フェアリー・エフェクト(完結) (ヒョロヒョロ)
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黒スライム、脱社畜する

題でネタバレてくスタイル。


 盛者必衰。諸行無常。

 一時は一世を風靡した『ユグドラシル』というゲームも、今日をもって終わる。

 

 ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の拠点、ナザリック地下大墳墓。その最深層にある玉座の間に、ずらりと並ぶシモベ達。

 諸事情で持ち場から動かすのが難しい一部を除いて、ギルドメンバーが作成したNPC達が勢ぞろいしているその様に、ヘロヘロは筆舌しがたい情感に身を震わせた。

「──ああ……お前達も……」

 戦闘メイドだけでなく、自身が作成した一般メイド達もその列に加わっているのを見て、ヘロヘロは静かに目を伏せる。

(──ここまで来て、良かった)

 本当は、メールをくれたギルド長のモモンガに挨拶だけして、すぐログアウトするつもりだった。──今日も仕事でへとへとだし、明日も朝早くから仕事だから。

 きっと、いたのがモモンガだけだったら、その通りになっていた。気遣いの人であるギルド長は、こちらを無理に引き留めはしなかっただろうから。

 ──だが、その場にいたもう一人の存在が、ヘロヘロがログアウトするタイミングを奪った。

「うわぁ! すごい! 壮観ですね~!」

 若々しい少女の声で歓声を上げながら、整列するNPCの間をひゅんひゅん飛び回る小さい人影──透明な翅を持つ、手のひらサイズの小人。

 彼女の名は、ルイ。種族は<フェアリー>という、妖精系統のレアらしい。

 ルイは、モモンガによって同盟者として登録され、同陣営扱いにはなっているが、『アインズ・ウール・ゴウン』のギルドメンバーではない。『アインズ・ウール・ゴウン』の加入条件を、彼女は満たしていないからだ。

 ──『ユグドラシル』のサービス終了が発表された、まさにその日、モモンガはルイと出会ったらしい。

 ルイは、とある動画でナザリックに魅せられ、アカウントの新規登録ができなくなる寸前に『ユグドラシル』を始めたという新人だった。

 サービス終了の報せに焦った彼女は、推奨レベルにまるで届いていないにも関わらず、ナザリックへ特攻したらしい。

 『ユグドラシル』終了の報せに落ち込んでいたモモンガは、低レベルのソロでナザリックに特攻してきた、見覚えのない種族に気を惹かれたらしい。

 思わず、撃退ではなく、対話を選び──ルイのナザリック賛美に絆されてしまったのだという。

 「なくなってしまう前に、一緒に創った仲間以外の誰かに、ナザリックを自慢したかったんです」──そう、モモンガは言った。その気持ちは、ヘロヘロにもわかる。

 その相手として、ルイは完璧だった。どこまでも純粋に、ナザリックと『アインズ・ウール・ゴウン』に憧れる彼女は。

 けれど、彼女は、モモンガの好意を理由にナザリックを見せてもらうことへ、抵抗を示したらしい。

 曰く、「関係者でもないのに、たまたま終わり間際に来たと言うだけでただで見せてもらうのは、『アインズ・ウール・ゴウン』の皆さんにも、かつて突入して返り討ちになったプレイヤーさん方にも、失礼な気がします」と。

 そうして、玉砕覚悟で自力でナザリックを巡ろうとするルイ。そこまでのリスペクト精神がある彼女だからこそ、ナザリックを案内してあげたいモモンガ。二人の話し合いはすったもんだの末に、妙な所に着地した。

 

 ──関係者でない(たにんである)ことに気後れするなら、関係者にしてしまえ(たにんでなくなれ)ばいい。

 

 結果として、ルイは、モモンガのNPC(むすこ)に嫁入りした。

 

 どうしてそうなった!? と聞いたヘロヘロは思ったし、実際そう叫んだ。モモンガ曰く「話の中で、ルイさんがシャルティアを“爆撃王さんの嫁”って言ったの聞いて、これだ!って思って……」とのこと。

 『ユグドラシル』に婚姻システムはないが、NPC相手の婚姻なら、NPCの設定文に『誰それと夫婦である』とでも書き込めばそれで済む。

 「これでルイさんもナザリックの関係者です!」というモモンガの理屈に納得した──というより、有料ガチャで当てたレアアイテムを“嫁入り道具”としてナザリックに納めることで、ルイも折り合いをつけたらしい。

 昨日まではモモンガのガイドでナザリック内を見学しまくり、最終日の今日はログインしてくるギルメンに『ギルド長の息子の嫁』として挨拶していた、という訳らしい。

 23時間過ぎに眠気マックスでログインしたヘロヘロは、モモンガに「うちの嫁になったルイさんです」とルイを紹介され、意味を勘違いして眠気を吹っ飛ばすほど驚いた。

 ──“息子の妻”を“うちの嫁”と呼ぶのは正しいはずなのだが、“俺の嫁”という言い回しのせいで混乱してしまったのだ。おのれ、ペロロンチーノ。

 諸々の事情を聞いて誤解も解け、そろそろログアウトしようヘロヘロが思ったその時、「玉座の間にNPCを集めてあるので、行きませんか?」とルイが言い出したものだから、完全にタイミングを逃した。

 遠慮がちにこちらの反応を伺っているモモンガの様子に気づいてしまえば、ヘロヘロにNOという選択肢はなかった。

 そうして、流されるようにここまで来て──忙しさにかまけて置き去ったものの価値を、思い出したのだ。

「……ソリュシャン……」

 特に力を入れて創った戦闘メイドの前で、彼女の名を呼ぶ。

 AIに従って一礼するその仕草すら、懐かしくて愛おしい。

(──モモンガさんに、お礼を言わなきゃ)

 ずっと、彼が一人でナザリックを維持してくれていたから、ヘロヘロは彼女たちともう一度会うことが出来たのだ。

 そう思って、モモンガの姿を探せば、

「──うわっ……」

 彼は玉座の側に控える女性NPCの設定を開いて、何とも言えない声で呻いている。

「……どうしたんです?」

「いや、ヘロヘロさん。見て下さいよ、これ」

 歩み寄って、言われるままにコンソールをのぞき込み、ヘロヘロも呻いた。

「……これは酷い」

 まず字数制限限界まで書き込まれた設定の長さがヤバいし、最後の一文が強烈すぎる。──『ちなみにビッチである。』とは。

「……アルベド、ですか。誰のNPCでしたっけ?」

「……タブラさんです」

 モモンガの答えに、ヘロヘロは深く納得した。

(設定厨で、ギャップ萌え……その結果がこれかぁ……)

 しかし、この設定をこのままにしておくのはいかがなものか。

「……これ、変えません? 新婚もいるのに、まずいでしょ、これは」

「確かに……よそのNPCいじるのは気後れしますけど……女性に、これはちょっと酷いですし……」

 コンソールをいじって、モモンガが最後の11文字を消去する。

「……なんか、せっかくめいっぱいまで書き込まれてたのに、もったいない気もしますね」

「代わりに何か書き込みます?」

 モモンガの問いに、ヘロヘロの脳裏で閃くものがあった。手を伸ばして、すすすっと手早く書き込む。

『モモンガの正后である。』

 文字列を見たモモンガが、裏がえった声を上げる。

「ちょっ!? ヘロヘロさん!?」

「いいじゃないですか。お似合いですよ、魔王とその后って感じで!」

「えぇ……?」

「息子さんが嫁もらったのに、お父さんが独身じゃ格好つかないでしょう?」

「けど……」

「──何してるんです~?」

 NPCの間を縦横無尽に飛び回っていたルイが、ごそごそやってるのに気づいたらしく寄ってきた。

「今、このアルベドが、モモンガさんと結婚したところです」

「ちょっ!?」

「わあ、おめでとうございます! ──あ、じゃあ、私にとってはお義母(かあ)様になるんですね!」

 綺麗なお義母様で嬉しいです! と、はしゃぐルイに、モモンガも観念したらしい。設定をそのままに、コンソールを閉じた。

「ふふ、観念しましたか」

「まあ、もう、あと十分もないですから……」

「あ、最後に記念写真(スクショ)撮りたいです!」

 ルイの提案に、ヘロヘロもモモンガも賛同した。

「じゃあ、モモンガさんは玉座に」

「いいんですか?」

「逆に、ギルド長の他に座る資格のある人はいないでしょう。ほらほら!」

「じゃあ、ヘロヘロさんは玉座の横に並ぶ感じで……」

「私は撮影に専念しますね~!」

「いや、ルイさんも一緒に写りましょうよ!」

「だって、序列的にどの辺に並べばいいのか、よくわかんないです!」

「え~っと……名前出てこないんですけど、モモンガさんの息子(NPC)って、アルベドの反対側にいる軍服のやつですよね?」

「あ、パンドラです、パンドラズ・アクター」

「パンドラの肩にルイさんが留まる感じにしたら、いい感じじゃないですか?」

「……下手に接触すると18禁に抵触しません?」

「ああ……腰掛ける(尻をおく)のは、アウトかも……?」

「なら、立った状態で!」

「……この絵面、なんか、見たことあるような」

「……巨大ロボの肩に立つパイロットみたいですね」

「それだ!」

 わちゃわちゃと撮影会をしている間にも、カウントダウンは進んでいく。

 いよいよ時間が差し迫ってくると、誰からともなく黙り込み、しみじみとした空気が漂い始めた。

「……楽しかったなぁ……」

 玉座についたままのモモンガが呟き、飾られたギルドメンバーの旗を指さした。

 ルイに解説しているのか、それとも述懐しているだけなのか、ギルドメンバーの名前を呼び上げていく。

「──そして、俺」

 最後に自分の旗を示してそう言ったきり、口を閉ざしたモモンガに代わって、ヘロヘロは口を開いた。

「──楽しかったですね」

 先ほどのモモンガの呟きの繰り返し。──けれど、その言葉には、我ながら万感の思いが込められていた。

「えぇ、本当に……」

 モモンガが頷く。──と、そこで、ヘロヘロは礼を言いそびれていたことに気がついた。

「モモンガさん、長らくナザリックを守ってくれて、本当にありがとうございました」

「いえ、私はギルド長として、当然のことをしたまでですから」

 モモンガはこともなげに言うが、ここまでできる人は希有だろう。

「それでも、今日、最後にこうやって過ごせたのは、モモンガさんのおかげですから。──ありがとうございます」

「……はい」

 照れたような声音で礼を受け入れたモモンガに、ヘロヘロは笑う。

 そうして、その息子(NPC)の肩に立つルイへ、声をかけた。

「──ルイさんも、ありがとうございます」

「ひゃい!? え、何がです!?」

「あなたがいてくれなかったら、きっと早々にログアウトしてしまっていたと思うんです。ログインするまで、眠気マックスだったんで。──あなたの存在にびっくりして、眠気吹っ飛びましたけど」

「そ、それは良かったです……? え、よかったの……?」

「ええ、良かったんです。──だから、ありがとうございました」

「そ、そうですか……?」

 困惑しきりのルイ。ひょこひょこ揺れるアバターの様子が可愛くもおかしくて、ヘロヘロは笑う。

 

 ──カウントダウンは、10秒を切った。 

 

「──最後は、びしっと締めますか」

「ですね。──ルイさん、次の私の言葉、繰り返して下さい」

「はい!」

 一拍おいて、モモンガが声を張り上げた。

「──アインズ・ウール・ゴウンに、栄光あれ!」

「アインズ・ウール・ゴウンに、栄光あれ!」

 ヘロヘロとルイの声は、綺麗に唱和し──

 

「──アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!!」

 

 地をどよもすような大唱和がその後に続いて、ヘロヘロ達は飛び上がったのだった。

 

 




ナザリック1500人迎撃動画より抜粋
「よくも、シャルティアを……俺の嫁をぉぉおおおおっ!」
(第1~3階層の守護者撃破後、某爆撃王の絶叫)


【嫁】って言葉で辞書引くと、『息子の妻』って意味と『新婚の女性(花嫁)』って意味の二つが出てくる。
つまり、“俺の嫁”は“俺の花嫁”の略なのでしょうか。改めて考えると、結構紛らわしい言い回しですね、これ。




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二重の影、思考する

【前回のあらすじ】
ヘロヘロ「お似合いだし、モモンガさんの后にしよう」
ルイ「わーい、綺麗なお義母様だ!」
モモンガ(押し負けて設定を確定する)
アルベド(よっしゃぁああああああ!!)



「──アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!!」

 

 思わず、至高の御方々に続いて声を張り上げ──()()()()()()()()()()()という事実に、パンドラズ・アクターは愕然とした。

 

 ──自分たちNPCは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 何故、と沸き上がった疑念は、自身の肩口から聞こえた小さな悲鳴によって、すぐさま脇に追いやられた。

「──ルイ殿!」

 予期せぬ声に驚いてか、自身の肩から転げ落ちかけた小妖精を、慌てて手のひらで受け止める。

「お怪我は!?」

「──え、……え?」

 問いかけるも、彼女はひたすら目を白黒させていて、答えられそうもない。

 手のひらの上でへたり込んではいるが、怪我を負った様子はない彼女に、とりあえずは安堵して──脇に置いた疑問が戻ってきた。

(……おかしい)

 ──()()()()()()()()()()()という、これまでどれだけ望んでも不可能だったことが、できている。

「──どういうことだ!?」

 パンドラズ・アクターの疑念に同調するようなタイミングで、モモンガが荒い声を上げた。

「──父上、いえ、モモンガ様……一体、何が起きているのです?」

 咄嗟に口をついて出たのは、己の創造主へ縋るような問い。

 問いかけられたモモンガは、愕然とした様子でこちらへと視線をよこし、

「……GMコールがきかない、強制ログアウトもできない」

「──それは、《リアル》に関連するお言葉でしょうか?」

 知らない単語に、それでも推測を巡らせてそう問えば、モモンガは驚いたようだった。

「……お前、《リアル》についての知識があるのか!?」

「いえ、《リアル》自体については全くの無知です。ただ、モモンガ様のお言葉や、その振る舞いを繋ぎ合わせるに、《ユグドラシル》の外、至高の御方々が本来属する上位世界なのではないか、と推察しております」

「──すごい、だいたい合ってる」

「ルイさん!」

 ルイがポカンとした声を漏らし、それにモモンガが焦った声を上げた。

 ルイは慌てたように自身の口を両手で押さえているが、つまり、この推測は()()()()()()()()訳だ。

 モモンガが、観念したように大きく息をはく。

「──《リアル》と《ユグドラシル》の関係については、お前の解釈でほぼ間違いない。……現状、私達は《リアル》に戻る術を失っている」

「──なんと!?」

 ざっ、と血の気が引くような恐怖に襲われた。

「《ユグドラシル》は今宵()()()のでしょう!? このままでは父上たちまで、その滅びに巻き込まれ──」

「──その時はもう、過ぎた」

 恐慌に陥りかけた頭を冷やしたのは、静かなモモンガの言葉。

「本当なら、その瞬間、私達は強制的に《リアル》へ引き戻されるはずだったのだ。──しかし、現状、ナザリックは変わらず在り続け、《ユグドラシル》から弾かれるはずだった私達は、逆に《リアル》から閉め出される形になっている」

 ──何にせよ、異常事態なのは間違いない、ということか。

「……っていうか、ここ、《ユグドラシル》なんですかね?」

 それまで黙っていたヘロヘロが、ぽつりと呟いた。

「と、おっしゃいますと?」

「えぇっと、皆がどうかはわからないけど……少なくとも私は、身体の感覚がおかしい。──調子が悪い、とかではなくて、逆にすごく感覚が鮮明というか……」

 パンドラズ・アクターの問いに、ヘロヘロは言葉を吟味するような調子で答えを紡ぐ。

「さっき《リアル》と《ユグドラシル》の話が出たけど、私達にとって《ユグドラシル》でのこのアバター(からだ)は、仮初めの器で……感覚も制限されてるし、思うように動かせないところもあった」

 なのに、と呟きながら、全身をぐにぐにと蠢かせて、

「──着ぐるみ越しみたいなもどかしさがさっぱり消えて、完全に自分の身体として馴染んでる……《ユグドラシル》ではあり得なかったことだ」

「……なるほど。そう言われてみれば、私の身にも、《ユグドラシル》ではあり得なかった変化が起きております」

「──何? どこか不調でもあるのか!?」

 父の案じる声を、不謹慎にも嬉しいと感じてしまいつつ、パンドラズ・アクターは答えた。

「いいえ、不調はございません。ですが──私は今、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ──ずっと、ずっと、願い続けて叶わなかったこと。

(寂しげな父上に声をかけることすらできない己の喉を、これまで何度呪ったか)

 ──それが、今、恐ろしく容易く叶えられている。

「ここが《ユグドラシル》とは異なる法則で成り立つ場所である、という仮定は、一考の余地があるかと」

 その言葉に、父はしばし考え込むように沈黙し──

「──この場にいる皆に問いたい」

 これまで息を飲むようにして、主達とパンドラズ・アクターの問答を聞いていたシモベ達がざわめき、

「──なんなりと」

 守護者統括──そして、モモンガの正后ともなったアルベドが、代表するように答えた。

「今のやりとりを聞いて、皆も察しただろう。──今宵、《ユグドラシル》は滅びる運命にあり、本来はナザリックも共に消滅するはずだった。……私達は、それを阻止する術すら持たぬ、不甲斐ない主であったのだ」

「──っ……!」

 口を開きかけたアルベドを、モモンガはただ手をかざすことで押しとどめた。

「その上で、問いたい。──そんな不甲斐ない私達を、それでも主と思ってくれるか。変わらず、私達に仕えてくれるか」

 応えは、広間中から返ってきた。

「──仕えます!」

 それにモモンガは鷹揚な仕草で頷き、

「では、命じる。──ナザリックの総力を持って、この異変の調査に当たれ!」

「──はっ!」

 シモベたちの大音声が、玉座の間に響き──

 

 ──そうして、ナザリックが動き出した。

 

 




モモンガ(結婚設定書き込むついでに、他もちょっと修正しとこう)
『時折、道化めいたオーバーリアクションを見せたり、ドイツ語を話したりするが、基本的には空気の読める紳士。モモンガの息子であり、ルイの夫である。』
(知恵者設定や、アイテムフェチ関連はそのまま)

設定上で息子認定されて、パンドラ大歓喜。
故に、きっかけとなった妻への感情もすこぶる良好な模様。


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骸骨魔王、心配する

【前回のあらすじ】
パンドラ「しゃべれる! 動ける!」
ルイ「パンドラさんの推理力がすごい」
ヘロヘロ「やばい、ユグドラシルですらないかも」
モモンガ「皆、変わらず仕えてくれる?」
NPC一同「もちろんです!!!


(──とりあえず、NPCは従ってくれるみたいで、よかった)

 まずはナザリック内に異変がないか調べるため、それぞれの持ち場へと戻っていくシモベ達を見送って、モモンガはこっそりと安堵の息を吐いた。

 この人数比で謀反など起こされたら、100レベル(カンスト)のモモンガやヘロヘロはともかく、50レベルちょっとのルイは、確実に生き残れなかっただろう。

 しかし、懸念は杞憂で終わり、NPCたちは忠誠心の塊のようだった。──いっそ質量さえ感じる敬意のこもった眼差しと声は、演技でどうこうできる域を越えている。

(逆に忠義が重い気もするけど……いや、逆らわれるよりずっといいはずだ、きっと)

 そう、モモンガは自分に言い聞かせる。

 残ったのは、モモンガ達プレイヤー三人、玉座の間(この場)が持ち場のアルベド、守護領域である宝物殿への移動手段を持たないパンドラズ・アクター。

 モモンガは、まずはパンドラズ・アクターを宝物殿に送ってやらねば、いや、いっそ移動手段である【リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン】を渡しておくか、などと思考を巡らせ──

「……これからどうしましょう、モモンガさん。現状調査はNPC達に任せればいいにしても、リアルへの帰還方法は、おそらく私達自身でないとどうにもなりませんよね?」

 そのヘロヘロの言葉に虚を突かれ──()()()()()()という発想がなかったことを自覚して、愕然とした。

(──バカか、俺は)

 自分はいい。もはや家族もなく、リアルに未練もない。

 しかし、仕事に情熱を注いでいたヘロヘロは?

 何より──確実に未成年であるルイを、親元に帰さない訳には行かないだろう。

 しかし、そう思った矢先に、当のルイが悲鳴のような声で叫んだ。

「──帰りたくないです!!!」

 彼女のこんなせっぱ詰まった声を聞くのは初めてで、モモンガはぎょっとする。

「ル、ルイさん?」

「……何か、事情が?」

 ヘロヘロの問いに、ルイは一瞬、自身を手のひらに乗せたパンドラズ・アクターの顔を見て、次にモモンガを見てから、言いにくそうにそろそろと口を開いた。

「……来月、16歳になったら、結婚させられる予定だったんです……」

 ──ツッコミどころが満載過ぎる発言に、モモンガとヘロヘロは思わず固まった。

「──()()()()()ということは、貴女自身が望んでの婚姻ではないのね?」

 固まった男共の代わりというように、この場にいる唯一の同性であるアルベドが問いかければ、ルイは小さく頷く。

「父が、会社を傾けてしまって……援助を受けるための縁づけらしいんです。……これまで不自由なく育ててもらったんですから、わがままを言える立場でないのはわかってるんですけど……」

 そこでもこらえきれないというような様子で、ルイは両手で顔を覆い、

「……でも、やっぱり無理です~! 私より年上の娘さんが二人もいるお家に後妻として入るなんて、修羅場の予感しかないじゃないですかぁ~っ!」

「──はぁっ!?」

 ひっくり返った声が、モモンガの喉から飛び出した。

 驚きの余りにか、縦にみょいんと伸び上がったヘロヘロが、

「ちょっと待って! それだと相手、ルイさんの親より年上なんじゃないの!?」

「……はい」

 ルイに肯定され、モモンガもヘロヘロも、かけるべき言葉を失う。

(……ようは、親より年上のおっさんと政略結婚させられる直前だったわけだ……)

 全力で帰還を拒むのも、当然と言える。

「──ルイ殿」

 皆が黙り込んでしまった気まずい沈黙を、これまで黙っていた者が破った。

「貴女は、既に私の妻です。──例えそれが、貴女を父上の庇護下に迎えるための方便だったとしても、私にとって、貴女は守るべき妻なのです」

 自身の手のひらの上で嘆く小妖精に、軍服のシモベは真摯な声を紡ぐ。

「貴女の居場所は、ここです。──貴女を不幸にするような場所になど、決して帰しはしない」

「……パンドラさん……」

 彼の顔を見上げて、ルイは感極まったような声を上げる。

「──ええ、パンドラズ・アクターの言う通り。このナザリックこそが、貴女の家。娘をむざむざ不幸に追い込む親など、忘れてしまいなさい。これからはモモンガ様と私が、貴女の両親よ」

 ルイの小さな頭を指先で撫でて、アルベドが言う。

「……アルベドさん……」

「あら、さっきはお義母様と呼んでくれたでしょう?」

「──お義母様!」

 嬉しそうにアルベドの指先に抱きつくルイ。

 何だかすっかり大団円みたいな空気になっているが──

 

(──ああぁ~~~っ! そうだ、アルベド、俺の后になっちゃってるんだったぁ~~~っ!)

 

 残念ながら、モモンガの脳内はしっちゃかめっちゃかだった。

 

(っていうか、ロリコン親爺からは逃げられたけど、代わりにハニワ顔に嫁入りって、それでいいのルイさん!? ──いや、種族違うし、それ以上にサイズ違いすぎるから、どうこうなる心配が要らないのか)

 一旦は落ち着くものの、すぐに疑問と懸念が沸き上がってしまう。

(いや、でも、ドッペルゲンガーなんだから、外装合わせたらデキちゃう?──いや、パンドラは紳士だし、合意がない限りはナニかしたりはしないはず……っていうか、ドッペルゲンガーって、性欲あるのか……?)

 ドッペルゲンガーという種族について、必死に記憶を手繰る。

(おぼろげだけど、初期設定はマネキンみたいなナニもついてないような体型だった気がする……ってことは、ドッペルゲンガーは、本来無性……? 設定に明記しなければ、性別はなく、性欲もない……?)

 と、そこまで考えて、モモンガは頭を抱えた。

(──いや、“息子”で“夫”って明記しちゃってるじゃん! これ、性別に反映されちゃってない!?)

 と、挙動不審なモモンガのようすに気づいたのか、ヘロヘロが訝しげな声をかけてきた。

「……モモンガさん、どうしました?」

「えっ!? ……い、いや……アルベドと、結婚しちゃったんだなぁ……って……」

 まさか息子のシモ事情を懸念していたとは言えず、そう答えれば、ヘロヘロは納得したらしい。

「まあ、さっきの発言からして、アルベドの方は満更でもなさそうですし、モモンガさんだって嫌な訳ではないんでしょう? なら、いいんじゃないですか?」

「は、ははは……そうですね……タブラさんには、悪い気もしますけど……」

「いや、あの人だって、モモンガさん相手なら文句ないですよ、きっと」

 そう言って笑ってから、ヘロヘロはNPC達にかまわれているルイを振り返り、

「──帰る方法を探す必要は、なさそうですね」

「……いいんですか?」

 言外に、自分に帰る気はないというヘロヘロに、モモンガは驚いた。

「仕事は好きでしたけど、あのままだと、きっと文字通り()()されてましたから。──何より、理想のメイド達が生きて動いてるのに、おいて帰るなんてもったいないことできないでしょう」

「アッ、ハイ」

 明らかに後半が主だとわかる調子で言い切られて、モモンガはそうとしか返せなかった。

「……っていうか、俺に帰る気がないのは、お見通しだったんですね」

「誰よりもナザリックを愛してるギルド長が、命を持ったNPC達を見捨てられるとは思えませんでしたから」

 笑みを含んだ声で言い切られて、モモンガは気恥ずかしくて頭を掻く。

「──まあ、何にせよ、リアルへの帰還方法の模索はなしってことで!」

 自分の気を紛らわすようにわざと大きな声で言えば、聞いたルイ達が嬉しそうなようすを見せた。

(──今日からは、このナザリックが俺たちの家だ)

 先ほどアルベドが言った言葉を、自分の決意としてモモンガは繰り返した。

 

 

 ──ちなみに、息子のムスコ事情は、あとで一緒に大浴場を利用した時に確認して、こっそり胸をなで下ろした。

 

 




ドッペルゲンガーは擬態しない限り無性、という捏造設定。
これ、シモネタ……? いや、シモの話題だからシモネタか。でも、R指定いる……?
などと悩みつつ、結局誰かに怒られるのが怖くて、Rー15タグを追加したチキンは私です。
アンチ・ヘイトタグも、同じような理由でつけてます。私ってホントチキン。



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カルネ村、生存する/戦士長、邂逅する

【前回のあらすじ】
ルイ「政略結婚したくないので帰らない!」
ヘロヘロ「理想のメイドがいるから帰らない!」
モモンガ「よかったー!」

パンドラは紳士、アルベドは聖母。
モモンガを帰さないよう、ルイを利用しようなんて思ってない、いいね?


 穏やかで代わり映えのない日常を送っていたカルネ村は、この日、異変の連続に見舞われた。

 始まりは、朝──唐突に、敵国の鎧をまとった兵たちに襲撃されたのだ。

 問答もなく矢をかけ、剣を抜いて村になだれ込んできた彼らによって、村人達は為す術もなく虐殺され──なかった。

 凶刃の錆となるはずだった彼らを救ったのは、唐突に現れた、魔法詠唱者と剣士の父子(おやこ)だ。

 父が魔法で矢を防ぎ、息子は剣を抜いて襲撃者の前に立ちふさがる。

 しかし、父子は二人きり。数の優位はこちらにあると言わんばかりに、兵たちは彼らへ襲いかかろうとして──瞬殺された。

 いや、瞬()という言葉は相応しくないかもしれない。なにせ、兵達は誰一人命を落とすことなく、無力化されたのだから。

 そうして、たった一つの呪文で兵たちを生きたまま無力化した、凄まじい技量の魔法詠唱者は、唖然となる村人たちを振り返って、気まずそうに言ったのだ。

 ──「ここは、どこなのでしょうか」と。

 驚いたことに、この父子、迷子であったのだ。

 何でも、マジックアイテムの実験中、誤作動で見知らぬ土地に飛ばされてしまったのだという。

 夜通し人を探して歩き続けて、やっとこさ見つけた人里。しかし、安堵しかけたのもつかの間、何やら剣呑な気配を察し──咄嗟に、兵たちを阻む形で動いた、という訳らしい。

 とにかくこの辺りの地理の情報が知りたい、ということなので、村を助けてくれた恩に報いるべく、村長は自身が知りうるだけの知識を惜しみなく告げた。

 しかし、彼らは、この村が所属する王国の名はおろか、近隣諸国の名にも全く聞き覚えがないという。つまりは、彼らの故郷はこの辺りと全く交流のない遠方だということだ。

 参ったな、と困ったように呟く父親と、悄然と肩を落とす息子の様子に、否応なしに同情は募る。

 しかし、都市に行けば、もっと他の情報も得られるかもしれない。捕らえた襲撃者を役人に突き出す必要もある。明日にでも一番近い都市まで一緒に行きましょう、と励ませば、彼らは気を取り直したように頷いた。

 とりあえず、今日はこれで一段落、と思った矢先──夕刻、更にもう一組、武装した集団が村を訪れて、もう一悶着あるのだった。

 

 *****

 

 王国の戦士長であるガゼフ・ストロノーフは、駆けつけた先で待っていた予想外の展開に、驚愕した。

 彼は、国境間際の開拓村を次々襲う犯人を追って、部下達と共にカルネ村へと駆けつけた。

 民を想う王の意向を無視し、自身達の権利ばかり主張する傲慢な貴族達の横槍のせいで、自身も部下も武装はお粗末だ。それでも、一人でも多くの民を救わんと、士気高く駆けだした。

 しかし、その道行きで見つかるのは、既に焼き払われてしまった村跡ばかり。間に合わなかった自身を呪い、それ以上に犯人への怒りを募らせつつ、次こそは、次こそは、と馬を急がせたのだ。

 しかし、犯人に追いつけぬままカルネ村までたどり着いて、無事な村の様子に間に合ったと安堵し──そうではなかったのだと知って、驚愕したのだ。

「こちらのモモン様とアクト様が、奴らを捕らえてくれたのです」

 そう言って村長に紹介されたのは、魔法詠唱者と剣士の二人組。

 父子であるという二人は、確かに、穏和な顔立ちがよく似ていた。どちらも、南方の血を引くガゼフと同じ黒髪だが、ガゼフの褐色の肌とは違って、二人の肌は微かに黄みがかった白色をしている。

 間に合わなかった自分たちに代わり、村を救ってくれたことへの感謝の念は、自然、ガゼフに下馬をしての礼をとらせた。

 魔法に疎いガゼフにでも、呪文一つで襲撃者たちを生きたまま無力化するという離れ業をなしたモモンは、とんでもない実力者なのだと察せられる。

 また、息子のアクトは、ガゼフから見ても、なかなかに隙のない立ち振る舞いである。まだ18という伸び代のある若さを加味すれば、将来は相当の剣客になるだろうと思わせた。

 しかし、そんな技量の持ち主でありながら、父子は少しも偉ぶったところのない、誠実な人となりのようだった。

 不幸な事故で見知らぬ土地に飛ばされたという苦境の中、それでも他者に降りかかろうとする理不尽を見過ごさなかった時点で、人格者なのは間違いない。

 故郷への手がかりが欲しいという二人のために、ガゼフは自身にできうる限りの手助けを決意した。

 とりあえずは、明日の朝一番、捕らえた襲撃者たちを連行するついでに、最寄りの都市へ案内すると約束した。

 ──そうだ、身銭を切ってでも、まとまった額を礼金として渡さねば。きっと、彼らはこの辺りの通貨も持っていない。

 そんな風に考えるガゼフの表情は、村を訪れる前とは打って変わって清々しい。

 

 そうして、翌日、ガゼフ達は、父子と共にカルネ村をたった。




本来、村を取り囲むように襲撃するはずだった偽装兵たちは、どうして一方からまとまって突撃してきたのか?
皆大好きニグンさんはどこへ行ってしまったのか?
何より、モモン・アクト父子の正体とは!?(バレバレ)
次回、【ナザリック、暗躍する】!
お楽しみにね!


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ナザリック、暗躍する

【前回のあらすじ】
カルネ村「無傷で済みました!」
ガゼフ「モモン殿とアクト殿には感謝してもしきれない」
ニグン「え、私の出番は?」


 拠点内を総浚いして、異変も侵入者もないことを確認したナザリックは、次いで外の調査に乗り出した。

 墳墓の出入り口から窺う分だけでも、異変の前と比べて外の様子は大きく様変わりしている。──ヘロヘロがほのめかしたとおり、()()は《ユグドラシル》ですらないのかもしれない。

 ()()がどういう場所なのか。情報を集めなくてはならない。迅速に、そして、正確に。

 まず、恐怖公の眷属(Gとよばれるもの)たちによる、数に物を言わせた全方位へのローラー作戦を行った。これは、周辺に生息する生物の危険度を測る試金石でもあった。

 そうして、眷属が持ち帰った情報、そして不自然なロスト状況も判断材料とし、重要地点と思われる場所へ、今度は判断力の優れた知能の高いシモベを送ったり、何重にも防衛対策をした上での魔法探査を行った。

 そうして、異変が起きてからおよそ60時間後には、ナザリックを中心とした半径100キロに関しては、ほぼ正確な情報を入手していた。

 ナザリックの隠蔽も行った。幸い、周辺は何もない草原で、最寄りの人里からでも10キロ近い距離がある。魔法による地形操作でナザリックの表層部分を覆い隠し、周辺にもいくつか同じような丘を作って目立たぬようにした。

 そうして、万全の下準備を整えた上で、現地の知的生命体との接触を試みることになった。

 現状、ナザリックにおられる至高の二人は、この接触を重要視し、少なくとも自分たちのいずれか一人は出向くべきとの意向を示した。

 しかし、それには問題があった。近隣にいる主な知的生命体が人間種なのだ。

 モモンガは<死の支配者(オーバーロード)>と呼ばれるアンデッド。ヘロヘロは<古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)>と呼ばれるスライム。──どちらも、人間種から恐れられる異形種なのだ。

 ヘロヘロは【擬態】という人化できるスキルを修得しているが、それによって人化している間は、スライムとしての種族特性と種族スキルが使えなくなってしまう。

 ヘロヘロのビルドは戦力の大半を種族特性と種族スキルに依存しているため、大幅な弱体化を強いられてしまうのだ。事前調査で、現地戦力が著しく低いのは判明しているが、それでも少々不安である。

 モモンガは人間と同じ骨格──というか、人間の骨格そのものの身体なので、少なくとも装備で全身を覆い隠せば、人になりすませなくもない。だが、それはそれで凄まじく怪しい不審者の姿になってしまう。

 思い悩む二人に解決策を提示したのは、<小妖精(フェアリー)>のルイだった。

 妖精系の種族スキルに【妖精の輪(チェンジ・リング)】というものがある。人の姿に変化する、という一点では【擬態】と大差ないのだが、こちらで封じられるのは種族特性だけで、種族スキルは変わらず使用できるのだという。

 この手のスキルは基本、効果対象が修得者本人だけである。だが、ルイがナザリックに持ち込んだマジックアイテムを使用すれば、他者への()()()()()が可能になる。

 【最も尊きもの】というそのレアアイテムは、《ユグドラシル》の斜陽が始まった頃に存在が確認(追加実装)された、アクセサリー装備だ。

 見た目は、二つのペンダント。片方には【鉛の心臓】、もう片方には【凍えた燕】のチャームがついている。

 使用方法としては、まず、スキルを譲渡する方が【鉛の心臓】を装備し、受け取る側が【凍えた燕】を装備する。そうして、譲渡したいスキルを一つ、【鉛の心臓】に登録する。

 登録されたスキルは【鉛の心臓】の装備者には使用不可となる代わり、種族・職業・レベルなどのあらゆる制限を無視した上で、【凍えた燕】の装備者が修得したものとして扱われるようになるのだ。

 【鉛の心臓】と【凍えた燕】のどちらか、もしくは両方が装備から外された時点でこの効果は失われるが、そうしない限り、この効果はずっと持続される。

 種族特性を失った上での戦力的にはモモンガの方が優れているということで、モモンガが【妖精の輪(チェンジ・リング)】を使用することで話はまとまった。

 供には、人の外装(すがた)をとれ、戦力的にも申し分のないパンドラズ・アクターが選ばれた。他にも、隠蔽力に優れたシモベが数体随行する。

 そうして、よりスムーズに人間種と交流できるようなアンダーカバーを設定し、更に現地人同士の争いを少し利用させてもらう形で、異形の父子は人里デビューを果たしたのだ。

 

 

「──モモンガ様とパンドラズ・アクターは、うまく人間の群に入り込めたようだよ」

「まあ、あなたが手を回した上に、モモンガ様が直接出向かれてるんだものん、失敗なんてありえないわねん。──ただ、それに比べて、こちらの不手際がなさけないのねん」

 ──薄暗い空間に、二つの声が響く。

 聞く者全てを魅了し、支配するような男の声と、特徴的な口調で話す、性別の判別が難しいダミ声。

「あれは君のミスではないと、モモンガ様もヘロヘロ様もおっしゃっていたじゃないか。それに、結果として()()は、ナザリックの忠実なシモベに生まれ変われた」

「あれは、モモンガ様のご威光に救われただけなのねん……それに、あの尋問阻止の呪い、あれはどうにかする手段を確立しないと、また同じような相手に当たったら困っちゃうのよん」

「それは……そうだね。一度死なせた上で蘇生すれば、呪いは解除できるようだけど……本人の意思で()()()()()ことが出来てしまう以上、あまり巧いやり方とは言えないか」

「……死んだと自覚して、更にその前の状況を覚えているから、蘇生を拒むのだとしたらん……案外、何もわからないうちに、死んだと自覚もできないような形で死なせたら、その後の蘇生も拒まれないかも知れないわねん」

「──ああ、ただ眠りから起きるような感覚で、蘇生を受け入れるかもしれない、と? ……なかなか面白い着眼点だね、試してみる価値がありそうだ」

「でも、肝心の実験体は、どこから用意するのかしらん? 下等種であろうと無辜の民には手を出すな、とのお達しよねん?」

「それなら心配いらないよ。モモンガ様たちが向かわれた都市に妙な団体がいたから調べていたんだけど、どうも邪教の集まりらしくてね。都市を丸ごと巻き込むような儀式を企んでいるようなんだ」

「ああ、そんな奴らなら、()()()()ではないわねん」

「そういうことさ」

 ふふふ、と二人分の笑い声。

 

 ──陰惨な拷問室には不釣り合いなそれは、男がその場を立ち去るまで、朗らかに響き続けていた。

 




<小妖精>のカルマ値は完全中立
モモンガ「未成年(ルイさん)の精神衛生上宜しくないので、残虐行為は控えましょう」
ヘロヘロ「ですね。少なくとも、何の罪もない人を死なせるのは避けましょうか」
でも、無辜の村を焼き討ちするような連中はボッシュート

こっそりナザリックにボッシュートされた陽光聖典
他より装備がいいので、重要情報があるかも知れないと、モモンガとヘロヘロ立ち会いの元で尋問しようとして、
陽光聖典「(モモンガを見て)ス、スルシャーナ様!?」
モモンガ(えっ、誰?)
ニグン「あなたのお望みとあらば何でもお話いたします!」(でも三回答えて死亡)
モモンガ「えっ、まだ聞きたいことあるんだけど」(ペス呼んで蘇生)
陽光聖典「だ、大儀式が必要な蘇生をこんなに容易く……!? 間違いない、彼らは神と従属神!!」
プレイヤーとNPCだからね、まあ、間違っちゃいないね

同様にボッシュートされた囮部隊
デミ「モモンガ様の人里デビューの演出に、協力してもらうよ」
囮部隊「ハイ」
残念だが、君たちに拒否権はない


<おまけの捏造設定>
妖精の輪(チェンジ・リング)
(フレーバーテキスト:妖精が人間の中に紛れ込む為のスキル)
対象:自身
効果:人間種の姿(セカンド・アバター)に変身する。
変身中、種族特性はその人間種に準じた扱いとなるが、種族スキルは使用できる。

【最も尊きもの】
(フレーバーテキスト:これは、自身を削って他者に施す、献身の心そのものである)
セットで一つのアイテムとして機能する二つのペンダント。片方には【鉛の心臓】、もう片方には【凍えた燕】を模したチャームがついている。
自身が拾得しているの魔法・スキルを、他者に“渡せる”アクセサリー。
使用法:魔法・スキルを渡したい相手に【凍えた燕】を装備させた状態で、【鉛の心臓】の装備者が自身の修得している魔法・スキルの中から任意の一つを選択する。
効果:選択された魔法・スキルは、【鉛の心臓】の装備者には使用不可となる代わり、種族・職業・レベルなどのあらゆる制限を無視した上で、【凍えた燕】の装備者が修得したものとして扱われるようになる。
【鉛の心臓】と【凍えた燕】のどちらか、もしくは両方が装備から外された時点で、この効果は失われる。
(AOG衰退後に有料ガチャへ追加されたレアアイテム。一緒に遊んでくれる人がいないと意味のないアイテムなので、当てたはいいけど、ソロだったルイには宝の持ち腐れだった)


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モモンガ、人生謳歌する

(タイトル修正しました)

書きたいシーンがいっぱいあってどこから手を着けたらいいかわからなくなる病。

【前回のあらすじ】
陽光聖典「スルシャーナ様に我らの信仰を捧げます!」
モモンガ「えぇ……?(困惑)」
デミウルゴス「危ない儀式をしようとする邪神教団はしまってしまおう」
ズーラーノーン「えっ」


 ぱくり、と串焼きにかじりつき、

(──あぁ~~~、美味しい~~~)

 モモンガ──否、今はモモンとして振る舞っている男は、うっとりと目を閉じて、味覚からの情報を満喫する。

(……本物の食べ物って、こういうものだったんだなぁ……リアル(あっち)で食べてた人工栄養なんちゃらなんて、食べ物の紛い物でしかなかった)

 実際、貧困層の彼がリアルで食べていた()()など、生存に最低限の栄養を詰め込んだ()()に過ぎなかったのだろう。

「モモン殿は、本当に美味そうに食べるなぁ」

 笑みを含んだガゼフの声に()()と我に返り、モモンは慌てて緩みきった表情を引き締めた。

「す、すみません」

「謝ることなどないでしょう、奢り甲斐があって嬉しい限りだ」

 ガゼフの言葉は紛れもなく彼の本音なのだろうが、いい年齢したおっさんがだらしなく笑み崩れるのは、あまり見目よろしいものではないだろう。

(けど、食事の度に毎回やっちゃうし、もう周りに慣れてもらった方が早いかもしれないなぁ)

 カルネ村で、質素な──けれど、村人たちの精一杯の持て成しである食事を振る舞われた時も、モモンはこんな感じで、「そちらのお故郷(くに)は、よっぽど食糧事情が悪いのですか?」と心配されてしまったくらいだ。

 一緒に食べているパンドラズ・アクター(アクト)のリアクションは普通だったため、単にモモン自身が食べることが好きな人なのだろう、という結論に落ち着いたようだったが。

 今も、アクトは早々に串焼きを平らげ、町並みを興味深そうに見回している。──さりげない仕草だが、モモンの警護と情報収集をきちんと果たそうとしての行動だろう。

(いけないいけない、俺もちゃんとしないと)

 気を引き締めて、モモンも串焼きの攻略を急いだ。

 

 

 ──ここは、カルネ村から一番近い都市である、エ・ランテル。

 帝国と法国、その両方と国境を接するこの場所は、国防的に非常に重要な拠点らしく、三重の防壁に囲われた城塞都市でもある。

 当然、都市の入り口では検問も行われていたが、国王直臣の戦士長効果で、モモンとアクトは驚くほどあっさりと中に通してもらえた。

 宿も、ガゼフが部下に頼んで手配してくれるという。至れりつくせりである。

 設定上でも実際的にも異邦人であるモモン達は、身分を証明する手段がない。それでは後々不便だろうと、ガゼフから冒険者として登録することを勧められた。──宮仕えのスカウトも受けたが、「いずれ故郷に帰るので」と言えばすぐに引き下がってくれた。

 何でも冒険者とは、“対モンスターの傭兵”であるらしい。

 名前の割にロマンのないことだとモモンは内心落胆したが、冒険者として登録すれば、組合が身分を保証してくれる。仕事の内容はともかく、制度自体は有り難い。

 そんなわけで、ガゼフの案内で冒険者組合に向かう途中だったのだが──途中でついついモモンが、屋台の串焼きの魅力に負けてしまったのである。

 気を取り直して、今度こそ向かった冒険者組合での登録も、ガゼフ効果か、すこぶるスムーズに済んだ。

 襲撃者がらみの仕事がある──それにも関わらず、よくここまで案内してくれたものである──ガゼフとは、手配してくれた宿で別れた。

 案内された部屋に入り、室内に魔法的な防壁を展開し──そこでやっと、モモンとアクトは一息ついた。

「──いい人だったけど、やっぱ他人と一緒だと疲れるなー……」

「我らの正体を知られる訳にはいきませんからねぇ」

 ぼふん、とベッドに寝転がりながらモモンが呻けば、アクトも隣のベッドに腰掛ける。

 肉体的な疲労は装備で防げているが、気疲れはする。──人化中は、ポーカーフェイスも精神抑制もない。うっかりすると感情がダダ漏れになってしまうため、余計に色々気を使った。

「……ナザリックに、連絡いれないと……」

「それならば、私がやっておきましょう」

「……んー……じゃあ、頼むわー……」

 言いながらも、モモンの瞼はうとうとと落ちてきて、だんだんと意識が微睡んでくる。

(──そういや、カルネ村では、パンドラと色々打ち合わせてて、結局徹夜だった……)

 睡眠不要の装備もしているし、アンデッドとして眠()ない生活に慣れ初めてしまっていて、徹夜に何の疑問も持たなかった。

(ああ……この感じも、久しぶり……)

 

 ──そうして、彼は、異世界に来てから初めての眠りへと落ちていった。




視点で区切るもんで、一話ごとの文字数がまちまちで申し訳ない。


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ヘロヘロ、思案する

【前回のあらすじ】
モモン「ご飯がおいしい! そして、おやすみなさい!」


「よかった、モモンガさん、眠れたんだな。……昨日徹夜したって聞いて、心配してたんだ」

 パンドラズ・アクターからの《伝言(メッセージ)》に、ヘロヘロは安堵の笑みを浮かべた。

『はい。それと、食に関しては、出された食事だけではなく、たまたま見かけた屋台の軽食を自ら望まれるなど、かなり楽しんでおられるようです。ヘロヘロ様のおっしゃっていた“無自覚ブラック状態”は脱されたかと』

「あー、よかった……あのまんまだとモモンガさん、自覚もないうちにストレスためこんで、おかしくなりかねなかったからね」

『ヘロヘロ様、父上のお心の健康を慮ってのご助言、本当にありがとうございました。私では、身体(うつわ)()()()()()()()()ことによるご負担など、想像もできませんでした』

「まあ、こればっかりは状況が特殊すぎて、未経験者に察しろっていう方が無茶だし……俺だって、【擬態】使って人化するまで無自覚だったくらいだからね」

 それから通常の報告事項を幾つか告げて、パンドラズ・アクターからの伝言(メッセージ)は終了した。

(──とりあえず、ヤバイ状態は抜けたみたいでよかった)

 ヘロヘロは、ふう、と大きく息をついて、机におかれた紅茶のカップを()()()()()()()()()()

「──うん、美味しい。ソリュシャンは、紅茶を淹れるのも上手だな」

「お口に合ったようで幸いですわ」

 ヘロヘロの()()()()()()を見て、ソリュシャンも笑みを返してくれる。

(やっぱ、飲食は人型の方がしやすいし、味もはっきりわかるな。……スライム形態だと、味覚も大ざっぱになってるのか)

 【擬態】のスキルを発動した状態のヘロヘロは、うっかり苦い気持ちのままに渋面を浮かべそうになるのを、ソリュシャンの手前、何とかこらえた。

(……ポーカーフェイスは、スライムの方が楽だけど……あちらの姿で過ごし続けるのは、リスクが高すぎる)

 ──ヘロヘロがそのリスクに気づけたのは、()()()()()()()()()()がきっかけだった。

 ナザリックの情報網に引っかかった、王国の開拓村を焼いて回る兵たちと、それと連動して動いているらしい別働隊。──もう一つ、別の武装集団も見つかったが、それは先の兵たちへの追っ手のようである。

 事情はよくわからないが、無力な村人が一方的に虐殺されているという事実に、ルイが恐怖と嫌悪感を見せたため、「これを放っておくのは、未成年(ルイ)の精神衛生上よくない」と、モモンガとヘロヘロは事態への介入を決めた。

 とりあえず、追っ手の一団は虐殺を止めようとしているようなので放っておくことにして、加害者側の二部隊をナザリックに魔法でご招待した。

 彼らは、何故かモモンガを「スルシャーナ様」と呼び、異様なほどこちらに協力的な姿勢を見せ──しかし、質問に答えていたニグンとかいう隊長は、途中で唐突に事切れた。

 それは、情報漏洩阻止のためにかけられていた呪いの効果だったようだが──ナザリック勢の蘇生魔法でもってあっさりと復活させられ、一度死んだことで呪いからも解放されたニグンは、実に様々な情報をナザリックにもたらしてくれた。

 その後、陽光聖典とかいうその一団は、そのままナザリックの傘下に下る事になったのだが──それはさておき。

 尋問会の解散後に自室に戻ったヘロヘロは、メイドが気を利かせて用意してくれたお茶を飲むために、【擬態】を使用した。スライム形態でも飲食は出来るが、人型の方がカップを持ちやすいからだ。

 

 その途端──ついさっきまでの自身の思考、その異様さを自覚して、愕然となったのだ。

 

 罪のない村人が虐殺されていることにも、目の前でニグンが死んだことにも、()()()()()()()()()()()

 彼らの死を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()自分に気がついて、ヘロヘロは凄まじい恐怖を覚えた。

 自身の異変の理由は、考えるまでもなくすぐに思い至った。──()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 ヘロヘロのアバター(からだ)は、ありとあらゆるものを捕食対象とする<古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)>だ。しかも、(カルマ)がマイナスに振り切っている。その価値観に準じてしまえば、何の思い入れもない異種族(にんげん)など、それこそそこらの羽虫と同等なのだ。

 そうと気づいて、次いでヘロヘロが抱いた恐怖は、『自身が知らぬ間に変異している』という生理的なものではなく、もっと具体的な被害を想定した恐れだった。

 このままでは、自分はいつか必ず、()()()()()()()()()()()()()()()()()()という、確信めいた恐れだ。

 ヘロヘロは、自身が一種嗜虐的な、他人の不幸を喜ぶような一面を有していると自覚している。──でなければ、他プレイヤーの高価な装備を溶かして悦ぶようなプレイングはしない。

 ただ、これまでは、その嗜虐性を仮想現実(ゲーム)内だけに留め、現実に持ち出さないだけの良識も、ちゃんと持ち合わせていた。

 だが、その良識は()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 このまま、(カルマ)極悪の捕食者になりきってしまえば、そんな人間としての感性など、きっと失われてしまう。

 歯止めを失った嗜虐性は、今の自分が大事にしているものにも向けられてしまうかもしれない──そう、恐れたのだ。

 それからヘロヘロは、戦闘力を必要としない(敵のいない)ナザリック内では、出来うる限り【擬態】を使用し続けることにした。──種族特性が無効になるということは、逆をいえば、種族特性の影響から逃れられるということだからだ。

 しかし、同様に(カルマ)極悪の異形種であるモモンガは、種族属性の影響から逃れる術を持っていない。

 なお悪いことに、モモンガは<死の支配者(オーバーロード)>というアンデッド──()()()()()()()()()()()()()()()()()存在である。

 種族的に、睡眠や飲食が不要を通り越して不能なことも拙い。──睡眠と食事は、生物の基本。その基本を奪われて、人間性をまともに保てるとは思えなかった。

 実際、これまでの彼の言動を省みるに、その特性は既に、彼本来の人格を蝕み始めている。

 どうにかしなければ、しかし、どうすれば──焦るヘロヘロの前に、その解決策は、あっさり空から降ってきた。

 ルイの【妖精の輪(チェンジ・リング)】と、【最も尊きもの】──これらによって、モモンガは人化が可能となり、種族特性からも解放されたのだ。

 代わりに、ルイが人化の手段を失ってしまうことになったが──彼女は、ヘロヘロやモモンガのように、人間性を欠落させている様子がない。モモンガに貸し出す前に彼女自身も人化していたが、妖精形態と比べて言動が変わった様子もなかった。

 おそらくこれは、<小妖精(フェアリー)>の種族設定が幸いしている。

 まず、(カルマ)完全中立(±0)。飲食と睡眠も不要ではあるが、不能ではない。メイドたちから貰ったお菓子をかじったり、パンドラズ・アクターのポケットで居眠りしていることもあった。

 そして、フレーバーテキスト曰く【真の意味で自由な種族。生と死、善と悪、過去と未来、あらゆる事象を等価とする。その行動を決定づけるものは、興味を引かれるか否か、ただそれだけである】とある。

 生死や善悪に頓着しない、というのは危ういようにも聞こえるが、種族的な価値観が完全にフラットであるおかげで、ルイ生来の価値観と人間性が、そのまま変わらずに継続されているのだろう。

 そもそも、彼女がまともな人間の感性で()()()()()してくれたから、ヘロヘロたちはそれを看過せず──人としての一線を、越えずに済んだといえる。

(──というか、俺がここにいるのも、ルイさんのおかげのようなものだしな)

 ルイがモモンガと出会わず、ヘロヘロがあの日早々にログアウトしてしまっていたなら──きっと、モモンガは、一人でこの転移に巻き込まれていた。

 問題を察せる者(ヘロヘロ)も、問題の解決者(ルイ)もいない状態で──

(……うん、縁起でもないIF(もしも)はやめよう)

 ヘロヘロとルイは、モモンガと一緒にナザリックにいて、モモンガは人間らしく生を謳歌できている。

 ──それが、現状なのだから。

 

 




ルイ「(かじりかけのクッキーを抱えて)うぅ、美味しいけど食べきれないです……」
パンドラ「あ、じゃあ残りは私がいただきます」(ぱくっ)
モモンガ「!? パ、パンドラぁ!?」
パンドラ「? どうかいたしましたか?」
ルイ「?」(きょとん)
モモンガ「………………何でもない」
ナチュラルに間接キスして、それをお互いに意識もしてない

ヘロヘロ「あれ? ルイさんは?」
パンドラ(しーっ、というジェスチャー)
ルイ(パンドラのポケットから顔だけ出して、すやぁ)
ヘロヘロ(よくあの姿勢で眠れるなぁ……)

パンドラ「本当に、お願いしますよ?」
シズ(こくこく)
パンドラ「間違っても、握り潰さないで下さいよ!?」
シズ「そんな酷いこと、しない……」
パンドラ「……割としょっちゅう、エクレア殿のことを潰す勢いで抱きしめてますよね?」
シズ「それは……エクレアだから……」
エクレア「!?」
パンドラのおでかけ中は、シズがルイの警護担当(立候補)

圧倒的平和!!!


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ルイ、回顧する

【前回のあらすじ】
ヘロヘロ「気をつけないとメンタルが人間卒業しちゃう……」
(なお、肉体的には既に卒業してる模様)


「わあ、すごい! 葉っぱ、すごい増えてますね!」

「は、はい、が、頑張りましたっ」

 ナザリック地下第6層。その階層守護者の片割れであるマーレと、護衛担当である戦闘メイドのシズと一緒に、ルイはある植物を見に来ていた。

 楕円形の薄い葉を、青々と茂らせた灌木だ。

「あんな枝から、ここまで大きくするなんて、マーレくんはすごいですね!」

「そ、そんな……最初の枝を、【巻物(スクロール)】から()()してくれたのは、ルイさんじゃないですか。その方が、ずっと、すごいと思います」

「つまり、二人とも、すごい」

 シズに端的な言葉で褒められ、二人は揃って、照れたように笑う。

 一同がわいわいと眺める、この植物は何かといえば──端的に言えば、【巻物(スクロール)】の原材料の一つである。

 ナザリックの総力をあげた情報収集により、()()が《ユグドラシル》ともまた別の異世界であると判明してから、まず真っ先に懸念されたのが消耗品の補給である。

 【巻物(スクロール)】という、事前に魔法を込めておけるアイテムがある。それを消費することで、同系統の魔法詠唱者ならその魔法を覚えていなくても発動させられるという、便利なアイテムだ。

 羊皮紙にユグドラシル硬貨を溶かし、そこに描いた魔法陣へと魔法をこめることで作成するのだが──《こちら》で入手できる羊皮紙だと、《ユグドラシル》と同じ製法で作成しても、第一位階魔法までしか込められないのだという。

 現地(こちら)の人の話では、《こちら》にも【巻物(スクロール)】はあるが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という認識であるらしい。

 一体何が違うのだろう、とルイは疑問に思い──《ユグドラシル》産と《こちら》産の【巻物(スクロール)】を一枚ずつ融通してもらい、()()してみる事にしたのだ。

 <小妖精(フェアリー)>の種族スキル、【妖精の悪戯(ノック・ノック・ノック)】。

 このスキルを発動した状態で3回触れた装備やアイテムは、原材料の状態にまで()()できるのだ。──一回使うと、10秒のクールタイムが発生するので、一つ分解するのに、20秒以上かかってしまうが。

 もたもたとスキルをかけた結果、《ユグドラシル》産は羊皮紙と硬貨とデータクリスタル、《こちら》産は羊皮紙とデータクリスタルに分解された。

 製法を考えれば、硬貨という違いが出るのは当然である。羊皮紙をそれぞれ鑑定してみるも、どちらも『羊の皮を加工したもの』としか出ない。

 ダメかぁ、と落胆しかけたルイの脳裏に、かつて祖父から聞いた豆知識がよぎった。

 ──曰く、『生物は、例え同じ種であっても、食性によって変化を得る場合がある』。

 もしかしてと思って、ルイは再びスキルを用い、()()()()()()()()()()()()()()()

 結果、《こちら》産は羊の生皮と一握りの草に、《ユグドラシル》産は羊の生皮と()()()()()に分解されたのだ。

 違いが出たことに大喜びして、その結果をモモンガたちに報告すれば、「大手柄ですよ、ルイさん!」と胴上げ(?)された。

 次いで、「こちらのスクロールからも、データクリスタルが抽出できるんですか!?」とパンドラズ・アクターが詰め寄ってきて、その迫力に、ルイは初めて彼をちょっと怖いと思った。──すぐ謝ってもらえたが。

 ルイが《ユグドラシル》産巻物から抽出した“枝”は森神官(ドルイド)であるマーレへと託され、彼はその“枝”を挿し木にし、見事根付かせることに成功した、という訳だ。

 この灌木を餌として育てた羊の皮が、【巻物(スクロール)】の材料に足り得るものとなれば、【巻物(スクロール)】の供給問題は一気に解決に向かうだろう。

(──お祖父ちゃんの話が、こんなところで役に立つとは思わなかったなぁ……)

 今は亡きルイの祖父は、実に博識な人だった。

 話好きな人でもあり、時間さえあればルイに様々なことを語り聞かせてくれたものだ。

 しかし、一方で、幼かった当時のルイには、全く理解できない趣向の持ち主でもあった。

 ──いわゆる怪奇譚の類を、こよなく愛していたのだ。

 口癖のように「恐ろしさの中には美しさが秘められている、突き抜けた美しさは畏れに繋がるのだから」と、ことあるごとに言っていた。

 愉快な話、ためになる話を語り聞かせてくれたと思ったら、不意をつくように()()()を織り交ぜてくる祖父に、どうしてこんな意地悪をするのかと、ルイは泣きながら抗議したものだ。

 ──今ならわかる。ただ、祖父は自分の好きなものを、ルイにも理解してほしかっただけなのだ。

 でも、ルイの中で、怪奇譚がただ()()()()でしかないうちに、祖父は逝ってしまった。

 それから、祖父の言葉の意味を、祖父が愛したものを理解できなかったというわだかまりは、ずっとルイの心の片隅に残っていた。

 中学に上がって、お化けを怖がるような時期を通り過ぎてからは、反動のようにその手の話を読みあさるようになった。

 けれど、怖くはないが、特に魅力も感じられない。──ルイ自身に自覚はなかったが、幼少期に不意打ちで怖い話を聞かされまくった経験で、怖い話限定で想像力をセーブする癖が身についてしまっていたのだ。

 その枷を吹っ飛ばしたのが──ナザリックの映像だった。

 【怪奇】などのワードで検索をかけていた時に、たまたま引っかかった動画。サムネイルに映った純白の氷世界が綺麗に見えて、再生ボタンを押して、

 

 ──()()だ、と天啓のように理解した。

 

 “恐ろしさの中の美しさ”というのは、こういうことなのだ、と。

 ダイレクトな視覚情報は、ルイが身につけてしまっていた癖をすっ飛ばして、()()を理解させた。

 祖父からの宿題がやっと解けたという嬉しさも相俟って、ルイは感動のまま、全く経験のないRPGへと飛び込んだ。

 ルイの望みは、()()()()()()()()()()()()()()()という、ただそれだけ。

 『敵とか全部避けたら早く着けるはず』という、ゲーム素人丸出しの思考結果、回避と隠密に優れた<悪戯妖精(ピクシー)>──妖精系統の初期種族をアバターに選んだ。

 回避特化のキャラなど、普通のゲーム初心者には無謀でしかなかったが、幸いなことにルイには天性のゲームセンスがあったらしい。

 というか、とにかく動体視力と反射神経がよかったようだ。

 ひたすら避けて逃げて、倒せそうだったら倒してレベルを上げて。ひたすらにナザリックがある場所を目指して──その途中で、何がフラグだったのか、レベル30で<フェアリー>への進化が可能になった。

 より回避と隠密に特化できるようだったので、ルイは迷わず種族を変更し──そうして、最終的にはソロでナザリックまでたどり着き、モモンガと出会った。

 

 ──そうして、彼と、彼の仲間と、彼の拠点と一緒に、今、異世界にいる。

 

 それによってルイは、幸福な未来が見えない、望まぬ結婚から救われたのだ。

 

(──お祖父ちゃんが、助けてくれたのかも)

 ルイには、そんな風にさえ思える。

(……いっぱい、おみやげ話を集めよう。いつか、お祖父ちゃんに逢うまでに)

 ──異世界の話なんてしたら、「羨ましい!」と言われてしまうかもしれないけど。

 そんな風に思って、ルイはくすりと笑った。

 

 ――<フェアリー>が種族的に不老であり、寿命という概念がないことにルイが気づくのは、だいぶ先の話。

 




“同じ生き物なのに性能が違う”っていう理由で、真っ先に思ったのが「食べ物の差じゃね?」でした。
有毒のフグも無毒の餌を与えて育てれば無毒になるし、餌にしているものの差で色の変わるエビもいるし。
そんな妄想。
この植物の特性は、消化の関係で“草食動物”にしか効果を及ぼさないので、デミウルゴス牧場ルートは回避されました。たぶん。

あと、私には“羊皮紙”を“ようしひ”と打ち間違える悪癖があるようです。
何でや。なんで何回やっても学習せんのや。

<おまけ>
妖精の悪戯(ノック・ノック・ノック)
(フレーバーテキスト:あらゆるモノのカタチを、過去まで巻き戻すスキル)
効果条件:スキルを発動した状態で、対象の装備・アイテムに3回接触する。
(ただし、1回接触すると一旦スキルの発動が切れ、10秒のクールタイムが発生するので、連続3タッチは不可能である)
・ユグドラシル時代の効果
装備・アイテムを、原材料の状態に分解する。
分解した装備・アイテムに魔法や特殊能力が込められていた場合、その効果はデータクリスタルとして抽出される。
・転移世界での効果
ユグドラシル時代同様の効果の他に、フレーバーテキスト通り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことも可能になった。
(作中でルイが羊皮紙を皮と餌の植物に分離したのは、こっちの効果。ルイが“餌”を強く意識していたからできたことでもある)


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パンドラ、戦慄する

眼球疲労をなめてはいけない……(頭痛だけでなく、刺激で胃が痙攣するレベルまで悪化して、食事どころか水分も薬も受け付けない状態に陥ったアホからの戒め)
ブルーライトカットは、眼球疲労を軽減するだけで無効化する訳じゃない……限界までのタイムリミットを引き延ばすだけなんじゃ……

【前回のあらすじ】
ルイ「お祖父ちゃんの知恵袋で、【巻物】問題解決!」


「──野盗のアジトの捜索?」

 誘われた仕事の内容に、(モモン)が首を傾げる。

「はい。どうも、街道を行く馬車などが、何度か被害に遭っているようで……」

 ペテル──“漆黒の剣”という冒険者チームのリーダーは頷いた。

「なるほど、モンスターだけでなく、人間を相手にするような依頼もあるんですね」

「人を食い物にするような連中なんて、モンスターと変わりませんよ。……そう、あの貴族(ブタ)どもだって……」

「やべぇ、いつものアレが始まった」

「ニニャ、落ち着くのである!」

 ──エ・ランテルに来てから数日。モモンとアクトは地道に冒険者として活動し、それなりの人脈を築きつつある。

 ついた翌日、開拓村襲撃犯を護送するため都市を発ったガゼフには、「是非、共に王都へ」と誘われていたのだが、モモンの体調を理由に同行を断り、エ・ランテルに残った。

 実際の理由は、これ以上ガゼフと行動を共にすると、国家がらみの要らない(しがらみ)に巻き込まれる予感がしたからだ。ガゼフ自身は気のいい好漢でも、王国戦士長という微妙な立場は無視できない。

 いつか王都へ向かった際には頼りにさせて貰うが、現時点では一旦距離をおこう、という結論になった訳である。

 エ・ランテルに残った父子は、その翌日から冒険者として活動することにした。

 冒険者組合は、情報が集まってくる場所でもある。情報収集活動にはうってつけだったのだ。

 その活動の中で懇意になったのが、“漆黒の剣”というチームである。

 リーダーで剣士のペテル、レンジャーで弓使いのルクルット、森祭司(ドルイド)でメイス使いのダイン、“タレント”持ち魔法詠唱者のニニャ。

 彼らはまだ未熟な面はあるが、連携力のあるチームであり、人となりも申し分なかった。

 冒険者は仕事柄癖の強い人間が多いようで、彼らのようなチームと人脈をもてたのは、それだけで一つの収穫といえる。

 そして、それ以上に、ニニャの【魔法適正】という“タレント”は興味深かった。魔法の習熟を早める能力らしく、常人なら4年かかるところが2年ですむ、という具合らしい。

 “タレント”──《ユグドラシル》にはなかった《こちら》特有のそれは、つまりは生まれ持っての特殊能力であるらしい。

 この都市一の薬師の孫であるンフィーレア少年は、【あらゆるマジックアイテムを使用可能】という破格の“タレント”を有しているという。

 一度その薬師の店に行ったのだが、薬草採取の関係でカルネ村と懇意らしく、こちらへの好感度は初期からマックスだった。うまくして身内へと取り込めないか、目下画策中である。

 他にも、《こちら》特有の特殊能力に、戦士系統が修得する“武技”というものもあるようで、新たな未知に父はたいそう心躍らせている様子である。

 パンドラズ・アクター自身も、デミウルゴス主導で捕らえた邪教集団が未知のマジックアイテムを有していたと聞いて、ついついはしゃいでしまったので、気持ちはよくわかる。

(……今度の仕事でも、何か新しい発見があればよいのですが)

 父と共に、アクトとして“漆黒の剣”たちの話を聞きながら、そんな期待を抱く。

 ナザリックから出るのが難しいルイへの土産になるような何かなら、なおいい──そんな風に思う自分を自覚して、少し愉快に思った。

(父上以外の存在に、ここまで気を傾けるようになるとは……我ながら、変われば変わるものですね)

 まあ、その父によって“自身の妻”と定められたからと言えば、それだけとも言えるが──ルイの存在そのものが、いっそ驚くほどパンドラズ・アクターにとって好ましいのも、事実なのだ。

 素直で聞き上手な性格、真っ直ぐに父を慕う様、自身へと向けられる純粋な信頼、稀有で有益な能力の方向性──嫌悪する要素が一切ない。

(彼女を選んだ父上の目に狂いはなかった、ということなんでしょうね)

 ──まあ、結局、そういう結論に着地するあたり、父至上主義にかわりはないのだが。

 

 

 その晩、幾つかの冒険者チーム合同の探索により、野盗──“死を撒く剣団”の塒は発見された。

 エ・ランテルから徒歩で3時間ほどの場所にある洞窟である。

 相手の規模が不明ということで、まず小数でちょっかいをかけ、別働隊が用意した罠まで誘き出すという作戦になったのだが──

「……本当に大丈夫ですか、お二人とも」

「やっぱり、ボクたちも一緒に……」

「だ、大丈夫です。無理はしませんから」

 ──その突入班に、モモンとアクトの二人が選ばれたのである。

 メンバーの中で最も新人で、ランクの低い二人が、一番危険な役に選抜されたのは──指揮をとる冒険者曰く、「戦士長ご推薦ともなれば、これくらい余裕だろう?」とのこと。

 実力を評価してというより、やっかみが理由のようだが──むしろ、願ったり叶ったりである。

 侮りではなく、純粋な心配からついて来ようとする“漆黒の剣”の面々を何とか説得して、二人だけで行動を開始した。

「相手の実力が不明だし、せっかく仲良くなった“漆黒の剣”に何かあったら嫌だしな。俺らだけで、ぱぱっと片づけちゃおう」

「そうですね。……今回は人間の犯罪者相手ですが、殲滅でなく、生かして無力化の方向がよろしいでしょうか?」

「う~ん、そうだな……そうしとくか。タレント持ちや、武技持ちがいたら、うっかり逃がしたことにして()()()()たい」

「了解しました。──では、たっち・みー様の外装を使用させていただいても?」

「ああ、許可する」

 許可を受け、パンドラズ・アクターは全身鎧の中で、アクトから最強の剣士(たっち・みー)へと変身した。──この外装は()()()の性格によるものか、ガチな性能の割に、非殺での無力化を可能とするスキルも持ち合わせている。

「何か面白いアイテムでもあればいいのですが……そっちは望み薄ですかねぇ」

「はは、案外、珍しいお宝を貯め込んでるかもしれないぞ」

 そんな暢気な会話をしつつ、無造作にアジトへと向かっていく。

 洞窟の入り口で見張りをしていた数人の男たちは、あまりに無防備によってくる二人組の姿に、脳が一瞬理解を拒んだのか、見事な二度見を披露してくれた。

「──なっ……なんだ、てめぇら!?」

「襲撃者さ」

 裏返った誰何の声に、短くそう答え──父はモモンの姿のまま、種族スキルを発動させた。

 【絶望のオーラⅠ】──相手に“恐怖”のバッドステータスを与え、行動を阻害するスキルだ。

 それを受け、びくんっ、と身体を跳ねさせた男たちは、そのままその場でひっくり返った。

「──あれっ!? 死んだ!?」

「……いえ、生きてます、気絶しただけのようです」

 白目をむいて泡も吹いているが、確かめてみれば、息はしてるし心臓も動いている。

「えぇー……? ちょっと怯ますくらいのつもりだったんだけど……まあ、結果オーライだし、いいか」

 想定していた以上の効果だったようだが、父はすぐに気を取り直したらしい。

「弱い奴は【絶望のオーラⅠ(これ)】だけで無力化できるみたいだし、このまま行こう」

「気絶しないのは、()()()()候補ですかね」

 そうして、二人は無遠慮にアジトの中へと足を進め──

「……気絶しなかったのは、一人だけかー」

「《こちら》にも刀があるんですねぇ! 私としては、これだけでも結構な収穫です」

 たった一人の男を除き、【絶望のオーラⅠ】だけで片づいてしまった。

 その唯一の例外は、がくがくと全身を震わせながらも、刀の柄に手をかけ、必死の形相でこちらを睨んでいる。

「──なっ、何なんだ……お前らっ……!?」

「冒険者だよ。この通り、“(カッパー)”の、な」

「お前らみたいな“(カッパー)”がいてたまるかぁっ!」

 胸の冒険者プレートを指して答えた父に、男は渾身のツッコミを叫んだ。

「まあ、実力と釣り合ってないのは自覚してますがね。でも、登録したてなら、誰だって最低ランクでしょう?」

「……そんなになるまで、一体どこで何してたっつーんだよ……」

 蒼褪めて脂汗を垂らしながらも、いちいちこちらの言葉に反応してくるあたり、なかなか見所があるかもしれない。

「ああ、名乗るのが遅れました。私は遠方より参りました、剣士のアクトと申します。こちらは、我が敬愛する父上──」

「──魔法詠唱者のモモンだ。……お前の名は?」

「……聞いて、どうする」

「いや、何ならスカウトしようかと」

「──は?」

 男の顔から、ぽかんと表情が消えた。

「……何のために? ……俺なんざ、あんたらからしたら、雑魚もいいとこだろうがよ」

「“武技”が使えるなら、こいつに教えて欲しい」

「──見るからにヤベェ剣客のくせに、お前“武技”持ちじゃねぇのかよ!?」

「我らの地元に、“武技”という技術はなかったんですよ」

「…………なるほど……そりゃあ、随分な遠方だ……」

 何がおかしいのか、くくく、と喉の奥で笑う。──その表情からは、恐怖は消えていた。

 スカウトを言い出した時点で、父は【絶望のオーラⅠ】を切っていたようだが、それでも随分立ち直りが早い。──やはり、なかなか見込みがある。

「それで? それを受けたなら、どんな報酬がもらえるんだ?」

「──まずは、お前の命の保証を。そして、優れた武具と、更なる高みに至るチャンスも、くれてやろう」

 途端、男の目の色が変わった。

「……俺も、強くなれるのか……? そこの剣士みたいに?」

「ここまでは……難しいかもしれんが、まあ、お前の努力次第か。……ただし、裏切った場合は、死が救いとなるような、悍ましい地獄をくれてやることになる」

「──ははははは! 問題ねぇよ! あんたたちが何者だろうと、今より強くなれるってんなら、俺は絶対にあんたたちを裏切らねぇ!」

 そう、高らかに大笑して──一転して真顔になり、名乗りを上げた。

「──ブレイン・アングラウスだ。よろしく頼むぜ、新しい主殿」

「……契約成立だな。では、さっそく──」

 父は、ブレインの返答に満足げな笑みを浮かべ──不意に眉を寄せて額へと指を添える。

「……なんだ?」

「《伝言(メッセージ)》のようですね」

「ああ、魔法か」

 不思議そうな顔をする男に短く答えてやれば、納得の表情で頷いた。

「──何だって!?」

 と、小声でやりとりしていた父が、唐突に声を荒げる。

 こわばった表情でこちらに向き直った父は、硬い声で告げた。

「パンドラ、《転移門(ゲート)》を繋ぐから、お前はそいつと先にナザリックへ戻れ。私も、ここを片づけたらすぐに戻る」

「──何事ですか?」

 只ならぬ父の様子に嫌な予感がして思わず問えば、一瞬の間の後に、その答えは与えられた。

 

「──ルイさんが、意識不明だ」

 

 




急展開じゃないよ。ちゃんとフラグは立ててた(つもり)。

モモン「一人だけ妙に強いのがいて、アクトは逃げたそいつを追って行ってしまった……」
ペテル「な、なんですって! 大変だ! 後のことは任せて、モモンさんはアクトさんを探しに行って下さい!」
モモン「ありがとう!」
ブレイン、いいように言い訳に利用される。


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小妖精、暴走する

誤字報告をくださった方々に、圧倒的感謝……! 感謝……!
ところで、お気に入り数のバグはどうやったら直せますか? なんか、四桁に見えるんですけど?
単に、私の目がついにバカになっただけですかね???

【前回のあらすじ】
“漆黒の剣”は生存して、“死を撒く剣団”は壊滅して、ブレインはナザリック所属になって、ルイが倒れた、以上!

Q.ルイが倒れた原因は?
A.今回のタイトル


 ルイは、モモン・アクト組が出立して以降、彼らが集めた《こちら》製の【巻物(スクロール)】を分解する仕事に勤しんでいた。

 目的は、“生活魔法”などと称される《こちら》特有の魔法、その【データクリスタル】の抽出である。

 一旦【データクリスタル】の状態にしてしまえば、《ユグドラシル》の技術でのアイテム化が可能になるというのだ。

 ルイが【データクリスタル】を抽出する横で、物作りに長けたナザリックのシモベたちが、それをどうアイテム化するか検討している。

「【妖精の悪戯(ノック・ノック・ノック)】でしたか。ルイ殿のこのスキルは大変素晴らしい! 我らも欲しいくらいです」

「私からしたら、色々作れちゃう皆さんの方がすごいですよ! でも、お役に立てて嬉しいです」

 そんな風に活気づく作成班を、珍しい顔が訪ねてきた。

「──忙しそうなところ申し訳ないのですが、ちょっとよろしいですか? ……あ、わん」

「あ、ペストーニャさん!」

「おや、メイド長。……ルイ殿にご用ですかな?」

「いえ、あなたたちに、ちょっと頼みたいことがあるのですわん」

 慈悲深い犬頭のメイドは、丁寧な仕草で、シモベへと一つの壷を差し出した。──中には、白っぽい灰が見える。

「……先日、ナザリックに()()()()された、現地の方のお母様です。蘇生がうまくいかず、灰になってしまったのです……わん」

「──ペストーニャさんの蘇生魔法でも、ダメだったんですか!?」

 思わず驚きの声を上げたルイに、ペストーニャは辛そうに頷いた。

「きちんと“保存”されていた遺体に、《真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)》を使用したのですが……それでも、デスペナルティ(レベルダウン)を0にはできませんし、そもそも病死だったそうなので、そのせいかもしれません……わん」

「……それで、その灰を、我らにどうしろと?」

「ああ、そうでした。──故郷に埋葬するのも難しい境遇だそうで、せめて息子さんが遺品として持ち続けられるよう、加工していただけませんか?……わん」

「ああ、なるほど。……なら、結晶化させたあと、ペンダントにでもしましょうか」

「では、そのようにお願いします、わん」

 シモベとペストーニャの会話をどこか遠くに聞きながら、ルイの意識はその“遺灰”へと向けられていた。

(──どうにかして、生き返らせてあげられないかな……)

 そう思った──()()()()()()()のだ。

 

 ──【妖精の悪戯(ノック・ノック・ノック)】というスキルがある。

 かつての世界(ユグドラシル)では、3回触れた装備やアイテムを、原材料に分解するという効果だった。

 しかし、“設定”上では『あらゆるモノのカタチを、過去まで巻き戻すスキル』なのだ。

 事実、このスキルはこの世界で、既に食まれて獣の皮と化した枝葉を、地に根を張れるほど活きた状態にまで戻した。

 ──ならば、同じように、彼女も()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ──【最も尊きもの】というアクセサリーがある。

 実質的な効果としては、魔法・スキルの譲渡を可能とするだけのものだ。

 だが、“設定”曰く『これは、自身を削って他者に施す、献身の心そのものである』。

 【鉛の心臓(王子の心)】とは、自己犠牲による他者救済の具現。

 ──彼女が蘇生に対して支払うべき対価(レベル)を持ち合わせていないというなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ──ルイは、<小妖精(フェアリー)>だ。

 《こちら》への転移を機に、ただの人間から、透明な翅を有する小人のような種族へ生まれ変わった。

 “設定”上、『その行動を決定づけるものは、興味を引かれるか否か、それだけ』という、刹那的な種族に。

 人間として培った感性が、その方向性をある程度健全なものに限定してはいたが──

 一旦興味を持った(したいと願った)ことに関し、()()()()()()()()()()()()ほど、ルイは小妖精としての思考に染まりつつあった。

 

 ──そして、一つの奇跡のために、少女は自身の魂を削った。

 

 

「──瑠衣(るい)

 ──暗い昏い世界の中、懐かしい声がする。

「なんて無茶をするんだか。……ほら、戻りなさい」

 皺くちゃの手に、押し戻されるような感覚。

「──せっかく、私の理想が詰まったような場所に嫁いだんだ。長生きして、もっと土産話を集めてからきておくれ」

 ──お祖父ちゃん、と呼んだ声は、声にならず──視界が一転して、白く染まった。

 

 

「──ルイさん!!!」

「きゃぁっ!?」

 視界いっぱいに映る白い頭蓋骨に、思わず悲鳴を上げ──それが、見慣れた相手の顔だと気づいて、ルイはぱちぱちと目を瞬いた。

「……モ、モモンガさん? いつ戻られて……あれ? 私、いつの間にか寝ちゃってました?」

 寝付いた記憶がないのに、寝起きのような現状に首を傾げる。

「……ルイさん、自分が何したのか覚えてないんですか?」

「何って──あ!」

 モモンガの硬い声に、意識を失う直前にしたことをやっと思い出し、

「あの人、ちゃんと生き返りましたか!?」

「──生き返りましたか、じゃないっ!」

 聞いたこともないようなモモンガの本気の怒声に、びくんっと身体が跳ねた。

「生き返ったか? ええ、生き返りましたよ、完全な健康体でね! ──あんな無茶を叶えるなんて、一体何をしたんだ!? あんた、三日も意識不明だったんだぞ!」

「──えっ……えぇ!? 三日!?」

 モモンガが心配の余りに怒鳴るのも納得な日数だった。

「そ、そんなことになるなんて……単に、レベルの肩替わりをしただけのつもりだったんですけど」

「──わかるように、ちゃんと説明しなさい」

 低いモモンガの声に、慌てて自分が何をしたのか説明する。

 【鉛の心臓】によるフレーバー効果(自己犠牲)でデスペナルティを肩替わりし、【妖精の悪戯(ノック・ノック・ノック)】のフレーバー効果(過去への巻き戻し)による蘇生を──

「…………って、私、すごい無茶しましたね!? うわぁ、ごめんなさい! お騒がせしました!」

 説明しているうちに、とてつもなく危うい橋を渡ったのだと自覚して、ルイは愕然となった。

「……今更気づいたんですか?」

「は、はい……というか、助けたいと思った次の瞬間には、()()()()()って感じで……」

 ルイのその言葉に、モモンガが怒気とはまた別の剣呑さをまとう。

「……種族の影響? ……身体に引きずられて……だとしたら、それを止めるには……」

 ぶつぶつと何かを呟いてから、

「──ルイさん、とりあえず【鉛の心臓】は没収です」

「えっ、でも、それだとモモンガさんのお仕事に支障が」

「没 収 で す」

「……は、はい」

 有無をいわさぬモモンガの言葉に負けて、ペンダントを外して渡す──ルイの手にあるうちは小さいのに、モモンガの手に渡った瞬間、普通のサイズに戻るのは、何度見ても不思議な感じだ。

「……それと、しばらく人化して養生していてください。妖精の姿だと小さすぎて、看病する方が困るようなので」

「え、大丈夫です、ひとりで──」

「黙 っ て 看 病 さ れ な さ い」

「……わかりました……」

 モモンガは怒らせると怖い──さすがはナザリックの魔王様である。

 よし、と頷いて下がったモモンガと入れ替わりに、黄色い姿が視界を塞ぐ。

「──ルイ殿」

 彼の声も、いつもより低い。

「パ、パンドラさん……」

「……心配しました。自分でも驚くくらい心配して動揺しました。きっと、貴女に万一のことがあったら、私は原因となったあの女と、その息子──それどころか、その仲間全員を惨たらしく殺していましたよ」

「えっ」

 温厚な彼らしからぬ物騒極まりない発言に、ルイは目をむいた。

「そんなことはやめて欲しい、というなら──貴女は、もっと自分を大事にしてください」

「……はい」

 そう釘を刺すための言葉なのだとわかってしまえば、ルイは頷くことしかできなかった。

 男性二人が退室した後、控えていたペストーニャとシズに促されて人化し──途端、布で身を清められたり、着替えさせられたり、実に甲斐甲斐しく世話を焼かれてしまった。

(──今度からは、もっとちゃんと考えてから行動しよう……)

 ぐったりと寝台に横たわりながら、ルイは心からそう反省するのだった。

 




ルイの現在のレベル:47(=52-5)

“食べきれないお菓子を無駄にしない方法”に気が行ってたから、間接ちゅーは気にならなかった。
“ちょうど入れそうな大きさだな”って思ったから、ポケットに入った。
“寝袋ってこんな感じなのかな”って思ったから、そのまま寝ちゃった。
見た目がほのぼのすぎて誰も異常と認識できなかったけど、既にルイの思考回路はだいぶ小妖精に浸食されたっていう。

カジットは、【死の宝玉】にそそのかされてやらかす前に止めてもらって、母の復活まで叶って大勝利。
まあ、ルイが昏倒してた三日間は、色んな意味で生きた心地しなかったでしょうが。


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魔王后、微笑する

【前回のあらすじ】
ルイ「できると思ってやった。今は猛省している」
父子「おこだよ」(低音ボイス)
カジット「お母さぁああん!!!」(感涙)


 アルベドは、モモンガの后だ。

 その地位は、消えゆく定めにあった《ユグドラシル》で、その最期を看取りにきたヘロヘロによる最後の情けであり、一種の戯れだったのだろうと、既に理解はしている。

 それでも、アルベドは、数多いるシモベの中から自分が選ばれたという幸運に、心から感謝していた。

 ──アルベドは、ナザリックに最後まで残ってくれた慈悲深きモモンガを、恋い慕っていたから。

 そして、《こちら》への転移によってナザリックが滅びを免れたことで、アルベドは未だ、モモンガの后として存在し続けている。

 《こちら》への転移後、アルベドに私室が与えられていなかったこともあり、ヘロヘロの「夫婦なら同じ部屋で過ごすべきでしょ」という一言でモモンガと同室となった時など、アルベドは天にも昇るような心地になったものだ。

 しかし、当のモモンガは、ことの成り行きにひたすら戸惑っている様子だった。

「──勝手に后にして、あげく、同室なんて……すまない、アルベド」

「……私が后では、ご不満でしょうか……?」

「い、いや、そうじゃない。私の不満とかじゃなくてだな、むしろ、お前の気持ちの問題というか」

「私は、モモンガ様の后となれて、幸せの絶頂におりますわ」

「えっ」

「私は、ずっとモモンガ様をお慕いしておりましたもの」

「そ、それは、“后であれ”とされたせいで生まれた感情では……?」

「いいえ、違います。伴侶と定められたからといって、互いに愛を向けるとは限らないでしょう?──現に、ルイは実の親に定められた未来の夫を、愛していなかったではありませんか」

「……そ、そういわれれば、そうか……」

「ですから、私がモモンガ様に向けるこの愛は、紛れもなく私自身の気持ちなのです。──ご迷惑、でしょうか?」

「そ、そうじゃない。そういうわけじゃない、が……な、情けないが、その、女性から、そういう好意を向けられたことがないんだ、俺は」

「えっ」

「だから、お前のような美女に……あ、愛していると言われても、どうしても信じきれないというか……あ、いや! お前の気持ちを疑っている訳ではなく、経験がないから戸惑っているだけでな!?」

「──びじょ……」

「そ、それに、俺は、今やこんな(カラダ)だし……その、なんというか、何もできないぞ? ナニもないからな?」

「──えっ!? ないのですか!?」

「あっ、こら、何を!? やめっ、あーっ!」

 ──<死の支配者(オーバーロード)>であるモモンガに、そういうコトができないのは誤算だったが、それでもアルベドの気持ちを知ってもらえた上で、“后”として認めてもらえただけでも十分すぎるくらいだった。

 しかし、天は更にアルベドに味方した。──ルイのスキルと、彼女が持ち込んだアイテムのおかげで、モモンガが人化できるようになったのである!

 その後、モモンガはすぐに外の調査に行ってしまったため、ナニする暇もなかったが──

(──人の身体なら、当然()()()いるわよね! となれば、夫婦としての営みだって……うふふふふふ!)

 思わず腰の翼が羽ばたくほど浮かれたアルベドだったが、その後、地に叩きつけられるような衝撃を受けた。

 ──ルイが、昏倒したのである。

 ナザリックの内務を請け負う守護者統括としても、彼女の義母としても、アルベドには彼女を守る義務があったのに──なんという失態か!

 しかも、ルイの意識がない間、彼女の身に何が起きたのか解明すらできなかったのだ。己の無能が情けなくて、アルベドは歯噛みした。

 事件から三日後、ルイは意識を取り戻し、原因も判明したが──その一端は【最も尊きもの】にもあるとわかって、モモンガはそれによるスキル譲渡をやめてしまったのだ。

 当然、アルベドが胸に抱いていた幸せ夫婦計画も、丸ごと水泡に帰してしまった──

 かと、思っていたのだが。

「ああ、アルベド、おかえり」

「──モ、モモンガ様……?」

 ルイが目覚めた次の日の夜、職務から自室に戻ったアルベドを出迎えたのは──人の姿(モモンモード)のモモンガだった。その胸元には、【凍えた燕】の姿がある。

「も、【最も尊きもの】の使用はおやめになったのでは?」

「ああ、うん……」

 モモンガは、黒髪をかき回すように頭を掻く。

「今回、ルイさんが倒れた原因は【最も尊きもの(これ)】のせいでもあるから、俺としてはそうしたかったんだけど……ヘロヘロさんとパンドラに『現状で“モモン”を捨てるのは拙い』って止められてな……」

「それは……そうですわね」

「だからって、またルイさんが倒れるようなことになったら困るってことで、他の原因──ルイさんの種族特性と種族スキルの方を封じるってことになったんだよ」

 何でもパンドラズ・アクターが宝物殿をひっくり返して、【人化の腕輪】という装備を発掘してきたのだという。

「これなー……【人化の腕輪】って名前だけど……最初に人化の手段を模索した時に候補にも出なかったのは、一回つけると()()()()()()()()から。通称、“呪いの腕輪”」

 一度装備してしまうと、死亡時の装備ドロップでしか外せないのだという。

「しかも、種族特性と種族スキルが使えなくなるどころか、()()()()()()()()()()()()()()()んだよ。俺が使ったら、種族レベルの分の40レベルが丸ごと封印されて、60レベル扱いになる」

「それは……その分、ステータスも下がってしまうのですか?」

「うん」

 ──なるほど、まぎれもなく“呪いの腕輪”である。

「これをルイさんにつけさせるのも、正直どうかと思ったんだけど……戦力的には、俺がつけるより、ルイさんがつける方が正しいから……」

 【最も尊きもの】を封印して、モモンガが【人化の腕輪】を使用するより、モモンガに【妖精の輪(チェンジ・リング)】を譲渡したルイが【人化の腕輪】を使用する方が、下がるレベルは少なくて済むのだ。

 当のルイは「別に病気になるわけでもなく、普通の人間の状態に戻るだけですよね? なら、問題ないです!」とまるで気にした風もなかったという。

 暢気というか、なんというか──まあ、安全なナザリック内にいるので、弱体化しても特に危険がないと言うのも大きいのだろうが。

「──と、まあ……これから、ルイさんは殆ど普通の人間と同じような状態なので、これから色々気を使ってやってくれ。──パンドラが装備で過重包装してはいたけど」

「ええ、わかりました。皆にもそのように通達しておきますわ」

 にっこりと笑んで頷いたアルベドに、モモンガはどこかひきつったような笑みで、

「──ところで、アルベドさん……その手はナンデスカ」

「うふふ……せっかく、夫婦で過ごせる時間ができたんですよ?」

「ま、待って、待ってくれ!──そうだ、俺まだ晩飯食べてない!」

「あら、飲食不要の指輪もなさっているじゃありませんか」

「でもアルベドと一緒に食事したことないし、せっかくだから一緒に食べたいなぁ! アルベドみたいな美人と一緒に食べたらきっと美味しい!」

「あらあら、まあまあ! モモンガ様ったら!」

 ──その後、自室で一緒に晩餐をとるも、ワインを飲み過ぎたモモンガが潰れてしまったため、アルベドの目論見は先送りにされてしまった。

 

(──でも、まあ、これからいくらでも機会はございますものね)

 

 むにゃむにゃと眠るモモンガに寄り添いながら、アルベドは妖しく微笑んだ。

 




人間形態のルイのレベル:30(=47-17(封印された種族レベル))

【最も尊きもの】での【妖精の輪】譲渡→【人化の腕輪】でルイの種族レベル封印、の順番なら、【最も尊きもの】が外されない限り効果は持続します。
既に【妖精の輪】の修得者がモモンガになっているので、ルイのスキルとして扱われず、一緒に封印されないのです。
別口座使っての差し押さえ逃れみたいなもんです(ヒドい喩え)

【人化の腕輪】(通称:呪いの腕輪)
(フレーバーテキスト:異形であることを捨てて、人となる腕輪)
効果:装備中、人間形態(セカンドアバター)へ外装変化する。
また、異形種・亜人種としての種族レベルは封印され、それによるステータス上昇、特性、スキルなども一緒に封印される。
この装備は、“死亡”による装備ドロップでのみ外すことができる。
(対に【人外の腕輪】という人間が異形種に化ける装備もあるが、こっちもペナルティが酷く、クソ運営何したいんだと叫ばれた装備シリーズ)

<おまけのアルベド考察>
原作のアルベドの不幸は、モモンガ本人に「愛している」と感情自体を書き込まれてしまったことだと思います。
「仲が悪い」とされているシャルティアとアウラの例を見る限り、設定によって言動への影響はあっても、その感情自体は完全には縛られていない。
ということは、アルベドが元々全くモモンガを愛していなかったなら、「愛している」という設定は表面上の言動にしか影響しなかった?
設定変更される前のアルベドがモモンガをどう思っていたかは、もはや確かめようのないことですが、少なくとも好意的な存在であったことは間違いないでしょう。何せ、最後まで残ってくれた至高のお方ですし。
というか、一言に「愛している」といっても、愛にも色々あります。主従愛だって家族愛だって立派な愛でしょう。様々な“愛”の中から“男女の愛”を選択したのは、アルベド自身の気持ちだと思うんですよね。
ですが、この“愛”を当のモモンガに対して証明することは、非常に困難です。
アルベドが何をしても、何を言っても、モモンガの中では「俺が設定を変えてしまったから」に帰結してしまうのですから。
なので、せめて、本作では報われてほしいなぁ、という感じです。


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ナザリック、浸透する

毎度誤字報告ありがとうございます……本当、お手数をおかけします……

※今回、冒頭、虫描写注意です! ぞわってなる感じかもです。

【前回のあらすじ】
パンドラ「Lv30の人間状態……装備をしっかりしないと!」
ルイ(“聖遺物級”以上で全身を固められる)
アルベド「モモンガ様~(はぁと)」
モモンガ(妻に応える覚悟ができず酒で寝逃げ)

(追記:感想でご指摘いただいた描写ミスを修正しました)


 ()()は人知れず、その耳目を増やし、手足を伸ばしていく。

 

 

 ──スレイン法国、という国がある。

 “神”とされた異邦人たちの遺した血統と秘宝でもって、影に日向に人類の守護のための活動を行う宗教国家だ。

 聖典の名を掲げた特殊部隊は、この国でも精鋭中の精鋭。しかし、そのうちの一つ、陽光聖典が突然失踪した。

 陽光聖典は、腐敗した王国の主要戦力を暗殺するため、囮部隊と連動して動いていたはずだった。

 しかし、暗殺は失敗し、囮部隊は捕縛され、陽光聖典は失踪した。

 陽光聖典の隊長に切り札として持たせた【魔封じの水晶】を目印に、儀式魔法による遠見も行ったが──それは失敗に終わり、それどころか悍ましい反撃(カウンター)をくらった。

 魔法を発動すると同時、術者の頭上に闇色の穴が空き、そこから無数の()()が湧き出てきたのである。

 ()()()()()()()の群に、魔道具によって自我を奪われた状態の巫女はともかく、その場にいた他の面々はパニックに陥った。

 虫自体は一切こちらに危害を加えてこなかったが、味方が乱発した魔法で結構な被害が出た。──死者が出なかったことだけが、不幸中の幸いである。

 乱発された魔法で湧き出た虫も少なからず死んだが、数が数だったため逃れて散っていったものも多い。

 放置すれば食害や疫病につながるため、法国は現在、総力を挙げての害虫駆除に必死である。

 

 ──彼らは知らない。

 その害虫は只の目くらましでしかなく、本命はその()にこそ潜んでおり──居合わせた者たちの影へと移った()()()によって、自国の情報が抜き取られているということを──

 

 

 ──トブの大森林と呼ばれる場所がある。

 アゼルリシア山脈の南端を包むように広がるこの大森林は、長らく“三大”と呼ばれる強大なモンスターたちの支配下にあった。

 しかし、それは、数日前までの──突如として、“三大”よりも恐ろしい存在が現れるまでの話。

 東に現れたのは、可憐にして凶悪な吸血鬼。

 西に現れたのは、巨大な黒狼を連れた子供の闇妖精。

 南に現れたのは、四腕に異なる武器を構えた蟲王。

 彼らはいずれも、「敵対するつもりはない、この辺りの情報が欲しい」と、“三大”へ対話を求めた。

 東の巨人は、吸血鬼の名を愚弄したせいで、さんざん惨たらしく嬲られたあげく、闇色の穴に飲みこまれて消えてしまった。

 西の魔蛇は、相手が従えた魔獣の強さを察し、素直に質問へ答えてその場をやり過ごした。

 南の大魔獣は、欲しいのならば勝ち取れと蟲王へ戦いを仕掛け、敗北。しかし、敗北後は従属を誓い、訊かれたことへ素直に答えたため、配下へ下ることを許された。

 その後、三者は合流すると北上し──途中、助けを求める森精霊に出会うと、自分たちの配下になることを対価にその懇願に応え、封じられていた()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 密かに一同の動向をうかがっていた魔蛇は、その神話の如き力に畏れをなし、慌ててその配下へと下った。

 その後、彼らは更に北上しようとして──そこで、何らかの報せを受けると、配下となった魔蛇と大魔獣へ大森林の支配と連絡手段のマジックアイテムを預け、森精霊だけ連れてどこかへ去っていった。

 

 ──仮初めの支配者たちは、知ってしまった。

 己たちが、絶対的な強者などではないということを。

 そして、あの恐ろしい三者が、共通の主に仕える同輩だということを。

 つまりは、あの三者よりも強大な者がこの世に存在しているという、何より恐ろしい真実を──

 

 

『蟲の御仁! なんか変な人間たちが来てるでござるよ~! 魔蛇どのが、ただの冒険者には見えないというのでござる! どうすればいいでござるか!?』

「──森ノ賢王カ。ソノ人間達ニツイテハ、コチラデ把握シテイル。丁度コチラカラ連絡シヨウトシテイタ所ダ」

 古めかしい口調を紡ぐ愛嬌のある声に、音の塊を無理に人の言葉に整えたような奇妙な声音が応える。

『おお、さすがでござる!』

「其奴等ノ相手ハ、オ前達ニハ荷ガ勝ツ。手ヲ出サズ、見ツカラヌヨウニ隠レテイロ」

『そ、そんなに強いのでござるか!?』

「強イトイウヨリ、装備ノ特殊能力ガ厄介ラシイ。──例ノ魔樹ガ封ジラレテイタ辺リデ、コチラノ手勢ヲ仕掛ケル。危険ナノデ近寄ラヌヨウ、リュラリュース達ニモ伝エテオケ」

『了解でござる!』

「デハ、片ガ付イタラ、此方カラ連絡スル」

 

 

 漆黒聖典は、トブの大森林の奥、辺り一帯が荒れ果てたその場所で、その恐ろしい魔物を発見した。

 これこそが予言にあった“破滅の竜王”に違いないと、支配の秘宝である【ケイ・セケ・コゥク】を使用。

 途端、どこからともなく現れた()()()()によって、せっかく支配した魔物は瞬殺されてしまった。

 それが“白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)”の()()だと察した漆黒聖典は、【ケイ・セケ・コゥク】も通用しないと判断し、即座に撤退する。

 白金の鎧はそれを追うことはなく、静かに辺りを窺った。

 ──辺りに感じるのは、森に住まうだろう小さな生き物達の気配だけ。少し離れた所に、それなりに力のありそうなモンスターの気配も感じたが、おそらくはこの辺りの主だろう。力量も()()の範囲内だ。

 この森の()()な存在は、先ほど消し去った魔物だけだと判断した白金の鎧は、それ以上その場に留まることなく、いずこかへと帰って行った。

 

 ──彼らは知らない。

 彼らが“破滅の竜王”と信じたものは、本物の“破滅の竜王”を撃破した陣営が、代わりにと用意した()()()()()()()()()()でしかないということを。

 既に、この大森林の支配図は、この世界にとって()()な存在によって塗り替えられているのだということを。

 辺りにいる無数の小さな気配の中に、その()()の耳目というべき眷属が多数紛れていたことを──

 




※時系列は、ルイ昏倒前~ルイ昏倒中
ルイが昏倒中、ナザリックは厳戒態勢。状況からしてルイ自身が何かやらかしたのだろうとは思われていましたが、原因が確定するまでは、外出していた守護者も全員呼び戻し、外部からの攻撃も視野に入れて警戒していたのです。

某悪魔「覗いてきた相手を殺すより、此方が情報を獲得するのを優先しました。恐怖公の眷属は、相手にもたらす衝撃が強みですよね」(にっこり)
法国「」(白目)
ピニスン「いきなり本体引っこ抜かれて連れてかれるとは思わなかった。いや、回復してもらったし、より環境のいいことに来れたからいいけどさ」(灌木育てつつ)
グ「」(ひと思いに殺されるより酷い目にあってる)

グはね……ナザリック勢の地雷、全力で踏むから……創造主(おや)からもらった大事な名前、馬鹿にされたらどのNPCでもキレるし、至高の御方やルイが相手でも確実にお供がキレるもの……


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至高の方々、相談する

前話では色々やらかして失礼しました……
本当、ご指摘に感謝……感謝……!

【前回のあらすじ】
法国「ほぎゃー! ゴ○ブリ!」
影の悪魔(……計画通り)
吸血鬼「よくもペロロンチーノ様から賜った名を侮辱したなぁッ!」
東の巨人「」永遠の生き地獄へボッシュート
闇妖精(姉)「弟の助手、ゲ~ット!」
森精霊(“滅びの魔樹”滅ぼすとか、こいつらヤバイ)
蟲王「戦士トシテノ気概ハ買ウガ、森ノ()王……?」
南の大魔獣「そ、そんな~! 酷いでござる!」
西の魔蛇(預かった縄張りを守らないと……!)必死
白金の竜王「よし、この森は正常だ」騙されてる


 ルイが目覚めた翌日の昼、ヘロヘロの部屋にて。

「ああ~~~……ルイさんには本当に申し訳ないことを……」

「ヘ、ヘロヘロさん、気を確かに! ルイさんも許してくれたじゃないですか!」

 卓に突っ伏すようにして呻くヘロヘロを、モモンガが必死に宥めている。

 人格(プレイヤー)(アバター)に引っ張られる危険性を察していたにも関わらず、ルイのそれだけ軽視してしまったことを、ヘロヘロはすさまじく後悔しているのだ。

 今回の件でルイは一回死んだも同然な(デスペナくらった)ので、ヘロヘロの罪悪感は相当なものである。

 昼前にパンドラズ・アクターが発掘してきた【人化の腕輪】で、ルイの“種族特性”の押さえ込みはできたが、探せば手段はあったからこそ、「もっと早く言っておけば」という悔いが強くなる訳だ。

「むしろ、今回の件はいい教訓になったと思いましょう! これからは、どんな些細なことでも報告・連絡・相談(ほうれんそう)を徹底するということで!」

「…………そうですね……これで、同じようなことを繰り返したら、本当に救いようがない……」

 モモンガの言葉に、ヘロヘロは力なく顔を上げる。

「──モモンガさんは、明日からまた都市(まち)に出てしまう訳ですし、今のうちに相談しなきゃいけないことは山ほどありますしね……」

「なんていうか……情報増えすぎてヤバイことになってますよね……いや、ないよりあった方がずっといいんですけど……」

 ははは、と乾いた笑いが感染する。

 法国からの諜報魔法への反撃(カウンター)で送り込んだり、王都へと連行された開拓村襲撃犯(法国の囮部隊)につけたりした影の悪魔(シャドウ・デーモン)達は、うまいこと影から影を渡って情報を集めてくれたのだが。

「──よりによってなんでナザリックは王国領に転移してしまったのか」

「王国ヤバすぎですよね」

 ──調査資料を読んだ結果の感想は、これに尽きる。

「貴族は腐ってるし、犯罪組織が麻薬ばらまいてるし」

「その麻薬が回ったせいで帝国に恨まれてるし、法国には見限られてむしろ潰されそうになってるし」

「国力的に、次に帝国と戦争したら、まず負けますよね」

「法国が帝国側についてるし、むしろ国ごと食われそうですよね」

「……あのガゼフが忠誠を誓っている以上、国王自身は悪い人じゃないんでしょうけど……」

「王としての才気と、人格は別ってことですかね……」

 正直、ナザリックとしては、土地の主が王国だろうが帝国だろうが関係ないと言えば関係ない。無駄にもめないで済むならどっちでもいい──のだが。

「──今の帝国のトップは、相当な切れ者らしいですからね。併呑した領地を調査しないなんて手抜きは、期待しない方がいいでしょう」

「……ナザリックの存在が知れたら、どう出ますかね」

「わかりませんが……領地内にいる以上、最低でも、課税とかは免れないですよね……最悪、モンスターの巣として、討伐対象に……」

「……どっちにしろ、NPCの反応が怖い」

「……そこなんですよね~~~!!!」

 今のところ『無辜の者に手を出すな、無用な諍いを起こすな(自衛は許す)』という指示に従い、(多少やらかしつつも)概ね情報収集に徹してくれているが──

 そんな事態になったら「至高の御方々を下に見るとは不敬な!」とか「そっちから手を出してきたのですから、正当防衛ですよね」とか言って、全力の実力行使に出る未来しか見えない。

 ──モモンガとヘロヘロが異形種として会話していたなら、「いっそ、それもありか」という方向に流れる可能性もあった。

 しかし、ルイの件で“精神の異形化”を深刻に受け止めていた二人は、できうる限り人間形態でいるようにしていた。

 ()()としての二人は、“人間との戦争”を当然の感覚で厭い、頭を悩ませる。

「──もういっそ、ナザリックだけで独立したい……」

「できればいいですけどね~……それこそ戦争沙汰でしょうしね……」

 げんなりしたモモンガの言葉に、ヘロヘロは乾いた笑いで返す。

 と、二人の間の煮詰まった空気を動かすように、ノックの音が響いた。

「──ご歓談中失礼します、パンドラズ・アクターです」

「ああ……いいところに来た。入れ」

 モモンガの言葉に、ルイを伴ったパンドラズ・アクターが入室する。

「とりあえず、ルイ殿の装備を調えたので、お披露目をば、と」

 黒髪の少女の姿になったルイは、居心地悪そうにそわそわしている。

 いかにも清楚なお嬢さんというような、品のいいロングのワンピース。装飾品もそれに合わせて固められていた。

 パンドラズ・アクターと、ルイの世話役をしているペスとシズ、渾身のコーディネイトである。

「……な、何か、こんなすごい装備お借りしちゃっていいんでしょうか……?」

「……あれ? その服、“伝説級(レジェンド)”じゃなくて、“聖遺物級(レリック)”?」

「ん? 何で……ああ、種族とレベルの制限か」

 しかし、装備しているルイ本人も、お披露目された二人も、デザインよりも性能に意識がいっていた。 

「……はい、父上のご推察の通り、“伝説級(レジェンド)”で装備できるものがなかったのです。その分、アクセサリの類は奮発しました」

「──うん、状態異常の対策はばっちりだし、防御力もレベルの割には十分だな。よくやった、パンドラズ・アクター」

「ありがたきお言葉。──ですが、そのお言葉は、どうぞペストーニャ殿とシズ殿にも」

「ああ、わかった」

 病み上がりのルイを立たせっぱなしには出来ないので、二人を席に着かせ、室外に控えているペストーニャとシズに茶を頼むついでに「よくやった」と声をかけておく。

 その一言で花でも背負ったような空気をまとったメイド二人は、素晴らしい手際でお茶を淹れてから、再び室外へ戻っていった。

「……この資料は、この辺りの国家情勢についてですか」

 と、卓上に広げられた資料に視線を向けてのパンドラズ・アクターの言葉に、モモンガとヘロヘロは頷いて、これ幸いと、先ほどまで話していた内容を告げる。

「──なるほど、ナザリックの独立ですか……手は、なくもないかと」

「……戦争抜きでか?」

 息子(パンドラ)の言葉に、父親(モモンガ)が驚いたように目を見開く。

「まあ、ある意味武力行使は伴いますが……相手は、王国自体ではなく、王国に巣くう犯罪組織です」

「──詳しく」

 ヘロヘロに促されるまま、パンドラズ・アクターはその策を語り出す。

 

 ──その日、当人達のまるで預かり知らぬところで、犯罪組織“八本指”の運命が確定した。

 




※この世界線のナザリックは世界征服目指してません

転移直後、ナザリックの外を見た一同のやりとり
モモンガ「……いっそ、世界征服とか、面白いかも知れないな」
ルイ「えぇっ!?」
モモンガ「えっ? やだなぁ、冗談ですよ!」
ルイ「あっ、そ、そうですよね! びっくりしちゃいました!」
NPC(冗談だったのか……)
ヘロヘロ「っていうか、正直ナザリックだけで十分だし、世界とか別に要らないですよね」
モモンガ「確かに。ナザリックを守るための情報は要りますけどね」
NPC(『ナザリックだけで十分』……!!!)大歓喜

(なお、目指さなくても、結果そうなる可能性)


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新妻少女、動揺する

誤字報告ありがとうございます!
ここのところ時系列が迷子なのは、同時に発生した複数イベントを、筆がのって書き終えた分から上げてった結果です。
わかりにくくて申し訳ない!

【前回のあらすじ】
おめかしした少女に「似合ってる」の一言もない残念な至高の御方々は、ナザリックの独立を決意した!


 昏睡から目覚めた翌日の夜。ルイは、第六層での晩餐会に招かれた。

 晩餐会とはいうものの、メニューは割とジャンクで、マナーもラフなもの。ホームパーティー、という方が近いだろうか。

 ホストは階層担当の双子。ゲストはルイとシャルティア。パンドラズ・アクターも誘われていたが、仕事の引継が発生したため欠席となってしまった。

「ルイさんっ……元気になって、よかったですっ……」

「ああぁ~、ありがとうございますっ、ご心配おかけしました!」

 会うなり泣きそうになったマーレの様子に、ルイはあわあわと礼と謝罪を述べる。

「こら、マーレ、泣かないの! ルイが困っちゃうでしょ」

「チビ、いっそルイは少し困らせて、懲らしめてやった方がいいでありんす」

 弟を叱るアウラに、シャルティアがつんとした表情で言い放つ。

「どうでもいい人間を助けるために、自分が倒れてちゃ世話ありんせん! よーく、反省するでありんす!」

「は、はい……すみません……」

 真っ当なお説教に、ルイは縮こまって謝るしかない。

「まったく……素直に心配したって言えばいいじゃん。倒れたって報せの直後、一番動揺してたのは誰だっけ?」

「──う、うるさいでありんすよ、チビ!」

 アウラの言葉に真っ赤になるシャルティアの様子に、騒ぎを起こしたことで嫌われたわけではないと悟って、ルイはほっとした。

 見た目年下のこの三人を、ルイは友達だと思っている。

 見た目年齢だけならメイド達にも近い人はいるのだが、どうしても恭しい態度を取られてしまって、友達という感じになれない。

 その点、守護者たちは割と気安くルイと接してくれるのだ。

 同性のアウラとシャルティアは、トブの大森林の調査に出るまで、よくかまってくれたし、マーレとも【巻物(スクロール)】の灌木の件で親しくなった。

(──パンドラさんにも言われたけど……もっと自分のこと、気をつけよう)

 自分に何かあったら、きっとこの優しい三人も傷ついてしまう──ルイは改めて決意した。

 その後の晩餐は、主にアウラとシャルティアの息のあった掛け合いで盛り上がり、いよいよお開きという段になって、シャルティアが思い出したように何かの包みを渡してきた。

「快気祝いでありんす。夜寝るときにでも使いなんし」

「わあ、ありがとうございます!」

 受け取るルイの隣で、アウラがちょっと変な顔をする。

「ねえ、それ──」

「──おや? まだご歓談中でしたか?」

 何やら言い掛けたタイミングで、迎えに来たらしいパンドラズ・アクターが顔を出した。

 シャルティアがにっこり笑って、

「いえ、今ちょうどお開きになったところでありんす。──ルイ、よい夜を」

「はい、おやすみなさい」

 アウラとマーレとも挨拶してから、パンドラズ・アクターと共に、宝物殿の奥にある自室に戻った。

「おかえりなさい、ルイ殿」

「──あ、はい、ただいま戻りました」

 柔らかな笑みを含んだパンドラズ・アクターの声に、ルイは思わずはにかむ。

 殆ど意識がなかったためあまり実感がないが、昏倒してからは看病の関係で第九層の客間で寝かされていたため、ルイがこの部屋に戻るのは実に数日ぶりのことなのだ。──それ故の「おかえり」なのだろう。

「──ところで、その包みは?」

「あ、シャルティアさんが快気祝いにって下さったんです。──寝間着かなぁ?」

 あの台詞と包みの感触からして予測をつけていえば、パンドラズ・アクターは「これはうっかり!」と手のひらで自身の額を軽く叩いた。

「装備は整えましたが、休む時の服までは用意していませんでしたね! シャルティア殿のお気遣いに感謝しなくては」

 ですね、と頷いて、さっそく使わせて貰おうと包みを開き──

 寝間着──というより、ひどく扇情的なデザインの夜着が出てきて、ルイは思わず固まった。

「……っ!?」

「──没収ッ!」

 パンドラズ・アクターが引ったくるようにソレを回収し、速攻でアイテムボックスに放り込む。

「……あんのエロ吸血鬼が……ッ! ──失礼。ルイ殿、今見たモノは忘れなさい。あとで私から返しておきますから」

「は、はい……」

 一瞬荒れた口調をすぐに正し、生真面目な口調で言うパンドラズ・アクターに頷くも──ルイはかなり動揺していた。

(──今の……今の服って……()()()()……)

 明らかに女性が男性を誘惑する類の衣服であり──

(……そ、そうだ、私、パンドラさんと()()だったんだ……!)

 彼が普通に家族として、兄のように接してくれていたものだから、すっかり頭から抜け落ちていた事実を、思い出してしまった。

(──っていうか、これから一緒に寝るの!?)

 小妖精形態だったこれまではよかった。パンドラズ・アクターの枕元におかれたクッション入りの籠が、ルイの寝床だった。

 だが、今のルイは人間の姿で、小妖精の姿に切り替わることも出来ないのである。

 広々とした作りの寝台なので、人型が二人並んで寝るくらいは余裕だが──それは、何というか、()()()()()()になってしまうのでは?

 意識してしまったルイは、顔に熱が集まってくるのを自覚する。

「……ルイ殿?」

「えっ、あっ……そのっ……」

 パンドラズ・アクターが気遣わしげな声をかけてくれるが──それにも、混乱してまともに応えられない。

 視線すら合わせられずに俯くルイに、しばしして納得したような呟きが届いた。

「──あぁ……身体によって意識が変わる、というのは、こういうところにも出るんですね……」

 それから、パンドラズ・アクターは、俯くルイの前にしゃがみ込むと、視線を合わせて告げた。

「ご安心を、ルイ殿。我らドッペルゲンガーは、生来、性別を持たない種族ですから」

「……え?」

 言われた意味がうまく飲み込めず、きょとんとなったルイに、パンドラズ・アクターは、穏やかな声で説明してくれる。

「私は、モモンガ様の“息子”として、人格は男性寄りになってはいますが──この身体自体は、男でも女でもない無性のものです。当然、男性としての機能もありません」

 ──言外に、ルイが想像したようなことは、そもそも()()と言われ、ルイは別の羞恥で真っ赤になった。

「──あああぁぁ、すみません! わ、私、勝手な想像でパンドラさんに失礼なことを……っ!」

「いえ、年頃の女性として、至極真っ当な危機感です。むしろそれは大事にしてくださいね。ルイ殿は、ちょっと無防備過ぎるところがあります。私はともかく、他の男性の前で不用意な隙を見せてはダメですよ」

 めっ、と小さな子供相手のような調子で言い聞かされる始末である。

「お返事は?」

「……はい、気をつけます……」

「よし」

 両手で顔を覆いつつも、か細い声でそう答えたルイに、パンドラズ・アクターは満足げに頷いたようだった。

「──では、就寝用の衣服を見繕ってきますので、ちょっと待ってて下さいね」

 言うなり、宝物殿の方に向かっていったパンドラズ・アクターの背を見送って、ルイはヘナヘナとその場にしゃがみ込む。

(──恥ずかしい……すごい恥ずかしい……ッ!)

 色んな羞恥で、ルイの脳内はもうしっちゃかめっちゃかだった。

 

 その後、パンドラズ・アクターが随分と時間をかけて戻ってきたことに、おそらくは自分が落ち着くための時間をくれたのだと悟り、

(……本当に優しいなぁ、パンドラさん)

 ()になった相手がこのヒトでよかったと、ルイは心底、数奇な巡り合わせに感謝したのだった。




パンドラは紳士です。妻に嘘などつきません。
擬態で“男性体”になれることを言わなかったのは、余計に混乱させないようにという、純粋な気遣いですとも。
騙して無理強いなんて考えてもいません。ただ、いつかルイが子を望んだり、そういう行為に興味を抱いた場合、それは当然“夫”の役目だとは思ってますが、ね。

<おまけのユグドラシル時代>
ナザリック第三階層
モモンガ「で、この子が、例のペロロンチーノさんの嫁です」
ルイ「わぁ! 映像で見るより綺麗です!」
シャルティア(私は、ペロロンチーノ様の嫁だった!?)
このやりとりを覚えているので、この世界線のシャルティアはモモンガ様に求愛しません。ペロロンチーノ様一筋です(なお、百合は別腹)

ナザリック第六階層
モモンガ「えーっと……ズボンの方が姉で、スカートの方が弟です……」
ルイ「なるほど~、健康祈願と魔除けの異性装ですね!」
モモンガ「えっ、なにそれ」
ルイ「新しい命を育む女性を生命力の象徴に見立てた上で、女装させて健康長寿を願ったり、可愛い女の子が悪い魔物に狙われて浚われないように、男の子の格好で育てて魔除けにしたりする風習があったって、おじいちゃんから聞いたことがあります!」
双子(そういうことだったんだ!)
この服装が、紛れもなく創造主の愛の証だと知る(なお、ぶくぶく茶釜さんにその知識があったかは不明)

ユグドラシルでのナザリック巡りで、こういうイベントを起こしてるので、ルイはわりと守護者に好かれてます。
シャルティアのプレゼントは、100%好意(自分が貰って嬉しいものあげただけ)


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男装術士、涙する

誤字報告ありがとうございます!
体調よろしくなくて、若干スランプ。申し訳ない。

【前回のあらすじ】
シャルティア「プレゼントでありんす」
ルイ「!?」エッチな服に赤面
パンドラ「エロ吸血鬼自重して!」


「──モモンさん、これまですみませんでした……」

「えっ?」

 ニニャの謝罪に、モモンは何を謝られているかわからない、という顔をした。

 ──あの野盗討伐から5日間、モモン・アクト父子は行方知れずだった。

 盗賊達からの聞き取りで、逃げた用心棒が()()ブレイン・アングラウスだと知れてからは、最悪の可能性がずっと脳裏にちらついていた。

 つい先刻、モモンがアクトとは別の人間を伴って帰還した際も、もしや、と嫌な想像がよぎったものだ。

 しかし、ニニャのその想像は、いい方向に裏切られた。

 アクトは、モモンより一足先に故郷への帰還を果たしたのだという。

 モモン・アクト父子が、マジックアイテムの暴走で遠方(この地)まで飛ばされ、故郷への帰還方法を探しているという話は、本人達が話してくれたので“漆黒の剣”も知っていた。

 モモンたちが帰還方法を探しているのと同様に、故郷の方でも彼らを連れ戻す方法を模索していたらしい。

 そして、故郷の者が()()()()()()()()()()()という儀式魔法を行い、まずアクトを連れ戻したのだという。

 エ・ランテルに戻ったモモンが連れていたのは、文字通りアクトの()()()()としてこの地に飛んできた老執事だった。──老い先短い身であるからと、自ら志願したらしい。

 位置交換の儀式のごたごたで結局ブレインを逃してしまったと、肩を落として報告するモモンに、冒険者組合の人間は頬を引き攣らせていた。──それは彼の失態を責めるものではなく、故郷での彼の素性を想像して胃を痛めていたのだろう。

 儀式魔法を行使してまで帰還を望まれる、品のいい執事に仕えられるような血筋──上流貴族か、まさか王族か。

 その推測に、ニニャも穏やかでない心地を覚えた。

 ニニャは、大事な姉を権力でもって無理矢理攫っていった貴族を、心のそこから憎んでいる。

 とはいえ、モモンの生まれがどうあれ、彼の人となりが好ましいものであることは間違いない。その評価を今更変える気はない。

 問題はそこではなく──モモンの前でも、貴族への憎悪をことあるごとにこぼしていた自分の言動の方だ。

 すべての貴族を十把一絡げにしたようなニニャの言動は、モモンにはどのように映っていたのだろう──そう思ってしまえば、思わず謝罪せずにはいられなかったのだ。

「……いえ、何でもないです、気にしないで下さい」

 しかし、モモン自身が表立って明かしていない以上、その素性についてどうこう言うのも別の意味で失礼だと気付いて、ニニャはそう誤魔化す。

(せめて、これからはモモンさんの前で上流階級(きぞく)を悪く言わないようにしよう……)

 モモンは不思議そうな顔をしていたものの深くツッコみはしなかった。

 代わりに、気を取り直したように、穏やかな笑みで一礼して、

「──“漆黒の剣”の皆さんには、これまで大変お世話になりました。私は明日、エ・ランテルを発ちます」

「故郷への帰還方法がわかったんですか?」

 ペテルの問いに、モモンは軽く頭を振った。

「いえ──下手に動き回るより、次の儀式が可能になる方が早そうで……でも、それだとセバスのように()()()()が来てしまいます。なので、せめて彼らの居場所を確保しておきたくて。とりあえず、ガゼフさんを頼って王都に行こうかと」

 モモンの言葉に合わせて軽く黙礼する老執事の姿に、ああ、と納得した。──彼に、モモン・アクトのように冒険者をやれという方が無茶である。

「王国戦士長の伝なら、執事としての勤め先も見つかるか」

「……むしろ、主人の格が試されそうであるな……」

 ルクルットは納得したように頷いているが、ダインは懸念の呟きを漏らしている。──ニニャとしては、ダインの方に同感だ。

 そうして、ひとしきり別れを惜しみ──翌日、モモンはエ・ランテルを発った。

 

 ──その数日後、ニニャは奇妙な夢を見た。

 

 

 気がつけば、貴族の館にあるような立派な寝室にいた。

 つめれば“漆黒の剣”全員が寝転がれそうな立派な寝台に、見覚えのある女性が一人、横たわっている。

「──姉さん!」

 思わず叫んで駆け寄った。恐る恐る触れれば、温かな体温を確かに感じる。──幻ではない。

『似てるのでもしやと思いましたが、やはり貴女の姉でしたか』

「──誰!?」

 どこからともなく響いた声に、ニニャは咄嗟に周囲を見渡すが、姉の他には誰もいない。

 虚空から響く、男女も老若も不明瞭な声は、ニニャの戸惑いを余所に話を続ける。

『お姉さんを、返して欲しいですか?』

「そんなの、当たり前じゃないか!」

『じゃあ、貴女自身が持つもので、最も価値ある物を対価に下さい』

 ──咄嗟に思ったのは、これは悪魔の契約か何かなのだろうか、ということだった。

『あ、別に悪魔との契約とかじゃないですよ。ただ、貴女にとってお姉さんは大切な存在のようなので、それを対価もなしに引き渡すのは、かえって侮辱かと思いまして。──助けるのに、それなりに手間もかかりましたし』

「……助けた?」

『ええ。その人、“八本指”とかいう犯罪組織の違法娼館にいたんですよ。──見つけた時は、酷い有様でした』

 ニニャは思わず姉の姿を見直した。──深く眠っている様子の姉は、傷一つなく健やかな顔色をしている。

「……治療してくれたの?」

『ええ。放っておいたら、死にそうだったので』

「……代わりに、僕の命を捧げればいいの?」

『いや、だから、悪魔の契約じゃないですから。命をどうこうする系の対価はいらないです』

 ──ということは、代わりに大事な仲間の命を寄越せ、という展開でもないようだ。

(自分や仲間の命の他に、わたしが持つ最も価値ある物……?)

 そう考えて、はたと思い至った。

「──タレント?」

『はい、正解!』

 ファンファーレのような音まで響いてきて、おちょくられているのかとも思ったが──

「……いいよ、あげる。それで姉さんを返してくれるなら」

『では、商談成立ということで』

 商談だったのか、とツッコむより早く──そこで、ニニャの意識が反転した。

 

 

 目が覚めたら、宿のベッドではなく、床に転がっていた。

(──寝ぼけて落ちた?)

 しかし、その割には、どこも痛めた感覚がない。

 疑問符を脳内に浮かべつつ、起き上がり──ベッドに横たわった人影が視界に入って、硬直した。

「──え……?」

 寝台の質やサイズを除けば、まるで夢の再現だった。

 恐る恐る手を伸ばし、触れる。──温かな体温。幻ではない。

「──姉さん!」

 ニニャの歓声とも悲鳴ともつかない声に、姉が飛び起き、仲間が駆けつけてくる。

 誰も彼もが事態を把握できずに混乱する中、ニニャはひたすら泣いていた。

 嬉しくて、嬉しくて──ひたすらに、感涙し続けていた。

 

 

 ──王都から“八本指”が消えた、という噂がエ・ランテルまで届いたのは、この日の昼のことだった。




パンドラ「弱体化した嫁に、【魔法適正】のタレントをプレゼント!」
モモンガ「【流星の指輪】っていうか、《星に願いを》の効果、チート化してんじゃん……フレーバー効果、ヤバくない?」
アル&デミ「悪魔への風評被害が酷い」

王都で何が起きたかは、また次回!


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人外父子、創作する

本当にいつも誤字報告ありがとうございます!

【前回のあらすじ】
????「タレントくれたら姉を返そう」
ニニャ「わかった!」
ツアレ、妹とは再会するも、セバスルート消失


「よく来て下さった、モモン殿!」

 王都についたモモンは、ガゼフに手厚い歓迎を受けた。

 ガゼフの自宅は、彼の肩書きには釣り合わないほど質素だったが、彼の人となりからすれば実に()()()ものだ。

 アクトと入れ替わったセバスを紹介し、そのカバーストーリーを語れば、ガゼフはアクトと会えないことを残念がりつつも、その帰郷を喜んでくれた。

「では、モモン殿も、その儀式を待って帰郷を?」

「当初は、そのつもりだったのですが……実は、一応、セバスと一緒に帰郷できるアテが出来まして」

「なんと!」

 モモンの言葉に、ガゼフは目を見開いた。

「それは良かった! ──と、言いたいところですが……その割には、モモン殿はあまり嬉しそうに見えませんな」

「いえ、帰郷自体は喜ばしいんですけど……」

 口ごもって、セバスに目配せする──ここから先は、モモンの口から語るには気恥ずかしい設定なのだ。

「──実は、モモン様は、我が国で祀る神と縁深い御血統なのです」

 合図を受けて口を開いた老執事に、ガゼフの視線が移った。

「神、とは……こちらで祀られている四大神や六大神とは、また別の?」

「ええ。特に名はなく、“慈悲深き方”と呼ばれております」

 そうして、セバスは滔々と語り出す。──主にパンドラズ・アクターによってでっち上げられた、偽神話(カバーストーリー)を。

 

 あるところに、魔法を極めた末に、神に等しい力を得た者がいた。

 肉体を捨て、殆ど魔法そのものになってしまったその者は、周りの人々の願いを叶えるようになった。

 最初は特に目的もない気まぐれに過ぎなかったが、願いを叶えた相手からの感謝の念が心地よく、次第に誰かを喜ばす為の存在へと変わっていったのだ。

 しかし、相手が喜ぶからと無償で願いを叶え続けるうちに、“神”は力の使いすぎで弱っていった。

 それでも願いを叶え続けようとする“神”を、叱りつけた人間がいた。

「無償で奇跡をばらまくからそうなるのだ! それでお前が損なわれることに、我らが何とも思わないとでも!? 何より、お前に願えば何でも叶うことに慣れてしまっては、我らは堕落する!」

 その人間は、かつての“神”にこそ及ばないものの、優れた魔法の使い手だった。

「──元の力を取り戻すまで、奇跡は禁止だ! それまで寝ていろ!」

 そう言って、弱りきった“神”を封印してしまったのだ。

 “神”を封じた魔法使いは、“神”がくれた奇跡を語り継ぎ、それに感謝を捧げつつも、“神”が無茶をしないように封じ続けた。

 その伝承と封印は、その後、魔法使いの子孫に受け継がれてゆく──

 

「……もしや、その魔法使いの子孫、というのが」

「モモン様、そして、アクト様です」

 老執事は、顔色一つ変えずに大法螺を吹きおおせた。

「……“神”相手に説教するとは……すごいご先祖様だな」

「やめてください……」

 感心とも呆れともつかないガゼフの言葉に、モモンは思わず両手で顔を覆った。──設定でも結構恥ずかしいから、本当にやめて欲しい。

「──しかし、このタイミングでこの話……まさか、帰郷の方法というのが?」

「ええ──これも縁なのでしょうか。“慈悲深き方”は、つい先だってかつての力を取り戻され、封印から目覚められたのです」

 復活最初の奇跡が、モモンとセバスの帰郷──という設定なのである。

「……まあ、そんな訳で我々は故郷に帰ります。──ガゼフ殿も、どうかお元気で」

『──挨拶は済みましたか?』

 モモンの言葉に続いて、どこからともなく響いた声に、ガゼフが腰を浮かせる。

 手を翳してそれを止め、困ったように微笑んで見せれば、ガゼフはその声の主こそが、“神”だと察したようだった。──実際には、隠密特化の外装を使用したパンドラズ・アクターの声なのだが。

「──ああ、済んだよ。帰ろう」

 モモンが答えるなり、モモンとセバスの姿が霞み、消えた──ように、ガゼフには見えたはずだ。

 

 そうして、異邦の神話だけを残して、異邦人達はこの地を去った──ことになった。

 

 

「──で、あなたが、例の“異邦の神”ですか?」

 突然自分の部屋に現れた謎の人影に、けろっとした態度で話しかけてきたお姫様。

『……そう、ふっつーの態度で対応されると、何だか敗北感がありますねぇ……ちょっとくらい驚いてもいいのでは?』

 魔法でもやもやした人影と化したパンドラズ・アクターは、内心も若干もやもやさせて呟いた。──その声も、不明瞭にもやもやさせてある。

「あら、あなたは人を喜ばせる存在であって、別に人を驚かせる存在ではないでしょう?」

『……貴女は、それを信じていらっしゃるので?』

「少なくとも今はそのように振る舞うおつもりだから、そういう話を戦士長に吹き込んだのでしょう?」

 にこにこと笑んだままの姫君は──なるほど、先だって入手していた情報の通り、

(──“精神的異形種”ですか……知恵が巡り過ぎるというのも、ある意味悲劇なんですかね……)

 はあ、と息をついてから、パンドラズ・アクターはさっさと本題に入ることにした。

『では、そのように振る舞いましょう。──貴女の願いを一つ叶えてあげるので、こっちのお願いも聞いて下さい』

「対価を取らずに奇跡の大盤振る舞いをした結果、危うく一度滅びかけ、“神”は相応の対価をとることを覚えた──という設定ですか」

『設定って言わないで下さい』

 まあ、その通りなのだが。

「私の願いはわかっているんですか?」

『──貴女の専属兵士と結ばれたい、的なものだと予想はしてるんですが』

 途端、愛らしかった姫の笑みが、どろりと暗く濁ったものになる。

「ええ……そうよ、その通り──でも、ただ結ばれるだけじゃなくて……鎖で繋いで飼いたいの」

『──は?』

 素で、間の抜けた声が漏れた。

「ずっとずっと、私だけを、あの無邪気な子犬みたいな目で見つめてて欲しいの!」

『──あ~……あぁ、そういう……』

 拗らせた独占欲、というか、歪んだ感性なりの愛、というか。

『まあ……それなら、正式な婚姻とかよりは、逆にハードル低いですかね』

「できるの?」

 速攻で食いつかれて、ちょっと引いた。

『ペアのマジックアイテムで、相手を自分の手元に召喚できる、という効果のものがあります。……それを一度つけたら外せないようにすれば、まあ、鎖で繋いだようなものでは?』

「まあ、素敵! ……でも、私、魔法の才能がないのだけれど、それでもそのアイテムは使えるかしら?」

『特にレベル制限や魔力(MP)消費はなかったので、問題ないかと。使用回数制限もなかったはずです』

「じゃあ、それでお願いするわ!──それで、そちらのお願いって?」

 にこにことご機嫌なお姫様に、パンドラズ・アクターは大きく溜息をついてから、盛大にぶっちゃけた。

『──安全に引きこもれる独立した土地が欲しいので、協力して下さい』

 

 

 ──翌日、王国の第三王女は、

「戦士長のお話で聞いた“異邦の神様”が夢に出てきたから、『“八本指”を捕まえて下さい』ってお願いしたの。神様は、『代わりに人が住んでない土地の一部をもらう』って言ってたわ」

 などと王へ話し、微笑ましさと苦さの混じった笑みを返された。

 しかし、実際にその日の夜に“八本指”が軒並み消え、トブの大森林が()()()()()()()()()()()という異常事態が発生し──関連に気づいてしまった王は、無言で卒倒した。




神?『あなたの姫があなたを呼んだ時、すぐに駆けつけられるようになる指輪です』
クライム「なんと……!」
物は言い様。

【ダーリン今すぐ会いたいの!】
(フレーバーテキスト:愛する女性に呼ばれたら、すぐに駆けつけるのが男の甲斐性だ)
男女ペアでしか使えない指輪装備。女性用が召喚する側、男性用が召喚される側。
使用すると、男性装備者が女性装備者と向かい合う形で召喚される。
演出として、そのまま見つめ合う姿勢で3秒の硬直が発生。その間、ラブラブな感じのBGMが流れ、ハートの視覚エフェクトが乱舞する。
(ある年のバレンタインの時期に行われたイベントの報酬。嫉妬マスクとは別方向に非リア充へ喧嘩売った装備だったため、AOGでは早々に封印された)
クライムに渡される際には、デスドロップでしか外せない呪いが付与された。

パンドラがこれをはっきり記憶してたのは、ルイの装備を検討してた時に、緊急SOS用の装備として候補にしたから(使ったところを見ていないのでクソ演出を知らない)
結局、ルイの指輪スロットが各状態異常耐性で埋まったので流れた。


トブの大森林は、カルネ村とか人里を避ける形で、ナザリックのある無人草原地を埋めて拡大しました。


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大森林、炎上する

本当に誤字報告ありがとうございます……なんで誤字脱字はなくならないのか……(遠い目)
なんか今回、色々迷走している気がします……
(6/7 15:55)本文の一部を修正しました

【前回のあらすじ】
ガゼフ「モモン殿……帰ったのか、故郷に……」
モモンガ(クソ恥ずかしい設定ついたから、モモンはやめます)
ラナー「クライムを鎖で繋いで飼いたいの!」
パンドラ(引きつつもマジックアイテムを渡す)
クライムの犠牲を代償に、トブの大森林は南に拡大した!


 “八本指”の運命が、決まった日──

「まともな判断力があれば、勝ち目もメリットもない戦争なんて仕掛けません。──ようは、()()()()()()()()であることを先に明示してやればいいのです」

 至高の方々と己の妻へ、パンドラズ・アクターは()()()()()()()()()()を語った。

「しかし、あまりに脅威的な存在だと思われると、恐怖で噛みつかれる可能性があります。なので、()()()()()()()()()()()()()()()()()()を作り上げましょう」

 一拍おいて、核心を告げた。

 

「そう──祀れば応える、“神”のような存在を」

 

「──“神”って……まあ、この世界にとって、ユグドラシルプレイヤーは一種の神様らしいですし、あながち嘘でもないのが、また……」

 ヘロヘロの言葉に、モモンガがげんなりした声をもらした。

「……私はスルシャーナじゃない……」

「はい。既存の六大神や四大神ではなく、新たな神格を作り上げます。──モモン・アクトの郷里で祀られる“異邦の神”という設定で」

 しれっとした態度で話を続けるその息子(NPC)に、ヘロヘロは苦笑しつつ、話に乗っかる。

「あー、信者との縁でついて来ちゃった的な設定で?」

「そういう感じです」

「……言いたいことは色々あるけど……さっき言っていた“八本指”への武力行使とは、つまり“神”の力のデモンストレーションか」

 諦めたような調子で、モモンガも話に加わった。

「はい、そういうことですね」

「ああ、なるほど。巨大犯罪組織とはいえ、ナザリックの戦力なら一掃するくらい訳もないだろうし、名声にはなっても悪名にはならないですね」

 と、ルイがそこで首を傾げた。

「……捕まえた後、どうするんです? 王国の人に引き渡すんですか?」

「えっ」

「え?」

 ──()()の意味が噛み合っていないことに気づいて、男たちは一瞬黙り込み──

「──ルイ殿、王国に引き渡すのは悪手です。管理能力が低いので、うっかりまた逃がしてしまうかも。……トブの大森林の奥に収監所でも作って、適当に労役でも科せばいいかと」

「あ、ああ! それいいな! そうしよう!」

 素早く立ち直ったパンドラズ・アクターがフォローし、その父がすかさず乗っかる。

「……そうですね、終わらない労働という苦痛を、罰として与え続けましょう……ふふふ……やってもやっても仕事が減らない……」

 と、何やらトラウマを刺激されたのか、いきなりヘロヘロの言動がバグった。

「ああっ、ヘロヘロさん!? しっかりしてください! ここは職場じゃないです! ナザリックです!」

「はっ……そうだった、ここはリアルメイドのいる楽園!」

 ヘロヘロの言葉に、よくわからない様子ながらもルイが問う。

「えっ、えっ? メイド?──ペスさん呼んできます?」

「ソリュシャンの方がいい──って、ああ、ルイさん! すいません、ただの戯れ言なんで本当に呼びに行かないでいいですよ!」

 真に受けて腰を浮かしかけたルイに、ヘロヘロは慌てたように叫ぶ。

「え? あ、はい?」

「ヘロヘロさん……」

「……すみません、自重します……」

 モモンガの苦い声と、パンドラズ・アクターの無言の圧力に、ヘロヘロは縮こまった。

 こほん、と一つ咳払いし、パンドラズ・アクターが話を戻した。

「──まあ、組織の人間をまとめて捕縛するのは容易いでしょうが……しかし、組織に囚われて搾取されている人間はどういたしましょうか」

「うーん……怪我とかだけ治療してあげて、それこそ王国に返すしかないかなぁ……ちょっと、面倒見きれないだろうし、それくらいは王国自身でどうにかしてもらおう」

「ですかねぇ。──ただ、どうやって、組織側の人間と搾取されてる人間を判別すればいいのか……助かろうとして、嘘つく奴もいそうですし」

 モモンガの言葉に頷きつつも、ヘロヘロが新たな懸念を口にする。

「……その辺りは、デミウルゴス殿の《支配の呪言》で解決できるかと。──40レベル以下にしか効かないにしても、《こちら》の人間相手なら無双でしょうし?」

 パンドラズ・アクターの微妙に棘のある声に、モモンガが怪訝な顔になった。

「……パンドラ、お前、デミウルゴス嫌いなの?」

「ソンナコトハゴザイマセンヨ、父上」

「わあ、清々しいまでの棒読み」

 思わずと言った調子で、ヘロヘロが感心したような呟きをもらす。

 困惑したような表情でパンドラズ・アクターを見るルイの顔を見て、モモンガが思い出したように声を上げた。

「──あっ! まさかお前、《こっち》来る前にルイさんがデミウルゴスのことベタ褒めしてたの、根に持ってるのか!?」

「えっ」

「……そんなことは、ございませんよ」

 言いながら、ルイの視線から逃れるように顔を逸らすパンドラズ・アクター。

「あ、これ当たりですね。……男の嫉妬は醜いぞ~、パンドラ~」

 完全にからかうような調子のヘロヘロの声。

 ルイはオロオロしつつも、

「え、えっ? パンドラさんも格好いいですよ? シンプルで可愛いのにちょっと得体の知れない雰囲気のお顔に、軍服が合わさって底の見えない強さって感じがします!」

「──可愛いのは貴女です(Du bist es, der niedlich ist)……!」

「うぐっ」

 顔を覆ったパンドラズ・アクターのドイツ語に、モモンガがダメージを負った。

「えっ?」

「なんて?」

「──気にしないで! っていうか、頼むから追求しないで!」

 空気がグダグダになり、あとは実働するパンドラズ・アクターたちシモベが細かい作戦を詰めるということで、その場はお開きになる。

 

 そうして数日後、パンドラズ・アクター主導で作戦は実行され、“八本指”の捕縛、トブの大森林の拡大と実質占拠までは、滞りなく進んだ。

 

 しかし、パンドラズ・アクターの見通しは、些か甘かった。

 

 このやり方は、ある程度まともな者には十分な抑止になったが──()()()()()()()()()には、通用しなかったのだ。

 

 

「──王国の第一王子が、拡大森林部(ナザリック方向)に向かって進軍しています」

「はっ?」

 外部からの情報をとりまとめているデミウルゴスからの報告に、ヘロヘロは目をむいた。

 モモンガは【流れ星の指輪(シューティングスター)】──ひいては《星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)》で“タレント”移植が可能と知り、新たにやりたいことが出来て、マーレを供に外出中だ。

「え、その王子、正気なの……? 一晩で犯罪組織一掃して、森を拡大したような相手に、勝てると思ってんの……?」

「元々武張ったタイプで、お世辞にも賢いとは言えない人間だったようですが……“八本指”のアジトに放置してきた資料で、彼の支持派閥が一気に窮地に陥ったらしく。──今回の進軍は、起死回生を狙ったもののようです」

「……あ~、“八本指”と繋がってた派閥……」

 第一王子は既に死に体──一種の自棄を起こしているのかもしれない。

「でも、まあ、こっちがそれにつき合ってやる義理はないよなぁ」

 何にせよ、どうするかはモモンガと相談して決めねばなるまいと、《伝言(メッセージ)》を起動して、連絡をとる。

「モモンガさん、ヘロヘロです」

『何かありましたか?』

 事情を説明し、相談した結果──「適当に幻惑魔法とかで森の浅いとこでもグルグルさせて、諦めてくれたら放り出そう」ということになった。

「……始末しないで宜しいので?」

「一緒に進軍している人たちは、嫌々命令に従ってるだけかもしれないし……その王子も、どんな馬鹿でも王族だから……下手に殺すと、後が面倒くさそうだからね」

「なるほど──では、そのように」

 デミウルゴスは、何やら納得したように頷いて下がった。

(まあ、しばらく森で遭難すれば、諦めてくれるだろう)

 そんな風に、ヘロヘロは考えていた。

 

 モモンガとヘロヘロは知らなかったのだ。

 ──本物の愚者というものは、恐ろしいことを平気でしでかすものだと。

 デミウルゴスはそれを知っていたが──だが、そんなことはわざわざ告げるまでもなく、至高のお方はご存じだと判断し──その上で、()()()()()()()()という言葉の意味を深読みした。

 つまり、()()()()()と──しばらく泳がせて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、言われたのだと。

 

 

 果たして、焦れた愚か者はやらかした──()()()()()()()というとんでもない愚行を。

 

 

(……馬鹿だとは思っていたけど、ここまでとはね)

 兄の訃報を聞いたラナーは、クライムの手前、表情だけは悲壮なものに固定していたが、内心はどこまでも冷ややかだった。

 数日に渡って遭難させられ、大森林内への進軍がどうあっても不可能だと悟ったバルブロは、あろうことか兵たちに()()()()()を指示した。

 もちろん、兵たちは反対した。火事とは恐ろしいものだ。燃え広がれば、被害がどこまで拡大するかも知れない。

 しかし、バルブロは特に強硬に反対した兵の首を刎ね、「お前等もこうなりたくなければ指示に従え!」などと宣ったのだという。

 乱心した王子を恐れて、兵たちは言われるがまま、森に火を放ち──

 

 次の瞬間、突然()()()()()()()()()()()()()()

 

 兵たちが森に放った火は、不思議と瞬く間に消え──ただ、黒こげになった第一王子の亡骸だけが残った、と。

 報告を受けた一部の貴族は、兵たちがバルブロを殺した上で口裏を合わせているだけだ、などと喚いているが──

(下克上を起こす気概など、王国兵にはないわ。……つまり、これは間違いなく、例の“神”の仕業)

 しかしなかなかに上手いやり方をする、とラナーは感心した。

 兵の言い分を信じた者からすれば、この事態はバルブロの自業自得である。森林への放火など、許されることではないのだ。実現していたら、王国にどれだけの被害が出ていたかもわからないのだから。

 逆に、兵の言い分を信じない者にとっては、単に兵たちによる王子の謀殺ということになる。

(どっちにせよ、悪感情は“神”に向かわない)

 むしろ、命じられた者ではなく、命じた側だけを罰したことで、平民からの感情はいい方に傾くかもしれない。

 さらには、誰かに命じて“神”をどうこうしようと考えていた者たちへの、強い牽制にもなったはずだ。

(……ただ、あの時会った“神”と、今回の狡猾なやり口は、微妙に印象が噛み合わない……)

 あの“神”は、頭は悪くなさそうだったが、どことなく対人交渉に慣れていないような()()が滲んでいた。──今回の手口には、それがない。

(……“神”は単体ではなく、複数いる? もしかしたら、一種の組織を形成している可能性も……だからこそ、大規模な土地を欲した?)

 そんな風に考察するも、ラナーは“神”に弓引くつもりなど欠片もない。

 

 ──勝てない相手に喧嘩を売ることほど、愚かなことなどないのだから。




正式タイトル:大森林(の中で馬鹿が)、炎上する

なんちゃってドイツ語はエキサイト先生頼みです……許して……


<おまけのユグドラシル時代>
モモンガ「この階層の守護者のデミウルゴスです」
ルイ「映像で見たときも格好いいなぁって思ってましたけど、近くで見るとより格好いいですね、この悪魔さん!」
モモンガ「すごい食いつき。もしかして、ルイさん、デミウルゴスみたいのが好み?」
ルイ「いえ、なんて言うか、全体的にすごいセンスいいと思って! 人の形と異形の部分のバランスとか、スーツとかメガネのデザインとかも!」
モモンガ「あ~、そういう……ウルベルトさんが聞いたら喜んだだろうなぁ……すごい凝ってたし」
デミウルゴス(なかなか見る目のある娘ですね!)創造主のセンス誉められてご機嫌
パンドラ(私と対面したときよりテンション高い……)実は巡回ツアーの最初からずっと一緒に連れ回されてた


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吸血姫、談笑する

誤字報告に、圧倒的感謝を!

今回は幕間的なお話。いつも短いけどいつもより短い。

【前回のあらすじ】
バルブロ「得体の知れない森など燃やしてしまえ!」
デミウルゴス「放火魔は火炙りです」
バルブロ「ギャー!」焼死


 シャルティアは珍しい相手から誘われて、第九層のバーに顔を出した。

「お呼び立てして申し訳ない。しかし、女性の部屋を訪ねるのも失礼かと思いまして。──今日は、これをお返ししたくて」

 言って、パンドラズ・アクターは見覚えのある包みを寄越してきた。

「おや、これはルイにあげたもの──気にいりんせんしたか?」

「ルイ殿は純情なんです。こういうのは刺激が強すぎます、真っ赤になって固まってましたよ!」

「ウブでありんすねぇ……というか、そんな風で、夫婦の営みは大丈夫でありんすぇ?」

「いや、そもそも何にもないですけど」

「は?」

 からかうつもりで言った言葉に、普通に否定を返され、固まる。

「ルイ殿はさっきも言ったように純情ですし……私は種族的に欲求も機能もないですし」

「えっ!? そうなの!?」

 思わず、郭言葉を忘れて素で驚いた。

「まあ、いつかルイ殿が子どもを望んだら、相応しい男性体の外装でお相手しますけども」

「……夫の義務として?」

 シャルティアは、ルイを気に入っているが故に心配になった。──義務感だけの夫など、彼女には惨い。

「他の男に譲る気が全くない程度には、夫としての情はありますよ」

 しかし、返ってきたのは迷いのない返答。

「ルイ殿への情がなければ、父上の護衛役を譲ってまでナザリックに残りません」

「──ああ、今回のモモンガ様の供がマーレだったのは、そういうことでありんしたか」

 杞憂だとわかって、シャルティアは安堵した。──この埴輪、妻への性欲はなくても、愛情はちゃんとあるらしい。

 なにげに失礼なことを思っているシャルティアに気づいているのかいないのか、パンドラズ・アクターは少し困ったような調子で続ける。

「女性の供は義母殿が嫌がりますし、セバス殿はこの間まで“モモン”の供をしていましたし、コキュートス殿は外見的に……デミウルゴス殿も……まあ、何より彼は忙しいですしね」

 デミウルゴスの名を出した時だけ、彼の声が妙に低くなった。

「……あなた、デミウルゴスのことが嫌いなんざんすぇ?」

「──いっそ嫌いになれれば楽なんですけどねぇ~」

 思わず問えば、彼は軍帽を包むように頭を抱えた。

「ルイ殿が格好いいと言うのもわかるんですよ。実際格好いいですからね、デミウルゴス殿」

「おや、ルイはそんなことを、あなたの前で?」

「彼女に他意がなかったのは間違いないですけどね」

 単に事実を事実として言っただけで、ルイが夫への当てつけを言うような性格でないのは、シャルティアにもわかる。

 だが、それを聞いたこの埴輪が、面白くない心地になったのも、まあわかる。──自分だって、目の前で愛する夫(ペロロンチーノ様)が他の女を褒めたら、例えそれが仲間でも面白くはない。

「私だって、格好良く、かつ紳士であろうと頑張ってますけど、デミウルゴス殿はもう立ち振る舞いからオートで格好いいじゃないですか。はっきり言ってずるい!」

「ずるい」

 そんなことを言われても、デミウルゴスも困るだろう。──まんべんなく褒め言葉なあたり、余計に。

「ルイ殿からの信頼度・好感度で勝ってる自信はありますよ? けど、格好よさの度合いでは絶対勝ててないんですよ! ルイ殿の私に対する形容、まず最初に“可愛い”って来ますからね!?」

「“可愛い”……?」

 この埴輪が可愛いとは、ルイのセンスが良くわからない。

「だから、少なくとも仕事面では、デミウルゴス殿みたいに格好良く完璧にこなそうと思ってたのに……結局詰めが甘くて、他ならぬデミウルゴス殿にフォローされる始末ですよ!」

 そうして、魂が出てくるんじゃないかと思うような溜息を吐いて、

「──かなわないな~って思っちゃうのが悔しいんですよ~……」

 カウンターに突っ伏すように顔を伏せた男に、シャルティアは思わず吹き出した。

「飄々としてるように見えて、案外負けず嫌いでありんすねぇ」

「……ここまでムキになるのは、父上とルイ殿がらみだけです」

 起き上がりながらのその一言に、つい意地の悪い言葉がこぼれた。

「それじゃあその二人が仲違いしたら、あなたはどっちの味方をするかでさぞ悩みなんすぇ?」

 

 途端──背にぞっとしたものが走る。

 

 がしゃんっ、と硝子が割れる音に、ふっと寒々しい空気が消えた。

「──おや、大丈夫ですか?」

「……し、失礼しました」

 カウンター内にいたバーテンが磨いていたグラスを落としたらしい。──案じる声をかけている彼こそ、落とした原因だろうが。

 思わず浮かせていた腰を席に落ち着かせてから、シャルティアは苦い声で詫びる。

「……失言でありんした。忘れてくんなまし」

「いえ、私も大人げない反応をしました、すみません」

 いましがたの殺気が嘘のように、苦笑の滲んだ声音で返された。

「──そうですね……ちょっとした喧嘩程度なら、基本的にルイ殿寄りに動きます」

「え、この話、続けるの?」

「ええ、答えを聞かないと気持ち悪いでしょう?」

 素でツッコんでしまったシャルティアに、からかうような声が返ってくる。

「……理由は?」

「ナザリック全体が父上贔屓だからです。ルイ殿がアウェイになる。──それは、確実に父上の望まぬ展開でしょう」

「ああ、なるほど……」

 すごく納得できる理由だった。──ルイを気に入っているシャルティアでも、二人が喧嘩したら──理由にもよるが、まずルイにモモンガへ謝るよう言うだろう。

(──なら、ちょっとした喧嘩ですまない場合は?)

 そう思いはすれど、さすがのシャルティアでも、さっきの今でその問いを口には出来ない。

 けれど、その思いを読んだように、笑みを含んだ声が告げる。

「──お二人の間に、喧嘩以上のことは起こりませんよ」

 表情の読めない埴輪顔が、声だけで笑いながら、断言する。

 

「私がいる限り、お二人の間に深刻な仲違いなど、起こさせません」

 

(──ああ、この男は、もう、覚悟を決めているんだ)

 

 何があっても()()()()()()()()()()()と──

 

「……あなた、案外大した男でありんすねぇ」

「そうでなくては、父上とルイ殿の顔に泥を塗ってしまいますから」

 気負いのない声音で言い切る埴輪は──埴輪のくせに、妙に格好良かった。




郭言葉がわからない、そして書けないよ……(白目)

創造主が仲良しだから、この二人も結構気が合うと思うのです。
っていうか、本作パンドラが一番気負いなく砕けて話せる守護者はシャルティア。同率でコキュ。
デミに対しては、モモンガ様の中の“ギルメンへの憧憬”に近い感情と、そこから派生した微妙な劣等感がある感じです。
ある意味一番扱いが雑になるのはアルベド。何があっても父上を裏切らないという信頼からくる雑さ。


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君臨者、勘定する

誤字報告ありがとうございます……自分で読んでも脳内補正しちゃうのか気づけないんです……
あと、ちょっとしばらく更新ゆっくりになるかもです。申し訳ない。

【前回のあらすじ】
パンドラ「父上も妻も守り抜きます」キリッ
シャルティア「埴輪のくせに格好良いとか生意気でありんす」
マスター(割ったグラスを無言で片づける)とばっちり


「──おお、陽光聖典が来てくれたのか!」

 宰相の報告を聞いて、幼い姿の女王──ドラウディロンは大きく破顔した。

 竜王国という名の通り、竜の血脈を継ぐ女王にとって、外見年齢など飾りでしかない。普通に大人の姿にもなれる──というか、そちらの方が本来の姿なのだが、何故かこちらの姿の方が周りの士気があがるので、仕方なく幼い姿をとっているだけだ。

 竜王国は、長らくビーストマンの脅威にさらされている。もはや自国戦力だけでの防衛は不可能で、少なくない額の寄進と引き替えに法国から送られてくる援助で、どうにか持ちこたえているレベルなのだ。

 陽光聖典は法国の戦力の中でも亜人討伐に特化した部隊であり、竜王国への援軍として来てくれる顔なじみたちでもあった。──任務の関係で、割と顔ぶれの入れ替わりは激しいが。

「法国め、今年は援助が難しいかもしれん、などといっていたが……なんだかんだちゃんと援軍をよこしてくれたのか!」

「いえ……どうも、法国からの援助、という訳でもないようなのです」

 微妙に煮え切らない口調の宰相に、女王は眉をしかめる。

「は? 陽光聖典は、法国の──まさか、部隊が独断で応援に来てくれたのか!?」

「それ以上です。──陽光聖典は、『我らは既に法国に属する者ではない。陽光聖典という名も、もはや我らに相応しいものではない』と」

「──はぁッ!?」

 ドラウディロンの喉からひっくり返った声が飛び出した。──あの信仰心の塊のような連中が、祖国を捨てた?

「……そ、それで、我が国に移住したいとでも……?」

「いえ、そういう訳でもないらしく……『相応しい対価を払うなら、我らの真なる神が、貴国を瞬く間に救うだろう』と──つまり、一種の勧誘というか、交渉に来たようで」

「……真なる神ぃ……? ──そうか、“百年の揺り戻し”か!」

 それに思い至って、ドラウディロンは目を見開いた。

 竜の血脈を継ぐ女王は、血だけでなく断片的な知識も伝え継いでいる。

 法国が祀る六大神の正体が、六百年前にこことは違う世界からやってきた異邦人であるということ。そして、それ以前、それ以後も、およそ百年周期で異邦人とおぼしき強大な存在が、この世界に現れるということ。

(百年前はそれらしい存在は現れなかったというが……そうか、今回は、“神”と呼ばれるような存在が来たのか……)

 おそらく、陽光聖典はたまたまその“神”と接触する機会を得て、祖国よりも“神”をとったのだ。

(しかし……だとすると、その“神”とやらは、法国自体とは接触していないのか?)

 陽光聖典が敬う以上、その“神”とやらは、人類にとってある程度有益な存在のはずだ。少なくとも、八欲王どもの同類ではないだろう。──法国がその存在を知れば、喜び勇んで祀りあげるはずだ。

(──陽光聖典と出会って、『こんなのの同類が大量にいる国とか、ちょっと……』とか思ったのかもしれんな……)

 狂信的な感情を向けられるというのは、案外キツい。

 まあ、“神”の正体や心情は、ぶっちゃけドラウディロンにはどうでもいい。国を──民を助けてくれるというなら全力で縋りたい、が。

「……対価を払う余裕なんか、あるか?」

 これにつきるのである。竜王国は、金銭的にも国力的にもカッツカツなのだ。

「──五年後以降は、年に一回羊百頭を捧げることで、国境防護を確実に約束すると。しかも、餌はあちらから配給してくれるそうなので、実質かかるのは手間だけです」

「えっ、そんなのでいいのかっ!?」

 もちろん家畜を百頭世話するとなれば結構な手間だが、国全体で手分けすれば訳もない程度ともいえる。あまつさえ、餌代向こう持ちとか、それだけで負担は激減だ。

 今現在防衛費や法国の寄進に使っている額を考えたら、なんかもう、破格のお手頃さである。

 思わず飛びつきそうになって、しかし、寸前でそれに気づいた。

「──いや、五年後以降? 最初の五年分の対価は?」

「それは……色んな意味で、とんでもない対価を請求されました」

 大きく溜息を吐いてから、宰相はそれを告げた。

 

「──陛下の“タレント”……“始原の魔法の行使能力”をもらう、と」

 

 ──“神”とやらは、生まれついての異能(タレント)にさえ干渉できるのだと悟り、竜の末裔は盛大に顔を引き攣らせた。

 

 

「おお、交渉成立か! よくやったぞ、ニグン!」

『──あ、ありがたきお言葉ぁ……っ!』

「……うん、じゃあ、仕事するから切るな……」

 号泣し出した男の声にどん引き、モモンガはそそくさと《伝言(メッセージ)》を切った。

「よし、マーレ、作戦通り始めるぞ」

「は、はい!」

 意気込んだ様子のマーレが、巨大な巻物を広げる。──【山河社稷図】という世界級(ワールド)アイテムだ。

 途端、マーレの姿が消え──少し離れたところにある人里からの気配も消えた。

 このアイテムは、使用者を含むエリア全体を異空間に取り込んで隔離する。例外は、モモンガのような世界級(ワールド)アイテム保持者だけだ。

 隔離先の異空間には、ダメージを含む様々なエフェクトが存在し、そのエフェクトの対象者は、使用者によって選別できるのだ。

 【山河社稷図】でビーストマンに侵攻されているエリアを竜王国民ごと取り込み、“眠り”のバッドステータスエフェクトで全員まとめて眠らせる。他にも行動阻害系のバステを大量に盛っているので、“眠り”が効かないビーストマンがいても、マーレなら余裕で対処できるはずだ。

 ビーストマンを()()した後に【山河社稷図】を解除すれば、あとには無事な竜王国民が残るだけ、という訳だ。

 ──ちなみに、この使用法は“八本指”の捕縛の際に、パンドラズ・アクターが考案したものだ。

 WI保持者(例外)のモモンガも、自身の意志で入ろうと思えば【山河社稷図】に入ることはできるが、今回、中はマーレと彼について行ったシモベたちに任せた。

 【山河社稷図】の対象にしたエリアは、人間とビーストマンが混在している人里のみ。──つまり、まだ人里に入っていなかったビーストマンはそのままだからだ。

 【妖精の輪(チェンジ・リング)】のスキルを切り──モモンガは<死の支配者(オーバーロード)>の姿をとった。

 魔法で上空に浮かび上がり、意図的に低く作った声音を紡ぐ。

「──ビーストマン諸君」

 国境にたむろする何万もの侵略者たちに、魔法で拡大した声が届く。

「このまま大人しく帰って、二度とこの国の民を脅かさないと約束してはくれないか。そうすれば、私はお前たちに手を出さない」

「──なんだこの声は!」

「どこからだ!?」

「……おい、上だ!」

 戸惑うようなどよめきのあと、虚空に浮かぶモモンガの影に気づいたらしい。

 ビーストマンたちからの殺気と、投擲武器が飛んできた。

「たった一匹でふざけたことを! こんな良い餌場を誰が手放すものか!」

「──そうか。それが、お前たちの答えか」

 わかってはいたが、それでも少しの落胆と共に、覚悟を決めた。

 白黒の対の籠手──世界級(ワールドアイテム)である【強欲と無欲】を装備してから、百時間に一度しか使えないスキルを発動した。

 

「《あらゆる生ある者の目指すところは死である(The goal of all life is death)》」 

 

 モモンガの背に、巨大な時計が浮かぶ。──絶対の死へのタイムリミットを刻む、時計が。

 

「魔法詠唱者か!」

「ええい、何をする気かしらんが、先に殺してしまえばいい!」

 見た目でわかりやすく()()()()を示すスキルに、ビーストマンたちが猛攻を仕掛けてくる。

 しかし、殆どの攻撃は高さに阻まれて届かないし、届いた攻撃も、モモンガの持つスキルで無効化された。

 ただ、針が進む音を背に聞きながら、モモンガは言葉を紡ぐ。

「──生きるために異種族を狩っているだけのお前たちに、私としては特に恨みも怒りもない」

 正直に言えば、自身の同族(同じ人間)を平気で()()()にしていた“八本指”の方が、よほど悍ましく、許し難かった。

 ルイには惨くて見せられなかった資料も、モモンガとヘロヘロは全て目を通している。──違法娼館の女性たち、麻薬の被害者たち、その悲惨な末路も知った。

 だからこそ、ごく自然に皆殺しに(一掃)する覚悟を決めていたし──ルイの手前でそれをなしにした後も、一息に殺してやらない分、むしろ()()()()()()()()()()を執行すると決めた。

 トブの大森林の奥に作った収容所では、ひたすらに無為で疲労だけを覚える作業をさせる。睡眠時間は4時間。食事は日に二食、死なない最低限だけを出す。

 それを倦んで脱走した罪人は()()()()()()()()()()()()()()()()()と、周囲に住むモンスターたちに告げてある。──特に強者らしい“六腕”とやらはニューロニストたちに引き渡してあるので、トブの大森林の魔獣の囲いを越えられるような罪人はいない。

 やりたくもないことを延々強いられ、逃げれば圧倒的な暴力でもって殺される──これまで彼らが、他者に強いてきたことの再現だ。

 そんな“八本指”に対してとは違い、嫌悪も怒りもないこのビーストマンたちを、それでもモモンガが殺すのは、モモンガが守るナザリックのために必要な犠牲だからだ。

 ──生きるために、何かを狩らねばならないのは、彼らもモモンガも同じなのだ。

「──故に、お前たちには、せめて苦痛のない死を」

 

 かちん、と針が最後の一秒を刻んだ。

 

「──《嘆きの妖精の絶叫(クライ・オブ・ザ・バンジー)》」

 

 そうして──絶対の死をもたらす悲鳴が、響き渡った。

 

 ──周囲から淡い光が立ち上り、はめた籠手へと吸い込まれていく。

 その経験値(いのち)を糧に、モモンガは超位魔法を発動した。

「《星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)》──女王ドラウディロンの“タレント”を、私に譲渡せよ」

 とくと願いは叶えられ、未知の力が身の内に宿ったのを、モモンガは自覚する。──しかし、これ自体は、嬉しいが一種のボーナスでしかない。

 これで、()()()()()()()()()()()()──これが、一番大事なのだ。

(あとは、この辺りにわかりやすい進入禁止のラインを設けて、見張りのアンデッドを配置して……これで、五年後以降は、定期的に()()()が確保できる)

 ふう、と一つ息を吐いた。

 ──正直、当初想定したほど【巻物(スクロール)】は消耗していない。

 だが、《ユグドラシル》の羊皮紙を材料に《こちら》の製法で【巻物(スクロール)】を作ると、高位魔法の【巻物(スクロール)】もユグドラシル金貨の消費なしで量産できる。

 そして、高位魔法の【巻物(スクロール)】は、【エクスチェンジボックス】でそれなりに良い値がつく。

 例の灌木で育てた羊の皮が、《ユグドラシル》の羊の皮と同等となるかは、まだ試行期間が短すぎて結果が出ていない(羊が育ってない)が──うまく行けば()()()()()()()()()()()()()が確保できるのだ。

(……ナザリックを維持するには、どうしたってユグドラシル金貨が要る)

 ナザリックのありとあらゆるギミックは、ユグドラシル金貨でもって維持されているのだから。

 宝物殿には莫大な量のユグドラシル金貨が蓄えられてはいるが──それでも、無限ではない。補充せずに使い続ければ、いつかはなくなってしまう。

 それが遙か未来のことであろうと、モモンガ自身を含め、ナザリックの住人の大半が、寿命をもたず半永久的に在り続ける者たちなのだから──その()()()は、必ずぶち当たる問題なのだ。

(余裕のある今の内から、色々やっておかないと)

 

 ──扶養家族の多い()()()()は、とかく大変なのである。




引きこもるにしたって、収入はいるんや……って話。

ちなみに、最初モモンガさんはコキュをお供を頼んだのですが、コキュがまだナザリックからお出かけしてないマーレを気遣って、交代を申し出たのです。
ぶっちゃけお出かけの内容がアレなので、子連れ(マーレ)に大分抵抗のあったモモンガさんですが、内容聞いても全然怯まず、むしろお目々キラキラでお供したいオーラ全開のマーレの視線に負けました。
そこ負けちゃいけないとこの気もしますがね。


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帝国、遭遇する

お待たせいたしました!
ついに誤字どころか改行バグまでやらかした筆者です。本当に、いつもご指摘のお手間をかけて申し訳ない……感謝雨あられ!

【前回のあらすじ】
ニグン「神はタレントと羊を対価に貴国を救う」
ドラウディロン「タレントいじれる奴の提案とか怖くて蹴れんわ」
モモンガ「出稼ぎ成功!」


「……その、パンドラさんとデート、してみたいです……」

 可愛いらしい妻の願いに、パンドラズ・アクターは無言で顔を覆って頭が床に着く勢いで仰け反った。

 ──ニニャへ姉を返した対価の“タレント”【魔法適正】は、【流れ星の指輪(シューティング・スター)】への一つ目の願いで、ルイに移植された。

 その成功と同時に、【流れ星の指輪(シューティング・スター)】──正確には《星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)》の効果が、《こちら》ではフレーバー設定通りに“使用者の願いを叶えるもの”となっていることが確認された。

 ならば呪いの装備もどうにかできるかもと思い至ったモモンガが、二つ目の願いを使用し──【人化(呪い)の腕輪】は“デスドロップでないと外せない制限(呪い)”を失い、普通に着脱できる【人化の腕輪】となった。

 装備(人化)中に弱体化する制限はそのままだが、その弱体化をルイ自身の任意で解除できるようになったのは大きい。──種族特性による暴走が怖いので、小妖精のスキルが必要な時と、寝る時以外は外さないでいてもらっているが。

 ルイのものとなった【魔法適正】は、魔法の修得にかかる時間が半分になる“タレント”という話だったが、《ユグドラシル》風にいうならば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であったらしい。

 ナザリック内の自動POPモンスターと、ナザリック勢が召喚したモンスターを経験値元にしたレベリングで、ルイはあっという間に100レベル到達(カンスト)し──そのお祝いは何がいいか、と尋ねた結果が冒頭の返答である。

 ルイ自身はナザリック内でのデートでかまわなかったようなのだが、言われたパンドラズ・アクターや、他の面々の気がそれでは済まなかったのである。──ぶっちゃけ、ナザリック内でのデートならいつでもできるし。

 至高の方々は、ルイの可愛いお願いに悶絶しつつ、外出許可を出し──デートの邪魔にならず、かつ安全を確実にする隠密護衛を選別しだした。

 パンドラズ・アクターは、外部情報担当のデミウルゴスに協力を仰いでまで、デート先を真剣に検討した。──結果、パンドラズ・アクターのデミウルゴスへの劣等感が若干薄れ、親しくなるというおまけもあった。

 レベルアップしたことで着れる装備が増えたルイを、意気揚々と高性能な装備で着飾らせるメイドたち。──それに合わせるという名目で、パンドラズ・アクターも着せかえ人形にされた。

 近隣で一番情勢が安定しており、娯楽を含めた文明水準が高いという理由で、デート先は帝国に決定。

 高位装備で着飾ることになってしまったため、悪目立ちしないようにと認識阻害系の魔法もかけた上で、パンドラズ・アクターはルイをデートに連れ出したのである。

 

 デート自体は非常に有意義なものとなった。

 帝国の名物でもあるらしい闘技場は、ルイの趣味に合わないので見送られたが、魔法を含めた文化開発に尽力しているお国柄だけあって、それ以外にも観光名所は多々ある。

 単純な品質だけなら確実にナザリックの物の方が上だが、コストパフォーマンスを押さえた上で一定以上のクオリティを維持している店が多く、街をぶらつくだけでも楽しめる。

 特に市場は掘り出し物も多く、転移者(どうるい)の痕跡らしきものも見つかったりして、ルイと一緒にパンドラズ・アクターも外出を謳歌した。

 ただ、終始幸せそうなルイの姿に、パンドラズ・アクターは何度か奇妙な衝動を覚え──それが現在の外装である“()()()()としての本能的な情動”だと気づいて、これが“身体に引っ張られる”ということかと納得しつつも、少々不審な挙動をさらしてしまったりもした。

 パンドラズ・アクター内の紳士と狼の対決は、紳士に軍配が上がったので、デートは日暮れと共に健全に終わったのだが──帰還のため、人気のない転移ポイント探している途中、ちょっとしたアクシデントがあった。

 角から飛び出してきた少女と、ルイがぶつかりそうになったのだ。

 パンドラズ・アクターが手助けする間もなく、ルイの優れた反射神経は見事に少女を回避したが、ぶつかりそうになったことに驚いたらしい少女が派手に尻餅をつく。

「──だ、大丈夫ですか!? ……ああっ、泣いてる!?」

 少女の様子をうかがったルイが、焦った声を上げた。

「ぶつけたところが痛いんですか!? あっ、足挫いちゃったとか!?」

「──ち、ちが……これは、違うの……」

 おろおろしだすルイに、尻餅をついたまま少女が首を振る。

 確かに、転んで泣き出したと言うには、少女の顔は随分と泣きはらした後のように見える。

 こちらとの衝突未遂が原因でないなら、別段気にかけてやる義理もないが──

(……ここで放り出したら、確実にルイ殿が気に病みますし)

 お人好しな妻のために、少々お節介を焼くことにした。

「──袖触れ合うも多生の縁。よろしければお話をうかがいますよ、お嬢さん」

 そうして、ほんの少し口が軽くなる魔法(あとおし)を一つ。

 ──転んだ少女は、アルシェと名乗った。

 彼女が泣いていた理由は、家族──というか、両親の素行らしい。

(──没落貴族が借金で放蕩三昧……その借金を長女が必死に働いて返している、か)

 何というか──傾いた商いを娘の婚姻でどうにかしようとしていたルイの親に通じるものがあり、大分不快である。

「……妹さんたちだけ連れて、家を出るべきでしょうね。おそらく、ご両親は改心できないでしょう。同じことを、何度でも繰り返すかと」

 その言葉に、アルシェはただ俯く。

「……ご両親を見限れない気持ちはわからないでもないですが──このままだと、妹さんたちまで首が回らなくなりますよ? ……下手をすれば、借金のカタに売られるかもしれない」

「まさか、そこまでは……!」

「──貴女が身を粉にして働いたお金で、平然と放蕩しているのに? 本当に、“そこまではしない”と言い切れますか?」 

 パンドラズ・アクターの言葉に、アルシェはその可能性を否定しきれなくなったのか、蒼褪めて黙り込んだ。

「……私からアドバイスできることはこれだけです。貴女と妹さんだけでも助かる道が出来たなら、ご両親を切り捨ててでも飛びつきなさい。──では、失礼」

 へたりこんだままの少女をそのままに、ルイの背を押してその場を後にする。

 後ろ髪を引かれるように少女を気にする妻へ、パンドラズ・アクターは優しくささやいた。

「──大丈夫ですよ。いまや、この地には“慈悲深き神”がいますから」

 はっとした様子でこちらを見てから、ルイはじわじわと安堵したように笑みを取り戻した。

 

 

 フールーダ・パラダインは、夢の中で“神”と邂逅した。

 少し前に王国に現れたという、対価と引き替えに奇跡を起こす“神”だ。つい先日、竜王国でもそれらしい奇跡が確認されている。

 その“神”の住処となったらしい森に調査魔法をかけても全て弾かれていたこともあり、向こうからの不意の接触にフールーダは不審を抱いた。

 “神”は、ある姉妹の保護を対価として、今のフールーダには使えないだろう高位の魔法を実践して見せる、と告げた。

 なぜ奇跡でもって直接その姉妹を救わないのか、と問えば、既に実の親から搾取されている彼女たちから対価は取りたくない、との答えが返る。

(──なるほど、慈悲深い性質というのは本当らしい……対価なしには願いを叶えられないという制約もあるのか)

 とりあえずはその魔法を見せてもらってからだ、と告げたフールーダに、“神”は「では二日後の昼、カッツェ平野の北側で」とだけ告げて消えた。

 

 約束の日、フールーダたちの目の前で、カッツェ平野の四分の一のエリアから霧とアンデッドが消え、麦が青々と茂る穀倉地に変化した。

 

 まさに“神”の所行を見せつけられたフールーダは、あらゆる賛美を“神”に捧げながら、速攻で例の姉妹の保護に動いた。

 ちなみに「余所の国に戦争をふっかけない間は、この土地における安全と豊穣を約束する」と提案された若き帝王は、形容し難い凄まじい表情でしばし沈黙した後、血反吐を吐くような声で了承を告げていた。




?「《天地改変(ザ・クリエイション)》~!」
帝国寄りのカッツェ平野の一部が、実り豊かな穀倉地帯に!
Q.何で帝国は王国に戦争しかけるの?
A.王国が豊かな土地だから(あと麻薬で迷惑してる)
なら、豊かな土地があれば戦争の必要はないよね!(麻薬の心配はもうないし)という親切心から来る理屈。
でもね、こんなヤベェ魔法見せた後の提案は、どれだけ利と理にかなってても、脅迫としか感じられないんだよなぁ……


<おまけのデート光景>
屋台で買い食い
パンドラ「あ、こっちも美味しいですよ。一口どうぞ」
ルイ(真っ赤になりつつも、おずおずと口をつける)
パンドラ「ん゛っ!?」(紳士VS狼)

パンドラの中の狼はルイにしか反応しません。正確には“好感度極大の異性認定者”のみが対象で、それに当てはまるのがルイだけなのです。
パンドラにとって女性扱いと異性扱いは似て非なるものです。女性に気を遣うのと、異性として意識するのは別物ということです。


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現地勢、悲喜交々する

誤字どころかキャラの名前まで間違えた……
申し訳ない……申し訳ない……

【前回のあらすじ】
ルイ「カンスト祝いにデートしたいです」
パンドラ(心中で紳士と狼がファイッ)
フールーダ「神の御技フゥー↑!!!」
アルシェ「師匠が保護者になった」
ジル「はは、戦なしで豊かな土地が手に入った。隣にヤバいの棲んでるがな!」


 トブの大森林の北にある巨大湖のほとり。そこに住まうリザードマンたちの各部族を、訪う者があった。

 半人半蛇の魔物たち、大森林において“三大”と呼ばれる魔蛇の配下である。

 配下たちは、お前たちの縄張りを侵す意志はない、忠告しにきただけだ、と前おいてから告げた。

「もはや大森林の支配者は“三大”にあらず。“三大”のうち、我らの主と森の賢王は、新たな支配者の元に下った。東の巨人は不興を買って行方知れずとなった。いずれ、お前たちの下にも彼の方の使者が来るだろう。お前たちの行く末に興味はないが、怒りがこちらに飛び火するのは御免被る。彼の方々の不興を買わぬよう、努々気をつけよ」

 そう、言うだけ言って去っていく蛇の配下。

 “三大”を下すほどの存在など、想像を絶する脅威である。各部族毎に分かれていたリザードマンたちは、危機感から再び団結することとなり──その過程で、部族を越えた番が成立したりもした。

 そうして、魔蛇の配下が来てから半月ほど後、果たして()()は湖の畔へと訪れた。

 紅い衣をまとった悪魔と、人間のように見える男女。悪魔と女の態度からして、男が一同の上位者のようだった。

「どうもこんにちは、隣に引っ越してきた者です。お隣さんになったからには一度ちゃんと挨拶しておこうと思って来ましたが、別に君たちや君たちの縄張りをどうこうする気はないので、ご安心を」

 いっそ拍子抜けするほど穏和な態度で告げる男に、リザードマンたちは戸惑った。

「──お前ら、本当に“三大”を下した支配者の使いなのか? あんまり強そうに見えないが」

 リザードマン内で有数の腕利きであり、同時にちょっと考えたらずな戦士が、うっかりそんなことをもらしてしまう。

 途端、悪魔と女が恐ろしい殺気を放ち──男は愉快そうに笑いだした。

「確かに、純粋な強さなら、“三大”を訪ねたコキュートスやシャルティアの方が上だろうなぁ。──でも」

 言葉半ばで、男の姿が()()()と溶ける。

「……私でも、お前よりは強いぞ?」

 ──瞬く間に人間の男から()()()()()とも言うべき悍ましい姿となったソレは、まさに怪物と呼ぶべき恐ろしい気配をまとっていた。

 失言をした戦士が、「俺の命でもって詫びる! どうか、仲間たちには手を出さないでくれ!」と平服して叫べば、怪物は再び笑いながら人間の姿に戻る。

「謝ってくれたから許すよ。こっちが【擬態】して実力を隠してたせいもあるしね。──ほら、二人も。そんなカッカしないの、落ち着いて」

 そう言って、まだ殺気立っている悪魔と女をなだめるが、

「──下等生物が貴方様の【擬態】を見抜けないのは致し方ありませんが、我が創造主を──至高のお方を、“使い”扱いなどと!」

「えっ、怒ってるのはそこなの!?」

 女の言葉に、怪物は人間の顔で目をむいた。

「……いや、でも、ナザリックのトップはモ……ギルド長でしょう。私もその部下で、“使い”でもいいのでは?」

 そんな怪物の言葉に、悪魔が異を唱える。

「確かに、彼の方が至高の41人の偉大なる長であるのは、紛れもない事実にございます。しかし、至高の41人はすべからく我らが主。だとすればやはり、我らシモベと同等にくくっての扱いは不敬かと」

「いや、そんなの初見で見破れとか無理に決まってんじゃん! 許したげて!」

 ──漆黒の怪物は、()()の支配階級の存在であること。そして、上に一人、同等の存在が後39はいるということ。

 図らずも知れてしまったそれらの事実によって、リザードマンたちが()()の配下に下ることはその場で確定した。

 ──しかし、近い将来、()()からもたらされた知恵と力が、リザードマンが抱える食糧問題を解消することとなる。

 

 

 帝国の四騎士の紅一点、レイナース・ロックブルズには悲願があった。

 自らの顔半分を醜く変貌させた呪い──それを解くことである。

 カッツェ平野の一角を一変させた“神”の御技──それを皇帝の側で直視した彼女が、解呪を渇望して“神”へと声を上げたのは、ごく当然のことと言えた。

『──対価は、呪いを受けてから貴女が培ってきた強さです。よろしいですか?』

「構いませんわ!」

 男女も老若も判然としない声の問いに、何の迷いもなく即答した。

 途端、暖かな光が全身を包み──彼女の悲願は、驚くほど呆気なく叶えられてしまった。

 ──歓喜する彼女はまだ知らない。

 四騎士の一人に数えられるほどの力は失われ、帰るべき生家ももはやない。

 ──居場所のない()()という苦悩が、これから始まることを。

 

 

 王国のエ・ランテルに住まう薬師の孫、ンフィーレア・バレアレは“生まれついての異能(タレント)”を持っている。

 【あらゆるマジックアイテムを使用可能】という希有なものだが、本人としてはそんな異能より、薬師としての才能の方が欲しかった。

 祖母の──否、全ての薬師の悲願である、“神の血”と呼ばれる劣化しない深紅のポーション。いつか、それを自分の手で再現したい。

 そんな願いが天に届いたのか、ある夜、不思議な夢を見た。

「──決して貴方の家族以外に見せず、手放さず、研究成果を外にもらさぬと約束するならば、貴方へ“神の血”と呼ばれるポーションを授けましょう」

 そうして差し出された、深紅の液体が湛えられた小瓶。──差し出す者の姿は恐ろしく不明瞭なのに、ソレだけはいやに鮮明にンフィーレアの目に映った。

「──あなたは……対価と引き替えに奇跡を起こすという“神”ですか……?」

 王女の願いに応え、一晩で“八本指”を王都から一掃した“異邦の神”──その噂は、エ・ランテルにも届いていた。

 そして、この街で活動している冒険者の下に行方知れずだった姉が忽然と現れ──その代わりのように冒険者が“タレント”を失っていたという話も聞いた。

「ええ、この地ではそう呼ばれていますね」

 その返答に、差し出された物の真贋は疑うべくもなくなった。──“神”ならば、“神の血”だって用意できるだろう。

「まず、貴方の“タレント”を対価に十本。研究成果を対価として捧げることで、一年ごとに五本ずつ。──どうでしょうか?」

「それでいいです!」

 望むべくもない好条件に、反射的に頷いていた。

 ──そうして、彼は“神の血”を手に入れた。

 その翌日から、驚喜する祖母と研究に明け暮れる日々が始まる。

 ──研究に夢中になっている内に、密かに想いを寄せていた少女へ別の男が急接近して、思いっきり慌てることになるのは、また別の話。

 

 

 クレマンティーヌの中には、ずっとくすぶっている劣等感があった。

 自身の歪んだ感性と殺人衝動を全てそのせいにする気はないが、それと無縁ではないだろうという確信も持っていた。

 ──まあ、何にせよ、そのどれもが過去の話だ。

 自分が“新たに降臨した神の遣い”として現れたことに、絶句している法国の面々を、クレマンティーヌは驚くほど静かな心地で見つめる。

「──この瞳……この首は、間違いなく、エルフの狂王……!」

「確かに、こやつ一人に狩れる首ではない……本当に“神”に仕えているのか、クレマンティーヌ」

「──だから、そう言ってるじゃん」

 ()()()を見聞していた連中が騒ぎ立てるのに、冷ややかに応える。

 あの神々を知った今、どいつもこいつも、取るに足りない塵芥だった。──かつて、あれほど羨望していた兄でさえ。

 そして、神の庭での修練で、こいつらよりは遙か高みに至ったと言える自分ですら──神々からすれば、足元を這う蟻程度しかない。

(……でも、私が弱かろうが、強かろうが、あの()は褒めてくれる。認めてくれる)

 (プレイヤー)の一人のはずなのに、まるで偉ぶったところのないお人好しの娘。

 こちらの文字を学びたいと願った彼女の教師役に自分が選ばれたのは、単に同性だったからだろう。──()()()()()()現地人は男ばかりだったし、彼女が蘇らせたカジットの母は、それほど教養がなかった。

 彼女は、どんな些細な知識の教授でも、目を輝かせて「すごい」と認めてくれた。

 純粋な強さでは、あっという間に彼女の方が遙か高みにいってしまったのに、それで彼女がクレマンティーヌを見下すことは一切なかった。

 ──そんな彼女の存在は、クレマンティーヌの中にあった空虚を、少しずつ埋めてくれている。

(──けど、あの娘はお人好しすぎるから)

 いくら強くなったって、本質的に戦うことに向いていない。

 ──だから、間違っても彼女が戦わなくてすむように、根回しするのだ。

「……イカレたトップが消えたんだから、エルフとの戦争もおしまいに出来るでしょ。──あと、奴隷制度もどうにかした方がいいよ。神サマ、あれ、好きじゃないみたいだし」

 ──実際、奴隷の話をした時、(プレイヤー)の彼女は悲しそうな顔をしていた。

「先に言っとくけど、今度の神サマ、当の神も、従属神も、ほぼほぼみーんな異形種だからね。人間を特別贔屓してくれるなんて思わない方がいいよ? 周辺国の奇跡は、『着いた場所の近くに棲んでる種族が困ってる。情報収集のついでに、まあ助けてやるか』くらいのノリだからね」

 縋るように、高位神官が口を開く。

「──それでも、慈悲を下さる程度には、理性的な方々なのだな?」

「まあ、“八欲王”みたいに我欲で暴れ回るタイプじゃない──っていうか、無辜の民を苦しめるような振る舞いは、神の意向で固く禁じられてるくらいだし。大分理性的で慈悲深いとは思うよ」

 でも、だからこそ、と言葉を続ける。

「法国は、神サマによく思われてない」

「──な、何故だ!? 我らは、人類の為に──」

「神サマがこっち来て最初に見たのが、法国の囮部隊が無辜の村焼いてるとこだったからだよ」

 見てて面白いくらい、一同の顔から血の気が引いた。

「陽光聖典から事情も聞いたみたいだけど、全然納得いってないみたい。『“人類のため”というなら、無辜の民を虐殺してまでガゼフとやらを殺すより、まず“八本指”やら腐敗貴族やらを排除するべきでは?』だってさ。──ごもっともだよね~!」

 けらけら笑ってやれば、神からの不興を受け止めきれなかったのか、何人かが卒倒して倒れた。

「神サマを法国に迎えたいなら、まず、その辺の不信感をどうにかするよう努力しなよ。──まあ、まずはエルフとの関係改善と、奴隷制度の撤廃から頑張れば?」

「──待て!」

 言いたいことだけ言って、踵を返したクレマンティーヌの背に、兄が制止の声を投げる。

(──あ、そうだ)

 兄の声など無視していいが、一つ用事を忘れていたと気がついた。

「あ、これ、返すわ」

 ぽいっと放ったソレを受け取った兄が、震える声で叫ぶ。

「──【叡者の額冠】っ……!? や、やはりお前が──何故だ!」

 血がにじむような、悔しげな声だった。

「何故、お前のような罪人が、神に仕えることを許される!」

「──罪人だからだよ」

 ぽかん、と表情が抜け落ちた兄の間抜け面は、思い出したらしばらく笑いの種にできそうなくらい傑作だった。

 そうしてクレマンティーヌは、人生で最も慈悲深い笑みを浮かべて、告げる。

「優しい神サマは、親にも兄にも愛されなかった可哀想な子に、御許で罪をあがなうチャンスをくれたんだよ。──じゃあね、忌々しい過去(クソ兄貴)

 ──己の過去との、決別の言葉を。




ヘロヘロ「忙しいデミウルゴスの息抜きのつもりだったのに、どうしてこうなった」
パンドラ「やっぱり解呪するとカースドナイトのレベルは消えますか」
モモンガ「ンフィー君のタレントはヘロヘロさんにあげよう! 人化の弱体化がキツイし」
シャルティア「エルフの狂王を狩ったのも、小娘の送り迎えも私でありんす」


多分、次が最終話です。


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可能性の申し子、祝福される

ほんと最後まで誤字癖治らなくてすみませんでした……
最終話です。

【前回のあらすじ】
蜥蜴人族「こんなんあと40もいるとか絶対勝てない」
レイナース「呪いは消えたけど職も無くした」
ンフィー「エンリ、久しぶり……って、その男は誰!?」
クインティア妹「じゃあね、クソ兄貴w」兄「ぐぎぎ」


「……あれっ? ……私、今日、16歳になったかも?」

「──はッ!?」

 この世界に来てからもう何日、という話をしていて、ふと気づいたように呟いたルイに、(モモンガ)が目をむいた。

「えっ、誕生日!?……そういえば、転移してすぐに来月16になるとか言ってたね!?」

「せめて昨日までに気づいて欲しかった! いや、過ぎてからよりはいいかもだけど!」

 慌て出した至高の方々に、パンドラズ・アクターは首を傾げる。

「はて? 何か慌てるようなことなのですか?」

「お前、何言って──って、そうか、誕生日を祝うって習慣がないのか」

 一瞬、眦をつり上げかけた父は、途中で()()と気づいたように怒気をすぼめた。

「《リアル》には、誕生日パーティーって習慣があってね。まあ、ようはお祝いの宴だよ。貧しい家でも、家族の誕生日だけはいつもよりいいものを食べたり、贈り物をしたりしてお祝いする」

「──なんと! では、宴の用意をしなくては!」

 ヘロヘロの言葉に、パンドラズ・アクターは、何故至高の方々が慌てていたかを理解した。

「えっ!? いいですいいです! こないだカンストのお祝いもらったばっかりですし……」

 しかし、当のルイは慌てたように首を振って固辞する。──気づいたから呟いただけで、特に祝ってもらう気も無かったのだろう。

「いやいやいや! 知った以上は、お祝いしないとこっちの気が済みませんよ!」

「そうですよ! それに、歳取ると素直に誕生日喜べなくなりますからね? 十代のうちに盛大に祝われるべきです!」

「えっ、で、でも……」

 モモンガの勢いとヘロヘロのよくわからない理屈に、気圧されたルイが助けを求めるようにパンドラズ・アクターを見る。

(これは、どうしたものでしょう……)

 祝いたい至高の方々の気持ちはわかるし、むしろ心情的にはこっちよりだが、無理に押し通しても、ルイの性格的に()()()()()()()と気に病む可能性もある。

 しかし、パンドラズ・アクターが動きを決めるより早く、状況が動いた。

「──ご歓談中失礼します! 緊急です!」

 

 ──“白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)”の端末が、トブの大森林に現れたという報せだった。

 

 

 ツァインドルクス=ヴァイシオン──ツアーの愛称を持つ竜王は、半月ほど前にも来た大森林へ、端末の鎧姿で訪れた。

 一晩にして南に拡大するという異変──時期的にも“百年の揺り戻し”絡みの可能性が高い。

 しばらく周辺の様子を見て、強大な力を持つ存在が現れたという確信は得られた。──同時に、ことを荒立てず、対話がかないそうな相手であることも。

 行動からして、この世界に対して善意的な存在のようだし、“八欲王”の時のようなことはなさそうなのだが、悪意が無くとも善意から()()()()そう──というか、既に若干やりすぎてる感があるので、一度話しておく必要があると感じたのだ。

 しかし、森の中でツアーを出迎えたのは、()()()()()()というイメージとは真逆の──それでいて、ある意味納得がいく種族だった。

「……スルシャーナといい、君たちの元いた世界では、アンデッドは慈悲の存在なのかい?」

「──そういう言い方をすると言うことは、少なくとも喧嘩を売りに来た訳ではなさそうだな」

 そう言って、どこか張りつめていた気配を緩める<死の支配者(オーバーロード)>。

「さて、我が支配地に何用かな、白金の竜王。すまないが、この後大事な予定があるので、手短にすませて欲しいのだが」

(……私のことは知ってるのか……情報収集能力はそれなりにある、と。まあ、そうでなければ、事を荒立てないように立ち振る舞いながら、縄張りを確立するような器用なマネはできないか)

 そんな風に思いながらも、まず訊きたいことを尋ねた。

「……話すのに不便だから、君を何と呼べばいいのか教えて欲しいんだけど。あ、私のことはツアーでいいよ」

「……では、モンガ、とでも呼べ。──それで、用件は?」

 骸骨の表情は読めないが、やや急いているような声音に、首を傾げる。

「……先約は、そんなに大事な用事なのかい? ただ、ちょっと話したいと思って来ただけだから、何なら出直そうか?」

「え、いいのか?」

 わかりやすく明るくなった声音に、重要な用事というより、何か楽しみな用事なのかもしれない、と思い至る。

「なら、悪いが後日出直してもらえると──ん? えっ!? 本気!?」

 言葉の途中で、ここにはいない誰かに向かって声をあげるモンガ。──誰かからの《伝言(メッセージ)》が来たらしい。

「……予定というのは、ある記念日を祝う宴だったんだが……その主役が、『どうせなら、お客さんもご一緒に』と言っている。来るか? ツアー」

「えっ、いいのかい? 仲間内のお祝いじゃないの?」

 初対面の飛び入りが入って、水を差してはしまわないだろうか。

「……お前とはできれば仲良くしていきたいからな。少なくとも、諍い合う関係にはなりたくない。──交友の一環として、まあ、ありかな、と」

 そう言ってから、ただし、とモンガは言葉を繋ぐ。

「──私の大事な家族と仲間に、毛ほどの傷をつけることも許さん」

 そして、ざわりと怖気立つような気配が立ちのぼる。

 なるほど、とツアーはその様子に腑に落ちるものを覚えた。

(──彼は、()()()()を守るためだけに動いているんだ。……周辺国に振りまいた慈悲は、諍いを先だって封じることで、とばっちりを避けただけ……)

 だが、諍う国を滅するのではなく、諍いの原因をなくす方向で動いているあたり、そのやり方は温厚で理知的と言える。

「……私としても君たちとは仲良くしたい。君の仲間や家族を傷つけたりしないさ。よろこんで、お招きにあずからせてもらうよ」

「──そうか」

 途端、穏やかな気配になった彼の魔法で、ツアーは彼の居城へと脚を踏み入れた。

 ──帝国にある闘技場と似た意匠の建造物。中央の広けた空間に、様々な料理を載せた卓が並んでいる。

 しかし、何より、ずらりと並んだ異形の群こそ、圧巻だった。

(──こんなに……!? “八欲王”のギルドより数も力量も勝る……)

 つくづく、この団体の長が、この世界に害なす気質でなくてよかった。

「──いらっしゃいませ、お客様」

 代表というように、出迎えの言葉を紡いだ女悪魔。

 彼女を見て、ツアーは()()と手を打った。

「──ああ! お祝いってそういうことだったのか! ……すまないね、大変な時に来てしまって。身重の身で無理はしなくていいよ。お腹の子に障ったら悪いもの、休んでおくれ」

 途端、何故か、居合わせた全員が固まった。

「………………えっ?」

 当の妊婦が驚いたように自身の腹に手を当てる。

「……えっ、もしかして、気づいてなかった? その子が宿ったお祝いの宴じゃないのかい?」

 

 しばしの沈黙の後──驚愕の絶叫が、場を支配した。

 

「──モモンガさん、マジで!? ついに卒業したの!?」

「さ、先延ばしにする言い訳が尽きて……って、そんな話はどうでもいい! 本当に、子どもが……!? ──マジだ! 反応が二つになる! ……ああ、立ってないで休んでアルベドぉ!」

 まとわりつく黒スライムを振り切って、女悪魔に何やら魔法をかけたモンガ──本名はモモンガのようだ──は、魔法で作り出したソファへ彼女を座らせる。その後も、上掛けやら何やらを魔法で量産しだした。

「──ワ、ワカ……? 至高ノオ方ノ若ガ、オ生マレニ!?」

「えっ、いや、まだ生まれてないし、若とは限らないよ? 姫かも知れない」

「……ヒメ……姫……!? ──ォォオオオ! 姫、爺ガコノ身ニ代エテモオ守リシマスゾォォオオオオ!」

「落ち着きたまえコキュートス! 今、君が、御子の害になりかけているよ!」

 興奮のあまりにか、ブシューブシューと冷気を放つ巨大な蟲を、紅い衣の悪魔が必死に宥めている。

 他の異形たちも各々騒いでおり、もはや場は混乱の坩堝だ。

(──え、これ、どうしよう……)

 原因を作ってしまったのは自分のようだが、ツアーは完全においてけぼりである。

「──あの……」

 と、そこにおずおずと声をかけてきたのは、人間のように見える少女だ。黄色い服装の異形が、その横に付き添っている。

「はじめまして、ルイっていいます。──あの、おかあさまのお腹の子のこと、教えてくれてありがとうございました」

「ああ、いや、礼を言われるようなことじゃないよ。私のことは、ツアーと。──おかあさま、ということは、君は彼女の娘かい?」

「正確には義母と嫁の関係ですね。私とルイ殿、父上とアルベド殿が夫婦なので」

 横の異形がさらっと補足する。

「……父親の妻だけど、君の母親ではないんだ?」

「ええ。名誉にも息子扱いされていますが、私も正確にはモモンガ様の実子ではなく、NPC──貴方たちがいうところの従属神なので、母親はそもそもいませんから」

「や、ややこしい……っていうか、えっ!? モモンガ!? ──じゃあ、あの子どもの父親、モモンガなのかい!? アンデッドなのに!?」

「父上は、スキルで人間にもなれますから。というか、普段は人間として過ごしていらっしゃいますよ」

「……はは、何でもありだねぇ……」

 もういっそ、笑いがこみ上げてきた。

「……結局、本当は何のお祝いだったんだい?」

「ルイ殿の16歳の誕生日です。プレイヤーの方々は、年始ではなく、生まれた日付で歳を数える習慣があるのだと」

「誕生日! そういえば、リーダーもそんなようなこといってたかも……何だかお祝いの席を乗っ取ってしまうようなことになって、すまないね、ルイ」

 思わず詫びれば、彼女は輝くような笑顔で首を横に振った。

「いいえ! 新しい義弟妹(きょうだい)なんて、これ以上に素敵なプレゼントはないです!」

 

 ──賑やかに、騒々しくも、その命は祝福される。

 

 我が子の生まれる世界を荒らすようなことは、あの過保護な骸骨魔王には出来ないだろう。

 そして、他の誰かが荒らすことも、絶対に許さない。

 

 ──だから、きっと、これからも、この世界は平和なのだ。




フェアリー・エフェクト 完

お読みいただいて、ありがとうございました!


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