演奏者が指揮官になる話 (猫茶屋)
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始まり

初めましての方は初めまして。お久しぶりの方はお久しぶりです。

仕事の合間にアズールレーンの二次創作読んでみたら面白いので、思わず書いてしまいました。もう片方の作品も作成中ですが作っては消しの繰り返しで頭パンクしそうです。

とにかくもっとアズールレーン作品流行れ。マジで流行れ。


「みんなありがとう!!愛してるよ!」

 

 ベースのトシが欠片も思ってない戯言を目前の何千人もの観客に言い放つ。観客はその言葉を真に受け、わっと大歓声が沸き上がる。

 

「全国ツアーライブでこんなに素敵なホールで、最高のメンバー、スタッフそして何よりも素敵な皆に会えて良かったよ!!」

 

 よくもそんな妄言を吐けるものだ。お前が俺らのマネージャーにこんなショボい田舎のホールしか取れなかったのかよ!と文句を上げながら蹴り上げたのは他のメンバーも知っている。ふざけんな。マネージャーの必死に取ってくれたホールだろうが!とトシを殴りつけたのは未だに自画自賛している。ナイス俺。これが致命的になったのか俺とトシは晴れて犬猿の仲になった。

 

「必ずまた皆に会いに行くから!皆もまた俺に会いに来てくれよ!!」

 

 アイツは汗を拭きながら、観客に愛想を振りまいている。嘘をつけ、お前なんか二度と来ないだろうが。俺は思わず失笑をしてしまう。

 

 未だにアイツは俺らのステージ近くの観客に手を振り続ける。

 

 観客の中には手を振られた相手が私だと勘違いをして泣き出す女性客もいる。あの泣いている子もアイツのお手付きになるのだろうか、アイツに食べられた女の子の数は優に二十を超えるらしい。

 

 唐突で申し訳ないが少し長い昔話をさせてくれ。

 

 アイツの女性関係が酷すぎたので、余りにも見かねた俺らでアイツに注意を言ったが聞く耳なんて持つはずがない。それどころか注意をした俺らに当てつけかのようにアイツの女性関係は悪化していった。終いには、俺らがお世話になってる事務所にアイツの何番目かの女の子が恨みつらみを綴った手紙が送られてきた。

 

 何故こんな問題児が解雇されないのか不思議だったので、社長に聞いてもはぐらかされるばかりだった。長年の謎だったが俺の友人にゴシップライターが居て、そいつが謎を教えてくれた。

 

 どうやら社長がパパ活をしていた未成年の女の子とラブホテルに入り、堪能した後ラブホテルから出てきたところをアイツが待ち構えて写真を撮られたらしい。更に救えないのはここからだ。どうやら社長の相手はトシのお手付きの子だった。恐らく自身の保身の為に女の子を使って社長を罠に掛けたといった具合だ。保身の為に傷つく女の子の事を考えずに利用するクソ野郎だ。アイツからしたら所詮何十人もいる女の内のたった一人としか考えていないのだろう。

 

 社長の馬鹿さ加減にも、あのど畜生の尻ぬぐいにつき合わされ何もかも嫌になった。もうこれ以上は真っ平ごめんなので、トシを除く俺ら三人で脱退を社長に直談判すると、アイツに弱みを握られて調子の悪かった社長の顔が見る見るうちに青ざめていく。

 

「それは困る、今となっては君らがウチの主力商品なんだ!しかも今度はアジアツアーをもくんでたんだぞ!」

 

 初耳だった。そもそもそんな大事なことを何故俺らに教えなかったのか?更に言わせてもらえれば俺らは商品なんてモノじゃない。なにが主力商品だ、その商品とやらも消費期限切れの改竄だらけの詐欺商品じゃないか。

 

 未だにぎゃあぎゃあと喚く社長の青白い面に退職届を押し付けた。まぁ最も飯を食わせてくれた恩は感じてるからこの全国ライブツアーが終えたら俺ら三人は仲良く脱退だ。

 

 今夜で一つのライブが終わった。明日は移動日で明後日には俺らの最後のライブだ。全身全霊、一音一音魂を込めてVo,Gtの役割を果たさなくてはならない。そして最後のライブが終わった後の楽屋であのクソ野郎に脱退届を三人でだし、慌てふためくアイツの面を肴にして飲み明かす予定だ。因みに参加予定は俺ら三人は当然のことながら、マネージャー、スタッフと大所帯だ。というかアイツを除く全員だ。流石にアイツが可哀そうかと思ったが、メンバーにお前は優しすぎるんだと怒られた。・・・別にそんな優しくないと思うんですけどね。

 

 なんて過去に浸ってると他のメンバーのコメントが終わったのか俺にマイクが回ってきた。

 

「今夜はあざした、次が最後なのでチケット当たった人は体調に気を付けてライブ会場に来てくれよ。極力交通機関を使ってな!車で来て渋滞とかさせんなよ!気を付けて帰ってな!」

 

 残念ながら俺にマイクパフォーマンスは壊滅的なので、とりあえず毎回テンパりながら思ったことを言う。すると観客の答えは決まっている。

 

「は~い!!気を付けて行きまーす!お父さん!!」

 

 これだ。何なん?何で観客にお父さん呼ばわりされんの?ネットでよく解せぬ。って書きこみ見るけど今まさに解せぬなんだが?

 

「・・・毎回いうけどさ、俺はアンタたちのお父さんじゃないんだが。中には俺より年上のお父さんいるでしょ!?」

 

 俺が手を頭に当て頭を振り、苦言をすると観客はどっと笑い声が起こる。恥ずかしい話だが、俺らのライブに行く目的の中にこのお父さんコールをしたいがために来てくれる物好k・・・人がいるらしい。・・・いや来てくれるのは嬉しいけどほら。曲とかさ、パフォーマンスとかあるじゃん。俺らはキャッキャウフフされたいんだよ!持て囃しされたいんだよ!!(迫真)

 

「けど、言うてお前お父さんが言いそうなことやもん。毎回毎回さぁ、狙ってやってんの?お父さん」

 

 Dr担当が俺に肩を回しながら聞いてくる。凄く・・・汗臭いです。

 

 俺らを見た女性陣が一層黄色い声を上げる。

 

「やっぱりお父さんは受けなのよ!!」

 

「いいえ、お父さんは内弁慶と見たわ!きっとあれは私たちを欺く為の芝居なのよ!よっしゃ!創作意欲湧いてきたぁ!!これで夏は完売間違いなしね!!」

 

 ・・・中には腐りまくった人もいる。夏、完売・・・?そういえば俺らのバンドネームが入った紙袋を持った女の子たちがビッグサイ〇にいたなぁ・・・あっ(察し)

 

 その声を聞いたDr担当がすっと俺から離れた。所々から聞こえる残念そうな声、舌打ち。思わず目を合わせる俺ら。上がる黄色い声。向こうの目のハイライトさんが死んでるのはライブの疲れという事だろう、そうしよう。

 

「コメントとか求められても困るんだが、マジで。ライブ来てくれた、ありがとうございます。気を付けて帰ってね。これしかコメントが出てこない助けて」

 

 テンパりながら答えDr担当に助けを求め、見る。すると目前に愉悦に浸る奴が居たのでデコピンをお見舞いして黙らせる。おかしいなぁ、作詞してるときは言葉が湧いてくるのになぁ、不思議。軽く現実逃避をするとホールに響く笑い声。このままだとグダるので無理矢理締めに入る。

 

「ここに味方は居ないのは分かったから、笑うのをやめて。やめなさい。やめろおお!・・・名残惜しいけど時間が押してるのでこれでお終い!ほら、お前ら早く来い、整列すんぞ」

 

未だに痛がるDr担当を立たせ整列させる。俺の左横はDrだが右横はクソ野郎だ。メンバー皆で手を繋ぎ観客に一礼する。観客からの万雷の喝采を受けながらステージ横から楽屋へと移動し各々シャワールームに入る。

 

 シャワーで汗を流すが体調を崩したのか、悪寒がする。まずいな、明後日は本当に最後のライブだというのにバッドコンディションで最後を迎えたくない。素早くシャワールームから出て着替える。

 

「あれ、もう上がったんだ?今回は早いな。なぁ、これから飲みいかないか郷土料理を肴にして一杯ひっかけようぜ」

 

 Key担当とDr担当が腰にバスタオルを巻いた状態でシャワールームから出てきた。飲みたいのは山々だが、調子が悪いから先に宿泊先のホテルに戻ってる事を伝えると、お大事にと言われた。あざす。

 

「あの野郎はまだシャワー中?」

 

 Key担当が小声で聞いてくる。衣類を入れる籠にアイツの脱いだ服が乱雑に置かれている。俺はそれを親指で指した。

 

「珍しいな、普段はそそくさと帰るのに。それと逆にお前が先に帰るとは」

 

たまたまじゃないかと言いたかったが、くしゃみが俺のセリフを遮った。いかんな、さっさと寝ねば。ベッドが俺を呼んでいる。俺は二人に挨拶をした後、すれ違うスタッフたちに挨拶をして裏口玄関を開けホテルへと向かう。

 

 少し歩き国道へと出た。国道だというのに車が数台疎らに通り過ぎていく。未だ時間は23時を少し過ぎただけだ。なのに通行人は俺だけだ。さっきまでのホールの熱気が嘘みたいに感じる。先程通り過ぎたタクシーが俺の視界から消え、完全に俺一人だけになった。数メートル毎に置かれている街頭があるが、点滅を繰り返してばかりで本来の役割を果たせるだろうか、かなり頼りない。

 

 仄暗い歩道を少し歩き、道端にある自動販売機でスポーツドリンクを飲み気づく。誰かに見られている感覚。・・・ははは、そんなことはない、調子悪いから気のせいだろ。俺は再びドリンクを勢いよく飲む、そもそも何で俺は徒歩でホテルに向かってんだ?あ、そっか近いからタクシー呼ぶほどでも無いってマネージャーに断ったんだ。俺の馬鹿。クッソ怖い。さっきから街頭調子悪すぎだろ、点灯してる時間の方が短いってどういうことなんだよ!まあいい、後数分も歩けば着く。

 

 何気なく地面を見た。幸か不幸か、滅灯していた街頭が再び点灯をした。街頭に照らされて出来上がる蔭。そこには俺。その斜め後ろに短い人影。・・・え?

 

「クソが!!・・・・あ・・・?」

 

 振り向きざまに殴ろうとしたら、突如衝撃が入り次第に熱くなる俺の腹。・・・何が起こってんだ?俺の腹を見るが黒い髪が俺の視界を遮る。何だこいつなんて思ってると目の前の野郎が何かをゆっくり回し、勢いよく引き抜いた。どんどん流れる赤。赤。赤。

 

 あまりの激痛に堪らずアスファルトに倒れこむ。改めて俺の腹を見るとズタズタになり、小腸だろうか大腸だろうか。あぁ、もうどっちでもいい。それどころじゃない、止血。止血しないと。手を動かすがピクリと動いただけで肝心の腹に出来た穴を塞いでやくれもしない。こりゃもうダメか。我ながら余りにもアッサリ生の執念とやらに諦めがついた。せめて、せめて俺をこんなにした奴の面でも拝もうと犯人に顔を向ける。

 

「・・・・・え、え??嘘・・・・トシ君じゃない・・・え?あ、あ・・・あ・・ああああああああああああああああ!」

 

 犯人が包丁を落とし絶叫しながら走り去る。あれは見間違いでなければ、トシに利用された子・・・・。おい、まさか人違いかよ。トシを殺ろうとしたら間違えて俺を殺っちまったってか。・・・・・・・・・はは、なんだよそれ

 

「・・・・・・白けるぜ」

 

 俺は目を閉じた。

 

 




閲覧ありがとうございました。お気に入り、感想頂けるとマジで励みになります。

原作キャラ登場させれなかった・・・


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家族

今回は説明会です。短いですがどうぞ。


 気づいたら俺は、赤ん坊になり今こうして俺の母親のおっぱいを飲んでいる。

 

 ・・・いやいやいや話が分からないだろ?俺も全く分からないんだ。

 

 勘違い女に刺された後どうなったのかも分からない。情報を得ようとしても、如何せん今の俺の身体は未だ赤ん坊で歩くことはおろか、ハイハイすらもできない。出来るとしたらこうやってモゾモゾと身体を揺り動かすくらいだ。あ、待っておむつじゃないんだ。粗相してないから俺のオムツを脱がさないでこらやめ、やめア————ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閑話休憩

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひどい目にあった・・・どこの世界に20代の男が同い年くらいの母親にオムツを交換させられる奴がいるんだよ・・・・

 

 俺の気を無理矢理紛らわす為に情報を一旦整理しよう。

 

 ・どうやら前の世界で流行っている転生モノ?とにかく前世の記憶はある。

 

 ・今世の俺の家族構成は父、母、姉、俺の四人構成。

 

 ・テレビを聞く(俺の身長だとテレビが見えない)限り俺が刺された事件が放送無かった事と日本ではなく、この国は重桜というらしい。けど言語は日本語ならぬ重桜語。これらの事から転生モノ?と判定。

 

 ・テレビから聞こえてくるのは艦船?とかセイレーン?とか。艦船?船?どうゆうこっちゃ。なんだか世間一般はその艦船なるものに、いい感情を持ち合わせていない。

 

 ・この世界には前世の国連にあたるのか?アズールレーンという軍事連合がある。これはセイレーンにフルボッコされた各国が協力してセイレーン倒しましょう!って経緯がある。・・・セイレーンやばいな。艦これの深海棲艦ポジでだな。

 

 

 ザっと軽くまとめたけど・・・・うん。これ紛れもなくアズールレーンの世界でいいんかな?申し訳ないんだが、アズールレーンは名前しか知らないんだ。前世のDr担当の奴がどうたらこうたら言ってたなぁ・・・こんなことならちゃんと話を聞いてあげればよかったゴメンな。

 

 殺されるわ、赤ん坊になってるわ、艦船だ、何だか次から次へと情報が流れ込んできて頭がパンクしそうだ。だが不思議とワクワクしている俺がいる。理由は分からないんだが、子供の頃に山で秘密基地を作っていたあの高揚感と言えば伝わるかな?年甲斐もなくめっちゃワクワクしてる。めっちゃワクワクしてる。大事だから二回言いました。

 

 この高揚感のまま出かけたいのに赤ん坊だからねー、出かける事すらできないんだよねー。あーあ、外はどうなってんだろうなーと、母にチラっと見る俺。母は俺の視線に気づき、にこやかに俺に向かって手を振る。あらやだ可愛い。・・・じゃなくて俺は外に出たいの!外出したいの!母上!!あっ違う、オムツじゃなくて、お外にね?行きたいの、分かる?お外。決してオムツ変えてくれのコールじゃないんだよ。だからその手に持ってるオムツをね手放してくれませんかねー・・・来るなこっちに来るな!カ、カエレ!!・・・あ、ここ家じゃん帰ってるじゃん・・・あぁ~~~~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やあやあ皆さんこんにちは。俺です。そう同い年くらいのマッマにオムツ交換された俺です。なんやかんやあって俺も年を取りなんと3才!光陰矢の如しとはこのことですなぁ。

 

 ぶっちゃけおっぱい飲んで寝ての繰り返しだったからな。あ、たまに姉ちゃんが寝てる俺にマジックペンで俺の顔に落書きしてはマッマに怒られてた。アホす。そんな光景を見て朗らかに笑うパッパ。これが家族って奴か。前世では俺は親に捨てられて孤児院育ちだったからなーあっはっは。いやまぁ、辛かったけどそれだけじゃなかったよ?俺にはたくさんの兄弟、姉妹がいたからなドヤァ。チビッ子の面倒は俺と姉ちゃんで見るからさ。だから遠慮なく新しい家族を作ってもいいんだよ?ん?

 

「あー!また灯ちゃんが変な顔してる!お母さん!」

 

 なんて考えてたら姉ちゃんが俺を指さして母さんを呼ぶ。変な顔とはなんだ、俺は新たな生命の誕生を温かく迎え入れようと優しい笑顔をしていたじゃないか。あと俺の名前はあかりである。姉ちゃんくらいだぞ俺をとうちゃんなんて言うのは。

 

「灯ー。小さい時から変顔してると癖付いちゃうからやめなさい」

 

 マッマからも変顔と思われてた件について。母さんが昼飯を持ちながら食卓に来る。姉ちゃんと俺で卓上を布巾で拭く。

 

「ん、二人ともありがとね。そうだ灯、お父さん呼んできてご飯出来たわよって。隣の工場にいるはずよ。」

 

 かしこま!さっきの会話の通り父さんは町工場を営んでいる。なんでも爺ちゃんの代から続いているんだとか。偶に工場に行ってパッパを手伝ってはお小遣いを母さんに内緒で貰う。お小遣いといっても100円200円だけどね。それでもこの年には貴重な金額である。父さんありがと。

 

「とうさーん!母さんがご飯出来たってー!」

 

 小さな工場のドアを開け、叫ぶこうでもしないと父さんは気づかないんだ。返事が来るか少し待つが返答なし!偶々近くにあったメガホンを掴みもう一度呼ぶ。

 

「とうさーん!」

 

 奥の方でゴソゴソと動く物音。旋盤という機械から親父がひょっこり顔を出した。

 

「おおー灯か。どうしたんだ?」

 

 鉄くずを掃除しながらこちらに来る父さん。見た目20前半だが中身は33のアラサーである。ハッキリ言おう詐欺であると。ご飯できたってよ。

 

「ありゃ、もうそんな時間か。ん?母さんは午前中にピアノ教室じゃなかったっけ?」

 

 それは午後から。午前中なのは明日だよ。

 

「そっかそっか。それにしても灯はよく覚えてるなー」

 

 手を洗いながらのほほんとする父さん。今はこうして田舎の小さな町工場の工場長をしているが、母さん曰く大学時代は凄かったと。重桜国で一番頭がいい奴が集う大学で余裕の首席で卒業していったんだとか。余りにも優秀な為に国のお偉いさんがスカウトしたが、父さんの意思は強く町工場の後を継いだ。

 

 母さんも母さんで有名なピアノの演奏者だったらしい。大会に出ては優勝を総なめしていた。音大に入学して、父さんの居る大学で演奏しにいったらそこで父と会う。互いに一目惚れだったそうだ。母さんは絶対に父さんに着いていくと決めていたらしく、卒業後すぐに二人は結婚。父さんの居るこの田舎に嫁いだ。

 

 僕が考えた理想の両親!みたいな絵から出てきたかのような凄い二人の経歴だが、全部本当の事なのだ。ほえー・・すっごい。

 

「伊達に母さんの手伝いしてるからね」

 

 かくいう俺も前世のミュージシャンの技を活かし、母さんの手伝いをしている。ギターを弾こうとしたが手が小さいせいで上手くコードを抑えることができなかった。・・・こ、これからだし!すぐに弾けるし!ギターがダメならピアノじゃ!と母さんのピアノ教室で弾いたら母さん驚く、生徒がたも驚く驚く。

 

 どうして弾けるのかと聞かれて、前世がミュージシャンでしたから。と馬鹿正直に答えるわけにはいかず、母さんの見てたら出来たと。苦し紛れにも程がある言い訳があっさりと信じられたのは罪悪感が沸いた。それ以来母さんからピアノ教室の授業の時は手伝って欲しいと言われ手伝っている。今では俺と姉さんはピアノ教室のマスコットキャラクターの地位を手に入れた。

 

 生徒といっても幅が広く、おばあちゃんから幼稚園児までいる。みんな俺より年上だけどな!おばあちゃんからはお菓子を貰い、お姉さんや女子高生からはペットの様に頭をわしゃわしゃと撫でられた後、思いっきりハグされた。・・・・柔らかったです。

 

「灯も小鳥もいい子に育って俺は嬉しいよ」

 

 父さんがまだ濡れてる手で俺の頭をワシワシと撫でる。ちょ、冷たいんだけど!

 

「はっはっはっは」

 

 父さんは散々俺を撫でた後、俺と手を繋ぎ自宅へと戻った。勿論濡れた手のまま俺を撫でた父さんは母さんに叱られていた。ですよねー。

 




灯は生まれて初めての血の繋がった家族。普通の家族に戸惑いを覚えつつも順応していこうとしています。

最後まで読んでいただきありがとうございました。


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友達

漸く艦船を出せた。オリキャラで話が長くなる俺の悪い癖。


 あれから更に三年が経ち、俺は幼稚園の年長に、姉は小学三年生になった。俺と姉ちゃんは母と父の手伝いをして少ないながらもお小遣いをもらい日々を過ごした。うん、またキングクリムゾンなんだ。すまんな。だけどさっき話した通り、そんな代わり映えのしない日常だったぜ?もちろん空から鮭が降って頭に乗っかったりとかはしていない。

 

 そうそう話は変わるが、実を言うと三年前に俺が待望した妹が誕生したよ!いやー長かった。正直いつ両親の夜中のプロレス(意味深)を見るか気が気でなかった。

 

 当時はまだ俺が三歳とお子ちゃまだったから両親と一緒の部屋で寝ていたんだ。姉は既に一人で寝ていた、姉が一人部屋貰っていて悔しかったのを覚えてる。まさか俺が寝てる隣でおっぱじめるのかと思ったが、両親は部屋を変えてプロレスしてましたまる

 

 隣でおっぱじめなくて良かったけど、声がね・・・幽かにマッマの嬌声が聞こえるんだよね。お子ちゃまで性欲が芽生えてなかったからか、俺を産んだ母さんだからか分からんがピクリとも来なかった。流石にねぇ・・・実の母にはねぇ・・・しないよ・・うん。

 

 思い出したら気持ち悪くなってきたので、兎に角俺が言いたいことはただ一つ。妹がマジ可愛い。

 

 考えてみてくれ、妹が赤ん坊の頃俺がほぼ毎日付きっ切りで面倒見て可愛がったんだ。更に妹が気持ちよく寝れるために、アコギでリラックスできる曲をアルペジオで弾いたんだ。初めはキャッキャと喜んでた妹が直ぐに寝落ちする姿は何回見ても可愛すぎて俺が溶ける。というか四歳になってやっとコード抑えれる手の大きさになったわ!長かった。ピアノもいいけどやっぱりギターはっきりわかんだね。

 

 そんなこんなして妹を溺愛していると、赤ん坊の妹が俺に向かって小さな両腕を俺に突き出してあ~あ~と何か言いたそうにしてんの。何だべ?と思って耳を傾けたら俺の名前言ってんの!思わず喋ったぁぁぁぁああああああ!って叫んで皆に怒られたわ。父さんも父さんで、妹に最初にパパと呼ばれなくて悔しがってたから目の前でNDKしたらヘッドバット食らった、くそ痛かった。

 

 まあ妹を愛では、幼稚園に行っては、両親の手伝いをしていた三年間だった。家族にも妹の誕生といった変化があるように、世間も当然の如く変化が起こった。

 

 それはセイレーンの活動が活発になり、海運の妨害が多発していることだ。ようするに通商破壊だ。そのせいで重桜を始め、ロイヤル、ユニオン、鉄血のアズールレーンを主要参加国がセイレーンのせいで物資が入手しづらくなっている。物資の中は主に、穀物等の食糧、木材、油そして・・・鋼材だ。

 

 父さんは町工場を営んでいる。三年前はまだセイレーンも大人しかったのか、鋼材は順調に手に入った。しかし、ここ最近は酷い。週末に鋼材が運送会社から送られてくるのだが、めっきり鋼材の量が目に見えて減ってしまった。鋼材が減ったせいで商売道具である鋼材が無いために、受注したくても出来ないため仕事が減るといった悪循環のスパイラルに陥ってしまった。母さんはその穴を埋めるために毎日ピアノ教室を開いている。

 

 父さんもこんな状況で大変だろうに、辛い表情をおくびにも出さずいつもと変わらない様子で俺たち家族と過ごしている。・・・とても強い人だ、俺の父親という事を抜きにしても尊敬する。本当は笑っている場合ではないのに、それどころではないのに。

 

 ・・・まぁ当然のことながらこの問題は我が家に限った話ではなく、家らみたいな町工場や自動車や、飛行機、ロボット産業等の鋼材を大量に必要とする企業は鋼材が入手しづらくなり、商品を生産できなくなり経営は火の車だ。

 

 経営が苦しくなるとどうするか、自社から金が流出しないようにすればいい。では一番の金食い虫は何か?それは労働者だ。会社は早速金食い虫である労働者の数を減らす——リストラを行った。

 

 突如リストラを言い渡された労働者たちは当然の如く激怒した。最初は当然ながら自身を不当に解雇した会社に対し、集会デモを行い再雇用の訴えを行ったが成果は上がらずに終わる。

 

 不当に解雇された労働者たちのフラストレーションは溜まりに溜まっていく一方だった。そして各々が考え出した。そもそもの原因は何なのだろうか?そして辿り着いた。鋼材が入手しづらくなった原因、セイレーン。

 

 そのセイレーンとやりあっているアズールレーン。そのアズールレーンが使役している人の形容をした艦船。あいつらが情けないばかりにこんな目に遭っているのではないか。その考えに辿り着いた人たちが艦船に強い不満感や不信感を抱くようになった。

 

 この三年であっという間に艦船のイメージが悪くなってしまった。俺からしたらそれは誤断だと断言する。そもそも彼女らが居なかったら物流のダメージで済んでいるというのに。艦船を憎む人たちも彼女らを憎むのもお門違いだと頭では分っているのだろう。いや、分かっていると信じたい。だけど感情が何かに当たらないと気が済まない不安定な状態に陥っているんだろう。

 

 テレビのニュースでは艦船の話で持ち切りだ。毎日街頭インタビューで艦船のヘイトの感想がテレビ越しに聞かされる。鬱陶しいことこの上ない。艦船を憎むのは筋違いだ。憎むべき相手は艦船では無く、そもそもの原因であるセイレーンを憎むのが筋だろうに。あんな可愛い子たちが毎回傷を負いながら出撃しているというのに、感謝をするどころか罵倒を浴びせる始末。・・・・胸糞わりい。幸いというか、当然というか我が家は艦船を憎んでなど居らず、むしろ感謝していた。

 

 今も昼食に流れているテレビのニュースから艦船のヘイトを聞き思わず舌打ちをしてしまう。

 

「こーら、灯。食事中になんて下品なことをするの、やめなさい。育江が怖がるでしょ」

 

 う・・・ごめん母さん。愛しのマイラブリー妹。育江を見る。

 

「う~?」

 

 育江ちゃんがこっちを見て首を傾げて俺を見ているぅ!!可愛すぎんべよウチの妹。

 

「・・・灯ちゃんが妹に手を出さないか不安でしょうがないわ」

 

 ちっちっち。姉さんは分かっていない。微塵も分かっていない。妹は愛でるべき存在であると!俺は育江の頭を撫でたり、おんぶしたりギターの弾き聞かせをするだけで幸せなのだよ。姉さんいや、小鳥よ!!

 

「はいはい、要するに末期のシスコンね。・・・シスコンってことは私はどうなるの灯ちゃん、ねえねえ」

 

 え、なんでこの人急にテンション上がるの?女の子の日なの?怖いんですけど。育江ちゃんは全然可愛いけどー。

 

「ん?けど?」

 

 ちょっといきなり顔を近づけんなよびっくりするでしょうが!やっぱり姉という生き物を妹と同じ様に愛でるのとは違いまんな。弟は姉に逆らえない生き物なんだようん。

 

「つまり?」

 

 姉さんは姉さんのままで居てください。

 

「えへへ、わかったよ灯ちゃん」

 

 結局質問に答えなかった事に気付かない姉さん。頭の出来はこのやり取りで察してください。…ちょろすぎんべよ姉さん。

 

 

 

 閑話休憩

 

 

 

 

 

 

 

 という訳で、今日は土曜で幼稚園はお休み&ピアノ教室はお休みなので現在俺は散歩しております。田舎だから道を歩いてるのが爺さんと婆さんしかいねえ。あ、こんにちは佐藤さん。え、飴玉ですか?え、こんなに?わざわざビニール袋に入れて頂いてありがとうございますー。はーい、姉さんたちと頂きまーす。

 

 おやつを頂いてしまった。懐かしいなーペロペロキャンディーに黒糖飴。前世で小さかったころ黒糖飴で舌を切って口の中血だらけになったのはいい思い出。うん。

 

 気付いたら海っぺりにでてたわ。いや、前世の思い出に耽ってたら随分と歩きましたなー。あー久しぶりの海風が気持ちいいー。お、堤防あんじゃん。上って座るぅ!このじゃりじゃり感が堪らない!あ”-やっぱり海を見るとおちつくわー。なんだ俺の帰巣本能が海に反応してんのか?ということは俺の前々世はワカメ!君に決めた!・・・・あほくさ、座ったばかりだけどぼちぼち帰るかー。

 

 こっから国道出て帰ると遠回りなんだよなーそれは面倒臭いな。どれ近道でもしますかー。・・・ん?堤防に上がって遊んでる子供二人。珍しい、幼稚園以外で子供なんて久しぶりに見たわ。

 

 あ、ついでに沢山あるこの飴ちゃんあの子たちにあげるか。流石に袋にパンパンになるまでは食べきれないわ。ごめんね佐藤さん。

 

 こんにちはー。遊んでるところごめんね、何してんの?子供もとい幼女二人に挨拶。挨拶めっちゃ大事。一人はへそ出しセーラー服を着た角が生えた白髪の幼女が一人。白い服に緑色の髪をした猫耳幼女。ん?角?猫耳?そんなこと考えてたら猫耳が角の幼女の後ろに引っ込んだ。角の幼女が猫耳幼女を庇いながら俺を睨みつける。あれ、俺やったくさくない?

 

「ここになにをしに来たです・・・人間!!」

 

 俺か!?俺は適当に散歩してたらここに来ていたんだが。後ろの子は大丈夫か?震えてるぞ?

 

「明石に触るなです!」

 

 手を伸ばした俺の手を角の幼女が叩き落とした。少し痛いが心はもっと痛い。え、なんで俺こんなに嫌われてるん?凹むんだが。なぁ、俺君たちに何かしたか?

 

「何か?何かです!?・・・お前がそれを言うのか人間!」

 

 あかんめっちゃお怒りだ。それにしても人間て。いやまあ、生物学所は人間だけどね。だけどそんな言い方だとまるで自分たちは違うかのよう・・だ・・・。あれ?普通の人間には角とか猫耳とか生えねえよな。・・・もしかして君たちは艦船なのか?

 

「っつ!!」

 

「にゃ~・・・」

 

 どうやら図星だったみたいで角の子が苦虫を潰した表情になり、後ろの明石と呼ばれたこは更に体を角の子に寄せた。そうかこの子たちが艦船か、テレビでしか見たこと無かったけどこんなに小さい子も居るのか。取り敢えず俺は艦船に逢えたら言わなきゃならない台詞を言わねば!

 

 なぁ、お二人さんは艦船なんだよな?

 

「・・・・それがどうしたです、人間」

 

「・・・・・・・」

 

 そうか、君たち艦船に言いたいことがあるんだ。毎日海を警護してくれてありがとう。貴方たちがいるからこの程度の被害で落ち着いているんだ。テレビに出てる奴らはあんな酷い事を言ってるが、俺はそんなことは筋違いだと思ってるんだ。・・・兎に角ありがとう、貴方たちのお蔭で苦しいけど生活できているよ。

 

 これが艦船に逢ったら言いたかった言葉だ。悪口なんて気にするな。その気持ちは痛いほど分かるよなんて口が裂けても言えない。その悪口を受けて傷ついた感情は計り知れないし、その痛みは傷ついたその艦船だけの物だ。だから、おれは是が非でも艦船たちに感謝をしたかった。

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

 む、反応がない。俺を見て二人ともぼうっとしてる。な、なんだよ俺そんなに変な事言ったか?

 

「・・・・・・そうです、人間はとても変な事をいったのです」

 

 ひでえ。恥ずかしかったけど頭下げてお礼言ったのに。この言葉の暴力。

 

「・・・だけど嬉しかったです。お前は他の人間とは違うです」

 

 そっか。喜んでくれたんならお礼言った甲斐があったわ、良かった良かった。

 

「明石、この人間は大丈夫です。」

 

 あぁ、いいよ。明石ちゃん?でいいのか?その子俺がっつーか人間が怖いんだろ?なら無理させない方がいいんじゃない?

 

「・・・にゃ。に、人間お前みたいなのは初めて・・・にゃ。変な奴だけどう、嬉しかったにゃ。あ、ありがとうにゃ」

 

 あっ。この子育江ちゃんに通ずる妹力を持ってる。あかん、そんな両手でもじもじして上目遣いとかやめて、可愛すぎて俺が死んじゃうから。

 

「にゃ!?明石がかかかかか可愛い!!」

 

「明石、この人間やっぱり変な奴です。」

 

 お黙り!ところで角の子。君は何て言うの?

 

「私は綾波と言うです。変な人間は?」

 

 おっけい。今名乗るからその変な人間を止めろ。俺に効く。俺の名前は綾瀬灯だ。灯台の灯な。適当に灯でも灯ちゃんとでも呼んでくれ。これからよろしくな二人とも。今日から君たちは俺の友達だ。しぇーくはんどだ。おーけー?

 

「・・・変な人間の割にいい名前持ってるです。灯。これでいいです?改めてよろしくです」

 

「にゃ、もう友達になったのにゃ?人間の友達なんてはじめてにゃ。私は明石にゃ。灯ちゃんよろしくにゃ」

 

 ん。よろしくな二人とも。そうだ、お近づきの印に飴ちゃん食べる?

 

「頂くです!」

 

「頂くにゃ!」

 

 綾波は黒糖飴で明石はペロペロキャンディーか。俺らは堤防に上がり三人で飴を舐めてる。

 

「そうだ、灯。」

 

 んーどったの綾波。

 

「私たちは未だ幼いから出撃してないですよ?」

 

 そうなの!?てっきりもう出撃してるのかと思ってた。

 

「まだ訓練も済んでないのに出撃は出来ないです」

 

 そんなもんかー。

 

「そんなもんです」

 

 そのままぼけーっと飴ちゃんを舌で転がしていた。

 

「あ、灯ちゃん」

 

 今度は明石かどったの?

 

「もう夕暮れ近いけど灯ちゃんはだいじょうぶかにゃ?」

 

 おー?・・・空が赤いですね。お二人さん。

 

「赤いです」

 

「赤いにゃ」

 

 これは俺マッマに怒られるパティーンですわ。あかんですわ。

 

「どんまいです?」

 

「がんばるにゃ灯ちゃん」

 

 ちょっと俺もう帰るわ!明日また遊ぼうな!絶対だぞ!!じゃーなー!!

 

「分かったです。だから気を付けて帰るです」

 

「じゃーにゃー灯ちゃん!」

 

 二人が手を振るのを背に俺は急いで帰路に向かう。結局家に着いたのは日が沈む直前。頑張ったぞ俺!よく間に合ったな「灯・・・今何時だと思ってるの」間に合いませんでした。/(^o^)\

 

 まぁ、そんなこんなで綾波と明石と友達になった。

 

 

 

 




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