ヤムチャな俺が目覚めたらシガンシナ区の門が蹴り壊されるところだった (@さう)
しおりを挟む

1話

ヤムチャな俺が目覚めたらシガンシナ区の門が蹴り壊されるところだった

 

 

001ドラゴンボール世界の終焉

 

 

「クリリン! ヤムチャ!」

 

 見下ろすとボロボロの悟空が叫んでいた。

 悟飯も泣きそうな顔をしている。

 

 やっぱこうなるか……

 

 サイバイマンは倒した。

 ベジータ戦もギリギリ生き残った。

 

 しかし、フリーザ様はやっぱ無理だった。

 最終形態までは生き残れたが…… まぁ、ずっとクリリン達と行動してただけなんだけど。

 

「悟空ーーーー!!」

 

 隣でクリリンが叫んだ。

 

 次の瞬間、俺とクリリンは爆散して死んだ。

 

 

 

 

 俺はゆるーく考えていた。

 

 原作でヤムチャは三回死んでる。

 サイバイマンの時、そして魔神ブウに二回。

 

 サイバイマンの時のが今になったって事だろう。

 その程度に考えていた。

 どうせクリリンや他の人たちと一緒にドラゴンボールで生き返らせてもらえるだろうと。

 

 原作知識はあったが、結局クリリンより強くはなれなかった。

 ギリギリ追いつけない。

 世界の矯正力的な何かだろうか?

 

 原作では転生したウーブが地球人最強になってしまうが、現時点で地球人最強はクリリンだ。

 農夫のおっちゃんが戦闘力5だというのに、ラディッツ編で200、このナメック星編では1万を超えてる。

 俺はそれより少し劣る程度。

 

 人造人間編ぐらいからもう大して役にたてなくなってくるけど、それはそれとして。

 生き返ったらまた一緒に修行しようぜ。

 新しい技とか考えながらさ。

 

 原作のヤムチャはずっとフラフラしてたけど、俺も嫁が欲しいなぁ。

 

 

 

 ドラゴンボール世界では死んだら復活できる。

 

 そう信じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 たった一台のトラックがフラフラと蛇行した事から大事故が起こった。

 避けようとした車が他の車とぶつかったり、同じく避けようとした車同士ぶつかったり、玉突き事故というか雪崩事故というか、大変な事になった。

 歩行者もなぎ倒された。

 原因の一台の運転手は超過労働による運転中突然死だった。

 トラックは歩道を乗り越え、ビルに直撃。

 歩行者5名が怪我、一人が死亡。

 ドライバーを含めると死者二名。

 そして俺は死んでしまった歩行者一人だ。

 トラックとビルの壁に押しつぶされて体がいくつかに千切れて死んだ。

 

 巻き込まれ事故で死んだ後、神様に呼び出された。

 俺の魂には少し問題があって、浄化装置のフィルターに詰まってしまうらしい。

 それで、

「お前さん漫画好きなんじゃろ? 漫画世界に転生させてやろう」

 という事で、神様曰く、魂を薄く伸ばす作業のために転生させていただいた。

 

 

 そして俺はヤムチャになった。

 

 

 ドラゴンボールは好きな漫画だし、舞空術で空飛んだり、気弾を放てるのは凄く楽しかった。

 辛い戦いもあったけど、やっぱり悟空がいるとなんか安心する。

 

 俺はまだ、ドラゴンボール世界で生きていくものだとおもっていた。

 

 

 

 ーーーーーーーーー

 

 

 

「……なんだここ……」

 

 目がさめると、そこは街中だった。

 石造りの家が多くて、ヨーロッパの観光地にでもいるのかと。

 

 もしかして地球に帰ってきたのだろうか。

 ふと自分の手を見てみる。鏡は無いが、その手は間違いなく俺の、ヤムチャのものだった。

 

 ちょっと興奮した。

 だって、ヤムチャのパワーを持ったまま地球に戻れたとしたら、これは人生イージーモードですわ。

 ……いや、どうやって金策するかは考えないといけないけど。

 とはいえ、ドラゴンボール世界でもバイトはしてたけど、凄まじい体力と舞空術が使えるだけで、めちゃくちゃバイト捗ったし。

 歩合制のバイトならとんでもなく稼げる。

 

「おい、にいちゃん。変な格好してんな。大丈夫か」

 

 俺は石造りの道の上で座り込んでニヤニヤしていた。

 

「あっ、あははは。すみません。ちょっと考え事してたもんで」

 

 おかしい。

 ドラゴンボール世界ならともかく、なんでこの明らかに堀の深い白人のおっさんが日本語を喋っているんだ。

 

 地球じゃ無いのか。

 とすれば、ドラゴンボール世界のどこかか。

 建物の造形がドラゴンボール世界よりも地球っぽかったのでちょっと期待したんだが。

 

 ドラゴンボールで復活したけど、場所の指定が無かったとか、そういう感じだろうか?

 

 とりあえず街中をフラフラ歩いてみる。

 

 この街は城郭都市らしい。

 ますますヨーロッパっぽいな。

 でかい壁がそびえ立っていて、この街を囲んでいる。

 建物との差を見るに、あの壁は50メートルぐらいあるんじゃないのか?

 ヨーロッパにそんな高い壁あったかな?

 やっぱ復活する場所を間違えてここに来ただけか。

 

 気を感じてみるが、この街中にみっちり人が詰まってるらしい。

 畑とかは外なんだろうか?

 

 水の匂いを頼りに歩いていくと、川があった。

 

 近くに船が泊まっている。

 生活用水に使ってるかは知らないが、運河の役目もあるらしい。

 船はロープウェイの様になっていて、これで移動するらしい。

 面白いな。

 気の感じからして、そこまで人がいるわけでもなさそうだがこういうインフラが整っているというのはなかなか……

 

 ……ん? どっかでコレ見たような……

 

 どこで見たんだ?

 

 

 と、三人の子供が座り込んでいた。

 なにやら話し込んでいる。

 黒髪二人と金髪一人。

 黒髪の一人はなんか叫んでる。

 

「100年壁が壊されなかったからといって、今日壁が壊されない保証はどこにも無いのに……」

 

 金髪の声が聞こえてきて、俺は気付いた。

 

 あの船、そしてあの言葉。

 

 

 次の瞬間、大きな音が街に響いた。

 何かの爆発音か?

 そして突然デカイ気が現れた。

 

 子供達が走っていく。

 

 俺も近くの屋根に上がって、それを見た。

 

 大量の蒸気をあげながら、壁から出ている肉肉しい顔を。

 

「超大型巨人……」

 

 思わず口から声が漏れる。

 

 

 

 

 ドラゴンボール世界で死んだと思ったら、進撃の巨人の世界に来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 天津飯は三つ目人という宇宙人の子孫だそうです



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

進撃の巨人世界での初めての失敗

002進撃の巨人の世界で、初めての失敗

 

 

 

 突然街を襲った轟音。

 そして現れた巨大な気。

 超大型巨人。

 

 正直なところ、余裕で勝てる。

 気の大きさからしても楽勝だ。

 

 だが、あの巨大さと、気持ち悪い顔はさすがにビビる。

 

 

 ーそして俺は、この世界で最初の判断ミスを犯したー

 

 

 ドラゴンボール世界に転生した時、気をつけた事がある。

 原作をなるべく変えない事だ。

 それは原作へのリスペクトであり、そして知識によって自分が生き残るためでもある。

 

 悟空があれだけ強くなるのは、どこで失敗があってもダメだったし、悟空がやられたら地球はあっさり滅ぶ。結構綱渡りな世界だった。

 

 今回も、進撃の巨人世界を変えてはならないと思った。

 

 超大型巨人をここで駆逐するのは簡単だが、そうするとその後の諸々が大変になる。

 

 俺が死ぬ前までで読んだのは、確かライナーとマーレ軍が飛行船で攻めてきたところまで。

 

 そこまではなんとか原作のストーリーを繋げたい。

 繋げたいが……

 

 俺は気を探った。

 ……いや、ダメだ。そもそもどの気かわからん。

 

 ここで一人、人間を救おうと思ったのだ。

 

 俺は通りに降りて、走った。

 走りながらダメ元で叫ぶ。

 

「えっと、イエーガーさーーーーん!! イエーガーさーーーん!!」

 

 名前ど忘れした。

 

 

 

 ここで、エレンの母親が死ぬ。

 超大型巨人が蹴り壊して降り注いだ破片によって、家が潰され、逃げられなくて、食われる。

 それも旦那の元嫁に食われるのだ。こんな悲劇、あってはならない。

 

 ドラゴンボール世界では生き返る事ができた。

 その分、この世界での死の重さについて考えすぎてしまった。

 だから俺は、エレンの母親だけでも救いたいと思い、こんな行動に出てしまった。

 悪手だった。

 

「どなたですか?」

 

 めちゃくちゃ運がいい!

 

 ちょうどとなりの家から、黒髪でなんだか目力のある美人さんが出てきた。

 俺は足を止めて、

 

「エレンさんのお母さんですか?」

「はい。あの子がまた何か……」

 

 やっぱ問題児かよエレン。

 

 そして、街が揺れた。

 

 エレンの母親のカルラさん、そして通りにいた人々も悲鳴をあげながら頭を抱えた。

 

 続いて、空気を割く音が響き渡る。

 空を見上げると、いくつもの陰が白い煙で線を描いていた。

 超大型巨人に蹴り壊された壁の破片だ。

 

 それは街に降り注ぎ、街中から地響きと爆発音が聞こえてくる。

 大質量の岩石に押しつぶされて、いくつもの家が吹き飛んでいく。

 

「きゃあああああああ!!」

 

 俺はカルラさんの盾になった。

 目の前でエレンの家が押しつぶされ、木片や石壁の一部が飛び散った。

 それは俺が全部受けたので、カルラさんは無事だ。

 

「大丈夫ですか?」

「はっ…… はい。なんとか…… エレン! ミカサ!」

 

 すぐにハッとして走り出しそうになっているカルラさんを捕まえて

 

「大丈夫です! 二人はすぐこちらへ来ます」

 

 そう、あの三人は放っておいてもすぐに来る。

 カルラさんが家に押しつぶされないから、避難もすぐできるだろう。

 

 

「……あ」

 

 どんどん気が消えていく。

 破片が降り注いだ場所だ。

 みんな死んでいく。

 

 

 俺はここで失敗していた。

 

 カルラさんを助けに走るのではなく、気弾で全ての破片を砕いてしまうべきだったのだ。

 

 細かい礫粒は街に降り注ぐだろうが、家は潰れないし、物陰に隠れていればやり過ごせるだろう。

 打ち所が悪くて死ぬ人もいるかもしれないが、今よりずっとマシだったはずだ。

 

「なんて事だ……」

 

 俺は早速この世界で判断を誤った。

 

 なるべく原作は壊さないとしても、それほど影響ないレベルでたくさんの人が救えたはずだったのだ。

 

 こうしている間にも、どんどん気が消えていく。

 この世界にドラゴンボールは無い。

 

 

「母さん!!」

 

 と、三つの気が、エレン、ミカサ、そしてアルミンが走ってきた。

 

「エレン! ミカサ!」

 

 カルラが二人を抱きしめた。

 

 

「っ…… 早く逃げましょう。すぐに巨人が入って来ます」

 

 俺はともかく、エレン達を逃す事にした。

 

 

ーーーーーー

 

 

 途中、潰れた家の中から気を感じて救助したり(5秒)しながら船着場へ向かった。

 そこは人で溢れていた。

 この三人が生き残るのは確実なので、焦る必要は無い。

 

 ……この状況を見るに、下手にシガンシナ区の人々をたすけていたらこの三人が船に乗れなかった可能性もあるのか。

 そんな風に考えてしまう。

 

 その場合、助けた命に責任を持つために、入ってきた巨人も俺が倒すべきだろうか。

 

 そしてライナーもベルトルトも殺して、そのままマーレに行って……

 

 この世界は第一次大戦をちょっと過ぎたぐらいの科学力だ。

 巨人という魔法のような力はあるものの、物理で倒せる相手。

 ヤムチャ一人で制圧できる。

 

 だがそれは、俺の望みではないし、強くなって、成長していくキャラクター達の人生を踏みにじる行為でもある。

 俺だって楽しんで、時に苦しみ、泣きながら、勇気をもらった。

 それをここで踏みにじるのは……

 

 しかし現実として人が死んでいて……

 

「オイ!何ぼーっとしてんだよ!」

 

 エレン、お前年上にも容赦無いな……

 

 俺は考えることを放棄して、エレン達と一緒に船に乗った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

進撃の巨人は1、2巻同時発売の時からのファンです。

この、壁の破片で街が破壊される様子をしっかり描写しているところに惚れました。

これはすごい漫画だ、凄い漫画家だ、と思って親戚や友達に勧めたのですが、絵がちょっと…… と全て断られまして。

その後アニメが出てから、また周りの評価が変わりましたけど。

 

しかし、それもなんか…… 巨人が人を食うっていう、そこに焦点が当たっていたような気がします。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

農民になろうぜ

003農民になろうぜ

 

 

 

 ドラゴンボールは大好きな作品だった。

 進撃の巨人も大好きな作品だ。

 

 

 ジャンプ系のドラゴンボールからマガジン系の進撃の巨人へ……

 てことは次はチャンピオン系か?

 一番読んでたのは刃牙シリーズだけど……

 ヤムチャのままなら無双できるが今回が特別なだけで一般人に転生するという可能性もあるし。

 でもあの世界はキャラクター以外は現実世界と変わらんから地球に帰るようなもんなのかも。

 

 などと考えている。

 

 考えながら、鍬を動かしている。

 結構手抜きだが、ざっくりと鍬が土に食い込み、ゴッソリと土がめくれ上がる。

 

 現在の俺は開拓民だ。

 

 シガンシナ区の住人は最初避難所生活をしていたが、現在は開拓民として荒地というか、草むらや森を切り開き、畑作りのためにせっせと耕している。

 

 あれか、サーシャの父親の懸念している状況か。

 多くの人を生かすために森を切り開かにゃいかんという。

 

 エレンは来年兵士に志願するらしい。

 結構モメてた。

 カルラさんが生き残ってるんだけど、父親、グリシャさんはしばらく一緒にいたもののやっぱり消えてしまった。

 

 そもそもグリシャさんは余命が少なかったし。

 カルラさんと最後のひと時を過ごせただけでも良かったのかもしれない。

 

 グリシャさんは知識があってもどうしようもなかったけれど、ウォールマリア突破後の人減らし作戦については傍観したままだった。

 どうしていいかわからなかった。

 

 巨人を皆殺しにして壁を塞ぐ事はできたが、しなかった。

 

 シガンシナ区に続いてウォールマリアが破壊され、人類の生存域は一気に狭まった。

 食料が足りなかった。

 俺が本気で開拓したら食料事情は変わったかもしれないが、確実に目をつけられるし、原作基準のあの王宮の様子だとどうなるかわからない。

 

 このままこの島から逃げて、どこかで隠れて暮らせば楽だったと思う。

 だって俺今人類最強だし。

 だけど俺はカルラさんを救ってしまったし、それによってエレン達がどうなるかもわからない。

 それが心配でずっと側にいる。

 

 一応、助けた人はいる。

 アルミンのおじいちゃんだ。

 

 俺も口減らし作戦には参加した。

 グリシャさんも軍医として同行していた。

 生きて帰った者は少ない。

 俺はアルミンのおじいちゃんだけ救って、あとは見殺しにした。

 巨人も殺せなかった。

 俺はあれが差別を受けて捨てられた人々だと知っている。

 

 九つの巨人は人に戻れる。それを食った巨人も。

 九つの巨人の髄液があればいいのなら、巨人に髄液を入れてやれば人に戻れるのだろうか?

 しかし、原作ではそんな話はなかった。

 本当に、継承なのだろう。

 だが、始祖の巨人にはかなりの力があるという。

 俺が死んだ時点ではまだそこまで語られていなかった。

 もしかして、人に戻せるんじゃないのか?

 そう思うと、自分ではやれなかった。

 

 原作を壊したく無いから、という言い訳をして、俺はまたにげた。

 

 ずっと後悔している。

 

 この世界の死は、ドラゴンボール世界のそれよりもずっと壮絶なのだ。

 ドラゴンボール世界は結構一瞬で消えたり爆散したりして死ぬ事が多いが、ここでは普通の人間のように、苦しみ抜いて死ぬ。

 

 人減らし作戦で傷付いた人々を、グリシャさんの助手として見て回った。

 巨人は人を食う。

 そんな中で生き残ったのはごく僅かだ。

 生き残った人々は、五体満足か、死ぬ間際で偶然生き残ったかの二つだけだった。

 

 地獄だった。

 

 

 

 

 原作は大事だと思う。

 けれど、救える範囲の人はなるべく救いたい。

 今度こそ。

 

 巨人だって、なるべく最低限にするつもりだけど、殺す。

 

 

 

 

 

 

 ある日、王都の方向で、巨大な気が二つぶつかり合いその一つが消えた。

 

 

 次の日、グリシャさんは、

「カルラを救ってくれて、ありがとう」

 と言い残し、消えた。

 

 

 

 

 いつの時点でかはわからないが、カルラさんはグリシャさんから全てを打ち明けられたらしい。

 

 地下室の鍵は、エレンではなく、カルラさんが持っていた。

 いつかシガンシナ区を奪還した時、エレンに伝え、渡してほしいと。

 

 

 

 ーーーーーーーー

 

 

「ヤムチャ、ありがとう」

 と、エレンが言った。

 頭は下げてないし呼び捨てだが、その決意漲る目を見ていると、まぁいいかと思えてくる。

 

「ヤムチャさんのお陰で、僕達ひもじい思いしなくて済みました。冬を超える度に人が死んでいったけれど、僕達は、生き残れました。ありがとうございます」

 

 アルミンはしっかりと頭を下げた。

 

 俺、壁の外に出るのも巨人を巻くのも簡単だし。

 たまに狩して獲物あげてた。

 

 生き残るというのは分かっていても、ついつい肉を食べさせてしまった。それだけヤバイ食料事情だったのだ。

 

 芋は食べ放題かと思ってたがそうでもなく、結構な量が徴収される。

 それにここ開拓地だから元々の収穫もまだ少ない状況。

 冬籠りの間に餓死者や凍死者がバンバン出た。

 助け合いの精神はあるものの、みんな痩せ気味だ。

 なんだかだるいなーと動かないでいると、そのまま餓死や凍死してしまう。

 弱った気に気付いて食料を持っていても、もう食べれなくなっているか、食べた後に死ぬ。

 すぐに消化吸収されるわけではないし、体温が下がりきっていたら身体機能が追いつかない。

 すぐに温めるのも危ないので徐々に体温をあげている途中で手遅れになったりもする。

 ドラゴンボール世界の体がどれだけ恵まれていたか、現代日本の衣食住がどれだけ素晴らしかったか実感した。

 薪も微妙に足りなくて、配分間違うと凍死まっしぐらだ。

 地獄だ。

 

 弱った気を感じるとなるべく助ける様にはしていたが医療の知識は俺には無い。

 体が弱って免疫力が落ちて、死んでいく人はどうしようも無かった。

 それに、救えたとしても、食料が足りないのだ。

 エレン達や、その他の人達にそれとなく狩で得た獲物を配っていたが、一度それが憲兵に見つかり、持っていた避難民がボコボコにされた。

 その人は怪我が元で死んでしまった。

 狩が禁止というより、狩をする暇があったら畑を作れということらしい。

 あの憲兵をうっかり殺しそうになった。

 しかし、殺してしまったら、この避難民を守って戦い続けなければならなくなる。

 そしたら死体の山だし、本当に守りきれるかわからない。俺は一人だ。目の届かないところでだれか刺されるのを止める事はできない。

 この世界に仙豆は無い。

 

 

 どうしたらいいのかわからない。

 ドラゴンボール世界が恋しくてたまらない。

 なんだよこの世界。

 

 

 狩ってきた食料は最低限を配る様になった。

 憲兵に目をつけられない程度にはガリガリだけど死なないという程度に。

 

 それに、俺はカルラさんとアルミンのおじいさんを救った。

 配給は家族あたりで配るため、家族の数が増えるとちょろまかされる可能性も上がるし、子供と大人では食べる量も違う。

 エレン達三人だけなら生き残っていたが、カルラさんやアルミンのおじいさん、そして、原作より長く生きたグリシャさんの事も考えたら食料がもつかわからなかった。

 

 最初は三人のためだったが、それではなんか気まずくなり、避難民全員に与えたところ、一人それが原因で殺されてしまった。

 

 

 死者はできるだけ抑えたつもりだ。

 しかし…… 

 

 

 何度この世界の王になろうと考えた事か。

 

 けれど、巨人の力を巡る悲劇は今のところ俺にもよくわからない。

 これが解決する事がこの世界にとってのハッピーエンドだと思う。

 そのためには、原作のキャラと、ストーリーが要る。

 

 

「エレン。お前は本当に兵士になるのか?」

 

「ああ。調査兵団になるのが目標だ」

 

 エレンはカルラにそっくりだ。

 やたら目力がある。

 

「農民にならないか? 畑も大きくなってきたし。俺と一緒にここに残って農業するわけにはいかないのか?」

 

 俺の言葉に、

 

「そうだよ。エレン。巨人と戦うなんて危ない。私はエレンが一緒ならずっと芋生活でも……」

 

 ミカサはずっとヤンデレだった。

 これも巨人の力を巡る悲劇の一つだろう。

 

 ミカサが目覚めたのはエレンを主人に設定したから。

 強くなったが、その代わりにご覧の通りだ。

 

 リヴァイはエルヴィンに懐き、エルヴィンが死んだあとで力を失い、なんとも普通の人間らしい最後を遂げた。

 ケニーは先代に支え、そして、まさかの逃げ遅れで死んだ。

 

 原作ではミカサはまだご存命だったが。

 マジ美少女の彼女を死なせるのは絶対にダメだと思う。

 エレンには生き残ってもらいたい。

 

「ミカサ、お前は残ってもいいんだぞ。母さんのこともあるし」

 

 カルラさんはここに居残りだ。

 

「ダメ。エレンは私が見てないと危ない」

 

 何イチャイチャしてんだこいつら。

 と、いう気持ちなのは俺だけでは無いようだ。

 アルミンもシラーっとした目で二人を見ていた。

 

「エレン、ミカサ、そしてアルミンも。お前たちは強い。体力テストは簡単に合格できるだろう。だが、慢心してはダメだ。慎重に、そしていのちだいじに」

 

「ヤムチャさんのいのちだいじにはもういいよ」

 

「ハハハ。まぁ、危なくなったら助けにいくから」

 

「……なぁ、ヤムチャさん、本当に兵士にならないのか? たしかに年いってるかもしんないけど、ヤムチャさん程の人が兵士にならないなんて人類の損失だ」

 

「エレンもずっとそれ言ってるな。いいって。それにカルラさんやお爺さんの事もある。俺がここにいれば安心だろ?」

 

「それはそうだけど……」

 

 カルラさんやアルミンのお爺さんを助けた事で、三人がここに留まる気になるんじゃないかと思ったがそんな事にはならなかった。

 やはり、意思は強いし、何より俺がここにいるから。

 

 この三人はわしが育てた。

 

 ドラゴンボール世界とはやはり人間の体の作りが違うらしく、鍛えたら鍛えるだけ強くなるという事は無いみたいだが、この数年でかなり強くなったと思う。

 

 意外にも、飲み込みが早かったのはアルミンだった。

 いかんせん生まれつきの体質なのか筋肉は付きにくかったものの、対人戦ならエレンとタメを張れるぐらいに強い。

 武術を教えたのが良かったんだと思う。アルミンに合っていた様だ。

 亀仙流というのは基礎体力向上というか、決まった型が無いというか、咄嗟の判断力や感覚を主に鍛える武術なのだが、アルミンは自分の中の気を発見するのが早く、それを上手く使って、体の各部や感覚を強化する事ができた。

 気の使い方が上手い。

 クリリンに似てるなと思って、ちょっとしんみりした。

 俺が最後に見たのはクリリンが爆散する姿だったし…… 生き返ってるとは思うけどさ。

 

 俺は亀仙流最後の門弟だ。

 悟空の妻のチチさんは武天老師様の弟子である父の牛魔王から習った孫弟子なので、系列的には、こいつら三人はチチさんと従弟弟子?なになるのかな?

 

 武天老師様、こっちの世界に孫弟子ができましたよ!

 

 エレンの方も基本は亀仙流だが狼牙風風拳を気に入ったみたい。

 いわゆる高速タコ殴りなんだが。

 とういうか、こいつ放っておいても最初に突っ込んでくし、攻撃技は合っていたのかも。

 気は気迫の力とは言ったもので、エレンはどんどん気が湧き出てくる。絶対量はまだまだ少ないものの、なかなか力尽きないのだ。

 やっぱ主人公だわ。程度は天と地ほど違うが悟空もこんな感じだった。

 

 ミカサは…… こいつなんでもできる。

 この世界にも気はあるが、体の作り、設定が違う。

 でも、もう少し頑張ったら舞空術ぐらいマスターできそう。

 

 

 

「いのちだいじに。いのちだいじにだぞ」

 

「わかったよもう」

 

 

 

 

 

 三人は訓練兵になった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

ヤムチャの優れた五感で盗み聞きを繰り返す主人公

 

もちろんグリシャとカルラがアレしてる時は時は離れましたよ

 

アッカーマン一族における独自解釈あり

リヴァイとケニーの主人の話

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

訓練兵三羽烏

004訓練兵三羽鴉

 

 

 

 

ボロいけれども楽しい我が家。

 

カルラさんを中心にすると、アルミンのお爺さんが義理のお爺さんで、俺は義理の兄弟かな?

ギリギリ家族である。

 

アルミンのお爺さんは年だし、結構弱っていたのだが、アルミンと同じく才能があったのか、あの三人の様に体内の気を感じられる様になってからは健康そのものだった。

農作業にもせいが出る。

 

カルラさんはグリシャさんを亡くしてから一度も弱音を吐かず、農作業に内職にせいを出している。

強い女性だ。

 

 

俺はといえば、農作業したり、たまに狩に出たり。

そこまでは以前と変わらないが、三人が旅立ってから、たまに訓練兵を見に行くという仕事が加わった。

 

舞空術ですぐだし。

狩しながら見に行きます。

 

 

面白くてついつい三人を鍛えすぎた感あったので、どうなるか気になったせいもある。

 

懸念通りというかなんというか。

あの三人対人戦闘でぶっちぎりの三トップだし行軍関係の訓練でも体力が有り余っている。

荷物を肩代わりされて屈辱にまみれるアルミンのシーンがカットされてしまった。

気の使い方教えたのはやり過ぎだっただろうか?

 

気になるのは、アニがやたらアルミンに懐いている事だ。

懐いてるっていうか、つけまわされてるっていうか……

 

原作ではエレンを気にしていた様だが。

 

ベルトルトは…… そうか、こうしてみると確かにアニが気になっている様だ。

 

アニがアルミンに懐いているのは武術のせいだろう。

 

アルミンはどう見てもイケメンなんだが、なぜか女性にモテなかった。

治安が悪い地域程マッチョがモテるという話もあるし、このご時世ではヒョロガリはモテないんだろうか?

 

だとすれば、俺はこんなところで原作に介入してないで、よそで生活してたらモテモテだった可能性も……

 

アニはアルミンを闇討ちしようとして、アルミンはそれを驚きながらも捌いている。

そこからアニが小刻みにローキックを入れ、ジャブで牽制し、ハイキックをアルミンが避けたところで、一気に脚を取りに行く。

アルミンは体を回転させて、アニの肩に手を当てて、地面に転がす。

そこで一言二言話をして、アニは去る。

そんな事が一日一回以上はある。

 

アニはいつも闇討ちが失敗して不思議らしいのだが、あの三人は人の気配ぐらいならわかる様になっているので、闇討ちはよっぽど気を抜いてるか寝てるかじゃないと成功しない。

 

 

ーーーーーーー

 

 

 やがて、アルミンがアニに武術を教え始めた。

 亀仙流にはこれといった型が無いので基礎訓練の様なものだが。

 

 人類の戦力になるなら、と思っているのだろう。

 

 女型の巨人強くなっちゃうからやめてほしいのだが、エレンも使えるし、まぁいいんだろうか?

 

 原作通り、訓練中にうっかり死にそうになってる奴がいたので助けたりしながら日々は過ぎていった。

 

「これならヤムチャさんに鍛えてもらったほうがマシだったぜ」

 

 とかエレンがよく呟いているけど、実際にはアルミンやミカサとよく組手しているので訓練中もどんどん強くなっている。

 

 クリリンの事を思い出してちょっとしんみりした。

 

 そんな中でも、やはりライナーやベルトルトは優秀な兵士だった。

 元から戦士として訓練しているからだろう。

 判断力や行動力が洗練されている。

 

 体力では三人がトップでも、やはり兵士としての価値はライナーやベルトルトの方が上だった。

 つか、エレンとミカサは座学で二人に負けてるし。

 アニも意外に好成績。

 これは原作でどうだったか知らないが、アルミンはアニに武術だけでなく座学も教えている様だ。

 これ原作の流れに影響しないだろうか。

 

 俺が知る限り、アニはずっと地下で水晶の中だった。

 原作で退場する時点で改心して身を隠す分には原作に影響しないはずだ。

 もしもそうなったら、俺が攫って匿っておこうと思う。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 そしてとうとうあの日がやってきた。

 

 二度目の超大型巨人との邂逅。

 

 壁の補修に就いたエレンたち訓練兵が超大型巨人と出くわして、トロスト区の壁が破壊され、侵入してきた巨人たちによって地獄絵図が広がる。

 

 俺はこの日まで、何度ライナーとベルトルトを殺しておこうかと考えた事か。

 

 今日、訓練兵もトロスト区の住人も多くの人たちが死ぬ。

 

 でもここで俺が出しゃばると、重要なシーンがいくつも潰れてしまう。

 

 エレンはどうやら巨人化できる事をまだ自覚してない様だし。

 

 

 どうすればいい……

 

 あの時、救える命は救う。巨人も殺すと決めたのに、何もわからないまま、俺はこの日を迎えた。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 主人公はヘタレです。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ちょっぴり介入

005ちょっぴり介入

 

 

 

 トロスト区の決戦が始まった。

 

 俺はどうするべきがずっと悩んでいたのだが、その悩みはあっさり吹き飛んだ。

 

 エレン、ミカサ、アルミンの三人が強すぎるのだ。

 

 超大型巨人がトロスト区の壁をぶっ壊して巨人の群れがなだれ込んできた。

 そして、死者は大量に出ているのだがおそらく原作よりもずっと少ない。

 

 壊れた門の近くで三人がゴミの様に巨人を処理していく。

 撃ち漏らした巨人を、余裕をもって訓練兵と壁工事団が処理していく。

 

 

 ぼけっとしていたが、俺も少し手を貸す事にした。

 巨人を倒すのではない。

 ここで介入したいと強く思ったのは二つ。

 

 

 一つは、トロスト区から逃げる人たちの手助け。

 

 あれよ。荷車が詰まって通れないっていうシーン。

 

 今回はミカサがずっと前線にいるのであれを処理できる人間がいない。

 

 三人は頑張っているものの、撃ち漏らしが結構いて、街に侵入して人を食ってる。

 撃ち漏らしを倒す兵士も、すぐに来れるというわけではない。

 

 避難できるならした方がいい。

 

 俺はやっぱり殺すというのが苦手なのかもしれない。

 死については、開拓村でもその前の人減らし作戦でもたくさん見てきたが、殺すのはまだ慣れていない。

 

 

 トロスト区の出口、というかウォールローゼの入り口に行ってみると、案の定荷車が詰まって避難民がギャーギャー喚いている。

 

 俺はフードをかぶって近付き、荷車を持ち上げて退かした。

 

 一瞬その場の空気が凍った。

 

 とりあえず

「さぁ! みんな逃げろ!」

 と叫んで、超スピード移動でその場を去った。

 

 突然現れ、素手で馬車を持ち上げて退かし、そして消えた謎の人影。

 

 人々は最初戸惑っていたものの、子連れの家族が走り出したのをきっかけに皆ウォールローゼ内へと逃げていった。

 

 

 もう一つ。

 マルコの回収である。

 

 こいつは実に悲惨な死に方をする。

 マーレ戦士三人の会話をうっかり聞いてしまい証拠隠滅のために殺された。

 しかも立体機動装置を奪われて巨人に食わされるという方法で。

 三人もパニックでこの方法しか選べなかったのかもしれないが、これは避けたい。

 

 マルコはアルミンとも仲がいいし、頭も良い。

 隊長候補の一人だ。

 マルコの立体機動装置を奪われない事で、この先の話に影響あるかもしれないが。

 

 その辺で戦っていたマルコを見つけ、

 

「あっちだ! あっちで友達が食われてるんだ!! 助けてくれ!!」

 

 と、避難民に混じって呼びかけた。

 気を探って、ライナー、ベルトルト、アニの位置は分かっている。あいつら集まって今頃この光景見てるんだろう。

 

 それとは逆の方へマルコを誘導した。

 

 マルコはやっぱ良い人らしく、

「任せてください!」

 と言って、そっちの方向の巨人へと向かっていった。 

 他にも数人の兵士が同じ巨人を目指している。

 連携すれば簡単に倒せるはずだ。

 生き残れるだろう。

 

 

 この二つの介入は、あの三人が強すぎるのを見た後に決めた、結構行き当たりばったりな判断だった。

 

 これはもう無理だと感じたんです。

 

 あの状態でエレンが巨人化するかわからんし。

 

 

 

 俺は二つの仕事を終えて、さっきから固まったままのマーレ戦士三人組に近寄った。

 

 

 

「うそだろ…… エレン、ミカサ、それにアルミンまで……」

「あいつらあんなに強かったのかよ……」

 

 ライナーとベルトルトは冷や汗かいている。

 作戦失敗みたいなもんだしな。

 それに、あの三人内輪で戦う分にはともかく、対人格闘訓練で本気を出したら簡単に相手を殺せてしまうぐらいには強い。

 全力で戦う姿なんて見たことなかったんだろう。

 俺もその辺は注意したし。なるべく強さを見せてはならない。脳ある鷹は爪を隠す的な事を延々と。

 

 ……さっきから気になってるんだが、ミカサ……

 あいつ、立体機動装置を使ってはいるんだが、なんだか体がめちゃくちゃ軽くなってないか?

 他の同じ体格の兵士よりも、明らかに速い。

 立体機動装置の巻き取りも早いし、滞空時間も長い。

 無意識に舞空術の入り口に片足突っ込んでるんじゃないのか?

 

「だから言っただろ。あいつら実力を隠してるって」

 

 そう言ったのはアニだった。

 こいつはアルミンから武術を習っていたし、側にいる時間が長かった。

 本人も格闘技を習っていたし、うっすら気付いていたみたいだ。

 

「これじゃ…… 作戦が……」

「俺が鎧の巨人になってアイツらを……」

 

 ライナーの言葉が詰まる。

 仲間を殺してしまう事の躊躇もあるかもしれないが、それ以上に、勝てないと感じているんだろう。

 その直感は正しい。

 

 リヴァイより強いのが三人もいて、しかも連携が取れているのだ。

 いくら鎧の巨人といえど、勝てない。

 

「アタシはごめんだよ。アタシは元々中央での諜報任務だ。アンタ達でなんとかしな」

 

「おい! アニ! 逃げるのか!」

 

 アニは二人を鼻で笑って、この場を離れ、三人が撃ち漏らした巨人の撃退にしれっと加わった。

 

 

 

 ーーーーーーー

 

 

 

 なんというか、リヴァイ兵長が来る前にトロスト区住人は避難を完了し、巨人もほとんどいなくなってしまった。

 

 おそらくウォールマリア内の人々を巨人化させて集め、この時のために準備していたのであろう巨人の一軍はほとんど全て討ち取られた。

 ウォールマリアの中にはまだいるかもしれないが、トロスト区侵攻用の巨人はもう居なくなったみたいだ。

 

 

 

 エレンは巨人にならなかった。

 

 そして、さっき到着したピクシス司令達が穴をどうするか話し合っている。

 

 

 

 原作ぶっ壊れたんだけど……

 これもうどうしようか……

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーー

 

 

 アニの諜報任務は妄想です



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もうわからん

006もうわからん

 

 

 トロスト区の門はそのままになっている。

 

 トロスト区の中には巨人が数体いるものの、住人の避難は完了している。

 

 壁の上では戦っていた第104期訓練兵達とその他、そして出張ってきたピクシス司令達が集まっている。

 

 壁を塞ぐための資材がくるのを待っている状態だ。

 

 あそこにちょうど良いサイズの大岩があるんだけど……

 どうしよう…… 俺が持って行って塞ごうかな?

 

 

 トロスト区内に超大型巨人が現れて、ウォールマリアの門を破壊する可能性も考えたが、そんなに連続ではなれないらしい。

 ライナーとベルトルト、そしてアニも、訓練兵に混じってる。

 平静を装ってるのがなんだかなぁ

 

 かく言う俺もまた、ピクシス司令の連れてきた兵士を一人攫って眠らせ、服を奪ってここにいる。

 

 

「ほら、あの大岩、三人がかりなら持ち上がるんじゃないか?」

 

 というエレンの声が聞こえる。

 他の人には聞こえてないみたいだけど、物騒な事を。

 

 住民の避難は完了しており、死者も驚くほど少なかったためか、なんだか気の抜けた雰囲気が漂っている。

 資材が届かなければやる事ないし。

 

 エレン達三人はピクシス司令の近くにいる。

 なんか褒められたり話をしたりしていたが、そんなに長くもつわけもなく、なんとなーく話がなくなって、現在適当にフラフラしている。

 

「あっ!」

 

 と声をあげたのはアルミンだった。

 あいつ気の使い方は上手いからな。巨人の動向を見るために気配を探っていて俺を見つけたという感じか?

 目が合ったので、俺はアルミン達のところへ歩いて行った。

 

「よう。怪我してないか」

「はっ、怪我もなにも、巨人てこんなに弱かったんだな」

「エレン、それは慢心。気を抜いてやられたらかっこ悪いでしょ」

 

 つまららなそうなエレンと、それを嗜めるミカサ。そして苦笑いのアルミン。

 ずっと遠くから見てはいたけど、こうして話してみるとやはり懐かしさを感じる。

 

「ヤムチャさんも兵士になったんですか?」

「ああ、これな。借り物だよ」

 

「ヤムチャさん、たまに訓練所に来てましたよね?」

「気付いてたのか?」

「はい。ヤムチャさんの気は巨大だからすぐにわかります」

 

 アルミンは気付いていたみたいだ。

 

「俺も気付いてたぜ。……たまに」

 

 とはエレン。

 ミカサは何も言わないが、こいつは多分、というか間違いなく気付いてただろう。

 

「お前ら、よくやった。なんというか…… やり過ぎなぐらい良くやった」

 

 とりあえず褒めた方がいいだろう。

 実際に彼らのおかげで沢山の人が助かったのだから。

 原作から外れてしまったのでこの後はもう予測不能だけれども。

 

「ヤムチャならあの大岩簡単に持ち上げられるだろ。あれで穴塞いでくれよ」

 

 エレンよ。お前本当に俺に対して遠慮がないな。

 

「もう夕暮れだし。日が沈んだらな」

 

「なんだよ。また能ある鷹は爪を隠すとかってやつかよ。こんな時に」

 

「まぁな」

 

 

 

 

 それから調査兵団が帰ってきた。

 

 

 ピクシス司令とエルヴィン団長、そしてエレンが集まってなにやら話をしている。

 まぁ、興味はあるけど、俺はマーレの三人組を見張っている。

 

 

 

 

 ーーーーーーー

 

 

 

 夜になった。

 

「うおおお! すっげ! やっぱヤムチャすげぇな!」

「ちょっとエレン、静かに!」

 

 俺とエレン、そしてアルミンとミカサもトロスト区に降りていた。

 

 巨人は暗くなると活動を停止するため、俺たち人間が居てもトロスト区は静かだった。

 

 壁修復資材はまだ届かない。

 

 そんな中、俺は例の大岩を持ち上げて、よいしょよいしょと運んでいく。

 

「俺の体の気の流れをちゃんと見ているんだぞ」

 

 という修行じみた言葉も忘れない。

 

 壁の上で少し慌ただしい感じもするが、まぁ、うっすら岩が動いてるぐらいしか見えないだろう。

 この暗闇の中で俺たちまでは見えない。

 サーチライトなんて無いしな。松明じゃ無理だよ。

 

 

 地響きが起こり、一層壁の上が騒がしくなった。

 これでほとんど全ての兵士が気着いただろう。

 

 さっそく確認のため兵士が降りて来たので、俺たちはさっさと逃げた。

 

 

 

 トロスト区の穴は、夜の間に塞がった。

 大岩が転がっていって、ハマったらしい。

 

 なんとも奇妙な出来事だが、ともかく、トロスト区は再び人類の手に戻った。

 

 リコの名シーンがなくなってしまって悲しい。

 

 

 そしてエレンは後どのタイミングで巨人化できるんだろうか……

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

 第104期訓練兵はまさかの死者ゼロでトロスト区戦をくぐり抜けた。

 

 調査兵団への志願者は原作の通りのメンバーと、それに数人増えている。

 マルコも調査兵団に志願している。

 

 マルコの死をきっかけに調査兵団に入るはずのジャンまで、調査兵団に志願した。

 ジャンは原作に比べるとエレンとの軋轢がほとんど無い。

 トロスト区の活躍から、どうやらエレンについて行けば出世できると考えたらしい。

 ある程度実績を積んだ後に、内地勤務を希望するつもりだとか。

 

 

 開拓村に帰り、エレン達三人が調査兵団に入ったのをカルラさんとアルミンのお爺さんに伝えた。

 

 二人ともなんとも言えない表情をしていた。

 

 それから少しして、憲兵の態度が変わった。

 やたら気に掛けてくるし、うちの近くを憲兵がウロウロしている。

 三人の英雄の家族である。なんか上からお達しとかあったんだろう。

 監視の役目と、もしもの時には人質にでもしようというハラだろう。

 

 

 アニはやはり憲兵団に入った。

 

 

 

 厄介な話になるが。

 エレンが巨人化していない事で、マーレ三人組はエレンが巨人の力を持っている事を知らない。

 なので、壁外調査中に女型の巨人に襲われる事もない。

 

 アルミンの観察眼が活躍する機会が一つ消えた。

 

 ペトラは多分生き残ると思う。

 

 

 エレンの義理の兄はもう来てるんだっけか? まだか?

 

 

 

 もう原作ぶっ壊れてるし。

 ドラゴンボールの時よりも俺の存在が、というか、俺の強さがこの世界に影響を与えられるレベルだし。

 ドラゴンボール世界じゃ俺なんてたいした事なかったしな。

 

 そんなわけで、マーレ三人組とユミルに接触しようか悩んでいる。

 

 九つの巨人の面々は寿命が限られていて、その点においてはちょっとかわいそうにも感じている。

 エレンだってあと何年だろうか。

 みんな若いうちに死ぬ事になる。

 

 その運命を変える方法を俺は知らない。

 

 ライナーとベルトルトは殺しすぎている。

 今更和解なんて無いが、だとしても、彼らを希望と信じている人々が本国にいる。簡単に殺してしまうのはまずいと思う。

 

 どうすりゃいいのかわからないからこその話し合いだ。

 

 でも、どうやって接触したものか……

 

 

 

 

 ーーーーーーー

 

 

 

 アニはおそらく女型の巨人にならないだろう。

 

 まずエレンが巨人だと知らないし、女型の巨人になって調査兵団の邪魔をしに行ったところであの三人プラスリヴァイ兵長にはまず間違い無く勝てない。

 

 それに本来の任務が諜報であれば、そんなに大げさには動かないだろうと踏んだ。

 

 全てほぼほぼ希望的観測だけど。

 

 

 接触するとすれば、ベルトルトは最初に除外だ。

 話をしようとして巨人になられたら面倒だから。

 巨人化前に殺せる自信はあるが、もし失敗すればあの巨体が現れ、周りの人も建物も吹き飛ぶ。

 それは厄介だ。

 そしてライナーは話が通じなさそう。あいつ原作でも精神ボロボロだったし。

 

 エレンの義兄は話通じそうだけど、今はちょっとどこにいるかわからない。

 まだパラディ島に来てないのかもしれない。

 

 ユミルは多分話ができると思う。

 あいつクリスタ命だし。クリスタが無事ならなんとでもなるだろう。

 でも調査兵団はまとまって動いていたため、接触は今回見送った。

 

 そんなわけで、俺はアニと接触する事にした。

 建物が多い中央に詰めてるから一人になる機会はいくらでもある。

 アニはライナーやベルトルトの様に、民族の名誉がーとか考えてなそうな分交渉できると思った。

 家族に会いたいんだろ?

 舞空術ですぐだし。

 

 

 もうこうなったら原作に介入して、まだ見ぬハッピーエンドに無理矢理もっていくしかないと俺は考えた。

 

 

 そんなわけで、俺はウォールシーナを越えて、中央に来ていた。

 

 アニに会うついでに、あのおかっぱも見ておきたい。

 リアルおかっぱどんな感じなんだろうか。

 

 

 アニの気はわかる。

 

 アルミンに鍛えられていたらしく、他よりも結構大きい。

 アニも子供の頃から親に鍛えられてたみたいだし。

 感覚をつかむの早かったみたいだ。

 

 

 

 とりあえず人気がないところまで付けて行こうと思い、距離を取って尾行した。

 

 アニは巡回警備中のふりをして、なんかサボってる。

 銃を持っているし、新米とはいえ憲兵が街中を歩いているわけだから巡回なんだろうけど、やっぱサボってる。

 そういう風に見える。

 やる気なさそーな顔してるしな。

 

 

 アニはふらりと裏路地に入っていった。

 

 休憩タイムかな。

 

 と、アニの気が消えた。

 

 しまった! まさか路地裏で強盗か何かに見つかって刺されたのか?

 首や心臓をやられたら、頭を岩で殴りつけられたり、それで死んだり気絶したりしたら回復力を発揮する暇も無い。

 この世界がヤバイってのを忘れてた。

 ドラゴンボールも仙豆も無い。

 

 開拓村でボロボロと人々が死んでいったのを思い出す。

 今でこそ安定しているが、当時は酷かった。

 

「くそっ!」

 

 俺は超スピードで移動し、一気に路地裏へ駆け込んだ。

 

 空気を震わせる音と共に立ち止まる。

 

「おまえ……」

 

 そこにはアニが立っていた。

 

 俺が来るのを知っていたかのように。じっとこちらを向いたままで。

 

 アニから気を感じない。

 

 ……まさか……

 

「あんたがヤムチャさんだね…… 驚いたよ。こんな化け物が居たなんて……」

 

 アニはダラダラと冷や汗をかいている。

 やる気なそーな顔で、ダラダラと。

 ポーカーフェイスというか、顔がそういう顔なんだな。

 

「どうするつもりだい? アタシを殺す気…… なら既にやってるはずだよね……」

 

 アニは、アルミンに色々教わっていた。

 そして、気を感じる事が出来るようになったのだろう。

 アルミンは人に教えるの上手いみたいだな。

 

 そして、気の操作を覚え、気を消すという事について思い至った。

 

 いざという時にわからなくなると困るから、三人に気を消す事については教えなかったし、俺も、三人が気付いてくれるように気を消したりはしていなかった。

 

 アニは、気を消してしまう事を考え、そして習得した。

 

 考えてみれば当然だ。

 あの三人は気を察知する事ができる。

 とすればどこにいても自分の位置がバレる事になる。

 女型の巨人になってもそこに自分がいた事が分かっていたら、簡単に正体がバレてしまう。

 

 これも俺が蒔いた種か……

 

「壁の中にこんな化け物がいたなんて…… 知りたくなかったよ」

 

 あんまり化け物化け物言わないでくれるかな……

 そんな俺を超能力的な何かで簡単に爆散させたフリーザ様とかどうなるんだよ。

 

 女型の巨人になって逃走する、という発想はもう無いらしい。

 銃もこっちに向けず、震えながら抱きしめている。

 まぁ、俺が一瞬でここに現れたの見てるしな。

 

「殺しはしない。話がある」

 

「へぇ…… 面白い話だといいんだけどね……」

 

 

 

 そんなわけで、俺はアニと接触した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 新米の憲兵が一人で出歩けるかは謎。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

これからのこと

007これからのこと

 

 

「アニ、本当にアニなのか!?」

「とうさん……」

 

 アニの親父さんは、アニの肩に手を置いて、ボロボロと泣いている。

 歳いったおっさんの咽び泣く姿はなかなか胸に刺さる。

 

 アニは突っ立ったままだが、やはりボロボロと泣いていた。

 

 なんかこの親子似てるわ。

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、アニを連れてマーレ本国へ行った。

 舞空術で直ぐだった。

 

 アニは…… なんというか、変な奴だなと思った。

 

 最初は空を飛ぶ事に驚いていたが、声を上げるわけでもなく、顔を青ざめさせていた。

 それからだんだんと慣れて、あとはなんとなーく空の旅を受け入れていた。

 顔色はともかく、だいたい無表情だった。

 そういうキャラなんだろう。

 

 アニの誘導に従って、アニの親父さんを探し出した。

 

 

 なんというか、この収容所は淀んでいる。

 地球でもあった事だが、俺は体験してないし時代が違った。

 ドラゴンボールの世界の地球でもこういうのは無かった。

 犯罪者はいたけど、世界中ふつうに平和だった。

 フリーザ様は宇宙でやらかしてたかもしれないけど、地球上にはこんなとこ無かったしな……

 

 

 俺はマーレ人、ここのエルディア人にも接触しない事にした。

 

 アニの親父さんからすると、突然アニが家に現れた感じだろう。

 びっくりはしていたものの、嬉しくて泣いてしまった。

 娘との接し方が分からず、格闘技を教える事しかできなかった不器用な親父さんだったのかもしれん。

 

 

 俺実は同じ家の別の部屋にいるんだけどね。全然気付かれねぇな。

 

 

 ーーーーーーーー

 

 

 アニは秘密の任務で一時帰宅したという事にした。

 秘密なのでほかの人に喋ってはいけないとか、色々言い含めていた。

 アニの親父さんは結構アニに似てる感じがするので、余計な事は喋らなさそう。

 

 

 新米憲兵が早速丸一日サボっていた事になるわけだが、まぁあの組織結構緩いし。

 

 

「アタシも、訓練すれば空が飛べる様になる?」

 

 アニはどうやら自分で親父さんに会いに行きたいらしい。

 

 この親子はどうも元々の性格のせいなのか、特に洗脳されているという感じではなかった。

 教育は教育、それはそれとして、自分には関係ない。

 そんな感じの態度だ。

 

「空を飛べれば、父さんと逃げられるし……」

 

 との事。

 

 エレン、アルミン、ミカサを見ていると、おそらく舞空術はできるだろうと思う。

 

 気弾はどうか分からない。気の量からして巨人化したらできそうな気はする。

 それか、人のままでもだいぶ気を練れば。

 

 舞空術は、その名の通り、術だ。

 

 ドラゴンボール世界には、特に説明無いが技が多く存在している。

 フリーザのコルド一族は、あの惑星を破壊するエネルギーを作り出す事ができる。

 あれは惑星の地殻に侵入し、内部から惑星を崩壊させる。

 時限式のブラックホールみたいなもんか?

 

 クリリンの気円斬も技だ。

 あれは高速回転する気で、フリーザの尻尾もぶった斬れる。

 簡単にコピーされてしまったが。

 

 結構活躍していたのは太陽拳だろう。あれも技。

 

 さらには魔神ブウやダーブラの魔法や特殊能力などもある。

 神様達は、物質を作り出す力を持っている。悟空の道着や宇宙最高度のカッチン鋼を作り出したりできる。

 その対となる破壊神は、物質を、因果ごと破壊できる能力がある。

 強さではなく、技である。ただ強ければ神になれるというわけではない。

 

 ドラゴンボールの世界はただの力比べの世界ではなかった。

 

 その中でこの舞空術は、技である。

 

 ビーデルさんだって気弾は覚えてなかったみたいだけど飛べる様になったわけだし。

 ウーブも飛び方を知らなかった。

 

 高速で飛ぶなら気のブーストが要るが、ふつうに飛ぶ分には問題無いだろう。

 

 しかし、親父さん抱えて飛ぶとなると腕力は上げないといかんか。

 

 

「多分だけど、飛べると思う。ミカサは半分ぐらい自分で飛べる様になってたし」

 

「そうか…… 教えてくれない?」

 

「アルミンからどれだけ習った?」

 

「気? を感じる事と、コントロールする事」

 

「あとはコツをつかめばいけるかな……」

 

 

 

 そんなわけで、アニはマーレからこっそり離脱し、俺の弟子になった。

 

 

 武天老師様! また孫弟子ができましたよ!

 ちょっと小柄ですが、金髪のすっげぇ美女ですよ!

 ぱふぱふはともかく、お尻は締まってて凄くいいと思います!

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 あの三人には亀仙流を教えた。

 気の使い方を覚えて、それから感覚を研ぎ澄まし、人体の構造や、どうすればどう動くか、運動の方向に対してどう力を加えれば反らせるか、そういった事を、型ではなく、直接戦って教え込んでいった。

 

 アニの場合は、気の操作のみだ。

 たしかに時間の短縮にはなるかもしれないが、アルミンが人に教えるのがやたら上手いみたいで、俺と接触した時点でアニは気を消す事を自ら考えて習得していた。

 こいつ天才なんじゃないか?

 

 

 

 ーーーーーーーーーーー

 

 

 アニが四番目の弟子になった。

 この時点で俺はもう原作クラッシャーになろうと決めた。

 

 アルミンと少し話をしたのだが、

「アニは凄く才能あると思います」

 と返事。

 いや、アルミンも人に教えるのだいぶ上手いと思うけどな。

 

 アニの事については聞いたけれど、弟子にするという話は打ち明けていない。

 

 エレンの事がある。

 あいつ原作よりもだいぶ丸くなってるけど、それでもやっぱり激情家だ。

 今のところアニは直接人を殺していないみたいだが、マーレの一味として働いていた。間接的には殺している。シガンシナ区やウォールマリア、そしてトロスト区。

 エレンがそれをどう判断するかがわからなかった。

 

 

 ーーーーーーーー

 

 

「おっ? おお?」

 

 などと、女の子にしては少し野太い声を漏らして、アニは体をバタつかせている。

 ほんの数ミリだが、地面から浮いて、滑って、転びそうになっている。

 

「凄いな……」

 

 俺も思わず唸る。

 こいつ、才能がある。

 

 気になっている事はあった。

 アルミンはどう見ても普通の人間で、しかし頭が良かった。

 あいつを見ているとクリリンを思い出すのはそのせいだ。

 

 しかし、ミカサとエレンは何か少し違っていた。

 エレンはどこかから湧き上がってくる底なしの気があったし、ミカサは教えたらすぐにコツを掴んで自分のものにできた。

 

 アニはその間ぐらいだろうか。

 

 もしかして巨人化に何かあるんじゃないだろうか?

 巨人の体を構成する物質は、異空間から来るらしい。

 アッカーマン一族の強さも人のままこれにアクセスできるからだという。

 それと同じように、何か、知識とか経験とか、そして気さえも彼らの中に流れ込んでいるんじゃないだろうか?

 

 

「三週間でこれだけできるなら、すぐ飛べる様になると思う」

 

「そうかな……」

 

 アニは嬉しそうに笑った。

 ……いや、なんか、ニヤっとした感じなんだけど、最近アニの表情が分かってきた。

 

 ビーデルさんは二週間ぐらいで飛べる様になったはず。

 ちと遅いが、ドラゴンボール世界の人間と比べてはいけない。

 

 それに、修行つっても、三日に一度ぐらいアニが気を練るのを指導する程度。

 あんまり弟子って感じしないなぁ。

 

 組手とかにも興味はあるみたいだが、やはり空を飛ぶのを優先しているらしく、気を練る訓練ばかりずっと一人でやっていた。

 

 憲兵団でテキトーにダラけた生活してたのも良かった。

 修行の時間が結構取れたみたい。

 周りの連中からはサボってると思われてるけど。

 

 無愛想というか無表情というか顔怖いけど、空を飛ぶための練習のみをずっと繰り返している姿は父親を大事にする娘だった。

 

 

「そろそろ、お父さんに会いに行ってみるか?」

 

 アニは黙って頷いた。

 

 あれから三週間ぐらい。

 極秘任務でそんなにすぐ帰ってこれるものかちょっと俺も分からんが、浮く事が出来るようになったアニにとって、今回は空を飛ぶ感覚をつかむための大事な修行でもある。

 

「前みたいに俺が持ち上げていくけど、俺の気の流れとか、空を飛ぶ時の感覚をちゃんと掴むんだ。これも修行だよ」

 

 アニは黙って頷いた。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 ほんの三週間ぶりだというのに、アニの父親はまた泣いていた。

 もしかして涙もろいのかなこの人。

 アニは泣かなかった。

 泣かないどころか、決意みなぎる瞳をしていた。

 いつか自分だけの力でここに来る。

 父親を連れて逃げる。

 そんな決意があるのだろう。

 

 

 でも、逃げるって、どこへ……

 

 

 正直なところ、俺にはエルディア人とマーレ人の区別つかん。

 

 どこか別の国に逃げたとして、普通に混じって暮らせるなら良し。

 しかしエルディア人とバレたらどうなるんだろう?

 マーレ以外でも差別されてるんだっけか?

 差別というか、マーレが巨人を使って戦争してるから、恨まれてはいるだろうな。

 

 俺にはあんまり見分けつかんけど、こっちの人だとわかるんだろうか?

 

 獣の巨人の前任者は、自分がエルディア人とばれてしまった事で妻子をなくしている。

 差別意識というか、忌避意識と言った方がいいだろう。

 それほど嫌われている。

 

 これをどうすればハッピーエンドになるんだろうか。

 

 獣の巨人の前任者、そして、現在の獣の巨人継承者であるエレンの義兄、ジーク。

 

 エルディア人安楽死作戦は漫画で読んだ時、ひどい話だけど、確かにもうそれしかないなと思えた。

 

 今の俺なら何かできそうだけど、でもどうしたらいいかはまだわからない。

 

 始祖の巨人はエルディア人を操れるが、その他の人々を操れるわけではない。

 そして、エルディア人を差別し、忌避し、嫌っているのはその他の人々だ。

 エルディア人が変わったところで、新しい子供が生まれなくなったところで、生きているひとたちの地獄は続く。

 

 

 まだ余裕はあるだろうか?

 

 まずはジークと接触しない事にはわからない。

 

 アニに渡りを付けてもらえそうではあるが、それを頼むとせっかく離反の決意をしたアニとマーレとの関係を強化してしまうし、もしジークと決裂したら、アニも狙われてしまう。

 アニを介さず、ジークに接触しなくてはいけない。

 

 

 まぁともかく、アニが飛べる様になるまでかなぁ。

 

 

 ーーーーーーー

 

 

 それから少し頻度を上げて、二日に一回修行を見る様になった。

 この間の掴んで飛んだ時の感覚が結構刺激になったらしく。

 俺が修行を見る時は、基本的に俺が掴んで飛んでいる。

 

 すでに浮く事はできているため苦にならない。

 

 

 ーーーーーーー

 

 修行開始から一ヶ月過ぎた頃、アニは空を自由に飛べる様になっていた。

 気でブーストかけるのはまだなので、俺基準ではそこまで早くは無いが、普通に馬より早いので、これぐらい飛べれば大丈夫だろう。

 

 ただ、やはり気のコントロールが難しいらしく、長い間飛んでられない。

 

 15分ぐらい飛んで、30分休憩しながら気を練って、みたいな感じだ。

 

 まだ父親を抱えて逃げられる感じでは無い。

 収容所からは逃げられるだろうけど、その後は多分車使った方がいい。

 

 

「飛べる様にはなったけど…… 服だって重く感じるし…… まだダメだね」

 

 アニがボソボソとそう呟く。

 

「うーん。腕力の方はまた違うしな。気のコントロールはできてるんだから、そのうちできる様になるって」

 

 俺はアニを励ました。

 

 

 一応の目標が達成されたので、組手を始めた。

 気のコントロールも兼ねている。

 

 エレン、ミサカ、アルミンの時とは違って、なんと空中でも戦えるのだ。

 ドラゴンボール世界の事を思い出した。

 

 これは結構大事な訓練で、空中から叩きとされた時、いち早く気をコントロールして地面に激突する前に体を止める。これができないともしもの時に危ない。

 

 やはりアニは格闘技を習っていただけあって、組手の時は生き生きしていた。

 アルミンとやっていたからか、思っていたより強い。

 

 この格闘術をあの親父さんが考えたんだよな……

 あのくたびれたおっさんが……

 荒削りではあるものの、相手の力をうまく使って倒す様な技が多い。

 

「飛べるってのは厄介だね…… 投げようとしても空中で止まっちまう。空中に足場があるってのはこんなに厄介なんだね」

 

 と、さっそくアニの親父さんの格闘術の否定になってしまって申し訳なくなった。

 

 

 

 

 アニはどんどん強くなった。

 多分今はエレンやアルミンより強い。

 舞空術使えるし。

 これでマーレ側に戻って女型の巨人になって暴れられたら厄介だな。

 

 この感じだと、アルミンやエレンも多分頑張れば飛べるんじゃないだろうか?

 ミカサはほっといても飛びそう。あいつは底が知れん。

 

 

 気付けばアニは二ヶ月で空は飛ぶわ格闘術は進化させるわでかなりの使い手になっていた。

 

「流派…… 亀仙流だっけ? 世界は広いねぇ……お父さんだけじゃなかったんだ…… 空まで飛べるなんて」

 

「舞空術は鶴仙流の秘技だったみたいだけどな」

 

「いろんな流派があるんだね」

 

 アニは30分ぐらいは連続で飛べる様になった。

 気でブーストをかけるのも可能だ。

 

 この世界にもアニの親父さん考案の以外に多くの格闘技があるだろう。

 さもなきゃ対人格闘訓練なんて無いし。

 しかし、それを知る機会は少ない。

 

 休み休みだが、もう一人で父親の所に行けるだろうし、やっぱり休み休みだけど、父親を抱えて逃げることもできるだろう。

 

 しかし、ちょっと厄介なんだが、マーレ側、というか大陸側は飛行船を実用化している。

 あんなもん舞空術で上に周り込めれば簡単に落とせるが、やっぱりまだ銃弾の方がアニより早いし、銃弾を弾き返す程の身体強化はできないみたいだ。

 飛行船となれば機関砲だろう。威力が段違いだ。

 

 逃げ切れはするが、発見される可能性と、弾が当たれば死ぬ可能性がある。

 

 まぁそれだって夜中にこっそり逃げれば平気だろうけど。

 

 あとは、アニの父親が消え、アニとも連絡つかなくなったら普通に脱走とバレて、二人の関係者が結構な拷問を受けそうなところもきつい。

 おまけにアニは女型の巨人の継承者だ。マーレにとって失うわけにはいくまい。

 

 差別して洗脳したエルディア人を使って戦争に勝ってきた。それにあぐらをかいて、他国の兵器の進歩に微妙に置いていかれた。

 窮地に立たされ、負けそうになっている。

 エルディア人を使って戦争してるあたり、これはファッション差別だろう。

 エルディア人は悪魔だから、戦場で使い捨てていいし、社会不満をぶつけてリンチにかけていい。

 

 戦争はしてなかったけど、個人で言えば日本でもそういう考え方のアホはいた。

 ドラゴンボール世界ではそういうものが無かった。

 

 この進撃の巨人世界では戦争も差別もある。

 

 

 ーーーーーーー

 

 

 

 順調に壁外調査中の調査兵団の元へ向かった。

 

 彼らはウォールマリア内の廃城にいた。

 エレン、ミカサ、アルミンの三人は強いが、立体機動装置や高い建物が使えないと微妙に分が悪い。

 

 屋根から飛び上がって巨人に取り付いてうなじを刈るぐらいはできると思うが、危険が多くなるし、気のコントロールで注意散漫になるかもしれない。

 

 そんなわけもあって、三人を全面に押し出してウォールマリア奪還とか、そんな事にはなってなかった。

 

 それは三人も望むまい。彼らは生き残れるが、ほかの団員が大勢死ぬ事になる。

 

 それ以前に、トロスト区の決戦からまだ数ヶ月しか経ってないしな。

 

 

 夜陰に紛れて廃城前に降り立つ。

 見張りはいるが、アレはアルミンだし、俺が到着する前に気で気付いていたみたいだ。

 

 

 

「アルミン、実は話があるんだ。」

「はい」

「俺、空が飛べるんだ……」

「はあ……」

 

 実は空を飛べる事、三人には黙ってたんです。

 絶対エレンが教えろとしつこく迫るだろうし、教えたらあいつ勝手に壁外に飛んでくだろうし。

 今後マーレと戦争になったら、あいつ一人で首都蹂躙しに行っちゃうし。

 

 しかし、アニに教えちゃって、今あいつ強いし。

 女型の巨人でも舞空術が使えたらとんでもない脅威だと気付いた。

 

 アニの望みを叶えて敵戦力を減らすつもりだった。

 確かに敵ではなくなったけど、もしもの時の心配が逆に増えてしまった。

 

 

「はあ…… 確かにヤムチャさんの気は凄まじいですけど…… それで人が空を飛べるっていうのは…… そういう機械があるならわかりますけど」

 

 さすがアルミン。機械を使えば人は飛べるだろうという風には考えられるんだな。

 

 俺はアルミンの目の前で浮いて見せた。

 

「はっ?」

 

 アルミンにしては珍しく奇声をあげた。

 

「これは…… 気のコントロールで……」

 

 とか、俺が飛んでいる様子を見て、気の流れを感じている。

 

 あ、こいつアニよりずっと早く飛べる様になれるな。

 

「ああ、これはエレンとミサカには内緒でな」

 

「あー、はい。わかりました」

 

 表情でなんとなくわかる。アルミンもこれをエレンに教えたらどうなるかわかるんだろう。

 

「気を強化して走ってきてるのかと思っていました。ヤムチャさんなら馬なんかよりずっと早く走れるはずですし」

 

「まぁ確かにそうだけど、空飛んだ方が早いしな」

 

 そんなわけで、アルミンは舞空術中の俺の気の流れを観察し、後は自己流でなんとかしてもらう事になった。

 たまに見るつもりだが、アルミンならできるだろう。

 

 くれぐれもエレンとミサカにバレない様に。

 でもミサカは彼女自身がもう少しで飛べそうな感じなので気付きそう。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 それからしばらくして、俺はジークに接触した。

 

 あいつ、思いの外脳筋で、初めて巨人をボコボコにした。

 

 俺を使えるかどうか試したのかな?

 

 車力の巨人が隠れていて、俺が獣の巨人をボコったら逃げていった。

 多分本国に連絡を取るつもりだろう。

 気は一つなので、背中に誰か乗ってて既に無線で連絡しているという感じではなかったし。

 獣の巨人をボコった後に、さっさと追いかけて追いついてボコって引っ張ってきた。

 

 車力の巨人は偶然だった。

 中の人はピーク。

 美人……というか、可愛いけど暗い女性だった。

 ピークの愛国心というか、マーレにどれだけ尽くすつもりがあるかはわからない。

 マーレへの忠誠心はどうかわからんが、そもそもライナーやベルトルトはエルディア人のためという気持ちがあった。

 ピークもそっち側かもしれん。

 

 マーレのエルディア人はこのパラディ島のエルディア人を悪魔と言われて育っているのでなんとも。

 

 差別対象で差別対象を始末する。

 差別対象の中に、さらなる差別対象を作って不満を逸らす。

 マーレも割と考えている。

 

 ピークは殺した方がいいだろうか?

 ジークの目的を知っている奴は本人以外居ないはずだし。

 話し合いの邪魔になる。

 

 

 ジークに接触するつもりが、余計なのが一人混ざってしまった。

 気で分かってたからジーク一人になるのを待ってたけど、話をしようとしたら獣の巨人になって襲ってくるし。

 

 まぁ、確かに、本来巨人の領域であるこの辺に俺が一人で歩いて現れたら怪しいのはわかるけど。

 

 そんなわけでピークも隠れてこちらを伺っていた。

 ジークボコったら逃げたので追って捕まえてボコってつれてきた。

 

 あれ? 俺結構暴力的じゃね?

 

 

 縛る必要もない。

 巨人化が解けてぐったりしている二人を目の前に転がして、これどうしたもんかと悩む。

 

 穏便に話し合いをしたかったのに、これ完全に『死にたくなければ俺の言う事を聞け』みたいな感じになってる。

 

 

 ともかく、話し合いをしようか。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーー

 

 ドラゴンボール世界の技についての解釈



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

マーレどうしよう

008マーレどうしよう

 

 

「君がアッカーマン一族なのか?」

 

「違うけど、まぁそんなものだ」

 

 ジークとお話中である。

 ピークはだんまりだ。

 

 ジークって部下の信頼厚かったかな?

 うろ覚えだが驚異の子とか言われてた気がする。

 ピークがジークと仲悪かったらここでさらに面倒になるかもしれない。

 

 まぁともかく、この際だから聞いてもらおう。

 いざとなったらどっかその辺で無個性巨人に食わせればいい。

 

 ……動き出してしまうとそんな酷い事を簡単に考える様になってしまっている。

 修行はともかく、戦うとなればいつも命がけだったり地球の命運がかかったりしてたし。

 そういう感覚になってしまう。気を付けないと。

 

「ジーク、あんたが何を考えてるかわかるぞ」

 

 カマかけてるわけじゃなく、実際に知ってるんだけど。

 ピークはここでやっと興味が湧いた様だった。

 こいつは知らんのか。

 

「なんだね? 君には人の心を読む能力でもあるのか?」

 

「アッカーマン一族の力が巨人の力と同じ道を通って来るのは知ってるな? 俺はそこから少しの記憶も覗く事ができるんだよ」

 

 などというハッタリをかました。

 

 ジークは黙った。

 信じているわけじゃないと思うが、まぁ、多少考えはしているみたいだ。

 

 

 俺はジークに歩み寄って、肩を組み、エルディア人安楽死計画について一言二言囁いた。

 

 目に見えてジークの表情が変わった。

 

 一旦離れる。

 

「お前たちエルディア人の惨状は多少知っている。ジークの考えもわかる。だが、少し待て」

 

 

「それで、私たちはどうなるのかしら?」

 

 お、初めてピークが喋った。

 

「そこが悩みどころなんだよ。俺はジークと話をしに来たし、ジークが一人になったのを見計らって接触したってのに、突然巨人化しちゃうし、それであんたにも気付かれちまうし……  

まぁ、殺しはしないよ」

 

 ちょっと彼らにはおとなしくしてもらおう。

 

「お前ら始祖の巨人奪還任務とか、そういうのだろ? 調査のために壁の中に入る必要があるよな?」

 

 原作ではそういう描写無かったが、彼らは壁内の街で暮らした事があるんだろうか?

 

「とりあえずうちに行こうか」

 

「「は?」」

 

 

 俺は二人を引き連れて歩いた。

 途中で逃げようとしたのでまたとっ捕まえて、体力が戻ったらしく獣の巨人になったもんだからまたボコった。

 ピークは…… なんだろう。こいつ何考えてんのかな?

 

 ジークにしても、俺に反抗しているという感じではない。

 こいつ、飄々としているが、実は人に従うのが苦手なんだな。

 流石エレンの義兄だよ。

 

 途中、二人の体力がやばかったのに気付いた。

 まぁ、いつまでもノロノロ歩いてるわけにもいかんし。

 

 俺は二人を両脇に抱えて走った。

 全力でいくと二人の骨とかが風圧でやばいかもしれないので、ギリギリの速度で。

 

 ジークもピークも悲鳴をあげた。

 まぁ確かに怖いかもしれんができれば静かにしてほしい。一応隠密行動中なんだし。

 

 ウォールローゼの外壁にたどり着き、壁をジャンプでひとっ飛び、二人は気絶しそうになってた。

 

 

 ーーーーーー

 

 

「こいつ、ジーク。グリシャさんの前の嫁の息子だよ」

 

「そうですか……」

 

 カルラさんにジークを紹介した。

 グリシャさんに全て打ち明けられていたカルラさんは、ジークの事も知っていたみたい。

 

「は? え? どういうこと?」

 

 ジークが素で焦っていた。

 

 ……あ、そうか。

 エレンが巨人化するのをライナー達が見て、それでエレンの事が調べられて、そこで、ジークはエレンが自分の義理の弟だと気付くのか。

 

 今ジークは何も知らんのか。

 

 そういえばエレンに対して、グリシャさんに洗脳されてる的な発言をしていたし。

 ジークからしてみればグリシャさんは誇大妄想のバカな父親でしかない。

 

 巨人は記憶も受け継ぐ。

 それに、あんな悲惨な体験してるんだし。

 エレンの父親になったグリシャさんは少し変わってたんだろう。

 

 ……まぁ、王家に接触して始祖の力を奪ってしまったけどさ。

 

「ピークさんは…… 大丈夫? 休む? 顔色悪いけど」

「……そうさせてもらいます」

 

 ボロ小屋のボロソファーにうつ伏せで寝そべった。

 猫みたいだな。

 

 そういえば、車力の巨人って長期間作戦が可能で、戻った時には二足歩行が難しいとかなんとかあった。

 なんでそんなにこき使われているのか。

 なんか…… かわいそうな人だなこの人も。

 

 

 憲兵に、エレン達の家族に変な連中が接触した、などとバレてはまずいのでこっそり連れ込んだわけで、こいつらを外に出すのもまた面倒そう。

 

 ともかく、今回はカルラさんに会わせて、ジークからは以前のグリシャさんと、ここに来てからのグリシャさんの話をして欲しかった。

 

 二人は結構長く話し合っていた。

 俺は食事の差し入れなどしつつ、畑の前でアルミンのお爺さんと太極拳もどきをして体をほぐしたりしていた。

 

 時折、そんなバカな! とか聞こえてくる。

 やっぱ、ジークの記憶にあるグリシャさんとは少し違っていたんだろう。

 

 憲兵には聞こえてないみたいだが、あとでちゃんと大声出さない様に言っとかないと。

 

 

 ーーーーーーーー

 

 

 このパラディ島の隣に、大陸がある。

 そこにはマーレを始め、多くの国がある。

 

 パラディ島の、この壁の中の人々は皆エルディア人。

 特殊な方法で巨人化してしまう人々だった。

 大きさも姿もまちまち。

 知能は無い。

 ただ、人を食うだけの巨人。

 なぜ人を食うのか分からないが、始祖の巨人から別れた九つの巨人は、人の精神と知能、記憶のままだ。

 その九つの巨人を一体でも食べれば、人間に戻れる。

 その一連の流れが、巨人の食人行動に関係しているんだろうか?

 

 詳しい事は分からない。

 

 始祖の巨人はエルディア人全てに対して影響力があり、記憶の改変も可能だった。

 

 どういう理由か、俺が原作を読んでた時点ではまだわからなかったが、このパラディ島に逃げてきたエルディア人達は、巨人の力で壁を築き上げ、引きこもり、王家が持つ始祖の巨人の力で、エルディア人全ての記憶を改竄した。

 

 この壁の中にしか人類がいない。

 壁の外は巨人だらけで、その巨人のせいで、壁の外の世界は滅んだ。

 

 このパラディ島のエルディア人のほとんどが、それを信じていた。

 

 

 対して、大陸のマーレ国には、エルディア人収容所があった。

 

 元々エルディア人は巨人の力による支配階層だったらしい。

 それを、非支配階層のマーレ人達と、離反したエルディア人によってクーデーターというか革命というか、そういうのが起こって、立場が逆転した。

 

 その後、エルディア人は差別対象となり、収容区に押し込められ、酷い扱いをされている。

 

 洗脳教育もお盛んで、これだけ差別され嫌悪されているというのに、そのエルディア人の汚名を晴らすためという名目で優秀な兵士を育てて、戦場に送り込んでいる。

 巨人になれる、と言ってもそれには巨人の髄液が必要なわけで、その他はただの人だ。

 

 どうしてこんなに酷い扱いが行われるのか。

 

 なんというか……

 ここに比べればドラゴンボールは全然ファンタジー世界だった。

 負けたら地球が壊れるという緊張感はあったが、こういうドロドロした気持ち悪さはなかった。

 

 

 そんなえげつない世界で、エルディア人は使い潰され、どんだけ頑張って戦っても顧みられず、使い潰され続けている。

 

 ジークとエレンの父親、グリシャさんは活動家だった。

 こんな酷い環境だし、気持ちはわかる。

 しかし、全部バレた。

 このままでは家族丸ごと、親戚までヤバイ。

 このままではヤバイと思った子供の頃のジークと、ジークの良き相談者でもあった獣の巨人の前任者によって、グリシャさん達は売られた。

 ジークが生き残り、志を果たすには、父親であるグリシャさんを売るしかなかった。

 

 ジークの望みは、エルディア人の安楽死。

 この残酷な世界に生まれてくるエルディア人を救うため、始祖の巨人の力をもって、もうエルディア人の子供が生まれない様にする。

 とても悲しい方法だけれど。

 

 エルディア人を、巨人の力を使って周辺国に影響力を持っていたマーレ国だが、時代の流れの中、科学技術が進歩し、もはや巨人の力のみでどうにかなる状況でもなくなってきた。

 

 パラディ島に逃げ込んだ始祖の巨人、その力をもって、再び世界の実権を握るため、マーレ国は始祖の巨人奪還作戦を遂行した。

 その尖兵が、ライナー、ベルトルト、アニ、そしてもう一人、顎の巨人継承者だった。うっかり食われてその力はユミルに移ってしまったけど。

 監督役がジーク。

 

 ジークは作戦通り、パラディ島に来た。

 マーレ国とは別の思惑で。

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

「やめなさいそんな事。それより、ジーク、あなた子供は? お嫁さんはいないの?」

 

 とはカルラさん。

 

「話聴いてましたか? 私はエルディア人の安楽死を願っているんです。そんな私が子供なんて。まして、子供なんて」

 

「でもだれか好きな人とかいないの?」

 

「……」

 

 ジークの気持ちが少しわかる。

 カルラさん、エレンにそっくりなのだ。

 エレンは激情家で話を聞かないが、カルラさんも別の意味で話を聞かない。

 ハゲ教官(当時はハゲてなかったが)の嫌味もさらっと受け流す。

 

 ドアの向こうの二人の会話を聞いているのは、俺だけではない。

 ピークも俺の隣で聞いている。

 

 アルミンのお爺さんはすでに眠っております。

 早寝早起きで健康。

 

 車力の巨人の中の人、ピークはここで初めてジークの望みを知った。

 驚きはしたものの、やはり、無理もない、という感想だった。

 

 彼女たち、収容所の中の人々は悲惨だ。

 

 九つの巨人継承者ともなると他国との戦争に駆り出され、潜入もする。

 よそ様の生活が見えてしまうのだ。

 

 作戦が終われば、収容所に戻る。

 自分たちの希望の星が活躍し、戻ってくるとあって、収容所はお祭り騒ぎ。

 それ自体が、とても悲しい。

 

 もっと自由であれば、こんなところに押し込まれず、自由に生きていけたなら。

 

 始祖の巨人の力が及ぶのは、エルディア人のみだ。

 新しいエルディア人を生まれなくできたとして、それで差別は終わるのだろうか?

 

 多分、終わらない。

 

 仮に巨人化できる能力自体を封印できたとしよう。

 それなら差別は終わるだろうか?

 

 いや、それでも終わらない。

 

 新しいエルディア人が生まれなくなったとしても差別がなくなるわけではない。

 下手すると、これ以上増えないならまとめて殺してしまおうという意見がでる事すら想像できてしまう。

 

 巨人化の力を無くしたらどうだろうか?

 これも無理だ。今巨人じゃないからと言っても、昔巨人だったというだけで、昔巨人の力で周りに圧政を強いていたという話があるだけで、エルディア人は死ぬまで差別されるだろう。

 

 

 ピークも、ジークのエルディア人安楽死計画を聞いて、普通にそう思ったらしい。(結構ピークと話せる様になったよ)

 

 でも、ピークにもやはり他の方法が思い浮かばなかったみたいだ。

 

 新しいエルディア人を生まれなくする安楽死計画は、今可能な最大限の希望だった。

 まだ生まれていないエルディア人の苦しみを拭い去るというのは、なんとも不思議な感じはする。

 でも、これで全て終わるなら……とジークは考えている。

 

 

 

 俺はもう原作気にしないと決めたが、しかし、このじょうきょう、どうすりゃいいのかわからない。

 

 地球でも解決できてなかった民族問題を、ただの転生主である俺が解決できるわけがない。 

 差別撤廃しておしまいってわけにはいかない。

 

 一応、この世界の人類最強の俺の力で何か……何かできることは……

 

 

 

 ーーーーーーーーーーー

 

 

 しばらくして、ジークとピークを王都に連れて行った。

 

 カルラさんとの話し合いは、決裂というわけではないが、お互い和解したという感じでもない。

 

 そもそも話が通じてる感じしなかったしな。

 

 とはいえ、敵対関係ではないからまぁいいか。

 

 

 

 アニに接触し、物陰からジークとピークを見てもらった。

 気を覚えさせるためだ。

 二人とアニは接触させないが、アニに気を覚えさせておけばいざというときにはなんとかなる…… かな?

 

 ジークのエルディア人安楽死計画をアニにも話した。

 

「それしか、ないのかもね」

 

 と、アニは小さく呟いた。

 

 

 

 ジークとピークには、王都で働いてもらうことにした。

 ジークは日雇い労働者。

 ピークは花屋さん。

 身分が必要な仕事ではないが、まぁ、諜報任務という事にはできるだろう。

 

 俺は今のところ二人にやってもらう事とか無いので、本来の任務に戻ってもらう事にした。

 

 しばらく開拓村にいたのだが、その辺の事はなんとか誤魔化せたらしい。

 本国への連絡も今はちゃんとやっている。

 ピークもその嘘に付き合っている。

 未だにこいつが何考えてるのかよくわからん。

 

 

 始祖の巨人の行方は知らないふりをしておいた。

 まぁ、王家が持ってると思ってるんだろうけど。

 

 エレンが巨人になれる事は黙ったままだ。

 カルラさんもそこはしっかり黙っていた。

 あの人、人の話聞いてない様でこういうところはしっかりしている。

 女というのはそういうものらしい。

 

 グリシャさんは、処刑されるところで、進撃の巨人継承者だったマーレ国のスパイに逃してもらった。

 そしてカルラさんと出会い、結婚して、エレンが生まれた。

 シガンシナ区がウォールマリアが突破され、ここに逃げて来た。

 しばらく一緒に過ごして、グリシャさんがカルラさんに全てを打ち明け、地下室の鍵を託した。

 そしてグリシャさんは開拓民の病人を救うために薬を求めて外に出て憲兵に殺されたか、廃棄された街に入って薬を探すためにウォールローゼを越え、ウォールマリアにこっそり入って巨人に食われたか。行方不明になっている。

 そういう事になっている。

 真実を知るのはカルラさんと俺のみだ。

 

 カルラさんは旦那の前の嫁の子供から、自分の子供を守るという、なんともドロドロしい選択をしていた。

 

 そして、グリシャさんに託されたという地下室の鍵。

 こういう真実が少し混ざっているため、えげつない嘘になっている。

 

 進撃の巨人の行方も、始祖の巨人の行方も分からない。

 そういう事になっている。

 

 カルラさんあんな感じの人だし、嘘つかれたら気付けん。

 

 

 ジークがこれを嘘だと見抜いていても、特に問題は無い。

 彼にとっても、進撃の巨人、そして始祖の巨人の所在は、マーレ本国に知られたく無いだろう。

 情報を独占できるならそうするはずだ。

 

 原作ではジーク一人ではどうしようもなかった。

 マーレ軍の任務とも奪還という部分では合致していたし、軍のバックアップが必要だった。

 でも今回は必ずしもそうではない。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーー

 

 かなり原作から離れてしまった




そろそろ主人公を活躍させたいんだけど、なかなか


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その時は来た

とうとうあのセリフ、あの技が!


009その時は来た!

 

 

 

 

 ジークは今日非番だった。

 というか日雇い労働者だし、非番も何も荷運び場に行かなきゃその日は休みだ。

 

 ジークは少しの荷物をまとめて、ピークと合流し、ウォールシーナを出て行く予定だろう。

 その次に、ウォールローゼも出て、ウォールマリア内へ行くはずだ。

 

 

「ジーク」

 

「ヤムチャか」

 

 そんなに多くの言葉はいるまい。

 俺の意図をジークは知っているだろうし、俺もジークがここで本国からの命令を無視できない事も知っている。

 

「とりあえず殺さないでいてやる」

 

「それはありがたいね」

 

 会話はそれだけだった。

 

 

 ジークとピークはウォールシーナから出て行った。

 

 

 

 

 数日前、調査兵団に休みがあるのかは知らんが、ライナーとベルトルトが来ていた。

 

 ジークとピークに接触した。

 

 アニには会えなかった。

 

 あいつもう他人の気とかすぐわかるようになってるから避けられたら絶対会えないよ。

 

 しばらくライナーとベルトルトは憲兵団周り調べていたが、結局会えずにアニは諦めたらしい。

 

 これはアニにとっても正念場だろう。

 適当に会って、適当に口裏合わせとけばいいのに、ここで会わないとなると離反の疑いありという事でいよいよお尋ね者になる。

 

 一応、手紙というか、暗号を残していた。

 諜報任務につきしばらく身を隠すとかなんとか。

 これを鵜呑みにするかどうかわからんが、アニは普段から協調性が無い。

 ライナーが「あいつ!戦士の自覚があるのか!」と喚き、アニの事が好きなベルトルトがそれを諌めて去っていった。

 

 

 

 ジークとピーク、そしてライナーとベルトルトが一堂に会する。

 ウォールローゼへの攻撃だろう。

 

 ウォールローゼのどこかの門を破り、巨人を入れて人類の生存域を退げるつもりだ。

 

 そもそも彼らの任務は威力偵察。

 こうしてプレッシャーを与え続けて、始祖の巨人を持つ人物、王家、政府を引きずり出すのが目的だ。

 

 このパラディ島の壁の中には全て超大型の巨人が潜んでいるため、門しか壊せないという制約はあるものの、侵入した巨人によって地獄絵図が広がる。

 

 原作読んでる身としては、これはそんなに意味ないとわかるんだけどな。

 末端で民がどれだけ死のうと王宮の人達は自己保身に熱心だったし。

 本来の王家のおっさんも、自分で戦うのが嫌でクリスタに押し付けようとしていたし。

 

 どこかの時点ではさすがに始祖の力を使うとは思うが、そうなったらエルディア人であるジーク達も逆らえないわけで……

 あれ? マーレ人何考えてんだ?

 パラディ島の資源が目当てかね?

 

 

 

 ーーーーーーーーー

 

 

 

 三日後、トロスト区の近くに四人のマーレ戦士が集まっていた。

 

 そこらじゅうからかき集めてきた50体程の巨人も一緒だ。

 

 トロスト区は俺が大穴を塞いだが、街の復興はまだで、住人は帰ってきていない。

 

 それゆえ、常駐している兵士も少ない。

 前回はエレン達三人の活躍でトロスト区に侵入するだけでおわったが、今ならトロスト区に侵入し、ウォールローゼを突破できるだろう。

 

 

 もし俺がいなければ、だがな。

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

 

 『なんだあれは』

 

  遠くにうっすら見えるトロスト区。

  その方向から、人間が一人歩いて来た。

  この鎧の巨人は口の構造上言葉を話せない。

  身振り手振りで、少し離れた場所にいる獣の巨人と車力の巨人に合図をした。

  車力の巨人の背中の樽に入ってるベルトルトにも見えてるだろう。

  

  この辺りは草原だ。

  立体機動装置を使える場所がない。

  それどころか、巨人が徘徊する場所だ。

  

  そこを、悠々とこっちへ歩いてくる。

  なんだあれは?

  なんだあいつは?

  

  こっちにいる50体以上の巨人が見えないのか?

  このパラディ島のエルディア人なら、いや、ふつうの人間ならさっさと逃げるはずだ。

  なぜこっちへ歩いてくる。

  

『…… まさか、他国の……』

 

 可能性はある。

 とすれば、丸腰というわけでもないだろう。

 どこかに砲撃が可能な部隊が隠れているかもしれない。

 

 あれは交渉役か。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 おうおう。

 巨人集めてるわ。53体も。

 

 そして鎧の巨人は既に巨人化している。

 

 背後には獣の巨人に車力の巨人。

 車力の巨人が背負ってる物資の中にアルベルトがいるな。気を感じる。

 

 車力の巨人は……何の役なんだろう?

 背中の樽やら箱やらに通信機だったりその他色んな機械が入ってるのかな?

 

 まずは獣の巨人の散弾投擲でトロスト区の警備兵を下がらせて、鎧の巨人を突っ込ませる作戦か?

 

 俺が歩いて行くのを待ってくれているのはどういうわけだろうか?

 

 ちょっと競歩程度にはスピードアップして彼らの元へ向かった。

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

 

 なんか、鎧の巨人がしゃがんだ。

 そして、首筋が割れて、ライナーの上半身が出た。器用な奴だな。

 

「誰だ! どこかのよその国の人間か?」

 

 そうか、鎧の巨人は喋れないんだっけ。

 

 この誰何から察するに、どうやら俺をマーレ以外の国の諜報員か何かと考えているらしい。

 無理もない。

 巨人の領域を平気で歩いてるんだから。

 

「まぁ、その様なものだ。お前たちはマーレの戦士だな?」

 

 特に肯定はされなかった。

 本来、ジークが上官なので、交渉はジークが行うべきだが、ちょっと遠いしな。

 

「トロスト区からウォールローゼへ入る気か」

 

 俺の問いに返答は無い。

 

「邪魔するなら、死ぬぞ」

 

 いや、死ぬって、お前が殺すって事だろライナーくん。

 

 ライナーは俺が何かの交渉をもちかけると思っているらしい。

 だから、俺が何か条件的な事を言うまでこの態度だろう。

 

 勘違いだよ。

 

「いいか、巨人のガキ」

 

 ガキと言われて、ライナーは少し眉を動かした。

 

 俺はライナーに向かって、すっと◯指を立てる。

 

「きえろ。ぶっとばされんうちにな」

 

 

 

…………

 

………………

 

 

 やめて!

 何言ってんだこいつみたいな空気やめて!

 

 ヤムチャの名台詞だからねこれ!

 

 

 ライナーは鎧の巨人の中に戻った。

 

 なんだかよくわからないが、戦う事にしたらしい。

 俺でもそうすると思う。

 この態度、絶対交渉とかそういう感じじゃないもの。

 他国の人間という線は捨てきれないだろうけど、そうだとしても軍規違反中で脱走中の跳ねっ返り兵とかにしか見えんだろう。

 

 

『ギャオオオオオオオ』

 

 空気を劈く叫び声が辺りに響き渡った。

 

 控えていた巨人53体が何かに背中を叩かれた様に走り出す。

 

 狙いはもちろん俺だ。

 

 ふん。この程度。大した威力は必要ないだろう。

 

 俺は右手首を左手で握った。

 

「お、おおおおっ……」

 

 全身の気を右手に集中。

 適切な形に練り上げる。

 

 いつもより気を使わず作り上げたその気の塊を、体外へとひねり出す。

 

 体の前に、右手の上に、バレーボール程の光る球が現れた。

 

 俺はそれを振りかぶり、

 

「操気弾!!」

 

 ぶん投げた。

 

 何が起こったのかよくわかってない鎧の巨人はただ見てるだけだった。

 

 狙いはこちらへ迫る無垢の巨人53体。

 

「ふんっ、ふんふんふんっ」

 

 二本指を立てた手を、しゅしゅしゅ、と動かす。

 

 操気弾は赤い二つのラインを描いて(アニメ基準)飛んでいく。

 

 一番近くまで迫っていた無垢の巨人の胴体に直撃し、大穴があいて、上半身がちぎれ飛んだ。

 

 地響きを立てて、巨人の上半身が草原を削り、転がる。

 

 操気弾はまだまだ健在だ。

 

「はっ! はっ、ふん!」

 

 この操気弾、操作性もさる事ながら、とても硬い気弾技なのだ。

 原作でもこれで爆発させるのではなく、ボコってた。

 

 1体、また1体と、無垢の巨人の胴体が、足が、吹き飛び、機動力を失って、地面を転がる。

 

 

ーーーー

 

『バカな! 砲撃だと? 砲台はどこだ? どんな命中率だ!!』

 ライナーは焦っていた。

 この威力、ヤバイ。

 鎧の巨人は硬い、硬いが、獣の巨人と車力の巨人はそうではない。

 砲台がどこにあるかわからなければ獣の巨人、ジークの投擲でも破壊できない。

 あの威力でこの連射力、いや、複数あるのか?

 鎧の巨人でも耐えられないだろう。

 30体程の無垢の巨人が行動不能に陥り、認めたくなかった事実にやっと目を向ける。

『あの、光の弾なのか?』

 

ーーーー

 

 

 巨人は首筋を狙わなければやがて回復してしまう。

 何体かは、ちゃんと首筋を破壊して殺したが、多くは胴体や足を狙った。

 カモフラージュで。

 無垢の巨人を殺してないのは、かわいそうだからとか、それだけではない。

 あの中にダイナさんおるんよ。ジークのお母さん。

 

 王家の血筋であるあの人には利用価値があるし、息子の前で母親殺すとか考えたら、さすがに無理だった。

 

 ジークはあれが母親だと気付いてるだろうか。

 気付いていても、彼は何もしないだろう。

 グリシャさんに対してもだが、愛が無いわけではない。自分の目的の方が、理想や希望の方が大事なのだ。

 やっぱグリシャさんに似てるよジーク。

 

 

 

 かくして、無垢の巨人53体は無力化した。

 最後の一体は操気弾を爆発させて派手に吹き飛ばした。

 首筋どころが形も残ってない。

 

 行動不能に陥った巨人たちが、暴れ、地響きが周りに広がっている。

 無垢の巨人達は個体差あれど痛覚は薄い。

 暴れてるのは痛みからではない。

 俺を見据えて、暴れている。

 俺を食う事を諦めていない。

 

 

 

 ごばっ、と爆発音がした。

 爆発したわけではない。衝撃波だ。

 後方に控えていた獣の巨人が細かい石塊を固めて投げてきたのだ。

 細かい、とはいえ、一つ一つは人間の頭程もある。

 それが空中を広がり、猛スピードでこっちへ飛んでくる。

 そんじょそこらの砲撃よりも恐ろしい面攻撃だ。

 

 この攻撃で、獣の巨人、ジークは前線の敵陣地をいくつも破壊してきた。

 

 

 俺がこっちに転生か転移かして、初めてやらかした失敗を思い出す。

 

 俺は右手を広げ、空に掲げた。

 

「だだだだだだだだだだだだ!!!」

 

 連続して発射されたいくつも気弾が石塊をさらに細かく砕いていく。

 

 空中でいくつもの爆発が起こり、砕け散った石塊が細かい砂塵となって、雲の様に広がっていった。

 

 灰色の雲は、風に流されて消え去る。

 

 

 巨人達は固まっていた。

 一体何が起こっているのかわからない様だ。

 獣の巨人、ジークも驚いているようだった。

 あいつ、適当にボコったけど、気弾は見せていなかったしな。

 

 硬直している三体の巨人。

 そして、体がだんだんと戻りつつある無垢の巨人達。

 

 ダイナは殺したくないので、場所の移動が必要だろうか?

 まとめて相手はできるのだが、ちょっとお客さんが来るみたいだ。

 

 

 トロスト区から、大きな気が三つ、猛スピードで近付いてきた。

 

 エレン、ミカサ、そしてアルミンだ。

 気で強化した五体でブーストをかけ、馬よりもずっと早い速度で地を駆けている。

 

 

 

『土煙? 援軍かっ? …… あれは…… あの三人は』

 ライナーは恐怖した。

 このわけのわからん男一人でもヤバイのに、あの三人が来る。

 巨人をゴミの様に葬る人類最強の三人が。

 

 いや、待て、ここは立体機動装置を使えない草原だ。

 まだ勝機は……

 

 そんな希望的観測をしてしまうぐらいに、ライナーはあせっていた。

 

 

「ヤムチャさん」

 アルミンが俺のとなりに来た。ミカサも。

 

「なんでここがわかったんだ?」

 アルミン達も気を探る事はできるが、まだまだ範囲が狭い。

 遠くに見えるトロスト区からここまで探れるかどうか程度のはず。

 そしてこの三人はトロスト区にはいなかった。

 

「アニが…… 僕も理由はわからないんですけど、アニが教えてくれたんです。それで、来てみたら、ヤムチャさんの気を感じて、そして……」

 

 アルミンとミカサは俺の隣にいるのだが、走るをやめて、今はゆっくり歩いているエレンは、俺を通り越して、鎧の巨人へと近付いていく。

 

 ちらっと見えた表情から、ブチ切れているのがわかった。

 原作よりだいぶ丸いが、こいつはやっぱ激情家だ。

 鎧の巨人は、シガンシナ区の怨敵である。

 鎧の巨人と超大型巨人によって、シガンシナ区は地獄になり、ウォールマリアを喪失した。

 

 その事で、切れてるのだと思った。

 

 だが、それだけじゃなかった。

 

 

 

 エレンの目がギラついている。今にも火を吹きそうだ。

 そして体内から気がどんどん溢れている。

 

「ライナーぁああぁあぁ……」

 

 エレンは、地の底から響いている様なうめき声を上げた。

 

「てめぇぇ…… ライナーだよなぁあああああ!!!」

 

 エレンは叫んだ。

 怒りに呼応した気が大気を震わせる。

 エレンの周りの空気と地面が揺れ、不気味な音を立てた。

 

 

 

 

 

 そうか。

 こっちくる途中で気付いてしまったのか。

 

 エレン達は気を探ることができる。

 エレンはそれほどでもないが、流石にこの距離ならわかる。

 

 巨人はだいたい気が大きくなるが、質まで変わるわけじゃない。

 

 エレンは、鎧の巨人がライナーだと気付いてしまった。

 

「そっちの巨人にはベルトルトが乗ってるなぁぁあ。樽の中か?」

 

 ベルトルトにも気付いている。

 

「ベルトルトぉおおお…… お前、いつからそんなに巨人と仲良くなったんだよぉ…… 背中に乗せてもらいやがって! 巨人の仲間だったのかよ!! ライナーなんて、巨人そのものじゃねぇか!!!」

 

 バチバチと音がする。

 エレンの感情に呼応して、気が膨れ上がり、圧で空気が帯電しているのだ。

 

 

 

 俺の予想は当たっていた。

 エレンの底知れない気。

 いくらでも溢れてきて、限界がない。

 エレンは、『道』を通して、気を引き出している。

 

 それが怒りで一気に出口が広がり、とんでもない量の気がエレンの中に流れ込んでいる。

 

「ライナー、お前、どんだけ殺したんだよ。どれだけの人間を殺したと思ってんだよ。シガンシナ区が、ウォールマリアが。巨人に食われただけじゃねぇ、飢えや病でたくさんの人が死んだ。お前、どんだけ殺したかわかってんのか!」

 

 ごう、と空気が爆発し、突風が草原の草をちぎって巻き上げた。

 

「ライナああああ!! 俺はっ!! お前のこと!! 兄貴みたいだって思ってっ…… うあああああああああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 プチン

 

 

 と音がした。

 

 

 

 エレンから光が溢れ出す。

 帯電した空気が小さな稲妻を走らせた。

 空気を叩く音が何度も響き大地が揺れる。

 

 エレンの黒髪は逆立ち、その体を金色の炎が包んでいる。

 それはエレンの体内から溢れ出す高密度の気だった。

 

 エレンが覚醒した。

 

 

「これはっ…… まさか、スーパーエルディア人っ……」

 

 やべっ、変な事口走っちゃったよ。

 金髪にはなってないけど、見た目完全にそうじゃん。

 

「ヤムチャさん? スーパーエルディア人って……」

 

 やべっ、アルミンに聞かれてた。

 許してくれよ、口が滑ったんだよ。

 

「……スーパーエルディア人……」

 

 ミカサもボソッと言った。

 マジヤメテください。

 

 

「うおおおおおおおおおおおお!!」

 

 エレンが大地を蹴り。岩盤がめくれ上がった。

 砲弾の様に飛び出したエレンは、鎧の巨人の胸に着弾した。

 

 鎧の巨人の胸部装甲は砕け散り、ついでに内部まで破壊されて、硬質化された鎧の様な皮膚、血液、千切れてグズグズになった肉片が辺りに飛び散った。

 

 鎧の巨人の胸には大穴が開いていた。

 倒れそうになる鎧の巨人にエレンは回り込む。

 

「ライナーぁああああああ!!!」

 

 巨人からすれば小枝の様なエレンの脚。

 それが気を纏う事によって、凄まじいスピードと威力を発揮する。

 鎧の巨人の左脚。その膝にヒットしたエレンの蹴りは、鎧の繋ぎ目もクソもなく、鎧の巨人のヒザ関節を砕き、靭帯を千切り、辺りに肉片や色んなものを飛び散らせながら、これを切断した。

 

「ゴアアアアアアアアア」

 

 それは苦痛か、驚きか、両方か。

 鎧の巨人は叫び、地面に倒れた。

 鎧の巨人の巨体が地面に叩きつけられ、細かい土塊や千切れた草が飛び散る。

 その中、悠々と歩いて近付くエレン。

 

 仰向けに倒れている鎧の巨人の腹の上にヒョイと飛び乗った。

 

「狼牙風風拳ッ!!」

 

 どどどどどど、と、地球の工事現場を思い出す音が鳴り響く。

 だがその音の大きさや振動は工事現場の比ではない。

 空気が弾け、地面が揺れている。

 仰向けに倒れたままの鎧の巨人は壊れたおもちゃのようが激しく痙攣した。

 激しい音と共に、鎧の巨人の腹から血煙が巻き上がっていく。

 鎧の巨人の腹の装甲が爆散し、筋肉がズタズタのミンチになって辺りに飛び散り、内臓がブツ切りになって宙を舞った。

 

 やがてそれらに土煙が混ざった。

 エレンの高速タコ殴りが鎧の巨人の脊椎まで破壊して地面に達した。

 

 

 

 

 

 ……やっべ…… あれどーしよ……

 

 俺はまた操気弾を作って、復活した無垢の巨人達をまた行動不能にする作業をしながらその光景を見ていた。

 

 エレンの事や、俺が操る気弾を初見という事もあって、アルミンもミカサも俺の隣でいっぱいいっぱいな感じになってる。

 

 

 

「ライナぁあ…… お前巨人だもんなぁ、こんなもんじゃ死なねぇよなぁ…… さっさと回復しろよ! もっと苦しんで、苦しんで、苦しんで、苦しんで、苦しんで、苦しんで、苦痛にまみれて泣き叫びながら、命乞いしながら死んでいけよぉおお!!」 

 

 

 

 やっべ…… あの超エルディア人どうしよう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今更なんですが、本作はギャグ、コメディです。
シリアス展開望んでたら申し訳ないです。


プツンと思ってたんですが
スーパーサイヤ人悟空がプチンでスーパーサイヤ人2悟飯がプツンでした。
訂正しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

とりあえずの決着

最初に考えてたのはここまで。
あとは小話を少し考えていたけど、話自体ができてるわけではないです。


010とりあえずの決着

 

 

 

 

 車力の巨人の中の人、ピークは困っていた。

 

 あのヤムチャとかいう男と出会ってから、なんだか色んなものが馬鹿馬鹿しく感じてしまう。

 九つの巨人の一つ、車力の巨人を継承した。

 それなりにできるつもりだし、エルディア人の名誉回復とか、多少はそういう気持ちもある。

 それより何より、あんなひどい場所でも、仲間はみんな良い奴だし、みんな好きだし。

 あんまり熱い意思みたいなものはないけど、いっちょやってやっか! 程度の気持ちはあった。

 

 でも、あれは無理だと思う。

 ライナー達の報告で、ヤバイのが三人いるってのは知ってた。

 でも、あのヤムチャってのは、なんか手から変なの出てるし。

 よその国ではそういう空想科学的な兵器を実用化させたんだろうか?

 巨人が本当にゴミの様にやられてるし。

 

 巨人の力はもう時代遅れ感あったけど、これはいよいよどうしようも無くなってきた。

 

 マーレ国のエルディア人収容所はどうなるんだろう。

 用済みにはなるだろうけど、あれは世界共通のサンドバッグで国民の不満を逸らすための政治的な意味合いもある。

 巨人の力が用済みになって、解放されて散り散りに逃げられたらいいけど、まとめて殺処分か、解放されても社会的に抹殺されて、仕事にも就けず、餓死やリンチで死んでいくんだろうか。

 

 

 

 ……くっせ……

 

 背中から嫌なにおいがする。

 ベルトルト…… それはない。それはないわ……

 樽の中だから背中まで落ちてはきてないけど……

 

 くっせ……

 

 

 ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ライナーああああああ!!! ライナーあああああああ!!!」

 

 鎧の巨人は回復が遅い。

 胸の大穴も千切れた膝もなかなか元に戻らなかった。

 

 焦れたエレンは現在鎧の巨人の指を一本一本切断したりミンチにしたりしている。

 

 こええ……

 

 あれはエレンがキレてるのもあるけど、やっぱ突然巨大な気を引き出してしまって、それに呑まれてる感ある。

 

 獣の巨人も車力の巨人もドン引きで寄って来ないし。

 ジークとピークは、まぁ、殺す気は無いし、それはそれでいいんだけど。

 

 エレンもライナーにロックオンしてから他の巨人には目もくれて無い。

 

 でも、鎧の巨人は回復力がちと劣るので、そのうち飽きて、ほかの巨人をロックオンするかもしれん。

 

 巨人というか、次はあの樽の中のベルトルトを引きずり出して拷問だろうな……

 

 

 

「アルミン、ミカサ、あの金髪真ん中分けの巨人いるだろ。あれを殺さないで捕獲してくれ。他のは殺してしまってもいい」

「えっ はい」

 

 ダイナさんの巨人は結構でかい。

 

「できそうか?」

「殺すのは簡単ですけど…… 立体機動装置のワイヤーを使えばなんとかできるかも……」

「大丈夫か? 一応備品だろ?」

 

 こいつらフル装備で来てるけど、調査兵団の仕事とか、備品勝手に持ってきたりとか、大丈夫か?

 結構長い間拘束しておくことになるかもしれないから、立体機動装置持って帰れないかもしれない。

 

「あ、これは憲兵団のものです。アニが持ってきてくれました。管理がズサンだから三つぐらい無くなっても気付かないとかなんとか」

 

 そういや立体機動装置が横流しされてるって話もサイドストーリーかなんかであったな。

 

「エレンのと合わせれば三つですし。あの大きさの巨人でもなんとか」

 

 エレンの装備は最初のロケット体当たりの時に千切れてその辺に転がっていた。

 

「じゃあ、たのむわ」

「ヤムチャさんはどうするんですか?」

「弟子を諌めるのも師匠の務めだよ」

 

 ちなみに、ミカサ全然喋らねぇ。

 エレンをずっと見てる。

 ただのヤンデレなら有りなんだが、これも巨人の悲しい運命の一つだと思うと、かわいそうに見える。

 

 

 俺が一歩踏み出そうとした瞬間、大爆発が起こった。

 土煙と熱波が辺りを蹂躙する。

 俺は気でバリアを作り、隣にいたアルミンとミカサをかばった。

 凄まじい速度で膨張した空気が辺りの土をめくりあげ、草原を一瞬で荒地に変える。

 気圧が上がったのか下がったのかわからないが、空気の密度が変わり、音が聞こえ辛くなった。

 アルミンとミカサも耳を押さえている。

 

 横から叩きつけられる衝撃の数秒後には、逆方向からの衝撃。

 爆発の吹き戻しだ。

 

 何が起こったか。

 原作読んでたしわかるよ。

 

 だんだんと土煙がはれていく。

 

 さっきまで車力の巨人が控えていた後方に巨大な影が見えた。

 煙が風でながされ、それは姿を現わす。

 

 全高60m。

 超大型巨人。

 

 地球で言うと20階建のビルぐらいだろうか。

 ぶっちゃけ、現代人からするとそんなに大きくは無い。

 自衛隊で簡単に駆逐できてしまうだろう。

 だがこの世界において、あれはまさに『破壊の神』であり、恐怖の象徴なのだ。

 

 獣の巨人が結構遠くに転がっていた。

 爆発の衝撃をまともに受けたらしい。

 気を探って、車力の巨人も見つけたが、肩あたりから千切れて転がっている。

 あれもう少しでうなじ潰れて死んでたかもしれないじゃん。

 

 ベルトルトのやつ、ちゃんと樽から出て巨人化したんじゃないのかよ。

 びびったのか? 

 

 

 こんな爆発の中だが、エレンは普通に立っていた。

 服はボロボロで皮膚も爆風で巻き上げられた小石で擦り傷だらけだけど、気を纏っているから大きな傷は無い。

 

「ははは…… ははは、あははははははは」

 

 笑っている。

 だいぶ低い声で笑っている。

 

「ベルトルトぉぉぉ…… お前もかよ…… 巨人のお友達ってだけじゃなかったんだなぁ。お前も巨人だったのかよ…… しかも、てめぇが門をぶっ壊した張本人じゃねぇか!」

 

 エレンはゆっくりと超大型巨人に近付いていく。

 遠近感ちょっとおかしいし、あんなに小さな人間が闘志をみなぎらせて超大型巨人に向かっていく様はなんだか浮世離れしている。

 

「ライナーと、お前、お前ら、どんな気持ちで俺たちと一緒に訓練してたんだよ、俺も皆んなも、お前らの事尊敬してたんだぞ。どんなつもりで、一緒にいられたんだよ、なあ! ベルトルトおおおおおおおお!!!」

 

 エレンの気が膨れ上がった。

 

 ベルトルト、超大型巨人は右足を上げ、振り下ろす。

 エレンを踏みつぶそうとした。

 

 今のエレンでもあの巨体、あの質量に踏み潰されるのは結構キツイだろう。

 巨人は見た目程の質量は無いと言っても、あのサイズだ。

 ただの踏み潰すという行動が強力な破壊攻撃になる。

 ……普通の人間が相手ならば。

 あれは、遅すぎる。

 

 地響きと突風が広がった。

 超大型巨人の右足が大地に沈む。

 

 そこにエレンはいなかった。

 

「ベルトルトおおおおおおおおお!!!」

 

 エレンはこの一瞬で超大型巨人60mの巨体を駆け上がっていた。

 

 エレンは超大型巨人の右肩に辿り着き、その顔面に飛びかかってぶん殴った。

 どん、と上空から衝撃波が降ってくる。

 

 エレンがジャンプするための足場になった超大型巨人の右肩がちぎれた。

 その隣では、顔面が消し飛んでいる。

 

 ちぎれた超大型巨人の腕が降ってきた。

 激しい地鳴り。土煙が上がる。

 

 さっきから土煙ばかりなんだが、肺とか大丈夫かこれ。

 

 続いて、頭を失った超大型巨人が膝から崩れ落ちて、土下座の様な姿で地面に倒れた。

 

 土煙やら超大型巨人の蒸気やらで視界が悪いし、衝撃音で耳はバカになるしめんどくせぇ。

 

 俺は気を放って、風を起こし、煙を吹き飛ばした。

 

 

 すげぇな。

 超大型巨人をワンパンかよ。

 

 俺の隣でミカサが

「……スーパーエルディア人……」

 ボソッと言うもんだから、アルミンまで

「スーパーエルディア人……強いっ」

 とか言い出すし。

 痒くなるからやめてほしい。

 

 

 超大型巨人はどうでもいい。

 

 ダイナさんの巨人は結構遠くに吹き飛ばされてるけどまだ生きてるみたい。よかった。

 ベルトルト無茶しやがる。

 いくらびびったり焦ったりしたからって、車力の巨人ピークの上でそのまま巨人になるとか。

 

 鎧の巨人はまだ回復せず、仰向けに倒れたまま。

 もしかするとあれは防御も兼ねているのかもしれん。

 首筋は地面側だし。

 あとはひたすら皮膚を硬化させれば超大型巨人の熱波やその他諸々を防御できる。

 

 いや、普通に戦意喪失しているだけかもしれんけど。

 エレンマジこわかったし。

 

 獣の巨人ジークの方は、吹き飛ばされた後、そのまま距離を取ってるけど何をするでもなくこっちを観察している。

 

「……じゃ、二人とも頼んだぞ」

「あっ、ハイ」

 

 超大型巨人の登場で仕切り直しになったが、二人は俺の指示通り、ダイナさんの巨人を捕獲に向かった。

 

 爆風で遠くに吹きとばされているのはそれはそれで良かったかもしれない。

 巻き添えくらいそうだったし。

 

 アルミンとミカサはちょっと遠くに転がっていたエレンの立体機動装置を回収し、体が千切れてのたうちまわっているダイナさんの巨人の元へ向かった。

 

 

 さて、俺も働かないと。

 

 

 エレンは地面に倒れた超大型巨人をメッタメッタにしている。

 鎧の巨人よりもやはり脆く、エレンの手や足で体の一部がどんどんミンチになっていく。

 あれ痛覚とか多少あるよな? 生きたまま体をミンチにされるとかエゲツない拷問だわ……

 

 

 鎧の巨人もだが、そう何度も巨人化できるわけではないし、巨人化していても疲労は溜まる。

 

 鎧の巨人ライナー、そして、現在生きたまま体をミンチ肉に作り変えられている超大型巨人ベルトルトもさっきから動かない。

 グロッキーだろう。

 

 

「おい、エレン、その辺にしとけ」

 

「ヤムチャ…… なんで止めるんだよ」

 

 ギロリ、と、エレンが俺を睨む。

 

「まさか、あんたも」

「いや、俺は人類の味方だよ」

「だったらなんでっ」

「落ち着け。そいつら殺しても死んだ人達は返って来ない。それよりも生かして償わせる方法がある。そいつらには利用価値があるからな」

「っぐっ……ううううううっ」

 

 元々の恨みもあるだろうが、今は巨大な気に呑まれて情緒不安定。

 

「ヤムチャああ!! なんで! ちくしょおおおおおお!!」

 

 エレンの周りの空気が歪み、気の炎が上空へ吹き上がる。

 

「収まりがつかんのはわかる。エレン、久しぶりに組手でもどうだ? 全力でかかってこいよ」

 

「ヤムチャ、あんた…… うおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 堪えきれなかったのか、言葉もそこそこにエレンが突撃してくる。

 足場になった超大型巨人の脇腹あたりが消し飛んだ。

 鎧の巨人もだが、シェイクされ過ぎて中身もう死んでないだろうな?

 

 どん、と轟音が空気を叩く。

 エレンの突撃を俺は受け止めた。

 

「うっ、うぐぐぐぐぐヤムチャああああ!!」

 

 体当たりを止められたエレンは足を踏ん張り、今度は全力でブローを繰り出してきた。

 

「ほいっ」

 

 俺はそれを難なく受け止める。

 エレンは頭に血が上ってるせいで攻撃が雑になってる。

 

 ギリギリと金属が擦れる様な音がエレンの右拳と俺の左手の平の間から響いてくる。

 

「ヤムチャ! あんた! どんだけ力隠してたんだよ!」

 

 エレンが叫び、拳を離して、今度はローキックを繰り出してきた。

 ちょっとは頭を使ったらしい。

 

 俺はそれを超スピードで避け、エレンの後ろに回り込む。

 エレンの目の前から突然消えた様に見えるが、エレンも気を感じられる。後ろに回ったのは分かっただろう。

 すぐに体をひねって向き直ろうとするが、遅い。

 

「エレン、気を纏えよ!」

 

 俺はエレンの腰に取り付き、エレンを大地からぶっこぬいた。

 上半身を回転させ、エレンをひっくり返す。

 

 エレンの肩から上が地面に激突し、大地が揺れた。

 岩盤がめくれ、爆風が辺りをまっさらにしていく。

 

 バックドロップ。

 これで脳震盪でも起こしてくれればいいかと思ったが。

 

 俺はエレンから離れて構えた。

 エレンはフラフラになりながら立ち上がる。

 

 あとひと押しか。

 

 エレンは『道』を使って気を出している。

 その出口が今一時的に広がって、膨大な気が溢れだしている。

 巨人の『道』を通ってくる気に底があるかはわからない。

 だが、どれだけ多くの気が流れて来ようと、エレンの生身には限界がある。

 それは怪我だったり疲労だったり精神ストレスだったりする。

 エレンの纏う気を突破するダメージを与え続ければ倒れるだろう。

 界王拳だって限界超えたら体が爆発しちゃうらしいし。

 

 エレンが叫んだ。

「うおおおおおお!!」

 気が膨れ上がる。

 俺の攻撃で霧散した分を『道』から補充したのだろう。

 同時に、自分に喝を入れる事もできたようだ。

 目つきが少しスッキリしている。

 

「うおおおっ!」

 

 再びエレンは突撃してきた。

 我が弟子ながら単純なやつよ。

 

「狼牙風風拳!!」

 

 俺が教えた技を俺に使うとは!師匠冥利に尽きるぜ!

 

 どどどどどど、衝撃波を撒き散らしながら連続突きが飛んでくる。

 俺はその全てを同じスピードで突きを繰り出して撃墜した。

 

「くっ!」

 

 エレンは拳を引き、俺に組みかかった。

 対人格闘訓練の賜物か。

 俺は特に抵抗せず、大外刈りに似たその技を受ける。

 背中が地面に叩きつけられた、その瞬間、エレンの手を取って、引く。

 引き込みながら足を使ってエレンを自分の隣に叩きつけた。

 ごばっと土塊が巻き上がり、衝撃を殺せないままエレンは転がって吹き飛んだ。

 

 エレン、ちょっと漫画間違えてるんじゃないかというぐらいに強い。

 

 だが、まだまだだ。

 この先はわからないが、現時点では俺より弱い。

 巨人の『道』の出口がどれだけ広がるかわからないが、この世界の感じから言って、世界を壊す程ではないかなと感じる。

 

 ドラゴンボール世界には惑星ぐらい簡単に破壊できるやつがゴロゴロいたし。

 

 俺、ヤムチャは地球人だが、やろうと思えばできないことはない。

 

 俺が死んだのはフリーザ最終形態相手だった。

 俺もクリリンも原作より微妙に強くはなっていた。

 あの時、最長老様に潜在能力解放してもらって、クリリンの戦闘力は1万を超えていたし、俺もギリギリ負けてるけど1万は超えていた。

 

 こっちに来てから、組手はあまり満足にできなかったが、気の鍛錬は怠らなかった。

 

 感覚だが、エレンの戦闘力は1000ぐらいだろうか。

 ナッパが4000程だったので、ナッパより弱いが、ラディッツ編の悟空やピッコロよりは強い。

 ナッパぐらいになって気を放出するのを覚えたら『クンッ』で街を破壊できてしまうので、エレンがまだこれぐらいというのはそれはそれで良い事なのかもしれない。

 

 だが、人間やモノの硬さが現実地球とたいして変わらないこの世界では無敵だろう。

 

 田舎の農夫が戦闘力5。これはこの世界でも感覚的に変わらないみたいだ。

 個体差があるのでざっくりとだが、巨人達で戦闘力30というところか。

 超大型巨人でも200あるかどうか。

 ラディッツ編のピッコロや悟空が平時300から400だった。

 ピッコロや悟空は気を使う事ができるのでやはり超大型巨人は数値以上に相手にならないだろう。

 戦闘力が倍違えば相手をゴミの様に処理できる。

 

 エレン達三人は、戦闘力100から200というところ。

 つまり、人間サイズで超大型巨人並みの気を持っている。

 体のサイズが違いすぎるから単純な比較はできないが、戦闘力30そこらの巨人なんてゴミみたいなもんだろう。

 

 そういう事を考えた上でも、エレン、あの超エルディア人が化け物だというのがわかる。

 

 いかんせん、戦闘力の数値は原作やアニメで違ったりする。

 ラディッツ編からフリーザ編の最後のあたりまで使われていたが、それ以降はインフレし過ぎたからかあまり使われなくなった。

 スーパーサイヤ人の戦闘力が億を超えているとか、スーパーベジータの戦闘力が3万とか、情報が錯綜している。

 

 ここの一般的な人間を戦闘力5とした時、超エレンはだいたい1000ぐらい。

 

 

 この世界でこの戦闘力なら無敵だろう。

 

 

 だが、今は俺がいる。

 

 

 

 吹き飛ばされ、転がった先でエレンは体勢を立て直し、再び俺に突っ込んできた。

 ホントお前突っ込むの好きだな。

 子供の頃からそうだったし。

 

 エレン全力加速の全力ストレートを受けた。

 ごん、と、鈍器同士がぶつかった様な音が響く。

 俺の手とエレンの拳で圧縮された空気が爆発し、あたりを吹き飛ばす。

 

「うおおおおおお!!!」

 

 間髪入れずにエレンの連続攻撃が繰り出される。

 俺はその全てを難なく受ける。

 

 エレンは戦闘力バカになっている。技が追いついてないし、舞空術も覚えて無いから衝撃を食らうとそのまま吹きとばされてしまう。

 気弾で牽制もできんし。

 戦闘力で勝ってはいるが、それ以上に弱く感じる。

 

 まぁ、こいつこの世界の主人公だし。

 俺がいる事で俺より強くなる可能性もあるかもしれん。

 

 それから五分ほど、エレンの猛攻を受け続けた。

 

 

 

 ーーーーーーーー

 

 

 

 エレンは全力を出して、あっという間にパワーダウンし、気絶した。

 まだ周りに巨人残ってるのにスッキリした顔で。

 

 

 その頃にはもうダイナさんの拘束も済んでいた。

 ボンレスハムみたいになってる。結構グロい。

 

 気絶したエレンを当たり前の様にミカサが抱えた。

 どうやら運搬係は任せろという事らしい。

 

 

 

 

 鎧の巨人ライナー、そして超大型巨人ベルトルトと派手にやらかしたのだ。

 向こうのトロスト区からも見えていただろう。

 

 さっさと退散せねばいかん。

 

 

 なんとか回復した車力の巨人、そしてボケーっとした獣の巨人に、俺は近付く。

 

「アルミン、ミカサは先に帰れ。トロスト区から離れて、壁を登るんだ。あの巨人はここに置いとけ」

 

「はい」

 

 ミカサはエレンを肩に担いて、なんか尻を撫でまわ…… うらやまけしからんが、見なかった事にしよう。

 

「立体機動装置使ってしまってるけど、大丈夫か?」

 

「壁なら駆け上がったり、欠けてるところとかに指引っ掛けたりして十分登れます」

 

「そうか。じゃあ、戻っててくれ。後でこっちから連絡する」

 

 

 というわけで、アルミン、ミカサ、気絶したエレンは退場となった。

 

 無垢の巨人は近くに姿が見えないし気も感じないので大丈夫だと思うが、念のため、ブレードだけは持って行ってもらった。

 

 

 

 二人と抱えられた一人が見えなくなった頃、獣の巨人と車力の巨人は人間に戻った。

 

 ピークはだいぶ疲れた様子だった。

 そら体半分以上吹き飛ばされてたしな。

 回復に体力使ったんだろう。

 

「久しぶりだな、ジーク」

 

「……ああ」

 

 ジークの顔色も悪い。

 わからんでもない。

 スーパーエルディア人エレンは化け物だった。

 そして俺はそれを軽くあしらう様な超化け物。

 今更になって恐怖が湧いてきたんだろう。

 

「ライナーとベルトルト全く動かないんだけど。これ中で死んでるって事はないよな?」

 

「体がかなり破損しているし、強い衝撃で何度も揺さぶられていたから気絶してるんだろう」

 

 との事。

 

 

 

 車力の巨人ピークが背負っていた物資はバラバラに飛び散っていたけど、ロープもあった。

 俺は何度か超スピードで加速し、それを拾ってきた。

 

 目の前で俺の姿が消えて、ロープを持って再び現れた時、ジークもピークも表情が抜け落ちていた。

 もう考えるのやめたんだろう。

 アニの時もこんな感じだったか?

 

 

 鎧の巨人と超大型巨人からライナーとベルトルトを引きずり出し、とりあえず簀巻きにした。

 

 

「ジーク、あれ、わかるか?」

 

 俺が指差したのは立体機動装置のワイヤーでボンレスハムみたいになってる巨人、ダイナさんだ。

 腕脚が細いタイプの巨人なので、拘束されて、芋虫の様にも見える。

 こっちを見据えて、うぞうぞ動いている。

 

「面影があるとは……思っていた」

 

 ダイナさんは、ジークの母親だ。

 グリシャさんと共にジークがマーレに売ってしまった。

 

 

 無垢の巨人は始祖の巨人から別れた九つの巨人のどれかを食うことで人間に戻り、巨人化能力を手に入れる。

 それは継承の儀式でもあるのだが。

 

 

 いまここには九つの巨人の力を持つ人間が四人いる。そのうち二人は意識不明だ。

 

 

「ライナーとベルトルト、どっちにするか、お前が選べ」

 

 ジークに選択させる事にした。

 だがこれは最初から選択肢が決まっている。

 ライナーとベルトルトは正直どっちも生かしておけない。

 だが、危険なのはどっちかと考えれば自ずと答えは出る。

 

 ダイナさんの事は、俺は原作読んで、ジークは実体験として知っている。

 

 エルディア人の王家の血筋で、グリシャさんと共にエルディア人の権利回復のため組織に属していた人間だ。

 そしてグリシャさんと結婚し、ジークが生まれた。

 

 だがその活動は子供のジークからみてもずさんなもので、やがて見つかって処刑されるのは目に見えていた。

 ジークは両親を売った。

 

 ダイナさんは、そういう思想を持ってはいたものの、やはり女性だし、王家の血筋であるという自負があったからか、物腰も柔らかかった印象がある。

 キレて突っ走ったりはしないタイプだ。

 

 そんなダイナさんにどっちを食わせるのか。

 

「ベルトルト君を…… 食わせよう」

 

 超大型巨人は俺やエレンの敵ではない。アルミンやミカサでも体のサイズが違いすぎるので苦労はするだろうが、頑張れば倒せるだろう。

 

 だが、巨人化する時の被害が半端無いし、体がでかいだけにちょっと暴れただけでも街中ならとんでもない数の死者を出す。

 

 ダイナさんは、必要ならば巨人化するだろうが、そもそもエルディア人の復権が目的の思想犯だ。

 このパラディ島のエルディア人を殺して回ろうとはしないだろう。

 

 より危険な方をダイナさんに食わせる。

 どっちを選ぶかなんて最初から決まってる事を、いちいちジークに選ばせたのは、精神的な負担を与えるためでもある。

 

 ちょっと意地悪してやろうと思って。

 それに、流れに乗せられているが、自分の手で母親を元に戻すという行為に何か感じて欲しいからでもある。

 ジークもまた原作の重要メンバーだ。

 この世界を、エルディア人をハッピーエンドにするため、エルディア人安楽死計画以外の方法をこれで思い付くキッカケになってくれればありがたい。

 原作主要キャラである彼が思い付く事に意味がある。

 

 

 

 

 

 俺は簀巻きで気絶したままのベルトルトを引きずっていって、ダイナさんに食わせた。

 ベルトルトは気絶したまま噛みちぎられ、咀嚼され、ダイナさんの腹に収まった。

 

 少し前を置いて大量の水蒸気が吹き出す。

 巨人の巨体を構成していたものが霧散して、だんだんと縮んでいった。

 

 水蒸気が晴れた後には、立体機動装置のワイヤーと、そしてひとりの女性が倒れていた。

 

「うう…… あああ……」

 

 意識はあるようだ。

 ユミルの話によれば、巨人化した後も、僅かに意識は残っているらしい。

 このパラディ島をさまよい、人を見つけたら襲って食う。

 なんでそんな事をしなければいけないかもわからない。

 泣き叫び、命乞いをする人間を、捕まえて、食う。

「悪夢のようだった」らしい。

 

 ダイナさんはトロスト区にも入ってた。

 あそこで多くの人を食っただろう。

 その記憶も朧げながら残っているはずだ。

 これから苦労するかもしれない。

 

 

 ジークはダイナさんに歩み寄り、自分の服を、ダイナさんに掛けた。

 

 一度は捨ててしまった母親と、ジークは再会を果たした。

 

 

 

 

 

 ピークは俺の隣で、何を考えてるのかわからない表情をしているが、その瞳からは涙が溢れ落ちていた。

 

 母親が追放されて、巨人に変えられて、人を食いながら生きていた。

 彼女たちはそんな残酷な世界で生きている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライナーは…… どうしよう。

 

 とりあえず鎧の巨人の髄液は使えるから生かしたままどっかに置いとこうか。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 さて、俺の原作介入、原作クラッシャー化はどんどん進んでいる。

 

 まずエレンだが、グリシャさんが王家の始祖の巨人を食って、さらにエレンに自分を食わせた。

 

 つまり、エレンの中には始祖の巨人と進撃の巨人が存在する。

 始祖の巨人は全てのエルディア人を操れるが、巨人継承の際、記憶もある程度受け継がれる。

 始祖の巨人の場合、王一族の思想が強く継承されてしまい、戦えなくなるらしい。

 それがどんな思想かは原作でも俺が読んでた時点では明かされてなかった。

 だがこの始祖の巨人の力は、王家の血筋が継承しなければうまく使えないらしく、エレンは知らない内に継承してしまっているものの、始祖の巨人の力は使えず、同時に、王家の思想にも支配されていない。

 

 そして、ジーク。

 彼は王家の血筋であり、獣の巨人の継承者でもある。

 その母ダイナは、というか、彼女こそが王家の末裔であり、ジークの母親。

 そんな彼女が、超大型巨人を継承した。

 

 

 まだ絡んでいないクリスタ(本名ヒストリア)がいるが、ここで実験できると思うのだ。

 ジーク達マーレのエルディア人は、医療技術で巨人から髄液を取り出す事ができる。

 実際ジークはその髄液を使って無垢の巨人を大量生産していた。

 

 俺が介入してしまったせいで消えたシーンだが、エレンが鎧の力を得るために飲んだのも、おそらく鎧の巨人、それもだいぶ昔の代のヤツの髄液だと思う。この辺は予想だけど。

 

 さて、エレンから髄液を抽出して、王家の血筋の人間に摂取させたらどうなるだろうか?

 

 始祖の巨人継承者は、その思想について語らない。

 ケニーアッカーマンもよく知らないみたいだった。

 

 しかし、前継承者、ヒストリアの義理の姉に当たる人物は、もう少し話がわかるやつだった様に思える。

 彼女の記憶も、解放されていないが、エレンの中にある。

 

 原作クラッシャーな俺としては、この辺どうなるかが気になるところだ。

 そもそも試されてすら居なかった、始祖の巨人の能力のコピーである。

 始祖の巨人は『道』が交わる一点らしいので、もしかすると十全に使えるのは一人だけかもしれない。

 だが、王家の血筋なだけのジークは微妙に巨人を操る能力を持っている。

 エレンも、原作ではダイナの巨人と接触しただけでその力を少し発揮していた。

 

 

 ダイナさんを助けた事で、この世界には、王家の血筋がヒストリアを加えて三人いる事になる。

 

 原作でもこっちでも、グリシャさんが結構殺しちゃったけど。

 

 ……いや、あのオッさんが残ってるか。ヒストリアの父親が。

 その辺の話聞いてないけど、こっちではグリシャさんあいつも殺してないかな……

 

 

 

 

 何をどうするかは特に決まってないが、切り札が増えた感はある。

 

 手札が増えればジークも何か思いつくかもしれない。

 始祖の巨人の力がわずかなりとも移植できるのであれば、さらに選択の幅は広がるだろう。

 

 

 

 

 ジークはダイナさんを抱き上げた。

「じー……く?」

 ダイナさんの意識はまだ混濁しているようだが、息子の面影はわかったらしい。

 

 

 ダイナさんは今、余命十三年が確定した。

 だがそれでもジークはダイナさんより早く死ぬ。

 ダイナさんは、自分の一人息子であるジークを見送らなければならない。

 

 

 そんな不幸が起こらない様に原作を変えたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

・エレン

進撃の巨人

始祖の巨人(王家の血筋でなければ力を発揮できない)

 

・ジーク(エレンの義兄)

獣の巨人

王家の血筋

 

・ダイナ(ジークの母親)

超大型巨人

王家の血筋

 

・クリスタ(ヒストリア・レイス)

第104期の女神

王家の血筋

 




ここまでは、できました。

後色々小ネタは考えてあるのですが、大筋の話は決まっていませんので、更新未定です。

というか、絵を描かないとお金無いし、今月も来月も返済ヤバイし。
お金稼いでから続き考えて書きます。

いつになるかわかりませんが、次回の更新ができたならば、またお読み頂けるとありがたいです。

m(_ _)m
ここまで読んで下さって、ありがとうございました


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。