113.9話 白金御行は盛り上げたい ( 提 督)
しおりを挟む

113.9話 白金御行は盛り上げたい

ジャコジャコ♪

ジャコジャコ♪

 

小気味良くギターをはじく音が教室に響いていた。

 

「お、藤原。ギター引けるのか?」

 

「お遊び程度ですけどね。」

 

「何?今度の文化祭で藤原も演奏するの?」

 

「いえ、私は出ませんよ。

友達が文化祭でオリジナル曲もやりたいって言うのですが、

大譜表でしか作曲したことがない子なので私がTAB譜に起こし……も?」

 

「どうした?」

 

「も?」

 

「も?」

 

「いえ、気のせいです。先ほど会長に藤原も演奏するの?と言われた気がしましたけど。

それはあれですね。会長の別の友人が演奏するという意味ですよね。

大丈夫です。大丈夫です。」

 

「確かにそうだな、バンドは俺1人じゃできないからな。

豊崎とか風祭もやるよ。」

 

「………」

 

文化祭バンド!

それは男子学生なら1度は憧れるであろう1夜限りのヒーロー

文化祭という陰キャさえもウェイに変えてしまう年に一度のマジックの中

大衆の注目を掻っ攫うさまはまさに憧れ。

だが、実際のところ失敗も多いのは事実

練習不足、意識の違い、果てには安物ゆえの機材トラブルなど障害は枚挙に暇がない。

 

だが、この男の問題はそこではなかった。

 

「お、教えませんよ。」

 

「え?何を?」

 

「絶対に、ぜぇっっったいに教えませんからね!!!!」

 

そう、白金こそこの秀智院が誇る怪物。

勉強以外の才能はからっきし。何をやらせも下手という言葉すら足りないおぞましさ。

それはソーラン節が浄化されてる悪魔と例えられるほどであった。

 

「待て待て、藤原書記。おまえ何か勘違いしているぞ。

俺がやるのはボーカルだ、歌だったらこの前藤原に特訓してもらってそこそこうまくなっただろう?」

 

「な~んだ、それならよかったです。

会長の歌声はまだまだ青二才ですけど~

最初のなまこからしたら脊椎動物になっただけましですよね~

時間決まったら教えて下さいね。聞きに行きますよ~。」

 

「あぁ!歌いながらギターを弾くのにも慣れてきたしな!

ところで相談があるんだが…」

 

「嘘つき!」

 

「うわぁ、いきなり大きな声出すなよ。」

 

「ボーカル以外にもやってるじゃないですか!!ギターを教えた覚えはありませんよ!!

とにかく、私はギターの練習なんてしてあげませんし!

今度という今度は関わりませんよ!好きにやって下さい。もうあんな目はたくさんです!」

 

「そうか…

メンバーが1人足りないから藤原を誘おうと思ったのだが…

しょうがない…」

 

「知りません!」

 

「伊井野も悲しむだろうな…」

 

「え、ミコちゃんも一緒にやってるんですか!?」

 

この時、藤原の脳内には2択が生まれた

すなわち伊井野を見殺しにするか、一緒に死すかである。

普段から自分を慕う後輩をおもちゃのごとく扱う藤原だが、今回ばかりは違った。

あんな耳からナマコを入れられるような目に何度も後輩を合わせたくはない。

簡単なことだ1回弾かせて会長を諦めさせればよい。

そうすれば耳にナマコが入るのは一度で済むし、秀智院の文化祭で死人が出ることもない。

他のメンバーをやめさせてもいいだろう、会長も1人では無茶できまい。

 

「いいでしょう!その勝負、受けて立ちます!!!」

 

「勝負を持ちかけたつもりはないんだが…

とにかく手伝ってくれるのは嬉しい。ありがとな。

それじゃあ早速バンド名について考えよう会議がこれからあるからそれに出て欲しくて…」

 

「そんなことしてる暇はありません!早速1曲引いてみましょう!」

 

 

 

 

 

 

2時間後

 

「何で出来ちゃうの!!」

 

「違うじゃないですか、いつもならわーってなってぐぁーってなって

そして死んだアルパカじゃないですか!

なんで!私が!教えてないのに!ギターひけているんですか!!!」

 

「ふ、藤原さん急にどうしたの…」

 

「やっぱり俺たちの演奏じゃ根っからの音楽家さんには…」

 

「いや豊崎、風祭気にするな、藤原がおかしいのはおかしなことではない。

それより、とりあえず一度合わせてみたがなかなかうまくいったな。

藤原のキーボードは別格で、風祭のドラムと豊崎のベースはいつも通りとしても、

伊井野の久々にギター弾いたにしては上出来だぞ!」

 

「ほ、ほんとですか…

私が舞台に上がっているからって石とか飛んできません?」

 

「大丈夫だ!変な心配するな。」

 

「えへへ、ありがとうございます。

えへへへ…」

 

「(むぅ…

完全にミコちゃんも取り込まれています…

これは私がなんとか……?

アレ?これ別に上手くできるのならそれで問題ないのでは?)」

 

藤原はようやく気付いた。

 

 

こうして日は過ぎていき…

文化祭当日、

 

「皆、俺のせいで結局全員で合わせられたのは初日の1回だけだった。

リハーサルも俺抜きでやらせてしまって申し訳ない。

だが、3,4人で集まって練習も重ねてきたし、演奏技術に不安もない。

後は俺らの順番を待ってステージに上るだけだ!

盛り上げていこうぜ!!!」

 

「「「おー!!!!」」」

 

「グスっ、本当にっ、立派にっ、なりましたね。」

 

「藤原書記…感動しているのは分かるが号泣しながら頭をなでてくるのはやめてくれ…

第一まだ、成功していないだろ。」

 

「もう、これだけでも十分ですっ、あんなアリのクソみたいなサーブを打っていた会長が…

悪魔のカスみたいな踊りをしていた会長が…

うぅ…グスッ」

 

「お前一応女子なんだからもう少しまともな表現を…あと鼻水拭こうな。」

 

「あの…」

 

ちょっといいですかとでもいうように伊井野が手を挙げた。

 

「その…あまり上手く言えないのですが、何か忘れているような…」

 

「何か?」

 

「練習はやってきましたがどうにも腑に落ちないというか。

具体的には昨夜布団の中でやり忘れてたことを思い出したんですけど、

メモってなかったので朝には忘れてて…」

 

「う~ん、仮に何か忘れててももう舞台裏まで来ちゃっているし、

俺らの出番まで15分とないぞ?もうできることなんて」

 

「あ!」

 

「先輩何か思い出しましたか!?」

 

「MCですよ!MC!」

 

「えっMCって2曲目の”Hey day狂騒曲”の後にある4分ぐらいのあれだろ?

4分ぐらい適当に話すつもりだったけど…」

 

「ダメ!!駄目です!!!

MCというのはいくつか鉄則があるんです!!

その中でも基本的なものに話す内容を詳細に決めておくというものがあります。

ちゃんと決めておかないとボーカル後の興奮で上手く話せませんよ。」

 

「う~ん、それじゃあ渾身の一発芸を…」

 

「駄目!!!

寒いギャグを言って逆に笑いを取るのもライブではマイナスです!」

 

「寒くないのに…」

 

「そうですね…まずはお客さんに名前を知ってもらうのが大事です。

ただ、よく勘違いしやすいのは『名前だけでも覚えて帰ってください』と言うのは

あまり意味がないそうですね。

もともとこれは2007年のM-1グランプリ決勝戦でサンドウィッチマンが言ったボケですし、」

 

「へー」

 

「やはりここはバーンと『俺たちは○○です!!』というところから始めて…

あ、私たちのバンド名は計5 回以上言っておいたほうがいいかもですね、

そのほうがよっぽど覚えてもらえます

それから…それぞれの自己紹介は…」

 

「藤原さん、

もう本番まで10分も無いんだぜ、そんなに詳細に決めといても覚えられるわけ…」

 

「…確かに…そうですね……

ではここは妥協して…」

 

「ふっ、おいおい俺を誰だと思ってる?

秀智院を代表する生徒会長、白金御行だぜっ

安心しろ、ここで決まったことは全部覚えてやる!」

 

「「「「か、会長///」」」」

 

 

*******************************

 

「早坂!早坂!見て見て会長よ!!」

 

「知ってますよ。というかカメラを回しとくように命じたのはお嬢様でしょう?」

 

「当然じゃない!会長がバンドをするのよ!!」

 

「だからといって使用人10人も動員してカメラ回さなくても…

大体、私たちのクラスの出しm…」

 

「しっ!

会長がしゃべるわ。」

 

 

「皆!今日は集まってくれてありがとう!!

俺たちは………」

 

「………」

 

「………」

 

「………?」

 

「アっ、イヤ、ソノ…」

 

「バっ」

 

 

「バンド名決めるの忘れてたぁぁぁぁあぁぁぁあぁ」

 

 

決めてもいないことは覚えられなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本日の勝敗

 

かぐやの勝利

(あたふたするお可愛い会長を見れたため)

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。