T S 転 生 物 (ブラバ界のレジェンド)
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いちわ

よくこのタイトルとタグと粗筋で1話目を開く気になったな


「静かに」

 

 いかにも神官な出で立ちをした友が、冷酷な表情で木槌を叩く。

 

「これより反逆者グスマンへの判決を言い渡す」

 

 彼は淡々と、感情を込めずに目の前に記された紙を読み上げる。きっと、裁判が始まる前から書かれていたであろうその判決を。

 

「グスマン。貴様は……民の前でその罪の重さを示せ。断首にて、貴様の顔が醜く朽ち果てるまで晒し首だ」

「……そうか」

 

 俺の判決は、処刑。無理もない、俺はれっきとした反逆者なのだから。

 

「な、納得できません! なんで、グスマン様が動かなければ今頃この国は……っ!」

「静かに。異議は認めない、これは既に下された判決である」

 

 淡々と判決を読み上げる俺の友を、親の仇のように睨みつける少女。キッチリと結い上げられた金髪を振り乱し、俺をかばおうと此方に駆け寄ろうとして、兵士に取り押さえられていた。

 

 メイリース。彼女は俺の従姉妹であり、この裁判で自分の立場を危うくしながらも俺の弁護を買って出たお馬鹿だ。

 

 こんな、結果の決まりきった出来レースのような裁判に、よくもまぁここまで熱を込められる。法治国家として、反逆者である俺の存在など許してはいけないだろうに。

 

「分かった。俺は大人しく刑に服そう」

「当然だ」

 

 そんな俺の返答を聞き、手枷に付けられた縄が強く引かれる。少し仰け反りそうになりながらも、縄を引く兵士に逆らわず俺は被告席から降りた。

 

「待って、待てって! こんな、こんな事が有ってたまりますか! 彼は英雄ですのよ! やい兵士、その人を連れて行くな、戻れ、裁判をやり直せ!」

「……メイリース様。お気を確かに」

「私の気は確かですの! 貴方こそ……貴方こそ、グスマン様の無二の友を名乗っていたでしょう!? 何をしていますの、このままでは!」

「……奴の目をご覧下さい、メイリース様。これ以上は、奴の矜持を……傷付けるだけでしょう」

「矜持? 矜持ってなんですの!? 彼は讃えられるべきでしょう、語り継がれるべきでしょう? そんな彼に大罪人の謗りを与えて、これ以上の侮辱がありますか!?」

「彼は、グスマンは、反逆者です。この国にとって、彼は決して許容できる存在ではない」

 

 そう言った友の顔は、形容しがたい表情だった。無理してやがるな、アイツ。

 

 そもそもヤツは、友を殺せるほど冷酷になりきれる男ではない。俺がどうあがいても助からないと知っているから、せめて最後のひと時まで俺と会うことのできる神官を買って出たのだろう。

 

 本当に、俺はいい友を持った。

 

「ありがとな、ベルン」

「……何をしている。グスマンを連れて行け」

「はっ! 了解しました」

 

 俺は、裁判所を後にする時に小さく感謝を呟いた。

 

 ベルンの耳には入っただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「親殺し!」

「よくも国王を!」

 

 裁判所を出て、檻の中に閉じ込められ俺は護送される。 

 

「殺せ! 殺せ! 殺せ!」

「苦しめて殺せ! 生まれたことを後悔させろ!」

 

 護送の最中、道に溢れかえる民衆から大量の石が投げつけられた。無理もない、俺は彼等にとって憎むべき敵なのだ。

 

 檻の鉄格子の隙間から石が幾つも投げ込まれ、縛られて動けない俺の体を打ち付ける。

 

「悪魔だ、この男は悪魔の化身だ!」

「覚悟しろよ、正義の鉄槌をお前に叩きつけてやるからな!」

 

 俺が命を賭して守った民衆達。

 

 後悔がないと言えば嘘になる。実の父親である国王を殺してまで守った民からは、忌み嫌われて石をぶつけられる現状に。

 

 でも、何もせずこの国の民が蹂躙された方が、きっと後悔したと思うから。

 

 俺は、甘んじてこの屈辱を受け入れよう。

 

 

 

 

 俺の父は、国王は、国を売っていた。

 

 自身と家族の身の安全と引き替えに、国民を隣国に売り渡そうとしていた。

 

 隣国とは、軍事力で大きな差がある。まともに戦争したら、きっと敗北して国王の一族は処刑されるだろう。

 

 それを回避するためとは言え、国が丸ごと奴隷となるようなふざけた条約を国王は勝手に結ぼうとしていた。

 

 隣国の人間は、いつでも俺達の国の人間を奴隷として徴用出来る。そんなふざけた条約が結ばれようとしている。

 

 俺は、たまたまソレを耳にして父に問い詰めた。そして、その条約が事実だったことを知る。

 

 その代わり。父や俺は、隣国において貴族として暮らしていけるそうな。

 

 

 

 

 その日、俺は父親を斬った。

 

 

 

 この事実を知られてはならない。

 

 ただでさえ、隣国はこの国を侵略しようと虎視眈々機会をうかがっている状態なのに、国王が民を売った事が知れ渡ればたちまち内乱となる。

 

 そんな状態になれば、数日でこの国は蹂躙されるだろう。

 

 

 

 

 “国王の息子が、クーデターを企て、国王を殺した”

 

 今回の事件は、ソレだけで納めないとならない。この緊迫した情勢で、絶対に国家と民の間の不信感が生む訳にはいかないのだ。国王の跡継ぎは継承権通りに兄が。それで、さしたる混乱は起こらないだろう。

 

 

「だから、俺は殺されなきゃならん」

「……グスマン。良いから、逃げろ。ここに居る連中は、お前の成した正義を理解しているから」

 

 裁判が終わり、処刑される前夜。俺は神官として俺を見送りに来たベルンに薄く微笑む。

 

「俺は、これ以上無い神輿だ。俺が逃げ出したと言う事実が存在するだけで、俺の偽物を担ぎ出した反乱が起きるだろう」

「だったら影武者をお前として殺す。グスマンは死んだ、そしてお前は別の人間として生きてくれ」

「ベルン、もう良いんだ」

 

 やはり、この男は俺を殺すつもりは無かったらしい。幾らかの路銀と食料と共にベルンは獄中の俺を訪ねてきた。

 

 だが、俺はベルンの助けに乗るつもりは無かった。

 

「俺は曲がりなりにも、父親を殺した。罪は罪だ、償わなきゃならん」

「グスマン、格好つけるな」

「俺さ、城下町が好きでさ。しょっちゅう酒場に忍びで繰り出してたのさ。影武者なんかすぐバレちまうよ。だからさ、もう良いんだ」

 

 どうせなら、徹底的に。親を殺しまでしたんだ、つまらない生存欲でケチが付いたら馬鹿らしい。

 

 クーデターを企て親を殺した悪魔は、民の前で処刑される。それで良いじゃないか。

 

「そんなに死にたいのかよ、お前」

「そうかもな。……そっか、俺ってば死にたかったのか」

「何納得してやがる! 今なら逃げられるって言ってんだ、とっとと荷造りして逃げろよ馬鹿野郎!」

 

 何かと理由を書いてきたが、ベルンに言われてようやく理解した。

 

「国王は、父さんはさ。最低の王だ」

「……我が身可愛さに、国を売った王だからな」

「でもよ、父さんはきっと、家族を守るために国を売ったと思うんだ。父さんの家族への愛情は、きっと本物だったと思う」

 

 ヤツは、忙しい仕事の合間を使って、出来るだけ俺や母、兄弟達に積極的に関わってきた。

 

 国王の癖に、一人の親として立派にやってたんだ。今回もきっと、自分の身が惜しかったと言うより家族の身を案じて国を売ったのだろう。

 

「父さんは最低の王だけど、俺の親をしっかりとやってた。俺は一方的な正義感で、そんな父親を殺したんだ」

「お前は間違っちゃいねぇよ。保身のために国を売るなんて、やっちゃいけない」

「でも、父さんは親だったんだ。そっか、そうか。俺、死にたいんだ」

 

 父さんは家族を優先して、俺は国を優先した。

 

 父さんは本当に大切なモノを選んでいたけれど、俺は青臭い正義感に突き動かされ父を殺した。

 

 その罪は、きっと重いから。

 

「殺してくれ、ベルン。俺は、それで良い」

「本当にそれで、良いんだな?」

「その方が良いだろ。無理に俺を生かしても、争いの種になるだけさ」 

「分かった」

 

 そう言って何かを諦めた表情の友は、ぷいと俺から顔を逸らした。

 

「それでも俺はよ、お前に生きて欲しかったぜグスマン」

「ありがとう、ベルン」

 

 コレが、俺とベルンの今生の別れとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その翌日。俺は衆人環視の中、石を投げられ、蔑まれ、詰られ、ギロチンにかけられた。

 

 俺の首は、死後しばらく首都の大通りに晒される事となったらしい。

 

 コレが、愚かな反逆者“グスマン”の、その最期である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天使はここに居る! お前だぞ、マナッ!」

「……」

 

 とまぁ、何で死んだ俺が自分の死後のことを淡々と語れるのかというと。

 

「パパ、マナが嫌がっているわ」

「そんなことはあり得ないぞ! マナは天使だからなぁ!」

「……」

 

 どうやら神様というヤツは、死にたがりをそう簡単に死なせてくれない存在らしい。首が飛び意識が消え、これで何もかも終わりかと思ったら、死んで新しく始まるモノも有ったのだ。

 

「ほら、マナが死んだような目をしているじゃ無い」

「いつもこんな感じの気怠い目をしてるだろう。ソコがまたキュートじゃないか!」

「……」

 

 ここは、俺が命を賭して守った国の片田舎。

 

 俺は、1度は皇太子として戦場に立った事もある偉丈夫だった。

 

 それが今は、幼女として生まれ変わり平民の親になすがまま愛玩されている。

 

 転生というのだろうか? 生まれ変わった俺は、目が死んでいる女の子でした。

 

 ……俺の罪は、ここまで重かったのか。

 

「ほら、頬ずりしても微動だにしない! マナが嫌がっていない証拠さ」

「今、更にドロッと目が濁ったわ。パパ、やめてあげて」

「……」

 

 ……死にてぇ。



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にわ

 どうも、こんにちは。

 

 俺は反逆者“グスマン”改め、目が死んでいると村で評判の幼女“マナ”でございます。前世では「リース」王国の反逆の皇太子でしたが、今世ではリースの辺境で両親の営むパン屋の看板幼女をやっています。

 

 おぼつかない足取りで、店の看板を持って玄関付近をうろつく幼女。そりゃあ良い客引きになるね、両親は実に商売上手だ。

 

 俺はもう皇太子ではない。平民として、家業の手伝いくらいするさ。いくらでも。

 

 ただね、

 

「マナ、その服可愛いぞぉ」

「……解せぬ」

 

 ピンクでフリフリなリボンだけは勘弁して欲しかった。ああ、生きるのが辛い。

 

 

 

 

 さて。改めて今の俺の現状をまとめてみよう。

 

 生まれ変わった俺の名前はマナと言うらしい。今世の俺の性別は女性であり、つまり今の俺は幼女である。

 

 今生の俺の両親は、リース国境付近の小さな集落でパン屋を営んでいる平民。店はそこそこに流行っているようで、昼頃になると客が列をなす。

 

 昼時は、俺も最後尾と書かれた看板をもって客の整列を手伝ったりしている。

 

 店の作りとしては、質素な二階建ての白い壁の店舗だ。2階は俺達の居住スペースであり、1階でパンの作成・販売を行っている。

 

 この店は従業員を雇わず、俺の両親2人だけで店を切り盛りしている。元々は父方の祖母が首都でパン屋を営んでおり、ウチの両親が独立し姉妹店としてこのパン屋を建てたんだそうだ。

 

 そんな大忙しの2人に俺という子供が出来てさぁ大変。母親のリゼ育児でかかりきりになると、父親のベンの仕事が2倍になり店が立ちゆかなくなる。とは言え、従業員を雇ってレシピを盗まれたら大変だ。

 

 そこで父が考えついたのは、俺を店の中で面倒を見ながら仕事をすると言う方法。乳児期はずっと父か母の背中でおんぶして貰い、歩けるようになったら店の手伝いをさせる。

 

 やってることは、先ほど述べた整列だったり、暇な時間帯では入り口付近をヨタヨタと歩きながら客に”いらっしゃいませ”と頭を下げて客寄せをしたり。

 

 ハッキリ言おう。これ多分、俺に前世の知識が無かったら絶対に上手くいってなかったぞ。2、3歳の幼児が店の手伝いなんぞおとなしくするもんか。多分、店のパンを食い散らかして顰蹙を買うかワンワン泣き出して煩かったかのどっちかだ。

 

 そして、もう一つ。残念なことに、俺は無表情で目が濁っている不気味幼女である。

 

 これで集客効果は得られる筈もない。父親のベンは俺を溺愛していて気付いてないが、客からはときどき胡散臭い目で見られている気がする。

 

 年齢不相応に大人しく店の手伝いをする目の濁った幼女。悪魔の生まれ変わりかな?

 

 一方で、母であるリゼは俺の死んだ瞳を受け入れ、客から疎まれている事を察した上で愛してくれてる気がする。ベンと比べ、常識的な感性を持った人の様だ。

 

「……しゃいませ」

 

 そんな俺が不気味に見られるのを理解した上で大人しく店の手伝いをしている理由は、ずばり親からの信用を得るためだ。俺は逆らわないよとアピールして、子供として愛して貰う必要がある。

 

 望まれない平民の子供は、簡単に売られてしまうからな。

 

 それに、前世では信用があったから、俺は最期までベルンやメイリース達に信じてもらえた。あいつらにまで反逆者扱いされ侮蔑されていたら、心が折れていただろう。

 

 ……父さんを斬った時点で、俺の心は折れていたのかもしれないけど。

 

「……もうちょっと愛想が出ないもんかねぇ」

「これはこれで可愛いから良い!」

「バカ。うーん、ウチの手伝いで少しは外に興味持ってくれると思ったんだが。あの子、自分にしか興味がない性格になりそうで怖いよ。もっと同い年くらいの子と遊ばせるべきかねぇ」

 

 ……そんな俺を見て父さん達が何か言っているけど、気にせず仕事しよう。いらっしゃいませー。

 

「……しゃいませ」

 

 うーん。我ながら元気がない。まだ前世のことを引きずっているのだろうか?

 

 女々しいな、俺。死にたくなってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言う訳で。お友達を紹介するわマナ、こちらは肉屋のブラガ君よ」

「オィイーッス!」

 

 次の日。看板幼女としての職務に休暇を言い渡された俺は、街の広場で1人の男の子と対面していた。

 

「いつもお前の家のパン食ってるぜ! ブラガだ、好きなパンはレーズンパンだ、よろしく!」

 

 知らねぇよ。というか肉屋の子なら、肉使ったパンの名前出せ。確かウチで作ってるホットドッグの肉の仕入れ元だよな、お前の家。

 

「……マナ、です」

「声ちっちぇ! あはははは!」

 

 笑うな。デカい声出せねーんだよ、今の身体。声帯が細いのか、メンタル的な問題なのか。

 

「よし、今日はお前に面白い遊びを教えてやろう! マナとやら、ついてこい!」

「……あ、ハイ」 

「夕御飯までには迎えにくるからね。この広場から、出ちゃダメよ?」

「任せてくれ、パン屋さん! 俺がついてるから!」

「うふふ、頼もしいわ。よろしく、ブラガ君」

 

 ワハハと笑う、ブラガ少年(推定5歳)。この年頃の子供は勢いがすごいな。そのテンション、おじさんにはちょいと辛いよ。

 

 そんな元気いっぱい腕白坊主なブラガ君に手を引かれ、俺は街の共有イベントスペースである広場の奥へと誘拐された。

 

 母さん。こんなテンションのガキと一日遊ぶ羽目になるなら、働いていた方がましです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決闘のデュエルフィールド! 略して、KDF!

 

 丸い円状のリングの中で2人の戦士が睨み合い、取っ組み合い押し合う真剣勝負!

 

 闘いのルールは簡単、魔法と打撃以外の方法で敵の戦士をリングの外へ弾き出した方が勝ちだ! 武器の使用は禁止、顔面への攻撃も禁止!

 

 そして、負けた奴は勝った奴に絶対服従! 力こそが全てなのだ!

 

「コレが、今流行ってる“戦士ごっこ”! マナもやってみろよ」

「おおブラガ、この娘は新しい仲間かの?」

「なんか弱そう」

「目が腐ってて雑魚っぽいです」

 

 ブラガ少年に手を引かれ連れて行かれた先にいたのは、4人の同世代の子供達だった。見たところ、5歳前後のグループの様だ。平民の子供同士、仲良くつるんでいるのだろう。

 

「こんなのと押し合ったら、地の果てまで飛んでいかんかのう?」

「ダンゴムシと喧嘩しても負けそうです」

 

 と言うか、俺はソコまで散々に言われるほど弱そうなのか。

 

「そんな貧弱なマナに、俺達が戦士としてのいろはを教えてやるよ! スゲー楽しいぞ」

「ま、頑張れや。強さに応じて“称号”が手に入るから、出世したくば強くなれい」

「例えば、おれは“狂犬”の称号を持ってるピョートルだ。ヨロシクゥ!」

 

 連れ込まれた先の広場で代わる代わる子供に囲まれ、話しかけられた。

 

 自分よりデカいヤツに囲まれるのは結構怖いもんだな、ちょっとは気を使ってほしいもんだ。まぁ、この子らに悪気はないんだろうけど。

 

「そんで、俺達は“リース自警団”を名乗ってる。この国の平和を守るために日々“戦士ごっこ”で修業してる訳だ」

「僕達はこの国を守ってる自警団って訳ですよ。かっこいいでしょう?」

 

 リース自警団、ね。無邪気な事だ。

 

 前世で本物のリース国軍を率いていた身としては、格好良くも何ともない。闘いってのは死の香りに溢れた、残酷な世界だ。

 

「よーし、まずは一戦やってみろよマナ! そうだな、ピョートル辺りが初戦の相手してやれ。俺はマナの隣でアドバイスしてるから」

「分かったぜ。くくく、新入りぃ。貴様には負けた罰として“三回廻ってワン”をさせてやるぜ……」

「年下の女の子にも容赦ない仕打ち……。さすがは“狂犬”のピョートルだ」

「マナ、気をつけろ。正面からやると体格差で押し負ける、小柄な体格を生かして戦え」

 

 とはいえ、子供にそんなことを諭すののは無粋。せっかく遊びに誘ってくれたんだ、乗っておいてやろう。

 

 要するに押し合いをして相手を線の外にたたき出せばいいのだな。幸い目の前のピョートルと呼ばれた子供は俺よりはでかいが、体格的にそこまで差はない。ちょい年上くらいだろう。

 

 だったら、後は身体の使い方だな。押し合いをしながら左右へと相手の体軸をずらし、ふらついた瞬間に一気に押し込む。

 

 その結果、「狂犬」ピョートルはあっさりと尻もちをついて、線の外へと押し出されてしまった。俺の勝ちの様だ。

 

「やるじゃねえかマナ!」

「ピョートルがこんなにアッサリ!? コイツ……タダモンじゃありません!」

「待て、いつも負けて狂った様にワンと言わされているピョートルが弱すぎただけじゃ。狂犬の名は伊達でじゃないっちゅう事じゃ」

 

 狂犬って、そんな意味だったんかい。あー、だから俺の最初の相手に選ばれたのか。

 

「くく、弱そうな女だからと少し手加減が過ぎたようですね。こうなったら「四天王」のココロが、ここで社会の厳しさって奴を刻んで差し上げますよ!」

「ココロが出るのか……、マナ、死ぬんじゃねぇぞ」

「ガッハッハ。ここらでワシ等の強さって奴を教えてやれぃココロ!」

 

 ……全員で4人しかいないのに、四天王ってどういう事だ。まぁ、子供のいう事をいちいち真面目に考えちゃダメか。きっと強そうだからとかそういう理由で四天王と名乗ってるんだろう。

 

 さて、ココロちゃんとやらは同い年くらいの女の子だった。僕っ娘なだけあって、気が強そうで快活だ。運動神経もよさそう、正面から当たると競り負けるな。

 

 今世の身体、実際かなり貧弱だからなぁ。ここは少し汚いが、敢えて線の近くまで下がって……

 

 一気に距離を詰めて来たココロを、ゴロリと寝ころびながら巴投げで線の外まで投げ飛ばした。良かった、前世で散々体にしみこませた体術は今なお健在のようだ。魂にまで刻まれているのだろうか。死んでしまったお師匠に感謝だな。

 

「う、嘘じゃろ……四天王のココロが負けちまった!」

「お、落ち着けゲン! 所詮は四天王、幾らでも替えが効く捨て駒よ」

 

 彼らは四天王を何だと思っているのだろう。

 

 とはいえ、立て続けに二人を撃破した俺は警戒されたようで、一番デカい子供がノソッと俺の前に立った。俺の倍くらいの背丈はありそうだ。

 

「マナと言ったかの、おどりゃなかなか出来るようじゃの。じゃがそろそろ負けて貰わんと、このリース自警団の名が廃る」

「破壊神と呼ばれた漢……ゲン。もうお前が出るのか」

「オイオイオイ、死にましたよあの新入り」

 

 改めて近くで見ると、デカい。年齢の差も有るからか。いやーキツいな、コレは。

 

 肉体強化魔法ってどうなんだろう。魔法を使って敵を外に出したら反則、つまり肉体を強化するだけならセーフ……? いや、多分ダメだろうな。魔法を使える事なんて考慮して無いだろう子供相手にソレは卑怯すぎる。

 

 なら、純粋な体術で勝負するしかない。体格差があるんだ、ちょっと本気で闘っても文句は言われないだろう。

 

 試合開始と同時に、俺はゲンと呼ばれた少年の腕に飛びついた。俺は3歳の子供、筋力は無くとも体重はそこそこにある。

 

 飛びついた勢いを利用して遠心力を加え、グルリと関節を決めながらゲンの右腕を俺の両足で挟み込む。そしてその勢いのまま、ゲンの肩を地面に叩きつけた。

 

 試合開始の、僅か数秒後。ゲンは線の外へブン投げられ、そこで俺に関節を極められて蹲っていた。

 

「あ、あ、あ………」

「嘘でしょう? 何者ですかコイツ」

「スゲェ! マナ、スゲェよ!」

「不覚じゃ……」

 

 どやぁ。小さいからって舐めてはいかん。なるべく優しく投げたし、ゲンに怪我もないだろう。完全勝利と言う奴だな。

 

「仕方ねぇ、ゲンが負けたなら俺が出るしかねぇな」

「ブラガ、頼む。このままじゃ終われん……」

「きゃー、兄さん頑張ってください! 可愛い妹の敵討ちですよ!」

「まさか、こんなに早くお前と戦うことになるとはな、マナ。リース自警団“最強”の男、団長のブラガ! 新入りに稽古を付けてやるぜ!」

 

 お前がラスボスか。ゲンよりは少し小さいけど、ソコソコの体格をしているし強敵の予感がするぜ。

 

 それに、なんだか魔力も感じる。まさかブラガは平民の癖に、魔力を操る術を身につけているのか。ああ、だから魔法禁止のルールが有るのね。

 

 ユラリ、俺の前に立ったブラガは呼吸を整えると全身に魔力を流し、深呼吸している。気を高めているのだろうか、徐々に体の中の魔力が渦巻き、全身の筋力を鋼の様に強化し……

 

 ってソレ肉体強化じゃね!?

 

 え、良いの? お前が禁止って言った魔法だぞソレ!?

 

 いや、意識してないのか、コレが魔法だって。きっと無意識に魔力をコントロールして、肉体を強化しているのだろう。ブラガ少年に後ろめたそうな気配はないし。いやー、天然で魔力コントロールできるのか。

 

 中々の逸材だなコイツ。

 

 ……そして、お前が肉体強化を使うんならこっちも使っても文句は言われんだろう。

 

「はぁっ!」

「……ふっ」

 

 そのままブラガと真正面から取っ組み合い、そして力押しでブラガを線の外へと追いやる。予想外だったのか、ブラガは目を白黒させながらも必死で抵抗するが、如何せん魔法の完成度が違う。

 

 無意識に習得した肉体強化と、キッチリ理論立てて発動している俺の肉体強化では完成度に比べようもない。

 

 やがて、堂々と正面からブラガを押し出し、俺は勝利を掴んだ。

 

「ブ、ブラガが……力負けした?」

「そ、そんな、兄さんが!?」

「……新たな、リーダーの誕生だ……」

 

 年季が違う、年季が。前世で軍人として訓練を受けた俺が、幼女になったとて片田舎の子供に負けるほど落ちぶれてはいない!

 

 指を1本、天のお日様を指しドヤ顔を決める。

 

「……あいあむ、ナンバーワン」

「うおお! マーナ! マーナ!」

「マーナ! マーナ! マーナ!」

 

 

 その日、俺はガキ大将になった。

 



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さんわ

「マーナー!」

「……おいっす」

 

 どうも。裏切者のグスマン改め、目が死んでると近所で噂のガキ大将、マナです。

 

 子供相手に大人げなく、肉体強化魔法で無双した俺はめでたく4人の子分を手に入れました。コイツらの言い分によると、子分は俺のいう事に絶対服従らしいのです。

 

 つまり。

 

「……ココロ。……こっちきて」

「あいあいさー。ボスはだっこ好きですねぇ」

 

 同い年の幼女を好きなだけ愛でる事が出来るのだ。俺の手の中には目がクリッと丸い、活発な幼女ココロがいる。

 

 子供は良いよなぁ。あったかくて、可愛くて。穢れた大人の傷ついた心を癒すにはもってこいだ。

 

「おお、ココロを抱いてマナの目に少し生気が灯っている」

「あの娘達、仲いいわねぇ。ブラガ君、マナを仲間に入れてくれてありがとうねぇ」

 

 母さんが百合百合している俺とココロを見て何やら呟いているが、今はココロを愛でるので忙しい。ああー、子供は何か特有の優しい匂いするよなぁ。ええなぁ、癒されるわぁ。

 

 ガキ大将になって、約1年。今日もリース自警団は平和です。

 

 

 

 

 

 ブラガ達の仲良しグループに入った後、家が隣だったブラガはちょくちょく妹を連れてウチに遊びに来るようになった。初日に勝負を挑んできた四天王の幼女「ココロ」は、なんとブラガの妹だったのだ。

 

 ココロちゃんの将来の夢は、ブラガのお嫁さんになる事らしい。うらやま死刑。

 

 さて、そんな実妹からモテモテのブラガから、何とかしてココロちゃんを寝取るべく肉体コミュニケーションしていると、いかつい顔の男の子で頼れる兄貴分「ゲン」がウチのパン屋に駆けこんできた。

 

 何やら、事件が起こった様だ。

 

「マナ姉貴ぃ! 大変じゃ、ワシ等のシマが奪われた!」

 

 ……ヤクザのカチコミかな?

 

 まぁ、ゲンさんの言っている「シマ」とは恐らく、いつも遊んでいる広場で俺達が使っている右奥のスペースのKDF(決戦のデュエルフィールド)が描かれた場所なのだろうけど。子供同士にも縄張りの様なものがあり、俺達もそれに則っていつも同じスペースで遊ぶようにしている。

 

 だが、その暗黙の掟を破った連中がいるらしい。

 

「…………どこの連中?」

「農家のガキ達じゃ、奴らが遊んどったワシやピョートル達を追い出しよったんじゃ! ワシも抵抗したが奴らはもう10歳、体格の差で力負けしてしもうた……」

「農家の連中!? あいつら、自分の遊び場があるじゃねぇか! 何で俺達の所に!?」

「昨日雨が降ったからの、水たまりが少ないワシ等のシマに移動してきおったんじゃ……。情けないがマナ姉貴、ご足労願えませんかのぅ」

 

 俺達の縄張りを荒らしたのは、農家のせがれグループらしい。アイツらは俺達より一回り年齢が上のグループだ、年下のガキと思って俺達を舐めたのだろう。

 

「……よし。ブラガ、ココロ。……出かける準備して」

「はいです!」

「おう、そりゃ黙ってられねぇ」

 

 子供の世界というのは、ヤクザな世界なのだ。一度舐められると、ずっと馬鹿にし続けられ、要求もヒートアップしてくる。

 

 大人と違い、子供には遠慮も配慮もない。ここで引く訳にはいかない。

 

「……リース自警団、出撃!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケッケッケ。またガキが俺達に喧嘩売りに来たんか?」

「ガッハッハ。身の程知らずとはお前らの事やで」

「ヒョッヒョッヒョ。何度来ても返り討ちやでボウズ。お、女の子おるやん、パンツ見せてんか?」

 

 ゲンさんの情報通り、いつもの遊び場に行くとガラの悪いガキ共が俺達の神聖なKDF(決戦のバトルフィールド)を踏み消し、ボール遊びに興じていた。

 

 随分と舐めてくれたものだ。

 

「……激おこ」

「おい、聞け!! ワシ等の頭、マナ姉貴は聞いての通り大変ご立腹じゃぞ!」

「……ぷんぷん丸」

「なんて事じゃ! ケツの穴から手を突っ込んでいガタガタ言わす、と仰っとる。マナ姉貴も怒り心頭のようじゃ!」

「……あいーん」

「ほぅら聞いたか!! お前らここで皆殺しやぞ! 往生せぇや!」

 

 そんな事言ってないんだよなぁ。

 

「ケッケッケ。口だけは達者やのお。……ところで、そのちっこいのが頭なんか?」

「ガッハッハ。皆殺したぁ大きゅう出たなぁ? ……いや、頭は後ろの小僧やろ」

「ヒョッヒョッヒョ。あんな目が腐ってダンゴムシに踏みつぶされそうな幼女が頭なわけないやろ」

 

 皆、俺が頭とは思わず後ろのブラガがリーダーだと思っているようだ。まぁ、確かに今世の俺は弱そうだからなぁ。

 

 ……というか、何故いつも戦闘力をダンゴムシと比べられるのだろう。

 

「……成敗」

「ワシ等の姉貴を馬鹿にしよったな? 竜の逆鱗に触れたぞ、マナ姉貴はお前ら纏めて相手にするとおっしゃっとる!」

 

 だから言ってないし。

 

「えー、俺の出番はなし?」

「……ううん、一緒に戦ってブラガ。……2対3で。どう? 怖い?」

「下手にでとりゃ馬鹿にしくさって、イテもうたろかオラァ!」

「茶巾絞りにしたるぞコラァ!」

「パンツ見せろゴラァ!」

 

 こうして俺の華麗な挑発に乗ったバカ3人を、ブラガとのタッグで迎撃することになった。客観的に見ると、ブラガは6歳、俺は4歳。どう考えても俺達に勝ち目はないだろう。

 

 だからこそ、逆にこの農家グループの中心人物っぽい3人をボコれば、今後舐められることは無くなる。

 

「……」

「なんやコイツ、動きがメチャクチャ速ぇ!?」

「……取った。……背落とし」

「ぎゃああ!」

 

 そして、肉体強化呪文を正しく習得している俺にとって、10歳前後のガキなど相手にならない。その辺の大人でも、普通に力押し出来るくらいだ。

 

 速度も、筋力も、文字通りレベルが違う。

 

「ブラガ・ナックル!!」

「グワアアアアアア!!」

「ギョヒェエエエエ!?」

「兄さん、流石ですね!」

 

 そしてブラガは、天然で肉体強化を行える天才だ。体術は、戦士ごっこと称して俺が1年間ミッチリ扱き上げた。

 

 奴にとっては丁度良い実戦経験になるだろう。俺一人で相手せずブラガを巻き込んだのは、戦力が欲しかったというよりブラガに経験を積ませたかっただけである。実際、彼は2人の年上の男を瞬く間にノしてしまった。

 

 付いて来たココロも、兄の活躍にご満悦である。

 

「馬鹿な、有り得ねぇ。こんな子供が!?」

「ち、敵討ちだ! やっちまえ!」

 

 おっと、一瞬で3人を倒されて動揺するかと思ったが。なにやらあちらさんは、かなり仲間意識が強い御様子だ。

 

 即座に残り全員で俺達を囲んできた。4、5人といったところか、なんとかなるかな。

 

「マナ姉貴! ブラガ!」

「こ、この卑怯モノー!」

 

 慌ててココロにゲンさんも割って入ってくる。が、俺たちと肩を並べるココロちゃんは内心怯えている様子。

 

 ココロちゃんはただの幼女だから怖がるのも無理もない。むしろ、恐怖に勝ってよく割って入ってきてくれたよ。ここで全面戦争になると、そんな勇敢な彼女は怪我をしそう。うーん、困った。

 

 仕方がない、ビビらせて戦わず勝とう。

 

「……切り札、使うぞ?」

「切り札、だと?」

「聞いたか! マナ姉貴は今から世界すら滅ぼす禁断の大技をお使いになられるぞ!」

「なぁにぃ!? このガキ、何者なんだ!?」

 

 そんな技持ってません。

 

 俺はただ、初級魔法か何か見せて威圧しようと思っただけなんだが。子供が魔法使うってだけで大騒ぎされるからな……。

 

「マナ姉貴、やってくだせぇ!」

「マナはそんなすごい技持ってるのか。それ、教えてくれるのか?」

 

 ブラガ、ゲンさんの適当なホラを信じないで。ワクワクと期待した目でこっちを見ないで。

 

「じー……」

「じー……」

 

 

 

「……し、至上に至るは万来の雷!」

 

 ……周囲からの謎の圧力を伴った期待の目に負けて、俺は上級呪文の詠唱をはじめた。こういう押しに弱いんだよなぁ、俺。

 

「……寒冷不敗、熱烈常勝。……見よわが究極技法、嵐の明けぬ夜(テンペストミッドナイト)

 

 俺の詠唱とともに空が黒く、ゴロゴロと稲妻を纏う。そして、俺のポースとともにドカンと雷が広場の一角に落ちた。

 

 当然誰にも当たらない位置を狙って、ではあるが。魔法の才能は今世の方が高いのか、スムーズに魔法を行使できたな。女に生まれたせいで前世より筋力は落ちそうだけど、戦闘力は魔法でカバー出来るかも。

 

「……覚えてろ!」

「いや、覚えなくていい!! 今日のことは忘れてろ!」

「ゴメン、もうちょっかいかけないからユルシテ!!」

 

 農家の連中は、俺の最大呪文を見て顔を真っ青にして逃げ出した。

 

 無理もない、このレベルの魔法は首都の魔法学園でないと学べない、つまり地方の村に住んでる限りは大人でもお目にかかれないからな。

 

 戦わず、武威を見せつけ解決する。これぞ、最高の勝利法だろう。

 

 さて、これで俺たちの遊び場は守られた。

 

「さすが姉貴じゃ! 世界も滅ぼせるのう!」

「……うそぉ。な、何それ?」

「マナ姉さんはやっぱり頭おかしいですね!」

 

 ココロちゃん。やっぱりって何?

 

 

 

 

「……マナ? 今の、何?」

 

 ビクっと、その聴き慣れた声に反応して振り向くと。

 

 パン屋の女将、俺の今世のママンであるリゼが冷や汗を垂らしながらこっちを見ていた。

 

 ……やべー。



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よんわ

「成る程ね。マナは、その謎の老人に魔法を教えてもらったのね?」

 

 こくこく、と必死で頷く俺。

 

「そのお爺さん、今は何処にいるかわかる?」

「……住所不明」

 

 ぶんぶん、と首を横に振る。俺の口からでまかせで生まれたその老人が、この世に実在するはずないのだ。

 

 魔法を使ったことを両親に知られ、問い詰められたが俺に前世の事を正直に話すという選択肢はなかった。

 

 そもそも前世の記憶が有ることを信じて貰う事自体がかなり難しい。仮に信じて貰えたとして、幾ら人のよさそうである両親であろうと”国家反逆者”が娘だなんて受け入れきれる訳がない。

 

 となれば、手段は一つ。

 

「で、その何処にいるかもわからないお爺さんがふらっと現れて、何故かマナに魔法を伝授したのね?」

「……うん」

 

 そう、俺は苦肉の策として、旅の老人に教えを乞うた事にしたのだ。そうでもしないと、幼女である俺が魔法を使えるなんておかしすぎる。

 

「怪しいことこの上ないわね、何でそんな人がいた事を教えてくれなかったの! そもそも、何時の間に会っていたのよ!?」

「……お昼にたまに。それにあの爺は信用できる、澄んだ目をしていた」

 

 しかし当然であろう、母上は大層訝しんでおられる様子。確かに、既に色々とおかしいのだが。

 

「はぁー、そういう事にしておきますか。マナ、お約束しましょう。次にそのお爺さんが現れたら私に言いに来ること。」

「……ガッテンだ」

 

 とはいえ。母からしても、他に説得力のある理由なんて思いつくはずもない。俺の幼稚な言い訳を信じるしかないのだ。

 

 微妙な顔をしながらも。リゼは俺の話を信じてくれて、受け入れてくれた。よし、これでコソコソせずに堂々と魔法を————

 

「そして、魔法は私の居ないところで勝手に使わないこと。いいわね?」

「……えぇー?」

「いいわね?」

「……ふぬ、ふぬぬぬぬぬぬ。りょ、了解ぃぃぃ」

「何でそこまで苦渋に満ちた顔するの!?」

 

 そして、やはりというか。母上は俺に魔法禁止を言い渡した。親として、実にまともな判断だろう。子供の操る未熟な魔法が事故につながるのは常識だ。

 

 だが、俺は前世でそこそこに魔道を収めた上級者である。今世では女性として生まれ、体格的にに近接戦闘に難が出るのは予想出来る。

 

 だから魔法をいかに使いこなすかが、俺の力に直結する。魔法は幼いうちから積極的に鍛えておきたい。

 

「絶対よ、絶対に隠れて魔法を使ったりしたらダメだからね。良いわね?」

「……おーけー。……マナは嘘つかない」

 

 よし、こうなれば是非も無し。こっそり隠れて修行をするとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、深夜。

 

 俺は家族が寝静まったのを確認し、寝ボケ眼を擦りながらコッソリと窓から外へ抜け出した。当然、魔法の練習のためだ。

 

 辺境であるこの辺りは、治安があまりよろしくない。特に深夜なんかは、人攫いが出ないとも言えない。あまり家から遠くへ離れるのは危ないだろう。

 

 とはいえ、近く過ぎると音が響いてバレてしまう。そこそこの広さが有り、かつ家からそこまで離れていない場所。

 

 そう考えて俺は、遊び場である広場へと足を向けた。あそこなら広さも十分だし、家に音も響かないだろう。

 

 俺は誰にも見られないように裏道を通りながら、第二の人生における自己の研鑽を始めるべく、灯りのない夜道を歩いて行った。そんな俺を見下す様に、夜空の星が妖しく光っていることに気付かずに。

 

 

 

 

 

 

 

「キミは、誰なんだい?」

 

 結論から言うと、俺は残念ながら広場にたどり着くことは出来なかった。

 

 この時間帯に出歩く者は、犯罪者か、獣か、魔族か。俺は肩に誰かの手の感触を感じ慌てて振り返る。

 

「女の子だね。こんな時間に、1人で出歩くには少々頼りないお年頃だ。親と喧嘩でもしたのかい?」

 

 何処から現れたのだろう。フードを被ったガキが、不敵に笑って肩を掴み、俺に語り掛けて来た。声は中性的だが、恐らく女だろう。年齢は俺よりは年上……だが、まだ幼い。10歳手前だろう。

 

「ふふふ、怖がらなくてもいいさ。私は別に君を取って食おうと言う訳ではない」

「……む」

 

 相手が子供だからと言って、俺は警戒を緩める気は無い。この子自身が、奴隷商人の下僕で同世代の子を油断させおびき寄せる役目かもしれないのだ。

 

 ……このまま戦闘になれば、恐らく勝てる。この女子を服の上から見たところ、筋肉の付き方が戦闘職のソレではない。彼女が魔法使いだったとして、この位置なら俺が近接技で昏倒させる方が早い。

 

 それに、彼女の口ぶりからは敵意を感じない。少し様子を伺うとしよう。

 

「そうだ、おとなしくしたまえよ。私は、この先の広場はガラの悪い男どもの溜まり場になっているから引き返したまえとキミに忠告したいだけさ」

「……ほー。知らなかった」

 

 彼女の口から出てきたのは、忠告だった。

 

「だろう? こんな時間に広場に行くなんて、何か忘れものでもしたのかい? だが、明日に取りに行くのが無難さ、今広場に行けば何をされるか分からないよ」

 

 ……なんと、深夜のあの広場が不良の溜まり場になっているとは。それは危ない所だった、喧嘩になってその不良共をボコボコにしたら、ウチのパン屋に報復が来るかもしれない。

 

 要らぬ喧嘩は買わぬが華。魔法の練習には別の場所を探すとしよう。

 

「……礼を言う」

「どういたしまして。では、気を付けて帰りたまえ」

 

 そう言って笑う彼女に、俺はふと首をかしげる。そう言えばなぜ、彼女もこんな時間に出歩いているのだろうか。

 

 年齢は10を超えていない、飄々とした女子。ゲンさんやブラガより少し上くらいか。そんな彼女が、こんな夜更けに何を————?

 

 

 

 

「――――ソネット、何を油売ってやがる」

「おや、すまない。小さなお嬢さんが道に迷ったようでね、正しい道を教えてあげていたのさ」

「あん? ……何だこのガキ、ソネットの知り合いか?」

 

 ……聞きなれる声に反応し、ふと見上げると。とてもガラの悪い男が、その少女の横に立っていた。

 

「初対面さ。広場に忘れ物でもしたんだろう、一人で広場に歩いて行ってたのを私が見咎めた」

「ああ、そうかい。用が済んだならとっとと来い」

 

 そのガラの悪い、筋肉質な体の男は乱暴にソネットの腕を引っ張る。苦笑したその少女は、おとなしく男に付き従い広場へ歩いていく。

 

「おめぇみてぇなチンチクリンでも、女には違いないからな。いると居ないとでは大違いだ」

「……うん、私がサボると姉さんの負担も増えるしね。子供好きの変態は、私が引き受けないと」

「分かってるなら寄り道せずにとっとと来いってんだ」

 

 そのガラの悪い男は、ソネットの腕を掴んだまま吐き捨てるように恫喝した。

 

「今夜もキッチリ、借金分は身体で稼いでもらうぜ」

「ああ、分かっているさ」

 

 俺はその様を、呆然と目を見開きながら、絶句して見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、あれはまさか。じ、じ、じ————

 

「…‥児童買春!?」

 

 今の会話何!? 身体売ってるの!? あの女の子、ロリコン相手に売春させられてるの!? 闇深っ! この集落、闇深っ!?

 

 駄目だ、そんなのを許容しちゃいけない。助けないと。子供は社会の宝、穢れた大人の欲望の対象になんかじゃあない。子供に借金を返させるなんてそもそもお門違いなんだ! あんな幼い子供の借金は、全て親の責任なんだから。

 

 ……潰すか。広場にたむろしているという悪党どもを、俺が一人で。今の俺の体格で格闘戦は厳しいけれど、魔法なら発動することを確かめた。訓練も受けていない平民のチンピラ程度なら、5歳の俺でもギリギリ勝てる……か?

 

 とは言え、相手はロリコン。不覚を取ってしまえば、俺の身も危ないだろう。彼女自身は受け入れているみたいだし、危険を冒してまで助ける必要はない……?

 

 ……いや、馬鹿か俺は。彼女が嫌がるそぶりをあまり見せなかったのは、きっと諦めて受け入れてしまっているだけだ。きっと、心の奥底では助けを求めて泣き叫んでいるに違いない。

 

 このグスマン、幼女に生まれ変わった身ではあれど、前世ではこの国の皇太子。子供はすなわち、国の宝。

 

 即ち、王族であった俺の宝だ。わが身をの危険を恐れて、助けを求める子供を見捨てるなどもってのほか!!

 

 覚悟を決めろ。俺は前世で訓練を受け戦争にも参加した事のある強者。民を守り、導くのはオレの使命!

 

 待っていろ可哀そうな少女よ。俺が今、助けてやるぞ!

 

 

 

 俺は、肩の震えを押さえながら、変態男どもの狂宴の場へと歩みを始める。

 

 駆逐してやる、無垢な児童に手を出すロリコン野郎を! この世から一人残さず駆逐してやる!!



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ごわ

「今宵はドッキン!! ラブデスボンバー!!」

 

 広場の中央に用意された、お手製の小さなステージ。その上には先程別れたばかりの、借金をタテに身体を売らされている少女ソネットが一人、晒し者の如く立たされていた。

 

 ステージの脇には先程ソネットを連れて行った、ガラの悪いオッサンがメガホンを握り、広場全体に語り掛ける。

 

「今日もソネットが来てくれたぜ! ロリコン糞野郎ども、存分に興奮しやがれ!」

 

 うおおおおおおお!! 

 

 そのオッサンの掛け声に合わせ、一人舞台の上に立たされていたソネットが顔を上げて前へと歩き出す。

 

 そして。

 

「聞いてみんな! 私の今年の新曲、”今夜はドッキン!! ラブデスボンバー!!” 歌います!!」

「いいぞー!」

「ソネットちゃーん!!」

 

 

 

 

 

 

 

今夜はドッキン!! ラブデスボンバー!!

 

リースの夜に訪れた 不敵な最凶暗殺者 (ウフフッ)

史上最低のテロリズム 場所を選ばず仕掛けるの

そう、私は爆弾魔(ラブボマー) 恋の爆弾 無差別爆撃

巡り合ったが最期 避けられぬ定め (爆死・殲滅)

この世は既に焼け野原(アルカディア) 私という花を求めて

無粋な(オス)ども 群がるの(どかーんッ)

それが それが それが カ・イ・カ・ン

今夜はドッキン!! ラブデスボンバー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁにこれ」

 

 俺は、確かあの少女を救うため。決死の覚悟で売春現場に突入した……のであるが。

 

 俺の目の前で繰り広がったのは、明るく派手な衣装を着たソネットが、歌って踊って不良共に熱狂されている光景だった。

 

「なぁにこれぇ」

「御存じ、無いのですか?」

 

 その意味不明過ぎる状況に思わず呟いた言葉に、俺が案内された立見席で隣に居た兄ちゃんが反応して来る。

 

「彼女はソネットちゃん。父親のこさえた借金の返済の足しのするべく、日々ああやって俺らみたいな社会の底辺の前でライブに来てくれる正真正銘の女神なのです!!」

「……地下アイドル?」

「アイドル、ですか。そうですな、あの子は俺達のアイドル。俺達もあの娘の為になるならと、おひねりを用意して毎週この日は集まるのです」

「……そっか」

 

 俺は少し心配し過ぎていたようだ。色々と、本当に色々とツッコミたい事が多いけれど。彼女は虐げられてなんかなく、むしろ皆に愛されているらしい。

 

 随分と良い笑顔でソネットは歌を歌っている。きっと、人前で歌うのが好きなのだろう。

 

 ああ、恥ずかしい。どうやら俺の助けは、必要なかったようだ。

 

「ところで、お嬢ちゃん」

「……なに?」

 

 もうこの場所に用はない。俺は出口へと向かうため立ち上がった。

 

 その瞬間、誰かに肩を掴まれ————

 

「こんな時間にこんな場所へ、1人で来たのかい?」

「オウ嬢ちゃん、そのまま帰れると思ってんのか?」

「ひゃーはっはっは! 新鮮な幼女だぁ!」

 

 チンピラ共に囲まれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「……あはは。結局君、広場に来ちゃったんだ。引き返した方が良いよって、忠告してあげたのに」

「……おーまいがー」

 

 俺は寝間着姿。

 

 繰り返す、俺は寝間着姿である。人気のない場所で魔法の練習がしたかっただけだから、他人と会う事など想定していない。

 

 ピンクのパジャマにぶかぶか帽子を被ったとても眠たい恰好で、俺はステージ上に連行されてしまった。ここで一体何されるんだろうか。何をさせられるんだろうか。

 

「ああ、別に酷い事は去れないから安心して良いよ。多分、一曲歌わされるんじゃないかな?」

「……声出すの、苦手」

「みたいだね。まぁ、酔っ払いの無茶ぶりだからへたっぴでも問題ないよ。君のママが歌ってくれた子守歌でも、精一杯声出して唄ってみればいい。こんな場所に乗り込んできた君の自己責任さ」

「……はぁ」

 

 俺はなんてアホだったんだろう。ガラの悪い酔っ払いの巣窟に1人乗りこんでしまうなんて。でも、ステージで歌わされるだけで返してもらえるなら幸運なほうか。

 

 人攫いに売られないだけ幾分かマシだ。

 

「ヘーイ!! 身の程知らずのガキンちょが、俺達の宴に乗り込んできたぜ! その蛮勇に敬意を表して、これから彼女にステージの時間を与えたいと思う! みんな盛り上げていくぞぉ!!」

「ひゃっはああああ!! 新しい幼女だぁぁぁぁ!!」

「生きの良い新鮮な幼女だ! たまらねぇぜ!!」

「俺はソネットちゃんの歌が良いぞコラァ!!」

 

 ……メガホンを持った司会のオッサンがステージの脇から叫んでいる。やっぱり歌わされるのか。

 

「……そうしてもキツかったら、私も途中から乱入して助けてあげる。気楽に唄えばいいよ、マナちゃん」

「……はぁ。そうする」

 

 そう言って、ソネットはステージの脇へと去って行った。ステージ上で独り立っている俺を、皆が凝視している。

 

 前世の宴を思い出すな。闘いの後はいつも、生き残った皆で大宴会をやったものだ。散っていった戦友への手向け、生き延びた喜び、守れた家族への愛。様々な感情が渦巻き、それを一晩で洗い流して日常へと戻るための、戦人にとっては大事な儀式。

 

 俺も、宴会の場で盛り上げるために舞台に立ったこともある。そして決まって、この歌を歌ったものだ。

 

 俺の歌えるレパートリーなんて、アレしか無い。少し空気を読めてないかもしれないが、歌わせてもらおう。

 

「……歌います。……進撃せよ、リースの誇りを胸に」

 

 散っていった友を弔う、軍で流行っていた懐かしの歌を。

 

 

 

 

進撃せよ、リースの誇りを胸に

 

恐怖に震える 家族の頬に 涙を拭いて 手を当てる

聞かせてみせる 勝利の凱歌  愛しい宝を 守るのだ

あぁ リース攻勢騎士団 不敗の軍団

我が命は戦友を守り 戦友は我が家族を守る

ならば友よ 我が言葉を 愛する人に 伝えて欲しい

リース千年の誇りをもって 我は退かずに戦い抜いたと

さらば友よ また会おう また会おう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……軍歌?」

「って言うか歌うま!?」 

「なんて透明感のある、心地よい歌声なんだ……」

「スゲェ。キッチリ感情を歌に乗せて、それでいて音程を失っていない」

「何者だあの幼女!? ソネットちゃん以上の逸材が出てきやがった……」

 

 一曲歌い終わった俺の耳には、ステージの端々から賛美の声が響く。当然だ、グスマンとして生きていた前世では”美声公”と渾名されたのだ。大きな声が出なくなったとはいえ、歌唱力を舐めて貰っては困る。

 

 ふふふ。久々のステージではあるが、いい感じに唄えて満足だ。

 

「コイツは驚いた!! なんて見事なステージなんだ、おりゃあてっきり童謡でも聞かされるのかと反吐を吐いていた所だったのに!」

「……ども」

「おう、聞いてみろよこの大歓声。みんながアンコールを望んでいるぜお嬢ちゃん、どうだここはもう1曲────」

 

 ふむ。一曲だけで帰るつもりだったが、この盛り上がりは放っておけないかな。

 

 “軍歌のグッさん”と呼ばれた俺の宴会部長としての血が騒ぐ。よし、ここはもう1曲歌うと────

 

「ちょ、ちょっと待ったー!!」

 

 そんな俺のステージに割って入ってきた、無粋な声。

 

 何奴だ!?

 

「きょ、今日は私のステージの日なんだけど!? お捻りが少ないとお姉ちゃんに叱られちゃうんだから、君はそろそろ帰ってもらえないかな!」

「おーっと、ここでソネットちゃんの乱入だぁ! コレは面白い、ステージで幼女が2人睨みあいをしている!」

 

 おお、お前か。忘れてた。

 

 ソネットちゃんとやらが、闘志を剥き出しにしてステージに割って入ってくる。どうやら、彼女にも譲れないプライドがあるらしい。

 

「……くく、このステージが欲しければ奪ってみよ」

「言ったな!? 年下と思って油断してたけど、もう君を子供とは見なさない! 私の魂の歌(ソウルソング)でステージから追い出しちゃうんだから!」

「……愉快なり。受けて立つ」

 

 彼女の挑発を受け、俺もクールなポーズをとる。宴会部長として、こんな美味しい場は譲れないのだ。

 

 そして急遽開催された、俺とソネットの歌合戦。その晩、美声と愛嬌で聴衆達を大いに盛り上げ、たくさんのお捻りが宙を舞ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 そして、明朝。帰らないと、怒られてしまう時間帯。

 

「……うおお」

「ふん。お捻りの額では私の勝ちなんだからね」

 

 別に俺はお金が目当てでは無かったのだが。ただ、宴会で騒ぎたかっただけなんだが。

 

 俺の目の前には、ウチのパン屋の1日分の売上金と同じくらいの額が転がっていた。

 

「……どないしょー」

「……はぁ。お金目当てじゃないなら、早々に帰って欲しかったんだけどなぁ。私、借金返さないと奴隷落ちするんだけど」

「……すまんかった」

 

 ソネットちゃん、やや怒り気味である。そりゃそうか、稼ぎ場にいきなり割って入ってきた商売敵が、憎くないわけがない。

 

「いや、ソネット落ち着け。今日の稼ぎは減っただろうが、コレは定期開催する価値があるぞ」

 

 悪いことをした。今日の俺の稼ぎは全てソネットちゃんに譲ろう。そう思い、怖ず怖ずとお金を集めていた矢先、司会をしていた柄の悪い男が話しかけてくる。

 

「今日の盛り上がりは、中々だった。ソネットの取り分だけだと減ってるかもしれんが、2人合わせた収入は普段の1.5倍はある」

「そりゃ、胴元のアナタはそっちの方が良いんだろうけどさ」

「コレを定期開催した方が、ソネット、お前にとっても良い。ショバ代を負けてやるよ、6割から4割に減らしてやる。それで、お前も今日は黒字だろ」

「……え、良いの?」

「おう。盛り上がってくれた方が、飲み物の売り上げも伸びるしな。純利益も増えれば、お前らに落ちる額も増える。ここに居る3人、みんなハッピーって訳だ」

 

 ……定期開催?

 

「そー言う訳だ。おい、嬢ちゃん。お前、来週も同じ時間にここに来い」

「……え」

「ショバ代4割……借金返済……。ま、マナちゃん!! 来週も来てくれないかな!? 私を助けると思って!」

「……ふぇぇ?」

 

 待って。来週もコレやるの? 1日限りの宴のつもりだったんだけど!?

 

「まぁ……断るなんて馬鹿な事を言わねぇよな? ウチの若い衆、何するか分かんねぇぞ?」

「……お願いマナちゃん!」

「……おーまいがー」

 

 その日。俺は両手で溢れんばかりのお金を持って帰宅し、処遇に困った挙げ句庭に埋めておくことにした。きっといつか役に立つ日が来るだろう。

 

 こうして。パン屋の看板幼女だった俺は、親に黙って深夜にいかがわしいバイトをする水商売の女になったのだった。

 

 反逆者の末路というのは、何時の時代も哀れなモノだ。




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