艦隊これくしょん -とある艦娘ノ戦い- (艦本式)
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【第一話】

※注意※この作品は二次創作です。なのでキャラ崩壊や原作の設定無視や主の想像などがありますので、苦手な方は…ね?
そんな事より赤城さんの中破ホロ当たりましたわ。
(本編前に…)
これは【陽炎抜錨します!】と直接関係はありません。
多少の変更はありますのでご了承下さい。


某日の既に日が傾き始めたとき、リンガ泊地に一隻の輸送艦が入港した。港とは言ってもコンクリートで固められただけの殺風景なものだが、それでも港としての役割は十分果たしていた

本来ならば深海棲艦の出現する危険海域を通るとき、艦娘の護衛があるはずなのだが今回は居なかった。理由は簡単で、護衛の必要が無いと上層部が判断したからだ

「はぁ…蒸し暑いな…」

海軍の軍服をしっかりと着ていたその人物は、熱帯特有の蒸し暑さにおもわず帽子を外してしまった

彼が乗って来た輸送艦には建設資材や、補給物資などが満載されていて、今はその積荷を降ろす作業が行われていた

「出迎えは…なしか…」

元々ここの所属艦娘が少ないため、あまり期待はしていなかったが、出迎えは無かった

「あんたが新しい提督?」

ふと、背後から声を掛けられた。恐る恐る振り向くと、そこには大きな槍のようなマストを持った艦娘が立っていた

「えーと…叢雲かな?」

「気安く呼ばないで」

理由は分からないが、どうやら俺の第一印象は最悪のようだ

「早く質問に答えて。あんたが新しく着任した提督なの?」

「あぁ…そうだ。よろしく頼む」

「せいぜい頑張る事ね」

彼女はそう言い残すと、踵を返して歩いて行った

「あ、待ってくれ…」

泊地庁舎の場所を聞こうとしていたのだが、あまりに嫌われてる感じだったから聞けなかったのだ

「…泊地庁舎でしょ?付いて来なさいよ」

まだ何も言ってないのだが…それにしてもよく分かったな。俺が泊地庁舎の場所を知らないって

叢雲とは若干距離を置いて付いて行くと、目の前に木造で二階建ての建物が見えてきた。泊地庁舎だ。ただし、もうすぐで取り壊される

理由は簡単で、ちゃんとした鉄筋コンクリート製で新しく建て直されるらしいのだ

西方での戦いが終わって、ここの強化も必要だと上層部が判断した。このリンガ泊地を襲撃されて、失うとかなりの痛手だからだ

そのために施設の増設と、艦娘の配備を進めているらしい

「…秘書艦はどうしたの?」

「え?…いないが?」

「はぁ?提督は秘書艦を連れているはずよ?」

とは言われてもなぁ…何も聞いてないし、俺は上層部から急にこの事を伝達されて、船に乗せられたんだぞ?

それに、正直言って提督業なんて俺に合わない気が…

「仕方ないわね…ここを取り仕切ってるのは私だから、秘書艦になるわ」

「秘書艦って誰もなりたがらないんじゃ無いのか?」

足りない頭に無理やり知識を詰め込んだせいで、自分でもよく分からなくなってる

「何よ。私じゃ何か不満でも?」

叢雲が顔を覗いてきた。機嫌が悪そうな顔でも可愛い。…いいや、駄目だ。我らが人類の救世主の艦娘相手にそんな感情を抱いては……無理だ

可愛いものは仕方ない。思う事に罪は無い。口に出さなければ問題無いだろう

「…全部口に出てるわよ」

叢雲が若干距離を置いてそう言った

あれ?そんなつもり無かったんだけどなぁ…

これは百パーセント嫌われたかな…

「ま、まぁ…そんなので嬉しがるなんで子供のする事よ。…私は全っ然嬉しくなんて…無いわよ」

俺から見ると、駆逐艦娘なんて全員子供だがな。…おっと、これは口に出してないよな?

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

可愛い。頭の中で反復していた。前の提督には言われた事も無かった

お爺ちゃんだったからかもしれない。だけど、前の提督とはかなり長く過ごしてたが、言われた事は無い

私は吹雪型だ。だけど、私だけ同型艦とは容姿が違った

理由などは知らないが、そのためにあまり同型艦と馴染めなかった

そこに目を付けて初期艦に選んだのがあの提督だったのだ。そこからは秘書艦として、かなり長くいろんな所を行き来した

楽しかった事もあるし、辛かった事もある

だけど、可愛いだなんて言われたのは始めてだった。正直言って嬉しかった

…嬉しいが、顔に出す訳にもいかないし、口にも出さない

理由は簡単で、この性格だからだ。どこぞのクソ提督とか呼ぶ奴までとは言わないが、あまり性格はよろしくない

俗に言うツンデレってやつなのだろう

…まぁ、自分でツンデレとか言うのはおかしいけど、ひねくれているのは自分でも理解している。そのつもりだ



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【第二話】

…とりあえず叢雲が、固まってしまった

どうしたら良いのだろうか…

「お、おい、大丈夫か?」

俺は一瞬躊躇ったが、叢雲の肩に触った

「ひゃぅ!?…さ、触らないで!」

速攻で手を払い除けられた。なんなら槍のようにマストを俺に向けてくる

「ま、待ってくれ…触った事は謝る。すまなかった…」

「ふ、ふん…艦娘を甘く見ない事ね」

非常に面倒くさい性格だ…

俺はこの先の生活が心配になってきた

ところで、艦娘とは何か?

簡単に言えば人間では無い。いや、人間なのだが

どういう意味か分からないと思うが、本当にその通りなのであるのだ。

ある日、艦娘の敵の奴らは海上交通路(シーレーン)に現れた

そいつらは、そこを通る輸送船に、片っ端から喰らい付き、暗い海の底に送り込んでいった

もちろん、人間達は深海棲艦と名ずけた未知の生命体を撃退するべく、日本海軍や海上自衛隊などはイージス艦などを含む艦隊を派遣した

だが、結果は散々で敵に損害を与えるどころか、自分たちが沈まないようにするだけで精一杯だったのだ

そして、次第に人間の海での勢力が徐々に、衰えていくのであった

しかし、人間側もやられっぱなしとはいかない。すぐに深海棲艦に有効な物質を見つけて、それを艤装に組み込んだ

そして、その艤装を背負ったのが、艦娘だ。そうやって艦娘とは誕生したのだ

だが、艦娘になるのは志願制の艦娘適性試験を受けて、受かったごく一部のみが初めて艦娘として扱われる

なので一応人間であるが、艤装を装着する事で人間以上の力を発揮し、人間の救世主とまで崇められる存在になるのだ

その艦娘を統括するのが、鎮守府や泊地などに派遣される提督と呼ばれる者だ

提督は、どれだけ味方の被害を最小限にして、敵の損害を大きくするかを考えなければならない。それに、資材や遠征などその他業務もこなす

提督の中にはストレスで、酒に溺れてしまう者も居ると聞く

それだけ責任がある役職なのだが何故、俺なんかが選ばれたのだろうか?

不思議でたまらない

…とりあえず泊地庁舎に入るとするか。荷物も置きたいし

嫌々案内している叢雲に付いて行って、泊地庁舎の中に入った。どうやら、執務室は二階らしい

ミシミシと軋む階段を上がると、一応執務室ものがあった。…とは言っても机に椅子と本棚しか無いのだが

だが、執務室にはベッドもあって提督はここで寝る事になるようだ

ところで叢雲はどこで寝るんだ?

もしかして俺の横で添い寝だったり…

「安心して、私は一階のソファーで寝るから。変な気起こしたら軍事裁判起こすから」

あっ、また口にしてたのね。それに軍事裁判だなんて…

しかし、俺の中で一つの疑問が生まれた。話によれば、駆逐艦寮があると聞いていたのだが?まぁ、駆逐艦専用では無いようだが…

「なぁ、駆逐艦寮は無いのか?」

「忍び込む気なの?なら、残念なお知らせよ。あそこは誰も使って無いわ」

ここに配属されている艦娘は二人だけで、夕食を捕まえ…作りに行ってる、あきつ丸と言う子と叢雲だけなのだ

つまり、駆逐艦寮を使うほどの艦娘がいない。そういう事になる。正式に配属させるにしても、書類や手続きなどが滞っており、中々進まないのが現状だ。

そのため、他の鎮守府から臨時で駆逐隊を送っているらしい。しかし、本来なら既に到着してるはずなのに、見当たらなかった

「え?確か…第六駆逐隊が仮転属のはずだけど…」

どうやら叢雲でさえ、到着が遅れている理由は知らないらしい

「あぁ…それなら深海棲艦と遭遇して遅れるとの連絡がさっきあったのであります」

執務室のドアを開けて入ってきたのは、揚陸艦という珍しい艦種のあきつ丸だった

だが、俺が驚いたのは突然入ってきた事では無い。彼女の右手には巨大な蛇が握られていたからだ

「ひょっ、ななななんでそんな物…」

俺とした事が…みっともない声を出してしまった

「何故って…今晩の夕食でありますが?」

まさか蛇を食べるとはな…

…まぁ、この後に意外と美味である事が分かって、更にびっくりするのだが



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【第三話】

結局、第六駆逐隊が到着したのは次の日の、早朝だった

それに、仮転属報告だとか言って、日が昇ってない時間に叩き起こされたのだ

「こんな時間じゃなくても良いだろ…」

「なんでも、戦果報告もあるからだってよ」

叢雲は全く眠そうにせずに、桟橋に向かっていた

桟橋には、横須賀鎮守府から臨時転属してきた、第六駆逐隊がちょうど桟橋から上がったところだった

「司令官だね?第六駆逐隊、只今リンガ泊地に到着したよ」

未熟な体だが、その闘志は無限大。白い髪に常に眠そうな目をしている

ぱっと見、ただの少女だが、立派な駆逐艦なのだ。それも、駆逐隊の中でもトップレベルである

彼女の名前は響。第六駆逐隊の司令駆逐艦でもある。司令駆逐艦とは、駆逐隊を率いる役職の事だ

第六駆逐隊には、他にも暁、雷、電の三人もいる

横須賀鎮守府の中では、もう一つの駆逐隊とトップ争いをするぐらい技量がある

「第六駆逐隊か。君が確か…響だな?」

「その通りだよ。とりあえず戦果報告する。敵前衛部隊と交戦。重巡リ級一隻、駆逐艦ロ級二隻を撃沈。その他に軽巡ト級に損害を与えた」

「そ、そうか。良くやったな」

正直言って、よく分からない。それが良いのか悪いのかなんてな…

だが、敵にそれだけ損害を与えて、彼女らは無傷なのだから流石としか言えない

「もっと褒めてくれても良いのよ?」

そう言って近付いて来たのは、同じ第六駆逐隊の雷だった

「えーと、よく頑張りました!」

「そうじゃ無くて、具体的に言えば頭撫でるとかよ」

頭を撫でるだって?俺は独身だし、子供なんて相手にした事無い。そんな事を出来る訳無いだろ…

「うちの司令官はしてくれるのよ?…もしかして嫌なの?」

嫌な訳無い。なんならしてあげたいのだが…

「あー、こいつは着任したばかりでね、艦娘の扱いがよく分かってないのよ」

叢雲がフォローになってないフォローをしてくれた

まぁ、こいつ呼ばわりした事は忘れないがな

「その通り。着任したての素人だ。お前達には迷惑を掛けるだろうけど、よろしく頼む」

「うちの提督が迷惑掛けるわね。まぁ…そこは許してあげて」

何も言えない自分が情けなかった…

とりあえず、仮転属報告を聞いたので、朝食にするとしよう

「おはようございます。隊長殿」

「多分、そう呼べって教わったのだろうけど、提督か司令官と

呼んでもらえるとありがたい」

あきつ丸は、前のリンガ泊地の提督が退役すると、しばらくは横須賀鎮守府に居たのだが、陸軍の方から呼び出され、そこで訓練を受けていたらしい

「前の隊ちょ…司令官殿も同じ事を言ってたのであります」

あきつ丸は、釜戸の火を調節しながらそう言った

「ここには、一等士官室(ガンルーム)が無い。野外設営してある、炊事施設が調理場で、その隣のトタンで出来た屋根の下が仮食堂だ」

一等士官室(ガンルーム)が無い訳でない。ある事にはあるが、肝心の炊事施設が設置されてないのだ

その為、前は駆逐艦寮まで食事を運んで食べていたらしいが、最近になって、仮食堂が出来たらしい

なんでも、前に仮転属という名の休暇で訪れた、とある駆逐隊が、退屈しのぎに製作したらしいのだ

「それと、駆逐艦寮は一部屋しか無いため、四人で雑魚寝してもらう事になる」

第六駆逐隊の面々は、それぞれドラム缶を曳航して来ている

その中身は、衣類や生活雑貨などが詰まっていた

前までは、定期便が来ないときに、仮転属で訪れる駆逐艦が食料を詰めたドラム缶を曳航して来てもらうのが唯一の手段だったのだが、今は建築資材などを運ぶ輸送艦や、補給艦などが定期的に行き来している

そのおかげで、こんな僻地でも食料問題は特に無かった

「さて、こんなものでありますかね」

あきつ丸が手早く朝食を作り終えた

「こんな南方だと、冷える事はありませんが、どんな物でも出来たてが一番であります」

駆逐隊総出で、朝食をテーブルに運んだ。どうやら本人達は、これが楽しいようだ

「司令官と食事だなんて久しぶりだわ」

「そうだね。私も久しぶりだよ」

雷と響は楽しそうだったが、残りの二人は、どうやら馴染めてないらしい

「(確か、電と暁だったっけ…)」

書類に書いてあったはずの名前を、なんとか思い出した

「(とは言っても、どっちがどっちなのか分からない…)」

響と雷の場合は、当てずっぽうだった。つまり勘だ

「その様子じゃ、名前と顔が一致しないんでしょ? 仕方ないわね。第六駆逐隊はまず、自己紹介かしらね」

叢雲ってもしかして心読めるのか?

「そうでありますな。互いに交流を深めるのは良い事であります」

「自己紹介? 私は雷よ。かみなりじゃないわ。困った事があれば言って頂戴。出来る事はなんでもするわ」

この、母性溢れる駆逐艦が雷だ。ちなみに横須賀鎮守府の提督とは一応同期だが、階級はあちらの方がはるかに上だ

理由は簡単で、あいつには才能がある。そうでもないと、鎮守府勤務など出来ない

話が逸れたが、あいつは雷などの少女に頭を撫でられると、なんでもしてくれるらしい

まぁ、たまに空母や戦艦の方にも甘えに行くらしいがな

「私が響だよ。よろしく頼む」

白い髪に、その表情は何を考えているか分からない。だが、立派な駆逐艦であることには変わりない

「次は私の番ね。暁よ。一人前のレディなんだから」

自称レディの暁だ。本人は一番お姉さんとか思ってるらしいが、俺から見ると大して変わらない

とは言っても、彼女も艦娘なのだ。見た目だけで決めつけてはいけない

「はわわっ、電の順番なのです」

この、危なっかしい娘は電で、雷と容姿が似ている

まぁ、同型艦だから当たり前なのだが。気弱そうな見た目に、危なっかしい行動。本人は分かってないようだが、かなりのおっちょこちょいだ

見てるこっちが心配になるレベルなのだ

「こんな小さい娘を戦わせるとは上も非常識だな」

「戦いに常識とか非常識なんて無いでしょ。それに、艦娘は一応志願制なんだから」

「私は上官殿の命令でしたけど、後悔はして無いであります」

あきつ丸は志願した訳では無いのか。それに、叢雲の言っている事は正しい

本人達は自ら艦娘になる事を選んでいるのだ。理由はどうであれ、艦娘である事には変わりない。そして、人類の救世主である事も

「司令官さんは自己紹介しないのです?」

俺は自己紹介する必要あるのか?

「えぇ…と、リンガ泊地に着任したばっかりだ。司令官とでも提督とでも好きに呼んでくれ。横須賀の奴とは一応、海軍士官学校の同期だ」

「鎮守府勤務の提督と同期って事は、ほとんど昇級してないのね」

叢雲の言ってる事は間違ってない。だからこそ傷付くな…

「…そうだ。見ての通りかっこ良くも無いし、才能も無い。だから大尉までしか昇級してないんだ」

「まぁ、才能が無い事は置いて、どうして提督なんかに?」

叢雲がやけに質問してくるな

「志願した訳じゃないんだが、上層部が異動の辞令持ってきたからだな…」

「やりたく無いなら辞めれば?」

退役か…悪くは無い話だが、今のところは考えて無いな

「今は退役する気は無い。それに、知らない世界を知れて意外と楽しいからな」

これは本当だ。海軍にはなんの希望も持っていなかったが、こうして知らなかった事を知るのは悪くは無い

「楽しい…ね。良い事ばかりじゃないのよ?」

そんな事は知っている

「だからこそいろんな事を知っておきたい。それに、良い事ばかりじゃないのは、軍に入った時点で百も承知だ」

「もしかしたら横鎮の提督よりまともかもね」

こんな時間がずっと続けばいい。俺は心から願った。こんな幼い女の子に戦わせるのは辛かった

だが、戦いに情けなどない。深海棲艦は艦娘を沈めようと全力で潰しにくる

こんな事を考えていたらあっという間に時間が過ぎた



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【第四話】

「第六駆逐隊は?」

「夜戦訓練しに行ったわよ」

俺は桟橋近くの船舶用の岸壁に腰掛けていた。隣には釣り道具を持った叢雲も一緒だ

俺がここに来てから早くも一日が経とうとしている

「釣り好きなのか?」

「ここが暇過ぎて、前の提督の釣りによく付いて行ったら、いつの間にか出来るようになったのよ。だから、私は暇になるとこうやって釣りしに来るのよ」

「へぇ…俺も海上勤務のときはたまに釣りしてたなぁ…」

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これは、俺が海防艦で近海の滅多に深海棲艦が出ない海域を航行中の話だ

珍しい事に、水中聴音機(パシッブソナー)に反応があって、警戒体制を取っていたら、船尾のすぐ近くに敵潜水艦が浮上したんだ

俺は慌てて、近くにあった9mカッターのオールでそいつをぶん殴った

そのまま沈んでいったが、撃沈はしてない

だが、その騒ぎのせいで近くにいた敵艦隊に気が付くのが遅くなってしまった

俺の乗っていた海防艦はあっという間に囲まれた

救援を呼ぶにも無線が破壊されてしまい、絶体絶命だったそのとき、助けは来た

付近を航行中だった駆逐隊が駆け付けてくれたのだ

その駆逐隊のおかげで、海防艦はなんとか沈む事なく港に戻る事が出来た

あのときの事は感謝してし切れない

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そんな事を暇だったから叢雲に話した

「その駆逐隊はどこ所属とか分からないの?」

「分からないな。なんせ、今ほど艦娘に詳しい訳じゃないからな」

今も大して詳しい訳では無い

「それにしても、本当に釣り上手いんだな」

小一時間ほど釣りをしていたが、叢雲の持ってきたバケツは魚で一杯だった

「さて、夕食の材料も揃った事だし、そろそろ準備をしなきゃね」

空は星がはっきり見えるほど暗くなっていた

「やっぱり都会とは違うな。こうやって星空を眺めるのも悪く無い」

「いずれ飽きるわよ。ここなら星空なんて死ぬほど見られるんだから」

「でも、こうやって叢雲といつまで眺めてられるか分からないんだぞ?」

そう、叢雲も秘書艦とは言えど艦娘なのだ

ましてや、ここリンガ泊地は所属艦艇が少ない

いつ叢雲に出撃命令が出るか分からなかった

それが明日なのか、明後日なのかは誰にも分からない

「…そうね。私もずっとこうしてたいわ」

「なんか言ったか?」

「…なんにも言ってないわよ」

そのまま叢雲は早足に泊地庁舎に戻って行った

…俺なんかしたっけ?

「ま、待ってくれ…」

叢雲が持ってるランタンが唯一の明かりなんだから、なんにも見えなくなる…

庁舎に戻ると、既に第六駆逐隊は帰投していて、あきつ丸と夕食の準備を進めていた

「今日は大漁ですな。余ったら干物にでもするのであります」

「暁、魚ばっかり飽きたわ…」

「あら?私は美味しいから構わないけど?」

「雷はいいかもしれないけどさぁ…」

「暁はレディなんでしょ?これぐらい我慢しなさいよ」

「うっ…そ、そうよ、暁はレディだもの。これぐらい我慢出来るわ!」

こう見てると、雷の方がレディな気が…

「そう言えば、こっちのお肉美味しいわね。なんのお肉なの?」

あっ、それ言うと暁泣くぞ…

「内地の方では無いでありますか。これは蛇の肉であります」

「………え?」

「この肉は蛇肉であります」

わざわざ二回言わなくても…

「へへへ蛇!?……これが?」

第六駆逐隊全員が箸を止めた。いや、響だけは黙々と箸を動かしていた

「蛇肉は淡白で美味しいね」

「新鮮じゃないと臭みが出てくるので、素早く捌く必要があるのですよ」

あきつ丸と響はそんな会話を交わしてる

響、他の僚艦はどん引きしてるぞ…

「この周りには蛇がうようよいるのよ。あなた達小さいから食べられちゃうかもね」

叢雲はからかうなよ…

「ひっ…た、食べられちゃうの?」

「安心しろ、流石に部屋までは来ない…だろ?」

「司令官の言ってる事なんて信じられない!」

あれ?俺ってそんなに信用されてないのか?

「ふふっ、嘘よ。食べられはしないけど、この周りにうようよいるのは本当だからね?」

「と、トイレはどこにあるの?」

暁はトイレの場所を聞いた。怖くなったから行ける場所にあるのか心配なのだろう

「泊地庁舎の中と、駆逐艦寮の中だけね。一人でいける?」

「い、行けるわよ!暁はレディなんだから!」

そう言うと、暁は立ち上がった

「あれ?食事中にトイレ行くのはマナー違反じゃないのかい?」

響、お前もか…駆逐隊ってこんなに煽る奴が多いのか?

「き、緊急事態だから良いの!」

あーあ、走って行ったけど大丈夫かなぁ…

「ぴゃぁーーー!!」

「あら、自称レディさんの悲鳴ね。お化けでも出たのかしら?」

「やれやれ、暁には私が必要だね」

「私も付いて行ってあげる」

響と叢雲は駆逐艦寮に向かった

「はぁ…暁はどこに行ったのよ」

「私にも分からない」

トイレ見たけどいないし、寮の中には見当たらなかった

「という事は…外か」

「その通りだね。早く探そう」



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【第五話】

結局砂浜近くのベンチに泣きながら座ってたのだ

「えっぐ…ひびきぃ…」

「よしよし、頑張ったね」

「一体、なんでここにいるのよ」

しばらくして泣き止んだ暁にそう聞いた

「それが…寮を出たあと、海が綺麗だったから眺めてると海中からなんか出てきて暁を追いかけてきたの」

「なんかって…深海棲艦とか?」

「暗くてよく分からなかったけど…肩に何か掛けてたわ」

「それって…潜水艦娘の可能性があるんじゃないかな」

確かに潜水艦を一隻、転属させるとは聞いていたが、到着日時を知らされてないのだ

「確か…伊401が転属する予定だけども…」

最新鋭の潜水艦らしい。潜水艦なのに、水上爆撃機を運用出来るとの事らしいのだ

「この近くに居るんなら出てきなさーい!」

叢雲は突然大声でそう言った

「しおいを呼びましたか?」

裏の林から出てきたのはお化けでは無く、立派な潜水艦娘だった

「着任報告に伺おうとしたら、

執務室に誰も居なかったのでちょっと潜ってました」

「じゃあ、あなたが伊401ね」

「はいっ!伊401ですが、しおいと呼んでほしいです」

「しおいね、分かったわ。ご飯食べてるところだけど、あなたも来る?」

「ご一緒させて頂きます!」

その後、全員揃ったところで夕食を続けた

「そう言えば、伊400型って水上爆撃機を運用出来るんだよな?」

資料にそんな事が書いてあったのを思い出した

「はい!晴嵐と言う水上機なのですが、急降下爆撃が可能です。それも、三機も積む事が出来るんですよ」

航続距離も艦艇の中ではずば抜けて長いらしく、燃費はかなり良いほうだ

「まぁ…実際には活躍の場が無かったんですけどね…もう少し早く生まれていたら、変わっていたかも知れないです」

実際の伊400型は、作戦が発令する前に戦争が終わってしまったのだ

なので、目立った戦果は無くそのまま海の底で眠る事になったらしい

「昔は昔、今は今だ。過去に囚われるより、今を精一杯生きる方が楽しい。沢山食べて沢山寝ろ。俺からはそういう事でしかサポートできないからな」

提督は勿論出撃出来ない

どこぞの馬鹿は船に乗って艦娘達と戦闘をした大馬鹿者もいるらしいが、常識的に考えて無謀だ

ましてや提督ともあろうお方が船と一緒に沈んでしまったら、残された艦娘達はどうするって話になる

だから、俺は地上で艦娘達に出来る事を精一杯してあげる事が一番だと考えている

「さてと、片付けは私がやるわ。あなた達はさっさと風呂入って寝なさいよ。寝る子は育つわよ」

「はぁ?暁は子供じゃ無いわよ!」

「まぁまぁ、暁落ち着いて。訓練で疲れたからお風呂行きましょ?」

やはり、雷が一番お姉さんな気がするな

ちなみに、寮が一部屋しか無いため伊401も第六駆逐隊と一緒に寝てもらう事になった



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【第六話】

食堂にはさっきまでの騒がしさは無く、食器を洗う音しか聞こえなかった

「叢雲、手伝おうか?」

あきつ丸は伊401に建物の説明をしていて、仮食堂には私と提督しか居なかった

「いいわよ。これぐらいなら私一人で片付けられるわ」

「どうせ書類作業も終わったし暇だからな。手伝うぞ」

「へ、平気よ。…何、私まで子供扱いするの?」

つい、きつい言い方をしてしまう

「やっぱり叢雲は、俺の事が嫌いか…確かに、いきなり来て提督とか偉そうにしてるんだからな。自分で戦う事も出来ずに、いつも艦娘任せ…すまない」

提督は謝ってきた。私はそんな事思ってないのに…

「何言ってるのよ。提督はここを守る。それが提督にしか出来ない使命でしょ」

とっさに、こんな言葉が出た

「別に、あなたの為じゃ無いわ。ただ、私の大切な場所を守ってもらいたいだけよ。もし、守れなかったら許さないんだから」

「……」

提督は返事をしなかった。ただ、何か考えているようだ

「一緒に風呂入るか?」

「…は?頭おかしくなったの?」

前言撤回。やっぱりこんな奴に、ここを守ってもらいたく無いわ…

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「…でも、なんだかんだ言って叢雲は入るんだな」

今、私はお風呂…のような物に浸かっている

「こっち見たら標的艦にして、沈めるから」

「分かってるって…てか標的艦にされるのか…」

リンガ泊地にはまともな入浴施設が無い

その為、前に作られたのが五右衛門風呂。ドラム缶風呂だ

それが三つあり、最大で一つのドラム缶に二人まで入れる

そして、今まさに提督と風呂に浸かっているのだ

…とは言っても、流石に同じドラム缶では無いし、あっちを向いてもらってる

「…ほら、星が綺麗だぞ」

「い、いつも見てるから飽きたわよ!」

今はそれどころでは無い。恥ずかしさで、どうにかなりそうだ

「俺はここに来て良かったと思ってる」

「私は、もっとまともな人が良かったわ」

こんな変態はうんざりよ…

「私、上がるわ。一人でのぼせてなさい」

これ以上浸かってると、こっちがのぼせてしまう

「ちょ、まだ話が……あっ」

「何?その話って……あっ」

声を出したのは、提督と目が合ったのと同時だった

いくらタオルで隠してるとは言っても、隠し切れるわけでは無い

お風呂から出たばかりなのに、

さらに顔が熱くなるのが分かった

「みみみみ見たわよね…」

「…言い訳は聞いてくれるか?」

「あ、あなたにそんな時間があるとでも?」

明日の本土の新聞に大スクープとして載っても構わない

今は、提督に見られた恥ずかしさで頭が一杯だった

「だから提督なんて嫌いなのよ!こうやって幼い身体見て興奮するなんて!さっさと沈めてやるわ!このクソ提督!!」

私はその場から走って逃げた



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【第七話】

「…クソ提督か。そう言えば、他にもそんな風に提督の事を罵る艦娘も居るとか聞いたな…」

幼い身体は悪くは無い。今後の成長に期待しよう

…なんかここまで話してるとただの変態みたいだな

「あれ?叢雲、着替え置きっぱなしだ…」

流石に服の匂いを嗅ぐなんて事はしない。そこまで落ちぶれては無いからな

ただ、良い匂いがするだけだ。

ん?ここに着替え置いてあるって事は…

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「まずい…着替えの事、完璧に忘れてたわ…」

流石に取りにいけない。提督(あいつ)が居るから…

庁舎には他の着替えは無い。駆逐艦寮まで行かないといけないが、素っ裸で行ったら何を言われるか分からない

「提督(あいつ)が居なくなるのを待つしか無いのね…」

叢雲の身体には、お風呂上がりなのと、走った為に汗が滲んでいた

「(またお風呂入らないと…)」

そんな事を考えながらお風呂に向かって慎重に歩いていると

「あっ、叢雲!ここに居たのか…」

「ひゃっ!?ててて提督!?」

突然後ろから声を掛けられた。それと同時にブランケットが渡された

「叢雲が服置きっ放しにしてたからな、いくらここが蒸し暑くてもそのままいたら風邪引くぞ?」

「も、元は誰のせいよ…」

「いいから、風呂行って来い。それとも連れていってやろうか?」

私は恥ずかしさに顔が真っ赤になる

「別にいいわよ…あんたみたいな変態はさっさとくたばれば良いの!馬鹿っ!」

ブランケットを体に巻き付けてお風呂に向かって走った

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「はぁ、やっと落ち着けるわ…」

本日二回目のお風呂に浸かりながらそんな事を呟いた

「…って、なんで居るのよ!」

私の前には提督が立っていた。まだ庁舎に帰って無かったようだ

「なんでって…嫌か?」

「嫌に決まってるでしょっ!」

「叢雲殿、そんなに叫んで何かあったのでありますか?」

どうやらあきつ丸がお風呂に来たようだ

「あきつ丸。お前も風呂か?」

「はい、提督殿はここで何を?」

「叢雲が一人じゃ風呂に入れないって言うからな。ここに居るのさ」

提督(あいつ)、さらっと嘘言ったわよ…

「そうでありますか。…叢雲殿は、前の提督殿とは必ずお風呂に入ってたのであります。それも楽しそうに。ここ最近は、ずっと一人だったので心配していたのでありますが、良かったです」

「ちょ…は?…そんな訳無いじゃない!あきつ丸も何を勝手に言ってるのよ!?それじゃ私が子供みたいじゃないの!」

「安心しろ叢雲、お前は子供だ。俺から見るとな」

何も安心出来ないわよ…こんな恥ずかしい事バラされて…

「あんたら最っ低!」

私は急いで服を着てお風呂を出た。そして、早足でその場を離れた

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「少し、からかい過ぎたかな」

「いえ、寂しかった叢雲殿にとってはあれぐらいがちょうど良いと思うのであります」

あきつ丸が風呂に入ってる間、外で俺は待つ事にした。…別に下心がある訳じゃ無いぞ?

「それにしても、前の提督は良い人だったんだな」

「勿論であります。前の提督殿は艦娘の事を最優先で考えてくれてたのであります」

話を聞くと、前の提督は戦果よりも艦娘が無事に帰って来る事を願っていたらしい。そのためか、戦果はそこまでだが艦娘の

生還率はトップクラスだったそうだ

まだ出撃などの指示はした事無いから分からないが、艦娘達が生きて帰って来てほしいのは、分かった気がした

「まだ、俺は提督の仕組みを理解して無い。正直言って、この泊地を運営していけるか心配だ。俺に出来ると思うか?」

「大丈夫でありますよ。提督殿ならきっと平和な海を取り戻せるであります。私は陸の人間なので、海の皆さんには劣りますが、精一杯支援するであります」

そう言ってもらえて、正直嬉しい。自分でも心配だったが、この仲間達とならきっとやり遂げられるだろう

たとえどんなに時間が掛かろうとも、成し遂げる。それが海の男だ

だが、このときの俺はこの先に待っている様々な困難を知る余地も無かった。そして、ここまでの話を全部口にしていて、一人の艦娘に聞かれている事

「ふん、馬鹿らしい。だけど、悪く無いわね」

その艦娘が呆れながらも笑っていた事も




只今の時間は4月19日の午後16時05分です
どうも、艦本式こと暴走するひねくれ者です。
いかがでしたでしょうか?
え?本編とっとと書けって?自由気ままに書いてる自分には無理ですねぇ…
新しいアイデアが浮かぶ度に新しく書いてしまうので、中々進みません…許して下さいなんでもしますから
さて、ネタは置いといて今回の艦隊乙女録、舞台はリンガ泊地です。モチーフは「陽炎抜錨します!の二巻で出てきたリンガ泊地のその後」で書かせて頂きました
一応シリーズ物として、次の話を書く予定なのですが何も決まってません。最近艦これアーケードに忙しくて…え?それは忙しいとは言わない?
…と、まぁいろんな作品を中途半端に書いてる訳なのですが、個人的には楽しいので問題ナッシング
長くなりましたが、あとがきもここまでです。また次の話で会う事が出来れば幸いです
(4/19金曜)
by艦本式
by暴走するひねくれ者


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