吸血鬼と呼ばれた男 (カマシー)
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ワカ編
第1話 プロローグとアフリカ統一戦争


※注意、作者はロボや銃などの類の作品には詳しくありません。なのでおかしな部分が出てくるかもしれませんが、その手の作品が好きな方々はどうか温かい目で見ていただければと思います。
また、タグにも示した通り基本的にこの話は原作に沿ってストーリーが展開されますが、展開の都合上話が飛ぶ可能性があります。(例えばベカスの過去編の11章とか)ですが原作を知らない人(流石にいないと思うが)でも分かるようにしますので、よろしくお願いします。
では、どうぞ。


嫌だ

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

何故オレばかりこんな目に合わなければいけない?何故オレばかりこんなことをしなければならない?

今まで様々な命令を受けた。オレはそれに従い続けた。

だが、もう我慢の限界だ。こんなところにいられるか。

ならばー

 

〜〜〜

 

ーとある場所ー

男達は、混乱の渦に飲まれていた。

「ヤツが逃げ出した!すぐに連れ戻せ!」

「で、ですが!行方が分かりません!」

「信号を辿れ!何としてでも、ここから出す訳にはいかん!そう遠くには行っていないはずだ!」

「くそ!一体どこに…うわあああ!!」

「おい!どうし…なっ、貴様…ぐわあああ!!」

あちこちで銃声が聞こえる。しかし、それもすぐに収まり、また別の所で銃声が鳴る。

 

「まずい!ヤツがBMを持ち出したぞ!」

「何だと!?クソッ!すぐに捕まえろ!アレはただの量産機とは違う!ヤツの専用機だ!暴れられたら厄介だぞ!」

「そ、それは分かっているが、このままじゃどうしようも…ガハッ!!」

「おい!大丈夫…グハッ!!」

男が倒れたとき、既に辺りに立っている者はいなかった。ただ、脱走者とそのBMだけが、男の目の前に立っていた。

「ぐっ…貴様…だけは…絶対に……」

逃すものか。そう言おうとしたが言葉には出す、男の意識は、そこで途切れるのであった。

 

〜〜〜

 

「なあ、“吸血鬼”の噂ってのを知ってるか?」

とある戦場で、ベカスは、自分の上司であるフリーズから、そんな質問をされた。

「“吸血鬼”?夜中に化け物から血を吸われた人でもいるのか?」

「その噂、聞いたことがあります」

「知ってるのか?エイル」

ベカスにエイルと呼ばれた少女ーグニエーヴルは、その質問に答え、噂について語り出す。

 

「最近、各地の戦場に現れる雇われの傭兵らしいです。なんでも、彼の戦った跡は辺り一面が血に塗れ、彼が乗っているBMは、返り血で真っ赤に染まっているそうです。中には身体から血を抜かれて亡くなったような人もいるとか…」

「なるほど、だから吸血鬼ということか…それで、その“吸血鬼”さんがどうしたって?」

「聞いた話によると、今回の戦闘に参加しているらしい。まあそう言ってもこれだけ広いからな。そうそう会うとは思えないが、一応注意しておいてくれ」

「はいはい、分かりました。隊長どの」

そう言ってベカス達は、自分達が相手をする敵軍へと、進んでいくのだった。

 

 

…カス…

ベカス…

自分の名を呼ぶ声が聞こえる。

「隊長…」

「ベカス!生きてたら今すぐ応答しろ!さもなきゃあんたの(ピーー)を(ピーー)にして(ピーー)しちまうぞ」

「うっ」

彼を呼んでいたのは、フリーズであった。

彼のいる戦闘区域は味方のほうから包まれている。時折瓦礫を巻き込んだ暴風が彼の乗るウァサゴへ向かうが、正体不明の謎の力によって全て阻まれる。

「これが博士の言ってた例の『FSフィールド』ってやつか…なんて便利なやつだ…」

「ごめん、ベカス…私のせいであなたまで巻き添えにしてしまって」

グニエーヴルが、申し訳なさそうに謝る。

「気にすんな。君は自分の任務を果たしただけだ。どうだ?機体は動けるか?」

ベカスの問いに、グニエーヴルは頷いた。

 

「ゴースト3号よりゴースト1号へ、『チームドクター』の身の安全を確保した。只今より戦略的撤退を始める」

ゴースト◯号というのは、フリーズが隊長をしているゴーストチームのことを表している。

「なんだって!」

フリーズは顔を画面に張り付くほど近づけた。

「気は確かか?今はもう戦闘に突入してワカ軍による絨毯爆撃が始まってるのよ!あの爆撃機のパイロットは逃げられるかもしれないけど、あんたが今逃げたら…」

「今逃げれば生き残れる可能性は少なからずある。このまま爆弾に殺されるのを待つよりはマシだ」

「…今すぐあんたを連れ戻しに行くから、もう少しの辛抱よ。いいーー絶対に死なないでよ」

「はいはい…」

こうして、ベカス達は戦場からの撤退を始めた。

 

 

道中、捨て身の特攻をしてくる兵士達を退けながら、ベカス達は戦場から徐々に離れていく。

「しかしWSレコーダーが壊れてしまうとは…はあ、ツイてないぜ…」

傭兵達は毎月決められた固定報酬の他に、『指定勢力』の機体を撃退すればさらに追加ボーナスがもらえるが、これを統計するには、機体中央パネルにあるWSレコーダーを使い細かな【撃退確認】比較作業を行う必要がある。しかし、これの誤認や統計漏れが多発しており、また、ベカスのようにWSレコーダーが壊れてしまう場合もある。

「ブツブツと喋ってないで、急いでここから撤退をーッ!?」

フリーズが息を呑む。ベカス達のところに、爆撃機から爆弾が投下されたのだ。

「マズいな、これは…!」

間に合わない、そう思った時ー

 

ドガアァン!!

 

流れ弾だろうか、どこから飛んできたナニカが、爆弾を上空で爆破したのだ。

「た、助かった…だが、一体何だったんだ…?」

そう思いながらも、ベカス達は、この場から離れるしかなかった。

 

 

砲撃区域から徐々に離れていったベカス達は、今度は小規模な遊撃部隊と真正面から出くわした。

「反ワカ連盟軍遊撃部隊か…これって…民間重機?」

ベカスが、どう見てもパワーショベルであるそれを見て言う。

「ど、どうするんだ!ワカ軍の傭兵だぞ!」

反ワカ連盟の兵士が慌てる。

「チッ…」

舌打ちをしたのは、アフリカらしい褐色の肌をした少女、スーラであった。

 

「ここは私が何とかするから、あんたたちは先に行って!…あとは任せたわ。それと、修理道具ならタンスの3つ目の引き出しにあるって姫様に伝えて」

「ち、ちくしょう!お前一人にカッコつけさせてたまるか!」

「一斉に取り掛かるぞ!絶対死ぬなよスーラ!俺たちの機体にはお前の腕が必要なんだ!」

「…あんたたち」

そのやりとりを見て、ベカスが黙り込む。

「…」

「この傭兵め!私たち反ワカ連盟を見くびってるわけ!?」

「そんなことないさ」

ベカスは答える。

「オレが見くびってるのは、ご時世そのものだ」

 

 

「やあああああ!!!」

玉砕を決意した少女はアクセルをめいっぱい踏み込み、怒りを込めた巨大な重機はものすごい力でウァサゴを1棟の建築物の中に押し込んだ。

「ベカス!」

グニエーヴルが叫ぶ。

「うっ!」

「全部あんたらのせいよ…ワカの犬どもめ!」

重機の前足は巨大なハサミと化し、ウァサゴの『頭』をガッツリと掴んだ。

 

「死にたくなきゃさっさとここから消えな、さもなければ…」

「やれやれ…身を捨てる覚悟がなきゃこうして戦わないさ」

「!!!」

まだ自由に動けるウァサゴの右腕が銃を持ち上げ、重機のコックピットに狙いを定めた。

「頭を握りつぶしても、せいぜい機体のメインカメラが壊れるだけ、周りから『整備士』と呼ばれてるんだから、そんくらいは知ってるよな?」

「…」

スーラが黙る。

「敵を確実に倒したければ、一番強い武器でコックピットを狙って…」

 

その時だった。

 

「見かけねえ機体だな…ワカ軍の傭兵か…?」

突如掛けられた声の主は、血のように真っ赤に染まった、一機のBMであった。

「まぁいいや…面白そうじゃねぇか…なあ、ちょっとオレと、()()()()()()()()

BMの主が、ニヤリと笑った気がした。




いかがでしたでしょうか。
導入部分だからというのもあるけど結構原作からパクった利用した部分が多かった…ベカス達のキャラや言葉遣いがおかしい気がする部分は、ダッチーに文句を言って下さい(オイ)。だいたい一章の時点で反ワカ連盟と反ワカ同盟で統一されてないってどういうことだよダッチー。また、一章で本来登場するはずの彼らは次の話で出てきます。カルシェン、葵博士、ドリスは出すタイミングが無かった。許せ。
主人公に関しては次回のお楽しみという事で。では、また。


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第2話 少女と傭兵

お久しぶりです。前回から1ヶ月近く経ってしまいました…
ちょっと別ゲーとかコラボで忙しかったんですよね…ダンガイオーは途中までしか集まりませんでした。あとアイサガの時系列を纏めてました。(長くなるのでここでは出せないけど)そんなわけで遅くなったのも仕方ない!うん!
さて、今回の話ですが、書いてるうちに長くなってしまったので、二話に分けての投稿になります。これで一ヶ月投稿しなかった分は許されたな!
というわけで、2話目をどうぞ。


「なあ、ちょっとオレと、遊んでいこうぜ?」

新たに現れた赤いBMの主は、ベカスに向かってそう言った。

「お誘いは嬉しいけど、遠慮しておこうかな〜」

「そう言うなよ。アンタはワカ軍の傭兵なんだろ?オレを倒せば、相当なボーナスが貰えると思うんだがな?」

確かに、見たところそこら辺にある量産機とは格が違うようだ。一目でA級以上の機体であると分かる。

 

傭兵は、倒した機体の数によって報酬が決まるが、その中に【撃墜ボーナス】というものがある。

【カテゴリ.Cターゲット】貧弱な装甲の武装ユニット。多くは旧式の戦車や廉価な機体、一体あたりの撃墜ボーナスは1000。

【カテゴリ.Bターゲット】一般的な装甲ユニット。一体あたりの撃墜ボーナスは3000。

【カテゴリ.Aターゲット】各種人型機を含む、上位性能を持つ装甲ユニット。一体あたりの撃墜ボーナスは1万。

【カテゴリ.Sターゲット】敵のエース級の装甲ユニット。一体あたりの撃墜ボーナスは5万。

 

相手の機体は、見るからに独自のカスタマイズがされている上等なものだ。彼の言う通り、倒す事が出来れば高額な報酬が手に入るのは間違いない。しかし、それは同時に、相当な腕があるという事でもある。

「オレは命を賭けてまで、金を手に入れようとは思わないんでね」

「つまんねーな。けどまぁ、そっちの意見は関係無ぇ、オレも仕事なんでね。ワカ軍の傭兵なら、容赦はしねぇ」

赤いBMが、手に持った剣を構える。

「一つだけ聞いてもいいか?アンタが噂の“吸血鬼”さん?」

「“吸血鬼”か…まぁ間違ってはいねぇな…なんせこのBM(コイツ)の名前が、《バンパイア》なんだからなァ!」

 

言い終わると同時に、バンパイアと呼ばれたBMがウァサゴに向かって突っ込んでくる。ベカスはウァサゴを操作してそれを避け、手にした主砲で反撃する。バンパイアの肩に命中したそれは、しかしさしたる傷にはなっていない。否、確かにその装甲に傷を付けたのだが、その傷が、まるで本物の吸血鬼のように、みるみるうちに修復されていくのだ。

(これは、修復機能が付いているのか…?)

ベカスが思考しているうちにも、バンパイアの左肩に付けられた主砲が砲撃を行う。しかし放たれた砲弾は、ウァサゴの持つFSフィールドによって弾かれてしまう。

「は?ズリィぞそれ!おい!なんだその謎パワーは!?」

そう言って、再び剣を振るうバンパイア。ベカスも、それに応戦する。

 

 

剣の打ち合いが続く。ベカスは、隙を見てはバンパイアに傷を付けるが、そのいずれもが即座に修復され、逆にこちらは少しずつ傷が増える。

「ハッ!どうした?その程度の攻撃じゃあ、俺は落とせねえぜ!」

そのまましばらく剣の打ち合いが続いた後、ふいに声がかかる。

「もういいわ、ユーリ、撤退するわよ」

「チッ…仕方ねえな…おい傭兵、悪いが今回はここまでだ。雇い主サマのご命令なんでね。…ところで傭兵、アンタの名は?」

「ベカス。ベカス・シャーナムだ。あんたは?」

「オレの名はユーリだ。ベカス・シャーナム…覚えたぜ。次に会う時が楽しみだ」

「出来ればオレは遠慮しておきたいけどね〜」

そうして、今回の戦闘は幕を閉じたのだった。

 

〜〜〜

 

ピーピー!

ベカスの機体の通信機が鳴った。表示された相手はフリーズだ。

「どうした、隊長?」

『ベカス、雇用主のワカ軍からの指令だ。15日以内に彼らの集合ポイント【カイロ】に来いとのことだ。集合時間までまだ余裕がある。だから私はカルシェンと『臨時収入』を稼ぎに行こうと思う。私たちが遅れた時には、雇い主を上手く誤魔化しておいてくれ』

「そうか。じゃあ戦争が終わる前には到着してくれよ」

『ところで、さっきの“吸血鬼”の乗ってた機体、どう思う?』

「武装こそ違うし、あんな能力は無かったが、似たような機体を見たことがある。あの真っ赤な塗装…あれは…」

『【機械教廷】だろ?』

 

機械教廷

世界五大軍事勢力の一つである機械教廷は、機械神を信奉する巨大な宗教組織。機械の主に近づくために、ほとんどの信徒は自身の肉体をサイボーグ化しており、この行為は外部から見るとかなり異様である。

 

ユーリの乗っていた機体は、その機械教廷の軍でよく使われる、【ブラッディウルフ】シリーズによく似ていた。

『まあ奴が何者なのかはどうでもいい、ただベカス、お前は何やら気に入られたらしいからな、十分に気を付けろよ』

「ハイハイ、分かってますよ…」

『新しい機体はどうだ、ベカス?』

通信機から、魅力的な男性の声が流れて来た。この声は、【アンデット小隊】所属のメンバー、OATHカンパニーのB級傭兵のカルシェン・シェリーだ。彼は美しい金髪に大人の魅力を備え、自称によると帝国の落ちぶれた貴族らしい。

「いい感じだ。もうかなり馴染んだよ」

『…先の戦闘で、お前は例の連盟の少女を逃したらしいな』

「余計な邪魔が入っちゃってね〜。実力不足の半端物の傭兵だから」

『ふっ、それだからいまだにC級ライセンスなんだよ』

カルシェンの言葉を聞いて、ベカスは微笑みながら肩をすくめた。

『幸運を祈るよ、ベカス。ワカ軍の集合ポイントで会おう』

「あんたもな、カルシェン」

 

〜〜〜

 

ベカスは反ワカ連盟の残存兵を捜索しながら、【カイロ】に向かって北進していた。すると、道を外れた遠方の砂漠で起きている異変に気付いた。

 

傭兵たちが一人の少女を包囲している…

 

「おいおい、見ろよ!こんなクソみたいな僻地でこんなかわい子ちゃんに出会えるなんて、信じられねーぜ!」

下品な言葉遣いのその傭兵は、少女に貪欲で下劣な視線を浴びせていた。

「しかも服装や立ち居振る舞いから見て、貴族もしくは金持ちのご令嬢ってとこか?へっへっ、こいつは金になるぞ!」

悪だくみを抱いた傭兵たちを、少女は軽蔑を込めて見つめている。

「ふん、あなたたちのような『有機体』が何のご用?」

彼女のこの言葉には、皮肉と挑発が込められていた。

「簡単なことさ。お嬢さんに少しの間だけ俺たちと『お付き合い』してもらって、あんたの家族が『お世話代』を支払えばお帰りいただくってわけ」

「ふん、やはり無知な凡人は愚かなことを考えるものね。あなたたち、『機械神』に会ったことはないでしょう。よかったわね、今から会わせてあげるわ」

言い終わると少女は精神を集中し始めた。彼女がまさに何かをしようとした時、突然何者かの声がそれを阻んだ。

 

「『アイリ』!こんなところにいたのか!」

突然現れた人影が、傭兵の間をすり抜けてその少女を抱きしめた。

「なっ!!?」

「可愛いアイリ、勝手に出歩くなって兄ちゃんが何度も言ったのに、なぜ言うことを聞かないんだ?皆さん、妹を保護して下さってありがとうございます。ご迷惑おかけしてすみませんでしたね」

彼は周囲に頭を下げながら、素早く少女の手を引くとその場から離れようとした。

「待て!」

「…」

「おい!俺たちをバカにしてるのか!?その少女を置いていけ。そうすればお前だけは見逃してやる」

「そうはいかないね。この子はオレの可愛い『妹』だからな」

「ふざけんな!おい、やつを捕まえろ!」

大勢の傭兵がベカスに突進した。また自分の機体に向かって走り出す者もいた。ベカスへその少女を抱え上げると、自分の機体に向かって駆け出した。

「ちょっと面倒な事態になっちまったな」

そう言って彼は少女にウインクした。

「…」

少女は感激した様子もなく、ただ冷めた目で自分を抱えた男を見つめていた。

 

 

傭兵たちは烏合の集だった。機体を撃破すると、すぐに戦意を喪失して逃げて行った。戦場をチェックした後、ベカスはコックピット内の少女に向き合った。

「どこに行くつもりだ?近場なら送っていくよ」

少女はベカスの問いかけを無視し、銀色のペンダントを取り出して開いた。中には女性の写真があった。

「この女性を知っている?」

「すっごい美人だな。だがすまん、会ったことはない」

「…あなたはどこへ行くの?」

少女はそう言いながらペンダントをしまった。

「オレは北に向かっている。その前にどこかで、食料と水を補給したいんだ」

ベカスは水筒を取り出して少女の顔の前で揺すった。少女が断ると彼は一口飲んだ。

「そう。じゃあ行きましょう。降りたくなったら、その時あなたに教えるわ」

少女はまるで女王のようにベカスに指示を出した。

「ぷーっ!」

そのとたん、ベカスは飲んでいた水を全て口から噴き出した。

「おいおい、冗談はやめてくれ。さっきの傭兵たちみたいに不埒なマネを、オレがしないとは思わないのか?」

「例えば?」

少女はあごをもちあげ、軽蔑の眼差しで挑発的にベカスに聞いた。

「…」

「乗りかかった船でしょ、最後まで責任を持ちなさい、お節介な『お兄さん』」

少女はベカスの苦悩する顔を愉快そうに眺めていた。

「…お前は何者だ?」

「『アイリ』、あなたの可愛い『妹』よ」

こうしてベカスは、アイリと名乗る謎の少女と、北へ向かう事となったのだった。




3話目に続きます。


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第3話 戦争と吸血鬼

3話目からの続きです。


ーベカスが、アイリと名乗る少女と行動していた頃ー

「…」

「ねぇ、じいさん!あんた、朝からずっとアヌビスを見ているだけじゃないか。それで本当に修理出来るのか?」

「我々は1週間後の戦闘でこれを使用したい。間に合いそうか、博士?」

「確かに時間は足りない。君たちの要求に従えば、出力は大幅に下がるだろう…だが、それは問題とはならない。なぜなら、こいつが本来持つ威力なら、カイロ全体を一撃で吹き飛ばすことも可能だからだ!」

反ワカ連盟の拠点にて、そんなやり取りをしている三人を、冷めた目で見ている男がいた。

 

(カイロ全体を一撃で吹き飛ばす破壊砲、ジャスティスねぇ…このジィさん、本気でそんなこと言ってんのか?)

色素が抜けたかのような白髪、ウサギのように真っ赤な瞳、血が流れていないのではないかと心配になるほど真っ白な肌。

まるで本物の吸血鬼ではないのかと思うようなその男ーユーリは、反ワカ連盟に突然現れた謎の老人達を警戒していた。

(妙な奴らだな…傭兵でもなさそうだし、独特な雰囲気を纏ってやがる…見たことねえ機体に乗ってるし、あまり信用しない方が良さそうだな…それに…)

ユーリは、反ワカ連盟の男ーバーブに話しかけた女性ーセレニティに目を向けた。

(【黒き猟兵】…噂には聞いていたが、あの女、相当な実力者だ…下手に騒ぐと、面倒くさそうだな…)

ユーリは、今回の戦争では、戦闘の時以外は出来るだけ大人しくしておこうと、心に決めたのだった。

 

〜〜〜

 

反ワカ連盟軍の指令室、連盟の幹部たちが目下の情勢を討議している。

「何だと!ジャスティスは1発しか発射できず、2発目は9週間後になる?しかも威力は本来の3分の1!?」

「敵の兵力は我々の4倍以上。3分の1の威力では、敵との戦力差を縮めることは出来んぞ!」

「この状況でワカ軍主力との決戦など、正気の沙汰ではない。もし今ワカ軍が西進して来た場合、我々はここを守り切れない」

「では…我々は西に撤退すべきだろうか?」

「もし我々がここを放棄し撤退した場合、西域の支援者たちが我々に勝ち目はないとみなして、ワカ共和国に寝返るでしょう」

指令室は重苦しい空気に包まれていた。その時、誰かがつぶやいた。

「もしナディアが、第3次統一戦争の時の【太陽王】ラムセル3世のようだったら、我々もこれほど苦しまずに済んだのに…」

 

『太陽王』ラムセル3世。十二巨神のひとつ、アヌビスの前任マスター。新エジプト王国の中興の祖。彼は在位中に、衰退していたエジプト王国を再度北アフリカの覇者とした。しかし、若干19歳の君主の最期は悲劇的であった。戦場では連戦連勝の太陽王がその生涯を閉じたのは、戦場ではなく王宮内の激しい権力争いの中であった。

「…」

 

「そうだ、そうだ!先王がもう少し賢明ならば、我々もこれほどの窮地に陥ってはいなかった!」

「ふん、やはり女では無理だったのだ。太陽王ならば、敵が十倍の兵力であっても恐れる必要はなかった!」

「…」

列席している貴族や部族長たちは、容赦なく非難の言葉を彼らのエースである少女に浴びせていた。まるで連盟が直面している苦境は、すべて彼女一人のせいであるかのように。

彼女の名前はナディア。連盟の主要勢力、新エジプト王国の王女である。第6次統一戦争中に父王が犯した失策により連合軍は敗れ、さらに戦後には重要拠点である首都【カイロ】まで失ってしまった。周囲の者はナディアを非難し続け、彼女は一人片隅で静かにその全てを受け入れていた。すると、ある声が鳴り止まぬ少女への非難の言葉を断ち切った。

「今ここで誰かを責め続けても、現状は何も変わりませんよ。どうか私の作戦を聞いてください」

 

人々の視線がその少女ーエレインに集まった。彼女を見つめる人々の中にはさげすみの笑いを浮かべている者もいたし、また下品な視線を露骨に浴びせる者もいた。

「ああ、オーシンが派遣した者か。それで、その作戦とは?」

「ワカ軍は兵力面では優勢、ですが大きな弱点も抱えています。我々に対する軽視、そして慢心です。これを利用するのです」

話しながら彼女は地図上の【バイハーヤ】を指差した。

 

「来訪時に見たのですが、この場所は要撃に非常に適した場所。ここに凹形の袋陣を敷いて相手を待ち伏せして攻撃するのです。まず一つの部隊をエサにして敵をおびき寄せる。すると戦いにはやるワカ軍は陣形を顧みず、必死にエサに食らいついて来るはず。敵が要撃圏内に入った時は、エサの迫撃によって陣形は極端に細長い縦列となっている。そこにナディア嬢が、ジャスティスを使って敵の縦列正面、指揮艦の方角に砲撃を行う。すると威力絶大な貫通粒子砲『ジャスティス』が、敵の指揮官および敵縦列上の兵力をわずか一発で消し去るでしょう。それと同時に、遊撃部隊が一斉に攻勢を仕掛けます。まず両翼に火力を集中して敵の中段を攻撃、分断を図る。その後、すべての火力を投入して迅速に要撃圏内にいる敵を殲滅する。三方からの攻撃を受け、指揮官を失った要撃圏内の敵はすぐに殲滅できるでしょう。残った敵も、友軍が無残に殲滅される姿を見れば、激しく動揺し簡単に壊滅できるはずです」

 

「ふん、言うだけなら簡単だ。敵の兵力は4倍だぞ!要撃したとしても、あんたが言うように順調に行くとは思えん」

「そうですか?皆さん、敵の現在の心理状態を想像してみて下さい。相手にとって今度の戦役は統一戦争の最後の一戦、しかも負けることはできない戦いです。このような状況下では、将校も兵士も、この戦役で死ぬことは避けたいでしょう。『この戦いが終われば故郷に戻り妻子に会える』『これは統一戦争の最後の一戦、ここで死んだら無駄死にだ』ワカ軍の兵士達の頭の中は、このような考えでいっぱいのはずです。皆が意識下で、『この戦いで死にたくない』と望む中、突然指揮官を失い、要撃で大きな打撃を受け、士気が下がり動揺しているワカ兵であれば、十分な準備を行った我が軍の前にもろく崩れ去るでしょう」

「ヒュ〜」

 

セレニティは賞賛の口笛を吹き、エレインの言葉に何も言い返せない男たちを、皮肉を込めた目で見回した。しかし、男たちは依然として決断できずにいた。その様子を見たエレインは言葉を続けた。

「現在の連盟にとって、全力を挙げてこの一戦に勝利する、それ以外の選択肢はあるのでしょうか!?」

エレインのこの言葉が、ついに男たちの心を動かした。

「よし、それで行こう!【バイハーヤ】はかつて太陽王が、第3次統一戦争で勝利を収めた場所だ。今回も必ずや我々の勝ち戦となるだろう!」

「うむ、そのとおりだ!これほどの偶然が一致しているのだ。まさに神の啓示、神が我々に勝利を授けるのだ!」

指令室は熱気に包まれていた。連盟の指導者たちは陰鬱な気分を拭い去って、勝利に対する情景に浸っていた。

「へぇ…なかなかやるじゃねーか。これほどまでに兵の士気を上げるとはな」

その様子を見ていたユーリが、ポツリと呟いた。

(だが…)

ユーリはチラリと指令室の隅を見た。孤独の少女ナディアは相変わらず、静かに隅っこで蹲っている。その姿は、美しくも悲しいものだった。

「…」

それを見たユーリは何も言わず、静かに指令室を去ったのだった。

 

〜〜〜

 

指令室から出た後、ユーリは、今回の報酬を受け取っていた。そしてそのまま銀行へと向かい、手元にいくらかの報酬の残し、残りをとある口座へと振り込む。そして、ある人物へと連絡する。

「今回の分の報酬、振り込んでおいたぜ」

『ご苦労であったな、吾が契約者(パートナー)よ。これでまた、吾の研究が新たなる段階(ステージ)へと進むであろう』

「相変わらずその喋り方どうにかなんねぇのかなぁ…()()()()?」

『うるさいわね!それより、私の【オーガニックマシン】の調子はどうなの?』

 

七瀬汐月。元は日の丸を代表する企業【高橋重工】にて、ナノマシンを使って植物を操縦可能な機械に変える「オーガニックマシン」の研究をしていた生物学者だったが、同僚の謀略により開発は失敗。以後、高橋重工を辞め、とある場所でオーガニックマシンの研究を続けている。

 

「前回よりは良くなったぜ。傷の治りも以前と比べて早くなってるしな」

『くく…そうであろう、何せ今回の試作品は、前回と比べて修復速度を15%も上昇させることに成功したのだ!傷の治りが早いのも当然の事よ』

「ただ、修復速度を上げたせいか、代わりに修復が甘くなっている。修復された部分の装甲は、周りと比べても明らかに脆い」

ユーリは、自分の愛機であるバンパイアの修復された箇所を、コツコツと叩きながら言った。

『ふむ…まだまだ改良の余地があるということか…吾がオーガニックマシンが完成する日は、まだまだ遠いようだな…』

「そいつの研究はどれぐらい進んでるんだ?」

『まあまあ順調だ。其方が吾がオーガニックマシンの被験者となっているお陰で、様々なデータが得られた。あと1年もあれば完成するであろう。其方には感謝している』

「オレに感謝してるのなら、少しぐらいはその見返りをくれても良いんだが?」

『何を言っている、其方には吾の作った最新の技術を、いち早く与えているではないか』

「そっちが勝手に人の身体を弄っただけだろうが…」

しかし、そんな事を言っても仕方がない。ユーリは、この事に関して何か言及することは諦めた。

 

その後いくつか他愛のない会話をしてから、ユーリは七瀬との通信を切る。

(七瀬汐月…最初に会った時は、自称天才科学者とかいう頭のおかしいやつかと思ったが…こいつの作ったオーガニックマシンは確かに凄い…今までこんなものは無かった。しかも、アイツが今作っている機体…スイカなんとかとか言ったか…未完成とは言ったが、既にB級、下手したらA級クラスの実力を持っている…完成したら一体どうなるのか…)

 

彼女とは以前、ある事件で出会った。その後様々な経緯によって、ユーリと、彼の乗るバンパイアには、(彼の知らない間に)彼女の作った試作品のオーガニックマシンが組み込まれている。前回、傷が付いてもすぐに修復されたのはこれによるものだ。そしてユーリは、その改造費用として、(半ば強引に)傭兵の仕事で得た報酬を彼女に支払(わされることにな)っている。そして、たまに呼び出しをされては、新たに改良したオーガニックマシンの実験台となっているのだ。

(まぁ、なんだかんだで、傷が付いても勝手に修復されるから、色々と助かってはいるが…お陰でいつも必要最低限の生活費ぐらいしかねぇ…いや、食費を無くせばある程度の余裕はあるが…)

彼の身体は機械である。食事をしなくても、別に問題はない。

(いや、駄目だ!食費を抜くなんて、そんなこと出来るか!)

食事は、彼の数少ない娯楽の一つである。食事をしないという選択肢は、取れるはずがなかった。

(前に教廷にいた時、自由時間にリルルの部屋に押し掛けて、お菓子を貰うのが、オレの数少ない楽しみだった…最初は追い出されていたが、何回も行ってるうちに観念してチョコやらアメやら色々とくれるようになったんだっけ…)

ユーリは、過去の事を思い出しながら、今回の報酬で残ったお金をどう使うか、真剣に考えるのだった。




エレイン、あんた喋り過ぎじゃね?
というわけで、2話と3話連続投稿でした。まさかこれほど長くなるとは思わなかった…
なんか本編で出てないキャラがいた気がしたけど、きっと気のせいです。あの事件は今後もしかしたらやるかもしれないし、やらないかもしれない。
主人公、吸血鬼要素多過ぎですね。ちなみに個人的な吸血鬼のイメージは、白髪や銀髪、赤い目、白い肌、身体能力が異常に高く、傷を負っても一瞬で治るっていう感じですかね。弱点はまぁ…省略します。
主人公について色々と書いたので、簡単なプロフィールを載せておきましょう。

ユーリ
見た目は若い男だが、機械化しているため実際の年齢は不明。元は機械教廷に所属していたが、逃げ出して今は流浪の傭兵をやっている。以前とある事件により七瀬汐月と出会い、その時に彼女によって自分の乗る機体と共に身体に試作品のオーガニックマシンを組み込まれた。そのため少しの傷ならすぐに修復し、自分で修理する必要が無くなっている。
性格は少々ぶっきらぼうだが、色々と甘いところがある。機械化されているため戦闘能力はかなり優れており、常人では太刀打ち出来ない。BMの腕も良く、ベカスにも引けを取らないほど。頭は良いのだが、何かに熱中すると周りが見えなくなる癖があり、戦闘中も、自身の持つ修復力を頼りに被弾するのも構わず敵に突っ込む、狂戦士的な一面もある。
機械教廷にいた頃にリルルにこっそり貰っていた事もあり、チョコレートなどの甘いものが好物。

声とかの個人的なイメージはとあるラノベの一方◯行さんです。(原作読んでないけど)機体の方はまた後ほど。
というわけで今日はここまでです。ありがとうございました。


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