最強攘夷志士は異世界でも最強? (極丸)
しおりを挟む

月曜日はジャンプ読んでるやつでも土曜発売だと気分が憂鬱になる。

衝動的に書きました。
気分が乗ったらまた書く気が起こるかも。



 鉛色の空の下で、一人佇む刀を差した男がいた。

 その男は何をするわけでもなく、雲を眺め終始無言であった。

 男の体は血に染まり、足場には死体の山が積み重なっていた。

 突然男の口が開く。

 

「……ーーー・〜ー..:*……〜ー〜ーー……・,」

 

 しかしその声は終ぞ聞こえず、男は口を閉じた。

 すると周りに変化が訪れる。男の周りを囲んでいた死体が消えて行くのだ。山の様に積み重なり、腐臭を撒き散らし、烏が肉を啄ばんでいた死体が一つずつではあるが確実に消えていく。その様を男は静かに眺めていた。

 すると男の方にも変化が訪れる。体が透けて行っているのだ。足元から段々と実態が無くなっていき、光の粒の様に男の体は飛散して行く。

 それでも男は焦るそぶりも見せず、腰に差していた刀を抜き、地面に突き刺す。

 それを満足げに眺めると、男は何も言わずに首を上げ曇天の空を見つめる。

 やがて男の実体が首だけになり、男の全てが光の粒となり消滅した時に残されていたのは廃れた大地に突き刺さった刀と、宙に舞う男の()()()だけだった。

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

 月曜日。それは一般の人にとっては憂鬱な日々の始まりでもある。学校に登校する最中に昨日までの休みを思い返し、ため息をつく未成年も多いかもしれない。

 しかし殊、坂田銀にとっては意味が違ってくる。

 この日は彼にとって最も意味のある日だからである。

 

「おいハジメ!今週号のジャンプ『HUNTER×HUNTER』連載再開してたぞ!もう前回の休載からなん年振りだよ!お前前回までのストーリー覚えってっか!?俺最後に覚えてるのクラピカがゴキブリ操作して飛ばしてる部分までしか覚えてねぇんだけど!」

 

 そう、週刊少年ジャンプの発売日である。

 坂田は自身の教室に入ると同時に鞄からジャンプを取り出して一人の少年に掲げる。

 その少年は黒い髪にやや童顔の顔を持った中肉中背の青年であった。

 

「ええっと確か、双子の王子のうちの一人が亡くなって、もう一人の王子の守護念獣になった位までかな?そこから先はちょっと曖昧かも…」

「おー、そういやそうだったー!いやー、にしても『鬼滅の刃』今週号も熱かったぜー、やっぱあの作品は今後のジャンプ界を牽引して行く作品になり得るよ。只ちょっとこのままだとエンディングロールも近いと思うんだよねー、そうなったらもうジャンプのバトル作品を支える柱が無くなっちまうよ、うん」

「ね、ねぇ坂田君…何度も言うけどジャンプを堂々と持ってくるのやめようよ」

「ああ?なんだ馬鹿野郎、何をためらいながら持ってくる必要がある?隠す必要もねーもんをワザワザ隠すほど、俺はこまめじゃねーんだよ!」

「いや、そう言う事じゃなくて…」

 

 坂田が話しかけた青年、名を南雲ハジメは困惑気味に坂田と軽快なジャンプトークをしていた。

 しかしここで新たな面子が入り込む。

 

「あ、坂田君おはよう!」

「おーう白崎、おはようさん。んでハジメ、今週号のジャンプに話が戻るんだがブラック・クローバーがさ…」

「ちょ、ちょっと坂田君!それはまずいって!」

「あはは、いいよ南雲君!相変わらずだね坂田君は。でもジャンプ持ってくるのはどうかと思うよ?」

 

 その面子は女子生徒であった。名を白崎香織、坂田たちが通う高校のアイドル的存在の生徒である。

 坂田と比べればその人気度は雲泥の差、月とスッポンどころか太陽とボーフラレベルの差があると南雲自身は解釈している。

 と言うより坂田が自身の人気を下げている点もある。

 普段から坂田はジャンプを堂々と学校で読んだり、鼻くそほじくったり、無視をすればいいものを反論をして相手の反感を買ったり、鼻くそほじくったり、掃除サボったり、鼻くそほじくったり、訳の分からない自論を展開して担任教師を困惑させたり、鼻くそほじくったりととにかく鼻くそまみれの評価を他の生徒から受けていた。

 にも関わらずこの白崎という生徒、毎日と言っていい程に坂田に声を掛け続けている。

 坂田はそれに関して興味が薄い、若しくは無いのか、軽く受け流し続けていた。

 この状況を客観的に伝えよう。

 誰もが羨む高嶺の花の様なスーパーアイドルの白崎、その白崎がいつもいつもハナクソまみれの悪評しか聞かない坂田に話しかけているにも関わらず坂田は右から左へと聞き流している。

 そんな光景を毎日、白崎に好意を抱いている男子生徒、白崎に好感を抱く女子生徒は見続けているのだ。

 その結果、男子からは怨念、女子からは軽蔑の眼差しを坂田は受けることになった。

 間近で坂田と白咲のやり取りを見ている南雲としては心臓に悪い事この上ない。

 なんせ渦中の二人はそんなことは気にも止めていないのだ。

 白崎は天然故に気付かずに、坂田は分かっていながらどうでもいいと切り捨てて静観を決めていた。

『自分も坂田君がいなかったら今の坂田君と同じ様な状況に陥るのでは無いか』と考え、胃をキリキリと痛めながら二人の会話、と言っても白崎が坂田に対して一方的にしゃべっているのを坂田がジャンプを読みながら聞き流しているだけだが、を眺めていた。

 

「香織、また彼に説教をしているのか?」

 

 そしてふと、そんな声が坂田達3人の耳に入る。

 声の方に振り向くと3人の男女がいた。

 

「おはよう坂田君、南雲君、毎日大変ね」

「全く、香織は優しいな」

「全くだぜ、そう何遍も言って聞かないような奴はどうしたって無駄だと思うぜ?」

 

 三人の中で唯一朝の挨拶をした女子生徒の名前は八重樫雫。長い艶やかな髪を後ろで縛り上げた少しばかり釣った目が特徴的な剣道場の娘である。

 次に、最初に白崎に声を掛けた男子生徒が、天之河光輝。好青年を地で行く様なザ・イケメンの男子生徒である。

 最後にどうでも良さげに白崎に言葉を投げかけた男子生徒は坂上龍太郎。光輝の親友で、『努力』好きである。

 

「おーう、おはようさーんガッさん」

「お、おはよう、八重樫さん、天之河くん、坂上くん…」

 

 坂田はチラリと八重樫を一瞥しながら挨拶をすると、すぐ様目線をジャンプに戻す。

その様子を終始ハラハラしながら見つめる南雲の事など一切気にせずに。

その様子を見た天之河は呆れる様にため息をつき、坂田に注意をする。

 

「全く……坂田、お前も少しは南雲の様に普段の行動を見直したらどうだ?少しは他人に気を配れ。いつまでも香織の手を煩わせてたらダメだろう?」

「あ、あははは……」

 

光輝の注意に坂田は意を介さない。終始ジャンプのページに目を向けている。

その瞬間南雲に予感が走る。これは面倒ごとが起こると。

坂田はジャンプのページをめくりながら言った。

 

「おーいハジメ、今週号のONE PIECE休載だったわ」

「な……!」

 

南雲は手で頭を抑えたくなった。この男、終始光輝の話を耳に入れていないのである。

愕然とする光輝を前に坂田は続ける。

 

「俺は自分を曲げる気はさらさらねぇよ。つーか、本当に人が他人に気を配ってやる時なんて精々、駅前でティッシュを配ってる時くらいだっての」

(おいいいいいいい!挑発すんなぁああああ!)

 

南雲、叫ぶ。明らかに煽ってるとしか言えない言葉に光輝は開いた口を更に開けて驚愕の表情を浮かべる。しかしその顔はすぐさま怒りへ変わり、机を叩きながら白崎に詰め寄る。

 

「……もう我慢できないぞ!香織!こいつとは離れた方がいい!香織の為にならないぞ!」

「え?私は坂田君と一緒にいて楽しいよ?私は私の意思でここに居るんだから」

「え?そ、そうか…香織は優しいな……」

「どうして私が優しいことになっちゃうの?」

 

しかし彼の必死の願いも軽くあしらわれる。予想外の反応に光輝は少しばかり口元をひくつかせていた。

 

「あ、そうだガッさん、この前貸した『ニセコイ』の一巻から五巻返してくれや」

「あ、ああ、そうだったわね。中々に面白かったわよ…少年誌の恋愛漫画は初めて読んだけど、あそこまで純粋なものもあったのねぇ…また続き読ませてちょうだい」

「そういうと思って、六巻から十巻まで持ってきてるぜ」

「あ、ありがとう、いつもいつも…」

(オメェは無視してなに『ニセコイ』の貸し借りしてんだああああ!状況をよく見ろ!つーかさっき紙袋の中身見えたけどあれ『ToLOVEる』じゃね?女子になんつーもん貸そうとしてんだオメーはぁあああ!)

「ああ、そういやオレの頼んでた奴持ってきてくれたか?」

「おうあるぜ、ほいこれ。ちゃんと綺麗に使えよ、オレもたまに読むんだから」

(龍之介(お前)も借りてたんかいいいいい!)

 

本人たちの知らぬ間で起きているアクシデントを終始目撃していた南雲は変な汗が止まらなくなっていた。

その時南雲は、いたたまれなさから普段だったら絶対に口にしないような願いを念じていた。

 

(お願いします!なんでもいいから彼らに気づくチャンスを!気まずくなる前にハプニング起きてくれぇえええ!)

 

と、同時に

 

 

 

 

 

 

魔法陣は浮かび上がった。

そして突如として光が浮かび上がり教室を包み込む。光が収まったその時には、誰もその教室にはいなかった。

南雲はこの時の瞬間をこう言っていた。

 

『とりあえず二人の紙袋をうやむやに出来たのが良かったです』




ご感想よろしくお願いします。
基本的に銀魂キャラは異世界側の予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

異世界転移って言うけど人は皆大人になる時、社会と言う異世界に転移している。

今回はネタを挟むタイミングがないのと作者の技量がないので、ほとんど繋ぎ。故に短い。
投稿間隔が短かったら、このくらいのクオリティと疑ってください。
こういう回を無くしていきたい……


どうでもいいですが皆さんは銀魂の話だと何が好きですか?私は竜宮城編と合コン回。桂がいる回はどうあがいても面白い。
うちの小説じゃいつ頃そのポジのキャラ出せるか……出しても扱いきれる自信がない……


 ハジメは光が消えるのを待ち、目を開く。

 そこは厳然とした絢爛豪華な彩色が施された聖堂のような場所であった。

 目の前に男とも女とも取れるような体型をした人物を中心に描かれた絵画が壁一面に貼られていた。普通に見れば美しい筈のそれがハジメにとって、それはなんだか脚色の強い真ん中の人物の自画像に見えた。

 ハジメは周りを見渡すと他のクラスメイト全員がこの場の状況に混乱していた。いや、それには少しばかり語弊がある。坂田だけは何故かいつものように落ち着き払って鼻くそをほじっていた。

 それを見てハジメの気が抜けるのとほぼ同時で、彼らの目の前にいた人物が声をかける。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

 そう言うイシュタルという男の顔は、ただの好々爺然とした笑みを浮かべていた。

 

 ──────────

 

「こんな長げーテーブルこのタイミング以外で何に使うんだよ? 端から端まで声届くのか? お誕生日会にも使えねーぞこんな横長テーブル」

 

 ハジメたちはすぐ様10メートルはある巨大なテーブルがある部屋に移された。

 ついてすぐに坂田が訳のわからないことを言い始めたが、慣れてるクラスの連中は無視して言われるがまま席に着く。そして席についたと同時に、イシュタルは口を開く。

 

「勇者様の中には随分と豪胆なお方もいる御様子。これならば我々が思う以上のご活躍期待できるかも知れませんな?」

「あん? ご活躍だぁ?」

 

 不思議そうな顔を浮かべながら鼻をほじる銀時にイシュタルは長い髭を触りながら南雲達を呼び寄せた理由を語る。

 人間、魔族による数百年続くとされる戦争、長く均衡状態を保ってきたがつい最近、数十年前から魔族が『魔物』という存在を従え始めてから、人間側が劣勢になり始めていること。そして人類の滅亡を危惧した『エヒト』という神が南雲達を呼び寄せたということ。

 そして話が終わるとイシュタルは南雲達を引き連れて此処が異世界であることの証明をするべく、外へと続く通路へと歩き出す。その道中でイシュタルは何かを思い出したのか、徐に頭を抱え鬱陶しげにため息をつき始めた。

 

「……実を言うと皆様をこの異世界に呼び寄せたのは、ただ単にこの劣勢が魔物によるものだけではないということなのです」

「どういうことですか、それって?」

「はい。お恥ずかしい限りなのですが、人間側にも魔人側についている人間達がおりまして、それが原因で内部破裂が起きている状態なのです……」

「な! 敵である魔人をかばっている人達がいるんですか!」

「はい、在ろう事かその町はあらゆる魔物を受け入れる無法地帯のような町に成り下がってしまいました。あなた方のような強き存在をお呼びすれば、彼等も身動きが取りにくくなると思いまして。あなた方にはそんな魔人と手を組むような反乱分子を抑えていただきたく思い、お呼びしたわけでもあります」

「……ちなみにその町の名前は?」

「ハイ……その町の名は……『カブキチョウ』。我々トータスの人間の住む町にして魔人に与する悪しき町です」

「……カブキチョウ?」

 

 イシュタルの放った町の名に、坂田は一瞬反応を示す。なぜ反応したかは本人にも分からない。しかし彼にはその名がどこか他人事ではないように聞こえたのだ。そんな坂田を置いて話は進んでいく。そこからどんな話をしていたかは坂田は知らない。なぜなら早急に聞くのをやめて転移した際に持っていた最新号のジャンプを読み始めたからだ。そして坂田のジャンプが『ぼくたちは勉強ができない』の中盤に差し掛かったあたりで事態は少しばかり変化を見せた。

 

「ふざけないでください! うちの生徒達に戦争をさせようなんてそんなの認めません! 今すぐ元の場所に返してください!」

「そーだよー? 少なくとも此処にはいるから週一で月曜か土曜日には帰らせろ、ジャンプ買えねーだろうが」

「いや、論点そこかな? 坂田君?」

 

 担任の畑山愛子が声を荒げながらイシュタルに抗議する。それに坂田は少しばかりズレた論点から援護をするが、イシュタルは何食わぬ顔で最悪の返答を坂田達に言い渡す。

 

「それは無理です。此方に引き込む方法はございますが、此方から向こうへと送り返す技術は、この世界にはございません」

「な!」

 

 その返答に畑山は地べたに座り込む。あまりのショックで少しばかり腰が抜けたそうだ。するとその横を誰かが通り過ぎる。

 

「……坂田君……」

「……」

「おや、サカタ様。一体どうなされました? これは全てエヒト様のお導き。貴方方がエヒト様のため、人間の為に頑張れば、きっと元の世界に帰れますよ?」

 

 坂田であった。坂田は無言でイシュタルの前まで行き、無言で胸ぐらを掴んだ。それでもイシュタルは平静を崩さない。

 

「ふざけんなよ……」

「なんと?」

「ふざけんなあああああああああ!! ジャンプ買えないとか、俺にとって殺されたようなもんだぞコラァあああああ!!」

「「「……………………」」」

 

 坂田、やはり此処でもスタンスを失わず。ジャンプへのこだわりを忘れずに、自分が帰れるか否かよりも、ジャンプを読めるか読めないかが重要らしい。それを見たクラスの心の声は間違いなく一致していた。

 

 

 

 やっぱりか。である。




Web版これを機に読もうか検討中……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ステータス表で思い浮かぶのはポケモンやドラクエだけどテイルズも忘れるな。

そんな坂田の騒動がありはしたが、なぜか最終的には畑山先生すら坂田に落ち着くよう言いより、その日は1日潰れた。ジャンプが読めないとわかってからの坂田の反応は不機嫌一色だった。そんな坂田を無視して話は進んでいく。

その間にカリスマのある天野河がクラス全員に戦争への参加を呼びかけ、それに流される形でやりたくない坂田とそれをなだめ続けていた畑山と南雲もやらされる羽目になっていた。しかし坂田のジャンプに対する愛がなせる技なのか、すぐに終わらせてジャンプをすぐにでも読む為か途中から参加する気満々だった。

それでいいのか坂田銀。

 

そしてその次の日、坂田とクラスメイト達はとある場所へと来ていた。

そこは軍の育成場で、無骨な剣や木刀、槍や弓がそこかしこに置いてあった。

今日日の日本では目にする事のない物の数々に目を奪われていると、坂田達に呼びかける男がいた。

 

「ようし!それでは全員集まったな!それではこれより、お前達にステータスプレートを支給する!」

 

その男の名はメルド・ロギンス。この国の騎士団長をしている男であった。

メルドはそう言うと、キャッシュカードサイズの小さな銀の板をクラスメイト達に配り始める。

それをクラス全員が受け取るのを確認すると、再び大きな声で告げる。

 

「よし、全員に行き渡ったか?このプレートは、ステータスプレートという、文字通り自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。何か都合が悪くなった時には真っ先にそれを提示しろ。そうすれば最悪の状況は回避できる。よし、試しに天野河!オマエ、そのプレートにさっき渡した針で血をたらしてみろ」

「はい」

 

メルドの説明を聞き、光輝は指に針をつけ、血をプレートに垂らす。するとプレートは輝き、そこにステータスが浮かび上がる。

 

天之河光輝 17歳 男 レベル:1

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

 

そのステータスを一目見て、メルドの目が変わる。なんでも初期値でこの値は相当に珍しいらしい。それを見てRPGなどをプレイしたことのある男子達は意気揚々とプレートに血を垂らし始めた。

 

「あれ?坂田くんまだ登録してないの?」

 

そんな最中、白崎は未だ登録を行っていない坂田を発見する。すると坂田は面倒臭げに言う。

 

「ウルセェんだよ、俺は誰の物差しでも測れないような数値を持ってるから登録しても測定出来ないから意味ねぇんだよ」

「でも身分を証明するんだから持っとかないとダメだよ?」

 

白崎の純然な申し出に坂田はプレートを取り……

 

「じゃあこれでいいか?ペッ!」

 

つばを吹き付けた。

 

「ええ!坂田くん何してるの!?」

「何って要するにこのプレートにDNAつけられればいいんだろ?だったらこれでもいいじゃねぇかよ?ってあっつぅ!」

 

坂田は問題ないように話すが、ステータスプレートがバチバチと奇妙な音を立てて煙を吹いた。

その様子にメルドは驚きの表情を見せる。

 

「おいおい坂田!何をやってんだ!それは血をその魔法陣に垂らしてステータスプレートに登録をするんだぞ!ひょっとしたらどこか壊れたかもしれんから見せてみろ!」

「う、ういっす……」

「大丈夫坂田くん?」

 

メルドと白崎に詰め寄られ珍しく申し訳なさそうにする坂田は、メルドの言う通りプレートを差し出す。

メルドはそのプレートを覗き込み、しばらくすると不思議げに坂田に近寄った。

 

「あー、すまない坂田。一応正常に機能はしている。機能はしているんだが……なんだこれ?」

「は?何言ってんのオタク?あんたんトコの道具なんだからその異常を俺が分かるわけ……」

 

メルドから告げられた質問に対してぶっきらぼうに答えつつ、プレートを覗き込む。

そこには……

 

坂田 銀 17歳 男 レベル;1

 

天職:たまねぎ剣士

ちから:18

HP:26

みのまもり:18

すばやさ:4

MP:6

きようさ:5

みりょく:4

技能:言語理解・夜叉の面影・万事屋・攘夷四天王

 

もう色々とツッコミどころが多すぎる。

 

「なんでだよぉおお!」

 

南雲が叫ぶのも無理もない。なぜかと言うと全員その気持ちだからだ。代弁してもらっておいてウルセェと言う程このクラスで南雲は馴染めていないわけではない。むしろ言ってくれてありどうくらいに思われている。

 

「色々とツッコミどころがありすぎだろ!なんでステータス表記がドラクエ仕様になってんだよ!」

「オマエそれはアレだよ、みんなステータスって言ったらまず最初にドラクエかポケモンでその存在を知るだろ?そして最終局面のエルギオス戦に入ると、普段は装備品の着脱以外ではじっくりと眺めないが、感慨深いものだと思ってそのステータスの数値を眺め、当時スライムやズッキーニャ一匹を倒すのにニードと一緒に2人がかりで数ターン消費して戦闘が終了すると、イザヤールさんが頼もしく思えたあの頃を思い出すんだよ」

「それお前だけの話だろーが!ドラクエ9だけでの話だろーが!だったらせめて職業もドラクエ9で統一しとけよ!旅芸人にしとけよ!なんで職業だけFF仕様!?」

「そりゃオメェ、FFのたまねぎ剣士は最後の最後で最強仕様になっただろ?最初は弱くても最後の最後でこちらの期待に答えてくれただろ?時には育成を諦めそうにもなったことがあったさ、順当に強くなっていくジョブに憧れたこともあったさ。しかし、そういう葛藤を乗り越え、そのキャラクターに愛を注ぎ込み続けたものだけが見える景色ってのがあんのさ。イナイレの目金しかり、ファイアーエムブレムの村人枠しかり、大器晩成に人は皆憧れるんだよ、魅力を感じるんだよ、だからたまねぎ剣士を最後まで育成し続けたんだよ!これは、そのたまねぎ剣士に対する思いが滲み出た結果なんだよ」

「認められるかああああ!」

「そうだぞ、認められないぞそんな巫山戯たこと!」

「え!?光輝くん?」

 

南雲の渾身のツッコミに光輝から援護が入った。意外な援護に南雲が動揺しているのをよそに光輝は坂田に詰め寄る。

 

(ま、まずい!流石に巫山戯すぎたんだよ坂田くん!今の光輝くんすごい怒ってる!頼むから刺激しないでよ!)

 

南雲は何も出来ないまま2人の行方を見守る。そして光輝は坂田に向かって堂々と告げる。

 

「僕はもう我慢できない、さっきから黙って聞いていれば巫山戯たことを言うね?ステータスを最初に見るのはドラクエとか?そんな巫山戯たことを言わないで欲しい」

「んだ、主人公?文句あんなら言ってみろ?俺はいつだって真剣だっつの。たまねぎ剣士舐めんじゃねーぞ、ドラクエ仕様とはいえステータスレベルと装備揃えたら最終的にとんでもねーことになんだかんな、ロトの勇者とタメ張れんだからな」

「僕が言いたいのはそう言うことじゃない……いいかい、僕が言いたいのは……

 

 

 

 

 

なんでドラクエやFFは例に上がるのにテイルズは候補に挙がらないんだあああ!」

「「「そこぉおおお!?」」」

 

光輝の的外れな反論にクラスメイト達は総ツッコミをかますが、そんなことは御構い無しに坂田は真っ向から反論し始める。

 

「んだオメェ?テイルズはどう考えても候補に挙げるゲームじゃねぇだろ。確かに多くのファンやリピーターが居るのは分かる。故に候補に挙げるべきかもしれねぇ、しかし、一般世間的にいうと知名度はさっきの奴等に比べると圧倒的に低い。更にはストーリーも重厚だから子供がとっつきにくいだろうが、アビスとかヴェスペリアとか完全にキッズ向けじゃねーだろ」

「馬鹿だね、そういう古い固定のリピーターが付いているからこそ、ドラクエやFFの様に早いサイクルでナンバリングを広げる事はできないけど、その期待に応えたいと努力して、一つ一つの作品のクオリティを落とさないように慎重にしているだろう。そういうところを加味しないと、この中に僕以外のテイルズから入った人が疎外感を受けるだろう!」

「じゃあアビスはどう説明すんだよ、あれ色々と波紋を呼んだぞ!ルークがめっちゃ鼻についたぞ、俺は!」

「僕だって彼の事は最初は苦手だったさ。けど最後には昔の自分と決別できただろう。どんな人間だって最後には変わることが出来るって教えてくれた偉大なゲームだ」

「ちげぇよ、アレは特殊な例だろうが。ポケモンとかドラクエを思い浮かべろ、サカキはずっと悪だったろうが」

「僕は今でもあの人は根はいい人だというのを信じているよ」

「オメェの意見じゃねぇんだよ。推測で話すんじゃねぇ」

 

「……戻ろっか……」

「「「賛成」」」

「お、おいこいつら放置しといていいのか?」

「いいんです、もう好きなだけ喋らせれば満足しますから……」

「光輝、俺は好きだぜ。アビス……」

 

だんだんと訳がわからない方向へ話がシフトし始め南雲達はソソクサとメルドを連れて部屋を出て行った。

メルドは終始混乱したままだった。

因みに南雲の天職は『錬成師』というありふれた職業だったが、クラスの中には誰もそれをいじる奴はいなかった。たまねぎ剣士でいじる気がほとほとに冷めたらしい。

数時間後、ハジメ達は食事を取るために未だ戻ってきていない2人を呼び戻しに部屋へと戻る。

 

するとそこでは……

 

「馬鹿野郎!男がゲームをやるとしたらドラクエかポケモンだろうが!ポケモンの最初の三匹を選んでから即ムックルとの戦闘に突入したあのドキドキ感を男はみんな通るんだよ!」

「違うね。みんな最初はGJの謎の質問に困惑しながらも答えていって相性のいいモンスター勧められたと思ったら、それが最初に連れて行くモンスターだとは知らずに、自分が思い描いていた選択方法と違った事に困惑を覚えるんだよ」

「それジョーカー2の話だろうが、誰がナンバリング最初にやるか!」

 

……まだ続けていた。

 

「ちょっと2人とも、もうご飯の時間だしそろそろ……」

「もうアッタマきたぞテメー!テメーをメギドラオンで身体中粉々にしてやろうか!」

「受けて立つよ!マカラカーンで打ち返してやる!」

「だから……」

「残念でしたー!メギドラオンは万能なので跳ね返せませーん!テメェは東狂で初見殺しの魔人にやられてろ!」

「そっちこそ残念でしたー!デビルサマナーではマカラカーンで跳ね返せますー!」

「いい加減にしろやテメェらぁああ!」

「「てぼっさ!」」

 

ドロップキック炸裂。倒れこむ2人を雑に引きずりながら悲壮感を漂わせて戻ってきた南雲を責める相手は誰もいなかった。

そしてメルドもそれに慣れたのか、特に触れる事なく話を始める。

 

「あー、それじゃあ全員揃ったところで明日の予定を教えとく、明日からは訓練を中心に動いてもらうぞ?そして数週間したらある場所に行ってもらうが、それはおいおい話させてもらう。それでは、今日はお疲れ様!」

「「「お疲れ様でしたー!」」」

 

メルドの声にクラスメイト達は意気揚々と合いの手を打つ。

そして南雲の食事はなぜか憐れまれた槍山達が相席で食事をした。

いつもとは違う気分で食べた食事はどこか新鮮な味がした。

 

「お前もあいつと普段からあんなやりとりして大変だったんだな、すまん、正直言って白崎と一緒に飯食ってるお前が羨ましかったけど、全然そんな事なかったわ、なんか今までごめんな」

「え、あ、うん……ありがど……」

「泣くな泣くな、うん、お前は今までよく頑張ったよ、主にストレスの原因俺たちだったけど……」

「ううん、それでも……ありがと……」

「おう、気にすんな……」

 

新鮮と言っても、ひどく哀愁が漂い、しょっぱい食事だったらしい。




最初描いてる時は天野河はこんなキャラになるはずでは……
どっからこうなった?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

男が性に目覚めるのは大体二次元。

今回はギャグ少なめです。


天之河と銀時のステータス談義の翌日から、南雲とクラスメイトの距離は少しばかり縮まった。いや普段が開きすぎていたのだ。転移前は坂田の隣にいて白崎と食事にありついている金魚のフンと思われていた南雲であったが、今では『坂田に振り回されている苦労人』として認識されている。

それに伴い、坂田と天之河の亀裂は広がる一方だった。

ある日の訓練では……

 

「だからジブリで一番いい女はナウシカだっての。育ちの良さにあの真面目さ、絶対に付き合ったら一途に浮気とかしない、いい彼女になると思うよ」

「しかし彼女は逞しすぎる。君は1人で自立できるだろ?みたいな感じで周りからは恋愛感情を向けられることがなく婚期を逃すタイプと見たよ。少し隙があるくらいが男も話しかけやすいんだ。そう言う視点で見ることはできない時点でいい女性とは言えないよ。そういう意味じゃシータが一番のヒロインさ」

「あのなぁ、あいつにはパズーがいるだろうが。シータはパズーが居てこそその力を十全以上に発揮できんだよ、パズーがシータの横にいなかったらNT◯になんだろうが、誰も笑いあえねぇぞ、幸せになんねぇぞ」

「パズーじゃなくてもシータはやると決めたら振り切るタイプだよ。過去の男とかには囚われないと思うようよ。ドーラ一家全員分の食事を作ってみせたんだから、絶対にいいお母さんになるよ」

「アレはゾーラ一家に恩があるから滅私奉公の精神でパズーも頑張ってるし私も頑張らなくちゃと言う思いで割り切った行動だっつの。よく見てないな、アイツはパズー以外には靡かねぇんだよ」

「それでもドーラ一家の子供全員を魅了させていただろう。男はみんなああいう『可愛い』に弱いのさ。ナウシカはどちらかと言うと綺麗が似合うタイプだろう。可愛いには今一歩届かないよ」

「ちげぇよ、可愛いの感情は愛玩動物を見つめる視線とおんなじなんだよ。つまり恋愛対象になる事はまず無い。ドーラ一家が見惚れたのはマ=ドーラしか普段見る女性がいなかったからこそのリアクションだ。普段接する女性がお母さんしかいない中学生とおんなじ反応だよ。普通の高校生とか成人前の男とかはやはり彼女にするならやっぱり綺麗の方が好まれるんだよ」

 

『ジブリヒロインの中で誰が一番いい女』で訓練中ずっといがみ合っていた。側から見ればどちらでもいいのだが当の本人にとっては無視できないらしく、それが原因でどんどんと溝は深まっていった。

それに伴い、南雲と他のクラスメイトとの距離は縮まっていった。

そんな日々が続く事数週間……いつものように訓練を終えたクラスメイト達に、メルドは唐突に告げた。

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」

 

その言葉にクラスの男子は少しばかり浮き足立つ。『大迷宮』と言う響きにとうとうRPGっぽくなってきたと思っているあたりが妥当だろう。これには坂田も年相応の反応をして楽しみにしていた。

そして翌日、坂田達は王都直営の宿泊施設に居た。次の日から本格的に迷宮に入り込む為、体力を温存させる為である。

男子の部屋が一つ1人で泊まることになりクジ引きで坂田が泊まることになったが、坂田は特に気にすることもなくベットに寝そべりながら転移する際に持ってきていた紙袋の中に入っていた『ニセコイ』の回し読みをしていた。『ToLOVEる』でも良かったが手を洗う手間が煩わしく感じるらしい。何故坂田がこれを持っているのかと言うと、転移する際騒動で有耶無耶になりずっと八重樫に渡し損ねていたようである。

すると急にドアがノックされる。それに気がつきふと窓の方を見るが、まだ夕焼けが見える時間帯で、明日のことに関する会議があるには早い時間であることに疑問が残ったが、坂田はノロノロとドアノブに手をかけてゆっくりと引く。

 

「……んだよガッさん?」

「ご、ごめんなさい……寝てたかしら?」

「いんや別に。なんか用か?」

 

そこにいたのは八重樫だった。

普段は結んでいる髪を解きロングヘアの髪が夕日に反射して何とも言えぬ美しさがあった。しかし坂田は気にする事なく話を続ける。

その言葉に八重樫は少しばかり気まずそうに顔を逸らしてか細く呟く。

 

「と、特に用事があるわけでも無いんだけど……その、ちょっと誰かと話をしたくて……」

「あっそ、じゃあどこで話すよ?」

「……入れてくれないの?」

 

話があると言っているにも関わらずその場から頑として動かない坂田を八重樫は白けた目でじっと見つめた。

 

「馬鹿野郎、男の1人部屋っていうのはいつだって魔境なんだよ。女子がそうやすやすと侵入していい領域じゃねぇんだ。食堂でなんか話そうや」

「別に汚れてても気にしないわよ」

「おい、オメェ勝手に入ん……」

「しつこい」

「ガアアアアアアア!」

 

あまりのしつこさにイラついた雫は押さえ込みに入った坂田の手首を握りつぶしにかかった。

このトータスという異世界に来てから、八重樫のステータスは伸びに伸び、レベルは一桁後半、腕力は力自慢がよくやるりんご粉砕が余裕でできるレベルにまでなっていた。

そんな八重樫から全力で握り込まれたのだ、未だレベル10未満で初期装備状態のたまねぎ剣士坂田では到底太刀打ちできそうに無い。

呆気なく骨折直前にまで握り込まれ青紫色に変色した手首を抑えながら坂田は忌々しげにベットに座り込んだ八重樫を見つめる。

八重樫はふて腐れたようにそっぽを向いていた。

 

「ガッさんオメェ……幾ら何でもそれは無いんじゃ無いの?女子なんだったら色気で男に望みを叶えさせてみろや……」

「私にそんなもの無いわよ。だからこそ渋った坂田君が悪いんだから。私は悪く無いわ」

「あんだそりゃ、お前それどこの親善大使だ?横暴にもほどがあんだろうが」

「それで話なんだけど……」

「え、始めるつもり?銀さんに対する怪我は放置でマジで始めるつもり?」

 

怪我は御構い無しに八重樫は話をする。その顔は少しばかり不安げな表情が見えた。

 

「……怖いの」

「…………何がだよ?」

 

少しばかり神妙な空気になり、八重樫が俯き気味に囁いたが故か、坂田も真剣な顔で八重樫の話を聞く姿勢を取り始める。

 

「明日、私達はあの迷宮に入って怪物と戦うのよね?」

「正確には魔物だけどな」

「真面目に聞いて。それで、どうしても、殺さなきゃいけない状況になって、その時に私が出来るか怖いの。その瞬間、私が私じゃなくなると思って」

「………………」

「やらなきゃいけないって分かってる。でも……どうしても出来る気がしない。出来て欲しくないの……」

「バーカ」

「きゃ!」

 

八重樫の独白に、坂田はデコピンで答える。突然の衝撃に八重樫はおでこを抑えて坂田を睨む。

 

「な、何するのよ!人が真剣に悩んでる時に!」

「アホ臭いっつってんだよ。人様にこんだけ負荷で負わせといて何今更うだうだ悩んでんだっつの。悩むくれぇだったら悩んでるうちに一直線に走りきれってんだ。その方が悩んで頭抱え込むよりいい案が浮かぶもんだぜ?俺なんていっつもそうやって切り抜けてきたんだからよ。まっすぐ走ってきたつもりが、いつの間にか泥だらけだ。それでも一心不乱に突っ走ってりゃ、いつか泥も乾いて落ちんだろ」

「……あなた、本当に馬鹿なのね」

「阿保か、今更知ったのかよ?」

「……ふふっ」

「ヘヘッ……」

 

八重樫は笑った。それに吊られて銀も笑った。坂田(バカ)八重樫(アホ)は周りなど考えることもなく、悩みも忘れて、何が面白いわけでもなく笑い合った。八重樫の心の中には、憂などは消えていた。

 

「ふぅ、ありがと。問題は解決してないけど、考えるだけ無駄ってことが分かっただけでも気晴らしになったわ」

「おう、そんじゃあな」

 

ひとしきり笑い合い、少しばかりスッキリした笑みを浮かべ、八重樫は坂田の部屋を去る。

 

「……ああ、それとガッさん」

「なに?」

 

坂田の突然のストップに八重樫は後ろを振り向く。

そして坂田はなんでもなさげにポツリと窓の方を眺めながら言う。

 

「オメェが自分じゃなくなりそうになっても俺はどうすることも出来ねぇが、真っ直ぐに生きたバカの魂は、たとえその身が滅ぼうが消えやしねー。だから迷いなく、自分(テメー)の考えを信じていきやがれ」

「……!……ありがとう…………」

 

それを聞いて今度こそ八重樫は部屋を去っていった。

 

「……よし、いったか」

 

坂田はそれをベットで寝そべりながらそれを見送り、扉が閉まった事を確認すると、部屋の隅に置いてあった、八重樫が見ていた方角の紙袋を漁り始める。

 

「よーし、なんとか誤魔化せたみてぇだなー。ガッさんがこっち向いた時はヒヤヒヤしたけど、あの様子だと中身は見えてねぇようだな」

 

坂田が紙袋から取り出したのは『ToLOVEる』であった。どうやら坂田が八重樫にデコピンをかましたのは紙袋から意識を逸らさせるためらしい。彼なりの優しさだろうか。

 

「まーガッさんにはまだ早いからなー、この世界は。意外と純情だし、見られたらめんどくさい事この上ねぇよ。あーあ、こんな事になるなら『ゆらぎ荘』も持ってくりゃよかったな〜」

 

そう言って坂田は『ToLOVEる』を普通に附属の本棚にしまった。バレそうではあるが、意外と本棚に馴染んでいた。坂田銀、この齢にしてエロ本の隠し場所を熟知している。

 

「ま、貸して欲しいジャンプコミックがニセコイの時点でお察しだが。ったく、なんで高校生にもなってあんなにも純粋なんだろうね」

 

そんな疑問に答えるものはおらず、坂田は再び『ニセコイ』の続きを読み始めた。

 

 

 

 

 

運命の日まであと数時間である……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オルクス大迷宮の地下深くで眠るベヒモスが目を覚ましたのは、本人にも分からない理由であった。

ベヒモスは突如として起き上がり、亀のような遅さではあるが、確実に前へと進んでいた。その進行方向には上へと続く道ができており、ベヒモスは迷う事なく歩みを進み続ける。

なぜその道を歩むのか、なぜこの道が上へと続いていることがわかるのか、どうして自分はこれ程までに上に行きたいのか、それの何一つも分からないが、ベヒモスは歩み続けた。その亀のような歩幅は徐々に速度を上げ、やがて獲物を狙う豹が如く、その鎧のような鱗に包まれた頑丈かつ重い身体を地面に響かせ疾走していた。途中にいた魔物(雑魚)には目もくれずベヒモスは走り続ける。やがて彼の胸に湧き上がったのは、一つの感情である。

それがなんなのかは、ベヒモスにしか分からない。

ベヒモスはひたすら上を目指し疾る。

 

 

その右目に引かれた刀傷の疼きを抑えながら。




試しにちょいとだけ人情チックな部分の銀魂を出そうかと挑戦しました。
まだまだあの独特の空気感は出せそうにないです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ギャグとシリアスの境界線はハッキリさせないと読者からのヘイトを買うから気をつけろ。

随分と放置していた割りに短いです。
今回のサブタイみたいなことをちゃんとしていたから、銀魂はあんなにも愛されていたんだなと感慨深く思いました。
まだまだだな


オルクス大迷宮の目の前にてメルドは南雲達に呼びかけを行っていた。

 

「よし!それでは全員気合を入れていけ!ここから先は本当の命のやりとりをする!いいかお前ら!一瞬の気の緩みが生死を分ける!それをしっかりと頭に叩き込め!」

 

先日までの豪快で穏やかな性格とは一変し、一切の甘えを許さないその表情に、クラスは一段と気を引き締める。

メルドが全員の顔を確認すると、満足げに微笑みいつもの様に笑った。

 

「よし!全員その気概だ!それが分かれば問題ない!それでは行くぞ!」

 

そして南雲達クラスメイト全員での初の迷宮攻略が始まった。

洞窟内を進む中、八重樫はメルドに駆け寄る。

 

「それにしてもメルドさん、先程の鼓舞は凄かったですね?普段とは違ってびっくりしましたよ」

「おお?そうか?いやー、そりゃあ嬉しいな!実を言うとアレはただのモノマネでね?俺の憧れの人の鼓舞の仕方をやってみただけなんだよ」

「憧れの人?いったい誰ですか?」

「ああ、ありゃあ俺がまだ騎士団に成り立ての頃の話だった。王都の騎士団が全盛期で一番強いと言われてた時期でな?まぁ今でも強いと思うが、その頃には顔のいい連中も揃っててな、今よりも民衆からの声も高かったんだ。そんな中、はるか辺境の田舎からやってきたならず者みてぇなチンピラ集団がやってきてな?その連中の大将が騎士団試験に参加するなりこう言ってきたんだ」

 

『すまねぇが、俺達はあんたらみてぇに神の為だとかに剣を振るう訳じゃねぇ。俺たちの護りてぇもん護る為にやるんだ。そこであんたら騎士団の皆様方には、俺達チンピラ集団が街を守れる連中だって言うこと証明して欲しいためにここに来たんだが?いいか?』

 

「こう言われてこっちも黙っちゃいなくてな?初っ端から俺達の存在意義根底から覆す様な事かましてくるもんだから、そん時その場にいた騎士団員全員でそのチンピラ集団囲い込んでボコボコにしようとしたんだが……まぁそいつらの強ぇのなんの。その集団の倍以上いる団員をバッタバッタとなぎ倒していきやがる。それでいて戦闘職が天職じゃねぇって後から言いやがるから、もう襲いかかった奴らのメンタルは粉々。そんで後から大将格がこう言いやがったんだ」

 

『どうですかい?これであんたら王都の護り手とやらを倒せる様な力を持ってるのを示せた訳でさぁ。この事実隠して欲しけりゃ、何するか分かってるよな?』

 

「ふ、今思い返しても滑稽さ。大の大人が10にもみたねぇ様なガキに頭掴まれて身悶えてんだ。当時の俺からしたら一気に騎士団の権威が失墜してったね。以来、その時期は騎士団の中じゃ誰も話さないタブーになっちまってな。今でも団員の中にそいつらを恨んでる奴らは多いんだ」

「へ、へー、そうなんですか?」

「ああ、だが俺は、一度しか会ったことのないあの人たちに憧れてね。いつかトータスの騎士団をあの人達の作る団よりも素晴らしいモノに仕上げるって言うのが俺のその日から変わらない目標なのさ」

 

思い返す様に目を閉じながら語るメルドに天之河は引きながらも感心する。そりゃあ、ゲスなところはあったが、今の騎士団よりも強いと言われていた時期の面子を、その半分以下で倒したと言うのだ。強さのみで言うと、確かに感心するのも無理はない。

 

「っと、そろそろ魔物が出てくる頃合いだな。いいかお前ら!まず最初に魔法職の面々が後方から敵の数をあらかた減らせ!そこから近接職の人間が各個で敵を減らしていけ!危なくなったら俺らもフォローをするから安心しろ!」

 

メルドは声高にクラスメイト達にそう伝える。そしてそれを聞いたクラスメイト達にも緊張が走る。

皆一様に己の武器を握りしめ、息を大きく吸いながら緊張をほぐし始めた。

 

「おい、サカタ!オマエも早く準備を始めろ!」

 

それを確認し、メルドは後方を歩いていた坂田達に注意を促すため、後ろを振り向くと……

 

「だからなんでお前は頑なにビアンカを推し進めんだよ?男なら黙ってフローラ一択だろうが」

「いいや、君の方が理解できないね。ビアンカの幼い頃からの思いを踏みにじると言うのかい?それを裏切ってまでフローラを選ぶことは僕にはできないね」

「けどよ、ビアンカは正直言って、もう結婚しすぎただろうが。一体何人の主人公がビアンカと合体したよ、一体何人のフローラがアンディと合体したよ。も、いいじゃねぇか。違う合体を体験させてやれよ。フローラが主人公と合体してもいいんじゃねぇの?」

「馬鹿だね、フローラとアンディは主人公とビアンカと同じで幼馴染さ。その幼馴染2組が誰にも邪魔されることなく結婚することができるんだから、これ以上にない幸せなことだろう」

「もうビアンカもそれに飽きてきてんだって。何回リメイクしようとリトライしようと、結局最初の旦那と合体だよ。転生を繰り返し続けても、誰もフローラを選ばないんだからビアンカの方も最初の数回はそれでも幸せだったけど、もう飽きてきたんだよ、主人公との合体が。

主人公の主人公に満足できなくなっちまったんだよ。そろそろ加藤の鷹に会いたくなってきたんだよ」

「ビアンカはそんなこと言ったりしないよ。一万年と二千年前から愛していたんだよ」

「じゃあフローラは君を知ったその日から僕の地獄に音楽は絶えなくなったぞ?こっちの方が一途ないい女だろ?」

「それは少し一目惚れによる恋愛フィルターがかかってだね……」

 

ドラクエ談義に花を咲かせていた。今回のテーマは『ビアンカとフローラ、どっちが嫁としていい女か』らしい。それを見てハジメのツッコミが炸裂する。

 

「もういいわオメーラ!何このタイミングでもゲーム談義してんだ!ビアンカもフローラも実在しねーよ!いねーよ天空の花嫁なんて!早くしねーとデボラのかかと落としオメーラにぶち込むぞ!」

「んだハジメ?オメーデボラ派か?珍しいな?だが今回ばかりは譲らねーぞ?フローラはオレのだ」

「違うよフローラはアンディのものさ。僕たちにはビアンカがいる」

「てめーらが奪い合ってる花嫁なんてどこにもいねぇよ!オメーらなんざチャゴス王子のようにミーティア姫が主人公と結婚する様を兵士に拘束されながら眺めてろ!」

「誰がチャゴス王子だ!!せめてククールレベルのイケメンだろうが!」

「それオメーがククールのストパーに憧れてるだけだろうが!いい加減諦めろ!オメーはパパスみてーなもボサボサヘアーが限界だっつの!」

「てめーパパス舐めんじゃねーぞ!ホーリーエッジでトドメの一撃喰らわしてやろうかコラ!」

「そうだよ!パパスは最後まで主人公を思いやった立派な父親だろう!愚弄するのは許さないよ!」

「ちょ、落ち着けオメーら!今はそんな時じゃねーだろ!」

 

ハジメも少しばかりハイになって収拾がつかなくなってきた。

まさかの槍山が仲裁に入るレベルでカオスと化し、言い合いが終わる頃には全ての魔物を討伐し終えた後であり、ハジメと銀と光輝はこっ酷くメルドに叱られた。ついでに言うと結論として一番いい女はゼシカになった。

そして特に大きな問題もなく20階層へと着くと、メルドが告げる。

 

「よし、ここから大迷宮の本番だ。この辺から魔物も知恵がついたやつが増えてくるから一筋縄じゃいかねぇ。よく周りを観察しながら慎重に進め!」

 

メルドの声にクラスメイト達の間に緊張が走る。坂田は未だに鼻くそをほじっていたが。

そして次の瞬間、突如として近くにあった岩がせり上がりクラスメイト達に襲いかかる。

 

「あれって……ロックマウントだ!岩に擬態してたんだ!」

 

それは魔物であった。ゴツゴツとした厳つい皮膚に覆われた二足歩行のゴリラのような魔物、ロックマウント二匹が周囲を囲んでいた。うち一匹はハジメ達後方に襲いかかるが、それは失敗に終わる。

 

「おらぁあああ!」

 

坂田であった。坂田は戦闘向きの職種でありながら、ステータスの低さが災いし、後方部隊の護衛に回っていた。

坂田は腰にさしていた木刀をロックマウントに振り抜く。そしてロックマウントは、アッサリと縦に引き裂かれ絶命した。

一太刀でロックマウントを斬り伏せた坂田に、白崎が歩み寄る。

 

「だ、大丈夫!坂田君!」

「おう、大丈夫だって気にすんな」

 

心配で歩み寄る白崎に対してなんとも適当な態度を取る坂田に、イラつく後方部隊の面々であった。

そんな考えはすぐさま飛散する。前方で爆音が響き渡り、そこに目をやるとイケメンスマイルを輝かせた光輝が立っていた。どうやら先程の衝撃は彼の攻撃らしい。

特に何の問題もなく魔物を退けた南雲達だったが、ここでトラブルが起こる。

 

ズン……

 

 

ズン……

 

 

突如として地響きが南雲達の耳に響く。

 

ズン…

 

ズン…

 

その地響きは段々と近づいてきており、遂にはハジメ達が立っていられなくなるほどの地響きが響く。

この異常事態には、メルドも困惑していた。

 

「なんなんですか!?この地響き!?ひょっとして何かトラップが!」

「いや、それはない!とにかく今はこの異常事態の原因を探るよりまずは各々の安全の確保だ!全員さっきの階段前まで走れ!」

 

畑山の質問にメルドは答えながらも全員に指示を出す。その指示にクラスメイト達は一斉に元来た場所から走り出すが、その瞬間、揺れは最高潮にまで達し、ピタリと止まった。

その代わり……

 

 

ゴルルル……

 

空気がうねる様な低音を響かせて、そこには巨大な禍々しい龍がハジメ達を見つめていた。

 

「べ、ベヒモス……」

 

メルドのささやく様な声が、その薄暗い洞窟では何故か響いて聞こえた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ベヒモスって聞くと何故だかスタイリッシュな体型のドラゴンが思い浮かばない。

「全員てった――――い!」

 

ベヒモスを見てからのメルドの指示はその一言であった。

その声にクラスの全員はハッと意識を覚醒させ、ベヒモスに背を向けてもと来た道を逆走する。

 

「みんな急いで!早く!」

「おい!なんだよこれ!どうなってんだ!?」

「知らないわよ!」

「押すなって!ちょ、あぶねーって!」

「なになになに!?何が起きてんの?!」

「早く進めって!」

 

しかしここで問題が生じる。後ろのほうの後方支援の部隊と前線部隊で指示が伝わらず、狭い路地の中を衝突したため、道がふさがっていた。これにはメルドも冷や汗を流す。

 

「まずいぞ……!パニックで全員冷静な判断が出来ずに避難が進まない!これじゃあすぐにベヒモスに……」

 

『追いつく』。その言葉をメルドは喉元ぎりぎりで飲み込んでベヒモスのほうを見やる。

なぜかベヒモスはゆっくりとした動きで歩を進め、じっとこちらを見ていた。今はまだ距離があるから大丈夫だが、いつ気まぐれに牙をむくかわからない。

 

メルドは覚悟を決める。

 

「もう少し勇者達(あいつら)に教えなきゃいけないことがあったんだけどなぁ!」

 

メルドは自慢の一振りを抜き、ベヒモスの前に立つ。その所作に生徒たちに避難誘導をしていた畑山は驚く。

 

「な、なにしてるんですかメルドさん!?早くしてください!」

「アイコさん!俺が一秒でも時間を稼ぎますんで!避難をお願いします!」

「ふざけたこと言わないでください!こんな状況だからこそあなたの命はここで消えてはいけません!お願いですから考え直して!」

 

畑山は必死にメルドにやめるよう言い渡す。しかしメルドは考えを変えない。

 

「いや、ここでまだ可能性のある奴らが生き残ったほうが今後のためだ!そのためなら俺はいくらでも犠牲なる!」

「だからって……」

「それに」

「……?」

 

メルドの含みのある言い方に畑山は小首を傾げる。

するとメルドは振り返り、優しい笑みを浮かべる。

 

「あなたを救えるのなら、それで十分な命を懸ける理由になる……」

「な!」

「じゃ!」

 

唐突な告白紛いな気障なセリフにあまり耐性のない畑山は口をパクパクと開閉させる。その隙にメルドはベヒモスに向かい走り出す。

 

「あ!待って!」

 

畑山の懇願にメルドは耳を貸さない。そしてメルドは走り去りベヒモスの前に立ちふさがる様に立つ。

 

「喰らいやがれ!」

 

メルドは依然ゆっくりと歩の向きを変えないベヒモスの額めがけて渾身の一撃を放つべく飛び上がり、剣を大きく振りかぶる。

 

ガキィイイイイン……

 

剣とベヒモスの間に火花が散る。その音からようやくベヒモスの意識がメルドに行く。するとベヒモスは首を少しばかり振ってメルドを叩き落す。

 

「グホッ!」

 

メルドは苦悶の声を上げる。一瞬で体中の骨がバキバキに折れ、意識が遠のく。しかし立ち上がろうと腕に力を込めて自分を叱責しつつ剣を握り、前へと進む。

 

「こっちを……」

 

メルドは口から血を吹きながらベヒモスに歩み寄る。その顔は鬼のような形相だ。

まだ倒れていない。お前の敵は俺だ。俺を倒していないのに去るのか。逃げるのか。

そんな思いがメルドの顔から浮かび上がる。

野生の本能からそれを察知したのか、ベヒモスがメルドの方を見て足を止める。しかし問題なしと感じたのかそれだけで、一瞬メルドの方を見ただけで、再び歩き始めた。

その一連の動きにメルドは喉が裂けんばかりに声を張り上げる。

 

「見やがれぇええ!」

 

再び跳躍。今度は先ほどよりも高く、先ほどよりも大きく振りかぶって剣を振り切る。

先の攻撃と同じ場所を攻撃すべくベヒモスの額を狙ってメルドは剣を振り下ろす。

 

「「「おりゃああああ!」」」

 

()()()()()

 

「……は!?」

 

自分自身も予想外の連携に自分含めた3方向からの攻撃にベヒモスが苦悶の顔を浮かべ、身悶える。その隙にメルドは左右を確認する。

 

「おーおー、効いてんな?んじゃあこのまま押し切るか?」

 

鼻をほじって、呑気な声を上げる坂田(アホ)

 

「いや、ここは撤退が最優先の事項だし、ある程度ここを絶えしのげば仕留める必要はないよ。先の事も考えて、少しだけ省エネに行こう」

 

それに追従する天之河(バカ)であった。

 

「おーい!なにしてんの二人とも―!早く逃げるよ!」

「おい南雲!それ以上行くとあぶねぇぞ!」

 

更には遠くの方を見ると心配してついてきた、南雲と檜山もいた。

 

「お前ら!何やってんだ!早く避難に!」

「ンなこと言ったって今は通勤ラッシュのJR線も真っ青なレベルで混雑してんだよ。今行ったところで余計に混むだけだし、空くまでベヒモス(こいつ)の相手でもしてやろうかと」

「そうそう、僕らが一緒に戦えば、メルドさんの生存率も上がるし、弱らせた後ならうまくいけばゲットできるかもしれない。良い事づくめだよ」

「それポケモンの話だろうが、あんなごついポケモンいねーよ。せいぜいドラクエジョーカーだろ」

「じゃあスカウトアタックで仲間になるまで殴ればいい。ケッコー確率低いだろうけど」

「なら霜降り肉で確率上げるか」

 

メルドの叱責を無視して二人はすいすいと足をベヒモスに運ぶ。その姿に呆気を取られていると、南雲と檜山が傍による。

 

「大丈夫ですか?これポーションです」

「あ、あぁ……すまない。というか、どうしてお前らも……」

「俺は無理やり南雲に付き添われて。おーい!おめぇらぜってーに無理すんなよー!」

「僕はメルドさんが心配で。後はあそこの馬鹿二人が変な事仕出かさないかの付き添いです」

 

南雲の返答にメルドはポーションを飲みながら目を白黒させる。

何故ならこの二人、無意識からかは分からないが、今戦闘を始めている二人の命の心配をしていないのだ。『無理をするな』や『変な事をしないか』の心配で、『死ぬな』というような心配の気配が一切しないのだ。

その事実に、メルドは一人感心する。

 

「うおっと!あぶねぇ!」

「気を付けてくれよ坂田君?こいつまだまだ余裕みたいだし!」

「うるせぇな!なんかこいつ俺に対する当たりがつぇえんだよ!」

 

そうこうしている間に、二人はベヒモスと戦いを繰り広げていた。

先ほどのメルド以上に何故か執拗に坂田を狙いすましたその動きに、メルドは一抹の不安を感じる。

 

「皆さーん!生徒たちは粗方避難が完了しましたー!早く!」

「坂田くーん!急いで!」

「光輝!」

「早くしろ光輝!あとついでに坂田!」

「檜山おめぇ何南雲にいいように使われてんだ!早くしろ!」

 

それと同時に畑山の声がメルド達の耳に届く。

見ると畑山の他に白崎と八重樫に坂上、そして檜山グループの斎藤が呼び掛けていた。

それにいち早く気付いた南雲は今だ戦っている二人に呼び掛ける。

 

「二人とも―!避難は済んだから後は僕たちだけだよ!行くよ!檜山君!メルドさんの方担いで先に行ってて!」

「おめぇほんと図太くなったな!」

 

そう言いつつも、檜山は南雲の言われる通りメルドの肩を肩を担いで先に進む。

そして南雲の呼びかけに二人は反応を示す。

 

「分かった!少しこいつを怯ませたら!すぐ!行くよ!」

「おう!わか!った!から!おめぇら!は!先に!行って!ろ!」

 

天之河は少しばかりの余裕をもって、坂田はかなり切羽詰まって返答する。

坂田にベヒモスが気を取られている間に、光輝は大技を放つ。

 

「ギュガアア!!!」

 

その一撃にベヒモスは体を地面に打つ。その隙に二人は走り出し、それを確認して南雲も走り出す。

そしてその距離があと数歩という段階で、その時は訪れた。

 

「ウゥゥゥ……ガアアアア!」

「へ?う、うわぁああ!」

 

ベヒモスが最後の抵抗とばかりに暴れ始めたのである。地面を踏み鳴らすと、その岩盤がベヒモスを中心に崩壊を始める。

その崩壊の波にのまれまいと南雲の後ろを行く坂田と天之河はスピードを上げる。

 

「「うおおおおおおおお!」」

「ええ!?ちょ、はやっ!?」

 

短距離走ランナーも真っ青な速度で走り抜ける彼らに南雲は抜かされ、崩壊の波がすぐそこまで迫る。

 

「あっ……」

 

ついに波に南雲は捕まった。しかし生存本能のなせる業か、南雲は咄嗟に手を伸ばす。

伸ばした先は……

 

「うぐぉ!」

 

坂田の足だった。

 

坂田は急な下からの衝撃に引きずり込まれそうになり前のめりなりながらも、南雲と同じように手を伸ばす。そしてその先は……

 

「ぐへぁ!」

 

天之河の腰のベルトだった。

そして二度あることは三度あるで……

 

「んぐぇ!」

 

天之河は檜山の装備であるマントに掴んだ。

檜山はとっさの判断でメルドを突き放し崖から落ちると近くにあった根っこに手を伸ばし、掴む。

そうして出来た人型命綱。しかし強度はあまりにも心もとないものだった。

 

「おいい、ハジメてめぇ何してんだこのやろぉ!ここはお前が落ちとかねぇと話が前に進まねぇだろうがぁ!いい加減ここいらで落ちておめぇの未来の嫁さんと合流して来い!」

「いやだぁああ!ここでの僕は綺麗なままでいたいんだぁ!ここはオリジナル主人公の坂田君が代わりに落ちて僕の奥さんといい感じになって来い!僕は死に目に会うのは嫌だぁ!」

「てめぇふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!ただでさえこの時点で原作との差がおかしな事になってんのにこれ以上差がついたらとんでもない事に何だろうがぁ!とっと落ちて堕天して来いや主人公!」

「もう僕と檜山君が仲良くしてる時点で原作も何もないんだよ!だったらとことん差別化してって別作品にしていってやる!僕が綺麗なままエンドロールを迎えるストーリーにしてやるぅ!」

 

南雲と坂田は足を掴まれながら言い争いを始める。なかなかにメタいことまで言っているがそんな事は当人たちの問題ではない。

 

「ちょっと坂田くん!?持つ位置せめて変えてくれないかい!?色々とやばそうなんだけど!?」

「別にいいだろうが!ズボンぐらいよ!持つ位置変えなきゃいけねぇのはテメェの方だろうが!こっちが落ちる前にあいつの意識が落ちるぞ!」

「い、いや……とっさに捕まってしまったから変えたいんだけど、持つ場所がココしかないんだよ……」

 

光輝と坂田も言い争いを始める。まぁこの辺りは順当だろう。なんせ光輝自身が掴んでいる場所が場所だ。

 

「ぐ、ぐるぢい……オマエら……いい加減にしろ……」

 

1番の問題は檜山であった。マントを男子高校生三人分の重さで引っ張られている為首が閉まる閉まる。

顔が徐々になってはいけないような色にまで変色し、段々と血の気が顔から引いてきた。

 

「南雲くーん!坂田くーん!天ノ河くーん!檜山くーん!大丈夫ですかー!すぐにそっちに行きますからねー!」

「先生!はい!分かりました!」

「おーっす!でもなるべく早くしてくれ!もう色々と限界な奴がいる!」

「急いでください!僕の貞操が守れる内に!」

 

上から聞こえてきた畑山の声に三人は勢いよく答える。しかし、一人限界が近いものが……

 

「う……もう、限界……」

 

檜山の意識が

 

 

 

 

 

 

落ちた。

 

「「「ああああああああああ!」」」

 

それと同時に四人が奈落へ落ちる。

運命は回り始めた。




だいぶ適当に仕上げました。
こっからもう少し銀魂感を出していきたいところ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

主人公が奈落に落ちるということは主人公のステータスが上がることを意味する。

更新遅れて申し訳ない……


ハジメが落ちた場所には水が流れる音がした。

目を開けるとそこは暗い洞窟の様な場所であり、遠くの方から滝の流れる音がした。

ハジメは滝の音を聞き目を覚ます。

 

「う、うーん……頭がいたいな……えっと確か、僕は……坂田くんの足を掴んで、それで……」

 

ハジメは意識が朦朧とした中で必死に頭を回して記憶を探り出す。

次第にだんだんと意識が戻り始め、坂田達も一緒に落ちた事を思い出す。

 

「そうだ!坂田君に光輝君に檜山君!3人もここに落ちたんだ!早く探さないと!」

 

ハジメはそう言って起き上がり辺りを見渡す。そこは岩盤一色で所々にある光る水晶の様なものが唯一の光源だった。

 ハジメは明かりを頼りに歩き回り、3人を探す。

 そうしてハジメは大きな空洞に来た。そこには水晶が密集しており、より明るい場所となっていた。

 

「へー、綺麗な場所だなー。って違う違う、今は3人を探すのが先決で……」

 

 見惚れていたハジメだが、すぐさま自分の目的を思い出して頭を振る。すると遠くの方から何か声が聞こえた。

 

 

「……ぁー!……ぁ……ぇ……ぁ……ぇー……ぁー!」

 

 

 

「ん?この声って坂田君?」

 

それは坂田の声であった。遠くの方から聞こえてくる坂田の大きな声、さらには叫び声のように徐々に語尾が強くなっており、定期的に響いてきた。

 それを聞いてハジメは少しばかりぞっとし始める。

 

「も、もしかして坂田君、ここにいる魔物に襲われてる……?」

 

 あり得ない話ではないとハジメは思った。

 ここはハジメの予想では恐らく最深部か、そうでなくともそれに近い下層にまで落ちてきたのかもしれないのだ。先程のベヒモスのような強さを持った魔獣がいたとしてもおかしくはない。ハジメは恐る恐る坂田の声がする方へ足を運び、大きな岩陰のそばまでくる。 

 そして慎重に顔を出して坂田がいると思われる方角へ顔を向けると……

 

「かーめーはーめー……

 

 

 

 

 

……波ぁああああああああ!」

 

 腰を低く落としながら両手の手首の内側を合わせて腕を前に突き出した状態で叫ぶ坂田(バカ)がいた。

 

「何やってんだてめぇはぁあああ!」

「ごくうぅ!」

 

ハジメはすぐさま馬鹿を止めに蹴りをかましてかめはめ波の練習を中断させる。

止めに入られた坂田は少し照れ臭げに止めに入ったハジメを見る。

 

「んだよハジメ、見てたんだったら声かけてくれよ~、俺めっちゃ恥ずかしいじゃん……誰もいねぇと思ってたから全力で練習できると思ったのによ~」

「何ちょっと照れてんだよ!撃てる訳ねぇだろ『かめはめ波』なんて!お前あれ亀仙人がどんだけ熟考して作り上げた技だと思ってんだ!お前ごときが使いこなすことを目指すとか烏滸がましいにも程があるぞ!」

「いやだってよ~、ここ異世界だぜ?魔法がある異世界だぜ?だったらかめはめ波出せるかもしんないってちょっとくらい思うじゃん?諦めかけてた幼少の頃の夢がかなうかもしんないと思うと挑戦してみたくもなんじゃん?」

「だからって魔物がうようよいる今この場ですることでもねぇだろ!なんで王都にいるときやんなかったんだよやっても意味ねぇけど!」

 

 ハジメのツッコミに坂田は何を言ってるんだかと言いたげな顔で告げる。

 

「いやー、それはちょっと見られるかもしんないと思うから出来んじゃん?こういう誰もいないという前提があるから全力で練習できるんだよ」

「知らねぇよお前のポリシー!とにかく、早くここ出てほかの二人を探そう?」

「いや、半分お前のせいでもあるからな?」

「ほら行くよ」

「おい、ちょっと待てや加害者」

 

 多少自分にとって不利な話題が上がった為早急に話を切り上げてほかの二人を探し始めるハジメに坂田はある種の関心を抱くが、特にそこまで攻める気もないのか話はそこで途切れ、他の二人を探し始める。

 

「……ぁぁぁあ……ぁぁぁああ」

 

「あ!光輝君の声だ!」

「なんかやけに呻いてんな?」

「きっと何か魔物の毒物にやられたんじゃ!?大変だ急ごう!」

 

 そして光輝の声が二人の耳に入る。そしてハジメは何か毒にやられているのではと合点を付け、早急に走り出す。何もできないが居ないよりはマシなはずだ。

一心不乱に走りぬき、やがてハジメがたどり着いたのは大きな谷の渓谷だった。

そこに光輝はいた。

 

「ハァァアアアアア!!!ペガサス……彗星、拳ンンンンンン!!」

「廬山龍飛翔ゥウウウ!!」

「星矢!!」

 

 ペガサス彗星拳の構えを取って。

 なんとなくだが察しがついていたドラゴンハジメは勢いそのままに最終奥義をペガサス光輝に叩き込んだ。

 

「なんでお前も必殺技に未練あるんだよ!お前が練習するんだったらせめて天翔龍閃のしろ!なんで剣すら使ってねぇんだよ!」

「なんだハジメ君、君も近くにいたのか。しかし感心しないな?まだペガサス彗星拳は途中だったんだよ?終わるまでは突っ込まないでほしかったな?」

「大丈夫だよ終ってるから。光輝君の頭が」

 

 子供の様な文句を垂れる光輝を半ば無視し、ハジメは振り返って辺りを見渡す。青白い光を放つ水晶がハジメたちの周りを照らし、光が差し込まれていないこの下層の空間でもハジメたちはお互いを認識できていたのだ。

 ハジメは改めて自分があの衝撃波に巻き込まれた結果ここに行きついたのだと感じた。

 

(……悲観しても何も始まらないな、まずはお荷物になるかもしれないけど、二人を見つけ出すことが出来て良かったってことにしよう。後は檜山君だけど……そうだ!檜山君が!)

 

 ハジメはブルーになりそうになった気持ちをグッとこらえて、坂田と光輝にこれからどうやって生き延びていくかと、檜山捜索の作戦会議を開くため、再び振り返る。

 すると……

 

「だからちげぇよ。ペガサス彗星拳はこっからこう行ってだな……」

「それなら君のかめはめ波も言わせてもらうけど、こうからこうじゃなくて、こういってこうだよ」

「あのシーン限定のかめはめ波だろうが。ほとんどのシーンでのかめはめ波はこう構えてからだな……」

「それなら君が指摘した彗星拳も基本ポーズはこうだよ」

「だからそれは最初の彗星拳だろ?そこから星矢は徐々に改良を重ねてだな……」

 

「ゴムゴムのスタンプゥ!!」

「「ゴハァ!!」

 

 ハジメはドロップキックを放った!

 効果は抜群だ!

 バカA バカBの急所に当たった!

 

 ハジメはまたしてもドロップキックでバカたちに制裁をかます。2~3メートル吹き飛んだ後、バカたちは多少の痙攣を起こし白目をむいて動かなくなる。

 

「はぁ……この二人に協力を頼もうとしたのがまず間違いだった……もういいや、どうせ二人の事だからゴキブリ以上の耐久力を見せてくれるだろうし、しばらく放置しておくか……目が覚めるまで食料調達でもしておこう。早く檜山君の居場所を突き止めなきゃだし」

 

 そう言ってハジメは白目をむいて伸び切っている坂田と光輝をほったらかしにして錬金術師の力で作り上げた武器を片手に迷宮奥地へと歩みを進める。

 この時の南雲ハジメは長い事坂田(バカ)の相手をしてきた影響ゆえか、心に余裕が出来ていた。理不尽を相手に日ごろから揉まれてきた彼にとって、何がいるか分からない迷宮程度、恐れるに足らない存在となっているらしい。ハジメは手にした拳銃をもって食料調達に向かった。

 

「んで、俺らが気絶している間にこんだけ糞まずい犬の餌作ってきたってか?なにこれ、これなんて罰ゲーム?」

「文句言うんだったら食わないでくれる?これ取るの大分苦労したんだからさ」

「個人的には辛さは少し控えた方がいいんじゃないかな?このカレーはどう味わっても素材の風味とかを無理矢理ねじ込んだスパイスが殺してるよね。大味なのを隠したいのは分かるけどこれじゃあちょっと食べたいカレーとは思えないよ」

「じゃあいまから光輝君の口に魔物ねじ込んで殺してあげようか?魔物の肉なんて嫌悪感あるだろうからって配慮して王都の厨房からくすねたスパイスふんだんに使って臭い消したのにこの仕打ちだよ」

「おめぇな、ちゃんと玉ねぎ飴色になるまで炒めたか?カレーはスパイスも重要だが、そこに載せる具材がおざなりになっちまってたら意味ねぇぞ?」

「あいにくだけど火は節約したいからそんな事に使えないよ。もし玉ねぎを飴色に炒めるんだったら坂田君を墨色になるまで炙るよ」

 

 数時間後、3人は火を焚いてある大きな鉄鍋の前で食事をとっていた。メニューは魔物のカレー鍋(仮)である。ハジメが手当たり次第に捕まえてきた魔物たちをとりあえず錬成で作り出した鉄鍋にスパイスと一緒に放り込み、なけなしの魔力で火を焚いて水を注いで作った即席鍋だ。スパイスは魔物に対しての目くらましとして使えないかと思って持ってきていたものだ。

 ちなみに水を作る段階でハジメの魔力が尽きかけた為、途中から魔物の血を鍋に水増しで注いだのはハジメだけの秘密だ。

 得体の知れないモノであるにも拘らず、ムシャムシャと食べ始め特に変わった様子のない二人を確認した後食べ始めたハジメは、現在半ば鍋奉行をやらされていた。

 

「にしても、これからどうする?ここじゃあいずれ魔物に見つかったら終わりだよ?一応戦えるメンツが揃ってるから、脱出に手が無い訳では無いけど、それより……」

「あー、檜山の野郎の捜索って奴か?」

「当然探すべきだ。この広いダンジョン内で僕ら三人がこんなにも早く合流することが出来たんだし、檜山君もきっとすぐに見つかるはずさ」

「そりゃあすぐ見つかるよ、世界広しといえどあんたらレベルの馬鹿は早々いないからね。ま、それは置いといて、それじゃあ……」

「まぁ順当だよな。おーし、んじゃあ上に上がりつつ捜索ってことでいんじゃね?」

 

 

 狩った魔物も残りわずかになってきた頃、ハジメの切り出した話題に坂田と光輝は軒並み同じ意見を述べる。

 その肯定的な意見にハジメはほっと一息つくと、二人は空となった食器を鍋に放り込んでおもむろに立ち上がる。その様子にハジメはキョトンとしているが、それも無視して二人はずんずんと足を進める。

 

「ちょ、ちょっと二人とも!?」

「んだよハジメ、速くいくぞ」

「そうだよ、急がないと手遅れになるかも知れないんだから、早く」

「ええ!?もう探しに行くの!?いろいろと方針とか決めないと……」

「「んなもんいつも通り……」」

 

 二人はハジメの方を振り返りながら言い放つ。

 

「「ガンガン行こうぜで何とかなんだろ」」

「…………」

 

 その振り向いた顔は厭味ったらしいにやけ顔だった。

 しかしその笑みはどこか信用出来るような、方法は無茶苦茶でも最後は何とかなるような気がする、そんな笑みだった。二人はそう言い終わると再び歩き始める。

 ハジメはその笑みを見て呆れ半分にため息をつく。

 そして、もうどうにでもなれと言わんばかりに乱雑に足を前へと進め、二人の横に並び立つ。

 

「分かったよ、もうこうなったら二人に合わせるよ。今の状況じゃ僕の方が異常って考えた方が楽だ。周囲に迷惑をかけるわけでもないし、今はどうでもいいって考えた方がいいね」

 

 そう言ってハジメは二人と並んで広場を去る。馬鹿とツッコミが揃ってこそ、バランスは保たれるのだ。

 

 

 

 

 

「…………ここ何処だ……」

「……あなた、誰?」

 

 そして檜山も坂田の影響か、本来とはあり得ない出会いを果たしていた。

 否。

 果たしてしまっていた。

 

「お前こそ誰だよ……」

 

 呆然と目の前を見つめる檜山の前には……

 

「…………名前、あなたがつけて……」

 

 白い結晶体に体を拘束された金髪の少女が赤い瞳でぼんやりと檜山を見つめていた。

 

 

 

 




なんかどんどんわけわかんない方向へ進んでいく予感が……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

主人公が有利になると主人公補正とかって言われるけど不利になったらなったで上げ足取られたりするから結局程よい立ち位置って存在しない。

サブタイ関係なし


 銃声が鳴り響く。

 魔物の唸り声が聞こえる。

 血が噴き出る音が木霊する。

 ハジメたちが迷宮探索に出て早数時間が経過した。本来であればこの時点ではハジメはまだ何の力も持っていないのだが、ハジメは器用にガンスピンをしながら呑気に坂田たちの後ろを歩いていた。

 

「一体どれくらいの時間が経ったんだろうね?日差しが入り込まないから今が一日のうちのどの辺なのか見当もつかないや」

 

 魔物が一匹死んだ。

 

 坂田たちと呑気に喋っているハジメは黒い銃身の拳銃二丁をクルクルと器用に回しながらそうボヤく。その先では……

 

「んなもん適当でいいんだよ、適当で。どうせ上に戻るまで朝だろうが夜だろうが影時間だろうが向こうにとっちゃ関係ねぇんだしこっちもオールナイトの気分で突っ走りゃあいいんだよ。おめぇんちでよくやっただろうが、GTAで強盗したりCoDで一日潰したりだとかよくあっただろ」

「それとこれとは話が違う気がしてならないんだけど……」

「いやいや、結局てめぇも拳銃創ってやる気満々じゃん。リアルGTAしようとしてんじゃん」

「ぴょん」

 

 坂田は木刀を振り回しネズミやらムカデやらの魔物をなぎ倒していた。それでもかなり余裕があるそうだ。

 ハジメの手にしている拳銃はごつい片手銃であり、黒い塗装が渋いいぶし銀のビジュアルだった。どことなく厨二心をそそる要素がある。

 

 また魔物が死んだ。 

 

「いや、この状況はどっちかって言うとのブラッドボーンとかアサシンクリード辺りの方が近いと思うけど?雰囲気とかそっくり」

「SEKIROも仲間に入れてやれよ」

「そうなると獅子猿を二回倒さなきゃいけなくなるから僕としてはあまり仲間に入れたくないな。良いゲームではあるけどね」

「出来ればブレイスオブザワイルドとかゼノブレイドみたいなあまり死人が出ない雰囲気の方が僕としてはいいけどね」

「ぴょん」

 

 また魔物が死んだ。

 

 光輝も話に入り始め、奈落の底で交わされるような内容ではない話が和気藹々と続けられていた。

 そして特に留まることなく、三人は階段の前にたどり着く。

 

 そのついでにまた魔物が死んだ。

 

「これで今何階層だ?俺3回目あたりから数えんのやめたんだが」

「しっかりしてよ坂田君。これで6回目。つまり今は56階層らしいね」

「でも下がって本当に大丈夫かい?確証はないだろう」

「ぴょん」

「大丈夫だって光輝君。檜山君は確実に僕らの階層よりも下の方にいる。これは間違いないんだから」

 

 下りの階段に。

 何故上を目指すべき3人が下りの階段へと足を進めているのか。それは50階層の時にまでさかのぼる。

 

 

 

「これって……」

 

 ハジメはその巨大な穴の前に独り言ちる。その穴は巨大であり、ベヒモスが落ちた時と同じほど、いや、それ以上の大きさの穴だった。

 その穴を見つめ、ハジメは何も言えなかった。

 そのハジメの様子を不審に思ったのか、馬鹿二人も穴を眺め始める。

 

「おー、こりゃでけぇ穴だな?あのオオトカゲが落ちてった穴か?」

「いや、()()()()()()()って言った方がいいんじゃないかな?多分あの竜が落ちたはずみでできた穴だよ。相当な重さみたいだったしね?勢いがついてむしろ穴を作るレベルにまで至ったんじゃない?」

「ひょっとして檜山君って……僕たちのいる層よりもさらに下にいるんじゃ……」

「あん?どういうこった?」

「だから、檜山君はベヒモスと一緒に穴に落ちてったんじゃないかなって思って……」

「「??」」

 

 ハジメの言い分にうまく読み取ることが出来ない二人は頭に?を浮かべるばかりだ。その様子を見てすぐさま呆れた表情を浮かべるハジメはそう思っても仕方ないと割り切り、説明を始める。

 

「僕が目が覚めた時にはそこって水辺だったんだ……僕が思うに僕だけはその水に落下の勢いを殺されてうまい事生き残ったんじゃないかなって思って……そういえば二人はどうやってあの落下から生き延びたの?」

 

 ハジメの質問に意気揚々と答えようとするのは、光輝であった。

 

「ふっふっふっふ……僕はもう既にあの時飛行法をマスターしていたんだよ……残念ながら数秒しか飛翔が出来ないけど、それを使って僕は墜落の勢いを直前で回避したんだよ……」

「え?!飛行術!?ど、どうやってそれを……」

「ふ、ある人たちを参考にしたら出来たのさ……、その人の名は……

 

 

 

 

 

 

 

……ダオス様とミトスくんだぁあああ!!!!!」

「ここでまさかのテイルズゥウウウ!?」

 

 テイルズネタ、まさかの復帰である。予測できるはずもないボケにハジメは思い切り叫びあげる。遠くの方でハジメのツッコミがハウリングしていた気がするが、そこは気にする必要のない事である。

 ハジメの驚き具合に気付かず、光輝は意気揚々と話を続ける。

 

「やっぱりダオスの様に覇気を纏うのも捨てがたかったんだけど、ミトスくんの背中の羽も譲れなくてね……最終的にはダオス様のスタイルはどこかでローブが手に入ったら再現できると思ってミトススタイルをまずは極めようと思って、【飛翔】ってスキルを発現することが出来て、数秒間浮遊することが出来るようになったんだ……これからどんどん秒数を長くしていき最終的には一日中飛べるようになるつもりだよ。後は後ろの羽をどうにかして再現するだけさ」

「どっちかって言うとミトスくんの方が再現難しいと思うけど?なんでよりによって一番ファンタジー色強い人選んだの?」

「ぴょん」

 

光輝のドヤ顔にハジメは呆れながら呟く。バカバカしすぎると考えた様だ。事実ばかばかしいし思いついたとしても実践しようとは到底思わない策である。しかしハジメはそこで思考を止めて腰を上げる。馬鹿の馬鹿な話をこれ以上聞いても馬鹿な返答しか返ってこないと分かっていたからだ。

 

「それでさっきの話の続きだけど、檜山君はよくよく考えると落下した瞬間は意識が無かったんだ。おそらく落ちてる瞬間もそうだったはず。だとしたら相当のラッキーが無いと途中で止まったりはしない。ずっと最下層に着くまで落ち続けるはずだよ」

「なーるほど、けどよハジメ?それだったらそんだけ高けー所に落ちたんだったら生きてねーんじゃね?」

「そこは希望的観測だけど……死んでたとしても、せめて何か遺品位は持って帰りたいんだ……」

 

 ハジメの顔に哀愁が漂い始める。それを見て光輝と銀は何も言わなかった。

 

「本当に変わったよね。前だったら考えられなかったよ」

「オレがきっかけで仲直りできたって訳だ。感謝しろよハジメー」

「ぴょん」

 

 そして振り向かずにそのまま階段を歩いていった。ハジメもただ黙って後を追う。

 

 

 

 

 

「……うん、回想シーン挟んでも問題が解決されなかったから気になったんだけどさ……それ何?」

「ぴょん」

 

ハジメは改めて坂田達の方を見る。そこには銀と光輝の間に鎮座する大きなウサギがいた。そのウサギは終始ジッと南雲の方を眺めて何もせずにいた。

 

「それじゃないよ。エリザベスだ」

「何勝手に名前まで付けてんの?エリザベスってその太ももバキバキのアンバランス感ありまくりなそのうさぎが?どう考えてもエリザベスって感じじゃないよ」

「この子は僕を助けてくれた大切な仲間だよ。南雲君と会う前にエリザベスとは出会っていてね」

「そんな前からいたの!?」

 

 ハジメが驚いていると光輝は物思いに耽りながら上を見上げた。

 

『そう、あれは僕がペガサス彗星拳を会得して流星拳を会得しようとし始めた時の事だった……』

「ペガサス……流星拳!」

『おい!何か回想入ったぞ!』

 

 記憶の中の光輝はハジメが最初に会った場所にてペガサス流星拳にの練習をしていた。声を張り上げながら。

 

「くそ……まだペガサス流星拳は会得出来ないか……でもまだまだ!ペガサス……流星拳んんんん!!ん?」

 

 やがて光輝は周りから見られていることに気が付く。見渡してみると其処には涎を垂らした魔獣の群れが光輝をじっと見つめていた。

 

『その時僕は何故か分からないけど大量の魔物に囲まれてしまっていた……』

『なぜかじゃねーよ!そんなペガサス星夜が全力で大声放つような大技連発してたらそら魔物も来るわ!』

『その時だった……エリザベスが辺りにいた魔物を蹴散らしてくれたのは』

 

「ぴょん」

「き、君は……?」

「ぴょん(お前は俺の食糧だ。他の奴等に食われちまったら俺の食う分がねぇんでな)」

 

 突如として現れたムキムキの足を持った兎は口から涎を隠し切れないほどにだらだらと垂らしていた。その事に気付いていないのか、光輝は目を輝かせた。

 

「ひょっとして助けてくれるのかい!ありがとう!魔物の中にも優しい心を持った奴も居るんだね!よし、そうとなれば共に戦おう!そして僕の仲間と合流しよう!こんなにいい魔物なんだ!きっとみんな受け入れてくれるよ」

『いや、めっちゃ涎垂らしてるけど?こいつ完全にあれだよね?お前の事食料としてみてるよね?』

「ぴょん(仲間がいんのか。だったら尚更死んでもらえねぇな。そいつらのとこ案内して貰うまでは是が非でも生きて貰うぜ)」

『なんか光輝君の言葉聞いて更に献身的にサポートしだしたんだけど?!これ餌が増えたことでさらにやる気出たとかじゃない?完全に僕らの事も食料としてカウントしてない?!』

 

 

 

「…………っていう経緯を得て僕とエリザベスは出会ったんだ」

「「なんちゅうもん連れて来とんじゃてめぇはぁあああああ!!!!!」」

「キャッサバ!」

 

 話し終えた光輝の顔面に坂田と南雲のドロップキックが炸裂する。勢いそのままに光輝は四、五回回転して壁にめり込む。それを確認すると銀とハジメはそのまま後を去る。兎が光輝の側に駆け寄っていくのが見えた。

 

「ったく、なんつーもん連れて来てんだあいつは……」

「もう面倒くさいよ対処が…………坂田君、パス」

「拒否だバカヤロー、あんな核弾頭一人で背負い込めるか」

「僕だって同じだよ。あーあ、どうやって振り切ろう」

 

 そんな話を続けながら二人は先を目指した。

 

「ぴょん(ち、先に行っちまった。おい起きろ。お前がいないとオレが不自然になっちまうだろうが。さっさと起きて追いかけやがれ。アイツら強いからへばったところを狙わねぇと食えるタイミングがねぇんだよ。オレはお前になついてるって設定だからな。早くしろ)」

「う、うぐ……エ、エリザベス……心配してくれてるのか?お前の居場所がなくなってしまうかもしれないっていうタイミングなのになんて優しいんだ……安心してくれ、必ず僕が二人を説き伏せて見せるよ」

「ぴょん(意気込みはいいからさっさとしろ。アイツら見失うだろうが)」

「ちょ、ちょっとエリザベス……あんまり引っ張らないで、痛っ、お、起き上がれないから……痛っ、いい加減にしろよお前!!ちょっと俺助けて自分が上だと思ってんのか!?こっちだって怒るときは怒……痛い痛い!一旦ストップ!ちょ、まじで!!」

 

 それを引きずられながら後を追う二人?が下へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、それじゃあ次の候補だな。ユヘ、ユネ、ユテ、ユセ、ユケ、こっからなんかピンときた奴は?」

「ない」

「ダーもう!お前まじで決めてほしいの名前!?さっきからめっちゃ文句言ってくんじゃん!!」

「檜山のセンスが無いだけ。こっちは悪くない」

「あー言えばこう言うなほんと、もう『ああああ』にしてやろうか?」

「そうなったら解放瞬間、私は檜山の眉間を撃ち抜く」

「怖ーよ!しかも出来そうだし!」

「当然できる。そこのベヒモスを抑え込んだ私に不可能は無い」

「ほんと何なのオマエ?あのデカブツがお前見ただけでひれ伏すとか訳分かんねー」

「グルル……」

「それは今は関係ない。さっさと次」

「はいはいはい分かりましたよ!あー、しかし二文字ローラー作戦ももう頭文字『ユ』でエ段まで行ったしなー、もうだいぶ終盤だしいい案無さそう、また適当に言ってくかー……ええっと、最後に言ったのが……『ユケ』……ユケかー、ユケ、ユケ、ユケ……ユーケー……UK?」

「どうしたの?」

「いや、えーっとUKってたしかイギリスの事だよなー、確かなんかまだ言ってないような名前があった筈……」

「…………」

「………………檜山」

「…………フゴ」

 

 

 

 

 

「…………よし!決めた!お前の名前は今日からエリザベスだ!はい!もう決定!!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。