フレイヤ・ファミリアでハーレムを築くのは間違っているのだろうか (小狗丸)
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ドム

ドラゴンズクラウンで遊んでいる時に思いつき、そのまま勢いで書いてみました。


 オラリオ。

 

 そこは自らの力を封じて下界に降り立った神々と人間達が暮らす都市。

 

 オラリオの中央には世界で唯一の「迷宮」も入り口の上にそびえ立つ巨大な塔「バベル」があり、バベルには毎日迷宮に挑戦せんとする神々からモンスターと戦う為の力を与えられた者達、「冒険者」が大勢向かっている。そしてそんなバベルへと向かう冒険者達の中で、一際目立つ冒険者の一団がいた。

 

 その冒険者の一団は四人いて、三人は女性で男性は一人だけだった。

 

 一人目は豊満な肉体をいかにも魔法使いと言った服装で包み込んでいるヒューマンの女性。

 

 二人目は引き締まった肉体をしていて体の最低限の場所だけを隠す薄着を着ているアマゾネスの女性。

 

 三人目は小柄で一見すると少女のように見えるフード付きのマントを羽織っているエルフの女性。

 

 そしてそんな三人の女性達の前を率いるように進む唯一の男性はフード付きのローブを羽織っていてよく顔は見えないが、時おりフードの下から見える長く伸びた白い髪と赤い瞳が特徴的であった。

 

「おい、見ろよアレ」「あれって例のファミリアの……」「相変わらす良い女達を連れているな」「というか毎日仲間の女が違うんだが?」「クソッ! 羨ましいな、ど畜生が……!」「あんなひょろそうなガキが……」「でもあれで強いんだよな……」

 

 周囲の他の冒険者達が白い髪の冒険者と三人の女性達を遠巻きに見ながら呟くが、当の本人達はそれを気にする事なく歩き続ける。彼らにとって周囲からの羨望や妬みの声や視線は日常茶飯事だからだ。

 

 白い髪の冒険者の名前はドム。

 

 このオラリオでたった二人しかいない「Lv7」の冒険者である。

 

 冒険者にはレベルという階級があり一番下が「Lv1」で現在確認されている最高が「Lv7」。つまり彼、ドムはオラリオで最高位の冒険者という事だった。

 

「おーい! ドムー!」

 

 ドム達がバベルへと向かっていると、そこに一人の赤髪の女性が手を振りながら彼らに近づいてくる。

 

「ん? ああ、神ロキ。こんにちは、今日はどうしたんですか?」

 

 赤髪の女性に気づいたドムが挨拶をする。彼女の名前はロキといって、下界に降り立った神の一柱であり「ロキ・ファミリア」の主神である。

 

 冒険者は自分にモンスターと戦う為の力「恩恵」を与えてくれた神の眷属なる決まりがあり、同じ神の眷属同士の集まりの事を「ファミリア」という。そしてロキ・ファミリアはこのオラリオでも二大派閥と言われる最も大きな規模のファミリアの一つであった。

 

「いや、今日はいい天気やし適当に散歩しとったら見かけたんで声かけたんや。……それにしても今日も可愛い娘達を連れとるなぁ?」

 

 ドムに返事をするとロキは彼の仲間である三人の女性達に視線を向けて、途端にいやらしい雰囲気を出す。両手の指も何やらいやらしい動きをしていて、その姿は助平オヤジのそれである。

 

「ちょーとその柔肌触らせてー! とぅっ!」

 

 ロキはその場で助走もなしに大きく跳躍すると、ドムの仲間である三人の女性達に飛びつこうとする。しかし……。

 

 ヒョイ。ヒョイ。ヒョイ。ベチャ☆

 

 三人の女性達は慣れた様子で自分達に飛びつこうとするロキを華麗に避けてみせ、赤髪の女神は顔から地面に激突する。

 

「いったー! ええやん、ちょっとくらいー。ケチー」

 

 顔から地面に激突したロキだったが特にこたえていないようで、すぐに立ち上がると口を尖らせて不満を漏らす。そんな女神の様子にドムはため息を吐いて答える。

 

「いや、よくないでしょ? こんな所でそんな事をしたら嫌がらせでしかないですって。というか貴女、自分のファミリアの人達にも同じことしてるんですよね? 前にリヴェリアさんが愚痴をこぼしてましたよ? いい加減止めてほしいって」

 

「~~~♩」

 

 ドムの言葉にロキは明後日の方向を見て口笛を吹き誤魔化す。それを見てドムはもう一度ため息を吐く。

 

「はぁ……。とにかく俺達はもう行きますね? また今度」

 

「おう。頑張りな」

 

 迷宮に挑戦する為にバベルへと向かうドム達をロキは手を振って送り出すが、途中で何かを思い出したように声をかける。

 

「そうや。『フレイヤ』のとこからウチにきたくなったらいつでも言ってや? ドムとそのハーレムの娘達やったら、いつでも歓迎やで?」

 

「ははっ。考えておきますよ」

 

 ロキのこの発言は初めてではなく、苦笑を浮かべたドムは立ち止まる事なくそう返したのだった。

 

 ドムはロキ・ファミリアと同じオラリオで二大派閥と呼ばれているファミリア、「フレイヤ・ファミリア」に所属している冒険者である。そして「Lv7」という実力からフレイヤ・ファミリアの幹部の一人とされている。

 

 特に敵対しているわけではないが、それでも世間ではライバル同士とされているロキ・ファミリアの主神とフレイヤ・ファミリアの幹部が仲良く話しをしているのは変に思われるかもしれない。しかしフレイヤ・ファミリアでも異色と言える存在のドムの場合はそれほど不思議ではなかった。

 

 フレイヤ・ファミリアは美の女神フレイヤに魅了された彼女の信者の一団という面がある。その為フレイヤ・ファミリアの団員のほとんどは自分達の主神フレイヤ以外興味を持たず、他のファミリアと交流を持とうとしないのだがドムだけは違った。

 

 無論ドムだってフレイヤがオラリオで一番美しいと思っているし、自分をファミリアに迎え入れてくれてここまで育ててくれた事に恩義を感じているが、だからといって他のフレイヤ・ファミリアの団員のように彼女に盲信しているわけではない。そのこともあって彼は他のファミリアの団員達や同じフレイヤ・ファミリアの女性団員ともそれなりに交流を持ち、他のファミリアからの信頼とフレイヤ・ファミリアに所属する大勢の女性冒険者達の愛情を手にいれて、他の男性冒険者が羨むハーレムを築いた。

 

 そんなドムを神々を含めたが周囲が呼ぶ二つ名は「炎王(ムスペル)」と「好色王」。

 

 前者は火炎魔法の破壊力だけならば他の追随を許さない魔法使いの冒険者であるドムを称えた称号で、後者はドムのハーレムを嫉妬した男性の神と人間達がつけた渾名である。

 

 

 

 

 

 この世界に転生してから早いものでもう二十年近く経った。

 

 前世の俺はただの会社員で、休日にゲームのドラゴンズクラウンで遊んでいてエンシェントドラゴンにファイアーゲートをかけてからのメテオスウォームが綺麗に決まって倒せた事に喜んでいると急に気が遠くなって、次に気がつくとこの世界に転生していたのだ。ちなみに俺がドラゴンズクラウンで使っていたのはウィザードで、装備は火属性魔法特化のロマン砲メテオ常備です。

 

 異世界に転生した俺の姿はドラゴンズクラウンで使っていたウィザードを若くした姿で、名前もウィザードのキャラにつけていた名前の「ドム」であった。もう一つちなみにドムっていいモビルスーツですよね。最初見たときはあまり好みじゃなかったけど、よくよく見てみれば重装甲なのにホバーで高速移動できて、バズーカの高い火力も魅力的です。

 

 異世界転生系のライトノベルやらネットの法則だとドラゴンズクラウンの世界に転生したのかと思ったのだが、どうやらこの世界は冒険者やらモンスターやらドラゴンズクラウンと似ている点はあるもののドラゴンズクラウンの世界ではなかったようだ。

 

 この世界での家族は弟と祖父だけの三人家族。新しい生活には最初は戸惑ったが、慣れれば貧しいながらも楽しい生活だったので俺はずっとこのままでもいいかなと思っていた。だが祖父が聞かせてくれる英雄の物語を聞いて瞳を輝かせ「僕も英雄になりたい」と言う弟があまりにも眩しすぎたので「お前が英雄になるんだったら俺は英雄を助ける魔法使いになってやるよ」と見栄を切って、十四歳の時に生まれ育った村を出てオラリオに旅立つことに。

 

 そしてようやくオラリオに辿り着いたと思ったら、オラリオに入ってすぐに今まで見たこともないくらい綺麗な女性と出会い、思わず声をかけたら「貴方の魂、とても興味深い輝きをしているわ。まるで夜空の星のよう」と言われて、ほとんど拉致同然にその女性に連れていかれてしまう。何でも俺が声をかけた女性はフレイヤ様という女神様らしくて、フレイヤ様に気に入られた俺は彼女が運営するフレイヤ・ファミリアに所属する事になったのだった。

 

 訳の分からないうちにフレイヤ・ファミリアの冒険者となった俺だったが、どうやら俺は転生者特典というのか冒険者としての才能に溢れていたようで、フレイヤ様から恩恵を授かって直ぐに一つの魔法と二つのスキルを修得した。しかも修得したスキルというのが二つとも今まで見たことも聞いたこともないレアスキルだったらしくて、それが嬉しくなった俺は毎日のように迷宮にこもって自分の魔法とスキルを試し続けた。

 

 するとステータスもレベルも面白いくらいに上がり、新しい魔法とスキルを次々と修得できて、今ではオラリオで二人しかいない「Lv7」の冒険者となっていた。冒険者の最高位になれたことは素直に嬉しいし誇らしかったが、「Lv7」になった途端に周りの団員達が俺をライバル視してくるし、もう一人の「Lv7」である我らがファミリアの団長のオッタルさんなんかは「この短期間でここ(頂点)までやって来たか……面白い!」と獲物を見つけた大型肉食獣みたいな笑みを向けてきたのは……正直、とても怖かったデス。

 

 あと転生者特典と言えば、俺は冒険者としての才能だけでなく女性との出会いの機会にも恵まれているみたいだった。

 

 話は少し逸れるけどフレイヤ・ファミリアって中の空気って言うか雰囲気あんまり良くないんだよね。

 

 何しろ男性の団員達は全てフレイヤ様に心の底から惚れていて他の団員達は恋敵という状態だし、女性の団員達はフレイヤ様に憧れて入団を決めたものの心のどこかで「フレイヤ様のように美しくなれない」と諦めている上に男性の団員達には相手にされないという複雑な状態。こんな状態だと雰囲気が悪くなるのも当然と言えた。

 

 フレイヤ・ファミリアに入団したばかりでそんなファミリア内の雰囲気に「なんだかなー?」と思っていた俺はその時、信じられないものを見つけた。それは同じフレイヤ・ファミリアに所属する三人の女性団員で、彼女達の姿はドラゴンズクラウンのソーサレスとアマゾンとエルフに瓜二つだったのだ。

 

 ドラゴンズクラウンの女性キャラを見つけた事に感動した俺は思わず彼女達に話しかけ、最初は彼女達も俺に警戒していたが話しかけているうちに心を開いてくれて、気がつけば彼女達を初めとするフレイヤ・ファミリアの女性団員のほとんどと色々な「関係」を持ってハーレムができていた。そのせいで同じファミリアのネコミミの先輩から冷たい目で見られたり、たまにフレイヤ様から凄まじいプレッシャーを感じるのだが、俺だけのハーレムができたことに比べれば大したことはないだろう。……多分。

 

 まあそんなわけで、オラリオの暮らしはいいことばかりではないけれど、それでも俺は基本楽しい冒険者生活を送っている。

 

 迷宮に挑んではまだ見ぬ未知を追い求め、迷宮の外では戦友にして恋人である女性達と熱い一時を過ごす。オラリオは危険は確かにあるが、それ以上に刺激に満ちたいいところだ。

 

 そういえばお祖父ちゃんの手紙だと、弟も俺が村を出た年齢になったから自分も冒険者になるためにオラリオに向けて旅立ったと書いてあった。

 

 ……そうか。あいつもオラリオにやって来るのか。

 

 だったら冒険者の先輩として、そして「英雄」を助ける「魔法使い」として色々と教えてやらないとな。

 

 弟よ、早くオラリオに来いよ。兄さん待っているからな。




多分続かない。
ドムはドラゴンズクラウンのウィザードの姿で、彼と一緒にいる三人の女性はソーサレスとアマゾンとエルフです。


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女神フレイヤ

 オラリオの中央にある巨大な塔バベル。バベルの地下には世界に一つしかない迷宮が広がっており、毎日大勢の冒険者が迷宮へ挑戦すべくバベルにと向かっていくのが、オラリオの日常の光景である。

 

 そんなバベルに、日が出てまだ間もない、他の冒険者達の姿が見当たらない早朝から向かおうとする一人の冒険者の姿があった。

 

 バベルに向かう冒険者はまだ十四、五歳くらいだが童顔のせいでそれより幼く見える少年で、白い髪に赤い瞳をしており、白い髪を揺らしながら走る姿はどこか兎を思わせる。

 

 少年の冒険者の装備は申し訳程度の胸当てと腰にある安物のナイフのみ。その姿はどこから見ても駆け出しの冒険者であるのだが、少年の目には不安や恐怖といった陰はなく、未知への憧れで輝いていた。

 

 少年の冒険者は自分が迷宮で活躍して英雄となる物語を夢見ており、彼の目には迷宮への入り口があるバベルしか見えていない。

 

 ……だからバベルへと走る少年の冒険者は、自分の背中を見送る二人分の人影に気づかなかった。

 

 少年の冒険者を見送ったのは、一目見たら誰でも心を奪われるような美貌の女神と、白い髪と赤い瞳が特徴的な男性の冒険者。女神は頬を僅かに赤くして微笑み、男性の冒険者はどこか心配そうな表情で少年の冒険者が向かったバベルを見つめていた。

 

「あの子が貴方の弟なの? ドム?」

 

「……ええ、そうです。フレイヤ様」

 

 女神がバベルを見つめながら声をかけると、声をかけられた男性の冒険者、ドムは僅かにためらった後に自分に恩恵を授けてくれた女神、フレイヤに答える。

 

 オラリオの二大派閥の一つであるフレイヤ・ファミリアの主神フレイヤと、オラリオで最高位の冒険者ドムに見送られながら迷宮に挑戦しに行った駆け出しの冒険者。彼はこれから先、オラリオで起こる様々な出来事の中心となるのだが、その事を知る者はまだ誰もいなかった……。

 

 

 

 

 

 お祖父ちゃんからの手紙で、目に入れても痛くもないくらい可愛い弟がオラリオに来ると知ってから早数日。しかし弟は一向に俺の前に現れる気配がない。

 

 おかしいな? 俺がフレイヤ・ファミリアに所属していることも、フレイヤ・ファミリアの本拠地の場所も以前送った手紙に書いたはずなんだが?

 

 一体どういう事なんだと考えると答えはすぐに出た。

 

 弟は慎重そうに見えて考えるより先に行動するところがあって、更には一つの事に集中すると周りが見えなくなるところがある。

 

 恐らくはオラリオに辿り着いた弟は念願の冒険者になる事で頭が一杯になって、俺よりも先に自分に恩恵を授けてくれる神様を探す事にしたのだろう。そして何とか恩恵を授けてくれる神様と出会って冒険者となった弟は、今頃は英雄となる子供の頃からの夢を叶えるために迷宮に挑戦していることだろう。

 

 ……そうなると弟が俺のことを思い出すのは、オラリオでの生活と迷宮に慣れた頃だろうな。

 

 そう結論を出した俺は自分から弟を探す事に決めて、オラリオの冒険者達の活動を管理しているギルドに問い合わせた。すると弟は数日前に出来たばかりの、団員が一人だけのファミリアの冒険者としてギルドに登録しているのが分かった。

 

 弟の事を知っているギルドの職員の話によると、弟は朝早くから迷宮に挑戦しているらしい。せっかくだから迷宮での弟の戦いぶりをこっそりと見守ろうと思ったのだが……。

 

「ドム。明日、私とデートしましょ♩」

 

 と、いざ弟の顔を見に行こうと思った前日にフレイヤ様からデートのお誘いが。微笑みを浮かべるフレイヤ様の姿はとても美しいのだが、彼女は今のような笑顔を浮かべる時は何か厄介事が起こるのを俺は知っている。

 

 正直、全力でお断りしたい。フレイヤ様へのデート権はさっきからこちらを睨みつけているアレン先輩や、羨ましそうな視線を向けてくる炎金の四兄弟(ブリンガル)の皆さんにお譲りしたい。

 

 だけどフレイヤ様、一度決めたら絶対に一歩も譲らないんだよなぁ……。

 

 一縷の望みにかけてオッタルさんにフレイヤ様を止めてもらおうと視線を向けると、オッタルさんは俺に視線を返して小さく頷いてみせた。その表情からは「お前なら大丈夫だろう。フレイヤ様を頼むぞ」という信頼が感じられたのだが……何で俺をそこまで信頼しているんですか、オッタルさん? いつものようにフレイヤ様を心配して止めてくださいよ、「猛者(おうじゃ)」様?

 

 結局俺はフレイヤ様に負けて、早朝から彼女とのデートに事に。

 

 それでフレイヤ様? こんな朝早くから一体どこに行くのですか?

 

「ふふっ♩ 冒険者になったっていう貴方の弟の顔を私も見に行きたいのよ」

 

 俺が聞くとフレイヤ様は相変わらず魅力的な笑顔で答えてくれたのだが……一体どこで俺の弟の事を知ったのですか、フレイヤ様?

 

 何だか嫌な予感がしてきて今日のところは弟の様子を見に行くのは止めようと思ったのだが、フレイヤ様を放っておくともっと嫌な予感がしたので、観念して俺はフレイヤと二人でバベルに向かう事にした。すると丁度バベルへと走って行く一人の駆け出しの冒険者の姿が見えた。その姿は間違いなく俺の弟の姿で、思わず弟を呼び止めようとしたのだが……。

 

 ーーーーーーーーーー!!!???

 

 弟に声をかけようとした瞬間、俺はかつてないほどの悪寒を感じた。こんなのは迷宮の深層でモンスターパーティーに遭遇した時でも感じた事はなかったぞ? 悪寒の発生源は俺のすぐ隣で、恐る恐るそちらを見るとそこには……。

 

 

 恋をする乙女のような顔となって頬を赤く染めているフレイヤ様の姿が。

 

 

 ……アカン。これはアカン。これはどこからどう見ても誰かを好きになった顔でんがな。

 

 フレイヤ様は好きになった、気に入った人物(主に男)を見つけたらどんな手を使ってでも手に入れようとする。……そう、どんな手を使ってでも。それが例え他の神様の恩恵を受けた冒険者でも強引に。

 

 そのせいでフレイヤ・ファミリアは今までに何度も他のファミリアと戦争となり、俺も二回ほど他のファミリアとの戦争を経験している。あれは本当に酷い目に遭った……。

 

 一回目の戦争では炎金の四兄弟(ブリンガル)の皆さんの作戦ミスで敵陣のど真ん中に取り残されて敵の集中砲火を受け、何とか全員倒して他の皆に合流すると敵のファミリアの団長との一騎打ちをアレン先輩に押し付けられた。

 

 二回目の戦争ではオッタルさんに「あの程度の奴ら、お前一人で充分だろう」と言われて、俺一人だけで敵のファミリアの団員百人と戦わせられた。

 

 つまり何が言いたいかというと、フレイヤ様がこの様な顔をした以上、俺にとんでもない不幸がやって来るのは間違いなくという事。しかも今回のフレイヤ様の狙いは俺の弟……!

 

 ヤバい。これはシャレにならないくらいヤバい。急いで弟と、弟の主神様にこの事を話して何とかフレイヤ様の対策を……。

 

「ドム? 貴方、今日から一カ月くらい弟との接触禁止ね♩ もちろん弟の主神にもよ?」

 

 っ!? いきなり先手をうってきましたよ、この美の女神!?

 

 ……この日から俺の、弟の貞操を守る為の辛く、先の見えない戦いの日々が始まったのだった。

 

 というか、弟を狙う最大の敵が自分のとこの主神ってどんな罰ゲームだよ?



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炎王

 オラリオの地下に広がる迷宮。迷宮はいくつもの階層があり、現在確認されている最も深い階層は五十九階層までで、迷宮が全部で何階層まであるか知っている者はいない。

 

 地下に広がる迷宮と聞けば、迷宮の内部はどこまでも続く洞窟だと思うだろうが、洞窟のような風景は十階層までで、そこから下の階層に降りると迷宮内部の風景は大きく変わる。常に霧が出ている草原もあれば、密林や火山地帯もあり、その広さはとても地下の空間とは思えないくらいに広大であった。

 

 そして迷宮の四十九階層の風景は「荒野」。どこまでも続いていそうな草木一本もない不毛の荒野で、そこでは二つの集団が戦いを行っていた。

 

 二つの集団のうちの一つは「フォモール」と呼ばれる頭が山羊で体が人間のモンスターの群れ。

 

 もう一つは武装した冒険者の集団で、彼らの後方に掲げられている旗には、「ロキ」と書かれたカードを背にした道化師(トリックスター)の紋章が印されていた。

 

 フォモールの大群と戦っているのは、オラリオの二大派閥の一つであるロキ・ファミリアの冒険者達で、彼らは「未到達領域」と呼ばれる迷宮の五十九階層を目指して遠征をしている最中にフォモールの大群と出会して戦闘に入ったのだった。

 

 ロキ・ファミリアの冒険者達は流石二大派閥の精鋭と言うべきか、フォモールの大群を前にしても慌てることなく速やかに隊列を組むと応戦した。全身を鎧で固めて縦を装備した前衛がフォモール達の突撃を食い止め、その背後で後衛の冒険者達が弓矢と魔法を放って敵の数を削っていく。……しかし。

 

(これは不味いかもしれないな……)

 

 フォモールの勢いは予想以上に激しく前衛が徐々に押されていき、後衛で魔法部隊を率いているロキ・ファミリアの幹部にして「九魔姫(ナインヘル)」の二つ名を持つLv6の冒険者リヴェリア・リヨス・アールヴは、その様子を見て呪文の詠唱を唱えながら内心で呟いた。

 

 リヴェリアも彼女の回りにいる魔法使いのエルフ達も、呪文の詠唱を唱えているが詠唱の完了にはまだ時間が必要としている。このままでは詠唱が完了するより先に、フォモール達が自分達のところに攻め込んでくるとリヴェリア達に焦りが生じたその時、戦場に一人の男が現れた。

 

 

「フレイムバースト」

 

 

 戦場に現れた男がそう小さく呟いた次の瞬間、上空から無数の火の玉が雨のようにフォモールの群れの上に降り注いだ。火の玉はフォモールを次々と吹き飛ばし、燃やし、砕き、ロキ・ファミリアの冒険者達は先程まで戦っていたフォモールの群れが突然の炎の雨によって灰にされていくのを見ることしか出来ずにいた。

 

 そして数秒後。ようやく火の玉の雨が止むと、そこにはフォモールの姿はただの一匹もおらず、あるのはいくつもの大穴が見える焼き焦げた荒野だけであった。

 

「……あれは」

 

 ロキ・ファミリアの冒険者達は最初、一体何が起こったのか分からず呆然としていたが一人の少女、「剣姫」の異名を持つLv5の冒険者アイズ・ヴァレンシュタインは一人の男がこちらに近づいてくるのに気づいた。その男は背中に大きなリュックを背負った、フード付きのローブ姿の魔法使いらしい格好をしており、恐らくは先程の無数の火の玉は彼の仕業なのだろう。

 

 アイズはその魔法使いらしい男のことを知っていた。いや、アイズだけでなくオラリオの冒険者で彼のことを知らない者はいない。

 

 何故ならば彼こそがアイズが目指して未だに至れないでいる高みにいるオラリオで最高位(Lv7)の冒険者なのだから。

 

「『炎王(ムスペル)』ドム」

 

 アイズは自分達の前に現れた魔法使いの冒険者の名前を呟いた。

 

 

 

 

 

 最近の俺は少し機嫌が悪い。何故かと言うとつい先日、主神であるフレイヤ様から一ヶ月程弟と接触してはならないという理不尽な命令を受けたからだ。

 

 最初そんな命令なんか無視して、弟と弟に恩恵を授けてくれた神様に、フレイヤ様が弟の貞操を狙っていることを忠告しようと思ったのだが……よく考えた後に結局俺はフレイヤ様の命令に従うことに決めた。

 

 俺が弟の神様にフレイヤ様の情報を渡した場合、よっぽど薄情な神様でない限り弟を守ってくれるだろう。しかしそうなるとフレイヤ様は、その神様の守護を更に上回る苛烈な強攻策に出るのは間違いない。

 

 気に入った男が関わったフレイヤ様は限度というものを知らない。最悪、弟を手に入れるためにオラリオ中のファミリア全てを敵に回すような事をしても俺は驚かないぞ。

 

 それだったら当面はフレイヤ様の命令に従ったフリをして陰ながら弟を見守った方が、弟とその神様とオラリオの為になるだろう。……ふがいない兄を許してくれ、弟よ。

 

 とにかくそんな訳で弟に会えなくて不機嫌な俺は、迷宮に挑むことにした。イライラした時は迷宮に行くのに限る。

 

 俺は迷宮が大好きだ。迷宮の中でモンスターと戦い、冒険者としての自分の力を確認して、そしてそれを高めていくのがたまらなく好きだ。

 

 最初こそはゲーム感覚で挑んでいた俺だったが、これまでに何度も痛い目に遭ったり時には死にそうになったこともあったので、今では迷宮への挑戦がゲームではなく命懸けの現実であることを充分承知している。それでも俺は冒険者として迷宮へ挑戦してまだ誰も知らない未知を探すことを止められないでいる。

 

 いつもだったら戦友にして恋人の、同じフレイヤ・ファミリアに所属している女性冒険者達数人と迷宮へ行くのだが、先日彼女達と迷宮へ行ったばかりなので今日はソロで挑戦することにした。

 

 そしてソロで迷宮にこもって早三日。気づけば俺は四十九階層まで辿り着いた。

 

 思ったより深く潜ったなとか、そういえばオッタルさんって昔ここまで一人だけのボッチ遠征をしたんだっけとか考えていると、四十九階層の荒野フォモールの大群と戦っている冒険者の集団を発見した。どうやら前衛の冒険者達がフォモールに押されているようだったので、魔法を使ってフォモールの大群を吹き飛ばすことに。

 

 少し話が変わるが、冒険者が神から与えられる恩恵には「スキル」と「アビリティ」といった、魔法とはまた別の特殊能力や持っている技能を高めてくれる力がある。そして俺は魔法の威力を高めてくれるアビリティを複数修得していて、更には詠唱無しで魔法を放てる頭に「レア」がつくスキルを修得している。

 

 詠唱無しで魔法を放てるレアスキル。まさに魔法使いなら垂涎モノのスキルだろう。フフン、このスキルを持っているのはオラリオでも俺だけなんだぜ?

 

 と、何処の誰に向けたか分からない自慢話を心の中にしていると、助太刀をした冒険者達が呆然とした顔で俺を見ていて、その中にいる金髪の美少女なんかは無表情だが強い視線を俺に向けていた……って、彼女って「剣姫」じゃない? というかあの冒険者達ってロキ・ファミリアじゃない?

 

 そういえば少し前にロキ・ファミリアが深層を目指して大規模の遠征隊を出したったって話を聞いた気が……。

 

 もしかして俺ってば、ロキ・ファミリアの邪魔をしちゃった?



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Lv7

『『……………』』

 

 ロキ・ファミリアの冒険者達は、自分達に助太刀してくれたのがフレイヤ・ファミリアに所属している冒険者のドムだと気づくと緊張した表情となった。

 

 ロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリアは敵対はしていないが、それでもダンジョン内では同じ獲物の取り合いから敵対していないファミリアの冒険者同士の戦いが起こる事は珍しいことではない。更に言えば先程まで自分達が苦戦していたフォモールの大群をたった一撃の魔法でまとめて吹き飛ばした事も、ロキ・ファミリアの冒険者達がドムに対して警戒する原因の一つとなっている。

 

 ドムとロキ・ファミリアの冒険者達がしばらくの間見つめ合う形になっていると、やがてロキ・ファミリアの陣営の奥から一人の少年らしき冒険者が現れた。

 

 冒険者の名前はフィンといい、ロキ・ファミリアの団長を務めている小人族(パルゥム)でLv6の冒険者で、外見こそは少年に見えるが実際の年齢は四十に達していた。

 

「やあ、ドム。こんな所で会うなんて奇遇だね」

 

「ええ、そうですね」

 

 他のロキ・ファミリアの冒険者達が緊張した顔をしている中、フィンはにこやかにドムに声をかける。そしてそれに彼も表情を変える事なく返事をして、その声音に敵意は全く感じられなかった。

 

「それでドム? 一体どうしてこんな所にいるんだい?」

 

「? 冒険者は迷宮を探求するものでしょう?」

 

 フィンの言葉にドムは一瞬何を言われたか分からないという表情を浮かべたが、背中に背負ったリュックを見せて答える。その冒険者としたは至極当たり前で、駆け引きや謀が感じられない返答に、心のどこかで「ドムがここに現れたのはフレイヤを初めとする他の神々の差し金では?」と考えていたフィンは苦笑を浮かべて肩をすくめる。

 

「そうだね。冒険者は迷宮を探求するものだよね。……とりあえずはお礼を言わせてほしい。ドム、君のお陰で僕達はそれほど被害を出さずにフォモールの群れを撃退できた」

 

「いえ、気にしないでください。俺の方こそフィンさん、ロキ・ファミリアの戦いに横槍を入れてすみませんでした」

 

 フィンとドムとの会話を聞いて、他のロキ・ファミリアの冒険者達もドムがこちらに敵意を持っていないことを理解して胸を撫で下ろす。そんな時、一人のロキ・ファミリアに所属している冒険者がドムに話しかけた。

 

「おい、種馬野郎。いつもの取り巻きの女達はいないのかよ?」

 

 ドムに声をかけたのは狼人(ウェアウルフ)族でLv5の冒険者であるベートで、種馬野郎というのは何人もの恋人がいてハーレムを作っているドムを呼ぶ時の呼び名であった。

 

「ベート」

 

「いいですよ、フィンさん。今日は俺一人だけだよ。それと彼女達は俺の取り巻きなんかじゃなくて、恋人達だ」

 

 乱暴な物言いのベートをフィンは止めようとするが、ドムは特に気にした様子も見せずにベートに答える。そんなドムの態度か言葉の内容のどこに苛立つ点があったのか分からないが、ベートは不機嫌そうな顔となって吐き捨てるように言う。

 

「ハッ! だったらさっさと地上に戻ってその恋人達と乳繰りあってろ! 俺達は遠征の途中なんだ。お前は邪魔だから早く消えやがれ」

 

「ベート! 言葉がすぎるぞ!」

 

 ベートの乱暴すぎる物言いに、彼と同じ所属であるロキ・ファミリアの冒険者達ですら顔をしかめ、フィンが先程よりも激しい口調で諌める。しかし言われた本人であるドムは相変わらず気分を害した様子もなく涼しい顔をしていた。

 

「……そうだね。確かにこれ以上ロキ・ファミリアの邪魔をするわけにもいかないな。フィンさん、お邪魔してすみませんでした。遠征、頑張ってください」

 

 ドムはフィンにそう言うと、あっさり背を向けて上層への階段がある方向へと向かっていった。その背中からはここまで来れたことへの未練など全くなく、むしろいつでもやって来れるという余裕が感じられて、ベートはドムの背中を忌々しげに睨み付けていた。

 

(まあ、ベートが苛立つのは無理もないか……。ここまで冒険者としての格の違いを見せつけられたらね)

 

 フィンはドムの背中を睨み付けているベートを横目で見ながら内心でため息を吐く。

 

(まさか、初めて『階層主』を倒してからたった一年で、単独でここまで来れるようになるなんて……。相変わらず凄い成長速度だよね、ドムは?)

 

 この迷宮には「階層主」と呼ばれる特定の階層のみに出現する特殊なモンスターが存在する。階層主はその名の通り、自分がいる階層を支配している強大なモンスターで、たった一匹で数十人の冒険者の集団を全滅させることもできる非常に危険な存在であった。

 

 そして今フィン達がいる四十九階層は「バロール」という階層主が出現することがあり、今から一年ほど前にここでロキ・ファミリアを初めとする複数のファミリアの冒険者達による合同パーティーでバロールの討伐戦が行われた。その合同パーティーの中には、当時Lv6になったばかりのドムも参加していた。

 

 魔法使いであるドムの役割は当然ながら後方からの魔法による砲撃。ドムと同じくバロールの討伐戦に参加していたフィンはそこで初めてドムの本気の、先程フォモールの大群を吹き飛ばしたのとは比較にもならない魔法を目にした。

 

 ドムが「詠唱してから」放った魔法はバロールの体の大半を焼き、様々な魔法や呪いの力を有する魔眼を潰し、バロールの戦う力のほとんどを失った。フィンやドムを初めとする冒険者達は最終的にバロールに勝利したが、この勝利に最も大きく貢献したのがドムの魔法であったのは誰から見ても明らかであった。

 

 この功績によりドムはLv6になったばかりだというのにLv7に昇格して、「炎王(ムスペル)」という二つ名を神々から与えられたのだ。

 

 それから一年経った今、ドムは一人でこの四十九階層に苦もなく辿り着くまでに成長していた。その成長ぶりを見て何も感じない冒険者はいないだろう。フィンの隣にいるベートは特にそうだ。

 

 ベートは言い方こそ悪いが強くなろうとする意思が人一倍強く、今もドムに乱暴な物言いをしたのだって彼が嫌いだからではなく、自分とドムの力の差に苛立っていたからであった。それを理解しているフィンは横目でベートを見てから視線をドムが消えていった方へ向け、心の中で呟く。

 

「あれがLv7、オラリオで最高位の冒険者か。遠いな……」

 

 フィンもオラリオで数人しかいないLv6の冒険者として今まで活躍してきた自覚も誇りもあるが、それでも一年前の出来事と今日一人で四十九階層まで到達したという実績から、自分達とドムに大きな差がある事を思い知らされて思わず呟くのだった。

 

 

 

 

 

 思わずロキ・ファミリアに助太刀をしたが、それはやっぱり余計なお世話だったようだ。フィンさんは感謝の言葉を言ってくれたけど、ロキ・ファミリアの幹部であるベート君は不満を隠す事なく文句を言ってきて、恐らくは彼の言葉がロキ・ファミリアの本音なのだろう。

 

 とりあえず今日のところはベート君の言う通りダンジョンを出ることにした。これ以上ロキ・ファミリアの邪魔をしたら彼らと戦う事になるかもしれないからね。

 

 オラリオの二大派閥であるフレイヤ・ファミリアとロキ・ファミリア。この二つはいつか雌雄を決するべくぶつかり合うかもしれないが、それを決めるのは互いの主神であるフレイヤ様と神ロキで、俺の独断で戦争の口実を作るわけにはいかない。

 

 ……まあ、フレイヤ様だったらもし戦争の口実を作ったとしても、それはそれで面白いと笑ってすませてくれそうだけど。

 

 それにしてもベート君ってば、もう少し言い方を優しくできないのかな? いくらなんでも乳繰りあうだなんて、せめてデートって言ってほしいのだけど。……でもデートか。それもいいかもしれないな?

 

 考えてみればここのところ彼女達とは一緒に迷宮に行くだけだったし、ここら辺でデートに行くのもいいかもしれない。幸い、四十九階層に行くまでにモンスターから大量の魔石やドロップアイテムを手に入れることができたから、これを売り払えば皆とちょっと豪華なデートができるだろう。

 

 そうと決まると俺は急ぎ上層を目指し、四十九階層に来た時よりも短い日数で迷宮を出ることができた。そして俺は迷宮を出てすぐに魔石とドロップアイテムを換金すると、フレイヤ・ファミリアのホームに戻り恋人達の元に向おうと思ったのだが……。

 

「ドム。単独で四十九階層まで到達できたそうだな。どれだけ力をつけたのか確認してやる」

 

 と、ホームの入り口で待ち構えていたオッタルさんに捕まり、そのまま模擬戦をすることに。

 

 いや、ちょっと待って? 俺が望んでいるのは恋人達との出会いやデートであって、オッタルさんのような武人からの模擬戦のお誘いはノーサンキューなんですけど?



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