フェアリー・エフェクト (ヒョロヒョロ)
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黒スライム、脱社畜する

題でネタバレてくスタイル。


 盛者必衰。諸行無常。

 一時は一世を風靡した『ユグドラシル』というゲームも、今日をもって終わる。

 

 ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の拠点、ナザリック地下大墳墓。その最深層にある玉座の間に、ずらりと並ぶシモベ達。

 諸事情で持ち場から動かすのが難しい一部を除いて、ギルドメンバーが作成したNPC達が勢ぞろいしているその様に、ヘロヘロは筆舌しがたい情感に身を震わせた。

「──ああ……お前達も……」

 戦闘メイドだけでなく、自身が作成した一般メイド達もその列に加わっているのを見て、ヘロヘロは静かに目を伏せる。

(──ここまで来て、良かった)

 本当は、メールをくれたギルド長のモモンガに挨拶だけして、すぐログアウトするつもりだった。──今日も仕事でへとへとだし、明日も朝早くから仕事だから。

 きっと、いたのがモモンガだけだったら、その通りになっていた。気遣いの人であるギルド長は、こちらを無理に引き留めはしなかっただろうから。

 ──だが、その場にいたもう一人の存在が、ヘロヘロがログアウトするタイミングを奪った。

「うわぁ! すごい! 壮観ですね~!」

 若々しい少女の声で歓声を上げながら、整列するNPCの間をひゅんひゅん飛び回る小さい人影──透明な翅を持つ、手のひらサイズの小人。

 彼女の名は、ルイ。種族は<フェアリー>という、妖精系統のレアらしい。

 ルイは、モモンガによって同盟者として登録され、同陣営扱いにはなっているが、『アインズ・ウール・ゴウン』のギルドメンバーではない。『アインズ・ウール・ゴウン』の加入条件を、彼女は満たしていないからだ。

 ──『ユグドラシル』のサービス終了が発表された、まさにその日、モモンガはルイと出会ったらしい。

 ルイは、とある動画でナザリックに魅せられ、アカウントの新規登録ができなくなる寸前に『ユグドラシル』を始めたという新人だった。

 サービス終了の報せに焦った彼女は、推奨レベルにまるで届いていないにも関わらず、ナザリックへ特攻したらしい。

 『ユグドラシル』終了の報せに落ち込んでいたモモンガは、低レベルのソロでナザリックに特攻してきた、見覚えのない種族に気を惹かれたらしい。

 思わず、撃退ではなく、対話を選び──ルイのナザリック賛美に絆されてしまったのだという。

 「なくなってしまう前に、一緒に創った仲間以外の誰かに、ナザリックを自慢したかったんです」──そう、モモンガは言った。その気持ちは、ヘロヘロにもわかる。

 その相手として、ルイは完璧だった。どこまでも純粋に、ナザリックと『アインズ・ウール・ゴウン』に憧れる彼女は。

 けれど、彼女は、モモンガの好意を理由にナザリックを見せてもらうことへ、抵抗を示したらしい。

 曰く、「関係者でもないのに、たまたま終わり間際に来たと言うだけでただで見せてもらうのは、『アインズ・ウール・ゴウン』の皆さんにも、かつて突入して返り討ちになったプレイヤーさん方にも、失礼な気がします」と。

 そうして、玉砕覚悟で自力でナザリックを巡ろうとするルイ。そこまでのリスペクト精神がある彼女だからこそ、ナザリックを案内してあげたいモモンガ。二人の話し合いはすったもんだの末に、妙な所に着地した。

 

 ──関係者でない(たにんである)ことに気後れするなら、関係者にしてしまえ(たにんでなくなれ)ばいい。

 

 結果として、ルイは、モモンガのNPC(むすこ)に嫁入りした。

 

 どうしてそうなった!? と聞いたヘロヘロは思ったし、実際そう叫んだ。モモンガ曰く「話の中で、ルイさんがシャルティアを“爆撃王さんの嫁”って言ったの聞いて、これだ!って思って……」とのこと。

 『ユグドラシル』に婚姻システムはないが、NPC相手の婚姻なら、NPCの設定文に『誰それと夫婦である』とでも書き込めばそれで済む。

 「これでルイさんもナザリックの関係者です!」というモモンガの理屈に納得した──というより、有料ガチャで当てたレアアイテムを“嫁入り道具”としてナザリックに納めることで、ルイも折り合いをつけたらしい。

 昨日まではモモンガのガイドでナザリック内を見学しまくり、最終日の今日はログインしてくるギルメンに『ギルド長の息子の嫁』として挨拶していた、という訳らしい。

 23時間過ぎに眠気マックスでログインしたヘロヘロは、モモンガに「うちの嫁になったルイさんです」とルイを紹介され、意味を勘違いして眠気を吹っ飛ばすほど驚いた。

 ──“息子の妻”を“うちの嫁”と呼ぶのは正しいはずなのだが、“俺の嫁”という言い回しのせいで混乱してしまったのだ。おのれ、ペロロンチーノ。

 諸々の事情を聞いて誤解も解け、そろそろログアウトしようヘロヘロが思ったその時、「玉座の間にNPCを集めてあるので、行きませんか?」とルイが言い出したものだから、完全にタイミングを逃した。

 遠慮がちにこちらの反応を伺っているモモンガの様子に気づいてしまえば、ヘロヘロにNOという選択肢はなかった。

 そうして、流されるようにここまで来て──忙しさにかまけて置き去ったものの価値を、思い出したのだ。

「……ソリュシャン……」

 特に力を入れて創った戦闘メイドの前で、彼女の名を呼ぶ。

 AIに従って一礼するその仕草すら、懐かしくて愛おしい。

(──モモンガさんに、お礼を言わなきゃ)

 ずっと、彼が一人でナザリックを維持してくれていたから、ヘロヘロは彼女たちともう一度会うことが出来たのだ。

 そう思って、モモンガの姿を探せば、

「──うわっ……」

 彼は玉座の側に控える女性NPCの設定を開いて、何とも言えない声で呻いている。

「……どうしたんです?」

「いや、ヘロヘロさん。見て下さいよ、これ」

 歩み寄って、言われるままにコンソールをのぞき込み、ヘロヘロも呻いた。

「……これは酷い」

 まず字数制限限界まで書き込まれた設定の長さがヤバいし、最後の一文が強烈すぎる。──『ちなみにビッチである。』とは。

「……アルベド、ですか。誰のNPCでしたっけ?」

「……タブラさんです」

 モモンガの答えに、ヘロヘロは深く納得した。

(設定厨で、ギャップ萌え……その結果がこれかぁ……)

 しかし、この設定をこのままにしておくのはいかがなものか。

「……これ、変えません? 新婚もいるのに、まずいでしょ、これは」

「確かに……よそのNPCいじるのは気後れしますけど……女性に、これはちょっと酷いですし……」

 コンソールをいじって、モモンガが最後の11文字を消去する。

「……なんか、せっかくめいっぱいまで書き込まれてたのに、もったいない気もしますね」

「代わりに何か書き込みます?」

 モモンガの問いに、ヘロヘロの脳裏で閃くものがあった。手を伸ばして、すすすっと手早く書き込む。

『モモンガの正后である。』

 文字列を見たモモンガが、裏がえった声を上げる。

「ちょっ!? ヘロヘロさん!?」

「いいじゃないですか。お似合いですよ、魔王とその后って感じで!」

「えぇ……?」

「息子さんが嫁もらったのに、お父さんが独身じゃ格好つかないでしょう?」

「けど……」

「──何してるんです~?」

 NPCの間を縦横無尽に飛び回っていたルイが、ごそごそやってるのに気づいたらしく寄ってきた。

「今、このアルベドが、モモンガさんと結婚したところです」

「ちょっ!?」

「わあ、おめでとうございます! ──あ、じゃあ、私にとってはお義母(かあ)様になるんですね!」

 綺麗なお義母様で嬉しいです! と、はしゃぐルイに、モモンガも観念したらしい。設定をそのままに、コンソールを閉じた。

「ふふ、観念しましたか」

「まあ、もう、あと十分もないですから……」

「あ、最後に記念写真(スクショ)撮りたいです!」

 ルイの提案に、ヘロヘロもモモンガも賛同した。

「じゃあ、モモンガさんは玉座に」

「いいんですか?」

「逆に、ギルド長の他に座る資格のある人はいないでしょう。ほらほら!」

「じゃあ、ヘロヘロさんは玉座の横に並ぶ感じで……」

「私は撮影に専念しますね~!」

「いや、ルイさんも一緒に写りましょうよ!」

「だって、序列的にどの辺に並べばいいのか、よくわかんないです!」

「え~っと……名前出てこないんですけど、モモンガさんの息子(NPC)って、アルベドの反対側にいる軍服のやつですよね?」

「あ、パンドラです、パンドラズ・アクター」

「パンドラの肩にルイさんが留まる感じにしたら、いい感じじゃないですか?」

「……下手に接触すると18禁に抵触しません?」

「ああ……腰掛ける(尻をおく)のは、アウトかも……?」

「なら、立った状態で!」

「……この絵面、なんか、見たことあるような」

「……巨大ロボの肩に立つパイロットみたいですね」

「それだ!」

 わちゃわちゃと撮影会をしている間にも、カウントダウンは進んでいく。

 いよいよ時間が差し迫ってくると、誰からともなく黙り込み、しみじみとした空気が漂い始めた。

「……楽しかったなぁ……」

 玉座についたままのモモンガが呟き、飾られたギルドメンバーの旗を指さした。

 ルイに解説しているのか、それとも述懐しているだけなのか、ギルドメンバーの名前を呼び上げていく。

「──そして、俺」

 最後に自分の旗を示してそう言ったきり、口を閉ざしたモモンガに代わって、ヘロヘロは口を開いた。

「──楽しかったですね」

 先ほどのモモンガの呟きの繰り返し。──けれど、その言葉には、我ながら万感の思いが込められていた。

「えぇ、本当に……」

 モモンガが頷く。──と、そこで、ヘロヘロは礼を言いそびれていたことに気がついた。

「モモンガさん、長らくナザリックを守ってくれて、本当にありがとうございました」

「いえ、私はギルド長として、当然のことをしたまでですから」

 モモンガはこともなげに言うが、ここまでできる人は希有だろう。

「それでも、今日、最後にこうやって過ごせたのは、モモンガさんのおかげですから。──ありがとうございます」

「……はい」

 照れたような声音で礼を受け入れたモモンガに、ヘロヘロは笑う。

 そうして、その息子(NPC)の肩に立つルイへ、声をかけた。

「──ルイさんも、ありがとうございます」

「ひゃい!? え、何がです!?」

「あなたがいてくれなかったら、きっと早々にログアウトしてしまっていたと思うんです。ログインするまで、眠気マックスだったんで。──あなたの存在にびっくりして、眠気吹っ飛びましたけど」

「そ、それは良かったです……? え、よかったの……?」

「ええ、良かったんです。──だから、ありがとうございました」

「そ、そうですか……?」

 困惑しきりのルイ。ひょこひょこ揺れるアバターの様子が可愛くもおかしくて、ヘロヘロは笑う。

 

 ──カウントダウンは、10秒を切った。 

 

「──最後は、びしっと締めますか」

「ですね。──ルイさん、次の私の言葉、繰り返して下さい」

「はい!」

 一拍おいて、モモンガが声を張り上げた。

「──アインズ・ウール・ゴウンに、栄光あれ!」

「アインズ・ウール・ゴウンに、栄光あれ!」

 ヘロヘロとルイの声は、綺麗に唱和し──

 

「──アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!!」

 

 地をどよもすような大唱和がその後に続いて、ヘロヘロ達は飛び上がったのだった。

 

 




ナザリック1500人迎撃動画より抜粋
「よくも、シャルティアを……俺の嫁をぉぉおおおおっ!」
(第1~3階層の守護者撃破後、某爆撃王の絶叫)


【嫁】って言葉で辞書引くと、『息子の妻』って意味と『新婚の女性(花嫁)』って意味の二つが出てくる。
つまり、“俺の嫁”は“俺の花嫁”の略なのでしょうか。改めて考えると、結構紛らわしい言い回しですね、これ。




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二重の影、思考する

【前回のあらすじ】
ヘロヘロ「お似合いだし、モモンガさんの后にしよう」
ルイ「わーい、綺麗なお義母様だ!」
モモンガ(押し負けて設定を確定する)
アルベド(よっしゃぁああああああ!!)



「──アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!!」

 

 思わず、至高の御方々に続いて声を張り上げ──()()()()()()()()()()()という事実に、パンドラズ・アクターは愕然とした。

 

 ──自分たちNPCは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 何故、と沸き上がった疑念は、自身の肩口から聞こえた小さな悲鳴によって、すぐさま脇に追いやられた。

「──ルイ殿!」

 予期せぬ声に驚いてか、自身の肩から転げ落ちかけた小妖精を、慌てて手のひらで受け止める。

「お怪我は!?」

「──え、……え?」

 問いかけるも、彼女はひたすら目を白黒させていて、答えられそうもない。

 手のひらの上でへたり込んではいるが、怪我を負った様子はない彼女に、とりあえずは安堵して──脇に置いた疑問が戻ってきた。

(……おかしい)

 ──()()()()()()()()()()()という、これまでどれだけ望んでも不可能だったことが、できている。

「──どういうことだ!?」

 パンドラズ・アクターの疑念に同調するようなタイミングで、モモンガが荒い声を上げた。

「──父上、いえ、モモンガ様……一体、何が起きているのです?」

 咄嗟に口をついて出たのは、己の創造主へ縋るような問い。

 問いかけられたモモンガは、愕然とした様子でこちらへと視線をよこし、

「……GMコールがきかない、強制ログアウトもできない」

「──それは、《リアル》に関連するお言葉でしょうか?」

 知らない単語に、それでも推測を巡らせてそう問えば、モモンガは驚いたようだった。

「……お前、《リアル》についての知識があるのか!?」

「いえ、《リアル》自体については全くの無知です。ただ、モモンガ様のお言葉や、その振る舞いを繋ぎ合わせるに、《ユグドラシル》の外、至高の御方々が本来属する上位世界なのではないか、と推察しております」

「──すごい、だいたい合ってる」

「ルイさん!」

 ルイがポカンとした声を漏らし、それにモモンガが焦った声を上げた。

 ルイは慌てたように自身の口を両手で押さえているが、つまり、この推測は()()()()()()()()訳だ。

 モモンガが、観念したように大きく息をはく。

「──《リアル》と《ユグドラシル》の関係については、お前の解釈でほぼ間違いない。……現状、私達は《リアル》に戻る術を失っている」

「──なんと!?」

 ざっ、と血の気が引くような恐怖に襲われた。

「《ユグドラシル》は今宵()()()のでしょう!? このままでは父上たちまで、その滅びに巻き込まれ──」

「──その時はもう、過ぎた」

 恐慌に陥りかけた頭を冷やしたのは、静かなモモンガの言葉。

「本当なら、その瞬間、私達は強制的に《リアル》へ引き戻されるはずだったのだ。──しかし、現状、ナザリックは変わらず在り続け、《ユグドラシル》から弾かれるはずだった私達は、逆に《リアル》から閉め出される形になっている」

 ──何にせよ、異常事態なのは間違いない、ということか。

「……っていうか、ここ、《ユグドラシル》なんですかね?」

 それまで黙っていたヘロヘロが、ぽつりと呟いた。

「と、おっしゃいますと?」

「えぇっと、皆がどうかはわからないけど……少なくとも私は、身体の感覚がおかしい。──調子が悪い、とかではなくて、逆にすごく感覚が鮮明というか……」

 パンドラズ・アクターの問いに、ヘロヘロは言葉を吟味するような調子で答えを紡ぐ。

「さっき《リアル》と《ユグドラシル》の話が出たけど、私達にとって《ユグドラシル》でのこのアバター(からだ)は、仮初めの器で……感覚も制限されてるし、思うように動かせないところもあった」

 なのに、と呟きながら、全身をぐにぐにと蠢かせて、

「──着ぐるみ越しみたいなもどかしさがさっぱり消えて、完全に自分の身体として馴染んでる……《ユグドラシル》ではあり得なかったことだ」

「……なるほど。そう言われてみれば、私の身にも、《ユグドラシル》ではあり得なかった変化が起きております」

「──何? どこか不調でもあるのか!?」

 父の案じる声を、不謹慎にも嬉しいと感じてしまいつつ、パンドラズ・アクターは答えた。

「いいえ、不調はございません。ですが──私は今、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ──ずっと、ずっと、願い続けて叶わなかったこと。

(寂しげな父上に声をかけることすらできない己の喉を、これまで何度呪ったか)

 ──それが、今、恐ろしく容易く叶えられている。

「ここが《ユグドラシル》とは異なる法則で成り立つ場所である、という仮定は、一考の余地があるかと」

 その言葉に、父はしばし考え込むように沈黙し──

「──この場にいる皆に問いたい」

 これまで息を飲むようにして、主達とパンドラズ・アクターの問答を聞いていたシモベ達がざわめき、

「──なんなりと」

 守護者統括──そして、モモンガの正后ともなったアルベドが、代表するように答えた。

「今のやりとりを聞いて、皆も察しただろう。──今宵、《ユグドラシル》は滅びる運命にあり、本来はナザリックも共に消滅するはずだった。……私達は、それを阻止する術すら持たぬ、不甲斐ない主であったのだ」

「──っ……!」

 口を開きかけたアルベドを、モモンガはただ手をかざすことで押しとどめた。

「その上で、問いたい。──そんな不甲斐ない私達を、それでも主と思ってくれるか。変わらず、私達に仕えてくれるか」

 応えは、広間中から返ってきた。

「──仕えます!」

 それにモモンガは鷹揚な仕草で頷き、

「では、命じる。──ナザリックの総力を持って、この異変の調査に当たれ!」

「──はっ!」

 シモベたちの大音声が、玉座の間に響き──

 

 ──そうして、ナザリックが動き出した。

 

 




モモンガ(結婚設定書き込むついでに、他もちょっと修正しとこう)
『時折、道化めいたオーバーリアクションを見せたり、ドイツ語を話したりするが、基本的には空気の読める紳士。モモンガの息子であり、ルイの夫である。』
(知恵者設定や、アイテムフェチ関連はそのまま)

設定上で息子認定されて、パンドラ大歓喜。
故に、きっかけとなった妻への感情もすこぶる良好な模様。


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骸骨魔王、心配する

【前回のあらすじ】
パンドラ「しゃべれる! 動ける!」
ルイ「パンドラさんの推理力がすごい」
ヘロヘロ「やばい、ユグドラシルですらないかも」
モモンガ「皆、変わらず仕えてくれる?」
NPC一同「もちろんです!!!


(──とりあえず、NPCは従ってくれるみたいで、よかった)

 まずはナザリック内に異変がないか調べるため、それぞれの持ち場へと戻っていくシモベ達を見送って、モモンガはこっそりと安堵の息を吐いた。

 この人数比で謀反など起こされたら、100レベル(カンスト)のモモンガやヘロヘロはともかく、50レベルちょっとのルイは、確実に生き残れなかっただろう。

 しかし、懸念は杞憂で終わり、NPCたちは忠誠心の塊のようだった。──いっそ質量さえ感じる敬意のこもった眼差しと声は、演技でどうこうできる域を越えている。

(逆に忠義が重い気もするけど……いや、逆らわれるよりずっといいはずだ、きっと)

 そう、モモンガは自分に言い聞かせる。

 残ったのは、モモンガ達プレイヤー三人、玉座の間(この場)が持ち場のアルベド、守護領域である宝物殿への移動手段を持たないパンドラズ・アクター。

 モモンガは、まずはパンドラズ・アクターを宝物殿に送ってやらねば、いや、いっそ移動手段である【リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン】を渡しておくか、などと思考を巡らせ──

「……これからどうしましょう、モモンガさん。現状調査はNPC達に任せればいいにしても、リアルへの帰還方法は、おそらく私達自身でないとどうにもなりませんよね?」

 そのヘロヘロの言葉に虚を突かれ──()()()()()()という発想がなかったことを自覚して、愕然とした。

(──バカか、俺は)

 自分はいい。もはや家族もなく、リアルに未練もない。

 しかし、仕事に情熱を注いでいたヘロヘロは?

 何より──確実に未成年であるルイを、親元に帰さない訳には行かないだろう。

 しかし、そう思った矢先に、当のルイが悲鳴のような声で叫んだ。

「──帰りたくないです!!!」

 彼女のこんなせっぱ詰まった声を聞くのは初めてで、モモンガはぎょっとする。

「ル、ルイさん?」

「……何か、事情が?」

 ヘロヘロの問いに、ルイは一瞬、自身を手のひらに乗せたパンドラズ・アクターの顔を見て、次にモモンガを見てから、言いにくそうにそろそろと口を開いた。

「……来月、16歳になったら、結婚させられる予定だったんです……」

 ──ツッコミどころが満載過ぎる発言に、モモンガとヘロヘロは思わず固まった。

「──()()()()()ということは、貴女自身が望んでの婚姻ではないのね?」

 固まった男共の代わりというように、この場にいる唯一の同性であるアルベドが問いかければ、ルイは小さく頷く。

「父が、会社を傾けてしまって……援助を受けるための縁づけらしいんです。……これまで不自由なく育ててもらったんですから、わがままを言える立場でないのはわかってるんですけど……」

 そこでもこらえきれないというような様子で、ルイは両手で顔を覆い、

「……でも、やっぱり無理です~! 私より年上の娘さんが二人もいるお家に後妻として入るなんて、修羅場の予感しかないじゃないですかぁ~っ!」

「──はぁっ!?」

 ひっくり返った声が、モモンガの喉から飛び出した。

 驚きの余りにか、縦にみょいんと伸び上がったヘロヘロが、

「ちょっと待って! それだと相手、ルイさんの親より年上なんじゃないの!?」

「……はい」

 ルイに肯定され、モモンガもヘロヘロも、かけるべき言葉を失う。

(……ようは、親より年上のおっさんと政略結婚させられる直前だったわけだ……)

 全力で帰還を拒むのも、当然と言える。

「──ルイ殿」

 皆が黙り込んでしまった気まずい沈黙を、これまで黙っていた者が破った。

「貴女は、既に私の妻です。──例えそれが、貴女を父上の庇護下に迎えるための方便だったとしても、私にとって、貴女は守るべき妻なのです」

 自身の手のひらの上で嘆く小妖精に、軍服のシモベは真摯な声を紡ぐ。

「貴女の居場所は、ここです。──貴女を不幸にするような場所になど、決して帰しはしない」

「……パンドラさん……」

 彼の顔を見上げて、ルイは感極まったような声を上げる。

「──ええ、パンドラズ・アクターの言う通り。このナザリックこそが、貴女の家。娘をむざむざ不幸に追い込む親など、忘れてしまいなさい。これからはモモンガ様と私が、貴女の両親よ」

 ルイの小さな頭を指先で撫でて、アルベドが言う。

「……アルベドさん……」

「あら、さっきはお義母様と呼んでくれたでしょう?」

「──お義母様!」

 嬉しそうにアルベドの指先に抱きつくルイ。

 何だかすっかり大団円みたいな空気になっているが──

 

(──ああぁ~~~っ! そうだ、アルベド、俺の后になっちゃってるんだったぁ~~~っ!)

 

 残念ながら、モモンガの脳内はしっちゃかめっちゃかだった。

 

(っていうか、ロリコン親爺からは逃げられたけど、代わりにハニワ顔に嫁入りって、それでいいのルイさん!? ──いや、種族違うし、それ以上にサイズ違いすぎるから、どうこうなる心配が要らないのか)

 一旦は落ち着くものの、すぐに疑問と懸念が沸き上がってしまう。

(いや、でも、ドッペルゲンガーなんだから、外装合わせたらデキちゃう?──いや、パンドラは紳士だし、合意がない限りはナニかしたりはしないはず……っていうか、ドッペルゲンガーって、性欲あるのか……?)

 ドッペルゲンガーという種族について、必死に記憶を手繰る。

(おぼろげだけど、初期設定はマネキンみたいなナニもついてないような体型だった気がする……ってことは、ドッペルゲンガーは、本来無性……? 設定に明記しなければ、性別はなく、性欲もない……?)

 と、そこまで考えて、モモンガは頭を抱えた。

(──いや、“息子”で“夫”って明記しちゃってるじゃん! これ、性別に反映されちゃってない!?)

 と、挙動不審なモモンガのようすに気づいたのか、ヘロヘロが訝しげな声をかけてきた。

「……モモンガさん、どうしました?」

「えっ!? ……い、いや……アルベドと、結婚しちゃったんだなぁ……って……」

 まさか息子のシモ事情を懸念していたとは言えず、そう答えれば、ヘロヘロは納得したらしい。

「まあ、さっきの発言からして、アルベドの方は満更でもなさそうですし、モモンガさんだって嫌な訳ではないんでしょう? なら、いいんじゃないですか?」

「は、ははは……そうですね……タブラさんには、悪い気もしますけど……」

「いや、あの人だって、モモンガさん相手なら文句ないですよ、きっと」

 そう言って笑ってから、ヘロヘロはNPC達にかまわれているルイを振り返り、

「──帰る方法を探す必要は、なさそうですね」

「……いいんですか?」

 言外に、自分に帰る気はないというヘロヘロに、モモンガは驚いた。

「仕事は好きでしたけど、あのままだと、きっと文字通り()()されてましたから。──何より、理想のメイド達が生きて動いてるのに、おいて帰るなんてもったいないことできないでしょう」

「アッ、ハイ」

 明らかに後半が主だとわかる調子で言い切られて、モモンガはそうとしか返せなかった。

「……っていうか、俺に帰る気がないのは、お見通しだったんですね」

「誰よりもナザリックを愛してるギルド長が、命を持ったNPC達を見捨てられるとは思えませんでしたから」

 笑みを含んだ声で言い切られて、モモンガは気恥ずかしくて頭を掻く。

「──まあ、何にせよ、リアルへの帰還方法の模索はなしってことで!」

 自分の気を紛らわすようにわざと大きな声で言えば、聞いたルイ達が嬉しそうなようすを見せた。

(──今日からは、このナザリックが俺たちの家だ)

 先ほどアルベドが言った言葉を、自分の決意としてモモンガは繰り返した。

 

 

 ──ちなみに、息子のムスコ事情は、あとで一緒に大浴場を利用した時に確認して、こっそり胸をなで下ろした。

 

 




ドッペルゲンガーは擬態しない限り無性、という捏造設定。
これ、シモネタ……? いや、シモの話題だからシモネタか。でも、R指定いる……?
などと悩みつつ、結局誰かに怒られるのが怖くて、Rー15タグを追加したチキンは私です。
アンチ・ヘイトタグも、同じような理由でつけてます。私ってホントチキン。



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カルネ村、生存する/戦士長、邂逅する

【前回のあらすじ】
ルイ「政略結婚したくないので帰らない!」
ヘロヘロ「理想のメイドがいるから帰らない!」
モモンガ「よかったー!」

パンドラは紳士、アルベドは聖母。
モモンガを帰さないよう、ルイを利用しようなんて思ってない、いいね?


 穏やかで代わり映えのない日常を送っていたカルネ村は、この日、異変の連続に見舞われた。

 始まりは、朝──唐突に、敵国の鎧をまとった兵たちに襲撃されたのだ。

 問答もなく矢をかけ、剣を抜いて村になだれ込んできた彼らによって、村人達は為す術もなく虐殺され──なかった。

 凶刃の錆となるはずだった彼らを救ったのは、唐突に現れた、魔法詠唱者と剣士の父子(おやこ)だ。

 父が魔法で矢を防ぎ、息子は剣を抜いて襲撃者の前に立ちふさがる。

 しかし、父子は二人きり。数の優位はこちらにあると言わんばかりに、兵たちは彼らへ襲いかかろうとして──瞬殺された。

 いや、瞬()という言葉は相応しくないかもしれない。なにせ、兵達は誰一人命を落とすことなく、無力化されたのだから。

 そうして、たった一つの呪文で兵たちを生きたまま無力化した、凄まじい技量の魔法詠唱者は、唖然となる村人たちを振り返って、気まずそうに言ったのだ。

 ──「ここは、どこなのでしょうか」と。

 驚いたことに、この父子、迷子であったのだ。

 何でも、マジックアイテムの実験中、誤作動で見知らぬ土地に飛ばされてしまったのだという。

 夜通し人を探して歩き続けて、やっとこさ見つけた人里。しかし、安堵しかけたのもつかの間、何やら剣呑な気配を察し──咄嗟に、兵たちを阻む形で動いた、という訳らしい。

 とにかくこの辺りの地理の情報が知りたい、ということなので、村を助けてくれた恩に報いるべく、村長は自身が知りうるだけの知識を惜しみなく告げた。

 しかし、彼らは、この村が所属する王国の名はおろか、近隣諸国の名にも全く聞き覚えがないという。つまりは、彼らの故郷はこの辺りと全く交流のない遠方だということだ。

 参ったな、と困ったように呟く父親と、悄然と肩を落とす息子の様子に、否応なしに同情は募る。

 しかし、都市に行けば、もっと他の情報も得られるかもしれない。捕らえた襲撃者を役人に突き出す必要もある。明日にでも一番近い都市まで一緒に行きましょう、と励ませば、彼らは気を取り直したように頷いた。

 とりあえず、今日はこれで一段落、と思った矢先──夕刻、更にもう一組、武装した集団が村を訪れて、もう一悶着あるのだった。

 

 *****

 

 王国の戦士長であるガゼフ・ストロノーフは、駆けつけた先で待っていた予想外の展開に、驚愕した。

 彼は、国境間際の開拓村を次々襲う犯人を追って、部下達と共にカルネ村へと駆けつけた。

 民を想う王の意向を無視し、自身達の権利ばかり主張する傲慢な貴族達の横槍のせいで、自身も部下も武装はお粗末だ。それでも、一人でも多くの民を救わんと、士気高く駆けだした。

 しかし、その道行きで見つかるのは、既に焼き払われてしまった村跡ばかり。間に合わなかった自身を呪い、それ以上に犯人への怒りを募らせつつ、次こそは、次こそは、と馬を急がせたのだ。

 しかし、犯人に追いつけぬままカルネ村までたどり着いて、無事な村の様子に間に合ったと安堵し──そうではなかったのだと知って、驚愕したのだ。

「こちらのモモン様とアクト様が、奴らを捕らえてくれたのです」

 そう言って村長に紹介されたのは、魔法詠唱者と剣士の二人組。

 父子であるという二人は、確かに、穏和な顔立ちがよく似ていた。どちらも、南方の血を引くガゼフと同じ黒髪だが、ガゼフの褐色の肌とは違って、二人の肌は微かに黄みがかった白色をしている。

 間に合わなかった自分たちに代わり、村を救ってくれたことへの感謝の念は、自然、ガゼフに下馬をしての礼をとらせた。

 魔法に疎いガゼフにでも、呪文一つで襲撃者たちを生きたまま無力化するという離れ業をなしたモモンは、とんでもない実力者なのだと察せられる。

 また、息子のアクトは、ガゼフから見ても、なかなかに隙のない立ち振る舞いである。まだ18という伸び代のある若さを加味すれば、将来は相当の剣客になるだろうと思わせた。

 しかし、そんな技量の持ち主でありながら、父子は少しも偉ぶったところのない、誠実な人となりのようだった。

 不幸な事故で見知らぬ土地に飛ばされたという苦境の中、それでも他者に降りかかろうとする理不尽を見過ごさなかった時点で、人格者なのは間違いない。

 故郷への手がかりが欲しいという二人のために、ガゼフは自身にできうる限りの手助けを決意した。

 とりあえずは、明日の朝一番、捕らえた襲撃者たちを連行するついでに、最寄りの都市へ案内すると約束した。

 ──そうだ、身銭を切ってでも、まとまった額を礼金として渡さねば。きっと、彼らはこの辺りの通貨も持っていない。

 そんな風に考えるガゼフの表情は、村を訪れる前とは打って変わって清々しい。

 

 そうして、翌日、ガゼフ達は、父子と共にカルネ村をたった。




本来、村を取り囲むように襲撃するはずだった偽装兵たちは、どうして一方からまとまって突撃してきたのか?
皆大好きニグンさんはどこへ行ってしまったのか?
何より、モモン・アクト父子の正体とは!?(バレバレ)
次回、【ナザリック、暗躍する】!
お楽しみにね!


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ナザリック、暗躍する

【前回のあらすじ】
カルネ村「無傷で済みました!」
ガゼフ「モモン殿とアクト殿には感謝してもしきれない」
ニグン「え、私の出番は?」


 拠点内を総浚いして、異変も侵入者もないことを確認したナザリックは、次いで外の調査に乗り出した。

 墳墓の出入り口から窺う分だけでも、異変の前と比べて外の様子は大きく様変わりしている。──ヘロヘロがほのめかしたとおり、()()は《ユグドラシル》ですらないのかもしれない。

 ()()がどういう場所なのか。情報を集めなくてはならない。迅速に、そして、正確に。

 まず、恐怖公の眷属(Gとよばれるもの)たちによる、数に物を言わせた全方位へのローラー作戦を行った。これは、周辺に生息する生物の危険度を測る試金石でもあった。

 そうして、眷属が持ち帰った情報、そして不自然なロスト状況も判断材料とし、重要地点と思われる場所へ、今度は判断力の優れた知能の高いシモベを送ったり、何十にも防衛対策をした上での魔法探査を行った。

 そうして、異変が起きてからおよそ60時間後には、ナザリックを中心とした半径100キロに関しては、ほぼ正確な情報を入手していた。

 ナザリックの隠蔽も行った。幸い、周辺は何もない草原で、最寄りの人里からでも10キロ近い距離がある。魔法による地形操作でナザリックの表層部分を覆い隠し、周辺にもいくつか同じような丘を作って目立たぬようにした。

 そうして、万全の下準備を整えた上で、現地の知的生命体との接触を試みることになった。

 現状、ナザリックにおられる至高の二人は、この接触を重要視し、少なくとも自分たちのいずれか一人は出向くべきとの意向を示した。

 しかし、それには問題があった。近隣にいる主な知的生命体が人間種なのだ。

 モモンガは<死の支配者(オーバーロード)>と呼ばれるアンデッド。ヘロヘロは<古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)>と呼ばれるスライム。──どちらも、人間種から恐れられる異形種なのだ。

 ヘロヘロは【擬態】という人化できるスキルを修得しているが、それによって人化している間は、スライムとしての種族特性と種族スキルが使えなくなってしまう。

 ヘロヘロのビルドは戦力の大半を種族特性と種族スキルに依存しているため、大幅な弱体化を強いられてしまうのだ。事前調査で、現地戦力が著しく低いのは判明しているが、それでも少々不安である。

 モモンガは人間と同じ骨格──というか、人間の骨格そのものの身体なので、少なくとも装備で全身を覆い隠せば、人になりすませなくもない。だが、それはそれで凄まじく怪しい不審者の姿になってしまう。

 思い悩む二人に解決策を提示したのは、<小妖精(フェアリー)>のルイだった。

 妖精系の種族スキルに【妖精の輪(チェンジ・リング)】というものがある。人の姿に変化する、という一点では【擬態】と大差ないのだが、こちらで封じられるのは種族特性だけで、種族スキルは変わらず使用できるのだという。

 この手のスキルは基本、効果対象が修得者本人だけである。だが、ルイがナザリックに持ち込んだマジックアイテムを使用すれば、他者への()()()()()が可能になる。

 【最も尊きもの】というそのレアアイテムは、《ユグドラシル》の斜陽が始まった頃に存在が確認(追加実装)された、アクセサリー装備だ。

 見た目は、二つのペンダント。片方には【鉛の心臓】、もう片方には【凍えた燕】のチャームがついている。

 使用方法としては、まず、スキルを譲渡する方が【鉛の心臓】を装備し、受け取る側が【凍えた燕】を装備する。そうして、譲渡したいスキルを一つ、【鉛の心臓】に登録する。

 登録されたスキルは【鉛の心臓】の装備者には使用不可となる代わり、種族・職業・レベルなどのあらゆる制限を無視した上で、【凍えた燕】の装備者が修得したものとして扱われるようになるのだ。

 【鉛の心臓】と【凍えた燕】のどちらか、もしくは両方が装備から外された時点でこの効果は失われるが、そうしない限り、この効果はずっと持続される。

 種族特性を失った上での戦力的にはモモンガの方が優れているということで、モモンガが【妖精の輪(チェンジ・リング)】を使用することで話はまとまった。

 供には、人の外装(すがた)をとれ、戦力的にも申し分のないパンドラズ・アクターが選ばれた。他にも、隠蔽力に優れたシモベが数体随行する。

 そうして、よりスムーズに人間種と交流できるようなアンダーカバーを設定し、更に現地人同士の争いを少し利用させてもらう形で、異形の父子は人里デビューを果たしたのだ。

 

 

「──モモンガ様とパンドラズ・アクターは、うまく人間の群に入り込めたようだよ」

「まあ、あなたが手を回した上に、モモンガ様が直接出向かれてるんだものん、失敗なんてありえないわねん。──ただ、それに比べて、こちらの不手際がなさけないのねん」

 ──薄暗い空間に、二つの声が響く。

 聞く者全てを魅了し、支配するような男の声と、特徴的な口調で話す、性別の判別が難しいダミ声。

「あれは君のミスではないと、モモンガ様もヘロヘロ様もおっしゃっていたじゃないか。それに、結果として()()は、ナザリックの忠実なシモベに生まれ変われた」

「あれは、モモンガ様のご威光に救われただけなのねん……それに、あの尋問阻止の呪い、あれはどうにかする手段を確立しないと、また同じような相手に当たったら困っちゃうのよん」

「それは……そうだね。一度死なせた上で蘇生すれば、呪いは解除できるようだけど……本人の意思で()()()()()ことが出来てしまう以上、あまり巧いやり方とは言えないか」

「……死んだと自覚して、更にその前の状況を覚えているから、蘇生を拒むのだとしたらん……案外、何もわからないうちに、死んだと自覚もできないような形で死なせたら、その後の蘇生も拒まれないかも知れないわねん」

「──ああ、ただ眠りから起きるような感覚で、蘇生を受け入れるかもしれない、と? ……なかなか面白い着眼点だね、試してみる価値がありそうだ」

「でも、肝心の実験体は、どこから用意するのかしらん? 下等種であろうと無辜の民には手を出すな、とのお達しよねん?」

「それなら心配いらないよ。モモンガ様たちが向かわれた都市に妙な団体がいたから調べていたんだけど、どうも邪教の集まりらしくてね。都市を丸ごと巻き込むような儀式を企んでいるようなんだ」

「ああ、そんな奴らなら、()()()()ではないわねん」

「そういうことさ」

 ふふふ、と二人分の笑い声。

 

 ──陰惨な拷問室には不釣り合いなそれは、男がその場を立ち去るまで、朗らかに響き続けていた。

 




<小妖精>のカルマ値は完全中立
モモンガ「未成年(ルイさん)の精神衛生上宜しくないので、残虐行為は控えましょう」
ヘロヘロ「ですね。少なくとも、何の罪もない人を死なせるのは避けましょうか」
でも、無辜の村を焼き討ちするような連中はボッシュート

こっそりナザリックにボッシュートされた陽光聖典
他より装備がいいので、重要情報があるかも知れないと、モモンガとヘロヘロ立ち会いの元で尋問しようとして、
陽光聖典「(モモンガを見て)ス、スルシャーナ様!?」
モモンガ(えっ、誰?)
ニグン「あなたのお望みとあらば何でもお話いたします!」(でも三回答えて死亡)
モモンガ「えっ、まだ聞きたいことあるんだけど」(ペス呼んで蘇生)
陽光聖典「だ、大儀式が必要な蘇生をこんなに容易く……!? 間違いない、彼らは神と従属神!!」
プレイヤーとNPCだからね、まあ、間違っちゃいないね

同様にボッシュートされた囮部隊
デミ「モモンガ様の人里デビューの演出に、協力してもらうよ」
囮部隊「ハイ」
残念だが、君たちに拒否権はない


<おまけの捏造設定>
妖精の輪(チェンジ・リング)
(フレーバーテキスト:妖精が人間の中に紛れ込む為のスキル)
対象:自身
効果:人間種の姿(セカンド・アバター)に変身する。
変身中、種族特性はその人間種に準じた扱いとなるが、種族スキルは使用できる。

【最も尊きもの】
(フレーバーテキスト:これは、自身を削って他者に施す、献身の心そのものである)
セットで一つのアイテムとして機能する二つのペンダント。片方には【鉛の心臓】、もう片方には【凍えた燕】を模したチャームがついている。
自身が拾得しているの魔法・スキルを、他者に“渡せる”アクセサリー。
使用法:魔法・スキルを渡したい相手に【凍えた燕】を装備させた状態で、【鉛の心臓】の装備者が自身の修得している魔法・スキルの中から任意の一つを選択する。
効果:選択された魔法・スキルは、【鉛の心臓】の装備者には使用不可となる代わり、種族・職業・レベルなどのあらゆる制限を無視した上で、【凍えた燕】の装備者が修得したものとして扱われるようになる。
【鉛の心臓】と【凍えた燕】のどちらか、もしくは両方が装備から外された時点で、この効果は失われる。
(AOG衰退後に有料ガチャへ追加されたレアアイテム。一緒に遊んでくれる人がいないと意味のないアイテムなので、当てたはいいけど、ソロだったルイには宝の持ち腐れだった)


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モモンガ、人生謳歌する

(タイトル修正しました)

書きたいシーンがいっぱいあってどこから手を着けたらいいかわからなくなる病。

【前回のあらすじ】
陽光聖典「スルシャーナ様に我らの信仰を捧げます!」
モモンガ「えぇ……?(困惑)」
デミウルゴス「危ない儀式をしようとする邪神教団はしまってしまおう」
ズーラーノーン「えっ」


 ぱくり、と串焼きにかじりつき、

(──あぁ~~~、美味しい~~~)

 モモンガ──否、今はモモンとして振る舞っている男は、うっとりと目を閉じて、味覚からの情報を満喫する。

(……本物の食べ物って、こういうものだったんだなぁ……リアル(あっち)で食べてた人工栄養なんちゃらなんて、食べ物の紛い物でしかなかった)

 実際、貧困層の彼がリアルで食べていた()()など、生存に最低限の栄養を詰め込んだ()()に過ぎなかったのだろう。

「モモン殿は、本当に美味そうに食べるなぁ」

 笑みを含んだガゼフの声に()()と我に返り、モモンは慌てて緩みきった表情を引き締めた。

「す、すみません」

「謝ることなどないでしょう、奢り甲斐があって嬉しい限りだ」

 ガゼフの言葉は紛れもなく彼の本音なのだろうが、いい年齢したおっさんがだらしなく笑み崩れるのは、あまり見目よろしいものではないだろう。

(けど、食事の度に毎回やっちゃうし、もう周りに慣れてもらった方が早いかもしれないなぁ)

 カルネ村で、質素な──けれど、村人たちの精一杯の持て成しである食事を振る舞われた時も、モモンはこんな感じで、「そちらのお故郷(くに)は、よっぽど食糧事情が悪いのですか?」と心配されてしまったくらいだ。

 一緒に食べているパンドラズ・アクター(アクト)のリアクションは普通だったため、単にモモン自身が食べることが好きな人なのだろう、という結論に落ち着いたようだったが。

 今も、アクトは早々に串焼きを平らげ、町並みを興味深そうに見回している。──さりげない仕草だが、モモンの警護と情報収集をきちんと果たそうとしての行動だろう。

(いけないいけない、俺もちゃんとしないと)

 気を引き締めて、モモンも串焼きの攻略を急いだ。

 

 

 ──ここは、カルネ村から一番近い都市である、エ・ランテル。

 帝国と法国、その両方と国境を接するこの場所は、国防的に非常に重要な拠点らしく、三重の防壁に囲われた城塞都市でもある。

 当然、都市の入り口では検問も行われていたが、国王直臣の戦士長効果で、モモンとアクトは驚くほどあっさりと中に通してもらえた。

 宿も、ガゼフが部下に頼んで手配してくれるという。至れりつくせりである。

 設定上でも実際的にも異邦人であるモモン達は、身分を証明する手段がない。それでは後々不便だろうと、ガゼフから冒険者として登録することを勧められた。──宮仕えのスカウトも受けたが、「いずれ故郷に帰るので」と言えばすぐに引き下がってくれた。

 何でも冒険者とは、“対モンスターの傭兵”であるらしい。

 名前の割にロマンのないことだとモモンは内心落胆したが、冒険者として登録すれば、組合が身分を保証してくれる。仕事の内容はともかく、制度自体は有り難い。

 そんなわけで、ガゼフの案内で冒険者組合に向かう途中だったのだが──途中でついついモモンが、屋台の串焼きの魅力に負けてしまったのである。

 気を取り直して、今度こそ向かった冒険者組合での登録も、ガゼフ効果か、すこぶるスムーズに済んだ。

 襲撃者がらみの仕事がある──それにも関わらず、よくここまで案内してくれたものである──ガゼフとは、手配してくれた宿で別れた。

 案内された部屋に入り、室内に魔法的な防壁を展開し──そこでやっと、モモンとアクトは一息ついた。

「──いい人だったけど、やっぱ他人と一緒だと疲れるなー……」

「我らの正体を知られる訳にはいきませんからねぇ」

 ぼふん、とベッドに寝転がりながらモモンが呻けば、アクトも隣のベッドに腰掛ける。

 肉体的な疲労は装備で防げているが、気疲れはする。──人化中は、ポーカーフェイスも精神抑制もない。うっかりすると感情がダダ漏れになってしまうため、余計に色々気を使った。

「……ナザリックに、連絡いれないと……」

「それならば、私がやっておきましょう」

「……んー……じゃあ、頼むわー……」

 言いながらも、モモンの瞼はうとうとと落ちてきて、だんだんと意識が微睡んでくる。

(──そういや、カルネ村では、パンドラと色々打ち合わせてて、結局徹夜だった……)

 睡眠不要の装備もしているし、アンデッドとして眠()ない生活に慣れ初めてしまっていて、徹夜に何の疑問も持たなかった。

(ああ……この感じも、久しぶり……)

 

 ──そうして、彼は、異世界に来てから初めての眠りへと落ちていった。




視点で区切るもんで、一話ごとの文字数がまちまちで申し訳ない。


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ヘロヘロ、思案する

【前回のあらすじ】
モモン「ご飯がおいしい! そして、おやすみなさい!」


「よかった、モモンガさん、眠れたんだな。……昨日徹夜したって聞いて、心配してたんだ」

 パンドラズ・アクターからの《伝言(メッセージ)》に、ヘロヘロは安堵の笑みを浮かべた。

『はい。それと、食に関しては、出された食事だけではなく、たまたま見かけた屋台の軽食を自ら望まれるなど、かなり楽しんでおられるようです。ヘロヘロ様のおっしゃっていた“無自覚ブラック状態”は脱されたかと』

「あー、よかった……あのまんまだとモモンガさん、自覚もないうちにストレスためこんで、おかしくなりかねなかったからね」

『ヘロヘロ様、父上のお心の健康を慮ってのご助言、本当にありがとうございました。私では、身体(うつわ)()()()()()()()()ことによるご負担など、想像もできませんでした』

「まあ、こればっかりは状況が特殊すぎて、未経験者に察しろっていう方が無茶だし……俺だって、【擬態】使って人化するまで無自覚だったくらいだからね」

 それから通常の報告事項を幾つか告げて、パンドラズ・アクターからの伝言(メッセージ)は終了した。

(──とりあえず、ヤバイ状態は抜けたみたいでよかった)

 ヘロヘロは、ふう、と大きく息をついて、机におかれた紅茶のカップを()()()()()()()()()()

「──うん、美味しい。ソリュシャンは、紅茶を淹れるのも上手だな」

「お口に合ったようで幸いですわ」

 ヘロヘロの()()()()()()を見て、ソリュシャンも笑みを返してくれる。

(やっぱ、飲食は人型の方がしやすいし、味もはっきりわかるな。……スライム形態だと、味覚も大ざっぱになってるのか)

 【擬態】のスキルを発動した状態のヘロヘロは、うっかり苦い気持ちのままに渋面を浮かべそうになるのを、ソリュシャンの手前、何とかこらえた。

(……ポーカーフェイスは、スライムの方が楽だけど……あちらの姿で過ごし続けるのは、リスクが高すぎる)

 ──ヘロヘロがそのリスクに気づけたのは、()()()()()()()()()()がきっかけだった。

 ナザリックの情報網に引っかかった、王国の開拓村を焼いて回る兵たちと、それと連動して動いているらしい別働隊。──もう一つ、別の武装集団も見つかったが、それは先の兵たちへの追っ手のようである。

 事情はよくわからないが、無力な村人が一方的に虐殺されているという事実に、ルイが恐怖と嫌悪感を見せたため、「これを放っておくのは、未成年(ルイ)の精神衛生上よくない」と、モモンガとヘロヘロは事態への介入を決めた。

 とりあえず、追っ手の一団は虐殺を止めようとしているようなので放っておくことにして、加害者側の二部隊をナザリックに魔法でご招待した。

 彼らは、何故かモモンガを「スルシャーナ様」と呼び、異様なほどこちらに協力的な姿勢を見せ──しかし、質問に答えていたニグンとかいう隊長は、途中で唐突に事切れた。

 それは、情報漏洩阻止のためにかけられていた呪いの効果だったようだが──ナザリック勢の蘇生魔法でもってあっさりと復活させられ、一度死んだことで呪いからも解放されたニグンは、実に様々な情報をナザリックにもたらしてくれた。

 その後、陽光聖典とかいうその一団は、そのままナザリックの傘下に下る事になったのだが──それはさておき。

 尋問会の解散後に自室に戻ったヘロヘロは、メイドが気を利かせて用意してくれたお茶を飲むために、【擬態】を使用した。スライム形態でも飲食は出来るが、人型の方がカップを持ちやすいからだ。

 

 その途端──ついさっきまでの自身の思考、その異様さを自覚して、愕然となったのだ。

 

 罪のない村人が虐殺されていることにも、目の前でニグンが死んだことにも、()()()()()()()()()()()

 彼らの死を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()自分に気がついて、ヘロヘロは凄まじい恐怖を覚えた。

 自身の異変の理由は、考えるまでもなくすぐに思い至った。──()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 ヘロヘロのアバター(からだ)は、ありとあらゆるものを捕食対象とする<古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)>だ。しかも、(カルマ)がマイナスに振り切っている。その価値観に準じてしまえば、何の思い入れもない異種族(にんげん)など、それこそそこらの羽虫と同等なのだ。

 そうと気づいて、次いでヘロヘロが抱いた恐怖は、『自身が知らぬ間に変異している』という生理的なものではなく、もっと具体的な被害を想定した恐れだった。

 このままでは、自分はいつか必ず、()()()()()()()()()()()()()()()()()()という、確信めいた恐れだ。

 ヘロヘロは、自身が一種嗜虐的な、他人の不幸を喜ぶような一面を有していると自覚している。──でなければ、他プレイヤーの高価な装備を溶かして悦ぶようなプレイングはしない。

 ただ、これまでは、その嗜虐性を仮想現実(ゲーム)内だけに留め、現実に持ち出さないだけの良識も、ちゃんと持ち合わせていた。

 だが、その良識は()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 このまま、(カルマ)極悪の捕食者になりきってしまえば、そんな人間としての感性など、きっと失われてしまう。

 歯止めを失った嗜虐性は、今の自分が大事にしているものにも向けられてしまうかもしれない──そう、恐れたのだ。

 それからヘロヘロは、戦闘力を必要としない(敵のいない)ナザリック内では、出来うる限り【擬態】を使用し続けることにした。──種族特性が無効になるということは、逆をいえば、種族特性の影響から逃れられるということだからだ。

 しかし、同様に(カルマ)極悪の異業種であるモモンガは、種族属性の影響から逃れる術を持っていない。

 なお悪いことに、モモンガは<死の支配者(オーバーロード)>というアンデッド──()()()()()()()()()()()()()()()()()存在である。

 種族的に、睡眠や飲食が不要を通り越して不能なことも拙い。──睡眠と食事は、生物の基本。その基本を奪われて、人間性をまともに保てるとは思えなかった。

 実際、これまでの彼の言動を省みるに、その特性は既に、彼本来の人格を蝕み始めている。

 どうにかしなければ、しかし、どうすれば──焦るヘロヘロの前に、その解決策は、あっさり空から降ってきた。

 ルイの【妖精の輪(チェンジ・リング)】と、【最も尊きもの】──これらによって、モモンガは人化が可能となり、種族特性からも解放されたのだ。

 代わりに、ルイが人化の手段を失ってしまうことになったが──彼女は、ヘロヘロやモモンガのように、人間性を欠落している様子がない。モモンガに貸し出す前に彼女自身も人化していたが、妖精形態と比べて言動が変わった様子もなかった。

 おそらくこれは、<小妖精(フェアリー)>の種族設定が幸いしている。

 まず、(カルマ)完全中立(±0)。飲食と睡眠も不要ではあるが、不能ではない。メイドたちから貰ったお菓子をかじったり、パンドラズ・アクターのポケットで居眠りしていることもあった。

 そして、フレーバーテキスト曰く【真の意味で自由な種族。生と死、善と悪、過去と未来、あらゆる事象を等価とする。その行動を決定づけるものは、興味を引かれるか否か、ただそれだけである】とある。

 生死や善悪に頓着しない、というのは危ういようにも聞こえるが、種族的な価値観が完全にフラットであるおかげで、ルイ生来の価値観と人間性が、そのまま変わらずに継続されているのだろう。

 そもそも、彼女がまともな人間の感性で()()()()()してくれたから、ヘロヘロたちはそれを看過せず──人としての一線を、越えずに済んだといえる。

(──というか、俺がここにいるのも、ルイさんのおかげのようなものだしな)

 ルイがモモンガと出会わず、ヘロヘロがあの日早々にログアウトしてしまっていたなら──きっと、モモンガは、一人でこの転移に巻き込まれていた。

 問題を察せる者(ヘロヘロ)も、問題の解決者(ルイ)もいない状態で──

(……うん、縁起でもないIF(もしも)はやめよう)

 ヘロヘロとルイは、モモンガと一緒にナザリックにいて、モモンガは人間らしく生を謳歌できている。

 ──それが、現状なのだから。

 

 




ルイ「(かじりかけのクッキーを抱えて)うぅ、美味しいけど食べきれないです……」
パンドラ「あ、じゃあ残りは私がいただきます」(ぱくっ)
モモンガ「!? パ、パンドラぁ!?」
パンドラ「? どうかいたしましたか?」
ルイ「?」(きょとん)
モモンガ「………………何でもない」
ナチュラルに間接キスして、それをお互いに意識もしてない

ヘロヘロ「あれ? ルイさんは?」
パンドラ(しーっ、というジェスチャー)
ルイ(パンドラのポケットから顔だけ出して、すやぁ)
ヘロヘロ(よくあの姿勢で眠れるなぁ……)

パンドラ「本当に、お願いしますよ?」
シズ(こくこく)
パンドラ「間違っても、握り潰さないで下さいよ!?」
シズ「そんな酷いこと、しない……」
パンドラ「……割としょっちゅう、エクレア殿のことを潰す勢いで抱きしめてますよね?」
シズ「それは……エクレアだから……」
エクレア「!?」
パンドラのおでかけ中は、シズがルイの警護担当(立候補)

圧倒的平和!!!


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ルイ、回顧する

【前回のあらすじ】
ヘロヘロ「気をつけないとメンタルが人間卒業しちゃう……」
(なお、肉体的には既に卒業してる模様)


「わあ、すごい! 葉っぱ、すごい増えてますね!」

「は、はい、が、頑張りましたっ」

 ナザリック地下第6層。その階層守護者の片割れであるマーレと、護衛担当である戦闘メイドのシズと一緒に、ルイはある植物を見に来ていた。

 楕円形の薄い葉を、青々と茂らせた灌木だ。

「あんな枝から、ここまで大きくするなんて、マーレくんはすごいですね!」

「そ、そんな……最初の枝を、【巻物(スクロール)】から()()してくれたのは、ルイさんじゃないですか。その方が、ずっと、すごいと思います」

「つまり、二人とも、すごい」

 シズに端的な言葉で褒められ、二人は揃って、照れたように笑う。

 一同がわいわいと眺める、この植物は何かといえば──端的に言えば、【巻物(スクロール)】の原材料の一つである。

 ナザリックの総力をあげた情報収集により、()()が《ユグドラシル》ともまた別の異世界であると判明してから、まず真っ先に懸念されたのが消耗品の補給である。

 【巻物(スクロール)】という、事前に魔法を込めておけるアイテムがある。それを消費することで、同系統の魔法詠唱者ならその魔法を覚えていなくても発動させられるという、便利なアイテムだ。

 羊皮紙にユグドラシル硬貨を溶かし、そこに描いた魔法陣へと魔法をこめることで作成するのだが──《こちら》で入手できる羊皮紙だと、《ユグドラシル》と同じ製法で作成しても、一位階魔法までしか込められないのだという。

 現地(こちら)の人の話では、《こちら》にも【巻物(スクロール)】はあるが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という認識であるらしい。

 一体何が違うのだろう、とルイは疑問に思い──《ユグドラシル》産と《こちら》産の【巻物(スクロール)】を一枚ずつ融通してもらい、()()してみる事にしたのだ。

 <小妖精(フェアリー)>の種族スキル、【妖精の悪戯(ノック・ノック・ノック)】。

 このスキルを発動した状態で3回触れた装備やアイテムは、原材料の状態にまで()()できるのだ。──一回使うと、10秒のクールタイムが発生するので、一つ分解するのに、30秒以上かかってしまうが。

 もたもたとスキルをかけた結果、《ユグドラシル》産は羊皮紙と硬貨とデータクリスタル、《こちら》産は羊皮紙とデータクリスタルに分解された。

 製法を考えれば、硬貨という違いが出るのは当然である。羊皮紙をそれぞれ鑑定して見るも、どちらも『羊の皮を加工したもの』としか出ない。

 ダメかぁ、と落胆しかけたルイの脳裏に、かつて祖父から聞いた豆知識がよぎった。

 ──曰く、『生物は、例え同じ種であっても、食性によって変化を得る場合がある』。

 もしかしてと思って、ルイは再びスキルを用い、()()()()()()()()()()()()()()()

 結果、《こちら》産は羊の生皮と一握りの草に、《ユグドラシル》産は羊の生皮と()()()()()に分解されたのだ。

 違いが出たことに大喜びして、その結果をモモンガたちに報告すれば、「大手柄ですよ、ルイさん!」と胴上げ(?)された。

 次いで、「こちらのスクロールからも、データクリスタルが抽出できるんですか!?」とパンドラズ・アクターが詰め寄ってきて、その迫力に、ルイは初めて彼をちょっと怖いと思った。──すぐ謝ってもらえたが。

 ルイが《ユグドラシル》産巻物から抽出した“枝”は森神官(ドルイド)であるマーレへと託され、彼はその“枝”を挿し木にし、見事根付かせることに成功した、という訳だ。

 この灌木を餌として育てた羊の皮が、【巻物(スクロール)】の材料に足り得るものとなれば、【巻物(スクロール)】の供給問題は一気に解決に向かうだろう。

(──お祖父ちゃんの話が、こんなところで役に立つとは思わなかったなぁ……)

 今は亡きルイの祖父は、実に博識な人だった。

 話好きな人でもあり、時間さえあればルイに様々なことを語り聞かせてくれたものだ。

 しかし、一方で、幼かった当時のルイには、全く理解できない趣向の持ち主でもあった。

 ──いわゆる怪奇譚の類を、こよなく愛していたのだ。

 口癖のように「恐ろしさの中には美しさが秘められている、突き抜けた美しさは畏れに繋がるのだから」と、ことあるごとに言っていた。

 愉快な話、ためになる話を語り聞かせてくれたと思ったら、不意をつくように()()()を織り交ぜてくる祖父に、どうしてこんな意地悪をするのかと、ルイは泣きながら抗議したものだ。

 ──今ならわかる。ただ、祖父は自分の好きなものを、ルイにも理解してほしかっただけなのだ。

 でも、ルイの中で、怪奇譚がただ()()()()でしかないうちに、祖父は逝ってしまった。

 それから、祖父の言葉の意味を、祖父が愛したものを理解できなかったというわだかまりは、ずっとルイの心の片隅に残っていた。

 中学に上がって、お化けを怖がるような時期を通り過ぎてからは、反動のようにその手の話を読みあさるようになった。

 けれど、怖くはないが、特に魅力も感じられない。──ルイ自身に自覚はなかったが、幼少期に不意打ちで怖い話を聞かされまくった経験で、怖い話限定で想像力をセーブする癖が身についてしまっていたのだ。

 その枷を吹っ飛ばしたのが──ナザリックの映像だった。

 【怪奇】などのワードで検索をかけていた時に、たまたま引っかかった動画。サムネイルに映った純白の氷世界が綺麗に見えて、再生ボタンを押して、

 

 ──()()だ、と天啓のように理解した。

 

 “恐ろしさの中の美しさ”というのは、こういうことなのだ、と。

 ダイレクトな視覚情報は、ルイが身につけてしまっていた癖をすっ飛ばして、()()を理解させた。

 祖父からの宿題がやっと解けたという嬉しさも相俟って、ルイは感動のまま、全く経験のないRPGへと飛び込んだ。

 ルイの望みは、()()()()()()()()()()()()()()()という、ただそれだけ。

 『敵とか全部避けたら早く着けるはず』という、ゲーム素人丸出しの思考結果、回避と隠密に優れた<悪戯妖精(ピクシー)>──妖精系統の初期種族をアバターに選んだ。

 回避特化のキャラなど、普通のゲーム初心者には無謀でしかなかったが、幸いなことにルイには天性のゲームセンスがあったらしい。

 というか、とにかく動体視力と反射神経がよかったようだ。

 ひたすら避けて逃げて、倒せそうだったら倒してレベルを上げて。ひたすらにナザリックがある場所を目指して──その途中で、何がフラグだったのか、レベル30で<フェアリー>への進化が可能になった。

 より回避と隠密に特化できるようだったので、ルイは迷わず種族を変更し──そうして、最終的にはソロでナザリックまでたどり着き、モモンガと出会った。

 

 ──そうして、彼と、彼の仲間と、彼の拠点と一緒に、今、異世界にいる。

 

 それによってルイは、幸福な未来が見えない、望まぬ結婚から救われたのだ。

 

(──お祖父ちゃんが、助けてくれたのかも)

 ルイには、そんな風にさえ思える。

(……いっぱい、おみやげ話を集めよう。いつか、お祖父ちゃんに逢うまでに)

 ──異世界の話なんてしたら、「羨ましい!」と言われてしまうかもしれないけど。

 そんな風に思って、ルイはくすりと笑った。

 

 ――<フェアリー>が種族的に不老であり、寿命という概念がないことにルイが気づくのは、だいぶ先の話。

 




“同じ生き物なのに性能が違う”っていう理由で、真っ先に思ったのが「食べ物の差じゃね?」でした。
有毒のフグも無毒の餌を与えて育てれば無毒になるし、餌にしているものの差で色の変わるエビもいるし。
そんな妄想。
この植物の特性は、消化の関係で“草食動物”にしか効果を及ぼさないので、デミウルゴス牧場ルートは回避されました。たぶん。

あと、私には“羊皮紙”を“ようしひ”と打ち間違える悪癖があるようです。
何でや。なんで何回やっても学習せんのや。

<おまけ>
妖精の悪戯(ノック・ノック・ノック)
(フレーバーテキスト:あらゆるモノのカタチを、過去まで巻き戻すスキル)
効果条件:スキルを発動した状態で、対象の装備・アイテムに3回接触する。
(ただし、1回接触すると一旦スキルの発動が切れ、10秒のクールタイムが発生するので、連続3タッチは不可能である)
・ユグドラシル時代の効果
装備・アイテムを、原材料の状態に分解する。
分解した装備・アイテムに魔法や特殊能力が込められていた場合、その効果はデータクリスタルとして抽出される。
・転移世界での効果
ユグドラシル時代同様の効果の他に、フレーバーテキスト通り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことも可能になった。
(作中でルイが羊皮紙を皮と餌の植物に分離したのは、こっちの効果。ルイが“餌”を強く意識していたからできたことでもある)


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パンドラ、戦慄する

眼球疲労をなめてはいけない……(頭痛だけでなく、刺激で胃が痙攣するレベルまで悪化して、食事どころか水分も薬も受け付けない状態に陥ったアホからの戒め)
ブルーライトカットは、眼球疲労を軽減するだけで無効化する訳じゃない……限界までのタイムリミットを引き延ばすだけなんじゃ……

【前回のあらすじ】
ルイ「お祖父ちゃんの知恵袋で、【巻物】問題解決!」


「──野盗のアジトの捜索?」

 誘われた仕事の内容に、(モモン)が首を傾げる。

「はい。どうも、街道を行く馬車などが、何度か被害に遭っているようで……」

 ペテル──“漆黒の剣”という冒険者チームのリーダーは頷いた。

「なるほど、モンスターだけでなく、人間を相手にするような依頼もあるんですね」

「人を食い物にするような連中なんて、モンスターと変わりませんよ。……そう、あの貴族(ブタ)どもだって……」

「やべぇ、いつものアレが始まった」

「ニニャ、落ち着くのである!」

 ──エ・ランテルに来てから数日。モモンとアクトは地道に冒険者として活動し、それなりの人脈を築きつつある。

 ついた翌日、開拓村襲撃犯を護送するため都市を発ったガゼフには、「是非、共に王都へ」と誘われていたのだが、モモンの体調を理由に同行を断り、エ・ランテルに残った。

 実際の理由は、これ以上ガゼフと行動を共にすると、国家がらみの要らない(しがらみ)に巻き込まれる予感がしたからだ。ガゼフ自身は気のいい好漢でも、王国戦士長という微妙な立場は無視できない。

 いつか王都へ向かった際には頼りにさせて貰うが、現時点では一旦距離をおこう、という結論になった訳である。

 エ・ランテルに残った父子は、その翌日から冒険者として活動することにした。

 冒険者組合は、情報が集まってくる場所でもある。情報収集活動にはうってつけだったのだ。

 その活動の中で懇意になったのが、“漆黒の剣”というチームである。

 リーダーで剣士のペテル、レンジャーで弓使いのルクルット、森祭司(ドルイド)でメイス使いのダイン、“タレント”持ち魔法詠唱者のニニャ。

 彼らはまだ未熟な面はあるが、連携力のあるチームであり、人となりも申し分なかった。

 冒険者は仕事柄癖の強い人間が多いようで、彼らのようなチームと人脈をもてたのは、それだけで一つの収穫といえる。

 そして、それ以上に、ニニャの【魔法特性】という“タレント”は興味深かった。魔法の習熟を早める能力らしく、常人なら4年かかるところが2年ですむ、という具合らしい。

 “タレント”──《ユグドラシル》にはなかった《こちら》特有のそれは、つまりは生まれ持っての特殊能力であるらしい。

 この都市一の薬師の孫であるンフィーリア少年は、【あらゆるマジックアイテムを使用可能】という破格の“タレント”を有しているという。

 一度その薬師の店に行ったのだが、薬草採取の関係でカルネ村と懇意らしく、こちらへの好感度は初期からマックスだった。うまくして身内へと取り込めないか、目下画策中である。

 他にも、《こちら》特有の特殊能力に、戦士系統が修得する“武技”というものもあるようで、新たな未知に父はたいそう心躍らせている様子である。

 パンドラズ・アクター自身も、デミウルゴス主導で捕らえた邪教集団が未知のマジックアイテムを有していたと聞いて、ついついはしゃいでしまったので、気持ちはよくわかる。

(……今度の仕事でも、何か新しい発見があればよいのですが)

 父と共に、アクトとして“漆黒の剣”たちの話を聞きながら、そんな期待を抱く。

 ナザリックから出るのが難しいルイへの土産になるような何かなら、なおいい──そんな風に思う自分を自覚して、少し愉快に思った。

(父上以外の存在に、ここまで気を傾けるようになるとは……我ながら、変われば変わるものですね)

 まあ、その父によって“自身の妻”と定められたからと言えば、それだけとも言えるが──ルイの存在そのものが、いっそ驚くほどパンドラズ・アクターにとって好ましいのも、事実なのだ。

 素直で聞き上手な性格、真っ直ぐに父を慕う様、自身へと向けられる純粋な信頼、稀有で有益な能力の方向性──嫌悪する要素が一切ない。

(彼女を選んだ父上の目に狂いはなかった、ということなんでしょうね)

 ──まあ、結局、そういう結論に着地するあたり、父至上主義にかわりはないのだが。

 

 

 その晩、幾つかの冒険者チーム合同の探索により、野盗──“死を撒く剣団”の塒は発見された。

 エ・ランテルから徒歩で3時間ほどの場所にある洞窟である。

 相手の規模が不明ということで、まず小数でちょっかいをかけ、別働隊が用意した罠まで誘き出すという作戦になったのだが──

「……本当に大丈夫ですか、お二人とも」

「やっぱり、ボクたちも一緒に……」

「だ、大丈夫です。無理はしませんから」

 ──その突入班に、モモンとアクトの二人が選ばれたのである。

 メンバーの中で最も新人で、ランクの低い二人が、一番危険な役に選抜されたのは──指揮をとる冒険者曰く、「戦士長ご推薦ともなれば、これくらい余裕だろう?」とのこと。

 実力を評価してというより、やっかみが理由のようだが──むしろ、願ったり叶ったりである。

 侮りではなく、純粋な心配からついて来ようとする“漆黒の剣”の面々を何とか説得して、二人だけで行動を開始した。

「相手の実力が不明だし、せっかく仲良くなった“漆黒の剣”に何かあったら嫌だしな。俺らだけで、ぱぱっと片づけちゃおう」

「そうですね。……今回は人間の犯罪者相手ですが、殲滅でなく、生かして無力化の方向がよろしいでしょうか?」

「う~ん、そうだな……そうしとくか。タレント持ちや、武技持ちがいたら、うっかり逃がしたことにして()()()()たい」

「了解しました。──では、たっち・みー様の外装を使用させていただいても?」

「ああ、許可する」

 許可を受け、パンドラズ・アクターは全身鎧の中で、アクトから最強の剣士(たっち・みー)へと変身した。──この外装は()()()の性格によるものか、ガチな性能の割に、非殺での無力化を可能とするスキルも持ち合わせている。

「何か面白いアイテムでもあればいいのですが……そっちは望み薄ですかねぇ」

「はは、案外、珍しいお宝を貯め込んでるかもしれないぞ」

 そんな暢気な会話をしつつ、無造作にアジトへと向かっていく。

 洞窟の入り口で見張りをしていた数人の男たちは、あまりに無防備によってくる二人組の姿に、脳が一瞬理解を拒んだのか、見事な二度見を披露してくれた。

「──なっ……なんだ、てめぇら!?」

「襲撃者さ」

 裏返った誰何の声に、短くそう答え──父はモモンの姿のまま、種族スキルを発動させた。

 【絶望のオーラⅠ】──相手に“恐怖”のバッドステータスを与え、行動を阻害するスキルだ。

 それを受け、びくんっ、と身体を跳ねさせた男たちは、そのままその場でひっくり返った。

「──あれっ!? 死んだ!?」

「……いえ、生きてます、気絶しただけのようです」

 白目をむいて泡も吹いているが、確かめてみれば、息はしてるし心臓も動いている。

「えぇー……? ちょっと怯ますくらいのつもりだったんだけど……まあ、結果オーライだし、いいか」

 想定していた以上の効果だったようだが、父はすぐに気を取り直したらしい。

「弱い奴は【絶望のオーラⅠ(これ)】だけで無力化できるみたいだし、このまま行こう」

「気絶しないのは、()()()()候補ですかね」

 そうして、二人は無遠慮にアジトの中へと足を進め──

「……気絶しなかったのは、一人だけかー」

「《こちら》にも刀があるんですねぇ! 私としては、これだけでも結構な収穫です」

 たった一人の男を除き、【絶望のオーラⅠ】だけで片づいてしまった。

 その唯一の例外は、がくがくと全身を震わせながらも、刀の柄に手をかけ、必死の形相でこちらを睨んでいる。

「──なっ、何なんだ……お前らっ……!?」

「冒険者だよ。この通り、“(カッパー)”の、な」

「お前らみたいな“(カッパー)”がいてたまるかぁっ!」

 胸の冒険者プレートを指して答えた父に、男は渾身のツッコミを叫んだ。

「まあ、実力と釣り合ってないのは自覚してますがね。でも、登録したてなら、誰だって最低ランクでしょう?」

「……そんなになるまで、一体どこで何してたっつーんだよ……」

 蒼褪めて脂汗を垂らしながらも、いちいちこちらの言葉に反応してくるあたり、なかなか見所があるかもしれない。

「ああ、名乗るのが遅れました。私は遠方より参りました、剣士のアクトと申します。こちらは、我が敬愛する父上──」

「──魔法詠唱者のモモンだ。……お前の名は?」

「……聞いて、どうする」

「いや、何ならスカウトしようかと」

「──は?」

 男の顔から、ぽかんと表情が消えた。

「……何のために? ……俺なんざ、あんたらからしたら、雑魚もいいとこだろうがよ」

「“武技”が使えるなら、こいつに教えて欲しい」

「──見るからにヤベェ剣客のくせに、お前“武技”持ちじゃねぇのかよ!?」

「我らの地元に、“武技”という技術はなかったんですよ」

「…………なるほど……そりゃあ、随分な遠方だ……」

 何がおかしいのか、くくく、と喉の奥で笑う。──その表情からは、恐怖は消えていた。

 スカウトを言い出した時点で、父は【絶望のオーラⅠ】を切っていたようだが、それでも随分立ち直りが早い。──やはり、なかなか見込みがある。

「それで? それを受けたなら、どんな報酬がもらえるんだ?」

「──まずは、お前の命の保証を。そして、優れた武具と、更なる高みに至るチャンスも、くれてやろう」

 途端、男の目の色が変わった。

「……俺も、強くなれるのか……? そこの剣士みたいに?」

「ここまでは……難しいかもしれんが、まあ、お前の努力次第か。……ただし、裏切った場合は、死が救いとなるような、悍ましい地獄をくれてやることになる」

「──ははははは! 問題ねぇよ! あんたたちが何者だろうと、今より強くなれるってんなら、俺は絶対にあんたたちを裏切らねぇ!」

 そう、高らかに大笑して──一転して真顔になり、名乗りを上げた。

「──ブレイン・アングラウスだ。よろしく頼むぜ、新しい主殿」

「……契約成立だな。では、さっそく──」

 父は、ブレインの返答に満足げな笑みを浮かべ──不意に眉を寄せて額へと指を添える。

「……なんだ?」

「《伝言(メッセージ)》のようですね」

「ああ、魔法か」

 不思議そうな顔をする男に短く答えてやれば、納得の表情で頷いた。

「──何だって!?」

 と、小声でやりとりしていた父が、唐突に声を荒げる。

 こわばった表情でこちらに向き直った父は、硬い声で告げた。

「パンドラ、《転移門(ゲート)》を繋ぐから、お前はそいつと先にナザリックへ戻れ。私も、ここを片づけたらすぐに戻る」

「──何事ですか?」

 只ならぬ父の様子に嫌な予感がして思わず問えば、一瞬の間の後に、その答えは与えられた。

 

「──ルイさんが、意識不明だ」

 

 




急展開じゃないよ。ちゃんとフラグは立ててた(つもり)。

モモン「一人だけ妙に強いのがいて、アクトは逃げたそいつを追って行ってしまった……」
ペテル「な、なんですって! 大変だ! 後のことは任せて、モモンさんはアクトさんを探しに行って下さい!」
モモン「ありがとう!」
ブレイン、いいように言い訳に利用される。


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