織斑一夏は理解できない (五番目)
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織斑一夏は理解できない

辺り一面に血と肉だけの光景に何も感じなくなってから、一体どれだけの時間が経ったのだろうか。

 

織斑一夏は、目の前の肉が篠ノ之箒と呼ばれていることを知らない。

 

何故なら、一夏は言葉が理解できないからだ。

 

肉が囀ずるのは只ひたすらに雑音であり、一夏にはその雑音が日本語であるなど理解できるわけもなかった。

 

山田摩耶と呼ばれる眼鏡を掛けた可愛らしく胸の大きい女性が何を言っても一夏は理解できない。

 

当然ウネウネと動き、触手が宙を舞い、粘液を至るところに飛ばす肉の塊が女性であるなど一夏には理解できていない。

 

一夏は生まれたときから、血と肉しかない世界を生きていた訳ではなかった。幼い頃は一緒に箒と剣道をしていたと、記憶している。

 

幼い頃は正常だったのだ。

 

何もかも、普通であった。

 

しかし、今は血と肉の地獄絵図が広がり、今では全てが赤い。

 

一夏がIS学園と呼ばれる場所に所属している事を理解していない。

 

何故なら、一夏は文字が読めないからだ。

 

机らしき物に本が置いてあるが、一夏はそれを教科書と理解できない。

 

目の前の粘液がこびり着いている本の中身を開いて

も、そこに書かれているのは日本語でなく、英語でもない。

 

まるで、ミミズがのたうち回っているような落書きを文字であると、一夏には理解できなかった。

 

肉の塊が直立をして何事かを囀ずりながら激しく自己を主張している有様を見て、一夏は何故興奮しているのか理解できていない。

 

その肉の塊が人間で言うセシリア・オルコットと呼ばれており、国家代表候補生であると主張し、一夏を挑発しているなど、言葉が理解できない一夏には何とも思わず、只、じっと見ていた。

 

一夏は何か黒っぽく四角い何かを持ちながら囀ずる肉の塊が自分自身の姉である織斑千冬であることなど理解できていない。

 

一夏にとって動き回る肉が人間であることなどどうでもよかった。ましてや、女性である事など些細な問題でしかなかった。

 

何を見ても、何を聞いても、何を味わっても、全てがどうでもよく、人生の楽しみなど見つけられる訳がなかった。

 

故に一夏は理解できない。

 

自身が世界初の男性IS搭乗者であること。

 

千冬が一夏を守る為、IS学園に在籍させたこと。

 

テロ組織に狙われていること。

 

一夏が他の人間と違うことに天才科学者に興味を持たれたこと。

 

大勢の人間が、一夏の見えている世界が違っており、一夏が自分以外の人間は既に絶滅しており、全員宇宙人だと思い込んでる事など。

 

理解できるわけがないのだ。



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織斑千冬は理解できない

千冬は一夏の見ている世界が理解できない。

 

いつの間にか、一夏は話すことを止めた。

 

篠ノ之家の道場で箒と一夏は仲が良く、一緒に剣道をしていたのだ。

 

忙しかったと言い訳して、姉として接する機会を捨ててしまったと後悔しても、もう戻らないのだ。

 

一夏が小学生の時の話である。

 

千冬は一夏と一緒に過ごす時間が少ないから、自分から心を閉ざしたと理解した気になった。

 

千冬は一夏の考えていることが理解できなくなった。

 

言葉を発しない一夏を見て何か心に傷を追ってしまったのだと思い込む。

 

故に、千冬はもっと一夏と過ごす時間を増やそうと試行錯誤する。

 

例えば、二人でテレビを見ていたとき。

 

ふと、隣の一夏を見るとじっとテレビを見ているのだ。

 

一瞬たりとも隣の千冬に視線を向ける事がない。

 

それほどまでに、この番組が、ひいては映っている芸人が面白くて瞬きをする暇がないからだと、千冬は勘違いをする。

 

普段から感情を表に出すことをしない一夏が、これほどまでに見ているのは、きっと気に入ったからだと、考え始める。

 

だから、千冬は勘違いをし続ける。

 

今までこういった姉弟の時間が取れなかったから駄目だったのだと。

 

更に、千冬は一夏と二人で出掛けたとき、一夏の足取りは普通で、前を見てちゃんと歩いている。

 

これを見た千冬は、一夏は病気でも何でもない、只、気難しいだけなんだと思った。

 

コミュニケーションの時間が取れないが故に起こった、すれ違いでしかなく、姉である千冬はちゃんと弟の一夏のことを理解してあげられるなだと、

 

そんな的外れなことを千冬が考えていると、一夏がファーストフード店を見つめていた。

 

強い興味を示していて、折角だからと一夏にハンバーガーを買ってあげた。

 

一夏はじっと見たあと、ゆっくりと食べ始める。

 

決して美味しそうにはしないが、内心では喜んでいると思い込んでいる千冬は満足した。

 

漸く、姉弟の時間が取れたと。

 

何も理解していない千冬は一夏を見て微笑む。

 

ソースの付いた頬をナプキンで拭い、ハンバーガーと一緒に買ったジュース飲ませるなど甲斐甲斐しく世話を焼く。

 

もっとこういった姉弟の時間をつくろうと決意を新にするが、千冬は一夏を理解していない。

 

どれだけ世話を焼こうとも、どれだけ姉弟の時間をつくろうとも、どれだけ一夏と過ごそうとも、千冬は一夏を理解していない。

 

日が暮れて、食材を買い、家に帰って晩御飯の準備を一夏がする。

 

以前は、千冬のことを甲斐甲斐しく世話をしていた一夏だが、今は感情の見えない顔で、しかし手元は料理の行程を着実に終わらせていく。

 

出来上がった品を見ても、いつも通りの一夏である。

 

一口食べてみると千冬は違和感を覚える。

 

味付けが以前と違う気がすると。

 

この違和感を覚えることは初めてのことではなかった。

 

今のように無口になる前と後では味付けが違うのだが、千冬は特に気に止めなかった。

 

一夏が作った料理はどれも美味しいもので、味付けが以前と違うのも、そういった気分なのだろうと、先ほどの違和感を忘れて料理に集中していく。

 

どんな気持ちで、料理を作っていたのかを千冬は一夏のことを欠片も理解できていなかった。

 

 



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織斑千冬が理解できるわけがない

一夏が誘拐された。

 

第2回IS世界大会にて出場している最中に一夏が誘拐されたことを知ったとき、頭の中が真っ白になりかけた千冬だったが、一夏を助けなくてはと大会を棄権して一夏の

下に行く。

 

一夏が不安で心細く、恐怖のあまりパニックになっていないだろうかと千冬は最悪の状況を想像するも、とにかく急いで助けに行く。

 

現場にたどり着いたとき、そこには血の海に沈む一夏の姿だった。

 

一夏と、呼び掛けるも意識がない為、千冬の呼び掛けに何の反応もしない。

 

一夏が身体中を真っ赤に染まっているのを見て動揺をしている千冬だったが、一夏のことを観察しているとあることに気づく。

 

一夏の身体を染めている血液は一夏のものではないと。

 

最初に気づいたのは外傷が全くないことだった。

 

派手に血を浴びているが、特に何の外傷もなく血を浴びただけだと、気づいたとき千冬はほっと息を吐く。

 

しかし、疑問に思うことがある。

 

一夏を誘拐した人物が見当たらないことだった。

 

辺りを見回しても、何処かに移動した、または隠れたという痕跡がないのだ。

 

何かを見落としていると千冬は感じたため、ISのハイパーセンサーで周囲の痕跡を探してみるも、やはり痕跡は見当たらない。

 

あまりにもおかしい。

 

何故なら、先にこの現場に来た筈のドイツ軍が見当たらないのだ。

 

争った痕跡がないのだ。

 

ふと、千冬は直感的に感じる。

 

ここにいるのはまずい。

 

嫌な予感がしたため、千冬は一夏を抱えてその場を立ち去る。

 

その場には大量の血溜まりが残っている。

 

千冬はやはり理解することを恐れた。

 

その血溜まりを作ったのは誰かを。

 

高校受験のとき、一夏がどの高校を受験するかを聞いても、やはり答えは返ってこない。

 

こういった一方通行のやり取りが日常化して久しいが、千冬は一夏の意思を尊重する考えだ。

 

しかし、千冬は尊重すると考えつつも、この状態の一夏を独りにしたくないとも考えてしまう。

 

故に千冬は行動する。

 

以前、束と会話したときの話である。

 

束は言っていた。

 

一夏は何処か世界中にいる有象無象と違う、と。

 

千冬は束がまたふざけただけだと、思った。

 

しかし、妙に印象に残っているのだ。

 

あの束が珍しく真面目に、本気で言っていたのだ。

 

もしかしたら、という話をしていたのを思い出す千冬は、一夏をIS学園に誘導するよう、束に協力を申し出た。

 

束は快く受け入れてくれた。

 

しかし、千冬は気づかない。

 

そうなるように誘導したのは束自身であること

 

誘拐されたのも束が一夏の本質を見極める為に、わざと亡国機業に情報を流し焚き付けたこと。

 

自分計画通りにことが進んでいるのを満足げに微笑んでいることを。

 

故に千冬は理解できない。

 

一夏の本質、束の思惑など千冬が理解できるわけがないのだ。



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篠ノ之箒は理解しようとしない

幼い頃に一夏という男の子と一緒に剣道をしたことがある。

 

箒は幼い頃にいじめを受けていたことがある。

 

そんなに深刻でないが、男女と言われ囃し立てられていた。

 

そこで箒を庇ったのだ。

 

幼い箒はいじめを止めた一夏に好意を持ったのだ。

 

箒の一夏に対する好意は、世界初の男性IS搭乗者として発表されても、箒と同じIS学園で久し振りに再開しても消えることのない感情を持ち続けている。

 

自己紹介のとき、山田川先生が自己紹介をするようにと一夏に催促をするも、一夏は山田先生の顔を見ているものの一言も発しない。

 

山田先生はどうすればいいのかと思い詰めるも、一夏がスッと立ち上がり、私たちの方に向くとお辞儀をしてそのまま座ってしまった。

 

山田先生は苦笑いをしながらも、気を取り直して次の人に自己紹介をするように指示をする。

 

途中で織斑先生が入ってきて教室が騒がしくなったものの、織斑先生は一夏を一瞥し、途切れてしまった自己紹介の続きをするように言った。

 

休み時間に入り、箒は一夏の席に近づく。

 

箒は久し振りの再開として言葉を交わそうとするも、返事が返ってこないことに苛立ちを感じる。

 

一夏の返事を聞かずに無理矢理連れてきてしまったことに、申し訳なさを感じる前に一言声を掛けるも返事は返ってこない。

 

何故無視をするのかと問い詰めるも相変わらず返事は返ってこない。

 

ふざけているのかと、再び問い詰めようとするも休み時間が終わってしまうことに気付き、教室に戻っていった。

 

箒はこの学校で再開した一夏が自分が知っている一夏と別人のように感じられた。

 

セシリアに挑発されても何も返さずに、じっとセシリアを見ていたのだ。

 

以前の一夏なら言い返す筈なのに、この一夏は言われるがままだった。

 

どういうつもりなのだろう、と思いつつも箒は一夏に好意を抱いているがゆえに、何故言い返さなかったのかと再度苛立ちを感じる。

 

シャワーに入りさっぱりした箒は、自分の寮の部屋に入ってくる人物の気配を感じたため、挨拶をしようと相手の顔を確認すると箒は驚きで髪を拭く手を止めてしまった。

 

部屋に入ってきたのは一夏だった。

 

何故、という疑問やどうしてノックをしないのかという僅かな苛立ち、羞恥からくる衝動を抑えずに箒は竹刀を持って一夏に暴力を振るう。

 

対する一夏は箒が振るおうとする竹刀を見て、攻撃をされると思っての行動により避けようとするも反応が僅だが避けきれなかった。

 

両腕で頭や顔を防御するも、竹刀で叩かれる

 

箒は一瞬、ふと我に返るも、覗きをした一夏が悪いと決める。

 

竹刀で暴力を振るわれるのも、一夏が悪いのだと決める。

 

一夏は竹刀で叩かれると、箒を一瞥し部屋から立ち去った。

 

竹刀で叩いた後、箒は冷静になれた。

 

しかし、私は悪くない、と言い訳を心の中でする。

 

悪いのは一夏の方だと決める。

 

だから箒は理解しようとしない。

 

一夏に好意を持ちつつも自分の気持ちに素直になれず暴力を振るった結果、一夏が今後どういった行動を箒に対してするのか。

 

暴力を振るわれた一夏がどんな気持ちでいたのか。

 

箒は全くと言っていいほど一夏のことを理解しようとしない。



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セシリア・オルコットが理解する訳がない

セシリアは怒りを覚えた。

 

どういうつもりなのかと、直接一夏という極東の猿に問い詰めたくなる。

 

セシリアは男でありIS搭乗者である一夏に敵意を抱かずにはいられなかった。

 

故にセシリアは、男であり極東の猿に国家代表候補生である自身の話を全く聞いておらず、あまつさえ返事すら返さない一夏の態度に腹を立てる。

 

あのブリュンヒルデの弟がこのような猿などと、セシリアにとってはあり得ないことだった。

 

本来、セシリアはプライドの高い性格だった。

 

自身の父親が弱い男であったことが災いしてしまい、男はISを使うことができない弱者であると認識する。

 

だからこそ、怒りが収まらないのだ。

 

ISとは女性しか使うことが許されない。

 

更に、女性の中でも選ばれた人間のみ使うことを許されるのだ。

 

それを男が使うなど、何の冗談なのか。

 

男であっても、あのブリュンヒルデの弟ならばと思ってみればこれなのだ。

 

私は国家代表候補生であると一夏に主張するも、一夏は悉くそのセシリアの怒号を涼しい顔で無視をする。

 

一夏の態度に男であり、本来はISを使うことのできない弱者のくせに、無視をするなど許されることではない。

 

どれだけ、汚く言葉を尽くしても一夏は何も言わずじっとセシリアを見ていた。

 

怒りのあまり、セシリアは日本語ではなくイギリス英語で一夏をなじるものの、一夏は何も言わなかった。

 

放課後になってもその怒りが収まらないセシリアだったが、授業中に決定されたクラス代表のことに対してあることを思い付く。

 

クラス代表を決めるとき、あの猿の名前が挙がったのは遺憾だった。

 

クラス代表に選ばれるのは国家代表候補生でもある私ではないのか、と傲慢にもセシリアは自身が選ばれた存在であると認識している。

 

エリートであり将来を約束された身でもある私こそがなるべきなのであると、セシリアは驕り高ぶる。

 

なので、セシリアは一夏に対して、クラス代表を決めるISを使った模擬戦にて立場というものを私直々に理解させてやると考えたのだ。

 

弱者である男は選ばれた存在である私にただ守られていれば良いのだ。

 

あの父親のように弱者であればよいのだ、とセシリアは男よりも上位の存在である自身が同じ学校に在籍することが我慢ならなかった。

 

さらに、セシリアは男性である一夏がただISに搭乗できるだけで、IS学園に入学できたその幸運さに何故感謝しないのかと理解できなかった。

 

このIS学園の倍率がどれ程のものかをあの猿はわかっているかなど、あの態度を見れば一目瞭然だった。

 

対した努力もしていないあの猿がこのIS学園に入学するなど、人よりも努力して国家代表候補生に選ばれた私よりも当然下だと考えるセシリアだった。

 

故にセシリアは姉であるブリュンヒルデの伝手を使って入学したその事実を認めたくないものとして、一夏を自身の手で倒すと決意する。

 

だから、セシリアは肝心なところを理解していない。

 

プライドが高いセシリアが自身よりも下である男を理解する訳がないのだ。



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織斑一夏は理解できずに服従する

一夏は子供の頃から周囲の子供と違っていた。

 

家事ができない千冬の代わりに一夏が料理、洗濯、掃除などをしていた。

 

顔も覚えていない親が居なくなってから千冬と二人で生活をしていた。

 

何故、自分たちだけ親が居ないのかと千冬に聞いたことがある。

 

幼い一夏は千冬の話を聞いてもちゃんと理解できていなかったが、千冬の話す雰囲気でなんとなく察した。

 

幼い頃から一夏は自分の家庭が普通ではないと分かっていた。

 

忙しくしていた千冬の代わりに家事をやりだしたのは、支えたかったからだ。

 

幸せだったのだ。

 

千冬と二人で生活をし、学校に通い、箒と剣道をする日々が楽しかったのだ。

 

しかし、一夏の幸せな生活は無くなったのだ。

 

ある日を境に人が居なくなり宇宙人が世界を支配した。

 

千冬と一緒に見た映画みたいだと思った。

 

一夏は窓から肉の塊が街中を歩いているのを見て夢だと思った。

 

しかし、どれ程の時間が経っても夢は覚めない。

 

いつも食べていた筈のものがよく分からないものとなり、食感はべちゃべちゃ、ブニブニとしていて自分が何を食べているのか分からない。

 

一夏と千冬が住んでいた家はドロドロとした粘液や内臓のようなもで溢れていたものの、かろうじて原形は残っていた。

 

幸いにも家の間取りは変わっていなかったので、どこがどの部屋、どこに何があるかぐらいは把握できた。

 

自分の部屋もあったが、服等のいつも使っていた物は正常に見える。

 

しかし、机だったものの上にミミズの落書きが書かれているものがあった。

 

一夏は全く読めない。

 

それでも、一番理解できないのが一夏と一緒に住んでいる宇宙人だ。

 

触手が蠢き粘液をあちらこちらに跳ばして、何事かを呟いている。

 

千冬はどこに行ってしまったのか。

 

もしかしたら、目の前の宇宙人に食べられてしまったのかと思った。

 

しかし、仮にそうなってしまっても幼い一夏には何もすることができない。

 

一夏は目の前の宇宙人に命を握られている故に思った。

 

この宇宙人の気分次第でどうにでもなることを理解した一夏は目の前の宇宙人の奴隷になることを決めた。

 

その内外へ出なくなった一夏は、空腹のため冷蔵庫らしきものを開けてみることにした。

 

そこには色々な肉片のようなものだったり、おかしな色の液体が入った容器があった。

 

この瞬間一夏は思い付く。

 

目の前の宇宙人に抵抗すればどうなるかなど考えたくない。

 

宇宙人が触手を振れば、その触手で殺されると思った一夏は精一杯の媚を目の前の宇宙人に売ることにした。

 

そうすれば、少なくとも殺されることはないかもしれないと幼い一夏が考えた必死の作戦だった。

 

何よりも一夏は目の前の宇宙人から生き残るのに必死すぎたのだ。

 

文字や言葉を理解できれば宇宙人は一夏を殺さないかもしれないと思った。

 

なんとしてでも、目の前の宇宙人に気に入られようとする。

 

一夏は文字を覚えようとする。

 

しかし、覚えられなかった。

 

自分で書いても、その文字が理解できないのだ。

 

幼い一夏はそれが意味のない行為だと知り早々に諦めてしまった。

 

宇宙人と会話などできないと諦めた一夏は、言葉を発することをしなくなった。

 

しかし、料理や掃除、洗濯をすれば気に入られるかもしれない。

 

故に覚えようとする。

 

食材は宇宙人が持ってくる。

 

食材だった物は肉片のようなものにしか見えないためにそれぞれの違いを覚えようとする。

 

料理は、何を食べても血の味しかしないものを必死で覚える。

 

同じ肉でも僅だが味が違っていたのだ。

 

とはいえ、塩味が強い、少し酸っぱい等の違いだが、自身を飼っている宇宙人に美味しいものを作らなければ殺されると思ったのだ。

 

実際に作ってみると宇宙人は一夏を褒めるように触手で頭を撫でる。

 

掃除や洗濯に関しても同じく必死で覚える。

 

毎日宇宙人の体から肉片がポロリと落ちるのだ。

 

その肉片を洗濯することを覚えたのは、洗濯して干していた場所から肉片を自身の体に着けていたのだ。

 

彼ら宇宙人は脱皮や抜け毛をして、綺麗にした後、もう一度自身の体に着ける習性があるのだ。

 

それを洗濯機があった場所に、宇宙人の体から落ちた肉片を入れて洗剤があった場所から、洗剤らしきものを入れて洗い干す。

 

部屋中が臓器のようなものと血と粘液で足の踏み場がなくなってしまうときがあるのだ。

 

それを気に入られるために綺麗にしてみると宇宙人が一夏を触手で頭を撫でるのだ。

 

これが正解なんだと思い、以降し続けている。

 

一夏は自身の有用性を知らず知らずのうちに宇宙人に言葉でなく行動で示していた。

 

これを一夏がIS学園に入学するまで続けていた。

 

すべての宇宙人は皆同じ姿をして歩き、よく分からないが動く肉の塊に乗って移動している。

 

1体で、あるいは羽根つきの速く動くやつに2体と人数はそれぞれ違うがどこかに向かっている。

 

人間のように触手と触手を繋ぎ歩いている。

 

大きな宇宙人と小さな宇宙人、大きな宇宙人同士といった組み合わせで。

 

以前と違うのが人間以外にも犬や猫を見かけないのだ。

 

ときどき、一夏よりも小さい宇宙人が歩いている。

 

その小さい宇宙人から何か細長いものが伸びていて大きな宇宙人が触手で握っているのを見かける。

 

一夏はそれを大きな宇宙人のペットだと理解する。

 

自身にもあれを付けないのは何故だろうと疑問に思うが、飼っている宇宙人が付けないのだからいいかと頭の中から疑問をなくした。

 

ある日一夏は宇宙人に連れていかれた。

 

自分と同じ大きさの宇宙人がたくさんいるのだ。

 

思考が止まっている一夏はここに居ればいいと思うことにした。

 

ただ一夏を飼う宇宙人に可愛がれればそれでいいと思った。

 

こうして、いつも間にかいつも通りの日常として一夏は生きていく。

 

生き残りあわよくば、生き残っているかもしれない千冬を探すために、ひとまず宇宙人の奴隷として生きていくことを決めた。



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織斑一夏は理解できないまま食べ続ける

20時半頃に誤って最新話を投稿してしまいました。

誠に申し訳ないことに一筆途中であり、本作を読んでいらっしゃる皆様にご迷惑をおかけしてしまいますが、引き続き最新話をお楽しみ下さい。




いつ頃からか、自身よりも小さい宇宙人が隣で座っているのを記憶している。

 

自身と同じ大きさの宇宙人が集まる場所に周りの宇宙人よりも小さいあいつに懐かれた。

 

宇宙人に名前があるのか分からなかったが懐かれるのは不思議と悪い気はしなかった。

 

初めはそいつを2体もしくは3体の宇宙人が囲って何かを言っている。

 

何をやっているのかを見ていると囲っていた宇宙人どこかに行き、小さい宇宙人は一夏の所に来た。

 

どういうことなのか理解できていない一夏であった。

 

そいつに手を触手で繋がれ、ある場所に連れていかれた。

 

場所は定食屋のような所で、形容し難い匂いが漂ってくる。

 

そいつは一夏をカウンター席に案内をする。

 

座っていると皿の上に何かが盛り付けてある。

 

匂いも相当なものであり、食べろと言われているのは理解できた。

 

恐る恐る食べてみると不味くはなかった。

 

自身を飼う宇宙人にまたしても連れて来られた。

 

昔テレビで見た球技場のような建物で周りは宇宙人だらけで、怖かったがこちから何もしなければ何もしてこないと分かっているためじっとしている。

 

幾らかの時間が経った頃、いきなり眠くなり一夏はその衝動に抗えず眠った。

 

起きたとき周囲が薄暗いため、どこにいるのか分からなかったが宇宙人が発する耳障りで特徴的な音が聞こえた。

 

体は何かで縛られて自由がきかない。

 

どうやら目隠しをされていたようで、明るくなった視界で周囲を見渡すといつもの見慣れた宇宙人が複数でいる。

 

これは千冬と一緒に住んでいた頃にテレビで見た誘拐というものなのだろうか。

 

危機感が薄れてしまった一夏はテレビで見た光景を体験していることに高揚感が湧いてくる。

 

しかし、そのワクワクとした感覚は痛みにより途切れる。

 

何を宇宙人がしたのか理解できない一夏はそのまま深い眠りにつく。

 

亡国機業というテロ組織に所属している女は疑問に思っていた。

 

こんなガキが本当に持っているのかどうかを。

 

上から流れてきた情報によると例のアレはこのガキが持っているらしい。

 

その情報を流した人物は信頼できるらしいが甚だ疑問である。

 

疑わしいが実行したのはやはり、このガキが織斑千冬の弟だからだろう。

 

何よりもあの織斑の子供であることもあり、上は信じきっていた。

 

なんの変哲もないガキが本当に持っているかどうか疑問に残るが、上がやると言った以上やるしかないのだ。

 

上によるとここに来るまでに第一段階は既に終了しているらしい。

 

続いて第二段階はこの痛みによる覚醒。

 

設定したやつは趣味が悪い。

 

覚醒の予定時刻までに時間があるため一服でもするかと一緒にいたテロ組織の仲間にタバコをねだる。

 

タバコを受け取ろうとした瞬間、女は自身の体が何者かに捕食されたことに気づくこともなく死んだ。

 

眠気から覚めたとき一夏はどこかに寝かせられていた。

 

とても美味しいものを食べている夢を見ていた気がしたのだ。

 

今まで食べたことがないような、とても美味しいものだったと一夏は朧気ながらも覚えていた。

 

特にあの飴玉のようなものだ。

 

ジャリジャリしていて歯応えが抜群だったのだ。

 

なんとも言えない美味しさで複雑な味だった。

 

途中で誰かから話し声が聞こえたが美味しさに夢中だった一夏は気にも止めない。

 

また、食べたいと一夏は思った。

 

この時、既に第二段階は終了していた。

 

どこかで誰かが笑っていたが一夏にはどうでも良い話である。

 

それからIS学園に入学する一夏であったが、常に一夏が感じていることは空腹だった。

 

またあの飴玉が食べたい。

 

いつの間にか考えていることはそれだった。

 

周りにいる宇宙人でさえも美味しそうにみえるのは日頃の疲れから来るものなのだろうか。

 

ある場所、とある監視者の報告である。

 

あいつによると順調らしい。

 

育ち盛りだから一杯食べないと、と言っていたがまさにそうだよ。

 

ああ、早く育ってほしいな。

 

こちらも準備をしなくてはいけない。

 

既に第三段階に入ったから。

 

いっくんにとっておきのご馳走をプレゼントしなくちゃ。

 

そちらは順調かな?

 

そう、よし。

 

引き続き監視をして。

 

餌を流すのも程々に。

 

ある人物達の会話であったがこれが何をもたらすのか。

 

それが分かるのはまだ、先の話である。




どうでもいいことですがあらすじを変えました。


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篠ノ之束は織斑一夏が受胎したことを理解している

一夏は誘拐された経験がある。

 

自分を飼っている宇宙人であり、人間としての名前は千冬と呼ばれる人物に連れて来られた。

 

事実は違う。

 

束は一夏は特殊であることに気付いていた。

 

否、気付いていたのではなく最初から知っていたのだ。

 

話せなくなった一夏を家に置いてきた千冬は一夏の面倒を篠ノ之家に相談をした。

 

その時、自主的に束が面倒を見ると言ったのだ。

 

束なら任せられると、何も疑わずに預けた。

 

束は思った。

 

人類最強としての千冬は厄介だ。

 

しかし、既に千冬は出来上がっている。

 

だからこそ、束のことを一切疑わないのだ。

 

既に出来上がっている千冬の意識に介入することなど束にとって呼吸をすることと同じ程度に難しいことではない。

 

計画は順調であり、餌の手配も済んでいる。

 

ドイツ軍と亡国機業、それとISのコアには犠牲になってもらうとして、千冬がもし間に合ってしまった場合は束が千冬の意識を操ってしまえば終わりであり、多少の計画の変更もやむを得ない。

 

後は会場に送り、計画通りに誘拐されて終わりだ。

 

恐らく、血塗れの一夏を千冬は見つけるだろうが、それがとても良い状況なのである。

 

以降、IS学園にて隔離させてしまえば良い。

 

IS適正の話や一夏は特殊であるという話を千冬にすれば良い。

 

一夏が心配な千冬は必ずこの話に食い付く。

 

束はどれだけやり直しても変わらない千冬に呆れる。

 

その後の千冬の行動は一夏が孤立するように誘導する。

 

その他の餌も誘導してしまえば良い。

 

まだまだ、ストックは幾らでもあり、接触のタイミングはISに触れてからでも構わないだろう。

 

一夏が餌と接触しアレが目覚めたが、やはりまだ足りないか、と束は思った。

 

気長に待てば良い、いずれ一夏は完全に目覚めるのだ。

 

一夏が完全に目覚めれば余計なものも必要なくなり、アレも自動で作ってくれるのだ。

 

そうなれば計画も一気に進む。

 

束は今回はまだ順調であるものの、気を抜いてはいけないと思う。

 

自身を跳ばすのも楽ではなく、何よりも全てを初めからやってしまったら、また長い間は暇になってしまう。

 

一夏は順調に餌を取り込んでいる。

 

後は消化と生産が進んで行けば一夏の第一子が産まれる。

 

束の表情は楽しみで仕方ないといった風に顔を歪めている。

 

誘拐からしばらく時間が経過した頃、千冬が束に話を持ち掛けて来た。

 

案の定、IS学園に入学させる話だった。

 

束は心の中で笑い転げる。

 

ああ、やっぱり変わらないと心底束は千冬を可愛いく思う。

 

そして、一夏のIS学園入学は決まった。

 

次いでにおやつとして一夏の専用機となるISを作った。

 

そのISは自動で修復する機能が搭載されているため一夏のおやつの代わりにはちょうど良い。

 

コアの人格も一夏に食べられてさぞかし幸せだろう。

 

餌場に入れられた一夏は食い散らかすだろうが問題はない。

 

受胎している一夏の栄養になれると光栄に思うだろう。

 

餌に人権等必要ないのだ。



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織斑一夏は食い散らかしても理解できない

朝になったとき一夏は起床した。

 

昨夜、棒のようなもので襲って来た宇宙人から逃げて、狭い部屋に隠れていた。

 

現実ではそこは女子トイレの個室だったのだが一夏には関係ない。

 

しかし、起きたとき狭い部屋ではなく広々としてベッドある部屋だった。

 

一夏は見慣れた光景に気付かなかったが床に血痕が残っていた。

 

完全に乾ききっている。

 

昨日アレが食べた残飯だった。

 

食べてそのまま眠ってしまったのだ。

 

血痕の近くにはが棒のようなものが落ちていている。

 

アレが箒を食べていたことを一夏は知らない。

 

アレは昨夜食べた餌を思い出す。

 

部屋に入った瞬間一夏を棒のようなもので肉の塊が襲って来たのだ。

 

これは凶暴だと理解したアレはこのままでは殺される可能性を垣間見た。

 

故に、アレはこの殺されるかもしれない恐怖を消すべきだと思った。

 

一番殺せる可能性が高いのは夜になってからだと考えるが一夏はどこかに逃げている。

 

体の支配権は一夏にあるため、自分の意思では一夏が起きている間は自由に動けない。

 

一夏が眠っている間だけ行動できる。

 

アレは夜になってから食ってやる、と意気込む。

 

そして、人間としての名前は篠ノ之箒は食べられた。

 

箒は襲いかかってくる人物に気付けなかった。

 

アレは箒を食べる際にわずかに残った恐怖心から細心の注意を払うために以前取り込んだ複数のISからハイパーセンサー、更に、その複数のISから光学迷彩なるものも手に入れて使用し、油断なく餌を食べる。

 

以前、人間とISを食べたアレは箒を食べて美味しいと思ったが、やはりISの方が美味しいと思った。

 

意識もなく取り込まれた箒はアレの中に取り込まれ粒子変換される。

 

アレにとって重要なのは取り込んだデータや情報だ。

 

人間ならば、遺伝子、体重、身長、骨格、顔の形、趣味趣向、メガネを掛けていたかどうか等を含めた取り込んだ人物の情報。

 

ISならば、コアに蓄積された戦闘データ、武装、シールドエネルギー。

 

取り込み粒子変換されれば貯まっていき、いずれ貯まった情報をもとにアレが産む。

 

アレは一夏から独立して行動できないが故にもどかしさを感じる。

 

やはり、一夏が自分で食べてくれればこんなに空腹を我慢せず満足いくというのに、と不満げになる。

 

しかし、そう設計されているのだ。

 

自身でもどうにもならない。

 

時間は限られている訳ではないのだから待つしかない。

 

一夏が自分の意思で食べることを。

 

そして、一夏は理解できない。

 

幼い頃、一緒に剣道をしていた女の子を一夏の中にいる存在が食べてしまったこと。

 

宇宙人を無意識のうちに目で追っていること。

 

まだ理解できない。



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織斑一夏は食べて理解しなくても良くなる

箒がいた部屋にそのまま住むことになった一夏のもとに一体のISが届けられる。

 

一夏とアレにとってISとは人間よりも美味しいご馳走なのだ。

 

美味しそうなものの正体を理解できていない一夏はそのまま食べる。

 

衝動に突き動かされている一夏は白式を食べていると何者かの声が聞こえたがそのまま無視をする。

 

アレは久し振りに食べたご馳走にとても満足していた。

 

夢中になって食べていると宇宙人、いや、餌が一夏のもとに来た。

 

そのまま触手は一夏の手を取ってどこかに歩いていく。

 

クラス代表を決めるアリーナだった。

 

一夏を餌がそのままピットまで連れていく。

 

到着した一夏を餌が触手で行けと合図をする。

 

なんとなく動作で一夏はこのまま外に出れば良いのかと理解する。

 

すると立っていたのはセシリアだった。

 

試合前から一夏を挑発するセシリアだったが何の反応も示さない。

 

箒をアレが食べてから数日たったが一夏の食欲は収まらない。

 

どこを見ても美味しそうな餌しかない状況では一夏の思考は食べたいということしか考えられなかった。

 

少しずつアレが摘まみ食いしても餓えは収まらない。アレも我慢の限界だった。

 

もっと食べたいという欲を発散させるには一夏に自主的に食べてもらわなくてはいけない。

 

しかし、ちょうど良い餌が目の前にいる。

 

ブルー・ティアーズに搭乗したセシリアだ。

 

対してこちらは一夏が誘拐されたときにドイツ軍及び亡国機業の人間が搭載していたIS、学園内に存在する打鉄とラファール・リバイブを吸収し、アレが再構築した複合体、個体名イチカ。

 

見た目はIS、機械というよりも生物に近いものだった。

 

パスワードスーツではなくまるで人間がISになるという異常な姿でセシリアを見ている。

 

結果だけを言うなれば一夏の勝利に終わった。

 

戦闘中にブルー・ティアーズのコアを侵食しシールドエネルギーを吸収し続けたイチカに対してブルー・ティアーズに勝ち目はなかった。

 

更に、イチカはセシリアの攻撃を受けてもなんともないように攻撃を続けて、ハイパーセンサーですら捉えることができない。

 

ブルー・ティアーズのコアを侵食された瞬間からイチカを捕捉できない。

 

既にイチカの支配下にある。

 

イチカの姿を見失い続ける。

 

終盤、ISに搭載されているブルー・ティアーズのシールドバリアーをイチカは突き破った。

 

あり得ないことにそのままISの絶対防御を無効化してしまった。

 

セシリアは一夏が搭乗するISの攻撃により肉体に深刻なダメージを負う。

 

セシリアを突き刺したのはイチカの腕だった。

 

この試合中イチカは一度たりとも自身の拡張領域から武装を出していなかった。

 

背中まで貫かれたセシリアは一度口から大量の血を吐き、ぐったりとする。

 

イチカは腕を引き抜くと力の入っていないセシリアの体は地面に倒れる。

 

そのまま、一夏は勝利した事実に酔う。

 

勝利をした一夏は余韻に任せてセシリアの体をイチカの足で踏み潰す。

 

何度も踏み敗者を冒涜する。

 

気が済んだ一夏はセシリアの体をイチカの体で細かく千切ってイチカの口元に寄せる。

 

ISであるイチカの口元は、生物のように裂け歯がびっしりと生えているところにセシリアを入れていく。

 

何回かセシリアを食べていると口直しにブルー・ティアーズの出したままの武装、スターライトmkⅢを囓る。

 

口の中で細かくかみ砕き飲み込むとまたセシリアを食べる。

 

セシリアとブルー・ティアーズを食べ終わるとイチカと搭乗する一夏は雄叫びを上げる。

 

その光景を沢山のIS学園の生徒や教職員が見る。

 

特に慌てて避難する様子もなくじっと座る。

 

その光景を山田真耶も見ていた。

 

その瞳の奥で笑う。



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山田真耶は理解できていないふりをする

一夏がセシリアとブルー・ティアーズを食べてから数日が経過したことを山田真耶は確認した。

 

自身の仕事は織斑一夏の観察を命じられており、またその報告をすることである。

 

当然、IS学園の教職員としての仕事もあるが本命は別にある。

 

山田真耶の所属しているIS学園の教職員は表の顔であり、裏の顔とは日本政府が作った特別支援部隊の所属である。

 

真耶の他にも所属している人間は多数いる。

 

彼らの主な仕事は一夏に関することであり、情報操作、餌の確保、餌場の掃除、餌になること、各国別に計画の進行具合に関する報告をまとめる等幅広い。

 

IS学園にいる部隊の人間の数は教職員の織斑千冬を除いた全員であり、用務員及び学園長も部隊所属である。

 

真耶のような副担任及び千冬以外の担任の仕事は自身が受け持つ生徒の行動を制御すること。

 

また、真耶だけの仕事もある。

 

それは一夏の成長具合を政府に報告をすることである。

 

担任、副担任以外の教職員の仕事は政府から送られてくる薬を使って各クラスの生徒の味を調整、食べられた分の補充等。

 

既に教職員、生徒、訓練機含めて欠員が出ている。

 

対処をするべきなのだが、如何せんここに配属される人間の調整がそう簡単にいかないのが現状だ。

 

時間がかかるため教職員は畑で取れる訳ではない。

 

訓練機の方は食べ尽くしたらそれでおわりらしい。

 

全てのISコアを食べることが計画の進行に影響するらしいから、訓練機を食べ尽くした後は専用機を食べると聞く。

 

真耶は計画の全容を知っている訳ではない。

 

しかし、最終的にどうなるかは部隊の全員が聞かされている。

 

曰く、世界とひとつになる。

 

具体的な方法としては何も説明がないまま計画は進められている。

 

上が言うには計画は順調らしい。

 

末端の駒には回ってこない情報もあるが、真耶は特に不満に思うことはない。

 

そういう風に調整を受けているためだ。

 

食べられることに悦びの感情を湧かせるよう調整を受けた人間は、食べられたと同時にあり得ないほどの絶頂を迎える。

 

一部その事実を知った部隊の人間が一夏のもとに行き自慰をしながら食べられるということが流行っている。

 

その事に真耶は興味を示すものの仕事に打ち込む。

 

快楽は人を駄目にしてしまう麻薬のようなものだとはっきりと分かる。

 

真耶は体を食われ絶頂を迎えている声を聞いて自身も自慰をしたことがあった。

 

やってみたいと思うが、元々の真耶の性格は真面目であったのであと一歩が踏み出せない。

 

生徒の行動も制御することも教職員の仕事であるため、パニックにならないようにすることがやはり重要であった。

 

また、外に洩らすことも厳禁である。

 

しかし、上の指示によると情報の漏洩も気にしなくてもよくなるらしい。

 

それがいつになるかは分からないが、現状は外に洩れないように外面を良くすることも考えなければならない。

 

仕事が減ってくれれば今よりも楽ができるのだが、と真耶は思った。

 

そして、仕事が減り欠員も補充されたら私も自慰をして食べられたいと考える真耶だった。

 

こうして、真耶を含め千冬を除いたIS学園に所属している部隊の人間は水面下で動いていく。



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凰鈴音は理解できずに食べられることを嬉しく思う

一夏とは幼馴染みだ。

 

一夏は話したがらないものの日本人ではなく中国人である鈴と一緒に居てくれたのだ。

 

入学したてで日本語をあまり話せなくて、当時日本のある動物園で飼育されていたパンダの名前が似ているだけで、いじめを受けていた。

 

それを一夏が止めてくれたのだ。

 

嬉しかったのだ。

 

異国の学校に通い、いじめを止めてくれたことで鈴は救われたのだ。

 

それから家にも連れていった。

 

家が中華料理を提供する定食屋をやっていたから、一夏に救ってくれたお礼をしたいからと料理をする。

 

最初は母に事情を話した時、どうすれば良いのかと聞いたら鈴が料理を、その気になる男の子に振る舞ってやれば良いと言われた。

 

その時は気になると言われたことに反発をした。

 

しかし、今思えばその時は一夏のことを好きというよりも、確かに母の言う通り気になっていたのだろう。

 

反発をし、図星を付かれたのか顔を赤くしつつも母に料理を教わった。

 

一夏に酢豚を作ったとき失敗してしまった。

 

鈴は泣きながら自分が作った酢豚を捨てようとするものの一夏はそれを食べたのだ。

 

毎日同じ表情で変えなかった一夏が鈴の作った失敗作の酢豚を食べたとき、少しにこり、と笑ったのだ。

 

優しい表情になった一夏を見ていた鈴は、その表情を不思議とずっと見ていたいと思うようになった。

 

そして、気になっていた男の子から好きな人に変わっていった。

 

何も話さず、表情を変えず、いつも興味なさげに見ていた一夏は鈴と一緒に歩くときは背が低い鈴に一夏が歩幅を合わせようとするのだ。

 

鈴は嬉しく思った。

 

そんな好きな人だからこそ一緒に居たいと思うようになった。

 

両親が離婚し中国に帰ることになったとき、泣いたのを覚えている。

 

だから一夏に言った、私が作った酢豚を毎日食べてくれるか、と。

 

一夏は何も言わなかったが、泣きながら言った鈴の頭を撫でた。

 

鈴は中国に帰る飛行機の中で思った。

 

いつか必ず一夏に会いに行く。

 

数年後、鈴は中国で国家代表候補生として自身の才能を開花させていた。

 

鈴がISの飛行テストを行っていたとき、日本人の男性が世界で初めてISを動かしたというニュースが飛び込んできた。

 

その男性の名前は織斑一夏。

 

鈴はチャンスだと思った。

 

IS学園に転入し、1年2組に入った鈴は一夏と再開した。

 

一夏と鈴の会話は鈴が一方的に話すだけで終わってしまう。

 

鈴はあの頃のように一方的に話した。

 

一夏とクラス代表戦で戦い勝ったら私と付き合え、と。

 

そして、クラス代表戦で起こったのだ。

 

イチカの攻撃が鈴の体を貫いた。

 

一瞬何が起こったのか理解できない鈴は、イチカの口が開き自身の体を食われた痛みによるショックで気絶した。

 

鈴は気がつくとどこかに立っていた。

 

鈴は一夏の姿を見かけると走る。

 

一夏の傍まで走ると一夏は鈴を抱き締める。

 

鈴はなぜだか幸福感で胸が一杯だった。

 

鈴は一夏を抱き締める。

 

そして鈴の意識は粒子変換され分解される。

 

イチカは鈴の肩に噛みついた。

 

すると意識の無い鈴は一夏を抱き締めながら食べられ続ける。

 

嬉しさのあまり意識の無いまま涙を流す鈴の表情は、嬉しそうに笑う。



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篠ノ之束は理解しているようで理解していない

計画に関わる需要な要素のひとつである一夏の中にいるもの。

 

正式名称は一夏チルドレン。

 

詳しく言うなれば未来の一夏が産んだ子供の内の一体。

 

束と同じ場所からやってくる存在であり未来の化け物になる存在。

 

未来の一夏は自身のその存在を過去に送ることができる。

 

束も同様に自身を過去に送る。

 

一夏が自身の子供を過去に送るのは自身の存在の確立のためである。

 

自身の子供を過去に送り未来の自分の存在を保証するため。

 

束は自身の計画をやり直すために。

 

未来からきた一夏チルドレンはこの世界の一夏に寄生するように未来から送られた束と織斑夫妻が誘導する。

 

自身の子供と一夏は強い繋がりを持っているため、何処に居ても一夏の持つネットワークで通信する。

 

このネットワークはISコア同士が行っていたものを未来の一夏が改良したものである。

 

例え過去に送られてもその通信が行われる。

 

しかし、この世界ではその通信が阻害される。

 

この理由は未来の一夏には分からないことであり、一夏を深く理解している束にも分からなかった。

 

この現象は度々起こることなのだが束はこれを問題視しなかった。

 

だから、計画は失敗するのだ。

 

気付かない束は一夏を求める。

 

一夏チルドレンとそれを産む一夏が束にとって必要な存在であり、また愛しい存在なのである。

 

故に、求めるのだ。

 

愛しい人であり、化け物を。

 

自身の交尾相手である一夏を求めてしまうのだ。

 

IS学園にて行方不明者の数が増加している。

 

その事実を知るものは少なくない。

 

学園内の教職員、生徒、亡国機業、国連、各国の政府そして篠ノ之束。

 

国家代表候補生にも行方不明者が出ている現状では、万が一外に情報が洩れないようにするために国と篠ノ之束が協力している。

 

現在、IS学園内では行方不明者についての対策等は行っている。

 

表面上は束による感染した人物の思考を誘導するウィルスをIS学園にばら蒔き、行方不明者の家族にも当然ウィルスに感染している。

 

このウィルスは束の細胞により作り出されており、感染経路としてISコアに触れる、その触れた人間との空気感染あるいは接触感染より爆発的に広がっていく。

 

このウィルスに感染していない人間は存在しない。

 

千冬も感染しており、異常な事態を異常と捉えることをしない。

 

大衆はどれだけ行方不明になっていても気にも止めない。

 

例え家族や友人、恋人、クラスメイトが行方不明になってもいつも通りの日常を送るだろう。

 

そうなるように束が作り出したのだ。

 

しかし、あくまで思考を誘導するだけであり、自力で気づく者もいる。

 

そうとも知らない各国の政府はこのウィルスに喜んで飛び付いた。

 

これなら計画を完遂できる。

 

長年の望みが果たされる。

 

今現在、IS学園に入学した者、転入してくる者、国家代表操縦者にはこの思惑について知る人間はいない。

 

例え勘付かれても一夏の餌にしてしまえば問題ない。

 

と、各国の政府、国連は考えている。

 

何故、束は人間の思考を完全に制御する術を持っているにもかかわらずそうしなかったのか。

 

束は考えた。

 

餌を完全に制御してしまえば計画を容易に完遂できる。

 

しかし、その先は束が望む結末ではなかった。

 

人類全てが成体となった一夏の餌になり束を含めた宇宙に存在する全ての生命が、完全体の一夏に餌として服従するしかなかった未来になることを考えれば苦労など気にするまでもない。

 

簡単に人類を制御したとき、何らかの要因で計画が失敗するのだ。

 

まるで、意思を持った運命が邪魔をするかのように。

 

だから、これまでの失敗を踏まえて行動しなければならなかった。

 

未来を変えるためには多少の犠牲は付き物である。

 

例え、アレの餌になってもアレの中に溜め込まれているデータベースにアクセスして、箒やその他の人間を再生すれば良い。

 

未来から来た束にとって容易なことである。

 

これから一夏は世界を食べ尽くすだろうが、束は諦めない。

 

何度だって繰り返しても、絶対に一夏を必ず自身の物にしてみせる。

 

そうすることでこの宇宙に存在する生命は束と一夏の子供で溢れて幸せに暮らせる。

 

計画が成就した暁には箒や一夏、千冬と一緒にこの世界を旅でもしようか。

 

だが、優先して取り戻すのは一夏チルドレンでありそれに寄生されている一夏だ。

 

そして、産まれてくる一夏の第一子を自身の子宮に埋めて再度出産を果たす。

 

そうすることで束は満足感を得るのだ。

 

一夏の子供は束が産む。

 

そうすることで一夏を独り占めできる優越感が得られる。

 

あの自ら人柱となった織斑夫妻を利用してきたのだ。

 

今回は成功する。

 

しかし、束は気付いていなかった。

 

己の滑稽さを。



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シャルロット・デュノアは理解できず命令に逆らえない

妾の子供として父親に愛されずに生きてきた。

 

あの家には自身の居場所などない。

 

シャルロットは心の中で、助けを呼んでいる。

 

大好きだった母親が死んでからとても寂しい思いをしてきた。

 

そんな母親が言ったのだ。

 

いつか、シャルロットを愛してくれる人が必ず現れる。

 

シャルロットは思った。

 

王子様のような人が来てくれる。

 

シャルロットは何時までも夢を見続ける。

 

自身を愛してくれる人が現れるその日まで。

 

シャルロットは妾の子供であるが、それでもデュノア社長の娘であることは隠しようがない事実である。

 

シャルロットはある日、ISの適性検査を受けた。

 

その日からシャルロットの運命は崖を転がり始める。

 

あの父親に命令された。

 

父親でありデュノア社の社長でもある人から、IS学園に転入して男性初のIS搭乗者である織斑一夏に接触し情報を手に入れろ、と言われた。

 

更に、接触しやすいように男装をしろ。

 

デュノアの名前があり女として生まれたことは承知の事実である。

 

誰もが疑うようなことで、男装をしてIS学園に入れるということはスパイとしてデュノア社に情報を流すため。

 

父親に命令されたシャルロットは逆らうことが出来なかった。

 

いつか自身をこんな状況から救ってくれる人が来る。

 

夢見がちなシャルロットは本気で、王子様のような存在が自身の元に来てくれるということを信じていた。

 

自身がどれだけ汚れ仕事をしていても必ず現れる。

 

そう信じる、信じずにはいられなかった。

 

しかし、シャルロットは気付かない。

 

王子様など現れる訳がない。

 

自身を助けてくれる存在などありはしない。

 

IS学園にスパイとして送ったのは、織斑一夏の情報が欲しいといったこともあるがそれだけではない。

 

デュノア社長がIS学園に送ったのはスパイとしてだけではなく、フランス政府に取り入れるためだった。

 

フランス政府は自国に向けてこう言ったのだ。

 

IS学園に適性のある人間をIS学園に入れた企業には全面的な支援をする。

 

これはフランス政府だけではなく世界中のどこの国もこれを企業に向けて発表した。

 

その言葉の裏に隠されたことをデュノア社長は気付いていなかった。

 

とある情報を掴んでいたデュノア社長は情報通りに適性のある人間をIS学園に入れた。

 

その情報とは国連が主導で計画を進めており、目的を果たした後莫大な利益が生まれることは間違いない、といった情報が流れている。

 

更に、IS適性を持つ人間をIS学園に入れた国に対して国連が甘い蜜を吸わせてやる。

 

その計画にフランスも参加する、という話が既に決定されている。

 

織斑一夏の情報を手に入れて、甘い蜜を啜りたいがために正常な判断が出来なくなっていった。

 

本来であればこんな戯言に乗る者はいない。

 

しかし、誘導されている人間は気付かない。

 

こうして各国はIS学園に適性のある人間を送り続ける。

 

篠ノ之束の計画とは違って国連が進めている織斑一夏を使う計画を進めるために。



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ラウラ・ボーデヴィッヒは姉妹達と共に幸せであることを理解している

ラウラを含め人工的に産み出された者たちは、IS搭乗者になり織斑一夏の餌になる事が確定している。

 

織斑一夏には只の人間では糞の役にも立たない。

 

IS適性のある人間でなければならなかった。

 

適性には幾つかのランクがあり、適性が高ければ高いほど織斑一夏にとって成長するのに必要な栄養が多く含まれている。

 

また、子を産む為にも適正は高いほど良い。

 

しかし、餌となりえる存在の確保は容易ではあるものの、質を考えた場合は容易ではなくなる。

 

効率を良くするために適性がAまたはSの適性者を安定して供給する手段を待たない為、人工的に適性が高い者を製造する必要があった。

 

その為に計画されたのがラウラを含めた餌を量産する計画だった。

 

この量産計画には単純な餌のみを製造するだけでなく、蟻で例えるなら働き蟻を同時に製造するプランも入っている。

 

織斑一夏から子が産まれた場合、その子に万が一などあってはならない。

 

故に護衛役も必要である。

 

また、次々と産まれて来るであろう子の遊び相手も必要になる。

 

計画は順調に進んだ。

 

ヴォーダン・オージェは取り付けることで戦闘能力の上昇を図る為に組み込んだものの失敗作が産まれてくる。

 

製造された者の中には失敗作が出てくることは、製造者にとって予定通りだった。

 

成功作は織斑一夏、子の餌若しくは護衛として。

 

失敗作は子の遊び相手として役割を別けた。

 

ラウラは失敗作に当たる。

 

適性はAであるため餌としては上物だがヴォーダン・オージェの不適合により、護衛には相応しくないとした。

 

また、織斑一夏とその子に失敗作を餌として差し出すとなれば、どんな事態を起こすか分からない為、不安要素は無くしていく方針によりラウラは子の遊び相手として区分されている。

 

失敗作には子が間違って失敗作を口にしない為に細工がしてある。

 

子が間違って口にしようとした場合は自爆装置を自ら作動させるようにした。

 

自爆装置を作動させた場合、黒焦げの燃えカスとなるように設計した。

 

また、成功作と失敗作には歯向かわないように餌であることは幸せであり、遊び相手の玩具としてズタズタにされることを至福と感じるように設計されている。

 

これがドイツから国連へ提出した計画の全容である。

 

 

ラウラは産まれた時から幸せだと感じている。

 

織斑一夏の子の遊び相手として運命が決まっているからこそ、次に産まれてくる妹たちと先に産まれた姉たちが愛しくてたまらない。

 

己のように遊び相手か餌かは分からないが、産まれてくることは間違いなく幸せなのだ。

 

餌にならずとも織斑一夏の子に精一杯の奉仕をして楽しませる役割は大事なことである。

 

今日も失敗作は産まれてきた。

 

一緒に幸せになろうな、と姉たちと妹たちに話し続ける。



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織斑一夏の見た夢

俺は今、夢を見ているのだと気付いた。

 

かつての幸せだった頃の光景だ。

 

千冬姉と手を繋いで歩いている。

 

どこかの商店街を買い物のついでに立ち寄ったのだろうか。

 

あの頃の、千冬姉と一緒にいた頃の光景はひどく鮮やかだった。

 

今のように、何もかもが血と肉で表現出来てしまうような、単純な世界になる前は毎日が輝いていた。

 

楽しかったんだ。

 

千冬姉と一緒にいたあの頃のが幸せだった。

 

でも、千冬姉はいなくなり、俺は一人で生きていくようになった。

 

千冬姉を探そうとしたけど、いつしか諦めてしまった。

 

生きてる訳けない。

 

こんな世界になっているんだから、人間なんて俺以外は絶滅したと思った。

 

だから、なんとなくで生きてきた。

 

死にたくないから、自殺する勇気は持てないし、血と肉しかないから毎日が退屈だった。

 

暇潰しにあいつらを観察してたけど、何を言ってるのか理解できないからボーッと眺めている事に変わっていった。

 

そして、あいつらを食べた時は喜びの感情が湧いた。

 

とても美味しいんだ。

 

余すことなく血の一滴だって勿体ないと思うほどに、魅力的に見えていた。

 

そう考えながら、千冬姉と手を繋いで歩いていると千冬姉が笑った気がした。

 

頭を上げて千冬姉の顔を見ると確かに笑っていた。

 

何か良いことでもあったのだろうか。

 

俺の目の前には柔らかく、女性的で、包容力のある笑顔を浮かべた千冬姉が立っている。

 

それを見て、俺もなんだか嬉しくなって笑っていた。

 

二人して笑顔を浮かべながら歩くと家に着いた。

 

思い出のままの形で綺麗に、そこにあった。

 

俺は玄関を開けた。

 

そこにはいつも通りの俺と千冬姉の家が広がっていた。

 

しばらく、見ていると千冬姉が言った。

 

早く入れ、冷蔵庫にプリンがあるからおやつにしよう、と。

 

俺はまた嬉しくなって、うん、と頷いて家の中に入った。

 

千冬姉と一緒にプリンを食べた。

 

久し振りに食べるプリンは美味しくて、すぐに食べ終えてしまった。

 

千冬姉はまだ食べていた。

 

千冬姉と一緒に居るのが久し振りだから、食べている千冬姉の姿をじっと見ていた。

 

千冬姉は俺の視線に気付いた。

 

千冬姉は笑って食べるかと聞いてきた。

 

俺はまた嬉しくなって、うん、と頷いた。

 

夕御飯の準備をして、一緒にご飯を食べた。

 

美味しいと笑顔で言ってくれた千冬姉に、俺も笑顔を浮かべながら、ありがとう、と返事をした。

 

洗い物を済ませたら千冬姉から、明日は運動会だから早く寝ろ、と言ってきた。

 

え、と俺が返事をすると千冬姉は、明日は私も行くから準備は早い方がいいだろう、と。

 

うん、と頷いた。

 

俺の顔は笑顔だった。

 

翌朝、目が覚めると千冬姉が居なかった。

 

どこにも居なくて外に出てみた。

 

そこは真っ白な世界に包まれていた。

 

空の青さもなくコンクリートもない真っ白な世界。

 

後ろを振り向くと何もなかった。

 

千冬姉、と呼んでも誰も返事はしない。

 

そこで俺の肩を叩いた誰かがいた

 

誰だろうと振り返ろうとして、そこにいたのは―――。




次は久し振りの千冬視点です。

楯無や簪は本編中には書きません。

読みたいという人が居れば完結後書こうと思います。

あのキャラの視点、話を読みたいといった要望は可能な限り書きます。


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織斑千冬は食べられて死ぬが愛しさで胸が一杯になる

一夏がそこに居た。

 

身体中を血にまみれて、女子生徒の頭と身体を引きちぎり、両手に持って佇んでいる。

 

何かを噛み砕く音が聞こえる。

 

クチャクチャ、バキバキ、ボリボリ

 

飲み込むと、手に持っていた女子生徒の頭を口元に持っていき、口を開けて食べる。

 

少しずつ食べているから、頭蓋骨の断面が見えている。

 

更に、女子生徒の顔がこちらを向いた。

 

女子生徒の顔は白目を向いて涎口から垂れている。

 

涙を流しており、恐怖の感情を表しているのかと思いきや、女子生徒は快楽に歪む顔だった。

 

食べられる事が最高の快楽を得られる手段であることから、自分から食べられに行ったのだろう。

 

残った頭を全て食べ終わると今度は身体を食べ始める。

 

最初は乳房から噛り、ムシャムシャと食べる。

 

そこから胸の臓器類を食べてから、腹部へ。

 

子宮を食べて脚部に。

 

そして、女子生徒が居なくなった。

 

一夏がこちらを向いている。

 

その目に宿るのは人間を食べる事が当たり前な事から来る食欲か、あるいはその身に宿す狂気から来るものか。

 

どのみち、今の私は拒むことなど出来はしない。

 

一夏に食べられようと女子生徒が近づいて来る。

 

また一人、また一人と私の生徒だった者たちが食べられていく。

 

既に、学園の生徒を9割以上食べた一夏は私のもとまで歩いてくる。

 

そして、遂に私の目のに来た。

 

一夏は立ち止まる。

 

私は一夏を前にしてとても落ち着いていた。

 

感情には悲しみや後悔は無く、喜びや怒りなど沸いては来なかった。

 

私はただ、愛しいという思いだけがあった。

 

一夏、私のたった一人の弟、愛しい家族、私の一夏。

 

「あぁ、一夏、お帰り。さぁ、私を食べてくれ」

 

私を食べて、もっともっと。

 

私は両手を広げて一夏を抱き締める。

 

自身の胸に一夏の顔を押し当てて、頭を撫でる。

 

ゆっくりとそのサラサラで血混じり、褐色に染まる髪を撫でて、私は微笑む。

 

一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏一夏、い、

 

「あ、ぁ、ぐ、げ、あぁ、あ、あ、あ、あ、ぁ」

 

いちかぁ...。



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