って」

 

 ヒトミはさっき見せてくれた古い本を開き、ペラペラとページをめくる。

 

「古代よりヒトモシやシャンデラの火、あとゴーストポケモンの【おにび】は、様々な儀式に使われたと言われているの」

 

 ページをめくりながらニヤリと笑うヒトミのその姿は、かわいくもあるが、少し不気味だ。

 あと、これは昔からのクセで、本人は全然気づいてないみたいだが、オカルトの話をしている時のヒトミは、少し口調が強くなる。

 

「儀式って? 雨乞いとか?」

「それもあるけど、よくあるのは呪いの儀式ね。古代の戦争では、呪いで相手の君主を殺すことも少なくなかったらしいから……」

「……前から思ってたけど、ヒトミってサラッと怖いこと言うよね?」

 

 しかも、ニヤッと笑いながら……。

 もう慣れたから良いけどね。

 

「でも安心して。今からやるのは、人を呪い殺したりする類いのものじゃないから」

「……あぁ、うん、それなら安心だ」

 

 安心……していいのかな?

 

「ふふふっ。今からやるのは……そうね、言うなれば『厄除けのおまじない』よ」

 

 ヒトミはページをめくる手を止め、最終確認といった感じで開いたページを軽く流し読みした。

 読み終えると「よし、不備はないわ」と言ってパタンと本を閉じ、手招きしてヒトモシを自身の近くに呼ぶ。

 

「ヒトモシの火は、ヒトカゲのしっぽの火とかと違って、周りにいる生き物の生命力を吸い取って燃えていると言われているの」

 

 またサラッと怖いことを……。

 

「……そうなの?」

「モシモシー」

 

 俺が顔を向けて訊ねると、ヒトミのヒトモシは『そうらしいぞ』と笑いながら応えた。その頭にはいつもと変わらず、青紫の火が灯っている。

 どうやら本人(ヒトじゃないけど)には自覚がないらしい。

 

「えぇ。だからヒトモシの火は、触っても火傷したりしないわ」

 

 ヒトミはその場でしゃがみ込み、ヒトモシの火に触れるように頭を撫でながら「えへへっ」と笑った。

 いつも見ている光景だが、改めて見ると少し異様、いや、不思議な光景だ。

 ……可愛いんだけどね?

 やがてヒトミはヒトモシの頭から手を離し、撫でた手を「ほらね」と俺に見せる。その手は火傷することもなく、相変わらず、ほっそりとした白い手のままだ。

 火傷しないのは良いけど、大丈夫なの?

 血行が悪くなったりしてない?

 

「大昔の人たちは、こういうゴーストポケモン達が出す火に神秘を感じて、儀式や祭事に用いてきたの。一説には、その火の中に身を置いて霊界への扉を開いていたという話もあるわ」

「……うへぇ」

 

 “身を置いて”って、生け贄のことじゃないよね?

 そう考えた俺は、思わず顔を歪ませた。

 

「この本にはヒトモシの火を使って災いを払う方法が書かれてたわ。ある霊能力者は、この方法で人やポケモンに憑いた悪いゴーストポケモンや幽霊を払っていたらしいの」

「へぇ、それはスゴい……」

 

 スゴいけど、ゴーストポケモンって人にとり憑くの?

 あっ、でもゲンガーとか人の影に潜むとかいうし、無くはないか……。

 幽霊は……。

 …………ちょっと、よく分からない。というか知りたくない。

 というのも、前にヒトミと一緒に『あなたは違う……』ってタイトルのホラー映画を見てからというもの、俺は幽霊に関する話が、ちょっと……いや正直、かなり苦手になった。

 ヒトミが言うには、現実に幽霊は確かに存在していて、場合によっては周りに影響を与えてくるらしいけど……。

 ホント、勘弁してほしいなぁ。

 

「ちなみに、これをすれば一時的に霊界に行くこともできるって話もあるわ」

「そうなんだ。なんだか怖いから、できればそれは遠慮したいなぁ。あははは」

「そう? 私としてはこっちの話の方がとても興味があるけど……」

 

 ヒトミはニヤリと笑いながら、本を仕舞った。

 

「それじゃあ早速、やってみましょう」

「お、おぉー」

「ラルー」

「モシー」

 

 ヒトミに応えるように、俺、ラルトス、ヒトモシは揃って腕を上げる。

 

「それで、具体的に何をするの?」

「そんなに大したことはしないわ。“身体の一部”をヒトモシの火で燃やすだけだから」

「えっ……!」

「今回は髪の毛でやってみようと思うわ」

 

 あ、あぁ、良かった。それなら大丈夫……。

 

「……はぁ、ビックリした」

「ひょっとしてカズヤ、私が腕や足を燃やそうとでも考えてると思った?」

「えっ、あ、えーと……あははは」

 

 ヒトミは目を細め、疑うような眼でジトーっと俺を睨む。

 その眼と合わせないように顔をそらしながら、俺は苦笑いした。

 やがて、ヒトミの放つオーラに負け、俺は申し訳ないと顔をうつむかせた。

 

「そ、その、ちょっとだけ……」

「むぅ、そんなことしないわよ!」

 

 まぁ、その、別に本気でそう思ったんじゃないよ。

 でも、今までしてきた話が話だったし……。

 

「“身体の一部を燃やす”っていうのは、ヒトモシに目に見える形で生命力を与えるってことなの。だから極端な話、生命が生み出したものなら、なんでも良いの。髪の毛一本だろうが爪の先だろうがね」

 

 ヒトミは手櫛で髪を掻くように髪を撫で、自分の髪の中から1本髪の毛を抜き取った。

 

「……カズヤのも1本もらえる?」

「あ、うん」

 

 俺の髪の毛を受けとると、ヒトミは自分のものと結び合わせた。細くて見えにくいが、その結び目は綺麗に纏まっていて、まるでリボンのようだ。

 

「ヒトモシ」

「モシモシ!」

 

 ヒトミは結んだ髪の毛をヒトモシの青紫色の火の中へやる。すると、一瞬だけヒトモシの頭の火が勢いをまして燃え上がり、髪に燃え移った。

 だが不思議なことに、ヒトミの指にはまったく燃え移っていない。

 

「ホントに熱くないの?」

「えぇ、まったく」

 

 ヒトミは火の玉状に燃える青紫の火を手のひらにのせて、何事もないように応えた。

 やがて火が消え、結んだ髪の毛は姿を消した。

 

「はい、これで終わり。これで厄は去って、きっと今夜は霊界へ行く夢が見られるわ。ふふふふっ」

「……あは、あはははぁ」

 

 うっとりとした表情で笑うヒトミに合わせて笑ってみたが、顔が引きつって苦笑いになってしまった。

 

「ラルラルー?」

「モシ!」

 

 横ではラルトスが『触っていい?』とヒトモシに訊ねていた。一連のこと見ていて、ラルトスもヒトモシの火に興味を持ったらしい。ヒトモシは『いいぞ!』と、ラルトスに向かって頭を下げる。

 せっかくなので、俺もラルトスと一緒にヒトモシの頭を撫でてみる。

 

「……ホントに熱くないんだねぇ」

「ラルぅ……」

 

 青紫の火に触れても、なんの感触もなくすり抜ける。なのにどうして、さっきモノを燃やせることができたんだろう……本当に不思議だ。

 しかし、ここでふと俺の中で一つの疑問が浮かんだ。

 

「ねぇ、このおまじないって俺がいなくても、ヒトミだけで出来たんじゃない?」

 

 俺が訊ねると、ヒトミの身体がピクッと反応した。心なしか表情も硬くなっている。

 

「そ、それは、やるなら一人より二人の方が良いというか……ほら、実験や検証ではサンプルが多い方が良いって言うでしょ? それに、カズヤはもうすぐトレーナーとして旅立つわけだから厄払いしておくのも良いと思うの!」

「……ふーん。まぁ、そうかもね」

 

 早口になってるのが、かなり気になるけど……。

 

「モシ、モシモシ!」

「へぇー」

「モシモシモシ、モシモシ、モシモー!」

「えっ、うそ?」

「なっ、ヒトモシ! それは言っちゃダメぇ! なに言ってるか分からないけど!」

 

 俺が頭を撫でていると、いきなりヒトモシがとんでもないことを口にした。そのことを聞いて俺は驚き、ヒトミは焦りだした。滅多に表情(特に目元とか)を変えないヒトミがここまで取り乱すのは、かなり珍しい。

 ヒトミは急いでヒトモシを抱き上げ、俺から少し距離をとった。

 

「うぅ……」

 

 顔をうつむかせるヒトミは、こっちにチラチラと目を向ける。少しだけ見えたが、顔が“マトマのみ”みたいに赤くなっていた。

 

「……ヒトモシ、なんて言ったの?」

 

 なんと言って良いか、あるいは本当に言ってしまっても良いものかと悩むが、ヒトミが弱々しくも「答えて」と言うので、俺はヒトモシの言ったありのままを教えることにした。

 

「『このおまじないは昨日の夜、御主人が見つけたんだ。なんでも、ボクの火を使って“人間の男女がずっと一緒にいられますようにっていう御願いを叶えるおまじない”らしいよ!』……だって」

「……かぁぁ」

 

 ヒトミは更に顔を赤くした。あともう少ししたら、頭から蒸気でも出てくるんじゃないだろうか?

 

「ぁ、ぅ……」

「まぁ、その……あははは」

 

 真っ赤になって固まっているヒトミに、どう反応していいのか分からず、俺は困ったように笑う。

 ヒトミのことばかり気にしていたが、たぶん俺の顔もかなり赤くなっているだろう。顔が火照っているように感じるし、心なしか胸もドキドキ鳴っている。

 

「ラルぅ?」

 

 ラルトスが心配そうな声で鳴き、俺を見上げた。

 俺は「大丈夫だよ」とラルトスだけに聞こえるように返したが、感情をキャッチできるラルトスはあまり信じていないようだ。

 

「……と、とりあえずヒトミ、ヒトモシを放してあげて」

「えっ! あ、あぁーーごめんね、ヒトモシ!」

 

 言われてはじめて気が付いたようで、ヒトミは自身の腕の中でペチペチと暴れていたヒトモシを地面に下した。

 ヒトミの腕の絞めつけから解放されたヒトモシは、「モシモシ、モシー!」と怒った顔で鳴く。ヒトモシの『なにすんだよ御主人!』と言う気持ちは分からないでもないが、ヒトミの行動も当然だと思う。

 だけどポケモンたちには、まだその辺のデリケートなことは分からないらしい。

 

「……うぅ」

 

 まだヒトミは顔を赤くして、こっちをチラチラ見ている。

 

「それで、何でこんなことを?」

 

 単刀直入に話をふると、ヒトミはピタリと動きを止め、さらに顔を下に向かせた。もはや彼女の顔は、垂れ下がった髪でほとんど見えない。

 

「……だ、だって後少ししたら、カズヤ、ポケモントレーナーとして旅に出ちゃうでしょ?」

 

 俺は「……うん」とゆっくり頷いた。

 

「カズヤが旅に出ちゃったら、当然、会うことも少なくなるだろうし……もしかしたら、そのまま会えなくなるかもしれないし……そんなのイヤだから……」

 

 ヒトミはポツリポツリと自身の本音をこぼしていく。髪で隠れた顔から表情を読み取ることはできないが、彼女の声や言葉、動きの一つ一つから彼女の気持ちが伝わってきた。

 

「……そっか」

 

 ヒトミの言葉を聞いて、俺もうつむき気味になる。

 さっきから顔が熱くて仕方ない。内心でも必死に平静を保とうとしているが、ヒトミが俺と別れるのがイヤって思ってくれてることが嬉しかったり、会えなくなるかもしれないって言ったことが悲しかったり、その気持ちの真意は何かとか、いろいろなことを感じたり考えたりして、心の中がぐちゃぐちゃだ。

 

「……え、えーと、その……ありがとう、ね?」

「えっ!」

 

 ヒトミは驚いた様子を見せ、顔を上げた。

 

「おまじないの嘘ホントはさておき、ヒトミがそう思ってくれてるのは、めちゃくちゃ嬉しい」

「えっ! な、なんで……どうして……!」

 

 俺が心に思った気持ちを素直に口にすると、ヒトミは理解できないといった顔で、オロオロしはじめた。

 

「だって私、カズヤをダマすようなことして……」

「ううん。それは気にしてないよ」

「でも……」

「ホントに気にしてない。俺もヒトミとは別れたくないから、ずっと一緒にいられるなら、その方が良い」

「えっ!」

 

 ヒトミは顔を赤く染めたまま、ポカンと口を開いた。

 

「あ、あの、それって……!」

「あははっ」

 

 どういうこと、と訊きたそうな表情をするヒトミだが、俺は誤魔化すように笑った。

 ほとんどヒトミへの気持ちを話してしまったようなものだが、やっぱり“全部”を口にするのは、まだ恥ずかしい。

 

「ねぇ、前にヒトミ言ってたよね。“おくりびやま”に行ってみたいって! あと、ホウエン地方のどこかにある“そらのはしら”とか、“マボロシじま”とかにも行きたいって……!」

「う、うん……覚えてたんだ」

 

 意外そうな顔つきをするヒトミに、俺は「まぁーね」と頷く。

 

「だからさ、ヒトミも一緒に旅に出ようよ!」

「えっ!」

「俺はジムバッチを集めてリーグに出るため、ヒトミは各地の伝承とかを研究するために、一緒にホウエン地方を冒険しようよ」

 

 俺が「どうかな?」と訊ねると、ヒトミは「う、うーん」と思い悩むようにうつむいた。

 

「その提案は、とても嬉しいけど……いいの? 迷惑じゃ、ない?」

「迷惑じゃないよ。これまでだって、ずっとヒトミのオカルトを手伝ってきたんだ。“おくりびやま”に行くくらい、どうってことないよ!」

「ホント? 幽霊とかいっぱい出るかもよ?」

 

 えっ!

 

「……それは、まぁ、頑張る」

 

 幽霊への恐怖心、克服しなきゃ……。

 

「幽霊は苦手だけど、それでも……俺は、ずっとヒトミと一緒にいたいからさ……」

「そ、そっか……えへへ」

 

 ヒトミはにっこりと笑った。その笑顔はいつもの独特な笑い方ではなく、とても幸せそうな明るい笑顔だった。

 

「だから、一緒に行こう!」

「……うん!」

 

 嬉しそうに笑みを浮かべながら、ヒトミは深く頷いた。

 

「えへへ、やったー!」

「わッ!」

 

 突然、ヒトミの顔が近づいてきて、心地好い香りが流れた。急な勢いに押され、後ろに倒れそうになったが、なんとか耐えることができた。

 あまりにも突然だったため、俺はヒトミが抱きついてきたことに気づけなかった。ヒトミは俺の後ろに腕を回し、体を俺に密着させる。

 1秒か、それとも1分だったろうか、どれくらいだったかは分からないけど、ヒトミの体温を感じて、やっとヒトミとの距離がないことに俺は気づく。

 

「……えっ、あッ!」

 

 ポカポカとしたぬくもりの次に感じたのは、甘い香りと首筋をくすぐるヒトミの吐息、胸元にある柔らかい感触…………。

 

「ヒトミ……は、はずかしいよ」

「あっ、ごめんね」

 

 ヒトミは俺の肩に手をおき、距離をあける。

 

「つい嬉しくて……イヤ、だった?」

「う、ううん。イヤじゃないよ」

 

 お互いに恥ずかしくなり、俺とヒトミは揃ってうつむいた。

 

「ラルラ、ラルラルー」

「モシモシー、モシっ!」

 

 足元では、ラルトスとヒトモシが『カズヤ、お顔真っ赤』『うれしそうだな御主人!』と、俺とヒトミの顔をそれぞれ見上げていた。

 

「……えへへへ」

 

 恥ずかしそうに頬を染めがらも、ヒトミは嬉しそうに笑う。その表情やしぐさは、いままでに見たこと無いくらいに、可愛いものだった。

 

「……あははは」

 

 そんなヒトミの笑顔を見ているうちに、自然と俺の顔からも笑みがこぼれた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 カロス地方出身、オカルトマニアのヒトミ。

 彼女は一人の友達と共に、旅に出ることを決めた。

 その旅を通して、これから彼女はたくさんの友達(ポケモン)と出会うだろう。

 そんなヒトミとカズヤの旅は、これから始まる。

 

 

 






この作品では、評価、感想など、積極的に受け付けております。
よろしくお願い致します。

本作は短編なので本腰入れて書きはしませんが、今後ちょくちょく投稿していこうかなと思っています。



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裏話:ラルトスのいちにち (短話集)



四コマ漫画をイメージしながら書いてみました。

ちなみに、前2話と違って三人称視点になってます。




 

 

 

 エピソード1:【起床】

 

 

 ある日の朝。トクサネシティにある一軒の民家。その二階の窓に掛けられたカーテンの隙間へ陽の光が射し込み、一匹のポケモンを照らす。

 そのポケモンは自身を照らす朝日を感じとり目を覚ました。そしてベットの上で上体を起こし、大きく手をあげて身体を伸ばす。

 

「……ラぁぁ」

 

 幼さを感じさせる可愛らしい鳴き声で、ポケモンは欠伸をした。

 そのポケモンの名前は【ラルトス】。服の裾を引っ張ったような白い身体に、目元を隠したおかっぱのような緑色の頭部、その頭部の前後には平たくて赤いツノが生えている。【ラルトス】はそのツノから周りの人間の感情を察知できるといわれ、そのことから【きもちポケモン】と呼ばれている。エスパータイプとフェアリータイプを持つポケモンだ。

 ラルトスは自身が寝ていた布団から出ると、横で寝ているトレーナーの身体を「ラルラル、ラルラー!」と鳴いてぺちぺち叩く。

 トレーナーの少年、カズヤは「ん?」と声を洩らして眠りから覚めると、のっそりとした動作で身体を起こした。

 

「……ふわぁぁ」

 

 カズヤは先ほどのラルトスと同じように欠伸をしながら身体を伸ばした。そしてベットに腰かけ、床に降り立ったラルトスに目を下ろす。

 

「おはよー、ラルトス」

「ラルー!」

 

 『おはよう!』と返すように、ラルトスは元気良く一鳴きした。

 

 

 エピソード2:【寝起き】

 

 

 ラルトスのトレーナーであるカズヤは、生まれつきのサイキッカーだ。その名の通り、彼は超能力(サイキック)を使うことができる。エスパータイプのポケモンが使う(サイキック)とは少し質が違うが、彼が使える超能力の種類は主に2つ。

 

「うぅーん……」

 

 半開きの眼を擦りながら、カズヤはもう片方の手を動かした。すると、その手につられるようにカーテンがひとりでに動いてシャーッと音を鳴らして全開になる。

 

『カズヤ、髪ボサボサー』

「んー、そだねぇー」

 

 続いてラルトスが「ラルラー、ラルラルー!」と鳴くと、ラルトスの鳴き声がカズヤの頭の中で人間の言葉に変換された。

 この2つの能力がカズヤの超能力だ。彼は生まれつきにテレキネシスとマインドコントロールの能力を身に付けており、自身の思念によって物体を自在に操ったり、他人やポケモンの心に干渉することができるのだ。

 

「……ふぁぁ、眠い」

 

 ボサボサの髪や若干の涙目と、いかにもな寝起き顔になっているカズヤは、寝巻き用の作務衣のまま、洗面所で顔を洗おうと部屋を出る。

 その彼の後ろを、ラルトスはちっちゃな足を動かしてトテトテとついていった。

 やがて階段に差し掛かると、ラルトスはカズヤを追い越して、くるりと身をひるがえし、彼と向かい合う。

 

「ラルゥ」

「ん?」

 

 ラルトスの鳴き声に反応して、カズヤは視線を下ろす。

 

『だっこ』

「あーはいはい」

 

 そして彼女の言葉に言われるまま、カズヤはラルトスを抱え、一階へと降りていった。

 身長約40センチのラルトスには、人間に合わせた階段は高過ぎるようだ。

 【ねんりき】を覚えているため一人で降りられないわけではないが、こうやって階段を上り下りするのが、ラルトスは好きだったりする。

 

 

 エピソード3:【日課】

 

 

 顔を洗い、歯をみがき、一通りの身支度を終えたカズヤは普段着用の作務衣に着替えて、リビングへと向かう。ダイニングとキッチンでは、カズヤの母とサーナイトが朝食の用意をしていた。

 

「おはよー」

「おはよう、カズヤ」

「ラルー、ラルラー」

「サナ、サーナ」

 

 カズヤはお母さんに、ラルトスはカズヤの母の手持ちであるサーナイトに、それぞれ朝イチの言葉をかけた。

 

『お姉ちゃん、おはよー』

『えぇ、おはよう』

 

 ちなみに、これがラルトス達の会話だ。

 同種族の進化系であることもあって、ラルトスはサーナイトを姉のように慕っている。そしてサーナイトもまた、妹のようにラルトスを可愛がっている。ラルトスが家にいるときに、カズヤの次に長く一緒にいるのがサーナイトだ。

 

「お爺ちゃんが庭で待ってるわよ」

「はーい」

 

 母に促され、カズヤはラルトスと一緒にリビングの掃き出し窓から庭に出た。

 庭に出ると、そこにはすでにカズヤの爺ちゃんと彼の手持ちのマネネが立っていた。

 

「遅いぞぉ、カズヤ!」

「マネネェー、マネネ!」

 

 腰に手を当て仁王立ちをする爺ちゃんの横で、人の真似が大好きなマネネも同じ動きをする。

 

「爺ちゃんが早すぎるんだよ。欲を言えば、もっと寝てたいよ」

「バカモン、若いうちからそんな怠けてどうする!」

「いや、いま5時半……スクールもないのにこんな早起きしてる子なんて他にいないよ?」

 

 不満げな眼で爺ちゃんを睨みながらも、カズヤは「んにぃー」と声を洩らして事前準備として身体を伸ばす。

 そんな彼の隣では、いつの間にか横にやってきたマネネが「マネー、マネー」とカズヤの動きを真似していた。

 ちなみにカズヤの爺ちゃんの手持ちは、マネネ、バネブー、ネンドール、チリーン、フーディンだ。後ろになるほど古株でレベルも高い。

 

「よし、では今日も張り切ってやるぞぉー!」

 

 爺ちゃん、カズヤ、ラルトス、マネネと一列に並び、爺ちゃんがしわがれた声を張ってそう言うと、カズヤは「おぉー」と抑揚のない口調で返し、ポケモンたちはそれぞれ「ラルー!」「マネー!」と元気に鳴いた。

 

「イーチ、ニー、サーン」

「ヨーン、ゴー、ローク」

「ラール、ラール、ラール」

「マーネネ、マーネネ、マーネネ」

 

 そして二人と二匹はそれぞれ声を合わせながら、ゆっくりと全身の筋肉を伸び縮みさせる。

 体操で身体をほぐした後、座禅を組んで瞑想をする。これがサイキッカーとしての修業だ。

 この早朝の体操と瞑想が、カズヤ達サイキッカーの日課であった。

 

 

 エピソード4:【いつも一緒】

 

 

 朝御飯を食べ終わり、今日もカズヤとラルトスの一日が始まった。

 

『カーズヤぁー!』

 

 今日は何をしようかとリビングに立って考えていたカズヤに、ラルトスが飛びついた。カズヤは突然背部を襲った衝撃に思わず「うわッ!」と声を洩らしたが、なんとか耐えた。

 

「な、なに?」

『あそぼー!』

「良いけど、急に飛びつくのはできれば控えてね?」

 

 カズヤは苦笑いしながらラルトスに言い聞かせた。

 

「マーネネぇー!」

「グヘェ!」

 

 直後、マネネがラルトスの真似をして、カズヤに飛びついた。ポケモン2体分の体重に耐えきれず、ついにカズヤは床に倒れた。

 

『カーズヤぁー、あそぼー!』

「分かった、分かったから。はやく降りてぇ……」

 

 

 

 エピソード5:【熟練エスパー】

 

 

 遊ぼうと言ってラルトスの真似をして飛びついてきたマネネだが、やがて爺ちゃんと一緒に散歩に出掛けていった。

 

「ほっ!」

「ラル!」

 

 そして今、カズヤとラルトスは自身の超能力を使った積み木遊びをしている。これは両者が念力(カズヤはテレキネシス、ラルトスは【ねんりき】)で積み木を高く積んでいき、より高く積んだ方が勝ちという遊びだ。積み木を上に置くほど、慎重に積み木を動かさなければならなくなるので、かなり精密な制御を必要とする。

 

「……んー、よっ!」

「ラァールゥー。ラル」

 

 カズヤはタワー状に、ラルトスはアーチ状に積み木を置いていく。二人ともそれなりに高く積み上げ、そろそろ高いところに置くのが難しくなっているようだ。特にまだ【ねんりき】の精密動作性が不安定なラルトスは置くペースもだいぶゆっくりになっている。

 

「フィー」

『あ、エーフィ姉さん!』

 

 そんな遊びをしていると、どこからかエーフィがやってきた。このエーフィはサーナイトと同じくカズヤの母の手持ちである。ちなみに母の手持ちは全部で3体いて、残りの一匹はチルタリスだ。

 

『ごめんあそばせ、邪魔するわね二人とも』

「んー、全然いいよ。でも気を付けてね」

 

 エーフィはラルトス達に断るように鳴き声をあげると、二人の近くを通って陽の当たる窓際まで行き、その場で丸くなった。一連の動作にはとても気品があり、まるで位の高い貴族のような振る舞いだ。

 

『エーフィ姉さん、日向ぼっこのお昼寝、暖かそう!』

「お昼寝というか、この時間だと二度寝じゃないかな?」

 

 二人は手を止め、窓際でぬくぬくとした様子で休んでいるエーフィを見る。

 口調と振る舞いのせいでお嬢様育ちと思われそうな彼女だが、意外にも元は野生のポケモンである。野生のイーブイだった頃は同じ野生の【ポチエナ】や【ロコン】と、よくバトルしたりと、結構ヤンチャだったらしい。

 カズヤの母さんにゲットされてからは、穏和な生活に慣れ親しんでいる。そして普段は今のように日向で丸くなっていることが多い。

 

「さてと、じゃあ続き……って、おォ!」

『わー、すごーい!』

 

 積み木遊びを再開しようとした二人は、振り返ってそれぞれ驚きの声をあげた。そこにはさっきまで歪に積まれていた積み木のタワーとお家が、お城(西洋)の形に綺麗に積み上げられていた。その出来栄えに、ラルトスはパチパチと手をたたく。

 その積み木の城は二人が目を離しているスキにエーフィが【サイコキネシス】で積み上げたものだった。

 その一瞬のサイキック技の使用は、熟練エスパーだけがなせる技だった。

 

 

 エピソード6:【シンクロ】

 

 

 ポケモンにはそれぞれの種族・個体に【とくせい】というものがある。例えば、カズヤのラルトスは【トレース】というとくせいを持っており、これは『対面したポケモンのとくせいと同じものを得る』というとくせいだ。

 この【とくせい】というものはポケモンであれば皆必ず身に付けているものであるため、当然、二人のそばにいるエーフィも持っている。そのとくせいは【シンクロ】と呼ばれ、その効果は『自分が状態異常になっているときに、相手も同じ状態異常にする』というものだ。

 最近、ポケモンスクールでそれらについて学んだカズヤは遊んだ積み木を片付けながら、目の前の光景を見て、ふと疑問に思った。

 

(ひょっとして『ねむり』も、【シンクロ】できるのかな……?)

 

 彼の目の前では、スヤスヤと寝ていたエーフィを枕にして、ラルトスが眠っている。二人とも非常に落ち着いた寝息をしており、適度な日の光が射していることもあって、とても気持ち良さそうだ。

 日の射す窓際やソファー、ベット、カズヤのお母さんの膝の上などと、場所に違いはあるが、その二人の添い寝姿はラルトスがこのウチに来てからというもの、よくよく見かける光景だ。

 そして、そのあまりにもよく眼にする微笑ましい光景に、カズヤは一人、あらぬ勘違いをするのだった。

 

 

 エピソード7:【ベストポジション】

 

 

 

「ラルトスー、出掛けるよー!」

「ラルー!」

 

 お昼御飯を食べて、出掛ける準備を済ませたカズヤは玄関からラルトスを呼んだ。

 

「ラルラルラー!」

 

 家の奥から返事が聴こえ、やがえラルトスがトテトテと走ってきた。そして玄関まで来ると、そのまま飛び上がってカズヤに抱きつき、身体をよじ登って頭の上にのった。

 一連の流れから、カズヤは内心でこっそりと思う。

 

(今日のは過去最速だったなぁ)

 

 また、こうしてラルトスによる『カズヤ登り』のタイムが更新された。

 

 

 エピソード8:【友達】

 

 

 家を出て二人がやってきたのは、いつもの公園だった。この公園はそこそこ広いこともあって、近所の子供や大人達だけでなく、野生のポケモンや他の街から来たトレーナーもよく見かけられる。

 

「ヒトミー!」

「あっ、カズヤ!」

 

 そんな広々とした公園の隅にあるベンチで、ポツンと座っていた少女、ヒトミはカズヤに名前を呼ばれると、スクっと立ち上がった。

 ヒトミはカズヤ達を見ながらニヤリとした笑みを浮かべる。彼女のことを知らない人が見ると、やや不気味ととられるような笑い方だ。

 そんな彼女の腕の中には、蝋燭のような姿をしたポケモンが一匹。

 

「モシ!」

 

 そのポケモンはカズヤ達が来たことに気づくと、ヒトミの腕の中からはなれ、サッと地面に飛び降りた。

 そして同時に、カズヤの頭の上にいたラルトスも彼の頭から飛び降りて、そのポケモン、ヒトモシの元へ走っていった。

 

「ラルラルー、ラルラー!」

「モシモー、モシモシ!」

 

 ラルトスとヒトモシは楽しげに手を打ち合った。

 ヒトモシがジャンプしてハイタッチ、その勢いにのってラルトスが一回転して、もう一回ハイタッチ。

 最初は空振りしていたその挨拶代わりのアクションも、今ではすっかり慣れたモノである。

 

 

 エピソード9:【ふたりは仲良し】

 

 

 しばらくの間、カズヤとヒトミは一緒にベンチに座って、楽しくおしゃべりをした。

 

「それで、アローラっていう地方には【ミミッキュ】ってポケモンがいて……!」

「へぇー。そんなポケモンもいるんだ」

「そうなの。それでね、そのアローラには独自の進化をしたポケモンもいて……!」

「うん……えっ! エスパータイプの【ライチュウ】とゴーストタイプの【ガラガラ】? なにそれチョー見てみたい!」

 

 二人が仲良く会話している近くでは、ラルトスとヒトモシも、二人と同じように楽しげに語り合っていた。

 

「ラルラール、ラルぅ!」

「モシモシ」

 

 二匹(ふたり)はお互いに鳴き声をあげて、コミュニケーションを取っている。

 

「ラルルー!」

「モシシっ」

 

 以下、訳……。

 

『今朝ね、【ねんりき】で積木遊びをしたんだ~』

『【ねんりき】で?』

『うん、手を使わないで【ねんりき】だけで積木を積み上げてくの。それでね、たくさん積み上げて、ちっちゃい“おうち”を作ったんだ』

『へぇそれはそれは、大変だっただろ?』

『ちょっとだけ……。でもその“おうち”は、最後は“おしろ”になったんだよ!』

『随分と出世したんだなぁ』

 

 無邪気に話すラルトスと、その話を少し落ち着いた様子で聞くヒトモシ。その光景はまるで仲のいい兄妹のようであった。

 

 

 エピソード10:【ふたりでも仲良し】

 

 

 ラルトスはカズヤのポケモンで、ヒトモシはヒトミのポケモンだ。なので当然、ラルトスはカズヤのそばに、ヒトモシはヒトミのそばにいることが多い。

 

「えへへ、やっぱりヒトモシの時とは違う感じがする……」

「そうだな。意外とヒトモシって、ラルトスより軽いんだな……」

「ラルッ!」

「モシシー!」

 

 しかし今、「たまにはどう?」というカズヤの提案から、ラルトスはヒトミの膝の上に、ヒトモシはカズヤの膝の上にそれぞれのっていた。

 

「ラールー、ラルラルラー!」

「あぁ、ごめんごめん。無神経だった」

「ラルぅ!」

 

 ラルトスは頬を膨らましながらカズヤを睨み付けた。

 

「あっ!」

「ん、どうしたの?」

「いや、その……私、ラルトスの眼って初めて見た、かも!」

「あぁ、なるほど。普段は隠れてるから……」

 

 理解した様子でカズヤは小さく頷く。

 ヒトミは物珍しそうにラルトスの顔を見つめた。

 

「……ラルぅ」

 

 すると急にラルトスは自身の手で顔を覆い、身を縮めた。

 

「えっ?」

「あはは」

 

 突然の反応に、ヒトミはキョトンとするが、ラルトスの反応の意味が理解できたカズヤは、面白そうに笑う。

 

「じっと見られて恥ずかしいってさ」

「あっ……ごめんね?」

「ラール」

 

 ヒトミが頭を下げて謝ると、ラルトスは『いいよ』と小さく返事をした。

 彼女たちの一連のやり取りを見た後、ここでふとカズヤはあることを思った。

 

「そういえば俺も、ヒトモシの右のほうの眼って見たことないなぁ……」

「モシシーモシモシモ!」

 

 カズヤが目線を下げて自身の膝の上にいるヒトモシに目をやると、当のヒトモシは『べつに普通だぞ』と何ともなさそうに顔をあげた。

 

「そうなんだ。【サマヨール】みたいに、実は単眼なんじゃないかなぁ、とか思ったんだけど……」

『【ランプラー】や【シャンデラ】は、両目あるじゃん!』

 

 さも当然といったように、ヒトモシはあっさりとした口調で言った。

 

「ランプラー? シャンデラ?」

「【ランプラー】と【シャンデラ】は、ヒトモシの進化したポケモン……」

「へぇ、そうなんだ!」

 

 聞き慣れない名前にカズヤが首を捻ると、横で聞いていたヒトミが教えてくれた。

 【ダンバル】のように進化の過程で眼が増えるポケモンもいるが、ヒトモシがいうには、蝋が垂れたような頭部の裏にはちゃんと眼があるようだ。

 

「……んーー、うんん?」

「モシシィー!」

 

 しかし、その後いくらヒトモシを観察しても、カズヤには、その右眼を見ることはできなかった。

 

 

 エピソード11:【ゴームデンタイム?】

 

 

 楽しい時間が終わるのは、あっという間だ。

 いつの間にやら陽が暮れて、子供たちは家へ変える時間になった。

 

「それじゃあ、また明日……!」

「うん、またなー!」

「ラールー!」

「モシー!」

 

 公園で遊んでいた周りの子供たちが帰っていくのと同じく、カズヤたちも手を振って別れ、家へ帰る。

 

「ラールー!」

「ん?」

 

 帰り道、ふとラルトスは【ねんりき】を使ってカズヤの頭に乗った。

 

「好きだよね、頭に乗るの……」

『うん。ここから見る外の景色、けっこう好き!』

「ふーん……。じゃあ,はやく進化しないとな。サーナイトになったら今よりも高い位置から景色が見えるぞ」

「………ラルルゥ」

 

 カズヤの言葉に,ラルトスは不満げな声で鳴いた。

 

「どうした?」

『むぅ……自分が高くなるより,こうしてカズヤの頭から見る方が良い!』

「なんで? 何か違いがあるの?」

『うーん、よく分からないけど……ここが私の、ゴールデンタイム?』

「ベストポジション?」

『そうそれ! ベストポジションってやつなの!』

 

 少し天然なラルトスの言葉に、カズヤは「あっそう……」と苦笑いするのだった。

 

 

 エピソード12:【また明日】

 

 

 家に帰ってしばらく経った後、カズヤたちは家族や他のポケモン達と一緒に晩御飯を食べた。

 その後、少しリビングでゆったりと過ごし、お風呂に入ったり、歯を磨いたり、夜の瞑想をしたりしていたら、あっという間に時刻は十時を過ぎていた。外の遠くの方では【ヨルノズク】や【ヨマワル】の鳴き声が聴こえる。

 

「……ラぁぁ」

 

 カズヤがリビングのソファーでのんびりテレビを眺めていると、ふと隣にいたラルトスがアクビをした。

 

「そろそろ寝ようか」

 

 ラルトスがウトウトしているのに気づいたカズヤは、テレビの電源を消してソファーから立ち上がる。

 

「ほら、おいでラルトス」

「ラルゥ……」

 

 張りのない声で鳴き、ラルトスはカズヤに向けて両手を上げた。カズヤはその動きに応えるようにラルトスを抱えあげると、そのまま自分の部屋へ向かった。

 

「おやすみ、ラルトス」

『おやすみぃ、カズヤぁ』

 

 部屋の照明を落として、カズヤはラルトスと一緒に寝床に入った。やがて二人は眠りにつき、スヤスヤと小さな寝息を洩らす。

 

「ラルゥ……」

「……んぅ」

 

 ラルトスはカズヤの方へゆっくり身をずらし、カズヤはそばに来たラルトスを優しくつつむように腕をやった。こうして、今日もラルトスはカズヤの胸の中で心地よく眠るのであった。

 

「……ラルルぅ」

 

 ラルトスは、とっても、幸せそう!

 

 

 

 

 

 ーーつづく。

 

 

 

 

 

 

 

 






個人的に、マネネはアニメのよりも『波動の勇者』でアイリーン姫と一緒にいたマネネの方が、(可愛い)印象が強いです。

次はヒトミ視点のお話でも作ろうかなぁ……。


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裏話:オカルトマニアのレポート



オカルトマニアこと、ヒトミの日記(レポート)


※ほぼ日記形式です。




 

 

 

 〇月α日 晴れ

 

 パパのお仕事の関係でカロス地方から、ここホウエン地方に引っ越してきて、今日で3日目。

 私の住むことになったトクサネシティは、ホウエン地方本島から少し離れた小島にあって、前に住んでいたミアレシティよりもだいぶ田舎な町。だけど、来る途中で見た海の景色や町の様子は綺麗に澄んでいて、とても気に入った。

 ポケモンの種類も、カロス地方とは違うこの地方特有のポケモン達がたくさんいるから、見ていて楽しい。

 ヒトモシなんて、昨日さっそく家の近くにいた野生のポケモン(【ジグザグマ】という名前らしい)と仲良くじゃれあっていた。

 私も、あんなふうに友達ができたら良いなぁ……。

 よし、頑張ろう!

 

 

 

 ――数日後。

 

 

 

 〇月β日 晴れ

 

 ここ何日かずっと、新しい部屋の片付けとかママと一緒にお買い物に行ったりとか、新しいお家で暮らす準備に忙しくて、全然遊べなかった。

 でもその準備も、昨日ようやく終わった。だから今日は近所にある公園にヒトモシと遊びにいくことにした。

 公園に行けば、私と同い年の子あるいは年の近い子にたくさん会えるかもしれないし、友達もできるかもしれない。

 そう思って、いざ公園に行ってみたら、公園には私と同い年くらいの子達が5、6人いた。

 でも皆、すでにそれぞれの友達や自分のポケモン達と仲良く遊んだりおしゃべりしたりしていて、とても私が話しかけるような雰囲気じゃなかった。

 しばらくベンチに座って話しかけるチャンスが来ないか待っていたけど、そんなチャンスは来なかったし、向こうから声をかけてくることもなかった。

 それどころか皆、ベンチに座っている私を見ると、すぐに遠くにはなれて行ってしまう。

 ひょっとして、私が他の地方から来たから避けられてたのかな……?

 だけど、一緒にきたヒトモシは公園にいたポケモン達(【プラスル】と【マイナン】って名前のポケモンみたい)と仲良く遊んでいたし、そういうわけでもないみたい。

 少し悔しいけど、まだ始まったばかり……。

 絶対、友達作るもん!

 

 

 

 〇月γ日 晴れ

 

 お昼過ぎ、今日も昨日と一緒で公園に遊びに行った。公園には昨日と同じく、年の近そうな子が4人くらいいた。

 今日は勇気をもって、遊んでる子たちやおしゃべりしている子たちに話しかけてみた。

 だけど、みんな私が声をかけると「ひっ!」とか「きゃ!」とか顔を引きつらせて逃げていった。

 どうしてだろ……?

 私ってそんなに怖い顔してるかな?

 途中からなんだか胸がモヤモヤして、悲しい気持ちになった。

 今日は、早めにお家に帰った。

 

 

 

 〇月δ日 曇り

 

 今日も公園に行った。けど今日は、ずっと公園のベンチに座りっぱないしだった。

 昨日みたいに遊んでる子たちに声をかけようかとも思ったけど、逃げられるのが怖かったから、やめた。

 今日もヒトモシは、着いてそうそう公園にいる野生のポケモンたち(【ネイティ】と【エネコ】って名前みたい)と遊んでいた。

 どうすればヒトモシみたいに友達ができるんだろう……。

 そんなことをずっと考えていたら、すっかり日が暮れてしまった。

 私、このままずっと友達できないままなのかな……?

 

 

 

 〇月ε日 晴れ

 

 今日、はじめて友達ができた!(やったー!)

 その子はカズヤという名前の男の子で、【ラルトス】っていう小さなポケモンを連れていた。

 カズヤは、私が昨日みたいに公園のベンチに座っていると、隣に座って話しかけてきてくれた。最初は私もビックリしてうまく話せなかったけど、そんな私に、カズヤはイヤな顔ひとつしなかった。

 それから私とカズヤはお互いのことを話し合った。

 カズヤはサイキッカーで、物を浮かせたりヒトやポケモンの心を読んだりできるみたい。「やって見せて」ってお願いしたら、本当にモンスターボールを浮かせたり、私の考えてることを当ててみせてくれた。(ずっと心を覗かれてるのかと思ったけど、普段は心を読まないようにしてるみたい)

 このトクサネシティではサイキッカーは珍しくないってカズヤは言ってた。そのお陰か、カズヤは私が霊能力が使えるって言ったときも、すぐに信じてくれた。(また嘘つき呼ばわりされるんじゃないかって思ったけど、受け入れてもらえて、すごく嬉しい!)

 カズヤは他の子達みたいに私を怖がったりしない。「どうして?」って訊いてみたら、カズヤは「別に怖いとは思わないよ」って言ってくれた。次に「どうして、みんな私を怖がるのかな?」って訊いたら、カズヤは少し考えた後に「前髪で顔がよく見えないからじゃない?」だって……。(でもそれって、ラルトスとあまり変わらないような……?)

 そう言われたから、ためしに前髪を上げてカズヤに見てもらったら、カズヤは「うん、可愛いよ」って言ってくれた。(嬉しかったけど、なんだか少し恥ずかしかった……)

 帰るとき、『また明日も遊ぼう』と言おうとしたら、カズヤの方から「明日も一緒に遊ぼうよ」って約束してくれた。(あまりにもタイミングが良かったから、ひょっとして心を読んだのかな? でもどっちにしてもスゴく嬉しかった!)

 明日は何して遊ぼうかな?

 明日がすごく楽しみ!

 

 

 

 ――数週間後。

 

 

 

 □月α日 晴れ

 

 今日はママと一緒に美容院に行った。はじめての美容院で少し緊張した。

 前にカズヤから前髪を上げたときに『可愛い』と言ってくれたのを思い出して、美容師さんに目元を見えるようにしてもらった。(美容師さんと眼が合ったときに「ひっ!」ってビックリされたけど、アレは何だったんだろう?)

 そして、帰りにママからカチューシャを買ってもらった。そのときママが「これで愛しのカズヤ君もイチコロよ!」って親指を立てて言ってたけど……そうだったら嬉しいな。

 明日、カズヤに会うのが楽しみ。

 

 

 

 □月β日 晴れ

 

 今日、カズヤに髪型を褒めてもらった!

 カズヤは会ってすぐに「髪型、変えたんだ。可愛いよ」って言ってくれた。やっぱりカズヤに褒めてもらうと、とっても嬉しくて、胸がポカポカする。

 どうしてかは、分からないけど……。

 

 

 

 □月γ日 晴れ

 

 今日、また友達ができた。しかも、一気に2人も!(やったね!)

 その子達は、フウとランっていう双子の姉弟で【ルナトーン】と【ソルロック】っていう珍しいポケモンを連れていた。(ランがお姉さん、ルナトーンのパートナー。フウが弟くん、ソルロックのパートナー。けど双子とあって、二人ともあまり姉とか弟とか意識していないみたい)

 二人とはお互いのポケモン(ヒトモシとラルトス、ルナトーンとソルロック)がじゃれあって、その流れで色々話すようになり仲良くなった。

 最初、フウとランは私を見て皆みたいに「ひっ!」と怖がって距離をあけていて、私もビクビクしてうまく話せなかったけど、カズヤが仲介に入ってくれたおかげで、次第に話しかけてくれるようになった。フウとランはお互いに以心伝心ができるみたいで、しゃべる時は『二人でひとつの言葉を交互に話す』という変わったしゃべり方をしていた。

 カズヤは同じエスパータイプ使いとあって二人とは波長があったみたい。

 二人(特にラン)とお話して笑っているカズヤを見ていたら、なんだか胸の奥がチクリとした……気がした。

 あのチクチクした感じは、一体何だったんだろう?

 

 

 

 □月Ω日 晴れ

 

 昨日の夜、フウとランと友達になったことをママに話したら、ビックリすることが分かった。

 なんと二人はこの街のジムリーダーだったらしい。

 それを今日、カズヤに教えてあげたら、カズヤもビックリしていた。

 

 

 

 ――数日後。

 

 

 

 □月δ日 晴れ

 

 今日はカズヤと“伝説のポケモン”と“幻のポケモン”について調べた。

 もともとは「いつか仲間にしたいポケモンは何?」っていう話をしていたんだけど、それがいつの間にか伝説のポケモンのお話になって、急遽、図書館に調べに行くことになった。(ちなみに、前半の話題の答えは、私が【ミミッキュ】、カズヤは【ニャオニクス】だ。図鑑で調べた結果、お互いにホウエン地方にいないポケモンだと解って少しガッカリした)

 カロス地方だと【ゼルネアス】や【イベルタル】、【ジガルデ】っていうポケモンの伝説を聞いたことがあったけど、ホウエン地方には【カイオーガ】と【グラードン】、【レックウザ】と呼ばれるポケモンの伝説があるみたい。

 そして、なんでも宇宙センターの近くに置かれている『白い石』には幻のポケモンが隠れているなんていう噂話もあるらしい。

 いつかじっくり調べてみたいな。

 できれば、カズヤも一緒に……。

 

 

 

 ――数週間後。

 

 

 

 ×月ζ日 晴れ

 

 今さらだけど、カズヤと会ってからというもの、ずっと二人で遊んでばかりだ。

 たまにフウとラン達とも一緒に遊んだりするけど、それでもカズヤと遊んでる日数と比べたら、4人で遊んでる日は(二人がジムリーダーであることもあって)とても少ない。

 昨日カズヤと別れてから、ふとそのことが頭を過って、なんだかちょっと不安になった。

 

『遊ぶ時やトレーナーズスクールに行く時、図書館や本屋にオカルト本を探しに行く時とか、その他にもいろいろ……カズヤはずっと私と一緒にいて、イヤに思ったりしてないのかな?』

 

 そんな小さな疑問を心苦しく感じた私は、今日、思い切ってカズヤに訊いてみた。

 そして不安そうに訊いた私とは反対に、カズヤは「え、全然。むしろヒトミがイヤになったりしてない?」って言ってくれた。

 私は、『このままカズヤと一緒にいて良いんだ』と、思いっきり(そしてこっそりと)喜んだ。

 

 

 

 ――半年後。

 

 

 

 ◎月a日 晴れ

 

 今日はカズヤと一緒に、前から気になっていた宇宙センター近くにある『白い石』を調べに行った。

 事前に調べたところ、『白い石』には私が聞いた伝承以外にも色々な伝承があって、あることをすると【ジラーチ】というポケモンが現れて願いを叶えてくれるだとか、宇宙から来たポケモン(ロンドという博士はこのポケモンを【デオキシス】と名付けていた)が現れるだとか言われている。

 けど実際に調べた結果、特に何もなかった。宇宙センターの人にも話を聞いたが、宇宙飛行士たちの安全を祈願に置いたものらしくて、ホントにただの白い石だったらしい。

 期待した結果がなくて少し残念だったけど、『白い石』を調べている途中、ダイゴさんという妙に身なりの良い石マニアの人と会った。ダイゴさんは、ホウエン地方各地を飛び回って『石の研究』をしているらしく、『白い石』を調べていた私たちが気になって声を掛けたらしい。地質学者かと思ったけど本人が「珍しい石が大好きなだけ」って言ってたから、ホントにただの趣味みたい。

 オカルト好きの私が言うのもなんだけど、少し変わった人だと思う。

 それから私とカズヤは、ダイゴさんといくつかおしゃべりをした。(といっても、私は人と話すのが苦手だから、ほとんどはカズヤが喋ってた)

 ダイゴさんは石だけじゃなくてポケモンについてもかなり詳しくて、ホウエン地方にはいないヒトモシのことも知っていた。

 別れ際、ダイゴさんはカズヤと私を見て、「君たちはいつかきっと良いトレーナーになるよ」って言ってくれた。

 なんでか分からないけど、ダイゴさんのその言葉には、とても説得力があった。

 ひょっとしてダイゴさんって…………占い師?

 

 

 

 ――数日後。

 

 

 

 ▽月λ日 曇り

 

 今日、カズヤからポケモントレーナーとして旅に出ることを聞いた。

 いつ出るのって訊いたら、『あと3ヶ月後には、出ようと思ってる』ってカズヤは答えた。随分と急だと思ったけど、トレーナーになって旅に出ること自体は、ずっと前から考えていて、旅に出る日は昨日決めたみたい。

 10歳(成人)になった子がポケモントレーナーとして旅に出るのは、そう珍しくない。でも、私はゴーストポケモンの研究者になりたいから、ポケモントレーナーとして旅に出るつもりはない。それに、パパとママが許してくれるかどうかも分からない。

 ということは必然的に、私とカズヤはあと3ヶ月後には離ればなれになってしまう……。

 なんでだろう……そう考えた途端、まるで心臓に重りでもついたように胸がモヤモヤした。(ここ最近ずっと胸が重いなぁって思ってたけど、そのことを考え始めた時を境に、もっと強く感じるようになった)

 カズヤが旅に出て、カズヤと別れるのは寂しい。でもそれもカズヤがトレーナーとしてホウエン地方を巡る一時だけのはず……。

 けどそう考えても、なお胸のモヤモヤは無くなるどころか、時間が進むにつれて大きくなってくる。

 

 なんでだろう……?

 まだ3ヶ月先のことなのに……。

 カズヤは帰ってくるって解ってるのに……。

 一生の別れでもないのに……。

 また会えるって解ってるのに……。

 

 ……カズヤと離れたくないよぉ。

 

 

 

 ――数日後。

 

 

 

 ▽月φ日 曇り

 

 カズヤが旅に出る日まで、あと2ヶ月と少しとなった。

 それまでに、何とかしてカズヤとずっと要られるように対策を考えないと……。

 

 

 

 ▽月ω日 曇り

 

 今日、ヒトモシの火を使った縁結びのおまじないについて書かれた本を見つけた。

 まだ詳しく読んでないけど、これならカズヤと離れても、また一緒にいられるようにできるかも。

 明日は、このおまじないについて徹底的に調べよう……。

 

 

 

 ▽月α日 曇りのち晴れ

 

 今日は、とても幸せな一日になった……。

 

 

 

 ***

 

 

 

 

「えっと……この後どう書こう、かしら……?」

 

 何年か前から書き始めた日記。その日記の今日のところのページに一言書いて、私のペンを持つ手が止まった。

 ここ最近、ずっとカズヤのことで心が暗くなってたけど、今日はその不安が一気になくなって……いや、むしろその不安が幸せに変わったというか……なんというか、こう……。

 とりあえず、今日は、とぉーーってもに、幸せな一日だった。

 そのことを日記に書こうとするけど、暖かい気持ちに満たされて、うまく言葉が出てこない。

 

「……えへへへ」

「モシ!」

 

 私が今日の出来事を振り返って言葉を探してると、すぐ隣まで来ていたヒトモシから声をかけられる。

 ヒトモシは私の顔を覗くように見上げていた。

 

「……顔、ニヤけてる?」

「モシモシ」

 

 ヒトモシは顔をおもいっきり縦に振って頷いた。

 

「うぅ…………えへへ」

 

 恥ずかしくなって顔を戻したのもつかの間、すぐに口元がつり上がる。

 私はヒトモシを抱きかかえ、膝の上にのせた。

 

「カズヤがずっと私と一緒にいたいって言ってくれたの!」

「モシモシ!」

 

 その場にいたからヒトモシも知ってるだろうけど、ヒトモシは『よかったな』って言ってるみたいに頷いてくれた。

 

「それに一緒に旅に出ようって……!」

「モシ!」

「パパとママも、許してくれたわ……!」

「モシ」

「カズヤはジムに挑戦、私はフィールドワーク。二人でホウエン地方を回るの……!」

「モシモシ?」

「もちろん、あなたも一緒よ……!」

「モシー!」

 

 膝の上にのせたヒトモシは、私の一言一言に楽しげに反応してくれる。

 カズヤと違って私にはヒトモシの言葉は分からないけど、ヒトモシも旅に出るのを喜んでるのは理解できた。

 

「えへへへ」

「モシシシ」

 

 薄暗くした部屋の中で、私はヒトモシと笑う。ひんやりとした部屋の空気とは反対に、私の心はとても暖かい気持ちで満たされていた。

 

 あの時、公園でカズヤと会っていなかったら、私は今こうやって笑っていられたかな……?

 フウやランと友達になってたかな……?

 ホウエン地方の伝説のポケモンや幻のポケモンについて調べてたかな……?

 幽霊が見えるってパパやママ達以外に話してたかな……?

 髪型とか洋服とか、オシャレしてみようって思ったかな……?

 

 きっと、どれもやれていなかった、と思う……。

 今まで私の心に幸せをくれたのは、全部カズヤのおかげ……。過去に、そのことについて不安を感じたりしたけど、それでもカズヤは「気にすることないよ」って言って、それからもずっと私のそばにいてくれた。

 

「そういえば、私、勢いでカズヤに抱きついちゃったんだ、よね…………ぁあ、うぅ、顔、あついぃ」

 

 顔が熱い。胸がドキドキする。でも、どこか心地良い……。

 この気持ちが何なのか、数日前までは分からなかった。

 けど今なら、分かる……。

 きっと、これが、『好き』っていう気持ち……。

 そう……いま私の心にあるのは、たったひとつの、シンプルな言葉。

 

 

 

『……大好きだよ、カズヤ』

 

 

 

 

 

 






とりあえず、これにて完結とします。

お読みいただき、ありがとうございました。



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第1章
1. 旅立ちの話




短話として完結したけど、書きたくなったから連載するぞォー!

短話と同じく『ほのぼの』『ポケモンの可愛さによる癒し』『イチャラブ』をテーマにして書いていく予定。




 

 

 

 ついに、この日が来た。

 

「……よし!」

 

 作務衣の帯をきっちりと締め、俺は椅子に置いていたリュックサックを背負う。昨夜も念入りに確認したが、中に入れた道具類に不足はない。

 

「ラルゥ!」

「うん、じゃあ行こう!」

 

 相棒の【ラルトス】と共に部屋を出る。玄関では母さんと【エーフィ】が見送りのために待ってくれていた。

 

「忘れ物はない?」

「もちろん。昨日何度も確認したし!」

「そう、じゃあ街に着いたら連絡入れてね。確か、最初に行くのはムロタウンだったかしら?」

「うん、そのつもり。まぁムロタウンまでは、ほとんど船の上だから迷うこともないと思うけど」

「もぅ。だからって、油断しないの」

「はぁーい」

 

 そんなに念を押さなくても、大丈夫だってば。

 

「本当に港まで見送りに行かなくていいのね?」

「大丈夫だって。港まではもうなん十回も行ってるし」

 

 心配性だな、まったく……。

 

「ラルラルゥー!」

「フィー!」

 

 俺と母さんの足元でラルトスとエーフィも似たようなやり取りをしていた。二人(2匹?)の場合、親子というより姉妹のような会話だが……。

 

「じゃあ、いってきます!」

「いってらっしゃい」

 

 家を出て、見送る母さん達に大きく手を振る。

 こうして俺は、ポケモントレーナーとしての旅に出た。

 

 

 

 ***

 

 

 

 俺の名前は、カズヤ。サイキッカー(ポケモントレーナー)だ。

 そして今日、トレーナーとしてチャンピオンリーグに挑戦すべく、ジムバッチを集める旅に出た。

 目指すは、ポケモンリーグ制覇。

 地方各地にあるポケモンジムでジムバッチを集め、定期的に開催されるポケモンリーグに参加して、優勝して、四天王とチャンピオンに勝つことで、晴れてそのトレーナーはポケモンリーグを“制覇”したことになる。

 別名、“殿堂入り”とも言い、ポケモンリーグ制覇はトレーナーとしての憧れであり、その夢へ向かうことは、トレーナーとしての誇りでもある。

 今日、この日が、俺の夢への第一歩だ。

 そんなわけで、俺は今、トクサネシティの住宅街を走り抜け、港へ向かっている。

 

『そんなに急がなくても、待ち合わせの時間までは、まだ間に合うよ?』

「そうだけど、ヒトミのことだから、もう着いてるかもしれないし!」

『あぁー、ヒトミならありそうだよね』

 

 肩に乗った小さな相棒は、納得した様子でウンウンと頷いた。

 相棒は【ラルトス】、俺の唯一の手持ちポケモンだ。

 相棒とは彼女が卵から孵った時からの付き合いで、それからずっと日々を共にしてきた。

 幼馴染のような、親友のような、兄妹のような……うまく言葉では表せないが、とにかく、俺にとってはかけがえのない大切なポケモンだ。

 さて何故、今、俺がラルトスの言葉を理解したかというと、彼女が俺の相棒だから……というわけでは(残念ながら)なく、ラルトスがテレパシーを使ったから、というわけでもない。

 では何故かというと、俺がサイキッカーだからだ。

 サイキッカーとは、いわば超能力者のことで、俺は爺ちゃんの遺伝で生まれつき超能力を持っている。具体的にいうと『テレキネシス』と『マインドコントロール』の使い手だ。

 『テレキネシス』は物を自在に操れる超能力で、『マインドコントロール』は人の心を覗くことができる超能力だ。このマインドコントロールの能力を使って、俺はポケモンの鳴き声から気持ちや言葉を察知しているのだ。

 ちなみに、エスパータイプのポケモンも似たような技が使えるけど、俺はあくまで人であるため、彼らほど能力を高く行使できない。日常で使うのも、簡単な物を動かすのとポケモンとのコミュニケーションに使うのがほとんどだ。

 頑張れば、精神操作をすることもできるけど、あんまりやらない。怖いからな……。

 

「あっ、やっぱりいた!」

 

 街を抜けて、港が見えるところまで着くと、見慣れた少女の姿が見えた。少女は【ヒトモシ】を抱えて、入口のそばでソワソワした様子で立っていた。

 

「おーい、ヒトミー!」

「あっ……カズヤ!」

 

 俺が名前を呼ぶと、ヒトミはこっちを見てニヤリと笑った。

 

「ごめん、待った?」

「ううん……全然……」

 

 ヒトミはブンブンと頭を横に振る。

 

「本当に?」

「う、うん……待ってない、わ……」

 

 ……あやしい。

 

「ふーん」

「ホント……ホントに、ま、待ってない、から!」

 

 少し目を細めてみると、ヒトミは声を強めて返したが、挙動がさっきよりオロオロさを増した。

 これは、カマをかける必要あり、だな……。

 

「じゃあ……心の中、読んでも良い?」

「あ、うぅ……ごめん、少し待った」

 

 やっぱり。

 

「うん、分かってた」

「……むぅぅ」

 

 俺がニヒヒと笑うと、ヒトミは眼を細めて頬を膨らませる。

 

「それで、どれくらい待ったの?」

 

 ちなみに、今は待ち合わせを予定した時間の15分前だ。

 

「……30分くらい」

「モシモシモシー!」

「2時間ッ!」

「ヒトモシ!」

 

 また気を使って嘘をいったヒトミの腕の中で、サラッとヒトモシが本当の時間を言った。

 ヒトモシがバラしたと理解して、ヒトミは抱えていたヒトモシの口を押さえた。

 

「2時間も待ってたの!」

「うぅ……うん」

「なんでそんな?」

「それは、えと……うぅ……」

 

 ヒトミはうつむいて返答を躊躇った。その間に、ヒトモシが彼女の腕の中からすり抜け、地面に降りる。

 

「その……カズヤと、旅に出るのが、楽しみで……我慢できなくて……はやく、来ちゃった。えへへ」

 

 何かを誤魔化すように、ヒトミは少し口元を引きつらせて笑う。顔も少し赤くなっていた。

 

「……そっか」

 

 なんか、そんな素っ気ない返事しか応えられなかった。

 心なしか顔があついし、今のヒトミめちゃくちゃ可愛いし……じゃなくて。

 

「ごめんな、待たせちゃったみたいで。あはは」

「ううん、私が勝手に早く来ただけだから。えへへ」

 

 お互いの気恥ずかしさを隠すように、俺達二人は笑い合う。

 

「「相変わらず、仲良しだね二人とも!」」

 

 急に聞こえてきた声に、俺とヒトミはビクッと反応して揃って横を見た。

 

「あっ!」

「フウ、ラン!」

 

 そこには、俺と同じような服を着た双子の姉弟、このトクサネシティのジムリーダーであるフウとランが立っていた。

 二人は俺達の友達で、ヒトミほどではないけど、それなりに長い付き合いだ。ラルトスとヒトモシも、二人のパートナーポケモンである【ルナトーン】と【ソルロック】と友達同士だ。

 

「見送りに来てくれたのか?」

「うん、せっかく二人が旅を始めるんだから」

「ジムリーダーとして見送りしておかないと……」

「「そして、なによりも友達としてね」」

 

 俺が訊ねると、二人は交互に話して、最後に声を揃えた。この息のあった話し方も、二人が双子だから成せるわざだ。最初は違和感があったけど、今はもう、すっかり慣れてしまった。

 あと、これまでの付き合いで分かったが、二人が話すときは、フウが最初に話すことが多い。

 

「ありがとう!」

「……うん、ありがと」

 

 俺の後に続いて、ヒトミも嬉しそうに笑って礼を言った。人見知りな彼女とあって、初めて会った当初は俺の後ろに隠れて二人と接していたけど、今では面と向かって話せるまでになった。

 

「カズヤはジム戦、頑張ってね」

「帰って来た時に、カズヤと戦うのを楽しみにしてるヨ」

「あぁ。絶対、強くなって帰ってくるから!」

 

 宣戦布告するように、俺はグッと拳を立てた。

 

「そのためにちゃんと」

「ラルトス以外のポケモンも、つかまえてくるのヨ」

「でないとトクサネジムには」

「挑戦できないからね」

「うん、もちろん分かってる。ちゃんと仲間を増やして、八つ目のバッチに、トクサネジムのバッチをゲットしてみせるよ!」

「「うん、楽しみにしてる!」」

 

 俺が宣言すると、二人は揃ってニッコリと笑った。その笑顔から、二人が本当に俺の挑戦を楽しみにしてくれているのが伝わってきた。

 ジム戦に挑む順番として、近い順で選べば、自分の街にあるトクサネジムが最初になる。

 だけど、俺がトクサネジムに挑戦するのは、八つ目、つまりホウエン地方を回り終わって、最後にやるジム戦だ。

 なぜ俺がトクサネジムを最後にしたのかというと、トクサネジムがダブルバトルによるジム戦を採用しているのもあるが、やっぱり一番強くなった時に、二人と戦いたいと思ったからである。

 トレーナーとして、そして二人の友達として、その方が、絶対に楽しいからな。

 

「ヒトミも、フィールドワーク頑張ってね」

「う、うん……」

「まずは、オダマキ博士に会うんだっけ?」

「そう」

 

 オダマキ博士のいる研究所は、ミシロタウンにある。そこにはムロタウンに行った後に向かう予定だ。

 

「ヒトミがどんな研究をするのかも」

「あたしたちは楽しみにしてるから」

「うん……がんばる、わ」

 

 ヒトミも前に組んでいた腕を胸の前に置き、宣誓のように頷いた。

 そんなヒトミを見ながら満足そうに笑い、やがてフウとランは、ジムリーダーらしい引き締まった顔で、俺とヒトミを交互に見た。

 

「きみ達には、ぼくたち姉弟にも負けないくらい、強い絆がある」

「そしてラルトスとヒトモシも、あたし達のルナトーンやソルロックに負けないくらい、あなた達を慕ってくれている」

「ふたりが一緒なら、どんな壁も越えていける!」

「友達のあたし達には、わかるわ!」

「「きみ(あなた)達が成長してトクサネシティに帰ってくるのを、楽しみに待ってるよ(わ)!」」

 

 今の目の前の二人からは、同い年にも関わらず、ジムリーダーとしての貫禄のようなものを感じた。

 

「「うん!」」

 

 俺とヒトミは、その言葉に応えるように、一緒に力強く頷いた。

 

「「じゃあ、行ってくる!」」

 

 船の汽笛がなり、出航の時間を知らせる。その音を聞いて、俺達は船に乗り込んだ。

 やがて船は錨を上げて、港を出発した。船のデッキから友達二人に手を振っている内に、だんだんトクサネシティの港が小さくなっていく。

 こうして、俺達の旅は幕を開けた。

 

 

 

 

 ーーつづく。

 

 

 

 



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2. 船での話

 

 

 

 船は波を立てながら海上を進む。

 港を出発した直後は、船の周りに【キャモメ】や【ペリッパー】がたくさん飛んでいたけど、沖に出たせいか、もうその姿は見なくなった。

 出港してしばらく、俺とヒトミはラルトスとヒトモシと一緒にデッキを散策したり、船の周りにいた【ホエルコ】や【チョンチー】、【ジュゴン】などのポケモン達を眺めたりしていた。

 そして今は船内に入って、客室スペースに設置されたソファーに腰かけている。周りでは他の乗客も、パンフレットを読んだり備え付けの大型テレビを見たりして、のんびりしていた。各乗客の手持ちと思われる【チリーン】や【ルリリ】、【エネコロロ】や【ヘイガニ】、【オオタチ】や【アメタマ】なんかも、その静かな空間に溶け込んでいる。

 

「ラルぅ!」

「ん?」

 

 周りのゆったりした空気を感じながら休んで間もなく、ふと膝の上にいたラルトスが俺の顔を見上げて鳴き声を上げた。

 

『あっちも見てみたい!』

 

 そういって、ラルトスは船内の窓の方を手で示した。はじめての船とあって、まだラルトスは色々と見て回りたいようだ。

 

「あぁ、けどあまり遠くには行くなよ?」

「ラルー!」

「モシモシモー!」

 

 ラルトスの後を追って、ヒトミのヒトモシも『ボクも行くぞー!』と遊びに付いていった。

 好奇心旺盛で、遊び回るのが大好きな二人だが、ちゃんとしているし、いざって時はラルトスの【テレポート】で帰ってこられるから、迷子になることもないだろう。

 

「ムロタウンの港に着いたら、まずポケモンセンターに行って一泊するのよね?」

「うん。混んでなければ、明日にはさっそくジム戦かな」

「いきなりジム戦……大丈夫なの?」

「うん。スクールで何度もバトルについて学んだし、ムロタウンのジムは、かくとうタイプ専門だから、とりあえず負ける気はしないかなぁ」

 

 ラルトスは、エスパータイプとフェアリータイプ。かくとうタイプとは相性が良い。

 初のジム戦とはいえ、他のジムより有利に戦えるだろう。

 

「そっか……その後は、どこ行くの?」

「次は……えーと」

 

 俺はリュックサックの中からホウエン地方の地図を取り出して、目の前に広げた。

 

「とりあえず、トウカシティかな。ジムもあるし、そのままミシロタウンに行くこともできるし……」

 

 ミシロタウンからは、北上して103番道路を通れば、キンセツシティに行ける。トウカシティに戻って、カナズミシティに行くのも良いかもしれない。

 

「んー?」

 

 俺が地図を広げてルートを考えていると、手に持った地図を覗き込むように、隣に座っていたヒトミが体を寄せてきた。

 横を見ると、ヒトミの綺麗な顔があと少しで触れてしまうくらい近くにあった。

 

「……ヒトミ、近い近い」

「えっ!」

 

 ヒトミは驚いた表情でこっちを見た。

 目と目が合い、お互いの距離が近いことを理解すると、ヒトミは顔を真っ赤にさせて、「あっ!」と慌てて顔を離した。

 

「……ご、ごめん!」

「い、いや、別に謝んなくても……」

 

 悪い気はしなかったし……じゃなくて。

 

「と、とりあえず簡単に説明すると……!」

 

 俺はヒトミに見せるように地図の半分側を差し出した。

 

「ここがムロタウン。そしてココとココが、トウカシティとミシロタウン……」

「うん……うん……」

「ムロタウンからトウカシティまでは、ムロタウンの港からトウカシティの近くにある港まで船で渡って、港から歩いてトウカシティに行く。それで……」

「うん……」

 

 お互いの顔の火照りを誤魔化すように、俺はトウカシティ周辺の地図を示しながらミシロタウンまでのルートを説明した。最中、ヒトミはその説明を聞きながら、小さく頷いていた。

 ルートの説明自体はスラスラ言えたけど、俺の一個一個の説明に、可愛く……もとい丁寧に頷くヒトミが気になって、チラチラ見てしまったのは内緒だ。

 

 

 

 

 これからの予定について一通り話し終え、俺達は手持ち無沙汰になった。船の中とあって、特にやることもない。

 

「……ふぁぁ」

 

 ふとヒトミが手元を隠しながら大きなアクビをした。

 

「眠いの?」

「……う、うん。少し」

 

 ヒトミは眠気を払うように片目を指で擦る。もう片方の目は半分閉じており、アクビの涙で潤んでいた。

 

「寝ても良いよ。どうせ夕方までは船の中だし。ヒトモシ達が帰ってきたら、俺が見ておくから」

「……うん。じゃあ、そうさせてもらうわ」

 

 そう言って、ヒトミはソファーに背をあずけて目を閉じた。

 しばらく一人で大型テレビに映った番組を眺めていると、やがて、隣から静かな寝息が聞こえてきた。

 

「……すぅ……すぅ」

 

 目を向けると、案の定、ヒトミが穏やかな表情で眠っていた。

 

「ラル?」

「モっシシー」

 

 ヒトミが眠りについて間もなく、ラルトスとヒトモシが帰って来た。

 ラルトスは俺の隣で寝ているヒトミを見て手を口元に当てて首をかしげ、ヒトモシは『やっぱりなー』となにか納得したように首を振る。

 

『ヒトミ、寝ちゃったの?』

『御主人、今日カズヤっちと旅に出るのがよっぽど楽しみだったみたいで、昨日あんま寝てなかったからなぁ』

 

 またヒトモシが、ヒトミが隠しておいて欲しそうなことを、サラッと暴露する。

 彼のこのクセは、俺も反応に困るので少し控えて欲しい……。

 

「とりあえず、二人とも静かにな?」

「ラルぅ!」

「モシぃ!」

 

 俺の言いつけに、二人は元気に揃って返事をした。

 ホントに分かってるのか?

 

「ラル!」

 

 えっ、なに?

 

「ラぁぁルぅぅ!」

 

 いきなりラルトスが【ねんりき】を使って、ヒトミの身体を動かし始めた。

 一体なにをするつもりだ、と思ったのもつかの間、ラルトスが操るヒトミの身体は、頭をソファーの背もたれから俺の膝の上へ来るように移動した。

 

「えっ、ちょ、ラルトス何してるの?」

『こっちの方がヒトミが寝やすいと思って!』

「それは……まぁ、そうかもしれないけど……!」

 

 そりゃあ、座って寝るよりか横になった方が寝やすいだろうけど、恥ずかしいから勘弁してくれ……。

 俺はラルトスにたしなめようとしたが、百パーセント善意でやっているラルトスと膝の上で寝ているヒトミを見て、自然と口を閉ざしてしまった。

 

「ラールルー!」

「モシシー!」

 

 満足げにやりきった顔をしたラルトスは、またヒトモシと一緒に楽しげに何処かへ遊びに行った。

 

「すぅ……すぅ……ん、えへへ……」

 

 体勢を変えられながらも、ヒトミはそのまま気持ち良さそうに寝息を立てていた。けどふと口が緩み、やがて段々と口元がつり上がりニヤけた顔になった。

 

「笑ってる……楽しい夢でも見てるのかな?」

 

 多分、ゴーストタイプのポケモンの夢でも見てるのだろう。

 【ジュペッタ】でも抱いて、頬擦りでもしてるのかもしれない。あるいは、【ミミッキュ】かな……。

 

「……んー」

 

 ヒトミはスリスリと俺の膝を頬で撫でる。

 

「うぅ……もう、くすぐったいってば」

 

 その後、ヒトミの頭が動くたび、こそばゆい感触が襲う。小声で文句を言ってみたが、当の本人はあどけない顔で静かに眠ったままだった。

 普段は何を考えているか分かりずらい歪んだ表情で笑う彼女だが、こうして見ると、また違った角度で可愛く見える。

 

「えへへぇ……」

 

 幸せそうな顔……ホント、どんな夢を見てるんだろう。

 『マンインドコントロール』を使えば分かっちゃうけど、プライバシー侵害が過ぎる。普通にダメだ。

 

「んん……す、きぃ……」

 

 唐突なヒトミの寝言に、思わずドキッとした。

 

「……むぅ」

 

 いったい何が好きなんだよ。

 オカルト? ゴーストポケモン?

 

「まったくもう……」

 

 ヒトミに心を乱されて、イヤな気はしないが、俺の心は不思議とモヤモヤした。

 ちょっとした仕返しに、俺はヒトミの頭を撫でる。

 くせっ毛な彼女の髪は、ほとんど摩擦を感じないくらいサラサラしていた。

 ヒトミを撫でているうちに、心にできたモヤモヤは少しずつ小さくなっていった。

 

「……ふぁぁ」

 

 ヒトミの頭をやさしく撫でていると、どことない心地よさからか、俺も眠たくなってきた。

 

「…………スー……スー」

 

 しばらくウツラウツラしていたが、気がつけば俺は、頭を下ろして眠りに落ちていた。

 

 

 

 

 

 ーーつづく。

 

 

 

 

 






次回、新キャラ登場!


追記:
前5話にあるアンケートに加え、別のアンケートを設定しました。
ご協力、お願いします。



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3. 良くないことの話

 

 

 

 船がムロタウンの港に入ったのは、陽が沈みかけて空がオレンジ色になるくらいの頃だった。

 ムロタウンは“タウン”というだけあってトクサネシティと比べると、やや小さな街だった。けど、街中にはとても活気があり、豊かな情景が広がっていた。

 風景を眺めたのもつかの間、俺とヒトミはポケモンセンターへと向かい、一晩宿をとった。

 そして翌日、諸々の準備を済ませた後、俺達はポケモンセンターを出た。

 

「よーし、行くぞー!」

「ラールー!」

 

 俺の気合い入れに合わせて、ラルトスも手を上げる。

 ジム戦に向けて、彼女の調子も万全のようだ。

 

「って、ヒトミ……何してるの?」

「……今日の占い」

「へぇ」

 

 俺とラルトスの後ろで、ヒトミは布越しに持ったモンスターボールを、片手でかざしながら見つめている。前にもたまにやっていたモンスターボールを水晶玉のように使った占いだ。

 ボールの艶を見るようなヒトミの顔は、知らない人が見たら不気味と取られるくらい笑っている。そんな彼女の空気に合わせているのか、彼女の足元でヒトモシも影のある笑みを浮かべていた。

 

「…………むぅ」

 

 やがて占いが終わり、ヒトミは歪んだ笑みを引っ込め、不服そうに固く口を結んだ。

 

「どうだった?」

 

 ヒトミの表情から、あまり良くない結果だと察したが、一応訊いてみる。

 

「カズヤと私にとって、“良くないこと”が起こるみたいだわ……!」

「良くないことって……ひょっとしてジム戦に敗けるとか?」

「そこまでは分からない。けど好ましくない因果律が見えるのは確か……。私の占いから言えるのは、今日、ジムへ行くのはオススメできないってことくらい……」

「……そっか」

 

 縁起悪いなぁ……。

 まぁでも、もし今日ジム戦で敗けたからって二度と挑戦できなくなる訳じゃないし……。

 

「でも、大丈夫……」

「えっ?」

 

 途端、ヒトミは【でんこうせっか】でも使ったのかというくらい素早く距離をつめて、俺の頭の後ろへ手を回した。

 

「ちょ、なにを!」

「じっとしてて」

 

 抵抗する隙さえ与えず、ヒトミはグッと身を引き寄せて俺の頭と自分の頭をピタッと合わせた。

 お互いの額が触れ合い、まるで口づけでもするかのような距離だ。

 なんだか少し甘い匂いもする……気がする。

 

「Ilvey, yhveme, yanmealwytogthr, candoevryiftwo ...」

 

 ヒトミは目を閉じて、呪文のような言葉を優しく透き通った声で呟いていく。

 耳でヒトミの声を聴き、顔に吐息が触れて、額で体温も感じる。俺は、その間、心臓がバクバク鳴りっぱなしだった。

 

「twlvesfrevr……よし」

 

 呪文が終わり、ヒトミはまっすぐ俺の顔を見た。

 

「え、えぇーと……」

「おまじない」

 

 ヒトミはニヤリと笑い、さっきの占いでしていたような笑みを浮かべた。

 

「これで、大丈夫よ!」

「そ、そうなんだ……」

 

 口ではそう言ったが、もう何が大丈夫か分からない。まだ心臓がドキドキしてるし、顔が【だいばくはつ】しそう……。

 

「あ、ありがとう」

「うん!」

 

 俺が礼を言うと、ヒトミの歪んだ笑顔が、【パールル】の真珠のようにキラキラした純粋なものになった。

 

「えへへ!」

「…………可愛い」

 

 俺は顔を背けて口元を手で覆い、ボソリと呟いた。

 なんかもう、縁起が悪いとか、どうでも良いかも……。

 今ので俄然やる気でた!

 

「そ、それじゃあ、行こう!」

 

 俺は真っ赤になっているであろう顔を隠すように、ヒトミより少しだけ前を歩きながらムロジムへ向かった。

 

『カズヤ、顔赤いよ。大丈夫? 風邪ひいた?』

「ううん、大丈夫……ありがとね」

「ラルルゥ!」

 

 途中、ラルトスに心配されたりしたが、その良い感じの優しさと純粋さに和み、俺はなんとか平常心を取り戻すことができた。

 

 

 

 

 ポケモンセンターからムロジムまでは、そんなに時間は掛からなかった。

 

「……ここがムロジムか」

 

 俺とヒトミは並んでジムの前に立ち、建物の外観を見上げる。

 

「同じジムでもフウ達のジムとは、違った雰囲気だな」

「そうね」

 

 同じホウエン地方のジムだからなのか形とかは一緒だけど、ジムのシンボルとか色合いとかが少し違う。そして、なによりも感じるオーラというか、風格が少し違っていた。

 

「頼んだぞ、ラルトス!」

「ラルラール!」

 

 俺は頭の上に乗ったラルトスは『まかせて!』とやる気を示していた。

 俺は足を進めてそのまま自動ドアをくぐる。ヒトミもヒトモシを抱えて俺に続く形で中に入った。

 

「えぇー!」

 

 二人で中に入った途端、なにやら高い声が中に響いた。

 すると奥の方で、その声を上げたと思わしき少女とメガネをかけたジムの人らしき女性がなにやら話をしていた。

 

「ジム戦できないって、どうしてッスかぁ!」

「あいにく今日はジムリーダーが不在でして……」

 

 えっ、ホントに……?

 

「明日なら問題なく挑戦いただけるんですけど……」

「うぅぅ……そうッスか。じゃあ出直してくるッス」

 

 オレンジ色のトレーニングウェアを着た青髪ポニーテールの少女は、見るからにガッカリした様子で、ジムを出ていった。

 会話から考えて、どうやら今の彼女もポケモントレーナーで、俺と同じくムロジムへ挑戦しに来たみたいだが、どうやら今日はジムリーダーの不在のためジム戦はできないらしい。

 確認のため、俺は少女と話をしていたメガネの女性のもとへ行き、ジム戦について訊ねた。

 

「えーっと……今日はジム戦できないんですか?」

「えぇ、ジムリーダーのトウキさんが別件で不在なの。今日中には帰ってこられないと思うわ」

「分かりました。じゃあ、明日また来ます」

「ごめんなさいね」

 

 事務員さん(あるいは秘書かな?)らしき人は申し訳なさそうにお辞儀をして俺達がジムを出ていくのを見送っていた。

 

「……はぁ」

「……ラルぅ」

「残念だったわね」

「モシモシ」

 

 ジムを出て、ジムの人が誰も見てないのを確認して、俺とラルトスは深い溜め息を吐き、肩を落とした。

 ヒトミが占いで言ってた“良くないこと”とは、この事だったのかな……。

 

「まぁ、仕方ないさ。気持ちを切り替えて、明日、がんばろう。な、ラルトス」

「……ラールー!」

 

 ラルトスは俯いていた顔をあげて、元気よく返事をした。その返事をしてくれたことへの感謝に、ラルトスの頭を撫でると、ラルトスは『えへへ!』と口元を緩めて喜んだ。

 

「この後、どうする?」

「暇になっちゃったね」

 

 まさか一日暇になるなんて……。

 敗けてジム戦が長引くのは想定してたけど、暇になるのは考えてなかった。

 修業するのも良いけど、エスパータイプの修業は精神的なトレーニングが主で、日々の積み重ねが成果となり、一日しっかりやったからといって実力がのびるものではない。それに、トレーニング自体は今朝の日課でやっている。

 さて、どうしたものか……。

 

「海岸でも歩いてみようか?」

 

 

 

 ***

 

 

 

 俺の提案で、俺達はムロタウン周辺の海岸にやって来た。トクサネシティも海で囲まれていたが、街の風景と同じく、ここの海岸もトクサネシティの海岸とは違った趣がある。

 

「同じ海でも、場所が変われば雰囲気も変わるなぁ」

「そうね」

 

 俺はラルトスを頭に乗せ、ヒトミはヒトモシを腕で抱えている。いつものように並んで歩き、俺達はほのぼのとした時間を過ごしていた。

 今いる場所は、ムロタウンの住宅街から少し離れている海岸で、ちょうど崖のように海から突き出ている岩場とまっさらな砂場が交わる場所だ。

 岩場の上を歩くのは危険だろうが、やや離れた砂場から見上げると自然の壮大さが感じられる。波が岩へ打ち付ける光景は、なんだかドラマチックにすら見える。

 

「……あれ?」

 

 海岸の風景を眺めていると、ふとヒトミが何かを見つけて首を傾げた。

 

「どうしたの?」

「いえ……あそこ」

 

 ヒトミの指先に沿って目線を動かすと、岩場の上に人影が見えた。

 

「あの子って……」

「あぁ、たしかジムにいた……!」

「ラルぅ!」

「モシモシ!」

 

 よく見ると人影の正体は、さきほどムロジムですれ違ったへそ出しトレーニングウェアの少女だった。

 俺が洩らした言葉に、ラルトスとヒトモシも肯定する意の鳴き声を上げた。

 

「ヤッ! トォ! ハァ!」

 

 少女はここからでも聞こえるほど大きな声を出して、断崖絶壁の上で、格闘技の型稽古をしていた。

 

「危ないなぁ、あの子……」

 

 とても迫力のある稽古姿だが、俺が率直に思ったことは、ソレだった。

 もし足でも踏み外そうものなら、即、海へドボンだ。落ち方が悪ければ、命にかかわる。

 そんなことを思っていた時だった……。

 

「フッ、ハッ、あーっとととドァ!」

「「なっ!」」

 

 少女はバランスを取るのに失敗して崖から落ちた。

 

「ラルトス、崖下の砂場にテレポート!」

「ラル!」

 

 ラルトスの技を使い、俺は崖の近くに瞬間移動した。そして直後、『テレキネシス』を使って落下する少女へ念力を纏わせた。

 

「アァァァ、ヤバいヤバいヤバい、ヤバいィィッスぅぅ!」

 

 少女は絶叫しながら落下している。

 

「クッ!」

 

 『テレキネシス』によって落下速度は遅くできたが、このままでは海に落ちる!

 落下地点の水深がどれくらいか分からないが、浅かったら危険だ。

 

「ラルトス、サイコキネシス!」

「ラル、ラぁぁルぅぅぅぅ!」

 

 流石に俺の『テレキネシス』に人を受け止めるだけの精神力はまだ無いので、俺はラルトスに【サイコキネシス】で少女を浮遊させて砂場の上まで運んでもらった。

 ラルトスも【テレポート】を使った直後、すぐに【サイコキネシス】は使えないので、良い感じの時間稼ぎができた。

 

「えっ!」

 

 砂場に軽い尻もちをつく形で落ちた彼女は、目をパチクリとさせていた。

 表情から察するに、突然のことで何が起こったか分からない、といった感じだろう。

 

「大丈夫ですか?」

 

 俺は彼女の様子を伺うように歩み寄る。

 『テレキネシス』と【サイコキネシス】で受け止めたとはいえ、どこか怪我でもしていたら大変だ。

 少女はポカンとした顔で、こっちを見た。

 

「あの、どこか怪我とかしなかったですか?」

「…………うぅ」

 

 あまりにも反応がなかったので、再度問いかけたら、突然、少女は眼が潤ませ始め、震えた声をつまらせた。

 

「うぐっ……ふ、ふぇぇぇ!」

「ぐふッ!」

 

 小さな嗚咽をこぼし、ついに、貯まっていた涙が溢れ、少女は泣き出してしまった。

 それだけならまだ良かったのだが、少女は泣き出すだけでなく、助けでも求めるように腕を回して俺に抱き付いてきた。

 

「死ぬかと思ったァァァ、チョー怖かったッスぅぅ!」

「わかった! わかったから! はなしてェ!」

 

 この子、見た目通りというかなんというか、抱きしめる力が強い。

 率直にいって、かなり苦しい!

 背中を軽く叩いたり(タップアウト)したけど、彼女は気づいてくれていないようで、しばらくの間、少女は俺を締めつけながらワンワン泣いた。

 

 

 

 

 この時、なんとなく背中に冷たいものを感じた気がしたんだけど、あれは何だったんだろう……?

 

 

 

 

 

 ーーつづく。

 

 

 

 

 






『っす』口調の女の子は人気がないと聞きました。

なんででしょう?
作者としては(リアルな話はさておき)可愛いと思うんだけどなぁ……。



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4. バトルの話



やっぱりポケモンといえば、
バトルと“アレ”の存在ですよね?




 

 

 

 

「いやー、恥ずかしい所をお見せしたッスねぇ!」

 

 少女は後ろ頭を擦り、照れくさそうに笑う。

 彼女が砂浜に降りてから今みたいに話をできるようになるまで、10分くらいかかった。その間、彼女は滝のように涙を流してめちゃくちゃ泣いた。そして、同時に俺の身体をがっしりと掴まえて放さなかった。

 途中から、ヒトミとラルトスとヒトモシが彼女の腕を放そうと頑張ってくれていたが、インドアなヒトミと物理的パワーの強くないラルトスとヒトモシでは、彼女の力に勝つことはできなかった。

 なんかもう締めつけられ過ぎて、身体が痛い。

 跡とかついてないよね……?

 

「私はバトルガールのサヤカ。危ないところを助けてもらって、ありがとうございますッス。この恩は一生忘れないッス!」

「いや、そんな別に気にしなくても……」

 

 なんか彼女の頑丈さなら、あの岩場から落ちてもケロッとしてそうだ。

 まぁでも、怪我もなく無事だったようで、良かった良かった。

 

「俺はトクサネシティのカズヤ。こっちが同じくトクサネシティのヒトミ」

 

 俺は背後で隠れるように立っているヒトミを示す。俺の服を掴んでることから、ヒトミはいつものように人見知りをしているようだ。フウとランに初めて会った時も、こんな感じだったし……。

 

「よろしくッス!」

 

 少女……サヤカが眩しいくらいの笑顔で挨拶をすると、ヒトミはビクッと反応して、さらに後ろに下がった。服を掴む力も強くなって、半ば俺の身体を引っ張っている。

 そんなヒトミの反応を見て、サヤカは不思議そうな顔をして首を傾げた。

 

「……彼女さん、どうかしたッスか?」

「あぁ、いつものことだから気にしないで」

「そうッスかぁ……?」

 

 普通ならヒトミの様子が気になる所だろうが、あっさりした性格なのか、サヤカはサラッとした態度で、あまり気に止めなかった。

 

(……か、彼女!)

 

 なんか急に背中を引っ張っているヒトミの手がゆっくり揺れだした。

 大丈夫かな……。

 後ろを見ても、ヒトミが背中の方にいるせいで、顔はよく見えないし……。

 

「そういえば、お二人は先程、ジムにいた方達では?」

「そうだよ」

「ということは、二人はポケモントレーナーッスか!」

 

 サヤカは前のめりになってキラキラした眼で、俺達を見た。

 ポケモントレーナーなんて、そんなに珍しいものでもないのに……。

 なんで、そんな興奮してるんだ?

 

「俺はそうだけど、ヒトミは違うよ」

「じゃあ、カズヤっていったッスね、早速バトルするッス!」

 

 そう言って、サヤカは俺を指で示した後、シャドウボクシングのように拳を動かした。

 

「えっ、なに? バトルって俺達が戦うの?」

「いやだなぁ、ポケモンバトルに決まってるじゃないッスか! 私のポケモンとカズヤのポケモン、どっちが強いか勝負するッス!」

 

 じゃあ、そのシャドウボクシングはいったい何なんだよ……?

 

 

 

 ***

 

 

 

 その後、暇だったし断る理由もなかったので、俺はサヤカの申し出を引き受けた。

 そして今、広い砂浜をバトルフィールドにして、俺達は大きく間をあけて、向かい合っている。

 ヒトミはヒトモシを抱えて、俺の少し後ろでバトルを観戦するみたいだ。

 さっきから少しムスッとしてるのが気になるけど……どうしたんだろ?

 

「私の手持ちは一体だけッスから、ルールは使用ポケモン一体のシングルバトルにするッス!」

「分かった」

 

 俺の手持ちもラルトスだけだから、ちょうど良い。

 サヤカはハーフパンツのポケットからモンスターボールを取り出して起動させた。

 

「それじゃあ、出てきて! アサナン!」

 

 そう言って、サヤカは勢いよくモンスターボールを投げた。すると投げたボールは弾けるように割れ開き、中から一匹のポケモンが飛び出す。

 

「アサー!」

 

 そのポケモン、【アナサン】は、そのまま空中で足を組んで「ナン!」と短い鳴き声を上げて地面に腰をつけた。

 その瞑想するような体勢は【アサナン】が精神を高めるためによくやるポーズだ。

 

「おぉ、アサナンだ!」

 

 父さんがチャーレムを持ってることもあって、少しテンションが上がった。それに、なによりもエスパータイプだし!

 

「それじゃあ、こっちも。ラルトス、頼んだぞ!」

「ラル!」

 

 俺がそばにいたラルトスに指示を出すと、ラルトスは『まかせて!』と頷いて、その場からシュッとジャンプして、フィールドに立った。

 

「先手は譲るよ」

「おっ、良いッスか! じゃあ遠慮なくいくッス!」

 

 サヤカの意気込みに応えるように、相手のアサナンが立ち上がり、瞑想のポーズから戦う構えに移った。

 

「アサナン、【きあいパンチ】!」

 

 【きあいパンチ】は、かなりの威力があるが攻撃を出すまで少し時間が掛かる技だ。

 そのせいかスクールにいた時には、バトル中この技を指示するトレーナーは少なかったんだけど、今回は俺が先手を譲って相手が攻撃してこないと分かってるから、指示したのかな……?

 

「アーサー!」

 

 拳に気合いをためて、アサナンはラルトスへ迫る。

 

「ラルトス、【かげぶんしん】」

「ラル!」

 

 だが、アサナンの【きあいパンチ】はラルトスの身体をすり抜けた。そしてアサナンの周りに次々とラルトスの分身体が現れてアサナンを囲んだ。

 

「ア、アサぁ!」

 

 アサナンはラルトスの分身体を見て、どれが本物なのか分からず混乱しているようだ。

 

「惑わされないで、アサナン! 【こころのめ】!」

 

 サヤカの指示に従い、アサナンは目を閉じて、周りの気配を探る。

 【こころのめ】は、相手の場所を探知して次の技を必中させる技だ。これで【かげぶんしん】で増えた分身と本物を見分けて、さらに次の技を当てることができる。

 聞いた感じでは使い勝手の良さそうな技だけど、こういった技(補助技)は大きなスキを作っていたりもする。

 

「今だラルトス、【アンコール】!」

「ラル!」

 

 ラルトスは(分身も一緒に)リズムよく両手をパチパチ叩き、アサナンをたきつけた。

 

『はーい、もう1回っ! もう1回っ!』

『なぬっ?』

 

 アサナンは、一瞬戸惑いを見せたが、次第に何事もないように不自然に落ち着きを取り戻した。

 

「アサナン、【バレットパンチ】!」

 

 げっ、はがねタイプの技!

 危なかった!

 

「……ナーン」

「ちょっと、アサナン! 何やってるの!」

 

 どうやらサヤカは【アンコール】を知らないらしい。

 まぁ、俺も爺ちゃんから聞かされるまで知らなかったし、スクールでも教わらなかったから、不思議ではない。

 【アンコール】は相手のポケモンに暗示をかけて直前の技を強制的に出させる技だ。だからアサナンは【バレットパンチ】の指示を聞かず、今も【こころのめ】をやっている。

 

『あっそーれ、もーぅ1回っ! もーぅ1回っ!』

 

 ラルトスのヤツ、楽しそうだな……。

 無邪気なテンションのせいで、バトル中なのに、まるで音楽ライブの観客みたいだ。

 

「あのラルトスの動き……何かの技ッスね!」

 

 気づいたか……。

 まぁ、あのラルトスの様子を見れば、流石に気づくか。

 

「ラルトス、【めいそう】でパワーを貯めろ!」

「ラル……」

 

 ラルトスに次の指示を出すと、ラルトスの分身体が消えて、本体だけがアサナンの前に残った。そしてラルトスは、さっきまでの楽しそうにしていた手拍子をピタリとやめて、シーンと静かに心を落ち着けた。

 

「アサナン、しっかり! 【バレットパンチ】!」

 

 【アンコール】の暗示は、技を掛けてからしばらく持続するが、それでも時間が経てば解けていく。

 

「アサっ! アーサーナン!」

 

 やがて、アサナンは正気を取り戻して、サヤカの指示通りに【バレットパンチ】の構えを取った。

 

「今だ、【チャームボイス】!」

「ラル!」

 

 アサナンが距離を縮めて、ラルトスに【バレットパンチ】を打とうと飛びかかる。

 

「ラルラルぅ、ラルーぅ!」

 

 けどアサナンが攻撃するよりも早く、ラルトスが魅惑的な声を響かせた。

 ラルトスの【チャームボイス】の音波がアサナンに直撃する。【めいそう】のおかげで威力も高まり、効果は“ばつぐん”だ。

 ちなみに、この時のラルトスの言葉だが……。

 

『チャームぅ、パワーぁ!』

 

 ホント、言葉が分かる者からすれば、そのまんま過ぎて、逆に魅惑の欠片も感じない言葉になっている……いや、確かに可愛いくはあるんだけどさ。

 

「ア、サ……ナン」

 

 アサナンは膝をついた。

 

「アサナン! 大丈夫?」

「アーサー!」

 

 『大丈夫です!』と言っているが、その様子から、あまり余裕がないのが分かる。

 

「頑張ってアサナン、【かわらわり】!」

「アサ!」

「これでトドメだ。ラルトス、【サイコキネシス】!」

「ラル!」

 

 アサナンは手を上げてラルトスに飛び掛かり、対してラルトスは眼を光らせて念力を手に纏った。

 

「ラールー!」

「アーサー! アサ!」

 

 ラルトスの纏った念力は、【かわらわり】で手を振り落とそうとしていたアサナンに伝播して、空中にいたアサナンを吹き飛ばした。

 

「あぁ、アサナン!」

 

 叫び声を上げて吹き飛んだアサナンは、そのまま地面に倒れて目を回した。

 

 

 

 ***

 

 

 

 バトルが終わり、サヤカが倒れたアサナンに駆け寄る。

 

「大丈夫、アサナン?」

「ナーン……」

 

 アサナンは『なんとか……』と弱々しい声で応えるが、体力を消耗してグッタリとしていた。

 サヤカは「ゆっくり休んで」と言って、アサナンをモンスターボールに戻した。

 

「ラールー!」

 

 ラルトスは『勝ったよー』と無邪気に駆け寄ってきた。

 

「お疲れさま、ラルトス」

「ラルラル、ラールー!」

「おっと!」

『ふふーん』

 

 ラルトスは喜んだ声で鳴き、俺の胸へ飛び込んできた。俺は慌てて抱き止めるが、ラルトスはそのまま甘えるように腕の中に顔を埋めた

 

「よしよし、よく頑張ったな」

『んー』

 

 そっと頭に手を置いてラルトスを撫でると、ラルトスは満足そうに顔をほころばせた。

 

「一撃も入れられなかった……悔しい!」

 

 サヤカは目を閉じて、ギュッと拳を強く握った。心なしか目元も潤んでいるように見える……。

 俺はゆっくりとサヤカの元へ歩み寄る。

 

「惜しかったな。まぁ、今回は俺の運が良かったというか……」

「気遣いは無用ッス。私なんて、まだまだ未熟ッスから!」

「いや、そんな卑下しなくても……」

 

 めちゃくちゃヘコんでる……ストイックなんだなぁ。

 でも実際、ポケモンの相性への判断も的確だったし、戦略的にも【かげぶんしん】の後に、すぐ【こころのめ】を指示したのは良かったと思う。スクールでは適当に攻撃して片っ端から分身を消して、力業で解決しようとする生徒も少なくなかったからな。

 

「今回、サヤカの主な敗因は【アンコール】を知らなかったことくらいだし、実戦を積めば、きっと強くなるよ」

「……本当ッスか?」

「うん」

 

 攻撃技が直接的なもの(物理技)ばかりだったのが気になるけど、本当にトレーナーとしてのセンスは悪くないと思う。

 

「まぁでも、バッチひとつも持ってないトレーナーの言うことだから、あんまり当てにならないし、励みにもならないか……」

「そんな事ないッス! 私より強いのは確かッスし、それに、バッチを持ってないのは私も同じッスから」

 

 そうなんだ……。

 そういえば、バトル前にポケモンはアサナンだけって言ってたな……トレーナーとしての経験は、そんなに多くないのか。

 そんな事を思っていると、サヤカは顔を上げて「よーし!」と目の色を変えた。

 

「これからもっと修業して、もっともっと強くなるッス……。カズヤ、次は負けないッスからね!」

「あっ……う、うん」

 

 どうやら元気を取り戻してくれたようだ。

 けど、そのファイティングポーズは何なんだ?

 

「これから、カズヤと私はライバルッス!」

「えっ……お、おぅ!」

 

 サヤカは手を上げて俺に握手を求めてきた。突然のことでビックリしたが、俺は手を伸ばして、その握手に応える。スポーツ選手がよくやる、親指を握り合うヤツだ。

 

「…………寒っ!」

「ん、どうしたッスか?」

「いや、なんか寒気が……!」

 

 サヤカと握手した瞬間、なんか妙な悪寒が走った。

 そういえば、サヤカを助けた時も、微かに感じたけど……。

 

 

 この感覚は、一体なんだ?

 

 

 

 

 

 ーーつづく。

 

 

 

 

 






はーい、ということで“ライバル”出現です。

えっ?
誰にとってのライバルかって?
それはもう、言わずもがな、ですよね。

今回はイチャラブ成分少なめだったので、次回はもっとイチャラブさせたいと思います!


PS:
技の設定など、あまり自信がありませんので、ポケモンバトルについて感想がございましたら、是非ともお聞きしたくと思います。
(それ以外の感想や評価でも、もちろん構いません)
全国のポケモントレーナーの皆さま方、御感想のほど、よろしくお願いいたします。


PSのPS:
アンケートは投票総数が100を越えたら終了しようと思います。



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5. やきもちの話



ブラックコーヒーを御用意ください。




 

 

 

 

「じゃあ私、アサナンをポケモンセンターで診てもらわないといけないッスから!」

 

 そうだな。トドメが効果いまひとつの【サイコキネシス】だったとはいえ、体力は消耗しきっている。はやく診てもらった方が良いと思う。

 

「明日は、お互い頑張りましょう。またバトルしようッス!」

「うん、次に戦うのを楽しみにしてる!」

 

 サヤカは楽しそうにニカッと笑う。つられて俺も口元が緩み、笑顔になった。

 ホント、見ていて気持ちの良い子だなぁ、サヤカって。

 こっちまでつられて元気に明るくなる気がする。

 

「ヒトミちゃんも!」

「ひっ!」

 

 サヤカが顔を向けると、ヒトミはビクッと反応して俺の後ろに隠れた。

 そんな怯えなくても、【グラエナ】や【サメハダー】じゃないんだから……。

 

「今回は、あんまりお話できなかったッスけど、次は二人でガールズトークするッス!」

 

 ガールズトークか……ヒトミって基本的に人と話すの苦手だからなぁ。

 できるかなぁ……?

 

「ヒトミちゃんはシャイみたいッスけど、私は諦めないッスからね! 絶対仲良くなってみせるッス!」

 

 サヤカは「それじゃあー!」と手を振りながら去っていった。俺もそれに応えて、手を振り返す。

 でも、前向いて走らないと危ないぞ?

 

「少し変わってるけど、良い子だったね」

「…………むぅ」

 

 

 

 

 賑やかな子がいなくなり、少しだけ辺りが静かになった。

 

「今のは宣戦布告、要注意ね」

「何でだよ!」

 

 サヤカの姿が見えなくなってヒトミが言った第一声に、俺は思わずツッコミを入れた。

 せっかくヒトミが俺以外の友達を作るチャンスだと思ったのに……。

 去り際のサヤカの言葉に、どこか敵対感を煽るものがあったかな?

 いくら頭の中でリピートしても、そんなもの、なにもなかったと思うけど……。

 

「あの娘は、危険。カズヤも気をつけた方がいいわ……!」

「えっと……どこが?」

 

 なんでだろう。ヒトミってば、いつもオカルト話をしている時にやってる歪んだ笑顔に、五割増しくらい濃い影を浮かべている。いつもの吸い込まれるような眼光の笑顔も少し怖いけど、今の笑顔は人形みたいに無機質で、少し寒気がする。

 そういえば……この感じ、さっきからちょくちょく感じていた悪寒に似ている。

 

「あの子の言葉の意味をヒモ解くと……、

 

 『今回は、あんまりお話できなかったッスけど、いつか二人だけでガールズトークするッス!』

 

 【今回は、ここまでにしてやるッスけど、いつかカズヤを賭けて二人で勝負するッス!】

 

 『ヒトミちゃんはシャイみたいッスけど、私は諦めないッスからね! 絶対仲良くなってみせるッス!』

 

 【ヒトミは臆病者みたいッスから、余裕ッスね! 絶対カズヤを自分のモノにしてみせるッス!】

 

 ……っていう意味に違いないわ」

 

 違いあると思うよ。

 なんで俺が景品みたいな扱いになってるの?

 

「だからカズヤも気をつけた方がいい。あの子に勝っても、またいつ襲われるか分からない」

「いや、俺がいつ襲われたの?」

 

 ちゃんと勝負の申し入れがあって、俺がそれを引き受けた形だったと思うけど……。

 自分のことながら、まるで心当たりがない。

 

「最初、カズヤがあの子を助けたとき……」

 

 え、えーと……ひょっとしてサヤカが助けられて、安堵のショックで俺に抱きついてきたことを言ってるのかな?

 

「あれは襲われたのとは違うと思うけど……?」

 

 確かに、痛くて参ったけどさ……。

 

「見ず知らずの第三者の異性からバグされるのは、襲われてるのも一緒よ。ジュンサーさんのお世話になってもおかしくないわ…………私だってやりたいのに。羨ましい!」

 

 最後の方、ヒトミはプイッと顔を横にしてボソボソ言ってて、よく聞こえなかった。

 

「そう言われると、そうかもしれないけど……けど、九死に一生を得るような思いをしたら、誰だってあんな感じになるだろうし、仕方ないと思うよ」

 

 前にやってたテレビドラマとかでも、【ザングース】に襲われた男の子がポケモンレンジャーさんに救助されて、泣きながら抱きついてたし……。

 あれはそういう演出だったけど、(今回みたいに)現実でそういう事になったら、皆、あーなっちゃうものなんじゃない……?

 

「あと最後の方、なんて言ったの?」

「……えっ?」

「いや、今さっき、最後の方ボソッと何か言ったよね? 聞き取れなかったからさ、悪いけどもう一回言ってくれないかな?」

 

 俺が訊くと、突如、ヒトミはビクッと身体を震わせた。

 

「べ、別に何も言ってない、わ!」

「えっ! でも確かに」

「ホントに、何も言ってないから!」

 

 ヒトミにしては珍しく(オカルト話もしてないのに)声の調子が強い。

 顔も赤いし……。

 なんか、怒らせちゃったかな?

 

「モシモシ、モッッ!」

Tais-toi(だまって)、ヒトモシ!」

 

 ヒトモシがなにか言いかけたけど、ヒトミに口を押さえられて、何を言ったのか分からなかった。

 カロス語が出るなんて、よっぽど言われたくないみたいだ。ギリギリ聞き取れたのも『御主人は、やッッ!』くらいだったし……。

 

「私には分からないからって、絶対っ、カズヤに変なこと言っちゃダメだから!」

「……モーシ」

 

 ヒトモシは『はーい』としょんぼりした様子で鳴き、ヒトミの両腕の中で『秘密だ、カズヤ』と俺にアイコンタクトを送ってきた。

 いつも彼の暴露癖に困ったりしたが、こうやって口止めされると、少し残念な気がする。

 まぁ、でも、そんなに聞かれたくないことなら、無理して聞き出すのも良くないな。

 

「んー、わかった。聞かれたくないことなら聞かない。ごめんね、答えにくいこと訊いちゃって」

「……別に、大丈夫」

「ん?」

 

 ヒトミの返答に違和感を覚え、俺は彼女の顔を覗き込むようにして表情をうかがった。

 

「……そう?」

「うん……」

 

 口では大丈夫と言っているが、ヒトミの態度には、不満というか、“伝わらなくて少し残念”というような雰囲気が感じられた。

 

(あ、危なかった……カズヤに気を使わせちゃったけど、ホントよかった……も、もしカズヤに、私が、だ、抱きつきたいなんて思ってるってバレたら、絶対に引かれちゃう…………で、でも、カズヤもカズヤよ。女の子に抱きつかれて、ヘラヘラしてぇ! むぅぅ!)

 

 この感じ……なんだろう……ヒトミ、怒ってる?

 いや、でも怒ってるっていうのとも、ちょっと違う気がする。

 

「ラルラー!」

 

 名前を呼ばれて顔を下に向けると、ラルトスがズボンの裾を引っ張っていた。

 

『あのね、ヒトミは怒ってないよ』

「えっ、そうなの?」

「え、あっ、ちょ、ラ、ラルトス、あの、やめ、て、あ、ああ、あわわわわ!」

 

 ラルトスは通称『きもちポケモン』だ。人の感情を察知することができる。そんなラルトス曰く、ヒトミは怒ってないとのことだ。

 ヒトミは自分のポケモンじゃないこともあって、ラルトスに強く言えず、困ったように慌て出した。

 

『怒ってるんじゃなくて、ヒトミは恥ずかしいみたい。あと、さっきからずっと羨ましいとも思ってるよ』

「恥ずかしい? 羨ましい?」

「いやぁぁ! ラルトスも言わないで! お願い!」

 

 ヒトミはいよいよ取り乱して、両手に抱えていたヒトモシを放して、ラルトスを押さえに掛かった。

 しかし、ラルトスがその場からピョンと飛んで、その場の取り押さえは失敗に終わる。ラルトスはそのまま【ねんりき】を使って俺の頭に乗った。

 ラルトスを捕まえ損ねたヒトミは、砂浜に伏せる形になった。

 

「大丈夫?」

「……うぅ」

 

 身体についた砂を払いながら上体を起こすと、ヒトミは顔を真っ赤にして、今にも泣きそうな顔になっていた。

 

「ラルトス、ヒトモシ。少しの間、その辺で遊んでてくれない?」

 

 俺はラルトスをヒトモシの横に下ろして、二人にお願いした。

 

「ラールー!」

「モーシー!」

 

 俺の頼みを素直に聞き入れてくれて、ラルトスとヒトモシは元気に駆け出す。二人は波打ち際まで行き、パシャパシャと波を踏んで遊び始めた。

 

「さて……」

「うぅぅぅ」

 

 改めてヒトミを見ると、ヒトミはトンビ座りをしながら頭を抱え、弱々しく(かつ可愛らしく)唸っていた。

 完全にパニクっている。吸い込まれそうな眼光をしてるのもあって……なんだか、いまにも軽く錯乱しそうだ。

 

「あの……なんていうか……」

 

 なんて言おう……。

 おそらく、次に話す言葉を間違えたら、ヒトミは2、3日ポケモンセンターのベットに籠ることになる……気がする。

 

 パターンその1。

 『ラルトスが“恥ずかしい”とか“羨ましい”とか言ってたけど、何のこと?』

 

 ……ダメだ、トドメ刺しに行ってる。

 

 パターンその2。

 『とりあえず、ヒトモシとラルトスが言ったことは、聞かなかったことにするから!』

 

 ……悪くないだろうけど、いまいちパッとしない。

 それに、ちょっと嘘くさい。

 

「…………えーと」

「にゅぅぅぅ」

 

 ……はぁぁ、ダメだ。良い言葉が浮かばない。

 仕方ない、素直に訊いちゃおう。

 

「俺は、どうしたら良いかな?」

「じゃあ、抱きしめさせて」

「えっ?」

「あっ!」

 

 ……えーと。

 

「あぁーー、あ、あわわわ、今のは、違って、いや違くなくなくないけど!」

 

 “違くなくなくない”って、つまり“違っていない”ってことなんじゃ……?

 

「だから、その、私はカズヤを抱きたい、わけじゃなくて、カズヤにもっと、触りたいだけ……って、あわわわ、それも違くて!」

「と、とりあえず、一旦落ち着こうか?」

 

 どうしよう……これ以上ヒトミが取り乱さないように、慎重に言葉を選んだのに、本人が自分で地雷を踏み抜いちゃった……。

 ヒトミは真っ赤になった顔を両手で覆う。

 多分、俺の顔もいま真っ赤だ。顔もドンドン火照ってる感じがする。

 よく見ると、ヒトミは指の隙間からチラチラとこっちを見ていた。

 

「引いた、よね……?」

「……いいや」

「うそ、絶対引いた! ドン引きした!」

「ホントに引いてないって。けど……」

 

 引いてはない。

 引いてはないけど、ビックリしたというか……。

 

「急にそんなこと言うから……」

「だ、だって、カズヤがどうしたら良いなんて訊くから、つい本音が……」

 

 本音って言っちゃったよ。

 なんか、もう……今のヒトミの言葉で、ラルトスの言っていた“怒ってない”とか“羨ましいと思ってる”の意味が、なんとなく分かってしまった。

 

「ヒトミはさ……あー、これ訊いて間違ってたら、ものすごく恥ずかしいんだけど……」

「……な、なに?」

「ヒトミがさっき言ってたことだったりって、ひょっとして……やきもち?」

「ッッ!」

 

 俺が訊くと、またピクッと反応してヒトミは顔を俯かせる。

 

「……っ!」

 

 あっ、しまった!

 せっかくさっきまでヒトミが取り乱さないよう言葉を選んでたのに、こんなこと訊くなんて……。

 これじゃあ、【きゅうしょ】に当ててるよ!

 自分のミスに気づいて内心で後悔していると、やがてヒトミはゆっくり顎を引き、コクっと頷いた。

 その仕草が可愛くて、俺の頭にあった後悔がサッとすっ飛び、つい見とれてしまう。

 

「………」

「………」

 

 お互いに顔を真っ赤にしてだんまりし、しばらくシーンとしてしまった。

 さっきまで近くで、波の音だったり【キャモメ】の鳴き声だったりラルトス達が遊んでる声だったりが聴こえてたけど、今はそれら全部が霞んで聴こえる。

 

「……えーと」

 

 どうしようかと少し悩んだ末、俺は膝をつきヒトミに向けて両手を広げる。

 

「……はい」

「えっ……えぇーー! ああああ、あの、これって?」

 

 ヒトミは俺が手を広げたのを見てキョトンとし、やがてオドオドとした様子で訊ねた。

 

「その、ヒトミに抱きつかれるのは、別にイヤじゃないっていうか……」

 

 ヤバい、やっててなんだけど、コレ、すごい恥ずかしい!

 けど、ここまでやって、もう後には退けない。

 

「だから、ね……いいよ」

「い、いいの? 引いたりしない?」

「しないよ」

「ジュンサーさん呼んだり、サイキックで吹き飛ばしたり」

「しないってば」

 

 まったく、長い付き合いなんだから、それくらい分かるでしょ……?

 俺は少し前に出て、また「はい」と手を広げた。

 しばらく手をモジモジさせて悩んだ末、やがてヒトミはゆっくり腕を開き、身を寄せてきた。

 

「カズヤー!」

「おっと」

 

 そして、ある程度まで近づいてくると、ヒトミは飛び掛かるように、一気に身体を触れ合わせてきた。ヒトミを受け止める形で、俺は彼女の背に手を回す。

 そういえば、前にもこうやって触れ合ったことがあるけど、前よりも心なしかヒトミの体が柔らかい気がする。

 お互いに抱擁し合い、俺はなんともむず痒い気持ちに襲われた。

 ラルトスともこうやってスキンシップを取ったりしてるけど、ヒトミとやると、なんだか妙にドキドキして落ち着かない。

 

「……フフ」

 

 ヒトミが笑って出た息が、首もとを撫でてくすぐったい。

 仕返しに、俺は後ろに回した手でヒトミの頭を撫でた。シャンプーの匂いだろうか、クセっ毛な髪を撫でるたび、甘い香りが漂う。

 

「えへへぇ」

「ん!」

 

 頭を撫でると、さらにヒトミの温かい吐息が強くなり、くすぐったさが増した。突然の感触に、おもわず体がピクッと反応してしまった。

 体勢的に顔は見えないけど、言動からヒトミはふやけた顔をしているんだろう。

 

「むふふ」

「なっ! ちょ、ヒトミ!」

 

 ヒトミは俺の背中に回した腕に力を入れて、なんと俺の肩に口元を埋めた。

 さっきまで笑った時にしか感じなかったヒトミの吐息を、今度はヒトミが呼吸するたびに感じられるようになってしまった。

 

「……ふぅ……ふぅ」

「ンっ」

 

 俺は首もとのくすぐったい感触に耐えて、しばらくムズムズとした気持ちを持て余す。やがてむず痒い気持ちに耐えられなくなり、俺はヒトミの肩を持って身体を前にやり、彼女と向き合った。

 ヒトミの顔は赤く火照り、ちょこっと息が荒い。

 

「はぁ……はぁ……えへへへ!」

 

 少し時間をかけて、ヒトミは落ち着きを取り戻し、俺と目を合わせる。

 

「満足した?」

「……えぇ!」

 

 まだ少し物欲しそうな眼をしていたが、頷いた時のヒトミの顔は、眩しいくらい満面の笑みをしていた。

 

 

 

 

 

 ーーつづく。

 

 

 

 

 






近くにいたキャモメ『なんかバカップルがおる……えっ、あの二人付き合ってない? ウソやん!』



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6. いしのどうくつの話



いつか【R-15】が付くかもしれない。




 

 

 

 ジムリーダーの不在のためジム戦を見送り、サヤカというライバルができた日から翌々日、俺たちはムロタウンの外れにある【いしのどうくつ】へ、やって来ていた。

 

 

 昨日のジム戦は、特に苦戦することなく終わった。もともと【エスパータイプ】を弱点とする【かくとうタイプ】のジムだったし、それに、俺にとってひとつ目のジムであることもあって、ジムリーダーのトウキさんも、それ相応に手を抜いてくれた。

 そんなわけで、俺は無事に初のジム戦を突破し、『ナックルバッチ』を手に入れることができた。

 ちなみに、最初に行った時に会ったメガネの事務員さん曰く、俺が挑戦するより先にサヤカもムロジムに来ていたらしく、無事に勝利したみたいだ。

 

 

 そして初のジム戦から一日が経った今日、冒頭で言ったように俺たちは、【いしのどうくつ】にやってきている。

 目的は【いしのどうくつ】にいるらしい【ヤミラミ】を見ることだ。

 昨日の夜、偶然ポケモンセンターのジョーイさんから【いしのどうくつ】に【ヤミラミ】がいることを聞き、ゴーストポケモンが大好きなヒトミがその話に食いつき、俺が「行ってみようか?」と提案したら、即応で話が決まった。

 てなわけで、今、俺とヒトミは目当ての【ヤミラミ】を探しながら【いしのどうくつ】の中を散策している。洞窟の中は本当なら光が届かず真っ暗だが、幸い、俺達はラルトスの【フラッシュ】とヒトモシの【おにび】のおかげで、辺りの様子を見ながら歩くことができている。

 

「……わくわく」

 

 ヒトミはウキウキして、いつもより少しだけテンションが高い。表情はいつもの歪んだ笑顔だ。ヒトモシの【おにび】の光もあって、少し怖い。

 

「えへへへ」

「……気をつけてないと転ぶよ?」

「ちゃんと気をつけてるから大丈夫よ」

 

 そう言いながら、ヒトミは足場の悪い洞窟の中を軽やかに歩いていた。ついていく俺の方が先に転びそうだ。

 相変わらず、こういうときのヒトミの行動力は凄まじい。

 

「ラルラー!」

「モシシー!」

「……はぁ」

 

 俺たちの足元では、ラルトスとヒトモシが辺りを照らしながら、仲良く手を繋いで歩いていた。そんな二人を見ながら、俺は少し遅れてヒトミ達の後を追う。

 だがふと、ヒトミが立ち止まって、俺の顔を覗き込むようにして様子を伺っているのに気がついた。

 

「……なんだかカズヤ、元気ないわね?」

「あぁ、うん。ちょっとね……」

「大丈夫? 具合でも悪い?」

「ううん、そんなんじゃない。ただ洞窟の中を歩くのって初めてだから、いつもより気を使ってるだけ……」

「……そう?」

 

 実際は違うけど、本当のことを言うとヒトミが気にしそうだから、俺はあえて“それ”を言わずに誤魔化した。

 そして、“それ”っていうのが、何かというと……。

 

 

 実は俺、【ヤミラミ】が苦手なんだ。

 その苦手っぷりから、小さい頃に図鑑にのった【ヤミラミ】を見て、大泣きしたことすらある。

 どうして【ヤミラミ】が苦手なのかは、俺自身にもよく分からない。

 過去に【ヤミラミ】に襲われたことなんてないし、よくよく見ると可愛い見た目をしているとも思うんだけど、どうしても図鑑やテレビで【ヤミラミ】を見ると体が反応して、変な恐怖を感じてしまう。言葉ではうまく言えないけど……【ヤミラミ】を見ると、なんかこう、体の奥がゾワゾワってするんだ。

 

 

 けど、そんなことをヒトミに言えば、彼女は気を使って、今からでも引き返そうとするだろう。せっかく、ヒトミが楽しみにしているのに、その気持ちに水をさすのは申し訳ない。

 

「あはは……」

 

 だから、俺はできるだけナチュラルな作り笑いをして、何事もないように取り繕った。

 

「さっ、行こ?」

「え、えぇ……」

 

 ヒトミはうすうす俺が作り笑いをしているのに感づきつつあったけど、それがバレる前に、俺は歩みを進めてヒトミを追いこして彼女の前を歩いた。

 

(……よし!)

 

 この時、俺は前を向いて気づいてなかったが、後ろについてくる形で歩きだしたヒトミは、疑ったような顔つきから、何かを意を決したような面持ちに表情を変えていた。

 

「……えっ?」

 

 すると突然、俺の左手が何者かに掴まれた。足を止めて横を見ると、ヒトミが俺の手をとって、こっちを見ていた。

 

「え、えーと、どうしたの?」

「その……転んだら、危ないから……」

 

 少し顔が赤くして、上目遣いのヒトミ……すごく可愛い。

 

「そ、そっか……あ、ありがとう」

「……えへへへ」

 

 二人揃って顔を赤く染めて、俺達は手を繋ぎながら洞窟の中を進んだ。

 

「ラールラー、ラールラー」

「モーシシー、モーシシー」

 

 前を歩く二人の歌のような鳴き声もあって、物静かな洞窟の中だけど、まるでトクサネシティの公園にいたときみたいに賑やかだ。

 こうして俺達は、洞窟の更に奥へと歩いていった。

 

 

 

 

 時は少し進み、途中で野生の【マクノシタ】や【イシツブテ】に会いながら、目当ての【ヤミラミ】を探していると、俺達はまた一匹のポケモンを見つけた。

 そのポケモンは、探している【ヤミラミ】ではなかったが、黄色と茶色の身体に、尖った耳としっぽ、細い目など……その見覚えのある姿に、思わず俺はテンションが上がった。

 

「おぉー、【ケーシィ】だ!」

 

 コクリコクリと頭を動かして、まるで眠ったような様子で空中に浮いているそのポケモンは、ねんりきポケモンの【ケーシィ】だ。

 1日の18時間を睡眠に費やし、眠ったままご飯を食べたりする、あの【ケーシィ】だ!

 

「見えるヒトミ、ケーシィだよ、ケーシィ!」

「うん、見えてる……でも、そんなに大はしゃぎしなくても」

「だって、ケーシィだよ、ケーシィ! 言うなれば、ヒトミにとって【ゴース】みたいなポケモンだよ!」

「うん、それなら仕方ないわね!」

 

 さすがヒトミ、話が早い!

 

「ラルゥ?」

「モシモシ?」

 

 ラルトスとヒトモシからはイマイチ共感を得られず、『何をそんなにはしゃいでるんだろう?』と言うように揃って首をかしげられた。

 少し納得いかないけど、まぁ、ひとまず置いておこう。

 今は、とりあえず……。

 

「レッツ、ケーシィ、ゲーット!」

「あっ、ちょっと待ってカズヤ!」

 

 俺は空のモンスターボールを片手に、勢いよく飛び出した。

 

「シィ!」

「あっ!」

 

 けど、俺がケーシィに近づいた途端、ケーシィは小さい鳴き声を残して姿を消した。

 しまった、野生の【ケーシィ】といえば、逃げの達者なポケモンだった。

 出会えた感動のあまり、すっかり忘れてた。

 

「逃げちゃったわね」

 

 どうやらヒトミは、ちゃんと覚えていたらしい。

 まったく……ヒトミにケーシィについての話をしたのは俺だってのに、話した当人が忘れてたなんて……みっともない!

 

「……はぁ」

 

 ケーシィに逃げられた事とその習性をすっかり忘れていた事にガックリして、俺はため息をつきながら肩をおとした。

 

「……よし、よし」

 

 そんな俺を、ヒトミは頭を撫でて慰めてくれた。

 なんだか子供扱いされているようで少し恥ずかしいけど、不思議とイヤな感じはしなかった。

 

「なんか、ヒトミ、一昨日から……」

 

 妙に触ってくるよね?

 そう訊こうとしたけど、思わず俺は口を閉ざした。

 

「……なに?」

「いや、なんでもない」

 

 撫でているヒトミのニッコリとした笑顔が可愛くて、俺は『ま、良いか』と、心にあった小さな疑問をどこかへやった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 

「あれは!」

「【ヤミラミ】、だね……しかも二匹」

 

 しばらく洞窟の中を散策していると、ようやく俺達は目当ての【ヤミラミ】を見つけた。

 紫色の小さな身体に、輝く宝石のような眼……その姿は間違いなく、くらやみポケモンの【ヤミラミ】だ。

 ついに、見つけてしまった。

 生でヤミラミを見るのは初めてだが、やっぱり言い知れない怖さを感じる。

 

「かわいい……えへへ!」

 

 俺がひっそりと怯える横で、ヒトミは見とれて怪しく笑っていた。

 

「ミー、ミー……」

「ヤラヤラ!」

 

 ん?

 なんだろう……なにか、様子がおかしい。

 見つけたヤミラミの二匹は、洞窟の天井を見上げて、慌てたような鳴き声をあげている。

 

「あの二匹、何してるんだろう?」

「……そうね、どうしたのかしら?」

 

 目当てのポケモンを見つけて眼を輝かせていたヒトミも、その異変を感じて、首をかしげた。

 

「ねぇ、カズヤ、訊いてみてくれない?」

「えっ!」

「……お願い」

「う、うん。わかった」

 

 ヒトミの頼みとあって断りきれず、俺はラルトスと共に、警戒しながらヤミラミ達へ近づいた。

 いきなり襲い掛かられることもないだろうが、野生のポケモンであるかぎり、可能性はゼロではない。

 

「こ、こんにちは」

「ミー?」

「ヤラ?」

 

 できるだけヤミラミ達を威圧しないように、俺はヤミラミ達に近づくと、目線が低くなるように膝をつき穏やかな態度で接した。

 

『人だ!』

『どうして、こんな所に人が?』

 

 どうやら二匹は俺(と後ろにいるヒトミ)に疑問は持っても、襲い掛かったりはしなかった。

 

「どうかしたの?」

「……ヤミー!」

 

 俺に訊かれて、やや戸惑いつつもヤミラミ達は、腕を上げて天井を指した。

 

「ヤミぃ……」

 

 見上げると、そこにはもう一匹のヤミラミがいた。そのヤミラミは、洞窟の天井にある岩の隙間に収まって、「ヤラぁ」と弱々しく鳴いて怯えている。

 

『あそこにいるのは、ボクたちの弟なんだけど、どうやら下りられなくなったみたいなんだ』

「下りられなくなったって……そもそも、なんであんなところに?」

『きっと、石を取るために上がったんだ。アイツ、この前、あそこに美味しそうな石があるって言ってたから!』

「美味しそうな、石……?」

 

 どういうこと?

 

「……ねぇ、ヒトミ」

 

 ヤミラミの言ってることがイマイチ分からず、俺は後ろを振り返って、詳しく知ってそうなヒトミを呼んだ。そしてヤミラミ達の言っていたことを伝えると、ヒトミは納得したようにコクっと頷いた。

 

「ヤミラミは宝石や原石を食べると言われてるの」

「へぇー」

 

 なるほど。だから、“美味しそうな石”ってことか……。

 俺が納得すると、ヒトミは心配そうな表情で上にいるヤミラミを見上げた。

 

「カズヤ……あの子、下ろしてあげられない?」

「……うーん、普通の【ゴーストタイプ】のポケモンなら、俺の『テレキネシス』やラルトスの【サイコキネシス】を使えば、簡単に下ろせるんだけど……。ヤミラミは、【あくタイプ】も持ってるから、エスパーわざが効かないからなぁ……」

「……じゃあ、私をあそこまで飛ばして」

 

 えっ?

 

「カズヤが『テレキネシス』で私をあそこまでやってくれれば、私があの子を持って下りてくるから……」

「あぁ、なるほど」

 

 ホント、ゴーストポケモンが関係すると、ヒトミは行動力もだけど頭の回転も速い。

 

「あっ……いや、ダメ!」

「……どうして?」

 

 俺はヒトミの提案に納得しかけたが、あることに気づき、すぐに却下した。そんな俺の反応に、ヒトミは首を傾けた。

 確かに良い考えだと思うけど、それには問題が()()()ある。

 まずひとつ目の問題として、モンスターボールや軽いポケモンなら別だが、人を浮かせるとなると、それなりにパワーがいる。

 洞窟の高さは三階建ての建物くらいの高さがあり、あそこまで人間(ヒトミ)を浮かばせるのは、ラルトスの【サイコキネシス】なら問題ないけど、俺の『テレキネシス』なら、短い時間しかできない。

 ラルトスは今【フラッシュ】を使ってるから、浮かせるなら俺の『テレキネシス』を使うしかない。

 そして次にふたつ目の問題、これが決定的な理由なんだけど……。

 

「ヒトミ、その格好であそこまで上がったら……その……見えちゃうよ?」

「…………っ!」

 

 俺がヒトミの服の下の方に眼を向けると、ヒトミは俺の言いたいことを察してくれたのか、ポッと顔を赤くしてうつむいた。

 今のヒトミの格好は、黒っぽい色のワンピースだ。つまり、そのロングスカートのような服で、体を浮かせれば、当然、下からは……その、見えてしまうわけで。

 

「………」

「………」

 

 ヒトミは顔を真っ赤にしたまま、動かなくなった。俺もなんと声を掛けていいか分からず、だんまりする。

 二人揃って言葉を失い、なんとも気まずい空気になってしまった。

 

「ヤラヤラ?」

「ヤミー?」

「ラルぅ?」

「モシシ!」

 

 ポケモンたちはトレーナー達を見上げて、不思議そうにして(ヒトモシだけ楽しそうに笑って)いる。なんか、高さ五十センチを境に明らかに空気が違ってる。

 

「と、とりあえず、ヒトミを浮かせるのはナシで!」

「う、うん……じ、じゃあ、どうするの?」

「……俺が行くよ」

 

 そういって、俺は精神を集中できるように、息を深く吸って心を落ち着かせた。

 苦手なものを取りに行くというのは、少し気が乗らないけど……仕方ない。

 

「……ふぅ。せーの!」

 

 自分の体を覆うように念動力を送ると、俺の体はふわりと宙に浮いた。

 そのまま天井まで浮き上がって、俺は岩の隙間にいるヤミラミの元まで飛んだ。

 

「さぁ、おいで」

「ヤミぃ……」

 

 ヤミラミは警戒して、なかなか隙間の外へ出てきてくれない。

 

「ほら、下で君のお兄ちゃん達が待ってるから」

『……うん』

 

 俺がそう言うと、お兄ちゃんと聞いてひとまず心を許してくれたのか、しぶしぶ出てきてくれた。

 俺は出てきたヤミラミの子供をゆっくりと腕で抱えた。

 

(うーん、やっぱり怖いな……あっやべ!)

 

 けどその時、ヤミラミへの恐怖で精神が乱れたからか、『テレキネシス』が弱まって体が落下しだした。

 

「カズヤ!」

 

 運良く、落ちるスピードはゆっくりだけど、落ちる俺を見て、ヒトミが声を上げた。

 ヒトミは俺を受け止めようとしているのか、俺が落ちる先で腕を広げていた。

 って、えっ!

 

「ちょ、ヒトミ、そこどいてー!」

「キャ!」

 

 いくら遅く落ちてるとはいえ、インドアなヒトミが俺を受け止められるわけもなく、俺はヒトミと共に地面に倒れ込んだ。

 

「イタタぁ……」

「うぅぅ。ヒトミ、大丈ぉ、ぶ……?」

 

 俺は目の前で痛がっているヒトミに声を掛けた。けど同時に、なぜヒトミの顔が目の前あるのか、そして、ゆっくり落ちたとはいえ、どうして落下した衝撃が不自然に少なかったのかと疑問に思った。

 

「ふぇ! か、かかか、カズヤ……!」

「……あっ!」

 

 仰向けに倒れたヒトミが自身の胸腹部にいる俺を見て、顔を真っ赤にしている。そして、俺は、頭の中にあった疑問の答えと、俺とヒトミが今どんな体勢になっているのか、気づいた。

 ……気づいて、しまった。

 

「……………ぐふっ!」

「カズヤ!」

 

 顔に感じる柔らかい感触によって、急激に跳ね上がった心拍数と体温を感じたのを最後に、俺の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 この時、抱えていたヤミラミに怪我はなく、その後、ヤミラミお兄ちゃん達と共に、自分達の住みかへと帰っていきましたとさ……。

 めでたし。

 めでたし。

 

 

 

 

 

 ーーつづく。

 

 

 

 

 






もうすぐアンケートの総数が100に達しそうです。
アンケート結果は活動報告で発表します。



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7. 精神統一の話

 

 

 

 

「……はぁ」

「ラルゥ?」

 

 【いしのどうくつ】を散策してから1日がたった今日、俺とヒトミはトウカシティを目指してムロタウンから出港した船に乗っていた。

 けど、俺とヒトミは別行動を取っていて、俺は甲板で一人、ボーっと海面を眺めている。

 【いしのどうくつ】でヒトミに、その……倒れ込んでからというもの、俺もヒトミもお互いに顔をあわせられなくなってしまった。顔を合わせると、あの事を思い出して、お互い顔が真っ赤になり、うつ向いて、まともに声を掛けられなくなってしまう。

 今朝も「……じゃあ、行こうか」とか「……うん」とか「今日も良い天気だよね……?」とか「えぇ……!」とか必要最小限な受け答えやよそよそしい会話しかしていない。

 

「あぁー! どうすれば良いんだよー!」

「ラルラぁー?」

 

 なんとかして、いつもみたいに話そうとするけど、ヒトミの顔を見ると、どうしても顔が赤くなって胸がドキドキする。そして、あの、柔らかい感触を思い出して………。

 あぁぁぁ、落ち着けぇ俺ェ!

 

「とりあえず、心を落ち着けて……!」

「ラルラル?」

 

 眼を閉じて、いつもの瞑想の時みたいに、心を落ち着けるんだ。

 少しも波打ってない水面のように、清く穏やかな心を意識して……。

 

「ラルラぁー?」

 

 周りの音……船のエンジン音とか波の音とか、聴こえなくなるくらい、集中、集中……。

 

「ラルラールぅ……!」

 

 なんか頬がペチペチされてる気がするけど、この感触がなくなるくらい、心を落ち着けて、精神を研ぎ澄ますんだ。

 

「……ラールーラルラルラぁぁ!」

「おい、そこのガキ!」

 

 服を引っ張られようと、声を掛けられようと、動じない精神を持つんだ。

 

「ラぁぁ! ラぁぁ!」

「ちっ……ポチエナ、あのガキに軽く【かみつく】!」

「チィー!」

「へっ?」

 

 あれ、なんか足に変な感触が……?

 ……って!

 

「イッタァァ!」

 

 俺は痛みに悶えて、思わず甲板上を跳び跳ねた。

 

「ツゥゥ、なんだァ!」

「なんだじゃねぇ!」

 

 語気の荒い声が聴こえて周りを見てみると、すぐ近くに金髪の(少しだけ頭頂部が黒い)女の人と【ポチエナ】がいた。

 女の人は鋭い目つきに黒いジャージ、青色の口紅と、見るからに怖そうなお姉さんだった。お姉さんのそばにいる【ポチエナ】も俺を見て、牙をあらわにして威嚇している。

 

「え、えぇーと……?」

「テメー、さっきからそこのラルトスが必死に声かけてんのに、無視しやがって、どういうつもりだァ?」

「へっ?」

 

 えっ、ラルトスが?

 

「ラルぅぅ!」

 

 お姉さんが指で示した先を追って目線を下に向けると、ラルトスが涙眼で俺を見上げていた。

 

『ひどいよカズヤぁ! さっきからずっと呼んでるのに、どうして無視するのぉ!』

「あっ、ご、ごめんラルトス! わざと無視してたわけじゃないんだ!」

『うえぇーん、バカぁー!』

 

 俺が慌てて謝ると、ラルトスは俺の胸に飛び込んで泣きついてきた。俺は跳んできたラルトスを優しく受け止めて、彼女の頭を撫でる。その間、ラルトスは『バカ、バカ、バカぁ!』とペチペチと俺を叩いていた。

 

「……ちっ」

 

 お姉さんはラルトスをあやす俺を細い眼で見ながら、小さい舌打ちをして【ポチエナ】と一緒に立ち去ろうとした。

 

「あ、あの!」

 

 お姉さんの背中に向けて俺が声をかけると、お姉さんは歩みを止め、顔だけ向けてこっちを見た

 

「……なんだよ?」

「どうもありがとうございました」

「別に大したことしてねぇーよ。それよりテメーも飼い主ならポケモンの世話くらいちゃんとしな!」

「はい……」

 

 お姉さんにぐうの音もでない正論を解かれ、俺は申し訳なく返事をした。

 ホント、パートナーポケモンの呼び掛けに気づけないなんて、トレーナーとして失格だ。

 

「ごめんな、ラルトス」

『……いっぱい遊んでくれたら、許してあげる』

 

 改めて謝ると、ラルトスはうつ向きながら、甘えるように顔をスリスリと寄せてきた。

 そういえば、ここ数日、あんまりラルトスにかまってやれていなかったな……。

 

「……じゃあ、遊ぼうか?」

「ラルゥ!」

 

 ラルトスは元気の良い鳴き声で返事をすると、俺の腕から飛び下りて、『モンスターボール投げしよ!』と甲板の広いところへ走り出した。

 

「……あん?」

 

 ラルトスの後を追う前に、俺はお姉さんの方を向いて小さく頭を下げた。お姉さんは怪訝そうな表情をしていたけど、お姉さんがいなければ、俺とラルトスの間に大きな溝ができていたかもしれない。

 お辞儀でお礼をした後、俺は頭を上げてラルトスを追った。

 

「……ちっ!」

 

 俺は背にして気がつかなかったが、俺がラルトスの後を追い始めた時、お姉さんは頬を赤らめ、不機嫌そうな顔で大きな舌打ちをしていた。

 

 

 

 

 

 ーーつづく。

 

 

 

 

 






はーい!
そんなわけで、また新キャラ登場です!

本話より新しいアンケートを追加していますが、本日中にもう一話(お昼頃に?)投稿しますので、よかったら、その投稿した話を読んだ後に行ってみてください。

よろしくお願いします。



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8. ポケじゃらしの話

 

 

 

 

「おい、ガキ!」

 

 しばらくラルトスとモンスターボール投げ(念力あり)をしていたら、さっき会ったお姉さんがまた声をかけてきた。

 

「これ、やるよ!」

「えっ!」

 

 やると言って、お姉さんが差し出したのは、羽ペンのような形をしたおもちゃだった。

 

「え、えーと、何なんですかコレ?」

「【ポケじゃらし】だよ。知らねぇのか?」

「は、はい。初めて見ました」

 

 お姉さんが【ポケじゃらし】と言ったソレには、短い棒の先に羽と小さい鈴が付いている。

 

「これを、こーゆう風にして……」

 

 お姉さんが自身の手持ちポケモンと思わしきポチエナに向かって膝をつくと、ポケじゃらしの棒を振って羽の部分をなびかせる。

 すると、ポチエナは小さい前足でペチペチと羽をはたき始めた。近くにいるラルトスも興味深そうに見つめている。

 

「こーやってポケモンの気を引いて遊ぶんだよ」

「へぇー」

 

 俺が頷いてる間にも、お姉さんは【ポケじゃらし】を揺らして、ポチエナを遊ばせた。

 

「ほーれほれ」

「チー!」

 

 ポチエナが羽の部分を叩いて鈴がシャンシャン鳴る。

 やがてお姉さんは、ポケじゃらしを高い位置まで上げて、ポチエナを誘うように揺らした。

 ポチエナは後ろ足に力を入れて飛び上がり、ポケじゃらしの羽を思いっきり叩いた。

 

「よーし良いぞぉ、ポチエナぁ!」

「チー!」

 

 お姉さんは笑ってポチエナの頭を撫でた。撫でられているポチエナも、とても嬉しそうだ。

 

「……はっ!」

 

 しばらくポチエナの頭や背中、顎などを撫でていると、ふとお姉さんは我に返ったように笑みを消して、俺を見た。

 

「いや、これは……」

「大好きなんですね?」

「なっ!」

 

 図星らしい。

 一見、口調が荒く強面なお姉さんだが、どうやら中身は純粋にポケモンが大好きなトレーナーさんみたいだ。

 

「わ、悪いかよ!」

「いえ、俺もラルトス大好きですし……。それにこうして見ると(ポチエナも)可愛いですし、良いと思いますよ」

「なっ! い、いい、いきなり何いってんだテメぇ!」

 

 お姉さんは顔を真っ赤にして怒声を飛ばしてきたが、少し声が裏返ってるせいでイマイチ迫力がない。

 

「そ、そんな簡単に可愛いなんて言ってんじゃねぇーよ! それとも何か、ウチをバカにしてんのか!」

「い、いえ、バカにする気なんて全然……。純粋にそう思っただけですよ?」

 

 昨日の【ヤミラミ】みたいに【あくタイプ】のポケモンは、苦手な俺なんだけど、このポチエナは、あんまり怖いと感じない。きっとお姉さんから大切に育てられているからだと思う。

 

(な、何なんだよ、このガキ! か、可愛いなんて、親以外で初めて言われたぞ!)

 

 なんだろう、怒らせちゃったのかな?

 でも、怒ってるにしては、雰囲気に怒気がないし……。

 ひょっとして、あんまり自分のポケモンについて誉められたこと無いのかな?

 

「と、とりあえず、ほら、お前もやってみろよ!」

「あっ、はい」

 

 (照れてる?)お姉さんからポケじゃらしをもらって、俺はお姉さんの真似をして、ラルトスに向けて振った。

 

「あんまり力入れて持つんじゃねぇぞ。力んで持ってると、触るポケモンだけじゃなくて持ってる自分も怪我しちまうからな」

「なるほど……こうですか?」

「もう少し手の力を抜け……そう、そんな感じだ」

 

 お姉さんのアドバイスを受けながら、俺はポケじゃらしを振る。

 

「ラルゥ……!」

 

 ゆっくりと誘うようにポケじゃらしを振っていると、ラルトスは揺れている羽を面白そうに見つめて、やがて羽を触ろうと手を前に出した。

 

「ラル」

「…………両手なんだ」

 

 先ほどのポチエナと違って、ラルトスはピトっと押さえるように羽を両手ではさむ。

 

「ルぅ……」

「………ほーら」

「ラル!」

 

 ラルトスが手を下ろして、再度ポケじゃらしを振ると、またラルトスは両手で羽を押さえた。

 前で両手を合わせるそのポーズは、とても可愛らしい。

 

「ほらほらー」

 

 右、左、右、左、右、と見せかけて左、左と、ポケじゃらしを動かす。

 

「ラルラルー!」

 

 俺が誘うようにポケじゃらしを揺らすと、ラルトスはペシペシとはたくようにして羽を触った。ラルトスが羽を揺らすたび、ついている鈴がシャンシャンと鳴る。

 

「あはは」

「ラルー!」

 

 しばらくそんなやり取りを繰り返していると、だんだん楽しくなってきて、俺とラルトスは自然と笑顔になっていった。

 

「ラールー、ラル!」

「おーっと! あははは」

 

 最後にラルトスはポケじゃらしを目掛けて飛び掛かってきたので、俺はポケじゃらしを引っ込めてそのままラルトスを受け止めた。

 

「ラルラルラルぅ!」

「あはははは!」

「……上手いな、お前」

 

 俺達の遊んでる様子を見て、お姉さんは眼をパチクリしていた。

 

「そう、なんですか?」

「ラルぅ?」

 

 ポケじゃらし自体はじめて使ったし、いつも通りの気持ちで遊んでただけなので、上手いと言われても、いまいちピンと来ない。

 

「……そ、そのよぉ」

 

 ラルトスと一緒に首を傾げていると、お姉さんは照れ臭そうに顔をそらして、チラチラとこっちを見た。

 

「撫でてもいいか?」

「えっ?」

 

 撫でる? 俺を?

 ……なわけないか。ラルトスを、だよね。控えめな動きで分かりにくいけど、手元もラルトスを指してるし……。

 

「どう、ラルトス?」

 

 俺が訊くと、ラルトスは「ラルゥ……」と少し考えた後に、頭を下げてお姉さんの方にやった。

 どうやら、オーケーってことらしい。普段はあまり人に触られるのは好きじゃないんだけど、お姉さんには、さっき助けてもらったからな……。

 俺はお姉さんが撫でやすいよう、ラルトスを床に下ろした。

 

「ラルラル!」

「『バチこい!』だそうです」

「お、おぅ」

 

 お姉さんは膝をついて、ラルトスの頭へ手を伸ばす。そして、優しく手を置いてゆっくりとラルトスの緑色の頭部を撫でた。

 初めは恐る恐るって感じだったけど、次第に手慣れたようにスリスリしていた。

 

「ラルぅ」

(……か、可愛いー!)

 

 可愛いー、とか思ってそうな顔だなぁ……。

 さっきポチエナをじゃらしていた時ほどじゃないが、顔がほころんでいる。

 

「……チェ!」

 

 そんなお姉さんに撫でられているラルトスを、お姉さんのポチエナは、威嚇したような(羨ましそうな)顔で睨んでいた。

 

「よーしよーし」

「チェ!」

 

 代わりにと思って俺が頭を撫でると、ポチエナは俺の手を払うように頭を振った。

 

『気安く触んな!』

 

 あっ。この子、メスだ。

 飼い主に似て、口調が荒い子だな……。

 

「あはは。ごめんね、俺じゃダメだよな?」

「……チェ」

 

 苦笑いしながら謝ると、ポチエナは『ふん』と鼻を鳴らす。

 そういえば、母さんのエーフィもあんまり頭を撫でられるのは好きじゃなかったなぁ……。

 ラルトスやヒトモシの【グループ】と違って、エーフィやポチエナの【グループ】は、あまり頭を撫でられたくないのかな……。

 エーフィが撫でて喜んでた場所は、確か……。

 

「……こうかな?」

「チェ!」

 

 俺は耳の付け根から流れるように顎の下に手を回す。

 

『テメェまた! 気安く触んじゃねぇってさっき……んッ!』

 

 触れた瞬間、ポチエナはピクッと反応して睨みつけてきたけど、軽く指を立てて撫でると、さっきとは違って気持ち良さそうに眼を細めた。

 

『んッ、あっ、んんぅ!』

 

 でも、なんだろう……。一見、気持ち良さそうではあるけど、なんだか少しツラそうな……苦しそうな……。

 

「うーん……やっぱり、俺じゃダメかぁ」

『あっ!』

 

 どうやら同じ【グループ】でも、エーフィとポチエナとじゃ、いろいろ違うみたいだ。

 

『……なんでやめんだよ!』

「えっ! いや、なんかイヤそうにしてたから……」

『べ、べつにイヤじゃねぇよ! なめんな!』

 

 別になめてるわけじゃないんだけど……。

 

『い、良いから、撫でたきゃ、その……も、もっと撫でろよな!』

 

 なんだか……可愛いな、この子。

 強面な見た目で、さっきまで荒い口調だったのに、今は顔をうつむかせて、ボソボソ言ってて、愛くるしいというか……。

 こういうの、なんていうんだっけ?

 庇護欲? ギャップ? ツンデレ?

 ……まぁ、なんでもいいや。

 

「それじゃあ……よしよーし」

 

 俺はさっきみたいに指を立てて、ポチエナの顎を軽く掻くように撫でた。

 

『……んっ、んー、んふふ!』

 

 あっ、今度は結構、気持ち良さそう……。

 

「あはは、可愛いなぁ、お前」

『う、うるせぇ……んぁ!』

 

 まったく、嬉しそうに顔を緩ませたり、強がって怒ったり、また喜んだり、大変だなぁ……。

 

「ラールー!」

「よーし。良い子だな、お前」

『えへへ、お姉ちゃん、なでるの上手ぅ!』

 

 視線を移すと、ラルトスもお姉さんの腕前にご満悦だった。

 ……すごいな。

 

「お姉さんって、【ブリーダー】だったりします? あるいは【コーディネーター】とか?」

「いや、ウチはただの【トレーナー】だ」

 

 お姉さんはラルトスを撫でながら、こっちに見た。

 

「てか、なんでそう思ったんだよ。アタシなんて、どう見てもそんな柄じゃねぇだろ?」

「いえ、ポケモン大好きみたいですし、ポケモンとのコミュニケーションの取り方も上手だから……それに美人なので」

「なっ……う、うるせぇ!」

 

 怒られた……なんでだろう?

 

「……ホントのことなのに」

「あぁぁもう、うるせぇうるせぇうるせぇーー!」

 

 俺がボソッと言ったことに反応して、お姉さんは真っ赤な顔で睨みつけてきた。

 

「やっぱりテメー、アタシのことからかってんだろ!」

「別に、からかってるわけじゃ……!」

「さっきから、か、可愛いとか、美人とか……年上をなめるのもいい加減にしろよな!」

 

 いやホントに本当のことしか言ってないんですけど?

 

 

 

 

 ふと、ここで遠くから何かが迫ってくるような物音が聴こえてきた。

 

「ん、なんだ?」

「えっ?」

「ラル?」

「チェ?」

 

 全員揃って音のする方へ目を向けると、誰かがこっちに向かって走ってきていた……。

 ……って、えっ? ヒトミ?

 

「うぉっと!」

 

 ヒトミは勢い良く俺のところまで走ってくると、俺の腕に抱きつくように身を寄せて、お姉さんを睨んだ。

 

「わ、私の()()に、何の用!」

「「えっ?」」

 

 ヒトミの発言に、俺とお姉さんは絶句した。

 ……とりあえず、ちょっと一回、落ち着こうか?

 

 

 

 

 

 ーーつづく。

 

 

 

 

 



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9. 彼女(?)の話



エスパー なトレーナーがいて、

かくとう なトレーナーが出てきて、

あく なトレーナーが現れて、


“トレーナー三すくみ”の出来上がり。




 

 

 

 ギュゥゥっと俺の腕に抱きついて、ヒトミはお姉さんを睨んでいる。

 自分の腕が柔らかいヒトミの身体に押しつけられて、少し恥ずかしいが、今、俺が感じていた気持ちは恥ずかしさよりも驚きの方が強かった。

 

「なんだ、テメー、彼女持ちだったのか?」

 

 お姉さんが俺を見て訊いてくる。

 

「いや、そんな」

「彼女です! だから……」

 

 お姉さんへの俺の返答を遮って、ヒトミは大きく息を吸った。

 

「だから、カズヤに言い寄るのは、やめて!」

「はァ?」

 

 あぁ、これは……。

 ヒトミは大きな勘違いをしてる。

 

「……クス、フフ、あはっはっは!」

 

 ポカンとした表情が緩んでいき、やがて、お姉さんは愉快そうに笑った。

 

「言い寄るってぇ! あっはっは! アンタには、アタシがコイツをナンパしてるようにでも見えたのか?」

「……違うの?」

「違うよ……!」

 

 お姉さんが爆笑してる様子を横目で見ながら、ヒトミはこっちに眼を向ける。ヒトミに訊かれ、俺はそのまま素直に否定した…………てか、顔近い!

 

「安心しろよ。別にナンパしてたわけじゃねぇ。ただコイツのポケモンの扱いがなってなかったからな、アドバイスしてやってただけだ」

 

 扱いがなってないって……。

 まぁ、ラルトスを泣かせるくらい無視しちゃったのは本当だから、否定できないけど、別にいつもあんな風にしてるわけじゃないんですよ?

 

「アドバイス……?」

「ほら、これ。さっき、お姉さんからもらったんだ」

「……これは、ポケじゃらし?」

「知ってるの?」

「うん、カロス地方ではみんな普通に持ってたから……けど、なんでそんなことに?」

「いやぁ、それは、なんていうか……色々あって」

 

 さすがに瞑想に集中してラルトスを泣かせたから、とは言いづらい。それを話せば、なんでそんなに瞑想に集中したのかの話にも繋がりかねない。

 

「とにかく、別にお姉さんにはナンパされたりも脅されたりもしてないから!」

「……そーなの?」

「ソーナンス……じゃなくて、そうだよ!」

 

 いかんいかん、つい爺ちゃんのポケモンギャグが……。

 ちなみに、ここホウエン地方では、『そーなの?』と訊かれて『ソーナンス!』と答えるのは、鉄板ギャグだったりする。

 

「そんで、実際のところ、お前らはカップルなのか?」

 

 気を取り直すように、お姉さんが腰に手を置いて訊いてきた。

 

「いや、まだ違いますよ!」

「ふーん、()()ね……」

 

 なっ、しまった!

 

「あっいや、べっ、べつに今言った『まだ』ってのは言葉の綾というか、否定する上でのテンプレートというか、深い意味はないですから!」

「あぁーもう、良いって良いって。お前らの反応見たら、なんとなく分かったつーの!」

 

 お前()……?

 ふと横を見ると、赤くなった顔を隠すようにうつむいているヒトミの姿があった。

 ……あぁーー、もう、可愛いなぁ!

 

「ったく、“まだ”とか言ってねぇーで、さっさと付き合っちまえば良いのに……!」

「うっ……だから、別にそんなんじゃ!」

「えっ」

 

 否定しようとしたら、横から小動物(ベイビィポケモン)みたいな弱々しい声が聴こえてきた。

 再度横を見ると、ヒトミが潤んだ眼で俺を見上げていた。

 

「……カズヤは、私のこと、キラい?」

「いや、キラいなんてことはない。ないけど……」

 

 キラいじゃない、むしろ大好き。

 だけど、ここで正直に『好きだよ』って言うのは、めちゃくちゃ恥ずかしい!

 

「けど……?」

 

 不安そうにヒトミはまっすぐ俺を見る。ヒトミの潤んだ眼に見られて妙な罪悪感を感じ、かつ胸の内にあるモヤモヤした羞恥心に耐えきれず、俺はヒトミから眼をそらした。

 

 

「だから、その……なんというか……ッ!」

 

 眼を右往左往させて、なんと言おうか迷っていると、ヒトミの眼がますます潤んでいく。

 

「そうよね、私なんて……。こんな、暗くてトロくて、服もダサくて、ブサイクで、オカルト好きの変な子なんて……」

 

 なんだか、ヒトミのテンションがどんよりと落ち込み、どんどん暗くなっていく。

 そんなに自分を卑下しないで……!

 ヒトミは充分かわいいし、魅力的だよ!

 

「それに、昨日からカズヤ、なんだか素っ気ないし……」

「いや、それは!」

 

 それは……言えない。ヒトミと喋ってると【いしのどうくつ】でのことを思い出して、目線が胸元に行ってしまうなんて、絶対に言えない!

 

「うぅ、どうせ私なんて……グスッ……うぅ……ふえぇ!」

 

 ヤバい、このままではヒトミが大泣きしてしまう!

 そばにいるお姉さんも、『おい、なんとかしろよテメぇ』といった眼で俺を睨んでいる。

 

「あぁーー! だからさ、その……!」

 

 ヒトミを泣かせるまいと、俺は意を決して、口元をヒトミの耳に近づけた。

 

「好き、だよ……!」

 

 バクバク鳴っている心臓をどうにか意識の外に追いやり、かすれた声で囁く。

 これが、今の俺ができる精一杯の告白だ。友達としてなのか、女の子としてなのか、その辺りの気持ちの差異はまだ解らないけど、心の中にしっかりとあるこの()()()、それは嘘偽りのなく、俺が心からの思っている気持ちだ。

 

「キラいなんてことはない。むしろ俺は、ヒトミのことが好き……」

「ッ!」

 

 俺が囁くと、ヒトミの顔がポッと赤く染まった。

 

「けど、こんなこと……人前では、恥ずかしくて言えないからさ……」

「う、うん……!」

 

 ヒトミの耳元から顔を離して、彼女を見ると、ヒトミは顔をうつむかせて組んだ両手をモジモジしていた。そんなヒトミの様子を見ていると、気持ちが惹きつけられ、胸が苦しくなる。

 顔が熱い。心臓が騒がしい。ヒトミと同じで、きっと俺の顔も真っ赤だろう。

 

「ひゅーひゅー、妬けるねぇ!」

「なっ!」

 

 声に反応して顔を横に向けると、ラルトス、ヒトモシ、ポチエナと並んで、お姉さんがニヤニヤした顔で見ていた。3匹のポケモンと合わせるため、御丁寧にしゃがんでこっちを見上げている。

 俺が何を言ったのかは聴こえていないはずなので、雰囲気だけを見てからかっているのだろう。

 

「それで、次はキスでもすんのか?」

 

 お姉さんの茶化す言葉に、ヒトミがピクッと身を揺らしながら「き、キスぅ!」と声を上げる。口にはしなかったけど、俺も同じような心境だった。

 

「か、からかわないで下さい! そんなんじゃないですって!」

「そんなに見惚れといて、よく言うよな」

 

 べ、べつに見惚れてなんて……なんて……。

 

「……ぬぅぅぅ」

 

 俺は口を結び、ニヤニヤしているお姉さんと言い返せない自分にヤキモキした。

 あぁ! 確かに見惚れてたよ、モジモジするヒトミを見て、かわいいと思ったよ、綺麗だって、魅力的だって、大大大、大好きだって、思ったよぉ!

 そんなことを八つ当たりするように心の中で叫びながら、俺はお姉さんを睨む。そんな俺を見て、お姉さんはニヤリと笑っていた。

 

「ラルゥ?」

「モシモシ?」

「チエ?」

 

 俺がお姉さんへ無言のプレッシャー(効果がないみたいだ)を放っていると、ふとポケモン達が『あれぇ?』『ご主人?』『なんだ?』と首を捻って、それぞれヒトミの顔を覗き込んだ。

 けどポケモン達に見られても、ヒトミはまったく反応しない。

 

「ん?」

「あん?」

 

 そんなポケモン達と彼女の様子に、俺とお姉さんもヒトミへ眼を向けた。

 ヒトミは顔をうつむいているため、前髪で顔が隠れている。

 

「ヒトミ?」

「………」

 

 俺が呼び掛けても返事は返ってこなかった。

 俺はお辞儀するように顔を下にして、ポケモン達のようにヒトミの顔を覗き込む。

 すると……。

 

「……気絶してる!」

 

 真っ赤になった顔のまま眼をぐるぐる回して、ヒトミは意識を失っていた。

 

 

 

 

 

 ーーつづく。

 

 

 

 

 






アンケートの結果を活動報告でまとめました。
人気キャラランキングのアンケート受付は、20話くらいまで続ける予定です。



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10. おどろかすの話



お久しぶりです。




 

 

 

 

「ふぅぅ……やっと陸にあがれたなぁ!」

 

 お姉さんは港に着くと、まず最初に腕を大きく上にあげて、背中をぐぅーと伸ばした。

 

「そんで、アンタらはこれからどこに行くんだ?」

「俺達はミシロタウンを目指すので、まずはトウカシティに行こうと思ってます」

「そっか。じゃあ、ウチとはこれでお別れだな」

 

 お別れ、ということは……。

 どうやらお姉さんは【トウカのもり】をぬけて、カナズミシティを目指すようだ。

 

「じゃあな、まだどこかで会うかも知れねぇけど」

「はい。その時は是非、バトルしましょう!」

 

 俺の提案に、お姉さんは「おぅ」と力強く答えてくれた。

 今回は船の中ということもあり、バトルはできなかったけど、一人のトレーナーとしてお姉さんがどんなバトルをするのか興味があった。

 そんな風にバトルの約束をした後、お姉さんは「またな!」と手を振って、パートナーのポチエナと一緒に去っていった。

 

「……あっ、そういえばお姉さんの名前、聞いてなかった」

 

 まぁいいか。次会ったときに聞こう。

 

「さて、それじゃあ俺達も行こっか」

「……う、うん」

 

 ヒトミは頷いて返事をしてくれたが、俺が顔を向けるとゆっくり顔をそらした。

 

 

 船で気絶して目を覚ましてからというもの、ヒトミはずっとこんな感じだ。

 一応会話はしてくれるが、俺と顔をあわせると、真っ赤にしてそらしてしまう。

 

 その反応の原因には、とーーっても心当たりがあるし、なんなら俺もヒトミを見る度に顔が赤くなっている……と思う。

 けど、いつまでもそんな調子ではいけないから、俺はなるべく平常心を心掛けることにした。

 

 俺がいつも通りに接していれば、そのうちヒトミの調子も元に戻ってくれるだろう。

 

「陽が暮れる前までには着くと思うから……」

「……う、うん」

 

 べ、別に、告白チックなことを言ったせいで、キモいとか思われて嫌われたりしたわけじゃ、ない……よね?

 

「ラルラル」

「モシモシ」

 

 アイコンタクトで訊ねると、ラルトスとヒトモシから『ないない』と揃って呆れたような反応をされた。

 

 

 

 

 そんなこんなで、俺達はトウカシティを目指して歩き出した。

 俺達が船を降りた港からトウカシティまでは、104番道路を2時間ほど歩く必要がある。

 その間、ヒトミはぴったりと引っ付くように俺の後ろを歩き、時折、俺が後ろを向くとタイミングを合わせたみたいに顔をそらしていた。

 

「ずっと島とか海の上とかだったから、こういう林の中を歩くのって、なんだか新鮮だよねぇ?」

「……うん」

「ほらあそこ、【キノココ】がいるよ! あっ、あっちで【アゲハント】の群れが飛んでる!」

「……うん」

「もう一時間くらい歩いたかな……大丈夫ヒトミ、疲れてない?」

「……うん」

「…………あぁー、えーと」

 

 いつものように話しかけてみたけど、こういう時に限って話題が続かない。

 

「ラルル―ラールー」

「モシモシモシモシッシー」

 

 俺が話題のネタを考えてる最中、俺とヒトミの間を、ラルトスとヒトモシが歌を歌いながら手を繋いで歩く。

 ふたりが楽しげにしてくれるおかげで、良い感じに雰囲気が保たれて、気まずくならないでいられるから、けっこう助かってる。

 

「……ん?」

「ラル?」

「モシ?」

 

 ふと、道の先の茂みの中から見慣れない影が飛び出してきた。

 

「ど、どうしたのカズヤ?」

「いや、あれ」

 

 俺が指で示した道の先、そこには黄色い何かが落ちていた。形は何かのポケモンみたいだが、その色は薄汚れている。

 

「あれは……ピカチュウの、ぬいぐるみ?」

 

 よく見ると、その何かはピカチュウのようであったが、その目や口は実物ではなく、落書きみたいに布に書かれているものだ。しっぽも木の棒でできている。

 

「ミッキュ!」

 

 俺たちの存在に気がついたのか、そのぬいぐるみ(?)は鳴き声をあげてこっちを見た。

 その瞬間、俺たちはそのぬいぐるみ(?)が何なのか理解した。

 

「えっ! あれって!」

「ミミッキュ!」

 

 ばけのかわポケモンの【ミミッキュ】。アローラ地方に多く生息するポケモンだ。タイプはゴーストとフェアリー。ピカチュウを模した布を被った姿をしていて、その生態についてはいまだ謎が多いと言われている。

 

「ねぇカズヤ、あれミミッキュだよね、ミミッキュ!」

「う、うん!」

 

 いままでのオドオドした言動はどこへ行ったのか、ヒトミは嬉々として俺の腕を取って目の前のミミッキュを指さした。

 でも、まぁ、その気持ちも分かる。

 たしか、ヒトミが一番に仲間にしたいポケモンが【ミミッキュ】だったはずだ。

 

「けど、なんでこんなところに【ミミッキュ】が……」

 

 【ミミッキュ】はアローラ地方を中心に生息しているポケモンだ。その他の地方で生息が確認されないわけではないが、こんな野道で姿を見せるのはとても珍しい……というか、不自然すぎる。

 しかも見たところ、周りにトレーナーらしき人はいない。どうやら目の前のミミッキュは、野生のポケモンのようだ。

 

「キューーっ!」

 

 警戒してるのか、ミミッキュは俺たちを見ながら、低い声を響かせている。

 

「……えへへ!」

 

 ヒトミは強張ったような笑みを浮かべながら、ゆっくりとミミッキュに近づいていく。

 

 その様子は……まぁ、何というか……危ない人の言動のように見える。

 

『来ないデ!』

 

 ミミッキュは身体をビクビク震わせながら「キュ!」と後退りした。

 

「えへへ。大丈夫よ、怖くないわ!」

「……怖いよぉ」

 

 愛でようとしているのか、あるいは捕まえようとしているのか、ヒトミは手を前に出してワキワキと指を動かしている。

 アレじゃあ、ミミッキュが怯えるのも無理はない。

 

『近寄るナ、人間! それ以上こっちに来タラ……』

「あっマズッ!」

 

 ミミッキュは身構え、戦闘態勢に入った。

 俺は急いでヒトミに駆け寄り、腕を引いて守ろうと抱き寄せた。

 

「キュゥゥゥッ!」

 

 布のピカチュウの腹部に当たる所にある目をギラリと光らせながら影のような黒い手を広げて、ミミッキュは俺たちに襲い掛かってきた。

 

「ウッ!」

 

 その不気味な姿に、俺の心臓は大きく高鳴った。

 

 ミミッキュは肌寒いオーラを俺たちに向けている。けど、そこから俺たちに攻撃してくるわけでもなく、黒い手を広げたまま動きを止めていた。

 

「キュゥゥッ! キュゥゥッ!」

「ふふっ、フフフフっ……これがミミッキュの【おどろかす】なのね!」

 

 ヒトミは平然と……いや、むしろ恍惚といった感じで眼を輝かせている。

 

 少しは驚こうよ?

 

「可愛いぃ……ね、カズヤ!」

「えっ、あぁうん……“効果ばつぐん”って感じだよね?」

 

 咄嗟に口では同意(?)してみたけど、正直な感想を言えば、『めちゃくちゃビックリした!』の一言だ。

 

 近くにいたラルトスとヒトモシも、お互い抱き合って怯えている。

 【おどろかす】はバトル中でもたまに怯んで動けなることがある技だ。いきなり仕掛けられたら、そりゃあこんな反応にもなるさ……。

 

 俺も身体的なリアクションとしては、ラルトスたちと“同じ”だし……。

 

 えっ、“同じ”?

 

「……ん?」

 

 一生懸命、威嚇しているミミッキュから視線をゆっくり移動させると、真横にヒトミの顔があった。

 ヒトミはキラキラした眼でミミッキュを見ているため、いまの状況が分かってない。

 俺はそーっとヒトミに回していた腕を引っ込めて、後ろにさがってヒトミと距離をとった。

 

「どうしたの、カズヤ?」

「う、ううん、何でもないよ!」

 

 ヒトミはキョトンとした顔で俺を見上げる。

 カワイッ……じゃなくて、俺は慌てて両手を振って誤魔化した。

 

『ちか、ヅク……ナ……!』

 

 ここで突然、威嚇していたミミッキュが、ネジが切れたようにバタンと倒れた。

 

「「えっ!」」

 

 俺達は揃って驚き、そのままミミッキュに駆け寄る。ヒトミはミミッキュを優しく抱き上げると、ミミッキュの顔(?)の部分に触れた。

 

「……熱がある」

「風邪?」

「多分……」

 

 ミミッキュはヒトミの腕の中でグッタリしている。顔色は分からないけど、布の中から漏れる息づかいも荒い。

 今まで俺達を脅かしていたのがウソみたいだ。

 

「はやくポケモンセンターに……!」

「うん。じゃあ急いでトウカシティに行こう!」

「ラルラル!」

「モシッモシシー!」

 

 ミミッキュのため、俺達はトウカシティのポケモンセンターへ走った。

 

 

 

 

 

 ーーつづく。

 

 

 

 

 






Twitter はじめました。

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11. ミミッキュの話



『ピカチュウじゃないよ、ミミッキュだよ』




 

 

 

 トウカシティは、ムロタウンほどではないが“シティ”という名前のわりにはそこそこ田舎な街だった。ビルなどの高い建物がほとんどなく、街の周りは緑豊かな木々に囲まれている。

 まさしく、“自然と人が触れ合う街”って感じだ。

 

 本来ならゆっくり街を見て回りたいところだが、街に入って早々、俺とヒトミはまっすぐポケモンセンターを目指した。

 

 勢いよく入ってきた俺達に、当初ポケモンセンターのジョーイさんと【ラッキー】はビックリしていたが、ヒトミが抱えたミミッキュを見せると、すぐに状態を察して対応してくれた。

 

 

 ミミッキュはポケモンセンターの奥にある治癒室に運ばれ、治療された。

 治癒室は大きなガラス窓がついていて、外から中の様子が分かるようになっている。中にはポケモンを治療するための機械がいっぱい設置されていた。

 

「この子、だいぶ弱ってたみたいね」

 

 治癒室の外にあるコンピュータを操作して、ジョーイさんはモニターに映った数値やグラフを見て言った。

 

「でも大丈夫。ミミッキュはすっかり元気になったわ」

「そうですか……」

 

 ジョーイさんの言葉に、俺は胸を撫で下ろした。

 治癒室の診察台の上では、俺達が運んできたミミッキュが、自分が今どこにいるのか確認しているみたいに、周りをキョロキョロ見ていた。

 

「この子の方は問題ないけど……」

 

 すーっと目線を移してジョーイさんはヒトミに目を向ける。

 当のヒトミは、治癒室のそばにあるソファーにぐったり倒れ込んでいた。息づかいも荒く、わずかに見える肌には、じんわり汗をかいている。

 ミミッキュの風邪がなおって、なんだか今度はヒトミが風邪を引いてるみたいだ。

 

「貴女は大丈夫?」

「はぁ……はぁ……だ、大丈夫、でふ」

 

 あっ、噛んだ。

 

「モシモシ、モシシー?」

「ラルルー?」

 

 ヒトモシとラルトスも、『大丈夫か御主人?』『大丈夫ぅ?』と横になったヒトミを心配していた。

 

 なぜヒトミがこんな風になっているのかというと、ヒトミの日頃の運動部足のせいだ。まぁ、一時間位かけて歩く道のりをずっと走ってきたわけだから疲れるのも無理はないけど、特にヒトミは運動が苦手で、少し運動しただけでバテてしまう。

 俺はミミッキュが治療されてる間に呼吸を整えて落ち着いたけど、ヒトミは今も疲労気味だ。

 

「ラッキー!」

 

 ミミッキュが乗った診察台を押しながら、【ラッキー】が治癒室から出てきた。

 ラッキーは『お大事にぃー!』と鳴いて、ミミッキュを俺達の前まで運ぼうとする。

 

「キュ!」

 

 途端、俺達に気づいたミミッキュは、跳ねるように診察台から飛び降りて俺達に敵意を向けた。

 

「キュぅーーッ!」

 

 ミミッキュが低い声を響かせると、布の中から伸びた黒い手に“影の玉”が収束していった。

 

「あれは、ミミッキュのシャドーボール!」

「ラキっ! ラキラキラキ!」

 

 突然のミミッキュの行動に、ジョーイさんはビックリして、ラッキーもどこかへ逃げていった。

 

「ラルトス!」

「ラルっ!」

 

 ラルトスは俺の呼び声に応えて、ミミッキュと向かい合う。

 

「ラルトス、【サイケこうせん】で撃ち落とせ!」

「ラル!」

 

 ラルトスは力強く頷くと、構えた手の中にエネルギーを収束させた。

 

「ミッキュ!」

「ラァールゥーー!」

 

 ミミッキュの【シャドーボール】とラルトスの【サイケこうせん】がぶつかり、周辺に煙が広がる。

 

「ラルトス、【さいみんじゅつ】!」

「ミキュ!」

 

 ミミッキュが次の動作を取る前に、俺は無理やり落ち着かせるようと、ラルトスに指示を出した。

 だが、ラルトスが放った眠気を誘う念波は、ミミッキュがその場から飛び退いたことで避けられてしまった。

 

「すばやいな……」

 

 ミミッキュは俺たちをかく乱させようとしているのか、目にも止まらない動きでポケモンセンターの廊下を転々と動き回る。

 こういう時は、むやみに動きを追わず相手が動きを止めるまで待つのが良策だ。

 

「ミキュ、キュぅぅ!」

 

 やがてミミッキュは動きを止めてラルトスと俺を睨みつけた。その黒いふたつの眼光からは、どこか憎しみのようなものを感じる。

 俺とラルトスは再度、ミミッキュと向かい合う。

 

「今だラルトス、【サイコキネシス】!」

「ラル!」

「待ってカズヤ!」

「えっちょッ!」

 

 俺たちとミミッキュの間に割って入るように現れたヒトミに、俺は慌てて「ラルトス、ストップストーップ!」と停止の指示を出す。

 

「ちょっとヒトミ、危ないって!」

「大丈夫……」

 

 そう言って、ヒトミは身をひるがえしてミミッキュと向かい合った。

 大丈夫とは言うものの、今のミミッキュに対して無防備に近づくのは、とても危険だ。

 にもかかわらず、ヒトミはいつものニヤリと笑った顔で、ゆっくりとミミッキュに歩み寄っていく。

 

「怖がらないで。私はあなたを傷つけたりしないわ」

「ミッキュ!」

 

 ミミッキュは『近寄るナ!』と前に立つヒトミを威嚇する。

 このままだと、今にも【シャドーボール】や【ウッドハンマー】でヒトミを攻撃してしまいそうだ。

 

「……お腹すいてるでしょ?」

 

 ある程度、ミミッキュに近づくと、ヒトミは身につけていた旅のカバンから、ヒトモシ用のポケモンフーズと皿を取り出す。

 そしてフーズを皿に盛ると、そのままミミッキュの前に差し出した。

 

「さぁ、食べて……」

「ミッキュ、ミミ、ミキュ!」

 

 ヒトミが穏やかな口調で食べるように促すが、ミミッキュは警戒したまま被った布(化けの皮)の端を逆立てた。

 

「『人間ガ出す食べ物ナンテ信用できナイ』だって……」

 

 俺がミミッキュの気持ちを通訳すると、ヒトミは一瞬ピクリと動きを止める。その一緒、ヒトミの引きつった笑顔はそのままだったけど、その眼は、どこか悲しんでいたように俺には見えた。

 

「……大丈夫、毒なんて入ってないから」

 

 そう言って、ヒトミは皿に盛ってあるフーズのひとつを摘み取って、自分の口の中へ運ぶ。

 そして、しっかりと咀嚼した後、ゴクンと飲み込んだ。

 

 あのフーズ、人間にとっては、あんまり美味しくないんだよなぁ……。

 

「……ね?」

 

 なんともないでしょ、と言った感じの笑顔で、ヒトミはミミッキュを見て顔を傾けた。

 

「…………ミ、ミッキュ!」

 

 しばし疑うような眼でヒトミを睨んでいたミミッキュだったが、やがて化けの皮の中から黒い手をふたつ伸ばして、フーズをごっそりと取って食べ始めた。

 余程おなかが空いていたのか、ミミッキュはムシャムシャとフーズを食べていき、あっという間に皿に盛ってあったフーズを食べつくした。

 

「まだあるけど……食べるかしら?」

「……ミッキュ」

 

 ヒトミがおかわりを皿に盛ると、ミミッキュは『……食べル』と短く答えて、また勢いよく食べていく。

 

『あぁ……僕のごはん……!』

「よーしよーし、あとで買ってやるから」

「ラールー!」

 

 途中、ヒトモシが涙目になっていたので、俺とラルトスでなだめておいた。

 

 やがて、袋に入っていたフーズも空になった。

 ヒトミが持っていたすべてのポケモンフーズを平らげ、ミミッキュは満足したのか、さっきまであった荒々しい雰囲気が落ち着いた。

 

「ミッキュ……!」

 

 しかし、相変わらず人間への不信感は残っているようだ。

 攻撃や威嚇はしなくなったが、俺やヒトミを見る化けの皮に開いた穴から見える眼光が尖っている。

 ヒトミは更に一歩前へ出てミミッキュに近づき、なるべく威圧感を持たせないよう膝をついた。

 

「ねぇ、あなたについて、いろいろ教えてくれないかしら?」

「ミッ?」

「わたし、あなたのこと、もっと知りたいの。どうしてあなたがそんなに人が嫌いなのか、教えて欲しいわ……」

「ミッキュ……?」

「……お願い」

「…………ミミッ、ミキュ、キュミキュ」

 

 最初は戸惑っていたようだったけど、ミミッキュは自分に起きた過去を語り始めた。

 

「ミッキュ、ミミキュ、キューミキュ!」

「………」

「ミッキキキュ、ミッキュ。ミミッキュミッキュ!」

「………」

「ミッキュー、ミッキュミミミキュ」

「………」

 

 ヒトミは黙って、鳴き声をあげているミミッキュを見つめていた。

 俺はその様子を見て、ふと思う。

 

「……通訳しようか?」

「…………うん」

 

 俺が静かに提案すると、ヒトミは少し恥ずかしそうにボソリと返事をした。

 

 

 

 ***

 

 

 

 なんでも、ミミッキュは今いる地方の遥か遠くの温暖な場所に住んでいたらしい。多分、アローラ地方だと思う。

 けど、ある日、身なりの良い人間の男にゲットされ、このホウエン地方に来たそうだ。その男は、息子への誕生日プレゼントのため、ミミッキュをゲットしたらしい。

 そして、その男の息子らしき幼い男の子は、プレゼントとして渡されたミミッキュに、とても喜んでいた。

 

 「お父様、ありがとう! この()()()()()に【かみなりのいし】をあげれば【ライチュウ】に進化するんだよね? アローラのライチュウってこっちのライチュウとは違う姿をしてるんでしょ!」

 

 男の子は、無邪気にそう言った。

 

 男の子が欲しかったポケモン、それはアローラ地方特有の姿をした【ライチュウ】だった。

 

 確かに、アローラのライチュウはこっちのライチュウとは違う姿をしている。暮らしている環境のせいか、あるいは食物のせいか、アローラのライチュウはエスパータイプを持ち合わせ、見た目も少しパステルカラーちっくで丸っこくなっている。

 

 アローラの【ピカチュウ】が進化すれば、当然、そのピカチュウはアローラ姿の【ライチュウ】に進化する。

 このピカチュウが少し変わった見た目をしているのもアローラ姿のライチュウになるための違いからくるもの。

 男の子の父親は、そう思って疑わず、アローラで【ミミッキュ】をゲットして息子にプレゼントしたのだ。

 

 けど、男の子がもらったそのポケモンは、ピカチュウじゃない。ミミッキュだ。

 

 男の子の父親は、ミミッキュと一緒に【かみなりのいし】を息子に買い与えた。

 

「ほら、これで【ライチュウ】になれるよ!」

 

 少年はワクワクした様子で、すぐにミミッキュに【かみなりのいし】をあげた。

 

「……えっ!」

 

 しかし当然、ミミッキュがいくら【かみなりのいし】に触れても、進化の兆しは起こらなかった。

 

「なんで……ねぇ、お父様、どうしてなの?」

 

 男の子は父親にすがるように訊ねる。

 けど、父親にも理由は分からなかった。急いで調べた結果、ようやくそこで父親が捕まえたものがアローラ地方の【ピカチュウ】ではなく、【ミミッキュ】であることを知った。

 

 ポケモンの知識不足から生じた不幸……。

 これは、男の子と男の子の父親が【ミミッキュ】というポケモンを知らなかったゆえに、起きた不幸だ。

 

 とても楽しみにしていたものが、実は違うものだったという時の子供の落胆や悲しい気持ちというのは、凄まじい。

 自分の思っていたものと違うポケモンをもらったことに、男の子は駄々をこねたように泣きわめいた。

 

「うわーん! こんな()()()()()、イヤだ! いらない!」

「キュっ!」

 

 そんな理不尽な理由で拒絶されたことに、ミミッキュは大きなショックを受けた。そしてその後、無責任な父親によってミミッキュは野に捨てられ、そのままホウエン地方で野生のポケモンとなった。

 もともと野生のポケモンとして生きていたミミッキュだったけど、アローラ地方と異なる環境で生きていくには、それなりに大きな苦労があった。

 もともと生息していたポケモンとの縄張り争いや口に合わない食べ物、仲間がいない地方ゆえの孤独など……。

 

 そんな慣れない環境で生き抜いていく中で、やがてミミッキュは自分を捨てた人間への憎しみを抱くようになっていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 

『だから、もうボクは、人間を信じナイ!』

 

 自身の過去を話終えると、ミミッキュはプイっと俺とヒトミから顔をそらす。

 

 ポケモンの厳選とか、よく聞くけど……こんな人間の身勝手な理由でポケモンが振り回されている話を聞くと、なんだか胸が締め付けられる。

 なんというか、同じ人間としてホントに申し訳ない。

 

「…………んっ」

「ミッキュ!」

 

 話を聞いて少し間をおき、ヒトミは黙ってミミッキュへと近づき、そのまま彼を抱きしめた。

 ミミッキュは離れようと黒い手を使って抗っていたけど、ヒトミは絶対に離さないっといった感じでミミッキュを抱えて、その身体を優しく撫でる。

 

「あなたはミミッキュ、ピカチュウじゃないわ」

「キュっ!」

 

 ヒトミの言葉に、ミミッキュはピクリと反応した。

 

「ごめんね、人間(わたしたち)ってポケモン(あなたたち)のこと、まだよく知らないの……。そのせいで、よくあなたたちを傷つけちゃうこともあるわ。けど信じて。私や、ここにいるカズヤ……そしてジョーイさんやトレーナー達は、皆あなたのことが大好きなの……」

「……キュぅ」

 

 ヒトミの気持ちが伝わったのか、ミミッキュは腕の中から抜け出ようと抗うのをやめて、大人しくなった。いままで尖っていた目元の力も抜けて、まるで憑き物が落ちたようだ。

 

「ねぇ、ミミッキュ……私と一緒に来ない?」

「キュ?」

「私はあなたと旅がしたい……あなたが望むなら、私があなたの元いた場所のアローラ地方まで送り届けてあげる」

「キュっ!」

 

 ミミッキュは『ホントに!』と期待した様子で、化けの皮をピクリと揺らした。

 けど、まだ人間への不信感がぬぐえ切れないのか、すぐに顔を俯かせて何かを怖がっているように後ずさった。

 

「……キュー、ミミッキュ、ミッキュ?」

「う、うん……?」

 

 ……なるほど。

 

 ヒトミはミミッキュの言葉がわからず、困ったように首をかしげたが、俺はその言葉を聞いて、何となくミミッキュの気持ちの根本にあるものを理解した。

 

「……『キミはボクをひとりにしナイ?』だってさ」

「あっ……!」

 

 俺の通訳を聞いて、今度はヒトミも何かに気づいたように声を洩らす。

 

 アローラ地方からホウエン地方に連れてこられ、捕まえた人間に構ってもらえず、そのまま捨てられ、おまけに野生の中でもよそ者扱いされて、ずっと、一人ぼっち……。

 多分、このミミッキュは、ずっと寂しくて仕方がなかったんだ。

 

 ヒトミは再度ミミッキュを抱きしめる。

 

「うん……私はあなたをひとりにしない。ずっとそばにいるわ」

「……ミッキュ」

 

 ミミッキュはヒトミの抱擁を受け入れるように、身を寄せた。

 

「ありがとう……」

 

 そして、ヒトミはカバンから空のモンスターボールを取り出して、ミミッキュの身体に当てる。

 モンスターボールに吸い込まれるようにミミッキュが姿を消すと、やがてモンスターボールから微光が飛び散った。

 その光は、ミミッキュがヒトミをパートナーとして受け入れた証だ。

 

「えへっ……えへへへへ、ミミッキュ、ゲット……!」

 

 ヒトミはミミッキュの入ったモンスターボールを持って、仲間が増えたよとヒトモシへ微笑みかける。

 

「モシモシ!」

「やったな、ヒトミ!」

「ラールー!」

 

 ヒトモシは飛び跳ねて喜び、俺とラルトスも自分のことのように祝福した。

 

「えへへ、これからよろしくね……ミミッキュ!」

 

 ヒトミの言葉に応えるように、ヒトミの手の中のモンスターボールがゆらりと揺れた。

 

 

 

 

 

 ーーつづく。

 

 

 

 

 






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ご回答のほど、よろしくお願いします。





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12. ジェラシーの話

 

 

 

 

 ヒトミがミミッキュを仲間にして、一夜が明けた今日。

 

「ふんふふーん、ふふーん……フフッ、えへへ!」

 

 ヒトミはこれでもかというほど上機嫌だった。

 昔から好きだったミミッキュを仲間にしたとあって、その喜びようは、まるでポケモントレーナーがチャンピオンになった時みたいだ。

 今もポケモンセンターの朝食を食べながら、膝の上にのせたミミッキュの頭を撫でている。いや、むしろ撫でるついでに朝食を食べてるって感じだ。

 

「はいミミッキュ、あーん!」

「ミッキュ」

「……えへへ」

 

 ミミッキュは被り物の中から黒い手を伸ばして、ヒトミが渡したポケモンフーズを食べた。

 なんだろう……普通なら微笑ましい光景なのだろうけど、ヒトミの場合、彼女独特のニヤリとした笑みのせいで、ちょっと危ないものを見ているような感じがある。

 ミミッキュは警戒気味にヒトミを見ながらご飯を食べているけど、満更でもなさそうだ。

 

「デレデレだなぁ」

「ラールー」

 

 目の前のヒトミ達を見ながら、俺はパンを噛り、ラルトスはポケモンフーズのひとつをパクリと食べる。

 そして、そんなヒトミとミミッキュに、不満そうな顔をするポケモンが一匹。

 

「……モシぃ」

「そう落ち込むなってヒトモシ」

「ラルラルぅ」

 

 項垂れるように頭を低くしたヒトモシを、俺とラルトスは励ました。まるで弟ができてお母さんにかまってもらえなくなったお兄ちゃんみたいだ。

 ヒトミはミミッキュに夢中で、ヒトモシの様子に気がついていない。

 

『はぁ……』

『元気出して。はい、私のモモンの実あげるから』

『……あぁうん』

 

 ラルトスな自身の皿に盛ってある朝食の山の中からモモンの実を取り、ヒトモシに差し出した。口元まで運ばれたそれを、ヒトモシは力の無い咀嚼でハムハムする。

 俺も頭を撫でて励ましてみたけど、ヒトモシの様子に変化はない。

 

「…………もしぃ」

 

 むしろ、さらに落ち込んだ。

 

「やっぱりヒトミじゃなきゃダメか……」

 

 ズーンと落ち込んだヒトモシの姿は、まるで真っ白にに燃え尽きた蝋燭のようだった。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 朝食を終え、俺達はトウカシティのポケモンセンターにある中庭で過ごすことにした。

 

 予定では、今日はトウカジムに挑戦するつもりだったけど、ヒトモシの元気がないこともあって、急遽ジム戦は明日にすることにした。俺とラルトスも、このままだとバトルに集中できそうにない。

 

 ヒトミは「どうして?」と不思議がっていたけど、そこは適当に誤魔化した。

 こういった問題は当人が気づいてどうにかしなければならないし、下手にヒトミにヒトモシが落ち込んでるのを伝えて関係が悪化したらマズい。

 

 優しいヒトミのことだから、ヒトモシが焼きもちを焼いてるなんて知ったら、すぐにでもヒトモシを気にかけるに違いないけど、そうすればヒトモシが強がって拗ねるか、最悪、ミミッキュがまた人間不信になる……かもしれない。

 

 それに、こういうジェラシーの問題はデリケートだから慎重にって、前に母さんのサーナイトが言ってた。

 

「どうしたものかなぁ」

 

 中庭で走り回って楽しげに遊んでいるヒトミとミミッキュを、俺とラルトスは落ち込んでいるヒトモシと一緒に、隅にあるベンチに座って眺めていた。

 

「ラルラー」

「ん?」

 

 ふと、横いたラルトスが俺を呼ぶ。

 

『カズヤも新しい仲間ができたら、もう私にかまってくれなくなるの?』

「……うーん、どうだろうね」

 

 俺もトレーナーだ。これからラルトス以外の仲間だってできるだろう。そうなればラルトスも、今のヒトモシを他人事のようには見れないのだろう。言うなれば、明日は我が身だ。

 そんな不安からか、ラルトスは少し怯えたような様子で俺を見上げていた。

 

「今までみたいにはいかないだろうね。どんなトレーナーでも、ポケモンと接する時間や手数には限界があるから。仲間が増えれば、それだけラルトスと一緒に遊んだりバトルしたりする時間も減って寂しい思いをさせちゃうと思う」

「…………ラルぅ」

 

 俺の答えを聞いて、ラルトスは消え入りそうな声で鳴いてうつむいた。

 そんなラルトスを、俺はゆっくり膝の上にのせて優しく抱きしめる。

 

「でも俺は、絶対にラルトスを手放したりしない。ずっと一緒にいるから。それだけは忘れないでほしい」

 

 そういって、俺はラルトスの頭を撫でる。

 これは俺の本心だ。きもちポケモンのラルトスも、きっと分かってくれるだろう。

 

「だからラルトスも、いずれ会えるかもしれない新しい仲間と、俺と一緒に仲良くしてくれたら嬉しいな」

「…………ラル」

 

 俺の言葉を聞いて、ラルトスはゆっくりと頷いてくれた。

 

 理解はしてくれたけど、まだ納得できないって感じかな?

 けど今は、それで良い。

 

「そしてこれは、きっとヒトミも同じだと思うぞヒトモシ」

「…………モシぃ」

 

 俺がヒトモシに言葉を投げかけると、ヒトモシは俺の顔を見上げた後、何か考え込むようにゆっくりとうつむいた。

 

「モシッ!」

 

 やがてヒトモシは『ヨシッ!』と何かを決心したように大きく頷いた。

 そしてヒトモシ独特の上下に揺れる歩行方法で、ヒトミたちの元へと走っていく。

 

「ヒトモシ?」

「モシ!」

「あっ、そういえば紹介してなかったわね」

 

 そばに寄って来たヒトモシを見て、ヒトミは彼をミミッキュの前へやる。

 

「この子はヒトモシ。貴方と同じ、私のパートナーポケモンよ」

「モシモシ」

「……ミッキュ」

 

 ミミッキュは警戒してヒトモシの様子を窺う。ミミッキュが被っている化けの皮の腹部に皴が寄り、まるで睨んでいるみたいだ。

 やがてヒトモシに敵意や悪意が無いと悟ったのか、ミミッキュはゆっくりと歩み寄る。

 

『よろしくな』

『……よろ、シク』

 

 ヒトモシの白くて短い手とミミッキュの黒く長い手が交差し、二匹は握手した。

 

「えへへ!」

 

 手をつないだヒトモシとミミッキュをヒトミは抱きかかえる。

 ヒトモシとミミッキュを両手で抱えて幸せそうに笑うヒトミを、俺とラルトスは微笑ましく見守った。

 

 

 

 

 

 ーーつづく。

 

 

 

 

 






 こちらの作品もよろしくね。

 ポケモン世界で、のじゃロリ狐のラブコメをやったらというお話です。

・炎タイプののじゃロリ狐が嫁入りにきました!
 https://syosetu.org/novel/284529/



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13. 仲間の話



 お久しぶりです。
 実はコツコツ書いてます。


 

 

 

 

 

 トウカジムに挑戦した翌日。

 

「……やっぱり仲間が必要かなぁ」

 

 無事にジムバッチをゲットできた俺、カズヤはポケモンセンターの玄関でひとり考える。

 

 

 

 

 トウカジムのジムリーダー、センリさんとバトルしたのは、つい昨日のこと。

 タイプ相性の有利もなく、二つ目のジムバッチをかけたバトルとあって、今回は前回よりもかなり苦戦した。

 センリさんの手持ちポケモンはナマケロ、ジグザグマ、ヤルキモノの三体。このポケモン達をラルトスひとりで相手してもらったわけだが、連戦はラルトスの負担が大きかった。

 三戦目のヤルキモノ戦なんて、最後の【きあいパンチ】が当たっていたら負けてたかもしれない。

 

 今回は運良く勝てたけど、今後もそううまくいくとは限らない。

 対策としては、ラルトスにもっと強くなってもらうか、新しい手持ちのポケモンを増やすかの二つがあるけど、ラルトスの修行は今もやってるわけで、これ以上はかえって身体を壊してしまう。

 よって、対策するなら新しい仲間を増やす方が無難だ。

 

 

 

 

 以上、昨日のジム戦の反省の末に出た結論が上記のセリフだ。

 

「ラルぅ?」

 

 足元にいたラルトスが気になった様子で顔を見上げる。

 それに気づいた俺は考えるのを止めて、ラルトスを抱き上げた。

 

「ラルトスは、仲間を作るなら、どんな仲間が良いと思う?」

「ルゥー、ラルラルぅラル」

 

 『んー、よく分からない』とラルトスは首を傾げた。先日、ヒトミが新しい仲間ができたところを目の当たりにしたとはいえ、まだ実感が沸かないか……。

 やはりここはトレーナーである俺が、ちゃんと考えるべきだろう。

 

 

 実戦的に考えるなら、次のジム戦はカナズミシティかキンセツシティだから、対策として、いわタイプかでんきタイプに有利なポケモンが良い。

 

 じめんタイプなら、ヤジロン。

 はがねタイプなら、ダンバル。

 みずタイプなら、ヤドン、もしくはスターミー。

 かくとうタイプなら、アサナン。

 

 そんなところかな?

 

「んー、迷うなぁ……」

 

 ホントに迷うなぁ、どのポケモンも良い!

 かわいい! カッコいい! かしこい!

 エスパー、サイコー!

 

「ラルラー!」

 

 ラルトスが頬をペチペチたたく。

 さっきまで足元にいたラルトスは、いつの間にか俺の肩に乗っていた。

 

「えっ、なに?」

『ヒトミが出てきたよ』

 

 ラルトスが手を向ける方へ顔を向けると、ポケモンセンターのエレベーターからヒトミがヒトモシとミミッキュを両肩に乗せて出てきた。

 

「おまたせ、カズヤ」

「よし、じゃあ行こうか」

「うん!」

「モシモシィ!」

「ミッキュ!」

「ラールー!」

 

 ヒトミの反応に合わせて、ヒトモシとミミッキュ、そしてラルトスが大きく頷いた。

 そして俺とヒトミは二人並んで、次の目的地であるミシロタウンを目指して歩き出した。

 

 

 

 ***

 

 

 

 トウカシティからミシロタウンまでは、102ばんどうろを行き、途中、コトキタウンを通る。舗装はされていないが、道を伝っていけばコトキタウンまでは一日もあれば歩いて行ける距離だ。

 道中、周りには見渡す限りの自然と元気な野生のポケモン達がいる。【ハスボー】や【タネボー】、【ケムッソ】、【キノココ】に【ナゾノクサ】と、皆それぞれ豊かに暮らしている。

 

「そっか。カズヤも二人目の仲間が欲しいのね」

「うん。これから先のジム戦を考えると、やっぱりラルトスひとりじゃ厳しいと思ってね」

 

 のどかな道を歩き、俺はヒトミと話しながら肩を並べて歩いていた。話題は、トウカシティで考えていた、俺の二匹目のポケモンについてだ。

 

「じゃあ、次のジムがある街に着くまでに、どこかでポケモンを仲間にしなきゃね」

「そうなんだけど、この辺りだとなかなかなぁ……」

 

 そう言って周りを目を向けるが、相変わらずいるポケモンは、くさタイプが主だ。環境的に仕方ないが、この辺じゃ、エスパータイプのポケモンを見つけるのは難しい。

 

「やっぱりカズヤは、仲間にするならエスパータイプのポケモンが良いの?」

「あぁ。他のポケモンがダメってわけじゃないけど、できればね……」

 

 オカルトマニアのヒトミがゴーストポケモンを仲間にしているように、サイキッカーの俺もエスパータイプのポケモンを仲間にしたい。

 これは理屈がどうのというよりも、サイキッカーとしての性分……いや、本能だ。

 

「はぁぁ、やっぱり【いしのどうくつ】で【ケーシィ】を仲間にしとくんだったなぁ」

「ふふっ」

 

 俺が悔しげに頭を掻くのを見て、ヒトミがクスクス笑う。

 

「そういえば、トウカシティで聞いた話だけど、この辺りでは野生の『ラルトス』がよく見つかるんだって」

「ラルぅ?」

 

 名前を聞いて、頭にいるラルトスが反応する。

 確かに、ラルトスが二匹目っていうのも夢があるな。

 トクサネシティのトレーナーの中にも、サーナイトとエルレイドの構成を目指して、ラルトス二匹を仲間にしている人もいた。

 けど、野生のラルトスかぁ。

 

「悪くないけど、運と相性次第かなぁ」

 

 野生のラルトスが出会うのが難しいというのもあるけど、俺のラルトスはタマゴからずっと手持ちなのもあって、育った環境の違いから相性が良くない可能性もある。

 まぁ、その相性の中を取り持つのもトレーナーの腕の見せ所であるわけだけど、今の俺にはハードルが高い。

 

「ラルラル、ラルルララルラルルーラル」

「そっか」

「ラルトス、なんだって?」

「『私は、どんな子でも大丈夫だよ』だってさ」

「そう……ふふっ、ラルトスもはやく仲間が欲しいのね」

「ラールー!」

 

 期待とやる気のこもった声で鳴くラルトスに、俺とヒトミは揃って笑みを浮かべた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ねぇ、そこの君」

「ん?」

 

 しばらく歩いていると、ふと背後から声をかけられた。振り替えると、そこには一人の男の子が立っていた。

 見知らぬ少年に、ヒトミは驚き、ゆっくりと俺の後ろに隠れるように後退りした。そして、物陰から覗くように俺の腕をつかんで少年を見る。ヒトモシとミミッキュも彼女の真似をしている。

 しかし、そんなヒトミに全く興味を示さず、少年はまっすぐ俺に目を向けていた。

 

「君のラルトスと、僕のポケモン、交換してくれないかな?」

「えっ!」

「ラル!」

 

 少年の言葉に、思わず俺とラルトスは揃って声を洩らす。

 トレーナー同士でポケモンを交換するというのは良くあることだから、その依頼そのものに驚きはしないが、初対面の第一声、しかも街の外の道中で言われるとは思わなかった。

 しかし、その驚きも束の間。俺はその依頼にすぐ首を横に振った。

 

「ごめん、ラルトスは俺の大事な相棒だから」

「即答だね……でもそっか。残念だなぁ」

 

 意外にも少年はあっさり諦めた。

 しつこくお願いされたらどうしようかと内心で警戒していたので、少しホッとした。

 どうやら悪い子ではなさそうだ。

 

「ラルトスが欲しいなら、この辺りにいる野生のラルトスをゲットしたら良いんじゃないか?」

「実は、僕もそう思ってここに来たんだけど、なかなか見つからなくて……。もう一週間も、トウカシティとこの辺りを行ったり来たりしてるんだ」

「へぇー。よっぽど【ラルトス】が欲しいんだな」

「うん。でもどちらかと言えば【ラルトス】よりも【エルレイド】が好きでね。小さい頃、ポケモンコンテストで見たエルレイドがカッコよくて、いつかゲットしたいって思ってたんだ」

 

 なるほどねぇ。

 良い趣味してる。この子とは気が合いそうだ。

 

「ゲットできないなら、誰かと交換しようかなと思って声をかけたんだけど……」

 

 そう言って、目の前の少年は俺とラルトスを羨望の眼差しで見つめる。

 

「気持ちは分かるが、いくらお願いされても俺のラルトスは絶対ダメだからな」

「そっか……はぁぁ、残念」

 

 俺が断固として拒否する姿勢を示すと、少年は肩を落として大きなため息を吐いた。

 

「まぁ、頑張って野生のポケモンをゲットするんだな」

 

 あるいは、俺みたいにタマゴから孵すか。

 

「それができないから困ってるんだよぉ」

 

 少年はまた大きなため息をつく。

 

「はぁぁ……一応、交換してもらうために、おじさんから珍しいポケモンも用意してもらったのになぁ」

「へぇ、そのポケモンって?」

 

 交換する気はサラサラ無いが、珍しいポケモンと言われると少し興味がある。

 

「【ケーシィ】だよ」

「よし、ゲットしよう!」

「ラルっ!」

 

 俺の決断は早かった。

 

 

 

 

 

 ーーつづく。

 

 

 

 

 

 







人の後ろから覗き見るオカルトマニアが可愛いだけの回です。


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14. ゲットの話



7月に突入!
そして『夏はポケモン!』
……というわけで更新です。





 

 

 

 

 

「僕はヒデオ。よろしくね」

「俺はトクサネシティのカズヤ」

「お、同じく、ヒトミです。よ、よよよ、よろしくお願いします。ヒヒヒっ」

「う、うん。よろしく、ね」

 

 俺とヒトミは少年と簡単な自己紹介をして、ラルトス探しを開始した。不気味な愛想笑いを浮かべるヒトミに、少年は頬を引きつらせて苦笑いで返す。

 

 探している途中で話を聞いたところ、なんでもヒデオはトウカシティに住んでいて、先日、親から手持ちのポケモンを持つことを許され、最初の一匹に憧れのラルトスをゲットするため、時間を見つけてはこの辺りを散策しているらしい。遊ぶ時間はもちろん、“塾帰り”なんかにもこの辺りを歩き回っているとのことだ。

 

 だが流石に一人だけで林の中に入るのは危ないため、おじさんから手持ちのポケモンを持たされた。そして必要なら、ラルトスを持っているトレーナーと、そのポケモンを交換しても良いと言ってくれたらしい。

 そのポケモンが【ケーシィ】だ。

 

「それにしても、手持ちにだけじゃなく交換に出しても良いなんて、随分と気前の良いおじさんだな」

「ラルトスを持っているトレーナーなら、きっと心の良いトレーナーで大切に育ててくれるだろうから大丈夫だって言ってた。それに、ケーシィは危なくなったらテレポートで家に帰ることができるからね」

「……そっか」

 

 俺は話を区切り、なんだか照れくさくなって頬を指先で掻く。

 

「そういえば、手伝ってくれるのは僕としてはありがたいけど、カズヤはゲットは得意なの?」

「うーん……実はまだやったことないんだ。けど、知識としては知ってるし、相手がラルトスなら習性もよく知ってる。他のポケモンよりも上手くやれると思う」

 

 そもそも、【ラルトス】がゲットしにくいってのは、遭遇することが少ないせいであって、ゲットの方法そのものは他のポケモンと変わらない。

 ラルトスについて熟知している俺なら、むしろ簡単にできるだろう。

 

「習性?」

「【ラルトス】はきもちポケモンと言って、生き物の心を敏感に察知するんだ」

「うん」

 

 俺の解説に、ヒデオは頷く。

 

「つまり、ラルトスを探す時は『見つけてやるぞー』とか『バトルするぞー』とか好戦的になったり敵意を向けるのはダメだ。見つけるには心穏やかにすること。これが第一。そしてこれは、ゲットするトレーナーだけでなく一緒に行動する仲間も同じだ。一人でも心に敵意や暗い感情があると見つけることは難しい」

「えっ、ゲットするのを考えるなってこと? でもそれじゃあ、どうやっても見つけられないんじゃ……?」

「そうでもないよ」

 

 そう言って、俺は足を止めて頭の上にのせていたラルトスに手をやって前に抱く。

 ヒデオは一瞬不思議そうにラルトスに目をやったが、すぐにまた俺に目を戻す。

 

「ヒデオはどうしてラルトスをゲットしたいんだっけ?」

「それは……小さい頃に見た【エルレイド】がカッコ良くて、僕も一緒にいて欲しくて」

「そう、その気持ちを持って探すんだ。明るく前向きに、『友達になって欲しい』って願いながらね。そうすれば、向こうもきっと答えてくれる」

「そう、なの?」

「あぁ。納得いかないっていうなら、試しに【ラルトス】をゲットした時のことを考えてみな? あるいは、もしも【エルレイド】に進化したらぁ、とかな」

 

 俺が促すと、ヒデオは目を閉じて「うーん」と腕を組んで考え始めた。最初は眉間にしわを作っていたヒデオだが、徐々に力が抜けていき、やがて穏和な顔つきに変わっていった。

 

「ラルー!」

「えっ!」

 

 やがてラルトスが明るい声で鳴き、ヒデオは驚いて目を開ける。

 

「ラル、ラルラルラー!」

「ほら。俺のラルトスも、今のヒデオの気持ちが気に入ったみたいだぞ」

 

 俺の言葉に賛成するようにラルトスが鳴く。『うん、今の気持ち好き!』と言ってくれている辺り、間違いない。

 

「そうなんだ……わかった。やってみる」

「よし。それじゃあ、続けてこの辺りを歩いてみよう」

「ラールー!」

 

 引き続き野生のラルトスを見つけるため、俺達は散策を続けた。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 それから二時間後。

 

「うーん」

「見つからないねぇ」

 

 ここまでずっとラルトスと遭遇しないことに、いよいよ俺とヒデオは足を止めて、ため息をついた。

 

「どうだ、ラルトス?」

「ルーぅ?」

「何かイヤな感じとかする?」

 

 俺が訊ねると、頭にのっていたラルトスはツノで何かを察知するようにして周囲を見る。そして、とある方向に目を向けた。

 

「ラールー、ラルラルラルラルぅ!」

「えっ!」

 

 ラルトスの言葉に、俺は思わずラルトスと同じ方へ顔を向けた。

 そこには、ヒトモシとミミッキュを抱えたヒトミが立っている。俺の反応を見て、ヒデオも不思議そうにヒトミを見た。

 

「えっ! な、なに?」

 

 急に視線を向けられ、ヒトミはピクリと一瞬背筋を伸ばし、オロオロと慌てだす。

 

「いや、そのぉ……ごめん、ちょっとタイム」

 

 俺はヒデオに頭を下げ、ヒトミの手を取って少し離れた位置まで連れていった。

 

「な、なに? どうしたのカズヤ?」

「それが、ラルトスが言うには、野生の【ラルトス】が出てこないのはヒトミが怖がってるのを察して警戒されてるのかもって……」

「えっ!」

 

 極度な人見知りのヒトミは、他人や初対面の人の前だとすぐに縮こまってしまう。ラルトス曰く、その恐怖心を察知して野生の【ラルトス】が姿を見せなくなっているらしい。

 

「うぅ……ごめんなさい」

「あーいや、苦手なものは仕方ないよ。でも、そのぉ……今だけでもなんとかできないかな?」

「う、うん……私も、できればそうしたい。でも……」

 

 それができれば、苦労はしない……か。

 ヒトミは視線を下にやって胸の前で指をツンツンと合わせる。けど、やがて何かを思い付いたのか、俺の方へチラチラと目をやる。

 

「その、えっと……方法が無いわけじゃないの」

「えっ! それは、どんな?」

「そのぉ、ポケモンの技でいうところの【アロマセラピー】、みたいな?」

 

 顔を赤く染めながら言うヒトミの言葉が、いまいち理解できず、俺は首を傾けた。

 

「そのために、カズヤにお願いが、あるの」

「う、うん。なに?」

 

 そのヒトミのお願いを聞いて、俺は更に混乱した。

 

 

 

 ***

 

 

 

 

「……ねぇ、カズヤ」

「何?」

 

 隣を歩くヒデオに声をかけられ、俺は辺りを観察しながら返事をする。

 あれこら十分ほど歩いたけど、まだ【ラルトス】は見つかっていない。

 

「ヒトミの“アレ”、一体なんなの?」

「……う、うん。“アレ”ね。アレは、その、なんというか……」

 

 ヒデオは後方を指さして訊ねる。だが俺は、なんと説明していいか分からず、頬をポリポリ掻いた。

 

「いわゆる、安心毛布ってやつ」

「毛布? でもあれって“カズヤの服”だよね?」

「う、うん。でもヒトミが言うには、あーすると安心するんだって」

「ふーん」

 

 背後には、俺のお気に入りの紫色の作務衣を持ったヒトミが、ヒトモシとミミッキュを連れて歩いている。

 ヒトミは両手で俺の作務衣を自分の口元に当てて、ゆっくりと大きく深呼吸する。その顔は火照っているように赤く、締まりがない。目線は少し上へ向いているが視点も定まっていない。

 

「スンスン……んー、至福ぅ!」

 

 いくら昨晩洗濯したとはいえ、自分の服をクンクンと嗅がれるというのは、かなり恥ずかしいし、なんだかむず痒くもある。

 だが実情はともかく、これでさっきのようにヒトミが人見知りしてオドオドすることはないし、野生の【ラルトス】に警戒されることもなくなるだろう。

 

「ラルー!」

「ラルトスも、大丈夫だって」

「そう。まぁ、二人が良いなら、僕は別にそれで良いんだけど……」

 

 そう言って、ヒデオはヒトミから俺が抱えているラルトスに目を移す。

 

「そういえばカズヤ、さっきから気になってたけど、君、ラルトスの言葉が分かるの?」

「えっ! あっ、あぁ、まぁね」

「へぇー、すごいなぁ。良いなぁ。僕にもできるかな?」

「俺とラルトスはもうずっと前からの仲だからな。ヒデオもゲットしたポケモンを大切に思えば、きっと心を通わせられるよ」

 

 俺の場合は超能力で言葉を正確に理解しているけど、超能力なんて使わなくてもラルトスの言いたいことはなんとなく分かる。

 

「ふふっ、そうだと良いなぁ……あっ!」

「ん?」

 

 ヒデオが期待に胸を膨らませた笑みを浮かべていると、突然、声を出して足を止めた。視線を辿ると、そこには林の中の一本の木が生えている。そして、その影には一匹の小さなポケモンが顔をのぞかせて立っていた。

 顔といっても目元はおかっぱ頭のような緑の頭部によって見えないが、緑の頭に赤いツノと、種族としての特徴は一致している。

 

「ラルぅ」

「あっ、あれは!」

 

 野生の【ラルトス】が俺達の様子を伺っていた。そのラルトスは興味混じりで、こっちを見ている。

 

「いた!」

「ちょっと待て! 落ち着け!」

 

 ラルトスを見つけて早速モンスターボールに手を伸ばそうとするヒデオを俺は止めた。ここで捕獲欲を見せると、多分あのラルトスは逃げてしまう。

 

「ここは慎重に行こう」

「慎重にって、一体どうやって?」

「まぁ、見とけって」

 

 そういうと、俺はヒデオをその場に残して、少しずつ木の影に隠れているラルトスに近づいていく。

 相手に警戒されないギリギリの距離まで近づくと、俺はその場でしゃがみ、腕に抱えていたラルトスを地面に下ろした。

 

「ラルトス、頼むな」

「ラルー!」

 

 ラルトスは俺の考えを察して『任せて!』と深く頷いた。

 

「ラルラル!」

「ラ、ラルラル」

「ラルラー? ラルラルぅ?」

「ララル。ラルラルラー」

 

 ラルトスはゆっくりと歩み寄ると、木の影に隠れた野生のラルトスに声をかける。野生のラルトスは首を傾げたが、俺のラルトスの明るい様子に、警戒しつつも木の影から出てきてくれた。

 雰囲気から察するに、どうやらオスのラルトスらしい。

 

「ラルラル、ラルラルラー」

「ラル。ラルラル」

「ラーラル。ラルラルル」

「ラル? ララルー」

 

 俺のラルトスと野生のラルトスがコミュニケーションを取る。

 通訳すると、こんな感じだ。

 

『こんにちわぁ!』

『こ、こんにちわ』

『どうしたの? 私達に何か用?』

『ううん。なんだか心地の良い波長を感じたから、ちょっと見に来てみただけ』

『そうなんだ』

『あの人間の女の子、すごく幸せそうだね』

『うん、そうだよねぇ』

 

 ラルトス二人が揃ってヒトミを見るが、本人は気づかない。

 

『あなたは、この辺りに住んでるの?』

『うん』

『他に家族や友達は?』

『ううん。いないよ』

 

 へぇ、それは珍しいな。野生の【ラルトス】はキルリアやサーナイトと一緒に生活しているイメージがあったけど、そうでもないのかな。

 

『じゃあ、ひとつ提案があるんだけど』

『なに?』

『実は、あそこにいるヒデオっていう子が仲間を探してるんだって』

『へぇー』

『良かったら、どうかな?』

『ボクが?』

『うん』

 

 俺のラルトスがヒデオを指し、野生のラルトスもヒデオを見る。ヒデオは「な、なんだろう?」と首を捻るが、やがて野生のラルトスは俺のラルトスに向かって大きく頷いた。

 どうやらヒデオは、あのラルトスのお眼鏡にかなったらしい。話を終えると、ラルトス達はこっちにゆっくり歩み寄ってきた。

 

「ラルラール!」

「あぁ、ありがとう。お疲れさま」

 

 俺は自分のラルトスを再び抱え上げ、頭を撫でた。ラルトスは嬉しそうに口許を緩める。

 

「ラル」

「あっ、え、えーと……」

 

 もう一方のラルトスは、ヒデオの足元まで来ると、彼の顔を見上げた。ヒデオの顔を覗き込み、内にある感情を探るようにジーっと顔を向ける。見られ続けるヒデオはどう反応して良いのか分からず困惑していたが、やがてラルトスが握手するように手を前に出した。

 

「ラルラル」

「えっ?」

 

 どうやらヒデオは、このラルトスのお眼鏡にかなったらしい。

 

「よろしく、だって」

「えっ、あぁ、そうなんだ……こちらこそ、よろしくね」

 

 俺の通訳を聞いて、ヒデオは腰を下ろしてラルトスの手を取ると、お互いに信頼を置くように握手をする。

 

「よし。じゃあ早速、ラルトスをモンスターボールに入れるんだ」

「うん。そうだね」

 

 ヒデオはポケットからモンスターボールを取り出してラルトスの額にコツンと当てた。するとラルトスの身体がモンスターボールの中へ吸い込まれる。

 しばらくヒデオの手の中でユラユラと揺れていたが、ラルトスの入ったモンスターボールはすぐに大人しくなった。

 

「やった! これでゲットできたってことだよね?」

「あぁ。おめでとう」

「カズヤのおかげだよ。ありがとう!」

 

 ヒデオはラルトスの入ったモンスターボールを、喜びと期待のこもった目で見る。

 初ゲットかつ初めての自分のポケモンとあって、感慨深いものがあるのだろう。

 

「それじゃあ御礼に、約束通りケーシィをあげるよ」

 

 そう言って、ヒデオはラルトスのモンスターボールを仕舞い、代わりにケーシィのモンスターボールを取り出して俺に差し出す。

 

「はい。大切にしてあげてね」

「あぁ、ありがとう。大切にするよ……よし、出てこいケーシィ!」

 

 モンスターボールを受け取って、念願のケーシィを手に入れた俺は、早速中にいるケーシィを外に出した。

 ボールの中からの閃光と共に、ねんりきポケモンのケーシィが姿を現す。

 空中に座るような体勢で浮遊するケーシィを見ながら、念願のポケモンをゲットした感激に、思わず抱きつきたくなる衝動をなんとか抑えた。

 

「俺はカズヤ。こっちは相棒のラルトス。今日からよろしくな、ケーシィ」

「ラルラルぅ!」

「シィ!」

 

 俺とラルトスが声をかけると、ケーシィは鳴き声を出しながら、その細い目で俺とラルトスを見る。

 

『今日から君がボクのご主人様か。まぁ、よろしくね』

 

 このケーシィ、まさかのボクっ娘である。

 出会ったばかりとあって少し素っ気ないが、それでも感じの良い言葉を返してくれた。

 

「ラルラルー!」

 

 ラルトスも初めての仲間が出来て嬉しそうだ。

 明るいラルトスとクールなケーシィとで、性格的にも相性は悪くなさそうだ。

 

「それじゃあ僕はウチに帰るよ。おじさんにも報告しなきゃいけないから……ケーシィ、元気でね」

『あぁ、君もね』

 

 そんな最後の言葉を交わしてヒデオはケーシィに別れを告げると、俺達に改めて御礼を言って、その場を後にした。

 こうして俺は今日、二匹目の仲間、ケーシィをゲットしたのだった。

 

『ところで、あの女の子は?』

「あぁ、旅の仲間のヒトミだ。そばにいるヒトモシとミミッキュは、彼女のパートナーポケモン。仲良くしてくれ」

『へぇ、手に持ってるのはカズヤの服かい?』

『そうだよ。あれがヒトミの安心毛布なんだって』

『ふーん、なんだか変態みたいだね』

「こらこら」

 

 思ったよりも毒舌なケーシィに、俺は口で軽く叱りながら苦笑いした。

 

 

 

 ーーつづく。

 

 

 

 

 







というわけで、クーデレボクっ娘『ケーシィ』が仲間になりました。
彼女の将来が楽しみですね。


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