新日本神話2045 愛の戦士たち (外山康平@紅蓮)
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設定 登場人物

 ~~主要登場人物~~

 

【アレクシス】(外見年齢20)

 異世界『方舟』将校 魔導士

 精霊族 伯爵

 日本国・異世界共同開発戦闘機『ジークフリード』パイロット

 精霊魔法の根幹たる『太陽因子』を宿す青年。先王アリスの従兄弟。

 遥と恋仲となる。

 金髪に青い瞳。

 

東城遥(とうじょうはるか)】(20) 

 内閣官房参与

 太陽因子を宿す歌手。

 洋祐と美咲の娘。母に似て明るい性格。

 アレクシスと恋仲となる。

 栗色の短髪。

 

 

 ~~日本国政府関係者~~

 

大泉進太郎(おおいずみしんたろう)】(64)

 日本国内閣総理大臣 衆議院議員

 政権与党自主憲政党総裁

 切れ味鋭い弁舌で国民の人気も高い政治家。

 

荒垣健(あらがきたける)】(76)

 副総理 兼 外務大臣

 日本改新党最高顧問

 二〇二二年、東京湾巨大生物上陸災害で首相臨時代理として日本を救った政治家。政界を引退していたが、魔族襲来を受け、大泉から副総理としての入閣を要請される。

 

東城美咲(とうじょうみさき)】(46)

 参議院議員。

 内閣府特命担当大臣(異世界・特定事案対策統括)

 内閣府特定事案対策統括本部『特事対』本部長

 太陽因子を宿すため、内閣府特命担当大臣、特事対本部長に抜擢された元歌手。

 洋祐の妻、遥の母親。

 蜂蜜色の髪。

 

東城洋祐(とうじょうようすけ)】(46)

 海上自衛隊幹部自衛官(一等海佐)

 護衛艦『やまと』艦長

 妻美咲、娘遥と同じく太陽因子を宿す。

 冷静沈着な指揮官で隊員からの信頼も厚い。

 黒髪短髪。

 

 

 ~~異世界『方舟』登場人物~~

 

【ミュラ】(外見年齢21)

 異世界『方舟』女王

 王族たる精霊族。

 武闘派の女王。カグツチとの戦いで親友たる先王アリスを失い執務不能となっていたが、今を生きる決意をする。

 金髪にエメラルドグリーンの瞳。

 

【バシス】(外見年齢21)

 『方舟』大公

 王族たる精霊族。

 銀髪に緋色の瞳。

 

【アリサ・フォン・キャンベラー】(36)

 先王アリスの生まれ変わり。

 人族。

 金髪に空色の瞳。

 

【ロスト】(外見年齢19)

 『方舟』侍従長

 精霊族。

 紺色の髪。

 

【ローデウス】(外見年齢70)

 『方舟』宰相 兼 軍務大臣

 精霊族。

 海軍高官を歴任し、バシスからの信頼も厚い老練な政治家。

 

【イナバ】(外見年齢17)

 『方舟』諜報尚書

 獣人族。

 ふさふさとした獣耳を生やした少年。

 

 

~~異世界『魔界』登場人物~~

 

【ガリウス】(外見年齢43)

 異世界『魔界』大都督。将軍。

 2022年、カグツチの命で方舟に侵攻したが敗北。捕虜となり解放されるが、魔界皇帝の圧政に疑問を覚え、方舟に味方する……

 青い肌に短く刈り上げられた髪。隻眼の男。

 

【皇帝】(外見年齢50前後)

 魔界の魔王。

 日方両国の太陽因子を奪うべく、臣下に侵攻を命じる。

 いぶし銀の鎧を纏う。青き肌に緋眼。肩まで伸びた白髪。

 

【ベノム】(外見年齢40前後)

 観艦式にて東京湾に侵攻した将軍。

 粗暴な性格。

 青き肌。長い黒髪を後ろで一本に束ねている。

 

 

 

 ~~諸外国政府関係者~~

 

【エドワード・サウスマウンテン】(66)

 アメリカ合衆国大統領(共和党)

 元米海軍将官。海軍を退役後、政界に転身。合衆国大統領に選出された。

 

金序運(キムジョウン)】(61)

 朝鮮民主主義人民共和国国務委員長

 朝鮮人民軍最高司令官 元帥

 朝鮮労働党委員長 同中央委員会政治局常務委員

 同中央軍事委員会委員長 

 国家、軍、党の要職を占める北朝鮮最高指導者。日本上空に弾道ミサイルを飛ばすが……

 

 

 

 



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第一章「始動篇」 第1話『北朝鮮ミサイル攻撃!よみがえれ戦艦大和』

「新日本神話2045愛の戦士たち」
 製作委員会Presents


 時に、西暦二〇二二年──

 

 精霊魔法の根幹たる『太陽因子』は、日本国と異世界『方舟』を邂逅せしめた。

 太陽神天照大御神がもたらした太陽因子を皇室を中心に受け継ぐ日本、そして太陽のエレメントを代々の王が継ぐ異世界が、ある事件により邂逅したのだ……

 

 ……その事件とは、日本神話の炎の破壊神カグツチによる異世界侵攻である。

 イザナギに殺されたカグツチは、太陽因子を持つすべての者を滅ぼすべく、先代異世界『箱庭』を滅ぼした。

 太陽因子を色濃く受け継ぐ箱庭女王アリスは、臣民を新たに創造した異世界『方舟』に転移させ、崩御した……アリスを失って以来、方舟の精霊魔法は衰退しつつあった……日本と接触するまでは。

 

 ──方舟が現れた世界は、日本列島、西ノ島だった。

 

 ……日本国と方舟は友好関係を築き、国交記念式典を開く。

 その席上、歌手『西村美咲』の歌が放つ太陽因子に反応し、デューゴスことカグツチが姿を現す。

 

 カグツチは日本国・方舟両国への宣戦を布告し、人民解放軍、そして魔界の軍を掌握。

 この危機に、日方両政府は美咲の歌で精霊魔法を増幅し、立ち向かったのだ。

 天皇の秘術もあり、カグツチは長きに渡る呪縛から解放され、天界へと旅立った。

 

 

 時は流れ、西暦二〇四五年──

 魔界の皇帝は、太陽因子を奪うべく、日本と方舟に侵攻を開始する。

 新日本神話──新たなる物語が始まる……

 その名は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《 新日本神話 第三部 【新日本神話:急】 第一章「始動篇」 》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこまでも高く抜けるような青空のもと、下界では雲が大地と海を包み込む成層圏の世界──

 

 ──その青い空を四本の飛行機雲がたなびく。

 二本の飛行機雲が高みへと飛翔し、その後を二本の飛行機雲が追いかける。

 

 日の丸を翼にあしらった白銀の戦闘機の群れ。

 シャープな機首に流線形のフォルム。胴体下に抱えた並列二発のジェットエンジンが特徴的だ。

 機体に対し斜めに取り付けられた主翼は空力を考慮された後退翼だ。機体後方からは、V字型の尾翼が機体上方に伸びている。

 機体最後尾の二発のバーニアからはオレンジの炎が吹き出し、機体の速度を超音速に押し上げる──

 

 日方共同開発戦闘機【 F3『ジークフリード』 】その編隊である。

 

 パイロットは日方の混成であり、日本の航空自衛隊からは飛行教導隊、方舟からは魔導士たる精霊族が参加するトップガンだ。

 二番機パイロットのアレクシスもまた、方舟の魔導士であった。

 金髪に空を閉じ込めた色の青の瞳の彼。その笹のような耳はヘルメットに隠れていた。

 酸素マスク越しにも精悍な顔立ちがわかる。

 

 隊長機からの通信が入る。

『ジークフリードリーダーより各機、北朝鮮に不穏な動きがある。俺たちはその偵察任務だ』

 了解、とアレクシスたちが返答する。

 デジタル化されシンプルなデザインのコックピット、そのレーダー画面を彼は見やる……

 

 ──次の瞬間【 ALART 】の表示が出た!

 やかましく警報音が鳴り響く。

 

 隊長機にアレクシスは叫ぶ。

『ジークフリード2よりジークフリードリーダーへ! 北朝鮮ミサイル基地に動きあり!』

『何!? ……こちらでも探知した! 北朝鮮より八発の弾道ミサイル発射!』

 隊長は航空総隊司令部に回線を繋ぐ。

 

『こちらジークフリードリーダー。北朝鮮ミサイル発射を確認! 繰り返す、北朝鮮ミサイル発射!』

 

     *    *

 

 航空自衛隊、航空総隊司令部──

 

 ここ航空総隊司令部には、BMD、すなわち弾道ミサイル迎撃を担う統合任務部隊が設置されている。

 ジークフリードフライトに、空自のレーダー部隊。いわゆるパトリオットミサイルを装備した、最終防衛を担う空自高射部隊。加えて、海自のイージス艦が航空総隊司令官のもとに統合運用されるのだ。

 

「ジークフリードフライトより目標情報入りました! 北朝鮮内陸部より八発の飛翔体発射」

「護衛艦『まや』に通信、弾道ミサイル軌道のトレース及びSM9ミサイルによる迎撃を!」

 

 航空総隊司令官、早蕨(さわらび)空将がジークフリードフライトからの第一報を受け、日本海に展開中のイージス艦『まや』に迎撃指示を出した。

 

「目標、ロフテッド軌道で上昇中!」

 ロフテッド軌道とは、弾道ミサイルが高高度で鋭く弧を描く状態である。

 

 まやからの中継映像が繋がる……

 甲板に埋め込まれた垂直発射装置……その天蓋が開き、排気口から火炎が吹き上がる。

 弾道ミサイル迎撃ミサイル──SM9がその中から上昇、天空に舞い上がる。

「──まや、SM9発射!」

 

 中央のスクリーンが切り替わり、ミサイルの軌道が光点で映る。

 弾道ミサイルにSM9が迫り……

 ──命中!

「やったか!?」

「待ってください。……!?」

 

 オペレーターが驚愕の表情に変わる。

「一発撃ち損じました! 目標は高速で日本列島に向かいます!」

「くそっ!」

 早蕨が拳を握りしめた。

 

 弾道ミサイルが日本に落下する。

 

 もはや、希望はないと思われた…………その時!

「司令官! 護衛艦『やまと』より入電!」

「やまとだと!? ……まさか……!」

 

     *    *

 

【 起動シークエンス開始 】

【 第一主砲塔・第二主砲塔発射可 】

 

 暗闇の中にディスプレイの光が灯り、機械の作動音が鳴る。

 機械に囲まれた暗がりの中で作業するクルー……その中の制帽を深く被った男が腕を組み、うつむく。暗闇の中でその人相はよくわからない……

 別室から通信で状況が伝えられる。

『主機始動……全動力線コンタクト。全電力スイッチオン……』

 電気が通じ、室内が明るくなる。

 光に照らされたその男は黒髪短髪、刃のように目つきの鋭い強面だ。

 彼は叫ぶ──

 

「対空戦闘、用意──!!」

 

 港湾に設けられたドッグにそびえる一隻の巨大戦艦が唸りを上げ、主砲を動かす。

 全長二〇〇メートルを超すグラマラスな巨体……前甲板には三連装主砲塔が二基構え、後甲板にも一基の主砲塔が鎮座する。前後に副砲五インチ砲が据えられ、各所には高性能二〇ミリ機関砲が構える。

 そして天守閣のような艦橋がそびえる。

 

 ──これこそまさに、海上自衛隊が誇る護衛艦『やまと』の勇姿だ。

 

「北朝鮮弾道ミサイルをここで迎撃する! 主砲発射用意!」

「了解!」

 ヘッドセットをつけたオペレーターが兵装を操作する。その中には笹穂耳をつけた異世界人の姿もあった。

「主砲魔導砲用意! 魔法陣展開!」

「目標北朝鮮弾道ミサイル! 自動追尾よし」

「主砲撃ち方始め──」

 

「──撃てぇっ!」

 

 紅蓮の魔法陣が主砲砲身を中心に回り、砲口に収束──光を放った!

 深紅の光が青空に吸い込まれ……

 ──爆発!

 

 

 ……統合任務部隊司令部でも状況がモニターされていた。

「映像回復──」

 砂嵐の後、スクリーンにやまとの主砲が仰角を目一杯あげ、砲口から煙を吐いているのが映った。

 やまとに見入っていた早蕨空将だったが、我に返り、オペレーターに報告を求める。

「状況は!?」

「やまとより通信! 繋ぎます──」

 

 刃のように目つきの鋭い黒髪短髪の男がスクリーンに映る。

「東城艦長……!」

 その男は、護衛艦やまと艦長、東城洋祐(とうじょうようすけ)一等海佐だ。

 早蕨も彼を知っている。

 元海上自衛隊自衛艦隊司令官、東城宏一(とうじょうこういち)の息子であり、彼自身もまた海上自衛隊の猛将として名を馳せていた。

 

 洋祐は敬礼ののち、口を開く──

 

『北朝鮮弾道ミサイル迎撃しました。尚、破片の落下等はありません。迎撃成功です!』

 

 司令部の一同がどよめき、嬉しさに拳を握りしめる。涙を流す者までいた。

 早蕨がマイクを取る。

「よくやってくれた……! やまとの奮闘に感謝する!」

「はは……懲罰ものですかな?」

 洋祐は笑ってみせる。

「……独断専行の本件だが、安心してくれ。私の責任で不問にしよう」

「感謝いたします。早蕨空将」

 

 

 暮れかかる空……ブルーとオレンジのコントラスト。

 夕陽がやまとを照らしていた……

 

 

 

 



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第2話『国家安全保障会議・アレクシスと遥』

 ……日は暮れ、濃紺の夜空が大都会東京を包む。

 星空の代わりに広がるのは、東京の夜景だ。

 

 

 北朝鮮弾道ミサイル発射を受け、同日、首相官邸にて関係閣僚を招集した国家安全保障会議開催が決定。

 内閣総理大臣を議長に、内閣官房長官、外務大臣、防衛大臣が参加する四大臣会合である。

 

 オブザーバーとして、内閣府特定事案対策統括本部【特事対(とくじたい)】本部長である東城美咲(とうじょうみさき)内閣府特命担当大臣(異世界担当)が参加する。

 彼女は精霊魔法の根幹たる『太陽因子』を宿し、二〇二二年当時は内閣官房参与。カグツチとの戦いにてその歌声により、精霊魔法を増幅し決戦を勝利に導いた歌姫である。

 海上自衛官東城洋祐と結婚し、(はるか)が生まれた。その後与党自主憲政党の要請で政界に転身、国務大臣を拝命するに至る。

 

 

 木目調の内装の会議室に美咲たちが着席し、首相の到着を待つ。

 官僚が扉を開けると同時に皆が起立し、首相を迎え入れる──

 

 紺色のスーツを着込み、赤いネクタイで決めたハンサムな男。

 ──この日本国を担う内閣総理大臣、大泉進太郎(おおいずみしんたろう)だ。

 爽やかで切れ味鋭い弁舌で政治を切り回し、国民からの支持も高い政治家である。

 

 大泉が席につき、続いて閣僚たちが座る。

「防衛大臣、状況の報告を」

 大泉が切り出した。

「はい。本日午後四時十三分、北朝鮮より八発の短距離弾道ミサイル発射をジークフリード隊が確認。素早い展開から、発射されたミサイルはトレーラーに乗せられた移動式と思われます──」

 手元の配布資料に目を通す一同。

「──迎撃ミサイルSM9を撃ちますが、一発を撃ちもらします。その一発を護衛艦やまとが魔導砲で撃墜しました」

 洋祐、と呟く美咲。

 美咲を見、ほほえみつつ大泉は訊ねる。

「国内への被害は?」

「ありません。やまとのおかげですな」

 腕を組んでいた内閣官房長官が即答する。

「防衛大臣、艦長は不問にするように」

「かしこまりました」

 大泉が美咲に向き直る。

「東城大臣。特事対では、今回のミサイル発射は何か異世界と関係あるのか?」

「ない。と言ってよいでしょう。魔導士たちも何も感じなかったと」

「そうか……皆、引き続き北朝鮮への監視を厳に。本日はこれにて散会とします」

 大泉が宣言し、皆が会議室から退出する。

 

「東城大臣」

 廊下を歩く美咲を大泉が呼び止める。

「何でしょう総理」

 左右を見回し、人のいないことを確認すると、大泉は口を開く。

「……いずれ内閣改造をやろうと思ってる。君には引き続き異世界担当大臣と特事対本部長を担ってもらいたい」

「やりますか? 改造」

「なんだか悪い予感がしてね、目玉人事は副総理だな……あの人に復帰してもらう」

「その人って……」

 

 二〇一一年、東京湾巨大生物上陸災害で日本を救った英雄を大泉と美咲は思い出していた……

 

     *    *

 

 西暦二〇四五年──第二次世界大戦の終結から一〇〇年が経った。

 世界情勢は目まぐるしく変わり、異世界方舟と邂逅したことで日本国はアメリカ合衆国と対等──否、それ以上の国家となった。

 

 

 ……青空に花火がはじけ、色とりどりの紙吹雪が舞い散る。

 音楽隊が小気味良いリズムで軍艦マーチを演奏し、港に係留された航空機搭載型護衛艦、ミサイル護衛艦、汎用護衛艦がカラフルな装飾に彩られる。

 

 海上自衛隊は観艦式を開催した。

 

 会場では関連イベントが行われ、護衛艦やまとが港に接岸、一般公開を行っていた。

 また、戦闘機ジークフリードが会場内に駐機。国民の前に現れるのは初めてとなる。

 

 ジークフリード機に程近いエリアでは、ステージが組まれ、ライブが開かれていた。

「次のゲストは──東城遥さんです!」

 

 彼女は、軍服風の黒衣に、金、銀、赤色の配色が施された、色あざやかな衣装を纏い、制帽を押さえつつステージに駆け上がる。ふわふわした茶髪の若い女。年はちょうど二〇頃か。

 東城遥(とうじょうはるか)

 父洋祐、母美咲と同じく、精霊魔法の根幹たる太陽因子を宿しており、日本国政府が公式に認めた内閣官房参与である。

 

 遥がマイクを持ち、背後のバンドのメンバーに目配せすると、ドラムが叩かれ、ベース、エレキギターの音が弾ける。

 眼下の観衆に手を振りながら応え、歌い出す。

 

 観衆の中に、アレクシスの姿もあった。

 歌に伴い、彼の笹穂耳も動く。彼は精霊族であり、精霊魔法の根幹たる太陽因子に反応したためだ。

 しばし、彼女に聞き惚れ、見とれてしまうアレクシス……精霊魔法だけではない。彼女の愛らしさゆえか?

 

 ……演奏が終わり、遥が舞台から降りてくる。

 腰までの高さの柵で区切られた通路を歩き、舞台下の観客とふれあい、握手やハイタッチを始めた。

 

 彼女はアレクシスに近づいてくる。

 目が合い、胸が高鳴るのを感じた。

 遥もアレクシスに視線が釘付けとなる。彼の青い瞳、笹穂耳に目を奪われる……

「……方舟の軍隊の方ですよね?」

 沈黙を破ったのは遥だ。

「混成航空団、ジークフリード隊所属のアレクシスです。……よろしく」

 アレクシスが右手を差し出すと、遥もその手を握った。

 

     *    *

 

 護衛艦やまと艦内、CIC──戦闘指揮所はあわただしくなっていた。

 副長たる魔導士の報告で、対水上レーダーによる監視を始める。

 薄暗い指揮所内にモニターの光が輝き、乗員たちの顔を照らす。

「確かなのか?!」

 洋祐が問いただす。

 

「はい。東京湾内に大出力の転移魔法を確認、巨大質量が出現すると思われます!」

 

 副長は青ざめた顔で告げた。

 洋祐は姿勢を正し、指示を下し始める。

「ただちに横須賀自衛艦隊司令部に報告! レーダー各員、見張員は対水上警戒を厳となせ」

「「了解」」

 乗員がそれぞれの持ち場につく。

 

 洋祐の額に汗が流れる。

 彼は無意識に拳を握りしめていた……

 

     *    *

 

 ……暗雲がたち込め、遠くの山々からは稲妻の光とともに雷鳴が轟く。不気味で禍々しい光景が、ここが魔界であることを象徴していた。

 

 山にそびえる煉瓦造りの都市……その中の黒き城塞は、皇帝の力を顕示するようだ。

 

 有機的意匠と幾何学的意匠が融合した宮殿。

 壁のステンドグラスからは燦々と光が差し込み、皇帝が居座る間を照らす。

 壁際の床からは赤い魔方陣が回り、青き火炎を吹き上げる。

 黒のローブを身に纏った将軍や女官が侍立し、城の主を見つめる。

 赤絨毯が敷かれ、玉座へと続く……

 

 皇帝はいぶし銀の鎧に身を固め、頬杖をついていた。吹き上げる火炎と同じ青き肌を持ち、緋色の瞳を宿す壮年の男。肉体はわずかに老いて、白髪は肩まで伸びている。

 

「皇帝陛下。太陽因子を観測しました……異世界日本と方舟の共鳴波です」

 白髭を伸ばした宰相が、うやうやしく皇帝に告げた。

 ……皇帝は身を起こす。

「我らは日本、方舟から太陽因子を奪う!」

 皇帝の右手が宙をわしづかみにし、手のひらに青き炎が灯る。

「侵攻は任せたぞ、ベノム将軍、ガリウス将軍」

 皇帝に見下ろされたふたり。

 御意、と返事し、こうべを垂れる……

 

 

 雷が宮殿を直撃し、ステンドグラスが光った!

 

 

 

 




 第一章「始動篇」


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第二章「恐慌篇」 第3話『魔界軍侵攻!ジークフリード発進せよ』

「新日本神話2045愛の戦士たち」
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 青空に紅蓮の紋が現れ、リングが回転する。その数は二十を越え……なおも増え続ける。

 輪の中心の暗闇から、何かが飛び出す──

 

 赤いラインの入った黒い鱗に、緑色の目、針のような瞳孔。

 口を開き、牙を見せるその異形。

 咆哮が大気を揺らす。

 ──飛竜だ!

 飛竜は炎を吐き、観客が悲鳴を上げて逃げ惑う。

 灼熱の火炎がコンクリートの路面を炙り、飛竜は雄叫びを上げた。

 

 アレクシスが避難誘導を始める。パイロットとして交戦することも考えたが、今は避難が優先と判断した。

 彼と方舟軍人、自衛官らの誘導で、観客が港湾部から離れ走り出す。

 

 ……逃げ惑う観衆の中、遥は取り残されていた。

 恐怖でへたりこみ、一歩も動けないようだ。

 飛竜がじりじりと迫る……!

 その姿を見つけたアレクシスは叫ぶ。

「遥さん!」

 彼女のもとへ走る。

 遥を、右手で肩回り、左手で足を抱え、いわゆるお姫様抱っこの形になる。

 

 アレクシスは駐機していた戦闘機、ジークフリードのもとへ走り出した。

 

 遥を抱えながらコックピットに飛び込む!

 柔らかい彼女の身体……遥はぎゅうっとアレクシスの服をつまみ震えている。

 その感触が伝わりアレクシスの頬が染まる。

 だが邪念を振り払い、機を起動させる。

 次々にスイッチを切り替え、待機状態とする。

 キャノピーが閉まる。

【 STANDBY 】

「──アレクシスだ。ロック解除せよ」

【 LADY 】

 操縦捍を握り、スロットルを若干押し込み、アイドリング状態にする。

 続いて、呪文を短く唱える。

 機体下方に青色の魔方陣が回転し、機体がふわりと浮遊する。

 これが、魔法とテクノロジーが融合した日方共同開発戦闘機『ジークフリード』の力だ。

 

 機体が数十メートルの高度に浮かび上がる……

 それに気づいた飛竜が襲いかかる──が、機体を旋回させ、主翼付け根の二〇ミリ機関砲が発砲! 

 飛竜は血飛沫と肉塊に変えられ、地に堕ちた……

 

 アレクシスが航空総隊司令部に回線を繋ぐ。

「司令部! こちらジークフリード2」

『無事だったか!』

 航空総隊司令官早蕨空将が歓喜の声を上げた。

「現在内閣官房参与、東城遥氏を保護し、発進しました!」

 通信越しに司令部がどよめくのが聞こえた。

『よく保護してくれた。……航空総隊司令部よりジークフリード2へ。交戦は避け、東城氏を乗せただちに離脱せよ! ……緊急避難として護衛艦『いぶき』に向かえ!』

 ……護衛艦いぶきは事実上の空母である……

「了解!」

 

 バーニアが青い火を噴き、ジークフリードは天空を駆ける──

 

「……もう大丈夫ですよ、遥さん」

 震えていた彼女が顔をあげる……

 アレクシスの青い瞳、金色の髪を見つめ紅潮する彼女の頬……

「た、助けてくれてあ、ありがとう……ございます。……パイロットさんだったんですね」

「詳しくは機密で言えないけど、そんな感じかな」

「えっと……あの──」

「……アレクシス、と呼んでください」

「よろしくね、アレクシス君」

 頬を赤らめつつ遥は言った。

 

     *    *

 

 ……東京湾、洋上に展開する大艦隊。

 

 黒煙が吐き出され、空を汚す。

 艦体には、飛竜と同じく漆黒に真紅の紋が刻まれている……

 ──魔界の軍船だ。

 魔界軍では「竜母」と呼ばれるものだった。全長は一〇〇メートル近くあろうか。平たい甲板には飛竜が並び、いつでも飛べるよう待機していた。

 いぶし銀の甲冑に身を固めた軍官、戦士らが報告を上げる。

「飛竜が一番槍をつけた!」

「緑の狼煙を上げろ!」

 戦士の報告を受け、前衛艦隊を率いる軍団長たる将軍、ガリウスが命じる。

 

 成功を示す緑色の狼煙が上がる。

 

 沖合に陣取る主力艦隊がこれを確認した。

「前衛艦隊から緑の狼煙を確認! 飛竜、敵陣に突入しました!」

 副官が拳を胸に当て報告した。

「ハハハハハハ!」

 のけぞりながら笑う大男──将軍ベノム。

 妖艶な魅力ただよう女官に囲まれ、彼女らに酒を注がせながら骨付き肉を喰らう。

 杯の酒を飲み干し、ベノムは叫ぶ。

「太陽因子を宿す者をひとり残らずかっさらえ! 邪魔する者は叩き潰せ!」

「「ウラアアア! ウラアアア!」」

 戦士たちは拳を天に突き上げ、野蛮な叫び声を上げた。

 

 

 ……飛竜の襲撃を受け、護衛艦やまとは観客の一部を乗せたまま緊急出港した。

 

 CIC──戦闘指揮所では、接近する飛竜を捉えていた。

「接近する飛竜二十騎、以後目標群アルファと呼称。続いて接近する十五騎、以後目標群ブラボーと呼称」

 船務士(オペレーター)が報告を上げる。

「補給長、観客の様子は」

 ヘッドセットのマイク部分を押さえながら、洋祐が補給科を統括する補給長にたずねた。

『……指示通り食堂に収容しましたが、皆、怯えています』

「わかった……」

 洋祐は無線マイクを取る──

 

「──『オペレーション・イェーガー』用意!」

 

「何!?」「あれか!」

 乗員が色めきたつ。

「CDを流せ」

 船務士が顎を引いて了承し、トレイにCDをはめ、スイッチを入れる……

 

 音楽だった。

 悲壮感の中にも強さを感じる女声と男声のコーラスが繰り返され、打楽器が脈打つ鼓動を刻む。

 コーラスが極みに達し、ドイツ語で歌手が叫ぶ!

 ……三〇年程前に流行った、人類の反撃を歌うアニメーションの、日本語とドイツ語が織り混ぜられた主題歌であった。

 

「食堂に映像と音楽繋げ」

「了解」

 船務士がスイッチを切り替えると同時に、食堂にその音楽が鳴り響き、飛竜の映像が映し出された。

 おお、と観客がどよめく。

 タイミングを見計らい、洋祐のアナウンスが入る。

『民間人の皆様。どうぞご安心ください。我々は狩人です。必ず飛竜を駆逐し、皆様を守り抜いてみせます』

 観客らは握りこぶしをつくり、声援を送る者までいた。

「よし」

 洋祐が不敵にも口角を上げてみせる。

 ……ユーモアを理解せぬ者には海軍士官は務まらぬとの言葉は有名だ。

「対空戦闘部署を発動します」

 攻撃指揮官たる砲雷長が進言し、洋祐が頷く。

 

『──対空戦闘用意!』

 

 艦内にブザーが響き、救命胴衣を着けた乗員が通路を駆け、配置に着く。

 民間人までも一体となり、隊員の士気は高まっていた。もはや気分は狩人だ。

 

「目標群アルファのうち、五騎が接近!」

「この目標は本艦への攻撃を意図しているものと思われる。攻撃に備える」

 まだ撃たない……洋祐はある瞬間を待っていた。

『艦橋より報告! 飛竜が火炎を吹いた!』

 洋祐の眼が鋭く光り、素早く艦内マイクを取る──

 

「──総員に達する! 本艦護衛艦やまとは、民間人を保護し緊急出港のところ、飛竜より攻撃を受ける。以後目標飛竜を「敵」と呼称、加えてこれらを発艦させた洋上に展開中の艦隊も敵と断定する。国民を守るため、本艦は正当防衛行動を開始する!」

 

 マイクを置き、洋祐が艦長席につく。

「砲雷長、遠慮はいらん。やってくれ」

「了解!」

 洋祐の指示を受け、砲雷長がディスプレイに向き直る。

「対空戦闘、近づく飛竜! CIWS攻撃始め!」

「CIWS撃ち方始め──」

 

 CIWS──艦体各所に設置されているガトリング砲ユニットのうち、前方のふたつが起動し、接近した飛竜に照準する。追尾、照準、発砲の一連のプロセスを独立してやってのける高性能二〇ミリ機関砲だ。

 

『──発砲!』

 

 機関砲弾で飛竜が木っ端微塵に粉砕される。海に落下し、辺りには血飛沫の霧が残るだけだ。

 その光景に怖じ気づいた飛竜が、やまとから逃げようとする。

 

「逃がすな! 副砲攻撃始め!」

 砲雷長が鋭く命じる。

「第一副砲は目標群アルファを狙え! 第二副砲は目標群ブラボーに照準」

「副砲撃ち方始め──」

 

 百二十七ミリ速射砲が起き上がり、素早い動きで旋回し、目標に照準する。

 ──発砲!

 逃げ惑う数十騎の飛竜に次々と砲弾が命中し、海に落とされる……

 

「対空目標排除。近づく目標なし」

「よくやった。……船務士! 沖合いの艦隊に注意しろ」

「了解……!」

 

 東京湾に侵入する艦隊の影を、護衛艦やまとのレーダーが捉えていた………

 

 

 

 



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第4話『蛮族突進!将軍ガリウスの迷い』

【 NKHニュース速報:武力攻撃事態発生 】

【 東京湾への攻撃は異世界・魔界によるものと断定 官房長官会見より 】

 

 甲高い通知音と共に白字のテロップが表示される。

 数えきれないほど多くの人々が行き交う渋谷のランドマーク、その巨大テレビモニターにNKH──日本公共放送の速報が投影されたのだった。

 老若男女が画面を見上げ、我を忘れ見いる者、隣人と話し合う者もいた。

 

『──政府筋によりますと、大泉総理大臣は方舟ローデウス宰相と日方首脳電話会談。魔界軍からの武力攻撃事態に対し、日方共同での対処を行うことを確認した模様です──』

『──先程、総理大臣、官房長官、外務大臣、防衛大臣、そして異世界担当大臣が参加しての、NSC──国家安全保障会議、緊急事態大臣会合が開かれました──』

『──これを踏まえ、大泉内閣総理大臣は、武力攻撃事態対処法に基づき、武力攻撃事態を宣言。政府は首相を本部長とする対策本部を設置しました。官邸地下にある内閣情報集約センター……いわゆる内閣危機管理センターで事態対処にあたると思われます──』

 

 ……ニュース速報は相模湾を航行中の空母いぶきにも届いていた。

 幹部自衛官が会合、事務、食事などを行うための士官室。そのテレビに映し出される。

 

 画面を見つめるふたりの若人の姿があった。

 

「武力攻撃事態か」

「攻めてくるってことだよね?」

 つなぎの飛行服姿のアレクシス。デジタル模様の迷彩服を着た遥の姿があった……艦内の予備のものを借りたようだ。

『──今入った情報です。現在、護衛艦やまとが魔界軍を阻止すべく戦闘に入ったとのことです──』

「お父さん……」

 キャスターが告げた情報に、遥が目を見開く。手を膝の上で握りしめた。

「遥さんのお父さん? やまとにいるのかい?」

「そう。艦長なの」

 

 不安そうな遥の肩を、アレクシスがさすった。

 

     *    *

 

 東京湾海上──魔界艦隊。

 

 旗艦の甲板上は喧騒に満ちていた。 

「飛竜がやられただと!?」

「三十五騎、全てか!?」

 軍官、戦士らがざわめき、言葉を交わす。

 ベノムが眉間に青筋を立て、拳を強く握りしめる。

「これはどういうことだっ!!?」

 怒鳴り散らし、卓上の肉料理を剣でなぎ払う。

 甲高い音を立てて食器が割れ、料理が飛び散る。

 ……剣を握ったまま荒々しく呼吸するベノム。

 

 このようなはずではなかった。

 ベノムは功を焦るあまり、あろうことか皇帝に直談判して、自分に侵攻の勅令がくだるよう図ったのだ。

 だがこの惨状。出撃した飛竜は全て殲滅された。太陽因子を持つ者も散り散りに逃げ、追跡が困難だ。

 

 このまま本国に帰れば死が待っている。

 

 ベノムは眉間に汗を垂らす。

 剣を握った手に力を込め、叫ぶ。

「……あやつめ許さん!」

 足元に真紅の魔方陣が回転し、吹き上がる青い炎と共にベノムは姿を消した。

 

 

 ……魔方陣が回転し、炎と共にベノムが現れた。

 そこは前衛艦隊。ガリウスが指揮する竜母、その甲板上だ。

 手にはバスターソードが握られていた。

「ベノム将軍!?」

「ガリウス! 何をしているのだ!? 飛竜をむざむざと死なせおって!」

 唾を撒き散らしながら怒鳴り散らすベノム。

「申し訳ありません。ベノム将軍」

 ガリウスが頭を下げる。

「……ベノム将軍、これはひとえに私の──」

 割って入る者がいた。周囲の戦士たちとは少し違い、知的な風貌だ。

「何だ貴様」

「飛竜の、調教師であります……」

「ほう……貴様のせいで我が軍は惨敗だ! どう償うというのだ?」

「お、お許しを……!」

「よかろう──」

 

 調教師が安堵した、次の瞬間──

 バスターソードで調教師が斬られた!

 真紅の鮮血が胸、腹にかけて斬られた裂傷から噴き出し、甲板にも血飛沫が飛び散る。

 どす黒い血を吐き、調教師は倒れた。

 

「なっ……!!?」

「使えぬゴミめ」

 ベノムが吐き捨てたその台詞に戦慄するガリウス。

「ガリウス! これより俺が指揮を執る! 貴様は引っ込んでおれ」

 足元で魔方陣が回転し、ベノムは消えた。

 

 

 ベノムは再び主力艦隊旗艦、甲板上に姿を現す。

 いまだに生温かい血が滴るバスターソードを掲げ、彼は言い放つ。

「全軍進撃! 功名を上げよ──!」

「「ウラアアアアアア!」」

 

 狼煙が噴き上がり、波飛沫をたてながら魔界艦隊が一斉に突撃を開始した!

 

     *    *

 

 護衛艦やまとCIC──

 

「FCSレーダーで目標を捉えた。沖合の主力艦隊、一斉に進撃を開始!」

 レーダー画面を注視していた船務士が報告する。

「勢いに任せての中央突破……単細胞な指揮官のようだな」

 地味にどぎつい感想をもらす洋祐。

「砲雷長、対水上戦闘用意。敵に艦の横っ腹を向け、迎撃しろ」

「了解。対水上戦闘用意」

 

『──対水上戦闘用意!』

 

 艦内に号令とブザーが鳴る。

『艦橋、第三戦速──面舵(おもかじ)! 三〇度』

『第三戦速──面舵、三〇度ようそろ』

『第三戦速。面舵三〇』

 CICの砲雷長が、艦橋の航海長に命令。操舵手により操艦される。

 

 洋祐は「敵に横っ腹を向けろ」と指示した。

 日露戦争の日本海海戦。有名なT字戦法の再現だ。

 複数の砲を装備する戦艦は、最大の火力を叩き込むことができる方向が横向きだからだ。

 

「前衛艦隊を追い越す主力艦隊、以後これを目標群アルファと呼称。なおも接近、間もなく主砲射程に入る」

「射程に入り次第、主砲レールガンにて中型、小型艦を撃破。魔導砲は敵旗艦にとっておけ」

「了解!」

 洋祐が命じ、砲雷長が威勢よく応えた。

「敵艦隊、射程圏内に入った!」

「主砲攻撃始め! クラスター弾装填」

「撃ち方始め──!」

 砲雷長が命じた。

 

 円盤状の火器管制レーダーが目標を捉える。

 前甲板に二基、後甲板に一基が搭載された主砲が、旋回し、敵中型、小型艦艇を捕捉する……

 ──発砲!

 爆炎。 ──海原を轟かす発射音が鳴り、レールガンが発射された。

 

 重量一トンを越える砲弾が超音速で飛び、天空を駆ける……信管が作動し、砲弾から小型弾が弾ける。

 無数の散弾のシャワーだ。

 

 遠くから鳴り響く空気を突っ切る音を認め、軍官らが空を見上げる……

 次の瞬間、軍艦ごと散弾に貫かれ、彼らの命は絶えた。

 

「目標群アルファ、十二隻撃沈!」

「中央の旗艦、なおも接近!」

「旗艦を引きつけ、魔導砲を直撃させる!」

 洋祐が力強く宣言した。

「魔導砲発射用意!」

 異世界方舟出身のクルーが砲雷長の指示に了承し、呪文を唱える。

 

 主砲砲口に赤色の魔方陣が展開し、甲高い作動音を上げる──

 

 閃光が走り、赤の光条が閃いた!

 

 バリアを張っていた旗艦が光に包まれる。

 ベノムの目がくらむ。

「ぬああああああああ────」

 断末魔の叫びを上げ、着衣が発火。ベノムの肉体は蒸発し、存在をこの世から完全に抹消された。

 

     *    *

 

 ベノムに惨殺された調教師が甲板に横たわる。

 彼の目を瞑らせ、胸の上で手を組ませるガリウス……目を閉じ、冥福を祈る。

 

 ガリウスは起き上がる。

 軍官たちが彼を見つめる。皆、怒り、憤懣をこらえていた。

「生き残った軍船は?」

「われら前衛艦隊だけです。将軍」

「ただちに転移。現海域を離脱するぞ」

「……了解」

 

 軍官、戦士たちが帰還準備に走る中、ガリウスが周囲の幹部らに述懐する。

「いつからこのようになってしまったのだ。われら魔界は……」

 幹部らは黙って聞いていた。頷く者もいた。

 

 斬られ命を落とした調教師を見つめ、ガリウスは思う。

 このような、有能で前途ある若者たちの命が奪われる、今の魔界の体制が疑問だった。

 

「──本当に、どうなってしまったのだ……!?」

 

 ガリウスは慟哭した。

 

 

 

 

 



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第5話『魔族の脅威・元内閣総理大臣荒垣健』

 東京、首相官邸──

 

 官邸地下、内閣情報集約センターには大泉内閣総理大臣ら主要閣僚、異世界担当大臣の美咲が揃い、方舟政府関係者の到着を待っていた。

 いずれも武力攻撃事態対策本部の中枢をなすメンバーである。今回の会合も、魔界軍襲撃に対し、方舟当局と連携して対処するためのものだ。

 

 床から青色の魔方陣が発現し回りながら、人物が召喚される。

 

 ふわふわとした獣耳の生えた少年。蝶ネクタイをつけ、品のよいジャケットを羽織っていた。

 方舟諜報尚書、イナバだ。

 諜報尚書は閣僚に相当する役職で、王立図書館の管理やあらゆる情報収集を担う。

 

「間もなく女王陛下、宰相がお見えになります」

「わかりました」

 大泉が返事をし、皆が立ち上がり方舟からの訪問者を待つ。

 直後、同様に魔方陣が回り、ふたつの人影が出現する……

 

 ひとりは若い女だ。

 笹のような長い耳。長い金髪にエメラルドグリーンの瞳を宿し、赤色の軍服を身につけている。黒のマントが揺れる……

 武闘派で知られる方舟女王、ミュラだ。

 

 彼女は、異世界が日本国に転移した際カグツチとの戦いで、親友である先王アリスを失った。アリスの生まれ変わりである人間界の少女アリサに特別な感情を抱いていたが、戦いを経て、その思いを絶ち切り今を生きる決意をした女王だ。以来、積極的に執務に励んでいる。

 

 もうひとりは老人。

 紺色の軍服に黒のローブを纏う、白髭を生やす男。

 方舟宰相、ローデウスである。

 海軍高官、侍従長を歴任。王族のバシスからの信頼も厚い老練な政治家だ。

 

 異世界方舟が日本国に転移して二十余年経つが、こうして方舟関係者の容姿を見ると全く加齢を感じさせない。

 ひとえに異世界の魔力ゆえか。

 

「ようこそお越しくださいました。こちらへ」

 大泉が異世界首脳に対し、平手で上座を勧める。

 日本国・方舟両国首脳が対面するように着席した。

「……魔族について説明していただけるとのことでしたが」

 大泉が切り出す。

「こちらを」

 イナバが言うと、彼の机上に光の粒子が現れ、一冊の書物が造成される。

 秘書官がノートパソコンを開きメモを取り始めた。

 

 

 ……魔界は、太古から方舟と緊張状態にあった。

 

 魔王が支配する世界。だが弱肉強食の世界であり、度々王位簒奪、反乱、政変が繰り返されてきた。

 異なる文明を侵略、併合し、自らの版図を広げてきたのだ。

 

 魔界軍に侵略されたとある文明の精霊は、魔族の脅威を憂い、精霊魔法の楽園『箱庭』を創造した。まさに今の方舟王族の先祖にあたる精霊王である。

 精霊王は魔界軍に攻めこまれたあまたの文明の民を救い、箱庭にかくまった。

 

 後、幾度か魔界軍の侵攻にあったものの、退けることに成功してきた……

 

 

 ……イナバが語る方舟の創世記に、日本国政府一同は圧倒されながらも、秘書官が一通り記録を終える。

 

「しかし、今回の魔族は違う。大幅に戦力を増大させている」

 軍務卿を兼ねるローデウスが髭を撫でながら言う。

「敵は我々の文明、すなわち太陽因子を狙うものと思われます」

 書物を閉じ、イナバが告げた。

 ミュラが頷き、口を開く──

 

「日本国と方舟、双方が力を合わせなければ、この危機を乗り越えられないわ」

 

 腕を組み、大泉は彼らの話を聞いていた。

「場合によっては国連安保理の議題になるやもしれません。……やはり、あの人に復帰してもらうしかないようですね」

 日本国政府関係者、方舟当局関係者が一斉に大泉を見やる。

 

「──私は、内閣改造を行います」

 

     *    *

 

「お父さん。お母さん。会ってほしい人がいるの」

 

 東城家のリビングで遥が切り出した。

「「!?」」

 その台詞に、目玉をむいて驚く洋祐と美咲。同時に洋祐がブッと緑茶を吹く。

「ちょっと洋祐……」

「すまん美咲……で、どんな人なんだ」

 妻に詫びつつ、洋祐は布巾でテーブルを拭きながら問いかける。

「……方舟の魔導士で、戦闘機のパイロットやってる『アレクシス』って人」

 頬を赤らめ、もじもじと足を動かしながら遥が答える。

「!!? ……もしかしてその戦闘機、『ジークフリード』って言ったりしないか?」

 洋祐が遥に迫る。

「近い。……まあ、そうだけど。知ってるの?」

「北朝鮮を偵察して、弾道ミサイル発射情報をリークした精鋭。まさにトップガンだ」

 洋祐が解説する。

「そんな男性を射止めるなんて。やるわね」

 美咲が笑う。

「射止めるって言うか……観艦式で助けられたの」

「えっ……あの時のパイロットが!?」

 

 先程から東城家は驚きの連続だ。

 

「……お父さんとお母さんはどうだったの?」

 遥はこの機に聞いてみることとした。

 美咲がこの質問に答えた。

「プロポーズはね──」

 

 次の瞬間──

 大音量の奇声が上がった。

 同時に顔を真っ赤にした洋祐が美咲の口をふさいだ。

 

「────!!!」

「お父さん?」

「忘れろ遥。いいな?」

「まだ何も聞いてないんだけど……」

 

     *    *

 

 東京、赤坂──

 

 赤紫、若草色の格調高い草花が茂り、鹿おどしを囲む。鹿おどしに清水が注がれ──高い音を立てて鳴った。

 

 ここは赤坂の高級料亭である。

 

 広々とした室内、壁面には深い色の木製の格子がはめこまれている。和紙に包まれた箱形の照明が、人影を照らしていた。

 その人物は座椅子に座り、大木から切り出した卓の上で手を組んでいた。白髪と刻まれた皺から年は七十代半ばとわかる。それでも引き締まり端正な顔だ。

 

 向こうから足音が近づいてくる……

 

 ふすまが開き、入ってきたのは大泉進太郎内閣総理大臣であった。東城美咲内閣府特命担当大臣兼特事対本部長が続く。

 部屋で待っていたその人物は顔を上げた。

 

「こんばんは。荒垣先生」

 

 ──そう。元内閣総理大臣、荒垣健(あらがきたける)である。

 

 ……二〇一一年に発生した東京湾巨大生物上陸災害にて、当時の民衆党政権が逃亡。国民が絶望する中、救世主として現れたのが荒垣だった。

 内閣総理大臣臨時代理に指名、後に第九十五代内閣総理大臣に正式に任命され、巨大生物迎撃作戦【ヤマタノオロチ討伐作戦】を発動。見事巨大生物を撃退。

 戦後処理を終えたのちは、潔く首相の座を退いた。

 その姿は、第二次世界大戦の戦後処理に尽力した鈴木貫太郎内閣のようだった。

 現在は日本改新党最高顧問として名前を貸すのみで、政界を引退……

 

 ──そのはずだったが。

 

 女将が料理を運んでくると、大泉は「あとは適当にやる」と言った。要するに人払いだ。

 荒垣の杯に日本酒を注ぐ大泉。

 それを飲み、荒垣が切り出す。

「こんな隠居老人を呼び出すとは、どういうつもりですかな? 大泉先生」

 荒垣は不敵にも笑ってみせる。

 彼は美咲に向き直る……

「美咲さん、洋祐君は元気にやっていますか?」

「魔界の軍と交戦した時はヒヤリとしましたが……無事に帰ってきて、ほっとしています」

 大泉は微笑んでいたが、やがて料理をついていた箸を止める。

 その姿を見て、荒垣と美咲が姿勢を正す。

 

「荒垣先生には、副総理兼外務大臣として入閣していただきたい」

 

 荒垣は頬杖をつき、考え込んでいたが、やがて口を開く──

「私のような老人にはこたえますな」

 大泉の表情が曇り、うつむく。だが──

「──それでも、今は国を揺るがす一大事。慎んで引き受けましょう」

 大泉が顔を上げる。

「ありがとうございます……!」

 

 

 ……時に、西暦二〇四五年十月。

 国際連合安全保障理事会の審議と、内閣改造の時が迫っていた──

 

 

 

 

 

 




 第二章「恐慌篇」


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第三章「回生篇」 第6話『新内閣発足・国際連合安全保障理事会』

「新日本神話2045愛の戦士たち」
 製作委員会Presents


 西暦二〇四五年、十一月三日──

 

 この日、大泉第一次改造内閣が発足した。

 

 直前に皇居での天皇による認証式を経たため、閣僚全員が正装のモーニングやドレスに身を固める。

 彼らは首相官邸大広間の赤絨毯が敷かれた階段に集合し、マスコミの撮影に応じていた。

 

 NKHニュースがこれを報じる。

 女性キャスターが話す。

『──大泉首相は本日、内閣改造を断行しました。目玉人事として副総理兼外務大臣に荒垣元首相が入閣。官房長官、財務大臣、防衛大臣、ほか東城異世界担当大臣兼特事対本部長ら主要閣僚は留任となります。……政治部の佐藤デスクに伺います。今回の閣僚人事の狙いは何でしょうか?』

 佐藤が答える。

『やはり先月の魔界軍の侵攻が関係しています。この未曾有の危機に対処するため、二〇一一年の東京湾巨大生物上陸災害で首相臨時代理を、二〇二二年のカグツチとの戦いで防衛大臣兼特事対本部長を務めた荒垣氏を副総理に抜擢。同時に外務大臣を兼任させたのがポイントです』

 アシスタントディレクターから新たな原稿が渡され、キャスターが読み上げる。

『間もなく、大泉内閣総理大臣による記者会見が開かれる模様です。──中継です』

 

【 中継:首相官邸 】

【 大泉首相記者会見 】

 

 舞台袖の席に座っていた内閣官房長官、政務担当の官房副長官ふたりと事務担当の官房副長官ひとりが立ち上がり、首相を迎える。

 SPも舞台袖に待機。

 記者らがノートパソコンを叩く音がうるさく響く。

 

 大泉が壇上に上がり、国旗に一礼。進行係を見る。

 

『ただいまより、大泉内閣総理大臣の記者会見を始めます。それでは総理、お願いいたします』

 

 大泉が口を開く──

『──先月、東京湾に侵攻した軍により、被害に遭われた皆様にお見舞いを申し上げます。……この攻撃は、政府、特事対、そして方舟当局の調査により、魔界軍の侵攻のものであると結論が出されました。これに対し、国連安保理の緊急会合をアメリカ合衆国に要請。現状の戦力では、護衛艦やまとに装備されている火炎系魔法の魔導砲が有効だと判明しています。これを踏まえ、現在方舟当局と共に、魔界軍に対抗できる防衛戦力を開発中です』

 

 原稿をめくり、大泉は続ける──

 

『この危機に、私は内閣改造を決断しました。もちろん、事態の最中に行うことに批判があったのは承知の上です。荒垣健元首相には、副総理兼外務大臣として急変する国際情勢に対処していただきます。東城美咲異世界担当大臣兼特事対本部長には荒垣大臣と協力して、方舟当局との連携を加速してもらいたいと考えています──』

 

     *    *

 

 アメリカ合衆国──ニューヨーク、国際連合本部。

 

 日本国の魔族襲撃を受け、国連安保理緊急会合が開かれている。

 アメリカ合衆国、グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国、フランス第五共和国、ロシア連邦共和国、中華人民共和国の五つの常任理事国。それに日本国をはじめとする非常任理事国……その中には方舟もあった。

 それらの国々の外相が巨大な円卓を囲み、会合に臨んでいた。方舟から参加するのは大公バシスである。

 

 議長国である日本国、その副総理兼外務大臣の荒垣が弁を振るう。

「……以上が、魔界軍による日本侵攻の顛末(てんまつ)です。日本国、方舟のみならず各国が一致して対処しなければなりません」

 荒垣の発言が終わると、米国国務長官が挙手する。

「荒垣大臣、バシス大公。わが合衆国は協力を惜しまないつもりだ。すでに原子力空母『ロナルド・J・ジョーカー』はじめ第七艦隊、B52戦略爆撃機を待機状態にさせている」

 

 ロナルド・J・ジョーカーとは、二〇二二年のカグツチとの戦いにおいて、アメリカ合衆国大統領の座に君臨していた政治家の名前である。

 歴代大統領の名を冠した原子力空母のように、米軍の軍艦には人名がつけられることが多い。

 

 イギリス、フランスも支援の意思を示した。

 特筆すべきは中国とロシアだった。いつもは拒否権を行使するものだが、今回は違った。

 カグツチとの戦いでは、人民解放軍の一部勢力はカグツチに掌握された。そのリベンジを図るようだ。

 

 全世界の戦力が結集。

 第二次世界大戦から一〇〇年を経て、全世界がひとつにまとまろうとしている。

 

 荒垣は結論に入る。

「──それでは、国連多国籍軍の組織に賛成する国は挙手を」

 

 常任理事国、非常任理事国の全員の手が上がった。

 

 ……ここに、魔界軍の脅威に対し、全世界が一致して対処することが決定された。

 

     *    *

 

 太平洋海上──

 

 空母いぶきその巨体、その甲板上にはジークフリード隊の戦闘機が搭載されている。

 魔界軍、飛竜が襲撃して以来、機動運用ができるよう、かがに搭載されているいるのだ。

 

「アレクシス三等空尉」

 コックピットに収まるアレクシスが、コントロールパネルを操作していると、艦長迫水(さこみず)に呼ばれる。

 便宜上、魔導士にも自衛隊式の階級が与えられている。

 はしごを降りるアレクシス。

 

 整備員たちが台車を引いてジークフリードに横付けする。その荷台には長さ一メートルを超えるミサイルのような物体が載せられていた。

 黒地に紅蓮の紋様が刻まれたミサイルだ。

 

「ついに来ましたか! 魔導弾」

 アレクシスが目を輝かせる。

「はい、方舟魔導士によれば、自衛隊の対艦誘導弾を改造、火系の魔法に対応させたものです」

「ありがとうございます」

「現状、これを装備するのは護衛艦やまととジークフリード隊ですからね……頼みますよ三尉」

「はっ!」

 アレクシスは敬礼した。

 

 

 ……作業が終わり、ジークフリード隊隊長より自由時間を告げられ、アレクシスは甲板を散策する。

 

 と、着信音が鳴る。

 

 彼は懐のスマートフォンを取り出す。

【 発信者:東城遥 】

 冷や汗が彼の額に流れる。なぜなら──

「──遥さん。どうだった?」

「やったよ!会ってくれるって」

「…………!!!」

 拳を握りしめ、ガッツポーズをするアレクシス。

 

 遥との交際について東城家に挨拶をすべく、遥に頼んでいたのだ。

 

「……クリスマスに来て、だって」

「わかった!伺うよ」

 アレクシスは嬉々として通話を切った。

 

     *    *

 

 弾道ミサイルの乗る発射台を搭載したトレーラーが、土煙を上げながら山間部を走行する。

 やがて開けた場所に出ると、トレーラーは停車。

 寝かせてあった発射台が起き上がり、ミサイルが天を向く。

 

 その様子を、人民服を着込んだ太った初老の男が双眼鏡で見ている。

「最高司令官同志、全部隊配置完了しました!」

「よし」

 

 彼こそ、北朝鮮の、国家、軍、党の要職を独占する最高指導者──金序運(キムジョウン)委員長だ。

 

 金は指揮棒を振り上げ、激を飛ばす。

「日本と異世界人、そして米帝に恩を着せてやるのだ!」

 

 その宣言に、皆の士気が最高潮となる。

 

「さすが偉大なる金序運同志! われらが朝鮮人民軍を領導される百戦百勝の守護神金序運同志の卓越した戦術により誇りある朝鮮民主主義人民共和国の威光は世界に輝くことでしょう」

 参謀が金を讃える。

「特別作戦の布告に接してみると、胸がすっとする。魔界軍を五〇〇〇万光年彼方に葬り去り、必ずや最高司令官同志に勝利を献上する!」

 将官が胸を撫で下ろす。

「人間の皮をかぶった悪魔には銃弾ももったいない、切り捨てる! いったん戦闘が開始されれば、私ひとりでもいくらでも魔族どもを水葬に付すことができる!」

 下戦士が拳を握りしめ、決意を示す。

「われわれが住む地球に土足で踏み込んだ魔族の所業は、人類の言語を全て集めても糾弾することのできない最大の悪行だ! われらが金序運同志が領導する朝鮮人民軍の、古今類を見ない圧倒的かつ無慈悲な攻撃火力で、魔族傀儡一味を粉砕するであろう!」

 軍官が高らかに謳う。

 

 皆が自動小銃を掲げ、叫ぶ。

「「攻撃(コンギョ)!」」「「攻撃(コンギョ)!」」「「攻撃(コンギョ)!」」

 

 ……金序運の高笑いが、夕陽の照らす野山に響き渡った。

 

 

 

 



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第7話『紡がれる愛』

 東京、首相官邸──

 

 官邸閣議室において、今年最後となる閣議が終了、閣僚懇談会が開かれていた。

 

「日本近海には、米海軍第七艦隊、航空母艦『ロナルド・J・ジョーカー』含む艦隊が布陣しています」

 荒垣副総理兼外務大臣が告げる。

 

 会も佳境となり、大泉内閣総理大臣が総括する。

「──防衛省自衛隊では対抗手段の開発が進みつつありますね。年末ですが、関係各所魔族襲来の備えを怠らぬように。本日はこれにて散会とします」

 閣僚らが頭を下げ、席を立つ。

 

 皆が退室する……

 

 美咲が閣議室から出る様子を見届けた荒垣は、スマートフォンの画面を見、メールを打っていた。

【 To 峯坂優衣 】

【 本文:年末年始は休み取れそうだ。クリスマスに食事にでも行こう 】

 

 送信し、返信を待つ荒垣……

 

【 From 峯坂優衣 】

【 わかったです(*´ω`*) 】

 

 妻、峯坂優衣(みねさかゆい)とのメールだった。

 

 峯坂は国土交通省OGで大手ゼネコン役員の立場であるので、籍は入れず事実婚の関係にある。

 二〇一一年の巨大生物上陸災害で彼らは知り合った。優衣はスキャンダルとならぬように寿退職した。

 

 荒垣はいとおしそうに画面を見、笑みを浮かべた。

 

     *    *

 

 濃紺の夜空のもと、店舗や家には赤、青、黄、緑、白とカラフルなイルミネーションが灯り、クリスマスソングが流れる。

 

 アレクシスと遥が手を繋ぎ、歩いていた。 

 首元にマフラーを巻いた遥は、頬を紅潮させながら宵闇に白い息を吐く。

 ぎゅうっ、と緊張からか繋いだ手に少し力がこもる。

 

「ここだよ」

 

 直方体を組み合わせたような形状の、白く洗練された家だった。

 これこそ東城家の邸宅である。

 

 落ち着いた木目調ながらも、どこか明るい雰囲気の玄関がアレクシスを出迎える。

 洋祐と美咲が玄関に立ち、ふたりを迎えた。

「ようこそ」

「はじめまして。お義父さん。お義母さん」

 洋祐と美咲は和やかな笑みでアレクシスに応じた。

「上がって、どうぞ」

 遥に促され、靴を脱ぐアレクシス……

 

 洋祐の先導で、廊下を奥へと進むアレクシスたち。

 

 リビングのソファーには、老人が座っていた。

 刈り上げられた白髪……顔には深い皺が刻まれているものの、その身は引き締まり、かくしゃくとしている。年は七〇代半ばか。

 老人はアレクシスに握手を求める。

「話は孫娘から聞いてるよ。よろしくアレクシス君」

「はい。……あなたは?」

「失礼、東城宏一だ」

「……な……!!!」

 

 アレクシスは恐れおののいた。

 

 東城宏一(とうじょうこういち)

 護衛艦やまと初代艦長を務め、自衛艦隊司令官、そして海上幕僚長にまで登り詰めた男だ。

 そして、方舟派遣統合任務部隊指揮官として、方舟に放たれた弾道ミサイルを迎撃した男でもある。

 

 方舟当局に彼を知らぬ者はいないだろう。

 アレクシスもまた、そのひとりであった。

 方舟魔導士──いや、それ以外にも何かの因果で、アレクシスは宏一に畏敬の念を抱いた。

 

「……失礼しました、閣下」

 しゃっちょこばって敬礼するアレクシスに、宏一は微笑みながら見事な答礼を返した。

 

 と、美咲が鍋つかみをはめ、料理を運んでくる。

 

「できたわよ」

 

 シャンパンが泡を立て、最高の食卓が演出される。

 ハムとレタス、半熟卵のサンドイッチ。ニンジンとキュウリの彩りが目にも鮮やかなポテトサラダ。芳香ただようビーフシチュー。

 褐色に輝く鶏肉から湯気が昇る。

 幸せの形がそこにあった……

 

 

 皆手を合わせ、豪勢な料理を楽しむ。

 

 

「アレクシス君の親御さんにも挨拶しないとな」

 サラダを取り分けつつ洋祐が言うと、アレクシスが表情を曇らせる。

「あ……いえ、私の両親は……」

 

 二〇二二年のカグツチとの戦いで、アレクシスの親族は多くが命を落としていた……

 彼らは太陽因子を持つ精霊族だからだ。

 アレクシスがその因子を宿す精霊族の象徴、青の瞳に金色の睫毛をふせ、うつむく……

 

「……それは……すまない、そんなことを聞いて」

 洋祐がフォークを置き、詫びた。

「い、いえ! お義父さんお気になさらず! さ、食べましょう」

 

 

 ……食事を終え、くつろぐ一同。

 

 アレクシスと遥が美咲を手伝い、皿をキッチンへ片付ける。

 皿を受け渡しつつ、互いを見つめ頬を赤らめ微笑むふたり。シャンパンのアルコールが回ってきたのだろうか。

 それを見、美咲は口角を上げる。

「──あ、正月料理の買い出しに行かないと」

「えっ。こんな夜に??」

 美咲が思いついたようだが、どこかわざとらしい。 

 当然アレクシスは疑問に思うが、美咲は洋祐の背中をポンと叩き、彼に耳打ち。

 それを聞いた洋祐もにやりと笑い、リビングを出る。

 一連の様子を眺めていた宏一も納得した様子で膝を叩き、ニヤァと口を開け玄関に向かう。

 

「「「じゃあ、あとは若い人どうしで!」」」

 三人の声が重なり、彼らは玄関を後にした。

 

 顔をピンクにする遥と、呆然とするアレクシス。

 

 三人は気を利かせて、家を空けたようだ……

 

     *    *

 

 遥の部屋。

 布団に入り、パジャマ姿の遥を優しく抱き寄せるアレクシス。

 アレクシスの腕に頭を乗せ、遥は甘える。

 寝具の用意をしていないので、彼は下着のままだ。

 寒くないの、と問う彼女に、彼は大丈夫と応える。

「……さすが精霊族だね」

 笹穂のような彼の耳を撫でる遥。

 アレクシスはより一層強く、彼女を抱きしめる。

 

「──俺には、家族がいない」

 

 目を見張り、遥はアレクシスを見つめる。

 彼は続ける……

 

 アレクシスは、太陽因子を持つ先王アリスの一族だという。

 この事実に遥は驚く。

 彼はアリスの従兄弟にあたる。

 親族が皆、方舟の主要閣僚や高級官吏、軍官であったため、カグツチとの戦いでその多くを失った。

 

 アレクシスのストーリーを聞いた遥は、自分まで切なくなり、彼の肩に手を回し抱きしめる。

 アレクシスは微笑み、彼女の頭をポンポンと触った。

「でも、この日本で遥さんと出会えた」

「アレクシス君……」

 月の淡い光が、寝そべるふたりを照らす……

 

 

 ……宏一と別れ、洋祐と美咲は街を散策していた。

 イルミネーションが優しくふたりを照らす。

「なかなかの好青年じゃないか。さすが遥の選んだ男だ」

 洋祐がポケットに手を突っ込みながら話す。

「思い出すね。あの時のこと」

 美咲が応える。

「カグツチとの戦いでプロポーズか」

 洋祐が応え、夜空を見上げる──

「今回も、魔族との戦い、うまくいくといいが──」

 

 

 ベテルギウス。シリウス。プロキオン……

 各々が見上げる濃紺の夜空は、冬の第三角が妖しく輝いていた。

 

 

 

 



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第8話『将軍ガリウスの脱出!魔族侵略開始』

 松明の灯に禍々しく照らされた一室。紅蓮の輪、紋が床に刻まれている。

 要塞戦艦の一室。魔界を統べる絶対者の、権威と力の象徴だ。

「皇帝陛下、ご入来!」

 軍官が声を上げると魔方陣が回り、いぶし銀の鎧に身を固め黒のマントを纏った壮年の男──魔界の皇帝が姿を現す。

 

 彼の青き肌に松明の灯が映える……ゆったりと玉座に座っていた皇帝だったが、やがて身を起こす。

 

「ベノム将軍、ガリウス将軍の威力偵察で我々は日本の調査を終えた。第一目標は太陽因子を宿す天皇だ──我らはこのまま日本へと向か──」

「──皇帝陛下!!」

 

 宰相が慌てて皇帝に駆け寄る。

「何事だ?」

 途中で邪魔されたことに苛立った様子で皇帝は訊ねた。

 冷や汗をかき、宰相は魔界の作法である供手の礼で報告する。

 

「……ガリウス将軍が、反乱を起こしました……!」

 

 皇帝が目を見開き、側近たちがざわついた。

 

「規模は?」

「竜母が一隻です。ガリウスに賛同する戦士たちが多数乗り込んでおります」

 竜母とは、現代文明でいう航空母艦にあたる、強大な軍艦だ。

「ただちに追撃隊を差し向けよ」

「ははっ……!」

 

 宰相が退室するのを見届け、皇帝は頬杖をついた。

 

「(……やりおるわ……)」

 

     *    *

 

 ガリウスは竜母の舵を握り、弁を振るう。

「……ベノム将軍が指揮した日本侵攻で、今の魔界の圧政が明らかとなった。今、ここに集まったのは、魔界を変えたいと願う心ある同志だ──」

 ガリウスは、改めて皆の顔を見回す……皆、熱い志を宿す仲間だ。

 

「──我々は戦士から海賊に鞍替えする!」

「「おおおおお!!!」」

 

「旗を掲げろ!」

 

 海賊旗がマストに掲げられる……続いて、もうひとつ旗が上がる。

 青地に金色の紋様、刺繍が施された方舟の国旗だ。

 

「錨を上げろ!」

 

 ガリウスと彼に従う戦士たち。そして飛竜を乗せ、竜母が海原に出た。

 

 

 ……後部甲板で見張りの任についていた戦士が、双眼鏡を覗き込み報告を上げる。

「要塞戦艦より、追撃艦隊、発進しました」

「飛竜を発艦させろ! 各々配置につけ!」

 ガリウスが命じる。

「発艦!」

 飛竜が雄叫びを上げ、飛びたった。

 

 竜母から発艦させた飛竜が、追撃艦隊に襲いかかる。甲板に着地すると火炎を吐き、軍官らをなぎ払う。

 

 ──と、竜母右舷側に魔方陣が回る。

 追撃艦隊旗艦が現れた。

 大砲を動かし──砲撃!

 

 ガリウスたちが舵輪にしがみつき、衝撃に耐える。

「砲撃用意! 手空きの者は武器を持て!」

 

 旗艦が次々と砲火を噴き、竜母に着弾する。

 

 竜母に接触、甲板と甲板に板が渡される。──接舷攻撃だ。

 冷徹な眼差しで、黒のローブを被った兵団がガリウスたちに襲いかかる!

 バスターソードで剣の一撃を防ぐガリウス。皆、剣を振るい、兵団に立ち向かう。

 ガキン! と火花が飛び散り、競り合いとなる……敵兵の腹を蹴飛ばし、ガリウスは叫んだ!

 

「撃てっ──!!」

 

 ガリウスが右舷を見据え命じた。

 同時に、竜母の艦腹より砲火が閃く──!

 

 殴り合うように互いを撃つ追撃艦隊と竜母。

 装甲に破口が穿たれ、炎が舐め回す。

 

 ……満身創痍の竜母。

 あちこちで火が燻り、黒煙が噴き出す。

 

 多勢に無勢、ガリウスは敵兵に押さえつけられ、甲板に伏していた……

「人間は弱い。間違える……」

 彼の目がカッと開く!

 

「──それがどうした!? 俺たちは……奴隷じゃない!!!」

 

 壮烈な決意であった。

 声量と気迫に敵兵がおののく一瞬の隙をとらえ、ガリウスは自身を羽交い締めにする彼らを引き剥がし、海に投げ込んだ。

 

「俺は方舟で人間として生きる喜びを知った。これは俺たち人間の、尊厳を守るための戦いなんだ!!!」

 

     *    *

 

「魔界軍の中に離反艦が!!?」

 宰相ローデウスの報告に、ミュラとバシスが目を白黒させる。

「洋上に突如として艦隊が現れました。方舟の旗と、海賊旗を掲げています──」

「仲間割れか……」

 バシスが唸る。

「ガリウスだわ」

 ミュラは確信する。

「今の状況は?」

「現在魔界軍が追撃しています」

 

 ミュラが立ち上がった。

 

「どこへ行くんだ?」

「決まってるじゃない。ガリウスを助けるの」

 戸惑うバシスに、ミュラは答えた。

「正気か!? 敵の謀略かも知れないんだぞ」

「いいえ。私には分かる。ガリウスは今、生きようと戦っているのよ!」

 

 ミュラ、と呟きバシスは部屋を出る彼女を見届けた……

 

 

 海中から鉄鎖が引き抜かれる。

 魔導戦艦スマーケンが錨を上げた。

 

 方舟の王族座乗艦だ。

 鋼鉄の艦体は、グラマラスな曲線を描き、各所に黄金の装飾が施されている。

 

 甲板に青色の魔方陣が回転し、ミュラがマントをひるがえし出現する。

 

 彼女は甲板に仁王立ちになり、叫ぶ──

「もう誰も死なせない! アリスの二の舞にはさせない!」

 親友だった先王アリスに思いを馳せる。

 誰も失うまいとする、ミュラの固い決意だった。

「スマーケン、沖合の戦線へ!」

 

 

 ──巨大な青色の魔方陣が回り、神々しい光と共に沖合にスマーケンが出現する。

 

「目標は追撃艦隊! ガリウスの竜母には当てるな!」

 

 ミュラが命じると同時に、赤色の魔方陣が舳先に展開。──火炎を吹いた!

 全長数百メートルにおよぶ火炎が、追撃艦隊を炙り、焼き尽くす……

 

 火系の魔力を宿す魔導士による、火炎攻撃魔法だ。

 

「女王陛下……」

「ガリウス将軍、共に戦うわ。生きるために」

 

 ガリウスは供手し、一礼した。

 

     *    *

 

 海原に白波を立て、大艦隊が布陣する。

 

 星条旗を掲げた軍艦の群れ。

 イージス巡洋艦、駆逐艦や補給艦に囲まれ、原子力航空母艦が中央に構える。

 さらに海中には原子力潜水艦が睨みを効かせており、鉄壁の布陣だ。

 

『──こちら、アメリカ合衆国海軍第七艦隊、第七〇戦闘部隊。航空母艦『ロナルド・J・ジョーカー』。我が艦隊の目的は魔界軍警戒監視任務にある』

『現在、魔界反乱勢力ならびに方舟軍と、魔界追撃艦隊が交戦中。介入は控える』

 

 魔界軍の動向に警戒し、米海軍は当該海域に空母艦隊を差し向けたのだ。

 

『艦隊マルチ体形。『カーティス・ウィルバー』および『シャイロー』は前方へ展開。『ベンフォルド』、『ステザム』右翼に展開。『マッキャンベル』、『マスティン』は左翼に展開』

 

 巡洋艦が前方で空母の直衛にあたり、両翼で駆逐艦が展開する。

 

『出撃準備──』

 

 空母甲板で整備員が動き出し、偵察機の発進準備にかかる。

 搭載ミサイルの安全装置を解除する。

 ──ふと、整備員が海を見やった時だった。

 彼の持っていたスパナが甲高い音を鳴らし落ちる。

 

「なんだ、あれは…………!」

 

 異形だった。

 直径数キロメートルに渡る、禍々しい赤色の魔方陣がゆっくりと回転し、海が高波を立て吸い上げられる。

 暗雲が立ち込め、稲妻が光る!

 魔方陣の中心から黒い戦艦が出現した。

 全長は十キロメートルあろうか……

 幾多もの多面体で構成され、スリットからは紫と赤の光が灯る。

 

 海にそびえたつ要塞……これこそまさに、魔界の皇帝の強大な魔力の象徴たる要塞戦艦だ。

 

 その頂に皇帝はいた。

 海風にマントを揺らし、いぶし銀の鎧に風雨が叩きつける。

 

 

「思い知れ。我らの力を──!」

 

 

 ──閃光が要塞戦艦から光った!

 

 

 

 




 第三章「回生篇」


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第四章「鉄血篇」 第9話『国家非常事態宣言・囚われの遥』

「新日本神話2045愛の戦士たち」
 製作委員会presents


 東京──首相官邸。

 

 憔悴しきった様子の大泉内閣総理大臣はじめ閣僚たちが危機管理センターに詰める。 

 閣僚席の周囲には官僚が並び、関係各機関からひっきりなしに鳴り響く電話に応対していた。 

 

 受話器を片手に防衛大臣が叫ぶ。

「要塞戦艦、なおも進行中とのことです! 第七艦隊は壊滅しました!」

 報告を受け、一同がどよめく。

 大泉が立ち上がった。

 

「──現時刻をもって、国家非常事態宣言を発令!」

 

 大泉の宣言に、センターの空気が瞬速で変わる。

「国家非常事態宣言だ! Jアラート発令、関係各省庁、自治体に緊急連絡」

 内閣危機管理監が部下に命じる。

 同時に、国家安全保障局長が防衛大臣と協議を始めた。

 それを見届けた東城美咲内閣府特命担当大臣兼特事対本部長が、緊張した面持ちで大泉内閣総理大臣に向き直る。

 

「日本国政府および関係各省庁に通達します。内閣府設置法に基づき、内閣府特定事案対策統括本部の権限における特別措置【AAA】を発動。以後指揮権は我々特事対に移行します」

 

 異世界専門組織の特事対(とくじたい)の特別措置だ。その宣言に大泉が頷く。

「わかりました。よろしくお願いいたします」

 

  中央スクリーンには NKH──日本公共放送や民放のキャスターがヘルメットを被り、原稿を読む様子が映し出される。

 

 横からキャスターに原稿が手渡される。

『──速報です! 政府は国家非常事態宣言、そしてJアラートを発令しました!!』

 同時に甲高い音でテロップが表示される──

 

【 国家非常事態宣言発令 】

 

 続いて、画面が切り替わる。

 黒地に白字の警報画面だ。

 

【 国民保護に関する情報 】

【 武力攻撃事態。武力攻撃事態。魔界軍による大規模攻撃の可能性があります 】

【 対象地域:関東地方  】

 

   *    *

 

 飛び交う飛竜に街は阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。

 各所で煙が立ち昇る……

 警察の誘導で群衆が避難を始めている。高齢者の背を押し、幼子の手を引く親の姿もあった。

 

 

 遥か彼方の高空を飛竜の群れが羽ばたく──

 

 

 飛竜に騎乗し下界の様子を眺める魔界の皇帝。そして彼に付き従う臣下らが乗る飛竜の編隊飛行だ。 

 皇帝が将軍にたずねる。

「皇居には近づけるか?」

「いえ陛下。方舟の飛竜と、日本側が繰り出す"鋼鉄の飛竜"のせいで近寄れません」

 

 彼らの言う鋼鉄の飛竜とは、航空自衛隊が誇るF35戦闘機、そして陸上自衛隊の対戦車ヘリコプターである。

 航空自衛隊を主体とした統合任務部隊だ。早蕨(さわらび)航空総隊司令官が指揮官を務め、空自、陸自の航空戦力が統合運用される。

 その中には日方共同開発戦闘機ジークフリード隊、アレクシスの機もあった。

 

 部隊は蝶舞蜂刺の軽快な機動を繰り広げ、機関砲で飛竜を血飛沫と肉塊に変えていた。

 

 皇帝が唸る。

 将軍は続ける……

「天皇も鋼鉄の飛竜で北へ逃げたようです。都からは重臣らが西へ逃げました。天皇は強力な護衛を引き連れており接近は困難ですが、重臣の方は現在追撃、待ち伏せさせています。重臣を殺せば日本も無力になるかと」

「うむ……」

 

 ──と、皇帝が眉をぴくりと動かした。

 

「感じるぞ……」

「陛下?」

「今までにない太陽因子だ。地上を移動している。皆ついて来い!」

 

 

 道路にぎっしりと車が並び、クラクションを鳴らし合う。状況に我慢できなくなったのか、車を乗り捨てる者もいた。その行為がますます渋滞を引き起こす。

 

 黒塗りのセダン。その運転手がぼやく。

「……ここもグリッドロック状態ですね」

 グリッドロックとは、要所要所で車が止まり、通行が不可能となる状態だ。

 後部座席に座るのは遥だ。もどかしい様子で唇を噛みしめる……

 

 ──足音が響いた。

 

「何?」

 外を見ると、慌てふためいた群衆が一斉に前方に逃げ惑っていた。

 何から逃げているのか。

 遥の頭上を陰が覆った。

 

 翼長二〇メートルはあろうか……銀色の鱗に無数の牙を生やした飛竜だった。

 魔界の皇帝の乗る飛竜だ。

 

 恐怖でへたりこむ遥に皇帝が迫る……へたりこむ彼女には大きな体駆の皇帝が圧倒的に思えた。

 いぶし銀の鎧に黒のマント。青き肌の異人。

 

 皇帝は不気味に笑った。

 

   *    *

 

 回転翼のブレードが空気を切り裂く。

 エンジンが唸り、ヘリコプターの機内にまで響く。

 

「総理、立川には先行して荒垣副総理と東城大臣が到着しました!」

「わかりました。出してください!」

 大泉が応え、扉が閉められる。

『官邸離陸。時刻一三五八。総理ほか七名を伴いこれより立川に向かう』

 

 要人輸送ヘリコプターは官邸屋上を離陸した。

 

 魔界軍の侵攻による、立川広域防災基地への政府機能の移転が決定された。

 先行して荒垣たちが現地入りした。ヤマタノオロチ討伐作戦やカグツチとの戦いで事態対処の場数を踏んでいるためだ。 

 ヘリには内閣総理大臣、内閣官房長官ほか主要閣僚が乗り込む。

 

 大泉が何気なく外を見やる。

 ふと、ヘリの上を黒い陰がかすめた気がした。

 

『──しまった!』

 

 パイロットが叫ぶ。

 窓には映るは、大気を切り裂く翼。黒光りする鱗に覆われた駆体。縦に割れた凶暴な瞳が妖しく光る!

 ──飛竜だ!

『回避だ! 回避しろ!』

 飛竜が顎を開く……

「総理!」

 

 紅蓮の業火が大泉の瞳に映った。

 

 

 ……立川広域防災基地──政府臨時拠点。

 

 危機管理センターにおいて、慌ただしくパソコン、プリンターが設営され、政府機能の移転に向けて準備が始まる。

「まだ総理は着かないのか?」

 荒垣が腕を組み、目頭を押さえる。

 

 と、官僚が荒垣に歩み寄り、顔に陰りを浮かべながら告げる。

「先ほど専用ヘリコプターが撃墜。あなた以外の内閣総理大臣継承権を持つ全員が死亡しました」

「──!!?」

 荒垣の目がカッと見開かれた。美咲が驚愕の眼差しで彼を見つめる。

「言うまでもなく、内閣総理大臣は国会の指名により国会議員から指名されることと規定されていますが、この非常事態では不可能です。超法規的措置により、荒垣大臣、あなたが内閣総理大臣です」

 

     *    *

 

 女性キャスターが告げる。

『中継です。荒垣総理臨時代理は政府機能の回復、魔界軍への対処、都心機能の復旧に向けて新内閣を組閣しました。間もなく立花官房長官による会見が開かれます──』

 

 内閣官房長官が黒ファイルを携え登壇。手話通訳士が登場した。

 官房長官は眼鏡をかけ老練な雰囲気だ。深く刻まれた皺から永田町の修羅場をくぐってきたのだと一目でわかる。

 

『……今般、臨時政府は、新内閣を組閣しました。内閣官房長官につきましては私こと立花康平(たちばなこうへい)が担うこととなりました。あわせて復興担当大臣を兼任いたします。よろしくお願いいたします。……それでは閣僚名簿を発表いたします──』

 

 官房長官がファイルをめくり、読み上げると同時に映像がフェードアウトし、画面下に閣僚の名、役職、年齢が映る。

 

【 内閣総理大臣 荒垣健 (76) 】

 ~~~~

【 外務大臣 兼 内閣府特命担当大臣(異世界・特定事案対策統括)  東城美咲 (46) 】

 ~~~~

【 防衛大臣 東城宏一 (78) 】

 ~~~~

【 内閣官房長官 兼 復興担当大臣 立花康平 (78) 】

 ~~~~

 

 閣僚は各省庁の建制順に発表される。続いて内閣官房長官。そして内閣府特命担当大臣が発表された。

 

 立花は二〇一一年のヤマタノオロチ討伐作戦時にも荒垣を官房長官として補佐していた。現在は日本改新党代表。今回もまた荒垣と立花のタンデム体制だ。

 外務大臣は美咲。異世界に長く関わっていた閣僚としては妥当な人事と言えよう。

 防衛大臣として美咲の義父である宏一が入閣したことに記者はざわめく。防衛大臣時代の荒垣の盟友でもある。海上幕僚長、元自衛艦隊司令官としての経歴を買われた大抜擢だ。

 

 

 二〇四六年二月十日──日本史上最大の国難に際し、荒垣政権が発足した。

 

 

 

 



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第10話『建国記念日再び・ヤタガラス作戦発動!』

 二月十一日未明──

 

 夜空は色が移ろい、星々が消え藍色になりつつある……

 

 立川広域防災基地の一室には記者会見場が設けられ報道陣が詰めかけていた。

 

 黒の分厚いジャケットを着込む荒垣。日の丸のワッペンが輝き、胸には赤字で【 防衛大臣 荒垣健 】と刻まれている。

 防衛大臣時代から愛用する防衛省のジャケットだった。荒垣の日本を守ろうとする強い意志の表れだ。

 

『国民の皆様。内閣総理大臣の荒垣健です』

 

 避難所の体育館でテレビ、ラジオを聴く老若男女。

 食い入るように見つめ、言葉のひとつひとつを噛みしめる。

 

『現在、東京二十三区はじめ主要都市は壊滅。天皇皇后両陛下、皇族方は御用邸に避難されました……政府は機能不全に陥っています』

 

 国会議事堂からは煙がくすぶり、首相官邸の窓ガラスは無残に割れている。

 渋谷。新宿。銀座……各地に飛竜が闊歩し、焦土と化していた。

 天文学的数字の避難者があふれている。

 

『しかし絶望してはいけません。自衛隊統合任務部隊、方舟軍、在日米軍は夜明けと共に、人類史上最大の迎撃作戦をスタートします。今日は奇しくも建国記念日です。我々は再び戦います。この日本という国家、とこしえの歴史、日本に生きる権利を守るために……』

 

 ……太平洋上。

 空母いぶきの甲板でジークフリード各機が出撃準備に入る。

 一番機たる隊長機が発艦位置についた。

 隊長が親指を上げ、整備員らもそれに応える。

 整備員がかがみ、右手が前方の海上を指す。

 

『勝利を手にしたなら、二月十一日は単なる祝日ではなく、我々が断固たる決意を示した日として記憶されるでしょう!! 我々は決して侵略には屈しない! 破滅の運命には従わない!』 

 

 荒垣が目を瞑る……

 

 双発のバーニアがオレンジの火炎を噴き、ノズルが拡張し噴炎は青色へと変わる。

 闘志の火──ふたつの炎。

 

 荒垣は双瞳をカッと開いた!

 

『俺たちはこの立川から反撃の狼煙を上げる! 今日こそ、日本の建国記念日だ!!』

 

 マストに掲げられた国旗がはためく。

 白地に赤の円がまばゆく輝いた。

 

『──これより、ヤタガラス作戦を開始する!!!』

 

 機体の急加速にタイヤが軋み、白煙を上げる。

 轟音と共にジークフリード隊長機が飛びたった。

 続いて二番機のアレクシスが発艦位置につき、親指を上げる。

『ジークフリード2、発艦を許可する』

『──発艦!』

 

 ブルーとオレンジのコントラストの大空を背景にジークフリードが身をひるがえす。

 

『ジークフリード3、4! 続けて発艦せよ! 全機、発艦後は統合任務部隊の指示を受けろ! 精霊皇王の微笑みが共にあらんことを』

 

 ……アレクシスは目を伏せる。

「遥さん……必ず迎えに行くから」

 行方不明となった彼女を案じ、操縦悍にいっそうの力を込めた。

 

     *    *

 

 統合任務部隊司令部では航空総隊司令官たる早蕨空将が陸自、海自、空自の幕僚と共にディスプレイを注視していた。

 

 敵は要塞戦艦。

 ジークフリード隊のアイコン、国連多国籍軍合同航空隊があとに続く。

 海上には護衛艦やまと、空母いぶきをはじめとする自衛艦隊。そして米海軍艦隊が布陣する。

『ジークフリード隊、間もなく予定空域に侵入!』

『間もなくだな……』

 

【 05:59 】

 

 カウントダウンを睨む早蕨。

 

【 06:00 】

 

 ──早蕨が立ち上がる!

『作戦第一段階、反撃の嚆矢を放て!!!』

『了解!』

 ジークフリード隊隊長が応える……そしてパネルを操作。

 

 音楽だった。

 力強いドラムマーチに、肺が張り裂けそうなトランペットの暴風。ピアノは打楽器だと言わんばかりに鍵盤が叩かれる。曲調はどことなくソビエト風だ。ヤケクソ気味な演奏が最終決戦を演出する。

 

『隊長!? これは……』

『百年ぐらい前の『宇宙大戦争』の劇伴だ。三十年前には『シン・ゴジラ』のヤシオリ作戦で使われていたなあ』

 アレクシスは呆気にとられる。

『さすがリーダー。粋だな』

 四番機パイロットが誉める。

『射程に入ります』

 アレクシスが気を取り直し、隊長に告げた。

 

『魔導弾発射!』

 

 一番機、二番機、三番機、四番機の翼下から、重量級の対艦ミサイル──魔導弾が火を噴き飛翔する。

 青空に噴煙を残し、敵要塞戦艦めがけて突っ走る。

 

 ──爆発!

 直径数キロメートルに渡り、シャボン玉のような虹色の皮膜がゆらぐ。

 

『初弾命中! 敵防壁の弱体化を確認。近接魔導弾攻撃効果あり』

 早蕨が拳を握りしめる。

『作戦第二段階。奇襲攻撃開始!』

 

 白波が音を立てる……海中に動きがあった。

 大海を揺るがす響きだ。

『うおおおおおっ……!』

 驚くべきことに、潜水艦が限界角度寸前で浮上してきた。急角度に乗組員が唸る。

 精強を誇る日米潜水艦部隊である。

 濃紺の海中を魚雷が走る! ……狙うは要塞戦艦の周囲に布陣する敵軍船だ。

 

 潜水艦という兵器を持たない魔族にとって、まさしく盲点。意表を突いた攻撃だ。

 

 白濁した海水が噴き上がり、軍船が木っ端微塵に粉砕された……

 

『敵艦隊排除!』

『了解。作戦第三段階、水上部隊攻撃開始!』

 

 海上に構える護衛艦やまと。

 東城洋祐をはじめとする幹部がCICにて指揮する。

 インカムを押さえ洋祐は叫ぶ。

『砲術士、魔導弾装填。砲雷長の指示にて一斉射!』

『主砲攻撃始め!』

 前甲板に鎮座する第一主砲塔、第二主砲塔が旋回し、砲身を振り上げ要塞戦艦に照準する。

『撃ち方始め──撃て!』

 

 ──発砲! 砲口から爆炎が噴く。

 

 放物線を描き魔導弾が要塞戦艦に飛ぶ。

 防壁を魔導弾が喰い破り、虹色の光が閃き──爆発!

 

『魔導弾効果あり』

『米海軍に通信。巡航ミサイル攻撃始め』

 

 ……アメリカ合衆国海軍が誇るタイコンデロガ級巡洋艦。そしてアーレイバーク級駆逐艦が海原を進撃する。いずれもイージス艦だ。

 甲板に埋め込まれた垂直発射菅から火炎が噴き上がり、トマホーク巡航ミサイルが姿を現す。

 上昇し、空中で急旋回し、巡航態勢に移行する。

 

『スプルーアンス、ベンフォルド、ミサイル発射! ……続けて、全艦巡航ミサイル発射しました!』

 

 翼を展開した巡航ミサイルが要塞戦艦に殺到。

 爆炎が連鎖的に噴いた。

 

 米海軍巡洋艦、駆逐艦の火力投射が終わり、要塞戦艦に、日米欧のF35戦闘機やF22戦闘機。さらには中国人民解放軍の殲20戦闘機やロシア連邦軍Su27戦闘機で構成される国連多国籍軍の合同航空隊が果敢に立ち向かう。

 

『作戦第四段階。合同航空隊波状攻撃!』

 

 戦闘機の大編隊から発射、白煙をなびかせ数十発の対艦ミサイルが要塞戦艦に突入する。

 

 巨大な爆炎が要塞戦艦の外周数キロメートルに渡って立ち昇り、天を焦がした。

 

 状況は統合任務司令部でモニターされていた。

『敵要塞戦艦の魔導防壁、消失しています』

「(うまくいくといいが……)」

 早蕨はひとりごちた。

 

     *    *

 

 ドクン! と心臓が拍動する。

 アレクシスは笹のような耳を動かしている。何かに気づいたようだ。

 

 ……はっきりと覚えのある感応だ。

 

『ジークフリード2よりジークフリードリーダー。要塞戦艦内部に太陽因子!』

 確信し、アレクシスは叫ぶ。

『何!?』

『これは──東城遥内閣官房参与のものです!!』

『要塞戦艦に囚われているとは……厄介だな』

 隊長が唸る。

『リーダー!』

 今度は三番機パイロットが叫んだ。

『どうした?』

『要塞戦艦に動きあり!』

 隊長が要塞戦艦を見やる……目を見開いた!

『これは……』

 

 恐るべきことに、要塞戦艦の周囲に再び虹色の皮膜がゆらりと現れた。

 ──魔導防壁だ。

 要塞戦艦は、不死身だったのか……

 

 

 ……立川広域防災基地──危機管理センター。

 

「魔導防壁、再度展開!」

 統合幕僚長たる長瀬(ながせ)海将が受話器を置き、叫ぶ。

「バリア再び展開されました」

 統幕長の報告を東城宏一(とうじょうこういち)防衛大臣が分かりやすく言い換え、荒垣の指示を仰ぐ。

 ダン! と荒垣が拳をデスクに叩きつける。

「くそっ!!」

 東城が深刻な面持ちとなる。

「ミサイルが足りません。火力不足です」

「どこかに打撃力はないのか……」

 荒垣が顔を手で覆い、うなだれる……

 

「──な、何だと!? それは本当か!」

 

 大声で通話する長瀬を閣僚官僚皆が見る。

「統幕長?」

 いぶかしむ防衛大臣に統幕長は驚愕の事実を告げる──!

 

 

「北朝鮮からです! ヤタガラス作戦に加勢するため金序運(キムジョウン)委員長が直接話したいと…………!!!」

 

 

 

 



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第11話『北朝鮮参戦・アレクシス突入せよ』

『久しぶりだね。日本の諸君……』

 

 彼こそが金序運(キムジョウン)

 国務委員会委員長にして朝鮮人民軍最高司令官、そして朝鮮労働党委員長と、国家、軍、党の頂点に君臨する独裁者だ。

 

 荒垣が立ち上がる。

「金委員長、いったいどうして……」

 金は口角を上げてみせる。

『状況は知っている。バリア突破は私が引き受けよう──朝鮮人民軍特別作戦部隊に通達! 敵要塞戦艦に対し、弾道ミサイル一斉発射!』

『了解! 弾道弾、全弾発射!』

 オリーブドラブ色の軍服に身を固めた将官が金の命令に応える。

 

 映像が切り替わる。

 

 格納庫から濃緑の弾道ミサイルが陽を受けて輝き、姿を現す。

 点火! ……地響きが轟く。

 一〇……二〇……三〇……数え切れない数量の弾道ミサイルが天空に打ち上げられる。

 

 どこらかか音楽が流れる。

 昭和のアニメソング風のイントロに、北朝鮮の先軍思想を体現する『攻撃(コンギョ)』的な歌詞。一瞬の躊躇もなく立ち向かう金序運戦法のテーマだ。

 

 防衛省の担当者が叫ぶ。

「! ──北朝鮮、通告通り弾道ミサイルを発射しました! 大小あわせて一〇〇発を越えます!」

 

 映像が北朝鮮国営放送で放送された。

 ピンクのチマチョゴリを纏った年配の女性キャスターが感情を込めて抑揚の強い弁を振るう。

 

『本日、われらが朝鮮人民軍は魔界皇帝傀儡一味に対し、特別作戦部隊による弾道ミサイル攻撃作戦を開始した! 敬愛なる金序運最高司令官同志の白頭山を打つ稲妻のような天才的な指揮により、人間の皮を被った悪魔を無慈悲に懲罰するであろう!』

 

     *    *

 

 ……状況は護衛艦やまとにおいてもモニターされていた。

 オペレーターが眼鏡を上げ下げしながら報告する。

『十時方向より多数の弾道ミサイル! 北朝鮮から発射された飛翔体と思われます!』

 ディスプレイの値が【 98……99……100 】と瞬く間にとてつもない数となる。

 洋祐が目を見張る。

「……本当に来やがった!」

 握りこぶしをつくり、喜びを表す洋祐。

『弾道ミサイル散開! 全方位から要塞戦艦に飽和攻撃を行うものと思われます!』

 

 ……耳をつんざくような音が響く。

 弾道ミサイルが極超音速で飛来し、要塞戦艦に殺到する。

 ──爆発! 一瞬で爆炎が直径数キロメートルの要塞戦艦を取り囲み、虹色の魔導防壁を炙る。

 

 ……防壁がゆらぎながら消滅していった……

 

 洋祐はマイクを取り、決然と命じる。

 指揮は本来ならば艦隊司令の役だが、洋祐には『代将』の地位が与えられていた。

 

『──統合任務部隊海上戦力に告ぐ! 護衛艦『まや』は右舷の軍団、『なち』は左舷の軍団を迎撃せよ! やまとは要塞戦艦に対し艦砲射撃を敢行する!』

 

 第一主砲塔、第二主砲塔が旋回し、要塞戦艦に照準する……砲身が上下し……

 ──発砲! 砲口から爆炎が膨れ上がる。

 

 要塞戦艦各所で爆発が起こった。

 

『統合任務部隊司令部より護衛艦やまと! 要塞戦艦の頂上部を狙え! ジークフリード隊の報告ではそこに皇帝と東城参与がいる! 突破口を開け』

『了解! 頂上部に火力を集中──』

 

 殴るように要塞戦艦に主砲を叩き込むやまと。

 

「(お義父さん……!)」

 コックピットから黒煙と火柱が上がる要塞戦艦を見下ろすアレクシス。

 そこへ、護衛艦やまとからの直接回線が開かれる。

『行けアレクシス! ……娘を頼んだ』

『……了解!』

 洋祐とアレクシスの通信を聞いていた隊長が笑みをこぼす。そして──

『魔族のクソ野郎ども! でかい口開けて待ってろ! ──突っ込むぞ!!!』

『『うおおおおおおおおお!!!』』

 隊長の宣言に雄叫びで隊員が応える。

 

 白銀の機体をひるがえし急降下! 

 要塞戦艦に穿たれた破口めがけて、ジークフリード一番機、二番機、三番機、四番機が突入する。

 

『アレクシス行け! 全機、ジークフリード2を援護しろ!!』

『『了解!』』

 

 機関砲を掃射し、突破口をつくるジークフリード隊。

 飛竜を次々と撃墜。破口めがけて撃たれた機関砲の火花が要塞戦艦に飛び散る。

 突入できるのは王族たる精霊族にして魔導士たるアレクシスしかいない──ジークフリード隊が連携し彼を援護する。

 

 アレクシスが唇をかみしめる。

「(──遥さんの居場所はわかる。太陽因子が共鳴するから──)」

 青空のような彼の瞳が光かがやく。

 操縦捍を強く握り、スロットルを目一杯押し込む!

 

『ジークフリード2、敵中枢に突入する──!!!』

 

     *    *

 

 ……遥は十字架にかけられ歌っていた。

 絞り出すように。悲しい歌声が響く。

 瞳に光を失い、四肢を真紅の輝く輪で縛られ、太陽因子を欲しいままに絞りとられている。彼女は要塞戦艦の動力源と化していた。

 

 愉悦に満ちた顔で皇帝はそれを眺める。

 禍々しい赤一色の大広間。

 隅からは青の火炎が噴出し、金色の細工が玉座に施され、そこに皇帝はゆったりと構える。

「全能なる皇帝陛下に謹んで奏上いたします。太陽因子の蓄積、間もなく完了します」

 宰相が供手の礼で告げた、その直後──

 

 ──爆音が鳴り響いた!

 

 天井が爆破!! ……舞い上がる粉塵と共に白銀の機体が出現する。

 誇り高き日の丸輝く翼。

 ジークフリード2──アレクシス機だ!

 煙を纏いながらも、失速しかける機体を持ち直し、双発のエンジンユニットをガウォークモードに変形させる。

 青色の魔方陣を下方に展開。ふわりと機体が浮遊する。

 

 皇帝が立ち上がった。

 

『驚いたか。遥さんを返してもらうぞ!!』

 操縦捍をやや傾けながら、トリガーを引く。

 機体が左に傾いた。

 両翼付け根の機関砲カバーが展開。六砲身を束ねた二〇ミリガトリング砲が突出する。

【 LOCK ON 】

 オレンジのオートフォーカスフレームに、皇帝と幕僚たちが照準され、アレクシスのバイザーに映る。

 ──発砲!

 軽やかな動きで機体を横にすべらせ、攻撃魔法をかわしながらガトリング砲を叩き込む。

 全てを抹殺する大口径弾の直撃だ。

「「「「あああああああっ……!!!」」」」

 文官らが我先に逃げ惑う。

 軍官や戦士たちが立ち向かうも、毎分三〇〇〇発の砲弾を喰らい骨ごと挽き肉と化す。腸、内臓を撒き散らし血飛沫が弾け床に飛び散る。

 

 ……そのような惨状の中、皇帝は仁王立ちで構える。魔力で機関砲弾は防がれていた。

 機体をすべらせ、遥の縛られている十字架の前に、かばうようにアレクシス機は占位する。

 

 皇帝の火炎攻撃に防御魔法を展開し、耐える。

 コックピットが業火に炙られる中──アレクシスは叫んだ!

 

『────喰らえええぇぇぇ!!!!!』

 

 両翼から二発の魔導弾ミサイルが発射された!

 赤と青の炎が渦巻き、皇帝めがけて突っ走る!

 

 皇帝は目を見開いた──

 

     *    *

 

 政府臨時拠点──危機管理センター。

 

 長瀬統合幕僚長の報告を受けた東城防衛大臣が立ち上がり、荒垣内閣総理大臣に告げる。

「統合任務部隊司令部より連絡。敵中枢の爆発を確認!」

「東城参与とジークフリードの安否は!!?」

「東城参与とジークフリード二番機が消息不明です……」

 荒垣が問いただすも、返事は芳しくない……

 

 皆、重苦しい雰囲気に包まれる……特に東城遥内閣官房参与を家族に持つ東城宏一防衛大臣と東城美咲外務大臣兼特事対本部長は気が気でない様子だ。

 

『……こちら統合任務部隊司令部……』

 

 突然の通信に、荒垣、宏一、美咲ら閣僚が顔を上げる。

 

『──東城遥内閣官房参与とアレクシス三等空尉の脱出を確認──!』

 

 宏一と美咲が笑いあう。荒垣がふたりに歩みより、握手を求めた。

 荒垣と立花官房長官が軽く拳をぶつけ、肩を叩きあう。

「勝ったな」

 立花が眼鏡をずらし、嬉し涙を拭く。

 

「ああ。日本の建国記念日だ…………!」

 

 ……荒垣が見上げる青空はどこまでもどこまでも晴れ渡り、国旗が誇らしくはためいていた……

 

 

 

 

 




 第四章「鉄血篇」


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第五章「創世篇」 第12話『世界恒久平和条約・復興への道』

「新日本神話2045愛の戦士たち」
 製作委員会Presents


 ……雲が流れ、海面から反射した白銀の光が機体を照らす。

 

 コックピットではアレクシスが操縦捍を握り、太ももの上に遥が横たわる。左腕に頭をもたれ、気を失っているようだ。

 

 飛行服ごしにも感じる彼女の温もり……体重、存在感が、この上なくいとおしい。

 きめ細かい栗色の髪を指先ですき、桜色の頬を撫でる。

 

 ぎゅうっ……と、遥を優しく抱きしめる。

 

「……んっ……」

 ゆっくりと彼女のまぶたが開いた。

「アレクシス君……!?」

 目を大きく見張り、思考を巡らす遥。

「遥さん……無事で良かった」

 アレクシスは、空色の瞳に涙した。

 遥の頬が桜色から桃色に染まり、アレクシスの首回りに腕を回す……胸に顔をうずめ、甘えた。

 髪の甘い匂いが心地よかった。

 

「遥、って呼んで……アレクシス」

「わかったよ……遥」

 

 遥の柔らかい顔が優しく両手で包まれる……遥は一瞬目を見開くが、顔を紅潮させ睫毛を伏せる……

 

 ふたりはそっと口づけした。

 

     *    *

 

  ……護衛艦かがの上空を、青色の魔方陣にて空中浮遊するジークフリード二番機が接近し、アプローチを試みる。

 

『かが、着艦許可を要請する』

『ジークフリード2、着艦を許可する。ジークフリードリーダーに続けて着艦せよ。 ……歌姫が無事で何よりだ』

 無線ごしに管制室が沸き立つのが聞こえた。

 遥はすっかりアレクシスに甘えきった様子で、首、肩に腕をまわし、抱かれている。アレクシスは柔らかい彼女の身に頬を紅潮させる。

 

 ──着艦。タイヤから若干の衝撃が響くが、ランディングギアのシャフトがそれを吸収する。

 

 甲板には、大勢の隊員が待ち構えていた。

 その中央には、東城洋祐一等海佐の姿もあった。ヘリコプターで護衛艦やまとからかがに移乗したのであろうか。

 ヘルメットを外し、遥の手を取りながらはしごを降りる。

「遥、気をつけて」

「うん」

「……ほう」

 遥──いつの間にか呼び捨てするようになったふたりの仲を見て、洋祐はにやける。

 アレクシスは洋祐と正対し、敬礼を交わす。

「アレクシス三等空尉、魔界皇帝を撃滅。東城遥内閣官房参与を救出しました」

「娘を救出してくれて、感謝する」

 洋祐は口角を上げてみせる。そして腕を後ろで組み背中を向ける。

「では後はふたりで、ごゆっくり」

 見れば、クルーが皆にやけ、冷やかす野次も飛ぶ。

 

 アレクシスと遥はひどく赤面した。

 

     *    *

 

 NKH──日本公共放送の特番が、全国各地、津々浦々にまで放映される。

【 魔界軍攻撃に関する情報 】と白字テロップが打たれた。

 画面に、青色の防災服を着た荒垣が映る。

 立川広域防災基地──政府臨時拠点での記者会見だ。進行官の声にアナウンサーの台詞が被る。

 

『──荒垣総理大臣は会見に臨み、陸海空自衛隊統合任務部隊によるヤタガラス作戦の成功と魔界軍の一掃を宣言しました』

 

 画面がズームし、荒垣健内閣総理大臣に焦点をあてる。

 荒垣が口を開く──

 

『今般、魔界軍侵攻の被害に遭われた国民の皆様に心からお見舞い申し上げます。……死者行方不明者の数は五〇〇〇人を越え、都心機能は麻痺、大泉内閣総理大臣はじめ国務大臣八名が死亡。自衛隊、警察、消防、海上保安庁職員。そして方舟軍、在日米軍にも少なくない殉職者を出しました。ヤタガラス作戦が成功したとはいえ、ひとえにこれは私の責任であります』

 

 荒垣が立ち上がり、深々と頭を下げると、カメラのフラッシュが焚かれた。

 ……席につく荒垣。

 

『しかしながら私はまだ辞めるわけにはいきません。日本の復興はまだまだこれからなのです。復興担当大臣を兼務する立花官房長官と共に、被災地の復旧、被災者の支援に全力を挙げ、私の内閣でそれを成し遂げる決意であります』

 

 荒垣がファイルをめくる……

 

『この度、天皇陛下とミュラ女王陛下が、被災した国民に対しお見舞いの気持ちを表明されました。魔界新皇帝に即位した魔界軍のガリウス将軍も、終戦協定が発効したのち直ちに支援を開始するとのことです』

 

 天皇が避難所を訪問することが宮内庁より発表された。

 伊勢湾台風、雲仙普賢岳噴火、阪神淡路大震災。東京湾巨大生物上陸災害やカグツチとの戦い──そして魔界軍の首都侵攻はここの日本に未曾有の脅威をもたらした。

 だが日本人は挫けずに立ち上がってきた。

 人々を奮い立たせ、明日へと立ち向かう希望を与えてきたのは、天皇の臣民を想う大御心だ。

 

 ガリウスは魔界軍を離反後、方舟にて戦の傷を癒したのち、魔界皇帝、重臣、諸将の死亡を受け新皇帝に即位。『ガリウス一世』を名乗る。

 ガリウス一世は即座に全軍に対し侵略行為の中止を命令。彼は一日も早い平和を望んだ。

 魔界軍は筋骨隆々な種族特性を生かし、力仕事で日本の復興を支えるという。

 

 国際連合、日本国、アメリカ合衆国、朝鮮民主主義人民共和国、そして方舟、魔界による終戦協定調印式が始まる──

 

     *    *

 

 古代ローマの闘技場を思い起こさせる大建築……

 調印式には方舟の元老院議事堂が会場となった。

 

 議事堂中央に荘厳な木製の机が持ち込まれる。

 国家元首の格を定める外交儀礼に基づき、君主である魔界皇帝ガリウス一世と方舟女王ミュラが上座に着席する。

 続いて国際連合事務総長が着席。アメリカ合衆国大統領エドワード・サウスマウンテン、日本国内閣総理大臣荒垣健。さらには朝鮮民主主義人民共和国最高指導者金序運が続く。

 

 調印証書の収められた濃紺のハードカバーを皆が交換しあう。異世界勢は羽根ペンで、地球勢は万年筆で署名する。

 

 ──すなわち、この瞬間に終戦協定が締結。

 平和への道が開かれたのだ。

 

 歴史的瞬間である……世界中から集結した報道陣のフラッシュが焚かれた。

 

 ……順次署名を終え、各国首脳が言葉を交わす。

 

 荒垣健内閣総理大臣と金序運委員長が握手する。

(キム)委員長、あなたの英断に心より感謝いたします」

「できることをやったまでだ。……荒垣首相、あなたは引退すると聞いたが」

「ええ。二度も総理大臣を務めれば充分です。後任の首相は立花(たちばな)官房長官に」

「いずれ酒でも酌み交わしたかったが」

 金がうつむく。

「日本の復興は、これからですよ」

 

     *    *

 

 調印式閉式の際、アメリカ合衆国大統領エドワード・サウスマウンテンが、人類史に刻まれるであろう演説をふるった──

 

「魔界軍との戦い……自衛隊、異世界『方舟』、米軍、国連軍──のみならず、あの北朝鮮までもが一丸となり、未来を切り開く戦いのために団結した。もはや人間どうしが戦う時代は終わったのだ。……私はアメリカ合衆国大統領として──かつて『世界の警察』を自認していた国家として【地球連邦政府(ちきゅうれんぽうせいふ)】樹立を決意する!」

 

 聴衆がどよめく。

 

 驚愕の波は地球上すべて──全世界に伝播した。

 

 恒河沙(こうがしゃ)の銀河と南十字星輝く満点の星空、それを見上げる部族長と子供たち。

 フランスの牧草地帯で羊の群れを飼う老人、カフェテリアのテラスでラジオに耳を傾ける者。

 ニューヨークの摩天楼を見上げる黒人少年。

 吹きつける風、流れゆく雲に思いを致し、祈るチベット僧侶。

 

 ──そして、日本に君臨する至尊の血筋の当主。

 

 各々が迎える新たな時代、創世記に思いを馳せ、アメリカ合衆国大統領の演説を聞き入っていた……

 

「……その第一歩として、全世界の国家と地域による【世界恒久平和条約(せかいこうきゅうへいわじょうやく)】の締結、批准を目標とする!!」

 

 ──今、地球に生きとし生ける人々すべてが、当事者となり、この宣言に熱狂していた。

 国家、民族、宗教を超えた大転換点だ!

 

 七〇〇万年に渡り紡がれてきた人類の歴史において誰も為しえなかった、地球統一政府の樹立。外的要因がなければ人類はまとまらない、ということは多くのフィクション作品で提唱されてきたが、人類は魔界軍との世界統一戦線を経て、その外的要因を得た。

 

 

 世界が、変わる────

 

 

 

 

 



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第13話『地球連邦樹立・新たなる創世の神話』

 ……西暦二〇四六年。第二次世界大戦から一〇〇年。世界は大転換点を迎えている。

 

 国際連合は最後の総会で、国連憲章を改正、地球連邦憲章の採択、地球連邦への移行手続き、初代大統領の指名を行った。

 地球連邦政府初代大統領は暫定措置として国連総会が指名したが、二代目以降は連邦議会、ゆくゆくは地球連邦加盟各国を選挙区として公選される。

 

 アメリカ合衆国大統領エドワード・サウスマウンテンを地球連邦政府初代大統領として新体制が発足。サウスマウンテン大統領は二〇二二年のカグツチとの戦いで異世界の脅威を痛感した元米海軍将官であり、未知なる脅威に備えるべく地球連邦の強化を推進。

 

 地球連邦政府は行政、立法、司法の三権分立だ。

 国際連合事務局を母体とした、大統領、副大統領、各省庁長官で組織される行政府。

 そして国連総会を母体とする二院制の連邦議会が発足した。旧安保理常任理事国プラス日本、方舟で構成される上院(大国が拒否権を行使した弊害から、全会一致制から多数決に変更)。上院議長は副大統領を兼ね、現在の副大統領兼上院議長は方舟の王族のバシス大公だ。一方下院は地球連邦全加盟国で構成される。

 司法は、国際刑事裁判所を発展改組、国際司法裁判所は最高裁判所となった。

 

 

 ……サウスマウンテン大統領の支持もあり魔界軍との人類統一戦線を主導した日本国、さらには弾道ミサイル攻撃で突破口を切り開いた北朝鮮は国際社会において大いに株を上げた。

 逆にアメリカ国内においては民主党を中心に原子力事故を起こしかけた空母の配備に異議が上がり、ベトナム戦争のごとく反戦運動、軍備の見直しに拍車がかかっている。これも日本、北朝鮮に期待が集まる理由である。

 

 地球連邦政府は防衛総省、そして【即応軍】を結成。

 即応軍は、魔界皇帝を倒した精鋭ジークフリード隊と護衛艦かが、やまとなど海上自衛隊部隊を中心に横須賀などを運用拠点とする【即応軍海軍】を編成。

 事実上の空母艦隊である海軍第一打撃群の司令には前護衛艦やまと艦長、東城洋祐(とうじょうようすけ)少将が任じられた。

 アメリカ海兵隊、自衛隊有志は【即応軍海兵隊】に発展改組。

 さらにアメリカ戦略軍、ロシア戦略ミサイル軍、中国人民解放軍戦略ロケット軍、北朝鮮戦略ロケット軍に【即応軍戦略ミサイル軍】を編成、即応軍の傘下におさめた。

 ただし戦略軍は機密保持の観点から各国部隊が独立している。

 戦略軍はアメリカが太平洋、ロシアが大西洋、中国がユーラシア、北朝鮮が極東を担当する。すなわち──戦略ミサイル軍極東方面隊司令官に朝鮮人民軍最高司令官たる金序運(キムジョウン)元帥が就任した!

 

 ……余談ではあるが、北朝鮮国営放送は「金序運同志がもたらした共和国の外交的勝利である!」と喧伝(けんでん)している。

 

 即応軍は有事の際、地球連邦防衛総省長官のもとに統合運用される。

 防衛総省統合参謀本部議長には長瀬祐都(ながせゆうと)前防衛省統合幕僚長が就任した……

 

 

 ……そして皆の関心は、誰が地球連邦防衛総省長官に就任するか、であった。

 当然、ひとりの男に注目が集まる──

 

 ──建国記念日再び! と言わんばかりに熱い弁舌で日本人を鼓舞しヤタガラス作戦を成功させた荒垣健(あらがきたける)前内閣総理大臣を地球連邦防衛総省長官に、ひいては地球連邦政府主要閣僚に推す声があったものの、荒垣は頑なに固辞した。

 過去幾度にも渡る防衛大臣の在任を鑑み、二〇一一年のヤマタノオロチ討伐、そして今回のヤタガラス作戦の指揮と、二度に渡り内閣総理大臣の大任を果たした荒垣がまさに適任であるが……

 荒垣は老後を妻と静かに過ごしたいとの思いから周囲の説得をはねのけていた。

 

 ……日本国においては、臨時内閣であった荒垣政権が応急的な戦後処理を終え退陣、その引き際は第二次世界大戦を終結に導いた名宰相鈴木貫太郎(すずきかんたろう)内閣のようであった。

 内閣官房長官であった立花康平(たちばなこうへい)がポスト荒垣となり、臨時国会にて首班指名、天皇により内閣総理大臣に任命。永田町の修羅場をくぐり抜けた野心家である立花──今は齢七十八の経験豊富で老練な政治家である彼の政権運営は世論の安定した支持を集めている。

 立花は次段階の復興を成し遂げるべく各大臣を人選、組閣においてサプライズ人事を用意した。それは──

 

 ──東城美咲(とうじょうみさき)の副総理格での入閣だ!

 

 今の彼女の役職たるや凄まじいもので【 副総理大臣 兼 外務大臣 兼 内閣府特命担当大臣(異世界) 】と主要な国務大臣を独占。さらに精霊魔法をはじめとする異世界文明の政府調査部局の内閣府特定事案対策統括本部、通称【特事対(とくじたい)】本部長である。四十六歳の若さ、しかも女性の副総理就任だ。

 美咲は自主憲政党の参議院議員である。

 現在の与党は自主憲政党ではなく、日本改新党であるが、これには面倒な戦後処理を押しつけたい自主党と公民党、さらには民衆党、労働党の思惑もある。いずれ立花政権が解散総選挙に踏み切った時、再び自主憲政党と公民党の連立政権が発足するだろう。

 

 その際、自主憲政党の総理総裁を担うのは誰か。

 

 驚くべきことに、自主憲政党次期総裁、すなわち次期内閣総理大臣には──東城美咲副総理兼外務大臣を推す声が少なくない。

 魔界軍の首都中枢への攻撃で、大泉首相はじめ主要閣僚が死亡したが、当然その中には派閥の重鎮や若手の有望株が含まれていた。生き残った幹事長や有力議員は、美咲を担ぎ出したのだ。見返りでの閣僚ポストを狙い逆に恩を着せようという派閥の思惑もある。

 美咲が精霊魔法の根幹たる太陽因子を宿し、対異世界専門部局【特事対】の本部長、さらには荒垣内閣で外務大臣を担ってきた経歴も鑑みての判断だ。決してタレント扱いではない。

 

 順当にいけば、日本初の女性内閣総理大臣誕生である……

 

     *    *

 

 ……青空を色とりどりの花火が彩り、ファンファーレが鳴り響く。

 地球連邦政府樹立式典が華やかに行われた。

 

 上空からヘリコプターでリポートするキャスターが告げる。

『現れました! 地球連邦の旗でしょうか!? 数名が旗を取り囲むように持ち、行進しています』

 

 旧国際連合安全保障理事会常任理事国の首脳、そして方舟女王ミュラと立花内閣総理大臣が皆で地球連邦旗を持ち、行進する。

 旧国連主要国が連邦旗を持ち、新時代を招来する粋な演出だ。

 

 コーラスが響き、観衆が熱狂する。

 

 会場を縦断する連邦旗が目指すは、ポールのもとに待つ地球連邦初代大統領エドワード・サウスマウンテンだ。

 大統領は一礼し、連邦旗を受け取る。

 大統領と各国首脳が旗をくくりつけ、紐をひくと同時に軍楽隊が演奏を開始。地球連邦の歌だ。

 バッ! と大統領が旗をひるがえす。

 

 

 抜けるような青空に昇る旗が、新たなる創世の神話の始まりを告げる──

 

 

 ……東城美咲副総理兼外務大臣が来賓席に座っていた……どういう訳か、隣には地球連邦即応軍海軍、東城洋祐少将が座る。

 ふたりは顔を見合せ、なぜここにいる!? と言わんばかりに驚いた。軍籍とあらば、別の席に座るはずだが。 

 

 さらにアレクシス、遥がやって来る。

 アレクシスは武功がミュラ女王に認められ、伯爵から公爵に叙勲されたと遥が話す。

 異世界『方舟』における公爵とは王族たる精霊族にしか与えられない爵位だ。異世界が定める敬称は殿下となる。

 

 防衛大臣たる東城宏一は国内待機ではあるが、地球連邦政府樹立式典に東城一家が揃ってしまった。

 

 ……地球連邦初代大統領エドワード・サウスマウンテンがスピーチを述べる。

『本日お集まりの中に、果敢に魔界軍に立ち向かい、未来を切り開いた一家がおられます──東城家です!!』 

 

 勢いに押されそうなスタンディングオベーションに包まれ、洋祐、美咲、アレクシス、遥が腰を上げる。

 口笛が吹かれ、万雷の拍手が贈られる。

「(大統領め……)」と皆痛快に思う。

 

 東城一家が着席したタイミングで、大統領が再び口を開く──

『彼らの勇気あるリーダーシップに感謝します…………二〇四六年二月十一日。当時の荒垣健内閣総理大臣が宣言した通り、我々は侵略には屈しませんでした。ヤタガラス作戦、建国記念日を取り戻す戦いが未来を切り開き、地球連邦政府樹立に繋がったのです──』

 と、舞台奥の扉が開かれ、人影が姿を現す──その人物は、まさに──

「「前総理!!?」」

「「荒垣閣下!!!」」

 観衆が拳を突き上げ、熱狂する。

『おお!? これはこれは。 皆さん、さらなる英雄の登場です──荒垣健(あらがきたける)前日本国内閣総理大臣!!!』

 荒垣が照れながら観衆に一礼する。

 

 日本人、ひいては人類を鼓舞した荒垣健の、サプライズでの登場だ。 

 地球連邦大統領直々の命令で断りきれなかったようだ。

 

「(いや、絶対仕組んでただろ)」

 洋祐が呟く。

「サウスマウンテン大統領も劇場型だな。頑張った相撲取りに感動した大泉元総理の親父さんみたいだ」

 大泉進太郎元内閣総理大臣の父親、大泉剛一郎《おおいずみごういちろう》もまた個性的な総理大臣であった。洋祐の幼少期の首相だ。

 洋祐は美咲に向き直る。

「美咲も自主党総裁に担がれてんだろ?」

「ええ。誰かがやらなくてはいけないからね」

「えっ! お義母さんが内閣総理大臣!!?」

 アレクシスが目を剥いて驚く。

「……アレクシスも王族、今や殿下と呼ばれてんだろ? ……おっといけねえ、公爵殿下」

「からかわないでくださいよ」

 ふたりのやりとりに美咲と遥が笑った。

 

 

 ……皆が見上げる先には青空が広がり、蒼穹(そうきゅう)の彼方には、無限の星々……恒河沙(こうがしゃ)の銀河が流れゆく……

 

 恒星から惑星が生まれ、惑星は海と緑に、あまねく生命に祝福される。

 生命の樹に純愛宿り、紡がれゆく……

 

 太古の記憶、悠遠の神代から続く人々の営みは神話となり、新たなる時代の幕開けを告げる──

 

 

 

 

 

 

 

 

 《 新日本神話 第三部 【新日本神話:急】 最終話『地球連邦政府樹立・新たなる創世の神話』 ────完──── 》

 

 

 

 

 

 

 

 




 シリーズ構成
 外山康平@紅蓮
 
 
 電話取材協力

 防衛省海上幕僚監部
 陸上自衛隊広報センター


 Thanks to

 宇宙戦艦ヤマトオールスタッフ
 マクロスΔオールスタッフ
 空母いぶきオールスタッフ
 シン・ゴジラオールスタッフ
 蚕豆かいこ
 伊福部昭
 宮川彬

 脚本・演出協力
 執筆同盟
 飯テロ部隊
 博元裕央
 ほしのななか
 ゲロ豚

 
 製作
 新日本神話2045愛の戦士たち製作委員会





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