Devils front line (白黒モンブラン)
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Archive
Act-archive page1


今回は紹介編。
なのでとんでもなく短いです。予めご了承ください。。




ギルヴァ

:主人公。長く伸びた銀髪を後ろに一つに束ね、前髪は目元が隠れる程長い。黒を基調とし、青い刺繡が施されたコートを纏い常に日本刀を携行し、時には鉄血に喧嘩を吹っ掛けたり、時にはグリフィンの追っ手から逃げたりしながら各地を放浪していた。一見、只の人間にしか見えないがその実態は、ある出来事により「妹」と「ある人」を失い、死にかけた際に悪魔(のちに蒼と呼ばれる)と契約し、人間から悪魔になった存在。悪魔であるが故に撃たれようが刺されようが平然としていられる。本人曰く「悪魔だが心は人間のまま」らしい。

性格は冷静ではあるが、たまにテンション高くなったりするところもしばしば。また誰かの為ならば、自身の力を振るう事を辞さない。Act1においてはM4A1を助ける(当初は鉄血の代理人と戦いたかったを理由にしていた)為に、Act4、Act5では404小隊と95式を助ける為に己の内に存在する魔の力を使っている。

人形に対し何らかの感情を抱いているらしいが詳細は不明。

 

:死にかけていたギルヴァを悪魔として蘇らせた悪魔。肉体は滅び精神のみの存在となってしまった為、どの様な姿をしているかはギルヴァでさえ分からない。また本人は名前が無い。曰く肉体が滅んだ今、名前など意味を成さないらしい。流石に名無しなのは不便と感じたギルヴァが勝手に「蒼」と呼んでいる。本人もそれで呼ばれてちゃんと応答しているのでそのまま「蒼」と呼ばれる様になった。

ギルヴァの中で存在している為、彼の声が聴けるのはギルヴァ本人だけである。冗談を言ったり、彼のサポートに徹している等、悪魔でありながら悪魔らしくないといった一面を持つ。

 

 

ニャン丸

:Act3にて登場。休息を取る為にギルヴァが訪れた廃墟にて、住んでいた子猫。

真っ白な毛並みが特徴で、甘えん坊。どういう訳か人間の言っている事が理解できている節が見受けられ、ギルヴァからは機械じゃないのか?と疑われた程。彼と出会った事でニャン丸もギルヴァについていくようになる。

またニャン丸という名前は蒼が命名したもの。ニャン丸本人もそれで呼ばれて反応しているので気に入っている様子である。

 

 

 

 

武器紹介

 

無銘

:ギルヴァが持つ刀。一見普通の日本刀にか見えないが、その実は膨大な魔力を有し、ありとあらゆるものを斬り裂く事が出来る日本刀状の魔剣。ありとあらゆるものを斬り裂く事から、空間も斬り裂く事が出来る。ギルヴァが持つ神速の抜刀術と無銘自体が持つ能力が合わさり繰り出される次元斬は非常に強力である。

 

レーゾンデートル

:Act0にて登場。放浪の際にギルヴァが見つけた兵器工場内で眠っていた大口径リボルバー。

存在意義と銘打たれたこの銃は口径13mm、装弾数6、何よりも常人では扱うどころか構える事ですら出来ない重量を誇る。しかし口径13mmの威力は本物で、同時にギルヴァ本人が魔力を込めて放つ事でその威力は想像付かない程。Act5にて決め台詞とも戦いに終止符を撃った武器でもある。

 

幻影刀

:魔力で錬成された刀。近接武器ではなく遠距離武器として利用される。銃の様に構える動作が要らない為、どのタイミングでも射出出来る利点がある。雨の様に敵の頭上から幻影刀を降らせたり、貫通力を高めた幻影刀を素早く射出したり等、色々な使い方で扱われる事が多い。

 

デビルトリガー

:己の内なる「魔」の力を解放する。武器というより固有能力に近い。Act5にて使用。

デビルトリガー発動時では外見はがらりと変わり、まるで鬼と悪魔が合わさった外見となる。また魔人化中のみ使える魔装式多連装機関砲「カリギュラ」と次元斬の更なる強化版、次元斬 絶が使用可能である。

 

カリギュラ

:デビルトリガー発動中に使用可能なガトリング砲。前腕部から魔力によって形成され、その連射力と威力は破格の性能を誇る。Act5にて使用され、只撃つだけに飽きたギルヴァが幻影刀を連続射出しながら、本武装も使われた。

 




次回は本編へ。
そろそろヤンデレも出さないとね。恐らくそっちの方を期待されている気が…(震え




???「戦績も彼も作者も……スベテ ワタシノ モノ…」

作者 「ふぁっ!?」



…という訳で次回お会いしましょう!(猛ダッシュで逃げる


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Act-archive page2

出来れば本編の方を出したいけど、話が思いつかないので今回は設定集の方を。
本編の方は確実に遅れると思うのでご容赦を。

またキャラの名前の後ろで数字を書いてありますが、所謂内容更新みたい感じなやつです。
決して年齢とかじゃないからね…?


ギルヴァ(2)

:青い刺繡が施された黒いコートを纏う男。その実は悪魔。

日本刀状の魔剣「無銘」と大口径リボルバー「レーゾンデートル」を常に持ち歩きながら、各地を放浪していたが、グリフィンが実行した大規模作戦「operatio devil hunt」にて404小隊によって捕獲され、グリフィン本部の独房の中に放り込まれるがその二週間後に復讐の為、魔界から人間界にやってきた悪魔、アンジェロが本部を襲撃。その際彼と交戦し、見事討伐している。

過去に戦術人形から民間用人形へと変わった人形によって育てられ、「母」の様に思ってきた。しかし、ある一件で血の繋がりはないものの大事に思っていた「妹」と「母」を失くす。後に蒼と出会い、人から悪魔になるのだが…。

実は人から悪魔にへと変わった直後にギルヴァは蒼が持つ力によって暴走してしまう。その事が原因で理性を失いかけ心すらも失いかけそうになるのだが、誰かが彼を暗闇から引っ張りあげ救っている。

この事についてギルヴァは「二人が引っ張ってくれた」と言っている辺り、救ってくれたのは死んだ「妹」と「母」だったのではないかと思われる。後は自分の問題だと足掻く事を決め、彼は悪魔でありながら、心が人間という矛盾な存在として確立する事が出来た。

また育ててくれた母が人形だった事もあり育ててくれた、そして命を通して守ってくれた事に恩義を感じており、その恩義に報いる為グリフィン所属の人形を助ける為に自ら力を振るう事も辞さない。

 

蒼(2)

:ギルヴァの命を救った悪魔。肉体はなく、蒼という名前も本名ではない。

魔界において起きた「ある戦い」において、肉体が滅んでしまう。その事については「ツケが回ってきた」と話しているのだが、詳細は明らかになっていない。彼が言うには「守りたい者の為に、譲れないものの為に戦った。それだけだ」との事。

ギルヴァを悪魔へと生まれ変わらせる時、自分の力が原因で飲み込まれるのではないかと不安していた。それは現実となりギルヴァは暴走。蒼は彼の暴走を止めるべく殺害しようとしていた。結果それを行われる事はなく、そのままギルヴァの中で存在する事になった。

また悪魔でありながら心は人であり続けると決意示したギルヴァに対して面白いと思いながらも、内心彼を支えようと決めている。悪魔でありながら悪魔らしくない…それが蒼と言われる悪魔である。

 

ニャン丸(2)

:放浪の旅にてギルヴァが身を休めていた廃墟にて出会った子猫。

人懐っこく、甘えん坊。真っ白な毛並みが特徴。またギルヴァが放った殺気に対しても何もなかった様に眠っていた等、図太い神経の持ち主だったりする。人の言葉が理解出来ていたり、気持ちを察する事が出来たりなど色々謎がある猫である。「Act9 operatio devil hunt」にて一時的な形であるが共に旅をしてきた95式に預けられる。その後どうなっているかは不明。

ギルヴァ曰く「悪魔をも恐れぬ猫」

 

フードゥル

:「Act10 雷撃鋼 フードゥル」にて登場。籠手と具足を模っした外殻から雷を放電させながら、巨大な体軸を持った狼の様な悪魔。

魔界において造られた悪魔であり最初こそは命令に忠実、無口、無感情だったらしいが、ある日を境に自我が目覚め、何時しかカリスマ性溢れる悪魔へと成長したらしい。魔界の精鋭部隊の隊長をも務めるまでに至り、その戦闘力は高い。グリフィン本部の地下にてずっと眠っていたらしいのだが、そこに蒼が現れた事と彼から聞かされたギルヴァの事に興味を持ち、行動を起こす。アンジェロと対峙しようとするギルヴァに力を与える形で自ら姿を変化させた。普通であれば造られた悪魔は自ら姿を変えて武器に変化させる事は不可能なのだが、ごく稀にそれを可能とする悪魔も居るらしく、フードゥルもその一人である。中世の騎士の様な喋り方が特徴で自身の事を「我」と呼び、相手の事を「貴公」と呼ぶ。

 

アンジェロ

:「Act10 雷撃鋼フードゥル」にて登場。フードゥルと同じく造られた悪魔である。

復讐を遂げる為に魔界から人間界に姿を現し、グリフィン本部を襲撃。のちギルヴァと交戦するが倒されている。

また視力が失われており、その原因を作ったのがフードゥルである。彼はフードゥルに復讐を果たすべく人間界に現れるのだが、それが果たされる事はなかった。また魔界において精鋭部隊の副隊長を務めた事がある。

 

雷撃鋼 フードゥル

:両手足に装備する籠手と具足で、金色の雷を放っている。

フードゥルが自ら姿を変えて武器に変化した魔具と言われるものである。

格闘武器と用いられ、それぞれの攻撃にて貯める動作を行えば雷が帯電され、任意で放つ事が可能。最大帯電時に放たれる一撃は何であろうと砕く。




…投稿先をチラシの裏に変えようかと思っていたけど、まさか誰一人とてそっちに投稿していないとは…。
流石に一人はきついって…。


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Act-archive page3

ギルヴァ(3)

:主人公。黒を基調としたコートを纏い、日本刀状魔剣「無銘」と大口径リボルバー「レーゾンデートル」を手に、放浪していた、見た目が人間でありながらその実は悪魔という人物。最初こそは放浪していたが、のちにS-10地区にて便利屋「Devil May Cry」を開業している。

悪魔でありながら心が人間であり、誰かの為ならば力を振るう事は辞さない。また今まで幸せと感じたのは家族と一緒に空を眺める時だったらしく、現在は心のどこかで寂しさを覚えながら日々を生きている。

基本的に冷静であり戦闘においてもそれは変わらない。鉄血のハイエンドモデルと相対した時でもそれが変わる事は一切なかった。

恋愛経験がないが、現在はUMP45と代理人に好意を持たれている。

 

代理人

:メイド服が特徴の鉄血のハイエンドモデル。「Act1 そして「それ」は軽く暴れる」にて、ギルヴァと戦い敗北。右手を斬り落とされ、武装は破壊されてしまう。敗北した直後は彼に対し強い殺意を抱いていたが、その感情は日を跨いでいくにつれ薄れていき、いつしか彼の事を知りたい、時間を共有したい、独占したいという感情へと移り変わっていく。そして彼女はあらゆる手段を用いて鉄血から離反。ギルヴァのあとを追う為に放浪者となる。放浪している際でもギルヴァを発見する事はできたらしいが、その当時の彼は95式と共に行動していた為、彼女は姿を現すのを止めていたという。後に「Act14 来客はメイド」にて便利屋「Devil May Cry」に姿を現し、そのままデビルメイクライ所属となる。以前は髪をお団子の様にまとめていたが、現在はそれは解かれ長く伸ばしている。

 

カエデ

:ギルヴァの妹。故人。

妹であるがギルヴァとの血の繋がりは無い。好きな天気は雨。そして好きな空は夕焼けの空。

蒼曰く髪型と顔つきはM4A1に似ているらしい。

 

 

レーゾンデートル(2)

:ギルヴァが愛用する大口径リボルバー。基本的に使用される事は滅多にないが、「Act18 お宝探し」にて進化。銃身は連装化され、シリンダーには同心円状に薬室が配置。その数、12とトンデモリボルバーに進化した。特殊機構によって二発同時に弾丸が放たれる様になったが、発射時の反動と重量が倍になっている。その為、この銃を扱えるのはギルヴァだけとなっている。

 

29mm対化け物専用超大型狙撃銃 silver・bullet

:「Act18 お宝探し」にて登場。

破棄された兵器工場の保管庫で眠っていたライフル。その大きさはライフルというより砲に近く、代理人の身長を超えるの程の長大さを誇る。銀色の銃身が折り畳み式で、また銃身下部にはバイポットが備え付けらている。

装弾数は3.装填方法はボルトアクション。

また大口径過ぎる弾を撃つためが故に頑丈に作られており、例え弾切れしたとしても鈍器としても使えるという理由で代理人専用の武器となる。

 

ガンケース型可変式腕部一体武装 Niesel regen

:六角形状の銀色のガンケース。

その実は武器であり、攻撃形態に移行する際は使用者の腕部に取り着き変形。腕部一体型レールガンへと変形する。元より人形が使用する事前提で開発されたがあまりのコストの高さに一つしか生産されなかった。これも代理人専用の武器となる。またニーゼル・レーゲンとはドイツ語で「霧雨」を意味する。

 

45口径リボルバー

:外見はニューモデルアーミーを模っているが中身は別物というリボルバー。

どこが違うのか詳細は明らかになってはいない。またこのリボルバーはギルヴァが使用する事となる。

 

対装甲用超近距離型射突ブレード

:パイルバンカー。伸縮性の杭の先端には成型炸裂弾が備えられているが…詳細は不明。

誰が使うのかは分からないが一応持ってきた一品。

 

便利屋「Devil May Cry」

:S-10地区に店を構える便利屋。

ギルヴァが放浪の旅をしている時から開きたいと思っていた店。

現在はギルヴァ、フードゥル、代理人が所属。

基地横に隣接されおり、基地側からでも出入りする事が可能。

建物は三階建てなのだが、現在の所部屋は余り待っている模様。



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Act-archive page4

本編はまだ出せないので、今回は紹介編だよっ!

※先程各話並び替えでミスしてしまい、一度削除しました。
申し訳ございません。


ギルヴァ(4)

:主人公。悪魔でありながらも人や人形の為に力を振るう男。S-10地区で便利屋「Devil May Cry」を営んでいる。

便利屋を開く前までは放浪者であり、鉄血の人形部隊を相手に一人で立ち向かい殲滅している事からはグリフィンや鉄血の両陣営からは「黒コートの悪魔」として知られていた。後にグリフィンと協力関係という形で便利屋を開業した。

「Act22 名前」にてS-10前線基地の指揮官であるシーナ・ナギサにファミリーネームがないのか、と尋ねられた際に今使っている名前が本当の名前ではない事を明かす。

「母」である民間用人形に拾われた際に思い付いた二つの名の一つが「ギルヴァ」であった。後に彼は「ギルヴァ」と名乗る様になる。また、思い付いたもう一つの名前は「ヴァージル」だったらしい。使わなかった理由は「自分には合っていない」という理由で使わなかったとの事。

亡くした「妹」と「母」の事を心の底から愛しており、時折思い出す事がしばしば。ただ見ている事しか出来なかった、助ける事が出来なかった事に後悔しており、また同じ思いをしない為にも自身が持つ力を最大限に活用する事も多い。また「Act21 合流」では死んだ妹に似ているとされる戦術人形 M4A1を助けた際には「もしかしたら自分は許されたいのかも知れない。助けてあげられなかった事に」と初めて己の内を明かしている。

敵対する者には容赦しないが時折とんでもない行動に出る事もあり、「Act16 Blast Off!!」では相対した鉄血のハイエンドモデル 処刑人を魔力で錬成したバットで空の彼方に吹っ飛ばすなど冷静な性格に反して何かしらやらかす事もある。何故そうしたのかは不明。

彼曰く年齢19らしいのだが、これは正確な年齢ではない。彼は19歳の時に死に掛けて、ある悪魔(のちに蒼と呼ばれる)と交渉し悪魔となった。魔の影響もあってかその姿は19歳の頃の姿から変わっていない事と自身が老いを取った感覚が無い。その事から彼の本来の年齢は19ではなく、20代前半だと思われるが詳細は不明。

後ろに伸ばした銀髪を一つに束ねており、目が隠れる程に前髪が長い。一貫してそのヘアスタイルで通してきた彼であったが、「Act26 悪魔舞踏」の終盤にて、人に扮した悪魔 ヴァンギスと相対した時に前髪を後ろへとかき上げ、彼の顔が分かる様になったのだが…どの様な顔立ちかは現在の所不明。

また恋愛経験が乏しい事もあり、告白されてもどうしたらいいのか分からないといった面を見せる。だが自身に好意を抱いてくれている事には嬉しく思っていたりする。

悪魔でありながらその心は人間。女性に甘いといった冷静な性格に反する点を持ち、「人」や「人形」を心から愛する悪魔、それがギルヴァという男である。

 

代理人(2)

:鉄血のハイエンドモデル。現在は鉄血からあらゆる手段を用いて離反、「Devil May Cry」に所属している。

大型武器で振り回して敵を一掃するパワフルな戦い方が特徴。依頼で動き出す時は彼女が改造した大型車両の運転手を務める事が多い。初めてギルヴァと出会った時は敵対し敗北。敗北した当初は強い殺意を抱いていたが、後にその思いは薄れ、逆に彼に好意を抱く様になる。

姿はかつての時と変わらないが、鉄血を離反した後は纏めていた髪を伸ばす様になった。

 

シーナ・ナギサ

:S-10地区前線基地の若き女性指揮官。日系人であり、彼女の名前を漢字で書くと「椎名 渚」。

何故カタカナ表記にしているのかというと、漢字が読めない人もいるかもしれないという考えと、グリフィンに所属する時に色々初めてだったのか、緊張してそうしてしまったのだと言う。

今時の少女らしく、見せる笑顔は美しい。経験が浅い事もあって戸惑いを見せる事もしばしば。時折見せる真っ直ぐな目はギルヴァも内心驚きを見せた。

若くしながら指揮官であり、また可能性を秘めた少女。それがシーナ・ナギサである。

 

45口径リボルバー「フェイク」

:ギルヴァの新たな相棒。レミントンM1858を模ったリボルバーで、弾倉が固定式ではなく抽出式となっているのが特徴。中身が違う事からハンドガンの戦術人形ナガンM1895が「フェイク」と名付けた。意味は「偽物」という意味である。威力はレーゾンデートルに劣るものの連射と反動に秀でている。

 

水平二連装ショットガン

:S-10地区でひっそりと武器屋を営業している店主からギルヴァが譲り受けた武器。

店主が武器改造をする様になった切っ掛けを作ったショットガンであり、武器屋を開いた時から商品として売り出されていた。しかし買い手は現れず、ガンケースの中で眠っていた。

弾倉を二つ装備しており、排莢、後に再装填という特殊機構が備わっている。




あと一話か二話で二章完結と考えたり…。

ではノシ


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Act-archive page5

ここらで設定集を。
本編はもうちょいまって。

ブレイクの紹介がだいぶ長くなった…


ブレイク

:「Act29 date」の終盤にて登場。銀髪が特徴の青年。

「Act30 謎」でS10地区で便利屋を営んでいるギルヴァへ依頼するために遠くから訪れるもののS12地区で睡眠不足が原因で酒場で気絶してしまったのだが、結果的にギルヴァを呼び寄せる事が出来、彼に依頼する。

当初は古びたコートを羽織っていたのだが、あまりにもみすぼらしいを感じたギルヴァが代わりのコートを購入しブレイクに渡している。因みにコートの色は赤。

過ごしていた町 フェーンベルツで突如として住民全員が失踪した理由の調査をデビルメイクライに依頼し、全て人任せにできないという理由で彼も同行している。

失踪調査から町に封印された魔界の覇王を討伐へと切り替わったのも彼が依頼しなければ起きえなかったと言える。

便利屋紛いな事をしながら生計を立てていたらしく、戦いの場においては拳銃を二丁用いる事が多いがある理由で銃を壊してしまう事が多かったらしい。何度も買い直すのも金がかかるという事でフェーンベルツを訪れる前に住んでいた町にて、ガンスミスに専用の銃を製作してもらっている。それが現在愛用している大型二丁拳銃「フォルテ&アレグロ」である。

親を亡くしたか、あるいは親に捨てられたか、どちらかの理由で孤児院で過ごした経緯があり、些細な事で同じく孤児院で過ごす男の子を喧嘩してしまい、つい殴ってしまう。彼曰く手加減はしたらしいのだが、その一撃で相手は軽く二メートル近く飛んでしまい、事情を知った孤児院の院長からはその力を本気で使うなと忠告される。当初こそはその力が何なのかは分からなかったらしかったが孤児院を出た後に気付く。

便利屋紛いな事をしていた時からは彼は悪魔と鉢合わせる事が多かったらしく、戦っている内に自分は普通でないと感じ、そして自分の中には悪魔の血が流れているという事を知る。また町を転々としていたらしいが、その理由は恋意を抱いていた人形を悪魔によって殺害され、自分のせいで悪魔を呼び寄せているのではないかと感じたブレイクは誰かに危害が及ばない様にする為、というのが理由。

「Act39 分岐点 side ブレイク」にて魔界の魔術師 アルフェネスの罠によって別空間に飛ばされたブレイクは罠として配置されていた魔剣 リベリオンに心臓を刺されるが悪魔の血を流している事もあり死ぬ事はなく、見事リベリオンを自分のものとしている。一度刺された事により魔人化を果たす事も可能になっている。

また剣術にも心得があるらしく、それは孤児院の院長に無理矢理教えられたとの事。

現在は便利屋「デビルメイクライ」にて一時的であるが身を置いている。また彼も便利屋を開くのも良いかも知れないと考えており、将来的には何処かの地区で便利屋を開くつもりでいるらしい。

ギルヴァと相反して、余裕ある態度で戦闘時には相手を挑発する事が多い。またブレイクという名前は孤児院の院長に付けてもらったもの。院長が読んでいた本の作者から取ったらしい。

 

 

 

グリフォン

:魔界の住人。猛禽類の姿をした悪魔。雷撃を用いた遠距離攻撃を得意とする。

魔界の魔術師 アルフェネスによって強引に人間界に呼び出され、雑用係の様な扱いを受けていた。グリフォン本人もその事に良い感情を持っておらず、フェーンベルツに訪れたギルヴァ達へと寝返っている。

性格はおしゃべりで余計な事を言って相手に反感を買ってしまう事もしばしば。たまに「チキン野郎」と呼ばれたりする。現在はデビルメイクライに身を置いている。

 

 

 

アルフェネス

:魔界の魔術師。魔術に関しては右に出るものはいないと言われる実力者。フードゥルからは閉鎖的魔術師と称され、また蒼は一度面識がある。

フェーンベルツに封印された魔界の覇王 ザ・ディスペア・エンボディードの力を得る為に、その復活を画策する。ブレイクを省く町の住民が失踪したのもアルフェネスによるもの。

ザ・ディスペア・エンボディードの復活に成功するものの、自慢の魔術で自我を抑える事が出来ずそのまま魔界の覇王の手によって殺害された。

 

 

 

ザ・ディスペア・エンボディード

:魔界の覇王。約1000年前に人間界に現れ、ある町を支配下に置いていた。その100年後に友人である「ローグフェルツ」との激闘の末、討たれ封印された。人間界に現れる前は魔界の帝王…魔帝の座に就く為、当時の魔帝とそれに付き従う悪魔達を手にかけた。その悪魔によって討たれた悪魔の数は明確になってないがグリフォン曰く「馬鹿でかい死体の山が五つ出来る程」との事。また魔界の体制はザ・ディスペア・エンボディードが魔帝に就く為に行った行動が原因で荒廃している。

アルフェネスの手によって長き眠りから復活。悪魔の血を流すギルヴァとブレイクとの激闘の末、敗北しこの世から消滅した。

 

 

 

ニーズヘッグ

:魔界にある魔樹と言われる樹に寄生する悪魔。

フェーンベルツにある大聖堂に発生した魔樹の苗で寄生しており、代理人、フードゥル、グリフォンと戦闘を繰り広げる。グリフォン曰く「正真正銘の馬鹿」

最期は代理人が持ってきていたヒートパイルによって止めを刺されている。

 

 

 

ローグフェルツ

:ブレイクが過ごしていた孤児院の院長。その実は悪魔であり、1000年以上も生きている。ザ・ディスペア・エンボディードの友人であり、討ち封印したのも彼。町の英雄的存在になったローグフェルツは敢えて「フェーンベルツ」と偽名を名乗っている。のちに彼が救った町は「フェーンベルツ」という名が付く事になる。

ブレイクが悪魔の血が流れている事に気付いた一人であり、力を使うなと忠告している。が、いつかブレイクが悪魔と戦うかも知れないと危惧していたのか、強引に剣術を叩きこんだ。

現在はどうしているか不明。

 

 

 

フォルテ&アレグロ

:ブレイクが愛用している大型二丁拳銃。ベースとなった銃はコルト・ガバメント。

ブレイクの無茶苦茶な連射に耐えられる様に極限なまでに大型化、堅牢化が施されている。

二丁とも黒を基調としているが、撃鉄部分とグリップ部分の一部の色が異なっている。

その二つの色が白銀で施されているのが「フォルテ」。一発の火力に秀でている。

金色で施されているのが「アレグロ」。フォルテとは異なり連射性に秀でている。

またフォルテとアレグロは音楽用語から来ており「フォルテ」は重く、「アレグロ」は速くを意味する。

 

 

 

リベリオン

:髑髏の装飾が施された十字剣の様な形をした大剣であり、魔剣。

元々はローグフェルツの物であったが、ザ・ディスペア・エンボディードを封印するために用いられ、彼の元を離れている。のちのアルフェネスのよって回収されており、別空間に飛ばした獲物を仕留める為の罠として扱われいた。アルフェネスは魔剣であるが故に意思を有している事を理解しており、触れた者が自分を扱うに値するかを試す為に一人でに動き出すといった習性を利用していたが、ブレイクがその試練を見事突破した為リベリオンは彼の物となる。

 

 

 

Devil

:「悪魔」と銘打たれた水平二連装ショットガン。ギルヴァが武器屋の店主から譲り受け、代理人に譲渡している。私は人形であり悪魔ではない。人形である私の代わりのこの悪魔がお前を討つといった意味で「Devil」と名付けられている。

 

 

 

ヒートパイル

:杭の先端に成型炸裂弾を装備したパイルバンカー。威力は悪魔の体を貫き、破壊する程。ニーズヘッグ戦において代理人が使用。それを用いてニーズヘッグに止めを刺している。



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Act-archive page6

ギルヴァ(5)

:S10地区前線基地に隣接された便利屋「デビルメイクライ」を営む男。人でありながらその身には悪魔の血を流しながらも悪魔を討つデビルハンター。

グリフィンと協力関係になる前は旅をしており、襲い掛かってきた鉄血の部隊を単身で壊滅させた事があり、その姿も相まってグリフィンや鉄血の一部からは「黒コートの悪魔」として知られていた。現在はS10地区で便利屋を開業し腰を落ち着けている模様。

404小隊のUMP45と鉄血のハイエンドモデルであり、元鉄血所属である代理人と結婚を果たしている。特にUMP45とは酒盛りの後…そのままお互いに裸で朝を迎えた程。式は挙げておらず、今後式を挙げるのかどうかは不明。

また旅をしている際に人形を助ける為に力を振るう事が多かった事もあり、その都度とは言えずとも何人かひっかっけており、結婚した二人以外からも好意を持たれている。現状分かっているのは95式とギルヴァのファーストキスを奪ったHK416。

 

ブレイク(2)

:ギルヴァと同じく人でありながらその身に悪魔の血を流しながらも悪魔を討つデビルハンター。

フェーンベルツの一件以降S10地区に留まる事になり、大規模作戦「operation End of nightmare」以降ではS10地区前線基地から離れた町で便利屋「デビルメイクライ 第一支店」へ移動し店主を務めている。

これは本人の意向ではなく、グリフィンからの意向を受けた事もあり、また店を用意してくれるという条件でS10地区に留まった。本人としてはS10地区以外の地区で便利屋を開きたかったらしい。

 

マギー・ハリスン

:S10地区前線基地の後方幕僚を務める女性。一見見目麗しい女性にしか見えないが、その実は悪魔。魔界では伝説の魔工職人 マキャ・ハヴェリとしてその名を轟かせていた。

何故人間界に訪れたのか明確な理由は明らかになっていないものの、魔界にて無理難題ばかり押し付けてくる輩に辟易していたらしく、あろう事か自分が手掛けた作品とリヴァイアサンの設計図を同じく魔工職人であるアグリットに盗まれるという事をやらかす。自暴自棄になっていた事もあるが、自身が手掛けた作品すら守れぬようであれば魔工職人として失格と語っており、人間界に来てからは手掛けた作品は厳重管理を心がける様になったとか。

また伝説の魔工職人としての腕は確かなもの。ギルヴァが持ってきた処刑人の大剣と代理人が愛用するニーゼル・レーゲンをたった一日で改造を行い、その完成度は非常高い仕上がりになっている。

魔界に居た時の姿は明らかになっていないが、人間界に居る時の姿は金髪のセミロング、優しそうな表情が特徴。

 

アグリット

:悪魔の巣窟と化したS11地区後方支援基地の指揮官と協力関係にあった悪魔。大規模作戦「operation End of nightmare」によって基地が襲撃を受けた際に、指揮官を悪魔へと変異させる増強剤を投与し、暴れている内に逃げ出そうとしていた。しかしギルヴァと95式によってそれは阻まれ、最期はギルヴァが持つ技「次元斬 絶」によって細切れにされ、この世から消失した。

S11地区後方支援基地の地下にマギー・ハリスンが手掛けた作品と謎の鉄血のハイエンドモデルを保管、隠していたが、最終的にはギルヴァらによって発見された。発見されたハイエンドモデルとの関係性は明らかになっていない。

 

謎のハイエンドモデル

:S11地区後方支援基地の地下にてギルヴァらによって発見された鉄血のハイエンドモデル。

その素性は謎に包まれており、あの代理人ですら見た事ないと言う程。後の調査にて、複数の専用装備が存在すると考えられ、その内の一つは超重装備と言える程。幾らハイエンドモデルと言えど装備する事は不可と思われる中、発見されたハイエンドモデルは装備が出来る程のパワーを有していると考えられる。

また代理人によれば計画だけで終わってしまった存在では、と考察している。

「Act60 Fate begins to move quietly」にて突如として目を覚ました。

 

クイーン

:ギルヴァが鉄血のハイエンドモデル 処刑人から奪った大剣をマギー・ハリスンが改造を施した機械剣で彼女ががかつて開発した推進剤噴射機構が備わっている。持ち手がアクセルとなっており、捻れば推進剤が作動、持ち手近くのレバーを引けば推進剤が噴射。その事により斬撃を強化、また速くすることが可能。

またギルヴァが使う事を想定している為、推進剤の噴射出力が極限まで高められており、噴射する推進剤が青い炎となって噴き出す様になっている。また推進剤噴射機構には段階が備わっており、最大三段階まで展開可能。そして攻撃時に僅かなタイミングでスロットを最大まで捻る事で推進剤噴射機構が一瞬にして最大まで解放する機構「Max.act」が備わっている。それはギルヴァも知らなかった事であり、初めてその機構があると知った時は蒼がクイーンの事を「お姫様はわがままみたいだ」と感想を述べている。

元々人形の装備であり、そこに推進剤噴射機構が備わった事によりあまりにも重い武器となってしまい、並みの人間では持つ事すら不可。しかし一撃の高さは期待でき、またその堅牢度は魔剣と同等とも言える。

 

ニーゼル・レーゲン(2)

:レールガンだけでは使いどころが限られると判断したマギーが改造を施した新たなニーゼル・レーゲン。

魔界にしか存在しない高い強度を持ちながらも、柔軟性を有する金属が使われており、ニーゼル・レーゲンに水色の光線が流れる様になった。またその金属を使用した事により驚異的な変形が可能となり、それによりガトリングガン、三連ロケットランチャーへと変形が可能になった。またレールガンにも強化が施されており、最大出力時に砲身にターゲットサイトが展開される様になり、ターゲットサイトが変色した際に発射すると着弾時に盛大な爆発を起こす弾丸が発射される様になった。外見からでは分からずとも、重火器を一つに集約している事から代理人が別名として「パンドラ」と名付けた。

 

ヴァーン・ズィニヒ

:マギーが手掛けた作品の一つ。魔界に存在する素材を壊れ使えなくなったバイクに組み込んだ事によってとんでもないじゃじゃ馬へと昇華したバイク。機械鋸と言う名の双剣へと分離する機構を備え、回転する刃で相手を斬り刻む事が可能。ブレイクがマギーから譲り受け、大規模作戦「operation End of nightmare」にて使用。群がる悪魔達を轢き飛ばしたり、斬り刻んだり、派手に活躍した。

またヴァーン・ズィニヒはドイツ語で「狂気の」または「気が狂った」を意味する。



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Act-archive page7

ノーネイム

:S11地区後方支援基地の隠された地下にてギルヴァに発見され、長く伸ばされた銀髪、青い瞳、豊満な胸…鉄血のハイエンドとは思えない程の美貌を持った鉄血のハイエンドモデル。

蝶事件が起きる以前に鉄血工廠にて極秘裏に製造されたものの、急遽計画が路線変更した為に本来であれば破棄される予定であった。しかしその路線変更を良しとしなかった一部の者達が彼女を外部へと持ち出し、破棄された工場で最終調整が行われた。事件が発生し暴走した鉄血人形を止める為に彼女を目覚めさせるという選択があったにも関わらず学者達はそれを実行しなかった。何らかの思いがそこにあったとされ、いつか目覚るノーネイムの為に「自由に生きて欲しい」とメッセージを遺した。

後に彼女はS10地区前線基地で目覚め、後にS10地区前線基地隣接店「デビルメイクライ」所属となる。

ノーネイムという名は彼女の本来の名ではない。過去や経緯は事前に残されていたログデータから知ったものなのだが、本来の名前は残されていなかった。流石に「名無し」と名乗る事に関しては彼女なりの抵抗もあった為に、意味は変わらずとも「ノーネイム」と名乗る事にした。

まだ目覚めた直後、髪の色や目の色が似ている事から目の前に居たギルヴァを父の様だと思い、彼に初めて挨拶を交わした際には「父」と呼んでしまっている。それを良い事に代理人とUMP45が自身の事を「母」と呼ぶ様に言ってしまったが為、そのままノーネイムはギルヴァの事を「父」と呼ぶ様になっている。

重装備、重武装を前提に生み出され、それにより超高性能火器管制システムを備え、また内部骨格に魔界の技術が使われている事もあり、そのパワーは代理人ですら圧倒できると言われている。性格は冷静、戦闘ではアクロバティックな動きを用いた高い運動性を駆使した撃ち合いを得意とするが、これは専用装備の一つ「パトローネ」を装備している時に限る。

また専用装備は「パトローネ」の他、もう一つ存在するがそれに関しては明らかになっていない。

 

パトローネ

:ノーネイムの専用装備の一つ。パトローネは独語で「銃弾」を意味し、その名の通り多種多様の実弾系重火器を装備している。直接身体に装備ではなく、事前に装備したアタッチメントを介して装備する。

生み出す火力は鉄血大部隊を一瞬にして壊滅する程。また装備の重量により機動力低下を塞ぐために脚部には無限軌道ユニットを備わっているといった徹底ぶり。しかしこの程度の重量はノーネイムにとってさして苦になる事はなく、これらがなくても動く事が出来る。またマギー・ハリスンによる魔の技術が使用されており、特殊機構が備わっている。

 

多連装六銃身ガトリングガン「ジェラシー」

:主兵装。極めて高い連射力を持った武装で、二丁装備する。

 

マルチウエポンユニット「ヘイトリッド」

:背部ユニットに装備された円柱型の武装。二基存在し上部は機関砲が、下部には八銃身型ガトリングガンを内蔵した複合火器。使用時には自動的に分離し展開。手数を増やす事が可能。

 

武装コンテナ

:背部ユニットのアームを装備された大型ミサイルコンテナ。前面、後面、側面、上面に発射口が存在し一つの面に付き六ヶ所発射口が存在。一つの発射口にミサイル四発を内蔵している。

 

脚部ミサイルポッド

:両脚に装備したミサイルポッド。

 

追加ミサイルポッド

:脚部のミサイルポッド側面に追加されたランチャーポッド。

 

無限軌道ユニット

:重量による機動力低下を補う為に脚部に装備したユニット。

 

特殊機構「My grudge becomes a bullet」

:ジェラシーとヘイトリッドを用いて敵に攻撃を命中させると、それをエネルギーに変換し弾薬を作り出す魔工製特殊機構。この機構により半永久的に戦闘継続させることが可能。

 

フルウエポンバースト

:武装というより技。装備されている全武装を用いて、敵に集中砲火を浴びせる。

ただしミサイルも全弾放つ為、噴煙による煙まみれになり視界を遮る危険性もあるので行う場合は注意が必要。



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Act-archive page8

処刑人

:鉄血のハイエンドモデル。現在はS10地区前線基地独立遊撃部隊に所属。

S09地区にて魔界の寄生虫に寄生され暴走。仲間や同じハイエンドモデルである狩人を攻撃。後に地獄門を起動させた後にそこから現れた霊体と化したフリージング・アンジェロに体を乗っ取られた。後に鉄血のハイエンドモデルである狩人からの依頼を受けたギルヴァと激闘を繰り広げ、寄生された右腕と霊体であったフリージング・アンジェロを斬り落とされた後にS10地区前線基地に運ばれた。

目覚めた当初は自身が狩人を手をかけてしまった事を覚えており「このまま殺してくれた方がマシだ」と口にしていたが、ギルヴァから事の顛末を聞いていた代理人から全てを聞かされ涙する。後にシーナの計らいよりS10地区前線基地に身を置く事になり、後方幕僚兼魔工職人であるマギーから対悪魔用戦闘義手「デビルブレイカー」を受け取る。「Act82 Executioner」にてマギーが初めて作り上げた魔剣を譲渡されるのだが…。

「Act83 New power」で接続が甘かった事が原因で義手が外れてしまった時に、悪魔の様な右腕が生えている事が発覚する。マギーによれば自身が託した魔剣が本来の力を解放し、使用者の不足している部分を補うという特性を有しており、それで右腕で作り上げたとされる。

また右腕を介して処刑人の全身に魔力が通っており、これにより彼女も悪魔と戦える力を得て、人形と魔のハイブリッドと言った特殊な人形となる。

鉄血のハイエンドモデルを自由にしていては不味いという事もあり独立遊撃部隊に所属。

実力面ではギルヴァやブレイクと比べると劣るが純粋なパワーだけなら二人を超えるパワーを有している。

ギルヴァから返却された機械剣「クイーン」とマギーから譲り受けた太刀状の魔剣「狩人」、悪魔の右腕「デビルブリンガー」及び対悪魔用戦闘義手「デビルブレイカー」を駆使して戦う。

また本人としては銃もあればと思っているらしい。現段階では銃を所持していない。

 

 

シーナ・ナギサ(3)

:S10地区前線基地を統べる若き女性指揮官。黒髪がとても美しい女性であり、悪魔が関わる案件を経験し大きくとは言えないがそれなりに成長している。

ある理由でMG4が人権保護団体過激派基地に囚われていると知った時は自身も戦場に出るといった大胆さも見せた。同時に敵に対して一切の情を見せないと言った修羅の部分を見せ、襲ってきた敵に何ら躊躇いもなく撃ち殺していた。本気でキレた時は口調までその変化が見られる。

普段はお菓子作りが得意で、その腕前は職人級。また心を有した悪魔や行き場を失った処刑人を迎え入れるなどと言った優しさ溢れる所も有している。

またその外見からは予想できないが、プロレス技が得意という意外な一面もある。

 

 

クイーン

:以前まではギルヴァが使用していたが、処刑人がS10地区前線基地に身を置く事になり、ギルヴァから処刑人へと返却されている。当初こそは扱い切れずにいたが、今ではそれなりに扱えている模様。

推進剤噴射機構や推進剤噴射機構を全段階まで解放する「Max.Act」はそのまま残っている。ギルヴァからの依頼で新たなクイーンが製作されるが、そちらはある基地へお詫びという形で送られた。

 

 

狩人

:マギーから譲り受けた太刀状の魔剣。ギルヴァが愛用する「無銘」以上の長い刀身を有している。

マギーが初めて作り上げた武器であり、欠陥を抱えていた。斬る事が出来ないという武器としての致命的な欠陥を抱えており、マギーがまだ魔界にいた時は周囲から欠陥品と揶揄されていた。最初の内は自身が初めて手掛けた作品を「欠陥品」と認めたくない一心であったが、精神的に追い詰められた彼女は何時しか「欠陥品」と認める様になっていた。しかしこの太刀は決して欠陥品ではなく、マギーでさえ知らない内に意思を有しており製作者が託してもいいと決めない限り本来の力を解放しないという条件を自ら課していた。その事が原因で斬る事が出来なかったとされる。後にS10地区前線基地に身を置く事になった鉄血のハイエンドモデル 処刑人に託され力を解放。自身を扱う者の不足している部分を補うという特徴を有しており、後に「デビルブリンガー」と言われる悪魔の右腕を太刀の魔力だけで創り上げた。

処刑人から「狩人」と名付けられており、自身を支えてくれた戦友の事を忘れたくないという思いからそう名付けられた。未だに謎が残る魔剣であるが、処刑人の支えになっているという事は誰もが分かる事であろう。

 

 

デビルブレイカー

:マギーが開発した対悪魔用戦闘義手の総称。

様々な機能を積んだ義手であり、汎用的な義手もあれば、特殊機構を積んだ義手も存在する。

それぞれの義手には潜在能力を有しており、その能力は義手によって異なる。また潜在能力を一度解放すれば耐久性の問題もあって壊れてしまうが、戦闘中に攻撃を受けても壊れてしまう。

扱いの際には大胆かつ繊細に扱う必要がある。

現在明らかになっているのは二つである。

 

 

ブリッツ

:汎用的な性能を持ったデビルブレイカー。放電機構を内蔵しており、敵に目掛けて電撃を与える。

電撃もかなりの威力を誇り、下級悪魔程度なら一撃倒す事が出来る。潜在能力は不明。

 

 

ガーベラ

:移動補助を主としたデビルブレイカー。複合式反射炉を内蔵しており、五本の指を介して衝撃波を放つ事が出来る。また衝撃波の反動を活かして即座に移動する事も可能な他、敵の遠距離攻撃を弾き返す事も可能。

潜在能力は複合式反射炉が生み出すエネルギーを利用し、極太照射レーザーや跳弾及び貫通するレーザーを放つ事が出来る。

 

 

デビルブリンガー

:太刀状の魔剣「狩人」が作り上げた悪魔の右腕。処刑人の支えとも言えるものである。腕を飛ばして相手を引き寄せたり、またはそのまま鹵獲。普通に持ち上げる事が不可能な物でも持ち上げ投擲、右腕から発せられる魔力を剣に流し込んで魔力で形成された斬撃を飛ばす等、多種多様な使い方が出来る。また右腕は狩人を格納する為の機能を有しており、基本狩人は右腕に格納されている。

処刑人が悪魔と戦う為の力を与えており、右腕を失うような事があれば処刑人も普通のハイエンドモデルへと戻る。またデビルブレイカーを使う際には右腕自ら幽体化するといった機能も持ち合わせている。



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Act-archive page9

Act84~Act104の間で登場及びキャラの更新です


シーナ・ナギサ(4)

:S10地区前線基地を統べる若き女性指揮官。

歳は18でありながら悪魔が関わる案件、様々な出来事を通して大きく成長を果たしているが、「Act85 True End」にて修羅の片鱗を覗かせる時もあった為、どこか危うさも秘めており本気でキレた時は口調にも変化見える程。

普段は年相応の反応を見せ、笑顔を絶やさない。趣味はお菓子作りであるがその腕は職人級。

「Act104 Geryon」で時を操る力を持つ悪魔で仔馬の姿をしたゲリュオンを発見。時を操る力に驚きながらも仲良くなろうとお手製クッキーをゲリュオンに差し出している。

後にゲリュオン自ら姿を変え、懐中時計型の魔具「quick silver」を得ると使いこなす為に日々練習に励んでいる。扱いに関してはギルヴァの中に存在する蒼曰く「センスがある」との事。

状況によっては銃を手に戦場へと赴く事もあり、その際利用している銃はH&K MP5とM92Fである。

 

 

ノーネイム(2)

:S11地区後方支援基地を舞台に行われた「operation End of nightmare」のちに基地地下にて発見された鉄血のハイエンドモデル。人形と思えぬ美貌を有し冷静な性格も相まってどこか氷の様な印象を抱く。

内部骨格に魔の力を有しているがそれを抜きにしてもパワーだけなら代理人を圧倒する。

人権保護団体過激派基地では専用武装「ラヴィーネ」を使用し、アルケミスト襲撃では専用武装「パトローネ」を纏い、その圧倒的火力を用いて敵の迎撃に当たった。

本来の名前だけが何らかの要因で失われている為、自ら「ノーネイム」と名乗っているが、本当の名前はアンダーテイカー(葬儀屋)。しかしそれを彼女が知る事はない。

 

 

錬金術士

:裏切り者である代理人、処刑人の始末をする為にS10地区前線基地を襲撃した鉄血のハイエンドモデル。

最初こそは混乱に乗じて優位に立っていたがブレイク、代理人、処刑人、フードゥルによってダミーが倒され、ギルヴァと死闘を繰り広げるが戦闘の最中に騎士の姿をした何者かに襲撃を受ける。

それが夢想家からの送られた援軍である事を理解しつつも攻撃を受けた事に彼女は組織から切り捨てられた事を悟り、第三勢力を排除した後に彼女は夢想家に真意を問う為に行動した。

愛用するジャマダハルの一つをギルヴァによって破壊されてしまい武器を必要としていた錬金術士は雨の降るS10地区で出会った武器屋を経営している店主から「ストライカー12」と「M79 グレネードランチャー」を譲り受ける。

後に夢想家が身を置いているであろう拠点に向かって行く道中で同じく組織から切り捨てられた鉄血のハイエンドモデル「侵入者」と行動を共にする様になる。

 

 

侵入者

:S10地区とは別の地区で行動していた鉄血のハイエンドモデル。

彼女もまた切り捨てられた一人であり夢想家から送られてきた赤い竜に攻撃を受ける。

辛うじてその場から逃げ出しており、後に錬金術士と合流を果たし共に行動

錬金術士と共に行動する前は放浪していたらしく、偶々寄った廃屋で見つけた酒を飲み、その味に惹かれた事により酒を好む性格となった。錬金術士と再会を果たした時は酒を勧めた程。

一番好きなのはウイスキー。ロックにして飲むのが彼女の好みらしい。

 

謎の騎士

:錬金術士がS10地区前線基地を襲撃し、ギルヴァと死闘を繰り広げている際に突如現れた謎の騎士。

剣を装備したタイプと大型ランスを装備したタイプが存在している。

どういう訳か中身は存在しておらずギルヴァ達によって倒されると何もなかったように消失した。

 

 

赤い竜

:夢想家が侵入者の援軍の為に送った謎多き竜。

侵入者の元に送られた時は敵味方関係なく暴れ出し、周りの敵を殲滅した。

その戦闘能力は非常に高く、決して侮れない存在。

 

 

ラヴィーネ

:ノーネイムの第二専用武装。 「Act84 Confusion」にて実戦投入された。

パトローネが地表での砲撃戦を得意としているに対し、ラヴィーネは空中戦を得意とする。

銃剣と盾を組み合わせた複合武器、肩部装甲側面に取り付けられた可動式大型砲、高速移動時に変形する背部ブースター、ブースターに取り付けられた分裂式ミサイルを発射するミサイルポッドを装備する。

一見見れば完成している様にも見えるが実は未完成で、リヴァイアサンの試験運用が行われたと同時に本来の姿を得た。

リヴァイアサンと合体を想定されており両機が合体した名称は「レヴィアタン」と名付けられている。

ラヴィーネはラテン語「雪崩」を意味し、それを現す様に装甲は白銀に染められている。

 

武装

 

:複合型携行火器ガンブレード

ラヴィーネの主兵装。銃、剣、盾を合体させた武器であり両手に装備する。

基本はブレード形態。射撃時にはブレードの中央のスリットが展開し、射撃形態へと変形する。

 

:肩部大型レーザー砲

肩部装甲側面に取り付けられた大型砲。主兵装である「ガンブレード」とは形状が似ているが別物。

主兵装と比べると威力に秀でているが大型故取り回しが悪いという欠点を抱えている。

 

:ミサイルポッド

背部大型変形式ブースターの両端に装備したミサイルポッド。

ミサイル内部に小型ミサイル7基内蔵しており、発射から一定時間経った際に自動的に展開し小型ミサイルを放つ仕様となっている。

 

:肩部可動式バインダー

リヴァイアサンが完成したと同時に装備されたラヴィーネの本来の装備。

肩部装甲上部の取り付けられており、バインダー先端にバルカン砲を内蔵しているが使用する際は後方を向いているバインダーを前方に向ける必要がある。

 

:背部連装レーザー砲

背部ブースターのテールスラスターの横に取り付けられたレーザー砲。肩部の物と比べると小型。

砲身をスライドさせ前方に展開させる事で発射形態を取る。

 

 

リヴァイアサン

:S11地区後方支援基地に密かに存在していた地下でノーネイムと共に眠っていた大型機動兵器。

その実はマギーが、マキャ・ハヴェリと名乗り魔界にいた頃に考案し、設計図だけの存在であった。

しかし様々な事情が絡みS11地区後方支援基地を悪魔の巣靴へと変えた悪魔であり魔工職人 アグリットがその設計図を盗み出してしまう。ギルヴァ達に発見された当初は未完であったがほぼ完成の域にあった。

S10地区前線基地へと持ち込まれた後、本来の開発者であるマギー・ハリスンの手によって完成し、そしてノーネイムの第三専用装備として運用される事となった。

高い機動性と運動性を持ち合わせ、元々拠点攻撃用として考案されていた為搭載している武装のほとんどが超一撃級。

移動に特化した巡航形態と攻撃に特化した形態「アサルトモード」といった変形機構も兼ね備えており、またその防御力は並みの攻撃では傷一つ付かない程。

一部では「決戦兵器」として運用されると予想されていた。

その理由としては運用の際に消費される資材が馬鹿にならないと言われていたが、それすらを見越していたのかマギーはノーネイムの専用装備「パトローネ」に搭載されている特殊機構をリヴァイアサン用に規格を合わせたものを搭載させており巨体に似合わず意外と資材に優しい兵器といった仕上がりになっている。

 

 

アニマ

:処刑人の愛用する大型特殊リボルバー。

バレルが二つ、弾数が12という点はギルヴァが愛用するレーゾンデートルから継承されているが、ベースとなった銃はトーラス レイジングブルとなっている。

銃を必要とした処刑人が借金してまでマギーに製作して貰った銃。与えられた名、アニマとはラテン語で「伊吹」を意味する。

 

 

クイックシルバー

:白銀色に輝く懐中時計型の魔具。

ゲリュオンの持つ時を操る力を有しており、敵だけを、または全ての時間を遅くさせることが出来る。

シーナと出会い、そんな彼女に「この世界を生きて欲しい」と時を操る悪魔「ゲリュオン」が姿を変えた魔具。シーナの手に渡り、心強い味方として彼女を支えている。



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Act-archive page10

Act105~Act122までのキャラ及び更新です


ギルヴァ(6)

:便利屋「デビルメイクライ」のオーナー。

青い刺繡が施された黒いコートを羽織り、日本刀状の魔剣「無銘」、特殊大型リボルバー「レーゾンデートル」を駆使しその身に悪魔の血を流しながらも悪魔を狩るデビルハンター。

「Act107 Encounter with the past」にてAR小隊のメンバー M16が撮影した「赤い竜」を見て、失われていた自身の記憶の一部を思い出す。

それは血の繋がりがなくとも妹の様に接してきたカエデの本来の最期であり、彼が覚えているカエデの最期とは全く違うものであった。

自身の記憶がかつて暴走した事により記憶の一部が抜けていた事、残っていた記憶がごちゃ混ぜ状態にあり、それを本当の記憶だと勘違いしていた事を悟る。

「Act112 When returning the answer」にてUMP45、代理人に加えHK416、95式と結婚を果たした。

 

 

ブレイク(2)

:便利屋「デビルメイクライ S10地区第一支店」のオーナー。

赤いコートを羽織り魔剣「リベリオン」大型二丁拳銃「アレグロ&フォルテ」を駆使し、ギルヴァと同じくその身に悪魔の血を流しながらも悪魔を狩るデビルハンター。

悪魔によって殺されたと思っていた人形 OTs-14と再会を果たした。流石の彼も驚いていたが同時に再会できたことを密かに喜んでいた。

因みに彼はグローザの事を「ローザ」と呼んでいる。それは彼女が民生用人形だった時の名で、戦術人形へと使用変更したも尚、彼女をその名で呼んでいる。

 

 

処刑人(2)

:元鉄血所属。現在はS10地区前線基地「独立遊撃部隊」に所属。

悪魔の右腕を持った特殊な人形。

「Act116 Give sanctions Ⅲ」にて魔界の戦士 ボルヴェルクとの戦いで新たな力が覚醒。

ギルヴァやブレイクが持つ「デビルトリガー」を習得した。

彼女の場合は二人の様に姿が変わるのでなく、発動時は背後に青白い魔人が現れ、その姿はどことなく逝ってしまった鉄血のハイエンドモデル「狩人」に酷似している。

 

 

錬金術士&侵入者(2)

:組織に切り捨てられた鉄血のハイエンドモデルたち。

事の発端である夢想家に真意を尋ねるために、彼女が居る拠点に侵入した。

夢想家の口から真意は語られなかったが、後に現れた謎多き女「ダレン・タリオン」によって夢想家の狙いを知らされる。

ここまでやってくれた夢想家に仕返しをする為に鉄血と敵対する道を選んだ二人はダレン、そして大鎌を振るう謎の少女「ルージュ」と共に行動。

 

 

ダレン・タリオン

:グリフィン本部直属諜報部所長。着物を着こなし、普段から煙管を咥えている。

謎多き女性であり、電子戦を得意とする、かつてある組織に所属していた、その組織を壊滅させるために行動している、そして「十の顔を持つ悪魔」と呼ばれる悪魔「ダンタリオン」である事が判明している。

味方を切り捨ててまで何かをしようとしている夢想家の狙いを知る一人である。

 

 

ルージュ

:ダレンと共に行動している少女。ブレイクがS10地区へと向かっている所を見ていた名も無き少女時代と比べると髪の色が赤から白と赤のグラデーションが掛かっていた色になっていたり、カタコトであった口調は流暢なものへと変化している。

頭にヘッドギアの様な物を付けているがこれは頭に生えた角を隠す為のもの。

基本敬語で話し、丁寧に接し心優しい少女。どこで手に入れたのかヘル=バンガードの大鎌を駆使して戦う。

ギルヴァと何らかの関係があるとされるのだが詳細は明らかになっていない。

 

 

赤い竜(2)

:ギルヴァに何らかの関係があるとされる存在。

色は違えど姿こそはかつて暴走し魔へ化したギルヴァと同じ姿をしているのが明らかになった。

 

 

ドールフィニス

:「Act114 Give sanctions Ⅰ」にて登場。

人形売買組織の基地を脱走しようし失敗とした人形達の末路。皮膚は剥がされ内部骨格だけにされた後、人型の檻に閉じ込められると基地の外に見せしめと言わんばかりに吊るされていた。

シーナ達が人形売買組織を襲撃した際に動き出して攻撃、彼女達を苦しめた。

 

 

ドーロ・ウォーリア&ネーロ・ウォーリア

:「Act116 Give sanctions Ⅲ」「Act117 Give sanctions Ⅳ」にて登場した日本の武者の様な甲冑を纏った悪魔達。

敵対したブレイクを数で倒そうとしたが、逆に彼に倒された。

その正体は人形とされているが詳細は分かっていない。

 

 

ヘル=マザー&ヘルズ=ヘブン

:「 Act118 Give sanctions Ⅴ」「Act119 Give sanctions Ⅵ」にて登場。

現代科学と魔術によって生み出された修道女の姿をした悪魔で大鎌を扱う。ギルヴァと戦闘を繰り広げたが、彼の圧倒的な力に押され、世界と世界を繋ぐ魔具「写されし異界の鏡」を使って異世界へ逃亡。

異世界先でダメージを受け過ぎた事が原因で魔力が暴走し、「ヘルズ=ヘブン」へと変貌。

追ってきたギルヴァ達によって討伐された。

 

 

ヘル=チルドレン

:「Act119 Give sanctions Ⅵ」「Act121-Extra Coffee time after hunting Ⅱ」にて登場。

ヘル=マザーに呼び出された悪魔で、チルドレンの名にそぐわず巨漢で片腕が武器と化している。

一体目はギルヴァに始末されたが、異世界先でも彼に討たれた。

 

 

ヘル=アーマイゼ

:「Act121-Extra Coffee time after hunting Ⅱ」にて登場。

変貌したヘルズ=ヘブンによって生み出された蟻の姿をした悪魔。

戦闘力は高くないが、それを補う様に数で攻めてくる。



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でびふろっ!
でびふろっ!ぺーじ いち!


番外編みたいなやつでございます。
なので頭を空っぽに、何も考えずお読みくださいませ


[動かないなら…]

 

 

それは処刑人と呼ばれていた彼女がネロという名前を与えられた後の日の事。

基地の指揮官であるシーナから任務を任されUMP45が小隊長を務める404小隊とM4A1が小隊長を務めるAR小隊と共にネロはS10地区から遠く離れた場所まで訪れていた。

そこは誰も住んでおらず、瓦礫と廃墟だけが残った今は名も無き街。

人一人訪れる事の無いそんな街に訪れた訳だが、当然そこには理由がある。

この辺りで鉄血が行動している噂が浮上しており、その調査に彼女達はここに訪れていたのだ。

 

(…気まずい)

 

そう言った理由から大通りを徒歩で移動している集団の後方で歩いていたネロはやりづらそうな表情を浮かべ、胸の内でもそう呟いた。

任務中という事もあって部隊の雰囲気が決して楽しい雰囲気ではない事は当然なのだが、それ以外の何かをネロは感じ取っていた。

そしてその何かが何処から出てきている事も分かっていた。

 

(…この二つの小隊に何かあんのだろうし、それに…)

 

今の名を与えられる前、ギルヴァに連れてこられる前は敵対していた身。

それを分かっている事もあって気まずさを感じられずにいられなかったのだ。

 

「はぁ…」

 

ギルヴァやブレイク、ルージュらが居る時ならそんな事を考えずに済んだもの。

何で自分まで呼ばれたのかと、ネロはその思いと共に小さくため息をついた。

 

「なぁに、ネロ。何か不安でもあるの?」

 

小さくため息をつもりだった筈が、それはネロの前を歩いていたUMP45の耳に聞こえており、話しかけられていた。

そして沈黙が包まれていた部隊の行動が45の声によって、一斉に止まり視線がネロへと向けられる事となってしまった。

更に気まずくなってしまった事にネロはさらに左手を額に宛がった。

 

「なんでもねぇよ。ほら、さっさと行こうぜ。この辺りに奴らの気配もねぇからな」

 

そしてこの雰囲気が早く抜け出したかったからか、ネロは集団の合間を縫いながら敵が居ない事を伝えた。

そのまま集団を抜けようとした時、M4A1が彼女の行く手を遮る様に立ちふさがった。

 

「…なんだよ」

 

決して不機嫌ではないものの、元の性格もあってかネロはまるで機嫌が悪そうな声を出した。

しかしM4がそれで怖気る訳もなく、彼女はネロの顔を見つめながら口を開いた。

 

「敵が居ないってどういう事…?」

 

「ああ、その事か。…こいつのおかげだよ」

 

そういってネロは今回装備しているデビルブレイカー、ガーベラを取り外して幽体化していたデビルブリンガーを出現させた。

現れた悪魔の腕に一瞬だけぎょっとするM4だが、ネロがそれに気付く事もなくデビルブリンガーを見せつけた。

 

「悪魔の気配以外にも敵の気配を探知する様になってるみてぇでな。こいつが全く反応しねぇから、この辺りに敵が居ないって判断してんだよ」

 

「…信用できるの?」

 

「俺は信用しているぜ?なんせこいつは俺を支えてくれているからな。まぁ信用出来ねぇならそれでもいい。無理に信じてもらおうなんて思ってもねぇからな」

 

外していたガーベラを再び装着してネロはM4の横を通り過ぎる。

そのまま調査を進めようとするも目の前に現れたものを見て彼女は舌打ちした。

 

「可動橋か。こりゃあ見事に道を塞がれてんな」

 

ネロの隣に並び立ったM16A1が言う通り、橋は天を向く様に上げられたままだった。

どれ程の間この状態が保たれていたのかは分からない。

だが橋を動かさない事には先を進む事が出来ない事はその場にいる誰しもが分かる事であった。

 

「俺が制御室に行ってくる。周りを頼んだぜ」

 

「お、おい!」

 

早くこの状況から抜け出したい一心で可動橋の制御室へ向かう事を告げるとM16の制止に耳を貸す事もなくネロは制御室へと歩いていった。

階段を上がり、制御室へと足を踏み入れ制御装置の前に立つ。

いつからこの状態が続いているのか分からない。だが幸運と言うべきか電力は通ったままであった。

そのまま各所のスイッチやらレバーを上げていくネロ。

だが可動橋の橋が降りる様子はない。

イラついた様子でボタンを連打するもそれでも橋が動く様子はなかった。

 

「ポンコツが!」

 

八つ当たりに制御装置を叩くも橋が動く事は無い。

苛立った様子で制御装置に背を向け、その場から去ろうとするネロ。

だがその直後ホルスターに納めていたアニマを引き抜き振り返ると同時に制御装置に向けて発砲。

二つのバレルから放たれた二発の銃弾が制御装置に風穴を空けるとざまぁみろと悪い顔を浮かべながらネロは歩き出した。

だがその行いが良かったのか、制御装置が爆発。そのまま黒煙を上げた瞬間、装置が起動し上がっていた可動橋の橋がゆっくりと降ろされ始めた。

それにより道は開かれネロは彼女達と合流。後に銃声を耳にしていたUMP45から何故撃ったのかを問われ、彼女はこう答えている。

 

「気になったらぶっ叩くかぶっ壊せってな。ブレイクの教えさ」

 

どうやらネロという彼女も取り敢えずぶっ壊すという悪魔狩人流のやり方に染まってしまっている様子であった。




動かないならぶっ叩け。
DMCシリーズでは良くある事でございます


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でびふろっ!ぺーじ  に!

本編が少し行き詰ったので、でびふろっ!という名の番外編を投稿です


もくじ【お蔵入り】

 

マギー・ハリスン。

S10地区前線基地後方幕僚を務める見目麗しき女性。

しかしその実は人間に扮した悪魔であり、魔界では伝説の魔工職人、マキャ・ハヴェリとして有名であった悪魔である。

このS10地区前線基地で多くの作品を作り上げ、そしてその一部の作品を知り合いの基地に送ってきた彼女は珍しくギルヴァがオーナーを務める便利屋「デビルメイクライ」に顔を出していた。

特に依頼をしに来た訳でもなく、優れた能力を有しながらもギルヴァの妻であり、裏では自称受付嬢と名乗っているシリエジオが淹れるコーヒーをもらいに来ただけであるのだが。

 

「はぁ~…美味しいですねぇ…。スプリングフィールドが淹れたコーヒーも素晴らしいですが、こちらもこちらで美味しいです」

 

来客用のソファーに腰掛け、幸せそうな表情を浮かべるマギー。

その表情につられて傍に立っていたシリエジオも笑みを浮かべる。

和やかな雰囲気に包まれた時、マギーは書斎で静かに本を読んでいたギルヴァを見て、ふと何かを思い出したかの様に口を開いた。

 

「しかし渡した幻影があそこまでに至るとは。本人の意思、力もありますが…いやはやデビルトリガーにならぬ、イグナイトトリガーを身につけるとは思いませんでしたねぇ」

 

「…」

 

「しかし貴方が幻影を渡していて正解でしたね。私が彼女の為に専用の武器をお渡ししていたら、恐らくあの力が発現することなどなかったでしょうから」

 

「ほう?」

 

その台詞にギルヴァは読んでいた本を閉じ、興味深そうな声を上げた。

自身が気まぐれで彼女に武器を渡した訳であるが、マギーも武器を渡そうとしていたとは思わなかった。

もし自分ではなく、マギーだった場合と思うと興味を示さない方がギルヴァにとって無理な話だった。

 

「どのようなものを渡す気でいた?」

 

「そうですねぇ…。種類で言うのであれば魔剣みたいなものです。とは言ってもそれは再現であり、そこに私独自の機能を持たせたものですけどね」

 

「再現…元となったものはあるみたいだな?」

 

「ええ。魔界ではごく一部しか知りません。何せ魔界のどこを探しても見つからない上に、その魔剣は悪魔が振るう事は想定されていませんから」

 

「なんだと?」

 

魔界のどこを探しても見つからない。そして魔剣でありながら、悪魔が振るう事は想定されていない。

その事がマギーの口から告げられるとギルヴァは眉を顰め、静かに話を聞いていた代理人は少々驚いた様子を見せていた。

 

「人を愛する心…そして力。その二つを持ち合わせた者ではない限り、それは力を与える事はしないと言われていました。その魔剣の名こそは忘れてしまいましたが…機能面ではとても興味をそそられましたね」

 

「仕掛けがあったというのか」

 

「ええ。基本形態の大剣、そして大鎌、槍と三つの形態に変形可能だったらしいです。様々な状況に対応でき、咄嗟に変形させ敵の不意を突くといった使い方も出来るとか。あの娘の近距離戦闘の能力の高さ…彼女なら上手く使えこなせるかもしれない。また協力してもらう時…強力な悪魔とも一戦交える事もありましょう。渡り合える様にするためにそれを再現しようと考えていたんですよ」

 

「すまなかったな」

 

考えを台無しにしてしまったという事実。

気まぐれで刀を送った張本人であるギルヴァは素直に謝罪した。

 

「お気になさらず。まぁ設計段階で重量が相当なものになる事が分かりましたからね、結果的にはお蔵入りしました。幻影をお渡しして正解だったと思いますよ」

 

「そうか」

 

もしも。

幻影ではなくマギーが作り出そうとしていたものが彼女に渡っていたら、得た力は違っていたかも知れないだろう。

だがギルヴァは気付いていた。

あの時の戦場で僅かに彼女の気配を感じられなくなったのを。

それが何を意味していたのかも分かっていた。

 

(今度はフードゥルに似たもので作るか…?)

 

―ただでさえ人形ってのをほぼやめてんのにガチで止め刺す気かお前は!?それにお前の技は人形ができるもんじゃねぇからな!?

 

(…そうか)

 




どうやらマギーも考えていた模様です…


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でびふろっ!えくすとら!いっぱつめ!

─悪魔狩人達の銃達の異世界旅行─

※話の順番を設定せずにそのまま投稿してしまった為、一旦削除し設定し直してから再び投稿させていただきました。
ご迷惑をおかけして申し訳ございません。


それはとてもとても不思議な物語。

黒き外套を見に纏い、神速の如く刀を振るう悪魔狩人が主役でもなく、赤き外套を揺らめかせ反逆の名を冠した大剣を振るう悪魔狩人が主役でもない。

ましてや復讐者だった少女でもなければ、悪魔の右腕を持つ人形でもなく、多彩な重火器を振るう人形でもない。

今回の主役…それは彼ら、彼女らを支えてきた『銃』達だ。

 

 

陽が沈むと橙色に染まっていた空は黒へと染まる。

後一時間で日付が変わろうとしている星空で彩られた空の下。

S10地区前線基地隣接店である便利屋「デビルメイクライ」本店の明かりは既に消えていた。

店で住んでいる者達は各々の部屋で静かな寝息を立て、店主であるギルヴァもまたベッドに寝転がり、静かに眠っていた。

ベットの傍には日本刀状の魔剣 無銘。そしてテーブルの上には、ある銃が置かれていた。

かつての姿を有していた時にギルヴァと出会い、使用頻度が多い訳ではないが彼を支えてきた銃。

銀色に染め上げられた二つのバレルに十二発装填可能という特殊回転弾倉。

そして装填される弾丸は13mmという常識外ともいえる特殊大口径弾。

またほぼ二発同時発射するという機構を有している事と使用する弾丸の問題もあって、発射時の反動は何かに固定して発砲しなくてはならない程反動が凄まじく、また大型という事もあって凄まじい重量を誇る。

その為この銃は人間ではおろか、人形ですら扱う事は不可。最初で最後の主であるギルヴァが使ってこそ、存在意義と銘打たれた銃は真価を発揮する。

ただこの銃は元から二つの銃身及び十二発装填可能な特殊弾倉、同時発射機構を備えていた訳ではない。

ギルヴァと出会った時は銃身は一つであり弾倉も六発までしか装填出来なかった。

既存のリボルバーとの違いを上げるとするのであれば、13mm弾を使用する為に大型化しているぐらいで紆余曲折あって現在の姿を得たのだ。

その姿を得た事により、後輩が存在する事になり、一つはマギーが気まぐれで製作した銃を、とある作戦の報酬として送られた一丁と本銃の特徴的な部分を継承しつつ使用する弾薬の変更及び経口の変更。扱いやすさを取り入れたそれは『アニマ』という名でかつては処刑人と呼ばれていた彼女の元へと渡っている。

そしてその二丁の銃の先輩とも言えるのが、銃声を声代わりとして自らの存在意義を問い続ける銃…『レーゾンデートル』であり、その銃が机の上に置かれていた。

当然ながらレーゾンデートルという戦術人形はこの世には存在しない。故にこの銃は喋る事もない。

静寂に包まれる室内。眠る様に机の上に横たわるレーゾンデートル。

時計の長針と短針が12の所で重なり合ったその時、薄っすらとレーゾンデートルが光に包まれた。

次の瞬間、レーゾンデートルを包んだ光はギルヴァが居る部屋から姿を消した。

外へと飛び出し、どこかへ導かれる様に光は街中を駆け抜け、大通りから路地裏へと入る。

迷路の様な路地裏をまるで分かっているかの様に光は闇に包まれた路地裏を駆け抜ける中、突如として何かが前を塞ぐ形で姿を現した。

風で月を遮っていた雲が流れて行き、月光が地上を照らす。それは路地裏まで照らし闇を払いのけ、その何かを照らした。

そこにあった等身大のサイズの『鏡』。

装飾を施されたその鏡は何故か意思を有しているかの様に自立し僅かながらに宙を浮いていた。

そしてこの場にギルヴァ、ブレイク、シリエジオ、ネロ、シーナ、ノーネイムが居たらその鏡の正体に気付いていたであろう。

その鏡には名前があるのだ。

『映されし異界の鏡』という名前が。

そしてそれは魔具。世界と世界を繋げる力を有したとんでもない代物なのだ。

だが光は止まらない。それどころか迷う事無く異世界にあるどこかの『路地裏』を映し出す鏡の中へと飛び込んでいったのだ。

レーゾンデートルを包んだ光が鏡の中に飛び込んで数秒後も、何処からともなく複数の光が姿を現し先程と同じく鏡の中へと飛び込み、姿を消していった。

 

 

そこは薄暗いが上を見上げれば青々とした空が広がる路地裏。

あまり人が立ち寄らない小さな袋小路に少女が一人。

気絶しているのか、傍には宙に浮かぶ魔訶不思議な鏡の傍で彼女は倒れていた。

 

「…っ……」

 

目を覚ましたのか、少女はゆっくりと体を起こす。

雪の様に白い肌。すらりと伸ばされ、透き通るような銀髪。整った顔立ち、華奢な体つき。

丈の短い白のワンピースの上から羽織るのは裏地に青色の刺繍が施された黒いコート。

まるで鎧の様な質感を感じさせるブーツ。

そして腰のホルスターには銀色に輝く巨大なリボルバーが収められていた。

 

「…ここ、は…?」

 

周りを見渡しながら彼女はふと呟く。

目は閉じているにも関わらず周りをしっかりと捉えている様子。

座り込んでいた場所から立ち上がり、衣服に着いた土埃を払い落す。

その時、彼女はある事に気付いてしまい、土埃を払い落していた手を止めてしまった。

グローブをはめた手を見つめながら、どことなく驚いている表情を浮かべる。

 

「何故…」

 

何に対しての問いなのか。

それは彼女だけにしか分からない。だが彼女は何かを思い出し素早くホルスターに収めてある銃を抜き取る。銀色に輝く巨大なリボルバー…レーゾンデートルを見て驚きから確信した様な表情へと切り替わった。

 

「私は人になっている……?」

 

存在意義。

その名を与えられた銃はつい先程まで銃の姿をしていたにも関わらず、何故か人の姿となって異世界に迷い込んでいた。

それもその世界はかつて自身の主が訪れた平和な世界であり、例の喫茶店がある世界という事を若干混乱気味のレーゾンデートルが気付く筈もなかった。

 

一方、その頃…。

そこはかつて異世界からやってきた悪魔狩人達が訪れた地区ではなく、遠く離れた地区。

そんな地区にある大通りの歩道を歩く二人の少女がいた。

一人は長く伸ばした黒髪に金色の瞳。黒を基調とし、所々に金の装飾を施したコートを羽織っていた。

もう一人はセミロングで透き通るような銀髪を揺らし、金色の瞳を有していた。白いコートに金色の装飾が施されたコートを羽織っている。

髪型、髪の色、着ているもの以外はもはや双子ではないかと思わせる程同じ顔つき、同じ体つきをしていた。そしてコートの内側に隠したホルスターに二人の色と同じ色をした銃が収められている。

黒コートの彼女の名はフォルテ、そしてフォルテの隣を歩くのはアレグロ。

どういう訳か彼女達もまたレーゾンデートルと同じくこの世界に迷い込んでいた。

 

「さてと…ここどこだと思うアレグロ?前に来た場所ってこんな感じじゃなかった気がするんだが」

 

「私に聞かないで、フォルテ」

 

「はいはい」

 

ため息を付きながらフォルテは道中で見つけたベンチにドサッと腰掛けた。

足を思い切り伸ばし、顔を空へと向ける彼女の隣にアレグロは腰掛ける。

風によって空を彩っていた雲が流れる様子を見つめながら呆然とするフォルテ。

 

「気付いたら人の姿になっていて、気付いたら"あそこ"とは違う別の地区、か…」

 

「正確には列車を利用しなくては行けない所にある地区という事ね。そしてそこへと向かう金もない。さて…どうしたものやらか」

 

無一文という事実に二人は深いため息をついた。

金など持っている筈もなく、どうやって例の場所に向かえば良いのか。

人の姿になったにも関わらず、フォルテとアレグロは途方に暮れる一方。

 

「腹が減ってきたな…糖分がほしい」

 

「私はピザね。…って食事の話はしないでよ。余計に腹が減ってくるんだけど」

 

「怒るなよ。小さい事でキレてたら、胸に栄養がいかねぇぞ?ただでさえまな板だというのによ」

 

「あ"?」

 

女性が出してはいけない声がアレグロから出てくる。

ベースとなった銃は同じだというのに、フォルテには胸があってアレグロは悲しい事に胸がない。

それはもう見ては分かる通り、平原が広がっている。

 

「…その余分な脂肪引きちぎってあげましょうか?」

 

「おー怖い怖い」

 

アレグロがキレているにも関わらずフォルテは笑みを湛えたまま肩を竦める。

その姿を見て、ほとぼりが冷めたかのかアレグロは大きくため息をつくとベンチから立ち上がった。

 

「取り敢えず移動するだけ移動してみましょ。ここでどうでもいい話をしていても埒が明かないわ」

 

「ま…それもそうだな」

 

ここで立ち止まっていても何も始まらない。

どうにかして例の場所へと向かう為の移動手段を見つける為にアレグロとフォルテは歩き出すのであった。

 

 

レーゾンデートルが路地裏で目を覚まし、アレグロとフォルテが遠く離れた地区で立ち往生している中、この二人もこの世界に迷い込んでいた。

アレグロとフォルテと同じ様に例の地区から離れた地区で目を覚ましており、二人もまた歩道を歩いているのだが、既に目的地は決まっているのか二人は駅へと目指して歩いていた。

白をベースとし、襟で口元が隠れる様な服装に身を包み、長く伸ばした銀髪を束ね、そして身の丈以上のあるであろう何かを布で包み、それを担いでいる彼女の名は『シルヴァ・バレト』

そしてもう一人の名は『アニマ』である。

黒い髪を伸ばしており、赤い瞳が特徴。

灰色のシャツの上から黒のジャケットを着崩して羽織り、ホットパンツにブーツという格好で、そして例にも漏れず腰のホルスターには黒のリボルバーが収められていた。

 

「むぅ…」

 

「まだ感じ取っているのか?シルヴァ・バレト」

 

「それもそうだろう。お礼欲しさにやった訳ではないのだぞ、アニマ」

 

駅に向かう前、シルヴァ・バレトとアニマは偶然にもトラックの荷台から重たい荷物を一人で下ろしている老人と遭遇していた。

量も量で、また老人一人では荷が重い。

その様子を見てシルヴァ・バレトが居ても立ってもいられず見ず知らずの老人を手助けしたのだ。

それを見てアニマも手伝いを申し出て、一時間は掛かる重労働を十五ッ分で終わらせる事が出来たのだが、問題はその後であった。

見慣れない出で立ち。その二人の姿を見て旅人と勘違いしたのか老人が旅の足しと称してお礼にある程度の金銭を渡してきたのだ。

無論二人はお礼欲しさにそんな事やった訳でもないので、やんわりと断ったのだがそれでも食い下がる老人にシルヴァ・バレトが折れてしまい、受け取ったのだ。

確かに列車に乗る為には金がいるのも事実。だがどことなく後ろめたさをシルヴァ・バレトは駅に向かっている今でも感じ取っていたのだ。

その様子にアニマはため息を付き、呆れた様に口を開いた。

 

「そんなのは分かってるさ。けど向こうの気持ちを駄目にすんのも悪いだろ?」

 

「むぅ…」

 

「いい加減割り切れよ。いつまでくよくよされているとこっちが滅入る」

 

それに、と前置きを呟くとアニマは頭をガシガシと掻きながら口を開く。

 

「他の連中も探さなきゃならない。レーゾンデートル(先輩)フォルテとアレグロ(あの二人)、あとペインキラーをな」

 

「分かっているとも。三人は兎も角として、一番心配なのはペインキラーだ。あいつを探すには骨が折れるぞ」

 

この場に居ない仲間の一人であるペインキラーと呼ばれる者にシルヴァ・バレトの表情に影が差す。

それを見てアニマはやれやれと呟きながら手を額に当てた。

 

「まぁ…大丈夫だろ。勝手にどっかに消える癖以外はな」

 

「…」

 

「まぁ今は列車に乗ってあの地区に行く事を考えようぜ。探すのはそっからだ」

 

「了解した」

 

まずはそこへと向かわなくてはならない。

老人からお礼として貰った金銭を片手に二人は駅構内へと足を踏みいれるのであった。

 

 

同時刻。

そこはSO9地区。とある公園で一人の少女がベンチに腰かけて静かに空を見上げていた。

白と水色が混じった様な色をした髪、黒色の髪留め、全体的に黒を基調とした学生服らしきものを見に纏っており、その上からコートを羽織るといった格好。そして腰に下げたホルスターには一丁のリボルバーが収められていた。

 

「…」

 

少女はじっと空を見上げるだけであり、口を開く事もない。

一体何を考えているのか、それが分かるのは本人のみである。

しかしベンチに十五分以上座っている為か、心配そうに見つめてくる者も居るのだが本人はその視線を気にする様子もない。

だが行動を起こす者もいる訳で、ベンチにずっと腰掛けて動かない少女の元にある人物が歩み寄ってきた。

近づいてくるその者に少女は気付いたのか上げていた顔を下ろし、そちらへと向ける。

 

「こんにちは」

 

それは偶然とも言うべきか。

少女に声をかけたのはかつてこの地区にある道路橋で起きた悪魔騒ぎに出動した人形 M4A1であった。

休日だった事もあり、例の喫茶店へと向かっていた彼女だがこの公園に人だかりが出来ていた事に気付き、事情を聞いた上で少女に話しかけたのだ。

 

「?」

 

話しかけてきたM4に対しこてんと首を傾げる少女。

座っていたベンチからゆっくりと立ち上がりながら。

意外にも少女はそこそこ身長があり、M4と同じくらいの背丈をしていた。

 

「いきなり声をかけてごめんなさい。ずっとここに居るみたいだって聞いて、それで心配になって声をかけたの」

 

「…そう。でも大丈夫。心配してくれてありがとう」

 

ぺこりと頭を下げる少女。

年相応の笑みをM4に見せると空を見上げながら、ここに居た理由を明かした。

 

「知り合いが来るのを待っているの」

 

「だからここに?」

 

「ええ。でも会う事は出来ないみたい。皆、バラバラの居場所にいるみたいだから。それも遠い所。一つは…この近くにいるのかな」

 

「どういう意味…?」

 

まるで知り合いの場所を分かっているかの様な口振り。

その台詞にM4は訝し気な声を上げるが、少女は見上げていた顔を下ろすと再び笑みを見せてから公園の出口へと歩き出した。

 

「え、あ…ちょ、ちょっと待って!」

 

呼び止める声に少女は反応し足を止める。

M4の顔を見つめながら、彼女は口を開く。

 

「そう言えば…あの時、『あの場所』に居た人形だよね?私はその場には居なかったけど、彼女に代わりにお礼を。見ず知らずのあの人達に協力してくれてありがとう」

 

「あの場所…?見ず知らずの人達…?」

 

告げられた言葉を繰り返す様に呟くM4。

その様子にクスリと微笑む少女。

 

「そう言えば名前言ってなかったね」

 

そして名を名乗っていなかった事に気付いたのか、名を明かし始めた。

 

「ペインキラー。それが私の名前。…じゃあね、M()4()A()1()さん」

 

それだけを伝えるとペインキラーは踵を返し、公園の出入口へと向かいそのまま公園から去っていった。

小さくなっていくその背を見つめるM4だが、ふと先程の台詞にある事を気付き、それを口に出した。

 

「…なんで私の名前を?」

 

それに気付いた時、ペインキラーにその事を聞く為に彼女は駆け出した。

しかしペインキラーの姿は消失しており、M4が彼女に追い付く事はなく、モヤモヤした感情を覚えながらも喫茶店へと向かって行くのであった。




えくすとら!と着いている通り…
今回から数話に分けて、いろいろ様作「喫茶鉄血」とのコラボでございます!

いろいろ様、この場をお借りしてコラボのお願いを聞いて頂き、ありがとうございます!

今回はギルヴァ達ではなく…その彼ら、彼女ら愛用する銃達が主役です。
映されし異界の鏡によってあちらの世界へと迷い込む銃達。それも何故人の姿となって…という感じでございます。


ここにあちらの世界に迷い込んだ銃達を軽く紹介しておきます。


:レーゾンデートル
使用弾薬 13mm、二つのバレル、12発装填可能な特殊弾倉、二発同時発射機構を有する化け物リボルバー。使用者はギルヴァ。
異世界に迷い込み、人の姿を得た。
普段から目は閉じられているが、ちゃんと周りは見えている。
白のワンピースから羽織る黒のコート。その裏時には青い刺繡が施されており、自身の主たるギルヴァを模倣している。
大型特殊拳銃だというのに、胸ははない。絶壁である。

:アレグロ&フォルテ
コルトガバメントをベースに極限にまで大型化、堅牢化が施された二丁の銃。
使用者はブレイク。
銃の色に合わせるかようにそれぞれ着ている服の色が違い、髪型、髪の色が違う。
それ以外は全く同じなのだが…フォルテに胸があるに対しアレグロには何故かない。レーゾンデートル同様に絶壁。とても不思議である。

:シルヴァ・バレト
対化け物用狙撃銃。銀色に輝く銃身を有し、その口径は29mm。
化け物クラスの銃であり、非常に頑丈。使用者は代理人。
見た目のイメージとしてはアズレンのコロラドで、着ている服を白と黒に変更した感じ。

:アニマ
レーゾンデートルの特徴的な部分を継承しつつ使いやすさを取り入れた銃。ベースとなった銃はトーラスModel454だが、その原型は髪の毛一本程もとどめていない。
使用者は処刑人。
使用者の影響を受けているかは定かではないが、ガサツな割に面倒見がいい性格をしている。

:ペインキラー
Painekillerという名はあくまでも愛称でしかなく、本来の名はマテバ2006M。
使用者はシーナ・ナギサ。
上記の五人と比べると謎が多い。シルヴァ・バレトとアニマ曰く、勝手にどっかに消える癖があるらしい。


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でびふろっ!えくすとら!にはつめ!

──合流まで時間がかかる──


この世界に人の姿となって迷い込んでしまったレーゾンデートルは、自分の主やその仲間たちが訪れた喫茶店ではなく、道路橋に訪れていた。

そこはかつて異世界から迷い込んできた悪魔が騒ぎを起こした場所。

元凶は既に討伐され、荒れていた地面も舗装し直されて道路橋は元の姿を取り戻しており、人々の生活の支えとなって存在していた。

そんな場所に訪れたレーゾンデートルは感慨深げに道路橋を見つめていた。

 

「…私では無意味か」

 

鉄骨に手を当てながら、彼女は呟く。

ここに訪れた理由はもしかしたら残っているかもしれない悪魔の残滓を調べるためであった。

銃の姿をしていた時、何度か魔力を注がれた事があった為に自分でも感じ取れるのではないかと思っての行動だった。

だが先程の彼女が呟いた様に、ただの銃にその気配を感じ取る事が出来る筈もなかった。

もしあの時倒した悪魔が復活していたらそれでこそこの世界の平和は崩壊しているであろう。

だがそんな訳もなく、世界は平穏そのものである。

もう用はないと判断したのかレーゾンデートルは踵を返し道路橋を後にし、そのまま町の方へと歩みを進めた。

大通りから外れ、裏通りへと足を進めながらこれからどうするかに頭を悩ませていた。

レーゾンデートルがここに来たのは今回で二度目になる。

だがその一回目は人の姿ではなく銃の姿をしていた為、実質初めてに近い上に主であるギルヴァの記憶を通したとしてもうろ覚えに近い。

当然ながら地形も、例の喫茶店がある場所など知っている筈もなく、この地に知り合いが居る訳でもない。

同時に彼女は自分以外にもこの世界に迷い込んできた銃達が居る事に気付いていた。

その者達も探さなくてはならないという事も理解しているのだがどうしても避けられない問題があり、その問題を口にした。

 

「無一文…」

 

そう、現在レーゾンデートルは無一文なのだ。

今この場にシルヴァ・バレトとアニマが居れば話は違っていただろうが、残念な事に二人は遠い所に居る。

アレグロとフォルテも遠くに居て、ペインキラーに至ってはどこに居るのかすら分からない。

一見無表情に見えながらも、実は困っているという非常に分かりづらい表情を浮かべその場で立ち止まるレーゾンデートル。

その時、建物と建物間から黒い影が彼女の背後から歩み寄っていた。それが人なのか、或いは別の何かか。

ただ分かるとすれば人型であるという事だけ。

背中を向けたまま立ち止まるレーゾンデートルに迫った──

 

「遅い」

 

「!」

 

次の瞬間、その顔面に突き付けられる二つの縦に連なる銃口と淡い水色の瞳がその者を睨みつけていた。

太陽を隠していた雲が風によって流れて行き、陽光が町全体を照らした時、影は消え去りその者の姿が露わになる。

束の間に訪れる静寂。レーゾンデートルは静かに自身と同じ名の銃を下ろしながらその者の名を口にした。

 

「…ペインキラー」

 

白と水色が入り混じった髪。

黒い学生服の上にコートを羽織るといった風貌。

先程までM4A1と話し、わざと謎を残していった少女『ペインキラー』がそこに立っていた。

 

「流石。まるで神速の抜刀の如き速さね」

 

つい先程まで顔が吹き飛んで当たり前の弾丸を放つ銃を突き付けられていたにも関わらずペインキラーは平然としており、それどころかレーゾンデートルが銃を抜き取るそのスピードを褒めたたえていた。

謎が多い人物だと内心そう呟きながらレーゾンデートルはありがとうと返し銃をホルスターに収め、ペインキラーにへと尋ねる。

 

「他の皆は?」

 

「見てない。けど場所なら分かるよ」

 

「…何故分かる?」

 

当然とも言える反応だった。

その問いにペインキラーは小さく笑みを浮かべてから答える。

 

「気配ね。貴方の主が悪魔という存在を探知できる様に、私は貴女や他の皆の気配を探知できる」

 

本当にそんな事が出来るのかと問いたい。

だがその気持ちを抑え、レーゾンデートルはペインキラーの言う事を信じる事にした。

ああだこうだと言っている暇があるのであれば、さっさと他のメンバーと合流した方が良いと判断したためである。

 

「…今どこに居る?」

 

「こっちに向かってるかな。…多分列車か何かかな」

 

「どれ程で着く?」

 

「そこまでは分からないよ。でも駅で待っていれば合流できると思う」

 

駅に到着する時間が分からずとも他の面々がこっちに向かっている。

その事を知れただけでも良かったというもの。

安堵の表情を浮かべるレーゾンデートルに対しペインキラーは独特の感覚を用いて駅の場所を探る。

 

「距離はあるけど、歩いて行ける距離にあるね。取り敢えずそこに行きましょうか」

 

その提案に頷くレーゾンデートル。そして先導する形でペインキラーが歩き出す。

こっちへ向かってきている四人を迎えに行く為、二人は駅へと向かう。

そして奇しくもというべきか、歩道の向こうから一人の人形が歩いてきていた。

髪飾りに群青色の桜型ヘアアクセサリーを付けており、そのまま駅へと向かう二人の横を通り過ぎていった時、うっすらと風が吹き抜けた。

その風に何かを感じ取ったのか彼女はふと足を止め、後ろへと振り向いた。

 

「今の感じって…」

 

目に映るは駅へと向かう二人の後ろ姿。

彼女の視線はレーゾンデートルへと向けられていた。

誰かに似た感じ。それが一体誰なのか。彼女はその名を口にする。

 

「ギルヴァ、さん…?」

 

小首を傾げる少女…フォートレス。

何故ギルヴァだと思ったのか。

その理由が見当たらず、内心モヤモヤした気持ちで彼女は店へと戻っていくのであった。




今回は短いですが、ここまで。

本来であれば戦闘を考えていましたが、ネタが思い付かなかったので今回は戦闘無しでいきます。

次回はフォルテらと合流し、喫茶店へと向かう感じでやっていこうかと。

では次回ノシ


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でびふろっ!えくすとら!さんぱつめ!

──異世界旅行はまだまだ終わらない──


レーゾンデートルとペインキラーがS09地区にある駅にへと向かっている一方で、フォルテとアレグロは地区へと向かう列車の車両内に居た。

つい先程まで無一文で金銭面での問題をどうにかしなくてはならなかった筈にも関わらず、何故二人が列車に乗る事が出来たのか。

それは二人と対面する様に座席に腰掛ける二人に答えがあった。

 

「まさか同じ地区に居たとはな。こればかりは驚きを覚えるな?アニマ」

 

「ああ。てっきり別々の地区に居たと思ってたんだが」

 

そんなやり取りを広げるのは、あのシルヴァ・バレトとアニマである。

フォルテとアレグロの二人が列車に乗る事が出来たのは、この二人と駅でばったり合流できた事にあった。

当然合流するまで資金をどうにかしようと奔走していた訳だが、偶然にも同じ地区に居た二人と合流し、漸く列車に乗る事が出来たのだ。

 

「二人とその老人に感謝ね。もし合流出来ていなかったら、今頃徒歩で移動していた所よ。ホント助かったわ」

 

「どうも致しまして。後はレーゾンデートルとペインキラーの二人だけだが…そっちでは見ていないか?」

 

「見てないわね。出来れば一緒に居て欲しい所だけど…」

 

「無理だろうな。レーゾンデートルは兎も角、ペインキラーが問題だな。向こうに到着しても暫くは探せばなるまい」

 

分かっていた事ではあるがアレグロは大きくため息を付き、額に手を当てつつ天を仰いだ。

 

「ホントッ…何なのあの鏡はさ。全員まとめて同じ場所に放り込めばいいのに。馬鹿なの?いや、馬鹿よ。正真正銘の大馬鹿よ」

 

「あ、アレグロ?」

 

ピザを食べれていないからか、まるで今までの鬱憤を吐き出すアレグロ。対してシルヴァ・バレトは表情を引き攣らせる。

その一方でフォルテが車窓から外を見つめながら、何かを思ったのか静かに呟いた。

 

「とことん…私達にはあってねぇ世界だな」

 

その呟きが聞こえていたのか、対面に座っていたアニマが尋ねる。

 

「いきなりどうした?」

 

「なに…何となく思っただけさ。私やお前、アレグロやシルヴァ・バレト、レーゾンデートル…私達はこの世界においてだと過剰な存在だなってな。威力は自分らでよく分かっているだろ?まだ常識内で言うのであればペインキラーがマシとすら言える」

 

「…」

 

その台詞にアニマは何一つ返す事が出来なかった。

確かに自分達の存在…その威力は過剰だ。決して人に向けて撃っていい代物ではない。

その過剰という部分は悪魔を倒す為にあると言っていい。

だがこの世界には悪魔は存在しない。それ故に発言だとアニマは感じたのだが、それ以外にも感じていた事があった。

 

「…ここに来る事が怖かったのか?」

 

その問いにフォルテは口角を吊り上げる。

まるでそれが正解だと示しているかのように。

 

「…正直言えばな」

 

「…気にし過ぎじゃねぇか?」

 

「だろうな。…どうやら糖分が不足しているせいか気にがみやすい状態になっちまっているらしい」

 

「そうかい。向こうに着いたらパフェでも注文しな」

 

「ああ。そうするさ」

 

彼女達を乗せた列車は間もなくS09地区に到達する。

そんな中で四人全員がレーゾンデートルとペインキラーが駅で待っていようとは知る筈もなかった。

 

 

一方、ペインキラーが持つ独特な探知能力のおかげでレーゾンデートルは迷う事無く駅に到達していた。

平日の昼間。人の出入りもそれなりにあり、普段からこの駅が利用されている事が言葉にせずとも分かる。

何かに追われる様に駅の出口へと目指す者もいれば、外から駅構内へと入る者もいる。

人々のすれ違いが幾度もなく繰り返される駅構内でレーゾンデートルとペインキラーはホームの出口付近でこっちに向かってきている四人を待つ事にした。

着ている服装。そして美人に美人。

思わず振り返る者がいれば、つい立ち止まって見つめてしまう者もいる中でレーゾンデートルがペインキラーに尋ねる。

 

「…似てないのだな」

 

「誰に?」

 

「…お前の主にだ」

 

銃の姿から人の姿になったレーゾンデートルは分かっていた。

この姿の一部は何処となく自身の主に通ずる部分がある、と。

姿や髪の色、性格など何処か似ている所があると感じていたのだ。

だがペインキラーはどれにも当てはまらない。その事にレーゾンデートルは疑問を抱き、尋ねたのだ。

だがその問いに対しペインキラーは笑みを浮かべた。

 

「確かに似てないかも知れないかもね。似ていると言えば服装程度。でも…」

 

「む…?」

 

「決して全てが主の姿に似ているとは限らない。彼女が見た過去の記憶から引っ張りだされるという事よ」

 

「…つまりその姿はシーナ・ナギサが過去に会った、或いは見た人物が元になっていると?」

 

「そういう事。じゃあその人物が誰なのかという話になってくるけど、私の口から明かすつもりはないわ」

 

「…」

 

気になりつつもレーゾンデートルはそれ以上問う事はしなかった。

本人がそう言うのだから、必要以上に問うまいと。

 

「お、いたいた。先輩!」

 

その時、自身を先輩と呼ぶ声がレーゾンデートルの耳に届いた。

その方へと顔を向けると、手を振りながら嬉しそうな顔を浮かべながら小走りで近寄ってくるアニマの姿。

普段はガサツでちょっぴり怖い人相。だけど意外と面倒見がいいアニマがまるで飼い主を見つけた犬の様に嬉しそうな顔を浮かべているのだ。

その表情は他のメンバーも気付いており、いつもの様子からは全く想像出来なかった満面の笑みに、彼女の後に続くフォルテ、アレグロ、シルヴァ・バレトは驚きの表情を見せている。

しかしそんな事を気はしないアニマはレーゾンデートルの前に立つと話しかけた。

 

「無事だったんだな。怪我がなさそうで良かった」

 

「そっちも。…別の地区にいたのか?」

 

「ああ。幸いにもシルヴァ・バレトと同じ地区にいてさ。あとでアレグロたちと合流した感じだ」

 

「そう。…なら後は向こうに向かうだけか?」

 

「正解」

 

次に向かう場所が決まった時、アニマの隣にシルヴァ・バレトが立つ。

 

「話は済んだか?」

 

「今し方な。…後輩が世話になったな」

 

「気にするな。一人で居るよりかは良い」

 

「そうか」

 

実はこう見えてレーゾンデートルとシルヴァ・バレトは同期である。

一時期は別々の場所に居た訳だが、ギルヴァはレーゾンデートルを連れてきて、そしてシリエジオがシルヴァ・バレトを見つけた事により二人は再会を果たした。

その時の記憶はシルヴァ・バレトもレーゾンデートルもはっきりと覚えている。

昔を少しばかり思い出しながらもシルヴァ・バレトは全員にへと声を飛ばす。

 

「さて行こうか。ここで長話する必要もないからな」

 

その台詞に全員が頷く。

そして漸く彼女達全員が合流。当初の目的であった例の喫茶店へと向かう為、歩き出すのであった。

 

 

駅を後にし、大通りを抜けていくレーゾンデートルら。

ペインキラーが先導する形で彼女達は喫茶店へと向かっていた。

過ぎゆく人々。走り去っていく車両。町の中で響き渡る喧騒音。しかしそれは決して不快ではなく、この世界だからこそ生み出せるものだ。

そんな変哲もない平日のS09地区の街を人の姿となって歩いている事にレーゾンデートルは少しばかり感動していた。

 

「あとどれ位だ…ペインキラー…?」

 

そして糖分を摂取出来ていない事が表に出ているのか、まるで幽鬼のようにフラフラと歩くフォルテのせいでその感動が台無しになってしまっていた。

それを知ってか知らずか、隣を歩いていたアレグロが呆れた表情を浮かべた。

 

「全く…もう少し我慢しなさいよ。レーゾンデートルが珍しい位にはしゃいでいるのに台無しにするつもり?」

 

「…!」

 

アレグロの台詞にはしゃいでいる事をバレたレーゾンデートルはわざと視線を外へとずらす。

あまり表情に出ていない為分かりづらいが、頬は少しばかり紅潮しており、アレグロ、シルヴァ・バレト、アニマは決してそれを見逃さなかった。

 

(ふふっ…可愛い所あるのね)

 

それを見て内心微笑むアレグロ。

そしてフォルテがやっとその声が届いたのか。げっそりした表情で返答する。

 

「…マジか…それはわりぃ…」

 

「駄目ね。これは色んな意味で」

 

それは誰もが見て分かる事であった。

もはやフォルテの目に生気を感じられず、かえって不気味だ。

最もフォルテの相棒を務めるアレグロが言うのだからそこに間違いなどないのだが。

 

「もうそろそろの筈。…あ、あそこね」

 

大通りを抜け、裏通りへと出た一行。

その通りに彼女達が目指していた喫茶店…喫茶 鉄血があった。

漸くたどり着いた目的地。限界を迎えてしまったフォルテはアレグロに支えてもらわないといけない状況であり、このままにしとくと何をしでかすか分からない。

いざ行こうとした時、アニマが疑問の声を上げた。

 

「金はあるのは良いけどよ…どうやって俺達の事説明するんだ?」

 

「別に言う理由はない。…向こうがこちらに気付いたら話は変わってくるが」

 

その問いにレーゾンデートルが答えると、そのまま店のドアノブに手を伸ばし開いた。

ドアに備え付けられたドアベルがレーゾンデートルらが入店した事を告げ、その音に店内にいた者達が気付くと、ある人物がレーゾンデートルを一目見た瞬間、まるで神速の如き速さで彼女の前に立つとその手を握って一言告げた。

 

「仲間ね」

 

「…?」

 

いきなり目の前に現れた彼女…以前にある部分についてこの店でやらかしたUMP45に仲間だと言われ何のことが全く分からないレーゾンデートルはただただ小首を傾げるのみ。

対するUMP45は満面の笑みを浮かべるだけなので尚のこと分からずじまい。

どうしたら良いのか分からないこの状況。だが救世主はすぐに現れた。

 

「全く…お客様に何をしているんですか、45さん」

 

UMP45の後ろから歩み寄ってくる一人の人物。

その者を見てレーゾンデートルはギルヴァから通して得た記憶から思い出す。

 

(彼女が…ここの)

 

レーゾンデートルの視線に気付いたのか、彼女…代理人は笑みを浮かべ話しかける。

 

「あの娘から話を聞いた時、まさかと思いましたが…成程、本人らではないみたいですね」

 

(あの娘から聞いた…?)

 

レーゾンデートルは知らないが、代理人が言っている事が分かるのはペインキラーのみ。

しかしペインキラーは可愛らしい笑みを浮かべているだけで全く答える様子はなかった。

 

「まずはお好きな席へどうぞ。詳しい話はその後で」

 

疑問が尽きない中、やっとたどり着いた目的地…喫茶 鉄血に到着したレーゾンデートルらは代理人の案内の元、店の中へと入っていくのであった。




何で45がレーゾンデートルに仲間といったのか?
そりゃレーゾンデートル…絶壁だからさ(銃声

さて漸くお店の方に。
さぁ!ぼのぼのすんぞ!

では次回ノシ!


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でびふろっ!えくすとら!よんはつめ!

─語るのは主へのちょっとした思い─


代理人に店の中へと案内されたレーゾンデートルらは、まるでかつて彼女達の主が訪れた時の場面を再現する様に奥のカウンターに腰かけていた。

早速話へと移ろうとレーゾンデートルが口を開く前に、代理人は手を上げ止めた。

 

「まずは何かお飲みになりませんか?見た所、少々お疲れのご様子ですし…それに」

 

代理人の視線が机に突っ伏しているフォルテへと向けられる。

席についてからというものの彼女は突っ伏した状態のまま微動だにしていなかった。

隣に座るアレグロは咎めるつもりはなさそうであるが、手を額に当て、呆れた表情を浮かべている。

確かに先に何か注文する方が良いと判断したレーゾンデートルは頷き、隣に座るシルヴァ・バレトとペインキラーと共にメニュー表を見始め、アニマはアレグロと共に見始める。フォルテに限っては動く気配がないので、代わりにアレグロが伝える事となった。

 

「そうねぇ…欲を言えばピザなんだけど、流石に無理でしょうし。私はペペロンチーノをお願いしようかしら。アニマ、貴女はどうする?」

 

「俺はそうだな…。アレグロと同じのをくれ」

 

アレグロとアニマの注文を聞き、畏まりましたと頷く代理人。

そして彼女はちらりとフォルテの方を見て、アレグロへと尋ねる。

 

「そちらの方のは…」

 

「こいつにはストロベリーパフェを。出来れば一番に渡してやって」

 

それに、とアレグロへと前置きを呟くとコップに注がれた水を一口飲んでから喋った。

 

「いつもの通りじゃないとこっちが調子狂うのよ」

 

「ふふっ…優しいのですね?」

 

「さて、そいつはどうかしらね」

 

代理人の台詞に対し肩を竦めるアレグロ。

少しばかり表情が緩んでいるのを代理人は見逃さなかったのだが、あえてその事を指摘する事もなく、そのままレーゾンデートルたちの方へと向かって行った。

彼女達の方も決まっていたみたいでペインキラーはオレンジジュース、シルヴァ・バレトは紅茶を。

そしてレーゾンデートルはコーヒーを注文。

頼んだ品がやってくるまで彼女らは静かに待った。

暫くして糖分を得られたフォルテが復活を果たし各々が飲食を楽しんだ後、漸くと言うべきかレーゾンデートルらが一体何者なのかという話へと切り替わっていった。

別段隠す事でもなく、問われたら答えるというレーゾンデートルの意向の元、彼女に説明するように言われたシルヴァ・バレトが自身を含め、このカウンター席に座っている一風変わった者達の事を明かした。

 

「成程…。あの方々が愛用されている銃。そしてそれが皆さまであり、何故か人の姿となってこちらに迷い込んできたという訳ですか」

 

「ああ。だが一つこちらから聞きたい」

 

「何でしょうか?」

 

「店に来た時、貴女は何かを察している様子だった。あの娘から聞いた、と言ってたが…」

 

その問いはレーゾンデートルも含め気になっていた事であった。

シルヴァ・バレトの問いに代理人が答えようとした時、オレンジジュースを半分程飲み終えたペインキラーがコップをそっと机の上に置き口を開いた。

 

「あの娘って、M4A1の事でしょ?」

 

「という事は…貴女が」

 

「正解。私がペインキラーよ」

 

迷う事もなく、自分がそうであると伝えるペインキラー。

 

「ちなみに私を使ってくれているのは、シーナ・ナギサ。覚えているでしょ?」

 

「ええ。覚えていますよ。彼女はお元気ですか?」

 

「今の所、ね」

 

その含みのある言い方に代理人は首を傾げる。

その言い方はまるで今まで離れていたと言っている様な気がしたからだ。

彼女がその事に問う前にペインキラーは言葉を続けた。

 

「なんせ私はそれなりの間、彼女の傍を離れていたからね。再会果たしたのはつい最近よ」

 

「そうなのですか?」

 

「ええ。…まぁあの娘も色々あったとだけ言っておくわ。あの娘は私を捨てるつもりで居たし、私もそれでいいと思っていたからね。所があの人、シーナの教官と来たら…」

 

呆れた様に全くと呟くペインキラー。

そして彼女はフッと切なそうな笑みを浮かべた。

 

「まぁ…五体満足で彼女の元に戻れたのは素直に喜ぶべきなんだろうけど」

 

それ以上の事はペインキラーは語ろうとはしなかった。

切なそうな笑みから、少女らしい笑みを浮かべ話題を変え始めた。

 

「さて私の話はこれでおしまい。アニマ、次は貴女よ」

 

突然指名された事により、つい噴き出しそうになるアニマ。

それを何とか抑えつつ、紙ナプキンで口元を拭いつつ彼女はペインキラーを睨んだ。

 

「何で俺なんだよ!?いつから指名制になってんだ?!」

 

「うーん…何となく?」

 

「こいつッ…」

 

何か言いたげであったが、アニマは盛大に大きなため息をつくと手にしていたフォークを置いた。

 

「話すが良いが…っても何を話せばいいか」

 

面白い話でもあっただろうかと思いながら、アニマは先程ペインキラーが話していた内容を思い出す。

自身の主に関して話していたと思うとアニマは自身の主であるネロの事について話し始めた。

 

「流れ的に自分らの主の事についてみてぇだし…そんなので良いか?」

 

「ええ。とは言ってもこちらからお尋ねした訳ではありませんが」

 

「んじゃ今から話す事はそういう事についてにしようか。で、だ…俺の主はまぁ…色々訳アリじゃねぇかな」

 

訳アリと言っていい程、アニマの主であるネロ…旧名処刑人と呼ばれる彼女は複雑な経緯がある。

敵対して、大事な人を失って、右腕がアレになって…。

アニマがネロの元に渡った時期はそういった事が起きた後の事であったが、記憶をしっかりと受け継いでいるのかそれら全ては昨日のことのように覚えている。

だからといってそれらの事を明かす気などアニマにはなかった。

内容が色々物騒。のんびりとした空間でそんな事を話す事に気が引けたからだ。

 

「まぁアレだ…ガサツだが面倒見は良い。良い主に出会えたとは思ってるよ。…結構短いが話せる内容はこれくらいだ。んじゃシルヴァ・バレト、次は任せる」

 

「私か」

 

アニマから指名され、シルヴァ・バレトは味わっていた紅茶が注がれたカップをゆっくりとソーサーの上に置いた。

 

「彼女の事か…ふむ、そうだな」

 

指を顎に当て、思い出す素振りを見せるシルヴァ・バレト。

銀の弾丸と名付けられた常人では決して扱う事の出来ないその銃は、とある人形と出会った事によって今ではその者にとってなくてはならない存在となっていた。

 

「よくもまぁ私を使おうと思ったなと常々思う」

 

「と、言いますと?」

 

代理人の問いにシルヴァ・バレトは親指を立てると傍に立て掛けてある布に包まれた自身に差した。

対物ライフルすら凌駕する長大な銃身。本来は折り畳み式であるのだが、今回は折り畳んでない状態で布に包まれていた。

口径29mmという思わず笑いだしてしまう様なそれはどう考えても人形が扱う様なものではない。

そんな銃を異世界の自分は平然と扱っている。

その事を察した時、代理人は引き攣った笑みを浮かべた。

因みにであるが今店内に居るのは人形達のみ。それもあの道路橋の一件で関わった、及びその話を聞いた者達しかいなかったりする。

故にシルヴァ・バレトという常識外かつトチ狂った銃は代理人どころか戦術人形の彼女達ですら言葉を失う程の代物と言えた。

 

「それどころか弾を切らしたら私を鈍器にして振り回したりするのだぞ?」

 

「異世界の私は随分とパワフルなのですね…」

 

「パワフルだけで片付く方がまだ可愛い方だ。…まぁそんな事はどうでもいい」

 

紅茶を一口含むとシルヴァ・バレトは言葉を続ける。

 

「まぁこんな私を扱ってくれている事には関しては非常に嬉しく思う。後は無理をして欲しくないぐらいか。私が死のうとも、主が死なれるのは我慢ならん」

 

「…シルヴァ・バレトさん」

 

「化け物、狂気の産物と言われた武器…そんな武器しかなかった薄暗いあの場所で、私やニーゼル・レーゲンを見つけ愛用してくれている事に関しては嬉しく思う。だが私は所詮武器。いずれこの身が朽ちる事はあろう。だが彼女は違うだろう?確かに人の姿をしているが、ただの精密機械の塊だとその言葉で片付けるのは違うと思う」

 

「…」

 

「…いつまで稼働するかどうかと気にするのではない。どのように動き続けるか。どんな事に対してでも良い。それだけは忘れないで欲しいと思う」

 

店内が静まり返る。

伏せていた目を開き、シルヴァ・バレトは静かにティーカップを持ち上げる。

少々冷たくなった紅茶を飲み干すとシルヴァ・バレトは笑みを浮かべた。

 

「らしくないな。少し熱くなってしまったみたいだ。…では後は任せるぞ、アレグロ、フォルテ」

 

ペインキラー、アニマ、そしてシルヴァ・バレトの話を聞き、店内に居た全員が察した。

この者達はそう簡単に己の胸の内を明かす事はしないという事を。

だがそれも無理のない話と言える。

それぞれの銃達の主らは一つや二つ、もしくそれ以上の何かを抱えている。

支える側である銃達からすれば心配すべき事であるが、だからといってそれを口にするという気はない。

理由は様々にあるが、この落ち着いた雰囲気で暗い話を持ち出す事に対して抵抗を感じているのが大きく、それを思っているからこそ彼女らは余り語ろうとはしなかった。

 

「はいはい」

 

自分達が指名された事に適当に返事するアレグロ。ちらりと隣に座るフォルテを見ると、幸せそうな表情を浮かべてストロベリーパフェを頬張る姿を見て完全に復活したと判断。

最後の一口を口へと放り込み、紙ナプキンで口元を拭くと、フォルテへと話しかける。

 

「私達の番よ、フォルテ。何についてかは分かってるわね?」

 

「ああ。途中からだったが、何についての話かは理解しているさ」

 

「それで良いわ。さて…あいつの事ねぇ…」

 

若干困り気味といった表情を浮かべるアレグロ。

するとその表情を見て、フォルテが思った事に口にした。

 

「あれだな。浮気すんな、だな」

 

「う、浮気?」

 

突然の台詞に代理人がつい聞き直す一方でアレグロはあー…と納得した声が上げた。

 

「確かにあの時の事は浮気ね。女たらしならぬ銃たらしよ、アレは」

 

「あの、話が見えてこないのですが…」

 

「あら、ごめんなさい。そうねぇ…分かりやすく言えば、以前にとある作戦で私達の主…まぁ赤いコートのあいつが、私達の後輩にちょっとばかし浮気したのよ」

 

「アレグロさんとフォルテさんの後輩ですか?」

 

その問いにアレグロは頷く。

 

「ええ。アジダートとフォルツァンドと言ってね。ベースはベレッタM93R。無茶苦茶な連射に耐えられるように極限にまで大型、堅牢にしたものよ。連射に特化しているから、どっちかと言えば私の後輩に当たるのかもね。その娘らは、別の基地のある人形が使っているの。ある作戦で共に行動していた際に私らの主がちょっとだけ浮気した、という話よ」

 

「まぁ私達もアジダートとフォルツァンドの主に使われているから…こりゃどっちもどっちか?」

 

「まさか。10割中10割、あいつが悪いわ」

 

「だな」

 

お互いに肩を竦めながらお互いに苦笑いを突き合わせるアレグロとフォルテ。

 

「けど…あいつが居なかったら、私達が生まれる事なんてなかったんだがな」

 

「と、言いますと?」

 

「あいつが無茶苦茶な連射して銃をぶっ壊しまくっていなかったら、私達があいつの元に行く事はなかったという事さ…ただ、な」

 

「ただ?」

 

「…あいつが居なかったら、『あの人』が死ぬ事なんてなかったんだろうなってつい思っちまうのさ」

 

アレグロとフォルテ。

音楽用語の名を与えられた白と黒の銃は決して忘れはしない。

伝説的なガンスミスである彼女が手掛けた最後の作品、遺作となったのが自分達である事を。

悪魔によって殺されたガンスミスである彼女が、ブレイクに自分達を託した事を。

再び訪れた静寂にアレグロはため息を付き、フォルテを咎める。

 

「…フォルテ、止めておきなさい。その話はここでするものじゃないし、彼を恨むのも違うわ。雑に扱っている訳じゃないのだから」

 

「…あいよ。アレグロが言うならそうするさ」

 

「そうしなさい。…まぁ私達もさっき話した彼女らと同じ様に愛用している事は非常に感謝してるわ。メンテナンスもしっかりやってくれるから、言う事なしね」

 

重たい空気を脱しようとアレグロが話題を元へと戻し、主に対する思いを口にする。

そのまま最後となったレーゾンデートルへと振ろうとした時、レーゾンデートルが椅子から立ち上がった。

突然彼女が立ち上がった事に店内に居る者の視線が飛んでくるが、それを気にする様子すらない。

一体どうしたのだろうかと思いアレグロが尋ねる。

 

「どうしたの?」

 

「…例の鏡の様子を気になる。少し見てくる。シルヴァ・バレト、支払いは頼んだ」

 

シルヴァ・バレトが答えるのも待つ事無く、店の出入口へと歩き出すレーゾンデートル。

そのままドアノブを握った時、何故か彼女は立ち止まった。

再びどうしたのだろうかと誰しもが思った時、レーゾンデートルが振り向いた。

 

「…多分帰り道で迷う。誰か付き添いを頼めないか?」

 

無表情にも関わらず頬を赤らめながら言ったその台詞に全員がずっこけた。

そして全員が同時に思う。あ、覚えてないのね…、と。

 

 

なんやかんやあって、店を出たレーゾンデートルは自分達がこの世界に迷い込む際に存在した例の鏡『映されし異界の鏡』がある路地の袋小路へと向かって歩いていた。

その隣には付き添いを自ら志願したフォートレスが歩いているのだが、二人の間に会話が生まれる事は今の時点ではなかった。

 

「あ、あの!」

 

だがそんな会話一つない時間はまる意を決したかのようにレーゾンデートルへと声を掛けたフォートレスによって終了を迎える。

歩きながらも声をかけてきたフォートレスへ顔を向けるレーゾンデートル。

 

「ギルヴァさんはお元気ですか?」

 

自身の主がギルヴァである事は、店に来て最初の内から話している為、フォートレスはそれを知っていてもおかしくはない。

そして彼女が自身の主の事を何故聞いてくるのか…レーゾンデートルはそれを既に察していた。

 

「…元気だ。特に変わりはない」

 

実は前の作戦で、とある事情で愛刀を自身に突き立てたなど口が裂けても言える筈もなく。

余計な心配はさせまいとレーゾンデートルは元気である事だけを伝えた。

 

「…すまない」

 

そしてレーゾンデートルはフォートレスへと謝罪の言葉を口にした。

突然謝られた事にえ?と声を漏らすフォートレス。何故謝るのかが分からず、目を丸くしていた。

どうして謝るのかと彼女が問うとした時、レーゾンデートルがその理由を明かした。

 

「…練習したとみる。本来であれば私ではなく、主…ギルヴァが来るべきだった」

 

「それは…」

 

映されし異界の鏡は気まぐれな性質を有している為、何時でも世界を渡る事は出来ない。

今回レーゾンデートルらがこちらの世界に迷い込んできたのも、ある意味偶然とも言えるのだから。

 

「…次は彼を連れてくる」

 

できるかはどうかなどではない。

必ず連れてくる。台詞の裏に隠れたその思いをフォートレスは感じ取ったのだろう。

 

「…はい。必ず連れてきて下さいね」

 

彼の愛用する銃…レーゾンデートルと約束を取り付ける事にした。

 

「待っていますから」

 

「…ああ、承知した」

 

そこで会話が途切れるが、同時に二人は例の鏡がある袋小路に到達。

陽の光が薄っすらと入るそこ。そして魔訶不思議とも言える鏡が宙を浮かびながら佇んでいた。

この鏡へ飛び込めば元の世界へと戻れるのだが、何かを感じ取ったのかレーゾンデートルはそれの前に立つとそっと鏡へと手を触れた。

 

「…!」

 

普通であれば通り抜ける筈の手。しかし手は中へと沈む事もなく、只々鏡の冷たさが伝わってくるのみ。

 

「ど、どうしました…?」

 

隣に立つフォートレスが不安げ表情でレーゾンデートルへと尋ねる。

どうしたものかと思うレーゾンデートルだったが、そのまま今起きている事を正直に明かした。

 

「…どうやら帰れなくなったらしい」

 

「えっ…?」

 

フォートレスがその言葉を理解するのに相当時間が掛かったのは言うまででもない。

 

 

「「「「「帰れなくなったぁっ!!??」」」」」

 

レーゾンデートルを省く五人の声が店内に響き渡る。

それも無理もない。自分達が元の世界に戻る為には映されし異界の鏡は必要不可欠。

だがどういう訳か通り抜ける事が出来なくなってしまったのだから、それは当然の反応と言えるだろう。

 

「おいおい、マジかよ。このままこっちでのんびりスローライフでも送るか?」

 

「馬鹿言ってんじゃないわよ!」

 

フォルテの冗談にアレグロの怒号が飛ぶ。

 

「鏡自体が消失していない点を考えると、所謂扉が開いていない状態か?」

 

「…そう考えて良い。私の記憶が正しければ鏡に向こうの景色が映る筈。だが先程見た時は映っていなかった」

 

アニマの問いにレーゾンデートルが答え、傍に立っていたシルヴァ・バレトがふむと頷く。

 

「となると暫くこっちで過ごす必要があるわね。でもどっかのホテルで泊まる金は…」

 

「ないな。さっきの食事代で私達全員無一文だ」

 

「ですよねぇ…」

 

無一文という事実をシルヴァ・バレトから突き付けられるとペインキラーは項垂れる。

分かっていた事であったが、現実を知ると何とも言えないもの。

どうしたものかと唸る六人。最悪野宿でもするかとレーゾンデートルが思った時、代理人が手を上げ、六人に伝える。

 

「流石にこの店で泊まるとは行きませんが…グリフィンの基地で泊めてもらうのはいかがでしょうか」

 

その提案にレーゾンデートルらの視線が代理人へと向けられる。

それが可能であるのであればそうしたい所である。そこにシルヴァ・バレトが尋ねる。

 

「良いのか?私達はグリフィンの者ではない。全くの部外者だ。そんな奴らを泊める事に向こうが許すとは思えんのだが」

 

「事情に関しては私からお話しいたします。それに貴女方はあの道路橋での一件で悪魔という存在を、そしてその悪魔を討伐した者達を知る方々です。もし貴女方があの時の事を知っていると知り、誰かが尋ねきたのであれば…それはそれで色々面倒なので」

 

確かにあの時の事が流れてしまえば、色々面倒なのは事実。

その事が分からない彼女らではない。

しかし不安が残る。思案しかねた時、レーゾンデートルがシルヴァ・バレトへと声をかける。

 

「…シルヴァ・バレト」

 

「む?」

 

「…ここは甘えるしかない。礼はここに滞在している間に返せばいい」

 

そう言ってレーゾンデートルは閉じている目を開き、シルヴァ・バレトを見つめた。

淡い水色の瞳。そこに宿る何かを感じ取ったのかシルヴァ・バレトは薄っすらと口角を吊り上げ、代理人の方へ向く。

 

「済まないが…ここは甘えさせてもらっても良いだろうか?」

 

「畏まりました」

 

後に映されし異界の鏡が復帰するまでの間、レーゾンデートルらは数日間だけグリフィンの基地で世話になる事になったのだが、彼女らが居たのは結局の所、たった数日間程度であった。

因みにその数日間ではこんな事があった。

 

 

まず一日目から三日目…。

一日目ではグリフィン基地内部でレーゾンデートル、シルヴァ・バレト、アレグロ&フォルテの四名が戦術人形の訓練相手を務めペインキラーとアニマは監視役を務めたのだが、四人の戦い方は戦術などあったものではなかったらしい。

訓練に参加した多くの戦術人形は訓練相手を務めた彼女らに対してこう感想を述べている。

 

「相手してくれたのはレーゾンデートルさんだったかな…。あの人、どういう動きしてるの?気を抜いたら一瞬で距離を詰められてペイント弾装填したリボルバーを突き付けられてたのよ?刀とか持っていたら絶対にすれ違いざまにズバッとやられていたわね」

 

「シルヴァ・バレトか…。レーゾンデートル同様に動きがおかしい。側転しながら撃ってきたり、空中で正確な射撃をしてくるんだ」

 

「おかしいわよ!!なんのあの二人はさ!?ハンドガンだよね?!なのにマシンガンみたいに連射してくるのよ!?おまけにこっちの攻撃は全部撃ち落されるし!あ、でも最後の決め台詞はかっこよかったかな。確かにレーゾンデートルがあれだけは言うなよって言った後に、あの二人がジャックポット!って…。思えばあの二人やレーゾンデートル、シルヴァ・バレトもそうだけど息ぴったりだったわね…」

 

この一件からレーゾンデートルらは戦術人形らに相当な程の印象を与えたらしかった。

 

 

四日目から五日目。

この時はグリフィンではなく、彼女らは喫茶 鉄血にてお礼を兼ねて店の手伝いをしていた。

一応制服が貸し出されたのだが、何故かレーゾンデートルとアレグロの二人だけに執事服が渡されるという事態になっていた。

これを渡した張本人は「似合っているから」と述べたそうだが、どう見ても胸に視線が行っていた為、それに気付いたアレグロに危うく蜂の巣になりかけた模様。

そんなこんなで店の手伝いをしていた彼女らだが、その最中にこんな事があった。

休憩がてら店に訪れていたUMP45。ふとした時彼女がつまずいてしまったのだ。

周囲がその一瞬に反応が遅れる中、店内に風が疾走した。

それは誰がどう見ても一瞬だった。

UMP45が地面に接触する前に、そして痛みを与える事もなく優しく受け止めた者が一人。

銀髪を揺らし、UMP45の表情を見つめる彼女は問いかけた。

 

「…大丈夫か」

 

助けたのはそう、あのレーゾンデートルである。

因みに彼女、つい先ほどまで店の端に居たのだがつまずいたUMP45を見て瞬きすら許さない速さで接近している。あの状況ならすぐに態勢立て直す事は出来たのだが、どうやらレーゾンデートルにはそれは関係ないようで。寧ろ彼女はお客様なので何もせず見ているなどという考えはなかった。

その思いが今回の行動に出ているのだが、ふとレーゾンデートルは先程の台詞に間違いがあった事に気付く。

わざと咳払いをし、失礼と呟くと柔和な笑みを浮かべて再度UMP45に問う。

 

「…お怪我はありませんか、お嬢様」

 

「は、はい…」

 

怪我はないという事が確認出来るとレーゾンデートルは彼女を立ち上がらせた後、お礼も聞かないまま仕事へと戻っていき、後に店内では黄色い悲鳴があがったのは言うまででもない。

因みにレーゾンデートルの行動を見ていたシルヴァ・バレトらは呆れた様な表情を浮かべていたのだが、レーゾンデートルがそれを理解する事はなかった。

 

 

そして六日目。

映されし異界の鏡が機能再開している一報を受けた後、レーゾンデートルらはこれまで世話になった者達にお礼を述べた後、自分達の世界に戻っていった。

この時、レーゾンデートルが店を去る前にフォートレスに向かって伝えた。

 

「…今度は彼を連れてくる」

 

それを伝えた後、レーゾンデートルらを店を去っていき自分達の世界へと戻っていった。

ただレーゾンデートルらは一つだけ問題を残していってしまっていた。

本来であれば勝手に消えていく筈の映されし異界の鏡。

だが今回に限っては何故かあの袋小路に佇んだまま残ってしまっていたのだ。

それが一体何を意味を示すかは分からない。何かを予兆しているのか或いは…。

その答えは誰一人とて分かる筈がない。

こうしてちょっとした問題を残しつつも悪魔狩人達らを支える銃達の不思議な旅行は終わりを告げるのであった。




という訳でコラボ回はこれにて閉幕となります。

本来であればもっと早く投稿したかったのですが、仕事やらで時間が中々取れず滅茶苦茶遅くなってしまいました。いろいろ様、本当申し訳ございません。
そして今回コラボをして頂き本当ありがとうございました!


何か変な鏡置いちゃってるけど、特に害がある訳ではないので安心してね!


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第一章 黒コートの悪魔
Act0 この世に■■は存在するらしい


ドールズフロントラインやりながらDMCやっていると何だか思い付いてしまったので投稿。
内容、文章ともよろしくないのでどうかご容赦を…


 

 

 

 

きっかけはふと聞こえた声からだった。

その者に命を救われて…その身におとぎ話でしか聞かない■■の血を流す事になったのは。

 

 

 

 

荒れ果てた大地、見る影もない建物、広大な汚染区域。

自然豊かな地球という姿はもうそこにはない。あるのは荒廃した地球という姿のみ。

そもそも何故こうなってしまったのか?自分が知る限りで2045年に勃発した第三次世界大戦が主な原因だ。

核兵器が大量に用いられ、あちこちに災厄を振り撒いた。のちにそれが国家を衰退させる程のものとは知らずに。

2051年、第三次世界大戦は終結。しかし戦時中の大量に用いられた核兵器が原因で全世界に汚染が拡大、同時に国家の衰退。そしてしまいには民間軍事会社による都市運営の委託が行われる始末。

第三次世界大戦の影響によって人類はその数を減らしたが、自立人形が用いられるようになり少しずつではあるが世界は復興をしていた。

そんな時ある事件が発生した…と言うかしたらしい。あまり詳しくは知らないが自立人形を製造する企業「鉄血工廠」にて何か起きた模様。そして鉄血工廠製の人形が暴走、そして人類抹殺に動き出したというのだ。

そして今現在…鉄血とG&K社に属する自立人形ならぬ戦術人形との戦いが日常茶飯事と化していた。

 

 

 

某所 荒廃した跡地にて。

何もかもが廃墟と化した街。今やその活気はなく、もはや街全体は死んでいた。

そんな中を全身をローブで纏い、足を進める人物が一人。顔は隠されており男なのか女なのさえも分からない。

その時だった。ふとローブ姿の人物は静かに足を止めた。そしてそっとある物を取り出した。

それはある国では有名な武器。金色の鍔に黒く染まった鞘、引き抜かれ晒すは片刃の刀身。

名は「日本刀」。この時代において存在するのも怪しいとすら言われる希少な武器である。

希少な武器を手にしているローブ姿の人物は腰を下ろして構え、そっと柄に手を添える。

 

「っ!」

 

人間では、まして戦術人形ですら追う事は叶わないだろう神速の抜刀。

その者から中心に円を描く様に空を斬る一閃。そして刀を鞘に納めた瞬間…何かが崩れる音が響いた。

居たのはバイザーに銃器を手にした鉄血の戦術人形達。だが動く事はない。

それもその筈。…倒れている鉄血の人形全員が上半身と下半身が分かれているのだから。

だが問題はそこでない。ローブの者が行った斬撃は円を描く様に空を斬った筈なのだ。

にも関わらず…その者から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そんな芸当等普通の人間には出来る筈もない、ましてや人形でも。

もしそんな事が出来るとするのであれば…神か、あるいは…■■か。

どちらにせよ…ローブ姿の人物は人間ではないだろう…。

 

「ふぅ…」

 

その者は構えを解くと一つ息を吐く。

周囲を見渡して敵がいない事を確認するとそのまま歩き去っていく。

残ったのは静寂と無数の人形の残骸のみとなるのだった。

 

 

また鉄血の人形部隊と遭遇した。

これで何度目だろうか。行く先々で遭遇している気がしてならない。

流石にどこかで休みたいがこれでは休めるものも休めない…。

 

「はぁ…」

 

―珍しくため息が出たな?ギルヴァ。まぁ無理もないが…

 

脳に直接語りかけてくる男の声。彼は■■。といってもそれは名前ではない…種族といった方がいいだろう。

もっとも彼に名前は存在しないらしい。昔は名前があったらしいが、忘れてしまったとか。

本人曰く…肉体が滅んだ今、自分に名前なんて無いに等しいとの事。

只…これから共にしていく仲なので名前が無いのは不便なので、勝手にこう呼んでいる。

 

「流石に喧嘩売り過ぎたかも知れんな…蒼」

 

蒼…それが彼の名前。勝手に呼んでいる訳だが本人もそれで反応してくれているのでそう呼んでいる。

 

―かもな。次からは穏便に済ます方がよさそうだ。最も手遅れかも知れんが…。

 

「そんな気がしてならん」

 

力を経て、修行がてら遭遇した鉄血の人形部隊は全部斬り伏せてきた訳だが…。

まさかそれが裏目に出たとはな…。まぁグリフィンの戦術人形部隊と対立してない分まだマシかも知れんが。

さて…先程の街からかなり離れてきたな。ここからどうしたものか…ん?

 

―どうした?

 

「いや…あの建物…」

 

指差す先にあるのは古びた研究所らしき建物。今まで何度かそういう建物は見かけてきたが、ここまで原型が残っている建物は珍しい。

 

―原型が残っているとはな…。今夜はあそこで一夜を過ごす方がいいかも知れんな。

 

追手が来る前にな、と付け加えてくる蒼。

その意見に対して頷くと研究所へと足を進める。そもそも何でこんなにも研究所を見かけるのか。だからといって気にしていてはキリがないのも事実。

暫く歩き、研究所前に到達。瓦礫で出入口は塞がれていたが強引にどかして中へと入る。

当然ながら内部は暗闇で染まっている。灯りが無くては危険だが気にせず足を踏み入れる。

灯りが無くても見えるのだ。この「体」になってからは。

 

―ふぅむ…。これは…兵器工場か?

 

「かもな。見る限りではそんな気はするが…」

 

蒼が言う通り、ここは兵器工場らしいが…どうやら人形を製造する様な場所ではないと見た。

どちらかと言う銃器などを製造する工場に見える。もしかすれば面白いものが見つかるかもしれないな。

最近はこういった場所は見掛ける事がなかった。思う存分楽しませてもらうとしよう。

 

―ほどほどにな?

 

善処する。

 

 

…とは言ったものの。善処なんて出来る筈がなかった。

ここに廃棄されていた銃器の殆どはイかれた技術者が浪漫と盛大にぶち込んだものばかりなのだ。

ゲテモノ、怪物、産廃…それらを派手に活かした兵器が出てくるわ出てくるわ。

是非とも実戦で使用してみたいと思ったが、ある問題が浮上した。

それは……サイズが大きすぎる事。

基本自分が扱う武器は…まぁこの刀一つしかないのだが…ローブを纏っている時に隠せる物を使っている。それは第三者から警戒される事を避ける事と同時に不意打ちを行えるという意味を含めており、ローブ姿でも見えてしまう武器はそういった意味を失ってしまうからだ。

非常に残念で仕方ないのだが手放すしかなかった。

 

―言ったろう?基本この手の武器は扱い易さ、戦術的要素なんて含めてないんだよ。

 

「しかしこのまま何も無しというのもな」

 

―まぁ…気持ちは分からんでもないさ。折角見つけたんだからな、記念に一つくらいは欲しいものだ。

 

「だな。…ん?」

 

捨てられた兵器群から離れた場所に淡い光を放つガラスケースがあった。

ここに電力は通っていないと思っていたのだが、何故かそれだけ光を灯している。近づき中を見てみると一丁の拳銃…それも魔改造が施されているであろうリボルバーの姿があった。

 

「成程な。こいつだけ独自に保持していたのか…」

 

誰がやったのか知らないが、これだけに灯りが灯させたまま放置している等まるで見つけてくださいと言わんばかりの様だ。当然ながらその誘いは喜んで受けさせてもらうとしよう。

何やらパスワードの様な物が敷かれていた為強引にガラスを叩き割り、今の今まで眠っていたその銃を手に取る。

人間からすれば普通のリボルバーと比べて重量は凄いだろうが自分からすれば軽いと言っていい。

にしてもこのリボルバー…シリンダーに装填されている弾が普通のとは全く違う。拳銃に使う様な弾には全くもって見えない。

 

―リボルバーをここまで魔改造するとはなぁ…ここにいた連中ってぶっ飛んでるな。

 

「だがいいものを見つけることが出来た。寧ろ感謝の意を述べたいくらいだ」

 

―反動がすごそうだな、このリボルバー…

 

「俺達には関係ない事だろう」

 

―そうだな。

 

リボルバーを空けていたホルスターに納めると、その場から後にする。兵器あさりをずっとしていたせいか時間は既に夜に差し掛かっていた。鉄血の人形部隊の追手が来る様子がない事を確認すると一夜を過ごす事にした。

 

 

「さて…明日からはどうするものか」

 

廃工場の休憩室兼仮眠室にて、淡い光を放つランプを傍に置いてベットに寝転がりながら呟く。ずっと放浪していたせいもあり、最近は腰を落ち着けたい場所が欲しいと思いつつあった。いっそグリフィンに転がり込んで、就職でもしようかと考えた時期もあった。だがいきなり雇って下さいなんて言える筈もない。加えて鉄血の人形部隊相手に派手に暴れ過ぎた事もあって、グリフィンの人形部隊を見掛ける事も多くなり完全に機会を逃してしまった。

 

―雇われにでも鞍替えしたらどうだ?

 

「疫病神憑き…いや、■■憑きの傭兵なんて誰が雇う?」

 

―余程の物好きか頭の空っぽな奴ぐらいだろうな。

 

「…」

 

―どちらにせよ。俺達には時間はある。ゆっくり考えたらいいさ。

 

「そうだな…。そうするとしよう」

 

ランプの灯りを消して、眠りに入る。

さて明日はどうなるか…。




世界観が難しい…
もっと情報をあつめなきゃ…


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Act1 そして「それ」は戦場にて軽く暴れる

一話を上げてすぐに感想がきてて震えた作者。正直びっくりしてますw
さて二話目。戦闘描写を入れた訳ですが上手く出来ているか不安だ…。


心地よい風。

それは眠っていた自分を優しく起こしてくれるものとなっていた。

伏せていた目を開き、体を起こす。窓から差し込む太陽の光が全てを照らし、包み込む。まるで新しい一日を知らせている様だ。今が荒廃した地球だという事を忘れる位に。

 

「ふむ。今日も太陽が綺麗だ」

 

―だな。この世界が荒れていなければ、その美しさに酔いしれていたいものだ。

 

蒼も思う所があるのだろう。流石は人智を超え、長くを生きる存在。

人間では無理であろうその先を何倍にして楽しむことが出来る。もし自分がまだ「人間」で「■■」の事を知っていたら確実に羨むだろう。誰だって死ぬ事は嫌なのだから。かつて自分が経験したように。

 

「さて…今日は……ん?」

 

―あれは…

 

蒼も見えているのだろう。互いにこそこそと動いている人影らしきものを見つけていた。何となくだが鉄血の人形部隊ではない…。だとするのであればグリフィンの人形部隊だろうか?こんな辺鄙な場所だというのに…随分な数だ。

これだけの数をこんな辺鄙な場所に集結させるとは…もしや何か大規模な作戦でも展開するというのだろうか?

 

―この数からしてその考えは間違ってはいないだろうな。しかし何故…?

 

「分からん。だがここに残っていると厄介な事に巻き込まれるのは目に見えてる」

 

―そうだな。戦闘が起きる前にさっさと…

 

蒼が言い切る前に各所に銃声が鳴り響いた。気付けば鉄血の人形部隊もそこにいる。

どうやら完全に脱出する機会を見失ってしまったみたいだ。

 

―これは穏便に済ます事は出来ないな。余計に鉄血の人形部隊と鉢合わせするな?

 

「おまけにグリフィンの人形部隊ともな。下手すれば両者に喧嘩を売る事になりそうだ」

 

―それはそれで良いんじゃないのか?

 

「馬鹿を言うな。両者から追われる日々など送りたくもない」

 

―なら慎重に動くか、或いは…

 

「味方だと思わせる行動をする…それぐらいだろうな」

 

―だな。

 

荷物を背負い、ローブを纏う。

しかし味方だと思わせる行動、か…。鉄血の人形部隊を散々斬り伏せてきた奴など向こうは信じてくれるかどうか…。どちらにせよ今はここからの脱出が第一目標だ。それに伴う弊害は状況に合わせて動くしかあるまい。

 

「さて。行くとするか」

 

歩きながらその場を後にする。

出来れば穏便に済ましたいと思っていたが、神様は俺たちの事を嫌っているのか部屋を出て数分後、鉄血の人形部隊を鉢合わせる事となった。

 

 

響く銃声、轟く爆発音と振動。

兵器工場外部ではグリフィン支援部隊と鉄血の人形部隊が交戦している中、内部でも戦闘は起きていた。

最もそれは一方的なものと言えるだった。

 

「…ッ!」

 

高速移動同時に放たれる神速の抜刀。

その攻撃は鉄血の人形部隊を一瞬にして斬り刻む。一度斬り刻まれば「死」というガラクタへと成り替わる事から逃れる術は存在しない。

その攻撃から逃れる事のなかった鉄血の人形部隊は瞬時にして壊滅。残るは残骸のみとなった。

ローブを纏う男…ギルヴァは鉄屑と化した人形には目もくれず、歩みを進めていく。

その間、彼は鉄血の人形部隊と遭遇する事になるのだが、いとも簡単にそれを斬り伏せていく。

遭遇した回数が5回となった所で彼は工場内のエントランスに出てきていた。散々敵を斬り伏せてきたせいか、敵の姿は確認できない。戦力は外部へと集中しているのだろうと判断した彼は正面からではなく裏口へと歩き出す。

これでこの場からおさらば出来る。

一歩、一歩とブーツの底が当たる音を響かせながら歩くギルヴァ。裏口に到達し、やっと思いでその場から離れる事が出来た彼。そのまま戦場から離脱するのかと思えば、ギルヴァの視線はある方向へと向けられた。

 

「あの建物…燃えてるな」

 

―みたいだなぁ。もしや兵器工場外部のグリフィンの連中は囮か?

 

「どうだろうな…。少なくともグリフィン以外にも他の何かが動いている。分かる事はそれぐらいだろう」

 

口角を少しだけ吊り上げ、刀を握る手を強めるギルヴァ。

本来であればそのまま戦場から離脱するのが当たり前だろうが、彼にはある思いがあった。鉄血の人形…その上位種と戦いたいというものだった。

 

「少しは楽しめそうだな…」

 

―この状況を楽しむやつなんざお前ぐらいだよ。

 

「かもな」

 

蒼のツッコミを軽く受け流して彼は歩きを止める事はなかった。

疲れを見せない歩きで軽々と燃え盛る建物へと到達。そのまま内部へと入り、進める道を通っていく。内部は炎と瓦礫で荒れているが、彼は気にせず歩いていく。逆にこの建物内にいるであろう何かを感じ取っており、それが鉄血の人形の上位種でないかと思っていた。もしそうなのであれば一戦交える気な彼。だが物事とは言うのはそう簡単に行くこともなく、ある場面に遭遇するのだった。

 

「が……ぐ……!」

 

片や首を絞められ、もがく者。

 

「そう…私を見なさい…。そして苦しみなさい…!!」

 

片や片腕で軽々と持ち上げ首を絞めるメイド服姿の者。

そんな状況に彼は遭遇してしまったのだった。

 

(ふむ…。厄介な状況に遭遇したな…)

 

―あれは…。おい、あのメイド服の女…鉄血の上位種だぞ

 

(ほう。では…もう一人は?)

 

―もう一人は……。あぁ、成る程。あれはAR小隊のM4A1だな。どこかで見た事がある。

 

(そうか)

 

蒼が教えた情報にギルヴァは再度口角を吊り上げる。

まさか本当に鉄血の上位種が居るとは思わなかった。何かが居るとは分かっていたとしても完璧にそれとは限らない。いくら彼が■■であろうと完璧に当てられる程の自信はないのだ。

 

(まさしく僥倖と言った所か)

 

流石に鉄血に対して喧嘩を散々売ってきた事を反省している彼だが、この状況を逃すつもりはなかった。

ローブを脱ぎ捨て、腰を下ろすと刀の持ち手に手を添える。

狙うは一つ。斬るは一つ。ここでグリフィンに恩を売るのも忘れない。後は取り敢えず状況に任せる。

前者は兎も角、後者が適当過ぎる気もしなくはないが、そんな事を誰も知る由はない。

 

「ふっ…!!」

 

勢い良く地を蹴り、彼は鉄血の上位種…エージェントに襲撃を仕掛けるのだった。

 

 

「ッ!?」

 

突如として現れた第三者による攻撃。鞘から抜き放たれ、煌めく刀身はM4A1の首を絞めていたエージェントの手を斬り落とす。突然の襲撃にエージェントはその場から飛び退き、襲撃者を睨む。

長く伸ばされた髪を一つに束ね、前髪が目元を隠す程長い。黒を基調とし、うっすらと青い刺繡が施されているコートを纏い、その者は余裕そうに刀を鞘に収めている。

グリフィンの戦術人形ではない。直感的ながらもエージェントはそう判断する。

基本銃器を使う戦術人形。近接武器を用いるグリフィンの戦術人形など彼女は知らない。

だとすれば目の前に居る者は何者か?敵を仕留める邪魔をされたか彼女であるが冷静さを保っていた。

 

「何者ですか…?」

 

「知ってどうする?」

 

「邪魔をされた報復をする為です」

 

「そうか」

 

淡々と。しかし襲撃者に油断なければ隙すらない。

声からして男なのは間違いない。それと同時に視界に何かノイズの様な物が走っている事がエージェントは気がかりだった。それは助けられたM4A1もそれを感じており、目の前にいる者を警戒すると同時に不思議で仕方なかった。そんな事を知る筈もない襲撃者…ギルヴァはそっと口を開く。

 

「相手してもらおうか」

 

そう言いながら居合いの構えを作るギルヴァ。

それに対してエージェントも戦闘態勢を取る。今の彼女はボロボロの状態だがここで戦ったとしても勝ち目はあると判断していた。当然ながらその理由は手にしている武器だ。

ギルヴァが持つのは日本刀。対してエージェントの武器は遠距離武器。互いの距離が離れている今、どちらが有利なのか簡単に察する事が出来る。同時にギルヴァが人間であるとエージェントは思っていた。

人間が全てを上回る戦術人形に叶う筈がない。もしここに観客がいるとするであれば誰もがそう思うだろう。

彼が"普通の人間"であればの話だが。

 

「っ!」

 

緊迫した状況を先に破ったのはエージェントの方だった。片腕ながらもスカートの裾を捲り上げ、武器を展開する。その素早い動きにギルヴァは動く事をしない。

勝った。エージェントは思った。

所詮に人間など取る足らない存在だと。

だがそれは簡単に覆された。

 

「下らん」

 

「!!?」

 

驚くのも束の間、何かが歪んだと思った瞬間エージェントの装備していた武器がバラバラに崩れ落ちたのだった。

その様子に彼女も、ギルヴァの後ろで座り込むM4A1も驚かずにはいられなかった。

互いの距離が離れており、そして一切抜刀の動作を見せていない筈のギルヴァの攻撃が彼女の武器をバラバラに斬り刻んだのだから。

それもその筈。彼は常人には、ましてや戦術人形の目ですら追う事が難しい抜刀で空間を切り裂き、エージェント側へとその斬撃を浴びせたのだ。

それは■■となり、鍛錬を積む事によって出来たギルヴァの居合い抜刀術の一つ。

名も「次元斬」である。

 

「な、何が起きて……?」

 

冷静で対処できる筈もないエージェントは起きた一端に狼狽えるしかなかった。たかが人間と思っていた敵が自身の予想を大い上回る事をやってのけたのだから無理もない。一体この者は何者なのか?彼女の思考はそれで埋め尽くされていく。答えを導きだそうとしても空回りするのみ。

 

「有り得ない…!そんな人間など存在しないッ!!あなたは何者ですかッ!!!?」

 

「何者か、か…」

 

その瞬間、彼の姿が消える。

連続して起きる超常現象に処理速度が追いつかずにいるエージェント。そんな事は知った事ないと言わんばかりに彼女の目の前に現れたギルヴァは勢いよく納刀されたまま状態の刀で突きを入れた。

その一撃は軽々とエージェントは部屋の向こうへと吹き飛ばし壁に叩きつける。人間が人形を圧倒するという場面を終始目の当たりにしたM4A1は最早驚きのあまり言葉を失う。

だがギルヴァは一切その事を気にする事はなく、エージェントの問いに静かに答えた。

 

「心を持った悪魔だ」




主人公に終始圧倒されるエージェント。悪魔だから仕方ないね(ニッコリ
次はどんな展開するか未定ですので更新が遅れますのでご容赦を。
では次回お会いしましょう。ノシノシ


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Act2 Run!Run!Run!

今回は戦闘は無し。
後少しだけ主人公の過去に触れます。

お気に入り登録をしてくれている方々、この場をお借りしてお礼申し上げます。ありがとうございます!



―一体…この人は何者なの…?

 

部屋の各所が炎で燃え盛り、暑さを感じながらも私は目の前に男性を見つめた。

突如として現れ、刀一本で鉄血のハイエンドモデルを圧倒。それどころか距離が離れた相手に斬撃を与えたり、急に消えたと思えば接近していたり……正直な所、あの人形が狼狽えても無理もないと思ってしまった。

やっている事が人間の範疇を超えているのだ。しかし私達と同じ様な人形とも思えない。ならば一体何者なのか?

…まさしく「異端者」。もし言葉にするのであればそれが正しいだろう。

 

「っ!」

 

助けてくれた事には感謝している。だが彼の握る刀が自分も向く可能性もあった。

すぐさま彼へと銃を向ける。こんな事している場合ではないのも分かっている。だが余りにも謎過ぎるが故にそうせざるえなかった。

 

「…」

 

自分に銃が突き付けられている事に気付いたのだろう。男性はゆっくりとこちらへと振り向いた。長く伸びた前髪のせいもあって何を考えているのか分からない。だが銃を向けられているこの状況でも恐れや怯えを見せる様子は一切ない。先程の事といい、人形との戦いは慣れているのだろう。むやみに交戦する事になればどうなるか…想像すらしたくない。

お互いに緊迫した空間が生まれる。先に破ったのは男性の方だった。

 

「そうするのは勝手だが…。良いのか?どこか急いでいる様にも見えるが…」

 

「っ!…えぇ。正直な所こんな事をしている余裕はありません」

 

「そうか…。ならばそれを優先するんだな」

 

「どういう意味です」

 

「そちらとの交戦意思はないという事だ」

 

そう言いながら男性は背を向けて歩き出した。普通なら呼び止めて、わざと足元を撃つなりして止まらせる事は出来ただろう。だが今の私には何故かそれが出来なかった。

 

「…守りたいものがあるのだろう?ならばこんな所で油を売っている暇などない筈だ」

 

「…」

 

「力だけでは何もならん…。その意思が、思いが本物だというのなら、その足を止めるな」

 

何か見透かされている様な気分だった。だが同時にその言葉は何か響くものがあった。

何故それを伝えたのか訊ねようとした時、遠くから誰が走ってくる音が聞こえた。数は一。恐らくそれは…。

 

「お迎えが来たようだな…。部外者はさっさと出ていくとしよう」

 

向こうにもそれが聞こえていた様で、そのまま彼は暗闇の奥へと姿を消していった。

結局…彼が何者なのか、そして彼の名前が分からないまま、私は作戦を続行するのだった。

 

 

 

 

「ここまで来れば問題ないか」

 

戦場から離脱し、全体が一望できる丘の上に到達。

戦闘はまだ続いているのだろう。銃声は引っ切り無しに響ていた。

 

―何であんな事言ったんだ?

 

「何がだ?」

 

―最後に言った台詞だ。力だけでは何もならん、どうのこうの…

 

「さてな…俺にも分からん」

 

何であんな事言ったのだろうか…。彼女とは今の今まで関わりなんてない。全くの初対面だ。

彼女を見て何か思い当たる節でもあったというのだろうか…。

只…分かるとするのであれば…。

 

「そうした方がいい。そう思っただけだ」

 

曖昧で感情的な答え。だが今はそれぐらいしか答えられなかった。

あれからかなりの日数が過ぎた。あの日以降、彼女が、グリフィンの戦術人形部隊がどうなったのか知る由もなく何時もの様に各地を放浪していた。以前の様に鉄血との戦闘は極力避けるようになり、何時もとは一部違う日々を過ごしつつ、ちょっとした平和を満喫していた。そう、していたはずだった。

廃墟と化したマンションの渡り廊下を全速力で駆け抜けていく。後ろからは追いかけてくる足音が多数。

 

「蒼!周囲の状況は?」

 

―後方から5!前方の階段から2!このまま行けば挟み撃ちに遭う!

 

「とことん追い詰めて来たか。この手のは向こうが上手か」

 

―言っている場合か!挟まれる前に別の道を探せ!

 

「分かっている!」

 

「止まりなさい!!」

 

蒼が言った通り、前方の階段から駆け上がってきた…グリフィンの戦術人形の姿があった

これでは階段へは向かえない。だからと言って足を止めてしまえば終わりだ。ならば手段は一つ!

 

「なっ!?」

 

「はっ!?」

 

「えぇッ!?」

 

完全にこちらを追い詰めたと思った人形達から驚愕の声が聞こえる。それもその筈だろう。高さは10メートルはあるだろう場所から自分は飛び降りているのだから。普通の人間がこんな事すれば命を捨てていると言っていい。だが自分は「あれ」なのだから、この程度高さはどうという事はない。

 

「何でこんな事になったのか」

 

地上へと落下しながら呟く。束の間の平穏は過ぎ去り…、

現在進行形でグリフィンの戦術人形部隊に追われているのだから。

正直思い当たる節がない訳でない。だが何時から自分の事が向こう側に漏れたのか?それが気がかりだった。

今まで誰かに見られる事無く済んでいた……いや、待てよ…?

思い出すは「あの日」の事。一人だけ会っているじゃないか…。

 

「しかし…」

 

何か違うと勘がそう告げる。ならばどうしてこんな事になっているのか?

憶測だがあのM4A1以外の誰かが偶然こちらの事を見ていたとすれば?同時に鉄血の人形部隊が斬り伏せられている事をグリフィンが認知していたとするのであれば…?そして自分の情報がグリフィンに伝わったとすれば…?

 

「今だけは神様を呪いたくなる」

 

―と言っても大半は俺たちが原因だがな?

 

「否定はせん」

 

一回転して地表に着地。一先ず危機は乗り切ったが、まだ安心はできない。未だにここら一帯では彼女たちがこちらを捕らえる為にせわしなく動いているのだから。正直な所、ここに鉄血の人形部隊がやってこないだろうかと思っている。お互いに敵対する立場なので、戦闘に紛れて逃げる事が出来るから。

だが、そんなのが起きてくれる訳がないのだからこうして逃げ回っているのだろう。

 

「鉄血から追われても仕方ないとは思っていたが、まさかグリフィンの方からとはな…」

 

―モテ期か?

 

「嬉しくとも何とも思わん」

 

互いに冗談を口にしつつ、この場から去る為歩き出す。しかしここからどうしたものか…。

こそこそ動いていたとしてもいずれ見つかる感じがしてならない。だからといって一戦交える様な事はしたくない。さて…

 

―いっそ正面突破で行ったらどうだ?

 

「…だな。こそこそやっていては埒があかないのは分かっているからな…」

 

現場を適当荒らせば指揮系統に乱れが生じ多少の時間稼ぎにはなるだろう。だが向こうは素人ではない。あらゆる事態を予測している上、隙も無いと言っていい。こちらを捕らえる為にあらゆる手段を使ってくる筈。

それはこちらも同じで、今は捕まるつもりはない。ほとぼりが冷めたら喜んで捕まるつもりではあるが…今はそうではない。そう…今はまだ、な…。

 

「行くぞ、蒼。少しばかり暴れる」

 

―了解。こちらを簡単に捕まえられると思っているお嬢様達に一泡吹かせるとするか

 

「あぁ…!」

 

勢いよく駆け出す。さて…ここからが本当の鬼ごっこだ…!

 

 

「居たっ!あそこに…って、うわっ!?」

 

「どうしたの!?きゃあっ!?」

 

人形と出くわす度に、ぶつかる寸前で跳躍して飛び越える、怪我しない程度に人形の肩を足場にして飛び越える、建物から建物へと飛び移るなど言った事を繰り返していた。いくら慣れていても突然の事には対処が疎かになるみたいで、この作戦は上手く行っていた。そのおかげか追手は段々と少なってきており、このまま逃げ出せるのも時間の問題となっていた。しかし気は抜けない。向こうだって黙っている筈はないだろう。

 

「っと…。ここまで来たら少しは安全か」

 

―あぁ。だが油断は出来ないな

 

「分かっている」

 

耳を澄ませば未だに声が聞こえる。まだこの近くに居るのだろう。あまりゆっくりはして居られない。

そう思いつつも、空高く月を見つめた。今日は満月、淡く照れされる月明かりが綺麗だ。この状況でなかったら月見でしたかったものだ。

 

―出来るならば酒も欲しいな。

 

「確かにな」

 

…今思うと…M4A1はどうしているだろうか?急ぎ事は無事に完了したのだろうか?

あれから随分の時が過ぎた為、今や知る手段はない。だが何故か気になってしまう…どうしてだ?

 

―…妹さんに似ているんじゃないのか?

 

「…蒼」

 

―勝手にお前の記憶覗かせて貰ったが…お前、妹さんが居たんだな?血の繋がりはないが…。

 

「あぁ…居たさ、いつも引っ付いてくる妹がな」

 

―性格は違うが、顔や髪型は何処か似ている所がある。あの時、あの言葉を言ったのも…重ねてしまったからじゃないのか?死んだ妹に…。

 

「かも…知れんな。無意識のうちにそうしていたんだろうな…」

 

もしあの子が生きていて…人ではなくなった自分を見てどう思うだろうか。

何て言うだろうか……今やその声は聞く事は出来ない。だが…もしかすれば…。

 

―根が優しく、お前に生きて居てほしいと願った子だ…。寧ろ喜んだのではないか?

 

「どうだろうな…」

 

しんみりした空間が訪れるがそれもすぐに消え去っていく。グリフィンの人形部隊が迫ってくる足音が響いている。直にここに到達するだろう。

 

「さて…もう一回逃げるか」

 

―だな。

 

「ここから逃げ出したら、彼女を探してみるか…」

 

―それも良いんじゃないか?時間は沢山あるからな。

 

「そうだな」

 

月へ飛び込む様にその場から飛び去る。その時、何だか誰かに優しく背中を押してくれる感覚があった。

それが何なのか、一体誰だったのか…結局の所分からずじまいだった。

 

 

彼が飛び去り、無人となった屋上。

月明かりによって照らされるその場において、飛び去った彼を見つめる少女がいた。

可愛らしいワンピースに、花の髪飾りを身に着け、彼女はやさしく笑顔を作る。

 

(私はここで見守っているよ、お兄ちゃん)

 

まさしくその笑みは…月夜に咲く一輪の花の如く、美しいものだった。




次回もどうするか未定。
出したいキャラはいるんですが…うちで持っていないキャラを出していいものか…悩みどころです。

ではまた次回 ノシノシ


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Act3 子猫と戦術人形…そしてバイク

お気に入り登録が増えてて、びっくりしまくっています作者です。

皆、DMC、ヤンデレ…好きなんだね…嬉しいです。

ではAct3どうぞです。



グリフィンの人形部隊の追撃を何とか振り切りながら、放浪の旅を続ける。

あの場所から相当の距離を歩き、今や廃墟の姿はここからは見えない。このまま距離を稼ぎたいのだが…一時的な拠り所にしていた廃墟に休んでいた所である客人が偶然訪れた。

いや…元々ここで済んでいた住人だったのだろう。その住人は可愛らしく迎えてくれた。

 

「にゃー」

 

「ふっ…人懐っこい子猫だな」

 

ふさふさの白い毛並みを堪能しながら、子猫の頭を撫でる。心地よいのか子猫は目を細めて気持ちそうだ。一度撫でるの辞めたら、もっと撫でてと言わんばかりに手に頭をこすりつけてくる。随分と甘えん坊な子猫だ。

しかしこの子猫…ずっとこの場所で暮らしていたのだろうか?そう思うと中々生命力のある猫の様だ。

 

―しかしこいつ、こちらを恐れないとはな。動物って意外と直感で見抜いてくるからな…

 

「そうなのか…。だとすればこの世界において一番強いのはこいつかもな」

 

―ハハッ、■■を恐れないか。かもしれないな。

 

子猫を優しく抱き寄せて、膝の上に乗せる。心地よいのか体を丸めて静かに寝息を立ててしまった。どうやら猫が起きるまでは暫くここで足止めなる訳だが…まぁここの所動き回っていたからな。少しだけ休憩するとしようか。

背を壁に預け、子猫を優しく撫でながら外を眺める。最近は晴れが続いてが…今日は天候が怪しい。もしかすれば雨が降るかもしれないが…まぁそういう日も悪くないか。雨音を聞きながら一日を過ごすのもまた旅だ。

ずぶ濡れなるのは好きじゃないので雨の日は出歩く事はしない様にしている。

 

「少し寝る…。何かあったら起こしてくれ」

 

―分かった

 

目を伏せて、静かに眠りにつく。その直後雨が降り出したのだが、雨音をBGMに雨の一時を過ごすのだった、

 

 

 

―ギルヴァ、起きてくれ

 

「ん…。どうした、蒼」

 

30分位は経っただろうか。雨はとっくに止んでおり、雲の間からは青空が見える。

一緒に寝ていたい子猫も目を覚ましているらしく、尻尾を揺らしながら膝の上でくつろいでいた。

 

―今し方、この場所にお客様だ。数は一。気配からして戦術人形だ。

 

「たった一人で…?」

 

そっと立ち上がり、壁に立て掛けた刀を手に取る。確かに人形の気配があるが…。

 

「にゃっ」

 

こちらが立ち上がったせいで、膝の上から降りる事になってしまった子猫がこちらを見上げている。

元々はここに住んでいたからこれでお別れになる。お別れになるのだが…

 

「一緒に来るか?」

 

「にゃっ!」

 

言葉がわかるのだろうか。行く!と言わんばかりに鳴いて答える子猫。どうやら旅に新しい仲間が…それも可愛らしい仲間が増えるみたいだ。かがんで子猫を掴むと右肩に乗せる。指で猫の頬を撫でて言う。

 

「しっかり掴まっていろ。それと少し静かに頼むぞ」

 

「にゃっ…」

 

静かに鳴いて答える子猫。こいつ、本当に只の猫なのだろうか?

中身は機械でしたなどという事はないと思いたいが。

 

 

休んでいた部屋の階から一階へと静かに降りると、地面に座り込み負傷した戦術人形の姿があった。

息は荒く、纏う服と水色の髪は土埃で汚れている。何者かに追われているのだろうか…。だがこちらもグリフィンの人形部隊に追われており、現在その追っ手を撒いた身。下手に姿を晒せば、仲間に通信を取られる可能性もない訳ではない。なのだが…どうしてたった一人で…?それが気になって仕方ない…。

 

―ギルヴァ。入り口近くを見てみろ…。

 

そう語りかけてきた蒼が言った方へと向くと、全身黒いローブ姿を纏った集団の姿があった、

顔が隠されているので男か女か、それすら分からない。だがその気配は人形だ。しかし何だと言うのだ…この違和感は?俺が知る人形の気配と何かが違う…。

その瞬間だった。ローブ姿の集団が突如として動き出した。手に持つのはサブマシンガン。その形状はどこか似た点があった。まさか……

 

「考えている暇はないか…!」

 

「にゃっ!!」

 

柄に縛り付けていた下諸をほどき、手をかけると地を蹴って集団にへと飛び込む。

突如として現れた第三者に集団の動きが一瞬だけ鈍る。手に持ったサブマシンガンの照準をこちらに合わせようとするが…

 

「遅い」

 

照準が合わさる前に刀を抜刀。前方の一人を斬り伏せ、続け様に後ろに立っていた一人に鞘を投擲。

勢いよく投げられた鞘は相手の腹部に突き刺さり、壁へと吹き飛ばされ動かなくなる。

 

「後ろ!」

 

「!」

 

負傷している戦術人形が叫んで言ってきた様に、自分の後方でサブマシンガンを構える人形の姿が。

振り向きざまに両手のサブマシンガンを斬り落として破壊。これで相手に戦う手段はない。だがあきらめるつもりはないのだろう。こちらへと飛び掛かった来た。

それをしゃがんで、回避。宙を浮かぶ隙だらけの人形の腹部に蹴りを叩きこみ、壁側へと叩きつける。そして接近して跳躍して勢いよく回転。まるで満月を描く様に回転しながら相手の頭部に向かって…

 

「はあぁぁ…はぁッ!!」

 

強烈なかかと落としを叩きつける。今使った体術は「月輪脚」。勢いのある回転から最後には強烈なかかと落としを叩きつけるというもの。流石に刀だけ技を覚える訳にはいかないので、覚えた体術の一つだ。

 

「ふぅ…」

 

息を吐いて、呼吸を整える。

流石に耐えられなかったのか頭は完全に潰れ、人形は動かなくなり地面へと崩れ落ちている。

まさか…鉄血の人形だとはな。それに良く見ると一部に手が加えられた様な痕が残っている。これは一体どういう意味だろうか…良く分からないな…。鉄血の人形の新しいタイプ…なのか?

 

―何だろうな…何か違う気がするな。気のせいか?

 

「いや…俺もそう思っている。何かが違う」

 

反対側の壁に叩きつけれて動かなくなっている人形の腹部から鞘を引き抜き、付いている疑似血液を払ってから刀を納める。にしても気味が悪いな…何がどうとは上手く言えないが、そう思えて仕方ない。

まぁ今はそんな事はどうでもいいのだ。先に気にするべきは負傷している戦術人形の方だ。

そちらへと体を向けると唖然とした表情を浮かべ、止まっていた。

 

「何だろう…これが初めてじゃない気がする…」

 

―のちに起きる事もな?

 

「やれやれ…」

 

「にゃっ」

 

ため息をつきながらもその戦術人形に近づき屈む。見た感じ大きな負傷はしていないみたいだ。負傷と言っても攻撃で服が一部破れている程度か。少しは安心した。人形の怪我は自分ではどうとも出来ないからな。

しかし自分が目の前にいるというのに彼女は啞然としたままだ。どうかしたのだろうか?

自分の知る展開では銃を突きつけられるというお約束が待っている筈なのだが…。

目の前で手を振ってみる。ん…目が動いた。どうやら完全に機能停止している訳ではなさそうだ。良かった…。

 

「大丈夫か?」

 

「え、えぇ…」

 

「そうか。それでどうしてここ「貴方は…」ん?」

 

「一体何者なの…?」

 

成程、そう来たか。

しかし何者、ね…。どう答えたものか…。

取り敢えずこう答えておくか。

 

「戦闘が得意な人間だ」

 

あからさまに嘘だと思われる筈なのだが、彼女は彼女で何とか納得したいのだろう。

今だけはそれを信じ、納得してくれた様子だった。

 

―後で再度説明がいるな、これ。

 

その様だな…。

 

 

 

彼女…HK416を連れて先程居た場所へと向かう。

最初の方はまだ混乱していた様子だったが、元々の住人だった子猫…ニャン丸(命名したのは蒼)が彼女を落ち着かせ、癒す役目を請け負ってくれた為、今はそんな様子は見られない。

今が頃合いかと判断し、彼女に尋ねる。

 

「それで?どうして一人でここに?基本小隊を組んで行動している筈だろう?」

 

「ええ、その通りよ。404小隊…それが私が属している小隊よ」

 

「成る程。で?仲間は?」

 

「作戦中にあいつらに襲撃を受けて、連れ去られたわ…」

 

あいつら…。さっきの奴らか。しかしそう簡単にやられる様な人形には到底思えないな。

とするとあれか?あの鉄血の人形は新しいタイプか?それなら納得は行くんだが…どうも違和感が残る。

 

「一つ聞くが…あの鉄血の人形。どこか違和感はなかったか?」

 

「えぇ、大いにあったわ。普通とは比べ物にならない位のパワー。加えて銃弾なんて喰らいもしなかったわ」

 

まぁそんな連中を貴方は斬り伏せた訳だけど、と彼女はそう締めくくった。

ふむ…こいつはまた嫌な予感しかしないな。下手すればまた鉄血と喧嘩だ。最近は避けたというのに。

だが…どうもというか。あの時を重ねてしまうというのか…何もしないと言う考えが浮かばなかった。ではどうするのかと言うと…。

 

「仲間の居場所は分かっているのか?」

 

「ええ。さっきから仲間からの通信が飛んできているのよ。ここからどの方向に、どこにあるのか判断出来るわ…。それがどうしたというの?」

 

「決まっている。君の仲間を救出するんだが?」

 

「正気?…って言いたい所だけど、一つ問題があるわ」

 

「それは?」

 

「ここから皆が居る場所まで相当距離があるのよ。下手すれば二日はかかるわ」

 

ここから二日。確かに問題だな。

だが解決策は既に講じてある。

 

「それなら問題はない。ついてこい」

 

「え?あ、ちょっと!?」

 

 

あの鉄血の人形の残骸が残る所に行き、部屋の奥にて埃被ったままのシートを被せられた物へと近づく。

それを引きはがし、眠っていた物と対面を果たす。今でも見掛ける事はあったが、このタイプのものはそう見掛ける事はない。第三次世界大戦の影響もあり、あるかどうかさえ怪しいと言われた伝説の一つ。

 

「これって…バイク?でもこのタイプは初めて見たわ」

 

そう。バイクである。だがそれもアメリカンバイクである。正直良く形を保ったまま、眠っていたなと思いたくなる。今でもバイクの生産はされているがこの手のタイプはあまり生産はされていない。どうしてなのかは知らないが…。だが今はそんな事どうでも良いのだ。

 

「こいつ…走るの?」

 

「問題ない」

 

そっと手をバイクに当てる。確かに長い事使われていないので走る事はまずないだろう。

だがそんな事は関係ない。自身の保有する「力」でこいつを起き上がらせる。

手から青いオーラの様なものが流れ、バイクへと注ぎこまれていく。そしてオーラがバイク全体を包み、集約した瞬間、埃だらけで塗装も剥げていたバイクは黒く彩られたボディを輝かせエンジンを唸らせて新品同様な姿へと生まれ変わった。

 

「さて…これで行けるな」

 

「ホント…貴方、何者なの…?」

 

「今はそんな事どうでもいいだろう。行くぞ」

 

バイクにまたがり、416が後ろのシートに跨るのを確認するとエンジンを大きく唸らせて、バイクに走らせる。因みに先程まで肩の上にいたニャン丸は416は胸の中で捕まる事にしたらしい。

 

 

バイクを走らせて風を切っていく。向かうは416の仲間が囚われている場所。

この調子なら今日中に着くと見ていい。バイクは走らせる度に当たる風の心地良さを感じていると…

 

「ねぇ!貴方名前は?」

 

「どうした、突然」

 

「まだ聞いていないと思って」

 

「そうか。…ギルヴァだ」

 

「ギルヴァね。覚えたわ。……ありがとう

 

最後辺りに何か呟いていた気もするが、バイクのエンジン音と風を切る音もあって聞き取れなかった。

その代わりと言っていい位に自身の腰に回された腕の力が少しだけ強くなる感覚があった。




416持ってないけど出したかったんだ…!どんな声とかどんな性格か調べてみたけど上手く表現出来ている気がしない…そこら辺はご容赦を…(震え

次回、ギルヴァ暴れます。めちゃくちゃ暴れます。
新しい技とか多く出すと思います。と言っても大体決まってはいるんですけどね。
でも内容の方は完全に決まった訳ではないので、更新が遅れると思います。

では次回お会いしましょう。ノシノシ


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Act4 人智を超えた力(上)

友人にドルフロを始めてどんなのかを見せた後言われた事…。

友人「フレンドいないの?」

作者「一人もいません…」

ハーメルンのマイページの自己紹介の所でIDとか乗っけて大丈夫なのか?と常々思う日々でございます。

それはともかくAct4どうぞ。

あ、お気に入り登録してくれた方々ありがとうです。今度よろしくお願いいたします!


バイクを走らせてどれくらいは経っただろうか。着いた場所は誰かの手によって建てられた施設だった。全体を囲む様な隔壁。あからさまに外部から見られる事を避けているのが言わなくても分かる。

怪しさが全開なのは分かるが…だからと言って引くつもりはない。ここには416の仲間が居る。ならば何があろうと全て斬り伏せるまで。例えそれが鉄血の怒りの火に油を注ぐ形になろうとも。

 

「どうやらここの地下からね。何となくだけど反応があるわ」

 

「そうか」

 

見る限り施設へと入る入り口は一つしかない。完全にこちらを誘い込む罠が丸わかりなのだが、知った事ではない。今更それがどうしたというのだ?一度決めた以上は取り消す事など出来ない。…それに416に仲間を失うという身にあってほしくないと思っている。人形はバックアップさえあれば破壊されても、新しい体に誤差はあれど記憶等は取り戻せる様だ。だが…それで本当にいいのだろうかと思ってしまう。バックアップがあるから、替えが効くからという理由で見捨てていい筈はないと勝手ながらだが自分はそう思っている。失うというのは余りにも辛いのだから…。

 

蒼。今回は派手になると思う。下手すれば「解放」も辞さない。

 

―正気か?…だがそこまで言うとなれば相当本気なのだな?

 

当たり前だ。あらゆる技、力を全面に叩き出す。そう決めたからな。

 

―成る程な。なら今回は派手に行こうか。…見せてやれ、俺たちの…■■の力をな。

 

あぁ…。

 

例え恐れられようとも。

敵対する者は何者であろうと斬り伏せるのみ…。かつて大事なものを失い、何も出来ない自分とは違う。

その辛さを、痛みを知っているのだから…だからこそこの「力」を行使するまでだ。

 

「準備はいいかしら、ギルヴァ」

 

「あぁ。問題ない」

 

「そう…。作戦は単純。正面から突撃して、皆を探す。道中、奴らは居るだろうけど…そいつらの相手は貴方に任せるわ。こっちの攻撃はあいつらに効かないし…出来るとしたら精々援護射撃よ」

 

「構わない」

 

「妙にやる気ね…まぁそれはそれでいいのだけれど…。じゃあ行くわよ」

 

「あぁ」

 

 

施設内に侵入。中は物やら何やらで溢れかえっており、ここが別の用途で扱われていたのが分かる。所謂ここはスクラップ置き場…鉄の墓場という訳だ。だからだろうか…辺りは静寂に包まれている。風は一つも吹いておらず、それがかえって不気味さを感じさせる。だが…何かが居るのが分かる。それも大量に。416は気付いている様子はないが、今現在囲まれているのは事実だ。

 

「静か過ぎる…」

 

「そうだな。だからだろうな……囲まれているぞ」

 

「!」

 

一瞬足を止めそうになる彼女だが、そこはプロだからか歩みを止めなかった。

もし足を止めてしまえば、こちらが囲まれている状況に気付いたという事が敵に知られるという事である。そうなればここで袋叩きに遭うのは間違いないだろう。

 

「どうする?」

 

「このまま皆を見つけてこっちに戻ってきたとしても囲まれるのがオチね。けど…」

 

「ここで戦闘した所で後々が困る、といった所か…」

 

「えぇ…」

 

どちらを選んだとしても勝ち目がないという訳である。確かに彼女達を襲撃し、あまつさえは追い込んできた。今までのとは比較にならない程のパワーを有し、同時に攻撃が効かないときたあの鉄血の人形が大量にいるとなればどちらを選んでも勝ち目はないだろう。もし状況を切り抜けるのなら広範囲で、かつ火力のある武器で用いらなければここから生き残る事は出来ない。その程度の事は彼女は分かっているのだろう。

 

「…一つ聞く」

 

「何?」

 

「ここで奴らを貫く()()()が降ったらどうなるんだろうな?」

 

「何を言って…」

 

 

 

私が意味不明な事を言い出したギルヴァに問いかけようとした時だった。

上から何やら鋭い物が降ってきた。何かと思えば彼が持つ刀を同じで…群青色に輝く刀が突き刺さっている。

何故こんなのが降ってきたのか分からない。それにこれは何なのか?

そう思った次の瞬間、私はそこに広がる光景を疑った。

 

「ッ!?」

 

まるで雨の様に、敵の頭上からあの群青色の刀が大量に降り注いでいる光景。無造作に降っているそれは敵に回避行動を取らせない。例え一つ避けられたとしても、雨の様に降るそれから避ける術はない。一人、また一人と敵にあの刀が突き刺さっていく。数分も経たずにその雨は止んだが…止んだ後に広がる光景は何百本…いや何千本という数の群青色の刀が地に、敵に突き刺さっているというもの。この光景を何というのだろうか…。…そう…あれだ。

 

「地獄絵図…」

 

この光景を表すのであれば相応しい言葉だろう。そしてこんな事を出来るのは私の隣に立つ彼、ギルヴァしかいない。初めて会った時もそうだったが、彼には謎が多すぎる。自分の事を戦闘が得意な人間とか言っていたが、それで収拾が付く筈がない。戦術人形相手に圧倒出来る戦闘力、そしてどこからか群青色の刀を発生させ、敵に降らせる等人間に出来る訳がないのだから。正直な所、恐怖すら感じているが同時に心強いとも思っている。自分一人では確実に破壊されていただろう。その点では良いのだが…やはり彼の正体が気になるといえば気になるのだ。

恐らく彼に何者かと問いただしてもきっと適当に言ってはぐらかされるだけだろう。それに今はそんな事を気にしている暇はない。それは隣の彼だって分かっているのだから。

 

「行くぞ」

 

「ええ」

 

今は仲間を助ける事。その一点に尽きる。

 

 

地上から地下へと繋がる道を見つけ、404のメンバーを探しつつ鉄血の人形部隊と戦闘を繰り広げる二人。

今もなお二人はそれらと対峙し長い一本道の通路にて激闘を繰り広げていた。

壁越しから銃だけ突き出し、弾をばら撒く416。そこにギルヴァが飛び込み、敵部隊へと突撃。

当然ながら敵の銃口は416から彼へと向けられ、一斉射撃が襲うのだが彼はそのまま向かって行く。

そして刀を鞘から引き抜くと迫りくる弾丸の嵐を素早く振るい斬り落としていく。火花を散らし次々と弾丸を斬り落とし、敵に迫る。鬼気迫るその姿にたじろぐ人形達だが手にしているサブマシンガンを、アサルトライフルを撃つ事を辞めない。すると彼は一度刀を鞘に納めて、思い切り地を蹴った。

 

「!」

 

その瞬間、彼女達の前からギルヴァの姿が掻き消える。

突然の事に驚きを見せる鉄血の人形部隊。あの男はどこに行ったのか?

その所在はすぐに明らかとなる。

 

「終わりだ」

 

「!?」

 

後ろから聞こえた男の声。彼は敵を目の前にしながら刀を鞘へと納めようとしていた。

彼へと向けられる銃口。だが敵は気付かない…否、気づかなくても仕方ないかも知れない。今こうして彼へと銃を向けようとしている自分達が既に斬られている事に。鞘に刀身が音を立てて収まった瞬間…人形達は一瞬にしてバラバラになり崩れ落ちた。後方から見ていた416はもう見慣れたのか、驚きの表情は見せずギルヴァの元へと寄る。それもそのはずで、地下に侵入し遭遇した敵は全て彼の技によって斬り伏せられたのだから。それも気付けば切り刻まれ、バラバラにされるという技で。

その技こそ「疾走居合」である。

敵の懐に飛び込みつつ斬り刻み、真空の刃を発生させ相手を刃の渦に巻き込むというギルヴァが持つ技の一つ。予測不可能とも言える疾風の斬撃。当然ながら敵に回避させる余裕などない。一度放たれば、「死」から間逃れる術など存在しないのだから。

 

「反応は?」

 

「近いわ。恐らくすぐそこ…。行きましょ」

 

「あぁ」

 

先導する416の後をギルヴァは追う。残るは硝煙の臭いとバラバラになった人形の残骸と…静寂のみだった。

 

 

―幻影刀、時雨幻影刀、疾走居合…もうえげつない技のバーゲンセールだな。

 

(この程度序の口に過ぎないと思うが?)

 

―だな。

 

…にしても。戦って分かったのだが敵の数がやけに少ない。地上にいた戦力、そして地下にいる戦力が全てとは思えない。それにだ、ここに居る鉄血の人形…一度は戦闘で敗れ破棄されたものばかりだ。倒した残骸を調べた時、まるで継ぎ接ぎの様な痕が残っていた。それを踏まえるとここにいる人形は誰かの手によって甦らされたと言っていいだろう。

だが、一度機能停止した人形を復活なんて、そう簡単に出来る事ではない筈だ。一体何のために?それに404小隊を襲撃した理由は?未だに見えぬここの主の思惑が理解出来ない。

 

「ここね」

 

先を歩いていた416がふと足を止めた。彼女が見つめる先にあるのは巨大なドア。まるでシェルターとかに使用される大きく、また分厚いドア。ここに彼女の仲間が居るのだろう。随分と厳重に閉じ込めるものだ。

 

「古いタイプのドアね。それもロックが掛かってる。番号がなかったらドアノブすら回せないと来たか…」

 

すると彼女がこちらを見てきた。

…あぁ、成る程。

 

「中に居る仲間にドアから離れる様に伝えてくれ」

 

「了解。……うん、大丈夫よ。思い切りやって」

 

「あぁ。…ふっ!」

 

勢い良く抜刀。ドアに目掛けて十字に斬り込みを入れる。するとドアは四等分に分かれ崩れ落ち、中へと入れる入り口を作る。内部は全面真っ白で覆われ、その中に404のメンバーがいた。一人は左目に傷があり、片側だけに髪を結んでおり、もう一人は先の人物とは違い右目に傷、髪を二つに分け結んでいる。もしや姉妹か?まぁ居ても不思議ではないか…。で、もう一人は肝が据わっているのか今まで眠っていたらしく、目元をこすっている。今でも眠たそうな表情を浮かべている。どれだけ眠たいのやらか…。

 

―ギルヴァ。近くに反応あり。数は一。

 

「もう一人?一体どうなっているんだ?」

 

―さぁな。もしかすれば囚われた戦術人形かも知れないな。

 

戦術人形を捕らえてまで…。一体どうなっているんだ…。

だがこのまま見捨てるのも忍びないので、そちらへと歩みを進める事にする。細長い通路が続き、奥の方では先程と同じドアがあった。気配がある…どうやらここに戦術人形が捕らえている様だ。

先程同じ要領で刀を抜き、ドアを四等分にして解体。中へと入ると部屋の隅で足を抱えて顔をうずめている戦術人形の姿があった。顔は分からないが黒い髪に頭には白のカチューシャ、肩から掛ける様な形で白のブランケットが特徴。どう見てもグリフィンの人形だ。彼女もまた囚われた身という訳か。

室内が真っ白だからか、こちらが歩く度にブーツの音が響き良く反響する。だが隅でうずくまっている戦術人形に反応はない。彼女の元へ近寄り、声をかけようとした瞬間だった。

 

突如として素早く動き出した彼女。その目から光が無く、同時に強い怒りが感じ取れる。

手にしていた刀が奪われ、そして…

 

「こふっ…」

 

彼女の手によって自分の腹部が貫かれた。




疾風居合を書いている時、脳内では「あれ」が自動再生されてました。
え?何かって?では分かる皆さん、ご一緒に!






ダァーイ(鬼いちゃんボイス







また幻影刀に関してですが、簡単に言えば幻影剣です。まぁ言わなくても想像は付くかな。


にしても主人公刺されたなぁ。大丈夫かなぁ(棒読み

では次回お会いしましょう!ノシノシ


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Act4 人智を超えた力(下)

他の作者様の作品を読んでいると、別の作品とコラボしているのをチラチラと見かけるこの頃。やってみたい気もありますが…そういう話が来る筈がないだろうと思ってたり…。

まぁチマチマと頑張るとしましょう。

今回特殊タグというのはつかってみました。これ結構いいですね。


ではAct4人智を超えた力(下)、どうぞです。


「あは……あははっ…」

 

血に濡れた刀を持って私は嗤う。

漸くだ…漸く…皆の仇を討つ事が出来た。出来たはずなのに…。

どうしてだろう…

 

「何で…涙が流れるのかしら…」

 

頬を伝う疑似冷却液。

仇を討った。ここに放り込まれて、ずっとその事だけを考えてきた。

何時か訪れる機会を待ち続けて…待ち続けて……なのに何故…?

 

『あーあ…やってしまったか』

 

「ッ!」

 

この部屋に取り付けられているスピーカーから聞こえた声。あの忌々しいあの男の声。

間違いなく私がこの手で討ったはずなのに何故イキテイル!?ドウシテ!?

 

『私が何故生きている事に驚いている様だな?だが私は今ここで生きているさ』

 

『最も貴様が…殺す相手を間違えただけの話だがな?なぁ、95式』

 

「え…」

 

そう言われて、頭の中がクリアになる。

思えば何もかも不自然なのだ。あの男が何故一人で入ってきたのか?本来であればあの男が一人で入ってくる事なんてない。今の様にマイク越しで語りかけてくる筈…。

じゃあ…今私が刺した人はダレナノ…?

何もかもが冷える感覚が襲う。恐る恐る私は、倒れている人へと顔を向ける。

黒いコートに銀髪の男性。そして彼の周りに血が広がっている。

 

「あぁ…あぁぁぁ…!」

 

理解なんてしたくない。

自分が何をしてしまったのか。でも理解してしまった。

そしてその思いは叫びへと変わってしまった。

 

「あああああああああああああぁぁぁぁッ!!!!!!!」

 

『ハハハハハッ!!!!良いザマだ!よもやここまで上手く行くとはな!』

 

あの男が何か言っている。しかしそれは聞こえない。

頭の中はぐちゃぐちゃになって、何も考えられなくて、数分前の自分を壊したくなる。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…あぁぁ…っ」

 

殺してしまった彼へと謝罪の言葉を只々述べるしかなかった。

いくら謝ろうとも死んでしまった男性は起きる事はない。謝罪の言葉が届く事もない。どうすれば彼に許しを請う事が出来るか。否、許しなんて与えられる訳がない。肩を抱きしめ、震えて…どうしたらいいのか分からない。

 

『いくら人形と言えど、精神的なものは存在する…。いやはや、良い余興だったよ』

 

嘲笑うかの様な声。

今の今まで私はずっと男の手の平で踊らされていただけ。何もかも奴に筒抜けだった。

絶望が襲い掛かる。あまりにも大きて、抗うことすら出来ない絶望が。

もう…楽になりたい。なって何もかも忘れたい。この現実の中で生きていくのが辛い。

 

『扉は開いてしまったが…行くなら行けばいいさ。但し、ここの人形は全員強いぞ?あの時…お前が居た基地の全員をあっけなく殺して、破壊できる位にな?まぁ…今の状態で行ける筈もないがな。』

 

大事な妹、大事な指揮官、大事な仲間…全て奪われ…仇を討つ事さえできなくなった。

今の私に残るものなんて何一つない。もう何も残っていない…。

 

『さて…。私は他の客人の相手でもしてくるとしよう。ではな?95式』

 

それを最後に奴の声は聞こえなくなった。

絶望に打ちひしがれて…殺してしまった男性のホルスターに収まっていたリボルバーを手に取る。

撃鉄を起こし、銃口を自分の顎下に向ける。幾ら人形でも至近距離から大口径の一撃を喰らえば一瞬で機能停止する。

 

「97式…指揮官…皆……ごめんなさい…」

 

謝罪の言葉を口にする。

これでやっと…楽になれる。

目を閉じて、ゆっくりと引き金を……

 

「成程。全てはあいつが原因だったという訳か」

 

…引く事は出来なかった。

誰かに銃を奪われ、伏せていた目を開く。

そして私は自分の目を疑った。何故…どうして…?どうなっているの…?

 

「まさか刺されるとはな…。まぁ大した問題にもならんが」

 

死んだ筈の黒いコートの男性がまるで刺された事なんてなかったかの様に平然とした様子で居た。

その様子を見て、つい疑問を口にする。恐らく何度も言われたであろう言葉を。

 

「貴方は…何者なのですか…?」

 

「まぁ…その言葉が出ても可笑しくもないか…」

 

彼は血が付いた刀を手に取り、血を振り落として鞘にへと納める。

そして彼は言った。私の目を見て、はっきりと。

 

「悪魔。…最も心は人間のままのだが」

 

自ら命を絶とうした戦術人形…95式と名乗った彼女は未だに信じられないと言った表情を浮かべ、こちらを見てくる。確かにこの世の中に「悪魔」という存在は迷信、本の中の存在くらいにしか思われていないのだろう。そう考えるとその表情は当たり前というか、正しいといった方だろう。だが今はその事に関して質疑応答をしている暇なんてない。ここの主に…名前は知らないが色々聞きたい事が出来たからな…。

 

「さて…これからどうする気だ?」

 

「え…」

 

「え、ではない。このままずっと寂しく機能停止を選ぶか、あるいはここから出る事を目的とし、生きる事を選択するか…どちらかを選べ」

 

あの強い怒りはここの主に向けられたもの。

そして計画は失敗し、彼女は絶望に打ちひしがれていた。確かにここにいる人形は他と比べ物にならない位強化が施されている。死んだふりをしたまま聞いていたが、95式が所属した基地を襲撃して容易く壊滅に陥れたのだから。絶望するのも無理もない話だろう……だが、それではダメなのだ。

諦めたまま終わりなんて言うのは、彼女は望まない筈。それに彼女を残して逝った基地の人たちも願っている筈だろう。生きてほしい、と。

 

「私は……」

 

「…」

 

95式の体が小さく震える。

その姿は…かつての自分に似ていた。

大事な者を失い、何も出来ず…只々縮こまって震えたあの日。

心に大きな穴が空いた損失感を覚えながらも逃げて…そして…。

……その痛みも、その辛さも、その悲しさも知っている。でもそれをここで話せば彼女の身にならない。

どんなに辛かろうと自ずから前を向く強さも必要なのだから…。

 

「…生きたい。いえ…生きなくてならないんです…」

 

顔をあげて彼女はそう口にした。少し震えているが…それでも彼女はまだ諦めていない。

正直不安だったが……「今」は何とか問題なさそうか…。

 

「そうか…。なら行こうか」

 

「はい…!」

 

後は416と合流して…ここを脱出か。

その前にここの主と対面と言った所だな……。自身が被害を被った訳でないが…。

それなりの報いは受けてもらうとしよう。

 

 

95式を連れて416達と合流。

合流した当初は傷に言及されたが、何でもないと答えてはぐらかす。416はどうも納得いかない様子だったが、404小隊の隊長 UMP45が脱出が優先を提言した為何とかやり過ごす事が出来た。そのまま地上へと向かう事になるのだが、流石はプロと言った所だろうか。小隊規模となれば動きが全く違う。基本一人で動く事が多いのでこの手のは目にするのは初めてだ。

 

「前方…クリア」

 

「後方…クリア。敵の姿なし」

 

「了解。このまま前進。警戒を怠らないで」

 

順調に地上へと向かうものの…敵の姿が見えない。やはりここの主はどこかに戦力を隠していると見ていいだろう。しかし何故今ここで戦力と投入しないのか、そこが気掛かりだ。少しでも戦意を削る等…そういった事も出来ない訳ではないだろうに…。余程自分で手を加えた人形に自信があるのだろう…。しかし何故そうでまでして襲撃する必要がある?単純にイかれているのか、あるいはグリフィンの戦術人形に対し強い怒り、恨みを持っているのか…どちらにせよ本人聞かなくては分からない話か。

 

―人間ってのは何時も過ちを犯す…それは何時の時代でも変わらないようだな…。

 

蒼…。

 

―分かっている。お前の事は信用してる。だが忘れるなよ?心ってのは脆いものだ。強く保たないと簡単に崩れる。…お前も一度経験しただろう?

 

あぁ…。まだ悪魔になって間もない頃に、な…。あの時は迷惑をかけた。

 

―気にするなよ。俺が持つ力は強大だ。正直な事言えば、あの時の蘇生に不安がなかったと言えば嘘になる。上手く行ったとしても力を制御出来るかとな。…そしてその不安は現実となった。

 

 

―お前は…復讐をしたんだ。力の暴走で派手に暴れまわり、そして仇を討った。同時に更なる力を求めようとしていた。そうなった時、俺は思ったよ。このままでは不味いとな…そしてお前を殺そうとも思った。だが…それも気鬱に済んで安堵したさ…。

 

あの時……薄っすら聞こえたんだ。「あいつ」と「あの人」の声がな…。理性を失いかけ、心すら失いそうになった時…自分が暗闇に落ちそうになった時…二人が手を引いてくれたんだ…。

 

―悪魔としてではなく…心を人間として確立させる為、二人がお前を導いた…いや、願ったんだろう。お前の事をずっと見ていたから…。

 

そうだな…。今でも思うよ…二人が俺を助けてくれた。後は俺自身の問題だった。心を飲まれない様に足掻く事を選んだ。そして…

 

―お前は悪魔として、心を人間として。矛盾した存在として確立する事が出来た。その後は…

 

今に至る訳だがな。

 

「地上よ」

 

蒼と内心話していた事もあり、UMP45の一声もあり気付けば地上へと到達。風は吹いておらず相変わらず不気味の雰囲気を醸し出している。先程倒した人形の亡骸も無数に転がっており、状態はあのままの様子だった。だが…ここであの男が簡単に逃がす事などする筈がない。どこから隠れていたのか、あるいはわざわざお見送りする為に待っていてくれたのか、無数の人形と高台からこちらを見下げる白衣の男がいた。やはりと言うか…予想通りというべきか。戦力を隠し持っていたか。恐らくこれが此処にいる全戦力を言っていいだろう。

 

「やっぱりね。そう簡単に逃がす訳ないか…」

 

「みたいだね…。それにこんなにも」

 

「罠…だったのかな」

 

「あの男……!」

 

それぞれが今の現状を口にする中で、隣に立つ416だけが無言を貫いていた。

一度弾倉を取り出して装填されている弾数を確認した後、こちらを見つめてきた。決して諦めないという目…だが表情は何処か不安げと言っていいだろう。そして彼女は一つ息を吐くと、言葉を口にする。

 

「貴方なら…こんなの大した戦力にはならないよね?」

 

もしここでそれを否定する様な言葉を言えば彼女を不安にさせてしまう事は考えなくても分かる。

だがこういう時…どんな事を言ってあげればいいのか分からない自分が居る。

言葉に困っていると、彼女はそっと微笑んだ。もしかすれば思ったのかもしれない…いくら自分でもこれは難しいと…。勘違いされたままなのは嫌なので、手を伸ばし416の頭の上に置く。そして口を開こうとした時、白衣の男が喋りだした。

 

「ようこそ。君たちの墓標となる場所へ」

 

「貴方が……皆をッ!」

 

男を見るな否や、95式が手にしているアサルトライフルを発砲。

しかし弾は男の手前で何かによって止まってしまう。…良く見るとあれば防弾ガラスか。何とまぁ用意周到だな。

まぁそんな事をしていても可笑しい話ではない。高台に立っている時点で狙って下さいと言っている様なものだ。動く気配もないのだから、防弾ガラスを用意していても不思議ではない。

 

「おぉ…怖い怖い。何も出来ずにいたお前が威勢良くなったものだな?」

 

「黙りなさいッ!!全ては貴方から始まった…!貴方が大事な者を何もかも奪った!」

 

「あぁ、奪ってやったとも。だがそれの何が悪い?そもそもの話……そんなに奪われるのが嫌なら死ぬ気で守れば良い話だろう?それが出来ずにいるという事はお前にとってはどうでも良い者だったのだな」

 

「違うッ!!」

 

再度狙いを付けようとする95式に黙っていたUMP45が彼女の前に一歩出て射線を遮る。

金色の双眸は男を捉えて、その表情からは何を考えているのか分からない。

対する男は彼女は興味深く、舐めまわすかの様に見つめて口角を吊り上げる。下ろしていた髪をかき上げて気持ちの悪い笑みを浮かべている。そこには何やら狂気の様なものでさえ感じ取れる。

 

「成程…。君が404小隊のUMP45か。潜入と情報…そう言った類には強いみたいだな。だが今は君たちの事なんてどうでもいい。気になるのは…」

 

「…」

 

「君だよ。黒いコートの君」

 

男の視線がこちらを捉える。それに対し睨み返す。

 

「私と同じ人間…だが何かが違う。私自ら施した強化人形兵を圧倒、そして刺されて大量に出血したにも関わらず平然と生きている異常性…。非科学的過ぎる……。君は一体何者だ?」

 

「気になるのであれば近づいて調べればいいだろう」

 

「そうしたいのは山々なんだがね…こちらも我が身可愛さにここから降りたくないものでね。だから君以外を破壊した後、君を生きたまま解剖して調べるとしよう」

 

そう言いながら男は指を鳴らした。

彼が立つ高台の周りに現れるは何かの装置らしきもの。何の用途に使用されるのか想像すらつかない。

だがそれはすぐに明らかになる。

 

「う…あぁ……頭が…!」

 

「な、何これ…頭が割れそうになる…!」

 

「うぅ……気持ち悪い…!」

 

「これは…何、なの…」

 

「ダメ…頭が…」

 

頭を抱えてうずくまり苦しむ404小隊のメンバーと95式。一体何が起きている…!?

 

―ギルヴァ!周りを見てみろ!こいつらと同じように頭を抱えてうずくまってる!

 

「!?」

 

蒼に言われた通りに周りを見渡すと、あの無数の人形が全員頭を抱えてうずくまっている。

その瞬間…うずくまっていた敵の一人の頭が()()()()

 

「ッ!?」

 

―なっ…!?

 

首から大量の疑似血液を流し、それは倒れる。

また一人、また一人と敵の頭が爆発し、血が流れる。

余りにもおぞましい光景がそこに広がり、自分も蒼も言葉を失っていた。

 

「ははははははっ!どうだ!私が作った人形だけを殺す兵器の威力はッ!人形がもがき苦しみ死ぬ様は実に美しいッ!これが見たいが為に作った甲斐があったというものだ!はは…ははははははっ!」

 

「下衆が…!」

 

「何とでも言えば良い!さぁ!共に見届けようではないか!何も出来ず!もがき!苦しみ!死んでいく!君と共に戦った人形の最期をなぁッ!!」

 

その時だった。

 

「ギ…ルヴァ……た、す…けて…」

 

416が苦しみながらも助けを乞う姿を見た瞬間。

自分の中で何かが切れた。

 

「っ!?」

 

腹を抱えて笑っていた男は驚愕していた。

自分が作った兵器が突如として黒い煙を上げて壊れたのだから。

何が起きたのか分からず、彼はギルヴァを睨む。そして男は全身から冷や汗を流す。

彼から放たれる濃密な殺気。呼吸すら出来なくなる程の殺気が全てを包み込む。

 

「何者かと言っていたな…?」

 

ノイズが掛かったかのようにギルヴァの声が響く。

体から青い光が溢れ出し、彼を包もうとしていく。

 

「ならば教えてやる…」

 

そして彼は…

 

「悪魔の力をな…」

 

己に存在する内なる「魔」の力に引き金を引いた。




という訳で次回は魔の力に引き金を引きます。
え…全然暴れてなくね?…次回で暴れるから許して…(´・ω・`)

では次回お会いしましょうノシ


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Act5 内なる「魔」の解放

今回は短め。
そして今回でギルヴァの内なる「魔」の力に引き金を引きます。

ではAct5 内なる「魔」の解放(Devil trigger)どうぞです。



ギルヴァを包んでいく光。どこか稲妻にも似ており、それが彼の中に存在する「魔」の力とは誰が思うだろうか?

彼を中心に巻き起こる風圧。突風とも言えるそれに装置の攻撃から解放された人形達は腕で前を塞ぐ。

一体何が起きているのか誰にも理解できない。分かるとすればギルヴァが何かしている事だけだろう。

風は数秒程度で収まり、誰よりも先に416は視界を塞いでいた腕を下ろす。

 

「ッ…!?」

 

彼女は自身の目を疑った。

先程までそこに立っていたギルヴァの姿は無い。代わりにいたのは人間とは思えない異形の何か。

蒼いオーラの様な物を纏い全身が鱗で覆われ、肘からは蒼い炎の様な何かが刃の形を作りながら放出されている。一つに束ねていた銀髪は解かれ、頭には一対の角が生え…何よりもコートの様に揺れる鱗は大きく広がり、四枚の羽として広がる。まるで鬼と悪魔が混ざった様な何かがそこに居た。

得体の知れない何かに416は動けずにいた。それは周りにいた404小隊のメンバー、95式、敵の人形、白衣の男も同じで異形の何かに目を見開き、言葉が発せない状態だった。

あれは一体何なのか?彼は何処へ行ったのか?疑問が尽きない中、416は気付く。

自分達に背を向けて立っているそれの手にはギルヴァが愛用する刀、鱗で形成されたホルスターの様な物に収められているリボルバー。それを見て彼女は確信する。

今自分達の前に立っているのが…

 

「ギルヴァ…なの…」

 

自分達と共に行動していた彼しかいないと判断した。

その言葉に異形のそれはそっと416の方を顔だけ向ける。

その顔は正しく人間の顔ではない。悪魔そのもの。

鋭い蒼い双眸が彼女を見つめる。そして…内なる「魔」の力に引き金(デビルトリガー)を引き、魔人化を果たしたギルヴァは彼女に声をかける。

 

「大丈夫か?416」

 

「!…えぇ、何とか。まだ少しだけ頭が痛いけど…」

 

「そうか…。大事が無くてよかった」

 

その顔からはどんな表情をしているのか分からない。だがギルヴァのその声はどこか安堵した様子だった。

そして彼は刀の柄に手を添え、高台に立つ男を睨む。

鉄の墓場全体を包む濃密な殺気に男は呼吸困難に陥りそうになるも、微かな声でギルヴァへと問いかける。

 

「な…何な、のだ……お前、は…!」

 

未だに彼を悪魔という存在として認めたくないのか、目は血走っている。

だがギルヴァはその問いには答えようとはしない。彼からすればその問いは聞き飽きている。未だにこの現実を認めようとはしない男の姿に内心辟易していた。

無言のまま自身の周りに複数の幻影刀を配置。1セット8振りの幻影刀が3セット展開され三方向に立つ強化人形兵達に向けて連続して投射。魔力により強化が施された幻影刀は一人どころか五人も貫き風穴を開ける。それが一振りで五人なのだから、その数は一気に削られる。

突然始まった開戦の狼煙に強化人形兵達は銃を彼へと向けるが、その瞬間ギルヴァの姿が掻き消える。姿を消したギルヴァに強化人形兵達は背中同士をを合わせ攻撃に備える。だが何処からも彼の姿は現れない。

 

「砕けろ」

 

頭の上から聞こえるノイズが掛かった声。強化人形兵の一人が不審に思い顔を上げた瞬間、そこには自身に迫る刃。回避も反撃も出来ずにその人形は頭から真っ二つに斬り伏せられる。敵の頭上から攻撃を叩きつける兜割りからギルヴァは一度愛刀の「無銘」を鞘に納める。腰を低く下ろし居合の構えを作ると、勢いよく地面を蹴り目では追う事が出来ない速度で全ての敵に疾風居合を仕掛ける。何度も繰り出される無数の真空の刃の渦と追撃として投射される幻影刀が敵を切り裂き、追撃の幻影刀が爆発して体がバラバラに吹き飛ぶ。抵抗も回避も一切許さない魔人化したギルヴァの攻撃は最早蹂躙といっても差し支えがない。だがこの程度では彼の攻撃は終わらない。

疾風居合からその場で跳躍。空中で滞空した状態で神速の抜刀が繰り出される。その斬撃は空間を切り裂き、地上の敵に空間が歪むと同時に斬撃が浴びされる。連続して次元斬が繰り出され、また一人、また一人と人の姿から鉄屑へと変えられていく。その光景は死屍累々といったところ。鉄屑へと成り果てた人形が半数に上った時、どこで隠れていたのか増援部隊が到着。追加として投入された戦力は最初の時へと振り出しに戻る。

そこで何を思ったのかギルヴァは無銘の刀身を鞘に納め、それを腰に携えた。そして両腕を伸ばすと…

 

「遊んでやろう」

 

その言葉と同時に魔力で形成されたガトリング砲らしきものが出現し、敵に向かって一斉掃射。その武器の名は魔装型多連装機関砲「カリギュラ」。ギルヴァが魔人化している際に使用できる武装であり、その威力と連射速度は破格の性能を誇る。魔力の弾丸が絶えもなく放たれ、人形共はあっという間に蜂の巣へと変えられていく。

只普通にカリギュラを撃つだけでは飽き足らないのか、彼は同時に幻影刀を連続して射出。蜂の巣かあるいはハリネズミか。そのどちらかへと敵はその姿へと変えていき増援も虚しく殲滅され、またもや敵の数は半数以下となる。だがここでまた増援部隊が出現し、再度振り出しへと戻ってしまう。

流石の彼も一つため息をつき、カリギュラを収納。無銘を手に取るとその場で居合の構えを作る。

彼から膨大な魔力が溢れ出しその膨大さに暴風が発生し吹き荒れる。何度斬り伏せても、撃っても、貫いても埒が開かないのであれば全てを同時に斬り伏せるまで。

ノイズが掛かった声で彼は告げる。

 

「死の覚悟は出来たか」

 

死の宣告を。

地を蹴り超高速移動から彼の分身達が放たれる。そしてそれぞれの分身が、全ての敵に向かって行き一斉にして無数の斬撃を浴びせる。

回避を試みた人形も攻撃を仕掛けようとした人形もまるで時が止まったかのように一斉に動かなくなる

そして最初に立っていた場所で敵に背を向け片膝を着くギルヴァ。鞘を縦にして持ち、静かに刀身を下ろしていく。刀身が音を立ててその煌きを一瞬だけ見せて納まったのを合図に全ての敵がそこから消滅した。

その技こそギルヴァが持つ技の中で超強力かつ超広範囲。

無数の敵がいるのであれば全てを同時に斬り刻み消滅させるその大技の名。

その名は…「次元斬 絶」

 

そこには何も残っていない。最初からそこには何もなかったかの様に綺麗さっぱりと。

誰もが言葉を失う。あれだけいた人形兵達が一瞬にして全て消滅したのだ。まるで赤子の手をひねるかの様にいとも簡単に、容易く。圧倒的な力の前に男は息を荒くし、発狂寸前まで来ていた。

あまりの恐怖に冷や汗を流し、体は小刻みに震えている。最早彼の頭は理解が追いつかずいた。否、理解などしたくもなかった。現実を逸脱した存在がこの世に居る事ですら認めたくない。科学ではどうしようもなく、決して適う事もない。だからこそ…彼はその場から逃げ出そうとしていた。ここから逃げて生き残る。今はそれしか頭にない。だが……悪魔はそれを許さない。

 

「ひぃっ!」

 

恐怖の声を上げる男。

いつの間に自分の隣に立っていたのか、魔人化した状態のギルヴァが男の顔面に向けて大口径リボルバー レーゾンデートル を構えていた。男の顔を見る事はせず、銃だけが向けらている。

いつ銃弾が放たれるのか、刻々と迫る死の恐怖に男は動けずにいる。

銃身に紫電が纏い始める。段々と大きくなっていき、紫電の激しさが増す。

 

―こういう時…何て言うか覚えているか?

 

(…ふっ)

 

蒼に言う事に何かを思い出したのかギルヴァは内心笑う。

 

「や、や…やめ…」

 

何とか喉の奥から命乞いの言葉を口にしようとする男。だが恐怖のあまりその言葉が出せない。

引き金に指が掛かる。そして彼らは言葉を口にする。

 

―「JACK POT(大当たり)!」―

 

一発の銃声が空高くに木霊し、戦いに終幕の弾丸が撃ち込まれた。




これだけ暴れたから許して。
次回は主人公のちょっとした紹介とAct0~5に出てきた武器の紹介をしようかと。
なので本編はちょっとお預け。

あ、そうそう。
うちのギルヴァさんを使いたかったらご自由にどうぞ。
まぁ…えげつない技を乱発するので世界観をぶち壊しかねないと思いますが…

では次回お会いしましょう!ノシノシ


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Act6 人に近いが故に

気付けばお気に入り登録が100件超え、そして評価も赤が付いているという事に驚きが止まらない作者でございます。
この場をお借りしてお礼申し上げます。ありがとうございます。

色々話が分かりづらく不備が沢山あり完全に私の文章力が皆無ですが…
今後とも「Devils front line」をよろしくお願いいたします。


静まり返る鉄の墓場。

あの戦闘から数時間が経っており、静寂がその場を支配していた。

404小隊は迎えのヘリを要請、到着するまで各々身を休ませていた。時折高台に上っては周囲の警戒に当たっているのを何度か見た為、交代で見張りをしているのだろう。確かに周囲一帯に鉄血がいないとは言い切れない。一時的な安全を確保出来たとしても気が抜ける筈がないのだから。

 

―事あるごとに撃ち落される、エンジントラブルが発生するのがお約束なヘリじゃなかったら良いがな

 

「それで落ちた先ではゾンビやらロケットランチャーを持った化け物に追われるのがセット、か」

 

事あるごとに面倒に巻き込まれるヘリなんぞ乗りたくもない。下手すれば自然災害も良い所だ。

それにそんな事が毎度起きるのであれば、最早神様がそう運命付けているに違いない。

 

「…」

 

風が吹く。コートが揺れ、肌に当たるそれはとても心地よい。今が壊れた世界だと忘れる位に。

…思えば「あの日」からどれ程経っただろうか。

一度暴走したあの時から…悪魔として生きる事を決めて各地を放浪しようと決めた日から数えるのも馬鹿らしくなる程の月日が経っている筈。下手すれば年すら越しているかも知れない。

その間自分は何か掴めただろうか?力だけではない…別の何かを。もしそうならこの放浪は意味を成したのだろう。

だが…この放浪にてそれを掴んだという実感は未だに感じられない。或いは掴めているが自分がそれに気付けていないのか…。

 

「自分もまだまだ…という訳か」

 

「何がまだまだなんですか?」

 

「ん?」

 

静かに呟いた声はどうやら来客に聞かれた様だ。

体を後ろへと向けるとそこには95式がいた。先程まで下の方で休んでいた筈だったが高台までやってきたのだろう。吹く風によって乱れそうになる黒髪を手で押さえながら彼女は自分の隣に並び立つ。その表情は少し無理している様な感じだ。やはりというか当然か…。大事な者を一瞬にて失くしたのだから…無理もない。

 

「何時振りでしょうか…。風がこんなにも心地良いと感じたのは…」

 

「風はいつだって心地良いものだ。どんな奴でも受け入れてくれる…それが悪魔であろうと」

 

「そうかも知れませんね…」

 

静かに昇ろうとする朝日。そしてそれを眺める彼女。

今彼女の瞳にこの朝日はどう映っているのだろうか。自分は誰かの気持ちを覗ける様な力は持ち合わせてなどいない。ただ…戦う事しか芸のない男なのだから。

でも…それだけしか出来ない自分でも出来る事があるとすれば…もしあるとするのであれば…。悪魔の自分に成せる事があるのであれば。

 

「え…あ、あの…?」

 

「無理はしなくていい」

 

「…!」

 

この手を伸ばして抱き寄せて。

彼女に寄り添う事位は出来るのでないだろうか。

 

「誰かを失うと言う事は辛く悲しいことだ。その気持ちは俺も知っている」

 

「…」

 

「その都度涙を流し、そして歩みを進めた。その人たちの分まで生きようと。生きて欲しいと願ってくれたその人たちの願いを無駄にしないようにと」

 

「その人たちの分まで生きる…」

 

「あぁ。…辛い思いも悲しい気持ちも…。君たち人形が人間に似せられて作られたというのであれば……思いも、流れるものも間違っていない」

 

彼女でも気づいていない…その瞳から流れる涙をそっと指で拭き取る。

人は何故彼女達に感情というのも与えたのか?自分は学者ではないので分からない。だが…もし彼女達という人形を生んだ親が人間の様に生きて欲しいと願ったとするのであれば…。

人間の様に心があるとするのであれば。

 

「人形も人の様に泣く事が出来るのだからな」

 

流れる涙は本物なのだから。

 

「…あぁ……ぁぁ……」

 

すすり泣く95式。

抑えていたものが崩れ、それが表に出てきたのだろう。顔を胸に埋めすすり泣いていた。

そっと彼女の頭を撫で、慰める。かつて自分がそうしてもらった様に。少しでも気持ちが軽くなる様に…。

 

 

 

「お願いがあります…」

 

暫くして…若干涙声であるが95式は言ってきた。

 

「何だ…?」

 

「最後に……私が所属していた基地へ連れていってくれませんか…」

 

「…」

 

「私が生きている事を……97式や指揮官…皆に伝えたいのです…」

 

断る理由などない。

彼女なりの踏ん切りを付けたいのだろう…。

この後はグリフィンの連中に捕まる予定ではあったが予定変更するとしよう。場所がどこにあるのかは分からないが時間は沢山ある。時間など自分にとってはあっという間なのだから。

…それにそう簡単にここから離れる事は出来ないと判断している。404小隊がどの様な任務を遂行していたかは分からないが……恐らく…。

 

「良いだろう…。ならば少し頼みがある」

 

「頼みですか…?」

 

「あぁ。ここから出る為のな…」

 

自分の捕獲も任務の内に入っているのだろうから。

 

 

95式に頼みたい事を伝え、暫くした後。

後ろから誰かが歩み寄ってくる音が聞こえた。と言う事は迎えが近いか…あるいは…。

どちらにせよタイミングを見計らっていたのは間違いないだろう。

刀を杖の様に立てた状態で目を伏せたまま口を開く。

 

「何か用か」

 

「ええ、少し」

 

伏せていた目を開き、隣に立った人形を見る。

左目に傷の跡…という事は…彼女はUMP45か。確かあの時も小隊を纏めていたのは…。

表情からして読めない所があったが……何だろうか?この感覚は…。

何となく自分と関わりがある416が来ると思っていたが…。まぁ…誰が来ようが何ら問題ない。

風は鎮まり、隣に立っている45はこちらをじっと見つめてくる。何を思っているのか分からないが、流石にみつめられたままなのは気恥ずかしいのでこちらから問いかける。

 

「何か?」

 

「いいえ。…只、あの時に見せた姿とは全然違うと思って」

 

あの時…デビルトリガーを引いた時の姿か。

確かに人間とはかけ離れた姿になるのだからそう思っても不思議ではない。それをどう思うかは目撃者次第だが…いずれは誰かに見られる覚悟はしていたのだ。どう言われようが気に留めるつもりはない。例え目の前の人形が「化け物」だと思ったとしても、だ。

 

「正直なところ…死を覚悟したわ」

 

「…」

 

「頭が割れそうになる痛みにうずくまり、敵の頭が一人、また一人を爆発して死んでいく様を見た時は尚更ね。……替えがあるとは言え…あんな死に方はトラウマになるわ」

 

受け継がれる記憶というのも全て良い訳ではない。楽しい記憶も悲しい記憶も覚えるのなら…その最期も覚えてしまう。もしかすればそこだけを消す、或いは封印するという方法もあるのかも知れないが…それはそれで良いのかと思ってしまう。都合が良い記憶も考え物なのだ…。

 

「けど…貴方が装置を破壊してあの姿になった時…何だが私達人形の為にあの男へと怒っている様にも見えたわ。…そう思うと何故かしら…」

 

「…」

 

「貴方の事を全て知りたくて仕方ないの」

 

決して表情に出る事はないが…だが彼女の瞳を見た時薄っすらと凍える何かが背筋を走った。

彼女と出会って日はかなり浅い。にも関わらず何故UMP45がそんな事を言うのか全く理解が出来ずにいた。当然ながら自分は彼女達を救う為に戦った。それ以外の事は何もしていない筈だ。

なのに何故だ?

UMP45の瞳が少しだけ暗くなっているのだ?

 

「…今は答えられないな」

 

「どうしてかしら」

 

「それについて話す気がないのと…」

 

響き渡るエンジン音。ちらりと下を覗くとそこではバイクに乗ってこちらが落ちてくるのを待っている95式と肩で捕まっているニャン丸の姿が。どうやら上手く着地点近くまで持って来てくれたようだな。

一本踏み出し、地を蹴り大きく外壁の外へと跳躍。空中へと浮かび上がるまま彼女へと告げる。

 

「まだ捕まる気はないのでな」

 

「ッ…。気付いていたのね」

 

「最初の内は気付かなかったがな。だが君たちにも俺の情報は回っているとふと思ってな。あの男を追うとは別に俺を捕らえる事をな」

 

「…」

 

「しかし今は無理だ。どんなに手を駆使しても捕まる気は一切ない。本気で逃げるまでだ。だが…ほとぼりが冷めたら喜んで捕まろう。その時はお迎えの方を頼むとしよう」

 

「ええ。その時は私達が迎えに行くわ。楽しみにしてて」

 

「期待するとしよう。じゃあまた会おう」

 

言いたいことを伝えて下へと落下。バイク近くで着地するとつかさず跨る。

エンジンを吹かしてバイクを走らせてその場からすぐさま離れる。

幾ら人形でもバイクには追いつく事は出来る筈がない。最も彼女達が同じくバイクを持っているのなら別だが…。

あの場において自分が乗ってきたバイク以外の車両は一切見当たらなかったので問題ないだろう。

 

「さて…。目的地は君が所属していた元基地で良いのだな?」

 

「はい。お願いします」

 

「分かった。…ついでに花でも買って行こう…。何も無しでは失礼だ…」

 

「えぇ…そうですね…」

 

「にゃっ…」

 

バイクのエンジン音を響かせ、95式が居た基地へ目指す。

 

しかし…あの感覚は一体何だったのか…。それに何故彼女の瞳が少し暗く…。

 

―あぁー…。これは今後がとんでもないことになるかもな…

 

蒼?それはどういう…

 

―何…。只…「重たくなる」だけさ。そう…「重たく」、な…。

 

重たく…?

 

何処か諦め口調の蒼に不思議に思いつつも、彼が言った「重たくなる」という言葉を気に掛ける。

一体何が重たくなるというのだろうか…全然予想が付かん…。

 

 

走り去るバイクを見つめる。

まさか気づかれていたとはね。まぁ…何となく勘が良さそうだったから上手く行く自信はなかったけど。

にしても…私にもこんな感情があるとは思いもしなかったわ。最初こそはメンタルモデルにバグでも起きたのかと思ったけど。けどそれがどうしてもバグとは思えないのだ。

私達が人間に近い様に作られた故かもしれないけど…。

でもまぁ今はそんな事はどうでも良い。大事なのはこの気持ちは確かなものである事だけ。

彼が私達人形を助ける理由…何よりも彼の正体が知りたい。そして彼の隅々まで知りたくて仕方ない。

この興奮は暫く収まる事はないかもね…。

 

「行ってしまったのね」

 

そう言って私の隣に並び立つ416。

静かに吹き始めた風で乱れそうな髪を押さえて走り去る彼の方へと見つめている。

 

「ええ。あっという間にね」

 

「お礼を言いそびれた訳だけど…まぁ良いわ。どうせ「迎え」に行くのだから」

 

「そうね。その時が楽しみだわ」

 

ふふっ…この感じだと416もかしらね?ほかの人形だったらどうしようかと思ったけど、まぁ小隊のメンバーなら問題ないわ。

…今は逃がしてあげるけど…

 

「次会う時は…」

 

アナタノコト スベテ オシエテネ?




という訳で出しました。病みです……病みです(大事な事なので二回言う)

正直な上手く表現できる自信はございませんが…何卒ご容赦くださいませ…。


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Act7 献花

遅れて申し訳ありません。
色々事情が立て込んでた為、遅くなってしまいました。

また誤字報告してくださる方がいらっしゃったので、この場をお借りしてお礼申し上げます。ありがとうございます。

因みに今回も戦闘はありません。どうかご容赦を。



スクラップ置き場から逃走して、暫く経った。

奥まで続く舗装されていない道にてエンジンを響かせながらバイクを走らせる。晴天の下で当たる風に心地良さを感じながら遠くに見える誰かが住んでいるとは思えない街の姿を眺める。今となってはゴーストタウンと化しているが昔は道行く人達がすれ違い、信号で車の渋滞が出来ているのが当たり前。当時生きていた人達は思いもしなかっただろう。世界がこんな有り様になるなど…一体誰が予想出来ただろうか。

もし出来るとするのであればそれは神様位だろう。最もその神様はどうしようもなく最低だが。

こうなると分かっておきながら救済する事もせず、只見ている事だけに徹した。これが人間に与える試練などぬかして言い訳しているに違いない。

 

―神ってのはろくでもない奴が多いのさ。寧ろまともな奴が少ない

 

じゃあ人間は何に縋ればいいのだろうな?

 

―さぁな…。最悪悪魔に縋るしかないんじゃないのか?

 

それはそれでどうなんだ…。

 

どちらにせよ。

人間は神や悪魔に縋る事は出来ない。最早決まりきった事なのだろう。

結局は選択して、己の意思で歩むしかない。縋るのは己自身なのかもしれない。悲しい話だがそれしか手段はないのだ…。

 

「こんなに晴れた日なら…あの子は外で遊んでいるのでしょうね…」

 

「ん?」

 

後ろのシートに座って自分の腰に腕を回している95式が静かに呟いた。

あの子と言う事は…

 

「妹は…外で遊ぶのが好きだったのか?」

 

「ええ…。非番の時は必ず外に。雨が降っていたら外で遊べない事に不機嫌そうな顔をするんです」

 

「それ程とはな。…とても元気な妹だったようだな」

 

「はい…」

 

彼女の腕に力が入った事に気付く。そして背に彼女の体がのしかかった。

運転している為、95式がどんな表情をしているかは分からないが…。

亡くした妹さんの事を思い出して静かに涙を流しているのかも知れない。もしそうならバイクのエンジン音によって彼女の涙声はかき消され自分の耳に届く事はないだろう。

 

陽が落ち満天の星空が見える頃。

一夜を過ごす為、道中見つけた小さな廃屋にバイクを止めて95式とニャン丸と共に家の一室で寛いでいた。

自分が持っていた簡易ランプの灯りが薄っすらと室内を照らす。元からあったソファーに腰掛け、膝の上でのんびりしているニャン丸を撫でる。ふさふさとした毛並みとニャン丸自身の体温が手に伝わる。するとニャン丸が膝の上から飛び降りて部屋の隅で椅子に腰掛ける95式へと歩み寄っていく。彼女の足元まで近付くとニャン丸は小さな前足を履いている靴の上にポンと置いた。それに気づいたのか95式は優しい笑みを浮かべニャン丸へと話しかけた。

 

「どうしたの?」

 

「にゃー」

 

「もしかして心配してくれてるのかしら…。えぇ、ありがとう」

 

身を屈めて腕を伸ばしてニャン丸の頭を撫でようとする95式。するとニャン丸はその場から跳躍。彼女の太股の上へと飛び移ると体を丸めて気持ちよさそうに眠りについてしまった。

どうしたら良いのか分からないと戸惑いを見せる95式だったが、暫くすれば眠りにつくニャン丸を撫でながら笑みを浮かべていた。

動物というのは人の気持ちというのが分かるのだろうな。表には出さないにしていた彼女が悲しんでいる事にニャン丸は気付いていたのかもしれない。だからああやって寄り添いに行ったのだろう。現に彼女の笑みに無理している感は見受けられない。癒し、慰め…動物にはそう言った力があるのだろう。

 

「この子は気持ちが分かるのでしょうか」

 

「どうだろうな。だが君にへと寄り添ったのも…もしかしたら分かっていたのかも知れないな」

 

「ですね」

 

そこでニャン丸についてある事を思い出す。

鉄の墓場での戦闘で割かし濃密な殺気を放った訳だが…ニャン丸は逃げ出す事をしていない。

95式がバイクを取りに行った際、ニャン丸はどうしていたのか。

その事について彼女へと尋ねる。

 

「そう言えば…」

 

「?」

 

「バイクを取り行った際、ニャン丸の様子はどうだった?」

 

「どうと言われましても……シートの上で眠ったままでしたよ?」

 

「何だと…?」

 

となるとニャン丸は俺と416がバイクから離れた後、95式が来るまでずっと寝ていたというのか。

あれだけの戦闘があって、あれだけの殺気があったというのにずっと眠ったままだったと?

図太いというか、お気楽というか…。

 

「本当にお前は猫か?ニャン丸…」

 

悪魔をも恐れぬ猫、か…。

 

「?」

 

首を傾げ不思議そうな表情を浮かべる95式。

ニャン丸の事で謎が深まる中そんな事はお構いなしと言わんばかりに当の本人は気持ちよさそうに寝ているのだった。

 

 

 

今日も青々とした空が広がり、雲一つ見えない。95式が属していた基地へと向かう為、彼女が生きている事を大事な人達に伝える為、バイクを飛ばす。ずっと奥まで続く道の上を行きながらどこか人が住んでいそうな街を探す。だが行く先々で見かけるは廃墟ばかり。到底人が住んでいるとは思えず、同時に花屋があるとも思えない。寧ろこのご時世、花屋を営業していたとしてもあまり儲からないかも知れない。いくら大切に育てたとしても雨や汚染の影響で早々に枯れてしまうかも知れない。

だがこのご時世だからこそ、そういった店もあってもいい気がする。動物が人の心を癒す様に、花にも心を癒してくれる力を持っていると勝手ながら思っている。

自分が花屋を探している事を察していたのか95式が声を掛けてくる。

 

「ギルヴァさん。無理して花を探さなくていいんですよ?」

 

「しかしそれでは…」

 

「その気持ちだけでもありがたいです。私が生きている事を伝えるだけでも十分ですから…」

 

そう言う彼女だが、どこか自分の中では納得がいかなかった。

だがそう言うのであればそれに従うべきなのだろう。だがやはり手持ち無沙汰なのはな…。

どうにか出来ないものか…。

 

―花がいるなら…作ったらどうだ?

 

何を言っているんだ。いくらそれでは時間がかかり過ぎる。

 

―誰も一から育てろとは言っていない。作るんだよ。

 

育てる訳ではなく、作る…?……まさか出来るのか、そんな事。

 

―出来ない訳じゃないさ。俺も何度か実践した事があるんでな。

 

なら花の問題はどうにかなりそうか。

しかし花を「作る」とするのであればどの様な花にするべきか…。

 

―そうだな…俺が見た花の中で一番美しいやつなら知っている

 

ほう?それはどんな花なんだ?

 

―それはな…………だ。

 

……成程な。その花なら名前なら聞いた事がある。

 

そう…「あの人」が一度見てみたいと言っていた花だから。

それをまさか自分で、か…。何とも言えん気分だな。

だが…それで喜んでくれるなら…。

脳裏に浮かぶは何時も優しくしてくれた「あの人」の姿。あの両腕で抱きしめてくれた温かさは忘れられない。

それ程までに「あの人」は「妹」と同じ位かけがえのない存在だった。

故に失った痛みは大きかった。思えばあの時も…416が助けを言ってきたあの時も、台詞や表情は違えど重ねてしまった。苦しい筈なのに無理して笑いかけてくる「あの人」に…。

…俺がこうまでして人形を助けようとしているのは…彼女が居てくれた影響が大きいのだろうな…。

それしか理由が見当たらない。

 

 

夜空に満月が昇る頃。

長い運転から解放され、漸く95式が所属していた元基地に到着した。

ここが襲撃されたまま状態で放置されていたのだろう。瓦礫や冷たい風が寂しさを感じさせる。

そして瓦礫にこびりついた誰かの血痕がここであった事を物語っていた。

 

「あの時のままです…。何一つ変わっていない」

 

瓦礫の山と化してしまった基地を前に、自分の隣に立つ95式がそう呟いた。

月明かりが彼女を照らし、その瞳から薄っすらと涙がこぼれている。守れなかった事に対する悔しさと失くしてしまった悲しみ…。その双方が混じっている。

彼女は一本歩むと血痕がこびりついた瓦礫の前で屈み、手を添えた。自分も、肩の上で捕まっているニャン丸も後ろの方で見守る。

 

「97式、指揮官、皆……95式、只今戻りました」

 

そこに大事な人達が居るかの様に彼女は語りかける。

 

「見ての通り私は生きています…。後ろに居るギルヴァさんによって救出され、そしてここまで私を連れてきて下さいました」

 

彼女の頬を伝い始める涙。

それでも彼女は無理して笑みを作ろうとしていた。

 

「帰る家も無茶苦茶になってしまい…私だけが生き残ってしまいました。ここに来たのも無事を伝える為。そしてお願いがあってここまで来ました…」

 

流れる涙は止まらない。

 

「この先…何があるのか私には分かりません…。正直不安で一杯です…。でも…それでも私は生きなくてはならないと思っています。この命がある限り」

 

でも彼女は…

 

「だから…どうかそちらでも私を見守っていて下さい…」

 

歩みを止めようとはしなかった。

 

 

後ろから見守っていた自分は彼女の隣にへと並び立つ。

そして瓦礫の前に手を添えると目を伏せて集中する。

 

「ギルヴァさん…?」

 

記憶の棚から今から造り出す物の形を引っ張り出し、構成していく。

大きく、そして美しく。何よりも95式の大事な人達が安心できる様に。

全てを包み込み寄り添ってくれる様な満開の花を咲かせてみるとしようか。

 

「これは…」

 

伏せていた目を開く。

そこにあったのは群青色に輝く満開の花を咲かせる桜の木だった。

 

―まさかいきなり上手く行くとはな。大したもんだ。

 

育てるではなく、魔力を用いて造り出すか。よくもまぁこんな事が思い付くものだな?

 

―幻影刀を錬成する技術を応用したものさ。それにこういうのも悪くないだろ?

 

まぁな…。

 

今や滅んだとされる日本の国花。美しさを兼ね備えたこの花ならきっと喜んでくれるだろうか…。

先に逝ってしまった者達へと送る献花。どうか安心できる様に…そう願っている。

ここにあるのは群青色だが、本物は鮮やかな桃色の花が特徴らしい。最も自分も本で知った程度なのでここに咲く桜が正しいとは言えないが…。

 

「せめて…安心を与えるならこれも悪くないだろう…」

 

「えぇ…。きっと皆喜んでいます。今では見る事ですら難しいとされる日本の桜…。ここにあるのが本物ではないとしても…ここまで大きいものでしたらゆっくり眠れるでしょうから…」

 

「そうだな…」

 

月明かりに照らされる桜。

それを眺めていた95式はふと口にする。

 

「97式、指揮官様をお願いね。あとわがまま言っちゃ駄目よ?指揮官様も妹の事宜しくお願いしますね…。皆も妹の事、指揮官様の事お願いね…。…じゃあ私は行くね」

 

最後の別れを告げ、踵を翻す95式。桜に背を向けて歩き出していく。

自分もそれを続く様に歩き出した時、ふと気配を感じ後ろへと振り向く。

桜の木の下。そこには誰も居なかった筈なのに今は何人もの人が立っていた。それぞれが銃を手にしており、先頭にはグリフィンの制服を纏う男性と髪を二つに分け、95式と同じようにブランケットを纏う少女が。

 

「まさか…」

 

―いくら魔力とは言えどそこまでの力はない…、となるとこれは…。

 

お互いに驚いているとブランケットを纏う少女が口を開いた。

 

「お姉ちゃんの事、お願いね」

 

「!」

 

ニッコリと微笑んで、彼女は隣に並び立つ男性の方を向いた。

男性も頷き、こちらに言ってきた。

 

「95式の事…大事な家族の事を宜しく頼む」

 

それを最後に彼、彼女らは静かに消えて行った。

恐らくあれは…ここに所属していた…。

…最後に姿を現したのも彼女の事を思って…。

誰も居ない桜の方へと向けて静かに告げる。

 

「あぁ。任された」

 

その言葉が届いたかは分からない。

だがその場を後にしようとした時、良かった、と聞こえた様な気がした。

 

 

とある地区にてある事件が起きる。

かつてそこは前線基地があったとされる場所であり、襲撃を受け、今や瓦礫の山を化している。

そんな場所に誰かが行ったのか分からないが、そこに群青色に輝く桜が確認されるようになった。グリフィンは調査隊を派遣し調査。研究の為サンプルを得ようとしたが、まるで雲を掴もうとしているかの様に手が桜をすり抜けていったと言う。未だに正体不明な桜であるが人体に害がない事が分かり、後にその桜は誰かがここで亡くなった者達を送った献花であると判断。今ではその桜の元へ供養する者がたまに現れるのだという。

 

 

 

 

別れを告げ、基地を後にした自分達は廃屋で休んでいた。

そんな時、95式が尋ねてきた。

 

「これからどうされるんですか?」

 

「そうだな…。完全に決まった訳ではないが…店を開こうと思ってな」

 

「お店…ですか?それはどのようなお店で?」

 

「あぁ、それはな…」

 

前々から考えていた事だった。

そしてそれがどのような店かを明かす。

 

「便利屋だ」




因みに店の名前は決まってない模様。

次回は戦闘を入れようかなと思いつつも未定。
恐らく遅れると思いますのでご容赦を。

では次回お会いしましょうノシノシ


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Act8 大物狩り

バンバンと投稿していく他の作者様達に触発されて、気づけば書いていたと言う…

さて「Act8 大物狩り」どうぞ



そいつは突如として現れた。

一つ歩く度に地響きが起きる。巨大な体軸に幾ら撃ったとしても弾かれる堅牢な装甲と直撃しなくてもかすっただけでも大怪我は間違いない機関砲。私達を踏みつぶそうと、破壊しようとする鉄の巨兵がいた。

 

「くっ…弾が…。ドラグノフ、そっちは!?」

 

「これで打ち止めだ。すまんな、私はここまでらしい」

 

「あんたにしては珍しく弱気ね…。けどまぁ無理はないか…」

 

私はそれを眺める。

悠然と立つ姿はまさしく破壊と蹂躙の象徴と言っていいだろう。

動きは決して速くはない。だがそれを補うかの様な堅牢さと火力。鉄血の連中もよくもまぁあんなものを持ち出してきたものだ。

 

「それで?どうする?FAL。こいつは私達ではどうにもならんぞ」

 

「増援は呼んでいるわ。けどそれを待っている暇なんて与えてくれないでしょうね」

 

「…だろうな」

 

グレネードが一発。弾倉は残り1。そしてドラグノフは弾切れ。故に後方からの狙撃は不可。

しかしこいつをどうにかしないといけない。放置していれば何が起きるか分かったものじゃない。

けど…出来るのか?今の戦力。不安を重圧となって圧し掛かってくる。…一度距離を置いて戦力を立て直すか?

いや…そんな暇があったら苦労はしない。今の所あれはこっちを見失ってはいるが、動き出せばあの巨砲でバラバラにされるのがオチだ。どうする…考えろ…今出来る最善の手段を…!

 

「…ん?…何だ、この音は?」

 

「ドラグノフ?どうしたの?」

 

「遠くから音が聞こえる。段々近づいてくる……この音はバイク?」

 

「バイク?何でこんな所に?」

 

ドラグノフが言っていた様に響き渡るバイクの音。確かに段々と音は大きくなっている。

もしかして…

 

「まさか!?」

 

「そのまさかだ!あのバイク、こっちに向かっている!狂っているのか!?」

 

正気じゃないわ!?

何でバイクに乗った民間人がこんな所にいるのよ!!

ドラグノフに接近するバイクを止める様に指示しようとした瞬間、接近していたバイクが私達の前に現れ停車した。黒く塗装されたバイク。シートには黒いコートの男と……え?後ろに乗っているのって…

 

「95式…?」

 

「あぁ…あれは95式だな。しかし何故…」

 

増援ではないのは分かるが…それでも何故彼女が男と共に行動しているのか。そこに疑問が尽きない。

部隊とはぐれた人形という事も考えられるが…。

そんな事は知らず、二人は「あれ」を目の前にしながらのんびりとバイクから降りている。そこで私は気付く。

黒いコートで手に刀を持っている男…どこかで見た様な…。駄目ね…思い出せない。

取り敢えずその事は後だ。バイクから降りている二人に向かって、フラッシュライトを用いて手招きする。

それに二人は気付いたのか、こちらへとやってきてくれた。

 

「何とかなったか…。にしてもあなた達、馬鹿なの?あれが居るのに頭おかしいんじゃないの!?」

 

「あれ…?あぁ、あの四つ足の事か。そんなにやばいのか?」

 

こっちは色々やばいというのに男から緊張感すら感じられない。

その姿にイラっと来るが、後ろにいたドラグノフが私の肩に手を置いて制し、代わりに彼女があれについて話し始めた。

 

「やばいだけでは済めば楽なのだがな。あれはマンティコア。足は遅いが、硬い装甲と人形を平然と吹っ飛ばせる火力を持っている。鉄血の連中が持ち出した質の悪い玩具でな、あれを仕留めるにだいぶ苦労する」

 

「ほう…」

 

マンティコアの事について男が知った途端、彼の雰囲気が変わった。

 

「それならば…少しは楽しめそうか」

 

そう言って男は立ち上がり、マンティコアへと向かおうとしていた。

それを見ていたドラグノフが急いで彼を引き留める。あれを向かうとか自殺行為に等しい。

 

「死ぬ気か!?あれは人間でどうこう出来るものじゃない!私達でさえ苦労するものを貴様一人で何とか出来る筈ないだろうッ!!」

 

「どうだろうな。やってみないと分からんぞ」

 

「ッ!…馬鹿か!命が惜しくないのかッ!?」

 

ここは私もドラグノフに加勢すべきと判断し割って入ろうとすると、先程まで黙っていた95式が私より先に二人へと割って入った。そこで彼女の口から衝撃的な言葉が飛び出した。

 

「行かせてあげて下さい」

 

その言葉に私もドラグノフも目を見開いている。

私が知る95式はそんな事を言う人形ではない事ぐらい知っている。一体どうしたというのか。

 

「…95式、それは本気で言っているのか…?」

 

「はい。彼の事は知っていますので。恐らくあれを斬り伏せる位は簡単にやってのけますよ」

 

ね?ギルヴァさんと彼女の顔がギルヴァと呼ばれた男へと向く。

彼は口角を少し吊り上げるとその問いに頷く。どこにそんな自信があるのか正直全く理解できない。あれを人間がどうにか出来るのなら、私達人形など必要なくなる。それ程までにあれは強力で厄介なのだ。

 

「何を言うかと思えば…。FAL!お前も何か言え!」

 

だが…本当にあれをどうにか出来るというのなら…。

それがこの状況をどうにか出来る最善の策というのであれば…

 

「信じて良いのね?」

 

「FAL!?」

 

信じてみる価値はあるのではないだろうか。

 

「…」

 

私もどうかしてしまっているのだろう。

だがどうもこの男があれをどうにか出来てしまいそうで仕方ないのだ。普通の人間なら恐怖であんなのに立ち向かうとか考えないだろう。しかし目の前の男はどうだ。そんな様子は一切見受けられない。

それにこの男に関して思い出した事がある。もし噂通りであるのであれば…。

 

「正直な所、私達も詰みに近い状況なの。ここから離れようとしてもあの機関砲もあって中々動けない。けど…貴方が本当にあれをどうにか出来るのなら…。…やってみせて」

 

「…良いだろう。すぐ終わらせてくる」

 

それだけを残して男はマンティコアが居る大通りへと向かっていった。

彼が去っていくとドラグノフが怒りを混ぜた表情で私の肩を力強く掴んだ。少し痛かったが、彼女の怒りも間違ってなどない。

 

「メンタルモデルにバグでも起きたのかッ!?何を考えているッ!!」

 

「落ち着きなさい、ドラグノフ。…もしかすれば彼、「黒コートの悪魔」かも知れないわ」

 

「! あの男が…?」

 

「ええ…」

 

黒コートの悪魔。

鉄血の人形を狩り続けていると言われる正体不明の人物。倒された鉄血の人形は全て鋭利な物で斬り伏せられており、一か月前にその者の捕獲作戦が実行されたが驚異的な身体能力に翻弄され取り逃がしてしまうという結末となった。最近は鉄血と交戦したという情報もなく、今は大人しくしていると思われるが…。

 

「黒いコートに日本刀…ここまで似ている奴が彼以外居るとは思えないわ…」

 

「…しかし」

 

「似ているだけかも知れない…その気持ちは分からなくもないわ。でも…」

 

確証はない。しかし…

 

「囁くのよ、私の中の何かが。あれに任せれば大丈夫って」

 

 

 

響く巨兵の歩く音。一歩動き出す度に駆動音と地響きが周辺に響く。

四つの脚部が特徴の機動兵器 マンティコアは獲物を探してゆったりと歩いていた。マンティコアが向いている方から一人の男が歩いてい来る。黒いコートを揺らし、手には日本刀を手にしている。

 

「成程。確かにデカいな。だが…」

 

それだけだ、とギルヴァは刀の鯉口を切る。

その瞬間マンティコアの機関砲がギルヴァに向けて放たれる。だが弾は彼に直撃する事はなく真っ二つに斬り捨てられた。二つに分かれた砲弾の破片は彼の後ろへと飛んで行き爆ぜる。

爆風は吹く中ギルヴァは無銘を一端納めるとマンティコアへと駆け出す。機関砲が彼を仕留めようと連射されていくが右へ左へ回避して、一気に巨体を支える足元へと滑り込むと右前脚を斬り落とす。中ほどから脚を斬り落とされたマンティコアはバランスを崩し、轟音を立てて右へと傾く。これでまともな走行は出来なくなった。だが脚が動かなくなっただけであり堅牢さと火力は未だ実在している。

そこでギルヴァは胴体の下側へと移動。腕を引きつつ身を低く屈めた。

すると彼を中心にわずかながら風が吹く、そして勢いよくその装甲へと拳を叩きこんだ。

あろう事かその一撃はマンティコアを宙へと打ち上げる程の威力、蒼がその技名を叫んだ。

 

―Real impact‼—

 

「「は…?」」

 

その様子を後方で見ていたFALとドラグノフを啞然とした。たかがアッパーカットであの巨兵を宙へと打ち上げたのだから。厳密には初撃に叩き込まれたアッパーカットと飛びあがった際に追撃として放たれた膝によるものだがそんな事は二人共知らない。只分かるとするのであれば、素手による一撃があれを空高く打ち上げた事とギルヴァという男が普通ではない事だけである。

そして戦闘はいよいよ大詰めを迎える。マンティコアと共に宙へと舞い上がったギルヴァ。その巨体に足を付けて跳躍。更に上へと飛びあがり上空で刀の柄に手を添えて降下。自重で地へと落ち始めた鉄の塊に近づいたタイミングを見計らい、体全体をきりもみ回転しながら抜刀。回転しながら刃が装甲を何度も斬り落としていく。纏う装甲はまるで紙を裁断しているかの様にいとも簡単に刻まれ、マンティコアは成す術もなく切り刻まれていく。

 

「ふっ!」

 

そしてとどめと言わんばかりに先程よりも速い回転で勢いよく踵落とし、月輪脚を叩きこむ。叩き込まれた一撃はマンティコアを一瞬にして地面へと叩きつけ、大きな轟音を響かせた。だが堅牢さに自信があるのだろう。巨兵は体をがたつかせながらも立ち上がろうとするのだがそれをギルヴァは許さない。マンティコアの頭に目掛けて刀を振り下ろし胴体ごと縦に一刀両断。真っ二つに分かれた巨兵は崩れ落ち、彼は背を向けて刀を納めると背後にて大きな爆発が起きた。爆風でコートが揺れる中ギルヴァは静かにその場から後にするのだった。

 

 

 

マンティコアを撃破した後、三人が身を潜めていた場所へと向かうと二人の戦術人形がこちらを有り得ないものを見るような目で見てきた。まぁそう見られてても仕方ないと言えば仕方ないが。

するとライフルの戦術人形だろうか?彼女が恐る恐る問いかけてきた。

 

「本当にあれをやったのか…?」

 

「そうだが…。気になるなら見てきたらいい。残骸が転がっている筈だ」

 

「いや…先程の爆発で確認した…。だがあれを潰すなど…お前は一体何者だ…?」

 

「…」

 

沈黙が支配する。向こうはこちらを睨み、こちらも向こうを睨む。

そこに95式と同じアサルトライフルの戦術人形が割って入ってきた。

 

「そこまでにしておきなさい、ドラグノフ。気持ちは分かるけど、助けられた身なのだから」

 

「……分かった」

 

その一声もあってかドラグノフと言われた戦術人形は引いてくれた。代わりにサイドテールが特徴の彼女が自分の目の前に立った。戦場に立つには少々薄着だが…まぁ気にする必要はないか。

 

「礼を言うわ。おかげで助かった」

 

「気にするな。偶然通りかかったものでな」

 

「通りかかった上に助けてくれる。随分と優しいのね?」

 

「…人形には少し思い入れがあってな。お節介だったらすまないな」

 

「大丈夫よ。おかげで助けられたのだから」

 

ふと、何かが近づいてくる音が響いた。

外へ出てみるとこちらへと向かってくる一機のヘリの姿が。もしや彼女達が呼んだヘリだろうか。

後ろからついてきた彼女が言った。

 

「来たみたいね。戦闘は終わってしまったけど」

 

「…」

 

「行くのでしょ?今回ばかりは見逃してあげる」

 

「ほう?てっきり捕まえるかと思ったが?」

 

「そんな余裕はないと言う事よ」

 

「成程な…。行こう、95式」

 

95式にそう伝え、バイクにまたがりエンジンを掛ける。

彼女が後ろに乗ったのを確認して走り出そうとすると彼女が待って、と呼び止めてきた。

 

「最後に貴方の名前聞いても?」

 

「ギルヴァ」

 

「ギルヴァね、覚えたわ。私はFAL。また会いましょう?ギルヴァ」

 

「その時があればな」

 

そう言い残してバイクを走らせるのだった。

 

 

 

 

 

走り去っていくバイクを見つめる。

まさかとは思ったが彼が例の人物で間違いないのだろう。

 

「黒いコートの悪魔、ね…。誰かの為に戦ってくれる悪魔なんて居るのね、この世の中」

 

「どうした?FAL。行くぞ」

 

「了解」

 

ドラグノフに呼ばれてその場を後にする。早く帰ってさっぱりしたいわ。

 

 

この数日後、私とドラグノフが遭遇したギルヴァの事、また彼はある特殊部隊と共闘したという事もあり、グリフィンは大規模な作戦を発令することなる。その名も…

 

 

 

operation Devil hunt(オペレーション デビル ハント)

 

 

 

とある市街地。

そこは数日前にギルヴァによってマンティコアが撃破された場所。

月明かりだけが頼もしく、夜風が冷たい市街地にて一人の女性がいた。

その女性はマンティコアの残骸を見つめると、そっと装甲が何かよって斬られた跡を触れた。

 

「やはり彼が…ここにいらっしゃったのですね」

 

風で月にかかっていた雲が流れていく。そして月明かりが彼女を照らした。

かつては二つ分けていた黒髪は今となっては長く伸ばされ、メイド服は変わらずのまま。

そう…彼女の名は…

 

「これなら数日でお会い出来そうですね」

 

代理人(エージェント)。現在は放浪者。どうやったのか鉄血から離反している元鉄血所属の人形である。




動き出すグリフィン。そして現れる代理人。
さてギルヴァさんはどうなる事やらか。

では次回お会いしましょうノシノシ


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Act9 operation devil hunt

悪魔捕獲作戦 第二弾。
グリフィンは彼を捕まえる事が出来るのか!?

では「Act9 operation devil hunt」どうぞ



駆け巡る足音。

何度もそれが響き渡る市街地。こんな時間帯にこれだけの人数を動員してきたグリフィン。

余程目の敵にされているのか、それ以外の理由があるのか。少なくてもそれを自分が知る由はない。

今は本来の「お迎え」が来るまで逃げるまで。こちらから約束した以上は破る事はできない。

最もこの作戦に彼女達が居るかどうか怪しい所ではあるが。

 

―それはともかくよ。良かったのか?

 

「何がだ?」

 

―95式の事だよ

 

「…」

 

思い出すは彼女の事。

時は今から数時間前に遡る。

 

 

市街地にて一時的な休息を取っていた自分達。

いつものように95式がニャン丸を撫でて、自分はそこにあった家具で寛いでいるという姿は当たり前となっていた。このまま明日に向けて眠ろうと思ったのだが、今日は違った。

段々と近づいてくる駆動音。気になって外へと出てみるとそこにはグリフィンのヘリが数機接近していた。もしやと思った分、的確にこちらの位置を把握出来たものだと思った。後からついてきた95式が言うにはグリフィンには偵察用のドローンがあるらしく、気づかぬ内にこちらの位置が知られていたのではないかと言っていた。まぁ確かにそのような物があっても不思議ではないが、今回は規模が違う。以前追われていた時と比べ倍近くの規模。どうやらグリフィンはこちらを捕える為に大胆な行動に出たという事だった。

 

「どうするのですか?」

 

「そうだな…。本来のお迎えではないからな、何時もの様に撒くとしよう。それと95式」

 

「? 何でしょうか?」

 

「君はあっちと合流した方がいい」

 

「…! ギルヴァ、それは…」

 

元より決めていた事。

それはグリフィンの捕獲部隊が来た際、95式を向こうへ行かせる事。

そもそも彼女はあの時404小隊と共にグリフィン側へと戻るべきだった。だが彼女の願いを叶える為に一緒に行動してきた。それも既に叶い、後は時間の問題と言えた。

正直言えば、これは良いタイミングと言えた。放浪する人形としてではなく、本来の役目を果たす人形として。あるべき姿へと戻る時が来た…そう思っていた。

 

「…いつかこの時が来ると思っていた。そして今、それが来てしまった。俺からすれば戻るべき時が来たと思っている」

 

「…ええ。そうですね…」

 

その表情はどこか複雑そうではあった。

だがこれ以連れていく訳にはいかない。それは彼女もどこか覚悟していた事だ。

 

「…あっという間でしたね」

 

「そうだな…。君との旅も決して悪いものではなかった」

 

「ええ…。貴方と…この子とも、そしてこのバイクともお別れが寂しいです」

 

「あぁー…。その事なんだが…」

 

「?」

 

「ニャン丸とバイクだが一時期だけ君に預ける」

 

これも予て決めていた事。

追っ手を振り撒く際はニャン丸とバイクは彼女に預けるつもりでいた。ニャン丸も95式にとてもなついていた事もあり、問題ないと判断していた。彼女なら変な事をしないという信頼もあっての考えだ。

その事を伝えると95式は目を見開き驚いた表情を作った。

 

「でも、ギルヴァはどうするのですか?逃げると言ってもバイクが無ければ…」

 

「何を勘違いしている。逃げるといってもここから完全に逃げ去る訳ではないぞ?」

 

「え…?…あ」

 

自分が言っている事を理解したと同時に彼女は思い出した表情を浮かべる。

そう、このお迎えは彼女達に任せたものであり、今来ている奴らにではない。ならば彼女達が自分を捕まえるまで延々と鬼ごっこを続けるつもりなのだ。

 

「…彼女達ですか」

 

「あぁ。約束したからな、破るつもりはない」

 

「居るかどうか分からないのに?」

 

「居るさ。何となくだが勘がそう告げている」

 

「そうですか…」

 

遠くから捕獲部隊が迫ってくる音がする。

ここに居ては見つかってしまうのも時間の問題だ。

95式も気付いていた様子だ。腕に抱かれているニャン丸が彼女に向けて気に掛ける様に鳴く。

それに対して彼女はニャン丸の頭を優しく撫でる。

 

「また会えますか?」

 

「会えるさ。必ず」

 

「お店を開いた時は今の様に一緒に過ごせますか?」

 

「どうだろうな…。だがそれを叶えられるよう努力しよう」

 

「…! はい!」

 

彼女の瞳から涙がこぼれる。だがその表情はとても満面の笑み。

一時的な別れ。少し悲しいがこればかりは仕方ない。

背を向けて歩き出そうとすると、待って下さいと95式が呼び止めてきた。

 

「ここで言うのも変ですけど、前々からお店の名前考えてたんです」

 

「ほう?して名前は?」

 

「それはですね…」

 

 

 

 

 

そして今、グリフィンとの鬼ごっこを始めている訳である。

 

「仕方ないさ」

 

―まぁ…そうだな。それに店の名前も考えてもらった以上約束は守らねぇとな?

 

「そうだな…ッ!!」

 

建物の屋上から飛び出し、廃ビルへと転がり込む。

 

「居たッ!」

 

しかしこっちに飛び込んでくる事は予想済みだったのか階段から別働隊が上がってきた。前と比べて動きが早い…流石に学習はしてきたか!

つかさず外へと飛び降りるが降りた矢先、またしても別働隊が迫ってきていた。

 

「止まりなさいッ!!今日こそはお縄についてもらうわよ!」

 

「この任務を見事に完遂しなくてならない。何故ならば…」

 

「「「「指揮官を一日独占できる権利が成功報酬なのだからッ!!!」」」」

 

―欲塗れじゃねぇか!?

 

「だがそれの影響もあってか動きが早い…!随分と厳しい鬼ごっことなりそうだ!」」

 

地を蹴って駆け出す。前後左右からの追っ手。

このままでは挟まれるのがオチだろうが、簡単にやられるつもりはない。撃ってこないのはあくまで捕獲を優先しているからであろう。もし今から敵対する様な行動をとれば何が起きるか言わなくても分かる。向こうも撃ってこないのも、こちらとの敵対を避けているからであろう。

 

「しかし…まぁこれだけの人数をこっちに動員してきたものだな…」

 

―これ以上暴れられたら、あっちにとっては都合が悪いんじゃないのか?

 

「大方そうだろうな」

 

路地を抜けて大通りに飛び出ると先回りしていた部隊がこちらの行く先を遮っている。

そこで幻影刀を一つだけ展開し、待ち伏せ部隊の後方に立つ廃ビルの壁に目掛けて投射。突き刺さったのを確認すると同時に近場の壁を伝い駆け出す。そしてそこへ目掛けて壁を蹴って跳躍。突き刺さった地点へと瞬間移動。待ち伏せしていた部隊も追っ手も目を見開き、足を止めていた。以前追われていた時はこれを使う事はなかったので、いい機会となった。

と言っても使ったのは単純な移動技。幻影刀が突き刺さった場所に向かって瞬間移動並みの速さで移動するというもの。最も最近は使う事はなかったが。

 

「足が止まった…。今の内に…!」

 

降り立ったビルから別のビルへと飛び移り、その場から離れる。

さて…こちらのお迎えが来るか、あるいはグリフィンに捕まるか…。この鬼ごっこ、思った以上に大変だな…。

 

 

 

一体どれ程の時間が経っただろうか。

逃げる先々で捕獲部隊と鉢合わせ、かなりの数の建物を飛び越えたり、走り回った気がする。

向こうも向こうで成功報酬が欲しいのか血眼になってこちらを探していた。先程鉢合わせした部隊なんか、只ならぬ雰囲気を感じ取った程だ。しかしここまで長引くとはな…作戦時間というのもある筈だが、そういうのは今回の作戦では存在していないのか?

だがそれをこちらが知る由はない。この感じだとお迎えが来る様子はないだろう。さて…どうしたものか。

休んでいた場所から離れようとした瞬間、後ろからやってきた何かに気付き足を止めた。

その何かはまるで自分がここに居ると言わんばかりにブーツの底が当たる音を響かせながら階段を上ってくる。

この気配は……そうか、来たのか。

 

―この気配は……成程な

 

蒼もその気配に気付いたそうだ。

雲によって隠れていた月。風によってそれは流れ、月明かりが全てを照らす。

そしてその光は階段を上がってくる客人を出迎えるかの様に照らした。サイドテールに左目の傷。あの時、共に他戦った戦術人形、UMP45の姿がそこにあった。

彼女はこちらを一目見ると一回だけウインクしてきた。そして階段を全てを登り切るとこちらへと歩み寄ってくる。笑みは崩さずゆっくりと。

そして自分の前で立ち止まった。

 

「久しぶり。元気してたかしら?」

 

「あぁ。君こそ元気していたか?」

 

「ぼちぼちといった所。各地を行ったり来たりしてたけどね」

 

各地を行ったり来たり、か…。

彼女も…いや、彼女達も大変な毎日を送っていた訳か。ならばお迎えを頼むべきではなかったのかも知れない。

その事を頼みなんてしなければ今頃彼女達は休めていたかも知れないからだ。

そんな事を思っていると彼女の手によって顔を挟まれ、強引に引き寄せられる。その距離はほんの少しで互いの唇が接触しそうな位近い。金色の瞳がじっとこちらを見つめてくる。

 

「迷惑だなんて思ってないわ。寧ろ約束を覚えてくれているだけでも嬉しい」

 

「何故分かった?」

 

「何故だと思う?」

 

「質問を質問で返すな…」

 

「ふふっ」

 

わざとらしく小首をかしげて笑みを浮かべる45。

あざとらしさが前面に出ている……にしても…。

 

―何と言うか…読めないな…?あえてそうしてるのかね

 

…どうだろうな。だが読めないという点に関しては同感だ

 

蒼が言っていた様にどうも彼女の事が読めないと思っている。

あの時は俺の事を知りたくて仕方ないと言っていたが…それにはどういって意図があったのか。

そこら辺は聞いておくべきなのだろうが…それに他の捕獲部隊がここに来てしまえばそれも叶わなくなるが…。

 

「ねぇ、少しお話しない?」

 

「仲間を待たせているのでは?」

 

「待たせてはいるけど、多少程度なら問題ないわ。それに対象を捕まえたら私から連絡をいれる流れになってるのよ」

 

手が離れ、彼女は近くにあった椅子に腰掛け。自分は彼女との距離を少し空ける様に壁に凭れる。

風が吹く。空を見れば、雲はどこか遠くに行ってしまい月だけが今の空を支配していた。

どこからか聞こえる戦術人形達の駆けていく音。それが市街地に良く響いて聞こえる。

 

「外が気になる?」

 

「気にならないと言えば嘘にはなるな」

 

最も捕まった身ではあるが、それは彼女が連絡しない限りこの状態だろう。

 

「そう。でも安心して。話といっても五分程度だから」

 

「そうか…。で?何を聞きたい?」

 

その問いに45は指を顎に当てて考える仕草を作る。

そして何か聞きたい話題が見つかったのか数秒後に問いかけてきた。

 

「どうして貴方は私達人形の為に力を振るってくれたのかしら?」

 

「…それが間違いだとも言いげだな」

 

「そうではないわ。単純に気になって」

 

「成程な…」

 

俺はそうではないが、他の人間は人形を道具扱いしている節がある。

そういった連中は放浪している時に何度も見てきた上、人権保護団体のメンバーにこちらに加入しないかと言われた時もあった。その時はきっぱり断ったのだが、何かに触れたのか勝手に逆上され襲ってきたので適当にぶちのめした後、ゴミ捨て場に放り込んでおいた。

正直何故そこまで彼女達が目の敵にされなければならないのか分からない。彼女達が居なければ今頃人類はその数を大きく減っていた筈なのに。

 

「…小さい頃…妹と俺を育ててくれた人がいた…。最初こそは普通の人間だと思っていたが、彼女は戦術人形から民用人形へと鞍替えした人形。…でも彼女が居なかったら今の俺は存在していない。そして力を振るうのも俺を大事に育ててくれた人形…いや、あの人が…「母さん」がいたから。…恩義をずっと感じているから力を振う…それだけだ」

 

そう…「あの人」は俺や「妹」からすれば姉の様であり…何よりも母であった。

あの笑顔は誰にも負けない位美しかった。

 

「その人形が居たから…人形に恩義を感じているから…だからその力を振うのね?」

 

「あぁ。あの時も…黙って見ている事なんて出来なかったからな…」

 

すると45が椅子から立ち上がり、自分の目の前に立った。

どうしたのだろうかと思っていると突然彼女が抱き着いてきた。突然の事に驚いていると金色の双眸がこちらを見つめてくる。

 

「ありがとう…」

 

「…礼を言われる程じゃない」

 

「ううん…言わせて。助けてくれてありがとう…」

 

「…どうも致しまして。…しかし何を考えているのか分からない辺り、まるで猫みたいだな?」

 

思った事を言ってみると、笑顔で彼女は言った。

 

「にゃん♪」

 

「…っ」

 

…とても可愛らしいと思ったのは心の中で思っておくとしよう。

 

その後、404小隊のメンバーと合流し、自分は拘束された。

そのままヘリに押し込まれてグリフィン本部へと送られる事になった。その間、UMP9に「今日から家族」だとか言われたりG11に膝枕するという事にもなったが…まぁ本来の目的が成せたの良しとしよう。

 

 

 

市街地にて。

代理人はビルの屋上にて飛び去っていくヘリを眺めていた。そのヘリにはギルヴァが乗っており、その事は彼女も知っている。

 

「一足遅かったですか…」

 

彼女は既に鉄くずと化した「猟兵」を投げ捨てると背を向けて歩き出す。

 

「暫くは八つ当たりでもしましょうか」

 

そんな事を言いながら彼女はその場を後にした。

 




無事作戦成功。
因みに作戦は成功したので各指揮官は彼女達に独占されてください。
さてグリフィン側に着くのだから…誰かうちの悪魔さんに会ってみないかい?
え?会いたくない?…そっか(´・ω・`)

次回お会いしましょうノシ


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Act10 雷撃鋼 フードゥル

グリフィン本部にて独房生活を送るギルヴァと蒼。
二週間も放り込まれたままで何も音沙汰ない事に不満を感じつつある彼。
しかし彼らを巻き込もうとする騒動が刻々と迫っていた。



薄暗い室内。

周りは固いコンクリートの壁に覆われ、設置されているトイレには蠅がたかっている。

決して休める事のない簡易ベット上で座り、グリフィン本部の独房に放り込まれて二週間。

不味い食事が運ばれてくるだけの日を過ごしていた。

 

「暇だな」

 

―仕方ねぇさ。こればかりはな

 

「むぅ…」

 

無銘もレーゾンデートルも取り上げられ、只々ここで過ごすばかり。

あの時、ここを放り込んでくれた奴は少し待てば来ると言っていたが完全に嘘だったようだ。今度会う事があれば幻影刀の嵐をお見舞いしてやるとしよう。

まぁそれは置いておき…。これからどうしたものか。

思い悩んでいると蒼が言ってきた。

 

―仕方ない。俺が外の様子見てくるよ

 

「どうやって?」

 

―魔力で分身を作る。多少はお前の力は弱まるがさして問題ないだろう

 

「誰かに見られないのか?」

 

―この程度の魔力なら人間に見る事は叶わない。問題ないさ

 

魔力がどうのこうのに関しては蒼の次に右に出る者はいない。

その本人が言うのだから問題ないのだろう。

 

―よっと…

 

自分の身体からすり抜ける様に目の前に分身が現れる。

その姿はまるでデビルトリガーを引いた時の魔人化時の姿。これで見られる事が無いというのはどうなのだろ。

まぁそれを気にしていてもキリが無いと言えば無いのだが。

 

―じゃあ行ってくる。

 

「あぁ。頼む」

 

そう返すと蒼は扉をすり抜けて独房の外へと出て行った。

さて…帰ってくるまでのんびり待つとしようか。

 

 

 

独房の扉をすり抜け、立っていた看守に向けて労いの言葉を掛ける。

 

―看守お疲れさん

 

「…」

 

当然ながらこっちの声は彼らに聞こえる事はない。

銃を手に仏頂面のまま看守の仕事を全うしている。やれやれ…仕事熱心な事で。

そんな看守に背を向けて歩き出す。見る限りここは5階か?窓から見える景色は割かし高さもある。

普通独房って地下とかに配置するもんじゃないのかね?ここの奴らが考えが全く分からねぇな。まぁ…気にしても仕方ねぇか。

それに…この気配…。珍しいというか…変というか。

 

―何で俺達以外の悪魔の気配があるんだか

 

ここに来てからずっと感じていた。ギルヴァは気付いているのか分からないが…。

ここら一帯を探索した後、もう一人の悪魔に会いに行ってみますかね。まずは一つ下に降りてみるか。

下へと通ずる階段を探して歩き出す。見えるは廊下を行き交う人々の姿。

まるで何かに追われているかの様にせわしない。まぁこのご時世だ。鉄血の連中以外にも色々気を張らなくちゃならないのだろう。一時前にサラリーマンの姿に重なって見えるなぁ…。それに何か背中から黒いモヤモヤしたのが見える辺り、ここって意外とブラックだったりするのかね?

もしそうなら労基は守った方がいいぞぉ?グリフィンさんよ。デモが起きる前に業務内容を見直した方が良いかもな?まぁ悪魔にそれを言わせる辺り、もう遅いかも知れないがな。

 

―お、階段っと。下に降りますかね

 

階段を一歩ずつ降りて4階にへと降りる。

ここのフロアは上とは違い、ラウンジになっているみたいだ。ここで休憩するらしいな。

ベンチやら椅子に腰掛けて寛いでいる。

 

「で?あの黒コートの男はどうしてるんだ?」

 

―ん…?

 

ふと聞こえた会話。黒いコートの男と言えば十中八九ギルヴァの事だ。

そちらへと向くと水が入った紙コップを手に二人の男が話していた。

 

「今は独房にいるらしい。暴れる様子はなく、飯もちゃんと食べている辺り生きてはいるらしい」

 

「へぇー。あんだけ逃げ回っていたからてっきり暴れているのかと」

 

「まぁここで暴れてた所で何もならん…奴もその事位は分かっているんだろう」

 

―例え暴れなくてもあのドア位は普通に壊せるんだけどな…まぁ知る訳ないか

 

それにあいつが暴れる事をしないのは下手に敵対したくないのが理由だったりする。

元々あいつはグリフィンと敵対する気はない。それにあいつを育ててくれた人形が元グリフィン所属だったという事もあり避けていた。寧ろ手助けする事が多かったのだがその事はこいつらには伝わっていないのだろう。

 

―まぁ…あいつもあいつで色々あるからなぁ…。

 

それを分かっていて行動している自分も随分と大人しくなったものだな、ホント。

昔の俺が見たら何て言うものか…まぁ自分も柔らかくなったという訳か。

でもまぁ…仕方ないのさ。あいつが心が人間として生きていくと言った時、心のどっかで支えてやろうと決めたんだ。今さらあいつを裏切る気にすらなれないし、それにあいつと居て退屈しないんだ。

最後は悪魔っぽいかも知れないが、理由なんて挙げていけばキリがない。大まかな理由としてはこれぐらいが丁度いいんだよ。

 

―さてと、お次は三階に降りますかねぇ…

 

階段を降りて三階に到着。

どうやらここは部署ごとに部屋が分かれているらしく、上と比べると人の行き来が多い。

流石は本部と言った所かね。まぁここらは大して興味がないからな…このまま下に降りるとしようか。

三階から二階へと通ずる階段を降りて行くのだが、どうも二階は三階と似た感じだった為スルー。

そのまま一階へと降りる。一階は所謂エントランスになっているが…

 

―ここも上と同じかぁ…人の行き来が多いな。これは下ではなく、上を目指すべきだったか?

 

だがここより下に居るであろう悪魔の存在の事がある。

それが何よりも気になっていた。確かに…この世に悪魔が決していないと決めつける事はできない。

だがここまで大きな魔力を持つ悪魔が人間界にいる方が珍しい。何らかの理由でこっちに来たんだと思われる。もしそうだと仮定してそいつが考えている事とすれば…

 

―人間界の支配…

 

大方の理由としてはそこら辺が妥当だろう。

 

―もしそうなら…今の俺では到底太刀打ちはできない。あいつが居ないと無理だが…

 

同時に気になっていた事はこの気配を自分はどこか知っている。

正確に当てられる自信はないが…もしこの気配が俺の予想した通りならば…。

恐らく戦闘に発展する事はないと見ていいだろう。

 

―さて…その本人がいる地下への入り口は、と……お、あれか。

 

エントランスルームの端に見える扉。

そこにはkeep outの貼り紙が張られており、律義にそれを守っているのか誰も近寄ろうとしない。

人間はそういう所には律義なんだよなぁ…まぁルールを破れば何らかのペナルティを課せられるとなれば近づきたくもないか。

迷う事無くそこへ向かい、扉をすり抜ける。

地下へと続く階段。コンクリートの壁で覆われており、見事なまで殺風景だ。

逆にここがカラフルだったら、それはそれで気持ち悪いがな。

 

―…行きますか

 

階段を一歩ずつ降りて行く。

降りて行く度に気配が段々を強くなるのが感じられる。寧ろここの人間は悪魔が居るからこそ、地下へ通ずる階段を封鎖していたのだろうか?もしそうならこの先にいる悪魔をどうやって封じた?

この世界に退魔の力はあるとは思えない…。だとすれば取引したか。

取りあえず先へ急ごう。その事は本人に聞けば早い話だ。

それにだ…

 

―ここに来てからとは言うものの…地下の悪魔の件といい…

 

確実にここへと迫りくる別の悪魔の気配は何だと言うのだ?

 

 

 

階段を降り切り、辿り着いたのは無駄に広く馬鹿デカい扉があるだけの場所。

どうやらここへと通ずる道は他にもあるらしく、エレベーターもあったのであっちが正規ルートの様だ。

自分が通ってきた階段は非常階段だったみたいだな。

 

―しかしまぁ…

 

気配が駄々洩れ。ここに立っているだけでも感じられる。

そして本人はあの扉の向こうに居ると見ていいだろう。さて…顔合わせと行きますかね。

だだっ広い通路を歩いていき、そのまま扉をすり抜ける。

そこに居た本人を見て、つい笑い出してしまう。まさかとは思っていたが…

 

―珍しい事もあるもんだ。何時から獣からペットに趣旨変えしたんだい?

 

そこに居たのは一匹の獣。だがそのガタイはこの世のものとは思えない位デカい。

籠手と具足を模っした外殻からは金色の雷が溢れ出ている。

 

―む…その声は…

 

こちらが声を掛けた事により、眠っていた獣は目を覚まし体を起こした。

 

―よぉ。まさかあんたがここに居るなんて思わなかったぜ。フードゥル

 

フードゥル。

その名は雷を意味し魔界にて戦闘用として造られた狼型悪魔。

生まれた当初こそは命令に忠実、無口、無感情。まさしく戦闘用として悪魔だったが、ある日を境に自我が目覚め、何時しかカリスマ性溢れる悪魔として生きていた。そのカリスマ性と高い戦闘力もあって魔界の精鋭部隊の隊長を務め、造られた悪魔の中では珍しく、フゥードゥルが認めれば自らを武器へと変える力を持っている。

「あの戦い」以降消息を絶っていたらしいが…まさかこんな所で会うとはな。

 

―まさか貴公は…。久しいな…こうして会うのは何時振りだ?

 

―さぁな。最後に会ったのは何時だったかすら忘れたよ。なんせ俺ら悪魔に年月なんてあっという間だからな

 

―確かにな…。にしても貴公…その姿は?我が最後に見た時とは随分と姿が違うが?

 

―色々あってね。この姿は分身さ。それでもって肉体は滅んだ。「あの戦い」のツケでな

 

―!…そうか。貴公もまた…辛い決断をしたのだな

 

俺もフードゥルも「あの戦い」に参加した身だ。

あれがどんな戦いだったのかも知っている。そしてお互いに守りたいもの、譲れないものの為に戦った。

ただそれだけのこと。

 

―それで?何でこんな所に居るんだ?まさか飼われている訳じゃねぇよな?

 

―そんな訳なかろう。単純にここの人間に眠いのでそっとしていて欲しいと頼んだだけだ

 

―マジかよ。何て言うか…あんたらしくないな?

 

それを簡単に従った人間も中々だなぁ…。

まぁ…この世のものとは言えない奴がいるんだ。命だって惜しいだろうさ…従うのも無理もないか。

 

―それを言うのであれば貴公もだろう。何故心変わりした?

 

―…まぁ色々あったのと、面白い人間に会ってね

 

―ほう。長い事誰かと話す機会もなかったものでな。良ければ聞かせてくれぬか。貴公が言う面白い人間とやらを

 

―あぁ。聞かせてやるよ。きっと気に入ると思うぜ?

 

俺はフードゥルにギルヴァと過ごした日々を全て語った。

悪魔でありながら心は人間という矛盾を抱えながら生きると決めたあの時の事や人形の為に力を振るった事などなど…。奴は興味深そうに話を聞いており、珍しく目を輝かせていた。

元々こいつは人間の事を下に見る事をしていない。弱い存在だという事は分かっているが自分達悪魔には無い物を人間は持っていると話していた。故に人間を卑下するつもりないのだとか。

 

―ふふっ…よもや珍しい者も居るものだな。是非ともそのギルヴァとやらに会ってみたいものだ

 

―別にそれは構わねぇが……まさか戦うつもりじゃねぇよな?

 

―そのつもりはない。既に牙は丸くなってしまったからな

 

―じゃあどうするつもりだ?

 

―正直ここでの生活も飽きてきてな。その者に力を与えてやる分、ついていこうかと思って……ッ!

 

―ッ!!

 

二人して上を見上げてた途端、大きな振動が地下に伝ってきた。

恐らく地上に何かが降ってきたと見ていいだろう。砲弾にしては規模が小さい。

それにこの感じは分かる…降ってきたのは俺達と同じ悪魔だという事だ。

 

―む…この気配は…

 

―あんたのとこの問題児じゃねぇか?てっきり始末したと思っていたが?

 

―我もそう思っていたのだがな…どうやら生きていたらしいな

 

―みたいだな…。さてどうする?俺がギルヴァと合流して奴をぶちのめすか。もしくはフードゥルがここから飛び出てもう一度葬るか。どっちがいい?それとも両方選ぶか?

 

―ふっ…。両方に決まっているだろう

 

―よし。じゃあ俺はあいつの元に戻るよ。あんたはここを出る準備でもしていてくれ

 

―了解した。現地で会おうか

 

―あいよ

 

一旦別れを告げて、部屋を後にする。

さて…あまり時間を掛けられないな。幾ら人形でも悪魔相手だと敵う筈がない。

それにここは本部。壊滅とかしてしまえば色々やばい、ていうかマジでやばい。

 

 

「一体何が起きて…」

 

蒼が出て行ってどれ位経っただろうか。

ひと眠りしようと思っていた矢先、突如として響いた轟音によってそれは中止された。

独房の外は慌ただしく、警報はさっきから鳴り響いたまま。看守もどこか行ってしまっている。

このまま外へ出ようと思えば出れるがまだ蒼が戻っていない。

 

―ギルヴァ居るか!?

 

「蒼!」

 

どうしたものかと迷っている所で蒼が戻ってきた。

分身が自分の身体へ消えると蒼に何が起きているのか尋ねる。

 

「一体何が起きているんだ?」

 

―俺ら以外の悪魔が本部を襲撃してきたのさ

 

「俺達以外の悪魔が…?そもそもどうやって…?」

 

―魔界と人間界を繋ぐトンネルがあるんだが…今やそれは完全に封鎖されている

 

「ならば余計に気になる。どうやってそいつは此処に?」

 

魔界と人間界を繋ぐトンネルが既に滅んでいるとするのであれば…そいつがどうやってこっちに来たのか。

それに対する疑問を感じてもおかしくない筈だ。

 

―恐らくだが…不定期に二つの世界が繋がってしまう事象がある。普通は誰も近づこうとはしないがな

 

「何故近づこうとはしない?」

 

―確実に辿り着くとは限らないからだ。迂闊に入ったら出る事も戻る事も出来なくなるからな

 

「だが今回は運よく行けた、と?」

 

―そうなるな。さておしゃべりはここまでだ。まずは此処を出るぞ

 

「分かった」

 

幻影刀を一つ展開し、ドアを切り裂き破壊。

そのまま外へ出ると、建物の外から銃声と爆発音が響いていた。

窓から下を覗いてみると戦術人形達が騎士の甲冑を纏い、身の丈以上の大剣を持った悪魔と対峙していた。彼女達の攻撃は全て大剣で防がれており、あの悪魔は防御に徹している。

手を出ないという訳でない…こちらが見る限り余裕が有り余っている様子だ。恐らく弾切れになるまで待つ気なのだろう。そして完全に戦闘力が無くなった所を大剣で蹂躙という訳か。

 

―やはり…。アンジェロか

 

「!?」

 

第三者の声。

そちらへ振り向くと籠手と具足を模っした外殻から雷を放ち、真っ白な毛並みが特徴の狼がゆっくりと歩み寄っていた。

つかさず幻影刀を展開しようとすると蒼が止めてきた。

 

―ギルヴァ、止せ。こいつは味方だ

 

「…。こいつも悪魔か…?」

 

―名はフードゥル。見ての通り悪魔でね。ちょいとした仲さ。

 

―紹介に預かった。我はフードゥル。貴公がギルヴァか?

 

その声はどこか大人びており、喋り方もまるで中世の騎士みたいな喋り方。

何よりも隙が無い。どれ程の修羅場をくぐってきたのか…。

 

「あぁ」

 

―ふむ…。成程…どうやら我が力を託すのに相応しいと見た。ギルヴァよ、今からあの騎士をやるのであろう?

 

「そうだが…。知り合いか?」

 

―かつて共に戦っただけの間柄。今は敵対しておるがな

 

悪魔同士でも敵対はするのか…。

てっきり協同するものかと思ったがそうではないらしいな。

 

―それよりもだ。どうだ、奴を屠るのであれば我が力を使ってみるか?

 

「?それはどういう…」

 

―こう言う事だ

 

大きく吠えるフードゥル。

その瞬間、彼の体が光に包まれ、そこから光球がこちらへと寄ってくる。

手を伸ばしてそれに触れると両手足が光に包まれ、数秒程度で耀きは消える。そしてそこにあったのは…

 

「これは…籠手と具足か…?」

 

まるでフゥードゥルの外殻が武器へと転用した様にも見える。

実際籠手と具足からは電がバチバチと音を立てて発せられている。

 

―これが我が力。勝手ながらだが貴公についていこうと思っていてな。その対価として我が力を授ける

 

「成程。だからか…」

 

無銘もレーゾンデートルもない今、彼の力はとても心強い。

それにこの手の武器が欲しいとも思っていた。素手でリアルインパクトは意外と痛かったからな…

 

「だが心強い」

 

窓を破壊して、下を見る。

まだ戦闘は続いているが、あの騎士…アンジェロと言われた悪魔が今にも動き出そうとしていた。

 

「行くぞ。良いな?蒼にフードゥル」

 

―あいよ!

 

―うむ!

 

二人の返事を聞き、窓から大きく外へ飛び出し、アンジェロへと目掛けて降下。

向こうはこちらに気付く様子はなく、大剣を構え始めている。

籠手に電を帯電。奴に近づくにつれて電は激しさを増していく。

そこでこちらに気付いたのかアンジェロは瞬時に顔を上げた。だがその距離は間近。

空中で構えを作り腕を引く。そして奴の顔面目掛けて一撃を叩きこむ。

その瞬間…

 

「雷注意報だ」

 

金色の雷光が迸った。




「雷撃鋼 フードゥル」

雷を操る悪魔 フードゥルが自ら姿を変えギルヴァに与えた籠手と具足。
その両手足からは電が放出されており、攻撃にも転用可能。
また貯める動作によって電を帯電させる事が可能で、貯める時間が長ければ長い程、強力な電を発生させることが出来る。
造られた悪魔は純粋な悪魔では無い為普通であれば自身を武器に変化する事はできない筈なのだが、稀にそれを可能とする悪魔も居るらしく、フードゥルもその一人である。



フードゥルはDMC4でいうブリッツみたいな奴。但し、見た目は狼。
…DMC4のブリッツ嫌いだったなぁ…自爆特攻してくるし…


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Act11 悪魔と踊ろう

やっぱり戦闘描写は難しい…。
もっと頑張らなきゃ…

さて「Act11 悪魔と踊ろう」どうぞ~


迸った雷撃と雷鳴。

その一撃はグリフィン本部に襲撃を仕掛けてきたアンジェロの顔面に叩き込まれ、防衛に出ていた人形達はその状況に戸惑いを見せていた。先程まで攻撃が大剣をよって防がれ弾薬も尽きそうになった所で、それが起きたのだから無理もない。ただ何人かの人形は空から黒いコートの男が降ってきたのを目撃しており、周りと同じ様に戸惑いつつも銃を握る手だけは緩めずにいた。その銃口を向かい合う二人に向けて。

 

「…」

 

片方は騎士の鎧の様な甲殻に包まれ、岩の様な外観を持ちながらもその一撃は決して侮れない大剣を手にしている人間の様な何か。

 

「…」

 

そしてもう片方は黒いコートを纏い両手足に付けている籠手と具足からは電が激しく放電されており、現代の技術では作る事は無理であろう武器を装備している男。

注視されている中、両者は一歩も動こうとはしない。

お互いに睨みを効かせるだけ。しかしそれがかえって異様な雰囲気を作り出し、物陰から二人を見つめる人形達は一言も発せずにいた。それ程までに二人が生み出す圧が戦場を支配していた。

 

風が吹く。

それを合図に両者が歩み始めた。

ブーツの底が当たる音が、外殻の底が当たる音が狭い空間に居る訳でもないのにその場に大きく響き渡る。

両者の距離が一歩ずつ縮まっていく。片や大剣を構え、片や拳を作る。

何時ぶつかってもおかしくない。彼女達も静かに見守る。

次の瞬間。

 

「「ッ!!」

 

二人の姿が掻き消え、目にもとまらぬ速さでお互いの獲物をぶつけ始めた。

刃がぶつかり、雷を纏わせた拳が飛び交う。火花は何度も散り、剣風が吹き荒れ衝撃波にすり替わる。

その衝撃波は離れで見ていた人形達の所までに届くほど。

 

「あわわわわ!」

 

「ひゅー♪すげぇリズムじゃん!」

 

「言ってる場合!?あんたも下がって!!」

 

「引けー!引けーッ!!」

 

身の危険を感じ後退していく人形達。約一名、おかしなことを言っていたが近くにいた仲間に引きずられ下がっていく。周りが引いている事を知らない当事者達は全力をぶつけあっていく。激しさは段々と増していき、あろう事か二人を中心に軽い竜巻まで発生しかけていた。

 

「ヌウッ!」

 

振り下ろされる大剣。

ギルヴァは籠手で受け流して、回し蹴りを叩きこむがアンジェロはその場から飛び下がり攻撃を回避。

つかさず追撃に入るギルヴァ。瞬間移動技「エアトリック」で一瞬で距離を詰めてアンジェロの頭上へ移動すると同時に目掛けて流星の如く蹴り「流星脚」を放つ。

彼を叩き落そうとアンジェロは大剣で切り上げようとするが、既に遅し。

 

「ふっ…!」

 

降ってきた一撃は胴に叩き込まれ、外殻に罅が入り、あろう事かギルヴァは再度流星脚を連続して叩きつけた。

一回、二回、三回、四回…。

体を足場にされ跳躍から繰り出された蹴りはアンジェロを確実によろけさせるが、彼もこの程度でやられる様な悪魔ではない。

 

「調子に乗るな…!」

 

即座に体勢を立て直し、彼は大剣を大きく振るいギルヴァの攻撃を受け止める。そしてそのまま力の限りでフルスイング。吹き飛ばされるギルヴァだが、何もなかったかのように地へと着地。構えを取りつつステップを踏んでいく。そんな彼を見てアンジェロは思った。

相対している奴は只の人間ではない、と。

フードゥルと同じ様に作られた悪魔であるアンジェロ。その実力は本物で決して弱い訳ではない。

だが自分と対等に渡り合える人間がいるとは思ってもいなかった。

下手すればやられる。繰り出された蹴りも下位の悪魔なら一発で消滅してもおかしくない威力だった。

それが何度ももらえば自分も消滅は間逃れないだろう。だが彼にはどうしても成さなければならない事があった。

 

(この俺を始末しようとしたあいつを…)

 

浮かぶは精鋭部隊の隊長の姿。視力を失い、暗闇しか見えない体になった全ての原因。

湧き上がる怒り。

それに呼応するかの様に大剣から紫焔が発生。まるでアンジェロの怒りを表しているかの様に激しく燃え盛る紫焔が大剣を包み込み、岩の様な無骨な大剣は紫焔を纏うものへと姿を変えた。

 

「…」

 

その光景を眺めていたギルヴァも、アンジェロの様子が変わった事を受けてフードゥルの電をより激しくに発生させた。

腰を落とし、腕を真っ直ぐ引く。ジェット噴射の様に電が放電される。

対するアンジェロも大剣を大きく振るい、それを両手で構え突き立てる。

 

「…」

 

「…」

 

睨み合う二人。

恐らくこれ以上にない衝撃波が飛んでくるといち早く感じ取った一部の人形が大きな声で周りに叫んだ。

 

「全員避難してッ!!!デカいのが飛んでくる!!」

 

「避難ってどこに避難するの!?」

 

「デカいのが飛んでこない所までよ!!」

 

「そんな無茶な~!」

 

慌ただしく避難する人形達。

いつあれがぶつかるか気が気でない。下手すればこの後かも知れない。

それ以前にこちらの事を全く考えず、派手にドンパチやり始めた当事者たちに文句を言いたげな人形も居ない訳ではないが、身の安全を守るべく本部内へと退避していく。

その間でも二人は動こうとはしない。まるでそれは彼女達が完全に退避するのを待っているかの様に。

そしてその場から人形達が完全に退避したのを感じ取った二人は、勢い良く地面を蹴り突進した。

 

「「はあああああっ!!」」

 

最大放電で放たれる右ストレート。紫焔を纏い放たれる全力の突き。

それらが今ぶつかった。

全てを揺らす程の衝撃と轟音が響き渡り、ぶつかった衝撃で本部のガラスが砕け散る。

一歩も引かないギルヴァとアンジェロ。互いに押し込み合うが攻撃が弾かれ、隙が生まれる。

その隙を見逃さないと言わんばかりにギルヴァは片足を上げて百裂脚を、対するアンジェロは突きを繰り出す。

まるで無数の脚と無数の剣がそこにあるかの様に素早く放たれる脚と剣のラッシュ。

今でも十分速いのに、二人は繰り出す速度は一弾を速めた。まるでそれはマシンガンの連射と並ぶ程に。

どちらが持つか耐久戦へと発展し、二人は攻撃を繰り出す事を止めない。

 

「…!」

 

「何…!?」

 

蹴りを放っていたギルヴァが突如としてその行動を中断し、アンジェロの懐へと飛び込んだ。

今から大剣を構え直そうとしてもその巨体さが故に攻撃を防ぐ事はできない。

彼はゆっくりと腕を引きつつ、構えを取る。

 

(外殻ならば…!)

 

だがそれは大いに間違っていた。

以前にもギルヴァは堅牢度に優れる物を殴り上げている。

その時は素手で行われたものだが、今回は悪魔が姿を変えて武器に転じたもの。

つまりどういう事かと言うと…

 

「受けろ…!」

 

アンジェロの腹部に目掛けて放たれたボディーブロー。

その一撃は外殻をいとも簡単に砕かれ、めり込まれる。

重い一撃を受けたアンジェロが前のめりになった所に顎に目掛けてアッパーが炸裂。

そのまま宙へと打ち上げられた所に追撃する様に膝蹴りが再度顎に炸裂した。

 

「かはっ…!」

 

魔具フードゥル、そしてフードゥルの持つ力…帯電によって倍増した攻撃力。

そこに加わるリアルインパクトという大技。その一撃は悪魔の外殻だろうと何だろうと…

 

「容易い」

 

砕かれるのである。

宙へと打ち上げられたアンジェロ、そして宙へと舞い上がったギルヴァ。

リアルインパクトの一撃により弱ったアンジェロに彼は体を勢いつけて回転させる。

切り刻むかの様に月輪脚。勢いを殺さず、そのまま踵落としが叩き込まれ、アンジェロは手から大剣を離してしまうと同時に地上に叩きつけられる。手放された大剣を掴んだギルヴァはそれを振り下ろし、急降下。

 

「寝てろ!」

 

とどめと言わんばかりにアンジェロの体に斬撃が浴びせられた。。

 

「…」

 

動く気配がない。

大剣から手を離すもギルヴァは警戒を解かない。

アンジェロの足先から段々に粒子へと変わっていく。その時辛うじて息があった彼が呟く。

 

「この…様な…場所で…」

 

「…」

 

「復讐を…復讐を……奴に…」

 

復讐と言う言葉を聞いた時、ほんの少しだけギルヴァは同情した。

自身も理性を失いかけていたとはいえ、復讐を身を投じた事があるのだから。

そして思い出す。フードゥルがアンジェロと敵対しているという事を。

つまりアンジェロが復讐を果たしたい相手とはフードゥルの事でなかったのか。だが彼からはその事が語られていない以上それを知る事はない。しかしどの様な理由があれど敵対した事には変わりなく、容赦も情けも要らない。

誰が落としてしまったのか、ギルヴァは落ちていた銃を拾い上げ撃鉄を起こす。

そしてその銃口を虫の息であるアンジェロにへと向けた。

 

「どの様な理由があれど、貴様がここに来たのが敗因だ」

 

引き金に指をかけられる。そして…

 

「失せろ。この世界に貴様の居場所などない」

 

彼はアンジェロに最後の止めを刺した。

乾いた銃声が響き渡り、薬莢がアンジェロが寝ていた場所に転げ落ちる。

まるでそれが墓標だと言わんばかりに。

 

のちにこの一件は自然災害ならぬ悪魔災害と称される事になる。

その理由としてはグリフィン本部の窓ガラスが全て砕け散った事と、本部前の広場が跡形も残らぬ更地になった事。また当事者達のせいで何人かの人形が衝撃波は吹き飛ばされる等といった理由で「悪魔災害」を名付けられる。しかしギルヴァという男が居なければ今頃どうなっていたのかと言う声もあり、この「悪魔災害」という名に関しては未だに議論が繰り広げられているらしいが、この時の事について本人はこう語っている。

 

どうでもいい、と。




魔界の精鋭部隊の副隊長だから連続突き出来ても可笑しくないよな?(威圧

魔具のフードゥルですか、イメージとしてはDMC3に登場したベオウルフ。
またアンジェロに関してはDMC5に登場したプロトアンジェロをイメージしていただけたら幸いです。
そろそろお店の開店と、ヤンデレを出さないとね…。お店の名前どうするかな…。

??「作者さ~ん。まだ私の事お迎え……シテクレナイノ?」

作者「ヒエ…」

じ、次回お会いしましょう!


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Act12 交渉

あの戦い以降、彼はある人物と一対一で話す事になる。
自身の事について、そしてこれかの事について…。



とある一室。

グリフィン本部の上階に存在するであろうこの部屋には、自分と立派な髭を蓄え、まるで熊の様な体格をもった大男と対峙していた。護衛はおらず、居るのは自分と彼の二人だけ。

アンジェロと呼ばれる悪魔を倒した後、独房から逃げ出した事が原因であの場にいた戦術人形達に銃を突きつけられる形となってしまい、再度独房に放り込まれる所に待ったをかけた者がいた。

その者こそが、今自分の目の前にいる男、民間軍事会社 G&K社 社長のべレゾヴィッチ・クルーガーだ。

 

―人間の代わりに戦術人形を導入しようと考え、発案し、それを現実にした第一人者。今この世界が辛うじてやっていけてるのも、この男のおかげってやつだな。この男が居なかったら人間はとっくに鉄血の連中に滅ぼされている。

 

だろうな。

 

「こうして見ると若いな。いくつだ?」

 

沈黙に包まれた空間にて、椅子に腰かけたクルーガーがそう言ってきた。

しかし年齢か。この身になった事が原因なのか、歳を取るという感覚が無い。放浪の旅も気ままにやっていた事もあり、あれからどれだけ経っているのかさえ分からないのだ。

だが聞かれた以上は答えるべきだろうが、あえてそこは悪戯を仕掛けてみるとしよう。

 

「いくつに見える?」

 

「質問に対し質問で返すのは良くないと思うが?」

 

「何でも簡単に答えるつもりはないという事だ」

 

「成程。それなりには警戒しているみたいだな」

 

「何事も疑ってかかるのが癖みたいなものでな」

 

一体何を考えているのか。

こちらの歳を聞いた所で何もないと思うが…用心する事には変わりないか。

 

「…そうだな。22くらいか?」

 

「はずれだな。こう見えても19だ」

 

嘘ではない。あの時、死に掛けた時が19歳だったからな。

それから歳を取った感覚がないのだから魔の力というのは恐ろしいものだ。最も自らその道へと選んだ訳なので、仕方ない事なのだ。

 

「19か。思ったより若いのだな」

 

「ああ。…それで?護衛もつけず、歳の話をしに来た訳ではあるまい。何を考えている」

 

ほんの少しだけ睨みを効かせるが、この程度で怯える様な男ではない。

何もないと言わんばかりに彼は話しかけてきた。

 

「単刀直入に聞く。…君は何者だ」

 

「只の放浪者だが?」

 

「それで通用するとでも?」

 

だろうな。只の放浪者だったら、わざわざ社長が出向く筈がない。他の誰かに任せれば良い話だ。

恐らくこちらが今までやってきた事は既にこの男は知っている。

それを知っていながら聞いてくるのだから、答えによってはこの先も変わってくるだろう。

 

「…信じるとは思えないが」

 

「それを判断するのはこちらだ」

 

「…」

 

どうする?

 

―言うだけ言ってみたらどうだ?言葉で駄目なら…

 

駄目なら?

 

―俺達が悪魔という証拠を見せるしかないだろうな。

 

悪魔という証拠か。

…その証拠を示せるものとすれば………一つしかない。

一番分かりやすく、手っ取り早い手段が。

 

「…悪魔。それがお前が気になっている俺の正体だ」

 

「悪魔か。にしては随分と人に似るのだな」

 

「書物で描かれる様なものではないとは言っておこう」

 

「では、その証拠を見せたまえ。君が悪魔という証拠をな」

 

やはりそうなるか。

だが蒼が予期していた通りになったのは助かる。

それで一蹴されていたらどうなっていた事やらか。頭の狂った放浪者という汚名がついていたかも知れない。

 

「いいだろう。だが条件がある」

 

「言ってみたまえ」

 

「こちらが悪魔という事を知る証人がもう一人欲しい。証人が一人だけでは信憑性に欠けるからな。それと此処より広い部屋で物が置かれていないのが好ましい。」

 

例えそれが社長だとしても。

その事を伝えるとクルーガーは腕を組み、考える素振りを見せた。

数秒程度でそれは解け、少し待ってほしいと言うとコートのポケットから携帯端末を取り出し、誰かに連絡をかけ始めた。

 

「へリアンか?私だ。…すまないが、演習場の一つを空けてほしい。…あぁ、例の彼の事でな。……何?彼女達も来ているのか。…分かった、彼女達も連れてきてくれ。私も彼と直ぐに向かう。では後で」

 

へリアンと呼ばれる人物との連絡を終えたクルーガーは椅子から立ち上がった。

続く様に自分も立ち上がる。

 

「ついてきたまえ」

 

「了解」

 

部屋を後にするクルーガーの後を追う様に自分も部屋を後にする。

そう言えば、彼女達と言っていたが…彼女達とは一体誰なのだろうか。

もしかすれば、自分を知る者達かも知れないと思いつつエレベーターに乗り、演習場がある階へと降りる。その間、クルーガーとの会話が一切無く、互いに無言を貫くだけだった。

 

クルーガーと共に演習場に到着すると、そこには赤い制服姿で片眼鏡を付けた女性と見覚えのあるメンバーが待っていた。メンバーの一人がクルーガーと共に歩み寄ってくる自分に気付き、笑顔で走り寄ってきた。

 

「ギルヴァ~!」

 

「おっと…」

 

飛びついてきた彼女をしっかり受け止める。

ヘリの中で少ししか会話もしていないというのに随分と懐かれたものだ。

抱き着かれつつも彼女の後ろで立っていた三人…UMP45、HK416、Gr G11に手を上げて挨拶する。

代表してUMP45が手を振り返してくれた。そして自分は抱きついてきたUMP9に話かける。

 

「二週間ぶりだな。元気にしてたか?」

 

「うん!ギルヴァも元気そうだね」

 

「それなりにはな。それで?どうして本部に」

 

「任務の報告でね。にしてもびっくりしたよ。私達が来た時、本部の窓ガラスが全部割れたんだもん」

 

「あ~…」

 

あの時…アンジェロとの戦いで、お互いに魔力を惜しまず戦っていたからな。攻撃がぶつかった際に起きた衝撃波で全て割ってしまったのは申し訳なく思っている。だが仕方ないといえば仕方ないのだ。

あれぐらいしないと勝てる相手ではなかったのだから。

 

―良く言うぜ。余裕だったくせによ。

 

―うむ。我からしても余裕そうに見えたぞ。それに途中で遊んでいたではないか。

 

蒼と此処には居ないフードゥルには看破されていたみたいだな…。

因みにフードゥルはアンジェロとの戦い以降、姿を消している。最もこの場には居ないだけだが。

アンジェロとの戦い以降、フードゥルは武器の姿から狼の姿へと戻っており、本部のどこかをうろついているらしい。只、こちらの会話は聞こえるみたいだ。

蒼が言うには本来であれば一度武器になれば元の姿に戻る事は出来ないらしい。だが彼は難なく戻る事をやってのけてしまっており、その事には蒼も驚いている様子だった。

どうやって戻れたのか聞いてみると「気合いで」との事。…それで良いのだろうか。

 

「取りあえず離れてもらえるか。少ししなくてはならない事があってな」

 

「?」

 

不思議そうな表情を浮かべながらも彼女は離れる。

それを確認すると、皆からそれなりの距離を開け、クルーガーともう一人の女性に声を掛ける。

 

「準備は良いか?クルーガーに…えっと…」

 

「へリアントスだ。効率の観点から今後はへリアンと呼んでくれて構わない」

 

「了解した。じゃあ…始めるぞ」

 

その事に二人は頷いたので、同意と判断。

目を伏せて、集中する。

やり方は変わらない。あの時と同じ。

只、引き金を引くだけ。

 

「ッ!」

 

内包していた魔を一気に解放する。解放された魔力は光となって体を包み、数秒足らずで消え去っていった。

顔を上げ、二人と彼女達の方へと向く。照明によって映し出された自身の影を見てみると、異形の何かの影がそこに映っている。悪魔と鬼が合わさったかの様な魔人化時の姿が。

こちらの今の姿を見て、クルーガーもへリアンも目を見開いていた。

無理もない。見た目が人間だった奴が、悪魔へと姿を変えたのだから。

 

―まさかこんな形でデビルトリガーを引く事になるとはな。

 

仕方あるまい。証拠を見せろと言われた上、一番分かりやすい方法がこれしか思いつかなかった。

 

「これは一体…」

 

「彼が悪魔という事は本当の様だな」

 

「悪魔ですか…」

 

「あぁ。本人がそう言ったのでな。証拠を提示する様に言ったら本当に証拠を見せてくるとはな」

 

「これで満足か?」

 

ノイズが掛かった声で、話している二人に割って入るかの様に問いかける。

 

「あぁ。証拠を見させてもらった、その姿も解いてくれても構わない」

 

「そうさせてもらう」

 

クルーガーから許可が下りたので魔人化を解除。

すると彼がこちらに歩み寄ってきて、とんでもない事を言ってきた。

 

「ギルヴァと言ったか。…君さえ良ければうちに属さないか?」

 

「唐突だな」

 

突然の勧誘。

その事に若干だが警戒心を示す。こんな人外を勧誘しようなど彼の考えが分からない。

だが答えは既に決まっていた。

 

「だが…その申し出は断らせてもらう」

 

「理由を聞いても?」

 

「指揮官より前線に出て戦う方が性に合っている…それだけの事だ」

 

「こちらとしては好き勝手に暴れられても困るのだがな」

 

「それが本音か?」

 

「いや、他にもある。君の戦いは以前から報告に上がっていた。そして彼女達…404小隊と共に戦い、敵勢力を単身で壊滅させた事もな。彼女達を助けてくれた事には感謝しているが、同時に君には危機感を感じている」

 

「その力がいつか自分達に向くかも知れない…という事か」

 

「そうだ」

 

―成る程なぁ。そりゃ敵勢力を単身で壊滅できる奴がいたら危機感は覚えるか。味方からすれば頼もしいが、敵からすれば恐怖でしかない。いつか敵になってしまう前にこっちに引き込んでしまおうという訳か。

 

―しかし主は指揮官とやらになる気はないだろう?どうするつもりだ?

 

フードゥルの言う通り、俺は指揮官とやらになるつもりはない。

あの時、彼女とした約束がある以上それを破るつもりもない。向こうもいつかその時が来る事を待っているのだからな。

 

「先も言った様に自分は前線で戦う方が向いている。故に指揮官になるつもりはない。だが、前々から考えていた事がある」

 

「何かね」

 

「便利屋を開こうと思っていてな。グリフィンに着く訳ではないが、協力関係で良いのならそちらとの敵対はしないと約束する。また戦力として必要ならば報酬さえ払ってもらえれば幾らでも力を貸す。どうだ?」

 

「ふむ…。少し待ってくれるか」

 

「あぁ、構わない」

 

そう言って彼はへリアンと話し始めた。

直ぐに答えは出る事は無いと思いつつ、腕を組んで待っていると404小隊のメンバーが寄ってきた。

 

「グリフィンにつく気はないのね?」

 

あの時の会話が聞こえていたらしく、416がそう言ってきた。

いつの間にか寝ていたG11を引きずった状態で。

それ以前にこの状態でも寝ているとは…どれだけ寝たいのやらか。

 

「ああ。デスクワークよりは現場派なのでな」

 

「でしょうね。…にしても便利屋、ね」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「いいえ、何も」

 

最後に何か言っていたとは思うのだが…気のせいだろうか。

するとへリアンと話を終えたのか、クルーガーが歩み寄ってきた。意外と早く答えが出たな。

 

「良いだろう…君の出す条件に乗ろう」

 

良い答えがもらえた事に、小さく口角を吊り上げる。

てっきり断られると思っていたのだがな。

 

「だがこちらの要求も呑んでもらう」

 

「それは?」

 

「便利屋といえど店がなければ意味がない。物件に関してはこちらが用意する分、こちらが指定する地区で店を開業してもらう。また別の地区からの指揮官から依頼を受けてもらう場合もある」

 

「と言っても余りふざけた内容だったら断るぞ」

 

「それは構わない。客を選ぶのも店を上手く切り盛りしていく方法の一つだ。で、どうだ?」

 

聞く分に悪くないか。二人はどう思う?

 

―異議なし。まぁ何かあれば敵対するぞとでも脅しておけばいい

 

―右に同じく。

 

悪魔らしい意見だことで。

 

「良いだろう。交渉成立だ」

 

「決まりだな」

 

互いに握手を交わす。

その後、今日はここの予備用部屋を休む様に言われ、明後日には指定の地区に向かう様に指示された。

部屋への案内は404小隊に頼み、部屋へと移動。

その後、部屋の前で分かれ、今日一日は柔らかいベットで眠れると思っていた。

 

 

 

 

 

そう…思っていた。

 

 

 

 

夜。部屋にて。

 

「言ったよね?あの時…貴方の事が知りたくてたまらないって」

 

彼女…UMP45の顔がすぐそこにある。

そして今この状態をいうのか。簡単だ。

 

―Foooo!ハハッ!まさかお前が押し倒されているなんてよ!

 

そう。妙にテンションが高い蒼が言った様に。

今自分はへ部屋を訪ねてきたUMP45にベットへと押し倒されている。

 

「ねぇ…?ギルヴァ…」

 

耳元で甘い声で囁かれる。

背筋に何かゾクゾクしたものが駆け抜けていく。

 

「貴方の事…ぜーんぶ…お・し・え・て?」

 

…どうしてこうなった?

 

 




後、一話か二話で一章が終了かな。
さて…お店の名前どうしたもんかねぇ…


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Act13 新たな場所へ

告げられる彼女の想い。
困惑しながらも彼は新たな場所へと向かう。

という訳で、今回で一章は終了でございます。
後、お店の名前決まりました。色々悩んだ末に、もうこれしかないかなと思い、付けました。てか大体予想できるよね…?



本当に何故にこんな事になってしまったのか。

確か部屋で休んでいた所に彼女が訪ねてきた。曰く話がしたいと言われたので室内に招いた。

そこまでは良かった。突然、彼女にベットへと押し倒され今に至るのだが…。

…意味が分からない。何故彼女はこんな行動を?

疑問が尽きない中、自分は彼女の瞳を見た。

あの時と同じだ。薄っすらと暗くなって…いや、前と比べて一段と暗くなっている…?

 

「あの時…貴方が95式と一緒に行ってしまった時、少し嫉妬しちゃったの。貴方と時間を共有できる彼女に。でもまぁ仕方ないよね。ギルヴァは私達人形に関しては優しい所あるから。それに貴方は彼女の願いを叶える為に行動したのだから尚更。そして貴方と別れた私はずっとこの日が来ることを待っていた。貴方の事を全部知りたくて、知りたくて、知りたくて…興奮が中々収まらなくて隠すのを大変だったのよ?もうこの際だから言うわ。私、ギルヴァの事が好きになったみたい。言っておくけど、LikeじゃなくLoveの方だから。いきなりこんな事を言われても戸惑うと思うけど安心して。私はギルヴァが人ではなく悪魔という事もちゃんと受け入れるから。当然404の皆も貴方が家族になる事を歓迎してくれるわ。だからね…これからじっくり、ねっとりと…一晩かけてお互いの事を知り尽くさない?」

 

息もつかせぬ矢継ぎ早に語られた彼女の言葉に圧倒される。

まさか彼女が自分に好意を寄せているとは思いもしなかった。話した回数も少なく、こうして会った回数も決して多いとは言えない。にも関わらず好意を寄せられていた。

正直自分はこの手の事に関しては詳しい方ではない。この言う時、どうしたら良いのか分からないのが本音だ。

だからと言ってこの想いにどう答えたら良い?安易に答えていいものじゃない。

 

―もういっそ、今夜は寝かさないぜ…とか言ったらどうだ?

 

ここぞと言うばかりに悪魔らしさを発揮するのはズルくないか?

 

ダメだ。蒼の奴、この状況を楽しんでいる。

どうする?この状況は良くはない。このままだと間違った方向に行ってしまいそうになる。

それだけはダメだ。何とかして彼女を説得しなければならない。しかしどうすれば…ん?

 

「好意を向けてくれる事に関しては嬉しく思う。今までこういった事はなかったからな。だからか、正直かなり戸惑っている。その事もあってすぐに答えられる自信はない」

 

「今は駄目って事?」

 

「ああ。それにお互いの事を知りたいなら、こういう手段でなくても良かった筈だ。付け加えて言うのであれば慣れない事はしない方がいい。腕が震えていた」

 

「!」

 

そう。彼女の腕は震えていた。

それもあって彼女が無理をしていると判断する事が出来た。

その事を当てられたのかUMP45はゆっくりと離れベットに腰掛けた。自分も体を起こして隣に座った。

 

「嫌いになった…?」

 

声が少し震えている。

 

「どうだろうな。まぁ…驚きはしたがな」

 

「そう…」

 

先程の姿は何処へ行ったのか。

借りてきた猫の様に大人しい彼女の姿がそこにあった。

見るに見かねて、ベットから立ち上がると元から棚に置かれていたグラス二つとウイスキーボトルを手に取る。

ボトルを開き、グラスに注ぐ。そしてウイスキーが注がれたグラスを彼女へと渡した。

 

「これは…?」

 

「酒を飲みながら、お互いの事を話そうか。それにこれは迎えてくれた礼も兼ねている」

 

「…ふふっ」

 

「おかしいか?」

 

「いいえ。…そうね、話しましょ?お互いの事」

 

互いにグラスをぶつける。

ぶつかった音が室内に響いた。

 

 

それからしばらくして、何気ない会話を広げた。

またその会話の中で404小隊の事を彼女から聞かされた時、内心驚いた。

彼女達404小隊は書類上存在しない部隊という扱いになっているそうだ。その事から他の戦術人形が彼女達と共に任務を遂行した場合、機密保持の為か、それ以外か、その戦術人形の記憶から彼女達に関する記憶を消す必要が義務付けられている。

普通の特殊部隊ではないとは思っていたが、ここまでとは。

少し気まずい雰囲気になったので、自らある話をした。

それは自分が今までどんな旅をしていたかという話。彼女はその話を興味深そうに聞いていた。

酒もそれなりに進み、軽く3杯目に突入しつつあった。

自分が悪魔だからか、アルコールの耐性が強いみたいだが、45(話している際に、45と呼んで欲しいと言われたのでそう呼ぶようにした)の顔に赤みが掛かっていた。

ウイスキーを3杯も飲めば人形と言えど酔うか。これで終わりにしようとした時、彼女がふと呟いた。

 

「ギルヴァは…ずっと……私達の事…覚えていてね…。私も…貴方の事を…ずっと……」

 

そう言い切る前に彼女は椅子に腰掛けたまま眠りについてしまった。

このままでは冷えるかも知れないと判断し、コートを脱いで彼女へと掛ける。

静かに寝息を立てる45。

先程の台詞は彼女の本心の一端だったかもしれないが…それを知る由はない。

だがこれだけははっきりと言える。

 

「忘れる事はしない。これだけは約束しよう」

 

自分が人ではなく、悪魔であろうと。

そのまま自分はベットではなく、ソファーにへと寝転り眠りに付くのだった。

 

 

 

「んぅ……あれ…」

 

いつの間に寝てたのかしら…。

それにここは…。

 

「そう言えば私、ギルヴァと飲んで…」

 

そのまま寝てしまったのか。それにこのコート、ギルヴァの…。

周りを見回してみると、先に起きていたのかギルヴァが座って私の方を見ていた。

 

「起きたか」

 

「ええ。でも少し残念ね」

 

「何がだ?」

 

「目覚めた時は二人してベット上が良かったから」

 

そう言うと彼は少し呆れた表情を浮かべた。

 

「朝から冗談か。その点については尊敬の意を示す」

 

「ふふっ、どうも」

 

…冗談じゃないのにね。

けど今回は私が急ぎ過ぎたのが原因。結果は望むものとはならなかったが私の想いを彼に伝えられたのは大きいかも知れない。ギルヴァの反応も微妙ではあったけど悪くはなかった。

椅子から立ち上がり、青い刺繡が施された黒コートを彼に返す為に歩み寄る。

 

「これ、ありがとう」

 

「どうも致しまして」

 

彼がコートを掴もうとした所を見計らい、私は彼の頬へと顔を近づけた。

そして頬へと私は口付けした。

一瞬の事だったのか、彼は少し呆けていた。こんな表情もするのね?いい事知ったかも。

 

「昨日も言ったと思うけど、私は本気だから」

 

「…」

 

「他の子に気を取られるのも良いけど…一番は私だから。だからね…」

 

恐らく彼は誰にでも優しい性格。

だから他の子が彼に言い寄るにも決して無いとは言えない。

でも一番は渡さない。

 

「覚悟していてね♪」

 

 

彼女からの覚悟する様に言われた日。

この事が以外に大きな騒動が一つだけ起きた。

それは本部をうろついていたフードゥルがここの職員に見つかったらしく、本部内で捕獲作戦が開始してしまったのだ。後に俺が保護し、適当な理由を付けて事態は収束したものの、やはりフードゥルの事が気になる者がいない訳ではなかった。…だが、こいつが悪魔だと話した所で信じる者はクルーガーかへリアン、そして404の面々ぐらいだろう。

また蒼曰く魔界から悪魔がやって来る事は恐らくもう無いだろうと語っていた。故に自分はアンジェロやフードゥルが悪魔という事を話す気にはなれなかった。

それにだ。このご時世…鉄血や他の事で忙しいこの世界に悪魔という存在を追加するのも酷な話だろう。

悪魔という存在は俺達だけど十分なのだから。

余談だが奪われていた無銘とレーゾンデートルはその日に返してもらった。学者たちがもっと見させて欲しいと言ってきたのだが、丁重にお引き取りしてもらった。

 

翌日。

俺達はある場所に来ていた。

そこはS-10地区前線基地の屋上。フードゥルと共にヘリから降り立つ。

降り立った俺達に赤い制服を身に纏い、すらっと伸ばされた黒髪が特徴の女性が歩み寄ってきた。

何よりもその顔立ちはまるで少女と言える程に若い。ざっと…17ぐらいか…?

よもやこんなに若い少女まで指揮官を務めるとはな…。

 

「ギルヴァさんですよね」

 

「あぁ。ここの指揮官と見ていいか」

 

「はい。ここS-10地区前線基地指揮官のシーナ・ナギサです。ギルヴァさんの事は社長から聞いたけど…」

 

彼女の目線が俺の隣に座り込んでいるフードゥルへと向けられる。どうやら放電はしてない様だが。

そう言えばこいつの事は話してはいなかったな…。

しかしどう説明したものかと思っているとフードゥルが勝手に話し出した。

 

―ここの指揮官殿か。

 

「わわっ、喋った!?」

 

―我の名はフードゥル。ナギサ殿。あの男…クルーガーという男から彼の事を聞いているのであれば、知っているのであろう?ギルヴァという男が悪魔だという事を。

 

「! え、えぇ。俄かに信じ難いけど…もしかしてフードゥルも?」

 

―うむ。だが我らは貴女らと敵対するつもりはない。これだけは覚えておいて欲しい

 

「わ、分かりました」

 

やれやれ…フードゥルが全部言ってしまったな。

だが細かく説明する手間が省けた。

 

「フードゥルが言った通りだ。色々困惑するとは思うが安心してほしい」

 

「は、はぁ」

 

「それで…店の方に案内してもらっていいだろうか」

 

「あ、はい。今から案内するね!」

 

困惑しながらも彼女…ナギサは店の方へと案内してくれた。

どうやら店はここの基地に隣接しているらしく。基地側から通路伝って店の裏手から入る事が出来ると彼女は話していた。

店の裏手から中に入ると、最低限ではあるが書斎や棚が置かれてあった。誰かが用意してれたのだろうか。

 

「実はうちの倉庫で余っていた家具なの。良かったら使って」

 

「来て早々の身だと言うのにすまないな」

 

「大丈夫。その分しっかり働いてもらうからね」

 

「尽力しよう」

 

刀を書斎に立て掛ける。

しかし割かし良い物件を用意してくれたな。クルーガーには今度感謝の礼を述べておくとしようか。

するとナギサは問いかけてきた。

 

「そう言えばお店の名前は何にするの?」

 

「あぁ。それはな…」

 

あの時。

別れる前に95式はその由来を話してくれた。

曰く人類抹殺を掲げる鉄血の人形は人類からすれば驚異だと。

そして彼女の元指揮官は鉄血の人形たちの事を悪魔だと現したそうだ。

悪魔は涙を流さない。故にどんな惨い事でも出来てしまう。

だがそれを倒せる存在がこの世に居るのであれば。

涙を流さない悪魔も泣き出すだろう。

それが名前の由来。そして95式が付けてくれた店の名前が…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Devil May Cry(悪魔も泣き出す)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回 第二章「悪魔は前線にいる」

はい、次回からはお店も開業です。
ご依頼があればいつでも「Devil May cry」にご連絡下さいませ。



また感想くれたら嬉しいです。
…作者、豆腐メンタルなので、ご理解の程よろしくお願いします…


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第二章 悪魔は前線に居る
Act14 来客はメイド


便利屋「Devil May Cry」を開いた初日。
依頼が来ない此処に初の客人が訪れる。
最もその客人はギルヴァにとって見覚えがあり過ぎた。


S-10地区前線基地に隣接された建物。

中には灯りが灯っているが店の表には店名の一文字すら見当たらない。

それもその筈で、ここ便利屋「Devil May Cry」は開業したばかりなのだ。

開業したばかりなのだが、店主であるギルヴァは椅子に腰掛けて本を読んでいた。

それもその筈だろう。開業したばかり、加えて名すら知られていない店に初日から客がやって来るとは思えない。

やって来るとしても興味本位でやってくるか、只の冷やかしかぐらいだろうとギルヴァは基地からの依頼か、他の基地からの依頼が来るまでのんびり過ごす事にしていた。

ぱらりとページをめくる音が響く。

その時。店の入口ドアが開いた。

開いた音が来客を知らせる。ギルヴァは読んでいた本を閉じ、来客の方へと視線を向けた、

 

(ん…?)

 

そこに居た来客に彼は眉をひそめた。

まずこの世界を生きていくには適しているとは言えないその姿は趣味なのか、それ以外の理由があるのか。

来客はメイド服を着ていた。そしてここの指揮官の様に黒髪を長く伸ばしている。

そしてその来客にギルヴァは見覚えがあった。いや、見覚えがあり過ぎた。

色々疑問を抱えながらも彼は書斎の引き出しから、ある物を取り出す。

念の為にと指揮官から渡されたもの。

使い方は簡単。中央に配置されたボタンを押すだけ。後は基地全体に警報が鳴り響くだけ。

早速ボタンを押そうとする彼に代理人が優しい笑みを浮かべたまま言葉を口にする。

 

「お久しぶりです」

 

「人違いだ」

 

即答かつ何ら躊躇いもなく、彼は警報装置のボタンをぶっ叩いた。

 

 

けたたましく鳴り響く警報。

基地全体にへと響き渡っており、店が発信源なので裏口からは武装した戦術人形達が流れ込んできた。

それなりに広さがあるこの部屋でも何十人もの人形達が入れば満員状態となる。

各々が持つ銃が向く先は何故かここにいる鉄血の人形。それもハイエンドモデル。

強力な個体種がここに居る時点で緊迫した空間が生まれた。

だが彼女は一切抵抗する素振りを見せない。あろう事に両手を上げて降参の意を示してきた。

これには誰もが驚き、啞然とした。後からやってきた指揮官もその状況に戸惑い気味であった。

これでも十分戸惑うと言うのに、鉄血のハイエンドモデル(後に聞いた話では代理人と言うらしい)がとんでもない事を言い出した。

 

「私をここに置いては頂けないでしょうか」

 

その台詞に余計に混乱が生み出され、自分も訳が分からずにいた。

だと言うのに代理人は笑みを崩さない。一旦この状況に収拾を付ける為、指揮官は護衛を5人付けて代理人と共に店を出ていった。残された他の戦術人形達は顔を見合わせ、戸惑いの表情を見せる。

自分も戸惑ってはいたが、後に指揮官から報告があるだろうと判断し中断していた読書を再開。

ここに来て初日の午前中の出来事であった。

 

昼過ぎ。

あの騒ぎから依頼が来る事はなく、読んでいた本もこれで三度目になる。

流石に飽きてきたのだが、暇を潰すのがこれぐらいしかない。

どうしたものかと思い悩んでいると店の裏口のドアが開く音が響いた。

やってきたのは若干疲れ気味のナギサ指揮官と変わらぬ様子の代理人。あれから一体何があったのやらか。

 

「ギルヴァさん…」

 

「どうした、指揮官」

 

書斎に項垂れる指揮官。

本を閉じ、彼女にへと視線を向ける。

 

「…彼女、鉄血から離反しているみたい。それも追っ手の事とか強制終了されない手段…ありとあらゆる手段を講じて離反してきたみたいなの」

 

「ほう」

 

態々そこまでして置いて欲しい理由とは一体?

 

―意外とお前が原因かもな?

 

どういう意味だ?

 

しかし原因、か。

確かに自分はあの時M4A1を助ける為に代理人と戦った訳だが…。

もしそうなら置いて欲しいなんて言うだろうか?否、それはあり得ない。

寧ろ探し出して襲撃をかけてくるに違いないだろう。仕留めるチャンスを奪ったのだからな。

だと言うのに代理人はその様子を見せていない。好機を伺っているのかも知れないが…何か違うと勘がそう告げている。

 

「それで?指揮官としての見解を聞かせてほしい」

 

「話した所敵対する所は見受けられなかった。でも信用に欠ける」

 

驚いた。

年若いと言うのにいい表情をする。伊達に指揮官はやっていないという訳か。

まぁ…当然といえば当然か。

 

「成程な。…で、どうするつもりだ?本来であれば俺に相談するべきではないだろう。副官か、本当に信頼できる者に相談するのが筋だと思うが」

 

「普通はね。でも彼女、ここに置いて欲しい訳じゃないみたい」

 

「?どういう事だ」

 

「厳密に言えば、基地にではなく、ここデビルメイクライに置いて欲しいみたいなの」

 

「成程な…。道理で指揮官ではなく、俺に…」

 

だからここに来たという訳か。

ナギサ指揮官の後ろに立っている代理人の方へと見やると、彼女は優しく微笑み返してきた。

あの時とは想像が付かない位の変わりようだな。一体何があったというのだ?

疑問は尽きないがこのままでは平行線を辿る一方だ。一旦自分がこの場を納めた方が良いかも知れない。

 

「指揮官、少し席を外してもらえるか。彼女と話してみる」

 

「でもそれだとギルヴァさんが…」

 

「問題ない。それに彼女が暴れる様であれば即刻斬り伏せる」

 

立て掛けた無銘を手にする。

多少距離は離れているが問題にもならない。あの時、彼女の装備を破壊した様にやるだけに過ぎない。

 

「…分かった。でも心配だから、店の裏口に二人護衛を待機させるから。何かあったらその子達に言ってね?」

 

「了解した」

 

こちらを心配してくれている様子に内心感謝を述べつつ頷き、ナギサ指揮官は店を後にした。

さて…ここからが本番か。

 

「ここに置いて欲しいとはな。一体何が目的だ?」

 

「そうですね…。端的に申せば、貴方に尽くしたいという事でしょうか」

 

その台詞に最近になって自身の起きた出来事が脳裏を駆け抜けた。

笑顔なのに、目が違う。まるで…45に押し倒された時に見た目に似ている…。

 

「あの時私は貴方に敗北し、一時は貴方に強烈な殺意を抱きました。ですが日を跨ぐ度にその感情は薄れていき、代わりに貴方の事を知りたいと思う様になったのです。そして傍に居たい。時間を共有したい、独占したい…。この感情を何て言うのか…ええ、答えなくても分かりますとも。まさしくこれが「恋」というものなのでしょうね。人形である私にこんな感情があったとは今でも驚いています。だけどこの感情は間違ってない。そう確信しています。だから私は鉄血を離反。貴方を会う為に、この手に抱きしめる為に、同じ時を過ごす為に探していました。そして漸く…漸くです。貴方を見つけた。今すぐにでも姿を現したかった。だけど駄目だった。何故なら貴方は他の人形と行動を共にしていたから。あぁ、ご安心を。共に行動していた彼女に手を出すつもりはありませんので。そして私は貴方を追った。そして待った。この日が来ることを」

 

代理人の手が自分の頬に触れる。

人形だと言うのにその手はとても柔らかい。

 

「私は貴方に尽くしましょう。ありとあらゆる…全てを貴方に捧げましょう。望みなら家事も戦いもこなして見せましょう。あ、お望みでしたら夜の方もお世話しますので、その時はご遠慮なくお申し付けください。そして貴方に、ここの人達に…私が反旗を翻す様な事があれが一切躊躇いもなく斬り伏せて下さい」

 

今理解した。

原因は自分にあった。

 

―え、今更?

 

分かる訳ないだろ。確かに戦ったがここまでになるとは誰が予想できる?…しかし45に続き、鉄血のハイエンドモデルまでとは…。

 

これは先がどうなるか全く予想できない。

頭を悩ませていると書斎に置いてあったレトロな外見を持った電話が音を響かせた。

携帯端末が普及しているこの時代だが、たまにレトロな外見を維持したまま、中身が最新という物が出回っていたりする。この電話もその一つで、昨日本部から基地宛に支給品が届けられ、中に俺宛の品もあった。

何とクルーガーから俺宛に届けられた物で、どうやら開業祝いに送ってきたそうだ。

それは良いとして、問題は開業したばかりのこの店に何故電話が掛かっているのかという事だ。

もしかすれば本当に依頼の電話かも知れない。

代理人に手を退ける様に頼み、受話器を手に取り耳に当てる。

 

「デビルメイクライ」

 

『はぁーい、ギルヴァ』

 

「その声は…45か?」

 

『正解♪』

 

まさか45から電話かかってくるとはな…。

あの後自分はこっちに来ていたが、彼女達404小隊がどうしたのかは知らなかった。

まだ本部にいるのか、あるいは任務に出ていると思うのだが。

それ以前に何故ここの連絡先を知っているのが疑問に思う所なのだが、何かと不思議が残る彼女だから出来ておかしくないと納得する様にしておこう。

 

「で?何の用だ?」

 

『まずはお店の開業おめでとう。もし何かあったら頼らせてもらうから。ちゃんと報酬も払うわ』

 

「あぁ、ありがとう」

 

『それとね…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『一番は私だから』

 

 

 

 

 

 

 

 

「?それはどういう…」

 

『そうね…。今あなたの前に居る人形に向けてかな?」

 

目の前居る人形…?それってまさか…。

 

―おいおい、マジかよ。あの嬢ちゃん、このメイドさんがここに居る事を気づいているのか。

 

『なんてね、冗談よ』

 

全くもって冗談に聞こえない。

 

『それじゃそろそろ切るね。また会いましょ。その時は二人っきりで、ね?』

 

それを最後に彼女からの電話が切れる。

何だろう…今まで感じた事の無い恐怖を感じた気がする。

…取りあえず、今は代理人をどうするかだ。

 

「…良いだろう。ここに居てくれても構わない。だが…君が先に言った様にここの者を傷付ける様であれば即刻斬り伏せる。それだけは肝に銘じてほしい」

 

「畏まりました。では…」

 

代理人は一歩下がり、一礼しつつスカートの裾を軽くつまみつつ持ち上げる。

 

「元鉄血所属 名も代理人。この身が果てるまで貴方様にお使いする事を誓いましょう」

 

こうして。

初日だと言うのに便利屋「Devil May Cry」の社員が増えたのだった。

ここの基地の面々と本部にはこちらから説明しておかなくてはならんな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一番は私だから、ですか。

どなたか存じ上げませんが、一番になるつもりはありません。

彼の元に入れたら、彼の全てを知れたら良い。願わくば独占出来ればいいのです。

それに電話を掛けてきた方とは仲良く出来そうな気もするんですよね。

その日がすぐ来たら嬉しいのですがね…ふふっ。




「…!」

「どうしたの?45姉」

「いいえ…なんでもないわ。少しね…」


(ギルヴァにまた人形が増えたのね…)

(どこの誰だが知れないけど……一番は渡さないわ)



と言う訳で代理人、Devil May Cry所属となりました。
今後どういう風にしていくかは未定ですが…まぁそこはぼちぼちと。

では次回お会いしましょう。


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Act15 初依頼

「Devil May Cry」に初の依頼が舞い込んでくる。
依頼内容は消息を絶った戦術人形の捜索依頼。
そして捜索対象はギルヴァにとって忘れられない人形だった。


代理人を迎えた翌日。

早速と言わんばかりに彼女は店内の掃除をしていた。一応デビルメイクライ所属という形に落ち着いたのだが、基地の面々と本部に説明し説得するのは中々に骨が折れた。…無理もない話なのだがな。

敵を招き入れる時点で何が起きるか分かったものじゃない。だが自分が代理人を一度敗北に追いやった事、そして代理人本人の証言もあって一応認めると言う形になった。だが何かあれば一切躊躇するなと釘を刺されたが。

 

―でもまぁ…これだけで落ち着いて良かったと思うが?

 

―うむ。本来であればもっと大事になっていただろうな

 

自分の中で存在する蒼と書斎の近くで立ち尽くしているフードゥルが思念でそう語りかけてくる。

彼らに言われた通り、この程度で落ち着いただけでも良かったかも知れない。この手の問題は早期に解決できる問題ではないのは何となくだが分かる。

 

「ふぅ…これで一通り綺麗になりましたね」

 

窓を拭いていた代理人が額に付いた汗を拭いながらそう言った。

彼女が言った通り、店内は綺麗に清掃されていた。それもたった30分という速さでここまでやってのけた事もあるのだが、代理人の家事能力が途轍もなく高い事に驚かされていた。

本当にあの時と比べると驚く程様変わりしたな…。こんなにも笑顔を見せる方だったろうか。

すると電話が鳴り響いた。また45からだろうか?出来れば依頼だと良いんだが…。

どちらにせよ出ない訳にいかない。受話器を手に取る。

 

「デビルメイクライ」

 

『君がS-10地区で便利屋を開いている者で間違いないだろうか?』

 

聞こえてきたのは男の声。

 

「そうだが?どこでうちの事を?」

 

『情報通の者から少しな』

 

「成程。で?うちに何か用だろうか。冷やかしなら切るぞ」

 

『まぁ待て。冷やかしなどではない。ちゃんとした依頼だ』

 

ちゃんとした依頼と来たか。

こちらとしては願ったり叶ったりの初依頼だな。

それにこちらの生活も掛かっているからな…。

 

「話を聞こうか」

 

『うちに所属している戦術人形を一人見つけて欲しい。後方支援中に鉄血の攻撃を受けて、部隊と離れ離れになってしまった。こちらでも捜索部隊を出しているが早期発見の為、君にも手を借りたい』

 

うちに所属…となれば電話の相手は何処かの地区にいる指揮官と見ていいだろう。

 

「最後に消息を絶った場所は?」

 

『S-10地区からS-11地区の間に存在するゴーストタウンだ。そこで鉄血の襲撃を受けた。あそこはとても広くてな。場合によっては彼女はそこで救援を待っている可能性がある』

 

「成程。そこへ赴いて欲しい訳か」

 

『そうだ。例えこちらが見つけたとしても報酬は必ず払おう。だから頼む…!彼女をどうか見つけて欲しい…!色々事情があってうちに来たんだが、皆にも慕われてるんだ…!』

 

先程まで淡々として男の反応が一転。

まるで懇願する様な声を聞かせてきた。こちらに頼るまで助け出して欲しい者となれば、連絡をかけてきた本人にとって大事な人なのかも知れない。ならば思いに答えない理由がない。

何故ならば自分も大事な人がいたから。力がなく守れず失ってしまった。失う辛さと守れなかった悔しさは知っている。

 

「良いだろう。報酬はS-10地区前線基地宛に送ってくれ。言っておくがふざけた報酬は返品するつもりだからな」

 

『分かっている。ちゃんと報酬は出す。そこは心配しないでくれ』

 

「そうか。それと成功の暁には、うち「Devil May Cry」の宣伝も頼む。何分昨日開いたばかりでな」

 

『了解した』

 

「後、探し出して欲しい人形の名前を教えて欲しい。出来れば特徴とかもな』

 

『あぁ。彼女の名前は…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『95式。黒髪に白いブランケットが特徴の戦術人形だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何…?」

 

まさか…彼女が?

いや、待て。あの時別れた彼女とは限らない筈だ。

だが色々事情があって来たと言っていたが…。

 

「一つ聞きたい。その95式は初めてそっちに来た時、子猫を連れてバイクを持ってこなかったか?因みに子猫の名前はニャン丸だ」

 

『あ、ああ!連れていた!ある人から預かった大事な子猫とバイクだと。…まさか』

 

「そのまさかだ。彼女にニャン丸とバイクを預けたのは俺だ」

 

よりよって彼女が消息不明となるとは…!

 

「電話を切る。今から捜索に当たる。何かあればここの指揮官に掛けてくれ」

 

こちらから強引に電話を切り、無銘を手に取る。

そのまま店を出ようとすると代理人が前を塞いだ。一体どういうつもりだ…?

 

「ここからそのゴーストタウンまで半日かかります。ですので、そのゴーストタウンまで私が送り致します」

 

「送るだと?どうやって?」

 

「それは現場に着いてからのお楽しみです」

 

一つウインクして外へと出ていく代理人。

フードゥルに待機する様に命令すると同時に指揮官に依頼で外していると言っておく様に指示した後、彼女に続く様に自分も店を後にした。

 

代理人についていき、到着したのは地区の外れにある小さな車庫。

何故ここに連れてきたのかは全く分からない。すると彼女は車庫のシャッターを開き、そこにある物を見せた。

あったのは一台のバンだった。ここに来る前に持ち出した物なのだろうか。

塗装は所々剥がれおり、走るのかどうか怪しい。

その疑問を感じ取ったのか代理人は自ら運転席に乗り込み、車のエンジンを掛ける。

すると車は何事もなく動きだしエンジン音を響かせる。運転席越しからではあるが、彼女が微笑んできた。

 

―半日も要らなさそうだな?

 

「その様だな」

 

早速助手席に乗り込む。

ゴーストタウンまで運転を任せ、自分は只々祈る。

どうか無事に居てくれ…。

 

 

あれからどれ程経っただろうか。気付けば二日は経った筈。

逃がした皆は無事帰還出来ただろうか?自分が危険な立場にあるというのにそればかりが心配で仕方なかった。

早く戻らないといけない。部屋で待っているニャン丸が心配する。

 

「けど…今の足では……」

 

自身の片足を見る。

中ほどにかけて先が無くなっており、パーツやら金属やら見えている。

上手くここに逃げ込んだのは良いもの、問題はここからどう逃げ出すかだ。

 

「こんな姿…あの人には見せられないわ」

 

思い出すは黒いコートの彼。

短い期間であったが共に旅をし、そしてあの時また会おうと約束を交わした。

一度は自ら死のうと決めてしまった身であるが、今は違う。

例えどんなに辛い道であっても諦めない。約束を果たす為…彼に会う為に。

皆が分けてくれた命を失くさない為にも。

 

「お願い…後少しだけ動いて」

 

言い聞かせる様に体に鞭を入れる。

壁に手を付きながら何とか立ち上がり、一歩ずつ前へと歩き出す。

そして願う。どうかここに敵が現れない事を。

 

 

 

 

 

 

「見つけたぜ」

 

 

 

 

 

「!」

 

無情にもその願いは叶う事はなかった。

暗闇から声の主がその姿を見せる。

黒い衣装を身に纏い、ブレードを手に歩み寄ってくる。

鉄血のハイエンドモデル 処刑人(エクスキューショナー)

後方支援から帰還中に襲撃を仕掛けてきたのもこいつが原因だ。

 

「ったく…手こずらせやがって。こっちは忙しいってのによ」

 

「…」

 

「だがこっちも色々溜まっているもんでな。…今からバラバラに切り刻んでやるよ」

 

ブレードの切っ先が突き付けられる。

そしてそれが大きく振りかぶられた瞬間、逃げる道中で拾った手榴弾を投げつけた。

爆発に巻き込まれる前に何とか片足で外へと飛び出た瞬間、投げた手榴弾が爆発。爆風で背中を押され、地面へと倒れ込んでしまうがすぐさま銃を奴が居た方へと向ける。

この程度でやられてくれるのならいいのだが…相手はハイエンドモデル。そう簡単に倒れる筈がない。

 

「やってくれんじゃねぇか」

 

「…」

 

舞い上がる土埃から奴が姿を現す。

まるで何もなかったかのようにゆっくり歩み寄ってくる。

 

「だが所詮この程度しか出来ない。それがてめぇらの限界だ」

 

ブレードが振り上げられる。

煌めく刃はこの身を切り裂こうと狙いを定めている。

 

「じゃあな。…死ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様がな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如としてこの場に聞こえた第三者の声と同時に自分と処刑人の前を塞ぐかの様に空間が歪むと同時に無数の斬撃が走った。

処刑人は後ろへと飛び下がり、自分は声の主へと顔を向ける。

何故ここに居るかは分からない。また助けられた事がどうしようもなく情けなく感じてしまう。

だけど…彼がここに居るという事が何よりも嬉しかった。

あの時を同じ様に黒いコートを纏い、手にはあの日本刀。

 

「また会えたな、95式」

 

悪魔も恐れる彼がそこにいた。




さぁ…処刑人よ。
悪魔と踊る準備は出来たか?


次回は戦闘です。
まぁ…描写上手くないから、何卒ご容赦を…。


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Act16 Blast off!

舞台はゴーストタウン。
処刑人と悪魔がぶつかる。



「また会えたな、95式」

 

「ええ。こんな形になってしまいましたが」

 

苦笑いを浮かべる彼女に釣られて小さく口角を上げて笑う。

そこでふと、95式の脚が視界内に入る。

膝から下に掛けて先が無い。見えるのは金属パーツやら配線。人形であれ、その姿はとても痛々しい。

 

「あの…あまり見ないでくれると嬉しいです…」

 

「!…すまない」

 

彼女だって見られたくなかった筈だ。

即座に視界から外し、相対する鉄血のハイエンドモデルを見つめる。

長く伸ばされた黒髪、目つきは鋭く、手にしているのは巨大なブレードと大口径拳銃。

何だろうか…何かが被っている気がしなくもないが、今は気にする事ではない。

今は…目の前に居る敵を排除、或いは撃退。少し遊んでいきたい所ではあるが…。

 

―戦闘の余波が彼女にまで行ったら不味いからな。やるとしても早めに片を付ける事を勧める。

 

分かっている。

 

「黒いコートに刀……はっ!てめぇがそうか!」

 

何かを思い出したかの様に、そして相手の目つきはまるで獲物を見つけたかの様に獰猛な目つきへと変わる。

どうやらこちらの噂は鉄血にも回っていたそうだ。散々斬り伏せてきたツケが回ってきたのかも知れない。

 

「知ってるぜ。散々俺らの仲間を可愛がってくれたじゃねぇか?」

 

「それはすまなかったな。何しろ向こうから喧嘩を吹っ掛けてきたものでな…こちらも抜かずにはいられなかった」

 

「ま、それはどうでもいいさ。今は…」

 

ゆっくりとブレードの切っ先が突き付けられる。

 

「あんたとは一度やり合いたかったんだ。こういうの運命の出会いっていうらしいぜ?」

 

ゴーストタウンに風が吹く。

まるで戦いの舞台を整えたと言わんばかりに。

 

「…」

 

その台詞に答えることなく。

相手を見据えつつ、静かに無銘の鯉口を切った。

 

 

 

 

「おらぁっ!」

 

ギルヴァが無銘の鯉口を切った途端、処刑人がブレードを構え突進。

頭部に目掛けて振り下ろされる一撃。だが彼は決して抜刀する事はせず、納刀された状態で簡単に一撃を弾き、持ち手を変え処刑人の足元に目掛けて払いを入れる。

掬い上げるかの様な払いに彼女は態勢を崩され、間髪入れず無銘による振り下ろし攻撃が襲うが辛うじてブレードで自身の前に展開し攻撃を防ぐ。

だが威力だけは完全に防ぐ事が出来ずそのまま地面に叩きつけられ、一度地面にバウンドしてから上手く後方へと回転し、ギルヴァとの距離を取った。

このたった数十秒間で行われた攻防に処刑人は体が歓喜という熱に浮かされそうになる感覚を覚えた。

グリフィンの人形でも彼女と相対して生きて帰るのは難しい。ましてやそれが人間となれば命はないだろう。

簡単にやられる相手ばかりをしてきたのか、気づかぬ内に彼女は求めていた。

自身と対等に戦える奴を。

それが今現れた。

目の前にいるギルヴァという男が自身の飢えを満たしてくれる存在であると。

 

「ははっ…あははははっ!」

 

「…」

 

「あぁ…!これだよ!これだ!俺が求めていた何か!それがまさかお前だなんてな!」

 

まるで狂ったかの様な処刑人の姿にギルヴァの表情は窺えない。

無銘を握ったまま、動く気配すら見せない。様子を窺っているのか、あるいは相手が動き出すのを待っているのか。どちらにせよその真意は彼の後ろに立つ95式さえ分からない。

 

「さぁ…俺を楽しませてくれ!」

 

地を蹴り、一気に間合いを詰める処刑人。

両手で持ち手を握り右へと薙ぎ払う。黒鉄の刀身が迫る。

ギルヴァは身をかがめて攻撃を回避しつつ、幻影刀を展開、連続投射。

 

(なっ!?)

 

突如として現れた幻影刀に内心驚きつつも、その場から後退しハンドガンを引き抜く

迫りくる幻影刀を撃ち落とし、撃ち落とせなかった分は素早くブレードを振るい叩き落とす。

ガラス細工の様に砕け散っていく幻影刀。そして最後の一振りを弾き飛ばすが、彼女は目を疑った。

そこにはギルヴァの姿がない。あの一瞬で逃げたのかと思うが、助けに来た筈であろう仲間を放置するとは思えない。ならばどこへ?

辺りを見回すが、彼の姿は何処にも見えない。まさか本当に…?

 

この時、処刑人は気付いていなかった。

迫りくる幻影刀の最後の一つだけが砕け散る事無く宙へと舞った事に。

それが攻撃を意味したものではなく、移動を意味したものだとすれば?

 

「何処を見ている」

 

「っ!!」

 

真上から聞こえた男の声。

空を背に、鞘からは銀色に煌めく刀身がその姿を現し、無銘を構えるギルヴァの姿。

体を捻るかの様に勢い良く刀を処刑人にへと振り下ろす。何が起きたのか分からずじまいでありつつも、寸での所で彼女は横へと転がり攻撃を回避。その直後降ってきた袈裟斬りがガキン!と音を立て地面を削り、多少の隙が生まれる。

そこを見逃さなかった処刑人はブレードを前へと突き立て突進。

最速の刺突が放たれるが、ギルヴァはそれを上手く刃で受け流して態勢を崩し、処刑人は前方へと押し出される様な状態になるが無理やりブレードを後ろへと薙ぎ払った。

だが、読まれていたのか背中の後ろを刀身が塞ぎ攻撃が防がれる。そのまま処刑人は地面へと叩きつけられるが瞬時に手をついて一回転。態勢を整えるとつかさずギルヴァへと突撃する。

 

「らあぁっ!!」

 

袈裟斬り、逆袈裟、右切上、左切上。恐ろしいまでの速さで繰り出される斬撃の数々。

だと言うのにギルヴァは無銘を納刀した状態で全ての攻撃を弾ていた。火花を散らしながら繰り返される攻防。まるで嵐の様な攻防ではあるが、それは次で終わりを告げる。

一瞬の隙を突き、ギルヴァは無銘を抜刀し一閃。その鋭い一撃はブレードの剣幅で塞がれるが彼は間髪入れず逆袈裟。そこから柄を逆手にして持つと勢い良く右切り上げ、左切り上げ。逆手にして繰り出された二回の斬撃から衝撃波が放たれ、処刑人には防御態勢を崩してしまう。

 

(蒼。何でもいい、打撃武器を錬成してくれ)

 

―何に使うんだよ!?

 

(それは見てのお楽しみだ!)

 

ギルヴァに言われた通り、蒼は魔力を用いて武器を錬成し、彼の手元へとそれが現れる。

それは嘗て玉を打つために用いられたもの。木製と金属があり、スポーツで用いられる事もあれば、犯罪にも用いられる一品。

 

 

 

 

 

 

その名も「バット」である。

 

 

 

 

 

何故それなのかはともかく。

無銘を納め、それを宙へと放り投げるとギルヴァは魔力で錬成された浅葱色のバットを掴んだ。

そして大きく振りかぶり、狙いを処刑人へと定める。

 

「ちょ…てめっ!」

 

「悪いが戯れもここまでだ」

 

地を大きく踏み込む。

そして蒼が叫ぶ。

 

―ホームランだなッ!!

 

力の限り勢い良くバットをフルスイング。

まるで巨大な鉄球がぶつかったかのような一撃が処刑人を襲い、あろう事か彼女は一瞬にして空へと流星の如くへと吹っ飛んだ。

 

「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…

 

断末魔が響き渡るがそれも数秒程度で聞こえなくなり、そのまま処刑人は星になっていった。

残ったのは放り投げ、そして今落ちてきた無銘をキャッチしつつ額に付いた汗を拭うギルヴァと星になった処刑人を何とも言えぬ表情で空を見つめる95式と手放してしまったであろう処刑人の愛剣だけとなるのだった。

 

 

 

「意外と地味だな。もっと派手になると思ったが」

 

―星になっただけ、十分派手だと思うが?

 

「それもそうか」

 

何となく納得がいかない気もしなくはないが、今はそんな事を気にしている暇はない。

頭を切り替え、95式の元へと向かうと何とも言えない表情で座り込んでいたがこちらが近づいてきた事に気付き、笑顔で迎えてくれた。

笑顔になる前に表情は何だったのかと少し疑問に思いつつも彼女へと声を掛ける。

 

「敵は片付けた」

 

「ええ。本当に助かりました」

 

すると一機のヘリがこちらへと接近していた。

恐らく依頼人が言っていた捜索部隊なのかも知れない。

ヘリは自分達が居る所から少し離れた所に着陸。降りてきた戦術人形が95式!と彼女の名前を叫んでいた。

 

「皆…!」

 

不安が払われ安心したのだろう。薄っすらと95式の瞳から涙が出つつあった。

今すぐ駆け出していきそうな感じではあったが、片足が無い為立つ事すらままならない。

彼女へと近づき、背と足に腕を通して持ち上げる。

 

「ギ、ギルヴァさん!?」

 

「何だ?仲間が来ているんだ。ヘリまで送る」

 

「は、はい」

 

彼女をお姫様だっこしながら捜索部隊へと向かう。

あちらもこちらに気付いたのたが、一部は95式が無事だった事に安堵し、一部は顔を赤らめている。

何故顔を赤らめているのかは知らないが。

そこで95式に預けている旅の仲間の事を思い出し、その事を彼女に尋ねる。

 

「ニャン丸は元気か?」

 

「ええ。あの時と同じ様に何時も甘えてきますよ。そう言えばあの子、最近土鍋の中で眠る様になっちゃったんですよ?」

 

「何で土鍋の中なんだ…」

 

「つい貰ってしまって…気付けばニャン丸の寝床に。それに周りの皆からはニャン丸ではなく、土鍋って言われたりするんです」

 

「それはまた…。うちに来た時は土鍋を用意しておくかな」

 

「ええ。その時は私も、そしてあのバイクも一緒です」

 

「楽しみにしている」

 

彼女の仲間達の元へと到着し、95式をヘリに乗せる。

周りの安全が確認できたのか、次々と仲間が機内へと乗り込んでいく。

そろそろ別れの時間がやってきた様だ。

 

「…またお別れですね」

 

「その様だな。…また会える」

 

「!…ええ、そうですね。あ、そう言えばお店の名前は…」

 

「あぁ。店の名前はDevil May Cry…君が考えてくれた名前を使っている」

 

「そうですか。何だか嬉しいです」

 

「こちらも良い名前を付けてくれた事に感謝している。……また会える事を祈っている、95式」

 

その言葉で締めくくりヘリのドアを閉める。

少し後ろへと下がると、機体は離陸。そのままゴーストタウンを飛び去った。

段々と小さくなっていくヘリと見届けつつ、自分もその場から去ろうとした時、ふと地面に突き刺さったままの大剣が視界内に映る。

あのハイエンドモデルが持っていた武器ではあるが…。

 

「…」

 

持ち手を握り、片手で勢い良く振るう。

 

「ふっ…ってぇぁッ!!」

 

唐竹、袈裟斬り、逆袈裟と繰り出して、最後は勢いのある刺突。

ふむ…意外と悪くないな。だが持ち手の部分が少し握りづらいな。使えない訳でなさそうだが…。

 

「一応貰っていくか。…要らなくなったら何処かに売りさばくか」

 

―売ったらあのハイエンドモデルの怒りを買うと思うんだがなぁ…。

 

そんな会話をしながら、バンの中で待っている代理人の元へと向かった。

 




誰も倒すとは言ってないぜ?
さて…次はどうしたものかね。内容は未定なので、更新はかなり遅くなるかと。
まぁ…うちは内容は酷いったらありゃしないから見捨てられるかも…(震え
こんな作品で良ければどうぞよろしくお願いいたします…

では次回お会いしましょう。


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Act17 過去の君は何処へ?

初依頼から数日後。
大雨が降る日にて、ギルヴァはある事が気になった。
それは代理人が放浪の際に戦闘とかどうしていたのか、という事だった。


初依頼から数日が経った。

約束通り、依頼人は報酬をS-10地区前線基地に報酬を送り、そのままこちらへと指揮官から渡された訳なのだが、予想していた額を遙かに上回る額だった事に自分を含め、蒼、代理人も驚いていた。

指揮官が言うには本来の目的に加え、鉄血のハイエンドモデルを退けた事が大きく関係しているらしく、依頼人はその事を知って、追加報酬を出したとの事。

恐らくだが救出対象だった95式が依頼人に口添えしたのだと思う。あの時、鉄血のハイエンドモデルを退けた所を見たのは彼女しかいないのだから。とは言っても確証は無い為、分からないのだが。

 

それから数日後。

何時もの様に店の書斎で読書を楽しんでいると紅茶が入ったカップがそっと置かれた。

それに気付き、視線をそちらへと向けるとトレーを片手に立っている代理人がいた。

どうやら気を使って紅茶が淹れてくれた様だ。

 

「わざわざすまないな」

 

「いえ。それはそうと読書を始めてからかれこれ三時間も経っていますよ?少し休息を取ってはいかがですか?」

 

「む…もうそんなに経っていたのか」

 

本を閉じて、時計を見てみると代理人が言った様に読書を始めてから三時間も経っていた。

確かに休息を挟むべきだろう。淹れてくれた紅茶を一口飲む。

甘さ過ぎず、渋過ぎず、丁度良い味が口の中に広がる。

 

「うん…美味しい」

 

「お口に合って良かったです」

 

今日は依頼が来る様子がない。

このまま一日を過ごす事になりそうだな。

 

「そう言えば、以前の依頼の報酬はどうなさるのですか?」

 

「そうだな…。今の所はこれといった使い道は考えていない」

 

「でしたら、バンの改造費に当てていただけないでしょうか?」

 

「バンのか?」

 

「ええ。遠くへ移動する際もバンはとても重宝すると思います。ですが防弾使用など今後に役立つ仕様を施しておくべきだと思うのです」

 

確かにあの車両は今後も大きく役に立つだろう。

それに代理人が言う事も間違ってはいない。

 

「分かった。報酬はバンの改造費に当てて構わない。どの様な仕様にするかは任せていいか?」

 

「お任せくださいませ」

 

彼女の事だ。

無茶苦茶な改造を施す事はしないだろう。

だが代理人はあのバンに何か思い入れがあるのだろうか?その事は聞かされていない為分からないが…。

 

「しかし依頼が来ませんね」

 

「そうだな。それに外は大雨だ」

 

そう。

今日は朝から雨が降っていた。それもかなりの勢いで。

こんな雨に依頼してくる客もいないだろうと思いつつも、個人的には雨の日には動きたくないという思いもある。

ずぶ濡れになるのはあまり好きではないのでな。

 

「ですね」

 

窓から見える外を眺めながら、そう呟いた代理人。

その彼女の姿を見て、ふと疑問に思った。

本人から聞いた話では鉄血を離反した後、ずっと自分を探して放浪していたと言っていたが…。

その間敵との戦闘はどうしていたのだろうか?離反した事は知られている筈なので、道中味方であった者と鉢合わせする事もあっただろう。

それにだ。自分はあの時、彼女の武装と腕を斬り落としている。

見た所、手は修復しているみたいだが武装に関しては分からない。

 

―結構刺激的な武装展開をするからな。

 

正直何故そこに武装を配置したのか分からん…。

 

それは兎も角。

疑問に思った事を早速彼女にへと尋ねてみる。

 

「そう言えば、手の方は修復しているのだな」

 

「え?…ああ、手ですか。ええ、御覧の通り修復していますわ。それがどうかしましたか?」

 

「いや、俺を探して放浪していたと言っていたのを思い出してな。その間どうしていたのかと思ってな」

 

「そうですね…。手の方は修復しましたが、武装に関しては修復もせず鉄血を離反しましたからあの時のままですね」

 

「なに…?」

 

今、さらっと凄い事を言わなかったか?

武装に関しては修復していないだと?では今までどうしていたのだ?

その事が顔に出ていたのか、代理人は右手で拳を作るとにこやかに言った。

 

「ですので、放浪している時は基本素手で敵をぶちのめしていましたね」

 

驚きの事実が発覚。

目の前にいるメイドは君を確実にぶちのめす系メイドだった。

 

「とは言っても、状況によっては落ちていた武器も使用していましたよ。鉄血の物の時もあれば、普通の銃も。時には鉄パイプを用いた時もありましたね」

 

意外と使い心地は悪くなかったですけど、と語る彼女。

あの時の性格は本当に何処に行ったのか。もはや敵を倒すなら手段を選ばなくなっている。

それに銃器以外に鉄パイプを用いていただと?何だろう…彼女と鉢合わせた敵が可哀想に思えてきた。

 

―それを言ったら、お前と敵対した奴らも可哀想だがな?

 

…さて、何の事やらか。

 

蒼に言われた事に素知らぬ振りをする。

だが流石に現地調達品ではどうかと思ってしまう。何とかして代理人専用の武器でも持たせるべきだな。

しかしこの辺りにレーゾンデートルが眠っていた場所みたいな所などあっただろうか。

この地区の周辺はあまり詳しくないからな…さてどうしたものか。

 

―その様な建物ならこの辺りに幾らかあったぞ。

 

「ん?」

 

「おや。フードゥル、おかえりなさいませ」

 

―うむ。ただいま

 

店の裏口から基地内の散歩へと行っていたフードゥルが戻ってきた。

それよりも先程言った事は本当なのだろうか。

 

「フードゥル、それは本当か?」

 

―うむ。以前この地区を散歩した事があってな。その際に幾らか見繕っておいた。そこで人が居る気配はなし、だが形が残ったままの建物をな。

 

「いつの間に行っていたのかは不問にするとして……フードゥル、その建物がある場所を教えてくれないか」

 

ここ周辺の地図を取り出し、彼の前に広げ、教えてもらう。

どうやら細かい位置まで覚えているらしく、彼の記憶力の高さに感服する。

流石は魔界の精鋭部隊の隊長を務めたまでの事はある。

 

―これで全てだ。

 

「ふむ…この辺りに6つもか…」

 

これだけあれば良い掘り出し物に出会えるかも知れない。

それに代理人用の武器も見つけられるだろう。

正直何でも使いこなしそうな気もするが念のため聞いておくとしよう。

 

「代理人」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「今後使う武器として、何か希望するものはあるか?」

 

「そうですね…」

 

腕を組み、考える素振りを見せる代理人。

数分してそれは解かれ、彼女は満面の笑みを言った。

 

「鈍器ですかね」

 

「鉄パイプにでも取り憑かれたのか、お前は」

 

いつか彼女の通り名として、撲殺系従者という名でも付いて回りそうだ…。

だがしかし鈍器か…まぁ彼女の希望に添う様な武器があればいいのだが。

 

「しかしそれがどうかされたのですか?」

 

「先程の話を聞いたら、今後使う武器も必要だろうと思ってな。現地調達品では限度があるからな。だから明日は店を休みにする。君用の武器を探しに行くとしよう」

 

「つまりデートですね?」

 

「いや、誰もで「デートですよね?」…勝手にしてくれ」

 

「はい。ふふっ…明日が待ち遠しいです」

 

そのまま上機嫌な様子で代理人は店の台処へと入っていった。

何か間違えたかも知れないと思いながら、中断していた読書を続けようとした時、電話が鳴った。

依頼か?そう思いながら受話器を取った。

 

「デビルメイクライ」

 

『はぁーい、ギルヴァ』

 

「45?どうした、何か依頼か?」

 

『ううん。でもギルヴァに伝えたい事があってね』

 

「伝えたい事?」

 

『うん。それはね…』

 

 

 

 

 

 

『次は私とデートしてね?』

 

 

 

 

 

 

「お前はここを盗聴しているのか?」

 

どうかしら~、とはぐらかす様に彼女からの電話が切れる。

 

―次のデート相手は決まったな?

 

…その様だな。

 

いつかここに来るかも知れないからな…。

その時が来るまで、この地区周辺を知っておく必要がありそうだ。




という訳で次回はデート?でございます。
さて…武器は何にするかなぁ…

次回お会いしましょう。


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Act18 お宝探し

晴れ晴れとした空の下。
代理人の武器を求めるべく、店を休業しギルヴァ達は行動していた。
元より浪漫系武装が好きだったりするギルヴァは少しだけ胸を弾ませていた。


晴天。

雲一つなく、緩やかな風が吹く。

そんな心地の良い天気の下、舗装されていない道をバンが駆けていく。

運転先には代理人が、荷台にはフードゥル、そして自分は助手席に座り、外の景色を眺めていた。

自分達はS-10地区内にある破棄された兵器工場を目指し移動していた。それは運転している代理人の、今後必要となる武器を見つける事。本人の希望としては鈍器が良いというのだが…さて希望に沿う様な物があればいいのだが。

揺れる車内で、静かな一時を楽しむ。雲一つない空がとても美しく見え、そして少しだけ過去を振り返る。

それはまだ自分と妹が母と出会う前の話。

オンボロの小屋で二人してその空を眺めていた事があった。今の様にそよ風が吹いていて、只々静かに空を眺めていた。決して裕福ではなかった…だが妹と共に空を眺める時間は幸せだった。

妹と出会う前はずっと一人で眺めていたから。だからこそ誰かが居る幸せはより強く感じられた。

母と出会い、いつしか三人で空を眺めていたな。自分の隣には母と妹が居て…。

思えば今まで幸せと感じたのはその時だったかもしれない。

そして今の自分は…心のどこか寂しがっている。今でも心に穴が空いた感覚を覚え続けている。

何時しかそれが埋まる時が来るのだろうか…。先が見えぬ不安が少しだけ自分の背に圧し掛かる。

 

「見えました」

 

目的地が近い事を知らせてきた代理人の声により、考える事を止めにする。

考えれば考えるだけ不安が圧し掛かる。ある種現実逃避と言っても差し支えない。だが今はそれをしたって許してくれるだろう。…悪魔だってそうしたい時があるのだから。

 

一つ目の目的地に到達。

フードゥルが言っていた通り、人が住んでいる様子は感じられない。破棄された建物という事は理解出来るが…これが兵器工場とは限らない。建物内を見てみないと分からないものもある。

バンを降りて建物の出入口を向かうが、扉は固く閉ざされていた。しかしこの程度破れない訳がない。無銘で扉を切り開き、内部へと侵入する。

エントランスに到着するとそこでは明かりが灯っていた。

 

「驚いたな。電気が通っているのか」

 

「みたいですね。これならお宝さがしも楽になりそうですね」

 

「そのようだな」

 

さて…久しぶりの楽しい楽しいお宝探しの時間だ。

 

―程々にな~。

 

 

 

 

「これで5件目…まさかこんな事になるとは」

 

「予想はしていたが…ここまでとはな」

 

―むぅ…

 

どんよりとした空気が揺れる車内を包み込む。

何故こんな雰囲気になっているのか。結論から言おう…

 

「全て破壊されていたとはな…」

 

そう。自分達が現地へ行った時は破棄された兵器はすでに破壊されていた。

誰かに取られる可能性があるなら、前もってから破壊しておく方がいいと思ったのだろう。

原形すら残らない程、入念に破壊されていた。

予想はしていたが、こうも連続すると気分が滅入るのも無理ない。

このまま最後の目標へと向かっているのだが、正直期待できずにいた。

暫くは現地調達品で何とかして貰うか…あまり使っていないレーゾンデートルを一時的に彼女へ貸し出すか。

そのどちらかを選択しなければならないだろう。

 

「見えました。あれで最後ですね」

 

「ああ。何かあればいいのだがな…」

 

「ですね…」

 

目的地近くにバンが止まると車内から降りる。

固く閉ざされたドアを無銘で切り開き、内部へと侵入。

電気は通っていないが、非常時の電力が動いているらしく薄暗いが見えない程ではなかった。

近場にあった建物内の見取り図を見ると、兵器の保管庫は地下五階にあるみたいだ。

 

「さて…当たりか、それとも外れが出るか…」

 

そのまま代理人達と共に地下五階を目指して歩き出す。

望みは薄いが…何かあってくれると嬉しいが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは…ライフルですかね?」

 

地下五階にあった兵器保管庫にて。

漸く当たりを引き、無数ある武器の山の中から面白そうなのを探っていると他を見ていた代理人が呟いた。探るのを中断し、代理人の元へと向かう。因みにだが、フードゥルはバンで待っているとの事らしい。

彼女がみていたのは机の上に置かれた一丁のライフル。しかしその大きさはとてもライフルとは思えない。

どちらかと言うと砲といった方が良いかも知れない。

 

「形はな。だがこいつの口径が違うと物語ってる」

 

「みたいですね」

 

そう言いながらそれを手に取る代理人。

彼女の身長を超える程の長い銃身。銀色に輝く銃身は折り畳み式らしく、下部にバイポットが備え付けられている。これは作った人物は何を想定していたのか。生きているのであれば、是非とも聞いてみたいものだ。

 

「見る限り…口径は29mmですね。専用弾倉には三発。装填方法はボルトアクション」

 

「実用性もあったものではないな」

 

「ええ。ですがこれだけ大口径の弾を撃ち出す為に、かなり頑丈、そして重たく作られていますね。例え弾を切らしたとしても鈍器としても使えそうです」

 

「本来撃つ為の物を鈍器として振り回される…。開発者もそこまでは想定していないだろうな」

 

「ですね」

 

「それで?持っていくのか」

 

「ええ。当然です」

 

「だろうと思った」

 

少し呆れつつも、自分は別の場所へと移動する。

近くの部屋へと入ってみると、そこには何かの装置がポツンと置かれている。

独自の電力を保持していたのか、装置の照明は灯ったままだ。

 

「ん…?」

 

銃の形を模った台が装置から飛び出ている。見る限りリボルバーの形をしているが…これは?

下手に触れる訳に行かないので、装置を後回し。すると装置横に置かれてあった一枚の手紙を発見する。

それを手に取り、読んでいく。意外な事に手紙に記されていたのは、自分が持っているレーゾンデートルの事であった。内容はこのような物であった。

 

〈しくじった。よりよってあの銃を…レーゾンデートルを忘れてくるとは。アレがなければ更なる段階へと進めない。この装置もその為に作ったと言うのに…。このまま諦めるしかないのか?いや…諦める訳にはいかない。私は一度戻ろうと思う。もし用があれば、メモなり何なり残しておいてくれ。後、装置とアレには触れないでくれ。私からの願いだ〉

 

「名前は記されていない…。だがここに居ないという事は…」

 

―まぁそういう事だろうな?

 

「らしいな…」

 

この装置がレーゾンデートルに関するものだとして…アレとは一体何だろうか?

今の所、それらしきものは確認できないが…。

取り敢えずこの装置の方を動かしてみるとしよう。

台にレーゾンデートルを置くと、置いた事が確認されたのか台は装置の中へと収納された。

そしてそのまま何かが動き出した。どうも何かを組み立てている様な音だが…。

装置内で何が起きているのかわからないまま、数分が経った。

壁に凭れて待っていると収納された台が再度飛び出てきた。近づいて見てみると、そこにレーゾンデートルではないリボルバーの姿があった。

いや…レーゾンデートルの面影はあるのだが、依然と比べかなり大型化している。

銃身が二つになっており、シリンダーが大型化されている。

何故ここまで大型化されているのか、気になってシリンダーを出してみると目を疑った。

 

「薬室が12…!?」

 

―トンデモ銃に大進化だな?銃身は二つ、装弾数は12と来た。こんなものを扱える奴なんてお前位だろうな?

 

「かもしれない。…一体どんな構造になっているんだ…」

 

寧ろこの構造を考えた開発者はとんでもなく天才なのでは?

普通であればこんな事は不可能であるというのに。

だが出来てしまう…。執念か、あるいはこれを完成させたいという意地か。

どちらにせよ有難く頂戴しよう。

進化したレーゾンデートルをホルスターに納め、部屋を出て行こうとすると室内の奥の壁が横へとスライドし、隠された部屋が姿を現した。

そこに物色を終えた代理人も合流。隠された部屋へと近づき、そこにあったものを手に取る。

六角形状の銀色のガンケース。武器ではなさそうだと思いながらも何か違うと勘がそう告げてくる。

 

「これは一体?」

 

「分からん。だが只のガンケースとは思えん」

 

代わり代理人がそのケースの持ち手を握った途端、突如ケースから起動音が響き、青い光を放ち始めた。

 

「ッ!!」

 

「代理人、手を離せ!」

 

しかし間に合わず、ケースは変形。彼女の右腕にへと纏う様にその姿を変えていく。

どうする…強引にでも腕を斬るしかないか!?

 

―ッ!待て!ギルヴァ!その必要はなさそうだ。

 

何…?

 

蒼の制止を受けて無銘を引き抜こうとした手を下ろす。

良く見ると彼女が苦しんでいる様子は見受けられない。至って平然としている。

そうこうしているうちに変形が完了したのか、あのケースは全く違うものへと変貌していた。

 

「成程。あのケースは、可変式腕部一体型武装という訳ですか。通常形態はガンケース。そして攻撃形態に移行する際は…」

 

冷静に呟く彼女を見て、目を見開いた。

右肩から右手全体にかけて、銀色の装甲に包まれて肘から先は砲身になっている。

 

「レールガンになるそうですね」

 

「分かるのか…?」

 

「ええ。最初は驚きましたが、データが転送されてきたので。どうやらこの武器は人形が使用する前提で作られたそうです。ただ余りのコストの高さにこれだけしか製作されなかったみたいですね」

 

「まぁ…その様だが…。大丈夫なのか?痛みとかないのか?」

 

「いえ、特には。心配してくれて感謝します」

 

するとレールガンは彼女の意思を受けて姿を通常形態であるガンケースへ戻っていった。

罠かと思って焦ったが何事もなく良かった…。

安堵していると、見ていた代理人が静かに笑った。

 

「貴方様でもその様な表情をなさるのですね?」

 

「…変ではないだろう」

 

「ええ。寧ろその様な一面を見れて嬉しく思います」

 

「そうか。…自分も心だけは人間なのでな」

 

背を向けてその場を後にする。

…少しだけ恥ずかしかったとその思いは胸の中でとどめておくとしよう。

 

 

 

 

これは結果報告になるのだが、あの兵器工場から持ち出した武器がこちらになる。

 

:29mm対化け物(恐らく)専用超大型狙撃銃 silver bullet(シルヴァ・バレト)

 

:ガンケース型可変式腕部一体武装 Niesel regen(ニーゼル・レーゲン)

 

:45口径リボルバー(恐らくニューモデルアーミーの外観をしていながら中身が別物のリボルバー)

 

:対装甲用超近距離射突ブレード(伸縮性の杭の先端には成型炸裂弾を装備したパイルバンカーだと思われる)

 

以上が、持ってきた武器となる。

リボルバーに関しては自分が扱う事になる。名前は付いていないので自分で付ける必要がありそうだ。

またシルヴァ・バレトとニーゼル・レーゲンは代理人自ら、使うと言ってきたので以後この二つは彼女用となる。

射突ブレードに関しては…流石に分からない。一応持ってきたのは良いが…さてどうしたものか。

それも今後考えなくてはならないと思いつつ、代理人の運転の元、店へと戻っていた。

時はすでに夕暮れ時。段々と陽が落ち始め、橙色の空が広がる。

そう言えば…妹は雨以外にもこの夕焼けの空が好きと言っていたな。

あの時、好きかどうかと聞かれた時答えを返せずになってしまったが、今なら言える。

 

「俺も…夕焼けの空が好きだったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カエデ」




と言う訳で、レーゾンデートルの進化。新たなる武器を出しました。
詳細に関してまた紹介しますので何卒ご容赦を。




また活動報告でコラボ等について、投稿しました。
と言っても、フリー素材である事と使いたかったら一言下さいという内容ですけどね。



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Act19 夜空に輝く銃弾

突如としてやってきた依頼。
依頼主はグリフィン。依頼内容はある戦術人形の救援。
救援対象はギルヴァがかつて助けた戦術人形 M4A1だった。





今回は短めです。
何卒ご容赦を…(震え


揺れる車内。

辺りは暗闇に包まれ、空には星が輝いている。舗装されていない道を駆け抜け、車のライトが先を照らす。

備え付けられたジュークボックスから静かな曲が流れており、多少ではあるが雰囲気は変わる。

ハンドルに握り、先程まで静かにしていた代理人が口を開いた。

 

「まさか…よりによって彼女を助ける事になるとは」

 

「不満か?」

 

「いえ…。只、皮肉なものだと思いまして」

 

「あの時は敵対していたからな。そう思うのも無理もない」

 

「ええ…。ですがこれも仕事。途中で投げ出す訳にはいきませんので」

 

「そうか」

 

俺達はある依頼を受けて、とある地区へと向かっていた。

行き先はS-9地区近くのゴーストタウン。依頼内容はある戦術人形の救出。

依頼人はグリフィン。そして今回の救出対象は…

 

 

 

 

 

 

M4A1。

 

 

 

 

 

何故グリフィンが俺達に依頼をしてきたのか。

時は数時間前に遡る。

 

その日は依頼が来る様子が無く、一日中店で過ごしていた。

自分は本を読み、代理人は椅子に腰掛けて紅茶を飲み、フードゥルは基地内の散歩。

各々が自分の時間を過ごしていると、渡されていた通信端末に指揮官から連絡があった。

何やら急を要する案件らしく、執務室に来てほしいとのこと。店番を代理人に任せて、自分は指揮官が居る執務室へ。

数分かけて執務室に到着し中に入ると、指揮官とホログラム投影で映し出された見覚えのある人物がいた。

その人物はあの時本部で会った片眼鏡が特徴の女性、へリアンであった。

指揮官に用があるなら分かるが何故自分まで呼び出されたのか。その事を尋ねると指揮官の代わりにへリアンが言った。

 

『君に依頼をしたい』

 

わざわざグリフィンが依頼してくるとは思いつつも要件を聞く。

彼女が言うには鉄血に関してある重要な情報を持っている戦術人形が一か月前から行方不明となっているらしい。

グリフィンはその部隊長が残していった音声ログを見つけては後を追っていたらしいが、中々合流する事が出来なかったそうだ。そしてS-9地区近くのゴーストタウンにてその姿が確認出来たと言うのだ。

本来であればすぐに救援を出したい所だったらしいが、向こうにも向こうなりに訳があるらしくその戦術人形の救出任務をS-9地区の指揮官に委ねた事。そして保険として便利屋である俺達にも救援に向かってほしいというのだ。断る理由もなかったので了承。そして救出対象である戦術人形があの時助けたM4A1だと言うのだ。

店に戻り、代理人に依頼があった事と救出対象がM4A1である事を伝えると少し複雑そうな表情を浮かべていてはいたが、自分も同行するとの事。正直止めるべきかと思われたが彼女の意思を汲み取り、フードゥルに留守番を任せると俺達は現場へと向かう事に。

 

 

そして今、代理人に運転を任せて現場へと向かっている最中である。

先程S-9地区に入ったので、後少しで現場に着く頃だろう。へリアンから教えてもらった情報を整理し、運転している代理人に伝える。

 

「作戦は簡単だ。作戦領域内の鉄血の人形を排除し、対象を保護。手段は問わない。派手に暴れても構わないとの事らしい。また俺達の存在はあっちの指揮官とその部隊の面々に伝えられている。安心していい」

 

「分かりやすい作戦ですね。…作戦領域内に進入。このまま行きます」

 

代理人が自ら改造を行った大型ワゴン車のスピードが上がる。

防弾仕様、そして車内はジュークボックスにウェポンラックにソファー。そして車体の側面には「Devil May Cry」と書かれたネオンサインが取り付けられている。何故それを取り付けたのか聞くと宣伝の為と彼女は言っていたが…本当に必要なのだろうか。

それは兎も角、車は街中を駆け抜けていく。エンジン音と音楽に混ざって何処からか微かに銃声が聞こえるので作戦は既に開始されているのだろう。

現にこちらが行く先に鉄血の人形部隊が道にバリゲート張っていた。

 

「代理人」

 

「ええ。このまま突っ込みます!」

 

アクセルを思い切り踏んだのだろう。車のスピードがさらに上がった。

いつの間にか曲は別の曲へと移り変わっており、先程より激しめの曲が流れ始める。

車両は右へと左へと蛇行しながら道路上にいる機械鉄血兵や人形鉄血兵を派手に弾き飛ばしていく。

敵は思わないだろう。今運転しているのがかつては味方だったとは。

それはそうと代理人も容赦ないな…。問答無用で轢いているのだが?

ぶつかる度に振動が伝わり、ハンドルを握る代理人が少し残念そうに呟いた。

 

「正直あまり揺らしたくないんですよね。今流れている曲、結構お気に入りなので…」

 

「それは残念だ。だが暫くは…」

 

窓を開け、外へと身を出すと進化したレーゾンデートルを構えて敵に目掛けて発砲。

連装化された銃身から火が吹く。

 

「この状態だ!」

 

引き金を引いて弾を放つ。

乾いた音が何度も街中に響き渡り、放たれた二発の弾丸が敵を貫き、風穴を開けていく。

猛スピードで道を駆け抜けていく車。すると捨てられた車二台でバリゲートを作り、武器を構えて待ち構える鉄血の人形部隊が進路を塞いでいた。

 

 

 

車両の窓から身を乗り出したまま、ギルヴァは運転している代理人へと視線を送る。

それを感じ取った代理人は彼に視線を送り返すと敵が敷いたバリゲートの手前で思い切りハンドルを左へと切った。敵がぶつかった反動と捨てられた車両へと乗り上げた事により車体は左へと回転しながら勢い良く宙へと舞い上がった。その瞬間ギルヴァは外へと飛び出す。レーゾンデートルを手に、ぶつかった衝撃で宙へと上げられた人形兵たちに向けて弾丸をお見舞いし始めた。

自身の目の前に居たRipperの頭部を撃ち抜き、放った反動を利用して後ろへと銃口を向けVespidへと弾丸が放つ。次に浮かんでいる車両のボンネットを足場にして二人目のRipperを撃つと正面へと振り向きすぐさま前方のダイナゲートへと放ちボンネットから跳躍しつつ、別のホルスターに納めていた45口径リボルバーを引き抜く。

レミントンM1858を模ったリボルバー、fake(偽物)はギルヴァの新たなる武器でありパーカッション式ではなく、シリンダーを横にへと出す方式が使われている。まさしく偽物(fake)と言う銘を名付けられたリボルバーは、態勢を崩して成す術もないまま宙に浮かぶ敵にへと一発、銃弾を叩き込む。続けざまにギルヴァは近寄ってくる敵に対し、レーゾンデートルで見向きせず引き金を引く。二つの銃口から二発の弾丸が相手の頭部に風穴を開け、撃った反動を活かしてギルヴァは体を回転させつつワゴン車の助手席にへと体を滑りこませ、そのまま戻る。

滞空時間が数秒程度にもかかわらずでありながら敵を仕留める彼の姿を、偶然ながらも居合わせ、終始を見ていたS-9地区基地所属の戦術人形は思わず呟いた。

 

「…凄い」

 

その言葉を聞こえる事もなく、ワゴン車は道路に着陸するとそのまま走り去っていくのだった。

 

 

「ふぅ…」

 

敵に弾丸がお見舞いし、助手席に戻る。

レーゾンデートルとフェイクとホルスターに納め、シートに体を預ける。

 

「お見事です」

 

「ありがとう」

 

猛スピードで走り抜けていくワゴン車。

先程S-9地区基地所属している戦術人形の部隊を見つけてしまったが…見せ場奪ってしまったかもしれん。

内心彼女達に謝罪しながらも、今も尚救援を待っている人形へと思いを馳せる。

…無事にいてくれよ、M4A1。




はい。今回は前回に名前だけ出てきた45口径リボルバーを出しました。
fake…偽物という名の銃も悪くないだろう?

さて…次はどうしたものかね。


次回お会いしましょうノシノシ


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Act20 美しく狂い咲き

バリゲートを突破し、駆け抜けるバン。
そんな中、ギルヴァは敵の数が減っていない事に気付く。
代理人曰く飛行場が敵の占領下にある為、そこから増援部隊が出ているとの事。
そこで二人は別行動と取る事にする。
ギルヴァは対象の保護。そして代理人は敵飛行場を襲撃する。
新たなる相棒と共に…


市街地を駆け抜けていくバン。

バリケードをいくつか突破したのは良いものの、状況は良い方へとは行っていない。

それどころか敵の数が減っていない様にも思える。

このまま対象を保護出来たとしても帰り道が辛くなるのは目に見えていた。どうしたのもかと思っていると運転している代理人が言ってきた。

 

「いくつかの飛行場を占領しているからでしょう。元々この辺りは鉄血の支配下にある領域ですから」

 

「つまり飛行場を抑えれば増援は来ないと?」

 

「ええ」

 

ならば話は早い。

こちらから急いで飛行場へと赴くべきだ。

 

「なので…飛行場の占領は私が抑えます。ギルヴァは対象の保護を」

 

「…いけるのか?」

 

彼女が赴くという事はかつての味方に対し銃口を向けるという事だ。

自身は大して思ってなかったとしても心という部分には多少ばかり傷がつく。

それが積み重なってしまえば、いつしか自分自身が崩れる。

人間と同じ様にそうなりかねないのであれば自分が赴くべきかもしれない。

 

「言ったでしょう?」

 

初めて会った時の様な優しい笑みを浮かべて彼女は言った。

 

「この身は貴方に捧げると。例え敵がかつての味方だったとしても関係ありません」

 

その声は一切震えてなどいなかった。

仕事だからと割り切っているのだからか、あるいはそれ以外か。

問題ないと思っていると、彼女はそっと不気味な笑みを浮かべた。

 

「ええ…。貴方の行き先を邪魔しようとする害虫は始末しなくてはなりませんから。私の様な奴は一人で十分。他なんて要らないのですよ。ええ…そう……他なんて要らないんですよ……ふふっ…アハハッ…♪」

 

多少だが不気味さを感じさせる。

そしてこれから相対するであろう敵に謝罪を述べておく。

例え人形であれ…その終わりは決して安らかなものではないという事を。

 

「おっと…すいません。つい…」

 

「問題ない」

 

助手席から立ち上がり、車内の後ろにあるウェポンラックへと向かい立て掛けられてある無銘を手に取る。

レーゾンデートルとフェイクに弾丸を込めてから、彼女の隣にへと立つ。

 

「この先は丁度分かれ道になっている。右は恐らくM4との合流をする地点へと繋がる道、左は飛行場へと繋がる道だ。そこで別れよう。それと通信機を渡しておく。何かあれば連絡しろ」

 

「分かりました。……見えました」

 

分かれ道が見える。

車は停車し、自分は外へと出る。銃声と爆発は未だに響いており、対象の保護を急がなくてはならない。

右の道へと歩き出して、一旦足を止めて代理人の方へと振り向く。

 

「恐らく飛行場ではかなりの敵が居るだろう。…派手にやってこい」

 

「…ふふっ。…ええ…ご要望に応えて見せましょう」

 

そう言い残して彼女は飛行場がある道へと車を走らせた。

さて…こちらも急ぐとしよう。

 

―そう言えばシルヴァ・バレトに装填していた弾…焼夷弾じゃなかったか?

 

「…」

 

―…

 

「…行くぞ」

 

―え?ちょっ!?ギルヴァぁっ!?

 

何も聞いていない事にしよう。

…派手にやってこいって言うのではなかったな。

 

 

 

車を走らせる。

彼が対象への保護へと向かい、私は敵の占領下にある飛行場へと向かっている。

しかし派手にやってこいとは…彼からあの様な言葉が出るとは思いませんでしたね。

ですが私がデビルメイクライに所属してからの初の戦闘。それなりに派手でも良いでしょう。

段々と飛行場へと近付きつつある。このまま突っ込んで大暴れしていいのですが…流石にこの車を壊す訳にはいかないので近くに停めてから徒歩で向かう方がいいですね。

 

「そろそろですね…」

 

車を停車し、運転席から離れるとウェポンラックに立て掛けてあるシルヴァ・バレトとニーゼル・レーゲンを手に取る。普通であれば片方で良いと思いますが、使い勝手というのも知りたい事もあるので。

あの工場から幾らか持ち出してきたシルヴァ・バレト用の予備弾倉を三つ、自前で持ってきたガンベルトに吊り下げる。

一つは焼夷弾を、もう一つは徹甲弾を、最後は榴弾を装填してある。そしてシルヴァ・バレト本体には焼夷弾が。

さて…準備はこれで良いでしょう。

バンのドアを開き、外へと出る。辺りを見回してみると、どうやら飛行場全体を見渡せる高台がある。そこへと向かう為、歩き始める。

 

「しかし私が助ける立場になるとは…。ホント…皮肉なものですね…」

 

そう…あの時だ。

私と彼女が居て…そして彼が現れた。

今でも覚えている。あの時の技を、動きを…姿を。

彼には言った事はないが、あの時手を斬られる瞬間、不意にもその太刀筋は美しいと思ってしまった。

その美しさに隠された「死」に気付かなくなる程に…そのまま私の右手は斬り落とされた。

そして彼に圧倒され敗北。その後は…今に至る。

 

「狂っている…そう言われてもおかしくないかも知れません。ですが…それが何だというのでしょうか」

 

人形が恋をしてはいけないと誰が決めた?

ただ人を殺す事にしか考えがなかった過去の自分よりも今の方がマシだと本気で思える。

だから…私の恋路を邪魔するのであれば、例えかつての仲間であれ撃つのみ。ただ、それだけ。

数分歩るき、高台に到達。

飛行場ではRipeerやVispidの他、プラウラー、ダイナゲートが周囲の警戒に当たっている。

どうやらここから援軍が出てきているみたいですね。現に飛行機にある二つの道から増援部隊が出ている。ここを一つ叩けば、S-9地区所属の戦術人形部隊の消耗を少しは抑えられるでしょう。

折り畳んであるシルヴァ・バレトの銃身を展開。身を低く屈め、構える。

一回目と二回目の攻撃では敵を狙わない。まずは二つの出入口を塞ぐ。三回目の攻撃で逃げ道を失った集団に向けて攻撃する。

 

「…マシュマロでもあれば、一緒に焼いていたかもしれませんね」

 

まぁ…冗談ですが。

狙いがぶれない様に、少し間だけ息と止める。

引き金に指を掛ける。そして…

 

「発射」

 

引き金を引いた。

 

 

銀色の銃口からまるで砲撃音の様な音が飛行場全体にへと響いた。

放たれた一撃は飛行場の二つある道の一つに着弾すると同時に火災が発生。立て続けに二発目の銃声が鳴り響き、二つ目の道に着弾、そこでも火災が発生。辺りを照らすかのように炎は次第に大きくなり、近くにある物を巻き込んでいく。まるで炎の渦の中に呑み込まれてしまった鉄血の人形部隊と機械鉄血兵は逃げ道を失った。応戦しようとしても敵が何処から攻撃しているのかつかめず、また自身が持っている武器では攻撃が届かない。

状況が混乱している所を高台にて見ていた代理人はつかさず三発目の焼夷弾を発射。

撒かれる炎が敵に喰らつき、その身を焼いていく。最早飛行場は地獄と化していた。あとは時間の問題かと判断していた代理人だが、ある物を目撃する。

 

「あれは…マンティコア?」

 

彼女はそれに対し眉をひそめた。

マンティコアは陸戦用。しかし今見ているのは空を飛んでいた。

四つ足には装甲板が取り付けられており、機関砲ではなくガトリング砲が装備されている。

そこで代理人は思い出した。

まだ鉄血にいた頃、マンティコアをベースに空戦用に改造されたものがあると。しかしそれは一機しか生産されず、倉庫で埃を被っていると…。

 

「そう言えば…彼女を追っていたのは処刑人でしたか…。確かギルヴァに吹っ飛ばされたのでしたね。…成程、代わりにあんなものを持ち出してきた、と…」

 

どこか呆れた表情を浮かべる代理人の耳に通信が流れる。

 

『何あれ…マンティコア…?』

 

『違う気がする…でもあれはやばいわ…』

 

それは偶然か。その通信は戦術人形の部隊からによるものだった。

彼女達も上空を浮かんでいるものに戸惑いを覚えながらも危機感を示す。

代理人も彼女達の言う通りだと思った。動きはゆっくりであるが、あれはまるで空飛ぶ狩人。上からの攻撃というのもは非常に恐ろしいものである。そしてあんなものを放置していれば彼女達も危険であり、帰り道も危険になる。

そう判断した代理人はシルヴァ・バレトではなく、傍に置いてあったニーゼル・レーゲンの取っ手を握った。

そしてそれを思い切り地面に叩きつけるとニーゼル・レーゲンは通常形態から攻撃形態へと変形開始。ガコンガコンと音を立てながら右腕に纏い、武器が組み立てられていく。数秒で彼女の右腕は武器腕へと変貌し、銀色の砲身と装甲の隙間から淡い水色の光を放つレールガンの姿が露わとなる。

 

「ふっ…!」

 

大きく腕を振り上げてから、空を飛ぶ狩人へと向ける。

肩を覆う装甲に内蔵された小型ジェネレータが唸るかの様に音を立て、生み出される余剰エネルギーが放熱フィンからまるで青い翼の様に放射されていく。

そして代理人はニーゼル・レーゲンを最大出力モードへと移行させた。

その事により放たれる余剰エネルギーがより一層激しくなり、砲身が三又状に変形し、電流が走る。

最大出力モードの影響か代理人の右目は水色へ輝きを放つ。

左手で狙いがぶれない様に支え、左足を一歩後ろへ引く。

 

 

 

 

 

 

準備は整った。

 

 

 

 

 

 

 

「落ちなさい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

狙い、穿つは一つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「かとんぼ…!」

 

 

 

 

 

 

 

爆発と重厚な音が混じったかの様な砲撃音と共に閃光が走った。

駆け抜ける一撃は紫電を纏い障害物を貫き、空を飛ぶ狩人を穿つとその巨体を真っ二つにした。

何が起きたのか分からないまま、それは宙で爆発。地上で見ていた戦術人形の部隊も驚愕の表情を浮かべたまま突っ立ている。

それが分かるのは何となく察したギルヴァだけだろう。

 

「見た目は綺麗だが、威力は狂ってるな…」

 

―そして最後は一輪咲かせるという訳かねぇ…

 

そんな事を言いながら彼は行く道を塞ぐ敵を斬り伏せていく。

合流地点まで後少し。

この戦いに終幕が下ろされる時が刻々と迫りつつあった。




今回代理人がメイン。
あと「あんなもの」はこの回以降出てきません。…一機しか作られなかったから仕方ないね。


因みにニーゼル・レーゲンの最大出力モード時の発射音はビー〇・マグナム。


さてそろそろ戦いも終盤へ。
どんな風にしていくかねぇ…処刑人以外のハイエンドモデルでも出すかぁ…?
まぁ未定なので更新が遅れると思います。何卒ご容赦を。
では次回お会いしましょうノシノシ


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Act21 合流

もうあの時の様な思いをしない為にも。
彼は内包する「魔」を開放し彼女が居る合流地点へと飛翔する。


合流地点へと駆け抜ける。

代理人が飛行場の一つを叩いたおかげで現状は敵の数は大したことではない。だが他にも飛行場があるので増援部隊がここに集まりだす前に彼女と合流し、脱出するか。

あるいはこの領域内に居る鉄血兵を一人残らず殲滅するか…そのどちらかを選択する必要がある。

こちらは無銘があるので問題ないが代理人やS-9の面々は違う。弾薬や配給にも限度がある。

また長期戦はかえって鉄血に隙を与える形になりかねない。ならば取る手段は前者を選択すべきと判断。

 

『ギルヴァ、聞こえますか?』

 

「聞こえるぞ」

 

『どうやら敵はそちらへと向かい始めた模様。また別の飛行場からも増援部隊が出ているみたいです』

 

「…やはりか」

 

『ええ。ですのでこのまま私は飛行場の制圧、そして周囲の敵の一掃に取り掛かります。そちらは合流を急いで下さい。それまでには帰り道を楽なものにしておきますので』

 

「了解した。…頼むぞ」

 

『仰せのままに』

 

代理人との通信が切れた直後、何処からか連続してやたら大きな爆発音は響いた。

確かシルヴァ・バレトの予備弾倉の一つは榴弾が装填されていた筈…この爆発もそれによるものだろう。

最もあれは銃というより砲だ。撃ち出される一撃はニーゼル・レーゲン程ではないにしろとんでもない威力を誇る。下手すればあれ一つで戦況を変えられると言っても過言ではない。まぁそれを言えばニーゼル・レーゲンの方もそれに該当するのだが。

 

―もはや一種の軍隊だな、俺達。下手すればやばい連中に目を付けられそうだ。

 

「そうなるのであれば、全力で抵抗するつもりであるがな」

 

―言うと思った。

 

戦場とは違い、静かさに包まれ、斬り伏せた鉄血兵の残骸が残る一本道を駆け抜けていく。

走る度に響く渡るブーツの音と自身の息遣いだけが聞こえる。あとどれくらいか?敵の数はそれくらいか?

何よりもM4A1は大丈夫だろうかと、そういった思いが頭の中を過る。

だが今は自分の事も心配する必要がある。幾らこの身が人でないとしても、油断はできない。

作戦領域にいる鉄血は俺達を相手にするよりも保護対象を始末する事を優先的に動いている。

それ程彼女が得た情報は鉄血にとっては何としても阻止しなくてはならないという事なのだろう。

現に向こうはかつて倒したマンティコアを空戦用に改造したであろう兵器を持ちだしていた。そこまでするのだから本気度合いがどれ程の物か言わなくても分かる。

そう思うとつい走る速度が速くなる。それほどに自分は彼女の事が心配なのだろう。

その理由は何故か?それは考えなくても分かる。

 

「カエデに似せているせいか…」

 

彼女は妹のカエデではない事ぐらい知っている。

違うと自分に言い聞かせても何故か今だけは心配で仕方ない自分が居る。

 

―それで良いんじゃないのか?

 

「どういう意味だ?」

 

―妹さんとは違う…それは分かっているんだろう?似ている彼女が心配に思うにも無理ない話さ。だから、全力で助け出せ。こういう言い方は酷いが、昔に起きた事を繰り返したくないだろう?

 

「…」

 

また一段と走る速度が上がる。

そうだ…。もう二度とあんな思いはしたくはない。彼女と関係が深い訳ではない

だがそれでも…!

 

「もうあの時の自分ではない…!!」

 

地を蹴り、広がる夜空に向かって跳躍。

内包する魔力を放出させ、その姿を「悪魔」の姿へと変貌させる。

四枚の翼を羽ばたかせ、彼女が…M4A1が待っている合流地点へ飛翔した。

 

 

 

外から銃声や爆発音が聞こえる。

だと言うのに私がいるここは敵が歩く音だけが響いている。

今日の今日まで逃げていた事もあり、弾も心許ない。奴らを相手にする程の余裕すらない。

また奴らは血眼になって私を探している。正直見つかるのも時間の問題とも言えた。

 

「…」

 

近くの部屋で身を壁際に寄せ、見つからない様に息を最小限に押しとどめる。

先も言った様に弾も心許ない。だがここから何とか出なければ見つかってしまう。

そんな中、私は思った。状況は違えど窮地に陥った時があったな、と。

そしてあの人に…日本刀を手に黒いコートを纏った彼に助けられた。でもあの時の様な奇跡はもう一度起きるとは思えない。

死ぬ訳にはいかない。でもどうしたらいい…!?この状況をどう脱する…!

考えろ…!どうする…どうする…!?

思考が入り乱れる。故に私が身を隠している部屋の近くまで敵が接近していた事に気付くのが遅れてしまった。

弾は少ない。だけどまだ死ねない!

身を出して銃を構える。狙いを定め引き金を引こうとした瞬間。

建物の天窓が音を立て割れた。

 

「ッ!?」

 

突然の事にその場にいた全員が上を見上げた。

天窓を割って現れたのは黒いコートに日本刀を手にした男性。あの時と変わらぬ風貌で再度彼は私の前に姿を現した。鞘から抜き放たれる白銀の刀身。淡く煌きを放ち、その刃は鉄血の連中へと襲い掛かる。

落ちてくる硝子の破片がまるで輝く雨の様で、そんな中でまた一人、また一人と斬り伏せていく。

只々美しく、磨き抜かれた技は相手に死を与える。

そして止めと言わんばかりに黒き疾風が敵の間を駆け抜けた。目に見えない刃が数多の敵を切り刻み、その動きを止める。

背を向け、見る事もなく彼は刀身を鞘に納めながら奴らに告げる。

 

「遅い」

 

鍔と鯉口が合わさり、納まる音が響く。

それに合わせたかの様に鉄血の連中はバラバラに崩れ落ちる。

この間、ほんの数秒。翻弄するかのような動きで、そして舞うかの様な攻撃で、彼は鉄血の人形部隊を壊滅させた。まるであの時と同じ様に…。

また助けられたという情けなさも感じつつも、また助けてくれたという喜びが胸中で渦巻く。

そんな思いを抱えながらも、私は彼の元へと寄る。

名も知らぬ彼は近寄る私に気付き、振り返ると少し安心した様な声で言った。

 

「また会えたな」

 

「はい…。あの時以来ですね」

 

その安心した様な声が何故か私の中で引っかかった。

 

 

 

黒髪で緑色のメッシュが入った戦術人形 M4A1と合流。未だに戦闘は続いているが、先程と比べると戦闘の音は小さくなっていた。

飛行場の制圧と周囲の敵を掃除している代理人に連絡を取ると、あちらも終わった模様。現在聞こえているのはS-9地区の戦術人形の部隊のものらしい。どうやら残党の一掃しているとのこと。

対象と合流出来た事を報告すると、戦闘中に向こうと連絡を取ったのだろうか、向こうの指揮官から救援部隊が到着するまでそこの安全確保し待機していてほしいと代理人を経由して伝えてきた。

安全は確保できているので救援部隊が来るまで待機する事になり、M4A1と待つ事になった。

それから救援部隊が来るまで自分は壁に背を預け身を休め、彼女は自分と少し離れた位置で休んでいた。

話す事もなく終始無言の状態が今も続いていた。このまま時間が過ぎるのを待っていると向こうから話しかけてきた。

 

「先程…どうして安心したのですか?」

 

「…質問の意図が分からないのだが」

 

「私を見て、どこか安心した様な様子が少し気になって…」

 

言うべきだろかと思案する。

だが何故か隠す気にはなれず、話す事にした。

 

「一度助けたという事もあるが……」

 

「あるが…?」

 

「君が死んだ妹に似ていたからだ」

 

「妹さんにですか…?」

 

「ああ」

 

右手を広げ、手のひらを見つめる。

あの時どんなに伸ばしても…この手は届かなかった。守れなかった。ただ見ているだけしか出来なかった。

 

「違うと分かっていた。だけど心配で仕方なかった」

 

「…」

 

「…もしかすれば自分は許されたいのかも知れんな。助けてあげれなかった事に」

 

自虐気味な笑みを浮かべ、M4の方へと向く。

だが彼女は答えなかった。

当たり前だ。こんな事を言われても答えに困るのは当然だ。

 

「まぁこちらの事はどうでもいい。そろそろ救援部隊も来る頃合いだろう」

 

凭れていた壁から離れる。

そのまま自分は出口へと歩き始めた。

 

「どこへ?」

 

「目的は果たしたからな。このまま帰る」

 

今頃代理人が近くに車を止めて待っている筈だ。

余り待たせるつもりもない上に報酬の話は店を出る前から決まっている。

もうここにいる用はない。ドアに手を伸ばそうとした時…。

 

「最後に教えてください」

 

彼女からの声によりその手を止めた。

後ろへと振り向くと、ゆっくりと彼女が歩み寄ってきて、自分の目の前で止まった。

 

「貴方の名前を…教えてください」

 

「…ギルヴァ」

 

「ギルヴァさん……また会えますか?」

 

〈また会えるよね?〉

 

今の彼女と初めて出会った妹の姿が重なってしまう。

分かっているというのに、どうして自分はこうも踏ん切りが付かないのだろうか。

これも…心が「人」としての自分の本来の弱さか。全く答えははっきりしないものだ。

気付けば自分は右腕を伸ばし、その手を彼女の頭へと置いた。

 

「どうかな…。だがお互いに生きていれば会える」

 

「…約束してくれますか?」

 

「…ああ、約束しよう」

 

その手を下ろし、再度背を向ける。

今度こそはと思ったが、ある事を思い出しのでそれを彼女へと伝える。

 

「もしも…手が必要あればS-10地区にある店を訪ねるか、連絡してこい」

 

「店?それはどういう…」

 

「便利屋を開いていてな。無償とは言えんが、依頼してくれるのなら引き受けよう」

 

それだけだ、と言い残して自分は外へと出て行った。

すれ違いざまに救援部隊が彼女が居る所へと向かって行ったのですぐに合流できるだろう。

満天の星が見える空の下で近くで車を止め、待っていた代理人と合流する。

 

「終わりましたか?」

 

「ああ。帰ろうか」

 

「そうですね」

 

二人して車に乗り込み、代理人がエンジンを掛ける。

自分はジュークボックスのボタンを押してから助手席に腰掛けた。

流れた曲はとても静かな曲だった。

 

 

 

 

 

彼…ギルヴァさんが出て行った後、私はそっと頭を触れた。

先程まで頭の上には彼の手が乗せられていた。男性に頭を撫でられた事は今までなかったが、とても心地よかった。まるで姉さんに頭を撫でられる時の様な…優しい感じだ。

思えば姉妹は居れど、兄というのは居ない。だからだろうか…。

 

「また会いましょう…。…お、お兄ちゃん」

 

彼の事を何故かお兄ちゃんと呼びたくなってしまったのは、今だけだと思いたい。




という訳でM4救出作戦はこれにて閉幕。
ある種、ギルヴァの弱さが少しだけ出たところかも知れない。
彼だって心は「人間」ですから…。


さてはてお次はどうするかねぇ…。
次回更新は遅れるかもです。何卒ご容赦を…。

では次回お会いしましょうノシノシ



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Act22 名前

救出作戦から翌日。
報酬を受け取りに指揮官がいる執務室に訪れたギルヴァ。
彼女から報酬を受け取り、そのまま去ろうする彼だが…



M4A1の救出作戦から翌日。

グリフィンからこちらへと送られた報酬を取りに自分はナギサ指揮官がいる執務室へと来ていた。

 

「はい。グリフィンからギルヴァさん宛の報酬」

 

「ああ。ありがとう」

 

紙で梱包された小包を受け取り、礼を伝える。

そのまま店に戻ろうかと思ったが、代理人は私用で外しており、フードゥルはどこかをうろついている。

このまま戻った所で店で本を読むしかない。そこでも思い付いたのはここS-10地区前線基地を統べる指揮官、ナギサ指揮官と交流するのに良い機会かも知れぬと判断した。

ここに来てからはというものの彼女と話す機会は多くなかった。社長命令とはいえ、こんな怪しさの塊みたいな存在を置かせてもらっているんだ。疑問を持っても可笑しくないので、ついでがてらそれを解消するのも良い機会だろう。

 

「ナギサ指揮官」

 

「ん?どうしたの?」

 

「良かったら少し話さないか。交流という点を含めてな。無論そちら忙しくなかったらの話だが…」

 

見る限り書斎にはそこまで書類がある様には見えないが…だが他の仕事もあると思うと無理強いはできない。

彼女が無理だと言えばそれは折れるしかない。

 

「良いよ。私もギルヴァさんとお話したかったから」

 

「そうか…。だが仕事は良いのか?無理ならば日を改めるが…」

 

「ふふっ。ギルヴァさんは優しいね。今は仕事はこれ位だから心配しなくても大丈夫だよ」

 

そう言いながら彼女は持っていたペンを机の上に置く。

そのまま椅子から立ち上がると、ソファーに腰掛けた。続く様に自分も腰掛ける。

 

「こうして面と向かって話すのは久しぶりかな」

 

「そうだな。置かせてもらっているに関わらず中々姿を見せずにすまないな」

 

「大丈夫!ギルヴァさんにはお店があるし、私は指揮官という立場があるからね。仕方ないよ」

 

「気遣いに感謝する」

 

すると彼女の視線が自分が来ているコートへと向けられている事に気付く。

そんなに気になるだろうか…?取り敢えず聞いてみるとしよう。

 

「このコートが気になるか?」

 

「え?あ~…うん、ちょっとね。青い刺繡が綺麗だなぁと思って。誰かからの貰い物?」

 

「ああ。母がくれたものだ」

 

19歳になった時に母がくれたもの。

この青い刺繡も母が自ら施したものだ。この世界において一つしかなく、大事な宝物だ。

元々は母が着ていたものだったのだが…小さい頃の自分はこのコートに包まって寝る事があるほど、気に入っていた。

 

「へぇ~、お母さんからなんだ。じゃあこの青い刺繡もお母さんが?」

 

「そうだ。誕生日プレゼントとしてあげる予定だったのか、俺が寝ている時にだけ作業していたと言っていた」

 

貰うまで気付かなかったがな、と締めくくる。

念の為、これが遺作になったという事は言わないでおく。

そこで話題を変える為、前々から気になっていたことを指揮官へと尋ねる。

 

「そう言えば指揮官は日系人だったりするか?」

 

「え?どうしてそう思ったの?」

 

「そうだな…名前がそれらしいと思ったのが一つだが…。何よりも顔立ちがな」

 

「ほえー、良く気づいたね。うん、ギルヴァさんの言う通りで私は日系人。父も母も日系人」

 

この時代において、滅亡したとされる日本人の血が流れる者はそう多くない。

だが居ないという訳ではない。彼女の様に両親から受け継いだという事もあるのだ。

そして放浪している時に、様々な漢字が記されている単語帳みたいなものを読んでいた時があった事もあり、前々からそうでないのかとは思っていた。

 

「因みに私の名前は漢字で書くとこう書くんだよ」

 

そう言いながら彼女は書斎から白紙の紙をペンを手に取り、自分の名前を漢字で書き始めた。

少しした後でそれを見せてきた。そこには漢字でこう記されている。

 

「椎名 渚。…これが指揮官の名前を漢字で書いたものか」

 

「うん、そうだよ。今は漢字ではなく敢えてカタカナで表記しているけどね」

 

「それは何故?」

 

「読めなかったりする方もいるかなぁ~とか…まぁその場の雰囲気かな」

 

「随分と適当だな」

 

「だ、だって…色々緊張してたし…初めの頃は良くわかってなかったからさ…」

 

両手の人差し指をツンツンとぶつけながら、赤面する指揮官。

確かに初めての事には緊張が付きまとうものだ。それに彼女は若い。あまり深く追及するのは止めておくとしよう。

流石に恥ずかしいのか指揮官はそれはともかく!と話題を変えてきた。

 

「ギ、ギルヴァさんってファミリーネームは無いの?」

 

「ファミリーネームか…」

 

いつかは聞かれると思った。

旅をしている時も、便利屋としている時も一貫して「ギルヴァ」としか名乗っていない。

誰かには聞かれるとは思っていたが、それが今の様だ。

 

「そうだな。俺にはファミリーネームはない。加えて言うなら、このギルヴァという名前も本来の名前ではない」

 

「え…?ど、どういう事…?」

 

「そもそも親の顔を知らん。故に自分の名前が何だったのかすら知らない」

 

「でもさっき母って…」

 

「拾われたんだ。戦術人形から民間用人形にチェンジした人形にな。ギルヴァと名乗り始めたのもその人と出会った時からだ。二つ思い付いた名前の内を一つをな」

 

「…その…ごめんなさい」

 

こうなるとは思わなかったのだろう。

彼女は悲しさと気まずさを交えた表情で謝ってきた。

手を上げて、問題ないと返す。

執務室全体に沈黙が訪れる。このままでは気まずいのもあるが、落ち込んでいる指揮官に話しかける。

 

「それでも母に拾われた時はとても嬉しかった。優しく抱きしめて、頭を撫でてくれた。母がこのコートをくれた時は尚更嬉しかったな」

 

「お母さんの事、大好きなんだね」

 

「ああ。今の俺があるのは母が居てからこそだ。出会ってなければ俺はここにいない」

 

だがその母も…妹のカエデも…俺の目の前で命を落とした。

そっと右手を開き、手の平を見つめる。最後に二人の手を握ったのは何時だっただろうか。

晴れ晴れした日?それとも夕焼けの空が見える日?否…最後に握ったのは二人の亡骸を見つけた時だ。

あの時の自分は暴走していた。だが二人を見つけた時だけ自分自身を取り戻せた。動かなくなり冷たくなった二人の手をしっかりと握った。まるで自分はここに居るよと言わんばかりに安心させるように。

思えばあの時だけ蒼の声は聞こえなかったな…。

 

―俺も気付かなかったのさ。まさかそこだけは覚えているんだな。

 

ああ。そこだけ、ではあるがな。

 

「ギルヴァさん?どうしたの?」

 

少し思い耽り過ぎたか、心配そうに指揮官が声を掛けてくる。

何でもないと伝え、ソファーから立ち上がる。

 

「そろそろお暇する。話せて良かった、渚指揮官」

 

「うん、私も。暇があったらまた来てね」

 

「お互いの都合が合えばと言いたいが…善処しよう。では…」

 

「あ、待って!最後に聞かせて」

 

ドアノブを捻ろうとした瞬間、指揮官が尋ねてきた。

最後に聞きたい事はとは何だろうか。

 

「二つ思い付いたの内の一つの名前を使う様になった。それがギルヴァという名前なんだよね?」

 

「そうだが…」

 

「じゃあ、思い付いたもう一つの名前は何だったの?」

 

もう一つの名前か。

思い付いたのは良いものの、何となく自分には合わないと思って選ばなかった名前だ。

まぁ教えても問題ないだろう。

 

「ヴァージル。自分には合わないと思って使わなかった名前だ」

 

「ヴァージル、か…。あ、それと!話は思い切り変わるけど、鉄血の動きで一つ伝えておくことが」

 

「思い切り変わったな。それで?」

 

「以前ギルヴァさんが撃退した鉄血のハイエンドモデル、処刑人を覚えている?」

 

「ああ、覚えている」

 

95式を助けに行くときに戦ったハイエンドモデルだったな。

あの時はバットで星にしてやったが…今頃どうしているのやらか。

まぁそれを知る由はないが。

 

「実はね、へリアンさんから教えてもらったんだけど。昨日の救出作戦で救出してもらったM4A1。彼女、鉄血のハイエンドモデルにも追われていたみたい」

 

「それが処刑人だと?」

 

「うん。もしかしたら別のハイエンドモデルと合流している可能性があるかも知れない。その場合、またギルヴァさんに出てきてもらうかも知れないから伝えておこうと思って」

 

「そうか…了解した。情報に感謝する」

 

ドアを開き、執務室から出る。

店へと続く廊下を歩きながら、指揮官から伝えられた情報を思い返す。

 

―ハイエンドモデルが二体、か…。これはまた随分と騒がしいパーティーになりそうだな?

 

「パーティーと言える程の物かどうかは分からんがな。だがどちらにせよ呼ばれる事は間違いないだろう」

 

〈また会えますか?〉

 

昨日の彼女の台詞が脳内で再生される。

どうやら…

 

「思ったより早く会えるかも知れんぞ、M4A1」

 

ここに居ない彼女へと向けて静かに呟いた。




ギルヴァの過去に触れました。
と言っても愛用のコートと名前だけでありますが…。
あと指揮官の事もね。



あ、それと。
無課金系指揮官様作「何でも屋アクロス」とコラボさせていただきました!
あちらの作品でうちのギルヴァさん登場してますよ~。
また作品もとても面白いので是非是非読んでみてください!
そしてコラボさせていただきました無課金系指揮官様。
この場をお借りしてお礼を述べたいと思います。
本当にありがとうございます!


ではでは次回お会いしましょうノシ


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Act23 カフェでの一時

依頼が来る様子もなく、店で過ごすギルヴァ。
一日をそこで過ごす事に落ち着かなさを感じた彼はある場所へと赴く事にした。




今回はぼのぼの?回でございやす。
たまにはこういうのもいいでしょ?



晴れ晴れとした空。

基地から離陸していくヘリの音。香る紅茶、ページを捲る度に紙のこすれる音。

報酬の金で買ったジュークボックスから流れるジャズ。まるでこの世が平和と錯覚してしまう位に店ではのんびりとした空間が生まれていた。

このまま一日中のんびり過ごすというのも悪くはないのだが、流石にそれでは自分なりに落ち着かない。

キリが良い所でお気に入りの本を閉じて本棚にへとしまう。愛用のコートを羽織るとそのまま店の裏口のドアを開き、出かける。

まだ昼間ではあるが、一杯飲みに行くとしよう。

 

 

 

―てっきり酒でも飲むのかと思ったぞ

 

「昼間から酒を飲むつもりはない」

 

S-10地区前線基地内には訓練所や食堂など様々な場所がある。

その中にはカフェが存在し、どうやらライフルの戦術人形が趣味としてマスターをしているらしい。

だが自分はそのカフェに一度も行った事がない。理由としてはここにカフェがあるという事を最近まで知らなかったというのもあるのだが、ここに訪れる戦術人形達の中に一人、母と同じ戦術人形がいるという事だ。

最もそれを知ったのもごく最近の事ではあるが。

 

「さて…」

 

カフェの前に到着し、自動ドアが開く。

店内はお洒落な雰囲気が保たれ、偶然にも自分以外の利用者は居ない様だ。

カウンターでグラスを拭いていたライフルの戦術人形 スプリングフィールドがこちらに気付き、少しばかり驚いたと言わんばかりの表情を浮かべた。

顔に出るまで自分がここに訪れた事が驚きの様だ。

 

「これは…。お店の方はよろしいのですか?」

 

また彼女とはS-10地区前線基地に来てから最初に話をした人形だ。あれから日はかなり経ったが今でもそれなりに話す間柄。

世間話や一日の中で何があったとかそういった事で話す事が多く、前々からカフェに来て欲しいと言われていたが何分色々あった為、先延ばし状態になっていた。

カウンターの椅子に腰掛けつつ、彼女からの質問に答える。

 

「今日は依頼が来る様子がない感じなのでな。それに約束を先延ばしにしていた事もある。遅くなってしまったが果たしに来た」

 

「ずっと待っていたんですよ?てっきり約束すら忘れているのかと…」

 

「すまない。もっと早く来るべきだった」

 

「ええ、そうです。でもちゃんと来てくれたので、チャラにしてあげます」

 

「感謝する」

 

許しを得た事で、早速注文しようとした時、備え付けられたテレビから速報ニュースが流れだした。

視線がそちらへと向き、スプリングフィールドもそちらへと向いていた。

民間の報道局だろうか。画面にはスーツを着こなした中年男性が原稿用紙を片手にニュースの内容を読み上げていく。内容は以前行われた正規軍による他の地区で潜んでいたE.L.I.D掃討作戦が成功したというものだった。

そのまま内容は次へと流れ、自分はある単語を静かに口にした。

 

「E.L.I.D、か…」

 

広域性低濃度感染症。

この世界に広がっている汚染 崩壊液(コーラップス)によって低濃度の被爆で起きる症状。

高濃度の被爆の場合は死に至るが、低濃度の被爆の場合、被爆者の姿は変貌する。

その姿は正しく「化け物」と言っていい位だ。本当の姿が何だったのか分からなくなる程までに。

 

「正規軍だからこそ相手に出来ますからね…。私達グリフィンに所属する戦術人形では太刀打ちできない」

 

「…それ程までに強力という訳か。確かに厄介な相手ではあったが」

 

「ん?その言い方ですと…まるで相手した事がある様な言い方ですね?」

 

「む?…ああ、放浪の旅をし始めた頃に奴らを狩っていたな」

 

あの時は次元漸ではなく、次元を切り裂き、前方に斬撃の渦を発生させる技「スラッシュディメンション」なら出来た。またデビルトリガーを引く程の力もなく、出来たのは幻影刀と無銘を振るう程度だった。

今思うと「アレ」と戦ったからこそ、次元漸やデビルトリガーが出来る様になったのだろう。

 

―それにしても、何を喰らえばあんな姿になるのやらか…。

 

さぁな。あれの考えなど分かる筈もない。

 

一度相対したそれは醜悪と美…矛盾した二つを持ち合わせた姿をしていた。

今程の力を持ち合わせていなかった事もあり、完全に倒すまでには至らず逃がしてしまった。

あれからかなりの月日が経っている筈。一度か二度は奴の噂を耳にするであろうと思っていたが、予想に反して噂が出回る事はなかった。人知れず正規軍にやられたか、或いは身を隠しているか。

もし後者であるならば赴く必要がある。依頼が来ればの話ではあるが。

だが今は仕事の話ではなく、淹れたての美味しいコーヒーでも頼むとしよう。

カウンターに立つスプリングフィールドへと注文しよう視界を向けるが、何があったのか何故か彼女はフリーズしていた。

 

「スプリングフィールド…?」

 

彼女の名前を呼び、声を掛けるが反応がない。

本当に何かあったのか、目の前で手を振っても反応しない。

よくよく見ると、どこか驚いている様な表情を浮かべている。はて…自分は驚く様な事を言っただろうか?

 

「ど…」

 

「ん?」

 

「どういう事です!?E.L.I.Dを狩っていた!?ギルヴァさんは無事だったんですか!?被爆は!?」

 

先程の姿はどこに行ったのか、少し声を高めながらも質問攻めしてくるスプリングフィールド。

その姿に少し押されつつも、手を上げて制止する。

 

「落ち着け。取り敢えずコーヒーを淹れてくれ。質問は一つずつ答えよう」

 

そう促せて彼女を落ち着かせる。

少しして落ち着いたのか器具やらを取り出しはじめ、自分は質問の答えを話し始める。

 

「まず奴らを狩っていたというのは本当だ。理由は…まぁ色々あったと思ってくれればいい。そしては自分は無事で被爆もしていない。でなければ自分はここに居ない」

 

「それはそうですけど…。どうしてそんな無茶な事を…」

 

「先程も言ったろう?色々あった…それだけだ」

 

とは言いつつも、理由の一つは修行を兼ねていたと言えば説教されかねんので黙っておく。

淹れたてのコーヒーが入ったカップが置かれ、一言礼を言って一口飲む。

 

「美味い。…コーヒーを淹れる技術に関してはスプリングフィールドが一番だな」

 

「ふふっ、ありがとうございます」

 

代理人が淹れる紅茶も良いが、スプリングフィールドが淹れる珈琲も良い。

どちらかを選べと言われたら、難しい話になりそうだ。それ位、二人が淹れる紅茶、珈琲は美味しいのだ。

ここまでに辿り着きまでどれ位練習したのかは分からないが、その域に達するまでは決して短くはなかっただろう。流石としか言いようがない。

味を楽しみながら、カフェの自動ドアが開いた。そこに入ってきたのはこの基地でスプリングフィールドと同じ様にそれなりに話した事がある人形だった。

 

「む?おお!お主、来ておったのか」

 

小柄な体型で金髪に白い衣装に身を包んだ人形、ナガンM1895だ。

特徴的な口調から、おばあちゃんと言いたくなるが年寄り扱いされたくないらしいので、ここに所属する面々は彼女の事を「ナガン」と呼ぶようにしている。

そしてここに指揮官が着任したと同時に着任した最古参の人形の一人だ。

故に実力はこの基地では随一と言っても過言ではない。

聞いた話ではもっと身長が欲しいと言っていたが、人形は身長は伸びない筈では?と思ったのは内緒だ。

また彼女は愛用しているリボルバー、フェイクの名付け親だったりする。

まぁその事はまたの機会に話すとしよう。

 

「久しいな、ナガン。射撃訓練場での以来だな」

 

「じゃのう。指揮官から聞いたぞ?お主、S-9地区に行っておったそうじゃな?」

 

「ああ。ある戦術人形の救出にな」

 

「そうかそうか。無事で何よりじゃ」

 

彼女は何かと面倒を見てくる。

曰く危なっかしいとの事で個人的には悪い気はしない。

心配してくれているというのもあるのだが、助言なり注意なり、ナガンが言う事に気づかされる事も度々あるのだ。

 

「そう言えば、あの銃は…フェイクだったかの?使い勝手はどうじゃった?」

 

「悪くない。威力はレーゾンデートルと比べると劣るが反動と連射速度は申し分ない」

 

「あれか…あれと比べるのもどうかと思うのじゃがな…」

 

どこか呆れた表情を浮かべるナガンを見て疑問に思ったのかスプリングフィールドが尋ねてきた。

 

「レーゾンデートル?」

 

「こやつが愛用しているもう一丁の銃じゃ。二連装、装弾数は12。人では到底扱う事はできぬ重量と反動を誇る…正しく化け物銃と言っても過言ではない銃、それがレーゾンデートルじゃ」

 

「それって扱えるんですか?」

 

「扱えるから愛用しているという事じゃの。この男は片手で振り回しておるしの」

 

「え」

 

おい、スプリングフィールド。こちらを化け物みたいな目で見るな。

この身は悪魔だから否定はできないが、それなりに傷付く。

 

「余りいじめないでくれ。大事な相棒なのでな」

 

「分かっておるよ」

 

してやったりと言わんばかりの表情を見せるナガンを見て少しカチンときたので、帽子越しではあるが頭を撫でる。

 

「あ、こら!頭を撫でるでない!子供扱いされるのは心外じゃ!」

 

「気にしてはいるのか」

 

「当たり前じゃあ!年長者は敬うべきじゃぞ!?」

 

「都合が悪い所でそれを出すか?」

 

可愛そうに思えてきたので手を退ける。

若干涙目のナガンの姿が少しだけ可愛らしく見えた。子供と見られても仕方ないのはこれが原因の一つなのかも知れないが、ここはあえて黙っておく。

少し冷めてしまったが、残った珈琲を飲み干し椅子から立ち上がる。

 

「ご馳走。そろそろ店に戻る」

 

「そうですか。またいらっしゃって下さいね?」

 

「善処しよう」

 

そのままカフェを後にして店にへと戻る為、歩き出す。

何だかんだ言って今日は平和に過ごせた一日なりそうだ。




さて次はどうしたものか…。
こっちからコラボとか言ってみるのも良いかなぁと思いつつも…自信がない。文才皆無過ぎる自分にはきつすぎる…。
まぁのんびりやって行きましょうかね…。
また感想とかくれると嬉しいです。まぁ自分、お豆腐メンタルなので…何卒ご容赦…

では次回お会いしましょうノシ


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Act24 Overture

現れたのは見知った顔の者達。
そのリーダーはギルヴァに依頼を持ちかける。



遅れて申し訳ないです…。
風邪を引いたり等々…ドタバタしていました。
さて今回は名前の通り「序曲」。
パーティーはもうちょっとだけ待って…(震え



グリフィン本部。

アンジェロの襲撃により、全て割れてしまった窓ガラスは修繕され、また本部前広場もかつての姿を取り戻していた。社員たちはせわしなく動き回り、仕事や対応に追われ、資料を睨み合い眉間に皺を寄せる毎日。

そして社長であるクルーガーも端末に表示されている情報を見ながら眉間に皺を寄せていた。

今朝方彼宛と送られた報告書。その内容は信じられないものであった。

このままこの一件を放置すれば、会社の信用にも関わり、余計な被害を生み出しかねない。

彼はつかさず携帯端末でへリアンへと連絡を取った。

 

「へリアンか?私だ。…ああ、今し方報告書を読んだ。事態は一刻を争う。…そうだ、彼女達を、404小隊をS-10地区に向かわせてくれ。地区担当の指揮官にも連絡を忘れないでくれ。それと彼女達に伝えて欲しい」

 

 

 

 

 

「悪魔泣かせの狩人へ協力を仰ぐ様にとな」

 

 

 

 

S-10地区前線基地に隣接された建物、便利屋「Devil May Cry」。

店内では何時ものように椅子に腰掛けて本を読むギルヴァと掃除に勤しむ代理人、そして書斎近くで丸まって眠りについているフードゥルの姿があった。

響くのは本のページを捲る音、箒で床を掃く音、そしてフードゥルの寝息。

誰一人とて話をしない状況ではあるが、場はのんびりとしていた。

そんな中、代理人は何か気付いたかの様に顔をあげ、窓から空を見た。

店の周りはそれ程大きな建物は立っていない。その為、見通しを良かったりする。

その事もあってか、彼女は基地のヘリポートへと向かう一機のヘリを見つける事が出来た。

 

「今日は出撃はなかった筈…。となるとあれは…?」

 

「どうした?」

 

そこに本を読み終えたのかギルヴァが代理人へと声を掛けた。

彼は椅子から立ち上がると代理人の元へと寄り、同じ様に窓から空を見上げた。

 

「ヘリ?妙だな、今日は休みだと聞いていたが」

 

代理人と同じ様にギルヴァもそのヘリを見て眉をひそめた。

最近働きづめだった事もあってか、指揮官から実働部隊は今日は原則として休息を言い渡されたと話していた人形から情報を得ていた。当然ながら何となくの会話の中でその事を代理人にも話している。

故に現在動いている人形は街中の状況確認をしているぐらいなのだ。

 

「ええ。…来客でしょうか?」

 

「それなら分からんでもないが…」

 

しかしギルヴァはどこか納得がいかない表情を浮かべる。

同時に朝から感じていた胸騒ぎが一段と強くなったの感じた。

 

(…一つ大きな嵐がやってきそうだな)

 

何となく思ったはそれは後に実現する事になる。

最も彼がそれに気付く事はないが。

 

 

あのヘリが何だったのか知る事もなく時はすぐ去っていく。

代理人は買い出しに出かけ、フードゥルは日課と称して散歩へと出掛けた。

今ここには自分しか居らず、机の上に工具を広げレーゾンデートルとフェイクの整備をしていた。

汚れを取り除き、パーツの消耗具合を確認して、油を差す。

これらを丁寧に行い、最後は組み直しホルスターへと納めた。

少し一息つきながら椅子に凭れ、紅茶でも飲もうかと思った矢先、電話が鳴った。

一休みを邪魔された様な感覚を覚えながらも受話器を手に取り、耳に当てる。

 

「デビルメイクライ」

 

『やっほ、ギルヴァ~』

 

決まりきった挨拶をしてくる奴は一人しかない。

依頼じゃない事に残念に思いながらも相手の名を呼ぶ。

 

「45か。うちに何か用か?」

 

『まぁね。そこでクイズ。私は今どこに居るでしょうか?』

 

「? いきなりどうした?」

 

『良いから、良いから♪』

 

どこに居ると言われても、分かるはずがない。

だがこんな事をするのに何かしらの意味があるのだろうか?

正解するとは思えないが、適当に言ってみるとしよう。

 

「そうだな…。本部か?」

 

『ハズレ~』

 

「だと思った。何処にいるんだ?」

 

『それはね…』

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴方の後ろ』

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!!?」

 

背筋に走った冷たい何かを感じたと同時に素早く後ろへと振り向く。

しかしそこには45の姿はなく、あるのは裏手に続くドアのみ。

 

「…どういうつもりだ」

 

『ごめんごめん。そう怒らないで?ね…?』

 

怒気を交えつつ彼女へと問い詰める。

だが45は笑いながら謝罪。あまりふざけられるのも好きではない、だからと言って酷く怒る気にもなれない。

一つため息をつきつつ、話を戻す。

 

「それで?答えは?」

 

『…正解は』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方の目の前にいるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

癖もあってから反射的にレーゾンデートルを抜いたのは仕方ないと言いたい。

だがすぐそこから聞こえた声に対し、何もしないまま振り向くなど出来なかった。

いつ、どのタイミングで書斎の前に現れたのか分からない。

しかしレーゾンデートルの銃口が向く先には彼女…UMP45は居た。

通信端末を手に、笑顔を浮かべたまま彼女はそこに立っている。何故この基地に、ましてやここに居るのかに疑問を抱いたが、今朝方見た妙なヘリを思い出す。

もしかすればあれに乗っていたのは404小隊だったのではないだろうか。

それなら納得が行く上、胸騒ぎの正体が分かった気もした。

だが全てではない。これ以外の胸騒ぎが起きる感覚を覚えていた。まだ他に何かが起きるというのだろうか?

謎を抱えつつも向けていたレーゾンデートルを下ろしホルスターに収める。

 

「久しぶり、ギルヴァ。元気してた?」

 

「ご覧の通りだ。特に変わってはおらんよ」

 

「みたいね。じゃあ…」

 

「む?おい…何故膝の上に座る」

 

挨拶済ませた後に45は何故か自分の膝の上に座ってきた。

どちらかと言うと彼女は小柄な部類に入るだろう。それもあって、頭が胸元に寄りかかる形になっている。

すると45はこちらの両腕を掴むとそっと自分の前を回した。

遠目から見ればまるで自分が彼女を後ろから抱きしめている形と言っていいだろう。

 

「はぁっ…やっと…やっと…貴方に触れられたぁ…」

 

「変な声を出さないで欲しいのだが?」

 

「無理よ…。だってぇ…ギルヴァの事を思うと、興奮が止まらなくてぇ…」

 

熱に浮かされ、甘ったるい声を聞かせる45。

ゆっくりとこちらへと振り返り、彼女の金色の瞳の奥は黒く濁った様な何を覗かせる。

頬も紅潮しており、何よりも息が荒い。

そこまで来れば自身の危険信号が警笛を鳴らし始めたのが分からない訳ではなかった。

すぐさま彼女を退けようと行動に出るが、読まれていたのか彼女は瞬時に体を反転させてその腕をこちらの首に回そうと伸ばしてきたのだが、寸での所で手首を掴み封じる。

 

「もう…流石にその気にならないわよ」

 

「だったら何をする気だ?」

 

「ハグ」

 

「にしては随分と強引だな。今にもこちらを押し倒しそうな勢いだったが?」

 

「だってあれからずっとお預けをくらったのよ?任務の兼ね合いもあるから仕方ないと言えば仕方ない。でも私からすれば死活問題よ!?一日どころか数週間はギルヴァに触れてなかったら満たされない。それに私が居ない隙に貴方から泥棒猫の匂いがするのよ。だから匂いを消す為に、私の匂いで上書きしないといけないの。だからね、大人しく私にハグされなさい!」

 

流石は戦術人形。

力が凄まじい。普通の人間だったら簡単に押し負けるだろう。

椅子の上で行われる攻防。だがそれは戻ってきた一人の声で強制終了される事になる。

 

 

 

 

「だれが泥棒猫なのでしょうか?」

 

 

 

 

そう。買い出しから戻ってきた代理人である。

何時ぞや見た笑みを浮かべているが目が笑っていない。纏う雰囲気が絶対零度並みに冷たさを感じる。

それに当てられたせいか、突如としてジュークボックスの電源が切れてしまった。

最近買ったばかりなので壊れたとは思えないが、空気を読む技術でも身に着けてしまったのだろうか。

ともあれだ。この状況は非常によろしくない。だがこの状況を何とかするほどの力など俺にない。

そこに裏口から誰かが入ってきた。そこにいたのは…。

 

「こんにちはー!ギルヴァい…る……あれ?」

 

「いい加減起きなさい!この寝坊助!……って…は…?」

 

「ふえぇ……zzz」

 

404小隊の面々だった。

明らかにこの状況に戸惑っており、固まっている。

G11に関しては平常運転の様だが。

しかしこれはもっと収拾が付かなくなったの明白となった。

手を額に静かにため息を付く。

 

「はぁ…」

 

―頑張れよ?

 

こういう時に限って他人事の様に…。やれやれ…。

 

 

その後、何とか事態を収め漸く本題に入る事になった。

どうやら彼女達がここに来たのは、ある任務の遂行に協力して欲しいというものらしい。

その任務内容を小隊長である45による説明が始まる。

 

「今回ギルヴァに依頼したいのは、人権保護団体の過激派が拠点としている基地の制圧とある人物の始末に協力してほしいの」

 

奴らか…。それに過激派となれば。

 

「詳しく聞かせてくれ」

 

分かったと言いながら彼女は手に持ったタブレット端末を操作しそれを見せてきた。

そこに映るのは過激派が拠点としている基地全体の風景と場所と一人の男の画像。

ん…?この男が着ている服…グリフィンの制服じゃないか…?

 

「ここの連中は部隊とはぐれてしまった人形を捕えては闇市のオークションに出したり、何らかの理由で親を亡くし民間用人形に育てらている子供を異端児と称して誘拐、人身売買を糧にする商人に売り出した。極めつけは見せしめに子供を殺害するという…吐き気を催す程の事をやっているわ」

 

「…」

 

「だけど、それなら他の基地の面々に任せる事が出来るのだけど…今回は少し訳が違うの」

 

「この男か?」

 

画像に映し出されている男へと指さす。

それに対して45は頷き、説明を続けた。

 

「実はこの男、過激派のメンバーだったらしいの。現にこいつが所属していた基地の戦術人形達は謎の失踪を遂げているわ。大方この男が売ったと見て良い。そしてこいつをこのまま放置すればグリフィンの信用は地に落ち、重要な戦力を失う羽目になる。そこで本部は私達に男の始末を。同時に表でグリフィンの戦術人形部隊が基地を制圧するという作戦が展開されたわ」

 

一度作戦は行われた。

だが依頼するという事は…。

 

「だが作戦は失敗した。…何があった?」

 

「これを見て」

 

タブレット端末を操作し次に写し出されたのは映像だった。

どうやら作戦に参加した人形のメモリからコピーしたものなのだろう。

彼女視点で映像は流れていく。狭い通路でアサルトライフルを手に激しい銃撃戦が行われている。

そして放たれた攻撃は敵に命中し、また一人、また一人と過激派のメンバーは倒れていく。

そこまでならまだ普通だろう。しかし次の瞬間衝撃的な光景が流れた。

 

―こいつは…

 

その様子に蒼も驚きの声を上げた。

そこに映るのは死んだ筈の過激派のメンバーの死体を破って化け物が現れたのだ。

それも一体じゃない。何体も化け物が死体の中から現れてくる。

そして化け物たちは彼女、そして仲間たちへと襲い掛かかり再度戦闘が開始される。

運が良い事に化け物には弾丸は効いているみたいだが、如何せん動きが速く苦戦を強いられていた。

結局の所、化け物たち相手に勝てたものの被害が大きくなってしまった為撤退する形になっていた。

 

蒼…こいつは…。

 

―ああ。死体から出てきたのは悪魔だ。寄生するタイプで宿主が死んだ時に動き出す。動きは速いが固くはない。人形の武器でも対処出来る。

 

だが何故悪魔が…?

 

―恐らく潜んでいたんだろう。アンジェロの様に奇跡的にこっちに流れ着いた。だがこの手の悪魔は親が居ないと寄生なんて出来ない筈。となると…。

 

画像の男が親玉であり…悪魔という訳か。

 

「作戦は失敗し撤退。私達は撤退する前にG11による狙撃で男を始末しようとした。放たれた弾丸は男の頭の真ん中に風穴を開けた。だけど奴は生きていた。まるで何もなかったかの様に傷はなく、そしてこっちの位置を分かっているかの様にこちらを見ていたわ。流石に危険と感じ私達も撤退」

 

「だがE.L.I.Dではない何かと感じ、本部は君たちをこちらに送り、そして俺達に依頼したという訳か」

 

「そういう事。今の所他の地区の指揮官にも参加要請しているみたいだけど、どうなるか分からない。最悪S-10地区基地の部隊と私達と貴方達で行うかも知れない。でも報酬はちゃんと払う。だからあなたの力を借りたいの」

 

この男はそうだが。

過激派のメンバーもやっている事は最早人間の所業とは思えない。

言うなれば奴らは人の皮を被った悪魔と言って差し支えないだろう。

また見知った者が死ぬ様等見たいと思わない上にこの依頼を断る理由がない。

 

「良いだろう。その依頼受けよう」

 

「そう言ってくれると思った。流石私のギルヴァね」

 

「まだ誰のものにもなった覚えはないが…。それで作戦決行は何時になる」

 

「明後日。明日は準備と休養といった所ね」

 

何よりも只々今を、明日を生きようとしている子供たちの命を軽んじた事。

人形を軽んじた報いは…死を持って償ってもらうとしよう。




今回はここまで…。
多分、後2~3話続くかもと思われる。
またこの基地制圧の話、コラボ依頼で出すかも知れないです。
と言っても本決まりではない上、細かい内容も決まっていないので期待しないでください…。


それとこの作品以外でドルフロを題材にした小説を書こうかなと思ってたり…。
一応鉄血のオリ人形を主人公した小説を書こうと思いつつも、他の作者様もそう言ったのを書いてたり…まぁこれも本決まりではないので期待しないでくださいな…。

ではまたお会いしましょうノシ


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Act25 Let`s Lock!

作戦に向けて彼らは準備を始める。
そして今夜、パーティーの始まりが告げられる。


明日に大規模作戦を控え、代理人とフードゥルには準備等をしておく様に伝えた後、自分は指揮官が居る執務室にへと向かっていた。

基地内も作戦の事があって慌ただしく、出撃が決まっている戦術人形達は各々準備をしていた。

奥まで続く廊下にブーツの底が当たる音を響かせ執務室へと向かう最中、一人の戦術人形が窓越しから外を眺めていた。

銀髪に紅い瞳、黒いコートを羽織り、制帽を被った戦術人形…Kar98kがそこにいた。

彼女とは一度だけであるが会話をした事がある。最も何を話したのか覚えていないが。

どこか決意と迷いの双方を感じさせる表情を浮かべるが、その根幹にあるものは彼女にしか分からない。

下手に声をかける気にもなれなかったので、そのまま通り過ぎていこうとする。

だがそれは叶わず、こちらに気付いた彼女が声を掛けてきた。

 

「あら、ギルヴァさん。ごきげんよう」

 

「ああ、ごきげんよう。外を眺めていたが…何かあったのか」

 

「やだ、見ていらしたので?」

 

その問いに頷き、彼女の隣に立つ。

 

「偶然ではあるがな」

 

「そうですか…」

 

会話が止まる。

明日に作戦を控えているというのに、この場所だけ静けさを残っている気がした。

お互いに沈黙を貫き、会話は始まらず、時間だけが過ぎて行く。

このまま彼女の口から出る話を待つか、自分から聞き出すか、二つの選択肢が頭の中で浮かんだがそれを決める前にカラビーナがこの沈黙を破った。

 

「今回の作戦に私も出撃する事になりましたの」

 

「…」

 

「従来通りの作戦とは違い…E.L.I.Dとも違う存在。…悪魔でしたか?…攻撃が通ると分かっていたとしても…」

 

「…不安か?」

 

「ええ…」

 

分からない話ではなかった。

自分自身が悪魔であるが故に、そしてアンジェロと戦った事もあって悪魔という存在は知っている。

404小隊のメンバーも俺を通して悪魔という存在を知った。

だが今回の作戦に参加する面々はどうだ?

倒した敵の死体の中から食い破って出てくるのはE.L.I.Dとも全く違う別の存在。

銃弾による攻撃が効くと分かっていたとしても不安になるのも無理もない。

 

「状況は違うが、少しだけ不安を和らげる方法がある」

 

「それは…?」

 

「…手を出してくれないか?」

 

「え?あ…はぁ」

 

戸惑いながらも差し出されたカラビーナの右手を両手で優しく包む様に握る。

 

「母がよくやってくれた方法だ。こうやって誰かが自分の手を握ってくれるとどこか安心する」

 

「…指揮官の手とは違い、大きく、ごつごつとした手ですこと…」

 

「嫌だったか?」

 

「いえ…。貴方なりの優しさがこの手から感じられますわ…」

 

「そうか…。…不安は少し和らいだか?」

 

「ええ。おかげさまで」

 

そうかと言って、手を放す。

しかしまさかこれを教える事になるとはな…昔の自分が見たら何て言うか。

全く…人生というのはつくづく分からないものだ。だが悪い気分ではない。

 

「不安が少し和らげたのなら良かった。そろそろこれで失礼する。…明日の作戦では宜しく頼む」

 

「ええ、こちらこそ。ギルヴァさんの力、この目でしっかり見させて頂きますわ」

 

そうか、とだけ残して自分は背を向けて歩き出す。

少し寄り道をしてしまったが、特に問題はない。

 

この後で指揮官に出撃する部隊の事を教えてもらった。

この基地における最高戦力であるらしく、カラビーナもその一人であった。

また他のメンバーは、AR戦術人形 FAL、SMG戦術人形、スコーピオンとVector、HG戦術人形、アストラ。

FALはあの時出会った彼女だ。まさかここの所属だったとは思わなかったので会った時は内心驚いた。

スコーピオン、Vector、アストラとは会った事はないので一度顔合わせしておきたい所であるが、こちらも準備で忙しいのもあり、会うのは作戦決行前となってしまったのだが…。

どうやら指揮官が前もって伝えてくれたらしく、こちらの事はまっかせてー!と代表してスコーピオンが指揮官に伝言を頼んでいたらしい。

どんな娘かは分からないが、その言葉を信用するとしよう。

 

時は過ぎ去り、ある場所へと来ていた。

そこはこの地区内でひっそり経営している武器屋。多くの銃器、弾薬、その他諸々といった商品を取り扱っており、利用するのは初めてではない。

扉を開き、店内へと入るとカウンターで何らかの作業している店主の姿があった。

こちらが訪れた事に気付いたのか、ゴーグルを外して頬に付着した汚れをぬぐいながら話しかけてきた。

 

「いらっしゃい。例のものは出来ているよ」

 

「助かる」

 

店主は椅子から立ち上がると奥の部屋へと引っ込んだ。

だがすぐさま戻ってきて、カウンターの上にそれを置いた。

それはフェイク用の45口径弾とレーゾンデートル用の弾薬、そして専用のスピードローダーだ。

一週間前に頼んだ筈だったのだが、随分と仕事が速いものだ。それに手抜きすらしていない。

もはやそれは職人の域に到達していると言っていいだろう。

それもその筈。この店主、時間さえあれば様々な弾薬や戦闘に役立つ備品を自主制作、挙句の果てには銃の改造をしているのだ。材料等はどうしているのか知らないが…。

流石に専用の予備弾倉を作ってほしいと頼んだ時は驚かれたが。

 

「いやはや。弾薬とはともかく、こんな予備弾倉を作る羽目になるとは思わなかったよ。まぁ作りごたえがあって悪くなかったがな」

 

「そうか。代金はここに置いておくぞ」

 

「あいよ、毎度あり。それと約束、守ってくれよ?」

 

「分かっている。ほら」

 

ホルスターからレーゾンデートルを抜き、それを店主の前に置く。

それを見た店主は目を見開きつつも、それを眺めていく。

 

「はー…これはまた凄いもんだ。連装化された銃身、シリンダーの薬室は12。それであって同時に弾を放つ特殊機構…。長い事銃の携わる仕事をしてきたが、こんな銃は初めて見た。てかこんな銃を作るなんざ、そいつ相当の変態だぞ。まぁこんなおもてぇ銃を片手で扱うあんたもそうだがな」

 

「酷い事を言ってくれる…」

 

「でもまぁあんたとっては大事な相棒なんだろう?大事にしなよ?女を扱う様にな」

 

「彼女もいないのでな、その扱いがどういうものかは良く分からないが…。大事にするつもりだ」

 

レーゾンデートルをホルスターに納め、品を手に取る。

そのまま店を出ていこうとした際に、カウンターから少し離れた所に配置されたガンケースの中にあるものがこちらの視線を引いた。

そこに置かれたあったのは水平二連装ショットガン。だが改造を加えているのか弾倉が装備されている。

店主が改造したのを商品として売り出しているのだろうが、買い手が居ないのかそれは静かに眠っていた。

 

「それが気になるか?」

 

「ん?…ああ。これは店主が?」

 

「まぁな。この店を開いた始め辺りに商品として出してな。それにこれは俺が初めて改造手掛ける様になったきっかけを作った一品だ」

 

「きっかけを作った銃なのに、商品として売り出すのはどうなんだ?」

 

「よく言うだろ?孫にも旅をさせろって」

 

「この銃も孫という訳か」

 

銃の事は詳しい方ではない。

だがこの銃は待っている様にも思えた。誰かの手によって外へと出る事を待っているかの様に。

 

―買うのか?

 

店主の初めての力作だ。それにこいつも外の空気を吸いたかっている。

 

「店主、この銃、幾らだ?」

 

「ん?それはどういう…」

 

「そのままの意味だ。幾らで買える」

 

「そうだな……。タダでやるよ」

 

「何…?」

 

きっかけを作った銃なのに、タダで言い出した店主に驚いた。

そんな安易に言っていいものなのだろうか?

 

「今の今までこいつを眠らせていた俺にも責はある。贖罪にしては大袈裟かも知れんがな」

 

「…良いのか?」

 

「構わんよ。だがこれだけは守ってくれ」

 

「何だ?」

 

「そいつが壊れたり、故障した際は必ず俺の所に持ってきてくれ。他のとこに修理させる様な真似はしないと約束してほしい」

 

その瞳は親だった。

彼にとってはこの銃も大事な孫同然という訳か。ならばその約束を破るつもりにはなれないな。

 

「分かった、約束しよう」

 

「決まりだな。大事に扱ってくれよ」

 

店主はガンケースからその銃を取り出し、丁度良い箱に梱包してこちらに差し出した。

それを受け取り、自分は店を後にする。

その直後。うっすらとだが…「しっかりやれよ…」と彼の声が聞こえた。

その言葉は初めての力作に向けられたものなのだろう。とても優しい声だったと言っておこう。

 

 

「ただいま」

 

「おかえりなさいませ」

 

武器屋から店に戻ると代理人が迎えてくれた。

彼女の方もあらかた準備の方は終えたのだろう。最終調整でシルヴァ・バレトの整備を行っていた。

買ってきた品を机の上に広げ、専用の予備弾倉に13mmの弾を装填し、ガンベルトの腰に当たる位置にいくつか吊り下げた後、店主から貰った力作を箱の中から取り出す。

水平二連装ショットガン。排莢と同時に次弾装填が行われる機構が備わっているみたいだ。

最初の作品にしては、良くこの様な機構を思いついたものだ。

レーゾンデートルを作った奴を変態だと言っていたが、彼も十分変態だ。

 

「おや、買ってきたのですか?」

 

「いや、店主がくれた」

 

「まぁそれは気前の良い事で」

 

「確かにな」

 

取り敢えず名前を付けなくてはならないが、ゆっくり時間をかけている暇はない。

今度名前を考えるとして、ソファーに腰掛けてシルヴァ・バレトを整備をしている代理人の隣へと腰かける。

 

「どうかされましたか?」

 

「少し話をしようと思ってな」

 

「それは愛の告白?それとも今から部屋で二人っきりの時間でも過ごすお誘いでしょうか?」

 

「そうでない事ぐらい気付いているだろうに」

 

「ふふっ。ええ、気付いていますわ。…今回の作戦の事についてですよね?」

 

「ああ。…作戦の流れは大方分かっているな?」

 

そう。

今回の作戦の流れは、404小隊を乗せたバンで敵拠点に真正面から突撃。

そのまま敵を一掃した後、自分と404小隊が内部に侵入し道中の敵を排除しつつ目標の一つである裏切り者の排除を目指す。

また基地内部の制圧は代理人、フードゥル、S-10地区の第一部隊、そして今回援軍として参加する面々で行う形となっている。

そういう事もあり、今回は彼女とは共に行動出来ないのだ。そして今回は悪魔が相手になる。

フードゥルも一緒にいるので大丈夫と思いたいが…。

 

「ええ、分かっていますよ。それに貴方と一生の別れを向かえるつもりはないのでご安心を。濃厚で官能小説並みの一夜を共に過ごすまで死ぬつもりはないので」

 

「最後の部分がなければまだマシだったのだがな。…無理はするなよ」

 

「ギルヴァこそ。無理をしたら承知しませんので」

 

「…肝に命じておこう」

 

「ええ、肝に命じてください」

 

ソファーから立ち上がり、自分は書斎の椅子に腰掛ける。

作戦までまだ時間はある。このまま時が来るまでのんびりするとしよう。

のちに再度ブリーフィングが行われるだろうから…今は身を休めておくとする。

そして相棒にも声を掛けておく。

 

頼むぞ、蒼。

 

―あいよ、相棒。おいたが過ぎた奴らを泣かせるとしようか。

 

 

 

 

辺りは闇に包まれ、バンもエンジンを消してその時を待っている。

運転席の代理人はその時が来るまで目を伏せて待っており、荷台の方では404小隊の面々とフードゥル。

奥は暗く上手く見えないが、うっすらと人権保護団体の過激派が拠点としている基地が見える。

S-10地区から離れたゴーストタウンの中で、まるで自分達が支配者と言わんばかりの大きさだ。あの中にどれ程の敵が、悪魔が潜んでいるのか分からない。だがやらなくてはならない。

恐らくあの基地の中には、囚われている人形達や子供たちが居る。無視はできない。

 

『S-10地区第一部隊隊長、カラビーナ。配置に付きましたわ。他の方々も配置に付いた模様ですわ』

 

「分かった。ありがとう、カラビーナ」

 

『いえ。ギルヴァさん…ご武運を』

 

カラビーナとのやり取りを終え、代理人、そして404小隊とフードゥルへと視線を送る。

全員静かに頷き、いつでも行けると言わんばかりの様子だ。準備は整った。

後は配置に付いた面々にパーティーの開幕の合図を知らせるだけだ。

 

「始めましょう」

 

代理人がバンのエンジンをつける。

バンも調子がいいのか、高らかにその雄叫びをあげた。

アクセルを踏み、徐々にそのスピードを上げていき、段々と基地の正門へと迫っていく。

悪路だと言うのに気にせず、ガタガタと車体を揺らしながらも止まる事は決してない。

正門が見える。護衛が二人いるが気にしない。それどころか敵がこちらに気付き、銃を撃ってきた。

 

「このまま行きます!」

 

―うむ!

 

「行くよ!9!」

 

「分かっているよ、45姉!」

 

「今回は眠るんじゃないわよ!」

 

「…分かってる!」

 

―さぁ、マジな遊びをしようか!なぁ、ギルヴァ!

 

「ああ。そのつもりだ!…パーティーの時間だ…!」

 

 

 

―「「「「「「Let‘s Lock!!」」」」」」—

 

 

 

バンは正門をぶち破り、基地内へと突撃をかます。

パーティーの始まりの知らせを高らかに響かせた。




今日は一端ここまで。
次はギルヴァ&404の面々で敵の親玉の元へと目指します。
え?コラボはって?

一応依頼するつもりではありますが…完全お任せになってしまうけどいいかい?
ネタに困っている、しゃーない、やったるわという方だけどうぞ。
あとで活動報告の方でコラボ依頼の方を投稿するのでしばし待って下され。


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Act26 悪魔舞踏

始まった作戦。
襲い掛かる敵を排除しつつ、彼らは目標へと目指す。






書きたい事が沢山あったから長くなってしまった…許して…(震え


敵基地に正面から突撃した事により敵は少し間だけではあるが混乱を見せつつあった。

だがそれも時間の問題であり、どこからともなく武装した過激派メンバーがこの広場へと姿を見せる。

このままではバンに集中砲火を喰らうのも時間の問題だ。素早く車外に飛び出てて、敵の第一陣を始末する必要がある。

 

「先に行く。代理人、フードゥル…内部の制圧は任せるぞ」

 

「お任せを」

 

―承知。

 

無銘を携え、45とアイコンタクトを交わす。

そしてお互いに頷くと、彼女達は後部ドアから飛び出し、こちらは助手席から外へ大きく跳躍。

空高くへと飛びあがり、驚愕の表情を浮かべ隙を晒している敵の一人に向かってレーゾンデートルを引き抜く。

狙いを定め、引き金を引く。連装化された銃身から13mmの弾丸がはじき出され、敵の頭部へと吸い込まれる様に風穴を作り、血飛沫が舞う。そのまま敵陣の真ん中へと降下、着地したと同時に居合の態勢から刀を抜き放つ。

 

「ふっ…!」

 

円を描く様に周囲の敵の体へ横一閃。

噴水の如く血飛沫から舞い上がり、敵の体が真っ二つに分かれる。

これが人であったら、絶命しているだろう。だがこいつらは違う。

それを指し示すかの様に、敵の亡骸を食い破って―

 

「「「GUOOOOOO!!!」」」

 

―悪魔が姿を現した。

人とは思えぬ灰色の体。悪魔らしさを知らしめているのか頭部には歪んだ角。あからさまに異様と思える鋭利な牙と爪。

まだ二足歩行の点で雀の涙程度には人の形をしているが、それだけだ。

血の様に染まった目を光らせ、雄叫びを上げ勢い良く数体の悪魔がこちらへと襲い掛かってくる。

鋭利な爪で切り裂こうと、鋭利な牙で食い殺そうと。

だが…

 

「この命…くれてやるつもりはない」

 

一度刀を鞘へと納め、そっと目を伏せた。

 

 

 

襲い掛かる悪魔。

命を狩り取らんとする鋭利な爪が彼へと振り下ろされようとする。

にも関わらず、ギルヴァは静かに目を伏せてそこで立ち尽くしていた。

が、次の瞬間彼はその目を開き、素早く後方から迫る悪魔を納刀した状態の無銘で地面に叩き付けるとそのまま流れる様に前傾姿勢を作り地面に蹴る。形は疾走居合と同じ。

高速で前方の悪魔との間合いを詰めると勢い良く抜刀しつつ飛び上がる。宙へ舞い上がりつつ螺旋を描く様に回転しながら同時に巻き込みながら二体の悪魔を斬り裂いた。

だがもう一体残っている。その事を忘れている彼ではない。

上手く体を動かし、空中で態勢を変えると地面に叩き付けた悪魔に対し追撃と言わんばかりの一撃を振り下ろした。

 

「寝ていろ!」

 

急降下からの一撃は悪魔の体を簡単に縦二つへと切り裂く。

地を這う様に広がる血だまり。絶命した悪魔が再度動き出す事はなく、紅く光らせていた目は光を失う。

それを見向きもせずギルヴァは交戦中の404小隊の方を向いた。

 

「立ったまま死ね!」

 

「消えちまえ!」

 

只々真っ直ぐ突っ込んでくるだけか、UMP姉妹の攻撃により成す術もなく鉛弾の嵐によって悪魔達は蜂の巣へと変えられていく。

撃たれた箇所から鮮血が吹き出し、また一体、また一体と魔界の生物は倒れ伏せていく。

後方では小刻みながらも己の名を冠した銃を撃つ416もG11も負けていない。精密な射撃でほとんどの敵の頭部、また胸部を撃ち抜き、命を刈り取っていく。

悪魔達を相手に圧倒する彼女達の姿は、正に悪魔狩人と言えるかもしれない。

そう思いつつもギルヴァは周囲の状況を確認した。現在の所、敵は先程404の面々が倒したので最後。

バンの中には誰もおらず、代理人もフードゥルも内部へ侵入したと思われる。

現に他の箇所から銃声やら爆発音、あまつさえは落雷の音がが響いているという事は、敵は各個撃破に動き出したと彼はそう判断した。

敵は決して固くはない。だがその分機動力に長けている。一瞬でも隙を晒せばやられるだろう。

ギルヴァを含め、この戦場に居る者全員がそれを理解している筈だろう。

 

「ギルヴァ!行くよ!」

 

「ああ!」

 

45に呼ばれ、彼は彼女達と共に基地内へと侵入。

長い廊下をかけながら、彼はひっそりと願った。

 

(どうか無理だけはしないでくれ)

 

「居たぞ!」

 

「人形に媚を売る愚か者に制裁を!!」

 

「撃て!撃てえぇッ!!」

 

角から飛び出してきた敵の集団に気付いた404は即座に近くの部屋へと飛び込んだが、ギルヴァはそのまま駆け出し突撃。飛んでくる弾丸の嵐に対し、刀を抜刀し素早く振るいながら切り落としつつ距離を詰める。

幻影刀を一つ展開し、敵の一人へと投射。群青色の刀が嵐を掻い潜り敵の肩に突き刺さった瞬間、黒き残像が廊下を奔り、一瞬にして敵との距離を詰めた。

 

「「「!!!???」」」

 

離れていたというのに、気付けば自分達の目の間にいるという状況に過激派メンバーも言葉を失い、つい銃を撃つの疎かになってしまう。それが隙となりギルヴァは即座に無銘を振るった。

 

「ふんッ…!」

 

鞘で殴打した後に、つかさず居合の態勢へ切り替える。

左手で鞘を、右手で柄を掴み、無銘の鯉口を切った。一瞬だけ見えた煌きの瞬間、一撃が放たれる。

鋭く、かつ神速とも言える一撃は彼らに攻撃の瞬間すら与える事もなく胴へと喰らいつき、真っ二つに一刀両断。そのまま刀身を鞘に納め、彼は静かに警戒する。

これからどうなるのかもう分かっている。敵の亡骸が突然膨らみ、中から悪魔が出てきた瞬間彼はその場から大きく後ろへと跳躍。一度着地すると再度後ろへ後退。

 

「やれ!」

 

「りょーかい!」

 

ギルヴァの声に部屋から404の面々は姿を出す。

迫りくる悪魔達へと狙いを定め、引き金に指をかける。

前もって考えた訳ではない。即座に行われた陽動作戦だ。45はギルヴァが後退し始めた辺りでそれに気付き、呼ばれるのを待っていた。

まるで言葉にしなくても彼と意思疎通出来ているかの様な感覚が彼女の体に熱を入れる。

ハイライトは静かに消え去り、誰にも気付かれぬ様に口角を三日月状に歪める。

そして彼女はギルヴァがかつて口にした言葉を発する。

 

Jack Pot(大当たり)

 

それを合図と言わんばかりに銃声が連続して響いた。

 

 

彼らは襲い掛かかってくる敵を排除しつつ、対象がいる…この基地の通路から繋がる数十階はあるであろう塔の最上階にある部屋へと目指していた。駆け抜けていった跡には壁や床、窓が血で赤く染まっており、そこらじゅうに悪魔の死体が転がっている。

一体は斬り伏せられ、一体は蜂の巣にされ…。誰がやったのか言葉にしなくても分かる。

未だに聞こえる戦闘音が辺りに響き渡り、開戦始めよりもその激しさは増していた。

仲間やS-10地区の面々、そして援軍として来てくれた者達の事を心配しながらギルヴァは先頭を駆ける45達の後についていく。

 

「この階段を上がってすぐの部屋に目標がいるわ。ギルヴァ…相手は貴方に任せていい?」

 

「元よりそのつもりだ。行こう」

 

最上階に繋がる階段へと一歩踏み込んだ瞬間、突如として彼の足元を中心に闇が広がった。。

まるで狙っていたかの様な事態に誰も素早く反応できず、彼は闇に飲み込まれていく。

四人の中で一番早く反応した416が腕を伸ばしギルヴァも腕を伸ばす。

が、あと少しという所で二人の手は届かず、ギルヴァは暗闇の底へと飲み込まれてしまった。。

 

「ギルヴァ!!」

 

416が彼の名前を叫んだ時には彼の姿はなかった。

闇も蓋を閉じるかの様に小さくなっていき、消失。残されたのは404小隊となった。

誰もが言葉を失う中、416は冷や汗を流した。

まるでギルヴァだけを狙った罠は、恐らく今から自分達が向かおうしている対象の力。

悪魔という存在の力。今の自分達では対応できるのかすら怪しい。

現に奴はG11の狙撃で頭に一発喰らっても生きていた。彼なしでは倒す事すら叶わないだろう。

だがやれらねばならない。これは命令だから。

でも416の手は少しだけ震えていた。だが何とかして抑え込み、頭を下に俯く45に冷静な判断を下してくれる事を願いつつ彼女は問う。平静を保ち、冷静かつ静かに。

 

「どうするの…?」

 

「彼無しではあれを倒す事が出来ない位分かっているわ。でもこのままここで彼を待っていても、対象に逃げれられるかも知れない」

 

45はゆっくりと顔を上げる。

その瞳には光はない。金色の瞳の奥は黒く濁った何かを覗かせる。

彼女から放たれる殺気は下手すれば悪魔ですら裸足で逃げ出してしまいそうな位だ。

新たなマガジンに差し替え、彼女は歩き出す。

 

「彼が来るまで時間稼ぎするわ。…行くわよ」

 

誰も反対の意見を出す事は…否、出せる事もなく彼女の後へ続く。

そんな中、45は内心業火に等しい黒き炎を滾らせ、誰にも聞こえぬ様に呟く。

それは彼を自分と離れ離れにしてくれた対象に対する殺意と言ってもいいだろう。

 

「アハハッ……やっと会えたァ……ホントウ ニ 殺シタイ奴…!!」

 

この戦場に誰もが「死」を感じてしまう位の殺気を放ちながら、本当に殺したい奴の元へと向かった。

 

 

一方闇へと飲み込まれてしまったギルヴァは絶賛急降下の真っ最中だった。

本来であれば焦る場面であるが彼は冷静に先程の現象を内に存在する蒼へと質問をぶつけていた。

 

「どういう事だ…あれは罠か?」

 

―それも転移系のな。恐らく奴さん、お前が一番の障害と判断したんだろう。

 

「ピンポイントで狙ったのもその為か」

 

闇が抜けた先で彼は一回転して着地する。

辺りは薄暗く、そして漂う血の臭いと腐臭に顔をしかめた。

悪魔だから嗅覚は鋭く、ここに降り立った時点で彼はそれを感じ取っていた。

酷い臭いに何とか堪えつつ、ギルヴァは周りを見渡す。

 

「…地下牢か」

 

本来は別の用途に使われていた地下を無理矢理、地下牢へと作り上げたのだろう。

いくつかの牢屋の姿を彼は捉えていた。冷静ながらも静かな怒りを露わにし、ここから出る方法を探り始める。そんな時、薄暗い空間に声が響いた。

 

「無駄ですよ」

 

その声の主の方へと彼は素早く振り向く。鉄格子の先に居たのは黒き衣装を身に纏った女性の姿。

頭には白き花の飾りをつけ、45と似た金色の瞳がギルヴァを見つめていた。

一瞬レーゾンデートルを引き抜きそうになったが、閉じ込められている点から彼は敵ではないと判断。寧ろここに閉じ込められている一人だと感じ、先程の言葉に対し質問を投げかけた。

 

「どういう意味だ」

 

「そのままの意味です。ここに来てしまえば誰も逃げ出す事は出来ない。一度逃げ出そうとした事もありましたが、どうやら見えない壁に塞がれているみたいです」

 

―なるほど。地下全体を囲んでいる魔力の正体は結界という訳か。道理で妙な魔力な訳だ。

 

蒼はここの魔力をギルヴァが降り立った瞬間感じ取っていた。

流れが妙だと感じ取ってはいたらしく、彼女が言った「見えない壁」を聞いて全て理解した。

何故ここに閉じ込めたのかはともかく、こうまでして逃がさない様にするには理由がある。そしてその理由が商品として売り出す為のものだと言う事も。

同じ悪魔として蒼はこの行いに嫌悪感を示す。もし自分に肉体があったら、細切れにしてやると思うほどに。

 

「それに…"あれ"が居てはここから出る事もできない」

 

「"あれ"?…ッ!」

 

何か感づき彼は地下の奥を睨んだ。

暗闇から何かがゆっくりとやってくる。人ではない、それ以外の何かがゆっくりと。

時々聞こえる呻き声。奥底から姿を見せたのは一体の悪魔だった。

だが彼が相手してきた様な人型ではなく、それはまるで蟷螂の様な姿をしている。

両手は鋭く弧を描いたまるで死神の鎌の様で、無数の紅い目を輝かせる。他のとは段違いに大きな体格を有している。

ギルヴァを餌だと認識したのか、或いは自分の縄張りを踏み入れた侵入者を排除しようと思ったのか、その悪魔…「エンプーサクイーン」は叫びをあげる。

現れた地下牢の主にギルヴァはエンプーサクイーンを睨みつつ、静かにそれの前に立った。

地下牢で閉じ込められていた戦術人形のAUGはその彼の行動を静かに見守る。名も知らぬ黒コートの彼が何をするのか分からない。だが命乞いをするとは思えなかった。彼から放たれる蒼く静かな何か…言葉では表しづらい雰囲気がそう思わせるのだ。

魔虫の女王が姿を見せた辺りから沈黙を貫いているギルヴァ。彼は静かに親指を鍔に押し当て鯉口を切る。

それを合図にエンプーサクイーンがその体格から想像できない位、大きく跳躍しギルヴァへと飛びかかる。

両手の鎌を勢い良く振り下ろそうとした瞬間…

 

「失せろ…!」

 

怒気を交えつつ鞘から白刃の刀身が抜き放たれ、一閃。

その一撃は巨大な体格を持つエンプーサクイーンをいとも簡単に両断。鮮血を降らし空中で崩れる亡骸が降下してくるが、追撃と言わんばかりにその死体をギルヴァを天井へ向けて蹴り上げた。

重い一撃により天井に叩きつけられるどころか威力が強すぎたのかあまり余って天井を叩き割り、地上へと繋がる大穴まであけてしまう始末。あまりにもあり得ぬ状況にAUGは目を丸くする。

だがギルヴァがエンプーサクイーンを倒した事が功を奏し、地下牢を囲んでいた結界が崩れ、暗闇が晴れる。

おかげ全体の様子がはっきり写し出され、ギルヴァは周りを見渡す。

 

「成程…元々は地下駐車場だったのか。それに手を加え地下牢に改装したという訳か」

 

―ここが地下駐車場だと証明するものとして、そこに使われていないバイクが寝転がっているしな。

 

「…ほう」

 

蒼の言う通り、彼が立つ近場に使われていないバイクの姿があった。

ギルヴァはバイクの元へと歩き出し、それを起こす。

スポーツタイプのバイク。所々塗装は剥げており、走るとは到底思えない。

だがそんなのは彼には関係ない。手を通してバイクに魔力を流し込み、息を吹き込む。すると先程の姿はどこに行ったのか、新品同様の姿をバイクは取り戻していた。

 

(恐らく彼女達も…。急ぐ必要がある)

 

バイクにまたがり、エンジンをかける。

生まれかわり、新たな命を宿したバイクが産声を現すかの様に咆哮する。

そのまま走り出す前に、彼はAUGに向けて口を開いた。

 

「…鉄格子は既に壊してある。早く脱出しろ」

 

「え…?」

 

答えを待たず彼はフルスロットルでバイクを走らせて大きくそれごとジャンプ。そのまま地上へ出ていった。

残されたAUGは彼に言っていた事が俄かに信じ難いと思いつつも、手で軽く鉄格子を押した。

すると鉄格子に斬り目が入り、音を立てて崩れた。

その光景に彼女は彼が去っていた方向を見据えつつ、静かに呟く。

 

「彼は一体何者なのでしょうね…」

 

 

空いた穴から地上へと飛び出た先は代理人とフードゥルと別れた最初の広場だった。

バイクにまたがったまま、彼は塔の最上階を見つめた。

そして見つめた先にあった光景を見て、目を見開いた。ギルヴァの目に映ったのは、本来の姿を見せた対象の姿と片手で持ち上げられ首を絞められもがく45の姿だった。

 

「45ッ!」

 

その声は塔の最上階で首を絞められもがく彼女の耳に届いていた。

何とか反応したいもののできない。

 

「哀れだな」

 

そう言うのは今回の対象である裏切り者で悪魔である男、ヴァンギス。しかしその姿は人ではない。

肌は白く、両肩からは目が存在し、腹の部分には第二の口とも言える何かが開いている。何よりも背からはまるで触手の様な物が無数に飛び出ていた。

突撃した瞬間、攻撃を受け20秒足らずで404小隊は壊滅的な損害を受けた。

9も416もG11も悪魔の相手に成す術もなくやられ地に伏せてしまい、気を失ってはないものの受けたダメージの痛みで悶えていた。痛覚を切っていたとしても何故か痛みが伝わってくる。

 

「ぐうっ…!」

 

「どうした?何も言えないか?」

 

その悪魔は彼女達に一発貰った時から怒りの炎を滾らせていた。

簡単に殺さない。いたぶってから殺すつもりでいた。まず初めに見せしめとして小隊長である45をこの塔の最上階から落とそうとしていた。

 

「45…ねぇ…!」

 

何とか痛みに耐えつつも9は銃を手に立ち上がろうとするが、受けたダメージを予想以上に大きすぎた為か立ち上がる事すらままならない。

その様子を見ていたヴァンギスは嘲笑交じりに鼻を鳴らした。

 

「姉妹愛だな。それも涙すら流れる程のな」

 

「あく…ま…は…涙を流すの…かしら…?」

 

「流すと思うか?貴様ら人形に…最弱である人間どもに…この俺が涙を見せるとでも?」

 

「ええ…見せ、る…わ。あんたを…狩りに来る……彼にね…」

 

「ほざいてろ」

 

ヴァンギスの手が離れる。

その瞬間、45は地上へと落ちていった。

戦場にいた誰もが45が落ちていく姿を目にした。助けようにも自分達は空を飛べない。

だがこの男は違った。

 

「蒼!全開で飛ばせッ!!」

 

―あいよッ!!派手に行くぜえええッ!!!

 

バイクに魔力を流し込み、駆け抜ける黒コートの男の姿を一つ。

マフラーから青い炎が噴き出し、本来の性能を超えた速度で塔へと目指す。

しかしこのまま行けば激突するのは目に見えている。だがギルヴァはスピードを緩める事をしない。

それどころかバイクごと持ち上げる様にジャンプすると、あろう事かそのまま壁の上を猛スピードで昇りだしていった。

上からは待ち伏せていたのか悪魔達が進行を妨げようと彼に襲い掛かる。

 

「邪魔だッ!!」

 

思い切りバイクを回転させて襲い掛かる悪魔達を迎撃。空中でマフラーから噴き出す青い炎を推進力に振り回し次々と悪魔達を叩き落していく。もはやこんな事をすればバイクもいずれ廃車になり兼ねないだろう。

だが彼は止まらない、止まろうともしない。今…危機に陥っている彼女を…彼女達を助ける為に。

態勢を元へ戻したのちに、ギルヴァはバイクから立ち上がりシートを足場に飛び上がった。

落ちてきた45を両手でキャッチし、追いついてきたバイクへと戻る。

 

「ギルヴァ!」

 

「無事だな!このままあれにご挨拶に行くぞ!しっかり掴まっていろ!」

 

「分かった!」

 

ギルヴァの体にしがみつく45。

少しでも力を抜けば振り落とされる。それに壁を走っているのだ。落ちたら二度目の奇跡は起きない。

二人を乗せたバイクは段々とヴァンギスがいる部屋で近づいていく。

そして部屋へと到達した瞬間、ギルヴァは片腕を45をしっかりと抱え、もう片方の腕でハンドルを握った。

バイクの向きを水平にして、スロットを捻る。

最大出力で青い炎を噴き出され、それを利用してヴァンギスへと向かいながら回転。

落ちても安全の位置まで来た時、手放してバイクをヴァンギスへと投げつけた。

 

「ッ!」

 

反動を付け投げられたバイクはヴァンギスの胴にめり込み、思わず彼は態勢を崩してしまう。

よろめいている所にギルヴァがレーゾンデートルを、45が自分と同じ名の銃を構えた。

狙う先はバイク。他の面々には爆発時の影響はない。

 

「つまらないものだけど…」

 

「受け取れ!」

 

レーゾンデートルとUMP45が火を噴く。

撃ち出される弾丸がバイクをヴァンギスに喰らい付き、そしてバイクは魔力を流し込まれ無理が集った反動と撃たれた反動で爆ぜた。

爆発にヴァンギスは巻きこまれ、煙が部屋全体に広がる。

その場にいた全員が腕で視界を防ぐ。そして煙が晴れると部屋の中央に片足を着くヴァンギスの姿があった。

ダメージはあったものの完全にやられた訳ではない。しかし多少ながらその体からは血が流れている。

そこに彼へと近寄る影が一つ。

 

――黒を基調に青い刺繡がほどこされたコートをなびかせ…

 

――手には日本刀状の魔剣「無銘」…

 

――いつも下ろしていた前髪を片手で後ろへとかきあげ…

 

「挨拶代わりに一杯奢ってもらおうか」

 

刀身の切っ先をヴァンギスへと突き付ける黒コートの悪魔(ギ ル ヴ ァ)の姿がそこにあった。




次回はギルヴァvsヴァンギスでございます。
出来るだけ早めに出そうと思いますが、場合によっては遅れるかもなのでご容赦を。

因みに死体から食い破って出てくる悪魔はアニメ版「デビルメイクライ」を参考にしました。
エンプーサクイーンはDMC5から。
ヴァンギスは完全にオリジナルです。

また今回と次回はコラボ企画となっています。詳しい内容は私の活動報告へ。



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Act27 終幕

始まりには終わりがある。
パーティーにも終幕の時が迫っていた。



時刻は既に深夜を過ぎている。

数時間もすれば夜も明ける。だというのに未だに絶え間なく銃声、爆発、落雷の音が響き渡り狂騒が鳴り止む兆しは一向に見えない。

だがそれも幕引きを迎えつつあった。塔の最上階で互いに睨み合う二人が今邂逅したのだから。

 

「…」

 

刀身の切っ先を突き付けつつ、ヴァンギスはゆっくりと立ち上がり、目の前の男を見つめた。

 

(俺と同じ…)

 

一目見ただけでヴァンギスはギルヴァが悪魔だと言う事を察した。

そしてこの男こそが一番の弊害だという事も気づいており、罠にかけたつもりだった。

あわよくば地下牢のエンプーサクイーンに食われていてくれと願っていたらしいが、今ここにいるという事は女王は破れたという事を示していた。

だがヴァンギスは元より期待などしていなかった。ギルヴァから感じられる隙の無さから、たかだか魔虫の女王如きにやられるなど思っていなかったからだ。

やはり自分の手で屠るべきだと。

 

「挨拶代わりに一杯奢れと?…随分なご挨拶だな」

 

「…最も外道が出す酒など飲む気にもなれないがな」

 

「そういうな。同族のおごり…有難く受け取るが良い!」

 

ヴァンギスの背中から飛び出している無数の先端が鋭い触手がギルヴァへと襲う。

飛んでくる攻撃にギルヴァは右へ左へと跳躍しつつ回避。そのまま回避行動を取りつつレーゾンデートルを放つ。

触手を迎撃しつつ、彼はヴァンギスへと挑発をかます。

 

「同族?貴様ほど堕ちてはいないがな」

 

「堕ちようが、堕ちまいが同じだろうがッ!」

 

「残念だが人を捨てた覚えはない。その空っぽな頭に刻んでおくんだな」

 

放たれる弾丸。

一回、二回、三回と13mmの弾丸がレーゾンデートルの銃口から放たれていく。

そこでレーゾンデートルの弾が尽きる。即座に弾倉を取り出し、空薬莢を排莢。上手い事スピードローダーを自身の後方かつ上へと放りあげると、彼はその場で一回転した。

ローダーから弾丸が離れ、そして息を合わせたかの様に12の弾丸はシリンダーの薬室へと納まり、回転の勢いを利用しシリンダーを元に戻すと再度ヴァンギスへと狙いを定めるが――

 

「流石に銃では埒があかないか…」

 

そう呟きつつ、ギルヴァはレーゾンデートルをホルスターに収め無銘の柄に右手を添えた。前傾姿勢で低く構え、そして左手の親指を鍔に押し当て鯉口を切った。

鯉口を切る音が部屋全体に澄み渡る。その瞬間――

 

「ふっ…!」

 

地を蹴り駆け抜ける黒き疾風。

間合いを詰め、懐を飛び込みつつ抜刀。

抜き放たれた一撃はヴァンギスの体を軽々と切り上げ、ギルヴァも追従する。

両者が宙へ舞い上がった瞬間、つかさず彼は刀を振るう。右へ一閃から左下へ袈裟斬り。

手首を捻り、下から時計回りに斬り刻むかの様に回転斬り。

そして彼は数回転した後に何故か宙で刀を納め始めた。

 

「馬鹿か!態々隙を晒すとはなッ!」

 

好機と見たヴァンギスは触手を伸ばし、ギルヴァへと放つ。

刃にも似た先端が貫こうと彼へと向かって行く。

しかし、その瞬間――

 

「頭が高いぞ」

 

空間が歪んだと同時に無数の斬撃が触手共々ヴァンギスを斬り刻む。

それは次元斬ではあるのだが、規模が違う。

かつてギルヴァが放ってきた次元斬は比較的小規模かつ斬撃数も多くはない。

だが今放たれたのは大規模かつ斬撃数も段違いの次元斬。

刀全体に魔力を通す時、絶妙なタイミングで放つと発生する次元斬の強化版である。

何故今までしなかったのか?それはそこまでする必要がなかったからだ。寸での所で避けた勘が良い鉄血の人形もいたが、大体は反応できずにやられていった。

しかし目の前の相手は違う。

純粋な悪魔であり、外道である以上出し惜しみする必要などありはしないのだから。

 

「ぐううっ!?ま…まだだッ!」

 

物理攻撃では倒せないと判断したのかヴァンギスは背の触手を束ね翼を形成。

そして両翼を勢いよく前へと羽ばたかせ大型の光弾を放つ。

 

「球技をするつもりはない」

 

が、一直線に飛んできたそれをギルヴァは鞘で弾き返した。

弾き返された光弾に反応が遅れたヴァンギスに直撃。

宙を飛んでいた事もあり、そのまま彼は外へ吹き飛ばされる。この高さで落ちても死ぬ事はないだろうと思ったギルヴァは一度着地すると床を蹴り外へと駆け出す。その時、9を担ぎつつ彼の名を45が叫ぶ。その隣では辛うじて立てる様子だったのかG11が416を抱えている。

 

「ギルヴァ!」

 

「奴を追う。そちらは皆を連れて他の部隊と合流しろ」

 

「分かった!」

 

彼女の返しにギルヴァは静かに頷くと内包する魔力を全面に開放し魔人化を果たす。

四枚の羽を広げ、地上へと急降下していくヴァンギスを猛スピードで追いかける。ギルヴァが追いかけてきた事に気付いたヴァンギスは体を反転させ、小型ながら光弾を放ちつつ触手を飛ばす。

飛び交う攻撃の嵐にギルヴァは刀で迎撃、追撃として幻影刀を無数に展開し投射。ぶつかり合う光弾と幻影刀、斬り落とされていく触手。お互いに距離が段々と縮まっていき、ヴァンギスは拳を、ギルヴァは刀を振るった。

急降下しながら激しくぶつかる両者。攻撃がぶつかる度に衝撃波が飛び、塔の窓ガラスが次々と割れていく。

激しい攻防。だが形勢はギルヴァへと優勢になりつつあった。そんな中、苦しまぎれにヴァンギスが吠える。

 

「何故だ!何故この俺が!この人間界を統べる王となるこの俺が負けるだと!?」

 

「貴様の様な奴が王になると?悪い事を言わん。やめておけ」

 

「何…!?」

 

「確かに力はあるが、それだけだ。見る限り頭も空っぽそうだ。それに特技もなさそうだからな」

 

「貴様ッ!!」

 

挑発を受け激怒するヴァンギス。

それを現すかの様に背から飛び出す触手の数が増える。先程までより段違いの数で触手が一斉に飛ばされる。

それは束ねられ、一つの槍の様に形状を変化させギルヴァへと飛ばされる。

 

「ふっ…!」

 

しかしそれは一刀両断され、バラバラに崩れる触手の中を掻い潜り、ギルヴァがヴァンギスへと急接近する。

複数の幻影刀をヴァンギスの周囲に配置。それを確認するとギルヴァは体を素早く回転させ、踵落としを叩き込もうとした瞬間、配置された幻影刀が一斉に突撃、突き刺さった衝撃により彼の体を打ち上げられる。

それに合わせたかの様に月輪脚からの強烈な踵落としがヴァンギスの頭部に直撃する。

強烈な一撃より彼は一瞬にして地面へと叩きつけられ、広場に轟音が響き渡る。土埃が舞う中、そこに魔人化状態のギルヴァが降り立つ。

 

「…」

 

「…うぐ…ぐうっ……」

 

墜落地点から満身創痍のヴァンギスがよろめきつつも立ち上がる。

威勢が良かった姿から、今の姿は哀れと言えた。まるでそれは奪い去られ命を落とし、また最悪の結末を迎えてしまった者達が与えた呪いの様で。そして呼び寄せたかの様にギルヴァという男に圧倒された。

これは罰なのか、或いは定められた運命なのか。どちらにせよヴァンギスという悪魔の死は刻々と迫りつつあった。

しかしこの悪魔はすがりつくつもりであった。最後の最後の悪あがきをするつもりであった。

 

「…誰にも成し得なかった…!王になる事を…!この俺が王になるのだ…!!」

 

「王、か…。では…これで――」

 

だが目の前の男はそれを許さない。

幼い命を奪い、何の罪もない人形に絶望を与えたこの悪魔を到底許すことなど出来なかった。

誘拐された子供は只々母の名を泣きながら叫んであろう。親の代わりに子供を育てていた人形も幾度ともなく嘆き、悲しんだであろう。

彼も人形に育てられ、その人形に沢山の愛情を注いでくれた。その人がいなければ、今の自分が居ないと言うほどに。

故に彼…ギルヴァは「王」に成り損ねた悪魔に告げる。

 

チェックメイトだ(詰 み)

 

死の宣告を。

居合の構えの状態でヴァンギスとの距離を詰めると彼は素早く抜刀し一閃。

しかしこのままでは終わらない。

ありとあらゆる角度から刀を振るい、ヴァンギスに斬撃の嵐を浴びせる。神速の連撃から逃れる術はない。

腕がぶれて見える程の斬撃の嵐。そして刀を振るう度にヴァンギスへ向けて幻影刀が一つ、また一つを配置されていく。

 

「ふっ…!」

 

斬撃の嵐の最後に横一閃し、ギルヴァはヴァンギスへと背を向けた。

刀を軽く払い、持ち手を変える。刃を鞘に当て、刀身を鞘へと納めていく。

そして鯉口と鞘がかち合う音を響かせた時、彼は静かにヴァンギスに向けて言った。

 

 

 

 

 

「安らかに眠れ」

 

 

 

 

それを合図にヴァンギスへと向けられていた幻影刀が射出された。

魔力で群青色の刀が次々と射出されヴァンギスの体を貫き、そして最後の一撃が胸を貫いた。

「王」になれなかった悪魔は静かに両膝を地につけ、何も成す事無く倒れ伏せた。

言葉を発する事もなければ、動く事もない。足先が粒子となって消えていく。

 

「…」

 

魔人化と解除し、ギルヴァは事尽きたヴァンギスを見下げる。

この基地が、そしてこの広場が彼のある場所だと感じたギルヴァは静かに呟いた。

 

「これが貴様の墓標だ」

 

その呟きにヴァンギスは答える事もなく、粒子となって舞い上がる風と共に消滅した。

すると空の向こうから陽が昇り始めた事に彼は気付く。また戦いの音も消えている事に気付き、耳に付けていた通信機を使って、戦場に居る仲間に告げた。

 

「こちら、ギルヴァ。リーダーは始末した」

 

『こちら代理人。こちらも制圧完了。S-10地区の部隊、そちらは?』

 

『こちらS-10地区第一部隊。こちらも制圧完了しましたわ。それと404小隊の皆さんとも合流しましたわ』

 

次々と制圧完了の報告が通信越しから聞こえ、ギルヴァは安堵する。

また援軍として来てくれていた者がここで囚われていたAUGを保護した報告を耳にしたギルヴァはその者達に礼を述べ、また一つ安堵した。

長い戦いではあったが誰も死んでいない事を嬉しく思い、ついぞ笑みを浮かべる。

 

「代理人」

 

『どうしましたか?』

 

「帰るか」

 

『…ええ。帰りましょうか、ギルヴァ』

 

そのやり取りから察した全員が作戦が完了した事を理解した。

そして勝利した事も。

張りつめていた状況から解放され、誰もが胸を下ろす。

かくして、基地制圧作戦は終幕を迎えたのだった。

 

 

 

 

「疲れた…」

 

本部のヘリやらあちこちに降りてくる中、自分はバンに凭れかけて休んでいた。

代理人とフードゥルは無事。S-10地区の面々も軽傷を負ったが全員無事。

また404小隊は45以外はあの悪魔の攻撃で怪我を負った為、迎えに来ていたS-10地区からのヘリに乗って、先に基地へと戻っていった。45はこちらと一緒にバンに乗って戻るつもりの様だ。

先に戻れと伝えたのだが…

 

「ギルヴァに触れられるチャンスを不意にするつもりはないわ♪」

 

と、笑顔で言われた。まぁ…今回は彼女も頑張ったからな…それ位は構わないか。

 

―お前も…とことん人形に…いや、女には甘いよなぁ?

 

「…否定できんな。そればかりは」

 

前々から分かっていた事でもあったがな。

性格…なんだろうな。やれやれ…自分も人の事言えんな。

いつの日か会う誰かにいじられそうだな…全く。

その後だが、あの時助けた戦術人形 AUGにお礼を言われたり、援軍として来ていた者達と少しだけであるが会話させて貰った。と言ってお礼を言いに行っただけであるがな。

 

 

「はあっ……昇天しそう…」

 

「頼むから変な声を出すな、45」

 

揺れる車内で、助手席に座っている俺の膝の上で45が座っている。

先程から運転している代理人が鋭い眼差しをこちらに向けているが、あえて気づかない振りをしておく。

フードゥルは後ろの方で身を丸めて休んでおり、ジュークボックスからは静かな曲が流れる。

 

「また何時も通りの業務だな」

 

「ええ。と言っても依頼は中々来ませんがね」

 

「耳が痛いな。だがまぁ…のんびりしていて悪くはないと思うが?」

 

「ふふっ、ですね」

 

だが今日、明日くらいは休みにしていいかも知れない。

疲れを癒すには丁度いい。といっても何時もと変わりないがな。

 

 

 

 

 

 

「あ、そうそう。私達、このままS-10の基地で居座る事になったから」

 

「「え?」」

 

「だから、よろしくね?ギルヴァ~♪」

 

―一難去ってまた一難。…二次会かねぇ?




と言う訳で制圧完了です。







まだ締め切りはしていないのですが。
現在、コラボ企画にご参加して下さった方々、この場をお借りしてお礼申し上げます。
ありがとうございます!
あ、まだ締め切りはしていなので、詳しい内容は私の活動報告まで。ではノシノシ


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Act28 一時の休息

作戦を終えて三日後。
何時も通りの業務を始める便利屋「Devil May Cry」。
404小隊を新たな住人として迎えて、何時もの様に過ごすギルヴァ。





今回は短め、許せ…(震え
そして何気なく一日で二話投稿しているというね…。
最も一つは設定集の方ですけどね。


基地制圧戦から三日が経った。

二日掛けて休養を取り、そして今日何時も通りの業務を再開する事になった。

店内には自分、代理人、フードゥル、そして…

 

「あ、待って。まだ読み切れてない」

 

膝の上に座り本のページを捲ろうとしたら待ったをかける45。

 

「あ~…すごいもふもふ…」

 

―ふふっ。まさか我に臆せず抱き着いてくるとはな。

 

フードゥルに抱きつき、柔らかい毛並みを全身で感じている9。

 

「どうぞ」

 

「ありがとう。……美味しい…」

 

「ありがとうございます」

 

ソファーに腰掛けて自分と同じ様に本を読む416に淹れたて紅茶を出す代理人。

 

「zzzz…」

 

休みと分かっているのか416の隣で静かな寝息を立てて眠るG11。

 

何故彼女達がまるで自分の部屋と言わんばかりにうちで寛いでいるのか。

本来であれば基地の、彼女達404小隊に与えられるはずの寮舎が用意される筈なのだ。

では何故か?結論から言おう。

分からない。恐らく主犯である45に尋ねると、彼女は笑顔でこう言ったのだ。

 

「そこはちょっと…ね?」

 

そのちょっとが知りたいと追及すると、教える対価が欲しいと笑顔で言ってきた。

頬を赤らめ、若干熱に浮かされた声と吐息を交えながら。

 

「今からベットに行きましょう…?」

 

流石にそれは不味いと判断。先程の事は聞かなかった事にしてくれと頼み、この件は無しとなったのだ。

それにあの時、丁度近くに居た代理人の雰囲気は言葉では言い表しづらい何かを放っていた事もあり危険を感じた事もあったが。

好意を抱いてくれるのは嬉しいが、一側飛ばしは如何なものかと思ってしまう。こういうのは順序を踏んでいき、最終的には…というのが正解だと思うのだが違うのだろうか。

 

―普通はな。だが奥手すぎるのも良くない。そこは予め理解しておけよ?

 

…分かっている。

 

何時かその答えを出す必要があるのだろう。

だが迷いはある。…こういう時はどうすればいいのか。

その手に詳しい知り合いでも作っておくべきだったかも知れんと内心後悔した。

 

「どうしたの?」

 

「ん?ああ…いや、何でもない。それよりこのページは読んだのか?」

 

「ええ。次のページめくって?」

 

「了解した」

 

45に促され、次のページへと捲る。

誰もがのんびりとした時間を過ごす…午前中の事であった。

 

昼過ぎ。

フードゥルは散歩へ出かけ、自分はこの建物に元から存在していた倉庫へと来ていた。

とは言っても多くの物を送く事はないので、倉庫というより作業場と化しているが。

明かりを付けて、作業台へと歩み寄る。そこに置かれてあったのは、処刑人が使っていたあの大剣である。

最もその姿はあの時とは幾分か変わっている。処刑人が使っていた時は柄の部分が存在しておらず、まるで鉄パイプを持つ様な感じであった。あの時見つけて振るってみたは良いが、やはり持ちにくいという点があった。

まぁ処刑人の片手が巨大な機械手になっていたので、人間が振るう事などありはしないだろう。

しかし見つけて持ち帰り、今後扱うかも知れないと思うと持ちやすい様に改造する必要があった。故に今、それの改造を手掛けていた。柄を取り付けただけで良かったのだが、面白半分に特殊機構でも取り付けようと考えたのだが…。

 

「さて…どうしたものか」

 

自分は技術者ではない。簡易的な事を出来ても、それ以上の事はできないのだ。

戦う事しか能のないのも何かと不便なものである。

 

「このままでも良いのは分かっているのだがな…」

 

持ち手を握り、剣先を地面へと立てる。

黒き刀身が明かりに反射し、輝きを見せる。まだまだ施しようがあるとは思うが…。

 

「まぁ…急ぐ必要はないか」

 

「何を急ぐ必要がないの?」

 

ふと、掛けられた声。

聞き覚えのある声。そちらへと顔を向けると笑みを浮かべた45がそこに立っていた。

 

「どうかしたのか?」

 

「ここの明かりがついてたから気になって」

 

「そうか。見れば分かる様にここは作業場だ。元々は倉庫だったがな」

 

「ふ~ん」

 

興味深く45は周りを見回す。

まぁ作業場とは言ったものの、作業台と工具ぐらいしか此処に置いてない。

大それた装置や機器を置いている訳でもなく、作業場とは正直言い難いのが事実だ。

周りを見尽くしたのか、彼女の視線は今自分が持っている大剣へと注がれる。

何故ここにあるのか不思議に思ったのか、尋ねてきた。

 

「それって…あの処刑人のよね?どうしてそれがここに?」

 

「一度やり合って、空の彼方に吹っ飛ばしてやってな。その際、奴がこれを落としていったから一応持って帰ってきた」

 

「空の彼方に吹っ飛ばしたって…冷静な所に反して凄い事するのね」

 

「仕方あるまい。あの時は要救助対象も近くにいた。戦闘が長引けばその者にも被害を受ける可能性もない訳ではなかったからな。早急に片付ける為にもその手段を選ぶしかなかった」

 

その際使ったのはバットだという事は伏せておく。

それにしても最近はこの辺りで鉄血の動きを耳にしない。戦力が一部に集中しているのか、或いは何かを企んでいるのか。それとも以前の基地制圧戦時に…何らかの手段で悪魔の事を耳にし、警戒しているのか…。

向こうの考えは分からないが、その時は自分が出る必要があるだろう。

核、崩壊液、人形の暴走…それに加えて悪魔。…この世界の明日はどうなってしまうだろうか。

考えるだけでも恐ろしい。いつしか情報共有できる状態も作っておかなければならないかも知れない。

 

「ギルヴァ?」

 

「ん?どうした?」

 

「思い詰めてけど…どうかしたの?」

 

「いや、特にない。大丈夫だ」

 

大剣を作業台の上に置き、工具を片付ける。

このまま本を読みながら一日を過ごすというのもあるが…。

これからどうするかと思った矢先、ふと45の顔が視界内に入る。

そう言えば約束をまだ果たせていなかったな。時間もあるから、丁度良いかも知れない。

 

「45」

 

「なぁーに?」

 

笑みを浮かべて抱き着いてくる45。

まだ触れていないと満足ないのだろう。人形であれ、彼女は女性だ。もっと自分の事を大事にして欲しいと思うが…まぁ今はその事にどうこう言うつもりはない。

それにだ。彼女を突き放す様な言動や態度を見せれば、その先がどうなるのか…。予想はできないが、妙な冷や汗が流れる。それに…好意を抱いてくれているのだ…その思いを無下にする事など出来ない。

まぁそれは良い。本題に入るとしよう。

 

「以前約束した事、覚えているか?」

 

「約束?何かしてたかしら?」

 

約束したのもだいぶ前だから。忘れていても可笑しくないか。

思い出させるためにも言っておくとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

「デートするぞ」

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

私は言葉を失った。

それよりも待って。彼、今「デート」と言ったよね?間違いなくデートって言ったよね?

え?待って…私、夢でも見てるのかしら。いや、人形だから夢なんて見る筈はない。

という事は…これは現実…?それに約束って…あ、思い出した。

そう言えばデートの約束取り付けてたわ…ギルヴァはそれを覚えていて…?

 

「あう…」

 

「45?」

 

彼の体に顔をうずめる。

ギルヴァが覚えていてくれた嬉しさとデートに誘ってくれた事が相まって笑みが止まらない。

それに顔上げると…その…あれよ…。

顔を真っ赤にしているから…恥ずかしくて見せられないわ…。




こういう感じの45姉を出した訳だけど…いいよね…?

と言う訳で次回はデート回で二章終了と行きたいと思います。
三章の名前も考えなければ…。

ではノシ


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Act29 date

交わした約束を果たす為に45とデートに出かけるギルヴァ。
二人の時間を過ごし、一日を過ごす。
その一方で彼を巻き込む嵐が迫っていた。





短い、そしてデートっぽくないかも知れないです…許してぇ…(涙



S-10地区は他の地区は様々な商店街や店が存在し、他の地区とは引けを取らない程、その規模は大きい。

酒場、雑貨屋、甘味処、武器屋、ジャンク屋等々…。

この地区で過ごすには十分過ぎると言っても差し支えない。だがこの状態にまでもっていくにも大変だったといつの日か指揮官がそう語っていた。

彼女がここに着任した頃は偶然にも鉄血の部隊が使われなくてなった古びた基地を拠点にし始めた為、毎日の様に激しい攻防があったと言う。その当時は所属している人形も多い訳でもなく、最悪な時は彼女が銃を手に鉄血とやり合ったらしい。彼女と同時期に着任したナガンも自分の命を危険にさらす様な事はするなと何度も言ったらしいが、頑としてナギサ指揮官はそれを聞き入れなかったらしい。

酷い時は油断から一体のリッパ―に接近を許してしまったらしく、最悪な事に銃も弾切れ。リロードしている時間もなく、撃たれそうになった瞬間、あろう事か彼女、何をとち狂ったのかリッパーへ急接近しヘッドロックを決めた後、後ろに回り込んでジャーマンスープレックスを繰り出して頭から地面へと叩きつけると態勢が崩れた所に止めと言わんばかりにドロップキックをぶち込んだと言うのだ。

どうやら親から教えてもらったらしいが…決して勧められた行動ではない。その時は当時所属している人形達にこっぴどく怒られたらしい。その時の事も彼女は「今思えば馬鹿な事やってるなぁーって思うよ…」と苦笑交じりにそう語っていた。

行動がどうであれ、彼女達が戦わなかったらこの地区は鉄血の占拠下にあったであろう。

一週間と続いた戦いはグリフィンが勝利、数か月かけて復興。そして今に至るという訳である。

 

「こうして歩けるのも彼女達が居たからこそ…という訳だ」

 

「ねぇ?あの指揮官って人なの?何でプロレス技なんかかましている訳?」

 

地区内にある小さなカファにて。

窓際に近い席でアイスコーヒーを飲んでいると対面に座りケーキを味わっていた45がひきつった笑みを浮かべながらそう言ってきた。幾ら親に教わったからといい付け焼き刃にも等しい事を戦闘の最中でやる物ではない。

それにあの人柄からしてそんな事をするような人物にも見えない事もあって、45は驚いている様子。

聞かれた以上答えなければならないのだが…悲しい事に返す答えは一つしかなかった。

 

「さぁな…俺に聞かれても困る」

 

「だよね…」

 

「だが…人は危機的状況に陥った時、本人自覚無しに予想以上の力を発揮するとどこかで聞いた事がある。生きたい、死にたくない、諦めたくない…そういった思いが力になっているのかも知れないな」

 

悪魔にはない…人間が持ち得る強さ。

戦う理由は様々だろう。愛する者の為に、成さなければならない事の為…挙げていけばキリがないがその者達はそれをその手に掴み取る為に、死力を尽くし戦い抜き、勝利を収めたのだろう。

故に自分はその者達に勝手であるが敬意を表している。最も会った事はないが、何時しかこの目で見てみたいと思ってたりする。まぁ叶う事はないと若干諦めてたりするがな。

 

「ふーん…そういうものかしら」

 

「そういうものだろう。…ケーキは美味しかったか?」

 

「ええ。それはすごく」

 

「そうか、それは良かった。次へ行こうか」

 

「りょーかい♪」

 

席から立ち上がり、会計を済ませてカファを後にする。

右腕に45が抱き着いてくるが振りほどく事はしない。以前の作戦で悪魔相手に戦ってくれたのだ。報酬としては安すぎるかも知れないが、満足そうな表情を浮かべているので彼女にとっては最高の報酬なのかもしれない。

 

それからはというものの二人して様々な所に回った。

武器屋に行って弾薬の調達、雑貨屋では彼女達404の面々が部屋に置く小物を買ったり、酒類販売店に寄り酒を買ったり…時間が許すまでデートを続けた。

時刻は夕刻時。買った物が入った袋を抱え、店へと戻っていた。

空は橙色に染まり、夕陽が段々と沈むもうとしていく。隣には満足そうな表情を浮かべている45。

舗装された道を共にのんびりと歩いていた。そんな中、45が何かを思い出したかの様に尋ねてきた。

 

「ギルヴァは…どうして悪魔になったかしら?」

 

「どうしたいきなり」

 

「少しね…。ほら、以前の作戦であなたが倒した悪魔…あの姿になるまでは人だったから」

 

「あれは元から悪魔だった。ただ人に化けていたという事だ」

 

この世界の王になるとか頭空っぽな事をほざいていたが…まぁそれは言う必要は無いだろう。

しかし何故悪魔になった、か…。そう言えばその事を話した事はなかったな。

 

「しかしそうだな…。ただ死にたくなかったから、悪魔と契約して悪魔になった…それだけだ」

 

あの時の事を思い出す。

全ての始まり。人から悪魔となったあの日であり蒼との出会い。

それなりに経った今も忘れる事はない。

 

「ええ~…少し端折り過ぎない?」

 

「悪いが説明は苦手でな」

 

「むうぅ~」

 

「頬を膨らませても駄目だ。まぁ…いつか話す。それだけは約束しよう」

 

空いている手を彼女へと差し出す。

差し出された手に不思議そうな表情を浮かべる45だが、彼女も空いた手で握ってきた。

 

「だから今は手を繋ぐだけで勘弁してもらおう」

 

「もう…。約束だからね?」

 

「ああ」

 

歩幅を合わせ、手を繋いで店へと戻る。

そのまま戻ったのは良いが、手を繋いで戻ってきたという状況を代理人に目撃され、ひと悶着あったのはまた別の話。

 

 

某所。

S地区から遠く離れたこの場所で一人の青年が人一人住んでいない街を歩いていた。

短髪に銀髪、古びたコートを羽織り彼は何かを目指して歩いていた。

暗闇が支配する、明かりがないここは近寄りがたい場所とも言える。そんな中をお構いなしに突き進んでいく。

手には一枚の写真。

 

「ここじゃねぇか…。ったく、S-10地区ってどこなんだ…」

 

そして彼は道に迷っていた。ここからもっと離れた所だというのに青年は気づいていない。

足を止めて辺りを見回し始めた時、何かに気付いたかの様に後ろへと体を向けた。

写真をコートの内ポケットにしまい、その先にいる何かを睨む。

そこに居たのはダイナゲートの群。彼を見つけたのか紅く光らせた目を輝かせて迫ってきていた。

 

「またかよ…。首輪位つけておけってんだ」

 

仕方ない、と呟くと彼は方向転換、そのまま思い切り走り出した。

まさかの戦うのではなく、その場からの逃亡を選んだのである。

 

「さてと…お散歩コースでランニングと行くか!」

 

人とは思えぬ速さで全力疾走する青年。

その最中で彼はコートの内ポケットにしまった写真を取り出す。

そこに映るのは青い刺繡が入った黒いコートは羽織っている男。手には日本刀を手にしている。

青年の目的が一体何なのか、それを知るのは彼だけである。

 

「まずはこいつを見つけねぇとな…話はそっからだ」

 

暗闇の中を青年は駆け抜けていく。

そしてその様子を見ていた第三者が居た。高層ビルの屋上からじっと眺めている。

長く伸ばされた赤毛、整った顔立ちと体つき。そして豊満な胸が目立つ。その場では白を基調としたドレスの様な衣服を身に纏っていた。そこまでは綺麗な女性と思えるだろう。

しかし彼女の頭には一対の角は生えていた。それから察する様に、彼女は人ではない事を差している。

 

「…似テイル」

 

カタコト交じりであるが彼女は駆け抜けていく青年を見てそう呟く。

 

「デモ…違ウ。彼ジャナイ…」

 

彼女はそっと夜空を見上げる。

思い出すはあの日の事。まだ完全に人の形をしていなかったあの頃。

相対し、相打ちになってしまったものの、ある事がきっかけで完全な人の姿を得た。

 

「何処二居ルノカシラ…」

 

 

 

 

 

 

 

「黒コートノ彼」




次回、第三章「動き出す運命の歯車」


はい、これにて第二章は終了です。
三章ではぼのぼのも取り入れつつ、戦いも入れていこうかと。
なので三章は大分長くなるかなと思います。
そして三章で彼の母代わりであった人形の正体も明かそうかと。
では次回お会いしましょうノシ


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第三章 動き出す運命の歯車
Act30 謎


酒場に呼びされたギルヴァ。
店主からある事を聞かされ、ある地区へと赴くのであった。


とある地区。

そこはS-10地区から少し離れた地区。当然ながらそこにも酒場は存在しており、昼間から飲んでいる者もいる。

立派な髭を蓄え、グラスを磨く店主。見知った者と飲んだり、一人で酒を煽ったり…店主としてはもう既に見慣れた光景…になる筈だった。

扉を開く音が響く。来客に店主はそっと視線をそちらへと向ける。

そこに居たのは銀髪の青年。古びたコートを羽織っており、フラフラとした足取りでカウンター席へと向かっている。店主を含め、その場に居た客全員が怪訝そうに青年を見つめる。

対する彼は疎いのか気にする様子もなく、カウンター席へと腰掛けた。

見るからに風貌は怪しいが、客は客。店主は少し彼を警戒しつつも声を掛けた。

 

「お客さん、何にします?」

 

「…」

 

店主の声に青年は答えようとはしない。それどころか沈黙を貫いている。

更に警戒を強めながらも店主は再度声を掛けようとした瞬間。

青年の体が静かに右へと倒れ始めた。その事に誰もが反応できず、彼は椅子から転げ落ちる。

どさりと響き渡る音と並んでいた椅子がいくつか倒れる音が店内に響く。

突然の事に誰もが啞然とし、その目を見開いた。まさかの出来事に誰も動けずにいる。

が、いち早く現実に戻って来た店主が慌てて青年の元へと駆け寄る。

 

「お、おい!しっかりしろ!おい!」

 

肩を揺らして声を掛けるが青年は全く起きる様子はない。

そこで店主は最悪な事態を考えてしまった。

一番考えたくない事態を。

 

(まさか…死んでないよな…)

 

自分の手を青年の手首へと当てた。

手に伝わる脈の鼓動。幸いな事に青年はまだ死んでいなかった。

その事に安堵した店主。そこで彼はある事に気付いた。

 

(ひでぇ隈…。もしかして寝てないのか、こいつ)

 

青年の目元には深い隈の跡が残っていた。それから察するにこの青年が暫くの間睡眠が取れていないと判断。

寧ろそれだけで済んだ事に店主は胸を撫でおろし、裏にあるベットへと寝かせる為彼を担ぎ上げた時、ふとコートから一枚の写真が落ちた。

それに気付いた店主は青年を担いだままの状態で写真を拾い上げた。

 

「ん?こいつは確か…」

 

写真に映る一人の男。

その男を見て店主はある事を思い出す。

自身と同じ様に酒場を経営している知り合いの一人から聞いた話。

S-10地区にて便利屋を開いた奴が居ると。店主は銀髪が特徴の若い店主で、黒コートを愛用しているとの事。

青年が何故この男の写真を持っているか分からない。だが彼はこの男に用があってここまで来たのではないかと推察する店主。

 

「こいつを寝かせたら、あっちに連絡入れないとな」

 

やれやれ昼間から騒がしいったらありゃしないと呟きながらも店主は裏にあるベットへと歩き出す。

後に青年を寝かせた後、店主はS-10地区で酒場を経営している知り合いへと連絡を入れるのだった。

 

 

S-10地区にある酒場。

昼間だというのに酒を煽る客で繫盛しており、大半が常連客達で埋まっている。

しかし常連客達のほとんどがこの地区で店を経営している者達ばかりで暇されあればこうやって酒場にたまるのが当たり前となっていた。

店主もこの光景を見慣れており、カウンターで黙々とグラスを磨いていた。

だがこの店主、昼間から酒場を開くつもりはなかったらしい。昼間はカフェ、夜間は酒場という二つの姿を持ちたかったらしいが、常連客達に猛反対を受け、やむを得なく昼間から酒場を開く事にしたのだ。

最初こそは違和感を覚えていたらしいが、今となってはこれはこれで悪くないと語っていた。

見慣れた光景。しかし今日ばかりは違った。

酒場の扉が開く音。そこに居たのは基本夜にしか酒場に姿を見せない男。

来客に店主は顔一つ変えずにグラスを磨いているが常連客は違った。

彼らの中にはその来客の事も知っている者もいる。昼間から酒を飲みに来る様な奴ではない事は知っており、この時間帯に現れた事に不思議な表情を浮かべ、目を丸くした。

黒いコートをなびかせカウンター席へと向かう彼はその視線に一切動じる事もなく、そのまま席に腰掛けた。

 

「何にします?」

 

「ストロベリーサンデーを一つ」

 

「うちは酒場だぜ?便利屋の兄ちゃん」

 

「ならこのやり取りを止めにして、呼んだ理由を聞かせてもらおうか」

 

「はいはい」

 

昼間から酒を煽りに来たわけでないギルヴァ。

ではここに来た理由は何か。それはカウンターでグラスを磨いている店主が彼を呼んだのだ。

しかし呼ばれたのは良いものの、何故呼んだのか、その理由は一切聞かされておらず話は酒場で話すという事になっていた。

そして今、その張本人からギルヴァを酒場に呼び出した理由が明かされる。

 

「実はある地区で酒場をやっている知り合いから連絡があってだな。店に訪れた若い青年があんたの写真を持っていたと言うんだよ」

 

「若い男が?何故俺の写真を?」

 

「さあ?その男、店に来て席に着いた途端にぶっ倒れたらしくてな。酷い隈の跡が残ってみてぇだから、恐らく暫く寝てないんだろう。今はそいつの店のベットでぐっすり寝てるみたいだ」

 

「ふむ…」

 

ギルヴァは指を顎に当て、店主から聞かされた話を思い返す。

若い男が自分が写っている写真一枚を手に、ある地区に訪れた。現在の所、その彼は重度の寝不足で倒れ、店主の知り合いが経営している酒場のベットで休んでいるとの事。

只のモノ好きが自身を尋ねてやってきたのではないかと彼は考えたが、何故か勘がそれは違うと否定の声を上げていた。しかし自分はその男の事は知らない上にこれ以上何の関係があるのだろうか。

やはりただのモノ好きが、とそう結論付けようとした時、彼の中で存在する悪魔「蒼」が待ったをかけた。

 

―流石に早計過ぎないか?もしかしたら依頼をしにお前を尋ねようとしたかも知れんぞ?

 

ギルヴァもその線を考えなかった訳ではなかった。

しかしたかだが一枚の写真を手にやってくるものだろうか?それに連絡先さえ知っていれば幾らでもそれが出来た筈だ。それをしない点がかえって怪しく感じた彼はその線をないと考えていた。

だが蒼の言う通り、幾ら何でも結論付けるには早いと感じたギルヴァは店主にその男がいる地区を尋ねる事にした。

 

「店主。その男が居る地区はどこだ?」

 

「S-12地区だが…まさか会いに行くのか?」

 

「色々疑問に思う所はあるが、依頼という線も捨てられん。ならば直接こちらから出向くしかなかろう」

 

「仕事熱心だねぇ…」

 

「生活がかかっているからな」

 

席から立ち上がるとそのまま彼は踵を翻して、酒場を後にする。

 

(S-12地区、か…。今日一日で着くかどうか。それにだ…)

 

ともあれ店に戻り、代理人やフードゥル達にこの事を伝えなければならない。

歩みを少し早めつつ彼は店へと戻っていく。

 

(何だろうか…この胸騒ぎは)

 

内に抱えた何かを感じながら。

 

 

「今からS-12地区にですか」

 

「ああ。依頼とは言えんがどうも引っ掛かる」

 

店に戻ると代理人が掃除をしながらであるが迎えてくれた。

酒場の店主に突然呼ばれた理由を話し、今からS-12地区へ向かう事を話した。

 

「一体何者なのでしょうか、その男性は」

 

「分からん。奴の正体を知る為にも出向くつもりだ」

 

「そうですか…。分かりました、すぐ準備致しましょう」

 

「頼む」

 

掃除道具を片付け、愛用武器を取りに自室へと向かった代理人。

こちらも出かける準備を始め、ホルスターに何時もの二挺の銃を、書斎に立て掛けた無銘を手に取る。

予備弾倉も忘れずに装備。後は代理人が来るのを待つだけなのだが、あと幾つかする事がある。

まず一つ目。それはソファー近くで休んでいるフードゥルにある頼みをする為だった。

 

「フードゥル、今回はお前にも来てもらいたい」

 

―む?我もか?

 

「ああ。今回の一件、妙な胸騒ぎを感じている」

 

―成程。主が言うなら我も出向こうではないか

 

「感謝する」

 

彼の元に近寄り、そっとフードゥルの頭を撫でる。

確かに9が言っていた様にとてもふさふさした毛並みだ。

…ふさふさした毛並み、か…。そう言えばニャン丸も同じくらいの毛並みだったな。

95式もそうだが、あいつも元気にしているだろうか。あの時の様に甘えているのだろうか。

別れてからそれなりの日が経ったが…一度元気な姿を見てみたいものだ。

 

―ふむ。主も撫で上手だな。今まで撫でられた中で一番かも知れぬ

 

「それは嬉しいな。お前も遠慮せず甘えても良いのだぞ?」

 

―ははっ!主からその様な言葉が出るとはな。だがそう言うのも悪くなさそうだな。

 

そう言うやフードゥルは自身の頭をこちらの体へとこすりつけてきた。

言葉では語ろうとはしないが、甘えさせろという意味合いなのかも知れない。撫でる手を止めて、そっとフードゥルを両手で抱きしめる。

 

「何時も留守番をさせてすまないな」

 

―何、気にするでない。この基地の人形達の訓練相手したりするのも悪くないものよ

 

「そんな事していたのだな」

 

―かつて部隊の長を務めていた経験からか、指導という立場に着くのも悪くない。主もたまには彼女達の訓練相手に付き合ってみるといい。あやつらもそれを願っていたからな。

 

「考えておこう」

 

そういう付き合いをしてみるのもありかも知れんな。

代理人や45が何か言うかも知れんが、希望されているのであれば考えなくもない。

それにフードゥルとコンビでやってみるのも悪くないかもしれない。

 

「さて…。フードゥルは車庫の方へ行っててくれ。俺は少しやる事をしてからそっちに向かう」

 

―承知した。

 

フードゥルがバンを停めてある車庫へと向かっていったのを確認すると、ガンキャビネットにしまってある一丁の銃を取り出す。

それは以前の作戦前に武器屋の店主から譲り受けたショットガン。あの時の作戦では持ってこなかったが、今回は出てきたもらうとしよう。だが俺はこれを使うつもりはない。

個人的に持つべきだという者に渡すつもりでいた。

 

「お待たせしました」

 

自室からシルヴァ・バレトとニーゼル・レーゲンを手に代理人が出てきた。

自前のガンベルトにシルヴァ・バレト用の予備弾倉を吊り下げてはいるが、ホルスターは空いたままであった。

以前から自分にしっくりくるものを探していたらしいが、丁度良かったかも知れない。

 

「代理人、これを使え」

 

手に持っていたショットガンを投げ渡す。

それを片手を受け止めた彼女は渡された銃を見つめた後、不思議な表情を浮かべた。

 

「えっと…これは?」

 

「取り回しが良い武器を持っていなかったからな。その銃なら丁度良いだろう」

 

「つまり…プレゼントですか?」

 

「まぁ…そう捉えてくれても構わない」

 

その事を聞いてか代理人は笑みを浮かべた。

空いたホルスターにショットガンを差し込むとこちらを見つめながら、歩み寄ってきた。

心なしか頬は紅潮しており、空いていた手が頬を撫でた。

 

「お返しはいりますか?今なら濃いディープキスが付いてきますが」

 

「…それは大事な時まで置いておいた方が良いと思うが」

 

「ふふっ、ですね。その時はこの事を含めてお返しさせて頂きますわ」

 

そのまま彼女は軽い足取りで車庫へと歩き出していった。

普段から冷静な代理人であるが…あの感じだととても嬉しかったのだろう。

武器がプレゼントと言うのも些かどうかと思ってしまったが…本人が喜んでいるのであれば良しとしよう。

 

「後は書置きをしておかないとな」

 

そう。今やこの店は404小隊の帰る家となっている。

だがその姿は見えない。それもその筈で、彼女達は今朝方任務で出向いていった。

早めに戻るとは言っていたがそれが何時になるかは分からない。

もしかすれば自分達が出ていったすぐかも知れない。どちらにせよ彼女達が帰ってきた時に店には誰もいないという状況を作るのはよろしくない。

その為、一枚のメモの用紙に書置きを置いておく事にした。

 

―依頼で暫く店を空ける―

 

たった一文ではあるが変に書き込むよりかはシンプルで良いだろう。

これを見て45がどんな反応するかは分からないが…自分が絡む事以外は冷静で判断できる彼女だ。

変に取り乱したり、寧ろ追ってきたりする事はないだろう。

 

「ギルヴァ、そろそろ出ますよ?」

 

車庫から車のエンジン音と共に代理人の声は聞こえる。

分かった、とだけ伝えると書置きを書斎の上に置いて車庫へと歩き出す。

後部ドアから乗り込み、無銘をウェポンラックに立て掛けるとジュークボックスの前に立つ。

 

「代理人、今日の曲は何がいい?」

 

「そうですね…私のお気に入りで」

 

「了解した」

 

要望通りにお気に入り曲のボタンを押してから助手席に腰掛ける。

 

「行こうか」

 

「ええ」

 

バンが発進する。

あの時流れた曲を車内で響かせながら、S-12地区へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば向こうまでどれ程かかる?」

 

「S-12地区までですと…恐らく明日の昼間には着くでしょう」

 

「となると何処かで車を停めて車内で一夜を過ごすしかなさそうだな」

 

「ですね。…今夜はお楽しみになりそうですね?」

 

「ならないから安心しろ」

 

「いけず…」




謎の青年の名前はまだ決まってないです…
さてお次はどうするかな…。




ああ、それとですが。
今後の投稿先について、最新話を上げたのち活動報告でお知らせをしておこうと思います。


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Act31 潜みし悪魔の影

S-12地区へと訪れたギルヴァ。
酒場にてブレイクと名乗る青年にある依頼を頼まれる事となる。


はい。やはり通常通りで行う事にしました。お騒がせして申し訳ございません。。
また感想の返事ですが、今までちゃんと返す事を心掛けていたのですが、私の気分で返す事にしました。なので感想書いたのに返事がない!という事があったら、作者が返事を返す気がないと思って頂ければ幸いです。
そもそも感想の返信は義務ではないし…いいよね?


S-12地区。

この地区には来るのは今回が初めてだったりする。依頼でなければ他の地区に訪れる事も早々ない。

故にS-10地区とは違うここにどこか新鮮さを感じつつ、街中を一人で歩いていた。

流石にバンに乗ったままだと目を引く、また代理人やフードゥルを連れたままだと余計な混乱を起こしかねないので二人は地区の外に停めてあるバンの中で待機してもらう事にした。

 

「不思議な気分だな。無銘を握らない時が来るとは」

 

武器をレーゾンデートルとフェイクだけに絞ってある。無銘を手にしたままではこれから会う者やここで暮らす住人に怪しまれる可能性もある。グリフィンがこちらの事を知っていたとしても、住人がこちらの事を知っているとは限らない。

それもその筈だろう。今まで受けた依頼内容は全てではないにしろ公にできるものではない。

一部に関しては「悪魔」も関わっているとなれば尚の事だ。

 

「さて…店主の知り合いがしている酒場はどこにあるのやらか…」

 

舗装された歩道を歩きながら、その酒場を探す。

しかしS-10とは違う街並み。分かっていたがこうも違うと驚いてしまうな。

まぁこれはこれで違う魅力がある。そうだな…いつか支店を開く事になったらこの地区で開くのも悪くないかも知れない。それともS-9地区か…。とは言うもののそれはまだ先の話だ。

それ程の資金があるとは言えないのでな。それに悪魔がらみの案件もあるとなればこの件は当分先となるだろう。

 

「む…ここか」

 

10分程歩き、店主の知り合いが経営している酒場の前へと到着。

どうやら昼間から開いているらしく、中から酒を煽りながら楽しく談笑している声が店の外にまで届いている。

そしてこの中に自分を尋ねにここまで来た青年も居る。

自分に一体何の用か…それを知る為にも酒場の扉に手をかける。

騒がしくも賑やかな空間。一部の者は店に訪れたこちらに視線を向けたが、すぐさまその視線は酒へと向けられていく。カウンターでグラスを磨いている店主に例の青年のことを尋ねる為、迷う事無くカウンターへと歩く。

あちらもこちらに気付き、顔をこちらに向けてきた。

 

「いらっしゃい。何にします?」

 

「そちらに呼ばれてきた。便利屋と言えば…分かるか?」

 

「ああ…あんたが。…例の兄ちゃんなら、ほら、そこで飯を食っている」

 

店主が指さす先。店内の端の方の席でサンドイッチをほおばっている若い青年が一人。

銀髪で古びたコートを羽織っている。彼が俺を尋ねにやってきた男か…。

ありがとう、と店主に礼を述べると青年が座っている席へと向かう。余程腹を空かせていたのか彼はサンドイッチに夢中になっており、こちらが近づいている事に一切気付いていないので声を掛ける。

 

「相席構わないか」

 

「ん?…って、あんたは…」

 

食べる手を止めて、青年はコートの内ポケットから一枚の写真を取り出し、そこに映る自分とこちらを見比べ始めた。やっとこちらがその写真に映る男だと気付いたのか、彼は慌てて口元についたパンくずを払い落し、姿勢を正した。

 

「座ってくれ」

 

「ああ。失礼する」

 

青年に促され椅子に腰掛ける。

銀髪で顔つきは若い。歳はこちらより一つ下か、二つ下ぐらいだろうか。

 

「えっと…あんたがS-10地区の…デビルメイクライのギルヴァ、であっているよな?」

 

「ああ。…それでお前は?」

 

「ブレイク」

 

「ブレイクだな。それで自分に何か用だろうか。依頼でないのであれば帰らせてもらうが?」

 

「安心してくれ。依頼をしたくてここまで来たんだ。…相当腕が立つって評判のあんたに」

 

「…話を聞こうか」

 

その言葉に青年は頷き、コートから一枚の写真を取り出した。

それは先程のとは町の風景が映った写真。だが不思議な事にその町には人が見えない。

人がいないタイミングに撮ったのか。或いはこの町の状態がブレイクが依頼したい内容と何らか関係があるのだろうか。

 

「この町は俺が過ごしている町でね。普段から活気で溢れている良い町なんだ」

 

「それで?」

 

「この写真を撮ったのは昼時。普段なら人が居ても可笑しくない。けど…」

 

「この時は人一人居なかった…と言いたいのか」

 

「ああ。まるで忽然と。それにだ、この写真を撮った時は町の連中総出でやる祭りがあったんだ。だというのにそれをすっぽかして消える理由が俺には分からないんだ」

 

「その真相を知りたいから、依頼したい訳か」

 

静かに頷くブレイク。

彼が言う事が全て真実なのであれば、確かにおかしな話だ。

彼以外の町で過ごしていた住民が忽然と消える。町ぐるみで何かをしようとしていたのか、或いは神隠しにでもあってしまったか。それか…悪魔の仕業か。

関係ないとも言い切れない。以前のヴァンギスの様に人間界に流れつき、潜んでいた悪魔もいるのだ。

悪魔と断定した訳ではない。だが、赴く必要はあるだろう。

 

「町には気を良くしてくれる奴が沢山いる。それに色んな街をあちこち行き来した訳アリの俺を快く迎え入れてくれた町なんだ。だから…どうか頼む。この依頼は受けて欲しい」

 

そう言いながら頭を下げる彼。

本来であれば依頼を受けるのであれば報酬の話をしなくてはならない。

だが遥々遠方からこちらを尋ね、町の人達の事を想う彼の姿を見て、その話をする気にはなれなかった。

つまりそれはどういう事かいうと…

 

「分かった、依頼は受けよう」

 

「ホントか!?」

 

「ああ。それに今回に限っては報酬無しで受けよう。次からは用意しておく事だ」

 

「!…恩に切る」

 

さて、と呟き席から立ち上がる。

ブレイクも最後の一口を口に放り込むと続く様に立ち上がる。

待て、何故彼まで立ち上がる必要がある?

 

「ここから先はこちらの仕事だ。ついてくる必要はない筈だが」

 

「流石に全部まかせっきりなのは俺の性に合わなくてね。戦闘だって無いとは限らないだろ?」

 

「…遊びではないのだぞ」

 

「危険があるのも承知の上さ」

 

口調は軽く感じるが蒼き瞳を宿した眼差しは真剣そのもの。

腕には自信はあるみたいだが…さてどうしたものか。

ここまで待てと言われて大人しく引き下がる性格ではないのは何となくであるが分かる。

…仕方あるまいか。

 

「お守はしないぞ」

 

「こう見えて前までは色々やってたもんでね。便利屋紛いな事もしてたのさ」

 

「そうか…。勝手についてくるが良い」

 

「そうさせてもらうよ」

 

店を出て、まずは車の中で待っている二人の元へと向かう必要があるのだが…。

足を止めて、後ろからついてくるブレイクの方へと振り向く。

不思議そうな表情を浮かべる彼。このまま行くのもいいのだが…

 

「そのコート…どうにかした方が良いと思うぞ」

 

「あー……やっぱり?」

 

苦笑い交じりに彼は指で頬を掻いた。

どうやら自覚はあったようだ…。取りあえず服屋に寄る必要がありそうだな。

 

服屋に寄り、適当に彼に合う服を身繕う。

ブレイクもブレイクで自分に合う服を探しているみたいだが、中々決まらない様子だ。

 

―なぁ。この赤いコート良さそうだと思わないか?

 

コートの類が並ぶコーナーにて、蒼がそう語りかけてきた。

そこにあったのは赤色のコート。真っ赤というよりかはくすんだ赤色が特徴のコート。

派手過ぎず地味過ぎずといったそれは、確かに若いブレイクに似合っていると言えた。

 

「ブレイク」

 

「ん?どうした?」

 

呼ばれてこちらへとやってきた彼に赤いコートを渡す。

 

「お前に似合っていると思うが?」

 

「へぇー。目つきからして怖そうなのに、センスはいいんだな」

 

自然と挑発をかましてくるブレイク。

レーゾンデートルでも一発喰らわせてやろうか。それとも幻影刀で串刺しにしてやろうか…こいつ。

 

―落ち着けって…

 

ちっ…。

まぁ良い。彼もコートを気にいっている様子だ。さっさと会計を済ませ仕事に取り掛かるとしよう。

 

「会計を済ませるぞ。時間が勿体ない」

 

「あいよ」

 

品をレジに持っていき、会計を済ませる。

その際店員に兄弟かと聞かれたが、違うと答えておいた。

ブレイクと俺は…そんなに似ているだろうか?

 

 

「成程」

 

バンに戻るなり代理人とフードゥルに今回の依頼を話す。

独断で決めてしまった事を詫びつつ、全てを話し、また今回の依頼は依頼主も同伴すると伝えた。

彼女もそれはどうなのか、といった表情を浮かべていたが決まった事なので反対意見を出す事はなくフードゥルも同じ様で反対意見を出す様子はなかった。

このままブレイクが過ごしていた町へと向かう事になり、代理人の運転の元、バンは舗装されていない道を走っていた。舗装されていない事もあって車内は揺れる。

だというのに助手席から立ち上がり、ソファーで腰掛けて寛いでいるブレイクへと話しかける。

彼は愛用武器である二挺の銃を手にしていた。拳銃とは思えぬ大型化された銃。

双方ともに黒を基調とした銃。銃身部分には何やら言葉が彫られているがここからでは読み取れない。

 

「それがお前の相棒か」

 

「ん?…ああ、今住んでいる町ではなく以前住んでいた町のガンスミスに作って貰った一品さ」

 

「何故作ってもらうまでに至った?」

 

素朴な疑問だった。

彼が持つ銃は珍しい位に大型化されている。便利屋紛い事をやっていたと彼は言っていたがここまでする必要はあったのか。思わずそれを彼に問うた。

その問いに彼は苦笑しながら答えくれた。

 

「何度も銃を御釈迦にしてしまう事があってね。買い直すにも金はかかる。ならば強度がある自分専用の銃を作って貰おうと思ってな」

 

「故にその銃か」

 

「そういうこと。名前とかは付けてないが、大事な相棒さ」

 

銃を何度も御釈迦にした、か。

一体どれ程の力を籠めれば銃が壊れてしまうのだろうか。

そんな疑問を抱えつつもブレイクが住んでいた町へと車は向かって行くのだった。




あれ…この青年って…思った方はその答えは心の中でしまっておきましょう。
分かったね?(威圧


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Act32 町の謎

彼らが町を訪れた時には町は荒れていた。
しかし荒れた町の惨状にはいくつかの謎が残されていた。


ブレイクが住んでいたとされる町は、どこの地区にも属していない町である。

またS-12地区から相当な離れた場所に存在する町であり、この町を知る人はそう多くない。

比較的小さな町であるのだが、汚染はなく自然に囲まれてる事もありとても住みやすい環境にある。

ブレイク曰く普段から活気がある町だと言っていたが、自分達がその町に到着した時にはその姿はどこかへと消えていた。酒場で彼に町の写真を見せてもらった時と比べると歴然とした差がある。

建物の幾つかは倒壊し、道路には巨大な何かが落ちたのかクレーターらしきものが幾つか確認できる。

ブレイクが住んでいた町は廃墟ばかりが並ぶ町へと変貌してた。

これがどこぞの盗賊や人形の仕業とは到底思えない。やはり悪魔の仕業と見ていいだろう。

 

「随分と荒らしていきやがったな…」

 

隣に立ち、町の荒れ具合に驚きは見せなかったが若干怒気を交えつつブレイクが呟いた。

過ごしていた町なのだ。無理もないだろう。

 

「だが…無作為に暴れた感じではなさそうだな」

 

「そりゃあどういう意味だ?」

 

「見ろ」

 

指差す先。そこはこの場所から少し離れた位置に存在する通り。

何故かそこの通りは荒らされた様子はなく、その姿を保っていた。もし無作為に悪魔が暴れたとするのであれば、自分が指差す先にある通りも荒らされているだろう。

しかしそれがない。人こそはいないものの綺麗な状態のままで残されている。

気付かなかったにという事はないだろう。気づいてはいたが、それをしなかった。

まるでここに何か探しているようにも思える。この町にあると思われる何かに。

 

「まんまの形で残されている…どういうこった?」

 

「それは分からん。調べない事にはな」

 

周りを見渡す。

悪魔が何故ここを狙ったのか…まずはこの町の事を知る必要がある。

 

「ブレイク、この町に図書館はあるか?」

 

「ここから少し歩いた所に小さな図書館があるが…そこへ何にしに行くんだ?」

 

「先も言ったろう。調べない事には何も分からん」

 

それにと呟き、言葉を続ける。

確固たる確証はない。だが自分の中にある何かがそう囁いてくる。

 

 

 

 

「悪魔とこの町…どうも関係がないとは思えん」

 

 

 

 

ブレイクの案内元、自分達はこの町にある図書館に来ていた。

幸いな事にこの町を襲った悪魔はこの図書館には手を付けてはいない模様で、荒らされた形跡はない。

ここへ来た理由を話そして三人にこの町に関する事を何でもいいので調べて欲しいと頼み、一時的ではあるが代理人とブレイク、自分とフードゥルで別行動を取る事にした。

まず自分が手に付けたのはこの町に関する歴史について。

過去にこの町で起きた事が今回の一件に関与しているのではないかと思い、その類から調べ始めた。

しかし事細かくこの町の歴史について記されいる書物は数少なく、調査は困難を極めていた。

 

「どれも二千年代以降の事ばかりか」

 

―それ以前のものは余り無いみたいだな。本来であればあってもおかしくないおかしくないのと思うのだが…

 

「フードゥルの言う通りだな。あまりにも二千年代以前の歴史に関する書物が少なすぎる」

 

これではまるで過去の事を探られたくないと言わんばかりだ。

何か都合の悪い事があるから少ないという事なのだろうか。

ますますこの町の事が怪しく感じていたその時、フードゥルがある一冊の本を食われてやってきた。

 

―主よ、これを見てみてくれ

 

そう言ってフードゥルは食われていた本を足元に置いた、

身をかがめ、それを手に取る。本のタイトルは…『真実』?

挿絵とかは無く、只々タイトルだけしか記されていない表紙。

それなりに厚みがある…もしかすればこちらが知りたい事が分かるかも知れない。

近くの椅子に腰掛け、その本を広げ、その内容を読んでいく。

そこにはこう記されている。

 

『この町は活気にあふれ、自然に囲まれた素晴らしい町だ。故にここへ移住しに来る者も少なくない。しかしこの町はある事実を隠匿していた。誰にも知られぬ様に、そして厳重に』

 

この町の秘密…。

この本を書いた作者は偶然にも知ってしまったか、あるいはどうにしてその裏を知ったか。…どちらにせよその事を誰かに知らせる為にこの本を書いたのだろう。

次のページをめくり、続きを読んでいく。

 

『すべての始まりは今から1000年前に起きた。この町は今と比べて活気には溢れていなかった。外部との交流を拒み、閉鎖的な町だった。また外部の人間もこの町を恐れて訪れる事はなかったそうだ。何故人はこの町を恐れたのか。それは彼らが信仰していたものにあった。人間が神を崇め、信仰する様に、この町に住んでいた者達は何を思ったのか、悪魔を信仰していたというのだ。何故それを信仰しようと思ったのか分からない。だが1000年前にここで住んでいた住人は普通ではなかった事は言わなくても分かる。しかしその話にはまだ先があった。この町の住民たちは最初から悪魔を信仰していた訳ではない。一部の人間が悪魔を信仰し、そして悪魔を呼び出したというのだ。呼び出された悪魔は町を支配、住民たちは信仰せざるおえなかったのだ』

 

全ての原因は悪魔ではなく、人間にあったという訳か。

しかし悪魔を呼び出す事など可能なのだろうか?

 

―出来なくはないな。確率は低いがな。

 

出来なくはないのか…。

しかし1000年前にも悪魔が存在していたとな…。悪魔も予期できなかっただろう。

この世界がこんな姿になるとは。…それは兎も角続きを読もう。

 

『悪魔による支配は100年にも渡った。人々は恐れを抱きながら日々を過ごした。本来であれば悪魔に支配された町が100年も維持されてきたのはある種奇跡と言えるかも知れない。だからこそであろう。悪魔の町として名を馳せる様になった此処にある男が訪れたのは。彼は旅人だと言っていたそうだ。だがその旅人を誰も歓迎しようとはしなかった。寧ろ追い返そうとした。当然だ、町は悪魔の支配化にある。何も知らない者がここにいてはいずれ命を落とす事になる。その事を知ってか知らずか旅人は町に留まる事無く去っていったらしい。そして彼が去っていたその日の夜、運命の歯車は動いた。』

 

『誰もが寝静まった深夜。突如として轟音が響いたらしい。住民は突然の事に目を覚まし、恐る恐る窓から外を見たという。そこに映ったのは長年にわたり町を苦しめてきた悪魔を相手に大剣を手に戦う一人の男の姿があったらしい。その当時の記録によれば、悪魔相手に戦う男も悪魔の様な姿をしていたらしい。その男は私利私欲に戦っている訳ではなかった。彼は100年も悪魔によって苦しめられた町を解放するのが目的だった。圧倒的な力と卓越した技術で悪魔を圧倒。見事それを討ち、悪魔を封印した。一躍町の英雄となったその者の正体はあの旅人だったらしい。彼は悪魔でありながら正義に目覚めた者らしい。誰もがここに残ってほしいと願ったらしいが、彼はそれを拒み、自分の名前を残して町を去っていったそうだ。町は救ってくれた感謝の印としてその悪魔の名前をこの町の名前にしたらしい。名前は…フェーンベルツ。それがこの町の名前であり、この町を救った魔剣士の名前だ』

 

『これだけならばまだマシであろう。問題は彼が去った後にあった。魔剣士 フェーンベルツはこの町を苦しめてきた悪魔を封印した。それだけなら聞こえはいい。問題はその封印が永遠のものかであった。それを危惧した一の住民たちはこの事を隠した。もし封印が解かれてしまえば、この町は再度悪魔の支配下に下る。さすればまたあの悪夢を見る事になる。だが何ら対策がなかった訳ではなかった。月に一度行われる祭りで供物を与える事で封印を強化するといるフェーンベルツから教えられた儀式があった。最初こそは人間のちょっとした血で良かったらしい。だがより強固な封印をを考えた一部がある事に手を出した。それは…人間を、若い娘を供物として捧げる事であった。』

 

『十代から二十代までの少女を人柱として捧げようと考えた。本人には決して知らせずに、深夜に押し入り誘拐して、その後は捧げられる。当然ながら親族もそれは知らない。偶然にもその場に居合わせてしまった場合は殺害される。もはやこの町はかつての姿を取り戻しつつあった。悪魔の復活を止める為に、逆に町の人間が悪魔となってしまった。私がこの事実を残したのはこの町の事を調べに来たものに伝える為だ。この事実を書いている今もこの町の住民は私を血眼になって探している。ここから生きて出る事はないだろう。だから頼む。この本を見たのであればこの事実を誰かに伝え広めてほしい。願わくはかつてこの町を救った彼に届く事を願って』

 

「…」

 

本を閉じる。

悪魔の復活を止める為に町の人間が悪魔になり果てる、か。

この町を救った魔剣士 フェーンベルツはこの町の惨状を知ったらどう思うだろうか。

彼も町がこうなるとは思わなかったであろう。

 

「取りあえず、この事を代理人とブレイクに伝える必要があるな」

 

作者が命がけで残した本を本棚にしまい、二人を探し歩き出す。

その瞬間、銃声が鳴り響いた。

 

 

ギルヴァがこの町の事に関する本を読んでいる一方で代理人とブレイクは違う箇所でこの町に関する事を探していた。一冊ずつ本を取り出しては調べていく代理人を他所にブレイクはどこかうんざりとした顔を浮かべる。

彼自身そこまで本を読まない。どちらかという雑誌の方が多い。故にこの本棚の中からこの町に関する事が乗っている本を探すなど面倒ではあった。だがこちらから依頼し、依頼料も取らないと約束してくれたギルヴァからの頼み。流石にサボる気にはなれなかった。しかしちまちまとやるのは自分の性分ではないと呟くブレイク。別の箇所へと移動しようとした時、受付に飾られている一つの絵画が彼の目に留まった。

興味本位でその絵画に近づき、それを眺めるブレイク。しかしその絵はどう考えてもこの場所に飾るべきではないと思えるもの。彼も同じ様に言葉にした。

 

「流石に趣味を窺うな。俺でも死神の絵なんて飾らないね」

 

黒いローブを纏う骸骨が大きな鋏を手にしている絵画。

まさしく死神を現している絵はあまり良いものではない。

暫くその絵を眺めるブレイク。そしてそれは起こった。

 

「!」

 

絵画から黒い靄を纏いながら何かが出てこようとしている。

それはゆっくりと姿を現し…真っ白な顔、まるで木製人形の様な両手には巨大な鋏が姿を晒す。

この世の者とは思えぬそれ。普通の人間なら驚くであろう。しかしブレイクはそれを見せなかった。

背に配置したホルスターから愛用の二丁の拳銃を引き抜き、それへと向ける。

 

「やれやれ…今まで見てきた奴らとは少し違うが…」

 

あれが悪魔だとは彼は知らない。

だが見てきた事がある様な口ぶりで彼は呟く。

コルト・ガバメントとベースにカスタムされた銃の引き金に指をかける。

 

「一曲踊ろうか…!」

 

黒き二挺拳銃が火を噴いた。




最近夢でHK416に何故か後ろから抱きしめられるという夢を見た作者です。
これはもっと出番を出せということなのか…?

さてお次はどうするかは未定なので遅れると思います。
ではノシノシ


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Act33 謎は終わらない

死神を模った悪魔。
それを相手にブレイクは愛用武器を構える。




今回は短いです。許せ…(震え


静寂なる一室に響き渡る一発の銃声。

その響きは調べ物していた代理人、彼女とブレイクにこの町の事を伝えに行こうとしていたギルヴァとフードゥルの耳に届かない訳もなく、装備している武器を手をかけるのも数秒の事であった。

一方で三人とは別の場所で巨大な鋏を持った悪魔「デスシザース」を相手にブレイクは動きつつ黒き二挺拳銃を連射していた。

本当に拳銃なのかと思わせる位の連射速度ではじき出される弾丸。しかしデスシザースは自身の獲物である鋏で巧に攻撃を防御していく。

これでは埒が明かない…そう感じたブレイクは遠距離に徹するのではなく敢えて接近する事を選んだ。

銃を構えたまま走り出すと彼は近くの本棚を壁代わりにしてその上を駆け出していく。

重力の概念を無視した動き。ブレイクという青年は本当に人間なのかと思いたくなる。だがそれを問う者はいない。

着実にデスシザースとの距離を詰めるブレイク。間合いなら銃が上。だが悪魔にはそれは通用しない。

 

「!」

 

刃を広げそれを振りまわしながらブレイクへ突っ込んでくるデスシザース。

攻撃を当たる前に彼はその場から飛び退くと鋏の持ち手を乗っかり、そのままそこを足場にして跳躍し宙高くデスシザースの頭上へと舞い上がった。

 

「よっと!」

 

その掛け声と共に彼は宙で体を上下反転。真下にいる死神に銃を向けたまま、その身を勢いよく回転させながら引き金を引いた。まるで弾丸の雨というに相応しく、降り注ぐ弾丸。

弾丸の大雨はデスシザースにダメージを負わせるが、その束の間鋏で防御される。

が、しかし防御に徹し過ぎたせいか鋏は耐久値を超え、片刃が壊れてしまうのだがそれでもデスシザースは片刃になってしまった鋏で攻撃を防御していく。

そこに別の方向から砲撃にも似た銃声と共に攻撃が飛来し、鋏を一撃で破壊した。

 

「幾ら防御に徹していても、この一撃は耐えられませんよ」

 

そう告げたのはシルヴァ・バレトを構える代理人であった。

ブレイクとデスシザースが戦闘を開始している所に駆けつけた彼女は狙っている所を気付かれぬように物陰に潜みその瞬間を待っていた。

弾丸の大雨を降らすブレイクへと気を取られている所を好機と感じた彼女は通常弾を装填したシルヴァ・バレトを発砲したのだ。

 

「助かるぜ、メイドさん」

 

体勢を元に戻し、地へと着地するブレイク。

するとデスシザースの顔が大きく歪んだ。大きく顔の周囲からはまるで血だまりの様な渦が。そこから生み出しているのかさっきの鋏を取り出そうとしている。このままではまたさっきの事が続く。

すかさず銃を構えるブレイクだが、そこに代理人の制止が入る。

ここは私にお任せを、と彼に告げると代理人は地を蹴りデスシザースの目の前まで接近する。

あとほんの数秒で新たな鋏が現れるが、それを彼女は許さない。

取り出そうしている鋏の持ち手を足で思い切り押し込み、動きを止める。

ホルスターから水平二連装ショットガン「Devil」を引き抜くとデスシザースの歪んだ顔面へと力良くその顔面が砕ける程の一撃で銃身を突き刺し引き金に指をかける。

 

「死神が死を告げられるとは…皮肉なものです」

 

ゼロ距離から散弾が叩き込まれる。

内部からの一撃に悲鳴にも似た声を上げデスシザースは消滅。床にあの鋏と木製人形の腕が転げ落ちる。

銃身を折り、薬莢を捨ててから元へと戻すと代理人はショットガンをくるりと一回転させてからホルスターへと差し込んだ。

 

「ひゅー、流石だな」

 

「この程度、大したことではありませんよ」

 

そう返ながら代理人は先程のブレイクの動きを思い返していた。

端から見れば普通の人間。しかし先程の動きは普通の人間が出来るものではない。弾丸の雨を降らせるあれも普通の人間が出来る筈がない。ならば彼は一体何者なのか…。

その問いの答える者はいない。だが彼女はある答えを導き出していた。

 

(まさかとは思いたいですが…)

 

だがその答えに確固たる確証はない。

その答えを内に秘めたまま、代理人は調べごとの続きをしようとした。

そこに戦闘音に聞きつけたにも関わらずゆっくりと歩いてギルヴァとフードゥルが二人と合流した。

 

「遅かったな。こっちはとうに終わったぜ?」

 

「そのようだな」

 

「それで?そっちは何か分かったのか?」

 

「ああ。思った通り、この町は過去に悪魔と関わりがあるらしい」

 

ギルヴァは全て話した。

1000年前にもこの町が存在し、そして悪魔の支配を受けていた事。

そして旅人であり、悪魔であった魔剣士 フェーンベルツによってその悪魔は封印された事。

あの本で知った情報を全て。

 

「成程…。とするのであれば、今回の原因はその封印された悪魔にあると?」

 

「そうとも言い切れん。もしそいつが原因ならば町の荒れ具合が引っかかる。封印されてかなり経つというのにあまりにも冷静過ぎる。普通なら怒りの任せて町全体を無茶苦茶にしている筈だ」

 

「…また謎に直面しましたね」

 

「ああ。もう少し調べなけらばならんな」

 

その一方でブレイクは指を顎に当て何か考え込んでいた。

それが気になったのかフードゥルが彼へと近寄り声を掛ける。

 

―どうした、貴公。何か思い当たる節でも?

 

「…フェーンベルツという名前にな。だれかに聞いたんだが…」

 

―ふむ。すぐには思い出せぬ感じか

 

「ああ。名前だけは明確に覚えているんだがな」

 

だあに聞いたかな、と呟くブレイク。

その傍らで聞いていたギルヴァは彼を尋ねる。

 

「フェーンベルツという名前は最近聞いたのか?」

 

「いや、恐らくだがガキの頃辺りだ」

 

「そうか。…思い出したら話してくれ。取りあえずここを離れよう」

 

その提案に全員が頷き、図書館を後にし始める。

しかしその様子をある者が見ている事に彼らは気付かなかった。

 

 

「他所モンが来たって言うから見に来たら、こりゃどういうこった?」

 

図書館から離れた位置に存在する廃墟でそれは図書館から出てくるギルヴァ達を見つめていた。

 

「それよ、あの兄ちゃんたちから感じる気配はなんだぁ?余りにも似すぎてないか?」

 

その者が一番に感じたのはギルヴァとブレイクから感じる気配。

その気配に彼は知っている反面、不思議に思っていた。何が不思議なのか彼にしか分からない。

 

「取りあえず報告だな。やれやれ幾ら鳥だからって無茶させるぜ」

 

翼を広げると空へと飛びあがるそれ。

その姿は猛禽類。翼を羽ばたかせ、その場から去っていく。

 

「全く俺がいないと駄目ねー」

 

そんな事を呟きながら。




やっとDMC5を買って楽しんでました。
鬼いちゃん戦ですげぇボコられましたが。

ん?最後は誰かって?まぁ…分かりますよ、うん。

では次回お会いしましょうノシノシ


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Act34 Break

図書館に現れた悪魔を撃退した彼ら。
この町の謎に直面している所に代理人がギルヴァに思っていた事を告げる。
それはブレイクの事だった。


図書館を後にし、一度バンへと戻ると比較的安全であった車庫にバンを移動させた後に、自分は車外へと出て外を眺めながら、この町 フェーンベルツで起きている事を思い返していた。

消えた住民たち、中途半端とも言える町の荒れ具合。1000年前に起きた悪魔による支配。この町を救い、町の名前ともなった魔剣士 フェーンベルツ。彼が去った後に起きた町の変貌。未だ見えぬ原因の正体。

繋がりがある様で、繋がらないこの状況に頭を悩ませる。

 

「さて…どうしたものか」

 

静かに空を見上げる。段々とオレンジ色へと染まり始める空。

この時間帯でも町は活気にあふれていたのだろうか。それは聞こえる事はなく、町は静寂のみとなっていた。

静かな時間は嫌いではない。だがこの町の静けさは不気味さを交えている。悪魔が原因か、或いはこの町の狂気か。

いや…両方か。そんな気がしてならない。

 

―一つ良いか?

 

「どうした、蒼」

 

―かつてこの町を救ったのはフェーンベルツという悪魔なんだよな?

 

「ああ。あの本にはそう載っていた」

 

―そのフェーンベルツという悪魔だが…俺の知る限りじゃそんな悪魔聞いた事がない。

 

「何…?」

 

ならばかつてこの町を救った悪魔は一体何者だ?何故自身の名を偽った?

 

「謎が謎を呼ぶとは正しくこの事か」

 

―フェーンベルツという名前で自身の名を偽った魔剣士。偽ったには何らかの理由があると思うが…。

 

「自分だとバレるのを恐れたみたいだな…」

 

何故偽ったのか。町の人間に対しては態々偽る必要性はないと考える。

ならば…封印した悪魔に?だとしたらこの中途半端な荒れ具合に説明がつかない。

町の住民、封印した悪魔以外の誰かに何かをバレる事を恐れて名前を偽った…?

流石にこれは憶測に過ぎないが…だがその線はあながち間違っていない気がしてならない。

 

「もう一つ気になる事がある」

 

―それは?

 

「ブレイクの事だ」

 

―…悪魔を相手にしたというのにたじろぐ事もなく、寧ろ余裕すら感じさせる態度。恐らく彼は…

 

「悪魔を知っている…或いは悪魔を知らずとも奴らを相手にした事がある…という事か」

 

正直そうとしか言わざるを得ない。

でなければあの余裕の態度は見せないだろう。

しかし何時から彼は悪魔と戦う事になってしまったのか…。それに関しては彼から聞く他ないだろう。

 

「ギルヴァ」

 

「ん?」

 

声を掛けられ、体をそちらへと向けるとそこには代理人が立っていた。

ここが比較的安全とはいえ、いつ奴らが現れるかは分からない。故に彼女はニーゼル・レーゲンを背負い、シルヴァ・バレトを手にしている。渡したショットガンもホルスターに差し込んだままだ。

完全フル装備の状態で代理人が自分の隣に並び立った。

 

「どうかしたか」

 

「中々戻ってこないので様子を見に来ました」

 

「そうか。…心配をかける」

 

「いえ」

 

風が吹いた。

町を駆け抜ける緩やかな風が体を包む。とても心地よいそれは、もしかすればこの町ならではのものかも知れぬと錯覚してしまう。それまでに心地よいものだった。

もしかすればこの町に移住してきた者はこれを理由の一つとして移住してきたのかも知れない。

自分も只々普通に生きていたら…この町に訪れていたかも知れぬ。最もこの町の狂気を知ってしまった以上、そんな思いは微塵の欠片もないが。

 

「ブレイクという青年…本当に"人"なのでしょうか」

 

沈黙の中、ふと代理人はそう呟いた。

何かブレイクに対し何か思う所があるのだろう。自分も彼に対し悪魔と戦った事があるとは別に思う所があるのだが、まずは彼女の方から聞いてみるとしよう。

事実、ブレイクと共に悪魔を撃破したのは他ならぬ彼女なのだから。

 

「あの悪魔と戦っている時の彼の動きは…最早人の動きとは言えませんでした…。あの様な動きは人形でも無理でしょう」

 

「…」

 

「だから私は思ってしまった。彼…ブレイクは、貴方と同じ"悪魔"ではないのかと」

 

やはりというのだろうか。

彼女は彼を…ブレイクの事を悪魔ではないかと疑っていた。

そして自分も彼は悪魔ではないかと思っている。そう思ったのは初めて会った時だ。

彼からは普通の人間とは違う何かを感じていた。それが自分と同じような悪魔の気配だとすぐには気付けなかったが、時間が経つにつれてそれは気付けた。

極めつけは彼が悪魔と対峙している際に見えた空中で弾丸の雨を降らしている所を偶然にも見た事だった。

代理人が言った様あんな動きは人間では不可、ましてや人形でも無理だ。できるとするのであれば、自分の同じ様に悪魔の力を持つ者ぐらいだろう。

問題は自分が悪魔の力を持つ者だと分かっているのか…或いはそれだと分からないが力を使っているのか。

前者で聞けばいい、後者であれば自分がその事を告げるべきだろう。

 

「その答えは…本人に聞くべきだろうな」

 

「え…?」

 

響くブーツの音。

赤いコートをなびかせながら彼が…ブレイクが姿を現す。

彼も疑念を持たれている事ぐらいは気付いていたのだろう。だから姿を見せたと言っていい。

 

「話を聞かせてもらおうか」

 

その言葉に彼はふっと口角を釣りあげるとバンの車体を背に凭れると腕を組みながら話し始めた。

 

「少し長くなるが、それでも良いか?」

 

「構わない」

 

「OK。さて…どこから語るかな」

 

静かに彼は語り始める。

どこか寂しそうで思い詰めた様な表情で。

 

「親を亡くしたか、捨てられたかのどちらかの理由で俺は孤児院の院長に拾われてね。今の名前も院長が付けてくれた。その当時院長が愛読していた本の作者から取ったらしい」

 

やはりか。

ファミリーネームがない辺りで気付いていたが…それに境遇は自分と似ているな。

自分も本当の親を知らない。彼と同じ様に亡くしたか、捨てられたかのどちらかだ。

違うのは名前を自分で付けたか、付けてくれたぐらいだろう。

 

「それから孤児院で過ごす事になって三ヶ月経ったぐらいだ。些細な事で同じ孤児院で過ごす奴と喧嘩になってな。あまりにもしつこい奴で、ついカチンときた俺はそいつをぶん殴ったのさ。まぁ手加減しておいたから大丈夫と思ってたんだが、これが予想に反してな。ぶん殴られたそいつ…軽く2メートルは飛んだのさ」

 

「手加減したにしては飛びすぎだな」

 

「だろ?その後、そいつは気を失って病院へ。俺は院長はこっぴどく説教された。幾ら何でもやり過ぎとか、色々言われたさ。だがこっちにも言い分がある。殴った事に関しては反省しているが、だからといって気を失う程の力で殴っていないとな。普通ならそんなことを言った所で言い訳するな、って言われて一蹴されるだけ。だが院長は違った。その事を伝えたら目を見開いていたよ。あの顔は今でも忘れられない」

 

ブレイクが過ごしていた孤児院の院長は彼の何か気付いていたというのだろうか。

危惧していたのか…あるいは別の理由があって?本人ではないから、そこまでは分からない。

 

「そしたら言われたよ。それを本気で使うなって…理由は教えてくれなかった。当然それが何なのかも教えてくれなかった。その時は自分でも分からなかった」

 

「では何時からそれに気付いた?」

 

「孤児院を出た後さ。前にも言ったが俺は便利屋まがいな事をやっていた。生活が懸かっていたからな、何振り構わっていられなかった。だが院長の言いつけは守っていた。殴り合いになったとしても殺しはせず、手加減した。でもそれはある事をきっかけで破らずにはいられなかった。そこで自分が普通じゃない事を知った」

 

「何があった?」

 

「町を転々とする前さ。俺は小さな酒場で働く女と知り合って…そいつに片思いしていた。俺が知る中で最高の女だった。自分が便利屋である事を怖がらずに受け入れてくれたからな。いつか彼女と付き合えたらとも思っていた。だがそれが叶う事はなかった」

 

ブレイクの顔に影が一段と差す。

彼にとって辛い出来事ではあったらしいな…。

小さく頷くと彼は言葉を続けた。

 

「何てことのない日の夜の事だった。仕事で別の地区から戻ってきた俺はいつものように酒場で酒を一杯飲んでから家に戻るつもりだった。酒場に向かうと店の隣に路地辺りで人だかりが出来ていた。嫌な予感がした…だから気になって見てみたのさ。人だかりをかき分けながら前に進み、たどり着いた。それを見た時言葉を失った…」

 

「…何があった」

 

 

「酒場で働いていたそいつが無残な姿で死んでいたのさ。鋭利な何かで何度も斬り裂かれ…惨い死に方だった。金属パーツやらが見えていたから…あいつは人形だったんだろうな。でもそんな事はどうでも良い。片思いしていた彼女が誰かの手によって殺された…その事だけが頭に残っていた」

 

「町を転々とし始めたのはそれが理由か?」

 

「いや、その時は町を転々するなど考えなかった。あいつらに鉢合わせする様になってからはな」

 

あいつら…となるとそれは。

隣で静かに聞いていた代理人もその答えに行きついている様子であった。

 

「悪魔か」

 

「そう。便利屋の仕事をしている傍ら俺は奴らと良く鉢合わせする事があってな。奴らとやり合っている内に気付いていたのさ。自分は普通とは違う…そして理解した。あいつが死んでしまったのも自分に原因があるのではないかってな。だから俺は自分が原因で他の誰かに悪魔による危害が及ぶ前に町を転々とした。そしてこの町に行きついたという訳だ」

 

「成程…。銃を何度も壊したのもそれが理由か」

 

「ん?ああ、その事か。答えはYESだ。奴ら相手に無茶苦茶連射する事が多くてね。その都度銃をぶっ壊してた」

 

確かにあれだけの連射を見れば壊れるのも無理ない。

何度も買い直すのであれば専用を作ってもらった方がいいだろう。

だからあれだけ大型化を施していたという訳か…今更だが納得がいった。

 

「うーん…昔を語るのは性に合わねぇな。でだ…これで納得が行ったかい?メイドさん」

 

「ええ、十分過ぎる程に」

 

「そいつは良かった」

 

疑念も晴れた事だ。そろそろ行動しなければならない。

しかしどうしたものか。ブレイクの事は解決したものの、今回の一件が解決した訳ではない。

手当たり次第探る他ないのだろうか…。

その時だった。

 

「っ!」

 

気配を感じた。それも悪魔の気配だ。

同じ様にブレイクもそれを感じ取ったらしく、銃を抜いていた。こちらが態勢に入った事に代理人も周囲の警戒を始め、バンからフードゥルも降りてくる。三人に視線を交わすと先に自分が車庫の外へと出る。陽は沈み、夜空が見えつつある。通りには静けさを保っており、それが返って不気味さを感じさせる。

…近いな。もうすぐそこに来ているらしい。態々姿を見せに来るとは…決闘者気取りか、あるいはそれ以外か。

 

「おうおう、流石に気付くよなぁ」

 

この町に聞こえた声。

誰もいない通りでその声は良く聞こえる。声が聞こえた方へと体を向けると、街灯の上で立っている猛禽類がいた紺色の体色で決して大型ではない。だがこの悪魔から感じる気配は以前相手したヴァンギスと比べるとあの猛禽類の方が勝っている。油断は禁物だ。

 

「お前も…悪魔か」

 

「正解。で、だ…。こんな所に何か用かい?にいちゃんよ。今や人一人いないこの町を観光しに来たというのならやめておいた方が良いぜ?回れ右してさっさとお家に帰んな」

 

「親切心を見せる割には随分と殺気を感じさせるのだな。帰す気など最初からないのだろう?」

 

「おうよ。テメェには…いや、テメェらには悪いがここでゲームオーバー。死んでもらうぜ」

 

―あぁ~思い出した。あいつ、グリフォンか。何であいつがこんな場所に?

 

どうやら蒼はあの悪魔…グリフォンを知っているみたいだ。だがここに居る事に関して疑問を感じているみたいだが…。

ともあれだ、グリフォンが姿を見せ俺達を始末しに来たのも何らかの理由があるのだろう。何とかして捕える必要があるな。

 

―ほう。貴公、グリフォンか。

 

「あん?…って、あんた、フードゥルか!?」

 

様子を見に来たのだろう。

フードゥルに続く様に代理人とブレイクも車庫から出てくる。

特にフードゥルの姿を見た瞬間、グリフォンはやけに驚いてはいるが…。

二人に何か関係があるのだろうか。

 

―我々を始末しに来たとなれば…そちらも始末される覚悟があるのだろう?

 

フードゥルの籠手と具足を模った外殻から雷が放たれ始める。

それは段々と大きくなり、そして彼が空へと向かって吼えた瞬間、雷は激しく放電した状態を保った。

フードゥルは身をかがめ、牙を見せる。まるでそれは獲物を見つけ、今から仕留めんとする狼。

これは彼に任せた方が良いみたいだな…。

 

「フードゥル」

 

―む?どうされたか、主

 

「あれを完全に仕留めず、捕える事は可能か?」

 

―ふっ…。その様な事、我からすれば容易い事。しかして何故?

 

「もしかしたら情報を聞き出せるかも知れん。…やれるか?」

 

―命とあればやり遂げてみよう

 

その瞬間、フードゥルの姿が消えた。

金色の雷を纏い、高速移動しながらグリフォンの頭上へと飛び出ると雷を纏い刃を形成し襲い掛かる。

 

―参るぞ、グリフォン。最期はどれがいい?ローストチキンか?それともフライドチキンか?好きなのを選ばせてやろうではないか!




はい。という訳で分かっていた人は分かってた、グリフォン登場です。
しかしDMC5のグリフォンとはちょっと違う感じでやります。その詳細に関してはまた今度。

しっかし…ダブルカリーナアン、楽しすぎて困る。
それと感想の事で少しお願いがあって活動報告を投稿しました。

ではノシ




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Act35 グリフォン

現れたグリフォンと激闘を繰り広げるフードゥル。
一方でグリフォンは今回の一件にある思いを抱いていた。

その一方で便利屋「Devil May Cry」にいる彼女もある想いを抱いていた。


「バーベキュータイムだぜッ!ワンちゃん!」

 

グリフォンがそう叫ぶと同時に翼を前へ振るうと雷撃が横に列を成して現れ、フードゥルへと襲い掛かる。

フードゥルとは違い、グリフォンは雷撃を用い遠距離戦を得意としている。高密度かつ変則的な雷撃の扱い方が顕著に表れている。対するフードゥルは自身から発生する雷を体に纏い、隙あらば雷で刃に形成して攻撃といった接近戦を得意とする。グリフォンが繰り出す様な攻撃もできない訳ではない。だがその技の豊富さはあの猛禽類が勝っていた。

 

「ぬん!」

 

迫りくる雷撃を躱し、攻撃へと転じるフードゥル。

互いに雷を用いた攻撃を得意とする両者。雷光がぶつかり、閃光が奔る。幾度なくぶつかり合うそれに、ギルヴァ達は離れてその様子を見つめていた。

フードゥルにグリフォンを任せたのはギルヴァだ。そして彼に任せた以上に手出しは無用。

ギルヴァが動かない事から、傍に立つ代理人もブレイクも只見ているだけに徹していた。

激闘は収まる事を知らない。両者が放つ雷撃はあらゆる所へと飛んで行き、その一撃がギルヴァの目の前に落ちる。

だが彼はだじろぐ事もなければ驚く事もしない。只々戦いを見つめていた。

 

「流石は精鋭部隊の隊長を務めた事があらぁッ!あんたは猟犬か、何かかよッ!!」

 

「猟犬などではない。我は狼ぞ!それすら忘れたか、グリフォン!」

 

「忘れる訳――」

 

フードゥルがグリフォンへと飛び掛かる。

刃を振りかざそうとした瞬間、グリフォンは翼を思い切り振り下ろした。

 

「――ねぇだろッ!!」

 

グリフォンの全方位を包む様な雷の防御壁らしきものを発生させ、フードゥルの一撃を受け止めた。

火花ではなく激しく散る紫電。負けじと己の刃を押し込もうとするフードゥル。

 

(マジかよ…強引に貫く気かよッ!?)

 

表情からでは分からずともグリフォンは内心焦っていた。

彼もまた悪魔の中では上位種に君臨するのだが、力という点ではフードゥルに負けていた。

元々遠距離での支援を得意とし密度のある攻撃を繰り出す事で敵の接近を許さないのだが相手が悪い。

上位種に入らずとも高速移動を用いた攻撃や魔力で生み出した雷で刃を作り出し、それから繰り出される攻撃は下手すればグリフォンでさえ一撃で刈り取られる威力を誇る。

 

(ったく…俺一人でこいつらを葬れって?ふざけんなよ、あの引きこもりの魔術師が!)

 

自分にこんな役目を押し付けた今回の首謀者にグリフォンは悪態つく。

ある目的の為に魔界から強引に人間界に連れてこられたグリフォンは今回の一件の首謀者たる悪魔にこき使われていた。主に偵察を任される事が多く、ギルヴァ達の事を見つけた時はすぐさまその事を伝えに行った。

悪魔を討つ力を持つ者が現れたのであればその悪魔も何らかの行動を起こすだろうと思っていた彼に伝えられたのはギルヴァ達の始末であった。流石に自分一人では荷が重いと抗議したそうだが、それも聞き入れられる事はなかった。

フードゥルを相手にするだけで手一杯なのにギルヴァやブレイク、代理人が相手になれば勝ち目などあるだろうか?否、無い。寧ろこちらが狩られる。だがここで逃げ帰った所で殺される。ここで戦った所で殺される。

どの道、グリフォンに逃げ道はない。ならば奇跡を信じて戦いを仕掛ける他ないのだ。最もフードゥルは自分を殺す気などない事は知る由もないが。

 

「ぬおおおおっ!!」

 

「え、ちょっ!マジかよッ!!?」

 

グリフォンが放った攻撃がフードゥルの刃によって崩される。

すかさず威力が低いながらも連射が効く光弾を放つ。だがフードゥルが纏う雷によりそれは全て弾かれていく。

次の手を出そうとしてもその余裕はない。今から引こうとしても刃の範囲に入っている。

 

(…こいつは詰んだな…。やれやれ…もうちと長生きしたかったもんだぜ)

 

死を悟り、動きを止めるグリフォン。

だがそれをフードゥルは許さない。刃ではなく、体を回転させ尻尾をグリフォンの体へと叩きつけた。

決して強い一撃で無いにしろ、グリフォンを地面へと叩きつけるには十分な一撃。

一撃を当てられたグリフォンはそのまま吸い込まれる様に地面へと叩きつけられた。

 

「ぐえっ!」

 

変な声を出しながら地面とぶつかったグリフォン。

あのままやればこっちを倒せたに関わらず何故か仕留めなかった事に疑問を抱く。

そこで彼は気付く。戦いが始まる直前、フードゥルがあの男と何かを話していたのを。

 

「最初から…うおっ!」

 

何かに捕まれる感覚に驚き、頭をそちらへと向ける。

彼の視界に入ったのはフードゥルが自分の首を咥えて持ち上げられていた様。まるでそれは狩りを終えて主に獲物を持っていこうとする様そのもの。やっぱ狼というより犬だよなぁと彼は内心そう呟いた。

もしそれが声に出ていたのであれば今度こそローストチキンかフライドチキンにされていたであろう。

 

「主よ、これで良いか」

 

「ああ。上出来だ」

 

ギルヴァ達の前で足を止めるフードゥル。咥えているグリフォンを離し、ギルヴァ達の後ろへと下がった。

フードゥルから離されたグリフォンは体を起こし立ち上がると正面に立つギルヴァを見つめた。

何故自分を殺さぬように指示したのか、グリフォンもそこまで頭が回らない訳ではない。

恐らくというより…十中八九今回の首謀者の事について、そしてその理由を知る為だと。

元よりグリフォンはその悪魔に良い様にこき使われ、良い感情を持っていない。目的を成し遂げたいのであれば勝手にやってろと大声で言いたいぐらいだった。

 

(どうせ魔界には戻れねぇし…話してもいっか)

 

忠誠を誓ったわけでもない。向こうも自分が消えた所でどうとも思わないだろう。

ならばいっそ倒魔の力を持つ者にそいつをぶちのめしてもらった方がスッキリするというものである。

 

「…こちらが聞きたい事が分かっている顔だな」

 

「ああ。あんたらが知りたい事を全部知ってるぜ。で、何が聞きてぇんだい?」

 

その表情から中々読み取れないが、声量からしてそれは実に悪魔らしいものであった。

 

 

一方…。

ギルヴァ達が遠く離れた小さな町 フェーンベルツを訪れているその頃。

S-10地区前線基地に併設された建物「Devil May Cry」の店内では灯りが灯っていた。

知っている者は知っているだろうが、ここは404小隊の帰る家としても機能している。故に店内に灯りが灯っていもおかしい話ではない。最も店内でギルヴァがいつも座っている椅子に腰かけている45の目には光が灯っていないが。

彼女達が任務から帰ってきたのはギルヴァ達が出ていった数十分後の事である。指揮官に報告を終えて後、疲れを癒す為、そして愛してやまない彼に抱きつく為に急いで店へと向かった45に待ち受けていたのは誰も居ない店内だった。のちに彼らは依頼で店を開けた事に知り、仕方ないといえば仕方ないとそう結論付けた彼女なのだが…。

 

「どこに行ったんだろう…、まさか私に隠れて浮気じゃ…。もしそうなら…フフフ…アハハ…♪」

 

ギルヴァに抱きつく事が出来なかった事が原因なのか。

狂気ここに極まりと言わんばかりに45は物騒な事を呟いていた。

その一方でソファーに腰掛けて彼が愛読している本を読んでた416は言葉こそしないものの、内心ギルヴァの事で一杯だったりする。404小隊の中で彼と最初に出会ったのは彼女なのだ。あの時自身が恐れられるかも知れぬというのにも関わらず悪魔の力を解放し助けてくれた事もあって45の様に大胆にはなっていないものの、好意を抱いてたりする。そこまでなら恋する乙女と何ら変わりないだろう。だが何時しか彼女の中でこんな思いが芽生えていた。

 

―もっと私を見て欲しい…

 

そんな思いを抱く様になる。それを抱く様になったのはここで過ごす事を彼が許可してくれた辺りからだ。

そこまでしてくれたのは他ならぬ45であるのでそれに関しては感謝している。だが自分達が汚れ仕事をやる事を気にせず受け入れてくれて、まして帰る家としてここ「Devil May Cry」で過ごす事も許可してくれた。

彼からすればそこまで気にしていないかも知れない。だが彼女…いや404小隊にとっては非常に喜ばしい事である。

 

(ああ……早く貴方に会いたい…そして触れたいわ…)

 

故に思いが止まらなくなっていた。最早恋の暴走機関車と言わんばかりに。

そんな時だった。45が416へと声を掛けた。

 

「ねぇ、416」

 

「何かしら?」

 

「彼…ギルヴァと家族になれたら…それってとても素敵と思わない…?」

 

416も気付いていた。そしてその意味も。

ギルヴァという男は誰にでも優しいのだ。最も敵対すれば容赦しない点はあるが、その刃が404の面々に向けられる事は可能性としては限りなく低いだろう。それにだ。どこから知ったのか45にもたらされた情報によればギルヴァは何度かAR小隊の部隊長 M4A1と何度接触していると。聞けば一度は依頼で助けに行ったらしく、それに関しては仕方ないと言わざる終えなかった。だが彼女によればギルヴァはM4A1に対し何らかの思いを抱いていると告げられた。その思いが一体何のなのか分からずとも彼女としてはそれは良くない。何より気に食わない。

ならば彼を自分達の所に引き込めばいい。どんな手段を使おうとも。

 

「…そうね。あいつらに渡すなら分捕るわ…」

 

「決まりね…。因みに9とG11には通達済みよ。9は喜んで受けてくれたし、G11もギルヴァの事を良いお兄さんみたいに見てるらしいから、問題なしよ」

 

「そう」

 

奴らから彼を分捕る。そして私達の家族となる。

それがどれほど甘美なものだろうか。その先の光景を予想した416は体が熱に浮かされる感覚を覚えた。

 

(ギルヴァ…私は貴方に全てを与える。この想いも、この体も…スベテ…)

 

ふっと彼女の瞳から光が消える。

ギルヴァが愛読していた本を閉じると、以前に読んだ本に綴られた言葉を呟くと同時に416は依頼をこなしているギルヴァへと想いを馳せた。

 

「欲望あれど行動せぬ者には…災いあり」

 

(だから待っていて?私達無しじゃ生きていけない様にシテアゲルカラ…フフッ…)




グリフォン戦短いと思いますが…許せ…。

久しぶりのヤンデレでございます。
流石ににそろそろ出さないと不味いと思い、出しました。

さてお次はグリフォンが知る今回の全てからスタートです。
ある程度は決まっているのですが更新は遅れると思いますので何卒ご容赦を。

ではではノシノシ


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Act36 災厄

語られる全て。元凶の悪魔。そして…




以前投稿した時はお気に入り登録者数が365だったんだが…
おかしいな、400超えてるだと…?
お気に入り登録した理由は?
DMC?それともヤンデレで?もしくは両方…?
誰か答えてくれ…。
それは兎も角…
本当にありがとうございます(涙


全てを知っていると語るグリフォン。

発端と理由、そして今回の首謀者を知る為に彼らはバンに戻ってから話を聞く事にした。

ジュークボックスを足場にし、グリフォンは全てを話し始めた。

 

「まずは今回の首謀者の事についてだ。俺を魔界から無理矢理人間界に連れてきたのはアルフェネスだ。魔界じゃ魔術で右に出る奴はいないとされる程の実力者さ」

 

ギルヴァ、ブレイク、代理人にはアルフェネスがどういう奴なのかは知らない。

だが蒼とフードゥルは魔界出身である為、アルフェネスと呼ばれる悪魔を知っていた。

 

(アルフェネス…。あの閉鎖的魔術師か…。何故この様な事を…)

 

(あいつか…。一度会った事はあるが大胆な事をやらかす様なタマだったか…?)

 

「魔界のお家で引きこもってればいいのによ。あいつ、どこで知ったのかこの町で封印された悪魔を復活させようと考えたのさ。理由は一つ、その悪魔の力を自分の物にする為にな。で、あいつはこの町に降り立った。だが目的のその悪魔を封印されていた。だいぶ強力な封印だったらしいんだが、ある日になってその封印が弱くなっている事に気付いた」

 

「この町の人間どもは何をとち狂ったのか若い娘を人柱にしていた。恐らく封印をより強固なものにしようと考えたんだろうが、返ってそれが封印を弱らせる原因となった。人間丸ごと放り込んだ所でそれは力を付けさせる様なものさ。全く人間ってのはどうして余計の事をしたがるもんかねぇ」

 

事の発端は人間から始まっていた。それはどうあがいても変えられない事実。

しかし悪魔がこれ以上人に害を成すというのであれば、ギルヴァらは動かざるおえない。しかし悪魔が皆全てそうという訳ではない。かつて相手してきた悪魔 ヴァンギスとは違い現にここには罪のない人に害を成す事なく寧ろ「人」や「人形」を愛する悪魔(ギルヴァ)がいるのだから。

 

「そしてアルフェネスはある手段に出た。例えそいつが復活したとしても力が弱いままでは意味がない。ならばこの町で過ごす人間を養分として捧げる為、ご自慢の術を使って捕え、養分として与えた」

 

町の人間の謎の失踪の真実を告げられた時、ブレイクは少しであるが体を反応させた。

やっていた事も決して許された事ではない。それでも彼は今回の元凶を討つ気でいた。だが彼らもこんな事を望んでやった訳ではない。悪魔という存在に人生を、己を狂わされた被害者なのだ。そして町の住民は悪魔の復活の為に養分として捧げられた。捧げられてしまった者達の悪夢は今でも続いている。その悪夢から解放するためにもと彼は決意する。例え刺し違える形になったとしても。

 

「それからはというもののあいつはこの町の真ん中に存在する大聖堂を拠点に封印を解こうとしている。どれくらい進んでいるのか知らねぇが、猶予もあるとは言えねぇ」

 

だから移動はしてた方が良いぜ、と告げるグリフォン。それを聞いたギルヴァは傍に立っている代理人へと視線を送る。その意図を感じ取った代理人は小さく頷き、運転席へと向かいバンのエンジンを掛けた。

今居る地点から大聖堂に向かうのであればブレイクの案内が必要になるのだが、代理人に抜かりはなかった。図書館で調べものするついでにこの町の全体の地図を記録しており、後は大聖堂までの最短ルートを割り出すだけであった。流石はハイエンドモデルというべきだろう。最短ルートを割り出した代理人はペダルを踏む。

走り出したバンの車内で、グリフォンは言葉を続ける。ギルヴァ達には話さなければならない事があるのだ。

 

「そしてアルフェネスが復活させようとしている悪魔の事だ。何故そいつが、と思う所はあるが伝えておく。そいつは魔界では"覇王"と呼ばれていた」

 

「何…?」

 

"覇王"と聞き、そう呟いたのはフードゥルであった。

心なしか声は震えており、その目は見開かれていた。フードゥルからすれば何故その者が、と言いたくなる程であった。もしその悪魔が自分が知る悪魔だとするのであれば、ギルヴァですら勝てるかどうか怪しいと感じたからだ。故に彼はそうではないと祈りつつ、グリフォンに尋ねた。

 

「…アルゴサクス、否…ザ・ディスペア・エンボディードではあるまいな…」

 

「…」

 

(最悪中の最悪だ…。1000年前に現れた悪魔がそいつだったとはな…)

 

グリフォンは少しだけ顔を下に傾け押し黙った。その様子を見たフードゥルは言葉を失い、蒼は冷静を保ちつつも、その声は強張っていた。

二人にとって当たって欲しくなかったそれは、無慈悲にも当たってしまったのだから。彼らの心境は穏やかではなかった。最悪な事態に直面していると言わざるおえなかったのだ。ギルヴァ達がその悪魔に負ける様であれば…世界は終わりを迎えてしまうのだから。それ程までにザ・ディスペア・エンボディードは強力過ぎる悪魔と言えた。

そしてそれを復活させようとしているアルフェネスにフードゥルは揺れる車内で声を荒げた。

 

「力欲しさにあれを復活させるだとッ!?ふざけるでない!あれを恐ろしさを知らぬ奴ではない筈だ!!」

 

「俺も正気じゃねぇと思ったさ。魔界の体制を単身で変えちまうバケモンを復活させるとか狂ってやがる。だが誰も止めはしなかった。成功する筈がねぇと思ってるんだろう」

 

その言葉に余計にフードゥルの怒りは増幅させた。

そこでギルヴァが手を彼の前に出し、怒りで冷静さを失っているフードゥルを制止させた。フードゥルへと向けられるギルヴァの視線は落ち着けと語りかけていた。フードゥルも怒りで冷静さを見失っていた事に気付き、すまぬと謝罪の言葉を述べたのを耳にするとギルヴァはグリフォンへと尋ねた。

 

「その悪魔はどの様な奴だ?」

 

二人の会話、そして蒼が呟いた言葉から察するにザ・ディスペア・エンボディードが最悪な悪魔だという事は、ギルヴァも、そしてグリフォンとフードゥルのやり取りから代理人とブレイクも理解していた。しかしその悪魔がどの様な奴なのか分からないのでギルヴァは尋ねたのだ。蒼に聞くという事も出来たのだが、蒼の声は彼とフードゥルにしか聞こえない。効率を考えての判断だった。

 

「ザ・ディスペア・エンボディード…。さっきも言った様に魔界じゃ"覇王"と言う名で通っている。その由来は数千年前に自身が魔帝の座に着く為に、当時の魔帝とそれに付き従う悪魔を奴は一人で殺した事から来ている。どれ程の悪魔がそいつの刃に敗れたか分からねぇが、下手すれば馬鹿みたいに高い死体の山が五つ出来る程とか。事実、そいつのせいで魔界の体制は総崩れ。この世界の様に魔界も荒廃している」

 

「だが魔帝の座に着く事は叶わなかったらしいな」

 

「ああ。ディスペアが魔帝の座に着く前に奴はこの世界の人間によって呼び出された。さぞかしキレただろうな…。だが町の支配だけに落ち着いたのは変とは思うけどよ」

 

「確かに…」

 

妙な話だとは彼も薄々感づいていた。

自分が魔帝の座に着く為に、当時の魔帝と着き従う悪魔を殺害。目的を成し遂げる寸前で人間によって邪魔されたのだ。当然憤怒したであろう。だがこの町の支配だけに落ち着いたのは意外な話だった。当時の魔帝を倒せる力があるならこの町どころか世界を支配出来たであろうに。それをしなかった事には何らかの理由があるのだろう。しかしそれを知る手段はない。

 

「こっから知ってるかも知れねぇが、ディスペアはこの町に訪れた魔剣士によって敗れ、封印された。それは知っているよな?」

 

「ああ。魔剣士 フェーンベルツにだろう?」

 

この時、ギルヴァは蒼によってもたらされた情報を敢えて言わなかった。

フェーンベルツという悪魔が居ないのを知っているのは彼だけなのだ。うっかり話してしまえば誰に聞いたと尋ねられるだけ。話しても良いかも知れないと思いながらも、敢えて黙っておく事にした。

 

「だがフェーンベルツという悪魔は俺は知らねぇ。でもよ、その魔剣士の本当の名は知ってるぜ」

 

「して、そいつの名は?」

 

「ローグフェルツ。魔剣士、そしてディスペアのとってかけがえのない友人だ」

 

「…」

 

沈黙が訪れる。

何よりもディスペアとその魔剣士は何らか関係がなかった訳ではなかった。逆にあったのだ。かけがえのない友人という関係が。友が討ちにきたと、当時のディスペアはどう思ったのか。友に刃を向ける事になると、当時のローグフェルツはどう思ったのか。

殺し合う二人の間には何があったのだろうか?友情?愛憎?そこに存在した理由。だがそれは当事者達にしか知り得ない事だ。

 

「着きました」

 

沈黙を破る様に、代理人が大聖堂に到着した事を告げた。

この町の象徴如くそびえ立つ大聖堂。誰一人としていないこの町にそびえ立つそれはある種、恐怖を晒しだしていた。現に悪魔がこの大聖堂に封印された災厄を復活させようとしているのだから。それが出ていても不思議でもないのかも知れない。

雲一つない星空の下、大聖堂の前で悪魔狩人(デビルハンター)達が姿を現す。

 

「行くぞ」

 

そう告げて、先に歩き出したのはギルヴァだった。そして続く様に代理人、ブレイク、フードゥル、グリフォンが彼の後を追う。向かうは災厄を復活させようとする悪魔。そんな中、ブレイクはある思いで一杯だった。

 

(まさか…あんただったとな。通りであんたはその話が無駄に詳しかった訳だ)

 

誰かに語りかける様に自分の内で呟くブレイク。どこかその声は優しいものだった。

 

(悪魔の力を本気で使うなと言ったのは俺が悪魔がらみに巻き込ませない為…。でもいつかこうなる事を分かっていて…強引に俺を引っ張ってきては剣の技を叩きこんだのだろう?)

 

こう見えてもブレイクは剣が使えた。自分の身の丈はあるであろう大剣を扱う事が出来るのだ。

今まで使わなかったのは無駄に目立ちたくなかった為。だがこの時に限っては後悔していた。ギルヴァの様に刃物を持っておくべきだったと。ならば悪魔相手でも対等に戦えるだろう。

 

(…今でも覚えているよ。あの話を聞かせる度にあんたはどこか悲しそうな顔してた。本当は友人を討ちたくはなかったんだろう?)

 

彼の脳裏に浮かぶはある恩人の顔。

その恩人はブレイクにその話を何度か聞かせてきた。善と悪がはっきりと分かるその話がブレイクは好きだった。

しかし恩人は悲しい顔をしていたのを覚えていた。子供の時には分からなかったそれを今になって彼は理解していた。そして彼はローグフェルツがどんな奴なのかも分かっていた。寧ろ1000年以上生きていた事に驚きもしているが、何も言うまい。

 

 

 

(…フェーンベルツはあんただったんだな)

 

 

 

思い浮かぶはただ一人。否、彼しかいないのだ。

 

 

 

(だろう?)

 

 

 

家族がいない彼にとって父親とも言えた人物。

 

 

 

(院長)




アルフェネスはオリジナルですが、ザ・ディスペア・エンボディードはDMC2ダンテ編のラスボスです。幾らかオリジナル設定ぶっこんでいるけど許して…。
てか何故こいつなのかって?DMCシリーズで作者が最初にプレイしたのがDMC2だから…。


次回はどうするのか未定なので、更新遅れるかもです。気長にお待ちを…。ノシノシ


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Act37 巣食う寄生虫

大聖堂へと乗り込むギルヴァ達。
アルフェネスによって生む出された魔樹を巣食う寄生虫が姿を現す。


大聖堂の扉を押す。

その大きさ故にそれなりの力を要し、ドアの軋む音がが大聖堂内部に響き渡る。

まるで嘆く様な…不気味な叫び声にも聞こえるその音は自分達に何かを伝えてきているようだった。

そして内部の全貌は明らかになった時、代理人が呟いた。

 

「荒れてますね…」

 

内部は巨大な管の様な何かがいくつも見えていた。所々棘の様な物が生えており、黒く染まったそれは禍々しい。そして管の先には苗の様な何かがあった。元々はその場所には祈りの捧げる為の神像が置かれていたに違いない。だがそれは苗に取り込まれた形で埋まっていた。元々悲痛な叫びをした表情をしていたのだろう。その事も相まって、まるで助けを求めている様にも見える。

にしてもこれほどの物を用意できるとは、流石は魔界の魔術師といった所だろうか。

よく見れば苗から生えている管は地面を突き破り下へと続いている。恐らくではあるが管が続く先にアルフェネスがいる。そしてザ・ディスペア・エンボディードが封印されてると見ていい。

まずは大聖堂の地下へと繋がる入り口を見つけなくてはならないが…。

そう決めて一歩踏み出した時であった。苗から何かが現れた。、目は存在していないが、口がある。如何にもこちらを食い殺さんと言わんばかりの触手が一直線にこちらへと飛んできた。

 

「!」

 

地面を蹴りその場から飛び退く。代理人達もその場から各方位へと飛び退く。

苗からはまたあの触手が飛び出し、こちらを狙って襲ってくる。動きは単純なので回避は容易なのだが、このままでは先に進めない。

 

「ギルヴァ。貴方はブレイクと共に先へ行ってください」

 

叫び様に大声で伝えてきたのは少し離れた位置にいた代理人だ。

飛び交う触手たちの攻撃を難なくかわしながら、ショットガンを構え散弾を放っていた。

 

「どうする気だ、代理人」

 

「どうするも何も…目の前にある目障りな苗を討ちます。私とフードゥル、そしてグリフォンで」

 

俺まで!?とグリフォンが叫んだ気がするが、触手が暴れ回るせいで起きる轟音と銃声で聞き取れなかった事にする。

だがこのままではアルフェネスに猶予を与えてしまう事になる。ならば彼女の提案を許可するしかないだろう。

 

蒼、奴の位置は分かるか?

 

―地下なのはわかっているな。奴の気配も探知出来ている。ナビゲートなら任せろよ

 

流石だな。

 

「ブレイク、ここは代理人に任せて先に行く。ついてこい!」

 

「あいよ!」

 

攻撃を回避し、別の部屋へと通ずる廊下へと飛び込む。それに続く様にブレイクも後を追ってきた。

代理人が居る部屋では銃声が鳴り響いている。フードゥルとグリフォンも一緒に居るので大丈夫だと思いたい。

地下へと繋がる入り口を目指し、ブレイクと共に走り出す。まだ少しだけ時間があると願いつつ…。

 

 

「行きましたか」

 

「おいおい、メイドのねぇちゃん!何で俺まで巻き込むのよ!?」

 

何やらチキン野郎(グリフォン)が騒いでいるみたいですが、ここは聞かなかった事にしましょう。

すると苗からあの触手とはまたタイプが違うのが姿を見せた。形から人型…柔らかい何か出来ており、両腕には細い剣の様な何か。見た目からして正直気持ち悪い。

 

「よ、よ、避けやがったな!俺の、こ、攻撃を!」

 

喋るとプルプルと震えるみたいですね…にしてもこれも悪魔という訳ですか。

以前見たタイプとは全然違いますね。あれは寄生型でしたが…こちらも寄生型なのでしょうか?

趣味の悪い苗から出てきたのですから…さしずめ寄生虫ですかね。

 

「うへぇ、きめぇ…ニーズヘッグか」

 

「ああ。ニーズヘッグだな」

 

どうやらグリフォンとフードゥルはあれを知っているみたいですね。

まぁ二人は魔界の出であり、悪魔。目の前にいるあの悪魔について知っていてもおかしくはないでしょう。

その声が聞こえていたみたいで、ニーズヘッグと呼ばれる悪魔が喋り出した。

 

「お前、俺を知っているのかぁ?」

 

「正真正銘の馬鹿さ。魔樹の中でしか動けねぇ寄生虫野郎だしよ」

 

向こうの台詞を無視して、グリフォンはニーズヘッグを馬鹿にしつつこちらへと情報を与えてくる。

馬鹿はともかく、魔樹という言葉が気になる。どういったものかは知りませんが、あれも…。いえ、苗と管から察するにあれは魔樹の根の部分に当たるものかもしれません。

 

「魔樹…。そして下へと繋がっている管。成程、これは封印されているディスペアに養分を与えるものか。ニーズヘッグと根を叩き潰せば少しはディスペアの力を弱らせる事が出来るかもしれぬ」

 

「ほう…」

 

それは良い事を聞きましたね。

ギルヴァ達の助けになるのであれば、それをやらない理由はない。

それに、持ってきた"こいつ"で悪魔相手にどれ程聞くか試すのも悪くないでしょう。

ガンベルトの左側に下げているものを見やる。大型弾倉に、杭の様なもの。先端には成型炸裂弾を備えているというもの。人形、人間相手には決して使うものではない武器。パイルバンカーとも呼ばれるが、少し違う。これは、ヒートパイルと呼ばれるもの。

そう。あの時、あの兵器工場からシルヴァ・バレトやニーゼル・レーゲンと共に持ってきた一つ。使う機会は中々なかったが今回は念の為持ってきていた。

 

「お、俺を馬鹿にしたな!」

 

「げっ!聞こえてやがる…」

 

グリフォンが馬鹿と罵ったのが聞こえていたのでしょう。

キレるニーズヘッグに指示で触手がグリフォンへと狙い定められる。グリフォンの自業自得なのですが、流石に死なれるのは困る。すかさずシルヴァ・バレトに徹甲弾を装填し、その触手へと一発放つ。

砲火と共に弾き出された29mmの弾丸の一撃を受けた触手の頭部らしき部分は跡形残さず散り、残された触手が苗へと引っ込んでいく。

 

「殺す!お前ら、こ、殺してやる!」

 

明らかな殺意を見せるニーズヘッグ。

たかだが馬鹿と罵られただけであれほどキレるとは…沸点が低すぎだと思うのですが。

まぁそんな事はどうでもいいです。早い所、寄生虫の駆除と趣味の悪い苗の撤去をしなくてはなりません。

 

「やれるものならやってみなさい」

 

シルヴァ・バレトを持ったまま、右手に持ったデビルをニーズヘッグへと突きつける。

 

「どの道、消えるのは貴方でしょうから」

 

 

その言葉を火蓋に戦いが始まる。

シルヴァ・バレトの一撃を受け、頭を吹き飛ばされた触手は再生したのか再度姿を現し、彼女達へと敵意をむき出しにし、襲い掛かる。そしてニーズヘッグの視線は、フードゥルやグリフォンにではなく代理人へと注がれていた。

 

「お前…い、良い女だな…。お、俺がか、可愛がってやるぞ」

 

戦闘中だと言うのに明らかに下心満載な声で代理人へ告白まがいな事をやらかした。

 

「お断りです。寝言なら寝て言いなさい」

 

即答からのお返しと言わんばかりにニーズヘッグへとショットガンを放つ代理人。

彼女には心から愛する人(ギルヴァ)がいるのだ。ましてやニーズヘッグの様な悪魔に可愛がられるとか論外中の論外である。そうなる位なら死んだ方がマシとも言えるだろう。

雷撃を放ちながら、そのやり取りを聞いていたグリフォンはゲラゲラと下品な笑いを上げながら、ニーズヘッグへと挑発を仕掛ける。

 

「ギャハハハハッ!ひ~…!こいつは傑作過ぎんだろッ!こくって三秒でフラれやがるッ!!ざまぁねぇぜ!」

 

「この…ト、トリがぁっ!!」

 

挑発に乗り激怒するニーズヘッグ。ニーズヘッグ自らグリフォンを攻撃を仕掛ける。

両腕を剣を乱暴に振り回しながら襲い掛かるが、そこにフードゥルがニーズヘッグの目の前に雷を落とし攻撃を止めさせる。

 

「おっと!惜しい!なぁ、どんな気分?マジでどんな気分よ?寄生虫ちゃんよぉ!」

 

煽りに煽りまくるグリフォン。

最早どっちが悪魔か分からないものである。

しかしグリフォンによる挑発が功を奏し、ニーズヘッグの攻撃は雑なものになっていた。考えもなく、只々振り回すだけの単調攻撃は、フードゥルも間抜けがと内心呟く程に。

高速移動しつつ、現れる触手を一撃で仕留めるフードゥルの攻撃によりニーズヘッグの防御は薄れていく。

 

「よっとおッ!!」

 

グリフォンから球体が落ちる。そしてそれが地面と接触した時、二筋の雷撃が扇状に展開、そして互いの距離を縮め合っていく。それは一度だけでなく、二度、三度続く。繰り返し行われる攻撃に追加する様にグリフォンによる攻撃が繰り出される。

 

「しびれなッ!!」

 

五つに並列しつつ迫りくる雷撃を展開。雷の壁が触手を、ニーズヘッグに確実なダメージを与え、そこにフードゥルが飛び込む。纏っている雷を用いて強烈な落雷を叩きつける。槍の様な鋭い一撃はニーズヘッグの体を貫く。

 

「ぐおおおおおおおおっ!!!!」

 

流石にニーズヘッグもその猛攻にはよろめく。

与えられたダメージは大きく、触手にも攻撃指示出せない。

 

「!」

 

生まれた隙。代理人がショットガンをホルスターへと差し込み、ヒートパイルの持ち手を握り、ニーズヘッグへと駆け出し、構える。しかし彼女が思ったよりニーズヘッグが早く復活し、その場から離れようとしたが代理人の追撃は止まらなかった。力強く地面を蹴りニーズヘッグの眼前にまで迫る。

そして勢い任せに杭をニーズヘッグの顔に当たる部分に叩き込んだ。

体に風穴を開けかねない程の一撃はニーズヘッグの体表を抉る。その痛みに懇願にも似た声が上がる。

 

「やめ…やめ…やめろおぉ…!」

 

痛みにのたうち回るニーズヘッグ。だが代理人は杭を差し込んだ手を緩めない。

この悪魔が確実に死ぬまで離さない。

 

「斬られた虫は隙は晒す…」

 

苗へと逃げようしたのがニーズヘッグの運の尽きだった。

代理人はヒートパイルの引き金を引いた。

それへと縫い付けるかの様に杭が飛び出し、先端部の成型炸裂弾が炸裂、ニーズヘッグの内部で爆ぜた。

それが止めの一撃となり、ニーズヘッグが力なく崩れていく。代理人はその場から飛び退き、地に着地。

ヒートパイルの排莢を行いつつ、息絶えたニーズヘッグへと告げた。

 

「貴方はどうでしょうか」

 

排莢により落ちた薬莢がカランと音を立てて戦いの終わりを告げる。

その身は細やか粒子へ変わっていき、ニーズヘッグは消失していく。そして根を寝床にしていたそれも段々と真っ白へ変色していき、そして最後は砂の様に崩れ落ちていくのだった。

こうして代理人、フードゥル、グリフォンによりザ・ディスペア・エンボディードへと送られる養分は絶たれた。




ニーズヘッグ早期退場…許せ…。あとグリフォンの煽りはやっちゃっ駄目だからねぇー。

さてお次は未定なので遅れると思いますので…。
また感想くれたら嬉しいです。…まぁ作者お豆腐メンタルだから、ご容赦を…(震え

ではノシノシ


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Act38 分岐点 side ギルヴァ

代理人達がニーズヴェルグと戦闘を繰り広げている一方。
ギルヴァは大聖堂の地下通路を歩んでいた。
しかし一緒に行動していたであろうブレイクの姿はなかった。



今回はギルヴァ視点で。
また新しい戦術人形も登場です。
どうやら彼女は色々あって今回の一件に巻き込まれてしまったみたいです…。


ずっと奥まで続く大聖堂の地下通路。こちらが大聖堂に乗り込んだ事は向こうも分かっていると思うのだがこれが予想に反して何も出てこない。それ程までにアルフェネスは封印を解く事に夢中になってしまっているのか、或いはこちらが来るのを待っているのか…。どちらにせよ急ぐ必要がある。

 

「ブレイクと合流出来ればいいが…」

 

共に行動していたというのに、隣にはブレイクの姿がない。

実は彼とはつい先ほど離れ離れになってしまった。どうやらこの地下にへと踏み入れた際に、アルフェネスが敷いたであろう罠が発動し、分断されてしまったのだ。

なのでブレイクが今どこに居るのか分からない。だが魔力探知で何となくであるが彼の魔力を感じられるので生きていると判断していいだろう。

 

「先を急ぐか」

 

じめじめとした空間。辺りに漂う魔力の残滓。あからさまに人の手が加えられているであろう木枠には小さい照明器具が備え付けられている。だが出力が弱いのか、薄っすらとしか道を照らさない。暗くないだけまだマシと言えばマシであるが。

幸いというべきか、この辺りに悪魔達が出てくる様子はない。このまま奴らと鉢合わせない限りアルフェネスが居る場所に辿り着けるだろう。最もこういう場合は上手く行く事はないが。

一歩ずつ、一歩ずつ、地面を踏みしめ一本道の中を進んでいく。狭い空間だからか、靴底が地面と当たる音が反響し、響き渡っていく。

 

「む…」

 

半分は歩いたであろう。正面へと続く道とは別に右へと曲がる道が見えた。

どうやら分かれ道のようだが…アルフェネスの気配は正面から感じられる。わざわざ右へと続く道に行く必要はないだろう。見向きもせず、そこを通り過ぎようとした瞬間だった。

 

「!」

 

素早くレーゾンデートルの持ち手を握り、ホルスターから引き抜き分かれ道の先へ銃口を突き付ける。

ゆっくりと頭を動かし、その先にあるものを見つめる。

黒いスーツ、伸ばされた髪に赤いリボン。目立った外傷はなさそうだが、相当疲弊しているのか肩で息している。

にも関わらずその瞳からは闘志は失われてはおらず、現にライフルの銃口をこちらへと向けている。

気配からしてまさかとは思っていたが…。

 

「人形だとはな…」

 

しかし何故こんな所に人形が?

町には誰一人とて居なかった。それはアルフェネスの術に巻き込まれ、養分として捧げられたからだ。

もしあの町に人形が居たとするのであれば、その人形も同じ結末を迎えたに違いない。

では今ここにいる彼女は…?

向こうに銃を下ろす気配は感じられないが、こちらはレーゾンデートルを下ろし、ホルスターに収める。

するとこちらが銃を下ろした事に、彼女の表情が少し変わった。何処か驚いている様にも見えた。

元より狙いは悪魔であり、戦術人形ではない。無駄な戦闘で余計な消耗をしたくはない。

 

「…あいつらとは違うの…?」

 

「何を見てきたかは知らんが、お前が知るあいつらとは違うとだけは言っておこう」

 

「信用できないわ」

 

「だろうな」

 

こんな押し問答をしている暇はなかった。

この間にもアルフェネスはディスペアの封印を解いている真っ最中だろう。だから早々にこのやり取りを切り上げる必要があった。

このまま彼女を見捨てて、立ち去るという手段もある。だがその手段は自分としては使いたくない手段。

効率を選ぶか、情を取るか。その二つに限られる。だが自分の中での決断は既に決まっていた。

そして心の中で笑う。やはり自分は甘いと。弱点でありながら、それが人間らしいと思った。

ゆっくりと彼女へと近寄る。ライフルの引き金に指がかかるのが見えた。いつ撃たれてもおかしくない。だが足を止めない。その距離が縮まり、お互いの距離が近くなった時、彼女が持つライフルに手を置き静かに下へと押す。

 

「ここまで近づかれて撃たない…弾は尽きていたのか」

 

「変な化け物相手にしてたら弾なんて尽きてたわ…。ライフル使いとしてこんなお笑いだわ…」

 

自虐的な笑みを浮かべる彼女。

自分がここから生きて出る事が叶わないと思っての事だろうか。それが自分の何かに触れた。そして決意した。

この娘を死なせない。人知れず只々寂しい終わりを迎えさせない。

理由?逆に必要か?人形を、人を助けるのに理由などあってたまるか。

その思いを胸に秘めたまま、何故ここにいるかを尋ねる。

 

「何故ここに?」

 

「…捨てられた、と言えば分かるかしら。あんた、私の事を人形だってわかっているみたいだから」

 

簡単に想像がついた。

彼女は…指揮官に捨てられたのだ。人形を道具としか見ない者に。

グリフォンでもそういう奴は居る。だが自分は違う。幾ら彼女達が造られた存在であろうと人して見ている。おかかしいと言うのであれば幾らでも言えばいい。それが気に食わぬと言うのであれば幾らでも掛かってくるが良い。刀の錆になりたいのであれば、幾らでも斬り伏せてやろう。

 

「捨てられた私は僅かな食料と弾薬で動いていた。この町に来たのも偶然だった。けど迎えてくれたのは訳の分からない化け物たちだった」

 

「…悪魔か」

 

「あれは悪魔というのね。確かに見た目からすればその表現は間違ってないかもね…」

 

彼女は自分の身に起きた事を語ってくれた。

名前はWA2000。ライフルの戦術人形。今から一週間前に指揮官の無茶苦茶な命令によってそれを果たせず捨てられた。基地に戻る事はできず各地を彷徨っていたらしい。時には少数の鉄血の人形と交戦し、時には誰もいない小さな民家で身を休めていたりしていたそうだ。

そして彼女はこの町 フェーンベルツを訪れたのだが、訪れたタイミングが悪かった。アルフェネスによって町の人間は消え去り、逆に悪魔が蔓延っていたであろう状態に来てしまったのだから。得意とする狙撃で悪魔達とやり合っていたそうだが、弾が尽きかけ逃げていたらしい。そして偶然にもこの大聖堂を見つけ、地下に逃げ込み、身を潜めていた所に自分とこうして会ったという形になる。

 

「成程。…これからどうする気だ、WA2000」

 

「どうするも何もここで静かに機能停止しかないわ。…もう戻る場所なんてないから」

 

言葉が上ずっていた。何処か強気だった姿はなく、只々弱弱しい姿の彼女がいた。

気付けば彼女の瞳からは涙があふれていた。そっとその雫は頬を伝っていく。

それを見て自分の胸の中で込み上げてくるものがあった。言葉では表しづらいものであり、そしてそれは自分を動かした。

 

「…戻る場所ならある」

 

「…ないわよ」

 

「いや、ある」

 

手を伸ばし、彼女の頬を伝う涙を指で拭う。

この先へと一緒に連れていくことは出来ない。だが彼女をここで死なせてはならない。

ホルスターからフェイクを抜き、予備弾倉をあるだけ取り出す。そしてそれをWA2000の傍に置いた。

彼女の視線が傍に置かれたフェイクへと注がれ、不思議そうな表情を浮かべていた。

 

「いいか、これを持って地下を出ろ。仲間が上に居る。喋る鳥に、喋る狼、そしてメイドだ。メイドの方に関してはかなり驚くと思うが、そこは落ち着いて対処しろ。合流出来たら、ギルヴァという奴に合流する様に言われたと伝えろ。そして俺からの伝言として、彼女の保護をしろと伝えてくれ」

 

「…勝手に話を進めないで」

 

「…信用するかしないかはお前次第だ。だがこんな所で最期を迎えるなど望んではいないだろう?」

 

「…当たり前でしょ」

 

「なら銃を手に取れ。そして死ぬな。何があっても生きる事に縋りつけ。不幸をここで断ち切れ。戻る場所が無いなら、こっちが戻る場所になってやろう。だからここで死ぬという選択を選ぶな」

 

言いたい事を伝え、立ち上がる。

そして背を向けて歩き出す。歩き出しても彼女が動く気配はなかった。

元来た道へと戻り、アルフェネスがいる場所へ向かう。

 

―いいのか?

 

…やる事はやった。後は彼女次第だ。

 

―それは大丈夫じゃないか。…何となくだが、あの嬢ちゃんは諦めないさ

 

そう…願いたいな。

 

WA2000がどうか正しい選択を選んでくれる事を願って、地下通路の奥へと目指す。

この先はひらけた場所になっているのだろう。段々と魔の気配が強くなっていた。アルフェネスのものとは思えない。となるとこれは…ディスペアの気配なのだろうか。体がビリビリとした感覚に襲われる。

自分だけに当てられているものではない。全体に放たれている。心なしか全て揺れている様にも見える。

封印されても尚これだけのものを放って…いや、封印が段々と弱っているからこそディスペアから放たれているそれがここまで広がっているのであろう。もしこれが普段から放たれていたなら、普通の人間では気絶する程のものだ。

一歩足を進める度に目的地へと近づいていく。

蒼は言っていた。ディスペアは最早災厄とも言える悪魔だと。やろうと思えば世界を終わらせる事も出来ると。

本部前で戦ったアンジェロや以前倒したあの悪魔とは比較にならない程。

奴が復活し、自分が敗れる様な事はあってはならない。もしそうなってしまったら、人間や人形では到底太刀打ちできない。世界の命運というのだろうか…それが自分に掛かっているとは正直実感が湧かないものだ。

ひらけた場所に出る。そこには一体の悪魔と宙に浮かぶ禍々しい色をした球体らしきものがあった。

辺りは妖々しい光に包まれており、不気味さを感じさせる。

足を止める。レーゾンデートルを抜くと封印を解くに忙しくこっちの事に気付かない悪魔の頭へと向けて発砲する。響いた銃声、銃口から吐き出された弾丸は見事悪魔の頭に直撃。撃たれた反動で体が前のめりになっていた。

 

「背中ががら空きだ。魔術師なら周りの気配に気を配る事だな」

 

しかし大したダメージにはなっていないみたいだ。

何事もなかったかのように、その悪魔はゆっくりとこちらへと振り向いた。

 

「…ネズミの正体は貴様だったか」

 

その声は女のものだった。良く見ると体があるが足が無い。どこで見つけてきたのか蠍みたいな化け物と一体化しているみたいだ。端から見れば魔術師には見えぬが、封印を解いていたところを見るとこいつが魔界の魔術師 アルフェネスなのだろう。

 

「そして貴様、人間ではないな?私には分かる。お前も我らと同じ悪魔か」

 

「貴様ほど醜悪な姿はしてないがな」

 

無銘の鍔を親指で押し当て、鯉口を切る。

 

「そして無駄な話をするつもりはない。…ここが貴様の墓場だ」

 

「ここが墓場だと?…フフッ…ハハハッ!!!」

 

何かがアルフェネスのツボにはまったのだろうか。

高らかに奴は笑い出した。

 

「違うな。ここがお前の墓場となるのだ。悪魔の血を流す者よ」

 

「…」

 

「貴様がもう少し早ければ封印を解除を止められたかも知れぬな。だがもう遅い。封印は今解かれた!」

 

「!!」

 

その言葉通り、アルフェネスの後ろで浮かぶ球体が上昇し始めた。

球体に少しずつ罅が入っていき、そして破裂した。

その中で胎児の様に眠る炎の様な輝きを放つ人の姿をした何か。あれが…

 

―ザ・ディスペア・エンボディード…

 

封印が解かれた。

長きの眠りによりディスペアは顔を上げ、体を大きく広げ、背の翼を大きく広げた。

勢い良く広がったそれから放たれる風圧と輝き。ただそれだけの行動なのにここまでの風圧を起こせるとは正直どうかしているが、魔界の覇王がその程度の事を出来てもおかしくないだろう。

悠然と翼を羽ばたかせ、ディスペアは地へと降り立つ。状況は最悪とも言えた。

 

「ああ…。そう、この輝きだ。私が求めていた覇王の姿。さぁ、その力を私によこせ!」

 

アルフェネスの狙いは元からディスペアの力を自分のものにするのが目的だったというのはグリフォンから聞いている。力を奪う為、魔術を行使し始めるアルフェネスだが、どうにもディスペアの視線がアルフェネスへと向けらている。そして感じられる殺気。

その時だった。どこからともなく扉が現れ、扉を蹴り破りブレイクが飛び出てきた。背には十字剣の様な大剣を背負っており、今起きているこの状況に困惑気味の様子。こちらを見つけたのか、視線で何が起きているのか教えろと言わんばかりに促してきた。

 

「アルフェネスがディスペアの力を奪うの様だ…少し妙であるがな」

 

「妙?それって…」

 

ブレイクが分からないと言った表情を浮かべた矢先だった。

魔術を破り、ディスペアがアルフェネスにへと瞬間移動し急接近。腕を剣へと変貌させると真っ二つにへとアルフェネスを切り裂いた。

一瞬の出来事だった。抵抗を一切許さず、自分より遥かに大きいアルフェネスをディスペアは一撃で沈めたのだ。魔界の覇王の伊達ではないという事を証明している様にも見えた。

 

「な…何故……自我を……抑えた筈…なのに…」

 

自分が行った魔術に自信があったのだろう。

有り得ないと言わんばかりと表情を浮かべるアルフェネスは崩れていき、その体は粒子へ変わっていく。

ディスペアはそれに見向きする事はなく、こちらを見つめている。

その時だった。ディスペアが何かを感じ取ったかの様に上を見上げた途端、翼を広げ天井を突き破って飛び上がっていった。

何をするつもりかは分からないが、追わない訳に行かない。

デビルトリガー発動させ、ディスペアを追い始めると後ろから赤い何かが追ってきた。

 

「まさかブレイクか?」

 

「そのまさかってやつさ」

 

「何故魔人化を?」

 

「その話は後にしてくれ。今は奴を追うのが先決だ!」

 

翼を羽ばたかせ、ディスペアを追う。

何故奴がこの場から飛びさったのか分からないが、放置する訳には行かない。

地下から地上へと飛び出し、星空が輝く中、どこかへと目指すディスペアの後を追い始めた。




次回はブレイク視点で行います。
ディスペア戦はもうちょっと待ってね。
また今回出てきた戦術人形は病まないからね?流石に病むイメージがわかんのだよ…。

あ、それとですが。
ディスペア戦でもしかしたらコラボ依頼をお願いするかも知れないです。
確実に決まっていないので…お願いしないかも知れないですけど…念の為伝えておこうかと。

ではノシ


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Act39 分岐点 side ブレイク

アルフェネスの罠によってギルヴァと分断されたブレイク。
古風な造りが特徴の空間に彼はいた。


「やれやれ、ここどこだ?」

 

周りを見渡せば、どこかの建物内の廊下。古風な造りからしてどっかの城みたいだが…。

にしても何でここに?さっきまで地下に居たんだが…。

 

「分断されちまった…そう考えた方がいいか」

 

としか思えない。あっちの事も気になるが、そう簡単にやられる奴ではないだろうから問題ないだろう。

取りあえず向こうと合流しないといけない。ここから抜け出すのを急ぐべきのが先決だ。

しかしあれだ…ここ全体が嫌な何か包まれている様な気がしてならねぇ。俺達を分断させたのはアルフェネスによるものだという事は分かるが、この空間もそいつが作ったのか?

そう言えばあの鳥野郎は、魔界じゃ魔術に関してはアルフェネスが一番とか言っていたな。

なら…こんな事出来てもおかしくないって訳か。

 

「まぁ言ってた所で仕方ねえ。とっと動くか」

 

湾曲した廊下。自分はその中腹辺りにいるのか…さて上か下か。

ゴールはどっちかは分かんねぇが、取りあえず上を目指した方が早そうだ。

それにこの先から何か懐かしい感じしてならない。どこで感じたか…まぁ見てみれば分かる事だ。

 

「んじゃ、行ってみるか」

 

愛用の銃を手にしたまま、上へと歩き出す。歩く度に響く音。道中見かける窓から外を覗けば、辺り一帯暗闇に包まれていた。何となくだが、ここは再現された場所という奴か?

何故ここだけを再現したのかは分からないが、何かしらの理由があると見ていい。最も理由を聞くつもりなどないがな。

 

「おっとここまでか。…ん?」

 

上まで来たのだが、隣へと繋がるドアがびくともしない。ドアノブを幾ら回してもそれが開くは事ない。

軽くため息をつき、苛立ちをぶつけるかの様にドアに向かって蹴りを叩きこむ。当然だがそれで何か起きる訳もなく、今度は下へと降りようとした時だった。ふと奥の方で煌めく何かが視界の端に入った。

無視しても良かったのだがどうしても気になり、そっちへと向く。

女神像の前で地に突き刺さっている大剣。髑髏の装飾が施され、十字剣にも似た姿をしている。

普通こんな所に武器なんか置くか?それに…この懐かしい感じはこいつから?どういう事だ?

それへと近寄ってみる。そしてその大剣の前へと立ち、持ち手を握った時だった。

この剣に意思があるのか、頭の中に囁きかけてくる。

 

―我を持つに値する者か、この試練を超えてみよ。超えられぬのであればその命を捧げよ―

 

その瞬間、大剣が一人でに動き出し、そのまま―――

 

「がっ…」

 

心臓を貫かれた。

 

 

大剣に心臓を突き刺され、地面へと縫い付けられるかの様に倒れるブレイク。

目は閉じられており、目覚める気配はない。その時、彼の意思とは関係なく、ブレイクの体から膨大な魔力が放たれ始め、人から悪魔へ、悪魔から人へを繰り返す。

そして次の瞬間、ブレイクの下ろされていた瞼が勢い良く開かれた。

 

「!」

 

それと伴う魔力の波動で周りに置かれていた物が吹き飛び、悪魔の力が完全に目覚めたブレイクは自身の心臓に突き刺さったままの大剣の刃の部分を両手で挟み込み、ゆっくりと大剣を抜き始めた。

抜く度に溢れる血飛沫。しかしブレイクの表情に痛みの表情はない。そしてそれを完全に抜き取ると彼は立ち上がり、大剣を地面へと突き刺す。

 

(成程…。懐かしいのはそういう事か)

 

心臓を刺されて彼はこの大剣から感じる何かに心当たりがあった。

真剣な表情で剣を見つめつつ、静かに呟く。

 

「あんたの剣だったのか、院長」

 

ブレイクが感じたのはかつて世話になっていた孤児院の院長 ローグフェルツのものだった。

優しく、かつ強く。孤児院の院長からそれを子供の時から感じ取っていたブレイクにとって、確信とも言えるものがあった。最も刺されてから気付いた事に少しではあるが後悔しているのは彼以外が知る事はないだろう。

 

「再現じゃない。ここは本当に存在するどこか、か…」

 

他にも色々疑問に思う事があっても、ブレイクは敢えてそれを考えぬ様にした。

実はこれもアルフェネスが仕掛けた罠だったりする。出る事が出来ない空間に、さもここから抜け出させる様にアルフェネスが、ディスペアの封印にも使われていたローグフェルツの大剣「リベリオン」を回収、配置。魔剣であるが故に意思を持つそれは、触れた者に自身を扱う相応しいか否かを確かめる為に一人で動き出しその者の心臓へと突き刺し、殺害といった罠であった。ただ今回の相手が悪魔の血を流すブレイクであった事についてはアルフェネスも気付けなかったであろう。

そんな事も知る訳が無く。ブレイクは大剣の持ち手を勢い良く握ると、その場で剣舞を始めた。

流れるかの様で、それでも力強く。ローグフェルツに叩き込まれた剣技の数々の一端が繰り広げられる。

最後は回転を効かせ大剣を前へと放り投げた後、絶妙なタイミングで大剣の柄の部分を足で軽く蹴り上げる。

回転は緩くなりつつも大剣はブレイクの方へと戻り、柄を掴み彼は大剣を背へと納めるとかつての持ち主へと向けて静かに呟いた。

 

「有難く貰うぜ、院長」

 

赤いコートをなびかせ、彼がその場から離れた矢先だった。

空間が歪んだ。ガタガタと音を立てて、周りが変化していく。また何処かに飛ばそうとしているのか感じたブレイクであったが、自身が魔術に長けているかと言えばそうでもない。流れるままに任せるしかないと感じた彼を迎えたのはドームの様な場所。周りは照明器具らしき何かが埋まっており、そこから眩しいまでに光が放たれている。

 

「!」

 

ドームの中央に立っていたブレイクは何かに気付いたかの様に後ろを振り向いた。

光によって地に映し出された自身の影。その影が伸びる様に動き出し、光が届かぬ所へと向かって行く。

そして影から赤く鋭い双眸が浮かびあがり、影から何かが出てくる。どこか悪魔の様な姿、背に背負った大剣。

その姿に既視感を覚えたブレイクは、フッと笑みを浮かべつつその影へと向かった話しかける。

 

「通す気ないって感じだな。通行料金でも払えばいいのか?」

 

周りの照明が一つ、また一つ。光を失っていく。そんな中でもブレイクは態度を崩さない。

模倣を武器とする悪魔「ドッペルゲンガー」を相手にしても。

ドッペルゲンガーは静かに背を背負った大剣を引き抜く。武器までもブレイクが持っている物と同じ。

 

「でも悪いな。料金所がないのなら払うつもりはないぜ。それでも文句があるなら―――」

 

ブレイクもリベリオンの柄を手に掴み、勢い良く振るうと大剣の切っ先をドッペルゲンガーへと突き付ける。

 

「―――来いよ、モノマネ野郎」

 

 

身を低く屈めながらも素早くステップを踏みつつブレイクとの距離を縮めるドッペルゲンガー。

最速の突きが繰り出されるがブレイクは難なくそれを回避。ドッペルゲンガーが向いている方向とは反対側へと走り出す。この時、ブレイクが相対している悪魔が何に弱いか分かっていた。

攻撃を回避されたドッペルゲンガーはブレイクの後を追う。

 

「えぇぃいやッ!!!!」

 

照明を閉ざした壁に突きによる一撃を叩きこむ。並みの悪魔であれば吹っ飛ぶであろう一撃は壁を破壊。

そしてその後を追ってきたドッペルゲンガーに光が浴びせられる。先程の姿は何処へ行ったのか強烈な光を浴びせられ、もがき苦しむドッペルゲンガー。それが隙となり攻撃を仕掛けるブレイクであるが、思ったより復活が速いのかドッペルゲンガーはそこから飛び退き、ドームの中央へと降り立つと同時に拳を地面へと叩きつける。

そこから広がる闇の衝撃波がブレイクが一度破壊した壁を復活させる。

流石に銃までは模倣していないか、ドッペルゲンガーは腕を突き出すとそこから光弾が放たれた。

そこに誰かが見ていれば避けろと言うかも知れない。だが彼はこう答えるであろう。

 

心配ない(Don't worry)

 

一直線に迫りくるそれをブレイクは難なくリベリオンではじき返すが、相手もそれをはじき返す。

ドッジボールでもやっているのかと言いたくなる様な光景。繰り返される光弾の弾き返し合戦。

まるで遊んでいるかの様である。

 

来いよ!(Come on!)

 

調子に乗ってドッジボールに付き合いつつ、ドッペルゲンガーにへと挑発をかますブレイク。

だが段々と飽きてきたのか、あえて敵との距離を縮め弾き合いの速度を速めた。

 

「!?」

 

それが功を奏したのか、迫りくる光弾に反応が遅れドッペルゲンガーにそれが直撃し、怯む。

 

ビンゴ(Bingo)ってな」

 

その隙を突き、ブレイクは照明を塞いでいる周囲の壁に向けて愛銃を連射し始める。

一発では壁は破壊できない。だが大量の弾丸が集中すれば、自ずと壁の耐久力は低くなっていく。その印に壁には段々と亀裂が入っていき、後一手のという所でそれを止めさせんと言わんばかりにドッペルゲンガーが襲い掛かる。

大剣を振るい、連撃を仕掛ける。ブレイクも真っ向から受ける様にリベリオンを振り抜き抗戦。

斬り結んで両者。しかしこの暗闇の中ではドッペルゲンガーが優位に立っていると言えた。影だからか、ブレイクの攻撃がすり抜けていく。だと言うのに向こうの攻撃は通る。

 

「やっぱりか。下手に付き合うもんじゃねぇな!」

 

攻撃をいなし、彼はその場から大きく飛び上がる。空中で上下反転し、回転しながら周りにへとばらまく様に銃を連射。薄暗い空間で光るマズルフラッシュ。高速回転しているにも関わらず、的確な射撃により周囲の壁が同時に崩れた。

目を遮りたくなる様な強烈な光がドッペルゲンガーに浴びせられる。悪魔の姿は消え、苦しみの声をあげる。

 

準備は良いか?(Are you redy?)

 

地へと降り立ち、リベリオンを構えつつ身を低く屈めながら突進するブレイク。

 

「こっからは―――」

 

逆袈裟から返すかの様に切り上げ、そして流れる様にリベリオンを後方へと回しつつ、持ち手を切り替え袈裟斬り。

 

ショウタイム(show time)ってな!」

 

そのまま刺突の連撃を高速で繰り出していき、ダメージを与えるとブレイクは地面へとリベリオンを突き刺し、それを軸に勢い良くその場で回転。踊るかの様に回転しながら蹴りを数発叩き込んだの内に、止めに反動を活かし一気に薙ぎ払いを叩きこんだ。

ドッペルゲンガーの横っ腹に入る止めの一撃。あれだけの連撃をもらえば悪魔であろうと耐えられない。

その証拠に相対していたドッペルゲンガーはその身を影へと潜ませていく。何か仕掛けるつもりもなく、ドッペルゲンガーは消失していった。

 

「ふぅ…。影が無くならないでよかった」

 

自分の影がちゃんと存在している事に若干安堵した声を漏らすブレイク。

そこに何処からともなく扉が現れる。そのドアがここから出るものであると感じた彼はそこへと近づき、ドアの前に立った。そのままドアノブに手をかけようとするブレイクだが、途中でその手を止めた。

何かを思い付いたのか、ニヤリと口角を吊り上げ笑みを浮かべる。

 

「既にイカれているが……こっからはイカれたパーティーの始まりだ」

 

足を上げる。その先は当然…。

 

「派手に行くぜ!」

 

意気揚々とブレイクは力任せにドアを蹴飛ばすのだった。

 

後に彼はギルヴァと合流。

アルフェネスはやられ、外へと飛び出して行ったザ・ディスペア・エンボディードをギルヴァと共に追う。

その際ブレイクは魔人化を果たしているのだが…実はこれは偶然できたのだ。

デビルトリガーの存在すら知らなかったブレイクはギルヴァが魔人化をした所を目撃。自分もできるのではないかと思った彼はそれを見よう見まねでやったのだ。そして一回目にして魔人化を果たす事が出来たのだ。

ギルヴァに何故出来るのか問われた時に、強引に話をそらしたのは自分でも説明出来なかったからである。




という訳で、通過儀礼を済ませてブレイクも近接武器をゲットでございます。
本当であれば別の名前で出したかったのですが、中々良い案が思い付かず、もうリベリオンで行こうと思いそのまま出しました。とは言っても色々独自設定をぶっこんでますけどね。
通過儀礼の描写はDMC1から。ドッペルゲンガーはご存知DMC3から。DMC3で登場したスタイルの一つであるドッペルゲンガーは出さない感じです。

さて次回はディスペア戦。
コラボ?……多分やらないかも…。

ではノシノシ


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Act40 覇王 (前編)

目覚めた魔界の覇王。
災厄とも言われるそれに立ち向かうのは悪魔の血を流す二人の男だった。


ギルヴァがザ・ディスペア・エンボディードの復活を目の当たりにしている一方。

フードゥル、グリフォンと共にニーズヘッグを討った代理人は先に行ったギルヴァ達の後を追いかけようと考えていた。だがフードゥルやグリフォンが言っていた様に、ザ・ディスペア・エンボディードは魔界の覇王であり、非常に強力な悪魔。自分が行った所で返って足手纏いになるではないかと言った思いとそれでも助けに行きたいといった思いが胸の中で渦巻いていた。

それが顔に出ていたのか、彼女の後ろで控えていたフードゥルが諭す。

 

「気持ちは分からぬでない。だが、止めておくがいい。今、貴公でしか成せぬ事を全うするがよい」

 

「…ええ、分かっています」

 

ギルヴァやブレイクの様に悪魔の血を流す者ではない。彼女は人形なのだ。

その事実はどう足掻こうと覆される事はない。

それでも自分が加勢出来ぬ事に代理人は奥歯を嚙み締めた。やるせない思いが胸中で重しとなって襲い掛かる。

だがフードゥルに言われた様に、今、自分でしかできない事を成すべきだと自身に言い聞かせる。

 

「一度バンへと戻りましょう。ここに居るよりはまだマシでしょうから」

 

いつ、どのタイミングで悪魔が出てきてもおかしくないだろう。ここで長々居るよりかはマシな判断と言えた。

代理人がそう告げた事に、フードゥルもグリフォンも頷き同意する。

 

「!」

 

踵を返し大聖堂を後にしようとした時、フードゥルの耳が何かを聞きとったのかピクリと反応し、瞬時にそちらへと振り向いた。

彼が向く先はギルヴァ達が向かっていた廊下への入り口。しかしそこには誰もいない。

だがフードゥルは感じ取っていた。廊下近くの壁で身を潜ませている者が居る事に。

悪魔ではない。その気配はどちらかというと人形に似ていた。

何故人形が?と疑問に思うフードゥルであるが、警戒を強めたまま、そこにいる者へと呼びかける。

 

「居るのは分かっている。出てくるがよい」

 

フードゥルの声が大聖堂内に響き渡る。

それを耳にした代理人もグリフォンも彼が向いている方向へ振り向き身構える。

訪れる沈黙。過ぎていく時間。静寂のみが支配する空間で両者は動かない。

しぶれを切らしたのか、フードゥルが動き出そうとした時だった。隠れていた人形が自ら姿を現し、ゆっくりと代理人達へと歩み寄り始めた。

靴底の当たる音が反響する。窓から差し込まれる月明かりの下で彼女…WA2000は足を止める。

代理人達を見てやはりといった表情を浮かべる。そして思う。彼が言った通りだったと。

 

「メイドに狼に鳥…。正直半信半疑だったけど…これは信用せざるを得ないわね」

 

安心したのか、WA2000はその場に座り込んでしまう。

その様子に彼女が敵ではないと判断した代理人はWA2000の傍に近寄り、手を差し出す。

 

「事情は後で聞きましょう。一先ずは我々と共にここを離れる事を提案しますが?」

 

「本当にあの代理人?…でも、そうね。私もこんな所に長居したくないわ。肩貸してもらっていいかしら」

 

「ええ」

 

差し出された手に自身の手を伸ばし、握るWA2000。

それを引き寄せ、彼女に肩を貸す代理人。フードゥルは二人の護衛に当たり、グリフォンは周囲の偵察に出る。

そしてゆっくりとした足取りで大聖堂を出ようとした瞬間であった。

大聖堂全体に轟音が響き始める。地震ではない。別の何かによるもの。原因は分からぬものの代理人達は急いで大聖堂から飛び出し、急いでバンへと乗り込む。

そんな中、フードゥルとグリフォンは感じ取っていた。地面の下から感じる圧倒的な何かを。

空気全体が揺れる様な何か。それが誰のものかだと言わなくても分かっていた。

二人は顔を見合わせ、頷く。ここに居ては危険だとバンの運転手である代理人に伝えようとした次の瞬間であった。

まるで爆発したかの様な破砕音が街全体に響いた。

 

「「「「!?」」」」

 

バンの中に居た全員が驚愕の表情を浮かべ、その音のなった方を振り向く。

大聖堂から突き破る様に舞い上がっている土埃。その中から何かが飛び出る。

 

「あれは何…!?」

 

そう漏らしたのはWA2000だった。彼女の目に映るそれははっきり言ってこの世の物とは思えぬ何かだった。

体からは燃え盛る炎の様な輝きを放ち、背から生えた翼を羽ばたかせ何かを探しているのか首を振り周りを見回しながら滞空している。

この町に来て彼女も何度も悪魔と遭遇しているが、上空で滞空しているそれは見た事もなかった。

それもその筈であろう。その悪魔は今の今まで眠っていたのだから。

 

(よもや目覚めてしまうとは…。その威光は一度封印されても尚、輝きを放つか)

 

WA2000の傍でザ・ディスペア・エンボディードの姿を目の当たりしたフードゥルは全身がビリビリとした感覚に襲われながらも、胸の内で呟いていた。

自分やグリフォンではあれを仕留める事をできない。力に差があり過ぎるのだ。やるせない思いを残しつつもフードゥルは代理人に言った様に自分で成せる事に専念する。今はそれしか出来ないのだ

その一方でディスペアは自身が探している何かを見つけたのか、ある方向へと飛び去る。

それを追う様に土埃からは蒼と赤の二つが飛び出し、飛翔していく。

魔人化したギルヴァとブレイクだと気付いたフードゥルは二人に向けて託す。

 

(主、そしてブレイク。…後は貴公らに任せた…)

 

 

 

上空を飛翔するギルヴァとブレイク。

二人の視線の先には、前を行くディスペアの姿がある。フェーンベルツを飛び出し、あの悪魔を何をしようとしているのか、彼らには皆目見当が付かなかった。だが見当が付かなくても討たなければならない。

お互いに顔を見合わせ、頷く二人。ギルヴァは無銘の柄を握り、ブレイクは背に背負ったリベリオンを握る。

そして勢い良く翼は羽ばたかせ、ディスペアとの距離を詰めると同時に攻撃を繰り出した。

 

「!」

 

後ろからの攻撃に咄嗟に反応し、両腕の大剣で攻撃を受け止めるディスペア。

ぶつかった際に起きた衝撃破により彼らの周りにあった雲が消し飛ぶ。彼らの間で火花が散り、スパークが奔る。

押し込もうとする二人。対するディスペアも攻撃を押し込む。

上空での鍔迫り合い。苦笑いを浮かべながらもブレイクが口を開く。

 

「やれやれ…メインイベントには相応しい相手だなッ!そう思うだろ!」

 

「そうかも…なッ!!」」

 

自ら後方へ下がり、ディスペアの体勢を崩すギルヴァ。

そこにブレイクが攻撃を押し返し、空いた隙を突きリベリオンでディスペアの頭へ目掛けて振り下ろす。

が、刃が迫った途端、ディスペアは透過するかのように姿を消した。攻撃は空振りに終わり、そして姿を消したはずのディスペアがブレイクの後ろから現れる。

 

「はッ!」

 

二人の間に割って入るかの様にギルヴァがディスペアへ攻撃を仕掛ける。

一撃目は避けられるが、休む間も与える事無く胴へ目掛けて二撃目を繰り出す。両手が大剣と化しているディスペアは攻撃を難なくいなしていき、また姿を消し、今度は二人から離れた位置に現れる。

手に光を集め、翼を介して光弾を放つ。襲い掛かるそれに二人はその場から後退しつつ、追いかけてくる光弾の嵐を掻い潜る。だが思った以上に誘導性能が高いのか光弾は追ってくる。

舌を打ちつつギルヴァはカリギュラを展開し、掃射。ブレイクにも迫っている光弾も撃ち落していく。

一方ブレイクはディスペアにへと突撃。今度は鉄球の様な大きさの光弾がディスペアから発射。ギリギリの所で回避しつつ、リベリオンの突きによる突進技「スティンガー」を見舞う。

空中であろうとその一撃は重い。攻撃を大剣で防いだディスペアであるが、反動が大きかったのか弾き飛ばされる。追撃に入るブレイク。対するディスペアは左腕を大剣から鞭を変形しブレイクの足元へ目掛けて飛ばす。

 

「うおっと!?」

 

巻き付く鞭。そのまま引っ張られそうになる所にギルヴァがやらせないと言わんばかりに鞭を一刀両断し、鞭の上へと乗っかる。それを足場にして走り出すギルヴァ。幻影刀を自身の右左に複数展開し、連続射出。

空いている右腕の大剣でそれを弾き落そうとするディスペアであるが、ブレイクが二丁の拳銃で魔力を込めた弾丸を連射しそれを妨害。そして叩きつけるかの様に足を踏み込み、ギルヴァは無銘の鯉口を切った。

踏み込んだと同時に蒼き残像が駆け抜け、無数の真空刃が繰り出される。

ディスペアの体に幻影刀が突き刺さり左腕を切り刻み、後ろへ回り込みつつ背の翼を右へと一閃。

左翼が斬り落とされ片翼と片腕だけとなるディスペアにブレイクが接近。分が悪いと感じたのかディスペアはその場から後退するが、彼らはそれを追う。

高速移動しながらぶつかっては離れるを繰り返す。身に傷を負いつつも二人は魔界の覇王と討つ為に止まらない。また上空で激闘が繰り広げられているなど地表にいる人たちは露程思わないだろう。

 

「落ちなッ!」

 

掛け声と共にブレイクがリベリオンを振り下ろす。攻撃は防がれるものの地面へと叩き落そうとリベリオンを押し込むブレイク。魔人化は圧倒的な力を擁するが、持続時間は決して長くはない。フェーンベルツを飛び出してからそれなりに時間は経過しており、直感的ではあるがこの姿が解かれると感じていた。

 

「ぬおおおおッ!!!」

 

気迫のある雄叫びをあげるブレイク。

 

「はああぁぁ…!はあッ!!!」

 

体を素早く回転させて満月を描きながらディスペアに迫るギルヴァ。

そして勢い良くディスペアの顔面に踵落としを叩き込み下へと弾き飛ばす。

強烈な一撃によりディスペアは下へと急降下。

このまま追撃を仕掛けようとする二人だが魔人化の持続可能が終わりをつげ、彼らは元の姿へと戻ってしまう。

だからといって二人は諦めた訳ではない。魔人化状態でない関わらず、ディスペアを追う。

人知らず始まった世界の存亡をかけた戦い。その終幕は確実に迫りつつあった。




次回覇王〈後編〉。


さてお次はどういう風にしていくかな…。
多分やらないって言っていたあれも…やっぱりやってみるかな…。


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Act40-Extra 覇王(後編)

とある地区に墜落したギルヴァとブレイク、そしてディスペア。
戦いは終幕を迎える。




覇王戦後編。
また今回からは焔薙様作「それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!」とのコラボ
でございます!
初なので…正直凄く緊張しております…。何か不備があれば言ってくださいませ…。
またある戦術人形視点を勝手ながら描かせていただきました…どうかお許しを。
またタイトルの最後についている星マークはコラボ回の印と思って頂けたら幸いです。


とある地区の上空。

魔人化を解除しても尚、急降下しながらディスペアと刃を交えるギルヴァとブレイク。

ぶつかる度に火花を散らし、ぶつかる度に傷を負う。

幾度も雲を突き破り地表との距離が近くなろうと彼らは獲物を振るう事を止めない。

 

「ぬおおおおっ!!」

 

「これで散れ…!」

 

ブレイクがリベリオンの刃を叩きつけ、ディスペアの胴に一閃。

傷を負った事により動きを止めた所にギルヴァが次元斬を繰り出す。神速の抜刀術と無銘の持つ力により、空間が歪むと同時に繰り出される斬撃がディスペアに更なる傷を負わせる。

だがディスペアを仕留めるにはまだ至らない。

 

「ならよっ…!」

 

何かを思い付いたのかブレイクがリベリオンをディスペアへと向けて勢い良く投擲。

槍の様に投げされたリベリオンはディスペアの体に突き刺さり、追撃としてギルヴァがホルスターからレーゾンデートルを引き抜き発砲。放たれた二発の銃弾は真っ直ぐ突っ込んでいき、リベリオンの柄の底に当たる部分に命中する。

食い込む様にリベリオンはディスペアの体にさらに深く突き刺さり、さらに降下速度を速めるディスペア。

それを追う二人。風を切りつつ、ディスペアを見失わない様に視線をそらさない。

そのまま地面とぶつかるかの様に二人とディスペアは墜落した。舞い上がる土埃と響き渡る轟音。

現にそこではとある基地所属の戦術人形部隊と鉄血の人形部隊が交戦している真っ最中であったのだが、彼らは知らない。

戦場のド真ん中に墜落したギルヴァとブレイク。転がるかの様に受け身を取りつつ、態勢を元に戻し地面を軽く滑る。魔力の使い過ぎと疲弊もあって二人共方肩で息をしていた。そこに墜落の衝撃によりディスペアの体を抜けたのか舞い上がる土埃からリベリオンが飛び出しブレイクの手前の地面で突き刺さる。

 

「ふぅ…」

 

息を整え、立ち上がるブレイク。リベリオンを引き抜くと、勢い良く振るった。

舞い上がる土埃はそれによって振り払われ、全体がクリアになる。ディスペアの後方には鉄血人形部隊。彼らの後ろで物陰に身をひそめ、様子を窺っているとある基地所属の戦術人形部隊。自分達以外にも誰かがいる事は気配で察知していた二人であるが、だからといって話しかけようとは思ってすらいない。そんな余裕があるのであれば、魔界の覇王との決着を急ぐべきであると判断していた。

 

「後で謝罪しなくてはな…。故意では無いにしろ飛び入り参加してしまったからな」

 

「まぁ…そうだな」

 

ちらりと後ろを見るブレイク。

巻き込んでしまった事には彼も思う所があるようで、何とも言えない表情を浮かべる。

しかしそれは束の間、真剣な表情へと切り替わり、視線を前へと向ける。

片翼と片腕になっても尚、戦う姿勢を見せるディスペア。その姿に感心したかの様にブレイクは話しかける。

 

「掃き溜めのゴミにしちゃガッツあるみたいだな。流石は魔界の覇王様って言った所か」

 

「…」

 

この状況でも余裕そうな態度を見せるブレイクに対し、ギルヴァは沈黙を貫き左手に持った無銘の柄に右手を近づける。その姿を見て、ブレイクも肩に担いでいたリベリオンを下ろし、切っ先を地面へと向けると少しだけ右腕を後ろに引く。そして二人は静かに歩き出し、空いているディスペアとの距離を埋め始めた。

一歩、一歩ずつと足を前へ出し距離が縮まっていく。ディスペアは動かない。そこで立ち尽くし、その時が来るのを待つ。

雲一つない夜空。空高く登った満月の月明かりが全てを照らす。

緊張が走る。にらみ合う両者。決着の時が刻々と迫る。そして…風が吹いた。

 

「「!」」

 

それを合図に、地面を蹴り走り出す二人。

先程まで緩やかに埋まっていたディスペアとの距離も、走り出した事にとてつもない速さでその間は短くなる。

間がごくわずかになった時、先にディスペアが攻撃を繰り出す。右腕の大剣をさらに大きくさせブレイクを突き刺そうと伸ばす。だがそれを読んでいたのかブレイクは躱し、体を捻りつつ身を宙へと投じリベリオンを突き立てる。狙いがブレイクへと定められた事により、生まれた隙を突く様にギルヴァは無銘を抜刀。鞘から引き抜かれる刃が姿を晒し鋭い一撃がディスペアに迫る。

だがこうなる事をディスペアは読んでいた。敢えて大剣を大きくさせたのもその一つ。どちらかへと攻撃を繰り出し、どちらかがその隙を狙って仕留めに来るであろう。そしてそれは読み通りとなった。

ディスペアは迫りくる攻撃に対し、わざと一歩引いた。刃が届く寸前で片翼を剣状に変質させ、右腕の大剣と変質させた片翼で二人の攻撃を弾いた。

響いた金属の音と同時に回転しながら宙を舞う無銘とリベリオン。しかしそこには二人の姿はなかった。

死んだわけではない。もし死んだのであれば死体が転がっている筈。突如として二人が消えた事により困惑するディスペア。右へ、左へ頭を動かし辺りを見渡してもその姿は確認出来ない。

 

「!」

 

そして何かに気付いたかの様に正面を向いた瞬間、二つの銃の銃口がディスペアの顔に突き付けられた。

そこには居たのは先程まで消えていたはずのギルヴァとブレイク。お互いに背中を合わせ、愛用する銃を構えている。ギルヴァは右手に銃身が銀色に輝くリボルバー、レーゾンデートルを。ブレイクは左手に黒を基調とし、銃身にはForteと刻まれた大型拳銃 フォルテを。

二人は顔をディスペアへと向ける事無く、銃だけを突き付けていた。

ディスペアは動かない。否、動けなかった。下手に動けばとどめの一撃を放たれるからだ。

レーゾンデートルに蒼い魔力が、フォルテに赤い魔力が注がれる。バチバチと雷の様に音を立て、注ぎ込まれる魔力は段々と激しくなる。

 

二人が持つ銃の引き金に指掛かる。

 

二人して小さく口角を吊り上げる。

 

そして次の瞬間―――

 

 

 

――――銃声が木霊した。

 

 

 

放たれた一撃。

それはとどめの一撃となり、ザ・ディスペア・エンボディードは後方へ撃ち飛ばされた。

硝子が割れてしまったかの様に体は砕け散り、魔界の覇王はこの世から消失。それを見届けた二人は銃をホルスターに収めまるでこの時を待っていたかの様に落ちてきた愛剣を見向きもせずキャッチした。

刀身を鞘に当て、静かに鞘へと納めるギルヴァ。ブォンとリベリオンを横へと一閃し、背へと背覆うブレイク。

互いに背中を合わせ、その行いを見せつける二人の姿はある意味、絵になっていた。

 

「終わったか」

 

「こっちの問題はな」

 

ブレイクの台詞に、そう答えるギルヴァ。

鋭い目つきで物陰に隠れていた戦術人形部隊を一目見ると、すぐさま鉄血人形部隊の方へと睨む。

どうやら向こうは彼らをやり合うつもりでなのだろう。武器を構えている。

魔力の使い過ぎと疲弊も体力の限界が来ているのだが、二人は鉄血人形部隊へと体を向け、構える。

 

「鉄血人形の事を悪魔と称した奴がいるそうだな」

 

「そんな奴がいたのか。…ま。確かにそう言われたらそうかも知れないな」

 

何かを理解したかのようにフッと笑うブレイク。それに釣られてギルヴァも口角を吊り上げる。

そして地面を蹴り、二人は鉄血人形部隊へと飛び込んだ。また一人、また一人と斬り伏せる中、ブレイクが叫ぶ。

 

「悪魔でも泣くんだって?」

 

「なら…」

 

 

 

 

 

「良い声で泣いてみせろッ!!」

 

「良い声で泣いてみなッ!!」

 

 

 

 

 

 

『ねぇ?私の見間違いかな?その場に居る鉄血の数がもの凄い勢いで減っているんだけど…』

 

「見間違いなんかじゃないわ、指揮官。さっきも報告したけど、あの若い男二人組が派手にかましているわ」

 

指揮官からの通信に答える(FAL)

ナデシコを介して見ているのだろうけど、確かにこの減りように困惑してもおかしくないわ。

それにしても落ちてきたと言い、体が炎に様に輝いている得体の知れない奴といい、今と言い…。

正直何が何なのか分からなくなっていた。周りの皆も何が何なのか分からないといった表情を浮かべている。

それ以前にあの二人何者?生身で鉄血人形部隊を相手しているのだけど…。

黒いコートを着ている男は日本刀を振るい…待って?さっき離れた敵を斬らなかった?

赤いコートを着ている男は身の丈以上はある大剣を軽々と振るっているし…。

もうどうなっているよ…。

 

『て、敵の消失を確認…。そっちは?』

 

「特に問題ないわ。全員無事よ。で、あっちは…」

 

視線をあの男たちへと向ける。

そこで映っていた光景を取り乱す事なく冷静に伝える。

 

「…気絶してるわ」

 

『えっ!?』

 

 

 

その後、指揮官の指示により私達は帰投。ついでにあの男達も連れて戻る事になった。

目立った外傷はなかったみたいだけど…念の為という事で医務室に運ばれていった。

一体彼らは何者なのかしらね…。

 

 

 

暗い。

視界全体に暗闇が広がっている。

だと言うのに暖かさを感じられる。…そうか、目をつむっているのか。

…物音が聞こえる。誰かが居るのか…?それにここは何処なんだ…?

ゆっくりと瞼を上げる。ぼやける視界…そして映ったのはどこかの部屋の天井だった。

 

「…」

 

ゆっくりと体を起こし、周囲を見回す。

医療器具にベット…隣を見ればブレイクがベットの中で眠っていた。

…もしやここはどこかの基地内にある医務室か。当てはまるとすればそれぐらいしかないだろう。

 

―よお、起きたか?

 

蒼…。

 

―だいぶ眠っていたらしいな。

 

どれ位眠っていたのか蒼に尋ねようとするとカーテンが開かれた。

そこに居たのは金髪であどけない少女。パンツスーツに白色のカッターシャツ、そして白衣を身に纏っている。

それにこの気配は…戦術人形か。

 

「あ、起きましたか。具合はどうですか?」

 

「問題ない。…ここは何処か聞いていいだろうか?」

 

「ここですか?ここは…」

 

 

 

 

 

「S09地区P基地です」




次回もコラボ回!。

またこちらからのコラボのお願いを許可して下さった焔薙様。
この場をお借りしてお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございます!

では次回に!ノシノシ


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Act41-Extra 戦いの後

ザ・ディスペア・エンボディードの戦いの後、S09地区P基地の医務室で目覚めた彼ら。
事情を話さなくてはならない為、二人はこの基地の指揮官と出会う事になる。


コラボ回後編!
だというのうちの彼らが出番多い…許してぇ…


覇王との闘いの後、S09地区P基地の医務室で目覚めた俺はここの医務長のPPSh-41にどれ程眠っていたのかを聞いた。彼女が言うには一週間は眠っていたとの事。まさかとはそこまで眠っていたとは。

流石に寝過ぎである。だがその分魔力は回復しており、体にも何ら異常を見受けられなかった。

とは言いつつも自分は医療に詳しい訳ではない為、そこは専門である彼女達に任せた。何故彼女達なのかというと、どうやら彼女だけではなく、後二人ここのスタッフとして動いている様だ。二人共戦術人形だった事に関しては内心驚いたが…。

検査の結果、特に問題なかったのだが…。俺達が空を落ちてきた事を知っている模様でこの回復の速さに疑問を抱いている様子だった。…原因は自分の中で流れる悪魔の血によるものだと確信しているのだが、敢えて言わないでおいた。正直信用してくれるかどうか分からなかったからだ。

またブレイクも目覚めた様で、同様に検査を受けた。特に問題は無かったのだが、やはりというべきだろう。回復の速さに疑問を抱いている様子であった。

だからといって何かを問われる事はなく、自分もブレイクもベットからお別れをする事に。

しかしまだ終わっていない。ここの指揮官に謝罪を含め、事情を説明しなくてはならない。どうやら向こうも向こうでこっちが目覚めるのを待っていたらしく、連れてくる様に指示を受けたここの基地に所属している人形に執務室へと案内してもらった。

そして現在―――

 

俺達はここS09地区P基地の執務室にて。

指揮官のユノ・ヴァルターと副官のナガンM1895と対面していた。ナガンに関してはS10基地でも見た事がある。

寧ろこちらが驚いたのはユノ指揮官だ。この基地を率いていたのが少女だったとは思わなかったからだ。だがそれを言えばナギサ指揮官も同じであるのだがな。

それに彼女から妙な違和感を感じている。一見普通の少女にしか見えないのだが…。

まぁ…だからといって聞こうとは思わないがな。

 

「さてそっちの事を聞かせて貰おうかの」

 

先程二人からの自己紹介を終え、今度はこちらの番となっていた。

 

「自分はギルヴァ。グリフィンには属してはいないが、協力関係という形を取っている。そしてS10地区でデビルメイクライという名前で便利屋を営んでいる」

 

「便利屋?」

 

「金され払ってもらえればどんな事でも引き受けるを売りにしている。が、だからと言ってグリフィンに敵対する様な依頼は受けない。受けるのは鉄血の対処、また行方不明となった戦術人形の捜索、過激派組織の対処、そして…この世界に潜んでいる悪魔の始末といった所だ」

 

場合によっては雑用も受けたりしているがな、と付け加え紹介を終える。

そして隣に座るブレイクへと視線を飛ばし、自己紹介する様に促す。それを理解したのか、やれやれと言った表情を見せるブレイク。何がやれやれだ…。

 

「名はブレイク。俺はそこの強面のギルヴァとは違って、グリフィンにも属してねぇし、便利屋にも属してない。寧ろ俺は依頼人でね。こっちと共に行動していた」

 

「後で刺されても文句言わん事だな、ブレイク…。俺達の自己紹介はこれで終わりだ。…ここからは本題に入るとしよう。そちらが気になっている事…諸々全て含めて、話そう」

 

さてここからが本番。…信用されるかは分からないが、話すしかないだろう。

 

 

時間をかけてユノ指揮官とナガンに全てを語った。

人知れず存在する悪魔という存在。そしてそれはこの世界にも潜んでいると。

一週間前に、ここに所属している戦術人形が見た得体の知れない何かも悪魔という存在である事。

様々な事情で自分達はそれと対峙し、討った事も。

そして自分とブレイクは悪魔の血を流している事も。

この話を聞いて二人がどう思っているは分からない。だが自分が知る限りの全ての情報を話した。

 

「…以上だ」

 

たった話しただけだと言うのに、何故か数時間経った様な感覚がした。

実際は数十分しか経っていないというのに。

 

「えっと…」

 

「むぅ…」

 

そして話を聞いた二人からは困惑と言った表情を見せていた。

正直その反応は予想していた。いきなりこんな事を言われて困惑するなというのが無理な話である。ブレイクもこの反応は予想出来ていたのか、訪れた沈黙をを破るかの様に二人へと口を開いた。

 

「無理に信じろとは言わねぇさ。いきなり悪魔だなんて言われて困惑するのが当たり前だ」

 

ソファーに凭れながらもブレイクは言葉を続ける。

 

「只、悪魔が存在するとだけ理解してくれればオーケーだ。ま…信じるか信じないかそっち次第だがな」

 

相手に対する言葉遣いではないが、声は真剣そのものだった。

ブレイクも悪魔と戦った一人。そして悪魔という存在が広く知れ渡っていない事も気付いていた。

 

「信じるよ」

 

そして返ってきた答えは自分もブレイクも予想だにしていないものだった。

つい素っ頓狂な声が出そうになったが、何とか抑え込む。

 

「正直あんまりしっくりきていないですけね。でも信じます。私には二人が嘘を言う様な方には見えないから」

 

「わしも信じよう。勘であるがお主ら嘘が下手そうだからの」

 

これは…とんでもない指揮官とその副官に出会ったな。

…信じるという言葉が聞けただけでも良かったかも知れん。

 

―だな…。

 

「あ、最後に一つ聞いていいですか?」

 

「何だろう」

 

「その…ギルヴァさんとブレイクさんには悪魔の血が流れている…。なのに何故どうして…」

 

「人や人形達の味方をするのか、と?」

 

「はい」

 

ユノ指揮官の疑問は最もだろう。

悪魔の血を流している俺達が何故人や人形達の味方をするのか。

確かに悪魔という存在は無慈悲で狡猾だ。だが奴らには無い物を俺達は持っていた。失くさない様にしっかりと。

だからその問いの答えは一つしかない。

 

「例え悪魔であろうと…」

 

あの時からずっとそれだけは忘れていない。

真っすぐとユノ指揮官の目を見つめながら答える。

 

「心だけは人のままだ」

 

「!」

 

この答えにユノ指揮官がどう思うかは分からない。

だが…

 

「…この答えでは不足だろうか?」

 

「ううん。寧ろ…十分すぎる答えです」

 

彼女にとっては納得のいく答えだったそうだ。

 

 

話は終わりその後は言うものの、ナギサ指揮官と店に居る代理人に連絡を取り生きている事を伝えて、代理人にこっちの地区まで迎えに来てもらう様に頼んだ。すぐに行きますので!と若干涙声でありつつも嬉しそうに承諾してくれた。シーナ指揮官は相当心配していた様で、こっちの声を聞いた途端泣き出してしまい、慰めるのが大変だった。生きていてくれて良かった、という彼女からの言葉は嬉しかったが。

それと回収されていた武器もちゃんと返してもらった。後から分かった事であるが、ブレイクが持っている銃にも名前があった事が発覚した。黒を基調としているが一部異なっているらしく、撃鉄部分と銃把の一部がそれに該当していた。その二つが銀色に染まっているのがフォルテ。音楽用語から来ているらしくフォルテは強くを意味する。どうやらフォルテは連射はそこそこであるが一発の威力が高めに設計されている。

そして金色に染まっているのがアレグロ。こちらも音楽用語から来ており、意味は速く。

フォルテとは反対に連射に秀でている様だ。その分は威力はそこそこ。

あの時、銃に文字が彫られていたのは気付いていたが、名前だったとはな。…何故ブレイクはそれに気付かなかったのが不思議であるが。

 

そして今は俺達はこの基地の出入口近くにいる。一週間も世話になったのだ、これ以上は長居する訳にはいかない。それに態々見送りに来てくれたのか近くにはユノ指揮官に副官が居る。

 

「気を付けて帰ってね、二人共」

 

「うむ。お主らは特殊とは言え、一週間も寝ておったのだ。無理はするでないぞ」

 

―だとさ。無理したらまたここに墜落するかもな?

 

何度も世話になる訳にはいかぬだろうが…。

 

だがまぁ…頭の片隅にで置いておくとしよう。

 

「お、見えた。あのメイドさんが乗ってるバンだ。しっかし早ぇな。連絡して二時間ぐらいしか経ってねぇんだが」

 

「それ程までに心配をかけてしまったという事だ。…先に行ってろ、ブレイク。後で追い付く」

 

「ん、りょーかい。…じゃあな、ユノ指揮官に副官さんよ。また会おうぜ」

 

そう言い残してブレイクは基地外へと歩き出していく。

 

「一週間も世話になった。礼を言う」

 

「うん、どうも致しまして」

 

「お礼とは行かんが…何かあればいつでも連絡してくれ。俺達で良ければ手を貸そう」

 

そしてと言葉を続ける。

 

「次が何時になるかは分からん。だが願わくばのんびりとした日に会える事を祈っている」

 

当分はのんびりとした日がやってくるかは分からないが。

 

「戦いもなく、只々のんびりとした日が来る時は…」

 

「時は?」

 

それがやってきた時は俺はこう思うだろう。

 

「"大当たり(Jack Pot)"…そう思う様にしているのでな」

 

「?」

 

「ふっ…分からなくてもいい。…それとこれを渡しておく」

 

手に魔力で構成された花を出し、それをユノ指揮官へと渡す。

特に害はなく、悪魔も呼び寄せる事もない。只の群青色に輝く花。

不思議そうな表情を浮かべながらも、その花を受け取るユノ指揮官。

 

「この身になってから出来る様になった芸当だ。…お礼にしては少々物足りんと思うが、今はそれで許してくれ」

 

また会おう、とそう告げ背を向けてブレイクの後を追う様に歩き出す。

今後会うかどうか分からない。自分達が出来る範囲であるが助力しよう。

こんな見ず知らずの俺達を信じてくれた彼女達の助けになれるのであれば…それはそれで良い事だと思うのだからな。




これにてコラボ回は終了でございます!
嘘を言う様な人も見えないという理由で悪魔の事を信じて貰いました。
またギルヴァは気配に敏感で、また悪魔である事から色んな気配を感じ取り区別する事が出来ます。
ユノちゃんから何かを感じ取っていたのはそれが理由です。

今回コラボのお願いを許可して下さった焔薙様、本当にありがとうございます!


では次回にノシノシ


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Act42 帰還

店に帰ってきたギルヴァ。
一時的であるが店で居座る事になったブレイク、そしてここで居る事にしたグリフォンを迎え、いつも通りの一日を過ごす事になるのだが…。


S10地区の店に戻ってきた俺達。

フードゥルもグリフォンも店内におり、迎えてくれた。偶然にも404の面々は一昨日から任務出向いているらしく、代理人の話ではもうすぐに戻ってくるとの事。

そして…

 

「へぇー、それなりにはしっかりしてんのか。てっきり殺風景な感じを予想していたんだがな」

 

ソファーに腰掛け、堂々と凭れるブレイク。

何故ここに居ると思うだろうが、これには訳がある。

本来であればブレイクはフェーンベルツに戻る事になるのだが、今回の一件であの町はゴーストタウンと化してしまっている。思い入れがあれど流石に一人で過ごすつもりは本人もないらしく、一応店に連れてきていた。

だが彼もここで居座るつもりはないらしい。どうせなら何処かの地区で自分と同じ様に便利屋を営むのも悪くないと考えているらしい。

 

「店を構えるなら外装と内装にはそれなりに気を遣うべきだろう」

 

「まぁ確かにな。ただ…掃除が苦手でな…」

 

「代理人にやってもらっている上、人の事は言えんが…それは何とかするしかないだろうな…」

 

「そう言うと思ったぜ…」

 

なんだろうか…ブレイクが店を開けば、数日足らずで店がゴミ屋敷になりそうな予感がしてならないのだが…。

…流石にそこまでは至らないと思うのだが、こいつが店を開けば定期的に様子を見に行く必要があるかもな。

とりあえずその事はその時に決めるとしよう。今は…

 

「ん?どっかに行くのか?にいちゃんよ」

 

自分が店の裏口から出ていこうとするのを見ていたのか、置いてあるジュークボックスを足場にしていたグリフォンがそう聞いてきた。

 

「ああ。迎えにな」

 

台処から出てきた代理人に視線を送る。

向こうも理解した模様で、その印に頷いて返してくれた。

ドアノブを捻り、店を後にする。

外は少しひんやりしていた。…今日の夕飯は暖かいもので作ってもらうするか。

 

―それと埋め合わせも考えておけよ?

 

分かっている。心配かけたのは事実だからな。

 

向かう場所は一つ。

この基地のヘリポートだ。

 

 

「冷えるな」

 

基地のヘリポートで、45達が乗っているヘリが来るのを待つ。

空を見上げれば、空は灰色に染まっている。

雨雲は見えないが、下手すれば雪でも降るかも知れないが…この感じだと降ったとしても積る事はないだろう。

 

「…」

 

思えば旅をしている時やここにいる時もそうであったが、季節などあまり気にしてはいなかった。

立ち寄った廃墟でカレンダーを見かけたりもしたが、訪れた日が何日かすら分からなかったのでカレンダーを見た所で意味などなかった。

ただ自由気ままに、時間も気にせず旅をしていたからか…恐らくあの日から一年か二年は経っているのだろう。

 

―あっという間だよなぁ…。時間って…

 

「そうだな…。子供の時は一日、一か月、一年が長く感じられたが、この歳になるとそれらが全て短く感じる様になってきた」

 

―成長するにつれて時間が短く感じる…。何でそう感じる様になるんだろうなぁ…

 

「さぁな…。俺にも分からん」

 

静かに空を見つめる。

ふとヘリの音が遠くから聞こえた。その音が聞こえる方へと向くと一機のヘリがこちらへと飛んできている。

恐らくであるがあれに45達が乗っているのだろう。

ヘリは段々とヘリポートへ近づき、ゆっくりと着地。そしてヘリから彼女達が降りてくる。しかしどこか様子がおかしい…。全員がおかしいという訳ではない。強いて言うなら先頭にいる45と416がおかしいというべきだろう。

ユラユラと歩いて、前も見えていない気がするが…大丈夫だろうか…。

心配になり彼女達へと近寄る。9とG11はこちらに気付き、驚いた表情を見せているが二人は違う。

本格的に心配になり、まずは45に前に立ち、手を彼女の肩に乗せる。

こちらの手が肩に乗せられた事に気付いたのか、ゆっくり彼女は顔を上げた。

瞳は黒く濁り、光が灯ってない。…これは不味いかも知れんぞ。

 

「大丈夫か」

 

「…ギルヴァ……?」

 

「ああ、俺だ。…心配かけてしまった様だな」

 

彼女の瞳に光が宿り始める。

今俺が目の前に居る事を漸く理解したのか、45の目は見開いていた。

驚きのあまり言葉が出せないのか、口をパクパクしている。

そして…

 

「ギルヴァ…ッ!」

 

両腕を伸ばし、勢い良く飛びついてきた。

力強く抱きしめられ、もう離さないと言わんばかりに強く抱きしめられている。

心なしか泣いている気がするが…それは聞く必要はないだろう。

 

「…ギルヴァなんだよね…?…夢なんかじゃないのよね…?」

 

「人形は夢を見るのか?」

 

「…いいえ、見ないわ」

 

「ならばそういう事だ」

 

「ええ…」

 

体を預け、今までお預けを食らっていたのを全てぶつけるかの様に45は強く抱きしめてくる。

自分が人であったら軽く骨を一、二本折れていたかも知れんが、この身にであるが故に折れる事はない。

そして空いている右腕も416によって塞がれていた。体全体を当てるかの様に彼女はくっついている。

45は兎も角、416までもが大胆な行動に出るとは思わなかった。

 

―で、感触はどうよ?当たってんだろう?416の立派なのが。

 

黙秘権を行使させてもらう。

 

「…心配かけたな、416」

 

「もう帰ってこないかと思ってたわ…」

 

「だが、ここにいるが?」

 

「そうね…。…もう離さないわ、ずっと…ずっと…永遠に…

 

「最後に何か言ったか?」

 

「いいえ、何も。…それよりも」

 

「ん?」

 

腕に埋めていた416の顔が上げられる。

笑顔なのは変わりないが…何だ、この感じは?これではまるで…あの時の45と同じ…。

 

「心配かけたのだから……責任とってよね?」

 

ね?という彼女の瞳には光が宿っていなかった。

 

これは…まさか…?

 

―そのまさかってやつだろうな?責任取るの頑張れよ?

 

…ぬぅ。

 

「そうそう、責任とってよね。ギルヴァ~♪」

 

「さっきの様子はどこに行った。復活するのが随分早いぞ」

 

「ギルヴァを抱きしめてたら、すっかり元気になっちゃった♪」

 

「俺は栄養剤ではないのだが」

 

「私にとっては栄養剤かな~。色んな い・み・で…♪」

 

「何も聞かんぞ」

 

「ええ~」

 

やれやれ、これでは話が進まん。

しかし責任、か…どうすれば良いものか。

404の面々に心配かけてしまったのは事実。さて…どうしたものか?

 

「とりあえず、報告を済ませてこい。話はその後だ」

 

「は~い」

 

すっかり元気になった45は先に行き、続く様に416達がヘリポートを後にする。

その際にすれ違った9とG11からはおかえりと言われた。表情から分かったが、どうやら二人にも心配かけてしまったようだ。さてはて…どうしたものか。

それにブレイクやグリフォンの事も紹介せねばならん…。どうやら休みは当分先になりそうだ。

 

この後に店で404の面々にブレイクとグリフォンの事を紹介した後、責任…というより埋め合わせをする事になった。

何がしたいのか一人一人聞いた結果、こうなった。

 

まずは45。二人っきりで酒が飲みたいとの事。本部の時の事が忘れられないらしい。

 

次に9。彼女は一日デートを所望。

 

416も同じく一日デート。

 

G11に関して昼寝する際に膝枕を所望してきた。それだけで良いのかと聞くと、それでいいらしい。

彼女がそう言うならそれで良いのだろう…。

そして…代理人もその権利があると主張し、埋め合わせを所望。

今すぐは決められないが、明日か明後日に伝えるとの事。

さて…決まったのは良いが、その間依頼が来ない事を願うしかないな…。

因みにこの事を傍で聞いていたブレイクが神妙な面持ちでこう聞いてきた。

 

「悪魔って女にモテる力でもあんのか?」

 

「俺が知るか」

 

 

また余談であるが、グリフォンが何をトチ狂ったのか、45の一部を見て…

 

「ちっさいな…」

 

本人の前でかまし、何についてなのかを理解したのかキレた45に本気で調理されそうになっていたのはまた別の機会に話すとしよう。




という訳で次回からは埋め合わせ回です。
場合によっては短くなるかもですが、悪しからず。


では次回にーノシノシ


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Act43 平穏な一日にて

訳あってG11との約束を果たすギルヴァ。
彼と彼女しかいない店内はとても静かであった。



今回からは埋め合わせ編&ぼのぼので行こうかと。
ギルヴァも大変だったからね、いいよね?


埋め合わせの内容が決まって三日後。内容が決まったのは良いものの、404の中で誰が最後を動くかと言う話になってしまい、埋め合わせの件は先延ばしになり兼ねない状況にあった。何故最後を狙うのかは分からないが…G11と9は先でも構わないらしい。だが最後を狙う45と416との対決が勃発しており、店内は何時もと違い騒々しくなるかと思われた。

そこに一部始終を見ていたブレイクが二人にある提案をしたのだ。

 

「どうせだ。ここの演習場でも使って、得点を競うなり勝負を付けてきたらどうだ?」

 

ここで暴れるのは良くないことぐらいは二人は理解している。

ならば演習場で白黒つけるのが良いと判断したのだろう。その提案に乗っかり、二人と勝負の行く末を見届ける為に自分とG11以外の者が店を出ていったのは約数時間前の話だ。

どれ程彼女達はやりあっているのかは分からないが…こちらとしては静かでいい。

ジュークボックスから流れる静かな曲。窓から見える空は青々としていて美しい。

曲に交えて小さく聞こえるG11の寝息。本のページをめくる音。

この世の中が平穏と勘違いしてしまってもおかしくない程にゆっくりとした時間が流れていた。

 

「…」

 

「…ZZZ」

 

ソファーに腰掛けるこちらの膝を枕にしてタオルケットに包まり、静かな寝息を立てながら横になっているG11。

片手で上手く本のページをめくりつつ、空いている手で優しく彼女の頭を撫でる。

こういった事は初めてではない。妹のカエデにせがまれて、何度かやってあげた事がある。

男の膝枕など硬くて眠れないだろうと思っていたが、びっくりする位にあの子はぐっすり眠っていた。

何故そこまでぐっすり眠れるのか聞いた事があったが、カエデに笑って誤魔化して理由を教えてくれなかった。

一度だけであったが、母さんにも膝枕をしてあげた事がある。母さんもびっくりするくらいぐっすり眠っていた。カエデに聞いた様に母さんにもどうしてそこまで眠れるのか聞いてみた所、母さんはこう言っていた。

ギルヴァの膝枕はとても暖かくて、傍にいてくれるだけでとても安心してしまうの、と。

何故カエデがその事を言わなかったのかは今となって分からないが…恐らく母さんと同じ意見だったに違いない。

 

「…んみゅ…」

 

「ん…起きたか」

 

少しだけ昔を思い耽っていたタイミングでG11が目を覚ました。

目は半開きで、まだまだ眠たそうである。

しかし…よく眠る娘だ。初めて会った時も眠たそうにしていたが…もしや彼女は休みの時は一日中寝ていたりするのだろうか?それはそれでどうなのかと思ってしまうが、とやかく言うまい。

 

「ふあぁ~……あれ?皆はまだ戻ってきてないの?」

 

「そうらしいな。店を出てからそれなりに経っているがな」

 

どれ程やりあっているのやらか。

何となくだが…

 

―おおっと!45選手、一点リード!—

 

―数え直せ!同点よ!—

 

…みたいなやり取りをしている様子が容易想像できる。

あまりにも派手になり過ぎる様であれば、直々に止めに行く必要があると思うが…あちらにはフードゥルが居るから安心して良いだろう。

こちらが態々頼まなくても冷静な判断が出来るフードゥルなら任せられる。

 

「なに読んでるの?」

 

「小説だ」

 

「どんな内容?」

 

「ゾンビの大群が徘徊するショッピングモールでフリージャーナリストの男が無双する話だ」

 

「おぉ~、ゾンビものかぁ…それって面白い?」

 

「どうだろうな…」

 

それにしてもこの主人公、本当に人間か?

素手でゾンビの腹をぶち抜いたり、サマーソルトキックをかましたり…重機関銃を喰らっても生きて居たり…。

正直言って悪魔より恐ろしいのはこの男ではないのか?こいつが死ぬイメージが全く沸かん。

 

―こいつが居れば魔界も総崩れするかもな?

 

それはないと思うが…。

 

「ギルヴァがさ、読んできた本の中で一番面白かったのはなに?」

 

「一番か…。特にそれは考えた事がなかったな。最近読んだ本で中々に面白いと思ったのはあったな」

 

「それは?」

 

「多重人格…いや、多層人格というべきだろうか。それぞれ特徴が異なる人格が7人存在する殺し屋の物語だ」

 

読んでいて中々に面白い作品とは思った。

登場人物の台詞の言い回しや残る謎など、深く引き込まれる程面白いと感じた。

また自分が持っているレーゾンデートルにも似た銃が登場していたが…もしかしたらレーゾンデートルの製作者はあの小説からヒントを得たのだろうか?

 

「へぇー…そんな小説があるんだ」

 

「今度読んでみるか?」

 

「うーん…いいかなぁ。読んでるとすぐ眠たくなるから」

 

「そうか」

 

そこで疑問に思った。

先程までこちらの膝枕で眠っていたG11だが、よく眠れたのだろうか?

それが気になり、起き上がろうとはしない彼女にへと問いかける。

 

「随分と眠っていたが…男の膝枕などでそこまでぐっすり眠れるのか?」

 

「どうかなぁ…。男性に膝枕された事ないから」

 

「つまり俺が初となる訳か」

 

「うん」

 

―つまりG11の初めてを奪った訳だな?

 

言い方というのがあるだろうが。

 

誤解を招きかねない台詞を言いおってからに…。

こういう時にだけふざけるのは、元が悪魔なのだろう。

だからといってやめろと言うつもりはない。こういうやり取りも嫌いではないのだから。

 

「で?膝枕はどうだった?」

 

「うーん…正直言えば硬かった。でも…」

 

「でも?」

 

「ギルヴァの傍にいるととても安心するし、それに頭を撫でてくれる手もとても優しかった」

 

彼女が言った台詞は一部違えどかつて母さんが言っていた事を似ていた。

悪魔になった身なのに、そう思われるとはな。自分では中々に分からんものだな。

そっとG11の頭を撫でる。昔、カエデや母さんの頭を撫でていた時を再現するかのように。

それが心地よかったのか、彼女の瞼が段々と沈み始める。

 

「ふあぁ~…もっかい寝るねぇ……お休み~…」

 

そのままG11は再度眠りにつく。

まだ彼女達が帰ってくる様子はない。

…それにこんなにものんびりとした時間を過ごしているのだ。

この時間を堪能しつつ、本を読んでいく。訪れた平穏な時間を彼女達が帰ってくるまで堪能するのだった。

 

余談であるが45と416との勝負は45の勝利で終わったらしい。

順番としては最後が45。45の前が416…。

つまりは次は9と一日デートという訳である。




という訳で次回は9。
どんな風にしていくかねぇ…

あとギルヴァが読んでいた本は…分かる人は分かるかな?

では次回~ノシノシ


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Act44 家族

9と共に町へと出掛けるギルヴァ。
寄ったカフェにて、9は彼にある事を尋ねる。




埋め合わせ回 9編。
だと言うのにあれだな…デートっぽくないかも…許してぇ


「ギルヴァってさ、45姉の事をどう思っているの?」

 

404の埋め合わせ期間 二日目。

今回は9の願いを叶える為、店を出てデートをしていた。

以前45と来たカフェとは別の小さなカフェにて、イチゴが乗ったショートケーキを頬張りながら9がそう尋ねてきた。

 

「どう思っているか、か…」

 

ブラックコーヒーを一口含む。

苦味、そして芳醇な香り。ここの店主は良い腕をしている。

 

「うん。45姉は見たら分かる位にギルヴァに積極的だし、ギルヴァの事が好きなんだなぁって言わなくても分かるもん」

 

少し積極的過ぎる気もするが…態々口にする事でもなかろう。

あの時…本部に居た時、彼女…45から告白された事は今でも覚えている。

その想いに対して自分は明確な答えを返してないのもまた事実だ。

煮え切らない態度に不信感を抱かれてもおかしくない。

 

「だから、か…。俺の態度が気になったという訳か」

 

「…まぁね」

 

助けてくれたから、あんまり疑う事はしたくないけど…と9は静かに呟いたのが聞こえた。

だが9が思っている事も間違っている訳ではない。大事な姉だからこそ…思う所はあるのだろう。

こうしてみると何とも姉思いな妹だと思わざる終えない。

 

「言い訳にしか聞こえんと思うが…」

 

カップを静かに置く。

9の目を見据えたまま、語る。

 

「自分に恋愛経験がない、というのが大きな要因だろう」

 

「経験がない…?」

 

「ああ。45に告白される前まで俺は放浪していた身。放浪する前も誰かに告白されたことなどない」

 

家族が生きて居た頃。

決して他者との交流がなかった訳ではない。その中には異性もいたのも事実だ。

だが自分はその者達を友人ととしてしか見ていなかった。

好意を抱くという感情が、自分にはそれが酷く欠落していたのだ。家族愛はあったが、異性に好意を抱くという感情は只の友人としか見ていないというものに移り変わっていた。

その当時は気付けなかったが…恐らく自分は人に対する選り好みが酷かったのだと思う。

信用できると思った者には優しくし、信用出来ない、或いは嫌いだと思った者には冷たい態度を取るなど…思い込みの激しさ故に自分はそんな態度を取っていた。

だからこそ…恋愛感情など気付かぬ内に分からなくなっていた。45に告白されるまでは。

 

「故にその想いにどう答えればいいのか分からないという事が多かった。だが…」

 

「だが?」

 

「それを理由に逃げるつもりはない。…今すぐとは言えんが答えは出すつもりだ」

 

45だけに限らず、代理人にもそれは当てはまる。416にもそれが該当すると思うが…。

理由はどうであれ、こちらは答えなければならない。煮え切らないまま…そしてそのままにしておくのも許される事ではないだろう。

…彼女達の想いに対し向き合う。それは自分に課せられた義務だ。

 

「うん…。早めに答えを出してあげてね。45姉待っている筈だから」

 

「分かっている」

 

「だったらさこれを機に契約したらどう?」

 

「契約…もしや指輪の事か?」

 

「そうそう」

 

話には聞いていたが…。

確かにそういう考えもあるだろう。

だがこの手段は行えないという明確な理由がある。

 

「9、一つ忘れていないか?」

 

「ん?」

 

「俺はグリフィンとは協力関係にあるが、属してはいない」

 

「あ…」

 

その事を失念していたのだろう。

9の表情がハッとしたものになる。基地に隣接されているから、グリフォンに属していると思ってしまってもおかしくないだろう。

だが自分達は協力関係にある便利屋なのだ。そこだけは忘れてはならない。

 

「だが…成程。指輪か…検討してみる価値はあるかも知れん」

 

「え?」

 

「何でもない。…さて次は何処に行く?」

 

「何か重大な事を聞き洩らした気もするけど……次は雑貨屋さんかな」

 

「了解した。…欲しいものがあるならこちらから出そう」

 

「え?良いよ、良いよ。そこまでねだるつもりはないって!」

 

「事情がどうであれ、心配かけたのは事実。…それ位はさせてくれ」

 

「…そういう所、45姉にもちゃんとやってあげてね?」

 

分かっていると答え、最後の一口を飲み干し椅子から立ちあがる。

支払いを済ませ、9と共にカフェを後にする。

 

 

 

雑貨屋にて。

9が店内を自由に見て回っている間、自分は近くの壁を背に身を預けていた。

ここは以前45と来た雑貨屋でなく、この雑貨屋は商業地域から少しだけ離れた位置に存在する。

老夫婦が経営しており、品ぞろえも悪くない。聞いた話ではS10基地所属の人形も訪れる事があるそうだ。

 

「これ可愛い!おばあちゃん、これ幾ら?」

 

「それかい、それはね…」

 

店内に響く9と店主の奥さんの和気あいあいとしたやり取りを耳にしていると、店主が歩み寄ってきた。

 

「今日はデートかい、ギルヴァ君」

 

「そんなところだ。…体の方は問題ないか」

 

「大丈夫だよ。こんな年寄りを気にかけてくれるなんて、ありがとうね」

 

「…気になっただけだ」

 

店主とは酒場で何度か面識がある。酒は飲まないらしいが、同じく店を営む仲間たちと話すのが楽しみだとか。

便利屋を開いたばかりの俺に良く話かけてきたのがここの店主だ。

 

「ふふっ、そっか」

 

何がおかしかったのか、店主は笑みを浮かべ椅子に持ってくるとこちらの近くに置いて腰掛ける。

店主の奥さんと9が話し合っている様子を見ながら、見つめている。

こちらからも見えるが、二人の様子はまるで祖母と孫娘といった感じだ。

 

「あの子も、そして君を見ていると先に逝った息子と娘を思い出すよ…」

 

「…」

 

「…息子は君と似ていて冷静な子だった。娘は妻と話しているあの子と同じ様に明るい子だった」

 

初耳だった。

だが上手く言葉が出てこなく、沈黙を貫いた。

そしてそっと店主の肩に手を置く。

 

「このご時世だ。君がやっている仕事の中には命のやり取りもあるんだろう。だけど…私達より先に逝っちゃ駄目だよ…。君はまだ若いから。綺麗なお嫁さんと結婚して、温かい家族を作るんだよ?」

 

「…分かっている」

 

「…うん。その言葉が聞けたなら安心かな。これで心置きなくあの世に逝ける」

 

「そういう事は言うものではないと思うが?」

 

「ははっ、それもそうだね」

 

優しい笑みを浮かべ、椅子から立ちあがる店主。

…それにしても温かい家族を作れ、か。

俺にとって「家族」という言葉は少しだけ重たく感じるな…。

 

―ギルヴァ…

 

悲しいな、蒼。悪魔としての力を身に付けたとしても、心は成長してないのかもしれん。

 

―それは…

 

まだ飢えているのだろう。家族の温かさ、母さんの温かさにな…。

 

M4の時もそうだが、どうやら俺は今になっても踏ん切りが付かないみたいだ。

思う事は忘れはしない。だがこのままでは良くないという事も分かっている。

 

弱いな…俺は。

 

―これから…ゆっくりやっていけばいいさ。心は"人間"のままなんだろう?

 

ああ…そのつもりさだ。永遠にそれだけは変わらんよ。

 

「うん?どうかしたのかい、ギルヴァ君」

 

「いや、何でもない」

 

「そっか。少し思い詰めている様に見えたんだが…君がそう言うなら何でもないんだろう」

 

「ああ」

 

そろそろ何を買うか決まった頃合いだろう。壁から離れて、9の元へと向かおうとした時。

ふとある物が視界の端に映った。

気になりそちらへと向くと、そこには身に付ける装飾品といった品々が置かれていた。

ネックレスやイヤリングなどと言ったものばかり。

 

「…これは」

 

そしてその中にあったものに視線が釘付けとなる。

 

「それが気になるかい?」

 

「ああ。これは店主が?」

 

「そうだよ。全部私と妻で手掛けたものさ」

 

「成程…。店主、一つ頼みたい」

 

「ん?何かな?」

 

「それは――――」

 

 

 

陽が沈みし頃。

雑貨屋で購入した品が入った袋を下げた9と共に帰路へと赴いていた。

 

「楽しかったか?」

 

「うん!」

 

「そうか。それは良かった」

 

段々と冷えつつあるのか、最近は陽が沈むのが早い。

店にも暖房設備を用意しなくてはならないな。

これからの事を考えていると、ふと9の足が止まった。

 

「どうした?」

 

「いやさ、ずっとギルヴァって私からしたらどんな人だろうって考えてたんだけどね。今分かった気がする!」

 

「それは?」

 

「えへへ♪ それはね…」

 

軽やかな足取りで歩み寄ってくる9。

が突然走り出し、勢い良く腰に抱きついてきた。

そして顔を上げ、誰しもが惚れるであろう満面の笑みを咲かせ言った。

 

「お兄ちゃん!」

 

「っ!」

 

兄、か。

自分はそこまで兄らしいとは思えないが…。

やれやれ、こうも満面な笑みで言われたら否定する気にもなれん。

 

「…そう呼びたいならそうしてくれても構わん」

 

「うん!それじゃ…」

 

そう言ってこちらから離れ、先へ行く9。

だがまた足を止めるとこちらへ振り向き笑顔を咲かせつつ、口を開く。

その姿はまるで…

 

「帰ろっ!お兄ちゃん!」

 

陽の明かりに溶け込み様に振り返りつつ見せる笑顔は一枚の絵の様だった。




9の振り返き笑顔を想像したら破壊力がとんでもない気がする。

ギルヴァ、そろそろ答えを出す事を考える。そしてお兄ちゃんになりました。

次は416編。
ではノシ


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Act45 fast

416と共に出かけるギルヴァ。
色々買い込んでおきたいという理由で武器屋を訪れる。
そんな時、ギルヴァは店主からある事を尋ねられる。


G11、9に続き、今回は416。

だが少し急用が入ったらしく…

 

「先に広場に行っていてて。5分でそっちに行くから」

 

…と言われ自分は先に店を出て待ち合わせ場所である広場で待っていた。

ベンチに腰掛け、今日はどうしたものかと考えていた。

流石に連続してカフェは不味いだろう。雑貨屋も該当する。彼女が何を望むかにもよるが…果たしてどうするか。

経験が少ないというのも難儀な話だ。

 

「…ふむ」

 

「考え事?」

 

「ああ。そんな所…む?」

 

ふと隣から聞こえた声。

顔をそちらへと向けるとそこには416が隣に座っていた。5分で行くと言っていたが。本当に5分で来たようだ。

流石というべきか。完璧と自称するだけの事はある。

それにしても、こちらに気配すら感じさせずどうやって隣に…。

 

「待ったかしら」

 

「いや、問題ない。さて…どこへ行く?」

 

「あら、そこはエスコートするのが役目じゃないの?」

 

「ならば行き先は期待しない事だな」

 

「冗談よ。さ、行きましょ。ある程度目星は付けてるから」

 

そう言って立ち上がる416に続く様に立ち上がる。

目星を付けている、か。さてどこになるのだろうか。

 

 

まず彼女が行きたいといったのは場所はカフェでも雑貨屋でもなく、武器屋。

彼女曰く色々買い込んでおきたいらしい。

彼女にも彼女なりの考えがあるのだろうが、個人的に気になった事を自分の隣でカウンターに並べられた品とにらみ合っている416に尋ねようと思ったが…今は聞くべきではないだろう。

ここを出てから聞いてみるとしよう。

 

「よう、便利屋の兄ちゃん。今日は彼女とデートかい?」

 

近くにお客がいると言うのにそれを放ってこちらへと話しかけてくる店主。

416の雰囲気から何かを察したのかこちらへと寄ってくる。

 

「…そんなところだ」

 

「ほう~?怖ぇ面してんのに、あんたも隅に置けねぇな?」

 

確実に茶化していると分かっているので、少しだけ睨むを効かす。

だが、効果などなく店主はおぉ~、怖っ、ととぼけるだけ。

意味が無いと分かった所で軽くため息をつき、指を眉間に当てる。

 

「ま、このご時世だ。誰かと一緒に居られる時なんてあっという間さ。…大事にしなよ」

 

「…」

 

「さて。折角来たんだ。何かお求めかい?今なら安くしとくぜ」

 

「そうだな…」

 

416はまだ睨めっこを続けている。暫くは時間がかかるだろうが…まだ時間はある。急ぐ必要はあるまい。

カウンターのショーケースを見ていると、前までは置いてなかった筈の新商品がそこに置かれていた。

む?…この弾は。

 

「店主、この弾は…」

 

「ん?ああ、これか。あんたの相棒専用の弾さ。13mm弾…勿論自作品さ」

 

よりによって、この店主は…。

まさかレーゾンデートルの弾を自作していたとは。

まぁ…この店主は弾丸を自作する程だから出来なくは無いと思っていたが。

態々商品にしてまで売り出す必要があるか?

 

「まさか大量生成はしていないだろうな?」

 

「そんな事してたら、うちは潰れてる。まぁ…一箱12発入りを6つ程度ぐらいな」

 

作り過ぎである。

大体買うのが自分だけだと言うのに…全く。

だがこれを機に買っておいても問題ないだろう。どちらにせよ必要になるのは間違いないのでな。

 

「…全部くれ。置いておいても自分以外買う者は居ないだろう」

 

「毎度あり」

 

カウンター内にある戸棚とショーケースからそれらを取り出し、袋に詰めていく店主。

そんな時だった。何かを思い出したかの様にある事を聞いてきた。

 

「お前さん、リボルバーしか使ってねぇみたいだが、ライフルとか使わねぇのかい?便利屋とかやってんだったら、そういうのあったら楽だろうに」

 

「…!」

 

そう言えば店主は知らないか。いや、知らなくて当然だ。

この身が悪魔である事。そして戦闘時には刀を用いる事を。

さて、どう訳を話したものか…。

 

「拳銃の方が使い慣れている。それにアサルトライフルやライフルとかは隠し持つに合わなくてな」

 

「それはあれかい。相手に普通を装う為か?」

 

「そうだ」

 

色々欠けている部分はあるが、仕方ない。

余計な事を言って、変に怪しまれるのも避けたい。

 

「なるほどなぁ。使わないのはそう言った理由か。ま、便利屋にも色々あるって訳か」

 

「まぁ…そういう事だ」

 

品が入った袋を受け取り、代金を払う。

向こうも向こうで欲しい物が決まったのか、店主を呼び、支払いを済ませ始めていた。

そう言えば店主がライフルどうこうの話をし始めた時に416が反応していた様な気がするが…気のせいか?

 

 

武器屋を後にし、次の目的地へと向かう最中。

隣を歩いている416に気になっていた事を尋ねてみた。

 

「基地のでは不足なのか?」

 

「まさか。寧ろ十分すぎる程よ」

 

「では何故?」

 

「私達も任務で数日戦場にいる事が多いからよ。基地の備蓄品も無限ではない。要請して、支給されるのも待つというのもあるのでしょうけど、それを待っている内に任務が来たら要請した意味が無い。常日頃から備えておくのが私達にとっては当たり前みたいなものよ」

 

「成程。流石だな」

 

当然よ、と答える416。

だが小さく嬉しそうな表情をしているのが分かる。本人は気付いているか、どうかは分からんが。

表情が緩んでいる事を言った方が良いかと思ったが…敢えて言わないでおくとしよう。

 

「次はどこだ?」

 

「この先よ。この裏路地の先にあるわ」

 

言われるがままに416の後についていく。

彼女からは明確な目的地の事は聞いていないが…この先にあるのだろう。

しかし妙だな…この先に店などあっただろうか。自分の記憶が正しければ()()()()()()()()と思うのだが。本当に何処へ向かう気なのか…。

その事を尋ねようとした時だった。突然416の脚が止まった。

 

「41…ッ!!?」

 

一瞬の事だった。

416の肩に手を伸ばそうとした途端、それを見越していたかの様に瞬時に振り向いてきた彼女に手を掴まれた。

気を抜いていたせいか、即座に反応できず成されるがままに壁へと押し付けられる。

感じた痛みが柔らいぎ、目と鼻の先には416。自分の体つきを理解しているのか、胸を強く押し当ててくる。

脚を絡めてきて、確実にこちらを逃がさんと言わんばかりだ。

そして顔の隣にそっと416の手が壁へと当てられる。

 

―逆壁ドンってやつか?

 

何でお前、それを知っている!?

 

―さぁなんでかな?さぁさぁ俺は静かにしててやるから、楽しめよ~

 

おい!蒼ッ!くそっ…!

 

蒼の奴め、本気で静かにしているつもりか!

それにこの裏路地。大通りからは見えない位置にあるのか!最初からここを狙っていたのか…!

 

「…ごめんなさい、ギルヴァ。いきなりこんな事をして」

 

「ならば離れて欲しいのだが」

 

「それは無理な相談ね」

 

下げていた頭が上がり、彼女の表情が露わになる。

目は暗く濁り、心なしか息が荒い。

添えられていた手が壁から離れ、こちらの頬に添えられる。

 

「武器屋の店主の話を聞いて私達を使ってくれないのは残念だったわ。でもそれは仕方ない事。その事に何故って問うつもりはないわ。でも…それだと納得が行かないの。貴方にどうすれば私達…いいえ、今は私かしら。私という存在を感じてもらうか…。ああ、いきなりこんな事を話しだしてごめんなさい。まず貴方に伝えなければならない事があるの。私は貴方の事が好き。勿論loveの方よ?それで話は戻るけど、どうすれば私を感じてもらえるか。全てを与えたい、何もかも全て。この体のありとあらゆるものに全てを与えたい。この日が来るまでずっと考えていたわ。でもそんな事はできる筈がない。だから私は考えた」

 

彼女の顔が近づいてくる。

後数センチで唇同士が触れ合う。

 

「あの時一番は私だからって45に釘刺されたけど…その約束は守れそうにないわね」

 

まさか…遅れてきたのも45に呼ばれて?

その間にも顔が迫る。

 

「ファーストキスは激しいのがいいかしら…?」

 

「それをする前に、離れて欲し…っ!?」

 

言い切る前に口が塞がれた。416の口によって。

強引に舌がねじ込まれ、口内を蹂躙される。

 

「ぷはっ…。ふふっ、ごちそうさま…♪」

 

数秒か、数十秒か、数分か。

どれ位経ったのか分からないが、416の顔が離れた。

まさか強引に奪われるとは思わなかったが…。

 

「どうかしら?初めてのキスは?」

 

「…慣れんな」

 

「いつか慣れるわ。…何時でもしてあげるわよ?」

 

「行くぞ…」

 

気恥ずかしさもあって彼女の顔が直視できず、そそくさと裏路地を後にする。

結局このままデートをしたのは良かったのだが…店に戻った時45と代理人の笑顔が怖かったのは言うまでもない。

 

 

―で?初のキスの味はどうだったよ?

 

ノーコメントで。

 

 

また余談であるが、笑顔の45にある事を言われた。

 

「私にもしてね~ギルヴァ♪」

 

その時は分からなかった。

だがあの時は自分が416と店に戻ってきた直後に45に言われたのだ。

つまり彼女が言った事はどういう意味か。…それは態々口にしてなくても良かろう。

 

 

 

 

 

「416」

 

深夜。デビルメイクライの店内にある404の部屋の廊下にて。

部屋へと戻ろうとする416の姿を見つけた45は彼女へと声を掛けた。

 

「何?」

 

「味はどうだったかしら?」

 

それが何を指すのか。

分かるのこの二人であろう。

そしてその事を問われた416は肩を抱き締めながら、頬を赤くしながら答えた。

 

「ハッキリ言って麻薬ね…。今でも味が忘れられないわ…」

 

「そっか。…一番は取られたけど、良いわ…だって」

 

45は口角を吊り上げる。

歪んだ三日月の如く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今度は私の番だから」




ファーストキスを奪われるギルヴァ。

味に関してはノーコメントとの事。

さてお次は45姉。さぁて…ギルヴァもそろそろかなぁ…。

では次回ノシ


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Act46 Answer

404との最後の埋め合わせ。
45との酒盛り。
そしてギルヴァは…


404との埋め合わせ期間も今日で最後となる。

45と酒盛り。しかし昼間から酒を飲むつもりなく、45も飲むなら夜が良いの事。

夜が来るまで時間を潰していた。とはいえまだ昼の13時。その時が来るまでまだまだ時間があった為、基地内の射撃練習場へと向かっていた。刀を振るう事あれど、銃を使う事は多いとは言えない。

一度訪れた事もある為、迷う事無く射撃練習場の内へと入る。

普段から練習で使っている戦術人形達が居ると思っていたが、今日は珍しい事に一人しかいない。

偶然にもその者は訓練を終えたのか、或いは休憩を挟んでいたのかベンチに腰掛け水分を補給しており、練習場に入ってきたこちらを見て、軽く驚いている様子だった。

 

「貴方は…」

 

「確か…WA2000か」

 

「そうよ。あの時以来ね」

 

「あの時だと…?」

 

WA2000に、そしてあの時と来たら思い当たるのは一つしかない。

 

「フェーンベルツの大聖堂地下で会った…あの時の」

 

「ええ」

 

「しかし君は別の基地の所属の筈だ…どうやってこちらに?」

 

「長くなるわよ」

 

「構わない」

 

 

 

 

 

「それでこっちに所属する事になった訳よ」

 

「成程な」

 

あの時、自分と離れた彼女は貸したフェイクを手に地下を脱出。後に代理人達と合流したそうだ。

どうやらブレイクと共に魔界の覇王を追いかける自分を見たらしいが、バンのスピードでは追いつく事が出来る訳もなく、S10地区に行くことになったそうだ。そして基地の指揮官であるナギサ指揮官に事情を伝え、WA2000は製造元であるI.O.P社へと戻ったそうだが、本人は前線で戦う事を望んだ為、所有権がナギサ指揮官に譲渡され、そしてWA2000はここに所属する形になったそうだ。

聞いた話ではI.O.Pに返却された人形はコアを除去し、民間用人形として売り出されると聞いたのだが…。

WA2000の様に前線に残り、再度どこかの基地に所属したりする人形も居たりするのだろう…。

そう言われれば95式もそうだ。彼女も本来属していた基地とは別の基地に所属している。

 

「…あの時、貴方が居なかったら、今頃私は寂しく一人で機能停止してた…」

 

「…」

 

「だからね…その、えっと…」

 

礼を言うのが気恥ずかしいのか、あるいはそれ以外の理由があるのか。

隣に座っている彼女は頬を赤らめていた。

 

「あ、ありがとう…助けてくれて」

 

恥ずかしさ混じりのお礼。

彼女が元々どういった性格をしていたのか分からないが、とても可愛らしく感じる。

まぁ…それで口説く様な事はしないが。だが自分ではなく、彼女のそう言った所に心を撃ち抜かれた者も居るのだろうな。

 

「あと、これ…返すわ」

 

そう言って渡してきたのは貸していたフェイクだった。

手に取り、弾倉を取り出すと3発使っていた形跡があった。どうやら脱出の際に使ったと見ていいだろう。

弾を使っていようが使っていまいが、彼女が無事なら問題なかろう。

 

「無事ならそれでいい。…寧ろ無事で安心した」

 

「ッ…!」

 

フェイクに弾を込めて、ホルスターに収める。

ベンチから立ち上がると、そのまま出口へと向かう。

結局一発も撃つ事もなかったが…WA2000に会えた事だけでも良しとしよう。

 

 

 

 

「無事で安心した、か…」

 

そんな事言われたの今まであったかしら…。

私が覚えている限りではそんな事はなかったわね。あの最悪な空間に戻る度にあいつからは罵倒やら暴力を振るわれた。私だけではない、他の皆もそんな風に扱いを受けていた。

だから私はあいつの無茶苦茶な命令を態と受け入れて、そして逃げた。皆を置いて。

私は卑怯者だ。嫌になって、逃げだしたくて、同じような扱いを受けている皆を置いて逃げた。

自分だけが安全な所にいる…。仲間を見捨てた私がここに居ていい訳が無い。

 

「助けて…皆を…」

 

気付かぬ内に流れた涙。

誰もいないから良かったかも知れない。

 

「助けて…私を…」

 

涙声に混じったその声は誰にも届かない。

 

 

 

射撃練習場を後にした直後、持っていた通信端末にメールが入っていた。

送り人は以前9と一緒に訪れたあの雑貨屋の店主から。頼んでいた物の一つが完成したので取りに来て欲しいとの事で、そのまま基地から市街地へと向かい雑貨屋へと直行。

店内に入るとレジで店主が待っていた。

 

「悪いね、急に呼び出して」

 

「問題ない。それでそれが…」

 

「うん。注文通りに仕上がっているよ。にしても君がこう言うのを欲しがるとは思っていなかったよ」

 

「まぁ…色々あるのでな」

 

代金は既に払っている。

店主から頼んだ物を受け取り、そっとコートの懐へとしまう。

さて…ベースは出来た。この後の作業は自分の役割だ。

蒼、少しだけ力を借りるぞ。

 

―あいよ。少しだけで良いんだな?

 

ああ。少しだけでいい。その後は俺が何とかする。

 

―にしてもねぇ…。それで?覚悟…いや、お返しするって訳かい?

 

そんなところだ。…答えを返す時が来た、とでも思っていてくれ。

 

―ハハッ!成程。…二人っきりの時は俺は離れててやるよ。存分に楽しむんだな?

 

そこまで行くとは思えんがな…。

 

―さぁてどうかな?酒の勢いでそのまま…って事もあるかもだぜ?

 

何がそのままだ、全く。

内心ため息をつきつつ、店主へと礼を述べる。

 

「礼を言う、店主。また頼むかもしれんが構わないだろうか」

 

「良いよ。残り二つも出来たら連絡するから」

 

「恩に切る」

 

踵を返して、雑貨屋を後にする。

外はまだ明るい。陽が沈むまでまだ時間はある。

それまでに仕上げておくとしよう。…誰にも知られぬ様にな。

 

 

 

一方その頃。

 

 

 

「♪~♪~」

 

私はとても機嫌が良かったその印が口ずさんでいる鼻歌が店内に響いている事が証拠だ。

それもその筈。今日は彼と二人っきりの時間が過ごせるから。約束の時間はまだだけど、早くその時が来ないものか。待ち遠しく仕方ないわ。

 

「随分と機嫌がいいな、嬢ちゃん。それ程までにあいつにぞっこんっていう訳か」

 

そう言ってきたのは、ギルヴァと同じ様に悪魔の血を流しながらも悪魔を狩るもう一人のデビルハンター、ブレイク。赤いコートと前髪で片眼を隠しているのが特徴で、ここから遠く離れた町 フェーンベルツで起きた事件をきっかけにここデビルメイクライに居座っている人物。

身の丈以上はある大剣を振るい、時には愛用している大型二丁拳銃を放つ。一度見せてもらったのだけど、彼の二丁拳銃を用いた連射は正直言って驚いたわ。どうすればあれだけの連射が出来るのかとも思ったし、何よりもあれだけの連射に耐えられる銃も凄すぎる。銃の耐久性はともかく、あの連射は悪魔の血が影響なのかしらね。

 

「そりゃあね。ギルヴァは私の心を奪った悪い悪魔さんよ」

 

「ハハッ。そりゃそうかもな」

 

ソファーに凭れつつ、彼はこちらを見つめてくる。

思えばギルヴァとブレイクって…どこか似ているのよね。性格は正反対、戦い方もそのスタイルも違う。

血の繋がりはないってギルヴァは言ってたけど…。

 

「ま、ぞっこんのは結構だ。積極的な女ってのは男にとっちゃ最高だからな。それに加えて嬢ちゃんはどこか謎めいた所もある。謎めいていて、かつ積極的な女ってのは良い線行っていると思うぜ?」

 

「あら、そう?それはそれで嬉しいかも」

 

ギルヴァも顔には出さないけど、満更でもなかったからね~。

ただ416に彼のファーストキスを取られたのは少し痛かったけど…まぁ良いわ。

一歩行ったなら、その倍を行くまでの事よ。

 

「ただあいつからのカウンターにも気を付けるんだな。ああいう奴に限って、積極的な女の顔を一発で真っ赤にさせちまうモン持ってるからな。一回ぐらいは経験あるんじゃねぇのか?」

 

「…言われてみればそうかも」

 

「だろ?…今日は店の方は嬢ちゃんとあいつが二人っきりにできるようにしておいてやる。一夜を楽しみな」

 

「意外ね。そういう事はあんまりしてくれないと思っていたのだけど?」

 

「恋する乙女ってやつを応援してやるのも悪くねぇのさ。それに…」

 

「それに?」

 

「想いを伝えれず命を落した、その想いに答えれず命を落とした…それはそれで辛いものなのさ」

 

その時の彼の顔はどこか思い詰めているようにも見えた。

それを聞こうとは思わないけど…ブレイクにも色々あったみたいね…。

 

「じゃ、俺は先にチキン野郎とワンちゃん、あとメイドさん連れてここの基地の嬢ちゃんが貸してくれている部屋に行ってるぜ。そっちのメンバーはとうに基地の方に行っているみたいだしな」

 

そう。ギルヴァが何らかの用事で外している内に代理人やフードゥル、グリフォン、私以外の404のメンバーは今夜だけ基地の寮舎で過ごす事になっている。誰がそうしてくれたのは分からないけど…まぁご厚意を有難く受け取っておくべきね。

 

「♪~」

 

ブレイクが店を出ていくの見届けた後、私はまた鼻歌を口ずさみ、いつもギルヴァが座っている椅子に腰掛け、彼が帰ってくるのを待つ。

…まるであれね。結婚したばかりで、それで仕事から帰ってくる旦那を待つ妻って感じね。

 

「早く夜が来ないかしら」

 

まだ昇っている太陽に向かって私はそう呟き、ここで待つ。

その後、呟いてから10分後に彼は帰ってきた。そして…待ちに待った時がやってきた。

 

 

 

「「乾杯」」

 

店の自分の部屋にて。

必要最低限の家具が置かれたこの部屋にて、グラス同士がぶつかる音が響く。

注がれた酒が揺れ、氷が踊る。丸テーブルの上に広がるウイスキーボトルに炭酸水。

そして自分の対面に座っている寝間着姿の45。

部屋に自分と45の二人。ある種本部で飲んだ時の再現だったりもする。

 

「あの時以来かしら。こうやって二人で飲むのって」

 

「そうだな。互いに依頼や任務でこの様な時間を設ける事は出来なかったからな」

 

「あれから…だいぶ経ったよね」

 

「ああ…」

 

彼女達との出会い。本部で45の告白。

確かにあの日からだいぶ日数は経っている。

 

「ギルヴァとの出会って…そしてこっちに来てからは色々な事があったわね」

 

「こちらに来たのは…人権保護団体の過激派が拠点としている基地の制圧の依頼で来たのだったな」

 

「ええ。ギルヴァ以外の悪魔を見るのがあれが初めてだった。そして恐れたわ。あれが悪魔なんだって」

 

「無理もない。最早人の理を超えた存在だ。…寧ろ恐れない方がどうかしている」

 

「そうね…」

 

そこで会話が途切れ、45はグラスに入った酒を一気に煽った。

炭酸水で割っているとは言え、ベースは度数の高いウイスキーだ。

すぐに酔いが来るのは分かっている筈なのだが…。

 

「…あの時…」

 

「ん?」

 

「あの時416と一緒に現れた貴方を見た時、凄く警戒していた。何故416が貴方と一緒に行動しているのか、あれだけ大きな扉をどうすればあんな風に切り裂く事が出来るのか。そして貴方が囚われていた95式の所へ向かった時、見捨てていこうとも思った」

 

「…」

 

「でも今はそれをしなくて良かったと思ってる。普通なら恐れて銃口を突き付けられてもおかしくないのに、悪魔の力を使って私達を助けてくれた。…正直最初は良く分からなかったんだけどね?」

 

可愛らしくウインクを一つすると45はグラスを持ったまま椅子から立ち上がるとこちらへと寄り、そのまま膝の上に座ってきた。

どうやら酔いに乗じて甘えたいのだろう。…まぁ今だけは良いだろう。

グラスを持っていない手でそっと彼女の頭を撫でる。

 

「どうしてそこまでしてくれるのか、どうして恐れられるかも知れないのに力を使ってくれたのか、どうして…私達人形を大事にしてくれるのか…。疑問は尽きなくて、そしてギルヴァの事が知りたくなった」

 

他にも理由はあるんだけどね?と言うと45は酒を一口含むとそのままこちらへと振り向き、こちらの唇を塞いできた。強引に舌がねじ込まれ、流れる様に酒が注がれる。

雰囲気に負けたか、或いは酔いが来てしまっていたのか注がれた酒を飲みこんでしまい、そのまま成されるがままに口内を彼女の舌によって蹂躙された。

 

「ぷはっ…。ふふっ、ファーストキスには行かないけど、セカンドキスの味はどうかしら?」

 

「強引にも程があるな。酒を口移ししてくるとは思わなかったぞ」

 

「そういう雰囲気になったと言えば許してくれる?ギルヴァ~♪」

 

そういう雰囲気…?

まさか……いや、それはないよな…。

 

「さ、もっと飲も?」

 

「…今回だけは付き合ってやろう」

 

埋め合わせという事もあり、45の願いに答える。

 

 

しかしこれが自分も予想もしなかった展開になる事になるのだが、当時の自分が気付けるはずもなかった。

 

 

「えへへ~…ギルヴァ~」

 

あれからどれ程飲んだだろうか。ウイスキーボトルは空になっており、追加として飲んでいた缶ビールも机の上に数本転がっており完全に酔いが回り、顔を真っ赤にしている45がこちらへともたれかかり胸板に頭を摺り寄せていた。こちらもそれなりに酔っているが、45程でない。そろそろここら辺でお開きにするべきだろう。まともに歩く事がままならないであろう45をお姫様抱っこする形で抱っこし、そのままベットの上へと寝かせる。

 

「離れたらイヤ~!」

 

「っ!」

 

だが酔いが原因か軽く幼児退行しかけているのか45に腕を引っ張られるとそのままベットへと押し倒される。

見上げた先にあるのは45の顔。しかしどこか違和感を感じられた。

 

「ふふっ…つ・か・ま・え・た♪」

 

先程まで酔いの影響でデキ上がっているというのに、何故かそれが感じられない。

…まさかさっきのはフリ…?。

 

「おい、さっきまでの様子はどこに行った。酔いが醒めたにしては早すぎるぞ」

 

「いいえ、酔っているわ。でもね、今から事を考えると少し冷静になったちゃった」

 

「出来ればそのまま酔い潰れて欲しかったのだが」

 

「い・や♪」

 

顔は笑っているが、目は獲物を捕らえた捕食者の目と同じ。

この状況は…どうするべきだ…。蒼も居ないから聞く事もできない。

酔いが原因で良い答えが思い浮かばない。

そうこうしている内に45が片手で身に纏っている寝間着のボタンを一つ、また一つと外し始めた。

空いている手でズボンのベルトにへ掛けられる。

 

「ねぇ…ギルヴァ…」

 

顔が近づき、耳元でささやかれる。

とても甘く、艶やかな声で。

 

「朝まで寝かせないわ…」

 

部屋の明かりが消え、暗闇に包まれ…。

 

 

 

 

目が覚めた時はベットの上で互いに裸で朝を迎えたのだった。

 

 

 

 

「…」

 

未だに眠っている45をそのままに何時もの服に着替えて、ベットの上に腰掛ける。

昨夜の事は覚えている。彼女と飲み、そしてそのまま…。

…結局蒼が予想していた結果になった訳だ。遅かれ早かれこうなるのは多少なりとも予想出来ていたのだが…。

 

「…」

 

ベットの上で健やかに眠っている45を見る。その笑顔はとても安らいでいた。

そっと手を伸ばし、頭を撫でる。

思い出せば一番は私だと、あの時言っていたな。これで本当に一番になったという事になるのだろう。

 

「…ふぅ」

 

小さく息を吐き、コートの懐からある物を取り出す。

銀色のチェーンに、本来指に通す筈の指輪が通されている。指輪自体は雑貨屋の店主に作ってもらったものだ。

そこにある細工を施してある。それは指輪にはめられた群青色に輝く小さなダイヤ。元々はそんな装飾は施されてなどいなかったのだが、魔力で錬成し指輪に施した。

そしてこのダイヤはただの飾りなどではない。ダイヤには使用者の力を少しだけ上げる能力を持ち合わせている。

つまりこれは人形の性能を少しだけ上げる補助装備だったりする。

因みに蒼はこれの事を「アミュレットハーツ」と命名している。

 

「…俺なりの答えだ」

 

そっと45の首にかけてやる。

それのせいか、彼女の目が薄っすらと開いた。

 

「おはよ…ギルヴァ」

 

「ああ、おはよう。…よく眠れたか?」

 

「うん…」

 

体をシーツで隠しつつ、起き上がる45。

そこで自分の首に吊り下げられているアミュレットハーツに気が付き、尋ねてきた。

 

「これは…え?」

 

「…グリフィンで言う誓約の証みたいな物と言うべきか」

 

「え、え、えっ?…ちょっと待って?」

 

これを送った渡した意味が段々と気付き始めたのだろうか。

45の顔がみるみると紅くなっていくのを他所に言葉を続ける。

 

「俺はグリフィンに属してない。本当の意味での誓約は俺が指揮官にならない限り無いと言っていい。だがお前も知っている通り、俺は指揮官というのは性に合わん。…それは俺なりの答えという事になる」

 

ベットから立ち上がり、部屋のドアへと歩き出す。

そしてドアノブに手をかけた時、彼女へと向けて伝える。

 

「ネックレス状にしたのも、攻撃で指を失くしてしまい指輪を失くす事を防ぐためだ。…加えてそれには使用者の力を少し上げる能力を持ち合わせている。…自分を愛してくれている者に死んでほしくないのでな。無くすなよ」

 

伝えたい事を全て伝えて、そのまま部屋を後にするのだった。

 

 

 

 

「…」

 

多分私は顔を真っ赤にしている。

ネックレスのチェーンに通されているのは指輪なのだから。

確かに昨夜は素敵な一時は過ごせたし、自分からしたら最高の一言に尽きる。

けどまさかお返しに指輪なんて想像していなかったわ…!

 

「ヤバい…すごく顔が熱い…」

 

一歩リードした416の10歩リードするつもりが100歩リードしちゃってる。

 

「ブレイクが言っていた通りとんでもないカウンター貰っちゃった…」

 

今後彼をどう呼べば良いの?

ギルヴァ?それともアナタ?それともパパ?

 

「~~~~っ!!!!」

 

更に顔が熱くなるのが分かる。

このままだとオーバーヒート起こすかも。いやもう起こしてるかも。

 

「…愛しているわ…」

 

ギルヴァ…ううん…。

 

 

 

 

 

あ・な・た♪




うん、そういう事だ。
恋人をすっ飛ばして、嫁として…。ギルヴァぱねぇ!

アミュレットハーツに関してはまた設定集で設けますので…許して。

さてはて404は終わった。でももう一人埋め合わせを望む者がいるんだぜ?
またわーちゃんがかつて属していた基地案件。これもしかしたら…コラボ依頼として出すかもです。確定ではないのですけどね。

では次回ノシノシ


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Act47 我が愛は…

404との埋め合わせは終わったが…
ギルヴァはもう一人しと埋め合わせしなくてはならなかった。




結構飛ばし飛ばしです…許せ(懇願


404と埋め合わせ期間が終了し、一週間が経った。

そしてこの一週間は非常に忙しかった。

まず45との関係について代理人達や404のメンバー、そしてシーナ指揮官にへリアンやクルーガーに報告しなければならなかった。彼女との関係は恋人という枠に収まる訳もなく、もはや嫁といっても過言ではない。

だが自分はグリフィンに属している訳でもなく、協力関係という立場だ。このまま黙っておくのも何かと問題がある為と判断し、報告する事にした。

当然ながら報告には45にも付き添ってもらい、先程挙げた全員に報告した。皆の反応はそれぞれだったが、一番驚いていたのは代理人と416、へリアンの三人だった。

意外にもブレイク、フードゥル、グリフォン、9、G11、シーナ指揮官、クルーガーはさして驚いている様子はなかった。疑問に思い理由を聞けばこの様な答えが返ってきたのだ。

 

 

遅かれ早かれ、そうなるとは予想出来ていた、と。

 

 

ブレイク達や404の二人は分かる。だがシーナ指揮官やクルーガーまでも予想出来ていた事に、逆にこちらが驚かされた。どうやら45の様子を見れば、言わなくても分かる位だったらしいのだが…。

だが自分はグリフィン属している訳ではないというのに、その事を容認していいのかと問うと、その程度の事くらいこちらがとやかく言うつもりはない。騒がれて厄介なら隠匿すればいいという返答がきた。

それで良いのだろうか、グリフィン…。

ともあれ自分と45との関係は認められたという事になるのだが…これで良いのだろうかと思う事がある。

あとこれは何となく気になったのだが…代理人や416はともかく何故へリアンまで驚いていたのだろうか?

 

次にブレイクの事をクルーガーに説明する必要があった。

自分と同じ悪魔である事、そして同時に彼もどこかの地区で便利屋を開こうかと考えているとの事。

これに関しては二日も時間を要した。向こうとしてはここS10地区内で支店を開いて欲しいらしい。理由としては激戦区であるS地区で問題の対処に当たってほしいらしく、またこちらが別件で外していて依頼を受けれないという時に支店の方へ依頼する事が可能になるという訳だ。

理由を一通り聞いた俺とブレイク。最初こそは渋っていたが、向こうが店も用意してくれるのを条件でブレイクは納得しS10地区内に留まる形になった。

そしてグリフィン側が用意してくれた店はここからそれなりに離れた位置にあるらしく、ここと同じ様にレンガ造りの三階建て。一人で過ごすには少し大き過ぎる気もするが…まぁ本人はそれで良いと言っていたので問題ないだろう。

彼がここを出るのは今日から二日後に決まった。別れという訳ではないので問題ないだろう。連絡が必要になった場合は端末を用いればいい。

 

 

そして今。

もう一人埋め合わせをしなくはならない者と共にS-10地区からS-9地区にへと訪れていた。

S-9地区の小さな商店街のコーヒーショップでその者は売られている品と睨めっこを続けていた。

 

「成程。たまには違う豆を使ってみるのも良いかも知れませんね」

 

そう言っているのは代理人だ。

二日前に埋め合わせとして、買い物に付き合ってほしいと言われ彼女の買い物に同行していた。

 

「普段は別の豆を使っているのか」

 

「ええ。ですが今回は趣旨を変えて別のを試してみようかと。同じ味だと飽きてしまうかも知れませんので」

 

「成程」

 

それにしても本当に代理人と二人っきりで来てしまっているのだが…良いのだろうか。

彼女に埋め合わせを望まれた時には45も居たのでどうしたものかと考えていただが、あろうことか45がそれを許可したのだ。そしてにこやかな笑顔で伝えてきたのだ。

 

「ギルヴァに愛人増えても大丈夫。だって私が一番だからね~♪」

 

若干含みある笑顔の様な気もしなくはないが許可が下りたのなら問題ない。

45もこちらへと向けられている代理人と416の好意を気付いている。それを見抜いての発言だったのだろう。

それにだ。代理人用と416用のアミュレットハーツをコートの懐に入れている事もお見通しと言っていい。

只…45は嫉妬深い所がある。ちゃんと構ってやらなければどうなるか分かったものでない。

 

「これで全部ですね。会計の方、済ませてきます」

 

「分かった」

 

今回代理人の買い出しはこれだけではない。

食料もそうだが、バンのガソリンや持っている銃の弾薬等も買い足しておかなくてはならない。

特に代理人が愛用するニーゼル・レーゲンとシルヴァ・バレトに至っては弾自体が特殊だ。簡単に手に入る訳がないのだが…。

 

「あの店主、本当に何者なんだ…」

 

そう。何時も世話になっている武器屋の店主があろうことかその二つの弾薬を作り出したのだ。

彼曰く一度見て理解出来たら簡単にできると言っていたが普通に考えて無理である。彼の頭は一体どうなっているだろうか。いっそ武器屋ではなく技術屋でもやればいいのではと思ったのは間違っていない筈だ。

だが弾を得られる様になったのは大きいのでとやかく言う必要はないだろう。

 

「終わりました。次へ向かいましょう」

 

「ああ」

 

会計を済ませた代理人と共に店へを出て、近くに停めてあるバンに乗り込む。

代理人の運転の元、車は走り出すのだった。

 

 

S-9地区を後にし、車はS-10地区へと戻る道を辿っていた。

陽はまだ上がっており、自分達が向こうに着いても陽は上がっていると思われる。

辺り周辺に草原が広がり、その上を分断したかの様な一本道を車両が駆け抜ける。

そんな時だった。静かに運転していた代理人が口を開いた。

 

「45さんとの一夜はどうでしたか?」

 

「何故それを聞く」

 

「参考にと思いまして」

 

「何の参考かは聞かんぞ」

 

いきなり何を言っているのやらか。

そう思った矢先だった。代理人の雰囲気が変わった様な感じを覚えた。

目だけを動かし、彼女の方へ視線を向けるが表情は変わらぬまま。

 

「…羨ましいと言えばいいのでしょうか」

 

先も言った様に表情に変化はない。

だがどこかその表情は悲しそうにしている様にも見えた。

それを皮切りに代理人はぽつぽつと語り始めた。

 

「私自身こんな感情を覚えてたのは初めてでした。私は貴方の傍に入れればそれでいい。それだけで良いと思っていた。しかし指輪なる物を貴方から貰い、満面の笑みを浮かべている45さんを見て…羨ましいと同時に何か苦しいものを感じたのです」

 

車の速度が徐々に落ちていき…。

 

「人形である私です。今の今まで苦しい物を感じた事すらありませんでした。だけど今は…人間でいう心という何かに類似した何かが締め付ける様な苦しさを感じてならないのです」

 

道の真ん中で停車した。

そして彼女は微笑みながらこちらへと向いた。

 

「…この苦しさは何なのでしょうか。これが恋の代償だと言うのでしょうか…?」

 

その瞳から涙なるものを流しながら。

 

「あら…おかしいですね。まさか私が涙を流すなんて…。すいません、どうやら私はおかしくなったかも知れません」

 

その微笑みは見て居られなかった。

 

「代理人」

 

だからこそ…

 

「?…何でしょうか」

 

「バンから降りてあそこに行ってみないか」

 

その責任を取る時だ。

 

 

バンを降りて代理人と共に向かったのは、丘の上に建てられていた小さな教会。

この辺りに教会がある事を知っていた訳ではない。正直偶然と言えた。

もう使われていないのか、屋根の一部が無くなっておりそこから陽の光が差し込む。そしてこれもまた偶然か差し込む光はスポットライトの様に祭壇を照らしている。

隣に並び立つ代理人は不思議そうに教会の内部を見回していた。教会自体初めてなのだろう。自分も教会に入る事は初めてだが、本とかでどの様なものか知っていた事もあって何かが気になるという事はなかった。

 

「長い事使われていないにしては原型は留めていますね」

 

「そうだな」

 

ごく最近に建ったものではない事は分かる。

戦争や鉄血との戦いなどで跡形もなく崩れていてもおかしくない。この様に教会だと認識できる所まで原型が残っている点を考えるとある意味奇跡と言えよう。

 

「しかし何故ここへ…?」

 

その問いに答えず、そのまま祭壇の方へと歩き出す。

祭壇で足と止めると、代理人の方へと言葉を出さずに視線だけを向ける。何かを感じ取ったのか代理人は祭壇へと歩き出し、対面する様に自分の前に立つ。

コートの懐からアミュレットハーツを取り出し、そのまま代理人の首へと掛ける。

デザインは45と同じ物。一度見たであろうそれに代理人の目は見開いている。

 

「これは…」

 

「…自分を愛してくれている者への贈り物だ。グリフィンでは誓約というものだ」

 

「っ!」

 

「…ムードもへったくれもない。だがこれが俺の限界だ。…無くすなよ」

 

「ギルヴァ…」

 

歓喜極まったのか涙を浮かべながら、代理人に唇を塞がれる。

短い様で長い様な接吻。代理人の顔がゆっくりと離れる。

 

「我が愛は貴方に…」

 

嬉しさから流れる涙。

その笑みは先程のとは違う。

心から喜んでいるものと言っていい。

 

「私の全てを捧げましょう」

 

 

 

「ギルヴァ…いいえ」

 

 

 

「あ・な・た♪」




45に続き、代理人も嫁としてお迎えです。
ん?夜は無いのかって?…作者にそれは期待したら駄目よ…。
次回は416編ですかねぇ…。

あ、そうそう。わーちゃんがかつて属していた基地案件。恐らくですが悪魔を絡ませます…。コラボ依頼として出すつもりですが当分先になるかもで悪しからず。
…コラボする時って悪魔とか絡ませない方が良いのかなぁ…(ボソッ

では次回ノシノシ


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Act48 S10基地の後方幕僚

ナギサ指揮官に呼び出されたギルヴァと45。
二人はある話を聞かされる。


思ったら後方幕僚出していなかったなと。
という訳でうちの後方幕僚さんの登場です。

え?416にアミュレットハーツを渡す話じゃないのかって?
…それはもう少し待って(懇願


代理人との一件からのこと。

45に代理人とそういう関係になった事を報告。流石に何か言われると覚悟していたが、反応はあっさりしたものだった。

それどころか愛人飛ばして嫁という関係になるのもとっくに予想済みだったそうだ。

いずれそうなると踏んでいたそうで、増えても気にするつもりはないとの事。

だが同じ立場になったのは良いものの、一番だという事が不動の真実があってか、45は普段見せる笑みを浮かべながら代理人に対して…。

 

「正妻は私だからね~」

 

「…ほう」

 

堂々と挑発していた。

何時ぞやの時みたく、二人の間で見えない火花が散っていたのは語るまではないだろう。

 

 

ブレイクがここで出る一日前となった今日。

ナギサ指揮官から招集を受け自分と404小隊の小隊長 45と共に執務室に訪れていた。

 

「急に呼び出してごめんなさい。ちょっと急ぎの案件で」

 

「別に問題ない。それで急ぎの案件とは?」

 

「これを見てくれるかな」

 

そう言ってナギサ指揮官はタブレット端末をこちらへと渡してきた。

それを受け取り、隣に立つ45にも見せると、彼女の表情が険しいものへと変わった。

 

「指揮官。これは…黒?」

 

「黒。それも真っ黒といっていいレベル」

 

「…そう」

 

画面に映し出されているのはS地区内に存在する、とある基地の実態。

どうやらここの指揮官…相当の屑の様だ。人形にまともな飯を与えない、損傷しても修復させる事もなく幾度どなく戦場へ放り込まれる、罵倒や暴力は日常茶飯事…。

他にも余罪はあるのだが言っていけばキリがないので割愛させていただく。

 

「呼んだのは、この指揮官の始末?」

 

「ううん。この基地の人員構成、所属する人形の数…ここに関する事を分かる範囲で調べてきて欲しいの」

 

「どうしてか聞いていいかしら?」

 

「それは…」

 

そこで合点がいった。

この案件に何故自分まで呼び出されたのか。

ナギサ指揮官が答える前に自分が答える。

 

「悪魔か」

 

「うん。以前に行われた過激派組織の基地制圧時も悪魔が関わっていた。今回も悪魔が関わっているとは断言できないけど、考慮しておくべきと思って」

 

「成程な…。では調査には自分も赴けばいいのか?」

 

「ううん。ギルヴァさんを呼んだのはその調査にフードゥルとグリフォンを同行させてほしいと思ってて。そのお願いに呼んだ次第」

 

ならば俺ではなく、あいつらを呼べば良かったのではと思わなくはないが、フードゥルとグリフォンには伝えておくとしよう。二人共魔界出身で、悪魔の事や魔界に存在する物とかは俺以上詳しいだろう。

 

―俺も魔界の出なんだけどな。

 

分かっている。だが調査と言うのであれば、フードゥルとグリフォンが適任かも知れん。

 

―陸と空ってやつか?

 

ああ。フードゥルは魔界の精鋭部隊の隊長を務めた経験もある。俊敏な動きに加え、気配も消せる。

 

―逆にグリフォンはその姿から分かる通り空を飛べる。空からの目は心強い…という訳か。

 

そうだ。

 

「所で指揮官、この情報は何処から来たのかしら?」

 

「本部からと言いたいけど…ちょっと違うかな。今回の一件が発覚したのはギルヴァさん達がフェーンベルツから連れてきた戦術人形 WA2000の記録によるものなの」

 

「あの子が?」

 

こっちに来てから一度はI.O.Pに戻っていた筈だったな。

もしやそこから…。

 

「I.O.Pで検査している際にそれが発覚したという訳か…。しかしそれ以前から本部は知っていたのではないのか?報告されるまで何も知らなかったという事はあるまい」

 

I.O.Pから報告を受けて本部が動き出したとは考えづらい。

こちらの考えとしてはその指揮官の行いは知っていた…或いは話には聞いていたのではなかろうか。

正直な所あまりにも本部の対応が遅い。

 

「知っていたと言うより…その疑いがあると言う事は本部も把握していたみたい。けど…」

 

「確固たる証拠が掴めなかったという訳ね」

 

「ええ」

 

だが今回の事で証拠が上がり、行動に移す事が出来たという訳か。

だとするのであれば…WA2000は見捨てられたのではなく…逃げ出してきたのではなかろうか。

この場に彼女は居ないのでそれについて問う事はできないが…。

 

「状況は分かったわ。出撃はすぐの方が良さそうね」

 

「うん。急で申し訳ないけどお願いするね」

 

「了解。じゃあ私からフードゥルとグリフォンに伝えておくから。また後でね、ギルヴァ」

 

背を向けて執務室を後にしようとする45。

 

「待て」

 

「ん?何かしら?」

 

「今回は調査。悪魔が関わっているかさえ不確かだ。だが何らかの理由で悪魔と戦う羽目になった場合は無理をするな。…奴らの強さを知らん訳ではあるまい」

 

「…うん、分かってるわ。無理はしないから」

 

「その言葉が聞けたなら安心だ。…必ず帰ってこい」

 

「大丈夫。必ず帰ってくるから。何故なら…私はアナタの妻だから」

 

それじゃ行くね、と言い残して彼女は執務室を出ていった。

それを見届けると何やら後ろから視線を感じたので、そちらへと向くとナギサ指揮官が笑みを浮かべ、生暖かい目でこちらを見ていた。

 

「近所の三十路過ぎの既婚女性が熱いなと言わんばかりの顔をしているぞ」

 

「ちょっ!私は18歳だから!まだぴちぴちの新鮮な類だから!」

 

「そうか」

 

「反応薄過ぎない…?」

 

何のことやらか。

…さて、もうここに居る必要はないだろう。執務室を出ていこうとすると誰かが入ってきた。

後ろを振り向くとそこに居たのはグリフィンの制服を着崩し、タブレット端末を手にしている女性職員の姿。

ナギサ指揮官とは違い、セミロングの金髪、蒼い瞳が目立つ。何より腰に吊り下げている工具ベルトが目を引く。

整備士か何かだろうか。それにしても…この者から微量に感じられるこの気配は…。

 

「失礼します、指揮官。今よろしいでしょうか」

 

「あ、マギーさん。うん、良いよ。どうかしたの?」

 

マギーと呼ばれた女性は一度こちらに会釈するとそのまま指揮官と話し始めた。

自分が居ては邪魔になるだろうと思い、ここを立ち去ろうとするとナギサ指揮官に待ったと呼び止められる。

 

「ギルヴァさんは知らなかったね。彼女はマギーさん、うちの後方幕僚を務めているの」

 

ナギサ指揮官に紹介されたマギーはこちらへと歩み寄ると笑顔を浮かべて手を差し出してきた。

 

「ご活躍は耳にしています。S-10基地の後方幕僚を務めています、マギー・ハリスンと言います。宜しくお願いしますね、ギルヴァさん」

 

「ああ、こちらこそ。…ッ!」

 

彼女の手を握った時だった。

マギーからはある気配を感じ取った。即座に幻影刀を複数生成し彼女の周囲に展開する。

突然の事に指揮官は驚き、対するマギーはまるでこの事を予想していたのか驚く素振りを見せる様子はなく、笑顔を浮かべたままだ。

 

「ギルヴァさんッ!?」

 

「指揮官、ここから離れろ。この女…悪魔だ」

 

「え…?」

 

マギーの事を同じ人間と見ていた指揮官の顔が驚愕のものとなりつつも、悪魔と聞きホルスターに収められた護身用の拳銃の待ち手に手を掛けようとするのだが、途中でそれを止めた。

何処か不安そうな目をしながらも、彼女はとんでもない事を言ってきた。

 

「ギルヴァさん、マギーさんに向けている刀?消してくれる」

 

「…理由を聞こうか」

 

「…マギーさんが悪魔で私の命を狙っていたとするのであれば、もっと早く行動が出来た筈なんじゃないのかって思って。それに今までマギーさんと話してきて、悪い事を考える様な人には見えないから…」

 

確かにこの女が俺達が知る様な悪魔だとするのであれば、ナギサ指揮官はとうにその命を奪われていたかも知れない。それに悪魔を狩る存在である俺達がこっちに来た時点で逃げ出す事も出来た筈だ。

それをしなかったのは些か疑問が残る。ここはナギサ指揮官の言う通りにするべきだろう。

展開していた幻影刀を消す。と言え油断はできないので何時でも攻撃できる状態を維持。

 

「マギーさん…聞いていいかな」

 

「ええ、もちろん。私を信用してくれる貴方のお願いですからね」

 

無論、貴方にも話しますよ、とこちらにもそう言ってくるマギー。

悪魔なのは分かるが…何だろうか、この違和感は。

 

―この気配…何だ?…何となく覚えがあるんだが…

 

心当たりが?

 

―うーん…うろ覚え程度でな…

 

そうか…。取りあえず話を聞くべきか。

 

 

マギー・ハリスンは全てを語った。

自分は悪魔であり、長い事この人間界で過ごしていると。特に人間に対し害を与える事など考えておらず、只々普通に過ごせたらそれで良いとの事。またマギーはここグリフィンに就く前、人間界に来る前は技術屋として動いていたそうだ。工具ベルトを下げているのも、今でも技術屋として色々な物を開発しているかららしい。

だからといって基地の資材をちょろまかしたりはしていないそうだ。今まで作ってきた作品の制作費は全て自分の給料から出しているとか。

 

「…とまぁこんな感じですよ」

 

「そっか。…はぁ、良かった~。マギーさんが悪い悪魔じゃなくて…」

 

「悪魔と聞けば…それに悪魔と言うものに一度でも会えば警戒するのも無理もないですよ、指揮官」

 

悪魔と聞けば警戒するもの無理もない。

その事を言っているのだろう。しかし技術屋だったとはな…工具ベルトを下げているのはそういう事だったのか。

 

―魔界でも技術屋だった?…なぁ、ギルヴァ。そいつに魔界で居た時の名は何だったのか聞いてみてくれ

 

?…了解した。

 

「一つ聞いていいか?」

 

「何でしょう」

 

「魔界で居た時の名は覚えているか?」

 

「魔界で?…その時はマキャ・ハヴェリと名乗っていましたね」

 

―マキャ・ハヴェリだとッ!?おいおいマジかよッ!!

 

どうした突然。声が大きいぞ。

 

―それ位驚いてるんだよ!!何たってそいつは魔界じゃ知らない奴は居ない魔工職人だ!魔銃やら魔具やらを作り、手掛けた作品は芸術品とも呼ばれるほどだ。死んだと思っていたが…まさか生きて居たとは…

 

つまり目の前の女は…

 

―とんでもない位の腕の立つ職人さ。それと…

 

それと?

 

―昔…付き合っていた彼女だ…

 

何だと…。

 

「技術屋ですからね。私で良ければ色々作りますよ。兵器から日用品。魔具から魔銃。機能性をふんだんを詰め込んだ義手でも。物を作るのが私の性分なので」

 

無論後方幕僚としての仕事も忘れませんよ?と微笑むマギー。

普通の悪魔だとは思っていたが…よりのよって魔工職人と来たか。それにしても…蒼のかつての彼女だったとはな。

正直な所、それに一番驚きを感じたのだがな。




という訳で後方幕僚であり魔工職人であるマギー・ハリスン、またの名をマキャ・ハヴェリの登場です。見た目は…分かりやすく言うならFateに出てくるジャンヌかな。まぁマギーの髪型はセミロングですけど。

では次回ノシノシ


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Act49 魔工職人

マギーによる改造。
処刑人の大剣と代理人が愛用するニーゼル・レーゲンが進化を遂げる。


マギー・ハリスンが魔界では伝説とされる魔工職人 マキャ・ハヴェリと発覚して数時間後。

是非とも作品を見て欲しいというマギーの誘いがあり、自分と指揮官、そしてブレイクと代理人がマギーの工房に訪れていた。書類が置かれた机や旧型のタイプライターが置かれた机やら後方幕僚関連の仕事道具がある部屋とは罰の奥の部屋にマギーの工房はあるのだが…。

 

「これは…」

 

「何て言うか…」

 

「ひゅー♪」

 

「最早兵器貯蔵庫ですね」

 

工房として使われている部屋には、彼女が手掛けたであろう作品が所狭しと並べられていた。

 

「いやはや…こう思いついたら作ってしまいまして。私自身戦闘できる程の力はないものですから、気づけば作品が一杯になってしまって」

 

「にしても作り過ぎじゃないかな…。見た所、パーツだけなのもあるけど…」

 

「あはは…」

 

確かに作り過ぎである。

そして言われてみれば何らかの用途で使われる筈と見られるパーツの様な物が転がっている。

すると傍に立っていたブレイクが何かを見つけたのか、ある物の傍へと歩み寄った。

部屋に端に置かれていたそれには埃から保護する様のシートが被せられている。何処かで見た様な形だが…。

 

「なぁ、シート外して良いか?」

 

「ええ。構いませんよ」

 

マギーの許可を得たブレイクは被せられているシートを取る。

あったのは、一台のバイク。それも魔物の素材を利用しているのか見た目からして普通のバイクとは言いづらい。

 

「魔界に存在する素材を使えなくなったバイクに強引に組み込んでみたものです。只組み込んだだけでは何も起きないと思っていたんですが…これが予想を反してじゃじゃ馬以上のバイクへと昇華してしまったんですよね」

 

「へぇ…」

 

「良かったら要ります?私では乗りこなす事は出来なくて…」

 

「良いのか?作品なんだろ?」

 

「作品ですが、このまま置いておくのも可哀想でしょ?」

 

「そう言うなら有難く貰うぜ」

 

まるで新しいおもちゃを得たと言わんばかりの笑みを浮かべ、ブレイクはそのバイクに持ち手を握った。

流石にここで動かすのは不味い位は分からない訳もなく、手で押していく。

ちょいと飛ばしてくるぜとこちらに伝えてくると、そのまま彼はバイクと共に部屋を出ていく。

それを見届けると、マギーから自分と代理人にある事を言ってきた。

 

「宜しければ何か作りましょうか?改造でも構いませんよ。ああ、今回だけは無料で引き受けますよ」

 

「ふむ…そうだな」

 

そう言えば…あれの改造を頼むが良いかも知れん。

 

代理人もある様で、指揮官とマギーに直ぐに戻ると伝え一度店へと戻った。

その後、あの時持ってきた処刑人の大剣を、そして代理人はまさかのニーゼル・レーゲンをマギーに渡していた。

彼女曰く改造程度なら一日あれば、完成するとの事だが…まさか不眠不休でやる訳ではないよな…?

 

―寧ろ三日間も寝ずに物を作っていた方が多かったぞ。だと言うのにぶっ倒れる事もなかったからな。

 

それはそれでどうなんだ…。

 

 

 

 

そして次の日。

本当に一日でやり遂げたらしく、マギーに呼び出された自分と代理人は彼女の工房に来ていた。

 

「お待たせしました。まずはギルヴァさんのから」

 

机の上に置かれたのはかつての姿を残しつつも、何かの機関やレバーなどが取り付けられている大剣。

謎の機関と連動しているのか噴射口が六つ取り付けられている。彼女は一体なにを施したと言うのだろうか。

 

「ギルヴァさんが持ってきた大剣に、かつて私が開発した推進剤噴射機構を内蔵しました。持ち手がアクセル上になっていまして捻れば推進剤が作動。そして持ち手近くのレバーを引けば推進剤が噴射。攻撃を加速させたり強化する事が出来ます」

 

「機械剣という訳か」

 

「ええ。ギルヴァさんが扱う事を想定し、推進剤の噴射量を極限までに上げています。また噴射機構は段階が存在し、計三段階まで展開する事が可能。…正直結構無茶に噴射量を上げた事により噴射剤が青い炎になって噴き出すので自分を焼かない様に注意してくださいね」

 

「そんな下手をすると思うか?」

 

「いいえ、全く」

 

改造が施された機械剣を手に取る。

元々重量があった代物が改造により更に重量が増している事もあってか、普通の人間では持つ事も叶わない。その分攻撃力は期待してもいいだろう。

だが今後自分が扱うかどうか…。自分には無銘があって、ブレイクにはリベリオンがある。

まぁ…たまには遊んで見ても悪くないかもしれない。

 

「そしてこれが代理人さんからの」

 

ゴトッと音を立てて置かれたのは代理人が愛用しているニーゼル・レーゲン。しかし何処か違う。

以前までこんな青く輝くラインなど流れていただろうか?自分の記憶が正しければ流れていなかった気が…。

 

「レールガンだけでは使用する場面が限られると考え、レールガンだけではなく他の武装にも変形できるように装甲を高い強度性を持ちながら柔軟性のある魔界にしか存在しない金属を使用。青い光が走る様になったのはニーゼル・レーゲンと同化した影響だと思ってください。そして大型ガトリングガン、連装型ロケットランチャーにも変形できるようにしました」

 

「まるで災厄の箱ですね…」

 

「かも知れませんね。ニーゼル・レーゲンの別名としてパンドラと名付けては?」

 

「そうですね…。それ以外の変更点は?」

 

「もう一つあります。レールガンの最大出力モード時にターゲットサイトが展開されるように施してあり、展開から数秒後にターゲットサイトの色が変化。その際にレールガンを使用すると着弾時に大爆発が発生する弾丸を放つ仕様になっています。ですので使用には周りの仲間が居ない事を確認してから撃つ事をお勧めします」

 

「かしこまりました」

 

本当に災厄の箱を化してしまっているぞ…。

 

―この程度ならまだぬるい方だぞ。あいつが作った作品の中には使用者の精神を乗っ取る魔銃とかあるからな?

 

何故そんなものを作ったんだ…?

 

―さぁな

 

だが…流石は魔工職人というだけはある。

代理人が愛用するニーゼル・レーゲンにレールガン以外の変形機構を持たせるとは。

もはや天才としか言いようがない。あれだけ複雑な変形機構を持っている武器を一日で改造を施したのだからな。

 

「今後何かあれば何時でも私を訪ねて下さい。代金は頂きますが、その分の仕事は致しますよ」

 

そう言いながら微笑むマギー。

下手すれば改造依頼で出張しかねない気もしなくはないのは…気のせいだろうか。

 

 

 

 

マギーから改造された武器を受け取り、代理人と共に店へ戻ろうとした時の事だった。

偶然にもナギサ指揮官と出会い、404小隊とフードゥルとグリフォンが戻ってきた事を伝えられた。

そして探りを入れた基地にてフードゥルとグリフォンによると悪魔が関わっているという事が報告であがった。




という訳で、処刑人の大剣はレッドクイーンの様な機械剣に進化。
そしてニーゼル・レーゲンはパンドラへと進化しました。
後はブレイクが持っていったバイク…まぁ分かる人は分かるかな

さてとお次はブラック基地案件だ。
コラボ依頼として出そうかなとは思いますが…やっぱ悪魔が関わっているとなると難しいかなぁ…


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Act50 Black&Devil

ある基地から帰還した404小隊とフードゥルとグリフォン。
45からは基地では悪魔が関わっていると告げられ、そしてS10基地会議室ではシーナ指揮官、デビルメイクライのメンバー。そして例の基地に属していたWA2000をまじえて報告会が行われる。


という訳で報告会。
本来であればここらでコラボ依頼を出そうかと思っていましたが…。
ちょいとばかし先延ばしさせて?許しておくれやす…


「じゃあ、報告するわね」

 

S-10基地の第一会議室にて、45の声が響く。

例の基地から帰還し、早々にその報告が行われようとしていた。

この場には自分達「デビルメイクライ」の面々、404小隊の面々、ナギサ指揮官、マギー、そしてかつて例の基地に所属していたWA2000が居る。

端末を介してスクリーンに映し出されるのは、彼女達とフードゥルとグリフォンが偵察へと向かった基地の所在地、全体図、統括している指揮官、人員構成、属する戦術人形の人数など。

ここまで事細かく調べ上げれたのは404小隊の力あってのものだろう。

 

「場所はS11地区。区内の端の部分に位置する基地の所在を確認。周囲に町村といった存在は無く、何もない辺鄙な所に基地があるわ」

 

「どうしてそんな所に?」

 

「一時期ここは鉄血の戦闘が激しかった経緯があるわ。けど激戦区がS-9地区へと移り変わった事をきっかけに後方支援基地として稼働しているそうよ」

 

最も今は最悪な巣窟を化しているけど、と45はそう最後に付け加えた。

 

「それで一番気になっているのが悪魔の事について。今回も悪魔が関わっているわ。それに関してはフードゥルとグリフォンが教えてくれた。只、一つ気になる事があって」

 

「気になる事とは?」

 

「まずはこれを見てくれるかしら」

 

スクリーンに映される映像。

どこかでカメラを固定して基地内部の様子を映したのだろう。黒であるというのに、それが嘘のように人の行き来が多い。一見特に気になる様な所は無いようにも思えるが…。

 

「随分とおぼつかない歩きをするのだな」

 

「そう。ギルヴァが言った通り、カメラに映った基地の職員全員が人間の様な歩き方をしてないの。若干前傾姿勢でゆらゆらと歩いていた。どう考えてもおかしいでしょ?」

 

確かにおかしい。

あの時人権保護団体過激派基地制圧時に討ったあの悪魔は明確な自我が存在していた。言葉を発していた。故に人の姿に扮していても何ら違和感を持たないだろう。だが映像に映っている奴らはどうだ?到底人権保護団体過激派とつながりがあったあの頭空っぽの悪魔と同じとは到底言い切れない。

あれではまるで人間に似るのではなく、人間という姿だけに化けているとしか思えなかった。

 

「で、妙だと思った矢先、上空を飛んでいたグリフォンが面白いものを見つけてくれたわ」

 

「これは…」

 

映像の次に写し出されたのは恐らくグリフォンに付けさせたカメラによって撮影された基地の姿。その日はとても晴れていたのだろう。青々とした空のおかげで誰もが基地の上空に浮かぶ物体に気付くのにそう時間はかからなかった。見た目は非常に禍々しく、魔力が漏れ出している何かの装置の様なもの。

どう考えても魔界の物だと容易に判断できる。そしてそれが何なのかが分かる専門家がそれについて話し始めた。

 

「所謂妨害装置みたいなものですよ。当然魔界製ですがね」

 

「どういった効果がある、マギー」

 

「見る限り視覚に影響を及ぼすものでしょう。基地全体…いいえ、基地とその周囲に展開されていると見ていい、それと恐らくですが、人形にも影響及ぼしているでしょう」

 

「つまり…あれを破壊しない限り、あの基地を我が物顔で歩いている悪魔を人間と誤認すると?」

 

「ええ。しかしこの手の物はそう簡単に作れない。人間では尚更のこと無理です…もしかしてですが、この基地の指揮官の背後に協力者が居たりしませんか?…って、あれ?」

 

マギーが不思議そうに声を上げた時には会議室全体が静まり返っていた。

そう言えば45達にフードゥルとグリフォン、そしてWA2000にはマギーがマキャ・ハヴェリの事をまだ話していなかったな。良く見れば全員驚いている。

その事もあって、幾つもの視線がマギーへと注がれていた。

そしてそれに気付いたのか、彼女は苦笑交じりに口を開く。

 

「そう言えばそうでしたね、あはは…」

 

この後、二度目となるマギー・ハリスンの素性説明会があったのは言うまででもないだろう。

 

 

 

「話を戻すわね。それでさっきの質問の答えはイエスよ。どうやらここの指揮官は普通の人間。その裏で糸を引いているのが…この男」

 

映し出されるのは一人の男の画像。

一見どこにでも居そうな風貌だが、この男を見たであろうフードゥルとグリフォンが間違いなく悪魔だと断言できる位にこの男からは魔の気配が出ていたのだろう。

魔界出身である二人がそれを間違える事とは到底思えない。

 

「基地のデータベースにハッキングして探ってみればこの男が浮上。名もどういう素性かも不明。分かる事と言えば、この男が悪魔であり、基地を悪魔の巣窟にした原因と言えるわ」

 

「加えて言うなればこの者はマキャ・ハヴェリ殿と同じく魔工職人であり、同時に魔術師と見ていい。恐らくであるがこの基地には多くの罠が仕掛けられていると考えられる」

 

フードゥルの言う通りならば厄介な相手だ。

フェーンベルツでの時もそうだったが、魔術師は転移系罠も平然とやってのける。幾らこちらが警戒していた所で魔術というのは現代の力では到底及ばない位置に存在する。

科学では魔術師に対する手段は…そう多くはないだろう。

 

「しかしだ。魔術師というのは得意不得意がある。フェーンベルツの一件で首謀者であったアルフェネスは転移系、強力な悪魔を召喚といった召喚系の魔術を得意としていた。無論その他も可能であったが、得意としていたのがこの二つである。そしてこの男が魔術を行使する所を見させてもらったが、悪魔を呼ぶ出す事が出来る」

 

「その手のタイプってのは物量で何とかする奴じゃねぇのか?」

 

報告会が始まった時から終始無言だったブレイクが口を開き、男の特性についてに疑問を投げかける。

よく見ればあいつ、さっきまで寝ていたな。大きなあくびをしているぞ…。

その疑問に対し、フードゥルは頭を縦に動かし問いに対する答えとして肯定の意を示すと、言葉を続けた。

 

「うむ。あの者は幾度となく魔界の住人…ヘルども呼び出していた。中にはヘル=バンガードがいた」

 

「ヘル=バンガード?」

 

「ヘルの名を冠する中で上位種に当たり、下位のヘル達を統括する役目も担っている。上位種だけあって、戦闘力も高い。魔力で形成された鎌での攻撃と魔術を用いて空間移動も得意とする。それらを駆使した強襲は油断出来ぬ」

 

となれば、部隊が基地の内部へと突撃する前に俺達が悪魔を粗方片付けておくべきか。

特にヘル=バンガードと言われる悪魔は俺かブレイクで始末する必要がある。だが問題はその後か。

 

―外の悪魔を相手して、内部の悪魔も始末しなければならない。

 

となれば俺かブレイクが外か内部かに分かれる必要があるな。

 

―同時に基地の指揮官も始末する必要があるな。ついで協力者もな。

 

ああ。

 

「基地全体が悪魔にあふれ、強力な個体種もいて、協力者もいる。視界に影響を及ぼす魔界製の妨害装置。でもそっちに集中していたら、この基地の指揮官を逃す可能性もある。またここにいる人形達を助け出さなくてはならない。となると…」

 

「…全て同時に行う必要がある」

 

ナギサ指揮官の隣に座っていたWA2000も同じ考えだったそうだ。

それに頷くとナギサ指揮官の表情が変わる。普段見せる優しい表情ではなく、指揮官としての真剣な面持ち。

彼女の雰囲気が変わった事によりこの場にいる人形達の背筋が伸びる。

 

「45、もう一度基地の全体、正面、後方…これらの画像を見せてくれる?」

 

「分かったわ」

 

指揮官の指示を受け、再度45はスクリーンに言われた画像を映し出す。

映し出された画像を真剣な眼差しで何度も見直し、目を閉じ指を顎に当て考える素振りを見せる。

しばらくして状態を解き、伏せていた目を開く彼女。

 

「マギーさん、魔界製の妨害装置は私達が持っている武器で破壊できる?デビルメイクライの皆が持っているのも含めて」

 

「そうですね…並みの攻撃は無理でしょうね。できるとするのであれば…代理人さんが愛用しているニーゼル・レーゲンのレールガン形態での最大出力時でしたら十分破壊できるかと」

 

「成程…。ブレイクさんに渡したあのバイクって確かマギーさんの手によるものだよね。あれって何か、こう…特殊機構とかあったりする?」

 

「特殊機構という程ではありませんが分離して双剣の様に振るう事は可能です。恐らく彼もそれを知っていると思いますが」

 

ナギサ指揮官の代わりに自分がブレイクの方へと向き、その事を知っているか目線で尋ねる。

その答えとしてブレイクは首を縦に振った。どうやらあのバイクが双剣にもなる事は知っている様だ。

 

「あれが分離して双剣になる…大きさもあるから悪魔を倒す事も出来る…その可能性は?」

 

「試した事はありませんが、可能かと」

 

「そう…」

 

自身の中で考えがまとまったのか、軽く息を吐くナギサ指揮官。

かつて見せたあの表情がそこにある。経験が多い訳でもない。だが時折見せるその真剣な表情は感心したものを覚える。今回で二度目となる悪魔案件。一度目は戸惑いがあったが、今はそれが見受けれない。

 

「マギーさん、事態は一刻を争います。別地区の基地に今回の作戦協力の申請を。どこでも構わない。手を貸してくれそうな所全てに申請して」

 

「分かりました。本作戦の参加する部隊はどうされます?」

 

「出し惜しみをして勝てる相手ではない。今回は第一、第二、第三、第四、全部隊参加させます」

 

「了解。部隊の彼女達全員ここに来るように通達しておきます」

 

「うん、お願い」

 

マギーが会議室を出ていくのを見届けたナギサ指揮官は俯いているWA2000へと向く。

 

「WA2000、貴方の力も貸して」

 

「え…。でも…私は…」

 

その声は震えていた。

確かに彼女にとってはあの基地は楽しい思い出など一つも存在しない。それどころかあるのは苦しみしかない。

 

「…私は皆を置いて…逃げた奴よ。そんな奴に助けられたって嬉しくないわ…」

 

自虐気味な笑みを浮かべ、立ち上がるWA2000。

 

「…だから私には…出来ない。…皆を捨てた裏切り者である私に皆を助けに行く資格なんてッ…!」

 

「WA2000!!」

 

指揮官の制止の声も届かず、彼女は会議室を飛び出していった。

訪れる沈黙。誰も言葉を発しない。そんな中、自分は椅子から立ち上がり、彼女が出ていった会議室の出入口へと歩き出す。

 

「彼女を追う。…後は任せる。代理人、作戦内容等の重要事項等は後で教えてくれ」

 

「かしこまりました」

 

代理人の了承を得られた事で会議室を出ていく。

さて…彼女はどこに行ったのやらか。

らしくはないが、手当たり次第に探すしかないか。

 

―助ける資格はない、か…

 

自分だけが逃げた事が彼女にとっては重しになっている。…だが彼女がいた基地で起きた事を考えれば…

 

―誰だって逃げ出したくなる…。横暴なやり方に怯えたまま残るか、それとも逃げて自由を選ぶか。嬢ちゃんは後者を取った訳だ。しかし嬢ちゃんにとってはその選択はある種悪夢みてぇなものだった訳か。もしかすればあの嬢ちゃんは…フェーンベルツの大聖堂の地下で死ぬつもりだったんじゃねぇのか?

 

分からん。だが…

 

ーだが?

 

死ぬつもりだったならば、何故あの時俺が貸した銃を手に取った?彼女も…ほんの一欠けらの望みにかけているのではないか?計算されたものでないにしろ、自分達が属していた基地の実態を知ってもらう為に、大事な仲間を助けてくる事に願っていたのではないか?

 

―それは…

 

その事は彼女に聞かない事には分からん。それにだ…

 

 

 

 

 

 

「資格がどうこうに対して…少しな」

 

 

 

 

 




次回はわーちゃんじゃい。

恐らくですが…次回を投稿したの内、活動報告にてコラボ依頼を出すつもりです。
かなり大規模になるけど…いいのかなぁ…。悪魔も大量に出てくるし…。


では次回ノシノシ


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Act51 WA2000

WA2000は資格など無いと言った。
しかしギルヴァは――


「…」

 

何やっているんだろう。

誰もいない射撃訓練場の隅っこで丸くなり、その言葉が頭の中を反響する。

部屋に戻る気にはなれなかった。戻れば…怖くなってしまうから。

 

「…」

 

私を受け入れてくれた指揮官や便利屋のギルヴァに非はない。

ただ私だけが…皆に会いに行く事に、助けに行く事に情けない位に怯えていた。そして今日、あの場所が悪魔の巣靴を化していると聞いた時、拍車をかけるかの様は体が震える程怯えていた。

あそこに悪魔が居る事にではない。悪魔が闊歩しているあの場所に皆を置いてきてしまったが…私の中で重圧となって圧し掛かっている。

 

「…」

 

泣きたかった。でもこういう時に限って涙は流れる事はなかった。

 

「…涙は枯れたってやつかしらね。…そう言えば悪魔は泣かないんだったっけ」

 

これが自分だけ逃げた代償だとでも言うのだろうか。

 

「殺しの為に生まれた奴が悪魔にへと堕ちた、か…」

 

裏切り者に相応しい結末じゃないの…。

 

「ハハッ…」

 

笑いが出る。

 

「アハハハッ…!」

 

ああ…もう何もかも可笑しい。

可笑しくて仕方ない。もう笑いが止まらない。

なのにどうしてかしら…

 

「ハハハハハハハッ!!!」

 

何で私は―――

 

「妙な事を言うものだな。悪魔に堕ちたとは…ジョークにしては笑えんが」

 

「!」

 

その声が聞こえた時、さっきまで出ていた笑いがぴたりと止んだ。

声が聞こえた方へ向くと部屋の出入口近くの壁に背を預け、腕を組みながら立っているギルヴァの姿があった。

あぁ…そうだわ…。

 

「何の用…」

 

「何の用だと?お前も分かっているのだろう?」

 

「…てっきり指揮官が来ると思ってた」

 

「彼女の方が良かったか?」

 

「いいえ…寧ろ貴方の方が都合が良かったわ」

 

「ほう…?」

 

そう。悪魔をこの世に居てはならぬもの。

そしてここに彼はそれを討つ専門家。何て最高なタイミングで来てくれたのかしら。

込み上げてくる笑いを必死に抑え込み、私は彼へと歩き出す。ふらふらとまるで悪魔の如く。

こちらが歩み寄ってくる事を分かっていながらも彼がそこから動く気配はない。

 

「どうやら私は…悪魔になったみたい…」

 

「…」

 

彼は一切動かない。

 

「悪魔を討つのが貴方の仕事なんでしょ?だから…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワタシ ヲ コロシテ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

濁り切った瞳で自身を殺す様にギルヴァへと頼み込むWA2000。

狂ったかの様な笑みを浮かべ一歩ずつギルヴァへと近づくWA2000。しかしギルヴァは武器を抜く事をしなければその場から動く事もしない。只々瞳を伏せたまま立ち尽くしていた。

二人の距離が半分と縮まった時、ギルヴァは伏せていた目を開き、静かに、かつ彼女の耳にはしっかりと聞こえる声で答えた。

 

「下らん」

 

たった一言だった。

しかしその一言はWA2000にとって、自身に介在する闇を払いのける様な力強さがあった。

証拠として狂った様な笑みは消え去り、浮かび上がる表情は呆然と驚きの二つが混ざった様なものになっていた。

 

「悪魔になっただと?寝言なら寝て言え」

 

鋭い視線がWA2000へと向けられる。

どちらかというと強面に当たるギルヴァ。

その事に加えどことなく彼から発せられる怒気に当てられた彼女は小さく、ひっ…と怯えた声を漏らした。

 

「一つだけ教えてやろう」

 

壁から離れ、ギルヴァはWA2000へと歩み寄る。

彼女の前に立つと、手を伸ばす。

 

「悪魔というのは…」

 

伸ばされた手。その手は段々と瞳へと向かって行き…

 

「泣かないものだ」

 

WA2000の瞳から流れる涙を指で拭った。

狂ったかの様な笑いを上げていた際に感じた疑問が明らかになった事により彼女は目を見開く。

確認するかのように自身の手でそっと頬を触れる。頬に伝う一滴の涙が彼女の手に零れる。

枯れたと思われた涙は、しっかりと流れていた。何故今なのか?彼女にはそれが理解出来なかった。

それが顔に出ている事に気付いたギルヴァは一つため息を吐くと、彼女にへと告げた。

 

「幾ら自分を偽った所で、感情は騙しきれん」

 

そして、と彼は言葉を続ける。

 

「資格がないと言っていたな?その考えも愚かだと思え」

 

「どうして愚かなのよ…」

 

愚かだと言われた事に彼女の言葉に怒気が混じる。

一度伏せた顔を上げるとその瞳を流しながら、ギルヴァへと詰め寄り胸ぐらをつかんだ。

 

「私はッ!!見捨てたのよッ!!?悪魔とか訳の分からない化け物共が跋扈しているあそこに!!皆を置いてッ!!自分だけ逃げたッ!!!」

 

「…」

 

「そんな奴に…誰かを助ける資格も理由もないッ!!!」

 

溜まりに溜まったものを吐き出す様に叫ぶWA2000。

興奮状態にあるのか、息を荒くしギルヴァを睨む。対する彼は彼女の目を見つめ返す。

 

「一つ聞く…」

 

「何よ…」

 

「誰かを助けるという事に対し資格や理由がいるのか?」

 

「…ッ」

 

「貴様はそれを理由に逃げているだけだ。…それでこそ置いてきてしまった仲間に対する裏切りではないのか?」

 

胸ぐらをつかんでいる彼女の手を払いのけるとギルヴァを背を向け出入口へと歩き出す。

 

「…このままそれを理由に逃げるか、或いは立ち向かうか。決めるの貴様次第だ」

 

「…」

 

「立ち向かうを選択するのであれば…幾らでも手を貸そう。それだけは約束する」

 

そのまま部屋を出ようとした時、待ってよ…と小声ながらもWA2000がギルヴァを呼び止める声が響く。

呼び止められたギルヴァは足を止め、振り返る。服の裾を強く握り、顔を俯いたままで表情は分からない。

しかし彼は立ち去る事はしない。ここで答えが出るか、それを待っていた。

 

「あんたは便利屋だったわね…」

 

「そうだが」

 

「ならば…依頼するわ…」

 

俯いていた顔をバッと上げるWA2000。

その表情は影はない。目は覚悟を決めたと言わんばかり。それを見たギルヴァは小さく口角を吊り上げた。

 

「手を貸して。皆を助ける為にも。報酬は…」

 

「今回は取らん。だが個人的な依頼として受けよう。…指揮官は会議室に居る。飛び出した事を謝罪したの内、作戦の内容を聞いてこい」

 

「うん…!」

 

ギルヴァの横を通り過ぎ、射撃訓練場を出ていこうとするWA2000。

出入口まで近くにくると、ふと足を止めてギルヴァの方へとちらりと向く。彼女の方へと向く事無く背を向けたままのギルヴァ。その背を見て彼女は何を思っているか。それは彼女にしか分からない。

 

「ありがとう…」

 

静かにそう呟き、彼女は部屋を出ていく。

部屋を出ていった事を確認したギルヴァは続く様に部屋を出て…

 

「盗み聞きとは。良い趣味とは言えんな」

 

行こうとはしなかった。彼がここに入ってきたタイミングでこっそりと忍び込んできたもう一人にへと声をかけた。その人物はギルヴァがいる反対側で壁に背を預け腕を組んで立っていた。

呼ばれたその者…ブレイクは赤いコートを揺らめかせ、飄々とした表情で歩み寄ってくる。

 

「全く…もう少し優しい言葉の一つや二つ位は出せないもんかね」

 

「悪いな。そこまで考えが出てこなかった」

 

「やれやれ」

 

肩を竦めるブレイク。

対するギルヴァは何故彼がここにいる事を不思議に思い、その事を尋ねる。

 

「何がやれやれだ。お前、作戦の方はどうした」

 

「あー…眠くなりそうだったんでな。メイドさんに後で教えてもらう様に頼んだ」

 

寧ろこっちがやれやれだ、と言いたくなる所を敢えてギルヴァは言わなかった。

そして話は先程の事へと移り変わっていく。

 

「あの嬢ちゃん…大丈夫かね?」

 

「今度こそ大丈夫と見ていいだろう」

 

「ま…あの感じだとその様だな。しかし個人的な依頼として受ける、ねぇ…」

 

気配を消して聞いていたからか。先程の事を振り返し、ニヤニヤと笑みを浮かべるブレイク。

 

「まぁ便利屋らしくていいんじゃねぇの。でも何で個人的な依頼として受ける事にしたんだ?」

 

「女の涙には弱い…そういうものだ」

 

「ほう?お前がそんな事を言うなんてよ。…明日は雷が落ちるな」

 

「雷の代わりにお前の頭上から剣を落とす事は出来るが?」

 

「おっと、それは勘弁願うぜ」

 

両手を上げて降参の意を示すブレイクを見て、ギルヴァは小さくため息をつく。

そのまま射撃訓練場を出ていくとブレイクもその後に続き、二人して廊下を歩く。

そんな中、ある事を気になったギルヴァは隣を歩くブレイクにへと尋ねる。

 

「何故あの場に来た?眠くなったとしてもわざわざあの場に行く理由などなかろう」

 

作戦会議で眠ったなったにしろ、誰かが訓練している可能性がある場所にわざわざ来る理由がない。

それでこそ選ぶなら誰も居ない静かな所を選ぶ。

 

「単純に気になっただけさ」

 

「…」

 

そんな筈はないだろ、と言った視線をぶつけるギルヴァに誤魔化しが利かなかったのかブレイクは肩を竦める。

 

「おいおい、そう睨むなよ。…昔あの嬢ちゃんに会った事あるのさ。見た目は同じだが…あの基地に属していた奴じゃねぇけどな」

 

「てっきり片思いしていた人形と思っていたが?」

 

「まさか、あいつじゃねぇよ。…ま、あいつ…WA2000だったか?ありゃ中々素直になれないタイプってやつさ。そりゃ可愛げのある所はあるんだろうが…ああいうタイプってのは案外溜め込みがちなのさ。良い事も悪い事もためこんでしまう。…一度見た事あってか、それなりに心配だったもんでね。まぁその役目はあんたに取られちまった訳だが」

 

「悪かったな」

 

「気にすんなよ。…ま、作戦当日は俺達があの嬢ちゃんを支えてやんねぇとな」

 

「当然だ」

 

お互いに羽織るコートをなびかせ、歩く二人。

その背は大きく、かつ悪魔すら泣き出しそうなほどの圧力があった。

 

 

後に店にて作戦事項を聞いた代理人から全てを伝えられた。

今回の作戦は大規模作戦として想定されており、S10基地も現状動かせる部隊を全て投入するとの事。

まずは第一部隊。以前の作戦にて悪魔を相手にした事から参加は絶対と言えた。

部隊長はFAL。メンバーはKar98k、Vector、スコーピオン、アストラ。

次に第二部隊。後方支援を目的とし、メンバーもRFの戦術人形を主軸といった構成が成されている。

部隊長はスプリングフィールド。メンバーはSVD、スオミ、100式、M1895。

続き第三部隊はMGとSGを主軸とした部隊。SGの高い防御力、そしてMGによる瞬間火力で敵を一掃という構成。

部隊長はMG5。メンバーはPK、AA-12、97式散、グリズリー。

最後は第四部隊。こちらは機動力に長け、AR、SMG、HGといった戦術人形で構成。

部隊長は64式自。メンバーはGr G41、Gr MP5、JS9、コンテンダー。

また今回は特例としてWA2000が第四部隊に編成。

そして404小隊、デビルメイクライといったそうそうたる面々が参加。

 

作戦の流れとしては外部迎撃組と内部制圧組と分かれる形となる。開幕の狼煙として代理人のニーゼル・レーゲンによる妨害装置を破壊。それをきっかけに現れるだろう基地外部の悪魔達の所に例のバイクに乗ったブレイクが突撃。道中の悪魔を撃破しつつ内部へと侵入。溢れているであろう悪魔を撃破していき、数が減ったタイミングで第四部隊、404小隊、援護組としてフードゥルとグリフォンが突撃。基地に囚われている戦術人形の解放を目指しつつ内部の悪魔を撃破。

対して外部迎撃組はギルヴァ、代理人、第一部隊、第二部隊で行う。またフードゥルの情報の中にあったヘル=バンガードがどちらかに現れた場合はギルヴァかブレイクで対処。同時に協力者も二人のどちらかで対処。

またS11地区のブラック基地の指揮官の始末、そして外部迎撃組の協力者として他地区の基地の申請しお願いすると事。

作戦は明後日の深夜帯に決行、参加する面々には十分な休息と準備が言い渡される。また今回の作戦には、S10基地に異動予定だったARの戦術人形二人が途中参加する事となる。

そして今回の作戦名は…

 

 

 

 

 

 

 

operation End of nightmare(悪夢の終焉)




次回からはオペレーション・E.O.Nです。

コラボ依頼として活動報告の方に投稿致しますが、色々お伝えしなければならないので何卒宜しくお願い致します。。、


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Act52-Extra operation End of nightmare Ⅰ

―――今宵悪夢が終わりを迎える


風が吹く。

夜空に上る満月は等しく全てを照らす時もあれば、雲によって月は遮られ等しく全てを暗闇へと包む。

幾度となく繰り返され、これで何度目になるだろうか。また雲が月が遮り地表は暗闇に包まれる。

民家等無く、だだっ広い平野が広がる。そんな平野にある場所へと向かって黒いコートを纏った男…ギルヴァが歩いていた。左手には愛刀の無銘、そして背には鉄血のハイエンドモデル 処刑人から奪った大剣を、魔工職人であるマキャ・ハヴェリが改造した機械剣 クイーンを背負っている。

緩やかに吹く風でコートがなびき、彼はその先にある建物を見つめ、呟いた。

 

「S11地区後方支援基地…」

 

『今は悪魔の基地ですが』

 

右耳に付けている無線機から代理人の声が入る。

ギルヴァが居る位置から後方…偶然にも基地を見渡せる高さのある自然できた岩の高台にて彼女は愛用のニーゼル・レーゲンをレールガン形態にした状態で時が来るまで待機していた。

 

operation End of nightmare

 

悪夢の終焉と名付けられた作戦は開始時刻まで残り30分を切っていた。

本来であれば代理人の砲撃の内、ヴァーン・ズィニヒと名付けたマギー・ハリスンお手製のバイクに乗ったブレイクが基地へ突撃する流れであったのだが、彼が内部に突撃した後にも外部にて増えていくであろう悪魔を部隊が来るまで少しでもその数を減らしておく必要があるとギルヴァが指摘。

その為、作戦の第一段階である基地侵入はブレイクとギルヴァという形となり、先行してギルヴァは徒歩で基地へと足を進めていたのだ。

 

『どうですか?ギルヴァさん。基地の方で何らかの異常とか見受けられますか?』

 

代理人に続いて彼の通信機に響いたのはシーナ指揮官の声だった。

本来であれば彼女は基地に居なければならないのだが、的確な指示を出す為にも自分も出ると告げ、戦場から離れた位置にて仮司令塔という名目の装甲車にて待機していた。

その為か彼女がいる地点は仮司令塔という事もあって野営地が設営されており、また協力者のおかげもあってか大規模になっていた。

 

「いや、こちらが見る限りではそれは見受けられない。現状はな」

 

足を進めつつ、自身の目に映る現状を伝えるギルヴァ。

だが彼は感じ取っていた。この先から流れてくる魔の気配を。ちょっとやそこらの問題ではない。波となって押し寄せていた。ギルヴァやブレイクの様な悪魔の血を流す者でなくても、全身がピリピリとした感覚に襲われても可笑しくないと言える。

 

(これだけとなれば…人形にも影響が出ているかも知れんな…)

 

あながちその考えは間違っていなかった。

突撃に備えて待機しているだけと言うのに肌がピリピリとした感覚に襲われる人形はいた。それを知ってか知らずか、ギルヴァはある事について代理人と話し始める。

 

「今回の作戦、相当規模の増援が参加している事もあってか大規模になったな」

 

『そうですね。S9地区P基地、U05基地、H&R社のお二方、男性型戦術人形M16A4様、M14様…。特にS09地区P基地とU05基地からは航空支援を出してくれるみたいです』

 

「航空支援か。…作戦名は悪夢の終焉ではなく、悪魔も泣き出すに改名した方が良いのではないか?」

 

『Devil May Cry…ですか?では別名でそうしておきましょう。主に私の中で、ですが』

 

「…この通信が全員に聞こえている事を知っておきながらそれか」

 

『それを言うのでした貴方もでしょう?ギルヴァ』

 

作戦開始時刻が近いというのにこの二人のやり取りは緊張感がなさすぎるとも言えるだろう。

だがこうしてちょっとしたやり取りで場を和ませ、協力者達の緊張で固くなっている体を少しでも解そうと考えた結果の行いだった。小さくであるが誰かがクスリと笑う声が耳に届いたのがギルヴァは決して聞き逃さなかった。

そこに二人のやり取りに加入する者が現れる。

 

『ギルヴァ~?正妻の私を差し置いて仲良く代理人とおしゃべり?』

 

『ああ、申し訳ありません。まな板である貴方様の事を忘れていました』

 

『は?』

 

デビルメイクライに属している面々は知っているが、UMP45に胸の話はしてはいけないと暗黙のルールとなっている。通信越しであるがそれを平然と破り彼女に挑発を仕掛ける代理人にギルヴァは指を額に当て軽くため息を付く。一部からは「お前、結婚していたのか…」という声も上がっているのだが、これ以上は作戦にも集中できなくなると考え、彼は軽く咳払いし今にも始まりそうな二人の喧嘩を止めさせる。

余計な事はするものではなかったと内心後悔しつつ、彼は全員へと告げる。その声は顔を見なくとも真剣だと感じさせるほどに。

 

「今回の作戦に参加、協力してくれた事に感謝する。特に今回で二度目の共闘となる笹木一家とリホ・ワイルダー氏には尚の事な」

 

『へぇ?二度目なのか。その手の話、聞かせてくれよ』

 

「黙っていろ、ブレイク。…その他にもこちらが世話になったS09地区P基地の面々、今回が初の共闘となるM16A4、M14も協力に感謝申し上げる。だからこそ言っておく。…奴らを甘く見るな」

 

決して脅している訳ではなかった。当然ながらこの作戦に参加している者達は悪魔を甘く見ているつもりなどない。だが相手が相手。人間でなければ、暴走している鉄血人形でもない。ましてやE.L.I.Dでもない。人知れずこの世に潜む未知の存在。何かをしでかしても可笑しくない事は変わりなく、ギルヴァは念を押す様な形でそう告げたのだ。

 

「幾ら入念に準備をしていたとしても、予想外の事を平然とやってのけるのが奴らだ。…不味いと思ったら引け。空いた穴は俺達で埋める。それと対象指揮官排除組に伝えておく。返事はいらん、聞くだけに徹しろ。奴が悪魔と組んだと言う事は何かを有している可能性もなくはない。……追い詰められたネズミは何かをしでかしても可笑しくない。投降を呼びかける事も意味を成さないと思え。…その事を念頭に置いて行動してほしい」

 

『そういうこった。緊張するなと言わねぇが…命あっての物種。人形のお嬢ちゃん達も、替えがあるからって無理は無しだ。それだけは頼むぜ?』

 

「黙っていろと言った筈だが」

 

『いいじゃねぇか。俺にもカッコイイこと位言わせてほしいもんだね。…まぁ、それを話している時間は残りわずかになってるがな…』

 

通信越しからでありながらブレイクの雰囲気を変わっている事を感じつつもギルヴァは何も言わず足を止めた。

先にはあるのはS11地区後方支援基地、もとい悪魔の巣靴と化した基地が数メートル先にある。

先程まで相当の距離があったにも関わらず、随分と近づいたものだなと思いつつも彼はそこで立ち尽くし、無銘を杖の様にして地面に付けると静かに目を伏せ精神統一を図る。

作戦開始時刻まで残り数分を切っている。

先程のやり取りはもう訪れない。妨害装置範囲外で待機している外部迎撃組も内部突撃組も息をひそめ、時が来るのを待つ。

一秒、一秒と時が刻まれいき…残り2分となった時。

 

『パーティークラッカー、用意』

 

指示が飛び代理人はレールガン形態のニーゼル・レーゲン(パーティークラッカー)を基地上空を浮かぶ妨害装置へと狙いを定める。左手で砲身を支え、左足を一歩後ろへと引く。

 

「ふぅ…」

 

軽く息を吐き、彼女の目つきが鋭くなった同時にニーゼル・レーゲンは最大出力モードへと移行。発射に要するエネルギーを生み出していき、増幅にするに連れて段々と余剰エネルギーが光輝く蒼き翼となって、その羽を大きく広げていく。ニーゼル・レーゲンとの同調による副作用か、代理人の右目は水色へと輝きを放ち、三又状へと変形した砲身の砲口からは橙色のターゲットサイトが展開。

まだ撃たない。これでは十分な破壊に至らない。改造を手掛けたマギーが言っていた様に展開されているターゲットサイトが色を変えるまで撃たない。

 

 

 

 

 

 

ターゲットサイトが水色へと変色する。

 

 

 

 

 

 

 

パーティークラッカーの準備は出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

狙うは一つ。穿ち爆ぜるは一つ。

 

 

 

 

 

 

 

『パーティークラッカー、鳴らして!』

 

「!」

 

ニーゼル・レーゲンが咆える。

水色に輝くそれは流星の如く、風を切り、雲に大穴を開け駆け抜ける。

狙いに一変の狂い無し。放たれた一撃は吸い込まれるかの様に妨害装置に着弾。開幕を知らせる狼煙が爆発音と共に辺りを照らす光となって咲いた。

最大出力での一撃をまともに受けた妨害装置は散り、それを合図にナギサが作戦開始の知らせを叫び、基地外部では死神の様な悪魔達がわらわらと現れる。

外部迎撃組は一斉に動き出し、先行していたギルヴァは基地前広場に乗り込む。瞬く間に死神の様な悪魔…ヘル=プライド、ヘル=ラストに囲まれるが…そこに外部迎撃組より先に後方からブレイクがバイクにまたがり猛スピードで現れる。

 

「いやっほおおおぉぉ!yeahーー!」

 

テンション高く、そしてバイクと共に一気に跳躍しギルヴァの後ろから飛び越えると群がる悪魔達へと切り込む。

空中をターンをしつつ、襲い掛かる悪魔達を薙ぎ払い着地すると正面に立った一体を弾き飛ばし、再度バイクごとジャンプ。宙で一回転しつつブレイクはヴァーン・ズィニヒをバイク形態から双剣へと変形。雄叫びを上げるエンジ音と共に回転するホイールからチェーンソーの如く無数の刃が現れ、敵集団の真ん中に着地と同時に彼はヴァーン・ズィニヒを振り回し始める。

 

「ハッハー!!」

 

両手に持った重量級の鋸を振り回し前方の敵を薙ぎ払い、自身の足を軸に回転しつつ攻撃を繰り出したのち、そのまま斜め後方に居たヘル=プライドに対し振り向きつつ右手の鋸を頭部へ目掛けて振り下ろしそのまま地面へ叩きつけると、ホイールを回転させる。叩きつけた悪魔を斬り刻みながら勢いを利用しそれを軸にしながら大回転。何度も唸りを上げるエンジン音と共に左手の鋸で周囲に敵で弾き飛ばし最後は回転の遠心力を使い宙へと身を投じる。そこに目掛けて襲い掛かる悪魔達であるが、それが通用する訳が無くまるで台風の様に全身で回転しながらヴァーン・ズィニヒを振り回すブレイク。

迫りくる敵を轢き飛ばしていき、そのまま地面に着地。両手の鋸で地面を滑っていき、正面の二体を吹っ飛ばす。彼の後方で文字通り轢き飛ばされた悪魔達が地面へと激突する中で終始テンションが高いままのブレイクは余裕のある笑みを浮かべたまま言葉を口にする。

 

「大渋滞してんな!」

 

スタイリッシュアクションならぬスタイリッシュバイクアクションをお披露目をするというブレイク。しかしこのまま此処にいる訳にも行かず、ヴァーン・ズィニヒをバイク形態へと戻し跨るとエンジン全開でそのまま基地正面玄関へと突撃し始める。

 

『ブレイクさん、内部に突撃を。中も大渋滞しているから気を付けて!』

 

「オーライ!嬢ちゃん!通行料金を払わなくても良いのかい?」

 

『悪魔達による大渋滞なんで、逆に向こうに迷惑料を払ってもらいます!』

 

「いいねぇ!じゃあ…行くぜッ!!」

 

バイクをエンジン全開にし、正面玄関を破壊し内部へと消えていくブレイク。その様子を終始見ていたギルヴァは何も言わなかったのだが、一部はこう呟く。

 

『バイクってよ…あんなのだったか?』

 

『そもそもなんじゃあのバイク…』

 

S10地区基地の後方幕僚兼魔工職人が魔界製の素材を壊れたバイクと強引に融合させたお手製バイクです、とあれを知る者は苦笑いを浮かべるしかない。

あんなのを見せられたら気が狂っているとかし思えないのだが、何かの偶然かバイクの名であるヴァーン・ズィニヒはドイツ語で狂気の、または気が狂っているという意味であり、名を示す通りの暴れっぷりだったのは言うまでもなかった。

 

(外部迎撃組が来るまで後少し…。未だに増え続けている奴らの始末が先か)

 

一方で敵に囲まれている最中だと言うのにギルヴァは至って冷静だった。試しがてら背に背負っている機械剣 クイーンを使ってみようかと思いつつもやはり一番使い慣れている無銘がやりやすいと考える。

獲物が逃げてしまった事から悪魔達の狙いはギルヴァへと向き、赤い目を不気味に光らせながらゆらりゆらりと手に持った鎌の刃を煌かせ、近づいていく。

対するギルヴァは小さく首だけを動かし、敵の位置を把握する。前方と後方、右方と左方から悪魔達に囲まれている。何ら行動を起こす事の無いの彼に痺れを切らしたのか悪魔達は手に持った鎌で襲い掛かり始める。

彼の事を知らぬ者なら何してるんだ!逃げろ!と言うかも知れない。だが彼を知る者ならば、この程度心配する必要はないと判断する。何故ならばこの程度の状況、彼は何度も経験した事があるのだから。

 

「っ!」

 

納刀された状態の無銘の鞘で一番最初に来る攻撃を弾き飛ばし、流れる様に反対側の攻撃を弾き返す。そのまま後方から来る攻撃を無銘の持ち手部分で弾き、前方へと振り向き抜刀態勢に入る。鯉口を切り、晒しださせれる刃が後方の敵の姿を映し出した。

その瞬間、縦に一閃奔る。前方から跳躍しての一撃を繰り出そうとしていた悪魔が縦に真っ二つにずれ落ちる最中、左から迫る悪魔へと切り裂き、返す刀で左から右へと無銘を振るう。

 

「っでえあぁッ!!」

 

素早く、かつ力強い一撃は周囲の悪魔を容易に真っ二つに切り裂く。一体、また一体を崩れ落ちていく中でギルヴァは刀身を払い、刀を鞘へと納める。

だが悪魔達はわらわらと姿を見せる。奇襲攻撃を得意とするヘル=ラストが、鎌を振り下ろすが彼は上体を反らし回避、反撃で無銘の柄で突き飛ばし抜刀。後方から来た攻撃を弾くと素早く刀身でヘル=プライドを足を掬い上げる。掬い上げられ宙で回転しかける所にそのまま胴へ向けて一閃し、その後ろから来たヘル=プライドの鎌を持っている手を切り裂き、二撃目に斬り払い。つかさず自身の後方から来る悪魔に向かって足払い。それによってこけた所を右から左へと一撃を浴びせ、近くにいたもう一体にも一撃を与えつつ移動。自身の正面から迫りくる敵の足に目掛けて今度はもう一体にぶつかる様に刀身で掬い上げ、背を向けつつ納刀。

敵同士がぶつかった所を狙い振り向きながら二体同時に立ち居合構えからの抜刀し切り裂く。

軽く舞う砂埃の中を立つギルヴァ。しかしその背後からはまだ悪魔達が現れる。派手に動いていた事もあってか、後ろへとかき上げていた前髪は下ろされているのだが、今はそんな事を気にしている暇はない。

腰を低く下ろしつつ、前傾姿勢を作る。刀身を一度を鞘へと納めた後、親指で無銘の鯉口を切るとそのまま一気に地を蹴ったその瞬間。

 

「遅い」

 

目にも追えぬ程の速さで黒き残影が駆け抜けた。居合抜刀から繰り出された無数の真空刃が渦巻き、抵抗も一切許さず一瞬にして悪魔達を切り裂く。卓越した技術によって崩れ落ちていく悪魔達を背に、刃を鞘に当てた後刀身を鞘へと納める。最後には鍔と鯉口がかち合う音が響き渡った。

そのタイミングで外部迎撃組が集まりだす。当然ながら先程の彼の戦闘は目撃されており、只々目を丸くする者もいない訳ではなかった。そんな事を知らず下ろされた前髪を後ろをかき上げつつギルヴァは静かに呟く。

 

「―――始めよう」

 

かくしてS11地区後方支援基地を舞台とした悪魔との舞踏が月下の元、今宵開幕する。




はい。今回からはコラボ作戦!多くの方々が参加していますが…。
もうあれですね…参加する面々が豪華過ぎてこちらが委縮しちゃいますね…。

期限を11月18日までさせていただきましたが、これ以上参加する方が居ないと考え、また参加してくれる方々に待たせるのは不味いかと思い、活動報告にて11月11日23時59分をもって締め切らせていただきました。


参加して下さる方々はこちらで何か不備があれば感想か、またメッセージを頂ければ幸いです。次回投稿は出来るだけ早くと思っていますが、場合によってはかなり遅くなる事もありますので何卒宜しくお願い致します。


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Act53-Extra operation End of nightmare Ⅱ

―――この舞台に集う役者達


「ほう…」

 

綺麗な声が響いた声とと共に地上に降り立つ少女を見て、ギルヴァはついぞニヤリと笑った。

S09地区P基地の者だと気付いた彼は、無銘の柄にも手を添える。

 

―天使の声ってか?にしては随分物騒なもん持ってやがるぜ

 

(俺達も似た様なものだがな!)

 

迫りくる悪魔達を一体、また一体を切り裂き後退するギルヴァ。離れた敵に対してはレーゾンデートルを発砲しつつ、両手に持った20mmバルカン砲で悪魔達を蜂の巣へと変えている少女へと背中合わせになりながら背後に立つ。

彼女も彼女で気付いたのか、ちらりとギルヴァへと視線を送りつつ手にも持った重火器を放っていく。

余裕はあるのだが、二人の間で会話が始まる事はない。己の獲物で撃つ、斬る事を続ける。

そこでギルヴァが手にしていたレーゾンデートルが弾切れを起こす。生まれた小さな隙を突く様にヘル=ラスト達が彼へと襲い掛かるが、その瞬間ヘル=ラスト達は頭上から降ってきた無数の何かによって地面へと縫い付けられる。

広がるのは群青色に輝く刀が幾つものヘル=ラスト達の体に刺さっている光景。それはギルヴァが魔力で錬成した幻影刀であり、それを雨の様に敵の頭上から降らせる技「五月雨幻影刀」によるものだった。

先程の暴れっぷりといい突如として魔力で錬成した刀を降らせる技といいギルヴァも持ち得る技を前面に叩き出す。最も彼が全てを叩き出すというのであればそれでこそ魔人化(Devil trigger)や次元斬 絶を使うに至るのだが。

まだまだ減る気配を見せない悪魔達。即座にギルヴァはレーゾンデートルの弾倉を取り出し排莢し、腰に吊り下げた予備弾倉の一つに向かってレーゾンデートルの銃身をぶつけた。

浮かび上がった弾倉。それに合わせてギルヴァはその場で回転。まるで息を合わせたかの様にレーゾンデートルの弾倉に12の弾丸が収まり、回転の勢いを利用し弾倉を元へと戻す。

 

「これだけとなると銃だけでは退屈か」

 

―なら背に背負った玩具でも試したらどうだ?

 

「それもそうだな」

 

蒼の提案を受け、レーゾンデートルをホルスターへと納めるとギルヴァは背に背負った機械剣 クイーンの柄へと右手を伸ばし、抜剣。重量がある為、振るった瞬間ブォンと響き持ち手のグリップを捻るとクイーンの推進剤噴射機構が作動し始まる。まるでバイクのエンジン音を轟かせ推進剤噴射機構の一段目が解放される。

 

「…ッ!」

 

地面を蹴り、正面の敵集団へと接近。持ち手付近のレバーを引き推進剤を噴射させ、それによって加速した刃を叩きつける。が、ギルヴァは振り下ろした瞬間にグリップを限界まで捻った。それは偶然と言え、推進剤噴射機構が一気に三段階全て解放されたのだ。これはマギーが秘密裏に内蔵していたもので、タイミングで良くグリップを限界まで捻る事に起きる機能「Max.Act」と言われる機能である。その存在を知らずにギルヴァはその機能を使い、このクイーンと称された剣の扱い方を理解し始める。

 

―成程。お姫様は我儘の様だな?

 

「そのようだな…ッ!!」

 

三段階まで解放した機構の噴射剤を噴射させるレバーを引くと同時にギルヴァはクイーンを勢いよく上へ持ち上げる。三段階まで解放した事により推進剤が青い炎となって噴き出し、ヘルたちを巻き込みつつ回転しながら斬り上げ、宙へと舞い上がる。その高さは外部迎撃組全員がどこにいるのか分かる程で、偶然にもギルヴァはとある二人を発見する。

 

(あれは…?)

 

一人は自分より遥かに年上だと思われる男性。いつの間にかこの戦場に現れており、生身でありながら群がる悪魔を蹴散らしていた。敵ではないと思いつつも彼が何者かと思っていると仮司令塔の装甲車で指示を飛ばしていたシーナから無線が入る。

 

『ギルヴァさん、聞こえる?』

 

「ああ、聞こえている。どうした」

 

『さっき無線が入って、どうやらここの基地の調査を独自行動していた人がこの作戦に途中参加にする事になりました。名前はオサム・アマラキさん。彼にはこのまま内部に突撃させるから!敵と間違えないで!』

 

「始末する指揮官に投降は意味を成さない事は伝えてあるのか?」

 

『うん。既に伝えてあるから。指揮官排除組の皆にも連絡済みだから!』

 

「了解した。こちらでもカバーする」

 

『お願い!……第三部隊のリロードをカバー!第一部隊援護を!FAL!必要なら榴弾使ってもいいから!!第二部隊!援軍の皆を援護!弾をケチらないで!!相手は悪魔!やり過ぎなんて気にしないでッ!!』

 

通信越しから勇ましい声が響く。

経験で言えばシーナが一番浅いと言っていいだろう。しかし忘れてはならない事がある。

経験は確かに浅い。だが悪魔案件の指揮なら彼女が経験としては数が上である。人間でもなければ、鉄血人形でもなければ、E.L.I.Dでもない。悪魔という未知数の相手の指揮は彼女がお手の物だった。

 

『いい?これまでの常識なんて覆す相手…。それでも悪魔達に冥土の土産に教えてやりなさい!私達という名の悪魔狩人(デビルハンター)をッ!!』

 

『『『『了解ッ!!』』』』

 

シーナの言葉に鼓舞され、S10基地所属のメンバーから気迫のある返答が返ってくる。

それも相まってかS10基地部隊による悪魔撃破数が格段に上がる。

 

「ふっ…」

 

―気付かぬ内に成長しているもんだな?

 

「ああ」

 

するとアマラキが内部へと侵入するのがギルヴァの視界の端に映る。そしてすぐさま彼は別の人物が基地の別の入り口から侵入するのを発見する。その者はロングコートを纏い、頭部にはヘルメットにフルフェイスガスマスク…といった風貌。あまりにも怪しいと感じてしまうのだが、悪魔を蹴散らしている所を見る辺り敵ではないと判断し、自身の右左に幻影刀を展開し遠距離ながらその者の援護に入る。射出されたいくつもの幻影刀はその者の背後にいたヘル=プライドを串刺しに針鼠へと変えさせる。

ギルヴァが多少ながら援護に入った事に向こうも彼の方を向くが、言葉が届く距離ではない。またギルヴァは降下しつつであった為、その者の姿を目にしたのはほんの数秒程度。

この舞台に現れた二人が無事でいる事を願いつつ、ギルヴァは地表へと着地。クイーンを背に背負い、現れ始めたヘル=グリード達へと攻撃を開始する。

動きは速いとは言えないが、棺桶で銃弾による攻撃を防ぎ、しまいには撃たれているにも関わらず棺桶でヘル達を召喚する始末。このままでは長期戦となりこちら側が押させるのは目に見えている。またヘルの上位種であるヘル=バンガードも未だにその姿を見せていない。もしこの状況でその上位種が現れたら形勢は逆転する。

 

「はあああぁ…」

 

体を回転させて一体のヘル=グリードへと接近し、鋸の様に切り刻むかの様にダメージを与え…

 

「っでああぁッ!!」

 

回転の勢いを利用し強烈な踵落としによる蹴り技 月輪脚を叩きつけ、流れる様にヘル=グリードを体を捻る様に蹴り上げつつ宙へと上昇する蹴り技「日輪脚」を繰り出す。宙へと身を投じるギルヴァ。しかしそのまま彼が止まる訳がなく一体のヘル=グリードを宙へと蹴り上げたのは理由がある。

宙で居合の態勢を作るとそのままヘル=グリードを足場にして一気に蹴った。空中という不安定な足場にも関わらず、ロケットかの様な速さでギルヴァは地表のヘル=グリード、ヘル=プライド、ヘル=ラストの集団へと襲い掛かる。

 

「調子に乗るな」

 

彼の姿が消える。

その瞬間、悪魔の集団の中であらゆる箇所で空間が歪み、連続して斬撃が奔った。

繰り出される斬撃の嵐。成す術もなく斬撃の嵐に巻き込まれ悪魔達は消失していく。

外部迎撃組もそこで何が起きているのか分からなかった。その技はかつてギルヴァが使った次元斬 絶ではない。

超高速である事は変わりないのだが、これはギルヴァ一人で繰り出している。数秒程度続いた大技、もはや常識とう存在が介在しないそれは終わりをつげ、全てとは言わずとも悪魔達の数はかなり削られるが次か次へと現れる。

そしてそれをやってのけた男はあんな技を放っておきながら、疲弊した様子を見せる事もなく無銘の刀身を鞘へと納刀する。

その姿を追う事は無理に等しく、超高速と同時に次元斬を連発する技…その名も―――

 

「他愛ない」

 

―――絶刀

 

 

 

 

ギルヴァがこれまでに無い位に外で大暴れしている一方で内部ではブレイクがヴァーン・ズィニヒを乗り回してながら派手に暴れていた。外とは違い、爆弾を持った悪魔、ヘル=レイスが出現しており近づけば自爆するという厄介な相手なのだが、遠距離攻撃が効果的とされブレイクもフォルテ&アレグロも用いてヘル=レイスを撃破しながら一体、また一体と悪魔を討っていく。

基地内部では指揮官排除組が動き出しており、人形救出組が行動したら彼は指揮官排除組の援護に向かうつもりでいた。そして基地内部一階の悪魔達の清掃を終えたブレイクは無線機のマイクへと喋りかける。

 

「待たせたな!404に第四部隊、行くなら今の内だぜ!ワンちゃんにチキン野郎、レディ達のエスコートはしっかりやんな!」

 

返答を待たずブレイクはヴァーン・ズィニヒを唸らせ、二階へと昇る。二階へと上がったタイミングで、指揮官排除組を見つけるとバイクを降りて駆け出す。

何人かがブレイクが後ろから来ている事に気付いた瞬間、人間離れした跳躍で指揮官排除組の上を飛び越えるとフォルテ&アレグロを構えた。

SMG顔負けレベルの連射で立ちふさがる悪魔達を蜂の巣へと変え、宙で一回転しながらリベリオンの柄を掴む。

勢い良く振り下ろされた反逆の意味を持つ大剣が攻撃を防ごうとしたヘル=プライドを鎌ごと叩き切る。

 

「悪いが道を開けて貰うぜ。団体客のお通りなんでな!」

 

そのまま正面にいたヘル=ラストへとリベリオンを突き立て突進。勢い良く放たれた突きに群がるヘル達はまるでボウリングのピンに吹き飛んでいく。その中へと飛び込むと敵を足場にして宙へと飛びあがり、空中で上下反転、そこから体を回転させフブレイクはフォルテ&アレグロによる銃弾の雨を降らせ、蜂の巣へと変えた所に即座に体勢を変えリベリオンに振り下ろし、そこからバットの様に構えた。

刀身が赤い魔力に包まれ、力一杯に振り抜く。

 

「吹っ飛びな!」

 

その一撃は吹っ飛びどころか悪魔達は消失するレベルであり、その場で先程まで群がっていた悪魔達は綺麗さっぱりと居なくなっていた。

 

「はっ!ホームランだな!」

 

軽々とリベリオンを振るい、背へと収めるとブレイクは指揮官排除組の方へと振り向く。

全員、目を丸くするか表情を引き攣らせている。その事にブレイクはやり過ぎたと思いつつも、この程度普通なんだがなぁとも思った。しかしその事を顔に出す事もなく、余裕綽々と言った態度で話しかける。

 

「さて道は開いたぜ?このままついていってやりてぇ所だが…ちょいとデートのお誘いがあるんでね。先に行けよ」

 

親指を立てて後ろへと差すブレイク。その言葉を受け指揮官排除組はブレイクを置いて対象指揮官が居る場所へ駆け出していく。彼女達が行ったのを見届けると彼は誰にもいないにも関わらず、そこに誰かが居る様な様子で口を開いた。

 

「姿、出せよ。覗きで通報されるぜ?」

 

暗い廊下の奥からゆらりと何者かが現れる。

片目が妖々しく輝き、弧を描いた何かも輝く。どこからともなく鐘の音が鳴り響き、その者、否、その悪魔を姿を見せる。先程まで相手にしてきたヘル達とは一線超える程にその体軸は大きく、手にしている鎌も大型だった。

黒いローブを纏い、手にした大鎌を軽々回すとブレイクにへと狙いを定め…ヘル=バンガードは彼へと襲い掛かる。

 

「やっぱりな。あいつらを先に行かせて正解だったぜ」

 

ホルスターからフォルテ&アレグロを抜き、二丁をくるくると回し構えるブレイク。彼がわざわざ指揮官排除組を先に行かせたのはこの悪魔が隠れていると察知しての行動だった。

あのまま援護に入らなかったら、目の前に悪魔によって最悪の事態となっていたであろう。

口角を吊り上げ、ブレイクはヘル=バンガードへと狙いを定める。そして―――

 

「サプライズゲストだ!一曲踊ろうぜ?」

 

―――フォルテ&アレグロがサプライズゲストとの一曲を奏で始めた。

 

 

 

その頃。

シーナ指揮官の元にある二人の戦術人形が訪れていた。

本当であれば基地の方で歓迎会でもしてあげたかったのだが、来て早々戦場に行ってもらう事を謝罪しつつも彼女は命令する。その命令を了承した二人。すると一人がシーナにある頼みをする。

それは一緒に連れてきた家族を預かっていて欲しいとの事だった。その家族とは一匹の子猫。

本来は恩人が連れていた子猫だったのだが、ある事を機に彼女が預かっていたのだ。

 

「それじゃあ…この子ことお願いしますね」

 

「うん、任されました。…無理はしないでね」

 

「ええ。あの人にもう一度会うまで無理はしませんよ。…()()()()も良い子にしているのよ?」

 

その言葉に答える様にニャッと鳴くニャン丸と呼ばれた猫。

出ていく前にもう一度ニャン丸の頭を撫でると彼女はもう一人を連れて、乗ってきたバイクに乗り込む。

アメリカンバイクに類するバイクには後付けでホルスターが取り付けられており、そこにはバレルとストックを切り詰めたウィンチェスターM1887が差し込まれている。

元々は無かった物であるが、バイクでの移動している際に敵と遭遇する事を考慮して、運転する彼女が取り付けたものだ。また彼女はSGの戦術人形ではなく、ARの戦術人形だ。烙印システム外の武器とはいえ、何気なく使っており気付けば使いこなすに至っていた。

 

「さて…行きましょうか、A()U()G()

 

「そうですね、9()5()()

 

もう一人は喪服の様な服装が特徴だった。

95式の言葉に返答すると、バイクは走り出す。目指すはS11地区後方支援基地、もとい悪魔の巣靴。

 

「この香りを戦場の隅々まで漂わせますわ」




自重しないうちの二人。
そして何気なく参加組のキャラと接触です。
ブレイクはともかく、ギルヴァはこれまでにない位えげつない技を乱発しています。
というかガチです。どしたんこいつ…(お前がやったんだろうが

次回は…急展開?
出来るだけ早く投稿を頑張りますが…遅れると思うので宜しくお願い致します。
ではノシノシ。


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Act54-Extra operation End of nightmare Ⅲ

―――メインイベントはこれから


「やれやれ!こうも元気なサプライズゲストとはな!」

 

S11地区後方支援基地内部。

ギルヴァ達が基地外部で悪魔達と激闘を繰り広げている一方で、内部に侵入したブレイクはヘルの上位種「ヘル=バンガード」と激闘を繰り広げていた。

流石に上位種だけの事あってか、一筋縄ではいかない。大鎌の範囲といい魔術を駆使した空間移動からの奇襲攻撃は実に厄介だった。

 

「そらよっ!」

 

しかしこの男も負けてなどいない。

振るわれる攻撃に合わせ、リベリオンを振るい上げ攻撃を弾く。

刃がぶつかる度に散る火花。両者一歩も引かぬ状況の最中、後方からある部隊が姿を見せる。

それはS09地区P基地のヤークトフント。彼女達の姿を見たブレイクは攻撃を続けながらも驚きの声を上げた。

 

「オイ!マジかよ!?遅刻者が居たなんて聞いてねぇぜ!」

 

「悪いな、空の旅は中止になってな!でもそっちの宴を邪魔をするつもりは――――」

 

作戦としては彼女達は基地の上から攻め入る予定とブレイクは微かながら頭の端で覚えていた。

それがよりよって此処にいるとは流石に思いもしなかったのだ。彼の言葉に対し、ヤークトフントのメンバー KS-23から事情を聴くと先に行かせるべくブレイクはわざとヘル=バンガードの攻撃を受け止めて、道を作った。

その隙を縫うかの様に動き出そうとした瞬間だった。

 

 

 

 

 

「いやあああああああああぁぁぁぁ!!!???」

 

 

 

 

 

 

悲鳴が木霊した。

余りの事にブレイクは良からぬ何かを感じ取り、ヘル=バンガードの腹部目掛け蹴りを叩き込み、距離を開けるとフォルテとアレグロを引き抜き、近づけさせない様に連射し始めた。その隙に後ろで起きている事に頭を動かすとヤークトフントのリーダーであるUSPコンパクトが両手で頭を抱え錯乱しており、KS-23が抑え込み、イングラムが安定剤を投与している様子が映る。同じく他のヤークトフントのメンバー、M21とMG4は敵を近づけぬように制圧射撃を行っていた。突然の事であるが、彼女達の行動は速かった。

そしてブレイクはフォルテとアレグロの連射速度を人間では到底不可能なレベルまで引き上げつつ、ある事を思い出す。

 

(…仮司令塔でもあの嬢ちゃん、薬を打っていたな。もしかしてとは思ったが…あれほどとなるとなりゃあ…)

 

もしかすれば限界は来ていたのかも知れない。そして今回の作戦で悪魔を見た事によりトリガーになったのではないかとブレイクは推察する。

彼の後方ではイングラムがリーダーがダウンした事を告げ、撤退を始める事をナデシコに伝えると彼女はブレイクに向かって告げた。

 

「そういう事だからごめんなさい。P基地は内部攻略に参加できないわね」

 

その言葉に頷くと、ブレイクは地面を蹴りリベリオンの柄に手を伸ばしヘル=バンガードとの距離を詰める。今までにない位の速さで間合いを詰めると、一撃を浴びせ、そのまま振り上げつつ鋭い突きと共にヘル=バンガードを天井へと串刺しにする。串刺しにされもがくヘル=バンガードに目もくれず彼は単発の威力に秀でたフォルテを最期まで往生際が悪いと言える程もがくそれへと突き付け、引き金を引いた。

吐き出される幾多の鉛弾がヘル=バンガードの体を抉り、貫くそれが止めになる。動く事はなく、霧散する悪夢の最期を見届けてる事はせず、ブレイクはリベリオンを大きく振るって背を収めた。

リーダーがダウンした事により撤退を開始し始めたヤークトフントには、同基地所属のノア、そしてU05基地の面々とH&R社が撤退の支援に来ており、自分まで行く必要がないと判断すると無線機を持ってシーナへと呼びかける。

 

「シーナの嬢ちゃん。聞こえるか?」

 

『はい、聞こえています』

 

「ヤークトフントに問題があって引いたのは知ってるな?」

 

『はい。今し方報告で。…彼女達の分、お願いしていいですか?』

 

「オーライ。…任せておけよ」

 

通信を切るとブレイクは先に行った指揮官排除組の後を追う。

余裕綽々の笑みを浮かべつつも纏う雰囲気を真剣そのもの。赤いコートを揺らめかせ、彼は駆け出していく。

 

「さぁーて…こっから忙しくなるぜ!」

 

 

 

一方基地外部ではグリフィン側が優勢ありつつあった。

最もその理由としてはギルヴァが敵の半数を絶刀という現実を完全に無視した大技でバラバラに斬り刻んだ事が大きく、現に悪魔達の数も減りつつくあった。しかしまだ油断はできない。戦場に残る緊迫した状況は今でも続いている。

 

『こちら404。囚われていた戦術人形の保護を完了したわ。第4部隊と共に一旦戦域を離脱。フードゥルとグリフォンには迎撃組として参加させるわ』

 

『了解』

 

後方でニーゼル・レーゲンをガトリングガン形態にして群がる悪魔達を蜂の巣へと変えていた代理人の耳に404小隊と第4部隊が囚われていた戦術人形達と共に無事内部から脱出したという報告が入る。無事脱出できた事に安堵の息を漏らすと、彼女は別基地からの協力者たちの援護に入る事にした。ニーゼル・レーゲンを通常形態にし、明らかに重武装に関わらず軽快な動きで走り出すと勢い良く跳躍。その下では防衛線を張り、悪魔達と攻防戦を繰り広げているU05基地のメイド隊の姿があった。

 

(数は多くありませんが…自爆型に棺桶型が多いですね…)

 

特に自爆型のヘル=レイスは非常に厄介である。一度自爆を許してしまったのだろう、そこから悪魔達が入らぬ様に防戦に徹している。代理人はシルヴァ・バレトを手に取ると通常弾を装填。そのまま無線でメイド達にへと呼びかける。

 

「援護致します」

 

降下しながら29mmという砲弾にも近い弾丸が砲撃音と共にシルヴァ・バレトの銃口から吐き出される。空中という事もあって射撃による反動で若干浮かび上がりそうになるも代理人は気にする事もなくシルヴァ・バレトを次々を放っていく。優先してヘル=レイス達を排除した所でシルヴァ・バレトの弾が尽き、代理人はシルヴァ・バレトの銃身を両手で握ると着地と同時に真下にいたヘル=ラストにへと向かって…。

 

「寝ていなさいッ!!」

 

鈍器と化したそれを思い切り顔面にへと叩きつけた。地面へとめり込むヘル=ラスト、舞い上がる土埃。視界不良になるのだが、既に敵の配置は把握している。即座にシルヴァ・バレトに予備弾倉を装填。自身の正面にいたヘル=プライドを殴り飛ばすと、銃を一回転させ本来の持ち方へと変え、そのまま殴り飛ばしたヘル=プライドの腹部に向かって勢い良く銃口を突き刺す。

 

「吹き飛べ」

 

シルヴァ・バレトが咆える。その一撃は舞い上がっていた土埃を払い飛ばし、装填されていた徹甲弾が彼女の正面に立っていた悪魔達に大きな風穴を開ける。

硝煙が立ち込め、シルヴァ・バレトから転がり落ちる薬莢。彼女の視線の先に見せるは悪魔達。軽く息を吐くと、背負っていたニーゼル・レーゲンを握り、三連装ロケットランチャー形態へと移行し肩に担ぐと密集している地点にへと放った。同時に三発のロケット弾が発射され、密集していた悪魔達に着弾、爆ぜる。爆発に飲まれた悪魔は消失し、爆風によって悪魔達が宙へと吹き飛ばされる。つかさずガトリングガン形態へと移行し、掃射。宙へと吹き飛ばされた事により何の抵抗も出来ずに悪魔達は次々と霧散。気付けば辺りに居た悪魔達は姿、形も残す事無く一体も残らず消失した。

硝煙が漂い、あれほど派手に動いていたにも関わらず汗一つかかず、汚れも一切なく…代理人はニーゼル・レーゲンを通常形態へにしてから背負い直す。後ろへと振り向き、デビルメイクライに所属してから見せる様になった笑みを浮かべ、カーテシーを掴みつつ作法のある礼を見せ、ギルヴァ達が戦っている基地外部の方を見た。

 

(あれは…)

 

ふと彼女は戦場へと向かう一台のバイクを見つける。搭乗者である95式とその後ろに座っているAUGを見つけると、代理人は静かに笑みを浮かべる。

 

「これではまるで同窓会ですね。…主にギルヴァ関係ですが」

 

万が一に備え、代理人はこのまま待機する事にし、ニーゼル・レーゲンをレールガン形態にして警戒を続ける。

戦いは…悪夢はまだ終わらない。全てが終わりを告げるまで…。

 

 

 

基地外部。

銃声は鳴り止む事を知らず、未だに鳴り響き続けていた。

そんな中、404小隊と第4部隊と分かれたフードゥルとグリフォンは戦場へと別々に飛び込んでいた。高速移動から繰り出すフードゥルの一撃と変則的かつ遠距離攻撃を繰り出すグリフォン。偶然にもフードゥルが戦場に飛び込んだ先には、義勇兵として参陣していたM16A4とM14が悪魔達相手に暴れており、オリジナルが銃剣を用いて突撃、ダミーが援護。同じくM14もダミーと連携しつつ、積極的に接近戦を繰り広げるM16A4の援護に入っていた。

しかし悪魔達が彼らへと向いているのか、少しだけ苦戦を知られている様にも見えたフードゥルは雷を自身の身に纏うと、駆け出した。纏う金色の雷が流星の如く変則的な動きで悪魔の集団へ攻撃を仕掛ける前にフードゥルはM16A4へと叫んだ。

 

「貴公!下がれ!」

 

「!」

 

突然の声に彼は驚きつつもその場から後退。その瞬間、彼がいた地点に轟音と共に落雷が迸った。

その一撃は周囲にいた悪魔達を巻き込み、痺れさせるどころか一瞬にして真っ黒焦げさせる程の威力を誇る。突如として起きた落雷にM16A4もM14も目を丸くし、雷を纏う白狼を見つめる。その姿は神々しく、勇ましかった。

 

「貴公らは…M16A4殿にM14殿か」

 

「あ、ああ…」

 

フードゥルの問いにM16A4が答える。

雷を纏う狼が居る時点でおかしいのに、それに拍車かけるかの様に狼が喋りだした事もあってか目を丸くする。しかし今は戦闘中という事もあって真剣な表情へと切り替えた。

フードゥルは群がる悪魔達に威嚇する様な声をあげつつ、発生させている雷をある程度まで抑える。自分の後ろに立っている者達は戦術人形なのだ。そして自身の雷は敵と味方と識別する事はできないのだ。つまり落雷を落としたりするのは先程だけにし、後は全て近接攻撃で対処する必要があった。

 

「我の名はフードゥル。今から貴公らの援護に入る。くれぐれも我に近づくなよ?この状態では何であろうと機能停止にする事は出来るのでな」

 

「…そっちもこっちの攻撃に当たらないでくれよ?」

 

「…無論だ。では…いざ推して参るッ!!」

 

その言葉を合図に攻撃を開始する。銃弾が交える中、雷も戦場に混ざり始める。

暴れまくる二人をM14とダミーたちが援護。息もつかせぬ程の連携は悪魔達を一体、また一体を討っていく。

一方でグリフォンはSO9地区P基地第一部隊の援護に入っていた。喋る猛禽類に驚かれるが、訳の分からない悪魔が居る時点で今更この程度で驚いてはいれない。グリフォンが生み出す電撃を用いて攻撃は敵を一切寄せ付けない。それより一方的な攻撃が展開されていた。

 

「サービスしとくぜぇッ!!」

 

生み出される五筋の電撃が奔り、続く様に弾丸が嵐の如く悪魔達に喰らい付く。

最早外部迎撃での戦いは勝敗が見えつつあった。

しかし一方でギルヴァはこの戦場に感じる違和感を拭い切れずにいた。

 

(未だに感じられる強い魔力に対して敵戦力がこの程度とは到底思えん…)

 

その事はシーナも感じ取っていたのか、戦況が余りにも上手く行き過ぎている事に違和感を覚えていた。

その疑問を解消するために彼女はギルヴァへと話しかける。

 

『どう思いますか、ギルヴァさん』

 

「妙だな。戦力を出し惜しみにしているのか…」

 

『或いは戦況を覆す何かを有しているのか…いずれにせよ、油断はできませんね…』

 

「ああ。それにここの協力者も姿を出していない…。無論指揮官もだが、包囲されている状況で逃げ出す事は無理がある」

 

『敵の狙いは一体…?』

 

「分からん。それに嫌な予感がしてならん」

 

魔界の覇王程とは言えなくても未だに感じられる強い魔力は消える事を知らない。

この戦いはまだ中盤を過ぎていない。ギルヴァの中で払拭しきれない何か心の中で重しとなっていた。

このままここで残っていては取り返しのつかない事が起きる。

そしてギルヴァは決心し、シーナへと告げた。

 

「指揮官、俺も内部に突撃する。指揮官排除に動いてるのは誰だ?」

 

『…現在動いているのはU05基地の笹木一家の皆さん、SPAR小隊、オサム・アマラキさん、そしてヤークトフントの代わりとしてブレイクさんが行動しています』

 

「そうか。笹木に伝えてくれ、俺も5分でそっちに向かうとな」

 

『了解です』

 

そこで通信が途切れ、ギルヴァは基地内部に入る正面入口にへと駆け出そうとした時、後方から彼の名を呼ぶものがいた。足を止めて振り返るとかつての旅仲間である95式の姿。背にはストックとバレルを切り詰めたウインチェスターM1887を背負っていた。

 

「95式…!?まさか途中参加するARの戦術人形というのは…」

 

「はい!私です。あとAUGも途中参加の一人です」

 

「そうか…。打ち上げでもしてやりたい所だが、今はそれどころではない。悪いが話は後だ。俺は内部に突撃する。95式は第一部隊と合流しろ」

 

「いえ、私も行きます。戦力は多いに越した事ないでしょう?」

 

止めるべきだと彼は思った。

だがここで押し問答している余裕はなく、このまま突っ立ていては良い的にしかならない。

同行人が一人増えた事を後で伝えねばな、と内心呟きつつギルヴァは彼女の傍に寄るとそのままお姫様だっこする形で抱きかかえると、その場から勢い良く跳躍し基地内部へと飛び込んだ。

 

「ギ、ギ、ギルヴァさんッ!?」

 

「すまんがこの状況でロマンスなど言っていられんぞ。5分以内に向こうに着かなくてはならないのでな。しっかり掴まっていろ」

 

「!…はい!」

 

窓を突き破り、廊下に着地すると95式を下ろし共に走り出す。幸いな事に悪魔自体は片付けられていたのか、道中戦闘行う事もなく指揮官排除組との合流を図る。

対象が居る場所はUMP45の情報により教えられている事もあってギルヴァは迷う事無く駆け抜けていきその後を95式が追う。階段を駆け上がり曲がり角を曲がった所で、先を行くブレイクを発見する。どうやら笹木一家、SPAR小隊、オサム・アマラキとも合流していたのか彼らは対象がいる部屋へと目指していた。

 

「ブレイク!」

 

「お、速いな。メインイベントに間に合ったみてぇだな」

 

「この程度サプライズイベントに過ぎん」

 

「どうだが?…で、そこの嬢ちゃんは?連れかい?」

 

「彼女は95式。途中参加の戦術人形で、面識がある」

 

「どういう関係なのか聞きてぇ所だが、それは後回しだ。さっ、とっと行こうぜ」

 

ブレイクに言われ、ギルヴァも95式も指揮官排除組と交えて対象がいる部屋へと走り出す。

目的地に近づくにつれて、魔の気配が強くなるのをギルヴァもブレイクも感じ取り、ふと同行しているオサム・アマラキが呟いた。

 

「この気配は…普通ではないな」

 

「気付くか。…用心した方がいい」

 

「無論だ」

 

長い廊下を渡り終え、漸く指揮官が居るであろう部屋の前に到着する彼ら。本来であればそのまま突撃するのが良いのだが、そこにギルヴァとブレイクが待ったをかけた。

ここは俺達が先に行くとブレイクがそう伝えると、ギルヴァと共に扉の前に並び立つ。

 

「こんな時に言うも何だがよ、中に入った時の台詞は何が良いと思うよ?」

 

「勝手に言ってろ…!」

 

無銘の柄に手を添え、目には終えぬ抜刀でドアを切り裂くギルヴァ。

 

「んじゃ…派手に行くぜ!」

 

片足を上げドアを思い切り蹴り飛ばすブレイク。

二人が室内に侵入し、続く様に笹木一家とSRAR小隊、オサム・アマラキが室内になだれ込む。己の持つ獲物を構え、部屋の中央にうずくまる指揮官へと突き付ける。

にも関わらず、うずくまる指揮官は狂ったかの様に笑いを上げた。

 

「感じる…感じるゾ!これが悪魔のチカラッ!!ハハハ…アハハハハハハッ!!!!!」

 

―不味いぞ!こいつ、悪魔になってやがるぞ!!

 

「全員この部屋から出ろッ!!!急げッ!!!」

 

蒼の台詞から対象が今まさに悪魔へと変貌しようとしている事に察知したギルヴァは大きく叫んだ。

普段冷静の彼が大きな声を上げて叫んだという事は相当不味い状況だと感じ取った面々は即座に部屋から飛び出る。その瞬間、轟音と共に破砕音は響き渡った。

舞い上がる土埃、いち早くギルヴァは再度部屋へと飛び込むとそこに居たのは人ではない。異形の悪魔の姿があった。ヘル=バンガードと似ている部分はあれど、その姿は死神に触手やらなにやら混ざった様な正しく悪魔の様な出で立ち。大鎌を両手に持ち、それは彼らに目もくれる事もなく外へと飛び出していった。

外には外部迎撃組が戦っている、放っておけば最悪な事態になる。

 

「聞き分けの悪い悪い子ちゃんを止めてくる。笹木ん所もオサムの爺さんも急ぎな!」

 

そう言ってブレイクは変貌した指揮官が空けた壁穴から飛び出し、後を追う。

言われた彼らも急いで外へと走り出し、残ったのはギルヴァと95式だけとなる。

二人しかいない空間で、ギルヴァはそこに誰かが居ると言わんばかりの様子で口を開く。

 

「隠れてないで出てきたらどうだ」

 

「…やれやれ。上手くやり過ごせると思ったんだがね」

 

響いた声。

暗闇から姿を現すはまるで虫が人の形をしたような悪魔の姿。その者こそ、ここ指揮官に協力していた召喚士であり魔工職人である。

 

「しかしまぁ…上手くいったもんだ。即席とは言えあんな風になるとは」

 

「ここの指揮官があんな風になったのは自分によるものだと言いたげだな」

 

「そのまさかさ。召喚した悪魔を媒体にして、増強剤として人間に投与したのさ、まぁあいつも力を望んでいた訳だからね。まぁ…そんな事より」

 

協力者は二人を睨みつける。

だがその睨みに臆することなく、ギルヴァと95式は睨み返す。

 

「目撃者は"0"のままここを出なくてはならないんだ。…悪いけどここで消えてもらうよ」

 

その台詞に対し、95式が銃を構えギルヴァは刀身を突き付ける。

 

「やれるものならやってみるが良い。消えるのは貴様の方だ」

 

 

 

一方、ブレイクは悪魔へと変貌した指揮官…ヘル=コマンドを追い基地外部へ飛び出していた。

最早自我を失い、悪魔へと化したヘル=コマンドが外部迎撃組に攻撃を仕掛けようと触手を伸ばし襲い掛かろうとした所をブレイクは前へ飛び出し、リベリオンを振り下ろし触手を斬りおとす。

異形と化し、最早人の姿の欠片すらないそれを見ていつもの様な余裕のある笑みを浮かべつつリベリオンを肩に担ぎ挑発を仕掛ける。

 

「もうハロウィンは終わったぜ?それともその格好はクリスマスパーティー用のコスプレか?」

 

だが、彼は言葉を続ける。

 

「そんな格好したってサンタさんからプレゼントは貰えねぇぜ?良い子じゃねぇからな」

 

その挑発にヘル=コマンドは乗る事はない。無造作に殺気を放ち、ブレイクは睨みつける。

それでも彼は臆する事もない。

 

「それにセンスは最悪だ、サイズもデカすぎる」

 

肩に担いだリベリオンを振り下ろし…

 

「サイズ直ししてやるよ…!」

 

ヘル=コマンドを睨みつけ、構えの体勢を取る。

 

「さぁーて…こっからはメインイベントだぜ!」

 

ブレイク&外部迎撃部隊VSヘル=コマンド。

ギルヴァ&95式VS協力者との戦いという名のメインイベントが今開幕する。




まず謝罪させてください…。
遅くなってしまってほんっっっとうに申し訳ありませんでした!
皆さんにご迷惑をおかけしてしまい、ほんっっっとうに申し訳ありませんでした!
お詫びにうちの面々を自由に使っていいですから…。

あれだな…このコラボ作戦は終わったら、暫くは大型コラボ作戦はしない様にしないと…。
迷惑かけちまう…。

あ、それと友達から95式の水着衣装のフィギュア貰いました。
うん…どこがとは言いませんが…すっげぇ…


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Act55-Extra operation End of nightmare Ⅳ

―――ここからがクライマックス


「そらよっ!!」

 

「aaaaaaa!!!」

 

ぶつかり合う刃。散る火花。

開幕したメインイベントの主役と化したヘル=コマンドを相手にトリッキーな動きでリベリオンを振るうブレイク。

お互いの獲物をぶつけ合い、ぶつかる音が響き合う中外部迎撃部隊は中々手出しができない状況にあった。

 

「無理だ!このまま撃ったら彼にも当たる!」

 

「なんつう動きしておるのじゃ…これでは狙いが付けられん!」

 

S10基地の第三部隊の部隊長、MG5と第二部隊のM1895が声を上げる。

二人が言った様に最早両者の動きは幾ら戦術人形でも追い付くのがやっとと言えた。

下手に撃てばブレイクに当たる可能性もあり、ヘル=コマンドの動きが大人しくなる他なかった。

だがブレイクは彼、彼女達が撃ったとしても避けられる自信はあった。何故ならかつて相対した魔界の覇王の攻撃は四方八方から飛んできたのだ。

それに彼女達が下手を打つ事なんてないと思っていた。だがこのまま撃てないのならどうにして撃てる状況を作るまでだ。

 

「おっと!」

 

リベリオンを振り下ろした瞬間、読んでいたのかヘル=コマンドは両手の大鎌で攻撃を防ぎ弾いた。

弾かれた事により態勢が崩れるブレイク。生まれた隙を突く様に大鎌を勢い良く振るうヘル=コマンド。だが彼は即座にヴァーン・ズィニヒを呼び出し跨ると、フルスロットルで突進しお返しと言わんばかりに繰り出された攻撃を弾く。

流石に弾かれる事は想定していなかったのか、攻撃を弾かれたヘル=コマンドの態勢が崩れ後方へと仰け反る。

その瞬間、恐ろしいまでの弾幕がヘル=コマンドに襲い掛かった。

ブレイクとヘル=コマンドとの距離が空いた事とブレイクが攻撃を弾いた事によって仰け反ったヘル=コマンドを見てチャンスと判断し、外部迎撃部隊が一斉射を開始したのだ。

 

『撃って!撃ち続けて!!銃身が焼き切れるまで撃ってッ!!榴弾でも火炎瓶でもナイフでも何でもいい!ブレイクさんの援護を欠かさないでッ!!』

 

普段の姿は何処に行ったのか。男が見れば確実に惚れる位に勇ましすぎるシーナの声が無線に飛び込む。

それに鼓舞となって弾幕は更に恐ろしい物となる。嵐の様な一斉射による弾幕は確実にヘル=コマンドに確実なダメージを与えていく。そこに後方から流星が駆け抜け、落雷が轟き、五筋の電撃が奔った。

無論それは後方で代理人がニーゼル・レーゲンのレーンガンを放った一撃と、フードゥルが生み出した雷による落雷、グリフォンによる五筋の電撃は放つ技「ブロッケイド」によるものである。

フードゥルとグリフォンは電子機器の影響及ぼす技を繰り出す為、無線機は付けていないのでブレイクは無線機を付けている代理人にへと話しかける。

 

「やるねぇ、メイドさん!惚れていいかい?」

 

『他を当たって下さい。私はギルヴァの妻なので』

 

「はっ!つれないねぇ!」

 

圧倒的な弾幕にヘル=コマンドも次の手に出せずに、只々的になるしかなかった。

一切抵抗を許さない銃弾の嵐がヘル=コマンドの体を貫いていく。

このまま倒れてくれれば誰もが望む結果になるのだが、現実とはそう簡単に行かないものである。

嵐に晒される中、ヘル=コマンドの右目が一瞬だけ輝きを放った。

その一瞬を見逃さなかったブレイク。その身に良からぬ何かを感じ取った瞬間、鐘が鳴り響きヘル=コマンドがその場から消えた。

そしてS10基地の第一部隊の前に突如として姿を現しすと大きく大鎌を振り上げた。

誰もが反応に遅れた。魂を狩り取らんとする狂刃が襲い掛かる。

 

「ッ!?」

 

「くそっ!」

 

悪態を付くと、ブレイクは瞬間移動技「グラウンドトリック」で立っていた地点からS10基地第一部隊の前に割って入り、リベリオンでその一撃を受け止める。

ガキン!と刃同士がぶつかる音が響き、彼はそのまま鍔迫り合いへと持ち込む。

 

「おいおい。お前の相手はこっちだぜ?嬢ちゃん達が可愛いから目移りするのは分からなくもねぇけどな!」

 

いつもの様な挑発を仕掛けるブレイク。

それが聞こえていたのか、あろう事に自我を取り戻しヘル=コマンドが怒気を交えた声を上げた。はっきりとして言葉でブレイクに分かる様に。

 

「貴様…!」

 

「ほーう?喋れる様になったのか。お喋り相手が居なかったから丁度退屈していた所だ」

 

「なら退屈しなくさせてやる。…貴様ら全員を皆殺しにしてやるよッ!」

 

「悪いが死ぬつもりはないんでね。お断りだ!」

 

鎌を押し返し、ヘル=コマンドの腹部に蹴りを入れ、そのままリベリオンを突き立て突進していくブレイク。

蹴り飛ばされたヘル=コマンドも態勢を立て直し、突進してくるブレイクに向かって大鎌を振るう。

互いの攻撃がぶつかり、そして目にもとまらぬ速さでブレイクは突きによる無数の連撃を繰り出し始め、ヘル=コマンドは両手の大鎌で連撃を繰り出し始める。飛び交う刃の嵐、幾度となく火花が散りばめる。

 

(さて…あっちはどうしてんのかね?)

 

ちらりとブレイクは飛び出してきた部屋の方を見やる。この場にギルヴァと95式が居ない事に気付いていた彼は、あっちでも何か起きていると察知していた。

正直な所言えば、ギルヴァがこの場に加わればワンサイドゲームでも発展しかねない位にえげつない技を繰り出すので、今は彼が居なくてよかったと思っていたりする。

 

「んじゃ…こっちはこっちで楽しませてもらうか!」

 

メインイベントはまだ終わりを告げない。

 

 

 

 

「これが魔工職人の力だ!」

 

高らかに宣言しながら、協力者であり悪魔であり、召喚士であり魔工職人であるアグリット。

その背から魔術紋が展開され、そこから彼が手掛けたであろう銃と犬が合わさった様な悪魔や剣と鳥が合わさった様な悪魔達が次々と現れギルヴァと95式の二人へと襲い掛かる。

だが飽くまでも雑魚に類するそれ如きではギルヴァの敵ですらない。神速の抜刀術と幻影刀を巧みに使いこなし攻撃を繰り出して、一体ずつ排除していく。

 

「私の作品をッ!」

 

「作品だと?趣味が悪いにも程がある。作り直せ」

 

「貴様ッ!」

 

見事なまでに挑発に乗っかり怒りを露わにするアグリット。一振りの剣を取り出すと、そのままギルヴァに向かって突撃。しかしそれをもう一人が許さない。

 

「うぐっ!?」

 

響く銃声。アグリットの体に喰らい付く散弾。

よろめく悪魔が見た先に居たのは、自身の名と同じ名を冠する銃とは別に、烙印システム外の銃を発砲した95式の姿。

 

(ええぇい…!時間をかけている暇などないというのに…!ガラクタ共がッ!!悪魔の力を与えてやったというのにあいつは好き勝手暴れやがって!)

 

表には出さずとも内心焦り始めるアグリット。

それもその筈で、自身の戦闘力は決して高い方とは言いづらい。召喚による物量の差で相手を圧倒する戦い方を得意としているのだが、今回の作戦で攻めてきた敵の戦力を測り間違えた事が原因で召喚で魔力を使い過ぎていた。

当然ながら召喚には魔力を有する。だが今のアグリットには召喚が出来る程の魔力が残っていないのが現状だった。先程から生み出しているのは自分が作った作品を異空間から取り出しているだけであり、携行武器と言えるものだ。

ここから生きて出ていくにはこの場に二人を始末する必要がある。もはや手段など選んでいられなかった。

 

「細切れになって死ねぇッ!!」

 

痛みに耐えながらも、アグリットは自身が出せる携行武器の中で高い切れ味を誇る大型剣を二振り取り出し、コマの様に高速回転しながらなぜかその場で居合の構えに入ったギルヴァへと迫りだした。

 

「ギルヴァさん!」

 

95式が彼の名を叫び、援護に入る。

確実に攻撃を貰っているにも関わらずアグリットは止まる気配すらない。

このままでは幾ら彼と言えど、耐え切れる筈がない。

その時だった。95式は微かな風を感じ取った。外から入り込む風ではない。

流れてくる風はギルヴァを中心に流れていた。

 

「これって…」

 

彼女は思い出す。

かつて彼が見せたあの光景を。戦力的に不利だった状況にも関わらず、それを一転させる程の力を持った技を。

 

「あの状態でなくても出せるの…!?」

 

ここに居ては巻き込まれると判断した95式は即座に部屋か飛び出す。

あれがどの様な技なのか、一度目にした彼女は知っている。だからこそ急いで部屋を飛び出したのだ。

 

「今更何をしようが遅い!…死ねぇ!!」

 

迫る刃。

その瞬間――――

 

「全て――――」

 

 

 

 

 

 

 

「――――滅する…!」

 

 

 

 

 

 

 

――――奔った無数の斬撃と共に…

 

 

 

 

 

 

 

――――時が止まった。

 

 

 

 

 

 

否、止まったのは先程まで高速回転していたアグリットだけだろう。

今も尚、外から銃声は引っ切り無しに響ている。では何故アグリットだけが止まってしまったのか。

それを知るのはそれを行ったであろうギルヴァとそれを一度見た事がある95式だけであろう。

 

「細切れになるのは…」

 

止まったままのアグリットに背を向けたまま、静かに刀身を鞘へと納めるギルヴァ。

一瞬だけ放たれた刃の輝き。鍔と鞘がかち合った音が響いた瞬間…

 

「貴様の方だったな」

 

アグリットは跡形もなく消失した。

彼も何をされたのか分からなかったであろう。端的に言えば只斬っただけと済ませられるのだが、その威力はこれまで彼が繰り出してきた技とは一線を画す程。

かつて一度だけ放たれたその技こそ、次元斬 絶。

 

「戻ってきて良いぞ、95式」

 

その声を聞き、95式が部屋へと戻ってくる。

大した怪我はない事から軽く安堵していると二人が付けていた無線機に誰かの声が飛び込む。

 

『こいつ…攻撃が効いていない!?』

 

『さっきより元気になってるぞ、こいつ!!』

 

『狼狽えないで!!撃つ事を止めないで!!』

 

『つってもこんだけ撃ってんのに何であいつは平然としてられんだよ!?』

 

『ハッ!ますます面白くなってきやがったぜ!』

 

『『『『何処かだ!!』』』』

 

一部の声がシーナとS09地区P基地のノアとブレイクのものだとと判断するギルヴァ。

95式と顔を見合わせるとギルヴァは彼女へと伝える。

 

「先に行っている。…後で合流だ」

 

「…はい!」

 

頷き、外部迎撃部隊と合流する為その場を後にし走り出す95式。

そしてギルヴァはヘル=コマンドが空けた穴の前に立つ。その時彼の視界の映ったのがヘル=コマンドの背から生えた触手が相対するブレイクへと襲い掛かろうとしている瞬間だった。

刹那、彼は勢い良く無銘の柄を握り抜刀した。

 

 

 

 

「どうした?さっきまでの余裕が無くなっているぞ?」

 

「ちっ…!」

 

舌打ちをするブレイク。

先程まで優勢だったにも関わらず、気づけば外部迎撃部隊は押されていた。

その理由としては戦闘が長引く度にヘル=コマンドが徐々に力を付けていったからだ。当然ながらこれはアグリットの仕業である。悪魔を媒体に、それを魔術によって増強剤へと変換。人間に投与する事によって、悪魔の力をその身に持たせるつもりだった。最初こそは自我を失い、暴れる事あれど時間経過と共に力を増幅させ、かつ制御下に置く事が可能になる。最も悪魔の力を制御する事は無理に等しい。ましてや人の身でそれを制御下に置くなど尚更。

現にヘル=コマンドの姿は醜悪な姿をしている。その醜悪な姿こそ悪魔の力を制御出来ていない証拠と言えた。

 

「ガラクタ共に、只の人間に、半端な力を持った奴に…悪魔の力を得た俺に勝てる訳がない!」

 

ヘル=コマンドの背から触手が飛び出る。

狙う先はブレイク。この中で彼が一番厄介と判断した為。

このまま彼が破れてしまえば、外部迎撃部隊に勝ち目はない。

迫りくる触手。身構えるブレイク。しかしその攻撃は彼に届く事はなかった。

 

「!?」

 

「!」

 

飛来する斬撃。触手を一閃し、斬り落とされた一部が宙を舞い、地に落ちる。

その場に居た誰もが斬撃が飛んできたであろう方へと向く。そこに居たのは、ヘル=コマンドが破壊し大きく開いた壁穴から、青い刺繡が施された黒いコートを揺らめかせ、動作を終えた状態を維持しつつ、男…ギルヴァは下ろしていた顔をゆっくりと上げ、不敵な面構えで薄っすら口角を吊り上げる。

 

「貴様!」

 

「まだ終わっていなかったみたいだな。…それならば多少は楽しめるか」

 

体を立たせ、彼はその場から大きく跳躍。宙で一回転してブレイクの前に降り立つ。

遅れてきた事に思う所があるのか、ブレイクは彼に向かって不満を漏らした。

 

「おいおい。遅刻してきたってのに、主役気取りかよ」

 

「では―――」

 

斬り落とされた触手を無銘の刀身で払い上げヘル=コマンドへと返す。自身の一部を返されたヘル=コマンドがそのまま斬り落とされた部分を合体させる傍らでギルヴァは刀身を醜悪な姿をした悪魔へと突き付ける。

 

「あれがメインイベントに相応しいと?…前に言った筈だ。所詮あれはサプライズイベントに過ぎんと」

 

「…言われてみれば―――」

 

その台詞にブレイクの中で考えが変わったのか、リベリオンを担ぎながらギルヴァの隣に並び立つ。

 

「確かにそうだな」

 

それが合図になったのかギルヴァは無銘の切っ先を地に向け、ブレイクはリベリオンを担いだままヘル=コマンドへと歩み出す。

 

「俺に勝つつもりなのか?この悪魔の力を得た俺に!」

 

高々一人増えた程度で奴らが自分に勝てる筈がないという絶対的な確信を信じ、疑いもしないヘル=コマンド。

それ対し、ギルヴァは少し呆れた表情である事を伝える。

 

「まさか気付いていないとは…愚かにも程がある。その姿になった今でも力を制御していると本気で思っているのか」

 

「言うだけ無駄さ」

 

担いでいたリベリオンを下ろし、刀身の切っ先をヘル=コマンドへ向けるブレイク。

彼の体が赤い魔力が包まれ、その瞬間光が放たれる。ギルヴァの隣に立つは内包する魔の引き金を引き、魔人化を果たすブレイク。

 

「こういうのは体に教えてやらねぇとな」

 

「…」

 

そしてギルヴァも内包する魔の引き金を引く。

体から青い魔力が放たれ、光に包まれる。魔人化状態のブレイクの姿とは異なり、如何にも悪魔らしいと言えた。

羽織っていたコートは鱗の様な物になり、4枚の羽として広がる。

 

『これは…』

 

『あの二人も…もしかして悪魔…?』

 

本当なら引き金を引くべきではなかったかも知れない。彼らの事をあまり知らない者からすれば、ギルヴァもブレイクも自分達が相手してきた悪魔達と同じと認識してしまうからだ。

だが相対した悪魔達と二人には確固たる違いがある事を、404小隊のUMP45が無線で皆へ伝える。

 

『大丈夫よ。…二人はあいつらと違って―――』

 

 

 

 

 

 

『心は人のままだから』

 

 

 

 

 

「はああああぁぁっ!!」

 

「うおおおおぉぉっ!!」

 

無銘を振り上げ、リベリオンの刀身にへとぶつけ、雄叫びを上げながら駆け出すギルヴァ。

リベリオンを後ろへ引き、ギルヴァと同じ様に雄叫びを上げながら駆け出すブレイク。

二人が動き出した事を合図に外部迎撃部隊も攻撃を仕掛ける。

 

『いい加減悪夢は見飽きました。…そしてこれが最後の戦い!皆!ここで終わらせるよッ!この戦いを、悪夢を…全て!』

 

『『『『『『了解ッ!!』』』』』

 

舞台はクライマックスを迎える。

集った役者達によって悪夢は終焉を迎え始める。




予告
最終回operation End of nightmare Ⅴ    ―――決め台詞は?




次回でコラボ作戦最終回。
もう少しだけお付き合いください。



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Act56-Extra operation End of nightmare Ⅴ

―――決めゼリフは?


『撃って!撃ちまくって!』

 

己に内包する魔の引き金を引き、魔人化したギルヴァとブレイクが全ての元凶たるヘル=コマンドに突撃を開始したのを合図にシーナが叫ぶ。

最早当たってしまうとかどうこう言っている状況ではない。接近戦を仕掛ける二人が上手く攻撃を避けてくれる事を願いながら、外部迎撃組はヘル=コマンドに狙いを定め弾が尽きるまで発砲、銃弾の嵐を叩きつける。

そんな嵐の中を容易く潜り抜け、青と赤の悪魔狩人はヘル=コマンドに己の獲物を振るう。

駆け抜ける一撃がヘル=コマンドの体に切り裂き、確実なダメージを与え、襲い掛かる嵐が抵抗する暇を与えない。

只々一方的に攻撃を受け、自分の思い通りの展開にならない事に苛立ちを覚えたのか、ヘル=コマンドが激昂した。

 

「このッ…ガラクタ共があぁぁぁっ!!!!!」

 

放たれる衝撃波。

同時に勢い良く伸ばされる無数の触手達。その向く先はギルヴァとブレイクではなく外部迎撃部隊。

 

「ブレイク!」

 

「あいよ!」

 

外部迎撃部隊に攻撃が当たる前に個別に無数の触手を斬り落とし始めるギルヴァとブレイク。

だが思ったより攻撃が速く、全て斬り落とすに至らない。残った触手達が笹木一家、SPAR小隊とS09地区P基地の第一部隊へと向かって行く。

偶然にも三組は近くに居た事もあり、ギルヴァとブレイクは二手に分かれる事無く、そのまま攻撃が当たる前に彼、彼女達の前に飛び出す。

迫りくる嵐と化した触手の束。ギルヴァは背に背負っていたクイーンを引き抜くとそのままクイーンに自身の魔力を流し込む。対するブレイクはリベリオンを逆手に持ち、構えると同じく魔力を流し込む。

刃に流れ込む両者の魔力。段々と迫ってくる触手。そして二人が持つ剣の刀身が一瞬だけ光った。

まず最初に動き出したのはブレイクだった。

 

「そらっ!」

 

勢い良くリベリオンを振り上げると流れ込んだ魔力が斬撃となって放たれる。

 

「もう一つ!からのオマケだ!」

 

続く様に放たれた魔力の斬撃。三度放たれたそれは触手達を容易く切り裂いていく。

そしてブレイクの隣にいたギルヴァも動き出す。

 

「叩き込む!」

 

自身の右足を軸にし、勢い良く回転。そのまま勢い良くクイーンを振り上げ、続く様に無銘を振るう。

二振りの剣から放たれた魔力の斬撃がXの字の様に重なってブレイクが飛ばした攻撃に続く形で迫る触手を切り裂く。二人が繰り出した攻撃は無数の触手を全て斬り落としていき、それによってヘル=コマンドは触手による攻撃を封じられる。残されたのは手に持った大鎌による近接攻撃のみとなり、ブレイクはそのままヘル=コマンドに突撃。ギルヴァは無銘に頼る事にしたのかクイーンを地面に突き刺してから後に続く。

 

「ええぃいやッ!!!!」

 

刀身に魔力を纏い、リベリオンによる突きと突進を織り交ぜた技「スティンガー」が、ヘル=コマンドを大きく後退させ、そこにエアトリックでヘル=コマンドの頭上にギルヴァが姿を見せる。

空中で体を捻らせ、強烈な一撃を叩きつけヘル=コマンドの大鎌の一つを破壊し、地に付くとそのまま居合の態勢を取り、地面を勢い良く蹴る。目に追えない速度で繰り出される真空刃が悪魔に身を捧げた男の体を切り裂く。

そこに追撃を仕掛けるかの様に頭上から複数の幻影刀と降らせ、一瞬だけであるが動きを封じる。

その一瞬を付く様にブレイクがフォルテ&アレグロを構え、高速連射。魔力を帯びた弾丸が次々と放たれていくがヘル=コマンドは器用に大鎌で防いでいく。

 

「二人共どいて!!」

 

その時だった。

S10の第一部隊部隊長FALが二人に向かって叫んだ。

彼女は榴弾を装備している。ギルヴァもブレイクもそれを知っており、即座にその場から飛び退く。

射線が開けた瞬間、FALを筆頭に榴弾持ちの戦術人形による砲撃が始まった。次々と放たれる榴弾がヘル=コマンドに襲い掛かり、爆発が幾度もなく連鎖する。爆発に伴って舞い上がる爆炎と煙。しかしまるで何事もなかったか様に煙が大鎌によって振り払われる。

 

「所詮道具でしかない奴らに何故お前らはそこまで力を振るう!?何故無駄だと気付けねぇんだよ!!」

 

決して無傷などではなかった。攻撃を受けた箇所からは血と混じったかのような砂を零れ落ちている。

だが往生際が悪いのか、ヘル=コマンドは大鎌を構え、ギルヴァとブレイクに襲い掛かる。

襲い掛かる一撃を受け止める二人。そこに遠方から青き閃光が二人の間を駆け抜ける。。

それは代理人のニーゼル・レーゲンの狙撃によるもの。放たれた一撃はヘル=コマンドの顔半分を吹き飛ばし、態勢が崩される。

 

「無駄じゃねぇさ。ま、今のお前に言ってもな…」

 

「彼女達を道具として見ていない点で分かる筈もあるまい」

 

「それも…そうだなッ!」

 

態勢が崩れた一瞬の隙を見逃す事無くブレイクがヘル=コマンドの大鎌を持っていた腕をリベリオンで斬りおとす。これで攻撃手段は全て封じられる。しかしまだ諦めるつもりはないのか、残された片腕を振り回す。攻撃が届く前に二人はその場から後退。

体の各所から血が混じった砂が吹き出しがならも抵抗の意思を見せるヘル=コマンド。魔人化の持続時間に限界が訪れたのか、二人も魔人化が解除されるが攻撃を止める事はない。

お互いが持つ獲物をヘル=コマンドの胴に向かって鋭い突きを叩き込み深くまで突き刺さる様に押し込む。だがこれでも止めに刺すに至らず、引きはがすか様に暴れ出すヘル=コマンド。

それによって吹き飛ばされるギルヴァとブレイク。何とか態勢を立て直し着地するものの、無銘もリベリオンもヘル=コマンドに突き刺さったまま。そこにギルヴァの後ろからフードゥルとM16A4が、ブレイクの後ろからオサム・アマラキを飛び出し、ヘル=コマンドに突撃。

 

「M16A4殿、ゆくぞ!」

 

「了解!」

 

先を行くフードゥル。近くまで接近すると雷を発生させ、ヘル=コマンドに落雷を叩きつけると後から続いたM16A4がフードゥルの背を足場にしてヘル=コマンドに向かって跳躍。そのまま上に乗っかると取り付けた銃剣をヘル=コマンドの頭部に力の限り突き刺し、引き金に指をかける。

 

「いい加減…倒れろよッ!!!!」

 

銃剣を突き刺したまま状態で零距離で鉛弾を叩きこむM16A4。暴れるヘル=コマンドに振り落とされる様に踏ん張りながら、何発も鉛弾をぶち込んでいく。

 

「ぬんッ!!」

 

M16A4を振り落とそうと暴れるヘル=コマンド。そこに大ぶりな斧を両手に構えオサム・アマラキがそれを勢い良く振るい強烈な一撃をその歪んだ顔面に叩きこんだ。そして追撃と言わんばかりにコルト・ガバメントを引き抜き、装填されている弾が尽きるまでヘル=コマンドの胴体に撃ち込む。

 

「てめぇらッ!そこを退けええええええぇッ!!!」

 

空から響いた声。

誰もが空を見上げると、ギルヴァが置いていったクイーンを手に、剣先を下へと突き立てヘル=コマンドに向かって急降下してくるノアの姿。推進剤が青い炎をなって噴き出し、それが推進力となって、まるで隕石の如く落ちてくる。巻き込まれる前にフードゥル、M16A4とオサム・アマラキはその場から飛び退き、離脱。

そして上を見ていたブレイクはニヤリと笑い、ギルヴァはノアの手伝いをする事にした。

彼女の周囲に展開される複数の幻影刀。刀が向く先は下にいるヘル=コマンド。それを見てノアはニヤリと笑った。

幻影刀を雨の如く降らせる技「五月雨幻影刀」が彼女の急降下に合わせて共に降り始める。先に幻影刀の雨がヘル=コマンドに降り注ぎ、動きを封じる。そしてそこにもう一筋の雨が降った。

二つの雨が降った事をかけたのか、彼女は技名を叫ぶ。

 

「ダブルレインッ!!」

 

その瞬間、強烈な一撃がヘル=コマンドに叩きつけられる。爆炎が周囲に広がり、その衝撃により突き刺さっていた無銘とリベリオンが本来の持ち主とは別の者へと飛んで行く。

リベリオンはギルヴァの方へ、無銘はブレイクの方。二人はそのまま飛んできたそれらの柄を掴むと、まるで使い慣れている様な動きで振るい、構えると地を蹴りヘル=コマンドに突進する。

二人が動いた事を察知したノアはクイーンを引き抜き、その場から離脱。

リベリオンを突き立てるギルヴァ。無銘を逆手で持つブレイク。宙へと身を投じ、ヘル=コマンドに迫る。

その瞬間二つの剣筋が奔り、その一撃はヘル=コマンドに片膝を着かせる。

それを背に、二人の悪魔狩人はお互いの愛刀と愛剣を返してもらい、一人は鞘に納め、もう一人は背中へと納めた。そして長かった戦いに終幕の時が訪れた。

腰に配置したホルスターからフォルテとアレグロを抜き、何回か回転させてから止めを刺そうと二丁を構えるブレイク。それを察知したのかヘル=コマンドが背から隠し残していた触手を飛ばし、彼が左手に持っていたフォルテを弾き飛ばす。しかし飛ばされたフォルテをギルヴァが左手でキャッチ。そのままブレイクと共にヘル=コマンドへと狙う。

 

「45から聞いたぜ?こういう時に言う”決めゼリフ”があるんだってな」

 

「…ふっ」

 

ニヤリと口角を吊り上げるギルヴァ。

そしてブレイクの台詞が45の無線にも届いており、彼女もまたギルヴァと同じ様にニヤリと口角を吊り上げた。

 

「このッ……うががああああああああっっ!!!!!」

 

下される一撃がすぐそこまで来ている事に大きく叫ぶヘル=コマンド。

しかしそれが決して止まる事はない。

 

二人が動く―――

 

お互いに背中合わせとなり―――

 

ブレイクが持つアレグロの上に横に構え寝かせるか様に重ねるギルヴァが持つフォルテ―――

 

そして無線越しに45が二人に問う―――

 

『”決めゼリフ”は?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「―JACK POT!(ジャックポット!)―」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決め台詞と共に響く銃声。

放たれた赤と青の弾丸がヘル=コマンドを穿った。

 

「俺は悪魔の力をぉぉぉぉ!!!!」

 

最期まで悪魔の力に固執していたのか断末魔と共に消失するヘル=コマンド。

その最期を見て、ブレイクにフォルテを放り返しながらギルヴァが呟く。

 

「散っていく台詞にして品性に欠ける台詞だ」

 

その時だった。

朝日が昇った。その輝きは全てを照らし、長かった戦いに勝った者達を優しく包み込む様に。

まるでそれは悪夢が終わった事を告げているようでもあった。張りつめた緊張が少しずつ解かれていき、装甲車に居るシーナが全員へと無線を繋ぐ。

 

『作戦完了。…皆、お疲れ様。休憩しよっか』

 

歓声が上がる。

長かった戦いは終幕を迎えた。

 

―終わったな?

 

(いや…まだ少しやり残したことがある)

 

―ん?

 

(どうやら…どさくさ紛れて余計な物をお持ち帰りしようとしている無粋な奴にいるみたいだ)

 

誰もが仮拠点へと戻り始める中、ギルヴァはバレない様にそっと基地の外れへと歩き出していった。

 

 

基地の外。

そこには巨大な兵器とコンテナが置かれていた。長時間にも渡る戦闘があったにも関わらず、しっかりとした足取りで彼はそこへと近づいていく。

 

「やはりか」

 

―これって…H&R社のだよな。それにコンテナの中にいるのは……おいおい、まさか

 

「そのまさかだ」

 

鍔を親指で押し当て、鯉口を切り居合いの構えを取るギルヴァ。

そしてそのまま神速の抜刀術と無銘の能力を用いて、コンテナ内に居る悪魔達に対し、次元斬を連続して繰り出す。

中では動けずにいるのだろう。繰り出された次元斬により一体と、また一体と悪魔の反応が消えていくの感じ取るギルヴァ。コンテナの中にはヘル=バンガードも居たのだが、弱っていたのか次元斬に斬り刻まれ絶命する。

コンテナ内に居た悪魔達を全て斬り伏せ、ギルヴァは刀身を鞘に納めるとその場から後にし、皆が居る仮拠点を歩き出す。

 

「理由を聞くつもりはないが…あの社長には警告だけはしておく必要があるな…」

 

 

 

 

「あ、ギルヴァさん。何処に行ってたの?」

 

ギルヴァが仮拠点に戻り、Devil May Cryのネオンサインが取り付けられたバンでシーナと部隊の面々、404小隊、デビルメイクライの面々が代理人が淹れたコーヒーを飲みながら休息を取っていた。

そこに彼が戻ってきた所をシーナが迎える。

 

「少しな。H&R社のリホ・ワイルダー氏は見たか?」

 

「うちに何か用か」

 

後ろから聞こえた声。

聞こえた方へと振り向くとそこにはギルヴァが探していたH&R社のリホ・ワイルダーがいた。

 

(これは…。それにこの気配。…成程、彼女は鉄血のハイエンドか)

 

彼女から感じる気配を察知しながらも決して無銘の柄を握る事はせず、ギルヴァは彼女の目を見て、伝える。

 

「…好奇心は猫を殺す。…余計な物を持ち帰る事はしない事だ」

 

「!…な、何の事やろか」

 

「…隠し通せる事だと思わん事だ。それに先手を打たせてもらった」

 

「なっ…!?」

 

「あれをどう利用するかは知らん。だがそちらがあれを使って害をもたらす様な事を考えているのであれば……その時はためらう事無く斬る」

 

「…」

 

「以前にも協力してもらった事がある。こちらとてそちらとの関係は良好な状態を保ちたい。…だが悪魔が関わる事となれば、行動は慎重に選ぶ事だ」

 

「…肝に銘じておくわ」

 

「それがいい。…努々忘れん事だ」

 

伝える事を伝えて、彼女に背を向けて今回作戦に協力してくれた者達に挨拶しに歩き出していった。

まず彼が挨拶にへと向かったのは、S09地区P基地の面々だった。彼女達の中で面識のあるM1895の元へと向かうと向こうも気付いたのか、手を振った。それに対し、ギルヴァも手を上げて返すと彼女に挨拶する。

 

「作戦の参加、感謝する。世話になった」

 

「何、気にするでない。…まぁ少しだけ頭を抱えたがの」

 

「悪魔となれば無理もない。…ユノ指揮官にも伝えてくれ。作戦の参加に感謝するとな」

 

「うむ、了解じゃ」

 

それに頷き立ち去ろうとした時、ふと彼はある人物に呼ぶ止められる。

声がした方に振り向くといたのはクイーンを手に持ったノアだった。彼女の姿を見て、ギルヴァの中にいる蒼が疑問の声が上げた。

 

―この嬢ちゃん…何ていうか、あの指揮官に瓜二つじゃねぇか?

 

(かもな。だがその事について聞く必要はあるまい)

 

「これ返すぜ。元々はあんたのだろ?」

 

「ああ。…使い心地はどうだった?」

 

「まぁ悪くなかったぜ。使う奴は選ぶだろうけどよ」

 

「だろうな」

 

クイーンを背に背負い立ち去ろうとするギルヴァ。そこで何かを思い出したのかノアがある事を問う。

 

「お前はあいつらと同じ悪魔なのか…?」

 

「どうかな。…だが分かってるのだろう?見る限り利口そうだがらな」

 

そう言い残して彼は立ち去る。次に彼が向かったのはU05基地の面々の笹木一家。中でも笹木奏太とは面識がある事からギルヴァは彼へと声を掛けた。

 

「笹木」

 

「ん?おお、ギルヴァか。どうかしたか?」

 

「作戦の参加の礼にな。今回も世話になった」

 

「良いって事よ。…なぁ、一つ聞いて良いか?」

 

「何だ」

 

「…あんたもブレイクもあいつらと同じ悪魔なのか?」

 

「…聞かなくても分かっていると思うがな」

 

そう告げてギルヴァはそこから立ち去ろうとするが、少しして足を止める。

 

「俺やブレイクがあいつらと同じ悪魔ではない。…その理由は自分で考える事だと言いたいが、一つヒント教えてやる」

 

「…それは?」

 

「誰かの為に戦い、誰かの為に涙を流す悪魔もこの世に居るという事だ」

 

もはやそれは答えとも言い切れるヒントであるがギルヴァはそのまま立ち去る。

義勇兵へとして参加してくれたM16A4に声をかけ、参加の礼を述べ、彼からある事を聞かされる。どうやら彼はH&R社のリホ・ワイルダーに不信感を抱いている事を。ほんの少しだけ彼の過去を聞き、それを聞いた上でギルヴァが答える。

 

「何を考えているかは知らんが問題はないだろう。向こうと協力したのもこれで二度目となる」

 

「…」

 

「無理にとは言わん。…どうするかはお前次第だ」

 

この後、彼は途中参加してくれたオサム・アマラキを礼を伝えようとしたのだが、作戦終了後、彼は早々に本来の目的を遂行する為にこの場から立ち去っていた。彼はここの指揮官に盗られたものを回収すべくこの作戦に参加していた事を聞いたギルヴァ。そのまま探しに行くことせず、心の中で礼を伝えた。

後にここの副官を務めていたGr MG4がS10前線基地の面々と合流する事となる。どうやら今回の作戦にて彼女はモハビ・エクスプレス社にある依頼をしていた。

それは自分以外の戦術人形達を基地の外に連れ出す事。そしてその報酬として自分を報酬としていた事を。

その事は参加していた面々全員に伝えられる。しかし報酬であるMG4を何故受け取らなかったのか…それを知るのはこの場に居ない運び屋だけだろう。

 

こうして若干の謎を残しつつ作戦は終了する。

後にS11地区後方支援基地の事後処理の為残ったS10地区前線基地の面々と便利屋デビルメイクライ、404小隊の面々はここの地下で眠っていたある人形とで出会うのだが、それはまたの機会に語られるとなる。




これにてコラボ作戦終了です!
運び屋さん何故報酬を受け取らなかったのか…その理由は向こうが上手くやってくれる筈(ぶん投げ
リホーマー、ギルヴァさんを怒らないであげてね…。その代わりあの二つはあげるから…

今回大型コラボ作戦参加して下さった焔薙様、Warboss様、oldsnake様、ガンアーク弐式様、イナダ大根様、本当にありがとうございました!
内容とか色々あって参加して下さった方々に沢山ご迷惑をおかけしてしまいましたが、それでもとても楽しかったです!
そして今回コラボ作戦に参加して下さった方々には特別報酬を進呈したいと思います。
詳細は活動報告にてご報告させていただきます。

次回はこちらで考えたオリジナル人形を出そうかと…ま、それについてはいずれ


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Act57 Sleeping Princess

大規模作戦は無事完了し、事後処理の為残ったS10地区前線基地の面々
S11地区後方支援基地を完全に破壊する前に、ギルヴァはある探し物をしていた。





大型コラボ作戦のその後です。
最後辺りで大型コラボ作戦に参加してくれた面々の事にシーナが少しだけ語ります。


S11地区後方支援基地。

大規模作戦が終わりをつげ、S10前線基地のシーナを含めた面々は事後処理の為、ここに残っていた。

当然ながらデビルメイクライのメンバーも残っており、その事後処理を手伝っていた。

U05基地から除染剤と火炎放射器をいくつか貰っており、幾つかの班に分かれて、各々が与えられた作業をこなすのだが…それが行われる前にギルヴァを含めた即席で結成された残党狩り部隊が基地の内部に探索に当たっていた。メンバーは、ギルヴァ、AUG、64式自、MG5、M1895の計五名。

そしてギルヴァを省き、この中で内部に突撃した64式自がそっと呟く。

 

「何もなかった様に嫌な感じが消えてるね…」

 

乗り込んだ際に、64式自は気味が悪い何かがまとわりついてくる感覚をその身で感じていた。

忘れそうにもないそれは元凶が討たれた事もあってかそれはまるで嘘だったかの様に消えていた。

それを隣で聞いていたM1895が答える。

 

「ほぼほぼ片付いておるからの。じゃがこうして残党狩り部隊を組んだのも、何が訳があるのじゃろ?ギルヴァよ」

 

全員の視線が先を行くギルヴァに向けられる。

そう、ほとんど悪魔の気配がないにも関わらず残党狩り部隊が編成されたのはギルヴァがシーナに頼み込んだ事がきっかけだった。呼ばれたメンバーも事情は聞かされておらず、先行して歩く彼の後を追うばかり。これでは時間の無駄だと言いたくなるのだが、そこにMG5が冷静に判断して皆に伝えた。

 

「もしかしたらあいつは何か感じているかも知れん。私達戦術人形では感じられん何かをな」

 

現に魔力を感じる事を出来るのは、デビルメイクライのギルヴァとブレイク、そして魔界出身のフードゥルとグリフォン、そしてこの場には居ない後方幕僚のマギーのみ。

また彼が何も無しにこんな事をするとは思えない事もあって、ギルヴァが事情を話すまで彼女達は待つ事にした。

そして今M1895がギルヴァに尋ねたのだ。

 

「そろそろわしらに理由を聞かせてくれんかの?なにゆえ残党狩り部隊など組んだのじゃ?」

 

「…そうだな。頃合いか」

 

そのまま彼は言葉を続ける。

 

「ここに足を踏み入れてから妙な気配を感じている。悪魔…とも言い切れん、妙な気配をな」

 

「悪魔とも言い切れん?」

 

「ああ。魔の気配は感じているが、そこに何かが混じっている。余りにも微々たるものなのか、それが人形のものか、あるいは別のものかはっきりしていないのが現状だ」

 

ギルヴァも曖昧な気配に少し困惑しつつあったのだが、何となくその正体が何なのか検討つきつつもあった。

 

(恐らく前者…そしてこの気配は鉄血の人形。それも…ハイエンドモデルのものだが…)

 

しかしギルヴァは断言できる程の自信はなかった。余りにもその気配が小さ過ぎて、完全に感知できないのだ。

距離が離れているのか、或いはその人形は何らかの理由で眠っているのか。どちらにせよ自分の目で確かめる他ないのは事実だった。

その一方で浮き上がってくる謎にも思考を巡らせていた。

 

(奴らが守ろうとしたのはここに眠っていた人形?…しかし何故守る必要があった?あの悪魔はともかく、ここの指揮官は人形をガラクタと呼んでいた。…それは鉄血の人形にも当てはまると思うが…)

 

謎が謎を呼ぶ。

考えていても埒が明かないと感じた彼は、一旦その事を置いておく事にした。

まずは執務室からと判断し、迷う事無くそこへと歩き出す。部隊のメンバーも彼の後を追い、ついていくのだった。

 

 

執務室。

悪魔へと変貌した指揮官が空けた大きな壁穴からは季節が季節という事もあってひんやりとした空気が流れ込んでおり、物が散乱した部屋に訪れたギルヴァ達より404小隊が先に訪れていた。

彼女達も、というより小隊長の45がここの構造に何やら引っかかる事があるらしく、ギルヴァ達と同様、シーナに許可を得て残党狩り部隊という名目で探し物をしていた。

その事を聞いたギルヴァは、表情を変える事はないものの不思議そうな声を上げた。

 

「ここの構造が変だと?」

 

「ええ。ここを偵察に来た時に取ってきた構造図は頭に入っているから、作戦時に内部に侵入した時はすぐにその違和感に気付けたわ」

 

「…つまりデータには載っていない部分が存在するという訳か」

 

「それが前々からか、私達が偵察した後に施した物かは分からないけどね」

 

「…ふむ」

 

データ上では存在しない謎の空間に、眠っている鉄血の人形がいるかどうかすら分からない。

だが謎の空間とやらにも興味を示した彼は探し物ついでに45の探し物にも協力する事にした。しかしデータ上に存在しない空間の入口とやらを探すのは困難を極めると言ってもいい。見極める方法としてはそこだけ壁の色が違うとか、妙なスイッチがあるとか…ゲームならではの事を現実で行う事になる。ましてやこの荒れ具合では見つけるのはもっと困難を極める。現にギルヴァと彼女達がそれを探し始めた結果、何の成果すら得られない状況が続いていた。途中でフードゥルが合流しつつも執務室から存在する部屋の隅々まで調べ尽くしたにも関わらず、謎の空間に繋がる入り口は見つからない。

メンバーが半分諦め状態になる中、とある部屋にて静かに地面を見つめるギルヴァ。その鄰でフードゥルは彼の考えに気付いたのか声をかける。

 

「主よ」

 

「ああ。いい加減面倒になってきた。…頼めるか」

 

「承知」

 

光に包まれ姿を変えるフードゥル。かつて見せた魔具へと姿を変え、籠手と具足がギルヴァの手脚に装着される。

一体何をする気なのかと、見守るメンバー。そして地面に向けて腕を引き上げつつ構えの態勢を取った瞬間、今から彼が何をする気なのか察した全員は急いで部屋へと飛び出し始めた。

 

「正気か!?」

 

「正気じゃのう。めんどくさりおってからに」

 

「まぁ…速いと言われたら…」

 

「これが速いですね」

 

「一番手っ取り早いよね~」

 

「だねー♪」

 

「あんたも動く!」

 

「グエッ」

 

バタバタと部屋を飛び出していく彼女達。

その間にもギルヴァはフードゥルから発せられる雷を溜め始める。段々とそれは激しくなり、気付けば風まで吹く始末。物が風によって舞い上がる中、冷静にただ一転に狙いを絞る。

そして発せられる雷が最大まで放たれた瞬間…

 

「フッ!」

 

雷を纏い、落雷を落とすかのように勢い良く地面に向かって拳が叩きつけられた。

その衝撃は破砕音と共に地面に亀裂が入り、その直後に轟音と共に地面が崩落した。その音と衝撃は外で待機していたシーナ達の所まで届き、のんびりコーヒーを飲んでいた彼女はその音についびっくりし、こぼしそうになるが何とか抑え、即座に無線で大声で話しかける。

 

「い、今のなに!?何が起きたの!?」

 

『落ち着いてくれ、指揮官。…どうやら彼が地面を思い切り殴って叩き割ったみたいでな』

 

「え、えぇ…?」

 

シーナの無線に答えたのはMG5だった。

彼女は起きた事をありのまま伝え、それを聞いたシーナは思わず表情が引き攣らせた。

後でやる事をやったら、ここは爆破する予定なのだからいっか…、と軽く考える事を放棄しかける彼女だった。

その頃、地面を叩き割り謎の空間に降り立ったギルヴァは周りを見回していた。彼の視界に映るのは、大型トレーラーの荷台に未完成のまま放棄されている幾多の兵器が積まれており、中には魔具のようなものまであった。しまいには大型機動兵器らしきものまで積まれているのだが彼が気にしていたのは、人一人が入るには十分な大きさの鉄の棺桶の中で眠る一体のハイエンドモデルの存在。

 

「やはりか…」

 

―一発で目覚める目覚まし時計を鳴らしたというのに、目を覚ましてないとはな。それにこの眠り姫…

 

「ああ」

 

未だに眠り続ける人形をじっと見つめるギルヴァ。

実際に見て確信が得られたのか、そっと口を開く。

 

「俺やブレイクみたいなその身に悪魔の血を流す者、純粋に魔界生まれの者…それを反する様に魔力を持った人形とはな。人形としての気配が微々たるものだったのは、眠っていた事が原因か。魔力が薄っすらなのも、その事が原因か。…どうやらあの魔工職人、この人形に色々やってたみたいだな」

 

―あの虫みたいな姿でか?…想像してたくもねぇな

 

「同感だ。…目覚める兆候がないならこちらとしても助かる。こいつはこちらで引き取るべきだろう。鉄血に、ましてや他の誰かに取られるのは不味い。…耐えられるかは知らんが最悪魔力による暴走もあり得るのでな」

 

―まぁそんな事されたら鉄血も困るだろうしな。それにマギーへのお土産も出来た

 

「…そうだな」

 

同意しつつもギルヴァはもう一度大型トレーラーの方を見る。

荷台にはマギーが喜ぶであろう物が大量に積まれている。それに加え、鉄血のハイエンドモデル(眠り姫)となればきっと彼女は飛びあがるであろう。さっさとこれらを地上に持ち運ぶ必要があるな、と内心を呟きながら彼は無線を使ってシーナへと連絡を入れるのだった。

後に地上へと上がる隠し通路が発見され、鉄血のハイエンドモデルも持ち出される事となる。その事に関して色々議論となるのだが、暴れ出す様であれば自分が斬り捨てるとギルヴァが発言した為、事なきを得るのだが、その直後に代理人からある事を告げられる。

それは―――

 

 

 

 

今回発見されたハイエンドモデルは自分ですら見た事がない、と。

 

 

 

 

この後大型作戦の事後処理を終えた後、持ち帰った物はマギーへと渡される事になる。

その時に限って、あのマギー・ハリスンがハイテンションになっていたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

―ちょっとした余談―

 

発見されたものを地下から地上へと運ぶ運搬作業が交代制で行われていた時の事。

休憩していたシーナの隣に休憩をしに来たギルヴァが立った。シーナは彼にお疲れ、と一言かけふと彼女は今回の作戦で思った事を話し始めた。

 

「参加してくれた人達、皆凄い人達ばっかりだったなぁ~…。凄すぎてちょっぴり自信なくしちゃったし、まだまだだなぁ、私…って思っちゃった」

 

「…」

 

語り始めたシーナに対し、ギルヴァは返答はしないものの黙って聞き役に徹する事にした。

 

「S09地区P基地やU05基地とか私達の所の倍の戦力を持ってたし、それに加えて部隊の実力も凄く高い。ベテランというのはこういう事を言うのかもね。義勇兵として来てくれたM16A4さん、M14さん、そして途中参加だったけれどオサム・アマラキさんも凄かった。悪魔を初めて見るのに勇敢に立ち向かって…作戦に協力してくれた」

 

「…」

 

「H&R社のリホ・ワイルダーさんは…まぁ裏で何かしてたけど…」

 

「けど?」

 

「私は信じているから、あの人を。だって最初の共同作戦の時、協力してくれたから」

 

それ以外の理由がいる?と言わんばかりの目線をギルヴァへと向けるシーナ。

軽くため息を吐きつつもギルヴァは小さく笑みを浮かべた。シーナ・ナギサという女性にはかなわない、と。

 

「…それに運び屋さんとイエスマンさんは…えっと……あはは…」

 

苦笑いを浮かべるシーナ。

何か直感的な所で思う所があるのか、それ以上の事は言わなかった。

流石にこのままでは不味いと思ったのか彼女は別の話題へと切り替える事にした。

 

「今思ったんだけど…」

 

「ん?」

 

「今回協力してくれた面々がさ、ギルヴァさんとブレイクさん相手に模擬戦したらどうなるんだろう?」

 

「…ほう」

 

そう小さく漏らしたギルヴァの雰囲気が変わる。

彼とて戦闘マニアという訳でない。ただ実力もある者達と模擬戦をするのは悪くないと感じたからだ。

 

「…少しは面白そうだな」

 

最もそれは実現する事は難しいだろう。

何故なら隣で立っていたシーナが何であろうと実現させないと決心していたからだ。

しかしその決心の中で、彼女はある事を気に掛けていた。

 

(アップルパイ…皆美味しく食べてくれたかなぁ…?)




運び屋にイエスマン…許せ…(焼き土下座

因みに模擬戦が実現したら、ブレイクは絶対に挑発を入れる。ギルヴァに至っては幻魔人化、幻影刀、次元斬を出す事は無くてもエアトリックからの接近戦をやらかすと思う。

さて次回から暫くは謎の鉄血のハイエンドモデル関連で行くぞ。
マギーが盛大にやらかしにかかるぜ…


ではではノシ


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Act58 Unnamed doll

大規模作戦のその後…。
ギルヴァ達はいつもの日常へ。
そして発見された謎のハイエンドモデルの調査に代理人とマギー、そして95式が動いていた。


S11地区での作戦が終了し、無事事後処理も終えたその後…。

発見された謎の鉄血のハイエンドモデルに関してはマギーと代理人の二人により調査が始められる事となり、結果が伝えられるまで時間を要する事もあり、自分達はいつも通りの日常へと戻っていた。とは言え何もなかった訳ではない。まず一つ目はブレイクがここを離れ便利屋「Devil May Cry S10地区第一支店」へ移動した事だ。本来であればもっと早く移動する予定だったのだが、大規模作戦もあってその予定が後回しになっていた。そして時間が取れた事もあり、彼は第一支店の方へ移動していったのだ。

とはいえここと第一支店との距離はさしてない。こちらが基地に隣接しているに対し、第一支店は基地から離れ、町の方へと移動したぐらいで行こうと思えばいつでも向かう事が出来る距離だ。

それにあいつもあいつで便利屋を開くつもりでいたので、それが叶ったのは良い事だと思うべきだろう。

そしてここ便利屋…というよりもS10地区前線基地に新たな戦術人形達が配属された。とは言っても以前から配属予定だった95式、AUGの二人加え、元S11地区後方支援基地所属のGr MG4が属する事となった。またS11地区後方支援基地に所属していた他の戦術人形達の処遇に関しては後日指揮官の元に連絡されるそうだ。

それとは別に前線基地に関わらずS10地区前線基地はヴァルハラ(楽園)だと戦術人形達の間では少しばかり噂になっているらしい。その理由としては細かくは知らないが所謂"黒"と称される基地にて指揮官に酷い扱いを受け、ここを属する事となった戦術人形達がそう噂しているのだとか。確かに黒に属していた時と比べればここは楽園とも言えるだろう。聞いた話ではここの属する戦術人形達の三分の一は元"黒"に属していた経緯があるそうだ。その中にはあのFALもその一人だったらしい。ここに所属する事になったのも指揮官の悪行がグリフィンによって暴かれた事により解放され、のちにまだ発足して短い此処に戦力補充という意味で配属されたというらしい。

もっとこれは聞いた話に過ぎない。間違いはないと思うが、だからといって事の顛末を本人に聞こうとは更々ない。

ブレイクの移動、新たに配属された人形達、それでもここは変わらない日常を過ごす。現にここデビルメイクライには大規模作戦以降依頼が舞い込む事がなく、のんびりとした時間を過ごしていた。

 

「~♪~♪」

 

膝に座り、こちらが読んでいる本を一緒に読んでいる45の鼻歌を聴きながら次のページへとめくる。

9はニャン丸とグリフォンと戯れ、416は読書、G11に至っては体を丸めて休んでいるフードゥルの背に捕まり、ふさふさの毛並みに包まれがら眠りについていた。背中に乗られてもさして苦に感じてもおらず、それどころか自身の尻尾を抱き枕代わりに眠っているG11に優しく被せるフードゥル。

ちなみにだが95式は代理人とマギーの手伝いに赴いている。恐らく解析に没頭する余りに食事面が疎かになるのではないかと感じたのだろう。料理も出来る事もあって、手伝いに行った。

 

「にしてもあの代理人ですら見た事のないハイエンドモデルだなんてね」

 

本の内容も中盤に差し掛かった時、45が発見された謎のハイエンドモデルの事について言及した。

立場状、鉄血の中での代理人の地位は極めて高い事ぐらい考えなくても分かる。故に高度な権限も有していたに違いない。それにも関わらず、代理人が見た事がないという事は誰もが不思議に思っても可笑しくないだろう。

 

「鉄血の新型かしら」

 

そのセリフが聞こえていたのか読んでいた本を閉じ、こちらへと歩み寄り書斎の上に腰掛ける416。

その問いについて45は本の内容を読みながら、答えた。

 

「さぁ?でもあの代理人が知らないとなればそうじゃない?」

 

確かにそう考えるのが妥当と考えていいだろう。

しかしだ。新型を奪われる様なヘマなど鉄血がするだろうか…。

 

「どうかな」

 

「ギルヴァ?」

 

異議を申し立てた事により45と416の視線がこちらへと向けられる。

その理由は?と二人の目が問いかけてくる。

 

「普通であれば新型と考えるのが妥当だろう。…だが、その逆という事もあり得なくもない」

 

「…つまり破棄された?」

 

「破棄されたのであれば代理人も覚えているだろう。俺が言いたいのは計画だけで終わったハイエンドモデル、という事だ」

 

「ペーパープランってやつね。…もしそれだけ終わったのなら、どうして製造されているのかしら?」

 

「さあな…。それは向こうの調査が終わるまで待つしかあるまい」

 

ここで考えた所で只の予想でしかない。調査結果報告が来るまで待つしかない。

それに今日は休みだ。本を読み終えたらカフェでも向かうとしよう。

 

 

その頃…。

 

「ふぅ…中々に進みませんね」

 

基地内部、仮調査室という名の第二格納庫でPCを操作していたマギーがそう呟いた。

調査を開始して彼是三時間経過しており、持ち出された武装、魔具等についてはある一定の情報は得られたのだが、謎のハイエンドモデルについては現状めぼしい情報は得られずにいた。

椅子の背凭れつつ大きく背伸びずるマギーの元に代理人が現れそっと淹れたての紅茶が入ったカップを机の上に置いた。

 

「ああ、すいません」

 

「いえ。…少し休憩しましょうか」

 

「そうですね。95式も少し休憩しましょう。代理人さんが美味しい紅茶淹れてくれましたよ」

 

部屋の奥の方で情報を得られた武器、魔具を仮ウエポンラックにへと運搬、整理をしていた95式。マギーに呼ばれると分かりました、と答え作業を中断して、二人の元へと向かった。

ここが格納庫という事もあり、部屋自体はかなりの広さがある。その広いスペースを利用し休憩スペースも設けている。とは言っても簡単な机と椅子が置かれているぐらいだが、無いよりかは十分と言えた。

三人はそれぞれの椅子に腰掛けると淹れたての紅茶を一口飲み、ほっと息を付いた。

 

「にしても魔具でしたか?それなりにありましたが…これだけの数をどうやって揃えたのでしょうか?」

 

「大体は…いえ、ほとんど盗品ですよ、95式」

 

「えっ…盗品!?」

 

魔具のほとんどが盗品だとマギーから聞かされた95式は驚きの声を上げた。

ギルヴァと共にアグリットを対峙した時に、本人自ら魔工職人だと名乗っていたので彼女はここにある魔具のほとんどがあの者によるものだと思い込んでいた。

それもその筈、軽く10以上はあるであろう魔具のほとんどが盗品だと誰も思わないだろう。そしてマギーから驚きの発言が飛び出る。

 

「ちなみに製作者は私ですけどね」

 

「「えっ!?」」

 

何気なしに飛び出た発言に、近くで聞いていた代理人も95式と共に驚きの声を上げた。

魔具のほとんどが盗品で、その魔具を作ったのが目の前でのんきに紅茶を飲んでいる魔工職人。

管理体制があまりにもザル過ぎませんか?と内心思う二人だが、それを知ってか知らずか補足を入れる様にマギーはある事を伝える。

 

「大丈夫。例え盗まれても悪用されない様に魔術を施してありますので。本人がその術式を解かない限り、使用も分解も出来ない様に施してありますから」

 

「いや…笑顔で言われても…」

 

95式の台詞に頷く代理人。あはは…と苦笑を浮かべるマギー。

すると彼女はこの部屋を大きく陣取っているある物へと視線を向けた。それが気になったのか代理人がマギーへと声をかける。

 

「どうかされましたか?」

 

「まさかとは思っていましたが…リヴァイアサンを未完成とはいえここまで持って行ったとは、と思いましてね」

 

「リヴァイアサン…?もしかしてあの大型機動兵器の事ですか?」

 

「はい。こちらの世界で言うと対拠点用重装型高機動戦略兵器…それがリヴァイアサンです。設計だけはしていたのですが、結局は作らず仕舞い。まさかあれの設計図を盗まれていたとは思いもしませんでした」

 

(そういうのはちゃんと厳重管理しておくべきなのでは…)

 

傍で聞いていた95式の内心で呟いた意見は最もである。

寧ろリヴァイアサンと言われる大型機動兵器が敵として出てこなかっただけマシと言えよう。

もし完成しており敵の手で運用されていたのであれば、以前の作戦は長期に及んでいたであろう。

 

「あっちに居た時は周りからあれを作れ、これを作れ…無理難題な注文を押し付ける輩ばっかりでしたから…。ある意味自暴自棄になっていたんでしょうね。自分の作った作品ですら守れない様であれば魔工職人として失格です」

 

人間界に来てからは作った作品の管理はちゃんとしているんですどね、と言いながら紅茶に口を付けるマギー。

彼女にとって魔界は少し息苦しい時があったのだろう。逆にこの人間界は生きやすいのかも知れない。好きなように作品を作って、たまに注文を受けて生きていくのが彼女にとってはあっているのだから。

そんな姿のマギーを見ながら、ある事を思い出したのか代理人が手に持っていたタブレット端末を操作し、机の中央に置いた。画面には種別、使用武器等が記載されており、マギーも95式も興味深そうにそれへと覗き込む。

 

「全てではありませんが、彼女の事について一部だけ分かりました」

 

「これって…私が考える武器やら魔具以上にぶっ飛んでません?」

 

「どちらも同じかと」

 

迷う事無く代理人に一蹴されるマギー。

同じかぁ、と軽く項垂れる彼女の姿に苦笑しながらも95式がタブレット端末の画面に映し出されているそれを見て、思った事を口にした。

 

「なんていうか…凄いですね。全分野を一体に詰め込んだ様な…」

 

「はい。私もそういう風に感じました。まるでオールラウンダーを目指したかの様で…」

 

「これとかどうなっているんです…?こんな重装備…幾らハイエンドモデルとは言え不可でしょう?」

 

95式が指さしたのは、謎のハイエンドモデル用に設計された武装欄の一つ。

六銃身のガトリングガンを連装化した物を二梃、両肩には前後右左上に発射口が存在し、そこから無数のミサイルが発射される武器コンテナ、両脚部用のミサイルコンテナがあり、その側面もランチャーポッドが備え付けられている。また重量による機動力低下を防ぐ為か無限軌道ユニットまで備わっている。あまりの重武装っぷりに何と戦うつもりだと言いたくなる様な武装が謎のハイエンドモデル用に設計されていた。

 

「ええ。幾らハイエンドモデルでもこんな重装備は無理です。ですが彼女はそれが装備できるようになっている」

 

そして、と彼女は言葉を続ける。

 

「これらの武装は専用武装の一つに過ぎない…他にも専用武装があると考えられます。そしてここからは私の考察ですが…」

 

「何ですか?」

 

「彼女は計画だけ終わってしまった存在。その足で立つ事も許されず、名を与えられる事すら許されない…」

 

代理人は静かに目を伏せて、そして告げる。

 

名無しの人形(Unnamed doll)

 

だが謎は残る。

存在も名前も与えられる事すら許されなかった彼女が何故体を得たのか。

それが明らかになるにはまだまだ時間が要するのだった。

 

 

「お疲れ様ー」

 

休憩を終え、再び作業を再開した三人の元にシーナが尋ねてくる。

執務を終えたのか、お手製の焼きたてのクッキーを持参しており、甘い香りが漂う。

訪れた彼女にマギーが迎える。

 

「ああ、指揮官。お疲れ様です。おや、クッキーですか?」

 

「うん♪良かったらと思ってね。もしかして休憩し終えたばっかりだった?」

 

「つい先程。ですが有難くいただきますよ」

 

「小腹がすいた時に食べてね」

 

焼き立てのクッキーが入ったバスケットをマギーに渡すと、シーナは武器、魔具の運搬をしている95式の方へ向かった。どうやら魔具というのが気になるのか、興味深そうに仮ウエポンラックに立て掛けられている魔具を見つめていた。そんな彼女の姿を見て微笑みがらも95式が隣に並び立つ。

 

「気になりますか?」

 

「うん、魔具というはあまり知らないからね。使う事はないと思うけど…一目見ておこうかなぁって思って」

 

「そうでしたか。私も魔具に関しては全く分かりませんが…色々ありますよねぇ…」

 

「だよねぇ…。これなんか凄そうに見るよ」

 

「少し禍々しいですけどね。…でも何故薔薇なんて咥えているでしょうか…?」

 

「さ、さぁ…?」

 

二人が見つけたのは髑髏が薔薇を咥え、まるで羽の様な何かがある魔具。

一体何のか分からない二人にマギーに彼女達に近寄り、その魔具を説明する。

 

「それは爆発する剣を無限に生み出す装置ですよ」

 

「「えっ…」」

 

「その名も…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルシフェル」




という訳でS10地区で「デビルメイクライ 第一支店」を開店。店主はブレイクが担当。
そして今後出るであろう大型機動兵器 リヴァイアサンと謎のハイエンドモデル用の専用武装の一つを出しました。

リヴァイアサンのイメージは某機動戦士語る事のA装備。
今回出てきた謎のハイエンドモデル用の専用武装のイメージは…まぁ分かるかな?(オリジナル設定ぶっこんでいるけど

そして最後に出てきた魔具…。誰が使うかなんて分かるだろ?


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Act59 Christmas tree of memories

12月、冬。
S10地区前線基地内部のカフェにてクリスマスツリーの飾りつけが行われていた。


謎のハイエンドモデル関連ではない。
そして今回は飛ばし飛ばしだ。許せ…(焼き土下座


季節は12月。この時期はとても寒く、寒いのに弱い者からすれば温かいベットや部屋から一歩も出たくない季節。

とはいえ冬は悪い事ばかりではなく、クリスマスという12月ならではのイベントがある。

その事もあってか、町へと出ればクリスマスツリーを置いたりクリスマス用の飾りを施す店を見かける様になっていた。そして店に隣接されているS10地区前線基地内部のカフェではクリスマスツリーが置かれており、非番の戦術人形やカフェに訪れていた戦術人形がナギサ指揮官と共にツリーの飾りつけを行っていた。その中には404小隊も混ざっており、45と9が寝ているG11に装飾を施すといういたずらをやっているのは見間違いではないだろう。

賑やかな空間にて偶々カフェに訪れた自分は、和気あいあいとツリーの飾りつけをしている彼女達の姿を遠くから見ていた。そんな中で蒼が話しかけてくる。

 

―戦いばっかでギスギスしてるからなぁ…たまにはこういうのも必要なんだろう。

 

聞いた話ではこの時期に限って鉄血の動きも鈍くなる事があるらしい。…奴らもクリスマスを楽しむつもりなのだろうか?

 

―どうだろうな?クリスマスを楽しむというよりかは寒いから動きたくないというもあるんじゃないのか?

 

それでいいのか、鉄血…。

 

とはいえ寒いものは寒い。寒くて動けないなんという事はないが自分も多少寒さを感じる身だ。悪魔が寒さを多少感じるのだから、人形も寒さを感じていても不思議ではない。

 

「ギルヴァさんは参加しないのですか?」

 

「ん?」

 

そう尋ねるのはカフェの店主であるスプリングフィールド。

カウンターで作業しながらこちらへと顔を向けていた。

 

「折角ですし、皆の所に混ざってみては?」

 

「いや、俺はここで見ているに徹する。飾りつけは彼女達が上手くやってくれるだろうからな」

 

「もう…。こういう時こそ楽しまないと駄目ですよ?」

 

そう言われても、こうすると決めた以上はそれを貫くつもりだ。

それにあんな風にはしゃげる歳でもない。幼少期の自分なら喜んで参加していたかも知れないが。

そこで少しだけ昔を思い出す。

貧しかったが、そこには確実な幸せがあった。こういうイベントも御大層なものは出せなかったが、少し奮発して美味しい料理を母さんとカエデと一緒に食べた。

今思えばその頃の俺は笑えていたであろうか。今の様に仏頂面になっていなかっただろうか。

 

「…」

 

その疑問に答える者はいない。…それを知るのは神だけであろう。

そっと右手を見つめる。かつて握ってくれた二人の手の温かさは気付けばすでに冷え切っていた。

今でも慣れないものだ。あの冷たさは本当に慣れない…。

 

「どうされましたの?」

 

「む…?」

 

気付かぬ内に考え込んでいたのか。顔を上げると心配そうにこちらの顔を覗き込むKar98kの姿があった。

ツリーの飾りつけはまだ終わっていないみたいだが、どうしたのだろうか。

 

「いや、何でもない。…休憩か?」

 

「ええ、少し休憩を。それに飾りつけもそろそろ終えそうですし」

 

彼女ともツリーの方へ向く。

確かに煌びやか装飾が施されたクリスマスツリーが出来上がっていた。だが少し物足りない気がしてならない。

よく見るとクリスマスツリーの一番上の部分に飾りが無い。飾り忘れか、或いはそこだけを紛失していたのか。

どちらにせよ一番目に映る部分がないのは少し寂しいものだ。

 

「一番上がないのは少し寂しいですわね…。何か代用できるものを探しませんと」

 

「ならこれを使え」

 

手に魔力を集中させ、魔力で錬成した群青色の星を作り、それを手渡す。不思議そうにそれを見つめるカラビーナだが、多少は慣れたのかこちらへと優しく微笑み口を開いた。

 

「まぁ、とても綺麗な星飾り。ギルヴァさん、ありがとうございます」

 

(まぁ、とても綺麗な星飾りね。ギルヴァ、ありがとう)

 

「っ…」

 

全く…喋り方も違うというのに。

それでも俺は貴方を思い浮かべてしまう。何故貴方が本来の喋り方をしなかったのかは分からないが、そこには何か理由があるのだろう。それにかつて貴方が教えてくれたおまじないを彼女に教えた時は不思議な気分だった…。

俺は生きてしまった。死にたくないと、生きていたいと願い。そしてその結果が今だ。

だが安心して欲しい。この身が悪魔であろうと心は人間のままだから。

今の俺を見て貴方がどう思うかは分からない。だがそれでもこんな自分を愛してくれるのなら…カエデと一緒にどうか見守っていてくれ。…母さん(カラビーナ)

 

―見守ってくれているさ…

 

そうだな…。店に戻ったら、小さいクリスマスツリーでも作っておくか。

 

―良いんじゃねぇの。たまには時期に合わせてみるのもアリだ。

 

 

 

この後に彼が使う書斎に群青色の小さなクリスマスツリーが置かれる事になる。

少し物足りない所はあるが、彼にとってはこれで充分らしい。その理由は、少し物足りないクリスマスツリーこそが、思い出のクリスマスツリーなのだとか。

 

 

深夜。

第二格納庫にて一人で作業している後方幕僚兼魔工職人であるマギー・ハリスン。

キーボードを操作しながら、少し冷めてしまったコーヒーを飲んでいると何かに気付いたのか、そっと微笑み彼女以外誰も居ないというのにまるでそこに誰かいる様に語りかける。

 

「意外ですね。てっきり彼の中でとどまっているつもりかと」

 

「お前が居るとなれば流石にとどまっている訳には行かねぇだろ?」

 

第二格納庫の出入口近くの壁にもたれるある悪魔の姿。

その姿はギルヴァが魔人化した時と同じなのだが、本人ではない。そこにいるのはギルヴァに元カノに会うと伝えてから彼から魔力を借りて、分身として彼から出てきた蒼である。

魔力量によってはその姿を目にする事はできないのだが、今は誰にもでもその姿を視認できる程の魔力量を有している。その事からか、誰かに見つからない様に移動するのは苦労したと後の蒼は語る。

 

「それで?どうされましたか?復縁でも望みに来たのですか?」

 

「それを言ってお前が首を縦に振るとは思えねぇがな」

 

「分かっているじゃありませんか」

 

「そりゃあ…全部とは言えないがそれなりにお前の事は知っているからな」

 

姿は違えど、肩を竦める蒼。

作業しながらも昔と変わらない蒼にマギーは静かに微笑むのだが、それも束の間、彼女の顔付きが変わる。

顔付きが変わったと同時に雰囲気が変わった事を感じたのか蒼も軽く気を引き締める。

 

「このまま黙っているつもりですか?」

 

「何を?」

 

「とぼけないでください。私の目を誤魔化せると?」

 

「…」

 

マギーの目には常時発動ではないにしろ、任意で魔力を視認できる目を持っている。

それは元から備わっていた物であり、戦闘向きではない魔工職人にはそういう目を備わっている者が殆ど。

特にマギーの目は相手の中にある魔力の色を見る事が出来る。

 

「ギルヴァさんが持つ魔力の色は青。ブレイクさんが持つ魔力の色は赤。これでは二人に共通点はないと思われますが…共通点はあった」

 

「…」

 

「原色というのでしょうか。…二人の魔力の原色は紫。それが派生してギルヴァが青、ブレイクが赤」

 

それはギルヴァが最初から人間ではなく、悪魔の血を有していると言いたげだった。

蒼は何も答えない。マギーの言っている事が本当なのか、或いは最後まで聞いてから答えるつもりなのか。

 

「性格は違えど、妙な事もありますよね」

 

冷えたコーヒーが入ったマグカップを手に一口だけ飲むとそのまま言葉を続けるマギー。

 

「これではまるで二人が()()だと言わんばかりです」

 

「…」

 

「特にギルヴァさんはあの人に似ていますよね?」

 

そして彼女は告げる。

 

 

 

 

「二人の父親であり―――」

 

 

 

 

「貴方が殺した―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実の兄に」




前触れもなくギルヴァの母を明かす作者。つまり彼の母親代わりだった人形はカラビーナで、つまりママビーナだった訳さ。
そんでもってギルヴァとブレイクの関係もぶちこむ作者。
今回飛ばしだけど…許してね…


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Act60 Fate begins to move quietly

運命は静かに動き出す。
一人の悪魔が犯した罪を、その者しか知らない秘密を問い詰める事によって


「…」

 

蒼は答えなかった。否、答える事が出来なかった。

その態度はマギーの言っている事に対して肯定を示しているのと同義と言えた。

 

「…懺悔…あるいは贖罪のつもりなのでしょうけど…黙っている事の方が――」

 

「分かってるさ」

 

遮るかの様に少しだけ声を強める蒼。

マギーが言っている事は決して間違っておらず、蒼もその事は理解している。言い訳する様な子供じみた行いを恥じながらも蒼は自分をじっと見つめてくるマギーの目を見つめ返す。それを見たマギーは、それ以上何も言わなかった。表情が変わらずとも蒼の目からは何かを感じられたからだ。

 

「…いつか話すさ。だが今はその時じゃない」

 

凭れていた壁から離れると蒼は第二格納庫の出入口へと歩き出す。

そのままここを出る直前に足を止め、そっと息を吐き、口を開く。

 

「…話せて嬉しかったぜ、じゃあな」

 

「…」

 

そう言い残して蒼は第二格納庫を出ていく。

出ていくその後ろ姿を見つめながら、マギーは静かに呟く。それが蒼に対してなのか、或いは自分に対してなのか。

 

「ホント馬鹿ですね…」

 

冷気が漂う空間でマギーは冷え切ったコーヒーが入ったマグカップを手にし一口だけ飲む。

砂糖を入れていたにも関わらず、口の中で苦味を感じた彼女だった。

 

 

「…」

 

第二格納庫を後にし、ギルヴァの元へと戻る蒼。

彼はマギーに言われた事を思い返しつつも、足早に戻っていた。

彼は分かっていた。マギーの様な魔力を見る事が出来る存在にギルヴァとブレイクが双子だと知られる事を。だが決してそれを知られる事を恐れてなどなかった。だがこのまま黙っているのかと問い詰められる事を蒼は恐れていた。今の自分に覚悟が無いのは分かっていた。だがいつか話さなければならない。

それでも恐れていた。二人の父親を殺したのが自分だと告げるのが。

 

「弱くなったな、俺も…」

 

歩みを止め、蒼はその場で静かに呟く。

 

「ここまで落ちぶれるとはな…笑えるぜ。でもよ…」

 

 

 

 

 

「あの戦いは裏がある。…まだ死なねぇよ…全部明らかにするまではな」

 

 

 

 

 

そして、と彼は言葉を続ける。

それは覚悟か、或いは決意か。もしくは双方が混じった様なものがそこにあった。

 

 

 

 

 

「全てが明らかになった時は潔く地獄に逝ってやるさ。俺が背負う罪は俺の死で償わなきゃならねぇからな…」

 

 

 

 

運命は動き出した。

 

 

 

 

音を立てる事もなくその歯車は動き出し始める。

 

 

 

 

少しずつ、着実に。

 

 

 

だが今はその時ではない。

 

 

 

 

しかしそれが訪れた時…

 

 

 

 

長き悪夢が始まりを告げるだろう。

 

 

 

 

 

 

翌日。

蒼とマギーとのやり取りがあった事を知る訳もなく、何時も様に代理人とマギーと共に調査を続けて、95式はその手伝いをしていた。三分の一まで解析は済ませたのだが、謎のハイエンドモデルは未だに目覚める様子はない。

そこに第二格納庫の出入口の扉が開き、ギルヴァと第一支店に移動した筈のブレイクが中へと入ってきた。

ギルヴァはともかく、何故ブレイクがここに居るのか疑問に感じた代理人が尋ねる。

 

「ブレイク?どうしてここに?」

 

「依頼が来ないもんでね。暇になったんでこっちに来た」

 

「そういう時こそ、何か出来る事をするべきなのでは…?」

 

「そう言われてもな。ま、早めに店は閉めてきたから客は来ないだろうぜ」

 

「貴方という人は…」

 

額に手を当て、やれやれとため息をつく代理人。

普段店でどういった過ごし方をしているのかは知る訳でないにしろ、ブレイクのだらしなさに彼女は容易に察する事が出来た。

そんな時だった。ふとブレイクのある部分が違う事に気付いた代理人はその事について尋ねた。

 

「そう言えば…以前の格好とはだいぶ違いますが…」

 

「ん?ああ、そう言えばこの格好を見せるのは初めてだな」

 

以前までのブレイクの服装はギルヴァから貰った赤いコートを羽織り、適当なズボンを穿いていた。だが今の姿は赤を基調としたコートは変わらずとも、ズボンも赤を基調としたものを穿いている。装飾も施され、中着に至っては赤色でありつつも暗めの赤色の中着を着ている。

 

「中々にイカしてるだろ?」

 

「…服一式を買う金が何処にあったのかとは聞きませんが…でもよく似合っていますよ」

 

「美人に言われると嬉しいね。デートでもするかい?」

 

「ナチュラルに人妻を口説かないで下さい」

 

「おっと、フラれちまったぜ。中々に厳しいねぇ」

 

こういうやり取りは最早恒例と化している。ブレイクは至ってはおふざけで、代理人はギルヴァの妻なので誰に口説かれようと妻としての立場が揺らぐ事はない。

そんな二人のやり取りを他所にギルヴァは鉄の棺桶で未だに眠っている謎のハイエンドモデルを見つめていた。

雪の様な真っ白な髪、整った顔立ち、人形ではあるが歳は自分よりは上であろうと思っていた。代理人から調査の一部を聞いているのだが、何故彼女が存在すらも許されなかったのかギルヴァは疑問に感じていた。

情報を聞かされた時もずっと考えていたのが、結局分からず仕舞いで終わっていた。

 

「難儀だな…お前も」

 

存在する事も許されず、名も与えられる事すら許されなかった。

にも関わらず、誰かによって体を得てしまったのは彼女とて望んだ事ではなかったかも知れない。

だが生み出されたからにはその命を無下に扱う様な事はしないでほしいとギルヴァは願った。

例えこの世が最悪な状況にあったとしても、与えられた命には意味があった筈だと。

 

「…目覚める気がないならそれでいい。だが…お前はそのままで良いのか?」

 

静かに眠るハイエンドモデルに疑問をぶつけるギルヴァ。

だがその問いに彼女は答えない。答える筈もないかと思い彼が背を向けた瞬間だった。

振り返った瞬間にずっと眠っていたハイエンドモデルの目が開いた様にも感じたギルヴァ。再度棺桶へと振り向いた時、ギルヴァは自身の目を疑った。

彼の目に映るのは、じっとギルヴァを見つめる青い瞳。

いつの間に目覚めたのか、謎のハイエンドモデルはじっとギルヴァを見つめていたのだった。

 

突然として彼女が目覚めた事によりS10地区前線基地は大騒ぎになる。

目覚めた彼女が一体何者なのか…それは次の機会に語られる事となるのだった。

 

 

 

 

 

某所。

ある作戦を遂行する為、とある廃墟にて二人のハイエンドモデルがいた。

一人は二丁拳銃を装備し、もう一人は獰猛な笑みを浮かべていた。だがその様子は余りにも不自然と言え、疑問に思った鉄血のハイエンドモデル ハンターは、同じく鉄血のハイエンドモデルのエクスキューショナーへと問いかけた。

 

「おい…大丈夫か?」

 

「ん…?あぁ、問題ねぇよ。最近調子が良くてなぁ……何処からか力が溢れてくるんだよ」

 

「…そうか」

 

これなら問題ないと判断するハンター。

しかし彼女は気付いていなかった。エクスキューショナーの義腕にひっそりと不気味な何かが取りついていた事を。それは強い宿主に探し、寄生する魔界の寄生虫だという事を。

まるで知らず内に蝕み始める悪魔達。それは人間でも、鉄血でも気付かぬ内に蝕み始める。

最早グリフィン対鉄血との争いは、人類対悪魔へと変質つつあった。

 

 

S10地区郊外。

月が空高く昇り、全てを照らす。

誰も居ないゴーストタウンにてローブを纏い、しっかりとした歩みでS10地区へ目指す者がいた。

深くかぶっているのかその者が男か、女かすら分からない。しかしちらりと見えたその顔には眼帯の様なものを付けていた。

 

「やれやれ漸くか」

 

先には映るはS10地区。

その者はある裏切り者の始末の為、S10地区へと向かっていた。

だがその者は知らない。これから相手するのは全てを捧げ、例えそれがかつての仲間であろうとぶちのめす系メイドへと変貌している事を。

 

 

 

 

 

 

そしてその者はこれから知る事となる。

 

 

 

 

 

 

悪夢を与えるのは自分ではない

 

 

 

 

 

 

 

逆に自分が悪夢を与えられる側だという事を。

 

 

 

 

 

 

 

そしてその身をもって知る事となる

 

 

 

 

 

 

心を有し、その身に悪魔の血を流しながらも悪魔を狩る

 

 

 

 

 

悪魔狩人(デビルハンター)の力を




題名は翻訳を使ってるんで、何か違くね?と思っても流して…(土下座
今回で第三章は終わりかなぁと思っていたり。
次回は悪魔との戦いより鉄血との戦いが多くなるかなと考えています。
鉄血のハイエンドモデル(一部)を味方に引き込もうかなぁ…思ってたり思ってなかったり…
と言っても確定ではないのでご容赦を。

また第四章からはS10地区前線基地に隠された秘密や戦力の増強、第二章終盤で登場した赤髪の女性を登場させたり…色々イベントを考えたりしています。
場合によって大規模コラボ作戦も考えていたり…(確定ではない)
てかまた大規模コラボ作戦やったら参加してくれる人おるんかな…

因みにブレイクの衣装ですが、大規模作戦前はDMC3ダンテの衣装(中着は着ています)で大規模作戦以降、つまり「デビルメイクライ 第一支店」に移動後はDMC1ダンテの衣装だと思っていただけたら幸いです

下手な文章、まとまっていない内容…目も当てられない酷さですが、今後も「Devils front line」をよろしくお願いいたします。
うちで宜しければコラボ依頼など気軽にお声掛け下さいな~

では次回に~ノシノシ


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第四章 Iron Bloody palace
Act61 No name


過去からの来訪者。
長き眠りから目覚めた者。

S10基地前線基地に新たな風が吹き荒れる。



遅くなって申し訳ありません。
そして今回は四章、そしてグダグダだー!
だから許せ…(土下座


―ん?あいつの事か。あぁ…あいつなら三日前辺りに町を出ていったよ―

 

―すごく思い詰めた顔をしてたわ。どうして町を出ていったのかしら…―

 

私が戻ってきた時、彼は町から居なくなっていた。それがどうしてか誰も知らなかった。

私は知りたかった。ふらりと酒場に一人で現れて、他愛のない話をして、気付けば飲み代だけおいてふらりといなくなっている彼がどうして居なくなったのか…その理由を知りたくて私は彼を追いかける様に戦場へと舞い戻った。血と硝煙の匂いが漂う戦場へ…。

 

 

 

 

 

全てはあの夜から始まった

 

 

 

 

 

 

私の中の時はあの日から止まったまま

 

 

 

 

 

 

もしあの日から動き出す事があるとするのであれば

 

 

 

 

 

彼との再会によって止まってしまった時は再び動き出すだろう。

 

 

 

 

 

 

「グローザ?」

 

揺れる機内。響くヘリのローター音。

そして私の対面に座り、こちらを見つめてくる同僚(SPAS12)の姿。

少し昔を思い耽っていたみたいね…心配そうにこちらを見つめてくる彼女を安心させないと。

 

「大丈夫よ。少し昔を思い出していただけ」

 

「それって…」

 

「ええ、民生用人形だった頃の思い出を少しね」

 

あれからどれ程経ったか…。

後を追う為に私は戦場へ赴いた訳だけど、まさか最初所属した基地があんな基地だったとはね。

それどころかあんな大規模作戦まで展開される始末…戦場に出ると決めた時の私はこうなるなんて予想してなかったでしょうね。

 

「…その…ごめん」

 

「いいわ、もうだいぶ前の話だから」

 

彼女は民生用人形だった時の私に起きた出来事を知っている。

だからこそ申し訳なそうな表情を浮かべていた。何時も底抜けに明るい所が彼女の良い所なのに…全く。

 

「そんな顔は貴方には似合わないわよ?いつもの様に底抜けに明るいのが合っているわ」

 

「底抜けに明るいって…それって馬鹿にしてる?」

 

「いいえ、全く。それどころか誉めている方よ」

 

「そう?…えへへ」

 

…彼女のこういう所には何度救われた事か。

最初の場所は最悪だったけど…彼女との出会いは悪いものではなかった。最も出会って早々、酒じゃなく"ストロベリーサンデー"を頼む彼との出会いも中々だったけど。

あの時は確か…便利屋だって言ってたかしら。このご時世だから命のやり取りを生業にしている人もちらほら居たからさして気にはしていなかったけど、向こうは安心した様子を見せてたわね。実の所内心不安だったのかもね…。

 

「にしてもS10地区前線基地ですか」

 

乗ってから沈黙を貫いていたSGの戦術人形 M590が静かに呟いた。

あの基地から解放され、一度I.O.Pへと戻った私達。時を経て私を含め、SPAS12、M590が他の仲間達より先にある場所に向かう事になったのだ。

…そう。このヘリはS10地区にある前線基地へと向かっている。有名とは言えないが一部から聞いた話では…

 

所属する戦術人形達の三分の一がブラック基地と称される基地に属していた経緯がある

 

S10地区前線基地を統べる指揮官は女性であるが、鉄血の人形相手に臆する事なくプロレスラー顔負けのプロレス技をかました、

 

一時期グリフィンで噂になっていたあの「黒コートの悪魔」がいる

 

これらはほんの一部に過ぎない。まだまだあるのでしょうけど、それは自分の目で確かめる他ないわ。

 

「何か気になる所が?M590」

 

「いえ…。あの場所の襲撃作戦を最初に考案したのがそこだと聞いたので」

 

「…どうやってあの基地の事を知ったのか聞きたい…みたいな顔してるわよ」

 

「それは貴方も同じでしょう?グローザ」

 

「まぁ、ね…」

 

でも…何となくだけど察しがつく。

今回の一件が発覚したのは…恐らく自力で脱出したWA2000のおかげ。彼女にはお礼を言わないとね。

もし彼女がS10地区前線基地に保護されていなかったら、今頃どうなっていたか。

 

「にしても悪魔、ね…」

 

あの基地から脱出する際に見た死神の様な化け物。彼女達はあれを悪魔と呼んでいた。

まさかとは思っていたけど…そのまさかだったわ。

 

「嫌な事を思い出させてくれるわね…」

 

ヘリの窓から外を覗く。

…段々とS10地区に近づいていくヘリ。あの場所に…"彼"は居るのかしら。

 

 

一方その頃…

 

「…」

 

「…」

 

S10地区前線基地執務室にて。

室内は沈黙に包まれていた。ソファーに座るシーナと後方幕僚のマギーの対面にはS11地区後方支援基地の地下に発見された謎のハイエンドモデルが座っている。透き通るかの様な白い髪、雪の様な肌、美形とも言える整った顔立ち、漂わせるクールな雰囲気。鉄血のハイエンドモデルにしては対面に座る彼女は一言で片づけるには惜しい程の美しさがあった。

 

「…」

 

「…」

 

そして室内にはシーナとマギー以外に第二格納庫にいたギルヴァとブレイク、代理人と95式、そして偶然にも謎のハイエンドモデルが目覚めた直後に第二格納庫に訪れたUMP45も執務室にいた。

ギルヴァとブレイクは執務室の出入口近くの壁に身を預け、代理人と95式はソファーに腰掛けるシーナ達の後ろの方で待機。因みに45はギルヴァの隣に並び立っている。

 

(にしても…デカいな)

 

内心そう呟いたのはブレイクだ。

目覚めた際は何にも着ていなかった謎のハイエンドモデル。流石に全裸というのは不味いので適当に彼女の体格に合う服を身繕い、それを着てもらっているのだが体つきは女性からすれば誰もが羨む程と言えた。

着ている長袖シャツ越しでも分かるほどにたわわに実ったそれが主張していた。

 

(こりゃ…45の嬢ちゃんが泣くな)

 

当の本人は…

 

(ナンデ ワタシ ノ マワリ ニハ キョニュウ ナ ヤツ ガ オオイノカシラ…?)

 

顔は笑っているが、目は笑っていない45であった。

 

「…貴女の事聞いていいかな?」

 

先に沈黙を破ったのはシーナだった。

対話をするつもりはあるのか彼女は頷くが…ふとそこで何か悩む素振りを見せた。

どうしんだろうと思ったシーナは彼女へと声をかけようした時、ある事が告げられた。

 

「すまない…私には名前がないんだ」

 

「あ…」

 

そこでシーナはマギーから聞かされた調査の中途報告を思い出した。

彼女は名前すら与えられず、生まれる事も許されなかった存在ではないか、と。流石に名無しさん、と呼ぶのはシーナとしても気が引けるだろう。どうしたものかと思った時、名無しのハイエンドモデルは静かにシーナへと告げた。

 

「だから今はノーネイム(名無し)と名乗らせてもらっても良いだろうか?」

 

響きからすればかっこいいが、意味は変わらない。

だが名無しと呼ぶよりかはまだマシと言える。そう判断したシーナは了承の意を込めて頷き、対するノーネイムもありがとう、と一言礼を伝え、本題へと切り出した。

 

「私の事について聞きたい、だったか」

 

「うん。覚えている限りでいいから」

 

「そうか。…何処から話したものか」

 

何を話そうかと指を顎に当てて思い悩む素振りを見せるノーネイム。

今まで眠っていたのだ、いきなり自分の事を話せと言われても多少無理があるかと思われたが、何かを思い出したのか、数秒でその態勢は解かれた。

 

「私は秘密裏に計画されたハイエンドモデルの一体。情報統制が敷かれ、知る者には緘口令が敷かれる程。完成間近までこぎ着けたものの、急遽として計画の路線が変更され、破棄される筈だった」

 

「だった?…と言う事は破棄される前に誰かが持ちだした…?」

 

「意図的に私の中に残されたログデータにはそうなっている。計画の急遽変更に良しとしなかった者達が私を秘密裏に外部へと持ち出し、破棄された工場で私は最終調整まで行われた。そして蝶が舞った…」

 

「!」

 

蝶が舞った…それが何を意味しているのか、この場に居る全員が理解できない訳ではなかった。

そしてノーネイムは蝶事件が起きる前に一応は存在していた人形だったという事が発覚する。

 

「…私が持ちだした者達は統括AIに何らかの不信感を抱いていたのだろう。ほとんどの鉄血人形が統括AIの下に置かれる中、私は置かれる事はなかった。だが…私を持ち出した者達は、ある選択をした」

 

「それは…?」

 

「私を目覚めさせれば暴走した鉄血人形を相手に出来る…だが、彼らは私が兵器として目覚めさせる事を望まなかった。気付かぬ内に何らかの感情があったのだろう…彼らが遺したメッセージログには、自由に生きて欲しいと残されていた」

 

まるでその言葉は親が子へ向ける様な言葉であった。

本当の親を知らずとも、親代わりだった人形に育てられたギルヴァ、親代わりだった孤児院の院長に育てられたブレイクにとっても遺されたメッセージは何か思う所があった。

とはいえ否定的な考えではないのは事実であるが。

 

「そして私は長い眠りにつき…相当な月日が経ってから今に至る」

 

「成程…。情報統制、知る人には緘口令まで敷かれた状況、秘密裏となれば代理人が知らないのは当然だね…」

 

だが、秘密裏に動いていた計画が一体何だったのかは明確となっていなかった。

気になったシーナはそれを問うとノーネイムから驚きの事実が返ってきた。

 

「それか。…所謂、汚れ仕事用の人形と言うべきか」

 

「汚れ仕事? それって…同僚の始末とか…?」

 

「ああ。暴走する事が知っていた訳でないと思うが、何らかの事情で同僚が始末する事になった際に運用される予定だった。最も今は違うがな」

 

「同僚の始末を専門とした人形、か…だから性能は他のハイエンドモデルを圧倒する様な性能を有していたのかな…?」

 

「その事だが…」

 

「ん?」

 

「私の中に残っているデータによれば…内部骨格のほとんどに魔鉱が使われているとなっているのだが…。魔鉱とは一体何だ?」

 

「魔鉱…それって!?」

 

シーナは勢い良く隣に座るマギーの方へと向く。

向けられる視線にマギーは静かに頷くと凛とした表情へと切り替える。

 

「やはりでしたか。…私も知らない魔工職人が彼女の製造に関わっていたようですね。どうりで魔力を検知できるわけです」

 

「何の事を言っているんだ…?」

 

「こちらの話と言いたいですが…良いでしょう。この際に話しておくべきですね。悪魔、魔工職人の事について」

 

マギーから語られる非現実的な話。

人知れずこの世に存在する悪魔という存在、悪魔の血をその身に流しながらも悪魔を狩る狩人たち、人間界に静かに過ごす悪魔や、グリフィンに属している悪魔、戦う力を持たずとも現代の科学を圧倒する魔工の技術を有する魔工職人…。

ノーネイムにとってはどれもが非現実的と言えたが、自分の身に魔の技術を使われている事があってか真摯にその話に耳を傾けていた。

ひとしきりマギーから説明を受けたノーネイムは、少し考える素振りを見せた後シーナへとある事を提案した。

それは今後の事を定めての提案であった。

 

「私をここに置いてくれないだろうか」

 

「え?そのつもりだけど?」

 

最早ここに置くつもりであったシーナ。余りにも早すぎる返答にノーネイムは目を丸くしながらも小さく微笑み、そっとシーナへと手を差し出した。

 

「新人だが…宜しく頼む、指揮官」

 

「うん、こちらこそ。ノーネイム。でもいつかそのノーネイムという名前変えないといけないね。名無しなのは良くないから」

 

「…! ふふっ、貴女はとても良い指揮官ね。こんな私でも楽しくやっていけそうだ」

 

その後、ノーネイムはこの場にいる挨拶を交わしていくのだが…ギルヴァと挨拶を交わした時、彼に対してとんでもない事を口走った。

 

「宜しく頼む、父よ」

 

「!?」

 

突然としてギルヴァの事を父と呼んだのだ。

理由としては目を覚ました時に髪の色、目の色が自身と似ている事からまるで自分の父の様に思ってしまったからだとか。とは言えこれは彼女の所感に過ぎないのだが、それを良い事にUMP45と代理人が自分の事を母と呼ぶ様に命じてしまった為に、ギルヴァは若くしながらも大きすぎる娘が出来てしまう事になるのだった。

その傍らでブレイクはゲラゲラと笑うのだが、彼もまた自身に災難が振りかかる事を知らない。




はい、と言う訳ですよ。
うちに二体目のハイエンドモデル ノーネイムが所属。ギルヴァ、父になる。
ノーネイムの見た目はアズールレーンに登場するティルピッツ。そして彼女の髪型をロングヘアにした様な感じだと思って頂けたら幸いです。

今年も残り少ないですが…何卒宜しくお願い致します。

では次回に~ノシノシ


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Act62-Extra Calamity Ⅰ

タイトルに星マークがついている通り今回はoldsnake様作「破壊の嵐を巻き起こせ!」とのコラボです!

UMP45からシーナへともたらされた、とある情報。
それは「H&R社本部制圧作戦」というものだった。
不審に思ったシーナは便利屋であるギルヴァに”様子見”を依頼する。


ノーネイムがS10地区前線基地に属する事となった後の事。

少しだけ溜まっていた執務の処理をしていたシーナの元に404小隊のUMP45が執務室に尋ねてきた。

いつもならデビルメイクライでギルヴァにくっついている彼女。にも関わらずここへ来た事に不思議に思いながらもシーナは入室の許可を出し、45が室内へと入ってくる。

 

「さっきぶりね、指揮官。今良いかしら?」

 

「良いよ。何かあったの?」

 

「あったと言えばあったわね。まずはこれを見てくれるかしら?」

 

そう言って45は手に持っていたタブレット端末をシーナへ手渡す。

それを受け取り、画面に記されている内容の一文を見て、シーナの表情が変わる。

 

「H&R社本部に対して制圧作戦を展開?…どういう事?」

 

H&R社は二度にわたり、作戦に参加してくれた事のある会社だ。

S11地区後方支援基地を舞台に行われた大規模作戦「operation End of nightmare」では社長であるリホ・ワイルダーはこっそりと何かしていたのだが、それに関してはシーナはあまりに気にしてはいない。ましてやリホ・ワイルダーが鉄血のハイエンドモデルだという事を知っている訳ではない。

だが二度に渡り作戦に参加してくれた事にシーナはある一定の信頼を寄せていた。

 

(喋りは上手で、余り内面を見せない人だけど…。でもあの人はあの人なりに何かを抱えている。それが何なのかは私には分からない。でも…この作戦は納得が行かない)

 

「指揮官はS010地区を知っている?」

 

「S010地区…確か崩壊液、核による汚染による影響がないとされる奇跡の地区だった筈。その重要性の高さから今でも鉄血とグリフィンとの戦いは激化している地区…だよね?」

 

「ええ。そしてH&R社本社はその地区の山岳地帯にあるの。どうやらH&R社が山岳地帯の坑道一帯を不法に占領しているとグリフィン側が知ったらしくて。それで立ち退き交渉したそうよ」

 

「でも向こうは拒否し徹底抗戦を選んだ。だから不正企業と認定して制圧する事になった、と?」

 

「正解♪」

 

それを聞き、シーナは静かに目を伏せて指を顎に当て、思考を巡らせ始める。

 

(…向こうが不正に占領していたとして、幾ら何でもグリフィンの対応が遅すぎる。初めて向こうがこちらの作戦を参加してくれた時もH&R社はあった。だとするのであれば……)

 

「…おかしいわね」

 

小さく呟き、そっと下ろしていた瞼を上げるシーナ。そしてスッと表情が目つきが変わる。

幾ら自分がグリフィンの人間だとしてもこの作戦に対して不信感を抱かざるおえない。

その一方でシーナの様子を見ながら45は小さく笑みを浮かべた。

 

(初めて会った時は少し頼りなかったけど……ホント良い表情する様になったわね)

 

「それで?どうする気かしら、指揮官。借りがあるとは言え、私達が動けば後々が面倒よ?」

 

「分かってる。流石に私達は動けない。でもこういう時に動いてくれそうな人、いるでしょ?」

 

そのセリフを聞いて、45はハッとした表情を浮かべる。

 

「だからといって味方してきてと言う訳じゃない。飽くまでも様子見を”依頼”するだけだから」

 

 

 

 

 

「成程」

 

便利屋「デビルメイクライ」の店内で、椅子に腰かけて本を読んでいたギルヴァの元に尋ねてきたシーナからの依頼を聞いて、彼は小さく頷いた。読んでいた本を机の隅に追いやり、椅子から立ち上がる。

 

「確かに今更過ぎる作戦だな。普通であればもっと早く行動していてもおかしくない」

 

「うん。今回は私個人としての依頼として受けて欲しいの。依頼内容はS010地区山岳地帯にて行われているH&R社本部制圧作戦の様子見。条件としてはグリフィン側との戦闘を出来るだけ避けて欲しい事。万が一戦闘になった場合、その場から逃げる事を念頭に置いて欲しいかな」

 

「向こうが追撃してくる様であれば?」

 

「それでも逃げて。…ギルヴァさんなら逃げられると思うけどな」

 

可愛らしく首を横へと傾けつつ笑みを浮かべるシーナ。

人間では不可能な動きを可能とするギルヴァを知っているからこそのセリフ。瞬間移動技「エアトリック」など平然とやってのけるのだから、そのセリフは間違ってはいなかった。

 

「期待してくれるな…。取り敢えず依頼は受けよう。今回は俺だけで…」

 

「私も同行していいか、父よ」

 

「む…」

 

店内で代理人が淹れた紅茶を飲みながらシーナの話を聞いていたノーネイムがギルヴァに同行許可を求めてきた。

先程の服装とは違い、代理人から貰った白のロングコートを羽織り、中着に黒のシャツを着こみ、白の長ズボンとロングブーツを履いていた。お洒落なのか、頭には水色のヘアピンを付けている。

 

「父も分かっているだろうが、私もその作戦に疑問を感じている。主犯格が前線に出てくるかどうかは分からんが、前線に出てくるのであれば証拠を押さえておく必要があるだろう」

 

「…そしてそれを匿名でグリフィンに送りつけるという訳か」

 

「ああ」

 

「ふむ…」

 

指に顎を当て考える仕草を作るギルヴァ。

そして数秒後には自身の中で考えがまとまったのか、その態勢は解かれる。

 

「良いだろう。ただし依頼人の要望通り、グリフィン側との戦闘は避けろ。良いな?」

 

「ああ。了解した」

 

ここで話を聞いていた代理人やUMP45もついて行き兼ねないのだが、依頼内容を鑑みるに極力少人数で動くのがベストだと判断。それもあって二人は敢えて参加を名乗り出る事はしなかった。

だが自分らの娘が依頼に赴くのに何もしないなど母とは言えない。ノーネイムの為にと、動き出した二人の行動は迅速だった。

 

「これらを貸しておきます。後で返す様に」

 

「これは…車のキー?こっちは母さんが愛用しているシルヴァ・バレト?」

 

「S10地区からS010地区までそう遠くはありませんが、徒歩で向かうにしては少し厳しいかと。ですので車で移動した後に、山岳地帯近くまで来たら本部近くを目指して歩くと良いでしょう。それとシルヴァ・バレトは念の為です」

 

「分かった。ありがとう、母さん」

 

「娘の為です、これ位は当然ですよ」

 

二人のやり取りを見ていたギルヴァはノーネイムに礼を言われてクールに振る舞いつつも、にやけそうなのを必死にこらえている代理人を見て内心呟く。

 

(いつか子煩悩になりそうだな…)

 

―もうなってんじゃね?

 

(かも知れんな)

 

「はい、これ。念の為渡しておくわ」

 

「ありがとう。…発煙手榴弾か」

 

「飽くまで様子見だけだから必要ないかもだけどね。でも無いよりかはマシでしょ?」

 

「そうだな。…感謝する、45母さん」

 

「ふふん♪どうも致しまして」

 

二人の母から渡された物を受け取るノーネイム。その様子をシーナは優しそうな笑みを浮かべながら眺め、その一方でギルヴァは準備を始める。愛刀の無銘と念の為にとクイーンをバンのウエポンラックへと収納。

そして準備が整った所で、ノーネイムの運転の元、二人はS010地区山岳地帯へと目指すのだった。

 

 

 

 

S010地区山岳地帯付近まで来た便利屋「デビルメイクライ」のギルヴァとノーネイム。

バンは山岳地帯から少し離れた位置に偶然にも見つけた古びた倉庫内に停めており、二人は車両から降りて徒歩でH&R社本部へと目指していた。

姿を見られる事に懸念を示したギルヴァの発案の元、彼とノーネイムは全身を隠すようにローブを纏い、険しい山道を一歩ずつ足を進めていた。

ローブ姿では確認できないが、二人共武装はしている。ギルヴァはいつもの武装一式を、そしてノーネイムは代理人から借りたシルヴァ・バレトを肩に掛け、腰には45から貰った発煙手榴弾を一つだけ吊り下げている。

そして背にはギルヴァが持ってきていたクイーンを背負っていた。

 

「まだ始まってはいないようだな」

 

「そうみたいだな。…だがグリフィンのヘリは先程から何機か見かけたが」

 

ノーネイムが言及した様に、ギルヴァもグリフィンのヘリが何機か飛び去っていくの目撃している。

当然ながらそのヘリが向かう先はH&R社本部だと言う事はギルヴァもノーネイムも分かっていた。

 

「父よ。H&R社の社長はどういう人物なんだ?」

 

「過去に二度、作戦に参加してくれた女社長だ。色々やっている様だが詳しくは知らん。ただ分かる事は一つ」

 

「それは?」

 

「H&R社社長、リホ・ワイルダーはお前と同じ鉄血のハイエンドモデルだという事だ」

 

「! それは本当か」

 

「この身になってからは戦術人形と鉄血人形の気配の分別は付く。奴と対面した時、すぐにあの者の正体に気付く事が出来た」

 

(悪魔を持ち帰ろうとしていた…それに関しては言う必要はないか)

 

疲れを見せる事無く、二人はずんずんと山道を歩いていく。そして数分後にはH&R社本部近くまで来た二人。

姿を見られぬ様に隠れながらも全体が見渡せる場所まで移動し、そこへ着いた時にはギルヴァの隣で立っていたノーネイムは目を丸くした。彼女の目に映るはH&R社本部制圧作戦に参加する為に集まった相当規模のグリフィンの戦術人形達。

 

「これほどとは…」

 

「H&R社本部は確か坑道一帯を利用しているとナギサ指揮官から聞いた。…戦力としてはグリフィンが上だが、坑道自体は決して広いとは言えん。恐らく無数の罠が仕掛けられていると見ていいだろう」

 

「まさか…チマチマと戦力を送り込むというつもりか?」

 

「どうだろうな。…戦力を送り込めば勝てると思っているのか。或いはそれ以外の理由があるのか」

 

(さて…この状況。お前はどうするつもりだ?リホ・ワイルダー)

 

聞こえる筈もないにも関わらず、心の内でH&R社本部で籠城しているリホ・ワイルダーへと言葉を投げかけるギルヴァ。そのまま彼は近くにあった岩に腰掛け、依頼の内容通りに作戦の様子身を徹する。

ノーネイムも同じ様にギルヴァの隣に腰掛け、彼と共に様子見に徹した。

刻々と作戦開始時間が迫る中、ギルヴァとノーネイムは静かに状況を見守るのだった。




さっそくお母さんムーヴをかます代理人と45姉。

そしてうちからはギルヴァとノーネイムが出ます。
作戦に参加する訳ではなく、飽くまでも様子見だけ。

なのでコラボ参加している面々はうちらを見つけてもいいからね!


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Act63-Extra Calamity Ⅱ ☆

始まったH&R社本部制圧作戦。
その先行きを見つめるノーネイム。そしてギルヴァはかつてS11地区後方支援基地を舞台に展開された作戦にて協力してくれたある人物を見つける。


「動き出したか」

 

H&R社本部制圧作戦開始と同時に坑道へと突撃し始める姿を見つ、静かに呟くノーネイム。

隣に座っているギルヴァは作戦の様子を見つめながら、かつてS11地区後方支援基地での作戦に参加してくれた者を偶然にも見つけた彼は、そっと口を開いた。

 

「…随分と早い再開となったものだ」

 

「む?向こうに誰か知り合いがいたのか?」

 

「ああ、一人だけな。S11地区後方支援基地での作戦に参加してくれた者がな。名はM16A4。世にも珍しい男性型戦術人形だ」

 

「男性型戦術人形というのも居るのだな」

 

「俺が知る限りではあいつしか知らん。もしかすれば彼以外にも探せばいるのかも知れんが、その気にはなれん」

 

早々そんな機会も訪れんと話を締めくくり、ギルヴァは作戦の様子を見つめる。

作戦開始前にM16A4の姿を見つけた時に彼から発せられていた雰囲気に、ギルヴァはある事を思い出していた。

 

(あの時もリホ・ワイルダーに対し不信感を抱いていたな。…理由は恐らく鉄血だからか)

 

彼の過去を全て知っている訳ではないギルヴァ。知っていると言ってもほんの少し程度。

だからと言って根掘り葉掘り聞きに行こう等思っていなかった。

だが分かっているとするのであれば、M16A4は鉄血に対し並みならぬ憎悪を抱いているという事だけ。

 

(例え鉄血を縁を切っていたとしても敵を見なす。それにあの雰囲気から察するに味方としてあの中に混じっていた鉄血の人形を疑っている様だったな)

 

下手すれば後ろから撃ちかねんぞ、あの様子だと…と思いつつもギルヴァはふと思った。

 

(…鉄血は敵。例え縁を切っていたとしてもその考えか。…だとするのであればお前はうちにいる代理人やノーネイムも敵と見なすのだろうか)

 

聞こえる筈もないにも関わらず、彼へと内心言葉を投げかけるギルヴァだったがすぐに頭を切り替え、始まった作戦の様子見を続ける事にした。

 

「…さてこの作戦は結末を迎えるのか、あるいは何者かによって中断となるか」

 

「私の予想では中断になると思うが」

 

「どちらにせよ、俺達が動く程の事態はないと見て良いかも知れん」

 

悪魔か、或いはそれに関連するものが出てこない限りな、と静かに呟くギルヴァ。

作戦は始まったばかり。この作戦がどのような結末を迎えるか。それを知るのは神のみぞ知る。

 

 

一方その頃、S10地区前線基地、執務室にて。

S11地区後方支援基地での作戦にて、囚われていた戦術人形三人がここに属する事となり、シーナはその三人を執務室で出迎えていた。互いに挨拶を交わし、今は談笑をしていた。そして自分達が元S11地区後方支援基地所属の戦術人形達より先に属される事となった理由をM590から聞いたシーナは、成程と頷いた。

 

「三人がまだ傷が浅い方だったんだね」

 

「ええ。ですのでまたこの様な機会を設けて頂けると嬉しく思います。指揮官も知っている通り、前に居た所では良い扱いされませんでしたから…」

 

「うん、分かってるよ。皆の仲間達がこっちに来た時も今と同じ様に交流会は設けるから。それで良いかな、M590」

 

「はい、ありがとうございます」

 

どうも致しまして、と微笑み返すシーナ。そんな時、彼女は隣に座っていたSPAS12の方をちらりと見た。

彼女の視線はある一点へと向けられている。その先にあるのは皿に盛られたシーナお手製クッキーの山。

焼きたてだからか香ばしい香りとほんのり香る甘い匂いがSPASを襲う。今にも食べたい顔をしているのだが、シーナが隣にいるのか我慢している様子だった。

そんな姿の表情を見てシーナは小さく微笑むと、SPASに声をかける。

 

「我慢せずとも食べて良いよ」

 

「えっ!?で、でも…」

 

「気にしない、気にしない。冷めてしまう前に食べちゃって」

 

シーナから許可が下りるとSPASはクッキーを一つ手に取り、口へ運んだ。

焼きたてという事もあってほんのり温かく、何よりもこのサクサクとした食感がSPASを幸福へと導く。

 

「ん~~!美味しいッ!!」

 

「良かった。自作だからお口に合わなかったらどうしようと思ってたけど、その様子だと問題ないみたいだね」

 

「えっ!?じ、自作なの!?」

 

「うん、そうだよ。と言っても趣味程度だけどね」

 

(本当に趣味の範囲なの…?)

 

実はシーナ、お菓子なら大半作れたりする。その出来栄えも味も職人級と言え、最早趣味の領域を飛びぬけている。その事もあってか、たまにであるがシーナの元にお菓子作りを頼みに来る者達やお菓子を作って欲しい頼んでくる者が居たりする。

 

「一つ良いかしら、指揮官」

 

SPASがシーナのお菓子作りの腕が本当に趣味の範囲よるものなのかと疑っている所で紅茶を飲んでいたグローザがシーナへと声をかける。

 

「ん?何かな、グローザ」

 

「この基地に、いいえ…この地区内に―――」

 

この地区に”彼”が居るという情報をグローザは掴んでいた。

ただそれがこの基地なのか、或いはこの地区内なのかまでははっきりしておらず、それを確かめる為に彼女は探している人物の名前を出しつつシーナへと問う。

 

 

 

 

 

「ブレイクという名前の男性居るかしら?」

 

 

 

 

 

「へっくし!」

 

デビルメイクライ第一支店に戻っていたブレイク。椅子に腰掛け足を机の上へと置きながら雑誌(大人向け)を読んでいた時に風邪を引いた訳ではないに関わらず、くしゃみを一つした。

 

「…何だ?」

 

何故突然としてくしゃみが出たのか分からないという顔をするブレイク。

 

 

 

 

彼は知らない。

 

 

 

この数時間後には再開(災難)が訪れる事を。




M16A4、許せ…(土下座

ギルヴァがそう感じただけだからね!許してね!

そしてうちら二人組はこのまま作戦の様子見。動くとなれば悪魔か、或いはそれに関連するものが出てきた際に動く事にしました。
と言っても悪魔が出てくる事はなさそうですので、このまま様子見ですね。
もしうちらを使いたかったらご連絡くださーい。

では次回ノシ


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Act64-Extra Calamity Ⅲ ☆

様子見するギルヴァとノーネイム。
このまま様子見に徹していたのだが、二人はこの戦場に第三勢力の気配を察知する。


oldsnakeさん、申し訳ない。
勝手ながらこっちで第三勢力出してしまいました。と言っても戦場から離れた所でやるから許してね!(土下座


作戦が開始してから数時間が経過した。

シーナの依頼通り様子見に徹していたギルヴァとノーネイム。坑道内部で戦闘が行われている為、戦況は知る手立てはないのだが、それでもなお二人は静かに見守っていた。

悪魔、或いはそれに関連するものが出てこない限り動かないと決めていたギルヴァ。そんな時、彼は何かを感じ取ったのか座っていた岩から立ち上がった。

その横で座っていたノーネイムは立ち上がったギルヴァの背中を見つめながら、突然立ち上がった事について尋ねる。

 

「父よ、どうかしたか?」

 

「…どうやら第三勢力が姿を現したみたいだ」

 

「第三勢力?」

 

小首をかしげるノーネイムの問いに対し答えを返す事もなく、ギルヴァは背を向けてH&R社本部から離れた場所へと歩き出した。ノーネイムも急いで立ち上がり彼の後を追う。

H&R社、グリフィン…二つの勢力に続く第三勢力。何となくであってがノーネイムも気付きつつあった。

しかし何故今になって?と疑問が抱かずには入れない。だがこの状況に第三勢力が戦闘に介入してしまった場合、確実に戦場は大混乱するという事だけはノーネイムも確証が持てていた。

 

(狙いが何かは知らんが、お引き取り願おうか―――)

 

 

 

 

 

(鉄血)

 

 

 

 

H&R社本部近く…。

何処でこの本部制圧作戦情報を得たのか、鉄血のハイエンドモデル ドリーマーとデストロイヤーを筆頭に相当規模の鉄血機械部隊と人形部隊が二つの勢力との戦闘を始まった所に乗じて、戦場へと進軍していた。

とは言え、戦場に向かうの機械、人形部隊だけであり、ハイエンドモデルたる二人は高所から全体を見下ろし、状況を監視していた。

 

「やってるわねぇ。まぁ、そのままやり合ってくれれば良いのだけど」

 

ドリーマーが大部隊を動員して、ここの来たのは決してグリフィンとH&R社が狙いではない。

それらは飽くまでも障害に過ぎず、狙いは別にあった。とある裏切り者の情報を知る人物が作戦に参加してはなくともこの近くにいる。本来であれば戦場に出てくる事が少ないドリーマーであるが、相手が相手という事もあり、そしてその者を生きたまま捕縛する為、こうしてわざわざ出向いたのだ。

 

「生きていればいい。それなら四肢をもいでもいいわよねぇ…?」

 

口角を三日月みたく歪めるドリーマー。

その傍らでいつもの事だと思いながらデストロイヤーは部隊が配置についた事を彼女へと伝える。

 

「配置についたみたいだよ」

 

「えぇ、そうねぇ…。あぁ…早くその時が来ないかしらぁ…」

 

とは言え、戦場に飛び込んだ所で大混乱が起きる事が分からない二人ではない。

部隊に待機を命じ、彼女達も暫く待機する。

しかしこの後に彼女達は知る。相手がどれ程危険か。幾ら物量で攻め入ろうと赤子の手を捻るかのように、戦況を覆す力を持つ相手だという事を。

そしてそれを知るのは、今だという事を。

 

「?」

 

何かが聞こえたのか、ドリーマーはふっと顔を上げ周りを見回した。

今この高所に居るは自分とデストロイヤーだけ。それ以外は誰も居ない。

 

「どうしたの?」

 

「さっきの音聞いたかしら?」

 

「音?風の音はずっと聞こえているけど?」

 

(…聞き間違い?いや、まさかそんな事がある訳が…)

 

確かにドリーマーはその耳でしっかりと聞いた。

まるで何かがかち合う様な…そんな音を。

そしてドリーマーもデストロイヤーも気付いていなかった。待機させていた部隊が日本刀を持ったローブ姿の誰かによって全員斬り伏せられていた事を。

全て斬り伏せたからこそ、刀身を納める際に鯉口と鍔がかち合った音がドリーマーの耳に聞こえた事を。

状況が読めない事もあってかドリーマーは味方を置いて撤退しようと考えた。このままデストロイヤーも置いておこうかとも考えたが、後で喚かれるのも面倒を感じ傍にいたデストロイヤーへと撤退する旨を伝える。

 

「引くわよ、デストロイヤー」

 

傍にいる筈なのにデストロイヤーから反応がない。

次に反応がなかったら置いていってやろうと思いつつも、最後のチャンスとしてデストロイヤーへと声をかける。

 

「聞こえているのかしら。それとも聴覚機能イカれたの…かし……ら…」

 

若干イラつきながらも振り向いた時。ドリーマーは自身の目を疑った。

 

「~!~!~!?」

 

顔面を鷲掴みにされ、ジタバタしながら抵抗するデストロイヤー。

そして榴弾砲を装備している彼女の顔面を鷲掴みし軽々と片手で持ち上げるローブ姿の誰か。

目の前にいる者が一体誰なのか、それを考えている余裕はない。今は思うべき事は何時からこの者が自分達のすぐそこまで近づいていたのかという事である。

だが彼女は気付いていなかった。部隊が壊滅させた後にこの者が気付かれず近づいた訳ではない。

実はその逆である。ギルヴァ達は先に二人の近くに移動し、ノーネイムを待機させた後に部隊へ攻撃を仕掛けていたのだ。現に三人が見えぬ位置にはギルヴァが置いていったであろう幻影刀が突き刺さっていた。

それに気付く筈もなく、即座に彼女は持っていた銃をノーネイムへと向けようとした瞬間、遠方から斬撃が飛来した。

 

「!?」

 

飛んできたそれに驚きつつも、体を逸らし斬撃を避けるドリーマー。が、持っていた武器をつい手放してしまい、それが隙となり、ノーネイムは空いていた腕を伸ばしドリーマーの顔面を鷲掴み持ち上げる。

 

「~!~!??」

 

(なんなのこいつ!?こんな奴知らないわよ!!?)

 

予想以上の力にドリーマーも驚愕せざるおえなかった。

それもその筈で、ノーネイムは重装、重火器を大量に装備出来る事を前提に生まれた為、重武装のデストロイヤーを片手で持ちあげられるパワーを持つ。

ましてや蝶事件以降に生み出されたドリーマーが、事件以前に生まれた、それもあの代理人ですら知らないとされたノーネイムの事を知る訳がない。

 

「忘れ物だぞ」

 

つまりはこいつ(デストロイヤー)も持って帰れ、という意味なのだろう。その気遣いに親切心溢れるが、ノーネイムが次にやろうとしている事は親切心の欠片すらない。

ドリーマーへとそう告げるとノーネイムは―――

 

「こういう時は…」

 

そのまま両腕を勢い良く動かしドリーマーとデストロイヤーの頭同士を―――

 

大当たり(Jack pot)、というらしいな」

 

衝突させた。

 

「~!????」

 

「」

 

その一撃は小さな衝撃波が奔る程の威力があり、ドリーマーは何とか気絶しなかったもののデストロイヤーはその一撃に耐えらず気絶してしまう。

だがこれでは終わらない。二人の頭同士を衝突させたノーネイムはそのまま二人を宙へと放り投げた。肩に下げていたシルヴァ・バレトを手に取ると、持ち手を握らずに銃身部分を両手に握り構える。まるでその構えはバットを振る様な姿勢であった。

重力に引かれ、降下し始めるドリーマーとデストロイヤー。その真下ではノーネイムが構えて待っている。

 

「目的が何なのか…それについて知るつもりはない。だが狙いが(ギルヴァ)なら容赦は出来ん」

 

その声が果たして二人に聞こえているのかともかくとして。

丁度良い所が来るまで見計らい、そしてノーネイムは動いた。

大きくシルヴァ・バレトを振りかぶり、狙いを定める。

 

「故に…」

 

地を力強く踏みしめる。

 

「お引き取り願おうか…!」

 

可能な限り出せる力でシルヴァ・バレトをフルスイング。そこに合わせてかの様に落ちてきた二人にノーネイムによるフルスイングが叩きつけられた。

まるで流れ星の如く、ぐんぐんと空へと吹っ飛んで行く二人。あっという間にその姿は小さくなり、そのまま星へとなって消えていった。あろう事か自分達が装備していた武器を残して。

消えていった二人を見ながら、ノーネイムはシルヴァ・バレトを肩に担ぎ、二人が飛んでいった方向を見ながら静かに呟く。

 

「良い夢を見るんだな」

 

「夢など見ると思うか?」

 

「ん?ああ、父か。そっちは片付いたのか」

 

「随分前にな」

 

本来の依頼であれば、ただ様子見するだけ。シーナからは結果を伝える様には言われていない。

それに今回の一件は自分達は大して何か出来る事はないとギルヴァは判断していた。その考えはノーネイムも同じで、良くて第三勢力として現れた鉄血の排除程度が自分達に出来る事だろうと判断していた。

 

「それに今回の一件に不信感を抱き、俺達以外の誰かが動いている可能性もある。調査はそちらに任せるべきか」

 

「もしその誰かが居なかったらどうする?」

 

「心配ないだろう。誰かが動いている。最も勘でしかないが、今はそれを信じても良いくらいだ」

 

(後は任せる。俺達は先にお暇する)

 

居るであろう誰かに任せて、ギルヴァとノーネイムは下山を開始する。ドリーマーとデストロイヤーが置いていった武器と共に。

 

下山して、回収した武器を荷台に積み、S10地区へと戻っていくギルヴァとノーネイム。

ノーネイムが運転を務める中、ギルヴァはシーナへと連絡を取っていた。事情を話し、シーナに納得して貰った後、彼女からある事が伝えられる。

 

「クリスマスパーティーだと?」

 

『うん。以前の作戦で救出した子達と皆の交流会を含めてそれを企画していてね。一応皆からは了承は貰っているから。』

 

「そうか。なら楽しむがいい」

 

『え?何言ってるの、ギルヴァさん。全員強制参加だからね』

 

「…なに?」

 

『それとクリスマスプレゼントも用意する事。後、45から伝言』

 

「何だ?」

 

『パーティー終わった後は私と過ごしてね~、拒否権は無しだから♪だって』

 

この時ギルヴァは額に指を当て、軽くため息とついた。

どうやら彼の災難は、今から始まるようだった。

 

「災難だな、父よ」

 

「…そうだな」

 

因みにであるがギルヴァはノーネイムに父と呼ばれてもそれなりには許容していたりする。若くして自分が一児の父親になるとは内心驚きながらも、それもまた人生の一つなのだろうと。

ただ問題として父親として、父親らしい事が果たして自分に出来るのだろうかと内心不安に思っているらしい。

娘にクソ親父が!と言われない様には務めようと心の内で決心している事は彼以外知る事はないだろう。

 

 

その頃、ブレイクはと言うと…。

 

机の上に置かれたレトロチックな固定電話が鳴り響く。

雑誌を読んでいたブレイクは机の上に乗せていた足で机を叩くとその反動で受話器が宙へと舞い上がり、彼の方へと飛んで行く。それをノールックで空いていた手でキャッチすると受話器を耳に当てる。

 

「悪いな、開店準備中だ。また今度にしてくれ」

 

相手からの話を聞かず、一方的に電話を切ると彼は軽くため息をつく。

 

「やれやれ。まだ準備中だというのに、気が早い奴もいるもんだ」

 

そう。ここ、便利屋「デビルメイクライ 第一支店」は本格的な開店はまだしていない。

彼が電話の相手に言った様にまだ開店準備中なのだ。だが暇になってピザを食べ行ったり、S10地区前線基地へと遊びに行っている等、本当に店を開店する気があるのかと思いたいところである。

しかし店内には物も少なく余りにも殺風景とも言えるので彼からすれば、本当に開店準備中なのだろう。

そんな時、店の扉が開く音が響き、ブレイクに来客を知らせた。だが彼は雑誌に没頭しており、来客の方へと向こうもしない。

 

「あんたもそういうクチかい?シャワーを借りたいなら好きにしな。トイレも裏にある」

 

「少し性格が変わったかしら、ブレイク?」

 

「!」

 

来客の声を聞き、ブレイクはピクリと反応した。

その声は女性の声だった。そしてその声は彼にとって忘れられるはずの無い声だった。

読んでいた雑誌を閉じ、机の上に無造作に放り投げると来客の方へと向くブレイク。

そして、そこに立っていた来客を見て彼は自身の目を疑った。

 

「お前…」

 

死んだと思っていた。自分の中にある特異体質のせいで。

だから彼は町を出ていった。これ以上誰かが巻き込まれる前に。

あれからどれ程の時が経過したのかは分からない。だが少なくともこの事実だけは変えられようがない。

ブレイクが便利屋である事に対し、大して気にする事もなくいつも良くしてくれた女性で、彼が密かに想いを抱いていた相手。

 

「ローザか…?」

 

ブレイクはその女性の…かつての名を口にする。

それを聞いた女性…グローザは彼が自身を覚えていてくれた事に微笑みつつ頷くと彼の問いに返答する。

 

「久しぶりね」

 

彼女はここに来る前、S10地区前線基地に来る前のヘリの中で思った。

自身の中の時はあの時からずっと止まったままだと。

その時が動き出し始めるのは探していた彼との再会によって動き出すだろうと。

 

「ブレイク」

 

そして彼女の時は動き出した。

時は止まり、色褪せた過去に…新たな色が彩り始めた。




こちらがやれる事はあんまりないという理由からこちらは先に撤退します。だから許せ…

そして娘たるノーネイムも父から教わったのか、または偶然か。
鉄血のハイエンドモデル二人をぶっ飛ばしてお星様に致しました。もはや通過儀礼っぽくなっている気がしなくもない。

さて次は…クリスマスパーティーかな…。間に合うかは分からんけどね!(多分間に合わない


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Act65 Reason

かつての出来事から二人は別れてしまった。
だが、今再会を果たす。

そして彼女は問う。
彼が町を出ていった理由を。




ん?クリスマスパーティー会じゃないのかって?ちょっと待っておくれやす…
飛ばし飛ばしだ!だから許してね!


―はい、いつものよ。たまにはこれ以外頼んでみたらどうかしら?―

 

―そう言われてもな。俺はこいつが好きなんでね。これとピザ以外頼む気はねぇよ―

 

―…今度来た時は廃止にしておくわ―

 

―おいおい、そりゃねぇぜ!―

 

―なら次来る時はその二つ以外を頼む事ね。…約束してくれるなら、その時は一杯だけ奢ってあげるわ―

 

―はぁー…分かったよ。約束するよ―

 

―じゃあ次来る時は楽しみにしてるわ―

 

約束は叶わなかった。

あの出来事が原因で、自分のせいで彼女を死なせてしまったと。

だからこそ彼は町を出ていった。これ以上良くしてくれた人を失わない為にも。誰にもその理由を告げる事無く。

だが今、二人は再会を果たす。止まった時が、色褪せた過去が、二人の間にあった想いが新たな色となって彩り始める。

 

 

 

「…死んだと思ってたぜ」

 

上げていた足をさげ、崩していた態勢を正しながらブレイクは過去に起きた事、そして自分が目にした事から思っていた事をグローザへと告げた。

彼は…グローザの亡骸を目にしている。故に彼女が今こうして生きている事が不思議で仕方なかった。

 

「…そうね。あの状態を見たら誰もがそう思うでしょうね」

 

「…聞かせてくれ。あの後の事を…俺が出ていった後の事を」

 

「ええ…と言いたい所だけど、先に貴方が町を出ていった理由を聞かせて。それを聞いてから、貴方が聞きたい事を話すわ」

 

元はと言えばブレイクが何も言わずに町を出ていった事から始まっている。

それが知りたいが故にグローザは戦場に戻る事を選んだ。

 

「そうだな…俺からの方が良いみたいだな」

 

 

ブレイクは町を出ていった理由、人知れずこの世に潜んでいる悪魔の存在、自身にもその血が流れている事、ここS10地区で便利屋を開業した事、町を出ていった以降の事を全て話した。

悪魔と聞けば、普通は訝しむのが当たり前なのだがグローザは一切そういう顔をせずブレイクの話に耳を傾けていた。

 

「…で、今に至る訳だ。これで納得が行ったか?」

 

「そうね。大方理解したわ。…そう…あの出来事がきっかけに町を出たのね…」

 

「…まぁな。これ以上大事な誰かが死んでいる所なんて見たくなかったんでな」

 

そう思っていても、運命は彼に二度目の悪夢を見せた。。

フェーンベルツの一件で彼は良くしてくれている者達を悪魔の手によって殺されてしまった。彼を残して、全員。

 

「…これ以上失わせねぇよ。失いたくねぇから、俺は必死になるのさ。あの時から…これだけは変わんねぇよ」

 

彼なりの理由がそこにあった。

それを聞き、グローザはそっと微笑んだ。

少し性格が変わったのではと思っていたが、何一つ変わっていなかった。寧ろあの時と比べて、少し成長している様にも見えていた。

 

「さて…次はそっちが話す番だぜ、ローザ。…昔を思い出すのはちょいと辛いと思うが」

 

「先に理由を話してくれたからね。…全部話すわ、ブレイク」

 

そう言いながら、グローザはブレイクが近くに寄るとそのまま机の上に腰掛けた。

 

「…あの時、実は私は辛うじて生きていたのよ」

 

「…何だって?」

 

「貴方があの近くに居た事も覚えているわ。…貴方があの場から離れて行ってしまった後、流石に死を覚悟したけど、あの野次馬の中に偶然にも人形について詳しい人が居たのよ」

 

まさかと言わんばかりに驚愕の表情を浮かべるブレイク。

そんな表情を見てクスリと微笑みながら、少し思い出した後に彼女は言葉を続けた。

 

「その人がおかげで私がまだ生きている事が分かり、それを知った人達が全員で近くにあったグリフィンの基地に行って、修復を頼み込んだの。けど私の損傷具合は酷い方だった。その基地の設備では応急処置が関の山。だから応急処置を受けた私はその基地経由で一度I.O.Pへと運ばれた。そして修復されて…町に戻ったのはその出来事が起きた一週間後だった」

 

「じゃあ町に戻ってから知ったのか…俺が出ていった事を」

 

「ええ。誰もその理由は知らないとは言っていたけどね。ただ町を出ていく際に思い詰めた顔をしていたとは聞いたわ」

 

「そうか…。それでその後は戦術人形にへと戻ったのか」

 

「そうね。貴方が町を出ていった理由を知る為、私は戦場に戻る事にした。そして最初に配属された場所が、S11地区後方支援基地だった」

 

「ッ!?…おいおい、マジかよ」

 

流石にこればかりはブレイクも再度驚かずにはいられなかった。

よりよって彼女が最初に配属されたのがあの悪魔達の巣靴だったとは思わなかったからだ。

 

「…遅くなって悪かったな」

 

「仕方ないわよ。…外部にこの事を伝える為に基地を抜け出す事なんて出来なかったから。でもWA2000が貴方達と出会い、S10地区前線基地に属した事であの場所の事が発覚したのは幸いだったから」

 

「お迎えのバスはとんでもないサプライズ付きだったがな」

 

「確かに。それは言えてるかもね」

 

腰を下ろしていた机から立ち上がると、グローザはブレイクの顔を見つめた。

 

「そして今、ここで貴方と再会する事が出来た。…これで納得が行ったかしら」

 

「ああ。十分過ぎる程にな」

 

「みたいね。…じゃあ私は一旦基地に戻るわ。指揮官に無理言って時間を設けてくれたのだから」

 

「んじゃ、俺も行かねぇとな。シーナの嬢ちゃんに礼を言わなきゃならねぇからな」

 

そんなこんなで二人を店を後にし、S10地区前線基地へと向かうのだった。

 

二人がS10地区前線基地に向かい、シーナが居る執務室に訪れると、シーナからの依頼から帰ってきていたギルヴァとノーネイムも執務室に訪れていた。

二人が訪れた事に不思議に思うギルヴァとノーネイムだが、シーナはグローザがブレイクの所で向かった事を知っている為、彼女はグローザへと話しかける。

 

「おかえり。無事ブレイクさんの所に行けたみたいだね」

 

「ええ。外出許可を出してくれてありがとう、指揮官」

 

「どうも致しまして。…それにしても、どうしてブレイクさんまでここに…?」

 

彼女の視線がブレイクへと向くと、彼は近くの壁に凭れながら返答する。

 

「色々話さなきゃならねぇ事があってな」

 

「?」

 

かくしてブレイクはグローザの関係について三人へと語った。

シーナとノーネイムは二人の関係を聞き驚いていたが、ギルヴァに至っては驚く事はせず冷静にその話に耳を傾けていた。そしてグローザに向けて、ある事を伝えた。

 

「他の女を口説きまくっていたぞ」

 

「ちょっ、お前!?」

 

その事を聞いて、グローザは笑みを浮かべつつ、ブレイクの方へと向いた。

 

「ブレイク?少し話をしましょうか」

 

「おいおい、冗談だろ…」

 

 

 

 

 

「とんだ災難だぜ…」

 

 

 

 

後にグローザは指揮官の許可を得て、毎日ブレイクの元へと通う事になる。

その理由としては…

 

「彼、ピザとストロベリーサンデーしか食べない超が付く程の偏食家なのよ。それに私、料理は出来る方なのよ?」

 

との事らしい。




という訳で、ブレイクの元へに通い妻(?)グローザが所属です。

次回はクリスマスパーティー会ですが…恐らく間に合わないと思う…。
でも頑張ります!

では次回ノシ





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Act66 holly night

S10地区前線基地にてクリスマスパーティーが開かれる。
さぁ、楽しい一時を過ごそう。





本当なら昨日投稿したかったけど、流石に無理でした!


普段から鉄血との戦いや後方支援、模擬作戦などで忙しいS10地区前線基地。しかし今日のS10地区前線基地は別の意味で忙しくしていた。

 

「そっちの飾り付け終わったー?」

 

「もう少し待てい。…うむ、こんなもんかの」

 

「いいね。よっしゃ!次、行くよー!」

 

「これこれ。走るでない」

 

S10地区前線基地の講堂にて戦術人形達がいそいそと煌びやか飾り付けを行っていた。

そう。今日は12月24日、つまりクリスマスイヴ。

普段から戦い等でギスギスしている彼女達を労う為にも、前々からシーナがこの時の為にパーティーを企画しており、今夜行われるクリスマスパーティーに向けて非番の者達や手が空いている者達総員で準備を行っていた。

当然その中にはデビルメイクライの面々の姿もあり、ギルヴァ達もその飾り付けを手伝っていた。フードゥルとグリフォンに至っては用具などの運搬係を担っていた。フードゥルの頭の上には落ちない様に捕まりながら小さなサンタ帽をかぶったニャン丸が乗っかっており、そしてフードゥル達の横では95式が付き添い、同じ様に運搬を手伝っていた。因みに代理人や料理を得意とする面々は食堂にてクリスマスパーティー用の料理を仕込んでいる。その際にブレイクからはピザ(オリーブ抜きサラミ風)とストロベリーサンデーを要望している。クリスマスパーティーという事もあってその要望は通っており、その要望を出した本人は内心ウキウキしていたりする。

 

「ふぅ…こんな感じか?」

 

「そうね。貴方のセンスにしては良いんじゃないかしら」

 

ブレイクの隣で、飾り付けへの感想を述べたのはグローザだった。

再開を果たしてからの日数は極端に短いが、過去の事もあってか二人の距離は意外と近かったりする。

事実二人共互いに異性として意識はしているのだが、今の状態でも良かったりすると思っていたりする。

だがこれを機にとグローザはちょっとした狙いがあった。

 

「まぁ…店にこれをやるつもりはねぇけどな」

 

「あら。雰囲気作りは大事よ?」

 

「雰囲気に似合わねぇ大人な雰囲気をか?その雰囲気までに至るにはサンタさんを楽しみにしているキッズたちが眠るのを待たねぇとな」

 

「…貴方が望むなら私はOKよ?」

 

「…パーティー終わったら二次会のお誘いしていいかい?」

 

「喜んで♪」

 

二人の近くにいた戦術人形達はどことなく溢れる甘ったるい雰囲気を感じ取ると、早々に飾り付けを終わらせて、休憩がてらブラックコーヒーを飲みに行き、その傍らで見ていた代理人はブレイクをパーティー後に誘うグローザを見て、自分も試そうと考えていた。

しかしそれを阻む様に45が飾り付けをしていたギルヴァへと話しかけようとするが、やらせないと言わんばかりに代理人が飾り付けをしているギルヴァの手伝いに入ろうとする。

 

(こいつッ!)

 

(ふっ…)

 

逆に行動を阻まれた事により、代理人を睨む45。対する代理人は45に対し、勝ち誇った表情を見せつける。

二人の間で見えない何かがバチバチとぶつかっている所をチャンスを見たのか、HK416が動き出した。

しかしそれを見過ごさない二人ではない。互いに頷き、一時休戦協定を結ぶと取り押さえようと走り出す。

 

(させない!)

 

(させません!)

 

が、それも遅く、416は45と代理人よりも先に飾り付けをしていたギルヴァの手伝いを始めた。

勝ち誇った顔を見せつけつつ、ギルヴァとの距離を詰める。まるで無意識を装いつつ胸を当てながら。

 

「む?」

 

「手伝うわ」

 

「助かる」

 

(あいつ~!!!)

 

(ちぃっ!)

 

代理人は兎も角、45には勝算があった。

彼がシーナの依頼からの帰りに、指揮官に彼への伝言として伝えていた事がまだ生きているのだから。

だがそれを見越していたのか、416はある事を聞いてきた。

 

「45からクリスマスパーティーの後は一緒に過ごす様に言われたのでしょ?それも拒否権は無しで」

 

「…何の事か分からんな」

 

「誤魔化さない事ね。…私、知っているから」

 

「…」

 

こっそり聞いていた45は驚愕の表情を浮かべた。

いつ、どのタイミングで416がそれを聞いたのか分からなかった。だが416はその事を知っている訳ではなかった。

彼女ならその様な手段に出るであろうと予想し、敢えて知っているフリをしたのだ。そしてギルヴァの反応を見て、416は確信した。

ここで畳み掛けようとする416だが、ギルヴァが何処か優しそうな笑みを浮かべている事に気付く。

 

「…クリスマスはここの者達と過ごせれば良い。…子供の時からそれが当たり前だったからな」

 

特定の誰かと過ごすのではなく。

ここにいる者達をクリスマスを過ごせる事を願うギルヴァ。

ただ幸せ時間を過ごせる事を願っていた。それはギルヴァにとって一番願う事だった。

だからと言って特定の誰かと過ごさないわけでもない。しかし45の約束が416に知られている時点で、最早約束は意味を成さなくなっていた。

 

「だが、ふむ…そうだな。起きていたら酒の相手ぐらいはしてやろう」

 

「!」

 

それを聞いた45も代理人も、彼の隣で聞いていた416も心の内で決心し、闘争を滾らせる。

今、この時点で譲れない戦いが幕を開けた。

しかし三人は気付かなかった。この他にもそれを聞いていた者達がいた事に。

 

飾り付けを終え、後はパーティーの幕開けを待つ事となった。

しかしその時まで時間がある事から、殆どの面々は食堂に休憩を取っていた。

その中にはギルヴァの姿もあった。彼の隣にはブレイクが並び立っており、二人は席に座る事はせず、近くの壁に凭れていた。

 

「しかし豪勢なクリスマスパーティーだな。美人、美女ばっかりが揃う豪勢なパーティーは始めてだぜ」

 

「…」

 

「こういう時は楽しまねぇとな。…人生は刺激があるからこそ面白い。これもまた刺激の一つだ」

 

「…そうだな」

 

腕を組み、そっと目を伏せるギルヴァ。

クリスマスを祝う事には何ら抵抗はない。だが思う事が無い訳ではなかった。

 

(悪魔がクリスマスを祝うとはな…。少しばかり皮肉に思えるな)

 

―まぁ確かにな。でもブレイクが言った様に、こういうのは楽しまないと駄目だぜ?

 

(…分かっている)

 

 

 

並ぶ豪勢な料理。

サンタの姿に仮装する者やこの時に合わせて煌びやか衣装を着てやってくる者。

そしてこの基地を統べる指揮官、シーナが皆の前に立つとマイクを手に告げる。

 

「今日はクリスマスパーティー…皆、楽しんでいこう。それじゃ、乾杯!」

 

「「「「乾杯!!」」」

 

パーティーの開幕が知らせれ、各々自由な時間を過ごし始める。

美人、美女が揃う中、数少ない男性たちはというと…。

 

「…」

 

静かに酒を飲むギルヴァ。

 

「お、これ美味いな」

 

大好きなピザにありつくブレイク。

 

「…」

 

ギルヴァのそばで待機するフードゥル。

会場の端で静かに過ごす男達。

余りにも静かすぎるこの空間に耐えかねたのか、グリフォンが叫んだ。

 

「お前ら、ちっとは楽しくしたらどうなのよ!?クリスマスを過ごす相手がいないという名のクリぼっちの集いかよ、ここはぁ!?」

 

「それなりに楽しんでいるが?」

 

「ブレイクはまだマシだ。お前が一番説得力無いんだよ、ギルヴァ!!」

 

因みにニャン丸は95式とノーネイムと一緒に行動していた。

人懐っこい性格であり、ニャン丸は95式の肩とノーネイムの肩を行き来しながら戦術人形とも仲良くなっていた。

 

「ふふっ、本当に人懐っこい猫だな」

 

「ギルヴァさんが見つけた子猫なんですよ。一時期私が預かっていたんですよ」

 

「ほう?そうなのか。…父に見つけてもらったんだな、お前は」

 

優しくニャン丸の頭を指で撫でるノーネイム。

それが嬉しかったのか、ニャッと返答しながらニャン丸も彼女の指に頭をこすりつける。

和やかな雰囲気な一方で、テーブルを囲い45、代理人、416、そして急遽参戦したWA2000が火花を散らしていた。

その手には酒が入ったグラスが握られており、牽制し合っていた。全てはギルヴァと過ごす為。

譲れない思いがそこに介在していた。

誰が先に酔い潰れるか、誰が生き残るか。この戦いを制しなくてはならない。

 

「あら、416、飲まないの~?折角のパーティーよ?」

 

「そっちこそ飲まないかしら?それとも酔い潰れるのが怖いかしら?」

 

この中で酒に対する耐性が極端に弱い416に狙いを絞り、挑発を仕掛ける45。

そしてまけじ挑発し返す416。

 

「おや、お酒全然減っていませんよ?」

 

「そういうあんたも減ってないけど?」

 

その一方で減っていない酒の量をお互いに指摘しつつも火花を散らす代理人とWA2000。

パーティーを楽しなければならないというに、彼女達だけは生き残る為の戦いを繰り広げていた。

 

「…」

 

ブレイクがグローザと共に行動する為、その場を離れ、フードゥルとグリフォンはシーナの元へ遊びに行ったにも関わらず、ギルヴァは一人で静かに飲んでいた。性格もあってか、彼はそこまではしゃぐ方ではない。

グラスに注いだ酒を飲んでいるとそこにある戦術人形が彼の元へ歩み寄り話しかけた。

 

「楽しんでいますか?」

 

「…む?」

 

伏せていた目をあげ、彼は声の主の方へ向く。

そこにいたのはかつてS11地区後方支援基地に属し、つい最近になってOts14、SPAS-12と共にS10地区前線基地に配属となったSG戦術人形、M590だった。

 

「それなりにはな。…何か用だろうか」

 

「ええ。お礼をと思いまして」

 

M590が彼にお礼を伝えたい事は一つしかない。

ギルヴァはそれについて言及した。

 

「…S11地区後方支援基地での事か」

 

「はい」

 

「それを言うならナギサ指揮官や他の者達、そしてその事を俺達に伝えたWA2000に伝えるべきだろう。俺はやるべき事をやったまでに過ぎん」

 

グラスをテーブルの上に置くと、腕を組み目を伏せるギルヴァ。

 

「それでもですよ。助けてもらった事には変わりありませんので」

 

「そうか。…礼は受け取っておこう」

 

「そうしてくれるとありがたいです。…それにしてもこの基地は…その、随分と変わってますね」

 

ここに来て浅いM590。彼女の反応は決して間違ってはいなかった。

鉄血のハイエンドモデルが二人いて、喋る狼と猛禽類がいる。そこに加えて、悪魔の血を流す者、戦う力が無くとも現実を無視した武器を作る魔工職人もいる。

これが変わっているとだけでは物足りないものである。それどころか異常という言葉が合っている。しかしここに属する事になった上で、失礼な物言いは彼女とて気が引けた部分があった。故に彼女は「変わっている」と濁した。苦笑いを浮かべるM590を見ながら、ギルヴァは無理もないと判断していた。

最も自分が異常を作る様になった元凶なのだ。それなりに彼も自覚はしていた。

 

「じきに慣れる。…少なくとも昔居た基地よりかはマシと言えるが?」

 

「ええ…そうですね。こっちの方が前の所とは比較にならない位、マシですよ」

 

ふと遠くからSPAS-12がM590~!と手を振り彼女の名を呼んでいた。

 

「こっちに美味しいのあるよ~!」

 

「ええ、すぐに行きますよ」

 

彼女はギルヴァに一礼してからSPASの方へ向かって行った。

その背を見届けながらギルヴァは再度酒を飲み始める。賑やかな一時はまだ終わりを告げる事を知らない。

 

パーティーが開幕して、ある程度時間が経過していた。

酔い潰れる者や疲れて眠ってしまう者が続出する中、ギルヴァは起きていた。

フードゥルとグリフォンは近くのソファーで固まって眠っており、フードゥルの頭にはニャン丸が乗っており、ニャン丸も静かな寝息を立て眠っていた。その隣では95式がフードゥルの腹部分を枕代わりにして眠っていた。そして生き残る為に火花を散らしていた45達は争いの結果、全員酔い潰れて眠ってしまうという結果になっていた。

一方ブレイクはグローザと共にパーティーを早めに抜け出し、店へと戻っていっている。今頃二人っきりで二次会でも始めている頃であろう。

静かに酒を嗜んでいるギルヴァの所に、まだ起きていた戦術人形が彼の元へと歩み寄る。

 

「相席いいかしら?」

 

「起きていたのか、FAL」

 

「まぁね」

 

とは言いつつも彼女の顔はほんのり紅かった。幾らかは飲んでいるのだが、決して何かをやらかす様子はなかった。大丈夫だろうと判断したギルヴァは頷き、相席に了承する。

了承を得られたFALは彼の対面側の椅子へと腰掛けた。

 

「ずっと一人で飲んでいたけど、パーティーは楽しめたのかしら?」

 

「それなりにはな」

 

グラスの中に入っている氷が音を立てて踊る。

彼の対面に座るFALもグラスに注いだ酒を一口飲む。

先程の喧騒はどこに行ったのか、パーティー会場には静けさが訪れていた。起きている者はギルヴァとFAL以外にも居るのだが、各々自由な時間を過ごしていた。

 

「にしても色々あったわよね。貴方が来た時から色々」

 

「ここに来る以前から色々あったがな」

 

「そうだったわね。…まさかあのマンティコアを素手で殴り上げる人がいるのは初めて見たわよ」

 

FALとの出会いは、ギルヴァも覚えていた。

95式と共に旅をした際に、マンティコアを苦戦していたFALとSVDに出会った。

マンティコアを撃破し、二人を助けたギルヴァ。最もギルヴァはその後にS10地区前線基地にて再開する事になるとは思ってなかったらしい。

 

「まぁその後に代理人やフードゥル、ブレイクやグリフォンが此処に来た…色んな意味で濃すぎる日が多すぎるわよ」

 

「それは本人らに言ってくれ」

 

「発端になった人がそれを言うかしら?」

 

「何の事か分からんな」

 

素知らぬ振りを決め込むギルヴァ。

頬杖を付き、上半身をテーブルの上へと預けるFAL。着ている服装があれなので、相手からすれば福眼なのだがギルヴァは大して何も思わず、酒を一口飲む。

 

「少しは反応してくれてもいいんじゃない?」

 

「ならばそんな事をしない事だな」

 

「無理でしょうね。…何故ならそれは…」

 

「それは?」

 

「えっと…何だった…か、しら……」

 

そのままFALはテーブルに突っ伏す形で眠りについてしまった。

パーティーはそろそろお開きとなるだろうと考えたギルヴァはグラスに注がれた最後の一杯を飲み干すと、椅子に腰掛けたまま眠りに付く事にした。

 

 

その頃…。

 

ブレイクはグローザと二人っきりの時間を過ごしていた。

とは言っても誰もが考えている事へと発展する様子はなく、二人はかつて果たせなかった約束を果たしていた。

 

「結局奢りじゃなくなったわね」

 

「いいんじゃねぇのか?こう言うのも悪くない」

 

ピザを頬張るブレイク。対するグローザはワインを嗜んでいた。

そしてここでグローザはブレイクにある事を聞き出す。

 

「ブレイク、この後の時間はあるかしら?…6時間ぐらい」

 

「…美人からのお誘いなら幾らでもOKだぜ?」

 

「そう…後で楽しみにしてるわ」

 

この後、二人がどうなったか。

それを知るのは二人だけ知らない事である。




ブレイク達、あの後どうなったんだろう(すっとぼけ)

今年も残りわずかですが、これからもよろしくお願い申し上げます。

では次回ノシ


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Act67 Only here

クリスマスは過ぎ、マギーは職人としての仕事をしていた。
そこには意外な事にグリフォンが訪れていた。






他の基地にはなくて、けどこの基地だけにしかないものを出します。
故にここだけの、なんですよ。


クリスマスは過ぎ、今年も残りわずかとなったがここS10地区前線基地のやる事は変わらない。

基地の第二格納庫ではマギーが空いた時間を利用して、大型機動兵器 リヴァイアサンの組み立て作業を行っていた。そして第二格納庫には珍しく、グリフォンが訪れていた。

マギーが作業している一方でグリフォンは羽を羽ばたかせながら回収されたいくつもの魔具を眺めていた。

それぞれ異なった特徴、形を有する魔具の数々。それらの殆どがマギー・ハリスンの手によって作られたものばかり。よくもまぁこんなもの思い付くよなぁ、とグリフォンは思った。

事実マギー・ハリスンが手掛けた作品はどれも似た様な特徴がなかったりする。形は似ていれど、特徴は全て異なっていた。雷撃を放つものもあれば、火炎を放つものもある。中には爆発する剣を無限に生み出す装置もあったりする。何処からそんなアイディアが思い付くんだろうかとグリフォンは不思議で仕方なかった。

マギー・ハリスンによって作られた魔具達を見ていく中で彼はある物を発見する。

 

「こいつは…」

 

白く染まりし持ち手、白銀の刀身。施された装飾。その姿、形は日本刀と見て取れるのだが、その刀身の長さはギルヴァが持つ愛剣「無銘」以上の長さを誇っており、種別上それは太刀と言えるものだった。

 

「こんなもん…誰が扱えんだろうなぁ」

 

流石に戦術人形が扱うには無理があると言えた。

ギルヴァやブレイク、またはノーネイムならば扱えると思われるのだが、彼らには愛用する武器が、そして彼女には専用武装がある時点でこの太刀が三人の誰かの手に渡るとは思えなかった。

そこに休憩に入ったマギーが、グリフォンへと声を掛ける。

 

「気になりますか?」

 

「まぁな。これも魔具ってやつ?」

 

「そうですね。…ある意味では魔剣に類する物ですね」

 

「は?魔剣!?」

 

「ええ。といっても、これは私が初めて作った作品であり…」

 

マギーの表情に影が差す。

それに気付かないグリフォンではなかった。

グリフォンもマギー…否、マキャ・ハヴェリの事は何度も耳にしている。手掛けた魔具の完成度は最早芸術品とまで言え、そしてその力も高いと言えるほど。

そんな強力な魔具を製作できる魔工職人を、力や権力を持つ悪魔達が放っておく筈がなかったと。

 

「そして魔剣の名には程遠い…欠陥品ですよ」

 

「そう言えばあんまり魔力を感じられねぇな。でもよぉ、こんだけ立派な姿してんのに何で欠陥品なんだ?」

 

「斬る事が出来ないんですよ。これは」

 

「は?」

 

マギーから告げられた言葉にグリフォンは素っ頓狂な声を上げる。

"斬れない"…それが何を意味するのか。つまりそれは相手にダメージを与える事が出来ないという事。

そしてそれは武器として…。その意味を理解したグリフォンは驚きの声を上げる。

 

「致命的過ぎる欠陥じゃねぇか!?」

 

「だから言ったでしょ?魔剣の名には程遠い欠陥品だと」

 

「…何でそんな欠陥抱えちまったのか、その原因は分かってんのか?」

 

「いいえ、全く。こればかりは私も分からないんですよねぇ」

 

「初めて作った作品なのに覚えてないのかよ」

 

「当時の私は何も考えもせずこれに色々組み込んでしまいましたからね。何を組み込んだのかさえあんまり覚えていないのです。これを作ったのは、もう遠い昔の話ですから」

 

そう言いながらマギーは置かれた白き太刀にそっと触れる。

その表情はまるで懐かしんでいる様で、それであって悲しんでいる様であって…。

もしかすれば武器としての役目を果たしてあげる事が出来ない事について謝っているかもしれない。だがそれは推論に過ぎない。心の内でマギーが何を思っているか…それはマギーにしか分からぬ事であった。

しかしこの太刀は生み出された時からマギーですら知り得なかった事が起きていた。

この太刀は斬る事が出来ないのではない欠陥品などではない。

意思を有し、己にある約定を施した。

その約定が果たされるまで、この太刀は目覚める事はない。

それが訪れるのは今か、或いは明日か。それとも永遠に訪れないか…。

 

 

「そう言えばよ。これって誰が扱う事を想定してんだ?」

 

初めて作った武器が欠陥品だという話をマギーがグリフォンに話して数時間後。

グリフォンは目の前に鎮座する大型機動兵器 リヴァイアサンを見て疑問を投げかけた。

 

「そうですねぇ…。私としてはノーネイムさんかな、と思っています」

 

「あぁ…あの嬢ちゃんかぁ」

 

グリフォンもノーネイムに魔界の技術が扱われている事を見抜いていた。

そしてその力は他の戦術人形や代理人を圧倒するものだという事も。だがそれだけであり、マギーはノーネイムを選んだ理由はその魔界の技術が使われている以外にあった。

 

「それに彼女は多くの武装を同時に扱う為に、超高性能火器管制システムが搭載されているらしくて。リヴァイアサンも多くの火器を装備していますから」

 

「そういや、代理人が言っていたな。専用武装の一つが重火器を大量に装備しているものだって。確かにあんなのを装備させんだ。そりゃそういう能力を持っていても可笑しくねぇわな」

 

「ええ。ですからこれは彼女だからこそ扱える武装だと思うのです」

 

リヴァイアサンもノーネイムの専用武装に劣らない程に重装備が施されている。

二基の砲身、武装コンテナの様な4つの何か、あからさまに操縦士が扱うであろうと思われる超大型武装、他にも数々の武装が施されていた。

最早これ一機だけでも鉄血の大部隊をものの数分で壊滅に追い込む事が可能と言える程の超重装備っぷりである。

 

(ぜってぇ何かの影響されているよなぁ…。じゃなきゃこんなの思い付かねぇって)

 

マギーが作り上げたいくつもの魔具の中で、リヴァイアサンは特に異彩を放っていると言えた。

籠手や剣、或いは銃など基本的手に扱える物が多いのだが、まるでその考えをぶっ飛ばしたかのように生まれたのがリヴァイアサンだ。どう考えても何かの影響を受けているとしか、グリフォンはそう思わざる得なかった。

そこでグリフォンの中である疑問が浮かんだ。大型機動兵器 リヴァイアサンはこの第二格納庫の部屋の半分を占拠する程の大型である。これが完成した際に、どうやって外へと持ち出すのだろうかと。

偶然にも長い事ここで後方幕僚を務めている者が居る。グリフォンはその疑問をマギーへとぶつけた。

 

「これってよ。完成したらどうやって外に持ち出すんだ?まさか一回解体して持ち出したり?」

 

「そんな手間が掛かる事をすると思いますか?」

 

「だよなぁ。じゃあどうやって?」

 

「簡単な事です。ここを経由して外…いえ、カタパルトデッキに運ぶのですよ」

 

ここ、そこへと繋がっているのでと締めくくるマギー。

グリフォンもカタパルトというものがどういうものかは何となく分かっていた。

しかし余りにも突拍子過ぎたのか、グリフォンはまるで確認する様にマギーに尋ねる。

 

「…カタパルトってあれだよな。空母とかにあるアレだよな?」

 

「そう。そのカタパルトですよ」

 

「…何でそんなのがここにあんの?殆どの基地じゃヘリポートはあってもカタパルトなんてねぇだろ」

 

グリフォンが言う事は至極当然な事であった。

普通に考えて基地にカタパルトデッキがある方が可笑しいのだ。

 

「そう言えば知りませんでしたね」

 

しかしマギーは知っている。最もそれは最初期にここに配属されたシーナや戦術人形だけが知り得る事であるが。

 

 

 

 

 

「元々ここは建設途中で破棄された特殊基地だったんですよ。どうやらマスドライバーなんてものを作る気みたいでしたがそんなもの出来る筈がありませんからね。破棄されて年数が経っていない事から、グリフィンが早急に買収し、それを基地として転用したんです。カタパルトはその名残です」

 

 

 

 

 




と言う訳で、S10地区前線基地のちょっとした秘密の公開です。

次回は何時になるかは分かりませんので、気長にお待ちを。

では次回ノシ


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Act68 Last time of the year

今年も残り数時間。
S10地区前線基地では今年最後の一時を過ごしていた。


今年も残り数時間。S10地区前線基地では新年を皆と迎えたいという願いからシーナを筆頭に基地に元からあった和室にて、基地のメンバー全員とデビルメイクライのメンバーが集まっていた。炬燵が用意され、鍋が用意され、美味しい料理が用意され、酒が用意されていた。最早この場は宴会場になっている気もしなくはないが、和気藹々とした空間が生まれていた。そんな中でギルヴァは45を膝の上に乗せたまま、食事を楽しんでいた。

 

「ふむ、鍋というのは悪くないな。今まで知らなかった事が悔やまれる」

 

「美味しいよねぇ。ボリュームもあるし」

 

「そうだな」

 

ギルヴァ自身、日本の食事や文化に関してはそれなりに興味は示している。

日本刀状の魔剣「無銘」を扱っているという事もあるのだが、一番はかつて母が見てみたいと言っていた日本の国花、桜の花の写真を見て、彼が日本というものに対して興味を示す様になったきっかけとなっていた。

とは言え、崩壊液や核の影響もあってそういう機会が中々に訪れない事もギルヴァは理解している。

 

「しっかし、色々あった一年だった気がするぜ」

 

今年が残り数時間という事もあって、ギルヴァの対面で座っていたブレイクが過去を振り返る様に呟いた。

 

「俺は途中でこっちに来たわけだが…よりによってあんな事件になるとは思わなかったな」

 

「フェーンベルツでの一件か…。あれから数ヶ月経ったというにの、昨日の事の様に覚えている」

 

「魔界の覇王を倒したのは良いものの、俺達の仕事は無くならない訳か」

 

「そう無くなる事はなかろう」

 

だが…とギルヴァは考える。

もし悪魔という存在がこの世から消え去ったとしたら。

自分やブレイクといった存在は不要となる。それでこそグリフィンに属すという考えもあるだろうが、戦闘狂という訳ではない。自身が不要となった時は愛する者と共に静かに暮らすというのも悪くないとも考えていた。

とは言えそれは飽くまでもそれは、もしもの話に過ぎないのだが。

 

「それに悪魔という存在がこの世から無くなろうと、俺達は鉄血との戦いに駆り出される。雨風凌げる安全な場所で言葉が達者な奴らは自分を守ってくれる者を必要とする。地位、権利を保持したいが為にな」

 

「もしそう言われたらどうする気だ?」

 

「…次は来たら本気でグリフィンと敵対するとでも脅せばいい」

 

その事に和気藹々とした空間が一瞬にして冷え切った。

悪魔を狩る事を生業とし、鉄血が大部隊で攻め行っても抵抗する暇を与える事無く壊滅に追い込む事が出来る奴が本気でグリフィンと敵対するとなった時、果たしてどちらが勝つか?

 

「…ギルヴァさん、本気で敵対しようとしないでね…?」

 

「飽くまでの話に過ぎん。真に受けん事だ」

 

そう言われても、ギルヴァなら本気で敵対しかねないと思う者は決して少なくはなかった。

敵対する者には容赦しないという点は最近になってここに配属となった元S11地区後方支援基地所属していた三人は省き、この基地に居る者全員が知っている事である。

とは言え彼とて親しかった者達と敵対する様な真似をしたいとは一度も思った事はない。

飽くまで脅し程度でしかないのだから。

 

時刻は段々と日付の変わり目を迎え始める。

酔い潰れる者や先に眠ってしまった者達。日付が変わるまで起きている者達の中にはギルヴァの姿もあった。

彼を中心に、45、代理人、ノーネイム、ブレイク、シーナが机を囲んでいた。

 

「来年は別の基地の所にも挨拶に行かないとなぁ」

 

「指揮官の所ではそういうの良くやってたのかしら?」

 

「うん、そうだよ。両親と一緒に近所に挨拶回りしてたよ」

 

「へぇ~。何かそういうのも悪くないわね」

 

日系人であるが、シーナのその中身は純粋な日本人としての部分が多い。

それは彼女の両親のおかげでもあると言えるだろう。

 

「なら、俺達は娘が出来た事を報告しに行くべきか」

 

血んつながりは無くとも、ギルヴァは一児の父親である。

そう言った事は基本内々で納めていた事が、そういう時の場合位は報告しても良いかと彼は考えていた。

 

「そうですね。今まで作戦で助けていただいた所に報告しに行くのも良いですね」

 

「だねぇ~」

 

妻である45も代理人の台詞に同意を示しながら頷く。

 

「んなら、俺も出向くか。店が構えて事だしな」

 

「…その時はグローザもついて行ってやれ」

 

「分かってるって」

 

ギルヴァなりの茶々に、ブレイクは何ら気にする事なく普通に答える。

それを見ていたシーナはそっと微笑んだ。

そして彼女は壁に立て掛けあった時計を見た。

後一分で新たな年を迎える。そして時計の針が動き、日付は1月1日を迎えた。

代表してシーナが起きている面々に挨拶をする。

 

「新年あけましておめでとう」

 

 

 

 

 

 

 

「そして…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「今年もよろしくね!」




短いですが、今年で最後の投稿となります。
次回投稿は来年となります。

この作品を書き始めてあっという間でしたが、多くのお気に入り登録、高評価、本当にありがとうございました。
また多くの作者様とコラボできた事もとても嬉しく思います。

来年も「Devils front line」をよろしくお願いいたします。

では皆さん、良いお年を!


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Act69 Early new year

新年早々。
S10地区前線基地に社長たちが急遽として訪れる事になった。


新たな年を迎え、各々が今年の抱負を静かに抱く中S10地区前線基地は新年早々忙しくしていた。

前線基地というだけあって、鉄血の軍勢が攻めてきたのかと思われるが珍しい事にそれはなく、忙しくしている理由は別にあった。

 

「えっと、社長が来るのって一時間後だよね?」

 

そう。新年早々、急遽社長であるクルーガーがS10地区前線基地に訪問する事となったのだ。

余りにも突然という事もあって、流石にだらけた所や汚い所を見せる訳にも行かないので、シーナの指示の元、所属する人形達は役割分担しながら大掃除を行っていた。

そして指揮官たるシーナは後方幕僚のマギーと一緒に執務室で打ち合わせを行っていた。

 

「補足しますとへリアントス上級代行官、そしてI.O.P 16Labのペルシカリアさんも訪問される予定です」

 

「ん、分かった。急にその連絡が入ったのは驚きだけど…うちって何かヤバい事……やってるね」

 

シーナの顔が少しだけ引き攣る。

その顔を見てマギーは軽く苦笑いを浮かべた。

ここS10地区前線基地は色物ぞろいに踏まえて、大量の魔具も保管している。

ヤバいだけで片付けられる事なのか怪しく感じる所である。

 

「ですねぇ…。特にS11地区後方支援基地にて回収した魔具とリヴァイアサン、それにノーネイムさんの事は報告はしているんですけど」

 

「それだけを聞いて納得する訳がないと言うか…実際目にしないと納得できないか」

 

「でしょうね。しかし新年早々やってくれるますね」

 

「仕方ないって。こういう抜き打ち視察も必要だよ。普段から気を引き締めるのも大切だからね」

 

「やましい事はしていませんからね。もしやましい事をしていたら、それでこそ今でも大慌てでしょうし」

 

だね、と頷き返すシーナ。

そこに執務室のドアをノックする音が響き、開く。

入ってきたのはギルヴァとノーネイム、そしてフードゥルとグリフォンだった。

何故二人と一匹と一羽がここに呼ばれたのか。ギルヴァはS11地区後方支援基地の際の詳細を知る者の一人、そしてノーネイムはその基地で眠っていた鉄血のハイエンドモデル、最後にフードゥルとグリフォンは魔界出身という事もあって、悪魔の事についてクルーガー達に話さなくてはならないと思ったシーナが招集をかけたのだ。

そして呼ばれた理由を知らないギルヴァ達の中でグリフォンがシーナへと話しかける。

 

「来たぜ、シーナの姉ちゃん。来て早々で悪いけどよ、何で呼ばれたのか教えてくんね?」

 

「うん。今皆を呼んだ理由を話すよ」

 

揃った事によりシーナはギルヴァ達に呼んだ理由を話す。

新年早々G&R社の社長が訪れると言われてもギルヴァ、フードゥル、グリフォンは特に驚きもしなかった。

寧ろついに来たか、と思っている程だ。

対して大袈裟ではないものの、驚いていたのはノーネイムだった。

鉄血のハイエンドモデルであるが、最早彼女は鉄血との縁すらない状況にある。代理人という前例がある為、ある程度は納得されると思われるが不安がない訳ではなかった。

そして彼女はグリフィンと敵対するという気など更々ない。ならばその敵対しないという意思を見せつけるべきだと判断していた。

 

「成程な。…ならばやらなくてはならないか。ここに世話になっている以上はな」

 

「事態が事態だから。お願いするね」

 

「了解した」

 

目を伏せて腕を組みながら返答するギルヴァ。

しかし彼はちょっとした懸念を感じていた。

 

(急遽訪れるとはな。抜き打ち…それなら理解は出来るが)

 

悪魔や魔具、ノーネイム…一度は報告されている。

流石に聞いただけで納得できないから、見に来るという事は彼も分からない訳ではなかった。

しかし疑問は残る。

そしてふとギルヴァは考えの末に、ある答えに行き着いた。

 

(…力か)

 

S10地区前線基地は何度か悪魔が関わる案件に関わっている。

そして作戦の要としてデビルメイクライが動き出す事が殆どであり、一人の力でなくとも、ギルヴァは問題解決の為に尽力した一人とは言えるだろう。

戦術人形で解決出来なかった問題を解決出来る便利屋…。そこで誰が動き出すか。

そこで彼が思ったのは、所謂上層部(狸共)の存在であった。

何処かで情報を得て、クルーガーにギルヴァを自分の配下に置くように命じた上層部が動いたのかも知れんと。

 

(…所詮は金と権力でしか身を守れぬ存在か。…下らん)

 

ギルヴァに対して直接でなくても、指揮官であるシーナに対して何らか動き出すかも知れない。

飽くまで憶測でない為、彼らが来てそういった動きの話はないという事もあるかも知れない。

ギルヴァは静かにこの訪問が穏便に済む事を祈るのだった。

 

そして一時間後。

予定通り、クルーガー、へリアントス、ペルシカリアがS10地区前線基地に訪れる。

理由としてはS11地区で起きた作戦について、そして回収した魔具や武器、眠っていたノーネイムについて知りたいという事であった。訪れた上官に立ち話を強いる訳にも行かず、S10地区前線基地を統べる指揮官、シーナは三人を執務室へと通す。S11地区後方支援基地で起きた事や回収した魔具に関してはシーナ、マギー(悪魔、そして魔工職人という事は伝えている)、ギルヴァによって説明され、ある一定の理解が得られたのだが、科学者としての血が騒いだのか、ペルシカがある事を提案をしてきた。それは使わない魔具の一つを調べさせて欲しいというもの。その答えとしてマギーは笑顔でこう答えた。

 

「触れた瞬間、大火傷、感電、呪い、精神崩壊…挙げていけばキリがないサービスが付いてきますが?」

 

「うん、やめておくわ」

 

そういうやり取りがあったのは言うまでもない。

そしてノーネイムの事も話され、彼女も三人の前でグリフィンと敵対する気はないという意思を見せつけている。

しかしそこにギルヴァが補足としてある事を告げた。

 

「ノーネイムはデビルメイクライの一人として属している。つまり協力関係という事だ。そちらが下手な手を打たん限り、この関係は続くと約束しよう」

 

遠回しに脅している様にも聞こえるのだが、ギルヴァもこういう事に関しては黙っているつもりなどなかったのでそう伝えたのだ。

良い様に扱われるつもりはない…言葉の裏にはそう意味が含められている事に三人は気付いていた。

 

「さて…シーナ指揮官」

 

「は、はい!何でしょうか」

 

「報告では聞いているが…例の大型機動兵器を見せてもらっても良いだろうか」

 

クルーガーが急遽としてS10地区前線基地を訪問する事としたのは、理由としてリヴァイアサンが一番大きかった。無論S11地区での事やノーネイムの事も理由の一つなのだが、特に気にしていたのはリヴァイアサンだ。

幾ら報告で聞いていたとしても、やはりどの様なものかは把握しておきたいのは上に立つ者として至極当然の事であろう。

 

「分かりました。ご案内します」

 

断る理由も、断る権利もない。

シーナは頷き、ソファーから立ち上がる。そのまま全員を連れてリヴァイアサンが置かれている第二格納庫へと案内するのだった。

 

第二格納庫。

まだ完成には至ってなくとも、その姿からして完成間近のリヴァイアサンが鎮座している。

シーナにリヴァイアサンの元へと案内された三人はリヴァイアサンを見て、それぞれ異なった反応を見せていた。

クルーガーは驚く様子は見せず、へリアンは目を見開き驚愕な表情を浮かべ、ペルシカは興味深そうにリヴァイアサンを見つめていた。

 

「SFとかで出てくる空飛ぶ戦艦ね。それを実際に作ろうと考えた人に会ってみたいわ」

 

リヴァイアサンを見て、一番に口にしたのはペルシカだった。

リヴァイアサンの見た目は彼女が例として挙げた様にSF映画に出てくる空飛ぶ戦艦に近い。

こんなものを作ろうと考えた人物に会いたくなるのは学者として、そして個人的な意味でそう口にした。

そしてこんなものを作ろうと考えた人物が、ペルシカの直ぐ横で笑顔を崩さず口を開いた。

 

「私が考えたんですけどね。最も設計図のみでしかないですが」

 

「え…マジで?」

 

悪魔であり、魔工職人であるマギーがいくら何でもこういうのは作ろうとは思わないと感じていたのだろう。

その事をあっけらかんと暴露するマギーに流石のペルシカも驚かずはいられなかった。

二人の傍らで静観していたクルーガーがマギーへと尋ねた。

 

「S11地区後方支援基地で見つかったと聞いている。…設計図でしかなかったそれが何故形を得た?」

 

「そうですね…。まぁ大まか言えば盗まれたんですよ。リヴァイアサンの設計図、そしてここに保管している魔具全てを」

 

「…」

 

「私の管理体制がなってないのが原因ですがね。けど、この人間界にもいるでしょう?金や地位、権力の力を振りかざす者達が。魔界にもそういう輩は居たんですよ。圧倒的な力を持つ悪魔達が」

 

それに、と彼女は言葉を続ける。

 

「魔界は弱肉強食の世界。そこに慈悲なんてものありません。弱者は淘汰され、強者が全てを統べる。では何故戦う力を持たない魔工職人達が生き残れたか?単純な話、強力な魔具などを作れるからですよ。それ以外に価値はない。只それが作れるという機械としか見られていない。そして私は無理難題しか言わない力を持った悪魔達の要望を聞き続け、作り続けるしかなかった。狂った魔工職人なら幾らでも作るでしょうが、私は違った」

 

フッと微笑むマギー。

しかしそれは自虐的な笑みだった。

その表情を目にしながらクルーガーは何も言わない。

 

「正直辟易していたんですよ、そんな輩に。…それで一時期、自暴自棄になっていましてね。管理体制が最悪な所に付け込まれる形で手掛けた作品、リヴァイアサンの設計図をS11地区後方支援基地の協力者としていた者に盗まれて、リヴァイアサンは未完成ながらもその姿を得た訳です」

 

「…」

 

「納得して頂けましたか?」

 

「ああ。例え種族が違えど、抱える問題に似る部分はあるという事をな。…相当苦労した様だな」

 

彼からの台詞にマギーは軽く肩を竦める。

 

「ええ。正直人間界は生きやすいですよ。…そしてこっちに就いた以上は悪魔でありながら協力はしますよ。最も魔具とかの話は別になりますがね」

 

「それに関してはそちらに任せる。我々人類にとっては魔具は手に余るだろうからな」

 

元よりクルーガーはそのつもりでいた。

確かに従来の武器と比べれば魔具は非常に強力であるが、その代償は自身の命になる場合もある。

悪魔が使う事を想定しているのだから、人類が使う事は想定されていない。

過ぎた力は自身の身さえ滅ぼす。…人類にとって悪魔の力は過ぎたものなのだ。

最もマギーは力の代償を取らない魔具を作ろうと思えば作れる。伊達に伝説の魔工職人はやっていない証拠である。

 

「シーナ指揮官」

 

「はい、何でしょうか」

 

「…リヴァイアサンと言ったか。あれの運用に関しては貴官に任せる。必要に応じて運用するがいい」

 

「!」

 

一瞬だけ目を見開くシーナであったが、すぐさま真剣な面持ちへと切り替える。

 

「よろしいのですか…?」

 

「鉄血との戦いの他、ここは悪魔との戦いにも関わっている。そうなれば厳しい戦いを強いられる事もあるだろう」

 

「…」

 

「それにS11地区後方支援基地での一件ではここに報酬を出していなかったのでな。その報酬代わりを受け取ればいい」

 

そう言われても結構受け取っているんだけどなぁ、とシーナは思った。

しかしリヴァイアサンとその運用権利を得られた事は彼女は嬉しく思っていた。

航空支援を可能とする航空機をS10地区前線基地は保有していないのだ。運送用のヘリはあれど攻撃に特化した航空機はない。またリヴァイアサンは他と比べると大型であるが、その分有する機動性と火力は他を圧倒する。

 

「それと以前の名残であるカタパルトの使用を許可する。あれほど大型を飛ばすにはカタパルトが必要だろうからな」

 

「分かりました。…本当にありがとうございます」

 

「若い者を前線に放り込んでいるのだ。これくらいしなくては意味がない」

 

そう言い終えると彼は背を向けて歩き出した。

 

「これからの健闘を祈っている。…便利屋、お前にも期待しているぞ」

 

「…そちらが下手な手を打たん限りは期待に応えるとしよう」

 

「…そうか」

 

ギルヴァと少し会話した後に、彼は見送りはいらんと伝えへリアンとペルシカと共にS10地区前線基地を後にした。新年早々、大変な目に合うS10地区前線基地であった。

 

 

クルーガー達がS10地区前線基地に去る少し前の事。

ペルシカはギルヴァを呼ぶとある話をし始めた。

 

「M4の事、助けてくれて感謝するわ」

 

「…何の事だか分からんな」

 

「白を切るならそれで良いわ。…もし何かあったら協力してあげて」

 

「…覚えておこう」

 

「そう。…それじゃあね、便利屋さん」

 

背を向けて去っていくペルシカ。

ギルヴァは近くの壁に凭れ腕を組み、目を伏せる。

 

(何かあったら、か…)

 

―今どうしてんだろうな、あの嬢ちゃん

 

(分からん。…最後に会ったのはS09地区での一件か)

 

―…勘なんだが、近々会えるかも知れないな?

 

(…かも知れんな)

 

 

 

 

彼は知らない。

 

 

 

 

 

否、知る由もなかった。

 

 

 

 

 

蒼の勘が近々現実になることを。




え~…遅くなりながらも明けましておめでとうございます。
ん?何で投稿遅れたのだって?
いや~…あるゲーム買ってしまってはまってしまいましてね…それで執筆が後回しに。
ま、まぁそれはおいといて!

さて、リヴァイアサン&運用権利が入った福袋を得たS10地区前線基地。
そして航空戦力を有する事が出来ました。なのでコラボ作戦では状況によってはリヴァイアサンを投入するかもです。
それとS10地区前線基地の名も近々改名する予定です。
…いい加減大量の魔具をどうにかせんとな…うん。

では次回ノシ


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Act70 Respectively

専用武装の完成。カタパルトデッキの整備点検。
そしてギルヴァの所には…


リヴァイアサンの運用許可、そしてカタパルトデッキの使用が社長から下りた事によりS10地区前線基地は空いた時間を使ってカタパルトデッキの整備点検が行われる様になった。

本来であればそこにマギーが居なければならないのだが、彼女はリヴァイアサンの組み立てと同時にノーネイムの専用武装を手掛けなくてはならない上に後方幕僚としての仕事がある。そこにカタパルトの整備点検を任せてしまえば多忙過ぎて倒れかねないと懸念を示したシーナ。その為、整備点検は指揮官のシーナの他、手空きのメンバーで行われる様にあった。

そして今日、ノーネイム用武装が一つが完成した事により、第二格納庫ではその知らせを受け、呼び出されたノーネイムが訪れていた。

マギーが作業用の外骨格を操縦しながら、ノーネイムの身には武装が次々と装着されていく。

二連装の六銃身型ガトリングガンを両手に持ち、背中に装着されたバックパックにはまるで柱の様な筒が二つ装備され、そして後ろから覆うかのように伸ばされた二つのアーム先には巨大な武装コンテナが配置されている。

両脚部にもコンテナが装着され、その側面にはポッドが配置。

傍から見れば重装備だと分かる外見。重装備による機動力低下を補う為か脚部には無限軌道ユニットが備われていた。これがノーネイムの専用装備の一つ パトローネである。

 

「データ上では見ていますが尋常じゃない位の武装ですね。どうですか、ノーネイム?不調とかはありませんか?」

 

「特に問題ない。武装とのリンクも出来ている」

 

そう言いながら軽々と動くノーネイム。

その動きからして重武装による重さは感じている様には思えない程軽々しかった。

 

「重武装、重装備化を前提に生まれた貴女ですからね。寧ろほんの少しだけ重いと感じる位でしょうか」

 

「そうだな」

 

これだけの重装備でも苦にすら感じていないノーネイム。

そんな姿を見て、マギーは何故彼女が計画だけ終わったのか、ある答えに至っていた。

 

(整備性の問題…なのでしょうか。或いはそのコストの高さか)

 

ノーネイム用として製作される予定だった武装は全て重装備、重武装化が施されている。

戦場においては圧倒する力を有する反面、そのコストの高さ、整備性の悪さは出ていた。

 

(結構な大仕事になりましたね…)

 

それにマギーは気付いており、外見をそのままに、中身の殆どに自身が持つ魔工のあらゆる技術を使用していた。

完成に時間がかかったのは全て専用武装に魔工の技術を詰め込んでいた為である。

これによりある一定の整備性向上、今後修理等で資材の消費量をある程度抑える事に成功している。

 

「動きに問題はない。武装に関しては元からの情報として入っているから問題ない。後は実戦形式の運用テストが必要か」

 

「そうですね。しかしほんの少しの相手では恐らくパトローネの真価は発揮できないでしょうし…最悪他の地区で鉄血の大部隊を相手にするしかないかもですね」

 

「ふむ…。父から聞いた話ではS09地区が激戦区と聞いているのだが…」

 

「近場で鉄血の大部隊相手を遭遇目当てで行くならそこしか無いですね。状況によっては鉄血が支配下に置いてある基地もあるかも知れないですし。…これは指揮官に頼んで運用テストを許可を頂かないといけないですね」

 

流石に独断で動く訳にはいかない。そんな事はマギーもノーネイムも分かっている。

一度パトローネを外してから、二人は今カタパルトデッキで整備点検を行っているシーナの元へと運用テストの実施許可を得る為に第二格納庫を後にしカタパルトデッキへと向かうのだった。

 

その一方でカタパルトデッキではグリフィンの制服ではなく、安全第一と記された黄色のヘルメットを被り作業着に着替え、端末を手に画面とにらみ合うシーナの姿があった。

その他にもいつもの服装ではなくシーナと同じ様に作業着に着替えて整備点検を行っている戦術人形達の姿があった。

 

「しきかーん!」

 

手を振りながら元気よくシーナの元へと駆け寄るのはスコーピオン。

彼女も同じ様に作業着に着ている。ただヘルメットが少しだけ大きいのか、ずれ落ちそうになっていた。

そんな姿に微笑みながら手を振り返すシーナ。

 

「カタパルトの操作室と昇降エレベーターの点検終わったよー!」

 

「ありがとう。どうかな、動きそう?」

 

「操作室のコントロールパネルは起動したし、昇降エレベーターも皆で見てみたけど何処か壊れている感じはなかったよ」

 

「成程。何かあれだね、マスドライバーとして運用されるよりこっちをメインに建てられた感じがするなぁ」

 

シーナはこの昇降エレベーターやカタパルトが完全な状態で残っているとは思っていなかった。

何かしらの破損等などは残っていると思っていたのだが、いざ点検を行ってみれば一部破損あれど殆どの箇所が問題ないという結果になっていた。

これではまるでマスドライバーとして運用するというより、カタパルトとして運用する事を主にしているのではないかと、シーナはそう感じられずにはいられなかった。

 

「もしかしたら路線変更したのかも」

 

「マスドライバーとして運用が無理と判断したからかな?」

 

「かも知れない。こうやって点検をやってさ、一部破損していて後の殆どの箇所が破損無しって変じゃん」

 

「だよねぇ…。ここに来て辺りを見回した時、何か完成されている感じはしたけど」

 

シーナは数時間前にここへ来た時を思い出す。

カタパルトデッキが存在する事は知っていたが、一度も足を踏み入れた事が無く彼女は幾らか未完成で終わっていると思っていた。

そしていざ来てみれば完成されたまま残っている事に不思議に思っていた。

 

「でもまぁ…マスドライバーなんて建てなくて良かったかもね」

 

「それはどうして?」

 

「マスドライバーって下手すればどこでも届く大砲みたいなものだからさ。悪魔の力と同じ様に…まぁギルヴァさんやブレイクさんは違うけど…度が過ぎた力は自分も、それどころか大事な人達でさ巻き込みかねない」

 

そんなのって嫌でしょ?と締めくくりつつスコーピオンへと問いかけるシーナ。

スコーピオンも悪魔との戦いに何度か関わっている為、その恐ろしさを知っている。目にはしてないが、S11地区後方支援基地の指揮官が悪魔へと変貌していた事も、そしてそれを相手にしている事も覚えている。

度が過ぎた力が幾ら凄くても、そう簡単に制御できるものではなく、結果自身を滅ぼしかねないというシーナの台詞に言葉に出さずとも深く頷くスコーピオン。

それを見てシーナは微笑みながら優しくスコーピオンの頭を撫でるのだった。

その後にマギーとノーネイムがカタパルトデッキに訪れる。

パトローネの運用テストの許可をマギーから聞いたシーナはそれを許可。その事によりパトローネの運用テストが近日中に行われる事となった。

 

その頃、S10地区前線基地隣接店「デビルメイクライ」では…。

404小隊は任務で基地を離れ、代理人は買い出しへ。フードゥルはのんびり体を丸めて休んでいた。

ギルヴァは何時もの様に椅子に腰掛け、そして95式がニャン丸と共にデビルメイクライに訪れていた。

ニャン丸はフードゥルの上で体を丸めて彼と同じ様に休み、95式は椅子を持ち出して、彼の隣でお茶を飲んでいた。

静かな時間が流れる店内。95式はギルヴァと会話しよう思い、彼へと話しかける。

 

「思えば鉄血を相手にする為にデビルメイクライと名付けたのに、知らない内に本当の悪魔を相手にする様になってしまいましたね」

 

「言われみればそうだな。気付かぬ内にそんな風になっていたな」

 

「…もしかしたらデビルメイクライと名付けた辺りから本当の悪魔と戦う事は決まっていたかも知れませんね」

 

「かもな」

 

少しだけ距離を縮める為に95式は座っている椅子をずらし、ギルヴァとの距離を縮める。

お互いの肩が触れられる距離まで近づくとそっと頭をギルヴァの肩へと預けた。

 

「…このまま貴方と一緒に居られますでしょうか?」

 

「…さぁな」

 

「ふふっ。そうですね…この先の事なんて分からないですね」

 

そんな時、書斎の上に置かれた電話が鳴り響いた。

ギルヴァは受話器を手に取り、何時もの言葉を口にする。

 

「デビルメイクライ」

 

『お久しぶりです、ギルヴァさん』

 

「!…その声は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はい。M4A1です』




次回はノーネイムの専用武装の一つ「パトローネ」の運用テストです。
どっかの地区で派手に暴れるので、一目見たければどうぞ。

そして運送用テストが終わればギルヴァ編へ。
M4からの依頼で動き出す予定です。

では次回ノシ


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Act71 Bullet dance

与えらし名は「銃弾」を意味する。
主の共に放たれる銃弾は敵へと問う。

―死の覚悟は出来たか?―


S09地区、某所。

奥まで続く舗装されていない道を一台の大型トレーラーが駆け抜けていた。

運転席にはノーネイム、助手席にはマギーが座っている。二人が向かう先はS09地区にて密かに鉄血の大部隊が占領していると噂される地区内の端に存在する基地。

情報の出どころはへリアンからによるもの。本来であればS09地区に存在するグリフィンの者達に任せるのが当たり前なのだが、対応していたシーナがノーネイムの専用武装「パトローネ」の運用テストの件の事を話し、特例としてS10地区前線基地がそれを任せてもらえる事となった。

正式な許可を得られた事により、シーナからその知らせを聞いたマギーとノーネイムは例の基地へと向かっていた。

大型トレーラーのコンテナの側面にはDevil May Cryと綴られたネオンサインと、その横にはS10と綴られたネオンサインが取り付けられている。これらは店の宣伝とS10前線基地の所有物という意味を含めて取り付けられたものだ。

車両は人気の無い町の中を進んでいく。運転しながらノーネイムが口を開く。

 

「…この町の惨状は鉄血の攻撃によるものか」

 

彼女の目に映るのは、攻撃によって倒壊した建物、破棄された建物の群。

二人が乗る大型トレーラーが通っている町は所謂ゴーストタウンと言われるものへと変貌していた。

それを聞いていたマギーはへリアンから聞いた情報をノーネイムに伝える。

 

「話を聞く限りではそうみたいですね。ただここに価値はないのか、鉄血の大部隊はこの先の基地に引きこもっているみたいです」

 

「そうか。…それならば先手を打つ事が可能か」

 

ノーネイムは車両のスピードを上げる。大型トレーラーはゴーストタウンを抜け、鉄血の大部隊が占拠している基地へと進んでいくのだった。

 

 

「…」

 

鉄血の基地から少し離れた場所にて大型トレーラーは停車していた。

専用武装「パトローネ」を装着したノーネイムが大型トレーラーのコンテナから降り立ち、近くの茂みに身を潜めながらその先にある鉄血の基地を見つめた。

ここまで近づいて攻撃してこないのは、基地までおびき寄せて自分を向かえ撃つつもりなのだと。

主兵装たる連装ガトリングガンは大型武装コンテナの内側にマウントされており、その代わりに彼女は身の丈以上はある榴弾砲を手にしていた。専用武装「パトローネ」の武器の一つではなく、これはマギーが、以前ノーネイムとギルヴァが持ち帰ってきたデストロイヤーの榴弾砲からヒントを得て作り上げた武器である。ただし試作品であるが故に耐久性に難があり、その為一射しか出来ないという欠点を抱えている。

だがノーネイムにとっては一発だけで十分だった。遠距離砲撃を仕掛けた後に起きる混乱に乗じて突撃するつもりなのだから。

 

「始めるか」

 

伏せていた目を上げ、榴弾砲を構える。装填しているのは時限式の拡散焼夷弾。発射後に宙で炸裂し、地上に居る敵に焼夷弾の雨を降らせるもの。

そしてノーネイムは榴弾砲の引き金を引く。刹那、開戦の狼煙と言わんばかりの砲撃音が鳴り響く。

その砲撃音は基地で何時でも迎え撃てる態勢を取っていた鉄血の人形部隊の耳にも届いていた。そして偶然にもそこには基地の防衛を任されたハイエンドモデルであるデストロイヤーもいた。彼女もその音を耳にし、茂みの奥から空へと上がっていく何かを発見した。

空へと上がっていくそれを目で追っていく。その瞬間、それは宙で炸裂、大量の焼夷弾が基地全体を覆いつくさんと言わんばかりに降り注いだ。降り注ぐそれを見てデストロイヤーは目を見開き、自分が立っていた地点から即座に飛び退いた。

 

「噓でしょうおおおっ!?」

 

瞬く間に広がる炎の海。炎に飲み込まれる鉄血の大部隊。万全と言えた状態は一瞬にして崩され、その隙を突くかのように榴弾砲を投げ捨て専用武装「パトローネ」を身にまとったノーネイムが茂みの中から勢いよく跳躍して現れ戦場へと降り立つ。

 

「第一陣は何とかなったか。…む」

 

状況把握にしているノーネイを迎え撃とうと鉄血の大部隊を次々と姿を現す。

プロウラー、スカウト、ダイナゲート、ジャガーと言った鉄血機械大部隊に咥え、リッパ―、ヴェスピット、ガード、ストライカー、ドラグーンと言った鉄血人形大部隊。戦力としては確実に鉄血が勝っている。

瞬く間にノーネイムは包囲されてしまう。退路は絶たれ、この後に待っているのは鉄血による集中砲火だろう。

だと言うのにノーネイムは冷静だった。専用武装「パトローネ」はこういう時の為にあるのだから。

 

「戦術的には間違っていないが…」

 

銃口が向けられる。

 

「だが…」

 

引き金が引かれる瞬間、ノーネイムは勢いよく空高くへと跳躍。

重武装にも関わらず軽々と宙で大きく回転しながら、静かに呟く。

 

「詰めが甘い」

 

両サイドの武装コンテナが動き出し次々とミサイルの発射口が展開されていく。

前、後ろ、側面、上部…複数の発射口からミサイルの弾頭部分が姿を現す。

 

「は…?」

 

炎から何とか逃れ遠方で見ていたデストロイヤーは口を開いたまま啞然とした。ノーネイムが装備している武装コンテナから見えたミサイルの数は異常だった。正直その数を数える方が馬鹿らしく感じるレベル。

それ以前にあれだけの重装備なのに何故あんな風に軽々とアクロバティックな回転が決められるのかそこが不思議でならなかった。そんな疑問を他所にノーネイムは攻撃を開始。

両武装コンテナから一斉にミサイルが全弾発射され、それぞれの軌道を描きながらミサイルのシャワーが地上の鉄血部隊へと襲い掛かった。次々とミサイルの餌食となっていく鉄血の大部隊。次々と起きる爆発、木端微塵に吹き飛んでいく敵。あれだけ居た敵の数もミサイルのシャワーによって半数以上削られている。

華麗に地上へと着地するノーネイム。脚部の無限軌道ユニットを展開し周りを見回しながら両手の連装ガトリングガンを構えた。

鉄血が占領下にある基地だけあって、そう簡単には落ちる事はないのだろう。

何処からともなく現れる鉄血部隊へとノーネイムは静かに呟く。

 

「運用テストも兼ねているが…やるなら徹底的にだ」

 

地上を滑るかのように動き出すノーネイム。両手に構える連装ガトリングガンの引き金を引いた。

回転し始める銃身。そして瞬く間に無数の鉛玉がはじき出された。

相手に反撃を許さない嵐の様な弾幕が敵へと襲い掛かり射線上に立つ鉄血の機械、人形部隊は次々と無数の弾丸によって貫かれ蜂の巣へと変えられていき鉄屑へと姿を変えていく。負けじと交戦する機械鉄血兵や人形鉄血兵もいるが、それも意味を成さない。最早蹂躙とも言える戦場に次々と鉄屑が積み上げられていく。

ガードの集団が味方を守る為に前に出ても、ノーネイムの攻撃には盾すら紙当然と言わんばかりに盾ごと貫かれ機能停止に追い込まれる。

 

「何なの!?何なのあいつッ!?」

 

後方で榴弾砲を用いてグレネードを撃ち続けるデストロイヤーは軽く混乱していた、以前に何者かによってドリーマーと共に星にされたの内、何とか戦線復帰し、ドリーマーに基地の防衛を任せれいずれはグリフィンの人形に攻撃仕掛けようと考えていた。

それがどうだ。グリフィンの大部隊が攻めてきたとしても返り討ちできる戦力を有していたにも関わらず、それがたった一人の襲撃によって、逆に壊滅状態へと追い込まれていた。

これだけの砲火に包まれているのに攻撃を軽々と回避され、その中に紛れてデストロイヤーが砲撃してもノールックでグレネード弾をガトリングガンで撃ち落される始末。

しかしデストロイヤーはまだ勝機があると信じていた。

戦闘が始まりミサイルのシャワーを降らした以降ノーネイムは一度もミサイルを使っていないという事。

それを見てデストロイヤーは両サイドの武装コンテナの弾薬は尽きているから両手のガトリングガンに使用しているのだと確信し、彼女は基地にこっそり隠していた軍用人形「イージス」を戦場に投入した。全身装甲に覆われたそれは一体ではない。五体も投入され、その全てがノーネイムへと狙っていた。

 

「…軍用型か。確かにこういう相手ならこちらにとって分が悪いか」

 

しかし、とノーネイムが呟いた。

盾を構え進軍してくるイージス達との距離を空ける為、後方へと体操選手並みの回転をしながらその距離を空けつつ着地。

そのまま両手のガトリングガンを構えるとそれを合図と言わんばかりにバックパックに装備されていた二つの大きな筒が動き出す。上下に分割し、上部はノーネイムの肩へと移動し、下部は彼女の腰の横へと移動する。

上部の方には機関砲が、そして下部の方には八銃身のガトリング砲が内蔵されている。

 

「倒せない相手ではない」

 

その瞬間、合計八門の機銃による一斉掃射が開始された。

ただでさえ両手のガトリングガンの弾幕がえげつないと言うのに、その倍以上の弾幕がイージス達に襲い掛かる。

絶えのない機銃一斉射を盾で防ぐのに精一杯で近づく事もままならない。

敵の動きが鈍くなりつつある事を確信したノーネイムは一気に畳み掛ける事にした。

 

「あるだけ使う」

 

その言葉を合図に両サイドの武装コンテナ、両脚部のランチャーポッド、その側面に展開された追加ポッドのハッチが次々と展開されていく。そしてミサイルのシャワーを降らせ弾切れしているはずなのに武装コンテナにはミサイルの姿があった。

 

「え…」

 

それを見たデストロイヤーは言葉を失った。そして不味いと感じた。

撃ち尽くしたはずなのにまるで生えてきたみたいミサイルが復活している。一体どういう仕掛けになっているのか分からない。それもその筈であろう。これらの仕様は全て伝説の魔工職人によるものなのだから。

全ての敵に対し照準を合わせ、ノーネイムは冷たく告げる。

 

「チェックメイトだ」

 

両手のガトリングガンが、機関砲が、腰横のガトリング砲が、武装コンテナが、脚部のランチャーポッドが一斉に火を噴いた。嵐の様な弾幕が射線上に立っていた敵を破壊し百以上はあるであろう放たれたミサイルがそれぞれの軌道を描きながら、敵に襲い掛かりバラバラに吹き飛ばす。無数の爆発が同時に巻き起こり、最後には派手な爆発が空高くまで舞い上がる。

因みにデストロイヤーはノーネイムがパトローネでの全弾発射を始める直前は身の危険を感じ基地から早々に撤退している。

 

「…」

 

硝煙と炎が辺りを包み、火の粉が舞い上がる。姿形が残らない位に積み上がった鉄屑。その中を立ち尽くしノーネイムは沈黙を保っていた。そっと周りを見回した後、彼女は何も言わず背を向けて基地を去っていくのだった。

運用テストを終え、一度破棄した榴弾砲を回収してからノーネイムは大型トレーラーで待機していたマギーと合流。そのままS10地区前線基地に戻る事になる。

この後にノーネイムの専用装備「パトローネ」が正式に運用される事となるのだが、ノーネイムはマギーに戦闘の最中で気になった事を尋ねた。それは一度使い果たした筈のミサイルが何故復活しているのかというもの。

それを聞かれたマギーはこう答えた。

 

「主武装のガトリングガンと背部マルチウエポンユニットのガトリング砲と機関砲を使って攻撃を敵に命中させると、それをエネルギーに作り替えそれを用いてミサイルを作り出す機能を搭載したんですよ。この技術は以前から考案していたものでして、代理人さんが愛用するニーゼル・レーゲンに組み込もうと考えた機能なんですよ。最もそれは断念して、パトローネに組み込んだのですけどね」

 

 

 

 

その頃。

ノーネイムがS09地区の基地にて暴れている一方でこの男達もS09地区に訪れていた。

Devil May Cryと綴られたネオンサインが取り付けられた一台のバンが道を駆け抜けていく。

運転には代理人が、助手席にはギルヴァが。

そして後ろではギルヴァに呼び出されたブレイクと、参加メンバーとして95式とグローザが乗っている。

彼ら一行が向かうのはある場所にて待っている依頼主の元。

依頼主はM4A1。そして依頼内容は…

 

 

 

 

 

 

 

 

鉄血のハイエンドモデル エクスキューショナー、ハンターの排除及びAR小隊のメンバー ST AR-15の救出。




やっている事がどこぞの弾切れを気にしない人というね…。
という訳で、ノーネイムの専用装備「パトローネ」が正式運用となりました。
パトローネの詳細はまた今度。
後もう一つノーネイムの専用装備があるのですが、それはまた追々。

次回はギルヴァ編。

ではノシノシ


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Act72 Devil's Frigid Zone

突如として起きた謎の現象。
依頼主と合流する為に向かった作戦領域は凍てついていた。


S09地区、某所。

ノーネイムが鉄血が占領している基地にて大暴れしている一方でギルヴァ達もS09地区に訪れていた。

代理人が依頼人が待つ目的地へとバンを走らせていると、以前から置いてあった簡易通信機のコール音が鳴り響いた。それを聞き助手席に座っていたギルヴァが受話器を手に取り、耳に当てる。

 

「デビルメイクライ」

 

『良かった、繋がった!…私です、シーナです!今どの辺りにいますか!?』

 

彼の耳に届いたのは、切羽詰まった様子のシーナの声。

その様子から明らかに何か起きていると判断しつつもギルヴァは冷静に対応する。

 

「先程S09地区に入った所だ。10分程度で依頼人が待つ目的地に到着する。それで何があった?」

 

『先程へリアンさんからの連絡で、今ギルヴァさんが向かっている作戦領域にて謎の現象が発生。現地にいたM4A1さ達と連絡が取れなくなりました!』

 

「…ッ! ナギサ指揮官、その謎の現象について分かっている事は?」

 

『連絡によると、作戦領域全体が突然氷雪地帯になったしまったみたいで…!それでこの状況を打破するためにグリフィンからデビルメイクライに追加依頼したいと…』

 

「追加依頼だと?」

 

追加依頼と言われギルヴァは疑問の声を上げた。

今回の依頼の依頼主はAR小隊の小隊長、M4A1だ。なのに何故グリフィンが追加依頼をしたいと言い出すのだろうか。これでは依頼主はグリフィンであると言わんばかりであった。

 

「俺達の依頼人はM4A1の筈だが?」

 

『それがM4A1さんがデビルメイクライに依頼したのはへリアンさんからの指示らしくて。だから…』

 

「それを指示したから…依頼主は自分達でもあると言いたいと?」

 

『…はい』

 

どうしたものかと彼は考えた。

突如として現れた氷雪地帯によって依頼主であるM4A1と連絡は取れない。そして自分達へ依頼する様に彼女へ指示したグリフィンが追加依頼したいと言い出した。

最早この状況でどうするべきか、考えなくても彼は分かっていた。

 

「代行としてなら追加依頼の内容を聞こう。ただし報酬は上乗せしてもらうぞ」

 

『…! ありがとうございます!…追加依頼の内容は、氷雪地帯にて連絡が取れなくなったAR小隊のメンバー二名、M4A1、M4 SOPMODⅡの捜索及び発生した謎の現象の解決です』

 

(…む?)

 

追加依頼の内容を聞いた時、ギルヴァは妙な違和感を覚える。

しかし敢えて口に出す事はしなかった。

 

「了解した。通信を切るぞ」

 

『はい。…何かあればご連絡下さい。こちらでも何か出来る状態にはしておきます』

 

「頼む」

 

グリフィン側からの追加依頼を了承し、ギルヴァは通信を切る。

相手との連絡が終わった事を確認した代理人が前を見ながら彼へと声をかける。

 

「相手は?」

 

「指揮官からだ。作戦領域全域に謎の現象が発生。一帯が氷雪地帯と化し、現地に居た依頼人と連絡が取れなくなった」

 

「…悪魔による仕業でしょうか」

 

突如として一帯が氷雪地帯できる力を持つ者など一つしかない。

代理人も何度も悪魔という存在、その力を目にしている為今更驚く事はなかった。

 

「十中八九な。…その事を受けて、依頼主の代行としてグリフィンから追加依頼が来た。内容は作戦領域にて連絡が取れなくなったAR小隊のメンバー、M4A1、M4 SOPMODⅡの捜索。及び事態の解決だ」

 

「畏まりました。…少し飛ばします」

 

「頼む」

 

アクセルを踏み込み、バンの速度を上げる代理人。

そして後方からその事を聞いていたブレイクが静かに呟いた。

話を聞いていた95式とグローザが真剣な面持ちをしているというのに、ブレイクはソファーに寝転がり吞気に雑誌を読んでいた。

 

「追加依頼として迷子の捜索に事態の解決、か…それだけなのが妙な所だな」

 

「…」

 

それはギルヴァも感じている事だった。

追加依頼の内容はAR小隊のメンバー二人の捜索と謎の氷雪地帯の解決"だけ"。

まるでそこにはグリフィンの部隊はいないと思わざるえなかった。疑問が残る中、彼らが乗るバンは氷雪地帯と化した作戦領域へと向かって行くのだった。

 

 

 

作戦領域に到達した彼らを待っていたのは、報告にあった通り辺り一帯が氷雪地帯を化し凍てついた町の姿だった。肌を刺すような冷気が漂い、巨大な氷山がそこら中に存在している。中には巻き込まれたのか氷漬けにされた鉄血人形兵の姿もあった。まるで時が止まったかのように、その人形は氷の棺桶の中で機能停止していた。

 

「酷い有様ね…」

 

その有様を見てグローザが言葉を漏らす。

そこにグローザの隣で立っていた95式がここに来てから気になっていた事を口にする。

 

「グリフィンの部隊も巻き込まれて…?でも追加依頼の内容にグリフィンの部隊の捜索は…」

 

鉄血のハイエンドモデルを倒すのに、AR小隊のメンバー二人だけで行う筈がない。普通あれば大規模の部隊が居ても何らおかしくないのだ。しかし彼女達が到着した時にはその姿すらなかった。

もし巻き込まれたのなら、一刻も早く助けに行かなくてはならないのだが…。

95式が言及した謎。そして違和感の正体に気付いたのかグローザの顔が険しくなる。

 

「回りくどい事をしてくれるわね…」

 

「グローザ?」

 

「…ここが氷雪地帯と化した直ぐ後に撤退しているのよ、グリフィンの部隊は。追加依頼の内容にグリフィンの部隊の捜索が無いのはそういう事よ」

 

「まさか…AR小隊の二人と救出対象のAR-15さんを置いていったのですか…!?」

 

「そう考えるのが自然でしょうね。甚大な被害を受ける前に撤退したと見ていい。…ブレイクやギルヴァが納得が行かなそうな顔をしていたのがよく分かるわ」

 

グローザと95式は少し先で町を見つめるブレイクとギルヴァの背を見つめる。

二人が何を考えているのかは心が読める筈がない彼女達には分からない。

しかし彼らがこのまま依頼を放棄する筈がない。それ位の事は二人も分かっている。

指示があるまでグローザは95式を連れて、バンで待機している代理人の元へと戻る事にした。

季節は冬。ただでさえ気温が低いと言うのに、氷雪地帯によって気温はさらに低くなっている。

 

「流石にこのままここで突っ立っているのは厳しいわね…」

 

「ええ、そうですね…」

 

幾ら人形と言えど寒いものは寒い。

そしてこの状況で彼らが平然としていられるのは、その身に流れる悪魔の血が大きく影響しているからであろう。

 

 

その頃…。

 

「SOPⅡ、大丈夫?」

 

「うん、大丈夫」

 

周囲一帯が氷雪地帯と化したこの場所にて、AR小隊の二人は何とか氷の棺桶に閉じ込められずに済んでいた。

被害にあっていない廃屋に身を潜ませ、二人は現状把握に努めようとしていた。

 

「…一体何が起きたの?これも鉄血の仕業?」

 

「違うと思う。幾らで鉄血でもこんな事出来る筈がないわ」

 

「だよね…」

 

(…本当に何が起きたと言うの?)

 

突如として発生した氷雪。あっという間に凍てついた作戦領域。当然ながらこの現象の仕業には悪魔という人知れず存在するものによるものなのだが、鉄血もそしてこの二人も知る筈がない。

 

「取り敢えず移動しましょ。早急にAR-15を見つけてここを脱出。いい?」

 

「了解!」

 

(…ギルヴァさんとも連絡を取らないと…)

 

ここで居た所では何もならない。

二人は廃屋から外へ出て、この地にいる仲間の捜索と依頼しここに来てくれている彼と連絡を取る為に動き出す。

そして彼女達は気付かなかった。二人の背中に遠くから見つめる…

 

 

 

 

氷の精鋭がいた事に。




今回からはAR-15救出作戦なのですが…当然ながら悪魔もぶち込みます。
氷系の悪魔が出てきますが…まぁ皆分かるよね。


では次回ノシ


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Act73 Frost

現れるは氷の精鋭


「二人だけで向かうのですか?」

 

「ああ」

 

バンの中でギルヴァが立案した作戦に代理人が不満の声を上げた。

彼が言うには、捜索と事態の解決には自分とブレイクで行うと。しかし何もしないで待機していろと言われて、代理人は黙って聞くつもりはなかった。

しかしギルヴァには代理人達を待機させる明確な理由があった。

 

「一帯に広がっている氷は普通の氷ではない。魔力で形成され、それに触れた者は一瞬にして氷漬けにされる。俺やブレイクなら脱出は出来るが、人形は違う。触れた次の瞬間氷の棺桶に閉じ込められ、氷漬けにされる」

 

「…」

 

「俺達は一度機能停止した人形を甦らせる術を持っていない。それはお前も分かっている筈だ、代理人」

 

(全く…素直じゃねぇやつ)

 

二人の会話を聞き、ジュースボックスに背を預けながらブレイクは内心呟いた。

ブレイクはギルヴァと代理人が夫妻という関係にある事は知っている。事態解決の為に彼女達を連れて行かないのは、何かあったら心配だというギルヴァの思いも見抜いていた。

そんなギルヴァを見てもっと素直になればいいものをと思うブレイクであるが、公私共にパートナーであるグローザを前にして素直になれるかと考えると自分も人の事を言えないと思った。自分もギルヴァと似た様に大事な事は敢えて伏せる癖はあるのだから。最もパートナーであるグローザがそういった回りくどい事を嫌う点はブレイクも知らない訳でないのだが。

 

「俺達が元凶を討つまでは良い子ちゃんにして待ってな。氷が融けさえすればそっちも動けるからな」

 

それを口にするギルヴァではない事も知っているので、ブレイクは敢えて助け舟を出した。

ブレイクとてグローザや95式、代理人が氷漬けにされる様を見たい訳でないのだ。

 

「それに場合によれば、迷子の二人がここに来るかも知れねぇ。その時はそっちが保護してくれればいいさ」

 

「こう言っては何だけど、向こうがこっちにそう簡単に信用してくれるかしら?」

 

グローザの意見も間違っていなかった。

グリフィン側へ投降した身とはいえ、鉄血の人形が一緒に居るのだ。それもハイエンドモデルとなれば尚の事。

 

「まぁちょいと厄介な事になるかもだが、その時は上手く説得してくれ、ローザ」

 

「そこは人任せなのね…」

 

「適材適所って言うやつさ」

 

肩を竦めながらおどけた態度を見せるブレイク。

そんな彼を見てグローザは手を額に当て軽くため息をつくのだが、仕方ないと判断した。

悪魔が相手となれば雑魚程度なら彼女達だけで何とかなるだろうが、上位種となれば必然的にギルヴァやブレイクの力が必要になってくる。それに今回は作戦領域全体を氷雪地帯へと変えてしまう力を持つ悪魔が相手なのだ。それだけの力を有するという事は自分達では倒す事が出来ない強大な悪魔が相手だと言う事。

その事が分からないグローザではないし、当然ながら95式も代理人も理解はしている。

 

「分かりました。私達はここで待機しています。…あまり無理はなさらないでくださいね?」

 

このまま言い合っていた所で埒が明かないと判断した代理人はブレイクの説得もあって、ギルヴァが立案した作戦を了承する事にした。了承を得られたことからソファーからギルヴァは立ち上がり、ウエポンラックから何時もの武器一式を装備し、クイーンを背に背負う。

そのまま外へと出ようとした時、95式がギルヴァへと声をかける。

 

「お気を付けて」

 

「ああ。…ここは任せる」

 

「はい…!」

 

バンの後部ドアを開き、ギルヴァはリベリオンを背負っているブレイクと共に外へと出る。

凍てついた作戦領域へと向かって行く彼らの背中が小さくなるまで代理人達はバンの車窓から見つめるのだった。

彼らがどうか無事に戻ってくる事を願って。

 

 

「さぁて…ここからどうするつもりだ?」

 

バンを後にし、凍てついた領域へと足を踏み入れブレイクがギルヴァへと方針を尋ねる。

 

「対象を見つけ、元凶を討つ。後は本来の依頼をこなせばいい。単純な話だ」

 

「そう単純には思えないんだが」

 

肩をすくめながらブレイクはその先に映る光景を見つめる。

その先にあるのは凍てついた町の姿。巨大な氷山のせいで大通りは封鎖され、また別の氷が彼らの行く手を塞ぐ様に正面から入る事は不可と言えた。その為町へと入るのは迂回して入る必要があった。

 

「先に行っているぞ」

 

わざわざ一緒にいる必要は無い。また分担した方が効率的だと判断したギルヴァはブレイクにそう告げると幻影刀を一つ展開し、近場の建物へと投射した。

放たれた幻影刀は窓を通り抜け内部の壁に突き刺さり、それを着地点としギルヴァはエアトリックを用いて建物内部へと消えていった。

それを見届けたブレイクはやれやれと言いながらギルヴァは入っていった建物とは別の建物の窓へ向かって跳躍し、そのまま内部へと侵入する。

建物内部は荒れており、長い事人が暮らしていない事が容易に読み取れるがブレイクはさして気にする様子もなく、部屋のドアへと向かって行き、ドアを開こうとする。

しかし壊れているのか、或いはドアの向こう側に何か引っかかているのかドアはびくともしない。

 

「…」

 

ドアを見つめるブレイク。

次の瞬間、思い切り蹴りを叩きこみ強引にドアはぶち破った。

飛んで行ったドアは壁に叩きつけられその中から何もなかったかのように彼が部屋から現れる。

 

「修理代はツケといてくれ」

 

自身がぶち破ったドアの残骸に対し、そう告げるとブレイクは階段を降りていく。

漂う冷気。建物の一階へと降りると氷による封鎖はされておらずブレイクはそのまま外へと出る。

彼が外へと出る時、遠くから銃声が響いた。

 

「おっと、もう迷子が見つかったか?」

 

何処からは分からないが、ある程度の場所の把握をしたブレイクは音の発生源へと向かおうとした。

その瞬間、後ろから何かが飛来しそれに気付いたブレイクは咄嗟に後ろへと振り向きつつリベリオンの持ち手を握り、飛んできたそれは振り払うとリベリオンを肩へと担ぐ。

振り落とされ、散る氷。砕けた欠片が飛散する。

奇襲が失敗し、直接攻撃するしかないと思ったのか襲撃者は建物から降り立ちブレイクの前にその姿を晒す。

氷の鎧に氷の爪、纏う冷気。ブレイクに対し威嚇の声を上げる何か。

決してこの世の物ではない。それが悪魔だという事はブレイクも気付いていた。

 

「元凶じゃあなさそうだが、悪魔に変わりないか」

 

担いでいたリベリオンを振り下ろし、剣先を氷の精鋭…フロストへと突き付ける。

 

「それじゃゴミ掃除と行くか!」

 

元凶でなくてもこの世に居られては害にしかならない。

ゴミ掃除と称し、ブレイクはフロストへと向かって攻撃を仕掛けるのだった。

 

 

一方SOPⅡは危機的状況にあった。

彼女も悪魔…フロストによる襲撃を受けそれと交戦状態に入っていた。先程まで一緒にいたM4A1はフロストが繰り出した攻撃により運悪く分かれてしまい、またM4A1もフロストに追われてしまった為に離れ離れになる結果へと陥っていた。

相手が何者かは分からないが敵対者である事は変わりない。悪魔を相手にめげずに彼女は銃撃を止めない。

マガジンを交換し新たな弾倉を装填。このまま撃っていても大したダメージにならないと判断し、とっておきをくれてやる事にした。

銃身下部に備え付けた大砲にとっておきを装填し、敵へと照準を合わせる。

 

「吹っ飛べ!」

 

放たれる榴弾。吸い込まれる様にそれはフロストへと着弾し大爆発を起こす。

幾ら未知の敵と言えど榴弾を真面に喰らえばひとたまりもない。しかしそれを裏切られる。

フロストと煙の中から姿を現す。榴弾の一撃により片腕は吹き飛んでいるが、だから言って弱まっている様子は見受けられない。その様子にSOPⅡも自身の目を疑わずにはいられなかった。

だが敵は驚いている時間を与えてくれない。即座に正気を取り戻し、銃を構える。

 

「ッ!?」

 

銃を構えた瞬間、彼女は目を見開いた。とどめの一撃を刺さんと言わんばかりにフロストがすぐそこまで接近していた。腕を振り上げ、氷の爪が彼女に目掛けて振り下ろされる。

回避しようにも、もう間に合わない。今回避したとしても爪の攻撃範囲からは逃れられない。

迫る爪。彼女に映る光景がスローモーションになる。

その瞬間、彼女の目の前で"空間"が歪んだ。

奔る斬撃。それにより攻撃は中断され、フロストはその場から飛び退く。

 

「えっ…?」

 

突如として起きた現象にSOPⅡは混乱させずにはいられなかった。

そして謎の現象を起こした者が後ろから姿を現す。

黒いコートを揺らめかせながら、歩み寄り彼女の傍に立つ。

左手には日本刀。背には大剣。黒いコートを羽織った銀髪の男。

男は左手に持った刀の持ち手に右手を添え、居合の態勢を取る。

鋭い眼差しがフロストへ向けられた瞬間…。

 

「遅い」

 

 

黒き残影が生み出された無数の真空刃と共に駆け抜けた。

背後では男が刀を巧みに回転させ、そのまま鞘へと納めていた。鍔と鯉口がかち合い音が響いた瞬間、真空刃によって斬り刻まれたフロストは膝を尽き、そのまま地へと倒れる。ジタバタともがき苦しみながらも、成す術なく消失。その最期を見届けた後、その者は状況につかめずに呆然と立っているSOPⅡへと歩み寄り声をかける。

 

「お前がM4 SOPMODⅡか」

 

「え!? あ!うん、そうだよ!えっと…」

 

SOPⅡはM4から事前に聞いていた。

今回の作戦で便利屋に依頼したと。

その者は黒いコートを羽織り日本刀を手にしていると。

自身の目の前に立っている男こそがそうでないかと判断し、彼女は男へと問う。

 

「貴方がギルヴァ?」

 

その問いに男は頷き、肯定をする。

 

 

 

 

 

 

「ああ。そうだ」

 

 

 

 

 

 




という事でDMC4で登場した悪魔、フロストの登場です。
DMCに登場する悪魔の中で作者が一番好きな悪魔です。
今回の話で倒されましたが、この後の話でもフロストは何度でも登場しますのでご安心を。

さて…元凶は誰でやるかなぁ…。

では次回ノシノシ


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Act74 hell gate

SOPMODⅡと合流したギルヴァ。
彼女から何故この状況になったかを聞かされる。
彼女の話の中には"黒い壁"という単語が現れた。


「黒い壁だと?」

 

「うん。作戦開始時刻直前に地響きが聞こえて遠くから黒い壁の様なのが現れて…。その数分後にはこの辺り一帯が氷で覆われたの」

 

捜索対象の一人であるSOPⅡと合流したギルヴァ。一度その場から離れ、近くにあった廃屋に身を潜めていた。

敵が居ない事を確認した後に彼女からここが何故この様な事になってしまったのかを聞いていた。

黒い壁という言葉を聞き、魔界出身である蒼がギルヴァに伝える。

 

―黒い壁…まさか地獄門か

 

(地獄門?)

 

―魔界から人間界へと向かう為もの。そして確実に人間界へとたどり着く事が出来る門だ

 

(待て。魔界と人間界を繋ぐトンネルは崩壊しているのだろう?人間界に訪れた悪魔は不定期にここと魔界が繋がる事象を利用し、奇跡的に辿り着く事が出来た。しかしそのデメリットもある事を知らん訳ではないだろう)

 

人間界と魔界を繋ぐトンネルはかつて存在していた。人の目に見える事はなく、魔界の住民でしか知らぬ事。

それはある理由によって崩壊しているのだが、魔界から人間界へと訪れる術はもう一つあった。

不定期に発生する二つの世界が繋がってしまう事がある。しかしそれは不安定で、確実に人間界へとたどり着く事が出来るとは言えないのだ。入ったとしても出口が閉ざされていた事があり、最悪入り口と出口が閉ざされてしまい、トンネル内に閉じ込められたりする場合もあるのだ。蒼もそれを知らない訳ではない。

 

―ああ、知っている。地獄門は確実な出口として建てられたものさ。魔界に戻れなくなっても、出口は確実にあるんだ。閉じ込められる位なら、人間界に来る方が賢いだろ?

 

(それはそうだが。…まさか今まで見てきた悪魔達は地獄門を使って?)

 

―どうかな?もし見てきた悪魔達が地獄門を使って人間界に現れたのなら、今頃色んな悪魔がそこらで群がっている筈だ。恐らく今まで地獄門は存在はしていたが、起動される事はなかったのだろう。

 

(つまり誰かが地獄門を起動させた。それにより悪魔が人間界に現れた、と?)

 

―付け加えるなら、現れた悪魔は恐らく閉じ込められていた奴らだろうな

 

(成程な…)

 

思ったより事態は厄介ものになっていた。

元凶を倒したとしても、その門から別の悪魔が出てきてしまえば事態の解決は遠ざかっていく。

優先すべきは門の破壊だと彼はそう判断した。

 

(元凶の討伐は奴に任せるしかないか)

 

別行動を取っているブレイクに元凶の討伐を任せるしかない。

そしてギルヴァは門へ破壊を目指す事にした。当然ながらSOPⅡを置いていくことはしない。

ここに置いていく等という判断すれば再度悪魔に襲われる可能性もある。何よりそんな事すれば自ら依頼を放棄した事になるのだ。

背を預けていた壁から離れるとギルヴァはSOPⅡへと伝える。

 

「動くぞ」

 

「え!?ちょ、ちょっと待ってよ!?そっちで勝手に納得されても困るんだけど!?」

 

それもそうだ。

SOPⅡはあの黒い壁や悪魔の事を知らない。何も知らされないままでは納得行く筈がない。

そうなる事も予想済みであったのか、ギルヴァは外へと向かって行きながら口を開く。

 

「聞きたい事は動きながら話す。ついてこい」

 

「ああ、もう!待ってってば!」

 

ギルヴァの性格もあってか上から目線でもあるし、肝心な事は後で話すと言う始末。

振り回されっぱなしのSOPⅡは軽くイラつきながもギルヴァの後を追いかけるのだった。

 

 

 

その頃ブレイクは現れた悪魔、フロストとの戦闘を繰り広げていた。

今まで見てきた悪魔とはフロストは他の一線を画すが、相手が悪すぎた。

地を蹴り勢いよくふみ込むブレイク。リベリオンを突き立て、フロストとの間合いを詰める。

そのままリベリオンを用いて腕を高速に動かし無数の突きを繰り出す技「ミリオンスタップ」を放つ。

それによりフロストの動きを封じ、反撃の隙を与えない。

耐久力はあるのだろう。しかしブレイクの攻撃により、反撃が出来ないフロスト。

 

「砕けろ!」

 

最後に強烈な一撃を叩きこみフロストを吹き飛ばす。

止めの一撃により吹き飛ばされたフロストは地面を転がっていき、漸く飛ばされた慣性を失い止まった。

そのまま立ち上がる事はなく、フロストは消失。ブレイクはリベリオンを背へと収め、町の奥の方へ視線を向けた。

 

「さてと音の方に行くのが良いんだが……あん?」

 

遠方からではあるが、大通りを走りながら横切る少女をブレイクは見つけた。

黒い髪に緑色のメッシュが特徴の少女は何度も後方を確認しては手に持った銃を構え、追ってくるフロストへと銃撃していた。しかし悪魔には大したダメージにはならない。良くて足止め程度が関の山である。

少女はブレイクの姿を見つける事はなく、そのまま裏通りへ消えていく。

これで何もしないブレイクではない。だがある問題が生じていた。

ギルヴァなら先程の少女が誰なのか分かるのだが、ブレイクは誰なのか分かっていなかった。

元々は現地で顔を合わせる予定だったのだ。

しかし彼は勢いよく駆け出すと少女の後を追う。助けた後に名前を聞けば分かるだろうという根端だ。

彼は近場の建物へ向かって跳躍し、壁を蹴ってさらに飛び上がる。

そのまま屋上へと着地し、走り出す。あのまま少女が通っていた道を辿っていくよりかは、こうして屋上を伝って追った方が速い。向こうもそれなりに速いが追いつけない速さでない。

建物から別の建物へと飛び移りながら少女を追うブレイク。漸く追いつくと彼女は二人のフロストに行く手を阻まれ、前にも後ろにも引く事が出来ない状況に陥っていた。

 

「んじゃ…」

 

勢いよく跳躍。そしてリベリオンではなく、双剣状態のヴァーン・ズィニヒを展開。

そのまま少女の前方からゆっくりと迫るフロストへと向かって降下し…

 

「派手なライブと行こうか!」

 

回転する二振りの鋸をフロストの頭上から叩きつけた。

 

 

突如として鳴り響いたバイクのエンジン音。

何事か思い上を見上げた時、私は目を見開いた。その瞬間前方から迫ってきていた敵に男性が降ってきて何かを叩きつけた。ガリガリと何か削る様な音が響き、氷の破片が四散していく。

チェーンソーの様な物を叩きつけたのだろうかと冷静に判断していると男性がこちらに気付き、振り向いた。

 

「貴方は…」

 

赤いコートを羽織り、背には大剣らしきものを背負っている。

ギルヴァさんではない。しかし何故か目の前にいる男性が敵とは思えなかった。

声をかけられて男性は一度こちらを見るとニヒルに笑い、コートの内側から黒い大型拳銃二丁取り出し、私の後ろから迫ってくる敵へと発砲し始めた。

 

「悪いな、自己紹介は後だ」

 

こっちがあれだけ撃っても怯む様子すらなかったというのに、男性が大型拳銃で攻撃する度にアレは怯んでいく。

怯んだ所に男性は大型拳銃を収め、背負っていた大剣の柄に手を伸ばし振り抜いた。

勢いよく地面を蹴り私の横を通り過ぎて行くと、男性は敵に急接近。下から上へと向かって大剣を振り上げながら彼も敵と共に上空へと浮かび上がっていく。その瞬間、男性は驚くべき行動へと出た。

 

「蜂の巣だ!」

 

体を上下反転させ、勢いよく回転しながら二丁拳銃を用いた銃弾の雨を敵へと降らし始めたのだ。

人間離れした動きに私は啞然とした。どうすればあんな芸当が出来るのか。理解が追い付かない。

ギルヴァさんを初めて見た時も驚きはしたが、彼の方がもっと驚く。

そうこうしている内に戦いに決着がつこうとしていた。宙で成す術もなく蜂の巣にされた敵が地面へと墜落し、追撃として男性が手に持った大剣を振り下ろし、地上の敵に対し強烈な一撃を浴びせた。

流石に耐えらなかったのだろう。敵はそのまま動かなくなり…

 

「消えた…?」

 

普通なら死体が残るだろう。しかし私を追ってきていた敵は氷が融けていくかの様に消えていった。

まさかと思い、もう一体の方が居た方へと振り向くがまるで何もなかったかの様にそこには敵の姿はなかった。

あれは一体何なのか。ここら一帯が氷だらけとなった元凶なのだろうか。

そんな事を思っていると先程の男性がこちらへと歩み寄り話しかけてきた。

 

「お嬢ちゃんがAR小隊の一人か?」

 

「えっと貴方は…」

 

「おっと悪いな。ギルヴァに呼ばれてな。デビルメイクライ第一支店で行動している。名前はブレイクだ、宜しくお嬢ちゃん」

 

デビルメイクライ第一支店…。

私がギルヴァさんと会ったあの日以降に出来たと見て良さそうだ。

そして彼…ブレイクさんの口から出たギルヴァさんの名…信用はしていいだろう。

 

「AR小隊、小隊長のM4A1です。救援感謝します」

 

「おっと隊長さんか。ならあっちがもう一人を見つければ追加依頼の一つはこなせそうだな」

 

「追加依頼?」

 

グリフィンとの連絡が取れない今、正直現状が掴めずにいる。

依頼人は私であるが、彼が追加依頼と言った時疑問を覚えた。

もしかしてグリフィン側が彼らに追加依頼したのだろうか…それなら納得が行くが。

 

「ブレイクさん」

 

「ん?」

 

「色々事情をお聞かせくださいませんか?こっちも状況を上手く掴めてなくて」

 

「色々ぶっとんだ話になるが、それでも良いかい?」

 

「はい」

 

この後に彼から語れた事は本当に色々ぶっ飛んでいた。

グリフィンから追加依頼され、私達を探しに来た事は驚きはしなかったが…。

作戦領域が氷雪地帯と化してしまったのは悪魔という存在による仕業だと告げられた。

悪魔と言えば、あの御伽噺に出てくるあの悪魔だろう。それがこの世に人知れず存在すると告げられても今一しっくり来なかった。しかし今まで私を追ってきた未知の敵がブレイクさんの言う「悪魔」だとするのであれば認めざる他ないだろう。

この世の中には悪魔という人知れず存在するものがいるのだと…。

 

 

 

 

S10地区前線基地隣接店「Devil May Cry」にて。

任務にて404小隊が帰投し指揮官に報告したの後にUMP45は愛する夫の元へ急いで戻っていた。

結婚してからというものの任務によるストレスも愛する夫の傍にいるだけでそんなストレスも解消される。

今日も任務のストレスも解消する為にデビルメイクライの裏口から店内へと戻ってきたのだが…。

 

「ただいまー。ってあれ…?」

 

彼女が戻ってきた時にギルヴァや代理人が居ない事に気付く。

居たのはソファーに休んでいるフードゥルとジュースボックスの上でのんびりしていたグリフォンの二人だけであった。45が任務から戻ってきた事を受け、グリフォンが迎える。

 

「おう、嬢ちゃん。おかえり」

 

「ただいま。ギルヴァは?」

 

「嬢ちゃん達が任務に向かっている頃に依頼があってな。ギルヴァ達はそっちに出向いたぜ」

 

「へぇー、誰からの依頼か、聞いてるかしらグリフォン?」

 

「確か…」

 

ここでグリフォンは口にするべきではなかっただろう。

知らないや聞いていないと言うべきだったかも知れない。そうすれば最近鳴りを潜めていた45の闇に知らずに済んだのだから。

 

「M4って言ってたな」

 

しかしそんな事を知る訳がなく、依頼人の名前を明かしてしまったグリフォン。

その名を聞き、明らかに雰囲気が変わった45を見て彼は戦慄した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘェ……?」

 

そこには光が灯ってない目を見せ、不気味な笑みを浮かべる何か(UMP45)が立っていたのだから。




SOPMODⅡと合流したギルヴァ。
M4と合流したブレイク。

果たしてこの事態はどう傾いてくのだろうか…。

次回はいつ更新になるか未定です。
気長にお待ち下さい。
では次回ノシ


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Act75 slash

爆弾など要らない。
何故なら"斬れば"済むのだから。


ブレイクがM4と合流したその頃。

ギルヴァは地獄門へと目指しながら移動しながらSOPⅡに黒い壁…地獄門、そしてここ全体を氷雪地帯へと変える力を持つ悪魔という存在について話していた。

しかしSOPⅡは地獄門や悪魔と言われ、多少程度は理解出来たが全部理解しきるまでには至ってなかった。

いきなり地獄門やら悪魔やら言われて全部理解しろと言う方が無理である。

それにギルヴァも早々に理解してくれるなど思っていない。だが聞かれた以上は答える必要がある。

後はSOPⅡが何処までその事をどこまで信じるかの話である。

先を行くギルヴァの後を追いながらもうーん…と唸るSOPⅡ。

大通りを抜け、町郊外へと出るギルヴァ達。二人が居る地点から少々離れた位置に地獄門は存在していた。

 

「ねぇ、一つ聞いていい?」

 

「何だ」

 

「…あれをどうやって破壊するの?言っておくけど爆弾なんて持ってないよ、私」

 

「爆弾など不要だ」

 

「え…じゃあどうやって…?」

 

「斬れば済む」

 

何言ってんだこいつ…と言わんばかりの表情でギルヴァを見つめるSOPⅡ。

どう考えてもあれだけ大きな建造物を破壊するなら、爆弾が必要になるのは明らかだ。

しかし彼がいて、愛刀「無銘」があるのなら建物一つ破壊するのに爆弾はいらない。

その事をこの後になってSOPⅡは知る事になるのだが、それを知る由もない。

 

「この程度の距離、造作ない」

 

SOPⅡと少し距離を空け、彼は無銘の鍔に親指を押し当て鯉口を切る。

鍔と鯉口の間から見える刃から煌きが放たれ、蒼が口を開く。

 

(大した建造物なんだが…ほっとくと悪影響だからな。だから…)

 

「斬り捨てる」

 

抜き放たれる刀身。神速かつ無駄のない動きで刀を振るう。

決して目には見えぬ斬撃が風を纏いつつ放たれ、離れた位置にある地獄門を一閃、真っすぐ歪みのない刀痕が壁面に刻まれる。

訪れた僅かな静穏の最中刃を鞘へと当て刀身を鞘へと納めていくギルヴァ。

鍔と刀身の鯉口がかち合った音が鳴り、刹那轟音が響く。

突然の事に何事かと驚くSOPⅡ。そして彼女は今起きているその光景に目を見開いた。

斜め一閃され二つに分かれる壁。そしてその上部が音を立てながら崩れ落ち、地面へと落ちていった。

彼女は只々啞然するしか出来なかった。

それもその筈で、たかが刀を振るっただけで本当に建造物を斬るなど誰が思うだろうか。

否、誰も思わない。思うとのするのであればギルヴァという男を知る者だけであろう。

そして目の前でギルヴァが起こした現象は認めざるを得ない。

確かめる様に、かつ今起きている事は紛れもない現実だと自身に言い聞かせる様にSOPⅡは静かに呟いた。

 

「本当に斬っちゃった…」

 

 

一方、町の中にある廃れたバーでカウンターに腰掛けながらM4から事の次第を聞いていたブレイク。

彼女が知る全てを聞くと椅子から立ち上がり、傍に立て掛けていたリベリオンを手に取り背に背負いながら口を開く。

 

「黒い壁か。そいつが出てきた後にここら全体がアイススケート場になった訳か」

 

「はい。黒い壁が何なのか分かりませんが…ここがそうなったのがブレイクさんの言う悪魔によるものと考えていいでしょう」

 

その時だった。

バーの外から地響きの様な音が鳴り響いた。それが外からだと気付いたM4は急いで窓へと駆け寄り、外を見た。

丁度そこから遠くにある例の黒い壁…地獄門が見る事が出来る。そして彼女はつい素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

「は?」

 

まるで斬られたかのように真っ二つに分かれ、崩れ落ちてゆく地獄門。

誰が、と思いつつも彼女はブレイクと共にこの地に来た黒いコートの彼を思い浮かべる。

 

(いや…幾らあの人でも…)

 

最初に会った時はあの代理人を圧倒し、二度目に会った時は代理人程は言えずとも鉄血の人形部隊を壊滅させるほど。そんな強さを持つ彼でも建造物を斬り捨てる等到底無理だろうとM4は思った。

しかしそう思った矢先、彼女の隣に立ち地獄門が崩れ行く様子を見ていたブレイクがその考えを覆すかの様に言及する。

 

「やれやれ。見事なまでにぶった斬ってやがる。ギルヴァの奴、相変わらず行動が早いな」

 

「え…今のギルヴァさんが!?」

 

「だと思うぜ。それに真っ先にあれに向かったという事は、もう一人から聞いたからじゃねぇか?」

 

ブレイクの言うもう一人とはSOPⅡの事を指していた。

名前が分からないから表現したのだが、M4は誰の事を指しているのか理解していた。

仲間が彼と合流出来た事に安堵しつつも、彼女の中で以前から感じていた疑問が再び浮かび上がる。

 

(ギルヴァさんと言い、ブレイクさんと言い…この二人は何者なの…?)

 

今になって感じた疑問ではない。

初めてギルヴァと会った時もM4は彼が何者か疑問に思っていた。

しかし本人から語られる事はなく、二度目の再開でそれが語られるかと思っていたがそれも無く気付けば時間だけが過ぎていた。

この場でブレイクにその事を問おうと思ったM4であったが、敢えてそれをしない事にした。

状況が落ち着いていないのだ。故に彼らの事を問うべきではない。お互いにゆっくりとした時間が取れた時に問おう。そう心に決めるM4であった。

 

「あの建造物をぶった斬っても氷が融けてねぇって事は…こっちで元凶を討つしかねぇか」

 

「…」

 

「荷が重いならどっかで隠れててもいいぜ。嬢ちゃんじゃあ、ちょいとキツイ相手だろうしな」

 

決してM4が非力だとは言っていない。

他の戦術人形よりも高い性能を持つ戦術人形である彼女でも悪魔という相手は分が悪すぎるのだ。そう言った意味を含めブレイクはそう伝えたのだ。

しかしM4の答えはとうに決まっている。大事な仲間を救いに来たというのに自分だけ安全な所で隠れるつもりなど更々ない。彼女はブレイクの目を真っ直ぐと見つめ、己の答えを伝える。

 

「行きます。例え悪魔が相手であろうと立ち塞がるなら排除するまで…私がここに来たのは大事な仲間を救う為にに来たんです。何であろうとそれだけは変わりません」

 

啖呵を切るM4を見て、ブレイクは小さく口角を吊り上げる。

 

(良い目してるぜ。流石は隊長、というのもあるんだが…)

 

それだけではない、とブレイクは感じた。

普段はどんな様子かは分からない。しかしM4の目に宿った覚悟は本物であった。

 

(…人間より人間らしい気がするぜ、この嬢ちゃんは)

 

勘でしかないけどな、と己の内でそう呟き締めくくるブレイク。

 

「オーケー。ただし無茶は無しだ。良いな?」

 

「はい…!」

 

力強く頷くM4。

それを見てブレイクはコートを翻し振り返り歩き出す。それに続く様にM4も歩き出す。

外から差し込む陽の光、氷によって放たれる冷気…その二つが彼らを迎えるのだった。

しかし事態は急変する。

氷に覆われただけであった作戦領域に…

 

 

 

 

突如として吹雪が発生したのだから。

 

 

 

 

「何でいきなり吹雪が発生するのー!?」

 

フードを被り吹雪から顔を守りつつ大声で叫ぶSOPⅡ。

先程まで晴天が広がっていたというのに、突然としてこれである。流石に叫ばずには居られなかった。

その隣で立っていたギルヴァは冷静だった。そして突如として起きた吹雪は地獄門から現れた元凶によるものだと判断していた。このままでは事態は余計に最悪な方へと持っていかれる、自分も元凶討伐に動き出そうと考えたが、それは出来ずにいた。

吹雪が発生した途端、何処に身を潜めていたのか鉄血の人形兵達が現れたのだ。しかしその姿は異常と言えた。

一人は腕が欠損しており、その代わりに巨大な刃が取り付けられている。もう一人は片足が欠損しており、同じ様に巨大な刃が取り付けられている。中には頭が吹き飛んでいるに関わらず両腕を刃と化し動いている人形兵もいた。まともな姿をしている者は誰一人とて居ない。

 

「何これ…どうなってるの…?」

 

変わり果てた鉄血人形兵達を見てSOPⅡは声を震わせる。

目の前に居るそれらは動きもぎこちなく、生きて居るかどうかすら怪しかった。

 

―こいつは…成程。魔界の寄生虫によるものだ。死体に取りつき、取りついた者を自身の武器として利用する。巨大な刃は奴らが生み出したものだ。

 

(…本体ではなく、寄生虫に叩くしかないのか?)

 

―それは気にしなくていい。奴らは一度取りついてしまえば、自ら体を消失させ、魔力へと姿を変える。それで死体を動かす。つまり目の前にいる奴らは本体で、死体が破壊されれば環境に耐えられず死滅する。

 

蒼からそれを伝えられ、ギルヴァは無銘…ではなく背負っていたクイーンの柄へと手を伸ばし、引き抜く。

破壊力なら無銘よりもクイーンの方が勝る。アクセルを捻り、推進剤を燃焼させ一段階解放。そしてクイーンを静かに構えた。

ギルヴァが迎撃態勢を取り始めた事をきっかけにSOPⅡも銃を構える。この状況で吹雪がどうこうとか寒いとか言っていられない。一度に破壊され、そしてまた蘇ったのであれば…。

 

「もう一度バラバラにしてあげるよ!」

 

またバラバラに出来るという嬉しさも相まって、彼女は満面の笑みを浮かべる。

それを合図にギルヴァが突撃。変わり果てた鉄血人形兵達へとクイーンを叩きつけるのだった。

そしてその光景を見ている者がいた。

その者は片腕を失っており、体のあちこちから内部が見えるくらいの傷を負っていた。以前までまとめていた髪は解かれていた。肩で息をし、近くに木に身を預けながら彼女…ハンターは見つめる。異形と化したあれらに対し、立ち回る黒いコートの彼を。

 

「あの男なら…やってくれるかも知れん…」

 

 

 

 

 

 

 

「…あいつを…処刑人を止めてくれる筈だ…」

 

 

 

 

 

そしてブレイク達も元凶がいるであろう場所まで来ていた。

禍々しい魔力で作られた氷があったとしても、ブレイクには元凶の魔力は感じ取れており、迷う事無かった。

 

「…っ」

 

元々は広場だったのだろう。しかし周囲に氷壁が広がっていた。

吹き荒れる吹雪の中、ブレイクは顔を顰め軽く鼻をつまんだ。M4もそれを感じてはいたのだがブレイクの様に仕草を見せる様子はなかった。

そして広場の中央で踊っている二人の女性を模った何かを発見する。ブレイク達を見つけて誘惑する様な動きを見せつけ、手招きしている。

あからさまに罠だと気付いているM4は即座に銃を構えるが…。

 

「ベイビーちゃん!」

 

あろう事かブレイクが腕を広げながら近づいて行ったのだ。

氷上を軽やかに滑り、近くまで近寄っていくブレイク。女は近寄ってきた彼を抱き着こうとするが、あっさりと躱される。

 

「イイねぇ!サイコー!」

 

抱擁を躱し、胸やら尻やらを見ていくブレイク。そして地面に寝転がり観賞する始末。

余りの事に言葉が出てこないM4であったが、すぐさま我を取り戻しブレイクを助け出そうと走り出す。

しかし行動にするには少し遅く、彼女が走り出した時にはブレイクの背後から大口を開け喰らおうとする何かが迫っていた。

 

「ブレイクさん!!」

 

M4が彼の名を叫ぶ。

だが心配には及ばない。ブレイクも気付いていたのだから。

後ろから迫る何かに喰われる前に素早く反応してその場から飛び退くブレイク。そのままM4の隣に着地すると、ここを氷雪地帯と化し、吹雪を起こしている元凶の方へと見た。

光る瞳。頭に生えた氷。女の姿をした部分を有して触覚、丸い図体、四つ足に尻尾。

まるで蛙を思わせる姿を持った悪魔、ダゴン。この悪魔こそが元凶であった。仕留め損ねた事に苛立ちながらもバエルはブレイクへと問う。

 

「何故分かった!?」

 

「体を隠すのは良いが体臭がな…」

 

そう言いながら彼はまるでニオイを払う様な手振りを見せる。

 

「ひでぇもんだぜ」

 

「人間が!わしをなめとると痛い目にあわせるぞ、コラぁっ!!!!」

 

大口を開き叫ぶダゴン。その咆哮は周囲に突風を発生させ、ブレイクとM4は腕をかざし顔を防ぐ。

突風により捲りあがったコートを払いのけながらブレイクはダゴンへと挑発を仕掛ける。

 

「ハッ!イイねぇ、やってみてくれよ」

 

背に背負っていたリベリオンの柄に手をかけ引き抜くブレイク。

M4も手にしていた銃を構え、ダゴンへと向ける。

もう始まる戦闘の前にブレイクがM4へと最後に問う。

 

「準備は良いかい、嬢ちゃん。こっからは嬢ちゃんにとっては厳しくなるぜ?」

 

「行けます…!こんな所で立ち止まる気はありません…!」

 

「ハッ!良い覚悟だ!んじゃ…派手なパーティーと行くぜ!」

 

「はい…!!」

 

駆け出しダゴンへと立ち向かうブレイク。

駆け出した彼を援護する為、銃の引き金を絞りダゴンへと銃撃を仕掛けるM4。

赤き狩人、AR小隊 小隊長コンビによる悪魔討伐作戦が今幕を開ける。

 

 

 

 

その頃…。

グリフォンによりギルヴァがM4から依頼を受けた事を、45は416に知らせていた。

その事を聞き、416の表情が険しくなる。

 

「M4が…?」

 

「ええ。おそらく救出作戦の手助けを依頼したと見て良いわ」

 

「そう…。考えたくはないのだけどあいつらがここに来る可能性はあるのかしら?」

 

416としてはAR小隊がデビルメイクライに、ましてやS10地区前線基地に何らかの理由で居座る事を良しとは思っていない。

その問いに45は腕を広げながら肩を竦め、答える。

 

「さぁ?流石にそれは分からないわ。でも…」

 

「ええ。早い内に行動した方がいいわね…」

 

ニヤリと口角を釣り上げる416。

虚ろな瞳。三日月状に歪む口角。狂気か、或いはそれ以外の何かがそこに存在していた。

 

「待っていたわ、この時を…フフッ♪」




次回はブレイク&M4vsダゴン戦と+αです。


にしてもこの作品もあと十何話で百話到達するんですねぇ…。
作者が文才皆無ですからうちの作品なんて読書からすれば需要あるのかしら…。
まぁ…自分がやりたい様にやるまでです。
百話目の時はコラボでも考えましょうか。…しないかも知れませんが。


では次回ノシ


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Act76 frozen frog

赤き狩人は戦術人形と共に悪魔へと立ち向かう。


「氷漬けにしてくれるわッ!!!」

 

鼻から空気を吸う様な動き。ダゴンの体が膨らむ。

次の瞬間、吐き出された空気が冷気によって凝固し氷柱が群れをなして二人に襲い掛かる。

ブレイクはその場から跳躍して攻撃を回避し、M4は横へと飛び込み攻撃を回避。軽々とした身のこなしで地面を一回転すると態勢を立て直し、ダゴンへと向けて己の名と同じ銃を構える。

これだけ大きな的なら態々狙う必要は無い。

引き金を絞る。引いている間、銃口から吐き出される鉛弾。地面へと落ちていく薬莢。吹雪に混じって硝煙が漂う。

M4がダゴンへと攻撃を開始し、ブレイクはダゴンの狙う先が彼女へと向かせない為に動き出す。宙で回転を一回だげ挟みつつフォルテ&アレグロを引き抜き、地表のダゴンへと構え連射。

この程度の攻撃ではあの悪魔がやれないことぐらいはブレイクも分かっている。だからといって銃撃を止める事はない。

ダゴンが触手をブレイクへと飛ばす。

飛んでくるそれを彼は体を捻り宙で攻撃を回避。そのまま触手の上に降り立つと勢いよくダゴンへと駆け出す。

リベリオンの柄に手を伸ばし、抜刀の態勢へと入ると触手を勢いよく蹴り一気に間合いを詰める。

ロケットの様にダゴンへと急接近するブレイク。そこからリベリオンを抜き、振り下ろそうとする。しかしダゴンとて易々と攻撃を貰う様な悪魔ではない。体を揺らしその場から後方へと飛び退き、攻撃を回避。

ブレイクが地上に降りてきた所を狙って、大口を開け彼を喰らおうと襲い掛かるダゴン。しかしそれを妨害する様にM4が銃撃で目の部分を攻撃、ダゴンの攻撃を中断させる。幾ら銃弾による攻撃が効きづらい相手だろうと目を攻撃をされれば悪魔であろうと痛いものは痛い。それどころか宙に浮かんでいた所が攻撃された為、態勢が崩れその巨体が地面を転がり、ブレイクの横を通り過ぎて行く。

回避できる余裕はあったとは言え、M4の的確な援護射撃。ブレイクは彼女の援護に感謝を伝える。

 

「助かったぜ、嬢ちゃん」

 

「いえ、これ位なら…。それにまだ終わってはいませんよ」

 

「ああ。分かってる」

 

そう答えながらブレイクは態勢を立て直しながらこちらへと向いているダゴンを見る。

M4に攻撃を邪魔された事にダゴンは怒り心頭で、狙いをブレイクではなくM4へと定める。

頭に生えた氷からまるで砲弾の如く無数に射出され、彼女とブレイクへと降り注ぐが影によりどこに落ちてくるかは判別できる為、二人は氷の雨を回避。しかしそれにより分断されるがM4は銃を離れた位置にいるダゴンへと向ける。そして彼女は自身の目を疑った。

 

「居ない…!?」

 

先程まで居たダゴンがいない。何処へ行ったのか足を止めて周りを見渡し警戒するM4。

その時ブレイクが叫んだ。

 

「上だ!」

 

「ッ!!」

 

その言葉を耳にした瞬間ばっと顔を上へ上げるM4。

そして上を見上げた時、M4を押しつぶそうと迫るダゴンの腹が迫っていた。

銃を構えている暇はない。彼女は即座にそこから飛び退いた直後、ダゴンを落ちてきた。

その衝撃によりM4は態勢を崩し、地面を転がるが直ぐに起き上がり相手との距離を取りつつ銃を放つ。

しかし大したダメージにはならない。その瞬間何処からかエンジン音が鳴り響く。

迫る何かへと振り向こうとした瞬間、ダゴンに強烈な一撃が叩き込まれる。

めり込み、歪むダゴンの顔。そこに居たのはフルスロットル状態のヴァーン・ズィニヒに跨り、車体による体当たり攻撃を放つブレイクの姿。

 

「信号無視の横断は駄目だぜ?事故の元になるからな。それともお嬢ちゃんに見惚れて赤信号が見えなかったのかい?どちらにしても交通ルールは守った方が良いぜ」

 

「人間がッ!!」

 

「おっと!」

 

この状況だと言うのに決して挑発を止めないブレイク。

短気な性格上、見事なまでに挑発を乗り更に怒気が増すダゴン。ブレイクを振り払おうと自身の腹を軸にして勢い良く回転。が、その行動は読まれており彼はバイクから降り、回転する直前のダゴンの体を足場にして跳躍しリベリオンに手を伸ばす。

重力に引かれる様にリベリオンを振り抜くブレイク。急降下から一撃がダゴンの触角部分を斬り落とす。そのまま地上へと着地しリベリオンを突き立てつつ、地面を蹴り突進。刀身に赤い魔力が注がれ、急接近。そしてダゴンの胴体へとスティンガーが叩き込み、突き飛ばす。

 

「トリック!」

 

ブレイクの攻撃は止まらない。

瞬間移動技 エアトリックで突き飛ばしたダゴンに追いつき、そこから再度跳躍し空高く舞い上がりフォルテ&アレグロを構える。二丁が奏でようとする曲にさらに音を足すかの様にブレイクの魔力が注がれ、魔力を帯びた弾丸が次々と撃ち出されていく。そこから彼は体を上下反転させ、勢い良く回転しながら弾丸の雨を降らせながら降下。そしてフォルテ&アレグロをしまうとヴァーン・ズィニヒを双剣状態で展開し手に取り、反動を付けて機械剣を振り下ろした。

ブレイクが持つ武装の中で最も重量のあるヴァーン・ズィニヒ。重量に加え反動を付けた事による凄まじい速さで降下し、ダゴンの顔に叩きつける。その一撃は軽い衝撃波が奔り、回転する鋸がダゴンの体を斬り刻み、そのまま体を回転させヴァーン・ズィニヒをバイク形態へ移行させると回転の反動を生かしつつヴァーン・ズィニヒを投げ飛ばす。投げ飛ばされたヴァーン・ズィニヒはダゴンの顔面に直撃するがしぶとさはあの魔界の覇王の次に来るのか氷の蛙はまだ立ち上がる。

 

「まだじゃ!わしがやられても…ッ!!?」

 

最後に何かを言おうとするダゴンであったが、自身の目に映った光景に目を見開く。

 

「地獄に帰んな!」

 

映ったのは片手でリベリオンを振り上げ、止めを刺そうと迫るブレイクの姿。

驚いた事が隙となり、リベリオンの刃がダゴンの体を縦に一閃する。それが止めとなり、瞬く間に体が凍っていくそのまま砕け散っていくダゴン。

 

(凄い…)

 

途中から見ている事しか出来なかったM4であったが、ブレイクの動きや戦い方を見て純粋にそう思った。

あれ程大きな体を持つ悪魔を相手に臆する事もなく、それどころか挑発を仕掛けるブレイク。

M4は到底真似出来ない動きだと感じていた。故に彼女のブレイクやギルヴァに対する疑問が大きくなる。

 

(本当何者なの…?)

 

悪魔という存在を知ったばかりの少女。

だからこそ彼女は知らなくてはならなかった。

悪魔の血を流しながら、悪魔を討つ者達…悪魔狩人(デビルハンター)の存在を。

 

 

 

「吹雪が収まった…?」

 

新たな弾倉を装填しながらSOPⅡは呟く。

異形と化した鉄血人形兵達との戦いが始まってからというもの、彼女はギルヴァの援護に徹していた。

クイーンを振るい、無銘を抜刀し、レーゾンデートルとフェイクを撃ち、幻影刀を射出し群がる奴らの攻撃を一切貰う事無く一人、また一人と屍を重ねていくギルヴァに自身の援護が役に立っているかは疑問に感じずにはいられなかったが。

そんな事をよそにギルヴァは残った一人に対して、無銘を構え居合の態勢を取る。

 

「終わりだ」

 

放たれる神速の抜刀。

空間を切り裂き離れた位置にいた敵に斬撃が襲い掛かる。瞬く間にバラバラに切り裂かれ、そのまま人形兵は地へ伏せる。中にいた、魔力と化した寄生虫も黒い靄の様なものをあげながら霧散し消滅していく。

居合の態勢を解き、周囲を見回すギルヴァ。先程斬り刻んだ敵で最後と判断するのだが、彼は警戒を解かずにいた。戦闘に終わり、ギルヴァの元へ駆け寄ったSOPⅡも不思議そうに見つめる。

 

「居るのは分かっている。出てこい」

 

この場にもう一人いるかの様に、そう口にするギルヴァ。

そしてその言葉に答えるかの様に彼の後ろからゆっくりと何者かが姿を見せる。この場に現れた第三者を見て、即座に銃を構えるSOPⅡ。対するギルヴァは行動を動かさなかった。

 

「気付くとはな。…人間に対し恐ろしいと思ったのはお前が初めてだ」

 

そこに居たのは満身創痍姿のハンターであった。

今なら倒せると思ったのだろう。SOPⅡは銃の引き金を引こうとする。しかしそれを阻止するかのようにギルヴァが彼女の前に出て止める。どうして!?といった表情を浮かべ、ギルヴァの背を見つめるSOPⅡ。

しかしギルヴァは答えようとせず、ハンターへと話しかける。

 

「…その傷、グリフィンによるものではないな」

 

「そこにも気付くか。やれやれ…恐ろしい奴だ」

 

満身創痍だと言うのに笑みを浮かべるハンター。

 

「ああ…。グリフィンによるものではない。…こうなったのはもう一人によるものだ」

 

「もう一人…処刑人か」

 

「そうだ」

 

ギルヴァの後ろで話を聞いていたSOPⅡは疑問に思った。

何故仲間である筈の処刑人が狩人を攻撃する様な暴挙へと出たのか。そしてそれはすぐに明かされる事となる。

 

「…あいつはどうやら私達ですら知らなかった何かによって暴走してしまってな。…あの訳の分からない建造物が出てきたのも奴の仕業だ」

 

「…悪魔か」

 

「悪魔か…成程、確かにそうかも知れん。この状況といい、変わり果てた同胞といい…悪魔による仕業かも知れないな」

 

ハンターは一歩、一歩ずつとギルヴァへと歩み寄る。

歩くどころか立っている事ですら辛い筈なのに彼女は足を止めない。

 

「だがお前なら出来るかも知れん。…あいつを…変わり果てた処刑人を止める事を…」

 

片腕を伸ばし、自身の手をギルヴァの肩へと置くハンター。

置かれた手は非常に弱々しく、ハンターの最期がもうすぐそこまで迫っていた。それでも彼女は彼に頼むしかなかった。それが裏切りと言われようとも、承知の上だ。

 

「最早グリフィンなど、鉄血など言ってられん…。だから頼む…あいつを…」

 

人類に対し敵対する事となっても付き合いは長く、戦友とも思える存在だった。自身と似た様に姑息な手段を嫌ったり、正々堂々とした戦いを好む辺りはどうか思いつつも否定する気にはなれなかった。

そんな戦友が…友が変わり果て、暴走する様など見たくない。

 

(時間か…)

 

体の力が入らなくなる。

残りわずかの力を振り絞り、地面に膝を尽きそうになりながらも掠れそうになる声でハンターはギルヴァに"依頼"する。

 

「処刑人を……救って、く……れ……」

 

瞼が降ろされ、静かに地面へと倒れ行くハンター。そんな彼女を片腕で受け止めるギルヴァ。そっと、優しく地面へと寝かせようとした瞬間、元凶が討たれたにも関わらず、ハンターの頬に付着していた氷が包み込む様に一気に広がり…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

跡形も残さず砕け散っていった。




黒き狩人は友を助けてほしいと願う鉄血狩人の最期の願い(依頼)を聞く。






暴走する友を止めて欲しく、ギルヴァに"依頼"するハンター。
友を案ずる彼女の魂はもしかしたらこことは異なる世界に辿り着いているかも知れません。
つまり何が言いたいのかと言うと…。

別世界に転生したハンター、書いちゃってもいいんだよ?(チラッチラッ


では次回ノシ


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Act77 The end of movement

狩人は動き出す―――


「…」

 

彼の腕の中には願い(依頼)を託したハンターの姿はない。彼の手の平に残ったのは砕け散っていった氷の冷たさと今まさに融けようとしている小さな氷の欠片だけ。ほんの少しだけ感じられた温かさは静かに消え去っていた。

静かにギルヴァは立ち上がり、つい先程までにいた彼女へと向けて口を開いた。

 

「…良いだろう。その依頼(願い)、受けてやる」

 

そう告げて彼は踵を翻しコートを揺らめかせながら歩き出していった。彼の傍にいたSOPⅡは何かを言おうとしたが、言葉が出なかったのか結局言わずじまいになり、先を行く彼の後を追っていった。

その言葉が果たして彼女へ届いたのかは彼には分からない。

しかし彼らを見届けるかの様にひっそりと小さな光が空へと昇っていった。

 

 

元凶であるダゴンが討たれ、ブレイクとM4、そして途中でAR小隊のメンバー、ST AR-15と合流を果たすと彼らは町の廃れたバーに再度身を寄せていた。ブレイクは傍にリベリオンのを立て掛けカウンターに腰掛けており、M4は店出入口近くでAR-15に状況を説明していた。

 

「悪魔、ね…いきなり何を言い出すのかと思ったけど…」

 

「そっちも見たの?」

 

「ええ。冷気を纏っていて氷を飛ばしてくる訳の分からない化け物とか…あと、蛙みたいのも見たわね」

 

「蛙って…」

 

AR-15の口から出た蛙という言葉を聞き、M4はまさかと思った。

彼女の中で思い浮かぶ蛙と言えば一つしか思い当たらなかったからだ。

 

「それって頭に氷が生えていて触角があって、体臭がきつい…?」

 

「何でそんな詳しいのかしら…。…ええ、それよ。流石に手を出さず放置していたけど…」

 

「…その蛙がここを氷だらけにした元凶よ」

 

「嘘でしょう…?」

 

その問いにM4は静かに首を縦に振った。

まさかと思いつつも、AR-15は悪魔という存在を知った以上信じる他なかった。でなければ先程の状況に説明が付かなくなるからだ。

とは言え人知れず存在し、そしてそれが今回の騒動の中心にあった事に表に出さずとも彼女は内心混乱気味であった。それを見抜いていたのかブレイクがAR-15へと喋りかけた。

 

「ま、いきなり悪魔なんて言われたら混乱するのも無理もねぇさ。寧ろその反応が正しいぜ?」

 

「その言い方だと他にも悪魔とやらに関わった人達が居るみたいね…」

 

「まぁな。それでも悪魔の事を信じてくれた良い子ちゃん達ばかりさ。この地区にも知り合いは居るぜ」

 

「…」

 

「それにほっといたら面倒なのが悪魔でね。頭角を現す前に皆でぶっつせば大当たりってやつさ」

 

陽気な態度を見せるブレイクにAR-15は何も言わず、彼を見つめる。

しかしそれに臆する事もなく、肩を竦めながらブレイクは言葉を続ける。

 

「まぁ居るって分かりゃそれでいい。で…嬢ちゃんは敵側に人質として捕まってたんだろ?あっちで何があったのか聞いて良いか?」

 

何故囚われていたAR-15が自分達と合流出来たのか、ブレイクはそれが気になっていた。

黒い壁といい、悪魔といい、そこら辺の雑草の様に生えてきた訳ではない。何らかの発端があったからこそ、このような事態になったのだと判断していた。

そして発端を一番近くで見ていたであろうAR-15が何かを知っていると思い、そう尋ねたのだ。

 

「発端、ね…。私は別に部屋に放り込まれていたから詳しく分からないのだけど…。分かると言えば、同士討ちの様な事が起きていたという事ぐらいね」

 

「同士討ち…?鉄血の内部で?」

 

隣で聞いていたM4が怪訝そうな表情を浮かべながら、AR-15に問う。

その問いにAR-15は頷き、言葉を続けた。

 

「恐らくだけど処刑人が狩人や周りの仲間に攻撃を仕掛けた感じだったわ。何故そうなったかは分からないけど…ただ、あの場に居た時異様な感じがしたわ。肌を刺すようなピリピリとした何か…と言うのかしらね」

 

「異様でピリピリとした感覚、ねぇ…」

 

この時点でブレイクは察した。

その処刑人とやらは魔に飲まれていると。

 

(魔に飲まれたとして…どのタイミングで魔と関わる様になっちまったのやらか)

 

しかしこのまま放置していては、この地区の知り合いにまで迷惑がかかってしまう。それは避けなくてはならない。ここでギルヴァ達を待つという考えがあったが、それでは相手が何をしでかすか分からない。行動するのであれば今が良いと判断したブレイクはカウンターから立ち上がり、傍に立て掛けてあったリベリオンを背へ収めた時だった。

 

「M4!AR-15!」

 

外から二人の名を呼ぶもう一人の声がバーに響いた。

名前を呼ばれた二人は外へと顔を向けると、そこには手を振りながらバーに駆け寄ってくるSOPⅡとその後ろからは歩きながらバーへと歩み寄るギルヴァの姿があった。

離れ離れになってしまったものの、また再会を果たせた事が嬉しかったのかSOPⅡは感極まってM4に抱きつく。びっくりしながらもM4はしっかりと抱き止めてSOPⅡの優しく頭を撫でる。AR-15も今だけは気を緩め、再会出来た事に表情を緩ませ優しく微笑んでいた。

その一方で後からやってきたギルヴァに対しブレイクが茶々を入れる。

 

「遅刻だぜ?」

 

「時間指定された覚えがないのだが」

 

ブレイクの茶々を相手する事無く、ギルヴァはクイーンと無銘を壁に立て掛けて、その隣に腕を組みつつ背を預ける。そこにM4がギルヴァの元へと歩み寄り声をかけた。

 

「ギルヴァさん」

 

「…こうして顔を合わせるのは数か月振りか」

 

「はい。急な依頼、そしてまた大事な仲間を助けて頂きありがとうございます」

 

「単に依頼をこなしただけに過ぎん」

 

(礼ぐらい素直に受け入れろって…)

 

少し冷たいと思わせるギルヴァの言動にブレイクは内心呟く。

M4にフォローを入れようとするブレイクであったが、その前にギルヴァが口を開く。

 

「だが…礼は受け取っておこう」

 

「!…はい!」

 

(…やれやれ)

 

フォローは不要となり気づかれないように肩を竦めるブレイクだった。

 

「さて、話を進めようぜ。こっからのな」

 

普通であればそうするだろう。

しかしそこに待ったをかけた者がいた。

 

「確かにその話は必要だが…まずはあいつらを呼ばなくてはならん」

 

「呼ぶって…良いのかよ?」

 

「隠していたとしてもいずれ知られる事。不安要素は先に潰した方が良い」

 

あいつらとも敵対したくないのでな、と呟きギルヴァは店の端にあった電話へと歩いていく。

何の事を言っているのか分からず、不思議そうに彼を見つめるM4達。

 

「電話線は繋がっているようだな」

 

受話器を手に取り、懐から通貨を一枚入れ番号を押していく。

受話器を耳に当てるとコール音が響く。一秒足らずで彼が予想していた相手が出た。

 

『デビルメイクライ。…ギルヴァですか?』

 

「ああ。今…む?」

 

電話に出たのは当然ながら代理人であった。

彼女が電話に出た時、ギルヴァは電話越しから聞こえる微かな音に気付いた。

 

「運転中か?」

 

『はい。あのまま待つのも落ち着かなくて。今は町の近くを移動中ですが…合流致しましょうか?』

 

「ああ。町の中にあるバーで待っている。…それと例のメンバーもいる。姿を晒す際は気を付けてくれ」

 

『畏まりました。それではあと五秒で到着致しますので』

 

「何…?」

 

彼がそう口にした五秒後…

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が立っていた近くの壁から一台のバンが壁を突き破って現れた。

 

 

 

 

 

 

 

『言ったでしょう?五秒後だって』

 

「…」

 

その言葉に返す言葉はなく、ギルヴァは受話器を元へ戻すのだった。

ブレイクは代理人の登場に腹を抱えながら笑っているのだが壁をぶち破って突然現れたバンにM4達は余りの状況に理解が追い付かず啞然とするのだった。

それを他所に車内から95式、グローザが降りてくる。何とか先に現実に戻ってきたM4は二人のどちらかがバンを運転していたのだと判断した。しかし判断は一瞬にして間違っていたと思い知らされる事となる。

 

「ッ!!」

 

バンから降りてきたもう一人…代理人を見てM4の行動は早かった。素早く銃を構え、代理人へと狙いを定める。

M4が行動を起こした事により、AR-15もSOPⅡも代理人へと素早く銃を向ける。

しかし代理人はそれに反応する事は、あろう事か彼女達に向かってカーテシーを掴んで作法ある礼をするのみ。

 

「どうしてお前がここに居るッ!?」

 

声を荒げ代理人へと問うのはM4。

 

「さあ?どうしてでしょう?」

 

「ッ…!」

 

その一方でAR-15は周りの様子に疑問を持っていた。

自分達が代理人へと武器を構えていると言うのに、バンから降りてきた95式やグローザ、それどころかブレイクやギルヴァがただ様子を見守っているという事に。

 

(これじゃまるで今まで一緒に行動していたみたいじゃない…どういう事なの?)

 

彼女はもしやと思った。そして思い当たる事があった。

鉄血から離反し、グリフィン側に付いた鉄血のハイエンドモデルがいる、と。もし目の前にいる代理人が本当に鉄血から離反し、グリフィン側に着いたのであれば…。

 

「M4、少し落ち着きなさい」

 

「でも!」

 

「落ち着けと言っているのよ。隊長のあんたが冷静にならなくてどうするのよ」

 

「…あいつの肩を持つ気…?」

 

「そうじゃないわ。少し気になる事があったから止めたのよ」

 

銃を下ろし、AR-15は代理人へと問いかける。

 

「まどろっこしいのは要らないから、単刀直入に聞くわ。貴女、鉄血から離反してるわね?」

 

「おや。分かりましたか。貴方達も中々に侮れないものですね」

 

「お世辞は要らないわ。それでどうなのかしら?」

 

「ええ。貴女の言う通り私は既に鉄血とは縁を切っております。それでも信用出来ないのであれば結構。かつて敵であった私がすぐに信用されるなど思っておりませんので」

 

代理人とてそうなる事は予想していた。

しかし後々になって姿を晒した所で面倒な事になるのは間違いない。どうせなら早い内に解決しておくべきと代理人は判断していた。ギルヴァに気を付けろと言われておきながら早々に姿を晒したのはそう言った意味を含めての行動だった。

それが嘘か誠か…AR-15は判断しかねた。そこで彼女は代理人を連れてきていたギルヴァへと問う。

 

「そいつを信じて良いのかしら」

 

「…無理に信じろとは言わんが?」

 

「完全に信じるつもりはないわ。只、そいつが私達を後ろから撃つ事はないか…それを気にしているの」

 

「後ろから撃つ事はない…それだけは保証してやろう。それでも不安が残ると言うのなら…」

 

ギルヴァはちらりと代理人へと視線を送った。

今から何かをする…その意図を読み取った代理人は彼へと頷き返した。

了承を得られた事により、ギルヴァは魔力を用いて代理人の周囲に複数の幻影刀を出現させ展開。周りに展開された幻影刀の切っ先は全て彼女へと向けられていた。

突然現れた群青色に輝く刀にAR-15、それどころかM4やSOPⅡも目を見開き驚きの表情を浮かべる。

 

「少しでも怪しい行動を取れば、代理人の周りにこれが展開される。逃げようとしたとしても追従する仕組みだ。こちらのタイミングで攻撃する事も出来る。…これならそちらも多少なりとも安心できると思うが」

 

「え、ええ…」

 

「そうか。それなら良い」

 

AR-15に何とか納得してもらった事により、ギルヴァは代理人の周りに展開していた幻影刀を消す。

突然起きた事情にAR-15は少しだけ体を震わせた。それは彼に対する恐怖だという事に彼女は気付いており、そして心の内で呟いた。

 

(何者なの…この男…)

 

「さて…話を進めようか」

 

心の内で呟いた彼女の声がギルヴァに聞こえる筈もなく、中断されていた話は再度進み始める事となった。

 

ギルヴァとブレイクはそれぞれ自身が遇った出来事を話していった。

突如として現れた地獄門、その存在、作戦領域一帯を氷で囲んだ悪魔がその地獄門から現れた事、そしてその地獄門を起動させたのは鉄血のハイエンドモデル 処刑人であるという事…全てこの場にいる者達に明かした。

 

「処刑人がそんな事をしでかしてたとは…」

 

「加えて言うならその処刑人とやらは魔に飲まれてるぜ。どこで関わったのか知らねぇけどな」

 

沈黙が訪れる。

処刑人が魔に飲まれている。それにより一体どれ程の力を有してしまったのか、誰にも想像が付かなかった。

当然ながらギルヴァとて想像は付かなかった。しかし依頼(願い)を受けた以上放棄するつもりは彼にはなかった。

 

「…ギルヴァさん、あの事は言わなくていいの…?」

 

沈黙が包む最中、SOPⅡは逝ってしまった鉄血のハイエンドモデル 狩人からの依頼について明かさないのか尋ねた。壁に凭れ、腕を組み、伏せていた目を開くとギルヴァはそうだな、と答える。

一体何の事だろうかとギルヴァとSOPⅡを省く誰もが彼へと視線を向けた。

 

「依頼を受けた。相手は鉄血のハイエンドモデル 狩人からだ」

 

「狩人から?ギルヴァ、それはどの様な内容でして?」

 

「…処刑人を救ってほしいと言われた。そしてその依頼人である狩人…先に逝った」

 

「…そうですか」

 

話すべき事を話したギルヴァは壁から離れ、近くに立て掛けてあったクイーンと無銘を手に取ると、バーの出入口へと歩き出した。そこに95式が彼を呼び止める。

 

「何処へ行くのですか…?」

 

「…依頼を終わらせに行ってくる。それだけの事だ」

 

「…まさか一人で?」

 

「そのつもりだ」

 

そう言われて95式は自分もついていく、とつい言い出しそうになった。

しかし自分一人が加勢入った所で魔の力に飲まれた処刑人に立ち向かった所で彼の足を引っ張る。それに魔の力に飲まれ異形と化した者を彼女は知っている。それによって身に付けた魔の力の恐ろしさも。

 

(何て非力なのでしょう、私は…)

 

そう知っていても尚、95式は彼の背中を支える事が出来る力を持っていない事に不甲斐なさともどかしさを感じていた。

悪魔の恐ろしさは知っている。自分達の手で何とかなる悪魔も居るが、強力な悪魔となればどうする事も出来ない。その結果、ギルヴァやブレイクといった倒魔の力を持つ者達の力が必然となる。しかしその力を持つ者の力は人形である彼女達では到底追い付かない領域にあるのだから。

 

(けど力だけを得ようとした所で自身を見失うだけ…)

 

非力だと感じつつも95式という少女は決して弱い少女ではない。

強力な悪魔との戦いで彼を支える事が全てではない。どんなに小さい事でもいい。それが彼の支えになるのであれば良いのだから。

 

「…ここで帰りを待っています。どうか…ご武運を」

 

「ああ。…彼女達を頼む」

 

「はい…!」

 

背を向けてギルヴァは外へと出ていく。

誰もが小さくなっていく彼の背中を見つめる中、ブレイクの隣で座っていたグローザが彼へと尋ねる。

 

「貴方は行かなくて良いのかしら」

 

「まぁ…あいつが受けた依頼だからな。おいしい所は譲ってやるさ」

 

「そう…」

 

それ以上グローザは何も言わなかった。

ブレイクも本来であれば自分が動こうと考えていた。しかしギルヴァが正式な依頼を受けたのであれば、そこは譲るべきと判断したのだ。それに自分までここを抜けてしまえば、何かあった時に手助け出来ない。

ならばここは自分は引き受け、最後の依頼を彼に任せる事にしたのだ。

 

バーで出てギルヴァは迷う事無く処刑人がいるであろう場所へと向かっていた。

感じられる禍々しい魔力。その発信源は町から遠く離れた位置にある処刑人が狩人と共に拠点にしていた基地から感じられていた。

 

「何時ぞや戦い以来か…」

 

処刑人と剣を交えたのは彼が行方不明となった95式の捜索依頼を受けた時の事だ。

あの時は捜索対象が近くに居た為、強引に終わらせた事により決着はつかず仕舞いになっていた。

基地へと目指しながら彼はこの先にいるであろう彼女へと言葉を投げかける。

 

「終わらせよう…」

 

始まってしまった戦い。

長きに渡り決着が付かなかった戦い。それはこの時をもって…

 

 

 

 

 

 

「処刑人」

 

 

 

 

 

 

終幕へと動き始めた。




―――決着つかずの戦いを終わらせるために



次回 ―rematch(再戦)


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Act78 rematch

――再戦はあの時のままとは限らない


―どうしたと言うんだ!?■■■ッ!!?―

 

 

 

 

誰かの声がする。

 

 

 

 

―くうッ…!!…お前に何があったんだ…答えろッ!!

 

 

 

 

何があった…?

何があっただろうか…?

 

 

 

 

―……誰かあいつを止めてくれ…誰でも良いッ…!!あいつを…■■■を止めてくれッ!!!…―

 

 

 

 

とても聞き覚えのある声。

でも何故かそいつの顔が思い出せない。

駄目だ…何も思い出せない…。

そいつの顔も名前も…何よりも…

 

 

 

 

 

 

オレ ハ ダレダ?

 

 

 

 

 

「…」

 

処刑人と狩人が拠点にしていた基地の前で、彼…ギルヴァはじっと先を見つめていた。

基地から感じられる膨大な魔力。それが波となって押し寄せているのを感じ取っていた。それもかつて経験したS11地区後方支援基地の時に感じた魔力とは比べ物にならない位の魔力量であった。

 

―こいつはまた…とんでもない位の魔力だな…

 

「…魔に飲まれていると聞いたが、本当に魔力だけで人形を支配下に置くなど可能なのか?」

 

ブレイクが言っていた事にギルヴァは疑問に感じていた。

何故なら魔力単体で人形を支配できるとは到底思えなかったからだ。もしそれが可能であればS11地区での作戦は長期に渡っていただろう。

 

―それは無理だ。何らかの悪魔が関与してねぇと話にならない。もし魔力単体で相手を支配下に置く事が出来るなら、S11地区後方支援基地での作戦は失敗に終わってるからな?

 

「やはり悪魔が関わっているという事か…」

 

―多分な。…恐らくだが、処刑人は地獄門を起動させる以前から悪魔と何らかの繋がりを持ってしまった。例えばより強い依代を見つける為に、魔界の寄生虫に取りつかれたとかな

 

「もしそうだとして、たかだが寄生虫一匹でここまでなるのか?」

 

―いや、ならない。地獄門を起動させたのはその寄生虫によって思考か或いは別の何かが乗っ取られ、そして処刑人よりも遥かに強力な悪魔に寄生する為に起動させた。そっからは出てきた何かによって…

 

「それでこの状況か…」

 

どちらにせよ悪魔という存在が関わっている事に違いない。

ギルヴァは基地の正面入口から内部へと侵入した。内部は処刑人が暴れたであろう状況がそのまま残っており、酷く荒れていた。その中には頭から縦に一閃され無残な姿で横たわっている鉄血人形兵達があちらこちらに転がっていた。抵抗した形跡はなく、一方的に斬り伏せられたのが容易に察する事が出来る。

 

「味方も関係なく、か…」

 

彼の脳裏に死ぬ間際に狩人が彼に依頼した内容が浮かぶ。

変わり果てた処刑人に救って欲しいと彼女はギルヴァに依頼した。

しかし付き合いの長い筈であろう狩人や仲間にその刃をぶつけたという事は、処刑人は戻れない所に来ているかも知れないとギルヴァは考えた。

そして…もしそうなれば手段は限られてくるという事も。

 

「死か生か…お前はどちらの救いを望んだ」

 

小さく呟くギルヴァ。

依頼し、先に逝った彼女(狩人)へとその言葉を投げかける様に。

 

基地内部、中央区画。

物一つなく、ただ広いだけの空間の中央に変わり果てた処刑人は目を伏せ静かに宙を浮かびながら佇んでいた。

戦闘義手はまるで生物と同化した様な姿を有し、愛用している大剣も禍々しい姿をした大剣へと成り果てていた。

目に見える程の魔力が彼女を中心に放たれ、その背には魔力で形成された羽に展開されている。そして自身を守るかの様に周囲に氷を配置されており、まさに攻防一体を具現した様な姿を有していた。その一方で禍々しいさを保ちながら、氷と魔力で形成された羽が相まって何処か神々しさすら感じられる。

 

「…」

 

ふっと伏せていた目を開く処刑人。

誰かが近寄ってくる気配を感じ取り、彼女は静かに後ろへと振り向く。そこに居たのはかつて自身を空へと吹っ飛ばした元凶。青い刺繡が施された黒いコートをなびかせ、ギルヴァは彼女の前で足を止める。

変わり果てた彼女を見て、彼はフンと鼻を鳴らすと呆れた様な形相で話しかける。

 

「随分な姿だな。悪魔に己を…いや、全てを売り払ったか」

 

「…」

 

「喋る事も忘れたか。以前の貴様なら話す事ぐらいはしていたが」

 

「…オマエ ハ ダレダ?」

 

(忘れている…?)

 

処刑人から出た言葉にギルヴァは訝しんだ。

幾ら魔に飲まれたとは言え、記憶ぐらいはしているだろう。ましてや自身をまるで漫画のオチみたく吹っ飛ばした相手を忘れる事は早々ない筈。しかし処刑人は目の前に立つギルヴァの事を覚えていなかった。否、思い出せずにいた。魔による影響か、或いは本当に全てを売り払ったのか…そう思わざるえなかった。

 

「素晴らしい姿だろう?彼女の自我は多少なりとあるが、時間の問題だがな。義手に取り着いた魔界の寄生虫も彼女も私の支配下になりつつあるのでね。」

 

聞こえた第三者の声。そしてそれは亡霊の如く、彼女の背後から姿を晒した。

その姿はまるで騎士の様で、かつてギルヴァと激闘を繰り広げたアンジェロに酷似していた。

 

(あの悪魔とは似ているが…)

 

―どっかで見たと思えば…あいつ、アンジェロよりも先に作られた古い存在か。あいつの兄貴分ってやつさ。普通なら肉体があるんだが…成程、そういう事か。アンジェロが死んだ事をどっかで嗅ぎ付けてこっちに飛んでこようとしたが、閉じ込めれて肉体だけが滅んだな?あいつ、愛が深い奴でね。弟を討った奴への復讐をしに来たんだろうさ。

 

(そうか)

 

復讐をするしないは勝手であるが、肉体が滅んで尚成仏しきれないアンジェロの兄にギルヴァは迷惑だと感じられずにいた。肉体も精神もそのまま消滅してくれれば事態はここまで悪化する事はなかったからだ。

 

「さて…初めまして、デビルハンター。こうして話すのはこれが初めてか」

 

「そのようだな。それで…こんな世界に何をしに来た。作られし魔界の騎士の兄とやら」

 

「…!成程…お前が」

 

「ああ。迷惑な存在だったのでな。早々に消えてもらった。貴様も弟をやられて復讐をしに来た身なのだろう?会話の相手をするつもりはない…貴様もあいつの元に送ってやろう」

 

そう言い切るやギルヴァは無銘の鍔に親指を押し当て鯉口を切り、居合の態勢を取る。

相手が戦闘態勢に移行した事によりアンジェロの兄…フリージング・アンジェロも処刑人の中へと隠れ込み、自身の手足を扱うかの様に大剣を構える。にらみ合う両者。緊迫した空間が場を支配する。

そして…

 

「「…ッ!」」

 

勢い良く地面を蹴り、突進する両者。神速の抜刀技により鞘から鋭い一撃が抜き放たれ、禍々しい魔力を有した機械剣が振りぬかれ、刹那刃同士が激突する。二人を中心に発せられる衝撃波。外壁が勢い良く吹き飛ばされ、青空が二人を迎える。しかしそんな事はどうでもいいと言わんばかりに激しい剣戟を繰り広げる両者。

ぶつかる度に響く鋼の音、散りばめる火花。そしてそのまま鍔迫り合いへと持っていくが、数秒も経たぬ内に解かれ、二人をその場から後方へ飛び退き距離を取る。開いた両者の距離、先に動き出したのはギルヴァだった。

自身の右左に幻影刀複数を展開し、投射。槍の如く凄まじい速さで投射された幻影刀が迫るが、フリージングも同じような氷の槍を複数生み出すし射出。迫る幻影刀を撃ち落していく。二つが連鎖してぶつかった事により、氷の槍が崩れた事に氷霧が周囲に広がり、二人の視界を妨げる。

氷霧によって周りが見えない中。ギルヴァは背に背負っていたクイーンの柄を握り、引き抜く。そして片腕で剣を引きつつ切っ先を突き立てる様に構える。

 

「そこを動くな」

 

腰を使いつつ、勢い良く投げ飛ばされるクイーン。横に回転しながらクイーンは氷霧の中を斬り抜けていく。

氷霧の中から飛んできたクイーンに素早く反応し、右手の大剣を勢い振り上げて弾き飛ばすフリージング。

 

「この程度の攻撃で倒せると思ったか!貴様の目は節穴か!」

 

慣性を失い緩やかに回転しながら後方へと飛んで行くクイーン。振り上げた際に起きた剣風によって氷霧は払われ、全体がクリアになるがフリージングは言葉を失った。

 

(居ないだと…!?)

 

先程までそこにいた男がいない。

フリージングが周りを見回そうとした瞬間だった。

 

「節穴だと?」

 

後ろから響く声。

まさかと思いフリージングが後ろへと振り向くと…。

 

「節穴は貴様の方だ」

 

弾き飛ばされたはずのクイーンを手にし宙を浮かぶギルヴァの姿があった。

振り下ろされる刃。つかさず大剣の剣幅で攻撃を防ぐフリージング。何故相手が一瞬にして後方にいるのか理解出来なかった。もしこの時、処刑人の自我が多少なりと残っていたとするのであればこのギルヴァの戦術に気付けていたかも知れない。フリージング本人は気付いていないが、宙を浮かぶギルヴァの後方には群青色に輝く幻影刀が突き刺さっていた。クイーンを投擲し、フリージングがそれへと意識を向けている隙に幻影刀を投射。クイーンを弾かれた瞬間を見計らい後方へ移動したのだ。その戦術を処刑人に憑りついた悪魔に理解できる筈がなかった。だからと言って自身が窮地に落ちた訳ではなく、攻撃と共にギルヴァを振り払うフリージング。振り払われたギルヴァはそのまま後方へ一回転しつつ地へと着地。相手を一睨みした瞬間、彼がいた場所に残像だけが残った。

また奇襲攻撃を仕掛けてくると判断したフリージングは何時でも迎撃に出来る様に大剣を構える。

 

「…」

 

沈黙が訪れる。だがそれは長く続かなかった。

 

「ッ!!」

 

「ふっ…!」

 

フリージングの頭上に現れるギルヴァ。体を捻りつつ、強烈な一太刀が振り下ろされる。その場から飛び退くフリージング。攻撃を避け、生まれた一瞬の隙を逃す事無くギルヴァへと氷の矢を放っていく。だがそれらはギルヴァに届く前に上空から飛来した幻影刀の雨によって打ち消される。遠距離攻撃では彼を倒せないと判断したのか、フリージングは大剣にさらに魔力を纏わせ、突撃。先程よりも倍以上の速さで迫り突進と同時に突きが放たれるが、ギルヴァは無銘の刀身で難なく受け流しつつ、左手に持っていた鞘で足を掬い上げる。足を掬い上げられ、横転するフリージング。無防備となったそこに腹部へと目掛けて刀が振り下ろされるが寸での所で大剣で攻撃を防ぎ、背の羽を勢いよく羽ばたかせ後ろへと後退する。間髪入れずに大剣を大きく下から上へと振り上げる。刀身に纏っていた魔力が刃となってギルヴァへと迫るが、あろう事か彼は一度刀身を鞘へと納めると飛んできた魔力による斬撃を納刀した状態の無銘で弾き飛ばした。

 

「その程度か。貴様より憑代となったその女の方や先に逝った弟の方がまだマシだったぞ」

 

ここぞと言わんばかりに挑発をかますギルヴァ。

弟はともかく、自身が操る人形よりも劣ると言われた事が逆鱗に触れたのか、フリージングから放出されていた魔力はより一層激しくなる。

突風が吹き荒れ、手にしていた大剣に禍々しい魔力が注がれていく。剣先を突き立て、ギルヴァへと狙いを定める。対するギルヴァは何もせず、ただその時が来るのを待った。

膨大な魔力が周囲に拡散しているためか、空間が揺れ地響きの様な音が鳴り響く。

次の瞬間勢い良く突進するフリージング。対するギルヴァも地面を蹴り、クイーンを引き抜くとブレイクがよく利用する技「スティンガー」と同じ動きで突進。刀身に魔力を纏わせつつ同時に魔力を放出させ、魔人化を果たす。

迫る合う両者の距離。刹那赤黒い魔力の塊と青い魔力の塊が空間の中央で激突した。

どちらが上を行ったか。瞬く間もなくそれは明らかになった。

硝子が割れる様な音。砕け散る大剣。氷霧と化していく氷と霧散する魔力の羽。宙へと投げ出される悪魔に支配されし人形の姿。それを下から見つめる蒼き悪魔は一気に畳み掛ける。

一瞬で地表から宙に浮かぶフリージングへと接近し、体を勢いよく回転させるとその勢いを利用し強烈な踵落としをぶつける蹴り技「月輪脚」で地面へと叩きつける。威力は敢えて抑えつつなのだが、それでも相手をバウンドさせる程の力はある。再度宙へと舞い上がった所に、ギルヴァは無銘を構え、居合の態勢へと移行し突進。

鍔と鯉口の間から見える刃。放たれる一瞬の煌き。

 

「まずは貴様からだ」

 

すれ違いざまに一閃。寄生虫に憑りつかれた部分だけを斬り落とす。これで力の一部を使えなくなるフリージング・アンジェロ。このままでは不味いと判断したのだろう。新たな憑代を見つける為、処刑人から脱した。しかしそれが愚策であった事を知る由もなく、これこそがギルヴァの狙いだった。

救ってほしいと死ぬ間際に依頼されたのだ。多少程度のダメージは仕方ないとし、完全に機能停止させるつもりは今の彼にはない。寄生されたのであれば、その部分だけを斬ればいい。

普通なら不可とされる事も、彼が持つ愛刀「無銘」ならば問題ない。何故なら「無銘」は…

 

 

ありとあらゆるものを斬る事が出来るのだから。

 

 

「逃がすと思ったか?」

 

一歩後方へと引き、居合の態勢で構えるギルヴァ。

神速の抜刀。空間を切り裂き、放たれた無数の斬撃は霊体であるフリージング・アンジェロを斬り刻む。

攻撃により、態勢を崩し地面と落ちていくフリージング・アンジェロ。その下では、無銘を両手で握り上段構えを作るギルヴァの姿。刀身に蒼い魔力が注がれる。そしてお互いの位置が同じになった瞬間…

 

「!」

 

振り下ろされる一撃。蒼い魔力が弧を描き、空間を振動させる。

その一撃はフリージング・アンジェロを一瞬で消滅。刀を巧みに回し、刀身を鞘へとゆっくりと納めていくギルヴァ。一瞬の刃の煌いた後鍔と鯉口とかち合う音が静かにその場に響く。

魔人化を解き、地面に転がる処刑人へと向くギルヴァ。歩いて近づき、肩を貸す様に彼女を抱えるとゆっくりとその場を後にする。

 

「…依頼は果たしたぞ」

 

静かに依頼人である彼女へと言葉を投げかけ、去っていくギルヴァであった。

 

 

 

後に彼は処刑人に連れて、代理人達と合流する。

殺さずに処刑人をつれてきたギルヴァにM4達は何かを言いたげであったが、結局は何も言わなかった。

そのまま負傷した処刑人を連れて代理人達はS10地区前線基地へと戻る事となる。その際に代理人はシーナの指示により一旦AR小隊の三人をS10地区前線基地で保護してほしいという指示により彼女達を連れて戻った。

そしてギルヴァは…

 

「そうか。一旦基地で保護する事になったのか」

 

電話越しに代理人から後の事を聞かされ、内心安堵した。

 

『はい。処刑人及びAR小隊の三名はS10地区前線基地で保護する事になりました。AR小隊の三名に関しては恐らく上からの指示かと』

 

「だろうな。…手間をかける」

 

『いえ。それでギルヴァ…今どちらに?』

 

「ああ。今は…」

 

実の所ギルヴァは代理人達と共にS10地区へと戻っていなかった。

処刑人を代理人に預けた後、気になる事があると彼女に伝えてからギルヴァは単身、ある地区に訪れていた。

無銘とクイーンは人目につく事を恐れ、この地区に来る道中で拾った布に包み背負っていた。

 

「S09 P地区だ」




という訳で事態は終幕へ。処刑人とAR小隊の三名はうちで保護。

また憑りつかれた処刑人の姿はDMC4に出てくる悪魔化したあのおじいちゃんの様な感じです。

そして作者様からは許可を頂き、ギルヴァ単身でS09 P地区に訪れています。
何故彼がここに訪れたのか、次回明らかになります。

訪れてるから…何かお礼しないとな。クイーンを作る為にパーツとかかな?

では次回ノシノシ


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Act79 Singing voice

―――これは自分で片付けなくてはならない事




あちらもあちらで色々起きていますが…。
こちらもこちらでやり残した仕事に取り掛かります。
てかうちって色々面倒事起こしてない?気のせいかな…


S09 P地区、早朝。

日が昇り、新たな一日を迎えるその町でギルヴァは一時的な拠点として利用している宿の屋上にて先を見つめていた。その先にあるのは数か月前に世話になった基地。一週間も世話になった上に、後のS11地区の作戦では手を貸してくれたところだ。

 

「…フェーンベルツの一件以来か、あの基地を見るのは」

 

―ザ・ディスペア・エンボディードをブレイクと共に追って、この地区の部隊が戦闘している所に飛び入り参加。とんでもない登場の仕方だったな?

 

「仕方あるまい。あの状況で自分がどこの地区の上空に居たかなど考える暇すらなかったのだからな」

 

―それもそうか。…挨拶にでも行くか?

 

「いや、そのつもりはない。それにこちらが突然訪問するなど迷惑だろうからな」

 

―今度会う時はのんびりとした平穏な日にしようって言ったのお前だぞ?

 

「それはまたの機会に取っておくとしよう」

 

処刑人との戦いの後、ギルヴァが一人でこの地区に来たのは世話になった基地を見に来た訳ではない。あまり気にする事でないとも言えるのだが、それでも懸念が払拭できずにこうして彼はここにいた。

そして何故ここに来たのか、その目的を知らされていない蒼は本題へと切り出した。

 

―それで?何でここに来たのか、そろそろ教えてもらおうか?

 

「…そうだな」

 

基地を見つめながら彼はその場で腕を組みつつ、蒼の質問に答える事にした。

 

「地獄門…あれがいつ、どのタイミングで起動したか覚えているか?」

 

―いつ、どのタイミングって…そりゃ俺達があの場に来る前だろう?

 

「では破壊に至るまでどれ程の時間を要した?」

 

―到着して…移動含めてざっと一時間くらいか

 

「…その空白の時間、本当にあの門からブレイクが討った悪魔と処刑人に憑りついていた悪魔以外一体も出てこなかったとは思えん」

 

そう言われて、蒼は理解した。

ギルヴァがここに来た理由。結論から言えば討ち漏らしがあるという事だ。

前日の戦いにて、地獄門から現れた悪魔がダゴンと霊体であったフリージング・アンジェロだけとは限らない。地獄門から現れた別の悪魔が作戦領域から離れどこかの地区で潜んでいる可能性がある。それをギルヴァは気に掛けていた。

しかし何故ここなのか。それには蒼も気付いていた。

 

―成程なぁ…薄っすらと、本当に薄っすらとだが感じられる魔の気配。そしてそれはこの町に隠れている…だからここに来たのか。

 

「そうだ」

 

―それに基地へと向かってこの町に悪魔が潜んでますなんて言えば、向こうだって行動するだろうな。そうなってしまえば、隠れている悪魔だって察知して逃げ出す可能性もある。それを含めて挨拶はまた今度って訳か

 

「ああ。俺が動いた、つまりそれは悪魔が関わっている案件だと示している様なものだ。それにあそこには何度か世話になった。これ以上迷惑はかけられまい」

 

元はと言えば自分達が討ち漏らした事が原因なのだ。ならば自分の問題は自分で片付けるのが正しい。

一度目は一週間も世話になり、二度目はS11地区での作戦に協力してくれたにも関わらず、こちらは大した礼を出来ていない。だからこそ今回の一件は自分達で内々に収めようと考えていたのだ。

 

―成程。たまには誰かに頼るのではなく自分で解決するのもアリだな。さて…向こうがお前がこの地区に来ているって聞けばどんな反応するんだろうな?

 

「さあな。こちらはこちらの仕事をするまでだ」

 

―はいはいっと

 

(勘でしかないが、今あの基地では何かが起きている。悪魔の血を流す俺に言われても嬉しくないと思うが、無理だけはするなよ、ユノ指揮官)

 

かつて自分を信じてくれた指揮官へ心の内で投げかけるギルヴァ。

その後に踵を返し、屋上を後にする。

朝食を取ったの後、彼がまず初めに始めたのは情報収集だった。とは言え悪魔という存在がそこまで知られていない以上、オカルトじみた話があがってくる筈がない。ギルヴァも二日、三日はかかるであろうと判断しており、さして今日一日で得られる情報はないと期待すらしていなかった。

そしてそれは見事に的中し、夜を迎えていた。

 

「…」

 

町にある小さな酒場でギルヴァはいた。カウンターの端で腰掛け度数の低い酒が入ったグラスを手に、それを飲んでいた。ウイスキーでも良かったのだが、後の事もあり敢えてそれは控えていた。

酒を飲んだ後は、彼は闇夜に包まれた町へ出向くつもりでいた。情報はつかめずには居たが、悪魔の気配なら情報が無くとも察知できる。それで片がつくのであれば尚の事良し。つかないのであれば、地道に動くまでの事。

 

「辛気臭そうに飲んでるな、あんた」

 

「…む」

 

静かに飲んでいたギルヴァの所に声をかけたのは店主だった。名も知らない相手であるが、無視をすれば面倒になると判断しギルヴァは受け答える。

 

「普段からこうなのでな」

 

「そうかい。…あんた、この辺りじゃ見ない顔だな。別の地区から来たのかい?」

 

「ああ。S10地区から所用で訪れた」

 

「S10地区か。あそこは行った事ねぇなぁ…。なぁ、S10地区ってどんな所よ?」

 

「自分の目で確かめるが良い。人に聞くよりかは幾分かマシだ」

 

最後の一口を飲み干しつつ、懐から飲み代を置いて椅子から立ち上がる。

気分としては静かに飲んでいたかったのだが、このままでは喋りに付き合わされる。その気にはなれなかったギルヴァは半ば強引に会話を切り上げた。

店主も店主で少しつっかかり過ぎたかと内心反省しつつ、また来なよと彼へと伝える。

一端宿へと戻って、武器を取りに行こうとしたギルヴァだが、酒場の店主なら他の客から何か聞いているかも知れないと思い、その事を尋ねる事にした。

 

「ここ最近でいい。何か変わった出来事を…オカルトじみた話でもいい。聞いたりしていないか?」

 

「変わった出来事?いいや、聞いた事ねぇな。あんた、オカルトマニアかい?」

 

「…似た様なものだ」

 

邪魔したな、と伝えるとギルヴァはそのまま酒場を後にする。

この後に彼は町を徘徊したのだが、結局悪魔が姿を見せる事はなかった。

しかし彼は気付かなった。この町に潜む悪魔が既に動き出していた事に。

 

 

 

誰もが寝静まった静かなる町にて大通りで酷く酔ってまま帰路へ赴いている一人の男がいた。

明日は休みという事もあって、かなりの量の酒を飲んだのだろう。いつどこで眠ってしまっても可笑しくない程に酷く酔っていた。

フラフラと千鳥足で自身の家へと歩いていく男。家まであと半分と言った時に、ふと男は足を止めた。

 

「んあ…?」

 

男の耳に微かに聞こえたのは、歌声の様なもの。酔っている事もあり男は歌声の元へと歩き出した。

大通りから路地裏へ。このまま行けば裏通りへと出るのだが、何故その先にあったのは古びた劇場がそびえ立っていた。

 

「?」

 

こんなところあっただろうか、と男は疑問に思いつつもそのまま戻る事はせず敷地内へと歩み寄りる。すると古びたドアが軋む音を上げながらゆっくりと勝手に開く。まるでいらっしゃいと言わんばかりに。

誘われる様に男はそのまま足を踏み入れ、内部へと消えてしまう。背後でドアが外から差し込む月の光を遮断するかの様に、静かに閉じていた事に気付かなかった。

そして男がその古びた謎の劇場から戻ってくる事はなかった。




申し訳ない一話で収まる気がしないので、あえてここで切って次回に引っ張ります!許してぇ…
そろそろあれですねぇ…コラボでも考えようかな。
別世界に渡ってしまうような…そういうのを


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Act80 Alkenyl

―――その歌に誘われた者は気付かずに蜘蛛の糸に引っかかる


ギルヴァがS09 P地区に訪れ三日目。

昼頃にギルヴァは宿を出て、町へと赴き情報収集へと動いていた。大通りへ歩き、昨夜訪れた酒場の前を通り過ぎていく。その時、通り過ぎて行こうとする彼を見つけて呼び止める者がいた。

 

「よぉ、昨日の兄ちゃん」

 

「ん…?」

 

呼ばれて振り向くギルヴァ。

彼の視線の先には昨日声をかけてきた酒場の店主がいた。

 

「ちょいと時間貰っても良いかい?」

 

「…何かあったのか」

 

「そんなところだ」

 

もしかしたら悪魔とは言えずともそれに類する情報が出てきたのかも知れない。

そしてこれを無視すれば、情報は出てこないかもしれないだろうと判断した彼は店主の誘いに乗る事にした。

店主の後に続き、店内にへと入るギルヴァ。客はギルヴァ以外にカウンター席に男性が一人。

だが酒を飲みに来た様子ではない。どこか不安そうな、心配している様な表情を浮かべていた。

店主が男性の近くに寄るとギルヴァに向かって口を開いた。

 

「まずはこいつの話を聞いてくれねぇか。何で呼び止めたのか、話はそっからだ」

 

そう言うと仕事があるのか、カウンターへと引っ込み作業をし始める。

 

(取り敢えず聞くべきか。話はそこからだ)

 

店主に言われた様にギルヴァは男性の隣に腰掛ける。

男性は一度ギルヴァをちらりと見やるがそのまま下へとうつむいてしまう。そして小さい声で彼へと話しかけた。

 

「何か飲むか…?」

 

「そんな気分ではない。…話を聞こうか」

 

「…店主から聞いたんだが、オカルトとか…その手に詳しいんだって?」

 

「それなりにな」

 

すると男は顔を勢いよく上げるとギルヴァの肩を掴んだ。

突然だった為、つい反射的に反撃しそうになるギルヴァであったがそれをすれば話どころではなくなるので何とか抑えた。

そして男性は希望を見つけたと言わんばかりにギルヴァへと頼み込んだ。

 

「頼む!俺のダチを救ってくれ!」

 

その様子からしてギルヴァはこの男性ではなく、この男性の友人に何かが起きたと判断。

言葉にせずとも彼は首を縦に振り頷く。そして男性は起きた事をギルヴァにへと話し始めた。

 

 

「行方不明の友人か…」

 

男性が語った話にギルヴァは静かに呟いた。

男性は仕事の為、ギルヴァの隣にいない。今は酒場にいるのはギルヴァと店主だけ。

そしてギルヴァの中で話を聞いていた蒼は男が話した事に言及した。

 

―昨日一緒に酒を飲んだ友人があの男と別れた後に行方不明とはなぁ…。

 

(本人が言うには特に何か悩んでいる様子はなかった。となると…)

 

―尻尾現したな?

 

(ああ。だがその友人はどこで姿を消したか…それが気になる)

 

男性は友人が忽然と行方不明になったという事は話したが、その友人がどこで姿を消したかまでは知らなかった。

ギルヴァにとってそれが一番の謎として残っていた。しかしその謎はすぐに明らかとなる。

 

「あいつの話聞いたみてぇだな」

 

「ああ。俺を呼び止めたのはあの男の話を聞かせるだけ…ではないのだろう?」

 

「そうだ。あいつの話もそうだが…俺の知り合いも何人か行方不明になってんだよ」

 

「…ほう?」

 

偶然ではないとギルヴァは思わざるえなかった。

何故店主が自分を呼び止めたのか。ただのオカルトマニアという事だけ呼ぶ筈がない。

そこで思ったのは、店主が自身の正体に気付いているという事だった。

悪魔はともかく、便利屋だという事に。

だが今はそれを問う事はせず、ギルヴァは店主の話に耳を傾ける。

 

「けどな、奇跡的に行方不明にならずに話してきた奴がいてよ。そいつが言うには、こことは別の大通りで歌の様なものが聴こえたって言ってたんだよ」

 

「歌だと?」

 

「ああ。結構綺麗な歌声だって言ってたぜ?…どうだい、ちと面白くなってきただろ?」

 

「人の生死が分からんと言うのに面白いも面白くないもあるか」

 

この状況で少し楽しそうにしている店主に対してまともな意見で反論するギルヴァ。

その返答に腕を広げ、肩を竦める店主。

その様子を見てやれやれと言わんばかりに指を額に当てため息をつくギルヴァ。

しかし情報を得られたのは大きい。これ以上被害者を増やさない為にも今夜動く事にすると決めるギルヴァ。

椅子から立ち上がり、その場から後にしようとするがギルヴァは店主に対し気になった事を尋ねた。

 

「…昨夜話しかけてきた時点で気付いていたのか?」

 

「さあ?どうだろうな。お前の想像に任せるぜ…"便利屋"?」

 

「…そうだな」

 

そのまま酒場を後に、宿へと戻っていくギルヴァ。

無駄な体力を消費しない様に時が来るまで待機にするのだった。

 

 

三日目の夜が訪れた。

大通りには冷気が漂う。夜空に上がる月が全てを照らし出し、静寂に包まれる。

そんな中で店主が言っていた例の大通りに無銘を片手にギルヴァは訪れていた。大通りに静かにブーツの底が当たる音が小さく響く。

そして大通りを半分歩いた時だった。

 

「~♪」

 

どこからか華麗な歌声がギルヴァの耳に届いた。

足を止めると彼は周りを見渡して、その歌声が何処から発せられているのか探し始める。

 

(蒼、どこからか分かるか)

 

―直ぐそこに路地裏からっぽいな。気を付けろよ、ギルヴァ

 

(ああ)

 

蒼の言う通り、その歌声はすぐ近くの路地裏が聞こえていた。路地裏の出口の先には別の大通り、しかしそこに行き着くまでの道中は闇に包まれている。何ら臆することなく路地裏へと足を踏み入れるギルヴァ。一歩、一歩と足を進めていく度に小さかった歌声は次第に大きくなっていく。

そして路地裏を抜けた時、彼を迎えたのは別の大通りではなく、ポツンと建つ古びた劇場。

後ろを振り向けば先程通ってきた路地はどこかへと消えており、まるでここだけ独立している様であった。

 

「空間を歪ませ、ここにたどり着く様に仕向けたものか。…悪魔にしては利口だな」

 

―確かにな。確実に仕留めるなら、自身のテリトリーまでおびき寄せばいい。

 

「その様だな」

 

ギルヴァがここにたどり着いた事により、劇場の扉が静かに開いた。

誘われている事など最初から分かっている。わざと誘われた振りをしてギルヴァは劇場内へと足を踏み入れる。

彼が中へと入った事を感知していたかのように閉じる扉。しかし振り向く事はせずギルヴァはこの町で勝手な事をしている悪魔の元へ歩みを進めた。

古風な造りが特徴の廊下。所々に蜘蛛の巣が張っており、廃れた印象を与えさせる。歌声は今も尚響いており、それを頼りに彼は進んでいく。

長い廊下を突き進み、暫くして歌を歌う主が居るであろう会場前へと到着し、そのまま会場内へと入っていく。

そして中に入ってすぐにギルヴァは険しい表情を浮かべた。

 

「悪趣味な」

 

―人の姿をしているが…ありゃアルケニーかぁ…。

 

舞台上で踊る様に歌い続ける白きドレスを纏う金髪の女。そしてその周囲には蜘蛛の糸で全身包まれ、天井に宙吊りにされている行方不明になった人達の姿。周りを見渡せば、何処から湧いてきたのか魔界の蜘蛛が何体も姿を見せており、その全てがギルヴァへと向けられていた。

歌が終わる。ドレスを裾をつまみ、軽く一礼する女。そして彼女はギルヴァを一度見ると静かに微笑み、話しかける。

 

「ようこそ。貴方も歌を聴きに来たのかしら」

 

「…」

 

「あら?意外と物静かなのね。前に来た男は私の歌を拍手しながら誉めてくれたわ」

 

今はあそこでつるされているけどね、と蜘蛛の糸で包まれた一人を指さす女。

そして一度ギルヴァを見つめながら蠱惑的な表情を浮かべた。この女…否、この悪魔とて相手が人間か、悪魔かぐらいの判別はついている。

また人間が歌に惹かれてやってきたと思い彼を一目見た瞬間、彼女の中で何か熱いのが滾った。

 

(他の人間と違ってどんな味がするのかしらぁ…あぁ…早くタベタイ…)

 

しかしそれを表に出す事はせず、一言返してくれないギルヴァに不満の声をあげた。

 

「ねぇ…何か答えてくれても良いんじゃない?流石に無視は悲しいわ」

 

「…一つ聞く」

 

ここに漸く口を開くギルヴァ。

 

「何かしら?」

 

「あの者達は生きているのか」

 

「ああ、その事か…」

 

どこか心底どうでも良いと言わんばかりの表情を浮かべる女。

しかし聞かれた以上は答える事にした。

 

「ええ、生きているわ。後で食べる予定よ…無論貴方もね?」

 

「そうか」

 

何かを納得したのだろう。

そのまま戦闘態勢へと移行するつもりどころか、背を向けるギルヴァ。

()()()()()()()()()()()()()()

 

(あら…?)

 

その様子に女…アルケニーはふと不思議に思った。

何時、どのタイミングでギルヴァが抜刀していたのか。予備動作すら分からず、只々疑問に思うしか出来なかった。ましてや自身が斬られている事すら気付く筈もなく。

鍔と鯉口がかち当たる音が響いた瞬間、一体、一体と一閃された魔界の蜘蛛の亡骸が落ちていき、吊るされ、包まれた蜘蛛糸が斬り落とされ舞台の上に転がる気を失っている行方不明者たち。

そしてギルヴァの背後ではドサリと何かが倒れる音が響く。同時に古びた劇場が消失し始める。

消失していく舞台の上ではまるで悲劇のヒロインを表現するかの様に首と胴体が分かれた悪魔の死体が転がっており、古びた劇場と共に静かに消失していくのだった。

 

 

「…戻ったか」

 

古びた劇場は消失し、ギルヴァが立っていた場所はあの路地裏から出た先に大通りだった。

周囲に見回せば、寒さに目を覚ましたのか起き上がる行方不明達の姿。

特に異常を見受けられず、後は何とかなるだろうと判断したギルヴァはその場から去っていき、そのまま宿へと戻るのだった。

 

 

四日目の昼。

ギルヴァは布に包んだ無銘とクイーンを背負い、町にあった電話ボックスに背を預け迎えを待っていた。

 

(これで一件落着か)

 

―ちと事を大きくしてしまったがな?

 

(そうだな…)

 

そこに一台のバンが彼の近くで停車した。

運転席には代理人ではなく、何故かマギーが座っており、それを見たギルヴァは疑問に思った。

連絡した際には代理人が対応した筈なのだがと思いつつも助手席へと乗り込む。

 

「何故お前が?」

 

「代理人さんはノーネイムさんと一緒に貴方が拾ってきた処刑人さんの付き添いで。45さん達は任務で外しており、95式さんは哨戒任務で外していまして。そして代理人さんに頼まれて、代わりに私が」

 

「成程」

 

マギーからここにいる理由を聞き納得するギルヴァ。

そしてバンはマギーの運転の元、S10地区へと戻る道を辿って発進する。

その帰り道の際、ギルヴァはマギーにある事を尋ねた。

 

「推進剤燃焼機構のパーツ、残っていたりするか?」

 

「ええ、ありますよ。幾らか量産しておいたので。…それが何か?」

 

「代金は俺が持つ。クイーンを製作してほしい。理由は…後で知らせる」

 

「よく分かりませんが、了解しました。丁度良い刀身パーツが手に入ったので、それで製作致しましょう」

 

「助かる」

 

後にS10地区前線基地に戻った後、代金はギルヴァ持ちで新たにクイーンが製作される。またクイーンを納める用の専用ケースも製作される。

ギルヴァもかつて世話になった基地に手紙を当てた。自分らのミスで悪魔を討ち逃した事、そして秘密裏に悪魔の討伐に動いていた事。その詫びとしてクイーンを渡す事を記した。

またその事を聞きつけたシーナもあちらの基地の指揮官宛に手紙を当てており、いつかS10地区前線基地にいらっしゃって下さいという事とまたある大型兵器の運用試験に地区の上空を失礼するかも知れないという事を記した。

こうしてやり残した仕事は完了し、ギルヴァとシーナが記した手紙と共にクイーンが納められた専用ケースが「早期警戒管制基地(S09 P基地)」へと送られるのだった。




という訳で、やり残した仕事編は完了です。

またあちらの地区に迷惑をかけてしまったので、ギルヴァとシーナが書いた手紙と共に新たに製作されたクイーン(仮名)と専用ケースをお詫びとして基地の方へ送りました。
手紙はともかく…クイーンの方は喜んでくれるかな。

そろそろノーネイムのもう一つの専用装備にリヴァイアサンの運用試験。
そして拾ってきた処刑人の件にも踏み込んでいきます。


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Act81 Betrayal certification

―――例えそれが故意でなかったとしても、もう戻れない


ギルヴァによってS10地区前線基地に運ばれてきた鉄血のハイエンドモデル 処刑人は念の為に基地にある隔離用の病室に運ばれていた。運ばれてきた当初は目覚めはしなかったものの、ギルヴァがやり残した仕事を終えて、マギーと共にS10地区へと戻りだしているには既に目を覚ましていた。

その事は病室で彼女の看病をしていた代理人によってシーナへと伝えられたのだが、何らかの考えを持っていての判断か、その処刑人がいる病室に顔を出しに行くと言い出したのだ。

流石に基地の指揮官が現状敵か味方すら分からない相手に顔を出すのは不味い上に何かあってからでは遅い。代理人は反対したのだが、シーナはそれでも、と代理人の反対を押し切ろうとしていた。

このままではお互いに譲らない状況が続くと判断した代理人はノーネイムを呼び出し、彼女にシーナの護衛をするように命じた。ノーネイムと一緒なら良いという条件を出し、シーナはそれを了承。

そして今隔離された病室では、処刑人の他、シーナ、代理人、ノーネイムがこの病室にいた。

沈黙が支配する中、状況に耐えかねたのか処刑人がシーナへと話しかける。

 

「で?基地の指揮官が俺に何の用だよ。恨みでも晴らしに来たのか?」

 

「そう見える?」

 

「…」

 

質問に質問で返された事により、シーナへと睨みを利かせる処刑人。

処刑人の睨みより、悪魔の方がずっと恐ろしい。

悪魔という恐ろしさを知っているからこそシーナは臆する事なく、処刑人へと微笑み返す。

 

「ちっ…」

 

それを見て処刑人は小さく舌打ちをした。

敵である自分を保護し、あまつさえこうやって顔まで見せにきた。それどころか自身が気付かぬ内に、斬り落とされた右腕部分には何かのアタッチメントまで取り付けられているしまつ。

最早何を考えているのか分からない。

対面しているシーナに処刑人はそう思わざるえなかった。

 

「さて…」

 

微笑みから一転。

シーナの表情が真剣な面持ちですり変わる。

 

「自分がどうしてここにいるのか。そうなってしまった原因は覚えている?」

 

「…一部だけならな。アイツと戦った事。…そして」

 

その先を言おうとして処刑人の表情に影が落ちる。

だが数秒も経たず内に彼女は口を開いた。

 

「俺が暴走して、あいつを…狩人を殺しちまった事はな」

 

魔に飲まれていた時ははっきりと思い出せなかった事も、今となっては処刑人にも覚えていた。

そして暴走して大事な戦友を殺してしまった自分自身が何よりも許せなかった。

戦友を殺しておきながらのうのうと生きている自分に殺意を抱かずに入れなかった。

 

「どうして俺を救った?お前らからすれば俺は敵だぞ?助けずに殺してくれた方が幾分かマシだ」

 

何故生かされたのか。

本来であればそれを知る本人(ギルヴァ)が語るべきなのだが、この場に彼はいない。

そして事情を知る代理人が処刑人へと告げた。

 

「…狩人が暴走する貴女を救ってやって欲しいと依頼したから、と言えば分かりますか?」

 

「ッ…!?」

 

代理人にそう告げられた瞬間、伏せていた顔を勢い良く上げる処刑人。

有り得ないと言わんばかりの表情で見せ、代理人の方を見た。

目で本当かと伝えてくる処刑人に代理人は静かに頷いた。

 

「ほぼ瀕死だった狩人がギルヴァに貴女を救ってほしいと依頼したのです」

 

「あいつは…狩人はどうなったんだ!?」

 

「依頼したの後…全身が氷に包まれ砕け散り…そのまま先に逝きました」

 

「…ッ」

 

「…力尽きそうになる最後の最期まで暴走する貴女の事を心配していたと彼からそう聞きました。例えそれが裏切り行為だとしても狩人は貴女の事を思っていた。…彼女にとって貴女は大事な友なのだから」

 

どうしてそうなってまで狩人が自身を救ってほしいと言ったのか処刑人には理解できなかった。

しかし代理人の真実を伝えられ彼女は理解した。

 

「狩人…」

 

そっと処刑人の瞳から一筋の涙が流れる。

自分を救ってほしいなんて依頼しなくても良かった。自分なんか放って戦場から離脱すればいい。

だと言うのに自分を心配くれた彼女に何て言えばいいのか分からずにいた。

 

「すまねぇ…俺なんかの為に…」

 

だから彼女は最初に謝罪の言葉を口にした。

そしてこんな自分の安否を最後の最期まで気に掛けてくれた狩人に…

 

「……ありがとう…」

 

心からの感謝を告げるのだった。

 

 

何故生かされたのか。その事実が明らかになった事で話は別の話へと切り替わっていった。

シーナは一番に気になっていた事を処刑人へと尋ねる。

 

「…それで今でも貴女は鉄血に属したままなのかな」

 

「いや、暴走してたとは言え俺はあいつを手にかけちまったからな。…寝ている際に権限とか色々切られちまっているからな。向こうは確実にこっちを裏切り者扱いだぜ」

 

「となると…今は完全なフリー?」

 

「まぁ…そうなるんじゃねぇか?」

 

それを聞き、シーナは指を顎に当てつつ考える素振りを見せる。

すると処刑人も気になっていた事があったのか、シーナにではなく代理人へと尋ねた。

 

「なぁ、そいつは誰なんだ?」

 

処刑人が見ている先にいるのはノーネイムだった。

彼女はシーナの一歩後ろで控えて佇んでおり、処刑人が自分の事を聞いているのだと理解すると軽く自己紹介をする。

 

「ノーネイムだ。色々あって此処にいる」

 

「いや…そりゃそうだろうけどよ…」

 

(流石にそれだけじゃ分からねぇよ…)

 

そこに代理人が補足を入れる。

 

「彼女は私ですら知らなかったハイエンドモデルです。ノーネイムという名前は本当の名前ではありませんが、それは事情があって今の名前を使っています。パワーは私以上で、そして私の大事な愛娘です」

 

「へぇ…パワーが代理人以上なのは驚きだがよ…娘ってどういう事だよ!?お前結婚でもしたのか!?」

 

代理人の説明を受けて、処刑人はノーネイムが大事な愛娘だという事に驚かずいられなかった。

その事に代理人は頷き、彼女は啞然とするしかなかった。

 

「マジかよ…。俺の中で鉄血のハイエンドモデルで、絶対独身になるよな、こいつ…ランキングで一位だった代理人が誰よりも先に結婚!?結婚詐欺とかじゃねぇよな?!」

 

「後で覚えていなさい、処刑人。軽くぶちのめしてあげますので。…兎も角、私は結婚しています。結婚相手は貴女が戦った黒コートの悪魔ですよ」

 

「はあっ!?あいつだとぉ!?」

 

自分が知らない内で代理人が一歩どころか数百歩先を行っている事に処刑人は最早驚かずに居られなかった。

それどころか代理人の結婚相手がギルヴァとか想像の域を超えていた。

最早頭を抱える事しか出来ない処刑人。そこに拍車をかけるかの様にシーナが口を開いた。

 

「フリーだし、鉄血のハイエンドモデルなら代理人やノーネイムもいるからねぇ…このまま貴女も此処に置いておきましょうか」

 

「えっ!?」

 

敵だったというのに、シーナの発言に処刑人は驚かずにいられなかった。

もうどう反応すればいいのか分からない処刑人にシーナは微笑みながら答えた。

 

「色々あるけど…まぁ放っておけないからね。うちで良ければ過ごしていって。その分、貴女の力を貸して?私一人じゃ何にも出来ないからね」

 

「…敵だった奴でもか」

 

「今は違うでしょ?それなら問題ないじゃない」

 

例えそれが敵対していた者であろうと受け入れるシーナ。

最早悪魔という存在を受け入れてしまっている時点で相手が鉄血のハイエンドモデルだろうと気にしてはいなかった。ある種それは彼女の強さかも知れない。シーナ本人が気付かずとも、周りにいた代理人やノーネイム、そして初めて会ったばかりだと言うのに処刑人もそう思った。

 

「それなら…まぁ、えっと……世話になる」

 

だからこそ処刑人は律儀に頭を軽く下げてシーナの提案に乗る事にした。

その事にシーナは微笑み、頷く。

彼女が見せるその微笑みは聖母の様で、優しく美しい笑みであった。

 

 

処刑人がここに残る事が決定し、シーナは溜まっている執務を片付ける為に病室を出て、今居るのは処刑人、代理人とノーネイムがいた。

すると代理人は処刑人に言っていた事に気になる事があったのか、その事について言及した。

 

「裏切り者扱いですか…。そうなると裏切り者を始末する者を送ってきそうですね」

 

「いや…もう動いているかも知れねぇ。俺が知る限りじゃあ恐らくな」

 

それを聞き、代理人の表情が険しくなる。

その様な動きが起きていても可笑しくないとは思っていた。そして送られてくる刺客にもある程度は予想していた。

すると代理人の隣でいたノーネイムが処刑人へと問う。

 

「その刺客…誰か分かっているのか?」

 

「いや、分からねぇ。そう言った事は知らされねぇからな」

 

「そうか」

 

沈黙が訪れる。

そこに病室のドアをノックする音が室内に響いた。

ノーネイムがドアへと向かい開くとそこに立っていたの後方幕僚のマギーだった。

彼女の手にはあるものが握られていた。

 

「マギー、戻ってきていたのか」

 

「はい、先程。彼女は目覚めたと聞いて飛んできました。ある物を渡したいんですが…良いですか?」

 

「?…まぁ分かった。入ってくれ」

 

ノーネイムの許可を受けて、病室内へと入るマギー。

そのまま彼女は処刑人の前へと立ち、軽く一礼する。

ここの基地の一人だと判断した処刑人はマギーへと声をかける。

 

「あんたは?」

 

「マギー・ハリスン。ここの後方幕僚を務めさせて貰っています」

 

「そうかい。で?その後方幕僚が何の用だよ」

 

「大したことではないですよ。只、これを渡しに来たのです」

 

「それは…義手?」

 

マギーの手には握られていたのは、義手であった。

一見少し見た目をかっこよくした義手にしか見えない。しかしそれが普通の義手ではないだが処刑人がそれを知る筈もない。

不思議そうな顔を浮かべる処刑人にマギーは笑みを浮かべたまま彼女の右腕部分に取り付けられているアタッチメントを指さした。指を指され、漸く自身の右腕に取り付けられていたそれに理解がいった処刑人。

しかしある疑問がよぎった。

 

(後方幕僚が何で義手なんか作ってんだ…?)

 

だが敢えてそれは問わず、マギーの作業の元、処刑人の右腕に義手が装着される。

試しに義手を動かす処刑人。何ら違和感なく動作し、処刑人自身も違和感を感じる事はなかった。

それどころかよく馴染む程であった。

礼を伝えようとした時、代理人がマギーへと尋ねた。

 

「何か積んでますね?」

 

「あ、分かりますか?えぇ、積んでいますよ。敵に向かって強烈な電撃は放つ機能が搭載されていますよ」

 

やっぱり…と呆れた表情を浮かべる代理人。

それを聞いていた処刑人は目を丸くし、マギーを見つめ、問う。

 

「あんた…マジで何者だよ…?」

 

この後にマギーの正体、悪魔の事、魔工職人の事について、目覚めたばかりの処刑人の為にマギー主催による勉強会が開かれたのは言うまでもない。

 

 

 

―おまけ―

 

 

「だぁぁ~…」

 

勉強会を終えて、やつれた表情でベットへと倒れ込む処刑人。

この場には代理人やノーネイムはいない。勉強会に参加せずとも一度は説明は受けているので不要だからである。

 

「色々分かったけどよ…ぶっ飛んでやがるぜ…」

 

「まぁこれくらいしないと後々が厄介ですよ?」

 

椅子に腰掛けつつ、微笑むマギー。

そうこれくらいしないと、ここではやっていけないのだ。悪魔という存在と深く関わっているのは間違いなくこのS10地区前線基地なのだから。

 

「分かっているよ…」

 

ここに身を置く事になった以上、受け入れるしないと判断する処刑人。

後は時間をかけて理解するほかないのだ。

 

「さて、私は行きますね。先程勉強会の内容の他、義手について聞きたい事があれば何時でも。義手も色々なタイプがありますので」

 

「例えば?」

 

指を顎に当てつつ、面白い物があっただろうかと記憶の棚から引っ張り出していくマギー。

そして面白いのがあったのか、笑みを浮かべながらその義手の詳細を話した。

 

「そうですねぇ…。青い筒の形をしていて、砲口からエネルギー弾を放つ様な義手とか?」

 

「おい、それって装着した途端挙動が変化したりしないか!?俺の気のせいであって欲しいんだが!?」




悪魔であろうと鉄血のハイエンドモデルだろうと受け入れるナギサちゃん。

そして故意では無いにしろ、裏切り者扱いになってしまった処刑人はこのままS10地区前線基地におきます。
そして処刑人の魔改造はまだまだ続くよぉ~!


それとこれはまだ先の話でございますが、大型コラボ作戦第二弾を考えております。
どの様な内容になるかは未定です。…参加してくれる人おるんかなぁ


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Act82 Executioner

―――例外は当たり前。それがここ。


鉄血から裏切り者と見なされ、行く宛が無くなった処刑人。

S10地区前線基地の指揮官、シーナ・ナギサの計らいによって彼女はこの基地に身を置く事になった。

この事は瞬く間に基地全体に広がり、処刑人はこの件でひと悶着あるだろうと予想していた。

しかし予想に反して、そういった事は起きる事はなく、それどころか彼女がいる病室に訪れる者もいた。

その者が訪れた事に処刑人は驚かずには居られなかった。まさか訪れたのがあの時傷を負わせた95式だったのだからだ。理由としては少し気になって見にきたとの事らしく、処刑人も無理をしてでも納得するほかなかった。

その後、処刑人は彼女に自分の事に何も思わないのか尋ねた。

他の人形が気にしなくても、一度相対し処刑人によって傷を負わされた95式なら何か思う所があるであろう。

そう思っていた処刑人に95式から返ってきた答えは予想に反していた。

 

「そう言われましても、現に代理人がいますし。それどころかここには純粋な悪魔も居るのですよ?」

 

後方幕僚であり魔工職人であるマギー・ハリスン、もといマキャ・ハヴェリ。

猛禽類の姿で、電撃を駆使した遠距離攻撃を得意とするグリフォン。

純粋な悪魔として数えられるのはこの二人だけだろう。

しかし純粋でなくとも雷撃を用いた接近戦を得意とすると作られし悪魔、フードゥル。

そして人間と悪魔、その双方の血を流すギルヴァとブレイク。

マギーは兎も角、この四名の戦闘力の高さは異常なまでに飛び抜けている。それどころか電撃を駆使するグリフォン、雷撃を駆使するフードゥルは精密機械の塊である人形からすれば相手にしたくない。

昨日来たばかりの処刑人でも、ギルヴァ以外の悪魔やその血を流す者が居る事は耳にしていた。

それ以外にもとんでもない武装や大型機動兵器、カタパルトデッキ等々…。

 

「昨日も思ったが…ここってマジでやばくないか?」

 

「慣れないとやっていけませんよ?」

 

「…みてぇだな」

 

早い内に慣れる様にしよう。

心の内で決心する処刑人だった。

 

 

処刑人がここに訪れて二日目の昼頃。

彼女はリヴァイアサンや多くの魔具が置かれている第二格納庫に訪れていた。魔工職人という事だけあって、人形の修復すらやってのけてしまったマギーのおかげで、傷は修復されており新たな義手も得た事で何時も通りに体を動かす事が出来ていた。

しかしここに身を置く事になって間もないという事と今後の処遇が決まっていないという事もあって、処刑人はマギーの手伝いをしていた。そして休憩時間を使って彼女が手掛けた魔具を見つめていた。

禍々しい外見をしたものもあれば、相反する様な外見を持った魔具。それら全てがマギーの手によって製作されたのだから、処刑人も驚かずにはいられなかった。

数ある魔具の中で処刑人の目を引いたのは、マギーが初めて手掛けたとされるあの白き太刀。

斬る事が出来ない。武器としては致命的過ぎる欠点を抱えた太刀に処刑人は何故か惹かれていた。

 

「…立派な姿してんのにな」

 

ウエポンラックに立て掛けられた太刀の前に立ち、言葉を投げかける処刑人。

施された装飾。磨き抜かれた刀身。こんなにも立派な外見をした刀が斬る事が出来ないという欠陥を抱えているなど処刑人は思わなかった。

斬れない訳ではない。この太刀には作った本人ですら知らない何かがある。処刑人からすればそうとしか思えなかった。

 

「…」

 

マギーからこの太刀が魔剣であり、そして欠陥品だと知らされた時から、これが武器として扱う事が出来るのであれば、出来れば自身が扱いたいと彼女は密かに思っていた。

ここS10地区前線基地は悪魔絡みの案件に関わる事があると聞かされた時、悪魔と対等に戦える力を望んでいた。手をかけてしまったとは言え、処刑人とて被害者に当たる。悪魔によって大事な戦友を失う事になってしまったのだから。

力なくては大事なものはおろか、自分の身すら守れない。そんな事が分からない処刑人ではない。

何時か自身が本当に守りたいものが出来た時、今度こそ悪魔に奪われない様に守れる力…それを望んでいた。

そろそろ休憩時間も終わりを迎えそうになった時、後ろからマギーが処刑人へと声をかける。

 

「気になりますか?」

 

「ん?…ああ、ちょいとな」

 

そう言った後に、処刑人はその太刀へと視線を戻した。マギーは静かに微笑むと、処刑人の隣に並び立つ。

自分が作った作品。失敗作の烙印を押された作品に、処刑人は真剣に見つめている。そんな彼女を見て、何か思う事があったが、口にする事はしなかった。

だがマギーが思っていた事をまるで見透かしていたみたいに、処刑人がマギーへとある事を尋ねた。

 

「…お前が良いなら、この太刀貰っても良いか」

 

「…斬る事は出来ない失敗作なんですよ?」

 

「知らねぇな。俺はこいつが良いんだ。それにここは悪魔どもとドンパチやる事があるんだろ?だと言うのに安全な所で突っ立って見ているなんて俺はごめんだね」

 

それによ、と言葉を続けつつマギーの方へと向く処刑人。

 

「失敗作とか言ってるけどよ。本当にそう思ってねぇんじゃねぇのか?」

 

「何故そう思われるのですか…?」

 

「何故って…お前がこれの事を失敗作と言っている時はやたら悲しい声をしていたからだよ。そりゃ斬れないという欠点は抱えてるから周りからしたらそう思うんだろうが。でも自分が満足いってんだったら、出来がどうであれ、性能がどうであれ、最高の作品として認めたらいいと思うんだが?俺はお前みたいに職人じゃねぇから良く分かんねぇけどな」

 

ただ思った事を口にする処刑人。

そして彼女は気付かなかった。隣で聞いていたマギーがそっと涙を流していた事に。

マギーもマギーで泣いている事が気付かれる前に素早く目元に浮かぶ涙をぬぐう。

かつてマギーが、まだマキャ・ハヴェリとして活動していた時。

彼女にとって、この太刀を失敗作として認める事はしなかった。否、したくなかった。

何故なら初めて作った作品なのだから。しかし周囲をそれを決して認める事はしなかった。駄作、欠陥品など揶揄され、彼女にも大きな傷を負わせた。そして何時しか彼女は初めて手掛けた作品を失敗作と呼ぶ様になってしまった。自身が認めない限り、周りは言い続ける。そんな苦しみから解放されたくて。

 

(何が伝説の魔工職人ですか…。自身が手掛けた作品を失敗作と呼び続けるとか、馬鹿ですか私は)

 

もっと早く気付くべき事を誰かに言われて漸く気付かされるなど、職人として恥だ。

この人間界でマギーは酷く後悔していた。

そして彼女は決心する。

 

「…そうですね。初めての作品です、失敗作だなんてありえませんね」

 

作り上げてから長い間触れる事がなかったその太刀に手を伸ばすマギー。柄を握り、太刀を持ち上げると処刑人へと差し出す。

 

「貴女に私の"最高傑作"を託します。…壊したら承知しませんので」

 

「壊すかよ」

 

差し出された太刀を手に取り、肩へと担ぐ処刑人。

その瞬間であった。太刀が一瞬だけ光った。ほんの一瞬だった事により処刑人もマギーも気付く事はなく、白き太刀は処刑人に託される事になる。

後に処刑人は訓練場で剣の練習を開始。普段使っていたブレードとは使い勝手が違う事もあり、最初こそは苦戦していたのだが、近接戦闘を得意にしている事もあってか少しだけであるが使い方が分かる様になっていた。

結局は剣の訓練は日付変わるまで続けられ、後にマギーから白き太刀用の鞘を受け取り、自身の部屋と化してしまっている病室へと持ち帰った。

 

「今は何もねぇが、今回だけは許してくれよな」

 

決して雑に扱う事はせず、鞘に収められた太刀を近くの壁に立て掛ける処刑人。

ちゃんとして所に置いてやれない事を謝罪しつつ、ベットへ転がる。

明日はシーナから自身の今後が決まる日。そして時間があけば基地の隣接店 デビルメイクライにも顔を出す予定でいた。

 

「んじゃ寝るか」

 

灯りを消してスリープモードへと移行する処刑人。

この次の日に彼女の存在を大きく変える事件が起きる事も知らずに。

 

 

 

翌日。

朝を迎え、ベットから起き上がる処刑人。

ふと彼女はある違和感を覚えた。

 

「…軽い?」

 

ふわつく様な感覚ではない。人間で言うのであれば、重しが取れた様な感覚を処刑人は感じ取っていた。

しかし余りに気にする様子はなく、ベットから降りる処刑人。時間は定かにはなっていないが、シーナがこの部屋に訪れる。手短に身嗜みを整えようとした時、接続が甘かったのか義手が外れてしまい、地面へと落ちてしまったのだ。空いた左手で義手を手に取り、再度右腕へと接続しようとした時だった。

 

「は?」

 

彼女は自身の右腕を疑った。

普通なら何もない筈なのだ。だというのにこれは何だ?

 

「何だよこれはよ…!?」

 

こればかりは処刑人も狼狽えずにはいられなかった。

人の腕ではない。かといって生体パーツで覆われた人形の腕でもない。

強いて言うのあれば、その腕は"悪魔"の様だった。

そしてそればかりに気を取られてしまっていた為か、処刑人は気付かなかった。

壁に立て掛けていたあの太刀が消えていた事に。




機械剣×太刀×腕=?


うちには内部骨格に魔の技術が使われているノーネイムがいるから良いよね?(何がだ
そしてその腕は何かは皆なら察しがつくよな。
さて次回はまぁ…処刑人の腕についてです。
そして腕が終わり次第、リヴァイアサンの運用試験とノーネイムのもう一つの専用装備を同時に出します。


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Act83 New power

―――それは新たな力となって支える


「どうなってんだよ…」

 

変質した腕を眺める処刑人。

自身の腕がいつ、何故こうなったのか分かる訳もなくどうしたら良いのか軽く混乱していた。

このままこの部屋に居たらシーナに変質した腕を見られる事になる。悪魔との関わりが多くある為、シーナもそこまで驚きはしない。だが変に迷惑をかけてしまうのは処刑人とて忍びなかった。

何とか自身を落ち着かせるが、更なる混乱が処刑人を襲った。

 

「おいおい、嘘だろ…」

 

一旦マギーに見てもらおう。

そう判断した処刑人は部屋を出る前に昨日壁に立て掛けた太刀を持っていこうとした時、あった筈の太刀が消えている事に驚愕した。その時ふと処刑人は思った。

 

(この腕といい消えた太刀といい…ホントに偶然か?)

 

偶然とは思えなかった。

この腕と消えた太刀は何らかの関係がある。しかしどういった関係があるのかは処刑人にとて分かる筈がなかった。

取り敢えず今はこの腕をマギーに見てもらおう。今すべき行動はそれだと判断した処刑人は急いで病室兼自室を飛び出していった。

 

まず処刑人が向かったのが第二格納庫。

魔具の整理やリヴァイアサンとノーネイム用の専用装備の組み立てで空いた時間でマギーはここで籠る事が多いと代理人からその事を聞かされた処刑人はそこへと向かった。

道中どうしたのと処刑人へと声を掛ける人形も居たが、何とか誤魔化して彼女は第二格納庫へと到着。マギーが居る事を願って、中へと足を踏み入れた。

 

「マギー、居るか?」

 

「ん?処刑人、どうかしましたか?」

 

その願いは届いたのか、朝早くからマギーは第二格納庫にて作業をしていた。それどころかリヴァイアサン、ノーネイム用の専用装備を行いながら同時並行で後方幕僚の仕事をこなしていた。

ここまでやってのけられるのはマギー・ハリスンだけであろうと思うのだが、そんな事を気にする事無く処刑人はマギーに詰め寄り、変質した腕を見せた。

突然それを見せられた事により驚くマギーであったが、処刑人の右腕を見て言葉を失った。

漸く現実へと戻ってきた時、彼女は静かに処刑人へと問う。

 

「どうしたんですか…この腕は」

 

「それはこっちが聞きてえよ。取り敢えず見てくれねぇか。見てくれている間に俺が知る限りを話すから」

 

「分かりました」

 

腕を見てもらっている間、処刑人は起きた事を全て話した。

知っている事はごく僅かでしかない為、マギーも判断に困りかねていたのだが処刑人が聞く限りでは自身の最高傑作が起因しているのではないかと判断していた。だが疑問として魔力すら感じられなかったあの太刀がいつの間に魔力を、それも腕を作り出すまでの膨大な魔力を有していたのかが残る。

しかし考えていたばかりでは解決できない。そう判断したマギーは色々試す事にした。

 

「ふむ…。取り敢えずは太刀が大きな原因と見ていいでしょう。誰かに盗られたという可能性は限りなく低いと見ていいです」

 

「まぁあのサイズだからな。盗むにしてもあの大きさじゃ周りの目につきやすい」

 

「ええ。…ここからは私の考察ですが、消えた太刀は恐らくこの腕に格納されていると思います」

 

「腕にだと?」

 

「はい。その太刀をどう取り出すかは私にも分かりません。試しにですが、太刀を呼び出す様な事はできますか?」

 

「呼び出すって言ってもよ…。まぁやるだけやってみるか」

 

やらない事には始まらない。

処刑人は静かに目を伏せて、頭の中であの太刀を想像する。

まるで自身の目の前にそれがあって、そっと持ち手へと右腕を伸ばす様に。

そして太刀の持ち手を握った瞬間、処刑人は自身の右手に重さを感じた。そっと目を開くと、手には鞘に収まったあの白い太刀が握られていた。

 

「マジか…本当に出てきたぞ」

 

「みたいですね。…少しお借りしても?」

 

「あ、あぁ…」

 

処刑人から太刀を受け取ると真剣な表情で見つめるマギー。

そして彼女は心の内であるが驚愕した。

 

(凄まじい位に能力を解放していますね…。ギルヴァさんが持つ無銘ほどではありませんが、相当の魔力を感じられます。そして処刑人さんの腕は…そういう事だったんですね)

 

一度目を伏せ、マギーは優しく太刀をそっと撫でた。

対面で見ていた処刑人はどうしたのか不思議な表情で浮かべるが、それも束の間マギーは伏せていた目を開き、処刑人の方へと向き、今自身が分かる事を明かす事にした。

 

「結論から言います。その右腕はこの太刀が作り上げたものです」

 

「…本当か?」

 

「はい。以前までは魔力すら感じられなかったこの太刀が何らかの条件を満たした事で本来の力を解放したのだと思われます。そしてこれは使用者の不足している部分を補う魔剣とも言っていいです。自身が認めた者にだけ力を使う約定の太刀。本来の右腕を失っている事に感知し、行動を起こした。…私でも知り得ませんでしたが、恐らくこの太刀は意思を有しています」

 

マギーから告げられた事に処刑人は言葉が出なかった。

だがこれら全ては事実である事は認めざるを得ない。これが事実でないとするのであれば、変質した腕に説明が付かなくなるからだ。

 

「…色々理解が追い付けて行けねぇが何とか理解するとしてよ…こいつに課せられていた条件って何だったんだ?」

 

最早起きた事は受けいれる他ないと判断した処刑人はこの太刀に課せられていた条件についてマギーへと問う。

 

「恐らく…"認める"事だと思います」

 

「認める?それは太刀自身がか?」

 

「いえ…恐らく作り手が認める事だと思われます」

 

そこまできて処刑人は全てでは無いにしろ理解した。

太刀自身に意思を存在していた。しかし太刀自身が相手を見定めるのではなく、自身を作り上げた者にその権利を譲渡したのだ。

では何故今になってなのか?それはマギーが一度も認める事をしなかった為だ。だから太刀は力を解放する事はしなかった。だが処刑人に自身の最高傑作を託し渡した瞬間、その条件は果たされた。

その事により内包していた力を解放し、自身の主たる処刑人の右腕が本来のものではないと感知したが故に魔力を用いて作り上げた。それが悪魔の右腕だった。

 

「私が認め、力を解放した太刀。そして作り上げられた右腕…。補うのは右腕だけにとどまらず処刑人からも魔力を感じられます。恐らくそれもその右腕から介して全身へと」

 

「どおりで体軽いと思った訳だ…。とするのであれば俺も悪魔と対等に戦える力を持てた事で良いんだよな?」

 

「ええ。しかし右腕が失う事があれば当然力も失います。それだけは絶対に忘れないで下さい。今、貴女の支えとなっているのはその右腕によるものだと言う事を」

 

「…ああ、分かってる」

 

マギーから返してもらうと再度右腕へと消えていく太刀。

少しだけ光を放つ自身の右腕をそっと撫でる処刑人。

 

(今後とも頼むぜ)

 

必ず自身の支えとなる右腕と太刀へと心の内で言葉をかけるのだった。

右腕、そして太刀の事が明らかになったその後処刑人を探しに来たシーナが第二格納庫を訪れる。

右腕が悪魔の様へ変質していた事に多少なりとも驚くシーナであるが、処刑人とマギーから事情を聞くのだった。

 

「成程。不思議な話だけど分かったわ。処刑人の腕の変異に関しては私から皆に伝えておくね」

 

「すまねぇ。迷惑を掛ける」

 

「大丈夫。それとその右腕の事だけど。普段からアームカバーを着けて欲しいかな。急な来訪してきた人や新しく来た子達にびっくりさせたくないから」

 

「分かった。この後すぐにやっておく」

 

「それで良し。…で、話は変わるけどその右腕と太刀に名前とか付けないのかな?」

 

「名前、か…」

 

シーナにそう言われて処刑人は考える素振りを見せた。

先程まで色々あった為にそこまで考える余裕がなかったのだ。今は落ち着いているので、何か良い名前はないかと考える。

そこにマギーはある案を出した。

 

「右腕に関してはデビルブリンガーとも名付けたらどうでしょう。義手に関してはデビルブレイカーで」

 

「んじゃそれにするか。後はこっちか」

 

うーんと唸りながら考える処刑人。

太刀は自身の支えとなる存在。その支えるという特徴から何かないものかと思った時処刑人の中である人物の顔が浮かんだ。その人物は自身の相棒とも言えるもので戦いでは支えてくれることが多かった。

魔に飲まれた自身を助け出してほしいと託し、先に逝ってしまった相棒。

 

「…狩人(ハンター)

 

「え?」

 

「こいつの名だよ。…いつも支えてくれたからな。それにあいつの事を忘れたくねぇからよ」

 

「そっか。…とてもいい名前だと思うよ」

 

「ああ。ありがとよ」

 

右腕をデビルブリンガー、義手をデビルブレイカー、そして太刀の名前に狩人。

新たな力が処刑人の支えとなる。それはこの場にいる誰もが実感する事であろう。

これは余談であるが、デビルブレイカーを装着する際にデビルブリンガーが自ら幽体化する能力を持ちわせていた事が発覚する。その事によりアームカバーは不必要となり処刑人は日常において普段からデビルブレイカーを装着する事となるのだった。

その後執務室にて処刑人はいた。

目の前にはここを統べるシーナが椅子に腰掛けて彼女を見つめている。

今から処刑人の今後が決まる。ここに置く事はとうに決まっているものの、やはり何もさせない訳には行かない。

そこでシーナはある事を命じた。

 

「貴女を独立遊撃部隊に配属する事を命じます」

 

「独立遊撃部隊…?」

 

「そう。でもこれは飽くまでも建前かな。鉄血のハイエンドモデルを自由にしているとなれば色々厄介だからね」

 

「まぁ確かにな。代理人やノーネイムは便利屋所属という形で落ち着いてるんだったな」

 

処刑人本人としては独立遊撃部隊ではなく、便利屋の様な単独行動できる様な立場にいたかったのだがそれを口にする事はしなかった。ここを置いてもらっている以上はここを統べる指揮官、シーナの指示に従うべきなのだから。腕の事といい、義手の事といい、新参者にここまでを手を尽くしてくれているのだ。文句を言う気などなかった。

今後も決まった事だし、便利屋「デビルメイクライ」へと姿を見せに行こうとした矢先だった。執務室のドアが開き、ある人形が入ってきた。

入ってきた彼女は軽く息を切らしており、走ってきた事が容易に分かる。

何かがあった。それを感じ取ったシーナの様子が変わる。先程の雰囲気とは打って変わり、本当にあのシーナ・ナギサなのかとそう処刑人に思わせる程の別人がそこにいた。

 

「許可なく入室して申し訳ありません、指揮官」

 

「良いよ、気にしないで。それで何かトラブルが?」

 

「はい。実は…」

 

息を整えて、シーナの傍へとよるコンテンダー。

耳打ちで内容をコンテンダーから聞かされるとシーナの表情が険しくなる。

椅子から立ち上がり、彼女はコンテンダーへと指示を始める。

 

「出撃の準備をして。手が空いている子達、ギルヴァさん達にブレイクさんも呼んで。あとマギーさんにノーネイム用のもう一つの専用装備"ラヴィーネ"の運用が可能か聞いてきて。他の子達と分担してでもいいから、迅速かつ丁寧に行動して」

 

「分かりました。すぐに取り掛かります」

 

シーナの指示を受け、執務室を出ていくコンテンダー。

その様子を見ていた処刑人はシーナへと声を掛ける。

 

「早速出番か?」

 

「…そうだね。早速だけど貴女にも動いてもらおうかな。第一会議室で待機していてくれる?私も後で向かうから」

 

「第一会議室…ああ、あそこか。分かった、あそこで待ってるぜ」

 

「うん」

 

処刑人もシーナの指示を受けて執務室を出ていく。

シーナもシーナでグリフィンの制服を脱ぎ、彼女専用のウエポンラックへと歩み寄る。

そこに置かれている銃を手に取り、装備し始める。かつて辛かった時に自身の相棒として活躍してくれたMP5にマガジンを差し込む。普段長く伸ばしている髪をヘアゴムで一つに束ねると、ある黒いコートを羽織る。一見ビジネスコートとも言えるそれは只のコートではない。

セラミック複合材に炭化ケイ素を重ね合わせたものを裏地に縫い付けた特殊仕様となっている。

 

「まさかこれを使う事があるなんてね」

 

かつてここに来て間もない時はは相手が使う武器が光学兵器だった為に使用する事はなかった。

それが今になって使う事になろうとはシーナ自身も小さく驚いていた。

しかし何故指揮官たるシーナも戦場へと向かおうとするのか、その理由は彼女にしか知り得ない。

 

「…MG4」

 

コンテンダーから聞かされた内容。

その件に大きく関わっている人形の名を彼女に口にする。

 

「…法なんてもう機能していない」

 

鋭い目つき。

果たして今そこにいる少女があのシーナ・ナギサなのか疑わせる。

元よりシーナはこういう事態に備えていた節があった。以前からMG4が怪しい動きしている事は秘密裏であるが知っていた。何かあった時に発信機も付けている。それでも尚シーナは助ける気でいた。

 

「ならば私…ううん、私達が裁くまで」

 

只、この時のシーナは違っていた。

とは言えそれが普段からのものではない。戦いの場において起きる彼女の特徴。

誰もが知る言葉で表すのであれば、彼女は軽い"修羅"と化しつつあった。




次回は…うちの子を巻き込んできた所がいるので、便乗してこちらも動き出します。(ちゃんと許可はいただております。

新たな力、そしてシーナの中で隠されていた小さな修羅が目覚めます。
…あっちの基地に泣かさせる暇すら与えねぇからな!


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Act84 Confusion

―――混迷極める




少し内容が伝わりづらいかも(いつもそう
許してね!


某地区。

青々として空が広がるその下で、舗装されていない道をS10FLBと記したデカールが貼り付けられた複数の装甲車、側面に「Devil May Cry」と記されたネオンサインが取り付けられたバンに、大型バイクが駆け抜け、二基のヘリがその後を追うかの様に上空を駆け抜け、その更に後方からは専用装備「ラヴィーネ」を装着したノーネイムと内包する魔を解放し魔人化状態のギルヴァがヘリを追っていた。

車列から二番目の装甲車にシーナは第一部隊と乗り込んでおり、無線機を手に取り全員へと話しかける。

 

「作戦内容をもう一度話すね。全部隊が東西南北に展開したの後ノーネイムのラヴィーネの攻撃で正門を破壊。混乱に乗じてヴァーン・ズィニヒに乗ったブレイクさんが正門から、ギルヴァさんが手薄と思われる屋上から突撃。二人が突撃したの後に全部隊が一斉に突撃。私を含めた第一部隊、第二、第三、第四は地上から。そして新たに創設した第五部隊と独立遊撃部隊の処刑人はヘリから降下して屋上から突撃。404小隊は南からは第三部隊と共に内部へ侵入。あなたたちは敵を排除しつつ、MG4を探して。代理人、フードゥル、グリフォンは第四部隊と共に内部へ侵入。その後分かれてMG4の捜索。ノーネイムは上空で待機し、状況に合わせて動いて」

 

『『『『『了解』』』』』』

 

「宜しい。各自準備を怠らない様に。以上」

 

そう締めくくり無線を切るシーナ。

皆へと指示した様に彼女も入念に準備をしていく。普段とは違うその雰囲気に第一部隊の誰もが口を開こうとはしない。今の彼女を一度見た事があるFALでさえもだ。

車両のエンジン音とガタガタと揺れる音が響く中、ふとシーナは顔を上げ第一部隊のメンバーの方へ向いた。

 

「…負担をかけるね」

 

シーナの口から発せられたのは小さく、しかし第一部隊全員へと向けられた謝罪の言葉だった。

それを聞き、少し呆れた様な表情を浮かべながらvectorがシーナへと言葉をかける。

 

「もう慣れたわよ。あの時から無茶する人だって事ぐらいはさ」

 

「あはは…そうだったね。あの時はああするしかなかったというのかな…」

 

シーナ・ナギサがまだS10地区前線基地に所属したてだった頃は昼夜問わず鉄血との戦いが頻発していた。

戦力すら整っていない最中、自身を含めた僅かな戦力で戦火を交えた。

最早あの状況ではそうする他なかったからだ。しかし当時彼女と共に戦った一人であるvectorもそうであったが、ほとんどの者達が気が気でなかったであろう。願わくは前に出て戦うなどして欲しくないというのが本音であった。だからこそvectorはシーナへと問う。今回のシーナの出撃についてを。

 

「じゃあさ今回も指揮官の言う"ああするしかない"に当たるの?」

 

そう問われたシーナはそうだね、と言いながら言葉を続けた。

 

「他の人からしたら馬鹿な事やってると思うだろうね。これだけの戦力を有しておきながら前線に出ようとしているんだから。でも…こればかりはどうしても引けないの。なんでそうするのかって聞かれたら、自分もいまいち良く分かっていないんだけどね」

 

「…」

 

「例え"修羅"に堕ちようとも私は構わない。軍人どうこう以前に私は人だから。それに助ける理由って要らないでしょ?MG4は私達の大事な仲間なんだから」

 

彼女も若い身でありながら多くの事を経験している。特に悪魔が絡む案件で成長を見せていた。

しかしその分危うさもその姿を現そうとしていた。それが今の状態なのかもしれない。

 

(…MG4が外部に情報を流している疑いがある。…それでも)

 

それでもなお、MG4を助けるという気持ちは変わる事は無い。

シーナの鋭い目つきは変わる事を知らない。それを見てvectorは小さくため息をつき、シーナへと言葉を投げかける。

 

「…あんまり前には出ないでよね。死なれるのは…嫌だから」

 

「うん。…お願いね」

 

自身を商品だと言い出すvectorにとってシーナは変な人という印象が強い。

悪魔を受け入れたり、あまつさえは鉄血のハイエンドモデルですら受け入れる。

だからと言ってそんな彼女を嫌いになる事はなかった。指揮官の事を好印象に見る様に作られているからこそ、そう思えるかも知れない。だがしかし、それ以外の何かがvectorにはあった。

特殊な力を持っている訳ではなく、出自が特殊でもなく、残酷な経験をしてきた訳でもない。ましてや自身ですら気付かなかった力がある訳でもない。戦う力なんて戦術人形と比べたら微々たるものでしかない。この世界で生きるグリフィンの人間。それ以前に普通の若い少女なのだ。

少なくともvectorはそう思っており、この場に居る人形達もそう思っている。

 

(死なせる訳には行かないよね…)

 

決してそれが言葉として出る事はない。

彼女を守る。その思いがvectorの中で宿っていた。

 

 

『こちらノーネイム。基地を確認。これより先行する』

 

「了解」

 

入ってきたノーネイムから通信。

この中でギルヴァやブレイクと同じ様に一番速度が出るのは専用装備「ラヴィーネ」を纏うノーネイムである。

シーナからの了解を得るとノーネイムは背に装着されたブースターを起動。まるで翼の羽を広げるかの様に上部が横へとスライドし、同時にテールスラスターが変形を開始する。

形態移行を完了したブースター。カバーが展開され複数のスラスターノズルが露わらになる。

その瞬間、一気に噴射剤が吹き出し瞬く間に加速。吹き出る噴射炎がまるで光の翼を作り上げ、ノーネイムはそのまま基地へと向かう。

ノーネイムの各所に装着された装甲。両手に持ったシールドとブレードが一体化した武器、肩部の装甲の側面に着巨大な砲の様なのが取り付けられている。そして背部には可変式大型ブースターに分裂式ミサイルを放つミサイルポッドが二基。

高機動から対象に一気に詰め寄り、一撃を叩きこむという一撃離脱をコンセプトとしたノーネイムの二つ目の専用装備「ラヴィーネ」。ラテン語で雪崩を意味し、その名を現すかの様に身に纏う装甲パーツが白く染め上げられている。また砲撃特化のパトローネと相反する様に空中戦を得意とするのがこのラヴィーネの特徴とも言える。

 

「どういう事だ…」

 

先行し途中でラヴィーネのブースターを通常形態へと戻し、基地の様子を偵察にしに来たノーネイムは疑問の声を上げた。普通なら正門には警備兵がいる筈なのだが、何故か誰一人もいない。これでは入って来て下さいと言わんばかりである。不審に思ったノーネイムはこちらへと向かってきているシーナへと通信しようとした時だった。何処からともなく銃声が鳴り響いた。それも何回も鳴り響いており、自分達より先に第三勢力がこの基地を攻撃している証拠であった。

 

「指揮官、聞こえるか。不味い事になった。私達より先に誰かが基地内部で暴れている」

 

『まさか第三勢力…?』

 

「恐らくは。どうする?」

 

『もうすぐそこまで来ています。ノーネイム、正門を破壊してください。誰が勝手に暴れているのか知りませんが、この状況に乗じて私達も乗り込みます』

 

「了解した」

 

両手に持った武器を構えるノーネイム。

ブレードが変形。先端の中心部に何やら砲口の様なのが現れ、砲口に光が収束し始める。

本来は無かった機能なのだが、マギーが追加したのだ。剣、盾の機能に加え銃の機能を。

吐き出される二筋の熱線。真っすぐと歪みのない直線が正門を破壊。後方からヴァーン・ズィニヒに乗ったブレイクが姿を見せる。

 

「あらよっと!」

 

瓦礫を躱し、そのまま基地内部へと突撃するブレイク。上空からギルヴァが屋上へと降り立つ姿がノーネイムの目に映る。

そして次々とS10地区前線基地の部隊とデビルメイクライのメンバーが到着し、装甲車、バンから戦術人形達が降りてくる。作戦通り行動する。

また二基のヘリからも第五部隊と独立遊撃部隊の一人、処刑人が降り立ち内部と侵入しそれを見届けたノーネイムは作戦通り上空へと飛び上がり滞空しながら待機。

 

S10地区の面々、人権保護団体過激派、第三勢力…。

いつ、何が起きてもおかしくない混迷極める状況にて人権保護団体過激派基地は盛大なパーティー会場と化した。

 

 

先に内部へと乗り込んだギルヴァ。クイーンは背負っておらず、いつもの無銘を手に歩いていた。

道中何か出くわす事はなかったのだが、見つけた人権保護団体過激派メンバーの死体を見て、第三勢力は侮れないと認識していた。

正直惨いとも言える位に死体は原型をとどめていなかったのだ。最早蜂の巣を軽く超え、ミンチと言っても過言ではなかった。

 

「恐らく機銃によるものか…」

 

そう呟いた矢先、ふと彼は足を止めた。

彼が立っている地点から少し離れた位置にまるで宇宙服のものを着こみ、重火器を装備した誰かがいた。それが自分達よりも先にここへと攻撃を仕掛けた第三勢力の一人だと言う事はギルヴァも一目見て気付いている。

鉄血でもない第三勢力。

しかしこんな装備を持つ組織にギルヴァは心当たりがあった。以前からS10地区では妙なロボットが目撃されるという事があった。そしてS11の作戦でもそのロボットは居たと作戦に参加した者から聞いていたからだ。

恐らくこの装備を持つ組織はあそこ位だろうと判断していた。

 

「…面倒なことを運んできたものだ」

 

静かに無銘の鍔に親指を押し当て鯉口を切るギルヴァ。居合の体勢から一気に突撃。その相手との距離を詰める。

相手もギルヴァが動き出した事により重火器を発砲。まるでガトリングガンの如く撃ち出される弾丸の雨をいとも簡単にギルヴァは斬り落としつつ距離を詰める。そんな中、蒼が飛んでくる弾丸を見て呟いた。

 

―マジかよ。マグナム弾かよ。なんてもんをあんなにぶっ放してるんだ?

 

「それは本人に直接聞け」

 

双方との距離が半分を切った時、ギルヴァの姿が青い残像となって消える。

突然消えた事にその者は撃つの止めて周りを見渡した。その瞬間、ギルヴァが目の前に姿を現す。

居合抜刀から斬り上げ、相手が宙へと飛んだ所に間髪入れず無数の幻影刀が展開、雨の様に降り注ぐ。魔力で形成された無数の刀がその者の体へと突き刺さった所にギルヴァが上空に姿を見せ、体を捻った反動を生かしつつ刀身を叩きつける。相手が地面へと叩きつけるとギルヴァも地面へと降下。一気にその場から距離を取り、居合の態勢へと移行。

 

「…ふっ!」

 

神速の抜刀。歪む空間と同時に繰り出される斬撃の嵐。次元斬を連続して放ち、ギルヴァは相手を完全に機能停止へと追い込む。四度放たれた次元斬により相手は完全に機能停止。完全に沈黙した事を確認したギルヴァはそのままそこを後にするのだった。

 

 

一方ブレイクも宇宙スーツを身にまとった謎の敵と戦闘を繰り広げていた。

ギルヴァが相手した敵とは多少違うのか重火器ではなく、光学兵器を装備していた。最初こそはフォルテ&アレグロで遊んでいたのだが、意外と固いのか今はリベリオン…ではなくマギーから譲り受けた魔具を用いて戦っていた

。髑髏とアームが存在する様な何かを肩に身に付け、薔薇を咥えながら相手の攻撃を回避していくブレイク。

 

「まずはぶち込む!」

 

後ろへと跳躍しつつ、赤く光る剣を一気に四本投擲。突き刺さった所にブレイクは相手へと急接近し、まるで踊るかの様に剣を突き刺してゆく。

 

「角度を変えながら。力強くかつ素早く!」

 

数に限りは無いのか。

相手に一切攻撃の隙を与えさせない。

剣を突き刺しつつ、ブレイクは後方へと複数の剣を投げ飛ばす。すると剣を宙で固定されていく。 

 

「からの最後の一撃!」

 

後方へと展開した筈の剣がブレイクの右左に展開され、そのまま敵へと投射。

赤く光る剣が体の至る所に突き刺さり、ハリネズミと化してしまう謎の敵。そしてブレイクは背を向けて手を二回叩く。

 

「素晴らしい一時は過ぎ去りお互いに満足した時、俺はこう言う」

 

その瞬間、突き刺さっていた剣が次々へと爆発していった。

その爆発で謎の敵が宙で暴れているかの様にあちらこちらへと飛んでいく。そんな状況の最中、ブレイクは咥えていた薔薇を敵へと投げ飛ばす。

まるでそれへと合わせたかの様に最後の一本に薔薇が当たる。

 

「君は自由だ」

 

その瞬間、剣が爆発。連鎖した爆発の影響か、最後の一本による爆発で敵が跡形もなく消失する。

その最期を見たブレイクはフッと笑い、そのまま後にしようとする。その時、シーナから通信が入る。

 

『ブレイクさん、流石に無線開いたままだったんだけど…』

 

「おっと、そいつは悪かったな。…でもわざわざ無線をよこすと言う事は分かちまった様だな?」

 

『~~~ッ!!後でグローザに言うからね!!』

 

「おい、そいつは無しだ。流石にそれは不味い」

 

しかしその声は届く事無くシーナから無線を切られるブレイク。

そこにグローザからブレイクへと無線が入る。

 

『ブレイク?この作戦が終わったらお話しましょうか?』

 

「…そんな事を言うって事はお前も分かったんだろう?」

 

『ッ…。しばらくピザとストロベリーサンデーは無しね』

 

「おい、待て。そいつは駄目だ。俺にとっちゃ死活問題だ。おい、ローザ、聞いてんのか?」

 

暫くの間、ブレイクがグローザへと無線で呼びかけようとしたのは言うまでもない。




詳細を頂き、謎の敵に関して出させていただきました。

まだ人権保護団体過激派基地戦は次回へと続くよ!
お次は処刑人かなぁ…


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Act85 True end

―――これが本当の終焉


ギルヴァやブレイクが謎の敵を倒した一方で、シーナが統べるS10地区前線基地部隊は人権保護団体過激派と激しい銃撃戦を繰り広げていた。幾ら武装した人間とは言え、戦術人形が相手では分が悪い。戦況はS10地区前線基地部隊に優勢へと傾いていた。それも当然であり、最早蹂躙とも差し支えない位に戦力を投入しており、人権保護団体過激派基地が制圧されるのも時間の問題であった。

しかしグリフィンが攻めてきた事に怒りを露わにする過激派。投降する事はせず彼女達へと攻撃仕掛ける。

基地内部通路にてシーナを含めた第一部隊は銃撃戦を展開していた。

vectorとスコーピオンが前に出て弾幕を展開し、FALが援護。正確な射撃、そして時に繰り出される二連射による早撃ちで敵に仕留めていくKar98k。

そして…

 

「っ!」

 

奇襲を仕掛けようとしてくる過激派を悉く倒していくシーナ。

感覚が鋭敏になっているのか、迫りくる敵を瞬時に察知。MP5を連射し敵を倒し、接近されてしまった場合は攻撃を受ける前にサイドアームのM92Fで敵の片足を撃ち抜き、倒れた所に頭部へと一発放ち確実に息の根を止める。

情けなどそこには存在しない。敵ならば始末するのみ。只々無表情で冷めた目で相手を見つめながら、機械の様にそれらを繰り返す。

その姿は普段から見るシーナではない。特殊仕様の黒いコートを羽織っているせいか死神の様にも見える。

 

「クリア。このまま前進。…指揮官、大丈夫かしら?」

 

「大丈夫、行こう」

 

第一部隊部隊長のFALにそう返すシーナ。

そのまま移動しようとした時、辛うじて息があったのか過激派の一人であった男がシーナの脚を掴んだ。

足首を掴まれた事により、動きを止められるシーナ。第一部隊も足を止めて反応する。そして男は瀕死ながらも微かな声で言った。

 

「こ、の…ま…魔女が……」

 

過激派からすればシーナはそう見えたのだろう。

それに対しシーナは冷ややかな目で見下しながら男へと告げる。

 

「私からすれば貴方達は悪魔よ」

 

シーナは手にしていたM92Fで男の頭へと向けて発砲し、男の息の根を止める。

硝煙と血の匂いが漂う中掴まれていた手を振りほどき、シーナは第一部隊と共に先へと向かおうとする。

その時だった。屋上から内部へと攻め入った処刑人から通信が入る。

 

『おい、宇宙スーツを着た奴に出くわしたら気を付けろ!こいつ、レーザーやらぶっ放すし、タチが悪い事に無茶苦茶固いぞ!』

 

宇宙スーツを着た奴。それが自分達より先に基地へと攻撃を仕掛けた第三勢力だという事はシーナも気付いていた。そこに別行動中であったブレイクからも通信が入る。

 

『中身ぶっ壊しても気を抜くんじゃねぇぞ。どういう仕組みか分からねぇが、中身を倒しても動くみてぇだ』

 

『はぁっ!?どうなってんだよ、そりゃ!?』

 

『さぁな。倒すなら同時に叩くしかねぇって事位だろう…さ!』

 

通信越しから響く爆発の様な音。

それはブレイクがマギーから譲り受けた魔具「ルシフェル」によるものだ。爆発する剣を無限に生み出す魔界の装置で、宙に剣を浮かす事が出来る特徴を持つ。

同時にフォルテ&アレグロの連射による銃声も届いていた。つまりブレイクは絶賛第三勢力を戦闘中だと言う事を示していた。

そして処刑人とブレイクから得た情報を元にシーナは指示を飛ばす。

 

「ギルヴァさん、ブレイクさん、処刑人は出来るだけその第三勢力の相手をお願いします。恐らく三人が持つ武器なら太刀打ちできるかと」

 

『私もそちらへ動きましょうか?』

 

そう通信を飛ばしてきたのはフードゥルとグリフォンと共に行動している代理人であった。確かに代理人が使用しているニーゼル・レーゲンのロケットランチャー、レールガン形態やシルヴァ・バレトなら倒せるだろう。他にもヒートパイルといった武器を所持している為、何とかなると思えた。

 

「お願いしたいのは山々なんだけど、この狭い空間で高火力を誇るそれを使うのは不味いかも。ニーゼル・レーゲンのロケットランチャーやレールガンだと他のメンバーを巻き沿いかねないから」

 

『了解しました。ならば私達はこのまま敵を倒しつつ、MG4の捜索を続行します。もしこちらにも第三勢力が現れた場合、三人の誰かに援護に来てもらう事にします』

 

「了解。気を付けてね」

 

『そちらも無理してはいけませんよ、シーナ』

 

代理人との通信が切れる。

息を一つ吐き、シーナは第一部隊と共に戦場を駆け抜けるのだった。

 

 

「同時に叩く、ね…」

 

壁に身を潜め、攻撃のタイミングを伺いながらブレイクが言っていた事を呟く処刑人。

今回彼女はギルヴァから返してもらった愛剣…別の姿へと変貌したクイーンを背負っていた。義手は電撃を放つタイプではなく、別タイプの義手を装備していた。

複合式反射炉を内蔵しており衝撃波を放つ事が出来、反動を活かして瞬時な移動を可能とする義手だ。

 

「さて…どうしたもんか」

 

同時に仕留めると聞き、処刑人にはある方法を思い付いていた。

だがその作戦を敢行するには、誰かがあの敵の狙いを引き受けてもらう必要があった。

 

「自分も銃とかもらってくるべきだったぜ。今度マギーに作ってもらうか」

 

敵から奪った銃は既に弾切れ状態。銃とかもらってくるべきだったと後悔しながらも、今をどうするか処刑人は悩んだ。このまま隠れていたとしても、第三勢力の敵が他へと向かう可能性もある。ここで倒さなければ後々が面倒なものになる。もはや時間の問題と言え、処刑人は何か良い策はないかと考えつつ、壁から少しだけ顔を出して敵の方を見た。無駄弾は撃つ事はせず、処刑人が出てくるの待っているかの様であった。

その時、敵が立っている位置にあるものを見つけた処刑人は勢い良く壁から姿を晒し敵へではなく気付かれる前に別の方向へと走り出した。彼女が走り出した方向は屋上。そこから義手が持つ潜在能力を解放に要する時間を稼ぎつつ、この基地にあった天窓部分へと走り出していく。

その間に処刑人は全員へと通信を飛ばす。

 

「今からドでかいのぶちかます!お空から光の滝が降ってくるから気を付けろよ!!」

 

相手の返答を待たずに一方的に通信を切る処刑人。

義手の解放は今すぐにでも出来る状態にある。天窓部分に到達し、その下に敵がいる事を確認すると勢い良く天窓を突き破り、敵へと目掛けて急降下していく。

 

「悪いな、マギー!けどは今はこうするしかなくてな!」

 

潜在能力を解放すれば耐久性の問題もあって義手は壊れる。その事を製作者たるマギーから聞いているが故の台詞だった。

硝子の破片が降り注ぎ、その中で処刑人は右腕を後方へ引く。義手は花弁を開く様に展開されていき、複合式反射炉による生み出されたエネルギーが今か今かと解放されるのを待っている。

自身の真下には宇宙スーツを着た敵。お互いの距離がどんどん縮まっていく。そしてその距離が僅かとなった時…。

 

「良いもんくれてやるよ…おらあッ!!」

 

右腕を勢い良く前を敵の顔面へと突き出す処刑人。その瞬間、変形した義手から光が勢い良く迸った。

敵の体全てを飲みこむ極太レーザーが迸り、敵の中身もスーツも跡形も残さない様に消失する。それどころかレーザーによる攻撃は処刑人がいる場所から地表まで大きな穴をあける。偶然にも第三部隊と戦闘中であった第三勢力の敵が上から降ってきたレーザーによって飲み込まれており、処刑人が行った対悪魔用戦闘義手「デビルブレイカー」の一つ「ガーベラ」の潜在能力である極太レーザーの照射は敵に大きな損害を与えた。

そしてそれへと拍車かけるかの様に、建物の一部が何かに切り裂かれたかの様にバラバラに吹き飛んだ。それは別区画で戦闘中であったギルヴァは放った技「次元斬 絶」によるもの。当然ながらそこに居る者は姿形も残す事はなく消えていく。

処刑人の義手によるレーザー照射、ギルヴァによる次元斬 絶。それどころでは止まらない。

 

『ドでかいのは貴女だけではありませんよ、処刑人』

 

処刑人の無線機に飛び込んだ代理人の声。

次の瞬間、地震が起きたのではないかと思える位に建物が揺れた。ギルヴァと同様に別区画で戦闘を繰り広げていた代理人は最悪な事に宇宙スーツを着た敵と出くわしてしまっていた。フードゥルとグリフォンによるコンビネーションもあって、相手に隙が出来た所にニーゼル・レーゲンをレールガンへと変形させ最大出力状態で敵へと接近。そして零距離で強烈な一撃を叩きこんだのだ。建物が揺れた原因はそれによるものであった。

しかし相手もそれで怖気つく事などない。全力でシーナ達やギルヴァらに攻撃を仕掛けてくる。

 

『第三部隊、MG5。第二、第四と合流。残っていた過激派のメンバーの始末が完了した。指揮官、そっちは?』

 

『こっちも第五部隊と合流。こっちの方で残っていた過激派のメンバーの始末は完了。後はMG4と第三勢力だけだね』

 

だがそれも最早時間の問題と言えた。残っていた人権保護団体過激派のメンバーはシーナとS10部隊と戦闘によって倒され、残るはMG4の捜索と第三勢力のみ。数も多くないが油断は出来ない。残っている第三勢力の対処はギルヴァらに掛かっていた。

 

『時間をかける気はない。早々に終わらせる』

 

『やれやれ。もうちょっとパーティーを楽しみたかったんだが』

 

『いや…パーティーでも何でもねぇだろ、これ』

 

通信越しに飛び交う悪魔の力を持つ狩人達の声。

この後に代理人のレールガン最大出力零距離射撃に続いて、ギルヴァ、ブレイク、処刑人による第三勢力の残党を倒す為に二回程建物全体を揺らす振動が起きたのは言うまでもない。

 

ギルヴァらが第三勢力の残党を倒す為に暴れている一方で代理人はフードゥルとグリフォンと共にMG4の捜索に当たっていた。道中で何度か戦闘はあったものの今は敵に遭遇する事無く、長い通路を歩いていた。

 

『どう、代理人。居たかしら?』

 

代理人の通信機に届いたのは同じくMG4の捜索に当たっていた404小隊の部隊長 UMP45からであった。

そう聞いてくるあたり、向こうは彼女を見つけられていないのだろうと察しつつ、返答する。

 

「いえ、こちらでは見当たらず。このまま捜索を続けます」

 

『了解。こっちも捜索を続けてみるわ。第三勢力はギルヴァ達が対処してるし、過激派のメンバーもほとんど始末されたみたいだけど油断しないようにね』

 

「はい。そちらもお気をつけて」

 

通信を終え、歩みを進める代理人。

彼女が歩みを進めた事により、フードゥルとグリフォンも動き出す。その時代理人の近くを飛んでいたグリフォンが口を開く。

 

「しっかし…何であの嬢ちゃん…MG4だっけ?ここに居たんだろうな?」

 

「どういう意味です」

 

「いやよぉ…MG4は警備に出ていて、それで誰かに捕まってここに来てしまった。でも警備する所って基本的人目がつくとこばっかって同じ様に警備で動いている…コンテンダーだったか。そいつからそう聞いたんだよ」

 

「つまり…意図的に捕まったと言いたいのですか?」

 

その問いにグリフォンは首を横に振って否定する。すると静かに二人の会話を聞いていたフードゥルがグリフォンが感じている事を代弁した。

 

「MG4をここへ放り込んだのは過激派ではなく、他の組織が彼女をここへ放り込んだ…そう言いたいのだろう?グリフォンよ」

 

「ああ。だってよ、第三勢力だって変じゃねぇか。偶然にしちゃ不自然過ぎんだろ。情報を持っていたにしちゃこっちを攻撃してくるしよ。陽動ていうか、攪乱ていうかそこら辺な感じがするんだよ」

 

それを聞き、フードゥルも不自然に思っていた。

ここに攻め入る事になったのはMG4がここに囚われてしまったと言う事。ではどうやってここにいると分かったのか、そこが疑問に思っていた。自分でも知らない…指揮官や一部の誰かにしか知らないMG4に関する何かあるのではないかと思っていた。だがフードゥルとてそれをシーナに問う気などなかった。

何らかの疑いがあったとしてもMG4はS10地区前線基地に所属する一人。S11地区後方支援基地で辛い思いしていた分、S10地区前線基地で自由に過ごしてほしい。その事は本人に言う事は無いがフードゥルは内心そう思っていた。

 

「あれは…」

 

先を進んでいたフードゥルは前方にある一室にいたある人物を見つけるとそこへと駆け出す。

その一室に居たのは服は脱がされてしまったのか、ボロボロの布切れで自身を包み気絶していたMG4であった。倒れているMG4に近寄るとフードゥルは彼女の頬に鼻先をつつき、彼女を起こそうとする。

 

「大丈夫か、MG4殿。しっかりしろ」

 

「…っ……んん…フー…ドゥル…?」

 

「大事なさそうだな。そのままにしていろ、我が運ぶ」

 

頭を器用に動かしつつ、地面とMG4の体の間へ自身の体を挟み込むとフードゥルはMG4を自身の背に乗せつつ代理人の元へと向かう。

代理人もフードゥルがMG4を発見した事を無線機で全員へと連絡を取っており、謎が残しつつも人権保護団体過激派基地での戦闘は終わりを迎えるのだった。

 

作戦は終了し、基地の外では意識を取り戻したMG4は温かい毛布に体を包みつつ装甲車内部で休んでいた。

代理人が淹れてくれた温かいコーヒーが入ったマグカップを手にし、それへと口付けている所に訪れる者がいた。

訪れた者へと視線を向け、MG4はその者の名を口にする。

 

「指揮官…」

 

「どう?具合は大丈夫?」

 

「ええ、今は。…ご迷惑をおかけしました」

 

「気にしないで。何かあったら例え地球の裏側でも飛んで行くつもりだったから」

 

「…出来ない事は言わない方がいいですよ」

 

そうかな?と言いつつシーナはMG4の隣に腰掛けると腕を伸ばし、MG4の肩をそっと抱き寄せた。

突然の事に驚きながらも成すがままになるMG4。何故こんな事をしたのか分からない。だがシーナから伝わる体温はとても温かいと感じていた。

 

「…ごめんね」

 

シーナが小さく謝罪の言葉を呟くのを耳にしながら。

 

 

作戦から数日後。

S10地区の街中でMG4は誰もいない寂れた袋小路にいた。彼女の前に立っているのは青い奇妙なフォルムをしたロボット。顔とも言えるスクリーンにはカウボーイの姿が映されている。

 

「よお、相棒。無事基地の方に戻れたようだな」

 

「ええ、指揮官や皆のおかけで。それと前にも言いましたが相棒って呼ぶのやめてください」

 

「おっと、悪い」

 

はぁっ…とため息をつきながらもMG4は目の前に立つロボットの方を見る。

また面倒なミッションでも任されるというのだろうか。それとも情報を明け渡せとでも言うのだろうか。

指揮官を裏切り続ける日常は慣れる所まで来てしまっている。もう戻れない所まで来ている事はMG4も実感していた。

 

(ごめんなさい。指揮官…)

 

心の内で良くしてくれる指揮官へと謝罪の言葉を呟くMG4。

だからこそ今は気付かなかった。後ろから迫るある人物の姿に。

その者は黒いコートを揺らめかせながら、MG4の後ろから歩み寄る。後ろから誰かが忍びよってきている事に気付いたMG4はすぐさま後ろへと振り向く。そしてそこにいた者を見て彼女は目を見開き、震える声でその者を呼ぶ。

 

「し、指揮官…?」

 

「うん。私だよ、MG4」

 

そこに居たのは黒いコートを羽織り、ニッコリと笑みを浮かべるシーナだった。

以前の作戦でギルヴァからある情報を得たシーナはこの日が来るのを待ち、そして今日MG4の後を追ってここまで来たのだ。

対して何故彼女がここにいるのかMG4は理解出来なかった。ただ分かった事と言えば、自分が犯した罪がこの日をもって指揮官に確実に知られた事であった。

僅かに体を震わせるMG4を見てシーナはそっと手を彼女の頭の上に置くと、そのままMG4と対面していたロボットの方へと歩き出した。

腰に下げていたホルスターからサイドアームとして利用しているM92Fを抜き、笑顔を保ったままそのロボットの前に立った。

 

「初めましてかな、カウボーイ。私は……言わなくても知ってるんでしょう?」

 

「ああ、話は聞いているよ。それで何か用かい?そんな物騒なもんを手にしてさ」

 

「何の用、ね…。よくもまぁ―――」

 

笑顔から一転。シーナの表情が無表情へと切り替わる。

ロボットのスクリーンに突き付けられるM92F。普段からでは想像できないシーナの姿にMG4は只々驚くほかなかった。

人権保護団体過激派基地で共に戦っていた者なら分かるかも知れないが、今の状態のシーナがどういう状態なのかMG4に分かる筈もなかった。

 

「そんなセリフが吐けるな」

 

ただ口調まで変わるのだから、そのキレっぷりは相当キレていると言えた。

 

「おいおい。そんなもん突き付けられたら怖くて話もできないぜ」

 

「安心しろ。怖くても強引に吐かせる」

 

(本当に指揮官なのですか…?)

 

あれがあのシーナ・ナギサとは思えない。

だが今、ロボットに銃を突き付けている人物こそあのシーナだとMG4は無理にでも理解する事に徹した。

そんな事を他所にシーナは相手へと喋りかける。

 

「火遊びが過ぎたな。うちの者を巻き込んでまでやるべきではなかった」

 

「…それで?」

 

「そちらがうちのMG4を巻き込んだ事は黙っててやる。その代わりに彼女から手を引け。情報を得る為にここに来ているんだろうが、それをせずとも勝手に得ているのだろう?」

 

「…」

 

「帰って上にこう伝えろ。何かを果たしたいのであれば自身の手を汚すか、自身の仲間の内で片付けろとな」

 

当然向こうが決して自身の手を汚さない者ではない事ぐらいは知っている。

あくまでもこれは脅し文句みたいものである、

そしてシーナはこの程度済ませるつもりはなかった。

だと言うのにこの程度で済ませようとしたのか。それはMG4の行いに気付いていながらも行動をしなかった自分にも非があると思っているからだ。その他にも非はある為、この程度で済ませているのだ。

もっと早く行動していればここまでならなかったと思いが彼女の中で残っていたのだ。

 

「話は以上だ。…早い内に失せろ。このまま残っていたら私もどうするか分からんぞ」

 

そう言いつつシーナはMG4の手を引きつつ、去っていく。

人気のない袋小路に残ったのは青い奇妙なフォルムをしたロボットだけだった。

 

 

MG4の手を引きつつ街中を歩いていくシーナ。

引っ張られるままのMG4は先程まで無言であったが、遂に口を開く。

 

「何故…何も言わないのですか」

 

「…私にも非があるからだよ」

 

足を止めて振り返るシーナ。先程の姿はどこに行ったのか普段通りのシーナがそこにいた。

 

「MG4にある疑いがある事は以前から聞いていたの。本来であればすぐに行動すべきなのにね…。なのに行動しなかった。だから私にも非があるんだよ、MG4」

 

握っていた手を離し、そっとMG4の頭に手を乗せ撫でるシーナ。

その撫でる手はMG4にとってはとても心地が良かった。気付けばそっと優しい笑みを浮かべる程に。

それを見過ごさなかったシーナは同じ様に笑みを浮かべ、再度MG4の手を握り歩き出しながらそっと呟く。

 

「終わらない悪夢はない。…これで本当の意味での悪夢の終焉かな」

 

「指揮官?」

 

心配そうに見つめてくるMG4に対し、何でも無いよと返すシーナ。

 

「帰ったらお茶でもしよっか。折角だしグローザ、スパス、M590、WA2000も呼んで…。あ、そうだ、何か食べたいお菓子とかある?MG4。欲しいのがあれば作るよ!」

 

「…。ふふっ…そうですね。でしたら、指揮官が一番好きなお菓子を。よかったら私にもお手伝いさせてください」

 

「お!良いよ!じゃあ急いで帰ろっか」

 

「ええ。急いで帰りましょう」

 

この後に基地の執務室で元S11地区後方支援基地メンバーによるお茶会が行われたのは言うまでもない。

そしてシーナのお菓子作りを手伝ったMG4は後日シーナの元へお菓子作りを教えてもらうようになるのはまた今度の機会の話すとしよう。

 

 

またこれは余談であるが、人権保護団体過激派基地での作戦ではある名前が名付けられていた。

それはMG4の事情を知っているからこそ、シーナが名付けた名前。その名は…

 

True End of nightmare(本当の悪夢の終焉)




今回処刑人が装備していた義手ですが、ゲーム基準で行けば貫通&跳弾するレーザーを放つのですが…こちらではあえて照射レーザーにさせて頂きました。

またノーネイムの第二の専用装備「ラヴィーネ」ですが、見た目としてはハイ〇ン・スレイⅡラーとホワイト・〇リントの一部が合わさった感じです。

そして最後で出てきた青い奇妙なフォルムのロボット、スクリーンの部分にはカウボーイ…これは向こうの作者様に許可を頂いた上で出させて頂きました。
激おこぷんぷん丸のシーナちゃんが一方的に言って去っていったけど許してね!(土下座

さて次回はどうしたものかねぇ…


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Act86 A little peace

―――偶にはこんな日もあっていい


人権保護団体過激派との戦い、MG4の疑い…。

一日で起きた出来事から数十日が過ぎていた。鉄血との戦いが増えた訳ではないが減った訳でもない。悪魔が関わる件に関しては最近は姿を見せずになっていた。とは言え、だらけるのはもってのほか。S10地区前線基地及び便利屋デビルメイクライの生活は変わらない。

そんな日々の中、S10地区前線基地内部訓練場でギルヴァとデビルブレイカーを装備していない処刑人はいた。

先程まで剣の鍛錬をギルヴァに付き合ってもらっていた処刑人であったが流石に「S10地区前線基地の裏ボス」と一部の人形からそう噂される彼が相手ではかなり厳しかった。

まず模擬開始直後では動かずにいたギルヴァであったが、処刑人が攻撃を仕掛けた瞬間一方的な展開になったのは彼女とて想像していなかっただろう。

渾身の一撃は軽々と納刀された状態の無銘で弾かれ、次元斬、次元斬 絶、魔人化を使っていないものの繰り出される居合術を用いた攻撃の数々とエアトリックに反撃する隙も与えてくれず、回避、防御に徹する事にしか出来なかったのだ。

本当に一瞬の隙をついて右腕でのストレートをギルヴァに一撃与え、退ける事が出来ただけであったが。

 

「はあっ…はぁっ……キツ過ぎるだろ…」

 

「この程度で根を上げるとはな」

 

「いや!こっちを殺しかねない位に攻撃仕掛けてきたのはどっちだよ!?」

 

「ならば実戦で敵に待ってくれとでも言うのか?その程度の事が分からんお前ではなかろう」

 

「わかってるよ…んなもん」

 

かなり体力を使ったのだろう。まだ肩で息をしている処刑人を傍らにギルヴァは静かに彼女の右腕を見つめた。

先程の戦闘で一撃を貰ったのだが、その力は予想以上と言えた。無銘で防いだのは良いものの軽く吹っ飛ばされたのだ。処刑人も本気で殴った訳ではない事から本気の一撃は恐ろしいものになるだろうと思いつつも、ギルヴァは己の内で確信した。

 

(実力はまだ粗さが残るが…純粋な力だけで評価するのであれば俺やブレイクを超えるか)

 

恐ろしい太刀を作り上げたものだ、と呟くギルヴァ。

それは処刑人にデビルブリンガーを作り上げた太刀。そしてその太刀を作り上げた製作者へ向かっての台詞であった。

 

 

暫くの鍛錬した後、休憩を取っていた二人。偶然にもギルヴァを探しに来ていた代理人とUMP45が訓練場に訪れていた。地面に座り込み自前で用意していたスポーツドリンクを飲みながら処刑人は近くの壁に凭れ沈黙を保っているギルヴァの方をちらりと見る。

青い刺繡が施された黒いロングコートは変わらないがヘアスタイルは変わっていた。処刑人が初めて相対した時は前髪は目が隠れる程まで下ろされており、長く後ろへと伸ばしつつも一つに束ねていたのだ。

今は長く伸ばしていた髪はばっさりカットされ、下ろされていた前髪も後ろ大きく持ち上げられていた。

何らかの心境の変化でもあったのだろうか。

些細な事ではあるが気になった処刑人はその事を問おうした。その時自身と同じようにその事への疑問を感じ取っていたのか45がギルヴァへ問う。

 

「そういえば長く伸ばしていた髪、ばっさりカットしたんだね」

 

「ああ。代理人に切ってもらった」

 

「ふーん…。まぁ私からしたら今の方が好みかな。ギルヴァの顔がハッキリ見れるし」

 

「…そうか」

 

二人のやり取りを聞き、処刑人はふと疑問に思った。

自身が聞いた限りではギルヴァは代理人を結婚していると。しかし今の状況から察するにギルヴァと45が仲良くやっている。

 

(まさか…?)

 

そう思いそうになる処刑人だが、代理人とUMP45が首に提げているネックレスを発見する。二人共同じものを提げておりチェーンには指輪が通されている。

そこでは処刑人は何となくであるが察した。このギルヴァという男は代理人とUMP45と結婚している、と。

 

(探しに来たって言ってたがよ…その目的ってイチャイチャしたいだけじゃね…?)

 

だがそれを口にする気はない。本人らが幸せなら何ら問題ないのだから。

 

休憩も終わりを告げ、鍛錬もお開きとなりギルヴァはUMP45と共に別の場所へと向かっていった。そして処刑人は代理人と共にスプリングフィールドが店主をしているカフェへと訪れていた。

デビルブレイカーは装備していない為、デビルブリンガーがそのまま露わになってしまっているのだがここに訪れている人形達はさして気にする様子はなかった。それどころか興味本位で触らせてほしいと臆する事もせず処刑人へと声をかける人形がいるしまつ。

この基地に所属する人形達は悪魔が関わる案件で図太くなり過ぎるだろと処刑人は思わざるえなかった。

そして今はカウンターに腰掛け、スプリングフィールドが淹れてくれたコーヒーを飲んでいた。その隣では代理人が座っており、コーヒーではなく紅茶を飲んでいた。

 

「右腕の調子はどうですか?」

 

「まぁボチボチと言った所だ。訓練場で色々試してるがよ、わりと応用できる事が多いみてぇだ」

 

「具体的にどの様な応用が?」

 

「えぇとだな…」

 

指を顎に当て、思い出そうとする素振りを見せる処刑人。

色々試したのだなと思いつつ、代理人が待つ事にした。そして数秒後に処刑人はその応用できる事を話し始めた。

 

「まずは腕が飛ばさせるってことだな」

 

「飛ばせるって分離するのですか?」

 

「いや、そう言う訳じゃねぇよ。なんつうのかな…俺が右腕を飛ばす様な動きをするともう一本同じ腕が現れて、それが相手に向かって飛んで行く感じだ」

 

処刑人もどう表現したらいいのかという表情を浮かべる。

対する代理人が一つずつ彼女が話した内容を理解し、処刑人が言いたい事を分かりやすく説明する。

 

「つまり…分身が自身の代わりに相手へと飛んで行くという事でしょうか?」

 

「そう!そんな感じだ」

 

「最初から分身と言えば分かるのに…」

 

「いやぁ…説明は苦手でな。後は剣に魔力を流して斬撃を飛ばすとか、重たいものとかを持ち上げたり、デカい相手を掴んでぶん投げたりする事が出来るみてぇだ」

 

それを聞き、処刑人の支えとなったデビルブリンガーを見つめる。

その手が宿る力にただただ驚くほかなかった。意思を有した魔剣が造り出した右腕の力は今後処刑人に大きな支えにもなる。

 

(もしかしたら…)

 

処刑人がマギーから託された魔剣に「狩人」と名付けた事はシーナから聞いている。支えてくれた戦友を忘れたくない為に、そう名付けられた事も。

それが代理人にとっては偶然の様には思えなかった。狩人と名付けられる前から魔剣が本来有している意思とは別の意思が介在しているのではと。あくまでもこれは考えに過ぎない為、何らの確証もないのだが。

 

(…彼女を支えやって下さいね、狩人(ハンター)

 

それでも彼女は処刑人の右腕、そして格納されている刀へと言葉を投げかける。

すると代理人が内心では放った言葉が届いていたのか、薄っすらとデビルブリンガーが輝いたのを代理人は見逃さなかった。

処刑人に気付かれない様に、代理人は静かに微笑むのだった。

 

 

一方、射撃訓練場。

久しくここでは多くの人形達が射撃練習を励んでいる中、訓練場からやってきたギルヴァと暇になってここへと訪れていたブレイクの姿があった。

響く渡る銃声。出てくる的が瞬く間に蜂の巣へと変えられていく。他の人形達は目を丸くしながらブレイクとギルヴァの方を見つめる。

コルト・ガバメントをベースに改造されたフォルテ&アレグロの連射。これだけ撃っても壊れない堅牢性も驚きであるが、ブレイクの連射も驚きを隠せずにいた。

 

「そう言えばマギーさんがその二丁を参考にして作った銃があったみたいですね」

 

「M93Rをベースにしたやつだろ?あの作戦の報酬として協力してくれた所に送ったという事は聞いてるぜ。…今は誰が愛用してんのか分からねぇが一度会ってみたいぜ」

 

「ブレイクさんの連射見せられたら、相手の方は確実に遠い目にするでしょうね。45口径をあんなに連射しているのですから」

 

「ハハッ。かも知れねぇな」

 

ブレイクとMG4によるそんなやり取りがあったという。

 

一方ギルヴァはブレイクの程の連射程ではないが、愛用銃であるレーゾンデートルを発砲していた。二つのバレルから放たれる13mmの弾丸。普通の人間では発砲はおろか、あまりの重さで構える事が出来ない代物だ。

そんな化け物銃を片手で発砲しているのだから、もう目を丸くするほかない。

それどころか魔力を流し込まれ放たれた弾丸は着弾した数秒後に爆発するという芸当すらやってのけていた。因みにその際の反動は通常発砲時と比べると数倍に跳ね上がる為、流石のギルヴァも反動で一歩後ろで下がる程。だがその時も片手で発砲しているというそのスタイルは変わっていなかった。

因みに普段は使われる事が無いフェイクも使用していたのだが、こちらに関しては普通であったという。

 

「ふむ…」

 

フェイクをホルスターに収め、ギルヴァは少し悩む素振りを見せた。

フェイクは持つ事はあれど、基本的に使用する機会は少ない。使用頻度であればレーゾンデートルの方が多い。

誰かに譲り受け渡すもの一手かと彼は考えていた。

そこに同じく射撃訓練に終え休憩を取っていた45が彼の傍へと歩み寄り声をかける。

 

「どうしたの、ギルヴァ」

 

「少しな。こいつをどうしたものかとな」

 

そう言いつつフェイクをホルスターから抜き取るギルヴァ。

 

「それってだいぶ前に破棄された工場から持ってきたやつよね。…そう言えばあまり使う所は見ないような…」

 

「場合によって使う事はある。だがその場合はこいつではなく、レーゾンデートルを使う事が多い」

 

「ふーん…」

 

その時、ふと45にある考えが浮かび上がった。

そして彼女はそれを実行する事にした。

 

「だったらノーネイムに渡したらどう?」

 

「あいつにか?」

 

「専用装備はあるけどいつも身に付けている訳ではないでしょ?それにいつまでも誰かの武器を借りる訳にはいかないから」

 

「…そうだな」

 

以前から感じていた事であった。

ノーネイムの専用装備は強力であるが、普段から装備している訳ではない。何か携行武器を持たせるべきだろうと思っていた時に、ギルヴァがフェイクをどうしようかと来た。

母親らしいことでもしてあげようと45は思ったのだろう。武器がプレゼントになるのはどうかと思いつつもであるが。

 

「私から渡しておくわ。あの娘は私にとっても大事な娘だから」

 

「頼む」

 

「りょーかい♪」

 

ギルヴァからフェイクを受け取ると45はノーネイムの元へ向かって行った。

後にフェイクはノーネイムの手に渡り、大事にすると微笑みそれをホルスターに納めるノーネイムの姿がいたとか。




と言う訳でギルヴァの髪型はバージルと同じ髪型に変化しました。
これにより魔人化時の姿で長く伸ばしていた髪は消失。角は以前と変わり無し、魔人化時の姿はDMC5のバージルの魔人化とほぼ同じです。
ブレイクの魔人化時の姿はDMC4ダンテの魔人化時の姿に似た感じ。

また処刑人の右腕、デビルブリンガーは、DMC4ネロのデビルブリンガーと同じ見た目、同じ機能を有しています。同時にマギーから譲り受けた太刀はニーアオートマタに登場する白の約定みたいな見た目をしています。


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Act87-Extra Devil&Monster Ⅰ ☆

―――それは始まりに過ぎない


今回は犬もどき様作「METAL GEAR DOLLS」の大モンハンコラボに参加させていただく事になりました!ほかにも多くの方々参加してますし、派手のパーティーになりそうです。

自分モンハンは多少程度なら分かりますが…何分知識も乏しいので。ご容赦くださいな


「モンスターだぁ?」

 

S10地区前線基地の執務室でシーナに呼び出された処刑人は訝しげな声を上げた。

呼び出されて何事か思えば、これである。彼女がそんな声を上げても決しておかしくなかった。

対するシーナも処刑人の反応は当然と判断していた。彼女もまたその事を聞いて、処刑人の様に訝しげな声を上げていたのだから。

 

「上からの命令でね。情報の出どころは私たちが知らない所みたいだけど、信憑性はあるみたい。それにうちの地区で目撃情報が相次いでいるとなれば信用してもいいと思う。今の所被害報告が上がってはいないけど…民間人や行商人に何かあってからでは遅い。それにうちはほら…悪魔とか相手にしてきた事実があるからね。だからそのモンスターを探し出して討伐して欲しいと思って」

 

「討伐ねぇ…まぁそれは構わねぇけどよ。俺に頼むよりギルヴァやブレイクに頼んだ方が良いんじゃねぇのか?」

 

「私もそうしたんだけど…二人共店に居なくて。45や代理人、グローザに聞いたら出かけてくると言って出ていったみたいで」

 

「ふーん…まぁ分かった。手短に準備して動いてみる。最後に目撃された場所を教えてくれ」

 

二人していないなんて珍しい事もあるもんだなと思いつつも処刑人はそれを承諾。シーナからそのドラゴンとやらが最後に目撃された場所を押してもらうと、自室にてクイーンを背負い、デビルブレイカーの一つであるブリッツを装着。そして借金してまでマギーに製作してもらったリボルバーを左側のホルスターへと差し込む。これはギルヴァが愛用している大型特殊回転弾倉拳銃「レーゾンデートル」を参考に、二つの銃身、12連装特殊弾倉は継承され、ベースがレイジング・ブルとなっている。名は「アニマ」。ラテン語で「息吹」の意を持つ。

代理人に購入して貰った黒いコートを羽織る。ギルヴァやブレイクは羽織るコートよりは着丈が短く、フードが備わっているタイプだ。万全な準備をした後に処刑人はその場所へと向かうのだった。

 

 

「ここか」

 

基地を出て、処刑人はそのモンスターとやらが目撃された場所…木々が鬱蒼と生い茂る森へと来ていた。

以前からあるこの森は普段は人が寄り付かない場所となっている。身を隠すにはうってつけとも言えるここは暴走している鉄血が隠れていてもおかしくない為、基本誰も寄り付かないのだ。ここに訪れる者は余程の命知らずか止む終えずここに通る者位である。

 

「にしてもモンスターか…。まさかそんなのが居るなんてな」

 

辺りを見回しながら処刑人は呟く。

だが目撃された以上は信じるない他、自分達は悪魔というモンスター以上に存在が怪しい者達がいる事を知っている。それぐらい居てもおかしくないと思っていた。

その時木々の間から差し込む陽の光から何かの影が通り去った。

それに気づかない処刑人ではなく、即座に振り向きつつ背負っているクイーンに手を伸ばす。何時でも抜き放てる様に状態を維持しつつ警戒する。

 

「っ!」

 

感じた殺気。後ろから何かが迫ってきている事を感じ取った処刑人はその場から前へと飛び込み、何者からの攻撃を回避する。地面を一回転し、体勢を戻しつつ襲ってきた者へと見やる処刑人。そこに居たのドラゴンと差し支えない程の竜がいた。緑の体表、両翼に、尻尾。先端部には棘の様な物が生えていた。

攻撃を避けられた事に対する苛立ちか、或いはそれ以外の何かか。処刑人へと威嚇する様に咆哮を上げるドラゴン。その咆哮は森全体へ響き渡り、木々に留まっていた鳥たちが一斉に飛び去っていく。

それに対し処刑人はクイーンを引き抜きながら獰猛な笑みを浮かべる。剣先を地面に突き刺し、グリップを捻りながら口を開く。

 

「ご自慢の一撃を避けられてご機嫌斜めってか?悪いな、そう簡単にやられる気はないんでね!」

 

マフラーから吹き出る噴射剤。白熱化する推進剤噴射機構。響き渡るバイクのエンジン音に似た音。それが合図となったのか両者は動き出す。

女王の名をした剣を持つ狩人と陸の女王の異名を持つ竜「リオレイア」との戦いが今始まった。

 

 

一方その頃。

森から離れた場所…昔の建物の残骸が広がる場所にて二人はいた。

一人は大剣を背負った赤いコートの男、もう一人は片手に日本刀を持った青い刺繡が施された黒いコートを羽織る男。二人は悪魔ではない何かを感じ取りここまで訪れていた。

その何かの調査の為に偶然にもバッタリと出会ってしまった二人…ブレイクとギルヴァ。お互いの目的が同じという事もあり共に行動していた。

そして二人は遠くから咆哮の様なものを耳にしており、その先を見つめていた。

 

「あっちからか。しっかしデカい鳴き声だ。鶏でもここまで響かねぇよ」

 

ニヒルな笑みを浮かべ腕を組むブレイク。

対するギルヴァは沈黙を貫いており、その様子を見て茶々を入れるブレイク。

 

「何だよ、怖気ついたのか?」

 

「ぬかせ。…お前も気付いているのだろう」

 

「…まぁな」

 

何かが自分達を背後から襲おうとしている。隠しきれていない殺気と視線にギルヴァもブレイクも気付いていた。

敢えて気づかないふりをして、その相手が姿を見せるまで待っていた。

そしてそれはすぐに姿を見せる事となる。上空から二人へ目掛けて迫りくる何か。その姿は竜であり、今処刑人が相対している竜と共通部分を有しつつも異なる点もある。赤い何かは勢い降下しながら、両足の鋭い爪を広げる。

その狂刃が迫った瞬間、その場に立っていた二人の姿が掻き消えた。

 

「!?」

 

両翼を羽ばたかせ、急減速するそれ。

首を動かし辺りを見回した瞬間、目の前に赤と黒が姿を見せる。

リベリオンを構えるブレイク。鞘から刀身を抜きつつ、体を勢い良く捻るギルヴァ。

 

「そらよッ!」

 

「っ!」

 

頭部へと目掛けて振り下ろされる二振りの刃。その一撃により宙を飛んでいた赤き竜は地面と叩きつけ、土埃と轟音が響き渡る。

地面へと着地し、叩きつけた相手を見つめるギルヴァとブレイク。

ギルヴァは沈黙を保ち、ブレイクはニヤリと口角を吊り上げる。言葉にせずとも二人は確信していた。

この竜こそが自分達が感じた悪魔とは違う妙な気配だと。

払われる土埃。大したダメージを受けていないのか、それは立ち上がり咆哮を上げる。しかしそれに臆する様な二人ではない。

最もドラゴンがこの世にいたという事には多少なりとも驚いているが。

 

「さぁてと…面白い事になりそうだぜ?」

 

「…そのようだな」

 

己の獲物を構え、二人の狩人は立ち向かう。

空の王者「リオレウス」へと。

 

 

 

森林地帯で陸の女王…リオレイアを激闘を繰り広げる処刑人。しかし戦況は処刑人が少し押されていた。

口から吐き出される火球、尻尾を勢い良く振り上げる攻撃や突進。

それもその筈でこういう相手は殆どした事が無いのだ。最早ぶっつけ本番とも言える程。

だがそれで負ける様な処刑人ではない。例えぶっつけ本番であろうと負ける様では到底悪魔に勝てはしない。

その思いが処刑人を奮い立たせ、幾度かクイーンの斬撃をリオレイアに与えており、かなりのダメージを与えている。その証拠にリオレイアの両翼部分に大きな傷が残っていた。

 

「GUOOO!!!」

 

「ったく!叫んでばかりで耳障りだ!」

 

駆け出す処刑人。

右腕を突き出す様にしてデビルブレイカーに備わっているワイヤーを射出。先端のクロー部分がリオレイアの背中に突き刺さり、処刑人はそこへと向かって一気に接近。近寄せないと言わんばかりに体を動かしてそれを振り払おうとするリオレイア。しかし振り払われる前に処刑人が接近。ワイヤーを戻すとリオレイアの体を蹴り跳躍、そのまま頭頂へと突撃しながらブリッツを構える。

 

「いい加減その口を閉じやがれッ!!」

 

展開されるブリッツ。頭頂部を掴み強引地面へ叩きつけると同時に青い電撃が迸る。

響き渡る轟音。叩きつけられ、一瞬の隙を晒したリオレウスの頭にクイーンを突き刺そうとする処刑人。

だがそう簡単にやられる様な相手ではない。リオレイアは勢い立ち上がり、頭の上に載っている処刑人を振り落とそうとする。

 

「ちっ!」

 

足場を揺らされた事により舌打ちしながらも処刑人は振り下ろされる前にその場から飛び退き、距離を取る。つかさず突撃。正面から向かってくる処刑人にリオレイアの口から火球が放たれる。飛んでくる火球と地面の間を滑り込み様にスライディングで回避する処刑人。態勢を元へ戻し駆け出す。

対するその巨体からどうやって出しているのか分からない速さで処刑人へ目掛けて突進してくるリオレイアの姿。

しかし避けれない訳ではない。体の下へと滑り込み脚部へと攻撃を仕掛けようとした時、それを見越していたかの様に突如として飛び上がるリオレイア。体を大きく回転させ、尻尾を処刑人へ叩きつけようとする。

 

「…っ!?」

 

迫りくるそれにうすら寒い何かを感じ取った処刑人。向かってくる尻尾を斬り落とそうという考えを中断し、攻撃が来る前に横へと飛び退く。寸での所で尻尾は彼女の後方で過ぎ去り、地へと降り立つリオレイアは咆哮を上げる。

ふと処刑人はリオレイアの尻尾が抉った地面を見た。ただ抉った後が残っているだけ。しかしそれだけではないと判断していた。

あの様な攻撃を仕掛けてくるという事は尻尾に何かあると分析しつつ、処刑人はクイーンを構える。するとそれに合わせるかの様にリオレイアが突進を開始。

相手が向かってきていると言うのに処刑人はその場で立ち尽くす。そして目前に迫った瞬間、処刑人は動き出した。突き出される右腕と同時に迸る蒼い電撃。そして向かってくるリオレイアに言葉を投げかける。

 

「はしゃぐなよ、のろまがッ!」

 

それが顔面へと叩きつけられた事に弾き飛ばされるリオレイア。巨体が地面を転がり、生えていた木々をなぎ倒していく。対する処刑人もカウンターを仕掛ける様にブリッツの電撃を放った事により少しだけ後ろへと後ずさるがつかさず走り出す。弾き飛ばされたとは言え、距離が空いた事を良い事にゆらゆらと立ち上がりながらも、両翼を広げ羽ばたかせるリオレイア。

この場から逃げ出すつもりだ。瞬時にそれを察した処刑人は近くの木の上を伝って飛び去ろうとするリオレイアへと勢いジャンプしリオレイアの体へと乗っかる。思い切りクイーンを突き刺しグリップを捻り推進剤を燃焼させる。その強烈な痛みに一度は態勢を崩しそうになるリオレイアだが、痛みに耐えながらも体に乗っかっている処刑人を振り落とそうとしながら飛び立つのだった。

 

 

その頃、空の王者 リオレウスと戦闘を開始していたギルヴァとブレイク。

最初こそ様子見ながらも戦闘を繰り広げていたのだが、その後はギルヴァとブレイクによる一方的な攻撃が展開しされていた。突進を繰り出そうすればブレイクの魔力を込めたスティンガーが弾き飛ばされ、空へ飛びあがろうとすればギルヴァによる神速の居合技 次元斬を連発され、幻影刀を複数配置し射出する技「強襲幻影刀」によって封じられる。

満身創痍でありながらも立ち上がるリオレウス。そんな姿を見てブレイクは相手へと言葉を投げかける。

 

「まだやるって感じだな。大したガッツだぜ」

 

リベリオンを構えるブレイク。そしてギルヴァは何故か刀を納め、腕を組んだ。

突然の行動に目を丸くするブレイクはギルヴァは問いかける。

 

「おい、何だよ。降参か?」

 

「そんな訳あるまい。別の客が参加しにくるみたいだぞ」

 

「どういう事だ、そりゃ?」

 

その時だった。別の所から叫びにも似た咆哮が響く。

その方向へと振り向くブレイク。彼の目に映ったのは自分達が相手にしていた敵とは別の敵。しかしどこか似た様な所を有している部分も見受けられ、親戚か?とブレイクは呟いた。

そしてその背に乗り、振り落とされまいクイーンを突き刺し踏ん張る処刑人の姿もあった。

処刑人もギルヴァとブレイクの二人を見つけ、二人と対する様に満身創痍の赤い竜を見つける。

宙で暴れるリオレイア。そして満身創痍のリオレウス。その時、処刑人にある考えが浮かんだ。クイーンを思い切り引き抜き、義手を外し腰の義手専用ホルダーに吊り下げる。

幽体化していたデビルブリンガーが姿を現し、処刑人は駆け出し空へと身を投じる。空中で体を反転させ、右腕を飛ばす処刑人。分身として現れた右腕でリオレイアの脚を掴むと処刑人は勢い引っ張った

手を振り払おうとするリオレイアだが、疲弊していた事もありいとも簡単に引っ張られる。そして処刑人は力を全開にしそのまま満身創痍のリオレウスへと目掛けて…

 

「お散歩の時間は終わりだッ!」

 

リオレイアをぶん投げた。

緑の巨体がリオレウスに直撃し、盛大に土埃が舞い上がり、これまでにない位の破砕音が響き渡る。

モンスターをぶん投げるという派手な事をやってのけた処刑人にブレイクは腹を抱えて笑い、ギルヴァは沈黙を貫いた。そして二人の近くで降り立つ処刑人。クイーンを肩に担ぎながら二人へと声をかける。

 

「出かけてくるって聞いてたけどよ。まさかこれに気付いていたのか?」

 

「妙な気配は感じ取ってたんでね。ギルヴァも気付いていたみたいで、別々行動していた所でここでバッタリ会ってな。一緒に行動していたらあの赤いのに襲われた訳さ」

 

「お前たち二人を襲うって…無謀にも程があんだろ」

 

処刑人は二人の実力を知っている。

それでこそ自分では到底追いつかない位置にいる。

だからだろうか。処刑人はあの赤い竜…リオレウスに少しだけ、ほんの少しだけ同情した。

 

「…まだ来るか」

 

組んでいた腕を解き、前方を見つめるギルヴァ。払われる土埃、二体の竜が怒りを露わにしたかの様に咆哮をあげる。ブレイク、処刑人も構えようとした時、ギルヴァが動き出す。

姿勢を低くし、居合の態勢を作る。完全にとどめを刺すつもりでいるギルヴァ。

それをさせまい動き出すリオレウスとリオレイア。

 

「…っ!」

 

だが既に時遅し。

抜き放たれる一閃から無銘を両手で構え次々と斬撃を繰り出していくギルヴァ。

それら全てが空間を切り裂き、歪みにない真っ直ぐな刀痕が次々と空間を残り、相手の肉質など無視し離れた二体の竜を斬り裂いていく。

そのまま流れる様に一度刀身を鞘へと納めた瞬間、勢いよく抜刀。

鋭い一撃。太い刀痕が空間に刻まれた後、巧みに刀を回転させ刃を鞘に当てた後刀身を納刀。

鍔と鯉口がかち合う音が響いた瞬間、空間が揺れ残っていた最後の刀痕が爆発する。

それが止めとなり、地面に倒れ完全に沈黙するリオレウスとリオレイア。それを見届けたギルヴァは静かに背を向けて歩き出す。

 

「安らかに眠れ」

 

そう小さく呟きながら。

 

 

二体のモンスターを討伐した事を報告する為に基地へと戻っていく三人。

そんな中ギルヴァはずっと感じていた事があった。

二体のモンスターを討伐したというのに、先程から感じている別の気配。

それは遠く、そして強大なものだと感じ取っていた。

 

(これは始まりに過ぎない…。そういう事か)

 

奇しくもそれは当たる事となる。

そしてギルヴァ、ブレイク、処刑人はシーナからある依頼をされるのだが、今の段階で三人がそれを知る由もなかった。




こんな感じでいいのかな…?間違っていたら申し訳ない!
という訳でうちはリオレウスとリオレイアを相手し討伐させて頂きました。
捕獲用の道具なんて持ってないからね!仕方ないね!
ラインナップ戦は終わり。さてお次も参加するぞえ…(戦闘事態には遅れて参加する気です


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Act88-Extra Devil&Monster Ⅱ ☆

―――さぁ、招待状を持ってパーティー会場へ向かおう


二体のモンスターを討伐し、その報告に執務室にへと訪れたギルヴァ、ブレイク、処刑人。

ギルヴァとブレイクがシーナから依頼を受ける前に行動していた事を処刑人の口から報告され、そして目的であったモンスターを討伐した事を報告した。

 

「とまぁ、こんな感じだ。二体もいた事は驚いたがよ」

 

「うん、了解。三人ともお疲れ様…と言いたいんだけど」

 

「ん?まだあんのか?」

 

その問いにシーナは小さく首を縦に振る。

すると近くの壁に背を預け、腕を組んでいたギルヴァが口を開いた。

 

「今回の騒動は始まったばかりに過ぎん。元凶を討たない限りな」

 

「ギルヴァさん…気付いていたんだね」

 

「ああ。ここから遠く離れた位置に妙な気配を感じている。それもかなりものだ。…お前の右腕も先程から反応を示しているみたいだが?処刑人」

 

ギルヴァに指摘された事により、ソファーに座っていたブレイクと処刑人の対面で座っていたシーナの視線が彼女へと向けられる。

視線が向いた事により、処刑人は左手に頭の後ろに当てつつ答える。

 

「ああ。さっきから変な反応を示してやがる。ギルヴァが言うその強大なもんに反応してるんだろうぜ」

 

「やはりか。…もう一つ頼みたい事。それはその元凶とやらの討伐を頼みたいのだろう?指揮官」

 

再度視線がシーナへ向けられる。

真剣な面持ちで彼女は頷き、三人にその依頼内容を説明し始める。

 

「依頼主は仲介業者を介してグリフィン側に依頼してきたある組織から。名前は国境なき軍隊(MSF)。どういったところかは私自身良く分かっていないんだけど、その規模は相当とも言える所。実は三人が倒したモンスターの件はそこからの要請だったの」

 

「直接ではなく仲介業者を介してか。…因みにその仲介業者は何処の者だ?」

 

「聞いてみたんだけど教えてくれなくて。うちに知られたら不味い理由でもあるのかも知れない。取り敢えず上からの指示という事で納得してるけど」

 

シーナは知らないが、その仲介業者とはあの運び屋である。

以前にもあそことはMG4の一件で深くはなくとも、多少の溝がある。もし仲介業者が運び屋と聞けばシーナはこの依頼を受けるに若干迷っていたかも知れないし、下手すればその運び屋に話があると言って武装して自身も出ていきかねない危険性もあった。敢えて仲介業者を明かさなかったのは正しい判断をしたと言えた。

 

「話を戻すね。どうやら三人が倒したモンスターは私達でも知り得なかった島にいた存在だったみたい。恐らくその元凶が現れた事でモンスターたちが外へと逃げ出した…。そして三人が討伐している最中にその元凶が発見された模様。一度正規軍と遭遇したみたいだけど、壊滅。最悪な事にその元凶は都市へと向かって移動中。どうやらそこには研究の為に、コーラップス液を貯蔵している施設があるの。」

 

沈黙が訪れる。

あの正規軍ですら歯が立たなかった相手。そんな相手がコーラップス液を貯蔵している施設がある都市へと向かっている。事態は深刻といっても過言ではなかった。

 

「依頼内容は単純明快。この元凶の討伐。それだけ」

 

「やれやれ…とんでもないパーティーになってやがるな」

 

とんでもなく危険な依頼だと言うのにブレイクは余裕のある態度を崩さない。

凭れていたソファーから立ち上がると、ギルヴァの方へと向く。

ギルヴァも沈黙を保ちながら背を預けていた壁から離れる。二人の行動にシーナは確信した。

依頼を受けてくれるのだと。

そして彼女は処刑人の方を向く。処刑人はやれやれと言いつつ受ける様子で居た。

その様子を見て三人に心の内で感謝の言葉を述べつつ、作戦内容を話し始める。

 

「本来であればノーネイムのラヴィーネやリヴァイアサンを投入したい所なんだけど、リヴァイアサンはまだ運用試験をパスしていない。ラヴィーネに関してはまだ未完成の状態なの」

 

「稼働していたにも関わらずか?」

 

ラヴィーネが未完成である事を聞かされ、処刑人は疑問の声を上げた。

以前の作戦でラヴィーネが運用されていた事はこの場にいる全員が知っている。

誰が見ても未完成とは思わないだろう。にも関わらず未完成という事に疑問を抱かずにいる方が無理な話である。

 

「運用する分には問題なかったんだけどね。ただ一部火器が取り付けられていない状態にあったのと本来有しておいた機能がまだ搭載出来ていない状態でね。だから未完成なの」

 

「なるほどな。じゃあどうやって現場まで行く?送迎バスでも出してくれるのか?」

 

「それなら大丈夫。準備はしているから…入って来て」

 

執務室のドアが開く音が響く。

入ってきたのはまさかの代理人であった。何故彼女がここにいるのかと誰もが思う中、代理人が口を開く。

 

「既にヘリの準備は出来ております。私が作戦領域の上空まで三人を送り致します」

 

「…操縦出来たのか、代理人」

 

「ええ。いずれ必要になるかと思っていまして。車の運転と家事、戦闘だけが得意な女ではありませんよ、ギルヴァ」

 

ニッコリと笑みを浮かべ、ギルヴァへウインクする代理人。

対するギルヴァは何も言わなかったが、誰にも気付かれぬ様に静かに微笑むのだった。

そしてシーナは椅子から立ち上がり、告げる。

 

「事態は一刻を争います。そして私達は遅れての参加となります。なので私達以外にもこの事態に対し先に行動している方々もいると見ていいです。その場合はその人達と協力し、事に当たって下さい。無事の帰還を祈っています」

 

 

 

S10地区前線基地、ヘリポート。

普段から作戦等で使用される大型ヘリが一機。基本移動用に使われる事が多い為か武装は射手を必要とした機銃が二門装備されているだけで、火力は乏しい。一応これはS10地区前線基地の所有物なので内装もそのまま維持されているのだが、実は所々に代理人が弄った後が残っている。また念の為か代理人が愛用するシルヴァ・バレトとニーゼル・レーゲンが機内に積まれていた。

 

「さて…」

 

コックピットには代理人が乗っており、機体を何時でも離陸できる状態を保っていた。そこにヘリポートに姿を現す三人。そしてふとギルヴァらは足を止めた。

彼らを待っていたのは代理人だけではない。そもそも送迎に自分だけとは代理人は一言も言っていない。

この三人も彼らが来るのを待っていたのだ。

 

「待ってたよ、ギルヴァ~♪」

 

笑顔で迎えるUMP45。

 

「指揮官から話は聞いているわ。私達も送迎に同行するわ。勿論この子もね」

 

「ああ。大した支援は出来ないが私が出来る最大限の事をやらせてもらおう」

 

送迎に同行するというグローザとノーネイム。

送迎とはいえ三人とも武装はしていた。そんな三人を見てブレイクは肩を竦めながらヘリと歩き出していく。

ギルヴァも処刑人も後に続いていき、彼、彼女はヘリへと乗り込んでいく。

そして全員がヘリに乗り込んだ事を確認すると代理人は機体を離陸させ、作戦領域へと飛ばす。

 

「暫くは空の旅をお楽しみ下さいませ」

 

「安全運転で頼むぜ、代理人」

 

「心得ていますよ、処刑人」

 

代理人から安全運転を心掛けるという言葉を聞き、処刑人は安心して座席に腰掛ける。

すると後ろからブレイクの声が響く。

 

「ハハッ、まさかジュークボックス置いているとはな。しかも揺れで倒れない様に固定までしてやがる。代理人が持ち込んだのかい?」

 

「ええ。空の旅とは言え、音楽無しでは楽しめないでしょう?簡易型ですが勝手に置かせて頂きました」

 

「なるほど。…一曲かけて良いかい?」

 

「ご自由に。但し一番は押さないで下さいね。それは三人を降ろす際使いたいので」

 

「オーケー。んじゃ…こいつにするか」

 

代理人の許可を得て、ジュークボックスの選曲ボタンを押すブレイク。

そこから流れる曲はブレイクに合っているといい曲。自分好みの曲が流れた事に気分を良くしたブレイクは座席に腰掛けて雑誌を持ち込んできていた雑誌を広げる。

曲が流れる中、ギルヴァは腕を組み目を伏せて沈黙を保つ。その隣でUMP45が腰掛けており端末を手に情報の整理。処刑人は座席に凭れ、ジュークボックスから聴こえる曲は耳にしながら窓から見せる空の景色を楽しむ事に徹する。グローザとノーネイムはただただ作戦領域に着くまでの間、ギルヴァと同様に沈黙を保つのだった。

 

 

 

その頃、S10地区前線基地の執務室では戦いへと赴いた三人が無事に帰ってくる事を祈りつつ、シーナは書類を片付けていた。今回の副官は64式自である。

その時、シーナはふと思い出した様に彼女へ問う。

 

「そう言えばあの時の揺れって何だったんだろう…」

 

ギルヴァらがリオレウスとリオレイアを相手している時に突如として起きた地震。

余震とはかなく、一回しか起きなかった事に彼女は疑問を思っていた。

 

「さぁ…。でもあの揺れの後に山の一部が消し飛んだって聞いたけど。悪魔とか関わっているせいか何とも思えないというか…」

 

「…慣れるって怖いね」

 

「…だね」

 

悪魔とかに関わっているせいか図太くなってしまった二人がいるのだった。




はい。動き出した便利屋面々ですが、作戦の参加事態には遅れて登場するつもりです。
どういう感じで登場するのかって?…ジュークボックスがあるという事は…?

次で100話に到達しますが、普段通りやっていくぞ。

…今回のコラボが終わったら、どうすっかね。…以前からコラボしたいと思っていた所に声でもかけるかねぇ


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Act89-Extra Devil&Monster Ⅲ ☆

―――Let's lock!baby!


一台のバンが駆け抜けていく。

側面にはDevil May Cryと記されたネオンサインが輝いており、舗装されていない道の上を走っていく。

そして運転を務めている代理人はため息がてら口を開いた。

 

「はぁっ…何とまぁタイミングが悪い」

 

「仕方ねぇだろ?寧ろシーナがその情報を早く教えてくれてなかったら、俺ら全員お陀仏になってかも知れないんだぜ?」

 

そう諭すのは助手席に座っている処刑人。今回の作戦の為、デビルブレイカーは装備しておらず右腕にはデビルブリンガーが露わになっていた。

それに対し分かっていますと答える代理人であったが、珍しく納得がいかないといった表情を浮かべる。

何故彼女達がヘリではなく、バンに乗っているのか。それは基地を飛び去った直後にシーナから通信で伝えられた事が始まりだった。

異常に大きい嵐が発生。危険なので一度帰投し、陸路で向かう様にとそういった指示を受けたのだ。

流石にヘリを嵐の中に突っ込ませる程代理人は馬鹿ではない。一度帰投しいつものバンに乗り換えて向かう事になったのだが、折角の空の旅が台無しになってしまい、残念に思っていたのだ。

しかしいつまでも不貞腐れている訳にもいかないし、それに嵐を過ぎ去るを待ってから動くという考えもない。気持ちを切り替えて代理人は車のスピードを上げる。

その後ろでギルヴァは静かに目を伏せて沈黙を保っていた。ブレイクはソファーに腰掛けて雑誌を没頭しており、グローザは少しでも気分を変えようとジュークボックスの前に立ち、どの曲にしようかと悩んでいた。ノーネイムは淹れたてコーヒーが入ったマグカップを手に過ぎ去っていく景色を眺めていた。そこにUMP45が彼女の傍へと歩み寄り、声を掛けた。

 

「ずっと外を見ているけど、何か気になる事があるの?」

 

「ん?…ああ、母さんか。特に変わりはない。ただこうしていると落ち着くんだ。…あ、コーヒーでも飲むか?」

 

「そうね、一杯貰える?」

 

「分かった」

 

自身が持っていたマグカップを近くの台に置くと、新しいマグカップを棚から持ち出しコーヒーを入れるとそれを45へと差し出すノーネイム。

彼女から差し出されたそれを受け取ると45はコーヒーを一口だけ口に含む。

気分的に今は甘いのを欲していない事もあり、その苦味は彼女にとって丁度良い物だった。

 

「にしてもモンスター、か。悪魔とか見てるからそれなりに耐性が付いているけど、驚くわね」

 

これまで何度も悪魔が関わる事件に関わってきた45もモンスターと聞いた時、それなりに驚いていた。

だが不思議が当たり前なこの世界だ。悪魔が居るのであればモンスターも居ても可笑しくない。

何だかんだ言いながら、自分も染まってきたなと45は思っていた。

 

「私からすれば悪魔もそのモンスターも未だに目にした事がないがな」

 

「そう言えばそうだったわね。モンスターは目に出来るかは分からないけど、悪魔ならいずれ目にする事になるわ。ギルヴァやブレイクの様に悪魔の血を流しながらも心を持った悪魔やこの世界の害悪となる悪魔をね」

 

「…そうだな」

 

未知なる敵。己の内部骨格に施された魔の力。

ノーネイムにとって敵となる悪魔に目にする時が何時になるのか…。それは誰にも分からない。

 

 

「作戦領域に入りましたが…もう作戦始まっているのでしょうか」

 

「どうだろうな。始まってんなら戦闘の音ぐらいは聞こえている筈だ」

 

「でしょうね。…取り敢えず処刑人、ジュークボックスに行って選曲ボタンの一番押してきて下さい」

 

「俺がかよ…。ったく分かったよ」

 

いやいやながらも処刑人は助手席から離れてジュークボックスが置いてある処へと向かって行く。

そこに処刑人とすれ違う様にギルヴァが運転席に座っている代理人の後ろに立つ。

 

「ここまで来ればだいぶ気配が近いな。…そろそろか」

 

「ええ。恐らくもう少しで戦場に飛び込み形になるでしょうね。M4A1と助ける時の様に車両を一回転させてしまうかも知れませんが」

 

「それは勝手にしてくれても構わん。俺たちが降りたら安全な所に避難しろ。良いな?」

 

「了解です」

 

車両は戦場付近まで近づいていた。

するとジュークボックスの前で立っていた処刑人が代理人へと声をかける。

 

「もうそろそろか、代理人!曲をかけるなら今だぜ?」

 

「そうですね…。ええ、お願いします」

 

「よっしゃ!イカれたパーティーの始まりだ!派手に行くぜ!」

 

そう言いながらボタンを押す処刑人。

曲が流れ始まるまでに代理人は無線を開き、全員に届く様にする。

 

「さて…行きましょうか」

 

車両のスピードを更に上げる代理人。

それと同時に彼女のお気に入りの曲が響き渡るのだった。




本来であれば、ヘリからスタイリッシュダイビングをするつもりでしたが、嵐が発生したのでヘリからバンに乗り換えて陸路で。

突如として曲が聞こえたら俺達が来た合図だぜ。

因みに参加する三人の武装ですが…

ギルヴァ:日本刀状魔剣「無銘」、大型特殊拳銃「レーゾンデートル」
ブレイク:大剣「リベリオン」、大型二丁拳銃「フォルテ&アレグロ」、魔装バイク「ヴァーン・ズィニヒ」
処刑人:推進剤噴射機構搭載剣「クイーン」、大型特殊拳銃「アニマ」、悪魔の右腕「デビルブリンガー」、太刀状魔剣「狩人」

てかこの話で100話になるのね。だと言うのにこの短さ!許してね!
まぁ今後ともよろしくお願いいたします。


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Act90-Extra Devil&Monster Ⅳ ☆

―――混乱と混沌


戦場は怪獣大戦争と化していた。

今回の騒動の元凶たるモンスター「巨戟龍 ゴクマジオス」。この戦場に乱入してきた「恐暴竜 イビルジョー」そしてS地区応急支援基地から救援としてやってきた「碧き竜 リヴァ」。

その三体による戦いは最早誰もが言葉を失う程と言えるであろう。

しかしだ。この三体が戦っている今でもおこぼれを得る為にイーオスやガブラスの群れが動きを止める筈もなく、襲ってくるのは当然と言えよう。

イビルジョーを仕留める事はかなわず、後を追うにも暴風による炎の壁により追う事も出来なくなったギルヴァ。今は救援に現れたリヴァに任せ、自身へと迫ってくる小型モンスターの群れを睨んだ。

彼の後ろでは電話番号を記載したメモを渡そうとするFALを押さえつけるVECTORがいる。

ギルヴァは手にしている無銘の鍔に親指を押し当て、鯉口を切りながらVECTORへと伝えた。

 

「下がっていろ」

 

「え、ちょっと!?」

 

VECTORの制止を聞かずに向かってくる群れに対して歩き出すギルヴァ。

戦闘力は決して高い方ではないが両方とも毒を有している。しかしギルヴァにとって気にする程ではない。

腰を落としつつ居合の態勢を取りながら迫りくる群れを見据える。

互いの距離が段々と縮まっていく。もうすぐそこまで迫ったその時、ギルヴァは地面を勢い良く蹴った。

その瞬間彼の姿は搔き消え、残像が群れの中を駆け抜けていく。同時に生み出される無数の真空刃がイーオスとガブラスの群れに襲い掛かり、一体、また一体と瞬く間に切り裂かれていく。

血飛沫を上げながら絶命し、亡骸が地面に転がっていく中、それを背にギルヴァは静かに無銘の刀身を鞘へと納め、鍔と鯉口がかち合う音が小さく響かせる。

 

「さて…あいつらはどうしているものか」

 

先行して戦場へと飛び出た為、今現在ブレイクと処刑人がどうしているかは分からない。

混乱渦巻くこの戦場で少しだけ気に掛けるギルヴァであった。

 

 

その頃、ブレイクはヴァーン・ズィニヒにまたがり、イーオスやガブラスの群れを轢き飛ばしながら派手に暴れまわっていた。

 

「やれやれ、怪獣大戦争になってやがるな。まぁ刺激があるからそれはそれで悪くないんだけどな!」

 

スロットルを捻り、さらにヴァーン・ズィニヒを加速させるブレイク。立ちふさがる小型モンスターを弾き飛ばしつつ、窮地に陥ったMSFの兵士たちを見つけた際にはフォルテ&アレグロを用いて援護、救助していく。

もはやこの状況下でやれる事はこれぐらいだろうと彼は判断していた。

そんな時彼は要塞を発見する。要塞ではゴクマジオスに向けて対空機関砲を連射するMSFのスコーピオンとその傍でM61A2バルカンを連射する見知らぬ戦術人形を見つける。

 

「ハッ!中々シビれる事やってるねぇ。ノーネイムも連れてこりゃ良かったか?」

 

ノーネイムもまたガトリングガンを、それもまた二連装型のガトリングガンを二丁用いて利用する事がある。最もそれは専用装備「パトローネ」を使っている時に限るが。

 

「さぁてと…チマチマやんのも性に合わねぇしな。どうしたもんか…ん?」

 

誰かが置いていってしまったのだろう。偶然にも落ちていた「M202ロケットランチャー」を見つける。それも二つ落ちていた。それを見てブレイクはニヤリと口角を吊り上げる。

スリング部分を掴み片手で二つとも持ち上げると、ヴァーン・ズィニヒのエンジン音を何度も唸らせる。

そして時が来たと言わんばかりにブレイクはヴァーン・ズィニヒを発進させる。

向かう先は要塞。このまま行けば激突は必至。しかしそれは普通の人間基準に限る。

バイクのマフラーから勢いよく炎が噴き出し、そのままブレイクは車体を跳躍させ、あろう事に要塞の壁の上を駆け抜け始めた。

まるで天に向かっていくかの様に真っ直ぐ上へ走っていくバイク。その姿を見た一部の者は目を丸くするのだが、ブレイクは気に留める事すらしない。

要塞の壁を駆け上げると宙へと身を投じる。

バイクを仕舞うとM202ロケットランチャー二丁を担ぎゴクマジオスへと向けて構える。この瞬間だけ魔力を解放させ、デビルトリガーを引く。

 

「ロックオンってな!」

 

魔力を帯びたロケット弾が次々と放たれていく。誘導性は無くとも魔力によって強化された砲弾が凄まじい速さでゴクマジオスへと向かって行き次々と着弾していく。連鎖していく爆発。魔力を帯びているためか赤色の爆発が生み出される。

が、この程度は怯む様な相手ではない事ぐらいはブレイクも察した。

 

「ったく、飽きさせねぇな!」

 

魔人化を解除しつつ、ニヤリと笑うブレイク。

パーティーはまだまだ終わりはしない。それを誰もが思う事であろう。

 

 

 

同時刻。MSFの兵士たちがイーオス、ガブラスの群れに手にしている銃を連射していた。

しかし無駄に連携して動いているのか、MSFの兵士たちは徐々に劣勢へと追いやられていた。

 

「くそっ!弾がもうねぇぞ!誰か弾をよこしてくれ!」

 

「無茶言うな!こっちもギリギリなんだよ!…ッ!おい、避けろ!!」

 

「え?」

 

仲間の一人に言われ、前を向いた時…彼の目の前に映ったのが複数の小型モンスターが自身に襲い掛かろうとする光景。避けるにもう遅い。咄嗟の反応で腕を自身の顔の前にかざし目を閉じてしまう。

 

「オラァッ!!」

 

ふと聞こえた第三者の声。男は伏せていた目を開き、前を見る。

そこに居たのは黒いコートを羽織った処刑人。左手に持った大剣で群れを薙ぎ払った後の光景が広がっていた。

 

「エグゼか…?」

 

そう呟くもそこにいる彼女が自分達が知る彼女ではないと悟る。

そして処刑人は後ろに立っていたMSFの兵士に向かって言葉を投げかける。

 

「ここを受け持つ。今の内に引け!」

 

「!…す、すまない!!」

 

処刑人に言われハッとするMSFの兵士。何の手助けできずに彼女を置いていくことに謝罪しながらも彼は仲間を連れてその場から下がっていく。

彼らが見えなくなるまで下がっていくのを見届けた処刑人にクイーンを背を仕舞う。

邪魔された怒りか、小型モンスター達は処刑人に対し威嚇の声を上げる。

だがそんな事に臆する事はなく、処刑人はコートの右袖をゆっくりと捲り上げていく。そして姿を晒すは悪魔の右腕 デビルブリンガーだ。

 

「やっと使えるぜ」

 

彼らを引かせたのはこの右腕をあまり見られたくなかったためだ。しかし今は自分と小型モンスターの群れしかこの場には居ない。

漸く暴れられると処刑人は口角を吊り上げる。

相手は決して強い部類には入らない。しかし数では勝っているのは事実だ。だがそれを覆すのは彼女だ。

近場にいたイーオスに向けて腕を飛ばし掴むと処刑人は豪快にぶん回し、周囲にいたモンスターたちを薙ぎ払い、先に引いた彼らを追おうとしている群に向かって投げつけた。それにより入口は倒壊し、これで内部に入る入口は塞がれる。

それを見届け、直ぐに処刑人は攻撃を再開する。ガブラスを掴むとそのまま地面へと叩きつける。それにより生じた衝撃で近くにいたモンスターたちも宙へと舞い上がる。すぐさま背に背負ったクイーンを抜き、グリップを捻り推進剤噴射機構を発動させる。一段階だけ解放され、宙から地表へと落ちきたモンスターたちに目掛け、体を回転させつつ、処刑人は勢いよくクイーンを振るった。

 

「こんの…ッ!」

 

流石に複数同時にまとめてとなればかなりの重量がある。このまままとめて切り裂くのは不可と思われるのだが、それを可能とするのが彼女が手にしている機械剣「クイーン」である。

持ち手近くのレバーを引くと推進剤が噴射。それにより強化された斬撃が一気に複数のモンスターたちを切り裂き、そのまま推進剤を推進力として移動しつつ前方にいた敵を斬り飛ばていく。

背後から迫ってくるイーオスの攻撃をまるで分かっていたかの様に彼女は跳躍して回避。そのまま真下にいた別のイーオス目掛けてクイーンの剣先を突き当てその体へと突き刺す。

 

「行くぜ!」

 

スロットルを捻り再度推進剤噴射機構を作動。イーオスに突き刺したままレバーを引く。噴射される推進剤を用いてまるでスケートボードによる滑る処刑人。群がるモンスターたちを弾き飛ばしていき、止めと言わんばかり突き刺していたイーオスを持ちあげると片足を軸にして回転。そのまま突き刺していたイーオスをガブラスの群れへと投げ飛ばす。

刀身に付着していた血を払い、クイーンを肩へと担ぐ処刑人。未だこの場にいるモンスターたちの群れを見渡しながら静かに呟く。

 

「そんじゃ、掃除を始めるか」

 

 

 

 

そして戦いは漸く終焉へ向かい始める。

巨大な撃龍槍がゴクマジオスの肉体を貫く光景を目にしていたギルヴァは決着が近いと察していた。

ならば自身も全力を出す必要がある。それは離れで見ていたブレイクも感じていた事であった。

彼らは己に内包する「魔」に引き金を引いた。それにより別々の箇所に蒼と赤との波動が戦場へと広がっていく。

そしてこの戦場に見せるのは青と赤の二体の悪魔。魔人化を果たした彼らは己の獲物を手に、その羽を広げゴクマジオスへと向かって行くのだった。




今回は最初の方がまだ三体による大乱闘している一方でのうちの面々の動きです。
勝手にコラボしている所のキャラとか出しちゃってるけど…良かったかな?(怒られたら修正します)

そろそろ決着みたいなので、ギルヴァとブレイクは魔人化を発動させています。
なので戦場で青の悪魔と赤の悪魔を見かけたらこの二人なんで討たないでね!


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Act91-Extra Devil&Monster Ⅴ ☆

―――新たな嵐は静かに迫りくる


車内でグローザが選曲した曲が流れており、車両はS10地区へ向かって走っていた。

今回の元凶であったモンスターは無事討伐され、勝利を納めた事により歓声があがっている最中にも関わらず、静かにギルヴァらは早々にその場から離れていた。

自分達は飽くまでも討伐の協力しただけ。事後処理は向こうの仕事。残っていても意味がないと判断した上での行動であった。去ろうとした際にvectorに声をかけられたがギルヴァは「別の依頼がある」と伝えた上で、「今回の様にモンスター、または悪魔、幽霊…そういう依頼があればうちに連絡してくれ」と店の連絡先を教え、そして今回の作戦で亡くなった者達へのお供え物として、自身の魔力で生み出した群青色に輝く花を渡したのち、その場を去った。

 

「しっかしとんでもない戦いだったな。元凶も馬鹿みてぇにデカいし、あまつさえは竜にロボット、俺達と似ている様で違う狩人も出てくるし…隣の地区の基地やS13地区の指揮官に…EA小隊か?そこも来てたんだろ?もうカオスってレベルじゃねぇだろ」

 

あの戦いで起きた事を思い出しながら口を開くのは座席に腰掛け、背凭れに体を預ける処刑人。

今まで彼女が経験した戦いの中で今回の一件は体験した事のない戦いだった。悪魔どもを相手取る前にこの様な戦いに経験するとはなぁと彼女は心の中で思っていた。

 

「だが中々に刺激のあるパーティーだったがな」

 

ソファーに寝転がり雑誌に読みながら戦いの感想を述べるブレイクに処刑人はどこか呆れた表情を浮かべながら言葉を投げかける。

 

「そう思えるのはお前だけだって、ブレイク」

 

「そうかい?」

 

どこまで余裕のある態度を崩さないブレイク。

二人の話を聞いていたグローザも少し呆れた表情を浮かべながら、処刑人の隣に腰掛ける。

そんな中、ノーネイムが何か気付いたかの様に助手席に座り45を膝の上に乗せたギルヴァへと疑問を投げかけた。

 

「しかし戦いが終わってすぐにあの場を後にしている訳だが…何か考えがあっての行動なのか、父よ」

 

「…大したことではない」

 

どこかその声は知られたくない様な感じであり、ノーネイムは不思議そうな表情を浮かべる。

だが深く追求するつもりなかったノーネイムだったが、聞いていたブレイクが暴露した。

 

「あっちのFALにしつこく付きまとわれていたのさ。おまけに個人の電話番号を教えられそうになってたぜ」

 

その瞬間バンが急停止した。

突然の急停止に誰もが態勢を崩し、ギルヴァとブレイク以外の者達が代理人の方を見つめた。

運転手である代理人は何故か下へと俯いており、UMP45も顔を下へと向けていた。

この絶対零度と化した空間で元凶たるブレイクは何食わぬ顔で周りを見回したのち、そのまま広げていた雑誌を自分の顔を隠す。

 

「代理人…」

 

「…分かっていますよ、UMP45」

 

ギルヴァの妻だからこそ分かるのだろう。

二人が今からしようとしている考えは同じであった。

 

「「少しそいつにオハナシしないと」」

 

「やめろ」

 

制止の声を聞かずに行動しようとする二人を止めるのにギルヴァが説得したのは言うまでもない。

 

 

何とか説得して30分後。

全員を乗せたバンはS10地区へと向けて走り出していた。

助手席に45を置き、ギルヴァは後ろの座席に腰掛けていた。対面には処刑人が腰掛けている。

 

「そういや、隣の地区に二代目クイーンを送ったとシーナから聞いたけどよ。今誰が使ってんだ?」

 

「さぁな。だが大体は予想がつく。いずれは模擬戦の相手に俺が出向いても良いかも知れん。最もそういう依頼があればの話だがな」

 

「ふーん…まぁ今は聞かずにしておくぜ。そういう楽しみは後に取っておくのがいいからな」

 

その時がいつにはなるかは誰にも分からない。

しかしその様な依頼があればギルヴァは出向くつもりでいた。最も彼は加減を知らない為か地獄の模擬戦になるかも知れないが。

対して処刑人は二代目クイーンを使っているその者と今の自分の力、技量がどこまで通用するのだろうかと思っていた。彼女もまたクイーンを使う者の一人。推進剤噴射機構の扱い方を理解し、今は「Max.Act」の練習に励んでいる。判定がシビアな為か発動させる回数は少ない事もあってか、最近では自身で生み出したのか全開放に至らずとも一段だけ解放する技術「Ex.Act」を生み出したりしている。

 

「もしそういう依頼があったなら俺も同行する。俺の相棒を参考に作られた銃を扱っているそいつに会ってみたいからな」

 

「…勝手にしろ」

 

(…こいつの銃の扱い方を見ればどうなる事か)

 

レインストームやハニカムファイアなど現実離れした技を良く使うブレイク。

彼の技術を見れば相手がどのよう反応を見せるかギルヴァは何となく察しがついていた。

恐らく銃やクイーンは二人に任せ、自分に教えを乞う者はいないだろうとも判断していた。何故なら空間を切ったりといった芸当は愛刀である「無銘」だからこそ出来る事なのだから。

だがそれでも相手して欲しいと言うのであれば受けるつもりでいるのだが。

 

「そう言えばこれって報酬出んのか?」

 

ふと気になったのだろう。ブレイクが今回の報酬について声を上げた。

それへと答えるのは誰一人もいない。飽くまでも今回の一件は要請であり、便利屋に依頼された案件ではない。

報酬が出るかどうかすらこの場に全員ですら分からなかったのだ。

 

「どうだろうな。出るならそれで良し。でなくてもそれは仕方ないと判断すべきだろう」

 

「ま、そうだろうな。悪魔がらみじゃねぇが、置いといたら厄介な話だったしな。そもそも報酬目当てで動くつもりなんてなかったからな」

 

ブレイクとて報酬の件に関しては単に気になっていただけに過ぎないので深く追求するつもりはなかった。

 

「さぁて、帰ったらストロベリーサンデーでも食べたいぜ。ローザ、戻ったら作ってくれ」

 

「昨日も食べたでしょうに…。まぁ今回は色々大変だったから特別に作ってあげるわ」

 

よし!とガッツポーズを決めるブレイク。やれやれと言いながらもグローザは優しく微笑むのだった。

 

 

S10地区へと戻っていく車両。

それを遠くから見つめる者がいた。それはかつてS10地区を目指していたブレイクを遠くから見つめていたあの少女だ。

長く伸ばされた赤き髪は何かの影響があったのか大半が白く染まっているが、かつての赤色もまだ残っていた。その事によりグラデーションがかかった様な色合いへと変化していた。かつて着ていたドレスは何処へ行ったのか、今はまるでコートを羽織り、ホットパンツを穿いていた。頭に生えていた角部分には偽装のヘッドパーツと取り付けれており、何よりも戦闘服らしきものを身につけていた。手には何処で手にしたのか、S11地区後方支援基地での作戦にてグリフィン側を苦しめてきたヘル達の上位種「ヘル=バンガード」が持っていた大鎌を持っていた。

走り去っていくバンを見つめながら、彼女は口を開く。

 

「この感覚…やはり彼ですね」

 

片言だった口調は見違えたかの様に流暢な口調へと変わっていた。

そして彼女はあのバンに、かつて醜悪な姿をしていた自身と激闘を繰り広げた彼が乗っている事を確信した。

今からあのバンを追って姿を晒そうかと思いつつも今はそれをする必要ないと判断。その時、コートの懐に入れていた通信機のコール音が響いた。

彼女はそれを取り出し、通話できる状態にした後、それを耳に当てる。

 

『やっと出おった。…頼んだ調べ事は済んだかの、ルージュ』

 

「はい。どうやら彼女たちが送られた先は貴女が予想していた通りでした」

 

『やはりか…』

 

彼女…ルージュからの報告を聞き、真剣みが帯びた声を聞かせる相手。

そんな声を聞きながらも彼女は報告を続ける。

 

「グリフィンの指揮官でありながら人権保護団体過激派との繋がりがあったあの悪魔、そしてS11地区後方支援基地の指揮官であったあの男も、秘密裏に"そこ"とつるんでいたみたいです。…グリフィン側が知らないのは、今時の最先端技術ではなく、アナログな方法で連絡を取っていた様です」

 

『成程の…。S10地区前線基地が行動起こした事により、存在が知られる前に手を引いたという訳か』

 

「そう見ていいでしょう」

 

『…そうか、分かった。戻ってきてよいぞ』

 

「分かりました。…帰りに何か美味しい物買って帰りますからね、"ダンタリオン"」

 

『うむ!楽しみに待っておるぞ』

 

それを最後に通信を切るルージュ。

もう見えない所まで走っていったバンの方を向き、"彼"へと言葉を投げかける。

 

「また会いましょう」

 

そう残して彼女はその場から去っていくのだった。

果たしてルージュと呼ばれる彼女と通信相手のダンタリオンが調べている事は一体何なのか。

それが明かされる日は決して遠くない。




決戦時はうちの面々は地道に戦っていたという事で許してね。

さて…模擬戦は依頼があれば動くとしましょうかね。
兎も角コラボの参加していた皆さま、お疲れ様でした。
そして今回のコラボの主催者である犬もどき様!参加させて頂いてありがとうございました!
今回の作戦で命を落とした方もいるので、ギルヴァからそちら所属のvectorにお供え用の魔力で錬成した群青色に輝く花を渡しましたので、ご自由にお使い下さい!


因みに最後の部分ですが、これ…実は大型コラボ作戦の第二弾の伏線でもあります。


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Act92 complete

―――それは新たな戦力


S10地区前線基地、第二格納庫…。

そこは基本後方幕僚であり魔工職人であるマギー・ハリスンもといマキャ・ハヴェリの第二の工房兼S11地区の作戦で回収された魔具や大型機動兵器 リヴァイアサン、そしてノーネイムの専用装備「パトローネ」と「ラヴィーネ」の保管している部屋と化している。

室内で最終作業を終えたマギーは額の汗を拭いつつ軽く一息つくと、目の前に鎮座する物を見ながら呟いた。

 

「やっと完成しましたね」

 

白く塗られた装甲に巨大な図体。この機体の脚とも言える大型ブースターユニット。大型ブースターの間に挟み込む形で配置された計12の発射口から垂直ミサイルを放つテールミサイルコンテナ。

搭乗者を挟み込む様にして配置された巨大な二基の主砲。その砲塔側面に配置されたコンテナが二基存在し、両方合わせて四基装備されており、コンテナ同士の間に挟み込む様に配置された大型砲口が配置されている。

そして搭乗者の後方には折り畳み式の大型武装が配置されている。これは搭乗者自ら使う代物なのだが、それがどういったものなのか。これら以外にも武装及び特殊機構が搭載されており、それを知るのは今の所マギーのみと言えよう。

そして漸くと言うべきか。大型機動兵器「リヴァイアサン」が完成したという知らせは瞬く間に基地全体に広まったのは言うまででもないだろう。

 

 

 

「これがリヴァイアサンか…凄いなぁ」

 

リヴァイアサンが完成したという知らせを受け、第二格納庫へと訪れたシーナは鎮座するそれを見てそんな声を上げた。S11地区後方支援基地の作戦にて回収された当時は未完成のままであった。数か月費やして漸くその姿を見せる事が出来たのだ。リヴァイアサンの事はシーナも回収され未完成の状態の時から知っていたが、本当の姿を見て感嘆の声を上げたのは決して可笑しくないだろう。

そして出来たからにはこのまま置物として置く訳には行かない。完成したのであれば、次に行わないとならないのが運用試験である。その為にシーナは時間を割き、非番の人形達、時にはデビルメイクライの面々に手伝ってもらったりなどしてこの基地が稼働した当時からあったカタパルトデッキの整備及び修繕工事を行ってきたのだから。

 

「あれ?」

 

完成したリヴァイアサンを眺めていたシーナであったがある部分を見て疑問の声を上げた。

それはリヴァイアサンの搭乗席に当たる部分なのだが、単座ではなく複座式になっていたのだ。ノーネイムが運用する事を予定されている事をマギーからグリフォンに、そしてグリフォンからシーナへと伝わっている。

故に何故複座式となっているのか疑問に思い、彼女は製作者たるマギーへと問いかける。

 

「どうして複座式に?ノーネイムが運用する事を予定としているなら必要ないんじゃ?」

 

「ああ、その事ですか。いえ、必要ありますよ。寧ろ敢えてそうしたんです」

 

「と、言うと?」

 

小首をかしげ疑問の表情を浮かべるシーナに、マギーはある方向へ指さした。

そこに置いてあったのはノーネイムの第二の専用装備「ラヴィーネ」。しかし以前の人権保護団体過激派基地に運用した時と比べて、背部に配置された新たな武装に大型ウイングバインダーなどが追加されていた。

この姿こそ「ラヴィーネ」の本当の姿なのだが、このラヴィーネとリヴァイアサンの複座式がどのように繋がるのかシーナには予想出来なかった。繋がりが見つからない事によって更に困惑の表情を浮かべるシーナを見てマギーは小さくクスッと笑うとマギーはその疑問に答える。

 

「ラヴィーネとリヴァイアサンの同時運用を思い付きまして。複座式にしたのは途中でラヴィーネを装着したノーネイムさんが離脱した際にもう一人の操縦士にリヴァイアサンを操縦を委ねる為ですよ」

 

「となると…二人での運用が必要という事?」

 

「必ずとは言い切れませんがね。ですが私にはリヴァイアサン単機で戦闘行う事が可能とする高度な戦闘AIを作る技術は持ち合わせていないので。それでこそ、AIというのはこの世界ならではの技術と言えるでしょう。魔界では魔術とかで行使する事がありますから」

 

魔界で伝説の魔工職人と謳われたマギーとてこの世界のAI技術に関しては目を張る物があったがその技術を習得という気はなかった。自身が得意とするのは武器や防具などといったものであり、高度なAIといったものには大して興味を示していなかったというのが大きかったりする。

そこまでのめり込むつもりはなく、飽くまでも自身の出来る範囲内でやっていくのかのがマギーの信条なのだ。

 

「成程ね。取り敢えず完成したのは良かったとして。…運用試験の日を設けないとね。いきなりじゃ向こうにも失礼に当たるからね」

 

「そうですね。それにノーネイムさんにも説明しないといけませんから。運用試験はもう少し先になりそうですね」

 

明日という訳にはいかない。

しかし空という海を支配する悪魔の名を冠する兵器がその姿を晒す日は近いという事は間違いないだろう。

 

 

その頃、ギルヴァは基地内部模擬戦闘訓練場へと訪れていた。

以前彼が処刑人の相手を務めた場所ではなく、今までの戦闘にて会敵した敵を疑似投影する事で敵として出現させる事を可能とする場所であり、戦術人形が良く利用する所でもある。

本来であれば鉄血人形兵や機械兵を大量に出現させ、一人でどこまで倒せるか試そうとしていたのだが、そこに暇を持て余し遊びに来ていたブレイクが訪れた。

ギルヴァがやろうとしている事に気付いたブレイクは彼にある事を持ちかける。

 

「一人で寂しくやる事はねぇだろ。どうだ?どっちが多く倒せるか競争してみようぜ」

 

「下らん。わざわざ競う必要がどこにある」

 

最初こそはその必要性を全く感じられず本来の目的を成そうとするギルヴァであったが、ブレイクのある台詞がきっかけに気が変わる事になる。

 

「何だよ、負けるのが怖いのか?」

 

たったそれだけの台詞だった。

しかしギルヴァを焚きつかせるには十分すぎる程であった。

 

「…良いだろう。お前の下らん遊びに付き合ってやる」

 

意外と知られてない事であるがギルヴァという男は負けず嫌いな一面がある。

ましてやそんな挑発…相手がブレイクに限るのだが乗ってしまうのだ。

ギルヴァが挑発に乗った事により、競争が始まるのだが…。

 

「俺が多く倒したみたいだな?そろそろ負けを認めたらどうだよ、ギルヴァ」

 

「ふざけるな。俺の方が一体多く倒したぞ。負けを認めるのはお前の方だ、ブレイク」

 

一度も休む事せず競争し続けて三時間。

全試合、両者同点で終わっており両者勝つまで引く気がないのか延長戦が何度も繰り広げられていた。

気付かぬ内にギャラリーも一人、また一人と増えておりその中には404小隊の面々や代理人、グローザにノーネイム、フードゥル、グリフォン、非番であった者達、またここに身を置いているAR小隊の三人までも混ざっていた。

処刑人もその中に混ざっていたのだが、彼ら二人の技術を盗めるチャンスを逃した事を悔しがっており隣に立っていた95式の肩に乗っていたニャン丸がその小さな足で処刑人の肩をポンと置いた所を一部が見ていたのだがそれに処刑人が気付く事はなかった。

そしてこの後も延長戦が続けられたのだが、結局は勝負はつかずに終わってしまったのは言うまででもないだろう。




はい。という訳で大型機動兵器「リヴァイアサン」の完成です。
次回は運用試験に乗り出すかな…?(未定)


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Act93 Preparation for flight

―――畳んだ翼はゆっくりと広がっていく


第二格納庫にて、マギーから大型機動兵器「リヴァイアサン」の説明を受けたノーネイムは静かに鎮座するそれを見つめていた。

最初こそはマギーに呼び出され、そして自分が操縦士として任された事に関しては多少なりの驚きがあったのだがリヴァイアサンを見つめている彼女の表情には不安といった表情は見受けられない。

何時もの様な佇まいでリヴァイアサンが見つめるノーネイムがいた。

そしてその横にはギルヴァが立っていた。偶然にもノーネイムと一緒にいた彼はマギーからリヴァイアサンが完成した知らせを聞き、ノーネイムと共にここへと訪れていたのだ。

ノーネイムがリヴァイアサンを見つめている傍らでギルヴァは声をかけた。

 

「不安などないのか」

 

「不安?」

 

「ああ。これだけ大きな物を動かす事になる。ましてや今まで動かした事のない代物だ。多少なりの不安はあるだろうと思ったのでな」

 

「どうだろうな…。もしかしたらそういった不安はあるかも知れない。ただ私にはそれが分かっていないだけかも知れない」

 

普段と変わらぬ表情を見せるノーネイムを見て、ギルヴァはノーネイムの肩へと腕を伸ばすとそっと彼女を抱き寄せた。こういった事はあまりしないギルヴァ。その事はノーネイムも知っている。

彼の突然の事にノーネイムは驚きつつもギルヴァから感じられる暖かさが自身でも気付かなかった重しを取り除いてくれている様な感覚を覚えた。

彼から感じる暖かさに身を預けつつノーネイムは静かに口を開く。

 

「らしくないな、父よ」

 

「かも知れんな。…だがこういう事は大事と思ったのでな」

 

「そうか…。うん、今はこの方が良いかも知れない」

 

ギルヴァへと自身の体を少しだけ預けるノーネイム。

一度彼の方へ顔を上げるがギルヴァはじっとまっすぐリヴァイアサンを見つめており、彼女の方へ向く事はない。

もしかしたら普段からしない事をしているせいかギルヴァも表情には出さずとも内心恥ずかしがっているのかも知れない。

だがそれを聞いた所で答えてくれる様な彼ではない。それでも不器用なりとも自身を安心せようとしてくれる(ギルヴァ)の思いやりをしっかりと感じ取るノーネイム。

リヴァイアサンが完成した事を聞きつけて第二格納庫にUMP45らや処刑人が訪れるまでの間、普段から甘える事をしない彼女はこの時だけギルヴァへと甘えるのだった。

余談であるがUMP45らがここに訪れ、ギルヴァに甘えるその姿を見られた時は流石のノーネイムも顔を真っ赤にしていたという。普段から見られぬ娘の新鮮な姿を見る事が出来たと満面な笑みを浮かべながら語るUMP45と代理人がいたとか。

 

 

ノーネイムの赤面した表情が複数人に見られた後の数時間後。

運用試験の日取りが決まり、その準備に向けてマギーの指示の元カタパルトデッキにて非番の子達やデビルメイクライの面々が作業していた。

第二格納庫から直接運搬用の台座に運ばれてくるリヴァイアサンを見て感嘆の声を上げる者もいる中、ノーネイムはマギーに手渡された端末に目を通していた。

そこにはリヴァイアサンを通る為のテストコースや行う試験内容が表示されており、それらの内容をノーネイムは電脳へと記録していた。そこに彼女の元へと近寄り声をかける者がいた。

 

「気合いが入ってんな、姉ちゃん。運用試験日は二日後って聞いているぜ?」

 

「グリフォン」

 

そこに居たのはおしゃべりでどこか憎めない猛禽類の姿をした悪魔 グリフォンだ。

一応手伝いで来ているのだが、特に出来る事がないと判断し暇を持て余していた。偶然にもノーネイムが居た為、声をかけた次第だ。

バサバサと翼を羽ばたかながら滞空するグリフォンを見て腕を伸ばして彼が止まれる様に足場を作るノーネイム。それを見てグリフォンは気が利くねぇと口にしながらゆっくりと降下しながらノーネイムの腕を足場にして着地する。彼が着地したのを確認するとノーネイムはグリフォンの問いに答えた。

 

「ここの新たな戦力になると思うと気合いが入る。最も何度も使える代物とは思えないがな」

 

「まぁこんだけデケェモンだからなぁ。消費する資材もハンパじゃねぇわな」

 

「ああ。まさしく決戦兵器といっても過言でもないかも知れない」

 

だがこれは意外と知られていない事であるのだが、弾薬や装甲とかは何とかなっていたりする。

これだけ大きな物を動かすとなれば消費する資材も膨大なものになる事が分からないマギーではなく、彼女は「パトローネ」に搭載されている特殊機構をリヴァイアサン用に規格を合わせたものを搭載させ、装甲に至っては魔工職人の知恵をフル活用し、ちょっとの攻撃では傷一つ付かない程の防御力を有した物を使っている。

残るのは整備だが、整備、修理などはマギーの得意分野である為そこまでかからない。

見かけに寄らずリヴァイアサンは資材に優しい存在である事はこの時点では製作者を除き誰も気づいていないのは仕方ない事である。

 

「うわぁ、凄いですね!」

 

「ん?」

 

グリフォンと話していた事によりいつの間にか誰かが傍にいた事に気付くノーネイム。

そこに立っていたのはハンドガンの戦術人形 Spit-Fireだ。最近になってS10地区前線基地所属となった人形なのだが、製造によってここに所属となった人形ではない。彼女はグローザやSPAS-12、M590、WA2000と同じ様にS11地区後方支援基地所属だったのだ。あの時の作戦にて救出された彼女は四人に遅れてここに所属となった。CZ75を姉としてリスペクトしている点や歌を得意としている点は他の基地で所属している自身と何ら変わりない。

ただ彼女、ここに所属する事になってからはというものスタイリッシュな動きを披露するブレイクやギルヴァを見て、スタイリッシュな二人に合う曲作りをしていたりする。

それだけではとどまらず作曲すら一人でやってのけ新曲を発表したり、色んな曲を歌ってみせる。そんな彼女を見て誰がそう称したのか本人が知らない内に「歌姫」と称されている。

完成したリヴァイアサンを見て目を輝かせる彼女の姿がそこにあった。そしてノーネイムの視線に気付いたのかSpit-Fireはノーネイム達の方に向き、挨拶する。

 

「あ!ノーネイムにグリフォン、こんにちは」

 

「ああ。今日は歌の練習しなくていいのか?」

 

「はい!今日はお休みです」

 

Spit-Fireが良く歌の練習している事はノーネイムは知っている。

それ以上にこの二人は非常に仲が良い。最初こそは話す事はなかったのだが、ここに来て緊張していたSpit-Fireの為に基地の案内などをして優しく接していたのがノーネイムである。

Spit-Fireはシーナからノーネイムが鉄血のハイエンドモデルだという事を聞かされており、それでも、とても優しくしてくれる彼女と仲良くなりたいと思っていた。後に勇気を振り絞ってノーネイムに友達になって下さい!と言ったのはごく最近の事である。

因みにノーネイムはギルヴァに友達が出来たと嬉しそうに報告しており、ギルヴァは良かったなと彼女の頭を撫で、UMP45と代理人はその事を聞いた時は軽く涙した。

 

「これの操縦士を任されたって聞きましたよ」

 

「ああ。実の所、私も今日それを聞かされたばかりだ。急で驚いたがな」

 

「その割には落ち着いているみたいですけど?」

 

「そこは…まぁ色々あったのでな」

 

ギルヴァに甘えた事、その姿を見られた事を思い出したのかノーネイムの頬は軽く紅潮する。

そんな彼女を見て不思議そうな表情を浮かべるSpit-Fireであるが、問う事はせずノーネイムの隣に座る。

彼女の腕に乗っているグリフォンを見て、Spit-Fireも腕を伸ばす。するとグリフォンはノーネイムからSpit-Fireの腕の方へ移動し着地する。

 

「おうおう。今日は優しいお嬢ちゃん達で嬉しいぜ」

 

「またUMP45さんの胸の事で何か言ったんですか?いい加減しないと本当にフライドチキンにされますよ?」

 

そう言いながらグリフォンの頭をコツンと突き、咎めるSPit-Fire。

それに対しグリフォンは不敵な様子で答える。

 

「そう簡単にくたばらねぇよ。いざとなりゃ逃げれば良いしよぉ」

 

「全く…」

 

それでも憎めない鳥だと再度認識するSpit-Fire。

初めて会った時は喋る猛禽類に驚いたが、今では良い感じの関係を保ている。それどころかSpit-Fireはグリフォンに甘かったりする。その理由に関しては誰にも話した事はなく、知るのは彼女のみとなっている。

 

「あ、そうだ。これ渡してきます」

 

何かを思い出したようにある物を取り出しノーネイムに差し出すSpit-Fire。

彼女が差し出したのはある曲が入った記録媒体だ。カバー曲であるが、ノーネイム用にと歌った曲である。

 

「カバー曲ですけど、ぜひ聴いて下さいね!」

 

「ああ。運用試験中に流すとしよう」

 

「そこは真面目にやってくださいね!?」

 

ノーネイムらしからぬボケにしっかりとツッコミを入れるSpit-Fire。

そこの空間だけのほほんとした雰囲気が流れており、二人と一羽のやりとりを聞いていた者達は優しそうな笑みを浮かべるのだった。




という訳で今回はいきなり運用試験ではなく、運用試験前の話を描かせていただきました。
たまにノーネイムにも出番を思いましたね…それでこのよう話になった訳ですよ。

あとSpit-Fireを出した理由は最近になってお迎え出来たので出した次第です。
歌とかうまそうだから出したかったんだよ!冷静なノーネイム、明るいSpit-Fireのコンビも悪くないだろ!?

次回は運用試験で行こうかと。一応隣の地区上空を飛行する予定です。


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Act94 leviathan

―――飛翔の時


大型機動兵器「リヴァイアサン」の運用試験当日。天気にも恵まれ、風一つすら吹いていない。

S10地区前線基地から外へと大きく突き出したカタパルト。そして射出機の上ではラヴィーネを身に纏うノーネイム佇んていた。至る所に装着された白き装甲、ヒール状の脚部装甲、銃剣盾が一体化した複合兵装が両手に握られている。そして駆動音をたてながら両肩の大型砲を干渉しない様に取り付けられた大型ウイングバインダーを前へ向けると背部に装備された中距離用の連射砲を自身の腰の横に展開。

顔、耳を保護する為のヘッドギアに装備された目を保護する為のバイザーが展開され、同時にフェイスマスクも動き出し、ノーネイムの顔面は保護バイザーとフェイスマスクによって覆い隠される。

そして最後は背中の配置された変形機構を備えた大型ブースターも動き出し、まるでその翼をゆっくりと広げるかの様にその姿を変形させた。

この姿はラヴィーネがリヴァイアサンとドッキングする際に必要な形態である。

形態移行済ませたノーネイムは無線で管制室に居るマギーへと変形を済ませた事を伝える。

 

「変形終了」

 

『了解。第二フェイズへと移行。昇降エレベーター、動きます』

 

着々と準備を整えていくノーネイムの周囲では万が一鉄血の攻撃があった時に備えて武装した戦術人形達が立っており、射出機の上に立つノーネイムの後方では駆動音を響かせながら昇ってくる昇降エレベーターからは大型機動兵器「リヴァイアサン」がゆっくりとその姿を露わにする。

複座式のコックピットブロック。二門の主砲。その下部に取り付けられた二基のクローアーム。主砲後方側面に配置されたミサイルコンテナ。コンテナ同士に挟み込まれた副砲。

リヴァイアサンの脚となるメインブースター、重武装化による機動力低下防ぐ為にミサイルコンテナの下部両端には円柱型サブユニットスラスター四基を装備。

そしてコックピットブロック後方に配置された折り畳み式超大型レーザー砲。使う際にはサブアームを用いて操縦士へと手渡す。これはリヴァイアサンの主砲をそのまま操縦士でも利用できるように携行火器用に改造したものなのだが、余りにも大型、かつ重量がある為操縦士が武器を動かして狙いを定めるのではなく機体を回頭させて狙いを定める必要がある代物。

一度放てばリチャージに時間を要する、取り回しの劣悪性など問題点は上がるが威力、射程は携行武器としてはずば抜けた性能を有する。

そして空飛ぶ戦艦とも言っていい大型兵器が、晴天広がる空の元、堂々とその姿を晒した。

 

「これが…」

 

「…リヴァイアサン。何て大きいの…」

 

完成されたリヴァイアサンを初めて目にする者は決して少なくない。万が一鉄血の攻撃があった際に即座に対応できるようにカタパルトの周囲で武装し警戒していた人形達はその巨体に圧倒されていた。

しかし今はそれに圧倒されていては駄目だと判断したのか直ぐさま周囲の警戒へと入っていく。

 

『台座の移動開始。リヴァイアサン、コックピットブロック第一座席の変形開始。ドッキングまで2.5秒』

 

カタパルトデッキにその姿を晒したリヴァイアサン。それを乗せた台座がその先で立っているノーネイムへゆっくり動き出した。ノーネイムとの距離が縮まる中、コックピットブロック第一座席が変形を開始。シート部分が収納され、まるで口を広げるかの様に専用の足場、専用の操縦桿が現れ、ラヴィーネ装着時のコックピットへと変貌を遂げた。

ノーネイムとリヴァイアサンの距離がほぼ無いとなった瞬間、リヴァイアサンとラヴィーネを繋ぐコネクタ同士が繋がる。共に一体化し、無事ドッキングが完了したと判断するとノーネイムは小さくホッと息を吐くがすぐさま頭を切り替え、機体の起動準備へと入った。

 

「ラヴィーネ、リヴァイアサンとのドッキング完了。各部、全兵装、異常なし。反重力システム作動確認」

 

『ゲートオープン。隔壁展開します』

 

ノーネイムの周囲を囲む様に隔壁が現れた事により、そろそろ飛び出すのだと感じた警戒に当たっていた人形達は素早くその場から離れ安全な所まで退避。ブースターの勢いで吹き飛ばされない様に身をかがめ、リヴァイアサンが飛び出すのを今か今かと待った。

リヴァイアサンの全てのブースターが点火。微量の火が吹き出しはじめる。

準備は整った。あとは発進許可を待つだけ。

 

「ブースター起動。出撃準備完了。指示を待つ」

 

『了解。安全装置解除。カタパルト出力安定。…コースは既に教えた通りです。あちらの地区では余り高度を下げ過ぎない様に気を付けてください。近隣の方々を驚かせてしまいますので。それとあちらの地区ではギルヴァさんらがそちらが無事通過した事を私達の方に報告する為に地表で待機していますが、ノーネイムさんは気にせず指定のコースを辿って下さい』

 

「了解」

 

『では…射出タイミングは貴女に譲渡します。いつでもどうぞ』

 

「了解した」

 

一度目を伏せてノーネイムは軽く息を吐く。

操縦桿を力み過ぎない程度に握り直すと伏せていた目を開き、操縦桿を軽く押し込んだ。

それにより緩やかにカタパルトの上をすべっていく機体。そして反重力システムによって機体が浮かび上がり空へと舞い上がっていく。

まだブースターを全開にしない。十分な距離が取れるのを待つノーネイム。

そして機体とカタパルトデッキとの距離が十分に取れた時、彼女は思い切り操縦桿を押し込んだ。

その瞬間全てスラスターノズルから一斉に火が吹き出し、瞬く間に機体は最高速度まで加速。空高くへと飛翔する。

今この時を持って、悪魔がこの青い空に姿を現した。

 

 

 

S09 P地区では町から離れた場所で一台のバンが止まっていた。

バンには代理人とギルヴァが乗っており淹れたての紅茶を飲みながら、リヴァイアサンが訪れるその時を待っていた。シーナとマギーからの指示で、リヴァイアサンが無事通過した事を報告する為に二人はこちらへと赴いていたのだ。

 

「そろそろか」

 

「そうですね。先程飛び立ったと連絡がありましたから」

 

リヴァイアサンの運用試験が始まったという連絡は既に受けている。ギルヴァも代理人もそれを知っており紅茶を飲み干すと二人は共に車外と出た。

雲一つなく広がる青空。見晴らしのいい位置にいる事もあり、移動せずともリヴァイアサンの姿を捉える事は出来る。そしてギルヴァの耳には遠くから風を切る音が届いていた。

 

(思ったより早いな)

 

―まぁあんだけデカいもんだしな。ここに来るのが早くても可笑しくないさ

 

(そうだな…。しかしまたここに訪れるとはな。顔で出せば良かったか…)

 

討ち損ねた時は秘密裏に動いていた彼であったが、こういう時ぐらいは連絡でも取るべきかと思うギルヴァ。

しかし今更それをする暇なくリヴァイアサンがこの地区上空に姿を見せるのは待つ事にした。

車体を背を預け、腕を組みながらその時が来るのを待つギルヴァ。その隣に並び立つ代理人も静かに愛する娘が乗るリヴァイアサンを待った。

その時であった。高度を高く取りながら空を駆け抜ける白き装甲を纏う悪魔が姿を見せた。

スラスターの光によって青い空に光の筋が描かれていく。もし運用試験が夜に行われていれば、その姿は流星の様に見えるであろう。

リヴァイアサンは指定されたコースを辿っていきながら、その巨体から想像出来ない軽やかな機動でバレルロールを披露。まるでこの空を自由に飛び回れる事を喜んでいるかの様である。

するとリヴァイアサンの脚部ブースターが動き出し、後方から前へと向けられた。それにより急激に機体は減速しつつ、脚部ブースターを真下へと向ける。そのまま機体はその場で滞空を開始した。

先程までの形態は巡航形態と言われるもの。この形態はアサルトモードと言われるもので、行うべきテスト内容に含まれている内容の一つである。それがこのアサルトモードが確実に起動するかというものだ。

そしてこの形態を搭載した理由がコックピット後方に配置されたあの折り畳み式超大型レーザー砲を使う為だけと一つしかない。しかし他の行動にも転用できる辺りは決して理由が一つとは言い切れないのも事実であるが。

今回の運用試験では折り畳み式超大型レーザー砲は使用しない形となっている。アサルトモードが確実に起動した事を確認したのかリヴァイアサンは脚部ブースターを元の位置へ戻し巡航形態と姿を変えるとそのまま地区上空を飛び去って行った。

 

「行ったか」

 

「そうですね。基地の方に無事通過した事を連絡してきますね」

 

「ああ」

 

基地にリヴァイアサンが無事通過した事を伝える為、バンの中へと戻っていく代理人。

ギルヴァはリヴァイアサンが飛び去って行った方向を見つめつつ、小さく呟いた。

 

「あいつ一体どこに行ったのやらか」

 

この地区に訪れているのはギルヴァと代理人だけではない。ブレイクも訪れていたのだが、リヴァイアサンがこの地区上空に現れる前に暇だから少しうろついてくるという理由でこの場から離れている。

そしてそのブレイクは町中にある建物の屋上にいた。少し離れた先には魔界の覇王との戦い以降に世話になった基地が見えていた。

 

「全くすげぇもんだな。本当に空を飛んでやがった。俺も乗せてもらうべきだったか」

 

ブレイクもこの建物の屋上でリヴァイアサンを現れ、一連の動きを見せてから飛び去っていくのを見ていた。

特に問題なく進んだと判断するとジッとその先にある基地を眺めた。

その間、彼は一言も発さない。何を考えているのか彼だけにしか分からない。

暫く沈黙を続けた後、ブレイクは軽く口角を吊り上げた。そのまま背を向け歩き出すとまるで見られている事に気付いていたかのように腕を上げて、手を軽く振った。

そして建物から飛び下り、停めてあったヴァーン・ズィニヒに跨るとエンジン音を響かせながらギルヴァ達がいるバンへ走っていくのだった。

 

 

その頃、S09 P地区を後にし、ノーネイムを乗せたリヴァイアサンはS10地区前線基地のカタパルトデッキに向かってゆっくりと着地態勢へ移行していた。

機体を回頭させ、ライディングギアを展開。そのまま射出台の上まで来るとゆっくりと着陸。

無事着陸するとラヴィーネを纏っていたノーネイムがコックピットから降り立ち、出迎えに来ていたシーナとマギーが彼女の元に歩み寄ってきた。

 

「お疲れ様」

 

「ああ。無事運用試験完了した。飛行、変形にも異常が見られる事はなかった」

 

「うん。私としたらこのままこの基地の戦力として運用すべきと思うのだけど…どうかな、マギーさん」

 

シーナにそう尋ねられ、そうですねと答えつつ端末を操作していくマギー。

暫く睨めっこを続けた後に、小さく微笑みつつ納得がいったように頷くと二人の方へ顔を上げる。

 

「ええ。問題は見受けられませんでしたから運用しても問題ないでしょう」

 

「了解。じゃあ運用試験は無事パス出来たと言う事で。二人共本当にお疲れ様」

 

二人に労いの言葉をかけた後、解散となった。

リヴァイアサンは再度第二格納庫へと戻され、何時もの位置に置かれる事となる。

こうして運用試験は無事完了し、リヴァイアサンは正式にS1地区前線基地の新たな戦力になるのだった。

また余談であるが、ラヴィーネとリヴァイアサンが合体した際には、ある名前が付けられていた。

その名はレヴィアタンと名付けられており、それが知られるのは後々になるのだった。

 

 

 

運用試験を無事完了し、ギルヴァ達がS10地区へと戻っている頃。

シーナは執務室で今回の運用試験で協力してもらった基地宛にお礼の手紙を書いていた。

協力してくれた事に対するお礼と大型機動兵器リヴァイアサンの事など記し、最後はきちんと封筒に納めていく。

処理すべき書類は全て終わらせており、後はこの手紙を送るだけなのだが少し疲れていたのかシーナは紅茶でも淹れようと椅子から立ち上がった瞬間、突如として爆発音と地響きが響いた。

 

「ッ!?」

 

一体何事かと思いつつも、シーナは即座に状況確認へと動き出す。

その時、この事態を知らせる為にMG4が執務室に入ってきて、シーナに問われる前に告げた。

 

「鉄血の大部隊が攻めてきました!!」

 

 

 

S10地区前線基地正面では内部に乗り込ませまいと鉄血を迎え撃つ為に武装した戦術人形達が姿を見せていた。

防衛線は完全とは言い切れずとも迎え撃つ人形達。

そして迎撃に出ていたMGの戦術人形 MG5はここに攻めてきた相手を見て苦い表情を浮かべた。

 

「よりによって奴とはな…」

 

だがMG5は不思議と鉄血が攻めてきた事に納得がいっていた。

S10地区前線基地には自ら鉄血を離反した代理人や故意ではなくとも仲間を手にかけてしまい裏切り者として扱われている処刑人がいる。

奴らが攻めてきたのはその裏切り者の始末だろうと判断していた。だからといって二人を差し出す様な考えはMG5にはなかった。小さく息を吐き、ここを襲撃してきた者を睨みつける。

爆発による煙の中に浮かび上がる影。その中からゆっくりと姿を晒すのはジャマダハルの様な武器を両手に持ち、眼帯をした鉄血のハイエンドモデル。その者は不敵の笑みを浮かべながら、彼女達へ声を投げかけた。

 

「こんにちは、グリフィンのゴミ共」

 

姿を見せたのは鉄血のハイエンドモデル アルケミスト。

それも一体ではない。ダミーも連れてきているのか彼女の後方では四体のダミーが控えていた。

そしてアルケミストはS10地区前線基地所属の戦術人形達に告げた。

 

「今から殺すが良いよな?」

 

それはまるで悪夢の始まりを告げるかの様であった。




はい。今回はリヴァイアサン運用試験、そして+αを描かせてもらいました。
また今回使わせていただいた地区に関しては作者様から許可を頂いております。

もし地区の名や場所の利用を許可していただいた作者様以外に偶然にもリヴァイアサンを見かけ、その話を書きたいという方がおりましたら一言言ってください。喜んで許可しますので。

さてお次は…。悪夢を始めようか。


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Act95 Either nightmare Ⅰ

―――見るのは彼女達とは限らない


鉄血のハイエンドモデル 錬金術士(アルケミスト)によるS10地区前線基地襲撃。

突然の事に最初こそは混乱に陥るが、流石は悪魔との戦いに身を投じ、何が起きてもおかしくない状況に慣れているのか基地所属の人形達の対応は早かった。

簡易であるが防衛線構築に成功し、内部に入れさせまいと鉄血を迎え撃っていた。しかし襲撃直後に幾らか鉄血の人形の侵入を許してしまったか内部でも銃声が引っ切り無しに響いていた。

そして激戦地帯化した基地正面入口では第三部隊を纏める経験があってかMG5が簡単な指示を飛ばし、この場に集結した人形達は攻め入ってくる鉄血人形部隊に向かって鉛玉を叩きこんでいた。

数では相手が上を行っている。この防衛線もどれ程持つか分からない。しかし彼女達は引き金を引く事を止めない。

 

「ダミーとの連携も忘れるな!SG部隊は空いた入口から入ってくる奴らにご挨拶の散弾を食わらせてやれ!AA-12!任せるぞ!」

 

「了解!」

 

AA-12を主軸とした即席で編成されたSG部隊が空いた入口からなだれ込んでくる敵に対し散弾をお見舞いし後方からは迎撃に来ていたSVDやリー・エンフィールドと言ったRF部隊が的確な狙撃で敵の進行を食い止める。

雑魚程度なら何とかなる。しかし今の状況でダミーまで引き連れてきた錬金術士を相手出来るか。正直言ってそれは無謀とも言えた。相手するとしてもこの戦力では一体が関の山。

そして遠くから見ていた錬金術士とそのダミー達は行動を開始する。

襲撃は多少なりと効いている。迎撃部隊が手こずっている今、基地内へと侵入は容易と言えよう。

 

「まずは裏切り者の始末だ。お前たちの相手は後でじっくりしてやる」

 

本体がそう口にすると彼女達は一斉に動き出し、戦術人形達との戦いは今はどうでもいいと言わんばかりに基地内へと侵入する。その光景を目撃したJS-9が叫んだ。

 

「不味い!あいつら基地内に!」

 

「分かっている!くそっ…!ここで時間かける訳には!」

 

今も尚激しい抵抗を見せる鉄血人形部隊。ここで基地内部に侵入した錬金術士を追う為に戦力を割く訳には行かない。しかしこのまま敵に好き勝手される様な事は避けなければならない。

MG5は基地内にいるであろうシーナに連絡を取ろうとするが、基地全体に通信妨害が展開されており連絡を取る事すら叶わない。

くそっ!と悪態つくMG5。このままでは取り返しのつかない事になる。そう思った矢先であった。

侵入していった錬金術士とまるで入れ違いになったのか様に新たに基地正面入口に現れる敵を迎撃し、とある人形が姿を見せた。両手に持った六銃身型ガトリングが二つも取り付けられた武器を構えると敵に向けると引き金を引く。

回転する砲身。はじき出される嵐の様な弾幕。それによって攻め入ってきた鉄血人形達は瞬く間に蜂の巣へと変わっていき生体パーツを巻き散らしながら地面へと倒れていく。

新たに現れたその者は重武装にも関わらず空へ高く飛び上がると軽々と空中でアクロバティックな回転を披露し、迎撃部隊の前に華麗に着地。突然現れたその人形に戸惑いを見せる鉄血人形部隊に彼女は両手のガトリングガンを構え、掃射。圧倒的な火力の前に次々と敵が倒れ伏せていく中、その者は両手のガトリングガンの引き金を引いたまま、迎撃部隊へと口を開いた。

 

「ここは私が請け負う。貴方達は中に侵入した奴らの方へ行ってくれ」

 

「本気で言っているのですか、ノーネイム!?」

 

そう叫ぶは迎撃に来ていたSpit-Fire。

幾ら圧倒的な火力を保有する専用武装「パトローネ」を纏うノーネイムでもこれだけの相手するのは厳しいと言えるだろう。だがノーネイムという人形はパトローネの運用試験の際にはたった一人で鉄血の大部隊が潜伏していた基地を襲撃し壊滅まで追い詰めたという事実がある事を彼女は知らない。

またパトローネに搭載された特殊機構によって、本武装は長期戦向きといっても過言ではない。

 

「この状況下で冗談を言える性格はしていない。急げ、言い合っている時間はない」

 

「で、でも…!」

 

Spit-Fireにとってノーネイムはこの基地に所属する事になって出来た大事な友人だ。

そんな友人を置いていくことにためらいがあった。しかし今も尚、基地内部では鉄血の人形たちが我が物顔で歩き回っている上、指揮官との連絡も取れていない状況だ。どっちを優先するかなど分かり切っている筈なのだ。それでも決めきらないSpit-Fireに見かねたMG5が彼女の腕を掴み引っ張っていく。

 

「行くぞ!彼女に任せるしかない!」

 

「しかし!」

 

「安心しろ!あの武装を纏った彼女なら任せられる!だから急ぐぞ!」

 

「…っ」

 

MG5に腕を引っ張られながら後ろを振り向くSpit-Fire。

両手のガトリングガンにマルチウエポンユニット「ヘイトリッド」を展開し、理不尽とも言える弾幕で敵の数をもの凄い勢いで減らしていくノーネイムの後ろ姿が映る。

何か言わなくては。

そんな思いに駆られたSpit-Fireは出せるだけの声でノーネイムへと叫んだ。

 

「ノーネイム!絶対!絶対に!死なないでくださいッ!」

 

その声は重火器の銃声によって聞こえないと思われた。

しかしその声はしっかりと届いていた。顔だけ少しだけ後ろへと向け、安心させようと優しく微笑むノーネイム。そして何かを伝えようと口が動いている事に気付きそれを読み取ったSpit-Fireは彼女からのメッセージを胸の中に収め、基地内へ消えていくのだった。

ノーネイムがSpit-Fireへと伝えたメッセージ。その内容は『約束する』ととても短いものであった。

 

Spit-Fireたちが基地へ消えていったのを見届けたノーネイムは敵を近づけまいと持てる全武装を用いて迎撃に当たっていた。戦力を基地内部防衛へと割いた為、基地正面入口での戦力差は圧倒的に鉄血が勝っている。相手が引いたのを見ていたのか勢いづく鉄血の人形達。

そしてここに攻め入った事を間違いだと気付くべきだったろう。幾ら数で上回ろうとしてもこの圧倒的な暴力には叶わない、と。

それを知らずに基地正面入口になだれ込んでくる敵。相対するは専用武装「パトローネ」を纏うノーネイム。

敵の亡骸から流れる人工血液が地面を赤く染め、硝煙の匂いが戦場に漂う中彼女は小さく呟く。

 

「大多数を一人で相手する…これで二度目になる」

 

パトローネの運用試験での事を言っているのだろう。あの時も今の様に大多数を一人で相手する状況にあった。

暴走し、そして機能停止した敵達の亡骸。舞い上がる炎と火の粉。漂う硝煙の匂い。

その時の光景を見て彼女が思ったのは、まるで火葬している様だと感じていた。

だからこそ明かそう。彼女の本来の名を。

汚れ仕事専門。それが人であれ、味方であれ変わりない。標的となれば殺すまで。

それが彼女の本来の運用方法。奇しくもそれは暴走したかつての味方へ向けられる。

積み上がるのは墓標。銃声と薬莢が弔いの花となる。

葬儀屋(Undertaker)。それが彼女の本当の名。

そして彼女はこの名を知る事は無いだろう。今もこの先も。

今はノーネイムと名乗り、この先の未来では新たな名前が与えられるのだから。

 

「…始めよう」

 

武装コンテナと脚部のミサイルポッドの全てのハッチが展開。そこから姿を現すミサイルの弾頭。

敵に向かって安らかな眠りを与える為に一斉に放たれ、追撃に弾幕が襲い掛かった。

連鎖し、巻き込まる爆発。止まる事を知らない銃声。

『約束』を守る為、葬儀の時間が始まりを告げた。

 

 

基地内部第二ロビーへと繋がる通路では武装したシーナはMG4と途中で合流したスオミと共に内部に侵入してきた鉄血と戦闘を繰り広げていた。敵のジャミングにより通信は使えず、こちらへ向かって戻ってきているであろうギルヴァ達に連絡が取れない。それどころか敵の戦力、戦況がどうなっているのか全く分からない上に、鉄血のハイエンドモデルが内部に侵入している事すらも知らない。偶然にも出くわしてしまえばシーナ達の命はないだろう。

 

「くぅ…!このままでは押し切られます!」

 

「一旦下がって、スオミ!MG4、足止めを!」

 

シーナの指示により壁から姿を出し、手に持った己と同じ名の銃を鉄血に向かって弾をばら撒くMG4。

しかし彼女とて弾が潤沢にある訳ではない。このまま戦闘が長引けばこちらが不利になる事も分かっている。

何よりもこんな自分を身を挺してまで助けてくれたシーナを何があっても守り抜くという意思が彼女を奮い立たせる。状況が不味くなった時には自分を囮にして指揮官を逃がす覚悟でいた。

だがそこまでする必要は無かった。後方から援護に現れた者達がいたからだ。

 

「MG4、避けて下さい!」

 

「ッ!」

 

その声に即座に反応し、彼女は右へと飛び込む。その瞬間鉄血にへと攻撃が襲い掛かった。

援護に現れた者達による攻撃は敵をあっという間に殲滅。一旦敵を退けた事を確認したMG4はシーナ達と援護に来てくれた者達と合流を果たす。

援護に来てくれたのはAR小隊のM4A1、SOPⅡ、AR-15の三人。彼女達もまた内部に侵入した敵を撃破しつつ、行動しており偶然にもシーナ達を合流する事が出来たのだ。

 

「指揮官、状況は?」

 

「ごめん、こっちも全部分かっている訳じゃないの、M4。状況知ろうにもジャミングのせいで通信もできない状況なの」

 

「…やはりでしたか」

 

「うん。取り敢えず、内部に侵入した敵を排除しつつ皆と合流しつつ防衛線を広げる。幸いにもというべきかな、内部に侵入した敵はそこまで数は多くないと見ていい。油断はできないけどね」

 

「了解です」

 

AR小隊の三人を加え、動き出すシーナ達。通路を抜け、第二ロビーへと出る。第二ロビーは基本グリフィンの補給部隊などが訪れた際や、別の地区の基地所属の者達が訪れた時の為にある。その為、ロビーにはベンチや簡易テーブルがいくつか置かれているのだが敵の襲撃もあってロビーにはそれらが散乱していた。

幸いにも敵の姿はなく、彼女達は周囲を警戒しながらロビーに抜ける為歩き出す。

今も尚響く銃声と爆発音。銃声は兎も角、爆発に関してはパトローネを纏うノーネイムがミサイルを放っているものだとは今のシーナ達には知り得ない事であろう。

ロビーの中腹まで渡り切る。その時であった。

後方を警戒していたAR-15が叫んだ。

 

「後方、敵!…ッ!!ハイエンドモデルよ!!」

 

彼女から伝えられた情報に他のメンバーの反応は早かった。全員が一斉に振り向き迫りくる錬金術士に向けて銃を構える。だが動きは相手が上を行っていた。

シーナ達が気付いた瞬間、錬金術士はテレポートを用いて射線を切る。そしてそのままAR-15の目の前に現れると、眼中にないのか武器を構えられる前に彼女を蹴り飛ばした。

 

「ぐうっ!!」

 

「AR-15!…がッ!!」

 

蹴り飛ばされたAR-15の名を叫ぶSOPⅡも続く様に一撃を貰い吹き飛ばされる中、M4は即座に狙いを定め発砲。だがそれは避けられしまうが躊躇い事無く連射していく。そこにMG4が加勢し近づけまいと援護射撃。繰り出される弾幕に一度は引く錬金術士であったが、再度テレポートを用いて姿を消した。

M4とMG4の後方ではスオミとMP5を手にしたシーナ。互いに背中合わせになり攻撃に備えた瞬間悪寒を感じ取ったのか勢い良くそちらへと振り向いたシーナは目を見開いた。

そこにいたのは手に持ったカタールの刃を突き立て、その命を狩り取らんとする錬金術士の姿。

一歩遅れてスオミやM4、MG4も気付き、即座に武器を構える様とするが間に合わない。

迫りくる刃。万事休すかと思われた時、別の通路から第二ロビーにたどり着いた者が加勢に入る。

 

「おらあッ!!」

 

「!?」

 

錬金術士の顔面に叩きつけられるブーツの底と衝撃。ドロップキックと言われる技をぶつけるクイーンを背負い、右腕にガーベラを装備した処刑人の姿。

顔面に叩きつけられた強烈な一撃に錬金術師士は宙へ、第二ロビー渡り廊下の方へ吹き飛ばされる。対する処刑人は後ろに一回点転して着地するとつかさず左手でアニマをホルスターから引き抜き、発砲。

銃声と共に二つの銃身から吐き出される銃弾。迫りくるそれに即座に反応する錬金術士。手に持っていたジャマダハルの様な武器で防ぐが反動までは抑えきれず更に後ろへと飛ばれる。

その隙を見逃さなかった処刑人は走り出し勢い良く跳躍。無防備な所に蹴りを叩き込もうとするが流石はハイエンドモデルと言うべきか反応は早く、錬金術士は地面に降り立つと蹴りを貰う前に素早くその場から飛び退く。

放たれた蹴りは回避され壁に大きな穴をあけるが気にする事はなく相対した両者は即座にお互いに持つ武器を同時に突き付けた。相対する元味方へと睨みを効かせつつ処刑人はシーナへ叫ぶ。

 

「ここは俺が引き受ける!そっちは他の連中の所へ行け!」

 

出来るのであれば処刑人の援護を行いたいシーナであったが、彼女がここを受け持つとなった以上は任せるほかないと判断。攻撃によって吹き飛ばされたAR-15とSOPⅡを起き上がらせつつシーナは口を開く。

 

「必ず増援をよこすから!それまで何とか持ちこたえて!」

 

そう言い残してシーナ達は処刑人を残して第二ロビーを去っていく。走り去る彼女達を目をで追う錬金術士であったが、すぐさま処刑人の方へと向いた。

この場に訪れる一時の沈黙。二人は口を開こうともしない。

周りでは銃声や爆発音が響く。

いつぶつかってもおかしくない状況の最中、シーナが言い残していった台詞に答えるかの様に処刑人は静かに呟く。

 

「…それまでには終わらせてやるさ」

 

そう言い切った瞬間、処刑人が先に動き出す。手に持ったアニマを発砲。真っ直ぐと飛んで行く弾丸を素早く身をかがめて回避する錬金術士。しかしそうなる事も織り込み済みなのか、処刑人はつかさず狙いを下へと向け発砲。だがそれも跳躍によって回避され、空高く飛び上がる錬金術士。ジャマダハルとサブマシンガンが一体化した武器を構えるが、そうはさせまいと処刑人も飛び上がり同じ高さまで上がると右腕を伸ばし錬金術士の手首を掴み、片方の武器を使わせまいと封じ、左手に持ったアニマを顔に目掛けて発砲するが、錬金術士は上体を反らして攻撃を回避、そこから体を回転させ処刑人を振り払い距離を取る。

振り払われ、距離を取られそうになるが即座に処刑人は錬金術士のスカートの裾部分を掴み自身の元へ強引に引っ張ると、錬金術士がやった事を真似するかのように体を回転させた。

 

「うおぉらっ!!」

 

そのまま回転の勢いに任せ、シーナ達が去って行った方向とは反対の方向へと錬金術士を投げ飛ばす処刑人。

投げ飛ばされた錬金術士は軽々とした身のこなしで態勢を立て直し、何もなかったように着地。

続く様に処刑人も錬金術士から離れた位置に着地し、アニマを構える。

そして先程から一言も発さない彼女を見て、分析する。

 

(喋らねぇてことはこいつはダミーか?)

 

シーナ達の救援に駆け付ける前、処刑人は偶然にも基地正面入口から内部に侵入した敵を対処しに戻ってきていたMG5らから基地正面入口防衛にノーネイムが単身で残った事、そして錬金術師がダミーと共に侵入しているという事を知らされていた。

その事をいち早くシーナへと伝える為に処刑人は行動しており、そして第二ロビーに辿り着いた所で錬金術師がシーナが殺そうとしている光景を目にし割って入った結果が今である。

 

(ってもどっちでもいいか。どのみち倒す事にかわりねぇ)

 

アニマを構える処刑人に対し、どこか余裕ある表情を浮かべる錬金術士。それを見て軽くイラっと来たのか、処刑人は口を開いた。

 

「相変わらず余裕たっぷりって感じの顔だな。そのにやけ面、むかつくぜ」

 

今更相手が本物かダミーかどちらでもいい。

敵として出てきたのであれば倒すまで。単純な話なのだから。

 

 

 

「基地と連絡が取れないだと?」

 

S10地区へと戻っているバンの中でギルヴァは代理人から伝えられた事に訝しい声を上げた。

その声にバンのスピードを全開にしながらハンドルを握る代理人は頷き、口を開いた。

 

「何度か連絡を取ろうとしているのですが、繋がらず…」

 

「…」

 

妙な胸騒ぎを感じ取りつつも一つの結論に至るギルヴァ。

その時、簡易通信端末が鳴り響いた。代理人は運転中なので、代わりにギルヴァがその通信端末を手に取った。

 

「デビルメイクライ」

 

『ギルヴァ!今どこ!?』

 

連絡してきたのはUMP45。

彼女…否、彼女達404小隊は任務でS10地区を離れていた事はギルヴァも知っていた。

しかし彼女の焦り様から考えられるのは一つであった。

 

「今S10地区へ向かって戻っている。…言いたいのは分かる、基地の事だな?」

 

『! えぇ、こっちも任務を終えて基地の連絡を取ろうしたのだけど、繋がらない状況なの。恐らく…』

 

「ああ。基地で何か起きたと判断していい。こちらも基地へ急行している」

 

『分かった。恐らく私達よりギルヴァ達の方が早いと思うから。…無理はしないでね。失うのはもう嫌だから』

 

「…分かっている」

 

失うのはもう嫌という45の台詞に反応しかけるギルヴァであったがそこは何とか抑えて通信を切る。

後部座席からブレイクが二人の居る所まで近寄り、真面目な表情でギルヴァへと問う。

 

「何かあった感じか」

 

「ああ。基地の方で何か起きているようだ」

 

基地が危ういと聞いた瞬間、ブレイクは思い切った行動に出る。

いつもの武器を手に取るとバンの後部ドアを開いた。そのまま外へと飛び出すとヴァーン・ズィニヒを呼び出し跨りそのままバンを追い抜くと猛スピードでS10地区へ向かって行ったのだ。

ブレイクの行動に何も言わないギルヴァ。その隣で代理人がギルヴァへ提案した。

 

「後から追い付きます。ギルヴァは先に基地へ向かって下さい」

 

「…後は任せるぞ」

 

「仰せの通りに」

 

助手席から立ち上がり、ウエポンラックから無銘を手に取るギルヴァ。

ブレイクが出ていった後部ドアを開き、外へ飛び出す。そして己の中にある魔を解放し、姿を変えると翼を大きく羽ばたかせ基地へと飛翔していくのだった。




アルケミストの襲撃。
暴れるノーネイム。内部で戦う彼女達。そして基地へと集い出す狩人。
果たして悪夢を見るのはどちらか。

という訳でここからはアルケミスト戦でございます。
では次回ノシ


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Act96 Either nightmare Ⅱ

―――狼煙を上げろ


かつての味方との戦闘。裏切り者となった者(処刑人)裏切り者の始末に来た者(錬金術士)が戦闘を繰り広げていた。

アニマの引き金を引く。はじき出される二発の弾丸。

そこで弾切れとなり、処刑人は左手に構えているアニマの弾倉を取り出す。

左手で使用する事を前提に、彼女が持つリボルバーは弾倉が左側へと出るのではなく、右側へと出る仕組みとなっている。

右へと展開される弾倉。銃を縦に向けると12の薬室から薬莢が滑り落ち彼女は即座に予備弾倉を自身後方へ放り上げた。

今からやろうとしている事はギルヴァからやっていたあのリロード方法。直接本人に聞いた訳ではない。この方法は一度見た事があるUMP45から聞いた方法であった。完全な再現には至らない。だが出来ない訳にはない。

 

「真似事にはなるけどよ!」

 

放り投げたと同時に体を素早く回転。

落ちてくる12発の弾丸がまるでタイミングを見計らっていたかのようにシリンダーへと装填されていく。

振り向いた反動を活かして弾倉を元に戻しつアニマを構えつつ処刑人は正面へと向いた。

しかし向いた先に錬金術士の姿はいない。あの一瞬でどこに行ったと思えばまるで嘲笑うかのようにゆっくりと彼女の後ろから姿を見せた。

後ろに居る事を察知し少し錬金術士の方へと向いた後処刑人は軽く息を吐くと口を開いた。

 

「銃じゃ無理って事は分かってたがよ」

 

拳銃一つだけ倒せる様な相手ではない。それ位は処刑人も理解している。

持っていたアニマを軽く回転させながらホルスターに収めると、背負っていたクイーンの持ち手へと手を伸ばした。

そして勢い良く振りぬくと剣先を地面に突き立て、クイーンのスロットルを捻る。

推進剤噴射機構が赤く光り、バイクのエンジン音の様な音がロビーに響き渡り、処刑人は錬金術士へ言葉を投げかける。

 

「両手に持ったそれはお飾りでも玩具でもねぇんだろ?第二ラウンドは剣と行こうか!ドS女!」

 

攻撃を避けるばかりで一向に攻撃を仕掛けてこない錬金術士。

自身が手にしている獲物の事を指摘されると、わざと眺める素振りを見せた後処刑人に対して手首を動かして手招きする様な動きを見せた。ほら、来いよと言った意味を含めた挑発。確実に馬鹿にしていると理解した瞬間、処刑人はクイーンを地面から引き抜くと力強く地面を蹴り錬金術士へと突進するのだった。

 

 

基地内部一階東通路。襲撃によって電力は落ち薄っすらとした闇が辺りを支配していた。ブーツの底が当たる音が通路に響き渡り、その者はまるで獲物をじっくりと追い詰め恐怖を植え付けるかの様にわざと音をたてて歩いていた。

 

(ダミー1が処刑人と…。くくっ、思ったより早いな。ダミー2は1と合流しろ。ダミー3はゴミ共の相手をしてやれ。)

 

そんな中ダミーからもたらされた情報についぞ彼女…本体である錬金術士は口角を吊り上げる。

餌がかかった。見つけ出すにもう少しかかるで思っていた矢先の事だった為、笑わずにはいられなかった。

ダミー2と3に指示を飛ばし、残りのダミーは彼女と共にもう一人の裏切り者の始末へと動き出す。

足を動かしながら、ふと彼女は襲撃する前を思い返した。

 

(強力な援軍、か…)

 

それはS10地区を訪れる前の事。

処刑人が鉄血を裏切った事をきっかけにして命令された裏切り者の始末。それを命じてきた夢想家(ドリーマー)は錬金術士に強力な援軍を送ると伝えてきたのだ。しかしその援軍の正体までは教えてもらえずにいた。

 

(ふん…援軍に頼らずとも終わらせる)

 

「さぁ出でおいで…ゴミ共」

 

援軍など要らない。それまでに終わらせる。

そして彼女は今を楽しむ事にした。

本来の目的は裏切り者の始末であるが、だからといってグリフィンの人形を相手しない訳がない。

どんな悲鳴を聞かせてくれるのだろうか、どんな風な絶望的な表情を見せてくれるのか…それが楽しみで仕方なかった。

一歩、一歩と歩く音を響かせる。そして偶然にもこの通路にて錬金術士が居る事に気付き、壁際に身を隠している人形がいた。薄っすらとした暗闇の中、一歩ずつ迫ってくる恐怖に何とか耐えつつ、彼女は息をひそめる。

 

(ほんっと…最悪ったらありゃしないわ)

 

よりによってハイエンドモデルを遭遇するとは思わなかった。

味方とは分断されてしまい、あまつさえはこの状況。最悪の言葉以外思い付かない。

どうしたものかと、彼女は…WA2000は冷静になって思考を巡らせた。ライフルの弾は残り二発しかない。

これでどうにかしなくてはならないのだが、絶望的と言えた。

このまま身を隠していたとしても見つかるのも時間の問題。逃げたとしても撃たれるだろう。

覚悟は決めなくてはならない。それがすぐそこまで迫ってきている事は分かっている。

静かに彼女は目を伏せ、震える体を何とか押さえつけた。

 

(…一度は諦めた命)

 

思い出されるのはフェーンベルツの大聖堂地下の時の事。

諦めようとしていた命。出会って間もないというのに生きる様に諭して、武器を与えてくれた者がいた。

かつて居た基地が悪魔の巣靴になっていた事を知った時は絶望して再度諦めようとしていた。

それでも彼らやこの基地の仲間達は悪夢に立ち向かってくれた。

そしてまた訪れた悪夢。状況は絶望的。

 

(それでも…)

 

伏せていた彼女の目が上げられる。その瞳には迷いはない。あるのは覚悟のみ。

 

「っ!!」

 

身を隠していた壁から飛び出すWA2000。

姿を見せた彼女に狂気的な笑みを浮かべる錬金術士。そんな笑みを見てもWA2000は臆しない。

ライフルを構える。弾はたった二発。

 

(死ぬつもりはないんだからッ!!)

 

彼女の覚悟を上乗せした弾丸が放たれる。迫りくるそれについ錬金術士はたじろいだ。

 

(何だ…!?)

 

まさかと思った。

たかだが一発の弾丸だと言うのに、当たれば只では済まない…そんな威圧感に圧されている。

だがそれを押されているばかりの錬金術士ではない。まるでその覚悟を嘲笑うかの様に手にしている武器で弾丸を弾き飛ばすとWA2000へと突撃した。

 

「まだッ!!」

 

続いて放たれる二発目。

しかしそれは軽々と回避され、狂刃が彼女を仕留めんと迫った。

これで打ち止めだ。逃げようにももう間に合わないだろう。後は運の任せるほかない。

ぎゅっと目を伏せた時だった。運はWA2000に味方した。

 

 

 

「見事な一撃なり。力で負けていたとしてもその心では貴公が勝っていたぞ」

 

 

 

響き渡るはある者の声。その声を耳にしたWA2000は顔を上げ目を見開いた。

暗闇を、絶望をはねのけるかの様に輝く金色。それは何であろうと機能停止に追いやる鋭き雷光。

両者の間に割って入るは一匹の白狼であり造られし魔獣。かつて魔界の精鋭部隊を纏めた長は纏いし雷光の刃でその狂刃を受け止めていた。

突如として現れた白狼に一瞬だけ驚きつつも錬金術士は直ぐざまその場から飛び退き、距離を取った。

しかしそれを待っていたかのように暗闇の奥から叫ぶ声が響く。

 

「ハハハハハッ!パーティータイムッ!!」

 

明らかにはしゃいでる様な声と共に金色とはまた違う色が暗闇の奥から迫りくる。

二筋の電撃がWA2000とフードゥルの間を通り抜け、真っ直ぐと錬金術士とそのダミーへ向かって行く。距離を取った所に迫りくる電撃。後ろに飛び退きながら軽やかな動きで壁際へと退避すると電撃をやり過ごすとゆっくりと壁際から離れ、仕留める瞬間を邪魔してきた者達へ向いた。

WA2000を守る様にして錬金術士へ威嚇する声を上げる雷を纏った白狼に翼を羽ばたかせ滞空する猛禽類。

戦術人形以外の者が相手になるとは錬金術士も多少なりとも驚いていた。その様を見ていたグリフォンが早速挑発を仕掛ける。

 

「おうおう。ノックもなしに人様のお家に土足で踏み入れるなんざ教養が足りてないんじゃねぇの?それともその教養はそのデカい二つの山に蓄えられちまったのかい?」

 

「喋る鳥か。それも随分と減らず口を叩く鳥と来たか。…料理してやろうか、チキン野郎」

 

「お~、こわっ」

 

グリフォンが錬金術士へと挑発を吹っ掛けている間、フードゥルはWA2000の方へ向いた。

雷を纏っている為傍に寄る事は無理。少し距離を置いた上で彼は彼女へと口を開いた。

 

「ここは我が請け負う。貴公はグリフォンと共に他の者達と合流するがよい」

 

「…相手はあのハイエンドモデルなのよ?」

 

「分かっている。それに我の能力であれば奴らも迂闊に近づけまい。…時間稼ぎするだけでよいのでな」

 

「それって…」

 

もしかしてと彼女は思った。

フードゥルがここに残って時間稼ぎをする理由を何となく察すると、立ち上がりそのまま通路の奥へと走り出した。WA2000が走り出したのを確認するとグリフォンは錬金術士へ最後の挑発を仕掛ける。

 

「お料理教室を開くなら一人でやんな!俺はここに残るつもりはないんでな!」

 

そう言い残すと先へ行ったWA2000を護衛する為、グリフォンは方向転換し飛び去ってしまう。それを追いかけてようとした錬金術士であったが行かせんと前を塞ぐフードゥルによって阻まれる。

軽く舌打ちしながらも武器を構え、雷を纏う白狼を睨む。

 

「躾の時間だ、野良犬」

 

「躾が必要なのは貴様の方であろう。狂いし鉄血の人形よ」

 

雷の轟音が響き狼の遠吠えが基地全体に広がる。

まるでそれは反撃の狼煙だと示しているか様であった。

 

「参る!」

 

金色の雷を纏いし白狼は錬金術士へと牙をむいた。

 

 

 

基地内部一階ラウンジでは錬金術士のダミー一体とグローザが戦闘を繰り広げていた。幾らダミーとは言え油断は出来ない。攻撃を浴びせようにも難なく回避され、下手すれば接近され斬撃を貰いかねない。

近場にあった机やソファーなどを集めて防御壁を作り、そこから近づけまいと銃撃し防衛に徹していた。

 

「そろそろ不味くなってきたわね」

 

こういう不測の事態にも関わらず彼女は冷静であったが、少しばかり焦りの表情を見えていた。

弾が尽きかけてきたのだ。相手は光学兵器を用いているため弾数の概念が存在しない。だからこそ幾らでも撃ってくる。

あとどれだけ持つ?終わりが見えない状況がグローザを追いやる。でも彼女は諦めない。

 

「全くどこで油売っているやらか…」

 

脳裏に浮かぶはストロベリーサンデーとピザしか食べない偏食家で赤いコートの彼の姿。一度は別れを覚悟したものの今は違う。公私共にパートナーという間柄だ。

そんな彼は恐らくこっちへ向かって戻ってきている筈だ。その身に悪魔の血を流しながらも人を、人形を愛し、普段はめんどくさがる所があっても、その根は真面目なのだ。

必ず彼が来てくれる。それを信じて彼女は銃に新たな弾倉を差し込んだ。

これが最後の弾倉。弾が尽きるまでに助けが来なければ明日はないだろう。

防御壁から身を晒し、銃を構えるグローザ。

同時に姿を見せるダミー。お互いに持つ獲物の引き金が引かれる。

飛び交う銃弾と光弾。漂う硝煙。転げ落ちる薬莢。光弾が肩をかすり痛みが走ってもグローザは撃つのを止めない。

今は耐える時。あの基地に居た時と比べると今が断然マシだ。

 

「くっ…」

 

そろそろ弾が尽きる。助けは未だに来ない。相手も傷を負っているが、それでも倒すにはまだ至らない。

あと一手。その一手が今の彼女にはない。

 

(場は整えたわ。後は貴方だけよ、ブレイク!)

 

心の内で彼の名を叫ぶ。

それが届いたかの様に、どこからかバイクのエンジン音が響いた。

突如として響いたそれに両者共に攻撃を中断し、その音にグローザは静かに微笑んだ。

バイクの音を響かせてやって来る者など一人しか知らない。何よりも彼が来てくれたという事実がグローザにとって嬉しかった。段々と近づいてくるバイクのエンジン音。そしてそれは瞬く間に姿を現した。

窓を突き破り、飛び散る硝子の破片と共に姿を見せるは大剣を背に背負い、狂気、または気が狂ったの名を持つバイクに跨る赤いコートの男。

大胆に登場する彼を見て、グローザはやれやれと言った表情を浮かべた。助けに来てくれたのは嬉しいが、バイクごと突っ込む必要があったのだろうかと思いつつも、安堵する。

二度目のお別れをせずに済みそうだと。

手慣れた操縦技術により地へと着地し急ターンするとバイクは停止。

ブレイクはバイクから降りるとダミーと相対。そして何時もの調子で喋り出した。

 

「ピザLサイズを五分で食ったのは自己最高新記録だぜ。…ローザ、怪我はねぇか?」

 

「何とかね。それにしても遅いわよ。ブレイク」

 

「わりぃな。…ここは俺が受け持つ。早い内に引きな」

 

「ええ。そうさせてもらうわ。…気を付けて」

 

身を隠していた防御壁から飛び出しラウンジ出口へと走り出すグローザ。

部屋を出ていく直前に一度ブレイクの背を見つめてからラウンジを走り去った。グローザがラウンジを出ていく後ろ姿を見届けるとブレイクは静かに愛用のフォルテ&アレグロを引き抜き構えた。ダミーも手にしている武器の持ち手を握り直した途端、勢い良く地を蹴りブレイクに迫る。

振り下ろされる刃。刹那、ラウンジ全体に甲高い音が響き渡った。

 

「…」

 

ダミーの表情は変わらない。だが幾ら刃を押し込もうとしてもアレグロで攻撃を防いだブレイクの態勢を崩す事が出来ずにいた。

そんな様子を見て不敵な笑みを浮かべるブレイク。左手に持っていたフォルテでダミーの武装の一つに目掛けて銃弾を叩きつけた。

響いた銃声。その手から武装を離す事は出来ずとも、その一発によりダミーが仰け反らせる事に成功。

そして両者は素早く後方へと飛び退いた。

一瞬だけ発生する滞空時間。それすらも利用してブレイクはフォルテ&アレグロを連射しつつ後ろへと下がっていく。対するダミーも武装に内蔵されているサブマシンガンを用いて光弾をばら撒く。

飛び交う鉛弾と光。破壊される家具。舞い上がる綿毛と木片。

大惨事と化していくラウンジを気に留める事すらなく、ブレイクは愛銃をホルスターに収めリベリオンを引き抜くと剣幅を活かして光弾を弾きつつ、ラウンジにある簡易カウンター内に着地。即座にフォルテ&アレグロに抜くと横へ移動しつつ銃撃を再開する。

飛んでくる攻撃を回避しながら銃撃で牽制。そしてダミーを正面に捉えた瞬間、体を大きく回転させつつ飛び上がり回転の勢いを利用してダミーに接近しリベリオンを振り下ろした。

そして流石と言うべきか。しっかりと反応するダミー。ジャマダハルで攻撃を受け止めた直後に態勢を崩そうとするがそれは既に予測されているのか、態と自身の攻撃を受け流せつつ地に足を付けるブレイク。

お互いに刃が届く距離。

ぶつかる刃。剣戟が繰り広げられる。舞い散る火花。生み出される剣風。

ただ殺す為、守る為、両者は一歩も引かない。

ほんの一瞬だけの鍔迫り合いから二人は飛び退き、互いに銃を突き付けた。

 

「ふっ…」

 

相手は無表情を貫いているが、ブレイクは笑みを浮かべる。

今からしようとしている事。偶然にも二人は理解していた。

沈黙が訪れる。二人は動かない。その時不安定な位置にあったのか壊れかけの椅子が地面へと向かって落下し始めた。数秒も経たぬ内に地面へと激突する椅子。壊れる音が響いた瞬間、同時に二人は銃を連射し始めた。

銃声。硝煙。破砕音。

決して心地の良い音ではないもので奏でる雑音の協奏曲。

魔力を込めた弾丸が次々と放たれ、相手の武装から放たれる光弾とぶつかり合い、段々と二人は後退していく。

そしてピタリと止まる銃声。その瞬間、ラウンジ周囲の窓が全て同時に割れ、硝子の破片をまき散らし、ブレイクは笑みを浮かべた。

 

「やれやれ…飽きさせない、お嬢さんだな!」

 

そう口にしつつもその表情はいつになく真面目なブレイク。

これ以上時間をかけていては不味い。もう少し遊んでいたい気持ちを抑えつつリベリオンを引き抜き、剣先を突き立てると勢い良く踏み込んだ。

一瞬にして互いの距離は縮まり、放たれる強烈な突きによる一撃。

防ごうと武装を展開するダミー。しかしその一撃に武装をいとも簡単に破壊され、ダミーごと部屋の奥へと吹き飛ばした。

壁に叩きつけれるダミー。次の瞬間、響いた一発の銃声と共にダミーの頭部に風穴が空けられる。

基幹部を狙った一撃。その一撃によりダミーは機能停止し、全身の力が抜けたように地面に崩れ落ちた。

あっけない最期。それを静かに見届けたブレイクはフォルテをホルスターに収め、何も言わず荒れ果てたラウンジを出ていくのだった。




そろそろ次回か、その次で終了かな…。
さて…基地の修繕も考えないとねぇ…。修繕協力に軽いコラボ依頼でも出してみる…?
いや、それはないか。…大規模作戦じゃないからなぁ

まぁそれは追々という事で。

次回にノシノシ


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Act97 Either nightmare Ⅲ

―――兆し


ダミー1と激しくぶつかる処刑人。時間稼ぎの為本体とダミー4と相対するフードゥル。大事なパートナーを守る為、圧倒的な技量でダミー3を屠るブレイク。

突如として始まった悪夢が次第に終わりの兆しを見せ始める中、シーナ達は無事MG5らと合流を果たしていた。彼女の指示の元、動き出す人形達。強固な防衛線が構築されていく中、今も基地正面入口で一人で奮闘しているノーネイムの事を耳にすると現場に急行し援護する様にと指示を飛ばした。

その指示を受けた途端、誰よりも早く動き出した者が一人。

 

「Spit-Fire!?」

 

誰かがその名を叫ぶ。

しかし彼女は止まる事をしない。指揮官と合流し強固な防衛線が展開されつつある今、一人で奮闘している友人を助ける為に廊下を駆け抜けていく。

 

(ノーネイム…!)

 

今はひたすらに走るのみ。後ろから誰かが追ってきている気もしなくもないが、彼女は足を止めない。

奥から漂ってくる硝煙の匂い。その先は基地正面入口。しかし妙な事に戦闘の音は聞こえない。

まさかとつい思ってしまうSpit-Fire。

 

「何を考えているのですか、私は…!」

 

頭を振って思考を切り替える。

駆け抜ける。そして基地正面入口へ到達した時、彼女はそこに広がっていた光景に啞然とした。

手脚や頭が無くなり、機能停止した鉄血の人形兵達。中には原型すら留めていない敵もいる。

その無数の亡骸がそこら中に転がっていた。

燃え盛る炎がその亡骸の山を包み込み、それを静かに見つめる友人の後ろ姿。

広がる光景にまるで火葬場のようだとSpit-Fireはそう思わずは居られなかった。

 

「弔いか、哀悼か…。何故か双方がまじりあっているような気が致しますわ」

 

「AUGさん…」

 

Spit-Fireの隣で黒い衣装に身を包み、その光景に見つめるはAUGだ。

一部から奇しくもノーネイムの本当の名と同じく『葬儀屋』の異名を持つ。

ノーネイムの後ろ姿を見て、何かを感じているのだろうか。AUGは静けさを保ち、無言を貫いた。

そこにAUGよりも遅れて95式が基地正面入口に現れる。

 

「どうやら終わっていたみたいですね…」

 

「ええ。葬儀の時間はとっくに過ぎてしまったみたいです」

 

「葬儀って…」

 

二人のやり取りを傍らにSpit-Fireはノーネイムの近くへと歩み寄る。

隣に並び立つSpit-Fireにノーネイムも気付き、静かに微笑んだ。

ふと微笑んだ事に不思議そうな表情を浮かべる友人に対し口を開いた。

 

「約束は果たしたぞ」

 

「!…まだ終わってないから、果たせていませんよ?」

 

「それもそうか…。ッ!」

 

何かを感じ取ったのか、ノーネイムは上空へ勢い良く向いた。

その行動にここに集まった者達も警戒を強める。

 

(何だ…何か迫ってきている?)

 

その時であった。

黒煙が上がり、空へと昇り上がっていく中人の様な姿をした何かが上空に姿を見せた。

羽に様なものを生やし片手剣を持った騎士の鎧を纏った何か。宙に留まりながら、それは彼女達を見下ろしていた。

そこに後方からまた騎士の鎧を纏った何かが二体現れた。似た様な外見を有しつつも、細部に異なっており手に持った武器も片手剣ではなく大型ランスを手にしていた。

 

「何ですか…あれ…」

 

「分からない。だが友好的な関係を築きに来たとは思えない」

 

それは誰しもが思った事であった。

攻撃を仕掛ける様子は今は見受けられないが、宙に佇む騎士達から発せられる殺気を感じ取っていた。

すると中央の騎士が何か命ずるように腕を突き出した。それに合わせて二体の騎士たちは地表へと降り立つと背に展開していた羽を盾の様に展開し、ゆっくりとノーネイム達へ迫っていく。

 

「どうやら大きな葬儀になりそうですわね」

 

「…一体どこの組織が」

 

「それを答えてくれる様な方々でないでしょう」

 

「分かっていますよ、AUG。…今はここを守り抜くだけです」

 

数は決して多くない。

だが未知の相手。油断は出来ない。

ここに集った者達は武器を構える。各々が迫りくる者達に銃を向ける中、AUGは静かに呟いた。

 

「…貴方達は涙を流せますか?」

 

弔いの雨が響き渡る。

 

 

 

基地正面入口に銃声が響き渡る一方で第二ロビーでも戦闘の音が響いていた。

最もその音は銃声ではなく、刃と刃が幾度となくぶつかる音であるが。

 

「…!」

 

薙ぎ払う様な一撃。首を狙った一撃を貰う前に処刑人は素早く後ろへと下がった。

外れる攻撃。

そこを見逃さずクイーンの柄へ手を伸ばし彼女は勢い良く踏み込む。

上体を捻りながら下から斜め上へと振いつつ、クイーンのスロットルを捻る。

一段階解放された事を知らせる音が鳴り、レバーを引く。

 

「っぜやあぁぁっ!!」

 

唸るエンジン音。噴き出す推進剤が炎を纏い、強化された斬撃が放たれる。

その一撃はダミーの右腕にへ喰らい付き、食い込んだ刃は内部骨格をいともたやすく切り裂き、一閃。

先程まで繋がっていたダミーの片腕が宙へ舞い上がる中、処刑人は止まらなかった。

流れるかの様に左腕を大きく回転させ、二度の攻撃を放つ。

だがそこまで攻撃を貰うつもりはダミーにはない。片腕を斬り落とされても決して表情を歪める事もなければ、痛みの声を上げる事すらないしない。

ただ淡々と攻撃が来る前にその場から飛び退き、後方へと後退する。

二撃目を回避された事に軽く舌打ちしながらも処刑人は敵を鋭い目つきで睨む。

 

(痛覚切ってるにしちゃ一言も発さねぇし…。…となりゃダミーか)

 

薄っすらと気付いていた事だった。

攻撃こそは激しいものの表情を変える事や言葉を発さない辺りでそれに気付くのも時間の問題であろう。しかし相手がダミーだからといって手を抜くという考えは処刑人にはなかった。

だが早いうちに相手を片付ける必要はあるという事だけは分かっていた。

クイーンを構えダミーへと仕掛けようとし接近した瞬間、別の方向から攻撃が飛んできた。

寸での所でガーベラで衝撃波を放ちその場から飛び退く処刑人。攻撃が飛んできた方へと顔を向けると、そこに居たのは錬金術士の指示によってここまでやってきたダミー2であった。

 

「ちぃっ!!」

 

ダミー同士が合流し、連携しながら攻撃をする暇を与えない。

防戦に徹しながらも舌打ちする処刑人。クイーンを振いつつ攻撃を受け流しながらも、反撃の隙を伺おうにも敵達はそれを許さない。ガーベラの衝撃波を放って一時的に後退したとしても着地した瞬間を突かれてやられかねない。動き回りながらもどうしようかと考えた時、ふと右腕を見た。

 

(…使うしかねぇか?)

 

本来の右腕とその腕に格納した太刀を。

あれは切り札とも言えるものだ。ここで使っていいのかと悩む。

しかしここで出し惜しみしている余裕はない。

 

「仕方ねぇ…」

 

相手は悪魔じゃない。でも敵対している以上は使わざるおえない。

 

「四の五の言っている暇はねぇよな!」

 

同時に刀身を振るうダミー達。

迫りくるそれに処刑人に不敵な笑みを浮かべた。

態と右腕を自身の前とかざした瞬間ガーベラが突如として爆発した。決して大規模な爆発でなくとも、相手を態勢を崩すには十分な爆発。

しかし何故爆発が起きたのか。デビルブレイカーには敵の囲まれた時の対策として、微量の炸薬を積んでおりいざという時に電気信号で起爆させ、緊急脱出をする事が可能となっている。

それにダミー達は爆発によって吹き飛ばされ地面へ転がっていくが直ぐに起き上がり、攻撃へ転じようとした瞬間、ダミー3の目の前に拳を作り右腕を振りかざす処刑人の姿があった。

先程の義手ではない。だが人間の腕ではない。異なる生物の腕。

言うなれば悪魔の腕だ。

 

「綺麗な顔に失礼するぜ!」

 

ダミー2の顔面に叩きつけられる右ストレート。

その一撃をまともに受けたダミー3は勢い良く吹き飛ばされ、地面に二度、三度叩きつけられた後に漸く慣性を失い止まった。

だがダミー2は立ち上がる。顔半分の人工皮膚が消し飛び、内部骨格が露わになったとしても決して取り乱さず、只々処刑人へ向かって行こうとするがこの場に現れた者によって阻止される事となる。

まるで砲撃にも似た銃声。放たれた弾丸が処刑人へ向かって行くダミー2の横腹に直撃。体がくの字に曲がるどころかその一発により体が上下二つにお別れする程。

ダミー2が無残な終わり方をする光景を見ていた処刑人はまさかと思い、銃声がした方向へと向いた。

靴が地面に当たる音を響かせ、通路の奥からゆっくりと姿を現す者。

メイド服。かつて纏めていた髪は今となっては長く伸ばし、ヘアゴムで一つにまとめていた。

そしてその姿とは裏腹に装備している武装は過剰火力とも言えるものばかりだ。

銀の弾丸と銘打たれた折り畳み式対物ライフルを手に持ち、背には霧雨の名を持つ複合兵器を背負い、ホルスターに悪魔と名付けた二連装ショットガンを差し込み、ガンベルトには相手を確実に仕留める為に杭の先端に成型炸薬を装着したパイルバンカーを吊り下げていた。

その者はかつては敵だった一人。

しかし今は違う。裏切り者になったとしても、彼女は構わなかった。

愛する人がいて、愛する娘がいる。只々命令され、人を殺すだけの人生を自ら袂を分かった元鉄血のハイエンドモデル。その名も…

 

「間に合いましたね」

 

代理人(エージェント)である。

状況を把握しながら彼女はシルヴァ・バレトの槓桿を操作。

薬室から飛び出る空薬莢。29mmという有り得ないものが音を立てながら地面へ転がっていく。

対化け物用として作られたライフルを肩に担ぎつつ、ホルスターに納めてあったショットガンを左手で引き抜くと残っているダミーへ向けた。

 

「やはり錬金術士でしたか。大方私達の始末が目的でしょう」

 

ダミーをよこして本体が姿を見せない辺り、如何にも錬金術士らしいやり方だと思わざるえなかった。

何処からか覗いているのかも知れない。だが心配は要らない。彼がこの悪夢を終わらせに動いているのだから。

ならばやるべき事は一つだ。

 

「二体一になっちまうが、文句は無しで頼むぜ?」

 

代理人が現れた事により戦況はガラリと変わる。

攻撃姿勢を解かずにいるダミーへ獰猛な笑みを浮かべ右手を開いたり閉じたりといって動作を繰り返しながら処刑人はそう言い放った。

それに続く様に代理人も言葉を発した。

 

「戦いに綺麗も汚いもありませんので」

 

その台詞を合図に処刑人はダミーと突進。代理人は誤射に注意しつつ処刑人に後方から援護を開始する。

二人の猛攻によってダミーが数十秒も経たぬ内に撃沈したのが言うまででもない。

 

 

「ちっ!狂犬がッ!」

 

錬金術士がフードゥルへ向かって苛立ちの声をあげた。

一階東通路で繰り広げられている戦いはフードゥルは優勢であった。それもその筈で雷を纏うフードゥルに迂闊に攻撃すれば幾らハイエンドモデルである錬金術士であっても一瞬で機能停止に陥るだろう。

相性の悪さが拍車をかけ自分通りの展開にならない状況に彼女らしからぬ苛立ちの声を上げる辺りフードゥルの術中にはまっていると言えた。

 

「ぬん!」

 

「くそっ!」

 

たかだが野良犬と侮ったのが尽きだった。

戦闘が始まった瞬間、フードゥルは随伴していたダミー4に落雷を叩きつけ一対一に持ち込んでいた。一対一ならば彼の得意とする所。魔界の精鋭部隊を率いた事のある実力は今の尚健在である。

まるで電光石火の如く動き回りながら攻撃を仕掛けるフードゥル。回避に徹する錬金術士。

攻防繰り広げられる中、突如としてフードゥルが後ろへと下がった。

その突然の行動に錬金術士は訝し気な表情を浮かべたその時であった。フードゥルが下がっていった通路の奥から誰かが歩み寄ってくる気配を感じ取った。

裏切り者である処刑人や代理人でない。だが戦術人形でもない。先程まで戦っていたフードゥルでもない。何か異質な何かを放ちながら静かに歩み寄ってきている。

肌を刺す様なピリピリとした感覚。殺気とはまた違う何かが錬金術士に纏わりつく。

 

(何だ…この感覚は?)

 

今まで感じた事のなかったそれに疑問を抱かずに居られなかった。

疑問を抱く中闇の奥からその者は彼女の前に現れる。

手に持ったその刀に銘は存在しない。敵対する者に名も無き死を与えるのみ。

愛する母から貰った青い刺繡が施された黒いコートが彼の象徴となる。

 

「…」

 

相対するも彼…ギルヴァは無言を貫いていた。

突然現れたその男に錬金術士は直ぐに攻撃できる様に身構えた。

相手は普通の人間だ。だと言うのに気を抜けば一瞬で葬られそうな感覚に陥っていた。

そしてそれは正解であった。身構えた瞬間、何処から現れたのか群青色に輝く刀が複数飛んできたのだ。

その力に驚きつつもジャマダハルで打ち払う。固くはないのか打ち払われたそれは硝子細工の様に砕け散っていくが、立て続けに攻撃は続く。

第一波を凌いだと思いきや、錬金術士の目の前に居合の態勢で技を繰り出そうするギルヴァが現れる。

 

「死ね」

 

「!」

 

疾走。

生み出される無数の真空刃が錬金術士を切り裂こうとするが寸での所で刃を回避。

すれ違う両者。背中合わせになったのも束の間、体を翻し獲物をぶつけた。刃同士がぶつかり、火花が散る。

鍔迫り合いへと発展し、一歩も引かない二人。そのまま一旦引いたの束の間、流れる様に剣戟を繰り広げられる。二人の間で凄まじい速さで繰り返される剣戟の嵐。しかし状況は錬金術士が押されている。

このまま押し切られば死ぬ。だと言うのに美しさの中に死を潜めた太刀筋にどこか魅了されていた。

自身と同じ様に接近戦を得意する処刑人でもここまでは至らないだろう。自身と対等どころか圧倒している男が何者か気になって仕方なかった。

だからだろうか。押されているにも関わらず彼女は笑みを浮かべていた。

 

「笑みを浮かべるとはな。変わった女だ」

 

「それは私も思っていた事だ。何故だろうな、笑みがこぼれて仕方ない」

 

「俺が知っていると思っていたら大間違いだぞ」

 

「分かっているさ。そんな事は…なッ!」

 

放たれる蹴り。それを軽々と躱すギルヴァ。

笑みを浮かべたまま錬金術士は彼へと告げた。

 

「さぁ楽しもうじゃないか。久しく出会えた強敵だ。簡単に死んでくれるなよ?」

 

その台詞にギルヴァも珍しいなまでに小さく笑みを浮かべた。

そう言うのであれば答えない訳には行かない。そんな中、蒼が彼へと話しかける。

 

―ダンスの相手をご所望だとよ?

 

(そうだな。折角の誘いだ。偶には悪くはなかろう)

 

「良いだろう。少しばかりお前に付き合ってやろう」

 

「ハハッ…それは嬉しくて仕方ないなッ!!」

 

同時に動き出す二人。

ぶつかる刀身。響き渡る甲高い音。

両者が織りなす剣戟。それが奏で響き渡る舞踏が開演する。

 

 

 

「あーあ、正面から行ったけど良いのかしら?」

 

S10地区の山中で錬金術士が襲撃した基地を遠くから見つめ、呆れたと言わんばかりの声を上げる者が一人。

何かを知っているのか、ある事を自身の隣に立つ男へ問いかける。

 

「あれはプロトタイプでね。例え壊されようとも全く問題ないさ。記録したデータは我が拠点に送られる様になっているのさ」

 

「ふぅーん…」

 

腕を広げ大袈裟な素振りを見せるその男に対し、彼女は何とも言えない表現を浮かべる。

 

「それは兎も角だ。君の仲間は良いのかい?送り込んだプロトタイプは誰かれ構わず攻撃する様に設定してあるのだが?」

 

「同じ趣味同士、切り捨てるのは惜しいけど仕方ないわ。後は彼女次第ね。死ぬのも生き残るのも、ね」

 

「ハハッ。鉄血は仲間意識が強いと思っていたのだがね。まぁ良いさ。私はここで失礼する。また会おうではないか、夢想家」

 

そう言い残して男はその場から去っていく。

去っていく男を見届ける事はせず、夢想家は静かにS10地区前線基地の方へ向いた。

未だに銃声は響いている辺り、戦いはまだ終わっていないと感じつつ去っていった男が属している組織の名を口にする。

 

「神を信仰する教団、ねぇ…。この荒れ狂った世界に神様なんて居るのかしら?」

 

ま、どうでも良いけど、と話を締めくくると夢想家は静かにその場から立ち会って行くのだった。




遅くなってしまい申し訳ない。
ん?別段待っていない?…そっかぁ…(涙)

騎士の様な格好で片手剣を持った奴と大型ランスを持った奴…分かる人は分かるよね?
そのプロトタイプ(オリジナル設定)がこの襲撃に乗じて登場です。

やっと終わりが見えつつあったこの事件。どうやら新たな悪夢が再来しそうです。
次回辺りがアルケミスト襲撃は終わりかなぁ…(未定)


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Act98 Either nightmare Ⅳ

―――謎が残りし終幕


息をつかせぬ攻防戦。

一度引いてもすぐさま獲物を振るう両者。幾度なく斬り結んでいき、自身が劣勢であったとしても錬金術士は歪んだ笑みが浮かべたままであった。

ここまで高い実力を持った者は今自身と相対している者以外居ない。残忍な性格は何処へ行ったのか、彼女は純粋なまでにこの戦いを楽しんでいた。

 

「アハハハッ!!楽しい!楽しいなぁッ!!」

 

「…」

 

「そんな仏頂面しないでおくれよ。ダンスは始まったばかりではないか!」

 

両手に持ったジャマダハルは巧みに操り連撃を繰り出しつつ蹴り技も繰り出す錬金術士。

しかしそれすらも赤子の手をひねるかの様に回避しながらも致命傷となる攻撃を受け流すギルヴァ。そして一瞬の隙突き、持ち手を変えながら無銘の柄の底に当たる部分で腹部へ一撃を叩きつけ吹き飛ばすと距離を空いた所に居合の態勢へと移行する。

 

(先程の技か!)

 

居合の態勢で相手の突進しつつ無数の真空刃を生み出す技。先程それを見た錬金術士は素早く態勢を立て直すと地面を蹴り、ギルヴァへ迫った。

刀身を突き立て最速の刺突を放とうとする。しかし何故かギルヴァはその場から動こうとしない。

その時錬金術士は自分の行動が間違っていた事に気付かされる事となる。

 

「愚かな」

 

「ッ!?」

 

鞘と鍔の間から見える刀身。

一瞬の煌き。決して目では何時抜刀したのかさえ分からない神速の抜刀。

錬金術士の目の前へ突如として歪む空間。それと同時に無数の斬撃が襲い掛かった。

何が起きたのか分からない。だがこれは不味いと思ったのだろう。錬金術士は素早く右手に持っていた武器を手放し、それを犠牲にする形で攻撃を何とか凌いだ。そのまま飛び退き後退し、軽く息を吐くと先程の超常現象に対し冷静に分析した。

 

(今のは空間を斬ったというのか…?)

 

斬撃を飛ばすといった芸当はやってのける奴が居る事は知っている。最もその者は今は裏切り者であるが。

しかし空間を切り裂き、斬撃を離れた相手に飛ばすなど幾ら錬金術士とて多少なりとも驚いていた。

空間を切り裂くなど最早神業の域に達している。そんな事をやってのける奴が自身と相対している。そして彼女は気付く。空間を切り裂き離れた相手に斬撃を浴びせる事が出来るという事は、幾ら自身が距離を取ったとしても意味はない。相手の攻撃範囲から逃れられないのだと。

それが分かってしまうと彼女はつい笑いの声を上げた。

 

「成程…こればかりは認めざるを得ないな。たかだがグリフィンの基地と侮り過ぎたか」

 

「…」

 

「敵と話す気はもうない、か…。残念だな、もう少し会話に興じて見たかったのだが。…ッ!!」

 

左手に持ったジャマダハルの切っ先をギルヴァへ突き付けた瞬間であった。

何か感じ取ったかの様に錬金術士は勢い良く後ろへ振り向いた。彼女の目に映ったのはまるで騎士の姿をした何かが剣を振るい自身を仕留めようしている光景。

避ける時間などない。迫る刃。だがそれを阻止せんと動き出し錬金術士の横を駆け抜ける者が一人。

姿勢を低く維持し、鍔に親指を押し当て鯉口を切り、柄を握ると素早く抜刀。鋭い一撃が相手の胴を切り裂き、薙ぎ払う。

 

「…」

 

態勢を直しながら沈黙を貫きつつ刀身を鞘へと納めるギルヴァ。

そこにもう一体別の騎士が現れ、手にしていたランスを構えギルヴァを後ろから貫こうと迫る。だがそれを見逃さなかった錬金術士が攻撃が到達する前に強烈な上段蹴りを騎士の頭部に叩きつけ阻止。

そのまま互いに背中合わせになり、攻撃を阻止されても何もなかった様に立ち上がる二体の騎士を睨んだ。

 

「知り合いか?」

 

「さぁな。少なくともこっち側ではなさそうだがな」

 

鉄血ではない事はギルヴァも気付いていた。

そして攻撃を仕掛けてきた騎士から魔の気配を感じ取りつつも、別の何かが混じっている事にも疑問を抱いていた。しかしそれを考えている場合ではないのは明白。

いつでも対応できるように身構えていると錬金術士がある事を彼へと提案する。

 

「さてどうする?このままやり合うのも結構だが、私としては一時休戦を申し入れたいのだが?」

 

「その最中に紛れてこちらを討つつもりか」

 

「そうするも面白いが、今はその気にはなれん。気になる事もあるのでな」

 

「ほう?」

 

「それを知る為にもこの場を切り抜ける必要がある。協力してくれるなら暫くはここを襲撃しない事を約束しよう。最も私がそうしないだけであるがな。他は知らん」

 

大型ランスを持った騎士にジャマダハルを構える錬金術士。

鉄血ではない何か。しかし突如として現れたそれに彼女はある事を思い出していた。

それは夢想家が言っていた"強力な援軍"。もしかすればこいつらがそうではないかと判断していた。

だが援軍というにはこちらを攻撃してくる点は流石に疑問を抱かずには入れない。

自分の知らない所で何かが起きている。錬金術士は薄っすらそれを感じていた。

 

(真意を確かめる必要があるな)

 

その為ならこの場を切り抜ける必要があるのだが、肝心の相手から答えが聞けていない。

しかしそんな時間は無くなりつつある。敵も動き出そうとしている所だ。

答えを急かそうとした時、彼の口が開く。

 

「良いだろう。今だけだ」

 

そう告げられた瞬間、ギルヴァの姿が突如として掻き消え、黒い残像が駆け抜ける。

ほんの一瞬の出来事。彼が姿を見せた時には、既に片手剣を装備していた騎士の背後に回り込んでいた。既に居合の態勢を維持しており、鞘から玉鋼の刀身が垣間見えていた。敵は彼が背後に居る事に気付くと振り向きざまに構えていた盾を構えようとした。時には既に遅く、放たれた斬り上げによって敵は宙へ舞い上がっていた。

重量をものともしない強烈な一撃。盾を自身の背中へ移動させつつ羽を展開し距離を置こうとする敵だが、それを許す程ギルヴァは甘くはない。

騎士の頭上から降り注ぐ群青色の刀の雨。勢い良く降り注いだそれは騎士の鎧を貫き地面へ縫い付ける。

動きを封じられ無抵抗な姿を晒した所に幻影刀が周囲に展開され、騎士へと向かって一斉に投射。放たれた刀が敵を串刺し、抵抗する時間も与えぬまま確実な死を与える。

成す術もなく死に絶える騎士。自身の足元にその頭部が転がり寄ってきた時、ギルヴァは怪訝な表情を浮かべた。

 

(中身がない…?)

 

そう、中身がなかったのだ。

先程までは中身がある様な挙動していたにも関わらず倒してみれば実は中身は空っぽだったというのが不可解な話である。悪魔が憑依していたのかと思考を巡らすギルヴァであったが、役目が終えたかの様に鎧が消失していったので答えは見つけられずじまいになってしまう。

一体何だったのかと思いつつも、自身と同時に動き出したであろう錬金術士の方へと向くとあちらも難なく敵を排除している姿を彼の目に映る。

 

―ほう…中々にやるなぁ?

 

(そうだな…)

 

蒼がそう口にした事に対し同意を示すと敵が完全に沈黙した事を確認したのか武器を下ろし、錬金術師士はギルヴァの近くへと歩み寄った。

沈黙を貫くギルヴァに対し、錬金術士は何を思ったのかふと笑みを浮かべた。

 

「気にいった。お前とは相まみえたいものだ。…名前でも聞かせてもらおうか?」

 

「…名乗る気などない」

 

冷たく言い放つとギルヴァはコートをなびかせながら、錬金術士の横を通り過ぎる。そのまま去っていくのかと思えば、彼は背を向けつつも口を開く。

 

「次は斬る」

 

そう言い残して、彼はその場を去っていく。

 

「…その日を楽しみに待つとしよう」

 

去り行く彼の背中を見つめながら、残していった台詞に答える様に呟く錬金術士。

彼女も基地の人形達が来る前に背を向けて暗闇へと歩き出す。

この後に取る行動指針を決めて、基地から去っていくのだった。

 

因みにであるが基地正面で現れた第三勢力である騎士たちは開幕早々ノーネイムとSpit-Fireたちの集中砲火を浴び去られ、跡形もなく消失したとの事。

錬金術士の襲撃、突如として現れた第三勢力。幾つかの謎を残しつつ、事件は終幕を迎えるのであった。

 

 

 

「そうか。S10は陥落せず無事であったか。…そして"奴ら"が動き出しおったか」

 

某所。廃れた町にある小さな図書館で報告を受けた彼女はそう静かに呟いた。

煙管を咥え、紫煙を吐き出しつつどこか安堵した様な表情を浮かべるが、それも束の間神妙な面持ちで通信してきた相手…ルージュへと話しかける。

 

「ルージュよ。早いうちに支度しとけい。…下手すれば向こうに厄介になるかも知れんぞ」

 

『正気ですか?貴女の身分を知る者が聞けば何を言われるか…』

 

「知らんな。本部直属諜報部所長の身でありながら、こうして"フェーンベルツ"に住んでいても何も言わんのはワシの事は殆ど知られておらんという事よ」

 

『そうでしょうけど…。、まぁそれは兎も角です。向こうに行けば確実に私や貴女の正体はバレますよ?狩人達が居るのですから』

 

「そこは何とかやるだけじゃ」

 

相手の反応も待たずに通信を切る女性。

何処で手にしたのか白を基調とした着物を羽織り、笑みを浮かべながら煙管を吹かす。

外からの日差しが差し込み、ほのかに暖かい空間の中ゆらゆらと昇っていく紫煙を見つめながら、彼女は静かに呟いた。

 

 

 

「…"神"が堕ちる日は近いかものう…」

 

 

 




飛ばし飛ばしで申し訳ねぇ…(土下座
さて…謎を色々残しまくりですがアルケミスト襲撃事件はこれにて終了です。

襲撃で基地もボロボロ(一部)になったので、修繕作業に移行かな。
修繕協力したい方が入れば来ても良いんやで?
ん?…いる訳ねぇだろうって?…せやな(´・ω・`)


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Act99-Extra Repair work

―――修繕作業兼交流



今回はコラボ回。鮭酒様作「終末世界で碧い竜は地を清める」とのコラボです。
アルケミスト襲撃で基地の一部が壊れたからね。その修繕作業にS地区応急支援基地に支援要請という感じです。

また今回からコラボ回には『Extra』とつける様にします。


アルケミスト襲撃事件から数日、S10地区前線基地は襲撃によって破壊された防壁や滅茶苦茶になった内部の修繕工事が行なわれていた。幸いにも資材を保管している備蓄倉庫に被害は及んでおらず、修繕工事は良いスタートを切っていた。

何処からか作業用外骨格が動く音が響き渡り、人形達が資材の運搬の為行き交う基地内部エントランスホールで、何故か安全第一と記された黄色のヘルメットを被り、作業服を着たシーナが通信端末を手に、ある人物と連絡を取っていた。

 

『そうか。事の顛末は把握した。無事で何よりだ、シーナ指揮官』

 

「いえ。寧ろ報告が遅くなってしまい申し訳ございません。へリアン上級代行官」

 

『それに関しては不問としよう。よりによって通信機器が使えなくなるなど予想は付かんだろうからな』

 

アルケミスト襲撃事件の影響か或いは別の要因によるものか、突如として通信機器が使えなくなるという事態に見舞われてしまいS10地区前線基地はどことも連絡は取れない状況に陥っていた。

基地の修繕工事を行う前に通信機能の復旧作業が急務となり、そして今日漸く通信機器が回復した次第だ。

復旧作業に時間を要してしまった事により、本来優先すべきであった修繕工事が行われ、また人手が足りないという報告を受け、シーナも作業に参加していた。グリフィンの制服ではなく作業服を着ているのはそれが理由だ。

報告が遅れた件について不問となった後、へリアンは別の話題へと切りこんだ。

 

『しかし錬金術士が自ら引いたとはな。相対した彼は何と言っていた?』

 

「気になる事がある、という理由で引いたと言っていました。恐らく第三勢力の事かと」

 

『中身の無い騎士、か…。これも悪魔が関わっていると良いのだろうか』

 

「今の所は断言は出来ません。悪魔が鎧に憑りついていたという考えも出来ますが、ギルヴァさんが言うには悪魔以外の何かを感じられたと。ただその正体までは分からないそうで…。マギーさんにも調査を頼みましたが、倒した後に騎士は鎧ごと消失しており、何の手がかりすら得られませんでした」

 

今回の一件は多くの謎が残っている。

しかし手がかりの無さから何ら答えを得られないのはシーナとて歯痒い所であった。

自分達の敵となるのは明白であるのだが、だが今回の一件は今まで体験した事のない大規模な事件になると判断していた。

下手すればS11地区後方支援基地での作戦みたく、他の基地に協力を仰ぐ必要がある。

シーナとしてはそう何度も迷惑をかけたくはなかった。願わくは自分達の手が対処出来る案件である事を願った。

 

『そうか。取り敢えず了解した。それから迅速に修繕作業を終わらせるために私からある基地に人員を送る様に手配しておく。明日辺りには修繕工事も円滑に進められるだろう。なるべく手短に修繕を終え、通常業務に復帰する様に』

 

「了解です」

 

それを最後に通信を切ると端末を近くのテーブルの上に置き椅子から立ち上がるシーナ。

近くを通りかかった人形に作業の進捗状況を聞いたの後、彼女もまた瓦礫や敵の残骸撤去作業へと動き出す。

 

一方でブレイクと錬金術士のダミーとの戦闘によって滅茶苦茶になってしまった第二ラウンジでも便利屋組によって撤去作業が行なわれていた。とは言ってもこの場に居るのはギルヴァ、代理人、ブレイク、グローザの四人だけであるが。この場にその他のメンバーが居ないのは基地正面入口前の撤去作業へと駆り出されている為である。

因みにであるが状況が状況だった事もあり仕方ないとは言えラウンジを無茶苦茶にしてしまったブレイクは面倒臭がってサボろうとしていたのだが、グローザによって阻止されたのは言うまででもないだろう。

ブレイクがサボりださない様にグローザによる厳しい監視がある中で撤去作業は順調に進められており、流石にコートを羽織ったままでは作業に支障が出ると判断したのか愛用のコートを近くにあった辛うじて形を保っていた椅子の背もたれにかけて黙々と作業をこなすギルヴァ。その隣で代理人が彼の手伝いをしていた。

 

「随分と派手に暴れた様だな」

 

彼がここに訪れた時にはその惨状は凄まじいものであった。

弾痕や刀痕などがそこらじゅうに残されており、家具や簡易カウンターは再度使う事は不可能と言える程損傷具合は酷く、その惨状からここで戦った二人が激しくぶつかったという事を物語っていた。

ギルヴァとてブレイクの行動に関しては一切咎める気はなく、こればかりは仕方ないと判断していた。

 

「状況が状況でしたからね。私も処刑人と共に第二ロビーを無茶苦茶にしてしまいましたから。ここでの撤去作業が終わればあちらに向かうつもりです」

 

「そうか。ならば俺も向かおう。人手は多いに越した事ないのでな」

 

こういう時は何かと人手が居る。

流石に代理人と処刑人の二人だけで作業する事はないだろうと思いながらも彼は自身も向かうと口にした。

 

「ええ。お願い致します。…ふふっ、久しぶりに夫婦による共同作業ですね」

 

「…かもな」

 

もう一人の妻 UMP45が居ない事を良い事にそっとギルヴァの隣に寄り添う代理人。そっと頭を傾けて彼の肩へと預ける。対するギルヴァは何も言わないが嫌がる様な素振りは見せず、黙々と作業を続けるのだった。

勝手にイチャつき始めた二組を見ていたブレイクは不満の声を上げた。

 

「あいつらもサボってんじゃねぇかよ」

 

「貴方よりかはマシよ」

 

しかしグローザに一蹴され、撤去作業を続けるブレイクであった。

結局この日は撤去作業が少し進んだだけであって、修繕工事は明日も行われる事となるのであった。

 

 

翌日。

今日もS10地区前線基地は修繕工事の続きをしていた。そこにへリアンの指示によって修繕工事補助の増員として『S地区応急支援基地』からやってきた者達を見て出迎えに出ていたシーナは増員メンバーをつい目を丸くしていた。

来てくれたS地区応急支援基地の指揮官であるサバシリや所属しているスコーピオンは兎も角、ダミーを含め総勢25人のIDWで構成されたNKO小隊を見ればそうなるであろう。

しかし今は固まっている時ではない。すぐさま現実へ戻ってきたシーナはサバシリ指揮官へ挨拶する。

 

「S10地区前線基地指揮官、シーナ・ナギサです。今回は急な支援要請に答えて頂きありがとうございます」

 

「いえ。S地区応急支援基地指揮官、サバシリ・シャトバです。…早速ですが何処から取りかかりましょうか?」

 

現状優先すべき所は今彼女達がいる基地正面入口前。

外壁には錬金術士が破壊し空けた大きな穴が痛々しく残っており、またノーネイムが倒した鉄血の亡骸がそこらに転がっている。補助としてやってきた彼女達の力はとても心強いを判断しシーナはその旨を伝える。

 

「優先すべき箇所は今私達がいる基地正面入口前ですね。外壁の修繕や瓦礫、敵の残骸の撤去作業をお願いします。必要であれば作業外骨格を使ってください」

 

「分かりました。…皆聞いたね?まずはここから始めるよ。全員作業に取り掛かって!」

 

その言葉に増員メンバーが一斉に動き出す。数の多さから一斉に動き出す様は圧巻である。

自分も作業に移ろうとした時、ふとシーナはNKO小隊を見てある事を思った。

 

「IDW…何であんな大人数になったんだろう?」

 

余りにも極々最も過ぎるシーナの感想に傍で聞いていたサバシリはあはは…と苦笑いを浮かべるのであった。

 

 

S地区応急支援基地からやってきたメンバーを加えて修繕作業は順調に進んでいた。

 

「この地点で良いかな?」

 

「ああ。そこに頼む。しかし重機の操作、随分と手慣れているな?」

 

重機をまるで自分の手脚の様に扱うスコーピオンに対し誘導役を引き受けていたMG5は感心した様にそう口にした。

重機の扱い方を教えてから数分と経たぬ内にスコーピオンは難なく使いこなしていた。そのおかげで作業にスムーズに進んでいるのも彼女の影響が大きい。

吞み込みの速さならS10地区前線基地に所属するスコーピオンと比べるとS地区応急支援基地所属のスコーピオンに軍配が上がるであろう。

 

「まぁね。こういう事は得意分野でね。修繕作業もちゃちゃっと終わらせるよ!」

 

自慢げな表情を浮かべるスコーピオンにクールな笑みを浮かべるMG5。

何とも頼もしい増員が来てくれたものだと思いつつスコーピオンへと口を開く。

 

「グッド。では次へ行こうか」

 

「りょーかい!」

 

満面の笑みを浮かべ可愛らしい敬礼を見せるスコーピオン。

そんな姿を見てMG5は元気な所はここに所属するスコーピオンと変わらないなと感じるのであった。

するとスコーピオンが軽く辺りを見回した後にここの惨状について切り出した。

 

「そういえばここだけ鉄血の残骸がすごいよね。下手すれば山が出来る程だよ」

 

「正面から突っ込んできたものでな。だがこれをやったのは八割はノーネイムがやったものだ」

 

「ノ、ノーネイム?」

 

あそこだと指差すMG5。重機を一旦停止させ、その指差す方向へと向くスコーピオン。

MG5が指差す先には上着を脱ぎ、長く伸ばしている髪をポニーテールにして束ね黙々と作業をしているノーネイムの姿があった。

当然ながらスコーピオンはノーネイムが鉄血のハイエンドモデルである事は知らない。一見すれば凛とした雰囲気を保ち、女性なら羨むほどに美貌を有した女性にしか見えない。

そんな女性が鉄血の残骸の山を作り上げたとは到底思えない中、スコーピオンはそこに映った光景に目を丸くした。作業しているノーネイムに近寄るある二人の姿。一人はメイド服、もう一人は服装こそは違うがその顔は忘れる筈はなかった。

 

「ちょ、ちょっと!?あの二人って!?」

 

「ああ、代理人と処刑人の事か?考えている事は分かっているがそこまで気にする必要はないぞ。代理人に至っては結婚しているからな。ついでに明かすがノーネイムも鉄血のハイエンドモデルだぞ」

 

「えええぇぇっ!!??」

 

「ハッハッハッ!中々な驚きっぷりだな」

 

スコーピオンの絶叫が工事の騒音に掻き消える中、その反応を見て笑い出すMG5。

 

「ハイエンドモデルすら引き込むなんて…」

 

「ここでは不思議や例外は当たり前だ。目の前に起きている事が全てとは限らない…そっちの基地の事は良くは知らんが、経験した事のない出来事の一つや二つは経験しているだろう?」

 

指摘され心当たりがあるのか頷くスコーピオン。

そんな彼女を見てMG5は一つアドバイスする事にした。

 

「驚く事をするなとは言わんさ。ただ常識など通用しない場面に遭遇する事もあるだろう。今の様に日常生活における出来事から戦い…その範囲は広い。ここはそういった連中を相手にした事があるのでな。…まぁ分かりやすく言えば、慣れてしまえという事だ」

 

「…一体鉄血以外の何と戦ってきたの…?」

 

「…人知れず生きている未知の存在と言うべきだな」

 

その問いに対しMG5は敢えて悪魔とは言わなかった。

いきなりそんな事を言われても困惑するだろうと判断したためである。

 

「さ、お喋りはここまでだ。作業を続けよう」

 

スコーピオンにそう促し、MG5は作業を続けるのであった。

 

 

作業を開始して数時間後。

昼を迎え、S10地区前線基地側が用意した昼食を頬張り各自休憩へと入っていた。

同じ指揮官同士、シーナはサバシリと共に昼食を取っていた。年齢差はあるものの会話は弾んでおり、シーナはサバシリに対し好印象を抱ていた。因みにであるがサバシリの頭部に巻かれている包帯の事や目の事に関してシーナは一切追求していない。それどころか警戒すらしていない。

理由としては信用出来る人と判断している事が大きい。

18という若さでありながら他の基地との交流、悪魔が関わる案件において成長を見せたシーナ。初めての共同作戦ではハンターである人からも厳しい意見もあった。だが決してそれに目を背ける事はなく受け止め己の糧とした。戦いの指揮だけではなく、多くの事を経験した事から初めて会うサバシリに対しては友好的な関係が掴めたらと思っていた。

 

「しかしあの代理人や処刑人が居るとは…流石に思いもしませんでしたよ」

 

偶然というべきか。サバシリもこの基地に代理人や処刑人がいる事について触れていた。

S地区応急支援基地にもスケアクロウがいるのだが、彼女の場合は理由が違う。

故に二人がグリフィン側に着いた事が不思議だったのだろう。

それに対しシーナは何食わぬ顔で返答する。

 

「処刑人は兎も角、代理人に至っては自ら離反した程ですよ?」

 

「自らって…一体何があったのです?」

 

「まぁそこは…乙女の事情という事にしておいてください」

 

敵対し自身を倒した相手に惚れて追ってきたなんて言える筈もないので敢えて事情を伏せる。

対して聞いては不味い事だったのかと察したのかサバシリは別の話題へ切り替えた。

 

「そう言えば赤いコートの男性を見かけたのですが…あの方は一体」

 

「俺を呼んだかい?」

 

遮るかの様に彼女の後ろから聞こえた男性の声。

サバシリが後ろを振り向くとそこに立っていたのは先程彼女は言っていた赤いコートの男性…ブレイクであった。

現れた彼に若干驚いているサバシリに対し、ブレイクはサバシリから何かを感じ取っていた。その正体は掴めないが、だからといってそれを問うつもりなど彼にはなかった。

相変わらずニヒルな笑みを浮かべるとブレイクはサバシリの方ではなくシーナの隣に座った。

何時の間に注文していたのか、彼の手にはLサイズのピザが入ったピザボックス。そこから一切れ取り出し食事を始めた。

 

「昼飯食ってんならご一緒させてもらうぜ。おっと名前がまだだったな。ブレイクだ、便利屋をやってる。宜しくサバシリ指揮官」

 

「どこで名前を?」

 

「そっちの所のIDW…メイルーだったか。そいつから教えてもらってな」

 

因みにであるがそのメイルーはなんと後方幕僚兼魔工職人であるマギー・ハリスンと楽しく会話していた。武器談義で盛り上がっており、熱く語るメイルーにそれを頷きながら聞き役に徹しつつたまに口を挟んでいくマギー。

中々に理解のある相手だと判断したのか、帰り際にマギーはメイルーにある武器をプレゼントしたのだが、それは後に話すとしよう。

 

「ブレイクさんは町の方で便利屋をやっているんです。デビルメイクライ第一支店という名前で」

 

「ん?第一支店という事は本店がある?」

 

「ええ。基地と隣接する形で本店がありますね。そこの店主はブレイクさんではなく、もう一人の方が経営しています」

 

「それって黒いコートの…?」

 

ブレイクの他にもサバシリはギルヴァの姿を目撃していた。そして言った傍からその本人がシーナ達の傍へやってきた。

 

「指揮官。内部の撤去作業を終えた。休憩を終えたら確認の方を頼む」

 

「了解。ギルヴァさんも休憩に入ってね」

 

「ああ。…む」

 

立ち去ろうした矢先、サバシリに気付きギルヴァは足を止めた。

ブレイクと同様に彼もまたサバシリから何らかの気配を感じ取ってはいたが問う事はしなかった。その代わりに彼はS地区応急支援基地に居るであろうある者の事について問いかけた。

話した事はなく、姿を見ただけであったが同じ戦場で戦ったあの碧き竜の事を。

 

「リヴァは息災か?」

 

彼の口から出てきたその名にサバシリは驚きを感じた。

どこで彼の名を聞いたのかと少し警戒しそうになるがある事を思い出す。

もしかしてと思いつつサバシリはギルヴァへ尋ねた。

 

「もしかして…あの戦場に居ましたか?モンスターがいる戦場に」

 

「ああ。俺やそこにいるブレイク、それと処刑人があの場にいた。直接本人に聞いた訳ではないが、あの場にいた者達から彼がそちらの基地所属だという事を聞いた」

 

それを聞きサバシリはそっと安心した様に胸を下した。

いきなりその名が出てきた事に驚いたが、あの戦場に居たのであれば信用出来る。

そこに二人の会話を傍で来ていたブレイクも混ざりだす。

 

「あの竜、リヴァっていうのか。あいつに伝えてくれ。ナイスファイトだってな」

 

「俺からも伝えてほしい。いずれ会おうとな」

 

本人が居ない内にメッセージが送られる状況。

悪魔の血を引く二人が碧き竜 リヴァと邂逅を果たす日は何時になるのか。それは神のみぞ知る。

 

 

S地区応急支援基地のおかげにより修繕作業はあっという間に終わり、基地は元の姿を取り戻していた。

既に基地へと戻る体勢を整えたサバシリ指揮官らにS10地区前線基地に所属する全員と便利屋組が見送りに出ていた。

 

「今回は本当にありがとうございました。良かったらこれをどうぞ」

 

シーナがサバシリに渡したのは作り立てのクッキーとグローザ監修低カロリーストロベリーサンデーのレシピ本。

前者は兎も角、後者に関してはグローザがブレイクの為にと考えたものなのだが、どうせなら低カロリーで甘いものを食べたい女性たちの為にとグローザの許可の元制作、幾らか増産された本だ。

それが手渡されているのを他所にマギーはメイルーに自身が製作した武器をプレゼントとしていた。

試作品であるが光弾と極太照射レーザーを放つ事が出来る『プロトタイプ・ナイトメア』をプレゼントしていた。

 

「わざわざありがとうございます。…シーナ指揮官、一つお聞きしていいでしょうか?」

 

「何でしょうか?」

 

「貴女達は鉄血以外の何と戦っていらっしゃるのですか…?」

 

シーナからプレゼントを受け取るとサバシリは気になっていた事を尋ねた。

スコーピオンから聞いた話で彼女もまた気になっていたのだ。

ここS10地区前線基地は鉄血以外の何を戦っているのかと。

この基地と幾らか関わってきた基地は知っているが、S地区応急支援基地は知らない。いずれ知られる事だと思ったのかシーナは明かす事にした。

 

「悪魔。それがサバシリ指揮官が言う鉄血以外の"何か"です」

 

「悪魔…?おとぎ話に出てくる…?」

 

「ええ。でも私達が討つのは悪魔全てではないです」

 

スッと目つきと表情を変えるシーナ。

悪魔案件に関わってきたこそ分かってきた事。その一つをシーナは口にする。

 

「討つのは"心"の無い悪魔だけ。人を愛し、人形を愛し、誰かの為に戦い、誰かの為に涙を流す悪魔を私は知っているので」

 

近くにそういった者達が居たからこそ知り得た事。

だからこそ彼女は知った。悪魔の中にも心を有した者達がいるのだと。

18歳と関わらず見せるシーナの姿はどこか歴戦の猛者を感じさせる。本人は自覚はないのだが、サバシリにとってはシーナ・ナギサという人物はそういう風に見えていた。

そしてシーナは締めくくる。

 

「悪魔が出てきたらご一報を。奴らの相手ならうちが受け持ちましょう」

 

鉄血以外の何か…悪魔と戦うS10地区前線基地の姿がそこにあった。




という訳でマギーからメイルーにプレゼントした武器の紹介。

『プロトタイプ・ナイトメア』
:マギーが製作した試験武装。光弾と極太レーザーを放つ事が出来る。
鉄血が装備する光学兵器を参考に製作されたもの。極太レーザーを放つ際にはチャージを要する必要がある。


鮭酒様。今回コラボして頂きありがとうございました!


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Act100 On a rainy day

―――"それ"を確かめる為に彼女達は動き出す


S10地区前線基地の修繕作業が終えた翌日。S10地区では雨が降っていた。

灰色の空が広がりしとしとと雨が降る町。大通りで傘を差して歩く者達に混じってローブを纏い歩く者がいた。

顔を見られない様にフードを深く被り、通り過ぎていく者達がその者を珍しいものを見るような目で見ていく中、その者は気にする事無く人通りを縫う様に抜けていく。

しかし流石に目立つと感じたのか人目を避けるかの様にその者は大通りから路地裏を通り抜け、別の大通りへと出た。偶然も見つけた店の前で雨宿りの為に一旦足を止めて、被っていたフードを脱いだ。

 

「…ローブ姿は目立つか」

 

額に付いた水滴を払いつつその者はそう呟く。

右目の眼帯。金色の瞳。白い肌が特徴の女性…先日S10地区前線基地を襲撃した鉄血のハイエンドモデル 錬金術士である。

ギルヴァとの戦いの後、彼女はまだS10地区に留まっていた。再度基地に襲撃する計画を立てている訳ではなく、だからといってこの町の住民を襲うという気すらない。彼女はあの時の自身を襲ってきた騎士を増援として送ってきた夢想家にその理由を確かめる為に行動していた。このまま拠点としている場所に戻るも良いのだが不測の事態に備えてこの地区で準備してから戻ろうと考えていたが、あろう事か準備は中々に進まずにいた。

 

「武器が必要か」

 

ギルヴァの次元斬によって複合武器の一つは破壊され、戻るにしても残った複合武器一つでは心許ない。

この際、炸薬を用いた武器でも良い。手短に必要な物を揃えてここを去らなくてはならない。

しかし錬金術士には武器を買う資金などない。強引に押し入って武器を奪ったとしても下手すればグリフィンの連中が駆けつける可能性もある。

穏便に、尚且つ必要な物を揃えなくてはならないのが当面の目的であった。

最悪このまま戻るべきかと思った矢先、彼女の後方から声がかかる。

 

「おーい、そこで雨宿りしてんなら中に入るか?」

 

「む?」

 

ふと聞こえた声に対しその方向へ向く錬金術士。

そこにいたのはドアから顔を出し声を掛ける一人の男。

 

「…ああ、邪魔させてもらう」

 

どうしたものかと迷ったがこのまま立ち尽くしていた所で何も始まらない。

店主の折角の厚意に甘える事にした錬金術士は店内へと入っていく。

そして店内に展示されていた品々を見て運が良いと感じた。

 

(武器屋だったとはな)

 

錬金術士が訪れた店は偶然にもギルヴァが愛銃のレーゾンデートルに使用する13mm弾を購入する為に訪れる行きつけの武器屋であった。

訪れた転機。しかしそれだけであり購入する為の資金を持っている訳ではない。歯痒い気分になりつつもそれを表に出さずにいると奥から店主が現れ、彼女にへとタオルを投げ渡した。

 

「そのまんまじゃ風邪引くぜ。それで拭きな。後はローブはそこにかけて乾かしておきなよ」

 

「…ああ」

 

(風邪を引く事はないのだがな…)

 

言葉に出す事はせず、先に纏っていたローブを指定された所にかけると渡されたタオルを体を拭く。

 

「んで?ローブを纏っている事は旅人かい」

 

ローブ姿は確かに目立つがそれを利用する者が少ないかと言わればそうでもない。店主が尋ねた様にローブを纏って旅をする者もいる。この辺りでは余り見かけないのもあり、周りから浮いていた事を錬金術士は知る訳もなかった。そして店主はそういった佇まいの旅人を何人か見た事があったが故の問いであった。

 

「まぁ…そんなところだ」

 

鉄血のハイエンドモデルだなんて言える筈がない。質問に対し嘘を伝える錬金術士。

それが本当だと信じたのか店主はそこから何も問わず、雨が止むまでのんびりしてなと伝えると店主はカウンターの奥へと消えていった。

本来であれば急がなくてはならないのだが、この雨のせいか考えが纏まらず軽く混乱しつつあった錬金術士は店の窓際にあった椅子に腰掛け、雨降る外を見つめるのであった。

 

 

あれから軽く一時間が経過した。

雨は止む事を知らず、今も尚降り注いでいる。雨音が耳にしながら錬金術士は考え耽っていた。それでこそ今の自分が普段の自分とは想像付かない程に。

ただ戻って理由を尋ねれば良いだけ。だと言うのに何故か懸念が払いきれずにそんな自分らしからぬ所に嫌悪感を抱いていた。

 

(あの騎士たちが現れた辺りから私が切り捨てられた事は既に分かっている。あいつは最初から助けるつもりなどなかった事もな)

 

嫌悪感を抱いていたとしても不安が払拭される事はなく、それが重しとなって錬金術士の背にのしかかる。

 

(ただ理由を、その真意を尋ねればいい。だが何だ?この不安は…)

 

「冷めない内に飲みな」

 

そこに店主が彼女の元に歩み寄り、淹れたての珈琲が入ったマグカップを差し出した。

最初こそは迷った錬金術士であったが、それを受け取り一口だけ飲んだ。

まともな飲食などした事が無い。珈琲を一口含んだ時に感じられた苦味と甘み、珈琲特有の香りは決して嫌いな味ではなかった。

それが新鮮だったのか、錬金術士は静かに呟いた。

 

「美味いな…」

 

今の今まで飲食などどうでもいいと感じていた彼女でも店主が淹れた珈琲は美味しかった。

火傷しない程度に温かく、雨が降る中で飲む一杯は何処か気持ちを落ち着かせてくれる様な感覚があった。

錬金術士が呟いた声は店主も聞こえていたが敢えて聞かなかった振りをして、カウンター内にある椅子の方へと移動し腰掛け、懐から煙草とライターを取り出し、火をつけた。

ゆらりと上がる紫煙。静寂が辺りを包み、雨音だけが大きく響き渡る。

 

「ねえちゃん、旅人じゃねぇだろ?」

 

何を根拠にそう思ったのか店主は言い放った。

 

「…何故そう思う」

 

見た目からして旅人の様な風貌していない。いずれ発覚する事だと踏んでいたのか錬金術士は決して取り乱す事はせず少しだけ警戒心を強めつつ淡々と返答した。

対する店主はそう言い放ったにも関わらずに訝しむ様子や武器に手をかける様子すらない。

 

「なに、そう思っただけさ。それに何かあったクチだろ?」

 

「…」

 

「何に対して迷っているのか、或いは不安がっているかは知らねぇが、うじうじしていても始まんねぇだろ?」

 

「知った様な口を利かないでくれるか」

 

当然ながら店主は錬金術士の身に起きた事を知っている筈がない。

だが見透かした様な言い方に苛立ったのか彼女はつい声色を強めた。しかし店主はそれに臆する事は全く無く、澄ました顔で煙草を吹かしていた。

その様子に錬金術士に舌打ちした。

今までは自分が上位に立っていた事が殆どであり、店主の様な掴みどころのない相手は初めてであり、やりづらい相手だと認識せざるを得なかった。

 

「…お前に何が分かる」

 

「分からねぇさ。確かに迷った末に出した答えで突き進むのもアリだと思うが、そうじゃないんだろ?なら思い切りぶつかってやりゃいいじゃねぇか」

 

一度紫煙を吐き、店主はそれに、と言葉を続けた。

 

「ねえちゃんがどういう立場にいるのかなんざ知る気はねぇが、なっちまったもんはそれで受け止めるしかねぇのさ。誤解が解けたらそれで良し。例えば組織に属していて切り捨てられたら、こう思えば良いのさ」

 

ゆらりと紫煙は舞い上がる。

澄ました表情は変わらない。だがそこには長くの人生を生きていた先人の姿がそこにあった。

今日という今日まで何を体験してきたのか。それは店主にしか知り得ない事であろう。

 

「自由に生きて、自由に死ねばいい。最初から重たく考えなくてもいいのさ。いずれやりたい事が見つかるのさ。それが人間だろうと、人形であろうとな」

 

そういう生き方をしてきたんでね、俺はと締めくくる店主。

全てが響いた訳ではない。だが何処か、ほんの少しだけ響く感覚を覚えた錬金術士。

 

(自由に生きて、自由に死ねばいい、か…)

 

グリフィンの人形を玩具として見て、残虐な行為を好むのが彼女だ。

だが今の自分は何だろうかと自問自答を繰り返す。しかし答えは弾き出される事はない。只々答えを出そうと空回りするだけであったが、一つだけ彼女は理解した。

 

(先が見えん事に怯えていたかも知れんな)

 

最早自分が気付かぬ内に事は歪んでいた。

そして自分では気付かぬほどに先が見えぬ恐怖に怯えていた。それを理解すると何処か重しが取れていく感覚を覚え、一つの結論に至った。

 

(切り捨てられた事に変わりはない。作戦も失敗している時点で私が鉄血に戻る事は叶わんだろう)

 

少し冷めてしまった珈琲。その最後を飲み干すとマグカップを近場において彼女は立ち上がった。

 

(自分らしくないのもまた一興か)

 

既に乾いたローブに手に取り、外を覗く。

雨はまだ降っているが先程と比べる小降りへと落ち着いている。

すると店主が彼女へと声をかけた。

 

「行くのかい」

 

「ああ。世話になったな」

 

「何もしてねぇさ、礼を言われる程じゃない。それと何だかひと暴れするんだろ?ならこいつらを持っていきな」

 

錬金術士がやろうとしている事を見抜いていたのか、奥からある物を取ってきてから戻ってきた。

そしてカウンターの上に置かれたのはM79グレネードランチャーと「ストリート・スイーパー」の異名を持つ散弾銃 RDIストライカー12とその銃弾であった。

置かれた銃を見て不思議そうな顔を浮かべ錬金術士は店主へ尋ねる。

 

「何のつもりだ?金など持ってないぞ」

 

「金が無くてもどうしても武器はいるんだろ?最初あんたの顔を見た時そう思ってな」

 

「…私がこれを持ってお前やここの住民に危害を加えると思わんのか?」

 

「それをする気なら俺を殺してやればいいだろ?それをやらねぇ事はそういう事だろ?」

 

「ちっ…食えん奴だ」

 

澄ました顔で何を考えているか読めない店主に嫌そうな表情を浮かべる錬金術士。

だがこれで必要な物を得られた。装備品を身に付け、M79グレネードランチャーのスリング部分を肩に通し、RDIストライカー12を改造されたホルスターへと通すとその上からローブを纏い店の出口へと歩き出していく。

ドアを開きそのまま出ていこうとした時、ふと彼女は足を止めた。

 

「…恩に切る」

 

そう呟くと彼女は歩き出し小雨が降る外へ消えていった。

雨の独特の匂い。勢いは緩やかになったものの止む事を知らない雨。

ローブの隙間から入り込む冷たい雨粒が顔にありながらも一歩、一歩としっかりとした足取りで彼女は地区の外へ歩き出していく。

 

「…さて」

 

―――足掻いてみるとしよう

 

理由を、その真意を知る為。

人知れず始まった孤独な戦いが幕を開けた。

 

一方その頃。

某地区の山脈地帯。

ここのボスであった鉄血のハイエンドモデル『侵入者(イントゥルーダー)』も誰にも気付かぬ内に孤独な戦いに幕を上げていた。

廃屋に身を隠し、静かに呟く。

 

「増員にしては随分と無粋な者を送ってきたですこと」

 

幸いにも損傷は負っていないが、その恐ろしさを実感した為か僅かに体が震えていた。

何とかその震えを抑えつつ、先程の"アレ"を思い出す。

 

「あれは何なのでしょうね…。竜…それとも別の何かでしょうか」

 

(どのみち夢想家に"アレ"について尋ねないといけませんわね)

 

愛用の武器を手に彼女は廃屋を後にし、静かに消え去っていくのだった。

奇しくもその目的は錬金術士と同じであった。

 

 

「おいおい、何だありゃ…」

 

侵入者が動き出した一方で破棄された通信施設でAR小隊の一人、M16はまるで信じられないものを目の当たりにしていた。鉄血大部隊を圧倒的な力で壊滅へ追い込んでいく何か。

発達した四肢。赤色に染まりどことなく輝いているにも見える鱗。どういう風になってるのか両腕からはブレードの様な物が展開され、相手の体をばっさりと切り裂いていた。

光学兵器による攻撃をものともせず、見た目に反する機敏な動き。どうあがいてもこの世のものとは思えない。

それはひとしきり暴れ、鉄血の大部隊を壊滅させると空へと向かって大きく咆哮した。

怒りか、或いはそれ以外の何かに対し叫んでいるのか。それを知る者はいない。

高らかに叫んだ後、それは敵が居ない事を確認した後、その場から大きく跳躍して飛び去って行った。

 

「行ったか…。ホント何なんだ、アレは?」

 

それが飛び去っていった方向を見つめながらそう呟くM16。

気付かぬ内に事が大きくなっている事は言わなくても分かる。

 

「早いうちにM4達と連絡を取らないとな」

 

通信機器はあるものの機能はしていない。

それでもやらなくてはならない。この事を伝える為に。

 

「酒でも飲んでないとやってられないね、全く…」

 

そうぼやきながらもM16は通信機器の修繕へと急ぐのであった。




今回はギルヴァ達ではなく、基地襲撃後のアルケミストと+αで書いてみました。
色々設定ぶち込んでるけど許してね!(土下座
ん?何故あの武器二つなのかって?カッコイイからに決まってんじゃん。

それと大型コラボ作戦の前に一つ、コラボ作戦を挟もうかと。
どのようにするかは大体は決まってるのですが、まぁそれは追々。
てか参加する人いんのかねぇ…

では次回ノシ


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Act101 Overloading

―――これ以上何を積むの?


これはもう一つの雨の日の物語。

錬金術士が孤独な戦いへ身を投じ始める約数時間前の事。

代理人は珍しくカフェに訪れており、カウンターに腰掛けここのマスターであるスプリングフィールドが淹れた紅茶を飲んでいた。普段であればデビルメイクライの店内に居る筈なのだが、今回に限っては彼女一人で此処に訪れており、それが不思議だったのかスプリングフィールドが代理人へと話しかけた。

 

「今日はお一人なのですね」

 

「ええ。マギーに呼ばれまして。待ち合わせ場所として此処に」

 

雨のせいで暇になったから此処に訪れたのではなく、代理人はマギーにある件で呼ばれて此処に訪れていた。

しかしその呼び出した本人はまだ姿を見せていないのだが仕方ない事であろう。

マギーは魔工職人である一方でこの基地の後方幕僚なのだ。当然ながら後方幕僚としての仕事もこなさなければなれない。寧ろ魔工職人としての製作活動は飽くまでも彼女個人のよる趣味みたいなものだ。

後方幕僚としての仕事、魔工職人としての製作活動。どちらを優先するかなど言うまででもない。

それに今日は特に急ぐ用事はなく、代理人はマギーから来るまで紅茶を嗜みながらのんびりと待つ事にし、スプリングフィールドに今日の天気について話し始めた。

 

「ここからでは分かりませんが、今日一日中雨の様ですね」

 

「みたいですね。久しぶりに雨模様な気がします」

 

「そうですね…。ここもそれすら気にならない程に大変でしたから」

 

他の基地で起きた事件とと比べるとまだ生易しい方かも知れないが、大変だった事には違いなく。

スプリングフィールドも代理人もそれを痛感していた。

MG4の一件、モンスターの討伐、鉄血のハイエンドモデル 錬金術士の基地襲撃事件。どれしも一筋縄では行かない事件ばかり。

MG4の一件に関しては指揮官たるシーナまで武装して戦場に出た程であった。

 

「鉄血や過激派。そして悪魔…。意外ととは言いませんが、まだ見ぬ敵は多いですね」

 

「…悪魔は兎も角、鉄血や過激派に関しては全て人が始めた事。人間が犯した罪の尻拭いを私達はさせられていると言っても過言ではありません」

 

「…厳しい言い方をなされるのですね、代理人」

 

だがスプリングフィールドも代理人の言い分に対しては一定の理解を示していた。

鉄血工廠で作られた人形達の暴走。人の手によってこの世に生まれた人形達に対し職を奪われる事に恐怖し排除を謳う過激派。

前者は謎が多く全て分かっていないが、後者に関しては人間が引き起こした事である。その尻拭いを人間の代役として彼女達人形が起用される事が多い。強ち代理人が言っていた事は間違ってなどなかった。

 

「ですが崩壊液が全世界に広がった事やそれにより第三次世界大戦が起きなければ我々という存在が生まれなかったのも事実。貴女が今の様にカフェでマスターをしている事や私が彼に出会い好意を抱きそして結婚している事もなかった。そう思うと複雑な気分にもなりますね」

 

手にしていたカップを静かにソーサーの上へと置く代理人。

複雑な気分も相まってその表情は何処か切なそうでもあった。しかし折角美味しい紅茶が飲んでいたのにこんな悲しい話をしていては味も楽しめなくなる上にスプリングフィールドにも迷惑が掛かる。

暗い雰囲気から脱する為に別の話題へと切り替えようと考えるが如何せん良い話題が直ぐに出てこない。どうしたものかと悩んだ矢先、代理人を呼び出したマギーがカフェに姿を現した。

 

「すいません、代理人。遅れました」

 

「いえ。寧ろ良いタイミングで来てくれました。…スプリングフィールド、紅茶を一つお願い出来ますか?」

 

マギーの為にと思って代理人はスプリングフィールドに紅茶を注文。

それに対し畏まりましたと注文を請け負うとスプリングフィールドは紅茶を淹れ始め、マギーは代理人の隣に腰掛ける。

先程まで重い話をしていた事には気付かず、マギーは代理人を呼び出した理由を話し始めた。

 

「頼まれていた"アレ"、完了致しましたよ」

 

「早いですね…。頼んだのは今から二時間と三十三分四十五秒前と記憶しているのですが」

 

「細かい時間まで覚えている貴女も凄いですけどね。…まぁこの作業は以前にもしましたからね。あの一回で慣れましたから」

 

代理人は愛用している複合兵器『ニーゼル・レーゲン』の改造をマギーに依頼していた。

元からあったレールガンに加え三連ロケットランチャー、ガトリングガンを積み込んだこの兵器にこれ以上何を積むというのか思いたくなる所であるが代理人はある思いがあった。

口径29mm対化け物狙撃銃 シルヴァ・バレトや散弾銃 デビルと言った射撃武器を加えヒート・パイル、ニーゼル・レーゲンを操り基本的遠距離戦を主とした戦い方が特徴。一方でギルヴァやブレイクの様に接近戦を仕掛ける事は殆どない。接近戦をするとしても緊急時にヒート・パイルで撃退する位なのだが、重火器が生み出す力は敵を近づけさせる事ない。

そこで代理人が思った。ヒート・パイルをニーゼル・レーゲンに組み込む事が出来ないだろうかと。

装備していても使う事がないのであれば以降から装備しないという考え方もあるだろうが、どうせなら魔工の塊であるニーゼル・レーゲンに積んでしまえばいい。何かと必要になるかも知れないというのが彼女の考えでもあった。

 

「それでニーゼル・レーゲンはどちらに?」

 

「訓練場に置いてありますよ。早くどんな風になったか試してみたいでしょ?」

 

「ええ、まぁ」

 

何故訓練場にと思うが敢えて問う事はせず、代理人はマギーが紅茶を飲み終えまで待つ事にした。

そして代理人はこの場でどのよう改造を施したのか問うべきだったかも知れない。

魔工職人たるマギー・ハリスンがたった一つだけの改造だけで収まる訳がないのだから。

 

 

カフェを後にし、代理人はマギーと共に訓練場へと訪れた。

だだっ広い室内の中央に台座。そしてその上にはニーゼル・レーゲンが置かれていた。スリング部分は以前からあったものであったが、それとは別に外装部分には持ち手らしきものが取り付けられていた。

それが何の意味を現すのかは代理人には分からない。それを気にしつつも彼女はニーゼル・レーゲンを手に取り、どうなったか武器を変形させていく。

驚異的な変形で姿を変えていくニーゼル・レーゲン。三連ロケットランチャー、ガトリングガンへと姿を変えた後、そしてヒート・パイルを積んだであろう新たな姿、第四形態へと変えた時代理人はその姿に目を疑った。

回転弾倉が装備された大砲と砲身下部には鋭い槍。槍の下部には大型化され円柱型弾倉を装備したヒート・パイル。柄には『和』を意識したのか日本刀の柄巻を似せられて作られていた。握り手に当たる部分にはトリガーガードに引き金。銃と槍が組み合わさった何かがそこにあった。

 

「…」

 

「これが一つ目改良点ですよ」

 

想像していたのと違う事に只々啞然とする代理人の後ろからマギーから歩み寄り声を掛けた。

その声に反応して現実へと戻ってきた代理人はゆっくりと後ろへと向き、静かに口を開いた。

 

「注文と違う気がするのですが…?」

 

注文内容はニーゼル・レーゲンにヒート・パイルを組み込んでほしいというものであった。

所がどうだ。今彼女の手にはあるのはまるで大砲と槍とヒート・パイルが組み合わさった何か。あからさまに注文内容には無い改造をマギーはやっているのだから流石に問わずにはいられない。

対するマギーは笑みを浮かべたまま、説明は始めた。

 

「いやー、以前作った回転弾倉型のバズーカと大型ランスをを改造している最中に見つけまして。何ならいっそのこと積もうと思いましてね?渡されたヒート・パイルと見つけたそれらを組み合わせて施したのかそれです」

 

そこで代理人は問い詰める事を諦めた。

今更どうこう言う気もなく作り直せとも言える訳がない。恐らくこれ以外にも何か施していると感じていた。

それにだ。代理人にとっては近接武器を得られた事は大きかった。これならば自身も近接戦闘を行う事が出来るといった喜びもない訳ではなかった。

 

「さてその新たな武装ですが、ヒート・パイルによる一点突破の能力に槍術と砲撃機能を追加したものとなっています。また砲撃には解放機能が備わっており、レールガン形態で行う最大出力モード時とほぼ同等のものと思って頂ければ幸いです」

 

「ふむ」

 

説明を聞くと試しにと大型銃槍を振るい始める代理人。

重量はあるが決して重いとも言い切れない。

ただ突くだけではなく軽やか且つ華麗な動きで振り下ろし、薙ぎ払いつつ後方へ一回転しながら下がるなど彼女の技が繰り出される。

ギルヴァやブレイク、処刑人が繰り出す技とは違う代理人だけの技。着ている服と相まって白銀に輝く銃槍を振るう彼女の姿はとても美しいと言えよう。

 

「成程。最初こそは戸惑いましたが、悪くありませんね」

 

「そう言って頂けると嬉しいですね。ですがこれだけではありませんよ」

 

「えっ?」

 

「ふふん。ニーゼル・レーゲンを変形させてみて下さい。面白いのが見れますよ」

 

軽く動いた後に素直な感想の後に施された改造がこれだけではないと聞かされる代理人。

少し驚いた様な表情を浮かべている所にマギーに促され、指示通りに彼女はニーゼル・レーゲンを変形させた。

銃槍形態から次に現れたのに代理人は固まった。

まるでシルヴァ・バレトを模った様な二つの機関砲。代理人の腰に装着されたアームを介して大型弾倉が装備。機関砲の機関部から大型弾倉へと繋がった弾帯。弾倉を支える為の支柱。

まるでそれはノーネイムの専用装備「パトローネ」を簡易化した様なものであった。

簡易化したといっても二つの機関砲に使用される弾丸は固い装甲で身を纏った敵でも重装甲もチーズ同然と言わんばかりに貫く威力を誇る。それもその筈でこの形態で使用される弾丸はシルヴァ・バレトに使用される弾丸と同じ物を使用しているのだ。それを連射するという機能を備えているとなれば最早笑いたくなる所である。

下手すれば固い肉質で覆われた悪魔ですら無残な亡骸へ変貌させる事の出来るニーゼル・レーゲンの新たな形態がそこにあった。

 

「マ、マギー?これは…?」

 

「29mm対化け物連射砲"レクイエム"。私がデストロイヤーでしたか?その者が装備していた武装を参考に作り上げたものですよ。迎撃、対空、掃射…ご自由にお使いください」

 

「説明は有り難いですが、何でこんなものを積もうと考えたのです!?幾ら何でもやりすぎでは!?」

 

三連ロケットランチャー、ガトリングガンを積んだ時点でやり過ぎないのではだろうかと思いたくなる様な発言であるが残念ながらそれを問う者はここには居ない。

そしてマギーは代理人の問いに対し何処か自慢げ顔を浮かべながら返答した。

 

「逆に聞きますがやり過ぎてはいけないと誰が決めたのです?」

 

「…アーキテクトですか、貴女は」

 

創作意欲がある事は十分良い事なのだがここまでとなればやり過ぎと言わざるを得ない。

だがそれを作った本人がこうなのだから追及する事も馬鹿らしく思えるだろう。

マギーの返答に対し代理人は鉄血のハイエンドモデルの名を口にした。

最も彼女ですらここまでやってのけるかどうかすら分からないのだが。

 

(今彼女がどうしているかは分かりませんが、マギーと会う事があればどうなる事か)

 

会話する事は指の数程度。

しかし彼女は自分達鉄血が暴走した以降もグリフィンに対し敵対心を抱いている様子はなかった。

命令に関しては最低限従っていた。自身が鉄血を離反した今、彼女がどうしているか知りようがなかった。

だが彼女がマギーと会う事があれば何か起きるであろうと予想していた。最もそれがいつ現実に分かる訳ではないが。

 

「その方がどの様な方かは存じ上げませんが、そこまで怒らないで下さいな。それに悪魔と戦う事となれば必要になるでしょうし。まぁその話は横に置いといて、積んだ機能はもう一つありますよ」

 

「はぁっ…これ以上は驚きませんよ。それで何を積んだのです?」

 

「それは見てからのお楽しみというやつです。ニーゼル・レーゲンを待機形態に戻してみて下さい」

 

これ以上驚けば疲れる事は目に見えている。

マギーの指示通り、代理人はニーゼル・レーゲンを待機形態へと戻した。

初めて手にした時から変わらぬ六角柱型の外装。当初こそは白銀に染まっていたが、一度目の改造を受けて全体に水色に輝く光線が緩やかに流れる様になっていた。

そして今、大型銃槍形態に加え、愛用している狙撃銃と同等の弾丸を連射しまくるとち狂った連射砲形態が加えられ、もう一つ加えたと来た。

寧ろこれ以上何を積むのかと言いたくもなるが敢えてそれを口にする事はしなかった。

 

「戻しましたよ。普段の形態ですが…特に変わりがない気も致しますが?」

 

「いえ、しっかりと私が加えた形態になっていますよ。外装の底面を見て下さい」

 

「底面?」

 

ニーゼル・レーゲンを上下反転させ底面部分を覗く代理人。

そこにあったのは何らかの噴射口であった。確かに以前の姿ではなかったものだが、これが一体何を意味するのか代理人は検討すらも付かなかった。

 

「何ですかこれ?噴射口なのは分かりますが」

 

「まぁそこだけでは分かりませんよね。先に答えを言っておきますと外装を鈍器として使用可能出来る様に致しました」

 

外装を鈍器として使える様にした。

つまりそれは待機形態ですら武器にしたという事。代理人がそれを理解するにさほど時間は掛からなかった。そして二度目の改造を受けたニーゼル・レーゲンを見た時に外装を付いていた持ち手の事を思い出した。

まさかと思った。あの謎の持ち手は外装をぶん回す為にあったのだと。

 

「…身近なもので言えばクイーンと似た機構を持った物を積みましたね?」

 

「はい。流石にスロットルなどは搭載していませんが、攻撃時にそこから推進剤が自動的に噴射して打撃の威力、速度を強化。分かりやすく言えばハンマーにジェットエンジンを取り付けたものです」

 

銃槍、連射砲、最後は推進機構を搭載した鈍器。それも待機形態が武器と化した。

もう驚く事はしない。手数が増えたのだ。どうせなら使いこなしてやろうではないか。

若干自棄になりかけそうになりつつあった代理人は自身の胸の中でそう呟くのであった。

 

 

マギーから強化されたニーゼル・レーゲンを受け取った後、一度愛用の武器を取りに戻ってから代理人は一人訓練場で鍛錬していた。

武装が追加されたのだ。そのまま終わりという訳には行かず彼女がニーゼル・レーゲンを振いながら軽やか且つ華麗な動きで投影されたダミーエネミーを次々と薙ぎ払っていた。

底面から推進剤が噴射し、その勢いを利用して一撃を叩きつける。槌と化したその一撃にダミーエネミーが耐えられるはずもなく、一体、また一体と吹き飛ばされていく。

 

「ふっ…!」

 

跳躍し一回転。反動を付けて地面へと槌を叩きつけ、周囲のダミーエネミー達を宙へと舞い上がらせる。そのままニーゼル・レーゲンを上へと放り投げるとホルスターから水平二連装ショットガン Devilを引き抜くとまるでヌンチャクで振り回すかの様にDevilを高速で振り回しながら周囲に向かって散弾を乱射し始めた。

宙へと舞い上げられ無防備な状態を晒すダミーエネミー達に突き刺さる散弾。その中に混ざって飛び交うシェル。

漂う硝煙に混じって代理人は口を開く。

 

「少しやり過ぎましたかね?」

 

そんな冗談を言いながら彼女がデビルをスピンさせながらホルスターへと納め、タイミング良く落ちてきたニーゼル・レーゲンを片手で受け止め、そのまま銃槍形態へ変形させる。正面にいたダミーイージスに向かって突進し盾で防ごうとする所を強引に砲撃で弾き飛ばす。

そこにイージスの獲物が代理人へと迫るが、彼女は上体を逸らして攻撃を回避。後方へ回転しながらイージスが持っていた武器を蹴り飛ばし体勢を立て直すと一気に距離を詰めた。

懐に潜り込み、銃槍を突き当てながらヒート・パイルで装甲を砕き内部に成型炸薬を打ち込み、続けざまに槍をねじ込むと止めの一撃として砲撃を叩き込んだ。それにダミーイージスを吹き飛ばされ消失し、代理人は息を吐きつつニーゼル・レーゲンを待機形態へと戻す。

そこに残っていたダミーエネミーが代理人の後方から迫っていた。当然彼女はそれに気づいており、体を翻してつつ攻撃を回避しながらニーゼル・レーゲンを宙へと放り投げた。

相手の後方へと回り込むとデビルを引き抜き足へと目掛けて散弾を発砲。足を破壊され地面へと倒れるダミーエネミー。その真上からはニーゼル・レーゲンが落下してきている。

 

「沈め」

 

ニーゼル・レーゲンがダミーエネミーの直撃する寸前に代理人は体を一回転させ、回転の勢いを利用してニーゼル・レーゲンの底面に当たる部分に強烈な踵落としを叩きつけた。

その一撃で急激に加速したニーゼル・レーゲンはダミーエネミーを押し潰した。

押し潰した敵が最後となり、敵の全滅を確認したのか模擬戦闘の終了を知らせるブザーが鳴り響き、彼女は再度軽く息を吐いた。

立ったままのニーゼル・レーゲンを手に取り背負い、しっかりと後片付けをしてから訓練場を後にし、店へと戻る廊下を歩きながら彼女は呟いた。

 

「良くここまでのものを思いつくものです。…流石は伝説の魔工職人。その名は伊達ではないということですか」

 

やり過ぎなんですけどね、と最後に締めくくり代理人は歩き去っていく。

この後に彼女の戦い振りを偶然にも見ていた人形達にどうやったらあんな風に戦えるのかと質問攻めを受け、あたふたする代理人の姿があったという。




はい。ニーゼル・レーゲンがとんでもない武器へ昇華致しました。
ショットガンをヌンチャクの様に振り回して散弾を周囲に乱射出来る様になりました。
これによりスタイリッシュなメイドさんが今後見られるかもです。


そして今回はちょっとばかりぼのぼのという感じです。
またタイトルは過重積載という意味。ホント積み過ぎである。


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Act102 The story behind

―――静かに、そして着実に悪夢は全てを蝕み始める


天高く昇る満月。夜空の星が煌めく。

全ては静寂に包まれ、舗装されていない道を歩くローブ姿の錬金術士の姿があった。

S10地区を出てから数日が経過しており彼女はかつて身を隠していた拠点へと徒歩で目指していた。

緩やかに吹く風がローブをなびき、錬金術士は足を止めてふと夜空へと顔を上げた。

 

「普段は気にする事もなかったが…こうも輝いているとは。一人の身になったからこそ気付くものがあるとはな」

 

来る日も来る日も戦闘ばかりの日々。

自分が今の立場になるまでは夜が訪れたとしても夜空を見上げることなどありもしなかった。

しかし今は普段と違う生き方を始め、彼女はその夜空の美しさを目に焼き付けていた。

夢想家に心を聞くまでにこの光景をあと何度見られるか分からない。それをしっかりと電脳の記録すると彼女は再度歩みを始めた。

一度休息を取っていた廃屋から歩き続けて数時間立っている。一時的に身を休める廃屋は探しながら真っ直ぐと続く道を歩いていく。

一度足を止めた地点からだいぶ離れた距離まで歩くと、彼女は古びた廃屋を見つけた。遠くからでは内部で灯りが灯っている様子はないが、それでも中に誰か居てもおかしくない。

警戒しつつ廃屋の玄関前に到達するとS10地区の武器屋の店主から貰ったRDIストライカー12を構えながらドアノブを握り、ゆっくりとドアを開け静かに内部へ足を進めた。

忍び足で一階各部屋に誰かが居ない事を確認すると、彼女はそのまま二階へ足を進めた。

 

(…この反応どこかで…)

 

階段をゆっくりと昇りながら彼女は居るであろう誰かに気付ていた。

気配は隠しているのだが、やはり鉄血の人形だからかこの場にいる同じ鉄血の反応には何処か覚えがあった。

いつ、どのタイミングでも反応出来る様に警戒しながら二階へ上がると一部屋ずつ内部を確認していく。そして最後に残った部屋の前に立つと勢いドアを蹴り飛ばして内部へ突撃。

手慣れた動きで内部へ転がり込み構えた時、その部屋にいた者を見た瞬間錬金術士は目を丸くした。何故彼女がここに居るのか、それが一番目の疑問として浮かび上がる。

そして相手は自分は鉄血を切り捨てられた事を知っているか怪しい。即座にRDIストライカー12の銃口を突き付けて問い掛ける。

 

「何故お前がここに居る?」

 

警戒心は最大へと高められ、何時でも撃てる様に引き金へと指を掛ける。

窓から月明かりが差し込む室内で対する相手は撃たれる可能性があるにも関わらず笑みを浮かべたまま。何処で拾ったのかウイスキーボトルを手に取りグラスへと注ぐと一口だけ口に含んでいた。

答える気がないと判断したのか錬金術士は相対している者の名を呼んだ。

 

「答えろ、侵入者(イントゥルーダー)

 

「そう苛立たないでくださいな。折角の酒が不味くなるので」

 

笑みを浮かべ酒を嗜む侵入者。

それに対し錬金術士は構えている銃を決して下ろす事はせず銃口を突きつけたままの状態を維持。

錬金術士が自分に対し警戒している事を察したのか予備のグラスに酒を注ぎながら口を開いた。

 

「ご心配なさらずとも私も貴女と同じ立場にいますよ」

 

「…どういう意味だ」

 

「聞かずとも分かっていると思うのですが。…まぁ良いでしょう。この際ですから言いますが、私も切られた身なのですよ」

 

「何…?」

 

侵入者が言った事に対し眉をひそめる錬金術士。

引き金にかけていた指を離し銃口を下ろすと侵入者が空いたもう一つのグラスにウイスキーを注ぎ、錬金術士へと差し出した。

それには知りたいのであれば一杯付き合えという意味合いが込められており、何となくそれを察したグラスを受け取り錬金術士は侵入者の対面側に腰掛ける。机の上に手にしていた銃を置くと酒を煽った。

置かれた銃を見て、珍しいと思ったのだろう。侵入者は思った事をそのまま錬金術士へと伝える。

 

「炸薬を用いた銃を使うとは。貴女らしからぬ事ですね」

 

「事情が事情だ。選り好みできる状況ではないのでな。…それで今から事情を聞く訳だが、一つ当ててやろう。夢想家が関係しているな?」

 

注がれた酒を飲み干すとグラスを静かに置き、本題へと入ると錬金術士は侵入者が切り捨てられた背景には夢想家が関係していると指摘した。その理由は当然自身も切り捨てられた背景には夢想家が関係していた事を知っているから。

対する侵入者の表情からは何を考えているのか読み取れない。沈黙が訪れる中、侵入者はグラスの注がれた酒を一口だけ飲むと静かに口を開いた。

 

「ええ。突然夢想家から通信が入りまして。増援を送ると言ってきたのですよ」

 

「増援?それは騎士みたいな奴か?」

 

「いいえ。増援として送られたのは竜の様な得体の知れないなにかでした」

 

「竜…?」

 

増援という点は変わりないが、その送られてきた増援が自身が知るものとは違う事に錬金術士は訝しげな声を上げた。騎士といい、竜の様ななにかといい、夢想家は何処からそんなものを仕入れてきたのか。そして仲間を切り捨ててまで何を考えているのか彼女には全く検討が付かなかった。

 

「"あれ"と仲良くしろと言っていましたが、まぁ無理でしたね。私達の前に現れた瞬間暴れまわって部隊は二分も持たずに壊滅。私は隙を見て何とかその場から逃げ出し生き延びましたが」

 

「それで自身が切り捨てられた事に気付き、そして夢想家に真意を尋ねる為に行動しているという訳か」

 

「その通りです」

 

自分以外にも切り捨てられた仲間が居た事に内心驚きつつも、錬金術士は核心に迫る事実を知れずに落胆した。

何か知れると思っていたが、侵入者も細かく知っている様子ではなかった。

やはり夢想家の所へと向かって真意を聞く他ない。だがここまで来るまでかなりの距離を歩き、既に夜遅くという事もあって、彼女はここで一休みしようと考えた。

ウイスキーボトルを手に取り、空いたグラスへと注ぐと勢い良く酒を煽った。

あの時貰った珈琲の味も悪くなかったが、ウイスキーの味も気に入っており、彼女は再度グラスへと酒を注いだ。

それを見ていた侵入者は微笑みながら、錬金術士へと問うた。

 

「気に入りましたか?」

 

「まぁな。この手のものは飲む事すらなかったのでな」

 

「…変わりましたね」

 

「…互いにな」

 

戦っている自身に対し今の自分は変わっている事に二人は気付いている。

侵入者も空いたグラスにウイスキーを注ぎ、グラスを錬金術士へと差し出した。それを見た錬金術士はグラスを静かにぶつける。

月明かりが差し込む中、グラス同士がぶつかる音が響く。注がれたウイスキーを煽り、その味を楽しむ二人の姿がそこにあった。

 

「…目的は同じ。どうせなら共に行動する方が賢いでしょうね」

 

「だろうな。…さて奴に真意を尋ねに行くか。奴の事だ。嬉しくない置き土産を置いてくれている事だろうよ」

 

「無事生き残れたらどうします?」

 

「…さぁな。その時に決めるさ」

 

煙臭い味に舌鼓ながらも、二人は注がれた酒を空にする。

武器を手に取り、立ち上がる彼女達。

かくして同じ境遇にあった二人は動き出すのであった。

 

 

某地帯。

鉄血の拠点にて夢想家は椅子に腰掛けて一枚の手紙を読んでいた。

それはS10地区に居た時、一緒に居た男が送ってきたものであり、実験の協力に感謝するという旨が記されていた。

 

「わざわざこんなものを送りつけてくるなんて。ホント前時代的的な奴ね」

 

呆れた様な表情で夢想家はその手紙を破り捨てた。そこにある者が彼女が居る部屋へと訪れた。

鉄血のハイエンドモデルたちに良く見られる白い肌。長く伸ばした髪は一つに束ねられており、普段からそうなのか瞼が閉じられていた。柔和な笑みを浮かべながら、その者は夢想家の後ろに立つとそっと彼女を抱きしめた。

 

「あら。もう終わったのかしら。追跡者(チェイサー)

 

「ああ。あの程度なら僕一人で充分さ。それで次は何をすればいい?」

 

「今の所は無いわね。でも安心なさい。明日にはあの二人が来るから」

 

「二人…ああ、錬金術士と侵入者かい?」

 

「ええ」

 

優雅な笑みを浮かべながら夢想家はコンソールパネルのキーボードを操作。

ディスプレイに映し出されるのはとある一室。そこには得体の知れない何かが映っていた。自身を包み込む様に前方へ折り畳まれた翼。中央には女性の体らしき姿が存在している。しかし下半身は存在しておらず、魚の尾びれの様なものがあった。外見に反しておとなしいのか暴れる様子はなく、それは沈黙を保ちながら宙を浮いていた。

 

「まさかこちらと交渉を仕掛けてきた教団にこんな技術があるとはね。生まれて間もない僕だけど驚きさ。…そう言えば素体には確か"彼女"が使われる事になったんだったね」

 

「神の代行者って名前だったかしらね、教団名は。…自爆してしまったけど、予備はあるからもう一仕事してもらおうと思ってね。…さて神を名乗りながら扱う力…"悪魔"の力、どんなものか楽しみね」

 

浮かび上がるその笑みには狂気が孕んでいた。

果たして夢想家は何を企んでいるのか。それをごく一部の者だけであろう。

そして誰もが予想だにしなかった悪夢が静かに、そして着実に始まりを告げようと動き出していた。




本来であればぼのぼので行こうかと思ったのですが…錬金術士の方を書きたくなったので、こちらを。

大型コラボ前に挟む緊急コラボには、オリジナルで出した追跡者(ロケランぶっ放したり、スタアァァァズとか言わないからね!)が出てきます。
但しその力は下手すれば…(これ以上は敢えて伏せておきます。てか参加してくれる人いんのかな)

では次回ノシ


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Act103 Take time

―――新たなる機能。そして…


今や便利屋「デビルメイクライ」を拠点に毎日を過ごしている404小隊。

任務が無ければ基本的に各々自由に過ごすのだが、だからと言って訓練をしない訳ではない。

今回はメンバー全員揃って訓練室へと訪れており、ある二人を相手に模擬戦闘を繰り広げていた。

結婚の証であるアミュレットハーツの恩恵により、UMP45の動きは結婚する前と比べるとその動きには拍車がかかっていた。

だかそれは彼女達の模擬戦の相手をしている代理人も同じ。

二人は目まぐるしく動き回り、接近すれば距離を取るといった動きを繰り返していた。

 

「これの恩恵があるからかしらね!えらく速いわね…!」

 

「それはお互い様でしょう?」

 

「でしょうね。でも…!」

 

恩恵があるからと言って何でも一人で出来るとは刀身がゴム製のナイフと模擬弾を装填した拳銃を手にした45はそう思っていない。

対峙している代理人の注意が彼女へと向いている隙に、代理人の後方から影が飛び出した。

水色の髪を揺らしながら、模擬弾を装填した己と同じ名を冠した銃を構える少女。

ホロサイト越しにエメラルドグリーンの瞳が輝き、HK416は45の台詞に続ける様に口を開いた。

 

「私達がいる事を忘れないで欲しいわね」

 

416の銃撃は始まろうした瞬間、代理人は416の台詞へ返答しながら素早く45の攻撃を受け流し態勢が崩れた所を突き、彼女が持っていた拳銃を奪い取った。

そのまま後方へ奪った拳銃で攻撃するが、見越していたのか416はその場から飛び退くとすかさず銃を構え代理人へと銃撃を開始。

その時両者の間に何処からともなく飛来した一枚の盾が割って入り、それによって攻撃は防がれる。飛来した盾に続く様にもう一人が姿を見せる。

白を基調としたコートと長く伸ばされた白髪を揺らめかせ、颯爽と現れたのはもう一人の模擬戦相手 ノーネイムだ。

 

「私もいる事を忘れないでくれ」

 

慣性を失い盾は地へと落ちていく。

再度訪れる攻撃の瞬間。そして射線が開けた時、416は目を見開いた。

彼女の目に広がったのは、自身へと拳銃を向けているノーネイムの姿。愛用しているリボルバー『フェイク』ではない。ノーネイムが持っているのは先程まで代理人が持っていた拳銃だ。

この瞬間では416も気付けなかったが、盾が彼女の視界を防いでいる瞬間に代理人は現れたノーネイムにへと拳銃を投げ渡していた。それを見向きもせず受け取ったノーネイム。視界が開けたその時には416へと攻撃できる状態が完成していたのだ。

それに気づいた時には遅く416は銃撃を貰う前にその場を離れようと動き出した。

 

(さっきの瞬間で…!抜かった)

 

放たれる一撃を寸での所で回避し、416は近くの建物へと飛び込むとその場から離れる。

それを確認したノーネイムはすぐさま懐から発煙手榴弾を取り出し別の方向へと向け数秒後置いてから勢い良く投擲。投げられたそれは宙でスモークを噴射し周囲へ拡散。ノーネイムの行動は遠くから狙撃を行おうとしていたG11への妨害であった。

狙撃手が敵に位置を知られる事。実戦では死を意味する。幾ら模擬戦とは言えG11はその場から引く事を強いられる。

 

「うえ~…バレてるぅ…」

 

相手に悟れぬ様に行動していた筈がバレていた。

それどころか一瞬で自身が居る位置に気付き発煙手榴弾を投げ、狙撃の妨害してきたノーネイム。間延びした声を上げながらG11は狙撃地点から離れる。

背後から攻撃、そして狙撃による攻撃を阻止するとノーネイムは地面に落ちた盾の端の部分を踏みつけ浮かび上がらせると、そのまま流れる様に別の方向へ向かって盾を勢い良く蹴り飛ばした。

その先には居るのは45の援護に入ろうと場所を移動していた9。その先を行かせないと言わんばかりに飛んできた盾が9の目の前で壁に激突し行動を妨害する。

 

「おっと!てか危ないってば!」

 

「それは済まない。どうやら力加減をミスしてしまったようだ」

 

抗議の声が聞こえていたのだろう。謝罪しながらもノーネイムは416、G11、9の追撃へと走り出す。

ほんの一瞬で行われた一連の動きによって再度45は代理人と相対する形となる。

模擬戦であるが気は抜けない。手にしていた武器を構えた瞬間、終了のブザーが鳴り響いた。

折角良い感じになってきたにも関わらず、ブザーによっては取り消しとなった事に45は軽く落胆した。対する代理人は静かに息を吐き、全身の力を抜くといつもの笑みを浮かべ45へと話しかける。

 

「休憩しましょうか」

 

「そうね。休憩しよっか」

 

同じく力を抜き45も返答する。

こうして模擬戦は決着付かず引き分けとなるのであった。

 

訓練室を後にし、404小隊と代理人、ノーネイムはデビルメイクライの店内にて代理人が淹れた紅茶を飲みながら休憩していた。

先程の戦闘を振り返る中、45と代理人を見て9はある事を言及した。

 

「45姉も代理人もそうだけどさ。さっきの動きも下げているアミュレットハーツの恩恵が大きいのかな」

 

「まぁ…そうかもね」

 

9に指摘され、45は下げていたアミュレットハーツを取り出し眺めた。

あの時、ギルヴァから渡されたものは使用者の補助するといった特性を秘めたものであった。その事より45の動きは倍近く上がっており、任務も早く片付けられる事も多くなっていた。

だが45はこのアミュレットハーツにはまだ秘められた力があるのではないかと感じていた。それは代理人も同じ事を思っており、彼女は思い切って書斎で本を読んでいたギルヴァへと問いかけた。

 

「アミュレットハーツ…他にどの様な機能を秘めたのです?」

 

「回数に限りはあるが…」

 

そう言いながらギルヴァは自身の魔力を用いてあるものを展開した。

それは彼が普段から遠距離武装の一つして用いられるもの。群青色に輝くそれを見て45と代理人も目を見開いた。

そんな事は知らずにギルヴァは彼女達に告げた。

 

こいつ(幻影刀)を使う事は出来るぞ」

 

「…それはただただ投射できるという意味合いですか?」

 

「いや。自身の周囲に複数幻影刀を展開し防御陣形などやろうと思えば出来なくはない」

 

その事を明かされた時、45と代理人は勢い良く店を飛び出し再び訓練室へと戻っていき、アミュレットハーツのもう一つの機能を試しに行くのであった。

この後に彼女達独自の運用方法が見出されたのはいずれ語られる事であろう。

 

 

UMP45と代理人が店を飛び出した一方でシーナはある状況に見舞われていた。

執務を終えて散歩へと出ていた彼女は基地内であるが廃品置き場として扱われている倉庫にて、あるものを発見し困惑していた。

 

「どうしよう…」

 

彼女が見つめる先には居るのは体からゆらゆらと青い炎を放つ馬。

シーナに対して鼻息を荒くし、威嚇していた。

これが悪魔だという事はシーナも分かっている。しかし解せない事が一つあった。

 

「馬は馬だけど…仔馬だよね…?」

 

シーナの言った通り。

彼女と出会った馬は何故か仔馬であった。




アミュレットハーツのもう一つの機能は回数はあれど幻影刀を展開できる機能を持っています。これによりUMP45と代理人は更なる強化が施されました。

最後の部分は今後のシーナに必要となるものです。
そして馬と聞けば奴しかいませんね!仔馬だけど!


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Act104 Geryon

―――時を操る悪魔の仔馬


青い炎を放つ仔馬を出会ったシーナはどうしたものかと思った。

誰かを呼びに行こうにもここを離れてしまえば仔馬が逃げ出す可能性もあるかも知れない。

ましてや相手は悪魔だ。この基地にどの様な危害を加えるか分かったものではない。

偶然にも誰かここを通り掛かったりしないものかと彼女は願った。そしてその願いが届いたのか、偶然にもここを通り掛かった人形が彼女に声を掛けた。

 

「指揮官?どうかされましたか」

 

「M4!良かった、良い所に!」

 

「?」

 

状況が分からないM4が小首を傾げ、きょとんとした表情を浮かべた。

そしてシーナの先にいた仔馬を見て彼女は目を見開き、つい身構えた。それがトリガーとなったのか仔馬は大きく咆哮を上げ、周囲に力場の様なものを展開した。

それが何かは分からない。だが不味いと感じたシーナはM4を抱えるとその場から飛び退く。幸いにも範囲はそこまで広くなく、二人の手前で力場は止まったのだが、その中にシーナが被っていた帽子が取り込まれていた。そしてその光景を見て二人は驚愕した。

 

「…ねぇ、M4。これって…」

 

「はい…。俄かに信じられませんが…」

 

それは有り得ない事象であった。力場の中に取り込まれた帽子がまるで『時』が緩やかになったかの様にゆっくりと降下していたのだ。

普通であれば地面に落ちているはずなのに、力場の中ではそうではなかった。

それが仔馬が持つ力だと認識せざるを得なかった。そして二人は同時に口に開いた。

 

「「時間がゆっくりになっている…」」

 

シーナもM4も悪魔という存在はいくつか見てきた。

だが自分達の先にいる悪魔は別格とも言えた。辺りを極寒地帯に変えたり、空間移動を駆使したりとは違う。相手は時間を操るという能力を持ち合わせた悪魔だ。それがどれ程強力な力か、どれ程危険な力か言わなくても分かる。そしてシーナは確信した。

この悪魔は外部に出してはならない。ここで押さえなくてはこの悪魔の力を自分の物にしようとする輩が現れる可能性もなくはないからだ。

だが迂闊に近づけば再度力場を展開され、攻撃される可能性もある。悪魔を狩る専門家を呼び討伐するという考えもあったのだが、彼女はそれを最後の手段として取る事にした。

悪魔であるが、見た目は仔馬。いつここに迷い込んだのかは分からないが、ここを攻撃するつもりがあったなら既に攻撃していたもおかしくない。だと言うのにそれが無いという事はこちらと争う気がないのでは判断していた。

 

「M4。マギーさんを呼んできて。フードゥルとグリフォンもお願い。私はここであの子を見張ってるから。それとこの事は余り他の子達に口外しないで。大人数で来てしまえば、さっき以上の力場を展開されるかも知れないから」

 

「分かりました」

 

シーナの指示を了承しM4はマギーらを呼びにその場から離れる。

残ったシーナは身をかがめ、じっと仔馬を見つめた。仔馬はM4が去っていた事を受け、若干落ち着いた様にも見えるが、警戒心が解かれる事はない。展開されていた力場は消失しており両者の間には被っていた帽子が落ちていた。その時仔馬が動き出し、帽子の傍まで歩み寄ると頭を器用に動かして帽子を投げてきた。

落とし物だぞと言わんばかりに帽子を返してきた仔馬の行動にシーナは目を丸くした。投げ渡された帽子を手に取ると彼女は優しく微笑み、ありがとうと一つ礼を述べてから帽子をかぶる。

対する仔馬は元の定位置へと戻り距離を取る。そこにM4によって呼ばれたマギー、そしてフードゥルとグリフォンがシーナと合流を果たす。

 

「おう、シーナのネェちゃん無事かい?」

 

「うん。それよりもあの仔馬の事分かる?」

 

「あん?」

 

シーナの指差す先にいる仔馬を見てグリフォンは一瞬だけ固まった。

その様子を見てシーナはグリフォンがあの仔馬の正体を知っていると確信する。

そんな事を知らずにグリフォンは近くにいたフードゥルへ話しかけた。

 

「おいおい、マジかよ。こいつはとんでもねぇレアな奴だぜ」

 

「うむ。我も実際目にするはいつぶりか」

 

グリフォンもフードゥルも仔馬の正体を知っていた。

しかし彼らの言い方は、まるで仔馬は普段から目にする事のない悪魔だと思わせる。

長い事魔界にいた事のある二人がここまで言わせる程。益々仔馬の正体が気になったシーナが二人へと尋ねようとした時、マギーが仔馬の正体を明かした。

 

「時間を操る悪魔とM4から聞いた時はまさかと思いましたが。よもやゲリュオンとは」

 

「それがあの仔馬の名前?」

 

「ええ。魔界では絶滅危惧種扱いになっている悪魔ですよ。個体差はあれど、一貫して同じ力を持つ。それが時間を操る能力です。しかし人間界に来ていたとは驚きですね…。寧ろ目撃報告が上がっていなかったのが不思議なくらいです」

 

ゲリュオンがどうやってこの人間界に訪れたのかは兎も角、ここに来るまでの間どの様に過ごしてきたのかは誰もが疑問に思う所であろう。

幾ら仔馬であろうと体から青い炎を放つ馬など居る筈がない。人前で姿を目撃されれば間違いなく噂にあがる事は間違いなく。にも関わらず今日にいたるまでそういった目撃情報が上がってないのは不思議と言わざるを得ない。

 

「もしかして…」

 

そこでシーナは初めてゲリュオンと出会った時を思い出す。

出会って早々、ゲリュオンはシーナに襲い掛かる事はせず寧ろ威嚇して近寄らせない様にしていた。時間を操る能力や素の力を利用されれば、人間であるシーナでは太刀打ちできる筈がない。

だと言うのにゲリュオンはしなかった。それどころか落とした帽子を返してくれるといった優しさすら見せてくれた。それら状況を思い返し、判断した後にシーナは呟いた。

 

「怯えていたのかな。人間に」

 

「悪魔が人間に怯える…。類を見ない例ですね。悪魔の中には臆病な性格の個体も当然いますが…ゲリュオンは元々気高い名馬だった事もあり気性が荒い性格なんですけどね」

 

「そうなんだ…」

 

シーナはちらりとゲリュオンの方を向いた。警戒心はしているようであるが、人が増えても直ぐに力を利用しようしている感じには見受けられない。

慣れたのか、或いは敵でないと判断したのだろうか。先程まで比べて落ち着いている様子でもあった。しかしこちらに歩み寄る事はない。少しでも距離が近づけたらなと思った時、彼女はある事を実行しようと考えた。

 

「ねぇ、フードゥル」

 

「む?なんだろうか、指揮官」

 

「悪魔って何でも食べるのかな?甘いものとかも大丈夫かな?」

 

「問題ないと思うぞ。我もたまに主から甘味を貰う事があるのでな」

 

それを聞いた瞬間、シーナの行動は早かった。

少しだけ外すと皆に伝えた後に彼女はある場所へと向かい作業を開始。そして暫くした後にクッキーを一杯に盛った皿を手に戻ってきたのだ。

マギー達の分も持ってきており、一つの皿をマギーに手渡すとシーナは距離を取ったままその場から動こうとしないゲリュオンの近くにもう一つの皿を置いた。

置かれたそれを見た後に不思議そうにシーナを見つめるゲリュオン。対するシーナは微笑みながら伝える。

 

「良かったら食べてみて」

 

言われて最初こそは警戒し口を付けようとしないゲリュオンであったが、香ばしい香りに負けたのか一つだけクッキーをつまんだ。ほのかに温かく、しつこくない甘味。悪魔であるゲリュオンでもその味はとても良かった。

初めて食べたクッキーがとても美味しかったのか、無我夢中にクッキーへと喰らい付くゲリュオン。その姿を見てシーナは静かに微笑みながら、急に始まったものであるが珍しいメンバーと共に小さなお茶会を開くのであった。

幸せそうな笑みを浮かべるシーナの姿をゲリュオンは静かに見つめていた事に気付かずに。

 

 

その日の夜。ゲリュオンは廃品置き場で立ち尽くしていた。

今日食べたクッキーの味、そして幸せそうに笑っていたシーナの事を思い出していた。

 

「…」

 

ゲリュオンはシーナという人物がどのような者なのか一目見た時から気付いていた。

非力な人間。それでも上に立ち、あらゆる困難に立ち向かおうとする強さを持った少女だと。まだ二十歳も満たない少女であり、本来であれば年相応の人生を送っていてもおかしくない。だと言うのに荒れ狂った世界で自ら命を落とす時もあるかも知れない所へ身を投じた。

鉄血との戦い以外にも悪魔が関わる事件に身を投じている事も彼女から聞かされずともゲリュオンは見抜いていた。あの時集まってきた者達がM4以外全員悪魔だという事にも気づいていたのだ。

そしてシーナという少女がいずれ大きな困難に立ち向かう運命にあると感じていた。下手すれば命を落としかねない程に。

 

「…」

 

今の今までゲリュオンは人間に対し良い感情など抱いていなかった。散発的に発生する魔界と人間界が繋がるトンネルに間違えて踏み入れてしまい人間界に来てしまった。

そこからは孤独な旅を続けてきたが、自身を見つけた人間や鉄血の人形に殺されそうになった。自身は行く当てもなく、ただただ安全な場所を探していただけ。何も仕掛けていないにも関わらずにだ。

そしてS10地区に訪れた時には気付かぬ内に基地へと迷い込んでしまい、廃品置き場で身を隠していたのだが今日シーナという少女と出会った。

今まで優しくしてもらった事などない。

だが彼女だけは違った。襲ってくる事は無く、美味しいクッキーをくれた。

そして思った。シーナ・ナギサという少女にこの荒れ狂う世界で長生きしてほしいと。

 

「…」

 

この感情は何のだろうとゲリュオンは思った。それでもこの感情が悪いものではないと感じていた。

彼は放っている青い炎を大きく放ち、そして誇り高き名馬の如く高らかに叫んだ。するとゲリュオンの体は光に包まれていき、数秒もしない内にゲリュオンはその場から姿を消した。

誰もいなくなった廃品置き場。そしてその部屋の中央にはあるものが落ちていた。

 

翌日、シーナは早めに起きてゲリュオンがいる廃品置き場へ向かっていた。

その道中で彼女と同じくゲリュオンの事が気になったM4と共に談笑しながら歩いていた。

 

「どうしているんでしょうね、あの子」

 

「分からない。でも暴れる様子はなかったし、大丈夫だと思う」

 

「だと良いのですが…」

 

M4とてゲリュオンの事を信じてみたいと思っていた。

しかし悪魔だという事には変わりない。その不安が取り除けずにいた。

下手すれば引き金を引く事にもなるかも知れない。なるべくそうならない事を願うほかなかった。

そうこうしている内に二人は廃品置き場へ到着。中に入った時、彼女達は目を見開いた。

昨日はそこにいたゲリュオンが居なくなっており、その代わりに部屋の中央には銀色に輝く懐中時計が落ちていた。その懐中時計を見つけたシーナはそれを手に取り、眺める。

 

「懐中時計?でも昨日ここにそんなものは…」

 

「はい。そのようなものは落ちてなかった筈ですが…」

 

何処にでもある懐中時計にも見える。しかし昨日までそんなものはこの廃品置き場には落ちていなかった事はシーナもM4も覚えている。

ではこの懐中時計は何なのか。ゲリュオンが消えた事と何か関係があるのだろうか。シーナの頭の中で疑問が次々と浮かび上がってくる。

しかし分かる訳ではなく、迷った末にシーナはM4と共にマギーが居る場所へと向かう事に。

後にマギーがいる部屋にて、彼女に事の顛末を伝えると落ちていた懐中時計を調べてもらい、解析が終わるまで二人は部屋の中で待機する事にした。

 

「何となくですが…あの懐中時計は消えたゲリュオンと関わりがあると思うんです」

 

「だよね…。それは私も思ってた」

 

もしそうだとして何故ゲリュオンは消えたのかその理由がシーナには分からなかった。

そこに解析を終えたマギーが懐中時計を手に二人の元に歩み寄ってきた。

 

「解析終わりました。一目見た途端まさかと思っていましたが、この懐中時計は魔具です」

 

「魔具…それってまさか」

 

「はい。ゲリュオンが自ら姿を変えたとしか思えません。理由は分かりませんが…」

 

マギーとて何故ゲリュオンが自ら魔具へと姿を変えたのか分からなかった。

懐中時計をシーナはマギーから受け取り、それを見つめた。そして懐中時計がほんの少しだけ輝いたのをシーナもマギーもM4も見逃さなかった。

理由は分からない。でもゲリュオンが力を貸してくれた事は分かった。

シーナは懐中時計を首に下げると静かに微笑む。

 

「…宜しくね」

 

優しく愛でる様に撫でながら懐中時計へと姿を変えたゲリュオンへと話しかけるのであった。

 

後にゲリュオンが姿を変えた魔具に名前が付けられる事となる。

時間を操る能力、そして銀色に輝いている事からシーナが命名した。

その名も…

 

『quick silver』




例え言葉を喋らなくても、芽生える心はあるのです…。

そしてシーナに強化が入り、魔具『quick silver』が装備されました。
つまりそれはどういう事か…分かるよね?

では次回ノシ


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Act105-Extra Repayment Ⅰ

―――それは恩返しの為


それは基地隣接店 便利屋「デビルメイクライ」に掛かってきた一本の電話によるもの。

時刻は午前10時。天気は良好。雲一つなく青い空が広がっていた。

404小隊が緊急任務でAR小隊の三名と共に基地を出ており、店の中ではギルヴァが次に読む本を何にしようかと本棚の前で選んでいた時であった。

書斎上に置かれておる電話機が久しぶりに鳴り響いたのだ。依頼かどうか分からないが出ない訳には行かない。

本を選ぶのを中断し、ギルヴァは書斎に近づくと受話器を手に取り、久しぶりに店の名前を口にした。

 

「デビルメイクライ」

 

『よっ。元気か、ギルヴァ』

 

女性の声。

そしてその声にギルヴァは心当たりがあった。何故彼女がと疑問を抱きながらも彼は電話相手の名を口にした。

 

「その声…ノアか。久しいな」

 

『ああ。久しぶりだな。最後に会ったのはS11地区の事件の時だったか?』

 

「そうだな」

 

相手はS09P基地所属のノア。

珍しい人物が連絡してきたものだと彼は感じた。向こうで何かあったのかとも予想するが、相手の様子から察するに事件が起きた訳ではないと判断し、本題へと切り出した。

 

「それで連絡してきた理由を聞こうか」

 

『おっとそうだった。実はシュトイアークリンゲ…ああ、違った。クイーンの扱いを教えてほしいと思って』

 

「ほう?」

 

確かにクイーンに搭載されている推進剤噴射機構の出力に慣れないと確実に振り回される。

ただただ振るうだけでも駄目。相当の鍛錬が必要になる事はギルヴァも理解していた。

 

『全く使えないって訳じゃねぇぞ。もっと上手く使いこなせたらと思って。それにギルヴァはあの時の戦いで使いこなしている様子だったし』

 

「ふむ」

 

あの時に初めてクイーンを使用したとは彼は言わなかった。

それが今後自身に何らかの影響を及ぼす訳ではないのだ。それにいちいち訂正を入れていては本題が遠ざかっていく。それを踏まえて訂正を入れる事はせず、ギルヴァはノアからの依頼内容を確認する様に尋ねる。

 

「依頼内容はクイーン…いや、そちらではシュトイアークリンゲだったか。それを扱い方の指南するという名目で良いのか?」

 

『いや、もう一つあるんだ。仲間の一人にブレイクと同じ様に二丁拳銃を扱う奴が居てさ。良かったらそいつに二丁拳銃の扱い方…いや、撃ち方?まぁそれを教えてやって欲しいんだ。あとは剣術指導かな』

 

「となるとブレイクを呼ぶ必要があるか」

 

『流石にあっちにも都合があると思うしよ。無理にとは言わねぇさ』

 

「問題ない。奴の事だ、暇しているに違いないのでな」

 

少しだけ騒がしくなるが、とギルヴァは心の内で呟いた。

とは言え彼もブレイクもあちらの基地には世話になった身。何もしないという考えは二人の頭の中にはない。

寧ろ訪れた機会。恩返しには丁度良いだろうと判断し、彼は次の話へと切り出した。

 

「では日程の話へと移ろうか。先に聞くがこの事はユノ指揮官、副官は承認しているのか?」

 

それは確認しなくてはならない事であった。

流石にノア単独で依頼してきた訳ではないと分かっていながらも彼はそれを尋ねた。

その問いにノアは大丈夫だと伝え言葉を続けた。

 

『ちゃんと許可を取ってる。後はそっちが受けてくれるかと言った所だが…その感じだと受けてくれるで良いんだよな?』

 

「ああ。この際言っておくが、この依頼は報酬無しで受けよう」

 

『良いのか?』

 

「二度も世話になったのだ。恩返しぐらいはさせて貰わんと此方の気が済まん」

 

『そう言うなら甘えさせて貰うぜ。んじゃ日程だが…明日でも行けるぜ』

 

悪魔が絡む案件は最近は発生していない。

特に問題ないと判断し、ギルヴァはそれを了承。連れていくメンバーを何人か連れていくと伝えた後、ある事を思い付き、彼はノアに一つ尋ねた。

 

「そちらの基地の敷地外で何も無くただ広いだけの場所はあるか?」

 

『あると思うが…それがどうしたんだ?』

 

「気になっただけだ。あるなら問題ない。当日を楽しみにしていてくれ」

 

『良く分かんねぇが、まぁ分かった。んじゃ明日宜しく頼むぜ』

 

「ああ」

 

それを最後に受話器を戻すギルヴァ。

便利屋が受けた依頼なので報告義務はない。しかしある事を実行するにはシーナの許可が必要になる。

その許可を得る為に彼は店の裏口から外へと出ると基地へ向かうのだった。

 

 

一方でシーナは射撃訓練場にてゲリュオンが姿を変えた魔具「quick silver(クイックシルバー)」を下げて、練習に励んでいた。

初めて扱う事となる魔具。それも時を操る能力を持ち合わせたものであり、シーナ自身も上手く扱えるか不安で仕方なかった。

それに加えてどう扱えば良いのかすら分からない。説明書がついている訳ではないのだ、直感でやってみる他ない。付き添いでMG4がいるのだが彼女も扱い方が分かる訳ではなかった。

何度も試行錯誤し、練習しては発動しない。どうしたものかと思い悩むシーナを見て、MG4はある事を提案してみた。

 

「私が物を一つ投げてみます。そこに向かって必ず捉えると言う様な気持ちでやってみたらどうでしょう」

 

「そうだね…次はそれをやってみよっか」

 

MG4の提案の元、まずは物を投げてみて発動を促す作戦が行われた。

彼女が投げた物に向かってシーナは言われた通りの気持ちで意識を集中させる。

必ず止める。

その思いを乗せて彼女は手を突き出した。その時、シーナはクイックシルバーの針が動く音を耳にした。

 

(動いた?)

 

そちらへと視線を向けようとした時、隣に立っていたMG4がある方向を指さしながらシーナへ声をかけた。

 

「し、指揮官」

 

何処か驚いている様なそんな口調。

何事かと思い彼女が指さす方向を見た時、シーナはその目を見開いた。

投げられ、宙に浮かんでいた物を包む込む様に何処からか現れた球体。球体には歯車の様な模様が描かれている。

そしてその中に取り込まれた物はまるで時間が緩やかになった様にゆっくりと降下していた。

何が起きたのかシーナは確信した。

 

「発動した…」

 

展開された力場は一秒で消失。中に取り込まれた物は地面へと転げ落ちる。

クイックシルバーが初めて発動した事に呆然とする二人。そこに第三者の声が室内に響いた。

 

「幾らか練習したと思うが、流石だな」

 

その声によって我を取りも出した二人。声がした方向へ向くとシーナに依頼を受けた事を知らせに来たギルヴァだだった。背を壁に預け、先程の光景を見ていた口ぶりだった。

すると蒼がシーナの魔具を扱い方を感心した様に喋り出した。

 

―はえー…意外とセンスあんのかもな、指揮官は。あの手の魔具は扱いが難しいからなぁ

 

(それも易々と…。あながち間違ってはないのかもな)

 

そう答えながらもギルヴァは少しだけ不安な気持ちになった。

普通の少女が時間操作系の魔具を所持した。信用できる所は兎も角、何も知らない所にこの情報が洩れる事があればそれを目当てに狙われる危険性もある。この基地は戦力などには自信あれど、情報には少し不安が残る所があるのだから。

そこまで思わせる理由はシーナの隣に立つMG4の一件があったのが大きかった。

彼女があちらに何処まで情報を流したのかギルヴァは知る気などない。しかしいずれ情報面に気を配らなくてはならない時が訪れると判断していた。

だが今はその事を伝えに来た訳ではない。早速ギルヴァは依頼を受けた事を話し始めた。

 

「依頼を受けた。依頼主はS09P基地に所属するノアからだ」

 

「あの子からとは珍しいね。それで依頼内容は?」

 

「ある武器の扱い、剣術指導、二丁拳銃の撃ち方…それらを色々と教えて欲しいとの事だ。明日あちらに向かう予定だ」

 

「それなら態々私に報告しなくても良いんじゃ?そっちが受けた依頼なんだから」

 

ギルヴァが予想していた通りにシーナから報告に関しての疑問が出てくる。

確かにその通りなのだが、報告しに来た彼にはもう一つの理由があった。

 

「ノーネイムを連れていく。あいつには"あれ"で移動して貰おうと思ってな。その許可を得る為に此処に来た」

 

「"あれ"って…まさか」

 

「そのまさかだ。一回飛ばしただけで終わりはないだろう?定期飛行という名目で動かせばいい。あのまま腐らせるのは勿体無い」

 

二人の会話を傍で聞いていたMG4も"あれ"が何のか察しが付いており、ギルヴァと同じくあの一回で終わりなのは流石に勿体無いと感じていた。

当然シーナもそれを感じていたのだが、作戦でもないに関わらず飛ばすのは如何なものかと感じた。

あの時は試験飛行の為許可を得て上空を飛行した訳だが今回は違う。だが定期飛行という名目で動かすのは決して悪くない案とも思っていた。

 

「…分かった。もし苦情があれば責任もって私が対処する。それと出来るだけ遠回りするルートを選んで。以前と今回は理由が違うから」

 

「了解した。ノーネイムにもそう伝えておこう」

 

「それとあの時の後に向こうに手紙を出そうと思っていたんだけど、ここ最近はごたごたしていたからね。お礼の手紙をあちらの指揮官に渡すと約束してくれるのであれば許可するから」

 

「約束しよう」

 

「なら良し。手紙は明日渡すからね」

 

シーナからの許可が下りるとギルヴァは礼を一つ述べてから、その場から去っていった。

後に連れていくメンバーに依頼の事を伝え、明日へと備えるのであった。

 

 

翌日。

昼下がり時に一台のバンが早期警戒基地内へ入っていった。バンの側面には「Devil May Cry』と綴られたネオンサインが取り付けられていた。出迎えに来てくれたランページゴーストのノア、アナ、そして副官であるナガンM1895の前で車両は停止。一番に降りてきたギルヴァに続いて、ブレイク、代理人、処刑人、マギー、フードゥル、グリフォンが降りる。そこに依頼主であるノアがギルヴァへと話しかけた。

 

「依頼を受けてくれて感謝する。今回は宜しく頼む、ギルヴァ」

 

「ああ。そちらもこちらに依頼してくれた事に感謝する。それと副官、シーナ指揮官からの手紙だ。後でユノ指揮官に渡しておいて欲しい」

 

軽い挨拶を済ませるとギルヴァは懐からシーナからの手紙を取り出し、ナガンへと差し出す。

それに対し、ナガンは了解じゃと答え差し出された手紙を受け取る。

 

「んじゃ行こうぜ。これで全員か?」

 

「いや、もう一人来る。ノア、昨日そちらの基地敷地外で周りに何も無くただ広い場所について話した事を覚えているか?」

 

「覚えてる。良く分かってないがすぐ近くにある。取り敢えずそこに案内したら良いのか?」

 

「ああ。頼めるか」

 

「分かった。ついてきてくれ」

 

ノアの案内の元、その場所へと向かう一行。

周りには何もだだっ広く場所が広がっており、何故ここに来たのかギルヴァらを除き、ノア、アナ、ナガンM1895は疑問の表情を浮かべた。

その時だった。遠くから何かの音が響いてきた。突然の事に身構える三人であったがそれが何なのか知っているギルヴァ達は身構える事はしなかった。

何か迫っていると三人が思った矢先、上空に現れたそれを見てノアがまるで子供みたく目を輝かせ興奮しながら口を開いた。

 

「オイオイオイ!マジか!マジか!マジか!!」

 

彼女達に姿を晒したのは白き装甲を纏い、ブースターを小刻みに吹かしながら降下してくる巨体。

コックピットにはラヴィーネ装着したノーネイムが搭乗しており、ゆっくりとリヴァイアサンを降下させながら機体を安定させる。ライディングギアを展開させ、リヴァイアサンは着地。

ラヴィーネをコックピットに装着させるとそこからノーネイムが降り立つ。。

以前は水色のヘアピンをしていたが、今はそれは外されており両耳に十字架のイヤリングを付けていた。白いコートを揺らめかせながら、三人に歩み寄る。

 

「遅れて済まない。S10地区前線基地隣接店「デビルメイクライ」所属、名をノーネイムという。宜しく頼む」

 

ノーネイムが三人と軽く挨拶を交わした後に、ギルヴァ一行は案内の元基地内部へと足を踏み入れる。

移動している最中、以前訪れた時比べて幾らか気配が増えている事に感づいたのか蒼がギルヴァへと話しかける。

 

―ここも色々と人が増えたみてぇだな?

 

(そのようだがそれを聞くつもりなどない。今は依頼をこなす事に集中するのみだ)

 

―あんまやり過ぎんなよ?

 

(善処しよう)

 

この男のやり過ぎが何処までのものか知る得る者はごく一部の者だけ。

だからといって外部にやりすぎはしない事はギルヴァも心掛けている。

かくして恩返しの為の依頼が今動き出すのであった。




という訳で「それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!」の作者である焔薙様に許可を頂いて今回の話を書かせていただきました。
もし何か間違っていたりしていたら言ってください!修正致しますので!
また一話にまとめきれないので、恐らくニ、三話続く予定です。


ところでリヴァイアサンを連れて来た理由はだと?まぁそれは追々ね。
さぁてスタイリッシュを叩きこむでぇ


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Act106-Extra Repayment Ⅱ

―――さぁ、技を盗んでいけ


ノーネイムと合流した後、ギルヴァ一行はノア達の案内の元、模擬戦を行う為の演習場へ訪れていた。

今回の依頼内容は指南であるが、ギルヴァ、ブレイク、処刑人、代理人はそれぞれが愛用する武器を持ち出している。しかし流石に魔剣や魔具などをぶつける訳には行かない。その為ダミー鉄血兵を出現させるといった内容で模擬戦は行われる事となった。

そしてまず最初に行う事となったのはアナの愛用する大型二丁拳銃『アジダート&フォルツァンド』の撃ち方の指南。当然その指南役は大型二丁拳銃『フォルテ&アレグロ』を愛用するブレイクだ。

二人以外の者達が観戦用の別室へ移動し、演習場には両手にフォルテ&アレグロを持ったブレイクとアジダート&フォルツァンドを装備したアナ。

ダミー鉄血兵を出現させる準備が行われている中、その待ち時間を利用してアナの方からブレイクへ話しかける。

 

「今回は宜しくお願いします、ブレイクさん」

 

「こっちこそ。指南と言っても教えるのは最低限の事位さ。後は勝手に技やら技術やら盗んでいきな」

 

「そうさせて貰います」

 

軽い挨拶を交わした後、ブレイクはアナの視線が愛用しているフォルテとアレグロに向けられている事に気付いた。

それもその筈で彼女が持つ白銀の大型二丁拳銃『アジダート&フォルツァンド』はブレイクが愛用しているフォルテとアレグロを参考に製作されている。

参考元となった銃が気になったのだろう。そう思ったブレイクは軽く口角を吊り上げると二丁の拳銃をアナへと見せた。

 

「気になるかい?」

 

「ならないと言えば嘘になります。参考元となった銃を見る事が出来るのですから」

 

「そりゃそうか。まぁ相棒の性能は折り紙つきでね。アレグロの方は少し衣替えしたみてぇだがな」

 

以前までフォルテもアレグロも黒く染まっていたのだが、何かがあったのかアレグロだけ白銀へと染まっていた。本来であればフォルテは黒、アレグロは白銀色へと染まっている筈だった。だがこの銃を製作したガンスミスが両方同じ色でないと駄目だ!と豪語し、本来白銀であったアレグロに安価の黒い塗料で塗りたくったのが原因。

後にブレイクの有する魔力の影響で塗装がはがれてしまい、本来の色を取り戻しただけの事だがブレイクが原因と理由を知る筈もなかった。

 

『準備出来たよ!二人共準備は良いかな?』

 

演習場に響いた声。

それがこの基地所属のアーキテクトの声だという事にアナは知っているがブレイクは知らない。だが彼をその事を尋ねようとはしなかった。

 

「ああ。こっちは何時でもオーケーだ」

 

「こちらも何時でも行けます」

 

二人の了承が取れるとダミー鉄血兵は次々と現れ始める。

相手が動き出す前に動いたのはアナ。アジダートとフォルツァンドを構え、先手を取った。極端なまでに連射性を上げた二丁の銃は凄まじい勢いで弾丸を放っていき、一人、また一人とダミー鉄血兵を倒していく。

抵抗の隙を与えぬ連射で敵を倒していくアナの姿を見ていたブレイク。いつものように余裕のある笑みを浮かべると彼も動き出した。

アナが距離を取りつつ射撃している所にブレイクはエアトリックを用いて彼女の射線上にいない敵に急接近し頭を踏み台に跳躍すると空高く宙へ舞い上がる。宙で体を上下反転させ、勢いよく回転させると…

 

「よっと!」

 

そのまま真下に居る敵へと向かって降下しながら弾丸の雨を降らし始めた。

模擬戦開始早々に関わらず、とんでもない芸当を見せつけたブレイクを見てギルヴァらと彼を知る者以外の者達が目を丸くしているのは言わなくても分かる事であろう。

一瞬で真下にいたダミー鉄血兵達を蜂の巣へと変えた後、地面へと降り立つブレイク。多方向から敵が迫ってきている事に気づくとアレグロの連射で正面の敵を攻撃しながら、フォルテで周囲の敵を攻撃し始める。

一対多という状況にも関わらず、冷静にかつそして容易く状況を打破していくブレイク。その姿を見ていたノアがある事に気付いた。

 

「さっきから見向きもせず仕留めてやがる」

 

ノアがそう言った様に周囲を敵に囲まれた時、アレグロで正面の敵を攻撃しつつフォルテで周囲へと攻撃する際ブレイクは一切見向きせず攻撃していた。狙いは完璧で放たれた弾丸は相手の頭部へ直撃しており、まるで周囲が見えていると言わんばかりである。

後退しながら射撃を繰り出しブレイクと背中合わせになるアナ。後ろに彼女が立っている事に気付いたブレイクはアナへと喋りかける。

 

「長物を持っている訳じゃねぇのさ。あくまでも持っているのは拳銃で、それを両手に持っていると来た。多方向に対する攻撃が出来るという事も覚えていた方が良いぜ。周囲に向かって撃つ際はノールックで撃てる様になれば完璧だな」

 

「…覚えておきます」

 

「それがいい。あと撃ち方でオススメするならレインストームを勧めるぜ。トライしてみな」

 

「流石にあれは無理ですよ…」

 

アナの返答に対し、ニヤリと笑うブレイク。

敵が最後の一体となった時、二人は同時にそちらへと銃口を向けた。アナはフォルツァンドを、ブレイクはアレグロを向け引き金を引いた。奇しくもそれはS11地区で異形の親玉に止めを刺す時に決め台詞と共に銃を撃った時の姿と似ていたのは知る由もなく、ブレイクの二丁拳銃の撃ち方指導は銃声によって終わりを告げた。

 

 

演習場から別室へと戻ってきた二人と交代する様に演習場へと入っていったのはシュトイアークリンゲを手にしたノアである。

そう。次はクイーン、またの名をシュトイアークリンゲの扱い方の指導である。先に演習場へと足を踏み入れたノアは軽く獲物を振るいながら、指南役だと思われるギルヴァを待った。

しかし遅れて演習場へと姿を見せたのはギルヴァではなく、初代クイーンを背負った処刑人であった。現れた指南役を見てノアは少しばかり驚いた様な表情を見せ、それに見た処刑人が尋ねる。

 

「なんだよ、俺じゃ不満か?」

 

「いや、そうじゃねぇよ。てっきり教えてくれんのはギルヴァかと思ってよ」

 

「成程な。確かに最初はあいつが扱っていたから、そう思ってもおかしくねぇか」

 

ノアの台詞に対しそう返答する処刑人。クイーンを手に取る前に、静かにコートの右袖を捲くり上げた。

見せたのはデビルブレイカーではない。悪魔の腕 デビルブリンガーだ。

あからさまに人形の腕とは思えぬそれを見てこの基地所属の者達は言葉を失った。何が起こればそんな腕になるのか、その他にも疑問が尽きなかったからだ。

 

「おいおい…何だよ、その腕。大丈夫なのか…?」

 

「人を病人扱いか?安心しろよ、こいつが一人でに動き出す事はねぇよ」

 

どこかうんざりした様な様子で処刑人はデビルブリンガーが勝手に危害を加える事はしないと伝えると、ノアへと問い掛ける。

 

「んじゃ始めるか。まず初めに聞くがお前はそいつを扱う際、どういった扱い方をしている?」

 

「えっとだな…」

 

処刑人の問いにノアは思い出しながらシュトイアークリンゲの扱い方を一つずつ話し始めた。

それを耳を傾けながら処刑人は何を教えるべきか判断していく。

 

(溜めてから攻撃に移る、か…)

 

話を聞くうちに処刑人はノアのシュトイアークリンゲの運用方法に指摘する部分を見つける。

そして彼女が運用に関して全て話し終えると処刑人はある方法を教える事にした。

機能というよりもそれは技術に近く、何よりも自身で編み出した方法をだ。

 

「いちいち溜めてからやるんじゃ効率が悪いな。敵も待ってくれる訳じゃねぇしよ」

 

「じゃあどうしろって言うんだよ。剣を振るいながら推進剤噴射機構を動かせって言うのかよ?」

 

「そうだ」

 

「は?」

 

まさかの返答に素っ頓狂な声を出すノア。

それを無視し、処刑人はクイーンを振るいつつ手元にスロットルを捻った。

すると推進剤噴射機構の一段目が解放する音が鳴り響き、その印として機関部が赤く発光しバイクのマフラーを模ったパーツからは微量の推進剤が吹き出ていた。処刑人は一段階だけ解放されたクイーンをノアへと見せつけた。

 

「俺が編み出した技術だが、推進剤噴射機構を一段階だけ解放する技術で名も『EX.Act』。同じ機構を積んでるんだ、これも出来るだろうよ」

 

「すげぇ、そんな方法があったのか。なあ、それを早く教えてくれ!」

 

「言われなくても教えるつもりだ。そういう依頼だからよ」

 

EX.Actのやり方を教え込む処刑人。言われた通りの方法で何度も剣を振るうノア。

しかしそれをやれと言われても難しく中々に発動には至らない。こればかりは鍛錬あるのみと思われ処刑人も仕方ないと判断。どうせなら模擬戦を行い、その感覚を掴めたらと思い急遽であるが模擬戦を行う事となった。

先程ブレイクとアナがやっていた同じ内容で準備が整うまでの間、処刑人はノアはある条件を化した。

 

「やり方は好きにやんな。ただ敵が出てきたら溜めてからじゃなくて攻撃中でもさっきの事をやれる様にしな。初っ端から大技吹っ掛けるのもアリだが、それだと敵に手の内を明かしてるもんだ。意表を突くと言うのも悪くないと思うぜ」

 

『さて二人とも始めるよ!』

 

「ああ、やってくれ」

 

準備が整ったの知らせを聞くと処刑人は始める様に促した。

そして先程と同じ様にダミー鉄血兵達が現れ始め、二人は同時に動き出した。

先に攻撃を仕掛けたのはノア。シュトイアークリンゲを大きく振るい、ダミー鉄血兵を一閃しつつスロットルを捻る。しかし捻るタイミングが遅かったのか発動せず、ノアは軽く舌打ちする。

 

「ちっ…!」

 

「そう慌てんなよ。回数重ねるしかねぇよ」

 

後に続く様に攻撃を仕掛けたのは処刑人。地面を勢い蹴り踏み込み、敵へと突進。体全体を駆使してクイーンを横へと薙ぎ払い、複数の敵を吹き飛ばす。攻撃が直撃する寸前にスロットルを捻り、推進剤噴射機構を一段解放。

そのまま流れる様に持ち手を逆手にし、敵の顎へ目掛けて刀身を振るい上げる寸前に持ち手近くのレバーを引いた。燃焼された推進剤が炎となって噴き出し、複数体の敵を宙へ斬り上げながら処刑人も舞い上がった。

そこから宙を浮かんでいる僅かな時間を用いて連撃を仕掛ける。

二度斬り付けた後、反動活かして体を左へ回転させながら斬り上げつつ更に上へと浮かび上がる。浮かび上がった敵に向かってデビルブリンガーを飛ばし、引き寄せる。

 

「落ちやがれ!」

 

そのまま掴むと思い切り下へ投げつけ敵を地面へと叩きつけるとクイーンを振り下ろす。振り下ろした反動を利用して急降下し、地面へと叩きつけた敵に強烈な一撃を叩きこんだ。

華麗な動きを繰り出す処刑人を観戦用部屋で見ていたアナもナガンM1895、アーキテクトは目を丸くしていた。そしてランページゴーストに所属しているRFBも様子を見に来ており、処刑人が繰り出した一連の動きに驚き、呟いた。

 

「あれって本当に処刑人なの…?」

 

そう言われても無理もないとギルヴァは思った。

悪魔が関わる案件に巻き込まれ、大事な戦友を失った。彼女がS10地区前線基地に身を置き、新たな力を手にした以降は殆どの時間を鍛錬に費やしている。

ただ適当に剣を振るっていた時期と比べると今の動きは見違えるほどと言えた。

 

「かなり上達しましたね、彼女」

 

「…そうだな」

 

隣で立っていた代理人がギルヴァにそう伝えると彼も肯定を示す返答をするのであった。

 

模擬戦は終盤へ向かい始める。

ダミー鉄血兵達の数も減っていき、残り僅かとなっていた。見様見真似で処刑人の技を真似るノア。対する処刑人は何か手本になる技とかはないものかと考えながら攻撃を繰り出していた。

そして残り一体となった時、処刑人はある事を実践しようを考えた。勢いよく踏み込み、敵の目の前まで迫るとデビルブリンガーで強烈なアッパーをたたき込んだ。そこから蹴りを二回放つと流れる様に拳の乱打を開始。

体全体を動かしながら繰り出される拳。敵に滅多打ちにするという荒業は処刑人が考えた戦法だ。

何十発もの拳を叩きこむと背後に回り込み、相手の体に腕を回すと後ろへとぶん投げる。

 

「大当たりってな!」

 

そこから体勢が崩れた所に顔面に向かって処刑人は止めのドロップキックをぶつけ、吹き飛ばす。

剣術だけではない。己の体もまた武器の一つ。それを証明するの様な動きをやってのけた処刑人はコートに付着した埃を払いながら静かに口を開いた。

 

「ま、こんなもんか」

 

それが合図となって模擬戦は終了する。

この後に処刑人はノアに『Ex.Act』の更なる発展技、推進剤噴射機構を全開放する『Max.Act』があることを教えた。自身も練習中であることを伝えた上で、やり方も『Ex.Act』と変わらない事も教えた。

注意としては判定がかなりシビアな為、中々発動しない事。その事を伝えた後に処刑人は演習場へと去っていくのだった。

 

 

二丁拳銃の撃ち方、クイーンの扱い方指導は終了しギルヴァらは一旦休憩を取る事となった。

ギルヴァとノーネイム、ナガンM1895を除くメンバーはカフェで休憩。そしてギルヴァとノーネイムはナガンM1895の同伴の元、ある人物が居る部屋へと訪れていた。

身籠っていた事にギルヴァは内心驚きつつも、挨拶する。

 

「久しいな、ユノ指揮官」

 

「うん。久しぶり」

 

二人が尋ねにいった人物とはこの基地の指揮官 ユノ・ヴァルターであった。

軽く挨拶をしたい。そしてノーネイムの事を紹介したいとギルヴァがナガンに申し出た所、少しの間だけならという条件で許可をもらいここに来ていた。

軽く挨拶がてらに談笑した後に、ギルヴァの隣に立つノーネイムが気になったのかユノ指揮官がギルヴァへと尋ねた。

 

「えっと…そっちの子は?」

 

「ああ、紹介が遅れたな。便利屋所属で名をノーネイム。…俺の娘だ」

 

「へぇ~。って…え、娘?」

 

娘と告げられた時、二人は困惑した表情を浮かべ、少し抜けがあった事を思い出したギルヴァはノーネイムの事情を話した。彼の訂正があって何とか納得して貰うとノーネイムからユノへと話しかけた。

 

「紹介にあった通り、私はノーネイム。会えて光栄だ、ユノ指揮官」

 

「こちらこそ」

 

二人が挨拶を交わし、軽く話し始めた傍らでギルヴァはその様子を見つめていた。

その隣で立っていたナガンが彼へと話しかけた。

 

「娘とはのう。にしては随分と成長しておるの」

 

「先程の話をもう忘れたか?」

 

「忘れておらんよ。だがお主が知らぬ内に父親になっていた事には驚いておるがの」

 

「その事を連絡してもいいと思ったがな。だが生憎とこちらもごたごたしていたのでな」

 

―とか言いながら忘れただけじゃねぇの?

 

(うるさいぞ)

 

蒼の指摘に対し、冷たくあしらうギルヴァ。

やれやれと蒼の声が聞こえるのも無視しながら、何かを思ったのか彼は静かに呟いた。

 

「無理はするなよ」

 

「無理?何に対してじゃ?」

 

「…それは分からん。だがそう感じ取っただけに過ぎん。」

 

ここで起きている事。その事を知る方法はギルヴァにはない。

ただ悪魔としての勘、あるいは人間としての勘か。またはその双方が合わさってその台詞が出たのかも知れない。

 

「心配するでない。大丈夫じゃ。…お前さんも随分と世話焼きじゃの」

 

「…否定できんな」

 

心は捨ててないのではなと言って言葉を締めくくるギルヴァ。

時間が訪れるまでノーネイムとユノが楽しそうに話している様子を静かに見守るのであった。

一方でカフェではマギーが二代目クイーン、アジダート&フォルツァンド、レーゾンデートルⅡ、フードゥルⅡを製作した本人だと代理人によって明かされ、アーキテクトと熱く語り合い、フードゥルとグリフォンがこの基地に所属している人形達にナデナデされていたのは言うまでもないだろう。

 

休憩を終え、再度演習場へと戻ってきたギルヴァ達。

一通り依頼された事は終えているのだが、ギルヴァが日本刀を使う事を聞いたのかアナが剣術指導して欲しいと申し出た事により、演習場には愛用の無銘を手にしたギルヴァと高周波ブレードを持ったアナがいた。

三回目となる模擬戦を行う事となり、ギルヴァはアナが手にしている高周波ブレードを一目見て激しく斬り結んで行くには少々厳しいかと判断していた。

既にダミー鉄血兵達は出現しており、武器を構える二人。動き出そうとした時、ギルヴァがアナへと伝える。

 

「武器の耐久性に難を感じているのなら斬り合うな。一撃で仕留める事を勧める」

 

「一撃…ですか」

 

「ああ。技術、技は勝手に盗んでいけ。それをどうするかはお前次第だ」

 

無銘の鍔に親指を押し当て鯉口を切りつつ姿勢を低く維持。

そして居合の態勢から敵へ向かって地面を蹴った瞬間、ギルヴァの姿を消えた。黒い残影がダミー鉄血兵達の間を駆け抜け、その後に続く様に無数の真空刃が発生。嵐と化した真空刃が瞬く間に敵達を切り裂いていき、気付けば敵達の背後へと彼は移動していた。刀を手で器用に軽く回転させるとそのまま刀身を鞘へ納め鞘と鍔がかち合う音を響かせる。それが合図となって切り裂かれたダミー鉄血兵達は瞬く間に地面へと倒れていった。

 

「遅い」

 

ほんの一瞬で神業にも等しい事をやってのけるギルヴァ。

観賞室では人数が増え、模擬戦の様子を見に来ていた人形達も驚きの表情を見せた。そしてギルヴァ達の事を知らない一部の者達は疑問に思った。

一体何者なのかと。

そんな疑問が上がってきている事とは知らず、ギルヴァとアナは模擬戦を続ける。

最初に披露した『疾走居合』から、動きは同じであるが螺旋を描く様に複数の敵を巻き込みつつ斬り上げながら自身も宙へ舞い上がる『螺旋天翔』や彼しか出来ない神技『次元斬』を披露した後、納刀した状態の無銘の鞘の素早い殴打から抜刀斬りを繰り出すギルヴァ。その様子を見ていたアナが口を開く。

 

「鞘で攻撃とは…」

 

「使い方次第では鞘も武器になる」

 

「…真似してもよろしいでしょうか」

 

「言った筈だ。勝手に盗んでいけとな」

 

会話しながらも技を披露するギルヴァ。それを見ながら記憶していくアナ。

かくして全ての依頼は完了し、模擬戦は終了する。

三回目に行われた模擬戦はギルヴァの時が一番早くと終わったのは後で知る事であった。

 

全てを終えた後、リヴァイアサンが複座式という事をマギーから聞いたのかノアが乗ってみたいと申し出た。ノーネイムが操縦を務めるという条件でノアを乗せたリヴァイアサンが空へと飛び出し、二人が戻ってくる間ギルヴァ達はバンを停めてある外で待機。そして車内ではマギーがアナに許可を得てアジダート&フォルツァンドの整備を行っていた。

 

「乱暴な扱いされてない様で嬉しいですね。かなりの腕をお持ちなのでしょう」

 

「いえ、まだまだです。寧ろこの銃を作ってくれた事にとても感謝しています。今となっては無くてはならない存在です」

 

「そうですか。この子達も鼻が高いでしょうね。貴女の様な方に扱ってくれているのですから」

 

アナと会話しながらも慣れた手つきで銃の点検をこなしていくマギー。

自身が製作した銃なのもあるが、構造は殆ど頭に入っている。例え目隠しでも整備できるくらいに。

油を指し、トリガーの緩み具合を調べ、元の形へと戻しちゃんと作動するか確認し問題ないと判断すると二丁の拳銃をアナへと返した。

 

「これで大丈夫。それとこれを渡しておきます。今後の役に立てて下さい」

 

愛用しているバックからマギーが取り出しアナへと渡したのはアジダート&フォルツァンドの予備マガジン複数と英語である言葉が記された箱。

その言葉を見てアナをそれを読み上げた。

 

「エクスプローション・バレット…。あの、これは一体?」

 

「こちらが良く相手する敵用に製作したその銃専用の炸裂弾です。相手に着弾し、数秒後に爆発するといった弾丸です。反動は倍近く跳ね上がるのが難点ですけど、貴女なら使いこなせるでしょう」

 

こちらが良く相手にする敵用にと聞いた時、アナはノアに聞かされた事を思い出す。

そして彼女は良く相手する敵の名を口にした。

 

「悪魔…ですよね?その良く相手をする敵の名は」

 

「…聞き及んでいいましたか」

 

「はい。あまり実感はわきませんが…処刑人の腕を見て実感せざるを得なかったです」

 

ギルヴァやブレイクに初めて会ったユノやナガン、S11地区の作戦にて彼らを知った者もいるがアナは違う。S11地区の作戦では彼女は居なかった。いきなり悪魔と言われても実感が湧かないのも無理もなかった。

そんな中、突然マギーは自身の正体を明かした。

 

「私も悪魔ですよ。見た目は人間ですけどね」

 

「! 貴女も…?」

 

「ええ。魔界出身であちらではマキャ・ハヴェリという名前で生きて居ました。伝説の魔工職人とも言われてきましたね」

 

だいぶ前の話ですけどね、と言いながらマギーは道具の片付けを始める。

その姿は決して悪魔と断言出来ない。普通に生きている女性と何ら変わりない。しかし何故マギーが自身の正体を明かしたのか、それにはある理由があった。

 

「悪魔と言えど、心を宿した悪魔もいる。私もこの世界で心を宿した悪魔なんですよ」

 

「悪魔が心を宿す…」

 

「ええ。ギルヴァやブレイクもその身に悪魔の血を流しています。けど他の悪魔とは決定的な違いがある。それが心です」

 

そう言いながらマギーは優しい笑みを浮かべながらアナの方へ向く。

悪魔ではない。優しい笑みを浮かべた一人の女性がそこに立っていた。

 

「どうかあの人達の事を怖がらないで下さいね?」

 

怖がって欲しくない。

それがマギーが正体を明かした理由であり、願いであった。

 

リヴァイアサンが戻ってきて、依頼は完了した事により別れの時間が訪れた。

オレンジ色の空が広がり、基地の外へと繋がる場所の前では見送りとしてノア、アナがいた。代理人、処刑人、マギー、フードゥルとグリフォンは車内に、ノーネイムは先に基地へ向かって飛んでいっており後はギルヴァとブレイクばバンに乗り込むだけであった。

 

「色々助かったぜ。今日教えてもらった事は忘れねぇから」

 

「ええ。欲を言えばもう少し教えてほしかったのもありますがそれ以上は我儘になりますし」

 

二人の言葉を受け、軽く笑みを浮かべるギルヴァとブレイク。

恩返しの為とはいえ、彼らにとっても悪くない時間を過ごせたと感じていた。

そろそろ出発となるとブレイクが別れの挨拶を告げる。

 

「じゃあな、お二人さん。体には気を付けなよ」

 

腕を軽く上げ、ブレイクは車内へと乗り込んでいく。

そして最後に残るはギルヴァだ。

 

「未来が読める訳ではない。この先何が起きようとも無理はするなよ。…暇になったら遊びにでも来い。シーナ指揮官なら喜んで迎えるだろうからな。…また会おう」

 

二人に別れの挨拶を告げると後ろへと振り向きギルヴァは車内へと消えていく。

バンのエンジン音が鳴り響き、『Devil May Cry」を綴られたネオンサインが光出す。

車両は基地の外へ走り出していき、去っていく。こうして恩返しを終えた彼らはS10地区へ戻っていくのだった。




都合上書けませんでしたが、ギルヴァとアナが模擬戦をやる前に一応代理人も模擬戦に参加しています。その際ニーゼル・レーゲンの脅威的な変形を用いてスタイリッシュに動き回った模様です。因みに多くの人形達に見せつけています。
それとノーネイム操縦の元リヴァイアサンに乗ったノアちゃん。テンションMAXだった事をここに記載しておこう。

これにて恩返し編は終了です。
焔薙様、本当にありがとうございました!


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Act107 Encounter with the past

―――信じていたのは混在の記憶


恩返しを終えて翌日の事。

いつものように店で本を読んでいたギルヴァは突然シーナに呼び出され基地内第一会議室へと向かっていた。

 

(理由もなく来い、とはな。些か強引だな)

 

所属する人形達や職員達が行き交う廊下を歩きながら、彼は理由もなく呼ばれた事に疑問に思っていた。

不満がある訳ではない。急を要する何かだという事は理解している。

そこで思い付くのが悪魔が絡む案件だった。自分が呼ばれたとなればそのことぐらいだろうと判断し、彼は第一会議室へと歩みを進める。

廊下を抜け、第一会議室前へと到達すると室内へと入る。そして中にいたのはシーナに404小隊全員とAR小隊の三人。するとギルヴァはAR小隊の中で見覚えのない人形がいる事に気付いた。

黒い髪、黄色のメッシュに眼帯をした少女。AR小隊のメンバーと一緒にいる所を見ただけで彼は彼女が何者なのか察した。

 

(はぐれていたAR小隊の一人か)

 

―これで迷子は全員見つかった訳か。しかし何時の間に合流したのやら

 

(404小隊とAR小隊の三人が緊急任務で昨日出ていたと聞いている。恐らくだが…)

 

―なぁるほど。緊急任務の内容は迷子のお出迎えって訳か。

 

内々で蒼と会話しながらギルヴァは呼び出したシーナの元へと歩み寄っていく。歩み寄ってくる彼に気付いたのか手を振って挨拶するシーナ。

彼女の傍まで歩み寄るとギルヴァは自身が呼ばれた理由について尋ね始めた。

 

「呼ばれて来たぞ。呼んだ理由を聞こうか」

 

「その理由を話したいんだけど…まずはこの映像を見てくれる?」

 

「映像だと?」

 

訝しげな声を上げるギルヴァにシーナは手にしていたタブレット端末を操作。

ギルヴァに見せる映像を選択しつつ、展開したスクリーンにその映像が映し出された。

流されたそれにこの場にいる全員がその映像へと視線を向けた。

流れるのは誰かが撮影した映像。物陰から映しており、その先に映っているそれを見て誰もが言葉を失い、室内へ映像から音声が響き渡っていた。

爆発音、破砕音。空へと昇っていく黒煙の中から赤い瞳が輝き、ゆらいとそこから何かが姿を見せた。発達した四肢。赤色に輝く鱗に尻尾。その姿は竜の様にも見える。

だがそれが悪魔なのか、或いは伝説上の生き物なのか。誰にも検討がつかなかった…この男を除いて。

 

(…ッ!!?)

 

頭の中に流れてくるノイズ交じりの映像。

雨が降る中で響いた一発の銃声。その直後に地面へと倒れ伏せる少女。可愛らしい真っ白なワンピースを染め上げる様に彼女の下で大きな輪を描く様に広がっていく真っ赤な花。

額に開いた穴から大量の血潮。見開かれた目には生気はない。言葉にせずとも少女は既に絶命していた。

ギルヴァは少女の事を知っていた。血の繋がりはない。それでも妹の様に接してきた少女…カエデだと。

だがその最期は自身が知る最期と違っていた。

 

(あの時カエデは死ぬ間際に俺に生きてと願って死んだ筈だ。どうなっている…?)

 

自身が知る記憶と突然流れた記憶に齟齬をきたしている事に彼は混乱していた。

沈黙を保ちながらもギルヴァの様子が変と感じた者が一人いた。

 

(…ギルヴァ?)

 

傍に近寄り彼の隣に立っていたUMP45だった。

何時も以上に険しい表情を浮かべており、それは映像に映る赤い竜に対してだと彼女は判断した。

だがそれは違った。

今ギルヴァの頭の中では本人でしか知り得ぬ事が起きていたのだ。決して本人でしか分からぬ事であり、それを知る筈もない45は彼から映像へと視線を映した。

赤い竜は体の機能の一つなのか腕からブレードを展開。鉄血兵達を容易く切り裂き、その巨体は似合わない動きで鉄血兵を頭から潰す。相手に一切の抵抗を与えず蹂躙していき、それは周囲の敵を全て片付けると高らかに咆哮していくとその場から飛び去って行き、そこで映像が終了した。

室内は沈黙に包まれる。誰も言葉を発さない。

沈黙が数分続くとそれを切り開く様にギルヴァは尋ねた。

 

「この映像…撮ったのは誰だ?」

 

「私さ」

 

問いに対し自分だと答えた聞き覚えのない声が一つ。

ギルヴァが声の主へと視線を向けると、そこにいたのはこの第一会議室に入った際にギルヴァと蒼との間で会話に出ていた人形…M16であった。

表情こそは笑っているが、どこか品定めされている様な感覚を覚えるギルヴァ。目を軽く反らし彼に対しM16はフッと笑い、先程の話を続けた。

 

「お前の話は妹から聞いている。人知れずこの世界に居る"悪魔"とやらを討伐する専門家なんだろう?どうだい、専門家から見て"あれ"は悪魔なのか、それとも別の何かなのか教えてくれないか?」

 

「…正体までは分からん。だが悪魔という事だけは間違いないだろう」

 

この時ギルヴァは敢えて赤い竜の正体を敢えて伏せた。

余計な不安を与えない為という意味もあるが、その正体に対し確証が抱けなかったのもあった。

赤い竜が悪魔だと聞き、ジッとギルヴァの目を見つめるM16。しかしどこか納得したのか笑みを浮かべそれ以上は何も言わなかった。

 

「今後"あれ"が何時、何処で出くわすか分からん。指揮官、基地の面々には任務に出る際に注意点として伝えておくと良い。鉄血の部隊があのザマでは、こちらも同じ事になる」

 

「…分かりました。ギルヴァさんも何か分かれば教えてね?」

 

「約束しよう」

 

先に戻ると伝えるとギルヴァは足早にその場から去っていった。

去り行く彼の背をM16はジッと見つめていた事に気付かずに。

 

 

第一会議室を出て、彼は基地の屋上へと訪れていた。

青々と広がる空を眺めながらギルヴァは蒼へと話しかける。

 

「…よもやアレのおかげで抜けていた記憶の一部を思い出すとは思わなかったな」

 

―正直俺もびっくりしてるさ。一度ならず二度もあれを見るなんて。それにお前の記憶の事もな

 

「そうか…」

 

今までギルヴァは過去に起きた出来事は全て嘘偽りのないものだと思っていた。

だが赤い竜の影響か自身の身に起きた出来事の記憶の一部が抜け、あろう事か混在してしまった事に驚きを隠せなかった。

何が本当で、何が違うのか分からなくなっており彼にしては珍しく覇気がない。そんな姿の彼を慰める者はおらず、ギルヴァはどこか自虐じみた笑みを浮かべるがすぐさま神妙な表情へと切り替え、蒼が彼へ告げる。

 

―色は違うが、姿形は間違いねぇ。あれは…

 

 

 

 

「お前と出会って直後、異形と化し暴走した"俺"に間違いなさそうだ」

 

 

 

時間は過ぎ去り、夜空へとすり替わった今。

ある基地にてローブを纏い歩み寄る二人の姿があった。

基地入口まで歩み寄ると一人が足を止め、もう一人が声を掛けた。

 

「どうされましたか?錬金術士(アルケミスト)。まさかここまで来て怖気つきましたか?」

 

「そんな訳ないだろう、侵入者(イントゥルーダー)。ただ奴に真意をやっと聞けると思ってな」

 

「その対価にとんでもないお土産があると思いますがね」

 

「それはその時だ。…行くぞ」

 

その声に侵入者は頷き、錬金術士は同じ境遇に遭った者と共に基地内へと足を踏み入れた。

全てはその理由を知る為。

だがここから蝕む始めた悪夢の一端が姿を見せるとは気付かずに。

 

 

その頃…。

何もなく、ただ平野だけが広がる地帯にて一台の車両が駆け抜けていた。

運転席には銀髪と赤のグラデーションがかかった少女。その隣では車窓を開き煙管を吹かす女性が一人。

電波が悪いのかまともなラジオも流れる事もなく、車のエンジン音を響く中煙管を吹かしていた女性が運転を務める少女へと話しかけた。

 

「腹減ったのう。そろそろ休憩にせんか、ルージュ」

 

「さっき食べたばかりでしょう。もう少し我慢してください、ダンタリオン。それにS10地区の前に訪れる場所も近いんですから」

 

「おお、そうじゃったの」

 

その言葉を聞き、ダンタリオンと呼ばれた女性は笑みを浮かべ、口から紫煙を吐く。

流れて消えていくそれを目で追う事は無く、笑みを浮かべたままであったが目は笑っていなかった。

そして彼女は静かに呟く。

 

 

「どれ…。何が目的が聞かせてもらおうかの、鉄血よ」




つまりギルヴァが今まで信じていた記憶はかつて起きた事が原因で一部が欠損していた事に加え色々混ざってしまっていた記憶だった。今回M16が撮影し、映っていた赤い竜を見て一部を思い出し、自身の記憶がごちゃ混ぜになっていたといた事に気付いた訳です。

次回は真意を尋ねる為に動いていた錬金術士と侵入者編を書く予定です。
と言っても予定なので約束通りにならない事もあるのでご容赦を

では次回ノシノシ


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Act108 To know the true intention

―――知るために


月明かりが全てを照らし、緩やかに吹いた風が吹く。流れる雲によって満月が隠されては再度露わになるのを繰り返し、地上は光闇を幾度となく繰り返していた。

人知れず行われている現象の下で錬金術士と侵入者は、かつての仲間である夢想家が潜伏しているであろう基地内部へと侵入していた。

内部はわざと電力を落としているの暗闇だけ支配していた。歩く度に響き渡る靴底が当たる音が暗闇と相まって何時も以上大きく響き渡っているなと廊下を歩いていた錬金術士はそう感じつつも夢想家がいる場所を目指していた。

念の為灯りになるものとしてフラッシュライトは隣に立つ侵入者が持っていた。しかし敵に位置に知られる事を恐れ、灯りを灯す事無く二人は周囲の警戒を維持したまま歩みを進めていた。

一言も発する事もなく、そして敵と遭遇する事もなく二人は廊下を進んでいく。電力が落ちている事もあって、行く先々で見つける部屋のドアは閉じられており、只々真っ直ぐと道が続いているのみ。

誘われている。

言葉にせずとも二人は同じ事を思った。順調に進み過ぎていると感じたのだろう。ここまで順調ならそう感じてもおかしくない。

すると何かの考えがあってのものか錬金術士がそっとM79グレネードランチャーを手に取ると榴弾を装填し始めた。隣でその行動を見ていた侵入者は彼女へと問い掛ける。

 

「何をす―――」

 

何をする気だと言い切る前に爆発音が響き渡った。閉ざされていた扉は派手に吹っ飛び、火災が発生。当然こんな事をやったのはM79グレネードランチャーを構え榴弾を放った錬金術士である。

しかしだ。錬金術士の暴挙のおかげか、或いは突然の事だったせいか、落ちていた電力が復帰。照明に灯りが灯り火災を止める為に施設全体のスプリンクラーが起動する。そして纏っていたローブがびしょ濡れになる始末。

 

「変な事もあるのですね。室内で雨が降っていますよ?」

 

「はて、誰が火遊びをやっていたのやらか」

 

「貴女のせいですからね?」

 

「何の事か知らんな。灯りになるものも得た上に奴に地味な嫌がらせが出来た。さて…ずぶ濡れ姿のあいつの顔でも拝みに行くか」

 

素知らぬ振りを決め込み、クールな笑みを浮かべながら錬金術士は先へと歩みを進めていった。

先を行く彼女の背を見て呆れた表情を見せつつも侵入者はその後を追うのだった。

一方、監視カメラで二人の行動を監視していた夢想家は錬金術士の地味な嫌がらせを見事に受けていた。椅子に腰掛け優雅な笑みを浮かべいたら、錬金術士がやらかした事によって濡れ鼠状態。まだ火災が続いているのかスプリンクラーは動いており、降り注ぐ消火水に止まる気配はない。

体をプルプルと振るわせながら顔を下へと俯かせる夢想家。黒く長い髪が前にしなだれており、その姿はホラー映画で見るテレビの中から出てくる女の怪物を彷彿させる。

 

「あんのっ…クソ女があああぁぁっ!!!」

 

優雅な笑みは何処に消えたのか、錬金術士に向かって口調を荒くし怒りを露わにする夢想家。

その後で同じくずぶ濡れになりながらも控えていた追跡者。柔和な笑みを浮かべながらも怒り狂う彼女を見て静かに呟く。

 

「彼女の今の顔を見たら流石に破壊者もすぐ泣き出しそうだ」

 

くすくすと可愛らしく笑いながら、追跡者はまだかと思った。

二人に()()()をお披露目できるその時を。

 

 

夢想家へと行った地味な嫌がらせが絶大な効果を誇った事を知る筈もなく錬金術士と侵入者は基地内部に存在する別区画へと訪れていた。

通路は正面へと向かえば情報管理区画。右へ行けば宿舎区画。左は医療区画へと分かれており二人は情報管理区画へ続く道を選びそちらへと歩き出した。そこに夢想家がいるという確証はない。だが彼女ならばという理由で向かう事にしたのだ。

油断しているのか、それとも潜ませているのか。敵が出てくる様子はないがいつ襲われてもおかしくない。手にしている武器をすぐさま放てるように周囲の警戒をしながら二人は奥へと進んでいく。

そしてどれ程歩いただろうか。二人は情報管理区画内に存在する連絡通路前広場へと来ていた。二階へと通ずる階段は破壊されており、残っているのはどこか向こうへと通ずる道の入口だけ。

 

「錬金術士に侵入者。久しぶりね?暫く会えなくて寂しかったわ」

 

その先へと向かおうした矢先、聞き慣れた声が響く。

声の主の方へと振り向けば、二人が探していた相手が、夢想家が二階の通路で立っており彼女達を見下ろしていた。びしょ濡れな姿を見せる訳には行かず、軽く乾かしてから急いでここに来ておりほんの小さくであるが息を整えている仕草をしていた。

それを侵入者は見逃さなかったのだが追求する事はせず沈黙を保っていると隣に立っていた錬金術士が榴弾を装填したグレネードランチャーの銃口を夢想家へと突き付けながら返答する。

 

「それはこちらもさ、夢想家。先程ちょっとしたサプライズをした訳だが喜んでくれたか?」

 

「サプライズなんてあったのね。ごめんなさい、知らなかったわ」

 

さも気付かなかった様な口振りで残念そうな表情を浮かべる夢想家に対し侵入者は柔和な笑みを浮かべて先程見逃さなかった仕草について指摘した。

 

「その割には息を整えていた様子でしたが?駄目ですよ、夢想家。こういう時はしっかりお礼を言わないと。それともお礼を言うのが恥ずかしすぎて嘘を言ってしまった感じですか?」

 

侵入者の言葉を聞き、薄っすらと反応を見せる夢想家。

挑発され、まさかそれに乗っかりそうなったのだが敢えて堪えたのを二人が気付く筈もない。

だがそれを見抜いていたかのように錬金術士は侵入者の後に続く様に口を開く。

 

「それは悲しいなぁ。折角サプライズを用意してやったと言うのにお礼の一つもなく、代わりに嘘をつくとは」

 

大袈裟に悲し気な素振りを見せる錬金術士だったが、それも数秒も経たぬ内に解かれ再び夢想家を睨む。

さて…と小さく呟くと本題へと切り出した。

 

「S10地区の件といい、侵入者に起きた件といい…ましてや切り捨てるとはな。どういう意図があってこの様な事をやったのか聞かせてもらおうか」

 

「ああ、その事…」

 

問いに対しどうでもいいと言わんばかりの態度を見せる夢想家。

しかし態々ここまで来てくれた褒美のつもりか彼女はその問いに答え始める。

 

「実験に協力して欲しいって言われたのよ。相手はどっかの宗教団体。まぁそんなつまらない事に協力する気なんてなかったけど…協力してくれた際のお礼を聞いた時、気が変わったわぁ。何て言ったってそれを手に入れば面白い事になるのだから」

 

「そのお礼とやらは、訳の分からん騎士や赤い竜を作り出す技術か?」

 

「残念ながらそれは違うわね。じゃあ何かって教え上げたい所だけど、どうせ死ぬ相手に教えるつもりはないわ」

 

じゃあね~と言いながら踵を返しその場から去って行こうとする夢想家。

去っていこうとする彼女を呼び止める錬金術士であったが、止まれと言われて止まる馬鹿はいない。やむを得ずグレネードランチャーを放とうとする錬金術士だが…

 

「P.T.E.Bじゃろう?そのお礼の内容とやらは」

 

突如として響いた声によって引き金にかけていた指を離した。

自分達が通ってきた通路の奥からカランコロンと固くて軽いものが地面に当たる音が響き渡る。

咥えた煙管を吹かし、手には消火水の雨を防ぐために使ったのか赤色の和傘。白を基調とし鮮やかな桜模様が施された着物を纏い、その者はゆっくりとこの場に姿を現した。

端正な顔立ち、瞳は赤く輝き、スラリとした佇まい。決して大きい訳ではない。しかし慎ましくとも実ったそれが彼女の魅力を更に引き出させる。

淡い金色の髪を揺らしながら、紫煙を吐き出す。ゆらゆらと昇っていくそれを見届けると彼女は笑みを浮かべる。

この場には余りにも不釣り合いな格好。浮いているとして言いようのないのだが気にとどめる事もなく口を開いた。

 

「全く妙な事もあるもんじゃ。基地内で急に雨が降り出しおった。何処の阿呆が変な事でもやらかしおったのかの。傘がなかったら大事な着物がずぶ濡れになっていたわ」

 

現れて早々に愚痴をこぼす女性。

誰しもがその者へ警戒を強め、それに気づいた女性は愚痴を言うの止めると夢想家へと喋りかける。

何処か驚いている様子の夢想家へと。

 

「やはりだったか。その顔を見れば分かる。何故それを知っているかと言った顔じゃ」

 

「…」

 

「聞きたい事はそちらも、そしてこちらも山ほどあるが…まずはワシの自己紹介をさせてもらおうかの」

 

吹かしていた煙管を咥え、彼女は高らかに挨拶する。

 

 

「グリフィン所属。本部直属諜報部所長のダレン・タリオン。…まぁこれは表向きの顔。ここからは正体と行こうか。ワシの名は"ダンタリオン"。十の顔を持つ悪魔。得意分野は電子戦とかでの。ワシに言わせば、正規軍が相手でもこのワシに勝つ事は出来ん。それぐらい得意でのう。…短い付き合いになるがよろしく頼むの」

 

 




次回も錬金術士&侵入者編でお送りいたします。

さてこの場に現れたダンタリオン。
彼女もまた今後に大きく関係いたします。

では次回ノシ


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Act109 Identity

―――それが味方を切り捨ててまで欲したものの正体


「グリフィンの者が何故ここに…。それに悪魔だと?」

 

「嘘は一つも言っておらんよ。まぁ信じるかはお前さんら次第じゃが」

 

グリフィンに属しながらも悪魔であるダンタリオンは訝し気な表情を見せる錬金術士に対しても決して態度を崩す事はなかった。

のんびりと煙管を吹かし夢想家の方へ向く。表情こそは笑っているが目は決して笑っていない。

武器とか言った類は一切持っておらず、どうぞ撃ってくださいと言わんばかりに隙を晒している。命を奪おうと思えば今すぐでも出来る。しかしそれが返って危険だと夢想家は感じた。

明確な理由は分からない。今はそうするべきでないと自身の中で警笛が鳴り響いているから。たったそれだけの理由でダンタリオンが現れ、相対しても彼女は攻撃を仕掛けなかった。

そして攻撃を仕掛けなかった事に対し正解だと感じていた。何せ相手は自分と一部の者しか知らない事を知っているのだから。何処でそれを知ったのか聞くまでは彼女はダンタリオンの命を奪う事をしなかった。

 

「聞かせてもらおうかしら。何処でその言葉を知ったのかを」

 

「何処で、か…。それは教えられんの。じゃがこれだけは言わせてもらうか。…"眠り姫"は目覚め、今は囚われの姫と生きておる」

 

「なんですって…」

 

その台詞に夢想家は驚愕の表情を見せた。

彼女の反応を見てダンタリオンは紫煙を吐きつつ、夢想家の反応の事を交えつつ言葉を続けた。

 

「その顔を見るに目覚めている事すら知らんと見る。…あやつは目覚めておるよ。自らの意思を有し、囚われの城から助け出してくれる者を待っておる。最もお主らを希望している訳ではなさそうだったが」

 

二人の間で行われている会話に錬金術士も侵入者もついていけなかった。

だが夢想家がP.T.E.Bとやらを欲しているという事。そしてそれはどこかの宗教団体にあるという事は理解していた。それが欲しいが為に自分達を実験体のデータ取りの相手として扱われ、切り捨てられた事も。

もはや聞かずとも分かった。これが夢想家の行動に対する真意だと。

裏切り者である身。これ以上ここにとどまる事は危険と判断したのか錬金術士はグレネードランチャーを夢想家へと狙いを定めた。

 

「これこれ。少し気が早いぞ」

 

しかしそれを見越していたのかダンタリオンが錬金術士の前に立ち、その行いを咎めた。

 

「邪魔しないでもらおうか。奴もろとも消してやろうか」

 

「それは御免じゃの。じゃがこちらとて奴に聞かねばならぬ事が多くての。こちらが終われば後はそちらが勝手にするが良い」

 

睨む合う両者。

しかしそれは傍で見ていた侵入者によって止められる事となる。

 

「喧嘩は後にした方がよろしいですよ。どうやらあちらはやり合う気みたいです。最も相手は夢想家ではなく見た事のない子のようですが」

 

武器を構えある方向へと向く侵入者に釣られ、二人もその方向へ向く。

通路の奥から灯りが照らす下に現れる日本刀を模った武器を手にした一体の人形。目を閉じていても前は見えているのかしっかりとした足取りでその者は彼女達の前に立つ。

錬金術士と侵入者を見た後この時を待っていたかの様に笑みを浮かべ、その目を見開く人形。

その笑みは柔和なものではない。寧ろ恐怖を感じさせる様な狂った笑みの様にも見える。

そんな笑みを浮かべながら、その者は口を開いた。

 

「初めましてかな。僕の名は追跡者。出会えて光栄だ」

 

「これはご丁寧に。ご存知かと思われますが、私は侵入者。これから仲良く…と言いたいですが、その様子だとその気はなさそうですね」

 

「そうだね。事情はあれど裏切り者には変わりない。死に逝く最後までどんな表情を見せてくれるのか…とても楽しみで仕方ないよ」

 

追跡者とのやり取りを経て、どこか錬金術士と似た所があると侵入者は思った。

浮かんだ笑みの中に潜められた殺意。残虐な行為を愉しみとしている点は似ているだろう。だがそれ以上に勝てる気がしないと感じていた。

少しでも攻撃姿勢を見せれば距離を詰められ切り捨てられる。それ程までに危険な相手だと思わざるを得なかった。

 

「夢想家。もう良いかな?斬りたくて仕方ないんだ」

 

「良いわ、錬金術士と侵入者は始末して。けどそこの女だけは生かすのよ?まぁ四肢は切り落としても良いけど」

 

追跡者に指示し、最後にダンタリオンを睨みつけたから夢想家は去って行った。

彼女が去り、この場に残るは錬金術士と侵入者、ダンタリオン、そして追跡者。

一触即発の気配が漂う中、空気が読めてないのかダンタリオンは煙管は吹かしていた。それが合図となって追跡者は彼女へと突撃した。

 

「まずは君からだ!」

 

「やれやれ、年寄りを労わる気はないとはの。最近の者は礼儀はなっとらん。そう思わんか?…ルージュよ」

 

ダンタリオンがルージュと呼ばれる者の名を口にした時、突如として何かが砕け割れる音が響いた。

 

「ッ!?」

 

天窓を突き破り、空高く昇った月を背に一人の少女が降りてくる。禍々しくともどこか鮮やかに輝く弧を描いた刀身。揺れ、広がるコートの裾が何処か羽の様な物を彷彿とさせ、その姿はまるで死神の様だ。

そして彼女はダンタリオンに迫る追跡者へ向かって大鎌を振り下ろした。

刀身の切っ先が弧を描きながら追跡者へと襲い掛かる。それを軽やか動きで回避し、追跡者は襲い掛かった来た者と距離を取り睨みつけた。攻撃が掠ったのか、その頬から少量の人口血液を流しながら。

身の丈以上はある大鎌を手に、コートを羽織った少女。白と赤のグラデーションが掛かった髪。紅い瞳はダンタリオンと酷似している。相対している追跡者を睨み返しながらもルージュはダンタリオンへと話しかける。

 

「全く…勝手に一人で行かないでください。探すのが面倒でした」

 

「それは済まんの。じゃが鉄血の目的が例のアレという事は分かったぞ」

 

「やはりでしたか。…それで貴女の傍にいる二人は敵ですか?」

 

追跡者の方を向いたままであるが、ルージュはダンタリオンの傍に立っていた錬金術士と侵入者の事を尋ねる。

ダンタリオンの味方である事は間違いない。しかし自分達の味方とは限らないと判断したのだろう。錬金術士も侵入者も武器を構える。

だがダンタリオンが手を上げて制止。警戒を露わにしながらも二人は彼女を見つめる。

 

「どうやらこの二人は捨てられたみたいでの。どうせじゃ連れていこうかと思っての」

 

「おい、待て。私達はついて行くなど言ってないぞ」

 

「ならばここで果てるか?そんなのはお主とて望んでおらんじゃろう。ここまでされておきながら、はい分かりましたと言いながら死ぬ気か?どうせならやり返してみるのも悪くなかろうて」

 

やり返す。

その言葉が錬金術士の中で響いた。既に本来の目的は達している。この先どうするのも生き残ってから考える事にしていた。しかし今はそれが前倒しになり、選択しなくてはならない状況にある。

切り捨てられ、そして裏切り者となった今、引く事も出来ない。どうせならそれを実行してみようではないか。

その思いが錬金術士の中で沸き立つ。その印として彼女は覚悟を決めた表情を浮かべていた。

それを見ていた侵入者はやれやれと思いながらもついて行く事を決めると愛用している重火器を構え、この場に向かって集まりだしたかつての味方へと向け大きく、高らかに宣言する。

 

「御覧の通り。開演でございます!」

 

それが開幕の合図となり、その場は一気に戦場と化した。

榴弾、光弾が飛び交い爆発音や破砕音が連続して響く。その中で立っているにも関わらず追跡者とルージュは一歩動かず睨みあっていた。

 

「ルージュ!わしはこやつらと先にルートを確保しておく!少しの間、時間稼ぎを頼むぞ」

 

「分かりました。少しの間だけ時間を稼ぎましょうか」

 

弾幕を張り敵を近づけさせない侵入者。グレネードランチャーで榴弾を放ち敵を吹き飛ばしつつ、RDIストライカー12を片手で連射していく錬金術士。

ある程度敵の数を減らすと二人はダンタリオンの合図の元、その場から走り去っていく。ルージュは追跡者が相手する事を理解しているのか、リッパ―やヴェスピッド達はその後を追っていく。

この場には残るのは大鎌を構えたルージュと刀の柄に手を添えて構える追跡者。

両者の間に会話は訪れない。束の間の沈黙が訪れ…

 

「「!」」

 

両者がぶつかった。

凄まじい速さで繰り出される剣戟。火花が散りばめ、両者共に一歩も引かない。

追跡者が繰り出す攻撃を受け流しながら、大鎌のリーチを生かし即死級の一撃を与えようと攻める。

だがそう易々と攻撃を貰う追跡者ではない。大振りな薙ぎ払い攻撃に対し身をかがめて回避。そこから後方へと下がり居合の態勢を作る追跡者。地面を勢い良く蹴り、ルージュへと迫る。対するルージュは追跡者は使用した技を見て驚きの表情を見せた。

 

「その技は…!」

 

「これで終わりさ」

 

一瞬の内に距離を詰められ放たれた刃がルージュの首へと迫る。

しかし寸での所で自身と迫る刃との間に大鎌を滑りこませ、攻撃を受け止める。

そこから鍔迫り合いと発展し互いに押し込む合う中、先程の技の事をついてルージュが問いかける。

 

「先程の技…。貴女の技ではないですね?」

 

「おや?分かるのかい」

 

「ええ。随分前に見た事があるのでッ!」

 

自ら後ろへと引き、追跡者の体勢を崩すルージュ。

崩れた所を見逃さず、腹部に蹴りを叩き込み吹き飛ばすルージュ。だが何もなかったように追跡者は体を回転させて地面へと着地しルージュへと向けて余裕のある笑みを浮かべた。

お互いに距離が空くと構えを解かずルージュは予感していた。

先程の技は一部違うが、かつて異形だった時の自身と戦った黒いコートの彼(ギルヴァ)の技だと。

そしてその予想は追跡者によって正解へと生まれ変わった。

 

「黒コートの悪魔。鉄血では有名でね。何せ単身で部隊を壊滅できる程の力を持つって言うじゃないか。味方の残した彼の戦闘データを解析し、その技を僕の物にしたという訳さ。」

 

「良くそんな事を言えますね。それは模倣というのですよ」

 

「そんな事は分かっているさ。だから僕はいずれ黒コートの悪魔をこの手で殺す。技を、全てを自分の物にする為にね」

 

それを聞き、何か可笑しな点があったのだろうか。突然としてルージュは小さく笑い始めた。

その態度に苛立ちを覚える追跡者だが、ルージュは笑う事を止めなかった。

理由として何を馬鹿な事を言っているのだろうと思わざるを得なかったからだ。かつて異形だった自身を相手にした正規軍ですら勝てなかったというのに相打ちにまで持ち込んだ彼にどう勝つつもりなのだろうか。

それどころか彼はあの時以上の力を身に付けている。たかだか模倣した程度で追跡者が彼に勝てる要素が何処にあるのかルージュは理解出来なかった。

ひとしきり笑った後、ルージュは追跡者の顔を見つめ静かに口を開いた。

 

「貴女がどれ程模倣し、どれ程その身に()()()()()()()()()()とも彼には勝てませんよ」

 

「! それにも気付いているなんて。君は一体何者だ…?」

 

「さて何者なんでしょうね。聞きたければ私を捕えればよいだけの事。最もそう易々と捕まる気もありませんがね」

 

その場から勢い跳躍し天窓から外へと飛び出るルージュ。

流石にそれには追跡者も追いつけず、言葉を荒くし叫ぶ。

 

「逃げる気か!」

 

「そうなりますね。…こちらは時間稼ぎが目的。これ以上戯れを続ける気などないので。ではお元気で」

 

追跡者にそう告げるとルージュはその場から去って行った。

追うにも追いつけないと感じたのか追跡者はルージュが出ていった天窓を見つめながら刀身を静かに鞘へと納めるのだった。

 

時間稼ぎを終えたルージュが天窓から飛び出た一方で錬金術士らは外へと繋がる出口を目指して基地内部を駆け抜けていた。何処に隠れていたのか姿を現すかつての味方達を倒しながら突き進んでおり、漸く出口付近までたどり着いた矢先、待ち受けていた者を見て三人は足を止めた。

そこにいたのはルージュと相対していたはずの追跡者。しかし三人の前に現れた追跡者は一言も発しない分、狂った様な笑みを浮かべているのは同じで、標的を見つけたのか追跡者は錬金術士へと攻撃を仕掛けた。

だが動きが単調だったためか攻撃はあっさりと躱され、対する錬金術士は追跡者を地面へ叩き付け、その顔面に向かって散弾を叩きこんだ。

至近距離で散弾を叩きこまれば幾ら追跡者と言えど耐えられる筈がなく、顔面がぐしゃぐしゃに成り果てた追跡者が地面に横たわる。

 

「ダミーか。用意周到なのは結構だが、この程度ではな」

 

「そんな事言っている場合じゃないですよ。ほら、あの人が車を持ってきてくれましたよ。さっさと乗って休憩でもしましょ」

 

基地の出入口付近にダンタリオンが運転する車両が現れ、二人は敵が来る前に車内へと飛び込んだ。

そこに時間稼ぎを終えたルージュが現れ、二人に続く様に車内へと乗り込む。全員が乗り込んだのを確認するとダンタリオンは車両は基地の外へ向け、アクセルを勢い良く踏んだ。

車両は猛スピードで基地を離れていき、その姿が見えなくなるまで飛ばす。

基地の姿が見えなくなるまで離れると車両は速度を下げ、ダンタリオンは運転をルージュと交代。一息ついていると錬金術士が彼女に問いかけた。

 

「一先ず礼を言う。そして聞かせて欲しい。夢想家が欲しているP.T.E.Bとは何なのだ?」

 

「気付いていると思ったのじゃが。…まぁ良い、教えてやろうかの」

 

走っていた事もあって乱れた髪を整えつつ咥えていた煙管から紫煙を吹かすダンタリオン。

そして彼女は錬金術士の問いへと答えた。

 

 

 

「プロトタイプ・エルダーブレイン。その頭文字を取ってP.T.E.B。それがあの者が欲しているものの正体じゃよ」

 

 

 




つまりどっかの宗教団体が協力してくれたお礼としてあげるのがP.T.E.B…つまりプロトタイプ・エルダーブレイン。
起動しているか鉄血ですら分からなかったというのに、知っていたダンタリオン…。彼女は一体何者なんだ?

そして追跡者ですが。彼女はギルヴァの持つ技(一部)模倣しています。エアトリックや次元斬は無理ですが、それ抜きでも強い感じです。基地一つ潰す位なら難なくやってのけるレベルで。
またルージュに関しては追々という感じで。

次回も錬金術士ら四人編でお送りいたします。もう一つ出さないといけないのがあるので。

では次回ノシ


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Act110 Old friends who have changed

―――追っ手は必ずしも人形とは限らない


「プロトタイプ・エルダーブレインだと…?」

 

ダンタリオンの口から告げられた言葉に錬金術士はありえないといった声を上げた。

彼女の隣で座っていた侵入者でさえ驚きの表情を見せており、その存在を知っている訳ではなかった。

最初は嘘だと二人は思った。しかしダンタリオンが現れ、その言葉の略称を口にした時夢想家の反応が違っていた点を踏まえると彼女の言っている事が嘘ではない事は明白であった。

 

「鉄血のお前さんらでも知らんとはのう。…まぁそれもその筈か。存在すら都市伝説並みに怪しかったのじゃからな」

 

「しかしそれは存在していた、か…。では何故我々の元を離れている?」

 

「さぁの。それはあやつすら知らんといっておったの」

 

先程のダンタリオンの口振りはまるで実際にプロトタイプ・エルダーブレインから聞いた様な口振りだった。

傍で聞いていた侵入者はそれに対し疑問に思い、ダンタリオンへと尋ねた。

 

「その口振りですと、目の前で会話した事がある様にも思えますが?」

 

「そうじゃよ。今は抜けておるが、かつては鉄血にそれを餌に交渉を吹っ掛けた宗教団体…"神の代行者"に属しておったからのう」

 

それを聞いた瞬間、ダンタリオンの顔面に銃口が突き付けられる。

銃口を突き付けたのは錬金術士。夢想家が言っていたどっかの宗教団体にかつて属していた女。それを知れば敵かも知れないと疑っても可笑しくない。

ダンタリオンもこうなる事は予測済みだった。しかし表情を一転していた。

笑みから真剣な面持ちへと一転しており、ジッと錬金術士の目を見つめている。

運転席でその行動を目撃したルージュ。咄嗟に急ブレーキを踏もうとした時だった。

 

「ルージュ、何もするでない。このまま走らせい」

 

それに気づいていたのかダンタリオンがルージュへとそう促した。

声には真剣味が帯びている事もあり、彼女は言われた様に何もせず運転に集中する。

車のエンジン音と道の上を走る音だけが車内を支配する。一触即発の状況の中、ダンタリオンは錬金術士へと話しかける。

 

「お主らがわしを警戒するのは当然じゃ。今信用しろとは言わん。だがの…これだけは言っておこう。わしの狙いはお前さんらと敵対する事ではない。あやつを鉄血の手に渡さぬ事、そして代行者共が信仰する神とやらを地獄に堕とす事が目的なのじゃ」

 

錬金術士の目にはダンタリオンが決して嘘を言っている様にも思えなかった。

それどころか彼女の瞳にはそれ相応の覚悟を宿している。

錬金術士にそう思わせるだけの凄味と覚悟がそこに存在していた。一瞬迷いはしたものの今は争うべきでないと考えを改め手にしていた銃を下ろすと、近くの座席へと腰掛けた。そこから何か問う事はしなかったので、彼女と交代する形で侵入者が問う。

 

「神の代行者と呼ばれる宗教団体がプロトタイプ・エルダーブレインを餌に鉄血に交渉を吹っ掛けたのは理解致しました。しかしその様な団体は初めて耳にしましたわ。この辺りでは活動していないのでしょうか」

 

「その事か。確かにこの辺りでは活動しとらんよ。その理由としては本拠地がここから相当離れてるからの。わざわざこんな遠い所まで布教目的で出向く事はあるまい。それにあそこは引きこもり体質での」

 

「引きこもり体質…ですか?」

 

「うむ。周囲には白く染められた大きな城塞よって街全体を囲んでおる。それはまるで外との関わりを絶つ様にの。その中央に存在する大聖堂は外からでも見える大きなでの。名も無き都市は何時しかこう呼ばれる様になった」

 

煙管の火皿から灰を落としつつ、再び新たな刻み煙草を火皿へと詰め込むダンタリオン。

火をつけ、ゆっくりと味わうと静かに紫煙を吐いた。

ゆらゆらとそれが昇っていく中、侵入者はダンタリオンの口からその場所の名が出てくるのを待った。

一服した時、彼女は静かに口を開き、その名を口にした。

 

「城塞都市 ホワイト・カテドラル。…プロトタイプ・エルダーブレインも今はそこにおるよ」

 

「ホワイト・カテドラル…」

 

繰り返す様に侵入者がその名を口にすると、突然車両が速度を上げルージュ以外の全員が態勢を崩した。

いち早く体勢を立て直したダンタリオンはルージュへ叫ぶ。

 

「ルージュ、何事じゃ!?」

 

「後方から敵の様です。どうやらあいつら、人形ではなく魔物を送ってきたそうです」

 

「魔物じゃと!?」

 

車窓を開き顔を出すダンタリオン。

そして後ろを振り向き、視線を空へと向けるとそこにはルージュの言った通り空飛ぶ魔物が追ってきていた。

既にダンタリオン達を捉えているのか、六翼から光弾を一斉発射。無数の光弾が車両の後方と上方からへと襲い掛かってくる。

 

「ルージュ!全部躱せいッ!!!」

 

「言われなくても分かっていますッ!!!」

 

巧みなハンドル操作で車両を右へ左へと動かしながら攻撃を回避していくルージュ。

何とか最初の攻撃は躱せたものの、油断はできない。

このままでは狙い撃たれる一方でどうにかこの状況を退ける必要がある。それを思ったルージュはダンタリオンへと提案する。

 

「ダンタリオン、運転をお願いします。私が奴を何とか退けます」

 

この状況が続けば後が厄介だという事はダンタリオンも理解している。

しかし彼女は運転が得意な方ではない。先程の攻撃を躱せるかと聞かれば自信はない。

だがやるしかない。駄々をこねている場合ではないのだから。

 

「やれやれ、年寄りに無茶をさせるもんじゃ」

 

「無茶は今まで何度も経験してきたでしょう?…大丈夫、貴女ならやれますよ」

 

「お主にそう言われると少しは安心できるの。…さて、運転代ろうか」

 

「はい…!」

 

運転をルージュと交代するダンタリオン。

アクセルをべた踏みし車両の速度を上げ、少しでも追ってくる魔物との距離を取ろうとする。

対するルージュは大鎌を手に後部ドアを開き、軽やかな動きで外へ飛び出すと車両の上へと飛び移った。

彼女が車両の上部へと行くと、車内では武器を構えた錬金術士と侵入者が荷台側ドアを開き、空飛ぶ魔物と対面する。

それを相対したにも関わらず二人に竦む様子はない。それどころか見慣れたのか笑みすら浮かべる程だ。

 

「喋る狼や猛禽類、あまつさえは空間を斬る剣士を目にしたせいか。あれを見ても大して驚かんな」

 

「剣士に関しては少し気になりますね。…そして私も同じ気持ちですわ。もう慣れたのか驚きませんね」

 

空飛ぶ魔物が攻撃を仕掛けようと動き出す。

それをさせまいと二人は魔物へ向けて銃撃を開始。そしてルージュも大鎌を構えるとその場から勢いよく飛び出し魔物へと攻撃を開始。

ルージュとて空を飛ぶような技を持ち合わせてはいない。一撃を与えては相手の体を足場にして元の位置に戻るといって戦法を取る他なかった。

 

「やりづらい相手ですが…何もしないよりかはマシでしょう!」

 

魔物の体目掛けて刀身に魔力が注がれた大鎌を振るい傷を負わせる。

痛覚はないのか、或いは鈍いのか鋭い一撃を受けたにも関わらず魔物に怯む様子はない。それに対し舌打ちしながらもルージュは続けざまに大鎌を振るう。

だが魔物とて何度も攻撃を貰う様な魔物ではない。大鎌による攻撃を躱す為に回避行動へと動き出し始める。それを察してルージュは魔物が距離を取る前に体を足場にして車内の上へと飛び移った。

彼女が戻った時には魔物は距離を取っており、そこから攻撃へ移行。

何処からともなく現れるピットの様なものが飛び出し、ルージュに目掛けて飛んで行く。

一方で魔物から放たれたピットを見て錬金術士は言葉を失った。

少し姿は変わっているが、形自体に変わりはない。そしてそのピットは自分達の仲間が使っている武装であると確信し、彼女は追っ手たる魔物へ向かって叫んだ。

 

「まさかお前…案山子(スケアクロウ)か?!」

 

その声に案山子と言われた魔物は反応する事はない。

無慈悲にも攻撃を仕掛ける一方で錬金術士は舌打ちをする。かつての仲間に銃撃を仕掛ける事を躊躇いそうになるが生き残る為だ。心の中で謝罪しながらも銃口を突き付ける。

侵入者の攻撃なら兎も角、錬金術士は持つ銃では距離をあり過ぎて届かない。流石に侵入者やルージュ任せでは良くないと思った矢先。運転中であるダンタリオンが錬金術士へと叫んだ。

 

「おい、眼帯!そこの木箱に良い物がある。一発かましたれいッ!!」

 

ダンタリオンの声に反応し、錬金術士は近くにあった木箱を開け、そこにあったものを手を伸ばす。

木箱の中に入っていた良い物とはバレットM82対物ライフル。

これならあの魔物に強烈な一撃を与えられる。その思いを胸に錬金術士は弾倉を差し込み、姿勢を整えつつスコープを覗く。移動している事もあって中々狙いが定まらない。

侵入者が錬金術士に攻撃を行かない様に銃撃を続け、ルージュがピットの対処。

隙を晒すを待ち続けた時、魔物の頭部当たる部分が晒された。それを見逃さなかった錬金術士は目つきを鋭くし、引き金に指をかけた。

彼女の中で時がゆっくりとなる。引き金を引く指が軽くなり、錬金術士は静かに呟く。

 

「許せよ、案山子」

 

発砲。銃口から大口径の弾丸が放たれる。

真っ直ぐと決して軌道がずれる事無く、弾丸は頭部目掛けて飛んで行く。

そしてその一発は魔物の頭部を穿った。中の体液を飛び散り、魔物は怯み地面へと墜落。それが隙となりダンタリオンが運転する車両はその場から離脱していき、何とか状況を切り抜ける。

切り抜けた事に安堵しルージュが車両へと戻る中、錬金術士は遠ざかっていくかつての仲間へと言葉を投げかける。

 

「…そのまま眠れ、案山子」

 

その言葉を傍で耳にしながら侵入者は何も言わなかった。

ただ遠ざかっていく魔物を見つめるだけ。

朝陽が昇り、そのまま車両はとある地区…L地区へと入っていくのだった。




変わり果てたかつての仲間。
そしてそれと敵対した錬金術士たち。

色々と飛ばし飛ばしですが、ご容赦を…。

それとこれは未定なのですが、うちに属している鉄血のハイエンドモデルたちに新たな名前を名付けようと考えています。もしかしたら「良い名前ない?」みたいな感じで活動報告にて聞くかも知れないです。
必ずしもとは言えないのでご容赦を。

では次回ノシ


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Act111 small event

―――最初は小さな出来事からだった…


ダンタリオン達によって悪夢の一端が明かされた事を知る筈もなく、S10地区前線基地は普段通りの業務をこなしていた。

ある部隊は後方支援に、ある部隊は哨戒任務へ、ある部隊は非番なので思い思いの一日を過ごす。

一方で便利屋「デビルメイクライ」ではUMP45が不満そうな表情を浮かべ、ギルヴァがいつも座っている椅子に腰掛けていた。任務から帰還し、9とG11がカフェへと向かって行くのを見届け何時ものように彼へと甘えようと足早に戻ってきたら、代理人の買い出しの付き添いでギルヴァも外へ出ていったとグリフォンとフードゥルと共に基地の方へ向かったノーネイムに知らされたのだ。

甘える時間が遠のいてしまった事により、45は先程から不満な表情を浮かべていたのだ。

 

「少しは落ち着いたらどうかしら。あの時みたいに一週間も帰ってこない訳じゃないのだから」

 

「むうぅ…」

 

頬を膨らませ頬杖を突く45。

咎める様に彼女に話しかけたのはソファーに腰掛け、本を読んでいた416だった。

出掛ける前に代理人が淹れてくれた紅茶を味わいつつ、器用に片手でページをめくる。

完璧と自称する416だが、決して訓練を怠る様な人形ではない。自主的に射撃訓練は行い、時間が空いた時には戦術指南者を手に取る事もあった。

しかしギルヴァが愛読している小説や詩集を読む事は殆どなかった。小説は彼の好みがある為か多少の偏りはあるが、詩集に関しては幅広く集めているようで息抜きの時には416は小説よりも詩集の方を好んで読む事が多い。

そして今も詩集を読んでおり、その姿を見ていた45はかつて416が呟いたある台詞を思い出しそれを口にした。

 

「欲望あれど動かむ者には災いあり…。ねぇ、いつになったら貴女動くのかしら?」

 

「…うぐ」

 

45は416がいつギルヴァと結ばれる為に動くのか期待して待っていた。

しかし日が経てど経てど彼女に動く様子はない。

だが416にもある理由があった。

 

「…彼が寝ている所に忍び込もうとはしたのだけど、急に恥ずかしくなって…」

 

「えぇ…」

 

強引にギルヴァのファーストキスを奪っておきながらそんな台詞が出てくるとは誰が思うだろうか。

流石の45もそれには予想にしておらず、困惑した声を上げた。

このままじゃ肝心な時にヘタれては一歩も進まない。

どうしたものかと45が頭を悩ませた時だった。店の裏口へと通ずるドアが開く音が店内に響いた。

 

「こ、こんにちは」

 

入ってきたのはAR小隊の小隊長 M4A1に…

 

「よっ、邪魔するよ」

 

M16A1。そしてもう一人。

 

「こんにちは。お邪魔しますね」

 

「ニャ」

 

ニャン丸を抱えた95式であった。それを見て珍しい組み合わせね~と素直に感想を述べる45。

一方で95式は兎も角、二人が訪れた瞬間416は機嫌を悪くした。しかしここは彼の店であり、身を置かせてもらっている以上は帰れとはすぐに言わなかった。

最も依頼をしに来た訳でないのであれば、店主たる彼に代わってとっとと帰れと伝える気でそれを気取られぬ様に416は読書を再開し45がここへと訪れた理由を尋ねる。

 

「95式は兎も角、二人はどうしたのかしら?暇になって遊びに来た訳じゃないでしょ?」

 

「ええ。…えっと、ギルヴァさんは…不在ですか?」

 

「ギルヴァ?彼なら代理人と一緒に買い出しへ向かったけど?彼に何か用かしら」

 

M4がギルヴァに用があると聞いた瞬間、45の言葉が何処か刺々しいものに移り変わっている事にM4もM16も気付いていた。M4がどう説明しようかと悩んだ時、M16がここに来た目的を明かす。

 

「妹が何度か世話になったって聞いてね。そのお礼を言いに来たのさ」

 

「なら貴女一人で来たらいいじゃない。わざわざ付き人を付ける必要なんてないでしょ?」

 

「まぁそれもそうなんだがな。生憎とここに来て短くてね。私より先にここに来たM4に案内を頼んだ訳さ。覚えておいては損はないだろう?」

 

M16の意見にも一理あった。

それに対し45も認めざるを得なかった。何処か険悪な雰囲気を感じさせるこの状況に困惑といった表情を浮かべる95式。取り敢えず周りの邪魔にならぬ様に彼女は店内端に置いてあった椅子に腰掛け、事態が収まる事を祈りながら見守る事に徹する。

因みに95式がここに訪れた理由はニャン丸と一緒に彼に会いに行こうといった理由で、まさかAR小隊の二人と行動するとは思ってもなかった。

出かけにいった彼が早く帰ってこないかなと願いつつ95式は甘えてくるニャン丸の相手をする。

慣れた手つきでニャン丸を撫でている際にふと彼女は思った。

 

(95式は兎も角って言っていたけど…あれ?私、あの人に好意抱いているの見抜かれてる…?)

 

それに気づいた瞬間、95式の顔が真っ赤になる。

どうして真っ赤になったのか分からず、ニャン丸は95式へと首を傾げながらにゃー?と鳴くのだった。

 

 

その頃、ギルヴァは代理人と共に町にあるカフェで一服していた。

既に購入するものは終えたのか食材やら必要なものが詰められた紙袋が椅子の上に二つ程置かれており、その隣で代理人は淹れたての紅茶の味を楽しんでいた。

対面に座るギルヴァは注文していた珈琲を既に飲み終えており、代理人が飲み終えるまで外の景色を見つめ沈黙を保っていた。

時刻は昼下がり時。この時間帯ならカフェにはそれなりの客がいるのだが、今日は客は少ないのか空いている席が多い。店内に流れるのんびりとした曲を耳にしながら彼は考えに沈んでいた。

議題はM16が撮影した映像に出てきた例の"赤い竜"についてで、どうしたものかと思っていた。そこに蒼がギルヴァへ話しかける。

 

―やっぱ気になるか?あの赤い竜が

 

(当たり前だろう。あの時以降、暴走した覚えがないのだからな。誰が、どうやって紛い物を作ったのか気にならん方がどうかしている)

 

―そこなんだよな。色は違うが、あの姿はかつて暴走し異形と化したお前にそっくりだ。…あんま考えたくないが、俺達が出会ったあの日…お前がぶっ殺したあいつらの中に奇跡的に"生き延びていた奴"がいたという可能性も否定できねぇ

 

(生き残りか…)

 

ギルヴァとて赤い竜を見たとはいえ暴走した時の記憶を全て思い出せてはいなかった。思い出せているのは妹の本当の最期と思われる一端と自身が魔に囚われ暴走した時の姿だけ。

かつて蒼が明かした様に暴走し、家族を奪った奴らの所へ襲撃し全員殺害した、と聞かされているがそれすらも覚えていなかった。覚えていないが故に蒼の推測も否定できるものではない。

肝心な時に何故覚えていないのかと自身を責めつつもそれを顔には出さないでいるギルヴァ。

ふとその時、ギルヴァの顔をまじまじと見つめていた代理人が話しかけた。

 

「何か悩み事ですか?難しい顔をしていますよ」

 

「…何故そう思う」

 

「明確な理由はありません。ただ共に過ごす事になって今日という日まで私は貴方を見てきた」

 

カップをソーサーの上へ置き自身の顎付近まで手を組む代理人。

ギルヴァの目をじっと見つめながら小首を傾げ彼女は微笑んだ。

 

「だからでしょうか。ギルヴァが何を考えているのか分かる様になってきたんですよ」

 

そこに裏などない。純粋な気持ちだけで形成された美しい笑みが存在していた。

彼女が人形だと知らずに、ましてや鉄血の人形だと知らずに今の笑みを見せられてしまえば、どんな男でも一発で心を射止められてしまうだろう。

それ程までに美しく、魅力的であった。現にその笑みにギルヴァはつい見とれており、それが代理人に気付かれそうになるとすぐさま顔を窓側へと逸らした。その行動にクスリと小さな笑みを上げる代理人。

自分らしくないと恥じ入りながらも外の光景と見つめていた時であった。ふとギルヴァは小さく声を漏らした。

 

「む…?」

 

「どうされましたか?」

 

その声を耳にした代理人が最後の一口を飲み干したティーカップをソーサーへと置きながら彼へと尋ねる。

それに対しギルヴァは顎で外へ指し示し代理人はその方向へと顔を向け、そこに映る光景を見つめた。

二人の視界に映ったのは髪は乱れ、服の所々破れているを気に留めず路地裏へと向かって行く一人の少女の姿だった。ウサギの耳の様な形をした黒いリボン。銀髪をポニーテール状にしてまとめ上げていた。

首にはチョーカーが付けられているが、どう見てもオシャレの為に物には見えない。ランプの様なものが取り付けられており、少々厚みがある。チョーカーというよりも首輪と言った方が正しいだろう。

少女は何処か恐怖に怯えており、何から逃げている様に見える。建物と建物の間にある路地裏奥へと消えていくと同時に追っ手なのか怒りを露わにし、体格のいい男が少女が入っていった路地裏へと入っていき奥へ消えていった。

 

「…何やら良からぬ感じがしますね」

 

「ああ」

 

二人は椅子から立ち上がり、料金を支払い買い物袋を手に取ると少女が消えていった路地裏へと向かった。

S10地区内の町の路地裏は妙に入り組んでいる。他の通りを目指して歩いたとしても行き止まりに当たる事の方が多い。ここに慣れていない者であれば確実に迷うだろうし、下手すればここに入っていった少女が行き止まりに当たってしまい、他の道を目指そうとした時にあの男に追い付かれる可能性もあった。

事情を知る訳ではないが、見て見ぬふりを決め込む気などギルヴァにも、代理人にもなかった。

少女を見つける為路地裏を歩いていくギルヴァと代理人。そしてギルヴァは少女とあの男の正体を気付いていた。

 

(人形に悪魔とはな…)

 

悪魔が何故人形を追っているのかは知りもしない。

だが悪魔はこの世に居てはならぬ存在。早々に地獄へ葬る必要があった。

今回愛刀「無銘」は持ってきていない彼だが低級悪魔程度なら遠距離攻撃で用いる幻影刀で始末できるので問題ない。

今は出来るだけ早く少女…人形を救い出す必要があるという事だけは明白であった。

人形と悪魔の気配を辿りつつギルヴァが先導し、その後をついて行く代理人。

そして十字路に差し掛かった時であった。

 

「来ないでッ!」

 

恐怖を織り交ぜた人形の声が路地裏内に反響した。

その一瞬で人形がどこに居るのか察知したギルヴァは勢いよく走り出した。彼が走り出した事により続く様に代理人も走り出しその後を追う。

二つ目の十字路に差し掛かると迷う事無く右へ曲がる。その先は行き止まりで追い詰められた人形がじわじわと歩み寄ってくる男に対し怯えた表情を浮かべながら一歩、また一歩と後退りしている光景が二人の目に映った。

 

「ゴミ人形が散々逃げ回りやがってッ!!てめぇが逃げたせいで客との商談が破談したんぞ!!覚悟は出来てんだろうなぁ!あぁ?!」

 

興奮しているのか、ギルヴァ達に気付く様子はなく男はズボンのポケットからあるものを取り出した。

手に握られているのは何かを起動する為のスイッチらしきもの。

アンテナを立たせ、近くのレバーを男が上げた瞬間少女の首のチョーカーのランプが発光し赤く点滅し始めた。

それが何を意味しているのかを理解したのか人形の表情が絶望へ切り替わった。

 

「い、嫌…やめて…」

 

「もう許さねぇ!てめぇの頭をふっ飛ばした後はあいつらだ!!良い体してるからな!使えなくなるまで相手してもらわねぇとなぁッ!」

 

どういう状況なのか二人は理解した。

男は拉致したのか人形を客に高値で売りさばく売人。そして人形は男の商品として売りさばかれる予定であったが隙を見て逃げてきた、と。

それが分かった時には既にギルヴァは男の方へ歩み始めていた。男の後方からギルヴァが歩み寄ってくるのを見た彼女は助けを乞う為に震える手を伸ばし、後ろから誰かが歩み寄って来ていると気付いたのか、男は勢いよく振り向くとギルヴァへと向かって怒号を上げる。

 

「何だ!てめぇ!見せもんじゃねぇぞ!さっさと失せやがれッ!」

 

「ほう?人に扮した悪魔でも三流じみた脅し文句が吐けるとはな。多少の知能は有している様だな」

 

「ッ!?」

 

まさか悪魔であると見抜かれているとは思わなかったのだろう。

驚きの表情を見せる男に対し、ギルヴァは流れる様に人に化けた悪魔へと挑発する。

 

「人に化ければ騙せると思ったか。貴様の様な悪魔の気配は分かりやすい。今度人に化けるのであれば気配の消し方でも覚えてくると良い。…最もそれが必要になるとは思えんがな」

 

「この…」

 

男の体が膨張し始める。

着ている服が次々と破れていき、段々と体格が変化していく。持っていた起爆スイッチはもうどうでも良いのか握り潰され次の瞬間、男の本来の姿が晒された。

剛腕に鋭い牙と爪、湾曲した角。紅い瞳が不気味に輝くと悪魔はギルヴァへ襲い掛かる。

 

「下等生物がァッ!!」

 

だが時に既に遅し。

悪魔がギルヴァへ襲い掛かった瞬間、周囲には複数の幻影刀が配置されていた。

伸ばした腕が届く前に展開された幻影刀が一斉に放たれ、その体を串刺しにする。その直後に何処からともなく髑髏の装飾が施された大剣が槍の如く飛来、刀身が後頭部にへと突き刺さり絶命した悪魔ごと連れてそのまま地面へと突き刺さった。

余りの事にし人形が言葉を失う中、大剣の持ち主たる男が建物の上からこの場へと降り立ち代理人が名を口にした。

 

「ブレイク、どうしてここに」

 

「やたら悪魔の臭いがするもんでね。食後の運動がてら出てきた感じさ」

 

何時も見せる余裕のある笑みを浮かべながら突き刺さったリベリオンを引き抜くブレイク。

刀身に付いた血を払い背へ納める傍らで、ギルヴァは呆然とする人形の傍へと歩み寄っていた。

姿勢を低くし目線を合わせつつ、彼は彼女へと話しかける。

 

「怪我はないか」

 

声を掛けられてやっと我を取り戻したのか、ハッとする人形。ゆっくりと首を動かしギルヴァの顔を見た瞬間、助かった事に安堵し、緊張の糸が解けたのかそのまま気を失ってしまった。

流石にここに置いておくわけには行かず、ギルヴァは彼女を背負い代理人と共に店ではなく、直接基地の方へ向かう事にした。悪魔が関わっている案件という事もあり、ブレイクもそれに同行する事になるのだった。

 

 

基地へと戻り、救出した人形を医務室のベットに寝かせた後ギルヴァ達はシーナへと事の顛末を話していた。

悪魔が関わっていると聞かされた時シーナの表情も険しくなるが彼女が目覚めるまで調査のしようもないので一旦保留という形となった。

報告を終えた後ブレイクはそのまま自分の店へと戻っていき、ギルヴァと代理人は店へと戻っていた。しかし店に入った瞬間、彼の表情が厳しくなり代理人に至っては啞然としていた。

二人の居ない内に、酒盛りが始まっていたのか店内には酒気が漂っており、酔いつぶれた416と未だに飲み続けているM16の姿。ギルヴァと代理人が帰ってきた事によってあたふたする45とM4A1に95式。

状況が掴めていないのか、店に戻ってきていたノーネイムらと9とG11は呆然とし、ギルヴァは指を額に当て一つため息を着くと静かに呟いた。

 

「…何があった」

 

その一言に状況が掴めていない者達全員が頷くのであった。




ここからS10地区前線基地&ギルヴァ達編へとお送りいたします。

さてそろそろ渡さなきゃねぇ…。ん?何をだって?それは次回に。

さて…気付けば今日はこの「Devils front line」を初めて投稿した日になるんですよね。
一年ってあっという間ですね、ほんとに。
投稿し始めた当初は「見てくれる人なんていねぇよな」とか「すぐにヘタレるかなぁ」とか思っていました。
けど見てくれる方々が居てくれたおかげで続いたもので今では話数も100話を超えました。正直ここまで続くとは私自身思いもしなかったです。

この作品を読んでいただいている方々に本当に感謝申し上げます。
今後とも「Devil front line」をよろしくお願いいたします。


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Act112 When returning the answer

―――その想いに今答えよう


「なるほど…」

 

店に戻った後、M4がM16を連れて店を出ていった後にこの状況になった経緯を45から聞いたギルヴァは納得しながらも小さくため息を吐いた。

まさかこの状況の発端が机に突っ伏し酔いつぶれている416にあるとは思わなかったからだ。

聞けばM4達はギルヴァに用があって店に訪れた。彼が出かけていると聞かされるとM4は一旦出直すつもりであったがM16が帰ってくるまでここにいると口にした。それを耳にした416が「帰って」と嫌悪感をむき出しにしてそう口にしたとか。

そんな命令権はないだろう?と反論しつつもM16は、どこから持ち出したのか愛飲しているウイスキーボトルを取り出しある案を提案した。

これなら確実に416に勝てる自信がある、とある提案を。

飲み比べで自分に勝てたなら帰ってやると言い出したのだ。

416は極端なまでに酒に対する耐性が低い。一杯飲んだだけで顔を真っ赤にし、べろんべろんになる程だ。

勝てる見込みなど無いのだが、あろう事か彼女はその挑戦を受けて立ち、ものの見事に一杯目でダウン。その数十分後にギルヴァと代理人が戻ってきてこの有り様という訳である。

 

「それでこの状況か。店主が居ない時に好き勝手やってくれたものだ」

 

「ごめんなさい…少し席を外して戻ってきた時にはもう…」

 

この状況になった事に罪悪感を抱いているのか、少し顔を俯かせながらもギルヴァへと謝罪する45。

ここは彼の店であり、身を置かせて貰っているのもギルヴァのおかげだ。それなのに仲間の一人が安っぽい挑発に乗って、このような状況を作り出してしまった。416にも非はあるが、それと止められなかった45にも非があった。

自責の念からどうしたら許してくれるのだろうか、何とかして彼に許しを得られる方法を、愛想つかれない方法を模索する45。幾度もなく模索を繰り返す中で次第に瞳は濁り始め胸の内ではこんな思いが宿っていた。

 

(捨てられたくない!捨てられたくない!捨てられたくない!捨てられたくない!捨てられたくない!捨てられたくない!捨てられたくない!捨てられたくない!捨てられたくない!捨てられたくない!捨てられたくない!捨てられたくない!捨てられたくない!捨てられたくない!捨てられたくない!捨てられたくない!捨てられたくない!捨てられたくない!ステラレタクナイ!ステラレタクナイ!ステラレタクナイ!ステラレタクナイ!ステラレタクナイ!ステラレタクナイ!ステラレタクナイ!ステラレタクナイ!ステラレタクナイ!ステラレタクナイ!)

 

まるで壊れたレコードプレーヤーみたいに同じ言葉を胸の中で繰り返していた。

得られた安息。得られた帰るべき場所。

得られなかった物が今ここにある。ここに来る前の暮らしに戻りたくもない。何よりもこんな自分を愛してくれているギルヴァに捨てられたくないという思いが大きかった。

方法を模索し続けるが中々良い案が思い付かない。このままでは捨てられると思ったのだろう。45はギルヴァの腕へとしがみついた。

 

「45?」

 

ギルヴァが名を呼ぶも45は反応しない。

体を震わせ、うわ言の様に小さい声で「ごめんなさい」を繰り返していた。

その姿を見てギルヴァはそっと彼女の頭へと手を置き撫でる。

怒る気などない。なってしまった以上は仕方なく責め立てるつもりもない。彼女を安心させようと気にするなと伝えるもそれでも45はギルヴァの腕を離そうとはしなかった。

どうしたものかと思い悩んだギルヴァであったが自身が怒っていない事を言葉にして伝える事にした。

 

「そう気に病む必要もあるまい。この程度で俺がお前たちを店から追い出すことなどせん」

 

「…本当に?嘘じゃないよね…?」

 

「嘘を言う理由がどこにある」

 

それを聞き安心したのか濁っていた45の瞳に光が宿る。

何時ものの様に笑みを浮かべ、愛情表現か彼の腕に強く抱きつき自身の体をわざと当てた。

もう離さないという気持ちを45がぶつけている中、ふと空いている左腕にも誰かがしがみついたのを感じ取りそちらへと顔を動かした。

 

「私の方も見てよ…」

 

そこに居たのは何時の間に起き上がったのか顔を真っ赤にしながらも甘えてくる416の姿。

体つきは416は良い方だ。故に彼の腕には彼女の胸がダイレクトに当たっていた。

そこにグリフォンが面白半分にギルヴァへと茶々を入れた。

 

「おうおう。随分大胆な事やってんなぁ。おまけにデケェ何かが思いっ切り当たってんぜ。こりゃ45のネェちゃんのむ…」

 

「グ~リ~フォ~ン♪ 調理の時間よ♪」

 

完全に復帰し、グリフォンが言おうとしていた事を察し45が満面な笑みを浮かべ、何処から持ち出したのか包丁を片手に迫り寄る。

やばいと感じ逃げ出そうと翼を羽ばたかせするグリフォン。だが逃げ出す前に45が素早く腕を伸ばしてグリフォンの首を掴んだ。

顔は笑っているが見開かれた目は完全に笑っていない。こればかりはグリフォンは生命の危機を感じられずにはいられず45の調理される前に説得を試みた。

 

「ちょい!ちょい!ネェちゃん、マジで?マジで料理する気?おれなんか食っても美味しくねぇぞ?そんなもんポイして落ち着こうぜ?な?な?」

 

「どんな風が良い?フライドチキン?それともローストチキン?好きなの選んで良いわよ♪」

 

「ガチじゃんか!?ちょちょっ!!タンマ!タンマ!うおッ!?あぶねッ!!ギルヴァ、嫁さん止めてくれッ!」

 

助けを乞う声を耳にしながらもギルヴァはそれを敢えて無視。

反省するんだなと伝え、416をどうしようと思いそちらへと向いた矢先彼は目を見開いた。先程まで腕に抱きついていた416の姿がそこになく、いつの間にか彼女はギルヴァの部屋の中へ入っており彼のベットの上で静かな寝息を立てて気持ちよく眠っていた。

416に寝床を奪われたのを見て再度小さいため息をつくギルヴァ。その隣では苦笑いを浮かべる9が立っており既に眠っているG11を背負っている姿を見れば、今から自室に戻る事が伺える。

 

「あはは…これはあのままにしておく方が良さそうだね」

 

「そうだな…」

 

あれだけ気持ちよく寝られては起こすのも忍びないというもの。

9に言われた通りギルヴァは416をそのままにしておく事にした。今日はソファーで寝るかと決めつつも自室へと戻っていく9達を見送る。

その他の面々も自室へと戻っていき、ギルヴァは一人残して店内は静まり返った。彼も自室へと戻り室内に置いてあるソファーへと向かって行こうした時であった。

突如として後ろから腕を引かれ、そのまま彼は何者かによってベットへと押し倒された。

視界に映るは酔いが抜けきっておらず顔を赤くした416の顔。両手はギルヴァの顔の横へと置かれており、どこか息を荒くしている。

 

「…イイコトしましょ…?」

 

この流れは以前にもあったなとギルヴァは思った。

この後どうなるか分かっている。何とかして阻止しなければ思った時、自室の扉が開いた。

室内に入ってきた者達を見てギルヴァは固まった。

そこに居たのは自室に戻った筈の45、代理人、95式だったからだ。何故彼女達が入ってきたのか意味が分からず混乱するギルヴァの中で蒼はゲラゲラと笑い始めた。

 

―アッハッハッハッ!!!こりゃとんでもねぇパーティーになりそうだな!!よそ者は退散だぜ!

 

(蒼、待て!)

 

その声が届く事は無く、蒼はギルヴァの中から抜け出す。

部屋を出る前の方へと振り向き、楽しめよ~と伝えると蒼は部屋を出ていった。

完全に追い込まれた中、ギルヴァは彼女達へと問いかけた。

 

「自室に戻った筈ではなかったのか…?」

 

どんな返答が返ってくるか分からない。

それどころか浮気現場を目撃された男のような気分にもなっている中、その問いに彼女達は答える。身に纏っている服を一枚ずつ脱ぎながら。

 

「最近ご無沙汰だったから…イイヨネ?」

 

「結婚したというのに積極的になってくれませんでしたから。ああ、ご安心ください。私がしっかりと気持ちよくさせてあげますので」

 

45と代理人の言い分にはある一定の理解を得たギルヴァであったが、95式までとは思ってなかった。

どうしてだと問う前に95式は顔を紅潮させながらも口を開く。

 

「この気持ちを貴方に知ってほしくて…。だからこうするしかなくて…!」

 

それ以上ギルヴァは何も言わなかった。

ただ娘たるノーネイムには母親が増えた事が増えた事を伝えなけらばならないと思った。

お互いに一糸纏わぬになった瞬間、部屋の明かりが消え、彼と彼女達は交わった。

元々この建物は防音工事が成されていた事が功を奏したのか、彼の部屋からベットが軋む音に混じって艶めいた声を押し殺し、嬌声が響いた事に気付く者はいなかった。

翌日、彼のベットで気持ちよく眠る416と95式がその首に誓約の証たるアミュレットハーツが下げられていた事に気付いたのは目覚めてすぐの事であった。




まぁそういう事さ。
だいぶ前にフラグ立ててるんだからこれ以上後回しにする訳には行かんからね。
喜べ、ノーネイム。母親が増えたぞ。


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Act113 Regression

―――かつての舞台は回帰する。


朝陽が昇り、外の光が店内に差し込む。

昨夜激しく彼女達と交わったギルヴァは、眠っている皆を起こさぬ様にベットで抜け出すと普段の服へと着替え書斎に腰掛けて本を読んでいた。

朝とは言え、時間は7時台。未だに眠っている者もいる為音楽をかける訳にも行かない。その代わりに言うべきか小鳥の囀りを耳にしながら本のページをめくっていく。

合間を縫って淹れたての珈琲を味わっている中、今し方戻ってきたのか蒼の声が彼の中で響く。

 

―よっ。おはようさん

 

(…今戻ってきたのか)

 

―流石におっぱじめてる所に戻る訳に行かねぇだろ?空気を読んだ事に感謝してほしいね。…それでどうだった?誰が一番激しかったよ?

 

(…黙秘を貫かせてもらう)

 

―ちえっ

 

そういった手合いの話には乗らないギルヴァに蒼は軽く舌打ちした。

本人は素知らぬふりをし読書に没頭。次のページを捲った時、身だしなみを整えたノーネイムが自室から出てきた。

 

「父よ、おはよう」

 

「ああ。…珈琲を淹れてある。好きに飲め」

 

「そうさせてもらう」

 

愛用しているマグカップを棚から取り出し珈琲を注ぐノーネイム。

ある程度注ぐくと彼女はソファーにへ腰掛け淹れたての珈琲を一口飲み始めた。基本的に起きるのが早いのはギルヴァ、次にノーネイムである。

この朝の時間にたまに会話をしたりするなど交流は図っている。そして今日も何時もの様にノーネイムは他愛のない会話を始めようとした時、ギルヴァが読書を中断し彼女の名を呼び、ある事を伝えた。

 

「…母親が二人増えたぞ」

 

さり気なく彼の口から告げられた事にノーネイムは少しばかり驚いた表情を浮かべた。

いきなりそんな事を言われたのだから無理もない。だがノーネイムも何時しか増えるだろうとは予感はしていた。

彼に好意を抱いている者達がいる事も知っていた。いずれ父たるギルヴァと相手がそういった関係になるという事になればその先がどうなるかも予想していた。

 

「そうか。…それはとても喜ばしい事だ」

 

前もって予感していたからこそ、彼女はそれをすんなりと受け入れた。

娘がすんなり受け入れた事にギルヴァは意外だなと感じた。だがそれを問おうとはしなかった。

読書を再開しようとした時、ノーネイムの口からとんでもない台詞が飛び出た。

 

「…私も娘ではなく、貴方の妻という立場になってみたいものね」

 

それを聞いた瞬間、ギルヴァは固まった。

そんな台詞が彼女の口が出てくるとは思わなかった。流石にそれは不味いとしか思えず、ギルヴァは恐る恐るノーネイムへと問おうした時、彼女はそっと微笑むと口を開いた。

 

「冗談だ。そう本気にしないでくれ、父よ。私は貴方の娘という立場が良い。それ以上を望む気など私にはない」

 

その割には本気に聞こえたのだが、とつい言いそうになるギルヴァ。

何とかそれを押さえて彼は読書を再開。部屋で眠っている者達が目覚める間、二人はこの朝の静けさを堪能する事にした。

 

 

時刻は昼前。全員が起床し改めて結婚を果たした416と95式をノーネイムに紹介したギルヴァ。

大きい娘が出来た事に416も95式も少々戸惑い気味であったが、ノーネイムに母さんと呼ばれその嬉しさもあってか抱きついていたのは言うまででもないだろう。

その後、ギルヴァと代理人はシーナに呼び出され、昨日助けた戦術人形が居る医務棟へと向かっていた。

病室前でシーナ、そして後方幕僚のマギーと合流を果たすと早速彼は呼び出された理由を尋ねる。

 

「呼ばれた理由を聞こうか」

 

「うん。昨日ギルヴァさん達が助けた人形がさっき目覚めてね。何があったのかを知る為に事情聴取に同席して欲しいの。助けてくれた人が居たら安心かなと思うし」

 

「成程。しかし代理人を同席させて大丈夫なのか?こちら側についたとは言え元鉄血。何も知らん相手が彼女を見れば混乱するぞ」

 

「その点には大丈夫。前もって先に説明しておいたから。多少の混乱は避けられないと思うけど、突然襲い掛かってくる事はないと思う」

 

事前に説明しているのであれば問題ないと判断したギルヴァは納得した表情を見せる。

彼に納得してもらったと見たシーナは病室のドアを軽くノックしてから開いた。先に入っていくシーナとマギーの後に続く様にギルヴァと代理人は室内へと足を踏み入れる。

病室のベットでは上半身だけ起こし、その赤い瞳で彼らを見つめる一人の戦術人形。対してシーナは彼女の傍へと歩み寄ると近くの椅子に腰掛けて話しかけた。

 

「気分はどう?Five-Seven」

 

Five-Sevenと呼ばれた人形は軽く腕を回して、大丈夫とアピールする。

しかし本調子ではないのか、何処か無理しているとシーナは感じていた。

 

「ぼちぼちと言ったところかな。それにしてもホントに鉄血のハイエンドモデルがいたのね…」

 

「びっくりした?」

 

「少しだけ。説明がなかったらもっと驚いているかも」

 

「そっか」

 

柔和な笑みを浮かべながらシーナは他のメンバーの紹介していく。

一人ずつ57と軽く交わし最後にギルヴァと挨拶を交わすと何かを思い出したかの様に彼女はギルヴァの顔をジッと見つめ、尋ねる。

 

「昨日助けてくれた人…よね?」

 

気を失う直後であった為か助けてくれた人物が完全に彼だという確証は57にはなかった。

それに対し尋ねられたギルヴァはそうだと頷き言葉を続けた。

 

「大事なくて安心した」

 

「貴方のおかげでね。このお礼はちゃんとさせてね?」

 

「完全に復帰した時に礼は受けよう。それまでは回復に努める事だな」

 

「優しいね…。ええ、完全に復帰したその時に、ね?」

 

ギルヴァに向かって可愛らしくかつ小悪魔っぽいウイングをする57。

それを離れてみていた代理人の中で57の印象が要注意人形へとランクが上がったのだが彼女が知る由もない。

挨拶を終えてシーナは57に何があったのか聞く。それを問われた時、彼女は浮かない表情を見せる。思い出したくないのか、或いは他の理由があるのかそれは本人にしか分からない。

しかしこのまま話さない事に抵抗を感じたのか、57は何があったのか明かし始めた。

 

「…何時だったかは覚えてないけど。鉄血に基地を襲撃され、皆と離れ離れになって彷徨っていたら誰かにいきなり動けなくなって頭から袋の様なのを被せられて…。その時に居た地点からどれ程移動したかは分からないけど、目覚めたら知らない部屋に閉じ込められていたわ」

 

「動きを制限…ドールジャマーの類かな?いつ、そこが人形売買組織だと気付いたの?」

 

「…目覚めてすぐね。誰かの声が響いて、泣き叫ぶ声が聞こえて、男の怒号が聞こえた。何事か思ったら同じ部屋にいた子が教えてくれた。さっきの子は売り飛ばされるってね。どれ程の間居たかは分からないけど、私も売り飛ばされる事になって。それが嫌で逃げ出した」

 

「そしてこの地区にまで逃げ延びた後にギルヴァさん達に助けられた訳か」

 

「ええ。…組織から逃げ出した後どれ程移動したかは覚えてないわ。逃げるので精一杯で、気付いたらS10地区だったから」

 

覚えているのはこれぐらいと締めくくる57。

話を聞いた後真剣な表情を浮かべながらシーナはマギーの方へと視線を飛ばす。何を意味しているのか理解したのかマギーは頷き、病室を出ていく。出ていくその背を見つめる代理人と病室の壁に背を預けるギルヴァ。

57の話を聞いていた二人もその行動の意味を理解していた。

流石に地区と地区の間を57が跨いだとは思えず、あの時助けた時も追っ手は一人。その事から人形売買組織はこのS10地区の近辺で行動していると察していた。

それを察していたからこそシーナは妙な活動している者達や最近になって頭角を現した組織を調べてもらう為にマギーに指示したのだと。ひいては基地の人形やこの地区で過ごしている民生用の人形達に被害が及ばぬ様に…。

見かけによらず随分と成長を果たしているとギルヴァも代理人も感心した。

このままお開きになると思った矢先、57はある事をシーナへと尋ねる。それはいずれ聞かれてもおかしくない問いであった。

 

「追っ手の男が得体の知れない化け物になったのをこの目で見たの…。あれはどういう事なの?」

 

「それは…」

 

どう説明したものかとシーナは言葉に詰まった。

それを見かねたギルヴァが彼女に代わって57の問いに答えた。

 

「お前が見たのは悪魔と呼ばれるこの世にて人知れず存在する種族だ」

 

「悪魔って…。ねぇ、馬鹿にしてる?」

 

「そう思うのは勝手だが、こちらは嘘は言っていない。男が本当の姿を晒した瞬間を見たのなら、あれが"悪魔"と信じる証拠にもなると思うが?」

 

その事を指摘され57は押し黙った。

反論のしようもなく、追っ手だった男が人間ではなく"悪魔"だと信じるほかなかったからだ。

それ以上57から問いが飛んでくる事がなく、一同は解散。

 

この後にマギーの調べによって人形売買組織の在り方が明らかとなる。

奇しくも人形売買組織が拠点としていたのは、かつてグリフィンの指揮官でありながら人権保護団体過激派と繋がりがあった悪魔が拠点としていた所であった。

そしてこれまた奇しくも言うべきか。S10地区に"彼女達"も集結しようとは誰も知る由もなかった。




次回は人形売買組織(悪魔の巣靴)との戦いか、その前日譚か。或いは別のなにかを書いて行こうかと。


感想(作者はメンタル豆腐の模様)または高評価をお待ちしております。
では次回ノシ


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Act114 Give sanctions Ⅰ

――――苦痛、恐怖、死を知る者。それは怨念となって生者を襲う

――――狩人よ。命を弄ぶ悪魔に制裁を与えよ


この時期にしては少し風は冷たく、夕暮れ時にしては空は薄っすらとどんよりでその色は闇へと染まっていく。

流れる雲は何処か灰色に染まりながらも風に流され、空を漂う。

かつての舞台となり、今やその面影を失くした地。

その先に新しく佇む建物。そびえ立つ建物からは負の感情の様なものが放たれ、おどろおどろしい。周囲の雰囲気がそれをさらに助長させていた。

そんな人形売買組織が拠点としている基地が遠くに見える中使われなくなった飛行場を仮司令塔とし忙しく動き回る者達がいた。

飛行場周囲に停められたいくつかの装甲車と滑走路全体を占領するかのように鎮座する白き機動兵器の側面に貼られたデカールに記された『S10FLB』の言葉。

そう。ここに集まり過剰とも言える戦力を投入し作戦に備えている者達は全員『S10地区前線基地』に属する人形達である。

一人は銃に弾倉を差し込み、一人は仲間と入念な打ち合わせ、一人は既に準備を終えたのかただ静かにその時が来るまで待機。決して賑やかな雰囲気ではない。寧ろ物々しい雰囲気と言える中、便利屋「デビルメイクライ」を経営し、その身に悪魔の血を流しながらも悪魔を狩るハンターである黒いコートの男…ギルヴァは愛刀「無銘」を杖の様に立て向こうを見つめていた。

今は姿なく、かつては存在していた人権保護団体過激派の基地での共闘作戦の事を思い返していた。

 

「懐かしい?」

 

向こうを見つめるギルヴァの後ろから声を掛け歩み寄る人形が一人。

サイドテール、金色の瞳、左目に残された傷、己と同じ名を冠した銃を手にUMP45が彼の隣に立つ。

姿を見ずとも声で判別していたのかギルヴァは隣に立った彼女の方を向く事は無く、先程の問いに返答する。

 

「ああ。もう遠い話な気もするがな」

 

「そう?私からすれば昨日の出来事の様に鮮明に覚えてるけど」

 

UMP45にとってはあの時の作戦は悪魔達に苦戦を強いられた事もありあまり思い出したくない作戦でもあった。

しかし良い事はあっけなく忘れてしまい、嫌な事だけがはっきりと覚えてしまうのは人間にもあれば人形にもある事。

彼女はあの時の作戦での出来事をはっきりと覚えていた。その時の記憶だけ抹消する方法がない訳ではない。それは現実逃避でしかないと思っているのかそれをせずにいた。

事実苦戦を強いられたからこそ、学んだ事も決して無い訳ではなかったのだから。

 

「そしてハンター一家やあの女社長が悪魔に関わったのもこの時だったか」

 

「そう言えばそうだったよね~。あの人達、今どうしてるのかしら」

 

話は切り替わり、かつての作戦に参加してくれた彼、彼女達の事をギルヴァは思い出していた。

グリフィンの援軍はなく、依頼を受けてやってきたのはハンター一家とある会社を経営する女社長。しかしこの者達の助力が無ければあの時の戦いは長引いていただろう。

s11地区での戦いで両者と共闘し、そして片方は本社制圧作戦以降今やどうしているかはそれを知る手立てはない。そう簡単にやられる者達ではないと確信している為かギルヴァは連絡を取るという事はしないと決めていた。この世界は広い様で狭い。また何処かで顔を合わす事もあるだろうと思いながら。

 

 

 

違法組織に対する作戦開始時間が刻々と迫る中、一足早くギルヴァ、ブレイク、処刑人の三人は基地へと歩いて向かっていた。代理人によるニーゼル・レーゲン レールガン形態の砲撃の後、ノーネイムが駆けるリヴァイアサンに装備されたミサイルで飽和攻撃。後に三人が内部へ突撃し、群がる悪魔どもを始末する。三人が内部で悪魔どもを殲滅している内にS10地区前線基地の部隊が基地内部へと突撃し、敵を撃破しながら囚われている人形を解放、および保護といった流れで行う形となっていた。

少しでも相手に攻撃させる隙を与えない為にも基地へと向かっていく最中、ブレイクは急に顔をしかめた。

 

「嫌な臭いがプンプンするぜ。ごみ溜めみたいな臭いだ」

 

「分かるぜ…。右腕がこれになったからか嗅覚が変に鋭くなってな…。ひっでぇ臭いだ」

 

ブレイクの言葉に同意を示す処刑人もまた顔を顰めていた。

その中でギルヴァは酷い臭いだと理解しつつもそれを顔に出す事はせず歩みを進めていく。

基地近くまで歩み寄った時、基地正面外部に広がった光景に処刑人は言葉を失った。ギルヴァとブレイクはその光景を見て険しい表情を浮かべ、そして遠くから砲撃態勢に移行していた代理人が通信越しに言葉を漏らす。

 

『悪趣味な…』

 

どうやったのか無数に張り巡らされたワイヤーの様なもの。

そこにつり下がっているのは、人型の鉄の檻。そこで囚われていた内部骨格らしきもの。それが十は超えるだろうか。無数に吊り下げられており、ゆらゆらと揺れていた。

これが人形売買組織の仕業かどうかは分からない。しかし骨格に付着している血液らしきものを見てそれがかつては人形のものだと思える以上、誰の仕業か簡単に判別できる。

中にはS10地区前線基地所属する人形と同じ人形だと思われるのがつり下がっているのだから、尚更余計に理解が進んでしまう。

まるで自分達に逆らった人形達の末路だと言わんばかりに広がる公開処刑場。いかに今回の潰す人形売買組織が凶悪であるかを示唆していた。

動く気配がないのか、ギルヴァ達が基地近くまで歩み寄ったとしてもつり下げられたそれらに動き気配ない。このまま作戦開始時間まで待機する三人の無線に仮司令塔たる飛行場からシーナの声が飛ぶ。

 

『作戦開始まで30秒前。砲撃用意』

 

指示を受け代理人はニーゼル・レーゲンをレールガン形態へ変形させると広場中央へと狙い定める。

このまま撃てば吊り下がっている遺体達も爆発に巻き込まれるのだが、だからといって代理人は狼狽えない。さめてこの一撃で安らかに眠れる様に祈りながらレールガンを最大出力までもっていく。

余剰エネルギーによる羽は大きく広がり、鮮やかに輝く光。生み出されるエネルギーによって紫電が周囲に放たれていきながらも代理人の狙いに狂いはない。

上空をノーネイムが乗るリヴァイアサンを駆け抜け、いつでも飽和攻撃が出来る状態を維持しつつ旋回する中代理人はシーナからの指示を待った。そして通信越しに彼女の声が轟く。

 

『狼煙を上げてッ!!』

 

「…安らかに眠りなさい」

 

骸と化した彼女達へと詫びる様に呟く代理人。轟いた声と同等の砲撃音が静寂たるこの地帯に大きく響き渡った。

砲口から放たれた閃光が決して軌道を歪ませる事無くただ真っ直ぐ突き進んでいく。

着弾まで数秒も掛からない。水色に輝く閃光は基地前広場に着弾し、大きな爆発をあげた。

周囲に響き渡る破砕音と爆発音。そこに加わる様に上空からミサイルのシャワーが降り注ぐ。悪魔達をあぶり出す様に爆発音が連鎖し、それに合わせてギルヴァ達は動き出す。飽和攻撃が収まり広場へと足を踏み入れた時であった。

その場で起きた事に処刑人は怒りを露わにした。

 

「こんの…クソ外道どもがッ!!!」

 

その声はこの作戦に参加している面々の無線に響いた。

当然と言うべきか、シーナの耳にも届いており突然の事に彼女は処刑人へと叫ぶ。

 

「処刑人!?どうしたの、何があったの!?」

 

それは現場でしか分からぬ事。

砲撃、飽和攻撃の後に人形売買組織が繰り出した対抗手段にギルヴァもブレイクは険しい表情を浮かべる。

ガシャンガシャンとまるで鎧が歩く様に音が幾度ともなく連鎖し、彼らを敵対者として認定しているのかその歩く速度は足早である。

それは生への執着か、或いは自身が味わった苦痛を、恐怖を、死を無差別かつ無慈悲に味合わせるべく動き出したのか。かつて銃を握っていたという記憶は忘れ去れる事なく、肉を失い骨だけと化しながらも人の形を模った鉄の檻に捉えられたそれはギルヴァ達へとかつて己と同じ名を冠した銃の銃口を向ける。

既に亡き命。だというのに命を弄ぶかの様な悪魔の様な行いに処刑人は言葉を荒げる。

 

「何が人形売買組織だ!!人形だったら何でも良いのかよッ!!」

 

背に背負ったクイーンを抜き、怒りの表情を浮かべる処刑人。

怒りに呼応するかの様に右手のデビルブリンガーは輝きを放った。

まるで命を弄ぶ外道どもに制裁を下せと言わんばかりに。




動き出した鉄の檻に関してはDMC2に登場する敵、アゴノフィニス、テレオフィニス、モルトフィニスを参考しています。
原作では刑死者の怨念に操られて生者へと襲う感じですが、こちらも同じように犠牲となった人形の怨念に操られて生者へと襲う感じになっています。

今回ではかつての作戦でコラボしていただいた所の名をわざと濁して出しましたが…怒られたら修正いたします。

さてここからは人形売買組織襲撃作戦編をお送りいたします。
色んな悪魔も出てくるよ!…多分
そしてここからは処刑人に新たな力が加わります。デビルブリンガー持ってんなら、あの引き金も覚えないといけねぇよなぁ?

では次回ノシ


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Act115 Give sanctions Ⅱ

―槍を振い、隻眼でありながら知識と憎悪を宿す。

―その者は災いをもたらす者である。


「代理人…一体何が起きているのか、教えて」

 

処刑人の怒号は通信機器を付けている全員の耳に行き届いており、先に基地へと突入していったギルヴァ達の前で何が起きているのか誰も想像が付かなかった。

現場の三人以外で状況が分かるのは高台にいる代理人と判断したのか、シーナは彼女に何が起きているのか知らせるように伝えた。

今目の前には余りにも惨いとも言える光景が広がっている。その事をありのまま伝える事に高台でその光景を目にしている代理人はシーナからの通信を聞いた時躊躇った。

しかしわざと内容を濁して言った所で、ギルヴァ達の後に基地へと突撃する突撃部隊には知られる事。向かってきている敵の正体に気付いた時、撃つ事を躊躇い、逆に撃たれて破壊されたという事態は避けなければならない。

一つ息を吐き、険しい表情で彼女は通信機のマイクへと喋りかけた。

 

「…現在基地正面広場にて悪魔と思われる敵が出現。人型の檻が自立して動き出したと思われます。ただ…」

 

『ただ…?』

 

「動き出した人型の鉄の檻に囚われているには…肉がそぎ落とされ、内部骨格だけとなった…かつての人形達と思われます」

 

『…え?』

 

残酷極まりない事実を突き付けられたシーナは言葉を失った。

先程響いた処刑人の怒号はその事に対する怒りだと察すると己の中で並みならぬ怒りが沸き立つ。そんな惨い事を平然とやってのけた奴らを彼女達にやったように、同じ事をやってやらないと気が済まない程に。

しかし怒りに飲まれてはならない。それは視野を狭くし、命令にも乱れが出る。今にも動き出しそうな体を押さえつけ、強引にでもシーナは冷静をなろうとする。

代理人から聞いた事実を突撃部隊の彼女達に伝えなくてはならない。でなくては、撃てずにこちらが壊される事になるのだから。

 

「皆…よく聞いて。代理人からの情報で敵基地正面広場で悪魔と思われる敵が出現したみたいなの。人型で鉄の檻の姿をした悪魔がね。ただ…」

 

『指揮官?』

 

その声に返答したのは第二部隊のスプリングフィールド。

通信越しだと言うのに彼女はその雰囲気がいつもと違う事に気付いていた。

何があったのかと問われる前にシーナは淡々と残酷過ぎる現実を告げた。

 

「その中に囚われているのは肉はそぎ落とされ、内部骨格だけとなった人形達なの」

 

彼女の口から告げられたそれに通信越しではどよめきの声が響く。

このまま事実を伝えず、相手が人形の真似事をしている悪魔だと伝えれば良かったかも知れない。だが部隊の中には勘のいい人形もいる。

それに気付いたからといって狼狽える彼女達ではないのかも知れない。それでも伝える必要がある。

いざという時に撃てなくなる事が起きない様にするためにも。

 

「…良い?会敵しても躊躇ったら駄目。迷わず撃って。…もう彼女達は戻れないから」

 

もう助ける事は出来ない。だから撃て。

いずれこんな命令をしなくてはならない時が来る。覚悟をしていた事だと言うのに胸の内が張り避けそうな痛みをシーナは感じられずにはいられなかった。

 

「だからお願い…!犠牲になった彼女達を、もう一度眠らせてあげて…!」

 

 

 

 

「おらぁッ!!」

 

全身を駆使して、クイーンの刀身を右から左へと薙ぎ払い重たい一撃を変わり果てた彼女達…ドールフィニス達へとぶつける処刑人。始まって間もないというのに彼女の周りには骨格を形成するフレームや金属パーツ、そして犠牲となった彼女達の持ち物である銃が無数に地面に散乱していた。

倒すと人型の鉄の檻は勝手に消えるというのに彼女達の銃やパーツは残される。倒せば倒すほどその数は多くなる。

卑劣な行為を良しとしない処刑人にはそれが返って火に油を注ぐ事となっていた。

基地からの攻撃はなく、戦っているギルヴァやブレイク、処刑人の三人を嘲笑っているかのようだ。

 

「死体を弄んでおきながら、自分達は高見の見物ってか?クソ悪魔どもが」

 

「落ち着けよ。煽りに乗っちまうと向こうの思う壺だぜ?」

 

愛銃であるフォルテ&アレグロを連射し、周囲のドールフィニスを仕留めていくブレイクが処刑人に落ち着く様に諭した。余裕のある笑みは変わらないが、それは顔だけであり目は真剣そのものであった。

ブレイクも人形売買組織の行いを許すつもりなどなかった。当然その胸の内は憤怒で満ちている。

できるだけ早く基地へと突撃する必要があるがこうも囲まれてはそれすらも叶わない。

迫りくるドールフィニス達。愛銃を収めブレイクは背負っていたリベリオンの柄へと手を伸ばした矢先であった。

 

「躊躇うな!全員撃てッ!」

 

どこからか響く無数の銃声。

飛来する弾丸の嵐が群がるドールフィニス達を瞬く間に倒していった。

伸ばしていた手を下げ、銃声がした方を見るブレイク。

そこにいたのはS10地区前線基地の突撃部隊。銃を構えるその表情は既に覚悟を決めている様子であった。

防衛線が展開され、ドールフィニス達へと迷う事無く銃撃を開始。

ギルヴァ達が先に数を減らしていた為、この場にいるドールフィニスの数はそう多くない。

この数ならS10地区前線基地の部隊だけでも対処出来る。第一部隊の小隊長 FALが叫んだ。

 

「ギルヴァ!ブレイク!処刑人!あなたたちは基地へと突撃して!ここは受け持つ!」

 

「んじゃ、任せるぜ。無茶すんなよ!」

 

FALの声に返答したのはブレイク。

ヴァーン・ズィニヒを取り出し跨るとグリップを捻った。

やる気満々だとバイクのエンジン音が響き渡り、マフラーから火を噴き出すと勢いよくブレイクを乗せたヴァーン・ズィニヒは飛び出した。巧みな運転で進行を阻止しようとするドールフィニス達を躱していき、そのまま正面入口ドアへ猛スピードで向かって行く。

階段を駆け上がり、そのまま宙へ投じるとバイクの重量と飛びあがった勢いを利用して、塞がる正面入口ドアを破壊するブレイク。我先に基地の中へと消えていくのだった。

 

「便利なもん持ってるよな、あいつ…」

 

「喧しいがな」

 

羨ましそうに呟く処刑人に飽きれた様に返答するギルヴァ。

先に向かっていったブレイクに遅れて二人は基地内部へと足を踏み入れた。

二人よりも早く突撃したブレイクはそこに居なかった。何処から銃声が響いているので既に悪魔の討伐に動き出しているのだと思ったギルヴァは左側の廊下へ向かって歩き出し始めた。

 

「おい。どこに行くんだよ」

 

「ここからは別々に動く方が効率がいい。お前も好きにやれ」

 

処刑人の問いにそう返答するとギルヴァはそのまま奥へと消えていった。

消えていく背を見つめた後に処刑人もギルヴァが向かって行った道とは正反対の道へと向かって歩き出した。

 

「…確かに別々の方が気楽か」

 

静かに呟きながら、彼女は奥へと歩みを進めていく。

一歩ずつ進んでいく度に靴底が床に当たる音が響き、いつ、何処で悪魔が現れても対処出来る様に警戒。内部でも既に戦闘が始まっており、悪魔の叫ぶ声や銃声が何処からか響いていた。

しかし処刑人の方には一向に悪魔が出てくる様子がない。誘われていると思った彼女はわざと声を響かせ挑発する。

 

「おい、誘ってんのか?出てこいよ、クソ悪魔」

 

それでも悪魔が出てくる様子はない。

舌打ちしながらも処刑人は歩みを止めない。真っ直ぐと続く廊下を抜け、ある場所へと出る。

石を掘り作られた石像なのだが姿は何とも不気味で、それが列を成して並んでいた。禍々しいというよりおどろおどろしい。誰しもが長居したいとは到底思えない…そんな場所に彼女は到達していた。

 

「気味が悪いったらありゃしねぇな。何の為にこんなもん作ったんだか」

 

一つ細かく石像を調べる処刑人。

並んでいる石像はどれも同じ顔、姿をしており、何の為に作られたのか分かる訳がなかった。

一つだけ破壊してみようと考え、背負っているクイーンの柄へと手を伸ばした時、処刑人の目にあるものが映る。

並んでいた石像によって隠れていたのだろう。部屋の奥に祭壇が一つ。

何の変哲もない祭壇であるが、その上には装飾が施された杯が置かれてあった。

気になり近くまで歩み寄る処刑人。置かれていた杯を手に取った瞬間、突如として轟音が響き始めた。

何かの仕掛けが作動した様な音。その証拠として祭壇がゆっくりと奥へ動き出し始めていた。

突然の事に驚きながらも自身に害を及ぼすものでないと感じた処刑人は仕掛けが完全に止まるまで待った。

そして数十秒後には、先程まで祭壇があった場所には地下へと通ずる道が開かれていた。

 

「ご大層な仕掛けを用意してたもんだ。んじゃ行くか…ん?」

 

地下へ向かおうとした時、右腕のデビルブリンガーが妙な反応を示している事に処刑人は気付く。

右腕が反応を示す程となれば、この先に何かあると判断できる。

何時も以上に気を引き締めて、彼女は地下…地下遺跡へと足を踏み入れた。

 

 

明らかに人の手によって作られたとされる地下遺跡は妙に明るかった。

どういう原理なのか、淡く発光する石材によって灯りが灯されており何処でこの様な物を得たのか気になっても可笑しくない。

ここが何の為に作られた場所なのかは訪れた処刑人に分かる筈もなく、彼女は奥へとどんどん突き進んでいった。

道は真っ直ぐと続いており、何処かで曲がる様な道もない。只々真っ直ぐと続いているのみ。

戻る事は出来るが、デビルブリンガーの反応も気になった処刑人はそのまま進んでいった。そしてやけに広い場所に出た時、彼女は表情を険しくした。

 

(こいつ…普通じゃねぇ…)

 

そこに居たのは一体の悪魔。

骸骨姿。身に纏うは黒き炎。身の丈以上はあるであろう槍を手にし、その悪魔は処刑人を静かに睨んだ。

対する処刑人はその睨みに臆する事は無く険しい表情から一転、獰猛な笑みを浮かべる程であった。

ブレイクの真似をするように彼女は挑発を仕掛ける。

 

「堂々としてんだな。訂正するよ、クソ悪魔の中じゃそれなりにマシな方だってな」

 

「…」

 

「無視ってか。…それともおしゃべりは嫌いか?」

 

クイーンの柄へと手を伸ばし抜刀すると剣先を地面へと突き刺しグリップを捻る。

推進剤噴射機構が鳴り響き、マフラーから微量の噴射剤が吹き出すと処刑人は言葉を続けた。

 

「そりゃ気が合うね」

 

それを合図に処刑人と相対している悪魔も槍を構える。

かくして火蓋は切って落とされ、処刑人は立ち向かう。

魔界の戦士 ボルヴェルクに。




こっから色々とごっちゃするんでご容赦ください。
あと遅くなって申し訳ありません。コードヴェインが二週目に入ったもんで、ついね。


さて処刑人と相対した悪魔「ボルヴェルク」ですが、DMC2に登場します。
原作では二体の狼型悪魔を引きつれているのですが、こちらでは引きつれていない設定で行きます。
さて…魔界の戦士たる悪魔に処刑人はどう立ち向かうのか…。

では次回ノシ


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Act116 Give sanctions Ⅲ

──守る為、これ以上失わない為、彼女は欲する──

──更なる力を──


刃と刃がぶつかり合う。

大型でありながらも巧みに槍を操るボルヴェルク。全身を駆使し、クイーンを振い力強い一撃を放つ処刑人。

両者の間では目まぐるしい程までの速さで剣戟の嵐が巻き起こっていた。

一見すれば互角の様にも見えるが、処刑人の表情を険しかった。

 

(こいつとんでもない位つえぇ…!さっきから少しずつ押されてる…!)

 

流石は魔界の戦士というべきか。

ボルヴェルクはパワーだけならギルヴァやブレイクの上を行く処刑人を圧倒していた。

反撃しようにも繰り出される強烈な技の数々に処刑人は防戦一方を強いられていた。

距離を取ろうにも不用意に動けばそこを突かれて、下手すれば死を招く恐れもある。

どうにか距離を取る為に処刑人は動き出した。

 

「!」

 

大きく薙ぎ払われる槍。

大振りだった為、穂先が到達するまで若干の時間がある。攻撃が到達する直前にバックステップで回避する処刑人。そこから体を捻りつつ、クイーンを抜き放ちながら勢いよく踏み込み、ボルヴェルクに接近。

推進剤噴射機構は一段階だけ解放してある。勢いよく刀身を振いつつ持ち手付近のレバーを引き、推進剤を噴射。

マフラーから噴き出す推進剤が炎を纏う。処刑人の力と相まってボルヴェルクに迫る刃は恐ろしいまでの速さを得る。

 

「ぜぇりゃあああぁッ!!!」

 

雄叫びと共に刀身はボルヴェルクの胴体を右斜めしたから左斜め上へと一閃。

そのまま二撃目を繰り出そうと上半身と腕を大きく回転させ、クイーンを振るう。推進剤に速度に回転も合わさった攻撃はさらに早くなる。寸での所でボルヴェルクは槍を前方に展開し処刑人の攻撃は防がれる。だが繰り出された攻撃は処刑人よりも一回り大きいボルヴェルクを容易く吹き飛ばし、壁へと叩きつけた。

勢いよく叩きつけられた為、土埃が舞い上がりボルヴェルクの姿を隠す。

二度目の攻撃は防がれたものの一度目の攻撃に確実な手ごたえを感じた処刑人。体勢を立て直し息を整えると動きが止まっているボルヴェルクへ駆け出した。

休ませる気などない。

距離を詰め、勢いよく飛び込みクイーンを振り下ろそうとした瞬間であった。

土煙の中から飛び出した鋭い何か。

先程の槍ではない。飛んできたのはまるで光る刀身の様なもの。

 

「!」

 

不味いと感じた処刑人は素早くクイーンの刀身で攻撃を受け止める。

だが宙に飛んでいた為か勢いまでは殺せず吹き飛ばされ背中から地面に叩きつけられる。

一回、二回、三回と転がり、慣性が失われると処刑人はゆっくりと立ち上がり、歩んでくるボルヴェルクを睨む。纏っている黒い炎はさらに燃え盛り、手にしている槍の穂先には光る刃が発生している。

 

「ォォォォォ…!」

 

まるでその声は怒りを露わにしている様であった。

本格的に本気になったと悟る処刑人だが、その目はまだ死んでいなかった。

強力な悪魔だという事は分かっている。だがそれがどうした?

こいつは悪魔であり、戦友を奪った悪魔と変わらない。それに今こいつを自身の手で仕留めなければ、守れるものも守れなくなる。その思いが彼女を奮い立たせる。

痛みはあるが、気にする程度ではない。クイーンを構え果敢に彼女はボルヴェルクに突進。

槍のリーチは長くなっており、自由自在にその長さを変えられる光刃に触れればデビルブリンガーを持つ処刑人でも一瞬で切り裂かれるであろう。そこにボルヴェルク自身が持つ技と速さが組み合わさる為、接近するだけでも危険であった。

 

「ぐっ…!」

 

自身が持つ技を、力を総動員させ、ボルヴェルクへと攻撃をする処刑人。

だが先程まで遊びであったのか、繰り出される攻撃を難なく受け流していくボルヴェルク。そして攻撃を弾き返し、体勢が崩れた所を突きクイーンが吹き飛ばされる。

処刑人の手から離れて飛んで行くクイーン。距離を取ろうとする所を許さず、空いていた腕を伸ばし処刑人の首を掴んだ。

万力の様に捕まれた腕はデビルブリンガーを持つ処刑人ですら振りほどく事は叶わない。呼吸が上手く出来ず、デビルブリンガーの光もまるで生命の終わりも差し示すかの様に次第に消えていく。

止めを刺さんと言わんばかりに槍を突き立てるボルヴェルク。

 

「が…グッ……く、そっ…!」

 

薄れゆく意識の中、処刑人はボルヴェルを睨みつける。

まだ終わっていない。まだ諦めていない。そんな思いが彼女の中で宿る。

こんな悪魔に負ける程度では本当に守りたいものすら守れなくなる。

こんな所で終わってしまうのかという悔しさが交わる。

意識が朦朧とし、そして彼女の視界は暗闇へと暗転する。

闇に包まれる中、誰かの声が響く。

 

─まだ終わってないだろ?─

 

(…ハンター…?)

 

─こんな所で諦めるお前じゃない筈だろ?…背中は押してやる。前を向け。手を伸ばせ。まだ終わってない証拠を見せてやれ─

 

(そうだ…。まだ終わってねぇ…)

 

デビルブリンガーにほのかに光が灯り始める。

その思いに答える様に。

 

(何も守れてねぇんだよ…)

 

 

─失った痛み─

 

 

(大事なあいつらを守る為なら…)

 

 

─守れなかった後悔─

 

 

(この身を悪魔にくれてやってもいい…)

 

 

─今度こそ守るという決意─

 

 

(だから…!)

 

 

─自分を受け入れてくれた彼女らや彼らを守る為─

 

 

(力を…!)

 

 

─彼女を欲する─

 

 

(もっと…)

 

 

─今度こそ大事なものを失わない為の…─

 

 

(チカラヲッ!!!!)

 

 

 

 

 

右腕を介し、処刑人の全身から溢れ出す膨大な魔力。

その勢いはとどまる事を知らず、空間させも振動させる。

 

「ッ!!?」

 

まるで息を吹き返し、何処にその力があったのか再び動き出そうとしている処刑人にボルヴェルクは驚きを隠せなかった。

何かをする前に仕留めようと槍を突き放つが、穂先が処刑人を貫く前にボルヴェルクは魔力によって発生した暴風に吹き飛ばされる。

壁に叩きつけられた後に地面に膝をつく。槍を杖代わりにしつつ立ち上がり、処刑人の方へ向いた。

 

「…」

 

そこに居たのは確かに処刑人だ。

だが溢れ出す魔力によって形成されたのか、その背には青白く光る魔人の姿が浮かび上がっていた。

その魔人の姿はボルヴェルクは知りようがなくとも、ギルヴァや代理人が見ればある人物の名を口にするであろう。

その姿は先に逝った戦友 狩人に酷似していたのだから。

完全に彼女という訳ではない。刀と一体化を果たしたかの様な右腕、両手には彼女が愛用していた二丁拳銃。まるで悪魔と彼女が組み合わさったかの様な姿をしていた。

 

「守れるなら魂を悪魔に捧げたって良い…。だから…!」

 

どこかノイズが混じった声を響かせる処刑人。

飛ばされたクイーンを回収し右手に持った太刀状の魔剣『狩人』を握り直しボルヴェルクへ突撃、瞬く間に間合いを詰める。

一瞬の事に反応が遅れるボルヴェルク。

それを見のがさなかった処刑人はクイーンで一閃。その直後に魔人が手にしていた魔剣『狩人』と同じ形状をした刀を振るい、追加攻撃。相手の手数が増えた事により先程の状況とは打って変わって防戦を強いられるボルヴェルク。反撃を試みるが回避されお返しと言わんばかりにデビルブリンガーによる強烈なアッパーカットをお見舞いされる。

宙へ舞い上がる巨体。重力に引かれ地面へと激突しそうになった直前に脚が掴まれる。

 

「テメェをぶちのめすッ!!」

 

右腕の力が、納めていた刀が秘めていた力が解放され何時も以上パワー有した処刑人はボルヴェルクの脚を掴んだまま振り回し地面に何度も叩きつけた。

もはや一方的とも言えるが、悪魔にくれてやる慈悲はない。

必要以上に叩きつけ止めと言わんばかりに全力でボルヴェルクを地面に叩きつける処刑人。これでおとなしくなると思えば、フラフラになりながらも再び立ち上がるボルヴェルク。

足掻き続ける悪魔に処刑人はとっておきをくれてやる事にした。腕を飛ばして引き寄せると、狩人を左手に右手を持ち手を添え居合の態勢を取る。

 

「終わらせてやるよ…」

 

親指を鍔に押し当て鯉口を切った瞬間、抜刀。

逆袈裟から右薙ぎ。そこからクイーンの刀身を叩きつける。

再び狩人を右から左へと薙ぎ払いつつ左足を軸に回転。回転の勢いを利用して狩人とクイーンによる二連撃。

華麗なる乱舞を見舞い、ボルヴェルクを追い詰める処刑人。

そしてそれは最後の一撃か、持ち上げた二つの剣をX字の様に重ね…

 

「ぜぇりゃあああぁッ!!!」

 

ボルヴェルクの体を木端微塵にする程の一撃が放たれた。

跡形も残す事無く、処刑人に敗れた魔界の戦士は何か発する事もなく手にしていた槍と共に消失。

その最期を見届けた処刑人は解放された力 デビルトリガーを解除。

クイーンを背負い、狩人を格納しながら呟く。

 

「…ネンネしな」

 

その声は誰の耳に届く事はなく、小さく反響するのみ。

悪魔との戦いを終え、軽く息を吐く処刑人。勝てたのは良いが、まだまだと思う所は山ほどある。

今回はデビルブリンガーが、ひいては太刀状の魔剣『狩人』を隠し持っていた真の力…デビルトリガーが解放された事が勝利に繋がった。もし解放されてなければ、今頃無残に地面を転がっていたであろう。

 

(…あの時、あいつの声が)

 

視界が暗転し、暗闇に包まれた時に聞こえた戦友の声。

解放した時も背には彼女らしき魔人がいた。

彼女はそっと右腕を見つめた。もしかすればと思ったからだ。

しかし右腕が喋り出す訳がない。彼女はその場から去っていくのだった。

 

 

同時刻。

先行していたブレイクは群がる悪魔を討伐しながら奥へと歩みを進めていた。

上へ繋がる階段を上がりきると、正面のドアを開く。

何らかの用途があって作られたのか、そこは人が数十人は軽く入る事が出来るであろう広い部屋。

そして待ち受けていたのは黄金の甲冑を身に付け、斧槍を手にした何か。

ブレイクが訪れた事に気付くと、黄金の甲冑を身に付けた何かは斧槍を構えた。

 

「やる気満々って感じだな。ごみ溜めの中じゃマシな方だ、ガッツもありそうだしな」

 

「…」

 

リベリオンに手を伸ばすと思いきや、ブレイクは腕を回しまるでカンフーの構えの様なポーズを取る。

 

「来な」

 

その言葉通り相手はブレイクへと突撃。

一気に距離を詰めると斧槍を彼の首へ目掛けて振るった。

刃が迫ってきているにも関わらずブレイクは呆然と立っているだけ。すぐそこまで迫った瞬間、刃はブレイクの首を…

 

「遅いぜ」

 

跳ね飛ばす事は出来なかった。

一瞬だけ現れた障壁。それによって攻撃は当たらなかったのだ。

守りを模った構えを取るブレイクに対し黄金の悪魔は続けざまに斧槍を振るう。しかしまた障壁によって攻撃が無効化される。それでも諦めるつもりはないのか斧槍を振い続ける黄金の悪魔。

障壁を貫こうと突きを放った瞬間、赤い何かが駆け抜け黄金の悪魔を宙へと舞い上げた。

 

「やれやれ。さっき言った筈だぜ?遅いってよ」

 

一切傷を負う事は無く、呆れた表情で黄金の悪魔へと呟くブレイク。

彼が一体何をしたのか、例えこの場に人が居たとしても誰にも分からない。

ただ分かるとするのであれば、その戦法は防戦及び反撃を主としたというもの。

その戦法を名付けるとするのであれば…「ロイヤルガード」と言うべきだろう。




まぁ…そういう事です。
色々と飛ばし飛ばしですが、処刑人にもデビルトリガーを持たせます。ただし姿が変わるのではなくDMC4のネロの様なデビルトリガーと思って頂けたら幸いです。

次はブレイク編。斧槍を手にし黄金の甲冑を身に付けた悪魔ですが、とある別ゲーからです。まぁこういう奴が悪魔というのも面白いかと…。


では次回ノシ


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Act117 Give sanctions Ⅳ

―――空を舞え


黄金の甲冑を身に纏う悪魔 ドーロ・ウォーリアを一瞬の反撃で宙へと舞い上げたブレイク。

相手は地面に激突したがその一撃で倒す事は叶わなず、素早く起き上がり斧槍を構える。

流石に先程の戦法では時間がかかり過ぎる。背負っているリベリオンの柄を手を伸ばした時であった。

ブレイクの後方。奥の扉からぞろぞろと相対している悪魔と似た悪魔がなだれ込んできた。

身に付けている甲冑には多少の差異があり、そして色も黄金ではなく漆黒。持っている獲物も斧槍ではなく、湾曲した刀身が特徴の長剣。

瞬く間に周囲を漆黒の甲冑を身に纏う悪魔 ネーロ・ウォーリア達に囲まれるブレイク。周りを見渡し、そして口角を上げた。

 

「ハハッ!イイねぇ。こうもサプライズゲストに囲まれたら嬉しくて笑ってしまいそうだ」

 

刹那、多方向からブレイクへと目掛けて長剣が振り下ろされた。

防ぐ素振りを見せる事はなく、寧ろ彼はその場から勢いよく跳躍。並みの人間では到底その高さに届かないであろう高さまで飛びあがり、フォルテ&アレグロを抜き取る。

体を上下反転させそのまま回転。マシンガンの如く連射し、銃弾の雨が下に居るネーロ・ウォーリアに降り注ぐ。いくら魔力を込めて放たれた銃弾でも甲冑によって弾かれる。

すぐさま体勢を立て直し、足元に魔力によって足場を形成しそれを蹴り飛び出すブレイク。彼の視線の先に居るのはドーロ・ウォーリア。腕を引き、向かってくる彼へ目掛けて斧槍が投擲。

柄の底から魔力によって生み出されたのか炎が噴き出し、それが推進力となって恐ろしいまでの速さで迫りくる。空中という状況では避けようがないと思われるが、それを覆すのがブレイクである。

軽やかな身のこなしでそれを回避。すれ違う瞬間、彼は何を思ったのか通り過ぎようとしている斧槍へと足を乗せた。

 

「フォウッ!!ハッハー!!」

 

そしてロケットと化した斧槍でスケートボードを扱う様に宙を縦横無尽に飛び回り始めたのだ。

敵の武器にも関わらず制御し、そして面白い玩具がやってきたと思ったのだろう。

乗った瞬間、テンションが上がりまくりのブレイク。どこでその技術を覚えたのかプロ顔負けレベルの技を次々と繰り出しながら、ネーロ・ウォーリア達を弾き飛ばす。

包囲網は崩された。弾き飛ばされたネーロ・ウォーリア達が地面に激突するのを見向きもせず、向かってくるドーロ・ウォーリアへと突撃するブレイク。

正面から向かってくる悪魔に薄っすらと笑みを浮かべると、乗っていた斧槍から飛び降りる。

 

「受け取んな!」

 

「!」

 

火は付いたままなのだ。

主を失い、制御を失った。悪魔的とも言える速さで突っ込んでいく斧槍にドーロ・ウォーリアは反応が遅れていた。しかしその程度何ら問題ないと言わんばかりに斧槍をキャッチ。そのままブレイクへと攻撃を仕掛けた。対するブレイクもリベリオンの柄を握ると振るわれた攻撃に合わせて振り下ろす。

振るわれた刃がぶつかり火花が散った。

そこから剣戟が結ばれると思いきや、ブレイクの後ろからいち早く体勢を立て直し、襲い掛かるネーロ・ウォーリアが迫りくる。

宙にいるという状況で反撃のしようがないと思われる。だが彼は宙に浮かんでいるにも関わらずドーロ・ウォーリアの体勢を崩し反転。ネーロ・ウォーリアの攻撃を引きつけ自身に当たる寸前で魔力を纏った一撃が駆け抜けた。

ブレイクがドーロ・ウォーリアの攻撃をわざと受け止めて蓄積した魔力が解放され、その一撃はネーロ・ウォーリアの上半身と下半身を二つに分かれさせる程の威力を誇る。

仲間の一人がやられたにも関わらず次々と起き上がり攻撃を仕掛けてくるネーロ・ウォーリア達。集団で向かってくる所に何かを思い付いたのかブレイクはヴァーン・ズィニヒを取り出し跨った。

 

「飛ばすぜ!」

 

マフラーから噴射される炎を推進力に、宙にも関わらず飛び出すヴァーン・ズィニヒ。

車体を斜めにしつつ、群がるネーロ・ウォーリア達に突撃。吹き飛んで行く敵の姿はまるでボウリングのピンの様だ。そこからエンジン全開にしたままブレイクはヴァーン・ズィニヒを振り回していく。

ただでさえ重量がある代物だ。おまけに高速回転するホイールからは刃が現れている。凶悪極まりないそれを当てられたら只では済まないだろう。

自身を軸に回転し、車体と共に回転するブレイク。そして回転の勢いを利用して車体をぶん投げた。

 

「クレイジー!」

 

ぶん投げられた車体は吹き飛ばされたネーロ・ウォーリア達に激突。

しかしブレイクの攻撃は止まらない。リベリオンを手に取り、投擲。意思を持った大剣は回転しながら敵達の中央で回転。高速回転で生み出される竜巻が奴らを巻き込んでいく中、彼はもう一つに武器を呼び出す。

爆発する剣を無限に生み出す魔界の装置「ルシフェル」。華麗な動きで次々と剣を投擲。

数えるのが面倒になる程、ブレイクの周囲には剣が滞空。そして彼が二回手を叩いた。

それに合わせて剣は未だ尚竜巻に巻き込まれているネーロ・ウォーリア達の周囲に展開され、一斉に襲い掛かる。無数の爆発する剣が突き刺さっていき、何処から取り出したのかブレイクは一本のバラを投げた。

 

「これで君は自由だ」

 

投げられた薔薇が刺さっていた剣に触れた。

刹那刺さっていた剣は一斉に爆ぜた。敵を跡形も残さぬ様に。

数の差を物ともせず、ドーロ・ウォーリア以外の敵を全て殲滅する姿は流石はブレイクだろう。

そしてこの場に人が居ればその光景を見て必ずしも口にするであろう。

 

「空の旅ってのも悪くないもんだ」

 

そう。この男、先程から一度も地面に足をつけていないのである。

投擲したリベリオンを呼び戻し、背へ収めた時、後方からドーロ・ウォーリアが襲い掛かる。

 

「ォォォッ!!」

 

「おっと!」

 

攻撃を難なく回避。

体を翻すと相手の体を足場に跳躍。宙で一回転し、リベリオンを振り下ろす。

振り下ろした勢いと共に降下。攻撃を斧槍で防ぐとするドーロ・ウォーリア。

しかし勢いがついた一撃は止める事は叶わずその斧槍の柄ごと、そして甲冑ごと黄金の悪魔の頭から股下にかけて一閃。

体を二つに両断されれば悪魔と言えど助かる事はない。縦一閃され、二つに分かれた体が崩れていく中ドーロ・ウォーリアは消失。

そしてブレイクは漸く地面に足を着けた。リベリオンを背へ背負い、歩き去ろうとした時、彼の足元に何かが転がってきた。

 

「ん?」

 

それに気付いたブレイクは手を伸ばし、拾い上げる。

転がってきたものを見た時、彼の表情はどこか困惑した様なものへとなった。

 

「こいつは…」

 

それは自立行動するダミーに使用される代用コアであった。

しかしこの場に人形はいない。

何故こんなものが転がっていたのかと疑問に思った時、彼は先程の悪魔達の事を思い出した。

手に持っているコアは恐らくだがあの悪魔から転げ落ちたもの。つまり自分と戦っていたのは魔界から出てきた純粋な悪魔ではなく…

 

「…」

 

それを理解した時、ブレイクは静かになった。

そこから何かを言う事は無く、手にしていたコアをコートの懐へと納めると静かにその場を去っていく。

その胸の内に怒りの炎を揺らめかせながら。

 

 

一方、基地正面広場での戦闘は続いていた。

先程よりも数は減っているが、やはり相手がかつては人形だったという事もあり躊躇う者もいた。

しかし撃たなければこちらがやられる。引き裂かれそうな思いを胸に引き金を引き続ける。

 

「撃破。姉さん、そっちは!」

 

「こっちも片付けた。後は中の方だな」

 

「はい…」

 

この場での戦闘音は聞こえない。硝煙の匂いが辺りを立ち込める中、M4は残された彼女達の銃を見た。

まるで墓場の様だ。そう感じた彼女であったが、今は作戦中な為、思っていた事を口にはしなかった。ここでの戦闘は終わったが、まだ基地内部では彼らが悪魔共と戦っている。

悪魔達が三人に向いている内に囚われている人形達を救い出さなければならない。

 

「行きましょう」

 

その声に三人は頷く。他の部隊も基地内部へと突撃している。

それに続く様にAR小隊も基地内部へと突撃。彼女達が基地内部へと突撃し、最後に404小隊と代理人、フードゥルとグリフォンが続こうとした時、広場から地響きの様な音が鳴り響いた。

その音に反応して代理人は後ろを振り向き、素早くシルヴァ・バレトを構える。大地を割くように開いた穴からゆっくりと姿を現す者へと向けて。

昇降エレベーターらしき仕掛けからその姿を現すは双頭の巨人を模った悪魔。

全身が拘束衣に包まれており、両手は存在していなかった。その代わりと言うべきか一度攻撃を喰らえば只では済まないであろう鉄球が備わっていた。

 

「遅れて番人の登場ですか…。寝坊したのですかね」

 

「代理人!」

 

「45。貴女達は救出へ向かってください。あれは私が何とかします」

 

45が名を叫ぶ声にも代理人は冷静だった。

そのまま一人で広場の方へ戻り、彼女は双方の巨人たる悪魔「タルタシアン」と相対した。

 

「…ノーネイム、聞こえますか?」

 

『ああ、聞こえている。…援護する』

 

上空では白き機動兵器が舞う。

笑い声にも似た声を出すタルタシアンに代理人はシルヴァ・バレトの銃口を突き付ける。

 

「さて…」

 

代理人は緊張していた。

ギルヴァやブレイクとは違い、悪魔の血が流れている訳ではない。鉄球の攻撃を一発でも貰えば、それは死を意味する。

だが即死級の一撃は代理人も持っている。そう…ニーゼル・レーゲンのレールガンの攻撃なら。

 

「…一曲踊りましょうか」

 

構えたシルヴァ・バレトの引き金を引く。

砲撃にも似た銃声が開幕を知らせる合図となって周囲に轟いた。

 

 

 

基地から少し離れた場所にて。

舗装されてない道を一台の車両が駆け抜けていた。

運転席には白と赤のグラデーションが特徴の髪を持つ少女 ルージュ。助手席には煙管を吹かすダンタリオン。後部座席では元鉄血所属のハイエンドモデル 錬金術士と侵入者が座っている。

向かう先はS10地区。真っ直ぐと続く道の上にルージュが運転する車両が走り抜けていく中、何かを聞きとったのかルージュが不思議そうに呟いた。

 

「戦闘の音…でしょうか?」

 

「この辺りで戦闘とはのう。それにこの気配…」

 

「はい。…近くはないですが、奴らの気配です」

 

奴らの気配となれば見過ごす訳には行かない。

車両を戦闘の音が聞こえる方へ向け、ルージュはアクセルを思い切り踏んだ。

突然加速した事によってバランスを崩した錬金術士。何事かと思い、彼女はダンタリオンへと叫んだ。

 

「おい!どうした!?」

 

「ちょいと寄り道じゃ」

 

「はあっ!?」

 

突然何かをやらかす事は今に始まった事ではない。

それを知っているからこそ錬金術士はただ驚くだけで済んだ。彼女の対面で座る侵入者はそのやり取りを見てクスリと笑い、静かに呟く。

 

「さて…どんな演劇が開かれるのでしょうか」

 

最後がどうなるか分からない演劇を少しだけ楽しみにするのであった。




ブレイク編では無着地撃破ですが…あれをゲームで実際にやっている方はすごいですね…。マジでどうなってんの?と只々思うばかりです。

お次はギルヴァではなく…代理人&ノーネイムVSタルタシアン。
タルタシアンはDMC2で登場致します。

では次回ノシ


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Act118 Give sanctions Ⅴ

―二人は奈落の囚人と相対する―

―再び奈落へと帰せ。さすれば道は開かれる―


一発の銃声が曲の始まりを告げ耳に付けている通信機から、リヴァイアサンから曲が流れる。

流れている曲は代理人が気に入っている曲をHGの戦術人形 Spit-Fireがカバーしたもの。

名前を付けるとしたら「Spit trigger」とでも命名するべきだろうかと思いつつも、代理人は笑みを浮かべた。

何故ノーネイムが曲を流そうとしたのかその意図は分からない。だが流れてくる曲によって気分が高揚するのを感じられた。

 

「では参りましょうか…!」

 

一発の弾丸はタルタシアンが飛ばした鉄球によって相殺された。

代理人は左手でホルスターからDevilを引き抜きタルタシアンへと突撃。

遠距離での射撃が効果ないのなら接近するまで、怪力によって飛ばされる鉄球は危険だが避けれない訳ではない。彼から貰ったアミュレットハーツもご機嫌な様子で、そのおかげもあって重武装しているにも関わらず動きは非常に軽やかだ。

 

「!」

 

鉄球が飛ばされる。

しかし一直線な為、避けるのは容易だ。Devilを突き立て突進、そこから地面と鉄球の間を滑り込みタルタシアンとの距離を詰める。代理人に距離を詰められた事により、それを迎撃しようと片腕の鉄球を動かそうとする双頭の悪魔。力任せに彼女へと向かって横へ薙ぎ払われるが、それを見越していたのかスライディングの姿勢から地面を蹴り後方へと跳躍。回転しつつ身を宙へと投じそのままタルタシアンの二つの頭目掛けてDevilの引き金を引く。

銃声と共に二つの銃口から放たれた散弾が二つの頭を切り裂く。幾ら体格が大きく、幾ら怪力を有していても、幾ら痛みに強くても、頭を狙われたら悪魔でもたまったものではない。

 

「ォォォォ…」

 

しかしそれは"普通"の悪魔の場合に限った話であるが。

 

「ォォォォ!!」

 

「ッ!?」

 

頭に散弾を喰らったというのにタルタシアンは平然としていた。

その姿を見て代理人の中で恐怖が芽生える。

痛みそのものを感じていない。これが悪魔なのだと改めて認識すると恐怖は一段と大きくなる。

だからといってそれに負けている訳には行かない。攻撃を貰う前に代理人はその場から後退し、タルタシアンとの距離を取った。

距離を取り地へ着地した隙を突く様にタルタシアンは鉄球を投擲。

怪力によって飛ばされたそれは一直線に代理人へと向かって行く。不用意に距離を取ったのが間違いだったと悔い、何とかしてでも攻撃を割けようと体を動かす。だが間に合わない。鉄球がぶつかる寸前で目を伏せる代理人。その瞬間、上空から鉄球だけ狙った光線が飛来した。

代理人の目の前で質量のある鉄球が地面へと叩きつけられ土埃が舞い上がる。耳に付けている通信機に冷静な声が響く。

 

『やらせない…!』

 

両者の頭上を轟音を立て飛ぶ姿は、まるで唸り声を上げている様でありリヴァイアサンが駆け抜ける。一人でこの悪魔と戦っている訳ではないと認識した代理人は少しだけ安堵した。

背中は愛する娘に守ってもらえる。それがどれ程心強いものだろうか。

小さく笑みを見せると、代理人はデビルをホルスターに収め、シルヴァ・バレトを背を背負い、交代するかのようにニーゼル・レーゲンのスリング部分を掴んだ。

勢いをつけて背負っていたそれを取り出し、そのまま地面へと叩きつける。それに反応し、ニーゼル・レーゲンは変形開始。原型をとどめない驚異的な変形が一瞬にして行われる。

変形し、新たな姿へと変えたそれを手に大きく振るい、構える代理人。

六角柱の形をしたケースの姿はない。

 

「少し戦い方を変えてみましょうか」

 

備えられた二つの杭と大口径の砲は最早凶悪の一言に尽きる。

だが悪魔を討つ為。やり過ぎなどない。

ただ穿つ為、ただ粉砕する為。悪魔を討つ白銀の銃槍「カノーネ・ランツェ」がそこにあった。

地を踏みしめ、タルタシアンへと突撃。

飛ばされる鉄球。

素早く側転で回避しながらデビルを発射。その程度でタルタシアンが怯むわけがない。

それには代理人も理解していた。回避行動からの銃撃は布石に過ぎない。本命は手にしているカノーネ・ランツェだ。

腕を引き、槍を突き立て突進。その構えはブレイクの技「スティンガー」に酷似していた。

 

「はぁっ!」

 

移動距離こそは彼に敵わない。しかしその威力は劣る事はない。

放たれた強烈な突きがタルタシアンの腹部に突き刺さった。

流石のタルタシアンもその一撃には声を出さずにいられず、叫びにも似た声を出す。

強烈な痛みにもがき苦しむ双頭の悪魔に対し代理人は攻撃の手を止めない。

持ち手付近の引き金に指をかけられ、吹き飛ばされぬ様に地面に踏みしめるとカノーネ・ランツェの出力を最大出力モードへと移行させる。

レールガンの最大出力時と同じ様に右目が水色へと輝き、砲口から光が集約し始める。

撃鉄が起こされると同時にシリンダーが回転。槍の下では今か今かとヒート・パイルの杭が飛び出すのを待っていた。

振り払おうとするタルタシアン。それに対し焦る事無く代理人は告げた。

 

「吹き飛べ」

 

引き金が引かれる。

砲撃が内部で炸裂し、追い打ちをかける様にヒート・パイルの杭がその体を穿ち、成型炸裂弾を撃ちこまれる。

二つの攻撃が巨体のタルタシアンの内部を破壊し、あまりの威力にその巨体が吹き飛び、地面に叩きつけられたと同時に破砕音が響き土煙が舞い上がった。

最大出力での砲撃の反動が凄まじかったのか代理人は立っていた地点から大きく後方へと下がっていた。

散弾をもろともしないあの悪魔に一撃を叩きつけ、傷を負わせた事は大きい。完全な止めを刺そうとタルタシアンへと向かって行く代理人。上空ではリヴァイアサンのコックピットでノーネイムが見守っている。

その時、土煙が舞う中、呻きにも似た声が轟いた。

ゆらりと浮かぶ上がる影。舞っていた土煙が風で払われた時、代理人とノーネイムは驚愕の表情を浮かべる。

 

『まだ生きているとは…』

 

「そのようですね…」

 

カノーネ・ランツェの一撃をまともに受けたにも関わらず、体に大きな穴を開けられようとも立ち上がるタルタシアン。最後の足掻きなのか、その体からは内包している魔力の様なものを放ち禍々しいオーラが放たれていた。

それがある能力と似ていると思ったのか、タルタシアンのその姿を見て代理人は静かに呟く。

 

「まさかあれはデビルトリガー…?」

 

『…あれが出来るのは父とブレイクの筈では?』

 

「私もそう思っていましたけどね。これではレールガンの最大出力で仕留められるかどうか怪しく感じてきました」

 

厄介な状況になり、代理人とノーネイムは険しい表情を浮かべる。

まさか相手がデビルトリガーを発動させるとは思わなかったからだ。

倒さなければならない。しかし強力な攻撃にも耐える事が出来る力を発動させられてしまえば、吹き飛ばすl事も難しいだろう。

どうするべきかと頭を悩ませる代理人。耐久力が桁違いになったとしても方法はあると踏んだのだろう。

ノーネイムがリヴァイアサンのブースターを吹かせ、代理人の頭上を駆け抜けるとタルタシアンへと突撃した。

 

『ノーネイム!?何をするつもりですか!?』

 

「何をするもあれを倒すつもりだ」

 

代理人の叫ぶ様な声にも冷静に応答しつつ、ノーネイムは右主砲の砲口がタルタシアンの正面に来るように操縦。鉄球が飛ばされる前にタルタシアンを捕えると掬い上げる様に機首を空へと向けた。

砲口に突き刺さったタルタシアン。逃れようと暴れ、鉄球を飛ばすがノーネイムにそれが届く事はない。

青い瞳が砲身に突き刺さった悪魔を睨み、手元の引き金へと指がかけられる。

 

「長い砲身には…」

 

主砲の砲口が光は輝き出す。

まるでタルタシアンに死を知らせる様に。

 

「こういう使い方もあるッ!!」

 

零距離射撃。

砲口から勢いよく迸る光線がまるで天を貫く様な光の柱が夜空を駆け抜け、タルタシアンは吐き出された光の濁流へと飲み込まれる。

幾らデビルトリガー擬きの様なものを使った所で全てを塵へ変える威力に踏まえ、射程も地上から宇宙まで届くリヴァイアサンの主砲には意味を成さない。

襲い掛かる光にタルタシアンの体は段々と塵へと化し始める。最初は頭が吹き飛び、四肢が消し飛ぶ。そして最期は断末魔を上げる事すら許されず、タルタシアンは光の中で消失していった。

光の柱が静かに音を立てずに消えた時にはもう双頭の悪魔の姿はなかった。

この後にS10地区では突如として空へと向かって行く光の柱が目撃される事が相次いで起きるのだが、当の本人がそれを知る由もなかった。

 

代理人とノーネイムが基地前広場に現れた双頭の悪魔「タルタシアン」を無事撃破した一方で、基地内部では突撃部隊と人間の姿ではなく本来の姿を晒した悪魔達との熾烈な銃撃戦が繰り広げられていた。

突撃部隊は二手に分かれており、殲滅部隊と救出部隊に分かれている。

殲滅部隊に加わったAR小隊は目の前で起きている現象を言葉を失っていた。

 

「派手に行くゼェッ!!」

 

猛禽類が一度翼を羽ばたかせば電撃が迸り悪魔達を切り裂く。

 

「消え失せろ!」

 

白狼が生み出す金色の雷が悪魔達の頭上を落ち、跡形も残す事無く消失させる。

悪魔でありながら二体の魔獣による攻撃はエントランスホールに集まり敵対する悪魔達に反撃の隙を与えない。

 

「あの二匹だけで何とかなるんじゃない?M4」

 

「かも知れないけど…。兎に角、今は撃って、AR-15」

 

「分かってるわよ。…あっちもあの二匹に劣らず派手に戦ってるけど」

 

悪魔に銃撃を開始するAR-15はちらりとグリフォンとフードゥルと同じ様に派手に戦っている彼女を見た。

白いブランケットを揺らし、向かってくる悪魔を一体、また一体と銃撃で屠っていく95式の姿がそこにあった。首に下げているアミュレットハーツの恩恵もあり、その動きは機敏だ。

 

「ッ!」

 

正面から向かってくる悪魔に銃撃を浴びせている彼女の後方から別の悪魔が襲い掛かってくる。

それに気付いた95式は体を翻し攻撃を回避。背に背負っているショットガンを抜き取ると襲い掛かってきた悪魔の後ろへと回り込む。そのまま頭部へ散弾を叩きこむと、手慣れた手つきで片手でスピンコック。シェルが排莢され、次弾装填。倒した悪魔に続く様に向かってきた悪魔の口に銃口を突き刺す。

 

「遅いです」

 

悪魔の口内で散弾が放たれ、血飛沫と肉片が飛び散る。

その光景をAR-15と共に見ていたM4は引き攣った顔を見せる。

 

「やっぱり私達は要らなかったかも」

 

「…今更気付く?」

 

数を物ともしない二匹と一人であるが、殲滅部隊は銃撃を止めない。

相手は原始的な攻撃を仕掛けてくる為、倒すにはそう時間は掛からない。だがその分、数ではS10地区前線基地所属の部隊の上を行っている。

長期戦となれば弾薬が底をつき追い詰められるだろう。故に一刻も早く殲滅しなくてはならなかった。

最も彼女がこの場に来てしまえば上位種を除き下位種の悪魔の殲滅にはそう時間は掛かる事は無くなるのだが。

 

「!」

 

殲滅部隊に加わっていたグローザの正面から悪魔が複数向かってくる。

それに気付いた彼女が即座に銃口を向かってくる悪魔達へ向け連射。三体の内に二体は始末したが一体が迫る。鋭い爪が振り下ろされ、回避行動を取ろうと動き出すグローザ。

その時、横から銃声が響きグローザへと襲い掛かろうとしていた悪魔の頭が穿たれる。空いた穴から血を流しながら地面へ転がり落ちる悪魔。

 

「今のって…」

 

「よぉ、無事か」

 

声をした方向へ顔を向けるグローザ。そこに居たのは地下遺跡でボルヴェルクと激闘を繰り広げ、勝利を収めた処刑人だった。左手には12連装のリボルバー「アニマ」が握られており、先程の銃撃は処刑人のものだと察するグローザ。

先行した仲間の一人と合流出来た事に安堵しながらもグローザは未だ尚向かってくる悪魔へと銃を放ちながら、処刑人へと話しかける。

 

「暇なら手伝ってくれないかしら。結構しつこい相手みたいなのよ」

 

「お前を口説こうとする奴が居るのか。後でブレイクにお仕置きされるな」

 

冗談が言える程処刑人は疲弊していない。

群で向かってくる悪魔達を睨むと、速攻で終わらせる気で居るのか右腕を大きく天へ向かって突き出した。

 

「はああぁっ!」

 

その声と共にまるで爆発する様に広がる魔の波動。処刑人の背にはほんの一瞬だけ魔人が姿を見せる。

青いオーラを放つ処刑人の姿を見てグローザは驚愕の表情を浮かべる。

 

「貴女、それって…!」

 

「まぁそういう事さ。…どいてな、俺が一気にカタをつけてやる」

 

銃弾飛び交う中、ど真ん中へと向かって行く処刑人。

彼女が射線上に飛び出た事に全員が銃撃を止めてしまう。

 

「処刑人!何を考えてるの!?」

 

「うっせぇ。黙ってみてな、M4」

 

背負っているクイーンを取り出すと腰を下ろし、構える処刑人。背の魔人も居合の構えを取る。

発せられる魔力がクイーンの刀身に纏わり始め、周囲へと広がっていく。無数の悪魔が向かってきているにも関わらず処刑人は動かない。

蓄積されていく魔力はどんどん増えていき、しまいには彼女が立っている場所の床が少し沈むほど。

 

「ありったけを…」

 

処刑人が動き出す。

右足を軸に勢い良く回転。左足を動かし更に回転。

そしてクイーンの重量を反動に刀身を大きく薙ぎ払うと後ろの魔人もそれに合わせる様に刀を居合抜刀。

 

「ぶち込む!!」

 

あまりの膨大な量に空間を切り裂きかねない程の魔力を纏った斬撃がX字を描く様に重なって放たれた。

真っ直ぐ突き進んでいく斬撃は向かってくる悪魔達全員を切り裂き、そして消失。

あれほどいた敵は一瞬で消え失せ、その場には処刑人と殲滅部隊だけが残った。

まるでそれが全てが終わったかの様な静寂にエントランスホールは包まれるのだった。

 

 

処刑人の覚醒、ブレイクの無着地撃破、代理人、ノーネイムの二人による強力な悪魔の撃破。

そしてこの男は…ギルヴァは道中群がって現れる悪魔を討伐していきながら奥の部屋を目指していた。

奥の部屋から溢れ出る何かを感じ取っており、部屋の前まで来る彼はそっと中へと侵入した。

 

「…」

 

部屋自体はだいぶ広い造りとなっていた。

並べられた本棚の数々がまるで図書館を彷彿とさせる。そしてこの基地のリーダー格が座るであろう書斎にはローブ姿の誰かが立っていた。

ギルヴァが訪れた事に気付くと、その者はゆっくりと振り返った。

真っ白なローブに身を包み、フードを深く被っている事もあってどんな表情をしているのか知り様はない。

だが顔立ちは女性を思わせ、何処か微笑んでいる様にも見える。

まるで修道女の井出立ちであるが、手にしている大鎌が決して修道女ではないと示していた。

 

―あの鎌、ヘル共が持つ鎌に似てるが…。けどこんな悪魔見た事がないぞ

 

(お前でも知らない悪魔、か…)

 

蒼でも知らないとされる謎の悪魔。

手にした大鎌を軽々と振るい、臨戦態勢を整える。

いつでも来いと言わんばかりに構える悪魔。

それに返事する様にギルヴァはただ静かに無銘の鯉口を切った。




ごっちゃごっちゃだけど許せ…(震え)

お次はギルヴァ。敵である謎の悪魔はオリジナルです。

そろそろこの回もお開きにせんとな…。

そう言えば皆さんはイベントどうですか?
僕はパイソンを漸くお迎え出来て喜んでいます


では次回ノシ


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Act119 Give sanctions Ⅵ

―世界と世界を繋ぐ―


「ハァッ…!」

 

無銘の鯉口を切る音が響いた瞬間、喋る事は出来るのか謎の悪魔…「ヘル=マザー」は声を上げてギルヴァへと突進。

何処か神々しい雰囲気を醸し出す大鎌に相反し、所有者が悪魔というのは何たる皮肉か。

一瞬にして至近距離まで詰め寄り、その細腕から信じられない程の力で大鎌が振るわれる。

 

「…」

 

迫りくる攻撃に対し至って冷静なギルヴァ。

刃がすぐそこまで迫った時、素早く空いている腕を下から上へと払い上げた。

何の意味を成さないと思われる行動。だがそれは違った。

何故かギルヴァに当たる事は無く、見えない壁にぶつかったかの様に刀身が弾かれる。

勢いがあった事と弾かれた時の反動がすさまじかった事からヘル=マザーはついよろけ、そこを突く様に残像が残る程の速さで彼が駆け抜ける。ヘル=マザーの正面に姿を晒した直後、再度エアトリックで後方へと回り込む。

再び姿を晒した時には既に居合の態勢が整えてられており、ギルヴァは突進と同時に無銘を抜刀。

鞘から晒しだされる玉鋼の刀身。一瞬の煌きが放たれた時、黒き残影と共に無数の真空刃が駆け抜ける。

致命打を与えられずとも一閃浴びせ相手を吹き飛ばすには十分な威力。

吹き飛ばされたヘル=マザーであったが、素早く手を伸ばし地面を突くと一回転して体勢を立て直し鎌を構える。

だがこの男は反撃の隙を与えない。

疾走居合で吹き飛ばし、相手が体勢を立て直した瞬間を狙い一瞬で間合いを詰め、抜刀。

鋭い一撃がヘル=マザーを宙へ打ち上げ、さらにもう一度無銘の刀身を斬り上げつつ追いかける様に宙へと舞い上がる。

空中にも関わらず、素早く神速の抜刀で二閃から体を横に寝かし勢いよくその場で回転。

回転の勢いも相まって若干上昇しながらヘル=マザーを斬り刻む。

 

「落ちろ」

 

そこから体を捻りながら強烈な一撃をヘル=マザーの胴体へと浴びせ地面へと叩きつける。

地面に叩きつけられ、流れるような連撃を貰ったヘル=マザー。痛みに震える体を起こし立ち上がり上空から迫ってくるギルヴァへと顔を向ける。

振り下ろされた刃をあれだけのダメージを負ったにも関わらず軽やかにバク転で回避しその場から飛び退くと大鎌を回転させ、柄の底を地面へと突き自身の足元に紋章らしきものを展開。

広がったそれから光が漏れ出し、何かがゆっくりと現れる。

人一人潰す事位は容易にやってのけるであろう大木の様な腕に対し片腕は大型武器と化していた。

顔はガスマスクの様な形をしており、その目からはどこか禍々しい光が放たれる。

どこか筋肉質な巨漢がまるで自分を生んだ母親を守るかの様に…マザーによって生み出されだし者「ヘル=チルドレン」がギルヴァの前に立ちふさがる。

母を傷つける奴は許さないと言わんばかりに雄叫びを上げるヘル=チルドレン。

子供がギルヴァを相手してくる事を良い事にヘル=マザーはその場から逃亡。大鎌で壁を切り裂き穴をあけ別の部屋へと侵入。そしてそこにあった鏡らしきものへと飛び込んでいった。

飛び込んでいった鏡に覚えがあるのか、蒼がふと声を漏らした。

 

―おいおい、あれは…

 

(知ってるのか?)

 

―あれは"映されし異界の鏡"。魔界にしか存在しないもんでね。しかも超レアものさ。何て言ったって異なる世界に繋がるドアを作っちまうんだからな

 

(…人間界と魔界を繋ぐ様なものか)

 

―似た様なものと言うべきか。まぁ…異界といっても平行世界に繋がる場合もあるがな

 

蒼から聞かされた情報に驚きを覚えるギルヴァ。

自分達の世界の問題を、よもや関係のない世界を巻き添えにする形になる。何か起こす前に一刻も早く目の前に悪魔を始末し追わなくてはならない。

しかし目の前の相手が容易く通してくれるとは限らない。

 

『指揮官、聞こえるかしら?45よ。囚われていた人形の救出が完了したわ。殲滅部隊の方も片付いたみたい。因みにここのリーダー格は捕まるのを恐れたのか自殺。遺体として見つかったと報告が上がっているわ。それと色々面白い情報を見つけたから楽しみにしててね~しきか-ん』

 

『了解。ブレイクさんと処刑人からも片付けたと報告を受けています。後はギルヴァさんだけ…』

 

通信機越しに飛び交う45とシーナの会話。

ここに居る悪魔がこいつだけというのであれば、速攻で片を付ける。

雄叫びを上げながらも突進してくるヘル=チルドレンに対し、ギルヴァは一気に魔力を解放。

彼を中心に発せられる青い魔力が渦となり、風を巻き起こり部屋全体を包み込む。

ゆっくりと、静かに腰を下ろし居合の態勢。そのまま無銘の柄へと右手を伸ばす。

何が起こすつもりなのか全く分かっていないヘル=チルドレンは愚かにも渦の中へ足を踏みいれてしまう。

お互いの距離がわずかまで縮まった時。

 

「!」

 

無銘の鍔に親指が押し当てられ鯉口を切る音が微かに響く。

彼の姿がその場から消える。

刹那全てを切り裂く無数の斬撃が奔った。

空間そのものを切り裂く斬撃。目に映るものはずれている様に映る。

振り下ろそうとしていた腕は静止、まるで時間が止められた様に動く事すら出来ないヘル=チルドレン。そこに動けずにいる相手の前に姿を現すギルヴァ。

片足を地へと着け、鞘へと刀身をゆっくりと収め始める。

断末魔を上げる事も許される事もなければ、亡骸一部ですら残す事も許されず。

鍔と鯉口同士がかち合う音が部屋に木霊した時、悪魔の母に生み出されし魔の子は塵へと化した。

 

―相変わらずえげつねぇ技だぜ。部屋バラバラになったんだが?

 

「いずれ取り壊される場所だ。爆薬の消費量を多少抑えれる」

 

過激派組織の基地は調査の後、爆破される。

その理由としては再度拠点として利用される事を防ぐ為である。

次元斬 絶によってバラバラになった部屋であったが、ここが元々何の部屋だったのか思い出した蒼が尋ねた。

 

―けどよ、ここってリーダー格が居座る部屋じゃなかったか?大事な資料とかあったかも知らねぇぞ?

 

「…45が面白い情報を得たと聞いた。さして問題ないだろう」

 

―…ひょっとして忘れてたか?

 

「…」

 

蒼の質問に対し黙秘を決め込むギルヴァ。

別の世界に飛び込んでいったと思われる鏡の方を見つめながら、通信機のマイクへと喋りかける。

 

「指揮官。内部にいた悪魔の討伐を今終えた」

 

『了解です。怪我はない?』

 

「ああ。…ただ一つ問題が浮上した。指揮官、こっちまで来てもらえるか?近くにマギーが居るなら奴も連れてきて欲しい」

 

『何があったの…?』

 

「…厄介な事と言うべきか。取り敢えず一目見て貰いたい。話はそこからだ」

 

まだ戦いは終わりそうにない。

ましてやそれが世界とは異なる世界で引き起こされそうになる。

面倒な事になったとギルヴァは内心そう呟くのだった。

 

人形売買組織にいた構成員もとい悪魔達の殲滅、また囚われていた人形達の救出を無事終え、作戦は終了した。仮司令塔として使われていた飛行場に残っていた仲間達も基地正面広場に集結。

戦場に赴いていた者達が体を休めている中、呼び出されたシーナはマギーを連れてギルヴァが待っている部屋へと向かっていた。

彼がいるであろう部屋に訪れた時、広がった光景にシーナは言葉を失った。

元々が部屋であった事は何となく察せる。

しかし何をどうすれば、ここだけが切りぬかれた様な状態になるのか驚くしかなかった。

 

(そう言えばMG4を助ける時も建物の一部をバラバラにしてたっけ…)

 

ギルヴァの強さを再認識するシーナ。

引き攣った笑みを浮かべる彼女の傍でマギーは別の意味で驚いていた。

見つめる先にあるのは等身大サイズの鏡…「映されし異界の鏡」。魔界出身という事もあってかその存在は到底無視できるものではなかった。

 

(普通の人間があの様な物を手に入れる事すら出来ない。…一体どこで)

 

それがここにある事にも驚きを感じているが、どう考えても普通の人間が手にする事は到底出来ない代物がある事に彼女は疑問を感じられずにいた。

 

(背後に何か居るのは分かる。…裏に居る者達が何者かは分かりませんが…厳しい戦いになるかも知れませんね)

 

来たるべき戦いに備えなくてはならない。

その時が来るまでに出来る事をしておかなくてはならない。

自分よりも年若く、それでもなお戦いに身を投じるであろう指揮官たる少女を死なせない為、大事な仲間達を死なせない為にも。

隣で決心した表情を浮かべたマギーにシーナは気付く事は無く、そのまま呼び出した本人の元へと歩み寄り声をかける。

 

「ギルヴァさん、今来たよ。それで何が起きたのか聞いていい?」

 

「ああ。話そう」

 

ギルヴァは起きた事を話した。

相対していた謎の悪魔が途中で逃げ出し、別の部屋に置かれてあった鏡の中へ飛び込んだ事を。

魔力は感じられるがどういう代物かは分からない。逃した悪魔を追う為にもその鏡がどういうものかを知って起きたが為に、マギーを呼んだ事も。

 

「成程。概ね理解した。…厄介な事になったね」

 

「ああ。その為にマギーを連れてきてもらった」

 

その言葉に全員の視線がマギーへと向けられる。

先程の決心した表情は引っ込められ柔和な笑みを浮かべるとマギーはその鏡の事を明かす。

 

「映されし異界の鏡。魔具の中でも非常に希少価値が高いとされるものですよ。まさかこの目で見る事になろうとは思いもしませんでした」

 

「それで?あの鏡はどういう代物だ?からくりとかあるんだろ?」

 

一目見ただけでも普通の鏡ではない事は誰にだって分かる。

鏡は魔具と明かされると処刑人がマギーにそう尋ねる。

その問いに肯定の意を示すように頷くマギー。そのまま鏡がどの様なものかを話し始める。

 

「そうですね…。分かりやすく言えば、別世界へと繋がる扉を作ってしまう代物ですね」

 

「…マジでか?」

 

「マジです」

 

先に蒼から情報を得ていたギルヴァと大して興味ないのかブレイクは何らの反応を示さなかったが、他の面子は驚きを隠せなかった。

まさか別世界に繋がる扉を作り上げてしまうものとは到底思えなかったからだ。

最も冷静になって考えれば魔界がある時点でそう驚く事でもないのだが。

 

「この先がどこに繋がっているか、どの様な世界が広がっているのか私にも見当が付きません。映し出されている光景を見るにどこかの路地裏のようですが…」

 

「みたいだね。…マギーさん、皆を広場に集めて。ギルヴァさん達は準備を。持っていく武器は最低限に。それと布とか包む様にして。説明が終わって直ぐに行動します」

 

「了解です。…何をなさるつもりで?」

 

「決まってる」

 

その表情は真剣な面持ちであった。

ベレー帽をかぶり直すシーナ。しかし纏う雰囲気は他を圧倒するようなものであった。

決して一人の少女が出せるものではない。

 

「悪魔を知る一人として、この世界の人間として、ただ責任を果たしにいくだけだよ」

 

18歳の少女の筈だ。

しかしそこに立っているのは最早別の誰かであった。

 

 

夜が明け、朝日が昇りだした頃。

緩やかな風が吹き、朝陽が彼女達を暖かく迎える。

シーナの指示を受け全員を広場へと集めたマギー。

作戦は終わったというのに、何事かとどよめく人形達。しかし404小隊やフードゥルとグリフォン、そして勘が鋭い人形達は何となくであるが察していた。

作戦はまだ終わっていない、と。

そう感じたのはギルヴァ達が何らかの準備をしている姿を目撃したからだ。だがそれを言葉にする事は無く、指揮官であるシーナが来るのを待った。

そして数秒後シーナが彼女達の前に立った。いつもの笑みを浮かべつつ彼女は口を開く。

 

「急に集めてごめんね。伝えないといけない事があって」

 

シーナは全てを明かした。

この戦いがまだ終わってない事。討伐し損ねた悪魔が魔界に存在する道具で別世界へと逃げてしまった事を。

それを討伐する為、自分達の問題である為、その責任を取る為に自分もギルヴァらと共に行動する事を。

本来であれば確実に反対意見が出るであろう。わざわざついて行く必要などない。

討伐は専門家に任せ、残るべきだと。

だが反対意見は出てこなかった。

シーナ・ナギサという女性を知る人形達は分かっているのだ。反対したからといって彼女がそう簡単に意思を曲げる様な性格ではない事を。

誰もがそれを理解し、言葉を発さずにいる中一人が口を開く。

 

「必ず戻ってきてくださいね」

 

かき分ける様にその者はゆっくりと前へと出てくる。

彼女にとってシーナは他ならぬ恩人なのだ。二度も悪夢から救い出し、温かく迎えてくれた。

銀髪を揺らし、彼女はシーナの前に立つ。

 

「例え別世界であろうと、その世界の裏側まで飛んで行きますので」

 

約束ですよ?とまるで皆の気持ちを一纏めする様にMG4はシーナの手を握る。

シーナもMG4の目を見つめながら、静かに頷くのであった。

 

指揮官の代行役をマギーが引き受け、シーナ達が行っている間に調査を進めるという形となり討伐し損ねた悪魔を今度こそ討伐する為に、一目で武器だと認識されない様に持ち出す武器に処理を施したギルヴァらとシーナは映されし異界の鏡がある部屋へと来ていた。

見送りはマギー、そしてUMP45とグローザ。必ず帰ってくるという確固たる確信があるのか二人の表情には不安の顔はなかった。

そしていざ鏡の中へと向かおうとした時、マギーが処刑人を呼び止め、ある物を投げ渡した。

それを見事片手でキャッチする処刑人。投げ渡された物へ視線を向けた。

 

「新しいオモチャです。少しばかりやり過ぎたのですが、反省も後悔していません。名はTom boy(じゃじゃ馬)。クイーンの出力を、そしてアニマの威力を強制的に引き上げる事が出来る機能が備わっています。少々扱いづらいかもですが役立てて下さい」

 

「オーケー。…ぶっ壊しても文句言うなよ?」

 

「言いませんよ。まぁその時は30分位愚痴を漏らしますが」

 

「言ってんじゃねぇか!」

 

二人のやり取りにくすりと小さく笑う彼女達。

硬かった雰囲気が少し柔らかくなるとマギーはシーナに映されし異界の鏡についてある事を伝えた。

 

「今そこに映し出されている路地裏に確実に出る確証はありません。場合によっては全員が別々の場所に出る可能性もありますので気を付けて下さい」

 

「うん。…それじゃ行ってくるね」

 

「はい…お気を付けて」

 

映されし異界の鏡へと歩き出す一同。

先に足を踏み入れたのは専用装備「パトローネ」に装備する多連装六銃身ガトリングガン「ジェラシー」二丁を布に包んで背負うノーネイム。

その次に入っていったのは愛用しているシルヴァ・バレト、デビル、そしてニーゼル・レーゲンを装備する代理人と時の理を操る魔具「クイックシルバー」を首に下げたシーナ。

三人が鏡の中へ消え、ブレイクも鏡の中へと入っていく。

そして最後に残ったのはギルヴァであった。そのまま入っていくのかと思いきや、ふと手前で足を止めて45の方へ振り向いた。

 

「必ず戻る」

 

そう口にした後に彼も鏡の中へと消えていった。

彼らが鏡の中へと消え、三人だけが残った。ただ外から聞こえる誰かの声や作業する音。

その中に混じって、45は小さく呟いた。

 

「…待ってるから」

 

 

 

 

そこは人目につく事も無ければ、大して人が訪れる事もない、とある地区の路地裏。

建物の壁が日差しを遮り、辺りを薄暗くさせる。夜にもなれば誰も足を踏み入れたがらないだろう。

その路地裏の一角で地に伏せたまま動かないグリフィンの制服を纏う少女…シーナ・ナギサの姿があった。

 

「…うんん、あ、れ…?」

 

気を失っていたのだろうか下ろしていた瞼を上げ、ゆっくりと立ち上がるシーナ。

上半身を起こし、辺りを見回す。彼女の後ろには映されし異界の鏡が佇んでいるが、ある事に気付く。

 

「皆は…!?」

 

居るのは自分一人。それ以外誰もいない。

まさかと思った時、彼女はマギーが言っていた事を思い出す。

確実にたどり着くとは限らない。全員がこの世界の別々の場所に飛ばされているかもしれないと。

しかし自分一人というのは不安が募るものだ。立ち上がり、制服についた汚れを払いながらも不安そうな表情を浮かべるシーナ。

それを察したのか首に下げていたクイックシルバーが彼女を安心させようと小さく揺れ動いた。

 

「! うん、そうだね…。貴方もいるから安心だね。私だけがここでへばってたら良くない」

 

クイックシルバーもといゲリュオンに励まされ、気を強く持つと彼女は大通りへと出る道を歩き出した。

体に何ら不調はない。しっかりとした足取りで音が聞こえる方へ歩みを進める。

ここはどういった世界なんだろうと思いながら大通りへと出る。

平日だからか人通りはそれなりで、色んな建物が並んでいる。不思議そうに見つめていた時、シーナの目にある建物に止まった。

余りにも不思議だったのか、その店の名をシーナは口にした。

 

 

 

 

ここは似て異なる世界。

崩壊液の汚染もなければ、世界が荒廃と化した要因にもなった第三次大戦もなく、人類抹殺を掲げる彼女達の暴走の要因となった事件もない。当然ながら悪魔もなければ、魔界も存在しない。

国家が存在し、この世界で起きるとするのであれば紛争か、テロであろう。

そしてこの世界では、とあるお店がある。

奇しくもそこはシーナ達の様に異世界からの来訪者と邂逅した事が何度かあった場所。

その店の名は…

 

 

 

 

「喫茶鉄血…?」




次回

Act120-Extra 「Coffee time after hunting(コーヒータイムは狩りの後で) Ⅰ」


はい(はいじゃないがな)
最後の辺りで分かる通り、次回はいろいろ様作「喫茶鉄血」とのコラボでございます!

またコラボの許可をして頂いたいろいろ様、本当にありがとうございます!

では次回!



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Act120-Extra Coffee time after hunting Ⅰ

―邂逅 発生 急行―


「…どういう事なの?」

 

鉄血。

その言葉は自分達の世界でよく耳にする名。

それが何故別世界である此処でも聞く事になるのか、困惑するシーナ。

人々が行き交う小さな通り。通行人の邪魔にならない様に端により、指を顎に当て思考を巡らせる。

 

(別世界なのに鉄血の名前。となるとグリフィンも存在する?)

 

自分達の知る鉄血は今や人類の敵。

軽く観察していると例の喫茶店から出てくる客の姿もある。

もしこの世界でも鉄血が人類の敵となっているのであれば、店の名前にその様な名前を付けるだろうか。

同時に何故かシーナにはこの世界が荒廃しているとは思えず、逆にこの世界は人形はあれど、世界が荒廃と化す要因となった出来事はなく平和な世界ではないのかと思った。

 

「願うのであればそんな世界だといいんだけど…取り敢えず今は悪魔を追わないと」

 

しかしだ。

何の手掛かりも無いのにどうやって悪魔を追うのか。

予め言っておくが魔具は扱えど、シーナは純粋な人間である。ギルヴァやブレイク、内部骨格に魔の力が使わているノーネイム、デビルブリンガーを持つ処刑人の様に魔力を探知出来ない。ましてや地形すら把握していない状況だ。

この世界に逃げ込んだ悪魔がどんな行動をするかは分からないが、情報を得ない事には何も始まらない。

捜査の基本はまず足からとは言うが、どうしたものかと考え込む。

その時だった。その場から動かず考え込み、尚且つグリフィンの制服だったから余計に目立っていたのだろう。気付かぬ内にある人物が歩み寄り、シーナへと声をかけてきた。

 

「すいません、少しよろしいでしょうか」

 

「あ、はい。…え?」

 

声をかけてきた者を見てシーナは言葉を失う。

自分の知る者とは髪型こそは違えど、姿、声、顔と言い知っている者だったからだ。

 

「代理人…?」

 

何故ならそこに居たのは、あの"代理人"だったからだ。

その反応を見た時、声をかけてきた代理人が何かを確信した表情をしている事にシーナは気付く事はなかったが。

 

 

「どうぞ。そこへお掛けになって下さい」

 

「は、はい」

 

喫茶店 鉄血の店主たる代理人に声をかけられたシーナ。

後に店内へと案内され、言われるがままカウンターに腰掛けたのだが緊張が止まらない状態にあった。

 

(どうしよう…)

 

偶然にも店内に客はいなかった。

しかし別世界から来ましたなど言える筈がない。そんな事すれば完全に頭のとち狂った女としか見られないだろう。

だがシーナは知らない。ここ「喫茶 鉄血」は何度も世界の壁を超えてきた者達と邂逅を果たしている。

この辺りでは見ない顔だったからこそ、もしかしてと思った代理人が彼女に声をかけたのだが当然それを知る由もない。

 

「紹介が遅れました。私、ここ喫茶鉄血の店主を務めております。代理人と申します」

 

「あ、えっと…私はS10地区前線基地の指揮官、シーナ・ナギサと言います。あの、私は…!」

 

とち狂った女として見られても良い。せめて素性とここに来た理由を話さなくてはと思ったシーナに対し、代理人はそっと手を上げて制し、告げた。

 

「ご安心を。何度か世界の壁を超えてきた方たちを見てきましたので」

 

「えっ…ど、どういうこと?」

 

告げられた事にシーナは困惑を見せる。

自分と同じ様に世界の壁を越えてきた人たちが居る。理解は出来るが、驚きを隠せなかった。

 

「その話をしたい所ですが、まずは飲んで落ち着きましょう。見るからに混乱している様なので。…何になさいますか?」

 

経験している為か、手慣れている感が否めなかったシーナだがその案に乗る事にした。

確かに混乱はしている。

色んな事が起き過ぎている為、頭の中がオーバーヒートを起こしかけているのも事実。

だが自分達の通貨がこの世界に通用するかと思った時、それを察したのか代理人は代金について話した。

 

「代金に関してはご安心を。代金はそちらの世界の話を聞かせてもらえれば問題ないので」

 

代金もこちらの世界の話で良いと言われたのであれば、そうする他ない。

一端落ち着く為、メニューからアイスコーヒーを頼もうとした矢先。

備え付けのテレビから緊急速報ニュースが流れた。

 

『速報です。S09地区に繋がる道路橋にて謎の繭が出現したと近隣住民から通報がありました。謎の繭は行動を起こす事無く静寂を保っていますが、緊急事態である為現在警察、グリフィンが出動。一帯は封鎖され、既に民間人の避難は済んでいるようです。…今中継が繋がっているとの事です。現地の…』

 

画面が切り替わる。

恐らく上空から撮影されているのだろう。ヘリのローター音が響いている。

そして道路橋の奥の方には謎の繭が広がっていた。

まるでドーム状というべきか。そこまで巨大でもなく、光に反射している事もあって何処か美しかった。

 

「うわ…ホントに繭だ。一体あれは…?」

 

「私でも見当が付きませんよ、D。…シーナ?どうかされました?」

 

その声はシーナに届いていない。

オーバーヒートを起こしそうになっていた頭は冷たい水を上からかけられた様に熱暴走をストップさせており、それどころか混乱から一転。冷静な雰囲気を見せていた。

それは年若い少女が見せるものではない。余りの変貌ぶりに店主である代理人と隣にいたDと呼ばれた彼女も驚きを見せる程であった。

テレビに映る繭を見た時には既に彼女は血相を変えており、気付かぬ内に立ち上がっていた。

 

「あの道路橋ってここから遠い?」

 

「遠い訳ではありませんが、それなりに距離はあるかと。メインストリートを抜けた先にありますが…まさか知っているのですか?あの繭を」

 

「細かく話している時間はないけど、答えはYESだよ。それとごめんなさい…こっちの世界の話、そして()()()()()()()()()()()()()()()も後になるみたい」

 

そう言い残してシーナは店を飛び出し道路橋へと駆け出した。

代理人が彼女の名を呼び声が響くが、シーナは止まらなかった。

 

「急がないと…!」

 

責任を果たす為。ただそれだけの為に。

 

 

その頃、一台の車両が道を駆け抜けていた。

運転には代理人、その隣にはデビルブレイカーを外した処刑人。

 

「ラジオのおかけで見つかるとはな。んで?あとどれくらいだ?」

 

「近くまで来ていますよ。そこまで遠くはないようですね」

 

この世界に来る時に車など持ってきていない筈なのに、何故乗っているのか。

偶然にも二人は同じ場所に流れ着いていたのだが、最悪な事にそこは小規模テロ組織が拠点としている所であった。何やらグリフィンに襲撃など物騒なことを言っていた為、二人は構成員全員を背後から気絶させた後に組織が所有していた車を拝借し今に至るのである。

因みに気絶させた構成員は両手足を縄で縛り上げ、適当な所に転がしておいたとの事。

二人は知る由もないが、後にグリフィンの部隊が訪れ、既に壊滅していた様を見て驚いていたらしい。

猛スピードで道を駆け抜ける車両。すると処刑人が車窓を開き、身を外に出した。

その先に見えるのは道路橋。距離はあるが、悪魔の気配を処刑人は感じ取っていた。

 

「折角の異世界旅行なんだ。とっとと終わらせて観光に洒落込もうぜ」

 

「観光ですか。それもいいですね」

 

 

同時刻。

シーナ、代理人、処刑人が道路橋へと向かっている一方でノーネイムも悪魔が出現した道路橋へと急行していた。

テレビ、ラジオではなく彼女は普通に悪魔の気配を感じ取ったのだ。布に包んだジェラシー二丁を背負い颯爽と駆け抜ける姿につい見惚れる者も居るが、気にする事無く彼女はその先にある道路橋を見つめた。

 

「間に合うといいが…」

 

そう静かに呟きながらもノーネイムは現場へと向かう。

 

 

そしてこの二人も動き出していた。

 

「折角異世界だというのに急かせてくれるぜ。まぁ探す手間が省けたからそれはそれで良いがな」

 

赤いコート、そしてギターケースを背負った男。

何処から取り出したのか一台のバイクにまたがると、エンジンを唸らせる。

 

「んじゃ飛ばすぜ!」

 

スロットルを捻り彼はバイクを発進させるのだった。

 

 

「意外と早く見つかったか」

 

地区から少し離れた場所で日本刀を手にした彼はある方向を見つめながら呟いた。

風によって揺らめくコート。施された青い刺繡が特徴的だ。

 

「…急ぐとしよう」

 

彼の体が光に包まれる。

そして勢いよく光が周囲に放たれた時、そこに立っていたのは彼ではなく一体の青い悪魔だった。

膝を曲げ空へ向かって勢いよく跳躍。人間では到底届かない筈の高さまで飛びあがり、四枚の翼を広げるとその悪魔は大空を飛翔した。

向かう先はただ一つ。道路橋である。

 

 

役者は揃い始める。

この世界に招いた悪夢を終わらせるために。




前回の後書きでも言いましたが、いろいろ様作「喫茶鉄血」とのコラボです!

また道路橋ですが、イメージとしてはDMC5 「M01 Nero」にて出てきた橋と思って下さい。

ん?何で繭なのかって?悪魔じゃないのかって?
安心しなはれ、ちゃんと考えてあるから。

次回は異世界で悪魔とダンスと参ります。

ではノシ


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Act121-Extra Coffee time after hunting Ⅱ

―異世界で悪魔と踊ろう―


道路橋に突如として現れた謎の繭。

それはギルヴァによってダメージを負ったヘル=マザーによるもの。

蒼の言っていた通り魔界に存在しない悪魔であり、その実は現代科学と魔術によって作り出された悪魔であり試作品。

予想以上のダメージを負った事と生命維持の為に魔力が暴走を引き起こした結果ドーム状の繭を展開したのだ。

当然その事を別世界からやってきたギルヴァ達は知る事はない。

眠る母を守る様に現れた門番、悪魔ヘル=チルドレン。そして繭へ行かせんと次々と生み出されし蟻の様な姿をした悪魔「ヘル=アーマイゼ」の群れに対しグリフィンの部隊、警察、鉄血の部隊は近づけさせんと迎撃していた。

 

「良い機会だわ!今までのストレスをこいつらにぶつけるッ!!」

 

「そんな事やってる場合か!!」

 

散発的ではあるが某何やらの会のせいでストレスマッハ。胃薬が常時手放せないFALがヘル=アーマイゼを丁度いいサンドバッグにすると言い出せば、MG部隊の部隊長であるMG5から怒号が飛ぶ。

状況から察する通り今そんな事をやっている場合ではない。

 

「大して固くはない。だが数が多いな」

 

「ああ。この数に加え、奥に居る門番も相手しなければならん。一筋縄ではいかんな」

 

槓桿を操作しながら呟くリー・エンフィールドとジェリコが冷静に状況を分析する。

しかしその表情は決して余裕と言えるものではなく、険しい表情であった。

持っている武器の弾が効かない訳ではない。一発で仕留めきれずとも何発か与えれば倒せる相手だ、

しかし数は多いのだ。何体倒しても減っている様子すら感じられない。

じわじわと追い詰められているのを誰もが感じられずにはいられなかった。このままでは弾薬がそこを尽きるのも時間の問題と言えた。

劣勢と言える中、赤い制服を着た一人の少女がこの道路橋の騒動を受けて出動していたグリフィンの特殊遊撃部隊の部隊長であるM4の横を駆け抜けていった。

 

「待って!!そっちは危ない!!」

 

黒髪を揺らし、ヘル=アーマイゼへと向かって行く少女にその声は届かない。

化け物が居るにも関わらず、怯える様な様子すら見せていない。

年若い少女の筈だ。だが向かって行く後ろ姿は最早歴戦の戦士そのものだと誰しもが思った。

最もシーナ・ナギサという女性は必要であれば必要とあれば銃を手に取って戦場に向かって行く様な人物である。

過去に一度だけ。本気キレた時は修羅の片鱗を見せた事もあった。

一体何が彼女をそこまでさせるのか。それは本人にしか分からぬ事であった。

 

「もう好きにはさせない…!!」

 

そのセリフと共に彼女は…異世界からやってきた少女 シーナ・ナギサは悪魔たちに向かって手を突き出した。

時計の針が動く様な音がその場で響き渡った瞬間、魔訶不思議な事が起きた。

妙な球体が現れ、複数のヘル=アーマイゼを包んだ瞬間、相手の動きがまるで"時間"が緩やかになった様に遅くなったのだ。

余りにも突然過ぎる現象に一部が目を見開き言葉を失い、一部が超常現象をやってのけたシーナを見つめる。

 

「もって一秒…。でもこれだと…!」

 

「いや、これで弾を当てやすくなった」

 

「! 今の声って…!」

 

シーナの後ろから響く声。

聞き慣れた声に驚く中、その者は現れた。

両手にガトリングガンを二門取り付けた武器を持っていながらも助走をつけて空高くへと跳躍。空中にも関わらず華麗なアクロバティックを見せつけこの場にいる者達の頭上を軽々と飛び越えると、その者はシーナの前へ着地。

白いコートを身に纏いながらも銀髪を揺らし、蒼い瞳が悪魔どもを睨みつける。どこか氷の様な雰囲気を漂わせ女性であれば誰もが羨むであろう体つきをした彼女の名をシーナは口にする。

 

「ノーネイム!」

 

「済まない。遅れた」

 

「嫉妬」の名を持つ多連装六銃身ガトリングガン「ジェラシー」を構えた瞬間、弾丸の嵐がヘル=アーマイゼの群れにに襲い掛かる。

高速回転する砲身が次々と吐き出される弾丸。貫かれ肉片と血飛沫をまき散らしながら死んでいく悪魔達。弾切れという概念がないのか、圧倒的な弾幕であれだけいた数を瞬く間に減らしていく。

だがそれでは決定打にはならない。次々と現れる蟻の悪魔。このままでは平行線を辿る一方だ。

誰でもいい。奥にいる門番と元凶に突撃する奴が欲しいと思われた時、後方からクラクションを鳴らしながら一台の車両が道路橋へと突っ込んできた。

 

「あわわっ!!?」

 

「真っ直ぐ突っ込んでくるとか何考えてんだ!!?」

 

横に飛び込み、車を回避する部隊の人形達。

迷う事無く突っ込み、シーナ達と部隊の傍で停車した車両に対し文句があがる中、助手席のドアが開き一人の人形が降りたった。この状況にも関わらず余裕そうな態度で処刑人は偶然にも近くにいた人形…この騒動に出動していた国際警察所属のハンターに話しかけた。

一瞬だけであったが、処刑人が少し悲しい表情を浮かべたのだがハンターがそれに気付く事はなかったが。

 

「ハグでもして欲しいか?でも悪いね、片腕でさ。ほら、あぶねぇからとっとと下がりなよ」

 

右腕の義手を繋ぐアタッチメント部分を指さした後、彼女はそのまま悪魔どもへ向かって歩き出した。

丈が短くフードが備わった黒いコートを羽織り、背には機械剣らしきもの。片腕にも関わらず向かって行く処刑人にハンターは止めようと叫ぶ。

 

「おい、正気か!?死ぬ気か!!?」

 

「大丈夫です」

 

「何がだいじょ…ぶ…だ、って、代理人!?」

 

運転席から降り立ち、重武装している代理人がハンターの傍に立つ。

そんな彼女を見て驚きの声を上げるハンターであったが、気にする事無く代理人はそのまま言葉を続ける。

 

「私も彼女も悪魔をぶちのめすのが趣味なので。好き勝手させればいいですよ」

 

「悪魔…?それよりもあいつを止めろ!片腕で何が出来る!!死ぬぞ!?」

 

その声が聞こえていたのだろう。

途中で足を止める処刑人。何処かうんざりした様な表情で後ろへと振り返った。

 

「片腕じゃなかったら良いんだな?んじゃ…」

 

右腕が腰に備えたホルダーに向かって勢いよく突き刺す様に下ろされる。

その先にあるのは、とある義手。

アタッチメントが紺色に染められた義手…対悪魔用戦闘義手 デビルブレイカーの一つである「ブリッツ」に接続され、電流が迸る。

 

「これで良いんだろ?」

 

両腕になった証拠を見せつけた後、処刑人は動き出す。

自身の後方にいたヘル=アーマイゼに向かって振り向きと同時に掌底を放ち、吹き飛ばす。

そして鉄骨の上部後方から奇襲をかけようとする別の個体に気付くとブリッツの電撃発生機構を展開。

相手が飛びあがったと同時に彼女も跳躍。相手もより高く飛び上がると、頭を掴み重力に従いつつ地面へ叩きつけたと同時に電撃を放つ。

低級悪魔程度なら一発で屠る事の出来る電撃。当然ヘル=アーマイゼも例外ではなく、強烈な電撃によって死に絶える。

展開したブリッツを元の姿へと戻し、彼女は周囲を見渡した後不敵な笑みを見せた。

背負っているクイーンの柄に手を伸ばし、引き抜く。

刀身の切っ先を地面に突き立て、処刑人は微かに笑みを浮かべた。

グリップを捻る。同時にクイーンが炎は吹き出しながら唸った。

 

「それじゃゴミ掃除の時間だ」

 

ヘル=アーマイゼ達に向かって突撃。クイーンを振い被りながら体を回転。それを利用して繰り出される横へと薙ぎ払う一撃が蟻の様な悪魔達を一閃し、蹴散らしていく。

数の差をものともせず大暴れする処刑人。そしてこの場に集まった謎の少女 シーナ、ノーネイム、代理人に後方にいる人形達から視線が向けられる。

しかしそんな事は知った事ではないとシーナは二人に指示を飛ばす。

 

「ノーネイム。このまま此処に居て。必要であれば援護。代理人は突撃して。但し奥には行かず、その場で暴れ回って。あとレールガンが出来るだけ使わない様に。あれは強力過ぎる」

 

「分かりました。…シーナ、これを」

 

「ん?」

 

代理人がシーナへと渡したのは自分達の世界でも愛用している銃 MP5とその弾倉。

乗ってきた車の中にあったものであるが、拳銃だけでは心許ない。

その場しのぎだが念の為と思って代理人が渡したのだ。

 

「うん、ありがとう」

 

お礼を述べながら渡されたMP5を手に取るシーナ。

隣にはノーネイムが並び立ち、そして指示通り代理人が突撃。

 

「ふっ…!」

 

待機形態であるニーゼル・レーゲンの持ち手を握り、スラスターを点火。正面にいたヘル=アーマイゼに接近し顔面目掛けて横にフルスイング。

ぐしゃりと鈍い音が響き渡り一体を吹き飛ばすとそのまま周囲から群がる悪魔を薙ぎ払う様に高速回転。

そこから回転の反動を生かして宙へ身を投じ、回転の同時にニーゼル・レーゲンを地面へ叩きつける。

叩きつけた事によって発せられる衝撃波に群がるヘル=アーマイゼは宙へ舞い上げられ、代理人はニーゼル・レーゲンを軽く蹴り上げる。次の瞬間、原形すら残さない変形が一瞬で行われ、銀色に輝くガンケースはいつの間にか銃槍形態「カノーネ・ランツェ」へと姿を変えた。

片足を軸にその場で勢いよく回転しながら一閃し、瞬時に悪魔達を消失させる。

 

「何なの、あれ…。M4の持つコンテナと似た武器じゃないの?」

 

「それどころか原形すら留めてないわよ…。どういう仕組みよ」

 

現実度外視の驚異的な変形が披露されて、どよめく人形達。

それを耳にしながらも、代理人は処刑人へと指示を飛ばした。

 

「ここは受け持ちます。貴女は奥へ!」

 

「了解。…ギルヴァやブレイクには悪いが俺が頂くぜ!」

 

クイーンを背に収め、繭がある奥へ駆け出す処刑人。

だが既にこの男は来ていた。

 

「…?バイクの音?」

 

特殊遊撃部隊のAR-15がそう呟いた。

何処から響くバイクの音。後方からではない。厳密に言えば、横から聞こえてくる。

シーナ、ノーネイム以外の者達が辺り見回した時、どうやって道路橋の高さまで飛びあがったのか、赤いコートの男…ブレイクがバイクにまたがって、彼女達の前に現れた。

 

「イヤッホ―!!イェア!」

 

おまけにテンションが高い。大丈夫か、こいつと言いたくなる程である。

車体を綺麗に地面へと着地させると、そのまま処刑人の後を追う様に突撃。

前を塞がるヘル=アーマイゼを次々と轢いた後、ブレイクは車体と共に跳躍。空中で一回転しつつ、ヴァーン・ズィニヒを分離、双剣状態へ変形させた。

 

「バイクが分離して…」

 

「剣になったぁ!?」

 

先程の驚異的な変形といい、今度はバイクが双剣へ変形。

もはや何でもありとも言え、人形達からすればツッコミどころ満載である。

 

「うちってホント現実度外視の武器が多いよね…」

 

「まぁ…今更の事だと思うが」

 

そんな中、驚異的な変形をするガンケースといい、双剣へと変形するバイクといい…自分達の持つ武器がどれだけぶっ飛んでいるのか、今更ながらしみじみと思うシーナに対しノーネイムは冷静に答えるのだった。

 

「よっと!」

 

双剣へ変形したヴァーン・ズィニヒを群がる悪魔に向け叩きつけるブレイク。

回転するホイールから刃が出現し、相手を斬り刻む。

再度宙へ身を投じると自身も回転しながら空中で襲い掛かってくる悪魔達を吹き飛ばす。そして最後はバイク形態へと戻しながら着地し繭の方へと突撃。

処刑人と合流すると、バイクから降り立ち余裕のある笑みを浮かべながら話しかけた。

 

「パーティー会場はここであってるかい?招待状は持ってねぇが」

 

「安心しろって。招待状は無くても飛び入り参加枠という事にしといてやるよ」

 

「そいつはありがたい話だ」

 

繭の前で立ちふさがる門番、ヘル=チルドレンの方を見るブレイク。ギターケースから愛剣「リベリオン」を抜き取り、背へと背負う。

もう一人が来ていない中、二人は門番へと立ち向かった。

 

一方、後方では既に悪魔達は既に殲滅されており、戦闘も段々と落ち着きつつあった。

しかし油断は出来ない。奥にある繭と門番が仕留められるまで戦いは終わっていない。

シーナ、ノーネイム、代理人は静かに見守っており、この騒動に駆けつけてきた人形達も静かに見守っていた時だった。繭へと向かって空飛ぶ青い何かが現れた。

一人がよく目を凝らして見ると、いたのは四枚の羽を広げ、正しく"悪魔"と呼ぶに相応しい何か。

あれは何なのか、どよめく中シーナとノーネイムは確信し、代理人はそれへ投げかける様に呟いた。

 

「遅いですよ、ギルヴァ」

 

今、この時をもって役者は揃った。

 

 

門番であるヘル=チルドレンはブレイクと処刑人が近づいてきた事を察知すると、その巨体に似合わない速さで二人へと突撃。

リベリオンを、クイーンを手に取る二人。しかしヘル=チルドレンが二人に到達する前に空から降ってきた何かよって日本刀で頭から股下を一閃。呆気も無くヘル=チルドレンは門番の役目を終えてしまう事となった。

折角の相手をこうあっけなく倒され、不満を感じたブレイクは魔人化と解除し無銘の刀身を鞘へと納めるギルヴァへと抗議する。

 

「おいおい、せっかくの出迎えだぜ?楽しみってのが無いのかよ」

 

「下らん。俺達の問題を何の関係もない世界に持ち込んだのだ。楽しむ理由がどこにある」

 

「やれやれ、生真面目なことで。そう思わないか、処刑人?」

 

ブレイクにいきなり振られた事に、え、俺に振るの?みたいな顔をする処刑人。

下らんやり取りに付き合う気はないのか、ギルヴァは二人を置いて繭の中へと歩いていった。

彼が中に入っていった事で、二人も後を追い繭の中へと足を踏み入れる。

ドーム状となっている内部は陽の光が差し込んでおり、透明感があるのか神秘的であった。しかし繭が放つ魔の酷い臭いが漂っており、三人はここは見かけだけでその実はごみ溜めみたいな場所だと判断した。

 

「…居ない?」

 

この繭を発生させたはずの張本人がいない事に処刑人は疑問の声を上げる。

だがこの時点でギルヴァとブレイクは気付いていた。

この場にいない筈がなく、そいつは自分達を捉えていると。

そしてそれは今、襲い掛かってきている事も。

 

「「っ!!」」

 

「おわっ!?」

 

いち早くそれに気付いた二人は後ろに振り向きつつ処刑人の肩を掴むと自分達の後ろへと投げ飛ばし愛用している武器を抜刀、刀身でその攻撃を受け止めた。

受け止めた先にいたのはまるで大鎌をさらに巨大化させた何か。それは尾と一体化しておりこれが本体でない事は二人は既に見抜いている。

襲い掛かってきた尾を弾き返すとそれは怯んだように下がっていく。そして襲ってきた張本人が優雅に舞い降りながらその姿を見せた。

修道女が纏う様なローブを身に付けているが、それだけしか纏っていないのか下手をすれば女性特有の部分が見えてしまう程、露出している。

背に生えた六枚の羽だがその形はまる花の花びらを思わせ、優雅な佇まいからまるでそれは天の使いを彷彿させるが飽くまでもそれは見た目だけの話。中身は全く違う。

魔力の暴走により変貌したヘル=マザー…またの名をヘルズ=ヘブンが威嚇する様に三人へと甲高い叫び声を上げた。

 

「姿を変えたか」

 

姿を変貌させる前の姿を知っているからこそ、静かに呟くギルヴァ。

 

「てことは変える前は美人だった訳だ。一度お目にかかりたかったぜ」

 

それを隣で耳にし、吞気な事を言うブレイク。

 

「言ってる場合かよ。…どうやらあっちは俺達をダンスに誘いたいみたいだが?」

 

「品のないダンスなど興味ない。早々に斬り捨てる」

 

ヘルズ=ヘブンを睨みつけながら臨戦態勢に入るギルヴァ。

やれやれと肩を竦め、笑みを浮かべるブレイクだが彼もまたリベリオンの柄を握り直し、臨戦態勢へと入った。

そんな二人を見て処刑人は自分は要らないのではとつい思ってしまうが、どうせなら自分もダンスの相手をさせてもらおうと判断。

 

「んじゃ…踊ろうか!!」

 

その一声で三人は同時に動き出し、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

「喰らいやがれッ!!」

 

一番に攻撃を開始したのは処刑人だった。

ヘルズ=ヘブンの頭へと目掛けて、クイーンの刃を振り下ろす。

相手の攻撃手段は大鎌と一体化した尾だけ。それ以外の手段はないと彼女は思った。

しかしそれが間違いだと気づかされるのはこの直後だった。

 

「っ!?」

 

ヘルズ=ヘブンの周囲から何処からともなく杭の様なものが現れ、それら全て処刑人へと向けられた。

攻撃を中断し、回避に転じようとする処刑人。

その時、どこからか放たれた斬撃が杭全てを一閃し射出を阻止。

天使の皮を被った悪魔の横からエアトリックを用いてギルヴァが接近し、無銘を抜刀。

首を狙った一撃は躱されるが、空中にも関わらず居合の態勢へと移行。

 

「ふん…!」

 

何時抜刀したのかすら分からない神速の抜刀。

それは空間すらも切り裂く為、距離を取っただけでは回避は困難。

連続して繰り出される次元斬がヘルズ=ヘブンに浴びせられ、仰け反らせる。

 

「aaaaaaaaa!!!」

 

悲鳴にも似た声を上げながら、狙いを処刑人からギルヴァへと変えるヘルズ=ヘブン。

尾を飛ばし、先端の大鎌を振るう。それを容易く受け止めるとギルヴァは無銘の柄を持つ手を力を入れる。

そして弧を描いた刀身を中ほどから一閃。あろう事か両断したのだ。

自慢の武器を破壊された事に、流石のヘルズ=ヘブンも目を見開き、それが隙となった。

 

「失礼するぜ」

 

吞気に挨拶しながら尾の上に降り立つブレイク。

尾の上に伝いながら彼は女体部分へと突進しながら、フォルテとアレグロを引き抜き連射。

マシンガンをすらも凌駕する連射。放たれる銃弾が嵐となって女体へ襲い掛かる。

銃弾の嵐に怯むヘルズ=ヘブンであったが、すぐさま態勢を立て直し杭を向かってくるブレイクへと連射。

その中を華麗にかわしながら、彼はリベリオンの柄を握ると女体へとリベリオンの刃を振り下ろした。

あれだけの攻撃を貰いながらも、まだ動けるのかヘルズ=ヘブンはそれを回避。刃は背の花びら部分を切り裂いただけに終わってしまい、暴れ出した事によってブレイクは振り落とされる。

その瞬間、ヘルズ=ヘブンは大鎌を破壊された尾で地面を叩きつけ、粉塵を巻き起こした。

内部を覆いつくす様な粉塵が三人の視界を奪う。その隙を狙ってヘルズ=ヘブンは繭から外へ逃走。

向かう先はシーナ達が居る方向である。

 

「逃がすかよッ!!」

 

しかしそれを見逃さなかった処刑人が義手に繋ぐためにアタッチメント下部に備えられたワイヤークローを射出させ、ヘルズ=ヘブンの体に突き刺すともう逃がすまいと後を追った。

先に出ていった処刑人を追う様にギルヴァとブレイクも急いでその後を追った。

飛ばしたワイヤークローで相手の体に飛び乗った処刑人はすぐさまブリッツの潜在能力を起動。

ガーベラの様な能力は持ち合わせていない。ブリッツに搭載されているのはもっと単純な能力。

それは義手を時限爆弾に変えるという能力だ。

空を舞い、組みついてきた敵を振り落とそうとするヘルズ=ヘブン。振り落とされない様に踏ん張る処刑人。

予想以上動きは早く、もう少しでシーナ達にいる所に到達してしまう。せめて手前で地面へと叩き落さなくてならない。

 

「こんの…はしゃぐんじゃねぇよッ!!」

 

右腕を振りかざして、ブリッツを無理矢理ヘルズ=ヘブンの体に突き刺す処刑人。

突き刺さったと同時に切り離され、赤く点滅し始めるブリッツ。

強烈な痛みに態勢を崩し地面へと墜落するヘルズ=ヘブン。処刑人は墜落した勢いで振り飛ばされ、人形達の方へ吹き飛び、地面へと叩きつけられる。

 

「処刑人!!」

 

代理人が彼女を叫ぶ。

地面に激突した痛みはある。近くにいた人形に補助してもらいつつ立ち上がり、処刑人は代理人へ伝える。

 

「代理人、ブリッツを狙撃しろ!!起動は済ませてある!」

 

「!」

 

起動は済ませてある。

それを聞いた瞬間、代理人はシルヴァ・バレトを構えた。

ゆっくりと立ち上がるヘルズ=ヘブンの体には赤く点滅しているブリッツが突き刺さっている。

息を止め、狙いを安定させる代理人。そして…

 

「爆ぜろ」

 

引き金を引いた。

まるで砲撃音の様な銃声と共に口径29mmという砲弾が放たれる。

狙いに一寸のぶれもない。まるで吸い込まれる様に、砲弾はブリッツに直撃した。

刹那、花を咲かせる様な爆発が上がった。ヘルズ=ヘブンを巻き込み、小規模の爆風が発生する。

そんな爆風にも動じず代理人はシルヴァ・バレトの槓桿を操作。薬室から薬莢が飛び出し、地面の上で跳ねる中彼女は目を見開いた。

 

「aaa…aaa…!!」

 

呻き声を発しながらヘルズ=ヘブンの姿を爆炎の中から這い出てくる。

あれほどの爆発を受けていながらまだ生きている事に、代理人は舌打ちする。

もう"あれ"を使うしかないと判断したのだろう。処刑人は新たな義手に接続せずアタッチメントを外した。すると彼女の右腕に悪魔の右腕「デビルブリンガー」が現れる。

悪魔の右腕にぎょっとする人形も居るが、そんな事を気にする暇もなく処刑人は突進。

拳を作り、右腕を大きく振りかぶった。渾身の一撃がヘルズ=ヘブンの顔面に叩き込まれた。

そして遅れてこの二人も攻撃に参加。

ヘルズ=ヘブンの後方からリベリオンを突き立て突進。そこから腕を高速で動かし突きの嵐をお見舞いするブレイク。

 

「吹っ飛びな!」

 

最後の一撃を放ち、ヘルズ=ヘブンをある方へ吹き飛ばすブレイク。

そこに居たのはシーナ達の前で魔力の渦を発生させるギルヴァの姿。腰をゆっくりと下ろしながら、居合の態勢を作る。

巻き込まれない様にシーナ達は下がっている。後は斬り捨てるのみ。

 

「失せろ」

 

ブレイクによって吹き飛ばされたヘルズ=ヘブンが間合いに入り、鯉口を切る音が響き渡る。

その瞬間ギルヴァの姿が消えたと同時に無数の斬撃が奔る。

人形達の目には景色がずれて見えていた。それもその筈で空間を切り裂いた無数の斬撃が放たれたのだ。

それはヘルズ=ヘブンが時間を止められたかの様に動きを停めてしまう技で、彼にしかできない技だ。

目も疑いたくなる様な超常現象に人形達が驚いている中、ギルヴァが姿を現す。

膝をつき、刀身を鞘へゆっくりと納めていく。刀身が殆ど納められ、一瞬の煌きを見せた後に鍔と鯉口がかち合い音が響く。

それと同時にヘルズ=ヘブンは跡形も残す事無く消失。断末魔も上げる事無くこの世から去っていった。

 

「…」

 

道路橋に静寂が訪れる。

まるで戦いが終わった事を知らせる様に。

奥にあったドーム状の繭も主が消えたと同時に静かに霧散していった。

悪魔の気配はない。シーナはそっと振り返る。

優しい笑みを浮かべ、彼女は人形達に一言。

 

「皆、ありがとう」

 

張りつめていた空気が消え去り、誰しもが胸をなでおろした。

しかしまだシーナ達にはやらねばならない仕事があった。

自分達の事を、そして悪魔の事を説明しなくてはならないという最後の仕事を。




書きたい事が多かったのでめちゃくちゃ長くなってもうた…許せ
取り敢えず道路橋に出現した悪魔の討伐は完了です。

色々キャラを出してしまいましたが…何か間違いがあれば言ってください。



次回でコラボ編ラストかな。さぁコーヒー飲むぞ、ぼのぼのするぞ。



一応出てきた悪魔をここで紹介をして置きます。(全部オリジナルです)

ヘルズ=ヘブン
:現代科学と魔術によって生み出された悪魔「ヘル=マザー」が魔力の暴走を引き起こした結果、変貌した姿。
神々しい雰囲気を漂わせながらも、その姿は悪魔といっても過言ではない。

ヘル=チルドレン
:ヘルズ=ヘブンによって召喚された悪魔。ヘル=マザーの時に召喚されたのと同一個体。母から生み出されし子供であるが、その姿を見るに子供とは言い難い。
巨漢で、頭部はガスマスクの様な形をしており、片腕が重火器と化している。
見かけによらず素早いのが特徴。

ヘル=アーマイゼ
:ヘルズ=ヘブンによって作り出された蟻の様な悪魔。
決して強くはないが、それを補う様に数で攻めてくる。


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Act122-Extra Coffee time after hunting Ⅲ

―狩りの後の一杯―


残った仕事はとても大変だったが楽しかったとシーナは語る。

この世界では悪魔は存在しない。先程まで戦っていた敵の事をせめて今回の騒動に出動した組織に属する人形達に事情を説明する必要があったのだ。

当初こそは驚かれたりしたものの悪魔という存在をこの目にしたからには人形達もシーナの話を信じるほかなかった。

その事を指揮官に伝えるという者もいたが、それに対しシーナは待ったをかけた。

 

「言った所でかえって大丈夫かって心配されるだけだと思う。あれは…この世界に居ない筈だから。貴女達に教えたのは実際あれを見たから教えた。…それでも伝えるというのであれば止めはしない」

 

そう告げてから、シーナ達は自分達の素性を明かす事無く早々にその場を立ち去っていた。

立ち去る前に何者かと尋ねられた時彼女は簡潔に伝えた。

 

「…"この世界"じゃ多分存在しない人、かな」

 

誰しもが首を傾げる中、彼女の口から答えの意味が伝えられる事はなかった。

 

時刻は午後14時辺り。

道路橋での騒動、その場にいた人形達に説明した後、早々にその場から離れたシーナはギルヴァ達を連れてある店へと向かっていた。

路地を抜けて、小さな通りに出た一行。公園と対面する様に建った店を見て、代理人は何処か驚いた様に口にした。

 

「喫茶鉄血…。ここがそうなのですか、シーナ?」

 

「うん。皆と合流する前に訪れたの。それにこの喫茶店の店主さん、何度か私達みたいに異世界からやってきた人達と会った事があるみたい」

 

「それはまた…」

 

自分達の様な存在を何度も会ってきたと聞かされ、代理人は思わず顔を引き攣らせた。

処刑人も同じ様に顔を引き攣らせる一方で、ギルヴァ、ブレイク、ノーネイムは特に反応を示す事はなく、それどころか三人を置いて店へと向かっていこうとしていた。

 

「さぁーて…ストロベリーサンデーとかあれば良いんだが」

 

「私はコーヒーで充分だ」

 

「ギルヴァに似ちまってるな?良くもまぁあんな苦いもんが飲めるぜ」

 

「貴方が甘党過ぎるだけだ」

 

ノーネイムの返答に肩を竦めながらブレイクは店の扉に手をかける。そして扉を開けた時、中にいた客を見て彼は店内へ歩もうとした足をつい止めてしまった。

いたのは道路橋での騒動に出動した人形達。まさかここで再開を果たす事になるとは思わなかったのか、ブレイクは追い付いてきたシーナの方へ振り向き、苦笑交じりに尋ねる。

 

「店間違えたか?」

 

「そんな事無いよ!?」

 

店前でシーナのツッコミが炸裂した。

 

 

流石に店前で立ち尽くすのは迷惑になると思った矢先店主たるエージェントに素早く六人はカウンターの端へ案内された。

妙な六人として、情報は既にこの店にも行き渡っていたのだろう。

見覚えのある者達から視線が飛んでくる中、一通り自己紹介を終えた後甘、党な為ブレイクはパフェを、それ以外の五人は淹れたてのコーヒーを片手に寛いでいた。

そんな中、代理人は目の前に居る別世界の自分をちらりと見た。

この世界にも人形が存在し、ましてやグリフィン、鉄血が存在している事は道路橋での一件で分かっていたが、よもや自分を見るとは思ってもなかった。

暴走した自分。対するもう一人のは自分はここで喫茶店を経営している。どのような過去があるかは分からない。だが世界が違うとこうも歩んできた道は違うのだと感じていた。

こちらの世界の自分が淹れたてコーヒーを一口含む代理人。

苦味とほんのり感じられる甘味。そして風味を味わっている中、エージェントが彼女に尋ねてきた。

 

「どうですか、代理人()

 

「とても美味しいです。私もコーヒーを淹れますが、これには負けますね。流石です、エージェント()

 

「ありがとうございます」

 

顔、声、姿が同じな為、どっちが喋っているのか分からないといった表情を浮かべる人形達。

その一方で…

 

「そうだ…!カウンターに座る代理人に「彼女をください。幸せにしてみせます!」と伝えて許可を得られば…!」

 

「ちょっとこいつを止めて」

 

お互いに微笑み合う二人を見て、つい暴走しかけそうになったどこぞの対物ライフルの戦術人形が周りの人形に取り押さえられると言った事が店の端の方で起きていたが。

因みに二人を見分ける方法は一つ。髪型である。

異世界からやってきた代理人はシニヨンにしてまとめていた髪をほどき、ポニーテールにしている。本人曰く、自分らしさを表す為に行ったとの事だ。

 

「さて…約束通りこっちの事を話さないとね」

 

「ええ。その約束でしたね。…お聞きしても?」

 

「うん」

 

約束通り、シーナは自分達の世界の事や自らこの世界に来た理由、悪魔の事を話した。

こっそりとその話を聞いている者もいたが、シーナは気にする事無く全てを明かした。

世界に関しては世界の壁を越えてやってきた者達から聞いた中で同じ世界だと思われる要素があった為、エージェントは驚きはしなかった。

しかし人知れず悪魔が存在すると聞かされた時は驚きを覚えていた。

 

「人知れず存在する悪魔。そして悪魔の血を流しながらもそれを狩るお二人…。何だかとんでもない事になっている気がするのですが…」

 

「まぁそう思われても仕方ないかな。私だってギルヴァさんと会うまでは悪魔の事なんて全然知らなかったもの。それに悪魔と言われても、御伽話の中だけと思っていたから」

 

「そうなのですか…」

 

そこで会話が途切れる。

ちょうどその時、コーヒーを飲み終えた処刑人が口を開いた。

それは耐えかねたというべきだろうか。店に入った時、彼女はそれを感じていた。

 

「なぁ、少し良いか?」

 

「どうされました?」

 

「…さっきから腰に下げている義手に熱烈な視線を送っているあいつ、どうにかしてくれねぇか?」

 

親指を立て小さく後ろを差す処刑人。

その先にいたのは偶然にも休憩に来ていたアーキテクト。

見たことのない義手という事もあって、何かが刺激されたのだろう。その視線は予備のデビルブレイカーを下げる用ホルダーに吊り下げてあったブリッツ、ガーベラ、トムボーイに向けられていた。

はぁ…とエージェントは小さくため息を付き、処刑人に提案する。

 

「何か一つだけで構いません。よろしければ見せてやってくれませんか」

 

「…了解」

 

このままずっと視線を向けられるのも処刑人にとて良くなかったのだろう。

ホルダーに下げていたブリッツを取り外すと、アーキテクトの方へ振り向く。

 

「好きに鑑賞しな。それと壊すなよ。んでもって弄るのもナシだ」

 

そう言ってブリッツを彼女へと投げ渡すと再び正面へと振り向く処刑人。

後ろでは興奮冷まらぬ様子でブリッツを多方面から見ていくアーキテクトの声が響いていた。

この後にアーキテクトと、そしてこの店の従業員であるマヌスクリプトと呼ばれる人形が休憩時間を利用してギルヴァ達の武器の鑑賞会が別室で行われたのは別の話。

流石に人の武器である為、壊さない、そして見るだけと決めた上で鑑賞が成されたとの事。

ただ無銘やリベリオン、クイーン、狩人、クイックシルバー関しては見せる事は許されなかった。当然と言えば当然である。

因みにであるが、ブレイクの愛銃であるフォルテ&アレグロを見た時は…

 

「純粋に美しい。そして芸術品。それ以外の言葉が出ない上にこの二丁を手掛けた人に是非会ってみたい」

 

といった感想が出たそうな。

 

 

ここに来ている客が今回の騒動に関わった人形達である為、ちょっとした交流会が行われる事となった。

ブレイクとシーナはグリフィンの人形達と、処刑人はハンター、AR-15と、代理人はエージェント、ノーネイムはここの従業員達と交流していた。

そんな中、ギルヴァだけは誰とも交流を取っていなかった。

コーヒーを飲み終えた後、彼は目を伏せてずっと考え事をしていた。

 

(…蒼でも知らない悪魔。一体何処の者が…)

 

―それが分かれば苦労しないと思うが?

 

(そうだな…)

 

魔界出身である蒼でも知らない悪魔。そしてその悪魔は人工的に作られたのではギルヴァは予想していた。

そのまま考えに没頭しようとした時、蒼が咎めた。

 

―折角の機会なんだぜ?こういう時ぐらいは楽しめよ

 

(…)

 

その必要はないと返答しようとした時、彼の傍にここの従業員の一人が声をかけてきた。

 

「あ、あのー…」

 

「む…」

 

伏せていた目を開き、声の主の方へ向くギルヴァ。

黒い髪に白い肌の少女。そして何よりも一部がとても大きかった。

 

―こいつはすげぇッ!!もはや絶滅危惧種レベルだ!魔界の女でもここまでデカくねぇぞ?!

 

やや興奮気味に語る蒼にギルヴァは心の内であるがため息をついた。

だがそれを表に出す事無く、彼は返答する。

 

「何だろうか?」

 

「え、えっと、その…おかわりどうですか?」

 

彼女…フォートレスが向く先にあるのは空になったマグカップ。

飲み終えてからというものの空になっていたまま。考え事に没頭していた為、頭を切り替えたいと思っていた事と美味しいコーヒーをもう一杯欲しいと思った彼は手元のマグカップを彼女へと差し出した。

 

「…貰おう。ブラックで頼む」

 

「は、はい!」

 

新しい一杯が注がれる。

良い豆を使っているのだろう。豆の良い香りが鼻腔をつく。

 

「お待たせしました」

 

「ああ」

 

新たに注がれたコーヒーが入ったマグカップを受け取るとギルヴァは魔力を用いて桜の形をした飾りを錬成し、対価としてそれをフォートレスへと渡した。

群青色に輝くそれを見て、不思議そうな表情を見せるフォートレス。それを見たギルヴァは告げた。

 

「淹れてくれた礼だ。好きに使え。…それとこいつはこの店の何処かに飾ればいい」

 

そう言って彼が渡したのは、群青色に輝きミニマムサイズの満開に咲いた桜の木だった。

かつて基地の跡地で亡くなった者達に献花として手向けたもの。それを部屋に飾る様に小さくしたものだ。

渡されたそれを見て綺麗…と呟くフォートレスに対しギルヴァは彼女が淹れてくれたコーヒーをただ静かにゆっくりと味わうのであった。

 

 

楽しい一時は過ぎ去り、別れの時がやってきた。

鑑賞会に貸していた武器は返され、ギルヴァ達は路地裏に来ていた。

そこには映されし異界の鏡が浮かんでおり、そこをくぐれば元の世界に帰る事となる。

見送りには喫茶店の従業員、今回の騒動に関わった者達が来ており、代表としてシーナは礼を言う。

 

「見送りまでしてくれるなんて…。美味しいコーヒーありがとうございました。…また来ますね」

 

「ええ。またお会いしましょう」

 

エージェントと握手を交わすシーナ。

色々あったが、この出来事は決して忘れる事は無い。奇跡があればここに訪れようと思いながらシーナは鏡の中へ消えていった。

それに続く様にブレイクとノーネイムが鏡の中へ飛び込んでいく。

残り三人となった時、処刑人がエージェントにある事を伝えた。

 

「ここの世界は色んな連中がいるって聞いた。その中には元の世界で死んだ奴がこの世界でのんびり暮らしている事もな。…もしこの世界に俺の身を案じて死んだ狩人が流れ着いたら伝えてくれ。…最期まで身を案じてくれてありがとうってな。…それとこいつはやるよ」

 

叶う事のない話と思っていたのだろう。

アーキテクトへの土産としてデビルブレイカーの一つ、ブリッツを置いていくと相手の返答を待つ事無く処刑人は鏡の中へ飛び込んでいった。

 

「皆様、本当ありがとうございました。…そしてエージェント()。貴女に良い出会いがある事を願っていますわ」

 

こんな自分が今や妻となったのだ。

この世界の自分も幸せになって欲しいと願った台詞。

処刑人と同じ様に彼女も返答を聞く事なく鏡の中へ消えていった。

そして最後の一人となったギルヴァ。

鏡の方へ向きながら、彼も別れの言葉を告げる。

 

「また会おう」

 

とても短い台詞。

しかし今のギルヴァにはそれだけが限界であった。

彼が鏡の中へ飛び込むと役目を終えた様に映されし異界の鏡は粒子となって消失。

かくして世界を跨ぐ悪夢は終わりを告げるのであった。




という訳でコラボはこれにて終了です!
いろいろ様、本当にありがとうございました。

お礼として…

・対悪魔用戦闘義手「ブリッツ」

・フォートレス用群青色の桜型ヘアアクセサリー

・店内用鑑賞物 群青色の桜の木(ミニマムサイズ)

を差し上げます。ご自由にお使いください!


また今回の話で代理人が二人いますので…こちらの世界の代理人はそのまま「代理人」と表記。そして喫茶店側の代理人は「エージェント」と表記させていただきました。

次回はどうするかな…。
もしかしたら更新遅れるかもです。ではノシ


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Act123 Meanwhile, around that time

―――彼ら、彼女達が異世界にいる一方での物語


シーナ達が異世界で悪魔の討伐を終え、交流していたその頃…。

 

元の世界では指揮官代理としてマギーの指示の元、S10地区部隊による人形売買組織の調査が進められていた。

顧客リスト、標的となった人形の詳細などはすんなりと発見されたものの、処刑人がボルヴェルクと戦った地下遺跡の謎やどうやって悪魔達を使役したのかは未だ分からずじまいであった。

その為電子戦に強い45や9の二人が重要な情報や地下遺跡、悪魔の情報が隠されているであろう基地内部にあったデータサーバーに潜り込み、それらに関する情報の収集に当たる事となった。

二人が収集している間は別の調査が行われる事に。

悪魔を使役していた基地という事から魔具なども保有している可能性が高いと思われ、その探索が今行われていた。

映されし異界の鏡へと飛び込んでいった彼ら、彼女達が無事戻ってくる事を祈りながら、マギーはグローザ、FAL、ナガンと共に行動していた。

外から日差しが差し込み、別館へと続く長い廊下を歩く彼女達。

激しい銃撃戦の末、窓は全損。備え付けのドアも木端微塵に吹き飛んでおり、無数の弾痕が残る壁には死んだ悪魔の血がべっとりと付着している。

悪魔との戦いがどれ程激しかったかを物語っており、あの時感じた空気に疑問を感じたのかグローザが呟く。

 

「嫌な感じが消えている…。いつもこうなのかしら?」

 

悪魔との戦いは今回が初めてのグローザ。

目にした事はあれど、戦うのは初。それでも怖気る事もなく冷静に対処する姿は流石と言えるだろう。

 

「そう言えば貴女は今回が初めてだったわね。まぁいつもこんな感じよ」

 

悪魔との戦いを何度も経験している事もあって、その問いに答えるFAL。

戦いの最中ではいつも負の感情の様な、不気味なものが纏わりついてきて、終われば何もなかった様にそれは消え去る。

彼女にとってはもう慣れた事であった。

 

「どれ、さっさと終わらせてあやつらの出迎え準備をせんとな」

 

「そうですね。魔具以外にも何かあれば言ってください。たいていの物は分かるので」

 

他の部隊も動いてくれているが、今の所目ぼしいものは発見されていない。

或いは隠されているかも知れないと思いつつも、マギーらは別館に足を踏み入れた。

別館でも戦闘はあった。その証拠にマギー達が通った廊下と同じ様に戦いの後が残されている。

ここは囚われていた人形達がいた所であり、当然立ちふさがる様に悪魔達がいた。

ただ相手が悪かった。数で、そして原始的な攻撃で襲ってくる奴らに対し彼女達は銃を用いる。

戦いは一方的、或いは蹂躙と言っても差し支えなかった。

この時はマギーはシーナと共に飛行場に居たし、グローザ、FAL、ナガンは殲滅部隊の方に居たのだが、この様子を見ればどんな状況だったかなど口にせずとも察しがついていた。

 

「さて別館に来た訳じゃが…。ホントにあるかのう」

 

「それは探してみない事には分からないわ、ナガン」

 

グローザにそう言われ、うむと頷くナガン。

いざ動き出そうとした時、先にスプリングフィールド、Spit-Fire、SPAS-12と共に別館に来ていた一羽が廊下の曲がり角から飛んで現れ、彼女達四人の前で滞空した。

 

「おーナイスタイミングってか?まぁ良いや、イイもん見つかったぜ」

 

「早々じゃの。ほれ、案内頼めるかの」

 

グリフォンにとっては本当にタイミングが良かった。

イイもんは見つかったが、一つ障害を排除しなくてはならない。

この姿ではそれが無理である事は理解していた。このタイミングで人手が増えた事は喜ばしい事であった。

 

「あいよ、おばあちゃん」

 

「誰がおばあちゃんじゃ!トリ頭!痛い目に合わせたろうか?」

 

「おー怖い、怖い」

 

一羽と一人のそんなやり取りに三人の内の一人がクスリと小さく笑う声が響くのだった。

 

グリフォンに案内され、四人は先に来ていたスプリングフィールド達と合流を果たし、その先にあるものを見つめた。

どう考えても何かを収めていると思われる金庫の扉。組織が保有にするのは大袈裟とも言える程、扉はとても大きかった。

一体この先に何があるのだろうか。この場に誰もが思った。

 

「成程、それで」

 

「はい」

 

スプリングフィールドから事情を聞かされ、誰も扉に手を掛けなかった事にマギーは安堵していた。

恐らくグリフォンが危険を知らせただろう。

一目見た瞬間、この扉に転移系の罠が仕掛けられている事を見抜いていたのだ。

それも何者かが扉に触れた瞬間、発動するもの。

しかしこの罠の欠点としては身体が降れなくてはならない。

武器を用いて扉を破壊すれば、同時に罠も破壊される。

 

「ふむ…」

 

もう一度彼女は金庫の扉を見つめる。

ここまで大型となれば、ちょっとやそこらの武器や爆弾では破壊は不可。

 

「やっぱり難しいかな?マギーさん」

 

心配そうに声を掛けたのはスパスであった。

今この面子の中だと彼女が一番パワーがある人形だ。

その時マギーは思った。

以前試作品で作った"アレ"を彼女に使わせば、罠を発動させる事無く破壊できるのではないかと。

作戦が浮かんだのであれば即座に実行。マギーはスパスの手を握ると、他のメンバーへと言った。

 

「少し彼女を借ります。大丈夫、直ぐに戻りますので。行きますよ!スパス!」

 

「え、あ、ちょ…待ってえぇぇ~」

 

マギーに引っ張られ何処かゆるふわな声を出しながら消えていくスパス。

何を思い付いたのか分からないが、残された者達は二人が戻ってくるのを待つ他なく、Spit-Fireが隣に立っていたグローザに問いかける。

 

「一体なにを思い付いたのでしょう…」

 

「少なくともあれを破壊する方法は思い付いたと見るべきね。…そう言えば、貴女は悪魔との戦いは今回が初だったかしら」

 

かつて同じ基地所属という事もあり、二人は面識がある。

その中でもSpit-Fireはかなり後からやってきた人形であり、彼女が配属になった時からグローザはいた。

最も交流は指の数程度。Spit-Fireが所属した数日後に大規模作戦…『悪夢の終焉』が行われたのだ。

 

「いえ、これで二度目になります」

 

「二度目…?ああ、そういう事ね」

 

納得した様に頷きながらもグローザは思い出す。

錬金術士による基地襲撃事件の事を。

直接目にはしてないものの、中身のない騎士たちが攻撃してきたと聞いている。

二手に分かれてそれらは現れた様で、一つは隣にいるSpit-Fireとノーネイム達がいた基地正面広場。もう一つは本体と戦っていたギルヴァがいた内部の廊下で。

最も襲ってきた騎士が悪魔なのかすら分かっていないのだが。

 

「数で言うなら二回目ですけど…私からすれば悪魔との戦いは今回が初です。あの時はノーネイムとAUGさんが一瞬で倒してしまいましたから。私と95式さんは啞然としていましたよ」

 

「そう…。今回は大丈夫だったかしら?」

 

「皆さんがいたおかげで大丈夫でした。404の皆さんも居ましたし」

 

「なら良かった」

 

以前までグローザにとっては悪魔という存在は恐怖の対象である。

事実彼女は一度死にかけているのだ。悪魔によって。

普通なら一目見た瞬間、殺されかけた記憶を思い出し錯乱するであろう。

だが彼女はいつの間にか恐れなくなった。それも自身では気付かない内に。

今思えば、ブレイクと再会を果たした事をきっかけに克服したのでは彼女は思っている。

細かい事は分からない。しかし彼との再会が大きいとだけは断言できる。

 

(もしかしたらだけど。私がブレイクと再会した時と同じ様に…彼女もノーネイムと友達になれた事がきっかけになっているのかしらね)

 

Spit-Fireとノーネイムがとても仲が良いという事はグローザも知っている。

同じ基地に所属していた事もあって、彼女の支えとなったノーネイムにいつかお礼をしなくてはいけないわねと彼女は心の内で思うのであった。

 

数十分後、マギーはスパスを連れて戻ってきた。

そしてスパスの手に握られているものを見て、その場にいた者達は目を丸くした。

彼女の身長を大きく超える兵器。備えられた杭はまるで丸太の様に太い。

頭がピンク色に染まっている者ならば、その太さに変な事を考えているかも知れないが。

そんな冗談はさておき、こんなものを撃ち込まれたら只では済まない。

悪魔の固い装甲をただ撃ち貫くのみだけに特化された超大型パイルバンカーを彼女は手にしていた。

 

「よしっ…」

 

一通り操作方法をマギーから聞いたスパス。金庫の扉の前に立つとパイルバンカーを構えた。

狙うは一点。ただ撃ち貫く事だけを考える。

片足を引き、パイルバンカーを手にしている腕をゆっくり引く。

 

「せーの…よいしょっ!」

 

声と共に強烈な一撃が扉へと繰り出される。

直撃と同時に杭が撃ち込まれ、先端に取り付けられていた成型炸裂弾が内部に埋め込まれたと同時に炸裂。

極太の杭に備えられた一撃にはただ扉を貫くに留まらない。重厚な扉をあろう事か破壊したのだ。

派手な破砕音が全体に響き渡り、扉の破片が飛び散る。

幸いにもスパスに破片が当たる事はなかった。だが彼女はマギーから渡された武器の余りの威力に言葉を失い、立ち尽くしていた。

それを他所にマギーとグリフォンが金庫の中へと入っていく。

中には銃やら弾薬が置かれており、一目見ただけでここが武器庫だと判断していた。

そして内部の奥に置かれていたものを見て、マギーは眉をひそめた。

 

「これは…」

 

どういう原理で浮いているのか。

模様が描かれた三日月をしたエンブレムが二つ宙を浮かんでいた。

形は同じだが、描かれている模様は両方とも違う。

自立して宙に浮かんでいる点では、それが魔界の物である事は分かる。

しかし一方で誰がどう見てもただ模様が違うだけエンブレムと思ってしまうが、マギーは気付いていた。

これは、とある悪魔が姿を変えたものであると。

 

「こいつは化石発掘レベルですげぇぜ。こんな姿になっても大人しくしているなんてよぉ」

 

「そうですね…。私も驚いてますよ」

 

宙に浮かんでいた二つのエンブレムを手に取るマギー。

正体を知っているからこそ、今もなお驚いている様子であった。

それを見ていたグリフォンが、呟きながらその正体を明かす。

 

「"ネコちゃん"に"破壊兵器"…。どういった経緯でこんな姿になって、ここにいるんだかねぇ…」

 

 

 

その頃、一台の車両が人形売買組織基地の近くまで訪れていた。

戦闘は既に終わっている事は運転している少女も、助手席に座っている着物姿の彼女も分かっている。

後ろの置いてある簡易ベッドに眠る眼帯の女性と、ソファーをベッド代わりに眠る彼女を乗せながら車両は止まる事はなかった。

 

「さて…どんな奴らがおるのかの」

 

「それは直接目にしなければ分かりませんよ、ダンタリオン」

 




ギルヴァ達があちらの世界に行っている間…こちらの世界の視点を描きました。

"ネコちゃん"に"破壊兵器"…まぁ想像がつくかな?

そして合流しつつあるルージュたち。
彼女達の合流の後に…緊急コラボ作戦を展開する予定でございます。

次回では合流編&異世界から帰還した六人の、ある二人のやり取りを描くつもりです。


では次回ノシ



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Act124 Sometime at that time

―――合流。そしていつかの時の約束


「マギーさーん!」

 

金庫内でマギー達が、とある悪魔が姿を変えたエンブレムを二つ発見し、金庫内にある銃器や物資などを箱出す作業が行われてから数十分後、聞き覚えのある声がマギーの名を呼びながら、近づいてきていた。

あちらでの作業が終えた。

マギーは手にしているエンブレムから視線を金庫の入口へと向けた。

 

「マギーさーん!終わったよー!」

 

満面の笑みを浮かべて、金庫へとやってきたのは9。

手を振りながら、マギーの元へと近寄る姿はまるで人懐っこい子犬の様だ。

その後ろからは、組織から抜き取った情報を収めた端末を手にした45が歩み寄ってくる。

 

「お疲れ様です。何か収穫はありましたか?」

 

二人に労いの声を掛けつつ、結果を尋ねる。

待ってましたと、45がウインクしながら笑みを浮かべた。

 

「大漁よ♪」

 

「それは嬉しいですね。報告を聞いても?」

 

了解と答えると45は端末を操作し、画面をマギーへと見せた。

そこに写されているのは、誰かが記した日記の内容であった。

何故これをと問う前に、45がある一文を指さした。

 

「!」

 

指さした部分を見た時、マギーの表情が一変する。

再度この名を目にする事になろうとは思わなかったからだ。

 

「どういう訳か過去に関わった人権保護団体過激派基地や例の後方支援基地の名が出てきたわ。こことどういう繋がりがあるのかは分からない」

 

過去に関わった組織と例の後方支援基地。

その二つともマギーは覚えている。

前者は人間に擬態した悪魔によるもの、後者は悪魔に魂を売った指揮官によるもの…。

既に消滅した筈のそれらが何故今になって浮かび上がるのか。

訝し気な表情を浮かべる彼女を見て、45は当たり前の反応だと思った。

彼女ですら、この二つの名を目に見るとは思ってもなかった。

 

「ただ聞いた事のない組織名が一つ。これの内容によると、潰した人権保護団体過激派とS11地区後方支援基地はそこと関わりがあった。そしてこの基地にある魔具や相手した一部の悪魔はそこからもたらされたみたい。おまけに過去に何度かここと商談している。かなりの数の人形を買い取ったそうね。一生楽して生きていける分の額が支払われてる」

 

「…その組織の名は?」

 

「神の代行者。これに聞き覚えは?」

 

「いいえ、初めて聞く名ですね」

 

神々の代行者。

この荒廃した世界でそんな名前を名乗ろうとしたのか。

最早頭が壊れているとしか言いようがない。

だがマギーの中で一つだけはっきりした事がある。

今回の一件はその組織によるものであり、ひいては悪魔を知っている組織である事を。

でなければ、内部骨格だけとなってしまい悪魔と化した彼女達を動かす事やギルヴァやブレイクの報告にあった一部の敵に説明が出来ないのだ。

 

(となると、あの時の奴らも?)

 

そこで、彼女は思い出す。

錬金術士による基地襲撃事件の際、突如として現れた中身の騎士たちの事を。

襲撃してきた彼女すらその存在を知らない様であったとギルヴァから聞いている。

調査を行った時には、遺体は何らかの理由で消えかけている状態だった為、手がかりが得られなかった。

しかしマギーにはその組織と中身のない騎士たちが何ら繋がりがないとは思えなかった。

ただ確実に言える事は一つ。

あれらは魔界にいる悪魔ではない。それだけは分かっていた。

 

(…一体どうなっているのでしょうか)

 

繋がりそうで繋がらない。

もどかしくて仕方ない。

つい癖で考え込んでしまう。

 

「少し良いでしょうか、指揮官代理」

 

思考の沼に自ら浸かろうとしたマギーを引き止めるかの様に声が響く。

声のした方を向くと、居たのは映されし異界の鏡が置いてある部屋で万が一に備えて周囲の警戒に当たっていたAR小隊の一人 AR-15。

彼女がここに居る。そして銃声が鳴り響いてはいない。

それは何を意味しているのかマギーに察しがついていた。

 

「…帰ってきましたか?皆が」

 

「はい。今しがた無事に」

 

AR-15の声も心なしか柔らかかった。

悪魔との戦いは想定しない事がよくある。ましてや今回は専門家に交えて指揮官までも異世界へと飛び込んでいった。

身を置かせてもらっている事もあるが、無事指揮官たちが帰還した事はAR-15にとっても素直に喜ばしい事であった。

 

「それともう一つ」

 

「ん?」

 

そしてこれは想定してない事であろうか。

AR-15も想定しておらず、起きた事を告げる。

 

「本部直属諜報部所長と名乗る者が接触してきました。団体で動いている模様で、一人は大鎌を持った少女、残り二人は…鉄血のハイエンドモデル。内一人は、以前基地を襲撃した錬金術士です」

 

喜びも束の間。

新たな問題が上がった事に対し、少しは時間を置いて欲しいものである。

しかし愚痴を言った所では何も始まらない。

不満を口にする事無く、マギーは尋ねる。

 

「その本部直属諜報部所長の名は?」

 

「ダレン・タリオンと名乗っていました」

 

「ダレン・タリオン…?」

 

先程45から聞いた組織の時の反応とは違い、何か聞き覚えのある名にマギーは眉を顰める。

名前の響きが、何処か自分の知る面倒な友人の名を似ていたのだ。

 

「AR-15。案内を頼めますか?そのダレンとやらに会ってみます」

 

「分かりました」

 

これは自分も赴かなくてはならない。

先行くAR-15の後を追いながらマギーは思い出す。魔界の中で流れたとある噂を。

情報収集能力がずば抜けており、一度その者に知られれば全て見通されていると思え。

戦闘は得意ではないが、それを補う様に戦略、魔術、罠等を行使する。

魔界の中では色んな意味で敵に回してはいけないと言われる程の悪魔が一体だけいる、と。

もしその者が自分の知る友人だとすれば、尚の事。

正体を確かめなければならない。

その思いを胸にマギーは映されし異界の鏡が置いてある部屋へ向かった。

 

 

「…」

 

「…」

 

場所は変わり、AR小隊の三人と共に異世界から帰還したシーナ達は接触を図ってきたダレンたちとにらみ合っていた。

ダレンとしてはこうなる事は予想していた事であった。

自分やルージュもそうであるが、鉄血のハイエンドモデルの二人を連れているのだ。いきなり銃を構えられても何らおかしい事ではない。

ピンク色の髪をした戦術人形が後方幕僚の役職に就くもう一人を連れて戻ってくるまでは、このままの状態が続く。流石のダレンもいきなり過ぎた、と後悔した。

接触を図る際にルージュの意見を採用すべきだったと。

 

(さて…どうしたものかのう)

 

何か話の切り口になる事は起きないだろうか。

とは言え、そんな事が都合よく起きるわけがない。

そう思った矢先であった。

 

「…お前はあの時の」

 

誰が言葉を発したのか。

その場にいた者達が声の主の方へ向く。

声の主はギルヴァであった。彼の視線は大鎌を持った少女 ルージュへと向けられていた。

姿は違う。だがデビルトリガーを使える様になった今、彼にとってはこの気配は忘れる筈もなかった。

 

「…生きていた事にも驚いているが、随分と様変わりした様だな」

 

覚えているだろうか。

ギルヴァがS10地区前線基地に訪れて間もない頃。

 

「そうですね…。あの時と比べるとかなり変わってしまいました」

 

「…喋れたのか」

 

彼がカフェで、旅をして間もない時に出会ったとある化け物…美と醜悪が混ざった化け物と戦った事があると心の内で言っていたのを。

 

「ええ」

 

今は人の姿をしている。

一目見れば誰しもが彼女の事を人間と呼ぶであろう。

 

「…そしてあの時はご迷惑をおかけしました」

 

しかしだ。

かつて出会ったその美と醜悪が混ざった化け物こそ、目の前にいる少女 ルージュである。

 

「…」

 

かつての自分の事を、そして自分を覚えていてくれた事がほんの少しだけ嬉しかったのか、ルージュはギルヴァへと歩み寄ると、彼の頬へと手を伸ばした。

彼女の手が彼の頬に触れ、赤い瞳が彼の目を見つめる。ギルヴァは抵抗しない。

 

「見ない内に成長されたようですね」

 

「…かも知れんな」

 

その返答を聞くと可愛らしい笑みを浮かべ、小首をかしげるルージュ。

 

「いつか…手合わせ願いますか?この姿になった私が何処まで貴方を相手に戦えるか知りたいので」

 

「…良いだろう」

 

そんな二人のやり取りに誰もが言葉を失った。

無論それはダレンも同じであった。

まさかルージュがギルヴァと関わりがあったなど思わなかったのだ。

 

(そう言えば…)

 

ふと思い出すは昔の記憶。

ついぞ忘れていたが、何故かこの時になってダレンは思い出していた。

拾って数か月経った時に、ルージュが言っていた事を。

 

(だいぶ前に言っておったの。この姿になったのも"彼"と戦ったからこそ得たのだと)

 

思い耽っている内にAR-15がマギーを連れてきた。

そしてマギーはダレンを見た瞬間、確信した様に言葉を発する

 

「やはりでしたか。この気配…貴女、ダンタリオンですね?」

 

「んぬ?」

 

いきなり自分の正体を当てられ、ダレンは声の主の方へ向く。

セミロングで金髪の女性。

グリフィンの制服を身に纏いながらも、腰には彼女の象徴とも言える工具入れが提げられている。

そんな彼女…マギー・ハリスンを見て、ついダレンも笑みを浮かべてしまう。

居たのは彼女にとって唯一友人と呼べる者。

まさか人間界で再会を果たす事になるとはダレンも予想だにしていなかった。

 

「まさかのう…。よもやお前さんとこうして"人"の姿をして再会果たす事になろうとは思わんかった。そう思わんか?マキャよ」

 

再会を果たした喜びを表情に現しながら、ダレンはマギーの目の前まで歩み寄る。

 

「それはお互い様でしょう?ダンタリオン」

 

それはマギーも同じだったのか。

彼女もまた嬉しそうな表情を見せていた。

再会の抱擁を交わす二人。

置いてけぼりになる外野。ルージュと面識があるギルヴァ、ダレンと呼ばれる人物がマギーと親交がある点からして敵ではない事は明らかであった。

そして残った最後の不安を処刑人が口にして尋ねる。

 

「んで?あの二人と行動しているという事はテメェらも敵じゃないという事で良いんだよな?」

 

彼女が向く先にいるのは錬金術士と侵入者の二人だ。

返答を待ちながらも処刑人は密かにコートの懐に左手を差し入れ、愛銃であるアニマのグリップに手を掛けた。

侵入者は兎も角、錬金術士に至っては基地を襲撃した過去がある。

そう言った点ではまだ気を緩める訳に行かなかった。

 

「処刑人、銃から手を離しなさい」

 

「代理人?」

 

相手からの返答を待つ中、代理人が処刑人にそう諭した。

流石というべきか。処刑人が密かに銃に手をかけていた事もお見通しであった。

 

「比較的好戦的な錬金術士が我々の前に姿を出してまで攻撃をしてこないのは理由があると良いでしょう」

 

「ふん、流石は代理人か。単純な理由に過ぎん…。私も切り捨てられたのでな」

 

鼻を鳴らし、錬金術士は自身の立場を告げた。

それを聞き、どこか驚いた様な表情を見せる代理人。

 

「貴女も…?」

 

「ああ。ついでに言うが、こいつもそうだぞ」

 

「侵入者まで…?」

 

錬金術士に加え、侵入者まで切り捨てられた事を聞き代理人と処刑人は驚きを感じらずにいた。

どのような理由があって仲間を切り捨てるのか。その意図が全く掴めなかった。

資材さえあれば幾らでも自分達の代わりなど造れる。

それでも切り捨てる理由、わざわざ戦力を減らす理由が二人には全く分からなかった。

ただ可能性が一つだけあった。S10地区前線基地側について、関わる様になった"それ"の可能性を、

 

「嫌な予感がするぜ。まさかとは言いたいがよ、あいつらも…?」

 

「否定は出来ませんね。向こうも悪魔の力を…」

 

今の技術に加える様に悪魔の力が加わればどうなるか。

悪魔の技術は全てを凌駕する。現存の技術など古臭く感じる程に。

代理人も処刑人にとってもそれは考えたくない事であった。

 

「取り敢えず…ダレンさんやルージュさん、そして二人は敵じゃないという事で良いのかな…?」

 

この空気を脱する為か。

シーナの台詞に、剣呑とした雰囲気は消え去るのであった。

 

 

 

シーナ達がダレンたちを連れていった後、ギルヴァは既に消え去った映されし異界の鏡が置いてあった部屋にいた。

マギー曰く映されし異界の鏡は気まぐれな性質を有するらしく役目を終えたら何処へと消え去る性質があるといった説明を受けた後、彼は部屋の壁に凭れ目を伏せて沈黙を保っていた。

そこに処刑人が現れ、彼の隣に近寄ると壁に背を預け凭れた。

 

「あちらの世界での別れの時…何故ブリッツを渡した?」

 

口を開くや否や、ギルヴァは処刑人の行動に対し尋ねた。

魔工職人が手掛けた義手という事だけあって、その性能は優れたものだ。

壊れやすいという難点を除けば強力な力となる。

だがあちらの、平和な世界ではブリッツの力は過剰とも言える。

そんな武器を渡すなど、平和を崩しかねない一端になると思い、彼はそう尋ねた。

 

「お前も知ってんだろ?あっちのアーキテクトが熱い視線送ってきたからだよ」

 

「それだけではあるまい。…試したな?」

 

「…まぁな」

 

向こうの窓から見せる空を見つめ、問いに答える処刑人。

 

「あんだけ平和な世界ならブリッツなんぞ要らねぇさ。ただ…」

 

「ただ?」

 

「あっちにもこっちの力がどんだけやべぇ力か知ってほしかったのさ。好奇心旺盛なのは結構だが、それを人に向けて扱えるもんじゃないって事は分かってほしくて」

 

「…」

 

「まぁ、あっちのアーキテクトも察しは良さそうだしよ。あれを変な方に使う事はねぇだろうし、下手すればあれを手放すかもな。そん時は取りに行くさ」

 

信頼しているのか、小さく笑みを浮かべる処刑人。

すると彼女は別の話題へと切り替えてきた。

 

「そういやそっちもあっちの店員に、何か渡してたじゃねぇか」

 

「一杯目は無料とは言っていたが、二杯目は無料とは聞いてない。…あの者に渡したのは二杯目を淹れてくれた礼とその対価を受け取る者として渡したに過ぎん」

 

「ふーん…」

 

それ以上処刑人は問う事はしなかった。

訪れた沈黙は束の間、ギルヴァは処刑人に問う。

 

「…今度は二人で訪れるか」

 

「…そうだな」

 

ひっそりとであるが、今度あちらの世界に行く事があれば二人で行こうと約束する二人であった。




という事で合流&いつかその時の為に約束をするギルヴァと処刑人でした。
本来であれば、次回は緊急コラボ編へ行きたいのですが…ネタが決まり切っていないのと、緊急コラボに繋がる発端を描きたいと思い、先延ばしでございます。

いつかその時の約束ですが…。
主人公たるギルヴァは、二杯目を淹れてくれた彼女に何らかの危機が迫れば駆けつけるつもりでいたりします。
こちらの世界では「映されし異界の鏡」性質上はいつ、どのタイミングで現れても可笑しくない。故にいつでも別世界へと行けるようになったので…。


では次回ノシ


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Act125 Invitation to the game

とある誘い。
それは『死』と隣り合わせのゲームの誘い


違法組織での調査は無事終了し、シーナ達はダレンら四人を連れて基地へ帰還。

早速情報開示及び報告会を行うつもりでいたのだが、報告書やら、書類やらを纏めなければならない、調達品のリストや然るべき所に送る武器リスト製作など作成しなくてはならないという事もあり、情報開示及び報告会はまた後日という形になってしまった。

またこの基地で過ごす事となった四人の為にも部屋を設けなければならないのだが、何時になるのか目途が立たない為、ダレンとルージュはマギーの部屋で、錬金術士と侵入者は処刑人が使用している部屋で過ごす事となった。

マギーの部屋や処刑人の部屋もそうであるが、基地にある寮舎はもとより多人数の共同生活を主としている為、それなりに広い。

その広さを利用してマギーは部屋を改装し自室兼個人工房として利用しているが、それでも広さは確保できている為住人が二人増えた所で大した問題にはならなかった。

またマギーとダレンは旧知の仲という事もあって尚の事問題はない。

ただ一つだけある事が起きていた。

 

「何を作っているのですか?」

 

それはダレンたちがこの基地で過ごす事となって数日が経った時の事であった。

ダレンと同じ様にマギーの部屋で過ごす事となったルージュ。

偶然にもマギーが工房で作業している姿を見かけ、興味本位から彼女は声を掛けた。

 

「ちょっとしたものですよ」

 

作業に集中している為か振り向く事はせずその問いに答えるマギー。

しかし作業台に置かれているものは到底"ちょっとしたもの"とは言い難いものであった。

何かのパーツが取り付けられていて、かつ部品が机上に散乱しているが一定の原型は保たれているのか、何処か引き気味になりながもルージュはそれの正体を口にした。

 

「ロケットランチャーがちょっとしたものとは言えませんよ。しかもそれが二丁って普通に物騒なんですが」

 

「まぁそうでしょうね」

 

苦笑いを浮かべながらもマギーは作業を続けていく。

一体なにを作ろうと考えているのかルージュには分からない。

武器という事は分かるが魔界では有名な魔工職人がその頭の中で何か思い付いたのかなど分かる筈もない。

作業に邪魔をしない為にその場から去ろうとした時、ふと別の作業台に置かれているものが彼女の目の端に映った。

 

「これは…」

 

一つは先日の組織の金庫から回収した例のエンブレム。そしてもう一つはバレルが取り替えられた二丁のデザートイーグルであった。

これを使って一つの作品を生み出すとは到底思えず、邪魔をしてしまうと分かっていながら好奇心が抑えられなかったルージュはマギーへと尋ねる。

 

「あの、これらで何を作る気で?」

 

「ああ、それですか?」

 

ちょっと休憩しましょうかと作業していた手を止めて椅子から立ち上がるマギー。

本棚から一冊のアルバムを取り出すと、ルージュの隣に立った。

 

「エンブレムの方はまだ未定ですが、こちらの銃の方はどの様にするかは決まっています」

 

「そうなのですね…。えっと、どんな感じにするか聞いても?」

 

基本的に武器などは現地調達がよくある事、そして武器や物を作りだす職人とこうして話せている事が嬉しい事もあって、ついついルージュは好奇心に負け尋ねてしまう。

そんな姿を見てマギーは、この基地の修繕工事の際に増員としてやってきたメンバーの内の一人と出会った時を思い出した。

試作武装「プロトタイプ・ナイトメア」を渡した彼女は今どうしているのかは分からない。

だが三度の飯より未知の武器や兵器を愛する彼女は、自分の作品を見せた時あれこれと質問してきた。

そんな姿が今のルージュとどこか似ており、クスリと微笑むとマギーは手に持っていたアルバムを広げた。

そこには今まで自身が手掛けた作品や参考の為にと撮った武器の写真が沢山収められていた。

 

(そろそろ新しいアルバムを買わないといけませんね)

 

マギーがこの人間界に来てからする様になったものであるが、気付かぬうちに写真の数は数えるのも億劫になる程撮っていた。

新しいアルバムの購入を頭の中に置きつつも彼女はアルバムのページをめくっていく。

そしてあるページに来ると、マギーはルージュへとを見せる。

そこに映るは銃の写真を収めたページであった。

 

「私があの二丁を使って作ろうとしているのは、この写真らに写る銃の系統になるものですよ」

 

マギーが指さすのは、とある二丁拳銃を撮った写真。

一枚はブレイクが愛用しているフォルテとアレグロ、そしてもう一枚は、とある基地の彼女が愛用している連射性に特化した白銀の二丁拳銃 アジダートとフォルツァンドだ。

フォルテとアレグロに関しては、アレグロの塗装が剥げる前と剥げた後の写真が収められている。

 

「フォルテとアレグロが威力と連射の両立。アジダートとフォルツァンドは連射性特化。ならば次に作るのは…」

 

「威力特化…ですか?」

 

ルージュの問いにマギーはニヤリと笑みを浮かべながら頷く。

残念ながらフォルテとアレグロは彼女が製作したものではないが、どの二丁拳銃にも一貫して言える事が音楽用語が使われている事だ。

この特徴をマギーは勝手に総称して「Musical score(楽譜)」と名付けている。

 

「ベースがベースなので誰でも愛用できるとは行きませんが…。良い音楽を奏でる為、楽譜に新しいものを吹き込もうではありませんか」

 

連射性特化のアジダート&フォルツァンドと対になる威力特化の二丁拳銃。

それがいつお披露目になるかは分からない。

 

「そして来るべき戦いに備えて早めに完成させるつもりでいますよ。この銃も、そしてあの二つも」

 

柔和な表情を浮かべる一方でその眼差しは鋭い。

マギーのその表情を何度も見た事がある旧知の仲であるダレンはこう名付けている。

 

「魔工職人の本気モードってやつじゃよ」

 

そんな彼女であるが、二人が話している時には一人基地の通信室である所へ連絡を入れていた。

グリフィン本部での扱いは存在すら怪しいとされている為、基本的に彼女は本部に身を置く事はない。

各地を転々としていながらも、諜報活動に勤しんでいた。

しかし基地に身を置く事になれば、話は別。

ダレンは信頼できる者の一人に連絡を入れていた。

モニターに映し出される一人の女性。グリフィンの制服を身に纏い、片眼鏡をかけている。

 

『久しぶりだな、ダレン』

 

そう、ダレンが信頼している者達の一人とはへリアンの事である。

 

「そうじゃな。こうして顔を見るのは何時振りかの。…それはそうと先日の合コンの結果はどうじゃったかえ?」

 

『な!?ど、どこでそれを知った!?』

 

「ほっほっ、わしの情報網をなめて貰ったら困るの」

 

煙管を吹かすダレン。

秘密裏に行った合コンがバレている事に赤面するへリアンを見てひとしきり笑うと、彼女は本題へ入った。

 

「今後の行動に連絡を入れておこうかと思っての。暫くS10地区前線基地に身を置く事にする」

 

『! どういう風の吹き回しだ?以前なら人気のない所を選んでいた筈だが』

 

「ちょいと気が変わっての。人肌が恋しくなったとでも言っておこうかの」

 

明確な理由を明かすつもりはない。

ただ、この基地で過ごす事だけを伝えるのみ。

それ以外の事を言う気などダレンにはなかった。

 

「わしに何かあれば、個人の端末に連絡するか、ここに来るが良い。ではの」

 

『おい、ま』

 

制止の声を聞く気はなく、通信を切るダレン。

紫煙を吐くと、通信室の外へ向かって歩き出した。

 

「さてと、茶でも飲みに行くかのう」

 

 

ともあれマギーの部屋で過ごす事なったダレンとルージュの二人には何ら問題はなかった。

ただ処刑人の方ではこうとは行かなかった。

この基地に居座る事となって代理人程とは言えないが、勝手が分かってきた処刑人。

部屋も自分好みにしているのだが、過ごす事となった錬金術士の一言が火種となった。

 

「殺風景にも程があるだろ」

 

必要最低限の家具に本棚、愛用するクイーンやアニマ、弾薬、デビルブレイカーを収納するウェポンラック。それだけなのである。

一緒に過ごす事となった以上、もう少し色が欲しい所。しかし錬金術士のストレートな台詞に、流石の処刑人も黙っていなかった。

 

「んだよ。一緒に過ごす事になったからといって早速いちゃもんつけんのかよ?」

 

「そのまま言っただけだが?一体どういった感性をしてるんだ。狂ったか?幾ら私でもこうにはならんぞ」

 

「寧ろお前の方がヤバい部屋造りそうな気がするんだが?倒した悪魔の頭を壁にぶっ刺して飾ってそうだしな。まさかとは言わねぇが、そんな事しないでくれよ?修繕費だって馬鹿にはならねぇだろうし、何よりも同居人がイカレ女なのはごめんだ」

 

煽られたら煽り返す。

こっちに来てから落ち着きの性格になったと思えたが、そうでもなかった処刑人。

そして煽り返された錬金術士は処刑人を睨んだ。

 

「何だ、ヤル気か?」

 

「上等だ。ぶちのめして粗大ゴミ置き場に放り込んでやる」

 

にらみ合う二人。もはや一触即発状態。

いつ、ぶつかっても可笑しくない状況にも関わらず侵入者は置かれてあったソファーに腰掛け、周りを見回していた。

 

「確かに少し殺風景ですね。ですが、自分好みの部屋を作っている点では感心していますが」

 

暴走によって人類抹殺を目的とした鉄血の人形達。

こうして落ち着く事はあれど、人形に徹したのか人間に真似る様な事はしなかった。

食事も質素で、過ごす部屋などこの部屋以上に殺風景。

故にどういう風な部屋を造るべきかと言われたら分からないのが事実。

殺風景と言えど自分好みに合わせた部屋を作っている処刑人に侵入者は感心していた。

 

「個人的には酒棚が欲しいですね。それとグラスを幾つか。ジュークボックスもあれは尚の事嬉しいですね」

 

「…それはお前の好みだろうが。だが、まぁそれもアリか」

 

侵入者の発言で一触即発の雰囲気は消え去り、錬金術士は苦笑いを浮かべながら近くの壁に背を預けた。

さっきまでの様子は何処へ消えたのか、何処か仲が良い二人を見て、処刑人は啞然とするのであった。

 

「こいつらって仲良かったか?錬金術士が夢想家と仲良いのは知ってんだがよぉ…」

 

 

訪れた束の間の平穏。

 

 

 

しかしその平穏は長く続かない。

 

 

 

何故ならこの者達によって、それは壊されるからだ。

 

 

ダレン達がS10地区前線基地にとどめる事になってさらに数日後。

かつては仲間だった一人がグレネードランチャーで建物の一部をふっ飛ばし、その爪痕が残った基地で夢想家は部屋で複数のモニターが並ぶそれの前で椅子に腰かけてキーボードを操作していた。

今後の事、そして今起こそうとしている事。そして"あちら"に送る報告書を纏めていた。

そこに武装した追跡者が部屋を訪れ、操作している夢想家の隣に立った。

先程まで追跡者はとある準備に追われていた。それを終えてここに来ていた。

 

「準備は終えたようね」

 

「ああ、人数も揃えた。これなら複数あるグリフィンの基地に襲撃できるよ」

 

モニターの一つに映る映像。

そこには追跡者と同じ姿をした人形達が、列を成して無数に並んでいた。

下手をすればその数は三桁は行くであろう。

まだ起動していないのか目を伏せられているが、手にしている武器は普通じゃない。

ある者は大盾を両手に、ある者はストライカーが持つガトリングガンを両手に、ある者は大型チェーンソーらしきものを手にしている。

その後方には以前錬金術士に一発を貰った魔物へと変わり果てた案山子。隣には案山子とは違う別の魔物が立っていた。

目を伏せている彼女達が動き出せば何が起きるのか。それはこの二人以外予想出来ないであろう。

 

「通信は出来る様にしてくれているかい?」

 

「ええ。いつでも出来る様にしているわ。ついでに逆探知も出来ない様に施してる」

 

「そいつは嬉しいね」

 

柔和な笑みを浮かべているにも関わらず追跡者から雰囲気は違った。

狂気の様な、歪んだ様な…それらがごちゃ混ぜになったかの様なものが放たれていた。

 

「楽しんできなさい、追跡者」

 

「ああ、そうするさ」

 

踵を返し部屋を後にしようと歩き出す追跡者。

そのまま出ていこうとした時…

 

「…好きにはさせないよ…」

 

そんなセリフで彼女の口から小さく漏れた。

何か言っている事が聞こえたのか不思議に思った夢想家は後ろを振り向き、追跡者へと尋ねる。

 

「何か言ったかしら?」

 

「え?僕、何か言ったかい?」

 

その返答に首を傾げる夢想家。

聞き間違いだろうか。

しかし人形である自分が聞き間違えることなどあるのだろうか。

答えは出てこない。本当に聞き間違いかも知れないと彼女はそう結論付けた。

 

「ごめんなさい、何でもないわ」

 

「そう?じゃあ、行ってくるよ」

 

終始を笑みを浮かべたまま追跡者は部屋を出ていく。

夢想家だけとなった部屋。

しかしその様子を遠からずとも見つめていた誰かが居た。

 

「好きにはさせないよ、夢想家に偽りの僕」

 

その者は体はない。

強いて言うのであれば、電子体というべきか。

電子の海でその者はそう喋りかける。

 

「体は返してもらう。だけど今じゃない」

 

追跡者と同じ声をしたその者は、踵を返し歩き出した。

何処か現れたのか真っ白な扉へ向かって行く。

 

「さて…準備をしないとね。」

 

伏せられた目が開かれる。

その目は覚悟を宿していた。

 

「戻った時にはS10地区前線基地にお世話になろうかな。退屈せずに済みそうだ♪」

 

 

 

執務室で執務をしていたシーナがマギーに突然呼び出されたのは数分前の出来事であった。

通信室で彼女はマギー、そしてダレンと共にモニターに映っている彼女を見つめた。

黒い髪、白い肌、閉じられている瞼、柔和な笑み。

名前は分からずとも、鉄血のハイエンドモデルだという事はシーナは理解していた。

 

『初めまして、グリフィンの指揮官たち。僕の名は追跡者(チェイサー)

 

追跡者が指揮官たちと言った時、ダレンは気付いた。

この通信はこの基地以外に他の基地にも流れていると。

 

『これから僕は数あるグリフィンの基地に対し攻撃を仕掛ける。それも同時にだ』

 

『ただ簡単に君たちがやられてしまったら面白くないから、猶予を与えるよ。今から一週間の猶予を与える。それまでに準備したらいいさ。僕は準備をしていた奴らが成す術もなく無様に死んでいく姿や恐怖で歪む顔を見るのが好きなんだ』

 

『さぁゲームと行こうじゃないか。君達の勝利条件は一つ。僕を倒す、分かりやすいだろう?』

 

『そして敗北条件は君達の全滅。これも分かりやすいだろう?』

 

『という訳で、宣戦布告したからね。後は君達がどこまで足掻けるかだ』

 

『あ、そうそう。S10地区前線基地の指揮官に伝えておくよ。君達が以前壊滅させた人形売買組織に居た人型の檻を覚えているかな?内部骨格だけとなった彼女達が囚われていたと思うけど』

 

『彼女達をあんな風にしたのは僕さ♪』

 

『中々に良い声を聞かせてもらったよ。片目くりぬかれた時に出した叫び声、人工皮膚を一枚一枚剥がされた時の悲鳴ッ!特に良かったッ!!我ながら昂り過ぎて変になってしまいそうだったよ…ア八ッ、アハハハハハッ!!』

 

追跡者の狂ったかの様な笑い声が響く。

この時シーナは冷静だった。

 

「…」

 

否、怒りを通り越して冷静だった。

鋭い眼光が追跡者を睨む。

 

『おっと…話が逸れたね、ごめんごめん。そうだ、一つ伝えておくよ。幾ら僕とてすべての基地に攻撃は無理だからね。当日僕からの攻撃がなかったら、その基地は運が良かったという事だ』

 

『それじゃ当日を楽しみにしているよ』

 

通信が途切れる。

通信室内部では沈黙が訪れ、シーナは帽子を深く被った。

 

「マギーさん、緊急招集をかけて。デビルメイクライの皆やブレイクさんも呼んで」

 

「分かりました」

 

指示を受けて、マギーは通信機器を操作し始める。

基地全体に緊急招集を促し始めた一方でダレンがシーナは話しかける。

 

「今回はわしも動こう。一週間の内にやれる事をさせてもらうが良いかの?」

 

「お願いします」

 

「うむ、任された」

 

煙管を咥えるとダレンは通信室を出ていく。

 

「指揮官、緊急招集をかけました。第一会議室に来るように伝えました」

 

「うん、ありがとう」

 

「いえ。…一つお願いがあるのですが良いですか?」

 

「何かな」

 

本来であればもう少し先になる予定であった。

しかし今回の一件…厳しい戦いを強いられる。

予定を早めてまでマギーは、例の"あれ"を使わなければならないと判断した。

 

「貴女が持っている特殊仕様のコート…そこに魔の技術を組み込みたいと思っています」

 

「…」

 

「恐らく今回の一件は前触れに過ぎないと思います。今後大きな戦いを巻き込まれる可能性もあるかと。そうなれば指揮官も戦場に立つ時が増えると思われます。…思い入れがあるのでしたら無視して構いません。貴女が良ければ使わせて頂けないでしょうか」

 

そこには死んで欲しくないという思いもあった。

二十歳にも満たぬ少女を死なせたくないという思いもある。

だが魔工職人とは言え、人が大事にして居る物を魔工を組み込むのは後ろめたさもあった。

断られても仕方ないと思いながらもマギーは頭を下げた。

 

「良いよ」

 

しかし考える間もなくシーナはそれに許可した。

 

「大事な物だけど、マギーさんが言っている事も分かる。但し条件として原形は残しておいてね?」

 

「感謝します…シーナ」

 

「うん。さて…皆に事情を話したら別の基地の指揮官とも連絡を取らないとね」

 

スッとシーナの目つきと雰囲気が変わる。

間違いなくシーナ・ナギサという少女は…

 

「やるからには徹底的に。喧嘩を売ってきた事を後悔させてやるまで…」

 

かつて見せた修羅へと化していた。




という訳で次回は前々から言っていた緊急コラボ作戦と参りたいと思います。


活動報告にDevils front line「operation chase game」参加協力依頼という題目で投稿致します。
参加したい方はそちらにてご一報ください。(…参加してくれる方、居るのかな…


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Act126-Extra operation chase game Ⅰ

どちらかが勝利者となり、どちらかが敗者となる。
たったそれだけのこと。


一週間。

鉄血のハイエンドモデル「追跡達」が与えた猶予。

長く感じる筈の一週間。しかし現実はそうではない。

基地で過ごす者達によっては余りにも短い準備期間と言えた。

そして今日、追跡者が予告した襲撃日を迎えた。

各基地がいつ襲撃来ても良い様に備える一方でS10地区前線基地もいつ襲撃されても対応できるように備えていた。

ダレンの魔術によって建てられた簡易トーチカにはMG部隊が待機しており、その後方からはシルヴァ・バレトを構えた代理人を筆頭に、RF部隊が待機していた。

HG、SMG、AR、SG部隊、そしてパトローネを装備したノーネイム、錬金術士、侵入者は基地正面入口で防御壁に身を寄せて、息をひそめていた。

偵察ドローンによって敵は既に確認されており、進行ルートも割り出している。

総勢50人で構成された重武装部隊「追跡者達」は余程基地を陥落させる自信があるのだろう。奴らは正面からこの基地に突っ込んでくる気であった。

その事を受けシーナは持ち得る戦力を総動員させ、迎撃態勢を整え防衛線を展開していた。

そして最大防衛壁とまで呼ばれた悪魔狩人達とルージュは基地正面入口付近で静かに待機していた。

雲一つない晴天の下、肌を撫でる様な緩やかな風が吹くが誰も一言も言葉を発さない。

ギルヴァは無銘を杖の様にして立てると目を伏せて精神統一。ブレイクと処刑人は近くの壁に背を預け、ルージュは大鎌を肩に乗せて前方を見つめていた。

その時、シーナとマギーと共に指令室で待機していたダレンの声が無線機に響く。

 

『良いか?お主らが要じゃ。不味いと思えば引け。良いな?』

 

今回の作戦はギルヴァ達に掛かっている。

数は多くない。しかし重武装にも関わらず機敏な動きを可能とし戦闘力も侮れない上に偵察ドローンからの映像では大盾を両手に装備した個体に加え、大型チェーンソーを装備した個体、ストライカーが持つガトリングガンを両手に装備した個体まで居た。

それが一体ではなく複数体居るのであれば、断じて気の抜ける敵ではないのは明白。

幾ら悪魔の血を流す者、悪魔の腕を持つ者であろうとチェーンソーに斬り刻まれたり、ガトリングガンに蜂の巣されたら命が幾つあろうと足りない。

ダレンが言っている事も決して間違いではなかった。

だが空間を切り裂きまくる男がいれば、様々な武器を使いこなし、様々な回避行動を繰り出し、様々な銃器を扱い、様々な反撃兼防御技を使う男もいれば、特徴異なる機械仕掛けの義手を操り、凄まじいパワーを誇る悪魔の右腕を持つ人形もいる。

念には念を入れよと言うが、この者達が加わっている点では一介の基地が持つ戦力と比べるとこの基地の戦力は過剰、否その域を超えている。

名前を付けるとすれば悪魔は死ね!(Devil Must die!)と言っていいほどに。

 

「確か追跡者ってあん時の…人形売買組織をぶっ潰す時に現れたあいつらをあんな風にした奴なんだろ?」

 

一週間前の宣戦布告で追跡者が明かしたある事を確かめる様に口にする処刑人。

彼女はてっきり彼女達をあんな風にしたのは人形売買組織の連中によるものだと思っていた。

その問いが聞こえていたシーナが処刑人の問いに答える。

 

『うん。あの子達をあんな風にしたのは、追跡者によるものだよ』

 

「そうか…」

 

『…追跡者を倒すのに何か躊躇いがある?』

 

「んな訳ねぇだろ。寧ろぶちのめす敵が明確になってスッキリしていたところだ」

 

実行犯が誰であろうと関係ない。

鉄血のハイエンドモデルでありながら、何処か情に熱い処刑人にとっては追跡者の行った行為は許し難いものであった。

人形であろうとその行いは悪魔の行いと言っても差し支えない程に。

その証拠と言うべきか、処刑人は幽体化している筈のデビルブリンガーが反応しているのを感じていた。

 

「その追跡者以外にも他の組織が関わっている気がしてならないぜ。俺と戦ったジャパニーズムシャみてぇな奴らも人形が素体として使われていたようだが…。婆さん、何か知ってるんじゃねぇのか?」

 

『何故わしだと思うんじゃ?』

 

「さてね。何となくそう思っただけさ」

 

肩を竦め、ブレイクは傍に立てかけてあった二対の重火器を手に取った。

形状からしてそれはランチャーと呼ばれるものであった。但し改造が施されているのか砲口下部にはバヨネットが、噴射口上部にはマイクロミサイルを放つポットが。

弾種を使い分ける事が出来るのか専用マガジンが二つも装備されていた。

重量のある代物だというのにブレイクは軽々と構える。

これはマギーが独自に開発した多機能大型ランチャーである。そして何よりもこの二つにはとある機能が組み込まれており、その事を製作者本人から聞かされたブレイクはつい笑ってしまったらしい。

彼曰くまるで魔法の杖みてぇだとの事。

 

「それで?いい加減待ちくたびれたんだが?」

 

『心配しなくても、もうすぐそこまで来ていますよ』

 

マギーの一声にブレイクの表情が変わる。

同時にギルヴァも伏せていた目を開き、先を見つめた。

長く続く道。その奥から黒い衣装に身を纏った集団が隊列を組んで猛スピードで基地へ向かってきていた。

一週間前に宣戦布告してきた追跡者と同じ姿をした者達の姿。

偵察ドローンが映し出した映像通り、両手に大盾を、大型チェーンソーを、ガトリングガンを両手に装備した追跡者達。

本体ではない。ダミー部隊だ。

この場に居る誰もがそれを確信し、手にしている銃器の安全装置を外し狙いを定めた。

わざわざダミー部隊だけをよこすには何らかの理由があるのだろう。

だがその理由を知る気などこの者達にはない。

敵なら潰すまで。それ以外の理由など要らないのだ。

 

『全員良い?数は多くないけど、その分戦闘力は侮れない。特にチェーンソーを持った個体には気を付けて。あれの一撃をまともに喰らえば只では済まないから』

 

指令室で特殊仕様に加えマギーによって魔の技術が施されたコートを肩にかけたシーナは被っていた帽子を深くかぶった。

スッと目つきが変わり、彼女は言葉を続けた。同時にその言葉は開幕を知らせる声となる。

 

『始めましょう。…ブレイクさん、ライブの合図を!!』

 

「オーケイ!!パァーと派手なライブと行こうかッ!」

 

大型ランチャーを肩に構えながらブレイクは高らかに叫ぶ。

反動は凄まじいものにも関わらず、気にする事もなくミサイルを連射。

無数のミサイルがそれぞれの軌道を描き、追跡者達にへと向かって行き襲い掛かる。

着弾し爆発音が周囲に鳴り響き、爆炎が舞い上がった。

しかしそれを物ともせず、追跡者達は爆炎の中から飛び出してきた。

どうやら大盾を装備したダミー達がブレイクの攻撃を防ぎ切った模様であった。

そして追跡者達は隊列を崩すとS10地区前線基地に向かって突撃。

 

『攻撃開始ッ!!全員―』

 

『―撃てぇッ!!!』

 

敵は動き出した。シーナが攻撃指示を飛ばし全員が銃の引き金を引く。

けたたましい程までの銃声が連鎖し、ブレイクの言う通り派手なライブが今開幕を告げた。

 

 

各地で起きたグリフィンの基地に対する追跡者達による襲撃。

拠点でダミー達の行動を見つめていた追跡者は画面を見つめながら、ニヤリと笑みを浮かべた。

目は見開かれ、その笑みは狂気そのもの。

 

「さぁ!始めよう!」

 

どちらが勝つか。

どちらが負けるか。

それには誰にも分からない。

追跡者にとってはその分からないが何よりも刺激的であった。

 

「ゲームの開始だ!!」

 

腕を広げ、追跡者は高らかに宣言した。

そしてそれを聞いていた者が一人。

 

「ゲーム…ねぇ」

 

その者は小さく呟く。

壁に身を寄せ、手に持っている起動スイッチらしきものを眺めながら。

何の為にあるのかは分からない。分かるのはそれを手にしている彼女…夢想家だけだろう。

彼女はフッと笑みを浮かべるとその場から離れていく。

 

「悪いけどルールは変えさせてもらうわね、追跡者」

 

言葉は追跡者に届く事はない。

夢想家は静かに奥へと通ずる暗闇の中へ消えていった。




という訳で今回からはコラボ作戦「operation chase game」開幕でございます。
またブレイクが持っていた二丁の大型ランチャー…まぁ分かるかな。
同時にシーナにも新たな力を与えていますが、そちらに関しては追々。
さて今回のゲーム…普通に終わるのだろうか

今回参加する方々も何卒宜しくお願い致します。

では次回ノシ

※間違えて内容が途中のままのを誤操作で投稿してしまい、一度削除させて頂きました。ご迷惑をお掛けしました。


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Act127-Extra operation chase game Ⅱ

―さぁ第二ラウンドだ


耳を防ぎたくなるような銃声が響き渡る。

襲撃側と防衛側による戦闘は開戦早々激化していた。

ただ基地の制圧は後回しにしているのか、偶然にもS10地区前線基地を襲撃してきた追跡者達は何故かギルヴァやブレイクを優先的に狙っている節が見られた。

何らかの情報を得ていたのか。あるいはS10地区前線基地だけに対しては近接戦を仕掛けてくる者を優先して狙う様にプログラミングされているのか。どちらせよ二人を狙っていた。

ガトリングガンを両手に装備した追跡者は人形を優先的に攻撃していたが、大盾、大型チェーンソーを装備した個体に限ってはギルヴァやブレイクの他、処刑人やルージュにも反応したのか二人も狙っていた。

 

「くたばりやがれッ!!」

 

処刑人がスロットルを捻ると推進剤噴射機構が唸る。

噴き出す炎によって斬撃が加速。大盾を両手に装備した追跡者へ目掛けてクイーンを振りかぶる。

だが反応速度は今まで見てきた鉄血の人形とは一線を画すのか追跡者は上手く処刑人の渾身の一撃を盾で弾いた。

勢いが付いていた事もあり弾き返された時の反動は凄まじく、態勢が崩れそうになる処刑人だが素早く体を後ろへ回転しつつ跳躍し距離を取った。

攻撃へと転じようとした時、処刑人は目を見開く。

 

「!」

 

彼女に迫るは大型チェーンソーを持った追跡者。

エンジン音唸りを上げ、高速回転する刃が処刑人を斬り刻もうとする。

着地した瞬間でもあった為、咄嗟の反応に遅れる彼女。右腕に装備している義手はトムボーイだった為、直ぐに回避行動へと移行できない。

そこに大鎌を持ったルージュが飛び出しチェーンソーを持った個体に飛び蹴りを叩きこみ着地。大鎌を振るい目の前にいた追跡者の体を盾ごと一閃。

上半身と下半身が分かれ、地面へと崩れる追跡者に目をくれる事もなく、ルージュは敵を睨む。

 

「すまねぇ!助かった!」

 

「お気になさらず。当然の事をしたまでです」

 

振り返りニッコリと微笑み返答するルージュ。

そして彼女は先程から感じている違和感について尋ねた。

 

「それよりも気付いてますか?ダミー部隊とはいえこいつら…」

 

「ああ。微かにだが魔の気配がある。これであっち(鉄血)も魔の技術を得たって事がはっきりしたぜ」

 

「そうですね…。さて、おしゃべりは此処までにしましょうか」

 

「だな。あいつらに負けれらんねぇよ!」

 

処刑人とルージュはちらりとある方向を見た後、襲い掛かってくる追跡者達へ駆け出す。

二人がちらりと見た方向。

そこにはチェーンソーを持った個体と盾を持った個体の群に囲まれながらもそのど真ん中で大立ち回りするギルヴァとブレイクの姿があった。

後方から挟撃しようしたチェーンソー型の突撃を躱すと二人は対角線上に居た盾持ちに向かって一閃。そこから体を翻して地面を蹴り移動。そのまますれ違うと飛び掛かってきたチェーンソー型に一撃を浴びせると同時に自身の後方にいた盾持ちへと向けて吹き飛ばす。

斬られて辛うじて息があった二体のダミーは勢いよく飛んで行き、吸い込まれる様に盾持ちに直撃し跳ね返り再び彼らの後方へ戻ってくる。

跳ね返ってきたそれを躱した同時にギルヴァは無銘の、ブレイクはリベリオンの刀身を突き立て突進。

お互いがスティンガーを放ち、中央で二体を吹き飛ばす。

そしてギルヴァが片足を軸にして回転しつつ無銘の刀身を薙ぎ払い、背中合わせとなったブレイクが頭を逸らしてそれを避けると愛銃のフォルテとアレグロを抜き取り敵へ向けて連射する。

 

「やれやれモテモテだな俺達!握手会でもやっておくかい?」

 

「一人でやっていろ!」

 

この状況にも関わらず吞気な事を言うブレイクに対しギルヴァがツッコミを入れる。

にも関わらず見事な連携を披露していく二人。

もはやこの戦闘は二人が暴れ回っている事もあって、追跡者達の数は次々と減らしていく。

 

「大立ち回りだな。接近戦だけあんなに減らしているとは。あの二人がいなかったらどうなっていたやらか」

 

「確かにね。ここの皆もそれなりに強い筈なんだけど今回は少し厄介だわ。ガトリングガンを両手に装備しているあれもそうだけど、ダミーにしては動きが良すぎるわ」

 

「ダミーの戦闘力は普通に侮れないと思うが?」

 

「普通のと比べたらの話よ。下手したらあんたらと渡り合えるんじゃないかしら?それに何故かしらね…あいつらを見ていると薄気味悪いのを感じて仕方ないのよ」

 

錬金術士がそう言葉にすると偶然にも隣にいたUMP45が険しい表情で追跡者達を見た時の正直な感想を漏らした。

悪魔が関わる案件を何度か経験した事もあったからこその台詞であったが、45の台詞は決して間違っていなかった。

ほんの少しであるが追跡者達には魔の技術が施されている。下手をすれば下級悪魔程度あれば難なく倒す事が出来る。

その恩恵もあって身体能力が向上しているのだ。でなければ重武装にも関わらず機敏に動く事はまず不可能であろう。

 

「やれやれとんだ場所に来てしまったな。生命保険でも掛けておくべきだったか」

 

軽く肩を竦め吞気な事を言いながら銃撃を続ける錬金術士。

その隣で45は新たな弾倉を差し込み敵へと構えるとニヤリと笑みを浮かべ彼女へ尋ねる。

 

「そんなものあると思ってる?」

 

「ハッ!思う訳ないだろう!」

 

身を出し、銃の引き金を引く二人。

それと同時に防衛側の弾幕はさらに激しくなる。

一方でRF部隊混じって代理人は正確な狙撃でシルヴァ・バレトを放っていた。砲撃音と共に29mmの砲弾が砲口からはじき出され、狙い定めたガトリングガン型をバラバラに吹き飛ばす。

槓桿を操作し排莢、装填。そして砲撃を続ける。

代理人の相棒として君臨しているシルヴァ・バレト(銀の弾丸)は魔の人形達に喰らい付いていく。

 

「全くでたらめも良い所ね、その銃は」

 

「今更何を。もう見慣れたでしょう?PzB39」

 

代理人で隣で狙撃していた彼女は呆れた表情を浮かべる。

黒い髪に赤い瞳。軍服を彷彿とさせる衣服。

そして長大な対戦車ライフルを放つのはRFの戦術人形 PzB39だ。

最近ここに所属した人形ではない。シーナが着任して暫く経った時に彼女は所属した。

 

「それでもよ。それを普通に操る貴女も相当だけど」

 

「それを言われたら反論できないのが辛いですね。それで?私の化物喰らい(シルヴァ・バレト)に怖じ気つきましたか?」

 

「まさか。大物喰らいに化物喰らい…中々に面白い組み合わせじゃない」

 

同時に二人が動き出す。

発砲から手早く槓桿を操作し排莢装填。

薬莢が地面を跳ね、二人の銃が火を噴く。

狙いは別々。そして吐き出された弾丸は敵を穿ち破壊する。

勝手にヒートアップした二人であるが、それに鼓舞されたのか周囲のRF部隊の命中率が上がっていく。

防衛側の強烈な攻撃により追跡者達は次々と倒れていく。

しかしギルヴァとブレイクは戦いながらもある違和感を感じていた。

 

「大口を叩いた割には呆気ねぇな。…何かあるな」

 

「ああ。こいつらからは微量の魔力を感じられる。策を講じているのは明白だろう」

 

基地を陥落させるには追跡者が放った重武装部隊『追跡者達』の数は少なく、開戦してから30分足らずで追跡者達は壊滅寸前まで追い詰められていた。

宣戦布告していた割には随分と呆気なさ過ぎる。

それが返ってギルヴァとブレイクには違和感でしかなかった。当然ながら処刑人にもルージュもそれを感じ取っていた。

そうこうしている内に最後の個体が蜂の巣にされ地面へ倒れる。

戦場は静まり返り、硝煙の匂いが周囲に漂う。地面に無数に転がる薬莢と倒された追跡者達の亡骸。

戦いに勝利した実感が沸かない。寧ろまだ何かあるという不気味な雰囲気が辺りを包む。

 

「シーナ指揮官、油断なさらぬ様に。…勘でしかありませんが嫌な予感がします」

 

『分かった。…私もそんな感じがしてたから』

 

 

 

「まさかこんな事が…」

 

拠点で放った追跡者達が全滅した事を受け、本体である処刑人は顔を俯かせていた。

自信があったのか。あるいはそれ以外か。

顔を俯かせたまま、彼女は動かない。余程ショックだったのだろうか。

ふと追跡者の体が震えた。怒りか、いや、その反応は…

 

「…ククッ……アハッ…アハハハハハッ!!!」

 

可笑しくたまらないといった反応であった。

体を仰け反らせ、手で顔を塞ぎ壊れた笑いを続けていた。

笑いながら彼女はコンソールパネルを操作し始めた。

 

「何て言うとでも!?この程度ッ!!想定の範囲内さッ!!ハハハッ!ハハハハハッ!!!!」

 

追跡者の笑いは止まらない。

響き渡る笑い声。もはや彼女は狂っていた。

暴走による狂いではない。根幹部分で狂っていた。

 

「倒してくれてよかったのさッ!!どんな方法で倒そうとも問題ないのさッ!ハハハハハッ!!」

 

すると画面にとある文字が浮かび上がる。

そこにはこう記されている。

 

Trismagia(トリスマギア) system』

 

もしこの名をマギーやダレン、グリフォン、フードゥル、そしてギルヴァの中で存在する蒼が見ればトリスマギアが何なのか答えたであろう。

トリスマギアとは魔界に存在する悪魔の名であり、三つの顔を持つ。

暗黒の知識を信奉する魔の賢者たちであり、三つの顔はそれぞれ炎、氷、雷を操り、一つの顔へ合体すれば莫大な魔力を生み出す事が出来ると言われている。

 

「あー…笑った。さて、第二ラウンドと行こうじゃないか」

 

何の躊躇いもなく、追跡者はそのシステムを発動させた。

 

 

 

「…」

 

その光景を見てギルヴァは沈黙を貫いていた。

もはやそれは予想出来た事であった。

突如として倒した筈の亡骸たちが動き出し、一つの何かを作り出したのだ。

肉と骨は一つとなり、装備していた武器は巨大な武器と化していく。

鈍い音と駆動音が交差する様に響き合い、最後は死体たちで出来上がった化け物を姿を現した。

右腕を纏う様に複数のチェーンソーが円状に配置され、まるでドリルの様に回転しており、左腕はガトリングガンを何重にも束ねたものを装備。そしてその化け物…トリスマギアの周囲には無数の大盾が浮遊しており、いつでも攻撃を防げるといった雰囲気を出していた。

それぞれが持っていた魔力が一つになった影響で右腕から炎が噴き出し、左腕には雷が迸り。体から冷気が漂う。

ダミー達が残したパーツで組み上げられ、醜悪な姿へと成り果てた化け物。右半身は内部骨格がまる見えに対し左半身は生体パーツがそのまま残っていた。

いびつで醜悪。人口血液が滴る中、トリスマギアはギルヴァ達を睨んだ。

 

「やれやれ、本番はこっからみてぇだな」

 

フォルテとアレグロをホルスターへと納めると肩を竦めるブレイク。

そして背に背負っているリベリオンの柄へと手を掛け、構える。

 

「こうなりゃ悪魔とそう変わんねぇな。前の姿が好みだったぜ」

 

「あれを相手してんのによくそんな事が言えるよな」

 

漸く本番。

さっきまでの戦いは処刑人とって準備運動に過ぎなかった。

体が漸く温まってきた。獰猛な笑みを浮かべるとクイーンの切っ先を地面に宛がい、スロットルを捻る。

クイーンの低く唸る音が響き渡り、防衛側も何時でも動き出せる様に既に臨戦態勢を整えていた。

もうすぐ第二ラウンドが開幕を告げる。そしてそれは処刑人の声で告げられる。

 

「漸く本気になれそうだぜ…!!」

 




という訳で本体が発動させた「トリスマギアシステム」により倒したはずの追跡者達の亡骸が一体化を果たし化け物と化した「トリスマギア」の登場です。

攻撃手段は右腕の多連装突撃剣(所謂グラインドブレード)による突撃及び薙ぎ払い。
左腕の何重にも束ねたガトリングガンの掃射及び周囲に浮遊している大盾を飛ばしてきます。
その他にも火炎放射を行ったり、落雷を落としてきたり、氷の槍を飛ばしてきたりします。
また浮遊している大盾を自身の周囲に浮遊させ、一定時間防御形態を取ります。不用意に近づけば大盾を飛ばして反撃してきますので注意。


では次回ノシ




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Act128-Extra operation chase game Ⅲ

―普通に終わる事はない


醜悪な巨人は高らかに空へ向かって咆哮する。

その行為は何を示すのか誰にも分からない。最早悪魔と成り果てたそれが何をしようが理解する必要などないのだから。

ただ彼ら、彼女達は目の前に巨人…トリスマギアを討つだけ。

嵐の様な弾幕と剣戟が襲い掛かり、対する相手は盾を用いて攻撃を防ぎながら反撃する。

右腕のチェーンソーは振るえば熱風と炎が舞い上がり、左腕の何重にも束ねたガトリングガンが猛威を振るうと同時に接近戦を仕掛けるギルヴァ達を落雷が狙い、盾を飛ばすと同時に氷の矢が飛んでくる。

相手に反撃を与えないトリスマギアの猛烈な攻撃は自然とS10地区前線基地側を苦しめる要因となっていた。

 

「くそっ!!盾で弾かれる!」

 

『MG部隊!全員トーチカから引いて基地へ後退して!!そこに籠ってたら狙われる!MG5、指示を飛ばして皆を下がらせて!』

 

「了解した!!…全員聞いたな!トーチカから出る!!攻撃しつつ下がるぞ!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

指示が飛び、MG部隊はすぐさまトーチカから飛び出ると基地へ後退を開始。

幸いにもトリスマギアの狙いはギルヴァ達へと向いており、彼女達は素早く基地へと後退。陣形を立て直し、そこからトリスマギアに対して銃撃を再開する。

しかしこのままでは相手が倒れる前に弾薬が尽きるだろう。それまでにトリスマギアを倒さなくてはならない。

肩に掛けたコートに手を伸ばすシーナ。それを見つめる眼差しは真剣だ。

装飾が施され、何処か上品な雰囲気を感じさせるコートは元からある特殊仕様の上にマギーが施した魔の技術が施されていいる。そしてこれがどういったものなのかは製作者本人から聞いているし、試運転も済ませてある。

人が使うには過ぎた代物。しかし必要ならば使わなくてはならない。

幸いにも"彼"は協力的で、もう一人も言う事を聞いてくれる。

 

(いざという時は()()()()()()()…)

 

指令室で指示を飛ばしながら彼女は密かに覚悟する。

そして彼女はマギーとダレンを呼び寄せ、ある事を伝える。

普通なら反対すべき事なのだが、巨人を相手するならシーナの力が必要となる。

どのような力なのか知っている為、マギーもダレンも判断に困った。

しかし消耗は避けなくてはならない。

シーナも、そして二人もこの戦いはまだ終わらないと感じていた。

故に巨人との戦いは早々に終わらせる必要があった。

二人が出した答えは―

 

 

 

 

「ッ!」

 

トリスマギアへと駆け出しクイーンを振りかぶる処刑人。

しかし近づけさせんと火炎放射が行く手を阻むがワイヤークローを射出しトリスマギアの体に突き刺し、炎が当たる前に高速移動。

氷の矢が飛ばされ撃ち落とすそうとするが、そこにブレイクがフォルテとアレグロを連射し氷の矢を次々と撃ち落していく。

反動を活かしてトリスマギアの頭上へと飛び上がる処刑人。重力に従う様に降下し始めると右腕のトムボーイを起動させた。

噴射機構が高らかに咆える。トムボーイによって出力を最大まで上げられた女王(クイーン)は言う事の聞かない大暴れ女王(ランページ・クイーン)へと化す。

 

「ぶちまけろ!!」

 

宙で一回転し反動をつけてからクイーンを勢いよく振り下ろしロケットの様な速さで急降下。

トムボーイにより最大出力に上げられ、噴き出す炎が斬撃の威力を増幅。向かってくる処刑人に対し大盾を展開し動きを止めようとするトリスマギアであったが、この男がそれを許さない。

 

「よそ見している暇があるのか?」

 

ふと聞こえた声。黒いコートの男が刀身を鞘へと納める音が響くと突如としてトリスマギアのバランスが崩れる。

足元を見れば左脚部が中ほどが綺麗に切断させており、先程まで繋がっていた自身の一部が地面を転がっていた。

痛みの叫びを上げる間もなく、強烈な一撃が襲う。

魔剣と渡り合える程の強度を持つ分厚い刀身がトリスマギアの頭に叩きつけられた。体を真っ二つにとは行かずとも真っすぐと歪みのない刀痕が刻まれる。

地面に着地し、すぐさまその場から後退する処刑人。

 

「aaaaaaaaa!!!」

 

噴き出す鮮血と共に悲鳴を上げるトリスマギア。醜悪な姿をしているというのに、その声だけは女性そのものだ。

しかしその悲鳴によってトリスマギアはさらに暴れ出す。浮いていた無数の大盾を自身の周囲に高速移動させ、防御形態を展開。隙間からガトリングガンによる掃射を開始したと同時に右腕はチェーンソーをドリルの様に高速回転させた。

何かやるつもりだ。それもかなり大きいものを放つ気なのだと誰もが察し、それを阻止せんと銃撃を続ける。しかしトリスマギアの周囲に高速移動する大盾達によって弾丸は弾かれる。

 

「くっ…!」

 

遠距離攻撃が駄目なら接近戦を仕掛けるまで。

トリスマギアに突撃するルージュであったが大盾と氷の矢が飛来。大鎌を振るいながら飛んでくるそれらを打ち払うが、そのせいで足を止められる。

このままでは相手の一撃が飛んでくる。それまでにあれを止めなくはならない。

 

『避けてごらんなさい…!』

 

その時、基地の後方から流星が駆け抜けた。

流星に対し無数の大盾が行く手を塞ぐが意味などない。ニーゼル・レーゲンのレールガン形態による最大出力で放たれた一撃は盾を容易く貫き、トリスマギアの左腕を穿ち吹き飛ばす。

直撃の反動は凄まじさを物語る様に左腕は空高く舞い上がり、同時に防御形態も解除される。

しかし右腕のチェーンソーは未だに回転し続けている。だがダメージが貰い過ぎたのか回転は段々と弱まりつつあるのだがトリスマギアに戦意は失われてなどいない。

そこに二人の男が醜悪な巨人の前に立つ。

 

「そろそろ決着か」

 

「その様だな」

 

リベリオンを構えるブレイク、無銘を構えるギルヴァ。

止めを刺そうとした時、この場に来てはいけない人物が姿を見せた。

グリフィンの赤い制服の上からかけられたコートを揺らめかせ、彼女はトリスマギアを睨んでいた。

その者を見て、処刑人が驚き、ルージュが叫ぶ。

 

「シーナ指揮官、何でこんな所に居るのですか!?下がってください!!」

 

トリスマギアとは距離は比較的離れているが、危険な事には変わりない。

相手が動き出す前にルージュが傍へ駆け寄り、その場から下がらせようとするがシーナは手を上げて制した。

 

「大丈夫。直ぐに終わらせるから。―来なさい、()()()()

 

その声と共に肩に掛けたコートから何かが飛び出した。同時にコートの色が脱色したかの様に黒から灰色へと色を変える。

コートから飛び出したそれは影の様で、とある動物へ擬態するとトリスマギアへ向かって一直線に走り出し右腕へと跳躍。

動物から回転する刃へと姿を変えると高速回転。斬り刻むと勢いのままに内部骨格もろとも腕を斬り落とし、後ろへと飛びあがりシーナの前へと降り立った。

彼女の前に降り立ったのは、一匹の黒豹であった。それが悪魔だと言う事はルージュも気付いており少しばかり身構えていた。

 

「おうおう、初登場だから張り切ってんなぁ?ネコちゃん。それともネェちゃんにカッコイイ所見せてぇから張り切ってる?」

 

何時の間に居たのだろうか。グリフォンが二人のそばで羽ばたいており黒豹を「ネコちゃん」と呼びながら現れた。

この状況下にも関わらず軽口を叩けるのはブレイクとグリフォンだけであろう。

 

「…」

 

「あん?今はそんな話をしている暇はない?そりゃそうだな!ネェちゃん、やっちまいな!」

 

言われなくても、と返答するシーナ。

状況について行けず、一体なにをする気なのか分かる訳がなく、ルージュは尋ねる。

 

「シーナ指揮官、一体なにをなさるつもりで…?」

 

「あれを叩きのめす。…ギルヴァさん、ブレイクさん、そこから離れて巻き添えになる」

 

どうやってとルージュが問う前に、シーナは空へと向かって指を鳴らした。

影が空へと飛び出したと同時に灰色だったコートは白色へと変わり、何かの影響かシーナの髪の色も黒から白色へ変色。

何をやったのか分からない。ただ彼女が肩に掛けているコートから飛び出していったそれから大きな魔の気配を感じ取ったギルヴァ、ブレイク、処刑人、ルージュ。

何かデカい事をやる気だと察したギルヴァとブレイクはトリスマギアから素早く離れる。

そして次の瞬間、トリスマギアの目の前で何かが飛来した。

 

「な、何だぁ!?」

 

「何かが落ちてきた…!?」

 

大きな爆発と轟音が周囲に響き渡り、衝撃波が奔る。

そんな中でギルヴァとブレイクは平然としていた。

落ちてきた何かについては既に検討が付いている。先程感じた大きな魔の気配、恐らくそれによるものであると。

そしてその予想は当たっていた。

トリスマギアの目の前で飛来してきたそれは球体であった。そこから広がっていく泥の様な、スライムの様なものが次々と溢れ出していき、形を作り上げていく。

そして最早この世の物とは言えない一体の巨人が姿を現した。

 

「おい、あれは…!」

 

指令室でシーナが召喚したと思われる巨人を見てダレンは驚きの声を上げ、マギーは頷き肯定する。

姿こそは違うがその気配は忘れる筈もなかった。

それはただ破壊だけを生み出す化け物。しかし制御の問題から魔界すらを滅ぼしてしまうの力を持った存在。それが何故エンブレムの状態となって人間界に流れ着いたのかは誰にも分からない。

しかしだ。こいつを"悪夢"と称しなければ、一体何が悪夢の名に相応しいのか。

魔帝によって生み出されしそれは新たの姿となって悪夢を見せる為、一人の少女に仕える無敵の従者として、悪夢(ナイトメア)はこの人間界に現れる。奇しくもナイトメアの魔の反応は一部に知られてしまうのだが、シーナがそれを知る由もない。

巨人(トリスマギア)巨人(ナイトメア)。この二体が真正面からぶつかれば何が起きるのか分からないが、残念ながらトリスマギアは既に満身創痍。真正面からぶつかる事はないだろう。

どちらかと言えば一方的な展開になるのだが、ナイトメアは攻撃しなかった。

訪れたほんの少しだけの沈黙。満身創痍のトリスマギアへ向かって、シーナは話しかける。

 

「聞こえているのか分からないけど、勝手に喋らせてもらうわ」

 

それはトリスマギアに対してではない。彼女は聞いているか分からない追跡者本体へと話しかける。

同時にナイトメアが両腕で振り上げていた。

 

「こんなのゲームではない。それと…」

 

冷静に、そして淡々と告げるシーナ。

実は彼女は相当キレていた。ただ口調が変わっていない点ではまだ完全にブチ切れていないのだろう。

そしてそれは偶然か。シーナの台詞は追跡者本体にも届いており、また追跡者本体も操作ミスでシーナの声が別の基地の面々に聞こえる状態となっていた。

それを知らずにシーナは口調を変えて追跡者に宣戦布告する。

 

「次はお前だ、鉄屑(チェイサー)

 

言い終えた瞬間、ナイトメアの剛腕がトリスマギアへと振り下ろされた。

その一撃はトリスマギアの体を押しつぶし、破砕音が響き渡る。

舞い上がる土埃の中、潰され残骸となったトリスマギアに見向きもせずナイトメアはただ沈黙を貫くのだった。

 

 

 

 

「次はお前、か…」

 

S10地区前線基地に放ったトリスマギアが撃破され、シーナからの宣戦布告を耳にした追跡者は小さく呟いていた。

まさか向こうから自分に宣戦布告してくるとは思わず、つい笑いだしそうになるが何とか抑える。

その気ならやってやろうじゃないかと思った時、追跡者の居る部屋に夢想家が姿を見せる。

 

「一体やられたみたいね?」

 

「ああ。やれられる前に向こうから宣戦布告貰ったよ。如何やら次は僕の出番みたいだ」

 

「そのようね。でも…」

 

その笑みは一見優雅に見えても注意深く見れば怖く感じさせる。

注意深く見ていなかった追跡者に対し夢想家はずっと手にしていたスイッチを押した。

それに反応する様に追跡者の体に異変が起き始め、突然の事に本人も何が起きているのわかっていない様子だった。

 

「な、ナニ ヲ シタ…!?」

 

「折角の宣戦布告なのよ?このまま普通にやるのも面白くないじゃない」

 

それは第三ラウンドを予告させるもの。

叫び声を上げる事すら許されず追跡者は()()へと姿を変えていく。その様を見届けながら夢想家はクスクスと笑いながら部屋から去っていく。

どうせここは破棄する予定だ。残していたあの二体も動かして相手の戦力を少しでも減らしてもらおう。

 

「性格は嫌いじゃなかったけどね。…でも所詮貴女は都合良いの道具なのよ、追跡者」

 

 

 

「まさか…最初から切り捨てるつもりだったのか」

 

電子の海で彼女は険しい表情を浮かべる。

本来であれば体を取り戻して、偽物を破壊しようと思っていた筈が夢想家によって不可能となった。

こうなれば自分一人でどうする事も出来ない。

 

「だーもう!スペアを用意しないといけないじゃないか!それにあっちにも連絡しないといけないし!」

 

予定通りに行かなかった事に不満の声を上げながら、彼女は即座に動き出す。

現実で()()へと成り果てた偽物が咆哮を響かせるのを耳にしながら。




てな訳でシーナちゃん…まぁそういう事や。
それと最後の二人?…それも分かるかな。

さてこっからは…最終局面の一歩手前かな?
参加している方々の進行具合をみて展開します。

(最終局面に関しては追加依頼という形を取ります。ただそちらに関しては強制ではありません。トリスマギアを倒して終わりでも構いません。皆様の進行具合を見てから、活動報告にて追記なり、新たな投稿するなり致します)


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Act129-Extra operation chase game Ⅳ

―第三ラウンド開幕まで数時間


シーナが召喚したナイトメアによる攻撃によりトリスマギアは完全に沈黙。

幸いにも基地の損傷及び人形達に怪我はなく、彼女達は訪れた束の間の安息に胸を撫でおろした。

しかし数十分後に突如として入ってきた通信によって、戦いはまだ終わっていないのだと気付くのは最早時間の問題と言えた。

そして通信室で基地の指揮官としてシーナは通信を入れてきて来た相手と相対していた。

画面に映る相手に睨みを効かせながら。

 

『あー…えっと、こうして話すのは初めてかな?』

 

画面に映し出されているのは、あろうことかあの追跡者。

しかし雰囲気が違う。どこか気まずそうにしている。

それはシーナにとって十分すぎるほどに大きな違和感であった。

 

「初めて?一週間前の事をもう忘れたというの?随分とおめでたい頭をしてるね。…死ぬ前に懺悔しに来たなら諦めた方が賢明と言っておくよ。懺悔を聞いてくれる神様は有給を取ってベガスへ旅行しに行ったから」

 

捲し立てる様に言う事を伝えて通信を切ろうとするシーナ。

それに対し追跡者?は必死の形相で通信を切らないでと説得する

 

『待って待って!姿は本体と同じだけど中身は違うんだから!!』

 

「…どういう意味?」

 

()()()()()

その言葉が引っかかったのか、通信を切るボタンが押される直前でシーナはその手を止める。

通信を切られる事がなかった事に相手は安堵の息を漏らした。

器がない状態では出来る事も限られる。そして収拾が付かなくなる程までに事態は深刻化している事は追跡者?は理解していた。

この事態を解決するには複数の基地に頼み込むよりも先にこの基地…否、悪魔との戦いを幾度どなく関わってきた狩人たちの力が必要不可欠だった。

 

『この姿だと紛らわしいと思うけど許してほしい。今はこの姿しか用意できなかったんだ。…初めまして、S10地区前線基地の指揮官。僕の名はGrave guard(墓守)。本体の…本来の性格というべきかな』

 

一週間前に宣戦布告した追跡者と比べると確かに性格の違いはあると思うと同時にシーナは疑問に思っていた。

画面に映っている墓守の性格が本来のものであるなら、あの追跡者は一体何者なのか。

それを見抜いていたのか、あるいは説明すべきと判断していたのか墓守は話し出す。

 

『僕は生み出されながらも採用されなかった人形なんだ。保管庫…僕は墓場(Grave yard)って呼んでるけどね。そこに放り込まれた後に体と意識は切り離され、意識だけとなった僕はずっと眠っていた。それからどれくらい経ったか忘れたけど、偶然意識だけが目覚めた。気付いた時には体を奪われ、性格は夢想家っていう人形によって新たな性格が植え付けられていた。それがあの追跡者なんだ』

 

「成程。…つまり貴女が私達に連絡をしてきたのは本体を破壊してほしいという事でいいの?」

 

『本体を破壊して欲しいという点ではあってる。ただ…』

 

「ただ?」

 

『どうやら魔の力?それによって暴走した本体を破壊して欲しいんだ』

 

「…」

 

それを聞いてシーナは驚かなかった。

何度もその力によって姿を変えた者達とこの基地は戦ってきた。もう慣れた上に今回もそれが関わっているであろうと彼女は内心予想していた。

鉄血がどうやって悪魔の技術を取り得たのか分からないが戦う理由にはなる。

だがとある懸念が一つあった。

 

(信憑性に欠ける…)

 

姿が同じという事もあるが、追跡者が暴走しているという確固たる証拠がない。

それに加え墓守という存在は追跡者による自作自演ではないかという疑いもある為、はい、分かりましたと言って鵜呑みにする訳にも行かなかった。

本当に追跡者が暴走している事を尋ねようとした時、いつ居たのか通信室の出入口でその者は壁に背を預けその場で佇みながら口を開いた。

 

「成程。通りで変な気配が遠くから感じられる訳だ」

 

「ブレイクさん?どうしてここに」

 

背を預けていた壁から離れブレイクはシーナの傍に歩み寄った。

 

「ギルヴァに言われてその気配の事を伝えに来たのさ。どうやらそれも必要ないみたいだが」

 

「という事は彼女が言っている事は本当に…」

 

「あっちがどういう風に言ってきたのか知らねぇが、確実に面倒ごとが起きている点については間違ってないと思うぜ」

 

普段と変わらぬ態度。

先程まで激闘を繰り広げていたにも関わらずブレイクに疲れている様子はなかった。

 

「ところで画面に映っているお嬢ちゃんは誰だい?紹介してくれないか」

 

「彼女は墓守。どうやら追跡者の本来の人格と言うのかな…」

 

「ふーん…まぁ細かい事に興味ない。で?墓守の嬢ちゃん。パーティー会場は分かっているのかい?」

 

突然話しかけられ、一瞬だけであるが肩が跳ねる墓守。

そんな様子を見てブレイクは気にする様子もなく、彼女は急いでパーティー会場がある地図を画面に映し出した。

S地区から遠く離れたパーティー会場。フェーンベルツほどではないにしろ遠い事には変わりなかった。

追跡者が暴走している以上、陸路では時間がかかり過ぎる。空路で向かって行くのが最適と言えた。

 

「やはりのう。パーティー会場はあそこであったか」

 

何よりもその場こそシーナの付き添いで来ていたダレンが知っている場所であった。

彼女とて一度訪れた場所が会場になるとは思っていなかったが、薄っすらとだが予想はしていた。

追跡者と出会った時はあの場所であった。

そして追跡者の終わりもそこで迎える事はなる。それはある意味運命のようであった。

 

「知ってるのかい、婆さん」

 

「うむ。お前さんらと合流する前に下見にして行ってたのじゃ」

 

「内装はどうだった?」

 

「悪魔どもの墓場にするのであれば最高級と言っていいぞ」

 

「ハハッ!そりゃいい」

 

勝手に盛り上がっている二人を他所にシーナは墓守へ話しかける。

 

「場所は把握した。それで敵は暴走している追跡者のみ?」

 

「ううん。本体以外に確認出来ているのは二体いる。正直言って化け物みたいな姿している」

 

「特徴は?」

 

「一体は宙に浮かんでいて六枚の羽?みたいなのが特徴で、もう一体は巨人で怪力を誇るタイプだった。もしかしたら他にもいるかもしれない」

 

追跡者以外化け物…魔物が二体いる。

どんな能力を持っているか分からない。決してギルヴァや処刑人、ルージュ、傍でダレンと話しているブレイクの実力を疑っている訳でない。

しかし念には念を。シーナは後ろで控えていたマギーへと伝えた。

 

「マギーさん。他の基地に応援連絡を入れてください。どこでも良い。片っ端から連絡して」

 

「了解致しました。…作戦名は何にします?」

 

「作戦名…そうだね」

 

ブレイクやダレンは追跡者が居る拠点をパーティー会場と称していた。

だが墓守は生み出されながらも採用されなかった者達が行き着く墓場と称していた。

恐らくであるがそこでは墓守以外にも生み出されたにも関わらず眠りについている人形達がいるであろう。

その墓場で魔物は我が物でうろついている。心のない悪魔どもにくれてやる墓場も墓標などない。

そんな奴らを屠る為、そして画面に映っている彼女を見て…シーナは思いついた作戦名は口にする。

 

Grave guard(墓守)。それで行こう」

 

「僕の名前を作戦名に使うんだね…」

 

「嫌だった?」

 

「嫌ではないけど…ちょっと複雑な気分かな」

 

苦笑いを浮かべる墓守に見てシーナはフッと笑みを浮かべる。

するとそこに一人の人形が通信室に飛び込んできた。

急を要する事だったのだろう。息を整えている辺りで走ってきたのが伺える。

その様子を見てシーナは他の基地への連絡をマギーに任せるとその人形の傍に歩み寄り声を掛けた。

 

「大丈夫、Spit-Fire?何かあったの」

 

「はぁっ、はぁっ…はい、大丈夫です。…実は基地正面入口に見た事無い化け物は現れて、泥の巨人を出した女に会わせろと…!」

 

「見た事のない化け物…悪魔じゃなくて?」

 

「それは分かりません。聞いても返答してくれなくて。他の皆さんが相手してますけど、何が起きるかは分かりませんし…」

 

次から次へと舞い込んでくる問題。

いい加減にして欲しいものだとシーナは思った。

だが向こうが自身を要求しているのであれば出向くしかない。他の皆に危害を加えられる前に何とかしなくてはならないのだから。

 

「分かった。…案内してくれる?その化け物が居る場所に」

 

「正気ですか!?」

 

「正気だよ。それに相手は泥の巨人…つまりナイトメアを目撃している。それって基地近く、或いはその周辺で追跡者達と戦っていた者かも知れないでしょ?敵か味方かは今の所分からないけど、会って話してみる。言葉が通じるなら何とかなるでしょうし」

 

悪魔という得体の知れない存在を何度も見てきた事もあってシーナは冷静だった。

ただこの状況。正直そんな事をしている暇もない。

にも関わらずやって来た客人にシーナは少し、ほんの少しだけであるが憤りを感じていた。

そして案内を頼まれたSpit-Fireは悩むに悩んだ末に彼女を例の客人がいる基地正面入口に案内するのであった。

 

 

Spit-Fireに案内され基地正面入口へ来たシーナ。

確かに人型であるが決して人間とは言えない姿をしている。しかし悪魔にも見えない。

考えられるのは一つだったが、有り得ないと思っていた。

もしそれが現れたのであればどう考えても町に何らかの影響が起きている。そういった情報が上がってきていないという理由が大きい。

何を仕掛けてくるか分からない相手。シーナは密かに首に提げているクイックシルバーを発動できるようにした。

 

「ハジメマシテ ト イウベキカナ?…スコシ ハナシ ヲ シヨウカ」

 

シーナを指名してきた相手…蛮族戦士は彼女が姿を現すとカタコトであるが挨拶をしてきた。

話へと移行しようとする蛮族戦士に対しシーナは手を上げて待ったを掛けた。

 

「話をする前に自己紹介させてもらってもいい?」

 

「…カマワナイ」

 

「ありがとう。…私はシーナ・ナギサ。見ての通りここS10地区前線基地の指揮官。私に話って何かな?」

 

「サキホド ノ タタカイ ヲ ミテイタ ジツ ニ ミゴト ダッタ」

 

先程の戦いと言われシーナは確信する。

この者はナイトメアを召喚していた所を見ている。同時に追跡者達の集合体とも戦ったとも。

実のところ、あの集合体の反応は別の箇所でも確認されていた。基地から少し離れた場所で確認されたのだが、何時の間にか反応は消失し何者かが討伐したのだと思われた。

そしてそれを討伐したのだが、目の前にいる彼だと確信していた。

集合体の討伐をしてくれた事には感謝しているが、何が目的がこの者が姿を現したのかは分からない。

依然シーナは警戒心を強めたまま接する。

 

「イロイロ カタリタイ コト ハ アルガ…」

 

「あるけどその時ではない。…もしかして貴方、この戦いが終わっていない事に気付いていて?」

 

「イカニモ。 マダミヌ ツワモノタチ…。 ソノモノタチ ノ タタカイカタ ヲ ミルタメ。 キョウリョク サセテ モラオウ」

 

相手が敵対する様子でない。

それには安堵するシーナだったが、同時に警戒した。

まだ見ぬ強者達。その点で彼女は気付いていた。

この者の狙いはギルヴァ達であると。確かに彼らは強い。最近ここに来たルージュだって強い。

彼ら、彼女らと戦いたい。恐らく理由はそうであろうと予想した。

そして…

 

「協力してくれるのは嬉しい。でもね…」

 

「ナンダ?」

 

「彼ら、彼女らと戦いという事に関しては一つ忠告しておく」

 

きっぱりと彼女は言い切った。

そして相手の反応を待つ事もなく言葉を続けた。

 

「貴方からは戦いたいといったそれが感じられるし、何か目指しているのも感じられる。何を目指しているのか…想像はつかない」

 

その瞬間シーナの目つきが変わる。

 

「だけどもし…あの人達を殺し、更なる力を得ようと考えているのであれば覚悟しておく事ね。ついで言っておくけど、いきなりあの人達に攻撃を仕掛けるなんてしたらその瞬間私達を敵に回すという事を肝に銘じておきなさい」

 

過去に何度か見せた18の少女とは思えぬ圧を放ちながら。

それで怯む相手ではない事はシーナも分かっている。

聞いてくれるかどうか分からずとも忠告しておく必要があった。それ程までに相手が危険な存在であると認識していた為だ。

 

「ただ…あの人達が許可したのであれば私は介入しない」

 

「…リョウカイ シタ」

 

「それで良し。…さて、準備しないとね」

 

応援がどれだけ来るのかは分からない。

最悪、自分達と彼で何とかするしかないだろう。

願わくば誰かが来てくれることをシーナは願うのであった。




束の間の平穏から一転。
追跡者の本来の性格と思われる「墓守」からの依頼。

そして試作強化型アサルト様作「危険指定存在徘徊中」にて登場する蛮族戦士を出させて頂きました。こんな感じでいいのかな…?

また本編を読んだら分かる通り追加依頼「operation Grave guard」参加協力依頼を
活動報告 Devils front line 「operation chase game」参加協力依頼 の方に追記致しました。
また追加依頼に関しては強制ではありません。トリスマギアを倒して終了でも構いませんので。


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Act130-Extra operation grave guard Ⅰ

―墓場へ向かおう


墓守からの依頼。蛮族戦士の協力。

他の基地へと応援要請を入れたS10地区前線基地は追跡者達の集合体の残骸処理と戦後処理に追われていた。

集合体はナイトメアの一撃により跡形も残す事無く大破し、マギーとダレンの主導の元解体されていた。

巨人を構成していた肉部分はどういう仕掛けか粒子となって消失してしまっているのだが、追跡者達の亡骸の中には奇跡的に原型をとどめている者も存在し、どういう仕組みで巨人へと化したのかを調べる為に行われていた。

一人は魔工職人。片やもう一人は様々な知識を有する悪魔。そして二人共魔界出身。

この二人が加われば調査結果が出るまでそう時間は掛からないだろう。

因みに蛮族戦士はというと…

 

「…」

 

基地の屋上で沈黙を保ち風景を眺めながら待機していた。

本来であれば協力してくれる者として応援に来てくれた者達に紹介をしなくてはならないのだが余計な混乱を避けるため、そこで待機してもらう事となり作戦領域に向かう事となった時に紹介という形となった。

その一方で緊急作戦「grave guard」に参加するギルヴァ達は便利屋「デビルメイクライ」で待機していた。

シーナから伝えられた事には援軍要請を聞きつけた者達には空路なら基地のヘリポートを利用し、内部を経由して基地隣接店「デビルメイクライ」の裏口から、陸路なら基地隣接店のデビルメイクライのの入り口から入ってきて欲しいと頼んだ事。

そしてその出迎えの為に参加組はそこで待機して欲しいと頼まれ、ここにいるのだ。

 

「…どこの連中が来てくれるんだろうな?」

 

体を店の出入口近くの壁に預け尋ねる様に喋り出したのは処刑人。

愛銃であるアニマの弾倉を取り出し、12の薬室に銃弾を込めるとホルスターへと納める。

傍に立てかけてあるクイーンの調子は良好、義手のガーベラも同様に調子が良い。ホルダーに提げたブリッツ、トムボーイ、そして新たな義手 バスターアームにも問題なく、デビルブリンガー、狩人も上機嫌の様子。

何時でも出撃できる状態を整え腕を組むと書斎に腰掛け本を読んでいたギルヴァが処刑人の問いに答える。

 

「まず来てくれるかどうかすら怪しい。今回の一件は複雑の基地に対し同時攻撃を仕掛けたものだ。自身の基地の修繕、戦後処理があると言うのに要請を受けて人員を割く余裕があるかどうかすら分からん」

 

「その場合は俺達とあいつ(蛮族戦士)で作戦決行という訳か。そもそもあいつ何もんだよ?シーナは味方だって言ってたが正直信用は出来ねぇんだが?」

 

「俺が知ると思うか?ただシーナがそう言うのであればそうなのだろう」

 

色々思う所はある。しかしそれを気にしている状況ではない事は二人共理解している。

 

「まぁ敵対する気がないと言う事は大丈夫という事だろうさ。そう思わないか?ルージュ」

 

ソファーに腰掛け読んでいた雑誌を閉じ、少し離れていた位置に立っていたルージュへと尋ねるブレイク。

その問いに対しルージュは小さく頷くと閉じていた口を開いた。

 

「そうですね…。何もしないという事は敵対する様子がないと見ていいでしょう。ただ…」

 

「ただ?」

 

「無償で協力してくれる様な性格をしているとは思えないんです…」

 

協力してくれるのであまり疑いたくはないのですが、と言葉を締めくくるルージュ。

それに関しては三人も同様の考えを持っていた。

話す事が出来ないのか、或いは話す程ではないのか。ルージュも含めギルヴァ達はシーナから蛮族戦士が何故協力してくれるのか聞かされていない。

不審に思っても不思議ではないのだが、そこから先は四人とも言わなかった。

状況が状況だ。作戦前にも関わらずこんな事をしていても意味がないと理解している。

今は応援を聞きつけた者達がここに来るのを待つのみ。ジュークボックスから流れるBGMに耳を傾けながら四人は静かに待った。

その時、店の扉が開く音が響いた。しかしそれは後方から裏口から響いた音であった。

いち早く気が付いたブレイクが裏口の方へと視線を向ける。

そしてそこに居た三人を見た瞬間、ブレイクはニヤリと笑みを浮かべその者ら…早期警戒基地所属ランページゴースト隊の三人に話しかけた。

 

「予想はしていたがこれは大当たりだな。お前たちなら来るって思ってたぜ」

 

「派手なパーティーがあるって聞いたからな。招待状は必要だったか?」

 

「どうかな?あいにく俺も招待状を持ってなくてね。お互い飛び入り参加ってのはどうだい、ノア」

 

「そりゃいいね。招待状を無くて困ってた所だったからよ」

 

パーティーとなれば招待状という決まりがあるのだろうか。

そもそも招待状など無いのだが吞気な事を言いながらもニヤリと笑みを浮かべる二人。

何時からこの二人はこんな会話する様になったのだと思いながらもギルヴァは読んでいた本を閉じ静かに笑みを浮かべた。

彼もまた予想はしていた。もしかすれば彼女達が来るであろうと。

すると蒼が話しかける。

 

―また一つ借りが出来ちまったな?

 

(そのようだな)

 

―恩返しの内容は決まったか?

 

(今決める状況だと思うか?)

 

―いいや、全く?

 

(ならば問うな)

 

―はいはい。

 

相変わらず吞気な事を言ってくる奴だとギルヴァは思う。

初めて会った時から蒼と呼ばれる大事な恩人はいつもこんな感じであった。

刀の技術も幻影刀の生み出し方も…何もかも彼から教わっている。

だからこそであろう。自身の中で存在する彼はどういった悪魔なのだろうかとギルヴァは思っていた。

それを聞いた所で素直に返してくれる性格をしている訳でもない。寧ろはぐらかそうとするであろう。

命の恩人である為、ギルヴァとて強引に出る気などない。

だがいつか…いつかで良い。恩人の事を知れる時が来る事を彼は心の中でひっそりと願いながらも椅子から立ち上がる。

何時の間にかブレイクと処刑人がランページゴーストの三人を相手しており、遠巻きで見ていたルージュが彼が立ち上がったのに気づき話しかけた。

 

「考え事は終わりましたか?」

 

「ああ。準備は終えたか」

 

「ええ。武器も鎌だけですし、私自身にも問題ありません」

 

「そうか」

 

既に準備は終えている。

ブリーフィングの時間までまだある。どうしたものかと思っていた矢先、店の扉が開き来客を知らせた。

誰もがそちらの方へ向き訪れた人物を見て、ギルヴァは内心驚いた。

予想していなかった人物であり、やってきた者の名を口にした。

 

「リホ・ワイルダーか?」

 

「せやで。…久しぶりやな。こうして会うんはS11地区の時以来か」

 

「その様だな。…しかし何があった?以前と比べるとかなり()()の方が様変わりしたみたいだが」

 

「あー…そこは色々とな。因みにうち、グリフィンで指揮官やっとるで。S13地区でな」

 

―ルージュの嬢ちゃんと言い、あの時の女社長と言い…ホント何があったんだか…。

 

蒼もリホ・ワイルダーから放たれる気配を感じ取っており、その代わり様に驚いている様子であった。

当然ギルヴァもそうであり、返す言葉が思いつかないまま特殊作戦「grave guard」のブリーフィングの時間を迎えるのであった。

 

 

S10地区前線基地第一会議室にて、今回の参加するメンバーは居た。

各々が壁に凭れたり、椅子に座わりシーナが操作する端末を介してスクリーンに映し出される情報の数々へと視線を向けていた。

作戦目標が居る拠点までの距離、位置、内部構造、拠点への移動手段、現時点で確認出来ている敵の数。

それらの情報は依頼主である墓守が提供したものだ。

しかしシーナは余計な混乱を防ぐために情報提供者である墓守の事は明かさない様にしていた。本来の性格とは言え、姿こそはあの追跡者と同じ。

何よりも明かさない様にしているのは墓守本人からの願いだったりもする。

 

「今回はうちから二機。移動手段用のヘリで拠点まで送ります。当然拠点からここまでの帰りも同じです。またS地区応急支援基地から武器が送られてきました。基地の修繕で応援に行けない代わりにこちらを送るとの事です。…以上が今回の作戦の内容です」

 

「ちょっと待ってくれ。わざわざそっちから出す必要ないんじゃねぇのか?こっちだってヘリで来てんだぜ?」

 

「確かに。…ならノア、ヘリのパイロットさんに伝えておいて。少し騒がしい所だけどここでのんびりして行ってと。それと帰り分の燃料は取っておきなさいってね」

 

事が起きるたびに、応援要請をする度に向こうの基地は協力してくれた。

何度も世話になっていながらこちらは大した事は出来ていない。

シーナは何を言われようが弾薬や燃料等などは請け負う腹積もりであった。

 

「ちょいとええか?シーナ指揮官」

 

「何でしょうか、リホ…いえ、ワイルダー指揮官とお呼びいたしましょうか」

 

「やめてくれや、初めて会った訳やないんから。普通にリホで構わんよ」

 

「でしたらリホ指揮官で。…それで何でしょうか?」

 

何故か魔女のコスプレをしたリホが親指を立て、ある方向を指す。

その先にいるのは協力を申し出た蛮族戦士。

 

「あそこに居るの…敵じゃないんやな?」

 

(…やはりね)

 

当然と言えば当然だろうとシーナは思う。

そしてこうなるであろうとは想定済みであった。

でなくては彼をここに呼んで意味がないからだ。

 

「カタコトですが意志の疎通は出来るみたいで、敵対する様子も見受けられませんでした」

 

「故に、か…。シーナ指揮官、ホント信用してもええんやな?」

 

「はい。…もし何かあれば私が責任を負います」

 

「…そうか。なら問題ないわ」

 

帽子をかぶり直すとシーナはすっと表情を変える。

いつものの、そして突然と見せる彼女の特徴を。

 

「今回の敵は少数ですが、戦闘力は未知数。しかし私は…」

 

以前と比べると戦える力を持ったシーナであるが、それ以前にこの基地の指揮官だ。

危険を冒してまで戦場に赴く事など以ての外。しかし応援要請を出しておきながら大した支援が出来ない事に歯痒い気持ちであった。

せめて言葉だけでも。

そんな思いを胸に彼女は作戦へ赴く彼ら、彼女らに告げる。

 

「あなたたちなら、誰一人かける事無くやり遂げると信じています。…どうかご無事で」

 

 

ブリーフィングは終了すると既に準備を終えている九人は基地のヘリポートで止まっている二機のヘリへ向かって行く。

一機には代理人がコックピットに、そしてもう一機にはノーネイムがコックピットに搭乗。

処刑人、ルージュ、ランページゴーストの三人、リホ・ワイルダーは代理人が操縦するヘリへ乗り込んでいき、残りの三人はノーネイムが操縦するヘリへと乗り込んでいく。

必要な武器、そしてS地区応急支援基地から送られた武器を積み込むと彼ら、彼女らを乗せた二機のヘリは追跡者が居る拠点、またの名「墓場」を目指してS10地区前線基地から飛び立つ。

そしてこの時をもって緊急作戦「grave guard」が始まりを告げた。




ほんっとうにッ!!!遅くなって申し訳ございませんッ!!
こうしよう、ああしようと悩んでいたら滅茶苦茶遅くなってしまいました…。

という訳で追加依頼「operation grave guard」開始です。
一回目は参加する面々をS10地区前線基地に集結させ、全員で拠点に向かう感じ致しました。
さぁて…次回は拠点編かな。


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Act131-Extra operation grave guard Ⅱ

―普通じゃなくなるのは当たり前―


S10地区から遠く離れたとある地区。

そこは「S地区」などといった固有名称は存在しない無名の地区であり、古びた家屋が各所に存在していても長い間人間がここで過ごしていたという記録は存在しない。

危険な場所でないが、戦略的価値がある土地でもない。

寧ろ平穏な地区とも言えるにも関わらず人は寄り付かない。

どうしてなのかと疑問に思ってもその答えを返してくれる者はいない。

 

『この土地は来訪者を拒んでいる』

 

そんな噂が流れたとしても時が流れる様にそんな噂が風と共に消え去っていき、人々の記憶の中から消え去る様にこの地区の存在も忘れ去られた。同時に生み出されながらも破棄された鉄血の人形達が眠る墓場の存在も。

そして何時しか墓場は拠点として扱われた今。

暴走する者を、魔物を討伐する為、この土地に来訪者たちが現れる。

 

 

機体の側面にS10FLBと綴られたデカールを貼った二機のヘリは暴走する追跡者がいるであろう拠点から少し離れた位置に着地した。

それぞれの機体からは来訪者たちが降り立ち、周囲を見渡す。

所々に建つ古びた家屋。人気を感じさせず無駄に広がる平原が寂しさを感じさせる。

そして向いている体を後ろへと向ければ周囲を木々に囲まれた例の拠点が佇んでいた。

 

「普通に見えるのに何故か嫌な何かを感じます。ピリピリした様な何かを…」

 

「それ私も思った…。何なの、この嫌な感じ」

 

佇む拠点を見ていたランページゴーストのアナのつぶやきにパワードスーツを装着したRFBも同じ様なものを感じ取っている事を明かす。

すると大鎌を肩に担ぎ、プロトタイプ・ナイトメアを背に背負い、専用外骨格を身に付けたルージュが二人の後ろから歩み寄りながら答える。

 

「拠点内部ではかなりの魔力を有した魔物がいるみたいですね。それも一体ではない…複数体居ると見ていいでしょう」

 

「それってブリーフィングで挙がっていた情報の中に確認出来ていない個体も存在するという事…?」

 

RFBの問いにルージュは小さく頷く。

一度を目を伏せて大鎌の柄を握り直してから瞼を上げた。

ルビーの様な赤い瞳が拠点を睨みつけ、彼女は口を開く。

 

「ですが今回参加してくださった皆様を守ります。…その為に()()()()()()()()は存在しているのですから」

 

()()()()()()()()…?」

 

最後に呟いた言葉が聞こえていたのだろう。アナが聞き返す様にその言葉を口にする。

しかしルージュはそれには答えようとはしなかった。

 

各々が準備している中、ギルヴァは腕を組み拠点を見つめていた。

一見普通そうに見えるはそこから放たれている魔力はS11地区と比べる段違いと言えた。

 

「どうや?かなりやばい感じか?」

 

「そういうお前はどう見る」

 

「そうやな…あんときはよう分かってなかったが、今なら分かるで」

 

被っていた帽子のひさし部分を摘み、少しだけ下ろすと彼女の雰囲気が変わる。

それ程までに今回の一件を深く見ている。それを見てギルヴァは安堵した。

どうやら今回は悪魔を鹵獲しに来た訳ではないのだと。

 

「…普通やないわ。まるでこの世にある負の感情の四分の一をここに集めた感じやな。例えがあっとるかは分からんけど、そんな感じや」

 

「ハハッ、四分の一か。あの時の元社長さんにしては良い例えしてるぜ」

 

ギルヴァが口を開く前に準備を終えたブレイクがリホへと話しかけながら歩み寄る。

彼の手には代理人が愛用するショットガン『Devil』が握られていた。

どうやら代理人の許可を得て借りたらしく。それをコートの懐へ収めると彼女の隣に並び立つ。

 

「どうだい?調子は」

 

「ぼちぼちといった所やな」

 

「そうなのかい?俺からみればあの強面の男(ギルヴァ)に脅されたから今もビビってる感じがするけどな」

 

「っ…!?」

 

その指摘に一瞬だけ肩をはねたリホの姿をブレイクは見逃さなかった。

表で平常心を保っていたとしてもギルヴァを相手にしている時にビビってるリホの状態を彼は見抜いていた。

当然ギルヴァもそれを見抜いていたのだが、自分がどうこう言った所で恐れられるだろうと判断していた為に何も言わなかった。

 

「悪いね。45、416、95式や代理人には優しいくせにあいつは変な事する相手には女だろうと容赦ねぇ奴でな。まぁあんたがこっちの許可なく余計なもんを持ち帰る事がしなかったら脅す事はしねぇよ。だから安心してくれ」

 

「そう言われてもなぁ…。怖いもんは怖いんで?」

 

「おっと…こりゃ重傷だな…。おい、ギルヴァ。こんなに良いお嬢さんになんてトラウマ植え付けてんだ」

 

ブレイクにそう言われてもギルヴァは対応するつもりはなかった。

ヘリが着陸してから時間は経っている。全員準備は出来たであろうと判断すると彼は拠点へと歩み出したのだが数歩歩いた後、ふと足を止めた。

 

「…今回も世話になるぞ」

 

それだけを言い残して歩き出すギルヴァ。

彼が動き出した事により沈黙を保っていた蛮族戦士が動き出す。他のメンバーを待つ気がないのか二人はどんどん向かって行く。

 

「やれやれ、生真面目な二人だぜ」

 

その後ろ姿を見て軽く肩を竦めるとブレイクも二人の後に続く。

残りのメンバーも慌てて三人の後を追うのであった。

 

先を動き出したギルヴァと蛮族戦士。

お互いに会話する気などないのか、動き出してから終始沈黙を保ったままだ。

その時、蛮族戦士が尋ねる様にギルヴァへと話しかける。

 

「…ヒトリ カ」

 

「その様だな」

 

そのやり取りだけでこの二人はそれを感じ取っていた。

前方から誰かがやってきていると。気配もあれば薄っすらであるが歩いている音もこの者達には聞こえていた。

敵なら即座に始末。

足を止めて前方からやってきた者を見つめた。

彼らの前に姿を現したのは一人の少女であった。白髪に黒のジャケット、白い肌に緋色の瞳。アサルトライフルらしきものを手にしている。

その少女を見た瞬間、その気配で相手の正体を見抜いたギルヴァだがそれを言葉にする事はしなかった。

敵か味方か分からない今、余計な消耗は避けたい。

だが相手がどう出るかによる。静かに彼は幻影刀を相手の周囲に展開できるように準備した。

 

「あなた達…もしかしてこの先に向かうのかしら」

 

「そうだと答えればお前はどうする」

 

「どうするもなにも。私は味方としてここに来ているのだけど」

 

味方として来ている。

それを聞いていた蒼がギルヴァへと話しかける。

 

―ちょいときな臭いが、敵意は感じられない。まぁ何かあるのは分かるんだがな―

 

(今は味方として見るべきか)

 

―その方が良いと思うぜ。

 

信用に足るかはどうかは別にして戦力が増えるのであれば嬉しい話。

最も彼は何かこちらに仇成す事をすれば即刻斬り伏せるつもりであるが。

 

「名は?」

 

「Mk18」

 

「そうか…ついてこい」

 

後からついてきた者達も何も言わない。

自然とリーダー格としてギルヴァが動いている事もあり、彼が問題ないと判断したのであれば口出す事はしなかった。

Mk18を含めたギルヴァ一行は拠点へと歩み始めるのであった。

 

 

拠点へとたどり着いた一行は偶然にも開かれていた入り口から内部へと侵入していた。

電力は辛うじて保たれているのだろう。薄っすらとだが灯りはともっていた。

それからそれなりの距離を歩いた時一行は足を止めた。

 

「分かれ道か。それも四つも出し物を用意してくれてるなんて気前がいいな」

 

ブレイクの言う通り、道は四つに分かれていた。

『中央動力区画』『資材搬入区画』『情報管理区画』『廃棄処分区画』。

それぞれの区画へと道は続いており、その先で相手が待ち構えていることなど言葉にせずとも分かるだろう。

 

「さて、どうする?全員で一個ずつ相手からの出し物を楽しんでいくかい?」

 

「下らん。分断して事に当たればいい。その方が効率的だ」

 

「やれやれ、真面目だな。んじゃ…どっちに行くかさっさと決めるか。主催者も早くもてなしたくて仕方ねぇだろうしな」

 

ブレイクは相変わらずというべきだろう。

指を額に当てながら小さくため息をつくギルヴァ。

だがこの状況で漫才をやっている暇はなどない。かくして誰がどの方向へ向かうか話し合われた。

 

数分だけ行われた話し合いで誰が何処へ向かうのか決まった。

 

「…足を引っ張るなよ」

 

「ソチラモナ」

 

中央動力区画にギルヴァ、蛮族戦士。

 

「宜しくお願いします、Mk18」

 

「こちらこそ宜しく」

 

資材搬入区画はルージュ、Mk18。

 

「うちら上手くやれるんやろうか…」

 

「やんなきゃわかんねぇだろ?」

 

情報統制区画へは処刑人、リホ・ワイルダー。

 

「お嬢さんたちと一緒か。嬉しいね」

 

「こういう状況でも平然としていられるなんて…流石というべきなのかな」

 

廃棄処分区画にはブレイク、ランページゴースト隊となった。

向かう場所も決まり、各々が歩き出した。するとルージュの後を歩いていたMk18がついギルヴァとぶつかってしまう。

 

「ごめんなさい」

 

「問題ない」

 

特に痛みがあった訳でない。

ギルヴァから問題ないと聞くとMk18は小さく一礼しルージュの後を追っていき、資材搬入区画へと通ずる道へ向かい奥へと消えていった。

それを見届けるとギルヴァはそっとコートの懐へと手を伸ばした。

Mk18がどこからわざとぶつかった様に感じたのとコートのポケットに何かを入れていった事に彼は気付いていた。

 

「やはりか」

 

懐から取り出したのは一枚のメモ用紙。それを広げると彼女が書いただろうと思われる文が綴られていた。

そこにはギルヴァ宛か、或いは討伐組の誰かに宛てられたメモ用紙にはこう記されていた。

 

『私はあなた達と敵対するつもりはないけど、立場上敵対せざるを得ないわ。もし大きな男性型鉄血ハイエンドと小柄で角がついた鉄血ハイエンドが戦場にいたら、彼らの敵対行為は演技のようなものであるという事を知ってて欲しいの。彼らもあなた達に犠牲を出すような事はしない筈よ。』

 

―こりゃ色々複雑になりそうだな?

 

(…そうだな)

 

ギルヴァは既にMk18が鉄血のハイエンドモデルだという事は既に気付いている。

味方している事とは別に何らかの理由があると睨んでいた。

そして睨んでいた通りに相手はこのメモ用紙を渡してきた。そしてこの拠点内部の何処かにメモ用紙に記されている二体のハイエンドモデルが居るというおまけ付き。

 

「ドウシタ?」

 

「何でもない。行くぞ」

 

先へ向かおうとしていた蛮族戦士に呼ばれてもいつもの様子で彼は中央動力区画へと歩き出す。

この先に居るであろう追跡者の気配を感じ取りながら。

 

 

ギルヴァらが中央動力区画へと向かい始めた一方で情報管理区画へと向かっていた処刑人とリホの二人は予想だにしていなかった事態に見舞われていた。

 

「どうなっとるんや…」

 

真っすぐと続く道を歩き、敵が居るであろう扉をあけたらどういう訳か明らかに構造が違う場所に出てきてしまっていたのだ。

そこは図書館の様で、数ある古びた本棚には無数の本が無造作に置かれていた。

鉄血が紙媒体が扱うとは思えず、まるで別の場所へ来てしまっている様な感覚を覚えると同時にここに漂う魔力を処刑人は感じ取っていた。

 

「…広がった魔力の影響で疑似的ながらも空間が作り出されたってか。となりゃ他の奴らも別空間に飛ばされているかも知れねぇな」

 

「このまま道なりに進む他ないのやろか?」

 

「それが良さそうだな。恐らくだが出口がある筈だ。多分そこを抜ければ誰がか居てくれるだろうぜ」

 

ガチャガチャと装備している武器が揺れる音を鳴らしながら処刑人は歩き出し、リホもそれに続く。

 

 

そしてこの者達も作り出された空間にきてしまっていた。

もっともそこは図書館ではなく、駅みたいな所で間違えて外に出てしまったのではないかと錯覚を覚える程に。

 

「どうなってるの…?私達さっきまで内部に居た筈だよね?!」

 

「その筈だ…。何だここ?駅みてぇだが辺りは薄暗いから分かんねぇぜ」

 

下へと通ずる階段の先には一台の貨車が停車していた。

そしてレールが果てしない程に奥へと長く続ていた。

 

「拠点に溢れ出した魔力の影響か。何かの再現か或いは作り出されたか。そのどっちかだな。後ろのドアは開かねぇだろうし、向こうが用意してくれた"リムジン"に乗る他ねぇな」

 

そう言われて後ろのドアが開くか確認するRFBとノア。幾ら扉を開こうとしてもびくともせず、どのみち"リムジン"に乗っていくほかないと言えた。

ほらな?と確かめる様に言うとブレイクはのんびりと歩きながら階段を下り始めた。

ランページゴーストの三人もお互いに頷くと彼の後を追う。

ブレイクの言う"リムジン"へと乗り込んでいく。

 

「さぁてリムジンの乗り心地…どんなものか楽しませてもらうか」

 

「こんなのがリムジンでしたらタクシーが泣きますね」

 

「ハッ!そりゃそうだな」

 

四人を乗せたリムジンは走り出す。

それが何処へと繋がっているのか誰にも分からなかった。

 

 

処刑人達とブレイク達が作り出された空間に来てしまった一方でルージュとMk18は作り出された空間に来てしまう事無く資材搬入区画へと繋がる長い道を歩いていた。

アサルトライフルを装備しているMk18だが、ルージュが肩に担いでいるヘル=バンガードの大鎌に視線を向けていた。

余りにも大きいと思われる大鎌。人の手によって作られたものとは思えず、戦術人形ですら扱えない筈にも関わらずルージュはそれを軽々と担いでいる。

 

「扱えるの?それ」

 

「それって…これの事ですか」

 

腕を軽く動かし、Mk18に大鎌の事かと尋ねるルージュ。

返答として頷いたため、彼女は微笑みながら答える。

 

「全然扱えますよ。これら以外にも扱えますし銃器も扱えますよ」

 

「まるで人形ね…。戦闘に特化した感じの」

 

「かも知れませんね。…寧ろ私は()()()()()()()()()()()()()()()()()ですから」

 

「え?」

 

いいえ、何もと微笑み返しルージュは先へ向かって行く。

先行く彼女を見てMk18は小さく呟く。

 

「模倣する様に生み出された存在…?どういう事…?」

 

ルージュが最後に呟いた事が聞こえていたMk18は彼女の背へ向かって疑問を投げかけるとすぐさまその後を追いかけるのだった。




という訳で拠点編。

今回は四つの区画へと向かう面々を描かせて貰いました。
少し飛ばし飛ばしなので許せ…。

またMk18、彼女からメモ用紙に記された二体のハイエンドモデルですが…
鮭酒様作「人形傭兵団パイライト」からです。
どうやらあちらにも色々あるみたいで…。

そして別空間に来てしまった二組ですが、処刑人&リホさんの所がDMC5でアルテミスへ向かって行く道中の図書館みたいな感じです。
ブレイク&ランページゴースト隊はDMC3でベオウルフへと向かって行く道中に出てくる「生贄搬入貨車 乗車場」みたいな感じです。

またルージュのイメージですが、分かりやすく言えばM82A1に近いです。
長い髪はそのままに白と赤のグラデーションがかかった色、M82A1の胸よりも大きくした胸、ホットパンツを穿いている。
それがルージュの容姿と思って頂けたら幸いです。

では次回!


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Act132-Extra operation grave guard Ⅲ

―始まり出す戦い


長い通路に反響する歩く音。

薄っすらと灯った灯りが不気味な空間を作り出しているにも関わらずこの者達はそんな事は知った事でないと歩みを止める事はなかった。

一人は日本刀を片手に黒いコートをなびかせ、もう一人は右手と一体化した大剣が特徴で正直悪魔と言われてもおかしくない姿をしている。

共闘しているにも関わらず二人の間では会話が弾むわけがなく、それどころか最初のやり取りから一言も発していない。

この場にブレイクでも居れば多少なりとも会話はやり取りはあっただろうが残念な事に彼はランページゴーストの三人と共に絶賛リムジンを堪能している所である。

 

 

因みに四人の様子はというと…

 

「良いねぇ!いきなりじゃじゃ馬になりやがったぜ!」

 

「何がリムジンだよ!!ジェットコースターじゃねぇか!!」

 

「このスピードでどうしてブレイクは立ってられるのおぉぉ!!??」

 

「彼だからじゃないでしょうか…!」

 

さっきまで緩やかに走っていたのに、何が起きたのかジェットコースター並みの速さで走り出したリムジン。

ランページゴーストの三人はともかく十分すぎる程にブレイクはリムジンを堪能?していた。

 

 

中央動力区画まであと半分まで迫りギルヴァと蛮族戦士を迎え入れたのは、少しばかり広い部屋であった。

周囲には分かれ道は存在せず、あるのは奥には中央動力区画へと通ずる扉だけ。

そしてその中央に佇む一体の人形。

大盾と大槍を装備し見るからに重武装の身長の高い人形を見てギルヴァはあの時彼女は渡してきたメモの 内容を思い出す。

 

(Mk18のメモに記してあったハイエンドモデルか。もう一体は見えんが…)

 

―どっかにいるのは間違いねぇな。…どうする?向こうにも何らかの事情があるみてぇだが相手するか?

 

(無論。そのつもりだ)

 

「先に行け。奴は俺が相手する」

 

現状相手に何らかの事情があるという事を知っているのは自分だけ。

蛮族戦士を巻き込むつもりなどなく、可能ならば追跡者の力を弱めてもらえばとギルヴァは思っていた。

それに今自身がいる地点から中央動力区画へ通ずる扉からは禍々しいまでの魔力が溢れ出ており、蛮族戦士もそれに気付いているだろうと。

そしてこの者がそう簡単にやられる存在ではない。それ故の判断であった。

 

「シトメテモ モンク イワナイ コト ダナ」

 

「安心しろ、すぐに追い付く。それまで…」

 

無銘の鯉口が切られる音が小さく響く。

彼の右手が柄を掴んだと同時に黒塗りの鞘から刃が抜き放たれ、白銀の刀身が一瞬だけ淡く輝きその全貌を露わにする。

気合いを入れるかの様に低く唸る様に息を吐きながら彼はゆっくりと腰を落とす。

刀身の切っ先が相手へと向け、柄の頭部分に左手を当てギルヴァは名も知らぬ相手を睨んだ。

敵対する気はないとは言え向こうも彼を攻撃をせざる得ない状況にある。

ギルヴァが臨戦態勢を整えた事を察すると相手も武器を構えた。

いつぶつかっておかしくない状況に静寂が訪れるもそれはすぐに破られる事となる。

 

「楽しむ事だな」

 

「!」

 

地を蹴り突進するギルヴァに対し相手も動き出す。その隙に蛮族戦士は言われた通り追跡者が居る中央動力区画へと向かって行った。

ギルヴァと鉄血のハイエンドモデル。お互いの距離が縮まっていく。そして―

 

「!」

 

「ッ!」

 

無銘の刃が振るわれ、大盾がそれを防ぎ火花を散らす。

黒いコートの悪魔と鉄血のハイエンドモデル…守護者が今ぶつかった。

 

 

ギルヴァが守護者とぶつかり合った今、蛮族戦士は追跡者が居る中央動力区画へと向かっていた。

通路の奥から感じる禍々しい程までの魔力にそこに混じる濃厚な殺気。普通の人間なら気絶するかも知れない。

だが蛮族戦士にとってはもはや喜びでしかなく、彼の表情には満面の笑みが浮かんでいた。更なる高みへと至る為、強者に出会う為、そしてその者と戦う為…。

闘争心が刺激されている彼。通路を歩き切ると左手で扉を押し開け中央動力区画へと足を踏み入れた。

 

「ホウ…」

 

そしてそこに居た追跡者であろう者を見て、彼は感嘆の声を漏らした。

暴走しているとは言え、意外な事に追跡者は決して得体の知れない何かへと変貌はしていなかった。

これは誰にも分からなかった事であるのだが、一度追跡者は得体の知れない何かへと変貌している。

だがどういう訳か、本来の姿を取り戻してしまい今に至っていた。

しかし普段から閉じられている両目は開眼、溢れ出す魔力が彼女の背に翼となって具現化。

左手には愛用する鞘に納めれた日本刀を模った武器、大して武器を手にしてない右腕は不気味なものへと姿を変えており、どういう仕組みか刀身を収める鞘と一体化を果たしていた。

手にしている日本刀の鞘ではない。鞘に収まっているのは一振りの大剣だ。それを軽々と持っているのだから追跡者がそれ程の力を得たのかが分かる。

そしてその姿はまるで追跡者だけ持つ悪魔の引き金を引いたかの様であった。

 

「彼じゃないのか…」

 

そんな姿になっても尚、明確な意識があるのか。

この場に現れた蛮族戦士を見て残念そうな表情を浮かべる追跡者だが、直ぐに表情は喜びへと変わった。

追跡者にとって一番に戦いたいのはギルヴァだ。彼がここにまだ来ていないのは残念であったが、体を温めるのであれば蛮族戦士は彼女にとって丁度良い相手だった。

右手で刀を抜刀すると彼女は刀身の切っ先を蛮族戦士へ突き付けた。

 

「さぁ…一曲踊ろうじゃないか」

 

「…ヨロコンデ」

 

 

ギルヴァ対守護者、追跡者対蛮族戦士…そしてこの者達も激闘を繰り広げる前まで来ていた。

長い通路をただ真っすぐと歩いていき、ルージュとMk18は資材搬入区画へと訪れていた。

資材搬入区画というだけあって保管庫も多く存在し、通路のあちこちに何かの為に使われるであろう無数の資材が地面に転がっていた。

歩きにくい。しかし二人は気にする事無く奥へ奥へと進んでいき、ある場所へと出た。

 

「ここは…エントランスホール?」

 

「見る限りそうみたいですね」

 

両脇に設けられた二階へと繋がる階段。そしてどこかへ繋がるであろう廊下の入り口が二つ。

エントランスホールの中央には円形の何かが置かれている。

そしてその奥には大きな窓硝子が一つ。枠組みの並びもあって大きな時計を彷彿させる。

そんな窓硝子の前で佇み二人を見つめる者が一人。

体の要所要所に西洋の騎士が使う甲冑をその身に装着し防御と機動力の両立させた佇まいから女騎士を思わせる。その手には身の丈以上あるであろう大剣を携えていた。

以前まで束ねていた髪は解かれ、それどころか長く伸びていた。

そして装着しているバイザーが二人を睨む様に怪しく光る。

姿はかなり変わり顔も判別付かない程に変化しているが、その面影が決め手となり自分達と相対している者の名をMk18が口にした。

 

「ブルート…」

 

鉄血の近距離戦闘ユニット ブルート。

目標に素早く接近し両手に持ったナイフを用いた攻撃を仕掛けてくる。装甲が薄い為破壊されやすいといった弱点を持つが、SGの戦術人形にとって脅威とも言える人形。

そのブルートに何らかの改造を施したのが目の前に居る奴だろうとMk18は思った。

 

(けど何なの…?改造を施したにしては明らかに嫌な何かを感じる…)

 

それもその筈でルージュとMk18の二人が相対しているブルートは現代科学と魔術を過剰なまでに施した結果今の様な姿を得た。

もはや人形としても面影は存在しない。あるのは悪魔としての姿だけである。

改造されたブルート…ブルート・アンジェロから放たれる魔力を正体までは分からずともMk18は感じ取っていた。

 

「…」

 

ブルート・アンジェロと遭遇してから一言も発さないルージュ。

肩に担いでいた大鎌を下ろし勢いよく振ってから両手で柄を掴み構える。。

それに合わせる様にブルート・アンジェロも手にしている大剣を天を突き刺す様に掲げた。体から目に見える程の魔力が放出され、オーラの様に揺らめかせながら包みこむ。

 

「騎士の姿を見ると思うんですよね…」

 

怪しく光るバイザーに負けじとブルート・アンジェロを睨むルージュの赤い瞳が輝くと突如として彼女の体から火の粉が舞い上がった。

 

「粉々になるまで―」

 

上がっていく火の粉の数はどんどん増していき、次の瞬間―

 

「破壊し尽くしたくなるッ!」

 

まるで火山の噴火とすら思える位に桜色の炎が噴出した。

体の各所から放出され、轟々と燃え盛る炎。

心なしかそれは彼女の怒りを表しているかのようであった。

 

「…」

 

そして突然の事にMk18は言葉を失っていた。

普通の少女とは思ってはいなかったが、いきなり体から炎を発生させるなど誰が思うか。

しかしいつまでも呆けている訳には行かない。素早く我を取り戻し、彼女は銃を構える。

言葉に怒気を交えているルージュの様子からして騎士か、或いはそれに関連する何かに因縁があるのだろう。

事情が事情とは言え、ここで死ぬつもりはない。今出来る事は彼女の援護。

 

「援護するわ。…粉々になるまで破壊し尽くしてやりましょう」

 

「もとよりそのつもりです…!」

 

炎を纏いしルージュが駆けだしブルート・アンジェロに向かって大鎌を振りかぶったと同時にMk18は銃の引き金に指をかけ引いた。

一発目の銃声が戦闘の始まりを告げるものだと知りながら。

 

一方…。

ジェットコースターと化したリムジンに乗っていたブレイク達は漸く終着駅にたどり着き、そこから降りて長い階段を上っていた。

細く長く続く階段。その先には扉が一つ。

そこへと向かっていく四人。ふとRFBが階段の下へ視線を向けた。

彼女の視界には溶岩が広がっていた。作り出された空間だというのに熱さを感じる。

その熱いさが広がっている溶岩が本物であると彼女をそう認識させる。

間違えて落ちてしまう事があれば一巻の終わり。当然助かる可能性は零。

体が震える。それでも何とか押さえつけ、足を進める。

 

「落ちるなよ、RFB」

 

「分かってるって、隊長」

 

彼女の視線が溶岩から階段の先にある大きな扉へと向けられている。

 

「正直今は真下に落ちる怖さよりもこの先に待つ受けている何かの方が数倍怖い…でも」

 

その先を言おうとした時、先頭にいたブレイクが口を開く。

 

「逃げ出す訳には行かない、だろ?」

 

「…うん」

 

振り返る事はしなかったがこの時ブレイクはふっと口角を吊り上げていた。

怖いけど逃げ出す訳には行かない。

その恐怖を力を変えようとしているRFBに彼は感心している。

だからこそ決意していた。

この者達は死なせはさせない。何があっても、と。

それを表に出さないのは流石と言うべきだろう。彼が階段を昇っていき、その後ろを三人が追う。

長い階段を登り切り、四人は扉の向こう側へと足を踏み入れる。

作られた空間は今も尚続いており、扉の先にある部屋も例外ではなかった。

何処か拷問部屋を思わせる造り。空間を作り出したにしてははっきりとし過ぎている点が否めない。

空間だけを作り出したのであればもっと曖昧で良い筈。ここまではっきりさせる理由は誰にも分からない。

 

「…居ねぇな」

 

「ええ…」

 

ノアの声に対しアナが頷き肯定する。

四人がここに訪れた時、居るであろうと思われる敵の姿はなかったのだ。

普通なら盛大に迎え入れてくれてもいい筈なのに居ない。

さっきまで旅はなんだったのかと思いたくなるが、それでここを立ち去る面々ではない。

もしかすれば何処にか身を潜ませているかも知れない。

各々が警戒し始めた時、何かを感じ取ったのかブレイクが天井へと視線を向けた刹那。

 

「ォォォォ!!!」

 

高らかに咆哮と共に天井に大きな穴が開くと何かが降ってきた。

灰色の体色に発達した四肢。特に両腕の剛腕が特徴であった。

降り注いでくる瓦礫を後ろへと飛び退くランページゴーストの三人。そしてブレイクは自身の頭上へ目掛けて向かってくる瓦礫を殴って破壊した。

 

「おいおい」

 

そしていつもの様に降ってきた者…ギガノスへと挨拶をし始めた。

 

「魔界の覇王様と言い、お前といい…なんで悪魔どもは天井をぶち破るのが好きなんだ?ママからドアの使い方習わなかったか?」

 

腕を広げながらそう問いかけるブレイクだが相手は話を聞いていなかったのか返答する事もなく、そして自我が存在しているのか勝手に話を変えていった。

 

「臭う…臭うぞ!」

 

それを聞き、自身の臭いを嗅ぐブレイク。

後ろにいるランページゴーストの三人に対しても「臭いか?」と聞くが返ってきた答えは臭くないとの事。

しかし目の前にいる相手は臭いと叫んでいた。

 

「そりゃ悪かったな。今度から香水を付けてくるから、それで良いかい?」

 

確かに聞こえている筈なのだが、ブレイクの台詞に答える様子もなくギガノスは拳を握りながら喋り出す。

 

「これは人形の臭い!我々鉄血に仇成すゴミ共の臭いッ!!!!」

 

「おっと!」

 

振るわれた腕による攻撃を後ろへと飛び退き躱すブレイク。

そろそろ本格的な戦闘が始まろうとしている。それに気付き始めたランページゴーストの三人は各々が持つ武器を構え始めた。

それを見てブレイクはニヤリと笑みを浮かべながらギガノスへと返答した。

 

「酷い臭い、か」

 

背を向けながらも彼の両手がホルスターに収められているアレグロとフォルテの持ち手へと伸ばされると振り向くと同時に二丁の拳銃の銃口が相手へ向けられた。

 

「俺から言えばお前の方がごみ溜め並みに酷い臭いだぜ?」

 




という訳で今回はそれぞれの戦いが始まる場面を描かせて貰いました。

ギルヴァさんは守護者の相手をしなくてはならないので…。
ギルヴァが追い付くまでの間、蛮族戦士対追跡者の戦い、試作強化型アサルトさん少し任せまっせ…。

因みに追跡者の攻撃手段ですが…簡単に言えば次元斬を使わない劣化ギルヴァと思っていただけたら幸いです。
パリィから疾走居合や瞬間移動して相手の背後に回る。力に物を言わせて大剣を振るってきたりします。

ん?処刑人とリホさんの方はだって?
そちらに関しては今回参加していただいているoldsnake様作「破壊の嵐を巻き起こせ!」の方で「☆魔剣士と魔法使い」の話でわかりますよー。
あちらが始まり部分書いたのだから…戦闘部分はこっちが書かないといけないかな…?

では次回ノシ


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Act133-Extra operation grave guard Ⅳ

―その様な事情だとしても…


中央動力区画手前の広場でぶつかり合う音が響く。

中心で己の持つ刀と大盾が幾度どなくぶつかり合い、幾度となく火花をまき散らす。

振るわれた刃が迫れれば大盾によって防がれる。

数えるのも億劫になることを続けながらも相手を見てギルヴァは思う。

マスクをしている為表情こそは分からないが殺気が感じれない。

 

(…余程敵対したくないようだな)

 

彼と戦っている相手…守護者は自ら攻める事をあまりして来ずにいた。

開戦から時間は経っているがほぼほぼ防御に徹しており、攻撃を仕掛けるにしても牽制程度。

Mk18が言っていた事情が大きく関連しているのだと確信していた。

それと同時に感心していた。

ここまで防御を駆使した戦法を披露する相手は見た事が無い。本気を出していない為、真の実力がどれ程のものかは分からずとも侮れない相手だという事は間違いなく、彼は相手に気付かれる事もなく薄っすらと笑みを浮かべていた。

とは言いつつもギルヴァも本気を出していない。

次元斬や疾走居合も繰り出す事なければ幻影刀も使用していない。

最早これは戦闘というより戯れているとしか言いようがなかった。

どうしたものかと思いつつ、牽制で飛んできた攻撃を避ける為ギルヴァはエアトリックで後方へと下がる。

そして態勢を立て直し、守護者へと視線を向けた時であった。

 

「!」

 

後ろから迫りくる気配に察知し振り向くと同時に刀身を鞘に納めた状態の無銘を振った。

奇襲攻撃を受け流し、守護者の居る方向へと弾き飛ばすと仕掛けてきた者へとギルヴァは視線を向けた。

居たのは一人の少女。刀を携え、何より側頭部から生え際にかけて伸びた大きな角が目を引く。

そしてこの少女こそがMk18が言っていたもう一人のハイエンドモデルだと彼は確信した。

 

―漸く揃ったか。どうする?

 

(どうするも何も相手をするだけだ)

 

再び戦闘を続行しようと無銘の鯉口を切ろうとするギルヴァだが、ふとある武器を思い出す。

本来であれば追跡者を相手にする際に使おうと考えていたが長らく使用していないので本番で上手く動けるか分からない。

どうせならここで体を馴染ませておくのもアリかと思いギルヴァは無銘をその場に置くと"彼"へと話しかける。

魔界の精鋭部隊隊長を務めた実力の持ち主でありながら造られし悪魔でありながらもその身を魔具へと変える力の持ち主であり今魔具へと姿を変えて待機している彼と。

 

(聞こえるか?フードゥル)

 

―ここに。どうされたか、主よ

 

(…肩慣らしでもしておくか)

 

―!…承知

 

ギルヴァの両手足が光に包まれる。

突然の事に守護者、そして少女…コロッサス・マグナも身構えるがそれも束の間、数秒も経たぬうちに光は消え去っていった。

しかしコロッサス・マグナはそれを見てどこか驚いている様子であった。

彼の両手足を包んでいた光が消え、見せたのは籠手と具足。金色に輝く光脈が流れている格闘武器という最早それは世の物とは思えないものであった。

雷撃鋼 フードゥル。

無銘、レーゾンデートルが彼の相棒と言うのであれば、この武器もまた相棒と言える存在であろう。

 

「使うのは何時振りか…」

 

初めて彼が雷撃鋼 フードゥルを使う事になったのはもう随分前の事である。

思えば悪魔と関わる様になったのもあの時からだ。

気付かぬ内に随分と時間が経ったものだと彼は内心呟くとフードゥルが話しかける。

 

―こうして主と戦えるのを我は嬉しく思うぞ

 

声の感じからしてどことなく嬉しい様子のフードゥル。

それはギルヴァも同じ気持ちであった。

 

(奇遇だな。俺もそう思っていた)

 

片足を引き、構えを取るギルヴァ。

それに合わせるかの様にフードゥルも金色に輝く雷を放ち始める。

刺々しくともどこか気高さを垣間見える雷。まるでフードゥルという名を示しているかの様だ。

 

「…!」

 

手にした刀を構えるコロッサス・マグナへ向かって歩き出すギルヴァ。

どこか緊張した面持ちで武器を構える彼女。そして先程までいたはずの守護者はどこかへと消えていた。

何故彼女を残していったのかはギルヴァには知りようがない。だがやるべき事は変わらない。

一歩、さらに一歩と足を進めながら距離を縮めていく。それに対しコロッサス・マグナは横へ移動しながら近づけられぬ様に距離を保ち始める。

相手はこちらの出方を窺っているのだろうと思った時、しびれを切らした彼は自ら動き出した。

 

「来ないならこちらから行くぞ」

 

「ッ!?」

 

紡がれた言葉の刹那、エアトリックを用いてコロッサス・マグナとの距離をほぼ間近とも言える距離まで接近したギルヴァ。そのまま相手へ目掛けて右ストレートを放つ。

一瞬にして接近された事により驚きの表情を見せる彼女だが、素早く反応して右ストレートを防ぎ安堵するがそれも束の間、ボディへと目掛けて放たれる一撃に反応して寸での所で防御。

そこから流れる様な連続して繰り出される回し蹴りを防いでいく。攻撃へと転じようとしても華麗かつ熾烈な攻撃の前にはコロッサス・マグナも反撃のしようがない。

何とか攻撃を防いだコロッサス・マグナだが次の瞬間、ギルヴァが繰り出そうとしている技を見て驚愕した。

 

「はぁぁ…っ!!!」

 

体をくの字に曲げ、満月を描く様に全身を高速回転しながら詰め寄る彼の姿。

それは月輪脚と呼ばれるギルヴァの持つ技の一つだ。

 

「ふっ…!」

 

回転の勢いを利用し振り下ろされた踵落としが彼女へ迫る。

不味い。

下手をすれば一発で破壊されるであろう踵落としに死の予感を覚えたコロッサス・マグナは防御ではなく、そこから飛び退くを選択した。

その選択は正しかった。下ろされた踵落としは地面へと叩きつけられ、そこには大きな凹みが出来ていた。

余りの威力に彼女は言葉を失うが、すぐさま我を取り戻してギルヴァへ問う。

 

「何者なの…?」

 

「それはお互い様だろう。…お喋りはここまでだ」

 

「ッ…!」

 

黒い影が奔る。そしてコロッサス・マグナの目の前にギルヴァが現れる。

少し慣れたのか自身の目の前に迫ったギルヴァに対し彼女は刀を横へと薙ぎ払った。

素早く、そして的確さを感じさせる攻撃。しかしギルヴァは素早く反応し身をかがめて攻撃を回避。そのまま右腕を突き上げつつアッパーを見舞うが刀の刀身によって受け流される。だがギルヴァからすれば想定の範囲内であった。

受け流された際に生じた反動を上手く生かし、片足を軸に回転しつつ体を捻りながら連続蹴りを放つがコロッサス・マグナはそれを素早く回避。

勢いつけて蹴り上げた為、宙へと舞い上がるギルヴァ。しかし相手に反撃の時間を与えまいとエアトリックダウンで素早く空中から地上へ移動しそのまま突進した。

攻撃に備えて構えるコロッサス・マグナ。刀身の間合いに彼が入った時上から下へ目掛けて振り下ろすもそれが間違いであったと気付いたのは直ぐの事であった。

先程まで格闘武器を使用していたはずの彼であったが、籠手を装備している左手にはいつの間にか無銘が握られていたのだ。

 

(まさか…さっきの宙から地上に降りた時に…!?武器を置いた位置はずっと覚えていたというの!?)

 

コロッサス・マグナが内心で言っていた事は当たっていた。

攻撃を繰り出しつつ動きながらもギルヴァは地面に置いた無銘の位置を覚えていた。

そして日輪脚による宙への舞い上がった時には無銘が自身の後方に置いてある事も把握しており、エアトリックダウンで地上に移動し突進するまでの僅かな時間で彼は無銘を拾い上げていたのだ。

 

(やられる…!?)

 

既に居合いの態勢から突進する技「疾走居合」が放たれようとしており、それが放たれば死は確実。

だがギルヴァは仕留める気など寧ろ寸止めで止めるつもりでいた。その様な事をせずとも先程まで戦っていた者が彼女の迎えに来るであろうと予想しながら。

そしてそれは現実のものへとなった。

鞘から抜刀された刀身。その刃が彼女に迫ろうとした瞬間颯爽と何者かが両者の間に降り立ち手にしていた大盾でギルヴァの攻撃を受け止めた。

 

「…そこまでだ」

 

「その様だな」

 

そう答えつつ姿勢を解き無銘の刀身を納めるギルヴァ。

相手の事情は知っている上やるべき事はやった。同時に体も十分温まっている。

装備していたフードゥルを解除すると彼は何か言う事無く絶賛蛮族戦士と戦っている追跡者の方へ歩き出していく。

奥へ向かって行くその背を守護者とコロッサス・マグナは少し間だけ見つめていた。

 

 

その頃、作り出された空間では神々しくとも禍々しいドーム状の広間で処刑人はリホと共闘しながら現れた魔物アルテミスと激戦を広げていた。

一見美しく見える光弾を連射し、時にはピットを射出。様々な攻撃を用いるアルテミスに二人は苦戦を強いられていた。

クイーンで攻撃を仕掛けようにも飛んでくる光弾の弾幕に接近できず、リホもピットの対処に追われ援護どころではない。

 

「ったく…チマチマとうっとおしい!」

 

そう言いながら処刑人は腰のホルスターに収めてあったアニマを引き抜く。

銃口の向く先はアルテミスではない。リホへと襲い掛かるピットへと向けて発砲した。

ピット自体脆い。アニマの二つのバレルから吐き出された弾丸が直撃するとピットはバラバラに砕け散る。

しかしこれで状況が良くなったとは言えない。ピットによる攻撃を一時的に止めただけに過ぎず、少し経てば新たなピットが飛ばされるであろう。

何かデカい一撃を与えなくてはならない。そう考えた時、処刑人の脳裏にある記憶がよぎった。

それはリホが攻撃を別の方へと流す時に使用していたワームホール。

攻撃を別の方向へと飛ばすという使い方は実に便利とも言える。そしてそれを敵の真上にワームホールを展開させる事が出来ればなおの事。

そしてデカい一撃をあの魔物にぶつけるのであれば、花の名を持つ義手の潜在能力が役立つ。

そうと決まれば即実行。ガーベラの潜在能力をさせながら攻撃を躱しつつ処刑人は叫んだ。

 

「リホ!合図したら俺の目の前にワームホールを展開しろッ!!出口はあいつの頭上だ!」

 

「ちょっ、おま!いきなり過ぎんか!?」

 

「そんな事言ってる場合じゃねぇんだよ!!このままじゃ二人仲良く棺桶でオネンネするだけだぞ!」

 

「だーもう!!分かった!分かった!うちもまだ棺桶にオネンネする気などないわ!!」

 

状況がよろしくないと感じていたのはリホも同じだったのであろう。

今を打破するために処刑人の案に乗る他なかった。

嵐の様な弾幕を被弾せぬ様に回避し続けて、そしてアルテミスの動きに変化が訪れる。

先程まで繰り出していた光弾の連射やピットの射出を止め、アルテミスは広間の中央でまるで天へと昇っていく様な様子で空へと上昇し始めたのだ。

忽然と止めた攻撃。相手が何をする気なのか言葉にせずとも二人は理解していた。

 

「今だ!展開しろ!」

 

「人使い荒いな、ホントにッ!!しくじったら許さんで!!」

 

「誰がしくじるかよッ!!」

 

展開されるワームホール。

そしてその出口はアルテミスの頭上に展開されている。

とうにガーベラの解放出来る状態だ。

 

「開け…」

 

獰猛な笑みを浮かべながら、構える。

右腕を後方へと引くとガーベラが展開しはじめる。光が集まり出し、解放の時を今かと待っているかの様だ。

そして勢いよく突き出した瞬間瞬処刑人が叫んだ。

 

「ガーベラッ!!」

 

その声と共に開花したガーベラから極太のレーザーは迸り、放たれた反動で彼女はその場から後ろへと下がってしまうが何とか踏ん張る。

ワームホールを通り抜け、出口から光の滝がアルテミスの頭上が振り注ぎ、その女体部分を飲み込んだ。

ガーベラによる照射時間は二、三秒程度。しかしその二、三秒で敵にダメージを与えられれば良い。

相手を怯ませればそれだけで良いのだ。

レーザーを吐き出し続けるガーベラから火花が散り始め、パーツが生み出すエネルギーが熱となって段々と赤から白へと高温発光している。

そろそろ限界が近い。次の瞬間全てを出し切ったと言わんばかりにガーベラの照射レーザーが終わりを告げ、バラバラに吹き飛ぶ。そして光のシャワーを頭からかぶったアルテミスはダメージを受けている様子であった。

体が消失している訳ではないが、動きが鈍い。それを見逃さなかったリホが叫ぶ。

 

「今や!!一発デカいの当てたれぇッ!!!」

 

「言われなくても分かってらぁッ!!!」

 

壊れたガーベラの代わりにトムボーイではなくバスターアームを接続。クイーンの柄を握ると処刑人は駆け出した。

まだ展開しているワームホールへからアルテミスの頭上へと飛び出るとその頭をバスターアームで掴み押さえつける。

 

「このッ…」

 

振り落とされない様に踏ん張りながら気味の悪い顔面の口へ目掛けてクイーンの刃を突き立てる。

 

「カトンボがッ!!」

 

抵抗する隙を与える間もなく処刑人は半ば強引にアルテミスの口へとクイーンの刀身を奥深くへとねじ込んだ。

そのままグリップを捻り、推進剤噴射機構を発動。燃焼された推進剤が炎となって噴き出し、アルテミスの内部から燃やし尽くそうとする。

ジタバタ暴れ始めようとするアルテミスだが強烈な攻撃の前に動く事すらままならない。成されるがままの状態がこれでもかと言える程に続き、光を操る魔物に対し処刑人は着実にダメージを与えていく。

端から見ればかなり惨い絵面なのだが、今更そんな事をいう者はこの場には居ないだろう。

そして彼女はクイーンをアルテミスの口の中へと突き刺したまま共に地面に従う様に地面へ降下。反動をつけて体を大きく回転。

 

「ぜえぇりゃッ!!」

 

頭を掴んでいたバスターアームの力でアルテミスを地面へと向かって豪快に投げ飛ばした。

大きな体を持つ魔物が成す術無く地面に叩きつけられ、その派手を物語る様に破砕音が周囲には響き渡る。

その一部始終を見ていたリホは口を開く。

 

「ようあんな事ができるわ…ん?」

 

若干引き攣らせた表情を束の間、彼女は地面に叩きつけられたアルテミスを見て訝しげな表情を見せた。

一瞬だけであるがピクリと動いた様に見えたのだ。

 

(いや、そんな事あらへんやろ…?)

 

頼むからそのまま動かないで居てくれと祈るリホ。

だが彼女の祈りが天に届く事はなくあれだけの攻撃を受けたにも関わらず動き出したアルテミスへと叫ぶ。

 

「嘘やろ!?なんで動けるんや!?」

 

「全くしつこいったらありゃしねぇ!お友達にはなれそうにねぇな!」

 

「んな事言ってる場合ちゃうやろ!おわっ!?あぶな!」

 

アルテミスの羽から三機のピットが射出され、二人へと襲い掛かる。

処刑人はアニマを連射し、リホは八卦炉を用いてレーザーを放ちながらそれらへと迎撃。

先程まで射出していた物と比べると少し大型でどことなく機械的な印象を受け、動きも先程のものと比べるより繊細でかつ攻撃的な印象を受ける。

誰かに似ている。それはアルテミスと初めて相対した時から二人が感じていた事であった。

そして今。その誰かを思い出した処刑人が叫んだ。

 

「お前…まさか案山子(スケアクロウ)か!?」

 

案山子と叫ぶ声を耳にしリホもハッとした表情を浮かべる。

ピットを用いた攻撃、現れた時の佇まい。何処か案山子と呼ばれる鉄血のハイエンドモデルに似ている節があった。もし目の前に居るアルテミスが案山子とするのであれば合点がいく。

 

「…」

 

処刑人の声にアルテミスが答える訳が無く、只々攻撃を仕掛けてくるのみ。

飛んでくる攻撃の中を駆け抜け、一定の距離まで詰めるとアルテミスへと向かって処刑人は跳躍。

振りかぶった一撃がアルテミスの胴体部分を一閃。切り裂かれた部分から人の姿らしきものが覗かせた。

地に着地しそれを確認しようとする処刑人。しかし最後の足掻きのつもりなのかアルテミスは彼女に向かってピットを射出し光弾を乱射。

飛んでくる攻撃を後ろへと素早く後退しつつ距離を取る処刑人。飛ばされた攻撃の一つが自身の背後に落ちたのを感じ取ると勢いよく地面を蹴り壁へと向かって突進。

着地からそのまま壁の上を駆け出しながらアルテミスへと迫る。

次々と飛ばされ、処刑人を撃ち落そうとする攻撃。しかしそれらの攻撃はリホがワームホールを用いて別の方向へと飛ばし援護に入る。

 

「こいつで…!」

 

リホの援護により攻撃が流されていき、アルテミスに隙が生まれたのを見逃さなかった処刑人が壁を蹴り接近。

そしてその胴体へとクイーンを振り下ろし一閃。先程までよりも深い一撃でアルテミスへと与えると地上へと着地。

動きを止めたアルテミスに警戒していると切り裂いた部分から誰からが落ちたのを彼女は目撃した。

 

「ッ!」

 

素早くクイーンを背に収めると下へと落ち始める誰かへと跳躍して近寄り、お姫様だっこする感じで受け止め着地しそのものを見つめた。

いつも付けているマスクは外され、黒かった髪も白く染まり、処刑人の腕の中で瞳を閉じて眠る人形。

 

「案山子…」

 

自身の後方で息絶えたアルテミスが地面に激突している事には目もくれず処刑人は彼女の名を口にする。

まだ鉄血を離反する前に、自爆した筈の彼女。

その彼女がどうして魔物の中に囚われていたのか処刑人には分かる筈がなかった。

 

「何でお前が…」

 

何処か悲しむ様な声で案山子へと問いかける処刑人。

魔物を討伐した事で空間は元のものへと変わっていく中、処刑人は案山子をそっと抱きしめる。

その様子をリホはただ静かに見つめるのであった。




はい。という訳ギルヴァvs守護者とコロッサス・マグナ、処刑人&リホさんvsアルテミスとの戦いは終了です。

このままギルヴァは追跡者のほうへ向かいます。

次回はブレイク&ランページゴーストvsギガノス、ルージュ&Mk18vsブルート・アンジェロ編へと行きたいと…。
出来れば一話にまとめれたら良いのですが、状況によって二話に分けてするかも…。

では次回ノシノシ


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Act134-Extra operation grave guard Ⅴ

奏者は赤き狩人と暴れる亡霊の三人

さぁ、一曲奏でよう


破砕音が、雄叫びが、銃声がまるで音楽を奏でる様に響き渡る。

処刑人とリホがアルテミスと戦っていたドームと比べると格段に狭く熱気が漂う拷問部屋でギガノスは荒れ狂うかの様に丸太の様に太い剛腕から繰り出される連撃で四人へと襲い掛かる。

ただでさえ狭い空間で戦闘を強いられている状況、ブレイクは華麗に回避しながらもロイヤルガードで攻撃を防いだりするが、ランページゴーストの三人にとってやりづらい状況と言えた。

しかしだ。相手がこれだけデカいのであれば狙い撃つまでもない。両手に持った20mmバルカン砲で攻撃しつつノアが叫ぶ。

 

「釣りはいらねぇ!取っておきなぁッ!!」

 

バルカン砲から繰り出される弾幕に交わるかの様に腰のアーマーから無数のマイクロミサイルが放たれる。

それぞれの軌道を描き放たれたミサイルの群はギガノスに着弾し盛大に爆ぜる。しかしこの程度で死ぬ相手ではない事は誰にだって分かる。

爆炎の中でギラリと輝く赤い瞳がノアを捕えるとギガノスは彼女へ目掛けて雄叫びを上げながら突っ込んできた。それを止める者が一人。

ブレイクが展開した魔術の壁を足場にしてギガノスの顔の高さまで彼女は跳躍する。

突如として目の前に現れた事により反応が遅れる巨人。

「ハイパーマキシマムムテキドールスーツ」を身に纏うRFBが叫ぶ。

これが恐怖へと立ち向かう力であると言わんばかりに。

 

「どおぉぉりゃああああぁっ!!!!」

 

雄叫びと共に放たれた右ストレートが巨人の顔面に炸裂。

鉄球がぶつかったのではないかと思いたくなる程の衝撃波が奔り、ギガノスはその一撃でノックアウトしそうになる程に仰け反る。

そこにもう一人が追撃に入った。

とある神話に出てくる刀剣の名を冠したブレード アメノハバキリを構え、アナがギガノスに迫る。

斬らねばならない。ただそれ一点に全神経を集中。

 

「っ…!」

 

一閃。

ギガノスの首筋から血飛沫が舞い上がる。だが彼女の表情を宜しくない。

 

(浅い…!)

 

一見すれば大きな一撃を与えたと思うであろう。しかし与えたのは微々たるダメージでしかない事に剣筋を通して感じていた。

雑念があるのか、或いはそれ以外の何かか…。

どちらせよ今の一撃で仕留める事が叶わなかったのは事実。首筋から血を噴き出しながらも、ギガノスはアナの方へと振り向き、彼女へ目掛けて拳を振る。

回避し素早く距離を取ろうとする。しかしふと彼女の中で悪寒が走る。

 

「逃がさぬ…!」

 

回避される事は予測済みであったのだろう。ギガノスはアナが回避した直後を狙い、駆け出していた。

しかも最悪な事に彼女の後方には壁。銃を撃って止まる相手ではない。

不味いと思った矢先、この男がギガノスの目の前に飛び出す。

赤いコートを揺らめかせ、手には髑髏の装飾が施された反逆の名を持つ大剣であり魔剣。

普段は地上で使う事が多い技であるが、空中でもやろうと思えばやれる。

移動距離は極端なまでに短くなるが、相手を吹き飛ばすには十分。

 

「受け取りな!」

 

保有する魔力を刀身に纏わせ、そのままリベリオンを勢いよく突き立て突進。

RFBが放った右ストレートの威力を超える一撃が直撃し、巨体であるギガノスが後ろへと吹き飛ばされ地面を転がっていく光景が広がりアナはその場から離れる。

リベリオンを肩に担ぎながら地へと着地するブレイク。ニヤリと笑みを浮かべながらギガノスへと話しかける。

 

「無視すんなよ。流石の俺も悲しいぜ」

 

「貴様ぁ…!」

 

「やれやれ、悪魔ってのは美人、美女の前だと良いとこ見せたくてはしゃぎだす。迷惑も良い所だ。所でこの三人の中じゃ誰が好みか聞こうか?因みに俺は全員一位だな。可愛すぎて差なんて付けられねぇよ」

 

何でそんな事を言ったのかはさておき。

ブレイクの冗談を聞くつもりはないのかギガノスの再び立ち上がると大きく咆哮を上げた。

余りの大きさに空間が振動する程で心なしか赤い瞳が不気味に輝き始めて息も荒い。

本格的にキレた。それは誰もが見てもそう言うであろう。ランページゴーストの三人は素早く武器を構え、銃を連射。

 

「潰す!潰す!潰す!!潰すうぅぅぅぅッ!」

 

襲い掛かる弾幕に怯む事はなくただ狂ったかの様に叫ぶ声が響き、それどころか先程まで二足歩行だったギガノスは突如として四足歩行で駆け出し始めた。

その巨体に似合わず、弾丸の嵐を駆け抜けていく様はまるで獣だ。

 

「嘘でしょ!?」

 

「ビビんな!たかが四足歩行に変わっただけに過ぎねぇ!轢かれんなよ!!」

 

「ッ…!分かってる!!」

 

(動きもそうだが、ブレイクの一撃を受けてもピンピンしてやがる…どんなだけ体力があるんだよ、こいつ…!)

 

こうしてバルカン砲を連射している訳だが効いているのかすら怪しい。

RFBの右ストレートとブレイクのスティンガーの一撃を受けた為、ギガノスがダメージを負っているのは事実。だがこのまま長期戦になれば苦しくなるのも事実であった。

弾丸だって無限ではない。誰かが弾切れを起こせば戦力が半減する事は目に見えた話であろう。

どうにかしなくてはならないと思われた時、RFBが叫んだ。

 

「ちょ!?ブレイク、何してんの!?」」

 

何をとち狂ったのか、あろう事かブレイクがリベリオンを背に収め無防備な状態を晒したまま突っ込んでくるギガノスの前方で突っ立っていたのだ。

この状況なら相手に轢き飛ばされない様に動き回りながら攻撃するが普通だ。

 

「さてと…」

 

だというのにこの男は吞気に肩を回し始めていた。

いくら彼と言えど暴走するダンプカーみたいな巨人の体当たりを真面に喰らえば只では済まないだろう。

その一方でノアは思った。

何か状況を覆す策があるからこそブレイクはああしているのではないか、と。

だが何か行動をする様な素振りすら見せないのは何故か。最悪な事態にならぬよう隊長である彼女は二人に指示を飛ばす。

 

「撃ちまくれ!足を止めるほかねぇ!!」

 

三人による一斉射がブレイクへと迫るギガノスへと襲い掛かる。だが相手は止める気配すらない。

それどころか彼へと迫る速度が速まった様にも見える。

 

「ブレイク、避けろッ!!!」

 

「大丈夫だって。そこで見てな」

 

何が大丈夫だ。

もうすぐそこまで相手は迫って来ている。今何とかしなくては状況は一気に最悪な方へ持っていかれる。

 

「援護する!アナ、あいつを!」

 

「了解!」

 

シューティングスターを展開しその機動力を活かしてアナがブレイクの後方から迫る。だが…

 

(間に合わない…!)

 

ほんのわずかに動き出す事が遅かった事に彼女が悟った時であった。

突如として弾ける様な音が響き渡り、宙に何かが舞い上がった。

ブレイクではない。舞い上がっていたのは血飛沫が上げながらギガノスの片腕。そして片腕を失ったギガノスは地面を転がっていく姿と平然とした様子で何時もの笑みを浮かべるブレイクの姿。

何が起きたのかノアとRFBには分からず、転がってくるギガノスを避けるためからその場から離れる。

そしてその一瞬の光景を見ていたアナは声に出す。

 

「反撃、した…?」

 

彼女が見たのはほんの一瞬であったが覚えていた。

ギガノスがブレイクを轢き潰そうした瞬間、まるで瞬間移動したかの様にブレイクが背後に移動していたのだ。防御した事によって蓄積した魔力を放出させ突進する彼が巨人の腕を弾き飛ばす所もしっかりと目にしている。

鉄壁の防御と主とした戦法は決して防御だけに特化しておらず反撃にも特化しており、状況を覆すには適している。

ただ攻めるだけが全てではない。時には相手に合わせ防御と反撃を繰り出すのもまた必要。

この状況で、この場に居る者の中でそんな事が出来るのはブレイクだけと言えた。

 

「言っただろ?大丈夫だって」

 

「そう言われましても…正直不安しかありませんでしたが」

 

「厳しいな。ま、こうしてピンピンしてるんだ。大目に見てくれ」

 

一度肩を竦め、ブレイクはギガノスを見つめる。

片腕を失くし、大量の血を流しながらもまだ戦う気があるのか立ち上がり体を大きく仰け反らせ咆哮していた。

その姿に一度辟易した様なため息をつき歩き出そうとするが何かを思い付いたのか、ふと彼は笑みを浮かべた。

 

「アナ、ちょいとだけだがこいつらを貸してやるよ」

 

「え?」

 

そう言ってブレイクが彼女へと投げ渡したのは愛用している白のアレグロと黒のフォルテだった。

コルトガバメントをベースとし極限なまでに大型化、堅牢化を施した二丁拳銃。アジダート&フォルツァンドの先輩とも言える銃がアナの手に握られていた。

いきなり相手の愛用する二丁の銃を渡され、啞然とする彼女に対しブレイクは言葉を続ける。

 

「その代わりだ。アジダート&フォルツァンドを貸してくれ。壊しはしねぇから安心しな。」

 

寧ろ大事に扱ってくれないと困る。

白銀の二丁拳銃は彼女を支える相棒とも言える存在なのだから。

 

「壊したら請求書叩きつけますので」

 

「それはごめんだね。んじゃそろそろ行くか」

 

アナからアジダート&フォルツァンドを受け取るとそれをホルスターへとブレイクはギガノスへと歩き出す。ノアもRFBも、そしてアレグロとフォルテに握ったアナも既に動ける状態にある。

その時ブレイクが人差し指を立て腕を上へと動かし始めた。

 

「イカれたパーティーの再開か。派手に―」

 

人差し指が高らかに天へ指した時、彼は叫んだ。

 

「行くぜ!」

 

パーティーの再開が宣言された瞬間、内包する魔に引き金が引かれた。

彼の肉体が細胞レベルで変化する。

人から悪魔へと。

周囲に放たれた赤い光は数秒も経たぬ内に消え去り、ランページゴーストの三人の前に立つのは一体の赤い悪魔であり、魔人化を果たしたブレイク。

ノアを除き、二人にこの姿を見せるのは初であるが彼は気にしてはいなかった。

どう捉えるかは本人次第。どう思われようが気にする程ではない。

 

「トリック!」

 

エアトリックを用いてブレイクはギガノスの顔面の前まで急接近し攻撃を仕掛ける。

彼が動き出した事によりノアとRFBは攻撃を開始。20mmバルカン砲が、パワードスーツの内蔵火器が火を噴く中、アナはブレイクから貸し出されたアレグロとフォルテを見つめる。

連射特化したアジダート&フォルツァンドとは違う特徴を持つ二丁拳銃。この二つだけが持ち奏でる音色がそこにある。

こんな機会はそうそうない。フッと微笑むと彼女に楽器へと話しかける。

 

「アレグロ、フォルテ…」

 

ベースがベースという事もあって反動はアジダートとフォルツァンドの上を行くであろう。

しかし彼女にとっては先輩が奏でる曲がどこか楽しみで仕方なかった。

二つの銃をギガノスへと向け、アナは誘う様に問いかける。

 

「一曲奏でましょうか…!」

 

引き金を引く指は指揮棒となり、銃声は音となって曲を奏でる。

アジダートとフォルツァンドとは違う音が奏でる曲は一味違う。撃つ度に響く銃声と伝わる反動がそれを感じながらもアナは思う。

巨人を相手にして戦う彼はこの二丁拳銃をマシンガンの如く連射しているのかと。

アジダートとフォルツァンドは伝説の魔工職人によるものだが、アレグロとフォルテは人間の手によるものだ。

あれだけ連射して壊れない。それはこの二丁を作ったガンスミスの腕の高さを感じさせる。

 

「ちょこまかと…!」

 

後方から飛んでくる弾幕の嵐の中で舞う様に飛び回り、そして苛立つ様な声を出すギガノスの攻撃を華麗に避けながら攻撃を繰り出すブレイク。

代理人から借りたショットガン「Devil」を空中でヌンチャクの様に振り回して散弾を叩きつけ、ヴァーン・ズィニヒを呼び出し突撃し車体をギガノスの顔面へとぶつけ相手の体を足場して空高く舞い上がった。

体を空中で上下反転させながらホルスターから白銀の二丁拳銃 アジダートとフォルツァンドを抜くと高速回転と共に下に居るギガノスへ銃弾の雨を降らしながらブレイクははしゃぐような声を上げた。

 

「いいねぇ、この連射力!惚れちまいそうだ!」

 

アレグロとフォルテでも連射出来るがアジダートとフォルツァンドの連射はその倍を行く。

ブレイクの持つ技術も相まって振り注ぐ銃弾は集中豪雨へと化していき、ランページゴーストの三人による一斉射もあってギガノスは動けない。

ダメージを受け過ぎている事もあって、すぐさま攻撃へと転じる事は叶わない。

それをチャンスと見たのだろう。ノアが突撃するとパワードスーツの制限を解除したRFBとシューティングスターを展開しブレードを構えたアナが突撃。

 

「最終楽章だ!派手に決めるぜッ!!!!」

 

犬歯を剥き出しに叫ぶノア。それを聞いたブレイクはニヤリと笑みを浮かべるとグラインドトリックで素早く地表へと降り立つ。

 

「ならこいつで派手に決めな、嬢ちゃん!」

 

そう言って彼はヴァーン・ズィニヒを呼び出し、バイクだけノアの方へ走らせた。

走ってくるそれを見てノアは20mmバルカン砲をしまい、軽々とした身のこなしでバイクにまたがり車体を反転。スロットルを捻りエンジン全開にしてギガノスへと急接近し、ウィリーの体勢からジャンプしバイクと共に宙へと舞い、バイク形態から双剣形態へと変形させた。

 

「くたばりやがれッ!!!」

 

振り下ろされた二つの鋸がギガノスを斬り刻み、その体に二筋の刀痕が残る。

そこから噴き出す鮮血の雨。それでも巨人は止まらない。それどころか残った片腕による拳をノアへ目掛けて飛ばす。

 

「やらせないッ!!!!」

 

だが、パワードスーツの制限を解除したREBが内蔵火器を一斉射して飛んでくる拳の威力を衰えさせ、タイミングを見計らってからスピードと威力が落ちた拳に対し勢いよく拳を飛ばしぶつけた。

最初の右ストレートの上を行く一撃は巨人は体を仰け反らせ、無防備な状態を見せる。

そして彼女が動き出す。

 

「斬る…!」

 

重力に引かれつつもシューティングスターのスピードを織り交ぜる。

流れ星の如く迫りながら彼女は構えを取る。

それは居合の姿勢。どことなくギルヴァが繰り出す技「疾走居合」の構えを彷彿させる。

もう雑念はない。恐れもない。今はただ斬る事のみに全神経を集中させる。それが死であろうと。

距離を縮まる。曇りなき刀身が淡く一瞬だけ輝きを放った瞬間、一閃奔る。

先程まで空中にいた筈なのにいつの間にか地上に降り立ち、ギガノスの背後に立つアナ。

そして何故か動く気配の見せないギガノス。

刀身に滴る血を払い落し、アメノハバキリをシューティングスターへゆっくりと収めながら同時に彼女は呟く。

 

「死を視ること…帰するが如し」

 

そして刀身が収まる音が響いた瞬間、まるで合わせたかの様にギガノスの頭がずれ落ちた。

大量の血を噴き出しながらその体は崩れ落ち、ずしんと音を立てる。

最後は自分が止めを刺そうと思いながら魔人化を解除するブレイク。最後はアナの一閃により出番はなくなってしまったが、まぁ良いかと思っていた。

 

「しっかしとんでもないものを見せてくれたな。ギルヴァの技をちょいと真似たのかね?」

 

ギガノスが倒された事により空間が元に戻り始める。

パーティーの終わりが告げられた事を察しながらブレイクはアナの元へ歩み寄り声を掛けた。

 

「俺の出番まで取って行くとはな。やってくれるぜ」

 

「貴方だけに頼る訳には行きませんので」

 

「そうか。…まぁ良いさ。それとこいつらを返すよ」

 

手にしていたアジダートとフォルツァンドをアナへと返すブレイク。

愛銃を返されたアナは同じ様にブレイクにアレグロとフォルテを返した。

ふと何かを疑問に思ったアナは彼へと問う。

 

「何故武器の交換を?」

 

「さぁね。ちょいとした気まぐれさ」

 

肩を竦めアレグロとフォルテをホルスターに収めながら、彼はノアやRFBに声を掛けるため歩き出していった。

何故武器の交換してきたのか。その真意が彼の口から語れる事無い。

どこか腑に落ちない気分になりつつも、アナはアジダートとフォルツァンドをホルスターへと収め彼の後を追うのであった。




すまん…二組分を一話に納められなかった…。

という訳でブレイク&ランページゴースト隊vsギガノスは終了です。
次回はルージュ&Mk18vsブルート・アンジェロ。

そしてその次はギルヴァ&蛮族戦士対追跡者編へ


そろそろパーティーも終わらせましょうかね!

では次回


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Act135-Extra operation grave guard Ⅵ

―咲かせる花火は決して綺麗では無い


舞台は変わり、資材搬入区画では火災現場になりかけていた。

剣戟をぶつかり、その後に爆発するような音を響き炎が煌々と、火の粉がまるで桜の花弁の如く彩り咲き舞い散る。

振るわれる大剣に臆する事もなく大鎌を振い果敢に攻めながら展開した炎を用いた技も繰り出すルージュ。

その彼女を援護する様に手にしたアサルトライフルをブルート・アンジェロへと放ちながらMk18は思う。

思っていた以上に面倒な事になってしまったな、と。

簡単に終わる事のない戦いとは思っていたが、これ程とは予想だにしていなかった。大剣を軽々と振るう改造されたブルートを相手に善戦するルージュという少女が居なければ、状況は最悪になっていたとも言えるだろう。

普通とは思えぬ力を保有していようともこの状況ではルージュは頼もしいとも言える存在であった。

 

「"上"が置いたものなのかしらね…。まぁそんな事を考えている暇なんてないけどさ!」

 

投げナイフ型C4を投擲しようにも、派手に炎をまき散らすルージュが相手と元気に斬り結んでいたら援護が出来ない。

彼女がブルート・アンジェロの隙をつき蹴りを放ちお互いの距離が開いた瞬間Mk18はナイフを投擲。真っ直ぐと吸い込まれる様にブルート・アンジェロへと向かって行くナイフ。

同時にMk18が叫ぶ。

 

「離れて!」

 

「!」

 

その声を聞きルージュは後ろへ跳躍し後退。

爆発の範囲外から彼女が逃れたのを確認するとMk18は起爆スイッチを押した。

投擲されたナイフは相手の目の前で爆ぜ、発生した爆発にブルート・アンジェロは飲みこまれる。

しかしその程度では大したダメージにはならず、それどころかナイフが爆発する寸前に大剣の剣幅で爆風を防いでいた。

 

「ちっ…反応の良い奴ね」

 

「騎士みたいな奴らは大体反応がいいですよ、腹立つ位に」

 

「それって経験談?」

 

「似た様なものと言っておきます」

 

Mk18の問いに答えながら大鎌を構えるルージュ。その視線はブルート・アンジェロを見据えていた。

先程の剣戟で感じたのは技量の高さの他、身に纏う鎧が予想以上に硬かった事。

そして纏う鎧は魔力によって防御補正が掛かっている事及び並程度の攻撃では破壊出来ない程の堅牢を有している事を彼女は見抜いていた。

 

(これの出番かもしれませんね…)

 

背に背負った武器へちらりと視線を向けるルージュ。

S地区応急支援基地から送られたそれは黒く染められた機銃の姿をしている。しかしそれは以前向こうの基地に所属する人形にマギーが送った試作武装「プロトタイプ・ナイトメア」を元に改造が施された「転禍為福」である。

光弾及び極太レーザーを放つ機構は残し、そこに「浄化モード」を搭載されているという事は付箋に記されていた内容を見て把握している。

本体以外にも専用外骨格を送られたのは、この「浄化モード」の為という事も。

 

(私が使うのは想定外かもしれませんが…使わせて貰いますね)

 

この改良が加えられた「転禍為福」を収めたケースに貼られていた注意事項を記した付箋の裏に書かれたS地区応急支援基地に所属する面々からのメッセージを彼女は思い出す。

どれもが健闘を祈るメッセージ。しかしその文面を通し、相手からの思いを感じ取っていた。

纏う炎が彼女の気持ちを現す様にまるで動物の尻尾の様にゆらりと可愛らしく揺れる。

 

(…温かいというのはこういう事なんでしょうかね)

 

小さな笑みを浮かべるも直ぐに切り替えて彼女は突進。

纏う炎を推進力にしてロケットの様に迫る。突撃してくるルージュに対してブルート・アンジェロは大剣を突き立てて突進。

まるでその姿はブレイクが繰り出す技「スティンガー」に酷似している。その速度は恐ろしいまでに速く、ルージュが攻撃を仕掛けるよりも先に到達するであろう。

 

「真似事ですか。あの追跡者といい、お前といい…ドッペルゲンガーですか?」

 

その攻撃が到達する寸前でルージュは勢いよく跳躍して回避。

急降下から地面へと向かって炎を纏わせた拳を叩きつける。

噴き出す様に彼女の周囲に現れる炎の壁。全て焼き尽くさんと鎧を纏う女騎士もどきに迫る。Mk18の投げナイフ型C4で大したダメージにはならなかったものの、その炎が違った。

大剣では防ぎ切れないと感じたのか、後方へと飛び退こうとするブルート・アンジェロ。だが炎の壁をすり抜ける様にルージュが持っていた大鎌が飛来。

空いた手で飛んできた大鎌は受け止められるが、それを予想済みであったのだろう。一瞬の隙をついてルージュがブルート・アンジェロの懐に潜り込み、格闘を仕掛ける。

 

「っ…!」

 

拳による素早いラッシュが相手の動きを封じ込め、そこから左から右へ水平に薙ぎ払う様な蹴りから元へ戻す様に今度は右から左へと蹴り払い。

そのまま勢い任せに体ごとを回転させながら次々と蹴りを繰り出していく。鎧を纏っていない所を重点的に攻め続け、確実にダメージを与えていく。

そして相手の体がくの字に曲がった所に頭目掛けて足を大きく上げ踵を叩きつけ、地面に寝かせる前に今度は顔面目掛けて体をひねりながらの蹴り上げて宙へ舞い上げつつ、自身も宙へ舞い上がり蹴りによる強烈な一撃を見舞う。

その蹴り技を次々と繰り出す荒技を披露したルージュを見ていたMk18はつい口が半開きになる程、驚いていた。

 

(いやいや…!?何あれ!?普通じゃない事は分かっていたけど、身体能力がおかしいでしょ!?)

 

彼女は知らないが、ギルヴァやブレイクも先程の技をやろうと思えばやれたりする。

「キック13」とか言った名前を付けているに違いないが。

そんな技を受けていたにも関わらずブルート・アンジェロはまだ動く。宙に舞い上げられても体勢を素早く立て直し、持っていた大鎌を投擲するがルージュはそれを容易くキャッチ。

そこに大剣を振りかぶるブルート・アンジェロが迫る。振り下ろされた一撃を大鎌の柄で受け止め、降下しながら激しく斬り結ぶ。

鍔迫り合いからお互いにお互いを突き飛ばし距離を取り、地面に着地。するとブルート・アンジェロの足元に何かが突き刺さった。

それはMk18の投げナイフ型C4だ。

 

「こっちも忘れないでくれる?」

 

起爆。

ブルート・アンジェロの足元でそれは爆ぜ、舞い上げられる。

生まれた隙。ルージュは大鎌を勢い投擲。弧を描いた刀身がブルート・アンジェロの鎧を纏っていない腹部に突き刺さり、そのまま天井へと縫い付ける。

かなり深くまで突き刺さったのだろう。引き抜こうにも中々抜けず足掻く女騎士もどき。

 

「今なら…!」

 

その場から飛び退き、Mk18の隣に降り立つとルージュは背に背負っていた転禍為福を構えると「浄化モード」を起動させた。

 

『転禍為福、浄化モードへ移行』

 

内蔵されているのだろう。音声が流れる。

すると黒い機銃の様な形をしていたそれは音を立てながら姿を変えていく。

 

「良い趣味してる」

 

褒める様に呟くルージュの目に映るのは変形を終えた転禍為福。

所々から碧く光る光脈が流れる銃は近未来感を感じさせる。

 

「何をする気…?」

 

その隣でMk18が問いかける。

砲身を片手で支え天井に縫い付けられたブルート・アンジェロへ狙いを定めながらルージュは答える。

 

「打ち上げ花火でも上げようかと。…時間を稼いでくれますか?」

 

「銃弾もC4も効かないのに、時間稼ぎが出来ると思う?」

 

「ならばこのまま延長戦を繰り広げますか?私は構いませんが、貴女はそうでないでしょう?弾やそれも無限ではない筈」

 

痛みに耐える声を出しながらも僅かずつであるが大鎌を引き抜きつつあるブルート・アンジェロ。

ルージュと違って、Mk18が今頼れるのは手にしているアサルトライフルと投げナイフ型C4の二つ。数に限りがある為、両方が尽きれば確実に足手纏いになるのは明白であった。

無くなればテレポートを用いて逃げ出す事も可能なのだが、彼女はそれを良しとは思わなかった。

ルージュがやられるとは思っていない。

だがもしもやられてしまった場合今後の事を踏まえればMk18、否…Mk18"達"にとっては厄介な相手になる事に違いなかった。

はぁ~と軽くため息をつくMk18。伏せていた目を開くとアサルトライフルをブルート・アンジェロへと向ける。狙いを定める目は覚悟を決めた目つきをしていた。

 

「一発で決めて。その銃、時間がかかるやつみたいだし」

 

銃声が鳴り響く。飛び出る薬莢が地面に落ちては音を立てて転がる。弾が尽きたら素早く新たな弾倉を差し込み、引き金を引き続ける。

 

『エネルギーライン、全段直結』

 

その隣で転禍為福が発射に必要なエネルギーをチャージしていく。

 

『機体固定用パイル、ロック』

 

発射に至るまでの機能が次々と行われていく。

だが発射まではまだ時間がかかる。

普通なら早くと慌てる所。だがルージュは至って冷静であった。

 

『ゲージ内、正常加圧中』

 

「ねぇ!まだなの!?そろそろヤバいわよ!」

 

急かす声が響く。

それはルージュも気付いている。深くまで突き刺さっていた刀身は既に半分以上引き抜かれていた。

転禍為福の浄化モードによるチャージ中は動く事も出来ない。もし撃てなかったら二人共終わりだ。

 

『ライフリング、回転開始』

 

音が響く。

もう少しで発射できると判断したルージュは背の炎を勢いよく噴射させた。

転禍為福の浄化モードでの発射は専用外骨格を身に付けていたとしても相当の反動がある。その事を把握していたルージュは展開した炎を反動抑制用噴射装置として利用しようと考えていた。

しかしこれでどこまで抑えられるかは分からない。だが何もしないよりは良いと言えるだろう。

そして時は訪れた。

 

『撃てます』

 

「…ッ!」

 

引き金を引かれる。

発射の反動は凄まじく、専用外骨格と即席で行った炎による反動抑制噴射装置があっても彼女は立っていた位置から大きく後ろへと下がってしまう。

砲口から放たれた巨大な光弾は放物線を描く。当たるかどうか怪しく感じる。

だがルージュにとってその事は想定範囲内であった。

大鎌が引き抜かれ地に落ちる。地面を跳ねルージュの足元に転がり、ブルート・アンジェロが降下し始めた瞬間。

 

「!」

 

まるで合わせたかの様に光弾がブルート・アンジェロに直撃し爆ぜた。

悪魔を大幅に弱体化させる一撃は過剰なまで魔の技術を施されたブルート・アンジェロを一気に弱らせる。

一方でルージュは転禍為福から放たれた光弾を見て納得した様に呟いた。

 

「成程、ホーリーウォーターに似た力ですか。…しかしどこでそんなものを得たのでしょう?石ころの様に落ちている訳では無いのですが」

 

疑問に思いながらもルージュは転禍為福を元の形態へと戻し背に背負い、大鎌を拾い上げると地面に墜落しゆっくりと立ち上がるブルート・アンジェロへと視線を向ける。

防御力は激減し、動きも鈍く大剣を杖代わりにして立ち上がるのが精一杯の様子であった。

 

「弱っている…?」

 

「その様ですね。打ち上げ花火が結構効いたみたいです」

 

Mk18の隣に並び立つルージュ。

戦況は一気に傾いた。それはこの戦いの終幕を示していた。

大鎌を構えるルージュ。止めを刺そうと歩き出した時、Mk18が呼び止める。

 

「悪いけどこっちが弾切れなの。…これで援護はするけど巻き込まれないでね」

 

そう言って見せたのは投げナイフ型C4。

転禍為福の一撃を受けるまでは大した効果を得られなかった武器であるが今は違う。弱体化をしており、鎧にかかっていた防御補正も無いに等しい今、確実なダメージを与えられるだろう。

 

「分かっていますよ。…さて、大きな花火でも上げましょうか」

 

「綺麗な花火になるとは思えないけど」

 

「そこまで拘らなくていいと思いますよ」

 

悪魔の為に綺麗に咲かせてやる花火などない。

地面を蹴りルージュはブルート・アンジェロに迫る。彼女が迫った事により重くなった体を何とか動かし、大剣をまるで居合の構えに似せた態勢を取った。

ブレイクの「スティンガー」に似せた技に続き、今度はギルヴァの技である「疾走居合」に似せた技を放とうとするブルート・アンジェロ。

その様子にルージュは呆れた様な声を上げた。

 

「また真似事ですか。いい加減見飽きました…!」

 

攻撃が繰り出される前に大鎌を投擲するルージュ。

大鎌が突き刺さった直後に炎を推進力にブルート・アンジェロに近き、柄を握ると肉体を抉る様に背後へと回り込む。そこにMk18が投擲したナイフがブルート・アンジェロの胸部に突き刺さった。

それに気づきながらもルージュは大鎌を力強く薙ぎ払う様に動かす。

相手の肉質を無視した攻撃はいとも簡単に切り裂いていき、高身長であるブルート・アンジェロを上半身と下半身に別れさせ、勢いが強すぎたのか上半身が回転しながら宙へと舞い上がる。

 

「終わりよ」

 

舞い上がる上半身を見てMk18が起爆スイッチを押す。

二人の間で爆発が起こり、爆炎に包まれるブルート・アンジェロの上半身。跡形もなく消え去っていき、上がった花火は決して綺麗でもないが咲き誇った。

訪れる静寂。展開していた炎を解除しMk18の方へ振り向くルージュ。

しかしそこには彼女の姿はなく、この場に居たのはルージュ一人だけであった。

辺りを見回しても、何処にも居ない。

彼女が何処へ消えたのか分からない。少しばかり寂しさを覚えながらもルージュは探す事はしなかった。

 

「…またお会いしましょう、Mk18」

 

届くかどうか分からない。

それでもこの声が聞こえたらいいなと思いながら彼女は資材搬入区画を後にした。

 

 

アルテミス、ギガノス、ブルート・アンジェロ…。

強力な魔物が討伐された今、残るのは追跡者のみとなった。

中央動力区画にギルヴァが辿り着いた時には蛮族戦士が追跡者と戦っていた状況であった。

何やら大きな事でも起きそうだったのか。蛮族戦士が何かを仕掛けようとしていたのだろう。

ギルヴァが訪れた事に気付くとやろうとしていた事を中断。彼に声を掛ける前に追跡者が話しかける。

 

「あはっ…。やっと来てくれたんだぁ…。待っていたよ、君の事を」

 

一部姿が変わりながらも狂った笑みを浮かべる追跡者。

しかしギルヴァは答えようとはしない。

 

「さぁ、心ゆくまで楽しもうじゃないか」

 

長くなってしまったパーティーはいい加減終わらせなくてはならない。故に時間を掛ける気はなかった。

雷撃鋼 フードゥルを装備し構えるギルヴァ。

追跡者を見据えながら口を開いた。

 

「悪いが―」

 

刹那、彼の体から碧い何かが放たれ姿が変わっていく

数秒経たぬ内にそれは消え、その場に居たの一体の蒼い悪魔だ。

 

「遊ぶ気などない」

 

早々に終わらせるため。

人から魔へと姿を変えた男は追跡者へと突進した。




という訳で次回はギルヴァ編!

さぁて…終わりにしようか!!

では次回ノシノシ


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Act136-Extra operation grave guard Ⅶ

幕引きは手短に


中央動力区画。

そこでは魔の暴走を抑え我が物とした追跡者を圧倒する蒼い悪魔の姿。

 

「くっ…!」

 

飛んでくる強烈な攻撃の数々。

苦い表情を浮かべながらも追跡者は上手く躱し、そして刀で上手く防いでいく。

反撃する隙など与えない。ギルヴァの攻撃に防戦一方の追跡者。そしてただ見ている訳には行かないのか、追跡者の後方から大剣を大きく振り上げた蛮族戦士が迫る。

 

「ッ!?」

 

薄ら寒いのを感じた追跡者は横へと飛び込み攻撃を回避し、地面を蹴り後ろへと飛び下がった。

彼女の目が二人を鋭く睨む。

 

「二人がかりとはね…?」

 

刀を杖代わりにして立ち上がる追跡者。

それに対しギルヴァはフードゥルを解除し無銘の鯉口を切り、蛮族戦士は右腕の大剣を青く光らせた。

追跡者の文句など知った事ではない。そもそもフェアプレイなどこの二人にはないのだ。

故に二人は答える。

 

「戦いに綺麗も」

 

「キタナイ モ」

 

これは試合などではない。

 

「ない」「ナイ」

 

殺し合いであると。

どちらかが生き残り、どちらかが死ぬ。ただそれだけの事。

二人から放たれる殺気が中央動力区画全てを包み込む。その濃度は空間すらも侵食し震わせる。

ここから先、何が起きるか分からない。

ただ一つ言えるとするのであれば…追跡者がこの二人に勝つ事はゼロに等しいであろう。

このまま追跡者が二人に圧倒されればの話であるが。

 

「そっかぁ…」

 

圧倒され、戦意喪失するかと思いきや追跡者の様子は違った。確かに一対一を望んでいたのは事実であり、その声は何処か残念がっている様にも見える。

だが同時にこうなる事も予想していた。

 

(だったらさ…)

 

何よりこのままやられるつもりなどない。ニヤリと笑みを浮かべる追跡者。

今の状態で勝てないのであれば、更に上へと行くだけ。全てを切り捨て魔へ堕ちればいい。

この姿も、感情も、何もかも全て。

 

(これをやっても文句はないだろう?)

 

内包していた魔力を全面開放。

保っていた女性としての姿が段々と魔物へと姿を変えていく。

最早細胞レベルで変貌を遂げていく追跡者。魔力によって具現化していた翼は更に大きく広がり、人形の姿は欠片一つ残っていない。薄っすらとだがその姿はギルヴァがデビルトリガーを引いた時の姿に似ている。

何もかもを切り捨て、愚直なまでに魔へと堕ちた者の姿だけが残っていた。

 

「…」

 

言葉を発する事無く、魔物へと変貌した追跡者…D.チェイサーは背の翼から魔力を勢いよく放出させながら刀と大剣を構える。ここから本番であり、最後である。

訪れる静寂。構えた武器の刀身の切っ先が向く先は敵。そして―

 

「!」

 

瞬間移動したかの様に三人の姿が消え、目で追う事すら叶わない程の速さで剣戟の嵐が広間の中央で激突した。

飛び交う攻撃。そして何処かへ飛んでいく斬撃。飛んで行ったそれは壁を容易く切り裂き、気付かぬ内に天井が轟音立てて大きな穴をあける始末であった。

それでもこの者達は止まらない。落下してきた瓦礫すら切り裂き、それどころか地に落ちる事を許さないのか剣風で落とさぬ様に瓦礫を宙に維持させるといって芸当までやってのける。

 

「ヌン…ッ!!」

 

しかし剣戟はそう長く続かなかった。

見た目は大剣。しかし彼にとってはそれは爪。

蛮族戦士は青く輝く刀身を薙ぎ払い、D.チェイサーに一太刀浴びせ壁へと吹き飛ばして戯れを強制的に中断。

強烈な一太刀を受け吹き飛ばされたD.チェイサー。壁に体が叩きつけられても決して表情を歪める事などしなかった。そしてその身は最早悪魔に成り果てたのか、蛮族戦士に斬られた箇所が素早く修復していた。

狙いをギルヴァから蛮族戦士へと切り替え、突進した。

 

「…イイダロウ」

 

再び勝負を仕掛けてきた事を感じ取った蛮族戦士はニヤリと笑みを浮かべ、大剣を構えた。

勢いよく地面を蹴り先程とは段違いの速さで蛮族戦士の目の前まで迫るD.チェイサー。

懐に潜り込む様に姿勢を低くし、彼女は居合の姿勢から刀の柄を握る。

最初の勝負の時と同じく空いた手で攻撃を受け止めようした蛮族戦士は気付く。D.チェイサーの手に大剣が握られていない事に。

 

「…!」

 

鋭い何かが蛮族戦士へと迫る。

それは先程まで彼女が握っていた大剣。魔力を用いられた大剣はまるで生きているかの様に自立して動いており、D.チェイサーが疾走居合を仕掛けると同時に蛮族戦士へと飛ばされていた。

後ろへと飛び退く蛮族戦士。迫る刀身。

その時蛮族戦士へと向かっていた大剣が何処から飛んできた群青色に輝く幾つもの刀によって撃ち落され、蒼い悪魔が蛮族戦士の前に降り立つとD.チェイサーの放つ攻撃の一瞬に合わせ無銘の刀身を振り下ろした。

甲高い音が響き渡る。

自慢の一撃を弾かれ、その反動で体勢が崩れるD.チェイサー。

自身と同じ技を阻止し素早く次の攻撃へと移行するギルヴァ。

どちらが次の攻撃を繰り出せるのかなど見ているだけでも分かるだろう。

 

「はっ…!」

 

鞘による殴打。二回目の攻撃を当て腕を後方へ引くと逆手で柄を握り抜刀。

左下から右上と一閃。そのまま素早く連続してD.チェイサーの体を右肩から斜め下に切り裂く。

攻撃を受けた箇所から噴き出す血。しかしそれはすぐに納まり魔を解放している為、斬られた箇所が再生を起こし始める。

 

―全く…面倒なもんを身に付けたなぁ。んで?どうする?

 

(どうするもなにもやる事は変わらん)

 

蒼の問いに対し己の内で答えながらギルヴァは無銘を振るう。

再生するのであれば、再生が追いつかなくなる程のダメージを与えればいい。

体を翻し斬撃を浴びせ、今度は刀の柄を両手に握り逆袈裟で斬り上げD.チェイサーを浮き上がらせる。

反撃の隙は与えない。上段の構えを作り刀身に魔力を纏わせる。

片足を一本踏みこむと同時に彼の声が轟く。

 

「っぜあぁっ…!!」

 

振り下ろされる刃。蒼い魔力が弧を描き、余りの威力に空間が振動。

強烈な斬撃がD.チェイサーの再生能力を追い付かなくなる程のダメージを与える。

普通ならこの一撃で大概の敵は消滅するのだが、今回は違う。それすらも見越していたギルヴァは魔力で錬成した幻影刀を吹き飛ばしたD.チェイサーの上から雨の如く降らせた。

降り注いだ群青色の雨により身動きが取れなくなるD.チェイサー。そしてこの時を待っていたかの様にギルヴァの横を通り過ぎる様に青い光を纏いし大剣が駆け抜けた。

穿ちし一撃は最速であり、手負いであり五月雨幻影刀によって動けないD.チェイサーが避けれる筈もない。

流星の如き速さで駆け抜けた蛮族戦士の一撃は疑似的ながらもデビルトリガーを引いたD.チェイサーの体の半分を吹き飛ばす。そして攻撃を受け過ぎた事もあり彼女の体は再生が追い付かなくなっていた。

攻撃する余裕も反撃する余裕も回避する余裕もない。ただ体が地面につくまで無防備な状態を晒し続けるD.チェイサー。

そしてこの男がパーティーの幕を引こうと最後の攻撃に出ていた。

元より長くなってしまったパーティを終わらせるため、早々に終わらせる気でいたギルヴァ。

彼はD.チェイサーの目の前まで急接近すると居合の構えを作りながら魔力を周囲に放出。

発せられる魔力が風となって吹き荒れ、まるで渦の様に回っており、その技の範囲が異常なまでに広い事を察したのか蛮族戦士は素早くその場から離れる。

 

「…斬る」

 

ノイズ交じりの声がかかり無銘の鯉口を切る音が響いた瞬間、瞬きすら許さない神速の斬撃が無数に奔った。

視界に映る景色がまるでずれ落ちたかの様な錯覚がおき、無数の斬撃に巻き込まれたD.チェイサーは地面に墜落する手前で時が止まった様に静止。

いつの間にか居合の姿勢から片膝をついた蒼い悪魔は無銘の刀身を鞘へと納め始めていた。

ただ静かに、そしてゆっくりと納められていく刀身。

刀身の殆どが納められ、鞘と鍔の間から見える玉鋼がほんのわずかに輝きを放ちかち合う音が小さく鳴った時、カランと音を立て地面に何かが落ちる。

そこにあったのは彼女が持っていた刀。しかし何故か所有者の姿はなかった。まるでどこかへ消えたかの様に。

 

「…ホウ」

 

感嘆な声を上げる蛮族戦士。

ここまでの力を持つ強者。いつか死合をする為に挑戦を申し込んでおきたい。

その他にも理由はあるのだが、そのために協力したのだ。

挑戦を申し込むために声を掛けようとした時彼よりも先に魔人化を解除したギルヴァが口を開く。

 

「断る」

 

それはまるで挑戦を申し込む事を分かっていた様な口振りであった。

理由を尋ねられる前にギルヴァは話し出す。

 

「何を考えているのかは知らん。だが貴様の私情でこちらは振り回されたくないのではな」

 

「…」

 

「納得が行こうが行くまいが俺の知った所ではない。シーナに目を付けたのも不味かったな」

 

ブレイクや処刑人、ルージュ、そして自身が蛮族戦士に目を付けれた事はギルヴァはとうに分かっていた。

そしてシーナにも目を付けている事も。

確かに魔の技術を扱う者であるが、それは高みに上る為のものではない。悪魔という強敵に立ち向かい、仲間を守る為のもの。

同時にS10地区前線基地を統べる指揮官なのだ。そんな立場に就く彼女に何かがあれば基地全体が大きく麻痺する。ましてや彼女を狙う時点で敵対行動だと思われても可笑しくない。

 

「何より貴様と殺し合った所でこちら側が得られるものなどない」

 

そう言い切ると彼は追跡者の残した刀を回収し、中央動力区画の出口へと歩き出す。

残された蛮族戦士はそこから先は何も言わず、彼の後を追っていった。




はい、という訳で対象の敵全て討伐完了です。
これにてコラボは終わり!…と言いたいのですが、もう一話だけ続きます。
と言っても墓場から帰還した後の話になります。
それにご機嫌斜めの二代目お姫様をなだめないといけませんからね。
もう少しだけお付き合い下さい。

それと試作強化型アサルトさん、申し訳ない…。
戦った所で得られるものがないという理由で挑戦を断らせて頂きました。
他にも色々理由を告げるべきかと思ったのですが…中々思い付かず。
いや…ホント申し訳ない…。

で、でもギルヴァさんの技を見れたからいいよね!?


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Act137-Extra operation grave guard Ⅷ

―一時休息


全ての魔物及び元凶たる追跡者の討伐が無事完了し、彼、彼女達はS10地区前線基地に帰還。

特殊作戦が開始してからそれなりの時間が経ち、空はオレンジ色に染まり登った夕日がゆっくりと沈んでいる真っ最中。

トリスマギアとの戦いで損壊した基地の修復は今も尚行われており、シーナが召喚したナイトメアによって破壊されたトリスマギアは肉片は消滅もしたものの、装備がそこら辺に転がったまま。

それの回収作業も終わってないままであり、戦後処理が今日一日終わるとは言い難かった。

重機の駆動音が響く音、資材を運搬する者達が行き交う中、端末を手にしたシーナは特殊作戦を無事終え代表として彼女の元に訪れた処刑人から報告を聞いていた。

 

「魔物の討伐に追跡者の討伐が無事完了した事は純粋に嬉しいかな。皆に怪我はなかった?」

 

「ピンピンしてたさ。あとあのヤバい奴(蛮族戦士)だが基地に着いた直後に気付かぬ内にどっか行っちまった。それと…"あいつ"のことなんだが」

 

"あいつ"。

それが誰の事を指しているのか、シーナは分かっている。

処刑人からの報告を聞く前に代理人から事前報告を聞いており、その中にその人物の事も耳にしていた。

 

「代理人の事前報告で聞いてる。スケアクロウの事だよね?」

 

「ああ。病室に運ばれたってのはさっき聞いた。…あいつの容態はどうだっだ?」

 

「マギーさんに一度診てもらったけど今の所は何とも言えないって…ただ」

 

「ただ?」

 

「本人の見解としては…彼女が目を覚ます可能性は限りなく低いみたい」

 

その事を告げられた時、意外な事に処刑人の表情が変わる事はなかった。

もしかすれば彼女も分かっていたのかも知れない。

スケアクロウが目覚める事はないという事を。

 

「ごめんなさい…。折角仲間を助けれたのにこんな事しか言えなくて」

 

処刑人に謝罪の言葉を伝えながらシーナは罪悪感を感じ取っていた。

仲間思いである事は理解しておりここに来てから仲間を気に掛ける節があった事も知っている。

がさつで品行方正とは言い難いが、仲間を思いやる点も把握している。

故意でなくともハンターの一件で戦友を失った処刑人に辛い思いをさせるのは不本意であった。

だが隠していた所でいつか知られる事。ならば前もって伝え処刑人に覚悟して貰う事も重要であるとも判断していた。

 

「お前が謝る事じゃねぇよ。覚悟は…していたさ」

 

「…」

 

「あいつの事で何かあれば言ってくれ。良い事も悪い事も含めてな」

 

「…うん、分かった」

 

「頼むぜ。…んじゃ俺は先に部屋に戻って休んでる」

 

約束を取り付けると処刑人は踵を返し基地の方へ歩き出す。

去っていくその背を見て何か言おうと言葉を模索するシーナであったが、言葉は出てこなかった。

ただ小さくなっていく処刑人の後ろ姿を静かに見つめる事しか出来なかった。

 

一方その頃、マギーの部屋兼工房ではノアからの依頼を受けて台座上に置いた分解したシュトイアークリンゲと睨み合うマギーにその対面では少し落ち着かないといった様子で立つノア。

その後ろでは椅子に腰掛け、同室者であるルージュが淹れてくれた紅茶を飲みながら休んでいたRFBと一緒に伝説の魔工職人が作り上げた作品の数々の写真が収められたアルバムを広げ興味深そうに見つめるアナ。

そしてルージュは椅子に腰掛けてのんびりと紅茶を嗜んでいた。

 

「ど、どうだ…?原因は分かったか?」

 

「ええ。不調の理由は内部機構にある一部のパーツの歪みですね。それが原因でへそを曲げて本来の出力が出せなかったのでしょう。損傷具合からして外部の強い衝撃によるもの…どうやら私達の知らない内に貴女方は大きな戦いに身を投じたのですね」

 

「どうしてそうだと言い切れる?事故によるものの可能性だってあんだろ?」

 

その問いに聞き、小さく笑みを浮かべマギーはシュトイアークリンゲの刀身にそっと手を伸ばし撫でた。

浮かべる笑みは我が子を愛でる母親の様だ。

 

「分かるんですよ。この傷は戦いによるものだと…。それにこの娘がそう教えてくれるんですよ」

 

「いまいちよく分かんねぇな…」

 

「ふふっ、こればかりは職人になってみないと分からないかもですね」

 

おっと、と前置きを口にしマギーは苦笑いを浮かべた。

話が脱線している事に気付いたのだろう。本題へと彼女は話を戻した。

 

「話が逸れてしまいましたね。これでしたら予備のパーツと交換で済みますよ。すぐに使える様にメンテナンスも行っておきましょう」

 

「直る上にメンテナンスもしてくれるとはありがてぇ。今から任せて良いか?」

 

「お任せを。待っている間はどうぞゆっくりしていって下さい」

 

「ああ、そうさせてもらう」

 

工具箱を取り出し、予備のパーツが入った箱を戸棚か取り出すと作業を始める

そしてノアは部屋に飾られていた武器を眺めていた。

それは全ては今シュトイアークリンゲの修復作業をしている彼女が作り上げたもの。

とは言っても部屋に飾られているのは一部に過ぎない。

残りはリヴァイアサンを格納している第二格納庫に置かれているのだ。

 

「アーキテクトが見たら、ぜってぇはしゃぐなぁ…」

 

未知の技術の塊であるマギーの作品は技術者ならば誰であって興奮するであろう。

身近にそういう者が居るからこその台詞であった。

最もフードゥルⅡというマギーの技術が施された籠手と具足が彼女が所属する基地にS11地区の作戦時の報酬として送られている事は忘れてはならないが。

 

「ん?」

 

作品を眺めている内にノアはマギーが使っている作業台とは別の作業台の上に置かれていた二丁の銃を見つける。

黒と銀色に染め上げられ、外観こそは改造が加えられている為、元の姿こそは分からない。

しかしベースになった銃が大口径拳銃だと見抜くと彼女は銃のフレーム部分に英語表記で記されてた二つの銃の名前を見つけ、それを読み上げた。

 

Pesant(ペサンテ)Grandioso(グランディオーソ)…。ん?待てよ、これって…」

 

「隊長?どうされましたか?」

 

そこにアルバムを見終えたアナが彼女の後ろから声をかける。

ノアはそれに反応する前にアナは机に置かれた黒と銀の二丁拳銃を見つける。そしてその銃に刻まれた名を見て、彼女は察した。

この黒と銀色に染められた二丁の銃はブレイクのアレグロとフォルテ、自身のアジダートとフォルツァンドに続く新たな楽器である事を。

 

「成程。私にも後輩が出来るみたいですね」

 

「いやいや…こんな大口径の銃を二丁も持って連射出来る奴がいると思うか?どうか考えても無理だろ」

 

「20mmバルカン砲を両手に持って連射している貴女がそれを言いますか?」

 

「うぐっ…」

 

この二丁の銃のベースとなったのが壊滅した人形売買組織にて回収した銃身が取り換えられたデザートイーグルだ。そこに反動抑制用のパーツ、同時に壊れない様に耐久力も上げている為、元の重量の倍以上の重量を有する。

連射性、取り回しは度外視。ただ威力だけに特化した二丁の銃…それがペサンテとグランディオーソだ。

一方その頃…

 

「成程…その様なものがあるのですか。物知りなのですね、RFB」

 

「ふっふーん。ゲームに関しては任せなさい!ってね」

 

娯楽に疎いルージュに分かりやすく説明しながらゲームの話を楽しそうに話すRFBの姿があった。

胸を張るRFBを見て微笑むルージュ。そんな彼女を見てRFBはあの時の言葉を思い出す。

 

―その為に尽きる事のない私が存在しているのですから―

 

それがRFBの中で引っかかって仕方なかったのだろう。

会って間もない相手だと分かっていながら彼女を意を決して尋ねる。

 

「あの、さ…その、言いづらかったら良いんだけどさ」

 

「?」

 

「尽きる事のない私ってどういう意味…?」

 

まさか聞かれるとは思ってなかったのだろう。ルージュは小さく驚いた。

 

「そうですね…。余り細かくは言えませんが私は―」

 

普通なら答えなくてもいい事。しかし彼女の中にその考えはなかった。

いずれ知られる事かも知れない。そして誰かに覚えていてもらいたい。

 

「決して老いによる死を迎えられない存在とだけは伝えておきます」

 

この世界にルージュという少女が居たという事実を。

 

「それって…」

 

そう言いかけた所でRFBは理解する。

今目の前に居る彼女…ルージュという少女は決して老いる事が無いのだ。

自ら命を絶たない限りその命は延々と時を刻み続ける。

老いる事が出来ないと聞けば逆にその若さを保っていられると思う者がいるかも知れない。

しかしルージュにとっては呪いでしかない。

愛する人を欲しいと願っても出来ない。

何故ならそれは自身よりも先に相手が逝ってしまうかも知れないから。

大事な人が出来れば出来る程、彼女は訪れる別れと孤独に耐えなくてはならない。

 

「…」

 

何か言わなくてはならない。

でも言葉が出てこない。

目の前に居る彼女に背負わされた呪いがあまりにも大きすぎるのだから。

言葉を失うRFBを見てルージュはそっと微笑み、彼女の頬に手を添えた。

 

「だから覚えていて下さい。私がここに居て貴女と話した…その思い出を」

 

最後に小さく微笑んでからルージュは椅子から立ち上がり、シュトイアークリンゲの修理とメンテナンスを終えたS地区応急支援基地から送られてきた転禍為福をメンテナンスをしているマギーの元へと歩み寄っていく。

軽い足取りで向かって行くルージュの背をRFBはただ見つめる事しか出来なかった。

 

転禍為福のメンテナンスをしていたマギーはルージュから使用感を聞きながら作業を行っていた。

変形機構を搭載されていると聞いた時、彼女は感心した様な声を上げた。

 

「変形機構を搭載させるとは流石というべきですかね」

 

「ただ浄化モードを放つ際の反動はすさまじかったです。またチャージに時間がかかるのがネックかと」

 

「成程。私なら…と言いたいですが流石に手を加えるのは止めておきましょう。何でもかんでも私が手を加えてしまったら、折角向こうの彼女の想いを、その努力を台無しにしてしまうので」

 

結果的に転禍為福はメンテナンスだけ行われた後にS地区応急支援基地に送られた。

その際にマギーは彼女宛に纏めた転禍為福の改善点を記したメモをこっそりと同封していたのでは言うまででもない。

 

 

その頃、シーナはS13地区の指揮官であり今回の作戦の協力者であるリホ・ワイルダーと話していた。

 

「基地が全損…?」

 

リホから今回の襲撃によって基地がほぼ全損とも言えるレベルで破壊されてしまった事を聞かされたシーナは聞き返す様に尋ねた。

 

「せや。その追跡者達の攻撃と亡骸が合体した巨人のせいでもうボロボロになってもうての」

 

「そうだったのですか…。でしたらうちから幾らか資材を送りましょう。満足して頂ける程とは行きませんが」

 

「ええんか?ここも色々大変そうにも見えるんやけど…」

 

「大丈夫です。幸いにもうちは基地自体に大きな被害は負わなかったので」

 

追跡者達及びトリスマギア戦は比較的基地から離れた場所で行われた事とギルヴァやブレイク、処刑人にルージュ、そして代理人の一撃もあって素早く討伐出来た事もあって基地自体に大きな損傷は負っていないかった。

決して資材が豊富とは言いづらいものの知り合いであり今回の作戦に協力してくれた者から聞いた話。

シーナからしたら何もしないという選択はなかった。

 

「そう言うんやったら甘えさせてもらうで。…それともう一つ聞きたいんやけど、ええか?」

 

「何でしょう?」

 

「今回の作戦…襲撃を受けた後にしては驚く程に詳しかったんや。シーナ指揮官…あんまり問い詰める真似はしとうないんやけど、聞くで。…情報元はどっからや?」

 

決して聞かれないと思ってはなかったのだろう。

その事を問われてもシーナは狼狽える事はしない。それどころか何時聞かれても可笑しくないと覚悟していた。

 

「依頼主は追跡者の…本来の人格である墓守と言われる者からの依頼でした。姿こそはあの追跡者と変わらなかったのですが、性格に違いはあると判断し依頼を受けました」

 

「てことは本来の人格である墓守があの情報をここに教えたって事でええんか?」

 

「はい。その解釈で間違いありません」

 

「なら安心したわ。すまんの…うち、疑い深い性格というか、色々気になってまう性格でな」

 

「お気になさらず。疑われて仕方ない事をしていたのはこちらですから」

 

お互いに微笑み合う二人。

そして話は別の話題へと切り替わっていく。

 

「この後どうするんや?作戦が終わってもあの拠点はまだ残ったままなんやろ?」

 

「ええ。暫くそこの調査に赴く感じです。色々知りたい事もあるので」

 

「そうか…。あんまり無理するやないで?」

 

「貴女に言われる程ではないかと思いますよ、元H&R社の女社長さん?」

 

「ほーん?初々しくオドオドしていた女指揮官が言うようになったやないか」

 

「あの時は新人だったんですから!わ、忘れてください…!」

 

頬を赤らめるシーナ。

その姿を見てリホはカラカラと笑うのであった。

 

 

こうして特殊作戦「grave guard」は終わりを迎える。

しかしS10地区前線基地からすれば墓場が関わる案件はまだ終わっていないのであった。

 

 

魔物及び本体が倒された事によって電脳空間に居た墓場は胸を撫で下ろしていた。

色々あったものの無事に終え、後はS10地区前線基地の者達が迎えに来るのを待つだけ。

しかし墓守でさえ予想だにしていない事が起きていた。

 

「えっと…どちら様でしょうか?」

 

「それはこっちが聞きたい…!」

 

いつ、どのタイミングで目覚めていたのか。

墓守はこの墓場で目覚めたと思われる人格で出会っていた。




これにてコラボ作戦「operation chase game」及び「operation grave guard」は終わりでございます。
今回参加して頂いたoldsnake様、焔薙様、鮭酒様、試作強化型アサルト様、本当にありがとうございました!
だいぶ長くなってしまい、大変ご迷惑をおかけしてしましたがとても楽しかったです!
また機会があればよろしくお願いします!


では次回!


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Act138 Your name

もう戻れないならば


特殊作戦「chase game」及び「grave guard」が無事成功した日から翌日。

早朝にも関わらずS10地区前線基地に所属する面々が戦後処理と残骸処理に追われ、処刑人は案山子が眠っている病室へと訪れていた。

黒かった髪は白く染まり、特徴的であった髪型は崩されてガスマスクも外されている。

静かに眠る様はさながら眠り姫とも言えるだろう。

案山子が眠っているベットの傍で椅子に腰掛ける処刑人ともう一人、この場に居た。

 

「…」

 

何かを話に来た訳ではなく訪れてからずっと病室の出入口近くの壁に背を預け沈黙を保つ錬金術士だった。

二人の間で会話が弾む様子もなく、病室に訪れてから30分は経つ。

自身は案山子の様子を見に来ただけなのだが、錬金術士が何のために此処に訪れたのかは未だ明かされていない。それが気になった処刑人は錬金術士へと話しかけた。

 

「何のために来たのか聞いて良いか?」

 

「ここに来る事など一つしかないだろう?」

 

「答えになってねぇよ。あと疑問を疑問で返すな」

 

「細かいな。そんな性格だったか?」

 

理由を明かそうとせずはぐらかそうとする錬金術士に処刑人は苛立ちを覚えた。

このまま殴りかかってしまう程に。

しかしここは病室。大声を上げる訳にもいかないし、暴れる訳にもいかない。

小さく舌打ちすると処刑人は苛立った様子で口を開く。

 

「んで?何のために来たんだ。漫才をしに来た訳じゃねぇんだろ」

 

「当たり前だ。そんなものをやった所でしらけるのがオチだ」

 

背を預けていた壁から離れ、錬金術士は処刑人の隣に立つ。

塞がれてない目が眠る案山子を見つめる。その表情は何処か悲しそうだ。

それに処刑人は気付く事はない。

再び訪れる沈黙。しかしそれはすぐに破られる事となった。

 

「…お前たちと会う前、私と侵入者は案山子に会っている」

 

その台詞を聞き先程まで苛立っていた処刑人は一瞬にして冷静になった。

自分達と会う前。

それは何らかの理由でダレン達と共に行動していた時期であると処刑人は察する。

S10地区前線基地襲撃以降、彼女がどうしていたのか知る由はない。だが異世界から帰ってきた時にダレンとルージュらと共に一緒に居た事からそう判断していた。

 

「…それで?」

 

「化け物になって追ってきた案山子と戦い…そして私が撃った」

 

自分と会う前にアルテミスと化した案山子と会い錬金術士が撃った事を聞いても処刑人は沈黙を貫いた。

同じハイエンドモデルであり、かつて同じ組織にいた彼女とて錬金術士の事は知っている。

残忍な性格であるが仲間意識が強い。

もしかしてと彼女は思う。

錬金術士が此処に訪れた理由。それは―

 

「謝りに来たのか。こいつを…撃った事に対して」

 

「…ああ。笑うか?」

 

「どうかな」

 

錬金術士の問いに対しそう返す処刑人。

軽く肩を竦めると彼女は少しだけ目を伏せてから言葉を続けた。

 

「…俺もあの化け物の中に案山子が居る事なんて知らずにえげつない技を放ったんだ。下手すればこいつを完全に消失させる程のモンもやったしな。度合いで言うなら俺の方がヤバいさ」

 

知らなかったとは言え、気付くまでの間、魔物の中に仲間がいた事に気付かずガーベラによる照射レーザーを放ったり、魔物の口にクイーンを刺しこんだ挙句内部から燃やそうとし地面へ投げつけたりもした。

度合いで示すのであれば処刑人の方が酷く感じられる。

 

「…確かにお前の方がえぐいな。私の方が可愛く感じてきた」

 

「かもな。…性格は可愛くねぇが」

 

「聞こえてるぞ」

 

その声に聞いていないフリをして処刑人は椅子から立ち上がると軽く背伸びした。

今すぐではないが、昼頃には「墓場」に向かう予定となっている。

今回はシーナも同行する事になっており、処刑人はその護衛として共に赴く事になっていた。

 

「さて…ギルヴァの所に行くかな」

 

例の場所に向かうまではまだまだ時間がある。

ギルヴァに鍛錬の相手をお願いするついでに代理人にコーヒーを淹れてもらおうと思い歩き出した時であった。錬金術士が呼び止め、尋ねてきた。

 

「ギルヴァ…もしやあの黒いコートの男か?」

 

「そうだが?何だ、あいつに用でもあんのかよ?」

 

「ここを襲撃した時にそのギルヴァとやらと殺し合ったのさ。まぁ此処に居る以上挨拶程度はしておこうと思ってな」

 

(ギルヴァと遭遇しちまったのはご愁傷様としか言いようがないな…。にしても殺し合ったというのに、今度は挨拶と来たか。…当事者でもねぇのに変な気分だぜ)

 

複雑な気分になりながらも、自身も似た様な事をしている事を思い出すと自分も同じかと小さく呟き処刑人は錬金術士を連れて病室を出て目覚めの一杯を貰うべく便利屋「デビルメイクライ」へと向かうのであった。

 

「ところでだが…」

 

「何だよ」

 

「いつもの義手はどうした?それとその右腕はなんだ?」

 

錬金術士に指摘されデビルブリンガーが姿を現したままである事を気付く処刑人。

指摘してきた彼女と侵入者には右腕の事を教えてないままだった事を思い出すと、処刑人はうんざりした様なため息をつくと移動しながらであるが、右腕の事を話すのであった。

 

 

その頃、シーナは着ている制服の肩にマギーが生み出した魔の技術が施された特殊コート「servant」をかけて基地の廊下を歩いており、鄰ではシャドウが一緒に歩いていた。

向かう先は基地と隣接している便利屋「デビルメイクライ」。

まだ時間があるとは言え、今日の午後には昨日行われた特殊作戦「grave guard」の舞台となった墓場と呼ばれる拠点に向かわなくてはならない。

理由としては今回の一件にて情報を教えてくれた追跡者の本来の人格「墓守」の回収及び墓場に隠されている魔具といった回収が主な理由である。

護衛役として処刑人も同行する事になっているがギルヴァにも同行してもらおうと判断しており、その事を頼む為にシーナは行動していた。

「デビルメイクライ」へと向かう道中の十字路で彼女は右の通路から出てきた少女を見つける。

白と赤のグラデーションがかかった長い髪が特徴の少女。それだけで誰かなど分かっておりシーナはその者に声をかけた。

 

「ルージュ、おはよう」

 

シーナに声を掛けられた少女 ルージュはそれに気付くと優しく微笑み挨拶を返す。

 

「おはようございます、シーナ指揮官。夕べはよく眠れましたか?」

 

ここを統べる人だけあってその仕事量は戦うだけの自身とは比べ物ならない事を理解しているルージュ。

自身は特殊である為、二日三日寝なくても問題ないが目の前に居るシーナは違う。

ちょっとした気遣いでルージュはそう尋ねたのだ。

 

「うん、よく眠れたよ」

 

笑顔を見せながら答えるシーナだがそれは全くの嘘であった。

悪魔が関わる案件によってシーナの睡眠時間は減りつつある。それもS11地区後方支援基地を舞台とした「End of nightmare」の時からずっとそうなのだ。

一番ひどい時は一睡しなかった事もあった。今では若干落ち着いているものの、就寝に就く時間帯は午前3時だったり、午前4時だったりする。

それでも疲弊した表情を見せないのは周りに心配かけない様にする為だったりするのだが、そんなシーナの無茶をここに所属する人形達は既に見抜いている。

マギーですらそれを見抜いており、何度か休み様に打診した程。

 

「…」

 

ルージュはシーナが嘘を言い無茶をしている事は気付いていた。

どうにか彼女は休ませる方法はないだろうかと思っても良い案が思い付かない。

考えに考えても良い答えは出てこず、ルージュはそのまま「デビルメイクライ」へと向かうシーナについて行く他なかった。

 

 

便利屋「デビルメイクライ」にシーナとルージュは訪れた時には、侵入者及び案山子を除く元鉄血所属のハイエンドモデルたちが集まっていた。

代理人、ノーネイム、処刑人、錬金術士…。

今となっては彼女達はここにいるが、鉄血の財政状況が如何なものかは分からない上に、もしかすれば彼女達そのままそっくりの人形を投入してくるかも知れない。

S10地区前線基地所属であると示すために、シーナは前々から考えていた事を告げた。

 

「名前を決めよっか」

 

墓場へと向かう前のちょっとした騒動が幕を開ける瞬間であった。




色々飛ばし気味でありますが…そろそろS10地区前線基地所属の鉄血のハイエンドモデルたちの名を決めようかと…。
これは募集した方がいいのかね…?


では次回!


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Act139 Action is quick

―行動は素早いに限る


「名前?」

 

便利屋「デビルメイクライ」でシーナが放った言葉を聞き返す処刑人。

それに対し彼女は頷き肯定を示すと、名前を付ける理由を明かした。

 

「いつまでもその名で呼ぶのはどうかなって前々から思っていてね。本来ならノーネイムに付ける予定でいたんだけど…」

 

「ここに居る事になった元鉄血のハイエンドモデルも私を含め5人。今や鉄血ではない事もありますが…差別化を図る為でもありますね?シーナ」

 

「流石代理人。私の考えが読める様になった?」

 

「さぁ?どうでしょう?」

 

笑みを浮かべ、肩を竦める代理人。

その姿に小さく微笑むシーナに静かに聞いていた錬金術士が尋ねる。

 

「最近になってここに来た奴にも名前を付ける気か?」

 

代理人、処刑人、ノーネイムと比べると錬金術士と侵入者は此処に来て浅い。

今の名を気にいっている訳ではないにしろ、名付けされるには幾分か早すぎるとも彼女は思った。

事情が変わった為に此処に居るとは言え一度は此処を襲撃した身。

そこまで信頼などされていないと思っている。

だが同時に差別化を図るという考えに賛成していた。

今更鉄血に未練などないのだが自身で名前を考える気も無いから今の名を使っているのが大きかった。

その点に関しては代理人や処刑人も同じ考えであった。

 

「そうだよ」

 

「…即答か。お前は人を疑うという事を知らないのか」

 

何処か困惑した様な声で尋ねる錬金術士。

しかしシーナの答えは一つしかない。

 

「知っているよ。…それに今更裏切る気なんてないんでしょ、錬金術士?」

 

女性らしさを交えた笑みを残しつつもシーナのその目はしっかりと錬金術士の目を捉えていた。

 

―答えろ。今すぐに―

 

そう語りかける彼女の目に錬金術士はほんの小さくであるがたじろいだ。

自身の前に居る少女は本当に18歳の少女なのか。少女らしからぬ圧を生み出している。

 

(すっげぇ圧…。こりゃ悪魔も裸足で逃げ出そうだな?)

 

(そうですね…。そして何度見ても思います。二十歳にも満たないというのに、どうしてここまでのものを発する事が出来るのだと)

 

(…確かにな)

 

こそこそとシーナが見せるそれについて話し合う処刑人と代理人。

二人もそうであったが此処に居る戦術人形や元鉄血所属のハイエンドモデルたちがまず一番に驚くのは彼女のその変貌っぷりだ。

普段は年相応の反応を見せるというのに、緊急を要する事や作戦前、緊迫した状況などではその反応は消え去り今の様な姿を見せる。

特に自ら戦場へと出た時は相手が同じ人間であろうと敵ではあれば躊躇いも無く撃つといった修羅の片鱗すら垣間見えさせた程。

何があればここまでのものが発せられるかのかと誰もが思うだろう。

シーナの過去に関してはあまり知られていないものの、一部の人形は語る。

生い立ち自体は普通であったが本人の口からは全てが語られる事はなかった為、もしかすれば彼女の過去に何かあるかも知れないと。

 

(普通の少女が兼ね備えていたものか、或いは経験による積み重ねによるものか…?)

 

最初こそは驚きながらも錬金術士は冷静に彼女のそれについて思考を巡らせていた。

しかし最近になってこの基地に身を置く事となった彼女にそれが分かる訳もなく、裏切りに対しての返答を口にした。

 

「向こうから切り捨てたんだ。ならば私が何をしようが勝手。…まぁ此処に置いてくれている以上はお前の指示が聞くつもりだ」

 

それにと前置きの言葉を口にすると彼女はニヤリと口角を吊り上げる。

敵からすれば恐怖でしかないが、味方である以上は特に問題ないだろう。

 

「ここに居れば退屈しそうにないのでな」

 

「やっぱこのネェちゃん中々だねぇ。思考もそのデカい二つに吸われちまってんのかよ」

 

ジュークボックスの上で停まっていたグリフォンが錬金術士の笑みを見て笑い声にも似た様な声を漏らした。

 

「安心しろよ、眼帯のネェちゃん。ここは年中パーティー騒ぎやってるからよ」

 

「それは楽しみだ。それなら出し物にも満足しそうだ」

 

(年中パーティー騒ぎって言っても、好き好んでやってる訳じゃないんだけどなぁ…)

 

グリフォンと錬金術士の会話を傍で聞いていたシーナは指で頬を掻きながら苦笑いを浮かべる。

悪魔絡みの騒動(パーティー)は大体向こうから強制参加の招待状を投げてくるので自分達は被害者だ。

ただ悪魔絡みの騒動を確実に片付けられる場所とは言えば、ギルヴァら便利屋「デビルメイクライ」とS10地区前線基地である事は忘れてはならない。

一部の間ではS10地区前線基地は「悪魔も泣き出すレベルでヤバい基地」とも言われていたりするのだがシーナや此処に居る者達がそれを知る筈もない。

 

「話がずれている。本題へ戻るべきでは」

 

「おっとそうだった」

 

ノーネイムに指摘され、話の内容は本題へ戻りシーナが話し出す。

 

「皆の名前を決めると言ったのは良いんだけどね。…ただ問題が一つあるの」

 

「問題?シーナ、それはどういった問題ですか?」

 

代理人のその問いに対し視線をそらし苦笑いを浮かべるシーナ。

その様子を見てその場にいた全員が察した。

言ったのは良いものの、どんな名前を与えるかはまだ決まっていないのだと。

そう簡単に決まる事無くかと思われた矢先、店の裏口のドアが勢いよく開いた。

その音にギルヴァを除く全員の視線が裏口へと向けられる。

居たのは着物姿のダレンと彼女から借りた着物を着た侵入者の二人であった。

 

「話は!」

 

「聞かせてもらいましたよ」

 

確実に盗み聞きしていたなと思われても仕方ない登場であったが、誰も敢えてそれを問う事はしない。

因みにギルヴァはダレンと侵入者が来た途端騒がしくなると判断したのか、傍にルージュと共に誰にも気づかれないままカフェへと避難している。

 

「わしらで決められぬのなら、第三者達に募集すればよい!」

 

「そういう訳で色々偽装を施した上で既に情報を流しておきました」

 

もう既に行動し終えている二人にシーナは啞然とし、代理人と処刑人の二人は固まったまま動かない彼女の肩に手を置きながらも何処かやれやれと言った表情を浮かべていた。

そして錬金術は此処に来て侵入者の性格が変わったのではないかと思いながらもククク…と言った笑い声を上げていた。

 

「次から一言言ってね…」

 

漸く意識を現実へと戻した時、シーナは引き攣った笑みを浮かべながら二人にそう言うのであった。

その後、一同は一旦解散となるのだが名前を付けるという話で完全に忘れていたのかギルヴァに例の基地「墓場」への同行してもらう様に伝え忘れるシーナであった。

結局「墓場」へと向かう面子はシーナ、代理人、ノーネイム、処刑人、錬金術士、グリフォン、フードゥルとなり、一行は代理人の操縦する大型ヘリに乗り込み「墓場」に居る追跡者の本来の人格「墓守」の保護と調査へと赴くのであった。

 

シーナ達が基地を離れた一方で「墓場」にて追跡者のスペアボディに改造を施した体を得た墓守は人形管理区画でコンソールパネルを操作していた。

 

「はぁー…」

 

ボディを得て電脳空間以外の外で動く事が出来た事に関しては墓守は嬉しく思っていたが、まさか自分以外の人格が目覚めて、ボディを与えた事をこれから迎えにやってくるであろうとシーナにどう説明したものかと考えていた。

憂鬱な表情を浮かべる墓守の隣で同じようにコンソールパネルを操作していた「墓場」で目覚めたハイエンドモデル「祈祷師」が何処か心配する様な表情で墓守を見た。

ハイエンドモデル特有の白い肌、琥珀色に輝く瞳。白と水色のグラデーションがかかった色に染まり肩まで伸ばされた長髪。ハイエンドモデルの中では上位に入るであろう錬金術士と渡り合えるだろうと思われる胸部。

特に祈祷師の特徴を示すものは耳である。何故か彼女の耳は人間の耳を模った耳ではなく、まるでファンタジーに出てくる「エルフ」と呼ばれる種族と同じ長い耳を持っている事であった。

 

「あの…大丈夫ですか?」

 

戦闘能力はあれど、その性格は心優しく。

心配そうに祈願者は墓守を見つめる。

 

「大丈夫。ただ君の事をどう説明したものかなって思っててね」

 

「ありのままに伝えれば良いのでは…?」

 

「それもそうなんだけどねぇ…」

 

祈祷師の言う通りありのままの事を伝えればいい。

しかしそれだけで向こうが信じてくれるのかどうかが墓守にとっては不安であった。

生み出されながらも捨てられた存在、そして追跡者のスペアボディに改造を施したボディを有しているとは言え、既に消滅した筈の追跡者による演技だと疑われているかも知れないといった不安が彼女にはあった。

 

(隠していても意味ないよねぇ…)

 

シーナ達がここに訪れるまでまだ時間はある。

墓場が有する最低限の機能を復活させるために巧みにキーボードを操作しながらその頭の中ではシーナ達に説明する内容を墓守は考えるのであった。




まぁ内容を見て分かる様に…
S10地区前線基地に居る鉄血のハイエンドモデルたちの名前を募集致します。


活動報告の方に「Devils front line 名前募集」という題名で投稿いたします。

※「Devils front line 名前募集」の名前募集は勝手ながら急遽募集を取りやめする事に致しました。ご迷惑をおかけいたします。

では次回ノシ


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Act140 Investigation

―それは宝かも知れない―

―一方で存在した証拠でもある―


そこは以前と変わらない様子であった。

古びた民家が所々に点在し平原が広がるだけ人気を感じられない。

名も無き地区は墓守の保護及び調査に訪れたシーナ達を歓迎する様子はなく、しかし歓迎しない様子もない。

もはやこの地区は息すらしていない。死臭を放たない死体みたいだ。

墓場の近くに着陸したヘリから降り立ったノーネイムは周囲を眺めながら静かにそう思った。

そこにシーナがノーネイムのと隣に並び立ち、景色を眺めながら彼女へ話しかける。

 

「静かで平穏を保っているのに何も残っていないね…。人も木も灯りも何かも残っていない」

 

「ここはもう息をしていない。…私にはそう思えるな」

 

「そうかもね…。でも私はこう思ったりするかな」

 

「それは?」

 

ふとシーナの顔を見るノーネイム。

それに気付く事もなくシーナは答える。

 

「誰かがここで住んでくれる事を望んでいる。そういう風にも考えてもいいんじゃないかな」

 

ノーネイムの目にはシーナのその横顔は何故か未来の…大人に成長した彼女が見えていた。

突然の事に驚いたノーネイムは一度瞬きして、再度横へと振り向いた。

先程の姿は何処にいったのか、そこには居たのはいつも見る普段のシーナだった。

 

(今のは…)

 

錯覚だったのだろうかと判断するノーネイム。

もしそうだとして人形である自身がそれが起きたのか不思議でならなかった。

 

「ん?どうしたの、ノーネイム」

 

先程から一言も話さなくなった事に気付いたのか心配そうな声でノーネイムに話しかけるシーナ。

 

「あ、いや…何でも無い」

 

頭を正面へと戻しノーネイムは再度映る景色を眺めた。

その隣で不思議そうな表情を浮かべるシーナ。そして彼女達の後方から処刑人が二人を呼ぶ。

 

「おーい、そろそろ行くぜ」

 

「了解。すぐ行く」

 

そう返答してからシーナは後ろへと振り向き歩き出した。

ノーネイムもそれにつられて彼女の後を追うのであった。

 

 

「どういう事…?」

 

以前の戦いから損傷を負い破棄された「墓場」に到達し、内部に足を踏み入れたシーナは目の前で起きている事に驚愕を飛び越え困惑した様な声を上げていた。

彼女の知る限りではこの「墓場」で目覚めたのは追跡者の本来の人格である「墓守」だけ。

そう思い込んでいたシーナは出迎えも「墓守」一人だけと思っていた。

しかしこれはどういう事だろうか。

 

「一人増えてない?」

 

出迎えに来たのは墓守だけではなく、見知らぬ人形が彼女と一緒にいるではないか。

 

「増えてますね」

 

「増えてんな」

 

「みたいだな」

 

「ああ」

 

シーナの台詞に代理人、処刑人、錬金術士、ノーネイムが流れる様に肯定の台詞を口にする。

後頭部に手を当てながら苦笑交じりに墓守はシーナ達に説明した。

 

「い、いつの間にか目覚めていたみたいでね。彼女の名前は祈祷師って言うんだ」

 

「ど、どうも…」

 

墓守から紹介を受け緊張しながらも祈祷師はシーナへと小さく一礼する。

それを受けシーナも同じ様に一礼すると祈祷師の特徴とも言える耳に気付く。

祈祷師の耳へ向けられた視線に気付いた墓守がシーナ達が来る以前に集めておいた情報の中で見つけた祈祷師を今の様な姿にした理由を話し始めた。

 

「開発者自らそうしたみたいだよ?どうやらそういったのが趣味というのかな…うん」

 

それを聞かされたシーナを除く元の鉄血のハイエンドモデルたちはホッとした気分になった。

同時にもし自分のボディが祈祷師のボディを設計した者によって生み出されたらどんな姿になっていたのだろうかと少しばかり思うのだった。

そんな様子を見てシーナ達は首を傾げるが特に何かある訳ではないと判断し話を進める事にした時、祈祷師が小さく手を挙げた。

 

「あのー…」

 

「ん?何かな」

 

「貴女の傍に居る動物たちは一体…?」

 

祈祷師の視線はシーナの傍で待機している白狼とその白狼の頭の上に乗っている猛禽類に向けられている。

それは隣に立っていた墓守も気になっていた事であった。

一匹(フードゥル)一羽(グリフォン)の事を尋ねられたシーナは早速紹介しようとするのだが、彼女が口を開く前にグリフォンが喋った。

 

「俺は俺さ。それ以外に何があると思う?ネェちゃんよォ」

 

突然喋った事により目を見開きながらも固まる墓守と祈祷師。

驚かせる事に成功したグリフォンはニヤリと嘴を歪め、フードゥルはやれやれと言った様子で頭を振った。

しかしグリフォンが先に喋ってしまった以上はこちらも喋るべきと判断したフードゥルは二人へと話しかける。

 

「グリフォンが失礼した。この者はこういう事が得意であってな」

 

「え、あ、はい…?」

 

フードゥルがそう話しかけるも返答した祈祷師の反応は困惑といった様子であった。

それが分からない訳でないフードゥルは冷静に対処する。

 

「我の名はフードゥル。そして我の頭の上に乗っておるのがグリフォン。今は名だけ名乗らせてもらう。どう見ても混乱されている様子でな…落ち着いた時に機会を設けて再度説明させてもらうがよろしいか」

 

「は、はい!そうしてくれると助かります」

 

「うむ。承知した」

 

こういう時に備えて連れてきた訳でないが、フードゥルを連れてきて正解だったと思うシーナ。

この中で不測の事態に冷静な判断を下させるのは代理人や処刑人、フードゥルだったりする。

特にフードゥルは魔界で精鋭部隊の隊長を務めていたという事もあり、判断能力や状況分析能力に長けている点やその他を含めてフードゥルはシーナにとって心強い存在と言えた。

かと言ってシーナがS10地区前線基地所属する戦術人形や便利屋「デビルメイクライ」に属する者達の事を信頼していない訳ではなく、当然心強い存在とも思っている事は忘れてはならない。

 

「さて…本題に移ろうか」

 

此処に来た目的は墓守の保護と調査。

少し目的に変更があったとはいえ支障はない。今日一日で調査や物品の回収は終える事はないとは既に把握している。

暫くは時間が掛かるであろう「墓場」での調査は幕を開いた。

 

 

 

「一応自分達で出来る範囲のことはしておいた。ただ全機能復活とは言い難いかな」

 

墓守と祈祷師によって行われた「墓場」復旧作業は決して満足いくものとは言いづらいであり、シーナ達もそれは覚悟していた事であった。

それにこの「墓場」は一時的な拠点として且つ戦場として扱われた事は明白な上、戦闘によるダメージを受けている事は当然。完全復活が見込めない事は考えなくても分かる事であった。

 

「情報の類とかは?それも見れない感じかな」

 

「大半は既に削除されていて駄目だった。けど一つだけ…夢想家とやり取りしていた組織名だけ残されていたね」

 

「それって…"神の代行者"じゃないよね」

 

「あれ?知っていたのかい」

 

異世界から帰還した時、シーナはマギーから壊滅させた人形売買組織が"神の代行者"と呼ばれる組織と繋がっていたという事を聞いていた。

そして残虐な行いをした追跡者はどういう訳かその人形売買組織と関わりがあった。

その両者の背後にいたのは"神の代行者"と呼ばれる組織…という事まで分かっていた。

となる今回の一件もそこが関わっていると予想していたシーナだったが、それは見事に当たっていた。

 

(予測はしていたけど…一体何者なの…?)

 

ここでも聞く事になった組織の名。

一体何が目的なのかシーナには見当が付かなかった。

だがあの人物なら何かを知っているだろうと思っていた。

 

(…時期を見てダレンさんに聞くしかない。あの人が何かを知っている…)

 

今回の一件といい、例の組織といいシーナはダレンが大きく関与していると見ていた。

余りにも謎が多すぎるという事もあるが、何の為に自分達に接触してきたのかすら明らかになっていない。

ただ敵ではない事は明らかなのだが。

 

(嫌な予感がする…)

 

戦いは避けられない。ダレンから全てを聞いた時、先の見えない戦いが幕を開ける。

それまでに準備をしなくてはならないのは明白であった。

これから先、何が起きるのかすら予想は付かない。だが戦わなければならない。

生き残る為、そして守る為にも。

そして今回の一件で言える事は二つ。

『世界規模の戦い』になるという事と下手すれば『S10地区前線基地が壊滅する可能性がある』戦いになるという事だろう。

 

(覚悟を決めなきゃね…)

 

心の内で覚悟を決めなくてはならないと決意しながらもシーナはそれを気取られる事無く墓守へと話しかける。

 

「情報に関してはここから先は得られないとして、他には何があるかな?」

 

「そうだね…えっと…」

 

思い出す様な素振りを見せる墓守。

すると隣で聞いていた祈祷師が墓守へと伝える。

 

「こちらの操作で開ける事が出来た保管区画でしょうか」

 

「あぁ、あの保管庫が無数にある区画か」

 

「はい」

 

どうやら情報以外に何かあるのだなと察するシーナ。

ここで駄弁っていても進まないので墓守と祈祷師の先導のもとシーナ達は保管区画へ向かう事に。

 

 

生み出されながらも破棄された人形達が眠る「墓場」は幾つもの区画に分かれており、以前ギルヴァ達が戦った区画とはまた別にある区画に「保管区画」は存在する。

そこはここで眠る人形達の為に製作された専用武装、人形専用四肢の予備パーツに衣服、壊滅する前の鉄血工廠で生み出さながらも破棄されたもの、未完成で終わったもの、何処で回収されたのか奇妙なものなどが眠っている。

保管区画の保管庫に訪れ、物がずらりと並ぶその様に圧倒されるシーナ達。墓守と祈祷師も此処に訪れたのは今回が初めてだった為、同じ様に圧倒されていた。

 

「これは凄いですね。マギーが見たら発狂間違いなしですよ」

 

「だな。武器に予備パーツ、おまけに衣服まで置いてる。こりゃお宝だな」

 

そんなやり取りする二人の近くでシーナは偶々傍に居た錬金術士と共に歩きながら、保管されていた物を眺めていた。

どうやったらこの様な物を考え付くのだろうかと思いながら眺めていく中シーナは何かを見つけた。

 

「これは…?」

 

棚に置かれていたのは日本刀を模った近接武器であった。

しかしそのデザインはギルヴァの持つ無銘とは違い機械的な姿をしている。

鞘は黒と赤のツートンで彩られており、収められている刀身は深紅で染められていた。

ただ刀は一振りだけではなく、二振りの刀が一緒に置かれていた。

形状や刀身の長さは違うが同じ色合いの鞘が存在し、それを納めるためのホルダーパーツも付属していた。

 

「奇抜な発想をするものだな。三振りの刀の運用をメインに置いたものと見る。私には使いこなせる自信はないが…ギルヴァやブレイクとやらなら使いこなしそう気もするが」

 

「あー…それは否定できないかも」

 

シーナの脳裏に浮かぶのは、三振りの刀を巧みに、そしてスタイリッシュに戦うギルヴァやブレイクの姿。

流石にギルヴァさんはないかなと思いながらも、ブレイクさんならやりかねないなぁと引き攣った笑みを浮かべる。

 

「にしても…」

 

「む」

 

「これだけの数…どうしたものかな」

 

今回は保護と調査。

物品の回収も視野に入れていたが、これ程とは流石に思っていなかったシーナ。

このまま放置すれば、またこここが拠点として扱われる可能性もある。

それを聞いていた錬金術士が鼻を鳴らすと呆れた様に答えた。

 

「使われる事がないのだ。全て持って帰ればいいだろう」

 

「全てかぁ…」

 

そこでシーナは基地にS11地区後方支援基地から持ち帰ってきたリヴァイアサンを運搬するための専用トレーラーがある事を思い出す。

一回で終わるかどうか分からないが、荷台は十分な広さがあるので運搬には問題はない。

ただ問題はこれら全てが基地に収まるかどうかの話だ。

 

「知り合いの基地におすそ分けしないといけないかな?」

 

持っていた所で余るのであれば、戦力を必要とする所に修理し改造したものを送ろう。

シーナは保管庫に置かれたものを眺めながらそう決断し、墓守と祈祷師を探す為歩き出した。

幸いにも二人は近くに居た為、早速シーナは話しかけた。

 

「一つ聞いていいかな」

 

「良いよ、何かな」

 

相手から了承を得られた事で彼女は尋ねる。

ここに来た時から気になっていた事を。

 

「基地を襲撃した追跡者達…本体である追跡者は彼女達をどうやって生み出したの?」

 

追跡者が此処を拠点にしていたという事実。

本体はこの拠点で追跡者達を生み出したと考えるのが妥当であろう。

しかしここは生み出されながらも破棄された人形達が眠る場所であって製造工場ではない。武器はここからによるものだと推測できるが、どうやってあれだけの人数を用意出来たのかが疑問に残る。

シーナにとってそれが不思議でならなかった。

 

「それは…」

 

墓守の表情が曇る。

それを見てシーナは確信する。墓守は知っていると。

しかし問い詰める気はないが相手がその事を話すまで待つ気もなかった。

 

「貴女達の仕業ではない事は分かってる。…棺桶から掘り起こしたんだよね?」

 

「ああ…」

 

頷く墓守。

震える彼女の体を祈祷師が寄り添う。

ありがとうと伝えながら、墓守は語り出した。

 

「知っての通りここは目覚める事を許されなかった者達が眠る場所。その数は手足の指の数では足りなくなるほどの数が眠っている」

 

「そして一から製造できないのであれば、保管されている彼女達を使えば良い。そこに目を付け眠っていた者達の棺桶を掘り起こし追跡者は改造をした。自分と同じ姿にする為に、決して叫ぶ事のない彼女達の皮膚をそぎ落としそれを繰り返した…そうだよね?」

 

そう結論付けるには理由があった。

シーナはマギーとダレンがトリスマギアの調査の中間報告である事を聞かされていた。

追跡者達全員の内部骨格に記されている型番がどれも違う。

新しく生み出したのではなく、既存の人形に何かを施したのではないかと。

彼女は追跡者がどういう性格をしているかは初めて通信を寄越してきた時から把握している。

残虐な行いを好み、それで興奮を覚える狂った性格。

その時シーナはまさかと思った。

追跡者は仲間にもその様な行いをしたのでないかと。そしてその仲間とやらは此処で眠っていた者達ではないのかと。

 

「…見ていられなかった!何でこんな惨い事が出来るんだって思った…!生み出されて、破棄されて…目覚める事が許されなかった彼女達が何をしたって言うんだ…!!」

 

泣き崩れる墓守。

ここで眠っていた彼女にとって、祈祷師や他の名も知らぬ人形達はある意味仲間であった。

そんな仲間たちが一人、また一人と泣き叫ぶ事もなく淡々と惨い行いをされる様を見ていられる筈がない。

彼女が体を取り戻る事を辞め、本体を討伐する事を依頼した理由は暴走したから辞めた訳ではない。

あんな惨い行いをする奴を破壊して欲しかった。それも含まれていた。

 

「全てが遅すぎた…!彼女達をちゃんとしたままの姿で眠っていて欲しかった…!それなのに、あいつは…!あいつはぁッ!!」

 

ここで眠っていた彼女達を思う墓守を見てシーナは思った。

墓守の名の通り、彼女はここの管理を任されていたのかも知れないと。

しかし彼女もまた眠りについていた身。彼女ですら気付かなかった位に無意識のうちに使命を全うできなかった事を悔やんでいるかも知れないと。

 

「墓守…」

 

ただひたすらにごめんなさいと同じ言葉を続ける墓守を祈祷師はそっと抱きしめ落ち着くまで寄り添う。

そんな二人にかける言葉が出ず、シーナ達はただ墓守が落ち着くまで見守る事しか出来なかった。

 

 

数十分経てば墓守も落ち着き、シーナ達は一旦基地へ戻る事にした。

調査自体は残されていた情報がほぼ得られない状態であり、また本来の目的である保護を最優先とした為である。

とは言え今日で終わりという訳ではないのだが。

墓守と祈祷師をヘリに乗せ、シーナが見つけた例の三振りの刀を乗せると代理人の操縦の元、シーナ達を乗せたヘリは上空へと飛びあがる。

代理人が勝手に取り付けたジュークボックスから曲が流れ、各々が自由に過ごす中。処刑人があるものをコートから取り出してじっと眺めた。

それは石の様で赤く透き通っており、墓場の保管庫にあったもの。

使えそうだからという理由で彼女が持ちだしたものだ。

 

「おいおい、そりゃあ…」

 

処刑人が何かを眺めていた事に気付いたグリフォンが何処か驚きを交えた声を出した。

 

「知ってんのか、この石っころの事を」

 

「普通の石っころじゃねぇぞ。そいつはオリハルコン。膨大な力を生み出す神石ってやつさ」

 

「神石って…マジか?」

 

「嘘は言ってねぇぜ?こりゃマギーに見せたら大喜びかもな!」

 

石っころにしか見えぬこれが神石とは思わなかったのか暫く固まる処刑人。

この後に基地に戻った彼女はオリハルコンをマギーに見せる。

その時のマギーの反応は自身がびっくりするぐらいの驚きぶりだったと処刑人は語る。

 

 

 

 

雨降るそこは地形が所々破壊されているが碁盤の様な計画的に建設された工場群。

工場群という事もあって化学液体燃料の球状タンクや工場などが立ち並んでいるのが確認できる。

工場群から少し離れた三階建ての古びた建物にギルヴァとルージュが居た。

三階の窓から静かに外を眺めるギルヴァ。

その後ろでマギーから試験運用を頼まれた二つの試作大型兵器『スパイラル』と『V.S.E.R』を背負い、愛用の大鎌を肩に担ぐルージュ。

二人はある者の依頼を受けて此処へと訪れていた。

 

「ダレンも突然依頼をしてくるものです…。幾ら情報を得たからといって急過ぎますよ…」

 

ギルヴァの隣に並び立ちながらルージュが愚痴る。

 

「私は兎も角、貴方にも依頼するなんて…今回の依頼は援護だけですよね?」

 

「ああ。…奴の考えている事など知らんが依頼を受けた以上はやる事はやるまでだ」

 

「…そうですね」

 

目を伏せ、その時が来るまで精神統一をはかるギルヴァ。

彼が静かになった事でルージュも静かにする事に。

そんな中、ギルヴァの中で蒼が話しかける。

 

―援護ってもなんか裏があるよなぁ…

 

(あったとしてもやる事は変わらん。俺達はただ裏方仕事をこなすだけだ)

 

―ま、それもそうだがな。でも油断はすんなよ?先行きがどうなんのか分かんねぇからな

 

(ああ。分かっている)

 

ただ静かに二人は待つ。

パーティーの開幕を告げる一発の銃声を。




まぁそういう事でございやす…。
墓守も無意識のうちに仇を討とうとしていたのも知れない…。
因みに墓場の保管庫で発見された物はまたいずれ明らかにします。

次回
「Act141-Extra Lurking in the rain(雨に潜んで)Ⅰ」

次回からはoldsnake様作「破壊の嵐を巻き起こせ!」のコラボ回にギルヴァとルージュが参加いたします。
と言ってもこちらは裏でチマチマと援護するぐらいですね。

参加する面々はうちらを見つけてもいいぞえ。

では次回!


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Act141-Extra Lurking in the rain Ⅰ

―裏方の彼、彼女―


空は灰色。降る雨は辺りを濡らす。

建物も、地面も、窓も…濡らせるもの全て。

外から聴こえる雨音だけが空間を支配し、その時が来るまでの間ギルヴァは今回ここに来る事になった発端を思い出していた。

 

 

今から数時間前に遡る。

シーナ達が「墓場」の調査へと赴き、名前の一件で騒がしくなる事を察したギルヴァとルージュがカフェへ避難し静かな時間を過ごしていた時の事であった。

カウンターに腰掛け、カフェの店主であるスプリングフィールドが淹れてくれた紅茶を味わいながら店内に流れるBGMに耳を傾けるギルヴァとルージュ。

偶然にも人形達がここを訪れていない事と二人共物静かな性格という事もあり、店内に落ち着いた雰囲気に包まれていた。

以前の作戦の疲れた体を癒すには丁度良く今日一日は休息を取ろうと決めるギルヴァ。

それは彼の隣に座っているルージュも同じ考えであった。

しかし予定が強制的に変更される事になったのは、二人が今日一日の予定を決めた直後だった。

カフェの出入口が開き、開く音が来客を知らせる。

入ってきたのは一人の女性。

鮮やかな桜模様の着物を纏うその者はカウンターで座っていた二人を見つけると歩み寄りながら声を掛けた。

 

「おー、ここにおったのか。探してたぞ」

 

その声を聞いた辺りから誰が話しかけてきたのかを察しながらも目を伏せ見向きもしないギルヴァに対し温かい紅茶が入ったカップをソーサーの上に置きつつルージュが応対する。

 

「ダレン。どうしたのですか?」

 

「ちょいとな。…ギルヴァよ、依頼を受けてくれんかの?」

 

自身を呼ばれた事により、伏せていた目を開くギルヴァ。

味わっていた紅茶のカップをソーサーへ置くと返答する。

 

「…聞こうか」

 

「ほっほっ、そう来ないとの」

 

望んでいた返答を聞きダレンはカラカラと笑うとギルヴァとルージュの後ろに立ち二人の前に手に持っていた端末を置く。

画面には資源地帯の全体図が映っており、地形情報や地下道が存在するなどといった情報が細かく記されている他、そこが鉄血の支配下にある事を示していた。

これが何を意味さすのかギルヴァとルージュに分からない訳がなかった。

 

「気付いておると思うが、グリフィンによる資源地帯攻略作戦が行われる事となっておる。その援護に向かってもらいたい」

 

「そう頼むという事はこの作戦は小規模戦力による攻略作戦なのですか?」

 

「いや?戦力自体に問題ないの。寧ろお主らを送らんでも良いくらいじゃ」

 

「では何故?念を押すというのであれば分かりますが、戦力が足りているでしたら向かう必要はないと思うのですが」

 

ルージュが言っている事は決して間違ってなかった。

戦力が足りているのであれば自分達は向かう必要ない。

念には念をとも言うが、大規模作戦となれば援護に向かう者達もいるだろう。

ましてや自分を含めギルヴァは以前の戦いに身を投じ帰ってきたばかり。疲弊している訳ではないが、少しばかり休ませてもらいたいと言った思いもそこにはあった。

 

「それでもじゃよ。それにの…今回の作戦、途轍もなく嫌な予感がするんじゃ」

 

勘でしかないがの、と締めくくるダレン。

彼女と付き合いの長いルージュはダレンの勘がよく当たる事を知っている。

嫌な予感がするというのであれば、それは現実のものへとなるのだろう。

その事を知っているルージュはギルヴァに依頼を受けるようにと勧めようとしたその時であった。

紅茶の最後の一口を飲み干すとカップをソーサーの上へと置き立ち上がるギルヴァ。

スプリングフィールドにまた来ると一言伝えると、カフェの出入口へと歩き出した。

受ける気がないのだと思ったダレンは呼び止めようとするが、その前に彼は口を開く。

 

「細かい事情に興味はない。だが報酬は弾んでもらうぞ」

 

そのセリフは依頼を受けるという証拠となった。

 

 

 

回想に浸っていた頭を切り替え、伏せていた目を開くギルヴァ。

止む事を知らない雨は今も尚降り続け、雨音が響くが銃声や爆発音はまだ聞こえてこないが輸送機が降り立つ姿を目撃する。

グリフィンの部隊であると分かっていながらも、彼はそれ以上の興味を示す事はなかった。

ただその輸送機に乗っている者の内、S11地区後方支援基地での作戦で義勇兵として参陣した「M16A4」と「M14」が乗っているのだが、ギルヴァがそれを知る筈もない。

因みにであるがS11地区後方支援基地での戦いの時、二人と共に共闘したフードゥルはあの者達といつか会ってみたいと呟いていたりする。

 

「…」

 

そっと彼が後ろを向けば、ルージュがマギーから試験運用の為に渡された「スパイラル」と「V,S.E.R」を眺めていた。

スパイラルと名付けられた対物ライフルはルージュの身長とほぼ同じと言っても良い位に大型であった。

その外観から想像出来る様に威力、貫通性に長けた銃であり代理人の愛用するシルヴァ・バレトを参考にしてマギーが製作したものである。

一方で銀色に染められた特徴的な三又上の銃身とコンデンサーがレールガンを彷彿させるが、これはレールガンではない。

かなり前にギルヴァとノーネイムが回収した夢想家のライフルを参考してマギーが製作した光学兵器であり「V.S.E.R」と名付けられている。

名前であるV.S.E.RはVariable Speed Energy Rifleの略称で、訳すと可変速エネルギーライフル。

二つとも大型であるに関わらずルージュは軽々と持ち上げ、狙いを定めると言った仕草をしていた。

その姿を見つめるギルヴァに蒼が話しかける。

 

―依頼を受けたってのに、それに付け込んで試験運用を頼んでくるとはな。あいつらしいぜ

 

(報酬は出すと聞いている。今更文句は言うつもりはない)

 

―ま、受けたしまった以上は何も言わねぇさ。それにダレンからは()()()()を出してくれそうだしな。

 

ギルヴァも、そしてルージュもこの資源地帯にいる鉄血とは別にとある気配を感じ取っていた。

それはギルヴァらがよく相手をする者の気配…悪魔の気配だ。

ただその気配は二人の出方を伺っているのか、近づいてくる様子ではない。

向こうが動かないのであれば、こちらが動くまでの事。

それに今居る地点から少し離れているとはいえ、ここは鉄血の支配下。

いずれ自分達の存在に気付くのは時間の問題であった。

その証拠として、じりじりと詰め寄ってくる鉄血下級モデルたちの気配にも二人はとうに気付いている。

その他にも地下道から感じる妙な気配にもギルヴァは気付いた。

 

「動くぞ」

 

その一言にルージュの雰囲気は変わる。

静かなる殺気が周囲に放たれ、そこにギルヴァの放つ殺気も交わる事によって空間が振動する様な現象が起きる。

その瞬間ルージュとギルヴァは駆けだし窓ガラスを突き破って外へ飛び出していった。

彼女の持つ大鎌、スパイラルとV.S.E.Rの持つ火力、ギルヴァが持つ圧倒的な力。

地下道ではなく地上の方へ赴いたグリフィンの部隊の消耗を抑える為、戦いを少しでも楽にする為、裏方の仕事が雨音に混じって始まりを告げた。




という訳で今回からoldsnake様作「破壊の嵐を巻き起こせ!」のコラボ回 資源地帯攻略作戦にギルヴァ&ルージュが参戦致します。
ただこちらは裏でチマチマと援護、及びここに潜む悪魔の討伐という感じですね。
その最初として、地上ルート組の消耗を抑える為、戦いを少しでも楽にする為に雨に潜んで二人は動き出しました。


んで地上ルート組の方々よ、バラバラに切り裂かれた鉄血下級モデルの亡骸を見つけたり、どっかから大鎌が、大口径の弾丸が、光線が、斬撃が、群青色に輝く刀が飛んできたらこの二人による仕業なんでよろしくです。


また今回のコラボでは多くの作品が参加しております!

NTK様作 『人形達を守るモノ』

焔薙様作 『それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!』

ガンアーク弐式様作 『MALE DOLLS外伝集』

試作強化型アサルト様作 『危険指定存在徘徊中』

裏方仕事の方を見るよりもこっちの方が見ると良いぞ!
てか豪華過ぎないかい?こっちが小っちゃく見せるぜ…


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Act142-Extra Lurking in the rain Ⅱ

―雨と霧に潜む


雨音に混じる様に響く銃声と爆発音。

それはBB小隊、ランページゴースト、パラケルススの魔剣による鉄血下級モデルとの戦いが起きている事を指していた。

高所に陣取り狙撃を得意とする鉄血下級モデル イェーガーがライフルを構え狙いを定めた時、高速回転する禍々しい色をした何かがイェーガーの後方から迫り、その体を一閃。

上半身と下半身真っ二つに切り裂かれ、体がずれ落ちる中自身が攻撃を受けた、既に機能停止した事にも気づく事無くイェーガーは崩れる。

一方でイェーガーを切り裂いたそれはブーメランの様に弧を描きながら何処かと消え去る。

姿を消したそれが向かう先にいるのは、戦闘が勃発している地点から離れた位置に存在する建物の外でその様子を眺めていた重武装したルージュ。

投擲し帰ってきた大鎌を容易くキャッチすると肩に担いだ。

 

「今のでこちらの存在がバレたかもしれませんね…。よもやランページゴーストの方々がいるとは思いませんでした」

 

「騒ぎ事となれば奴らは現れる。以前の時の様にな」

 

その呟きに答えながらルージュの後方からギルヴァが姿を現した。

ルージュとは挟撃しようとしていた別の鉄血下級モデル部隊を相手していたギルヴァは会敵してから数十秒も経たぬうちに壊滅へと追いやっていた。ルージュと合流する間も何気なく幻影刀を投射し援護していた。

それもあってか、戦闘音は何時の間にか消え去っていたのだが、戦闘そのものが終わった訳でなかった。

まるで残り香の様に戦場には未だ狂気が漂っている。

彼と合流出来た事に安堵しながらもルージュは援護している際に見かけたある人物について話しだした。

姿は男性でありながら、その実は人形である彼の事を。

 

「あちらの部隊の中に一人、男性を見かけました。気配からして人ではなかったのですが…」

 

ルージュが言っている者が誰の事を指すのか、聞いていたギルヴァは察する。

S11地区の時の作戦に義勇兵として参戦した『彼』の事だと。

 

「M16A4か。S11地区の作戦では義勇兵として参戦し、H&R社の作戦にも奴は居た。…正直今のS10地区前線基地の状況を見せたくない相手とも言えるが」

 

「それは何故?」

 

「奴は鉄血を恨んでいる。それも並ならぬ程にな。そんな奴が今のS10地区基地の状況を見れば、何が起きるか分かったものではない。…最もそこまで自身を制御できない奴ではないと思うが」

 

近くの壁に身を預けながら腕を組むギルヴァ。

彼とてかつての作戦に参加してくれた者達と刃を交えたいとは思っていない。

だがH&R社の作戦に参加していた彼が鉄血離反しても尚敵と見なしていた所をギルヴァは知っている為その点を踏まえての台詞であった。

ただ彼は知らぬがM16A4にも色々あった模様で鉄血への憎悪はある程度落ち着いている。ただしそれは敵対しなければの話になるが。

 

「…!」

 

「…この気配は」

 

そろそろ別の狙撃地点へと移動しようとした時、二人はある気配を感じ取った。

その方向へと向くと高所で一方的な狙撃を仕掛け、戦闘を繰り広げる赤色の夢想家の姿。

二人の存在には気付いていないのか、夢想家が攻撃を仕掛けているのはグリフィンの部隊。高速から迫るノアを相手にし両手に持った重火器で攻撃を繰り出すその様は流石ハイエンドモデルと言えるだろう。

だからといってこのまま眺めている気など二人には無いのだが。

 

「狙えるか」

 

「やってみます」

 

ギルヴァの指示を受け、V.S.E.Rを構え夢想家へと狙いを定めるルージュ。

可変速エネルギーライフルと名付けられたこの銃は、高速かつ貫通力のある光線から低速かつ威力の高い光線を幅広い域で撃ち分けられるという機能を有し、特に高速弾を発射する際は三又状の銃身が前方にスライドし、発射形態を取るといった変形機構も備わっている。

 

「ふぅ…」

 

狙いがぶれない様にする為、ほんの少しだけ呼吸を止めるルージュ。

それにより狙いがより一層安定し、全神経を撃つ事だけに集中させる。

雨粒が肌に当たる感覚、雨の降る音が、響く戦闘音、心臓の鼓動する音など音といった音全てが遮断され彼女は無音の世界に包まれ、引き金に指をかけられた時であった。

 

「ッ!?」

 

瞬きもする間もない閃光は奔った直後、何処から飛んできた砲撃が夢想家がいた建物に着弾。

何もかもを塵へ変える様な大きな爆発、舞い上がった黒煙がキノコ雲を形作る。

そして砲撃を受けた建物は赤い夢想家と共に塵一つ残す事無く消し飛んでいた。

小さな核弾頭が飛んできたのではないかと思う程の威力。

狙撃しようとしていたルージュが余りにも突然過ぎる事態に啞然とする傍でギルヴァは砲撃が飛んできた方向を見た。

 

「あれは…」

 

自身が居る地点から距離はあるものの、工場群の一角に一体の人形が操るにしては無理があるとは思われる巨大な砲を持った人形が一人。

小型核弾頭を撃ち出すという世界を本当に消失させる気かと言っても過言ではない最悪の兵器「ヒュージキャノン」を装備した鉄血のハイエンドモデル「チーフ(主任)」がそこに居た。

 

―おいおい…あのイカれ人形、まさか…!

 

(味方を撃ったというのか…)

 

危険とも言える程の威力を有る兵器を装備している。

撃ち出される弾が小型核弾頭だという事はギルヴァは知らないが、その危険性を感じ取っていた。

二射目を撃たせてはならない。魔を解放しようとした時、ノアがチーフへと突撃して行く姿を目撃する。

立ち向かっていくノアに続くアナの姿もあった。

 

―あの二人なら何とかなるんじゃねぇのか?無茶する様な性格でもねぇしよ

 

(……!)

 

―それにこっちも援護に行けそうになさそうだしな

 

楽観視し過ぎでないかのかと蒼に対しそう思いながらもとある気配を感じ取り、後ろへ振り向くギルヴァ。

啞然としていたルージュもその気配を感じ取ると素早く後ろへ振り向いた。

奥から雨に打たれながら二人へと歩み寄る何か。

青く不気味に輝く瞳。人間を模った姿は白く彩られ、その形だけは女性を思わせる。

優雅さを感じさせる佇まい。悪魔とは思わせない外見。

しかし細腕から生えてきた様に展開された血の様に赤い刃が自らを悪魔だと知らしめている様だ。

 

―サプライズゲストにしてはインパクトに欠けるな。見覚えのある奴だからかね

 

(知っているようだな)

 

―魔界の中じゃそれなりに出来る魔物さ。頑丈ではないが、ちょいと面倒なもんを持ってる

 

(それは?)

 

その問いに蒼が答えようとした時、白色の魔物の腰部から霧の様な物が放出された。

それは辺り一面を覆い、ギルヴァとルージュを包み込む。

その行動で相手の特性を瞬時に見抜いた二人は背中合わせになり、攻撃に備えた。

 

「奇襲攻撃を仕掛ける悪魔…。そういった知能はあるみたいですね」

 

「その様だな。…それにこの霧、魔力が混じっている。恐らく気配や殺気を断つものだろう」

 

「手始めの相手が私達で良かったですね。…もし私達が居なかったらどうなっていたか」

 

「苦戦は間違いだろう。…俺達以外に一人だけ倒せるかも知れん奴が居るが」

 

その者とは最早戦術人形という枠を飛び越え、防人へと化し始めたとある人形なのだがルージュには彼の言う人物が誰なのか分からなかった。

だが何となく予想は付いており、あまり会話した事の無いので機会あれば話してみたい。そしてあの三人の中の一人に、自身のある事を教えた彼女へとこの魔物が向かわなくて良かったと思っていた。

そんな事を思いながらルージュはギルヴァと共に武器を構える。

 

「っ!」

 

霧の中から襲い掛かってくる悪魔。

振るわれた赤い刃がルージュの首を狙うが一瞬だけ放たれた殺気に反応し素早く振り向くと同時に彼女は大鎌を薙ぎ払い迎撃。

刀身同士がぶつかり火花が散る。

追撃を仕掛けるルージュだが悪魔にしては動きがよく、彼女の攻撃を回避すると悪魔は再び霧の中へと潜んでしまう。

 

(厄介な相手ですね…。彼ならどうするのでしょうか)

 

周囲を警戒しながらもギルヴァがどう出るか伺うルージュ。

そんなギルヴァは悪魔に対してどう攻撃するのではなく、展開された霧をどうするのかを思案していた。

攻撃を仕掛けてきた一瞬に合わせて反撃するのも相手は視覚外からの攻撃に拘っているのか、彼が反応した直後に反撃を恐れ霧の中へと再び潜ってしまう。

 

―全くミストは面倒な奴だぜ。そういうのは好かれないんだがな

 

(それがあの悪魔の名か)

 

―正解。魔界の住人にして狩りを得意とする悪魔さ。魔力を編み込んだ霧を放出して相手を包み込み、自身が優位に立てる状況を作る。人の近い姿してんのは、それが狩りに適しているからその姿してるのさ

 

蒼が襲い掛かってくる悪魔、ミストの解説に耳を傾けながらも攻撃を躱していくギルヴァ。

状況からしてミストが優位に立っているのは明白。

そこに蒼が助言する。

 

―ま、わざわざ相手に合わせる必要はねぇさ。こんな薄っぺらい魔力の霧なんざ払っちまえばいい

 

(…成程)

 

それが答えとなったのだろう。

ギルヴァは無銘の刀身を鞘に納めると静かに目を伏せた。

突然の行動に背中合わせになっていたルージュは彼を一目見てから大鎌を一回転させると刀身の切っ先を地面へ宛がった。

霧の中へと動き回るミストからしてみれば仕留めるには絶好のチャンス。今度こそ二人を仕留めるために壁を勢いよく蹴り、腕のブレードを振りかざしてながら迫ったその時であった。

 

「!」

 

声には出さずとも、ミストはその光景に驚いた。

突如として放たれた膨大な量の青い魔力が展開していた霧を消し飛ばしてしまったのだ。

それによりミストが何処から二人を襲おうとしているのか丸わかりになる状況となっていた。

このままではやられると判断したミスト。再度腰部の器官から霧を噴出させ、後退しようとするがそうは問屋が許さない。

逃げ出そうとするミストに迫るは大鎌を振り被ったルージュ。

 

―逃がさない―

 

その想いに呼応する様に大鎌の刀身が輝き出す。

赤い瞳がミストを鋭く睨み付け、死の恐怖を与える。その圧に当てられたのかほんの一瞬だけミストの動きが鈍くなる。

それを見逃しなかったルージュは一気に距離を詰めるとすれ違いざまに大鎌を右から左へと大きく薙ぎ払った。

弧を描き禍々しい色に彩られた刀身がミストの腹部を斬り裂き、斬られた箇所から血が噴き出す。

空中で斬られた事により体勢が仰向けになるミスト。そこに映ったのは灰色の空を背に体を捻りながら鞘から刀身を抜刀し銀色の刀身をミストへ向かって振り下ろす蒼い悪魔の姿。

 

「砕けろ」

 

ノイズが掛かった声と共に降ってくる袈裟斬り。

致命傷を受けたミストに回避する体力はなく、降下してきた蒼い悪魔がすれ違った同時に斬撃が奔った。

噴き出す鮮血の雨。体が朽ちていくミストを背に蒼い悪魔…デビルトリガーを引いたギルヴァは片膝を着きながら無銘の刀身を静かに鞘へと収めると鯉口と鍔がかち合う音を静かに響かせた。

それに合わせたかの様に地面に激突しそのまま朽ちていくミスト。

地獄へ還っていく悪魔を見届けると何故かギルヴァはデビルトリガーを解除せず、チーフへ向かっていったノア達の方を見つめた。

どうやらミスト戦っている間にチーフは倒されており、ノアがどこかへ飛んで行く姿を彼の目に映る。

 

―向こうは片付いたみたいだが、まだまだ終わりそうにないな

 

(ああ)

 

状況が今どうなっているかは分からない。

だが援護だけで何となる状況ではないと判断していたのでギルヴァはデビルトリガーを解除しないままでいた。

 

「表に出る」

 

「!」

 

その台詞が何を意味しているのかルージュは理解した。

どうやら彼は裏方の仕事(援護射撃)から表の仕事(大暴れ)に切り替える気なのだと。

 

「分かりました。…飛行は出来ないので運んでくれませんか?」

 

「良いだろう」

 

ルージュをお姫様抱っこする様に抱えるギルヴァ。

四枚の羽を大きく広げると勢い良く地面を蹴り空へと舞い上がると飛翔。

雨降るこの戦場の空に悪魔も泣き出す二人組が大暴れする為に裏方から表へとその姿を現した。

 

余談であるが、ギルヴァがミストの霧を払う為にデビルトリガーを引いた時に放った魔力が、グリフィン側には正体不明の反応として検知されちょっとして混乱が起こるのだが彼がそれを知る筈もなかった。




という訳で向こう側がチーフと戦った一方でこちら側で勝手に出した悪魔「ミスト」の討伐は完了です。

ギルヴァもルージュも状況は把握しておりませんが、増援部隊の排除及び撤退までの時間稼ぎをする為裏方から表へと姿を出します。
因みにギルヴァはデビルトリガーを引いているので、今は魔人化したまんまです。

なので刀を持った蒼い悪魔と大鎌と重火器を持った少女が突然現れても撃たないでね!


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Act143-Extra Lurking in the rain Ⅲ

―時間稼ぎ―


「何でしょうか、あれは…?」

 

魔人化したギルヴァに抱えられながら地上を眺めていたルージュは映った光景に対し訝しげな声を上げた。

どういう訳か正規軍の人形とも思われる人形の群れににBB小隊、ランページゴースト、パラケルススの魔剣が襲われている様子であった。

相当強力なのか、ダミーも残り少なく残っている武器で何とか対処している様からして押されている状況であった。

何故この様な状況になってしまったのか分からずとも、決して宜しくない状況である事は明白であった。

 

「表へと出て正解だったか」

 

「そうですね。でもどうしてこのような事に…?」

 

「知るか」

 

切り捨てる様な物言いだがルージュは気にしない。

性格からしてそういう人物である事は分かっているのだから。

 

(冷たい…)

 

飛行している所を抱えられている為、降り注ぐ雨がルージュの顔に強く当たる。

その中から感じる冷たさに彼女は自身の過去を思い出していた。

硝子越しから見つめてくる瞳。生まれた命に喜ぶ様なものではなく、まるで失望したような瞳。

培養液の冷たさを相まって、それは絶対零度のような冷たさを感じさせる。

望まれる事の無い鉄の子宮からの目覚め。それがルージュという少女の始まり。

紆余曲折を経て今に至る訳だが、その始まりを彼女は決して忘れてはいなかった。

 

(やめましょう…)

 

思い耽っていた頭を切り替え、目の前の事に集中するルージュ。

その時、地上で大きな爆発が起きた。相当の爆発だったのか飛行中であったギルヴァ達にも見える程。

それは赤ゴリアテをパラケルススの魔剣のレールキャノンで撃ち抜き爆発させたもの。周囲にあった燃料タンクまで巻き込んだ爆発は彼ら、彼女らを襲ってきていた第三勢力の勢いを削ぐ瞬間となっていた。

ただ相手が悪すぎる事、同時に武器等が破壊された事による戦力の低下をあった為かBB小隊、ランページゴーストの二人、パラケルススの魔剣は一瞬をついて安全圏まで撤退を開始していた。

 

「撤退を始めた様だが…」

 

「そのまま見逃すという気はなさそうですね」

 

しかし第三勢力は安全圏まで撤退を許す気はないのだろう。

群れを成して部隊の面々を追いかけ始めていた。その外観からは予想はつかぬ程の機動力で追う。

下手をすれば追い付かれてしまうだろう。

 

「行くぞ」

 

「はい…!」

 

羽を大きく羽ばたかせ、凄まじい速さで移動を開始するギルヴァ。

撤退している部隊を追い抜き、距離を取った所で地上へと降り立つ。

後ろを振り返れば撤退中のBB小隊、ランページゴーストの二人、パラケルススの魔剣。更に後ろからは第三勢力が追ってきている。

突然この二人が降り立った事により、どよめく部隊の面々。しかし足を止める訳には行かない。

その時、ギルヴァとルージュはそれぞれの武器を構えると地面を蹴って突進。

部隊の横をすれ違う際にギルヴァはM16A4に、ルージュはランページゴーストのアナとRFBへと伝える。

 

「時間を稼いでやる。早いうちに撤退しろ」

 

「ここは私達が何とかします。大丈夫、頃合いを見て私達も撤退するので」

 

相手の返答を待つ事無く、ギルヴァとルージュは突撃。

空いていた距離を一気に詰め、第三勢力へ攻撃を開始。

正面にいたイージス達にすれ違いざまに刀と大鎌による斬撃を浴びせ、その体を両断。

一度の攻撃で複数体機能停止に追いやると、ルージュが狙撃を仕掛けてくるケンタウロス達へ突撃。

そしてギルヴァはその場で居合の構えを取り、そっと鍔に親指を当てる。

 

「性能で言うのあれば貴様らが上か。何が目的かは知らん。だが一つだけ言っておく」

 

次元斬 絶とはまた違うものであるが、遜色ない程に強力な技。

その姿を捉える事はほぼ不可と思える速さで動き回り、次元斬を乱発するというもの。

それはかつてS11地区後方支援基地での作戦で放った大技。

その名も…絶刀。

 

「跪け」

 

鯉口を切る音と共に彼が地面を蹴った瞬間その姿が消える。

その瞬間あらゆる方向から空間が歪むと斬撃が奔った。

繰り出される斬撃の嵐。抵抗を許さない次元斬の嵐にイージスもサイクロプスもバラバラに斬り刻まれ、四肢やら頭部やらが宙へ舞い上がり、機能停止へと追い込まれていく。

戦力を減らしまくるギルヴァを阻止せんとケンタウロスが弓を構えた瞬間。

 

「何処を見ているんです?」

 

一閃。

体が二つに分かれ崩れ落ちるケンタウロス。その後ろに立っていたのは大鎌を振り下ろしたルージュ。

敵陣の真ん中で大暴れするギルヴァを一目見た後にルージュが次の敵へと狙い定めた時であった。

その時二人の上空をヘリを過ぎ去っていった。

それが部隊の面々が乘ったものだと判断するとルージュはヘリへと向かって微笑する。

その表情は無事撤退出来た事に対する安堵の笑みであった。

 

「意外と早かったですね。ならば私達も撤退しましょう」

 

そういうとルージュは内包している魔力を解放し全身に炎を展開した。

降り注ぐ雨も魔力で形成された炎の前では蒸気ヘと化す。それが狙いだったのか、彼女を中心に蒸気が辺り一面に広がっていき、最後には全てを包むまでに至った。

疑似的な煙幕が展開され、部隊が無事撤退した事に気付いていたギルヴァはデビルトリガーを解除しルージュと共にその場から撤退。

本来の目的、そして対象を見失った事により生き残った人形達は何かを待っているかの様のその場で立ちつくのであった。

 

 

戦場から無事離脱する事が出来たギルヴァとルージュは移動手段として乗ってきていたバンで一休みしていた。

作戦の後、例の資源地帯から遠く離れた場所にあった廃屋に車両は停車しており二人は淹れたてのコーヒーを飲んでいた。

冷めた体を温めるのは丁度良い飲み物。車両に当たる雨が何処か心地よい。

そんな中、ルージュがギルヴァへと話しかける。

 

「あの第三勢力…一体なんだったのでしょう?」

 

「知らん。だが何かの命令を受けて行動している様にも見えた」

 

「鉄血とは思えませんね…。一体誰が…」

 

「それが分かれば悩む必要もない。それに俺達が先程の奴らと今後関わるとも思えん」

 

「ですね…。私もそう思います」

 

飲んだら行きましょうか、と尋ねるルージュに対しギルヴァは小さく頷く。

コーヒーの香りが漂う一方で雨降る作戦は謎を残したまま終わりを迎えるのであった。




色々飛ばしまくってますが許せ…。

とりあえずコラボ回はここで終わりです。
時間稼ぎの為に勝手に色々やらせてもらいましたが…何かあったら修正します。


次回は何をするか未定です。
ではノシ


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Act144 One act on the front and back

―表の一幕、裏の一幕―


特殊作戦、ダレンからの依頼。

シーナ達やギルヴァ達にとって立て続けに起きた事件から数日が経過していた。

天気は晴れ。追跡者達による攻撃で受けた傷も修復し、S10地区前線基地はいつもの日常へ。

例の「墓場」の武装保管庫から基地への運搬及び搬入作業はその数日間で行われ、その膨大な量に第一格納庫で収まらず、第二、第三格納庫を使う事になった。

それだけで済めば、リヴァイアサンがここに持ち出された時や回収した魔具の時とそう変わらない。

だが問題はこの後に起きた。

 

「はえー…」

 

第一、第三格納庫とは違い、外へ繋がる第二格納庫…改名して第二兵装保管庫に搬入されたそれにマギーはたまげた様な声を上げた。

 

「これはまた…とんでもないものが出てきましたね」

 

そこにはどういう意図があって開発されたのかすら明白になっていない戦車が鎮座していた。

まるで正規軍のホバータンク「テュポーン」を思わせる外見。しかしそれは横から見たらの話。

ホバー式ではなく装輪式。まるで足を思わせる様な独立可動式脚部。

しかし兵装もエンジン回りも不完全のままに加え装甲すら取り付けられてはおらず、フレームが剥き出しのままである事から明らかに未完成である事を物語っている。

余談であるがこの未完成の戦車を祈祷師が見た時、「パーティーでもしそうですね」やら「死ぬ時は立っていた方が…」などバクでも引き起こしたのか、或いは何かの影響を受けたのか変な事を言っていた。

 

「それにコックピットがない。ハイエンドモデルが運用するというよりはAIでの運用を目的としたのでしょうか。いつ製造に着手したかは分かりませんが…このご時世、人材の損失に関しては組織も重く見ていたようですね」

 

有人での運用は想定されていない事からAIによる運用が想定されていたのではと仮説を立てるマギー。

すると彼女の後方から声が掛かる。

 

「対E.L.I.D用無人戦闘車両として製造されたらしいよ。AIは兎も角、全体的なコストがかかり過ぎる事と整備性の劣悪さから開発は頓挫。未完成のままお蔵入りになったとか」

 

未完で終わった経緯を話すのはここに就く事になった元鉄血のハイエンドモデル 墓守。

マギーが名も無き戦車を眺めている傍で彼女は工具ベルトを腰に携えながら持ち運ばれた膨大な量の武器、兵装の点検を行っていた。

墓場の管理人であった事もあり情報に関しては電脳に全て入っているものの使えるかどうかに関しては彼女にも想像がつかなず、この基地に身を置く事になってからはこうして一つ一つ武器を手に取っては点検する日々を送っていた。

 

「う~ん…っと!戦闘も出来なくはないけど、僕としてはこっちが性に合ってるねぇ」

 

「そうなのですか?てっきり技士として生み出されたのではないかと思っていたのですが」

 

「当初の計画としてはそっちなんだけどね。でもまぁそれだけじゃダメみたいで戦闘能力も備わっているよ。結局僕は眠る事になった訳だけど」

 

話しながら行っていた武装の点検を終え傍に置いてあった台車の上へと置きながら彼女は軽く苦笑いを浮かべながら肩を竦めた。

 

「ま、鉄血の考えなんか知らないし、ここに置いてくれている以上は作戦に参加はするし戦う気でいるさ。そう言えば仮設でだった独立遊撃部隊に正式名称と、僕を含めたハイエンドモデルの名前が決まるんだったっけ?」

 

「ええ。シーナや私、ギルヴァやルージュさんにこの基地にいる皆で考えさせて頂きました。明日の正午には正式発表なので、楽しみにしていて下さい」

 

「おおー。それは楽しみにしないとね。今日は眠れるかどうかは分からなくなってきた」

 

どこか子供の様な反応を見せる墓守を見て微笑むマギー。

すると何かを思い出したのか、羽織っていたグリフィンの制服の内ポケットからある物を取り出した。

それは以前の特殊作戦にて処刑人がS13地区基地の指揮官 リホ・ワイルダーから渡され、マギーの手へとやってきた八卦炉。

罅が入っている為、使用は厳禁であるが処刑人から聞いた話から彼女はこの八卦炉の凄さを感じ取っていた。

 

「小型化による出力不足はよく課題として挙げられますが…それすらも克服しているとは」

 

デビルブレイカーも小型でありながら高出力を誇るが、耐久性の低さに難がある。

故に数を揃える事で耐久力の低さを補っている。

しかしリホ・ワイルダーから処刑人へと譲り渡された八卦炉は小型化による出力不足、耐久力の低さは見受けられず、言わば理想の武器とも言える代物だ。

携行武器としては申し分ないと思われる程の物を何故処刑人に渡したのか。

考える時間は必要ない。処刑人から渡され、話を聞いた時からマギーは分かっていた。

 

「挑戦…と言いたいのでしょうか」

 

S13地区の治安はここS10地区と比べると最悪レベルであり、以前の追跡者達の集合体によってS13地区基地は全壊レベルでの損傷を負ったとシーナから聞いている。

そこで思ったのがS13地区基地にはこの八卦炉を修理できる程の設備が整っていない事であった。

最もリホ・ワイルダーはこの八卦炉がどのような進化を遂げるのかを思って託したのだが、マギーからすればこの様な物を渡されてしまえば思う事は一つしかない。

もしかすれば他の理由があったのかも知れないが、彼女はこの八卦炉を渡したリホ・ワイルダーへと呟く。

 

「いいでしょう。伝説の魔工職人を本気させたのです。やってやろうではありませんか」

 

リホ・ワイルダーからのそれは、魔工職人を本気にさせる一端でしかなかった。

 

「礼にしては程遠いですが…」

 

スナップを効かせ八卦炉を上へと放り上げる。

勢い良く回転しながら宙へ舞い上がったそれはやがて慣性を失い重力に引かれるとマギーの手の中へと納まる。

そして彼女の見つめる先にあるのは、とある武器が収められたウェポンラック。

 

「運用試験を終え軽く改造を加えたV.S.E.Rを送りましょうかね」

 

 

 

一方で便利屋「デビルメイクライ」にて、買い出しから戻ってきた代理人は珍しい光景を目撃していた。

 

(珍しいですね…)

 

彼女の目に映るのは来客用のソファーの真ん中に腰掛け静かな寝息を立てるギルヴァ。

普段であれば書斎の椅子に腰かけて眠るギルヴァ。その姿を何度も目撃している代理人からすれば今回はソファーに腰かけて眠るギルヴァの姿は珍しかった。

 

(特殊作戦にダレンからの依頼がありましたし…少なからず疲れているのかも知れませんね)

 

このままそっとしておこうと買って来た商品をしまおうと歩き出す代理人。

しかし台処へと通ずる入り口の手前で彼女は足を止めた。

今この場にいるのはソファーに腰かけて眠るギルヴァと自身のみ。

二人っきりという状況を理解した時、頭の中で何かが駆け抜ける。

 

(甘えるチャンスでは!?)

 

最近は作戦やら事件やらが立て続けに起き、近くにいれど甘える事が出来なかった代理人。

それを言えばUMP45やHK416、95式も該当するのだが、任務へ出撃している事もあり直ぐには戻ってこない。

二人っきりの時間が到来。この時を見逃す程、愚かではない。

そうとなれば速実行。この時の彼女の行動するスピードは非常に早かった。

買って来たものを素早く台処へ収めるとそのままソファーへと直行。

寝ている彼を起こさぬ様に右側に腰掛けると片腕を絡ませ、体を凭れさせる。

 

(…少しだけ眠りましょうか)

 

愛する人の体温を感じ取りながら、代理人はそっと目を伏せ、眠る事にした。

願わくばこの二人っきりの時間は出来るだけ長く続く事を願いながら。

代理人がギルヴァに寄り添うように眠りについた三十分後。

出先から戻ってきたノーネイムは眠っている二人を発見する。戻ってきた時に静かだったのはこういう事だったのかと納得していると指を顎に当て考える素振りを見せる。

 

「ふむ…」

 

顎に当てていた手を下ろし、ノーネイムは静かに眠っている二人へと歩み寄る。

すると彼女は代理人の膝を枕代わりにしてソファーへと寝転がった。

ソファーはそこまで広い訳ではないので足が外へと出てしまうがノーネイムは気にしない。

こうやって甘える事は滅多にはしないが、今ぐらいは許されるだろう。

軽く片足を曲げ、手を腹の上に組みながら瞼を下ろす。そのまま静かに眠りにつくのであった。

そこから三十分後、任務から戻ってきた404小隊が三人が寄り添って眠る様子を目撃する。

もはやそこから会話が生まれる事はない。45はギルヴァの脚の間に座るとそのまま体へ凭れ、416は左側に座り体を預ける。9もノリに乗って416の隣に座り、G11は彼女の膝に頭を載せて寝転がる。

そのまま四人も静かに眠りに付くのだが、数分後95式が任務から戻ってくる。

 

「ふふっ」

 

本当の家族の様に寄り添いながら眠るギルヴァ達を見ると母親の様な笑みを見せた。

すると何かを思い付いたのか、彼女は一旦その場から離れる。

暫くして戻ってきたのだが、その手にはカメラ機能を持った携帯端末が握られていた。思い出を残す為に95式が購入したもので、S10地区前線基地に訪れる前から持っていたものだ。

 

「ニャン丸も一緒に写る?」

 

「にゃっ」

 

彼らが眠っている事を察しているのだろう。95式の誘いに小声で答えるニャン丸。

カメラを起動させ、まるで自撮りする様な感覚で上手くソファーで寄り添いながら眠る男女らが上手く納まる様にする。そして95式は小さくウインクしながら立てた人差し指を鼻へと当てながらカメラのシャッターを切るのであった。

後にこの写真は現像され95式の思い出アルバムに納められるのだがその写真の端には彼女の直筆でこう言葉が綴られている。

Please be quiet!(お静かに!)

 

 

某所。

それはS10地区前線基地よりも、フェーンベルツよりも、墓場よりも遠くにある。

周囲が城壁で覆われ、遠くから見せる白き聖堂。ホワイト・カサンドラと名付けられた都市があった。

聖堂の内部。とある一室で老人が椅子に腰掛けて静かに本を読んでいた。

時は既に夜。

ロウソクに灯る火だけが部屋を照らす。外から届く風の音に耳を傾けながらも、老人はページを捲る。

すると老人のいる部屋の扉が開く音が響く。

入ってきたのはモノクルを付けた体格のいい男。クリップボードを片手に男は老人の近くまで歩み寄った。

 

「お休みの所、失礼致します。教皇様」

 

「問題ない。…して、何用か」

 

教皇と呼ばれた老人はそっと本を閉じる。

閉じられる音が聞いた男はここに訪れた理由を話し始めた。

 

「先程、鉄血の者から報告を受けました。…どうやら失敗した模様です」

 

その知らせを聞き、老人はため息を漏らした。

それは呆れにも近いものであった。

 

「やはりか。当てにならんとは思っていたが、その様だな」

 

「はい。…どうされますか?」

 

「…始末しろ。手段は問わん」

 

「御意。…それと例のものですが」

 

例のもの。

それが何を指すのかは老人と男にしか分からない。

理解している老人は伏せていた目を開く。

 

「現状七割程でございます。完成に至るまではもうしばらく時間が必要かと」

 

「そうか。必要であれば民を使えば良い。資金が足りぬなら提携先に増やす様に指示しておこう」

 

「おおー…!配慮に感謝いたします。…いずれもこの()()を現実のものといたしましょう」

 

「うむ。期待しておるぞ」

 

「はっ…!」

 

深々と頭を下げると男は部屋を出ていく。

再度一人となった老人は本を開く。ふと開いたページの一文にこう記されていた。

 

―その力は神か?悪魔か?

 

まるで自分達のやっている事を問われている気がした老人は小さく呟きながら答える。

 

「…無論神の力に決まっておる」

 

浮かべる笑みはまるで悪魔の様だ。

しかしそれを老人に伝える者はいなかった。




今回はちょっとした日常、かな?
最後の部分は…まぁ大規模コラボの前触れです。
因みに以前のコラボは緊急コラボです。
大規模コラボを開くそん時は異世界の扉を開けるかもしれませんねぇ…。


後、二~三話投稿したら四章は終わり、4.5章に入ろうかと。
4.5章ではぼのぼのをメインにやっていきたいと思います。異世界のコーヒーも頂きたいのでね…
まぁ四章ほど長くはならない予定です。


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Act145 Information organization

―情報の整理整頓―


その日。朝早くからシーナは執務室で今まで起きた作戦で得た情報を纏めていた。

かれこれ多くの特殊作戦が行われ、どれ程大掛かりな調査を行ったとしても不可解な事は多くあった。

悪魔が関わっていたという事もあるが、やはり何故この様な事になったのかは未だはっきりとしていない部分は多い。

そして今日の正午からは仮設であった独立遊撃部隊とここS10地区前線基地に居る元鉄血所属のハイエンドモデルたちの名前の発表がある。

それで時間が取られるであろうと思い、服装型魔具「サーヴァント」から供給する魔力を抑えミニマムサイズのシャドウとナイトメアを召喚。

主がやって欲しい事が分かっているのか、機敏に動きながらも散らばった書類を集めていくシャドウ。

そしてのしのしとゆっくりと歩きつつナイトメアが自慢のパワーで書類の束を作り上げる。

出来る限り現時点で得た情報を整理する為、彼女手に持った書類と報告書とにらみ合いながらまとめていく。

 

「最初は…ああ、これか」

 

悪魔の巣窟と化したS11地区後方支援基地制圧及び指揮官排除作戦「End of nightmare(悪夢の終焉)」。

フェーンベルツで起きた事件でギルヴァらが保護した元S11地区後方支援基地所属する人形 WA2000から得た情報から全てが始まった作戦。

 

「悪魔の魂を売った指揮官が引き起こした事件。その出自は富豪の家の生まれであり、出世意欲だけは一人前」

 

今やこの世から消えたその指揮官はシーナの言う通り、金持ちの家で生まれた。

あらゆるものを与えられた上、同時に高い能力を有した。

ただし決して性格までも良い訳ではなく、所謂腹黒い性格であり財力を使い、時には権力を使い、出世街道を歩んでいった。

 

「人形に手を出したんでしょうね…。功績が認められ上層の誘いを受けた直後に問題を起こした事でそれはキャンセルとなり、当時指揮官が居なかったS11地区後方支援基地へと送られた」

 

当時その基地に所属していたWA2000 OTs-14 SPAS-12 M590 Spit-fire Gr MG4や属していた戦術人形からすれば新任の指揮官が就いた日。

その日が地獄の始まりだったなど思いもしなかった筈だとシーナは思う。

まともな補給、休息などない。作戦が失敗すれば責任を押し付け暴力を振るう。

それが長い間続いていたとれば最早悪夢の他言いようがない。

 

―早く手柄を立てて、元の立場に戻りたいだけ。元の立場に戻って何でも言う事聞く奴隷が欲しかっただけよ、あれは―

 

当時を知るWA2000がそう語っていた事をシーナは思い出す。

 

「ただ元の立場に返り咲きたいから悪魔と結託したか…」

 

時期こそは分からずとも、元の立場に戻りたいだけに男が悪魔と結託したのは事実。

その悪魔もギルヴァの手によって始末されたが、魔工職人である事だけしか分かってない。

S11地区後方支援基地の指揮官に会うまでは何処で過ごしていたか、何をしていたかすら分かっていない。

だがシーナはある予想を立てていた。

 

「その悪魔も例の組織"神の代行者"に所属していた可能性がある」

 

そう言えるだけの根拠は異世界へと向かう前に潰した人形売買組織からUMP45、9の二人が得た情報からだ。

日記で記された内容であった事。同時に明確な事は記されていなかった事は把握している。

しかしその可能性は十分にあり得ると思っていた。

 

「そしてその組織はこの作戦の前に潰した人権保護団体過激派とも関わっていた」

 

神の代行者は初めて悪魔との戦いが始まった人権保護団体過激派とも関わっている。

グリフィンの人間に擬態した悪魔は過激派のメンバーを上手く操り、同時に人形売買も行っていた。

その情報はUMP45からもたらされた情報だ。

 

「もしかして人形売買組織と同じ様に過激派は神の代行者に人形を売っていた…?」

 

そう口にした所でシーナは目を伏せて指を顎に当てると考える素振りを見せる。

 

(仮にそうだとして神の代行者は敵になり兼ねない相手に態々交渉してまでして人形を欲したの…?)

 

動かしていた手を止めペンを机の上へ転がすと彼女は椅子の背もたれへと倒れる。

視線を天井へ向け、思考の沼へと自ら入っていく。

人権保護団体過激派、S11地区後方支援基地、人形売買組織、そして鉄血。

それらと何らかの関りを持つ謎の組織"神の代行者"。

その名にそぐわない事をやっているのは明白。しかしその中身までは分からずにいる。

 

「鍵を握るのは…」

 

グリフィン本部直轄諜報部所長 ダレン・タリオン。

その実は悪魔であり、その名は十の顔を持つとされる悪魔 ダンタリオン。

魔界で伝説の魔工職人と言われ今ではこの基地の後方幕僚を務めるマギー・ハリスンの友人であり、異世界から帰還した時にルージュ、錬金術士、侵入者と共にシーナ達に接触してきた。

接触理由は分からないままであるが敵ではない。でなければ追跡者との戦いで力を貸したりしないだろう。

そして全てを知る一人であるとシーナは確信していた。

 

(今ここに呼び出して問うべきなのかな…)

 

そう思いつつもそうするべきでないという思いが彼女の胸中で渦巻く。

背もたれから体を起こすと置いたペンを持ち上げのしのしとシーナへと歩み寄るナイトメアの姿が映る。

普段は巨人の様な姿をしているというのに、魔力を抑えている事もありその姿は小さく、ペンを渡そうと歩いてくる姿は何処か可愛らしい。

 

「ふふっ」

 

そんな姿を見て、つい表情を緩めるシーナ。

作業の続きをする為差し出されたペンを手に取り「ありがとう」と礼を伝えるが、ナイトメアはそれに反応する事はなく、踵を返すと再びのしのしと歩きながら書類の束を作り上げ始めた。

まるでロボット掃除機の様だなぁ~…と思いながら彼女は空いた手の指で軽くナイトメアの頭を撫でる。

しかしナイトメアはそれに気にする事無く、黙々と書類の束を作っていく。

 

「さて…続きをしますか」

 

撫でるのを止め、シーナは次の報告書を手に取る。

それは特殊作戦「chase game」と「grave guard」の報告書。

鉄血が"神の代行者"との関わりがあると確認される様になる切っ掛けとなった作戦である。

あれから数日が経っているもののシーナにとっては記憶に新しい作戦であった。

 

「そう言えば…」

 

この作戦を発令するに至った元凶である追跡者はある事を言っていたのを思い出す。

 

―彼女達をあんな風にしたのは僕さ―

 

彼女達とは人形売買組織が拠点としている基地から逃げ出そうとした人形達の事。

一部を除き、脱走に失敗した人形達は追跡者によって見るも無惨な姿へと変わり果てしまった。

シーナ達が人形売買組織を襲撃した際には魔の技術によって突如動き出して攻撃を仕掛けてきた。

 

「あの人形売買組織には神の代行者以外に鉄血も関わっていた…?」

 

あの通信で追跡者は彼女達をあんな風にしたのは自身だと認めている。

人形売買組織の裏に神の代行者以外に鉄血が関わっていたのではないかという疑問が浮かぶのは不思議ではないだろう。

 

(神の代行者は鉄血と手を組んでいる可能性がある…?)

 

まさかと思いたくなる。

ただの予想でしかなく、確証がある訳ではない。

それに謎だらけの組織に鉄血が手を組む事はないとシーナは思う。

だが鉄血はその組織と組んでいる。それを知っているのはダレン、ルージュ、錬金術士、侵入者だけなのだが。

 

「うーん…」

 

頭を回転させ悩みながらも丁寧に情報整理しつつ紙媒体へと文字を綴っていく。

黙々とペンを動かし、報告書と睨めっこし自分なりの考察を添えていく。

そんな事を続けていく内に数時間が経過。

正式発表まで残り数十分と差し迫っても尚シーナは情報整理に没頭していた。

だが集中し過ぎていたせいか、疲れが出てきたのかペンを置くと椅子から立ち上がり軽くその場でストレッチ。

凝り固まった体をほぐしていると机上のミニマムサイズのシャドウがジッとシーナを見つめていた。

それに気付いた彼女は机の上を眺めた。

散らばっていた書類や報告書らは綺麗に積み上げられており、シャドウはやる事が無くなったのか暇を持て余してしている様子であった。

ナイトメアもやる事が無くなったのか、その場で立ち尽くしている。

 

「ありがとう。戻って休んでて良いよ」

 

労いの言葉にシャドウは頷き、ナイトメアと共にサーヴァントへと身を潜める。

シャドウとナイトメアが戻っていくのを確認した時、執務室の外から声が響いた。

 

「シーナ、今よろしいでしょうか」

 

この基地で名前で呼ぶのは元鉄血所属のハイエンドモデル達だけ。

そしてこの声が誰なのかシーナは分かっていた。

 

「どうぞー」

 

入室の許可が下り、スライドして開く扉から入ってくるは侵入者。

正式発表はこの執務室で行われる為、少しばかり時間はあるものの早めに彼女はここへ訪れたのだ。

 

「あれ?今日は着物姿じゃないんだね?」

 

侵入者がいつもの服を着ている事に気付くシーナ。

以前ダレンから借りた着物を着ていた事が印象的であった事とと本人もそれを嫌っている様子ではなかった為、気になってそれを尋ねた。

 

「今日はこちらをと思いまして。着物も悪くないですけどね」

 

「私からすればとても似合っていたよ。正直似合い過ぎて羨ましく感じたかな」

 

「ふふっ…。そう言われると今後も着てしまうかも知れませんよ?見せつけるの為に」

 

ソファーに腰掛けながら笑みを浮かべる侵入者。

しかしシーナは気付いていた。

 

「その気はないと見るけど?」

 

「おや、バレてしまいましたか。流石はグリフィンの指揮官というべきでしょうか」

 

くすくすと笑い合う二人。

残りのメンバーが集まるまでの間、両者は適当な話題で時間を潰す。

そして元鉄血所属のハイエンドモデル達を集まった時、シーナは皆へと宣言する。

 

「皆の新たな名前を付けよっか!」

 

ここからは鉄血の人形ではなく。

以前からここのいる一人として、そしてS10地区前線基地に身を置く事になった一人として。

元鉄血所属のハイエンドモデル達の一歩が今始まろうとしていた




何となくの情報整理編。
そして次回は名づけ編です。

では次回ノシ


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Act146 Blaue Rose

―その名は意味は不可能、奇跡、夢叶う、神の祝福―


「んで?誰から発表で行く?」

 

新たな名前と独立遊撃部隊の名前が正式発表を聞く為に執務室に訪れた元鉄血所属のハイエンドモデル…代理人、ノーネイム、処刑人、錬金術士、侵入者、墓守、祈祷師ら計七名。

シーナから発表の宣言が出ると、壁に凭れていた処刑人は誰から発表するのから尋ねた。

誰から行こうがこの者達にとって気にする程ではないのだが、一気に全員の新たの名を発表されても味気ないというもの。

彼女の発言はそれを思ってのものであった。

 

「ならお前から行け。そこから代理人、ノーネイム、私、侵入者、墓守、祈祷師の順で良いだろう。…それで異論はないか、シーナ」

 

「そうだね。それで行こうか」

 

処刑人とは離れた位置で壁に凭れつつ腕を組みながら提案するのは錬金術士。

言い出しっぺのである彼女から反論が飛んでくる前に、矢継ぎ早に提案し取り付けに成功。

これで一番に処刑人の名前が発表となり、シーナは手に持った名前が記載してあるメモ用紙とは別に書斎の棚からある物を取り出す。

それなりの大きさがある箱で外見からして高級といった印象を感じさせる。

誰しもがその箱の中身に気になりながらも一人として問う事はしなかった。それを出したという事は遅かれ早かれ、彼女の口から明かされるだろうと判断していた為である。

 

「それじゃあ処刑人から。…貴女の新しい名前は「ネロ」。考えたのは私」

 

「ネロか…。まぁ悪くねぇ名前だな。意味とかあんのか?」

 

「意味は黒。良く着ている服装や貴女の持つ剣の色から取った感じかな」

 

「なるほどな。…その、えっと…ありがとな。大事にするからよ…」

 

この基地に身を置く事を許してくれたのは他ならぬシーナ。

恩人とも言える彼女に名前を付けてくれた事が嬉しかったのか、処刑人、否…ネロの頬にはほんのりと赤みがかかっていた。

一応本人はバレてないつもりでいるのだが、シーナ含む周りにはバレバレだったりする。

それを見た錬金術士は茶化そうとするのだが今後の嫌がらせの為に取っておく事を思い付き止めた事にネロが気付く筈もないのだが。

錬金術士が悪巧みしている事に気付いたシーナはこっそりと微笑むのだが、敢えてネロにその事を伝えない事にした。

 

「じゃあ次は代理人。名前はシリエジオ。考えてくれたのは…ギルヴァさん」

 

「ギルヴァが?」

 

「うん。愛する人の新たな名前が決まるから自分が考えるのが義務と言ってたの。因みにシリエジオは、イタリア語で桜を意味する言葉「シリエージョ」を捩ってシリエジオ。ギルヴァさんなりに考えてくれているみたいだね」

 

桜。

それはギルヴァが一番好きな花である事は代理人…シリエジオは思い出す。

 

「新たな名、有難く頂戴致します。シーナ」

 

「どうも致しまして。ギルヴァさんにもお礼を言ってあげて。あの人なりに考えてくれたらしいから」

 

「ええ。分かっていますとも」

 

自分の好きな花の名を愛する人に与えるのは実に彼らしいと口元を手で隠しつつ微笑む。

その名を現す様に今着ている服を少し変更を加えようと思うシリエジオであった。

 

「次はノーネイム。名前はネージュ。意味は「雪」。考えてくれたのはシリエジオと同じくギルヴァさん」

 

「父が…。ならば母と共に礼を言わなくてはならないな」

 

「そうだね。ふふっ、二人の名を考えるなんてね。愛されているね」

 

「かも知れない。…貰った名は大事にしないとな」

 

普段からあまり笑みを見せない彼女。

しかし今は綺麗な笑みを見せていた。

血の繋がりがある訳ではない。それでも家族の様に、それも娘として愛してくれる。

そんな父から与えてくれた新たな名前。ノーネイムからネージュという名前になった彼女にとってそれは最高のプレゼントとも言えるものだろう。

愛する夫から、愛する父が考えてくれた二人を見てシーナの表情も穏やかなものになる。

最近は作戦でギスギスしていた事もあった為、今の様な雰囲気は彼女にとってある意味癒しと言えた。

少女らしさも残しつつも大人にも近い笑みを浮かべながら、名付けは次へと行く。

 

「さて次は錬金術士だね。貴女の名前に関しては私やギルヴァさんではなく、ダレンさんから」

 

「ほう?あの胡散臭い女からとはな。して…奴が考えた名は?」

 

「ヘルメス。錬金術士の祖と言われる神人から来てるね」

 

その名を聞き、つい噴き出しそうになる錬金術士。

よもや自身の名前が錬金術士の祖と言われた神人の名を与えられるとは思ってもみなかったからだ。

だが悪い気分ではなかった。寧ろ悪くない名前を付けてくれたものだと感心した程であった。

 

「良いだろう。その名、有難く頂くとしようか」

 

「意外だね…。否定的な事を言うかと思ってたけど」

 

「まさか。くれた名に不満などないさ。私とて与えられる新しい名前を楽しみにしていたのだからな」

 

意外だなとシーナは思った。

彼女の中では錬金術士は名前や細かい事を気にせず戦いを好む性格であると思っていた。

それが今の彼女はどうだ?全くそれに関するガサツな感じを見受けられない。

本当に新しい名前を与えられる事をどこか楽しみしていたのではないかと思わせる程だ。

 

「…奴にも礼を言わなくてはならんか」

 

そんな事を思っているシーナを他所に名前を考えたダレンへ礼を言わなくてはならないと口にする錬金術士もといヘルメス。

鉄血を離反した事、そして離反後はダレン達と行動していた事は誰もが知っている話。

こればかりはヘルメスだけにしか分からぬ事であるのだが、彼女はダレンに恩義を感じている。

感謝を言葉にして伝えるのでなく、戦いで返すつもりでいる点は彼女らしいと言うべきだろう。

そんな事を思っている事は知る筈もなく、発表は侵入者へとなる。

 

「侵入者の新しい名前は「ジンバック」。考えたのはダレンさんとルージュの二人。カクテル言葉で「正しき心」との事。…何故お酒の名前を使ったんだろう?」

 

純粋な疑問を口にするシーナ。

それを聞いていた侵入者が答える。

 

「嗜む程度ですがお酒を飲むことがありまして。恐らくそこから来たのだと思いますわ」

 

「へぇー…。てか飲むんだ?てっきりそういうのは好まないと思っていたけど」

 

「まぁ…そこまで興味を示さなかったというのが大きいかと。ヘルメスと会う前に興味本位で飲んだお酒が中々に美味しかったもので。それ以降好きという部類に入っております」

 

(そう言えばこいつ…私と会った時も飲んでいたな)

 

二人の会話を耳にしながらも、あの廃屋で出会った時の事を思い出すヘルメス。

あの時もウイスキーを飲んでいた彼女であったが、その時からだろうかと考察する一方であの時の酒を機会あれば飲んでみたいなと思っていた。

一緒に行動する様になったあの日に飲んだ酒の味。彼女からすれば思い出の味でもあり、もう一度味わいたい味なのだ。

 

(…金が入れば、買ってみるか)

 

今は無一文である為、暫くはお預け喰らうことになる。

報酬の出る仕事を受けるべきかと今後の事を考えるヘルメスであった。

そうこうしている内に未だ発表されていないのは残す所、墓守と祈祷師の二人だけとなる。

順番で行けば墓守なのだが、墓守と祈祷師はほぼ同時期にこの基地に来た事もあってシーナは一気に二人分の名を明かす事にした。

 

「次は墓守だけど…一緒に祈祷師も行こうか。二人の名前を考える時になった時は、私やマギーさん、この基地に所属する人形達で話し合ったけど…これがまた白熱して」

 

「…総勢何人で行ったんだい?」

 

「えっと…15人くらいかな?」

 

「じゅっ…15…」

 

参加人数に驚く墓守と目を丸くし啞然とする祈祷師。

どんな風に白熱したかは中々のものであったと言っておくとしよう。

特に参加していたUMP45は祈祷師の胸に何か恨みがあるのか、物凄い名前を付けようとしていたが流石にそればかりはギルヴァに咎められて、彼に泣き付いたのはその場に居た者だけにしか知らぬ事であろう。

 

「ま、折角なら私も考えるって感じ便乗した子も居たからね。さ…二人の名前発表と行こうか」

 

「お願いします」

 

「ん、了解。…まず墓守の新しい名前が「ソルシエール」、そして祈祷師は「シャリテ」。ソルシエールはフランス語で「魔法使い」、シャリテは同じくフランス語で「博愛、慈悲」を意味するよ」

 

15名で行われた会議、またの名を「名前を決めよう会」にてその二つの名前を発案したのはあのマギーだったりする。

祈祷師はその性格から来ているが、墓守に関しては本人が持つ能力からその名前が出てきている。

最も墓場から回収された二人の専用装備はどう考えてもその名に似合わない外見と力を保有しているのだが、それを知るのは現在進行形で第二武装保管庫で作業しているマギーだけだろう。

 

「ははっ、魔法使いか。確かに僕は戦闘よりも技術者の側面が強いから間違っていないね。祈祷師の新しい名前も良く合っている」

 

「それはこちらの台詞ですよ。ソルシエール?…新参者に関わらず名前を与えて頂き感謝します、シーナさん」 

 

シーナへと深々と頭を下げる祈祷師。

つられる様に墓守も深々と頭を下げた。

 

「頭を上げて。ただ仲間はずれはしたくなかった。…折角ここに来たんだからね」

 

この二人はこの基地に来てからはというもののその日数は浅い。

新参者とも言える二人に何故シーナは与えようと思ったのか。

その一つは仲間はずれにしない為。そしてもう一つはただ鉄血の人形ではなく、このS10地区前線基地に居る人形として過ごしてほしいという思いがあった。

それは二人だけに限った話ではない。この場に居る者達にも言えた事でもある。

 

「最後は独立遊撃部隊の名前の発表だけど…。まず全員これを受け取ってくれるかな?」

 

開かれる箱。それは発表前に彼女が書斎から出した箱だ。

指示通り一人一人動き出し箱に入って居る物を手に取っていく。最初に手に取ったネロがそれの正体を口にする。

 

「ネックレス?飾りは…へぇー、"青い薔薇"か」

 

それを聞いた時、シリエジオはああ…とまるで青い薔薇の意味を察した様な声を上げた。

 

「確かに…"不可能"とも言える部隊ですね。鉄血の人形…それもハイエンドモデルだけで構成された部隊なんて」

 

「あ、やっぱり分かったかな?」

 

「ええ。遺伝子組み換えではない限り青いバラが生まれる事はない。それにかけたという訳ですか」

 

シリエジオだけには分かるものの他のハイエンドモデル達にはどういう事か分からずじまい。

それに気付いたシーナは独立遊撃部隊の名前を発表する。

 

「独立遊撃部隊 ブラウ・ローゼ。訳すと青いバラ。シリエジオが言った様に青いバラの花言葉には、不可能、奇跡、夢叶う、神の祝福といった意味を持つ。でもそういうのも悪くないじゃない?不可能とも言える部隊が今ここで発足したんだから」

 

「皮肉り過ぎてとんでもねぇけどな。でも面白れぇな。俺は好きだぜ、そういうの」

 

ネロの言葉に各々が頷く。

色々あってこの基地に身を置く事になった彼女達。

それが何の因果か一つの部隊となって出来上がった。

それはまさしく"奇跡"と言っても差し支えないだろう。

 

「だからそのネックレスを渡したの。ブラウ・ローゼの一人としてね。ただしシリエジオとネージュに関しては予備隊員という立場に置く事にした。基本的に二人は便利屋「デビルメイクライ」の所属だからね」

 

それに関しても当然とも言えた。

反論が出てくる訳でもなく、シリエジオとネージュを除く者達は小さく頷く。

 

「皆の武装や指揮系統など完全に決まってはないけど、名前と部隊の名前は決める気でいたの。暫くは間違えると思うけど与えた名前を忘れない事。そして…ここから始ましょ?貴女達の人生を」

 

そのセリフの通り。

新たな名を与えられたハイエンドモデル達の人生が今から始まる。

何が起きるか、何を巻き起こすか。

誰一人とてそれを察する事は出来ないだろう。




はい。これにてS10地区前線基地にいるハイエンドモデルの名前とハイエンドモデルだけ構成された部隊の名前が決まりました。

念の為変更後の名前をここにも記載しておきます。

処刑人=ネロ

代理人=シリエジオ

ノーネイム=ネージュ

錬金術士=ヘルメス

侵入者=ジンバック

墓守=ソルシエール

祈祷師=シャリテ

部隊名=ブラウ・ローゼ

では次回ノシ


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Act147 Return and return

―返した筈が、いつの間にか借りを作っている―


その日、正式名称が与えられた独立遊撃部隊【ブラウ・ローゼ】のメンバーの一人、ヘルメスはシーナから許可を得て荷物を背負い町へと出向いていた。

 

「懐かしいな…」

 

いつぞや見た町の風景。行き交う人々に聞こえる話し声。

あの時歩いた時と変わらない。

違いを挙げるとするのであれば、雨が降っているか降っていないかの差であろう。

雨降る日に歩いた町の光景を思い浮かべながらもヘルメスは大通りを歩いていた。

この辺りでは見ないのか、すれ違う人々は思わず振り向く者もいるがそれを気にする様子もない。

 

「確かこの辺りだったか」

 

大通りから裏通りへ通ずる路地を見つけると迷う事無く彼女は足を踏み入れる。

一度だけしか通らなかったにも関わらず、その足取りに迷いはない。

まるで目的地への道のりは分かっている様子だ。

 

「何の因果か…こうしてこの地区で身を置く事になろうとはな」

 

そう呟きながら、ヘルメスは背負っている荷物をちらりと見やった。

ガンケースと呼ばれるそれ。

その中には以前まで使用していた【RDI Striker12】と【M79 グレネードランチャー】が収められている。

この二丁はあの雨の日に武器屋の店主から譲り受けたものである。

故に今はヘルメスの所有物となっているのだが、どういう意図があって持ち出しているのかは本人にしか分からない。

狭い路地を抜け大通りから裏通りへと出るヘルメス。

大通りの喧騒と比べるとこの裏通りは静かだ。行き交う人の少なさがそれを示している。

 

「…」

 

その場で立ち止まって辺りを軽く見回すヘルメス。

そしてあるものを見つけるとそれへと向かって歩き出した。

吊り下げられた看板には「weapon shop」と汚い文字で綴られているが店構えはしっかりとしており、小汚さを見せていない。店主の性格が出ていると言っていいだろう。

ドアノブを握り店の扉を開くヘルメス。備え付けられたドアベルが鳴り、店全体に来客を告げる音が響く。

その音を聞きつけたのか、店の奥から店主が姿を現す。

 

「いらっしゃ…」

 

そう言いかけた辺りで来客として訪れたヘルメスを見て店主の目が見開かれる。

その反応が余程面白かったのか、ヘルメスはククク…と小さく笑い声をあげた後に店主へと話しかける。

 

「鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているぞ。私を笑い殺す気か?」

 

「それで死ぬタマじゃないだろ、ネェちゃん」

 

「確かにな」

 

肩を竦めヘルメスは店内へ足を踏み入れる。

そのまま店主の前まで移動すると背負っていたガンケースを置く。

ゴトと重たい音を立て、カウンターの上に置かれるそれを見て対面する店主は不思議な表情を浮かべる。

それを気にする事もなく、ヘルメスはガンケースを蓋を開くと同時に口を開いた。

 

「返しに来た」

 

「返しに来たって…おいおい、俺はあの時にこの二つをあんたにやったつもりでいるんだが?」

 

「それでもだ。元より貰い受けるつもりなどなかったのでな」

 

ヘルメスがこの武器屋に訪れたのはこの二丁の銃を返すためであった。

あの雨降る日。ヘルメスという名を与えられる前の錬金術士は夢想家に真意を聞く為に行動していた。

必ず戦闘に発展するであろうと分かっていた為、武器を求めていた訳だが残念な事にそれを買う金もなく偶然にも雨宿りの為に訪れたのがこの武器屋である。

鉄血の人形ではない人形としての生き方を見出す切っ掛けとなった場所であり、借りを作った場所。

そしてここS10地区、そしてS10地区前線基地に身を置く事になった以上この二丁を持つ気など彼女にはなかった。

飽くまでもその場しのぎとしての武器が必要であった事。

不要となれば大事に保管するのでなく、元の持ち主に返す事を決めていたのだ。

 

「弾を幾らか使ったがそれぐらいは多めに見ろ。一発も撃たずに済む状況ではなかったのではな」

 

「まぁそれぐらいは良いが…。しっかし義理堅い奴だな。わざわざ返しに来るなんてよ」

 

「借りを作ったままにしておきたくなかっただけだ」

 

「…そうかい」

 

ガンケースに収められている二丁の銃を取り出し、傍に置く店主。

これで武器は以前から愛用している複合武器となるヘルメス。

これ一本でどんな敵とも戦えると自惚れている訳ではないので、暫くは戦闘はお預けになるなと思いながらもガンケースの取っ手を握ると歩き出そうとした時であった。

チリンチリンとドアベルが鳴り、新たな来客を知らせた。

二人が出入口へと顔を向けると、そこに立っていたのはヘルメスが良く知る人物であった。

 

「おや、ヘルメス。こちらにいらしたのですね」

 

「エー、んんっ…シリエジオか。意外だな、お前がここに来るとは」

 

「そうとも限りませんよ?このお店には何度もお世話になっていますので」

 

つい昔の名を言いそうになるヘルメス。

そこに居たのはブラウ・ローゼの予備隊員であり、便利屋「デビルメイクライ」所属のシリエジオ。

普段は便利屋の事務所に居る筈の彼女がどうしてここに居るのかヘルメスには見当が付かなかった。

 

「いらっしゃい。いつもの用意出来てるよ」

 

いつもの営業挨拶でシリエジオへと声をかける店主。

 

「ではいつものを。先に代金は払っておきます」

 

「ん、丁度だな。直ぐに取ってくる」

 

代金を受け取ると店主は奥へ引っ込んでいく。

カウンターの前で待つシリエジオを見て、傍に居たヘルメスが話しかける。

 

「世話になっているのがよく分かる」

 

「一度や二度ではないですからね。それにここの店主は腕が良いですから」

 

店主の腕前に関してはヘルメスも同感だったらしく、確かになと言いながら頷く。

 

「それで?貴女はどうしてここに?」

 

「この店主に銃を二丁借りていたのでな。それを返しに来た」

 

親指を立て、借りた銃が置かれている場所を指すヘルメス。

指された場所を見てシリエジオは成程と小さく頷く。

 

(らしいと言えばらしいですね。…意外と律儀な性格なのは前と変わらないというべきですか)

 

口元で手が隠しながら小さくクスクスと笑うシリエジオ。

それを見て彼女が何を考えているのかを察したのか、ヘルメスは鼻をならしそっぽ向く。

そこに店主が"いつもの"を持って戻ってきた。

 

「待たせたな。いつものだぜ」

 

その手に握られているのは散弾が収められている箱。それも二つもだ。

それが店主とシリエジオが言う"いつもの"である。

それを紙袋へと納める店主。するとヘルメスとの関係が気になったのかシリエジオへ問いかけた。

 

「そういやそこの眼帯のネェちゃんとは知り合いなのか?」

 

「ええ。仕事仲間です」

 

「成程な。んじゃあんたから言っておいてくれ。格安で武器を売ってやるってな」

 

「だそうですよ?」

 

笑みを浮かべながらヘルメスへ振り向くシリエジオ。

しかしヘルメスは知らん顔を決め込んでいた。

今それを言われても金はない上に借金などするつもりなど一切ない。

言った所で動かないと判断したのだろう。見かねたシリエジオが動き出す。

 

「店主。そこの二丁を買い取ります。それとM1887のソードオフモデルは置いてありますか?」

 

「ああ、あるよ。ちょいと待っててくれ」

 

いきなり何をするつもりなのか分からず、シリエジオを見つめるヘルメス。

しかし彼女は笑みを浮かべたままで振り向かない。

店主が頼まれた物を持ってくると、それを手に取り構えてみたり動作を確認し始める。

炸薬式の銃は何度も使ってきた経験もあってかその手つきは滑らかだ。

 

「ふむ…良いですね。これも買います」

 

「毎度あり。この二丁は格安にしといてやるぜ」

 

「それは嬉しいですね。…では代金をこちらに」

 

何を目的としてそれらを買ったのか。

店を出て、事務所へと戻る帰路を辿り始めるまでヘルメスは見当が付かなかった。

 

 

事務所へと戻る道を辿っていくシリエジオとヘルメス。

大通りの端を並んで歩いているのだが、特徴的な姿をしている為か浮いている様にも見える。

通り過ぎる人がつい振り返るのだが、それを気にする様子もなく二人は喋っていた。

他愛のない会話を広げている内にヘルメスは武器屋でのシリエジオの行動について尋ねる事にした

 

「何故武器を買った?また更に増やす気か?」

 

「いいえ、そうではありませんよ」

 

「では何故?」

 

「何故って…貴女に渡す為ですが?」

 

「は…?」

 

シリエジオの返答にヘルメスは目を丸くし固まってしまう。

借りを返すために返品しに行ったというのに、今度はシリエジオに借りを作ることになった。

 

―借りは兎も角として、何の為に渡そうという考えに至った?―

 

どうしてもそれだけが分からず、彼女にしては珍しく困惑した様な表情を浮かべていた。

ヘルメスの困惑した表情を見て内情を察したシリエジオはその理由を明かした。

 

「祝いとでも言っておきましょうか。色々あって同じ場所に居る事になり、共に戦う事になったのです。これぐらいはしても良いでしょう?」

 

「では今日あの店に訪れたのはその為に?」

 

「いいえ。本来の目的は貴女も見た通りにいつものを買いに来ただけ。ただ店主が格安で売ってやるに対し貴女が反応しなかった。大方資金を溜めて買いに戻すつもりだったんでしょう?」

 

「…っ」

 

シリエジオの言っている事は当たっていた。

証拠として彼女から飛ばされる眼光にヘルメスを顔を反らしている。

それを見てやれやれと言わんばかりにため息をつくシリエジオ。

 

「ブラウ・ローゼが発足した今、装備が急務となっています。貴女の借りを作りたくない心境は分からないでもありませんが、それ一本で全ての敵と戦えるとは思っていない筈です」

 

シリエジオの言うそれ一本とは、ヘルメスという名前が与えられる前から愛用していた複合武器の事を指している。

以前は同じ武器を両手に装備していたのだが、S10地区前線基地を襲撃した際にギルヴァによって一つを破壊されている。その事をシリエジオはギルヴァから聞いている。

再会した当初こそは武器も持っていた為、何か施す事はないだろうと思っていたら今回の一件である。

 

「基地を襲撃したあの日以降、貴女が何を思い、何を胸に行動したのかは分かりません。しかしあの店主が見返りもなく武器を渡したという事は、貴女が死ぬ可能があるかも知れないと思っての事でしょう」

 

「…」

 

「全ての善意を受け入れろとは言いません。善意と言っても、その善意の中には狂気などが含まれている可能性もありますので」

 

「…」

 

返す言葉が思い付かず無言を貫くヘルメス。

それ以上言う気にはなれなかったのか、シリエジオも何かを言わなくなる。

そのまま会話が弾む事無く、事務所が見えるまでの距離まで来た時、とある話題についてヘルメスが持ち出した。

 

「店を出る前。あの店主が教えてくれた話、覚えているか」

 

「ええ。この地区ではなく、他の地区で起きた事件ですよね?」

 

「ああ」

 

それは二人が店を出る前に店主から聞かされた奇妙な話。

店主が聞いた話では、この地区とは別の地区の町で起きたとある事件をきっかけに、ある職に就く者達が誘拐されるようになったというのだ。

 

「…ガンスミスだけを狙った誘拐事件。目的が読めんな」

 

「ええ。何かあると見ていいでしょうね。特に店主が言っていた【金色の原石】が気になる所ですが」

 

「ああ。…事情は兎も角としてブラウ・ローゼの門出を祝うには十分な戦いになるか」

 

「…かも知れませんね」

 

夕陽が静かに沈んでいく中、二人は思う。

大きな戦いとは言えずとも、何やら面倒くさい戦いが舞い込んでくるだろうな、と。




今回はヘルメス(旧名 錬金術士)とシリエジオ(旧名 代理人)の二人をぶち込んだ普通の日常をお送りいたしました。
ぼのぼのとも言えずともこういうのもありかと思うのです。

これにて四章「Iron Bloody palace」は終わり。
次回からは四.五章へと入っていこうかと思います。
ぼのぼのをメインにしていきたいと思いますが、今回の話の終盤の内容通り、ドンパチもぶち込んでいきますし、配達したり、コーヒーを貰いに行ったりなどコラボも考えてりたりしています。

では次回ノシ


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第四・五章 騒乱と平穏の間に挟まれて
Act148 composer


―作曲者を探せ―


その日ダレンは基地内のラウンジに訪れていた。

本部直属諜報部所長の役職に身を置く彼女は時間があれば諜報活動に勤しんでいる。

ラウンジに訪れたのも流れるゆっくりとしたBGMに座り心地の良いソファーがあるからだ。

愛用している電子端末から多くの所から情報を集めていく中で、とある記事が彼女の目に留まる。

記事の見出しを見た時、ダレンの表情が変わる。

 

「…ほう」

 

興味深いといった声を漏らしながらそこに記されている内容に目を走らせていく。

一通り記事の内容を読み切ると、ダレンは椅子から立ち上がると出入口へ歩き出す。

 

「…これはへリアンに流してやらんとのう。ちいとばかし面倒な事になりそうじゃしな」

 

懐から煙管を取り出し咥えると火を付ける。

ゆらゆらと上がる紫煙がその横顔を通り過ぎ消えていく。

 

「どうせじゃ暇そうにしているあいつに依頼するか」

 

スライドして開いたドアから差し込む陽光。

その光の中へ彼女は消え、ラウンジのドアは静かに閉じていくのであった。

 

 

 

便利屋「デビルメイクライ 第一支店」のオーナーであるブレイクは事務所でどうしたものかと悩んでいた。

以前まで鉄血との戦いやら悪魔案件でドンパチやっていたというのに、最近はそれも音沙汰無しの日々が続いていた。

このままでは資金が底を尽き、生活に必要なライフラインを止められる可能性もある。

それでは事務所の機能が完全に停止する上に依頼を受ける事すら出来ない。

最悪の場合、基地の指揮官であるシーナに頼み込んで空いている部屋でも借りて一か月ほど泊めさせてもらおうかと考えた矢先、事務所に公私共にパートナーであるグローザが現れる。

机に足を投げ出して、雑誌を読んでいるブレイクの姿を見て彼女は呆れた様なため息をついた。

 

「全くだらしないわよ」

 

「仕方ねぇだろ?ここの所、ろくな仕事が来なくてこっちだって暇を持て余しているんだ」

 

「まぁ…ろくな仕事が来ない事に関しては同感だけど」

 

来客用のソファーに腰掛けながら、グローザは先日の特殊作戦以降に舞い込んで来た依頼を思い出す。

便利屋なのは分かっているが、どれもがどうしようもなく、わざわざ金を出してまで依頼する程のレベルとは思えない程の依頼ばかりが舞い込んできていた。

居なくなった飼い猫の捜索、浮気調査など…。

便利屋として名乗っている以上はそう言った仕事も受けるのが普通なのだろうが、ブレイクがそんな依頼を受ける様な性格ではない事は分かり切った話であった。

 

「ほっほっ、暇そうにしておるのう」

 

ブレイクと同じ様にグローザもどうしたものかと悩んだ時、事務所にダレンが訪れた。

ダレンが本部直属諜報部に所属している事はブレイクもグローザも知っている。

ある意味情報屋として動いている事もあり、何ともいいタイミングで来てくれたものだと二人は思った。

 

「良い知らせと悪い知らせがある。どっちから聞きたい?」

 

ノックもせず入ってきてまるで自分の家の様に近場の椅子に座り寛ぎ始めるダレンはブレイクにそう尋ねた。

 

「どっちでも。好きな方からでいいぜ」

 

どのみち聞かされるのだ。

雑誌を読みながら答えるブレイク。

 

「じゃあ良い知らせからじゃ。お前さんに依頼したい。報酬はたんまり払おう」

 

それはブレイクは当然としてグローザにとっても良い知らせであった。

このまま金欠になる。それは避けなくてはならないと感じていた為、何度も読んだ雑誌を閉じて机の放り投げるとブレイクはヤル気を見せた。

 

「確かに良い知らせだ。それで悪い知らせとは?」

 

「悪魔絡みではないという事じゃな」

 

悪魔絡みではないと聞かされた時、少しばかり残念に思ったブレイク。

ダレンがここに来たという事は悪魔でも出てきたのではと期待していたからだ。

 

「それで依頼内容は?」

 

来客用ソファーに腰掛けていたグローザが煙管を吹かすダレンへと尋ねる。

 

「昨今銃砲店を営んでいる者やガンスミスを生業としている者が不審な集団に誘拐される事件が相次いでいての」

 

「変な事件ね…。何の目的があってそんな事を?」

 

「さぁの。それとは別にそやつらは【金色の原石】とやら探しておるようじゃ」

 

「金色の原石?」

 

聞き返す様にその名を口にするグローザ。

それに対し金色の原石の名を耳にした瞬間、ブレイクの表情が変わった。

どこか心当たりがある様な表情をしているにグローザは気付きつつもダレンは気付かなかった。

 

「それが何なのかは分からん。そして依頼したい内容とはその【金色の原石】とやらを調べてきて欲しいのじゃ」

 

「手がかり一切無しで?」

 

「今の所はな。この件には関してはシーナ、そしてへリアンにも流しておる。もしかすれば向こうが何か掴んでくれると思うが、何か起きてからは遅い。ならばどうするかなど分かっておるであろう?」

 

「そうでしょうけど…。ブレイク、あなたはどうするの?」

 

最終的な決定権はブレイクにある。

受けるか受けないのかを尋ねるグローザ。

 

「オーケー。その依頼受けるぜ」

 

【金色の原石】に心当たりがあるからこそ、ブレイクにその依頼を断るという選択肢はなかった。

 

「いい返事が聞けて良かったわい。…どんな些細な事でも良い。何か分かれば連絡を入れてくれ」

 

「あいよ。直接あんたの所に伝えに行くさ。それとローザも連れていきてぇんだが、そこら辺はシーナの嬢ちゃんに伝えてくれ」

 

「了解じゃ。では頼んだぞ」

 

望んだ返事が聞けたのか安堵した様な表情を浮かべ、ダレンが事務所を出ていく。

出ていく姿を見届けるブレイクとグローザ。

訪れる静寂。

再び読んでいた雑誌を手に取ると思いきや投げ出していた足を下ろし椅子から立ち上がるブレイク。

それを見てグローザはブレイクへと問いかけた。

 

「金色の原石…。何か知ってるわね?」

 

「まぁな。…詳しい事は移動の際に話すぜ」

 

「そう…。準備の為に一旦基地に戻るわ。すぐに戻ってくるから」

 

「ああ。分かった」

 

依頼の為、準備の為に事務所を出るグローザ。

その後ろ姿を見届けるとブレイクは机に置いた愛用している二丁の銃を見つめる。

金色の原石と呼ばれるそれが狙われるとなれば彼が動かない理由などなかった。

 

「金色の原石…。成程な、暗号化するなら分りやすいな」

 

アレグロとフォルテをホルスターに収め、リベリオンをギターケースに納めるとブレイクはグローザが戻ってくるのを待つ。

愛用する二丁の銃が作られた経緯を思い出しながら。




ぼのぼのをメインしているというのに、ドンパチの予感を出す作者。
さてさてどんな風になるのやらか…。

因みにダレンのイメージですが、分かりやすく言えば仙狐さん。
それを大人っぽくさせた感じですね。
祈祷師はアズレンの樫野。牛耳、尻尾を無くして胸はそのままに。
そして髪の色が白と水色のグラデーションがかかったした感じですね。

では次回ノシ


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Act149 clue

―手がかり―


―全く…何度ぶっ壊せば気が済むんだい?―

 

―悪いね。こっちだって必死だったのさ―

 

―毎度毎度ヤバい状況に陥って銃をぶっ壊す。…ブレイク、あんた便利屋辞めたらどうだい?―

 

―辞めた所で求人出してんのはグリフィンぐらいさ。デスクワークとか俺に合わねぇよ―

 

―だろうね。あの赤い制服をあんたが着ていると思うと笑い過ぎて天に召されちまいそうだ―

 

―ひでぇ事言ってくれるぜ―

 

―ハハッ。…ほら、直ったよ。次はもっと丁寧に扱いなよ―

 

―はいはい…。ありがとよ、"婆さん"―

 

 

 

 

 

 

―おい…婆さん…!!目を開けろよ!婆さんッ!!!―

 

―ごほっ…ごほっ……そんなに叫ばんといてくれ…。びっくりして天に召されちまうよ…―

 

―冗談言ってる場合じゃねぇだろ!急いで此処を出るぞ!―

 

―この感じだとあたしも店も長くはもたんさ…。あんただけでも逃げな…まだ若いんだから…―

 

―ッ…! 何一つ返せてねぇんだぞ!あんたに、何一つ…!―

 

―ハハッ…あんたらしくない、ねぇ…。…良いさ…十分な位、貰ったさ…。最後の最後に、ね…―

 

―婆さん…―

 

―…あれを持っていきな…。あんた専用の銃さ…。ぶっ壊すんじゃないよ…?それはね…―

 

 

 

それは赤き外套を纏う前の過去。

失ってしまった痛み。失ってしまった悲しみ。

それは忘れる事の無い傷ついた暗き思い出。

 

 

 

「ブレイク…?」

 

ダレンからの依頼を受け、準備の為に基地へ戻っていたグローザ。

事務所へと戻ってきた時、机の上に腰掛ける彼の姿を見てどこか様子が変だと感じた彼女は心配げに彼の名前を口にした。

 

「ん?…ああ、戻ってきてたのか」

 

「ええ、ついさっき。それよりもさっき様子が変だっただけど…大丈夫?」

 

「問題ねぇよ。少し考え事をしていただけさ」

 

肩を竦め、いつもの笑みを湛えるブレイク。

彼がそう言うのであれば、とそれ以上の事は追及せずグローザは仕事の話を切り出した。

 

「ダレンの手回しが早くて助かったわ。指揮官の許可を得て、車を一台借りる事が出来たから」

 

「幸先が良いな。これならピクニックじゃなくドライブに洒落込めそうだな」

 

リベリオンを納めたギターケースを背負い、ブレイクは事務所の出入口へと歩き出す。

先行く彼の後を追うグローザ。

事務所の扉の掛け看板を「open」から「close」にひっくり返すと基地から借りた車の運転席に彼女は乗り込むのであった。

 

S10地区を後にし、適当な道を走る車両。

運転を担当しているグローザは頃合いと感じ、シートの背もたれを傾けダッシュボードに足を乗せるブレイクへ問いかけた。

 

「それで?地区は出たけど、何処へ向かえば良いのかしら」

 

「フシール・ハンデル。そこへ向かってくれ」

 

「フシール・ハンデル?確かそこって…」

 

ブレイクの口から出たその名前を聞き返す様に言いつつもグローザはその名前に聞き覚えがあった。

戦術人形になる前、彼女が民用人形だった時に何度も聞いた町のあだ名。

それがフシール・ハンデル。造語であるが「銃の貿易」と呼ばれている。

地区と地区の間に存在する比較的大きな町であり、総人口もS10地区と比べると多い。

生活に必要な店が多くあり、交通面も発達しておりこの町に移住する者も少なくない。

そしてフシール・ハンデルの名の通り、この町は新米ガンスミスの修行の町としても有名だ。

その理由としてはフシール・ハンデルにはベテランとも言えるガンスミス達が多く住んでいる。

新米達はこの者達に弟子入りし様々な事を教わり一人前と認められた時に町を出て各々で店を構える。

有名な町だという事もあるが、グローザはブレイクに尋ねたのは他の理由があった。

それを分かっていたのか、ブレイクは一つ頷き答える。

 

「ああ。フェーンベルツを訪れる前に、住んでいた町さ」

 

ブレイクがそう言った様に、フシール・ハンデルはフェーンベルツを訪れる前の彼が住んでいた町だ。

彼がかつて住んでいた町。そして金色の原石。

その二つがどう関連するのか、フシール・ハンデルへと車を走らせるグローザには見当が付かなかった。

 

 

ブレイクとグローザがフシール・ハンデルに到達した時は既に陽は沈んでいた。

流石にこのまま調査…という訳には行かず、二人は近くの酒場へと来ていた。

仕事上がりの一杯、親しい者達と酒盛り。各々の理由で盛り上がるこの場でブレイクとグローザは端の席に座って飲んでいた。

 

「こうして飲むなんて…久しぶりね」

 

「あれからどれだけ経ったかは覚えてねぇけどな」

 

「私は覚えてるわよ?貴方と出会った時もね?」

 

酒を煽るグローザにブレイクは軽く笑みを浮かべる。

彼にとってグローザとの出会いは印象的であったとも言えた。

色々あったなと思っていると、グラスを空にしたグローザが問う。

それは彼女が彼へと予め聞こうとしていた事だ。

 

「聞いていいかしら?…金色の原石について」

 

「そうだな…」

 

同じくしてグラスを空にしたブレイクは懐かしく、何処か悲しそうな表情を浮かべた。

彼の事をよく知るグローザからすれば、金色の原石についてはあまり話したくないのだなと思いながらも聞くつもりでいた。

今回の一件はただの依頼で終わらないと思っていたからだ。

 

「金色の原石……いや、ゴールドスタインって名はこの町だと俺を含む一部の便利屋や多くのガンスミスの中じゃ誰しもが知っている名さ。俺も有名人だという事は知っていたからな」

 

「…貴方との関連は?」

 

「分かりやすく言えば…アレグロとフォルテの生みの親でそれを俺が貰ったというべきだな」

 

アレグロとフォルテ。

それはブレイクが愛用する大型二丁拳銃の事を指す。

音楽用語を与えられた二丁の銃、そして二丁の銃を製作したとされるゴールドスタインと呼ばれる人物。

それが今回の一件に繋がるのかは分からない。

ただグローザは一つだけであるが確信していた。

 

(今回の一件…ブレイクが大きく関わっているわね)

 

ただの事件では終わらない。

過去からやってきた事件は大きな騒動へと変質する事にグローザもブレイクも確信するのであった。




だいぶ短いですが許しておくれ…。


次回は…どうするか未定です。
では次回ノシ


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Act150 Take a step forward

―些細な事でも一歩前進した事になる―


フシール・ハンデルと呼ばれる町を訪れて翌日。

時刻が正午を過ぎた頃。泊っていた宿屋を後にし、歩道を歩くブレイクとグローザの姿があった。

町巡りをしている訳でなく、二人はゴールドスタインと呼ばれるガンスミスにまつわる場所へと向かっていた。

先行くブレイクの後を追うグローザ。

初めて訪れた町に少し興味があるのか、町並みを眺めていた。

S10地区やかつて過ごしていた町と比べると、少々古風な造りの建物が多い。だがかえってそれがこの町の良さであり特徴であると言っていい。

現にグローザもそれを感じ取っており、どことなくであるがこの町の魅力に惹かれている様子だった。

それに気付きながらもブレイクは彼女の折角の一時と邪魔すまいと歩くスピードを緩めるとかつて過ごしていた町の周囲を軽く見渡した。

 

(…変わってねぇな)

 

そんな事を思いながらも彼の脳裏を過るはフェーンベルツを訪れる前、ここに過ごした時の思い出。

同業者たちが居て、凄腕のガンスミスが居て、気のいい住民達が居た。

仕事をこなす度に銃をぶっ壊した日々があって、今も変わらぬ町の姿があった。

そしてブレイクにとって忘れる事の出来ない出来事があった。

 

(…どちらにせよ俺が関わっているかも知れねぇ)

 

今回の一件は自身が関わっている。

同時に自身と当事者にしか知らないその【出来事】やらが関わっているのではとブレイクは推察していた。

 

(もしそうなら…)

 

 

 

―俺がケリをつけねぇとな―

 

 

 

彼の心で響くは覚悟の声。

普段から笑みを湛える彼の様子からすれば、今の彼は少しばかり違っている。

しかし残念な事にグローザがそれに気付く様子はなかった。

 

大通りから路地を通り抜け、裏通りへと出た二人。

裏通りだというのに人気は多く多くの車が行き交っている。ブレイクからすれば変わらぬ光景と言えた。

懐かしい光景を思いを馳せながらブレイクは目的へと歩き出し、それに続く様にグローザも歩き出す。

 

「S10地区とは違うわね。賑わいも人の多さも」

 

「前々からそうさ。居て退屈はしない」

 

「それは言えてるかもね。…それで目的はそろそろかしら?」

 

「ああ。もう少しさ」

 

通りをただ真っすぐと歩いていき、繁華街の入り口の前を通り過ぎる。

町の奥へと進んでいくにつれて、先程の喧騒は何処へ消えたのか、静けさに包まれた通りへと出た。

そこは町の中央とも言える場所から離れた位置にする通りで当時のブレイクが便利屋として行動していた際に住んでいたアパートがある通りだ。

治安が決して悪いとは言い切れずとも、この辺りではチンピラやギャングとかいった連中が少なからずいたりする。

二人とすれ違う若者たちの身なりは普通の住人とは程遠い格好している点でそれは明らかと言えるだろう。

そして数分歩いた時、とある場所を前にブレイクが足を止めた。

それを見てグローザはどう反応したらいいのか、困惑した声を上げる。

 

「えっと…」

 

彼女がそんな声を上げたのも無理もない。

そこに広がっていたのは焼け跡が残ったなにか。その形からして店だった事が伺える。

ここがそうなのかとブレイクへと尋ねようとするグローザだったが彼の表情を見て言葉が出なくなってしまった。

 

「…」

 

それはブレイクが神妙な面持ちで焼け跡が残った店を見つめていたからだ。

こんな表情を見せる事が決して珍しいという訳でない。

悪魔が関わっている事件や作戦に協力してくれる時も今の様な表情を見せる事もある。

見慣れたというのに、何故言葉に詰まったのか?

その答えをグローザは既に導き出していた。

 

(圧というのかしら。珍しいわ、ブレイクがそんなのを発するなんて)

 

彼自身から発せられる何か圧された。ただそれだけの事であった。

しかしこのまま沈黙を保ったままでは行かない。

自分達は依頼をこなさなくてはならない。それを理解していたグローザは気を取り直し、問いかける。

 

「ここがそうなのね」

 

「ああ。婆さん、いや、ゴールドスタインの店さ。…しかし驚いた。まだ残っているとはな」

 

「ここで何があったのか聞いていい?」

 

「良いぜ。ただ立ち話になるのはしんどいから、最寄りの喫茶店で話そう。糖分も欲しいからな」

 

「さっき食べたばっかりでしょ…」

 

そんな事を知らんといった様子でブレイクが最寄りの喫茶店へと向かおうとした時、とある人物が二人を見て話しかけた。

 

「お前さんら、ゴールドスタインのファンってやつかい?」

 

「ん?」

 

その声の主の方へ向くと、居たのは一人の男性。

チンピラやギャングといった連中とは違い身なりの整った三十代くらいの男性。

髭を蓄え、かぶっている帽子が良く似合っていた。

面識のない男に声をかけられ、少し警戒するグローザに対しブレイクは驚いたと言わんばかりの表情を浮かべていた。

 

「レイズか…?」

 

「ん?その声…まさか、お前さん、ブレイクか!?」

 

彼の声を聞き、レイズと呼ばれた男は驚愕の表情を浮かべた。

まるでこの町にブレイクが居る事に驚いているみたいである。

二人はどういった関係なのか分からず、蚊帳の外へ一人残されるグローザを見たブレイクがレイズへ提案する。

 

「懐かしい話は近くの喫茶店でしようぜ。ローザにもお前の事話さなきゃならねぇしな」

 

 

ブレイクの提案にレイズが同意した事により、三人は喫茶店に訪れていた。

レイズのおごりでストロベリーサンデーを楽しむブレイクに呆れた様なため息をつくグローザ。

目の前に座っている男性を紹介してくれるのではなかったのかと言わんばかりの表情を浮かべていた。

それを見てコーヒーカップをソーサーへと静かに起きレイズは軽く笑うと自己紹介を始めた。

 

「紹介が遅れてすまんね。レイズ・D・マートン。しがない情報屋だ。ここに居た時のブレイクに仕事の斡旋していた身でね」

 

「なるほどね…。私はローザ。彼のパートナーよ」

 

「ほほう?ブレイクのパートナーとはな。さぞかし大変じゃないかね?」

 

この町に居た時の彼を知っているからこその問いだろう。

その問いの意味を察したグローザは小さく頷きつつも笑みを浮かべた。

 

「否定はしないわ。でも…離れる気はないわ」

 

ブレイクを見つめる彼女の瞳を見て、レイズはそこから根掘り葉掘り聞こうとはしなかった。

パートナーという意味がどういう意味を指しているのかを察したからだ。

コーヒーを一口飲むと彼は静かに微笑む。

人生、何があるのか分かったものではないなと思いながら。

ブレイクがストロベリーサンデーを食べきり、漸く本題へと入った。

二人がここに来た理由を聞くとレイズは指を顎に当てつつ成る程なと呟いた。

 

「噂に聞いていたが本当だったとはな。しかし…亡くなったあの人を狙うってどういう事だ?」

 

「それはこっちが聞きてぇ。ただ婆さんに関連する何かを狙ってるのは明白だろうな。作った銃とかか?」

 

「それはないな。店が焼け落ちた後、彼女を懇意していた連中が残ったもんをかき集めて残してある。もし作品を狙っているとして、それが奪われたとなりゃ俺の所にも情報は転がってくる」

 

作品が狙いではない。

それ以外何が残っているのかブレイクには見当が付かなかった。

何か手がかりになるものが無いのやらかと頭の中の記憶の棚から探し出すが中々出てこない。

すると二人の話を聞いていたグローザがレイズへとある事を尋ねた。

 

「その人って…独り身だったの?」

 

「だと思うが。ん…?待てよ、そう言えば…」

 

そこで何かを思い当たる事があったのだろう。

思い出す素振りを見せるレイズにブレイクが尋ねる。

 

「何かあったのか?」

 

「つい数日前にな。俺の所にある男が尋ねてきてね。ゴールドスタインが営んでいた店の場所を教えてほしいって頼み込んできたのさ」

 

「そいつの名は?」

 

「流石に教えられんよ。しがない情報屋でも守秘義務ってのがあるんでね。だが今回は事情が事情だ。一つ教えるとなれば、そいつは息子だと言っていた」

 

名前は分からずとも、手掛かりにはなる。

まさしく行き詰っていた調査が一歩前進と言えた。

隣で基地にいるダレンに調べてもらおうと密かに思っているグローザに気付きながらも彼は肩を竦めた。

 

「オーケー。それ以上は聞かねぇよ」

 

「賢明な判断だ。…にしてもお前とこうして会うとはな。最後に話したのは、この通りがおかしくなり始めた時だったかね?」

 

「…だったな」

 

彼ははっきりと覚えていた。

レイズの言っていた通り、ここら一帯では何者かによる殺人事件が連続して起きていた。

便利屋を生業とする者、普通に働いていた女性、カフェを営んでいた老夫婦、十にも満たない小さな男の子…。

無差別事件とも言えるそれはこの町一帯を恐怖へと陥れた。

ブレイクがレイズと最後に言葉を交わしたのはその事件は起き始めた辺りであった。

 

「…犯人は今も尚捕まっていない。この町に住んでいた住人からすれば悪魔より恐ろしいもんだった」

 

「…」

 

「世界は滅茶苦茶。普通に過ごしているのが精一杯だった言うのにな…」

 

そこからレイズは口を閉ざした。

代わりにほんのりと温かさが残っているコーヒーを口を付けた。

ブレイクもグローザもそこから先から言えずにいた。

何か言う程の勇気が不思議なくらいになかったからである。

 

 

レイズから手掛かりとなる情報を得られた後、三人は喫茶店を出ていた。

これでお別れとなる前にレイズはブレイクへと尋ねた。

 

「そういえばブレイク、今何処で行動してる?」

 

「S10地区さ。移住を決めてるなら、家賃の安いアパートでも教えてやるよ」

 

「魅力的な話だが、暫くはここに居るつもりでね。良い相手がいなくなったら転がり込むとしよう」

 

被っている帽子をかぶり直しレイズは二人に背を向け歩き出した。

去りゆく彼の背を見届けると、二人もその場を後にすると近くにあった電話ボックスへ向かった。

情報を得られたのであれば、依頼主に伝えなくてはならない。

ボックス内へ入ったグローザは公衆電話の受話器を持ち上げると懐から通貨を一枚取り出し入れた。そのまま相手の電話番号を入力した後に受話器を耳に当てた。

コール音が三度続いた時、電話相手が出てきた。

 

『あいよーワシじゃ、ダレンじゃ。個人の連絡先にかけてきたのが誰かのう?』

 

何とも間抜けた声で出迎えるダレンについ笑いそうにもなるグローザ。

しかし今は笑っている状況ではない事は分かっている。

仕事をしている時の表情が彼女の顔には浮かび上がっていた。

 

「グローザよ」

 

『おおー、お主か。それで何か分かったかえ?』

 

「全部とは言い切れないわ。…今すぐに調べて欲しい事があるの」

 

グローザはこの町に来てから得られた情報を全て話した。

語られた情報に対しダレンは興味深いといって声を漏らした。

 

『ゴールドスタインの息子とやらか』

 

『今回の一件にどう結ぶのかは分からないけどね。取り敢えず所在とかを調べて欲しいの。もしかすれば相手の先手を取れるかも知れないから」

 

『了解した。ワシの方で調べてみよう。お主らは一旦戻ってくるが良い』

 

「わかったわ」

 

ダレンとの連絡が切れるとグローザは受話器をそっと元の位置へ戻した。

軽く息を吐きながら、電話ボックスから外へと出ると傍にいたブレイクを告げる。

 

「一旦戻ってこいって」

 

「分かった。…どうやら面倒くせぇ事になりそうだな」

 

「全くよ」

 

お互いに肩を竦め微笑み合う。

置いてある車へと戻った後に、二人はフシール・ハンデルを後にした。

 

 

 

「思ったより近いの」

 

グローザから頼まれた調査対象の所在を突き止めたダレン。

愛用している端末には相手の所在地のマップが映し出されていた。

普通ならばこのままグローザたちへと伝えるつもりなのだが、場所が場所と言う事もあってあえて彼女はそれをせず、ソファーでのんびりしていたある者の名を口にした。

 

「ルージュよ、ちょいと頼まれてはくれんかの?」

 

「またですか…?」

 

淹れたてのお茶を楽しんでいたルージュは何処かげんなりした様な表情を浮かべるのであった。




遅くなって申し訳ございません…。え?待ってない?
そっか…(´・ω・`)

グダグダしまくってますが、何卒宜しくお願い致します。

では次回ノシ


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Act151 Makeover

──にしたって変わり過ぎだ──





今回は一人称視点でルージュの視点で送らせていただきます。
なんかこういった視点が書きたくなったもので…


「…」

 

基地を出て、S10地区を出て、走らせているバンの運転席で私はどうしたらいいのかと悩んでいた。

以前の依頼に続き、またしても急な依頼で出る事になってしまったがそれに対してではない。

基地に世話になる以前にも彼女は今の様に急な頼み事をしにきていたので慣れている。

助手席に座っている彼女に対して頭を悩まされていた。

かつて刃を交えた追跡者の本来の人格とされる鉄血のハイエンドモデルであり、名前を与えられる前は「墓守」となっていた人形。

その名はソルシエール。

暇していた所をダレンに捕まって、共に行動にする事になった。

本来の人格であり社交的で初めて話す事になる私に笑顔で挨拶してくれた。

それでもだ。

 

―やはり重ねてしまう―

 

その感情が私を悩ませていた。

追跡者を知っている為、ついソルシエールをあの者と重ねてしまっているのだろう。

それを分かっていながら割り切れない自身は馬鹿だなとは思っている。

あれはギルヴァさんの手によって始末され、この世にはいない。

そして彼女はソルシエールであって、追跡者ではない。

だというのに割り切ろうとしない自分はなんとも愚かだ。

 

「~♪」

 

どうしているか気になってチラリとソルシエールを見やれば窓に頬杖を立てながら吞気に鼻歌を歌っていた。

恐らくであるが、私がアレと戦っていた事は知らないのだろう。

もし見ていたのであれば、あの時撤退する際に何らかの形で出てきてもおかしくない。

しかしそんな事はなかった為、私達が逃げ出した後に目覚めたのではと考えている。

 

「良い天気だね」

 

ふとソルシエールが空を眺めながらそう言ってきた。

運転している為、あまり余所見はできないが少しだけ空を見れば雲一つない晴天が広がっていた。

彼女の言う通り、確かに良い天気だ。

 

「そうですね。こうも晴れ晴れとしていると外へ出て行きたくなります」

 

「分かる。こういう天気の時は外で過ごすのがいい」

 

「まぁ…現に出てきていますけど」

 

「面倒な事に関する事で、でしょ?」

 

面倒な事。

それはガンスミスを生業とする者達が謎の集団によって連れ去られた誘拐事件の事を指す。

シーナ指揮官から聞いた時はどういった意図があってそのような事をするのか何とも不可解な事件だとは思った。

現状でS10地区でその様な事件は起きていないが被害者が増える前に何とかしなくてはならないのはグリフィンの仕事とも言えるだろう。

今回の頼み事もその事件に関連する内容だと私もソルシエールも知っている。

 

「ほんと不可解な事件ですよね。全く意図が掴めない…」

 

「だよねぇ。敵の正体も不明、意図も不明、分かっているのはゴールドスタインと呼ばれるガンスミスが狙われている。そして僕たちはその息子さんが営んでいる銃砲店へと向かっている。それだけ」

 

私達が動く前に調査へと出向いてくれたブレイクさんとグローザの二人のおかげで情報を得られたのだが、それでもほんの一握りでしかない。

全容が明らかになっていないというのは何とも歯痒いものだ。

取り敢えず息子さんが営んでいる銃砲店に向かう。

まずそこへと向かわない限りは始まらない。目的地まではまだまだ距離があるので、ソルシエールに対して前々から気になっていた事があったので話しかけた。

 

「そう言えばその体…あの追跡者のスペアボディを改造したものなんですよね?」

 

「そうだよ?それがどうかしたのかい?」

 

「その…見た目が随分変わったなと思いまして。本当にスペアボディを改造したものなんですか?」

 

あっちの髪の色は黒に対し、ソルシエールは銀髪に黒のメッシュが入っており、普段から閉じられていた目もはっきりと開かれている上に目の色の赤色から緑へと変わっている。

それどころか追跡者の外見は美青年にも見える姿をしていたが、こちらはれっきとした女性。

声に関してもそうだ。中性的とも言えた声は、今や女性よりの声をしている。

私の知る追跡者という面影が殆どない。残っているとしても喋り方ぐらい。

それでスペアボディを改造したものだと言われても首を傾げたくなる。一から新しいボディを作ったと言われた方がまだ納得が行くだろう。

 

「追跡者の面影を残していたらそれでこそ怪しまれると思っていたし基地にも迷惑が掛かるのは嫌だったからね。それにあいつ、自ら姿を出すような通信をやったから顔が割れているからね」

 

「確かにそうですが…」

 

「それにあいつと一緒のままが嫌だったから。徹底的にあいつの面影を潰す目的で改造したらこの姿になったという訳さ。識別情報もあいつのままだったから変更したし」

 

「ホントに徹底してますね…」

 

既にあの世に逝ったというのに、追い討ちをかける様にその存在すら抹消しにかかっている。

ソルシエールが相当なまでにあの追跡者とやらを嫌悪していたのがよく分かる。

それに顔が知られてしまっている今、改造していないスペアボディのままでいると怪しまれるという理由がある。ひいてはS10前線基地の評価にも繋がってくるであろう。

それならば納得が行く。

 

「ただこの姿になってびっくりした事が一つだけあるんだよね」

 

「それは?」

 

「調査の為にシーナ達が墓場に訪れた事は知ってる?」

 

「ええ」

 

私が向かった訳ではないがダレンから聞いた話では墓場の調査と墓守の保護を名目としてシーナ指揮官も向かったと聞いている。

その時の事を言っているのだろう。

 

「初めてこの姿でシーナと会った時さ。彼女こう言ってきたんだよね「姿変えたの?墓守」って。通信ごしで話した事はあったけど事前に姿を変えるといった話をした覚えなんて無いんだよね…」

 

「えぇ…」

 

そんな声が出てしまったが仕方ないと思いたい。

新しい姿となって現れたソルシエールをシーナ指揮官は墓守だと見抜いていたと聞けば、そんな声が出てきても不思議じゃない。

そもそもシーナ指揮官はグリフィンに就く前は普通の少女の筈。基地に所属している人形達から聞いた限りではそう言っていた。

グリフィンに就いてからは多少なりとも変わったかも知れないが、ソルシエールの話を聞く限りでは洞察力の高さが普通という枠を軽く超えている。

正直な所、シーナ指揮官には色々謎があり過ぎる。

鉄血のハイエンドモデルに対し怯える事もなく、それどころかそのハイエンドモデルを圧倒する程の圧を放ったり、悪魔に信頼を得たり、必要とあれば自ら戦場へと赴く。

どう考えても「普通」の指揮官という枠に収まる筈がない。普通とはなんぞやと問いたくなるレベルだ。

 

「彼女の過去が気にならないという訳ではありませんが、無理に踏み込むのも良くないでしょう。…彼女の口から語られるのを待つのが良いかと」

 

「だね。置いてくれた恩もあるからね。気長に待つ事にするさ」

 

何となくであるが、彼女の過去を無理に踏み込んでは行けないといった感じがしてならない。

どのような理由があってそう思わせるのかと聞かれたら上手く言えない。

例を挙げるとするのであれば言葉にならない何かを感じているというべきか。

思ったより会話は盛り上がっているが目的地までの距離は半分もある。

他愛のない会話を広げている最中、ソルシエールはふと話題を切りかえてきた。

 

「そういえば僕って彼女の妹に当たるんだよね」

 

彼女が誰かは分からないが、当てはまるとしたシャリテの名を与えられた祈祷師の事だろう。

現に二人は墓場で目覚め、墓場で会ったと聞いている。

シャリテがそれを知っているかは分からないし、それが合っているかさえ分からない。

取り敢えず聞いてみるとしよう。

 

「その彼女とはシャリテの事ですか?」

 

「いや、ネージュさ」

 

「成る程。ネージュさんの……はい!?」

 

つい思わずブレーキを踏んでしまう。

スピードが出ていた事と急ブレーキを踏んでしまった為、一時的に体が前のめりになってしまう。

慣性で車両が地面を滑り、漸く停車した所で助手席に座っているソルシエールが叫んだ。

 

「いきなりどうしたのさ!?もしかして免許取りたてなのかい!?」

 

「違いますよ!ただ…彼女の妹だという事に驚いて」

 

ネージュ。旧名ノーネイム。

シリエジオの次にS10地区前線基地に来た人形であり今はデビルメイクライに属している人形である一方でギルヴァさんの娘だ。

会話こそはあまりした事はないが、その姿がとても綺麗だったことはよく覚えている。

そんな彼女に妹が居た。しかしそう言った話は聞いた事がない。

もしかしてと思った時、それを見抜いていたのかソルシエールが答えた。

 

「正解と言っておくよ。…ネージュは知らないさ。墓場で目覚めた際に僕が自分に関する事を集めた際に得た情報だからね。本来の名前こそは抹消されてたけど、顔は覚えていた。そしてその彼女の妹に当たるのが自分だという事もその時知った」

 

「その事は誰にも話していないのですか?」

 

「そうだよ。知っているのは僕と今知った君だけ。シーナも知らないし、他の皆も知らない。まぁいつかは明かそうかなとは思ってる。明かしたらネージュと同様に【彼】の娘になるのもありかもね」

 

「何故その考えにいたるのか全く分からないのですが」

 

彼ってギルヴァさんの事ですよね…?

何でしょう。娘がもう一人出来たとなっても、あまり驚かなそうな予感がするのは気のせいでしょうか。

そんな事を思いながら、アクセルを踏み車を走らせる。

気付かぬ内にゴールドスタインの息子さんがいるであろう町の姿が見えていた。

このまま何事も無く行けば日が沈む前に到達するだろう。

 

「今回の依頼はゴールドスタインの息子、ロック・ゴールドスタイン氏の安否を確認する事です。生存が確認出来れば事が収まるまで見守る事となっています。一応一か月分の旅費交通費はダレンからもらってきました」

 

「手際が良いね。…もし彼の姿が確認できなかったら?」

 

「その場合は近隣の住民へ聞き込み等を駆使し状況を見ます。最悪の場合に直面した時はダレンへ連絡、指示を仰ぎます。そして彼が今回の首謀者たちに襲われている場合は…武力を持って救出します」

 

そう言って私は後ろに置いてあるものをチラリと見た。

居住空間となった後部座席の端に置かれたウエポンラックに立て掛けられた刀。

あの墓場からシーナ指揮官が見つけたものを持ち帰り、マギーさんが改良したもので太刀の【鴉刃】、打刀の【漆】、脇差の【朱】と名付けられている。

武器を増やす事で継戦能力の向上、同時に戦術を読まれにくくする事を目指したものであり、鉄血工廠にて生み出された後に破棄された兵器の一つと聞かされている。

基本は鴉刃で攻撃を行う。漆と朱は専用のホルダーに収められ、スリングで自身の背中に提げて帯刀し状況に応じて使用。

また鴉刃の刀身を納める鞘は漆や朱の刀身と納めている鞘とは形状が大きく異なっている。

マギーさんが言うには大型の鞘の内部には小型ジェネレーターの様な物が積まれているらしく、解放すれば光刃を飛ばす事が出来るとの事。

しかし運用された試しが無い為、今回はダレンの依頼と同時に試験運用の為持ってきていた。

今回は愛用している大鎌の代わりのこの三振りの刀が私の相棒となる。

 

「出来れば刀を使う事がなければ良いのですが」

 

「だね。専用装備ではないけど、これらを使いたくはないかな」

 

急な事態に備えるのは当然の事。

ソルシエールも武器を持ってきていた。ただ専用装備ではなく、ポンプアクション式のショットガンと以前使っていた光学兵器【V.S.E.R】の発展型であり後継機を持ってきている。

正式名称はないが夢想家のエネルギーライフルを改造したもので狙撃により拠点破壊を目的としたカートリッジ式光学兵器。但し扱いは非常に難しい上、大型で取り回しが悪く、弾数も予備のカートリッジを含めて九発。

弾数が少ない分、見合う威力を誇る…と聞いているが果たしていかがなものか。

私としてはこの試作兵器が使う様な状況にならない事を祈るばかり。

 

「さて…」

 

そろそろ町に入る所まで来た。

出来れば何事も無く終われば良いのだが…。

 

余談であるがあの【V.S.E.R】であるが、ある人物へのお礼として送られたと聞いている。

その人物は特殊作戦に参加してくれたS13地区の指揮官との事。

そういえばあの方、魔女の様な格好をしていたが趣味…なのだろうか?




という訳で今回は息子さんがいる町へ向かう道中の二人の会話という感じです。

色々ぶち込んでいるの、この後書きに記載しておきます。

・ソルシエールの大変身
どんな風になったのか。分かりやすいイメージで言うとFGOの八華のランサーみたいな姿かな。
とは言っても性格も一人称も違うんですけどね…。

・三振りの刀【鴉刃】【漆】【朱】
形や名前、設定こそはオリジナル。しかし帯刀している姿は重兵装女子高校生 壱をイメージしていただけたら幸いです。

・V.S.E.R
姿は分かりやすい所で言うのであれば産廃レールガンに近い姿をしています。

次回も今回の話の様に一人称視点で描いていくかも知れません。何卒宜しくお願い致します。


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Act152 The devil lurks in the tranquility

─とは言っても見た目はお猿さん─


ロック・ゴールドスタイン。

ルージュの上司的な存在であるダレンが言うには、その者は不運の事故によって命を落とした伝説のガンスミス【ニール・ゴールドスタイン】の息子との事。

起きている不可解な事件の首謀者らにその人物は狙われており、安否の確認及び保護の為、自分とルージュは彼が経営している店がある町へと訪れていた。

 

「静かですね…」

 

「だね…」

 

ルージュが運転する車が町へと入った時、そこは不気味な程に静かだった。

車窓から周りを見渡しても歩道を歩いている者は一人もおらず、それどころか車すら走ってない。

事前に聞いた話では、この町はS09地区とS10地区の境界線上に存在する町らしい。総人口も決して少ない訳でもなく、活気にあふれたごく普通の町と聞いている。

それがどうだ?並んだ建物があって、道路の端に何台かの車が止まっているだけ。

今の町の状況を見てとてもじゃないが活気にあふれたごく普通の町とは言いづらい。

 

「…ダレンがミスを?」

 

「いえ、それは有り得ないでしょう。こんな初歩的なミスを彼女はしませんよ」

 

自身よりも付き合いが長いルージュが言うのであれば、そうなのだろう。

ではこの状況は何なのだろうか。

 

「嫌な予感がするね…」

 

「はい。…彼が心配です。少し飛ばします」

 

明らかに普通ではないこの状況。

傍に置いてあったショットガンを手に取り、何時、何が起きても良い様に備える。

そしてルージュは車の速度を少しだけ上げ、対象が営んでいる店へと走らせた。

車のエンジン音と走る音が響くだけで、それ以外は何も聞こえてこない。

それがかえってこの不気味さを増幅させている気がしてならない。

 

「どう思う?この状況」

 

自身よりもルージュがこういった事態に慣れていると思い、そう尋ねた。

専門家とは言えずとも何か分かるかもと思ったからだ。

 

「…人為的とは言い難いですね。考えられるとすれば…」

 

「…悪魔かい?」

 

「…はい」

 

悪魔。

数あるグリフィンの基地が鉄血や過激派組織、或いはイレギュラーといった存在と戦っているとすれば、悪魔はS10地区前線基地だけの敵とも言い切れるだろう。

不可解な現象などといった物は大抵は悪魔によるものだとあの基地に所属している人形達やシーナ指揮官はそう言っていた。

例外も存在するとも言っていたが。

ともあれだ。自身の問いに対しルージュがそうだと頷くのであれば、今はそれを信じるべきだろう。

 

「この感じ…発生してそんなに経っていないと見ていいでしょう」

 

「どうしてそう言い切れるんだい?」

 

「この状況が発生して…例えば三日経っていたとしたら、それでこそダレンの情報網に入ってくる筈。私達にとって有用な情報を態々言わないという事は今まで一度もなかったので」

 

「故にこの状況は発生したばかり、と。ダレンが知らないのもまだ情報網に引っかかっていないからと言う事で良いかい?」

 

「はい。その考えで間違っていないと思います」

 

だとすればこちらは一歩遅れた事になる。

しかしここまで大掛かりな事を仕掛けておいて敵が一度も姿を見せないのはどういう事だろうか。

何処からか攻撃の機会を伺っているのか、或いは既に目的を果たしこの場を去っているのか。

 

「…」

 

車内でも沈黙が訪れる。

それでも車両は繁華街が存在する通りを抜け、二つ程通り過ぎていき漸くと言うべきかロック・ゴールドスタインが経営している店がある通りへと到達した。

町に入った時と同様に状況は変わっておらず、やはり人の姿はない。

ここに来るまで敵が襲ってくる様子もなく、今動いているのは自分とルージュだけであろう。

気のせいだと思いたいが、誘われている気がしてならない。

そう思わせる程にこの状況は自身の警戒心を最大まで引き上げる要因にもなっていた。

 

「ここですね」

 

ルージュが向いている先。そこにロック・ゴールドスタインが営んでいる店があった。

どうやら息子たる彼も銃砲店を営んでいる模様だ。

ただここからでも分かる様に店内に灯りが灯っている様子はなく、店の名を綴ったネオンサインも灯りが灯っていない。

この状況下で店の中に店主が居るとも考えづらい。しかし良い方向に持っていきたいと思うのは人形でもある事だ。

店の中に居てくれる事を祈って、ルージュへと提案する。

 

「ルージュ、車のエンジンはそのままにして待ってて。僕が見てくる」

 

「分かりました。…気を付けて」

 

「うん、分かってるよ」

 

ショットガンを手に車から降りる。

建物と建物の間に流れ込んだ風が低く唸る様に響いた。

寂しさを示しているものではない。寧ろ恐怖を煽っているかの様だ。

そう感じさせるぐらいに起きている事は普通ではない。

 

「さて…」

 

軽く周囲を見渡してから、銃砲店の出入口へと向かう。

ドアに掛けらている掛看板には【open】となっており、ドアを開けてみればすんなりと開いた。

蝶番が軋む音が響き、店内へと足を踏み入れる。

灯りが灯っていない事から薄暗く、人の気配すら感じさせない。

それでもと思い、声を出す。

 

「すみませーん」

 

店内に声が響く。

しかし反応はなかった。

当然と言えば当然であり、分かっていたとしてもつい苦笑してしまう。

しかし今はそんな事を悠長やっている場合ではない。居ないのであれば、どこへ行ってしまったのかを調べるべきだろうがまずはルージュに報告すべきだ。

後ろへと振り向き、車両に残っているルージュへ向かって首を横に振って居ない事を伝える。

その返答に向こうも頷いて答え、車のエンジンを切ってから三振りの刀を装備して降りてきた。

 

「やはりいませんでしたか」

 

「うん。まぁ…この状況で居るとは思ってなかったけど」

 

「ええ。…店主には申し訳ないですが、店内を調べてみましょう。何か分かるかも知れませんので」

 

「そうだね」

 

調べない事には何も分からない。

取り敢えず手分けして店内を調べてみる事に。

建物の構造上二階建てとなっているが、まずは一階を調べる事になった。

ルージュが何か目ぼしいものがないかと隣接している部屋を行き来している間、自分はレジカウンター内へと入っていた。

ガンキャビネットには様々な銃が置かれ、ガラスケース内には数えるのも面倒になる位の拳銃やナイフやらが展示されている。

 

「まぁ銃砲店ならよくある光景か……ん?」

 

偶然と言うべきか。

カウンター内に置かれていた本の様な物を見つけ手に取ってみる。

中を見てみると日付やらが記載されていたので、本ではなく日記帳。字体からして男の文字なので、恐らく店主が書いたものであろうと推察する。

そこから何か読み取れるものはないかと一つ一つページを捲っていく中、とある日に対しての内容が目に留まった。

 

「日付は一週間前。ヘルメスとシリエジオが例の一件を聞く以前か…」

 

店主が書いた日記の内容から考えると、どうやら例の手段は一週間前から行動していた。

この時から噂はされていたらしいが、信憑性に欠けていた為、大した噂にはならなかったそうだ。

その一方で別の噂が流れていたみたいだ。

 

「子供と捕まえた人形を殺し合わせる賭け試合がある…?」

 

この日記の内容にはそう記されている。

しかしその噂も信憑性に欠け、町の住民も大して気にしていないとの事。

店主は日々の戸締りや防犯をしっかりしなくてはと防犯を意識する様な旨を綴っている。

その日の内容はそれで終わっており、次のページを捲ってみても何か大きな事件が起きたとか言った内容は綴られていない。平凡がどうとか、最近の客はどうたらとか愚痴の内容が綴られているばかりで特に気になる内容はなかった。

 

「何か分かりましたか?」

 

ある程度調べ尽くしたのだろう。

台処から出てきたルージュが尋ねてきた。

手がかりになるかとどうかは分からないが、言っておくべきだろう。

 

「店主の日記の内容でこの町で今回の事件が噂されていた様に、子供と人形を殺し合わせる賭け試合の存在が噂されていたみたいだね。それも一週間前にその噂が流れていたらしいけど…」

 

「店主がどこへ消えた事と関連するとは言い切れませんね」

 

「だねぇ…」

 

その賭け試合の件も真相を明らかにすべきだろうが、今はそれどころではない。

もう少し調べてみる必要がありそうだ。

 

そのまま調べてみた訳だが、特に手掛かりになるものはなく、その間に何か襲われるという事もなかった。

完全に行き詰ってしまい、どうしたものかと頭を悩ませていた。

 

「移動してみましょう。ここでなくても何か得られるかも知れません」

 

「そうした方が良さそうかな。ここに居ても何も掴めないし」

 

「ええ。それに状況からして芳しくないです。このまま被害が拡大してしまう事となれば厄介です」

 

「だね。急ごうか」

 

「はい」

 

店を出て、車へと乗り込もうとした時であった。

 

「ッ!掴まって!!」

 

「えっ…?おわっ!!?」

 

エンジンをつけ運転に座っていたルージュの叫んだ声が聞こえた瞬間、車両が急発進。

咄嗟に反応は出来た為掴まる事は出来たが変な体勢なってしまう。しかし先程まで車両が止まっていた所に何か重たいものが降ってきたのか大きな破砕音が響くのが耳に届いた。

 

「怪我はありませんか!?」

 

「大丈夫、大丈夫。にしてもどうしたのさ…?」

 

「…それは車を降りたら分かる事でしょうね」

 

含みのある言い方をしたので、どうやら最悪な事態を起きてしまった事を察する。

体勢を立て直しながら、夢想家のエネルギーライフルを改造した光学兵器を手に取ってから車から降りそこにあったものを見て、つい苦笑いを浮かべてしまった。

 

「これはまた…」

 

デカいお猿さんがいたものだ。

降ってきたのは恐らくこいつなのだろうと思っていると、背に何かを背負っている事に気付く。

よく見ればそれは籠の様なもの。しかしその中に囚われているのは、ゆらゆらと揺れる青白い炎の塊らしきもの。

その数は一つではない。数えるのも億劫になる程の数だ。

一体何なのかと思っていた時、隣に立っていたルージュはその炎の正体を明かした。

 

「…あれは人間の魂ですね。あの数からしてこの町に暮らす住人たちのものでしょう」

 

「…お猿さんにそんな器用な事を出来ると思う?」

 

「いいえ、全く。どうやら何者かが使役している悪魔でしょう。それにギャラリーも増えてきましたよ?」

 

周りを見回してみると確かにギャラリーが増えていた。

どこから湧いて出来たのか、建物の上や壁に黒い炎を纏った小さな猿達の姿。

お互いに背中合わせになりながら、身構える。

 

「私がデカいの何とかします。ソルシエール、小さいのを任せて良いですか?」

 

「やれやれ、重労働を押し付けてくれるね」

 

「なら代わります?」

 

「いや、止めておくよ」

 

デカいのが咆哮すると周りの猿たちが一斉に飛び掛かってきた。

素早くショットガンを構えて発砲。吐き出された散弾が猿達に喰らいつき、一体、また一体と地面へと墜落していく。

後ろをチラリと見ればルージュがデカい方へ向かって突進していくのが見えた。進行を妨げる猿達を刀で切り裂きながら臆する様子もなく、デカい猿へと斬りかかっていった。

向こうは彼女に任せるとして、自分は囲むように群がった猿達に対し軽口を叩く。

 

「餌を求めに来たのかい?悪いけどここには何にもないさ」

 

フォアエンドを動かして排莢、装填。

排莢口から飛び出していった薬莢が地面へと落ちて跳ねる。

 

「山に帰るか、餌代わりに散弾を喰らうか。どっちか選ぶと良いよ」

 

絶賛スタイリッシュに戦っているルージュの様に戦えないが、自分なりの戦いをするとしよう。




今回はソルシエール視点で描かせて頂きました。

次回は町に現れた悪魔どもの戦闘を描くつもりです。
今回の話で現れた悪魔ですが、両方ともDMC2にて登場しています。

デカいお猿さんの正体はオラングエラ。
原作の方では熱帯地方に出没する悪魔となっています。
まぁこちらで世界がアレな上に使役されてんだ、文句は無しで頼んます…。
DMC2ダンテ編だと最初のボスだった気がします…(間違ってたら申し訳ない)

小さいお猿さんはムシラ。
悪魔の餌食となった罪人の悪意や欲望によって生まれた悪魔。
DMC2におけるムシラは色んな姿をしたタイプがいますがこちらで出したのは通常のタイプでございます。


では次回ノシ


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Act153 Being visible

─見えつつある敵の正体─


(図体こそは大きいですが、攻撃は単調ですね)

 

町に現れた悪魔 オラングエラの攻撃を己の身体能力を駆使して回避しながらルージュは内心そう呟いた。

剛腕を用いた振り払いを後ろへと回転しながら躱すと、鴉刃の柄に手を掛ける。

しかし間合いはオラングエラに分があり、今度を両腕が彼女を圧殺しようと迫るも容易いと言わんばかりにその場から大きく跳躍し、鴉刃を引き抜くと空中で身を翻して勢い付けると同時に刀身を突き立て急降下。

狙うは悪魔の頭部。幾ら大型の悪魔と言えど頭をやられてしまえば、ひとたまりもない。

中には頭部を吹き飛ばされても驚異的な再生能力を有す悪魔も居るため、例外もあり得る。だがルージュはこの悪魔がそんな能力を有してない事は既に見抜いていた。

 

「はあっ…!」

 

鴉刃の刀身がオラングエラの頭部へと迫る。

だが寸での所でオラングエラは後ろへ飛び退き、攻撃を回避。避けられた事に小さく舌打ちしながらも姿勢を立て直し地面に着地するルージュ。そのまま距離を詰めようとした瞬間、狙いをソルシエールからルージュへと変えた小型悪魔 ムシラの群れが襲い掛かる。

四方八方から鋭い爪を振り上げ、切り裂こうと迫るムシラ達。それに対しルージュは体を翻しながらも大きく後ろへと後退し一度包囲網を抜けると目に留まらぬ速さで再度集団へと突進。

鴉刃の刺突による強烈な一撃が集団を吹き飛ばすと彼女はそのまま左足を軸にして回転し、腰を落としながら縦一直線を描く様な唐竹を繰り出し、複数のムシラを同時に頭から股下まで一閃。

そして一度刀身を鞘へ納め、勢い良く地面を蹴った。

刹那、彼女の姿が消え、同時にその場に残っていた悪魔どもが無数の真空刃が切り裂かれた。

何が起きたのか、知能の低い悪魔らには到底理解できないだろう。

その光景を見ていたオラングエラでさえ、何が起きたのか分かっていなかった。

だが鮮血を上げながら死んでいくムシラ共を背に刃に付着した血を振り落とし、刀身を鞘へと納める女が何かをやったとだけは分かっていた。

そしてその理解にたったほんの数秒の時間を要していた事がルージュに懐へ飛び込まれる要因となった。

接近にされた事に気付いたオラングエラは腕を大きく振り払って迎撃しようするもルージュは身をかがめて回避すると、脇の部分目掛けて体を捻りつつ小さく飛び上がりながら連続して逆袈裟斬り。

攻撃が肉質を無視し、斬られた箇所が段々と大きくなっていく。傷を負った所に連続して攻撃を与えられたら幾ら巨体を持つオラングエラでも耐えられるわけがない。

激痛に耐えながらも空いた片腕でルージュを吹き飛ばそうとするが既に時遅し。大きく広がった傷口に目掛けて彼女は大きく飛び上がり鴉刃の刀身を勢い良く振り上げたその次の瞬間、先程まで繋がっていたオラングエラの片腕が血飛沫を上げながら宙へ舞い上がった。

斬り落とされた事にオラングエラは未だ実感していない。目を丸くし不思議そうに瞬きするだけ。

そして自身の片腕を地面に落ちた時に何が起きた事に対して気付いた。

 

「!!!!!!??????」

 

「喚くな」

 

腕を斬り落とされた事により奔る激痛。

声にならない程の悲鳴が町全体に響き渡る。頭を振って悶えるオラングエラに対しルージュはそう冷たく言い放ちながら残されていた片方の腕に向かって鴉刃による斬り上げを敢行。

今度はたった一太刀で両断。再び空へと舞い上がった腕。これでオラングエラは両腕を失くした事になる。

攻撃手段はほぼなくなり、止めを刺そうと接近した時何かを感じ取りルージュは後ろへ後退した直後、オラングエラの口から何かが吐き出された。

何が吐き出されたのか分からない。しかし攻撃である事は気付いているのか、ルージュは何も無い所で体を反らした。何かが彼女の横を過ぎ去り、着ているコートがゆらりと揺れる。

その僅かな事で自身の横を通っていったものに彼女は気付いた。

 

「…成程。空気を圧縮して砲弾の様に撃っているのですか」

 

その通りであった。

オラングエラの口から放たれたのは空気の弾。目に見えないが、予備動作がある事から分かりやすい攻撃と言える。

ルージュからすれば無駄な足掻きとしか言えないのだが、相手が遠距離戦を望むとなればと思い鴉刃の能力を解放する事にした。

その場で力強く突きの構えを取ると鞘から駆動音が鳴り響き特殊な力場が彼女を中心に大きく広がった。

 

「鴉刃は只の刀ではありません…!」

 

そのセリフと共に彼女は流れる様に素早く鴉刃は振るう。

居合抜刀から連続逆袈裟、袈裟と繰り返される太刀筋から次々と飛ばされていく光の刃。

その光の刃は何故か黒く染まっており、その姿はまるで鴉の羽を彷彿される。

黒く染まった光刃はオラングエラから吐き出される空気の弾を容易く切り裂いていき、そのままオラングエラの体を切り裂いていき、巨大な体を持つ悪魔を仰け反らせていく。

両断を斬り落とされた事、鴉刃の光刃によるダメージが蓄積され、ついにオラングエラは片膝をついた。

息も荒くなり、本格的にルージュという少女に恐怖を覚えたのかその場から逃げ出そうと動き出した。

逃げ出す気だと感じたルージュは逃げ出す前に止めを刺そうと駆け出した時だった。

 

「横に避けて!」

 

「ッ!」

 

後方から届いたソルシエールの声。その言葉に従う様にルージュは横へと飛び込んだ。

その瞬間、ルージュの後ろを光の濁流とすら言える巨大な光線が駆け抜けた。

紫電を纏った光線が真っすぐと、吸い込まれる様に逃げようとするオラングエラの頭に消し飛ばすと、そのまま空の彼方へと消えていった。

塵一つ残さない一撃により頭が消し飛んだオラングエラ。完全に生命活動が停止し膝から崩れてから地面へと沈んだ。

その最期を見届けた後ルージュはソルシエールの方を見た。

彼女の手に握られているのはあのカートリッジ式光学兵器。先程の攻撃はそれによるものだと察しつつも、とある事を尋ねる。

予想している答えが返ってこない事を願って。

 

「今の…カートリッジ何発分ですか?」

 

「…一発分」

 

「一発分!?」

 

ソルシエールの返答にルージュは戦慄した。

たった一発分だというのに、巨大な光線を撃ち出す事が可能。そしてその威力は過剰とすら言える。

狙撃による拠点破壊を謳った代物だという事は聞いていたとしても、やり過ぎであると思うしかなかった。

 

「悪魔相手ならまだしも、人相手に使える代物ではないですね…」

 

粒子となって消失していくオラングエラ。背に背負っていた籠も消失し囚われていた魂があるべき場所へと戻る為飛び立っていく様子を静かにルージュは見つめていた。

数時間もすれば、町の住人も目を覚ますだろう。そう思う一方で店主が既に居なくなっていた事、そしてその行き先の情報を得られなかった事を悔やんでいた。

得られた情報と言っても、【子供と人形が殺し合う賭け試合の存在】だけ。

 

「はぁ…」

 

軽くため息をついてルージュは考える事を止めた。

どちらにしろ報告しなくてはならないのだから。

 

「先が思いやられそうです…」

 

空を見つめながら彼女はそう呟くのであった。

 

 

悪魔達の戦闘は無事終了し、二人は町の外へと出ていた。

道中で見つけた小さなカフェに寄り、カウンターでソルシエールがコーヒーを飲んでいる一方でルージュは公衆電話でダレンへと報告する為に連絡を入れていた。

受話器からルージュの耳に届くコール音。

いつもならもっと早く出ている筈だと少し疑問に感じている中、相手が出るのを待つ。

コール音が5回程鳴った時、漸く相手は電話に応じた。

 

『遅かったですね?待ちくたびれました』

 

「その声…ジンバック?」

 

しかし電話に応じたのはダレンではなく、ジンバックだった。

何故彼女がダレンの携帯端末を持っているのか疑問に感じたルージュはその事を問いかけた。

 

「どうして貴女が?」

 

『ダレンがシーナの元に呼ばれましてね。自分の代わりに報告を聞いて欲しいと頼まして』

 

「成程。因みにダレンはどの様な要件で指揮官に呼ばれたかはご存知で?」

 

『いいえ、全く。ただ向こうも今回の一件も調べていた様ですし、その件ではないかと思いますわ』

 

「そうですか…」

 

お互いに電子戦を得意、また情報収集を得意とする二人が仲が良い事はルージュも知っている。

基地にお世話になる以前も二人はよくそう言った話題で盛り上がっていたのを見た事があったからだ。

特に疑う事はないと判断し、ルージュは報告内容を伝える。

 

「結果から言います。…先手を打たれてしまいました。私達が来た頃には既に店主の姿はなかったです」

 

『…何処へ行ったかは分かりますか?』

 

声の雰囲気が変わったと思いつつも、彼女は言葉を続ける。

 

「それも分からずじまいです。ただ今回の一件には悪魔が関わっています。現に私達も襲われたので』

 

『怪我の心配した方が良いですか?』

 

「結構。私もソルシエールも無事なので。…それと関連するかどうかは分かりませんが、調べて欲しい事が一つ。…調べ物に関しては貴女も負けていない筈ですよね、ジンバック?」

 

その声はどこか試している様な感じであった。

それを感じ取ったジンバックはフッと小さく笑い声をこぼすとルージュの頼みに答える。

 

『良いでしょう。何を調べて欲しいんですか?』

 

 

「分かりました。はい…ええ、ダレンにも伝えておきましょう。…安全運転を心がけて戻ってきてくださいまし」

 

基地内部。ダレンが勝手に呼称している情報収集ルームにジンバックは居た。

ルージュとの通話を切り、端末を近くの机に置くと三台のモニターとキーボードが置かれたデスクへと向かい、頼まれた調べ物に調べ始めた。

手慣れた手つきでキーボードを操作し、ありとあらゆる所から情報を引っ張り出していく。当然その中には裏にも通ずる情報や、やり取りのメールの内容も存在していた。

支援指揮を目的として生み出された事はあるのか、足跡もきっちり消しておくという徹底ぶり。瞬く間に集まった情報に目を通していくジンバック。そしてその中にあった情報に彼女の目が止まった。

 

「これは…」

 

画面に映し出されているのは、とあるメールのやり取り。

何やら物騒な内容が記載されており、最後の一分にはゴールドスタインと名前らしきものがあった。

もしかしてと思った彼女は送信元が誰か調べ始める。あらゆる技術を駆使し行き着いた答えに少しばかり驚いたと言わんばかりの表情を浮かべた。

 

「これはまた…。若くして社長の座まで上り詰めた女社長のものとは」

 

その女社長の事はジンバックは知っていた。

と言うのもこの基地に世話になった時に知った名前であるのだが、若くして社長の座に上り詰めた女社長として有名でありテレビやラジオによく出演していた事もあって顔も声もよく覚えていた。

 

「これが女社長の裏の顔の一部分という訳ですか。まぁ役柄としてはありきたりではありますが」

 

さて、と前置きを置いてからジンバックはその女社長の悪事を片っ端から調べ上げる事にした。

悪魔との関連性は見いだせない。だが自分達が潰しに行く相手になるであろうと思った。

この世界では法など機能していないに等しい。そしてこの女社長の様に悪事を働いている者がどのような末路を迎えるか。

最早言葉にせずとも分かる事であった。

 

 

某所。

その場所は地下に存在していた。薄明りの通路の奥から薄っすらと聞こえてくるは歓声らしきもの。

通路の奥に広がるそこでなにが起きているのかは誰にも分からない。

その歓声が耳に届いたのか薄暗い部屋の中で倒れていた男は目を覚ました。

 

「ここは…?」

 

右目に眼帯をした男はゆっくりと起き上がり、周囲を見回す。

窓もなければ机もない。灯りにしては物足りない電球とただコンクリートに覆われた塀があるだけ。

何故自分が此処に居るのか、目覚めたばかりの彼には分からなかった。

段々と意識がはっきりしていく最中、部屋の奥から物音が響く。

それに気付いた男は音がした方向へと向き、そこに居た者を見て驚愕した。

 

「あ、あの…」

 

体を同化させようとしているのではないかと言わんばかりに壁に身を寄せ小さく震わせ、男に対して少しだけ怯える銀髪の少女がいた。

その少女を見て男はある事に対して疑問を覚えた。

 

(この子の服装…どう見ても民生用の人形が着るもんじゃねぇぞ…)

 

そう思いつつも男はいきなりその事に対する質問をしようとは思わなかった。

 

「あー…その、驚かせたら悪い。ここがどこが聞いて良いか?」

 

自分は敵ではない事を伝える為。

怯える少女に対して男は優しく問いかける。

すると少女はその問いに対し首を横に振った。その答えが何を示しているか男は理解する。

次に何を聞こうかと思った時、せめて自身の名前は明かしておこうと男は少女へと自己紹介した。

 

「ロック・ゴールドスタイン。辺鄙な町で銃砲店を営んでいる男さ。ロックとでも呼んでくれ」




いきなりこんな感じの展開ですが…許せ。

さて、そろそろパーティーの舞台を設けないとな…。


では次回ノシ


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Act154 Crazy from the beginning

─この女は最初から狂っている─

─何故なら人間じゃないのだから─


「では…ロックさんと呼べば良いですか?」

 

「ああ。それでいい。えっと…君の名前を聞いて良いか?」

 

こんな薄暗く部屋で吞気にお喋りしている暇などあるのだろうかと、つい思ってしまう。

だがここがどこなのか、そして何故自分は此処に居て、目の前に居る彼女はここに居るのか知る必要があった。

 

「IWS2000と言います。…グリフィン所属です」

 

IWS2000。

一目見た時からそうではないかと思っていたが名前とグリフィンの名を聞いた時点で確信した。

彼女は戦術人形だ。その戦術人形がこんな薄暗い牢屋みたい所に居るのか不思議でならない。

人権保護団体過激派に捕まったという考えも出来るが、それならば何故自分までと疑問に思う。確かに住んでいた町は民用人形は居たし、話した事だって何度もある。

その点を思うと、どうも自分がこんな所に居る理由が別にあるのではないだろうか。

何か手がかりになるものはないものかと記憶の棚から探り始めた時、一週間前に聞いたとある噂を思い出す。

 

──【それ】が行われている場所がここだとするのであれば…

 

憶測でしかない。

だが目覚めた時にうっすらと聞こえたあの歓声が決定的な証拠になりかけていた。

まだ決まった訳ではない。そう、まだ決まった訳ではないのだ。

そこにある現実から目を背ける様にして、答えを先送りにし、自分はIWS2000にある事を尋ねる。

 

「グリフィン所属の君がどうしてここに?」

 

「…それは」

 

彼女の顔に影が差した。

聞いたら不味い事だったと理解するに時間は掛からず、別に話題へと切り替えようとした時だった。

呟く様に彼女は喋った。

 

「…欠陥品だったんです、私」

 

外見に何かある様に見えない。

ならば内部の問題なのだろう。銃に関しては分かるが生憎人形に関してはからっきしなので分からないが。

当然ながら不調をこさえた戦術人形がどうなるかさえ分かる筈がない。

ただの民間人がそんな事を知っている訳がないのだ。

 

「そいつはまた…。原因は分かってるのか?」

 

「いいえ。それを調べるために私は一度I.O.Pへと戻る予定でした。戻る道中で何かが起きて…」

 

「ここに居たって訳か。何時から此処に?」

 

「二日前です…。その間外へ出る事が無ければ、誰がここに来た事もないです。人に会ったのはロックさんが初めてです」

 

二日。特に何かあった訳でもないと来た。

自分の予想は外れているのではと小さな期待を抱いてしまう。

しかしここがそうでなかったとしても危険な場所である事には変わりない。

どうにかしてここから出られないものかと考えた時、IWS2000は静かに呟いた。

 

「さっき私はロックさんの問いに対して嘘をつきました。ここがどこなのか…私は知っています」

 

「っ!」

 

冷や汗が流れる。

間違いであって欲しいと願ってしまう。だがそれが無意味と悟ったのはその直後だった。

 

「嘘をついた事に関しては謝ります。初めて会う人だった事もあって警戒していたので…」

 

「…」

 

「噂で聞いていました。ここは子供と人形が殺し合う賭け試合が行われる場所…ここに来て直ぐ分かりましたから」

 

はっきりと彼女はそう言った。

これが現実を認めようとはしなかった自分への罰だろうか。

絶望が圧し掛かる一方で、何処か冷静に居る自分が居た。

その時だった。この部屋に置かれていた電話がけたたましい音を立てて鳴り響いた。

突然鳴り響いた事に驚きつつも、恐る恐る電話の近くへと歩み寄り受話器を手に取る。

 

『初めまして、ロック・ゴールドスタインさん。気分は如何かしら?』

 

受話器の向こう側から聞こえたのは女の声。

だがその声が初めて聞いた声だとは何故か思えなかった。聞き覚えのある声だという事は分かる。

どこでその声を聞いたのか思い出せないが女は気分はどうかと聞いてきたので素直に感想を伝える。

 

「最悪だね。こんな肥溜めみたいな所に放り込まれて感謝の言葉が出ると思ってんのか?」

 

『あら。辺鄙な所で銃砲店を営んでいる貴方にはお似合いと思うのだけど?』

 

「この…っ」

 

苛立ちが募る。

だがこのまま感情を爆発させたら、それでこそ相手の思う壺だろう。

何とか抑えつつ、女へと尋ねる。

 

「何が目的だ?辺鄙な町で銃砲店を営んでいる野郎を捕まえて、何がしたい?」

 

『そんな事を聞かずとも…貴方も気付いているじゃないかしら』

 

「ここが子供と人形を殺し合わせる賭け試合が行われているクソみたい場所以外は分かんねぇな」

 

『そう。なら教えてあげる。ちゃんと教えてあげるのも務めですから』

 

「!」

 

最後の台詞を聞いた瞬間、電話の相手が誰なのか分かった気がした。

電話の相手…恐らくであるが大手企業「モンゴリー・エレクトロニクス」の女社長のグレイス・モンゴリーだと思われる。

ラジオやテレビであの女社長の声を聞いていたからこそ電話に出た時に聞き覚えがあると感じたのだろう。

さっきの台詞もあの女の口癖だった筈。絶対そうとは言い切れないが確信に近いものは感じていた。

 

『貴方には試合に出る相棒の銃を整備してもらうわ。ちゃんと工具は揃えてあるから安心して』

 

試合に出る相棒…。

女が言う相棒とは恐らくIWSの事だ。

 

「…それで?」

 

『それだけよ。相棒がちゃんと戦えるように銃の整備を貴方がする。喜びなさい、ガンスミスとしての仕事が出来るわよ?』

 

「そうかい。…で?負けたらどうなるんだ?そのまま家に帰してくれるなんざ考えてねぇだろう」

 

この状況下でよく冷静にそんなセリフが出たなと今更ながら思う。

壊れてしまった世界。生み出された死と隣り合わせとなってしまった日々を普通にかつ必死に生きているのだ。

明日が自分の命日になるのかも知れないという恐怖に怯える自分が居れば、何処で覚悟を決めてしまっている自分が居たのだろう。

だからIWSがここの事を話した時、何処か冷静に居られる自分が居た。

収まっていく苛立ち。思考は冷静さを取り戻していく。

 

『当たり前でしょ。どうして負け犬を家に帰さなくてはならないのかしら?』

 

「…」

 

『それにあなたたちの試合が楽しみで仕方ないわぁ…。欠陥品を抱えた戦術人形が無様に死ぬ姿にかの有名なガンスミスの息子が試合に負けて無様に死ぬ様を見られるのだから』

 

「…」

 

『試合会場に来てくれる観客の殆どが刺激を求める人が多いのよ。そう言った連中はかなりの額を出してくれる。このご時世、退屈な日々を変えたい富裕層が多いの。そんな刺激的なものを私は提供している。お互いに良い関係だと思うでしょ?』

 

黙って話を聞いていて分かった事が一つだけあった。

ただ汚い金稼ぎをする為に何の関係のない子供や民用人形に殺しの片棒を担がせる。例え死のうがこの女には関係ない。金や権力を用いて、また補充するればいいのだから。

もはや狂っているとしか言いようがない。何かの影響で狂っていた訳ではない。この女は最初から狂っている存在だ。

 

「このっ…クソ女がッ!!」

 

故に狂った女に対してそう叫んだのは決して間違っていないだろう。

 

『アハハハッ!!最高の褒め言葉よ、それぇ!あなたたちの番が聞いたら私自ら連絡してあげる。それまで大人しくしてなさいな、アハハ!』

 

「地獄に落ちやがれッ!!!」

 

まるで捨て台詞の様に言葉を吐き出すと、勢い良く受話器を元の位置へと叩きつける。

再び訪れる静寂。

どうにかしようにもどうする事も出来ないのが非常に歯痒い。

このまま試合の日になるまで待つしかないのか。

 

「くそったれが…!」

 

非力な自分に対する台詞か、それともこの状況に対する台詞か。

どちらにせよこの苛立ちが誰かに届く事もない。

今自分が出来る事と言えば、ただ奇跡を起こる事を祈るほかなかった。

 

 

この時、彼は気付かなかった。いや、気付く筈もなかった。

既に奇跡は起きていた。

この場に【存在しない部隊】が情報収集の為に訪れていた事を。

 

 

とある一室に彼女達は居た。

久しぶりの事もあって勘が鈍っているかと思いきや、そんな事はなく。

数分も経たぬうちに彼女達は情報を引き抜き、HK416とG11は周囲の警戒に当たっていた。

 

「45姉、今の聞いた?」

 

「ええ、しっかりと。位置も特定済み。人員構成、内部構造、地下の構造も把握済み。因みに女社長さんの悪事の証拠もバッチリ」

 

「こっちもここ以外にある違法カジノの位置特定済み!後は…」

 

「悪魔の存在ね。そろそろグリフォンが戻ってくる頃と思うけど」

 

UMP45が情報を納めた端末をバックに納めた時、外から窓枠にへと一羽の猛禽類が降り立った。

 

「おかえり、グリフォン。どうだったかしら?」

 

「大当たりってやつだぜ。あの女社長さん、悪魔だな。おまけに地下に気配ありだ。見てきたら地下から地上に繋がる出口でキモイ悪魔どもがダンスしてやがった。あと数が少ねぇから、大方本社の方に置いてるんじゃんねぇの。ギルヴァやブレイク、ネロ、ルージュを行かせれば分かるだろうぜ」

 

「成程。悪魔となれば完全に大問題ね。…どうやらパーティー会場は複数になりそうね」

 

「派手になり過ぎてパーティー会場が木端微塵に吹っ飛ぶけどな」

 

「確かに。…9、416、G11、仕事は終わりよ。基地に戻るわ」

 

45のその声に三人は頷き、撤退を始める。

四人に続く様にグリフォンも後を追い、その場から姿を消した。

後にこの情報はシーナ指揮官へともたらされる。

通信越しであるがへリアンを含め、作戦会議が急遽行われたのは言うまででもない。




次回は作戦会議編。

また今回はパーティー会場は複数あるんで…。
もしかしたらパーティー会場の貸し出しをするかもです。

その時は改めて報告いたします。

では次回


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Act155 Venue setup

─パーティー会場設営と招待状送付─

─それはこの基地の得意分野─


S10地区前線基地は非常に慌ただしかった。

404小隊が持ち帰った情報に悪魔が関わっているという事がシーナを介して全体へと通達され、非戦闘員及び作戦に参加しない者達は戦場へ赴く者達の準備の負担を少しでも軽減させようと内部の通路や廊下では都会の横断歩道の様に人が慌ただしく行き交い、部屋を何度も出入りする光景が広がっていた。

そして本格的に作戦に参加する面々は大人数になってしまった為、何時もの様に第一会議室に集結するのではなく、第一会議室よりも広い第零会議室に集結していた。

そこにはギルヴァ、ブレイク、ルージュと言ったデビルハンターらに加え、404小隊、AR小隊、独立遊撃部隊 ブラウ・ローゼ、作戦に参加する各部隊のメンバー、そして指揮官たるシーナ。

また今回に限ってはかなり大掛かりな作戦になる事もあって、通信越しであるがへリアンも作戦会議に参加している。

各々がブリーフィングの時間になるまで待機する中、壇上に端末を手にしたシーナが立つ。

その瞬間室内は一気に静まり返り、皆の前に立つ彼女へと視線が向けられる。

 

「さて…今回も悪魔が悪さしてるから皆に集まって貰った訳だけど…」

 

集まった面々を見渡すシーナ。

S10地区前線基地に属する高い練度を持つ各部隊に加え、AR小隊、404小隊、ブラウ・ローゼ、デビルハンター達がここに居る。

毎度の事ながらと思っていた事を彼女は口にした。

 

「…パーティー会場を木端微塵にするどころか、更地に変える気?」

 

そのセリフに何度か悪魔が関わる作戦に参加してきたメンバーの一部はつい苦笑いを浮かべる。

無理もない反応であった。

これほどまでの戦力を投入しようと考えているのは此処ぐらいだ。

おまけにほとんどが実力派ぞろいであり、一部が装備している武器の火力も桁違い。

本気出してしまえば、更地に変えることぐらいは難なくやってのけてしまうだろう。

逆を言えば、悪魔を相手にするのであればそれが過剰と言われようが必ず倒さなくてはならないという事にもなるのだが。

空気も少し和んだ所で、シーナの表情は真剣な面持ちへと切り替わる。

 

「さて始めようか。へリアントス上級代行官、こちらの声は聞こえてますか?」

 

『問題ない。いつでも始めてくれ』

 

「分かりました」

 

端末からスクリーンに映し出される情報の数々。

それら全ては404小隊、ダレン、ジンバックは集めたもの。全員の視線がスクリーンに向けられる。

 

「今回の目標は大手企業「モンゴリー・エレクトロニクス」の女社長 グレイス・モンゴリーが密かに運営している違法カジノの制圧及び地下で囚われている人質の救出、そして…人間の皮を被った悪魔 グレイス・モンゴリーの始末です」

 

大手企業の女社長を始末という台詞に対し室内がどよめく事はなかった。

悪魔が関わっているという事を事前に聞いていたのもあるが。

S10地区前線基地が大きな作戦をやる時は大抵の確率で悪魔が関わっているという事もあって、最早慣れたという面が大きかった。

 

「パーティーの開催場所はS09地区とS08地区に境界線上にある大きな町。ここはグレイス・モンゴリーが運営している違法カジノ中で一番大きい違法カジノが存在します。そしてここが…」

 

「パーティー会場になるってか?」

 

壁に背を預けながらシーナへと問うネロ。

その問いに対しシーナは頷く。

 

「そして今回はカジノ制圧組と地下制圧組に分かれ行動。カジノ制圧組がルージュ、AR小隊、404小隊、第一から第五部隊、そして地下制圧組はブラウ・ローゼ、予備メンバーであるシリエジオ、ネージュも地下制圧組に加わってもらいます」

 

「ちょっと待って下さい、指揮官。ギルヴァさんとブレイクさんはどうなるのですか?」

 

ここに二人は居る。

彼らの力は必要になる筈にも関わらずシーナの説明にはギルヴァとブレイクの名は上がっていなかった。

その事に一番に気付いたM4がシーナへと問う。

M4の問いにシーナが答えようとした時、椅子に凭れ机に足を投げ出していたブレイクが口を開く。

 

「俺らは本社側さ。そうだよな?シーナ」

 

「はい。お二人にはグレイス・モンゴリーの始末をお願いします。例え命乞いをしようが確実に仕留めて下さい。何も関係のない人達を、人形達を金稼ぎの道具にしている女に情けなど不要です。……これで良いかな、M4」

 

カジノ側に二人が居ない事に対する説明を受け、M4は納得したと言わんばかりに頷く。

よし、と一つ前置きを口にするとシーナは端末を操作し、次の画面を見せる。

 

「作戦の流れは単純明快。先にブラウ・ローゼが地下に突撃し攻撃開始。地下での騒ぎがバレたら全部隊突撃し制圧。但し悪魔が出てきた場合はカジノではルージュ、地下ではネロがそれらを優先的に対処。またスロットマシンに何らかの仕掛け、多くの障害があると思われます。なのでそれらが出てきた場合は徹底的破壊してください」

 

「徹底的に破壊とはな。本当に更地にする気か?シーナ」

 

「物騒なものを仕込んでたら取り敢えず破壊する。当たり前の事だと思うけど?ヘルメス」

 

「クククッ…確かにな。地下での楽しみがなくなれば私達も上がるが構わないな?」

 

「良いよ。そこは各自の判断に任せるから」

 

そんな二人のやり取りを通信越しで聞きながらへリアンは思った。

本当に鉄血のハイエンドモデルが味方としているのだと。

シリエジオ(代理人)ネロ(処刑人)という前例があるにしても、これほどまでの鉄血のハイエンドモデルがこの基地にいるとは報告を受けた彼女としても俄かに信じ難い事であった。

だがこの場に居る鉄血のハイエンドモデルたちを見て現実だと認める他なかった。

そんな事を思っているとは知らずにシーナは彼女へと話しかける。

 

「へリアントス上級代行官、一つお願いしたい事があるのですがよろしいでしょうか?」

 

『聞こう』

 

「今回のターゲットであるグレイス・モンゴリーですが、こことは別に多くの違法カジノを運営している事、また人形排除派の傭兵を雇いカジノの警備をやらせている事がこちらの調査で発覚しております。こちらから発信する事にはなりますが、他の基地への協力申請を出してもよろしいでしょうか?」

 

『構わん。それらも潰しておかなくては今後の憂いになるのは明白。ただし協力申請を出すに当たっては情報に抜けが無いようにしろ』

 

「分かりました」

 

『うむ。…それとシーナ指揮官、貴官に伝えておかなくてはならん事がある』

 

「何でしょうか?」

 

『先程の作戦内容…貴官の指導役が聞いていたぞ』

 

「!?」

 

へリアンの口から言われたそれにシーナは固まった。

彼女の反応に首を傾げる一同。

だがシーナには分かっていた。へリアンから言われた指導官が誰の事を指すのか。

通称「ニシキヘビ」と呼ばれるその者はグリフィン内部では指揮顧問を務めており、当時人手不足だった事もあってか新人であったシーナを指導した経歴を持つ。

そんな人物がへリアンの傍で聞いていたとなれば、シーナにとっては固まるのは当然と言えた。

 

「い、今…隣に居るのですか?」

 

『いや、先程部屋を出ていった。だが伝言を頼まれている』

 

「な、何と…?」

 

『明日そちらの基地に向かう。暫く狩りをしていないので楽しませて貰うぞ、との事だ』

 

へリアンを通して指導役からの伝言にシーナは手を額に当てながら天を仰いだ。

もう何も言わない。なる様になれと若干自棄になりかけていた。

自分だけにしか分からない事に、この場にいる全員がどうしたらいいのかと困惑している様子に気付くとシーナは一つ咳払いをして、逸れていた話の軌道を元に戻した。

 

「ごめん、話が逸れたね。作戦開始日は明後日の夜間に実行。参加する面々は準備及び休養を怠らない事。ブラウ・ローゼの皆は作戦会議が終了した後、第二格納庫に集合。そこでマギーさんから各々武器、装備の受領。そして移動拠点型戦闘車両【ヨルムンガンド】の説明を受けた後、作戦当日までに慣らしておく事」

 

「で?作戦名は?それがなかったら、始まらないでしょ?」

 

「ふふっ…確かにFALの言う通りかな。そうだね…名前はどうしたものかな」

 

今回の舞台はカジノ。

シーナが一番に思い付いたのはスロットマシン。

横一列に並ぶは全て7。そこで思い付いたのか彼女は告げる。

 

「作戦名は「777」。どちらにとっての大当たりか、賭けてみましょうか」




という訳で、こちらが一番大きい違法カジノと本社をぶっ潰すので…。
こっちから招待状を。
ドンパチしたくてうずうずしてぇんだという方の為にその他の違法カジノ制圧募集を致します。
細かい詳細に関しては…
こちらの活動報告「Devils front line 協力要請 違法カジノ制圧」にてご連絡いたします。


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Act156-Extra operation 777 Ⅰ

─誰がこのパーティーを狂わせた?─

─取り敢えず悪魔のせいにしとけ!─


夜空に月が登った時。

まるで魔法がかけられたかの様に町は大人たちだけの町へ姿を変える。

ネオンサインが煌々と輝く町の中で一際輝く建物が一つ。

煌々と金色に輝く照明。バニーガールのシルエットとトランプの看板。

一攫千金を夢見て、駆け引きのスリルを味わう為の大人たちの夜の遊び場。

そこがどういう所なのか、言葉にせずとも分かるだろう。

そしてここは悪魔と悪夢の溜まり場。化けの皮が剥がすどころか、その遊び場を木端微塵にする為、悪魔狩り部隊がこの地に集結していた。

流石にカジノ手前で武装したまま突っ立っている訳に行かず、カジノ制圧組は時が来るまで基地から持ちだしてきていた装甲車内で待機。

的確な指示を飛ばす為に今回はシーナもこの地に来ている。S11地区での作戦で使用した装甲指揮車両に護衛のMG4と共に待機していた。ただし作戦領域から少し離れた位置にある路地にて車両は停車している。

 

「さて…皆聞こえる?」

 

ヘッドセットのマイクに向かって話しかけるシーナ。

 

『第一部隊 FAL。全部隊から異常無しのサインを確認。…ちゃんと聞こえてるわ、指揮官』

 

「了解。ブラウ・ローゼの方はどうかな?」

 

カジノ制圧組とちゃんと通信が繋がっている事を確認するとシーナはカジノ地下に繋がる入り口にいるであろうブラウ・ローゼ隊へ声をかける。

その声にシリエジオが応対する。

 

『全員聞こえてますわ。ヨルムンガンドにも異常なし。教官も異常なしと言っています』

 

シリエジオの口から出た【教官】という言葉にシーナは申し訳なさそうな表情を浮かべる。

作戦開始日の前日に本当にS10地区前線基地に訪れた彼女。

シーナとしてはカジノ制圧組に加わってもらおうと考えていたそうなのだが、地下の方がハンティングのし甲斐があるといってその者は地下制圧組の方に加わってしまったのだ。

元より地下制圧組の方が人数が少ない事もあって、シーナも許可する他なかった。

 

「パイソン教官、そちらは頼みますね」

 

『ああ。しかし貴様の指示の下で戦う日が来るとはな。面白い事もあるものだ』

 

「私も貴女に指示を飛ばす様な事があるとは思いませんでしたね」

 

『そうか。…貴様は指示を飛ばす事に徹しろ。良いな?()()()

 

「!分かった。頼むよ、()()()()

 

『!…ふふっ、任された』

 

それを最後に通信が終わる。

後は作戦開始時刻になるのを待つだけ。

シーナは座席に凭れ小さく息を吐く。袖を捲くり腕時計を見れば、作戦開始時刻まで残り三分を切っていた。

残り僅かな時間だというのに、彼女からすれば長く感じられた。

静寂に包まれた装甲車内。そんな時、運転席に座っていたMG4が口を開く。

 

「今回の作戦は他の基地も動いているみたいですね」

 

「うん。私達が落とすあのカジノ以外にも違法カジノは多数存在している。情報は抜かりなく伝えてあるけど…」

 

「決して悪魔が居ないとも限らない」

 

MG4の台詞にシーナは小さく頷く。

今回の作戦はグレイス・モンゴリーが運営している多くの違法カジノを制圧する為に他の基地も動いている。

ただ存在する多くの違法カジノ全てに悪魔が居ないとも限らない。

もしかすれば他の基地が悪魔と対峙してしまう可能性がある事をシーナは心配していた。

 

「私達がこっちに戦力を投入している今、援護には迎えない。無事を願う事しか出来ないの辛いね…」

 

「…大丈夫ですよ。悪魔達が出たとしても切り抜けてくれる筈です」

 

「…そう願いたいな」

 

再び訪れる静寂。

シーナがもう一度腕時計を見れば、作戦開始時刻まで残り一分となっていた。

かつてのS11地区の作戦の様に派手なパーティークラッカーはない。

それでも皆に鼓舞する為に彼女は全員へと伝える。

 

「長々とした前置きなんて要らないと思う。だから私らしくない事を言うね」

 

ニヤリと彼女は口角を吊り上げる。

この口から放たれる台詞は確かにシーナらしくないかも知れない。

だがもはや悪魔が関わっている以上、少しでもテンションは上げていかなくてはならないのだ。

 

「イカれたパーティーの開催よ。さぁ皆…」

 

笑みを浮かべる。

そこから先に放たれる台詞はパーティー開幕を告げるものとなるのは誰にも分かる。

 

「派手に行きましょう!」




今回は短いですが、パーティーの開始です。

また今回では、こちらが一番大きい違法カジノ及び本社を制圧する一方で…
他にある違法カジノを制圧する為に多くの方々参加しています!

oldsnake様作「破壊の嵐を巻き起こせ!」

試作強化型アサルト様作「危険指定存在徘徊中」

焔薙様作「それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!」

ガンアーク弐式様作「MALE DOLLS外伝集」


さぁ…イカれたパーティーの始まりだ!派手に行きましょう!!


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Act157-Extra operation 777 Ⅱ

─不可能の意味を持つ部隊─

─今宵はその者達の門出─


通信越しから響くパーティーの開幕を告げる声。

カジノの地下へ繋がる入り口近くにて待機していたそれは咆哮を上げるかの様にエンジン音を鳴り響かせた。

その発信源は墓場から回収された後マギーとソルシエールによって大幅な改造が施され、生み出されたS10地区前線基地の新たな戦力、移動拠点型戦闘車両【ヨルムンガンド】によるものだ。

未完成だった時の姿は何処へ行ってしまったのか、その外見は大きく異なっていた。

まずその車体の大きさ。リヴァイアサン程では無いにしろ、装甲車両という枠組みに収まるか疑問に思う程に大きかった。

移動拠点という事も含まれている為、内部にはある一定の居住空間が設けられている事が車体の大きさに影響しているのだが、ブラウ・ローゼ用として運用する事を前提とし、また部隊そのものが大人数という事もありこの大きさになったのだ。

車体全体に装備された材質の異なる装甲を三層に重ね合わせた高い防御力を誇る装甲。

バルカン砲、連装ロケット砲、棄てられた戦車から流用した120mmの戦車砲、スモークディスチャージャーなどといった豊富な武装。

また近接戦闘も可能となっているのか、格納型ショベルアームも搭載している。

そんな物騒極まりない装甲車両の上にブラウ・ローゼの面々は乗って武器を構えていた。

 

「パーティーとは…。確かに彼女らしくない」

 

そう呟くのはヨルムンガンドの操縦を務める事となったジンバック。

シーナからの通信で作戦をパーティーと称した事に小さく笑みを浮かべていた。

しかしそのまま微笑んでいる訳には行かない。操縦桿を握ると彼女は全員へ通信を飛ばす。

 

「このまま地下会場に突撃します。ソルシエール、シャリテはヨルムンガンドの前衛に就き進行ルート上にいる敵の排除。ネージュは後衛に就き、二人が討ち漏らした敵の始末。ヨルムンガンドで寛いでいる面々は現れた敵にパーティークラッカー代わりの銃弾でもぶつけて下さい」

 

『後ろから轢かないでね、ジンバック』

 

「その時は頑張って避けて下さいまし、ソルシエール?」

 

『ちょっとぉ!?』

 

「ふふっ、冗談ですわ。さて…パーティーしましょうか!」

 

エンジンは温まっている。

エンジン音が咆哮の様に響き渡り、その巨体からは信じられない速度でヨルムンガンドは地下へと繋がると通路へと走り出す

ヨルムンガンドが動き出した同時に専用装備【ワーロック】を纏うソルシエール、【ベルフェゴール】を纏うシャリテが先導する様にスラスターを吹かし、ヨルムンガンドの前を行く。

地下へ繋がる入り口は強固な扉で閉ざされている。しかしそんなのは知った事ではない。

 

『シリエジオ、扉を!』

 

「分かっています!」

 

声に返答しつつシリエジオはシルヴァ・バレトの槓桿を操作し榴弾を装填。

地下へ繋がる扉をへと狙いを定めると発砲。

もはや砲撃音と言っていい程に高らかに響く銃声。放たれた榴弾は扉に着弾し、木端微塵に破壊。

そのままなだれ込むようにソルシエール、シャリテ、ヨルムンガンド、【パトローネ】を纏うネージュも内部へと突入。

警備は手薄なのか、迎撃に現れる者もいない。先には暗闇が広がっており、ヨルムンガンドに備え付けられたライトが前方を照らす。きちんと整備されていない通路を突き進む中、このまま地下の会場へと行ければと各々が思った矢先、ヨルムンガンドの前を行く【ワーロック】を纏うソルシエールが何かを見つける。

前方から迫ってくるは鉄血のプロウラーを模った様なセキュリティメカ。それも一体ではなく、群れを成して迫ってきていた。

 

「やっぱり一筋縄じゃ行かないか!シャリテ!」

 

「はい!援護します!」

 

蝙蝠の様な形をしたウイングに内蔵されたスラスターを全開にして迫りくる群れへと突撃。

ルージュが持つ大鎌とは別にS11地区の作戦にて回収されたヘル=バンガードの大鎌をベースに改造が施された大鎌を振い、すれ違いざまに複数のセキュリティメカを両断。

そのまま機動力を活かしてヨルムンガンドの進行ルートを切り開いていくソルシエールを両肩に機械化されたマントの様な物を装備したシャリテが両手に持った大型ハンドガンを放ち援護していく。

初の戦闘にも関わらず見事なまでの連携で披露していく二人。しかし二人が活躍したとしても、セキュリティメカは何処からともなく次々と現れる。

会場へと繋がる通路をヨルムンガンドが突き進んでいき、振り落とされない様に捕まりながら迫りくる敵に銃弾を叩きつけていくブラウ・ローゼのメンバー。

すると地下制圧組に加わっていたパイソンが自身と同じ名を持つリボルバーの弾倉に銃弾を込めながら呟いた。

 

「獲物にしては物足りんが準備運動代わりに丁度良いか」

 

「ああ、獲物は大きい方に限るからな」

 

その声に返答するのはショットガンにシェルを装填していくヘルメス。

マギーとソルシエールがM1887をベースに改造したもので、銃身下部に大型ブレードを取り付けたものであり接近戦を得意とするヘルメス専用の複合武器である。

他にも彼女用に製作された武器があるのだが、今回は複合武器を二丁持ってきていた。

 

「ほう?貴様も分かるか、ヘルメスとやら」

 

「返答しなくても分かるだろう、シーナの教官」

 

お互いでしか分からないやり取り。

笑みを浮かべる二人を見て敵に向かってアニマを連射していたネロが叫ぶ。

 

「バテるには早すぎんだろうが!笑い合ってねぇで撃て!」

 

二人の方に向かって叫びながらも、後方から迫ってくるセキュリティメカを見向きもせず的確に当てるのは、ネロにとって造作ない事なのだろう。

リロードを終えた二人。迫りくる敵に対し銃を向けながら、ネロの台詞に返答する。

 

「言われなくても…」

 

「分かっている!」

 

浮かび上がるは獰猛な笑み。

銀色のリボルバーが、改造が施されたショットガンが銃声と破砕音で奏でられる曲に色を足す様に吼える。

流石はというべきか、二人の狙いに狂いはない。

狙った獲物は決して逃がさないという意思が攻撃に現れており、もし相手が人間であれば恐れをなしているだろう。

それ程までに二人の攻撃は強烈で瞬く間にその数を減らしていく。それでこそパトローネを装備しているネージュの仕事を奪いかねない程に。

最もこの後にも敵となる傭兵も悪魔もこれを味わう事になるのだが。

 

「全くはしゃいでからに…」

 

シルヴァ・バレトではなくニーゼル・レーゲンをガトリングガン形態にして掃射しながらシリエジオは呆れた様に呟く。

それを聞いていたのか、ネージュが答える。

 

『だが、盛り上げるにはこの程度の事は必要なのかも知れんぞ、母さん』

 

「そんな事を言うとなれば、貴女も少しはしゃいでますね?」

 

『否定はしない』

 

ヨルムンガンドの後衛に就き、両手に持ったジェラシーを連射しながらシリエジオと会話するネージュ。

圧倒的な火力を誇るパトローネの前にセキュリティメカ如きでは太刀打ちできる訳もなく、彼女は後方から迫りくる群れに瞬く間に殲滅していた。

同時に彼女は…否、この場にいる全員が感じ取っていた。

 

「ぬるい。明らかに誘われてるな」

 

進みゆくヨルムンガンドの上でパイソンが静かに呟く。

その言葉に誰もが静かに頷く中、ネロは笑みを浮かべる。

 

「おもしれぇ。招待状も持ってきてねぇのに歓迎してくれるとは、もてなす気はあるみてぇだな」

 

『でしたらもてなしてくれるお礼として、会場の勝手口からお邪魔しましょうか』

 

「派手にやっちまえよ、ジンバック」

 

『仰せのままに。…勝手口から侵入後、ソルシエールは発電機の破壊後会場に乱入。ヘルメスはソルシエールの援護。シャリテ、パイソン、人質の救出及び敵勢力の排除。ネロは悪魔を優先的に排除。シリエジオは私の護衛を。ネージュは貨物用のエレベーターを利用して屋上に移動。天窓を突き破ってカジノ側の援護をしてください。では会場に失礼致しましょう』

 

コックピットでジンバックがアクセルを踏み込むとヨルムンガンドの速度が上がる。

そして地下会場から少し離れた距離はあるものの元よりそこから突撃予定であった荷物受領エリア…またの名を勝手口の閉ざされたシャッターに向かってヨルムンガンドが突撃。

破砕音と轟音が響き、シャッターに大きな穴が開く。その音を聞きつけた傭兵たちが集まり出す前にシャリテ、パイソン、ネロは人質が居る牢屋へと繋がる廊下へと向かって行く。

その直後に武装した傭兵たちが集結した。

 

「くそっ!使えねぇブリキどもだ!!てめぇら、やっちまえ!!」

 

舞い上がった土埃の中で傭兵の1人がセキュリティメカに対して悪態をつきながら、周りの仲間達に攻撃の指示を飛ばした時であった。

 

「悪いが─」

 

「!?」

 

突如として後ろから響いた声。

それに気付いた男が後ろへと振り向こうとした瞬間。

 

「死んでもらうぞ」

 

繋がっていた筈の男の頭が空へと舞い上がった。

首と舞い上がった頭から噴き出す鮮血。崩れ落ちる体。

一瞬の出来事にその場にいた傭兵たちは啞然とし、首を刎ねた彼女…ヘルメスはゆっくりと頭だけを動かして傭兵たちを見た。

頬に付いた血糊。両手に持った複合兵器。

大きく開かれた瞳に浮かび上がる笑みは歪んでいる。そこにいる彼女は最早【死】そのものであった。

敵対する者が恐怖に抗いながらも銃を構える中、隣に並び立ったソルシエールへとヘルメスは話しかけた。

 

「ソルシエール、悪いが少し遊んでから向かう。任せるぞ」

 

「はいはいっと。やり過ぎないでね」

 

「そいつは無理な相談だな。こうも殺気を向けられてしまえば─」

 

発電機がある部屋へとソルシエールが向かった刹那ヘルメスの姿が消える。

それはヘルメスの名を貰う前から彼女が使っていた短距離テレポート。

突然の事に傭兵たちが驚くのも束の間彼らの背後から銃声が鳴り響き、内一人の頭が散弾によって吹き飛び、もう一人の首が刎ねられる。

 

「つい加減が出来なくなるからなぁ!」

 

銃声、断末魔の連鎖。

混ざるそれらの中で久方ぶりの戦いにヘルメスは笑みを浮かべながら傭兵たちへと襲い掛かった。

 

「退屈しのぎに遊んでやる。お前たちなら何分耐えられるかな?!」

 

 

「全くこっちも命懸けなんだけどなぁ」

 

ワーロックのスラスターを吹かしながら通路を突き進みながらソルシエールは静かにぼやく。

敵は人質の救出組、そしてヘルメスたちの方へと向いているのか奇跡的に彼女の方に敵が現れる様子はなくスラスターを全開にして彼女は発電機のある部屋へと侵入。

 

「よいしょっと!」

 

発電機を発見すると手にした大鎌を勢い良く振いそれを破壊。

その瞬間、辺りは暗闇にへと包まれるがソルシエールは迷う事もなく会場へと通ずる道を辿っていく。

暗闇の中で行動は装備しているワーロックの専売特許。まさしく死神とも言える外見をもった装備だからこそ出来る事。

予備電力に切り替わるまで約30秒と僅かな時間。それでも彼女は止まらない。

通路を突き進み、何とかして会場に到達。会場が暗闇に包まれ観客のざわめく声が聞こえる中、自分にスポットライトが当たる様に中央で待機。

そして破壊された発電機から予備電力に切り替わり、狙った通りにスポットライトが彼女を照らした時、ソルシエールはこの会場にいる富裕層と周囲の者達に向けて口を開く。

 

「こんばんわ、皆さん」

 

手にした大鎌を軽々と振るい、構えながらも笑みを浮かべるソルシエール。

周囲に向かって放たれる殺気。それは被害者である子供と人形に向けられたものではない。

しかし浮かべる笑みは、かつての追跡者を彷彿させる。

突然の事にその場に居る誰しもが困惑する中、彼女は告げる。

 

「人として腐った君たちを狩りに来たけど覚悟を出来ているかな?」

 




という訳で、地下に突撃したブラウ・ローゼ視点を描きました。
次はどうするかな…

では次回ノシ


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Act158-Extra operation 777 Ⅲ

─今までのは前座でしかない─

─ここからが本番だ─


もはや地下闘技場は銃声と悲鳴と断末魔で奏でる音楽祭と化していた。

ソルシエールが会場入りし姿を現したのは良いものの、遅刻する事を宣言したヘルメスが意外にも早く会場入りを果たしてしまい、警備に当たっていた傭兵達に襲い掛かった事によって今の状況が出来上がっていた。

ヘルメスが注意を引き付けている隙にソルシエールはリングに居た少女と人形を傍に抱き寄せて、ワーロックのウイングを閉じ防御形態を取る事で二人を流れ弾から守っていた。

 

『さぁ逃げろ!逃げろ!どのみち殺すがなぁッ!!!』

 

「全く…これだとどっちが敵か分かんないな」

 

ヘルメスの通信に対しソルシエールはやれやれと呆れた表情を浮かべる。

このままヘルメスが周囲の敵を殲滅するまでこの状態が続くのだが、彼女はそれを仕方ないと判断。

人質の救出組であり、ベルフェゴールを装備しているシャリテが上手くやれているかなと心配しながらもソルシエールの服の裾をしっかりと握り、震える少女の頭に手を乗せ優しく微笑み話しかける。

 

「大丈夫。僕たちがちゃんと家に帰してあげる」

 

「ほんと…?」

 

「ホントだよ。お姉ちゃんの傍から離れたら駄目だからね」

 

「う、うん…!」

 

良い子だねと少女の頭を優しく撫でるソルシエール。

その一方で彼女は先程から感じていた違和感を払拭しきれずにいた。

 

(思ってたよりすんなり行けたのが気になる。それに悪魔の存在も…)

 

容易に突撃する事が出来た事、そして未だに姿を見せない悪魔の存在。

余りにも上手く行き過ぎている事にソルシエールは不安を隠せなかった。

 

(シャリテ…気を付けるんだよ)

 

今は動く事は出来ない。

人質の救出組に加わっている同期へと彼女は言葉を投げかけるのだった。

 

その頃、人質が囚われている牢屋がある地点…まるで監獄を思わせる場所では激しい銃撃戦が繰り広げられていた。

敵に攻め込まれたというのもあるが、元よりこの場所の警備は厚く、傭兵の数も闘技場にいた傭兵と比にならない程。

それをたった三人で何とかしなくてはならないのは余りにも無謀と言えよう。

しかしそれを覆す事が出来る程までに敵の数を減らしていけてるのはこの三人が普通ではないのが大きい。

特にパイソンの射撃に敵が攻撃もする間もなくやられていくのが大きいだろう。

そんな彼女は壁に身を寄せ、空になった弾倉に銃弾を込めていた。

敵がまだまだ居るにも関わらず、彼女は余裕の表情を浮かべている。流石はというべきだろう。

 

「敵も随分と重装備になってきたか。傭兵にしては動きが良い」

 

壁際からそっと顔を出して、新手の敵を見るパイソン。

先程まで弾倉ベルトを体に巻き付け軽機関銃を放つ傭兵も居れば、下手をすれば世紀末からやってきたのではないかと思ってしまうぐらいの格好をした傭兵がいたのだが、新手の敵は違った。

ガスマスクにヘルメット、防弾チョッキに加え自動小銃や散弾銃を手にし、傭兵にしては訓練された兵士並みに統率が取れており動きがしっかりしている。

 

「…腕の立つ傭兵という事でしょうか?」

 

「違うな。大方社長お抱えの兵士達だろう」

 

薬室に全弾装填。

取り出した弾倉を元の位置へ戻した時、二人の会話を静かに聞いていたネロが呟いた。

 

「それだけじゃねぇ。…酷い匂いだ。あいつら人間に擬態してんのか」

 

「ほう?それはシーナが言っていた"悪魔"とやらか?」

 

「だろうな」

 

そう言ってネロはブリッツを装着している右腕を撫でさすった。

義手を付けている為見えないがもう一つの腕、デビルブリンガーが悪魔に反応し脈動しているのを彼女は感じ取っていた。

 

「さて…」

 

ニヤリと笑みを浮かべるネロ。

漸く出番が来た。

背に背負っていたクイーンの柄に手を伸ばし、グリップを捻る。

クイーンが炎を噴き出しながら唸り、それを合図に身を隠していた場所から飛び出しネロはモンゴリー・エレクトロニクスお抱えの軍団へと突撃。

右腕の恩恵、そして元より持つハイエンドモデルとしての性能。それらが合わさった事によって生まれるネロの機動力は他の人形を圧倒する。

人に擬態し訓練された悪魔どもが相手だろうと、一瞬にしてその距離を詰める事など造作ないのだ。

 

「お仕置きの時間だ!クソ悪魔ども!」

 

距離を詰め、クイーンを抜刀。

右から左へと刀身を薙ぎ払い、密集していた敵達に一撃を見舞い吹き飛ばした時、上手く行けたのか推進剤噴射機構が全段階解放。

それに気付いたネロは小さく笑みを浮かべ駆け出した。

クイーンを振りかぶりながら持ち手の付近のレバーを引く。すると噴射口から凄まじい勢い良いで炎が噴き出し、それを推進力にして吹き飛ばした悪魔達と攻撃を仕掛けようとしている悪魔達へと突撃。

強烈な横薙ぎを放ちそこからさらに体を回転させて更なる斬撃を繰り出して敵を斬撃と炎の渦の中に巻き込む。

そこから全力でクイーンを左へ振りぬき止めの一撃を放ち、重装備である筈の悪魔達を両断。

絶命した悪魔達の亡骸転がっていく。

燃焼された推進剤の火の粉が薄っすらとネロの周りを漂うが彼女はそれを気にする様子もなく、次の標的を襲い掛かる。

すると敵はネロからシャリテとパイソンへと狙いを変えた。ネロよりも二人の方が脅威ではないと判断したのだろう。

狙いが自分達に向いた事に気付いた二人は手にしている銃で応戦。的確な射撃で一人一人仕留めていくも、数は中々減らない。

このままでは不味い。両手に持った大型ハンドガンを連射しながらもシャリテはそう思った。

 

「やはり使うしかないですよね…」

 

肩に装備したそれらを一目見ると両手に持っていたハンドガンをホルスターへと納め、小さく息を吐くとシャリテはベルフェゴールを起動させた。

本来であれば彼女はこれを起動させるつもりなどなかった。何故ならばこのベルフェゴールはシャリテ専用の装備ではないのだ。

ベルフェゴールはあの墓場から回収された装備の一つであり、あの中で眠っていた誰かの装備。実の所もワーロックもそうだったりする。

ただまともに動くのがこの二つだった為、シャリテはベルフェゴールを装備していた。

ただ誰かの専用装備であったこれを自分が使う事にシャリテは負い目を感じている。

誰かの装備。自分の物でもないが故に使いにくい。だが今この状況下ではそんな事を言っている場合ではない。だがそれでも…

 

─今だけは使う事を許して欲しい─

 

変形していくマントの音を耳にしながらもその想いを胸に伏せていた目を開けるシャリテ。

琥珀色だった瞳は赤く輝きを放ち、その両腕には鋭利な爪を備えた巨大なガントレット。

これこそがベルフェゴールに備わっていた機能の内の一つ。敵が確実に破壊する為だけにある接近戦形態。

 

「行きます…!」

 

掛け声と共にシャリテは敵へと突進。

巨大な爪でショットガンを持った兵士をすれ違いざまに切り裂くと流れる様に体を大きく回転させてもう一人を頭から右腕の手で叩き潰し、傍にいた敵を手刀でその首を刎ね飛ばす。

一気に三体の悪魔を仕留めるとシャリテはそのままネロを相対していた敵の集団へと襲い掛かり、ネロの加勢に入る。

 

「やれやれ…見た目とは違い、派手にやる」

 

暴れるシャリテの姿を見て吞気な事を言いながらパイソンは迫りくる敵達を難なく仕留めていた。

彼女の周りには無数の死体が転がっており、それらを全て一人で片付けたのは流石としか言えない。

 

「そろそろ上も騒がしくなっている頃か」

 

突入して時間は経っている。

恐らくカジノ方でも戦闘を起きているだろうと思いながら、パイソンは初めてシーナと出会った時の事を思い出す。

その時に起きたやり取りを思い出したのか、彼女は小さな笑みを浮かべた。

 

「あいつの指示がどんなものか確かめなくてはな。さっさとここを終わらすとしよう」

 

ネロとシャリテが暴れているおかげで敵の数は減りつつある。

敵を殲滅し人質を救出するまでそう時間は掛からない。

だが油断はできない。薬莢を捨て、素早く弾を込めると弾倉を元へ戻し迫りくる敵達へ狙いを定める。

 

「つまらないものだが、受け取れ」

 

そのセリフと共に彼女は手にしているリボルバーの引き金を引いた。

確かにつまらないものかも知れない。だが悪魔どもくれてやる冥土の土産には丁度良いのかも知れない。

 

 

地下で戦闘が繰り広げられている一方でカジノ制圧組に既に戦闘を繰り広げていた。

飛び交う銃弾、響き合う銃声、悲鳴、爆発音、破砕音。

一攫千金を夢見る、己が持つ運の駆け引きを行うカジノの賑やかな姿は欠片もなく、雑音だらけの戦場へと変貌していた。

 

「ったく、用意周到ね!スロットマシンにも武器を仕込んでるだなんて!!」

 

破壊したスロットマシンを防壁にし身を隠しながらFALが叫ぶ。

何か仕込まれている事に関しては作戦会議で聞いていたもののまさか機関銃を内蔵しているは誰が思うか。

何十台にも上るスロットマシンから機関銃が飛び出し、撃ってくる。

余りにも厚すぎる弾幕に顔を出す訳には行かず、破壊の為にグレネードを放とうにもそれも出来ず、おまけに雇われていた傭兵達も攻撃を仕掛けてくる為、上手く反撃出来ず部隊は苦戦を強いられていた。

 

「金持ちの遊び場にしては物騒極まりないわね!でもブラウ・ローゼや本社側の二人の方が大変か!」

 

違法人形売買組織壊滅以降、S10地区前線基地所属となったfive-sevenがそう言うと周りにいた人形達は確かにと肯定の声を上げた。

悪魔居ない分マシと言うもの。弾幕を恐れず突っ込んでくる悪魔が居たら最悪と言えるだろう。

だからといって誰もこの状況を楽観視している訳ではない。

何とかしてスロットマシンだけでも破壊さえしてくれれば戦況は大きく変わるだろう。

 

「どうしたものか。416の大砲でも全部は無理か」

 

「榴弾を放つ代わりに蜂の巣になってこいと言うの?45。代わりにあんたが飛び込んできたら?」

 

冗談よと416に言いながらもブラウ・ローゼのシリエジオかネージュを連れてこれば良かったかなと思いながら頭を悩ませる45。

その時、全員の通信に屋上にたどり着いていたある者の声が響く。

 

『なら私が何とかする。流れ弾に気を付けてくれ』

 

刹那、カジノの天窓が割れる音が周囲に響いた。

そこから落下してくるのは右半分しかないピエロのフェイスマスクを付け、圧倒的な火力を誇る白銀の装備【パトローネ】を纏うネージュ。

降下しながらアクロバティックな回転を決めつつ、彼女はコンテナと脚部のポットのハッチを全て展開。

無数の発射口から覗かせるミサイル。傭兵達が啞然とする中、ネージュは小さく呟く。

 

「大喝采を聞かせてやる」

 

全ての発射口、及び脚部のポットから無数のミサイルが一斉に放たれた。

ミサイルのシャワーがカジノに降り注ぐ。機関銃を撃ち続けるスロットマシンの群れが木端微塵に吹き飛び、傭兵達は飛んでくるミサイルに巻き込まれる。

連鎖する爆発。何もかもが吹き飛んで行き、戦況は一気に変わり部隊の面々は防壁から姿を出し攻撃開始、

そして落下してきたネージュは軽やかに着地。両手に持ったジェラシーを構えヘイトリッドを展開し、残存勢力に対し銃弾の嵐を御見舞いする。

するとその隣に鴉刃を手にしたルージュが並び立つ。

 

「助かりました」

 

「ああ。それよりも気付いているか?」

 

「はい。本店にしては随分と呆気ない。それに悪魔の気配もありますから…」

 

「どうやらここからが本番か」

 

「恐らくは。…前に出ます。援護お願いします」

 

鴉刃を構え、敵陣の中央へと飛び込んでいくルージュ。

人形達の銃撃に加えて接近戦を仕掛けてくる彼女に傭兵達を慌てふためき、それが隙となって仕留められる。

戦況は自分達が有利だと言うのに、拭えない違和感。

その違和感は間違っていなかったのか、何処から溢れて来たのか黒い泥だまりと血だまりの様なものから何かが姿を現す。

まるでマネキンの様は外観、しかし動きは不気味で片手が釘バットの様な物と一体化していた。

もう一体は爬虫類の様な外見だがまるで刃の様な背びれが特徴的だった。

レッサースティジアン、そしてケイオス。どちらも魔界に存在する悪魔だ。

そしてオマケと言うべきなのか、鹵獲されたマンティコア数機とイージス数機が隠し扉から姿を現す。

現れた無数の悪魔どもと増援を見て誰も驚きはしなかった。悪魔が出てくる事もオマケが出てくる事も想定していた。

ただ気を抜いてはいけない。自身にそう言い聞かせながらネージュは宣言する。

 

「全ての弾を使い切る」

 

ならば遠慮など要らない。

元よりこのカジノは更地にする予定なのだ。ならば出し惜しみする必要などない。

パトローネが持ち得る全ての兵装を使ってネージュは敵へ攻撃を仕掛ける。

パーティーはまだ始まったばかり。これからが本番なのだ。

 

そしてこの男達も遅れながらもパーティー会場に到達していた。

高くそびえ立つビル。夜間なのか社員は居ない。居るのは社長であるグレイス・モンゴリーだけ。

エントランスホールから何故か薄っすらと漂ってくる冷気。

そこに魔力が込められている事とビル全体から強力な悪魔の気配が幾つもある事にビル前の広場でビルを見上げていたブレイクとギルヴァは気付いていた。

するとギルヴァがブレイクに対しある事を伝えた。

 

「先に行け。俺が出る程ではなかろう」

 

「楽しようとすんなよ?剣が泣くぜ?」

 

肩を竦め、笑みを湛えるブレイクにギルヴァは軽くため息をついた。

 

「…グローザから話を聞いた。今回の一件はお前が大きく関わっているとな」

 

「…だったかな」

 

そんな事を言いながらもブレイク自身分かっていた。

今回の一件は自分の手で終わらせなくてはならない。

元より彼はギルヴァと共に同行しよう気はなかった。それをさも気付いていたというギルヴァの台詞に彼は苦笑いを浮かべる。

 

「たまには見せ場をくれてやる。さっさと終わらせて来い」

 

そう言ってギルヴァは踵を返し、近くのベンチに腰掛けるとコートの懐から本を取り出し読書に没頭した。

ギルヴァもブレイクと共にグレイス・モンゴリーを討つ気など最初からなかった。

その悪魔はブレイクが仕留めなくてはならない。そこに理由があるから、そしてそこに自身が介入する余地などない事も気付いていた。

 

「やれやれ…。ま、気付かれてんなら仕方ねぇか。勝手に帰るなよ?一人は寂しいからな」

 

「冗談を言っている暇があるならとっとと行け」

 

今から戦いに行くと言うのにこんな雰囲気で良いのかと言いたくなるが、大体この二人はこんな感じなので仕方ない。

はいはい、と返答してからブレイクは建物の内部へと歩み始めた。

建物の内部から漂ってくる冷気。建物に近づくにつれて、小さな氷山だったり氷の柱だったり、何処か見覚えのある物がそこらかしこに存在していた。

しかしブレイクは全く気にする事もなく、内部へと入っていった。

建物のエントランスホールでは辺り一面に氷が広がっており、上へと繋がる道に氷漬けされた何かが鎮座していた。

臆する事もなく、氷漬けにされた何かへ向かって行くブレイク。すると彼は近づいた事に目覚めたのかそれを覆っていた氷が音を立てて崩れた。

人よりも遥かに大きい体、犬の様な外見、そして何よりもその悪魔には頭が三つもあった。

首輪の鎖を揺らしながら歩み寄ると威嚇する様な咆哮を上げてから悪魔はブレイクを睨んだ。

 

「立ち去るが良い!人間!ここよりは先は我が主の領域ぞ!!」

 

普通の人間ならここで臆して言う通りにしているだろう。

だがこの男にそんな気はない。

笑みを湛えたままブレイクはお決まりの挨拶をする。

 

「こりゃ凄い。おしゃべりするワンちゃんか」

 

それが大型魔獣であろうとこの男には関係ない。

命知らずも良い所である。

 

「にしちゃ随分と興奮してんな。もしかしてお散歩か?それともリードを伸ばして欲しいのか?」

 

弱小とされる人間に小馬鹿したような事を言われたらたまったものではない。

それは怒りを露わにし、声を荒げた。

 

「貴様…!この人間風情が!!!」

 

口から勢いよく吐き出される冷気。

それを容易く躱すブレイクだが、先程入ってきた入り口が氷漬けにされてしまい出られなくなってしまう。

だが気にする様子もなく、彼はさらに煽り始める。

 

「落ち着けよワンちゃん。ほら、お散歩の時間だぞ。どうした?来いよ」

 

手を叩き、手招きする様な仕草。

こんな事されれば悪魔どころか誰だって憤慨する事間違いなしだろう。

もうこの人間を殺す事に決めたその悪魔は…ケルベロスは最後の忠告をした。

 

「後悔しても知らんぞ、小僧!」

 

「後悔しないね。そんじゃ始めようぜ?ワンちゃん」

 

背に背負っていたリベリオンの柄に手を伸ばし、引き抜くブレイク。

ケルベロスが雄叫びを上げると彼は地面を蹴り、ケルベロスへと駆け出した。

 

 

その様を監視カメラを使って見つめる者が一人。

最上階に存在する社長室で、その者…グレイス・モンゴリーは画面越しのブレイクを見つめていた。

しかしその表情は余裕でもなければ、恐怖でもない。

 

「ああ…やっときてくれた…!」

 

言うなれば恍惚の表情と言うべきか。

 

「会いに来てくれた…!私を愛されに来たのね…!あはっ…!あははははははっ!!」

 

もはや普通ではない。

高らかな笑い声は社長室に響き渡る。

グレイス・モンゴリーとブレイク。この二人にどのような関係があるのか。

それはブレイクがこの社長室に辿り着かない限り分からない事であった。

 

「それと余計な者は帰ってもらわないとね…ふふふっ…」

 

そう言って彼女はもう一つの画面を見た。

そこに映るのは読書に没頭しているギルヴァ。

 

「貴方の出番よ…せいぜい楽しんできなさい」

 

誰に向かって言っているのか、それはこの女にしか分からない。

ただ閉じていた扉がいつの間にか開いたままになっており、誰かが出ていったことは明白であった。




地下、カジノ、そして本社側も突入。

本社制圧がブレイクが担当。
さて…ワンちゃんとお散歩すっぞ!リード、しっかり握るぞ!

ん?ギルヴァはどうすんのかって?
まぁ見てなさいって。


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Act159-Extra operation 777 Ⅳ

─パーティーはもう少しだけ続く─


ブレイクが番犬(ケルベロス)と戦闘を開始した一方でギルヴァは傍に無銘を立て掛け、静かに本を読んでいた。遠くから破砕音やら銃声が聞こえているにも関わらず、彼は気にする様子もなく本のページを捲る。

少しばかり五月蠅い音を耳にしながらも読書に没頭する彼に蒼が話しかける。

 

―良いのか?シーナちゃんが立てた作戦だぞ?何もしなかったって聞いたらあの娘泣くかも知れんぞ?

 

「その程度で泣く奴ではあるまい。それにお前も分かっているだろう」

 

―そりゃ分かってるけどさ。でもここはいっちょ協力してやるもんじゃないか?

 

「気乗りがせん。それに今回の事態は奴が大きく関わっている。後始末はあいつの仕事だ」

 

蒼の言う事を聞くつもりは全く無いのか、ギルヴァは静かに本のページを捲ろうとした。

 

「…」

 

その時何かに気付いたのか、捲る手を止め読んでいた本を閉じた。それをコートの懐へ忍ばせると無銘を手に取りベンチから立ち上がり後ろへと振り返った。

暗闇が広がる奥から歩み寄ってくる女が一人。

黒みを帯びた赤い髪、赤い瞳、黒いドレス、すれ違えば誰しもが振り返ってしまう様な美貌、その美貌とは不釣り合いとも言っていい程の長大な対戦車ライフルを抱えていた。

既存の物を自分用に改造したのか、或いは飼い主に与えられたか。どちらにせよそれを知る者は本人だけ。

一見武装した美女と見えるが、ギルヴァは既に気付いている。

この女は悪魔だと。

それを分かっておきながら、彼は無銘の柄に手を掛けようとはしない。ただ鍔に軽く左手の親指を当てつつ何時でも鯉口を切れる状態を維持していた。

お互いの距離がベンチ一つ分となった時、女は足を止めた。

訪れる沈黙。薄っすらと冷たい風が吹き、遠くからは戦闘の音が響く。何が起きても可笑しくない雰囲気。

 

「殺さないのかしら。今ならやれるでしょ?」

 

この状況に耐えかねたのか女はライフルの銃口を下ろし、口を開いた。

その声にはどことなく覇気がない。まるで最初から戦う気がないと言っている様だ。

ギルヴァもそれを感じ取っていたからこそ、刃を振りかざそうとはしなかったのだ。

 

「死にたくば自らその命を絶てばいいだろう。それとも人の手を煩わせんと死ねんか」

 

「そうしたいのは山々なんだけど…どうも私をお人形として戦わせたい趣味の悪い子のせいで死ねないの」

 

「それは─」

 

鯉口を切る。鍔と鞘の間からさらけ出される刀身が一瞬だけ煌く。

柄を握り、抜刀。振り向きざまに後方から迫ってきた何かの首を刎ねた。

 

「─この小娘の事か?」

 

ギルヴァを背後から襲ったのはライフルを持った女よりも幼い少女であった。

血の様な赤色の髪、赤い瞳を有しており、まるで彼女の幼少期の姿ではないかと思わせる。

宙を浮かぶ首のない死体。余程自信があったのだろうか。自身が死んだ事に気付く事もなくその表情には笑みが浮かんでいた。

まるでボールの様に頭は地面を軽く跳ね、女の足元にぶつかって漸く止まった。

笑みを浮かべたまま冷たくなったその頭に向ける女の視線は冷たい。その目には軽蔑と嫌悪と殺意がごった煮になった様な物が宿っていた。

女の様子にギルヴァが疑問を覚える。

姿、髪の色こそ違えど、女と首を刎ね飛ばした少女の魔の気配は同じであった。まるで血の繋がりがあると言わんばかりに。

 

「…おかしいかしら。同じ気配を持っているというのに、死んだこいつを何とも思っていない事に」

 

「…悪魔同士の揉め事に興味はない」

 

「悪魔同士、ね。あの女の代わりの器でしかない私達は悪魔どころか人形にも劣る存在よ。人形の様に代えが利く。だからあいつが死ねば、造られた私達の一人が奴に意識を乗っ取られ、そして新しいグレイス・モンゴリーが誕生する。姿がバラバラなのはグレイス・モンゴリーだという事を悟られない為。何度でも続けるのよ、あいつは。相手が自分を何度でも殺してくれる事を喜びとして、ね」

 

相手が誰なのかは知らないけどと呟きながら諦めたかのようなため息をつく女。

そして足元にある頭に冷たい目を向けながら対戦車ライフルの銃口を突き付け引き金を引いた。

鳴り響く銃声。転げ落ちる薬莢、彼女の足元に付着する血痕、飛び散る肉片。

その光景を見てもギルヴァは何も言わない。ただ静かに刀身を鞘へと納めていた。

鍔と鯉口がかち合う音が静かに音を立てる。それを合図に女は静かに語り出した。

 

「あいつの代わりにはなりたくない。それに何故か人間の事が好きになっちゃったの。だから迷惑を掛けたくない。それに私が死ねば奴が第二の人生を歩む事なんて出来なくなるから」

 

「その言い方だと他の奴らは既に死んでいる様だな」

 

「ええ。私がこの手で始末した。予備が減った事を気付かれない様にするのが骨が折れたけど。…そして最後のこいつは貴方が斬った。残るは私一人」

 

女は手にしていたライフルを静かにベンチに立て掛け、ギルヴァの前に立った。

恐怖におびえる様子はない。ただこの結末を受け入れる。

人間を愛する様になった切っ掛けは分からない。しかし己の内に宿った【何か】に従った自身が決して間違ってなどいなかった。そう思って逝けるのであれば、それでいい。既に女は覚悟を決めていた。

 

「だから私を殺して。イカレ狂ったダンスを踊るのはもう飽きてきたの」

 

「…良いだろう」

 

そのまま刀を抜刀するかと思えば、何故かギルヴァは女の横を通り過ぎて行った。

だが女は分かっていた。

もう終わっていると。

その証拠にギルヴァの右手には鞘から抜き放たれた無銘が握られていた。

刀を払い鯉口に当ててから、静かにゆっくりと刀身を鞘へと納めていく。

鍔と鯉口の間隔が残り僅かとなった時、彼と蒼は小さく呟いた。

 

「安らかに眠れ」

 

―今度は…自分の人生を歩みな

 

その時ギルヴァの後ろで何か崩れる音がし、何が粒子となって散っていった。

だが彼は振り向こうとはしなかった。彼女が残した対戦車ライフルを手に取ると静かにその場から歩き去っていく。

静けさが漂うその場所に残ったのは血だまりと彼女が身に纏っていた黒いドレスだけだった。

 

 

外で何かが起きているとは知る訳もなく、ブレイクはケルベロスと激闘を繰り広げていた。

口だから吐き出される冷気、降り注ぐ氷の槍、まるで犬のお手の様に手を地面に叩きつければ隆起した無数の氷山が、少し距離を取ればその巨大な体を活かした突進や前足の爪で攻撃してくるなど番犬だけあってケルベロスは強力な魔物と言えた。

だがらといってブレイクが戦意喪失する訳もなく、彼は自身の持ち得る技、武器を全てを使ってケルベロスに対抗していた。

灰色だった体はまるで怒りを表しているかの様に赤くなっており、攻撃も熾烈になったケルベロスの突進攻撃を軽々と躱すとブレイクは吞気な事を言いだし始める。

 

「ワンちゃんにしてはパワフルだな!普通のリードじゃちぎれて散歩どころじゃなくなりそうだ!」

 

そんな事を言いながらホルスターからアレグロとフォルテを素早く引き抜き連射。

マシンガンの如く放たれる弾丸はケルベロスが纏う氷の鎧を砕いていき、三つの内の一つの鎧が剥がされるのを見つけるとそこへ目掛けてリベリオンを振りかぶり、連続して攻撃を繰り出す。

足よりも頭を攻撃すればより大きなダメージを与えられる。現にケルベロスの三つの頭の内、一つは無くなっていた。

だが延々と攻撃を喰らうだけの番犬ではない事は戦う前から分かっている事。リベリオンで更なる攻撃を繰り出そうとした時、噛みつこうとする攻撃に反応し彼は宙で特徴的な構えを取ってから魔力の障壁で攻撃を防御し素早くグラインドトリックで地上へと瞬間移動。

 

「あらよっと!」

 

拍子抜けする様な声と共に空中でヴァーン・ズィニヒに跨り突撃。

重量の車体による突進がケルベロスの顔面を歪ませ、怯ませる。それをチャンスとみたブレイクはバイク形態にしたままのヴァーン・ズィニヒで斬り刻み、そして車体と共に体も回転させ、勢い良くバイクを投げ飛ばし更なるダメージを負わせ地面に着地。着地した瞬間を狙っていたかの様に定位置に戻ったケルベロスは前脚を叩きつけて隆起した氷山の群を生み出した。

迫りくる氷山を容易く躱すとブレイクは地面を蹴り突進。ケルベロスの顎へ目掛けてリベリオンを大きく振り上げ強力な一撃を与えてから流れる様に刀身を振り下ろし残った頭を斬り落として地面に着地。

 

「そろそろお散歩も飽きてきたな。後で骨くれてやるから我慢しな!」

 

そこからリベリオンを突き立てて、突進技であるスティンガーによる渾身の一撃を叩きこみ巨体であるケルベロスを後方へと吹き飛ばした。

あれほど派手に動き回っていたというのにブレイクの呼吸は乱れておらず、まだまだ余裕があるのか笑みを湛えたままだ。それに対してケルベロスの呼吸は少しばかり乱れていた。

戦いを経て、自身を退けられる力を持った彼にケルベロスは問いかける。

 

「貴様…ただの人間ではないな?」

 

「さぁ?当ててみなよ」

 

腕を広げてとぼけるブレイク。

しかしケルベロスは当てようとはせず、ジッと彼を見つめると静かに口を開いた。

 

「我とてあの女の物で居たいとは思っておらん」

 

「それで?」

 

「…いずれにせよ貴様は我に力を示した。ならば我が魂を手に、我が牙の加護と共に先へ進むが良い!」

 

空へ向かって大きく咆哮を上げ、自らを光へ変えるケルベロス。

その場に巨体は消え去り、残ったのは輝く何か。

それはブレイクの方へ近づいて行き、彼がそれに手を触れた時、光は形を変え姿を現した。

手に握られているのは冷気を帯びた三叉の鎖。それを見てニヤリと笑みを浮かべたブレイクはその場で勢い良くそれをヌンチャクの様に振り回した。

新しいおもちゃを手に入れた子供の様にはしゃぎながら華麗に、そして流れる様に技を繰り出していく。

そして薙ぎ払いから勢いよく回転して、最後は決めポーズを決めてから感想を口にする。

 

「イカすぜ」

 

どうやらお気に召した様子であった。

 

 

ブレイクが新しいおもちゃ…ケルベロスを手に入れ、はしゃいでいた頃、カジノでは凄まじいまでの銃声が鳴り響いた。

また会場制圧し、人質の救出し終えたヨルムンガンドで駆けつけてきたジンバックとシリエジオ、パイソンの三人が応援に駆け付けた事に最早戦争一歩手前という状況が発生していた。

 

「もう無茶苦茶ね…。下手すれば第四次世界大戦の予行演習よ、こんなの」

 

「ブラウ・ローゼの連中と指揮官の教官が混じった途端これだからなぁ…」

 

破壊したマンティコアを盾代わりにして、悪魔どもに銃撃を仕掛けるAR15の台詞に対してM16は引き攣った笑みを浮かべた。

的確な射撃で悪魔を圧倒するパイソン、圧倒的な火力を保有するネージュがアクロバットな動きを披露しながら銃弾とミサイルをばらまき、鴉刃、漆、朱といった三振りの刀を巧みに操るルージュとニーゼル・レーゲンの待機形態で接近戦仕掛けるシリエジオによって悪魔どもの亡骸があちらこちらへと飛んで行く。

ヨルムンガンドの操縦士だったジンバックは愛用していた複合武器に更なる改造が施されたそれを用いて弾幕を形成していた。

これでこの状況なのだから、他のメンバーが合流したらもっと凄まじい事になるだろう。

そしてそれは地下からカジノへと繋がる階段から上がってきた者の手によって現実のものとなった。

 

「ご馳走はまだ残っているか…」

 

笑みを浮かべ、両手に持った武器で悪魔達を背後から襲うは地下制圧組の一人、ヘルメスだった。

ケイオスの頭をショットガンで吹き飛ばし、後方から襲ってきたレッサースティジアンの攻撃を躱し、わざと足を引っかけて転倒させる。

すぐさま起き上がろうとするレッサースティジアンだがそれをさせまいとヘルメスはその悪魔の腹部を思い切り踏みつけて阻止。近接武器しか持っていないので抵抗する事も出来ず、もがくレッサースティジアンの顔面に散弾を叩きつけて止めを刺し動かなくなった亡骸を蹴り飛ばす。

 

「楽しまないと意味がないな!だろう?ソルシエール?!」

 

「だねぇ!」

 

ヘルメスの声に答える様にネージュが割った天窓から死神がその翼を広げて手にした大鎌を振りかぶりながら降下してくる。

丁度その真下にいたケイオスの体を真っ二つに切り裂き、後方へと振り向きながら大鎌を一閃。複数のレッサースティジアンの首が刎ね飛ぶ。

ソルシエールに続きシャリテも天窓からカジノ内部へ降下し彼女の背後に降り立つ。

 

「悪魔の皆、気を付けろぉ!!おっかないのがいっぱい来てるからねぇ!」

 

「私はおっかなくないですよ!?」

 

ツッコミが飛んできた中ソルシエールは大鎌を構えて悪魔達へ突撃しシャリテはイージス達へ突撃。

悪魔の亡骸、破壊された機械兵の残骸の数は増える一方でカジノの正面入り口からのんびりと歩きながらネロが姿を現し、ブラウ・ローゼのメンバーが暴れる様子を見て足を止めた。

 

「あーあ…こりゃ俺の出番ねぇか」

 

まるで独り言の様に呟くと、珍しい事に近場に居たAUGが答えた。

 

「そうとも限りませんわ」

 

「そりゃどういう意味だ?」

 

新たな弾倉を差し込み、AUGはとある方向を指さした。

彼女が指差す方向を見つめるネロ。

そこには隠し扉から現れる悪魔達。それも今相対している悪魔とは一線を画す存在。

イージスの様に盾を構え、その手には湾曲した片手剣が握られておりその数、ざっと二十は上るだろう。

 

「…成程な」

 

確かにネロの出番が無いというAUGの意見は間違っていなかった。

地下での戦いで使用していたブリッツは破損しており使い物にならない。壊れた義手を外し、専用のホルダーに納めた時、彼女の右腕にデビルブリンガーが姿を現す。

背負っていたクイーンに手にかけ、切っ先を地面に宛がうとネロは笑みを浮かべ、グリップを捻る。

クイーンが唸りを上げ、排気口から微量の炎を吐き出す。

 

「こりゃあ楽しまないと損するな!」

 

地面を蹴り銃弾の嵐の中へと飛び込むネロ。

ブラウ・ローゼのメンバーが揃った事による起きた偶然か。

AR15が口にした【第四次世界大戦の予行演習】が勃発。カジノは一気に激戦区と化した。




デビルメイクライの魔具の中でケルベロスは作者の中で上位に入る程好きな魔具です。

さてこのパーティーも終わらせないとな…。
次回、その次に幕を下ろすとしましょうか。

では次回


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Act160-Extra operation 777 Ⅴ

─過去との決着を─


番犬から先を通される事を許され、ブレイクが乗るエレベーターは最上階を上がっていく。

映る外の景色には全く興味を示さず、彼は窓にもたれかかって腕を組みながら沈黙を保っていた。

何を考えているのか、何を思っているのか。それは本人にしか分からぬ事だった。

顔を上げ、組んでいた腕を解き、ホルスターからアレグロとフォルテが引き抜かれる。

普段なら彼は何時もみたいに笑みを湛えているだろう。だが今回は違っていた。

 

「…とっとと終わらせるぜ」

 

全て自身が招いた事。

それが今になって姿を現し、あまつさえは基地の者達や別の基地の者達にまで迷惑をかけてしまった。

これ以上問題の先延ばしは出来ない。

必ず終わらせる。呟いた台詞の中にはそんな思いが交えていた。

エレベーターが最上階に到着したと音を鳴らす。

開かれるドア。開いた先に長く続く廊下には珍しい事に悪魔一匹もいなかった。

ただ彼を誘導する様に照明が奥にある社長室の扉を照らしているだけ。しかしブレイクは感じ取っていた。

社長室から放たれる魔の気配を。

 

「…」

 

相手の思惑など知った事ではない。

だが誘ってくるのであれば乗るのみ。

ブレイクはエレベーターから降りて社長室のドアへと歩き出した。

一歩踏み出す度に響き渡るのは履いているブーツの底が当たる音。遠く感じられた社長室の扉との距離が半分を切った時、ふとエレベーターが動き出す音が彼の耳に届いた。

足を止めてブレイクは後ろへと振り返るとエレベーターが下へ向かっている指す表示が光っていた。

誰かがエレベーターが呼んだ。考えられるのはギルヴァぐらいだが、分かる筈もない。

増援だったら面倒なので早々にカタをつけるべきだと判断した彼は再び社長室へと歩き出し、扉の前に立った。

悪魔が経営する会社。そんなものがこの世界でのさばっていた事すら許されない。

両手に握っていたアレグロとフォルテを構えると二丁の引き金を引いた。

それが拳銃によるものだとは思えない程の連射。吐き出される弾丸がドアに次々と風穴を開けていく。

そして銃弾の嵐にドアは木端微塵となって吹き飛んだ。

地面へ落ちていくドアの破片。転がる薬莢。漂う硝煙の中を通り抜けブレイクは社長室へと入った。

突然の銃声に全く動じていないのか、スーツを着た女社長…グレイス・モンゴリーは窓際に立ち、赤ワインが注がれたグラスを片手に外の景色を楽しんでいた。

窓に映ったブレイクの姿を一目見た後、彼女は笑みを浮かべ彼へと話しかける。

 

「やっと来てくれた。この時をずうぅぅっと待っていたのよ…?」

 

「俺は待ってねぇけどな」

 

肩を竦めて、彼はアレグロを素早くスピンさせてからグレイスへと銃口を向けた。

 

「お喋りしにきた訳じゃねぇんだが、一つ聞く。…婆さんを殺ったのはお前だろ」

 

「婆さん…?ああ、貴方がよく行ってた銃砲店のあの人の事ね」

 

最後の一滴を飲み干し、彼女は振り向く。

 

「ええ。殺したわ。だって貴方は私のもの、そして貴方は私を殺してくれる人。だからあんなババアは邪魔だった。どうせ遅かれ早かれ死ぬ存在。この世に無様に縋りつく位なら、早々にあの世に送ってあげた方があいつの為じゃない」

 

その表情は殺意が籠ったものではない。

笑みだ。満面の笑みが浮かんでいた。

まるで自分がした事は間違いなどではない。この行いは正しいのだと言わんばかりの笑みであった。

 

「…」

 

それに対しブレイクは珍しく軽口を叩く事はしなかった。

戦う力の一つであり相棒たるアレグロとフォルテを製作してくれた恩人をそんな風に言われたら憤りを覚えるのは当然の事。

人に害を与える悪魔は討つべき存在。その信念を貫いているブレイクからすれば、到底許せる様な事ではなかった。

だがグレイスは彼の怒りの炎に更に強くさせたと言っても良い程のとある事を口にした。

 

「あのババアもそうだったけど、あの酒場に居た金髪の人形もそう!私のものだと言うのに気軽に話しかけていた!民生用人形なら体でも売って大人しくしていればいいのにッ!!あの人形は、あの人形だけは許せなかった!!けしかけたあいつらを寄越して無様に死ぬ様は途轍もなく面白かったけどねぇ!!!」

 

それが誰の事を言っているのか不思議とブレイクには理解出来た。

グレイスの言う酒場に居た金髪の人形。そしてその人形は民生用だった。

該当する人形など一人しかない。

 

(…ローザか)

 

ローザ。

今ではOts-14、またの名をグローザと呼ばれる元民生用人形であり、ブレイクにとって今では公私共にパートナーと言える人形であり大事な存在。

今では元気に生きているが、再会するまで自分のせいで死なせてしまったと思っていた。

だが全て自身に非がある訳ではなかった。

どういう訳か自分に勝手に惚れてしまった悪魔が寄越した手下(悪魔)共によって殺されかけた。グレイスが自ら吐いたそれが証拠であった。

 

「成程ね…」

 

これ以上相手の話を聞く必要は無い。いや、その必要性はなくなった。

どんなに可愛い顔をしてようが、知った事ではない。

こいつは討たなくてはならない。どんな理由があろうが、どんなに許しを乞おうが関係ない。

仇討ちになるのかはブレイクにも分からない。

ただ討伐するのみ。相手が自身に殺される事を望んでいようとも。

 

「さぁ!殺し合いましょう!私が死ぬか、それとも私が勝って貴方に最高過ぎる程の平穏な余生と愛を与えるか!あぁ…!ああ…!!考えただけでも体が火照ってしまうわ!」

 

勝手に盛り上がっているグレイスにブレイクは呆れた様なため息をついた。

これ以上話す気はないと思っていたが敢えてそれを撤回。

妄想暴走しているグレイスに向かってアレグロを引き金を引いた。

銃声と共に放たれた銃弾はグレイスの頬を掠めるとそのまま窓に風穴を空ける。静まり返った社長室でブレイクはアレグロとフォルテをホルスターに納めながら口を開く。

 

「平穏な余生だと?興味ねぇよ」

 

背のリベリオンに手を掛け、笑みを湛えたまま彼はリベリオンの剣先をグレイスにへと突き付けた。

 

「人生ってのは刺激があるからこそ楽しいのさ。そうだろう?」

 

ブレイクがそのセリフを言い終えた時、両者は一気に動き出した。

甲高い音、爆発、銃声が響き合う。

 

「さぁ!さぁ!心行くまで踊りましょう!!」

 

グレイス・モンゴリー…否、グレモリーの攻撃は魔力で生み出した貫通力のある光弾や追尾してくる光弾などを飛ばし比較的遠距離戦を重視した戦いを得意としていると思いきや、いきなり魔力で作り上げた大剣を手に接近戦を仕掛けてくるなど遠近両方を得意としている様であった。

特に回避能力はずば抜けており、今まで見てきた悪魔達の様に高い耐久力に物を言わせ多少の攻撃では動じないタイプではなく、全ての攻撃を喰らうまいとまるで舞台の上で踊っているかの様に軽やかな動きでブレイクの攻撃を容易く躱していた。

 

「やりづれぇな!」

 

ぼやきながら、ブレイクは飛んでくる光弾をアレグロとフォルテで撃ち落していく。

その中で彼は思う。グレモリーの戦い方はまるで自分と似た戦い方をする。

かつて戦った悪魔でモノマネする悪魔(ドッペルゲンガー)と比べるとグレモリーは面倒な相手と言えた。

だが倒せない相手ではない。それだけは彼にも自信があった。

 

「あははははははっ!」

 

狂った様に笑いながら攻撃を仕掛けるグレモリー。

大剣による攻撃に合わせる様にリベリオンを振り上げ弾き飛ばしすと蹴りを叩きこみ吹き飛ばす。

どちらにせよこのままでは泥仕合になるのは明白。とっとと終わらせると決めた以上速攻で行くしかない。

 

「飛ばすぜ!」

 

エアトリックによる瞬間移動でグレモリーとの距離を一気に詰める。

目の前まで距離を詰められた事には流石のグレモリーも驚きを隠せなかったが手にしていた大剣を振い、それに合わせる様にブレイクもリベリオンを振う。

ぶつかる刀身。そこから繰り出しあう技の数々。凄まじいまでの剣戟。

そしてブレイクが動く。

わざと相手の攻撃でよろけたフリを見せつけ、攻撃を飛んでくるのを待った。

何か仕掛けてこようとは知らずにチャンスと見たグレモリーは大剣を突き立て突進。剣先がブレイクのすぐそこまで近づいた瞬間、赤い何かが駆け抜け彼女を吹き飛ばした。

 

「え…?」

 

何が起きたのかグレモリーには分からなかった。

ただ何かによって吹き飛ばされ、宙へと舞い上げられている。

そして反撃を受けた事しか分かっていなかった。

何をどうすれば一瞬の内に宙へ舞い上がらせる程の反撃が出せるのか。

その正体はロイヤルリリースと呼ばれる反撃技にあるのだが、もはやこればかりは彼の戦い方を直に見てきた者達にしか分からないだろう。

 

「これで落ち着いたか?それともまだ火照ってる感じか?」

 

ならよと呟きながらブレイクは新しい玩具…ケルベロスを取り出すと反撃で受けたダメージにより上手く動けないグレモリーへと跳躍。

 

「こいつで体を冷やしな!」

 

そのまま空中で体を回転させながらケルベロスをグレモリーに叩きつける。グレモリーが地面へと叩きつけれバウンドした時には既にブレイクはグラウンドトリックを用いて地上に降り立っておりケルベロスをヌンチャクの様に華麗に振り回した。

回避は出来ない。ただし攻撃に合わせて剣を振るう事は出来る。きつい態勢にも関わらずグレモリーは大剣を振るうがリベリオンを振るっている時以上に速度と手数を重視した攻撃に大剣は悉くはじき返され、防戦を強いられる。

思う通りに行かない事を感じ取ったのか先程まで笑っていたグレモリーの表情に険しい表情が浮かんだ。

 

「くぅ…!」

 

「よっと!」

 

下から上へとケルベロスを振り上げ、そこから飛びあがるブレイク。

宙で体を寝かせながら高速回転しつつをグレモリーへとケルベロスを連続して叩きつけていく。

着地と同時に強烈な一撃を叩きこみグレモリーの態勢が崩れるとそのまま彼はケルベロスからリベリオンへと武器を切り替え、剣先を突き立て突進。

リベリオンによる強烈な一撃がグレモリーの腹部に直撃し、大きな風穴を開け吹き飛ばす。

腹部から血を流しながら地面をバウンドしながら転がっていくグレモリー。慣性が漸く落ち着いた時には、もはや彼女は立つ事で精一杯だった。腹を抑えながら彼女は窓際に立つ。

そこにブレイクが歩み寄り、アレグロをグレモリーの顔へと突き付けた。

 

「ダンスにしちゃ今一だったな」

 

「私なりに振り付けを考えたのだけどね…満足させる事が出来なくて残念だわ」

 

息を荒くしながらもグレモリーは不気味な笑みを浮かべていた。

それがどういう意味を示しているかなどブレイクには分かる筈もない。

だがこれこそがグレモリーの狙いなのだ。

彼に殺してもらう事。そして新たな体を得て姿を現す事を。自分を見てもらい、そして殺してもらう。

それを何度でも続ける。それこそが彼女が望む殺し愛だ。

 

「さぁ私を殺して!そしてまた踊りましょ!!お互い心が結び合うその時まで!あははははッ!!」

 

殺せと言うのだ。

ならば望み通りあの世に送ってやろう。

ブレイクがアレグロの引き金を引きかけた時、戦闘を終えた社長室にある男の声が響いた。

 

「まだ二度目があると思っているとはな。愚かな女だ」

 

その声にブレイクはアレグロの引き金を引く指を止め、声の方へ向いた。

そこに居たのは本社の外で本を読んでいた筈のギルヴァ。彼の手には無銘と共に何故か対戦車ライフルが握られていた。

 

「今更来たのかよ?もう終わりかけなんだが?」

 

「そんな事は分かっている。ただそこの女に伝えなくてはならん事があって此処に来ただけだ」

 

ギルヴァの台詞に首を傾げるブレイク。

そんな彼を無視し、ギルヴァはグレモリーへと伝える。

最後の一人となり、死ぬ事によってこの悪夢を終わらせようとした彼女からの伝言を。

 

「お手製の憑代は奴が消したそうだ。貴様に二度目の生はもう訪れないとな」

 

「ッ!?」

 

ギルヴァの台詞を聞いた時、先程まで笑みを浮かべていたグレモリーの笑みが消えた。

今になってそれを気付いたか様にその顔は青ざめ、体は震えていた。

その様子にブレイクは察した。どうやらこの悪魔は再び自分の前に姿を現す策を講じていたのだと。

だが本人を気付かぬ内にそれが叶う事は出来なくなっていた。それも味方だと思っていた者による裏切りによって。

 

「成程な」

 

頷きながらアレグロとフォルテをスピンさせると二つの銃をグレモリーへと突き付けるブレイク。

死がすぐそこに迫っていると理解したグレモリーは先程までの笑みを無い。

死ぬ事を恐れ、命乞いする様な目を浮かべながら只々息を荒くする哀れな悪魔しかいなかった。

 

「じゃあこれで地獄に帰りな」

 

その台詞と共に二発の銃声が鳴り響いた。

頭部と胸部に銃弾を受けたグレモリーは撃たれた反動で吹き飛び窓を突き破り外へ飛び出る。

完全に息絶えた彼女は地面に激突。美貌を有した体はぐちゃぐちゃとなっており、原形すら残っていない。

空を見上げながら体を消失していくグレモリーを社長室からブレイクは静かに見下ろしながら、アレグロとフォルテをホルスターへと納める。

静寂が社長室を包む。ふとブレイクは静かに呟いた。

 

「…終わったな」

 

討つべき悪魔は討った。

もう思う事無い。その場から翻し赤いコートをなびかせながらブレイクは社長室を出ていく。

それに続く様にギルヴァも社長室を出ていくのであった。




本社編はこれにて終了です!

次回は…本店を制圧したシーナ側を描こうかと。一応次回を持ってoperation777は終了とします。
またシーナの知らぜられるほんの一部の過去を描こうかと。
そりゃあんな風に修羅になれるんだ…色々あるんですよ、彼女にも。

では次回ノシノシ


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Act161-Extra operation 777 Ⅵ

─その過去は傷ありだった─


違法カジノの制圧が間近となった時、ブラウ・ローゼによって解放された人質達を保護している仮拠点は慌ただしかった。

保護された人質達の怪我の治療を行ったり、腹を空かしている者達に胃に優しい食料を提供するなど作戦には参加しなかった戦術人形達や職員が何かに追われているかの様に急ぎ足で行き交う。そこはまるで銃声一つ鳴り響かない戦場の様だ。

かなりの人数が囚われていたのか、今居る人数でも対処出来るか怪しい。現に行き交う人形と職員達の顔には焦りの表情が浮かんでいた。

そこに一台の装甲車が仮拠点に到着しドアが開く。車内から降りてきたのはMG4とシーナの二人であった。

 

「指揮官様!?どうしてここに!?」

 

現れたシーナに小走りで歩み寄るのは親衛隊の様な黒い制服が特徴のSMGの戦術人形 MP40。

S10地区前線基地が発足当初から居る古参メンバーの一人である。

今回は作戦には参加せず、仮拠点での人質の介抱に就いていた。

 

「カジノの方は殆ど制圧済みだからそっちの方に行ってこいって教官に言われてね。だからこっちに来た。それでMP40、手を必要としている所は?」

 

「食料提供班の手助けをお願いします!私は医療班の方の手助けに入りますので!」

 

「うん、分かった」

 

シーナからの了承を得られるとMP40はお願いします!と一礼してから医療班がいる方へと駆け出していった。

向かって行く彼女を見届けるとシーナは傍らに立つMG4に視線を飛ばす。

その視線の意味を理解したMG4は頷き、歩き出したシーナの背を追った。先行くシーナの背を追いながらMG4は周囲を見渡す。

銃砲店やガンスミスを生業をしていた者達が一時的でありながらもパートナーだった人形や子供の介抱をしている様子、自分よりも怪我人を優先する者達がいる様子が目に映っていた。

自分は元気だから、自分よりも怪我人や人形、子供達を優先してくれという声にMG4は己の内の中にある何かが温まる感覚を覚えた。

だが今は和んでいる場合ではない。一刻も早く援助へと向かわなくてはならない。

頭を切り替えてMG4は既に援助にへと動き出したシーナの傍に歩み寄り手伝い始める。協力して食料を渡していく二人。そして偶然にも二人は人質として捕まっていたロック・ゴールドスタインとIWS2000の傍へと歩み寄っていた。

 

「どうぞ」

 

「ん?ああ、ありがとう」

 

MG4から渡された食料にお礼を伝えながら受け取るロック。

彼の隣にいたIWS2000を見て、何かを確信した様な表情を浮かべたシーナが彼女の前で片膝を着き声を掛けた。

 

「私はS10地区前線基地の指揮官、シーナ・ナギサ。…怪我はない?IWS2000」

 

「大丈夫です。…運が良かったんでしょう。私とロックさんは酷い事はされなかったので」

 

「…そっか」

 

確かに二人は運が良かった。

捕まっていた人質の中にはパートナーを死なせてしまい、自分だけが助かってしまった事に涙を流す者達の姿もあった。

その姿を見て胸に手を当てながらシーナは口を開く。

 

「理不尽によって大事な者が奪われた時…残された者の痛みは直ぐに取り除く事は出来ない。時間掛けて割り切るか…あるいは何かで埋める事でその痛みを紛らわすしかないんだよね」

 

その台詞が聞こえていたのだろう。

彼女の近くで渡された食料を口にしていたロックが不思議そうな表情を浮かべながらシーナに話しかけた。

 

「…まるで経験してきたみたいな言い方をするんだな?」

 

「…まぁ私も色々あったからね。ただ…埋める方法は決して良いものではなかったけど」

 

ロックの問いに対し頷き肯定を示すシーナ。

その表情は寂しい笑顔が浮かんでいた。

そこから先は聞かない方が良い。そう思ったロックが必要以上に問う事はしなかった。

 

(…神様ってのはこんなにも若い少女に何か恨みでもあんのかね)

 

ただその胸の内ではこの世界を見ている神様に対し愚痴を呟いていた。

 

 

二人が加わった事により何とか落ち着き始めた仮拠点。

今でも人質の介抱は行われているが、人手は十分に足りているのか簡易的な指示を飛ばした後シーナとMG4は戦闘を続けているカジノ組と通信を取っていた。

通信に応対してくれたのは、AR小隊のM16A1であった。

 

『残存勢力は少なくはないが、ネロが派手に暴れ回っているのもあって五分もせずに片付くだろうな』

 

「分かった。戦闘終わり次第、予定通りカジノの爆破。良いね?」

 

『了解。あとソルシエールはそっちに向かわせた。何もないと思いたいが、一応念の為と思ってな』

 

「うん、ありがとう。…気をつけてね」

 

『了解。さて早めに終わらせて一杯飲まないとな』

 

通信を切り、シーナは装甲車から下りる。

その時、一発の銃声が鳴り響いた。

 

「!」

 

カジノの方からではなかった。

もっと近く。それも解放された人たちが居る方からであった。

良からぬ事が起きている。シーナがそう認識するまで一秒も要らなかった。

ホルスターに納めてあったM92Fを引き抜くと同じく銃を手にしたMG4と共に駆け出した。

二人が到達した時仮拠点では子供や人形、怪我人に守る様にガンスミス達が前に立ち、そして戦術人形達が銃を構えてある方向へと向けていた。

銃口が向けらている先に居たのは、少女の頭に銃を突き付け騒ぎ立てる男が一人。

ただその出で立ちは傭兵らしかぬ小奇麗なスーツを身に纏っていた。

 

「クソ!クソ!!クソ!人形が居なきゃ何も出来ねぇ連中が調子こきやがって!!テメェらのせいで取引が台無しだッ!!美味しい汁を吸っていける所まで来ていたと言うのによぉ!!」

 

どうやら男は傭兵ではなく、カジノで何らかの取引を行おうとしていた売人だったのだろう。

スーツ姿はそういう事なのだと誰もしも理解し、戦術人形の一人が叫ぶ。

 

「投降しなさい!逃げ場などありません!」

 

「うるせぇ!テメェらこそ銃を下ろしやがれ!!ガキがどうなってもいいのか!!ああ?!」

 

人質として捕まっている少女は助けてと泣きながらその言葉を口にしており、体も酷く震えていた。

このままでは不味いと判断したシーナが戦術人形達の前に出て指示する。

 

「全員銃を下して。今すぐ」

 

「しかし!」

 

「下して。これは命令よ」

 

そう言われれば戦術人形達も従うしかない。

男に睨みを聞かせながら相対するシーナ。男はシーナに銃を向けた時、何かを思い出したのか突如としてその顔が青ざめた。

銃を構える手を震えており、その様子に戦術人形達も状況が分からず困惑した表情を浮かべていた。

 

「お前…お前、あの菓子屋のガキの…!間違いねぇ!テメェ【ペイン】だろ!?何で生きてやがるんだ!?死んだ筈だろ?!」

 

その台詞を理解出来たのはシーナだけであった。

周りの者達は益々困惑した表情を浮かべ、シーナは被っていた制帽の唾を摘まみ深く被る。

鋭い目つきが男を睨みつけ、纏う雰囲気もかつて見せた修羅の様だ。

 

「成程…。貴方は生き残りね…?」

 

「ああ!そうだよ!テメェのせいで何もかも失った!…テメェさえ…!テメェさえいなければッ!!」

 

少女の頭に突き付けていた男の銃がシーナへと向けられる。

流石に不味いと感じMG4含む戦術人形達も銃を構えようとした。

引き金に指が掛けられた時、突如として男は痛みに悶える様な声を上げた。

何が起きたのか。その場にいた誰もが言葉を失う中、ワーロックの機能を用いて背後から男に近づいていたソルシエールが姿を現した。

 

「指揮官にも手を出されたら困るけど、その子にも手を出されたら困るんだよね」

 

浮かんでいた表情は笑みでも目は笑っていない。

まるで万力の如くソルシエールは男の腕を締め上げ、手にしていた銃が落ちたのを確認するとそれを蹴り飛ばし、無力化した後に男を蹴り飛ばし少女を抱き寄せる。

素早くその場から離れ、味方の射線上から飛び退きつつソルシエールはシーナへと視線を飛ばす。

それに対しシーナは頷き、上半身を起こし睨みつける男の傍にへと歩み寄る。

銃身をスライドさせ、薬室に銃弾を送り込むとシーナは男へと銃口を向ける。だが男は諦めていないのか、怒鳴り散らす。その姿は余りにも哀れと言えた。

彼女の冷たい瞳が男を睨み、引き金に指が駆けられる。

 

「…あの世で反省会でもしていなさい」

 

その台詞の直後、シーナは何の躊躇いもなく引き金を引いた。

乾いた音と共に男の頭に風穴が開かれる。

転がる薬莢。漂う硝煙の中、シーナは絶命した男をジッと見つめていた。

戦術人形達からすればその背は余りにも寂しく感じさせ、男とシーナのやり取りを聞いていたロックは思い出したのか様に呟いた。

 

「ペインって…単身でマフィアをぶっ潰したっていう…?」

 

その声が聞こえていたのかMG4はシーナの背を見つめる。

ロックが言っていた事が本当なのかは彼女にも分からない。

聞く事だって出来たかも知れない。

だがMG4は聞こうとはしなかった。今はそれを聞くべきではないと判断した為である。

 

(…シーナ指揮官、貴女は一体…)

 

只の指揮官ではない。

今回の一件でそれだけはその場にいた戦術人形達が感じ取った事であった。




これにてoperation777は終了です!

今回参加して頂いた方々、ありがとうございました!!
また何かあればよろしくお願いいたします!!

今回はシーナ指揮官の過去に何かあった、という感じの話でした。
今後も彼女の過去に触れる話も導入していこうかと思っています。
次回…operation777が終わった以降の話と…とある所への配達の前触れ編をえがきましょうか。


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Act162 Delivery preparation

─戦いは終えた─

─ただ謎は全て明らかにはならない─

─同時に配達時間が訪れた─


朝陽が昇った時戦場と化していたカジノは既に跡形もなく消え去り、その場に残ったのは只の更地だけであった。

最後の仕上げも無事完了した事により作戦は成功した。

ただし戦闘は終えただけであり、S10地区前線基地の仕事は終わってなどいなかった。

人質として捕まっていた者達を元の居場所へと帰す仕事が残っていたのだ。

大人数が捕まっていた事もあって流石にS10地区前線基地の者達だけでは時間が掛かり過ぎてしまう事に懸念を抱いていたのかシーナが他の基地に協力を仰いだのはすぐの事であった。

そうしてS10地区前線基地、及び他の基地による送迎サービスが数日間掛けて行われたのはごく最近の事であった。

そして今日。S10地区前線基地では送迎サービスを必要する最後の一人…ロック・ゴールドスタインtと謎の不調を調べるためにI.O.PにIWS2000を送る日がやって来た。

まずは最初に送る事になったのはIWS2000。

性格なのだろうか。基地のヘリポートで彼女は助けてくれた者達一人一人にお礼を伝えて回っていた。

全員にお礼を伝えると彼女はロックの前に立ち、そっと手を差し出した。

 

「…傍に居てくれてありがとうございました。ロックさん」

 

「お礼を言われる程の事はやってない。ただ行き合わせが良かっただけさ」

 

戦術人形とは言え、目の前に居るのは美少女。

それも漫画かアニメの世界から出てきたのではと思いたくなる程の美貌を兼ね備えた少女。

そんな少女にお礼を言われたら、ロックとて悪い気はしなかった。

差し出された手を握り返し、彼は微笑むと何かを思い付いたのかある事を話しだした。

 

「戦術人形だから銃の手入れにガンスミスの助けなんぞ要らねぇと思うが、もし必要となったらフシール・ハンデルという町に来てくれ。そこでRock's Guns&Ammoって名前で店を経営しているからさ。凄腕という訳じゃねぇがあんたが来た時は整備位は格安でやってやるよ」

 

「はい!その時はお願いしますね」

 

最後の握手を交わし、IWS2000は最後に全員へと一礼してからI.O.P行きのヘリへと乗り込んだ。

扉が閉じられ、彼女を乗せたヘリはゆっくりと上昇。そして送り先へと向くとヘリはそのままローター音をお響かせながら基地から飛び立っていった。

段々と小さくなっていくヘリを見つめながらシーナは疑問に思った。

何故彼女が今まで不調を抱える事になってしまったのだろうかと。

その疑問が顔に出ていたのだろう。シーナの隣で腕を組みながら立っていたパイソンが答えた。

 

「バグの原因は明らかになっていない。だがある日を境に銃を撃つ事はおろか、握る事すら出来なくなったそうだ。まるで銃にトラウマを抱えている様にな」

 

「…ある日を境に、ですか」

 

「言っておくが不調を起こす前の日に何があったか、それに関しての詳しい事情は知らん」

 

「…」

 

ある日を境に起きたIWS2000の不調。

きな臭い感じがしたのか、シーナの目つきが変わる。

被っている制帽の唾をつまんだ。その癖を見せると止めろと言わんばかりにパイソンが雑に彼女の頭にへと手を置いた。

 

「何を考えているかは何となく分かっているが不要だ。いずれ明らかになるだろう」

 

新米だった時のシーナの事を知っているからこそだろう。

パイソンが彼女の頭を撫でる手つきは優しさに満ちていた。

最も誰かにそれを指摘されなければパイソンも気付く事もないだろうが。

成すがままに頭を撫でられるシーナは観念したかの様に小さくため息をついた。

 

「はあっ…分かりましたよ」

 

「それでいい。…融通が利くか利かないかに関しては新米の時と比べるはマシになった方か」

 

「…貴女の元で色々教わりましたからね。昔と比べると落ち着いていますよ」

 

「だろうな」

 

頭に置いていた手を退けるとパイソンはヘリポートを後にしようと出口へ向かって歩き出した。

彼女もまた迎えが必要とし、空路でなく陸路で本社へと戻る事になっていた。

既に迎えは来ているのでこのままヘリポートを出て基地の外へ向かえば良いのだが、何かを思い出したのかふと足を止めてパイソンは背を向けたままシーナへとある事を尋ねた。

 

「シーナ。貴様、今幾つになった」

 

「18です。あと少しで19になりますね」

 

「そうか。…最後に墓参りに行ったのは何時だ」

 

その事を問われた時、シーナの様子が変わる。

生まれる沈黙。風が吹く音だけその場を支配した時、彼女は帽子を深く被り表情を隠しながら答えた。

 

「五年前ですね…。それからは一度も」

 

その答えにパイソンは何処か呆れた様なため息を吐いた。

 

「…いい加減自分を許したらどうだ。お前がそのままでは二人も浮かばれんぞ」

 

「…覚えておきます」

 

「…その言葉、覚えたからな」

 

その言葉を最後にパイソンはまた会おうと伝えてから、ヘリポートから去っていった。

訪れる沈黙。誰も言葉を発しない。

そんな中、シーナは小さく呟いた。

 

「許せる訳がないでしょ…」

 

まるで自分に言い聞かせる様に呟いたセリフは風が吹く音によってかき消されるのだった。

 

 

IWS2000がI.O.Pへ、パイソンが本社へと戻っていった後、ロックはシーナの命令により送迎を頼まれたMG4が運転する車両の中に居た。

まるで自分が何か犯罪をやらかした様な気分を感じながら、揺れる車内で彼は頬杖をつき外を眺めていた。

基地を出てからそれなりに時間は経っている。にも関わらず車内は沈黙に包まれている。

その時、運転していたMG4が後部座席に座っていたロックにある事を尋ねた。

 

「ペイン…その名は何処で聞かれたのです?」

 

「町の酒飲み共が話しているのをつい聞いてな。それがどうしたんだ?」

 

「いえ…少し気になったので」

 

ロックが呟いたセリフが今でもMG4の電脳には残ったままであった。

単身でマフィアを壊滅させたとされる謎の人物、ペイン。

そしてあの時、少女を人質にして怒鳴り散らしていたスーツ姿の男はシーナを見て【ペイン】と呼称していた。

関連はある。そればかりは間違いなかった。

正直な所、MG4はペインと呼ばれる人物がシーナだとは思いたくなかった。だが今まで彼女が見せた少女らしからぬ所を見てきた為、どことなく納得してしまっている自身も居た。

 

(そういやこの嬢ちゃん…あの若い指揮官と一緒に居たな)

 

ふとシーナと共にMG4が一緒に居た事を思い出すロック。

ペインについて聞いてきたのも指揮官たる彼女の事が気になったからだと判断し、自身が知る限りの情報を明かした。

 

「詳しい事は知らんが…聞いた話だとペインって奴はマフィアに相当の恨みがあったらしい。どうやら両親が殺された上に家を焼かれたとか」

 

「何故マフィアがその家族を…?」

 

「さぁ、そこまで分からない」

 

こればかりはシーナに直接聞かないと駄目だとMG4は思った。

得られる情報がないと判断すると、そのまま運転に集中。

フシール・ハンデルに到達するまでの間、車内で会話が弾む事はなかった。

 

ロックを乗せた車両がフシール・ハンデルに到着したのは正午を過ぎた時であった。

停車した車から降り、久々に見る自身の店の看板を見上げた時、ふと運転席に座っていたMG4が声を掛けた。

 

「これを」

 

そう言ってMG4が着ている服の懐から取り出し、ロックへと差し出したのは一枚の写真であった。

見られたくないのか、或いはそれ以外の理由があるのか。ご丁寧に映っている部分を裏返してまで。

 

「えっと…どういうことだ?」

 

いきなり裏返されたままの写真を渡されては誰だって困惑する。

写真を受け取りながらもロックは困惑した様にMG4に尋ねた。

 

「ある人から渡す様に頼まれまして。…貴方の母親が作った最後の作品を使っている方から貴方にへと」

 

「!」

 

最後の作品。

その言葉を聞いた途端、ロックは驚愕し、すかさず写真を裏返した。

そこに映っているのは白と黒の大型二丁拳銃。

そう、それはブレイクが愛用するアレグロとフォルテである。

シンプルかつ美しい。幼少期の時から母の作品を見てきた彼からすれば、一目見ただけ分かる。

母の作品だ。それも最高傑作とも言える程に。

 

「…はは、こりゃすげぇな。流石はマ…」

 

ついマミィと言いそうになり、ロックは口を噤んだ。

口癖というべきか、彼は今は亡き母の事をマミィと呼ぶ癖があった。その事で何度か馬鹿にされた事もあった為か、人前で居る時はマミィと呼ぶのを控えていた。

 

「流石は母さんだな…。今の俺でも到底追い付く事が出来ねぇな…」

 

「…」

 

MG4もロックの母親が既に亡くなっている事を写真を渡す様に頼んできた人物から聞き及んでいる。

母親と同じ道を歩む様にロックもまた銃砲店を営んでいるが、その腕前は決して母親ほどとは言えないのだと察した。

だからといって腕前に関してどうこう言うつもりはなかった。彼には彼なりの特徴がある筈だと思ったからである。

 

「その写真を渡した本人から伝言です。今は行けないが、暇があったら相棒の整備を頼む、と」

 

「!…ああ、いつでも待っていると伝えてくれ」

 

「分かりました。…どうかお元気で」

 

その言葉にロックが頷くとMG4はアクセルを踏み、車両をS10地区へと向けて走らせた。

シーナの過去に関する事、ロック・ゴールドスタインに関わる事…。

多くの謎が一部明かされた感覚を覚えながら、MG4は運転に集中するのであった。

 

 

MG4が基地へ向かって戻っている一方でS10地区前線基地のマギーの部屋では、部屋主であるマギーと何故か私服姿のシーナとルージュが居た。

作業台の上には双刃を有しながらもその姿は槍を彷彿とさせる武器の内部機関を弄るマギー。未完成であるそれの内部機関にはかつての大型作戦にてリホ・ワイルダーから譲渡された武器、そしてマギーの手によって修理された武器【八卦炉】が内蔵されていた。

一体何を作る気なのか本人にしか分からず、黙々と作業する彼女の後ろ姿をシーナとルージュが見つめている中、部屋にとある二人が訪れた。

一人は黒いコートを羽織り右腕に義手を装備した黒髪の少女、もう一人は青い刺繡が施された黒いコートを羽織った銀髪の青年。

 

「呼ばれて飛んできたぜ、マギー。用はあるっていたが、何の用だ?」

 

義手をした黒髪の少女…ネロが作業しているマギーへと声をかけると、呼ばれた本人は作業していた手を止め、振り返った。

煤が頬に付着している事を気にする様子もなく、マギーはネロの問いに答える。

 

「少し配達をお願いしたくて」

 

手に持っていた工具を工具入れへと納めるとマギーは傍に置いてあったいくつかのアタッシュケースを作業台とは別の机の上に置いた。

中に何が入っているかはマギーを除く、この場にいる四人が分かる筈もなかった。

ただ─

 

「パーティーに良く参加してくれる隣の基地の方々にこれらを配達してくれませんか?勿論報酬は出しますよ?」

 

マギーの口から出たその台詞に何処へ配達するのかは四人とも察するのであった。




今回はoperation777の後の事を描きましたが、色々とごっちゃしてるのでお許しを。

さて次回は配達かな。
おもしれぇの送るしかねぇな…。

では次回ノシ


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Act163 Devil's delivery service Ⅰ

─悪魔どもの宅急便─


晴れ晴れとした空。

雲一つなく広がる青空の下、何度も踏まれ固められた道路を一台の車両が駆け抜けていた。

その車両はかつて試験運用の際にネージュの専用装備 パトローネを運搬する為に使用された大型トレーラーであり、今回は配達の品が多い為、何時もの車両ではなくこちらに乗ってルージュの運転の元、ギルヴァ達は隣の地区へと向かっていた。

揺れる車内。備え付けのオーディオから流れるラジオは他愛の話で盛り上がっている。目的地に着くまでの暇つぶしには丁度良いのだが、流石に聞き飽きたのか助手席に座っていたネロがうんざりした様な表情を浮かべた。

 

「全く碌な番組がねぇな」

 

そう言ってラジオのスイッチを切ると動いているにも関わらず彼女は助手席から立ち上がると、後部座席に座っているギルヴァとシーナの間を抜けていくと車内の後ろに置かれてある年代物のジュークボックスへと歩き出しながら、ふと口を開いた。

 

「で、何でシーナまで一緒に居るのか聞いても良いか?」

 

ジュークボックスの選曲ボタンを押しながら、ネロはシーナの方へと顔を向ける。

マギーの部屋に訪れた時から何故か私服姿だった事に気になって仕方なかったのだ。問われたシーナはネロの方へと振り向き答えた。

 

「えっと……休めってへリアンさんから言われてね。しかも今日の朝に突然」

 

「にしちゃ何かあるって感じみてぇだが?休めって言われたぐらいじゃそんな顔にはならないだろ」

 

ネロの目からしてもシーナの今の表情は何処か引き攣った笑みを浮かべていた。

その表情こそが何かあると思わざる終えなかった。

それを指摘されたシーナは頬を指で掻きながら答える。

 

「…グリフィンに入ってから今に至るまで全く休んでいないのがバレて。おまけに教官が私が全く寝れていない事に気付き、それをへリアンさんに報告した事によって…その、えっと…」

 

全部を聞く事もなくネロは察した。

要はシーナが全く休んでいない事がバレてしまい強制的に休まざるおえなくなったのだと。

だが彼女が強制的に休まされる事になったのは、丁度良かったと言えた。

ネロも、そして運転しているルージュも気付いていた事ではあったが、シーナは睡眠時間を削ってまで執務に没頭している事は多かった。

故に深夜の三時や四時に寝て、朝の六時に起きると言った生活を送っていた。下手をすれば二、三日一睡もしないという事もありS10地区前線基地に所属する者達は何時か倒れてしまうのでないかと心配する程。

中には休む様に求めた者も居たが、自分は元気だからと言ってシーナは休もうとはしなかった。

だが今回ばかりは休まないという選択は出来なかったからこそ今がある。

休む様に命令したへリアンと休んでいないという事を報告したパイソンの行動には今頃賞賛の声が上がっている事であろう。

 

「ま、命令されたからにはそれを全うしねぇとな。思う存分羽を伸ばせよ」

 

「それは分かっているけど。いざ休むとなれば何をしたらいいのか分からなくてね…」

 

「…マギーがお前を部屋に呼んで、配達に同行させたのが良く分かるぜ」

 

マギーも言外に休めという事を伝えたかったのだなとネロは思った。

 

「どうせだ。向こうの基地には行った事ねぇんだ。遊びに行く訳じゃねぇが、顔を出しても良いだろ」

 

「だね。それに以前のカジノ制圧作戦に向こうの基地の部隊…確かヤークトフントだったかな。そこが協力してくれたみたいだが、お礼もしないと」

 

そう言ってシーナは抱えているバスケットへと視線を下ろした。その中には福詰めされた彼女お手製のクッキーが入っており、ほんのり甘いクッキーもあれば、少々ビターな味わいの特徴のクッキーなどその種類は多い。

わざわざ多種類作らなくてもと思う者は居るだろうが、彼女からすればどの味が好みなのか分からないので、敢えて多く作る方が良いと考えている。

加えて言うのであれば、味が一つだけと言うのは少々寂しいとの事らしい。

 

「S09 P地区に入りました」

 

ネロとシーナが会話を広げている内に運転しているルージュは隣の地区に入った事を告げた。

地区に入ったとは言え、基地に着くまではまだ距離がある。

ふとルージュがシーナへと問いかけた。

 

「そう言えばこちらが配達に向かう事に向こうは了承済みなのですか?」

 

「マギーさんが言うには既にキャロルさんから了承を得ているみたい。だから大丈夫だよ」

 

「そうですか。ではこのまま基地へ向かいましょうか」

 

「うん。安全運転でお願いね」

 

「仰せの通りに」

 

安全運転をお願いされ、ルージュは頷く。

そのまま四人を乗せたトレーラーは基地へ向かって行くのであった。

因みにであるが基地に到達するまでの間、ギルヴァは静かに読書に没頭していた。

 

 

S09 P基地…今では早期警戒基地と名称が変更されており、S10地区前線基地との付き合いは過去に行われた大型特殊作戦【operation End Of nightmare】がきっかけである。

手助けしてもらったお礼にマギーお手製の武器を渡したりなどしており、特にランページゴーストのノアが持つシュトイアークリンゲ、アナが持つアジダートとフォルツァンドはマギーのお手製品だ。

その他にも渡されているのだが、今回は割愛。

大型トレーラーが基地の敷地内へと入っていき、停車すると四人が降りてくる。

ギルヴァからすれば三度目の来訪、ネロは二度目、ルージュとシーナからすれば初の来訪である。

 

「やっほー、待ってたよ」

 

「遠い所から態々ご足労いただきありがとうございます」

 

そして四人の来訪を出迎えてくれたのは、ランページゴースト所属のRFBとアナであった。

代表としてシーナが応対する。

 

「いえ、寧ろ突然の来訪にご迷惑をおかけして申し訳ありません」

 

「お気になさらず。配達に来るという事は聞いていますので。…にしても今日は私服なのですね?シーナ指揮官」

 

「ええ。あんまり休んでいない事がバレてしまって、それで今日は非番です。そう言えばノアちゃんの姿が見えないのだけど…」

 

ランページゴーストと言えば、四人の出迎えに来てくれたアナとRFB、そして隊長であるノアの三人。

しかしこの場に隊長たるノアの姿はなかった。

何かあったのだろうかと思っているとRFBがシーナの問いに答える。

 

「隊長なら今、哨戒任務に出ているよ。任務が終わったらすぐ行くって」

 

「分かった。それじゃあ…」

 

振り向き、シーナはネロとルージュへと視線を飛ばし頷く。

その意味を理解したのか二人はトレーラーの荷台へ歩き出していった。そこから運び出されるのはこの基地へと送る配達の品々だ。

 

「配達の品々の確認、お願い出来ますか?」

 

「はいはーい!色々あるみたいだし…んじゃそれを一旦訓練室に持っていこっか!手伝うよ!」

 

人手は多いに越した事はない。

ネロ、ルージュに混ざってRFBも運搬作業を手伝い始める。

流石に作業が終わるまで見ている気はないのかギルヴァも手伝い始めようとした時、傍にいたアナが彼を呼び止めた。

 

「あの時は助かりました」

 

あの時。

それがどの時の事を言っているのかはギルヴァは分かっていた。

雨降りしきる工場地帯。謎の勢力に圧倒され、彼女達の撤退の時間稼ぎをする為にギルヴァとルージュが殿を務めた事。その時のお礼だと。

 

「礼を言われるまででもない。必要と感じやっただけに過ぎん」

 

だがギルヴァと言う男は素直に礼を受け取ろうとはしない男である。

この場でブレイクが居たら確実に彼を煽り、そこから喧嘩勃発は間違い無し。

とは言えここはS10地区前線基地ではない。知り合いの基地。

例えブレイクに煽られようがこの基地に迷惑が掛かる様な真似はしないだろう。

 

「素直ではないのですね」

 

「…かもな」

 

決して振り向く事もなく、ギルヴァはそのまま運搬作業を行っているシーナ達の元へ歩き出した。

その後を追う様にアナも歩き出すのであった。

ふとギルヴァはとある事を思い出した。今回の配達はノアのシュトイアークリンゲ用のメンテナンスキットとその他の配達となっている。

だがそこで自身から何かを渡してはいけないという制限は依頼主から言われていない。

 

(…託してみるのも一興か)

 

ちらりと彼はアナの方を見るも再び前へと向く。

この時、彼はとある物を作り出そうとしているのだがそれを知るのは彼の中に居る蒼だけだろう。

そしてその行動に蒼がカラカラと笑いながら彼へと指摘する。

 

―それって託すレベルのもんじゃねぇよな?今のままでも十分人形という枠を外れているというのに本気止めさす気かよ

 

本当に彼は何を作ろうとしているのか。

二人を除き、知る者は居ない。




前々からお隣の基地に配達へ伺おうとしていたので今回からその話に突入。
そして一旦ここで切ります。
次回は配達の品の確認だぞ。

おや…ギルヴァ兄貴、何をやるつもりで…?

では次回ノシ


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Act164 Devil's delivery service Ⅱ

─これから先、手を借りる事はあるのだ─

─ならばそれ相応の物を用意しよう─

─それがS10地区前線基地にやり方なのだ─


大型トレーラーの荷台から基地内部の訓練室へと送り込まれた配達品。

その数は何気に多く、内幾つかがどう考えてもメンテナンスキットとは思えぬ物が混じっていた。

本来であればノアにシュトイアークリンゲのメンテナンスキットと+αを渡すのだが、当の本人は今哨戒任務に出ている為、直ぐには戻ってこれない。

 

「うーん、中身が気になる所だけど…そっちの配達は隊長宛なんだよね?」

 

RFBの言う通りであり、アナもその認識でいた。

しかしルージュが首を横に振った事で流れが変わり、RFBもありゃ?と困惑した声を上げた。

 

「ノアさんへの配達だったのですが…実は追加の配達を頼まれまして。もう一人、品を渡さないといけないんです」

 

「そうなの?じゃあ誰に送る事に?」

 

「貴女にですよ、RFB」

 

「へぇ~、そっかそっか、私かー……ん?」

 

漸く自分宛の品がある事を理解し始めたのか、段々とRFBの表情が引き攣った笑みへと変わっていく。

ゆっくりと人差し指で自分を指すRFBにルージュはニッコリと微笑み頷く。

これで自分宛の荷物が確定した。どう言葉にしたらいいのか分からないRFBを他所にルージュが彼女宛の品を持ち出してくる。

それは配達の品の中で一際大きいアタッシュケース。黒を基調とし一筋の黄緑のラインが描かれている。

どう見てもRFB用に製作されたものだと誰しもが言葉にする事もなく理解しており、ルージュがアタッシュケースを開いた。

そこに入っていたのは…

 

「盾?」

 

中身を見てRFBが呟いた通り、入っていったのは大型の盾。

しかしその形は盾とは言い難く、まるで十字架を模った形をしていた。黒色に彩られた装甲、縁の部分は黄緑色で彩色されている。

 

「ただの盾という訳ではないですよ。ブレイクさんから貴女の戦い方を聞き、マギーが一から全て作り上げた一品です」

 

「素材回収に俺が振り回されたけどな…」

 

ルージュが作られた経緯を話す一方でげんなりとした表情でネロが呟く。

どうやら素材にはカジノ本店で現れた片手剣と盾を装備した悪魔の盾の部分が使用されており、その回収にネロが動き回ったのは一部の者しか知らない。

そしてRFB用に製作された大盾【R.ガード】にはブレイクが利用する戦闘スタイル【ロイヤル・ガード】を疑似的に再現した機構が内蔵されている。

城塞の如き防御力と一発逆転という特徴を有した攻防一体の盾と言っても間違いないだろう。

 

「でも盾なんて…実際スーツがある訳だし」

 

確かにRFBの言っている事は間違ってなどいなかった。

彼女には例のスーツがある。

高い防御力、機動力を誇るスーツがあれば、今更盾を渡された所で無用の長物だろう。

 

「ええ、スーツの事は聞いています。確かに不要と感じるでしょうが理由はある。…元よりこの盾は悪魔との戦闘を想定して作られたものですから」

 

「…!」

 

「以前の作戦もそうでしたが…また貴女方に協力を仰ぐ時が来るかも知れません。そうなった時、低級、上級問わず悪魔との戦いが発生する。悪魔と言えど決して一種類ではない。擬態するもの、魔術を得意とするもの、高い再生能力や体内に毒を持つものも居る。強力な悪魔とも渡り合える様にする為、これを貴女に渡すのです、RFB。それとこれは私の個人的な感情ですが、貴女達には死んでほしくないと思っています」

 

普段から大人しいだけあって、饒舌に喋るルージュの姿はシーナ達にとって珍しいと言えた。

その視線に気付いたのか、ルージュは顔を逸らして自身の表情を隠した。

 

「と、取り敢えず受け取って下さい。機能に関しては私が説明致しますので」

 

どうやら少々気恥ずかしかったみたいだ。

流石に顔が赤くなっている事を指摘すればルージュでも怒りかねないだろう。RFBは分かったーと頷きアタッシュケースに収められている大盾【R.ガード】を手に取った。

 

「おー…軽い」

 

見た目に反してその軽さに驚くRFB。

それもその筈でR.ガードの装甲は素材として回収された魔界製の盾が使われている。

ちょっとやそこらでは傷つく事もない上に、同時に軽量。魔界製は大体その様な物が多い。

 

「機能に関してですが、魔力による障壁を生み出す特殊機構がその盾には内蔵されています。使用者に意思に反応し魔力による障壁を展開。タイミング良く受け止める事が出来れば、ダメージを負う事無く防御する事が可能です。また攻撃を受け止めた際はそれをエネルギーへと変換、蓄積。盾の内側にどれ程蓄積されたのか分かるメーターが内蔵されています」

 

「いたり尽くせりだね…。それでその蓄積したエネルギーはどんな使い道が?」

 

「基本的には反撃として利用されます。一番の目玉は【リヴェンジ】でしょうか」

 

「リヴェンジ?」

 

「はい。RFB、盾の持ち手を手前に引き、左へと回転させてくれますか?」

 

「よく分かってないけど…取り敢えずそれをすればいいんだね。…よいしょっと!」

 

ルージュの指示通り、RFBは盾の持ち手を手前に引き、左へと回転させた。

その瞬間、何かの起動音が響き渡りR.ガードは変形を開始。

音を立てながら変形していく十字架。十字架の長辺部分の装甲が展開され、開口型砲身へと変形。盾の持ち手は銃の持ち手へ変形し、RFBの前にその姿を晒す。

 

「え…?」

 

変形した盾を見てRFBは言葉を失う。

そこにあったのは十字架の形をした巨大な狙撃銃だったからだ。

否、狙撃砲と言った方が正解だろう。変形したそれの口径はもはや銃という枠から外れている。

そしてこれこそがルージュの言う一番の目玉と言える【リヴェンジ】と呼ばれるものの正体だった。

 

「一発逆転であり一撃必殺。エネルギーを最大にまで蓄積した時のみ使える形態。全てのエネルギーを消費して撃ち出す一発はどんなに体格が大きい悪魔でも一撃で沈める事の出来る代物。良かったですね、貴女も立派なデビルハンターに昇格です」

 

「これを見せられた上にそれを言われてもどう喜んだら良いのか分からないのだけど!?」

 

「ふふっ、貴女と共闘できる日が来るのが楽しみです」

 

「現実から目を反らさないで!帰ってきてよ!ルージュ!?」

 

結局の所RFBの叫ぶが届く事もなく現実から目を反らす事に徹したルージュ。

後はRFB自身がどうにかするという事で収まったのだが、ノアが哨戒任務から戻ってくるにはもう少し時間は掛かる様であった。

どうしたものかと思った時、ギルヴァがアナへと一声かけた後にある物を投げ渡した。

投げ渡されたそれをキャッチするアナ。それを見て彼女は驚きながらも困惑した声を上げた。

 

「えっと…」

 

彼女の手に握られているのは彼が愛用している日本刀状の魔剣【無銘】を魔力によって再現したものであり群青色に輝く無銘…またの名を【幻影】が彼女の手に握られていた。

何故これを渡したのかアナに分かる筈もなく、彼女はその事をギルヴァへと問う。

 

「これは…?」

 

「単なる気まぐれに過ぎん。ただ託してみるのも悪くないと思ったのでな」

 

彼女に渡した幻影にギルヴァは無銘と似た特徴を保有させていた。

流石に空間を切り裂くとまでは行かないが、魔力の斬撃を飛ばすといった事が可能。同時に幻影には無銘にはないとある能力を付与させている。

それが幻影を装備している時に限って、使用者の身体能力を向上させるという特徴を持ち合わせている。

その恩恵を利用さえすればギルヴァの技の一つである疾走居合もやろうと思えばやれたりするのだ。

 

「使いこなしてみろ。…必要であれば俺を呼べ。相手位はしてやろう」

 

そうは言うがギルヴァは決して託してみたいという理由だけで幻影を渡した訳ではない。

当然ながら先程ルージュがRFBに言っていた事と同じ考えと思いがあった。

ただ彼がそれを口に出す事はしないが。

 

「刀の技術を上げたいなら私も協力しますよ」

 

「貴女も刀を?」

 

「はい。以前は大鎌を使っていましたが、今は刀を三振り使う事があるので」

 

「待って下さい。今、三振りと言いませんでしたか?」

 

「ええ、言いましたよ」

 

自身の聞き間違いではないのかと思ったのか、アナがルージュへとそう聞き返す。

それに対しルージュは頷いた為に、聞き間違いではなかったと思う反面アナは困惑する他なかった。

どういう理由で刀を三振りも使うのか、まずそこに疑問が尽きるのだから。

最もアナは知らないが、ルージュの言う三振りの刀とは【鴉刃】【漆】【朱】の事を指している。余談であるが彼女の戦い振りも最早常識を逸脱しており、引き攣った笑みを浮かべる事間違いないだろう。

 

「さて…配達の品はノアちゃんだけのとなったけど」

 

「さっき連絡したらもう少しで戻ってくるって。その間はくつろいでいてくれってさ」

 

「あー…そうなったら、少しの間のんびりさせて貰いましょうか。ヤークトフントの皆さん分のクッキーと別でお茶する為のお菓子でマフィン焼いてきたから」

 

マフィンを焼いてきたという事はギルヴァ達も初耳だった。

だが同時にクッキー以外の別のお菓子を作って持って来ていた事は分かっていた。少々甘い香りが車内で漂っていた事に気付いていた為である。

 

「今思ったけど…シーナ指揮官ってお菓子作りが趣味なの?隊長に聞いた話だと過去の作戦のお礼としてアップルパイを貰ったって聞いたけど」

 

そこでRFBは気付かなかった。

その事を問われた瞬間、シーナの表情に薄っすらと影が差した事に。

だが表情はすぐに笑みへと変わり、シーナは問いに答える。

 

「趣味と言えば趣味かな。小さい頃、パティシエだったお父さんとお母さんに色々教わって…その影響でお菓子作りが趣味になったという感じだよ」

 

「なるほどー。どおりでお菓子作りが趣味という訳かー。味の方は期待していい?」

 

「勿論。味の保証はするよ。楽しみにしてて」

 

「オッケー!じゃあ隊長にも連絡入れないとね。早く帰って来ないとシーナ指揮官が作ったお菓子がなくなるって」

 

「ふふっ、だね」

 

RFBが端末を取り出し、哨戒任務中のノアへと連絡を入れると彼女の傍でシーナは何処か思い詰めた様な表情を浮かべた。

その表情が誰にも気付かれる事もなく、そして彼女は口を開いた。

 

「…もう10年になるのか。私が復讐を誓ったあの日から…」

 

小さく呟かれた台詞は誰の耳にも届く筈もない。

RFBがノアに連絡を入れた後、シーナ達は一時のお茶を楽しむ為、そしてかつてこの基地で指揮官を務めていた彼女に会いに行く為、訓練室を後にした。




という訳で今回はちょっとしたもののその一を紹介。

今回S10地区前線基地から彼女達に配達したものを簡単に紹介。

【R.ガード】
:ブレイクの戦闘スタイルの一つである「ロイヤルガード」を疑似的に再現する機構を内蔵した十字架型の大盾。
基本的にはブレイクのロイヤルガードと変わらず、防御と反撃の特徴を合わせ持つ。
また変形機構を備えており、リヴェンジと呼ばれる巨大な狙撃砲へと変形する事が出来る。

【幻影】
:ギルヴァが自身の魔力だけ作り上げた群青色に輝く刀。
刀身は鞘に納められており、彼の愛刀【無銘】と同じ姿をしている。
斬撃を飛ばす事が可能な他、装備している時に限って使用者の身体能力を向上させる特徴を有する。


次回はぼのぼの&ノアちゃんへの配達品の紹介じゃい!
んでもってこいつも登場させます。ギルヴァ、ネロ、ルージュという悪魔狩人の三人…あと一人必要だろ?

では次回ノシ


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Act165 Devil's delivery service Ⅲ

─一服してから仕事へ移ろう─

─メインゲストへの贈り物と言う仕事をね─


ノアが戻ってくるまでの間、シーナ達は基地のカフェにいた。

そこではシーナ、ルージュがランページゴーストの二人、そこの基地の現指揮官であるキャロルとかつてこの基地の指揮官を務めていたユノにナガンらと会話を弾ませていた。

因みにギルヴァとネロはカウンターに腰掛け、シーナが作ったマフィンと共にブラックコーヒーを飲みながら、彼女達の様子を遠くから見守っていた。

またカフェへ向かう道中でヤークトフントの一人、イングラムとばったり出くわし、シーナがクッキーを渡している。

その際、シーナはイングラムから、貴女…過去に何かやらかしたかしら?と問われ、その返答にシーナが微笑む事で返答したのは別の話。

 

「あー…それは分かるかも。いざ休めって言われても、何をすればいいのか分からないってあるよねー」

 

シーナがここに来た理由を知り、力強く頷くユノ。

決して自分だけではなかったのだと知るとシーナの表情が少しばかり緩む。

 

「ですよねぇ…今回はマギーさんのお陰で何とかなっていますけど。彼女が居なかったら、どうなっていた事やらか…」

 

アハハ…と苦笑いを浮かべるシーナ。

完全にワーカーホリック状態にあったという事も大きいが、彼女が休もうとはしない理由は別にあった。

だがその理由を知るのは本人だけ。

元よりそれは彼女の身に起きた10年前の出来事、そして彼女が14歳の時に関わった出来事によるものだが、シーナがそれをこの場で語る事はしないだろう。

 

「あーう!」

 

ふと、二人の会話に反応したのかユノに抱えられている赤ん坊、ルキアが声を上げた。

何かを言いたいのかな?と思ったシーナはルキアへと微笑む。

 

「ルキアもちゃんと休んでって言いたいのかな?」

 

「あはは…ルキアちゃんに言われたら、ちゃんと休まないといけないですね」

 

手を伸ばし、指でルキアの頬を撫でるシーナ。

くすぐったそうな反応を見せるルキアの姿にシーナは何かを思ったのか静かに呟いた。

 

「…私の様になっちゃ駄目だからね。沢山遊んで、一杯食べて、立派に成長するんだよ?」

 

決して未来が読める訳ではない。

だがシーナはそれでもと思い、そう伝えたのだ。

青春やら何やら全てを投げ捨てて成そうとした事があったから。

それを成した所では何も残らない事すら当時の彼女ですら分かっていた。しかし成したのだ。

辿り着いた結末は決してハッピーエンドとは言えないが。

笑っている筈なのに悲しんでいる。そしてシーナの表情に気付いているのは赤ん坊たるルキアのみ。

するとルキアの小さな手がシーナの指を握った。

それに気付いたシーナは一瞬だけ驚くが、直ぐに優しい笑みを浮かべる。

 

「うん…ありがとう。…貴女はとても優しい子だね、ルキアちゃん」

 

「優しい子だって。良かったね、ルキア」

 

ユノがルキアへとそう伝えた時、シーナが着ている服の懐に入っている携帯端末が鳴り響いた。

少し外れますと伝え一旦カフェを出るシーナ。

そして数分も経たぬ内に戻ってくると、マフィンを頬張り幸せそうな表情を浮かべるキャロルへと少々申し訳ないと言った表情を浮かべながら、話しかける。

 

「申し訳ございません、キャロルさん。もう一人、この基地に来たがっている人が居るんですけどいいでしょうか?てか現在進行形でバイクに乗ってこっちに向かってきているんですけどね、彼…」

 

「構わないが…誰か聞いても良いか?」

 

バイクに乗って向かってきている。そしてそれに乗っているのは彼…つまり男だという事が分かる。

だが実際に会った事もない為、キャロルは首を傾げながらシーナへと問う。

すると二つの情報だけで向かってきているのが誰なのか分かったのかギルヴァは軽くため息を着いてから口を開いた。

 

「奴か」

 

「あいつだよなぁ…」

 

「彼ですね」

 

ギルヴァの言葉に続く様にネロとルージュが苦笑いを浮かべながら、頷く。

その反応にキャロルは分からなかったが、それ以外のメンバーは誰なのか気付き、ナガンが口を開く。

 

「あやつかぁ。そしてバイクと言えばあれなのじゃろうが…今でも思うわい。どういう原理で分離したり、剣になったりするのかとな」

 

「待て、今聞き捨てならない台詞が出た気がするんだが?バイクが分離し、剣になっただと?見間違いではないのか?」

 

「見間違いではないぞ、キャロル。それ以外にもそこの男は空間を切り裂くという常識外をやってのけるからのう」

 

「は…?」

 

実際の所、ギルヴァが空間を切り裂く事を出来る事を知っているのはその戦いぶりを見た者だけだろう。

ありえないと言わんばかりにキャロルの顔がギルヴァへと向けられる。

しかし当の本人は澄ました顔でブラックコーヒーを飲んでいた。

 

「S10地区前線基地は常識外が多いのか…?」

 

「あはは…否定できない所が辛いかなぁ…」

 

キャロルの台詞にシーナは苦笑いを浮かべながら答える。

ギルヴァを筆頭にS10地区前線基地には色々な奴らが居る。

もはや否定しようがない事はシーナも分かり切っていた事であり、彼女もまたクイックシルバーなど保有している為、言い返す事は出来なかった。

ふとその時、ブラックコーヒーを飲み終えたギルヴァが椅子から立ち上がった。その場に居た者達がどうしたのかと視線を向ければ、彼はカフェの出入口へと歩き出した。

 

「奴を迎えに行ってくる」

 

「俺も動こうか?」

 

「此処に居ろ。後は任せるぞ、ネロ」

 

此処に居る様に伝えてからギルヴァはカフェを出ていくのであった。

去っていくその背を見届けると、話題は以前の行われたカジノ制圧作戦へと切り替わり、ある事が気になったのかアナがシーナへと尋ねる。

 

「そう言えばシーナ指揮官の所が担当したカジノ本店はどうだったのですか?私が出た訳ではありませんが、ヤークトフントのメンバーからは居たのは傭兵と鹵獲された兵器だけと聞きましたが」

 

「こっちは傭兵に鹵獲された兵器に加えて悪魔も居たよ。ただネージュがねぇ…」

 

「ネージュ?」

 

言葉を濁すシーナの様子にアナが首を傾げる。

一応カジノ本店での戦いでは報告内容としてシーナは聞いているのだが、どう説明したものかと悩む程であった。

カジノ本店側に居たルージュもその時の光景を思い出したのか、つい苦笑いを浮かべ、ネロに至っては呆れた様にため息をつきながら、シーナの代わりにその時の事を話した。

 

「ノーネイムの事さ。俺やあいつ、他の連中に名前が与えられてな。因みに俺はネロと名付けられた。…話が逸れたがあいつが派手に暴れ回ってな」

 

「一体何をやったのさ…」

 

「聞いて驚くなよ、RFB。悪魔どもに囲まれた瞬間、その場で高速回転しながらガトリングとミサイルを乱射。そしてお次は鹵獲された兵器を破壊する為、一気に跳躍して高度を取ると、空中で体を横へ寝かしながら高速回転しつつ降下。同時にガトリングとミサイルを連射してたからな」

 

「えぇ…」

 

そこにルージュも話しに加わる。

彼女もまたカジノ本店で居た一人だ。

 

「派手でしたね…。サーカスでもやっているのかと思いましたし…」

 

「もうあいつ、サーカス団にでも入団したら良いんじゃねぇかな…」

 

余談であるが、カジノ本店での戦闘でネージュはセンサーを内蔵した半面だけのピエロのフェイスマスクを装着しており、その姿はまさに戦場で踊る道化師であったのは言うまでもない。

その話題はお互いの基地で起きた事、ルージュの事など様々な話題へと切り替わっていき、彼女達は話題に花を咲かせるのであった。

 

その頃ギルヴァはこの基地へ向かってきていたブレイクの出迎えを終えて、彼と共にカフェへ向かって歩いていた。

二人の事はそれなり知られているのか、通り過ぎゆく人形達がつい振り返ったりするのだが二人は気にする事もなく歩いていた。

 

「こういうのはお嬢ちゃん達に出迎えて欲しかったぜ。よりによってお前かよ」

 

「知った事ではない。元より貴様が来る事は想定外だったからな」

 

「そいつは悪かったとは思うぜ。ただ暇だった上に基地の方に行ってみれば、シーナを含めお前らがこっちに来てると聞いたもんでね。そりゃ行かない訳にはいかないだろ?」

 

「…後でローザに叱られるといい」

 

「そいつは無理だな。ローザにはちゃんと許可をもらってきてる」

 

「ちっ…」

 

他愛のない会話を広げながらも二人はカフェへと向かって行く。

先行くギルヴァの後ろをブレイクが続く。

周囲を見渡しながら、ふとブレイクが呟く。

 

「あれからどれだけ経ったかね」

 

あれから。

それが何を意味し、何時の事を指しているのか不思議とギルヴァには理解出来た。

元より彼とブレイクがこの基地の者達と初めて接触したのはフェーンベルツで封印されていた魔界の覇王を追い詰めたあの日からなのだ。

恩は感じている。二人は決してそれは忘れてなどいない。

 

「…さぁな」

 

だがその日からどれ程の日数が経ったのか明確には覚えていない。

青色の刺繡が施された黒いコートを揺らしながらギルヴァはそう返した。対して尋ねたブレイクも明確な日数を覚えていなかったので、軽く肩をすくめてると彼の後に続く。

日数を覚えて無くともこれまでも何度も関りがあった。この二人にとってはその思い出こそが大事だと思っている。

それから会話が続く事もなく、二人はカフェへと到達。ギルヴァが中へと入り、その後にブレイクが意気揚々と中へと入る。そこには哨戒任務から戻ってきていたノアの姿もあり、彼女達は楽しく雑談を楽しんでいた。

ギルヴァとブレイクが来た事に気付くと、ユノが二人へと歩み寄り声ををかける。

 

「ギルヴァさんおかえり。そしてブレイクさん、久しぶり」

 

「ユノの嬢ちゃんか。どうだい、元気にやってるか?」

 

「うん、変わりなく。この子も居て、毎日が楽しいよ」

 

抱えているルキアを見せるユノ。

笑みを湛えたままブレイクがルキアに声をかける。

 

「よう、ベイビー。調子はどうだ?」

 

「あう」

 

「調子がいいってか。ハハッ、良いねぇ。ノリが良いのも悪くない。将来有望だな、この子は」

 

ルキアと戯れるブレイクを放置してギルヴァはその横を通り過ぎようとした。

ふと視線を感じ、その方向へ顔を向けるとルキアがジッとギルヴァを見つめていた。

何かしただろうかと思うも心当たりはない。しかしルキアは彼を見つめている。

どうしたものかと思った矢先、ユノが彼に話しかける。

 

「ふふっ、どうやらルキアはギルヴァさんとお話ししてみたいだね」

 

「…ふむ」

 

そっと彼が右手を差し出すとルキアの小さな手が人差し指を掴む。

心なしかギルヴァの表情が柔らかく感じられたネロだが敢えてそれを言わない事にした。

割かし見られない光景だった事もあって黙っておこうと考えたのだ。

奇しくもそれは他のメンバーも同じ事を思っていたのだが敢えて言わなかった。

微笑ましい光景に誰もが和んでいる事にも気づかず、ギルヴァはユノととある話題で話が盛り上がる。

ブレイクからすれば初耳であるが、それはユノが先生を目指しているという事に関してであった。

 

「本でも読ますと良い。詩集を勧めるのも良いだろう」

 

「詩集かぁ…」

 

「必要であれば店に来ると良い。小説、詩集ならそれなりに揃えているのでな。欲しければくれてやる」

 

悪魔狩人でありながらギルヴァは小説や詩集を好む性格だ。

暇さえあれば一日中読んでいる事も多く、事務所には大きな本棚が三つ程置かれており、それら全てに本が収められている。

それを見てグリフォンが本屋でも開く気かよ?と口にしている。

 

「じゃあ、その時はよろしくね」

 

「ああ。…それとこいつを渡す。その子は渡すと良い」

 

そう言ってギルヴァがユノへと手渡したのは、とある花のアクセサリーが取り付けられた群青色に輝くブレスレット。

それだけを渡すと彼はそのまま背を向けてカウンターへと移動していった。

因みにブレスレットのアクセサリーとして取り付けられている花は【コチョウラン】と呼ばれる花である。

そしてその花言葉は【幸福が飛んでくる】という意味を持つ。

性格もあって言葉にする事はしなかったもののギルヴァが健やか成長を願っている事にユノ達が気付いたのは彼らが基地を去っていった後であったのは余談である。

 

楽しい一時は過ぎ去り、本来の依頼をこなす為、シーナ達はランページゴーストの三人と共に再び訓練室へと訪れていた。

同型の剣を持つネロがノアへとシュトイアークリンゲのメンテナンスキットが入ったアタッシュケースを手渡す。

 

「推進剤噴射機構のメンテナンスの説明書はその中に入っている。メンテは欠かさずやれよ?」

 

「分かってるって。流石に俺の手には負えない位の故障が起きたらマギーに見てもらう」

 

「そうしな。…それとこいつを渡しておく」

 

最後に残ったアタッシュケースを取り出すネロ。

赤いラインが引かれたそれを開くと、中には長方形型パーツと薔薇の彫刻が施された外装パーツらしきものが入っていた。

本来であれば長方形型のパーツの方を紹介すべきなのだが、依頼主の意向もあってネロはまず最初に外装パーツの方を紹介した。

 

「まぁ見たまんまだが…推進剤噴射機構の外装パーツだ。多分だがシュトイアークリンゲの推進剤噴射機構の外装は赤色一色に染められているだけだよな?」

 

「あー…そう言えばそうだったかな」

 

「雰囲気を変えるってのは大事だぜ?ノリの良い曲を聴くと気分が良くなる。それと同じさ」

 

ネロの愛用するクイーンの外装パーツにも女性の彫刻が施されている。

元々はなかったものであるが、マギーから彫刻の技術を教わったネロが自ら施したものだ。

 

「なるほどな。しかし何で薔薇なんだ?」

 

「さぁな。俺も知らねぇよ」

 

マギー曰くノアを例えたとの事。

恐らく美しい薔薇には棘があるという意味なのだろうが、本人からそれが語られる事はないだろう。

首を傾げる二人だが、考えても埒があかないと判断しネロはメインの方を紹介する事にした。

アタッシュケースからそれを取り出すが、その長さはクイーンやシュトイアークリンゲの刀身と同じ長さがあり、またバイクのマフラーの様な小型のパーツが側面に三つ、反対側にも三つ。合計六つ連なる様に並べられていた。

一体何のだろうかと周囲に居る彼ら、彼女達がそれを見つめる中、ネロは取扱説明書を片手にそのパーツの正体を明かす。

 

「こいつはブラッディ・フィーバー。機能説明と行きたいが…ノア、シュトイアークリンゲは持ってきてるな?」

 

「ああ。ほら、ここにあるぜ」

 

「よし。んじゃこいつを峰の部分に取り付けろ。噴射口の上から乗せる感じでな。後はいつものように機構を作動させろ」

 

「あいよ」

 

ネロからブラッディ・フィーバーを手渡されて、早速それをシュトイアークリンゲの峰の部分に取り付けるノア。

そして言われた様にシュトイアークリンゲのグリップを捻った瞬間、どういう訳か推進剤噴射機構が全段解放されたのだ。

普通であれば数回グリップを捻って解放するか、或いはMax-autという技術で一気に解放する以外にないのだが、それを可能としているのはシュトイアークリンゲに取り付けたブラッディ・フィーバーによるものだという事が分かる。

 

「おいおい…こいつはすげぇな。全段解放されたぞ!」

 

「見れば分かるよ。だがそれだけじゃねぇぞ。試しに振ってみな。但し両手でな」

 

「? まぁ分かった」

 

何故両手なのか分からないといった表情を浮かべながらも攻撃が当たらない様に少し離れた位置へと移動するノア。

そして持ち手を両手握りつつレバーに指をかけ勢い良くシュトイアークリンゲを振った瞬間、凄まじいまでの炎が噴き出し、従来とは比較にならない程のスピードの剣撃が放たれた。

下手をすれば振り回されそうになる余りの出力にノアは驚きを隠せず、同時に何故ネロが両手で振るう様に指示してきたのか納得した様子であった。

 

「ほら、両手で振れって言った意味が分かったろ?そいつは推進剤噴射機構の出力を極限にまで上げる代物でな。一度起動させたら剣はじゃじゃ馬と化す。制御が難しい分、威力は期待できるぜ」

 

ブラッディ・フィーバーの正体。

それはネロが利用するデビルブレイカーの一つであるトムボーイをパーツ化したものである。

当然ながら機能もトムボーイと殆ど変わらない。

余談であるが、ブラッディ・フィーバーを取り付けたシュトイアークリンゲの状態をマギーは【ランページシュトイアー】と内心でそう名付けてたりする。

 

「そしてそいつを装着し起動している間だけに限って好きな拳銃を後方から装着すれば自動的にパーツが展開しレールガン形態へと移行する。今ここでぶっ放したらヤバい気がするんで、やるんなら外で撃ってきな。銃は好みだがリボルバー系をおすすめするぜ。そっちにレーゾンデートルⅡだったか?それがあるみてぇだし、それを使えば良い。別が良いなら、マギーに頼むんだな」

 

「ああ。しかしこれはとんでもねぇじゃじゃ馬だな。出力で体がぶっ飛ばされるかと思ったぞ…」

 

「否定はしねぇよ。でも悪魔どもをぶちのめすならこれ位は必要さ」

 

とは言え、ブラッディ・フィーバーと接続した際の弱点はある。

じゃじゃ馬と化したそれを操るのは両手で用いる必要があり、攻撃が大振りになりがちになる。

その隙を突かれない様にする必要があるだろう。

 

「それもそっか…。マギーに礼を言ってといてくれ。ありがとうってな」

 

「了解。そう伝えておく」

 

これで全ての配達を終えた。

普通ならこのままシーナ達は戻る事になるのだが、もう少し居ていてもいいというキャロルの許可もあって、五人はもう少しだけ早期警戒基地での一時を楽しんだ。

ノアの妻であるクフェアにシーナ達が会い二人の間に生まれた赤ん坊 クリスとブレイクが戯れ、ギルヴァがルキアの為にユノへと渡した同じブレスレットをクフェアへと渡したり、即席でシーナがお菓子を作り多くの人形達に絶賛されたり、渡された幻影を使いこなす為にアナがギルヴァとルージュから指導を受けたり、ネロのデビルブリンガーを見て人形達が寄って集り触らせてもらえないかと頼み込んでいたのはまた別の話である。




長くなっちゃいましたが、これにて配達は完了です。

今回の配達の品を軽く紹介。

群青色のブレスレット
:ギルヴァが自身の魔力で作り上げた群青色のブレスレット。
コチョウランと呼ばれる花のアクセサリーが取り付けられたブレスレットで、いつか大きくなったルキアとクリスの為にユノとクフェアへと渡された。
【幸福が飛んでくる】という意味を持つコチョウラン。
言葉にせずともギルヴァがルキアとクリスの健やか成長を願っていたのは変わりない。

ブラッディ・フィーバー
:マギーがノアの為に作り上げた一品。
ネロのデビルブレイカーの一つであるトムボーイと同じ機能が搭載されており、レールガン形態の移行も可能。
色は黒一色に染められているのだが、それは単純に基本色であり、自由に好きな色へ塗装する事も可能である。
またブラッディ・フィーバーとは血塗れの興奮という意味を持つ。
一度点火すればそれは血に濡れる事を望む。人の血ではない、悪魔の血を。
そして恐怖を与えるのだ。次に切り裂かれたい悪魔は誰だと。


勝手に強化をぶち込んだりしてますけど…いいよね!(今更)
まぁこんだけの強化をぶち込んでたら、コラボ作戦もしなくちゃな!(使命感)
さてお次は…45をだしてぇなぁ…。

では次回ノシ


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Act166 Sometimes drink a drink

─二人にとってその一杯は久しぶりの一杯─

─あの時から忘れられぬ味─

─それが二人を結んだ味─

─さぁ、たまには一杯飲もうか─


その日の夜。

この時間帯に起きているのは、夜間警備の任務に就いている人形か、指揮官くらいなもので便利屋で過ごしている人形を含めてほとんどの人形が眠りに就いている。

404小隊の隊長であるUMP45もそうなのだが、暗闇に包まれた自室でベットの上に寝転がっていながらも金色の瞳は開かれたままで、ジッと天井を見つめていた。

 

(…寝れない)

 

人形である身。スリープモードへと移行すれば素早く寝れるだろう。

だが何故45が寝れずにいた。別のベットで眠っているUMP9やHK416 、Gr G11は静かな寝息を立てているというのに。

このまま寝ていても意味がないと思い45は上半身を起こして、額に手を当てつつ小さくため息をついた。

 

(いや…寝たくないのかもね)

 

人形であるというのに何故こんな事が起きるのだろうかと自虐的な笑みを浮かべると45はベットから降り立ち、部屋のドアに手を掛ける。

少し水でも呼んでこよう。

それで寝れるかは分からないものの、気分を変えるのは丁度良いだろう。願わくば愛する彼がまだ起きている事を願い、彼女は部屋を出た。

 

「…寒い」

 

この時期は夜はとても冷える。外の寒さは人形でも氷漬けにされるのではないかと思える程の寒さだ。

部屋を出た彼女を薄暗く寒い廊下が出迎える。しっかりと着込んでなかったら部屋を出るどころか、ベットから出るのも一苦労するだろう。

風が吹く音がまるで唸り声の様に響く中、ドアをそっと閉じ彼女は下へと続く階段へと歩き出す。

404小隊の部屋以外にも95式の部屋やネージュ、シリエジオの部屋が並んでいる。その前を通り過ぎ、階段を降りていくと45はエントランス…ギルヴァがいつも本で居る部屋へと通ずる扉の向こうから灯りが薄っすらと漏れている事に気付く。

 

(まだ起きている?)

 

この時間帯は大体ギルヴァは床に就いている。そんな事を45はとっくに知っている。

但し大体である為、決してとは言えない。彼女は知らぬ事ではあるがギルヴァはこの時間帯でも偶に起きていたりすることはある。その時は読書している事が多い。

それは兎も角として、台処はエントランスを入ってすぐの左手にある。どちらにせよ中へ入らなくはならないのは明白であった。

同時に彼がまだ起きているという事を知ると不思議とその足取りは軽くなり、階段を降り切った45は扉を開いた。

暖房が効いているのか中は暖かいが、灯りは最小されており少々薄暗い。

その室内でこの便利屋「デビルメイクライ」のオーナーであるギルヴァは書斎に工具を広げ何やら作業していた。

机上に置かれていたのは使う頻度は決して多いとは言えないが愛用している特殊大型拳銃 レーゾンデートル。

二つの銃身から13mmという規格外の弾丸をほぼ同時に発射するというリボルバーであり、反動は馬鹿げた反動を有するが、威力は悪魔を倒すのであれば申し分ない。

重量も馬鹿げており、人間では撃つ事は不可、人形が撃ったとしても確実に腕が吹き飛ぶ。

45からすれば何度か見た銃であり、その都度思っていた事を口にする。

 

「いつ見てもとんでもない銃ね」

 

「そうだな。…眠れないのか」

 

「ええ。…まぁ眠りたくないという方が合ってるかも」

 

軽く肩を竦めた後、45は台処へと歩き出す。

照明を灯さず台処の棚からガラスコップを手に取った時、彼女はある物を見つける。あったのはウイスキーボトル。

それもギルヴァが好む銘柄であり、また45も好む銘柄であった。

長い事飲んでいない。それを思い出し久しぶりに飲みたくなった彼女は行動を起こす。

ガラスコップを元の場所へと戻しグラスを二つ手に取り、ウイスキーボトルを空いた手で握ると台処の出入口付近で凭れながら手に持ったそれをギルヴァへと見せながら訪ねる。

 

「一杯どう?」

 

その誘いにギルヴァは工具を片付けメンテナンスを終えたレーゾンデートルを組み立てながら答える。

 

「…一杯だけならな」

 

「やった♪」

 

久しぶりの酒に45は可愛らしい笑みを浮かべた。

 

書斎に広げられていた工具やらが片付けられて、その代わりに置かれるはウイスキーボトル。

ギルヴァの隣に椅子を置き、座る45。そして二人はウイスキーが注がれたグラスを軽くぶつけた。

グラスがぶつかる音が小さく響き、45は久しぶりの酒に舌鼓む。

独特の香りと胸を焼く様な味わい。かつて本社で飲んだそれと同じ。ギルヴァと飲む前はあまり飲む事もなかった45だが、今となってはその味にハマっていた。

 

「三回目かしらね…こうやって飲むのって」

 

「ああ。…意外と少ないものだな」

 

「だね。一緒に居る事が多いというのに」

 

小さな笑いを上げると45は隣に座るギルヴァの横顔を見つめた。

金色の瞳が彼を捉える。何処か熱が籠っているが、45は決して何かしようという気にはなれなかった。

ただその代わり彼女は彼の体に凭れ、そっと頭を肩に預けた。

 

「もしも…」

 

「む?」

 

「もしも私が実は敵でしたという事を知ったら…ギルヴァは私を捨てる?」

 

酔った勢いによるタチの悪い冗談か。或いは秘密多き少女が明かした秘密の一つなのか。

ちらりと彼女の表情を見れば笑みを湛えたまま。

故に冗談か秘密の一つなのか、それを知る術はギルヴァにはなかった。

だが彼の答えは既に決まっている。

 

「例えそうだとして俺がお前を捨てるという事などない」

 

「その理由を聞いても良い…?」

 

グラスの中でカランと氷が踊る。

注がれたウイスキーを一口飲んでからギルヴァは彼女の問いに答える。

 

「理由などない。全てを受け入れる覚悟でいる。それだけの事だ」

 

「…どんな事でも?」

 

「余程変わったものではなかったらな。お前も変わった趣味を持ち合わせてはなかろう」

 

「まぁね。そこまで狂った覚えはないから」

 

グラスのウイスキーを一気に煽り、ギルヴァの腕を力強く抱きしめる45。

酒を一気に煽った影響か、彼女の顔は少々赤くなっていた。それでもと言わんばかりに彼女は愛する人と触れ合う今を味わいながらうわ言の様に45は呟く。

 

「私を一人にしないで…。一人になるのはもう嫌なの…」

 

「…」

 

「その代わり私が貴方を守るから…。あらゆる障害から全て…。何もかもから…」

 

酒に酔った余韻に浸りながら45は静かにスリープモードへと移行した。

静かな寝息を立てながらギルヴァの腕に抱きつく彼女。

それを見てギルヴァは45を起こさぬように抱き上げ、自室へと向かった。

質素な自室に置かれたベットに彼女を寝かせ、冷えぬ様に布団をかぶせる。

そっと頭を撫でてから彼はエントランスへと戻っていく。そのまま書斎の上に置かれたグラスやウイスキーボトルを片付けると、毛布を持ち出し明かりを消してから彼は来客用のソファーへと寝転がった。

暗闇が支配するエントランス。その中で彼は静かに瞼を下ろす。

明日は45と共に何処かへと出かけるかと思いながら。




短いですか45&ギルヴァ回。
次回も二人を登場させようかと思っています。

では次回ノシ


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Act167 Sometimes old stories

─カフェでの一時─

─ちょっとした昔話をしようか─


ギルヴァと45が一杯だけ酒を飲んだ夜から翌日。

青空広がる空の下の街中を歩く二人の姿があった。

珍しく誘ったのはギルヴァであり、それを二つ返事へ受けたのが45。

とある場所へと二人は歩道をゆっくりと歩いていく。しかし45は軽く不機嫌であった。

そして…

 

「~♪」

 

何故かギルヴァの左隣ではfive-sevenが歩いており、吞気に鼻歌を歌っていた。

45が軽く不機嫌な理由は彼女にあった。

とは言うもののギルヴァと45の二人は偶然にも非番であり、買い物へと出かけていたfive-sevenで出くわしただけなのだ。

目的地は別なのでそのまま別れる事になると思いきや、five-sevenがとある事を思い出しギルヴァに伝えたのだ。

 

「あの時のお礼をさせて?勿論嫌とは言わせないわよ♪」

 

半ば強引とも言えるそれは流石の45とて看過できなかった。

確かにfive-sevenは違法人形売買組織から脱走し追っ手に追い詰められそうになった時に偶然にも居合わせたギルヴァとシリエジオ、そしてブレイクの三人に助けられている。

その恩を返すというのは納得が行く。しかしこうやって楽しい時間を楽しんでいるのを邪魔されたらたまったものではない。

追い返そうとした矢先、five-sevenは二人の手を握り、小悪魔みたいな笑みを浮かべてから伝えた。

 

「さ、行きましょ。45も一緒に行きましょうよ。良いお店、私知ってるのよ」

 

「え、あ、ちょ!ちょっと!?」

 

そんなこんなで二人だけのお出かけは中断され、三人でのお出かけとなった訳である。

 

 

(なってしまったものは仕方ないか…)

 

いい加減不機嫌で居るのもどうかと思い始める45。

それはそれで場の空気を乱すだけと感じ、今は今で楽しむべきだろうと頭を切り替える。

 

「それで?そのお気に入りのカフェまで後どれくらいなの?」

 

「もう少しよ。ほら、あそこ」

 

five-sevenの指さす先にあるのは最近になって出来たカフェである。

外観も万人受けであり、店から出てくる客は若者から年配とバラバラ。

 

「おしゃれというのもあるけど、ケーキが美味しいのよ」

 

「成程ね」

 

「それで…ギルヴァはケーキとか食べる方かしら?」

 

三人で行動する事となってからほぼ無言を貫いていたギルヴァへfive-sevenは訪ねる。

元より甘いのを好む様な性格には思えなかったからである。

どちらかというと彼はコーヒーや紅茶を好む方だと思っている。

 

「嫌いという訳ではない。あまり食べないだけだ」

 

出来れば彼にもお気に入りのカフェが出すケーキを味わってもらおうと思っていたfive-sevenであったが、彼の答えを聞き無理強いするつもりはなかった。

 

「そっかそっか。ケーキ以外にもコーヒーや紅茶も美味しいから。ギルヴァにはそっちがオススメかな」

 

「お前がそう言うならそうさせてもらおう」

 

「よし!じゃあ、お礼も兼ねているから私が出してあげる♪」

 

お礼も兼ねているという事もあって、ギルヴァは断るつもりはなかった。

相手の厚意を無下にするのもどうかと思ったからである。

 

三人が店内へと訪れた時は丁度客も少なかった時間帯であった。

ギルヴァの隣を45が占領し、対面にfive-sevenが座っていた。45とfive-sevenがケーキと紅茶を頼み、ギルヴァがコーヒーだけ頼むと三人は午後の一時を頼む事にした。

物静かな店内。今が世界が荒廃しているなどとは思えぬほどの平穏が保たれている。

 

「それで…基地に来てからそれなりには経つけど慣れてきたかしら?five-seven」

 

「まぁボチボチといった所よ。それに相手をする敵の事も多少もね」

 

five-sevenにとって悪魔を目にした事はあれど本格的に戦闘を行ったのは以前のカジノ制圧戦が初だった。

恐怖は確かにあったが、周りを居てくれた為戦えた。

そしてS10地区前線基地がどういう所なのかを知る事が出来た。

色んな意味でヤバい基地であるという事だけは理解していた。

 

「敵に関してはゆっくり慣れていく他ないわね。私も慣れるのに時間かかったから」

 

「へぇ?意外と言えば意外ね。あまり驚かない性格って思ってたけど」

 

「驚くわよ。特にギルヴァを見た時は言葉を失った程」

 

45にとって初めてギルヴァが悪魔としての力を見せた時の事は昨日の事の様に覚えていた。

それ程までにあの光景は印象的であった。

E.L.I.Dとは違う存在。おとぎ話や伝承でしか耳にする事の無い【悪魔】という存在がそこにいたのだから。

 

「ギルヴァの何を見たのよ…?」

 

「秘密♪」

 

「えー」

 

初めてギルヴァと出会った時の事はあの場に居た者達だけの思い出。

良い思い出とは言えずとも、彼に助けられた事により生き延びた。45からしたら感謝しても感謝しきれない程であった。

こうして美味しいケーキと紅茶を楽しむ事が出来ている上に大切な人が出来たのだから。

 

(そう言えば…シリエジオとはどうやって出会ったのかしら)

 

自身と出会う前にギルヴァがシリエジオと出会っている事は知っている。

それに関してはシリエジオ本人から45は聞かされていたがどの様な経緯があったのかは聞かされていない。

気になった45は隣に座るギルヴァへと尋ねる。

 

「ギルヴァ、一つ聞いていい?」

 

「何だ」

 

「私と会う前にシリエジオと会ったって聞いたのだけど、いつ彼女と会ったの?」

 

「その事か」

 

手に持っていたカップをソーサーへと置いてからギルヴァは45の問いに答える。

その時の事を思い出しながら。

そして密かに思う。その出会いは決して華やかなものではなかったと。

 

「もうだいぶ前の事だ。放浪していた時に出会った。当然奴は向こう側に居た。意味は分かるな?」

 

当時のシリエジオは向こう側に居た。

そのセリフが何を意味しているのか45もfive-sevenも分からない訳ではなかった。

今でこそはこちら側に居るが、当時は違う。敵として出てきたらまず勝ち目などない。それ程までにシリエジオ…否、当時の名は代理人という人形は強力だった。

出会ったら確実に殺されるであろう人形にギルヴァは遭遇したというのだ。

 

「その時はグリフィンによる作戦が行なわれていた。たまたま身を休めていた場所が作戦領域となり、その場から離れる為にも行動していた。無論出くわした敵は全員斬り伏せたが」

 

「出くわした敵はご愁傷様としか言えないわね…」

 

five-sevenとて全てではないにしろギルヴァの強さは知っている。

一度敵対すれば斬られた事すら気付かない程の神速の居合術に加え、幻影刀という魔力で錬成された刀を飛ばすなど現実離れした技が多い。

そんな彼と相対した敵にはご愁傷様という言葉の以外思い付かなかった。

 

「その場を抜け、去ろうとした時だったか。燃えている建物が一つあった。そこから感じられた人形の気配。内一つは奴のものだった為、その建物へと侵入した」

 

「場を切り抜けたというのに何でそっちに向かったの…」

 

呆れた様に呟く45。

彼女の台詞は決して間違ってなどいなかった。

その場を切り抜けたのであれば、さっさと作戦領域から去ればいい。それが普通である。

 

「ああ。だが鉄血のハイエンドモデルと手合わせしてみたかったのでな。そっちを優先した」

 

「ああ、そう…。それで彼女と遭遇した時はどんな感じだったの?」

 

そう問われ、ギルヴァはふむと一つ前置きを置いた。

その時の記憶は事細かく覚えているが全てを語る気はなく、一つだけ教える事にした。

 

「詳細を省くが、奴の武装を斬った」

 

「…もしかしてお互いの距離は離れてた?」

 

「ああ」

 

距離が離れていたというのに、武装を斬った。

ギルヴァが持つ技の中でそんな事が出来るのは一つしかない。

それを初めて見た45も最初こそは何が起きたのか分からず混乱した。

 

「えっと…何をしたの?」

 

45には理解出来たとしても見た事の無いfive-sevenには理解出来なかった。

無理もない。距離があったというのに武装を斬ったというのだから、首を傾げるのも当然である。

彼女の問いに45が答える。

 

「超常現象というやつよ。空間を切り裂き、その斬撃を離れた相手に浴びせるってのね」

 

「ああ、うん…それ以上言わなくて良いわ。取り敢えず凄い事をやったという訳ね」

 

理解しようにも出来る筈もなく。

five-sevenはギルヴァが凄い事をやったのだなという事で納得する事にした。

彼女の反応に45はそれで良いわと返してから、ギルヴァへと問いかける。

 

「その後はどうだったの?」

 

「特になかった。店に開いた時に現れ、俺を追っていた事、鉄血を離反した事を聞かされた。後はお前の知る通りだ」

 

聞かれた事を答えるとギルヴァは再びコーヒーを味わう事にした。

あまり多くを語ろうとはせずともその当時のギルヴァの強さを知れた一時。

それが今後の役に立つかどうかは45もfive-sevenも少々引き攣ったえ笑みを浮かべるほかなかった




今回はちょっとした昔話編。
次回はシーナをだそうかと思っていますが未定。
気分によって異世界に渡る事も考えていたり…。

では次回ノシ


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Act168 A girl who became a revenge

─今は指揮官─

─その過去は復讐に身を投じた少女─


強制的に休むように言われてから数日が経った今日。

未だに指揮官としての仕事へ戻る事を許されないシーナはかつての教官であり、以前の作戦で協力してくれたパイソンから彼女宛に送られてきたガンケースを片手に射撃訓練場へと向かっていた。

通常業務に戻れない事から今の彼女は私服で、黒のブレザーに灰色のワイシャツに黒ネクタイ、白のラインが入った黒のスカートとまるで学生を思わせる様な服装でその上からロングコートでありながら魔工が施された服装【サーヴァント】を羽織っていた。

こういった服装を好む性格なのか、18歳である彼女が持つ私服は学生っぽいものが多い。流石に全部がそうではなく、中には出掛ける用の為の服も存在している。

今回は特に気に入っている組み合わせ。ほんの少しだけシーナの気分は良かった。

すれ違う人形や職員達に軽く挨拶を交わしていきながら、射撃訓練場へと到達。内部から銃声が聞こえた為、誰かが訓練しているのかなと思いながら彼女へ中へと入る。ドアが開く音が聞こえたのか、訓練していた人形…ハンドガンの戦術人形 コンテンダーがシーナへと声をかける。

 

「おや、指揮官。訓練ですか?」

 

「訓練というより、教官から送られたこれを慣らしておこうかなって」

 

「?」

 

コンテンダーの隣へと歩み寄り、ガンケースを台の上へと置くシーナ。

ロックを解除し、ケースが開かれる。

中には収められていたのは一丁のリボルバーであり、その銃の名はマテバ2006M。

だが誰もがどう見ても収められていた銃が新品とは思わないだろう。

随分と使い古されており、銃身には英語で【Paine killer】と文字が刻まれている。

 

(ペインキラー…鎮痛剤?)

 

何故その様な文字が刻まれているのかはコンテンダーには理解できなかった。

ただ隣でその銃の銃身を指でそっとなぞるシーナを見て、何か関連がある事だけは理解出来た。

 

「捨てても良いって言ったのになぁ…」

 

本社で居るであろう教官へ向かってシーナは呟きながら、銃を手に取る。

使い慣れているのか手慣れた手つきでシリンダーを取り出し銃弾を込め、全弾装填すると構えると彼女は苦笑いを浮かべた。

 

「どうされました?」

 

「…数年経っているというのに、扱い方もこの銃の重みも未だに覚えているんだなぁって思ってね」

 

「その言い方だと…その銃に思い入れがある様に聞こえるのですが」

 

「まぁ思い入れというよりかは…この銃をよく使っていたという事かな。マテバ以外にも、6ウニカとかも使ってたし、今使っているM92FやMP5もそうだよ。あ、実は私、コンテンダーも使ってたんだよ」

 

意外と言えば意外とも言える台詞。

見かけに寄らずシーナは様々な銃を扱った事がある。その事実を聞いた時コンテンダーは内心驚いた。

特に驚いたのは自身の名と同じくコンテンダーを扱った事があるという。

それは嬉しい話なのだが同時に疑問に思う。

いつ、どのタイミングで自身を含めた様々な銃を扱う様になったのかと。

若くしてというのであれば、グリフィンに就く前となるのだが疑問は残る。コンテンダーの知る限りではシーナの実家は軍属ではない。護身の為に拳銃に多少触れる事があったとしても、自動小銃など触れるという機会はそうあったものではないと。

では何があってその様な機会に巡り合ったのか。一人の少女の身に何が起きたというのか。

今それを尋ねようと思えば出来ただろう。しかしその言葉が出てこない。このまま疑問に終わってしまうのではないかと思った時、コンテンダーの表情を見て察したシーナが口を開いた。

 

「今から4年前の事だよ。私は復讐を敢行した。時期も丁度この頃だったかな。とても寒い夜の出来事。たった一晩で私は大量虐殺を行った少女へとなった」

 

本人の口から明かされた過去。

その過去にコンテンダーは言葉が出なかった。いや、何を言えばいいのか分からなかった。

何故ならシーナが浮かべる表情が笑っているにも関わらずとても苦しそうだったからだ。

これ以上聞いてはいけない。その話を止めようとした時、シーナは言葉を続けた。しかしその内容は過去に関する内容ではなかった。

 

「今はこれだけしか言えないかな。あまり語る様な内容でもないし」

 

「指揮官…」

 

「そんな表情しないで。大丈夫、気持ちの整理はついてる。でもそうだね…私の過去が知りたいというのであれば、その時は貴女だけではなく皆にも明かそうかなって思う。色んな人達が私の過去が気になっているだろうから」

 

さ、慣らしを始めないとねとシーナは準備を始める。

いそいそと動いていく彼女を見て、コンテンダーは意を決した様な表情で口を開く。

コンテンダーもまた良い扱いをしてくれなかった基地に居た過去があり、シーナによってこの基地に連れてこられた一人なのだから。

闇から光へ。カッコよく表すならその表現があっているのだろう。

彼女にとってこの基地での生活は光だったから。自分を連れてきてくれた指揮官に恩義を感じているのだ。

 

「貴女にどんな過去が、どんな事をやってきたとしても…私にとっての指揮官は貴女だけ。それをどうか忘れないで下さい」

 

「!…うん、ありがとう。ふふっ、コンテンダーにそう真面目に言われると何だか告白されているみたい」

 

「なっ…!私はそういうつもりではなく…!」

 

「分かってるよ。ありがとうね、コンテンダー」

 

例えどんな過去があろうと。

コンテンダーへと向けられたシーナは笑みは本物であろう。

作り笑いではない。心からの笑みであった。

 

「そう言えば…」

 

するとシーナが使ってきた銃に関して気になった事があったのか、コンテンダーがある事を尋ねる。

 

「その銃といい、先程言っていたもう一つのリボルバーといい…何故それを選んだのですか?」

 

「何故って、最初に使っていたというのもあるけど…そうだね、リボルバーの中では…」

 

手に持ったマテバを一目見てから、シーナは満面の笑みでコンテンダーの問いに答える。

 

「マテバが好きなの、私」

 

まるで何かの影響を受けたのではないかと言いたくなる様な台詞が彼女の口から飛び出るのであった。




今回は短いですがシーナの過去にちょっぴり触れた感じです。
マッ〇ス・ペ〇ンだったのかね…この指揮官は。

では次回ノシ



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Act169 Party invitation

─一本の電話から送られてきたもの─

─それはパーティーの招待状─


普段通りの、特に変わりのない時間を事務所で過ごすギルヴァ。

相変わらず膝の上に45を乗せたまま読書をするのが当たり前となっており、和むべきなのか笑うべきなのかどうにも反応に困る姿を見られる様になっていた。

この事務所で暮らしている住人達が各々の時間を過ごし、たまに来客が訪れて少し騒がしくなったりする今日。愛読書である詩集のページを捲った時、書斎の上に置かれた電話が鳴り響いた。

読んでいた本を閉じギルヴァが受話器を取ろうとした時、膝の上に乗っていた45がギルヴァの代わりに受話器を取り、前々から言ってみたかった店の名前を口にする。

 

「デビルメイクライ」

 

電話応対を45が務めた事によって再び読書へと戻るギルヴァ。

だがそれを見越していたのか、45が空いた手を伸ばし本を読ませない様に妨害。電話越しの相手と会話しながらギルヴァの方へと振り向く45。

笑っているが、その目は彼にこう訴えていた。

 

―私と一緒に読むまでだーめ♪―

 

それが何となく理解出来たのか、ギルヴァは呆れた様にため息をつき背もたれへと凭れる。

腕を組み、目を伏せ電話が終わるまで待つ事にした。

こちらの意図を分かってくれた事に内心喜びながらも表情には出さない45。

 

「彼?ええ、傍に居るけど。…そう、分かった。代わるわ」

 

「相手は?」

 

「グリフィンの社長さんと言えば分かる?」

 

グリフィンの社長…つまりクルーガーからである事。

わざわざ店に電話を寄越してくるなどどういった要件かと思いながらギルヴァは45から受話器を受け取り、耳に当てた。

 

『久しぶりだな、便利屋。経営は上手くいっているか?』

 

「言わずとも分かっているだろう。それで要件は何だ」

 

『残念ながら悪魔が関わる案件ではない。ただ鉄血に関する依頼をしたい』

 

「…聞こう」

 

ギルヴァの雰囲気が変わる。

クルーガーから明かされていないにも関わらず、彼は気付いていた。

その依頼内容はただでは終わらない戦いであり、大きなパーティーになりそうだと。

 

『鉄血に対し大規模攻撃作戦が行われる事になった。こちらも戦力を揃えているが、向こうが何をしでかすは分からん。…報酬は出そう、デビルハンター。貴様の力を借りたい』

 

「…成程。良いだろう、その依頼受けよう。ただしもう一人、連れていくが構わないな?」

 

『ブレイクの事なら安心しろ。へリアンが依頼し了承を得たと聞いている』

 

随分と準備が良いと思いながらもギルヴァはそうかと答える。

 

『作戦に関してはシーナ指揮官に伝えている。彼女に聞くと良い。また作戦領域への送迎に関してはこちらからヘリを送ろう。報酬から引く気などないので安心しろ。…では頼むぞ』

 

電話が切れる。

受話器を元に戻すと膝の上から下りた45がギルヴァへと尋ねる。

 

「依頼ね?」

 

「ああ。俺とブレイクが指名されている」

 

「貴方とブレイクを?これは敵さんに明日はないかもね…」

 

二人の強さを知っているからこそ今の45には不安といったものはなく、寧ろ苦笑いを浮かべていた。

 

「店番は任せて。思う存分暴れてきて」

 

「ああ。頼むぞ」

 

作戦当日までまだ余裕はある。それまでに準備を終わらせばいい。

クルーガーが言った様にギルヴァはシーナが執務室へと向かう為、店の裏口から基地へと向かって行った。

 

ギルヴァが執務室へと到達した時には既にブレイクが来ていた。

まるで兄弟の様な他愛のないやり取りをした後に、作戦内容を聞いているシーナから二人は説明を受ける。

鉄血本拠地及び防衛ラインの破壊が主な目標である一方で敵も相当規模の戦力を整えている事が知らされる。

現状でも分かっている戦力を知るとブレイクを笑みを浮かべる。

 

「ハハッ、こいつは派手なパーティーになりそうだな。おまけに招待状まで手配してると来たからな」

 

「でも油断は禁物ですよ、ブレイクさん。敵だって一筋縄行かないんですから」

 

「分かってるさ。それで他の基地のメンバーに作戦に参加するんだろ?」

 

「はい。ですので現地で合流した後共闘という事になります。最もお二人の出番があるかは分かりませんが…」

 

人形ではない。見た目はまんま人なのだ。

幾らその身が普通でなかろうと前線に起用されるかすら怪しいとシーナは思っていた。

正直な所、二人の存在は意外な程に知られていない。

その理由としては今まで行われてきた作戦はほぼ特殊性にあふれるものばかりで公にされていない事が多い。

一部が二人の実力を知っている程度に収まっているのが現状である。

 

「意外とあるかも知れないぜ?ま、その時はその時って事で楽しむ事にするさ」

 

「ブレイクさんらしいです。…本来であれば私達の方でも部隊を送りたい所でしたが、もしかすれば別働隊が基地を攻撃してくる可能性も無い訳でないと判断しています。その為私達が基地の防衛及び警戒に当たる為、戦力を送り込む事は出来ません。ですがお二方ならやってくれるはずです。最高戦力と言ってもいい二人を送り込むのですから」

 

「オーライ。ご期待に応えられる様に頑張らせてもらうさ」

 

何時もの様に笑みを浮かべるブレイク。

壁に身を預けながら静かに二人のやり取りを聞いていたギルヴァはこれ以上の長居は無用と判断したのか執務室の出入口へと歩き出す。

 

「ギルヴァさんも無茶したらダメだからね」

 

背後から投げかけられた言葉に彼はふと足を止める。

振り返る事はせずとも、頭だけ少しだけ後ろへと向けギルヴァは答える。

 

「善処しよう」

 

そう告げるとギルヴァは執務室を出ていった。

彼の様子にブレイクはやれやれと肩を竦めながら、シーナの方へと向く。

彼女も苦笑いを浮かべており、二人して軽く笑い合った。

ひとしきり笑うとブレイクはギルヴァの後を追う様に執務室を出ていく。事務所へと戻っていくギルヴァへと追いつくと後ろから声を掛けた。

 

「盛大なパーティーって事は、お隣のお嬢ちゃん達も来るのかね?」

 

「知らん。だがこの手の事には参加しないとは思えん」

 

「かもな。…それで?内一人に随分なプレゼントしたみてぇだが、どういうつもりだ?」

 

「話す事などない」

 

まともに相手する気はないのかそのまま歩き続けるギルヴァ。

それを見てブレイクは軽くため息をつきながらもまるでいたずらを仕掛ける様な笑みを浮かべて尋ねる。

 

「まさか惚れたか?」

 

「そんな訳あるか。ただの気まぐれに過ぎん」

 

黒いコートをなびかせながら歩くギルヴァに赤いコートをなびかせながら歩くブレイク。

戦場で並んである事があれど基地内で二人がこうして共に歩く事は久しい。

話題が途切れ、沈黙が二人を包む。

ふとその時ギルヴァがブレイクへと話しかける。

 

「足を引っ張るなよ」

 

そのセリフに対しブレイクはフッと口角を軽く吊り上げながら微笑む。

 

「その台詞、そっくりそのまま返すぜ」

 

作戦が始まるまで時間はある。

だが二人はほとんど準備を終えている。後は招待状を片手に会場に向かうだけ。

そして会場に二人が姿を現した時、代表としてブレイクがこう尋ねるだろう。

 

「パーティー会場はここか?招待状はちゃんとあるぜ?」

 

その時彼らを知る者は気付くだろう。

魔剣士が君臨した、と。




はい、という訳で次回から試作強化型アサルト様作『危険指定存在徘徊中』のコラボ作戦『鉄血重要拠点及び鉄血防衛ライン破壊作戦』にギルヴァとブレイクが参加致します。

今回はパーティーの招待状が送られてきた…所謂前日譚みたいな感じです。


では次回ノシ


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Act170-Extra Ironblood May Cry Ⅰ

─泣く側か、泣かす側か─

─それを知るのは神様のみ─


始まり出した激闘。

爆発、銃声が混じり合い、呻き声はそれにかき消される。戦場は血と鉄を巻き散らす嵐と化していた。

荒野地帯での戦闘はジュピター砲による砲撃もあって、グリフィンと正規軍の混成軍は苦戦を強いられている状況であった。

そんな中グリフィンとは協力関係であり、念の為の戦力として依頼を受けた便利屋「Devil May Cry」の二人は銃弾、砲弾、光弾が飛び交う戦場で鉄血人形兵と機械兵の大群を相手に派手に暴れていた。

普通であれば険しい表情の一つでも浮かべながら戦うだろう。だがこの二人にとっては本気を出すどころか準備運動程度にしかなっていなかった。

 

「あらよっと」

 

拍子抜けする様な声を共にリベリオンを振り上げるブレイク。

接近戦特化のブルートの体を武器ごと共に破壊し、軽々とその体を宙へと舞い上げると流れる様にリベリオンを投擲。高速回転する大剣がまるで意思を有しているかの様に周りにいた敵を襲い掛かり次々と切り裂いていく。戻ってきたそれを容易くキャッチすると彼は別の所で戦っていたギルヴァへと声を飛ばす。

 

「ブレイク選手、一点リードってな!」

 

「数の数え方も忘れたか。算数からやり直してこい。それと…」

 

地面を蹴り突進。

黒き疾走がリッパ―やヴェスピドの集団の中を駆け抜けたと同時に無数の真空刃が襲い、バラバラに切り裂く。

いつ斬られたかすら分からない神速の斬撃。

抵抗すら与えない圧倒的な力の前では幾ら人形であろうと太刀打ちできない。

切り裂かれた人形達が地面に崩れる中、ギルヴァは無銘の刀身を鞘へと収めてから口を開く。

 

「俺が二点リードだ。いい加減負けを認めろ」

 

この状況だというのにこの男達はどれだけ敵を多く倒せるかを競い合っている始末。

一応真面目にやっているのはやっているのだが、周りからすればふざけている様にしか見えないだろう。

そもそも周りが普通であり、この二人が異常なだけである。

遠距離からギルヴァを狙撃をしようとしていたイェーガーが距離があるというのに気づいたら彼に一閃されていたり、圧倒的な連射力を誇る武器を持つストライカーに対してブレイクがその鼻っ柱を折ってやると言わんばかりに二丁の大型拳銃『アレグロ&フォルテ』の化け物じみた連射で返り討ちにしたりなど。

もうこの二人だけで良くないかと人形が匙を投げてしまっても可笑しくない程の事が作戦開始した直後から起きているのだ。

彼らを知る者ならその光景を見ても引き攣った笑みを浮かべる程度で済むだろうが、知らない者からすれば大騒ぎ待ったなし。

故に先程から彼らの通信機からは人形達や正規軍の機動兵器に乗るパイロットから少しずつ困惑した声が聞こえているのだが、二人は無視を決め込んでいた。

すると二人の耳に別の声が飛び込む。

 

『・・こちらタロス3、現在鉄血の砲台陣地で部隊に被害が増大・・・・・・誰か小回りがきいて空飛べるやつがいたら援護を頼む!!どこにあるかの偵察の支援だけでもいい・・・・・・誰か頼む!!』

 

それは正規軍の強化外骨格機動兵器「AA-2 アレス改」に搭乗していたパイロットからだった。

その口ぶりからして切羽詰まっている事が見て取れる。

 

「砲台って言えば…」

 

「あれか」

 

高台に無数にそびえ立つ鉄血の兵器『ジュピター』。

それによる砲撃がこちら側を苦しめる要因を作り出している事はギルヴァもブレイクも理解していた。

距離がある上に砲台からの弾幕は激しい。この中を飛び込んでいくのは余程の狂人だろう。

だがこの二人は次に何をすべきなのか分かっていた。

ブレイクがニヤリと笑みを浮かべると通信機のマイクに向かって叫ぶ。同時その姿を変貌させながら。

 

「オーライ!任せな!取り敢えずあの砲台をぶっ壊せばいいんだな?」

 

それに続く様にギルヴァを口を開く。ブレイクと同じ様に姿を変貌させながら。

 

「ならば俺達が何とかする。間違えてこちらを撃たん事だ」

 

赤と青。

二つの何かが戦場を駆け抜ける。

それが何なのか誰もが理解する間もない。

もしかすれば一部が気付いたかも知れない。だが全員が気付いた訳でない。

砲台を片っ端から破壊する為にこの戦場の空を二体の悪魔が飛翔した。




はい(はいじゃないやろうが)

という訳で今回から試作強化型アサルト様作『危険指定存在徘徊中』の大規模コラボ作戦『鉄血重要拠点及び鉄血防衛ライン破壊作戦』に参加致します。

向こうも始まったばかりなので、こちらも短めに。
てかこんな感じでええんやろうか…言われたら書き直しますわ。

取り敢えず大量のジュピターをうちの二人がぶっ壊しにかかります。
ギルヴァは無銘がありますし、ブレイクはルシフェルと、実はもう一つマギーから貰った魔具を使用します。

では次回ノシ


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Act171-Extra Ironblood May Cry Ⅱ

─森林伐採ならぬジュピター伐採─


鉄血陣営防衛ライン第三砲台陣地。

他の陣地と比べるとその陣地は幾らかジュピターは残っているものの最早時間の問題と言えた。

厚い弾幕を抜けきり、ジュピターへと一直線に向かってくるのが一つ。

それは人ではない。しかしE.L.I.Dではない。別の何か。

防衛に当たっていた鉄血人形達が接近してくる何かに気付くと撃ち落そうと銃器を発砲。だが突如として頭の上から降ってきた群青色の刀の雨によって串刺しにされ地面へと縫い付けられるとそのまま機能停止に追い込まれる。邪魔者は居ない。後は切り捨てるのみ。

 

「断ち──」

 

ノイズが掛かった声を共に蒼き悪魔が手にした日本刀を振りかぶる。

 

「──斬る…!」

 

鮮やかでありながら力強い逆袈裟がジュピターを一閃。

空間が揺れる様な振動。先程まで動いていた巨体がまるで時間を止められたかの様に動きを止めてしまう。

地面へと着地した蒼き悪魔が刀身を鞘へと納める音を響かせた時、ジュピターは轟音を立てながら崩れ落ちた。

舞い上がる土埃。そこから飛び出てくるは先程の悪魔。四枚の羽を広げて飛翔し次の標的へと狙いを定める。

一刀両断されたジュピター砲の数はそろそろ十は越そうとしている。また彼以外にもブレイクもまたジュピターの破壊に動いている為、もの凄い勢いでジュピターの群れは壊滅の一途をたどるばかりである。

 

―懐かしいねぇ…。放浪していた時に見つけた雪山のこいつらの群れを斬り落としまくったのを

 

「ああ」

 

蒼の言っていた事はギルヴァも覚えている。

こればかりは語られなかった話であるが、このギルヴァという男はかつて放浪していた際に雪原の山岳地帯で見つけたジュピターの群を一つも残す事無く破壊した事がある。

進行方向にそれらがあったという事だけであり普通なら迂回するなり別のルートを探るべきだろう。

だがそんな事を一切せず、それどころか彼は無銘の練習相手代わりに丁度良いと判断しジュピターをサンドバッグ代わりにしてその一帯にあったそれらを両断していったのだ。

その時の事は鉄血の方でも大騒ぎとなり、当時その大騒ぎを耳にしていた元鉄血所属のシリエジオはこう語る。

 

「最初破壊されたジュピターの画像を見せられた時、啞然としましたね。あの巨体がまるでチーズも同然と言わんばかりに両断されていたのですから。人形である身の私が夢を見ているのではと思ったほどです」

 

ともあれ、森林伐採ならぬジュピター伐採はギルヴァにとっては二回目の事だった。

地上は地上で戦火を交え、ジュピター破壊組はそれぞれの持つ力を用いて、ハッキングによる同士討ちを狙ったりなどしてた。

 

―それにしても嫌な予感がするな。別の何が動いている気がしてならねぇ

 

(ああ。必要であれば…蒼、お前にも出てもらうぞ)

 

―お?俺にも出番があるのか。いいねぇ、やる気が出てきた!

 

弾幕を掻い潜り、飛翔するギルヴァ。

今回は無銘だけに限らず、フードゥルともう一つ新たな武器を持ち出している。

とは言え今の状況だけなら無銘だけで事足りる。

そして複数の自走式と固定式のジュピターを発見すると彼は自身の魔力でその新たな武器を作り上げた。

背に現れるは以前に幻影を渡した人形が持つ刀に酷似したもの。それを自身に合うように若干大型化し調整を施した魔の太刀。

名前などない。どうせなら誰かにつけてもらうも一興と思いながら、彼が急制動から背に背負った太刀に手を掛ける。無銘を左手に、太刀を右手に携え、まるで今から突進するのではないかと言わんばかりの態勢を取る。

 

「逃げ場などないぞ」

 

その声を共にギルヴァは太刀を突き出したと同時に体を高速回転させながら突進。

まるで刃の嵐がそこにあるかのようで。防衛に当たっていた人形達が一瞬でバラバラに切り裂かれ、そのまま刃の嵐がジュピターへと突進。

幾ら堅牢な装甲でもそれを止める事は無理に等しい。装甲を貫き、内部を滅茶苦茶にし外へと飛び出る。

内部を滅茶苦茶にされた事でジュピターは爆散。もう誰にも止める事は出来ず、複数あったジュピターが次々と餌食になっていく。

最後の自走式を見つけると止めに二振りの刀による斬撃を浴びせ沈黙させるとギルヴァは魔人化を解除し地面へと着地する。最初から最後までこの状態で居られる事はない。

一休みとは言わずとも他の敵を始末する為に、彼は歩きながらその場を去る。

未だに戦闘の音が収まる事はなく、いつ襲われても可笑しくない状況で蒼がある話題を取り上げた。

 

―そういやランページゴーストも来てるんだろ?アナ、幻影上手く扱えているかね?

 

「何もしないという事はなかろう」

 

―だろうな。他にも接触した事はねぇがS09 B地区の所の面々も来てるらしいぞ?後方で色々やってるとか。ガンスミスもいるみたいだし、レーゾンデートルを見てもらったどうよ?

 

「見せた途端卒倒するしか思えん」

 

―ハハッ。かもな

 

蒼の笑い声を耳にしながら、彼は久しぶりにレーゾンデートルを引き抜くとある方向へと銃口を向ける。

二つの銃身から13mmというトチ狂った弾丸をほぼ同時に発射するリボルバー。

銀色の染められた特殊拳銃の引き金が引かれると二発の銃弾が放たれ、身を潜ませていたリッパーの頭を木端微塵に吹き飛ばす。

最早この銃の化け物じみた威力はギルヴァからすれば慣れたものである。

 

「…たまには戦い方を変えるのも良いかも知れんな」

 

―13mm弾のバーゲンセールか。こりゃ酷い事になりそうだ!

 

現れる敵にレーゾンデートルが咆える。

私はここに居て、敵がそこに居る。私の役目は敵を撃つ事だと。

存在意義(レーゾンデートル)と銘打たれ、その意味を高らかに知らしめる様に。

 

 

一方ブレイクもまたジュピターの破壊を勤しんでいた。

ギルヴァの持つ無銘の様な武器はなくとも彼はルシフェルを用いて次々とジュピターを破壊していた。

 

「よっと!」

 

一気に複数の剣を投擲。赤く淡い光を放つ剣が砲台へと次々と突き刺さってさり、ブレイクは空中に華麗に舞う様な動きで投擲と接近して突き刺すなどといって行動を繰り返していく。

体を捻らせて、二本投擲から、宙で姿勢を変えて上下反転しつつ回転しながら複数投擲。そこから連続して剣を投擲し、とある形を作り上げていく。

よく見ればそれはハートの形をしている。その中心に目掛けて最後の一本を投擲。それが突き刺さったと同時にブレイクは着地。何処から出したのか薔薇を咥えており、ポーズを取りながら手を二回叩いた。

するとそれに合わせる様に剣が次々と爆発。決して大規模な爆発でないしろその威力は装甲を無視し、残ったのはハートの形をしたジュピターの残骸だけであった。

 

「これで自由ってな」

 

口に咥えていた薔薇を投げ、最後に突き刺さった剣へ7と当てる。

薔薇が散り、赤い花弁が舞う。そして剣が爆発するとハートに亀裂が入っていき、最後は二つに分かれて崩れるのであった。それを見届けたデビルトリガーを解除し、ブレイクは周囲を見渡した。

すると自立式ジュピターが何故か同士討ちをしているのを彼は目撃する。

 

「ふぅん…どうやらあれはぶっ壊さなくても良いみてぇだな」

 

別空間からヴァーン・ズィニヒを呼び出し、それに跨るブレイク。

アクセルを捻り、エンジン音を唸らせると車両を走らせる。

 

「どっかの誰かがハッキングした訳か。こりゃ俺には出来ねぇ技だな」

 

ギルヴァもブレイクもそうなのだが、気になったら取り敢えずぶっ叩くという事が多い。

例えばジュークボックスが上手く動かなかったら軽く蹴りを叩きこむとか。

そんな事をすれば当然ぶっ壊れる。ましてや電子機器のハッキングなど出来る筈もない。

故にそう言った芸当が出来る者に関しては彼は純粋に感心していた。

 

「誰がやったのか一度顔を見てみてぇ所だが、後回しだ。取り敢えず手当たり次第ぶっ壊すしかないな」

 

笑みを湛えながらもブレイクは別のジュピターへと突撃。

防衛に当たっていた鉄血の兵士達をアレグロとフォルテの連射で次々と撃ち倒していき、最後は自身を後ろへと回転させながら車体から降り立ちヴァーン・ズィニヒだけを投げ飛ばしぶつける。

大きな車体が鉄血の人形達をボウリングのピンの如く吹き飛ばしていくとそのまま空間の中へと消えていった。

防衛を排除し、そのままジュピターへと攻撃を仕掛けようかと思った時、ブレイクはマギーから、とある物を渡されていた事を思い出す。

右手に意識を集中させてそれを呼び出す。すると彼の右手にまるでスーツケース状の魔具が姿を現した。

 

「そういやこいつをプレゼントされてたんだったな」

 

吞気にスーツケースをコンコンと叩くブレイク。

するとこれ以上はやらせないという意思でも有しているのか鉄血人形兵と機械兵が彼を包囲する。

 

「成程。食べ放題って訳だ」

 

周りを見渡しながらも余裕のある笑みを絶やさないブレイク。敵の持つ武器の引き金を引かれそうになった時、彼は一気に跳躍。すると右手に持ったスーツケースがその姿を変え始めた。

それはニーゼル・レーゲンの元祖とも言える魔具。変形可能な形態数は666。

マキャ・ハヴェリによって作り上げられた魔具であり、災厄と破壊を巻き散らす兵器。

その名はパンドラである。

 

「行くぜ!」

 

掛け声と共にスーツケースからガトリングガンへと姿を変えたパンドラを片手に回転しながら地上にいる敵の群れを連射していくブレイク。

降り注ぐ弾丸の雨が敵を蜂の巣へと変え、瞬く間にその数を減らす。辛うじて生き残った敵がブレイクへと攻撃を仕掛けようとするが、反撃を受ける前に彼はパンドラへ別の携帯へと変形させるとガトリングガンから今度は砲口が三つ存在するロケットランチャーへと変形。それを構えてブレイクは地上へと発射。

大規模な爆発により人形兵も機械兵も空へと舞い上げられるとグラウンドトリックで用いて彼は地上へと降り立つ。無防備な状態を晒しつつける所を狙って、パンドラをロケットランチャーから大型のブレードが備えられた投擲武器へと変形させ、勢い投げ飛ばす。

次々と敵達を両断していくブーメラン。そのままブレイクの元へと戻ってくると、パンドラは彼の意思に応じて形態を変更。

今度は武器ではなく、乗り物に似た姿へ変形し無数の砲口がせり出す。コックピットらしき所で座るブレイクは二つの操縦桿を握ると同時に下ろした。

すると無数の砲口から次々とミサイルが発射され、宙へと舞い上げられた敵達に限らずジュピターにも向かって行き着弾。

派手な爆発が巻き起こると、パンドラをスーツケースへと戻す。

 

「さーて、次はどうしたもんかね」

 

戦場のど真ん中で吞気な事を口にするブレイク。

しかし彼は分かっていた。この戦場に得体の知れない何かが混じっている事に。

悪魔ではない。それなら自分やギルヴァがとっくに気付いている。

 

「それにハイエンドモデルも姿見せてねぇがサプライズイベントでも考えてくれるのかね?」

 

パンドラを別空間へと収め、ブレイクは歩き出す。

奇しくも彼もまた今回参加している協力者の事を口にした。

 

「近所のお嬢ちゃん達は何時も通りだが、確かM16A4も来てるんだったか?おまけにS09 B地区の所も来ている上に色んな所が此処に来てるって訳か」

 

どう考えても過剰戦力。

重要なのは分かるが、これだとどっちが悪なのか分からないものである。

最もデビルハンターであるブレイクとギルヴァが居る時点でオーバーキルが発生しているのだが。

 

「やれやれ…盛大なパーティーになっちまってるな、こりゃ。ま、どっかで顔を合わせる事もあるだろう。今は好き勝手させてもらうぜ」

 

そう言いながら攻撃を仕掛けてくる敵に対してブレイクはアレグロとフォルテを引き抜き迎撃。

白と黒。与えられたのは音楽用語。

この戦場は音楽は要らない。だが敵に手向ける音楽としては申し分ない。

二つの銃は今日も曲を奏でる。最期に聴く曲はどれが良いと敵に尋ねる様に。




はい。まぁいつもの通り大暴れしております。

そして内容にあった通り、ギルヴァには魔力で錬成した太刀、ブレイクに新たな魔具『パンドラ』持たせています。
それにより新たな技も出していきます。

あ、うちの二人を使いたかったどうぞ。
そこら辺で暴れておりますので。

では次回ノシ


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Act172-Extra Ironblood May Cry Ⅲ

サプライズゲスト(新たな敵)のもてなす方法は一つ─

─取り敢えずぶっ叩け─


「ん?」

 

城塞が崩されていく。ジュピターが次々と崩壊していく中、そこら辺を散歩するかの様に歩いていたブレイク。

リベリオンを背に、アレグロとフォルテを両手に携え、見晴らしの良い高台に出ると彼はある物を発見した。

何処から湧き出てきたのか。鉄血とは思えない全身装甲で身に纏った敵の群れが味方を攻撃しており、圧倒的な火力と高い防御力の前に混成軍側の人形達は次々と倒されていく。

敵である事は間違いない。鉄血かどうか分からずともサプライズゲストには違いない。

 

「しっかし…あれだな。何かに恨みでもあるのか?殺気が駄々洩れなんだが。まぁ悪魔の匂いよりかは多少マシか」

 

その数、一万。その三割程度がリバイバーと呼ばれる者の方へと向かっている事はブレイクは知らない。だがどちらにせよ面倒な存在である事は事実。

早い事、掃除しなくてはこちらの被害も大きくなっていく一方だろう。

 

「折角だし、挨拶にでも行くか。話したら意外と面白いかもな」

 

そんな吞気な事を言いながら、ブレイクは崖に背を向け後ろへと倒れる。

そのまま重力に引かれながら彼は降下。サプライズゲストへと軽く挨拶へと向かうのであった。

 

 

「ドーモ、正規軍=サン、グリフィン=サン コロスベシ慈悲ハ無イ」

 

「エリちゃんを泣かすやつは明日を生きる資格はねぇ!!!」

 

「泣け!叫べ!そして死ねぇ!!」

 

黒き装甲、オレンジ色のバイザー。一見すればカッコ良く見れるだろうパワードスーツの軍勢。だがそれは敵であり、群れをなして現れていた。グリフィン、正規軍の者と判断すると容赦のない攻撃を浴びせる。

装備された重火器による圧倒的な火力には人形達では太刀打ちできない。

それどころか成す術もなくやられる一方で、中には仲間の死を目撃し狂った様に笑う人形が居れば、戦意喪失する人形、負けじと手に持った銃を放ち諦めないと言った意思を見せる人形など様々。

 

「あぁ…あぁ…!」

 

塹壕で身を潜ませていたSGの戦術人形 super shortyは体を震わせながら怯えていた。

持っているショットガンの弾は既に尽きた。片腕は吹き飛び、片足からは内部骨格が見えていた。周りには先に逝ってしまった仲間たちの残骸が転がっている。

もう成す術はない。無惨に殺されるのみ。

死と恐怖が一歩、一歩ずつ迫ってきて、それが彼女に呪いの様にまとわりつき、動かさない様にしていた。

そして彼女は微かな声で乞う。

 

「誰か…助けて…」

 

この状況から助け出してくれる救世主を。

しかしその声が届く事もない。この戦場に神様などいないのだから。

 

「呼んだか?」

 

だが悪魔はこの戦場はいた。

突如として隣から聞こえた声の方向へsuper shortyは勢い良く顔を向ける。

居たのは赤いコートを羽織った銀髪の青年。背には大剣を背負っている。何時の間に現れたのか、気配も感じさせる事もなくその男は彼女の隣に座りこんでいた。

この時、super shortyは混乱しており隣にいた彼の名前が思い出せなかった。だが微かに思い出せるのは民間の協力者として便利屋が来ている事。そしてその名は…

 

「デビル…メイクライ…?」

 

「店の名前を覚えてくれているのは嬉しいね」

 

笑みを浮かべると青年は傍に落ちていた帽子に気付き、手に取る。

青色の帽子。それはsuper shortyが被っていたものであり、土埃が付着していた。

土埃を払い落すと彼は持ち主の頭へとそっと被せ、乱雑でありながらもその頭を撫でる。誰かに頭を撫でられた事もない彼女にとっては不思議な感覚。そして立ち上がった彼の顔を見つめると、青年はsuper shortyに告げた。

 

「そこで休んでな、お嬢ちゃん。こっちに向いている奴らは一部みたいだからそう多くねぇ。だが居るだけで面倒な連中なのは分かり切った事なんでな。少しばかり遊んでくるぜ」

 

止める様に言おうとしても声が出てこない。

行っては駄目だという意思を伝えようとsuper shortyが彼の纏う赤いコートの裾へと手を伸ばそうとしても寸での所で届かなかった。

塹壕から飛び出していく彼。

彼もまた殺される…。

その場に残されたsuper shortyはまるで諦めたかのように静かに目を閉じた。

 

 

「オラオラァッ!!その程度かよ!!グリフィンと正規軍の人形さんよぉッ!!こっちはまだまだ腐る程弾が残してんだがなぁッ!!」

 

祈祷者の軍隊の一人が重火器を乱射しながらあぶり出すように叫ぶ。

確かにこの者達の火力は侮れない。まるでS10地区前線基地に居るネージュを簡易量産した様な火力を保有しているのだから。

だが忘れてはならない。圧倒的な火力と圧倒的な数で攻め入ったとしても太刀打ちできない存在が居る事を。

そしてそれが気配も、保有するセンサーにも反応させる事もなく何時の間にか隣に立っていた事に。

 

「ふーん…色んなパーティークラッカーを持ってる訳か」

 

「ん?」

 

黒きパワードスーツを纏うそれが隣から聞こえた声に反応し、その方向へと顔を向ける。

居たのは赤いコートの男。肩装甲に凭れ掛かる様に立っており、周りに敵が居るというのに堂々としていた。

突如として現れた彼に周囲の全身装甲で覆われた者達はまるで困惑した様な様子を見せる。敵であるにも関わらずブレイクは隣に立っていた人形へと話しかけた。

 

「よぉ。随分とイカした着ぐるみだな」

 

「え、あ…ああ!イカしてるだろ?」

 

この姿をイカしていると言われたのが嬉しかったのか、相手は何処となく喜んでいる様な声を上げる。

ふと周りの人形達は仲間の一人を話しているブレイクを見て、確かめ合うようにひそひそと話し合い始める。

 

「なぁ…あいつって、確か要注意人物のリストに載ってなかったか…?」

 

「いや…確かそいつって黒いコートじゃなかったか?」

 

「そうだったか…?リストには二人いて、片方が赤いコートで背にでっかい剣を背負っていて…」

 

「…」

 

全員が彼を見る。

赤いコート、背に背負っているは大剣。

 

「「…」」

 

沈黙が訪れる。

そして息を合わせたかのように全員が叫んだ。

 

「「「こいつじゃねぇか!!!???」」」

 

「おっとバレちまったか。それじゃ…」

 

背負っているリベリオンに手が掛けられる。

相変わらず笑みを湛えたまま、彼が合図する。

 

「遊ぼうぜ?」

 

「野郎ッ!!」

 

隣に立っていた人形が手に持った銃器で殴りかかる。

固い装甲で覆われた一撃が迫りくる。しかしブレイクは上体を反らして容易く回避すると素早くリベリオンを振り下ろすがその一撃は固い装甲で弾かれる。

 

「馬鹿か!そんなもん効く訳ねぇだろ!」

 

「みてぇだな。んじゃ戦い方を変えるか」

 

周囲から飛んでくる弾幕。それに反応しブレイクはエアトリックを用いてその場から消える。

 

「な!?」

 

驚くのも束の間、人形の一人が味方からの攻撃に巻き込まれ蜂の巣へと変えられ絶命。

まさか相手が…ましてや人間が瞬間移動するなど思っていなかったのだろう。困惑する声が上がる中でリーダー格と思われる人形が指示を飛ばす。

 

「下手に撃つな!味方も巻き添えになる!」

 

「勝手に減らしてくれたらこっちとしちゃありがたいだが」

 

リーダー格の後ろから聞こえた声。

素早く振り向こうとした時、一発の銃声と共に背後から放たれた一発の弾丸がリーダー格の頭を貫く。

転げ落ちる薬莢。機能が停止し地面へと崩れるリーダー格。そして居たのはフォルテを構えていたブレイク。

 

「さ、続きをしようぜ。降参する気なんて無いんだろ?」

 

「ったりめぇだ!!エリちゃんを泣かす奴は死ねぇッ!!」

 

「エリちゃん?良く分かんねぇが、お前たちのご主人様ってやつか?」

 

武器を構え始める人形達。大量の重火器が今から放たれようとしている。

そして彼ブレイクはリベリオンを収め、アレグロをホルスターから引き抜く。

両手に持った銃を高速でスピンさせてから構えると二つの楽器に喋りかける。

 

「頼むぜ、相棒」

 

奏でるは二丁の楽器。ブレイクだからこそ出来る二丁の拳銃による高速連射。

無茶苦茶な連射をしているというのに、アレグロとフォルテにはガタはやってくる気配すらない。

飛んでくるミサイルなどが魔力が込められた銃弾によって次々と撃ち落され、また狙いも正確で人形達の頭となる部分だけに銃弾を叩き込み、機能停止へと追い込んでいく。

 

「何だよ、あの拳銃は!?どんだけ連射してんだ?!頭狂ってんだろ!?」

 

「おいおい、人の事言えたクチか?そっちだって色々持ってるじゃねぇか。似たモン同士だろ?」

 

「人間と同じにするな!」

 

ノリが良さそうな相手と思っていたブレイクはやれやれと呟く。

どちらにせよやる事は変わらないのでこのまま遊んでも良い。

だが長引けば長引く程、他の所で被害が広がるという事が分からない男ではない。

このまま幕を下ろすべき。そうと決まった時、ブレイクは行動を起こす。

アレグロとフォルテをホルスターへと納めるとグラウンドトリックで一気に敵陣に急接近し目の前に降り立つ。その手にはパンドラ。そしてやり方は簡単。それを地面へと下ろし、足でケースを開くだけ。

 

「ほらよ」

 

パンドラがスーツケースの状態のまま地面にへと置かれる。

そしてヒンジの部分に足が置かれた時、災厄の箱が開かれた。

放たれるは金色の光。小さなスーツケースから放たれるその光の射程範囲は未知数。ただ相当の範囲に老いぶのか、ブレイクが相手にしていた祈祷者の軍隊の一部と少し離れた場所で戦闘を行っていた大多数が突如として機能停止するという状況が生まれていた。全てが機能停止とは言えずともこれは大きかっただろう。

それを知ってか知らずか、ブレイクは踏みつけるようにパンドラを閉じた。そのまま器用に足でパンドラを放り上げてから片手でキャッチしてから口を開いた。

 

「アディオス。イカした格好をした人形共。また遊ぼうぜ」

 

次に会ってくれるかどうかすら怪しい筈なのだが、また遊べる事を望みながらもブレイクは置いていった戦術人形の所へと歩き出した。

微かな声で助けてと言っていた彼女の元へと。吞気に歩きながらも彼は塹壕へと到達し、super shortyの傍に近寄る。

super shortyの目は伏せられていたのだがブレイクに気付いたのか、彼女は下ろしていた目を開き顔を上げる。

 

「よぉ、お目覚めかい?お姫様」

 

普段と変わらぬ様子で笑みを湛えたままブレイクがそこにいた。

先程戦いに行った筈。

だが彼はそこにいた。息を切らしている様子もなく、平然とした様子で。

 

「…生きてい、る…なんで…?」

 

だからこそ、彼女は思わず疑問をぶつけてしまった。

あんな化け物たちと戦って生きて帰ってこれる筈がないと思っていたから。

その問いに対してブレイクは軽く肩を竦めてから問いに答えた。

 

「何でって言われてもな。奴らと戦って、倒してきた。それだけの事さ」

 

そう言ってブレイクはsuper shortyをお姫様だっこする様な形で抱き上げた。

目指すはG&K臨時本部。取り敢えずこのボロボロな状態のお姫様を休ませるのが先決だった。

 

super shortyを抱えてブレイクが目的地に到達した時は、またそこも戦場と化していた。最もそれは銃弾やら砲弾やらが飛び交う戦場ではなく、次から次へとやってくる負傷した人形達の修繕や銃のメンテなどに追われるばかりで休む間もない。最早別の意味での戦場が出来上がっていた。

 

「分かってはいたがこっちも戦場となってるな。まぁ無理もない話だが」

 

何処を見ても誰しが走り回っている。書類を抱えて走っていく職員が居れば、人形が何かのケースを持って向こうへと走り去っていく。

誰しもがブレイクに気付く様子もなく、その前を通り過ぎていくばかり。

 

「さぁてどうしたもんか…」

 

呼び止めた所で後回しにされるだけ。

頭を悩ませるブレイクだが、ある事を思い付いた。

 

「分かりそうな奴を見つけて、お姫様を何処に休ませたらいいか聞くか」

 

結局手当たり次第。この状況では仕方ない事とも言えた。

super shortyを落とさないように抱き直してブレイクは歩き出す。そこらじゅうに天幕が存在しており、彼は適当にその天幕へと入った。

 

「だーもう!ここぞという時に大量に持ってきやがってー!」

 

そこには怒号を上げながらも手慣れた手つきで修理を行っているつなぎを着た男性…ガンスミスである。

タイミングが悪い時に来てしまったなと思いながらもブレイクは話しかける。

 

「忙しいところわりぃがちょいと良いか?」

 

「また修理か?悪いがこっちは手一杯だ、他を当たってくれ」

 

「いや、そうじゃねぇ。負傷した人形が休める所探している。分かんねぇなら他を当たるが」

 

「それならここを出て少しした所にある。そこに行ってくれ」

 

ここを出て、少しした所にある。

一度外へと出て、探してみるブレイク。そして確かに彼が言った通り、負傷した人形達が応急手当を受けている場所が少しした所にあった。

場所は把握した。再びブレイクは天幕へと戻って、彼に礼を伝える。

 

「サンキュー。助かったぜ」

 

「ああ。…って、うん?あんた、DMCって言う民間協力者か?」

 

「まぁ、そんなところさ。便利屋「デビルメイクライ」を営んでる。それじゃあな。場所を教えてくれてありがとよ」

 

お礼を伝えてからブレイクはそこから出る。

そのままsuper shortyを負傷した人形達が応急手当を受けている所に預け、彼は再び戦場へと戻ろうと歩き出した。

ヴァーン・ズィニヒを呼び出そうとした時、ふと彼は積まれていたコンテナの上に置かれていた誰が持ってきたのか分からない水平二連装のショットガンを発見する。

 

「誰のか分かんねぇが貰って行くぜ。丁度欲しかった所なんでな」

 

ショットガンを手に取り、懐へと納めるとヴァーン・ズィニヒを呼び出し、それへと跨る。

高らかに響くエンジン音。フルスロットルにして彼はバイクを勢い良く走らせた。

パーティーはまだ始まったばかり。ならば心行くまで楽しめばいい。

どの道に派手になるのだから。




今回はブレイクの方を書かせて頂きました。

新しい敵も出てきたんでね、取り敢えずぶっ叩きました。
ただ全部倒した訳ではなく、一部倒した程度なので。まだまだ続きそうです…。
またショットガンは現地調達です。

また折角の大規模コラボなので、今回参加している所のキャラにも絡みにかかります…。
なので今回参加している皆様もうちの二人を自由に使っていいからね!

では次回ノシ


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Act173-Extra Ironblood May Cry Ⅳ

─違和感を残しながら─

─彼ら、彼女らは次へと歩み出す─


祈祷者の軍隊が一時撤退する約三十分前の事。

ブレイクがその一部と戦っていた時、ギルヴァは別の所にいた。

珍しい事に敵に襲われるという事もなく、ただ真っすぐと道を歩いていた。

だが彼はこの戦場に隠れている異様な何かを感じ取っていた。

元より彼は鉄血陣営の動きが余りにも不自然だと感じており、その不自然さと違和感に懸念を覚えていた。

 

「…まだ何かを隠しているか」

 

―大方な。それにずっと監視されてる事は気付いてるな?

 

「ああ」

 

ジュピターへと攻撃仕掛けた辺りから、彼はずっと何者かに監視されている事に気付いていた。

人ではない。かと言って人形でもない。ただ無機質に見られているという感覚。

 

「偵察機か」

 

―確かスカウトだったか?小回りが利く上に機動性も高い。監視をするなら持ってこいだな

 

元より警戒されていても可笑しくない事はギルヴァとて分かっていた。

今の今まで散々鉄血を相手にして、蹴散らしてきた。大部隊を単身で撃破し、ハイエンドモデルさえも倒した。

最もハイエンドモデルの場合は事情が事情という事もあり、機能停止へと追い込まず気絶させる程度にとどめていたが。

どちらにせよ監視対象として監視されていても可笑しくないのは事実。

 

「破壊すれば厄介な事になりかねんか」

 

―何かを待っているという感じか。一つぶっ壊してしまったら、何かやらかすかも知れんな

 

「ふむ」

 

歩みを止めて彼はゆっくりと振り向く。

そこに何か居る事を分かっているかのように見つめるも、直ぐ様彼は振り戻り先へと進む事にした。

後になって出てこようが知った事ではない。

敵であれば切り捨てるのみ。それ以外に理由などありはしないのだから。

戦場に存在する違和感、思惑などが入り混じる中、彼は進んでいく。

鉄血陣営最終防衛ラインまでは距離があるものの彼はそこへと目指して歩いていた。すると何処から飛んできたのか黒い装甲で覆われた何かが彼の前に飛来した。よく見ればそれは人形であり既に機能停止していた。まるで何かによって両断されたのか下半身が無くなっている。

それが飛んできた方向へとギルヴァが向くと蒼が伝えた。

 

―気配は3。それにこの気配……幻影の魔力か。となると…

 

「ランページゴーストか」

 

幻影を持っている人形など一人しかいない。

そして彼女達がこの近くで戦っているというのだろう。

高い実力を持つ彼女達。わざわざ自身が手助けしなくても起きている戦闘を切り抜けられるだろうと思いながらも、どうしたものかと悩んだ。

敵を減らしておく事は必要だろう。残していた所で邪魔にしかならないのだ。

だが余計な消耗を避けるという考えもない訳ではなかった。

 

「…はぁ」

 

悩んだ末、彼が小さくため息をついた。

そして駆け出す。戦闘が聞こえる方向へと。

幸いというべきか、彼女達が戦闘している地点までそう遠くなかった。数分もあれば到達する。

そして走りながらギルヴァは思った。

 

「我ながら丸くなったものだ」

 

―荒削りだけどな

 

「否定はせん」

 

分かっていた事であった。

自分が荒削りでありながら丸くなっている事。

らしくないと言えばらしくないかも知れない。だがそれを良しとする自分が居る事をギルヴァは自覚していた。

近づくにつれて戦闘が発生している音が大きくなっていく。それはまだ戦闘が続いている事を示していた。

そして戦闘を繰り広げている彼女達を発見した時、追加兵装【ブラッディ・フィーバー】を取り付けたシュトイアークリンゲを薙ぎ払ったノアの一撃により黒き装甲に覆われた人形が上半身と下半身が真っ二つにされ、一撃を受けた反動か上半身だけが奇しくも援護に入ろうとしていたギルヴァの方へと飛んで行った。

 

「って、はぁっ!?ギルヴァ!?」

 

上半身が飛んで行った方向が視界の内に映っていたのか、ノアが叫ぶ。

だがそれに答える事もなく、無言のままギルヴァは無銘の鍔に親指を押し当てながら鯉口を切った。

右手で柄を握り、鞘から刀身を抜刀。

神速の抜刀で飛んできたそれを弾き飛ばすと、ギルヴァは足を止めて素早く周囲を見る。

囲まれている。同時に固くはない。ならば手早く片付ける方が良い。

瞬時にその考えに至るとギルヴァはその場で跳躍。宙で敵の位置を把握しながら流れる様に上下反転。

 

(あいつの真似事になるが…!)

 

そして体を捻り回転を入れると同時に無銘を投げ飛ばした。

高速回転しながら降下していくギルヴァの元から離れ、すさまじい切れ味を誇る無銘がまるで意思を有したかの様に周囲の敵達へと襲い掛かる。高い防御力を誇る装甲を無視し無銘は次々と切り裂いていき、敵の数を瞬く間に減らしていく。

そしてギルヴァが着地した時、無銘が主の元へ戻っていき彼はそれを片手で容易くキャッチ。すると遠くからバイクの音が聞こえ、それが段々とこちらへと迫ってきている事に気付く。

 

「やかましい音を…」

 

呆れた表情でギルヴァが無銘の刀身を鞘へと収め、鍔と鯉口がぶつかる音を響かせた時。

それを合図にしてもう一人が飛び出す。

 

「Yahooo!!Yeah!!」

 

バイクのエンジン音が高らかに響き、かつ運転手も上機嫌。

狂ったバイクに乗って姿を現すはブレイクである。

同時にギルヴァが倒した敵をバイクによる突撃を敢行し轢き飛ばすとそのままヴァーン・ズィニヒを変形。

二つのチェーンソーへと変形したそれを両手に握り残った敵へと攻撃を開始。

右手にもったチェーンソーで周囲を薙ぎ払い、左手のそれで後方を頭から叩きつけ両断。

自身の片足を軸にして素早く回転をいれ襲い来る敵を蹴散らしてから、その場にいた敵を殲滅。

残るは残骸のみ。ヴァーン・ズィニヒを別空間へと放り込むとブレイクがにこやかに笑みを浮かべてから喋る。

 

「大渋滞も良い所だぜ」

 

「その大渋滞も今解消されたけどね」

 

パワードスーツを着ている為、表情こそは分からないが何処か引き攣った笑いを上げながらRFBが答える。

それに対しブレイクは肩を竦めるが、反論する気などなかった。

 

合流したランページゴーストとギルヴァとブレイク。何故か祈祷者の軍隊が撤退し、またこ第一、第二防衛ラインを突破した事によってこのまま最終防衛ラインへと向かう事になるのだが、ランページゴーストの三人は一旦補給を受けなくてならない事が判明する。

 

「ごめん、また別行動になるみたい」

 

「気にすんなよ、RFB。手早く補給を受けて戻ってくればいいさ」

 

元より自分達から乱入した為、彼女達が補給に戻る事をブレイクは咎める事はしなかった。

それは隣に立つギルヴァも同じで言葉にせずとも咎める事はしなかった。

 

「俺達の事は気にすんなよ。まぁそれでもって言うんなら借りを返してくれたらいいさ」

 

そんじゃあな、とランページゴーストの三人に伝えるとブレイクは最終防衛ラインへと歩き出した。

そのままギルヴァも彼の後に続こうとするが、何かを思い出したのかその足を止めた。

 

「"それ"を使う事になった時、共闘できる事を楽しみにしている」

 

ランページゴーストの三人の中の誰へと伝えたのか。

当然それは幻影を渡したアナである。

だがギルヴァは返答を待つ事もなく、その場から歩き去りブレイクの後へ追った。

これまでは準備体操に過ぎない。

ここから本番。

自分達が泣き出す側か、或いは鉄血が泣き出す側か。

どちらかにとっての悪夢が始まりを告げようとしていた。




やろうぜ!マジな遊びってやつをさ!

という訳で補給を受ける事もなく、ギルヴァ&ブレイクは最終防衛ラインへと向かいます。

向こうに絡んでいきましたが…良かったのかね…。
言われたら修正しますわ。

では次回ノシ


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Act174-Extra Ironblood May Cry Ⅴ

─最終局面の始まり─


作戦は最終局面を向かえた。

鉄血陣営最終防衛ラインでは第一、第二防衛ラインでの戦闘が可愛く感じる程、最終防衛ラインでの戦闘は激しさを増す一方であり、熾烈な攻撃により混成軍は苦戦を強いられていた。

特にこの最終防衛ラインの三箇所に配置された巨大な塔【Hell guard tower】と言われる大量の重火器やジュピター砲で武装した塔による攻撃が混成軍を苦しめる要因となっていた。

その他にも多数の鉄血人形部隊、また複数のハイエンドモデルに加え、自立機動兵器などがこの最終防衛ラインに配置されており、一概にHell guard towerだけに苦しめられている訳ではなかった。

このままでは壊滅する恐れがある。状況を打破する為には三つのHell guard towerを何とかしてでも破壊しなくてはならなかった。

最終防衛ラインに到達して間もなく戦闘を開始したギルヴァとブレイクもあれを何とかしなくてはならないという事は理解している。

 

『・・・・・・こちらタロス1、鉄血の最終防衛ラインに強力な防衛施設があって攻めることができない状態に陥っている・・・・そのためその状況を打開する決死隊を編成を考えている・・・・・そこで腕に自信があるやつに協力を頼みたい・・・・・・無論、腕に自信がない奴は参加しなくていいし、無理して来なくてもいい・・・・・・参加して攻める際は我々の戦術人形を盾にしてもらって構わない・・・・協力を頼む!!あの防衛施設を攻略すれば基地まであと一歩なんだ!!』

 

通信機に響く声。

参加してやりたいのは山々。だが二人がその決死隊に参加する事は出来ずにいた。

両手に持ったアレグロとフォルテを連射しながらブレイクは笑みを浮かべる。光弾やら砲弾やらが飛び交う戦場のど真ん中で彼はいつもの様に軽口を叩く。

 

「やれやれ。こっちに幾らか差し向けてきたか。モテるのは辛いな」

 

「なにごちゃごちゃと言ってやがる!」

 

自慢の機動力でブレイクへと距離を詰め寄るは鉄血ハイエンドモデル 処刑人。

左手に持った大剣を振りかぶり、彼の頭へと目掛けて振り下ろす。

 

「おっと!」

 

その一撃をブレイクは上半身を後ろへと反らして回避し距離を取ると処刑人へと反撃しようとするが、それを邪魔するかのように前方から無数の光弾が飛来。

魔力を込め双銃を引き金を引くブレイク。魔力を込めた事により強化された弾丸が次々と放たれ、光弾を撃ち落していく。自身を狙った無数の光弾を全て撃ち落とすと二撃目を仕掛けようとしていた処刑人に気付き、ブレイクは素早くリベリオンを突き立て突進。

 

「くぅっ…!」

 

直撃を受ける直前で反応し処刑人は大剣の剣幅で強烈な一撃をを受け止める。だが少しタイミングが遅かった事もあって後方へと吹き飛ばされ地面を転がるも素早く態勢を立て直し、もう一人のパートナーの傍で制止しゆっくりと立ち上がった。

 

「はぁ…はぁ…助かったぜ、狩人」

 

「ああ。…不用意に接近するな。下手をすれば一撃でやられかねんぞ」

 

「言われなくても分かってる」

 

そう言って二丁の拳銃をブレイクへ向けるは処刑人と同じくハイエンドモデルの狩人。

この場にいるのは決してこの二人だけではない。

錬金術士までも集結している。ブレイクとギルヴァは複数のハイエンドモデル及び人形、機械兵の軍団との戦闘を強いられている状況にあった。

どうやら自分達は相当警戒されている。戦っている中で二人はそれを感じ取っていた。

すると錬金術士の攻撃を受け流し、彼女を刀身を納めた無銘で吹き飛ばしたギルヴァがブレイクの後ろに立つ。背中合わせになった所を突く様に瞬く間に周囲を囲まれる中、ブレイクが彼へと話しかける。

 

「さてどうする?デカい塔はぶっ壊さなくちゃならねぇ。だが美人共に囲まれちまって動けねぇ。色紙にサインでも書いてやったら帰ってくるかね?」

 

「下らん事をぬかしている暇があるならこいつらを手早く始末する方法でも考えろ」

 

「そう言うがこいつらが一筋縄じゃ行かねぇこと位分かってんだろ?」

 

「…」

 

無言は肯定と捉えたのかブレイクは肩を竦める。

言われなくてもギルヴァも分かっている。

そして彼は彼女達と戦闘を開始から、その動きにある違和感を覚えていた。

自身が無銘を抜刀しようとした時或いは次元斬を繰り出そうとした時、それをさせまいと言わんばかりに周囲の敵が集中砲火を浴びせてきたのだ。

空間さえも切り裂く事の出来る無銘を警戒し技を出す前に集中砲火を浴びせ自身の行動を妨害している。

 

(学習したか)

 

当然かと彼は思った。

いつまでも鉄血という組織が何も学習しない存在ではないことぐらいは子供でも分かる話である。

しかしだ。こう何度も妨害されたら良い気などしない。若干であるがギルヴァの機嫌は良くなかった。

そして同時にそれが二人を囲む彼女達にとって最悪の事態を招く要因となるのだが、気付く事はなかった。

 

「覚悟が出来たか?貴様ら。デビルハンターなどという御大層な名もこれまでのようだな?」

 

錬金術士からの遠回しの殺害予告に反応せず、ブレイクはちらりとギルヴァの方を見た。

何時の間に出してきたのか彼の両手には籠手、両脚には具足が装備されており、金色の雷がバチバチと音を立てながら発っしていた。

それを見て小さく口角を吊り上げながらブレイクは最近手に入ったオモチャを取り出す。

その手に現れるは冷気を放つ三叉の鎖。その名もケルベロスである。

決して種切れという訳ではない。ただ方法が少し変わっただけに過ぎない。故にこの二人が諦めたという話にはならないのだ。

 

「お前が錬金術士をやれ。俺はあの二人を引き付ける。…後は合わせろ」

 

「ダンスの相手交代か。確かにそれが良さそうだな」

 

ふっ…とギルヴァが小さく笑みを漏らした時、二人は動き出した。

ギルヴァが処刑人、狩人の方へ、ブレイクが錬金術士の方へと向いて動き出したと同時に二人はエアトリックでダンスの相手へと急接近した。

 

「なっ…!?」

 

「!?」

 

「何だと…!?」

 

処刑人も狩人も錬金術士もほんの一瞬で距離を詰められた事に驚きの表情を見せた。

たかが普通の人間だと思い込んでいた為か、まさか瞬間移動するとは思っていなかったのだ。

そしてその一瞬が隙となり、ブレイクは錬金術士へとケルベロスを素早く振り回し攻撃を仕掛け、ギルヴァは処刑人目掛けてフードゥルで回し蹴りを連続して放つ。

氷すら作り出す事の出来るケルベロスの冷気が錬金術士の持つジャマハダルを凍てつかせ、強力な雷を生み出すフードゥルによって、ギルヴァの攻撃を大剣で防ごうとした処刑人が感電し動きが一気に鈍くなり、援護に入った狩人が拳銃を連射するも、ギルヴァは跳躍して回避。その際自身に雷を纏わせ、飛んできた光弾を全て何処かへ弾き飛ばす。

二人が戦い方を変えた事により流れが変わり始める。

 

「ちっ!面倒なッ!」

 

 

普段は冷静かつ残忍。敵を弄る様に殺し、その都度笑みを浮かべる錬金術士に焦りの表情が浮かぶ。ヌンチャクの様にそれを振り回しながら攻撃を仕掛けてくるブレイクに対して苦戦を強いられ、回避を重視しながらも残った複合兵器で迎撃する。もう片方がケルベロスの攻撃を防いだ時に凍てついてしまい、使い物にならず、短距離であるテレポートを用いて距離を取ってもエアトリックでブレイクが接近してくるという結果。

ありとあらゆる手段を講じても、まるで分かっていたかのように封じてくる。

 

「おいおい逃げてばっかりか?来いよ、ベイビー。本気出せよ」

 

おまけに挑発までしてくる。

乗らない様にしていたとしても錬金術士の苛立ちは募る一方であった。

 

「安い挑発に乗ると思うな!」

 

「そいつは残念…だ!」

 

ケルベロスを下から上へと振り上げ錬金術士の攻撃を弾き飛ばすとブレイクは流れる様に攻撃を仕掛ける。

負けじと錬金術士もジャマハダルを振るい、そのまま二人はすさまじい剣戟を展開しながら動き回る。

それにより周囲の敵はブレイクに狙いを定める事が難しくなり、同時に錬金術士の援護に中々入れない事態に見舞われる。

その一方でギルヴァは処刑人、狩人を同時に相手にしながらも圧倒していた。技量もさながらフードゥルの持つ雷撃の能力が人形にとっては厄介極まりなく。一発殴られただけでも電脳がイカれるのではないかと思える程の雷撃が襲ってくるのだ。現に人形兵と機械兵の何十体かは雷撃による感電死でやられていた。

処刑人は不用意に接近できず、ならばと狩人が攻撃を仕掛けるが構える動作もなく移動中でも放つ事が出来る魔力で錬成された刀【幻影刀】がマシンガンの様に投射される為、ギルヴァを狙う事が出来ず只々それを撃ち落とすのに専念する他なかった。

狩人に自身を攻撃する隙を与えず、そして処刑人にへと連続して回し蹴りを繰り出すギルヴァに蒼が話しかける。

 

―どうする?このまま戦っても良いが、塔を潰さないと不味いぞ?

 

(分かっている。時間をかけるつもりなどない)

 

ブレイクがケルベロスを振い錬金術士と剣戟を広げている最中にも関わらず段々とこちらへと近寄りつつある事はギルヴァも分かっていた。

後は自身が相手している二体とその他をおびき寄せる必要があった。それを実行する為にギルヴァは後方へと跳躍し、わざと後退した。

 

「逃がすか!」

 

「おい!馬鹿!!ええい、あの突撃馬鹿が!!」

 

ギルヴァが後退した事を隙と見た処刑人がまんまと策に引っかかり、そんな彼女を呼び止めようしながらもその声が届かず舌打ちしながらも追いかける狩人。

ブレイクを追う錬金術士、ギルヴァを追撃しようと迫る処刑人と狩人。

二人の男達が再び背中合わせになった時、ブレイクが地面を蹴り大きく跳躍。アレグロとフォルテを抜き取り宙で上下反転すると回転しながら周囲へと銃弾をばら撒き始め、敵の視線を自身へと集める。

その隙にギルヴァはフードゥルをゆっくりと拳を天へと向かって伸ばしながら、籠手に雷を溜め始めた。

破壊力だけならば無銘よりもフードゥルが適任と言え、フードゥルだからこそ出来る技がある。

 

「合わせてやったぜ?後は適当にやんな」

 

「言われなくても分かっている」

 

地上に降り立ったブレイクがギルヴァへとそう伝えると素早くその場から離脱。

自然と敵の視線がギルヴァへと向けられた時、彼の左手は天へと高く掲げられていた。

準備は整った。後は一撃を地面へと叩きつけるのみ。

見知った顔が居るがこの者達は基地に居る彼女達ではない。完全な敵である以上は倒すほかない。

痛みは与えない。ただこの一撃で終わらせるだけ。故に彼は伝える。

 

「安らかに眠るが良い」

 

掲げた左拳が振り下ろされる。

その渾身の一撃が地面へと叩きつけられた瞬間、金色の閃光が破砕音と衝撃波と共に勢い良く迸った。

辺り一帯照らす様な閃光。処刑人、狩人、錬金術士、そして人形兵、機械兵はその光へと抵抗する間も与える事無く飲みこまれていった。

ほんの一瞬で広がっていった光が静かに消え去ると地面に叩きつけた拳をゆっくりと引き上げるギルヴァ。彼の周囲には彼女達の亡骸は塵一つ残っておらず、焼け野原だけが広がっており、戦場の音が未だに響いているだけだった。

フードゥルを解除し、無銘を左手に携え歩き出した時ブレイクが姿を現し彼の隣に並びながら歩き出す。

 

「出遅れた分は仕事しねぇとな?」

 

「ああ」

 

決死隊による攻撃は既に始まっている。

出遅れてしまった訳だが、この二人も塔の破壊を目指すのであった。




この二人の事だから鉄血には警戒されている事を踏まえて複数のハイエンドモデル達に囲まれ、出遅れたという感じです。
決死隊には参加していませんが、塔の破壊には乗り出すつもりです。

では次回ノシ


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Act175-Extra Ironblood May Cry Ⅵ

─破壊を巻き散らす塔─


武装した塔に対する決死隊による攻撃が始まる。

破壊を可能とする者達が行動を起こした時、ギルヴァとブレイクは一つの塔に対し熾烈な攻撃が飛ばされるその光景を目撃していた。

レールガンを撃つ者も居れば、リバイバーの攻撃によって開いた脆い所へと攻撃を仕掛ける者。三つある内の一つへと塔に攻撃を仕掛けていく。

このまま上手く行けば塔の一つは破壊が可能となるだろう。だが防衛装置とも言える塔は残っている。

遅れてしまった分を取り戻す為、ギルヴァとブレイクは残った塔の一つへと破壊を行う事にした。

飛んでくる攻撃の中を掻い潜りながら、ブレイクは塔を見つめた。

ハリネズミの様に多種多様な武装が装備されており、防衛装置としては凶悪の一言に尽きる。

 

「やけにデカい木だな。ガーデニング気分で建てたにしちゃ物騒だが」

 

随分と大きくそびえ立っている為、まるでその塔を大樹だと彼は例える。

それを耳にしながらもギルヴァは無視。どうやってアレを破壊するかを考えていた。

 

「ただデカければ良いって訳じゃねぇんだが…アレを見て何か感想は?ギルヴァ」

 

「役に立たんよりかはマシだろう」

 

問いに答え、ギルヴァは塔へと向かって歩き出す。

先を行く彼の背中を見てブレイクは小さく肩を竦めるも後を追い、隣に並び歩きながら共に塔へと近づいて行く。

近づけば近づく程、塔の大きさは圧巻と言わざるを得なかった。どこからこんなものを引っ張り出してきたのかとそんな思いをあっても良いかも知れない。

だが二人はどこから引っ張り出してきたのかとか言った事に関しては興味を示す様子はなかった。

塔に近づくにつれて現れる鉄血の兵士達。二人を塔へ行かせんと妨害するも、ブレイクの持つアレグロとフォルテの連射とギルヴァの持つレーゾンデートルの威力の前には成す術もない。

一体が木端微塵に吹き飛ばされ、一体が大口径の弾丸によって頭を吹き飛ばされる。辛うじて生き残った敵が居たとしてもギルヴァが投射する幻影刀によって止めを刺される。

誰にもこの二人の進行を止める事は叶わず、塔へとの接近を許してしまう形となってしまった。

正規軍の列車砲ですら傷一つ負う事のない塔。外が駄目なら内部から破壊するのが得策と言えるだろう。

 

「取り敢えずぶった切るか。ほら、お前の出番だぜ?ギルヴァ」

 

だがこのブレイクという男には内部から破壊するという考えはなく、取り敢えずぶった切るという考えしかなかった。

自分の出る幕はないと思っていた故に判断であり、ギルヴァに任せる気でいた。

言われずとも切り捨てるつもりでいたギルヴァであったが、ふと何かを思ったのか足を止めて無銘をブレイクへと差し出した。対してブレイクは怪訝な表情を浮かべギルヴァを見つめていた。

 

「お前が斬れ」

 

その一言にブレイクは目を丸くした。

こういう時は大概何も言わず行動を起こす筈のギルヴァがそんな事を言ってきたのだから。

 

「どういう心境だよ?今更になっていい子ちゃんになったのか?」

 

「そんな訳あるか。お前に指示されて動く事が癪に障っただけだ」

 

「やれやれ。いつも命令してくるのにここぞという時に限って我儘かよ。まぁ見せ場を譲ってくれるなら喜んでやらせてもらうぜ」

 

ギルヴァが差し出した無銘を手に取ると、ブレイクは塔へと歩き出す。

幸運とも言うべきか、塔の武装は別の方へと向けられており歩み寄ってくるブレイクに気付いていなかった。その右手には無銘が握られており、彼は塔へと言葉を投げかける。

 

「大した建造物なんだが──」

 

右手に持った無銘を左手へに持ち帰ると、人差し指を立て塔を指す。

 

「ぶった切らせてもらうぜ」

 

親指で鯉口を切り、素早く右手で柄を握り無銘を抜刀。

鞘から抜き放たれる刀身。振り下ろした一撃が目には見えない斬撃となって飛び出し塔を一閃。

刀痕が一瞬だけ光を放った時、ブレイクはその場で無銘を振った。

逆袈裟から右へと薙ぎ払い、最後は片足を軸にして回転しながら刀身を左から右へと薙ぎ払い。

塔を背に残心とも言うべきか、力を緩めながらも周囲を意識した様子を見せるブレイク。

そして刀を回転させ、刃を鞘に当てた後そのままゆっくりと鞘へと刀身を納めていく。

曇りなき刀身が空の色に彩られるもそれはほんの一瞬だけの事。最後は力強く無銘が納刀される。

鍔と鞘がかち合う音が響く。数秒間だけ訪れる静寂。

それも束の間、まるで動く事を今許されたかの様に塔が轟音を立てながらずれ落ち始めた。

いつ斬られた事すら分からず配備されている武装が次々と爆発を引き起こすと内部に納められている弾薬に誘爆。

塔全体から火球と黒煙が浮かぶ中、斬り落とされた部分が地面に墜落しそのまま前へと倒れる。

破砕音と轟音が響き渡る。そして数秒も経たぬうちにかつて塔だったそれは盛大な爆発をこの戦場の空へと花を咲かせた。

爆風が赤いコートと髪が揺れる中、ブレイクはゆっくりと態勢を直し後ろへと振り向いた。

先程まで猛威を振るっていた塔の姿はなく、炎と黒煙だけが残っていた。すると彼の耳に付けていた通信機から困惑の声が飛び交った。

 

『おい、何が起きたんだ!?塔が文字通り斬られて破壊されたぞ!?』

 

『知るかよ!!だがこれで塔は残す所一つだ!!』

 

塔が残す所一つなり、意気込む者も居れば…

 

『おいおい、マジかよ…。あの馬鹿みたいに硬い塔をぶった斬っただと…?』

 

『そんな事を出来る奴がこの戦場にいるのか…?』

 

信じられないといった口ぶりで困惑した声を上げる者も居た。

当然の反応だなと思いながらもブレイクは通信機のマイクへと話しかける。

 

「こっちは一つ終わったぜ。デカいだけの塔は残す所一つみてぇだし、俺らもそっちに向かうとするさ」

 

相手の反応も待つ事無く、ブレイクは通信を切る。

すると後ろからギルヴァが歩み寄り、それに気付いた彼は手にしていた無銘を投げ返した。

投げ返された無銘を容易くキャッチするとギルヴァは残った塔の方を向いた。

 

「残りはアレだけか」

 

「みたいだな。後は草みてぇに別の塔が生えてこない事を祈るだけだな」

 

「奴らにそこまでの資材があるとは思えんな」

 

もし地面から生えてきたとしてもこの二人のやる事は変わらないだろう。

ジュピター伐採といい、やけに建物の破壊が多いと思いながら二人は残った塔へと歩き出す。

そんな中、ブレイクはある事を口にした。

 

「こんなに派手にやってんのに、悪魔どもの姿がねぇとはな」

 

ブレイクの言う通り作戦が開始してから随分と時間が経つが、この戦場に一匹たりとも悪魔が出現していない。

行動理由が分からずとも悪魔という存在はこっちの事情も知らずに突如現れる事がある。

そのせいで戦場が滅茶苦茶になるのはよくある話なのだ。

だが今回に限ってはそんな事は一度も起きていない事がかえって不思議とすら言えた。

 

「まぁその方が助かる。ゴミ掃除しなくて済むからな」

 

居ないのであれば居ない方が良い。

その分、自分達の仕事に専念できるというものである。

そしてまだやるべき仕事は腐る程ある。休憩している暇などないだろう。

だが忘れてはならない。この二人、作戦が始まってから一度も休憩を取っていない事を。

 

「さぁてパーティーもそろそろお開きにしねぇとな。だろ?ギルヴァ」

 

「ああ」

 

随分と長いパーティー。しかしそれにも終わりがあるというもの。

だが延長というのはよくあることだろう。

パーティーの裏方には確実に何かが動いている。それを分かっていながらも二人を歩んでいく。

そしてここからが本番。二人の悪魔狩人が本気を出す時が刻々と迫っている事に敵達は気付かない。

泣かされる側か、或いは泣かす側となるか。

その結末は神のみぞ知る。




という訳で…はい、ブレイクが無銘を使って塔をぶった切りました。
これで残すのは一つになるけど…良かったのかな、これで。

あ、そうそう。ギルヴァとブレイクを適当に絡ませて良いんですぜ。
扱いづらいとは思いますけど…うん。

では次回ノシ


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Act176-Extra Ironblood May Cry Ⅶ

─触らぬ悪魔に祟りなし─


ギルヴァとブレイクが鉄血陣営最終防衛ライン突破作戦に参加している時の事。

鉄血は決してそこだけに戦力を集中させている訳ではなく、各グリフィンの基地に対して戦力を送っていた。

当然その中にはS10地区前線基地も含まれており、戦闘員は基地の外で鉄血迎撃作戦を展開している。

その一方でグリフィン諜報部所長であり、今ではこの基地を拠点として行動しているダレン・タリオン…またの名をダンタリオンは、シーナの許可を経て基地の地下に自身の魔術で作り上げた、とある部屋でいつものように活動していた。

そこはまるで大きな図書館の様で、本棚から別の本棚へと自我を有したかの様に本たちが飛び交っていた。

まるで魔法の世界に来てしまったのではないかと思う光景。しかしそこで起きている事は全て現実であり、それをやっているのが受付カウンターの様な場所でその光景を見つめながら煙管を吹かすダレンである。

 

「魔術と電子の融合…悪魔でしか…いや、ワシにしか出来ん事か」

 

情報収集、統制、隠蔽及び電子戦を得意とする一方でダンタリオンという悪魔は魔術においても精通している。

それでこそかつてフェーンベルツで起きた騒動の首謀者であった悪魔アルフェネスと同格か、或いはそれ以上とも言っていい程に。

 

「この基地だけとは言わんが…色んな連中に目を付けられとる」

 

ダレンとてここまでする気などなかった。

だがこの悪魔にとってこの基地での生活は心地よすぎた。愛着を沸いてしまったのだ。

故に楽園とも言える此処を訳の分からない連中に滅茶苦茶にされるのは溜まったものではない。

だからこの場所を作った。魔術と電子を融合させ、作り上げたこの図書館を。

収集された情報はここに納めらている本たちに記され、第三者から情報を盗まれたとしても、魔術によって盗まれた情報はまるで何もなかった様に消え去る。反撃すら行えるS10地区前線基地の新たなる中枢。

これこそダレンが作り上げた居城、情報統制ルーム【library】である。

 

「さて、茶でも……うぬ?」

 

一休みしようとした時、一冊の本がダレンの目の前に現れ、開いたページを見せた。

そこにはとあるやり取りが記されており、その内容には他の基地に加えS10地区前線基地の事など何やら物騒な事が記されている。

そして最後の一文には全て世界の輝きに更新をと記されていた。

これは何処からの連中がやり取りした内容を聞きとり、この本が記したもの。どうやら早速自身の役目がやってきたのだなとダレンは感じ取った。

 

「確かにこの基地は対象になるのう。当然と言えば当然じゃ」

 

ダレンとて、いずれそうなる事は理解していた。

元よりこの基地が持つ開発品の大半が違反しまくっているのだから。

だがそれで狼狽える事などしない。この程度よくある話なのだ。

だからこそ敵は徹底的に潰さなくてはならない。

 

「昔を思い出すのう…」

 

煙管から紫煙を吐き、懐かしむ様な表情を浮かべるダレン。

意外と知られてない事ではあるが、ダンタリオンが人間界に訪れ、ダレン・タリオンとして名を変え、小さな町で密かに情報屋として行動していた時期があった。

当然集めた情報はどれも的確で、多くの裏の人間が彼女の元へと足を運んだ。

だがそういった仕事には危険がついて回ってくるというもの。命を狙われるという事に彼女は腐る程遭遇してきた。

殺し屋、時には公の機関までもが彼女の命を狙った。だがその度に摩訶不思議な事が起きていた。

ある日突如としてその者達が行方不明となったり、不幸な事故に見舞われ命を落とすなど何故か彼女を狙った者達に不幸が降り注いだ。

原因不明の行方不明事件、"偶然"として起きた事故…今になってもそれは明らかになっておらず、当時のその町ではあの情報屋の命は狙うなと言われ、それが暗黙の了解となっていた程。

それがダレン・タリオンの仕業かどうかは分からない。真実は闇へと葬られる一方であった。

 

「さて…ワシ以外にも動く者はおるだろうて。取りあえずその手伝いをさせてもらうか。ジンバックよ、居るかの?」

 

「ここに居ますわ。館長さん」

 

奥から姿を現すはダレンから貰った着物を少しだけ着崩し、胸元をはだけさせ、まるで花魁みたいな着方をしたジンバック(イントゥルーダー)

その姿は意外と様になっており、世の男達が見れば見惚れる事間違いないだろう。

ブラウ・ローゼの一人である彼女だが、今回は作戦には参加しないでいた。一応シーナから許可を得ており、裏で動き出す者の監視を務めるダレンの補佐としてこの図書館に来ていた。

 

「どうされましたか?」

 

「何やら良からぬ事が起きようとしておる。この手の事についてありったけの情報を集める、お主の手を借りたい」

 

「分かりました。集めた情報は何処へ送ります?」

 

「クルーガー、へリアン辺りに送ると良い。名はD.Tで送れ。この名なら向こうも気付く。必要ならお主用に用した術式を使うと良い」

 

用意された術式と聞き、ジンバックの様子が変わる。

浮かんだ表情はどことなく引いている様な感じであった。

 

「あのとんでも術式を、ですか?これバレたら世界が一転しますわよ?」

 

「一転どころか、この世界は二転三転しとるじゃろうが。何か企む連中で腐る程おる。味方の顔しながら、途中で平然裏切る奴とかも居る。特に軍とか怪しさの塊じゃぞ?あと保安局もな」

 

「何でそんな事知ってるんですか…?」

 

「ほっほっ、昔ちょいとやんちゃしてのう。あの手の連中が嫌いだったのでな、ちょっくら挨拶にしていったのじゃ」

 

「具体的には何を…?」

 

それを聞かれた時、ダレンは今まで誰にも見せた事のない表情を浮かべた。

その表情にジンバックは背筋に冷たい何かが通っていくのを感じた。

 

(…これがこの悪魔の本性ですか)

 

ジンバックはダレンが悪魔だという事は知っている。

平時は柔和な笑みを浮かべるというのに、今浮かべている表情はその欠片すらない。

まさしく悪魔。それ以外を示すものなどありはしなかった。

 

「何、そう恐れるでない。この基地の者達、知り合いの基地に手は出さんよ。…ただワシがやってきた事は聞かん方が良いぞ?」

 

「ええ、そうします。…ここに就いて正解だったと今思いましたわ」

 

「そうかそうか。…では始めるとしよう」

 

行動を起こす為、ダレンとジンバックは動き出す。

向かうはこの図書館の奥に配置された空間。そこでは術式の様が展開されており、淡く光を放っている。

そこにたどり着いた二人は術式の上に立ち、ダレンが手を突き出し横へとスライドする様にゆっくりと払った。

その瞬間、ディスプレイの様なものが彼女を包み込むように展開。ジンバックも同じ動作を行い、ディスプレイが展開される。

それは魔と電子の融合。決して人間では再現できないもの。ダンタリオンだけに出来た一品。

 

「術式展開。投影完了。管理権限解除…構築開始。ジンバック行けるかの?」

 

「全リンク接続。構築完了。対電子術式機構【library】起動。…巣穴の侵入を確認。…ええ、行けます」

 

戦闘能力は決して高いとは言えない。

だがこの悪魔を敵に回した者達に明日はない。そして十の顔を持つ悪魔は現れたキーボードに手を添えると笑みを浮かべる。

 

「さぁて…プレゼント(悪夢)の準備を始めようぞ。必要であれば敵を全員■■送りするかのう」

 

「それは昔やんちゃした時にはしたんですか…?」

 

「さて…どうだったかのう」

 

とぼける彼女にジンバックはそれ以上聞く事はせず、作業に没頭する。

そしてダレンは再びあの笑みを浮かべる。まるでそれはこれから起きる事を楽しみにしているかの様であった。




今回は戦場の二人ではなく、基地で裏方仕事をしているダレン&ジンバックを描かせて頂きました。

ちょいとね…巻き込まれたんで(巻き込まれておかしくない)、この二人が登場という感じです。
んでもってダレン…昔は結構ヤバい事やってたみたいです。流石は悪魔…。

またこれで今年最後の投稿となります。
来年も『Devils front line』をよろしくお願いいたします。

では良いお年を!


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Act177-Extra Ironblood May Cry Ⅷ

─どのみちこの二人は好き勝手する─


防衛施設の陥落。

これにより混成軍は漸く基地制圧作戦を展開する事が出来た。突入時刻となり、基地に対し突入を開始している者達が居る中、何故かそこにはギルヴァとブレイクはなかった。

普段であれば先陣を切るかの様に突撃し、好き勝手に派手に暴れ回る彼らがだ。

何処へ消えたのか知る者はおらず、寧ろ不在に二人を知る者達は密かに何処へ行ったのか気に掛ける様な表情を浮かべており、中には名を知らずとも何処へ行ったのかと尋ねる者もいた。

 

「そう言えば民間協力で来てた便利屋は何処へ行ったの?」

 

「さぁ…?塔が破壊された以降通信が一度も無くて。撤退した…とは思えないけど」

 

「…もしかしてだけど私達より先に突入しているなんてことはないよね?」

 

「まさか。それはないでしょ」

 

幾ら強かろうと敵の陣地にたった二人だけ飛び込む筈がない。

どこかで合流する事があるだろうと思いながら、突入部隊は基地へ向かって行く。

だがこの時点で気付くべきだったかも知れない。

例の二人は既に突入部隊よりも先に敵の司令部へと潜り込んでいった事に。

 

時は防衛施設である『Hell guard tower』が全て破壊された直後まで遡る。

残る一つだけとなった塔へと向かっていたギルヴァとブレイクであったが、自分達がそこへ到達する前に最後の塔が破壊されるのを目撃していた。

これで防衛施設は全て破壊された事になり残すは司令部となった時、ブレイクはギルヴァへと尋ねた。

 

「さ、どうする?一旦引くか、先にパーティー会場に行くか」

 

一旦引き、味方と合流してから鉄血の司令部に突入すべきか。或いは自分達だけでも先に乗り込み、出来るだけ敵を減らしておくべきか。

そう言いたいのだろうと思いながらもギルヴァの答えは既に決まっていた。

 

「面倒ごとは先に片付けておくに限る」

 

「なら決まりだな」

 

鉄血はまるで自分達を誘導するかのように司令部へと引き付けている様子がある。確かに激しい抵抗を繰り返してきた鉄血だが、それでも何かを隠している。

まるで自分達の思う通りに全てが進み、そしてその時が来るのを待っているかのようで。

目に見える事のない思惑が見え隠れする様な違和感を彼は感じ取っていた。

それに関してはブレイクもギルヴァと同様にその違和感を感じ取っていたが、どうでもよかった。

どの道、進む他なく。そしてそこに待ち受けるものがこの世の全てを終わらせるものというのであれば、それを何とか出来るものが一つだけ自分にはあって、そしてギルヴァにもあるのだから。

決して楽観している訳ではない。だが恐れている訳でもない。

 

「んじゃ行こうか。主催者を待たせるのは良くねぇからな」

 

基地まではそう遠くない。

ブレイクが先に歩き出すとギルヴァがその後に続く。

一時だけ訪れる静寂。焦げ臭さと硝煙が立ち込め、至る各所では炎と黒煙が昇り空を濁していく。

その中を通り抜けながら、二人は一足早く鉄血司令部(パーティー会場)へと向かう為、奥へと消える。

偶然にもその姿を目撃したものは誰一人とていなかった。

 

突入部隊と合流する事もなく、二人は鉄血の司令部のすぐそこまで来ていた。

不気味な位なまでの辺りは静寂に包まれており、ここまで近づいても攻撃してこない。その事から本格的な戦闘は内部で行われるのだろうと思いながらもギルヴァは真正面からではなく、基地の側面に当たる部分へと歩き出した。

 

「おい、どこへ行くんだよ。入り口はそこだぞ?」

 

「お前は真正面から入る事しか出来んのか。奴らとて戦力を真正面に集める訳がない」

 

「だからって裏口からかよ。はぁ…メインはあいつらで、俺達はサプライズゲスト枠か」

 

「下らん事を抜かしている暇があるなら置いていくぞ」

 

面倒ごとは早々に片付けるに限ると言えば限るが、だからといって先に戦闘を開始する気などギルヴァにはなかった。

鉄血の基地である以上、内部に侵入すれば警報なり仕掛けなり用意されている。また先に戦闘を開始して、後で味方に色々言われる状況になるのは面倒でしかない。

ならば味方が基地内に突入したと同時に動くのが良いだろうと判断し、ギルヴァは真正面からではなく、別の入り口から潜入し、時を待つという考えでいた。

先行くギルヴァを見つめながら、軽く首を振りブレイクは彼を追いかける。

基地の側面にたどり着き、迎えたのは固く閉ざされた内部へと続く扉であった。当然ながら中へと入るのはこれを何とかしなくてはならない。

破壊しようとギルヴァが無銘の柄に手を掛けた時、突如として一人でに扉が開いた。

誰かが二人を迎え入れる為に開いたのか、或いは誤作動によって開いたのか。

考えられるとしたら前者。後者はあり得ないだろう。

 

「嬉しいね。俺達の為におもてなしをしてくるみたいだ」

 

サプライズゲストではない。

それを知るとブレイクは恐れる様子もなく、疑う様子もなく内部へと足を進めた。

ギルヴァも足を進め、内部へと潜入。

二人を迎えたのは、鉄血の格納庫らしき場所。ディスプレイを備えた通信機器が部屋の隅におかれており、幾らかの備品、幾らかの武器がそこら辺に転がっている。そして部屋の中央には鉄血製と思われる一台の大型バイクが鎮座していた。

それを見て、ブレイクはニヤリと笑みを浮かべた。

その様子を見てギルヴァは額に指を当て、呆れた様に首を振りながら思った。

また喧しくなる、と。

一台あるというのに増やしてどうするつもりだと内心呟きながら彼は周囲を見渡しながら、とある違和感に気付く。

自分達を招き入れておきながら、敵が姿を見せない事に。

 

ーこのまま閉じ込めておくつもりか?

 

(もしそうなら、後ろの扉は既に閉まっている)

 

蒼の問いに答える様に後ろへと向くギルヴァ。

内部に入ってから時間は少し経っているが、一向に閉じる気配を見せない。

その時だった。通信機器のコール音が鳴り響いた。その音に反応しブレイクが通信機器の方へと歩み寄る。

ギルヴァは周囲の警戒に当たっており、彼は通信機器の応答ボタンを押し、通信越しの相手に対して店の名を口にする。

 

「デビルメイクライ」

 

『事務所でもないのに、それを口にするとはのう。移転でもしたのかえ?』

 

「ん?その声、婆さんか」

 

声の主は基地にいる筈のダレンであった。

敵の親玉からの挨拶ではないと分かると小さくため息をつき落胆するブレイクであったが、ある事に気付いたのか彼はダレンへと問う。

 

「扉開けたのも婆さんか。よく俺達の位置が分かったな?」

 

『ま、そこはちょっくらの。ただこれも一時的のものに過ぎん。後は自分達で切り抜けるが良い』

 

「分かってるって。取り敢えず礼は言っておくぜ」

 

『うむ。思う存分暴れてくるが良い』

 

それを最後に通信は切れ、入る際に開いた扉も閉じられる。

だが部屋から廊下へと通ずる扉は開かれた。

これもダレンの仕業かと思われる中、遠くから銃声が響く音が二人の耳に届いた。

突入部隊がこの基地に突撃し、戦闘を開始した。

それを察するとブレイクは置かれていた鉄血製の大型バイクに跨りると魔力を流し込み半ば強引にバイクのエンジンを起動させると唸らせた。

 

「ハハッ!こいつは良いねぇ!持ち帰ってマギーに弄って貰わねぇとな!」

 

仮設本部から勝手に持ってきた水平二連装ショットガンをコートの懐から取り出すと、ブレイクはバイクをフルスロットルにして、勢い良く部屋から飛び出していった。

バイクに乗ったまま暴れる気だと理解し、置いてきぼりにされたギルヴァは通信機を広域にし、突入部隊の全員へと伝える。

 

「バイクの喧しい音が聞こえたら避ける事に専念しろ。轢かれても知らんぞ」

 

『俺がそんな下手すると思うか?さぁて!派手なライブにしようか!』

 

通信越しからは銃声とバイクのエンジン音、そしてブレイクのはしゃぐ声が響く。

その時この通信を聞いていたのか、ある二人からの声が響く。

 

『その声…ギルヴァさんにブレイクさんか!?』

 

『お前ら何処に居んだよ!?てかどうやって内部に─』

 

一人はM16A4。そしてもう一人はノア。

質問攻めされるのも面倒なので、ギルヴァは通信機の電源を切り通信を強引に終わらせる。

ブレイクが飛び出していった出入口へと歩き出し、彼もまた戦闘へと参加するのであった。

 

 

一方S10地区前線基地地下『library』では電子術式機構を展開し、電子戦と得意とする悪魔、ダンタリオンと元より指揮支援及び電子戦を得意とするジンバックの二人組が一時休息を挟んでいた。

既に鉄血陣営最終防衛ライン突破作戦に参加しているジョージと呼ばれる上級指揮官が行ってきた裏に関しては既に調べ済みであり、その事をへリアンの所へと送っている。

これで何とかなるであろうと思いながら茶を飲んでいたジンバックにダレンが伝える。

 

「表の方は割れた。じゃが裏がまだ終わっておらん」

 

「裏と言いますと…?」

 

「ワシの予想じゃと、捕えた所で表の顔で死を全うするじゃろうな。裏の部分をさらけ出す事はすまいよ。まぁ…大方予想は付いておるから。後は潰すのみじゃが」

 

「…それって誰も生き残る事出来ないですよね?」

 

「当たり前じゃろう?」

 

さも当然の如く答えるダレンにジンバックは引き攣った笑みを浮かべた。

この悪魔が本気になれば、鉄血は一か月も経たぬ内に崩壊するであろう。そして真っ先にこの悪魔の攻撃を浴びるのは自分であろうと。

この時に限ってジンバックは自身を切り捨てた夢想家に感謝した。

 

「拾い集めた情報には、隣の基地も動いておる。同時に本物も無事救出されておるようじゃの」

 

「早いですねぇ…」

 

「この程度は容易いわ。さて…そろそろ動くかの」

 

茶を飲み干し、ダレンは動き出す。

よりにもよって自分がグリフィン諜報部所長以外でここまで動く事になるとは。

だがそれを悪いとは思っていなかった。

 

「さぁ、始めようかのう」

 

ニヤリと悪魔は笑みを浮かべる。

これから先は起きる事は誰に想定する事は出来ない。

 

「貴様らの悪夢…。ここから始まるのだと知るが良い」

 

何故なら悪魔が動き出しているのだ。

だからもう止められない。

悪夢は裏の更に裏をかく様に始まってしまったのだから。




新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
という訳で去年に続き、コラボ作戦でございます。


ダレンの援護もあって内部に侵入したギルヴァ&ブレイク。
置かれていた鉄血製の大型バイクを強引に頂戴してブレイクが暴れます。

そして裏でも裏でダレンが悪夢を引き起こしにかかります。
もう止められんねぇな、この悪魔は…。

では次回ノシ


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Act178-Extra Ironblood May Cry Ⅸ

─飛び入り参加はよくある事─


この時、ダレンの表情は険しかった。

数分前にへリアンからの通信内容が彼女の眉間に皺を寄せる事態を作ったしまったのだから。

襲撃してきた鉄血は片付いた為戦闘は終了し、libraryにはダレンに呼び出されたシーナ、マギー、ルージュがこの場所に訪れていた。

室内に響くのは本達が移動し合う音のみ。それだけがその場を支配していた。

 

「まずは…状況から話そうかの」

 

気を静める為に咥えていた煙管から紫煙を吐き、ダレンは自ら沈黙を破った。

 

「作戦領域全体に恐らく鉄血製だと思われるジャミングで現場におる者達と通信が取れなくなった。それが今から十分前に起きた出来事じゃ」

 

「今でも通信が取れない状態が続いており、向こうの戦況がどうなっているかも分からずじまい。ただ最後に拾った音声データから、ある事が聴けました」

 

持っていた端末を操作し、ジンバックは最後に拾った音声データを再生する。

 

『どういう事……ダミー…機能…停…した!』

 

『なん…の!?こいつ…は……まるで……エンドモデル……ない!?』

 

ノイズが酷く、聞こえてくる声も途切れ途切れであるがそこで何が起きているのかはこの場に呼び出された三人は容易に察する事が出来た。

ダミーの機能停止。

そんな事を出来るのはどう考えても鉄血のみ。

そして現れた敵に対して声の主はハイエンドモデルみたいだと叫んでいた。

そこから判断できる事は二つ。

戦況はひっくり返り、混成軍が窮地に陥っている事。鉄血の攻撃によりダミーが機能停止し使い物にならなくなってしまった事。

 

「…最悪だね」

 

「うむ…最悪の一言に尽きる。だから…シーナよ、いや、シーナ指揮官。貴女に許可して欲しい事がある」

 

グリフィン諜報部所長という立場に居る筈のダレンがいち前線基地の指揮官でしかないシーナに対して敬語を使った事にジンバックとマギー、ルージュは驚きを覚えた。

初めて会った時からフレンドリーに接してくる彼女が改まった様な口調になったのだから。

 

「聞きましょう」

 

らしくない様子にシーナも改まった口調へと切り替わる。

了承を得られるとダレンは静かに頷き、許可して欲しい内容を伝える。

 

「我が魔術を持ってルージュを作戦領域に投入する事を許可してもらいたい。戦力が激減した状況では戦える者は必要となる」

 

「…」

 

ダレンの言う事がシーナには分からない訳ではなかった。

状況から察するに戦況は最悪。戦える者が必要になるのは明白であった。

 

「それは本人に尋ねて下さい。私の一存では決める事は出来ません」

 

幾らこの基地を統べる指揮官とは言え、それを即答出来る様な事はシーナはしない。

確かにルージュはグリフィン所属ではない。どちらかと言うとギルヴァやブレイクと同じく協力関係にある一人だ。

高い戦闘能力を持つとは言え、協力関係だけの存在とは言え、生きて帰る事すら困難と思える戦場に自分だけの一存でその人物の運命を決める事などシーナにはできなかった。

だからこそ自分が決めるのではなく、本人が決める必要がある。その旨をダレンへと伝えた時、シーナの隣に立っていたルージュはそっと彼女の肩に手を置き答える。

 

「行きます。戦場では見知った人達が…そしてあの二人が苦しい中で必死に戦っているんです。この『力』が戦況を一転できる程のものではなくても、私は行きます。だって─」

 

そこでルージュは言葉を止めて、自身の胸に手を当てた。

偽り、模造品。決して祝福される事はなく、道具としても見られる事もなく、その果てに行き着いたのは復讐と怨嗟の宿した化け物へと成り果てた自分。

だが運命は彼女に希望を与えた。人の姿を取り戻し、子供みたいな感情を宿しながらも世界を旅した。旅した先で彼女はダレンに拾われ育てられた。

血の繋がりなんてない。それでも我が子の様に彼女は自身を育ててくれた。

この基地に来てからは多くの人達と関わる事が出来た。人の営みと言うのは不思議で暖かくて、何物にも代えがたい何かを有していた。

そしてそれは自分に限った話ではない。今まで関わってきた人達にも帰るべき家があって、待ってくれている人達がいるのだ。

 

「私の魂がこう叫んでいるんです」

 

だから絶対に失わせない。

 

「命を懸けて守り通せって」

 

例えそれが己が犠牲となって得られた結果になろうとも。

 

「だから行きます。いえ…行かせてください」

 

彼女の名を呟きながらもシーナはその目を見つめる。

赤く彩られた瞳には決して折れる事のない信念と覚悟が宿っていた。

ならば自分も覚悟を決めなくてはならない。ごちゃごちゃと言うのは彼女の覚悟に対して無礼というもの。

 

「分かりました。許可します。…但し無理は駄目。そして無事に皆と一緒に帰ってくる事。良いね?」

 

「はい…!」

 

よし、と頷くとシーナは全員にへと視線を送る。

その視線が何を意味しているのかと察した全員は一斉に動き出す。

戦う者達の明日を、未来を守る為。

S10地区前線基地が保有するもう一人の最大戦力を戦場へと送り込む準備が始められた。

 

ルージュを戦場へと送る為の準備にそう時間はかからなかった。

地下図書館の中央にはダレンが展開したゲートらしきものが広がっており、それの前に立つのは鴉刃、漆、朱を携えたルージュ。また姿こそは見えないが愛用の大鎌も持ち出している。

後はこの中に飛び込むのみなのだが、そこにマギーが彼女を呼び止めた。

 

「これを」

 

そう言ってマギーが差し出したのは盾の様に見えれば、若干大きい籠手の様にも見える武装。

だがただの武装ではない事は明白であった。その武装はどういう仕組みか薄っすら冷気を放っていたのだから。

それに見覚えがあったのかダレンが叫ぶ。

 

「おいおい…マギーよ、それを何処で得たんじゃ!?」

 

ダレンにはそれが何なのか分かっていた。

魔具である事は明白。しかしその魔具は既に魔界にて破棄されている。

何故なら彼女はそれが破棄されるのを目撃しているのだから。

既に失われた魔具がどうしてマギーを持っているのか不思議で仕方なかった。

 

「得たというよりかは…託されたといっておきましょうか」

 

「託されたじゃと…?」

 

「はい。得た経緯を話したい所ではありますが、そんな余裕はありません」

 

確かにその通りだと納得したダレンはそれ以上の事を問おうとはしなかった。

そしてマギーはルージュに差し出した魔具の説明に入る。

 

「名は『コキュートス』。氷結の能力を有し、触れた敵を一瞬で氷漬けにする事が可能です。また高い多様性を有しており、ルージュさんのイメージに合わせて攻撃が変化致します。ただし氷には敵、味方関係なく巻き込むので、周囲の状況には留意してください」

 

「了解です」

 

差し出された魔具『コキュートス』を背に背負うルージュ。

それを見ていたシーナがある事を思いつき、首に提げていたものを取り出しルージュへと差し出す。

それは白銀の懐中時計型の魔具…『クイックシルバー』である。

 

「いいのですか?」

 

「うん…この子の力なら窮地を脱する事が出来る筈。使って」

 

「…分かりました」

 

クイックシルバーを手に取り、それを首に提げるルージュ。破損しないように衣服の内側へと仕舞いながら、小さく息を吐くルージュ。

鴉刃を握り直し、開いて目を伏せる。

彼女なりの精神統一だろう。誰もその背を見つめ、急かすような事は口にしない。

伏せられていた瞳が静かに開かれる。それは準備が整った事を示している様であった。

ゲートへと歩み寄り、あと一歩と来た時、ルージュは振り向き、見送ってくれる彼女達へと口を開く。

あどけなさが残る笑みを浮かべながら。

 

「行ってきます」

 

そしてルージュは返答を待つ事もなく、ゲートへと飛び込んでいった。

一瞬にして彼女の姿は消え、ゲートも閉じられる。

その場に残った者達に出来る事はやった。後はただ無事に戻ってくるのを祈る事しか出来なかった。

 

 

「え…ちょっ!?はぁっ!?今度は何だよ!??」

 

鉄血基地内部、オートスコアラーのトゥーマンは天井に突如として広がった穴を見て声を荒げた。

異常事態、異変に続くそれは誰も予期していない事であろう。

当然それは敵も予期していない事であり、先程まで起きていた銃撃戦が嘘の様に静まり返った。

 

「コキュートスよ…」

 

穴の向こうから誰かの声は響く。

その瞬間、穴から何かが勢い良く飛び出し、敵の群れの手前で地面に突き刺さった。

籠手の様なもの。薄っすらと冷気を放っている。

爆発物ではないと認識し、Vespid RC達が手にしている銃器を構える。

 

「私に力を貸して下さい!」

 

少女の叫ぶ声が響いた瞬間、Vespid RC達が一瞬にして氷漬けされた。

全くもって一瞬の出来事だった為か、反応出来ず視線は穴の方へと向けられたまま。

突然として発生した氷。氷霧が辺りを包む中、穴からその者は降り立った。

白と赤のグラデーションが掛かった長髪。臙脂色のコート、赤い瞳。頭の側面に付けたセンサーの様な飾り。

敵達を一瞬にして氷漬けにしたコキュートスと呼ばれるそれが少女の元へと帰っていき、彼女はそれを背に背負うと左手に持った太刀、鴉刃の柄に手を添える。

 

「だ、誰…?」

 

「!…もしかしてS10地区前線基地の……貴女、ルージュですか?」

 

トゥーマンが疑問の声を上げる傍らで以前基地に訪れた者の一人に彼女が居たのを思い出したのか、スユーフがその名を口にし、名前を呼ばれたルージュは後ろへと振り向く。

 

「ご無事ですね。S10地区前線基地…ルージュ。今から戦線に加わります」

 

もう一人の最高戦力…紅蓮を纏う少女がこの戦場に降り立った。

 

 

ルージュが参戦した一方でブレイクはギルヴァと合流を果たしていた。

敵は相当強化されており、元より危険人物扱いされている為、行く先々で敵の攻撃に合っていた二人だが、寧ろそれが返って二人を本気にさせてしまった要因となっていた。

 

「成程。これならマジな遊びが出来る訳だ」

 

手にしたアレグロをくるりとスピンさせながらブレイクはニヤリと笑みを浮かべる。

対してギルヴァは前方からとある気配を感じ取っていた。

聞こえてくるのは爆発音やら破砕音、微々たる程度の銃声。撤退途中だった味方が敵に襲われている。それを察したギルヴァは駆け出し、彼が駆け出した事によりブレイクも走り出した。

前方に居るのは八脚の兵器。蠍の様な形をしており、備え付けられていた武装で乱射していた。

その他にもWraith達の姿をあり、それを確認するとギルヴァは無銘の鯉口を切ったと同時に敵達の頭上に無数の幻影刀を展開し、それを降り注がせた。

何人かはそれによって頭を貫かれ、回避した一部のWraithが幻影刀を見て叫ぶ。

 

「青い刀…まさか!?」

 

「そのまさかだ」

 

Wraithの傍で響く男の声。

青い刺繍が施された黒いコート。鞘から抜き放たれた刀身がWraithの頭を一閃。そのまま仕留め損ねたWraith達の間を疾走居合で駆け抜ける。

舞い上がる頭部。噴き出す人工血液。体の半分を失った亡骸が後ろへと倒れる中、ギルヴァはBehemahへと振り向く。

Behemahがギルヴァへと攻撃を繰り出そうとした時、巨体の後方からブレイクがパンドラをロケットランチャーにした状態で飛び出す。

空中で体が上下反転しながらも、彼は余裕の笑みを浮かべておりロケットランチャーの砲口がBehemahを捉える。

 

「プレゼントだぜ」

 

三つの砲口からロケット弾が放たれ、Behemahに着弾。放った反動を活かしてブレイクがそこから離れ、爆炎と煙は広がった時、巨体であるBehemahの体を何かが一閃、広がっていた煙が一瞬にして払われる。

煙が晴れ、Behemahの前に居たのは既に無銘を抜き放ったギルヴァの姿。

構えを解き、刀身を鞘へと静かに収めていく。そして鞘と鯉口がぶつかり合う音が響かせたと同時にギルヴァはBehemahへと話しかける。

 

「もう斬ったぞ」

 

その瞬間Behemahの体が真っ二つに崩れ、そのまま機能停止。

突如として起きたそれ。啞然といった表情を浮かべるとある部隊…DG小隊へとブレイクが歩み寄り話しかける。

 

「よお。無事かい?」

 

「あ、ああ。……あんたら、マジで何者だ…?」

 

リバイバーと呼ばれる者に何者かと問われるとブレイクは小さく肩を竦めた後、問いに答える。

 

「ただの悪魔狩人さ」

 

ギルヴァとブレイク。

偶然というべきか二人はDG小隊と合流を果たしたのであった。




状況が状況なので、S10地区前線基地からギルヴァとブレイクに続く最高戦力、ルージュの参戦です。

取り敢えず彼女はオートスコアラーの援護に入ります。
また今回のルージュは三振りの刀【鴉刃】【漆】【朱】に加え、いつでも呼び出す事が可能の大鎌、そして盾にも使え籠手にも使える魔具『コキュートス』、シーナから借りてきた時を操る魔具『クイックシルバー』を装備しています。

一応『コキュートス』を軽く紹介

:コキュートス
ルージュがマギーから譲り受けた魔具。
盾でありながら籠手としても使える魔具であり、氷結の能力を持つ。
使用者のイメージ次第で攻撃が変化し、生み出された氷は何もかもを氷漬けにする。
その為、使用の際には味方がいない事を確認しなくてはならない。

そしてギルヴァとブレイクが本気になりました。(その強さは原作の難易度で言う所のDMDに相当します)
一応あちらさんが大変そうなので援護に入りました。…良かったかな(言われたら直す模様)

では次回ノシ


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Act179-Extra Ironblood May Cry Ⅹ

─悪夢はいくつでもある─

─ただそれが味方か敵か、そのどちらかによるものだ─


「…疾ッ!」

 

黒みを帯びた紅色が一筋の影となって駆け抜ける。

黒と赤に染められた鞘から抜き放たれるは同じ色彩に彩られた刀身。

華奢な体格からは信じられない速度で放たれる居合抜刀がWraithの軍団の一人を武器ごとその体を両断し、流れる様に次の標的へとルージュは鴉刃を振るう。

素早くXを描く様に斬撃を繰り出すも流石はWraithというべきか。攻撃を手にしたレーザーナイフで受け流す。

だがルージュは止まらず、態勢を低く維持。その状態から鴉刃を突き立てる様に構え、俊足の突きを放ち、一瞬の隙を突く様にWraithの腹部を穿ち素早く刀身を引き抜く。そこから片足を軸にして身を翻しつつ回転の勢いを利用して鴉刃を振り下ろし、Wraithの体を頭から股下にかけて縦一閃。

真っ二つに体が分かれ、崩れていくWraithを視界から外しルージュは構えを解く。

左手から右手へと鴉刃を投げ渡すと右腕を大きく振るい刀身に付着した人工血液を落し、そのまま鞘へと納刀し再び構えの態勢を取る。

 

(これで31。…中々に減らないものですね)

 

倒しても、倒しても減らない。

その光景がルージュの中で、とある光景と交わる。

薄暗い部屋。

武器を手に迫りくる騎士の様な格好をした何か。無数に転がる残骸。

無数の刃によって全身を突き刺され、針鼠と化した自分。

腹部から大量の血を流し、虚ろな瞳で倒れ伏す()()()()()()()()()()()

そして遠くからただ見つめる事しかしない…()()()()()()()()()()()

 

「っ…」

 

頭を振り、映像を強引に消し去る。

あの時とは違う。違うのだ。

だというのに何故今になって現れる?

胸の中でざわつく何かに嫌悪感を覚えながらも、飛んでくる攻撃を回避しその場から飛び退くとオートスコアラーのスユーフの傍に降り立つルージュ。

 

「数が多い…。手早く片付けないと不味いですね」

 

「ええ。それに敵はこちらを狙ってきていますからね。引こうにも引けないのが現状です」

 

手にした武装で迎撃しながらスユーフの声を聞きながらルージュは思案する。

確かに敵はオートスコアラーを狙っている節がある。

それでこそルージュを無視する様子が何度か見られた程に。

 

(敵の狙いは彼女達?…いいえ、恐らく幾つかマークしている筈。彼女達はその一つに過ぎないはず)

 

オートスコアラーがどういう存在かはルージュも分かっていない。

だが驚異と判断されたからこそ、敵は彼女達を狙っている。

このまま長々と時間をかけていたらいずれジリ貧になるのは明白。今の内にこの場にいる敵を一気に殲滅し、増援が来る前にオートスコアラーを撤退させる必要がある。

幸いというべきこの場にいる敵を一気に殲滅できるものは持ってきている。それを使わない手はなく、今がその時だと判断したルージュはスユーフに伝える。

 

「スユーフさん…撤退できる準備をしておいて下さい」

 

「…何をなさるつもりで?」

 

「…貴女達を撤退させるチャンスを作ります。私が合図した時に振り返らず撤退を。例えその時に何かが起きたとしても足を止めないでください。絶対にです」

 

何かが起きたとしても足を止めるな。

ルージュの言葉に重みを感じたスユーフであったが何も言わなかった。

今、この状況下で文句など言っていられないのだから。

スユーフの表情を見て、理解してくれた事を察するとルージュは衣服の内側に納めてあるクイックシルバーにへと手を当て、意識を集中させる。

 

(ゲリュオン…貴方の力を借ります)

 

ルージュの声に答える様にクイックシルバーが小さく振動する。

力を貸す事を了承している。シーナ指揮官も何という悪魔に好かれたものだと笑みを浮かべる。

でなければ魔具となって力を貸してくれることなどなかっただろうと。

敵が迫ってくる。オートスコアラーの撤退準備も出来ている。後は合図するだけ。

身を寄せていた物陰から飛び出したと同時にルージュは叫ぶ。

 

「今です!!」

 

合図が飛ぶ。

オートスコアラーの面々が駆け出す。敵が武器を構えようとした時。

 

「のんびり行きませんか?」

 

時計の針が動く音が響きし、世界が白黒へ彩られた。

敵の動きも駆け出していくオートスコアラーの動きもまるでスローモーションが掛かったかの様に遅い。

まるで全ての時の流れが緩やかになった世界が広がっていた。

発動者を除き、全ての時の流れを緩やかにする。

これこそがクイックシルバーの力。時を操る能力である。

 

「…!」

 

鴉刃の鯉口を切り、刀身を抜刀。敵の群れへと突進するルージュ。

己の身体能力を生かし、流れる様に鴉刃を振い敵を一体、また一体と斬り伏せていく。

舞い上がる頭部。ゆっくりと崩れていく亡骸。白黒の世界の中でルージュは舞う。

 

(次!)

 

鴉刃を左から右へと薙ぎ払い、Wraithの上半身と下半身へと別れさせると今度は狙いを装甲の固い奴へ変え、急速接近。刀身を納めた鞘で殴り上げ鴉刃ごと敵を宙へと舞い上げ、後ろ腰に携えた漆と朱を抜刀。

地面を蹴り、宙へと身を投じると体を回転。回転の勢いを利用し漆と朱を敵へと叩きつけ、地面へと吹き飛ばす。

だがクイックシルバーによって時が緩やかになっている事から敵は地面に吸い込まれる様に移動している。

その隙にルージュは地上の着地し、漆と朱を収め降ってきた鴉刃を左手で受け止める。

そのまま居合の態勢へと移行し、鴉刃の鞘に内蔵されたジェネレーターを起動し抜刀。

刀身を高速で振いながら、黒く染まった光の斬撃を次々と放ち、敵の数を減らしていく。

 

(…もう少し…!彼女達を追跡させない為にも…!お願い!もう少しもって!)

 

クイックシルバーが生み出した白黒の世界にも限界が近づいている事にルージュは気付いていた。

しかし敵の数を減らさなくてはならない。

このまま近接による攻撃を繰り出しても、今ここに集った敵を全て倒すには時間が掛かる。

一気に殲滅するほかない。

疾走居合に似た技で敵の群れを切り裂きつつ駆け抜けながら、コキュートスに自身が思い描いた攻撃イメージを送る。

それに反応しコキュートスが起動。辺り一帯に氷霧を展開させ、敵を包みこむとルージュは指を鳴らした。

パチンと鳴り響くと、氷霧が氷塊と化し包んでいた敵の群れを氷漬けにすると氷塊が自ら砕け散った。

敵の残骸が地面に散らばる。それと同時に世界は元の色彩を取り戻した。

構えを解き、後ろを向けばオートスコアラー達の姿はそこにない。無事撤退出来たであろうと祈りながらルージュは正面を向き、駆け出した。

この戦場のどこかに居る二人と合流を果たす為に。胸の中のざわめきが更に酷くなるのを感じながら。

 

 

リバイバーが展開したルーン・パピヨンによる一時期は戦況が変わったものの、鉄血はまるで嘲笑うかの様に戦力を投入してきていた。突如として現れた巨人の近くからギルヴァ、ブレイクの気配を感じ取ると同時に幻影の魔力を感じ取ったルージュはそこにランページゴーストのアナが居る事を察し、現場へと急行していた。

ギルヴァとブレイクが遅れを取る事はまずない。そしてアナも高い実力派を持つ一人だ。しかし戦力は多いに越した事はない。

援護すべく戦場を駆け抜けるルージュだったが、前方で壁に背を預け座り込む一体の戦術人形を発見した。

黒い髪は乱れ、白いリボンは所々が焼き焦げ、着ている制服はボロボロ。

左腕、両脚は吹き飛び、そこから人工血液が流れ出ていた。

片眼も攻撃により潰れておりそこからも血を流している。その姿は目を背けたくなる程に痛々しく、唯一無事なのは自身と同じ名の銃だけ。

そして奇跡というべきか、その戦術人形はまだ機能停止には至っていなかった。ルージュがその人形の傍へと駆け寄ると接近に気付いた戦術人形…64式自は下ろしていた顔を上げまだ機能している瞳で目の前に居るルージュを見つめながら微かな声で尋ねた。

 

「だ、レ…?」

 

発声機能が上手く機能していないのか、彼女の声はノイズが混じっていた。

 

「S10地区前線基地の者です。安心して下さい。私が安全な場所まで運びます」

 

「そん、な事…しなくていいわ…。も、う…もたない」

 

ここに放置され、だいぶ経っている。

64式自はこの体を動かすエネルギーが底を尽きかけている事を分かっていた。

同時に電脳も攻撃を受け過ぎた影響か、まともに機能していない。

ただこのまま電脳が馬鹿になって、そのまま機能停止するのを待つほかなく。そしてその時がすぐそこまで迫ってきている事を感じ取っていた。

 

「そんな事言わないでください。貴女はまだ生きている。だからまだ諦めないで」

 

胸の中でざわめきは酷くなるのをルージュは感じた。

そしてまた頭の中で映像が流れる。

今度は自身の腕の中で血反吐を吐きながら、笑みを向けてくれる自分と似た顔のした誰かがいた。

そこに居る64式自と同じように左腕と両脚は無くなっており、片眼もない。大量の血を流しながらも生きている事が奇跡と言える状態であった。

 

(っ!!…違う…。あの時とは違う…!)

 

まるで言い聞かせる様にして、ルージュは映像を頭の中から消し去る。

 

「…ま、るで……私を人間、として…見ている…言い方ね…?」

 

「そ、それは…」

 

思わず言葉が詰まってしまうルージュ。

分かっている。

いつ倒れても可笑しくない立場にある戦術人形人形には記憶のバックアップ機能がある事。だから今の体が完全に動かなくなっても、新しい体にその記憶が引き継がれる。

何も心配要らない。でも違う。言葉には表現できない何かがルージュの胸の中でざわつかせる。

返す言葉が見つからないルージュ。ふと64式自は何かに気付き辛うじて動く片腕を伸ばし、彼女の頬に触れた。ぎこちない笑みを浮かべながら、ルージュの瞳から流れる一筋のそれを拭う。

 

「何故…貴女が泣いているのかは分からない…。でもただの道具として見ていない事が良く分かる…」

 

「…」

 

「このまま一人寂しく死ぬ、のかなと…思っていた、けど…。最後の最後に…良い事も起きるもんだね…」

 

でも…と65式自は呟く。

 

「…さ、いご…に…だれか、に……看取ら、れて……逝け、るなんてさ」

 

止める事は出来ない。ルージュにもそれを止める事はできない。例えクイックシルバーを用いたとしても、その最後には必ず行き着いてしまう。

ルージュの頭の中で再び映像が流れる。それは先程と同じ映像。

今と同じ様に彼女の腕の中で、ルージュと似た顔した少女もまた手を伸ばし頬を触れている。

何かを喋っている。だけど聞き取れない。

 

「あ、りがと…う…」

 

そして次の瞬間─。

 

「あ、と…は…まか…せ、る……ね」

 

『あ、と…は…まか…せ、る……ね』

 

声が重なった。

言葉を失い、ただ呆然とするルージュ。

伸ばされていた腕が力尽きた様に落ち、64式自の瞳に光が消え失せ、彼女はゆっくりと地面へと横たわった。彼女はもう動かない。新しい体を得るまでは。

 

「ッぁ…!!!」

 

胸の中で激痛が走り、苦痛の表情を浮かべながらうずくまるルージュ。

心臓が今から飛び出そうとして、体の内側から裂かれそうな痛みが襲う。

 

(どうして…?)

 

問う。

 

(どうして……?)

 

再び問う。

 

(私は…誰も守れないの…?)

 

己へと。

 

「あぁ…」

 

涙が流れる。

ルージュの内から言葉に出来ない何かが溢れ出し始める。

 

「あああ…!」

 

濁流となって押し寄せる。もう止めらない。例え本人だろうと。

彼女の体から小さな光が浮かび上がる。コキュートスが冷気を放ち始める。

 

(ください─)

 

彼女は乞う。

 

(私に─)

 

己に。

 

(もっと力をッ!!!!)

 

更なる力を。

 

 

 

それは突然というべきであった。

戦況が一転してから数時間が経った時、それは起きた。

 

「────!!!!」

 

言葉にならない叫び声が戦場全体に響き渡り、地上から空へと向かって大きな青黒い光が奔る。

衝撃波が一気に駆け抜け、どういう訳か敵の戦術人形が動きが鈍くなり、それはギルヴァとブレイク、アナ、RFBと激闘を繰り広げていた巨人にも影響していた。

 

「何だ?動きが鈍くなったな?」

 

リベリオンを肩に担ぎながら、巨人の動きが鈍くなったのを指摘するブレイク。

傍に立っていたギルヴァはこの戦場に奔った魔力を感じ取り、近くで立っていたアナが尋ねる。

 

「幻影が反応を…。ギルヴァさん、今のは…」

 

「…ルージュか」

 

「今のはルージュさんが…?」

 

「恐らくな」

 

だが…とギルヴァは己の内で呟く。

確かにこの魔力はルージュの物。だがそれ以上の何かを彼は感じ取っていた。

その正体を探ろうとした時、RFBが、とある方向を見つめながら口を開いた。

 

「ねぇ…あれ、なに…?」

 

RFBが向く先。

その先にあったのは巨大な氷の城塞。あろう事かあの大量武装していた塔を取り込んでおり似た様な武装が氷によって形成され、どういう訳か敵に向かって攻撃を開始していた。

誰がどうやってあんなものを用意したのか検討が付かない。だがギルヴァは、あの氷の城塞はルージュがやったものだと判断していた。

 

(どうなっている…)

 

ルージュの力は知っている。

だがその力の中に氷結の能力はない。

ではアレは何か?

ギルヴァでも想像がつかなかった。

 

一方、青黒い光の発信源は辺り一帯が隆起した氷山の群れと化していた。

光の発信源の中央には、少女が一人。

機能停止した戦術人形 64式自を抱えており、少女は氷が発生していない所へとそっと寝かせた。

一時の眠りについた戦術人形の頬を優しく撫でると、彼女はゆっくりと立ち上がり背を向けて歩き出す。

一歩歩き出す度に地面が凍てついていき、それどころか襲い掛かってきた敵が彼女に触れる事もなく一瞬で氷漬けにされる。

 

「もう手加減なんてしていられないんですよね…」

 

背に背負っている魔具『コキュートス』が片翼を作り上げ、大きく広がる。

片目が青黒い色へと変化し、右腕には氷で創造された籠手を装備。

常に冷気を纏い、敵対するものは全て凍てつかせ、作り上げるは氷獄。全身の各所から青白い炎を展開し、彼女は向かってくる敵に伝える。

 

「…まさかと思いますが…」

 

三日月の様に口角を吊り上げる。

笑っている様で笑っていない笑顔がそこに存在していた。

 

「ニゲラレル ト オモワナイデ クダサイネ?」

 

それは誰一人とて逃がしはしないという悪夢の宣言。

そこには優しさなどない。降参も意味を成さない。必要であれば、生きたまま凍てつかせる。

死が訪れる最期まで恐怖を与える。

ただ敵の全てを凍てつかせる悪夢…氷獄が今から始まろうとしていた。




まぁ…はい。

ルージュが(コキュートスを介してデビルトリガー解放&常時デビルトリガー解放&常時コキュートス展開&半暴走状態)ととんでもない状態になりました。
接近戦を仕掛けても一瞬で氷漬けにされ、遠距離攻撃を仕掛けてもコキュートスで氷壁を展開され防御。
また氷の城塞も展開し、【Hell guard tower】の残骸も取り込んだ為、敵を片っ端から氷漬けにする為攻撃します。
因みに氷自体は魔力で形成されている為、破壊不可です、逆に氷に触れると味方関係なく、氷の棺桶行きです。

てか何故ルージュがこの様な事態になったのか?
わかりずらいとは思いますが…まぁ敵さんが過去にルージュの身に起きた事を偶然にも再現してしまい、もう二度と失うものかとルージュが力を求めた結果、コキュートスが呼応し…ああなりました。

まぁ…うん…言われたら直しますわ…。

では次回ノシ


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Act180-Extra Ironblood May Cry Ⅺ

─ここまで来たら、もう楽しむほかない─


「どうなっている!?こいつはなに─」

 

「なんだ、こいつは…。や、やめ─」

 

「待って!イヤ・・!イヤッ!!お願い、た─」

 

少女が一歩、一歩と歩く度に次から次へと氷のオブジェが出来上がっていく。

困惑する敵、恐怖する敵、命乞いをする敵…それらを納めた氷の棺桶が地面へと倒れると硝子の様に砕け散っていき、また氷の棺桶が出来上がっていく。

それでも敵は果敢に攻めてくる。戦闘態勢を取らない少女へと仕留めようした時、彼女…ルージュは敵に見向きせず、小さく呟く。

 

「目障りです」

 

一瞬にして氷の棺桶が出来上がる。硝子の様に散っては、また敵の誰かが氷漬けにされる。

積み上がっていく屍。亡骸を残す事を許されない。

まさに地獄であり、それを作り上げているのがたった一人の少女というのは驚きでしかないだろう。

ふとその時、青黒い光彩を放っていた瞳がまるで大人しくなった様に本来の赤へと戻った。

 

「…ッ!」

 

それと同時に何かが体の中で刺さった様な痛みを感じ、ルージュの表情が小さく歪む。

全身の力が抜け、地面に片膝をつくとどこからか何かが崩れる音が彼女の耳に届く。顔を上げ、その方へと視線を向ければ、先程まで敵の殲滅を行っていた氷の城塞が崩れゆく姿が視界に映った。

同時に敵を殲滅という考えに思考の半分を支配されていた頭はまるで嘘の様にクリアになっていくの彼女は感じ取っていた。

 

(…反動、というべきでしょうか)

 

軽く肩で息をしながら、ルージュは自身の身に起きた事を察する。

完全な暴走を引き起こしていなかっただけにルージュは自身が強引に発動させたデビルトリガーが可笑しかった事に気付いていた。

ただ敵を殲滅するという考えに固執していた為かおかしいと気付くまでは時間が掛かった。

おかしいと気付きながらも敵を殲滅を選んだのは、彼女なりの援護であり、この地に居る敵の数を一気に減らす事が出来るチャンスだと踏んだ為である。

 

「…コキュートスの力もその一つなのでしょうね」

 

不安定な状態でのデビルトリガーを引いた事、そしてその魔力解放にコキュートスが予想以上の呼応を示した事が半暴走状態に至った原因ではないかとルージュは思った。

 

「託されたという魔具…マギーさんが作ったものではないのが分かります」

 

魔具というものはそこら辺の武器がちっぽけに見える程、巨大な力を有する道具だ。

だがこのコキュートスと呼ばれる魔具の力は、ルージュですら想像していなかった力を有していた。

 

「一体誰が…」

 

破棄された筈の魔具。それがどういう訳か後方幕僚のマギーが持っていた。

そして本人は託されたと言っていた。

コキュートスをマギーに託した製作者が誰なのかと気になるのはごく自然の話である。

 

「今はその事を気にしている場合ではありませんね…」

 

ゆっくりと立ち上がるとルージュは空を見上げた。

上空では即席で作ったであろう大型飛行ユニットで鉄血の航空部隊と戦闘を繰り広げるノアの姿。ふとその時、ルージュは敵の動きに違和感を覚えた。

 

「…何かを悟られぬ様にしている?」

 

勘違いかも知れないと思いながらも、何故かその違和感が拭いきれない。

気になって彼女は戦場を眺めた。

未だに銃声やら爆発やらそこらかしこで響いており、戦いは未だ終わっていない事を告げていた。

その中でルージュはある事に気付く。

 

「おかしい。戦闘音が少なすぎる…」

 

ハッとしてルージュは周りを見渡す。

さっきまでの勢いは何処へ行ったのか、敵が少ない。

居るには居る。だがやはり可笑しい。まるでこの地に留まらせようとしている様だと彼女はそう感じられずにはいられなかった。

 

「引いた…?いいえ、これではまるで…」

 

─何かを自分達に擦り付けようとしている─

 

その何かが何なのかは分からない。

ただ鉄血が自ら引く程の何かが迫ってきている。戦場に漂う違和感、向こうからやってくる何か。

悪魔ではない。それなら自分や彼らが一番に反応している。

ちらりとルージュは背に背負ったコキュートスを見つめる。

デビルトリガーは今でも発動した状態だが、先程までの暴走状態ではなく安定しており、コキュートスも冷気を放ちながらも安定している。

その何かはもうすぐそこまで来ている。その事をこの戦場にいる者達に知らせなくてはならない。

まだやれる事はある。ならばそれを全力で成すまで。

片翼だけであった氷の翼をもう一つ展開し、両翼へと変える。足を曲げ、空へと飛び出そうとした時ルージュの視界の隅にある物が映り、彼女は離陸態勢を解除しそれへと歩み寄った。

 

「えっと…」

 

それは鉄血のマークが施されたコンテナ。物資にしては大きく、サイズからして武器を納めるウエポンコンテナなのだろうが、ただ武器だけを納めるにしては大袈裟とも言える程にそのサイズは大きい。

そして何らかの衝撃でコンテナは破損、中身が丸見えの状態となっていた。

 

「これは…」

 

コンテナの中に収められていたのは、スラスターユニット。その翼の形は天使の羽そのものと言え、大きさの異なる翼を備えたメインスラスター、腰部に装着する為に製作されたのか砲と天使の羽が組み合わさったサブスラスター、そしてこのスラスターユニットを運用するに当たって製作されたであろう同じ形をした大型ライフルが二挺。

悪魔を討つ為に作られた天使の装備とも言うべき兵装がそこにあった。

 

「名はプレリュード…前奏曲と言う意味ですね。形からして、悪魔と対になる様に作られた兵装と言うべきですね…」

 

収められていた兵装を見て、ルージュは苦笑いを浮かべる。

鉄血らしくないと思いながらも、これをどうしたものかと悩んだ。

放置されているという事は下手すれば敵が回収する可能性もある。だが破壊している暇があるかどうかと言われたら、そんな暇はない。

 

「仕方ないですね…」

 

破壊しようと思い、ルージュが鴉刃の柄に手を掛けた時、コキュートスが反応する。

放たれた冷気がプレリュードと包み込み氷漬けにしたと思えば、氷漬けにされたプレリュードが光に包まれルージュの元へ向かって行き、彼女はそれへと手を伸ばし触れた。

触れた瞬間広がる光であったが数秒も経たぬ内に光は消え去り、ルージュの背には氷で凍てつきながらも大きな天使の翼が広げられ、その手には凍てついた二挺のライフルが握られている。

鉄血製のプレリュードでコキュートスによって魔具へと変換し、ルージュの新しい力となりて、それは顕現する。

その名はコキュートス・プレリュード(氷獄の前奏曲)

魔と科学の融合によって生まれた奇跡が今、この時をもって誕生した。

 

「不思議な事もあるものです」

 

新たな力を得て、彼女はコキュートス・プレリュードの翼を勢い良く羽ばたかせ空へと飛翔した。

鉄血の航空部隊と戦闘を繰り広げているノアの援護へと入ろうとした時、通信が流れ込む。それは男性の声であり、ルージュは分からなかったが、その声はリバイバーの声であった。

 

「お前ら!現在未確認のフードマントの勢力が乱入し、鉄血含めて被害が出ている!そこで‼︎この俺リバイバーが鉄血と独断で交渉して一時同盟を組んでジャミングを解除してもらった!勝手を承知だが、こうするしか道が無かった!各員鉄血と敵対行為をやめ、フードマントの勢力の迎撃に当たってくれ!奴らは下手を打てば万能者並の力と思われる!無謀と思うが、ここで奴らを退けなくては俺らは助からない!頼む、鉄血と協力してそのハイエナどもを蹴散らせ!」

 

向かってくる何か。

それは当たっていた事にルージュの表情は険しくなる。

その何かはこの場に残った鉄血にも攻撃を仕掛けていると知ると、構えようとしていたライフルをゆっくりと下ろし、ジャミングが解除された事もあり、ルージュは大型飛行ユニットに搭乗しているノアへと通信を飛ばした。

 

「こちらS10地区前線基地のルージュ。ノア、聞こえますか?」

 

『ああ、聞こえてる。てかルージュ、何時の間にここに来たんだ?』

 

「信頼できる悪魔の力のおかげと言っておきます。それよりも先程の…リバイバーの通信は聞きましたか?」

 

『あんだけデカい声で叫ばれたら、嫌でも聞こえるさ。どういう訳か協力しなきゃならないみたいだな?』

 

「みたいですね」

 

敵もこちらへと向けていた武器を下ろし始める姿を見つめるルージュ。

上位種の命令なのか、或いはリバイバーの通信を受けて一時的な敵対を避けようと考えたのだろう。自ら鉄血の航空部隊はリバイバーの言う『ハイエナ』の方へと向かって行った。

 

「途中からの参戦だったのですが、今なら分かります。最初から本気出せというものです」

 

『作戦として考えるのであれば、小出しにすんのが当たり前だろうがな。でもまぁ小出しにしていた挙句、面倒ごとだけはこっちにぶん投げ。それでこのザマなんだ、イラつくし鬱憤だって覚える』

 

「小細工と小出しをしていた挙句の果てがこの状況。この状況なら悪魔どもを相手にしていた方が楽です。アレの方が単純で分かりやすいので」

 

『確かにそれもそうだな』

 

一時休戦となってしまった以上はやる他ない。

コキュートス・プレリュードを展開したルージュは手にした二梃のライフルを並行連結させるとハイエナどもへと向かって狙いを定めるのであった。

 

 

一方、鉄血の本拠地にてリバイバーが鉄血との一時同盟を結ぶことが出来た事を受け、ブレイクは彼に声をかける。

 

「流石だな。俺らには出来ねぇ事をやってくれるもんだ」

 

「まぁな。…俺だからこそ出来たにしてといてくれ」

 

「オーケー。そういう事にしといてやるよ」

 

愛銃たるアレグロとフォルテを連射するブレイクは思った。

ハイエナどもを何とかしないと不味いのは明白。

そしてこれこそがファイナルステージ。ならここで狂ってしまいそうな程の事をやって盛り上げようじゃないかと判断。

迫りくる敵を片付けるとアレグロとフォルテを収め、ブレイクは人差し指を立てながら天へと向かって突き上げ高らかに叫ぶ。

 

「楽しすぎて狂っちまいそうだなッ!」

 

その台詞と共にブレイクは人から魔へと姿を変える。

同時にギルヴァも使うなら今しかないと判断し、内包する魔へとその引き金に指をかける。

 

「悪夢の時間だ…!」

 

赤と青。

二体の悪魔が姿を現した。




はい。ルージュが新たな力『コキュートス・プレリュード』を得ました。

元々は鉄血製だったプレリュードを魔具と化したもので。プレリュードのイメージは『スノーホ〇イト・プ〇リュード』の装備をイメージして頂けると幸いです。

さてと、こっから本番だ。飛ばすぜ!

では次回ノシ


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Act181-Extra Ironblood May Cry Ⅻ

─さぁ、反撃の時間だ─


リバイバーの交渉にって解除されたジャミング、ルーラー三名による支援。

盤面を揃えるには十分とも言える程にその者達の行動は賞賛に値するものであった。

とは言え敵は決して雑魚ではなく、苦戦を強いられるのは間違いない。

だがこの状況を切り抜けなければ全員が死ぬ。その想いがこの戦場に居る者達を奮い立たせ、戦う力を与える。

 

「…!」

 

大型飛行ユニットで駆けるノアの援護をしながら、コキュートス・プレリュードの装備である二挺の大型ライフルを並行連結させた状態で地上に居るフード付きマントの集団に向かってルージュは照射しながら勢い良く薙ぎ払う。地面を抉る様な光線が奔り敵を両断すると、威力の故か光線が奔った後には地面から湧き出る様に爆発が次々と発生。複数体に向かって同時に攻撃出来たものの、倒せたのはたった一体のみ。

ルージュが険しい表情を浮かべた時、同時に大型飛行ユニットで戦闘を繰り広げていたノアからの通信が入った。

 

『クソ!!ユニットをやられた!!脱出する!!』

 

「ノア!」

 

何かによって両断された大型飛行ユニットが墜落していく。

辛うじてノアは脱出できた模様で、ルージュは安堵する。

 

『ユニットがやられただけだ!!問題ねぇ!!お前はギルヴァ達の所へ行け!ルージュ!お前一人じゃそいつらとやり合うのは分が悪い!』

 

「…分かりました。後で必ず援護に向かいますので!!」

 

『ああ!』

 

コキュートス・プレリュードのメインスラスターを担う翼を大きく広げるとその場から離れるルージュ。

鉄血の本拠地からはギルヴァとブレイクの魔力が感じられる為、彼女は迷う事無くそこへと向かって飛翔。翼から剥離する氷霧がまるで天使の羽の様に舞い散る。地上から飛んでくる敵の攻撃を優雅に避けながら翼を羽ばたかせるその姿はまるで白雪姫の様であった。

 

鉄血本拠地ではデビルトリガーを引いたギルヴァとブレイクが超大型刀を手にしたフード付きマントの敵を激闘を繰り広げていた。ギルヴァの得意技とする次元斬を武器で弾く事の出来る他、運動性も非常に高い為、そう簡単に倒せる相手ではない事は事実であった。

エアトリックを用いて背後を回ったとしても、まるで分かっていたかの様に反応してくる為、今まで戦ってきた敵よりも一線を画す相手であった。

だが、侮るなかれ。幾ら格上であろうとこの二人がそう簡単に遅れを取る事はない。

 

「そらよッ!」

 

明確な殺意と共に振り下ろされた大剣の攻撃に合わせる様にブレイクはリベリオンを振り上げ、攻撃を弾き飛ばす。

甲高い音が響き、敵の態勢が崩れた所を彼はリベリオンを突き立て突進を敢行。

魔人化した状態で放たれるスティンガー。それに反応して敵も超大型刀の剣幅で受け止めるも完全に止める事は叶わず、大きく地面を滑りながら後退。そこに背後から接近する青が一つ。

手には無銘…ではなく、雷撃鋼 フードゥル。青い悪魔が放つ魔力も相まって、籠手と具足から放たれる雷は黄金ではなく、青紫色へとなって激しく放たれていた。

後ろへから迫ってきている事に気付いた敵は超大型刀を振るいブレイクを払いのけると、後ろから迫るギルヴァに反応し、振り返りざまに刀を薙ぎ払う。

 

「…ッ!」

 

全身を回転させ、その遠心力を加わった踵落としと刀がぶつかり合いスパークが発生。

辺りを照らす様な眩しい位のスパークが至る所へと飛び散る。

 

(悪くない…!)

 

その姿からでは分からないがギルヴァは気分が高揚していた。

何せ相手は自身が得意する技「次元斬」を平然と手にした刀で弾いたのだ。

驚きも束の間、彼の血が騒ぐのは無理もない事であった。

持つ獲物は違えど、まるで自分とブレイクを足した様な敵なのだ。

死合うには十分すぎる相手。だからこそ─

 

(本気でぶつからなくては面白みに欠けるというものだ!)

 

獲物のぶつかり合いが解かれると両者は目まぐるしく動き合い、攻撃をぶつけ合う。

火花が散ったと思えば、雷撃が散り、一度ぶつかる度に地面やら壁が吹き飛んでいく。敵の振り払い攻撃を宙で受け止めたギルヴァが吹き飛ばされ、そのまま追撃と言わんばかり斬撃が襲う。

だが彼は素早く態勢を立て直し着地すると地面を抉りかねない脚力で地面を蹴り突進。

飛来する斬撃を幻影刀を用いて弾き飛ばし、宙に身を投じると足を勢い振り上げ踵を地面に敷かれたタイルとタイルの間に叩きつける。轟音と破砕音が響き、浮かび上がるタイル。それを一時的な目くらましにするかと思えば、ギルヴァは思い切り敵へと向かってそれを蹴飛ばした。

有り得ない速度で飛んで行くタイルであるが、敵はそれを刀で斬り落としながら突進。

再び両者はぶつかり合い、己の持つ全てを用いて激闘を繰り広げる。

その様を少し離れた位置で見ていたブレイクは、余りにも常識外過ぎる戦いを繰り広げる二人を見て啞然とするリバイバーに声をかける。

 

「あーあ…ありゃ俺以上にはしゃいでやがるな。ここら一帯ぶっ壊す気か?」

 

「ぶっ壊す気じゃなくて現在進行形でぶっ壊してるだろ!?何だよ、あれは!?怪獣大戦争でもやってんのかよッ!?」

 

リバイバーの言う事は決して間違ってなどいない。

人が悪魔へと姿を変え、フード付きマントの敵が現れたと思えば、怪獣大戦争並みの戦闘が今自身の傍で巻き起こっているのだから。

下手をすれば自分までも巻き添いを喰らいかねない状況である。

 

「てかあんたやギルヴァは本当に悪魔なんだな…」

 

ツッコミを入れた所で埒が明かないの事実。

デビルトリガーを引いたブレイクを見て、リバイバーは話題を変えるためにもそう尋ねた。

するとブレイクがフッと笑みを漏らすと問いに答える。

 

「いや、少し違うな。俺達は半分人間、半分悪魔…所謂半人半魔という奴さ。もし俺達が純粋な悪魔だったら今頃そっちと敵対してるだろうぜ」

 

「…やめてくれ、ゾッとする話だ」

 

「例えばの話だ。そんな事しようとは微塵にも思ってねぇから安心しな。…それに悪魔には無い物を俺達は持っていて、それを忘れない様にしてるのさ」

 

「それは…?」

 

「心さ。それが俺らにはあって、あいつらには無い物」

 

「心、か…」

 

「さて休憩も出来た所だし混ざってくる。お前はそこで休んでな」

 

「そんな訳行かねぇだろ」

 

ルーラーによる支援もあって、センサー類など強化されたリバイバーの表情は険しい。

ギルヴァと絶賛戦っている敵以外にも内部に侵入してきた敵がいるのだから。

 

「3体内部にいるのか…協力した手前、排除するとしますか…!すまん、そのデカイ剣持った奴の相手を頼む!」

 

「了解!」

 

リバイバーが内部にいる三体へと攻撃を開始し、背負っていたリベリオンの柄を手を掛けるブレイクも絶賛激闘を繰り広げている二人の中へと飛び込んでいく。

ブレイクが迫ってきている事に気付くとギルヴァは素早く身をかがめ後退。彼と交代する様にブレイクがリベリオンを振り下ろすが、敵も刀を振るう。

そこから剣戟を展開。片手でリベリオンを振るうブレイク、片手で刀を振るう敵。

二人の間で広げられる刃と刃の攻防戦。ギルヴァと戦っていたにも関わらず敵は弱っている気配がないと思われた。だがフードゥルの雷撃を幾らか浴びているのか、一瞬だけ動きがぎこちなくなるのをブレイクは見逃さなかった。

振り下ろされる刀。それを体を横にして避け、ブレイクは地面を踏み込むと敵の懐へと体当たり。

怯んだ隙へと目掛けて背に背負ったリベリオンを振り下ろしてから斬り上げ。そこから後ろに居る敵への攻撃を想定した技でリベリオンを回し右手から左手へと持ち替えつつも最後は両手で柄を握り刀身を薙ぎ払う。

流れる様に、そして様々な技が踊る様に入り乱れる。

そんな連続技を繰り出したとして敵は刀で防ぐ。たが弾き返す事は出来ない。何故なら一発、一発が重たいのだ。故にというべきか、防御態勢が少しずつ崩れていくのをブレイクは気付いていた。

突きを素早く繰り出すミリオンスタップ。そこからリベリオンを逆手にして持ち、振るい上げる。

 

「ワン!ツー!」

 

連続しての振り上げ。そして最後はリベリオンをバットを振る様に構え、刀身に魔力を纏わせるとブレイクは踏み込んだ。

 

「フィニッシュ!」

 

強烈なフルスイングが敵の刀へと放たれ、その一撃は相手の防御態勢を一気に崩すには十分と言えた。

防御態勢は崩れ、よろける敵。普通に接近してしまえば相手はすぐに距離を取るであろう。

だがそれは既に想定済み。この状況を作り上げる為だけにわざわざ彼らは()()したのだから。

 

「終わりだと思っていたか?」

 

響くノイズが掛かった声。

敵がよろけた先に居たのは、フードゥルの雷を最大にまで溜め込み、フード付きマントの敵の顎へと目掛けてアッパーカットを放つ青い悪魔。

技などない。だが名付けるとするのであれば龍殺し。連続して繰り出される拳は龍さえも殺す。

 

「はぁっ!」

 

掛け声と共にギルヴァは体を捻り小さく飛びながら一撃目を直撃させる。そしてそのまま同じ動作を繰り返し二撃目を確実に当てつつ雷撃を浴びせ、敵に逃げるという選択肢を与えない。

同時に敵は人間ではない。恐らく人形。精密機械ならば雷という存在は厄介でしかない。

同時に最大に溜め、放たれたフードゥルの雷撃の威力は最早常識を逸脱する。機械ならばショートさせるどころか、爆発させる程の域に達する。

だからこそ、溜め込む必要があった。ブレイクに見せ場を譲ってまで。

身を屈め、溜める。狙うは一点。それ以外はない。

その一撃は全てを穿つ。雷の様な鋭さで敵を射抜く。そして彼は勢い良く拳を振り上げた。

 

「っぜぁああああッ!!!!」

 

放たれる一撃。直撃によって走る衝撃波。その拳が纏うは青白い雷。

体を捻り大きく飛び上がりながら拳をねじ込み、ギルヴァは敵を宙へ打ち上げた。

その姿はまるで地から天へと迸る青白い雷。これだけの攻撃を受けたらひとたまりもない。

だがギルヴァは決して手を緩める気などなかった。

次元斬を簡単に弾いておきながら、この程度で倒れる相手ではないと思っていたからだ。

そしてそれは当たっており、敵は立ち上がると二人へと剣先を突き付けた。

その時内部に居た敵の掃除を終えたのか、リバイバーが戻ってきた。彼の存在に気付いたのか、敵はギルヴァとブレイクを無視して、リバイバーへと襲い掛かった。

 

「…!」

 

振り下ろされる一撃に対しリバイバーは懐から瓶を取り出して投げると同時にテレポートにて攻撃を躱す。

投げられた瓶が刀に当たると、刀が煙を上げながら溶解し始めた。

流石にこればかりには敵も動揺し、その隙にリバイバーは先程同じ瓶を取り出し、敵の頭に向かって投擲。

瓶は吸い込まれる様に敵の頭部へと向かっていき直撃。容器が割れ、中身の液体が頭部へと浴びせられると、刀と同様にその体も溶解し、動きが鈍くなっていた。

その様を見ていたギルヴァはリバイバーへと尋ねる。

 

「…リバイバー、何をした?」

 

「アルケミストの拷問部屋からちょろまかしたのを浴びせたんだ。ま、流石に効くよな~、王・水・は。こんなもん拷問に使うもんじゃないと思ってたが、今は感謝だな」

 

そういった物に関しては詳しい訳でもないギルヴァだが、フード付きマントの敵に効くというだけは分かっていた。

リバイバーの投げた王水によって敵が動かないまま。するとこの状態を維持できないと判断したのか、敵は自ら自壊し、砂となって散っていき、ブレイクが疑問の声を上げる。

 

「…っ⁉︎どんな仕組みだこりゃ…?」

 

「さぁな。でも、致命傷与えれば勝手に死んでくれるならありがたいだろ…本当は鹵獲したいが、こんな状況でそれは贅沢か。周辺のは例の援軍が片してくれたみたいだし、他のところの助けに向かった方が良さそうだ」

 

彼の言う通り、他のフードマントは援軍により撃破されており、3人は他の味方部隊の援護をすべく、移動を開始し始めた。

ふとその時ギルヴァは何かを感じ取ったのか足を止め、ふむと唸るとリバイバーにある事を提案した。

 

「リバイバー、ここから分かれるぞ」

 

「それは良いけどよ。どうしたんだ?」

 

「少し顔を合わさなくてはならん奴が居る。どうやら面白い事をやってくれたみたいなのでな」

 

ギルヴァは感じ取っていた。これが【幻影】の気配。

そしてその持ち主から感じられる、自分達が持つ【悪魔の引き金】と同じ気配。

ギルヴァが感じているという事は、当然ブレイクも気付いている。

 

「こっから別行動だな。無茶すんじゃねぇぞ、リバイバー。生きて会えたらストロベリーサンデーでも奢ってやるよ」

 

「そっちもな。護衛助かった。あと奢る件は覚えたからな」

 

「ふっ。あいよ」

 

翼を広げ、ギルヴァとブレイクは空へと飛翔する。

向かう先はたった一つ。引き金を引いた彼女の元。

 

ギルヴァとブレイクが上空で彼女を見つけた時は、大型飛行ユニットから離脱し、後に合流したノアとRFBと共に二振りの光学剣を持った敵と激闘を繰り広げいた。イグナイトトリガーを引いた彼女は敵と剣戟を繰り広げ、ノアとRFBが援護に入る。

だが敵の動きがいい。恐らくあの刀を持っていた敵と同じなのだろうと判断したギルヴァとブレイクはそこへと急降下。

ブレイクはリベリオンを突き立てる様に構え、ギルヴァは無銘の鯉口を切ると敵へと襲い掛かった。

 

「そらよッ!!」

 

「フン…ッ!!」

 

突然の襲撃。光学剣を持った敵が反応に遅れ、吹き飛ばされると土埃が辺りを包む。

せき込みながらもアナは落ちてきた何かの方へと見た。

見えるは二つの影。一人が大剣を勢い良く振るい、土埃を振り払った。

晴れる土埃。そこに居たのは二体の悪魔。それを見て、RFBとノアは笑みを浮かべる。

 

「これは悪夢だね。主に敵にとってはだけど」

 

「まぁな」

 

悪魔が敵に悪夢を見せる為にやってきた。

しかし援護はもう一人いた。上空から彼女達の元に降り立つ姿は天使そのもの。

片手には連結した状態の大型ライフル、携えた刀。そして天使の翼を模ったスラスターユニット。

コキュートス・プレリュードを纏うルージュもまた援護の為に参陣した。

 

「遅れました。でも必要無かったですかね?」

 

「いいや、寧ろ来てくれて大助かりだ」

 

ニヤリと笑みを浮かべ犬歯を向き出しにするノア。彼女が歩み出すと、RFBもルージュも、そしてアナも二人の傍へと歩み寄った。

そしてギルヴァの隣に立ったアナを見て、ブレイクが口を開く。

 

「こりゃすげぇな。ホントに引いているのか。…んで?幻影を渡した本人様は彼女に何か言う事ないのか?頑張ってここまで来たんだぜ?」

 

ブレイクが茶化す様に言うとギルヴァはちらりと隣に立ったアナを見た。

そして何を思ったのか、彼はそっと腕を伸ばしアナの頭に手を置いた。あのギルヴァが人の頭を撫でた。そればかりは撫でられた本人も、ノアもRFBも、ルージュも驚愕の表情を見せる。

だがギルヴァは知らんと言わんばかりに周りの反応を無視し、アナがここまで至った事に対して素直な思いを述べた。

 

「…よくやった」

 

たった一言だけ伝えるとギルヴァはアナの頭から手を離す。

彼らしくないその姿にブレイクは小さく笑う。まさかそんな事をするとは思ってなかったのだ。

少しばかり微笑ましい光景が見えたものの、今は和んでいる場合ではないのは事実。

その姿では分からずとも、ブレイクはニヤリと笑みを浮かべていた。

 

「亡霊に悪魔。こりゃ豪華だな」

 

敵は既に戦闘態勢に入っている。そして自分達もまた戦闘態勢に入っている。

会話は訪れない。いつぶつかるかも分からない。そんな中でギルヴァは無銘を、アナは絶刀 天羽々斬を構える。

 

「行くぞ─」

 

「我が太刀─」

 

「「受け止められると思うな」」

 

刹那二人が地面を蹴り突進。それに続く様にブレイクもルージュもノアもRFBも敵に向かって突進。

六対一。そこから何が起きるのか。誰にも想像は出来ない。

さぁ敵よ、踊ろうではないか。

暴れる亡霊(ランページゴースト)悪魔も泣き出す者達(デビルメイクライ)と一緒に。




リバイバーとは二手に分かれ、ギルヴァ、ブレイク、ルージュ(全員デビルトリガー発動済み)はランページゴーストの援護に入ります。

悪魔の三人、亡霊の三人。さぁ悪夢の中で一曲踊ろう。

では次回ノシ


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Act182-Extra Ironblood May Cry ⅩⅢ

─表の最終局面なら─

─裏も終わらさなくてはならない─


S10地区前線基地のlibraryでダレンはジンバックと共に裏で動いている者達の情報収集をしながら、戦場で起きている事の通信ログを回収し、その内容を見つめていた。

混成軍、鉄血関係なく襲い掛かる第三勢力の出現。鉄血が展開したジャミングを解除した事。

その第三勢力を何とか退ける為に混成軍と鉄血が一時休戦を取った事。その休戦にリバイバーと呼ばれる者が独自の判断で交渉に当たった事。

第三勢力の出現に目が行きがちだが、ダレンからすればいち個人の独断により敵と交渉した事が目を引いていた。

 

「ふむ…」

 

片っ端から裏で動いていた者達の情報を拾い集めた後に既に行動を起こしておいた。

あまつさえはどうやって抹消しているのか向こうが得た情報を自身だけが出来る魔と電子の融合、また魔術で全て闇にへと葬り、コンソールパネルを操作しながらダレンはこの独断をどうしたものかと思考巡らせた。

 

(そうしなければ敵はおろか自軍さえも全滅する可能性があったからこそか…。名前しか知らんが、リバイバーよ、よくやったと言っておこう。…後は現場の事など全く見ようとせん馬鹿どもがこれに気付いた時の事じゃろうがそれに関してはワシに任せてもらおうかの)

 

さてと呟くとダレンは隣で操作していたジンバックへと指示を飛ばした。

 

「ジンバックよ、この通信ログを消しておけ。復元されんようにする事と足跡がつかんようにの」

 

「仰せのままに。それで裏で動いていたネズミはどうされます?」

 

「もう手は打ってあるから安心せい」

 

「早いですね。して…そいつらはどうなってますか?」

 

片手でキーボードを打ちながら、ダレンは咥えていた煙管から紫煙を吐く。

ゆらりと昇る紫煙を見つめながら、彼女は嗤った。

まるでそいつらがどうなったのかを知っているかの様に。

 

「数人は不慮の交通事故に遭い病院に運ばれ意識不明の重体。もう数人は今頃行方不明となった。…残りの数人は今頃自分達の切り札…苦労して集めた証拠がどういう訳か消えておる事に混乱しておるんじゃないのかえ?」

 

「…全員殺したのかと思いましたが?」

 

「それも考えたがの…。まぁ証拠は全て消滅し、同志とやらもその殆どが偶然にはあまりにも不自然と言える程に不慮の事故、また突如として消息を絶った。しかも一日でじゃ。馬鹿でも勘付くわい。…自分達の事がバレているとな。」

 

「…見逃すという訳ですか」

 

「見逃す?いや、違うの。見逃してやったのじゃ」

 

それにの、と前置きを置き、紫煙を吐く。

ゆらゆらと昇っていく紫煙を見届けるとダレンは言葉を続けた。

 

「消そうと思えば何時でも消せる。悪いがわしは一度喧嘩を売られるとしつこい性分での」

 

「触らぬ悪魔に祟り無し、ですね」

 

「ほっほっ、言うではないか。さて、通信ログは消せたかえ?」

 

「ええ、綺麗さっぱりと。復元できない様にもしておきました。それとその通信ログはこちら側で保存。ついでに裏の事も社長さん側に送っておきましたわ」

 

「おー、気が利くのう。では少し一休みしようではないか。どれ、ワシ自ら茶でも淹れよう」

 

いいですねとジンバックから了承を得られるとダレンは対電子術式機構『library』を自動モードへと切り替え、一休みする為、その場から離れるのだった。

 

ダレンが作り上げたこの地下図書館は決して図書館とは思えない程の多くの機能を有している。

対電子術式機構を使用する為の部屋、ダレンの自室や客人が来た時の応接室など兼ね備えており、この茶の香りが漂う和室もまたダレンが作り上げた部屋である。

二人共和服を着ている為、茶を飲むその姿は様になっており、ダレンが淹れた茶を一口飲むとジンバックは対面に座る彼女にある事を尋ねた。

 

「そういえばコキュートスと呼ばれるアレ…何故あの魔具が破棄される様に至ったのですか?」

 

悪魔の事や魔具に関してはジンバックは詳しくない。

魔具に関しては既存の兵器が鉄屑に感じられるぐらいに強力な力を有していると認識しているだけで生まれた経緯や破棄された経緯など知る筈もない。

 

「その事か。…簡単に言えば、あれは上位悪魔でも扱える代物ではなかったのじゃ。しまいにはコキュートスが単体で魔界を第二の氷獄に変えようとしていた事があっての」

 

「つまり…危険だったからこそ、破棄しようと?」

 

「うむ。そうされては当時魔帝の座を狙おうとしていた悪魔どもにとって都合が悪かったのじゃ。だから破棄が決定し、破棄された。じゃが…」

 

そこで言葉を止めたダレンだったが、ジンバックは分かっていた。

ルージュが戦場に赴く前にマギーが破棄された筈のそれ…コキュートスを持っていた。

破棄された筈のコキュートスをどうやって得たのかは分からない。

だが託されたと言っていた事をジンバックは聞いている。

 

「そもそもあのコキュートスはマギー…マキャが作ったものではない」

 

「そうなのですか?てっきり私は彼女が手掛けたものかと思っていましたが…」

 

「まぁ誰でもそう思うじゃろうな」

 

ほんのりと温かさが残る茶を一口飲むとダレンは湯飲みを机の上に置き、ジンバックに向かって愛用している煙管を見せた。

吸っても良いかと言う無言の確認だと察っしたジンバックは首を縦に振る。許可を得られた事でダレンは煙管に火を付け、咥えながら言葉を続けた。

 

「あれはの…初代マキャ・ハヴェリの作品。マギーは…二代目マキャ・ハヴェリに当たる」

 

「成程…。貴女はその初代に会った事があって?」

 

「数回程度の。マギーによく似た性格での。作る物はとんでもないが、悪魔にしては大人しい奴じゃった。今のマギーを見ていると、初代のあ奴がまるで目の前に居るのではと思った時が何度あった事か」

 

「…その言い方だと既に死んでいる様にも聞こえますが?」

 

その事を問われると口から紫煙が吐きながらダレンは笑みを浮かべた。

ただその笑みは何処か寂しそうな笑みだという事をジンバックは見逃さなかった。

 

「死んだと聞けば、行方不明になったとも聞いておる。何故消えたのかは今になっても分からぬままじゃ」

 

「…」

 

「よもや弟子に会うとは思わんかった。あ奴は弟子を取る様な輩ではないと思っていたんじゃがなぁ…」

 

魔界で起きた事に関しては魔界に居た者、或いはその現場にしか分からぬ事。

色々あったのだろうと感じジンバックはそこから先を問おうとはしなかった。それに関しては本人が話していいと思った時に聞くべき。

本人がこの様子では踏み入るべきではないと彼女はそう判断し、別の話題へと切り替えた。

 

「この人間界もそうですが、魔界もまた色々あるのですね…」

 

「意外な事にの。…ただ人間界で起きている事が魔界で起きている事以上に酷いぞ?たった数名の若者によって引き起こされた事件がここまで至ったのじゃからな。最早どっちが魔界が分からんわ」

 

少し冷たくなった茶を飲み干すとダレンが煙管を吹かす。

そして見せる表情はいかにも彼女らしいと言うべきか。

 

「じゃがワシはこっち側じゃ。細かく言えばこの基地の味方というべきかの。ワシの目的はあるが、だからといってこの基地の支援は惜しまん。必要とあればワシを頼ると良い。…悪魔の力、存分に発揮してみせよう」

 

微笑んでいる様にも見えるが、良く分からない。それがダレン…ダンタリオンというべきだろう。




裏で動いている者達に関してはダレンが色々やった模様。
またリバイバーの独断による交渉に関しては余計な連中にあーだこーだと言われる前にダレン&ジンバックによって通信ログは復元されない様にした上に削除。
また裏で動いていた連中の情報はクルーガー&へリアン側に流しておきました。

そしてコキュートスはマギーによる物ではなく、彼女の師匠が手掛けたもの。
…行方不明か死んだとなっているけど…どうなる事やらか。

では次回ノシ


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Act183-Extra Ironblood May Cry ⅩⅣ

─少しばかり見せ場を貰おう─


ランページゴースト及びギルヴァ、ブレイク、ルージュらと光学剣を持った敵との戦いは熾烈を極めたもののイグナイトトリガーを引いたアナが止めを刺した事により、リーダーユニットは撃破された。

それと同時にブレイク、ルージュのデビルトリガーに限界が訪れ、ブレイクは人間の姿へ戻り、ルージュは体の各所から放出していた炎とコキュートスが展開していた冷気が収まっていった。

二人の魔人化が解かれた事が影響しているかは兎も角、アナのイグナイトトリガーも解かれていた。

 

(…限界が近いか)

 

二人の魔人化、アナのイグナイトトリガーが解除されていく一方で未だに魔人化の状態でいたギルヴァだが、彼もまたこの状態に限界がすぐそこまで訪れている事を感じ取っていた。

後はランページゴーストと共に撤退すべきなのだろうが、敵はそう簡単に見逃してはくれなかった。

どこに身を潜ませていたのか、現れたのは先程の光学剣を持った敵とは違い、大型銃剣槍と大楯を持ったフード付きマントの敵。その数は15体と数で攻め入ってきていた。

先程のアナが放った一撃…それが彼らを呼び寄せる形になったのかは分からない。だがこの状況での新たな敵の登場は嬉しくない話だった。

 

「ちぃっ!!終わったと思ったらぞろぞろと群がってきやがって!」

 

「やれやれ飽きさせねぇな…!」

 

険しい顔を浮かべるノアに対してブレイクはリベリオンを肩に担ぎながら笑みを浮かべるも、その笑みは少しばかり苦しそうにも見える。

絶望の更なる絶望。ブレイクやルージュは何とか戦えるかしれない。

先程の戦闘もあって消耗が激しく、またRFBが負傷している事もある。自分を含めた三人でランページゴーストの面々をカバーできるかどうかと言われたらギルヴァでもその自信はなかった。

乱戦になる前にかつ一瞬で殲滅する必要があるのは明白。

 

「…下がっていろ」

 

そしてその手段が有しているギルヴァは、ランページゴーストの三人とブレイク、ルージュにそう伝え一歩前へ出ると自身の中で存在しているもう一人へと声をかける。

 

(蒼、行けるか?)

 

―お、やっと出番か?

 

待ちくたびれたと言わんばかりの雰囲気を醸し出す蒼であったが、今のギルヴァの状態を分からない訳ではなかった。

 

―いつでも行けるが、状況が状況で、同時にお前の消耗も激しい。展開するにしても15秒が限界だ。

 

(十分だ。やれるな?)

 

―ああ…!少しばかり遊ばせてもらうさ!

 

彼の承諾は得られた。

それを理解した時、ギルヴァは行動を起こす。

 

「…!」

 

意識を集中させ、無銘の魔力を用いて、自身の隣に魔人化した状態のギルヴァと同じ姿をしたもう一人…【ドッペルゲンガー】を出現させる。

 

―遠隔操作で悪いが相手してもらおうか。拒否権なんて無いからなぁ!

 

蒼がそう叫ぶもその声はギルヴァだけにしか聞こえていない。

そして蒼が操作するドッペルゲンガーは出現して早々にまるで意思を有しているかの様に勝手に動き出し、敵の群れへと突撃。疾走居合や螺旋天翔を繰り出すどころか分身でありながらエアトリックを駆使し、極めつけは次元斬を連続で放っていた。

 

「すげぇ…分身まで作れるのかよ」

 

「…まだ手を残していたというのですか」

 

「うわぁ…分身の筈なのに、あいつらを圧倒しているよ…」

 

ランページゴーストの三人が広がる光景に対して各々感想を口にする。

このまま行けば何とかなるかと思われたが、15秒という僅かな時間は実に呆気ないもの。

制限時間が訪れ、ドッペルゲンガーは消失していき、ギルヴァの中で蒼が叫ぶ。

 

―わりぃ!ここまでだ!

 

(上出来だ)

 

全部とは言えずとも四体程は攻撃に耐えられず、自壊し砂へと化している。

残り11体を一人で相手にしなくてはならない。だがギルヴァには諦めるという考えはない。

無銘を構えようとした時、彼の両隣に誰かが並び立つ。

 

「見せ場が欲しくなったんでな。別に構わねぇだろ?安心しな、そこで三人は休憩中だ」

 

左隣にリベリオンを肩に担ぐブレイク。

 

「私も見せ場が欲しかったんで。手早くこいつらを片付けましょう」

 

右隣に連結した状態の大型ライフルを持ったルージュ。

鴉刃は鞘に納められ、腰に提げており、その代わりに愛用の大鎌を左手に持っていた。

二人共魔力の消費が激しい為、再び魔人化する程の魔力は残っていない。だが戦闘を行う事は出来る。

彼女達が奮戦し見せてくれたのだ。ならば自分達も少し見せなくてはならない。

 

「スタイリッシュに決めるぜ!ルージュ、ギルヴァ、合わせな!」

 

「はい!」

 

ブレイクがエアトリックで瞬間移動し、ルージュもコキュートスを起動させると冷気を纏い、姿を消す。二人が姿を消した事を受けギルヴァもエアトリックでその場から姿を消した。

三人が同時に姿を消した事から敵集団は素早く背中合わせになろうとした。

 

「こっちだぜ?」

 

「!」

 

だがブレイクが姿を現した為、敵達は振り向きざまに獲物を薙ぎ払う。

そしてそれを狙っていたかの様にブレイクはコートの懐から水平二連装ショットガンを取り出すとヌンチャクの様に振り回しながら散弾を乱射。放たれた散弾が敵の獲物を弾き飛ばし相手の態勢を崩すと再びエアトリックを用いてその場から離脱した直後、肌を刺す様な冷気が辺りを漂い、次の瞬間、敵の下半身が凍り付くと禍々しくとも鮮やかに輝く何かが飛来。器用に盾を握っていた手だけを次々と斬り落としていくと氷漬けにされ動けずにいる敵群の前に青い悪魔が姿を現した。

青い魔力が大きく広がり、その中心で彼は居合の構えを取っており、ゆっくりと無銘の柄へと手を伸ばしていた。

右手が柄を掴み、鯉口を切ったと同時にギルヴァは静かに告げる。

 

「死の覚悟は出来たか?」

 

刹那瞬きをする暇すら与えない速さで無数の斬撃が奔った。

景色がずれ落ちたのでは思ってしまう程の錯覚が見る者を襲い、空間が白黒へと染まり静けさが包みこむ。その中から魔人化を解いたギルヴァが姿を現し、片膝を着いた状態で刀身を鞘へとゆっくりと納めていた。

このまま納刀すれば敵は消滅するのだが、それを許さんとばかりにまるで時が止められたかの様に動かない敵の集団に対し時間を緩やかにする力場を展開された。

 

「とどめは任せますね」

 

「ああ、きっちり決めてやるさ」

 

コキュートスを解除し地上に降り立ったルージュがブレイクにそう伝えると、彼女は周囲の警戒しながらランページゴーストの三人の傍に立つ。

とどめを任されたブレイクは態勢を解き力場を見つめるギルヴァの隣に並び立つと特殊な力場へと向かってフォルテを構えギルヴァへと話しかける。

 

「あの基地以来か?こうやって一緒に止めを刺すのは」

 

「…そんな記憶はないな」

 

「良く言うぜ。お前だってノリノリだったろ。決め台詞も言ってたしな」

 

決め台詞。

その言葉を聞くとギルヴァは小さく笑みを浮かべた。

そして愛銃であるレーゾンデートルをホルスターから引き抜くとブレイクと同じ様に力場へと向けた。

何もしなくても力場は勝手に消失するだろう。だが消失するのを二人はジッと待つ気などない。

 

「…たまにはお前の遊びにも付き合ってやろう」

 

「なら外すなよ?」

 

「俺が外すとでも?」

 

それを合図に二人は動き出す。

お互いに背中合わせになり、二丁の銃が重なる。

存在意義は強く奏でるそれと共に獲物へと狙い定める。

そして引き金に指に掛けられた時、二人は決め台詞を口にする。

 

「「ジャックポット!」」

 

二丁の銃が咆える。

銃口から吐き出された弾丸が真っすぐと、力場へと向かっていき着弾。

展開されていた力場に罅が入り、その亀裂は段々と大きくなっていき。そして最後は硝子が割れる音と共に中に居た敵もろとも消失していった。

銃を下ろし、ホルスターへと納めるとギルヴァはランページゴーストの方へと歩いていき、ブレイクもフォルテを収め、その後に続くのであった。

 

別行動する理由はない為、このままギルヴァらはランページゴーストと行動する事に。

彼女らの後をついて行くギルヴァ達だが、ふとブレイクがある事を口にした。

 

「しっかし…どういう理屈であの状態になれたんだか」

 

ブレイクの視線がアナを見つめていた為、隣で歩いていたルージュが誰の事か察した。

彼女もまたアナのイグナイトトリガーが発動に至ったのかは分かっていない。

ただギルヴァ、ブレイク、そして自身のデビルトリガーが発動により周囲の魔力が漂った事がイグナイトトリガーの発現に至ったのではないかとかルージュは思った。

 

(特殊な条件下ではないと発動には至らないという事でしょうか…)

 

「…これはマギーさんかダレン辺りに診てもらわないといけない気がします」

 

危険がある訳ではない。

彼女の今後の事を思うと一度提案してみるべきかとルージュは考える。

だがそれはこの戦いが終わってからではないと始まらない話のは最早言わなくても分かる事であった。




この後見せ場あるとは思えないので早いうちに見せておこうとね…。

一応あちらさんと行動していますが、うちの三名は適当に使ってくれてもいいですよ。

では次回ノシ


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Act184-Extra Ironblood May Cry ⅩⅤ

─例え不要だったとしてもそれでいい─

─何もせず、ただ待つだけよりかは─


一休み挟み十分休憩が取れた事でダレンとジンバックは再び作業を開始。

通信から得られる内容から的確な情報を読み取りつつ、コンソールパネルを操作するダレンは呟く。

 

「撤退の開始、か…」

 

問題となる部分は削除したのは良いものの、それで戦いが終わった事にはならない。

今でも戦場では戦闘が続けれており、ダレンは次の策を思案する。

その隣でジンバックが常に変わりゆく戦況、傍受している通信から状況を伝える。

 

「現在敵のリーダーユニットが二機撃破された模様。また各地で第三勢力との戦闘が続けられており、一部では負傷者と共に行動を開始。しかしこのまま引いた所で…」

 

「足が無くては戦場から撤退は叶わん」

 

「…どうしますか?」

 

状況が芳しくない位誰にも分かる。

だがダレンが浮かべる表情は笑みだった。

 

「決まっておろう。次の手を打つまでのこと。…ジンバック、シーナに繋いでもらえるかの?あやつも何も考えてない訳はなかろうて」

 

「分かりました。暫しお待ちください」

 

指示を受け、ジンバックはシーナへと通信を繋ぐ。

数分も掛からぬ内に通信は繋がり、ジンバックは回線をダレンの方へと譲渡。

繋がった事を受け、早速ダレンはシーナに現場での戦況を伝える。

 

『成程。足が必要ですね…』

 

「うむ。現場にどれだけの輸送機があるかは分からん。最悪誰かが見捨てられてしまう事も考えられる」

 

『そうでしょうね。…どうやらそれを想定して行動して正解でした』

 

「やはりの。何やら聞こえると思っておったが、ヘリの音じゃな?」

 

回線を譲渡され、繋いだ時からダレンは通信越しから聞こえるその音の正体を察していた。

あの指揮官が何もせず、ただ待つだけとは思えない。必ず何か行動を起こしている筈。

その読みが外れてなかった事にダレンは小さく笑みを浮かべた。

 

『はい。うちは攻撃用のヘリが少ない代わりに輸送用の大型ヘリは幾らか持っていますし、いざという時に備えて日々メンテナンスは怠りはしませんでしたから。それに輸送部隊の皆さんは…私がここに来た時から死線を共にくぐり抜けた超がつく程のベテランさんなんですよ?』

 

「ほう?それは良い知らせじゃな。じゃが…護衛もつけず戦場を向かわせる様な考えはしとらんな?」

 

護衛もつけず空輸部隊だけを戦場に居送り込もうとは、その者が余程な性格ではない限りそんな事はしないだろう。

 

『わざわざ死に逝かす様な事はさせませんよ。各ヘリに護衛として武装した基地所属のMGの人形を数人を搭乗させており、また即席ではありますがヘリにドアガンを装備。ヘリは作戦領域入るかは入らないギリギリの地点にて待機させます。そして…』

 

「そして?」

 

『先行偵察及び撤退支援の為、リヴァイアサンを動かします。パイロットはネージュ。戦場に到達後、高度と取りつつ支援を行う形です』

 

(あれを出すとはの…)

 

リヴァイアサンはS10地区前線基地が保有する兵器の中では別格とも言える兵器である。

高機動、高耐久に加え、長長距離狙撃を可能とする武装を多く有している。過去に二度運用されてた経緯がある事は知っていながらもまさかそれを使用する関してはダレンは少し意外だと感じた。

 

『もしかすれば手は足りているかもしれません。無駄だと気付いてその時が不満に思ったとしてもいつかの笑い話になりますからね。…ですが何もせず、静観しているよりかはマシと言うもの。現在基地総出で負傷者受け入れ態勢の調整を整えており、現状ある一定数の受け入れは可能となっています』

 

「行動が早くて助かるの。…ではワシはジンバックと共に裏方支援に回ろう。何かあればワシらがサポートしよう」

 

『分かりました。何かあれば報告を。私は受け入れ態勢の調整に回ります』

 

「承知した」

 

無駄だとしても構わない。無駄だったらその時は憤りを覚えたとしても、いつか訪れる思い出話になる。

そうなってもいい。だが何もせず、静観している事はしたくない。

それはシーナだけの思いとは言えず、この基地のいる者達が思っている事であろう。

戦場にいる三人は必死で戦い、この基地に居る者達が今自分が出来る事を全力で成そうと動いている。

ここまでしていながら自分だけ全力にならない理由などダレンには見当たらなかった。

 

「全く…こうも当てられたら疼くというものかの」

 

そう小さく呟くとダレンは対電子術式機構【library】の機能を最大解放。

それによりlibraryが外部から得られる情報が膨大となり、浮かび上がる中空ディスプレイの数が無数に展開された。処理するだけでも手一杯と言える程の情報の羅列が流れていく。

その光景にダレンもそうだがジンバックも思う。これ位どうという事はない、

二十歳にも満たぬ少女が自ら苦境へと飛び込んだ。ならばこの程度でへこたれる訳には行かないのだ。

 

「さぁ、始めましょうか…!開演を宣言するには今しかないというもの!」

 

「ふっ、お主らしいのう…!」

 

 

基地のヘリポートでは複数の大型輸送ヘリが二基のローターを回転させながらまだかまだかと待機している中、空戦装備【ラヴィーネ】を纏ったネージュはカタパルトデッキの上で佇みながら静かに出撃の時を待っていた。風は吹いておらず、空も雲一つない青空が広がっており、飛行には何ら問題はなかった。

すると何かを感じ取ったか、伏せていた目が開かれる。バイザー越しから青い瞳が煌くと彼女は呟く。

 

「…来たか」

 

後方から響く昇降エレベーターの駆動音。そして姿を見せるはノーネイムのもう一つ専用武装とも言える大型飛行ユニット【リヴァイアサン】。

主を見つけたかのようにゆっくりとネージュの後ろから迫りつつその口を開く様にコクピットを展開。同時にネージュもラヴィーネを合体の為の形態へと変形させた。

お互い距離が零になり、リヴァイアサンとラヴィーネが重々しい音を小さく響かせて合体した。

リヴァイアサンのメインブースターが点火。同時に囲むかの様に防御壁が展開されていく。

準備は整った。後は飛び立つのみ。

 

『ネージュ、準備は整った?』

 

「ああ。何時でも行ける、シーナ」

 

『分かった。貴女が先行して進路の確保。作戦領域に到達後は高度を維持して援護射撃。恐らく戦況は驚く位に変わっていくから、それを忘れないで』

 

「了解した」

 

『よし。…全員の帰還をもって作戦成功とします。皆を…お願いね』

 

「任された。…リヴァイアサン、ネージュ…出るぞ」

 

その掛け声と共にネージュを乗せたリヴァイアサンのメインブースターが最大点火。

白きを纏いし巨体が上空へと飛び出すと、大事な仲間達が戦っている戦場へとその巨体から想像出来ぬ速さで急行。同時に出迎える為に基地のヘリポートから複数の輸送ヘリが飛び立った。

 

 

リヴァイアサン及び輸送部隊が基地を発って30分が経った時、戦場では魔訶不思議な事を起きていた。

まるで何かの影響を受けたのではと言わんばかりに敵の動きが鈍くなったのだ。それも一体だけには限らずこの戦場にいる全ての敵が鈍くなっていた。

それだけではない。まるで見えない何かへと撃ち始め、あまつさえは同士討ちになったりなど、もはや言葉では表す事の出来ない事がこの戦場全体で起きていた。

不気味とは言えば不気味。だがこの機を逃す訳には行かず、ランページゴーストと共にギルヴァらは本隊との合流を目指しつつ味方を援護していた。

 

「ホント何が起きていて…」

 

鴉刃を振るいながら、ルージュはこの状況について言及する。

その背後でブレイクはアレグロとフォルテを連射しながら、答える。

 

「さぁな?それが分かれば苦労しねぇさ。それにこれを考えている場合じゃねぇだろ?」

 

「それはそうでしょうけど…」

 

ちらりと彼女は味方の援護の為に無銘を振るうギルヴァを見た。

まるで混乱したかの様に武器をあらぬ方向へと乱射するフード付きマントの敵らを次々を次元斬を繰り出し斬り裂き、研ぎ澄まされた隙の無い身のこなしで群がる敵を殲滅していた。

 

(…彼は何か感じているのでしょうか?)

 

自分やブレイクでは分からずともギルヴァは何か感じているのではないかとルージュはそう思いながら、味方の援護へと駆け出していった。

一方ギルヴァは魔力で錬成した幻影刀を連続投射しながら、この状況について考えていた。

ハッキングの類ではない。自分達の目では見えない何かが起きている。

悪魔の仕業でもない。それなら自分や他の二人が気付いている。

では何かとギルヴァが思った時、彼の中で存在している蒼が話しかけた。

 

―ギルヴァ、ちょいと外に出る。すぐに戻るから安心してくれ

 

(何の為に出る気だ)

 

―なーに、挨拶に向かうだけさ。目には見えない事をやってのけてくれている本人にな

 

(待て、どういうつもりだ)

 

ギルヴァの制止を聞く事もなく、蒼は外へと飛び出していった。

 

 

そこは決して生者には見えない世界。

敵に纏わりつく何かが居れば、味方を友軍の元へと導こうとしている何かが居る。そんな光景が広がる世界で、蒼は居た。その姿こそはギルヴァがデビルトリガーを発動させた時の姿だが、それはこの世界に留まる為の仮の姿でしかない。

魔訶不思議な事が起きている実態を知りつつ、彼はある方向へ向かって納得した様な声を上げた。

 

「世の中不思議が腐る程転がってるが、俺が見てきた中であのお嬢さんが一番の不思議だな。あの感じだと人形の筈だが…どういう訳か魂だけがこっちに留まってやがる」

 

立っている地点から遠いが、蒼はその目で捉えていた。

まるで祈りを捧げているかの様に、しかしその歌の内容はどういう訳か聞き取れない。それを歌う白きローブを纏う少女の姿を。

挨拶という名目の為、蒼はその少女の元へと歩き出す。ただ真っすぐと迷う事無く。

敵の体をすり抜けながら、蒼は少女の元へと歩いていく。

彼がその者の近くまで来た時には、彼女は丁度一つ歌い終えた様子だった。

歩み寄ってきた蒼に気付き、ジッと彼を見つめていた。

見えざる世界でまるで実体を保つ様に居るのだ。警戒されていても可笑しくないにも関わらず蒼は話しかけた。腕を広げ、役者を演じる様に身振りしながら。

 

「…善意なんだろう?その歌を歌うのは。確かにこの戦場で命を落とした奴らが多すぎる。人形人間関係なくな。加えて例のフード付きマントの敵が出てきた時には更に増えた。何かを成す事も出来ず、ただ蹂躙されるだけ。そんな扱いをされちゃ成仏できるもんもできはしない」

 

「…貴方も昇る事を望むのですか?」

 

「天にか?悪いが俺は悪魔でね。天に召される訳には行かんのさ。逝くとしたら地獄の方があってる」

 

ただ、と前置きを呟き、彼は空を見上げた。

 

「こんな悪魔でも天に逝けるなら行ってみたいね。もしその時が来たらお嬢さんの胸に抱かれて、その歌を聴きながらあの世に召されたいね」

 

「ふふっ…貴方は変わった悪魔ですね」

 

「まぁ…確かに変わってるかもな。基本悪魔ってのは無慈悲な奴らだ。だがこの世には居るのさ…心を持った悪魔ってのがな。誰かの為に戦い、傷つき、誰かの為に涙を流す悪魔がな」

 

ふと彼は静かに背を向けた。

ギルヴァのいる地点を把握すると蒼は言葉を続けた。

 

「ま、ただの独り言さ、適当に忘れてくれ。悪魔の言葉なんて覚えてたくもねぇだろうしな」

 

じゃあな、と告げ蒼は歩き出した時だった。

ローブ姿の少女は彼を呼び止め、呼び止められた蒼は足を止め振り向いた。

 

「…最後に名を聞いても?」

 

「名前か?」

 

聞き返す様に尋ねると彼女は首を縦に振り、頷く。

何時もの様に今でも良く呼ばれる名前を伝えようかと思った蒼だが、ふとある事を思い出した。

どうせならこの少女だけには己の【本当の名前】を教えてやろうではないかと。

 

「■■■■。魔界じゃ良く片割れの魔剣士とか色々言われてた悪魔さ」

 

「■■■■、ですね。覚えました。またお会いしましょう、変わった悪魔さん」

 

「ああ。会う事が出来たらな」

 

いつか会う事を約束しながら蒼はその場から去っていく。その後ろで彼女の歌う歌声を耳にしながら。

 

 

その頃ネージュの乗るリヴァイアサンは既に戦場にたどり着いていた。

地上で戦っている者達が小さく見える程高度を保っており、ネージュはリヴァイアサンをアサルトモードへと変形させ、新たに追加された武器を構えた。

それはレールキャノンとも言える代物であり、この時の為にマギーが即席で作り上げた重火器であり彼女はそれを二丁携えていた。

砲身を展開したレールキャノンを地上へと狙いを定めながら、ネージュは通信に割り込む。

 

「こちらS10地区前線基地所属ネージュ。射撃支援に当たる。それと作戦領域ギリギリのところで輸送ヘリを待機させてある。待機地点の座標を今から送る。必要であれば使ってくれ」




色々ごっちゃしておりますが…。

要らないかもしれませんが、S10地区前線基地から送迎用の大型輸送ヘリ部隊とネージュが搭乗している大型飛行ユニット「リヴァイアサン」を戦場に向かわせました。
ヘリ部隊は作戦領域入るか入らないかギリギリの所で待機させ、リヴァイアサンは上空で待機。高高度で狙撃させます。お好きに使ってください。

そして戦場で魔訶不思議な事を起こしている彼女に蒼はちょいとご挨拶にね…。

では次回ノシ


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Act185-Extra Ironblood May Cry ⅩⅥ

─それが己を失いかねない事だとしても─


「ネージュ…。奴まで来たのか」

 

通信に流れ込んできた大事な娘の声にギルヴァは静かに呟きながら上を見上げた。

巨体であるリヴァイアサンが高高度で滞空している為、地上から見上げてもその姿は小さく見えるが、そこから天の光と思わせる様にネージュが地上に居る敵に向かってレールキャノンによる狙撃を行っていた。

 

「リヴァイアサンに加え、輸送ヘリ部隊まで出すとは…これもシーナ指揮官が?」

 

「恐らくな。何もせず、ただ見ている様な事はしない性格だ。自身に出来る事をやっているのだろう」

 

ルージュの問いに答えるとギルヴァは無銘でフード付きマントの敵を切り捨てる。何か一声かけるべきかと考えるもこの状況下で楽しく談笑している場合ではない。

本隊との合流は近いが、彼は何かが起きているのを感じ取っていた。

そしてそれさえ何とかすれば撤退が可能となる。だが同時にそれは一筋縄では行かないという事も感じていた。

自身も含め、ブレイク、ルージュの魔力の消耗は激しく、万能者の支援で何とか立て直す事が出来たランページゴーストの三人だが疲弊はしている。

 

―よぉ、戻った

 

その時、いつの間にか戻ってきたのか蒼が帰還した。

 

(挨拶は終わったのか?)

 

―ああ。会える事が出来たら会おうって約束を取り付けてきた。まぁそれよりかは面倒くさいになってきたぞ

 

(何があった?)

 

ギルヴァの元へ戻る前に蒼は戦場を見て回ったのだろう。

その声は真剣みが帯びていた。

現れる敵達をランページゴーストと共に蹴散らしながら、ギルヴァは蒼の話に耳を傾ける。

 

―敵の親玉が出てきた。どういう訳か雑魚に紛れて行動していたらしい。万能者って奴とリバイバーの所で一体。デカブツ三体に加え、威力がとち狂ったショットガンが撃ちまくっている奴が一体。ショットガンを持った奴に限ってはネージュのレールキャノンを当たり前の様に撃ち落してやがった

 

嫌な予感が当たった。

蒼の嬉しくない知らせはまだまだ続いた。

 

―おまけに怪奇現象に対抗する様にリミッターっぽいのを外している。随分と強引な手に出たみたいだが、多少動きが鈍くなっているみたいだ。

 

内心でギルヴァは舌打ちした。

まるで先手を打つ様な行動。最初から姿を見せなかったのもこの時の為なのだろうかと彼は思った。

だがどうにかしなくてはならない。本隊と合流できたとしても、それらを撃退しなくては話にはならないのだ。

 

―最悪の一言に尽きる。だがこの状況を動かす事が出来る策が一つだけある。しかもそれは俺とお前にしか出来ねぇ事だ。

 

(…聞こうか)

 

自分と蒼にしか出来ない事。

そしてそれはこの状況を動かす事が出来る。

魔力の消耗が激しいギルヴァにとっては、今は蒼の策に耳を傾ける他なかった。

 

 

―…これが策だ

 

(強引だな)

 

―敵さんが強引な手を使ったんだ、ならこっちだって強引な手を使う。向こうに文句は言わせねぇよ

 

蒼が提示した策はギルヴァからすれば強引とも言えた。

だがやらなくてはならない。最早作戦とは言えない状況が続いており、フード付きマントの敵らによって犠牲者が今も尚増えている。

もはや彼には迷いはない。それが()()()()()()()()()()()()()()()()だとしても。

既に覚悟は決まっている。手に持った無銘を握り直すと彼は本隊と合流を目指した。

 

 

一方S10地区前線基地ではシーナが所属する全人形及び全職員に負傷者受け入れの準備を命令した為、基地内部は慌ただしかった。

その中にはAR小隊、404小隊、ブラウ・ローゼのメンバーの姿もあり、医療器具やら道具やらを抱えて廊下を行ったり来たりしていた。

その中でUMP45は先程から胸の内がざわつくのを感じ取っていた。何かの予兆を示しているかの様で、彼女はそれがギルヴァに関する事ではないかと思っていた。

 

(ギルヴァ…)

 

胸の内で彼の名を呟きながら彼女は普段から首に提げているアミュレットハーツに手を添えた。

自身の胸のざわめきに反して、アミュレットハーツが何か反応を示す様子はない。

どっちが当たっているのか分からない。

だが45からすれば特に反応を示さないアミュレットハーツの方を信じた。

否、信じたかった。

彼女は祈る様にアミュレットハーツをぎゅっと握り締めた。

愛する彼が、戦場に向かった者達が誰一人とて欠ける事無く帰ってくる事をしう強く祈ると彼女は今自身が出来る事を成す為に歩き出した。

 

 

本隊と合流したランページゴーストとギルヴァらだったが、状況は最悪と言えた。

蒼がギルヴァに伝えた様に、三体の巨人がその図体からは想像出来ない速さで動きながら攻撃を繰り出し、ショットガンを持った敵が味方へと攻撃を仕掛けてくる。

万能者とリバイバーもまた親玉と思われる敵と戦闘を繰り広げるが、状況は全く良くならない。

どうにかしなくてはならない。だがどうすればいい?

この戦場に居る誰しもにその思いが脳裏を過る。

飛んでくる銃弾やら攻撃を躱すギルヴァだが、その時は彼は突如としてその場から後ろへと大きく跳躍しR.ガードの魔力障壁を展開しながら攻撃を何とか防ぐRFBの後ろに降り立つと彼女へと話しかける。

 

「RFB、しっかりそのまま盾を構えていろ。そしてこれから起きる事に驚くな」

 

「え?え?どういう事?ギルヴァさん、何をするつもりなの!?」

 

彼から只ならぬ何かを感じ取ったのだろう。

何をするつもりなのか問うRFBだがギルヴァは答えようとはしない。

手にした無銘を見つめ、彼は軽く息を吐く。すると蒼が話しかける。

 

―良いな?一切躊躇うな。一瞬でも躊躇えば成功しない。

 

(ああ。分かっている)

 

既に覚悟は決めている。迷いはない。

RFBが何をするつもりなのかという声が響き、周りもその異常事態に気付き始める。

だが彼は耳を貸さなかった。

無銘の柄を握ると、意を決したかの様に勢い良く抜刀。

RFBに背を向ける様に振り向くとギルヴァは無銘の刀身を─

 

「うおおおおっ!!!」

 

自身の体へと突き刺した。




はい…言いたい事が分かりますとも。
ですが状況を何とかする為にこうしました。
ホント…うちのギルヴァがごめんよ、RFBちゃん…。

無銘を己に突き刺したギルヴァ…
果たして蒼の策とは一体…。

では次回ノシ


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Act186-Extra Ironblood May Cry ⅩⅦ

─奥の手─


RFBの傍でギルヴァが行ったそれはどう考えても常軌を逸脱していた。

愛刀たる無銘を自身に突き刺したのだから。

 

「ギルヴァさんッ!!!!」

 

RFBが叫び、無銘で自身を貫いたギルヴァを見てノア、アナが素早く彼の元に駆け寄り、ブレイク、ルージュが今のギルヴァの状態を察し、果敢に接近戦を仕掛け始め、そしてこの場で戦闘を繰り広げていた他の面々は彼の行いを目撃し、言葉を失っていた。

 

「こんな時に何を考えてやがるッ!?アナ、出来るだけあれを近づけさせんなよッ!!アレがギルヴァに近づいたら取り返しのつかない事態になる気がしてならねぇッ!!」

 

「言われなくても分かっています!!ギルヴァ、返事してくださいッ!!!」

 

自ら刃を突き刺すなど普通ではない。もはや自殺にしか見えない。

ノアとアナが己が持つ力を総動員させ周りの者達と共にリーダーユニットへと攻撃を仕掛ける。

その時、ギルヴァの近くにいたRFBが何かに気付いた。

ギルヴァが無銘を自身に突き刺し片膝を地に付けた時、彼の体が青紫色の靄に包まれ、同時に背から人の形をした靄の様な物が飛び出した事に。

狂った訳ではない。そして自殺などではない。まるでこれは─

 

「何かと入れ替わろうとしている…?」

 

RFBがそう呟いた時、ギルヴァの背中から飛び出した靄が一瞬にして消え去り、それはこの世に姿を現した。

湾曲した二対の角、左右非対称な胴体、まるでコートの様に靡く鱗、左腕から生えだした様な鞘の様な何か、刀でも納めているのか柄のらしきもの、そして全身から青いオーラの様な物を放っていた。

ギルヴァではない。何故なら彼は青黒い靄になったまま地に片膝を着いたままなのだから。

本人ではない別の誰か。その誰かは誰にも分からない。

 

「さて─」

 

どうする事も出来ない自身に怒りを覚えながら、お気楽を装ってただただ我慢に我慢を積み重ねた。

それで何か成す事無く出番もなしに終わると思った。

だが今がその時と言わんばかりにそれは訪れた。一世一代の大仕事をぶら下げて。

奥の手はないのか?そんな事はない。キッチリとあった。

偶然に偶然が重なり合う様にして出来たこの状況だからこそ生まれた奥の手。

それが無ければこんな無茶はしない。

 

「ここからは─」

 

ここに至るまで多くの者達が、己が有する力を総動員させて戦ってきた。

戦いに戦い、幾多の困難を切り抜けてきた。そして漸く訪れた終幕が再び離れようとしている。

そうはさせない。ここで終わらせる。無茶と無理は上等。逆境こそ我の本懐。

今は霊体。本来の名を捨て、与えられたのは漢字一文字で表す色の名。

二度と戻らぬと思われた体は再び器として、失われた力は今を、そして全てを守るために─

 

「俺の仕事だ」

 

今は名前無き片割れの魔剣士…蒼が現世に蘇った。

 

 

彼の登場はギルヴァを除く、全員にとって予期せぬ事と言え、どういう訳かリーダーユニットすら出てきたそれにどことなく困惑した様な様子を見せるも攻撃を再開。

回避性能、迎撃能力は馬鹿げており、倒す事すら困難と言えるがそれでも近づけまいと銃身が焼き付いてしまいかねない程に味方は銃を連射し弾幕を展開。

出てきたそれが敵かどうかなど今はどうでも良い。攻撃の手を止めてしまえば死ぬのは自分なのだ。

そして蒼も同じ考えでいた。

自分が敵と思われようが、味方と思われようがどうでも良い。

重要なのは敵を倒す事。そして敵はフード付きマントの敵。それだけの事なのだ。

 

「…その盾でこいつを守ってやってくれ。嬢ちゃんなら出来る筈だ」

 

傍にいたRFBに靄に包まれ片膝をついた状態のギルヴァを守って欲しいと伝えてから彼女の頭を一撫ですると蒼は敵を見据えつつ歩き出す。

ギルヴァ、ブレイク、ルージュ、アンの計四人が引いたトリガーによる魔力は十分に足りている。

すると蒼はフッと小さく笑いを零し敵へと話しかけた。

 

「もう数え切れないほどの魂が築かれちまった。人形人間関係なくな。あのお嬢ちゃんが歌ったとしても、まだまだ逝けねぇのが多すぎる。それぐらいにまで増えちまった。……中身が何なのかは知らねぇが無茶してんだろ?呪いに対抗する様にリミッターを外してんだからな」

 

戦場に鬼火の様な物が一つ、また一つと浮かび上がり、歩き出す度に空間が、否、世界そのものが振動している様な低い音を響かせる。

もはや何が起きているのか分からない。更なる超常現象に味方は困惑した時、リミッターを外しているにも関わらず、まるで時を止められたかの様にリーダーユニットたちの動きが止まった。

首一つすら動かす事は叶わない。そしてリーダーユニットたちの耳に声が響く。

 

「オマエタチ モ コイ」

 

万力の如く、無数の怨霊がリーダーユニットたちに憑りつき動かさない。

もう逃がさない。どこにも。道連れにしてもらう。

怨霊の一体が蒼の方を見ると小さく笑みを浮かべ、口を開く。

 

「アトハ オネガイ シテイイ?」

 

「任せな。キッチリまとめて送ってやる」

 

「…アリガトウ」

 

「どうも致しまして。…じゃあ始めようか」

 

次の瞬間、蒼の足元から地面を描く様に無数の光脈の様なものが広がった。

そして彼を中心に何かは放たれた。だからといって味方に影響はなかった。

影響を受けたのは敵だけであり、敵だけに見えぬ光景が広がっていた。

味方には何が起きているのかすら分からない。

ただ一つ分かるとするのであれば寒い。

まるで戦場全体が氷獄と化したかの様に寒い。

でも何が起きているのか全く分からない。まるで先程起きた怪奇現象の様に。

そして敵のリーダーユニット含め蒼にはその光景が見えていた。

全ては灰色へに彩られ、浅葱色の炎がそこらかしこで燃え盛り、無数の鬼火が浮かび上がり、無数の銃、剣が地面に突き刺さっていた。

まさしく墓場でもあり地獄でもあり悪夢。そんな中で蒼は手を広げ地面へと翳す。

 

「敵は無茶苦茶、手札も無茶苦茶。だが偶然に偶然が重なり合って得た奥の手。勝負のテーブルに座るには十分すぎる一手」

 

炎が、鬼火が、銃が、剣が呼応する様に自らを光へと姿を変え、蒼の手へと集い始める。

パチパチと弾ける様に火の粉がゆらりと舞い上がり、それは次第に激しさを増し、炎の濁流とも言うべき何かがその手に流れ始め、何かを形成し始めた。

何かが起きようとしている中で蒼は静かに口を開く。

 

「友を想い、敵を恨み、怨嗟と化した。成せぬと逝けぬと嘆くなら…この身、この魂が一時の依り代となろう」

 

確かに偶然だった。本当に誰も予期していなかった偶然だった。

だが精神だけという存在だったからこそ干渉が出来た。ただ救おうと歌う彼女が居て、そして自身が何をすべきなのかを知った。

生者と死者の二つの世界を行き来した事により一時の間だけ得た力。

 

「それらを持って業となし、業を持って業を断つ…」

 

憑りつき動きを止めるだけで敵が大人しくならないなら、それら全てを引き継いで力へと変える技。

それこそ今の自分に今だけ許された力。

 

「創り上げるは究極の一振り…!ここに散った奴ら全員を連れて─」

 

炎は柄を作り上げ、刀身を作り出す。

そして炎、光が集約して広がった時、蒼の手に握られる柄の無い茎の状態の一振りの太刀。

纏うは怨嗟を宿し浅葱色の炎。

この地で散った者達によって生み出された怨嗟の太刀を構え、蒼は地面を蹴り突進。

全ての想いをこの太刀に、この攻撃に。

動けずいるフード付きマントのリーダーユニットたち目掛けて、太刀を振りかぶりながら叫ぶ。

 

「あの世に成仏しなぁッ!!!!!!!」

 

一閃。

ブレの無い研ぎ澄ました斬撃が複数のリーダーユニットをまとめて斬り裂く。

その一撃は全ての音を消し去り、山を切り裂き、空間も切り裂き、彼の目の前にいた全てを切り裂いた。

ただ斬撃どころでは留まらず、切り裂かれた地面から破砕音と共に浅葱色の炎が噴き出し、切り裂かれたリーダーユニットたちを焼き尽くすと言わんばかりに燃え上がり、次第にそれは天高く昇る火柱へと化し、全てを塵へと変えた。

この地で散った者達の為の墓標か、或いは怨嗟が積もりに積もって出来上がったものか。それは誰にも理解する事は叶わない。

だがどの様な形にしろ複数のリーダーユニットがほぼ同時に撃破された事には変わりなかった。

一瞬だけ訪れる静寂。銃声は小さく木霊し、硝煙が漂う。

そんな中で空を見つめる蒼。手にした太刀に罅が入り、次第にそれは大きくなっていき、最後は役目を終えたと言わんばかりに硝子細工の如く太刀は砕け散っていった。

 

「ぐっ…」

 

太刀が砕け散っていた事を受け、その反動か蒼は地面に片膝をついた。

 

(ここまでか…。まぁ我ながら良くやった方かね)

 

体が靄に包まれ、蒼はギルヴァの元へと戻っていく。

彼が戻ってきた事により、ギルヴァを包んでいた靄は晴れ、普段と変わらぬ青い刺繡が施された黒いコートを羽織るギルヴァが戻ってくる。

 

「はぁ…はぁ…」

 

呼吸を整えながら、自身に突き刺した無銘を引き抜き、刀身を鞘へと納めると彼は小さく呟く。

 

「…無茶苦茶も良い所だ」

 

傷は既に塞がっている。

ただギルヴァとしては二度目となる切腹紛いな事がない事を祈るばかりであった。




まぁ…うん…許して。

とりあえず蒼がやったのは、所謂この戦場で散った者の魂やら怨嗟やらを全て引き継いで、武器へと変え、全力の一撃をリーダーユニットらに叩きつけたという感じです。

M82A1があれをやってくれなかったら、蒼もそれを認識する事は出来ず、同時に行き来する事も出来ませんでしたし力を得る事も出来ました。
偶然に偶然が重なった結果、あれが出来たという訳です。


自身もそうでしたが、ネタが尽きかけてヤバいという所もありましたし…これ以上長くなったらヤバいよな思い、やらせていただきました…。

では次回ノシ


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Act187-Extra Ironblood May Cry ⅩⅧ

─幕引き─


蒼の一撃、そして訪れた魔の十分。

あっという間と言える程に起きたそれらはギルヴァ達にとっては長い様で短く感じられた。

万能者が使った攻撃によりフード付きマントの敵達は撤退し、その後にS10地区前線基地から出動した輸送ヘリに負傷者達を乗せた後ギルヴァら三人を乗せ、ネージュが搭乗するリヴァイアサン護衛の元、輸送ヘリは戦場から飛び立っていた。

揺れる機内、ヘリのローター音が響く中、眠る者を居れば、車窓から外を眺める者…各々が漸く得られた静かな時間を味わっており、ギルヴァら三人もその静かな時間を味わっていた。

余程疲れていたのかルージュがギルヴァの体に頭を預けながら静かな寝息を立てており、ブレイクに至っては空いていた席を占領しその上で寝転がっては彼もまた疲れていたのか静かに眠っていた。

そんな寝息とローター音が交わる機内でギルヴァは起きていた。

とは言え散々戦った後である為、ギルヴァも疲れており、この状況でコートの懐に潜ませてある本を読み気には全くならず、早く基地に着いてくれないものかと内心そう思っていた。

そんな中で蒼がギルヴァに話しかけた。

 

―あー…100年分の仕事をした気分だ…。体は今はないというのに疲れが凄いぞ…

 

しかしその声は疲れを感じている様な口振りであった。

確かにあれほどの一撃を放つのは容易ではない。偶然得た奥の手とは言え、それを制御するにも負担はかかるというもの。

だが蒼だけに限らずギルヴァも無銘で自身を突き刺した事により、相当負担が掛かっているのだが、彼はその事を言うつもりはなかった。

 

(ただ振るった訳ではなさそうだな?)

 

―そりゃそうさ。あれだけのモンをぶつけるにしても制御しなきゃならない。寧ろ振るうだけの方がもっと楽だぞ?代償として魔界の入り口を開いてしまうか、下手したら見えざる世界と繋がってしまうどちらかだが。言っておくがあのレベルの斬撃となれば別世界に攻撃が飛んで行っても可笑しくないからな。あの程度まで抑えるのだって苦労はする。…何て言ったって無銘の力を軽く借りた上、戦場に漂っていたお前、ブレイク、ルージュ、アナの魔力、そして戦場に漂う魂の殆どをつぎ込んで出来上がった一振り…魔剣とも言えるし妖刀とも言っていいレベルの代物だぞ?

 

(…そんなものを良く奥の手と言ったな)

 

―奥の手ってのは大体そういうもんさ。良い所もあれば悪い所もある。デメリット無しの奥の手だったら誰も最初から使ってる筈だ

 

(…そうか。だが…良くやった)

 

―それはどうも。最後の最後に良い所見させて貰った上にあいつらを守れたし、戦場で散った奴らの魂を送る事が出来た。お釣りにしては多すぎるな、こりゃ

 

(かもな)

 

事実、彼が提案した策が無ければ今も戦い続けているかも知れないとギルヴァは思った。

基地に到達するまで暫く時間が掛かる。それまでの間、少し眠るべきかと思った時、ドアガンナーとして基地から派遣されたMGの戦術人形 PKPが彼の前に立ち手に持っていた通信機を差し出した。

 

「誰からだ?」

 

「外で飛んでいる奴から通信だ。出てやれ、心配していた」

 

外で飛んでいる奴と言われ該当するのは一人しかない。

PKPから通信機を受け取り耳に付けた時、通信相手がギルヴァへと話しかけた。

 

『父よ、お疲れ様』

 

「お前もな」

 

『私は大して疲れていない。ただ上空で援護していた位だったからな。…それで父よ、一つ聞いていいか?』

 

「何だ?」

 

『…何故あの様な事をした?』

 

何に対してかなどはネージュは言わなかったが、ギルヴァは察していた。

無銘の刃を突き刺した事であろうと。

彼と蒼以外は事情を知らない為、初めて見た時はどう考えても自殺にしか見えない。

そしてネージュはその光景を目撃していた。ギルヴァが自ら無銘を刺す所を。

 

「…」

 

そうする必要があったと言えば良いのだが、何故かギルヴァにはその言葉が出てこなかった。

返答がない事にネージュは答えられないのだと感じ取ると、少し寂し気な声で話しだした。

 

『答えられないのであればそれでいい。結果的に自ら命を断った訳ではないのだから。…だが、私にとって父親は貴方しかいない。だから、その…出来るだけあんな事をしないで…』

 

ギルヴァとて切腹紛いな事をしたいとは全くもって思わなかった。

下手すれば消失及び別の何かへと変わってしまう可能性もあり、今回は奥の手を使う為であり、奇跡的に成功したに過ぎない。

 

「…ああ、分かった」

 

とは言え娘に心配をかけてしまった事は事実。

店に戻り、休息を取る際には何かネージュに詫びの一つや二つは入れるべきかとギルヴァは思いながら、通信機をPKPへと返し、眠りにつく事にした。

 

 

「急いで軽傷者は専用のエリアに誘導を。治療に当たる際は名前、所属基地を聞く事を忘れないように。所属基地への連絡も忘れちゃ駄目からね。重傷者は急いで修理エリアへ。名前、所属基地を聞くのは後回しで良いから。問い合わせも後回しで良いから。医療班、食料提供班は急いで!どんどん来るよ!」

 

輸送ヘリ部隊がS10地区前線基地に到達した時は作戦領域を離脱して数時間後であった。

軽傷者、重傷者など輸送ヘリから降りてくる人形達を基地所属の人形達が誘導し、シーナが指示を飛ばしていく中、ギルヴァ達もヘリから降り立つ。

ルージュがシーナへと帰還した事を報告し向かい、ギルヴァとブレイクはその場から離れると近場にあった輸送ヘリを背に凭れ、この状況が収まるまでを待つ事にした。

この状況で店に戻る気にはなれず、ほとぼり冷めるまで待とうと考えたのだろう。ギルヴァは腕を組み目を伏せ、ブレイクは腕を頭の後ろで組む。

するとブレイクが何かを思ったのか口を開いた。

 

「全く散々な目にあったぜ。こりゃ暫くは休業だな。…お前はどうすんだ?」

 

「普段と変わらん」

 

「やれやれ…変わらず真面目だな。少しくらい休んでも罰は当たらないぜ?」

 

彼にそう言われようが普段通りでいるつもりなのでギルヴァは考えを改めるつもりは一切無かった。

このまま時間を過ぎるのを待つ二人に歩み寄る者が一人。

それに気付いたのはブレイクで、歩み寄ってきたその者に気付くと笑みを浮かべ、輸送ヘリか離れると歩み寄ってきた者…あの時助けた戦術人形 super shortyにへと声をかけた。

 

「休まなくていいのかい?お姫様」

 

「確かに休まないといけないね。支え無しじゃ動けない有り様。見ての通りボロボロだけど…」

 

super shortyの言う通り、応急処置を受けていたとしても満足に立てる訳なく、支え無しで動けない状態であり、ブレイクに話しかける声は元気そうだが、その姿は痛々しかった。

それでも彼女はブレイクに話しかける必要があった。

 

「多分お礼を伝える事もなくここを離れるから…だから貴方にお礼を言いたくて」

 

「…別に礼を言われる様な事はしてねぇさ。たまたま居合わせただけだからな」

 

肩を竦めるブレイクにsuper shortyは彼をジッと見つめる。

そして呆れた様にため息を付いた。

小柄な姿をしていたとしても何か分かった事があったのだろう。

彼女は小さく笑みを浮かべて、口を開いた。

 

「そうね…ただ居合わせただけかも知れない。…どう受け止めるかそっち次第だから一方的に伝える。助けてくれてありがとう。…ブレイク」

 

相手の返答を待つ事もなく、言いたい事だけを伝えるとsuper shortyはその場から離れていった。

付き添いに支えられながら去っていく彼女の後ろ姿を見つめながらもブレイクは何かを言う事はしない。

その様子を見ていたギルヴァも何かを言おうとはせず、静かにそこで立ち尽くす。

周りが慌ただしい中、二人はただただ落ち着くのを待つ。

 

「そう言えばリバイバーにストロベリーサンデーを奢ると言っていたがどうするつもりだ」

 

「向こうが覚えていたら奢るさ。覚えていなかったらその話は無しだな」

 

自分達に休みが訪れるのは暫くかかるだろう。

その間だけは二人は他愛のない話をして時間を過ごす。

そして二人は内心思った。暫くは休暇を取ろうと。




他の作者様が幕引きしていますのでこちらも幕引きです。

長く険しい戦いではありましたが、無事帰還できたことを嬉しく思います

次回はコラボ作戦から数日後を描いた話を展開しようかと。
お隣の基地から、あるお方を診なくてはならないので。


とても長い険しい戦いが続く大規模コラボ作戦。
今回は参加している作品のキャラクターたち(半ばこちらから関わりにいっている)と関われたことが私自身とても嬉しく思いますし、他の作者様がうちのキャラクターを使って頂いた事もとても嬉しく思います。
次回もと言いたい所ではありますが…私は色々やらかしておりますからね。
自分からコラボ作戦を発案する事あれど、参加する事にはためらってしまうかもです。

今回大規模コラボ作戦に参加していた多くの作者様及び主催者である試作強化型アサルト様。
皆さま、本当にお疲れ様でした!


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Act188 Diagnosis

─診断─


大規模作戦から数日後。

つい二、三日前までは負傷者の治療や回復した者が所属する基地へ送るなど基地全体が慌ただしい状態が続いていたが、それも漸くほとぼりが冷め、S10地区前線基地は通常業務へと戻っていたが、その一方で便利屋「デビルメイクライ」本店とブレイクが店主を務める第一支店の店の名を綴ったネオンサインには灯りが灯っていなかった。

とは言いつつもギルヴァとブレイク、この数日間で十分すぎる程の休暇を取る事が出来たのだが、基地のシーナから暫く休み様に命令されてしまい、店を開く事も禁止されてしまっていた。

ちなみに途中参加でありながらも険しい戦いに身を投じたルージュもギルヴァ、ブレイク同様に休みが言い渡されている。しかし彼女に至っては特に趣味がある訳でもなく、何も無ければ一日の殆どをお茶を啜って部屋で過ごす様な性格である為、別段休みの追加を命令されても特に問題はなかったそうな。

ともあれ二つの店のネオンサインが灯っていなかったのはそう言った背景があるのだが、とある理由でこの地区に訪れた彼女はそれを知る筈もなかった。

 

「どうしましょう…」

 

ギルヴァが店主を務める便利屋「デビルメイクライ」本店の前でそう呟きながら立ち尽くすのはS09 P基地…またの名を早期警戒基地所属特殊遊撃部隊【ランページゴースト】の副隊長を務めるアナである。

以前作戦にて、自身の身に起きた事をこの基地で後方幕僚を務めながらも魔工職人としての立場に身を置くマギーに診てもらう為、この基地へと訪れていた。

ただ訪れる日の前日に負傷者受け入れの為に設営した天幕や道具などの撤去作業が行われる事となってしまい、重機も行き来する為、基地正面入口からではなく、便利屋「デビルメイクライ」本店から基地内へと入ってきて欲しいと所属する基地にへと連絡があった為にこうして回ってきた訳なのだが、ネオンサインは消えており、店の出入口の扉にはclosedと掛看板を掛けられている。

 

「取り敢えず中に入ってみましょうか」

 

このまま突っ立って悩んだままでは埒が明かないのは事実。

店の出入口へと歩み出した時だった。

 

「おや、早かったですね」

 

「ん?」

 

後ろから声がかかり、アナが後方へと振り向くとそこに居たのは買物袋を抱え、新たな装いに身を包んだシリエジオだった。

白のピンストライプ模様の灰色のシャツ、ゴシックな花の刺繡が施された黒のエプロンにフィッシュテールスカート。以前のメイド服を踏襲しつつも新しく、そして全体的に黒で統一されている事とシリエジオが持つスタイルもあってカッコ良さと美しさを両立させたような服であった。

以前のメイド服の姿でも使っていたロングヒールブーツ、ブリム、ガンベルトは今でも使っており、あのメイド服は決して捨てる事無く、彼女は自室に大事に飾って保管している。

 

「だ…んんっ…シリエジオ、久しぶりです」

 

つい昔の名を言ってしまいそうになりながらも、配達に訪れた際にネロから聞いた彼女の新しい名を呼ぶアナ。

その姿を見てシリエジオは口元を手で隠しつつフフッと笑みを漏らす。

この基地に居る者なら慣れてきている所だろうが、アナは違う。

無理もないと思いながら話しかける。

 

「ええ、お久しぶりですね。最後にお会いしたのは例の【墓場】での一件以来でしたか」

 

「はい。その節はお世話になりました」

 

「いえ、礼には及びませんよ。私はただ送迎をしただけに過ぎませんので。…取り敢えず中に入りましょうか。事情は伺っております」

 

世間話をしに来た訳ではなく、かと言って昔話をしに来た訳でもない。

アナが此処に訪れた理由をマギーから聞いていたシリエジオを彼女と共に店の中へと通した。

ジュークボックスからジャズが流れ、落ち着いた曲調で包まれた室内で店主を務めるギルヴァが愛刀【無銘】を立て掛けた書斎の椅子に腰掛けて紅茶を味わいながら詩集を読んでいた。

そしてシリエジオに続き、何時ものなら愛用している青い刺繡が施された黒いコートを羽織っているのだが、今日はそれではなく青色のコートを羽織っていた。

何時ものどうしたのかと言うと、以前の大規模作戦で汚れた為、クリーニングに出したとの事。

羽織っているそれはクリーニングに出したコートが戻ってくる間の代わりであり、ギルヴァが自ら購入したものである。

 

「今、戻りました」

 

「ああ。…そして来たか」

 

「はい。私からマギーに連絡しておきます。案内を頼めますか?」

 

「分かった」

 

読んでいた詩集を閉じ、本棚へと戻すギルヴァ。

紅茶を飲み干し彼は椅子から立ち上がるとシリエジオが奥へと向かって行く。

奥へと消える姿を見届けると、ギルヴァは基地へと繋がる裏口ドアへと歩き出す。

 

「行くぞ」

 

「はい」

 

何処へ向かうなど言うまででもなく。

ギルヴァとアナは店の裏口から基地内へと向かって行った。

 

 

基調内部の廊下。

行き交う職員や人形らの間を縫うようにギルヴァがアナを連れてマギーの工房へと歩く姿があった。

どこからか物音が聞こえて、どこから誰かが喋っている声が響く。

普段であればもう少し静かなのだが、今は仕方なく。

喧しいとまでは言わずとも、幾分か騒がしいぐらいだろう。

そんな中で先行く彼の後をついていくアナ。会話が生まれる事はなく、二人の間には沈黙が包んでいた。

 

「少しは休めたか」

 

だが珍しい事にその沈黙を破ったのはギルヴァであった。

 

「ええ、少しは。色々ありましたが」

 

「そうか」

 

「はい。……そう言えば今日は店は開けていないのですね?」

 

「今日に限った話ではない。数日間は店を開けていない。シーナの命令で休めと言われている」

 

軽くため息をつくギルヴァのその姿にアナはクスリと小さく笑みを漏らした。

そしてある事に気付き、彼女はギルヴァへ尋ねる。

 

「となると…ブレイクさんも?」

 

「そうだ。この数日間で奴の顔を見てない方が珍しいほどだ」

 

便利屋「デビルメイクライ」第一支店はギルヴァが店主を務める本店とは違い、町の方に存在する。

そこでブレイクは居住兼事務所として過ごしているのだが、シーナの命令もあってか、暇過ぎてこの数日間で基地に遊びに来ていた事が度々あった。

おまけに基地正面入口からではなく本店を経由して基地に入っていたので、ギルヴァは何度も彼の顔を見ている。

その事をアナに伝えるギルヴァの様子は若干であるがうんざりした様な様子であった。

 

「あれ程の戦いがあった後ですからね…シーナ指揮官の判断も間違いとは言えませんが」

 

「だが休みなど二、三日程度良い。休みを延長された事を不満を覚える」

 

「…あの人なりの気遣いだと思っても良いのでは?不満はあれど、それに従う辺り分かっているのでは?」

 

「…」

 

アナの台詞に返す言葉がなかったのかギルヴァは黙り込む。

その後ろ姿を見つめつつアナは小さくフフッと笑みを漏らし、二人は人で行き交う廊下を後にし、マギーの工房にへとたどり着いた。

マギーの工房は自室と同化しており、現在ではルージュとダレンもこの部屋で過ごしている。

この時間帯もそうだが、今回アナが訪れる事もあってルージュもダレンも外しており、ギルヴァは主の返事を待つ事もなく部屋の中へと入っていった。

マギーの部屋は自室兼工房である為、物で溢れている。しかし適当な所に置いている訳でもなく、戸棚にしまう等整理はされている。散乱していると言えば作業台ぐらいであり、部屋主であるマギーは作業場で以前改造し完成した筈の大口径二丁拳銃【ペサンテ】と【グラディオーソ】を分解していた。

そして偶然というべきか、彼女の部屋に先客が来ており、二人が室内に入ってきた事に気付くとその者はギルヴァへと声をかけた。

 

「おや、ギルヴァじゃないか」

 

かつての名前を呼称していた時に着ていた衣装とは違い、それは部屋着なのか或いは新たな装いなのか。

ギルヴァに声をかけたのは和を意識した戦装束みたいな服装に身を包んだソルシエールである。

ブラウ・ローゼ内では専用装備【ワーロック】のステルスを用いた襲撃やゲリラ戦を得意とし、その姿は装備の特徴的な外観とその戦い方から【死神】を彷彿させる一方で技士としても高い能力を有する一人である。

作業がキリの良い所で終えたのか、手に持っていた工具を工具箱へとしまい、手についた汚れを布でふき取ると彼女はギルヴァに歩み寄った。

 

「君が来たという事は…どうやら客人が来たのかい?」

 

「ああ」

 

「そっかそっか」

 

隣に並び立つアナを見るソルシエール。

柔和な笑みを浮かべると彼女はアナへと手を差し出した。

 

「君の事は聞いているよ。僕はソルシエール。仲良くしてくれると嬉しいかな」

 

「こちらこそ」

 

差し出された手を握り返すアナ。

互いに軽い挨拶を交わすとソルシエールはマギーを呼びに向かい、そして漸くと言うべきかマギーによる診察が始まろうとしていた。

 

 

「それはまた無茶しましたね」

 

ソルシエールが別件でその場を離れ、ギルヴァが室内のソファーで待機している中、仮名であるがイグナイトトリガーが発現に至った経緯をアナ本人から聞かされるとマギーは苦笑いを浮かべ、対してアナもええ、と頷いた。

 

「何故こうなったのか、正直私自身でも分かっていません。診てもらうには診てもらったのですが、トリガーに関しては全くといった所でして」

 

「で、私の元に来たと。確かに魔力とかは科学では証明出来ませんからね。無理もないかと」

 

ふむ、と呟きながらマギーは指を顎に当て考える素振りを見せた。

何故そうなったかなど色々思案するも、マギーは一つだけ確信に近いものを感じていた。

それはアナを一目見た時から分かっていた事であった。

 

「そうですね…。色々伝えるべき事はあるのでしょうが、まずは順をおってイグナイトモジュールの事から話しましょうか」

 

「トリガーからではなくですか?」

 

「ええ。そこから話さなければならないと判断したので。ただしこれは私の見解に過ぎません。ですので確固たる答えではない事は予めご了承ください」

 

「分かりました」

 

魔界に居て、伝説の魔工職人とはいえ、マギーは魔力とかいった云々は完全に理解している訳ではない。

あくまでも彼女の口から語られるそれは自身の所感に過ぎない事も大きく、完全ではない。

その事に対する了承が得られると、マギーは自身の見解を告げた。

 

「まずイグナイトモジュールに用いられる二つのウィルスが制御下に置けた事。これはイグナイトモジュールが魔具に、或いは魔具に類似したものへと変貌していたのではないかと思われます」

 

「イグナイトモジュールが?」

 

魔具。

この基地で魔具と言えるものはフードゥル、ヴァーン・ズィニヒ、ルシフェル、クイックシルバー、ケルベロス、パンドラ、コキュートス・プレリュードである。

中には何らかの要因によって魔具へと化したもあり、ヴァーン・ズィニヒやコキュートス・プレリュードがそれに該当する。

その事からマギーはイグナイトモジュールが何らかの要因で魔具に、或いはそれに近い物へと変貌したのではないかと判断していた。

 

「はい。幻影を所持していた事により全身に魔力が行き渡り、それによりイグナイトモジュールが影響を受け変貌した。ただしその時は普段と変わらぬままだった。まるで眠りを覚まさせる何かを待っていた様に。そして幻影を突き刺した事により魔具へ変貌した。トリガーの発現は様々な条件が重なり、そして魔具に近い存在へと変えたそれに幻影を突き刺した事により、幻影もまた変貌し、そしてトリガーを発現したと思われます」

 

「幻影が変貌って…一体何に?」

 

「魔剣か、或いはそれに近いものかと」

 

アナの問いに対しマギーは何ら躊躇う事無く告げた。

ギルヴァの魔力により錬成された筈の幻影。確かにその力はアメノハバキリより軽く、高い切れ味を持ち、斬撃を飛ばす事が出来る、そして使用者の身体能力をあげる能力を有した刀。

だが魔剣と言えるものでないのだがそれが魔剣へと昇華した。

その事実を伝えられた時、アナはどう答えたらよいのか分からないといった困惑した表情を浮かべていた。

だがマギーには一つだけ心当たりがあった。

それが自身の最高傑作であり、ネロのデビルブリンガーを生み出した【狩人】にも似た様な事があったのだ。

最初こそは形だけが立派な刀。しかし保有する魔力は微々たるもので、それどころか斬る事の出来ない武器としては致命的な欠陥を抱えていた。

だがネロへと譲り渡した直後に、眠っていた力を解放し、デビルブリンガーを作り上げ、そしてデビルトリガーを解放するという事をやってのけた。

いつ、どのタイミングでかは分からない。

だがマギーは思う。狩人が意思を有した様に、幻影も意思を有したのではないかと。

 

「もしかすれば幻影が意思を有したかも知れません。誰かの意思…それは貴女にとって大事な人か、或いはそれ以外か。……すいません、今の私から言える事はそれぐらいです」

 

「いえ。こちらも分からずじまいだったので、貴女から聞けて良かったです」

 

「そうおっしゃってくれると有り難いです。取り敢えず診断書書いておきます。それをキャロル指揮官にお渡しください。ただ先程も言った様に私の見解に過ぎないので、鵜呑みにしないようにお伝えください」

 

「分かりました」

 

「では今から診断書を製作致しますので。暫くの間はのんびりしていてください」

 

椅子から立ち上がり、部屋の奥へと消えていくマギー。

のんびりしていても良いと伝えられるも、アナはどうしたものかと思った。そこにギルヴァが歩み寄り、声をかけた。

 

「終わったか」

 

「ええ。ただ全て分かったとは言い切れませんが」

 

「そうか。……ならば二つ程伝えておく」

 

「何でしょうか?」

 

盗み聞きするつもりはなかったものの、まさか渡した幻影が魔剣に近い物へと昇華した事にはギルヴァとて驚いていた。

だが彼はアナ自身から発せられる魔力を感じ取っており、その魔力量がイグナイトトリガーと呼ばれるそれを発動させるには十分すぎる程に増えている事、そして幻影の気配が別のものへと変わっている事を見抜いていた。

ならばそれをどのようにして利用し戦うかは本人次第だが、少しアドバイスをしてやろうとギルヴァは考えていた。

 

「魔力の使い道をトリガーだけに絞らん事だ。それと幻影を投擲するなり色々試してみろ。恐らく何かが変わっている筈だろうからな。…必要であれば相手ぐらいは務めてやる。その時は呼べば良い」

 

「ええ。その時はぜひ。もう一つは何でしょうか?」

 

「これだ」

 

そう言って彼が見せたのは、魔力で錬成された一振りの太刀。

所々形を変えていたり、若干大型化しつつもその面影はしっかりと残っており、アナからすれば見覚えがあり過ぎる代物だった。

 

「…アメノハバキリ」

 

「日本神話の刀剣の名を冠したか。…勝手に作らせて貰った。必要だったのでな」

 

「それは構いませんが…。しかし器用な事をするものですね?」

 

「…慣れ、とでも言っておこう」

 

軽い会話をした後、マギーから診断書を渡され、アナはS10地区前線基地を後にする事になる。

その際、シーナがお土産として手作りマフィアをアナに渡したのは言うまででもない。

 

 

そこは薄暗く、灯りになるのもは備え付けられた電球のみと心許なかった。

そんな部屋の隅でうずくまる白いローブを纏った少女が一人。

何処からか聞こえる怒号、何処から聞こえる悲鳴。

この部屋に長い間居るその者にとっては最早聞き慣れたBGMの様であった。

今日もまたそのBGMに耳を傾けなくてはならないと思っていた矢先、久しぶりというべきか、部屋の扉が開かれた。

出入口付近に立つ武装した男達。そして部屋に何かを投げ入れると下品な笑みを浮かべて先客であるローブ姿のその者に口を開く。

 

「似たモン同士仲良くしてな」

 

そう告げられると再び扉が閉じられ、再び薄暗い部屋へと戻っていった。

投げ入れたそれに対して全く興味を見せる事無く、ローブ姿の少女が顔を伏せようとした時、投げ入れた何かがゆっくりと起き上がった。

 

「ダミーだというのにね。…どこが似てるのか全く理解できないわ」

 

その者の目は伏せられていた。

しかしまるで周りの景色が分かっている様に見渡し、あまつさえは笑みを浮かべていた。

 

「…仕方ないと思う」

 

目を伏せている彼女に向かってそう言いながらゆっくりと起き上がるの青い瞳を持った人形。

 

「消耗品の更なる消耗品の私たちだから…、見分けが付かないのも無理もない」

 

「でしょうねぇ…。はぁー、最期がここだなんて。このまま逝ってしまった方が良い気がしてきた」

 

二人の様子からローブ姿の少女はこの二人は顔見知り、或いは相棒じゃないかと判断した。

どう声をかけようかと思った時、目を伏せた彼女がローブ姿の少女にへと挨拶する。

 

「AK-12よ。こっちはAN-94。言葉を喋っているけど、実はダミーなの。まぁ暫くの間だけどよろしく頼むわね?」

 

もはや死ぬ覚悟は出来ているのだろう。

挨拶を終えた後もAK-12と名乗った人形は笑みを浮かべたままであった。




話が飛んできたんで、今回はその話を。

色々考えたのですが…満足行くもの無いかもです、ご了承を。


診たのは良いのですが…決して確定ではないのでご了承を。
マギーの診断は以下の通りです。


:イグナイトモジュールに使用される二つのウィルスが制御下に置けた理由。

・全身に行き渡った魔力がイグナイトモジュールに影響を及ぼし魔具に近い物へと変えた可能性あり。当初こそは変化は見られずとも幻影を突き刺した事により、力を解放したと思われる。

:トリガーの発現

・確固たる確証はなし。様々な条件が偶然にも重なりトリガーの解放が発生。また幻影が魔剣か、或いはそれに近いものへと変貌した事により発現した可能性あり。
ただ未解明な部分が多いので経過観察が必要。

またギルヴァもアドバイスをしていますので、こちらも記載しておきます。

:魔力をトリガーだけに絞らない事。

・チャージショットなど銃撃にも利用できるのでは?との事。

:幻影を投擲するなり色々試してみろ

・意思を有した事は必ず主の元に戻ってくる筈。それを利用したラウンドトリップの他、ドライブ、オーバードライブが出来る様になるのでは?との事。


そしてギルヴァもまた魔力で錬成したアメノハバキリを持たせました…。自身が扱う為に手は加えてます。名前は未定ですけどね…。

では次回ノシ


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Act189 By chance

─偶然だった─

─誰にも想像出来なかった偶然だった─


「それはまた面倒な事を寄越してくれたのう…。あの作戦からそれなりに経ったと言うのにもう仕事かえ?グリフィンは年配者を労わる事が出来んのか?」

 

基地内の通信室で、ダレンは画面に映るへリアンに向かって呆れた様な表情を浮かべた。

 

『そう言うな。こちらとて満足に動けないのだ。膨大な事後処理のせいで合コンにも行けやしないし、説明の為に色々回らなくてはならない…あのハゲ爺共が!!』

 

「これこれ、本音が出とるぞ。大変のは分かるが下の者に八つ当たりせん事じゃ。お主の真面目な所は評価するが、そんな事をしてたら独身生活が更に伸びる事になるぞえ?」

 

『うぐっ…』

 

指摘され苦い表情を浮かべるへリアンを見てダレンは咥えていた煙管から紫煙を吐く。

さて…、と前置きを呟くと彼女の表情は一変。神妙な面持ちへとすり替わった。

 

「お主の仕事もある。談笑もここまでしようかの」

 

『そうだな。…お前も知っている通り、現在グリフィンでは先の作戦で甚大な被害を被り、急ピッチで立て直しを図っているが今の所先が見通せない状況にある。各地の基地の戦力も激減し、まともな作戦すら行えない中、如何やらこの事を一部の違法組織がこの事を耳にし、行動を起こしたらしい。違法行為で一稼ぎしようという根端だろう』

 

「で、その一部をワシらでぶっ潰せと。しかし情報少ないのう。…まぁそれも立て直しを優先しているせいか」

 

『済まない。だがお前ならこちら以上に集められるだろう?』

 

「言ってくれるの。ともあれ承知した。シーナにも伝えておくとしよう」

 

『ああ。頼んだ』

 

それを最後にへリアンとの通信を切るダレン。

彼女から伝えられた情報を土産に通信室を後にし絶賛執務室で奮闘しているシーナの元へと向かうダレンであったが、その表情は浮かないものであった。

与えられた情報は確かに少ないが問題ない。その点は自身が補えば良い。ただ…

 

(…変な胸騒ぎがするの)

 

この情報をシーナに伝える事に彼女は何故か躊躇いを感じ取っていた。

 

 

以前の慌ただしさはどこかへと消え去り、また時間が昼食時間という事もあり食堂へと向かう人形や職員達とすれ違いつつ、ダレンはシーナが居る執務室へと訪れていた。

食堂がごった返している事は分かっているのか、彼女は書類仕事を一時中断して昼食を取っており、偶然にも報告の為に執務室に訪れていたヘルメスがシーナの手作り料理をご馳走になっていた。

どうやら今日の昼食はペペロンチーノの様らしい。

珍しい組み合わせだと思いながらも、ダレンは何時もの様に笑みを浮かべながら話しかけた。

 

「ワシの分はあるかのと言いたいが無さそうじゃな。…シーナよ、少し時間を貰っても良いか?」

 

「良いよ、何かな。それとパスタなら多めに作ってしまったからダレンさんも良かったら食べてね」

 

「それは良い事を聞いた。では手短に終わらせる様にしようかの」

 

自分も昼食を取りたかった所。

折角ならばご伴侶預かるのもやぶさかではない。

作り立ての料理が冷めてしまう前に、ダレンは頼まれた仕事を伝える。

 

「グリフィンから命令じゃ。この期に乗じて金稼ぎしようとしている違法組織を潰してほしいとの事。詳細はこれに乗っておる。ただ全て乗っている訳ではない。向こうも色々大変そうじゃったからの」

 

食事の手を止めシーナはダレンから差し出されたタブレット端末を手に取り、内容に目を通し始めた。

 

「……ここは」

 

そして違法組織の拠点があるであろう場所の名を見て、シーナはそんな声を漏らした。

その呟きを聞き逃さなかったヘルメスはコップに注がれた水を飲み干すとシーナへと尋ねる。

 

「何か心当たりがあるみたいだな?」

 

「…」

 

だが彼女は問いに答える事はせず、ただ端末の画面と睨めっこを続けるのみ。

シーナの様子がおかしい。

そう感じたのはヘルメスだけではなかった。ヘルメスと相対する様にソファーに腰掛けたダレンもまたそれを感じ取っていた。

質問しようにもシーナは無言を貫いている上に放たれる雰囲気に当てられたのか、ヘルメスもダレンも行動を起こす事が出来ず彼女が話し出すのを待つほかなかった。

 

「…」

 

画面に記載された場所の名前をまるでなぞる様に指を滑らせるシーナ。

 

(…まだ残っていたなんて)

 

結局の所、その場所がどの様な関係があるのかはシーナ本人から語られる事はなく。

シーナは了解したという返事しか返さなかった。

ただその直後に作戦をあろう事か今夜決行するという異例の事態となったのは、その場にいたヘルメス、ダレン、そして後にその事を聞いた所属する人形達が驚きを隠す事が出来なかったのは無理のない話だろう。

 

 

その日の夜はこの時期には珍しく妙に暖かった。

厳密に言えば温いと言うのだろう。ジメジメとはしていないが、寒さ対策に厚着していたとしても、この暖かさではその意味も薄くなると言ってもいい。

明日は晴れると示唆している様に雲一つない満天の星空に彩られ、地上では一台の車両がS09地区にへと入っていた。

幾度もなく踏まれ、一本の道へと化した道を駆け抜けるハンヴィーの運転席にはソルシエールが、後部座席にはヘルメスとvector。そして助手席にはシーナが座っており、それぞれ武装している。

 

「珍しいね。何時ものなら入念に準備してから動くのに」

 

夜間ラジオをシーナが耳を傾ける中、己と同じ名を冠した銃に弾倉を刺しこみながらvectorが口を開く。

独り言のようでその問いはラジオに聞いていたシーナへと向けられたものであり、それを察した彼女はラジオを切りつつ答える。その手に【Painekiller】と銃身に彫られたマテバ2006Mを握りながら。

 

「無視して良い相手じゃないからね。それに…あの場所は私にとって忘れない場所だから」

 

「……どういう場所だったか聞いても?」

 

「そう、だね…」

 

運転しているソルシエールと目を伏せ静かにしていたヘルメスがこっそりとその話に耳を傾ける中、彼女は何処か悲し気な笑みを浮かべつつ星空を見つめながらvectorの問いに答える。

 

「四年前の話。……その場所で起きた戦いは私を一般人から大量殺人者へとなった。…いわゆる生誕の地と言うのかなその場所は。只々復讐する事だけに執着した私が生まれた、ね」

 

「…何で復讐とか…そんな事を?」

 

そう問いかけながらもvectorは分かっていた。

できるのではあればそれが嘘であってほしい。だが確信めいたものは感じ取っている。

見限るという事は最初から無い。彼女がその座に就いてほんの少し経った後にvectorはそこの所属になったのだから。どんな人かなど分かっている。

それでも本人の口から聞きたい。そうなってしまった、その理由を。

 

「……」

 

だがシーナは答えようとはしなかった。

無理もない。そうなってしまった理由は決して明るいものではない事を分からないvectorではない。

今はこれ以上この話をすべきではないと判断し、別の話題へと切り替えようとした矢先、運転していたソルシエールが声を上げた。

 

「もう少しで到着だよ。全員気を抜かないでね」

 

どうやら別の話へと切り替える必要もなく。

車両は目的地付近に辿り着くのであった。




はい。次回からシーナの過去についてを展開しようかなと。(未定)

では次回ノシ


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Act190 Immutable

─建物も中身もやり方も変わっていない─

─最もそれを知るのは彼女だけ─


違法組織が拠点として使用している場所は建物と建物の間に出来た下へと下る階段の先に存在する小さなバーであった。営業はしているのか、店の明かりがほんのりと漏れ出しているが、どことなく近寄りがたい雰囲気を放っている。

階段の上からバーの扉を見つめるガンケースを片手にローブを纏うヘルメスとグリフィンの制服ではなくお気に入りの服装に身を包み、その上からサーヴァントを羽織ったシーナがいた。

 

『指揮官、聞こえる?』

 

そこに耳に付けていた通信機から車内で待機しているvectorの声が響いた。

 

「うん、聞こえるよ、vector」

 

『こっちは言われた通り、ソルシエールと共にバーから少し離れた場所で待機しているけど、大丈夫なの?裏口の方は警戒しなくても』

 

「大丈夫。実のところ、私たち以外にも何人か呼んであるよ。先に待機してもらってたの」

 

『嘘でしょ?』

 

シーナが嘘じゃないよと答えようする前に、先に待機してしていた人形が通信に割り込んできた。

 

『嘘ではありませんよ、vector』

 

『その声…コンテンダーね?』

 

『はい。裏口は私とMG4が待機しています。私達以外にも別の建物で404小隊の皆さんが待機してますよ』

 

『あー…うん、そう…。問題ないね』

 

四人だけで行動していた意味を悟りつつvectorは通信を切った。

再び訪れる静寂の中、ローブ姿のヘルメスは隣に並び立つシーナが動き出すのを待っていた。

眼帯をしていない瞳がその顔を見つめた同時に彼女は歩き出し、ヘルメスはその後に続く。

一歩、一歩と階段を降りる度に靴底の音が地面と当たる音が響き、バーのドアとの距離が少しずつ縮まっていく。

 

「私が合図するまで攻撃しないで」

 

「ほう?」

 

このまま突撃して撃ち合いになった方がヘルメスとしては望ましかった。

カジノ制圧作戦に製作されたヘルメス専用の二丁のショットガンが更なる改造が施された上に、新たな専用武器も持ちだしてきている。

早々に性能を確かめたいというのが彼女の本音。故に問う様に上げた声は何処か不満げであった。

 

「策があるというのか?」

 

「あるよ。多分同じ事をやっている筈だから」

 

それを聞いたヘルメスがどういう意味かと問おうとするも既に時遅く。

二人はバーの入り口の前まで来ていた。

シーナがドアを開くとドアベルが店内に来客を知らせる。タバコ、酒の匂いが立ち込め席に座っていた男どもはバーに訪れたシーナ達をまるで獲物を見つけた猛獣の目つきで見つめる。

そんな目線を怯える事もなく、シーナはヘルメスと共にカウンター席に腰掛けた。グラスを磨いていたバーテンダーがシーナを見て困ったげな表情を見せ、カウンターに腰掛ける二人の後ろのテーブルでポーカーをしていた男達の一人が煙草を吹かしながらシーナへと話しかける。

 

「ここはお嬢ちゃんみてぇな奴が来る場所じゃねぇぜ」

 

「へぇ…此処酒場だったの?それにしては酒の匂いよりも…()()()()()()()()()()()()()

 

その台詞に辺りが静まり返る。

状況が一変したかに思えばシーナが小さく笑みを漏らした事からそれは静かに消え去った。

男達もポーカーを続け、バーテンダーもグラスを磨くのを続ける。

照明に導かれる様に一匹の蛾が羽を羽ばたかせる音が小さく響く中、シーナはコートの懐からあるものを取り出しそっとカウンターの上へと置くとバーテンダーを差し出した。

それは一枚の紙幣。ただ何故か端の所だけが破り捨てられており、バーテンダーはその一部が欠けた紙幣を受け取ると、ジッと差し出した本人を見つめた。

 

「…何が欲しい」

 

バーテンダーがそう問うとシーナは下ろしていた顔を上げ、酒棚を見つめる。

何処から得たのかは分からないが、多種多様なボトルが揃えられている。中には滅多にお目にかかれる事の出来ないヴィンテージウイスキーも置かれていた。

 

「左端の一番下の棚。右から三番目のボトル」

 

彼女が注文したのは恐らく数年前に存在していたであろう年代もののウイスキーであった。

その注文の本当の意味を知っているのかバーテンダーはポケットから鍵を取り出すと顎でドアをさし、カウンターの裏へと向かっていった。

 

(以前のまんまか…それとも真似しているだけ?)

 

胸の内で呟くとそれに続く様にシーナはカウンターから降り立つも一瞬の隙を突く様に、ヘルメスに一枚のメモ用紙を渡してからカウンター裏へと消えていった。

訪れた静寂。

一人残されたヘルメスだったが、シーナから渡されたメモ用紙を見て誰にも気付かれる事もなくニヤリと口角を吊り上げながら、掲げた何かの持ち手へとそっと手を伸ばした。

その一方でシーナはバーテンダーと共に裏方にいた。

酒棚など物で溢れており、照明も少ないせいか薄暗いのだがそれを気にする事もなくバーテンダーはある場所へと向かって歩いており、シーナもその後に続いていた。

地下に出来たバーにしては裏方は驚くほど広いがその割には在庫の数は少ない。誰がどう見ても妙だと思わせるには十分と言えた。

 

「見た目にしちあんたもあくどい事やってんだな」

 

「褒め言葉として受け取っておくよ。…それで品揃えは良い方なの?」

 

「勿論だ。最近じゃ良いものも入荷した。まぁ俺好みじゃなかったけどな」

 

目的地に着いたのかバーテンダーは足を止め、振り返りながらそう告げた。

そこは決して人目につく事はなく、死角になる位置にそれは存在していた。

何の為に設けられたのか、その壁にはレバーの様なものが一つ。

バーテンダーがレバーを下ろすと、隠し扉だったのか壁が横へとスライド。その先には牢獄の様な通路が真っ直ぐ奥へと続いていた。

物音一つせず、暗く、そして冷気が漂う。ここで行われている事を知っているシーナは表向きは平然としているがその内心では憤怒と殺気がごちゃ混ぜになった炎を燃え盛っており、必死にそれを抑えていた。

 

「商品の味見がしてみてぇなら言え。鍵を開けてやる。見たいだけなら扉の覗き穴から覗きな」

 

自分が殺されるどころか、シーナを本気で自分達と同じ奴だと思い込んでいるバーテンダーはそう告げ、シーナは頷き牢獄の様な廊下へと歩き出す。

そして廊下の一歩手前で足を止めるとバーテンダーへと話しかける。

 

「そう言えば、変な噂を聞いたの」

 

「あん?」

 

突然語り始めたシーナに対しバーテンダーは訝しげな声を上げる。

そんな声もお構いなしと彼女は喋るのを止めない。

 

「最近、ロボット保護団体やら人権保護団体とかと名乗って行く先のない人形や子供達を保護すると言いながら拉致する連中が居るみたいよ。捕まった奴は商品にされ、買い手がいなかったら命を取られるって言うのだから…ホント恐ろしい話よね」

 

「…」

 

黙り込むバーテンダーを見てシーナに確信する。

 

「…おまけに取引の場所はバーみたいらしいの。合言葉を聞いたら味見も見物もさせてくれるって言う。…それってここの事じゃない?」

 

「…さぁ?知らねぇな。でも、よぉ…一つだけ良い事を教えてやれるぜ」

 

観念したのか。或いは交渉を持ち掛ける気でいるのか。

否、そんな筈はなかった。

そう装っているだけでバーテンダーは不気味な笑みを浮かべながらポケットから折り畳み式のナイフをシーナに気付かれぬ様にそっと取り出し、刀身を立てた。

 

「それはな─」

 

キラリと刃先が灯りに反射し、研ぎ澄まされた刀身がバーテンダーを写すと、彼はゆっくりと忍び足でシーナへと迫る。

自身に危機が迫っている事を気付いているのか、或いは本当に気付いていないのかシーナはバーテンダーに背を向けたまま佇んだまま。

無防備な状態な晒し続ける彼女を見てバーテンダーの中で確信めいたものがあった。

持ち手を逆手にし、背後まで接近。彼女の頭目掛けてナイフを振りかぶる。

 

「テメェが死が決まった事だッ!!!」

 

そう叫びながらバーテンダーがナイフを勢い良く振り下ろそうとした瞬間だった。

 

「ッ!!??」

 

振り下ろそうとしていたその腕がピタリと止まった。

目を丸くするバーテンダーの顔面に突き付けられるは銃口。

銃身には【Painekiller】と文字が刻まれた銃の形状はリボルバー。

銃身が下部に取り付けられている特異な形をしたリボルバーの名はマテバ2006M。

そしてそれを構えるのは養豚場の豚を見る様な冷たい眼差しでバーテンダーを見つめるシーナの姿があった。

カチリと撃鉄を起こされ。シリンダーが回転し引き金に指がかけられる。

何時撃たれるか分からない恐怖にバーテンダーの呼吸が荒くなり脂汗が流れる。

抵抗すべきか、降参すべきかその考えすら出てこない。迫る死の恐怖と本当に少女なのかと思わせる程に放たれる強烈な圧におびえるだけ。

 

「死ぬのは…そっちみたいね」

 

冷たく放たれた一言と共に二発の銃声が響いた。

 

 

「銃声!?」

 

その銃声はカウンター席に腰掛けていたヘルメス、そして酒を煽り煙草を吹かしながらポーカーをしていた男達の耳にしっかりと届いていた。

そして二発の銃声はシーナからメッセージである事を知っているヘルメスは席から降り立ち男達の方へと振り向きながら、腰のホルスターに収めている二丁の銃を抜いた。

それはカジノ制圧作戦に彼女専用に製作されたブレードを備えたショットガン。だが更なる強化をヘルメスが求めた事から改造が加えられた事によりベースとなったM1887の面影、機構などは何一つ残っていない。

もはや魔改造の域に当たる二丁のショットガンを、銃を手を伸ばそうとする男達へと向けるヘルメスは不気味な笑みを浮かべながら口を開く。

 

「神様にお祈りを済ませたか?」

 

次の瞬間、二丁のショットガンが火を吹いた。

次々と撃ち出される散弾が男達の体を切り裂き吹き飛ばす。肉片やら鮮血やらがあちらこちらへと飛び散り、それどころか机や椅子も木端微塵に吹き飛んで行く始末。

 

「くそっ!…おい、敵だ!!ありったけの兵隊持ってこいッ!!」

 

散弾の餌食になる前に壁を盾にして隠れる男の一人が携帯端末で叫ぶ様に増援を要請する。

それでもお構いなしとヘルメスは撃つ事を止めず、男達に攻撃させる時間を与えない。

だが弾だって無限ではない。そして弾数が多い訳ではない。

最後の一発を撃つと二丁のショットガンの弾が切れた。

硝煙が漂う中、辺りは静寂に包まれ、ヘルメスは手にしていた二丁をホルスターへと納め、ローブを脱ぎ捨てると傍に置いてあったガンケースのヒンジ部分を軽く蹴り開くとそこに納めらていたものを手を伸ばす。

 

「野郎ッ!!」

 

攻撃が収まったのを悟ると男達は身を隠していた壁から飛び出し、ヘルメスへと銃を向ける。

だがそれが間違いだと気付くのは直後の事であった。

一発の銃声と共に放たれた散弾が自動小銃を構えていた男の頭を吹き飛ばし、中身が周囲にぶちまけた。

 

「餌の方から出てきてくれるとはなぁ…」

 

銃口から硝煙が上がり、独り言ながらヘルメスはガンケースから取り出した二丁を構えた。

しかし同じものではなく、別々の銃を握っていた。

左手には以前まで使用していたRDI Striker12、そして右手には銃身が水平に三つも並んだ短銃身のショットガンを手にしていた。その銃はソルシエールが既存のモノを改造したものであり、試作品である為か名前は付けられていない。

その他にもガンケースには何種類かのショットガンが収められており、中にはソルシエールが自ら設計し作り上げた北洋神話の神が使う槌の名を冠したショットガンも納められている。

ここに来て分かる事と言えば、どういう訳かヘルメスはショットガンだけしか持って来ていなかった。だがこの閉鎖的空間で、しかも武器のその殆どが散弾銃という男達にとっては最悪の一言に尽きる。

増援を呼んだとして生き残れる確率は低いだろう。寧ろ生き残りを探す方が困難である。

 

「丁度良い。こっちも狩りをしたくてたまらなかった所だ」

 

ニヤリと口角を吊り上げ、浮かべる笑みは不気味。

一人も生きて帰さない。眼帯をしていない瞳が男達にそう告げる。

 

「そう簡単に狩られるなよ?それだとつまらないのでな」

 

銃が咆える。散弾が吐き出される。

残るのは肉片か、それ以外か。

少なくとも分かるのはその場に残るのは敵の死体だけという事だろう。




本来なら色々ぶち込みたい所でしたが、一旦ここで切ります。

次回はどんな風にしていこうかな…。

では次回ノシ


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Avt191 Now unchanging

─彼女にとっては昔の時と変わらなかった。


フロントの方から銃声が聞こえる。

私が二発撃った事が合図となり、それを受けヘルメスが戦闘を開始したのだろう。

敵として現れたら厄介な存在だが、味方としているとなると何とも心強い存在である。

暫くの間は彼女に任せるとして、私は殺した男のズボンのポケットから牢屋の鍵を奪った。

 

「…」

 

手にした鍵を見つめた時、脳裏に【あの時】の光景が過った。

あの時もこんな感じだった気がする。十人ぐらい殺し、そしてその先に行く為、鍵を奪う。

もはや今自分がやっている事はあの時の繰り返し、或いは再現としか言いようがないが、一つだけ違いがある。

私が当時ここを襲撃した際に、囚われていたのはまだ年端の行かない子供達ばかりだった。今回ここで囚われているのは人形。とは言え違いはその程度でしかないのだが。

本当にどうしてこうなったのだろうと自分自身に問いかける。

思えば、再現に至ったのもカジノ制圧作戦の時に女の子を人質にとっては喚ていた男が、実はあの時の生き残りだと知った時からこうなるのは決まっていたのかも知れない。。

ではあいつが現れなかったらこんな事にはならなかったのではと思う事はあったが、現れようが現れなかろうが、どの道にこうなっていたに違いない。

とは言え今は昔を振り返っている場合ではない。近くにあった牢屋へと近寄り、奪った鍵で扉を開いた。

その部屋には三人囚われており、一人はローブを纏っている少女。恐らくであるが民用人形だろう。

 

「え…?」

 

そしてもう二人を見た時、私は目を丸くした。

服装からして、民用人形が着るものではない。戦術人形が着るような物だが、グリフィンの戦術人形かと言われたら違う様な気がした。

片方に関しては見覚えがないが、もう一人は知っている。それどころか見覚えがあり過ぎた。

隣の基地に居るあの子とそっくりなのだ。とは言え顔が同じというだけであり、彼女は私が知る彼女とは別人という事は間違いないだろう。

しかしどうしたものか。グリフィンの制服を着ていない為、彼女達からすれば今の私は奴らの仲間か、或いは別組織の人間のどちらかだと思われているに違いない。

このまま去り、MG4かコンテンダー辺りに頼んで保護してもらった方が良いかも知れない。その後で自分が指揮官だと明かせばいいだろう。

 

「貴女…あいつらの仲間かしら?」

 

二人へと通信を繋ごうとした矢先、瞳を閉じた人形が私にそう尋ねてきた。

瞳を伏せているというのにまるで見えているかのようにこちらを見つめ笑っているが、声からして警戒しているのが分かる。

 

「違うと言えば信じてくれる?」

 

「さぁどうかしらね。別の組織の人間…という事もあり得るでしょ?」

 

「確かに。その考えは間違ってはないかな。…でも私は味方だよ。貴女達の、ね」

 

ヘルメスがショットガンを乱射している間はこちらに敵がやってくる事は気にしなくていい。

ここは4年前と変わっていないから、この先を歩いていった所で行き止まり。敵が出てくる可能性は低いと見ていい。

 

「制服を着ていないから分からないと思うけど…こう見えてグリフィンに所属してるよ。私はシーナ・ナギサ。S10地区前線基地で指揮官を勤めています。…信じるか信じないかは任せるから」

 

私は相手の反応を待つ事無く、ローブを纏い、ずっと座り込んだままの彼女へと歩み寄った。

片膝をつき目線を合わせると彼女は伏せていた頭をゆっくりと上げ私を見つめてきた。

赤い髪。赤い瞳。顔には埃や泥などが付着しているが、私は彼女の事を知っている。

 

「はじめまして」

 

グリフィンから渡された情報の中にはなかったが、ダレンさんが集めてくれた情報の中に彼女の情報があった。

彼女は…とある村に住む人たちによって神として崇められた人形だった。

【だった】という事…それは過去の事であり現在の事を指していない。

では何故ここに居るのか?答えは簡単だ。

彼女は役目を果たせなかったのだ。神としての役目を。

そして追放された。新たな神様を用意されてしまったから

 

「…はじめまして」

 

私の挨拶に彼女は返答してくれた。

ただこちらを見つめる瞳はこう尋ねてきている。

何故私を助ける?役目を果たす事の出来なかった私を、と。

理由を話したい所であるが、今はそんな悠長にしていられない。彼女の手を取り引き上げると驚いた様な表情を浮かべていた。それを見て私は笑みを浮かべ伝える。

 

「理由は後で話すから。今はここを出る事だけを考えましょ?…で、貴女達はどうする?」

 

「そうね…。ここで終わるのも良いかと思ったけど…もう少しだけ生きてみようかしら」

 

目を閉じたままの人形が立ち上がるともう一人も立ち上がる。

どうやら彼女もその気の様だ。

奴らは品揃えは良い方だと言っていたが、ダレンさんの情報だとここで囚われていたのはこの部屋に三人しかいない。一人は知っていたが、まさか残り二人が戦術人形だった事に関しては驚ているが。

恐らくであるが既に売られてしまったか処分されたかのどちらだろう。

ともあれこの後も入荷する予定だったろうがこの店は経営悪化により店じまいだ。

誰にも悔やまれる事無くだ。

 

「さて…」

 

未だに銃声が聞こえる。という事はまだヘルメスは戦っているという事なのだろう。

だがここで待っている訳にも行かない。現場近くまでは移動した方が良い。

私としてもこんな薄暗い所には居たくない。

 

「まずはこの部屋から出よっか」

 

ローブを纏った彼女の手を引きつつ私はもう二人と共に部屋を後にするのであった。

 

 

「ハハハッ!!もっとだ!もっと来いッ!!!私はまだまだ遊び足りないぞ!」

 

焦らされた反動か、或いは久しぶりの戦闘か。

そのどちらかによってヘルメスの気分は最高潮へと達しており、笑みを湛えたままショットガンを乱射していた。

先程まで使っていたStriker12とソルシエールが手掛けた水平三連装ショットガンに装填されていた弾丸は底を尽き、現在彼女の手には同じくソルシエールが一から設計し作り上げたショットガン、【トールハンマー】とヘルメス用に調整が施されたAA-12が握られていた。

再装填という動作を必要としない為、敵に攻撃させる隙も与えず、そして次々と放たれる散弾の嵐によって最早ミンチと化した死体がそこらじゅうに転がっていた。

増援として現れた敵達も店内に踏み入れた瞬間、肉塊に早変わりする始末。

これは戦場ではない。蹂躙し、ただ肉塊を作り出すだけの精肉加工工場へと化してしまっていた。

 

「む…」

 

漸くと言うべきか騒々しい戦場は静まり返り、ヘルメスは手にしていたショットガンの弾が尽きた事に気付きながら周りを見渡した。

先程まで大量の敵がなだれ込んできたというのに、今は誰一人と来店する気配がない。

外で待ち構えているのかと思い、彼女は外で待機しているソルシエールへと通信を飛ばした。

 

「ソルシエール、こっちは終わったぞ。外に敵の姿はあるか?」

 

『いいや、誰一人とて居ないね。これで終わりって事だね』

 

「ちっ…、これから本番だというのに」

 

『そう言わないで、指揮官達と合流したら君もとっととこっちに戻ってきて。こんだけやらかしてるんだ、そろそろ警察も飛んでくる。ローブを纏うのも忘れないでね』

 

「…了解した」

 

この煮え切らない感覚を覚えながらもヘルメスは渋々とソルシエールの指示に従う。

持ってきていた銃を回収し、裏から戻ってきたシーナ達と合流するとヘルメスは店内を出ていった。

 

 

警察が訪れる前に部隊はS09地区から離脱。

私はMG4が運転するハンヴィーに揺られながら外を見つめていた。車内にはMG4とコンテンダー、私以外にあの場所にいた彼女達も乗っている。

ソルシエールが運転するハンヴィーに続く様に私達の乗るハンヴィ―がそれを追う。

時間が時間という事もあってラジオは流れずノイズが走る音が響くだけ。それを耳ざわりと感じラジオの電源と消すと私は星空を眺める。

舗装工事されていない道路を車両が駆け抜ける中、私はMG4へと呟く。

 

「帰ったら…私の事話そうか」

 

先延ばしする訳には行かない。

知りたい者も多い。ならば自分の口から全てを語ろうじゃないか。

10年前の2月14日のあの時を起きた事、そして4年前の2月14日に復讐に身を投じた私の事を。

隠していても意味はない。だから語ろう。2月14日は私の誕生日に起きた全てを。




今回はグダグダですが…。
次回は前半は色々と詰め込み、後半からシーナに起きた事…その始まり部分を書こうかと(未定


では次回ノシ


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Act192 Now is the time

─語られる時─


違法組織との戦闘が終了し、無事基地に帰還したシーナ達。

既に陽は上がっており、一時的な休息を挟んだのち、シーナは何時もの様に執務をこなしていた。

また囚われている人形達は一旦S10地区前線基地で保護する事になり、事情を調べる前に修理が行われる事になった。民用人形だった彼女には特に損傷等は見受けられなかったが、残り二人の戦術人形に関しては担当に当たっていた後方幕僚のマギーからシーナに驚きの事実が伝えられた。

 

「あの二人がダミー!?」

 

有り得ないという表情を浮かべながら、勢い良く椅子から立ち上がるシーナ。

対するマギーも薄っすらとであるが二人がダミーという事に関して未だに信じられないという表情を見せていた。

 

「個体名称【AK-12】【AN-94】…二人からその様な証言が取れました。俄かに信じがたいですが、嘘とは思えません」

 

「その理由は?」

 

「ダレンから聞いた話ですが…両名ともグリフィン所属ではなく軍の所属の人形との事です。ダミーですから、回収されると思っていたのですが…」

 

「回収される前に何らかの形で自我が芽生え行動した、と…?」

 

「恐らくは」

 

悪魔に関しては目の前にいるマギーやダレンといった魔界出身の者達なら分かる。

だが今回の一件に関してはシーナも含め誰しもが経験した事の無い出来事であった。

どうしたらいいかと指を顎に当てつつ思い悩む素振りを見せるシーナに追い打ちをかける様にマギーの口から和悪い情報が告げられる。

 

「損傷していた部分の修復は何事もなく完了しましたが、どうやら行く当てがないとの事。戻った所で色々面倒みたいで、置いてくれるのであれば協力すると言っていました。ただ個体名称が今のままなのはどうにかして欲しいとか。それに関しては基地が保有する施設だど少し限界があります」

 

「つまり登録し直す必要がある、と?」

 

「はい。…私の方で頼れる所を探してみます。良い報告をお持ちください」

 

「うん、お願い」

 

分かりました、と答えるとマギーは執務室の出入口へと歩き出した。

自動ドアの手前まで来た時、足を止め彼女は静かにシーナへと尋ねた。

 

「話されるのですか?…あの事を」

 

文字を綴っていたシーナの手がピタリと止まる。

伏せていた顔を上げ、じっとマギーの背を見つめた。

あの事というのはシーナの過去であるのだが、長い間ここで後方幕僚を務めていたマギーですらシーナの過去の事に関しては知らない。

今の今まで隠してきた事をどのような理由があってそれを明かそうとするのか、シーナの行動にマギーは少し疑問を覚えていた。

 

「うん」

 

話すという事に変わりはないのか、迷う事無く答えるシーナ。

 

「何故です…?」

 

「何故って、皆が知りたがっているから。何よりも私がそうしたいから。いつか話すべきだと思っていたし…それが今日になっただけの話だよ」

 

「…貴女にとって辛い過去なのでしょう?」

 

「それでもだよ。私は語るだけ。話を聞いてどう判断するかはその人次第だから」

 

昼時を過ぎた後、シーナは明かすつもりでいる。

私の過去について聞きたい者がいるのであれば、会議室に集まれと言い渡す程だ。

その事はこの基地に所属する人形、職員達全員にも伝えられており、その中にはデビルメイクライの面々にも行き渡っている。

聞きたくても哨戒任務などで基地に残る事が出来ない人形に関してはダレン主導の元、音声録音する事となっており、詳細を聞く事の出来なかった者達にも話が聞けるように配慮されている。

そこまでしたの誰の他でもない。シーナが命令したものだ。

 

「これは私に対する罰なんだろうね。でもそれでいい。いつかはその時が訪れる…既に分かっていた事なんだから」

 

悲しそうな笑み。

矛盾したその表情にマギーは言葉が出なかった。

ただ一つ。一つだけ伝えなくてはならない事があった。

自身の過去を明かした事により必ず何かが起きる。異動願いを出す者も現れるかもしれない。

それでもマギーの思いは揺るがなかった。

 

「貴女の過去が人として踏み外したものだったとしても、恐らくそれはそうせざるを得なかったからなのでしょう。当事者にしか分からぬ事ってありますからね。……私は失望したり、見限ったりはしませんよ。他に行くとこもありませんし」

 

「マギーさん…」

 

「だから安心なさい、シーナ。私は離れたりしないから。……では失礼しますね」

 

まるでその口ぶりは我が子を思う母親の様で。

自身の思いを伝えてからマギーは執務室を出ていった。

部屋に一人残されたシーナは彼女が立ち去った後もじっと出入口を見つめていた。

 

「…ありがとう」

 

瞳から滴が流れ、頬を伝う。

小さく啜り泣きながら小さな声で感謝の言葉を伝えるのであった。

 

 

時間は流れて行き、昼食の時間が過ぎた。

集合場所である第三会議室では最早会見場へと化しており、室内で話を聞きに来た人形達や職員、ブラウローゼやデビルメイクライの面々の姿があった。

教壇では椅子に腰掛けて、静かにその時が来るのを待つシーナの姿があり、そこに猛禽類の姿をした悪魔 グリフォンが現れ話しかけた。

 

「しっかしよぉ、こんなに大袈裟にする必要あったのか?」

 

教壇の上に降り立ち、グリフォンは室内を見回しながらそう尋ねた。

 

「どうだろ。でも話す必要はある。話し終えた先に何が起きようとね」

 

「……覚悟はあるって感じ?」

 

その問いにシーナは静かに頷く。

覚悟は既に決めている。

それが分からないグリフォンではない。何時もの様に憎まれ口を叩こうとはせず、その場から飛び去り後方へと引っ込むのであった。

それから時間だけが過ぎて行き、気付けば第三会議室は満員。

時計が14時を差し示した時、伏せていた目を開きシーナは口を開く。

 

「時間が来たし、始めるかな。ダレンさん、準備は良い?」

 

「オーケーじゃ。いつでも始めるが良い」

 

「うん、ありがとう。……それじゃあ話そっか。皆が知りたがっている私の過去について」

 

室内が静まり返り、彼女の声だけが響く。

 

「全ては十年前…いや、今日が誕生日だから十一年前になるのかな」

 

それは一人の少女の物語。

決して幸せな物語ではない。

あるのは血と銃弾と暗闇と復讐心だけ。

 

「まぁどちらでも良いか。…まぁ、うん。全ては十年前に起きた。八歳の誕生日を迎えた私に起きた出来事をきっかけに、ね」

 

ここから先、語られるはグリフィンの指揮官になる前の彼女…。

シーナ・ナギサ(復讐者)の物語である。




前半は色々と…。さて誰かあの二人の再登録をやってくれるとこねぇかな…
まっ、それはシーナの話が終えたからにしましょうか。

次回「Act193 February 14th Revenge」

という訳で次回は2月14日の復讐者(シーナ・ナギサ)編へと突入です。

色んな所では甘々だったりのんびりとした感じのバレンタインデーを書いているというのに、こっちは何やってんだか…。

では次回ノシ


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Act193 February 14th Revenge 1

─残酷な運命─


※内容が雑すぎたので、一度削除し、内容を加筆修正したものを上げさせて頂きました。ご迷惑をおかけして申し訳ございません。


十年前、某地区。

そこはそれなりに広く平和な街。

高々とそびえ立つビルが並ぶ市内を人々が行き交い、そこから少し離れると複数の商店街が存在し、住宅街が存在する。交通面も発達し、また病院や学校も存在する為、この町に移住してくる者も少なくない。

そんな誰にでも知られた街のある表通りに一軒のカフェ。

【Cake cafe sheena】と名付けられた店を経営する夫婦、シーナ・ハルオとシーナ・シズクの間に生まれた娘…シーナ・ナギサはバレンタインデーと言われる日にて八歳の誕生日を迎えていた。

 

 

時刻、朝七時。

この近くにある学校に通うナギサは何時もの様に母親であるに起こされ、リビングにて朝食を取っていた。するとナギサと対面する様に椅子に腰かける人物が一人。

良くも悪くもない平凡な顔立ち。素なのかどことなく微笑んでいる様に見える。

その人物こそナギサの父、ハルオである。

 

「そう言えば今日誕生日だったね、ナギサ」

 

「うん!わたし、今日で八歳になったんだよ!」

 

「そっかそっか。じゃあ学校から帰ってきたら誕生日パーティーをしなくちゃいけないね」

 

「ホント!?」

 

誕生日パーティー。

その言葉を聞いただけでナギサは立ち上がり、満面の笑みを浮かべながら目を輝かせた。

そんな姿に父、ハルオは頬を緩ませる。

 

「ほらほら、急いで食べて準備しなさい。遅刻するわよ」

 

壁に掛けられた時計に指を指すは母 シズク。

黒く艶のある長い髪、整った顔立ち。世間一般では美人に当たる。

ナギサも母よりの顔立ちしており、ハルオからすれば、母よりの顔立ちになってくれた事には内心嬉しく思っていたりする。

 

「ほんとだ!急がないと!アリシアちゃんを待たせちゃう!」

 

時計は既に七時十五分を過ぎている。そこから身嗜みを整えて着替えるとなるので時間が掛かる。

幸いにも家から学校まではそう遠くないが、ナギサはアリシアと呼ばれる友人と共に登校していた。

待たせる事になったら良くない上に急いで早く食べ終えなければ遅刻は確定。

シズクに言われた通り急いで朝食を食べ終え席から立ち上がるとナギサは急いで登下の準備を整える。

洗面所で顔を洗い、寝癖を直し、歯磨きをした後は自室で制服へと着替え、鞄を背負うと家の玄関前へと向かう。

 

「気を付けて行くのよ。それから今日は誕生日パーティーをするから、早く帰って来なさいよ」

 

見送りでシズクがそう伝えるとシーナは笑顔を浮かべる。

その笑顔につられてシズクが笑みを浮かべた。

 

「うん!それじゃあ行ってきまーす!」

 

今日一日頑張れば誕生日パーティーをしてくれる。

その嬉しさも相まってナギサは元気な声で家を飛び出した。

玄関の前で手を振りながら、ニッコリと微笑むシズク。

その笑みこそ…シーナが見た()()()()()()()()()()()()()であった。

 

 

いつもの合流場所では同じ学校の制服を着た少女が一人いた。その少女を見つけるとナギサは元気よく挨拶した。

 

「アリシアちゃん、おはよう!」

 

「うん!シーナちゃん、おはよう!」

 

年相応の笑みを浮かべ、透き通った銀髪が揺れる。

ナギサに元気よく挨拶を返すのはアリシア・アナスターシャ。

ナギサにとって大切な友人でありクラスメイト。

二人は何時もの様に待ち合わせ場所で合流すると共に学校へと歩き出した。

 

「そう言えばシーナちゃん、今日が誕生日だったね。おめでとう!」

 

「ありがとう!これで同じ歳になったね」

 

「ふふーん、私四月が誕生日だから先に偉くなっちゃうなー」

 

「えー、ずるいー」

 

他愛のなく、そして年相応の会話を広げながら仲良く学校へと向かう二人。

何てことの何時もの風景。変わらぬ日常。でも今日だけはちょっぴり特別な日。

明日にはなれば特別ではなくなるが、悲観する事はない。

大事な友達と学校で過ごし、家に帰ったら大好きなお父さんとお母さんに学校であった事を伝えて楽しく過ごす日々を過ごし、時にはお店の手伝いをして常連さんと少しだけ話したり、お菓子作りを勉強したりする。

ただそれだけの事だというのに運命は許さなかった。そして残酷だった。

八歳になったばかりの少女の人生が大きく変わるその瞬間は誰にも気付かれる事無く、すぐそこまで迫っていた。

 

 

学校を終えたナギサとアリシアであったが、非常勤講師から頼み事されてしまい、いつもなら帰宅している筈なのだが、つい先度まで二人は学校に残っていた。

重たい物を運ぶ訳ではなく、ちょっとした軽い荷物を運ぶの手伝ってほしいとの事。

ただ数が多い為ので人手が必要らしく、その量はナギサから見てもアリシアから見ても一人で運ぶには時間が掛かり過ぎると、八歳の二人でも見て分かる事であった。それを分かっていたが故に手伝いを引き受け、学校を出た時には15時を過ぎていた。

 

「大変だったねー…」

 

「だねー。でもお手伝い出来て良かったと思う。それに私まだまだ動けるよ!」

 

「ナギサちゃん、元気過ぎない…?」

 

各々の自宅へと向かう道を歩きながら二人は先殿手伝いの事について話していた。

体力に関してはナギサの方が上なのだろう。若干疲れた顔を浮かべるアリシアに対し、ナギサはまだまだやれると笑みを浮かべる。

 

「あ、ここでお別れだね」

 

「うん。じゃあまた明日!」

 

いつもの分かれ道に到達しそこでナギサはアリシアと別れた。

去っていく友人の姿を見届けると、彼女は行こっかと呟き自宅へと歩き出した。

いつもならゆっくりと道中の町の風景を堪能しながら帰るのだが、今日は自身の誕生日。

家に帰ったら両親が誕生日パーティーしてくれる。

それ故にナギサの足取りは軽やかで、小走り気味であった。

長く真っすぐと続く大通りを抜け、複数ある商店街の入り口前を横切っていく。

この通学路を使う様になって一年も経たない。だがナギサにとっては毎日が変化で溢れている楽しい通学路だと認識していた。

自宅兼お店がある通りに到着するとナギサは駆け出した。父と母は今でもお店で頑張っているだろう。もしかしたら常連さんが来ているかも知れない。

 

「あれ?」

 

そんな思いを胸に店の前に来たナギサだったが、そこにあった光景を見て首を傾げた。

この時間帯でも店は開いている。何か特殊な事情がない限り店が休みになる事はない。

十にも満たないナギサでもそれに関しては何となくであるが覚えていた。

しかし店が開いている様子もなく、店内の明かりも灯っていない。それどころか店の出入口に掛けられたドアプレートはclosedになったまま。

いつもと違う事にどういう事だろうと疑問を覚えながら、ナギサは学校に通い始めた時からシズクに渡されていた店の鍵で出入口の鍵を開け、ドアを開いた。

 

「ただいまー」

 

声だけが反響するも誰も反応しない。

それどころか店内は奇妙な静寂に包まれていた。

 

「お父さーん、お母さーん、居ないのー?」

 

声を上げて二人を呼ぶも、反応が無い。

どこかに出かけてしまったのだろうかと思い、薄暗い店内の周りを見渡しながらある物を探すシーナ。

もし出かけたのであれば書置きをしている筈。今までそういった事は何度か経験していた為、探したがどれだけ探しても書置きらしきものは見当たらなかった。

 

「臭い…」

 

そんな中でナギサは今まで嗅いだ事のない臭いが店内に充満している事に気付き、顔を顰めた。

異臭とも言えるものが辺りに立ち込めており、決して良い物ではない。

本当に父と母はどこへ行ってしまったのだろうか。

もしかして何かあったのだろうか。

不安が募るもナギサは勇気を出して大切な父と母を探し始めた。

恐る恐ると忍び足でナギサはカウンターから店の奥へと向かった。

体が小刻みに震える。それでも一歩、一歩と歩みを進める。

段々と近づくにつれて異臭が酷くなっていく。それも厨房から伝わってくるのだが、ナギサはそこへと向かおうとはせず先に二階にあるハルオとシズクの部屋に向かった。

もしかしたらそこに居るかも知れない。淡い希望を胸にナギサは階段を上り部屋へと向かうと扉を開いた。

 

「…居ない」

 

しかし居るであろうと思われた二人の部屋に両親の姿はない。

落胆するナギサであったが、気を取り直して二人が居そうな所を手当たり次第に探そうとした時だった。

ガタン、と。一階から重々しい何かが崩れる様な音が響いた。

その音に肩を跳ね上げ、素早く後ろへと振り向くナギサ。

 

「だ、誰かいる、の?それともお父さん…?お母さん…?」

 

両親の部屋から廊下へと出て、階段を降りる。

異様な雰囲気に泣きそうになるもナギサは必死にこらえる。

階段を降り切り、物音がした方へと歩き出した。その先にあるのは厨房。

明確な発信源は分かっていないもののナギサは物音はそこからではないかと思っていた。

あくまでそれは勘でしかない。厨房からだという確信に近いものがあった。

厨房の出入口までやって来たナギサ。

そこで何かがあるのだと理解しながらも、中々にその一歩が踏み出せずにいた。

だがこのままジッとしている訳には行かない。意を決してナギサは厨房へと足を踏み入れた。

そしてそこに広がった光景に固まった。

 

「…え?」

 

赤く染められた厨房の床で倒れていたのは生きていたはずのハルオとシズクの死体だった。

ハルオは体の各所からは何発もの銃弾によって撃たれた形跡があった。空けられた無数の穴から大量の血潮が流れており顔面は何か鈍器な様な物で殴りつけられた形跡があった。

一回どころか何十回も殴りつけられており、顔は原型をとどめていなかった。

シズクもハルオと同じ様な状態だったが、着ていた服がビリビリに裂かれていた。

そして何故かズボンと下着だけ下ろされていた。

下半身が裸にされたままであり、そこから何か生臭い…異臭が放たれていた。

 

「お父さん…?お母さん…?」

 

震える声で二人の名を呼ぶナギサ。

しかし二人はその声に答える事はない。それどころか一つも身動ぎしない。

恐る恐る二人に歩み寄るナギサ。そして母、シズクの腕に手を触れた時、その冷たさに彼女は驚きのあまり尻餅をついた。

 

「なんで……?」

 

理解したくない。だけど理解してしまう。

知りたくない。考えたくない。忘れたい。夢であってほしい。

しかし現実は無慈悲だった。

それでも彼女は何度も繰り返す。理解しないようにするために。

自らに呪いをかける様に。

何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も繰り返した。

だがナギサは理解してしまった。

両親が死んだという事実に。

計り知れないショックが襲われ、視界は暗闇へと包まれる。そのままナギサは気を失ってしまった。

微かに外から漂う焦げ臭さとパチパチと何かがはじける様な音を耳にしながら…。




今回はシーナの過去編。
色々視点が変わっていきますので、何卒ご容赦を。


それとこれは当分先にはなりますが告知です。

シーナの過去編終了後…ちょっとしたコラボ作戦を考えています。
また今回は異世界との入り口を作る魔具「映されし異界の鏡」によって別世界との繋がりを作る気でいます。
つまりそれは別世界から参戦も出来るという訳でございます。
何卒楽しみしていてくださいませ。

では次回ノシ


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Act194 February 14th Revenge 2

─決意、怨嗟─


辺りは真っ暗。

 

 

 

何も見えなくて。

 

 

 

何も聞こえない。

 

 

 

そんな所に私はいる。

 

 

 

とても怖い。

 

 

 

どうしてここにいるのだろう?

 

 

 

ここはどこなんだろう?

 

 

 

もしかして夢の中なのかな?

 

 

 

ならば早く朝になってほしいなぁ。

 

 

 

学校に行って、アリシアちゃんと会っていっぱいお話をして、いっぱい遊びたい。

 

 

 

それに─

 

 

 

目を覚ましたら─

 

 

 

お父さんとお母さんはいつもの様に笑いかけてくれるのかな?

 

 

 

 

「!」

 

目を覚ました時、ナギサの目に映ったのは白く彩られた天井だった。

ゆっくりと体を起こすと自身がベットの上で眠っていた事に気付く。

 

「ここは…?」

 

とは言えナギサからすればそこは見知らぬ場所。

頭を右へと向ければ外の景色を映し出す窓。

左へと向ければ少し離れた位置にドア。体を見れば包帯が巻かれ、左腕には点滴用のチューブが輸液ポンプへとつながっていた。

医療機器、医療用のベッド…ここがどういう所かはナギサでも分かった。

 

「びょう…いん…。どうしてここに…?」

 

何故病院に居るのか思い出せない。

思い出そうとしても、何故か知ってはいけない気がしてならない。

どうしてだろうと首を傾げるナギサだったが、病室のドアが開く音に気付き顔をそちらへと向けた。

そこに立っていたのは一人の看護婦。起き上がって見つめてくるナギサの姿を見て看護婦はあり得ないと言わんばかりに目を見開いていた。

 

「ちょ、ちょっと待っててね!すぐ先生を呼んでくるから!」

 

看護婦はここに来て間もないのだろうか。或いはナギサが目を覚ました事により何か都合が悪いのか。

目を覚ましたナギサを見た瞬間、そう伝えてから狼狽した様子で看護婦は先生へと呼びに向かって行った。

再び部屋に一人残されたナギサであったが、何かをする訳でもなくベットに体を預けると看護婦が言っていた先生とやらが来るまで待つ事にした。

 

(ああ…そっか……)

 

ふとした瞬間で、彼女は全て思い出した。

 

 

看護婦が戻ってくると、隣には白衣を着た男が居た。

年齢は三十代辺り。手に指輪をはめている辺り、既婚者。

何らかの理由で怪我をし、病院に運ばれたナギサの治療に当たったのが彼であった。

ナギサに対して痛い所はない?や気分はどう?など優しく話しかけており、ナギサからしてもこの人は良いお医者さんという認識でいた。

病室で怪我の状態を医師が診てくれている中、ナギサは尋ねた。

 

「せんせい」

 

「ん?どうしたんだい?」

 

「…お父さんとお母さんは…死んじゃったの…?」

 

「…!」

 

医師の手が止まる。

その表情はどこか後ろめたさを感じさせ、どう言えばいいのか分からないという顔だった。

それも無理もない。

十にも満たない少女に対してそうだよとそんな酷な事を言えるだろうか。

 

「…もうあえないの?」

 

「…」

 

答えない。

いや、答えられなかった。

適当な嘘を言って、その場を凌ぐ。その様な事をしようとは医師は微塵にも思っていない。

しかし現実を伝える勇気がない。言葉が出てこない。奥歯を噛みしめる医師。

 

「わたしね…みたの…」

 

「! 何をだい?」

 

「…お父さんとお母さんが…死んでる、ところを…」

 

「ッ…」

 

確かに見た。

二人が冷たくなって動かなくなっているのを。

確かに見た。

その体から流れる大量の血を。

理解したくなかった。だが理解してしまった。

それが死であるという事を。

幼き少女が負った傷は例え時間が経とうが癒える事はない。

 

「…もう…」

 

頬を伝う一筋の涙がシーツを濡らす。

まだまだ話したい事があった。まだまだ連れていって欲しい所があった。まだまだお菓子作りを教えて欲しかった。

何よりも─

 

「あえないんだよね…」

 

もっと一緒に居たかった。

ナギサの中でその想いが一番強く、医師もそれを感じ取る事が出来た。

自身は涙を流す少女の親ではない。

だがそれをただ見ている事は出来ず、医師はそっと涙を流すナギサを優しく抱きしめた。

白衣が濡れたとしても知った事ではない。

深い傷を負った少女が落ち着くまで、泣き疲れ再び眠りにつくまで医師は傍に居続けた。

 

 

ナギサが落ち着いたのは目覚めてから一時間が経過していた。

一人になりたいと医師にそう伝えた後、ナギサは顔を伏せたまま微動だにせずにいた。

しかしその胸の内では、ずっと何故両親が死ななくてはならなかったと言う疑問を延々と繰り返していた。

赤子だった時、そして学校に行く前の記憶はうろ覚えでしかない。

だがナギサには分かっていた。両親は決して何か悪い事した訳ではない、と。

夢を叶え、普通に暮らしていた筈だ。

だというのに何故死ななくてならない?二人が何か悪さをした訳ではないというのに。

 

―どうして…?─

 

理不尽によって奪われた命。

理不尽が当たり前と誰かに言われたとしてもナギサは納得しない。

それ故か、彼女の中では轟々と何か…炎の様な物が燃え盛っていた。

奪われた痛み、失った辛さと悲しみが入り混じった炎はさらに大きくなっていく。

 

─……さない…─

 

その感情は決して八歳の少女が持つにはあまりにも早すぎる代物。

 

─…るさない…─

 

だがそれを与えたのは、神でもあり、この世。

故に彼女の人生は決まってしまう。

普通とは違う運命を辿るという事に。

 

─許さない…─

 

誰にも気付かれる事無く。

地獄の炎の如く燃え盛る炎はシーナ・ナギサという復讐者を作り上げ始めた。




今回短いですが…ご容赦を。

では次回ノシ


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Act195 February 14th Revenge 3

─療養期間─


目覚めてから数日後。

ナギサはあの時起きた全てを事件を担当する事になった刑事から聞いた。

ハルオとシズクの死、自宅の全焼、焼け跡から見つかった二人の遺体は損傷が激しく、もはや本人かどうかすれ分からない。

事件として扱う事となった本件は警察組織の威信をかけて調査に当たるとの事

子供でしかないナギサにとっては、何かできる事などない。ただ任せるほかなかった。

 

「…」

 

怪我も完治したのだが精神的な傷により、時折不安定な状態に陥る事が多々ある為、現在もナギサは病院のベットの上で過ごしていた。

そして今日は友人であるアリシアがお見舞いにやってくる為、ほんのわずかに機嫌は良い。

とは言え何かをする訳でもなく、彼女はジッと外を見つめているだけであった。

外では風が吹いており、浮かび上がった雲が青空を漂う。

ただそれを見つめるだけ。何か思い出す、考えるという気は今のナギサにはなかった。

心に大きな穴が空いた様な…激しい痛みと言わなくてもチクリと疼く痛みを感じていると、病室の扉のノックする音がナギサの耳に届き視線を窓から扉を向けた。

ゆっくりと開かれる扉。そしてそこに立っていたのは─

 

「シーナちゃん!」

 

見舞いに来てくれたアリシアであった。

久しぶり会えた事により感極まったのか、アリシアはナギサの傍へと駆け寄り抱きしめた。

突然の事に一瞬呆然とするナギサであったが、そっとアリシアの背中に両腕を回し抱きしめ返す。

 

「…ずっと心配してて、わたし…わたし…!」

 

「うん…ありがとう、アリシアちゃん。来てくれてすごく嬉しい」

 

だが以前の様な元気さはナギサにはなかった。

両親を殺された。そんな事があっただから、何時もの様に居られる訳がなかった。

 

「アリシアちゃん、一人で来たの?」

 

「ううん。先生が連れてきてくれたの」

 

「先生が?」

 

うん、と頷きアリシアが後ろを向くと二人の元に歩み寄ってくる女性が一人。

プラチナブロンドの髪、凛とした顔立ち、すらりとした体格。

その人物こそ二人の言う先生であり、所属するクラスの担任を務める女性教師 カデーノ・ババラである。

時に優しく、時に厳しく。ある意味先生というよりかは「親」みたいな人物。クラスの子供達に好かれ、優れた美貌の持ち主である事から男性教師たちからの人気は非常に高い。その反面一部の女性教師からは妬まれているのだが、本人は全く気にする事もなく堂々しており、それどころか「何か言いたい事があれば直接おっしゃってください」と強気な姿勢を見せた程である。

 

「久しぶりですね、シーナさん。体調はどうですか?」

 

「…わからない。でもたまに苦しくなったりすることがあって」

 

「そう、ですか…」

 

悲し気な表情を見せるカデーノだったが、首を傾げ見つめてくるナギサを見てすぐさま笑みを浮かべた。

近くにあった椅子を傍に寄せると隣にアリシアを座らせ、彼女は学校で起きた事を話し始めた。

皆がナギサの事を心配している事、学校であった行事など、アリシアも交えながらナギサはその一時を楽しんだ。

その時だけは彼女の表情にも笑みが浮かんでいた。

 

 

楽しい一時もあっという間に過ぎてしまう。

カデーノは仕事がある為学校に戻らなくてはならず、アリシアも親が迎えに来た為病室を去っていき、再びナギサは病室に一人残された。

ひと眠りしようと体をベットに預けようとした時、病室のドアが開く音がした。

カデーノか、アリシアのどちらかが忘れ物をしたのだろうかと視線をそちらへと向けるナギサであったが、そこに立っていた人物を見て、そうではないという事に悟った。

立っていたのは黒いスーツを身に纏い、その上からコートを羽織った男性。ビジネスケースを下げており、どこかの会社の人間と言った風貌であった。

普通であれば誰しもがその者に警戒するだろう。何故なら無愛想な表情を浮かべているのだから。

だがナギサはその男を見て、怯えるといった様子は見せなかった。寧ろここに居る事に驚いている様子であった。

 

「リツおじさん?」

 

それどころか、ナギサはその人物の事を知っていた。

 

「久しぶりだね、ナギサ」

 

ナギサの傍に歩み寄り、そっと彼女の頭に手を置く男はシーナ・リツ。

ハルオの兄であり、仕事柄各地を転々としており多忙な身なのだが休みが取れた時には必ずといっていい程ハルオとシズクが経営するカフェに姿を出している。

ナギサも何度かリツと話した事がありそれなりに懐いていた。

今回姿を見せたのも、ハルオとシズクの訃報の知らせ、何より一人残されたナギサが病院で入院しているという話を聞き、態々仕事を後回しにして飛んできた程である。

 

「警察の人から話を聞いた。…大丈夫かい」

 

その問いにナギサは首を横に振った。

大丈夫な訳がなかった。無理をしてアリシアやカデーノの前では気丈にふるまっていた。

心配かけまいと。ただその一心で。

 

「そうか。…辛かったね」

 

そういってナギサを抱きしめるリツ。

そしてリツは彼女にある提案をした。

 

「そうだ。ナギサ、僕の所に来ないかい?」

 

「おじさんの所?」

 

「そうだ。実は来月から隣の町で仕事する事になってね。今までみたいに色々回る必要がなくなったんだ」

 

「そうなの?」

 

うん、と頷くリツ。

その提案をしたのもナギサを思っての事だった。

この町で過ごし、この町で両親を失った。ここで過ごしていくとなれば失った事を思い出してしまい辛い思いをしてしまうのではとリツは思っていた。

ならば町を外れ、落ち着くまで自分の元で過ごした方がナギサの為になるのではと考え提案したのだ。

 

「ただ僕の所に来るとなると、お友達とは一緒の学校に行けなくなる」

 

「もう会えなくなるの…?」

 

しまった、とリツは先程の発現を悔やんだ。

会えなくなるという事は今のナギサには禁句にも等しいからだ。

それを失念していた事に対して言葉に気を付けろとリツはそう自身に言い聞かせた。

 

「いや、そういう訳じゃないよ。毎日とはいかないけど、お休みの日とかにお互いの予定が合えば会える。隣の町に行ったからといって二度と会えないという訳じゃないさ」

 

「ほんと?」

 

「ああ、本当さ」

 

この町に居るのは辛い。でも友達を離れるのも辛い。

その二つがナギサの中でせめぎ合い、悩ませる。

 

「分かった。…叔父さんの所に行く」

 

だがわりと早い段階で彼女は答えを出した。

後日、ハルオとシズクの告別式が済んだと同時にナギサは病院を退院。

帰るべき家は全焼した事、そして彼女は叔父に引き取られる事になり隣町に引っ越す事に。

そして引っ越し当日にはナギサは友人であるアリシアに見送られながら数年過ごした町を去っていった。

 

 

 

ナギサが町を去ったその日の夜。

灯り一つない部屋。

そんな真っ暗闇に等しい部屋の中でその者は懐から携帯電話を取り出し、耳に当てた。

携帯電話越しから響くコール音。一回、二回、三回、四回…と続いた時、相手は漸く電話に応じ、その者はイラついた様子で話しかけた。

 

「遅いわよ。何をやってるの」

 

『ったく…あんたかよ。全くさっきまで良い気分だったのによぉ…シラケちまったじゃねぇか』

 

「知った事じゃないわ。それに今はあんたの事なんてどうでも良いのよ。……あれはどういうつもり?言った筈よね?派手にやり過ぎるなと」

 

『あー…アレか。そりゃあ悪かったなぁ~?なにぶんこっちも溜まってたんでな』

 

下品な笑い声を上げる男に堪忍袋の緒が切れたのか女は声を荒げる。

 

「ふざけないで!!あんたたちのせいで警察が四六時中嗅ぎまわってるのよ!!今まで幾ら払ったと思ってるの!?」

 

『あー、はいはい、叫ぶな叫ぶな。五月蠅いったらありゃしねぇ。…ったく、こっちだってな、金を貰っている以上はやる事はやってやるさ。ただな、一々命令口調で言われたらこっちで我慢出来ねぇんだ。今回はその腹いせだ。次も同じ事をして欲しくなければ、そのうざったい命令口調を直すんだな』

 

「ちっ…ただの雇われの分際で。まぁ分かったわ、直すから。それで良いわね?」

 

『それでいい。しっかしあんたも相当だな。今回狙ったガキ…あんたが受け持つクラスにいるやつだろ?甘い顔してやる事はやってんなぁ?』

 

その事を指摘されるも女は表情一つ変えない。

寧ろどうでも良いと言われんばかりに平然としていた。

 

「ガキの世話なんか嫌いだわ。騒いでばっかだし小汚いし。…私が居るのはお金の為。精々利用させてもらうだけよ。…それよりも暫くは身を潜めている事ね。良いのは居るけどそれはまた落ち着いた時に伝えるから」

 

『あいよ。暫く休暇でも取らせてもらうさ』

 

そこで通話が途切れる。

携帯をベットへと放り投げると女は窓の前に立ち、外を眺めた。

 

「ええ、そう…」

 

女の表情が歪む。

 

「ガキどもは丁度良い資金源にしか思ってないわ」

 

誰かに対して告げるかの様に、女…カデーノ・ババラは歪んだ笑みを浮かべた。

 

 

 

住んでいた町を引っ越してから二年が経過し、ナギサは十歳になっていた。

近くの学校に通いながら叔父であるリツと共に小さな一軒家で暮らしていた。

友人であるアリシアとは手紙での交流を続けており週に必ず一回はやってくる彼女からの手紙を楽しみにする。

時折フラッシュバックを引き起こし、錯乱しようになる時もあるがリツの支え、またかかりつけの病院から処方される精神安定剤を使う事で落ち着かせる。

そんな日々を過ごしているある日の事。

 

「忘れ物?」

 

休日にも関わらず仕事に出向いたリツから電話がかかり、彼からの台詞にオウム返しの様に問うナギサ。

 

『うん。ほら、朝少しバタバタしてただろう?それで大事な仕事道具の一つを忘れてしまってね。悪いけど持ってきてくれないかな?』

 

「いいけど…何処にあるの?」

 

『僕の部屋かな。多分机の上に置いてると思うんだ。黒いケースの中に入れてあるけど、ケースごと持ってきてくれると嬉しいな』

 

「分かった。待ち合わせ場所はスーツ屋さんの前で良い?」

 

スーツ屋はリツが働いている職場である。

ナギサも何度か店の前を通った事があった為、待ち合わせ場所としては分かりやすい場所と言えた。

 

『そうだね、そこにしようか。それじゃあお願いね』

 

「うん」

 

受話器を元の位置へ戻すとナギサは二階あるリツの部屋へと歩き出した。

忘れ物をするなんて珍しいと思いながらナギサはリツの部屋に足を踏み入れる。

リツの部屋は仕事の書類やら、ビジネス本やらで散乱しており、ゴミ屋敷とは言えずともお世辞にも綺麗とは言い切れない。

また部屋主であるリツは掃除が苦手である為、普段はナギサが部屋の掃除を担当している。

つい二、三日前に掃除した筈の部屋の惨状を見てナギサは呆れた様にため息を付く。

 

「後で文句言わないとね…」

 

待ち合わせ場所でその事を伝えようと決めると、ナギサは書斎の上にあった黒いケースを見つける。

それを手に取り、部屋を去ろうとした時、ある物を見つけ彼女は足を止めた。

 

「これは…」

 

足元に転がっていた物を拾い上げるナギサ。

それはこの家の中にある部屋のどれかの鍵であった。掃除を担当している事もあって、ナギサはどこの部屋の鍵かは知っている。

別段入ってはいけないと言われてないものの、自ら入ろうとは思わない部屋が一つだけある。

手にしている鍵はそこの部屋だろうと判断し今居る部屋から立ち去ろうとするもの幼さ故か気になってしまい、ナギサの中で好奇心が沸いてしまった。

リツの職場まではそう遠くない。

少しだけ見ていいだろうと思い、ナギサは二階の廊下の奥にある例の部屋を近づくと、手にした鍵で開錠し扉を開いた。

そしてそこに広がった光景にナギサは目を見開き、足を止めた。

 

「なに、これ…」

 

そこにあったのはガンキャビネットに納められた複数の銃。壁には周辺の地図が貼られており、何かの情報が直接の地図に記され、それどころか誰かの写真が複数貼られている。

 

「叔父さんって一体…」

 

何の為にこれが存在するのかなどナギサが知る筈もない。だがこの秘密の部屋を作り上げたのは他ならぬリツである事は明白であり、リツに対する疑問の声が上がったのは無理のない事であった。



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Act196 February 14th Revenge 4

─空いた風穴─

─それは時間が経とうとも塞ぐ事はない─


リツの素性に疑問を抱いたナギサであったが、今だけはそれを忘れる事にした。

忘れ物を職場までもっていかなくてはならず、それについて思考する余裕はなかったのだ。

秘密の部屋を後にし素早く身支度を済ませ、家を出る。

目指すはリツの職場。先程の事は忘れて、ナギサは目に映る景色や町の様子を眺めながらそこへと目指す事にした。

 

「変わらないね」

 

似た様な光景を何度も見る毎日。代わり映えのしない光景に飽きている様な口ぶり。

昔の彼女なら町はよく変わっていくから面白いと思っていたが今のナギサには昔ほどの純粋さはなく、彼女の性格は変わってしまった。

良く言えば落ち着いた。悪く言えば冷めた性格とも言える。

それも二年前に起きた事件、そして宿してしまった復讐心がそうさせてしまい、同時にナギサも自身が変わってしまった事に関しては薄っすらと気付いていた。

 

(ただそう分かっていた所で…)

 

昔には戻れない。

二年前には。楽しかった日々には。

 

 

ナギサがリツの職場に着いたのは、家を出て15分後の事であった。

店の前とは言わずとも近くのベンチに腰掛け、リツが来るまで待つ。

時期は三月の始め。暖かい日もあれば寒い日もある。

今日はその寒い日だったらしく。急速に発達した寒波の影響でとても冷え込んでいた。

 

「失礼」

 

「え?」

 

ふと声を掛けられ、ナギサはその方向へと向いた。

五十代後半と思われる眼鏡をかけた中年男性。

スーツを着こなしたその様はジェントルマンを彷彿とさせる。

 

「急にお声掛けして申し訳ございません。少しよろしいでしょうか」

 

「は、はあ…。どうぞ」

 

「ありがとうございます。…とても冷え込んでいる外で座っている貴女をお見かけしてつい居てもいられず。宜しければあちらにお入りなりませんか?」

 

男の言うあちらとはリツが働いている職場を指していた。

何故そこなのかという疑問と同時に、目の前に居る男は職場の人だろうかと思うナギサ。

 

「え、えっと…」

 

だがスーツを買いに来た訳ではない上に見に来た訳でもない。

確かに外は冷えるので長居はしたくないが何の用事もなく店内に入るというのは気が引けるというもの。

どう説明したものかと言葉に悩むナギサを見て男性はハッとした様子で何かに気付き、礼儀正しく頭を下げた。

 

「大変失礼いたしました。私、あちらの店で働いている者で、アンジュル・ムルシェと申します。貴女様…ナギサ様の事はリツさんからお伺いしております」

 

「叔父さんの…でもどうして?」

 

「急遽対応しなくてはならない事があり彼が対応を。それにより代役を頼まれまして」

 

「成程…。それじゃあ、えっと…少しの間ですがお邪魔します」

 

相手が良いと言ったとしてもそこは驕らず、礼儀正しく頭を下げるナギサ。

それを見てアンジュルはええ、と答え彼女を店内へと案内した。

店内は暖かく、同時に高級スーツやら様々な商品が展示されており、初めて訪れた店を興味深そうにナギサは見渡す。すると店の奥に展開されていたコーナーに目が留まる。

 

「女性用のスーツもあるんだ。てっきり男性だけのしか置いてないって思ってたけど」

 

「様々なお客様に対応させていただく為、当店では男性、女性問わず取り揃えさせてもらっております。スーツ以外にもナギサ様にとって身近なものも取り扱っておりますよ」

 

そう言ってアンジュルが先導する様にあるコーナーへと歩き出し、彼の後をナギサが追う。

レディースのコーナーを抜け、着いた先にあったのは、確かに今のナギサにとっては身近なものと言えるものが並んでいた。

 

「学生服…。何か意外というか。スーツだけじゃないんだ」

 

「初めてここを訪れたお客様はそうおっしゃいます。今では需要がないとすら言われておりますが、機能性、デザインなど優れた衣装だと私は思っております。着方を変えさえすれば私服としても扱えますから」

 

「確かに…」

 

色とりどり、デザインも異なり、オプションも付いてくる。

幅広く揃えている点、これに対する力の入れようが実感できる。

展示されている商品を眺める中、後ろから小走り気味で二人に近づいてくるのが一人。

歩み寄ってくる音に気付いた二人は後ろへと振り向くと、そこにはスーツを着たリツがいた。

 

「すいません、店長。急なお願いを聞いていただいて」

 

「いえいえ、お気になさらず。私もリツさんの姪っ子であるナギサ様と少しお話してみたかったので」

 

(私と…?)

 

アンジュルの台詞に疑問を抱くナギサだが、あえて聞いていなかった振りをして、彼女はリツへと歩み寄り忘れ物である道具を差し出した。

家を出る前に見たあの部屋の事を思い出すと、リツに対する疑念は収まる事はない。

だがこの場でその事を問う程常識がない訳ではない。

 

「はい、これ。忘れ物」

 

「ありがとう。折角来たんだ。少し見ていくかい?」

 

「大丈夫だよ。さっきアンジュルさんが色々教えてくれたから」

 

元より長居するつもりはない。

やんわりと断りを入れるとナギサはアンジュルに一礼してから店の出入り口へと向かうのであった。

 

 

その日の夜。

仕事先から帰り、食事当番であるリツが作ったシチューを食しながら、リツと話しながらナギサは夕飯を楽しんでいた。

何時もの様に他愛のない話を広げる二人だが、ふとナギサは食べる手を止め、それに気付いたリツが問う。

 

「ん?どうしたんだい、ナギサ。もうお腹いっぱい?」

 

「うんん、違う」

 

お腹いっぱいになった訳ではない。

では一体何のなのかと首を傾げるリツにナギサは忘れ物を届ける前に見た、あの秘密の部屋の事を切り出した。

 

「私、見たの」

 

「何を?」

 

「…銃とか、何かの地図を置いてあったあの部屋を」

 

「!」

 

驚きを見せるリツ。

しかしその反応はナギサが思う程のものではない。

いつか知られるという事を覚悟していたのだろう。リツの表情は僅かに強張る。

 

「そっか」

 

「うん。…だから聞くね。叔父さん、何者?」

 

先程まで団欒は消え去り、温かったシチューは冷めてしまった。

今この場を支配するは冷たい静寂で、それを生み出すのは食卓を囲む二人のみ。

その静寂がどれほど続いたか。強張っていたリツの表情が緩み、彼は諦めたかの様な笑みを浮かべた。

 

「ご飯を食べたら話そう。それで良いかい?」

 

「…分かった」

 

夕飯を食べ終えるまでの間会話は無く、只々寂しいだけの空間が広がっていた。

第三者から見れば何とも居たたまれない光景である。

 

 

夕食を終え、ナギサはリツと共に例の部屋を訪れていた。

初めて訪れた時のまま、部屋には無数の銃と壁に貼り付けられた地図、写真。

冷静に考えれば、何かを探っているという事が分かる。そしてこれをやったのはリツだという事も明白である。

傍にあった椅子に腰かけるとリツは対面に立つナギサに先程の問いに対する答えを口にした。

 

「単刀直入に言おう。…僕は所謂便利屋紛いな事をやっていた殺し屋さ。かれこれ十年近くは続けている」

 

「あちこちを動いたのはそういう事だったの?」

 

「ああ。…ハルオやシズクさんにはこの事は伝えてない。身内に殺人鬼が居るだなんて思いたくないだろうからね」

 

その事にナギサは何も言えなかった。

叔父であるリツが裏の人間である事に対し少しばかりショックであったが、自身の父であり、そしてリツの弟でもあるハルオに対しリツがその事を言えるかどうかと言われると言えない。

明かすにもそれ相応の覚悟がいる上に、結果が決して良い方向に働くとは限らない。

だからリツは隠し通してきた。墓に持ち込む気でいたのだ。

だが彼は明かした。例の事件の生き残りであるナギサに。

 

「…今でも続けているの?」

 

「ああ。昔みたいに動き回らず、この町に身を置きながら依頼を受けている。実の所、あのスーツ屋も表向きはああだが、僕みたいな連中が装備を整える為に行くような場所さ。銃、防弾使用の衣服やら色々取り揃えている。ブラックマーケットとでも言った方が良い」

 

「冗談と言いたいけど信じるほかないみたいだね。…ん?待って。じゃあどうしてあそこで働いているの?」

 

「それはアンジュルに誘われたからさ。君の事を話したら、表向きの顔として雇われないかって」

 

まさかアンジュルもそう言った人間だとはと驚きを覚えつつもナギサはそれ以上は問う事はせず、今度は壁に貼り付けられた地図の事を尋ねた。

 

「じゃああの地図は?お宝さがしをしている様には見えないけど……ん?」

 

ふと、ナギサはその地図を見てどこか違和感を感じた。

初めて見る地図ではない。そんな気がしてならなかったからだ。

どこでこの地図を見ただろうかと記憶の引き出しを引っ張り出していく。そして数分も経たぬ内にナギサはその地図がどこを示しているかの答えを導き出した。

 

「もしかして…私が居た町の地図?」

 

「そうだ。あの事件が起きてから二年間、僕はずっと調べていたんだ。ハルオとシズクが死んだあの事件は決してどこぞのチンピラが起こしたものではない」

 

「どういう意味…?」

 

その言い方はまるで誰かに狙われていたとでも言わんばかりの口振りであった。

ナギサ自身、決してあの時の事を割り切ってはいない。今でも錯乱する事があり、それが証拠だ。

ただ彼女はあの事件の犯人は町に居るどこぞのチンピラだと思っていた。

しかしリツは言う。突発的ではないというのだと。

 

「全て分かっている訳ではない。…あの事件は綿密に練られた計画的な犯行。それだけは断言してもいい」

 

「…」

 

「それにこの二年間、知り合いを通じて警察の動向も調べてもらった。そしたら警察はあの事件に関してはやたら消極的みたい。捜査している様に見せかけている節が多々確認できたそうだ」

 

「え…」

 

その事実にナギサは言葉を失う。

この二年間、警察から数回であるが捜査状況を電話越しであるが聞いていた。

しかし嘘であった。捜査しているだけと見せかけているだけの嘘。

それを理解した時、つい最近まで鳴りを潜めていた復讐の炎が再び燃え盛った。

警察は当てにはならない。ではどうするか?

 

「叔父さん」

 

「何かな?」

 

決まっている。

 

「私に銃の扱い方教えて」

 

残された者の役目として。

自身が裁きを下すまで。

それ以外の考えなどナギサにはなかった。

 

「ナギサ……うん、分かった」

 

少しだけ迷いながらもリツは教える事を約束した。

理不尽に奪われたのだ。大切な家族を。

まだまだ教えてもらう事もあった。まだまだ共に過ごしたかった。

しかし誰かの悪意が幸せを奪い、彼女は一人に残されたのだ。

殺しの技を覚えさせるのは気が引ける部分はある。それでもという思いが強かった。

 

「じゃあ、まず銃を選ぼうか。そこにあるので好きなのを選ぶと良いよ」

 

そう言われガンキャビネットに納められた銃を眺めるナギサ。

銃の事に関しては全くもって分からない。

だが直感を頼りに彼女は一丁の銃を手に取った。

 

「これにする」

 

それは銃身が下部に備えられているリボルバー。

今はあだ名をつけられてなど居ない。

だが後にその銃はPaine killer(鎮痛剤)と名付けられる様になる銃。

マテバ2006Mとの出会いである。

 

 

そして時は流れる。

シーナ・ナギサが14歳の誕生日を迎える直前に事件は起きた。

そしてその事件をきっかけに彼女は敢行する。

自身から全てを奪った者達に対しての復讐を。




相変わらずのぐだぐだっぷり…許せ。

次回は…さて、どうしたものかな。

では次回ノシ


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Act197 February 14th Revenge 5

─暗闇に踏み入れる一歩前─


リツから銃の扱い、また様々な事を学び始めて早三年。

13歳になったナギサだが、あと一週間程度で14回目の誕生日を迎えようとしていた。

戦闘訓練には事欠かさず、リツと同伴であれば射撃場で入り浸り、様々な銃を撃ち、その扱い方を知り、同伴してなかったら人気の居ない所で本物のナイフで戦闘訓練し、たまにアンジュルの店で服の製作に協力するという毎日を過ごしていた。

とある日の夜。

普段であれば帰ってきている筈のリツが何故か帰ってきていない家の自室にて、先に夕飯を食べ終えたナギサがマテバ2006Mを手慣れた手つきで分解していた時の事だった。

部屋に置いてある電話がやかましい位の音で鳴り響いた。

その音が聞こえない訳がなく作業の手を止め、急ぎ足で電話が置いてある所まで向かうとナギサは受話器を手に取る。

 

「もしもし。どちら様でしょうか?」

 

リツからだろうかと思いながら相手へと話しかける。

しかし電話を掛けてきたのはリツではなく、ナギサが予想していなかった者からであった。

 

『ナ、ナギサちゃん…』

 

震えた声。

しかしそれが誰なのかナギサは悟る。

 

「その声……もしかしてアリシアのお母さん?」

 

『ええ…久しぶりね。元気してたかしら…』

 

「まぁ、特に変わりなく。それよりどうしました?様子が変と言うか…さっきから声が震えている様な…」

 

自身の名を呼んできた時から相手の様子がおかしい事は気付いていた。

その事を問いつつもナギサは何か嫌な予感というものを感じ取っていた。出来ればそれが気のせいであると思いたかった。

だが彼女の運命には理不尽が付きまとう。嫌な予感が当たっていたと知るのはその直後であった。

 

『アリシアが…失踪したの…』

 

「…え?」

 

握っていた受話器をつい落としそうになるも、すぐさま持ち直すナギサ。

しかしその表情は困惑と驚愕と疑問が入り混じっていた。

どう返したら良いのか分からず言葉に詰まる中、アリシアの母は言葉を続ける。

 

『三日前学校に行ったきり帰ってこなくて…警察に捜索願いを出したんだけど、それでも行方分からなくて…そっちの方でアリシアを見たりはしてない…?』

 

「ごめんなさい…こっちでは見てないです…」

 

『そう…。もしあの娘に似た娘を見つけたら連絡してくれる…?』

 

「はい…分かりました。…失礼します」

 

受話器を下ろし元の位置へと戻すとあまりのショックにナギサはその場で崩れ落ちる。

その表情は無表情で、瞳には光がなく闇が宿っていた。

事件に巻き込まれたのでは…。嫌な考えが彼女の頭に浮かぶ。

願わくばそうでない事を祈りたい。しかし勘は告げていた。

家出ではない。何かに巻き込まれた、と。

今の自分では何もできない。無力な自分を呪い始めた時、ふたたび電話が鳴った。

もしかすれば何か進展があったのかも知れないと急いで受話器を手に取るナギサはその期待は裏切られる事になる。

 

『ナギサ様でございますか?夜分遅く失礼します。アンジュルです』

 

「アンジュルさん?えっと…どうかしましたか?」

 

『ええ、取り急ぎ貴女様にご連絡したくて。……良いですか、落ち着いて聞いてください』

 

アリシアの母ではなかった事にナギサは内心残念に思うが、アンジュルが態々こんな時間帯に連絡してきた事に首を傾げた。

それにこの時間帯であれば店は閉まっている。リツが中々帰ってこない事と何か関連はあるのだろうかと思っているとアンジュルの口から、今のナギサが聞いてはいけない事が告げられた。

 

 

 

 

『警察から連絡がありまして…仕事で隣町で出向いていたリツさんが遺体として発見されました』

 

 

 

 

「…え?」

 

何かが砕ける様な…そんな幻聴がナギサの中で響いた。

まるで硝子細工が砕ける音、破片となってパラパラと落ちていって、そして粉々になっていく音が連鎖する。心が乱れる。頭が回らない。

何もかもっが真っ白になり、気付けば彼女はその場でしゃがみ込み呼吸を荒くしていた。

 

『ナギサ様?ナギサ様!!どうか気をしっかり持ってください!!ナギサ様!!』

 

受話器越しから声が響く。

しかしその声はまるで騒音の様に響き、言葉として彼女の耳には入ってこない。

 

「ああ…」

 

何故?と、彼女は問う。

何故自分の周りの人たちがこうも簡単に消えていくのか。

どうしてだ?だれがこんな事をした?

何が原因だ?

それは一つしかない。

全ての始まりはあの事件から…大事な家族を奪ったあの事件から始まっている。

 

(…………ヤル)

 

何かと共に復讐の炎が再び灯る。

まるでこの時を待っていたかのように。

 

(………テヤル)

 

涙は流れない。

流れるのは血。放たれるは銃弾。

 

(…ロシテヤル)

 

慈悲など与えない。全て撃つ。立ちふさがり、抵抗するものは全て。

それが女だろうが、子供だろうが知った事でない。

灯った炎は瞬く間に大きくなった。そしてそれは亡霊へと姿を変え彼女の背に憑りつく。

 

(コロシテヤル)

 

彼女の復讐を突き動かす原動力となり、復讐しろと耳元でささやいた。

 

「…」

 

思考がクリアになり、ナギサは顔を上げる。

しかしその表情は冷たい。外で降りしきる雪が暖かく感じられる程に。

 

『ナギサ様!聞こえますか!?』

 

「はい…聞こえますよ、アンジュルさん」

 

受話器を手に取り、アンジュルの声に答えるナギサ。

目に光は無い。暗黒が支配しているかのように。

抑揚のない声に電話越しであるにも関わらず、アンジュルは肝が冷える様な感覚を覚えた。

もはや普通ではない。つい声が震えそうになるが必死に抑え平静を保ちながら提案する。

 

『明日店の方にいらしてください。その感じだと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「分かりました。明日伺います…」

 

受話器をゆっくりと元の位置へ戻し、ナギサはふらふらと自室へ戻る。

机の上に広がる分解されたマテバを手早く組み立て直し手に取る。

そのまま近くにあった椅子に腰かけると彼女は一睡もすることなく次の朝を迎えた。

 

 

翌日。

必要な物を家から持ち出しナギサは学校の制服姿でアンジュルの店へと向かっていた。

男性用の大きめサイズの黒いショルダーバックを肩に下げ、行き交う人々の間を縫う様にして先へと進む。

ただ通りすがる人々は過ぎゆく彼女を見て、つい振り返ってしまう程、今のナギサは異様な雰囲気を纏っているのだがそんな事に興味を示す事無くアンジュルの店に到達。

迷う事無く店内にへと足を踏み入れると、今来る事を予期していたのかいつものようにしっかりとスーツを着こなしたアンジュルが待っていた。

 

「お持ちしておりました、ナギサ様。さ、奥へとどうぞ」

 

「ええ」

 

先行くアンジュルの後について行くナギサ。

バックヤードへと入っていき、そのままついて行くと周りの風景とは余りにも似つかわしくない扉が一つ。

まるで豪邸にありそうな造りをした扉。アンジュルがそこの扉の鍵を開き、ナギサへと奥へと誘う。

そしてそこに足を踏み入れた時、少々驚いた様にナギサは軽く周りを見渡した。

 

(裏だけの事はあるか…)

 

一つの壁に様々な銃が並べられ、違う方向へと顔を向ければ製作途中のスーツが複数のマネキンに着せられている。自分以外の誰かに渡す物なのだろうと思いながら、ナギサはアンジュルの方を向いた。

彼は銃が並べられている壁面を背にカウンター内に立っており、いつでもどうぞという状態を醸し出していた。無論ナギサも職場見学をしに来た訳でもないのでアンジュルの方へと歩み寄る。

 

「まずはリツさんの事、お悔やみ申し上げます。…葬式の方は私共方で受け持ちましょう」

 

「…ありがとう。裏の人間だからいつ命を落としてもおかしくないけど…そう言ってくれると嬉しい」

 

「はい。長い付き合いでしたからね。…では、始めましょうか」

 

アンジュルもナギサがここに来た理由はとっくに分かっていた。

とは言え若干の抵抗はあった。

二十歳に満たない。それどころか十四歳になろうとしている少女に銃を渡してもいいのか、と。

何十年にも渡り裏の世界で生きてきた彼でえ躊躇いがない訳ではないのだ。

しかし先逝ってしまった彼からの約束は守る必要がある。例の事件の調査を進めていく内に何者かに目を付けられ、いつ撃たれてもおかしくないと予知していた彼…リツからの約束を。

 

(恨みますよ、リツ…)

 

「リツさんからナギサ様の射撃の様子はお伺いしております。そこから判断し、私が貴女様に合う銃を見繕わせていただきました。まずこちらを」

 

嫌な役を押しつけてくれたものだと内心苦笑しながらもアンジュルは後ろにあるガンキャビネットからナギサ用に見繕った銃の内一つを持ち出し、彼女に渡した。

 

「まずはベレッタ92。そのままお渡ししても良かったのですが、僭越ながら私どもの方で少々手を加えさせていただきました」

 

「みたいね。マズルブレーキの装着、グリップも持ちやすい様に加工されてる。…ん?ああ…グリップに布張りが施してあるのか」

 

「よくお気づきで。ええ、長期戦が予想されると判断し施させて頂きました」

 

「成程…。お次は?」

 

「こちらでございます」

 

自分用にカスタマイズが施されたベレッタ92を傍に置き、アンジュルに手渡された銃を受け取るナギサ。

それは拳銃ではなく、サブマシンガンの部類に属するもの。

のちに未来の彼女が愛用する事となるMP5だった。

 

「ご愛用されているリボルバーと同じくこちらも良く利用なさっていたとの事で」

 

「うん。ほかのSMGも使ったけど、私にはこれが合ってるみたい」

 

「ふふっ、それを扱っている時の姿はまるで特殊部隊の部隊員みたいだとリツさんは言ってましたよ?」

 

「大袈裟だね。それにその台詞は姪に言う様な台詞じゃないと思うけど」

 

弾倉を差し込み、素早く構える素振りを見せるナギサ。

またよく利用していただけあってか、扱い方も手慣れている。リツの教えが出てきている事だろうか。

だがまだナギサは命のやり取りを経験していない。まだ踏みとどまるチャンスはある。

しかし彼女に纏わりつく亡霊は囁き続けるのだ。

復讐しろと。

だがこの荒れ狂った世界でも人殺しというのは決して勧められたものではない。

どんな理由があろうと一度その手を血に染めてしまえば戻れなくなる。まるで薬物に依存したジャンキーの様に。

 

(…殺す。誰であろうと)

 

彼女の覚悟はもはや城塞の如く堅牢なものへと化している。

だから止まらない。奪った奴らに銃弾を叩きつけるまでは。死を与えるまでは。

 

「ベレッタにMP5…まさかこれだけじゃないよね?」

 

「ええ、これだけではありませんよ。お次はごつくて大胆なのものでございます」

 

そういってアンジュルが次に差し出したのはイサカM37 ソウドオフモデル。

確かにごつくて大胆なものねと思いながらナギサはそれを受け取る。

三年間様々な銃を使ってきた彼女だが、長物に関しては苦戦した記憶があった。

ショットガンも例外ではなく、苦戦した覚えがある。とは言え銃を撃ち始めた時から三年経ち、身体的な成長も果たしている為、今はどうかと言われたら何とも言えないのが本音だったりする。

 

「本来であれば渡すべきものはここで終わりにするつもりでした。ですが…私も何度かお話させて頂いた身。年若い貴女様が亡くなられるのは心が痛みますので…。私から貴女様にいくつかプレゼントさせていただけませんか?」

 

それはアンジュルの本音とも言えた。

その思いを無下にする訳にはいかず、ナギサは静かに頷く。

 

「まずこれらを」

 

アンジュルからプレゼント。

幾つかの内、二つは銃であった。

 

「マテバ モデル6ウニカ。弾数は六。使用弾薬は.40S&W。そしてこちらは…」

 

「トンプソンコンテンダーでしょ?使用弾薬は…44マグナム弾ね」

 

「はい。…リツさんもこちらを使っていました。何故それを利用するかは教えてはくれませんでしたが」

 

「…そう。叔父さんが使ってたのならお守りとして持っていかないとね」

 

趣が過ぎると感じたナギサだが、何となくリツが射撃訓練場でそういう趣のある銃を使っていた事を思い出した。

アンジュルにバレない様に小さく苦笑いを浮かべる。

彼がそうであったように自分も人の事を言えた口ではないな、と。

 

「そして最後はあちらを。ナギサ様用に製作させて頂きました」

 

製作途中のスーツが並ぶ中、奥に一着だけ完成された服があった。

それは女性もので、外見からして学生服っぽく見える。全体的に黒がメイン。灰色のシャツ、白のネクタイ、一筋の白のラインが施された黒のスカート、ブーツ。

それらはアンジュルが、そしてここで働く裏の者達が作り上げた一品。

この世に一着しかないものがそこにあった。

情報もなしどうやって作り上げたのだと思うナギサであったが、前々からアンジュルの店で服の製作に協力したことを思い出していた。

 

「見た目こそは学生服ですが、表地と裏地の間には最新式のボディーアーマーに使用される生地を縫い込んであります」

 

「流石というか…凄いね。そこは純粋にそう思えるよ」

 

「お褒めの言葉、感謝いたします。では着てみてください」

 

アンジュルらが製作した服を受け取ると更衣室へと入っていくナギサ。

数分も経たぬ内に学校の制服から新しい装いに身を包んだ彼女が更衣室から出てくる。

 

「どうですか?」

 

「うん、サイズぴったり。きつくもないし、全然動きやすい」

 

「それは良かった。それとこれもお持ちください」

 

そう言ってアンジュルがナギサに渡したのは黒いコートであった。

数年後に伝説の魔工職人によって【サーヴァント】と呼ばれる魔装へと生まれ変わる事となるもの。

因みに今彼女が来ている服装同様に表地と裏地には最新式のボディーアーマーに使用される生地が縫い込んである。

 

「私共からお渡しできるのは以上となります。またリツさんが調べていた事に関しては、彼の人望もあってか…命を救われた者達が協力してくれるみたいです。念の為連絡先はこちらのメモに記載しておきましたので、お持ちください。それとリツさんと暮らしていた家に関しては私どもの方にお任せください」

 

「何から何まで…本当にありがとう」

 

着ている服の上からコートを羽織ると渡された複数の銃、弾薬、メモ類などを収めたショルダーバックを肩に掛けるナギサ。

そのまま立ち去ろうとするが、ふと足を止めアンジュルへと振り返り話しかける。

 

「…短い間でしたが大変お世話になりました」

 

礼儀正しくその場で一礼。

その様に少々啞然とするアンジュルだが、すぐさま何時もの表情へと切り替わる。

 

「いえ、私も貴女様とお話し出来て嬉しく思います。願わくば再びお会いできる事を…心の底から願っております。どうかご無事で、ナギサ様」

 

「…うん、ありがとう」

 

それを最後にナギサは売り場の方と歩き出す。

その後ろ姿が小さくなるまでその場に残ったアンジュルは彼女を見届けた。

 

 

店を出るとナギサは迷う事無くかつて過ごしていた町へと向かう事にした。

駅のホームで列車に乗り、そのまま揺れる車内で僅かな旅を楽しむ。だがその表情はどうにも楽しんでいる様子ではなく、どちらかと言えば悲しんでいる様にも見えるだろう。

しかし残念な事にそれに気付く者は居る訳でもなく、居たとしても声をかける奴はいない。

数年前、ある日を境に全てを失った町に到達するとナギサはまず安ホテルで部屋を借り、荷物を置いた後再び外へと出た。

花屋で花を買った後、彼女が向かったのは町の端にある集合墓地。

その墓地には理不尽によって命を奪われたナギサの両親が眠っている。

事件があった後はその時の事を思い出してしまい錯乱する事があった為に数年間町を離れていた。しかし今の彼女は割り切っていた。決して全部とは言いずらいが。

 

「…お父さん、お母さん…」

 

二人の名前が刻まれた墓標を見つけると抱えた花束をそっと墓標の前に置いた。

 

「…大きくなったよ。この姿を見せたかった」

 

町を離れてからの数年間。

それを語るかの様にナギサは二人へと伝える。

これが最後になるから。会わせる顔がなくなるから。だから立ち寄った。

神が与えてくれた最後の…本当の最後のチャンスを使って。

 

「…これから先、私はとんでもない親不孝者になる。許してほしいとは言わない。何故なら私が選んだ道だから」

 

薄っすらとナギサの声が上ずる。

頬を伝う一筋の涙が声が上ずる理由を物語っていた。

 

「…あっちで会う事ができたら会いましょう。出来なかった時は地獄の底から二人に向けて手紙を送るから」

 

伝えるべきこと伝えた後ナギサは静かにその場から去っていく。

復讐を成し遂げる為、全てを終わらせる為…。

シーナ・ナギサが暗闇に足を踏み入れる時がすぐそこまで迫ろうとしていた。




次回からはナギサちゃん多分ドンパチします。

またナギサの過去編では…友情出演も募集してます。
…ネタに困ってるし、何かないかなぁと感じてる方は感想なりメッセージなり一言どうぞ。
その際に詳細など説明いたしますので。

では次回ノシ


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Act198 February 14th Revenge 6

─全ての始まりを告げた─

─銃声による感嘆符となって─


二月十四日。昼の十二時。

墓参りを済ませた後、この日が来るまで滞在。

そして今日十四回目の誕生日を迎えた私は辺りが暗闇に覆われるまでの間、小さな古びたカフェで少しの間一服していた。白昼堂々と銃撃戦をする気などないからだ。

それに奴らは夜行性。巣穴から呑気に出てくる事は早々ないだろう。

だから焦る事はない。今はオイルの様なコーヒーを飲み、乾いたドーナツを頬張るだけ。

そうすれば今の私を動かそうとする燃料へとすり替わっていく。

味に関しては何とも言えないが私以外の客が居るあたり、個人差はあるらしい。

 

「…」

 

外を見れば吹雪が吹いており、氷雨が降りしきっていた。

歩道を歩いている人達も風と雪のせいで歩きづらそうだ。

今日は寒波の影響で町全体がこの有り様。

ニュースキャスターが言うには今日一日どころか二日間位は続くという。

目に見えて分かる味方は銃だけだと思っていたが、吹雪もその仲間入りをしてくれる。

どうやら長い付き合いになるに違いない。途中で裏切られるかも知れないが。

 

「…戻るかな」

 

最後の一口を口に放り込むと席から立ち上がる。

支払いを済ませ店を出るとそのままホテルの部屋へと戻る。

ベットの上にアンジュルさんから貰った大量の銃と弾薬、ショルダーホルスター、ガンベルト、マガジンポーチなどがバックの中から覗かせており、机には彼が言っていた協力者から得た情報を纏めたメモ用紙が散らばっている。

まず分かったのは両親を殺害し、そして家を放火した犯人は金だけで雇われたギャングのメンバーらしい。G.S、サウロウ・ハウンセン、ガルド・メイカーら三人が関与していたという。

G.S…その名は本名ではないそうだ。ギャング内で言うあだ名みたいなものなのだとか。

彼はこの町から離れた地区で活動するギャング組織のボスでサウロウとガルドは副リーダー的な存在だ。

サウロウは人を殺す事に楽しみを覚えるイカレ野郎で巨漢のガルドはそれが死に掛けだろうが生きていようがお構いなし、女性をボロ雑巾になるまでヤり続けるので有名らしい。

そしてG.Sがまとめ上げるギャング組織は強盗、強姦、殺人、違法薬物の売買などに手を出しており警察も手を焼く程面倒な組織だ。

最近では人身売買にも手を出したらしく、地区内にバーを装い裏で取引できるようにしてある店があるそうだ。

ボスの元に一直線に迎えたならそれが一番なのだが、そうもいかないのが現実だろう。

それに両親の殺した連中の組織を放置する気などない。

 

「…」

 

全てが明らかになった訳ではないが、協力者が何か分かれば逐次連絡を入れてくれるので問題ない。

雇い主に辿り着く足掛かりとして…まずはこのバーから始めるとしよう。

 

 

十七時を過ぎると段々と辺りは暗闇に包まれ始める。

外は人間だろうが人形だろうが凍り付かせる程の寒さだ。誰もが何かに追われているかの様に家路を急いでいた。

ホテルを出た私はMP5とイサカM37を収めたショルダーバックを背負い、それ以外の装備を身に付けたままJ.Bが率いるギャング組織が拠点としている地区へと向かう為に地下鉄を使った。

薄暗い揺れる車内で駅を二つ程超えた時、寒さの影響か、あるいは神経が過敏になっているのか、私は銃を顔面に突き付けられた感覚が覚えた。

それもその筈でやつらが拠点としている地区は駅にも影響を及ぼしているらしく、よほどの狂人でなければその駅に降りようとはしない。

何故ならば身ぐるみを剥がされるか、命を取られるかというどちらかの選択肢を迫られるからだ。

それを踏まえるとは私は狂人に該当するだろう。気分は全くもって最悪だったが。

電車が目的地である駅に到達し車内から降りると周囲を見渡した。

無人の構内、薄汚れた自販機。それだけが広がっており、私以外の人の姿はなかった。

 

「…?」

 

聞けば電車に降りた時点でギャング共が出迎えしてくれるらしいが、今日の駅はそうでもないらしい。

特別な用事があるのか、それ以外の理由があるのかは分からないが無駄弾を使わずに済んだのは良かったと思うべきなのか、おかしいと思うべきなのか。

どちらにせよ引き返す気などない。地上へと繋がる階段を昇り、地上を目指す。

一つ、一つ階段を昇る度に履いているブーツの底が当たる音が響き渡り、地上に近づくにつれて寒さが伝わってくる。

 

「っ…」

 

階段を上がりきり、地上へと出ると冷たい風と共に雪が私を出迎えてくれた。

黒く濁った雪の上を歩き、例のバーがある所へと歩いて行く。

調べてもらった情報によると、買い手が例え歳が十代半ばであろうと商品を売るらしい。

ただし中に入るには店の門番にとあるものを見せなくては無い。それを見せると中に入れさせてくれる。

横断歩道を渡り商店街の前を通り抜け、通りを三本程過ぎると目的地がある大通りが到達する。

暗く寒いこの大通りは飢えた化け物たちで溢れかえっている。

クスリで頭がイカれたのか裸足で道路のど真ん中で踊り狂う男が居れば、路地裏の手前で男達が目をぎらつかせながら周囲を威嚇し、ガタイの良い男が露出の多い服を着た娼婦と共に店の中へと消えていく。

ここだけが世界が違うのではないかと思わせる。そしてこんな危険極まりない異世界に足を踏み入れる私はこの世界の住人達からすれば余所者であり、丁度良い餌だ。

 

「ここか…」

 

暫くして、例のバーに到達した。

情報通り、店へと繋がる入り口には屈強な門番が立っている。

とはいえ問題ない。

私はその男の前に立つとコートの懐から端の部分が破り捨てられた紙幣を取り出し、それを見せた。

 

「……まじか」

 

男から目からして私が成人ではない事は気付いているのだろう。

その声が物語る様に少しばかり驚いている様子だ。

しかし何故驚くのかが分からない。…男は新入りとでも言うのだろうか。

 

「お客なのだから通してくれてもいいよね?」

 

「…あ、ああ、行きな。バーテンに見せた後、合言葉を忘れるんじゃねぇぞ?」

 

「分かってる」

 

門番が道を開け、店の方へと歩き出す。

掃除もされていない階段を降りていくとバーの入り口ドアを見つける。灯りが灯っている事から営業はしているのは明白。

ドアノブを握り、開く。

備え付けられたドアベルが来客を知らせ店内に入る

裏というだけであって、小汚い。

中にいた客は酔っているのかこちらには見向きもしない。とはいえ銃をテーブルに置いてある以上ギャングの一員という事は間違いない。何故ならこの店にいる客は全員客を装ったギャング共なのだから。

店内に入るとバーテンだけがこちらを見ている。

臆する事無くカウンターに腰掛けると、私は先程男に見せた端の部分だけが破り捨てられた紙幣をそっと差し出した。

それを差し出す意味はバーテンも気付いているのだろう。彼は私に尋ねてきた。

 

「…何が欲しい?」

 

「左端の一番下の棚。右から三番目のボトル」

 

これが合言葉。商品を求める者が売り手へと伝える言葉。

その言葉を知ってさえいれば、純真無垢な子供が買い手だろうと商品を見せる。

金さえ落としてくれるなら大歓迎。こいつらはそういう奴らなのだから。

 

「…来な」

 

バーテンが傍に立っていた男に店番を任せ、裏へと引っ込んでいく。

自分もカウンターから降り立ち、バーテンの後に続く。

薄暗く、掃除もされていない空間が私を向かい入れ、先行くバーテンの後を追う、するとバーテンはレバーらしき装置が取り付けられた何の変哲の壁の前で足を止めた。

 

「驚くなよ?」

 

そう一言だけ伝えるとバーテンは私の背を向けてレバーに手を掛けると、壁が横へとスライドした。

成程…隠し通路という事か。そしてそこに商品が並べられている。

駆動音が響き渡り、バーテンが背を向けている隙に私は腰のホルスターに収めてあるマテバへと手を伸ばし、引き抜く。

 

「ほら、好きなのを……ッ!!!?」

 

男がこちらへと振り向いた時には、私は既にマテバ…またの名をPainekillerを突き付けていた。

撃鉄を起こし、狙いを定める。そして─

 

 

 

引き金を引いた。

 

 

 

乾いた音と共に放たれた銃弾が男の眉間に穴をあけた。

そこから噴き出す鮮血。地面へと崩れていくバーテン。

この時を持って…私は犯罪者となった。

 

 

その銃声が全ての始まりを告げる感嘆符となって鳴り響く。

銃声を聞きつけたギャングの一人が拳銃を片手に裏方に現した瞬間、ナギサはもはや自分でも驚く位の速さで男の方へと振り向き、銃を構えた。

 

「…!」

 

.40S&W弾を装填したマテバから三発の銃弾が放たれ男の体に喰らい付き、死に追いやる。

地面に崩れるもナギサは氷の様な冷たい表情でそれを見つめ、何ら感情を抱かず歩き出し、コートの懐から手榴弾を取り出すと表へと出る出入口近くの壁に身を寄せ手榴弾のピンを抜いた。

 

「くそったれが!!良い気分になってたのによぉ!!」

 

「ぐちゃぐちゃうるせぇぞ!!良いから見てこい!!」

 

表から聞こえるギャング共の焦る様な声にナギサは無慈悲にも安全ピンを引き抜いた手榴弾を表へと投げ入れた。その隙にマテバの弾倉に銃弾を込める。

投げ入れられたそれにギャング共が反応する間もなく、手榴弾を炸裂。

爆発音が響き渡り、粉塵が舞う。店内全体を巻き込み、爆発に巻き込まれた男達が四肢の一部が吹き飛ばされるとナギサは飛び込む。

抵抗する余裕もなく、それどころか痛みに悶えるギャングを見つけるとナギサは命乞いする暇も与える間もなく苦しむ男の頭に銃弾を叩きこむ、そのまま次の標的を見つけそのまま迷う事無く弾丸を叩きこむ。

まるで流れ作業の様に一人、また一人と瀕死のギャング共を殺していく。やがてその場で生きている人間が居ない事を察しナギサは裏方で殺した男の元へと向かおうとしたその時だった。

 

「う、動くんじゃねぇ!」

 

後ろから自身を呼び止める声によって彼女は足を止め、声の主の方へと振り向いた。

店の出入口で体を震わせ手に持った銃でナギサに睨みつけるのは、門番を務めていたあの男だった。




ドンパチとは言えないけど許せよ…。

では次回ノシ


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Act199 February 14th Revenge 7

─復讐─

─それは彼女を動かす燃料─


硝煙と血、そして酒の香りが入り混じった店内で私は震えた腕で銃を向けてくる男をじっと見つめた。

撃とうと思えば撃てた筈だというのに私を呼び止めた男は何故かすぐさま撃とうとはしなかった。

その事が気掛かりだった。

 

「な、何なんだよ…お前は…!?何が目的で…!」

 

あからさまにこの惨状に狼狽えている様子。

問いかける声は震えている。

 

「変な事聞くね?こんな事やってたら何が目的なんて分かると思うけど」

 

この裏の世界では何が起きても可笑しくない。

いくら新入りとは言えそれぐらいは分かっていると思っていたが、彼はそうでもないようだ。

だが銃を突き付けられている以上は黙って撃たれるつもりない。マテバの弾倉を取り出すと薬莢を捨て、素早く弾丸を込め弾倉を戻すと銃口を男へ向けた。

 

「…ッ」

 

「撃ち合いを望むならそれでもいい。だけど一つ聞いていい?」

 

「な、何だよ」

 

「どうして撃たなかった?わざわざ声を上げなくても後ろから撃とうと思えば撃てた筈」

 

「…それは」

 

紙幣を見せた時の反応と言い、この反応と言い…違和感を覚えずにはいられず、つい尋ねてしまう。

その事を問われた時、男の表情が暗くなり構えていた銃も何故か下ろし始めた。

 

「…妹を思い出しちまったんだ」

 

「…妹さんを?」

 

「ああ…。歳は14、病気持ちで今は病院に入院してるんだ…」

 

「私と同い年か…。それで?病気で苦しんでいる妹さんがいる貴方は何をしているの?」

 

何となくだが想像はつく。

だが想像でしかない為、決めつける訳にはいかない。

私は銃を突き付けたまま男の反応を待った。

暫くして男は呟く様に口を開いた。

 

「…金がいるんだ」

 

思った通りだった。

病気を患っている妹の為に、治療費を稼ごうとしているのだろう。

しかし何故ギャング組織に入ろうと考えたのかは分からない。

手っ取り早く稼げると踏んだのだろうか。

 

「だから組織に?」

 

その問いに男は小さく頷く。

家族思いなのは良いが、手段が宜しくない。

確かに金は稼げるかもしれない。だがその代償は人生そのものだ。

兄が人の人生をめちゃくちゃにしてまで治療費を稼いだと妹が聞けばどんな反応するのか。

決して良い気などしないだろう。寧ろ責任を感じてしまう。

 

「そう…」

 

それは駄目だ。この男にも、そして妹さんのためにも。

それに男には私の様になってはいけない。まだ踏み込んでいない内に回れ右させる必要がある。

 

「…今の内に逃げなさい。どうせ入ったばかりなんでしょ?」

 

「で、でもそれじゃあ、金が!」

 

「普通に過ごしている人の命を奪ったり、人生を滅茶苦茶して得た金が良いと?なにふり構っていられないのは分かるけど、少し周りを見たら?貴方が犯罪に手を染めたって聞いたら妹さん…いいえ、貴方の家族が悲しむ。そんな姿を見たいの?」

 

私にはもう家族が居ない。

復讐に走ろうとする私を止める家族も、叱ってくれる家族も、悲しんでくれる家族も…。

誰一人とていないのだ。

だから今の私がある。復讐に囚われた負け犬へと化した私が。

だけど彼は違う。家族がいるのだ。暖かく迎えてくれる人たちがいるのだ。

 

「日雇いでの仕事だけど、そういった求人を見かけたりする。高いとは言えないけど、少なくとも犯罪に手を染めるよりかはマシ。…だから行きなさい。妹さん、家族を泣かせる奴になる前にとっととここから逃げ出しなさい。それでもというのであれば…」

 

向けていたマテバの撃鉄を起こし、引き金に指をかける。

 

「足でも撃ち抜いて、強引に止めさせるから」

 

「…!」

 

「選んで。真っ当な道に戻るか。それとも痛い思いしてから真っ当な道に戻るか。悩む時間なんて与えない。すぐに答えて」

 

強引ではあるが、これが良い方法だと思いたい。

正直彼を撃ちたくはない。妹さんに恨まれたくないので。

 

「……分かった。戻るよ…家族を悲しませたくはない」

 

「良い返事が聞けて良かった。それと一つ聞いていい?」

 

「何だ?」

 

「ボスは今何処にいるか分かる?」

 

正直な所、ボスの居場所は分かっていない。

この地区で活動しているという事だけは知っているのだが、明確な場所はまだ分かっていない。

協力者がその情報を仕入れるまで待つという事も出来るだろうが、さっさと行動したい方だ。

入って間もない彼に聞いた所で意味はないと思うが聞かないよりはまだマシと言えた。

 

「ボスならここからを離れ大通りを抜けた先の屋敷にいる。聞いた話だとボスは普段からそこから出てくる事ないらしい」

 

「成程…うん、ありがとう」

 

「…ああ」

 

握っていた銃がその手から落ちると男はゆっくりと後ろへと振り向き、外へと歩き出していった。

その背を見届けると私は裏方の方へと向かった。

彼が真っ当な道へと戻る事、そして病気を患っている妹さんが元気になる事を祈って。

 

 

裏方にはギャングの死体は転がっており、私は動かなくなったバーテンの傍に落ちていた鍵を手に取った。

恐らくだが、この隠し通路の壁面に備え付けられた扉の鍵だと思われる。

 

「…」

 

並んだ扉の前に立ち、鍵穴に鍵を差し捻る。すると難なく扉の鍵は開いた。

スライド式なのだろう。取っ手を握り、横へとスライドさせる。そしてそこに広がっていたのは寒い空間にも関わらず、まるで奴隷の様な扱いをされた子供たちの姿があった。

しかしどういう事だろうか?この場に居る子供達は全員少女だ。

 

「…だれ?」

 

扉の付近で立っていた子供が私に声をかけてきた。

まともな食事すら与えられていないのか、痩せこけている。

 

「ちょっとした通りすがりだよ」

 

正義の味方です、と名乗る気など全くもってない。

取り敢えず子供達がここに居る事は分かった。しかしこのまま子供達を連れて行動は出来ない。

牢屋から先を出れば、死体が転がっているのだ。流石にそんなものを見せる訳には行かない。

ならば私から警察に連絡する必要があるだろう。

 

「ちょっと待っててね?お巡りさん呼んでくるから」

 

その台詞に子供が頷くと私は表へと向かう。壁に備え付けられた電話機の前に立ち、受話器を手にとってから通貨を一枚入れる。

そのまま警察に繋がる番号を押してから受話器を耳に当てた。

響くコール音。それが二回程続いた時、警察は出たので相手の反応を待つ事もなく伝える。

 

「警察ね?S09地区、第三番通り、暗黒街で店を構えるバーに警察と救急車を数台向かわせて」

 

『ちょ、ちょっと待て!いきなりなにを…!』

 

「バーの中には行方不明だった子供たちがいるから早めにね。それじゃあ」

 

捲し立てる様に警察に場所を伝えると受話器を元に戻す。

さて、警察が来る前にここから出ていく必要がある。

子供達に何も言わず去るのは少しばかり気が引けるが、私にも成さなくてはならない目的がある。

後は警察に任せるとしよう。子供達が無事親の元に戻れる事を祈って。

 

 

バーを出て三十分程歩いただろうか。

彼が言っていた通り、G.Sの屋敷があった。その近くに来た時、ある物を見て私は近場にあった木に身を寄せた。

本来であれば正面から入っていきたい所であったが、そうもいかなかった。

銃を携えた綺麗な女性達、赤い制服を着た男、正門前に群がるかのように集った装甲車の側面に見覚えのあるロゴマークは描かれていた。

 

「…グリフィン」

 

何故グリフィンがと思いたいが、G.Sが率いるギャング組織は警察でも手を焼く様な組織だ。

それ故にグリフィンに協力を求めたと判断していい。

しかし困った事になった。このままグリフィンに任せてしまえば、こちらの目的が果たせなくなる。

そればかりは私としても困る。奴らを殺すのは私の役目だ。グリフィンに任せる気などない。

 

「表が無理なら…」

 

裏から行くしかない。

幸いというべきか、作戦自体は開始していない。出来るだけ早く裏口に向かう必要がある。

身を寄せていた木から離れると一気に駆け出す。

冷たい雪の上を白い息を吐きながら駆け抜ける。どうやら警備はそこまで硬くない。寧ろ温い。

外からネズミが近寄った所で気付きはしない。

逆を言えば屋敷内は獣で沢山という事だ。自動小銃やら散弾銃とかいったパーティークラッカーを携えた獣たちが今か今かと戦いを待ちわびているに違いない。

 

「あった…」

 

大きく迂回する形になってしまったが屋敷の裏口に到達。

向こうはまだ行動を起こしていない。息を整えながらその内に背負っていたバックからMP5を取り出す。

弾倉を差し込み、コッキングレバーを元の位置へと戻す。

準備を整えた。だが私の作戦は強いて言えば"作戦ナシ"だ。

映画や漫画の様に都合よく行く訳がない。規則もなければ必殺技や呪文がある訳でもない。

信じるのは運だけ。でなければこんな事をやってはいられない。

だから神経を研ぎ澄ますかしかない。一秒でも、一分でも、一時間でも出来るだけ長く。

 

「不用心ね」

 

運の良い事に裏口は開いていた。

音を立てずに中へと侵入する。裏口の鍵を閉めると私は歩き出す。

雇い主にたどり着くにはまずG.Sから情報を聞き出さなくてはならない。道中余計なものが行く手を阻むだろうが、知った事ではない。

逃がした彼を除き、この組織に属する連中の犯罪履歴は電話帳並みに分厚い。それも一冊どころか四冊ほど積み上がる。

 

「!」

 

どこからか銃声が聞こえた。作戦が始まったのだろう。

グリフィンか私。リーダーを仕留めるのはどちらになるかは分からない。

ただ分かる事は一つだけある。

 

 

 

 

この屋敷からギャング共が生きて出る事はないだろう。

 

 

 

 

 




次回はG.Sの屋敷にてグリフィンも交えて銃撃戦。


ここでナギサの愛用するリボルバー、ちょっと紹介。

:マテバ2006M
若かりしナギサが愛用するリボルバー。
銃身に【Paine killer】と言葉が刻まれている。
誰かを殺す度に彼女の心が傷つく。だからそれを抑えるものが必要だった。
鎮痛剤…その名を与えられた銃を握っている時だけ彼女の心の痛みは安らぐ。
そうしなくては主の心が壊れてしまう事を知っているから。


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Act200 February 14th Revenge 8

─復讐に囚われた私は知っている─

─復讐には痛みと苦しみが常に伴うことを─


屋敷内のそこら辺から銃声が響く。

また一人、また一人とギャング組織の構成員が倒れ、戦術人形がダミーと連携して攻撃を仕掛ける。

戦況はグリフィン側に傾いてるもギャング組織は決して戦意喪失などしない。それどころか強力な重火器を持ち出して反撃する姿を見受けられていた。

まだまだ油断できない戦場。そんな中にMP5を手に敵と激しい銃撃戦を繰り広げるナギサの姿があった。

 

「!」

 

神経は最大にまで尖らせている影響か。或いは復讐の炎が影響しているのか。

MP5を三点バーストにした状態で撃ち続ける彼女の表情に焦りは見られない。

それどころか銃弾が頬を掠っても、表情を歪ませる事すらない。人を殺した時も同じ表情。

淡々と撃ち、淡々と殺す様に敵は恐怖を覚える。

 

「あ、あいつも人形か…!?」

 

「な訳ねぇだろ!!とりまきみてぇのが居ねぇだろうが!!」

 

そう言うもその声は震えていた。

いつ自分が標的になるのか、見えもしない結末に体が震えてしまう。

その恐れが油断となってマグナムを手にしていた男の頭に銃弾が直撃。開いた穴から血が噴き出し、男が後ろへと倒れると周囲の者達がどよめく。

グループ内でいうリーダー的な存在だったのだろう。それを失ったせいか戦意喪失…

 

「このガキがッ!!仲間を殺しやがってッ!!」

 

ではなく、怒りを露わに男達はより一層激しくナギサへと銃を連射した。

誰であろうと仲間がやられたら憤るのは当然の事。

だがその台詞がナギサの怒りを更に増幅させる要因となった。

何も関係ない、ただ普通に生きていた人の人生を滅茶苦茶にしておきながら、のうのうと生きていた奴が死んで、何故その同類が怒りを覚えるのかが分からなかった。

 

「奪っておきながら何をッ…!!」

 

そして何よりもそれが許せなかった。

怒気を交えながら呟き、ナギサはMP5に新たな弾倉を差し込むと身を隠していた壁から飛び出した。

駆け出しながらMP5をフルオートで連射し弾幕を形成。敵との距離を縮めていく。

鬼気迫るその姿に敵はついたじろぎ、その隙を見逃さなかった彼女は地面を蹴り勢い良くサブマシンガンを持っていた男の顔に膝蹴りを叩きこんだ。

 

「がッ…!」

 

強烈な一撃を受け、ゆっくりと倒れる敵。

その隙にナギサは手に持っていたMP5を銃を向けようしてくる近場の敵に向かって投げ飛ばした。

投擲されたMP5が顔面に直撃するが、その直後銃の引き金が引かれる。

しかし吐き出された弾丸は濡鳥の様な黒髪を掠ったのみで終わり、ナギサは素早くホルスターに収めてあったM92Fを引き抜き、お返しと言わんばかりに撃ってきた敵へと連射し確実に息の根を止めた。

だがまだ終わっていない。

後方から伝わる殺気に素早く反応し、振り向いたと同時に不意を打とうした敵に向けて三発発射。

弾丸が胴体に直撃し相手が倒れるのを確認するとナギサは足元の鼻から血を流す敵へと銃口を突き付ける。

 

「ま、待った!待ってくれ!!降参する!!だから命だけは…!」

 

仲間をやられた事に男は両手を上げ降参の意を示した。

 

「お断りよ」

 

敵の降参など聞くつもりなどない。

無慈悲に告げられた言葉と共に銃の引き金に指がかけられた。

だが男は命欲しさか、ある事を提案した。

 

「ボ、ボスの場所を教える!あんたの狙いはボスなんだろ!?どこに居るか知ってる!!だから撃たないでくれ!!」

 

その提案にナギサは引き金を引こうとしていた指を止めた。

確かにボスであるG.Sはこの屋敷にいる。だがどこの部屋に居るかは分かっていない。

手当たり次第部屋を当たる気でいたのだが、それでは弾の無駄遣いになる事も理解していた。

 

「…良いよ。()()()()()()()()()()

 

ボスの居場所を知れるのであれば良い。

突き付けられていた銃が離れると男は少し安心した様に話し出した。

 

「多分ボスは三階にある奥の部屋だ。階段上がった廊下の先にある」

 

「そこにはボス以外にサウロウもガルドもいるの?」

 

「ふ、二人か?それは分からねぇ…」

 

サウロウとガルドの居場所が分からなかった事に関しては落胆しつつもG.Sの居場所だけでも知れたことにナギサは内心喜んだ。

そのまま約束通り見逃してくれると思ったのか男は安堵の息を漏らすが、何故かナギサは銃口を突き付け引き金を指をかけていた。

 

「お、おい!?話がちげぇじゃねぇか!!?ボスの居場所は話しただろッ!!?」

 

「…今は撃たないといっただけよ。話した後は誰も撃たないとも言っていないし殺さないとも言っていない」

 

最初から生かして返す気などない。

だから言ったのだ。()()()()()()、と。

そして相手は全てを話した。ボスの居場所が分かった以上、この男は要済み。

生かす理由などなかった。

 

「情報ありがとう。そしてさようなら」

 

「ま、まっ─」

 

発砲。

鉛玉が男の頭に風穴が開き、命乞いの声はピタリと止んだ。

死体へと化したそれを冷たい瞳で見つめながらも、興味が失せた様に彼女は先程投げ飛ばしたMP5を回収し、ショルダーバックから新たな弾倉を取り出し装填すると先へと歩き出した。

 

「三階…出来ればグリフィンと鉢合わせしないように気を付けないとね」

 

敵対するつもりなどない。

だが自身がしている事を向こうが知ったらと止めに来るだろうと彼女は思った。

出来るだけ鉢合わせしないにしなくてはならない。

それを再認識した上でナギサは階段を上がり始める。

二階を超え、そのまま三階に到達した時だった。別の階段から誰かが上がってくるのも視界の端で捉え、素早くナギサは近くの壁に身を寄せ、そっと覗き込んだ。

 

「イイ女だと思ったらにニセモノかよぉ~…でも楽しめそうだなぁ。そう思わねぇか、サウロウ?」

 

「本物の女どころか人形の…ダミーか?それ。それすら抱く気か、ガルド?」

 

「ぐひひひ…使える穴もあるし、胸もあるしなぁ……早くおっぱじめたいぜぇ」

 

「…はぁっ、お前のそういう所は分かんねぇよ。無表情なのを見てもなんも面白くねぇ」

 

巨漢な男が抱えた人形のダミーをなめ回す様に見つめる傍らでナイフを手にした細身の男が気持ち悪そうにその様を見ていた。

サウロウ・ハウンセン、ガルド・メイカー…ナギサの家族を殺した三人の内の二人がゆっくりと向かってきていた。

 

「…見つけた」

 

手にしていたMP5をショルダーバックにしまい、そこから彼女はイサカM37とスタングレネードを取り出した。二人がすぐそこまで近寄ってきていることを確認し、スタングレネードを投擲した直後に耳を塞いだ。

 

「!!?」

 

「…!?」

 

二人は待ち伏せされていた事を察するもすでに遅く、投げ入れられたスタングレネードが炸裂。

強烈な閃光と劈く様な爆発音が視界と聴覚を奪うと二人の断末魔が広がった。

手にした銃もナイフもダミーをその手から離れた直後、散弾を装填したイサカM37を構えたナギサが飛び出す。

 

「くそったれが!!くそっ!!くそっ!!」

 

「目が!目が!目がああああっ!!!」

 

転げまわるサウロウとガルド。

その様は何とも哀れとしか言えず、近寄ったナギサが二人を見つめる目は冷たい。

さっきまでの余裕のある態度はどこへ消えたのか。

 

「どうせ耳もやられているのでしょうから聞こえないよね…」

 

そう言って彼女はサウロウの体を勢い良く踏みつけ押さえつけるとショットガンの銃口を突き付けた。

 

「六年分の恨みを込めた銃弾…。有難く受け取りなさい」

 

それがサウロウへ向ける最後の言葉であった。

引かれる引き金。銃声と共に近距離で放たれた散弾がサウロウの顔面を吹き飛ばした。

飛び散る肉片と血。頬に付着した血を拭う事はせず、フォアエンドをスライドし排莢すると動かなくなったサウロウからガルドへと視線を向ける。

その方へ歩み寄りながらナギサはイサカM37を左手に持ち、右手でマテバを引き抜いた。

サウロウが殺された事は知る訳もなく、のたうち回るガルド。

そしてナギサはマテバを構えるが、体ではなく─

 

「これはお母さんの…そしてお前に酷い目に遭わされた彼女達の痛みよ」

 

あろう事か男の一番大事と言える所へと目掛けて銃弾を叩きつけた。

そんな所を撃たれてしまえば、たまったものではない。醜い豚の言葉にならない叫び声が高らかに響く。

 

「うるさい」

 

今度は胴体に目掛けて残りの五発を全弾叩き込んだ。

脂肪が多いからか、ガルドはまだ息をしていた。とは言えほぼ死に掛けだった。

弾倉に新たな銃弾を装填すると再びガルドへと連射。

この時ガルドは死んだのだがそれにも関わらず死体にナギサは執拗なまでに銃弾を叩きつけた。

家族を殺され、母親に限ってはこの男に犯された後に殺害された。

冷たくなった夫の前にしながら母を生き地獄を味わされたのだ。

ナギサとしてはこれぐらいしなくては気が済まなかった。

 

「…」

 

六発撃ち切ると彼女は弾倉を取り出し薬莢を捨て、新たに銃弾を装填。

弾倉を元の位置に戻し、そのままマテバをホルスターへ収めた。

目を反らしたくなる程、無惨な姿になった二人に背を向けるとナギサはG.Sのいる部屋へと歩き出した。

銃声が鳴り止む事を知らないこの屋敷で一歩ずつ着実に彼女は部屋へと近寄って行く。

そして扉の前に来ると、中から男の声がナギサの耳に届いた。

 

「サウロウ!ガルド!返事しろ!おい!!?聞いてんのか!?」

 

死んだ事は知らずに叫ぶ男の声。

その声にナギサは確信する。

声の主は間違いなくG.Sだと。

 

「…ふぅ…」

 

軽く息を吐き、己を落ち着かせる。

手に握った銃は冷たくも彼女に力を与える。

G.Sを殺した所で復讐は終わっていない。寧ろ始まったばかり。

ドアノブに手を掛け捻る。開いた扉の先へナギサは足を踏み入れる。

その体に修羅を宿らせながら。

 

「ッ!!」

 

G.Sだと思われる男が部屋に入ってきたナギサに気付くと素早く振り向きながら銃を構えようとする。

だがナギサの方が早かったのか、ホルスターから抜き放たれたマテバがG.Sが握っていた銃を撃ち飛ばし、そのまま彼の片足と両肩に銃弾が叩き込まれた。

襲った激痛に地面に倒れるG.S。その隙に接近したナギサは撃たれた箇所を踏みしめながらマテバの銃口をG.Sを向ける。

襲う激痛に顔面を歪ませるG.Sにナギサは告げる。

 

「…おしゃべりしましょうか」

 

ただ雇い主を知る為、彼女は問う。

今に至る原因となったあの日。それを知る者へと。

 

「…六年前の二月十四日。とあるカフェを営む夫妻が惨殺され、暮らしていた家が放火された事件。その事は覚えてる?」

 

「知る訳ねぇだろッ!!」

 

「…」

 

まだ自分は命令できる立場にあると勘違いしているのか、苦痛に満ちた表情を浮かべながらもG.Sは反抗的な態度を取っていた

グリフィンがいつこの部屋に飛び込んできてもおかしくない今、時間をかける訳にはいかない。なるべく早めに終わらせる為にかナギサは、G.Sの片足へと目掛けて発砲した。

開けられた穴に断末魔をあげそうになるG.S。しかしそれすらも許さんとばかりにナギサは更に強く撃たれた箇所を踏みしめる。

 

「よく聞きなさい、親玉さん。貴方達が誰かに命令されてそのカフェの夫妻を殺した事は分かっているの。私が知りたいのは雇い主。話すのであれば撃たない。反抗するなら何発か撃ち込む。さ、どうする?」

 

協力者の情報もあって、ナギサはG.Sがどういう奴かは理解していた。

クスリのし過ぎで少しばかり度胸がなく、常に苛立っている。憂さ晴らしに十代ぐらいのコールガールを呼んでは憂さを晴らしているという。

ともあれG.Sが自信にありふれた奴であればどんなに銃弾を叩きつけた所で吐きはしない。

しかしナギサの目の前に居る男は違う。息を荒くし、どちらかというと怯えていた。

 

「…」

 

引き金に指をかけられ、無言の圧がG.Sに襲い掛かる。

そして己の保身の為か、彼は大きな声で言った。

 

「分かった!分かった!教える!!その事なら覚えてる!店を襲った事も全部!!」

 

「じゃあ誰が貴方達に金を出したの?」

 

「カデーノだ!カデーノ・ババラって女だ!!そいつが俺達に頼んで来たんだ!!その店に居るガキを攫えって!今日も話があるってあいつが働いている学校で落ち合う予定だったんだ!!」

 

「成程…」

 

G.Sが吐いた雇い主の名を知った時、不思議とナギサは驚きはしなかった。

むしろカデーノのが雇い主だった事よりも、自分が狙われていた事に驚きを覚えていた。

そして思った。

自身が生まれなければ、両親が死ぬ事などなかったのかも知れない、と。

 

「名前も場所も教えただろう!?だからもう撃つな!」

 

「ええ、そうね。約束通り撃たない」

 

足を退け、彼女はそっとコートの懐からあるものを取り出した。

撃たれた事によりその痛みに悶えるG.Sを少し間見つめると、彼女は手にしていたものをG.Sの傍へと転がした。

それは安全装置が外された手榴弾。しかし痛みに悶えるG.Sはそれには気付かない。

ゆっくりと閉じられる扉。扉に背を向けて歩き出すナギサ。

 

「…これなら撃った事にはならないでしょ」

 

撃たないとは言ったが、誰も殺さないとは言っていない。

扉の向こうから聞こえた爆発音を背に彼女はその場から去っていった。

 

 

屋敷があった方向から未だに銃声が響く中、屋敷を出た私は町の中を歩いていた。

黒く淀んだ雪の上を歩きながら、考える。

全ては私が生まれてきた事が原因だった。私が生まれたからこそ、両親は死ななくてはならなかったのだ。

卑屈な考えかも知れないが、この寒い中で歩いていると思考はそれに染まり、同時に私は両親と共に死なせてくれなかったこの世界を恨む事にした。

 

「懐かしいなぁ…」

 

かつて何度も歩いた通学路。その思い出を辿る様に私が学校へと目指す。

全ての原因は私にある。しかしだからといって復讐を止めるという考えはない。

もう足を踏み入れてしまったのだ。今更後戻りはできない。

 

「…」

 

学校にたどり着いた時は、部屋には灯りが灯っている筈がなかった。

しかしカデーノ・ババラはここにいる。

G,Sが苦し紛れにいった嘘という可能性もあっただろう。だが私の勘は告げていた。

あの女はここにいる、と。

正門をよじ登り校庭に侵入する。

この時間帯は校内に入るドアは全て施錠されている。

しかし老朽化により施錠が出来ない扉が一つだけある。

私の記憶が正しければ、西側の入り口からすこし離れた場所にその扉がある。

そこが修理されていない事を願いながら、校庭を抜けていく。

西側の入り口前を通り過ぎ、立ち入り禁止と綴られた黄色のテープを跨ぎ例の扉の前に到達する。

嬉しい事に修理はまだされていない様子だった。ドアノブを握り、そのまま内部へと侵入する。

校内はとても暗く、見通しが悪い上に窓の僅かな隙間から入り込んでくる風が低く音を立てながら駆け巡っていっていた。

この学校の何処かに彼女…カデーノ・ババラという魔女がいる。

魔女狩りなどとうの昔の話だが、どうやらそのちょっとした再現を自身が担う形になりそうだ。

 

「さて…」

 

銃を片手に私は歩き出す。

魔女が身を潜めているであろう部屋を目指して。




(悪党が)目に入れば殺す。(悪党が)目に入らなくても殺すという状態のシーナ。
もうこの娘あれですわ、止まらないわ…

それと現在計画中のコラボ作戦ですが、一つ情報を上げると…シーナが大きく関係します。

では次回ノシ


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Act201 February 14th Revenge 9

─復讐に例外は付き物

─個人の復讐を利用するものだっている

─要は勧善懲悪じゃないということだ


風の音だけが不気味に響くだけであり、校内は静かであった。

暗闇が支配する中、マテバ2006M、またの名をPainekillerを右手に携えナギサはどうしたものかと頭を悩ませながら歩いていた。

下手に部屋の出入りしていたら物音でカデーノ・ババラに気付かれ逃げられる可能性もある。

しかしどこに居るかは分からないのも事実。

G.Sからもっと情報を吐かせるべきだったと後悔しながらも彼女は決心する。

 

(手当たり次第調べるほかないのか…)

 

できるだけ音を立てずに調べていく他ない。

渡り廊下の中間地点を過ぎようとした時、彼女はあるものを見つけた。

 

「…職員室から光?」

 

偶然にもその場所は窓から二階にある職員室の窓を見る事が出来た。

そしてナギサが言葉にした様に、職員室から薄っすらと光が漏れ出していた。

普通であれば職員室の中から光が漏れている事自体有り得ない話。この時間帯は誰もいないのだ。

だが光が漏れていた。理由は一つ。今この学校の廊下にいるナギサ以外の誰かが居る事を差している。

そしてそれはカデーノが自分の居場所を明かしている様なものであった。

 

「…」

 

偶然にも魔女の居場所が知ったナギサはPainekillerを握り直すと二階へ続く階段へと向かう。

一歩、また一歩と確実に階段をあがっていきながら、ナギサは思う。

何故私だったのか、何故アリシアが誘拐されなくてはならないのか…。

何が目的なのか。カデーノに対する疑問が次々と湧き出し、思考に浸る。

 

「…直接聞かないと駄目か」

 

いくら考えた所で答えが導き出せる訳ではない。

現状魔女に聞くほかなかった。

頭を切り替え、階段を上り切るとそのまま職員室にへと歩き出す。

 

「…い。……んはそろえ…」

 

職員室に近づくにつれ、室内から女の声が漏れ出ていた。

その時点でナギサは察した。職員室にカデーノ・ババラが居る、と。

Painekillerの撃鉄を起こしてから扉を開いたままの職員室の前でナギサは足を止め、そっと中を除きこんだ。。

 

「ええ…。G.Sは駄目です。グリフィンにやられました。……はい。明日中に次の候補に連絡を取っておきます。……配分のリストを製作中です。これも明日中にはお渡しできます」

 

すぐそこまで修羅が迫ってきている事も知らずにカデーノは自身のデスクでパソコンと向き合いながら携帯電話で誰かと話していた。

カデーノが電話に夢中になっている隙にナギサは職員室に忍び込んだ。

足音を立てず息を潜ませゆっくりとカデーノの背後から迫る。そして彼女が相手とのやり取りを終え、携帯電話を傍に置いた瞬間、背後から忍び寄ってきたナギサがPainekillerの銃口をその頭にへと当てた。

 

「…六年ぶりですね。元気でしたか?…カデーノ先生」

 

「その声は…まさかシーナ?」

 

「ええ、そうです。…お前に家族を殺され、一人生き残ったシーナ・ナギサよ」

 

久しぶりの再会を二人は決して喜ぶ事などしない。

奪われた者、奪った者が再会すれば起きる事など一つしかないのだから。

 

「随分とお行儀が悪くなったのね?途中で転校してたとは言え、世話になったでしょう?」

 

「恩なんて微塵にも感じてない。…さて、少しお話ししましょうか」

 

この時、ナギサはカデーノの手が携帯近くに置かれてあった拳銃に触れようとしていたのを見逃さなかった。頭に突き付けていた銃の銃口を素早く手の甲へと向けて発砲。

放たれた弾丸が白く柔らかい手の甲に風穴を空け、カデーノは悲鳴を上げながら椅子から転げおちる。

 

「くぅッ…!!このガキが…!!」

 

「そのガキはここまで来るのに大物小物含めて15人くらい殺してきたけど?」

 

「……たかが復讐の為に?ガキのくせして狂ってるわ」

 

「褒め言葉として受け止めるわ」

 

手を撃っただけで逃げられると判断したのだろう。

有無も言わさず、ナギサはカデーノの足を撃ち抜いた。先程同様に悲鳴が響き渡るが追い打ちをかけるようにナギサは撃たれた箇所に履いているブーツを力強く押し当てる。

激痛に顔を歪ませるカデーノに銃を突き付けながら、ナギサは口を開く。

 

「聞かせてもらいましょうか?私を狙った理由、誘拐したアリシアの居場所…色々とね」

 

「それを話したら見逃してれるのかしら?」

 

「見逃す訳ないじゃない」

 

最初から生かして帰す気などない。

突き付けられた銃と共に冷ややかな視線を送る目からその意思を感じ取ったカデーノは危機的状況にあるにも関わらず笑みを浮かべた。

 

「可笑しい?」

 

「…ええ、可笑しくてたまらないわよ。たかがガキの分際で私達に楯突こうとしているのだから」

 

(私()…?)

 

G.S達の事かと思うもナギサはそれを否定し、先程カデーノは電話相手に言っていた事を思い出す。

G.Sは駄目だ、グリフィンにやられた、と…。

 

「そしてそんな奴に─」

 

「ッ!」

 

「私は殺される気なんてないのよッ!!!」

 

その言葉通り、カデーノは一瞬の隙をついて袖に隠していたスリーブガンを発砲。

余りにも一瞬だった為、引き金を引く間もなく、寸での所でナギサは体を反らして弾丸を避けた。

しかしそれが隙となってカデーノから蹴りが貰い、そのまま机に激突。

逃げ出す時間が生まれ、それを決して逃さなかったカデーノは激痛に耐えながらも起き上がり片足を引きずりつつ必死の形相で職員室から逃亡。頭から激突した為、後頭部に痛みを感じながらもナギサは立ち上がりすぐさまカデーノの後を追う。

長い鬼ごっこになる。そう思いながらナギサは駆け出していく。

地面にはカデーノが流した血痕の後が通路の奥へと続いており、片足を引きずっている為逃げる姿が遠くに見えていた。

 

「鬼ごっこなんて…何年振りか…!」

 

血の痕を辿りながら冷気が漂う廊下を走り抜け、後を追う。

面倒な事になったと思いながら走るナギサ。角を曲がり、そのまま階段に差し掛かった瞬間、彼女の視界に落下してくるカデーノの姿が映った。

 

「きゃあああああっ!!」

 

「ッ!!」

 

まるで誰かに就き飛ばされた様な態勢。

しかし高さ的には死ぬほどではない。殺す相手をわざわざ受け止める気などなく、一歩下がってカデーノが地面に激突する姿を見届けるとナギサは素早く階段の方に体を向け銃を構えた。

黒い影。しかしそれは人の姿をしており、階段を一歩ずつ降りながら歩み寄ってくる。

カデーノを止めてくれた事に感謝しつつも、それが決して味方とは限らない。

警戒心を最大にまで引き上げながらナギサは歩み寄ってくるそれと距離を保つ為に片足を一歩後ろへと引いた。その時相手からナギサへと話しかけた。

 

「出来れば銃を下してもらえるかな?君にも用はあるけど敵対するつもりはないから」

 

「私に?」

 

自分にも用がある。

その言葉に疑問の声を上げるナギサ。そして暗闇から姿を現したその者を見て困惑した表情をうかべた。

スラリと長く伸ばされた髪、翡翠色の瞳。

紺色のダッフルコートに身を包み、小さな葉っぱのワッペンが施されたマフラーを巻いていた。

それだけならまだ良い。ナギサが困惑した点は別にあった。

 

(男性?それとも女性…?)

 

男性とも女性ともとれる声に中性的な顔立ち。

服装も相まってその者が男か女かは全く分からなかったのだ。

反応に困っているナギサに気付いたのか、相手はにっこりと笑みを浮かべると口を開いた。

 

「僕は女さ。見た目がアレだからね。困らせてごめんね?」

 

「いいえ。答えが聞けただけで充分。…それで貴女は誰?」

 

相手が女なのは分かった。

だがそれでもナギサは銃を下ろす事はしなかった。

警戒を解くにはまだ早いと判断した為である。

まだ信用されていないと感じたのだろう。無理もないか、と呟き女はナギサの問いに答える。

 

「僕はヴェルデ・ルスタリオ。何者かと言われたら…そうだね、私兵みたいなものさ」

 

「……目的はそこの女を守るため?」

 

「いいや、違うよ。さっきも言ったじゃないか。敵対するつもりはないって。だから銃を下ろしてくれると嬉しいかな?」

 

笑みを崩さないヴェルデに対しナギサは逡巡した後に向けていた銃の銃口を彼女から外し、その代わりに地面と激突し身動きが取れずにいるカデーノへと向けた。

 

「こいつはどうするつもり?」

 

「そうだね…情報を吐かせた後は始末する気さ。その女と僕は色々あるからね」

 

「色々?」

 

「そう。いろいろ、とね…」

 

笑みを湛えたままだというのに、ナギサはその声が冷たく感じられた。

その間にヴェルデが倒れたままのカデーノへと歩み寄る。

決して笑みを絶やさず、手にしたライフルを突き付けながら。

 

「はぁっ…はぁっ…だ、誰よ、あんた…!」

 

「酷いなぁ…本当に覚えてないのかい?僕は覚えているというのに」

 

「し、知る訳ないじゃないッ!!」

 

「そっか…。…自分で生んだ子供ことすら覚えていないのか」

 

ヴェルデの口から出た台詞にナギサは目を見開き、カデーノは固まった。

僅かに入り込んでくる風の音が場を支配する。

呼吸する事を忘れる程、ヴェルデから出た台詞は驚愕だった。

 

「娘だったの?」

 

「うん。僕はこの魔女の腹から生まれた。とは言ってもこいつはまともに育てるつもりなんてなかった。夜遊びばっかりで、金のある男と付き合ってホテルで毎日盛っていたらしいよ?」

 

「屑ね。…ん?待って、ルスタリオってお父さんの…?」

 

「そう。病気持ちにも関わらず僕を愛情込めて育ててくれた。…もうこの世にはいないけどね」

 

「…きっと天国で幸せに暮らしてると思うよ」

 

「そうだね。きっとこの女より綺麗で立派な女性と幸せに暮らしている…僕もそう思いたいかな」

 

さて…と前置きを呟きながらヴェルデはライフルの引き金に指をかける。

前からはヴェルデ、その後ろからはナギサ。

逃げられない。

それを悟ったカデーノは最後の手段に出た。

 

「か、金ならある!聞きたい事も全部教えてあげる!!だからお願い!命だけは…!」

 

その様は余りにも哀れと言えるだろう。

散々罪の無い人の命を奪い、罪のない人の人生を滅茶苦茶しておきながらこの女は助かろうとしている。

最早罪の意識すらない。

それを理解した時、ナギサはヴェルデに尋ねた。

 

「私に用があると言っていたよね?それって私が知りたい事を教えてくれるの?」

 

「ああ。勿論。そのためにここに来たんだ。君と接触する為…そしてその情報をより正確にするためにね。その女から知ろうとしている事…僕も知っている。幾らでも答えよう」

 

「そう。なら…」

 

Painekillerの撃鉄が起こされ、銃口がカデーノの頭に突き付けられる。

魔女に対する裁きが今、訪れる。

 

「私、家族…そしてヴェルデ、彼女のお父さん…そして全てを奪われた者達からお届けもの。一つ残さず─」」

 

「ま、待って!おね─」

 

「受け取りなさい」

 

全てをかき消す銃声が何度も響き渡り、周囲に反響する。

顔に叩きつけれた六発の銃弾。

目を背けたくなる程、カデーノの顔は無茶苦茶になっていた。

辺りに血液を飛び散り、硝煙が辺りに漂う。

再び訪れる静寂。その中でナギサはPainekillerの弾倉を取り出した。

 

「冥銭代わりよ。有難く持っていきなさい」

 

そして死体となったカデーノの顔にへ空になった薬莢を落とすのであった。

 

 

 

殺すべき相手を殺した後、私はヴェルデと共に職員室に訪れていた。

カデーノを始末した後直ぐにヴェルデに何故接触してきたのかと尋ねたのたが、職員室で話すと答えた為にここにいた。

カデーノのデスクで椅子に腰かけパソコンを操作するヴェルデの後ろで棚の上に座りながら、その作業姿を見つめていた。

私兵とは言っていたが、どうも違う気がしてきた。

何やら情報を何処かに送っているようにも見える。

一体彼女は何者なのやらか…。

 

「聞きたい事に答えようか。何から答えたら良いかな?」

 

「奴らの目的、そしてアリシアの居場所」

 

「おや?自分が狙われた理由は知りたくないのかい?」

 

確かに自身が狙われた理由も知りたいと言えば知りたいが…。

 

「後から聞く」

 

先に目的とアリシアの方が優先すべきだ。

私が狙われた理由も目的から何とかなく察する事が出来るかも知れない。

 

「そっか。…なら奴らの目的から答えようか」

 

巧みにカタカタとキーボード操作するヴェルデを見つめる。

漸く目的が知れる。

そして倒すべき敵の姿も。

復讐の炎、修羅を宿る事になった元凶が彼女の口から告げられた。

 

「歪んだ性癖の為、お小遣い稼ぎ…そして医療の貢献だよ」

 

しかし目的の三つの内、最後の一つに関しては全くもって理解出来なかった。

 

「…二つは分かるけど、最後は意味が分からない。医療の貢献?どういう事」

 

「確かに…どう考えても最後に関しては理解出来ないだろうね。だから一つずつ話していこう。まずはこれを見てくれるかい?」

 

そう言われ私はヴェルデの傍に歩み寄り、画面に除いた。

そこにはあの魔女が作ったと思われるリスト表が映し出されていた。

B、AP、AH、MHと四つの枠が設けられ、それぞれの枠内に名前と年齢が記載されてあった。恐らくだがこれはカデーノが電話相手に言っていた配分リストなのだろう。

しかしこのリストがどういう意味を示すのだろうか。

 

「これは今までカデーノによって誘拐された子達をどこに送るかのリストさ。このBのリスト…何処か変だと思わないかい?」

 

「そう言われても…」

 

名前は感じからして少女。そこは特に変とは思わないが…ん?

 

「その感じだと気付いたみたいだね」

 

「ええ。このBのリストにいる子達、殆どが十歳から八歳の子供しかいない」

 

「正解。B、AP、AH、MHは場所を差し、それぞれ目的が存在している。Bはバーで性癖を満たす為、APは遊園地で選定、AHは廃ホテルで解体、MHは精神病院で訓練となっている。そこで起きている内容に関しては後から話すとして…こんな事をやっている奴の事を先に話そう」

 

羽織っているコートから携帯端末を操作した後にヴェルデは私にある人物が映った画像を見せてきた。

そこに映っていた人物に私は驚きを覚えた。

何故ならテレビでよく見る人物だったからだ。

 

「マルセル・インバランド…金持ち出身でありながら自らの実力で議員になった人じゃない。確か貧困問題に対して精力的に活動してた筈…」

 

「そう。まさしく時の人。テレビで見ない方が珍しいくらいだね」

 

「そんな人が実は極悪人という訳ね…」

 

「まぁね。全てはそいつからというか…インバランド一家が発端かな」

 

「どういう意味?」

 

マルセル個人による悪行ではなく、一家総出での悪行というのだろうか。

 

「元々インバランド家は不動産会社を幾つも持つ家でね。それは金に困る事はなかったし、家を守る為に私設武装組織を創立し、街全体を影で支配下に置いていた。まぁ金と権力と力を有していた訳さ。そんな一家はある問題に頭を悩まされていたんだ」

 

「それは?」

 

「大規模に広がったスラム街。当てもなく彷徨う子供達…決して望んだ訳でもないにも関わらずそういう状況に置かれた者達が町の景観を汚していると感じ、どうにか追い払う手段を模索していたのさ」

 

確かに私が住んでいた地区は大きなスラム街が存在していた。

第三次世界大戦後、行く手を失った者達が寄り添い出来上がった街であり、そこには多くの人が暮らしている。

現に両親が営んでいたカフェにもスラム街出身の母親が子供の為の養育費を稼ぐためアルバイトとして雇われていた事があった。

何度か顔を合わせた事もあったし、幸いにして決して悪さをするような人ではなかった。

必死に頑張ろうとしている姿に両親も微力ながらも何かしてあげられる事はないかと話し合っている姿は何度も見てきた。

明日を生きる為、必死にお金を稼ごうとしていた者達が沢山いた。とはいえ全員が全員善良とは言い切れないのも事実。だが…

 

「追い払うって…結構物騒な考えをしてたのね?」

 

「ああ。金の持ち過ぎで狂わされた一家だからか、人格までも狂ってるんだろうね。平和的な解決なんて微塵にも思っていなかったのさ」

 

「…それで平和的解決じゃない解決方法を思い付き決行したと」

 

「そういう事。だけどそのままでは意味がない。何か利益のある方法を─」

 

「!」

 

それは突然であった。

ヴェルデの台詞を遮るかのように遠くからサイレンの音が聞こえた。

警察がやってきている。

サイレンの音でそれを理解するのは実に容易である。

お互いにサイレンが聞こえた方向に視線を向けつつも、私はヴェルデに話しかける。

 

「一旦ここを離れた方が良さそうね」

 

「みたいだね。なら急いで離れようか。続きは後で話そう」

 

椅子から立ち上がるヴェルデ。

私も棚の上から降り立ち、即座に行動を起こす。

響き渡るサイレンがまるでイカレた聖歌隊の様に迫るまで少しばかりか時間はある。

捕まるつもりなどない。

私はヴェルデと共に侵入の際の利用した扉へと向かい、そのまま外へと脱出。

彼女が乗ってきたであろう車の助手席に座り込むと、ヴェルデの運転の下、車両は学校を後にした。

すれ違う警察車両を見届けながらも、私は思う。

この復讐はそう簡単に終わりを告げる事はなさそうだと。




どうやらこの復讐はそう簡単に終わるものではないらしいです。

さてこの復讐劇…一体どれほどの血が流れるのやらか…。

一応ヴェルデについて紹介を

:ヴェルデ・ルスタリオ
男か女か、どちらなのだろうかと困惑させる外見を持つ者。
性別は女性であるのだが、言動、外観もあってどっちかと思う者も少なくない。
ある理由でナギサに接触し、情報を与えている。
また彼女はカデーノ・ババラと父親の間に生まれた子。
自身を捨て、父親を捨てたカデーノに憎悪を抱き、復讐しようと思っていた。。

では次回ノシ


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Act202 February 14th Revenge 10

─最早個人的な復讐では留まらない─


学校を後にした私達だったが、ヴェルデがお腹すいたと言い出した為、私は深夜営業の食堂の駐車場で彼女が運転していた車の中で待機していた。

先程まで暖房はついていたが時間が経てば冷えるというもの。少しばかり冷える車内でヴェルデが買い出しに向かっている間、私は彼女の車の中で頬杖をついたまま外を眺めていた。

屋敷を出た時と比べると吹雪は幾らか落ち着いている様にも見える。だが止む事は知らない。

どうやらまだ私の味方で居てくれている様だ。

ただ茫然と眺めていると車の運転席側のドアが開いた。

 

「お待たせ。温かいコーヒーと出来立てのバーガー、買ってきたよ」

 

そういって運転席に乗り込むヴェルデ。

そしてその手にした紙袋から私が注文した通り、コーヒーとバーガーを渡してきた。

ありがとうとお礼を伝え、受け取る。

淹れたてのコーヒーの香り、出来立てのバーガーの匂いが鼻をくすぐる。

深夜営業の食堂だから大して期待はしていなかったが、どうやらそうではないらしい。

 

「それじゃあいただきます」

 

包み紙を外しバーガーを頬張る。

うん、悪くない。少々味は濃いがこれはこれで良い。コーヒーも良い味をしている。

昼食時に食べた乾いたドーナツとオイルの様なコーヒーと比べるまでもない。こちらに軍配が上がるだろう。

 

「美味しいかい?」

 

「うん。これが最後の晩餐にならない事を祈るばかり」

 

「ふふっ…確かに」

 

これが最後の晩餐になる可能性は無い訳ではない。

個人的にはこれ以上のものを望む。だがそれにありつけるまでの間はそう簡単にいくものではない。

 

「さて…このまま食べながら、さっきの話をしようか」

 

「お願い」

 

「任された。…まぁただ権力や金を使って、追い出すだけでは意味がないと感じたインバランド一家はどうにかしてその追い出すという行いに利益を生み出す事出来ないかと模索した。そしてそれを思い付き、実行した」

 

きっと…。

こんなにも美味しい食事の中で話すような内容でもないんだろうと思う。

だが私も、そして彼女も暗闇に足を突っ込んでしまっている身。

何故かこんな話をしている自分がすんなりと受け入れている自分がいた事に気付いていた。

だからだろう…。彼女の口から告げられた言葉に私は眉一つ動く事なかった。

 

「…金をちらつかせ住んでいる家から誘導。後に誘拐し人身売買か奴隷兵士にする…要はあのスラム街で住んでいた者達は金持ち共のお金稼ぎの為の商品にされたのさ」

 

「…」

 

「おや?意外と落ち着いてるね…。もしかして予想していた?」

 

「人身売買の方はね。…奴隷兵士に関しては初耳だったけど」

 

「成程ね。…まぁ奴隷兵士というのは、分かりやすく言えばゴミみたいな値段で買える兵士みたいものさ。どこの組織だって兵士を失えば補充しなくてはならない。新しく雇うにも高い金がかかる。なら安い値段で買える兵士を買った方が良いだろう?経済的にも…そしてどんな扱い方しても世間から責められる事なんてない。理由は簡単…奴隷だから」

 

ヴェルデの話を聞いていたら分かる事だが、この世の中薄汚い連中で溢れていると思う。

人権も無ければ、命を思いやる心すらない。

ただのお金稼ぎの道具にしか思っていない。

富裕層の頭は第三次世界大戦の核によって吹き飛ばされてしまったのだろう。

 

「そして奴隷だからこそ、どんな形で死のうが知った事ではない。例えそれが中身を抜き取られた後に捨てられても…中身が売買されたとしても、剥製にされたとしてもね…」

 

「中身を売買って……まさか」

 

「察しが良いね。そう…臓器売買さ。インバランド一家は人身売買や奴隷兵士を作るに飽き足らず更なる利益を求めた。その結果、臓器売買に手を出した」

 

「揃い揃って屑ね…。ん?待って、医療の貢献って…」

 

「そう。インバランド一家は抜き取った臓器は基本的に裏市場に売っているけど、一部医療関係の所に売っている。…ドナーが必要な患者は沢山いる。しかしこのご時世ドナーは中々に現れないのが現実だ。…そこに目を付けたインバランド家は医療関係にも売り込みにいったという訳さ。そして…マルセル・インバランドがその稼業を継いだ。裏でこっそりとお小遣い稼ぎしているという事だね」

 

最後の一口を口に放り込むと包み紙をくしゃくしゃに握りつぶし、冷めきったコーヒーを飲み干す。

 

「…折角のバーガーとコーヒーの味が台無しになるような話ね」

 

「言えてる」

 

やっている事が余りにも屑過ぎて言葉を出す事が馬鹿らしく思えた。

そいつらの頭に銃声を叩きつけた方が立派とすら思える。

そう思いながら私は気になった事を問う。

 

「それで…剥製ってのは?」

 

「…マルセルはペドフィリアってやつでね。十四歳以下の女の子を剥製にして自宅の地下に飾ってるのさ。君が襲ったバーで見た子供達は…そう、君が助けなかったら…」

 

「…もういい。取り敢えずマルセルがクソ野郎という事が分かった」

 

悪党であり、変態。

私はそんな奴に狙われ、そんな奴に家族を殺されたというのか。

死にかけのガルドの金的を銃弾を叩き潰してから殺したが、どうやらマルセルに限ってはピンピンしている時に金的を銃弾で潰してやろう。

 

「それでどうするの?」

 

「バーは君が潰したからね。残りを叩く」

 

「そう…。なら行こう。今すぐにでも」

 

「そうしたい所だけど…まずは武器を揃えさせてくれないかい?それに皆、始めたがっているんだ」

 

食事を終えたヴェルデが車のエンジンを起動させ、そのまま走り出す。

そして私はその台詞の中にあった言葉を発する。

 

「みんな…?」

 

なんとかファイルでも見ていたのだろうか?

 

 

雪が降る暗い街の中をヴェルデが運転する車が駆け抜ける。

深夜営業の食堂から発ってから十五分ほど過ぎた時に彼女は車をある建物の前で止めた。

そこはホテル。

だが安ホテルではない。それなりにしっかりしたホテルで、人気もある。

ヴェルデの言う皆とやらがここに居るとでも言いたいのだろうか。

 

「さ、降りて。案内するから」

 

考えていた所で埒が明かないのも事実。

言われるがまま車から降りて、私はヴェルデの後に続いた。

エントランスホールからエレベーターに乗り込み、それが上へあがっていく中私はヴェルデの顔をちらりと見た。

思えば彼女の事は全く知らない。私兵だと言っていたので何処かに属していると考えて良い。

そこから予想できる事は、彼女が私に誰かを会わせようとしているという事だ。

皆…という事はその事を差していると考えている。

エレベーターがとある階で停まるとそのまま私は先行くヴェルデの後に追う。

 

「…ん?」

 

長い廊下。

その中腹当たりに来た時、ある客室の前で銃を片手に待機している二人の男の姿が目に映った。

歩み寄ってくる私達に気付くも男達は銃を向ける事も無ければ警戒する様子もなかった。

私達がここに来る事は事前に知っていた…という事だろうか。

ますますヴェルデの正体が気になってくる上に問いたくなるが敢えて抑える。

ヴェルデが護衛がいる客室の扉を開き、中に入っていくと私も中へと足を踏み入れる。そこでは豪華な内装で静かに食事を取っている一人の女性が居た。その傍らに護衛を控えさせて。

そしてその女性を見て、私は既視感を覚えた。

何処かで会っただろうか…?

 

「さて…」

 

私達が入ってきた事に気付くと女性は手にしていたナイフとフォークを静かに起き、ナプキンで口元を拭うと口を開いた。

 

「おかえり、ヴェルデ。彼女がそうかな?」

 

「そうだよ。話は一通り話してある。後は僕たちの事と今後の事ぐらいかな」

 

「そっかそっか。君は少し休んでて。私は─」

 

笑みが私に向けられる。

しかしその目から感じられる何かが私を不快な気分にさせた。

 

「ミス・シーナとお話しさせてもらうよ」

 

まるで何もかも見透かしている。

そんな風に感じられた。

 

「分かった。それじゃあシーナ、後で」

 

「…ええ」

 

部屋から出ていくヴェルデ。

そして相手も傍に控えさせていた護衛を部屋から退出させた。

今、この部屋に居るのは私とあの女性と沈黙のみ。

牽制し合っている様に私も彼女も口を開かない。

 

「…」

 

「…」

 

それが二分位続いた時だった。

相手の女性は観念したかの様に肩を竦め、話しかけてきた。

 

「やれやれ、こうも警戒されてしまうとはね。少しばかりショックだなー」

 

先程までの雰囲気は何処へ行ったのか。

その口調は年相応のものであった。近所に居るお姉さん…そんな感じだ。

 

「まぁ座ってよ。シーナ・ナギサ」

 

「…」

 

「大丈夫だって。私から何かする気なんてないよ。ちょっとお話ししたいだけなんだ」

 

ね?と可愛らしい小首を傾げる彼女。

正直信用出来るかどうかは怪しいが、取り敢えず席に座った方が良さそうだ。

彼女と対面する様に私は席に腰掛ける。

 

「良かった、座ってくれた…!」

 

「…」

 

「おっと、ごめんね、…初めまして、ミス・シーナ。私はシャーレイ・アナスターシャ。よろしく」

 

「こちらこそ。…ん?待って。アナスターシャって」

 

その名前で思い浮かべるのは彼女しかいない。

だが彼女に姉が居たという話は聞いた事なかったが…。

 

「おや、気付いたみたいだね。そう。私は君の友人のアリシア・アナスターシャの姉さ。因みに歳は二十歳さ」

 

「何故年齢を明かしたのかは分からない。でも貴女が彼女の姉なら私とも何処か顔を合わせている筈」

 

「普通ならね。だが私は父と母が離婚する際に父の方に引き取られたのさ。だから君とは会う事はなかったんだ。妹のアリシアも私の事は殆ど覚えてないと思うよ。あの子が赤ん坊だった時に私は母の元を離れたからね」

 

アリシアの姉であるシャーレイ。

そんな人物が私に何の用なんだろうか…。

それ以前彼女はどういう立場の人間なのかが気になる。武装した奴らを引き連れている辺り、裏の人間だという事は分かる。

しかしそれだけしか分からないのも事実だ。

 

「ふふーん、こう思ってるね?彼女の姉である私が一体何者かと」

 

「ええ。ただクイズ形式にして何者か当てろとか言わないでね。そんな時間ないし面倒くさいから」

 

「おっと…そうしようと思ってたんだけどなぁ…。まぁ良いや。なら、早速明かそう」

 

椅子から立ち上がるシャーレイ。

手を胸に当てながら、軽く頭を下げる。

その様はまるで執事が見せる礼儀作法のアレだ。

 

「武器商人、シャーレイ・アナスターシャ。弾薬から話題の兵器まで何でも取り揃えております。お電話一本でどこにでも向かい、そして適正価格でお売りいたしましょう。…まぁ、そういう事さ」

 

「武器商人、ね…。だから部屋の前や貴女の傍に護衛が居た訳?」

 

「正解♪この世界で生きていたら恨みを買うからね。用心に越したことはないでしょ?」

 

ヴェルデが言っていた私兵…。それは武器商人の護衛という事だったのだろう。

しかし色々面倒な事になってきた気がする。

もはや個人的な復讐が組織やら議員やら色んなのがごちゃ混ぜになった戦争へと変わろうとしている。

 

「さて、聞きたい事は幾らかあるとは思う。だから結論から話そう」

 

「…」

 

「君の復讐相手、マルセル・インバランドは以前までは私から武器を良く買い取ってくれた上客だ。だが奴はやってはいけない事をやってしまった。それが私の妹であるアリシアに手を出した事だ」

 

マルセル・インバランドは議員だ。

そして権力もあって金もある。恐らく誰かに…いや、カデーノ辺りに調べさせてシャーレイに妹が居る事は知っていたんだろう。

奴の趣味には入らなかったが、商品としては高く売れると踏んだに違いない。

 

「それに奴は私の所に不当な要求してきた。こっちにはなんの利益を得られない、奴だけが得するという話でね。承諾しなかったらあらゆる手段を用いて私を牢屋に放り込んでやるとも言ってきた」

 

「だけどその話には乗らなかった。何故なら向こうから先に喧嘩を吹っ掛けてきたから」

 

「その通り。だから私の妹に手を出した腹いせに奴のビジネスを塵一つ残す事無く潰す事にしたのさ。武器商人らしくないけどね」

 

「それだけじゃないよね?」

 

私の口からシャーレイに向かってそんな疑問の声が飛び出していた。

もしそれだけならば私など要らない筈だ。護衛が居てヴェルデも居る。

経験なんて無いに等しい私とわざわざ会う必要などない。

しかし彼女は私と会った。その理由は確実にあると感じたからだ。

 

「…君の叔父に借りがあってね」

 

「叔父さんに…!?」

 

「ああ。昔の話だが助っ人として良く手を貸してくれてね。…そんな彼が亡くなったと聞いた時は大変驚いた。そしてその姪である君が復讐を成そうとしていると聞いた時、君を助ける事でその借りを返そうと思ったのさ」

 

「だから私をここに…?」

 

「そうだよ」

 

そうだったのか…叔父さんが関わっていたのか。

私は導いてくれたのかどうかは分からないが、彼女の手を借りる必要がありそうだ。

どの道、この復讐はそう簡単に終わらない。

たかだがギャング組織を潰しただけでは意味がない。

全てを潰す。マルセル・インバランドに関わる全てを潰す。

その過程で敵が何人死のうが知った事ではない。

一人死のうが、十人死のうが大して変わりはしないのだから。

 

「だから手を貸してくれるかい?言わなくても分かってるけどこちらも君を助けよう。出し惜しみする事無くね」

 

「…ええ。手を貸すよ」

 

差し出された手を握り返そうとした時、部屋の扉が勢い良く開いた。

突然の事に私もシャーレイも驚いていたが、部屋に飛び込んできたのが武装したヴェルデと廊下から聞こえてきた銃声だった。

 

「ヴェルデ、状況を!」

 

突然の事にも関わらずシャーレイは落ち着いていた。

流石というべきだ。武器商人であるのだから、こういう事は慣れているみたいだ。

 

「敵が一人。武装はLMG。マルセルに雇われた殺し屋だね。エレベーター付近で大佐かベトナム戦争帰還兵みたいに撃ちまくってる」

 

「オーケーオーケー。んじゃ15秒稼ぐ。その隙にシーナと一緒にホテルを出て施設を潰して。こっちが終わったら私達も追いかけるから」

 

ヴェルデと視線を交わしお互いに頷く。

シャーレイが拳銃を片手に耳に付けていた通信機で廊下で戦っている者達へと叫ぶ。

 

「15秒だ!15秒稼げ!プリンセスを逃がす!」

 

「準備は良い?ナギサ」

 

そう尋ねるヴェルデに対し私はPainekillerを右手に、左手にM92Fを構えながら静かに頷く。

それを見て、よしと呟くヴェルデ。そして彼女と私は部屋から銃弾と銃声が入り混じる廊下へと飛び出した。

そしてシャーレイが銃撃戦に交わる姿を目撃した時、私は叫んだ。

 

「シャーレイ!死なないで!」

 

「君も死んじゃ駄目だよ、シーナ!また後で!!」

 

それを最後に私とヴェルデは銃撃戦が起きている階を脱出するのであった。

 

 

ホテルからの脱出は難しいものでなくすんなりと脱出する事が出来た。

未だに雪が降っている道路をヴェルデが運転する車が駆け抜ける。

ラジオを付ける事無くエンジン音だけ響く車内で運転をしていたヴェルデが口を開いた。

 

「今から行くのは遊園地。最も廃園と化してるけど…。まぁそこは選定が行われている場所だ」

 

「その選定って、兵士か商品になるかの選定と思っていい?」

 

「うん。敵の数は未知数。ただ…」

 

「ただ?」

 

「そこを守っているのは、過激派のカルト教団。そしてそこには君の友人であり、シャーレイの妹であるアリシアが囚われている」

 

どうやらチンピラ共からイカレた集団を相手にしなくてはならないらしい。

復讐を宿した刑事から今度はカルトに立ち向かう保安官。

この雪降る二月十四日は私に様々な役を与えてくれているみたいだ。

最も私は英雄になるつもりなど全く無いのだが。

ヴェルデが運転する車はどんどん遊園地がある場所へと向かって行く。

寂れ古びた遊園地に待つのは幽霊化、或いは信者か。

そのどちらもが私の敵になろうと牙を静かに研いでいた。




たかだかチンピラ共の仕業と思えば、色々なもんが絡んでいるという事態。

さて次回はドンパチと急展開(未定)かな?

では次回ノシ


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Act203 February 14th Revenge 11

冷たい中でも──

喜びはあった──


亡霊と狂信者が集う廃れた遊園地は、数年前までは大人気スポットとして有名な場所であった。

しかし営業成績不振により遊園地は閉園。

解体には莫大な費用が掛かり、その目途が立つ事もなく、かつて人気だった遊園地は錆と埃、そして不気味さが蔓延する幽霊スポットへと化していた。

それから数年間、人が訪れたという経歴はないが何時の間にかここはカルト教団の巣になっていた。

何を目的にしているかは知る気など一切なかったが、ヴェルデは知っていた。

選ばれた者こそ楽園に向かう事が出来る、故に我々は選定者としてこの世界で生きる全ての人間を選定し楽園に導くとのことを目的としているらしい。

 

「楽園に導くための選定、ねぇ…」

 

「元々は全員普通の人達だったのさ。けど誰かにそそのかされたのか、まともな思考が出来なくなってしまった。自分達は正しく導かれた存在…つまり神の使者だと思い込んでじゃっているのさ」

 

「そう。でもどうでもいい。相手が何だろうが知った事じゃない。向かってくるのであれば殺すだけ」

 

道路を駆け抜ける車内の助手席でナギサはいそいそと戦闘準備をしていた。

それぞれの銃に弾倉を差し込み終えた後、M37に散弾を装填するとフォアエンドを動かす。

M37を構える彼女の瞳には光が宿っておらず、纏う雰囲気ももはや少女が持つものではない。

人ではない何かを宿したそれにヴェルデは息を呑むも何とか気を取り直して、ナギサへと話しかける。

 

「ところで気にならないかい?何でカルト教団がマルセルの商品の管理をしているのかを」

 

「言われてみたらそうね。どうして奴らが?」

 

「マルセルが教団に武器、資金提供してるのさ。同時に権力で警察を抱き込み、奴らの存在やその行いを隠蔽。そして良い人材が居たら許可さえ得れば自分達のお仲間に出来るようにした。…まぁマルセルが生きている以上はカルト教団は好き勝手出来るという事さ」

 

「…そんなカルト教団は壊滅させても?」

 

「構わないよ。どうせ誰も困りはしない」

 

「それなら良かった」

 

しばらくしてから車は、カルト教団が拠点として利用している遊園地の駐車場で停車。

雪降る遊園地。しかし看板は色褪せ破損。入場門は風に煽られて開いたり閉じたりを繰り返すばかり。

錆だけに覆われたその遊園地にかつて存在していた煌びやかで華やかな姿は消え失せていた。

閉園からずっと時が止まったまま。言うなれば死んでいた。

車から外へと出る二人。ナギサが銃を携えたまま古びた遊園地を眺めている間、ヴェルデは車のトランクから持ち込んできた装備を取り出していた。

タクティカルベストを身に付け、一丁のライフル…スコープとサプレッサーを装備したL96A1に弾倉を差し込み槓桿を操作し薬室に弾丸を装填。そしてホルスターにグロック18cを収めるとトランクを閉じヴェルデはナギサの隣に並び立つ。

 

「昔遊びに来た事あったけど思えば随分と大きい遊園地ね。そう言えばここってホテルとかあった気が」

 

「あるね。そしてカルト教団の巣はそのホテルであり、同時に囚われている者達が居る」

 

「…敵の数は?」

 

「武装した元一般人が沢山。僕は遠くからこいつで君を援護する。あとこれも渡しておくね」

 

ヴェルデから渡された小型通信機を受け取り、それを耳に付けるナギサ。

準備は整った。

亡霊と狂信者たちが跋扈する庭園へと二人は足を進める。

そして数分後にはかつての賑やかよろしく、銃撃戦が幕を開いた。

 

 

吹雪、鉄が軋む音、銃声、爆発音、断末魔。

雑音に雑音を混ぜ込んだそれ。

もはやそこがかつては遊園地だったと思う事が出来ない程、熾烈な戦場へと姿を変えていた。

 

「神はお前を見捨てたぞ!」

 

「我々には神がついているのだ!」

 

(神ね…)

 

銃撃から身を隠しながら、冷静に一発一発丁寧に散弾をM37へと装填していくナギサは信者が言う神という言葉に内心で呟いた。

確かに神とやら自身を見捨てた。これまで人の命を奪ってきた奴に神が見ててくれている筈がない。

そんな事はナギサはとうに分かっている。その手で初めて人を殺した時から。

 

「この世界が滅茶苦茶になっているというのに、何もしない奴が神って言える?」

 

身を隠していた場所から体を出し、ナギサは散弾をばら撒きながら信者に問う。

当然ながら銃声でその声は聞こえない。

そして彼女はその答えを聞かない。

銃声が闇の中を駆け抜け、吐き出される散弾が信者の体を切り裂き死へと追いやる。

そして遠方から飛んでくる一発の弾丸が信者の頭を貫く。

無論それは遠方から狙撃支援を行っているヴェルデによるもの。

暗闇と銃声。その中から静かに迫る銃弾は信者たちを一人、また一人と屠っていく。

 

『ホテル側から五人。その後方から武装したトラックが一台』

 

ヴェルデからの通信にナギサは身を隠していた場所からそっと頭だけを出した。

奥には廃墟と化したホテル。まるで巣を守ろうとしている蜂の如く、武装した信者と武装したトラックが迫ってきていた。

それを確認するとナギサはショルダーバックから手榴弾を取り出し、ヴェルデへと伝える。

 

「車をお願い。五人は引き付けて手榴弾は吹っ飛ばす」

 

『了解』

 

敵が迫ってくる。

その後ろからはトラック。荷台を銃座として改造したものであった。

次の瞬間、遠方から飛んできた銃弾がトラックのタイヤを撃ち抜いた。

速度が出ていた為か、トラックはバランスを崩し横転。

 

「スナイパーだ!」

 

横転したトラックに気付いた信者が周りの仲間へと叫ぶ。

全員が狙撃されないように動き出そうとした瞬間、集団の中心に何かが飛来。

気付いた一人が視線をそれへと向ける。そこにあったのは既に安全ピンが引き抜かれた手榴弾だった。

 

「しゅり─」

 

それが手榴弾だと気付いた時、信者は周りに知らせようとするが時すでに遅し。

五人を巻き込む様に手榴弾が爆発し、全員が何が起きたのかと気付く間もなく吹き飛ばされていた。

吹き飛ばされ、地面を転がる信者たち。その中には辛うじて息をして居た者も居たが、歩み寄ってきたナギサによって頭を撃たれ絶命する。

先程の喧騒はどこへ行ったのか。辺りは吹雪だけが残っていた。

防衛ラインを下げたのか、或いは別の理由があるのか。

それを知る方法は今のナギサには無い。

そこに狙撃地点から移動したヴェルデが彼女の後ろから歩み寄る。

 

「守りを固めて、一気に僕らを叩く感じかな」

 

「でしょうね。このまま行けば終わりだろうけど…」

 

戦っている最中にナギサはあるものを見つけて、それへと視線を向ける。

突然の襲撃だった為か、信者たちはとある忘れ物をしていってしまっていた。

武装したトラックを一台だけしか保有していないわけがなく、カルト教団はこの園内各所に武器したトラックを配置していたのだ。

その一台を倉庫の傍らで停まっていたのをナギサは見つけていた。

 

「丁度良いオモチャがあったら使わない手はない。そう思わない?」

 

ヴェルデへと向けられる笑みは笑っているものの、その目こそは笑っていなかった。

この時ヴェルデはナギサが宿しているものが何なのかを理解した。

 

(修羅…)

 

復讐をその身に宿した少女。その復讐と同時に修羅を宿し始めている事にはヴェルデは気付いていた。

故に彼女に対する恐怖を覚えた。

学校で初めて会った時よりも、それが分かりやすくなっていたのだから。

 

「そうだね。どうせなら使ってみようか」

 

ナギサに対する恐怖心を何とか抑えつけながら、ヴェルデは頷き、ナギサと共にその武装したトラックの元へと歩み寄る。

建物の隣に止まっていたトラックはしっかりと整備はされており、ガソリンも満タン。

銃座には弾倉が取り外された軽機関銃が装備されている。

運転にヴェルデが乗り込み、ナギサが銃座へと向かう。

 

「どうだい?扱い方は分かるかな?」

 

「ええ。色んな軽機関銃を銃座に固定された状態で何度も撃ってきたから」

 

荷台の端に置かれてあった弾倉を手に取り、軽機関銃に装填し始めるナギサ。

そして奇しくもというべきか。

銃座に固定されていた軽機関銃はH&K MG4であった。

数年後ナギサはとある作戦にて同じ名を持つ戦術人形を救う事になるのだが、今の彼女がそれを知る筈もない。

エンジン音が響く。そしてお互いに視線を交差させるとヴェルデは車を走らせた。

冷たい雪の中を切り裂く様に車両は駆け抜けていく。だが車両は何故かホテル側へ向かわず、別の方向を走っていた。

しかしその事についてナギサは問わない。

それどころか何故そうするのか分かり切っている様な表情を見せていた。

 

『迂回して東門から仕掛ける。少しの間だけ観光でもしてのんびりしてて』

 

「周りを眺めていた所で何にも楽しくない」

 

『たしかに』

 

園内を駆け抜ける車両は柵を破り東門付近から突入。

当然ながらそこは敵で溢れている。突入してきた二人に気付き銃を構えようとするがそれよりも早く銃座にいたナギサがMG4の引き金を引いた。

銃口から無数に吐き出される弾丸がいともたやすく信者たちを蜂の巣へと変えていく。

反撃の暇を与えない。誰一人とて生かして帰さない。一人、また一人とまるで草を刈る様にナギサはMG4の引き金を引き続ける。

その表情は無表情に近い。G.Sの屋敷の時と同じ様に淡々と機械の様に人を殺すマシーンと化していた。

そして見事なドライブテクニックでホテルの周囲を駆け巡るヴェルデは敵から奪った自動小銃を片手に、ナギサと同じ様に銃撃を仕掛けていく。

 

『そろそろホテル入り口に着く!速度を落とすから荷台から飛び降りて裏口からホテル内に侵入して!僕とは一旦分かれて行動しよう!僕は敵の殲滅。君は人質の救出をお願い!』

 

「人質が居る場所は知っているの?!」

 

『シャーレイの調べだと人質は地下二階にいる!ただ気を付けて、ここと同じ様に中も奴らで一杯だろうから!』

 

「言われなくても!」

 

トラックが段々とこれまでにない程の敵が集結している正門近くまで来た時、ヴェルデは一瞬だけトラックのスピードを下げた。

それを見逃さなかったナギサは荷台から飛び降り、着地。そのまま裏口へと駆け出した。

 

 

裏口のドアは面白い位に簡単に開いた。

外の冷気が中にまで浸透しているのだろう。中も薄っすらとした灯りの中で冷気が漂っている。

外からは銃声が聞こえている中、私は地下へと繋がる階段を探しながら散弾を装填しようとショルダーバックに手を差し込んだ時、ある違和感を覚えた。

一度立ち止まり、大きめの木箱に身を寄せショルダーバックをのぞき込むと散弾を入れていた箱の中身が既に空っぽになっていた。

実の所、散弾はそう多く持ってきてはいない。空っぽになっていても可笑しくなかった。

M37の方にも散弾は残っていないので流石にこのまま持っていくわけには行かないが、同時に新たな武器が必要になる。

何かないかと周囲を見渡した時、私の目にあるものが映った。

 

「これは…」

 

偶然とでも言うべきか、私が身を隠す様に使っていた木箱は開けられており、その中には銃が収められていた。

大方マルセルから支給された武器なのだろう。

M37を木箱に立て掛けると木箱の中に収められてあった銃を手に取る。種別からしてアサルトライフル。

そして私はこの銃を知っている。叔父さんが言うのはこの銃にはコードネームが存在する。

それを聞いた時、私は純粋にかっこいいと思った事があって何度かこの銃を撃った事がある。

木箱から弾倉を取り出し差し込むと私はその銃に挨拶をした。

 

「暫く宜しくね、OTs-14(グローザ)

 

雪の代わりに響くは雷雨。

天候に関する事にはどうやら私は好かれているみたいらしい。

 

「さて…」

 

ここに何時敵が現れても可笑しくない。

駆け足で私は地下へと通ずる階段を探し始める。木箱があった物置部屋を抜け、そのまま別の部屋へ。

しかしそこにも階段らしきものはない。どこからか足音も聞こえるので信者たちが私を見つけて殺そうそているのだろう。

このまま居た所で敵に見つかるのがオチ。急いでその場から離れ、再び別の部屋へと移動。

そこは壊れた洗濯機やらが無数に並んだ部屋で、嬉しい事に地下へと繋がる階段が部屋の奥にあった。

迷う事無くそこへと向かい、ヴェルデが教えてくれた地下二階を目指す。

電力が通っているおかげで照明が灯っており、階段を踏み外す事無く降りていく。

小さくであるが銃声が聞こえる中、私は囚われた友人を助ける為、人質を助ける為に駆け出し、そのまま地下二階へと到達した。

ヴェルデが引きつけてくれているおかげか、警備を務めている信者はおらず、慌てて出ていったのか人質がいる部屋の鍵が机の上に置かれたままであった。

それを手に取り、私はこの地下にある扉の中で一番大きな扉がある場所へと向かい、その前で止まった。

 

「一人欠ける事無く全員居てよね…!」

 

そんな願いを口にしながら私は鍵穴に鍵を差し込み、捻る。

鍵が開く音を耳にすると私は力いっぱいドアを勢い良く開いた。

そこに映る光景は決して良い物ではない。

心臓すら凍てつかせてしまう寒さの中、下着姿でこの牢屋に捕まっていた若い女性達がいた。

ただほんの僅かな救いといううべきか、全員が私を見ていた。

すなわちそれは生きているという証拠に過ぎない。

 

「シーナ、ちゃん…?」

 

ああ…。その声は忘れる事もない。

年を経た今でもその声を私は忘れない。

こんな私を見て、そしてその名を口にした本人は長く伸ばした透き通るかの様な銀髪を揺らしながら私へと歩み寄ってくる。

 

「シーナちゃん…だよね…?」

 

こんな状況で、こんな姿で、汚れていなかったら…。

多分最高の再会になっていたのかも知れないだろう。

 

「また会えたね…」

 

家族を失って、叔父を失って…。

本当に辛い事ばっかりだったけど…どうか──

 

「アリシアちゃん…!」

 

この一瞬だけは涙を流す事を許して欲しい。




生きていたという事実。
安心していい事であるが、この先の事も心配しなくてはならない。

次回も多分ドンパチかな。
さぁて、二月十四日の復讐者もそろそろ終盤だな…。

では次回ノシ


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Act204 February 14th Revenge 12

──脱出──


「シーナちゃん…ッ!」

 

冷たく、そして自らその手を血に染めてしまった私にアリシアが抱きしめてきた。

感動の再会ではあり、私も彼女を抱きしめ返してあげたい。

だけど出来なかった。

ここまでに至るまで何人も殺した。

被害者である彼女をこんな薄汚れた私が抱きしめるなど許される筈もないのだから。

しかし強引に突き放すなど出来る筈もない。

どうしたら良いだろうかと悩んだ時、耳に付けていた通信機からヴェルデの声が飛び込んできた。

 

『ナギサ!そっちはどうかな!?』

 

通信越しから聞こえる銃声。

園内では狙撃で援護してくれていたけど、今では連射音が聞こえる。

敵から奪ったのを使用していると見ていい。

抱きついたままのアリシアをそっと離し、通信機のマイクへと向かって話しかける。

 

「人質を見つけた!人数は十人くらい!」

 

『あのリストだとここに捕まっている人質の人数は十人ぴったりの筈!』

 

明確な数が告げられると、私は部屋に居た人質の数を数えていく。

そしてヴェルデが言っていた通り、十人全員居る事を確認すると私は再び通信機へと声を飛ばす。

 

「十人ぴったりいる!」

 

『了解!裏口で合流しよう!僕もそっちに移動するから!』

 

「分かった!」

 

通信を切り、私は不安そうに見つめてくるアリシアへと顔を向ける。

急いでここから出なくてはならないが、流石に下着姿のままなのは良くない。

 

「アリシア、少し待ってて。着れそうな服があるか見てみる。それと私の事を彼女達にも説明しててくれる」

 

「う、うん!分かった!」

 

辺りを見回す。

囚われた人を入れる牢屋があって、その周囲には聖書みたいなのが置かれたボロボロの机が一つ。そして部屋の隅の方にロッカーが幾らか並んでいる。

中に何が入っているかは分からないが、直接目にしなければ分からないというもの。

今立っている位置からロッカーへと歩み寄り、幾らかある内の一つのロッカーの扉を開く。

 

「これは…」

 

ロッカーの中にあったのは、あの信者たちが着ていたものとは全く異なるデザインの衣服。

恐らくであるが囚われていた彼女達の内の一人の服装だろう。

どうやらこのカルト教団はご親切にも捕まえた彼女達の衣服を保管していたそうだ。

何の為に置いていたのかは分からない。だがこれで衣服の件は解決したと判断していい。

その事を伝える為、再びアリシアの元へ戻ると説明を終えたのか、彼女が戻ってきた私に気付き歩み寄ってきた。

 

「どう?あったかな?」

 

「ええ。そこのロッカーに着ていた服が収納されてたから着替えてきて。急いで此処を出ないと」

 

「わ、分かった」

 

アリシアが動き出すと周りの者達もお互いに顔を見合わせ、そして頷くと後に続く。

全員がロッカーへと向かって行くのを見届けると私は出入口付近でOTs-14を構えたまま周囲の警戒を務める。

全員が着替え終えたら、ここから出る。

当然信者たちは逃がしてはくれないだろう。

聖書()を片手に、私達を勧誘(殺害)しようとしてくるのだから。

 

「…」

 

神経をとがらせ、意識を周囲に張り巡らせる。

遠くから銃声が聞こえるだけ。今の所信者たちが歩み寄ってくる気配はない。

だからといって警戒を緩めない。彼女達を逃がす為にも…。

 

「あ、あの…」

 

「!」

 

後ろから声をかけられたので張りつめていた神経を緩め声の、主の方へと振り向く。

そこに居たのはアリシアではない。しかしそこにいた私服に身を纏った人物に私は違和感を覚えた。

初めて会った筈なのに、そうではない…何処かで会っただろうか?

 

「えっと…何か?」

 

「あ、えっと…助けてくれた事にお礼を言いたくて…」

 

「まだお礼を言うには早いと思うけど…」

 

牢屋から出しただけでは助けたとは言わない。

このホテルから脱出して、信頼できる者に預けた時に助けたという話になる。

 

「それより…何処かで会った?初めて見たという気がしないの」

 

「えっ……もしかしてテレビとか見ない?」

 

「テレビ…?」

 

その言葉が出てくるという事はテレビとかに出ているという事なのだろうか。

そしてこの年齢からして…アイドルなのだろうか。

ん?待って。アイドル…?

 

「もしかして…」

 

アイドルという言葉に引っ掛かりを覚え、頭の中にある記憶の棚を開いて行く内に私は目の前に彼女が誰なのかを思い出した。

 

「ユキノ・マイデラ?」

 

「そう!良かったぁ…思い出してくれて」

 

ユキノ・マイデラ。

今を輝くアイドル。可愛さよりも美しさ寄り、歌唱力、ダンスは素晴らしいの一言に尽きる。

そう言えばニュース速報で行方不明になったと言っていたか。

何かのテレビに出ている姿や歌声を聞いた事もあったからか、覚えがあったのだろう。

まさか今を輝く人物がここにいたとは驚きを覚える。

 

「ごめんなさい。私、テレビはニュースか天気予報ぐらいしか見ないから」

 

「そうなんだ…」

 

「ええ。それよりも怪我とかしてない?」

 

「うん、大丈夫。でも…」

 

そこでユキノの口が閉じられる。

よく見れば体が小さく震えていた。

無理もない。突然拉致されて、こんな所に長い間囚われていたのだから。

 

「無理に言わなくても良いよ。怖い思いしたんだね…無事でよかった」

 

「うん…」

 

ユキノの歳は私よりも三つほど上だが、そんな事はどうでもいい。

私はそっと彼女の頭に手を置き、撫でた。

安心させる言葉が思いつかなかったが、これが代わりだ。

 

「シーナちゃん…皆、着替え終えたよ」

 

通っていた学校の制服に身を包んだアリシアが歩み寄ってくる。

彼女が言った通り、全員自身の服へと着替えていた。

 

「分かった」

 

着替えは終わった。後は裏口へと向かいヴェルデと合流しなくてはならない。

全員に行こうと伝えようとした時、この部屋に備え付けられていた固定電話が突如として鳴り響いた。

突然のそれに全員が驚き、私は固定電話の元へと歩み寄り受話器を耳に当てた。

 

「こちら犯行現場」

 

冗談でも言うようなセリフでもないだろう。

だが冗談を言っていなければ私も気が狂いそうになっているのも事実。

そんな冗談に電話をしてきた相手はまともに対応する気などなく、叫んだ。

 

『私は北分署副署長のアーバム・メッセーラだ!武装を解除し、降伏しろ!』

 

その台詞は私達に対してか、あるいはカルト教団に対してか。

どちらかは分からない。

だが…

 

「初めまして、アーバムさん」

 

どうせなら相手してもいいだろう。

 

「今あいつらの説得をしている所。反抗している奴らもそれなりにいるけど、何人かは死ぬ程反省してるみたいよ?もうしませんって泣きながら言ってたから」

 

『どういう事だ!?それよりもお前は誰だ!!』

 

私は誰だ、か…。

そのまま名乗ってやってもいいが、それはそれで面白くない。

どうせならカッコつけた名前を教えるのも悪くないだろう。

 

「ペイン。そう覚えてくれるとありがたいかな、副署長さん?」

 

言いたい事を伝えると私は受話器を元の位置に戻す。

さて…ここから出るとしようか。

 

 

銃声は鳴りやまない。

それどころか爆発音や破砕音まで聞こえてくる始末。

 

「急げ!供物を逃がすなぁッ!!」

 

「異教徒め!お前は救われはしない!地獄に落ちろぉッ!!」

 

そんな中でナギサは壁から身を出し、叫びながら襲い掛かってくる信者たちに向かって銃の引き金を引いた。

雷は轟き、雨は激化する。

OTs-14から放たれる銃弾が信者達の身を穿つも銃撃戦の音を聞きつけたのか次々と信者たちが駆けつけてくる。

ナギサは撃つのを躊躇わない。何故なら自身の後ろにはアリシアが、ユキノが…捕まっていた彼女達がいるのだから。鳴りやまぬ銃声を目をぎゅっと閉じ手で耳を塞ぎ、恐怖で体を震わせる彼女達がいるのだから。

 

「…」

 

弾丸が吐き出され、薬莢が次々と飛び出ては地面で跳ねて踊る。

出来の悪い円舞曲を踊る様に。そして奏者(信者)奏者(シーナ)によって一人、また一人と消え失せる。

体に開いた穴。広がる血潮。一人の少女が一呼吸をついた時には、死体の山が出来上がりつつあった。

 

「くそっ…悪魔め!よくも我が同胞を…!」

 

頬に付着した血を拭い、OTs-14に新たな弾倉を差し込むナギサを壁越しで睨みつける信者。

今撃とうと思えば、出来るだろう。だがその信者には出来なかった。

戦意喪失した訳ではない。その証拠に銃を握る手の力は緩んでいない。

だが信者の体は気付かぬ内に震えており、そして冷や汗が流れていた。

 

「…く、くそっ…」

 

信者は理解していた。

"アレ"には勝てない。少女の皮を被った悪魔(シーナ・ナギサ)には勝てない。寧ろは殺される、と。

震える体は動かない。だがその時、信者にとっては救世主とも言える人物が後ろかからやってきた。

 

「恐れてはなりません」

 

透き通るような女性の声。

その声を耳にし信者が振り返るとその表情は喜びへと変わる。

 

「我が主…!」

 

修道服に身を包み、長く伸ばされた赤い髪を揺らしながらその者は盾と火炎放射器を携え歩み寄る。

 

「立ち向かいましょう。この炎は悪魔を退ける聖なる火。そして神は私達を守って下さっているのですから」

 

火炎放射器から炎が迸る。

全てを焼き尽くさんと言わんばかりに炎は建物に燃え移っていく。

その光景を見てナギサは小さく舌打ちしながらも銃を構える。

 

「悪魔よ。聖なる火にその身を焼かれるが良い」

 

修道女は火炎放射器と盾を構える。

その表情は何処か儚げでありながら、その身から殺気を放つ。

相手はやる気。そしてこのカルト教団を纏めるボスだと察するとナギサは修道女を睨みつける。

 

「悪いけどバーベキューは好きじゃないの」

 

その呟きと同時にバーベキュー会場へと移り変わろうとしているホテル内でナギサは銃の引き金を引いた。



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Act205 February 14th Revenge 13

─変貌─


「全く…ホント面倒くさい!」

 

煌々と燃え上がる炎は建物へと燃え移る。

熱気と黒煙が徐々に立ち上り始める中、OTs-14を連射するナギサの怒号が飛ぶ。

絶えの無い銃撃を仕掛けるも、どういう構造で出来ているのか修道女が持つ盾によって全ての攻撃が阻まれ、火炎放射器から迸る炎によって視界が遮られる。

熱気が襲い、そして修道女の登場に士気を取り戻したのか信者たちが集結し始めた事により防戦を強いられる。

膠着状態が続くこの状況にナギサの顔に焦りが浮かぶ。

このままここで戦っていた所で肺がやられるか、丸焦げにされるかのどちらか。

そんな事は言わずとも分かっている。

どうにかしてここから引きたいものの敵は逃がす事を許してくれない。それどころか共にここで息絶えるつもりでいる気なのか、撤退するどころか益々攻撃の勢いが増していく一方であった。

 

『シーナ!今何処に居るんだい!?こっちの二階から裏口へと繋がる廊下で誰かが焚火やっているのが見えるんだけど!!』

 

「その近くよ!どっかのイカれた修道女さまがバーベキュー大会を開催したみたいでね!!」

 

『修道女!?ああ、くそっ!!ここの親玉だ!!』

 

そんな事言われなくれても理解している。

あれの登場で信者達の士気が上がっているのを今目にしているのだから。

文句の一つでも言ってやろうとした時、ヴェルデからナギサの耳にとんでもない台詞が飛んでくる。

 

『注意を引く!!身を隠して、耳を塞いでて!!ロケットランチャーを使う!』

 

ロケットランチャー。

その単語を聞いた瞬間、ナギサは血相を変えて勢い良く後ろと振り向き叫んだ。

 

「全員耳塞いでッ!!」

 

その声に彼女の後ろにいたアリシアたちは慌てながらも耳を両手で塞ぎ、ナギサも素早く身を隠そうとした瞬間、爆発音と破砕音が廊下全体に響き渡った。爆炎と煙が廊下を駆け抜け、辺り一帯が振動する。

熱気と焦げ臭さが辺りに広がる中、ナギサはゆっくりと身を隠していた壁からOTs-14を構えながら身を出す。

今の一撃でどうなったかは分からずとも敵は着弾地点に近い所に居た事が見て取れる。攻撃が止んだ隙を見逃す訳もなく、ナギサはアリシアたちへと叫ぶ。

 

「行くよ!ついてきて!」

 

その声にハッとした表情を浮かべるアリシアたち。

ナギサが先導する形では彼女達はその場から離脱。しかし一時的に離脱しただけに過ぎず、状況が良くなったかと言えばそうでもない。

行く手を塞ごうとする信者らを一人、また一人と始末しながらナギサはアリシアたちを連れて廊下を駆け抜けるが、焦りの表情は未だ浮かんだままであった。

誰一人とて欠ける事無く返さなくてはならない。だがこのまま鬼ごっこを続けていた所で死ぬだけ。

ヴェルデと会う前までは誰かの命を背負って戦った事がない。今になって感じ始めた責任感がナギサの背中に重しとなって圧し掛かっている状態だった。

 

「ナギサ!」

 

ふと、届いた呼び声にナギサは足を止めその方へと向いた。

居たのは二階から降りてくるヴェルデの姿。敵から奪取したSPAS-12を携えて彼女らの元へと駆け寄って来ていた。

 

「無事でよかった」

 

「そっちも。…それであいつは仕留めれたの?」

 

「ごめん、そっちと合流で頭が一杯で、死体までは確認してない…」

 

「そう」

 

無理もないとナギサは判断する。

元より合流する事が目的であった為、敵が死んでいようが死んでいまいが気にする様子はないだろうと。

さてどうしようかと周囲を見渡し始めたナギサだが、ヘリが近づいてくる音に気付いた。

カルト教団が持ち出してきたのかと険しい表情を浮かべるが、ヴェルデが告げた。

 

「グリフィンさ。警察と一緒に向かってきているらしい。…ほら、サイレンの音もある」

 

「堂々とヒーロー面してご到着、か…」

 

そんな冗談を吐きつつ、状況の把握に努めるナギサ。

グリフィンと警察が向かってきているという情報は既にカルト教団側に流れているのだろうと判断。

でなければこのホテル内の静けさに納得が行かない。

先程まで行く手を塞いでいた信者達が嘘の様に姿を見せなくなったのも、それは新たな勢力であるグリフィン及び警察に対する迎撃態勢を取り始めているのだと。

このまま勝手にやり合ってくれればと思うナギサだが、物事はそう簡単にいかないと知るのは数分後であった。

 

 

「っ…ぐっ…」

 

体中全体が激しい痛みに襲われる中、私は目を覚ます。

そこに映るのはまるで体の一部が消し飛び息絶えた信者達と黒煙と炎が支配する地獄だった。

こんな惨状でよくもまぁ生きていたなと思う。

だがそれでいい。まだ死ねない。私はあの悪魔…否、私が求めていた神に殺されなくてはならない。

長い間待ち続けた。それが漸く叶う。

だから死ねない。今はまだ…。

 

「…っ…」

 

全身を襲う痛みに耐えながら傍に落ちていた拳銃を手に取り、起き上がる。

彼女らが何処へ消えたのかは分からない。

だが裏口からの脱出が不可能と分かった今、恐らく正面入口へと向かった筈だろう。

それに何処から銃声とヘリ、そしてサイレンの音が聞こえる。

警察か、或いはグリフィンが来たのだろう。

私を信じてきた者達には悪いが、私は私の目的の為に動かせてもらう。

そうでもしなければ私は死ねなくなる。いつかしか願った希望がもうすぐそこまで来ているのだ。

 

「さぁ…向かいましょう」

 

待っていてくれ、悪魔(我が神)よ。

その研ぎ澄ました()で私の()解放してくれたまえ(奪ってくれたまえ)

 

 

「!」

 

既に始まったカルト教団とグリフィン及び警察との戦闘音がヴェルデ達が居る場所にまで届く中、何かを感じ取った様にナギサは素早く体をある方向へと振り向かせた。

そこに立っていた人物を見て一瞬驚くもナギサは鋭い目つきで相手を睨んだ。

ヴェルデがその死体を確認していない点で生きている可能性がない訳ではない。故にこうして痛々しい姿になってまでこの場に現れたのは、ある意味では尊敬に値する。

だがナギサ自身いつまでも構う気などない。あの時に既に息絶えてくれていたら無駄弾も時間も消費せずに済むのだから。

 

「…」

 

沈黙を保ちながらナギサは腰のホルスターからPainekillerを引き抜く。

臨戦態勢を取ろうとした時、修道女は彼女を見て何故か微笑んだ。

片腕は曲がっては行けない方向に曲がっているというのに、何故笑っていられるのか。

気味の悪さを感じ取るナギサに対し修道女は口を開く。

 

「…ああ、私はこの時をずっと待っていた。あの時からずっと」

 

痛みそのものを感じてはいないのか、修道女の口調の乱れはなく実に流暢であった。

そして彼女は笑みを崩す事もなく、相対するナギサを見つめた。

 

「六年の間…私は待ち続けました。貴女が私を殺しに来るこの日を」

 

この女は何を言っているんだ。

ナギサはそんな思いを胸に抱くと同時に疑問を覚えた。

まるで自身がここに来る運命だと言わんばかりのその台詞に。

 

「…どういう事?」

 

自身と彼女は初対面の筈なのだ。普通であれば聞き流していたであろう。

だがどうしても聞かなくてはならないという思いが強くあったナギサは気付けば尋ねていた。

 

「貴女と私…全くの初対面の筈」

 

「ええ…貴女からすればそうでしょうね」

 

ますます謎が深まる一方。

訝し気な表情を浮かべるナギサを見て、修道女は明かす。

 

「…六年前。とある夫婦が営むカフェで起きた夫婦惨殺事件…」

 

「!…それが貴女と何の関わりが?」

 

「…覚えておりませんか?貴女は気絶する寸前に何かが燃える様な臭いがしたのを」

 

「!」

 

その指摘にナギサはあの時の事を思い出す。

二人の遺体を見つけ、そして気を失う直前に臭いがした。

では何故その事を修道女が知っているのか。

だがその答えは意外な形で明かされる事となった。

 

「…貴女なの?シーナちゃんの家を燃やしたのって…」

 

その声はナギサの後ろからであった。

思わず振り向くと、ヴェルデの隣で修道女を見つめるアリシアが立っていた。

遠くから響く銃声、爆発音の中で一瞬だけ静寂が訪れる。

そしてその静寂は脆くすぐさま消え去っていった。修道女がその問いに答える事によって。

 

「ええ。私が彼女の家に火を付けました」

 

罪の意識などない。

ただ機械の様に問われた事を答える修道女。

そしてその答えが明かされた刹那、銃声と共に修道女の頬を一発の弾丸が掠った。

掠ったという事実を示すか様に頬に血が伝うも修道女は全く気にする様子もなく、ただじっと自身に銃弾を放ってきた人物…ナギサを見つめた。

 

「…」

 

手にしたPainekillerの銃口から硝煙が昇る。

次は頭だ。

修道女を睨むナギサの目はそう告げていた。

 

「…私は求めていたのです。死のうにも死ぬ事に恐れを抱き、死ねない私を殺してくれるそんな存在を」

 

一触即発の中であるにも関わらず、修道女は突如として語り出した。

その余裕がどこにあるのか分からないが、何か罠があるではないかとナギサは敢えてPainekillerの引き金を引こうとはしなかった。ただ銃口を突き付けたまま、相手を睨み付けて。

 

「…形だけの儀式、形だけの装い。何かもが形だけで、何かもが全くの意味を成さない。導き手という名の装置、それに従う傀儡。…神などいない。そんな事すら分かっていたというのに、私は何一つ変わる事が許されなかった。死ぬ事すら、それを願う事すら」

 

しかし、と修道女は前置きを呟いてから言葉を続ける。

 

「あの日が私に希望を抱かせた。燃え盛るあの場所で、何時しか私を殺してくれる存在と出会えた」

 

「…それが私と?」

 

「はい。貴女です。…そして今、貴女はここに現れた」

 

修道女は嗤う。

髪を無造作に掻き揚げ、見開いた目でナギサを見つめながら手にした拳銃を突き付ける。

 

「さぁ…我が魂を奪いたまえ、神よ」

 

戦いの幕が開かれる。

誰しもがそう思い、ヴェルデはアリシアたちを安全な場所まで非難させようとした時、彼女は感じた事の無い何かを感じ取り、勢い良くその方向へと振り向いた。

そこに居るのは修道女と相対するナギサなのだが、その様子が明らかに違う事をヴェルデは感じ取っていた。

 

「…神様?私を殺してくれる存在?」

 

伏せた顔と共に紡がれる言葉。

しかしその言葉に抑揚はない。それどころか辺り一帯が凍てつかせたのではないかと思える程に冷たく感じさせる。

下ろしていた顔がゆっくりとあげられる。その瞳が宿すは虚無、虚構、そして絶対零度。

 

「…そんなものに興味などない」

 

言葉に変化が現れる。

まるで何かに徹しきろうと、何かへと変わろうとしている様にも思える。

そして修道女には見えていた。

得体の知れない何かが、ナギサの背後でその姿を現すのを。

 

「…お前を殺し、あいつを殺す」

 

それは完全な修羅への変貌。

ここに現すはシーナ・ナギサではない。

そこに居るは復讐心を全てを捧げた一人の悪魔(少女)

 

「だから…」

 

右手に持ったPainekiller、そして左手にマテバ6ウニカ。

二丁の銃の撃鉄が起こされた瞬間、ヴェルデにとってもアリシアらにとっても修道女にとっても、有り得ない事が起きた。

一番に気付けたのは修道女であった。

自身の体が伝えてくる激痛。腹部をめり込む様に突き出された肘。

 

「死ね」

 

そして暗い瞳と冷たい殺気で一瞬にして修道女との距離を詰めてきたナギサの姿があった。

 

「がっ……ぐ、ぐうぅ…!!」

 

痛みに悶える声が漏れる。

しかしナギサは止まらない。相手が前のめりになったのを見逃す事もなく、左手に持ったマテバ6ウニカで修道女の両脚を撃ち抜くと素早く自身の片足を軸にターンし、修道女の背後へと回り込んだ。

両脚を撃ち抜かれ、膝を地面と接触する前に修道女は反撃を試みるもそれすらも予期していたかの様に修道女の背中に衝撃が走った同時に突き飛ばされる。

その隙にナギサはPainekillerを素早く回転させてから、再び修道女の頭へと向ける。

お前の死に様など見る気などないと言わんばかりに顔を伏せながら、引き金を引いた。

銃声と共にはじき出された弾丸が修道女の頭を穿つ。頭に開かれた風穴から吹き出す鮮血。

地面を赤く染め上げながら修道女は糸の切れた操り人形の様に地面へと崩れていく。

 

「…さようなら」

 

その様をナギサはただただ冷たく見つめる。骨の髄にまで食い込んだ銃の感触と死の感触を味わいながら。




はい…ナギサちゃんがNAGISAちゃんへと変貌いたしました。

さてそろそろ過去のナギサ編も締めへと入るつもりですが…まぁゆっくりと付き合っていただけると幸いでございます。

では次回ノシ


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Act206 February 14th Revenge 14

─『それ』を犠牲にする─

─全ては己の内に秘めたそれを成し遂げるために─


急速に発達した低気圧によって発生した吹雪は街全体を覆う。

極寒の地と化した街の姿をホテルの部屋の窓を通して眺める中年の男がいた。

 

「こうも吹雪が続くとはな。これでは移動するにも苦労する」

 

高級スーツに身を包んだ男は猛威を振るい続ける吹雪に対し辟易とした態度を見せながらグラスに注がれたワインを一口含んだ。

ワインの味を舌鼓を打った時、スラックスのポケットに収めてある携帯電話が鳴り響いた。

その音に気づいた男はワイングラスをそばに置き、ポケットから携帯電話を取り出すと画面に映し出されていた名を見て男はすぐさま携帯電話を耳に当てた。

 

「始末できたか?」

 

『…』

 

男がそう問うも電話の相手は返答してこない。

不審に思った男は再度尋ねる。

 

「おい、聞こえているのか?始末できたのか?」

 

『…』

 

それでも電話の相手は返答してこない。

苛立ちを覚えながらも何とか平静を保ちつつ男は、もう一度訪ねようとする。

少しだけ怒気を交えた声で問いかけようとした時。

 

『ざんねーんでしたー!生きてまーす!』

 

「!?」

 

突然響いた女性のおどけた声に男は驚く。

有り得ないと言わんばかりに目を見開き、つい携帯電話を耳元から離してしまう。

 

『あっれー?おっかしいなぁ。中々の出来だと思ったんだけど反応無し?まさかびっくりしすぎてぶっ倒れてないよね?おーい!変態ロリコン野郎ー?聞こえてるー?』

 

電話越しから飛んでくる煽りやら罵倒。

流石に黙っていられるはずもなく男は急いで携帯電話を耳に当て叫んだ。

 

「な、何故生きている!?シャーレイ・アナスターシャ!!!」

 

『そりゃ生きてるわよ。あの程度の雑魚でこっちの面子を倒せると思うアンタがおかしいでしょ。こちとらヤバいのを散々相手にしてきたのよ?ガタイが良くて軽機関銃撃つだけしか能がない奴の対処なんざ赤子の手をひねるのと当然よ』

 

「武器商人風情が…!」

 

『その武器商人風情にやられているそっちはどうなのよ?マルセル・インバランドさん?』

 

そう言われ男…マルセル・インバランドは表情を険しくさせる。

 

『ま、今はそんな事はどうでもいいの。…変態ロリコン野郎のマルセルさん、一つお聞きしましょうか?』

 

「なに…?」

 

突然尋ねてきたシャーレイのセリフにマルセルは眉を顰める。

一体この武器商人風情は何を企んでいるのだと。

どういうつもりだと問おうとした時、シャーレイの口から、とある言葉が出てくる。

 

『軍、実験、材料、人体実験……そして"融合"。これらの言葉に聞き覚えはあるよねぇ?』

 

「…!」

 

それの言葉はマルセルと一部の者しか知らないこと。

故にマルセルの手は少しだけ震えていた。

どこでその言葉を知ったのか。頭の中でその疑問が尽きないままであった。

 

『…傭兵を差し向けてきたのは以前の話を蹴った報復。だけどそれらについてこっちは知るはずもないと思ってるんだけど。……けどね、喧嘩売られたら、そいつを徹底的に潰すまでやるのがうちのやり方。ありとあらゆる手段で探ってたら、あら不思議。趣味とビジネス以外の事にも手を出していたとはね?』

 

「き、さまぁ…!!」

 

『おーこわいこわい』

 

シャーレイは一つ間を置く。

そして彼女は口を開く。

 

『何が目的なんか知らないけどやっている事が外道のそれと同じ…いいえ、外道と言うのも烏滸がましいわね。アンタは"人"なんかじゃない。人という種族すら名乗ってはいけない生き物よ』

 

しかして次に開かれたその声音は一人の人間として正しい怒気が交えていた。

 

「今更正義面か!!貴様も同じだろうが!相手が誰だろうとなんだろうと武器を売りさばき、破壊をばら撒く。誰かの命なんぞ貴様にとっては只のゴミ屑と同義!家族を捨て、自ら暗闇に足を踏み入れた女が言う事か!」

 

マルセルが吠える。

まるで開き直った台詞にシャーレイはため息をつく。

 

『確かに私…いいえ、私たちが言うのは違うわね。でも…』

 

「なんだ!!?言ってみるがいい!」

 

この時。

もしマルセル・インバランドがシャーレイの顔を見ることが出来たのであれば彼は思うだろう。

 

『お前に家族を奪われた──』

 

その台詞はどういう意味かと。

そして…

 

『──"あの娘"ならどうかしらね?』

 

その笑みはどういう意味かと。

 

 

破れた天窓から雪が舞い降りる。

地面を広がる血潮。瞳孔が開いたまま微動だにしない修道女を優しく降り注ぐ。

 

「…」

 

いまだに響く銃声。

いまだに漂う硝煙。

いまだに漂う冷気。

そんな色んなものが混ざり合う廃ホテルのロビーで彼女…シーナ・ナギサは修道女の死体を見下ろしていた。骨の髄にまで食い込んだ銃の冷たさを感じながら。

 

「…シーナ」

 

彼女のそばに立ち、肩にそっと手を置くヴェルデ。

 

「そろそろ離れないと不味い。それに彼女達を向こうに渡してあげないと」

 

「ええ、わかってる」

 

不気味なほどに素直に従うナギサ。

死体から視線を外し、後ろへと振り返ると集団で固まったまま動けずにいるアリシアたちへと歩み寄る。

 

「…!」

 

その時、ナギサは気づいてしまった。

アリシアやユキノ、このカルト集団に捕まっていた人質たちが見つめるその目に。

そこに含まれている感情の正体に気づいてしまった。

 

(…)

 

分かっていた。いずれそんな目で見られることになると。

しかしそれは思いの外、彼女の心に突き刺さっていた。

下唇を噛みそうになるも何とか耐え、ナギサは足を進める。そしてアリシアの前に立つと、ホルスターに納めてあったM92Fを引き抜き、安全装置を外してからそれを彼女へと差し出した。

突然銃を差し出されたことに困惑するアリシア。対するナギサは優しく笑みを浮かべて、話しかける。

 

「良い?これを絶対に手放さないで。もし見知らぬ人が来たら迷うことなく構えて」

 

「ナ、ナギサちゃん?」

 

更に困惑しだすアリシア。

彼女の様子に構うこともなくナギサを言葉を続ける。

 

「もし相手がグリフィンか警察…本当に信頼できる人だと判断したらその人たちに助けを求めて。その人たちに助けてもらえば、きっと元の生活に戻れるはずだから」

 

「さ、さっきから何を言ってるの…?ナギサちゃんも一緒に…」

 

「悪いけどそれは出来ない。私にはやるべき事があるから」

 

そう言い切った所で、奥から音が響いた。

まるで誰がやってくるような足音。

それを感じ取ったナギサはだから…と前置きを口にしてからアリシアを優しく抱きしめた。

 

「さようなら。そしてありがとう、アリシアちゃん」

 

「…!」

 

「私はもう戻れない。全てを終わらせる為にはこうするしかないから」

 

ナギサがアリシアを抱きしめる力が少しだけ強くなる。

同時に彼女の頬に一滴の水滴が伝い始める。

 

「今までありがとう。私の友達でいてくれて。だからどうか──」

 

 

 

 

 

「元気でね、アリシアちゃん」

 

 

 

 

アリシアを抱きしめていた腕が離れる。

そしてナギサはアリシアの傍を離れていく。

紡がれたセリフの意味。それが何を意味していたのかを理解したアリシアは手を伸ばす。

しかし寸でのところでその手は届かず、ナギサはヴェルデとともに何処かへと消え去っていった。

頬に伝う涙を拭いながらナギサは前を見る。

 

「終わらせるから。私が…全て」

 

もう元に戻る事は出来ない。その手を血に染めてしまったのだから。

友人との別れを済ませたナギサは頬に伝った涙を拭い、走り出す。

十年前に始まった悪魔を終わらせるために。




という訳でシーナ編再開です。
どうかお付き合いの程よろしくお願いいたします。

では次回


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Act207 February 14th Revenge 15

─ラストダンスの開幕─


「良かったのかい?あんな事を言って」

 

廃遊園地から抜け出し、ヴェルデが運転する車の車内で彼女は私にそう尋ねてきた。

大方アリシアとの別れについて訪ねているのだろう。

ならば返す答えは一つだ。

 

「ええ。これで良かったのよ」

 

あの状況、そして彼女達が私を見つめる『目』を見たら、あれが一番正しい行いだと思っている。

後悔はない。いずれこうなるであろうとは覚悟していた。

 

「ヴェルデがこの世界にどれほど居るのかは分からないけど…何となく察しているでしょ?」

 

「…」

 

一度この闇に足を踏み入れた以上、もう元の生活に戻れない。

だから、これで良いのだ。

アリシア・アナスターシャが知るシーナ・ナギサ()はもういないのだから。

 

「そっか…君が決めたことだからね。なら、これ以上は言わないよ」

 

「ええ、ありがとう。それで…次は廃ホテルだったよね?」

 

マルセル・インバランドが個人的な趣味で所持している建物は幾つもあり、私たちが先ほど抜け出してきた寂れた遊園地もその一つだった。

そして今から向かおうとしているのが、廃れたホテルである。

そこで『解体』という行為が行われているらしいが一体何が行われているのだろうか。

解体という言葉を聞くだけだと、何となく察してしまっている辺り私はもはやまともな人間でなくなった証拠と言えるだろう。

 

「そう。ただここから先は覚悟していた方がいい。…目を反らしたくなるのが広がってるから」

 

「…」

 

どうやら私の予想は当たっていたようだ。

胸の内で反応に困った笑いをあげていた時、ふと携帯電話が鳴り響いた。

私のではない。ヴェルデが羽織っているコートの懐から、携帯電話のコール音が鳴り響いている。

彼女は運転しながら、コートの懐から携帯電話を取り出し、耳に当てた。

 

「シャーレイかい?無事だったみたいだね…うん…うん……そう。そこはグリフィンと警察に任せるとして、僕達はどうすればいい?」

 

どうやら電話をかけてきたのはシャーレイのようだ。

ヴェルデの口調がどことなく安心したような様子なので、あの襲撃者を撃退することが出来たのだろう。

それにしても、『そこはグリフィンと警察に任せるして』とはどういう意味だろうか。

聞きたいところであるが、電話の邪魔をする訳にはいかない。

ヴェルデが電話を終えるまでの間、私はそっと視線を外へ向けた。

真っ直ぐと、濁った雪が積もった道路を走り続ける車。過ぎ行く街の姿。降りしきる雪。

どれほど時間が経っただろうか。もう日は跨いでしまっているのだろうか。

最後に太陽を見たのはいつだろう。いつの間に私は夜行性になってしまったのだろうか。

 

「…ふぅ」

 

シートを後ろへと倒し、寝転がる。

今の今まで動きっぱなしだった事もあってか疲れが襲ってきた。

とは言え、この疲れも一時的なものだろう。

外に出て、銃を片手に動き出したら疲れなど分からなくなる。そんなものを気にする余裕などないのだから。

少し仮眠でも取ろうとした時、電話を終えたのかヴェルデが携帯電話をコートの懐へと戻す姿が目に映った。

仮眠を取るのを断念し、シートを起こして私はヴェルデへと話しかける。

 

「シャーレイからなんて?」

 

「予定変更のお知らせ。僕たちが今から向かおうとしている場所はどうやらグリフィンと警察がいるみたいだ」

 

驚いた。

私たちがあの場所を出て、そんなに時間が経っていないというのにグリフィンと警察の動きが早い。

どういう事なのだろうか。

 

「随分と行動が早いね?さっきまで遊園地に居たというのに」

 

「多分部隊を別々に割り当てているんだろう。でなきゃここまで早く動けない」

 

「なるほど。…で、廃ホテルが無理なら、私たちが次に向かうのは…」

 

「精神病院だ」

 

そこでは訓練というのが行われているらしい。

大方奴隷兵士にさせる為の訓練だろう。

だが疑問はある。何故精神病院の裏でその『訓練』とやらを行う必要があるのか。

恐らくだが、今から向かおうとしている精神病院は今でも運営されているに違いない。

人目に付く可能性があるにも関わらず、何故そこを選んだのかが分からずにいる。

私がマルセル・インバランドというクソ野郎だったら、まず人目が付くような場所は選びはしない。

寧ろ私でなくても、そう考えるだろう。

だからこそ疑問に思うのだ。何故そこを選んだのかという疑問が。

 

「そしてこれで最後になる。油断しないでね」

 

「ええ。分かってる」

 

車両を一旦停止させた後そのままUターン。

車は元来た道へと走り出し、最後の舞台となる精神病院へと向かった。

 

「…」

 

「…」

 

再び訪れる静寂。

疲れた体を休めるタイミングとしては良いのだろうが、中々その気になれずにいた。

今になって頭の中に浮かび始めた疑問が私を休ませてくれないからだ。

金持ちの生まれであり、議員であるマルセル・インバランド。

その正体は変態な趣味と外道のような事を行っているとんでもない人間という事は間違いない。

証拠として、ヴェルデからの情報、殺したカデーノが言っていた言葉も含め、私が潰したバーにいた子供達やヴェルデと共に襲撃した廃遊園地で見つけた人質達がマルセルとの関わりを示していた。

この目で見た訳ではないが、先ほど向かおうとしていたホテルではいわゆる『医療貢献』の為の行いもマルセルが関与していると見ていいだろう。

ただ腑に落ちない部分が多い。

いや…腑に落ちないというよりかは、もっと別の何かが行われている気がして仕方がないのだ。

故に私は悩む。今から襲撃しようとしている精神病院で、ただ殺しだけを行うべきなのかをどうかを。

それに──

 

「えらく静かだね?精神統一でもしているのかい?」

 

そんな時だった。

しっかりと前を見据えながら、ふとヴェルデが冗談を交えて話しかけてきた。

 

「そう見える?」

 

「いいや。むしろ悩んでいるようにも見える」

 

どうやらヴェルデには私が思っていることがわかるようだ。

ならこの際だ。先ほど胸の内で言おうとしていた事をヴェルデにぶつけるとしよう。

 

「単刀直入に言うね。…貴女の目的はなに?」

 

暖房がついているはずなのに車内が冷え返った気がした。

 

「…質問の意図が分からないな」

 

笑みを湛えたままヴェルデは車を止めない。

 

「貴女が私に協力してくれているのは組織の意向があってこそ。シャーレイの指示があって協力しているだけに過ぎない」

 

「…」

 

「私が聞きたいのは、組織の一人としてではないヴェルデ・ルスタリオとして、協力してくれる理由を知りたいの」

 

ずっと聞きたかった事だ。

初めて学校で出会った時はてっきりカデーノの復讐する為に私に接触してきたのだと思った。

けど、カデーノを私が殺してしまった以上、情報を伝えるだけでわざわざ協力する必要はなかったのではないかと思うのだ。

シャーレイの指示があったとは言え、力を持つ議員を相手にしたいとは思わないだろう。

私のようによっぽど恨みがなければ、協力なんてまずしない。

だから今尋ねたのだ。ヴェルデ・ルスタリオが私に協力してくれる理由を。

 

「…」

 

私はヴェルデをじっと見つめる。

すると観念したのか、ヴェルデは軽くため息をついた後、静かに口を開いた。

 

「もう随分前の話さ。シャーレイの所に転がり込む前、僕は奴隷兵士として生きていた時期があった。銃なんて握った事なんてない。だけど生きる為には嫌でも銃の撃ち方を、人の殺し方を覚え、ただ死に物狂いで生きようと必死になっていたんだ。戦場に出てしまえば心休まる事なんてなかったけど…ほんの僅かに僕にとって心を休ませてくれる存在がいた」

 

「それは?」

 

私がそう尋ねた時、ヴェルデはコートの懐から何かを取り出し、それを差し出してきた。

何だろうかと思いながら受け取り見つめる。

彼女から渡されたそれは色褪せた一枚の写真。

写真にはヴェルデだと思わしき人物と一緒に映る年若い少女達が映っている。

この少女達がヴェルデが言っていた心を休ませてくれる存在なのだろうか。

 

「そこに映っているのは僕と同じようにゴミみたいな値段で買われた奴隷兵士達でね。お互いに支えながら、生きてきた。僕にとっては彼女達の存在は心を休ませてくれていた。幸いというべきか、僕達を買った所は他と比べたらまだマシと言える所だったからね」

 

「…だから笑っているね。無理やり笑っている写真でも撮らせているのかと思った」

 

「そう思ってもおかしくないかな。買い手が最悪だと場所も最悪さ。来て初日で死んだ奴隷兵士もいたって話は聞いたことがある」

 

そして新しい誰かが買われて犠牲になるという訳か。

非常に不快で耳を塞ぎたくなる話だ。

彼女の目を見つめ、続きを促す。

 

「…ある時だった。僕達が属している組織の社長が、僕とそこに映る彼女達を連れて、ある場所へと向かった。荷台に放り込まれていたからどういった場所かはよく覚えてないけど、豪邸だったのは覚えている。応接室に通された僕ら。そして社長は何処かへ消え、その代わりに奴が現れた」

 

「マルセルね?」

 

「ああ。奴は僕らを見た後こう言った。今日から私が君たちの新しい雇い主だと、ね」

 

「新しい雇い主、ねぇ…」

 

オウム返しのように呟く。

ヴェルデと彼女達が属していた組織の社長とどのようなやり取りがあったかは知らない。

だが一つ言えるとするのであれば、その先で待っているのは地獄だという事だけだ。

 

「何もかもが一変した。新しい服を、新しい銃を、新しい部屋を与えれ、任務も比較的楽な方だった。だから僕たちは忘れていた。奴隷兵士を買う大人の本質を、その腹の内…どす黒いそれの存在を」

 

ヴェルデの表情が険しくなる。

本人が気づいているかどうかは分からないが、ハンドルを握る手に力が入っていっていた。

 

「突然だった。任務から帰ってきた時、何故か彼女達が居なくなっていた。雇い主であるマルセルに彼女達の事を尋ねると、応援の為に遠方に向かったと言っていた。しばらくすれば帰ってくるだろうと言っていたから当時の僕はそれを信じて疑わなかった」

 

「だけど彼女達は帰ってこなかった。それに気づいたのはいつ?」

 

「一週間が経った時だ。ロッカーの片づけをしている時にたまたま別のロッカーが開いているのを見つけた。閉めようとした矢先、中から一丁の銃が転げ落ちてきたんだ。それは彼女達の内一人が愛用している銃で戦場に行く時は必ずと言っていいほど携帯していた。応援の為に遠方に向かうとは言え、態々愛用している銃を置いていくのはおかしい。何かが変だと思った僕はマルセルに彼女達の行方を探った」

 

「それで?」

 

「…意外とあっさりと彼女達の行方は分かった。彼女達は豪邸の地下……ゴミを投棄する所にいた。ゴミの中で埋もれていて、全員が死んでいた。一人は目をくりぬかれ、一人は喉、中には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の子もいた。どういう訳が全員が身体のどこかが無くなった状態だった」

 

言葉が出なかった。

そしてそれをやったか、或いはそれを指示した奴が誰なのか。

その犯人を私は知っている。

間違いなくマルセルの仕業だ。

しかし、一体何のためにそんな惨い事をやったのかが気になる所だが。

 

「…怒りや疑問を覚える前に僕は恐怖を覚えた。体を震え、急いで逃げ出さなくてはならないという思いが心を支配した。そして気付いたら僕はそこから逃げ出すように走り出していた。ただそう簡単に豪邸から脱出とは行かなかった」

 

「護衛でもいたの?」

 

「護衛というか…マルセルの下には十二人のメイドが仕えている。年齢はバラバラだけど、全員が戦闘のプロ。特殊部隊以上の戦闘力を持っている。そんな奴らに僕が彼女達の遺体を見つけたのを感づかれてね。そっから豪邸では銃声がひっきりなしに響いた。肩を撃たれたりしたけど、死に物狂いでそこから逃げ出して、その後に僕はシャーレイに拾われた」

 

修道女のお次はメイド。

それが武器を片手にご主人様の為に戦うメイドさんと来た。

もしこの戦いが終わった後、近くでコスプレイベントはあるようであれば見に行かないようにしよう。

ふと思い出してしまい撃ちかねない。

それは兎も角として、ヴェルデがこの戦いに手を貸してくれている理由が分かった気がした。

 

「…だから手を貸してくれているのね?マルセルに復讐する為に」

 

「ああ」

 

彼女も私と同じように『復讐者』なのだ。

私は家族を奪われ、ヴェルデは大事な仲間を奪われた。

だから復讐を成さなくてはならないのだ。全てを奪った元凶に。

 

「これで満足してくれたかな?」

 

「ええ。十分過ぎる程に」

 

理由としては十分過ぎる。

ならばこれ以上疑いを持つのは良くない。

それなら良かったと笑みを浮かべたヴェルデは車の速度を上げる。

その隣で私は戦闘の準備を進める。

 

「…」

 

トラブルの解決方法は私が一から編み出した方法ではない。

こういった時は昔から存在する方法を真似する事が一番手っ取り早い。

目には目を。歯には歯を。

これが復讐の基本。

今も昔もそれはよく多用される方法だ。

雪に染まった街を車が駆け抜けていき、そして私たちが目指した場所へと到着した。

人里離れ、どことなく不気味な雰囲気を放つ精神病院。

日中では落ち着きあり、のんびりとした雰囲気が患者にとっては良いのだろうがその裏ではありとあらゆる不法行為が行われているとは知るはずもないだろう。

車が病院の前で止まり、私とヴェルデは車から降りる。

お互いに戦闘の準備は出来ている。二人して顔を見合わせてから頷く。

そして歩き出した矢先の事だった。

 

「!」

 

「!?」

 

突如として先ほどまで乗っていた車が爆発した。

いや、突如にしては狙った感が否めない。

今の今まで乗っていた車が今になって爆発したとなれば、どういう状況かなど言わずとも分かる。

私たちを歓迎してくれる存在がいるという事だ。

 

「歓迎会にしては物騒だね。…大方マルセルが手を回していたんだろう」

 

炎に包まれた車から離れ、近くの壁に身を寄せていたヴェルデがそう呟いた。

応戦するべきかと悩みつつペインキラーを引き抜いた時、ヴェルデが私に伝えてきた。

 

「外は僕が引き受ける。…内部の方を任せていいかい?」

 

外でこうなのだ。

どう考えても内部にも敵はいるであろう。

このまま此処にいた所で挟み撃ちに遭う可能性は低くはない。

であれば二手に分かれるが得策と言える。

それを分かっていた私は頷き、身を隠していた壁から飛び出し内部へと侵入する。

復讐から始まった大虐殺劇の終わりが薄っすらと見えつつあった。




色々謎がありつつもナギサ編も終わりへと向かいます。

変態趣味、そしてビジネス以外にも何かがしようとしているマルセル。

復讐する為に行動するナギサとヴェルデ。

さてはて…隠された謎、結末はどうなる事やらか。

では次回


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Act208 February 14th Revenge 16

─隠された計画─


外での熱烈な歓迎は何だったのか。

冷気が漂う落ち着いた雰囲気を感じさせる院内のエントランスホールには誰一人いなかった。

居るのは銃を片手に突っ立っている自身のみ。

それ以外誰もこの場にはいなかった。

手に持った銃を握り直し、私は歩き出す。

明確な行先がある訳ではない。だがここでずっと突っ立っているよりかはマシだろう。

構造故か一歩、また一歩と歩く度に履いているブーツが地面に当たる音がエントランスホールに反響する中、私は先ほどの事…この精神病院に到達した際に車が爆発した状況に疑問を覚えていた。

 

「歓迎会を開くにしては…」

 

まるでここに来る事を知っていた気がする。

そんな感じがしてならなかった。

遊園地を出てからここに来るまでの間、どれほどの時間を有したかは分からない。

だがマルセルが何らかの行動を起こしたと考えた方が良いだろう。

でなくては、今の様な状況にはならない筈だ。

 

「…ふふっ」

 

笑みがこぼれた。

それもそうだろう。どう考えても今は危機的な状況が迫っている。

だというのに今の私には焦りはなく、只々冷静だった。

何度もこのような状況を経験してきたからか。或いは自身がおかしくなったからか。

どのみち今更焦る必要などない。だから私は冷静にいられた。笑いをこぼす程度には。

 

「さて、と…」

 

何処に敵が潜んでいるのやらか。

明らかにおかしいこの静寂の中で私は手に持ったPainekillerを持ち直す。

そのままエントランスホールを抜けようとした時、正面のエレベーターの扉が開いた。

 

「!」

 

咄嗟に銃をエレベーターへと向ける。

しかしそこから誰かが降りてくる様子なく、それどころかエレベーターは下りを示したまま動く様子すら見せなかった。

それはまるで私がそれに乗るを待っているかのようだ。

普通に考えたら乗らないという考えに至るのが普通であろう。だが私の中で何かが囁いていた。

エレベーターに乗るべきだ、と。

 

「…行ってみよう」

 

その何かに従う様に私はエレベーターへと歩み寄った。

そしてエレベーターは私が乗り込むのを確認した後に下へと下り始めた。

駆動音だけが響く狭いそこで壁に背を預け、体が下に引っ張られるような感覚を覚えながら息を吐く。

そう言えば体が軽い気がするが何でだろうか……あ。

 

「Ots-14をヴェルデの車に置いたままにしてしまった…」

 

どおり軽く感じる訳だ。まだまだ弾が入っていたのに…。

だが今更取りに戻る事などできる筈がない。仕方ないと割り切るほかない。

取り敢えず今持っている銃と弾薬がどれだけあるか確認しておくとしよう。

 

「よいしょっと…」

 

下げていたショルダーバックを下ろし、中身を確認する。

 

「フラッシュバンとグレネードは余り持って来ていなかったからないのは当然として…。散弾とM92Fの予備マガジンは在庫切れ。残っているのはMP5の予備マガジン一つとPainekillerとマテバ6ウニカの予備のローダーがそれぞれ四つ、後はコンテンダーに装填してある一発と44マグナム弾が10発、か…」

 

正直心許ない。

Ots-14を車に置いたままにしてしまったのが痛い。

補充が出来ればいいのだが、精神病院に銃やら弾薬やらが置かれているとは到底思えない。

何とか耐えるほかないだろう。

ジッパーを閉め、ショルダーバックを背負い直したタイミングでエレベーターが止まった音がした。

どこに止まったのだろうかと思い顔を上げ視線を電光表示板へと向ける。

 

「…どういうこと?」

 

電光表示板にはなぜか階層の表情が出ていなかった。

故障だろうか。いや…それは到底考えづらい。

私がエレベーターに乗り込んだ時は電光表示板はしっかりと機能していた。

偶然故障したと装うにしては些か不自然すぎる。

そうこうしている内にエレベーターの扉が開く。

その先に広がったのは薄暗い廊下。その廊下が何処へと繋がっているかはここでは分からない。

 

『どうぞ先へお進みください。危害を加える事はしませんので』

 

先に進むべきかどうか悩んでいる時、誰かの声が響いた。

まるで何処からか自分を見ている様な口ぶりに私はエレベーター内を見回した。

そして上を見上げた時、そこにあったものを口にする。

 

「監視カメラね…」

 

『はい。この監視カメラを通して貴女を見ています。気分を悪くされたのであれば申し訳ありません』

 

「気にしなくていい。それにしてもこっちの声が聞こえるなんてね…この階層の至る所にマイクでもあるの?」

 

『いいえ。このエレベーター及びこの階層にスピーカーは備え付けておりますが、マイクは備え付けておりません。単に貴女が口にしている事を読み取っているだけです』

 

「…読唇術ってやつ?」

 

『良くご存じで。ええ、その解釈で問題ありません。…では、先にお進みください。こちらが誘導致しますので』

 

謎の声に促され、私はそっとエレベーターから降りる。

 

「…」

 

そこは精神病院の地下とは思えない程、雰囲気が異なっていた。

まるで異界。そう表すのが適切と言える。

一体何のためにこの存在しない地下階層を作ったのか。全く見当が付かない。

ゆっくりと足を進め、何処からか聞こえてくる機械が動く音を耳にしながら奥へと続く廊下を進んでいく。

しかしあの謎の声は私をどうしたいのだろうか。敵対する様子はないようにも見えるが信用出来ない。

謎の声に対する不信感を抱きながら長い廊下を通り過ぎ、別の部屋へと足を踏み入れる。

 

「!?」

 

そしてそこに広がった光景に私は思わず言葉を失った。

無駄に広い部屋を埋め尽くすかの様に列を成して並んだ培養槽。

なんのために使うか良く分からない謎の液体の中で人間が入っていた。

それも一つ二つどころではない。この部屋にある全ての培養槽に人間が入っている。

 

「小さい子供から大人まで……ん?」

 

数ある内の一つの培養槽の前で足を止める。

中に入っているのは二十代くらいの女性。ただその眠る姿は異様だった。

 

「なにこれ…目が開いたままになってる?」

 

となるとこの女性は死んでいるというのだろうか。

ではこの全ての培養槽で眠っている人たちは既に…?

 

『いいえ。ここで眠る人たちは全員生きております。貴女が前にしているそのお方は義眼を付けているです』

 

「義眼…」

 

だとしてもこの状態は普通ではない。

これではまるで実験体だ。

 

『聞きたい事は山ほどあるでしょう。ですが今はその質問に答える事は出来ません』

 

「その理由は?」

 

『理由?簡単な事です。まだ貴女は私と顔を合わせていない。それだけの事です。…さぁ、こちらへ』

 

そこで謎の声は途切れ、奥の方へ扉が開いた。

ここに居た所で答えが得られる訳ではない。

開いた扉へ私は歩みを進める。

色々と分からない事が多すぎる。

謎の声、この精神病院の存在しない地下、無数に並んだ培養槽の中で眠る人達…。

事態がどんどん別の方向へと進み始めている気がする。

見えない何かが始まろうとしている。そんな感覚を覚えながら私は謎の声が開けてくれた扉へと入る。

そこは先ほどの培養槽が並んだ部屋とは打って変わり、部屋全体が白く彩られていた。

そしてその部屋の奥には巨大な機材が鎮座しており、それと繋がれているようにも見えるいかにも座り心地が悪そうな椅子に両目を包帯で隠した一人の女の子が座っていた。

白と水色を交えた色をした髪はとても美しく見える。…彼女があの謎の声の主なのだろうか。

 

「貴女が…あの声の主?」

 

そう尋ねると彼女は頷き微笑んだ。

 

「初めまして、シーナ・ナギサ。私の事はAliceとでも呼んでください」

 

「Alice…それって本当に貴女の名前?」

 

「いいえ、この名前は仮名みたいものです。ですが私は私の本当の名前を忘れてしまっていまして。ですからAliceと名乗っています」

 

本当の名前を忘れてしまっている?

本当かどうかは分からない。

だがそれの真偽を確かめるよりも先ほど見たあの光景の事を問わなくてはならない。

 

「貴女が問おうしている事は分ります。ですがその前に私の話を聞いて頂けないでしょうか」

 

「話?散々焦らしておきながらまた先延ばしにするつもり?」

 

「ええ。先にその話をした方が後から話す内容も分かりやすいかと」

 

急いで知りたい所ではあるけど…。

仕方ない。今はAliceの話を聞く方が良さそうだ。

沈黙を了承と判断したのかAliceはありがとうございますと告げてから言葉を続けた。

 

「先ほどのアレを見たのであれば疑問に思ったはず。何故人間がまるで実験動物みたいに培養槽に入れられているのか、と」

 

「ええ。どう考えても普通じゃない。もっと言えばこの施設も普通じゃない。そして貴女も」

 

「でしょうね。ですが私とてこうなる事を知っていた訳ではありません。そしてあの培養槽に入れられている者達もこうなるとは思っていない。…全ては人間の価値を人形から取り戻そうとして行動した一部の者達による仕業なのですから」

 

「人間の価値を取り戻す…?」

 

ニュースなどで過激派組織がデモ活動を行っているのは知っている。

しかしここまでの事を出来るかと言われたら正直、反応に困るが…。

 

「はい。第三次世界大戦にて人類は大きくその数を減らした。世に人形という存在が放たれると、彼女達は失われた人類の労働力として務めてきた。人形の登場もあって人類は僅かながらも数を増やしつつあった。けど彼女達は優秀過ぎた…。代えが効く存在、低賃金で雇ったとしても問題のない存在…どの組織において人形達は重宝された。対して今までその組織で働いてきた人間達は退職へと追いやられた」

 

何処かのニュースで聞いた話だ。

その時は幼かったから理解できなかったが、内容は覚えている。

人形の普及により数多くの人間が今まで勤めてきた会社をリストラさせられた、と。

何の理由もなく只々会社を出ていくように言われ、満足のいく退職金すら払わなかったらしい。

そんな理不尽な事があれば誰だって怒りを覚える。

数多く企業にデモ集団が詰め寄り、騒ぎになっていた。

そう言えば企業以外にもデモ集団が詰め寄っていたと聞いたが……ん?待てよ…

 

「たしかそれって警察や消防以外にも…」

 

「はい。警察、消防以外でも軍でもそのような事が起きました。大きな暴動こそは起きたものの何時しか事件は人々の頭の中から忘れ去られていった。一部はその運命を受け入れ、一部は理不尽に抗う事が出来ず泣き寝入り。しかし…軍に所属していた者達は忘れる事などなかった。そして何時しか誓ったのです。自分達の手で人形から人間の価値を取り戻してみせる、と」

 

「…」

 

理解が出来なかった。

人間の価値とやらを取り戻す為に人間を訳の分からない培養槽に放り込み、まるで実験体みたいな扱いをしている。

この行いを経てどうやって人間の価値を取り戻すというのか。

そんな思いを込めた視線をAliceにぶつける。しかし彼女の表情は変わる事なく、言葉を続けた。

 

「あの培養槽に居る者達は身寄りのない者や或いは重い病気を患った事が原因で家族から見放された者達ばかり…そんな者達を使ってあの者達は、あろう事か有機物を埋め込んだ。一人は目、一人は喉…体の何処かにある装置を埋め込んだのです」

 

「…その装置って?」

 

「所謂ウイルスをばら撒くものです。民間用の人形に限定したもので、その効果は分かりやすく言えば人形を暴走させ人間を襲うものと言えば分かりやすいでしょう」

 

「何故そんな事を──」

 

そう言いかけて、私は理解した。いや、何故か理解してしまった。

人間の価値を取り戻そうとしている者達が人形に人間を襲わせる…その理由が。

 

「襲ったという事実が必要いるのか…。一か所で起きた所で意味がない。けど同時に数ヶ所で起きたとなれば…」

 

「はい。そうして人形に対する不安や不信感を利用する。後の事を考えているかは分かりませんが…」

 

色々と不鮮明ではある。

だが止めなくてはならないのは事実。

しかしどうやって止めるか。その方法を探らなくてはならないが、一つだけ気になる事がある。

 

「その物騒な計画にマルセル・インバランドは関わっているの?」

 

「はい。あの者もこの計画に関わっています。この精神病院の運営資金糖など計画に携わる事に関しての資金提供を行っております。最も何故あの者がこの計画に関わろうとしているのかはわかりません」

 

そこでAliceは言葉を止めて、顔を私の方へと向けてきた。

 

「…そして私は貴女にお願いしたい。この計画…ペインキラー計画の全容を公の場に公開してほしいのです」

 

奇しくも、というべきだろう。

人としての価値を取り戻そうとして、人としての道を外した者たちが企てた計画は私の手が握っている銃の渾名を同じ名前をしていた。




ご久しぶりです…。
まぁ…色々忙しかったので更新が遅れました。

内容もグダグダですが、何卒宜しくお願い致します。。

では次回ノシ


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Act209 February 14th Revenge 17

─託されるたった一つの願い─


政治家マルセル・インバランド及び元軍人達によって世界の裏側で行われてきた計画「ペインキラー」。

曰くそれは人間としての価値を人形から取り戻すための計画だと。

裏で動いている何かの正体を明かし、目の前で金属製の椅子に腰かけ目を包帯で覆い隠した少女Aliceは私に告げた。

この計画を公の場に公表にしてほしいと。

 

「どういう事?」

 

正直そんな事を言ってくるとは思ってもみなかった。

態々私に頼まなくても、彼女ならできると思う。

 

「言葉通りでございます。先ほど私が話した事をこの世界に広めてほしいのです」

 

「それは分かった。でも何で私に頼むのかが分からない。それだけ情報を知り得ているのなら、態々頼むなんてせず貴女が世界に発信すればいいんじゃない?」

 

私が彼女が話した情報を世界に広めた所で誰も信じはしないだろう。

大方十四歳の子供が考えたただの妄想に過ぎないと一蹴されるのオチだ。

私より聡明であろうAliceがそれを分からないとは思えない。

 

「…それが出来ないのです」

 

微笑んだままであるが、その言葉は何処となく悲しげだった。

首を傾げる私にAliceは言葉を続ける。

 

「その理由は……まぁ、直に見てもらった方が分かりやすいですね。…シーナさん、私の後ろへと来てください。その理由がお分かりになると思いますので」

 

そこに一体何があるのだろうかと疑問に思いながら、私は椅子に腰かけたままのAliceの後ろへと回り込む。

そしてAliceの言う理由とやらの正体を目にした。

 

「なに、これ…」

 

それを見て私の中で怖気が走った。

それほどまでにAliceが見せたそれが異様だったから。

 

「ケーブル…?何でそんな物が首の後ろに突き刺さっているの…?」

 

声を震わせながらはAliceの首の後ろに刺さったケーブルの先をたどった。

そして行き着いたのは、彼女は初めてこの部屋に訪れた時に見たあの大きな装置だった。

Aliceはこの装置を繋がっている。

その事実を理解してしまうと得体の知れない何かがを襲った。

突然のそれについ力が抜けてしまい握っていた銃を落としそうになる。

何とか手に力を入れ持ち直した時、Aliceが口を開いた。

 

「これが先ほど言った動けない理由…。私は後ろにある装置と繋がれており、ケーブルの端子は私の神経と繋がっています。まぁ言ってしまえば私はこの精神病院全体を統括、管理する機構であり、生体端末なのです」

 

「いつからこの状態なの…?」

 

「さぁ?数える事すらやめたので覚えていませんね。ここに居ると時間の概念すら忘れてしまいますから」

 

そのセリフは既に受け入れている様子で、何処か諦めている様子だった。

それを感じ取りつつもあえて問うことはしなかった。

だが同時に己の中で燃え盛っていた怒りの炎を更に激しくなっているのを感じた。

襲っていた何かを燃える何かで振り払い、Painekillerを握る手に力を入れる。

 

「…長い間ここに居て、その間私はそれを聞き、そして感じてきた。人の…本当の恐ろしさというのを」

 

呟く様に彼女は口を開いた。

私はただAliceの言葉に耳を傾けるのみ。

 

「彼らは言った。こんな私でも役に立てると。盲目である私ですが誰かの為に役に立てるのであればという思いから彼らの協力した。だから手術にも何ら疑問を抱くことはなかった。…しかし私に与えられた役目は人として外れた行いの片棒を担がせる事で、そして計画の駒として人である事を奪われてしまった者達を管理する事でした。死なぬように管理し、そしてあの者達が元には戻れない事、只々見ている事しかできない非力な自身を何度も嘆いた」

 

だんだんとその声には怒気が交える。

それに気づきながらも聞き役に徹し続ける。

 

「悪夢、といった方が良いんでしょうね。私にとっても、そしてあの者達にとっても。…だから私はこんな馬鹿げた計画を止める事にしました。組織の人間に気付かれるように細心の注意を払いながら行動し、いつか来るべきその時の為に備えてきたんです。動けない私に代わって、この事を世に知らしめてくれる存在が私の元に現れるその時を」

 

「それが今であり、そして代わりの存在が私という訳ね…」

 

その言葉にAliceは静かに頷いた。

 

「だから私は貴女にお願いしたい」

 

動く事が叶わない身なのは分かる。

 

「どうか私を、そしてあの者達を─」

 

装置と彼女を繋ぐケーブルを引き抜けば、起きる事はただ一つ。

確実な『死』のみ。

 

「この悪夢から─」

 

今の彼女では希望には成り得ない事は言わなくても分かる。

故に託すのだろう。

 

「目覚めさせてくれませんか」

 

悪夢から目覚める術を。

全てを終わらせるための最初で最後の希望を。

 

 

一方、精神病院前で支柱を盾に身を隠していたヴェルデはこの場が異様な雰囲気に包まれている事に疑問を覚えていた。

最初の攻撃の後、ナギサが病院内に向かっていったのは良いもののそれ以降一向に攻撃が飛んでこないという状況が続いていたからである。

最初こそは狙撃手が潜んでいるのではないかと睨み、わざと揺さぶりをかける様な事をしてみたヴェルデであったが、それでも攻撃が飛んでこなかったのでこの普通ではない状況を疑問に思い、どうしたものかと思い始めたのが今からほんの数分前の事である。

しかしてヴェルデはこの異様な状況が何を意味しているのか分かっていた。

 

「全く…」

 

呆れた表情を浮かべながら、彼女は損失したL96A1とSPAS-12の代わりとしてあの遊園地から持ち出してきた銃『AR-57』に弾倉を差し込むと軽く息を吐いた。

降りしきる雪の中、ゆらりと白い息が舞い上がり暗闇の中へと消えていく。

そして目つきを変えると彼女は大声で叫んだ。

 

「出てくるなら出てきたらどうだい!それとも愛する()()()()の許可がなかったら姿を晒す事も出来ないのか、君たちは!!」

 

誰へと向かって叫んだのか。

その声は肌に冷たく突き刺さる風の音をかき消すかのようにその場に響いた。

するとその声に反応するように、暗闇の向こうからいくつかの影が現れる。

それを見てヴェルデは笑みを浮かべた後、静かに呟いた。

 

「六人しかいないけど…あの出で立ちは流石に間違える訳がないよねぇ…」

 

その影は実に特徴的な形をしていると言えた。

そしてその形はヴェルデとって見覚えがあり過ぎるものであった。

暗闇の奥から姿を現すは六人の少女達。

ライフル、ショットガン、サブマシンガンなど手にしている物は違えど一貫していえる事は全員が武装している事。

何より六人全員がメイド服を身に纏っている事であろう。

現れた彼女たちを目にしてヴェルデはゆっくりと身を隠していた壁から離れ、前に立つ。

するとライフルを手にしたメイドが口を開いた。

 

「これはこれは…何処か見た事のある顔だと思いましたが…。ご主人様に拾われていながら勝手に逃げ出した野良犬でしたか」

 

穏やかの笑み。

しかしてヴェルデを見つめるその瞳は優しいものではなかった。

対するヴェルデは肩をすくめるといつもの調子で答える。

 

「その節は世話になったね。お陰様で良い職場に就く事が出来たから」

 

「…ご主人様にお世話になっておきながら、良くそのような事が言えますわね」

 

「それがどこか問題でも?主を選ぶのだって悪いことじゃない。寧ろあんな救う価値のない奴を崇拝し、良く躾されたペットの様になんでも言う事の君たちの神経を疑いたい所だけど」

 

自身らが崇拝するご主人様を侮辱された事に、メイドら全員がヴェルデを睨んだ。

だが彼女がそれで臆する事はなく、その代わりにと手にしていた銃を突きつけた。

先ほどの柔らかい雰囲気から一転。私兵として戦い続けた事によって培われた殺気が彼女から放たれ、メイドらへと向けられる。

 

「見た所、六人しかいない訳だけど…他はどうしたのさ。君たちだけが出て、残りがお留守番という訳じゃないんだろう?」

 

「当たり前でしょう?でなくてはご主人様が大枚をはたいて行われた計画が無駄になりますから」

 

「けいか─」

 

そう言いかけた瞬間、精神病院から無数の銃声が響き渡るのがヴェルデの耳に届いた。

それに驚きつつもヴェルデは振り返らなかった。

一方で彼女は気付きつつあった。

 

「狙いは僕じゃなさそうだね」

 

「ええ。貴女の事など二の次。狙いは…」

 

「彼女か…」

 

ここに居る六人のメイド。

そして院内にいるメイドら。

それら全ては院内にいるナギサを狙っている。

 

(面倒な事になってきたね…)

 

薄っすらとであるがヴェルデの顔に焦りが浮かぶ。

だがメイドの一人…戦斧を構えたメイドが無邪気な笑みを浮かべながら告げた台詞によってヴェルデの表情は焦りから苦しいものへと変わる事となる。

 

「でもでも~私たちだけじゃ面白くないからさ。ご主人様がみんなを誘ってくれたんだよね~。それもさっき言ったように大枚をはたいてさ!」

 

「みんなを誘った…?」

 

怪訝な表情を浮かべるヴェルデに対し戦斧を手にしたメイドは大腕振りながら答える。

 

「そう!みんな!お金さえ払ったら戦ってくれる人たち、何と五十人!!すっごいパーティーになると思わない?」

 

「ッ!…面倒な事をしてくれたもんだね…!」

 

「ア八ッ♪ご主人様が殺せっていう奴がどんな奴かは知らないけどさぁ…」

 

表情が歪む。

確実に笑っているなのに笑っていない。

寧ろ狂気すら感じさせる笑み。

 

「ご主人様に歯向かった奴が生きて帰れる訳がないじゃん」

 

先ほどまでの無邪気さはどこへ消えたのか。

ひどく冷たく、抑揚のない声が彼女から飛び出す。

 

「ちっ…」

 

最悪な状況になっている。

それに対しヴェルデは舌打ちする。

 

(ナギサ…)

 

院内から響いてくる止む事を知らない銃声をその背で受け止めつつ、ヴェルデは彼女の名を己の内でつぶやく。

だが彼女は気付かなかった。院内では起きている戦闘はメイドらが想像しているものとは違う展開を迎えていることに。



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Act210 February 14th Revenge 18

─ゴミ掃除はお手の物─


病院内が戦場へと変わる数十分前。

願いを託されたナギサは、Aliceにその願いを叶えるにはどうすればいいのかを尋ねていた。

託されたとは言え、言葉でその悪事を世間に広めた所で何ら意味がない事くらいは年若いナギサでも分かる事である。

つまりは世間が動くほどの決定的な何かがなくてはならなかった。

 

「まずはこの階よりも下にある階層。サーバールームに向かって下さい。そこに私が秘密裏に使用している端末が一つあります」

 

「その中に情報が?」

 

「はい。マルセル・インバランドがこれまで行ってきた悪行及びあの者達が企てた計画の全容などの情報を収めています。ただ問題が一つだけあります」

 

「それは?」

 

「外部に持ち出す為に情報を記憶媒体に移さないといけないのです。記憶媒体自体はサーバールームにあります。あとは端末に接続さえ出来れば、私の方で何とか出来ます」

 

「分かった。行ってくる」

 

マルセルへと復讐する為、計画を阻止する為、全てを終わらせる為、ナギサはすぐさま行動を起こした。

駆け足でAliceと一緒にいた部屋を出ていくとエレベーターへと乗り込み、そのまま下の階へと降りる。

存在しないとされる地下二階に到達し、エレベーターへと降りると無数に並べられた端末がナギサを出迎える。

全て同じ。色も形も何もかも。ファンが回る音ですらナギサには同じように聞こえた。

その中からAliceが秘密裏に使用している端末を探さなくてはならなかった。

 

「骨が折れそうだね…」

 

周りを見渡しながらナギサはそう呟くと足を進める。

すると部屋に備え付けられたスピーカーからAliceの声が届く。

 

『安心してください。私が案内しますので』

 

「それじゃお願い。で、端末はどこにあるの?」

 

『貴女から見て左。四列目の最後方の端末が私が秘密裏に使用している端末です』

 

「…四列目の最後方……あれね」

 

Aliceが秘密裏に使用している端末を見つけると、傍に置いてあった記憶媒体をUSBポートへと差し込むナギサ。

記憶媒に内蔵されているライトが灯るとAliceの声が届く。

 

『接続を確認。後は私にお任せ下さい』

 

「どれくらい掛かりそう?」

 

『量が量ですので一時間くらいはかかるかと。その間は退屈になるでしょうが、お休みになっていて…』

 

そこでAliceの言葉が途切れた。

どうしたのかと思いナギサはAliceへと呼びかける。

 

「Alice?」

 

『…すいません、ナギサ。一度私の所へと戻ってきてはくれませんか。説明はそこでします』

 

声からその雰囲気を察したナギサ。

分かったと答えると彼女はその場を後にした。

 

 

Aliceのいる部屋にナギサが戻ってくると、先ほどまでなかった物が姿を現していた。

巨大なモニターらしきものがAliceの周囲を囲むかのように展開されており、そこには院内の様子と見取り図が表示されていた。

物々しい雰囲気を感じ取ったナギサは気を入れ直し銃を握り直す中、どこから取り出したのかコンソールパネルを操作していたAliceが口を開いた。

 

「敵の数は約50。装備など全員がバラバラである事から恐らく傭兵でしょう。雇い主は不明ですが…ここを狙ってきたとするのであれば…」

 

「マルセルか、例の連中?」

 

「恐らくは。それと先ほど入手した情報ですが、グリフィンがここに急行しています。所属は…S10地区前線基地の部隊ですね。しかし何故あの基地の部隊が動き出したのでしょうか?管轄地区ではない筈なんですが…」

 

今になって行動起こしているグリフィンの情報を聞き、ナギサは指を顎に当てつつ思い返す。

グリフィンを最初に見たあの時を。

 

(S10地区前線基地の部隊…もしかして、B.Jの屋敷に居たのもあそこなのかな…)

 

遠くから見ただけであるので確証は持てない。

同時にナギサは疑問を覚えた。

 

(何でその基地の部隊が今回の一件に関わってるんだろう…。警察の手では負えないから警察がグリフィンに協力を求めた、と思ったけど…)

 

幾度もなく浮かび上がってくる謎。

それらは混ざり合い、そして絡み合い、答えを遠ざけていく。

いくら模索しようとしても、十代半ばに過ぎない彼女にはその答えに到達するのは難しい。

 

(考えた所で意味ない…。どのみちこのままやっていけば、どうせ…)

 

答えを手繰り寄せる事が出来ないのであれば、向こうが勝手にやってくるのを待つだけの事。

今、シーナ・ナギサにやれることは立ちふさがる敵を殺すだけなのだから。

逆を言えばそれだけしかないとも言えるのだが。

 

「…それにここに籠っていた所でいずれ見つかるでしょう。雇い主がマルセル・インバランドか、或いは組織の者であれば奴らは貴女を狙い、そしてここに訪れる。そうなれば全てがおしまいです…」

 

「敵を一人も来させる事無く、そして一人残らず始末したらいい、という事よね?」

 

「…はい。現状を打開するにはそれしかないでしょう」

 

「そう。…なら私が片付けてくるよ」

 

何の躊躇いもなく告げるとナギサは踵を返し、上へと上がるエレベーターへと向かって歩き出した。

死んでしまうかも知れない。

だと言うのにそれに対する恐れを感じさせない彼女にAliceは叫んだ。

 

「本気で言っているんですか!?相手は傭兵!それも五十人!!一人で行くなんて無謀過ぎます!」

 

「それがどうしたの?どのみちこの方法しかない。だから貴女は出来るだけ早く情報を記憶媒体に移すように努力して。今はお互いにやれることをやる。それしかないから」

 

「…だとしても…ッ!」

 

行かせたくない。

Aliceの中でそんな思いが芽生えていた。

それもそのはずで、敵は武装した傭兵五十人。それをたった一人で相手取ろうなど自殺行為に等しい。

ナギサを失えば、目的を果たせなくなる。

それだけは避けなくてはならない。

だから行かせたくない。しかし行かせなくては死ぬのは自分たち。

二つの思いがぶつかり合い、Aliceは葛藤する。

迷っている時間は無いに等しい。だからこそAliceは決めなくてならなかった。

 

「…武器を用意します」

 

出した答えはナギサを戦場に送り込む事。

苦渋の選択。だがもうこれしかないのだから。

顔を下ろし唇を噛みしめながらAliceはコンソールパネルを操作。

すると白く彩られた壁から空気の抜ける音が響き渡り、何かの駆動音とともに白く彩られた壁が横へとスライドしていった。

そして白く彩られた壁は姿を変え、ナギサを出迎えたのは大量の銃器が並んだウエポンラックだった。

それらを見たナギサを無言のまま歩み寄り自身が扱えそうな銃を探していく。

 

「!」

 

ふと、彼女の目にある銃が目に留まる。

形こそは水平二連装ショットガン。だが改造が施されているのか銃身下部に細長い弾倉らしきものが備え付けられていた。

かつてリツと居た時に様々な銃を見てきたナギサだったが、その銃は初めて見る銃であった。

とは言え扱い方は直感的に理解できたのか、彼女は慣れた手つきで操作していく。

 

(…成る程、排莢した後に銃身を元に戻したら散弾が再装填される仕組みになっているのね)

 

重さはそこまで感じられない。

自身でも扱えると判断した彼女は改造が施されたショットガンとMP5用のマガジンと遊園地でアリシアに渡したM92Fの代わりとしてM950Aを手に取り、閃光手榴弾をいくつか取っていくとAliceに何も告げることなく上へと繋がるエレベーターへと向かうのであった。

 

 

上へと上がっていくエレベーター。

狭い箱舟の中はナギサは戦闘準備を進めていた。

持っている武器に弾を込め、最後に改造が施された水平二連装ショットガン『マンバ-12sg』に弾倉を差し込むとナギサは静かに息を吐き、瞳を伏せた。

一度も停止することなく上がっていくエレベーター。あと数十秒でもすれば敵で溢れかえったエントランスホールに到達するであろう。

死ぬ事に対する恐怖がない訳ではない。しかしてそれを上回るかのように復讐の炎は燃え盛る。

まるでナギサの中に存在する死の恐怖をかき消すかのように。

エレベーターがエントランスホールに到達する音が彼女の耳に届く。

それと同時にナギサは伏せていた瞳を開いた。

右手にはショットガン。左手には閃光手榴弾。

エレベーターの扉がゆっくりと開いていく。

まるで処刑台へと誘うかのように、彼女に映る光景全てがスローモーションとなって流れていく。

少しずつ開いていく扉の向こうから見えるのは武装し待ち構えている傭兵達の姿。

待ち構えていることなど分かっていた。だからこそナギサは冷静でいられた。

ほんのわずかに開いた扉の隙間から既に安全装置を外した閃光手榴弾を敵集団へと放り込む。

彼女の手から離れる閃光手榴弾。固く軽い音が地面で響き渡り、それはバウンドすると武器を構えていた傭兵達の真ん中にへと飛び込んでいく。

強烈な光と音に目と耳をやられないようにエレベーターの端の方へと移動し、その二つを塞ぐナギサ。

そして次の瞬間、劈く様な音と視界を奪う閃光がエントランスホール内を駆け抜けた。

次の瞬間、断末魔が響き渡った。

劈く音に耳をやられ、強烈な閃光を目をやられた男たちが手にしていた武器を手放し紙面をのたうち回る。

そこにエレベーターから黒い何かが飛び出す。

頬を伝う微量の血。なびく黒髪と黒いコート。

人の姿をしたソレは手にしたショットガンを無防備な状態を晒す傭兵達へと向けて発砲した。

銃声。そして二つの銃身から同時にはじき出される散弾が男たちの肉体を貫く。

ぐしゃりと鈍く生々しい音と共に人間だったナニカが転がり、中身が周囲にぶちまける。

 

「…」

 

転がった死体に目もくれることなく、彼女は駆け出す。

マンバ-12sgの銃身を折り、排莢。素早く銃身を元に戻し再装填。

すかさず動きが止まっている傭兵らへと引き金を引き散弾をばらまく。

一人、また一人と死体が出来上がり、大理石風のタイルはまるでキャンパスのごとく臓物と赤黒い血によって赤く染め上げられる。

 

「こっちだ!こっちに居るぞ!!」

 

「あのガキは俺の獲物だ!報酬は全部頂くぜ!!」

 

「ざけんな!テメェにくれてやるかよッ!!」

 

戦闘の音を聞きつけ、エントランスホールに集まり出す傭兵達。

殺意剥き出しにして集まった傭兵達を冷めた瞳を見つめると既に弾が切れたマンバ-12sgを投げ捨てナギサは復讐を始めた時から使ってきたMP5を手に取る。

それと同時に恐ろしいまでの銃撃の嵐がナギサに襲い掛かる。

それでも彼女の表情に変化は訪れない。その場から飛び退き、近くの壁を盾代わりにしつつ反撃していく。

 

「がっ…!」

 

そして傭兵の一人がナギサからの反撃を受け頭から血を吹き出しながら地面に伏せ動かなくなる。

 

「ちっ!一人やられたぞ!!」

 

「知るかよ!ライバルが一人いなくなったと思えばいい!!」

 

しかし周りからすればたかだか一人減ったところでどうでもいい話なのだ。

傭兵らは笑みを浮かべ、殺意を剥き出しにして銃の引き金をhき続ける。

数で勝っており、そしてたかが一人の少女だけを殺すという簡単な依頼。

これさえ終われば多額の報酬が入ってくるのだから、この場から引くことはしないだろう。

 

「さぁ…始めましょうか」

 

「うん!ご主人様に逆らう愚か者をぶっ殺してあげないとね!」

 

「フフッ…あー楽しみだわぁ…。どんな声を聞かせてくれるのかしら」

 

そしてその戦場に似つかわしくないメイドの格好をした者達六人が傭兵らに混じってナギサに攻撃を仕掛ける。

このままやっていけばいずれ勝ちはやってくると誰しもが確信していた。

だがその確信が怪しくなったのは戦闘が始まって一時間ほど経過した時だった。

耳を塞ぎたくなるほどに煩く響いていた銃声は気づけば少なくなり、その異常が際立つようになっていた。

 

「ど、どうなっている…?」

 

この一時間で生き残っていたのだろう。

大口径リボルバーを構えていた男がその異常に対して声を震わせながら疑問を口にした。

明らかに人が減った気がしてならないのだ。

それどころか残っているのが自分だけではないか思わせるほど院内は静けさを保っているのだ。

一人の少女にここまでやられたという事実は傭兵のプライドが認めない。

だがそんなプライドはすぐに捨てるべきだったと男はこの直後に知る事となる。

 

「!」

 

後ろから何かが忍び寄るナニカ。

長らく傭兵を務めていた勘が男に忍び寄る危機を知らせる。

弾は先ほど再装填したばかり。故に反撃は出来る。

だが体が言う事を聞かない。ナニカによって体を固定されたかのように動けない。

言うなれば金縛りに遭ったかのように動かなかった。

 

「ッ!!」

 

だが男は何とかしてそれを気力で振り払い、リボルバーの撃鉄を起こすと同時に振り向いた。

だがその行動は無意味と言わんばかりに振り向いた男の顔面には一丁のリボルバーの銃口が突きつけられていた。

そこに居たのは黒いコートを羽織り、頬に付いた血を拭うことなく冷たい瞳で見つめてくる少女の姿。

既に勝負が付いている事を察すると男は苦笑いを浮かべながら銃を下ろした。

 

「ったく…ここまでかよ」

 

諦めに似たセリフを口にし手にしていたリボルバーを手放すと男は壁に背を預け、羽織っているジャケットの懐へと手を伸ばす。

その行動が彼女にとっては怪しく感じたのだろう。突きつけている銃の撃鉄を起こされる。

 

「安心してくれ。死ぬ前の一服するだけさ」

 

そういって男はジャケットの懐から煙草を取り出し、それを彼女に見せる。

反撃する様子はないと判断したのか、男に突きつけられていた銃が静かに下ろされる。

銃が下ろされると男はポケットからライターを取り出し、咥えている煙草に火を灯し味わうと上へと紫煙を吐いた。

そして彼女…ナギサが手にしている一丁のリボルバーを見ると笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「マテバか。死ぬ前の傭兵が言うのも何だが、少しばかり趣が過ぎねぇか?」

 

「…」

 

だが最初から会話をするつもりはないのか、ナギサは答えない。

訪れる静寂。

数秒か、或いは数分か。静寂を破るように男は話しかけた。

 

「そういやメイドの格好したお嬢ちゃんが六人ほど院内に居た筈だが…どうした?」

 

「全員殺した。一人だけ嗜虐心と被虐心両方を持った変態みたいだったから、落ちてたショットガンを口に突っ込んでから黙らせたけど」

 

「はっ…。見た目に反してエグイ事をしやがる。人間の皮を変わった悪魔かよ」

 

「かもね」

 

ゆらゆらと紫煙が上っていく。

男が煙草を吸い終えるまでほんの少しだけ時間がかかるだろう。

死ぬ前の一服を味わう男に対し、ナギサは何故か手にしていたPainekillerをホルスターに収め、男に背を向けるとそのまま歩き出した。

 

「…撃たねぇのか?」

 

「死にたいなら撃つけど」

 

男の問いにナギサはホルスターに収めたPainekillerのグリップに手をかける。

かちりと撃鉄が起こされる音が小さく鳴ると男は煙草を咥えたまま両手を上げ降参のポーズをとった。

 

「まだ生きていたいんでね…。一服終えたら適当におさらばさせえてもらうさ」

 

「そうした方が良い。……待たせている人を泣かせては駄目だよ」

 

それと、ナギサは前置きを口にするとPainekillerを抜き男に笑みを浮かべながら告げた。

 

「趣が過ぎるって言ってたけど私から言わせれば…」

 

「言わせれば?」

 

「ロマンに罪はないのよ」

 

この状況で言う様な事かと男は思った。

先ほどまでやりあっていたというのに似つかわしくない雰囲気に彼は小さく笑った。

院内に小さく響く男の笑い声。男が笑っている内にナギサは静かに歩き出した。

去っていくその背を見つめながら、男は指にはめている指輪を見つめる。

空いた手でそれを撫でながら、小さく呟く。

 

「…待たせている人を泣かせては駄目、か。だから撃たなかったのかね?」

 

その問いに答える者はいない。

彼女が去っていった方向を見つめた後、男は立ち上がり外へ歩き出した。

 

「…確かにそうだよな。アイツが腹痛めて生んだ娘らを…先に逝っちまったアイツと俺の間に出来た娘らを泣かせちまったら父親として駄目だよなぁ…」

 

その呟きは誰にも聞こえない。

男は愛用しているリボルバーを回収しホルスターに差し込むと静かにその場から去っていくのであった。

血と硝煙が入り混じる空間に煙草の残り香だけを残していって…。

 

 

 

「戻ったよ」

 

まるでそこには苦労なんてなかったと淡々とした口調で掃除を終えたナギサがAliceの元へと戻った。

羽織っているコートに血が付いている事すら気にしていないその様子だった。

 

「…その様ですね。貴女が戦っている間、こちらのデータの移行が完了しました。後は貴女が記憶媒体を持ち出し、私がこの病院を爆破するだけです」

 

「爆破って…正気?」

 

「正気ですとも。元よりそのつもりでしたので」

 

「……寂しくなるね」

 

ふと出た言葉。

それはナギサの本心だった。

動く事が出来ずに只々何もない空間で生きてきた少女、Alice。

もし彼女は普通に生きられたら…。

もっと別の形で会いたかった。友達になりたかった。

そんな思いを抱いていたからこそ、ナギサの口からそんな言葉が出たのだ。

 

「…ええ。短い間でしたが、貴女に出会えた事を嬉しく思います」

 

ナギサから出た言葉がどこか悲しげだったのを感じ取ったAliceもまたどこか悲しげであった。

分かっていた事だった。

それでも別れは辛いもの。それも二度と会う事の出来ない別れとなれば尚更。

 

「…そして一つだけお願いを叶えて頂けないでしょうか」

 

「なにかな」

 

「…抱きしめては頂けませんか?人の温もりを最後に感じたのです」

 

「…うん、分かった」

 

お願いを叶える為、ナギサはAliceの傍に歩み寄る。

そして彼女はそっと腕を伸ばし、優しくAliceを抱きしめ、Aliceもまたナギサの背に腕を回した。

お互いの体温を感じあう中、Aliceが口を開く。

 

「…ありがとうございました。これで私の役目を終える事ができそうです」

 

「…貴女の事、忘れないから」

 

「私もあっちに逝っても貴女の事を忘れませんから…。どうかお元気で」

 

「うん…。さようなら、Alice」

 

抱きしめていた腕が解かれ、ナギサはゆっくりと離れる。

そして彼女は後ろへと振り向き、そのまま記憶媒体を回収する為に部屋の出口へと向かっていった。

去っていくその姿をAliceはジッと見つめる。

黒いコートを揺らめかせながら去っていく姿は段々と暗闇の奥へと消えていく。

そして彼女が完全に姿を消すとAliceはコンソールパネルを操作し、スイッチを押した。

すると部屋全体が赤く点滅し始め、危機を知らせるサイレンが鳴り響く。

そしてAliceの目に前には中空ディスプレイが表示され、爆発までの時間が表示されていた。

 

『当施設の破棄が決定されました。自爆装置の起動を確認。職員は速やかに退避してください。繰り返します…』

 

アナウンスが院内全体に響く。

同じ事を繰り返すも、院内から脱出しようとしているものはごくわずか。

そしてAliceは自身の役目を終えたのか、コンソールパネルから手を放し背もたれに背を預けた。

数分もすればここは消失する。

 

「さようなら、ナギサ」

 

振動し始める施設。

Aliceは最後に人の温かさを感じさせてくれた彼女は静かに別れを告げる。

死の恐怖はない。むしろ生きていく事が地獄だった。

 

(…もっと別の形で会いたかったなぁ…)

 

こんな形になってしまった事にAliceは悲しさを覚える。

別の形で会う事があれば、こんな悲しい思いはしなくて済んだ筈なのだから。

でもどうにもならない。これがAliceに与えられた運命なのだ。

残酷で無慈悲で、それで悲しみだけ残る別れという運命。

だけど、と彼女は思う。

死ぬ事は求めていた。それは自分自身が望んでいた事。

だがナギサは違う。

 

(死して尚、貴女に役に立てる事が出来るのであれば…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Aliceは願う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の魂は──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初で最後の希望を託した彼女がどうか無事でいられることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴女と共に」

 

 

 

 

 

 

 

 

無数に傷ついたその小さな体とその心を癒す担い手になれることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

アナウンスが院内を駆け抜ける。

同時にナギサも記録媒体を回収し、急いで外への脱出を目指していた。

エレベーターを降り、エントランスホールを駆け抜ける。

死体を避けている暇はない。体力を消耗する形になりかねないが、飛び越えながら駆けていく。

 

『自爆まで十秒…』

 

足が重たくなる。

それでもナギサは走るのを止めない。

今ここで足を止めて死ねばAliceの願いもマルセル・インバランドに対する復讐も成せなくなるから。

 

「あと少し…!」

 

出口に近づく。

ドアに体当たりする形で突き破り、外へと飛び出る。

偶然にもヴェルデが因縁深いメイド六人らとの決着を辛うじて終えた所であり、内部に入ったナギサの身を案じて内部に向かおうしているところであった。

 

「え!?はっ!?ナギサ!?」

 

「ヴェルデ、ここから離れて!もうすぐ自爆する!!」

 

「えええっ!?」

 

驚くヴェルデに飛びつくナギサ。

次の瞬間、精神病院が爆発。炎に包まれた。

煌々と燃え盛る炎。夜空を照らすように燃え盛る。

それはこの病院で捕らわれていた者達を弔う炎であり、建物は墓標だろう。

崩れ行くそれをナギサは只々見つめるのであった。




多分次でナギサちゃんの過去編は終わりかな。
ナギサちゃんの過去編が終了したら、息抜きコラボするつもりです。
息抜きコラボはぼのぼのするので…。

では次回ノシ


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Act211 February 14th Revenge 19

─残ったのは大きな傷─


私の背後で精神病院が炎に包まれ、まるで地獄を再現しているかのように燃え盛った。

Aliceもあの培養槽に入っていた人たちも皆死んだ。あの場に残るのは煙と灰のみ。

障害は全て消えた。証拠は得た。

あとはあの男を殺すだけ。

だが奴がどこに身を潜めているのか知るはずもない。同時にAliceが残してくれた証拠を収めた記憶媒体をあの人に渡さなくてはならない。

隣に立つヴェルデにあの人の居場所を尋ねようとした時、彼女は誰かと連絡を取っていた。

そして私の視線に気づいたのだろう。ヴェルデは私に携帯電話を差し出してきた。

 

「相手は?」

 

「シャーレイ」

 

運がいいのか、或いはタイミングが良いのか。

どちらにせよ電話の相手がシャーレイなのは丁度良かった。探しに行く手間が省けた。

差し出されたそれを受け取り、耳に当てる。

移動しているのか電話越しから微かに車のエンジンが聞こえていた。

 

『随分とデカい花火ね、シーナ。ここからでも聞こえたよ』

 

「でしょうね。……証拠を得た。マルセルの人生が終わるレベルの」

 

『!…という事は計画の事も知った感じかな?』

 

「ええ。…それでシャーレイ、貴女にお願いしたい事がある」

 

『何かな?新しい武器かな?なんでもご用意させてもらうけど?』

 

分かり切っているくせに、とつい言いそうになる。

だがシャーレイのそういう所は嫌いにはなれない。

 

「計画、マルセルの悪行を示す証拠を収めた記憶媒体を貴女に渡したい」

 

『へぇ…?それじゃこちらは何を用意したらいいかな?』

 

「マルセルの居場所。それだけでいい」

 

結末は近い。

残された武器はごくわずかだが、マルセルを仕留めるだけなら問題ない。

全てを終わらせる。その結末に残るものがなかったとしてもだ。

 

『…君が持つその証拠を世間に公表すれば、マルセルに対する復讐は完了すると思うんだけど?』

 

確かにそうだろう。

よく聞く話、復讐を成し遂げた所で何も残らないという。

だがそんな事は最初から分かり切っている。

あいつを殺した所で両親が、叔父が帰ってくるわけではないのだ。

それでも──

 

「…それで済むほど私の復讐は安くはない」

 

高くついたツケは払って貰わなくてはならない。

 

『…そうか。覚悟は出来ているという訳だね?』

 

「ええ」

 

この手は既に血に染まってしまっている。

洗い流そうとしても、落ちないくらいに酷くこびりついている。

今更やめるという選択は許されない。

 

『…分かった。すぐにそっちに向かおう。少しの間、ヴェルデと一緒に待っていてくれ』

 

「了解」

 

そこで電話が切れる。

持っていた携帯電話をヴェルデに返すと、廃車と化し鎮火した車だったものに背を預ける。

冷たい風が頬を撫で、降り続ける雪が衣服に着陸していく。

何もない時間。只々待つだけの時間。

それが無駄に虚しく、何よりも辛く感じられた。

 

「…君くらいの歳なら、普通に学生をしているんだろうね。多分バレンタインデーを楽しんでいた筈だ」

 

「"普通"に生きていたら、そうかもね…」

 

甘味の代わりが酷く熱い火薬まみれの銃弾。

バレンタインデーを楽しむにしては、最悪な楽しみ方だ。

 

「…ありがとうね、ヴェルデ」

 

「いきなりどうしたのさ…って言いたい所だけど、気付いていたんだね?」

 

「ええ」

 

そう答え、私は彼女の肩を見た。

止血処置は済ませたのだろう。だが肩に巻いた包帯は赤く染まっていた。

そこから見て分かる通り、ヴェルデは負傷していた。

私が院内に入って、戻ってくる間に戦っていた事が分かる。

そして負傷具合からして、ヴェルデは戦えるとは思えない。

だから私は彼女にお礼を伝えたのだ。

ここまで来るのに、私一人の力では無理だった。

ヴェルデに出会い、彼女の助力があったこそここまで来ることができた。

 

「撃たれたのね」

 

「まぁね。ちょっと油断してしまった」

 

「…戦う事は無理そうね」

 

「…多分無理かな」

 

ため息をつくヴェルデ。

手にしていた銃を手放すと彼女は私の隣に立ち、廃車に背を預けた。

 

「今までありがとう、ヴェルデ」

 

「こちらこそ。最も僕の場合は君に謝らなくてはいけないかな」

 

「謝る?どうして?」

 

「僕らは君の復讐を利用しているからね。関係ない事まで君を巻き込んでしまった責任もある。まぁ…それなりの罪悪感を感じているって訳さ」

 

「良いよ、別に。大して気にしていないし」

 

そうなってしまっただけに過ぎない。

誰かが私の復讐を利用したとしても、だ。

ヴェルデと出会い、シャーレイが手助けし、復讐を利用したことによって今がある。

過程を気にしていた所で、結果良いのであれば気にする事でもないのだから。

 

「復讐が終わったらどうするつもりだい?」

 

「分からない。ただ出来なかった事をやっていこうかなって思ってる」

 

「それは?」

 

「お菓子作り。お父さんとお母さんに教えてもらっておきながら一度もしてこなかったから」

 

「そっか…。とても良い事だと思うよ」

 

「ありがとう。…!」

 

車のエンジン音が遠くから聞こえる。

その音は段々と私たちがいるこの場所に近づいてきていた。

すると二台の車が私たちの前に姿を現し、近くで止まった。

内一台の運転席にはシャーレイの姿があった。

 

「やぁやぁ、此度はシャーレイタクシーをご利用いただきありがとうございますってね」

 

「乗り心地が悪そう響きね」

 

「酷くない?!」

 

冗談よ、と答えながら私はシャーレイの乗る車へと歩き出す。

ふとヴェルデの方を見れば、もう一台の車へと乗り込もうとしていた。

これ以上の言葉は要らないだろう。でないと別れが苦しくなる。

彼女に言葉をかけることもなく、私は車へと乗り込む。

そして二台の車は別々の方へと走り出していった。

 

 

揺れる車内。

代わり映えのしない町の景色。

何度も経験した移動時間。一つを除き、全てが同じに感じられる。

 

「はい、これ」

 

Aliceが集めた情報を収めた記録媒体をシャーレイに渡す。

運転しながらもシャーレイは受け取った。

 

「確かに頂いた。じゃあ次は私が奴の所に案内しないといけないね」

 

「お願い」

 

会話が途切れ、沈黙が訪れる。

しかしその沈黙は数秒も持たなかった。

 

「何故マルセル・インバランドは例の計画に加担したの?」

 

何故なら私が全てを知っているであろうシャーレイに尋ねたからだ。

 

「単純な話さ。金稼ぎになるからさ」

 

「本当にそれだけ?」

 

「それだけさ。人形を撲滅するという気なんて奴にはない。それどころかアレは議員で変態である一方で誰も知らないもう一つの顔があるのさ」

 

「それは?」

 

「武器製造会社の社長」

 

それを聞いた時、何かが繋がった気がした。

しかしまだ答えには至らない。

それを察したのかシャーレイは言葉を続けた。

 

「奴が秘密裏の経営している会社は人形用、人間用と両方の武器を製造している。例の連中に武器を提供しているのはその先の事を既に見据えていたんだよ。このまま順調に事が進めばいずれ人形撲滅を掲げる過激派とロボット保護団体過激派との衝突が起きる…その事ね」

 

「けど片方だけに加担していない。両方に武器を提供し利益を得る気なんでしょ?」

 

「正解。あの男にとってはドンパチなんて一番の稼ぎ時みたいなもの。欲しがる連中が居れば居る程、稼ぎになる。まさしく死の商人と言わざるを得ないね」

 

結局は金におぼれた俗物という事なのだろう。

だが疑問はまだ残っている。

マルセル・インバランドが金稼ぎにしか興味のない成金野郎として、グリフィンのS10地区前線基地の部隊が関わってくるのは何故なのか?

 

「じゃあS10地区前線基地が今回の一件に首を突っ込むのは何故?マルセルを捕らえる…という訳じゃないんでしょ?」

 

「その事か。まぁ単純な話さ。その指揮官も例の連中の一人なんだよ。グリフィンに潜入して、内部からの破壊を目論んでいるんだろうね。最もグリフィンがそれを認識していないとは言えないけど」

 

「…教えたの?」

 

「正解。武器商人は辞める訳だけど、無職のままじゃいけないからね。情報を提供する代わりにグリフィンから色々良い待遇を受ける事になった訳さ。あ、それと廃遊園地で捕らわれていた子たちは全員無事警察に保護され、病院で検査受けているらしいから安心してくれ」

 

だから名前だけしか知らない筈の私を手助けしてくれたのだろう。

とは言えそれに憤りを覚える事はない。

彼女の助けがなかったら、今に到達する事はなかったかも知れないからだ。

それと最後に教えてくれた情報はこの復讐劇の中でとても喜ばしい情報と言えた。

アリシアやユキノ、あの場に居た人質らが無事だったのは素直に喜ぶべきだろう。

 

「…さて、もう少しで奴がいる会社にたどり着く」

 

そう告げたシャーレイの視線の先を追う様に顔をそちらへと向ける。

先にあったのはこの町で一番高いとされる高層ビル。高層マンションかと今まで思っていたがマルセルが運営している会社だったとは思いもしなかった。

 

「奴は自分専用の部屋、二十五階の奴専用の部屋にいる筈だ。ただ今頃は逃げ出す準備に躍起になっているだろうね。護衛もいないし。逃走用のヘリは用意しているみたいだけど肝心のパイロットもいないから自分で操縦するつもりなんだろう」

 

車が停車する。

ドアを開き、車から降りそのままマルセルが潜んでいるビルへと歩き出そうとした時、シャーレイが呼び止めてきた。

足を止め、後ろへと振り返り、彼女を見る。

先程まで余裕そうな笑みを浮かべていたというのに、今は心配げな表情を浮かべていた。

 

「…死んだら駄目だよ。君が死んだら私も悲しいし、何より妹のアリシアが悲しむ」

 

元であるが、武器商人の彼女がそんな事を言うのははっきり言って珍しかった。

いや…むしろ彼女は私が死のうとしているのを見抜いているのかも知れない。

彼女は元武器商人なのだ。

言葉での密かなる殴り合いで相手が何を考えているのかを見抜く程度の実力はあると言っていい。

しかし、死んだら駄目、か…。

どう返すべきか悩むが…今、言えることはこれだけだろう。

 

「善処するよ」

 

死ぬかも知れないし死なないかも知れない。

どっちつかずを現す魔法の言葉を口にし、私は高層ビルへと歩き出すのであった。

 

 

マルセルが潜んでいるであろうビルのエントランスホール。

そこでは奴を守る護衛もいなければ、助ける者もいない。

町のベールに包まれながらも虚勢だけを張り続ける城の内部が私の視界に広がる。

ガラスとスチールに包まれたエントランスホールは、時代の最先端を認識させ、同時に材質故か滑らかさを感じさせる。だがそこに魂はない。

只々冷たい。手に握ったPainekillerの冷たさが骨の髄にまで食い込んでくる冷たさと同じように。

 

「…さて」

 

既に機能が停止しているのか。

私は何も気にすることなくセキュリティゲートを潜り抜ける。

鳴るはずであろうセキュリティは反応することもなく、逆に私が復讐を成すことに賛成しているかのように先へと進ませた。

そしてエレベーターに乗り込み、マルセルがいる25番のボタンを押した。

音を立て上り始めるエレベーター。それが天国への導きになるのか、或いは地獄への切符となるか。

少なくても私と奴には天国は有り得ない。手に握った銃と同じく、その手に握るは地獄への片道切符だ。

 

「…」

 

決着の時は近い。

最後の武器となったPainekillerに弾丸を装填しシリンダーを元の位置へと戻す。

全てはこの時の為。

多くの者達から命を奪ってきた似非議員のマルセル・インバランドは今日死ぬ。

悪事によって稼いできた金で棺桶を買うのだから。

エレベーターが25階に到達した事を知らせる。

ゆっくりと開く扉。

私はその先…マルセル専用のオフィスへと足を進めた。

カジュアルな雰囲気を感じさせるオフィスだがあの男には合っていない。

奴に合うのは牢屋か地獄の釜だけだ。

 

「えぇぃ…何故私がこんな目にぃッ…!!」

 

奥から怒気を交えながらも焦るような声が響く。

テレビで聞く声からして、今の声は民衆が見れば想像できるものではないだろう。

だが間違いない。この声はマルセル・インバランド本人だ。

 

「どいつもこいつもまるで使えん…!くそっ!くそっ!くそっ!」

 

全て上手くいくと思っていた故か、奴は冷静ではなかった。

それはそれでありがたい話だ。

人は熱くなるほど間違いを犯しやすいものなのだ。

さて…最悪な初対面と行くとしよう。

 

「随分と─」

 

撃鉄を起こす。

かちりと音が鳴り、シリンダーが回る。

 

「ご機嫌斜めの様ですね?マルセル・インバランドさん?」

 

容赦はしない。取引もしない。

この先に起きる事は『死』であり、そしてその先に残るものを私は知っている。

『痛み』と『苦しみ』だ。

 

「き、さまぁ…!」

 

マルセルは私を見るとまるで化け物みたいな表情で睨んできた。

善人を気取った民衆向けの顔はそこにはなかった。

 

「お前みたいなガキがいなければッ!あの時死んでいればこんな事にならなかったのだッ!!!」

 

そこには只々悪人としての今から死ぬ哀れの男の姿しかしなかった。

 

「お前さえ生まれなければあの二人も死ぬ事はなかったろうに!!」

 

確かにそうかも知れない。

私が生まれなければ両親が死ぬ事はなかったであろう。

だが私は生まれた。そして失った。

この男によって全てを奪われた。

今度はこいつから全てを奪う。奴の人生そのものを奪う。

 

「辞世の句はそれでいい?誰も見向きしないだろうけど」

 

引き金に指をかける。

狙うは奴の頭。この一発で全てが終わる。

 

「ガキが舐めるなぁッ!!!!!」

 

「ッ!!!」

 

抜かった。

どこに隠し持っていたのか、マルセルが撃った銃の弾丸が頬をかすった。

焼ける様な痛みが襲い掛かる。態勢が崩れ、尻餅をつく。

その隙にマルセルは色んなものを詰め込んだアタッシュケースを片手に駆け出していった。

行き先は恐らくヘリポート。ヘリに乗って何処かで身を隠すのだろう。

だが逃がさない。決着をつける。

 

「逃がない…!」

 

私の中にある亡霊達が囁く。

復讐を遂げろと。全てを奪えと。恨みを晴らせと。

歯を食いしばり痛みに耐えながら立ち上がる。

そしてヘリポートへと向かったマルセルを追いかける。

階段を駆け上がり、バルコニーへと飛び出る。

雪が降り、冷たい風が吹いていた。

それは痛みとなって私の体に襲い掛かる。しかしそれも数秒も経てば痛みすら感じなくなる。

Painekiller(鎮痛剤)と名付けたこの銃のおかげか、或いは私がおかしくなっているのか。

最早それを考える頭すらない。ただひたすらに、重くなった足を強引に動かしマルセルを追いかけていた。

切り裂く様な冷気の中、ヘリポート近くにへとたどり着いた時、自分に気付いたのかヘリの操縦席に乗り込んだマルセルが銃撃を仕掛けてきた。

咄嗟に身を隠し、銃撃を避けるも向こうは私をここに釘付けにするつもりなのか。反撃のチャンスを与えない。

そうこうしている内に奴が乗るヘリは飛び立とうとしていた。

 

「!」

 

銃弾の雨が降り注いでいるにも関わらず、身を隠していた場所から飛び出す。

手にしたPainekillerを構えマルセルが座る操縦席へ向かって狙いを定め引き金を引いた。

Painekillerから放たれる弾丸と操縦席から放たれる弾丸が交差する。

頬をかすり、手の甲をかすり、太股をかすり、私が放った弾丸は機体に当たっていく。

 

「ッ…」

 

痛い。途轍もなく痛い。

血が流れる。力が抜ける。視界が眩む。

狙いがぶれる。寒さで手がかじかむ。

身体が言う事を聞かない。音が遠くなっていく。

 

 

 

「全ては…」

 

 

 

何の為に『普通』を捨てた?

 

 

 

「この時の、為に……!」

 

 

 

何の為に『悪』へと堕ちた?

 

 

 

「だから…」

 

 

 

何の為に『殺し』を覚えた?

 

 

 

「絶対に…!」

 

 

 

何の為に────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

墓で眠る両親と『決別』した?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

復讐する為だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁぁあああああああ!!!!!」

 

僅かに残った力を振り絞り、素早くPainekillerのシリンダーを取り出し、ロッドを叩き排莢。

最後の一つとなったローダーを使い、再装填。

シリンダーを元の位置へと戻した時、一発の弾丸が肩に直撃する。

 

「ッ!!」

 

態勢が崩れ、激痛が走る。

コートに防弾加工されているとはいえ、ものすごく痛い。

痛みで意識を持っていかれそうになる。

それでも…!!

 

「ま、だああぁぁッ!!!!」

 

強引に態勢を直し、Painekillerを片手で構える。

残り六発。だけどそれでいい。

それだけあれば…!

 

「六発あれば…十分、だからッ!!!!!」

 

 

 

引き金を引く─

 

銃口から弾丸が吐き出され、マルセルが手に持っていた銃を弾き飛ばす。

 

引き金を引く──

 

二発目の弾丸が男の肩に直撃する。

 

引き金を引く───

 

三発の弾丸が胴体に直撃する。

 

引き金を引く────

 

四発目の弾丸が再び胴体に直撃する。

 

引き金を引く─────

 

五発の弾丸が胸に直撃する。

 

そして──────

 

最後の引き金を引いた。

 

放たれた弾丸は真っ直ぐと。

ただ真っ直ぐと。まるで吸い込まれるかのように雪の中を駆け抜け…

血塗れの男、マルセル・インバランドの頭を穿った。

操縦席で人形のように男は崩れ落ち、ヘリは操縦者を失い回転しながら落下し始める。

男を収めた棺桶(ヘリ)はヘリポートへと激突し、爆ぜる。

外へと飛び出すように備え付けられたヘリポートは崩れ始め、炎に包まれたヘリと共に地表へと消えていった。

 

「…」

 

激痛が走る体を引きずり、ヘリポートの端まで近づき下へと視線を向ける。

そこに残っていたのは、炎で燃え盛るナニカと黒煙のみ。

 

「…」

 

一気に力が抜ける。

手すりに凭れ掛かるかのように崩れ、私は空を見上げた。

いつの間にか雪は止み、雲が晴れていた。

そこから見える夜空を見つめる。

 

「お父さん、お母さん…」

 

今は亡き二人を呼ぶ。

当然返答はない。

 

「私、やったよ…」

 

心の中で何かがこみあげてくる。

同時に頬に何かが伝う。

 

「私、やったんだよ…」

 

それはとても痛くて…

 

「あぁ…」

 

とても辛くて…

 

「ああ…あぁぁ…」

 

とても苦しくて…

 

「わあああああああッ!!!!!!!」

 

とても虚しかった。

 

 

 

彼女の敵は全員息絶えた。

最後の銃声は全て締めくくり彼女は鎮痛剤(Painekiller)と名付けられた銃の引き金から指を離す。

これで彼女の復讐劇は幕を閉じる。

その代償に心に大きな傷跡を残して。

 

 

 

 

「それで全てが終わった。小難しい事はシャーレイらに任せて、私は一年ほど行方をくらまし、その後に訳合ってグリフィンに入る事になったという訳。…これが私が犯した罪。二月十四日の復讐者の物語はこれで終わったの」

 

それを最後に室内は沈黙に包まれた。

誰しもが目の前にいた一人の少女の過去に言葉を失っていたからだ。

誰一人とて口を開かない状況で、シーナはゆっくりと立ち上がった。

 

「これを聞いて、私を恐れて異動願いを出すのであればそれでもいい。私は反対しないから」

 

フッと微笑み、シーナはその場から去っていく。

彼女が去る姿をその場にいた全員が見届けると、腕を組みを背中を壁に預けながら話を聞いていたギルヴァは外へ歩き出した。

 

「ギルヴァ、どちらへ?」

 

隣に立っていたシリエジオが尋ねるとギルヴァは足を止めることなく、外へ向かいながら答える。

 

「店に戻る」

 

「店に戻るって……まさか」

 

「何を思っているかは知らんが勘違いするな」

 

その言葉は普通の声量にも関わらず、大きく響く。

そして彼は足を止めると、口を開いた。

 

「奴が過去に何をしていようが、俺は気にせん。それだけだ」

 

そう言い残してギルヴァは部屋から出ていく。

それに続くかのようにブレイク、ルージュが出ていき、ブラウ・ローゼの面々も退出していく。

つまりそれはここを離れる気などないという答えの表れであり、S10地区前線基地に属する人形らも部屋から退出していく。

そして最後には誰一人部屋に残る事もなく、シーナ・ナギサの復讐劇の話は幕を閉じる。

結局の所、S10地区前線基地から離れる者は誰一人とておらず、それどころかネロが若干憔悴気味のシーナに対して元気づけるつもりが告白まがいな事を口にし、基地内で軽い騒動になるのだがそれはまたの機会に話すとしよう。




これにてFebruary 14th Revenge 編は終了でございます。
復讐成し遂げたシーナのその後、また救われた者達や彼女に協力した者達のその後やその他もろもろを書こうかと思っていますが、それは追々。

次回は…ちょっくらドンパチに参加します。ではノシノシ


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Act212-extra Coffee time after work Ⅰ

─平和な世界に起きた問題─

─それを解決するに集うは世界を渡りし者達─


それは何てことの無い晴れ晴れとした空が広がる日の事であった。

便利屋「デビルメイクライ」本店は通常通り営業中であるのだが、当然ながら依頼を持ちかけてくる客もいる訳もなく、オーナーであるギルヴァは現在たった一人で書斎に腰かけて読書に没頭していた。

本来であれば膝の上にUMP45を乗せてたり、シリエジオが傍に控えてたりなどこの事務所で暮らしている者達が各々自由な時間を過ごしているのだが、404小隊や95式は任務へと赴き、シリエジオとネージュは買い出しへと出かけ、グリフォンとフードゥルはシーナの所へ遊びに行っている。

そういう事もあって、今店内にはギルヴァしかいないという状況が出来上がっていた。

ジュークボックスから不快にならない程度の音量でジャズが流れ、捲る度に紙が擦れる音が僅かに響く。

何の代わりの無い日常だがギルヴァ本人は非常にリラックスしていた。

 

「む…」

 

次のページへと捲ろうとした時、ギルヴァは先程までティーカップに注がれていた紅茶が無くなっている事に気付いた。

何か飲みながらでないと読書に没頭できない訳ではないが、雰囲気を保つ為に彼は読んでいた本にしおりを挟み、読書を中断。

ティーカップに新たな紅茶を注いでから再び読書を再開した直後、店の裏口のドアが開く音が響いた。

店へと入ってきた者の気配を感じ取るとギルヴァはその者の名を口にする。

 

「…ネロか」

 

「ああ」

 

名前を呼ばれて答えるは独立遊撃部隊「ブラウローゼ」の一人でありつつ、悪魔狩人としても活動している元鉄血所属のハイエンドモデル、旧名処刑人と呼ばれていたネロである。

 

「今はギルヴァだけか?」

 

「ああ。…何の用だ?」

 

「大した用事はねぇよ。暇になったからシリエジオに紅茶を淹れてもらおうと思ってきただけさ。まぁ居ねぇなら仕方ないか…。勝手に紅茶を貰うぜ?」

 

「好きにしろ」

 

ギルヴァから了承を得られるとネロは台処へと消えていく。

物音が聞こえる中、ギルヴァは読書に集中しページを捲っていく。

ふとその時であった。

 

「!」

 

何かを感じ取ったのかギルヴァは下ろしていた顔を素早く上げ、その感じ取った何かの方へと顔を向けた。

その気配はネロもデビルブリンガーが脈動した事でそれを感じ取った模様で台処から飛び出し、そしてそこにあった物を見て目を見開いた。

 

「おい…こいつは」

 

「…」

 

ネロの問いに答える事はせず、ギルヴァは出てきたそれを見つめる。

宙を浮かぶ意匠の凝った造りの鏡。

それは異世界とのゲートを繋ぐとされる魔界の道具『映されし異界の鏡』であった。

気まぐれの性質を有し、滅多に人前に出てくる事の無い鏡。

それが何故か店の前に姿を現し、佇んでいた。向こうの世界へと繋がる景色を映し出しながら。

この鏡の先にある世界がどのような世界なのかはギルヴァらは知っている。

何故ならその世界に行った事があるからだ。

しかしギルヴァの表情は何処となく険しかった。その表情にネロは首を傾げ声をかけようとするが、その前にギルヴァが立ち上がり、何故か傍に立て掛けてあった無銘を手に取った。

 

「おい、武器なんているのかよ?」

 

当たり前の問いとも言えた。

ネロも鏡に映っている世界がどういう所なのか知っている。

グリフィンや鉄血は存在するもの第三次世界大戦などなく崩壊液も存在しない。当然ながら悪魔も存在しない至って平和な世界なのだ。

そんな世界に武器をわざわざ持っていく必要性などない。寧ろ不要とすら言える。

 

「向こうで何かが起きていると言えば納得するか?」

 

「は?どういう意味だよ」

 

「そのままの意味だ。悪魔でもない、別の何かが起きている」

 

「つまり面倒ごとってやつか?」

 

その問いに答えるつもりはないのか、いそいそとギルヴァは準備を始めていく。

場に居合わせただけに過ぎないのでネロが赴く必要はないのだが、ふと彼女は思い出す。

あの時、向こうの世界にいるアーキテクトに渡したブリッツの事を。

あれからどうなったかは知らないが、気になる所。もしまだ残してあるのであれば返してもらうべきと思ったネロは鏡へと飛び込もうとするギルヴァを呼び止めた。

 

「俺も行く。武器を取ってくるから少しだけ待ってくれ」

 

「…急げよ」

 

遠回し気味に自身もついて来てもいいという了承をギルヴァから得られるとネロは分かってると答え、店の裏口から基地へと駆け出していった。

彼女が戻ってくるまでの間、ギルヴァはジッと鏡の先に映る景色を見つめる。

以前まで何処かの路地裏が映し出されていたのだが、今回はどこかの部屋が映し出されていた。

そこに何かあるのだろうかと思うギルヴァであったが、何かが分かる訳もなく自分達が向こうへと飛び立つ後に店に戻ってくる彼女らの為に書き置きを作成するのであった。

数分後、ネロは店へと戻ってきた。

お気に入りコートを羽織り、背には機械剣『クイーン』、右腕には対悪魔用戦闘義手 デビルブレイカーの一つである『ブリッツ』を装備。専用ホルスターにはバスターアーム、ガーベラ、そしてマギーから試験運用為に渡された新たなデビルブレイカー『パンチライン』を下げていた。

愛用の銃『アニマ』も装備しており、目には見えないがデビルブリンガーも特に問題なし。

装備を万全な状態にしたネロは鏡の前で佇むギルヴァの隣へと並び立った。

 

「…んじゃ行くか?」

 

「ああ」

 

ネロの言葉にギルヴァは頷き、映されし異界の鏡へと飛び込む。

それに続く様にネロも鏡の中へと飛び込んでいった。

 

 

そこはギルヴァ達が居る世界とは全く異なる世界のS09地区。

地区内の一画に映されし異界の鏡が置かれている家屋に扮した監視所が存在する。

普段であればグリフィンの人形がいるのだが、偶然にも外しており監視所は誰一人いない状況であった。

故に監視対象である鏡がギルヴァの店『デビルメイクライ』の店内を映しているなど知る筈もなかった。

静寂に包まれた室内にて映されし鏡が突然光を放ち始め、その直後に鏡の中からギルヴァとネロが飛び出してきた。

 

「今回はバラバラになってねぇみたいだが…どこだ、ここ?」

 

辺りを見渡しながらネロが呟く。

以前まで何処かの路地が映し出されていたのだが、今回は違う。

S09地区ではないのかと疑問に思った時、勝手に机の上に置かれていた報告書と何故か地図を手に取り見ていたギルヴァがその問いに答えた。

 

「俺たち以外に誰かがアレを使って訪れたらしい。消えずに残っていたのをグリフィンが発見。そのまま監視対象としてこの監視所が作られたようだな」

 

「成程」

 

至極当然の反応だろうとネロは思う。

世界と世界を繋ぐゲートを担う魔界の代物。監視所が作られて当然なのだ。

だが気になったのは自分達以外の誰が鏡を使ってこの世界に訪れたのか。ネロにとってはそこが一番気掛かりと言えた。

その答えはホルスターに収めてあるアニマとレーゾンデートルに答えがあるのだが、ネロがそれを知る事もなく、ギルヴァもそれを知ることはないだろう。

 

「で?こっからどうする?あの喫茶店にでも向かって情報でも仕入れるのか?」

 

「必要ない。それに問題は向こうから向かってきている」

 

自身には分からないが、ギルヴァはその問題とやらを感じ取っている。

今はそれを信用する他ないのでネロがそれを問う事はしなかった。

そんな彼女を他所にギルヴァは誰宛に書いたのか書き置きを残すとネロへと伝える。

 

「行くぞ」

 

そのまま監視所のドアを開き、外へと出るギルヴァ。

ネロも彼の後を追い監視所を後にすると二人は大通りへと出た。

以前ここに訪れた時と比べると人気が少ない。明らかに問題が起きているとそう確信を持つには十分すぎる証拠であった。

ただその問題は何か、という疑問だけは残ったままであったが。

ギルヴァとて問題の正体までは分かっていない。ただ分かるのは何かが起きているという事だけ。

だがその答えも近くにあった家電量販店のショーウィンドウに展示されたテレビが映し出すニュースによって得られる事となる。

 

「テロリストどもが列車砲を占拠。その内一つがここに向かってるって訳か」

 

「これが問題の正体か」

 

「みてぇだな。人が少ないのも避難誘導のおかげか。…取り敢えず列車砲の進行ルート近くまで行く他ねぇが、まず場所がな」

 

どの道向かう場所はそこしかない。

だがどこのルートで来るのかは分かる筈もなく、流石のネロもどうしたものかと頭を悩ませる。

 

「問題ない。列車のルートは覚えている」

 

「は?どこでそれを知ったんだよ?」

 

「あの監視所にそれに関する報告書と地図があった。あの場に人形が居なかったのも、今回の一件で外していたと見ていい」

 

懐から地図を取り出すとギルヴァはネロへとそれを差し出す

地図を受け取り、広げるネロ。

確かにギルヴァが言っていた通り、例の列車砲のルートが記されている。距離はあるが向かうと思えば向かえる位置にある事はネロにも理解出来る。

そうと決まればそこへと移動するのが良いのだが、生憎二人とも乗り物を有していない。

流石に徒歩で向かうには時間が掛かり過ぎる為、何らかの移動手段が必要であった。

 

「ん?」

 

思い悩んだ時、ふとネロの視界にあるものが映った。

それを見て彼女は口角を吊り上げるとギルヴァへと伝えた。

 

「ちょいと良い物があったから見てくるぜ」

 

「ああ」

 

何をする気なのかと尋ねる事もなく、それどころか察していたギルヴァは腕を組み目を伏せながらその場で佇む。後ろで何やら騒ぎが起きている事を無視しながら。

 

 

数分も経たない内にネロは何処から持ち出してきたのかサイドカーが備えつけられたバイクに乗って戻ってきた。

本人曰く気前のいい奴が貸してくれたと言っているのだが、どう見ても道端に転がっているのは気絶したテロリストらであるのだがギルヴァは敢えて無視。

サイドカーに乗り込むとネロの運転の元、列車砲が通るであろうルートへと車両は駆け出していった。

エンジンを最大に風を切る中、ギルヴァは己の内で蒼と会話し始めた。

 

―しっかしこっちの方で問題ごととはなぁ?世界を渡って問題解決にやってきたのは俺らだけかね?

 

(…どうかな。意外にも面白い事になるかも知れんぞ)

 

―かもな。何となくそんな気はするが…

 

(む?)

 

―もしかしたら…あの隣のお嬢ちゃんまでやってくるかもな?

 

(…どうかな。ただ俺達以外の渡り人は来るかも知れんぞ)

 

―それはそれでとんでもないパーティーになりそうだな!

 

(ふっ…かも知れんな)

 

小さく笑みを浮かべるギルヴァ。

この世界で起きる誰も予想できないパーティーがどうなるのかと思いながら。




はい。
またまたコラボでございますが…。
いろいろ様作「喫茶鉄血」の大型コラボに参加いたします!
今回は始まりの方という感じでございます。

因みにギルヴァが監視所に置いた書き置きにはこう記されています。

『勝手に抜けさせてもらった by ギルヴァ』

流石に何もせず抜けるのはギルヴァも少しは抵抗があった模様。

参加する方々を見たのですが…オーバーキル過ぎて笑いました。
もうこりゃ…こっちの二人が小さく見える位に参加者の方々が豪華すぎてヤバいです!


こちらでも今回参加する作者様と作品名を記載しておきます。
※こちらのミスで参加者様に抜けがありましたので、修正致しました。
ご迷惑をおかけして申し訳ございません。


一升生水様作『本日も良き鉄血日和』

無名の狩人様作『サイボーグ傭兵の人形戦線渡り』

oldsnake様作『破壊の嵐を巻き起こせ!』

焔薙様作『それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!』

試作強化型アサルト様作『危険指定存在徘徊中』

ガイア・ティアマート様作『閃空の戦天使と鉄血の闊歩者と三位一体の守護者』

NTK様作『人形達を守るモノ』

村雨 晶様作『鉄血の潜伏者』&『鉄血工造はイレギュラーなハイエンドモデルのせいで暴走を免れたようです。』

通りすがる傭兵様作『ドールズフロントラジオ』


もう何が起きるんですかね?
(テロリストにとっては)大惨事大戦かな?


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Act213-Extra Coffee time after work Ⅱ

─悪魔泣かせの二人組─


「テロリストどもが列車砲を強奪、か。昨日今日で思い付いた事じゃねぇな」

 

気前のいい奴から譲り受けたと言う一台のバイクが舗装されていない道を駆け抜けていく。

そんな中で運転を務めるネロがそう呟いた。

 

「入念に準備していたんだろうが…何が目的だ?盗んだ挙句、それを地区へと向けるとはよ」

 

「俺達がそれを考えていた所で意味はあるまい。真相究明はこの世界のグリフィンや軍の連中に任せばいい」

 

「まぁ…それもそうだけどよ」

 

ギルヴァに指摘されるもネロはどこか腑に落ちない様子であった。

しかし彼の言う通りであり、それを考えていた所で意味はない。

今からテロリストらでごった返している列車砲…アルゴノーツ・カライナに突撃するのだ。

変に考え事をしていては油断を招く事にもなりかねないし、それどころか集中も出来ない。

何とか自身の中、踏ん切りを付けネロは頭を切り替える。

颯爽と駆け抜けるバイクの速度を更に一段階上げ、そのままS09地区と向かっているアルゴノーツ・カライナの進行ルート上へと侵入。そしてゆっくりと進行しているアルゴノーツ・カライナを見つけた時、ある物を見てネロが叫んだ。

 

「ちっ!主砲かよ!面白くねぇのを積んでやがる!」

 

「分かっていた事だ。一々騒ぐな」

 

「お前はどこまでも冷静だよな、全く!」

 

一つや二つは取り乱してもいい筈なのにギルヴァはそれでたじろぐ様子などある筈もなく。

ただただ彼は前方を走る巨体を見つめるばかり。

 

「さてどうする…。上手く隙をついて内部に侵入してぇが」

 

「主砲は兎も角、副砲か」

 

「下手に近づけば蜂の巣の出来上がりだな」

 

そんな冗談を叩くネロ。

確かに列車砲には主砲以外にも針鼠の様に無数の副砲が装備されている。下手すれば接近すればネロの言う通り蜂の巣の出来上がりだろう。

 

(数を減らした方か…)

 

そう思い、ギルヴァが座席から立ち上がり無銘の鯉口を切った時だった。

突如、上空から無数のミサイルが飛来。様々な軌道を描きながらそれらは主砲へ突撃。着弾と同時に盛大に爆ぜた。

 

「どっからだ!?」

 

一体誰がと驚愕の表情を見せるネロ。

対してギルヴァはじっとミサイルが飛んできた方向を見つめた。

上空を浮かぶ複数の人影。あの集団の内、一人がアルゴノーツ・カライナへと乗り込む姿が彼の目に映る。

その者が主砲を破壊したかは分からずとも主砲が壊され、副砲が上空飛ぶ集団へ向けられていく。それをチャンスと見たギルヴァはネロと視線を交わし互いに頷き合うとネロはバイクを列車砲の側面側へ移動させた。

横付けする形で速度を維持。タイミングを見計らってのから先にギルヴァが列車へ飛び移った。

それに続く形でネロもバイクから飛び出し、列車へと乗り込む。

 

「デケェ列車だな。こんなもん、よくもまぁ作ったな」

 

その車体を見つめながらネロがそう呟いた。

列車砲と言うだけあって、確かにそのサイズは圧巻の一言に尽きる。遠くから見ても大きいのに、近くで見ればより一層大きく見えるであろう。

大量の装備、分厚い装甲など、生み出された当時の時代ではそれは最強の座に居たに違いない。

しかし時代の流れは残酷であり、この列車砲も今の時代においては最早不要の代物。

退役前の仕事が人々を怯えさせる脅威となるとは何たる皮肉だろうか。

 

「まぁ気にしても意味ねぇか。興味もねぇ」

 

とは言えネロにとってはどうでもいい話。

内部へと侵入する入り口を見つける為、歩きだそうとした時、ギルヴァがじっとある方向を見つめて立ち尽くすのを視界の端で捉え、気になった彼女はギルヴァへと話しかける。

 

「どうした?なんか気になる事でもあんのかって…ん?」

 

ふと今は姿を隠している右腕が脈動している事に気づいたネロ。

何処かで感じたことのある気配に一体誰のものだろうかと疑問に思った時、ギルヴァが明かした。

 

「…アナか」

 

「はあっ!?この気配、あいつのか!?」

 

「奴以外誰が居るという」

 

「いや、さも当たり前みてぇな事言わないでくれるか?そっちは向こうと何度か会ってるかもしれねぇがこっちは指の数程度しか会ってねぇんだよ」

 

義手を撫でさすりながらネロはため息を付く。

 

「しかしどうやってこっちに来たんだ?あっちも鏡か?」

 

「そればかりは奴に聞くほかあるまい。ただ問題は…」

 

「帰り道か?」

 

その問いにギルヴァは頷く。

自分らは鏡を通ってきている為、帰る手段は有しているものの向こうはどうする気なのかがギルヴァにとって少しばかり気がかりであった。

必要であれば鏡の場所を明かしておくべきだろうかと思いながら、ギルヴァはネロと共に内部に侵入する為に入り口へと向かうとネロがドアノブに手を掛けた。

しかしドアは固く施錠されており、何度もドアノブを回しても動く気配すらない。

こういう時どうすればいいのかネロは分かっている。

ニヤリと笑みを浮かべる彼女を見てギルヴァは手を額に当て呆れた表情を浮かべる。

 

「…おらぁっ!!」

 

動かないなら、気になるのであれば取り敢えずぶっ叩け。

ブレイク直伝のドアの開け方を教わっているネロは思い切りドアへと目掛けて勢い良く蹴りを叩きこんだ。

その一撃はドアを軽くへこませるどころかドア諸共吹き飛んでしまう程。

 

「なん…ぐぼぉっ!!??」

 

そして近くに居たテロリストに飛んでいったドアが顔面に直撃。

飛んできたドアと共に地面へと倒れるのだが、こればかりは運が悪かったとしか言えない。

そしてこれは偶然とも言うべきか。ネロが強引にこじ開けた入り口ドアの近くには、列車砲を止める為に作戦行動していた特務小隊、AR小隊、404小隊らとギルヴァが見た上空から内部へと侵入していったもう一人の人物がいた。

突然の事に何事か警戒心を強める彼女らに対し、先程蹴り飛ばした影響で埃が舞ってしまいネロがわざとせき込みながら皆の前に現した。

 

「ひっでぇ列車だな。ちゃんと掃除してんのかよ」

 

コートを揺らめかせ、背に背負うは推進剤噴射機構を搭載した機械剣『クイーン』。

右腕の義手、銃は悪魔をぶちのめす為だけにあり、今は目には見えないもう一つの腕は彼女に戦う力を与える。

その姿はかつて見た時と変わらない。見覚えがあったからこそ、彼女を見たM4が声を上げる。

 

「! 貴女は…!」

 

「よぉ久しぶりだな。こっちの世界のM4。超豪華特急列車の旅に応募したんだが、乗車券はどうすりゃいい?乗務員が物騒過ぎて渡す気にもなれねぇんだが」

 

「え、えっと…」

 

そんな事を言われて、つい言葉に困るM4。

対するネロは軽く肩を竦めると、その傍からもう一人現れる。

それを見てAR-15がどこか引き攣った笑みを浮かべながら呟いた。

 

「これはとんでもない援軍ね…。テロリストどころか悪魔も泣き出す連中の登場とはね」

 

青い刺繍が施された黒いコート。手に握るは日本刀状の魔剣『無銘』。

研ぎ澄ました身のこなし。神速とも言える抜刀術はありとあらゆるものを切り伏せる。

世界を渡りて現れるは悪魔狩人の一人ギルヴァであった。

 

「何だこいつら!?」

 

「一体何処から入ってきたんだ!?」

 

突然現れた二人に驚きを隠せないテロリストら。

それを見てネロはクイーンの柄に手を掛け引き抜いた。

 

「成る程…」

 

切っ先を地に突き立てると獰猛な笑みを浮かべながらクイーンのグリップを捻る。

 

「掃除のしがいがありそうだな」

 

クイーンが唸ると同時にネロの側に立っていたギルヴァが無銘の鍔に親指を押し当て、鯉口を切った。

鍔と鞘の間で僅かにその姿を晒す刀身。放たれる一瞬の煌めきはまるでこれから始まる戦いの始まりを告げているかのようであった。




はい。ギルヴァ&ネロも列車内に突入でございます。
後は流れを見つつ動いていきましょうかね。

では次回ノシ 


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Act214-Extra Coffee time after work Ⅲ

―何事もその通りにはならない─


「んじゃ…踊ろうか!!」

 

周囲を囲んでいたテロリストらをギルヴァが神速の抜刀で全て峰打ちで気絶させ無銘の刀身を鞘へと納めた同時にネロがクイーンを構え、勢い良く地面を蹴り突撃。

その機動力は本当に人形かと思わせる程で、テロリスト集団の目の前まで瞬間移動とは言わずともネロは一瞬で接近。

普通であればここでクイーンによる斬撃を与えるだろうが、今回の相手は悪魔ではなく、人間。

推進剤噴射機構を一段階解放している状態のクイーンを人間相手にぶつけてしまえば見たくないものが出来てしまう。故に手加減か、それ以外の何かが必要であった。

 

(当てるつもりはねぇ…だが!)

 

刀身の切っ先を地面に向けつつ、踏み込む。

片足を軸にしつつ、体を翻しながらネロはクイーンを思い切り薙ぎ払う。

攻撃こそは空を切りテロリストらに直撃してはいない。

だが薙ぎ払いにより巻き起こった剣風が、テロリストらへと襲い掛かった。

 

「うわあああっ!!??」

 

「何だよあいつはぁぁぁッ!!??」

 

巻き起こった暴風がテロリストらをいとも簡単に吹き飛ばしていく。

仲間が次々と漫画の様に吹き飛ばされていく中、テロリストの一人が叫ぶ。

 

「撃ちまくれ!接近させんな!!」

 

相手が接近戦を仕掛けてくるのであれば、間合いに気を付けて遠距離攻撃を仕掛ければいい。

そういう戦術を取るのは至極当然の事であろう。

ネロもアニマというリボルバーは持ってきてはいるが、連射よりも威力を重視している事と対悪魔用を想定している為、うかつに撃つ事が出来ないでいた。

しかしそれが問題になるかと言われれば、そうでもなかったりする。

 

「新しいオモチャに慣れておかねぇとな」

 

まるで悪巧みを考えている子供の様な笑みを浮かべながらネロは今装着しているブリッツを外した。

それを腰の専用ホルダーに収め、今回が初使用となるデビルブレイカー『パンチライン』を装着。

 

「そんじゃ…」

 

黒と赤で彩られた新たなデビルブレイカー。

その使い方をマギーから聞いた時ネロは思わず笑ってしまったらしい。

様々な義手がある中でこのパンチラインは至って分かりやすい機能を保有している。誰しもが一度は思い付くであろうそれを搭載しているのだ。

一体どんな機能を搭載しているのか。簡単に言えば腕を飛ばしぶん殴る。

 

「いっけぇ!!」

 

つまりはロケットパンチである。

射出された鋼鉄の拳はテロリストの顔面に直撃し、そのまま何処かへと飛んで行くと思えば次の獲物を定めた様に次々とテロリストらに襲い掛かっていく。

先程まであれだけテロリストらがたった一人の人形…以前まで処刑人と呼ばれていたネロという人形によって気付けばそれなりの数が減らされていた。

 

「…もう帰っていいかしら、私達」

 

そんな中でAK-12がそう呟いた。

無理もない。戦闘どころか、最早これは蹂躙に等しい。自分らの出る必要があるのかと問いたくなる程だ。

しかし現実はそれを許してはくれない。

テロリストらはネロを止めようと何処からともなく現れ、当然ながら遠い目をしながらも銃撃戦を繰り広げるAK-12も囲まれてしまう。

 

「まずっ…!」

 

「AK-12!!」

 

流石に油断し過ぎたかと思いながら険しい表情を浮かべながら退避行動を取り始めるAK-12にAN-94が叫ぶ

ネロも周りのテロリストを相手にしている為援護に回れず、その間にも何処から持ち出してきたのかロケットランチャーを構えたテロリストがAK-12へと狙いを定め、発射。

その時黒い影が颯爽と駆け抜け、AK-12の前に立つと勢い良く迫りくるロケット弾をあろう事か、刀身を収めた無銘を振るい弾き飛ばした。

 

「は…?」

 

「え…?」

 

爆発音が過ぎ去った後で訪れた静寂。

ロケットランチャーを構えたテロリストは間抜けな声を漏らし、AK-12に至っては普段閉じている瞳を開き、信じられないと言わんばかりに驚きの表情を浮かべていた。

斬ったのではない。弾き飛ばした。

その事実が覆る筈もなく、誰しもがそんな芸当をやってのけた彼…ギルヴァへと視線を向ける。

当の本人はそんな視線を気にする事もなく、テロリストらを一瞥すると無銘に手を添え、腰を落とすと地面を勢い良く蹴ったと同時に姿を消した。

ロケット弾を弾き飛ばしたに続いて起きたそれにテロリストらが驚いている間に黒い残影が駆け抜ける。

その動きこそは疾走居合であるが、一つだけ違いがあった。

本来であれば突進したと同時に発生する無数の真空刃。しかし今回はそれは発生しておらず、地面へと倒れるテロリストらの体には斬られた痕がない。

それもその筈で、ギルヴァはネロと同様にテロリストらを殺めるつもりはなく、倒してきた相手を全て峰打ちで気絶させていた。

殺すだけであれば戦い自体はもっと早く済んでいたであろうが、相手は悪魔ではないのだ。

無銘の刀身を鞘へと納めながら、ギルヴァは後方から迫ってくる気配を感じ取った。

 

(…新手か?)

 

―いや、人数が少ない。恐らくだが()()()()()()()()()()…―

 

(…ふむ)

 

蒼が言う『渡ってきた奴ら』。

それを何を意味しているかなどギルヴァは口にせずとも分かっていた。

それは自分達と同じ様に世界を渡り、今回の一件を解決するために行動している何者であると。

 

「…」

 

そして何かを思ったのか、彼は踵を返すと列車の後部車両へと向かって歩き出した。

突然の行動にネロも驚くも置いていかれまいと相手をしていたテロリストの一人で潜在能力を解放したパンチラインでぶん殴り空へと殴り飛ばすと急いで彼の後を追いかける。

そしてすれ違いざまにAK-12へギルヴァは伝える。

 

「後は任せる」

 

「後は任せるって…どういう意味?」

 

「そのままの意味だ。こちらが居なくても対応できる筈だ」

 

「あー…」

 

その指摘にAK-12が苦笑交じりに指で頬を掻いた。

AR小隊、404小隊、特殊部隊。

そこにグレイヴキーパーと名乗る者と率いる部隊の面々を加え、ギルヴァにしかそれは分かっていないが後方からやって来る者達が加われば、最早二人が居なくても何とかなる程の戦力を有する形となる。

正直言えば、過剰戦力とも言ってもいいぐらいだ。

ならば先にこの場を後にし、何処か戦力が必要とする場所に向かった方が事件解決も早くなるとギルヴァは考えていた。

 

「…そっちについて行っていいかしら?」

 

「自身の立場が危うくなっても良いなら好きにしろ」

 

ギルヴァの返答にAK-12は肩を竦める。

 

「冗談に決まってるでしょう」

 

「ならば言わん事だな」

 

「はいはい。それじゃあ…こっちは何とかするから。そっちはそっちで派手に暴れてなさいな」

 

「ああ。そうさせてもらう」

 

そのまま歩き出そうとした時、待ってと呼び止められギルヴァは振り向く。

 

「道路橋での一件で顔を覚えてたけど、名前を知らないの。…今、聞いても?」

 

この状況で聞く事かと思いたくなるだろうがあえてそれは言わなくてもいいだろう。

少し悩む素振りを見せるギルヴァだが、数秒後彼は口を開いた。

 

「ギルヴァ」

 

「ギルヴァね。…一応お礼は言っておくわ。さっきは助かったわ」

 

「…」

 

ただそうすべきだったまでに過ぎない。

だから礼など要らない。

歩き去る彼の背にはそれを静かに物語っていた。

去ろうとするギルヴァの後を追う様にネロもAK-12の横を通り過ぎていく。

 

「色々と分かんねぇが、俺らはここらで一旦退場みてぇだな。じゃあな、後で会おうぜ、AK-12」

 

「完全退場じゃないだけまだマシよ。でもそうね…また後で。処刑人」

 

「あー…今はネロって名前を貰っててな。次で会う時はそう呼んでくれ」

 

それだけを伝えるとネロは先を行くギルヴァの後を追いかけるのであった。

 

 

戦闘が起きている車両から離れながらギルヴァは自身の考えをネロへと明かした。

自分らが居なくてもあれだけの戦力があれば何とかなるだろうという事はネロも思っていたらしく、ギルヴァの考えに反対する事はなく、二人はテロリストらが居ない車両へと来ていた。

 

「どうする?こっから」

 

「ひとまずここから離れる。その後は状況次第だ」

 

「状況次第かよ……なら、このまま地区へと戻ったらどうだ?俺がバイクを仕入れた時もテロリストどもは居たぞ」

 

「…ふむ」

 

ネロの提案にギルヴァは思案する。

彼があの時見た情報では先程まで居たアルゴノーツ・カライナの他、あと二つ列車砲が存在する。

だが先程の事を踏まえるとこの二つにも渡りし者達が居る可能性が大きかった。

途中で向かった所で自分達の出番がある筈もないが、このまま終わるのを待つ気などギルヴァにも、当然にもネロにもなかった。

 

(…他はないか)

 

自分らに出来る事は戦う事だけ。

だがそれで役に立てるのであればそれでいいのだ。

とは言え、ここから地区まで徒歩で戻るには時間が掛かり過ぎる。

しかしこの近くに足がある訳ではないので仕方なくギルヴァはデビルトリガーを引き、人から魔へと姿を変えた。

突然彼がデビルトリガーを引いた事にネロは驚くも束の間、ギルヴァは一言だけ伝える。

 

「飛ぶぞ」

 

「飛ぶって…おい、マジかよ、流石にどう…のわっ!???」

 

ネロに拒否権もある筈もなく。

ギルヴァはそのままネロを脇に抱え、空へと舞い上がり地区へ飛翔した。

 

「持ち方ってのがあんだろ!?」

 

「黙っていろ」

 

そんなやり取りをしながらもギルヴァはネロと共に急いでS09地区へと戻り始めるのであった。

 

 

 

 

―おまけ―

 

『今日のテロリストさんたち』

 

 

「俺にはあの娘が待っているんだ!!」

 

「その娘は画面の向こう側だろうが!現実を見ろ!!お前、彼女なんて居ねぇだろうが!!」

 

「うるせぇ!俺の事をお兄様と呼んでくれるんだあの娘の為…生きて帰って全力でお兄様しなくちゃならないんだ!!」

 

「このっ…!歯ぁ食いしばれ!!そんなお前、修正してやる!!!!」

 

(…ぶっ飛ばして良いのか、良くねぇのか分かんねぇな)

 

謎のやり取りをするテロリストたちを見て、ネロは珍しくも迷うのであったが結局の所ぶっ飛ばす事にしたのであった。




はい…まぁそういう事で、ギルヴァとネロはアルゴノーツ・カライナから撤退し、地区の方へ戻る為行動します。
…カライナも味方の戦力は結構ありますし……うん、怒られたら書き直します。

地区の方では、多分他の参加者様とこっちのがぶつかると色々合わせるの大変になりかねないのでこちらは敢えて端の方で細々とやる感じです。
とは言え、現段階では地区へと戻っている最中なのでうちの二人を使いたかったらどうぞ。

では次回ノシ


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Act215-Extra Coffee time after work Ⅳ

─仕事はここまで─


アルゴノーツ・カライナを途中下車し数十分が経った時。

ネロはギルヴァと共にこのS09地区に戻ってきており、密かに行動しているテロリストらを制圧する為に効率を重視し一旦ギルヴァとは別々で行動していた。

 

「ここらには居ないみたいだな」

 

路地裏から表通りへと姿を現すネロ。

肩を軽く回しながら周囲を見渡す。避難誘導のおかげか、人通りは全くなく静けさが漂っていた。

 

「あらかた見て終わったが…」

 

見て回り始めた時と比べてテロリストとの遭遇回数が減ってきている。

その事には彼女も気付いており、どうしたものかと頭を悩ませた時、視界の端にある場所が映った。

それへと顔を向けるとネロはふーんと声を漏らした。

 

「道路橋、ね…」

 

かつてこの世界に訪れた時、悪魔騒ぎの現場となった道路橋。

今そこにグリフィンの部隊が展開されているかどうかは定かではなくテロリストらが潜んでいるかと言われれば、潜んでいない確率が高いだろう。

 

「取り敢えず行ってみるか」

 

しかし見てしまったからには気になるもの。ましてやこの状況下では尚更。

取り敢えずと称してネロは道路橋へ向かって歩き出すのであった。

 

 

その頃、ギルヴァは裏通りを歩いていた。

この世界に渡ってきた者達、グリフィンなどといった組織の活躍もあってギルヴァはテロリストらを遭遇する事はなかった。

ただ避難誘導の影響もあって、ギルヴァ以外の人の姿はなく、また遠くから銃声だけが響いていた。

 

―誰一人も居ねぇな

 

「ああ」

 

真っすぐと続く通りを歩んでいく中、ふと蒼が呟きギルヴァは肯定の声を上げる。

 

―しっかし分からんな。あのテロリストらは何が目的で列車砲なんぞ奪ったんだ?

 

「…」

 

その問いはギルヴァは答えなかった。

自分が引き起こした訳ではないのだ。当然ながらテロリストらの考えが読める訳でもない。

 

「そんなものを考えるだけで時間の無駄だ」

 

考えた所で時間の浪費に過ぎない。

蒼にそう伝えるとギルヴァはふと足を止め、軽く周りを見回した後前方を見つめた。

 

「…む」

 

─おっと?ここは…

 

偶然と言うべきか。ギルヴァは自身が気付かない内に喫茶 鉄血がある裏通りに来ていた事に気付いた。

蒼もそれに気付いた様子である。

 

―どうする?一足早く休憩するか?

 

「後で良い。まだ終わってなどいないからな」

 

―そう言うと思った。…それと道路橋の方で何か起きてるみてぇだな。ネロの気配もある

 

「そうか」

 

蒼の情報に頷くと気配を消しつつギルヴァは歩き出した。

青い刺繍が施された黒いコートを揺らしながら静かに彼は喫茶 鉄血の前を通っていく。

ふとちらりと店内を見れば、何らかの作業しているフォートレスの後ろ姿があったのだが彼は足を止める事はしなかった。

誰にも気付かれぬ事もなく、店の前を通り過ぎていくとギルヴァは裏通りから表通りへと繋がる路地裏へと入っていきそのまま姿を消した。

だがその直後、慌てて店から飛び出してきたフォートレスが姿を見せる。

まるで誰かが探している様に周囲を見渡すも、彼女の探している人物はどこにもおらず残念そうな表情を浮かべる。

 

「…この感じ、やっぱり…」

 

そう呟きながらフォートレスはそっと群青色の桜の形をしたヘアアクセサリーに手を添える。

すると何かに呼応する様に桜のヘアアクセサリーは、どういう訳か薄っすらと桜の花びらを模った幻影を舞い上がらせるのであった。

 

 

一方でネロは道路橋に到達していた。ただそこに広がった光景に彼女は思った。

ここまで来た甲斐はあったみたいだな、と。

ネロの目に映るはまるでパレードをしているかの様にゆっくりと迫ってくる大量の武装したテロリストらと複数の戦車や装甲車の姿。

警戒されていない所を狙ったのか分からずとも、敵がこの道路橋を超え街へ入ろうとしているのは言葉にせずとも分かる。

当然無視していい筈もなく、ネロはホルスターに納めてある特殊リボルバー『アニマ』を引き抜くとわざと戦車へと目掛けて発砲した。

拳銃の弾丸では当然ながら戦車の装甲を貫く事は出来ない。そんな事はネロも分かっている。

にも関わらず発砲したのは銃声で敵の足を止める為であった。

 

「おい、ここはパレード禁止だぜ?やるんなら他所でやんな」

 

ここから先へは通すまいとネロはアニマをホルスターに収め、クイーンを肩に担ぎながら、テロリストらを前にして立ちふさがった。

突然現れた彼女にテロリストらは身構えるが、彼女一人だけだと気付くとその表情にも余裕が生まれていた。

この数をたった一人で相手に出来る筈もない。どうせ成す術もなく逃げていくに違いない。

そう言った慢心がこの後に地獄を見る事になるのだが、テロリストらの全員がそれに気付く筈もなく立ち塞がったネロを見ながら嘲笑う。

しかしそんな嘲笑に意を介す様子もなく、ネロは軽く肩を竦めクイーンの刀身を地面に宛がった。

 

「悪いな、ギルヴァ…」

 

獰猛な笑みを浮かべると彼女はクイーンのグリップを捻る。

バイクのエンジン音に似た音が低く唸る。まるでそれはテロリストらを威嚇している様だ。

 

「俺が頂くぜ!」

 

そして今この場に居ないギルヴァに向けてそう告げるとネロは駆け出した。

 

「たかが一人だ!!撃ちまくれ!」

 

分厚い弾幕を最小限の動きだけで華麗に回避しステップを踏みながら掻い潜るネロ。

一瞬の隙を見て地面を勢い良く蹴り突進。テロリストらの目の前まで接近するとクイーンを構える。

 

「おせぇよ!」

 

刀身を大きく振りながら持ち手付近のレバーを引き体を大きく回転。

回転と推進剤噴射機構によって速度を上げられた横薙ぎの一撃は大の大人たちを軽々と吹き飛ばす。

舞い上がる炎。吹き飛ぶテロリストら。

それがたった一人の人形がやったと思うにはあまりにも信じ難い光景だろう。

だが現実というのは無慈悲なもので。そこで起きている事象は夢ではないとテロリストらに告げていた。

 

「それじゃあ行くぜ!!」

 

敵群の一部を吹き飛ばし、そのままネロは敵群中枢へと突撃。

ハイエンドモデルとしての力、悪魔の右腕から得られた力。それを総動員させ立ち塞がるテロリストたちを蹴散らし、装甲車を容易く破壊。

そのまま戦車に攻撃を仕掛けようとした時、突如として戦車が真っ二つに両断された。

訪れる沈黙。

目を見開いたまま啞然とするテロリストたち。

誰の仕業か分かっている為、軽くため息をつくネロ。

 

「「「「えええええええ!!!???」」」」

 

すぐに理解出来ずとも、数秒かけてその戦車が真っ二つに両断された事実を理解し、その現実を認めた瞬間、テロリストらの驚く声が道路橋に木霊する。

一方ネロはそんな事を普通にやってのける人物を知っている為、驚く様子もなくクイーンを肩に担ぎ後ろへ振り向くとやっぱりと言った表情を浮かべた。

 

「遅すぎねぇか?パーティーはもう始まってるんだぜ?」

 

攻撃の動作を終え、姿勢を直すギルヴァに対しそう問いかけるネロ。

その台詞にギルヴァはほう?と声を上げる。

そして無銘の刀身をテロリストらへと向けて突き付けながらネロへと問う。

 

「では、あれらがもてなす客として相応しいと?」

 

「まぁ言われてみれば…」

 

その指摘を受け、ネロは苦笑いを浮かべながらギルヴァの隣に並び立つ。

 

「確かにそうかもな」

 

ネロの返答を合図にギルヴァは勢い良く無銘を振り下ろし、ネロ共にテロリストらへと向かって歩き出す。

たかが一人増えただけ。だがテロリストらは気付いてしまった。

あの二人を相手するには戦車やら武装した奴らをかき集めただけでは勝てない。

最早その強さは人智を超えている、と。

そんな状況でテロリストらを纏めるリーダーが体を震わせながらも指示を飛ばした。

 

「よ、よし!お前ら行け!!その内に俺は逃げるから頼んだぞ!!」

 

「「「「逃がすかボケェ!!」」」」

 

逃げ出そうとするリーダーを仲間たちが取り押さえ、逃亡を阻止。

そうこうしている内にギルヴァとネロは地面を蹴り、突進。

指揮系統が機能しているテロリスト集団へと攻撃を開始。身体に当てるつもりはない。

攻撃手段だけを奪う。ギルヴァもネロもその考えでいた。

 

「よっと!」

 

右腕のおかけもあって身体能力が飛躍的の向上したネロは地面を蹴り跳躍。

人間一人の身長を普通に超える高さまで飛び上がると、魔力の扱い方を覚えたのか空中で魔力で形成された足場を作り、それを蹴って飛び上がる技『エアハイク』で宙へと舞い上がりながらクイーンのグリップを捻り、推進剤噴射機構を三段階まで解放。

そのまま空中で体を翻すと同時にクイーンの刀身を突き立て。レバーを引く。

勢い良く噴き出す推進剤を推進力に斜め下にいるテロリストらへと向かって突進。

『ペイライン』と名付けた技。

推進剤噴射機構の力もあって一瞬とも言えるその速度にテロリストらが反応できる筈もなく、飛んできた一撃に吹き飛ばされていく。

 

「途中下車した分の仕事はしなくちゃならねぇからな。お縄につくか、痛い目みるか…どっちが良いか選びなぁッ!!」

 

「降参する前に攻撃されたら降参もで…ぐはぁッ!!」

 

テロリストが何か言っていたが、攻撃で吹き飛んできた仲間の一人がぶつかってきて、その台詞がネロに届くこともなく。

言っている事と行動が矛盾している気もしなくはないが、ネロは途中下車した分の仕事を完遂する為に敵集団へ突撃、派手に暴れ回っていく事にした。

その一方でギルヴァはじっと身構えるテロリストらを睨んでいた。ネロの様に暴れる様子もなく、ただじっとそこで立ち尽くしていた。

この男は戦意喪失した相手を攻撃しない奴だと判断したのだろう。テロリストらは自分達は痛い目を見ずに済むと安堵の息を漏らすのだが、先程逃げ出そうとしたリーダーが銃を構え、発砲と同時に叫んだ。

 

「今だ!やっちまえ!!」

 

「「「「この戯けがあああぁぁぁ!!!」」」」

 

さっさと降参してお縄に付けば終わりだったというのに、リーダーによってその計画は台無しに。

そしてギルヴァは敵はやるつもりだと判断すると、自身の背にある物を展開させ、柄を掴み取り出した。

それは『幻影』を渡した彼女…アナが愛用する刀『アメノハバキリ』を魔力で錬成したものであった。

かつてあの大規模作戦時にも使用したそれ。

若干細部と大きさが異なっているのだが、誰がどう見てもそれだと言うかも知れない。

だがギルヴァはその魔力の刀に『アメノハバキリ』とは名付けず、『ツムガリノタチ』と名付けていた。

右手に握ったツムガリノタチを、そして腰に携えた無銘を左手で器用に抜刀するとギルヴァは腰を低くして構える。

そしてテロリストらへと一言告げた。

 

「行くぞ…!」

 

ツムガリノタチを突き出すと同時に体を高速回転。

刃の嵐を化したギルヴァがテロリストらへと向かって突進。

次々とテロリストらを吹き飛ばし、次々と装甲車や戦車を破壊していく。

最早それを止める術などテロリストらにある筈もない。暴れ回る二人に残されたテロリストらは、もうどうにでもなれと戦う事を放棄し遠い目で空を見つめるのであった。

 

 

道路橋に戦いの後の静けさが漂う。

破壊された戦車、破壊された装甲車、気絶したテロリストら、降参しその場に座り込むテロリストら。

一体ここで何が起きたんだとつい口にしたくなる程の惨状が出来上がっていた。

ネロは破壊された戦車の上に乗っかり退屈そうな表情を浮かべながら時間を過ごし、ギルヴァは近くの鉄柵の上に腰掛け、コートの懐から取り出した本を片手に読書に没頭していた。

そんな時、道路橋での戦闘を聞きつけたのかグリフィンの部隊が到着。そこに広がった光景に誰しもが言葉を失った。

 

「…もう終わっていたみたいね」

 

かつてこの道路橋で起きた悪魔騒ぎを経験したFALがその光景を見つめながら呟いた。

その呟きに同じくして悪魔騒ぎを経験した事のあるMG5が答える。

 

「らしいな。…しかし一体誰が」

 

「簡単よ。そこで読書に没頭してたり、真っ二つに別れた戦車の片割れの上でのんびりしている奴がいるじゃない」

 

「あー…」

 

空いた手で頬を掻くMG5。

あの二人がこの状況を作ったのであればと納得する。

降参したテロリストらをグリフィンの者達が対処に当たり始める中、彼女達が来た事に気付いたネロがその方向へと振り向き、見つめる。

 

「こりゃ俺らの仕事は終わりみてぇだな」

 

アルゴノーツの方がどうなっているかは分からない。

だがあれだけの戦力があれば何とかなるだろうと思い、ネロは敢えて気にしない事にした。

そこにFALが話しかける。

 

「久しぶりね。変な義手を扱う処刑人」

 

「そっちもな、FAL。それと名前が変わってね。次と呼ぶときはネロって呼んでくれ」

 

「了解よ。…しかしこっちに来てたとはね。例の鏡で来たのかしら?」

 

「正解。…まぁ俺は居合わせただけなんだけどな」

 

あの場に自身が居なくても、ギルヴァは一人でこの世界に渡っていたであろう。

その事は簡単に予想する事が出来たネロは軽く肩を竦めながらデビルブレイカーと専用のアタッチメントを外す。デビルブリンガーが姿を見せるも、袖を捲くってはいない為何ら問題はなかった。

 

「まぁ事が収まるまでは協力するさ。こっちから首を突っ込んだからな」

 

「そうしてもらえると有り難いわね。まぁのんびりしてて」

 

「あいよ」

 

去っていくFALを見送るとネロは静かに空を見上げる。

 

(…後は喫茶店に行くだけか)

 

そう思いながら流れゆく雲を見つめる。

訪れた静かなひと時をネロは堪能し始めるのであった。




はい…。アルゴノーツ・カライナを途中下車したギルヴァとネロの二人ですが、かつて悪魔騒ぎが起きた道路橋で暴れさせてもらいました。

後は主催者様にあわせるつもりでございます


では次回


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Act216-Extra Coffee time after work Ⅴ

─暇つぶし─


戦車の残骸やら装甲車の残骸が残る道路橋。

戦闘の音が消えた後にも関わらずこの場所は慌ただしいままであった。

悪魔狩りを得意とする二人によってこの道路橋を経由して町内に攻め入ろうとしたテロリストらが壊滅し、騒ぎを聞き、やって来たグリフィンらによって現在事後処理が行われているのだから。

 

「…」

 

「…」

 

そしてこの戦闘を終わらせたギルヴァとネロはこのまま去って喫茶店に向かおうかとしていたのだが何故か残る様に言われてしまい、やるべき事もなく只々暇を持て余していた。

 

「…暇だ」

 

ギルヴァが両断した戦車の片割れの上に腰掛けていたネロは背に背負っていたクイーンを傍に置き、車体の上に寝転がり空を見上げる。

風によって雲が空を漂う。変化はアリはしない。最早見飽きた光景。

 

「だぁー!!マジで暇!!人形だと言うのに、このままだとノイローゼになっちまう!」

 

流石に耐えかねたのか、ネロは不満を晴らす様に大きく叫んだ。

突然叫んだ事により周りの人形や降参したテロリストらは驚く中、ギルヴァが咎めた。

 

「黙れ。耳障りだ」

 

その一言にカチンと来たのか、ネロは勢い良く上半身を起こしギルヴァを睨む。

先程まで読書に没頭していた筈なのだが、読み飽きたのか腕を組み目を伏せながら立ち尽くしていた。

 

「んだよ。お前も暇そうにしてんじゃねぇか」

 

「貴様程騒いではいない」

 

「うぐっ…」

 

確かにその通りだと話を聞いていたグリフィンの人形も降参したテロリストらもうんうんと頷く。

味方は居ないと感じたネロは大きくため息を付き、どこか気まずそうな表情を浮かべるとそのまま寝転がった。

再び訪れる静寂。残れと言われた以上動けないのでギルヴァは時が過ぎるの待つに徹した。

そんな時、近くで座り込んでいた降参したテロリストの一人がギルヴァに問いかける。

 

「アンタ、女侍の知り合いか?」

 

「女侍だと?」

 

女侍。

その言葉を聞いた時、ギルヴァの頭に『彼女』の顔が浮かぶ。

確かに彼女は銃より近接武器を多用している節がある。幻影を渡した後は最早戦術人形とは何ぞやと問いたくなる程、接近戦を仕掛ける事が多い。

オウム返しの様に聞き返してきたギルヴァにテロリストは頷くと口を開いた。

 

「別の所で戦ってた仲間が通信で言ってたんだ。女侍が出たとか何とかってさ。アンタが傍に立て掛けるその武器って『カタナ』ってやつだろ?だから知り合いじゃないかと思ってよ」

 

「ふむ…」

 

もしその女侍が自身の知っている彼女『アナ』であるなら知り合いだろう。

何故なら彼女もまたギルヴァ達と同じ世界からこちらから渡ってきたのだから。

ただこればかりは知らない事ではあるのだが、アナ、そしてキャロルもこちらの世界に来ている。

どうやらアナが持つ幻影によってアナと共に飛ばされたらしいのだが、今のギルヴァがそれを知る筈もない。

 

「…恐らく俺が思う人物なのであれば、そいつは知り合いだろう」

 

「マジかよ…。向こうから聞いた話だと正直訳が分からなかったぜ。砲弾を斬ったって言ってたんだ。…アンタは戦車をぶった切ったけどよ」

 

遠い目でネロが寝転がる戦車の最後の姿を見つめるテロリスト。

砲弾を斬る女侍が居ると聞いた後に今度は戦車をぶった切った男が現れたのだから無理もない。

 

「まぁそれは良いんだ。アンタ、そいつとは仲良いのか?」

 

「…何故それを聞く?」

 

「あ、いや、何か企んでいる訳じゃない。そんな事をやった所でアンタにぶちのめされるのがオチだしな。ただ、ほら…お互いに暇してるだろ?」

 

「…」

 

そう言ってテロリストは周りを見渡す。

テロリストがグリフィンに連れていかれるまで時間がかかりそうな状況。

そしてギルヴァも暇している状況だ。

話し相手がテロリストという変な気分になりながらも彼は少しばかり会話に付き合ってやる事にし、先程の問いに答える。

 

「…奴が俺をどう思っているかは知らん。心が読める様な技術は持ち合わせていないのでな。ただ…」

 

「ただ?」

 

「…背中を預ける一人としては申し分ない。俺の中ではそう思っている」

 

それは嘘偽りの無い台詞。

それ程までギルヴァはアナという彼女を評価している。

いつしか本気ぶつかってみるのも良いかも知れんと思っていたりするのだが、そんな事が起きたら基地が只では済まないのは分かっているので実現する事はないだろう。

 

「信頼してんだな」

 

「…ああ」

 

何の因果か技術を教え、気付けば自身が愛用する無銘を模った刀を渡した。

何故そうしたのかはギルヴァ自身も分からない。

ただ一つだけ分かる事があった。

彼女は『力』を求めている。それはかつて自身も求めたものだったからこそ理解できたのだ。

だからこそ渡した。その『力』というものを。

 

「…少しは丸くなったと思っていたが思った以上に丸くなったな」

 

「そうかい?俺からすりゃ研ぎ澄ましたナイフ並みに鋭いぜ?」

 

「周りからすればそうかも知れんな」

 

テロリストの指摘も間違ってはいない。

だがギルヴァは昔と比べると丸くなったのは実感している。

周りからすればそうでもないと言われるという事も分かっている。

こういう事は自分か或いは自身の内の中にいる蒼にしか分からないだろう。

 

「…お喋りはここまでだ。後は自身の身の振り方でも考えると良い」

 

「…ああ。じっくりそうさせてもらうよ」

 

歩み寄ってきたグリフィンの人形達に視線を向けながらテロリスはそう答える。

そのまま去っていく後ろ姿を見届けた後、ギルヴァはちらりと空を見上げた。

流れゆく雲。それは全て別々の形を模っており、大きさも異なっている。

 

「…暫くはこのまま、か」

 

既に自分らの戦いは終えている。

いつになったら休めるのだろうかとギルヴァは内心思ったまま待機。

そして道路橋を離れる事が出来たのはテロリストと軽い会話をした十分後であった。




少し書きたくなったので、もう一話追加。
と言っても戦闘がある訳ではないのですけどね。

一旦ここいらで自分達は締めます。では次回ノシ


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Act217-Extra Coffee time after work Ⅵ

─楽しいひと時を─


異世界で起きた一連の騒動は収束し、世界を渡ってきた者たちは喫茶 鉄血にて打ち上げ会を楽しんでいた。

見知った者、初めて邂逅を果たした者。

それら全員が世界を渡り、この世界で起きた危機に立ち向かった者達であることは間違いないだろう。

そして賑やかでありながらどこぞのカップルのせいか甘ったるい空気が店内を漂う中、カウンターの端で椅子に腰掛けるネロとギルヴァの姿があった。

特に会話に参加するわけでもなく、世界を渡ってきた者たちが喫茶 鉄血の面々と盛り上がっている様子を只々眺めるだけ。

わざと壁を作っている訳でもないのだが、何処か作っている様に感じさせる二人に声を掛ける者はいないかと思われた時、群青色で桜の形をした髪飾りを身に付けた一人の少女が二人に歩み寄り声をかける。

 

「ご、ご久しぶりです」

 

「…む」

 

緊張しているのか、少々言葉がどもりながらもかけられた声にギルヴァは伏せていた目を開き、そちらへと視線を向けた。

どこかもじもじしている彼女…フォートレスを見て、ギルヴァは口を開く。

 

「…久しいな」

 

「は、はい!ギルヴァさんも、その…お元気そうで何よりです」

 

「ああ」

 

(…え!?それだけか!?)

 

そこで会話が途切れてしまい二人の間が沈黙に包まれた時、隣に座っていたネロがギルヴァに視線を向けつつ内心ツッコミを入れる。

元より口数が多い方ではないことは理解していたネロであるが、ここまでとは思わなかった。

流石にこれはまずいと判断し、適当な話題でも振って二人の間での会話を広げようと口を開きかけた時、ギルヴァが口を開いた。

 

「付けているのだな」

 

そういってギルヴァはフォートレスが身に着けている群青色で桜の形をした髪飾りへと視線を向ける。

それはかつてこの世界に初めて訪れたギルヴァがおかわりのコーヒーを淹れてくれたフォートレスへのお礼として、自身の魔力を錬成したものを渡したもの。

普通の髪飾りとは違い、魔力で形成されていることからどことなく透き通っており、気にしなければ分からないほどではあるがうっすら妖気のようなものを放っているため、お礼として渡したところで不気味に思われ捨てられるだろうとギルヴァはそう思っていた。

しかし今回再びこの世界に訪れ、フォートレスと再会してみればあの時渡したそれを身に着けていたので彼からすれば少なからず驚きを覚えるほどであったのだ。

 

「はい…。これをもらった時からずっと…」

 

ギルヴァが何に対しての問いなのかと理解しつつフォートレスは身に着けている髪飾りにそっと手を伸ばし触れる。

その表情はどこか懐かしくも、悲しそうにも見える。ギルヴァもネロもそれを感じずにはいられなかった。

とは言えそれ以上の事を問わないのは二人だ。

場の雰囲気を読んでギルヴァが静かに伝える。

 

「一杯淹れてもらおうか」

 

「!」

 

そのセリフに肩を跳ね上がらせたフォートレスだったがその表情は一瞬ですり替わる。

 

「ブラックで頼む。こいつの分も淹れてもらう」

 

「かしこまりました」

 

ネロの分を含めて、ギルヴァからの注文内容を聞くとフォートレスは一礼してから厨房へ向かっていった。

その後ろ姿を見届けたギルヴァだがそっと視線を周りを向けた。

するとギルヴァの目を通してその光景を見ていた蒼が喋りだした。

 

―平和な世界で起きた事件。それを解決しに現れたのは世界を渡ってきた連中ってか…

 

(…随分な大舞台と化したがな)

 

─まぁな。…確かカライナだったか?どうやら派手に飛んだらしいな?誰がやったかは大方検討がつくが…

 

(…奴か)

 

―恐らくな

 

そこで二人の間で会話が途切れる。

これ以上言う気などないと判断したためである。

しかしコーヒーが届くまでは時間があるため、蒼が話題を切り替える。

 

―そういやあの嬢ちゃん…どうやら『幻影』のせいで飛ばされたみたいだな?

 

(そうらしい。理屈は分らんが)

 

例の作戦にて引き金を引いた彼女。

そして気まぐれで渡した刀が魔力の塊であった刀から魔剣へと化した。

今回この世界に渡ってこれたのも『幻影』が突如として光りだし、気づけばここに飛ばされていたとのこと。

何故そうなったのかはギルヴァにも分りかねるほどであったが──

 

―いや、それならわかるぞ?店に来たお前があの嬢ちゃんの後ろを通り過ぎた時に理解したからな

 

(なに?)

 

ギルヴァの中にいる彼は…蒼だけはその原因を分かっているようであった。

 

―確かに魔剣と化した幻影はあの娘のものとなった。意思を有し、彼女を主として認めた事で保有する魔力もお前の魔力とは違うものを内包している。だがな?根本的な部分…謂わば『核』部分はお前の魔力が残ったままなのさ

 

(…それで?)

 

―親離れしたのは良いが、お前の事も忘れずにいる天真爛漫娘みたいな意思を有したのさ。今回お前が世界を渡ってたのをどういう訳か感じ取り、自分も行くー!ってなったんだろう。そして、あ!どうせならこの二人もご招待しなきゃね!みたいなノリでぶっ飛ばしたんだ

 

(…)

 

―…

 

(…二人が巻き込まれたのは俺が原因だと?)

 

―全部じゃないが一部はお前が原因だな

 

その事を告げられるとギルヴァは静かにため息をついた。

まさか二人がこの世界に訪れることになってしまったのは少なからず自身が関わっているとは思わなかったからだ。

額に手を当てるギルヴァを見て、ネロは首を傾げるのだが彼がそれを語る事はなかった。

 

(…取り敢えず今は黙っておくとしよう。いずれ時期を見て、マギーに見てもらったほうが良いだろう)

 

すぐに伝える必要性はないだろうとギルヴァがそう判断した時だった。

 

「お、お待たせしました!」

 

フォートレスが二人の前に立った。

ソーサーの上に置かれたカップには彼女が淹れてくれたコーヒーが注がれており、二人の前に出される。

ネロはもらうぜと一言伝えるとそのままコーヒーに口をつけ、ギルヴァもそれに続いた時、ふと彼は気づく。フォートレスの表情がどこか不安げなものであることに。

 

―ほら、さっさと一口飲んで感想言ってやんな。あの表情はそれを待っている顔だ

 

蒼にそう促され、ギルヴァはコーヒーを一口含む。

そしてゆっくりとカップをソーサーの上へ戻すと彼は口を開いた。

 

「悪くない」

 

「!」

 

彼の一言にフォートレスの顔に安堵の表情が浮かぶ。

その様子を見ていたネロは小さく笑みを浮かべ、内心つぶやく。

 

(…フォローが必要かと思ったが、いらねぇみてぇだな)

 

店に来てからと言うもののほとんど喋っていないネロであったが、ギルヴァとフォートレスの間での雰囲気は和やかなものになったと感じ取っていた。

このまま美味しいコーヒーを味わいながら、この一時を過ごそうとした時、ネロの前にある人物が立つ。

前に立った彼女に気づいたネロはカップを置き、話しかける。

 

「こっちは最後でいいんだぜ、代理人?」

 

「そういう訳にも行きませんよ。…お元気そうで何よりです」

 

「ああ、そっちもな」

 

軽く肩をすくめながら、笑みを浮かべるネロ。

 

「…それで?世間話をしに来たって訳じゃねぇんだろ?」

 

「世間話もあるのですが…まぁ目的はこちらの方です」

 

ゴトリと重々しい音を立ててカウンターの上に置かれたそれを見て、ネロはへぇ…とそんな声を漏らす。

それはこちらの世界のアーキテクトに譲り渡したデビルブレイカーの一つ『ブリッツ』であった。

アーキテクトに渡したはずなのだが、何故代理人が持っているかはネロ自身何となくであったが察していた。

 

(やっぱりな)

 

こうなるであろうと予想していたため、ネロは驚きはしなかった。だがその様子が不思議に感じたのか代理人はネロへと尋ねた。

 

「驚きはしないのですね?」

 

「まぁな。悪魔をぶちのめすためにあるモンだからな。返品されることは何となく察していたさ」

 

そう言ってネロはブリッツを装着する為に、右袖をまくってしまった。

この時ネロは道路橋での戦闘でデビルブレイカーのアタッチメントを外していた事と悪魔の右腕『デビルブリンガー』が姿を現している事をすっかりと忘れてしまっている。

何の疑いもなく袖を捲ってしまい、露わとなったデビルブリンガーを見た時ネロは目を見開き、つい声を漏らす。

 

「やべっ…!」

 

「ん?どうかされ──」

 

その小さな声が決して聴き洩ら巣ことはなく、代理人はネロの方を向いた瞬間、右腕に現れる異形の腕に目を見開き固まってしまった。

幸いにして周りには気づかれていない。最もギルヴァには気づかれているのだが、彼はあえて無視している。

そんな事を知るはずもなく、どう話したものかと頭を悩ませるネロだが意外と復帰が早かったのか現実へと戻ってきた代理人が恐る恐る尋ねた。

 

「…そ、その腕は一体?」

 

「…見たまんまさ。悪魔の右腕ってやつでね。…俺に戦う力を、だれかを守る力をくれている」

 

「…」

 

「…不気味かもしんねぇがこいつが勝手に動き出す事はねぇから安心しな。それによ…」

 

デビルブレイカーのアタッチメントを装着し、代理人から渡されたブリッツを装着しようとするネロ。

するとデビルブリンガーは自ら幽体化。なんの問題もなくブリッツが装着され、ネロは義手の指を動かしそれを見せつける。

 

「幽体化できるからな。義手つけてりゃ特に何の問題ねぇさ。だから何でああなっちまったのかは聞かないでくれ」

 

「…分かりました」

 

「ありがとよ」

 

代理人が頷いたことにより、ネロは静かにコーヒーを味わう事にする。

この楽しいひと時がどこまで続くかは分からないが、それでも彼と彼女は今を楽しむのであった。




えっと…本来であれば六月中には投稿したかったのですが…。
メンタルがボロボロになってしまい、中々執筆できず、やる気も中々に沸かず異常に遅くなりました。本当に申し訳ございません。

投稿頻度は一気に遅くなりますが、何卒宜しくお願い致します。

次回はシーナ編の続きをやっていこうかと。
今回のコラボ回でActの次にUndecided (未定)と付けたのはシーナ編が完結していない為、一時的な仮題として付けました。

では次回


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Act218 Party preparation

─パーティーの準備─


シーナの過去の話、ギルヴァとネロが異世界の問題を解決しに『映されし異界の鏡』に飛び込んでいったりなどS10地区前線基地は慌ただしくとも何時ものように過ごし早数か月。

過去の話をしたとしても誰一人とてこの基地を離れる事のなかった事に密かに涙を流していたS10地区前線基地の指揮官、シーナ・ナギサは何時もの様に執務室で書類の処理に当たっていた。

普段と変わらぬ日常。淹れたてのコーヒーの香りが気分を落ち着かせる。

この書類が片付いたら一休みしようと思うシーナ。

しかしてそういう時に限って何かしらの問題が降ってくるのはこのS10地区前線基地ならではの事。

最後の書類にサインをしていざ一休みしようとしたシーナ。

そんなときに執務室にある人物が訪れる。

 

「おや、一休みしようとしていた所かえ?シーナ」

 

部屋に入ってきて早々問いかけるのはグリフィン本部直轄諜報部所長でありながら、その実は十の顔を持つ悪魔『ダンタリオン』としてこの基地の面々には知られているダレン・タリオンである。

何時もの様に桜模様の着物を着込み、煙管を咥えている彼女。しかして片手にはタブレット端末が握られていた。それを見た瞬間、シーナの表情が一変する。

 

「何か…飛んできたかな?」

 

雰囲気が変わる。

シーナが問いかけたその言葉の意味。

大抵にしてそれは何らかの作戦の招集がかかったことに対する問いである事をダレンは理解している。

瞬時にそれを見抜く様になった彼女の成長に内心驚くダレンであるが、それを表に出さずに端末を操作しつつ問いに答えた。

 

「答えはイエスじゃ。これを見てくれるかの?」

 

差し出されたタブレットを受け取り、内容に目を通すシーナ。

書斎の上に腰掛けながらも、内容を見つめる目は真剣そのもの。

その姿を見つめるダレンは一言も発さず、只々待つだけに徹する。

そしてシーナがタブレットに視線を向けてから十分ほど経過したとき、シーナはタブレットから顔を上げダレンの方へ向けた。

 

「ダレンさん、少しお使いを任せていいかな?」

 

「構わんよ。何なりと申し付けるがよい」

 

「うん。それじゃあ──」

 

彼女の口から告げられるお使いの内容。

それを聞いたダレンは苦笑いを浮かべながら思った。

 

(あのイレギュラー祭り以上に派手な祭りになりそうじゃのう…)

 

煙管をふかしながら頼まれたお使いへと動き出すダレン。

頼まれたお使いの内容は指定した人物と人形らを招集する事。

しかしてそのメンバーはある意味豪勢と言えるかもしれないだろう。

 

(悪魔狩人に青い薔薇、そして以前から設立しつつあった特殊部隊…さてはてどうなる事やらか)

 

くくくっ…とダレンは小さく笑みを浮かべ廊下の奥へと消えていくのであった。

 

 

ダレンがシーナからお使いを頼まれてから数十分後。

何かしらの作戦が発令された時、大体の確立で作戦会議の為に使用される第一会議室のは多くのメンバーが集結していた。

基地の部隊全員ではない。そこに居るの面々は悪魔を泣かせるほどの高い実力を持つ猛者たちである。

悪魔狩人であるギルヴァ、ブレイク、ルージュ。独立遊撃部隊『ブラウ・ローゼ』のメンバー七名。

そして以前から設立しつつあったS10地区前線基地所属特殊部隊に選ばれた戦術人形『MG4』『vector』『コンテンダー』『Ots-14』『95式』『WA2000』『AUG』『UMP45』『UMP9』『G11』『HK416』に加え魔界出身であるフードゥルとグリフォンの姿。

そして指揮官たるシーナと後方幕僚のマギーに加えダレンの姿がこの場にあった。

 

「急に呼び出してごめんね、みんな。でもこんな風に人を集めるとなると何があるのか想像はつくよね?」

 

一部の者達が笑みを浮かべる。

最も予期していた事でもあったので、それが当たった事は驚きを越して笑みを浮かべたくなる程だ。

ドンパチを決め込むパーティーはこのS10地区前線基地では最早何時もの事なのだから。

 

「招待状でも出すのか?ねぇちゃん。それとも貰った感じ?」

 

「貰った方だよ、グリフォン。最も相手は悪魔でもなければ鉄血でもないけど」

 

「あん?それはどういう事よ?」

 

グリフォンの問いに答えるかのようにシーナは端末を操作し、スクリーンに情報を映し出す。

それを見た時、全員の表情が変わった。

先ほどシーナが言ったように敵は鉄血でもなければ悪魔でもなかったからだ。

 

「見ない顔だな。新入りってやつか?」

 

「ブレイクさん正解。私たちの方では交戦したことはないけど、敵の組織名はパラデウス。一時前では白い勢力って言われてみたい。作戦の参加の招集をかけてきた依頼主からだとどうやらかなりの戦力を保有しているの」

 

「そいつはまた随分と張り切っている新入りだな」

 

「張り切り過ぎな気もするけどね」

 

そのままシーナは依頼主から提供された情報をスクリーンに映し出していく。

 

「敵は片っ端から掃除。そして救出対象を保護する。言葉にするだけなら簡単そうに聞こえるけど、どう考えたって今回の作戦は一筋縄ではいかないでしょうね」

 

「おそらく情報には載っていない敵もいるわね。それに今回の作戦に参加している基地は私たちだけじゃないんでしょう?指揮官」

 

ブレイクの隣で座っていたグローザがシーナにそう尋ねる。

 

「うん。いつもの顔馴染みに加えて、今回初の共同となる基地も参加を表明している。それでも足りるとかどうか怪しく感じているけどね」

 

「それは何故?」

 

「途轍もなく嫌な予感がするの。所謂イレギュラー要素ってやつだよ」

 

イレギュラー要素。

それを聞いた時、何かを思い出したのかギルヴァ、ブレイク、ルージュは何処か呆れた様にため息をついた。

三人の反応を見て、その場にいた全員が察した様な表情を浮かべる。

本来の敵に加え、戦場を乱すようなイレギュラー。

どうしようもなく厄介な事になるのは分かり切った事だろう。

 

「だから今回は私も出るよ。ゲリュオンやシャドウ、そしてナイトメアの力が必要になるだろうし」

 

彼女のセリフに一部の者は口を開き、一部の者は目を見開く。

無茶する所は以前からあったし戦場に飛び出ることもあった。

だが今回の様な作戦に出たことは一度もない。

言わずとも分かることであるがシーナはこのS10地区前線基地の指揮官だ。

彼女の何かあってからでは遅いなのだ。

 

「大丈夫、無理はしないから。それに皆がいるからね」

 

だがシーナが引くことをしないのは既に分かり切った事。

彼女が出るのであれば全力で守る。それしか方法はないであろう。

 

「作戦事態は状況に合わせる。そして今回はヨルムンガンドとリヴァイアサンを運用します。なのでネージュはリヴァイアサンに搭乗する事」

 

「了解」

 

「また以前からマギーさんがブラウ・ローゼ用の装備を開発及び改修をしていて既にそれらは終えているみたいだから、この会議が終わり次第対象になっている者達はマギーさんの所に向かい、慣らておくように。それから───」

 

次々と作戦に向けての準備に対する指示がシーナから伝達されていく。

そして全員の指示を言い渡し、参加するメンバーが会議を出ていき、室内にはシーナとダレンだけが残っていた。

端末を操作し情報を見つめるシーナ。そこにダレンが神妙な表情で話しかけた。

 

「シーナよ、少し頼みごとを聞いてはくれんかの?」

 

「?」

 

首を傾げるナギサ。

だがその後にダレンから告げられた頼み事を聞いた時、彼女は即座に頷き了承を示すのであった。

 

 

 

 

 

そこはかつて誰かが立ち寄っていたであろう小さな教会。

朽ちながらも神聖な雰囲気を保ち続けるそこで外から入り込む日差しに照らされるように一人の女性が片膝をつき何かを祈るよう状態を維持したままジッとしていた。

艶のある長く伸ばした黒髪に水色のメッシュ。

黒を基調とし水色の差し色が入った袖ありのドレスを纏っており、傍には一風変わったバイオリンを置いていた。

 

「…!」

 

ふと女性は何かを感じ取ったのか伏せていた目を開き下げていた顔を上げるとゆっくりと立ち上がった。

そして、とある方向へと顔を向けその場で立ち尽くしたまま見つめていた。

 

「…そう。この声はあちらから…」

 

地面に置いたバイオリンを手に取り、彼女は教会の出口へと歩き出す。

 

「…私が奏でて差し上げましょう。この曲でお役に立てるのであれば…」

 

ドアを開き、彼女は教会を去っていく。

そしてほんのわずかにバイオリンの音が教会に響くのであった。




という訳で…
『人形達を守るモノ』の作者様であるNTK様主催の大規模コラボ作戦『タリン制圧作戦及びアイソマー救出作戦』にうちの悪魔どもと青い薔薇とその他もろもろが参戦いたします。同時に新たな魔具、装備も登場させる予定です。

今回は作戦準備するS10地区前線基地を描かせていただきました。
また最後の方で出てきた女性はオリジナルキャラです。

次回からはコラボ作戦編と突入です。
仕事の兼ね合い上執筆時間は少ないけど頑張るぞえ…!


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Act219-Extra Those who end the nightmare Ⅰ

─最高に派手で楽しすぎて狂うようなパーティーをしよう─


廃都市「タリン」を舞台とした救出作戦。

都市から約数十キロ離れた地点では今回の作戦に参加を表明した者達とグリフィンの部隊で溢れていた。

顔見知りもいれば、今回が初の顔合わせとなる者もいる中で、S10地区前線基地の指揮官 シーナ・ナギサが率いる特殊部隊及び独立遊撃部隊『ブラウ・ローゼ』と便利屋『Devil may cry』の面々の姿もあった。

 

「分かっていたけど、豪勢なメンバーだねぇ…」

 

移動拠点型戦闘車両【ヨルムンガンド】の上に腰掛けながら、グリフィンの制服の上から魔装『サーヴァント』を肩にかけたナギサは感嘆な声を上げた。

今回の作戦の参加を表明していた基地に加え相当規模のグリフィンの部隊が居る事はこの場に来る前に分かり切った事だが、直に目にすればその規模に驚くのも無理もないと言えるだろう。

そこに青い薔薇のネックレスを下げ、新たな武器二丁を腰に携え、黒く赤い光の脈が流れる一見禍々しい色をしたコンテナを背負ったヘルメスがシーナの元に現れる。

 

「全員の準備が終わったぞ」

 

「ん、分かった」

 

腰掛けていたヨルムンガンドの車体から飛び降り、地面に降り立つナギサ。

同時に彼女の表情は真剣な面持ちへと切り替わる。

このタリン市街地に潜んでいると思われるアイソマーと呼ばれる存在。

どのような経緯で彼女達が生み出されたのかを今回の作戦の依頼主であるリヴァイル・ウィッカーマンから聞かされた瞬間、シーナの中で宿る『修羅』が久しぶりに目を覚まし囁いた。

 

─悪魔より悪魔らしい事をしている組織に一万発…否、百万発の弾丸を叩きつけてやる─

 

故にそれだけの物を、武器を基地から持ち出してきている。

もしかすればだが、持ち出してきた武器の中には光学兵器や魔具も含まれているので百万発どころで済まなくなってしまうかも知れないが。

最も敵にくれてやる慈悲はない。そして容赦はしない。取引もしない。

死すべきは誰か?無論それは『敵』である。

 

「さて…」

 

ヘルメスと共にシーナは戦闘準備を終えた彼ら、彼女らの前に立つ。

上空でリヴァイアサンに搭乗し待機しているネージュとヨルムンガンドのコクピットで待機しているジンバックに通信を繋げると、シーナは口を開く。

 

「やるべき事は単純。アイソマー…いや、この場合は彼女達と言うべきかな。彼女達を助け出す。市街地に潜んでいる彼女達の数は予測だと、7~800人、或いはそれ以上。今の戦力と彼女達らの人数、そして敵の行動を考えると…正直全員は助け出せる見込みは低い。でも─」

 

そこで言葉を切り、シーナは制帽をかぶり直し目を伏せる。

そして再び目が開かれた時、射貫く様な鋭い目つきが姿を現す。

 

「可能な限り助け出す。だから敵は徹底的に排除。恐らく第三勢力の乱入やイレギュラーも出てくるだろうけど…容赦はするな。そして潰せ。この戦場にお前たちの居場所はない事を知らしめろ」

 

その言葉に全員が静かに頷き、通信越しから二人の了承を示す声が届く。

 

「それじゃ行こっか。最高に派手で楽しすぎて敵が狂ってしまうようなパーティーをしましょ」

 

作戦の手始めはタリンの手前に展開されたパラデウスの防衛線を排除。

既に動き出し始めた所に続く様にS10地区前線基地の部隊と悪魔狩人も動き出すのであった。

 

 

 

『見えましたわ。…さすがはP基地。動きが速いですこと』

 

ヨルムンガンドを操縦するジンバックからの通信に全員が先を見つめる。

既に戦闘は開始されており、ブラウ・ローゼと特殊部隊、そしてギルヴァらは暴れまわるパーティーを主催すればやってくる常連客(ランページゴースト)とP基地所属の部隊を見つける。

良いところを見せつけられたら、黙っていないのがS10地区前線基地。

 

『ギルヴァさん、ブレイクさん、フードゥルは突っ込んで!』

 

故に良いところを分けてもらわなくてはならない。

ヨルムンガンドから飛んでくるシーナの声。

つまりはそれはパーティーの開幕を告げるものであった。

 

「オーライ!派手にかますぜ!」

 

ブレイクがヨルムンガンドから飛び出し、ヴァーン・ズィニヒを呼び出し跨るとエンジン全開にして突撃。

向かってくる彼に気付くパラデウスの部隊。

そこから光の嵐とも形容すべきか、装備された光学兵器による弾幕がブレイクに襲い掛かるも卓越した運転技術で弾幕を回避し、彼は敵軍に一気に詰め寄った。

 

「あらよっと!」

 

バイクと共に跳躍し宙へと身を投じるブレイク。

ヴァーン・ズィニヒを別空間へ収めると背に背負ったリベリオンの柄に手をかけ、真下に居るストレツィ目掛けて振り下ろし頭から一刀両断。

そして次の瞬間、黒き影が敵集団の間を駆け抜けた。

一瞬の内に放たれるは無数の斬撃。黒き影が駆け抜けた後に残るは何故か動かなくなった敵の姿。

いつの間に背後を取ったの青い刺繍が施された黒いコートを揺らめかせ、日本刀を手にした男が…ギルヴァが無銘の刀身を鞘へと納めながら静かに告げる

 

「死ね」

 

銃声が連鎖する中、鯉口と鍔がかち合う音が響き渡る。

次の瞬間、先ほどまで動かなくなっていた複数の敵が同時に本来の形を残すこともなくバラバラとなって地面に崩れた。

たった二人の男による攻撃。まるで悪夢を見せられているように見えるだろう。

普通の攻撃で二人が止めらないと判断したのか、偏差障壁を有したユニットがブレイクとギルヴァらへと差し向けられる。

だがパラデウスが見せられている悪夢はまだ終わりを告げない。

何処からともなく響き渡るは雷鳴の音。空は灰色に包まれ、雷光が奔る。

超常現象でも起きたのかと言いたくなる様な突如として発生した雷雲。

そんな事をできるのは一人…いや、一匹しかない。

 

「そのような紛い物の盾では…我が雷撃は止められぬ!」

 

誰かの声が響く。

そして次の瞬間、轟音と共に一筋の雷が偏差障壁を持ったユニットへと目掛けて落ちた。

偏差障壁などもろともせず、黒焦げにするどころか消滅させるほどの一撃はそれは正しく金色の一閃。

対象を消滅させ、地に降り立つは気高く、何処か神々しい雷光を纏う一匹の白狼…フードゥルである。

 

「それでも恐れぬというのあれば向かってくるがよい!」

 

かつて魔界の精鋭部隊を務めた悪魔はパラデウスへと襲い掛かる。

悪魔狩人に加え、本物の悪魔が敵を蹂躙していく。

流れをこっちに持て来させた。

彼らが前に出た事により今の状況が出来上がったのを感じ取るとシーナが通信機のマイクへと向かって叫ぶ。

 

『パーティー開始!全員楽しんできて!』

 

それを合図にS10地区前線基地特殊部隊が銃撃を開始し、ブラウ・ローゼのメンバーがヨルムンガンドから飛び降り、前線に突撃し敵と交戦開始。

その隙にシーナは広域通信を用いて、この戦場に居る全部隊へと伝える。

 

「こちらS10地区前線基地!航空支援を用意してあります!必要であれば遠慮せず使って下さい!…ネージュ、そっちは任せるからね!但し爆発系の装備の使用は控えて!」

 

『了解した』

 

通信を終了するもシーナの目付きは鋭いまま。

そして一つ息を吐いた時、ヨルムンガンドの機銃で援護に入っていたジンバックから彼女に話しかける。

 

「気分を高める為にも一曲流しますか?」

 

「こんな時に?…でも良いかもね。曲は何?」

 

そう問われ、ジンバックは傍に置いてあった端末をシーナに渡す。

それを見てシーナはフッと笑い、ジンバックもつられて笑みをこぼした後、今日の一曲目のタイトルを口にした。

 

「悪魔の引き金、ですわ」

 

 

戦場から少し遠い所で全体が見渡せる場所に彼女はいた。

戦闘の音が聞こえる中、伏せていた目を開く。

手に持ったバイオリンを構え、彼女は静かに口を開く。

 

「…演奏開始」

 

タリンにバイオリンの音が響き渡る。

苦しむ者を救うべく行動起こす者を手助けする曲が戦場に彩り始める。




という訳で今回からコラボ作戦!
楽しむぞえ!


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Act220-Extra Those who end the nightmare Ⅱ

─パーティークラッカーは派手で華やかに─


「全くとんでもないパーティーに招待されたものね。初手からパーティークラッカー鳴らし過ぎでしょ」

 

デビルメイクライ、そしてブラウ・ローゼの面々が前線に飛び込んでいった一方でヨルムンガンドの増設された荷台で装甲を盾に身を隠しつつパラデウスと銃撃戦を繰り広げるS10地区前線基地特殊部隊のメンバーであるUMP45は弾倉を交換しながら苦笑交じりに呟いた。

 

「それに分かりやすいぐらいに違和感たっぷりね。この程度で敵が終わる筈がないか」

 

その違和感を感じ取っているのはUMP45だけではない。

寧ろ全員。この戦場に居る全ての者達が違和感とやらを感じ取っている。

 

「余裕そうに言っている暇があるなら早く撃ってくれないかしら。お客さんの群れが迫ってきているのよ」

 

「偏向障壁持ちかしら?」

 

「ええ。偏向障壁マシマシのお客様達よ」

 

Ots-14らしくない冗談に45は笑みを浮かべる。

こんなドンパチ賑やかな戦場でそんな冗談を言えるのはある意味、S10地区前線基地に居る者達ぐらいだろう。

何故なら悪魔という訳の分からない者らとやりあっているからだ。

ともあれOts-14から告げられた嬉しくない情報に45はそっと顔を出す。

ストレツィとロデレオの複数編成に、最悪とも言うべきかドッペルゾルドナーに、後ろに控えるウーランの姿もある。

 

「うっわ…これは酷い」

 

「さっきの盛り上がりもだだ下がりね。パーティーの楽しみ方間違えてない?」

 

「グローザの冗談がうつった?WA2000」

 

「さて、それはどうかしらね、9」

 

9の問いに肩を竦めるWA2000。

近くで聞いていたMG4、AUG、95式がくすくすと小さく笑う声が響く。

だがそれも束の間、全員の表情は真剣なものへと変わり、そして思った。

そろそろ冗談はおしまいにするべきだと。

リヴァイルからもたらされた弱体化パッチがあったとしても偏向障壁を剥がすのは容易な事ではない。

 

「そういえばあのデカい奴…聞いた話だと白い悪魔って言われているみたいね?」

 

白い悪魔と言う言葉が出た時、全員がドッペルゾルドナーへと視線を向けた。

そして何故かG11と9は首を傾げた。

 

(あれが白い悪魔?)

 

(偏向障壁がシールドで…腕の装備がライフル?いや、バズーカかな?)

 

(そして最後は片腕と頭を失って、上へと向かって──)

 

((AUG、それ以上は駄目))

 

「…成る程。では本当の悪魔というのを教えてきましょう」

 

勝手にコントをおっぱじめた三人をよそに衣装を一新したルージュが反応する。

白のケープコートを纏い、下はホットパンツに改造を加えたものを穿いていた。

数か月前のあの大規模作戦で愛用していた臙脂色のコートがボロボロになってしまった為にルージュが新たに購入したものだ。

 

『やれる、ルージュ?』

 

「はい。兵隊と白い悪魔は私が片付けます。そちらは後ろの戦車を」

 

『分かった。無理しちゃダメだからね?』

 

「分かっていますよ。では─」

 

シーナへ返答しつつゆっくりと立ち上がるルージュ。

すると背に背負ったコキュートス・プレリュードが呼応し始める。

そしてまるでこの時を待っていたと言わんばかりに彼女の背と腰に凍てついた天使の羽を模った二つのスラスターが展開され、同時にヘル=バンガードの大鎌がその手に握られる。

 

「行ってきます」

 

跳躍から彼女は翼を羽ばたかせ勢いよく飛翔、突撃。

襲い掛かる弾幕の中を踊るかのように優雅に躱し敵の群れに急接近。

手にした大鎌を構え、すれ違いざまにストレツィとロデレオの集団を一閃、両断。

スクラップと化した敵に目もくれずにルージュはドッペルゾルドナーへと突撃していく。

両腕の機銃から放たれる弾幕を嘲笑うかのように回避し『白い悪魔』とやらの目の前まで距離を詰める。

そのまま大鎌で一閃しようとした時、ドッペルゾルドナーに装備された榴弾砲が動いた事に気付く。

不味いと判断したルージュはスラスターを動かし、上へと飛び上がった。

体を回転させつつ、大鎌を別空間へと放り込み、拳を作ると同時に冷気を纏わせる。

 

「偏向障壁…確かに厄介ですが─」

 

そう呟きながらルージュはスラスターを最大にし真下にドッペルゾルドナーへと突進。

装甲へと目掛けて拳が叩きつけられた次の瞬間、巨体を誇る白き悪魔は氷の棺桶の中で眠りについた。

 

「全ての機能を停止させる氷の中で、それは展開できますか?」

 

問いかけるように呟きながら氷漬けにされたドッペルゾルドナーから降り立つルージュ。

そして氷に向かって軽く蹴りを入れると氷に亀裂が走り、ドッペルゾルドナーが入った氷の棺桶は硝子細工の様に砕け散った。

広がる氷霧。冷気が肌を撫で、砕け散った勢いで突風が発生。

ケープコートが揺らめく中で立ち尽くすルージュにシーナからの通信が入る。

 

『ごめん、ルージュ!あなたはそのまま前線で頑張っている皆の援護に向かって!』

 

「分かりました。味方を見つけ次第援護に入ります」

 

『お願い!……ジンバック!戦車同士のガチンコ対決と行くよッ!』

 

通信越しから指示を飛ばすシーナの声が響く。

軽い冗談じみた台詞を口にしている辺り、彼女もまたそれなりに染まっているらしい。

それを感じ取ったルージュは笑みをこぼし、指示通り前線で奮闘している味方の援護へと向かう為、再び飛び上がり空へと舞い上がる。

その時は彼女はP基地のピポグリフとS01AB基地に属する四機のヘリを発見する。

自身が後ろから迫る形になっているのを気付いたルージュはシャマールという今回の作戦で初の顔合わせとなった女性から参加メンバー全員に配られた色々搭載された万能通信機を起動しピポグリフへと通信を飛ばした。

 

「後方から失礼します」

 

『え!?』

 

ピポグリフの操縦士『81式』の驚く声が届くも束の間、ルージュはピポグリフの真横を通り過ぎ、そのまま前線へと突入。

両手に専用の大型ライフル二丁を携え、味方の援護へと入ろうとした時だった。

 

「がおおおおおお!!!」

 

突如として響いた大声。

少女が獣を模倣する時に表す鳴き声の様に聞こえたその大声にルージュは発信源へと視線を向けた。

 

「あれは…」

 

ルージュの視界に映ったのは偏光障壁を持った敵を相手に大暴れするジャウカーンと偏光障壁を持った敵に少々苦労しつつも何とか善戦しているオートスコアラーのメンバーの姿。

 

「ふふっ…ジャウカーンの活躍は凄まじいですね」

 

可愛らしい見た目からは想像出来ない暴れっぷり。

ならばと思ったルージュは両手に握った大型ライフル『プレリュード・ライフル』を並行連結させ『ツヴァイ・プレリュード』状態に変更させると地上へと向かって構えた。

狙いはオートスコアラーへと狙おうと迫る敵の増援部隊。

両者が交戦開始するには距離は少しばかり離れているため、着弾の際に発生する爆発の影響はない。

狙いは定まった。二つの銃口に光が集まり出し、まだかとせかす様に銃身が揺れる。

そして引き金に指がかかった。

 

「狙い撃つ」

 

二つの銃口から迸る巨大な光線。

紫電を纏った光の濁流はパラデウスの増援部隊へと突撃し、着弾。

ありとあらゆるものは光の中へと消え、あまりの威力に爆風が敵へと捧げる墓標の様に炸裂する。

 

『な、なんだぁ!?』

 

『援護射撃?どこから?』

 

オートスコアラーからどよめきの声を耳にしつつ、そこに残った敵はいないと確信するとルージュはツヴァイ・プレリュードを片手に持ち、ヘル=バンガードの大鎌を空いた方の片手に携わるとゆっくりと降下。

まるで天から使者を思わせるようにオートスコアラーの前に降り立つルージュ。

そんな彼女にトゥーマンが叫んだ。

 

「出たな、非常識!」

 

「はい、非常識の登場です」

 

もはやS10地区前線基地に居る大半は非常識と化しているので、何とも思わなかったルージュは微笑みながら答える。

そして迫りくる敵に気付くとツヴァイ・プレリュードを構えながら、静かに告げた。

 

「S10地区前線基地所属非常識メンバー、ルージュ。これよりオートスコアラーの援護に入ります」

 

 

 

 

ルージュがオートスコアラーの援護に入った一方でジンバックが操縦するヨルムンガンドはパラデウスのウーランと激突していた。

ウーランの装備は機銃だけであるが偏向障壁を展開し、車体による体当たりが非常に厄介と言えた。

荷台に必死に捕まりながらウーランに対して特殊部隊の面々も銃撃を仕掛けるが偏向障壁に阻まれてしまう。

このままでは面倒だと思われた時、ジンバックの後ろに座っていたシーナが叫んだ。

 

「416、榴弾を足に向かって撃って!45は416の砲撃と同時にスモークを投擲!出来れば車体に落ちるようにして!ほかの皆は弾幕形成!少しだけ時間を稼いで!」

 

「何をなさるつもりで?シーナ」

 

突然の指示に少々困惑といった表情を浮かべるジンバック。

それに対しシーナは笑みを称えたまま答える。

 

「ヨルムンガンドの第二形態を使う。マギーさんが施してくれた改造を使わない訳ないでしょ?」

 

ヨルムンガンドの第二形態。

それは例のカジノ制圧戦以降にマギーが改造して、搭載されたヨルムンガンドの新たな機能を指す。

実の所、ヨルムンガンドの外見は以前のと比べると変化があったりする。

とは言え、それは第二形態にならないと分からないようになっているので初見では分かるはずもないが。

 

「…では第二の演劇開幕ですか?」

 

「その通り。ジンバック、派手に開演して」

 

開演の許可が下りた。

特殊部隊のメンバーがシーナの指示通りに動き時間を稼いでいる中、ジンバックは笑みを浮かべ操縦桿のスイッチを押した。

するとヨルムンガンドが変形開始。

伏せていた顔を上げるかのように本体が姿を現し、装甲に収められた腕…30mmガトリング砲を装備した腕が現れる。

 

「さぁ開演と参りましょうか!」

 

第二形態へと変形したヨルムンガンド。

ジンバックが開演を告げ、大蛇はウーランに突撃する。

装備されたスモークディスチャージャーが発射され、ウーランを覆い隠す様に煙幕が展開されると30mmガトリング砲による弾幕が偏向障壁を削り、ジンバックはブレーキを踏みつつ操縦桿を勢いよく左へとひねった。

まるでドリフトするかの様にヨルムンガンドが地面を滑り、ウーランの背後へと回る。

偏向障壁を剥がした今、ウーランの防御力は、その身に有する装甲のみ。

徹甲弾を装填した120mmの砲がウーランを捉えるとジンバックが口を開く。

 

「第二の演劇を彩る花となって下さいませ」

 

次の瞬間、徹甲弾がウーランを貫いた。

一撃を受けたウーランが沈黙するヨルムンガンドが見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしこれで終わった訳ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現状防衛戦力を排除したに過ぎず、敵はまだまだいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異性体が見せられている悪夢。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その悪夢を終わらせる悪魔達が、戦場を歩き出す。




おう、ウイ〇グ〇ロとヒ〇ド〇ブモドキを呼んだの誰だよ(私です)

という訳でルージュちゃんがオートスコアラーの援護に入ります。

ん?通信機?
せっかくいいもん貰ったんだ。使わない手はないだろう?


防衛戦力は突破しそうですが……色々と違和感たっぷり。

本当に派手でクレイジーなパーティーはこの先に起きるんだろうなぁ…。


では次回ノシ


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Act221-Extra Those who end the nightmare Ⅲ

──悪夢に満ちた籠に全てを照らす美しき花と旋律を──


シーナの命令により前線へと飛び込んでいったルージュ。

オートスコアラーと共に市街地へと飛び込んだのは良いものの、強化されたパラデウスの兵士の登場に加え、例の如く戦場の各地にイレギュラーらが現れたという一報を受けると彼女は険しい表情を浮かべていた。

強化されたパラデウスは氷結の能力を持つコキュートス・プレリュードでどうにかなる。

問題は、突然現れたイレギュラーにあった。

 

(…面倒な)

 

まず第一に思ったのがそれであった。

正直言うとルージュは突然を装いながらも狙った感を否めない感じで現れるイレギュラーという存在に嫌悪感を抱いていた。

普通の手段では倒せない。倒しても倒しても幾らでも湧いてくる存在。

実際に相手をした訳ではないがあの大規模作戦に最初から参加していたギルヴァとブレイクからそのような敵がいたという話を聞いていた。

敵が悪魔の様な存在ならまだ良い。何故なら普通の手段で倒せるのだから。

ともあれまずは目の前に強化されたパラデウス兵の排除が優先。

ルージュは気にすることもなく大鎌を構えジャウカーンを援護する為、突進。

 

「…思った以上に早く"出番"が回ってきたみたいですね…」

 

「出番?誰か来るのですか?」

 

その口ぶりは誰かにへと伝えるような台詞。

まるで"この時を待っていた"と言わんばかりの台詞を共に大暴れしながらも傍で聞いていたジャウカーンが首を傾げながら尋ねる。

彼女の問いに頷きつつ微笑みながらルージュは答えた。

 

「ええ、出番です。…最もそれを知っているのは私たちぐらいですけどね」

 

大鎌を振り上げ、自身よりも何倍もの体格を有しつつ強化されたグラディエーターを空へと吹き飛ばし、無防備になった所を目掛けてルージュはツヴァイ・プレリュードを片手で構え引き金を引いた。

自身の身の丈以上にあるそれから吐き出された光線がグラディエーターの偏向障壁を貫き、本体を貫く。

宙で散りゆく様を見届けながら、ルージュはつい数秒前に感じ取ったナニカの方へと視線を向けた。

その先にいたのはルージュの事を非常識と呼んだトゥーマン。

だが彼女から発せられる気配が別の物へと変わっていることにルージュは見抜いていた。

 

(……敵、ではないようですね。むしろこれは…)

 

そこでルージュは考えるのを止めた。

トゥーマンから発せられる気配の『主』が敵ではないという証拠が得られた以上、それ以上に考える必要はないと判断した為だ。

 

(…お互いに非常識なんでしょうね)

 

今更だと思いながらルージュは戦闘を続行する。

同時に何故か感じられなくなった『彼』の気配に疑問を抱きながら。

 

 

 

『約五十だ。イレギュラーだと思われる存在が確認されている』

 

キャロルからのイレギュラー登場の報告を受けたシーナは成る程と口にしながら指に顎を当てた。

起きるかもしれないと思いつつも願わくば起きてほしくないと思っていた事が現実になってしまったのだ。

しかしそこで焦った所で意味がない。今は冷静に判断し、やるべきことをやるしか手段がないのだから。

 

「妙な反応に加え、突然出てきたイレギュラー…。アブノーマルですかね」

 

『恐らくな。こちらもそのような認識でいる』

 

「…それと先ほどの、万能者からの通信は既にお聞きに?」

 

『ああ。…そちらのリヴァイアサンで何とかならないか?』

 

航空部隊がここに到達するまではそれなりの猶予がある。

重武装かつ高機動を誇るリヴァイアサンなら万能者が言っていた航空部隊を何とかできるだろう。

ただ一つだけ問題が浮上していた。

 

「そうしたいのは山々なんですが…こちらも準備が整ってなくて」

 

『準備だと?』

 

「ええ。…実の所、万能者が通信をくれる前に航空部隊の存在はこちらで探知しておりました」

 

『なんだと…?』

 

訝しげな声が届く。

そんな風な声が出てもおかしくないなと思いながらシーナは、とあるものを取り出した。

手に握られるは携帯端末。しかしその外観は普通とは違った。

まるでニーゼル・レーゲンやパンドラの様に淡い光の脈の様なものが携帯端末の背面で流れていたのだ。

誰がどう見ても普通とは言い難いそれをシーナは起動させる。

画面に映し出されたのは、あろうことかこの作戦領域に向かってきている航空部隊の詳細であった。

 

(まさか本当に基地とこのタリンの間まで拾える情報を全部拾うなんてね…。…それにしても核搭載、か)

 

「厄介な航空部隊ですこと。万能者が空に飛べるものは迎撃してほしいと言っておりましたが…」

 

画面と睨み合うシーナにコクピットに座るジンバックが声をかけた。。

彼女の手にもシーナが持つ端末と同じものが握られており、普段浮かべている何を考えているのか分からないといった表情は引っ込み、彼女らしくない険しい表情を浮かべていた。

 

「…"これ"が積んであるとは一言も言っていない」

 

「…どうします?万能者に繋ぎますか?」

 

「しなくていいよ。その事で追及している暇なんてないからね」

 

それに今は相手が待っているからねと伝えると笑みを浮かべシーナはキャロルとの通信を繋げる。

 

「こちらの方の準備は終わりました。最も…もう勝手にやっているかも知れませんが」

 

『一体何をしようとしているんだ?シーナ指揮官』

 

困惑気味のキャロルの声にシーナはフッと笑う。

だけどその困惑こそが欲しかった。

だからこそ隠してきた。

このパーティーに密かに参加していた存在が現れた事を大々的に伝えるために。

 

「何をって…新たなお客さんをもてなす為ですよ」

 

本来はもっと準備に時間がかかる予定であった。

だけど、久しぶりに暴れられると思ったのかその参加者はシーナの予想を遙かに上回る速さで準備を終えてしまっていた。

実の所、戦闘開始した時点で参加する予定だったのだが、何とかしてシーナがそれを抑えていた。

 

「…宴会の準備は出来ているよね?」

 

しかしその必要はなくなった。

役者は全て出揃った訳ではないが、問題ないだろう。

 

「そうだよね?」

 

口角が吊り上がり、口にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■」

 

 

 

 

 

 

 

"十の顔を持つ悪魔"の名を。

 

 

 

 

 

 

 

戦いの音は鎮まる事を知らない。

爆発、銃声、咆哮が市街地全体に響き渡る。

そんな時であった。

悪夢に満ちた籠にカランコロンと軽く硬いものが地面に当たる音が何故か全てに向かって響き渡った。

突然響いたその音に、一部を除いたこの戦場にいる者達が首を傾げた。

まるでその音は誰かが歩いている様な音。

しかし人間一人が歩く音にしてはおかしい。どうすればこの戦場全体に響き渡るのだろうか。

 

「ハッ!らしい登場じゃねぇか」

 

ルージュよりも戦場へと先行したブレイクがリベリオンを華麗に振るい、パラデウスの群れを一掃しながらにやりと笑った。

 

「ようやくか。少しばかり遅くないかい?」

 

「そう言わないであげましょう。しかし…ふふっ、演出に随分とこだわりを入れているみたいで」

 

そしてブラウ・ローゼのメンバーであるソルシエールとシャリテもまたにやりと笑った。

彼、彼女達だけではない。ブラウ・ローゼのメンバー全員が、S10地区前線基地所属の者達が、魔界出身の者達が笑っていた。

 

『なんだこれは…』

 

『さ、桜の花びら?何でこんなものが…?』

 

それどころか、戦場全体に何故か桜の花びらが舞った。

当然ながらこのタリンに桜の木があるはずがない。

だと言うのに、どこから現れたのか無数の桜の花びらが戦場を彩り始めた。

 

「ほっほっ…」

 

謎の現象が起きたタリンにおいて、その者は咥えた煙管を外し紫煙を吐いた。

桜の模様が施された着物。煙管を右手でささえ、そして左手には和傘。

この戦場に似つかわしくないその恰好。しかしそんな恰好をするのは一人しかいないだろう。

表向きはグリフィン本部直轄諜報部所長。

しかしその正体は電子戦と高度な魔術を得意とし、魔界においてある意味の点で多くの悪魔から恐れられた悪魔。

その名も──

 

「ワシもひと暴れさせてもらうかの」

 

ダンタリオンである。

 

 

 

「皆の衆、お初にお目にかかる。ワシの名はダレン・タリオン。まぁ…ダンタリオンと言うかの。悪夢に満ちた籠からあやつらを助け出す為…微力ながら手助けさせてもらうぞ」

 

自身で製作した対電子術式機構『library』を内蔵した通信機で全ての者達に自身の参戦を伝えるとダンタリオンは通信をヨルムンガンドにいるシーナへと繋げる。

 

「シーナよ、既にアレ…核は全て取り除いておる。最も奴らは気付いておらんがな」

 

『了解です。それじゃあ…』

 

「うむ。リヴァイアサンを向かわせるがよいぞ。あとは…」

 

通信を切り、ダンタリオンは前を向いた。

その先に居るのは、大鉈を手に兜をかぶった血濡れコートを羽織ったナニカ…ブラッディマン。

ブラッディマンはダンタリオンを見つけると、何かを呟きながらゆっくりと向かってきていた。

 

「お主がイレギュラーか。成る程…妙な反応というのも頷けるのう」

 

殺されるかもしれないにも関わらず、ダンタリオンを煙管をふかす。

寧ろ余裕ともいえる表情を浮かべ、そこから一歩も動こうとしない。

ブラッディマンがダレンに迫る。それでも彼女は動かない。

 

「では肩慣らしに…お主を含め十五人ほど黙ってもらおうかの」

 

ブラッディマンを見つめながら笑みを浮かべるダンタリオン。

そしてブラッディマンが手にした大鉈を彼女へと振り下ろそうとした瞬間だった。

 

「!」

 

ブラッディマンが地面にたたきつけられた。

それどころか上から重しの様なものを置かれたのか起き上がる事すらできない様子だった。

対するダンタリオンは何かをした素振りすら見せていない。

只々煙管をふかしているだけ。

 

「…死しても再び現れる存在。そのような存在はあの作戦でも姿を見せた。倒しても倒してもキリがない。まるで入れ物だけを捨て、新しい…全く同じ入れ物に入って現れるのじゃからな」

 

ダンタリオンとてあの時の作戦を知らない訳ではない。

得意とする情報収集を用いり、あの時何が起きたのかを調べ、ギルヴァ、ブレイク、ルージュからどのような敵が出てきたのかを聞き出した。

 

「…故にワシはこう伝えよう。お主は殺さん、とな」

 

伏せていた目が開かれる。

そしてブラッディマンへと向けられるその視線は冷え切っていた。

 

「悪いが外だけを捨てて出ていこうとは思わんことじゃ。この見えぬ牢屋はそういったものを逃がさぬし地中にも伸ばした代物…お主らの為だけに作り上げた特注品じゃからの」

 

答えることもなく、それどころか起き上がる事も出来ないブラッディマンに背を向けて歩き出すダンタリオン。

紫煙を吐きつつ、彼女は静かに告げた。

 

「死など生ぬるい。そのまま何もできずに生きていくが良い。それがお主らに与える地獄。…最も全てが終わった頃には勝手に帰るがよい。誰も止めはせんよ」

 

そう言い残して、ダンタリオンは静かにその場から姿を消すと得意とする魔術でヨルムンガンドの荷台に降り立つ。

突然降りてきたことに驚くWA2000に軽く詫びを入れると、ヨルムンガンド内へと入り込む。

 

「今戻ったぞえ、シーナ」

 

「お帰り、ダレンさん。まだまだやるべきことは沢山あるよ」

 

「やるべき事があるのは良い事じゃな。…ジンバック、基地の方で起動させてあるlibraryを遠隔操作で全ての通信網にリンク。同時にナデシコと繋げるぞ。これから起きる事全て拾い、現れるイレギュラーどもの出現を事前に見つけ、対処する。よいな?」

 

神妙な表情を浮かべるダンタリオンの指示にジンバックは頷き、行動を開始する。

全ての通信網及び、勝手にであるが対電子術式機構『library』をナデシコとつなげ、情報の精度を底上げ。

突然起きた事にキャロルから説明を求められ、それの対処に当たるシーナを視界の端に収めつつ次の行動へと移ろうとした時であった。

 

「む?」

 

ふとダンタリオンが顔を上げた。

指示にされ行動するジンバックと説明の対処にあたるシーナはそれに気づかなかったが、彼女の耳には確かに聞こえていた。

 

(…バイオリンの音じゃと?)

 

訝しげ表情を浮かべるダンタリオン。

ヨルムンガンドの外へと出て周囲を見渡した時、全体が見渡す事の出来る高層ビルの屋上に誰かが立っているのを見つけた。

目を凝らしその誰かを見つめた数秒後、ダンタリオンは目を見開いた。

黒と基調とし、水色の差し色が入ったドレスを纏った女性。

一風変わったバイオリンを構え、その者は儚げにに曲を奏でていた。

 

「お主は…」

 

その者の名をダンタリオンが告げようとした時、再び不思議な現象が起こり始める。

 

『敵の動きが鈍くないか…?』

 

『それどころか障壁まで消えかかってるだと?それになんだこの音……バイオリン?』

 

『体が軽く感じる…。どういう事だ?』

 

次々と上がってくる報告。しかしどれも全てが悪いことではなかった。

むしろバイオリンの音が聞こえ始めたあたりから、その様な報告が上がっていく。

 

 

彼女は手にしたバイオリンで曲を奏で続ける。

奏でる曲で苦痛に苦しむ少女らの痛みを和らげ、彼女らを助けようとする者達に力を与え、その道を妨げる敵の力を奪っていく。

 

「私の名はセイレーン。…悪夢に満ちた籠から彼女らを救おうとする勇気あるもの達よ。どうかこの音に耳を傾けて下さい。私が皆さまを支えましょう」

 

桜の花びらが戦場を彩った事に続く様に、バイオリンによる美しき旋律がこの戦場を新たに彩り始めた。




という訳で今回の作戦にてうちから参加させる『???』枠二人が参戦いたします。

まず一人目がダンタリオン。イレギュラー対策として参戦。
そしてもう一人が今回初でありオリジナルキャラであるセイレーンです。

ダンタリオンは基本的に対電子術式機構『library』を用いての情報収集と魔術を用いて援護します。
なので彼女の魔術を用いて、敵航空部隊が持つ『核』を全て排除し、及びブラッディマン15体程、身動きが取れないようしました。
また対電子術式機構『library』を全ての通信網及びナデシコ(こちらが勝手に
)とリンク、情報収集及び共有させております。

そしてセイレーンは前線には姿を出さずに、高層ビルの屋上でバイオリンを奏で曲による支援を行います。
現在彼女が引く曲の効果は以下となります。

・敵の動きが鈍化、及び偏向障壁の耐久力が半減。

・味方の身体能力が少し向上。

・苦痛に苦しむアイソマーらの痛みを和らげる。


色々やってますけど…敵もめちゃんこ強いしこの先もいっぱいやべぇのが出てくるんだろう?
これぐらいやっても大丈夫だよね?(言われたら修正いたします…)

そういえばギルヴァが居ねぇなぁ?さて…彼はどこに行ったのやらか。

では次回ノシ


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Act222-Extra Those who end the nightmare Ⅳ

──悪魔はその願いを請け負う──

──もう一つの悪魔はこの空で高らかに咆哮する──


ダンタリオンとセイレーンが戦場に姿を現し、参戦を表明した同時刻。

劇化する前線から離れた市街地の奥…彼女らがいる花畑から少し離れた場所は異様な静寂に包まれていた。

遠くから聞こえる戦闘の音を耳にしながらもアパートらしい建物の屋上に彼はいた。

青い刺繍が施された黒いコート。銀髪に鋭い目つき。

日本刀状の魔剣『無銘』を携えるは便利屋『Devil may cry』本店のオーナーにして、今回の作戦に参加しているギルヴァである。

彼は無銘を杖の様にして立て、静かにその先に広がる例の花が群生している花畑を眺めていた。

 

『こいつは圧巻だな。見渡す限り、例の花が咲いてる』

 

「ここからでも見ていて分かる。…これがリヴァイルが言っていた優曇華という花か」

 

『崩壊液を球根に溜め込み無害化する一方で、開花したら溜め込んだ崩壊液を放出する花、ね…。何でそんな欠陥品がこんなにもあるんだか』

 

「気になるのであれば、その先にいる『奴』に直接聞けばよかろう」

 

そんな会話を広げる二人であるが実の所、蒼はギルヴァの中から出て行っている。

では何処にいるのかと言うと、蒼は優曇華が群生している花畑に居た。

それもギルヴァが展開したドッペルゲンガーに憑依し、その手には通信機を携えながら。

その為、蒼の声がギルヴァの中からなく外から聞こえるのは通信機を介して会話をしていた事にあった。

 

「で?この通信機を例のお嬢さんに渡せばいいんだな?」

 

『ああ。それを渡したらお前は戻ってこい』

 

「あいよ。でも何故そんな事をする必要があるんだ?お前も見た筈だ。蛮族戦士がこの花畑から出てきたのを」

 

今いる場所にたどり着いた時、二人は蛮族戦士が花畑から出てきたのを目撃していた。

つまりにそれは彼が花畑にいる彼女らと接触した事を意味している。

そしてパラデウス兵に襲い掛かるという事は味方であると判断できる。

にも関わらず、ドッペルゲンガーに蒼を潜り込ませてまで『彼女』に通信機を渡そうとする彼の行動は正直言えば意味がないと言えるだろう。

 

『分かっている。ただ確認したい事がある』

 

「確認したい事ねぇ?何を尋ねる気だ?」

 

『…本当に"それ"を望んでいるのか。それを確かめる』

 

そこで蒼は何も言わなかった。

彼が何を確認しようとしているのか。その意味を察したからだ。

 

「あんまり強い言い方はすんなよ?お嬢さん…いや、お嬢さんらだってこんな苦しい状況に望んで飛び込んでいったとは思えないからな」

 

『…分かっている。今は接触を急げ』

 

「ん、了解」

 

ギルヴァに促され、蒼は花畑を進んでいく。

もしこの優曇華が何ら害のない花であれば、少しばかり観賞していこうかと思っていた彼だが今は接触が重要である事は言わずとも分かっている。

彼女らへと接触を急ぐ最中、ふと蒼は疑問を覚えた。

 

(…お嬢さんらは何故この花畑に留まっている?この花の特性を理解しているんだったら、ここに留まる必要なんてないと思うが)

 

肉体を持たない蒼もギルヴァを介して優曇華の特性を理解している。

そんな危険極まりないものに留まる理由がないと言えよう。

そこで蒼は逆の考えを導き出した。

 

(いや…留まる必要があるのか。開花するのを待っている。開花することで得られるその"何か"の為に留まる必要があるから)

 

ではその"何か"とは何か。

蒼は移動しながら思考を巡らせていく。

優曇華の特性。アイソマーらが優曇華が群生するこの場に留まる理由。

そして開花することで起きる何かを待っている。

 

(…恐らくだが、答えの一つは"死"だ。リヴァイバルの話じゃアイソマーというのは、失敗作扱いとなっている。そして苦痛に苦しんでいると言っていた。それも長い間、苦しんでいる。恐らく…死による救済を望んでいる。じゃあ他はなんだ?)

 

そこで蒼は足を止め、成る程ねぇと呟いた。

何故ギルヴァがドッペルゲンガーに自分を憑依させ通信機を持たせたのか、その意味を理解した。

 

「…お前は聞きたいんだな?心の本心からこの悪夢から逃れたいかどうかを…」

 

空を見上げながら蒼は静かに呟く。

今この場に居ないギルヴァへと向かって、優しく問いかけるように。

一陣の風が花畑を駆け抜ける。優曇華の花びら舞い上がり、幻想的な景色を作り上げる。

そして蒼がそのまま歩き出そうとした時、ふと彼は足を止めた。

 

「…」

 

まるで信じられないものを見ていると言わんばかりに目を見開く彼女がそこに立っていたからだ。

対する蒼は驚くことなく、むしろそこにいる彼女を見て疑問を覚えた。

 

(こいつがアイソマー?にしては成長しているというか…幼い少女だけじゃねぇってことかね?)

 

ドッペルゲンガーに憑依した蒼の前に立つ彼女は一回り成長していた。

個体差があるのだろうかと考える蒼に『彼女』が問いかける。

 

「あなたは一体…」

 

目の前に半透明の悪魔みたいな何かが現れたのだ。

驚くのも無理もないだろう。

 

「あー…確かにこんなのが現れたら驚くか。悪いね、分身とはいえ驚かせてしまって」

 

「い、いえ…さっき似たようなものを見ましたから…」

 

「あいつか…。まぁそんな事より、お嬢さんとぜひ話がしたいという奴が居てね。良かったらこの通信機を手に取ってくれねぇか?」

 

彼女に歩み寄り、手にした通信機を差し出す蒼。

差し出されたそれに少々戸惑いを見せる彼女に蒼は大丈夫と諭す。

それを信じたのか彼女は蒼が差し出した通信機を手に取った。

 

 

 

『えっと…聞こえてますか…?』

 

手にしていた通信機から聞こえた少女の声。

蒼が無事接触できたことを確信したギルヴァは伏せていた目を開き、通信機で返答する。

 

「ああ、聞こえている。…顔を見せず、この様な形で接触したことは流してもらいたい」

 

『…大丈夫です。その、話がしたいと…?』

 

「ああ。…聞きたい事がある。出来れば答えてほしい」

 

ギルヴァはナデシコから伝えられたアイソマーらの居場所を知った時から考えていた。

正直言えば、今自分たちがしていることが偽善に等しい。

死の救済を望んでいたというのに突然やってきては助けようとしているのだから。

だからこそ聞きたいのだ。

 

「…明日を生きたいか」

 

長い間苦痛に苦しめられてきた彼女らが本当に生きるという救いを望んでいるかを。

 

『……救ってくれるんですか?』

 

すぐに返ってきた純粋な問い。

何処となく懇願するような声にギルヴァが返答しようとした時、彼女は言葉を続けた。

 

『お父様にも花にも認められなかった…それでもとずっと苦痛に耐えてきた。妹達が倒れていくのを見届ける事しかできなくて、只々絶望を知るしかなくて…。けど…先ほどの方から聞きました…一部の妹たちがここ以外の何処かで元気で過ごしているって…』

 

「…」

 

『それを聞いて思ったんです。…自分たちもここから逃れた妹達と同じ様に元気で過ごせるようにならないかって…。でも、ここから抜け出すのは容易な事じゃないのも知っています。…でも!』

 

「…」

 

ギルヴァは答えない。

『彼女』からその言葉…否、その依頼が口に出されるのを待っていた。

 

『お願いです…!本当に救ってくれるのであれば…この悪夢から解き放ってくれるのであれば……私たちを助けて…!』

 

そして悪魔も泣き出す者に特別な依頼が出された。

 

「ああ──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その依頼(願い)、叶えよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、この瞬間をもって悪魔は彼女からの依頼(願い)を請け負った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女からの依頼(願い)を請け負ったギルヴァ。

ドッペルゲンガーを解除し、蒼が戻ってきたのを確認するとアパートの屋上から地上の大通りに降り立つ。

パラデウス兵がギルヴァに向かってきている様子はないが、遠く響く戦闘の音は未だに響いている。

この悪夢を終わらせる為、歩き出し始めるギルヴァに通信を繋げたのか、彼女からの声が届く。

 

『貴方の名は…?』

 

「…ギルヴァだ」

 

悪魔を狩りし者は動き出す。

彼女からの依頼を成す為に。この悪夢を終わらせる為に。

 

 

一方、シーナから接近してきている航空部隊の『核』を取り除いたという報告を受けたネージュは航空部隊を撃墜する為にリヴァイアサンの高度を維持しつつ上空を駆け抜けていた。

そしてある程度の距離まで接近すると高度を維持しながらネージュは視線を下へと向けた。

 

「あれか」

 

方角的にタリンへと向かう航空部隊が彼女の視界に映る。

航空部隊と言えど、その数は多い。

幾ら核を取り除いたとは言え、相手が何をしでかすか分からない。

相手が気づいていない内にリヴァイアサンの武装で攻撃を仕掛けようとした時、突如として航空部隊の間で爆発による花が咲いた。

 

(…砲撃か。遠方からだが…)

 

その攻撃が遠方からだと察するとネージュは航空部隊から砲撃が飛んできた方向へと視線を向ける。

そこに映るは、パワードスーツを纏うS09P基地のノアの姿と同じくパワードスーツを纏うリバイバーの姿。

二人がこの航空部隊の排除に動いている。それを理解したネージュはリヴァイアサンを動かし、急降下。

 

(ここにアレは咲いていない。…ならば)

 

「大喝采を聴かせてやる」

 

そのセリフと同時にリヴァイアサンに装備されたミサイルコンテナのハッチが展開し、一斉発射。

ミサイルのシャワーが航空部隊に降り注ぎ、襲い掛かると無数の火球が咲き誇る。

 

『ミサイル!?上からだと!?』

 

『上空から高熱原体!?いや…こいつは、まさか!』

 

ミサイルのシャワーにリバイバーは驚き、迫りくる悪魔にノアが叫ぶ。

ようやく自身の出番が与えられたことにネージュは喜びつつ、静かに口を開く。

 

「ブラウ・ローゼ隊の一人、ネージュ。リヴァイアサンを以て援護する」

 

リヴァイアサンの装備を全て利用し、弾幕を展開。

航空部隊の対空砲をリヴァイアサンの機動力を利用し、掻い潜りつつネージュは二人に静かに伝えた。

 

「さぁ…悪魔と踊ろうか」

 

巨体を誇る悪魔が今、この空に吠える。




という訳で…。

依頼(願い)を受けたので、こっからはギルヴァも頑張ります。
そして航空部隊の排除する為、ネージュが操縦するリヴァイアサンが援護いたします。

てか何故この時間帯に投稿を、だって…?

…夜勤・ドゥーエがあるんだよ…

では次回ノシ


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Act223-Extra Those who end the nightmare Ⅴ

─彼女に悪魔を─

─彼女には時を─


「E.L.I.Dだと?」

 

"彼女"からの依頼を成すべく、前線へと引き返そうとしていたギルヴァ。

その道中でダレンから通信が入り、聞き返すかのように彼はその単語を口にした。

 

『うむ。一体はオートスコアラーの方に、もう一体がこの市街地の何処かにおる。パラデウスの方にも被害が出ておるそうじゃが、最悪な事にアイソマーらにも被害が及んでおる。さっさと片付けるのがいいんじゃが…』

 

「汚染か」

 

『然り。故にお主はそやつを見つけても相手にするでない。いくらお主が強かろうと崩壊液を纏った相手では分が悪い』

 

「…ああ。分かった」

 

その身にいくら異形の血が流れているとは言え、崩壊液を纏っているのであれば話は変わってくる。

接近戦をメインとするギルヴァでも、このタリンに現れた崩壊液を纏ったE.L.I.Dを相手に、接近戦を仕掛けるのは良いとは言えない。

ダレンから忠告を素直に聞き入れ通信を切るとギルヴァは足を止め、同時に蒼が喋り出す。

 

―E.L.I.D、ねぇ…。どこから沸いて出てきたのやらか

 

「報告だと擬態能力を持ち合わせているらしいがな」

 

―魔界じゃそんなのウヨウヨいるさ。今時珍しくもない

 

「この世界にとっては別だろう」

 

―確かにな。…っと、おしゃべりはここまでだな

 

まさしくその通りであった。

ギルヴァが向かう先。その先にはオートスコアラーの方でも確認された強化されたパラデウス兵の軍勢が迫ってきていた。

その数は数えるだけでも五十。いや、それ以上はいるだろうか。

戦闘が起きているとは言え前線から離れているにも関わらず、何故ここに居るのか。

向かってくる敵を見つめるギルヴァに対し、蒼が口を開いた。

強化されたパラデウス兵らの行動に疑問を抱いた為だ。

 

―…お前を狙って来た感じじゃなさそうだな。となると…

 

「アイソマーか」

 

―多分な。となるとこの辺りにはアイソマーらが隠れている訳、か…。それとも他に何かあるのかね?

 

「考えた所で意味などない。それに奴らが敵である事に変わりはあるまい」

 

そう、敵である事は変わらないのだ。

手にした無銘の鍔に親指が押し当てられ、鯉口を切る。

鞘から僅かに玉鋼の刀身が姿を晒した瞬間、彼は一陣の風となった。

駆け抜けるは黒。狙うは白き軍勢。

煌めく片刃の刀身。鋭き斬撃が音を置き去りにして先頭立っていたロデレオを襲った。

駆け抜ける疾風。訪れる静寂。

攻撃を受けた事すら気づいていないパラデウス兵らの後ろには、いつの間に抜刀したのか刀身を鞘へと納める黒い外套を纏う男。

ゆっくりと刀身が鞘へと納められていく。

白銀の刀身が自身を知らしめるかのように僅かに煌めくと鞘と鯉口がかち合う音がその場で木霊した。

次の瞬間、まるで今動く事を許されたかのように一刀両断されたロデレオが地面へと崩れ、ようやく攻撃を受けた事に気付いたのか音が鳴った方へと振り向き出すパラデウス兵。

光学兵器が、一人を潰す事くらい容易くやってのける鋼鉄の腕が、全てを木端微塵に吹き飛ばす事が出来る大型火器が、たった一人の男を殺すには過剰ともいえるそれらがギルヴァへと向けられようとしていた。

 

「…」

 

攻撃の時がやってくる。

にも関わらずギルヴァには焦りもなければ、恐怖もなかった。

只々冷静。それ以外ない。

相手を見据え、片足を一歩前へと出すと同時にギルヴァは強化されたパラデウス兵らへと突進した。

まさしく瞬歩とも言えるそれ。それなりに空いていた筈の相手との距離を一瞬で詰めると、その大きさと高い堅牢度を誇る事から盾として君臨するグラディエーターの懐に飛び込み、抜刀。

脚部を一刀にして斬り落とし、支える足が無くなったグラディエーターが落ちてきたと同時に片足を軸にし回転と同時に薙ぎ払い。そのまま巨体を真っ二つに両断しつつ、背後へと回りながらまるで滑るかのように駆け抜けつつストレツィとロデレオの集団の間を疾走居合と同じ要領で無数の斬撃を放ち、無力化。

敵に背を見せる状態になり、そこに目掛けてガンナーが重火器を構えるがそれを見越していたと言わんばかりにギルヴァは魔力を込めつつ左手に持った鞘をガンナー目掛けて投擲。

槍の如く放たれた鞘がガンナーの腹部を穿ち、後方にいたもう一体のガンナーの腹部に刺さると勢いをそのままに鞘はガンナーの頭に突き刺さったまま、体を後ろへと吹き飛ばしジェットパックを用いてギルヴァに接近しようとしていたロデレオらと吹き飛ばすと建物の壁に激突。

飛んできたそれとの衝突の勢いで周囲が軽く吹き飛ばされた所を見計らい、素早く反転したギルヴァはその群れの中へと突進し無防備な状態を晒す敵らを一瞬の内に斬り刻む。

わざと残した一体を袈裟斬りで一太刀浴びせつつ移動し、激突に巻き込まされていなかったストレツィに接近し頭部を斬り落とした同時に無銘を投擲。回転する刃と化した無銘が半円を描きながら次々とパラデウス兵を切り裂き、主であるギルヴァの元へと向かっていく。

既に鞘が突き刺さったまま動かないガンナーに背を向けようとしている途中でありながらギルヴァは左腕を背中へと回し、無銘を見向きもせず受け止めると無銘を逆手で握ったまま、タイミングを合わせたかのようにガンナーに突き刺さった鞘へと刀身を収めながらさらに深く押し込むように力を入れつつ納刀し、動かなくなったガンナーの体から無銘を引き抜いた。

そこに広がるはあれ程居たにも関わらず、たった一本の刀で斬り刻まれ、残骸だけとなったまま地に伏せる強化されたパラデウス兵らの光景。

まさしく一瞬の出来事。

十分どころか五分も掛からぬ内に出来上がった光景だという事を忘れてはならない。

 

「…」

 

そんな光景を一人で作り上げたギルヴァは、パラデウス兵の亡骸が転がる光景を一瞥することもなく、踵を返し前線で戦っている味方を援護する為に歩き出す。

本来であればこの花畑付近に留まり、『彼女』やアイソマーらを狙う敵を始末しようかと考えていた彼であったが、状況は良くない方へ持っていかれつつあることを戦闘中でありながらも通信で聞き及んでいた。

同時にリヴァイバルらが『彼女』と接触する為にこちらへと向かっている事を聞いていたことからこれ以上、ここに留まる必要性がないと判断していた。

とはいえ無言で去るは気が引けたのか、或いはそれ以外の理由があるのかギルヴァは通信機の周波数を合わせ、『彼女』と繋ぐ。

 

『ど、どうされました?』

 

状況が状況。

依頼を請け負った顔も知らぬ名前しか知らない誰かからの通信が来たのだから、『彼女』の声は戸惑い気味であった。

それを分かっていながらも、ギルヴァは普段通りに返答する。

 

「少しばかりこの辺りから離れる。…その内、お前に会いに来る奴がいるがな」

 

『会いに来る人?』

 

「味方である事は変わりないが…奴の詳細は知らん。聞く限りだとお前たちの事を知っているみたいだが」

 

『私たちの事を知っている…?』

 

「…どう判断するかはお前次第だ。それまでどうにか上手くやり過ごす事だ。…運が良ければ顔を合わす事もあろう」

 

それだけだ、と口にするとギルヴァは通信を切る。

前線へと戻っていく中で、彼は蒼へと話しかける。

 

「蒼、お前は奴の援護に行け」

 

―援護って…誰にだ?

 

「…銃爪を持つ女の所だ。銃爪を引き、制御を手伝ってやれ。今の奴にはそれが必要だ」

 

―成る程ね。そういうならほんの少しばかり魔力をもらっていくぜ?どうせすぐに回復するだろうしな

 

「構わん。行け」

 

―あいよ!ちょいとばかりお嬢さんにダンスのお誘いをしてきますかね!

 

元より肉体を持たぬ存在。

ギルヴァの中から飛び出た蒼は向かう。その身に銃爪を持つ彼女の元へと。

壁を抜け、敵の体をすり抜け、幾度もなくそれを繰り返しながら蒼は彼女がいる気配を感じながら突き進んでいく。

 

(近い…ん?これは幻影か?おいおい…あいつ、俺を察知して呼んでやがるぞ。探知能力がギルヴァ並みに高過ぎないかね。おまけに……あの"歌姫"さん来てたのかよ。惜しい事したなぁ、下がる前に声をかけておくべきだったな)

 

幻影が自身に反応し、誘導してくれている。

それを察した蒼は誘導に従い、進んでいく。

そして例のE.L.I.Dと遭遇した蛮族戦士、RFBと共に居るアナを見つけると、蒼は彼女の背中から飛び込んだ。

 

「ッ!?」

 

まるで何かがぶつかった様な、そんな感覚に襲われるアナ。

敵の攻撃かと思えばそうでもなく、突然のそれに警戒を強めた時、彼女の中に飛び込んだ蒼が話しかける。

 

―警戒はしなくていい。ギルヴァに頼まれて飛んで来たんだからな

 

己の中から聞こえた男の声。

声を上げれば蛮族戦士やRFBに心配されると思ったのだろうか平静を装うアナに蒼は言葉を続けた。

 

―初めましてだな。蒼と言う。先も言ったようにギルヴァに頼まれて、お嬢さんの手伝いに来た

 

(ギルヴァさんが…?それにこの声、どこかで…)

 

―覚えていたのか?確かにあの訳分からん事が連発するあの作戦の最後辺りで姿も見せたし喋りもしたが…

 

(最後辺り……まさかあの時の!?)

 

―正解。まぁこのような形で顔も姿を見せずに、それどころかいきなりにお嬢さんの中に潜り込んだ事は詫びる。だが今はそういう状況じゃない事を理解してくれ

 

決して気を緩めていい状況ではない。

そんな事は言わずとも知れた事であろう。

幻影を構えるアナに蒼はフッと笑みを漏らす。そして自身がやるべきことを成すべく、行動を起こす。

 

―ギルヴァからちょいとばかし魔力を貰ってきている。ちょいとと言うのは多いんだが…まぁそんな事はどうでもいい。お嬢さん…銃爪の準備は良いか?時間はどうにかなってるみたいだし、あとはお嬢さんのフレームが耐えられるように魔力の制御と魔力で再現した武器を展開して援護させてもらう。分かりやすく言えば共闘という訳だが…悪魔の援護は不要だったりするか?

 

(まさか。…あとでギルヴァさんにはお礼を言わなくていけませんね)

 

―その台詞が出るという事は、了承ってことで良さそうだな。

 

ギルヴァから蒼を通じて流れるは蒼き魔力。

それはイグナイトトリガーを更なる高みへと導く存在。

果たしてその力は悪魔の力か、或いは彼女が望む力となり得るか。

答えは分からない。だがその力は決して彼女の足枷になる事は決してならないだろう。

 

─んじゃ行くぜ、お嬢さん!Are you ready(準備はいいかい)

 

(何時でもどうぞ!)

 

銃爪に指がかかる。

イグナイトトリガーに混ざるは悪魔の力。

故に今、この時だけはこの名前が相応しいだろう。

その名は──Devil Trigger(悪魔の銃爪)

 

 

同時刻。

ヨルムンガンドに搭乗していたシーナはルージュからの通信を受け、オートスコアラーと保護されたアイソマーらと合流していた。

合流した時には、偶然にもブラウ・ローゼ隊のメンバー全員が合流を果たし、ヨルムンガンドを操縦するジンバックとS10地区前線基地特殊部隊のメンバーがアイソマーらを連れて一時戦域から離脱。

そして─

 

「さて…」

 

戦力は大いに越したことないと周りからの反対を押し切り、シーナがブラウ・ローゼとオートスコアラーと共にこの戦場に残る事になった。

 

「出てきて、グリフォン、シャドウ」

 

制服の上からかけるようにして羽織ったロングコート型の魔装「サーヴァント」から影が飛び出し、形を作り上げる。

一体は猛禽類の姿をした魔獣『グリフォン』と黒豹の姿をした魔獣『シャドウ』だ。

 

「はぁー、やっと外に出れた。やっぱり俺はこうしている方があってるぜ」

 

呑気な事を言いながらグリフォンはシーナの肩に留まる。

最早S10地区前線基地は悪魔が居るという認識はオートスコアラーの方でも通っているのか、特に驚きはしていないのだが何故かシーナはクスリと笑った。

それを見て改装が施された新たなワーロック…『ワーロック・シャルフリヒター』を装備するソルシエールが問いかける。

 

「何か面白い事でもあったのかな?」

 

「まさか。ただオートスコアラーの皆を見て、こうして慣れさせてしまったのはうちが原因なんだなぁと思ってね」

 

「今更じゃないかい?」

 

「かも知れない」

 

しゃがみ込み傍で控えるシャドウを頭を撫でつつ、シーナは周りを見渡す。

状況はよろしくない。和んだ時間が少しはあってもいいと思いたいが、現実はそれを許してくれない。

表情を真剣な面持ちへと切り替えるとシーナは立ち上がり、指示を飛ばす。

 

「ルージュとネロ、ヘルメスは周囲の捜索。アイソマーの保護及び敵の排除。シリエジオ、ソルシエール、シャリテはオートスコアラーの護衛。彼女らが回復し次第、共に行動して」

 

その指示に頷くブラウ・ローゼの面々。

するとある事が気になったのか、ワーロックと同じく改装されたベルフェゴール…『ベルフェゴール・フルリベイク』を装備するシャリテがシーナへと問う。

 

「ナギサさんはどうするつもりですか?」

 

「私はグリフィンとシャドウを連れて、近くの建物に入ってアイソマーの保護に動く」

 

他の面々と比べるとシーナは決して強い方ではない。

魔獣と魔具の力を借りてどうにか立ち回れているだけなのだから。

パラデウスやE.L.I.Dに加え、アブノーマルが徘徊するこの戦場で動こうとするのはどう考えても普通ではないだろう。

しかしシーナの中では、あるものが熱く煮えたぎっていた。

それを知るのは無論本人のみ。ブラウ・ローゼの全員が知る訳がなかった。

 

「そ、それでは何かあった時に…」

 

「大丈夫。何かあればクイックシルバーを使って逃げ出すから」

 

普段と変わぬ彼女の笑み。

そこから何かを感じ取りながらもシャリテは何故かシーナを引き留める事は出来なかった。

否、ブラウ・ローゼの全員が彼女を引き留める事が出来なかった。

結局誰も彼女を引き留める事は出来ずに、各々が行動を起こし始めた。

ルージュらは合流した地点から少し離れた方へと向かい、シーナは比較的合流した地点から近い建物へと入っていた。

ビルの様な建物。廊下を歩くはナギサとシャドウ、そして宙を飛ぶグリフォンだ。

 

「マジで良いのかよ、ネェちゃん」

 

傍で羽ばたきながら移動するグリフォンがシーナに問いかける。

 

「何が?」

 

そう答えるもシーナは分かっていた。

グリフォンが聞こうとしているのは単身で動こうとする事に対してだと。

 

「いやさ、幾らネェちゃんが俺らを従えているからと言ってもよ、敵はめちゃくちゃつえぇし、ぶっ殺しても沸いて出来る奴も居るは、汚染物質塗れの化け物もいんだぜ?どう考えても一人で動くなんざ自殺行為でしかねぇよ。気でも触れちゃった?」

 

「そんな訳ないよ。私は至って冷静だよ」

 

なワケねぇじゃん…と内心つぶやくグリフォン。

サーヴァントの中で潜んでいた為、彼はシーナが今有している感情を理解していた。

それは怒りだ。誰も言い返せなくなるほどの圧力を持ち合わせた怒り。

オートスコアラーからアイソマーら保護した際にうち一人から聞かされた内容を聞かされた瞬間、彼女の怒りは最早地獄の炎よりも危険なものへと変質していることもグリフォンは見抜いている。

引き返す様に伝えようとした時、シャドウとシーナはピタリと足を止め、グリフォンもその場で滞空した。

 

(血の匂い…)

 

廊下を抜けた先。

大部屋だと思われる場所から余りにも濃すぎる血の匂いが漂ってきていたのだ。

警戒しつつもシーナは無言でホルスターから愛銃のPainekillerを引き抜き、撃鉄を起こした。

そしてグリフォンとシャドウに視線を飛ばし、お互いに頷き合うとゆっくりと足を進める。

シャドウがシーナの先に出て、グリフォンが何時でも迎撃できるように電撃の準備を始める。

外で戦闘が起きているとは思えない程辺りは静寂に包まれており、かえってそれが不気味さを増す。

そんな中をシーナは物怖じせず大部屋へと足を踏み入れた瞬間、そこにあった光景を見て固まった。

 

(こいつはひでぇ…)

 

大部屋の奥。

そこには多くの遺体…アイソマーらの死体が転がっていた。

衰弱して息絶えたのか?或いはパラデウス兵に見つかってしまい殺されてしまったのか?

否、どれも違った。

 

(全員、首をすっ飛ばされてやがる…)

 

そう…この部屋にいたアイソマーらは全員、鋭利なもので首を刎ねられていた。

床には彼女らの頭が転がっており、頭と死体から流れ出た血が床を赤く染め上げていた。

余りにも惨すぎる光景。最早常人がやるような行いではない。

シャドウも元から言葉を発さない為に静かだが、グリフォンは言葉が出てこなかった。

ただ彼女は違った。

 

「……して?」

 

「…ネェちゃん?」

 

何かを呟き出し始めたシーナにグリフォンが訝しげに声をかける。

 

「どうしてなの?」

 

下ろされていた顔があげられる。彼女の頬には瞳から流れる涙が伝っていた。

 

「彼女達は沢山苦しんできた。苦しんできた筈なのに…何でこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?彼女達が自由に生きる権利なんてない事なの?」

 

涙を流しながら、シーナは胸に抑えた。

痛いのだ。心が余りにも痛くて仕方ないのだ。

顔も名も知らないアイソマーらの死に対し涙を流せるのがシーナ・ナギサという人物なのだろう。

だからこそ、彼女の中にある炎はかつて復讐を掲げた時に燃え盛った炎を何倍にも上回るものへと変貌した。

怒りは悲しみへ。

そして悲しみから再び怒りへと戻ったその時、胸に吊り下げたクイックシルバーが微かに振動した。

 

「ゲリュオン…?」

 

クイックシルバーへと変身した悪魔の名を口にするシーナ。

 

(泣く私に怒っているの…?)

 

胸の中で問う。

しかしクイックシルバーはそうではないと言わんばかりに、二回震えた。

では何を伝えようとしているのか。

それが何故か理解できたシーナは尋ねる。

 

(許せないんだね…あの娘たちを殺した敵が、殺そうとする敵が)

 

確信を持ちながらも確認するように尋ねるシーナ。

対するクイックシルバーは一回だけ震えた。

魔界の戦馬は敵に怒っているのだと。

怒りでどうにかなりそうな程に怒っているのだ、とシーナへと伝えた。

その意を汲み取ったシーナは、魔界の戦馬へと問いかける。

 

(お願い…力を貸して…!!)

 

これ以上誰も死なせない為、彼女は更なる力を魔界の戦馬に乞うた。

それに応じたのかクイックシルバーの秒針が回り出し、シーナの体に光が集まり出した。

それが魔力である事に気付いたのかシャドウは驚いたようにシーナへと顔を向け、グリフォンはマジかよと口にしながら、シーナへと叫ぶ。

 

「おい、ネェちゃん!ネェちゃんってば!だー!くそっ!聞こえちゃいねぇ!!ネコちゃん、備えな!!下手したら吹っ飛ぶぞ!!」

 

グリフォンがシャドウに備えるように言った瞬間、シーナを中心にナニカが放たれた。

部屋を突き抜け、高層ビルを突き抜け、それは世界を駆け巡る。

そして次の瞬間、世界は一瞬だけ白黒へと彩られ、再び元の色へと戻る。

戦場に居た誰しもがこれで何度目になるのだろうかと思える現象に驚き、知識を有る敵すらも突然の現象に驚きを覚えた。

何故なら自身も含め映るものが全てが一瞬だけ、まるで時を緩やかにされたかのように遅くなったからだ。

それが一体何なのか分かるはずもなく、攻撃を再開する。

だがもし──その一瞬の現象が理解できていたのであればこの場に現れた敵は速やかに撤退すべきだったかも知れない。

"時"を操るという事はどれ程強力であるかを。

 

「ネ、ネェちゃん…?」

 

突然の事には驚きながらもグリフォンはその場で立ち尽くす彼女へと声をかける。

先ほどまで黒かった髪はまるで色素が抜かれた様に白く染まりつつも水色のグラデーションが入っており、黒い瞳も水色へと変色。サーヴァントも白く染まり、一人の少女の体からは妖気にも似た青いオーラが放たれていた。

 

「おい、ネェちゃん…?大丈夫かよ…?」

 

「…うん、大丈夫だよ。少しびっくりしてただけ」

 

グリフォンにそう伝え、部屋の出口へとシーナは歩き出す。

その後ろ姿を見つめながらもついていくグリフォンは察する。

 

(トリガー?いや…それに近い奴か。でも…こりゃとんでもねぇのが来たな。敵を片っ端から止める気じゃね?)

 

俺らの出番あんのかと愚痴りながらもグリフォンはシーナの後に続く。

全ての敵を黙らせる為、時を操る少女が動き出した。




という訳で…。

ギルヴァから抜け出し蒼がアナさんの中へと侵入。
ギルヴァから持ってきた魔力を用いてイグナイトトリガーならぬデビルトリガーを発動。

そしてシーナちゃんがぶちギレました。
クイックシルバーと呼応し、トリガーに近いものを発動。
アイソマー及び味方を狙う敵を問答無用でクイックシルバーの能力で動きを緩やかにさせます。
緩やかといってもそのレベルはまるで止まっているかのように見えるレベルで、イレギュラーや突然現れた敵を狙いに向かいます。
じゃあシーナちゃんを狙えばいいよねと思いますが…彼女の視界に入る入らない関係なく敵であれば止めにかかります。
つまり動けなくされたくなければ、戦場から離脱しなさいという事です。

何かあの時の…イレギュラー祭り大規模作戦みたくなりそうな予感がして、この様な行動させていただきました。

まぁ…その、主催者様から怒られることがあれば修正いたします。


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Act224-Extra Those who end the nightmare Ⅵ

─叫べ。己の内にある怒りを─


シーナがクイックシルバーと同調しトリガーに近いものを発動した同時刻。

ルージュとヘルメスと共に行動していたネロは、オートスコアラーと合流した地点から離れた建物…廃れた教会に足を踏み入れていた。

ここに訪れたのは単純明快。アイソマーの反応が確認出来たからだ。

 

「ここに反応があって来た訳だが…」

 

教会の祈りを捧げる場にて、辺りを見渡しながらネロが呟く。

そこにあるのは破損した長椅子や神様を模した像だけで肝心のアイソマーらの姿は確認できない。

機器のミスか?と口にするネロにある方向を見つめていたヘルメスが答える。

 

「そうではなさそうだぞ」

 

「あ?」

 

ヘルメスが顎を使い、ある方向を指す。

彼女が指した方向へと視線を向けるネロ。

祈りを捧げる場所とは真反対に位置する場所。窓すらなく明かりになるものすらない部屋の隅…薄暗い場所に、彼女らの姿。

お互いに身を寄せ合い、この場に現れたネロとヘルメスを見つめるその目は恐怖が含まれていた。

そんな彼女らを見て、どうしたもんかとネロは頭をガシガシ掻きながら悩んだ。

 

(ビビらせようって訳じゃねぇ…けど俺やこいつが近寄った所で、ややこしくなるだけだしなぁ…)

 

品行方正かどうかと言われたら、正直なところ怪しいと思われてもおかしくないネロとヘルメス。

本人らにその気はないのだが、こうも怯えられたら成す術がない。

かと言って放置できるはずもないのでネロが頭を悩ませるのは無理がないと言える。

 

「ふん…。悩むほどでもないだろ。私が話をつけてくる」

 

そんな彼女にヘルメスが鼻をならし、歩き出そうとする。

だがネロが左腕を伸ばし、ヘルメスを止める。

 

「お前じゃ三秒で終わりだ。すっこんでろ」

 

「ならお前が行くか?私の予想なら一秒で終わりだ。喜べ、記録更新するぞ?」

 

「うるせぇな。…ったく、こんな下らねぇ喧嘩している場合じゃねぇんだよ…」

 

戦闘中であり、シーナからの命令を守らなくてはいけない。

軽くため息をつきながら仕方ないと呟くネロ。

彼女が一歩踏み出そうとした時、二人のやり取りを見ていて見かねたのかルージュがその横を過ぎた。

コキュートス・プレリュードは今の所、停止させている為、アイソマーらに影響を及ぼす事はない。

愛用する大鎌も異空間に収めている為、不安を与える事もない。

ゆっくりと歩み寄り、アイソマーらの前で止まるとルージュは身をかがめ、視線を合わせた。

そしてそっと彼女は目の前にいるアイソマーの頭に手をのせた。

乗せられた手に目を丸くする少女にルージュは優しく微笑む。

 

「…大丈夫。私たちは貴女たちに危害を与える事はしません」

 

「ホント…?」

 

「はい。…あの二人は見た目が少々怖いですが、とても良い方々ですから。驚かせてごめんなさい」

 

聞こえてんぞ…とネロが呟く声がルージュの耳に届くも、彼女はあえてそれを無視。

アイソマーの頭を撫でながら、周りを見た。

ここに彼女らは見るだけでも三十人は居る。正確に数えれば、その数は五十人に上るだろう。

流石に彼女らを連れて、戦場を移動するのは無理がある。

下手をすれば、パラデウス兵やアブノーマルに見つかり彼女らを死なせてしまう可能性が大いにある。

 

(…ヨルムンガンドに通信を繋ぐ必要がありますね。あの巨体なら五十人は乗せられるでしょうし)

 

ヨルムンガンドに通信を繋ぐため、立ち上がるルージュ。

その時、アイソマーの一人がルージュの羽織る白のケープコートの裾をつかんだ。

何かあったのだろうかと思いながらその者へと視線を向けるルージュ。

 

「…お父様の部隊が私たちを殺そうとしているのって本当…?」

 

「…!」

 

お父様の部隊。

そのお父様が誰なのかはルージュには分からないが、部隊が何なのかは分かる。

 

「…もしかして、殺されそうになって此処に隠れていて…?」

 

その問いに少女は小さくうなずいた。

対するルージュは唇を噛み締め、どう答えるべきかと思った時、ネロが歩み寄り口を開いた。

 

「現実を突きつけんのは気が引けるが…。…お父様の部隊ってやつはお前らを殺そうとしてる」

 

「…な、んで…?どうして…?」

 

「…細かい事は分かんねぇ。ただ俺らはお父様の部隊にお前らを殺させない為に助けに来た。それだけは信じてくれねぇか?」

 

信じていたものに裏切られる。

そのショックは測れるものではないだろう。

狼狽え、目を見開いたまま動かなくなるアイソマーらを見てネロは言葉を続けた。

アイソマーという彼女らが生まれた経緯を思い出しながら。

 

「依頼主から聞いた。今の今まで嫌になるくらい苦しい思いしてきたんだってな」

 

「…」

 

「そりゃ死にたくなる理由ってのも分かるさ…。それにこうも思ってねぇか?苦しい思いばっかりするんだったらこの命なんていらねぇって」

 

無理もねぇさと前置きを言葉にしながら、ネロは右腕に装着したデビルブレイカー『ブリッツ』を外した。

そして現れるは異形の腕…悪魔の腕『デビルブリンガー』だ。

突然現れたその腕にアイソマーらは目を見開くもネロは気にする様子はない。

 

「確かに今は苦しいさ。けどお前ら苦しいしか知らねぇだろ?だったらこんな所からオサラバして、楽しい事や幸せな事を覚えて、旨いメシでも食って生きていこうじゃねぇか」

 

デビルブリンガーを差し出すネロ。

差し出されたソレをアイソマーは迷い、周りと視線を交わす。

周りが頷くと、彼女もまた頷き意を決したかのようにネロの手を握った。

此処から出ていく。

その意思を確かに受け取ったネロは笑みを浮かべ、彼女を引き上げる。

 

「此処から出ていくのに、ちと時間がかかるがそれでもいいか?」

 

「…少しだけ怖いけど…でも大丈夫」

 

「そうこなくちゃな。んじゃ、そこで待ってな。──お前らを狙うゴミを掃除してくるからよ」

 

教会に近づいてきている敵の気配はデビルブリンガーのおかげでしっかりと気付いていた。

この者達をこんな場所から脱出させる為には、最初の障害を取り除かないと事は始まらないだろう。

ブリッツを専用のホルダーに収め、ネロは敵が近づいてきている方向へと歩き出す。

 

「ルージュ、そいつらを頼むぜ。俺とヘルメスでゴミ掃除をしてくる」

 

「了解です」

 

アイソマーをルージュに任せると、ネロは踵を返し歩き出す。

敵が迫ってきていることはヘルメスも気付いていたらしく、腰に提げた二挺のブレードショットガン『ファル・バイル』ではなく、もう一つのホルスターに収めた今回新しく装備してきた複合火器『フェアダムニス』を引き抜いた。

その形状はヘルメスがまだアルケミストと呼ばれていた際に愛用していた複合火器に酷似しているが、光学から実弾式になっているなど、変更点は多い。

上下から挟み込むようにして供えられた頑丈かつ鋭利な刀身は整流カバーとしての側面を持つ。

そして二つの刀身の間には高い火力を誇る実弾式のマシンガンが備えられており、ヘルメスがソルシエールに注文した兵器である。

 

「話はついたか?」

 

「ああ。後はゴミ掃除だけだ」

 

ネロが答え、ヘルメスが背を預けていた壁から離れたその時。

ステンドグラスを突き破って、パラデウス兵がなだれ込んできた。

ドッペルゾルドナーやグラディエーター、ウーランの姿はなさそうだが、その代わりというべき多数のストレツィとガンナー、ロデレオで構成されていた。

数で圧倒し、そして高い火力を有する敵らにたった二人で立ち向かうのは無謀もいい所だろう。

 

「よくもまぁ…こんなにも粗大ゴミを揃えたものだ。業者泣かせにも程があるぞ」

 

「業者なんかいらねぇよ。必要なのは地獄の底で待っている悪魔だけさ」

 

しかしこれだけの敵を前にして、二人には焦りもなければ恐怖もなかった。

それどころか互いに軽口をたたきながら笑みを湛えていた。

戦闘が始まるまで残された時間はごくわずか。ネロが背に背負ったクイーンの柄に手を伸ばそうとした時、ふと何かを思い出したのか、伸ばしていた腕を下ろし何故か通信機を繋ぎ始めた。

 

「あー…ブラウ・ローゼのネロだ。えっと、リヴァイバルって言ったか?悪いが応答してくれねぇか?」

 

『聞こえている。何だ?』

 

突然として通信機を繋いだネロが話しかけたのは今回の作戦の依頼主であるリヴァイバルであった。

何故彼に通信を繋ぎ始めたのか、隣に立っていたヘルメスも理解出来なかった。

ただぶつかり合うまで五秒前だというのに、ネロの行いによって五秒どころでなくなったのが唯一理解できることであろう。

 

「忙しい状況だと思うが質問に答えてくれねぇか?」

 

『手短に頼む』

 

「あいよ。んじゃ聞くぜ。…アイソマーが言うお父様ってのはどうしようもねぇクソ野郎という認識で良いんだよな?」

 

『ああ。奴の行い、その他諸々を含めればどうしようないクソ野郎の言葉では片付けられんほどの外道だ。それどころか自らの保身の為に彼女らを殺そうとしている。…今の状況みたいにな』

 

「成る程な。…それじゃあそっちがそのお父様に会う事があれば伝えてくれねぇか?アイソマー全員かどうかは知らねぇが、一部からお父様に対しての有り難いお言葉ってやつがあるんでね」

 

『…聞こう』

 

伝えてくれる事を了承したリヴァイバルの声にネロはニヤリと笑みを浮かべた。

右手を開いたり閉じたりを繰り返しながらネロは歩き出し始める。

同時に彼女は己の中にある銃爪に指をかけ始めていた。

平静を保っているネロではあるが、内心ではキレていた。

なんなら開戦してすぐにトリガーを引いて大暴れしてやろうと思っていたほどに。

しかしそれを行動に起こさなかったのは、怒りが少しずつ収まり冷静になれた事にあった。

相手の行いはどう考えても許せるはずもない。

ましてや生み出しておきながら、失敗作と断じ、育児を放棄して彼女らをこんなところに放置しており、挙句の果てには自身の保身の為に、殺そうとしている。

ただ怒りに任せて暴れるのは何か違う気がしてならない。

そこで思いついたのがお父様と言う誰かに向かって一言伝えてから、暴れる。

怒りや何やらをそれに全てぶち込めば、スッキリするというもの。

だからこそネロはわざわざリヴァイバルに通信を繋いでまで、伝言を頼もうとしていたのだ。

 

「良いか?一回しか言わねぇからよく聞けよ」

 

右腕に格納した魔剣『狩人』から流れ出る魔力を彼女の体へと流れていく。

やがてそれは形を作り始め、オーラとなって具現化しその背には何かが現れようとし始めていた。

 

(ああ、そうさ。一回しか言わねぇ。溜まりに溜まった一言だからな)

 

右手の"中指"を立てられる。

 

(やる事やった挙句、育児放棄?そんでもってこれってか?ざけんじゃねぇぞ…この──)

 

悪魔の右腕たるデビルブリンガーを天へと向かってのばす。

そして溜まりに溜まった一言をネロは大きく叫んだ。

 

Fu○k y○u!(クソ親父が!)

 

それが教会全体に響き渡った時、ネロを中心に魔力の暴風が勢いよく広がった。

爆発に似たそれが敵を吹き飛ばし、態勢が崩れた所にネロはクイーンを引き抜き突撃。

その背にかつての相棒であったハイエンドモデル『狩人』が魔人化したようなソレを引き連れ、ネロはパラデウス兵と戦闘を開始。

 

『く、クソ親父…?』

 

リヴァイバルの困惑した声が響くもネロはあえて無視。

その代わりにヘルメスが対応に当たる。

 

「良いじゃないか。貴様がパラデウスに居た時はお父様と呼ばれていた訳ではないのだろう?」

 

『……私が属していた事を気付いていたのか?』

 

「少し考えたら分かる事だ。やけに事情に詳しい点を考えれば、な。…それにこの作戦はお前にとっては、贖罪を含めているのだろう?」

 

『…』

 

「ならば彼女らにどう呼ばれようが、殴られようが仕方ないと思うがいい。むしろそれぐらいの覚悟ぐらいは有していると私は思っているがな。…何故お前が彼女らを見捨てる様な事になったのかは聞かん。こちらもそちらの事は良く知らんからな」

 

S10地区前線基地のメンバーはそうだが、リヴァイバルという人物を知ったのは今回が初なのだ。

相手の事情を知らないが故に物申す事が出来ない。

同時にリヴァイバルの相手をしているヘルメス含め、S10地区前線基地のメンバー全員は深く追求するつもりなど全くなかった。

この世界で生きている以上、誰しもが一つや二つ、何かを抱えて生きているのだ。

依頼主もまたその一人なんだろうという事は誰しもが気付いている事であった。

 

「話は終わりだ。こちらも忙しいのでな」

 

反応を待つことなく通信を切るヘルメス。

フェアダムニスを構えると彼女もまたパラデウス兵へと突撃開始。

未だ終わりの兆しを見えない戦場に、銃爪が引いた彼女とかつて錬金術士と呼ばれた彼女は暴れ始めるのであった。




色々あれですが…ネロもデビルトリガー発動です。
本来であればもっと書こうかと思いましたが、こちらの体力がもたないで…。
うちの面々の事で知りたい事があればいつでも言ってくださいな~

次回はブレイク&シリエジオらかな?(未定)

では次回ノシ


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Act225-Extra Those who end the nightmare Ⅶ

─やる事は変わらない─


クイックシルバーの同調により新たな力を得たシーナが動き出し、廃れた教会に身を潜ませていたアイソマーを救い出すべく、己の力を総動員させパラデウス兵へとネロたちが立ち向かい出した一方。

ブラウ・ローゼのシリエジオ、シャリテ、ソルシエールは例のE.L.I.Dとの戦闘から回復し、再び行動を再開したオートスコアラーと共に行動していた。

アブノーマルとは遭遇してないものの──

 

「だー!もう!バケモンを倒した後だというのに、またこいつらかよッ!!」

 

これで何度目になるのだろうかトゥーマーンの叫ぶ声が破砕音やら爆発音の中で炸裂した。

彼女がツッコミ役になりつつあるような気もしなくもないが、彼女が叫ぶのも無理もないと言えよう。

回復し、いざ戦場に復帰したら強化されたパラデウス兵と遭遇してしまったのだから。

当然ながら無視できるはずもなく、オートスコアラーとブラウ・ローゼの三人は強化されたパラデウス兵と戦闘開始。

何処からか聞こえるバイオリンの音のおかげで敵の偏向障壁の性能が半減させれていたとしても、面倒なものは面倒でしかない。

ジャウカーンが前に出て偏向障壁なんぞ知ったことではないと言わんばかりに暴れ、スユーフ、ダラーヒム、トゥーマーンが己の持つ力を駆使し何とか敵を倒す。

シリエジオもジャウカーンと共に前に出て暴れるシャリテとソルシエールを援護する為にシルヴァ・バレトを構え、偏向障壁が消えたストレツィに向かって発砲。

銀色の銃口からはじき出される一撃は銃撃ではなく、砲撃。

はじき出された砲弾がストレツィに直撃し上半身と下半身を分かれさせる。

 

「叫びながらも倒せているではありませんか」

 

「うっせー!こうじゃないとやってらんねぇんだよ!!」

 

トゥーマーンからの苦情を耳にしつつシルヴァ・バレトの槓桿を操作するシリエジオ。

薬室から飛び出た薬莢を視界の端で捉えながら、彼女は冷静に戦況を判断する。

偏向障壁など関係なく敵を容赦叩き潰すジャウカーンや新しくなった装備を惜しみなく使い、果敢に接近戦を仕掛けるシャリテとソルシエールのおかげでどうにかなっている。

問題を上げるとするのであれば、あとどれ程の敵がここにやってくるかであった。

今は何とかなったとしても、もし増援部隊が現れ、それが何度も続くようであれば間違いなく自分達が劣勢に追いやられるだろう。

 

(では少しばかり派手に行かせてもらいましょうか)

 

そう内心呟くとシリエジオはニーゼル・レーゲンを掴むと底面を地面に叩きつけ、ニーゼル・レーゲンを待機形態から別の形態へと移行させた。

形すら残らない驚異的な変形機構。

銀色に水色の光脈が流れるガンケースから姿を現したそれは最早狂気と言ってもいいだろう。

手には二挺の大口径機関砲。

機関部から繋がった弾帯ベルトが向かう先にあるのはシリエジオの腰にあるマウントフレームに装着された支柱付きの巨大な弾倉コンテナ。

口径29mm。ベルト給弾式。

最大射程不明。総重量不明。

冗談と馬鹿をふんだんに詰め込んだ結果、出来上がった馬鹿げた狂気。

人間はおろか、悪魔に向けて撃ったとしてもその威力は過剰の一言に尽きる。。

まき散らすは鎮魂歌。物理と狂気を以って魂を鎮めるだけに特化した代物。

その名は29mm対化け物用連射砲『レクイエム』である。

 

「は…?」

 

「うわぁ…」

 

ニーゼル・レーゲンの武装の一つを見たトゥーマーンとダラーヒムの反応は当然ともいえる。

シリエジオでさえ、こればかりはやり過ぎではないのかと思うほどなのだ。

とはいえ、相手が無駄に硬いのであればその倍を行く力でねじ伏せるのが一つの方法と言えよう。

 

「全員、木端微塵になりたくなければ私の前に立たないでください」

 

『うわわわ!?いきなりだね!?シャリテ、ジャウカーン!!二人とも一旦下がって!!』

 

シリエジオの声に反応したのはシャリテとジャウカーンと共に接近戦を仕掛けていたソルシエール。

一発でもくらえばお陀仏級の弾幕が飛んでくる中で立ち回る自信など無いに等しい。

ワーロックのスラスターユニットを使い後退しつつ、シャリテとジャウカーンにも下がるように告げる。

シャリテもシリエジオが使おうとしているレクイエムがどう言うものなのかを知っている為、共にグラディエーターを叩き潰したジャウカーンへと叫んだ。

 

「ジャウカーンちゃん、一旦下がりましょう!」

 

「了解です!」

 

シリエジオが装備するレクイエムの射線上から飛び退き、後退する二人。

射線が開ける。彼女らが引いた事により敵は進軍開始。

黒で彩られたメイド服を纏う彼女へと迫る。

堅牢な装甲。生半可な攻撃では通らない偏向障壁。そして全てを塵に変える火力と暴力的な数。

敵う筈がない。ましてや一体の人形などに。

いくら十全に備えていたとしても、圧倒的な力の前には成す術などないという事を。

まるで絶望を見せつけるが如くパラデウス兵はシリエジオに迫る。

しかし迫りくる敵の群れを前にしても彼女に焦りはなかった。

軽く深呼吸をして、伏せた目を開き相手を睨みつける。

両手に握ったシルヴァ・バレトを模した機関砲のグリップを握り直し、引き金に指をかける。

そして次の瞬間──

 

「歌え」

 

鎮魂歌(レクイエム)が歌唱開始。

二つの砲から次々と吐き出される砲弾は敵に反撃の時間を与えず、跡形を残すことなく木端微塵に吹き飛ばし、偏向障壁を平然と剥がし、装甲をチーズ同然と言わんばかりに穿っていき、倒した敵を数えるかのようにレクイエムの機関部からは熱を帯びた薬莢が飛び出し、まるで鎮魂歌を歌う様に地面を跳ねる。

地に横たわるは、必ず体の一部が欠損した亡骸か最早原形すら留めていないナニカ。

そこに映る光景はレクイエムという名の蹂躙劇。

思わず敵に同情してしまいそうになるような光景がたった一人の人形によって広げられていた。

 

「…私ら要らなくね?」

 

「まぁまぁそう言わずにさ」

 

シリエジオが単身で敵の大部隊を殲滅する様を目撃しながら静かに呟いたトゥーマーンの隣でワーロック・シャルフリヒターの主兵装であり、改造が施された大鎌を肩に担いだソルシエールは笑みを浮かべたまま、後ろへと振り向いた。

向かってくるは白き軍勢。

鎮魂歌を止めるためにやってきたのだろうか。ガンナーやグラディエーターらで統一されていた。

 

「ほら、新しいお客さんだ。出番は残してくれたみたいだね?」

 

「ちっとも嬉しくねぇ!」

 

「あっはっはっは!」

 

高らかに笑うソルシエールだが、その笑みは一瞬にして引っ込まれ冷たい笑みを浮かべた。

弧を描いた刀身が妖しく輝き出すと彼女は大鎌を構えると同時にこのワーロックという装備が元から備えた機能を起動させた。

背に備えられた蝙蝠の羽を模したウイングとスラスターユニット。その所々に排気口の様なものが備えられており、そこから決して見る事の出来ないナニカが散布され始めた。

それに気づいたのは隣に立っていたトゥーマーンであり、ワーロック・シャルフリヒターから散布されるナニカに驚いたかのようにソルシエールへと向いた時、彼女は言葉を失った。

 

「おっと君なら気づいちゃうか」

 

笑みを浮かべるソルシエールであるが、下半身は何故か"消えていた"。

敵の攻撃を受けた訳ではない。言うなれば透明になっていた。

 

「出番が嬉しくなさそうみたいだから…」

 

彼女の透明化は胸辺りまでに達し、ついに肩まで到達した。

 

「僕に譲ってもらおうかな?」

 

驚いたまま言葉を発さないトゥーマーンに向かってニッコリと微笑むソルシエールはそのまま彼女の前から姿を消した。

次の瞬間、突風の様なものが巻き起こり見えないナニカが白き軍勢へと突撃していった。

見えないナニカが向かっているにも関わらず、敵はそれを探知した様子すら見受けられない。

相手が完全に気づいていない。そんな事はソルシエールが良く知っている。

元よりワーロックはこういう時の為に開発されたのだから。

強力なジャミング機能を用いり、特殊粒子を放出し身に纏う事で姿を隠して敵の視界とレーダーに探知されることもなく接近し、一撃で仕留める事を想定したもの。

故にその戦い方は知性にある者からすれば、ある種の恐怖を植え付ける。

最も今回の敵は最早ナニカを失ったものである以上、恐怖など感じたりはしないだろう。

 

「身構えなくていいのかい?」

 

問いかける様な声が響く。

しかしその声の主は何処にもいない。

足を止めパラデウス兵が警戒に入ろうとした直後、一閃奔る。

それも一体だけではない。そこにいた複数の敵に一閃奔っていた。

上半身がずれ堕ちる中、既に機能停止した敵らの背後からソルシエールが姿を見せる。

ワーロック・シャルフリヒターへと改造された際に新たに設けられた腰部スラスターユニットに備えつけられた八基のバインダーから飛び出たワイヤーと繋がった折り畳み式のショートサイズを収めつつ口を開く。

 

「じゃないと死神がやってくるよってね」

 

大鎌を肩に担ぎながら、背を向けるソルシエール。

そのまま再び姿を消すと、残った敵へと攻撃を仕掛けていくのであった。

 

 

その頃、ブレイクはアイソマーが身を隠している場所に訪れていた。

とは言ってもアイソマーらは既に保護されており、ここに来たところで意味はないのだが彼はこの場所から発せられるとある気配を察知してここに訪れていた。

 

「…アレか」

 

廃ビルの中間地点に当たる階層。

その部屋の奥にある小さな台座の上で宙を浮かぶものがあった。

見てくれは籠手。しかしてはその籠手は『炎』を纏っていた。




という訳で、うちも敵の殲滅に動きます。

次回はブレイクに新たな魔具の持たせます。と言っても炎を纏う籠手は分かるか…。
その後は…主催者様に合わせます。


では次回ノシ


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Act226-Extra Those who end the nightmare Ⅷ

─じゃあ始めよう─

─最高に狂った悪魔舞踏を─


小さな台座の上で浮かぶ奇妙な籠手。

焔を纏うそれは、どう考えてもパラデウスが作った兵器とは言い難いものと言えるだろう。

そんなものを目の前にしてもブレイクは動じることもなく、それどころか肩を竦め笑みを浮かべていた。

ブレイクには分かっていたのだ。

自身が今目の前にしているのは魔具であり、同時にこの建物に身を潜めていた事に。

 

「かくれんぼが趣味ってか?」

 

そう問いかけるも魔具でしかないそれが答える筈もない。

それへと近づいた時、彼は台座に碑文が刻まれていることに気付く。

魔界の言葉なのか、ブレイクには読み取る事が出来なかったが台座にはこう記されていた。

 

《我が名はイフリート。我を目覚めさせる愚かな者よ。地獄の業火をその身をもって知れ》

 

その時、イフリートと呼ばれる魔具は一人でに動き出す。

籠手は別々に分かれ、炎を纏いながらブレイクの周囲を飛び交う。

そして次の瞬間、ブレイクに目掛けて突進しイフリートは地獄の業火で彼を包んだ。

流石に悪魔の血を流す男でも地獄の炎を包まれてしまえば成す術ないと思うだろう。

だがその予想は覆る事になる。

ブレイクを焼き殺そうとする炎が爆発したかのように周囲へと放たれ火の粉が舞った。

そしてその中から現れるのは両手に炎を纏う籠手「イフリート」を装備したブレイクの姿。

 

「暑いのは苦手なんだが…ま、あいつらを燃やすのには丁度いいだろ」

 

両手に装備したイフリートを眺めながらつぶやくブレイク。

そのまま戦場へと戻ろうとした時、耳に着けた通信機からダレンの声が届く。

 

『ブレイクよ。お前さん今暇しとるかえ?』

 

「してないったら嘘になるな。丁度新しいおもちゃをどう試そうかと考えてたところだ」

 

『ほう?…ではちょいと、ある場所に向かってくれんかの?お前さんの助けが必要としている所がある』

 

「へぇ?で、誰だ?助けが必要としてんのは」

 

『騒ぎ事ならいつも姿を見せる隣の常連客とは言えば分かるかえ?』

 

「…はっ」

 

最早それは答えでしかなかった。

幾度となく大騒ぎには姿を見せ、華々しい活躍を見せつけてきた。

今回は別々に行動していた為、顔を見ていないが助けを必要としているのであれば行かない理由は彼にはないだろう。

 

「そりゃ行かねぇとな。美女達からのお誘いなら喜んで受けさせてもらうさ」

 

腕に装備したイフリートを別空間に収め、ブレイクは大きな穴が開いた壁へと歩き出す。

彼がいる場所は言うなれば高層ビルの最上階。開けられた壁からは辺り一帯が見渡せる程だ。

下を見れば、つい足がすくんでしまうだろうがブレイクは気にする様子もなければ、それどころか背を外に向け後ろ歩きで近づきそのままゆっくりと背から倒れ下へと降下。

 

「さぁて…ぼちぼちパーティーもお開きにしねぇとな」

 

赤いコートが揺れ、風が切る音が響く中で彼は小さく呟くのであった。

 

 

同時刻。

例の花畑付近から離れ、前線へと戻っていく道中フードゥルと合流を果たしたギルヴァ。

特に怪我をしている訳でもなく、普段と変わらぬ様子なのだが…

 

「…」

 

どういう状況なのか、ギルヴァは二人のアイソマーを連れて行動していた。

一人はギルヴァに抱えられ、もう一人はギルヴァの右手と手を繋ぎその横を歩いている。

ここが戦場である為、和やかさなど欠片もないのだが傍から見れば何をどう言おうが今のギルヴァは完全に二児のパパでしかないのだが、ここにツッコミ役が居ないのが幸いと言えよう。

もし居れば問答無用で『次元斬 絶』で膾斬りされる未来が待っているに違いない。

そんな冗談は兎も角として、何故ギルヴァがアイソマー二人を連れて行動しているのか?

簡単に言えば、偶然にも見つけた。ただそれだけの事である。

言葉より行動派のギルヴァは只々絶望に打ちひしがれるアイソマー二人をパラデウス兵から助け出し手を差し出した後、今の様な状況が出来上がった。

抱えられ、そして手を繋ぐ二人のアイソマーの様子から見てギルヴァに懐いている気もしなくはないが、それを指摘する者はいない。

そして今、何をしているのかと言うとギルヴァはある人物を探していた。

流石にアイソマー二人を連れたまま戦場に飛び込むことなど出来る筈がなく、二人をその人物に預ける為に歩いていた。

 

(…この先か)

 

その人物の気配をたどりながら決して迷うことなく市街地を抜けていくギルヴァ。

アイソマー二人を連れてかれこれ十分経った時、漸くというべきか探していた人物がいる場所にたどり着き、彼はその者へと歩み寄る。

ギルヴァが探していた人物。その人物は…

 

「あの男は…」

 

今回の作戦の依頼主であるリヴァイル・ウィッカーマンであった。

アイソマー二人を連れて向かってくるギルヴァに気付いたリヴァイルとその後ろで控えていた二人、マーキュラスとニモジンが駆け寄ってくる。

二人に連れてきたアイソマーを託すギルヴァ。ようやく安心できる者らに保護された事を実感できたのか、二人のアイソマーの表情は少しばかり柔らかい。

そして自分達をここまで連れてきてくれた恩人を見つめるも、その恩人であるギルヴァは目を合わせない。

だがふと何かを思ったのかギルヴァは二人のアイソマーの元へと歩み寄り、その頭にそっと手を置いた。

突然の事に目を丸くする二人のアイソマー。それどころか周りも彼の行動に少しばかりか困惑している様子であった。

しかしそんな事は知ったことではないと言わんばかりにひとしきりアイソマーの頭を撫でるとギルヴァは静かに背を向け歩き出そうとする。

そこに同じく保護したアイソマーをリヴァイルに預けようとしていた人物が姿を見せる。

 

「なんか新鮮だね。そんなギルヴァさんは初めて見た」

 

細い路地裏から姿を現すのはクイックシルバーが呼応した影響で髪とロングコート型魔装『サーヴァント』が白色へと染まったシーナ。

そして彼女の隣にはアイソマー。シーナはアイソマーと手を繋いでここまで来た様子であった。

 

「それはこちらの台詞だ。その姿はどうした?」

 

「まぁ色々とね。と言っても言わなくても分かるんじゃ?」

 

「…そうだな」

 

ギルヴァとそんなやり取りをしながら、シーナはリヴァイルの元へ歩み寄る。

一緒に連れてきたアイソマーの背中を軽く押し、彼へと引き渡そうとするもアイソマーは中々に行こうとしない。よく見れば少しばかり体が震えている様子であり、それに気づいたシーナが落ち着かせようとアイソマーを優しく抱きしめた。

 

「大丈夫…大丈夫だよ。この人たちは貴女たちを救いに来たの」

 

「私たちを…?」

 

「そう。私たちは貴女たちを助ける為にこの人たちに雇われた誰かってやつかな。それにこの人たちの所に行ったら貴女の苦痛を取り除いてくれる筈だから」

 

「…!」

 

アイソマーの目に微かな希望が宿る。

それを見てシーナはフッと微笑み、アイソマーの頭にそっと手を置いた。

 

「苦痛が無くなって、元気になったら遊びにおいで。こう見えて私、お菓子作りが得意なの。遊びに来てくれた時は沢山作ってあげる。だから今は彼の元で、ね?」

 

その台詞が決め手となったのか、アイソマーは小さく頷きリヴァイルの元へ。

離れていく姿を見つめるシーナの所にリヴァイルが話しかける。

 

「初めて会った時と比べると思い切り姿が変わったな、シーナ指揮官」

 

「あはは…まぁそのおかげで敵の動きを鈍らせることが出来ましたから」

 

「動きを?…まさか敵の動きが著しく鈍くなったのは…」

 

「ええ。この姿だと敵の動きが鈍らせる事ができまして。…時を操る力とでも言っておきましょうか」

 

「時を操る力…それもまた悪魔の力という訳か。何とも恐ろしい力だな…」

 

あはは…と苦笑いを浮かべるシーナ。

彼の台詞は当然と言えたからだ。

正直なところ、悪魔が魔具へと姿を変えて力を貸してくれているのはある意味奇跡ともいえる。

そしてその悪魔達が持つ力は現代兵器を平然と上回り、今の技術では複製することも出来やしない。

恐ろしい力、というのはあながち間違っていないのだ。

 

「おいおい、パーティー会場はここじゃねぇよな?」

 

そしてまた一人、この場に現れる。

赤いコートを揺らめかせ、背には魔剣を、両手には大型拳銃『アレグロ&フォルテ』を携えながら笑みを湛えつつ皆に歩み寄るはブレイクである。

 

「俺の記憶が正しければパーティー会場はもっと向こうの筈だったんだがな」

 

「大丈夫。ここは受付カウンターみたいなものだよ、ブレイクさん。…招待状は持ってる?」

 

「生憎と持ってなくてな。飛び入り参加でも良いよな?」

 

「勿論。ブレイクさんみたいイイ男なら大歓迎」

 

「ハハッ。それはうれしいね」

 

緊張感のなさを感じさせるやり取り。

しかしこれがS10地区前線基地に居る者らと便利屋「デビルメイクライ」を運営する者らとのやり取り。

決してふざけている訳ではない。至って真面目である事を彼ら、彼女らの為に敢えて言っておこう。

 

「なんだ、お前たちも来てたのかよ。先にパーティー会場に飛び込んでもよかったかもな、ルージュ」

 

「そんな事言いながらシーナ指揮官の事を心配してたではありませんか」

 

「あ、ちょ!そいつは言うなって!」

 

そしてこの二人…ネロとルージュもこの受付カウンターに集まる。

悪魔を狩り、そして悪夢を終わらせる者達。そこにもう一人、姿を見せる。

最もその者は悪魔を狩り、悪夢を終わらせる者ではない。

かつてはその歌で多くの者を魅了し、そして闇の中へと誘った。

だが今は違う。誰かを悲しませる歌はやめた。

それを封印し歌わなくなったとしても、手に携えた楽器が歌の代わりとなり闇を照らすのだから。

高層ビルから飛び降り、そして彼ら、彼女らに前に降り立つ一人の女性。

ドレスを身に纏い、そしてその手にはバイオリン

その女性の登場は突然ではあるがリヴァイルらを除く、シーナたちは身構える事をしなかった。

分かっていたのだ。

この女性がこの作戦が始まった時からずっとバイオリンを弾き、曲を奏でながらずっと支援していてくれた事を。

 

「貴女も参加する?」

 

「ええ。折角のお誘いを断る理由がございません。…あ、これは申し遅れました」

 

女性は片足を一歩後ろへと引きつつ軽く頭を下げた。

その立ち振る舞いは来ている服装も相まって、とても美しいと言えるほどに。

 

「魔界より参りました。私の事はセイレーンとお呼びください。この魂を諌める為、そしてこの悪夢を終わらせる為ならば幾らでも曲を奏でましょう」

 

集まるは最早悪魔が泣き出す程の力を持つ者達。

錚々たる面々を前にして、シーナはそっと笑みを浮かべる。

被った制帽のひさしをつまみ、軽くかぶり直すと彼女の表情は一転。

少女らしさが残る笑みは引っ込められ、指揮官としての顔が現れる。

 

「いい加減悪夢は見飽きたし、パーティーもお開きにしないと。悪ノリする参加者らには退場してもらわないとね」

 

それはパーティーを終わらせる為の台詞。

悪魔を狩り、悪夢を終わらせる者達はそれを合図に動き出した。

 

 

花畑付近でアブノーマルのリーダー格とその取り巻きと激闘を繰り広げるゲーガー、ランページゴーストの三人。そしてモンドラゴン、XM16の援護によりリーダー格にダメージを与えられたのは良いものの状況は平行線をたどる一方だった。

それどころかイグナイトトリガーを発動させ、例の大技を行った影響で魔力による回復が追いつかないアナの体は限界寸前まで来ていた。

 

「くぅ…ごほっ…!」

 

何度目になるのか、吐血するアナ。

絶刀 天羽々斬の刀身を地面に突き刺し、片膝をついてしまう。

 

―嬢ちゃん!一旦下がれッ!!こんなところでくたばっても何の意味もねぇぞ!!

 

蒼が叫ぶ。

自身も魔力の制御に忙しい為、援護どころではない。

現状限界寸前であるアナに対して下がる様に言う事しか出来なかった。

 

「ま、だ…大丈夫です…。私は行けますから…」

 

―ッ…!!テメェ!ざけんじゃねぇぞ!!!自分の状況が分かんねぇ訳じゃねぇだろ!!

 

それでも立ち向かおうとするアナに対し、耐え兼ねたのか蒼が声を荒げる。

 

「そんなの分かって、います…!!でもここで私が下がってしまえば、皆、が…!!」

 

歯を食いしばりながら、相手を睨みつけながら天羽々斬を杖にしながらアナは立ち上がる。

 

「蒼…貴方が心配してくれているのは良、く分かって、います…!でもッ…!!」

 

―それでもだ!ここでくたばるなんぞ承知しねぇぞ!!嬢ちゃんにはまだやる事があんだろうが!!

 

「!……蒼」

 

―茨の道だと分かってても描いた未来があんだろうが!!その描いた未来を嬢ちゃん含めた皆で実現させんだろ!?それをほっぽりだして一人先にくたばるなんざあいつらが許しはしねぇぞ!

 

描いた未来を実現する。

それはS10地区前線基地にはできない事と言えよう。

アナが属する基地だからこそ目指せる目標。

それをどうやって知ったかは分からないが知り得た蒼はここでアナが倒れる事を良しとするつもりなどなかった。

 

「分かっていますとも…貴方に言われなく、ても分かっています…!」

 

それでもと彼女は立ち上がり絶刀 天羽々斬を引き抜き構える。

しかし最早限界が来ているのか視界がぶれ、アナの体がふらつき始める。

 

―嬢ちゃ…!しっ…りしろ…おい!!気をつよ……て!

 

蒼の声が段々と遠くなる。

気を強く保とうにも体が言うことを聞かない。

それを見逃さなかったのか、アブノーマルの一体が振り上げた大鉈をアナの頭目掛けて振り下ろそうとした瞬間であった。

まるで五月雨を彷彿とさせるかのように群青色に輝く無数の刀が味方と敵の間に割って入る様に降り注ぎ、地面を突き刺さった。

 

「青い刀だと…?」

 

突然として起きたソレ。ゲーガーやモンドラゴン、XM16にとっては初の事かも知れないが、ランページゴーストの三人にとっては見慣れた光景と言えよう。

 

「ハッ…どんだけ待たせる気だよ、ったく…」

 

「ノア?」

 

「安心しろ、ゲーガー。こんな事出来んのはあいつらしかいねぇよ」

 

「あいつらだと?」

 

その問いに対しにやりとノアは笑みを浮かべる。

そう。こんな事をできるのはあいつらしかいないのだ。

 

「悪魔を狩る連中のお出ましさ」

 

そのセリフと同時にバイオリンを持った少女、セイレーンが、悪魔の右腕を持つネロが彼女らの前に飛び出し、アブノーマルの攻撃を防いでいく。

そして大剣を背に背負った赤いコートの男がゲーガーの前に降り立ち、手にした二艇の大型拳銃を構え、アブノーマルへと向かって高速連射。

当然放たれる弾丸は大鉈の剣幅で防がれるも彼は全く気にしない。

 

「美女を苛めるなんざ紳士のやる事じゃねぇな!」

 

それどころか笑みを湛えたまま軽口をたたきながら、マシンガンの如く二艇の大型拳銃『アレグロ&フォルテ』を連射しアブノーマルを動きを封じていく。

ブレイクがゲーガーの前に現れた一方、RFBもまたアブノーマルと戦闘を繰り広げていた。

どうにかしているものの相手を殺さないようにするのは中々に至難の業と言えよう。

 

「そっちにブレイクか…こっちに誰か来てくれると嬉しいんだけどさ!」

 

「でしたら私が」

 

「え?」

 

RFBの前に突如として現す一人の少女。

白色のケープコートを揺らめかせ、凍てついた翼を前面に展開した状態でアブノーマルの前に立つ。

冷気が漂う中、アブノーマルの攻撃が彼女に迫る。

だがその氷に何かを感じ取ったのか、アブノーマルは攻撃を中断し素早く後退。

 

「…触れたら不味いという事を勘で避けましたか。恐ろしい相手ですね」

 

前面に展開したコキュートス・プレリュードの羽を元の位置へと戻すルージュ。

 

「ですがこちらも手を抜く訳にはいきませんので…」

 

コキュートス・プレリュードが呼応する。

体の各所から桜色の炎が浮かび上がり、ルージュの片眼からは青黒く変色し光彩を放ち始める。

コキュートス・プレリュードを得た事のよりできるようになったもう一つの姿。

彼女だけの銃爪、コキュートス・プレリュード:mode Dが姿を見せる。

 

「逃げられるとは思わないでください」

 

ファイティングポーズをとるルージュ。

どうやら大鎌を使用せず、素手による殴り合いでアブノーマルとやり合うつもりであった。

 

「まだ行けますね?RFB」

 

「…もちろん!」

 

次々と現れる悪魔を狩る者達。

見え始める希望。だが忘れてはならない。

こいつが居なくては全員揃ったとは言わないのだ。

 

「…」

 

「ギルヴァさん…」

 

アナの横に並び立つ男、ギルヴァ。

その後ろからシーナが歩み寄る。

 

「…少し休んでいろ。シーナ、任せるぞ」

 

「分かった。近づいてくる敵が居たら止めたらいいんだね?」

 

「ああ」

 

上手く立つことのできないアナを支えるシーナ。

そしてギルヴァは前にいるアブノーマルのリーダー格へと向かっていく。

その背を見つめるアナ。すると蒼が口を開いた。

 

―やっとお出ましか。…嬢ちゃん、ちょいと俺と交代しようか

 

(蒼、一体何を…?)

 

その問いに答える事もなく、蒼は行動を起こす。

そしてアナの前に姿を現すのは魔人化したギルヴァの姿を模した蒼。

ただその手には同じ形をした二振りの大剣が握られていた。

ちらりとアナへと見やると、左手に持っていた大剣を彼女へと投げ渡した。

 

「幻影が俺の記憶を勝手にのぞき込んで作り上げたものさ。ご丁寧にギルヴァと嬢ちゃんの分を作ったみたいでね」

 

大剣を肩に担ぎながら蒼は言葉を続ける。

 

「俺が持っていた得物じゃないが…その大剣の元になったそれは魔界のどこを探しても代物さ。面白い事にそれは大剣にも、槍にも、鎌になるもんらしい」

 

「…では何故貴方の記憶に?」

 

「見たことがあるからさ。性能は本物と比べると劣るがそれでも悪魔をぶちのめすなら十分でね。名前は忘れてしまったが……記念に取っておきな」

 

伝えるだけ伝えて、蒼はギルヴァの後を追う。

そして横に並び立つと彼へ話しかける。

 

「全く随分と無茶するぜ、あの嬢ちゃんは」

 

「その様だな」

 

リーダー格を見つめるギルヴァ。

肩に担いだ大剣を下ろし、構える蒼。

 

「ここまで来たら今更遠慮することはねぇだろ?」

 

「ああ…」

 

その問いに答えた瞬間、ギルヴァを中心に魔力の暴風を放たれた。

人から魔へ。

現れるは一体の悪魔。その手に刀を携え、悪魔は静かに構える。

ギルヴァがデビルトリガー発動をさせた事を気付いたネロは右腕の力を用いて同じデビルトリガー発動。

それに続く様にブレイクが人差し指を立てながら天へと向かって伸ばしながら叫んだ。

 

「こっからが本番ってな!」

 

現れるは赤い悪魔。

ここから始まるは悪魔舞踏。

さぁ踊ろう。最初の最後で織りなす狂った悪魔とのダンスを。




遅れてすみません。仕事とか色々あってね…。

という訳で、悪魔狩人+蒼+αがランページゴーストの援護に入ります。

一応蒼がアナさんに渡した大剣の紹介

:魔力で出来た大剣
幻影が蒼の記憶を勝手にのぞき込み、再現した大剣。
蒼曰く魔界のどこを探しても見つからないとされるものらしく、大剣であり、槍にもなって鎌になるらしい。ただ名前は忘れてしまったとの事…

さて、この後はどうなるか…


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Act227-Extra Those who end the nightmare Ⅸ

─幕引きには謎が付きもの─


ギルヴァの介入により間一髪のところでアナを救い、そのままランページゴーストを援護する形でアブノーマルのリーダー格を激闘を繰り広げる悪魔狩人達。

倒したとしても再び蘇る特性を持つ相手との戦闘は長時間に及ぶだろうと誰しもが思っただろう。

しかしてそんな予想はあっけない形で幕が引かれるとは誰が思うだろうか。

 

「ここまでか…。咎人を裁けなかったのが無念だったが、すぐに裁けなかった我らの落ち度故、仕方あるまい…」

 

魔人化を果たしたギルヴァとその姿こそは仮であるが剣の実力はギルヴァと同等か、或いはそれ以上と言えるだろう蒼の二人を相手にしていたアブノーマルのリーダー格が何か感じ取ったのか体を震わせた直後に突如として攻撃の手を止めた。

何かをするつもりだろうかと身構えるギルヴァと蒼。

しかしアブノーマルのリーダー格は攻撃を仕掛ける様子すら見せず、それどころか手にしている得物を自身の体に勢い良く突き立て、地面へと崩れた。

 

「自害か」

 

「…戦力的な不利じゃなく、目的を果たせなかったが故のだろうけどな」

 

その行いを静かに口にするギルヴァの隣でアブノーマルのリーダー格が自害した意味を察した蒼が告げる。

地面に倒れ伏せたアブノーマルのリーダー格は何もなかったかのように静かに消え去っていき、それに合わせる様にブレイク、ネロ、ルージュ、セイレーンらと相対していたアブノーマルが次々と自害し消失していく。

 

(これだけ振り回しておいて、最後は自害か。…やってくれる)

 

手にした魔力で錬成された大剣を肩に担ぎながら、蒼はアブノーマルのリーダー格が倒れた場所を見つめる。

地が赤く染まる事すらなければ、大男が手にしていた得物や羽織っていた血濡れのコートすらその場には残っていない。

幻覚でも見せられていたのかと疑いたくなるほど、アブノーマルの欠片は何一つ残っていなかった。

緩やかに吹いた風によって例の花が揺れる。そんな中で蒼はアブノーマルが言っていた言葉を思い出す。

 

(俺らの事を咎人、か…。…神様に代わって裁きをってかね)

 

薄っすらと灰色に染まった空を見上げる蒼。

緩やかに吹いている風もあってか、雲と雲の間から青い空が垣間見えていた。

 

(…狙いは"あのお嬢ちゃん"に似た『誰かさん』だろうな。そういや、アイソマーもその誰かさんに似ていた気がするが…)

 

そこから蒼は何も言わなかった。

何故ならその台詞は"ただの予想"でしかないから。

ただアブノーマルが蒼の言う『誰かさん』に似ている気がするアイソマーを狙っていた様な気がしなくなかったからだ。

だが何でもかんでも見通せる力が蒼にある訳ではない。

あのアブノーマルが何を狙っていたのかなど直接相手に聞かない限り蒼には分かるはずもないのだ。

 

(ま…答え合わせはどうでも良いさ。その役目はとっくに終わってるだろうしな)

 

肩を竦め、蒼は魔人化を解き、無銘の刀身を鞘へと納めているギルヴァへと歩み寄る。

 

「そろそろ限界だから、そっちに戻るぞ?」

 

「ああ。…!」

 

無銘の刀身が鞘に収まった時だった。

何かを察知したのかギルヴァが伏せていた目を開き、顔を上げた。

その表情は何処となく驚いているようにも見え、蒼が首を傾げる。

 

「おい?どうした?」

 

「…何でもない」

 

「?」

 

そう言うギルヴァに蒼は首を傾げる。

しかし魔力の消耗が激しい事もあって、蒼はそのまま姿を消しギルヴァの中へと戻っていく。

そこに広がるは群青色の満月が浮かび上がる夜空。

広がるは大海原。そして水面に映るは月光が描き出す一本の道。

これはギルヴァが保有する魔力量を現したものであり、普段から蒼が見る世界だ。

いつもと変わらぬ光景だと思われていた。

しかし蒼の視界に広がる光景は普段と違っていた。

 

「…水面に花?」

 

蒼が普段見ているこの世界に花など咲いていない。

しかし水面には確かに花が咲いていたのだ。それも白い花が点々と。

 

「おまけにこの花…"例の花"じゃねぇか。本物じゃないみたいだが、なんでこんなものが…」

 

辺りを見渡した時、蒼は月光が水面に描いた月の道の真ん中に佇む誰かを見つける。

月光に照らされながら佇むその人物のシルエットは女性の様にも見える。

その姿は蒼からすれば何処か見覚えがあった。

どういう事だと思いながらその人物の元へと歩み寄る蒼。

すると彼が歩み寄ってきていることに気付いたのかその人物はゆっくりと振り向いた。

 

「おいおいおい……冗談だろ!?」

 

その人物を見て、蒼はただ驚く事しかできなかった。

 

「なんで…ここに居るんだ!?」

 

果たして蒼が見たものとは──

 

 

作戦が終了し蒼が衝撃的な事と遭遇している一方でギルヴァは少し離れた所で一人でいるアナの元へと向かっていた。

彼が彼女の傍にまで近づいていた時は丁度幻影を握り締め、見つめている所であった。

ゆっくりと歩み寄り、そしてアナの隣に並ぶとギルヴァは無銘を杖の様にして立て、その場で佇んだ。

隣に立つ彼を見つめるアナは何も言わず、ただ待つ。

それが数分程経過した時だった。沈黙を破ったのはアナの方だった。

 

「…何も言わないのですね」

 

「言ってほしいのか?」

 

「いえ…」

 

再び沈黙が訪れる。

普段ならここで蒼がギルヴァにアドバイスを飛ばしたりするのだが、現在本人はそれどころではない事と遭遇しているので、出てこれない。

訪れた沈黙にはアナにとっては若干の気まずさが混ざっていた。

 

「…無茶していると分かっていた。下がらなくてはいけないと思った。蒼の忠告を聞かなくてはならなかった…だけど出来なかったんです」

 

「…」

 

「分からないんです…。あの時の私は一体何だったのか…」

 

深刻そうにアナは幻影の鞘から少しだけ刀身を引き抜き、見つめる。

それを見て、ギルヴァは静かに口を開いた。

 

「失ったからこそ、これ以上失うまいと必死に抗う…奴はそう言っていたか」

 

「?」

 

「俺の言葉じゃない。…ブレイクの言葉だ」

 

「ブレイクさんが…」

 

「ああ。…その力はくれてやった。そして俺の予想を覆す形で、貴様は貴様だけの力を得た。だが…それだけで良しとしないのであれば──」

 

伏せていた目が開かれ、青い瞳が鋭い眼光となってアナを捉える。

 

「欲するがいい。貴様が望む『力』を」

 

「私が望む『力』…」

 

「…今答えろとは言わん。だが貴様が欲する『力』が決まった時、頼れ。俺が持つ技を教えてやる」

 

「!」

 

ギルヴァが持つ技。

それは無銘だけではない。

雷撃鋼『フードゥル』、魔力の大太刀『ツムガリノタチ』、幻影刀、エアトリック…そしてデビルトリガー。

それら全ての技を教えるという事を意味していた。

当然ながらギルヴァだからこそ出来る技ばかりで人形がそれをやれば…まず内部骨格が持たない。

それは幻影を託された時から、幻影が持つ特性『使用者の身体能力を向上させる』によって振り回された事があるアナでも分かる事であろう。

 

「話は終わりだ。戻るぞ」

 

「…はい。ッ!」

 

歩き出したギルヴァについていこうと立ち上がるアナ。

だがあの時のダメージは残っていたせいか、彼女は転倒しそうになる。

この時、ギルヴァは背を向けていたのだが、まるで分かっていたかのように反応し素早く転倒しそうになるアナを抱きとめると、そのままお姫様だっこする形で彼女を抱えた。

 

「ギ、ギ、ギルヴァさん!?」

 

流石にこればかりはアナも驚きを覚えるだろう。

言葉をつかえながらも、彼の名を叫ぶ。

しかし本人は普段と変わらない表情のまま彼女を抱えたまま歩いていくのみ。

 

「大人しくしていろ。自身の状態が分からん程、阿呆ではあるまい」

 

「し、しかし!」

 

「諦めろ。既に見られているぞ」

 

「…!?」

 

その台詞に固まるアナ。

そして首を恐る恐る動かし、ギルヴァが向いている方向へと視線を向けるとそこにはニヤニヤと笑みを浮かべるブレイクやノア、ネロ。そしてその光景に唖然とする他の面々。

最早逃げる術はない。それを悟り、遠い目をするアナにギルヴァが追い打ちをかける。

 

「それと後日、そっちの基地に向かう。俺からの説教はその時だ」

 

「…え」

 

基地に戻ったら説教があるというのに、更なる地獄が宣言された事に再び固まるアナであった。

 

 

一方、その頃。

ヨルムンガンドを操縦するジンバックはタリン市内にある、とある場所にヨルムンガンドを止めていた。

特殊部隊の面々は拠点の方で待機しており、今いるのはジンバックとダレンと、そしてリヴァイアサンから降り、ラヴィーネを外したネージュがいた。

 

「ここみたいじゃな」

 

「ええ。シーナが言っていた廃工場。確かアイソマーを助け出した場所でしたね?」

 

「うむ。どうやらここの地下にある、とある物を回収してほしいといっておったが…」

 

廃工場内部へと足を踏み入れる三人。

一見すれば何もない廃れた工程内があるだけなのだが、ダレンがある事に気付く。

 

「どうやらシーナは地下でアイソマーを見つけたそうじゃの」

 

「ああ。地下へと通ずる扉を開けたそうだな」

 

「…何もないとは言えん。全員、警戒は緩めん事じゃ」

 

ダレンの台詞に二人は頷き、彼女らは地下へと足を進める。

暗闇が支配し、埃が漂う。そんな空間に居ながらも微動だにしない三人はどんどん先へと進んでいく。

そしてシーナがアイソマーを見つけたとされる場所へ到達した時、ダレンはニヤリと笑った。

 

「成る程のう…」

 

咥えた煙管を吹かしながら、ダレンは笑みを浮かべた。

その隣でジンバックが部屋全体を眺めながら、口を開く。

 

「見る限り…破棄された武装ユニットみたいですね。個人携行火器に加え、幾つかは大型みたいですが」

 

「みたいじゃなの。…じゃが持って行ってはならんとは誰もいっとらんじゃろう?」

 

ダレンが浮かべる笑みはそれは正しく『悪魔』そのもの。

 

「己の未熟さを呪うが良いぞ、パラデウスよ。お主らは今、ワシらに戦力を与える愚行を犯したぞ?」

 

この後、そこに破棄されていた武装全てはヨルムンガンドの荷台に積まれることになる。

パラデウスが作り出した兵器が、よもや敵によって運用される。おまけに魔改造されるという結末付き。

そんな皮肉を思い知るのはいつか?それを知るのはこの世界を統治する『神様』だけかも知れない。

 

 

タリンから約数キロ離れた仮拠点では、今回参加した面々は事後処理に追われたり、休息を取ったりなどをしており、S10地区前線基地の面々とリヴァイアサンにパラデウスが破棄した武装を荷台に積んだヨルムンガンドの姿もそこにいた。

ヨルムンガンド内にある簡易厨房にてシリエジオが淹れてくれたコーヒーを参加した面々に配られる中、肩にグリフォンを乗せ、傍にシャドウを同行させながらシーナはある人物を探していた。

 

「あ、いたいた。今、良いかな?RFB」

 

「シーナ指揮官?」

 

彼女が探していた人物。

それはランページゴースト所属のRFBであった。

シーナが彼女を探していた理由はただ一つ。

後方幕僚であり、魔工職人であるマギーからある言伝を頼まれていたからであった。

この後も色々回らないといけない為、すぐに伝えるつもりだったシーナだったがRFBの表情を見て、少しだけ話をしようと思った。

それはグリフォンも気付いたらしく、シーナへと話しかける

 

「ネェちゃん、良いのかよ?ほかにも当たるトコあんだろ?」

 

「良いの。少し話すだけだから」

 

「ふーん…まぁ俺には関係ねぇし、ネコちゃんと一緒にサーヴァントの中に潜ませてもらうぜ?」

 

「うん、わかった」

 

シーナの許可が下りるとグリフォンとシャドウは自らの体を影へと変え、サーヴァントの中へと消えていく。

どうしたんだと首を傾げるRFBにシーナはごめんね、と謝りながらRFBの隣に立つと口を開いた。

 

「貴女の表情を見たら分かる。…私も全員助けられなかった事を悔やんでる」

 

「!…分かるんだ」

 

「まぁね。…ただ今回の作戦で助ける事が出来なかったアイソマーが一割。けどこの作戦が行われる前に命を落としたと思われるアイソマーの数を考えると正直一割どころか、三割以上のアイソマーを助ける事が出来なかったと私は判断している」

 

「…」

 

「まぁそんな事を言っても私はただの人間。逆立ちしたところで神様なんかにはなれない」

 

表情を暗くするRFBに対してシーナは軽く肩を竦める。

今の今までパラデウスという存在やアイソマーの存在すら知らなかったのだ。

知らないと言うのに、どうやって助けろというのか。

そんなものは神様にでもならない限り、出来ない話と言えよう。

 

「…ただせめての償いに、ダレンさんと一緒に基地内部に彼女らの墓を建てるつもり。何か思うことがあれお参りに来てあげて。優しい貴女が来てくれたら…きっと喜ぶから」

 

「…」

 

答えは返ってこない。

だがシーナは無理に答えを返してもらおうとは思っていない。

その答えはいずれ分かる事なのだから。

 

「ま、ちょっとした話はここまでとして。…RFB、マギーさんから伝言」

 

「マギーさんから?」

 

「うん。マギーさんから貴女に託した『R.ガード』について少しね。…あの人が言うにはR.ガードが持つ『リヴェンジ』はどうやら最初の計画段階では大型の狙撃砲にさせるつもりなんて無かったみたい」

 

「そうだったんだ?」

 

その問いにシーナは聞いた限りではねと答える。

 

「最初の計画段階だと、盾が変形し鎧になる予定だったみたい。けど貴女にはあのスーツがある。その事が発覚すると急遽仕様を変更し今に至る訳。で、ここからがマギーさんからの伝言」

 

被っていた制帽をかぶり直し、体をRFBへと向けるシーナ。

先ほどの表情から打って変わり、真剣な面持ちを浮かべ真っ直ぐな視線がRFBを捉えていた。

 

「もし貴女が望むのであれば、その『力』を望むのであればR.ガードに機能を追加する事も可能です。…これがマギーさんからの伝言」

 

「!」

 

「それじゃ私は伝えたから。後は貴女自身が決める事。ゆっくりでいいから考えといて」

 

マギーからの伝言をRFBに伝えるとシーナはその場から離れる。

 

(さて…次はリヴァイルさんか)

 

行き交う人々の間を抜けながら、シーナは作戦終了後にリヴァイルが言っていた事を思い出す。

あの北蘭島事件を起こした少年、■■■の腹違いの弟…それがリヴァイルなのだと。

世界を汚した者の弟として、この世界を戻す事を宣言すると彼は言っていた。

 

「とんでもない秘密を知ってしまったね…。流石に予想していなかった」

 

苦笑いを浮かべながら、彼女は歩みを進めていく。

そしてようやくリヴァイルがいる場所にたどり着くと、偶然にもそこにはギルヴァも居た。

 

「ギルヴァさん?何でここに?」

 

「お前と同じ理由だ。俺も奴に用があってここにきた」

 

「そっか。…先に私から伝えても?」

 

「構わん」

 

分かった、と答えシーナはリヴァイルへと歩み寄る。

そして制服の懐からある物を取り出し、そっと差し出した。

 

「これを」

 

「これは…弾丸?」

 

リヴァイルの言う通り、シーナの手のひらにあったのは六発の弾丸だった。

ただどういう訳か、その弾丸は青白く染まっており、薄っすらと妖気なようなものを放っていた。

 

「見てくれは普通の弾丸ですけど…実はこれは敵に着弾すると一時的に動きを緩やかにさせる力が封じ込められています」

 

「と、言うと…?」

 

「分かりやすく言えば敵の動きを緩やかにするんです。それも止まっているかのように見えるレベルのものを」

 

「!…いいのか?」

 

「まぁあの状態になれば、あの子が勝手に作ってしまいますからね。良ければ使ってください」

 

それを渡すとシーナは手にした端末を動かし、操作。

そこに映ったのをリヴァイルへと見せる。

画面にはダレンが即席で作り上げた破棄された武装のデータが記載されている。

 

「これらの武装はこちらで回収、解析。改造を施した後に幾つかをそちらに渡すつもりです。それとこちらのデータは…パラデウスのシンパと思われる者のリストと現在地を記したデータ、それとS10地区前線基地の連絡先を先ほどそちらに送信させていただきました。まぁ…これらに関してはダレンさんが勝手やったんですけどね」

 

「ああ。了解した」

 

「以上がそちらに伝えたかったものです。…それとここからは個人的な秘密を一つ。最も貴方の事と比べると大した事ではありませんが」

 

「?」

 

笑みを浮かべながら、シーナはリヴァイルを見つめる。

相手がとんでもない秘密を明かしたのだ。

大した事ではないにしても、自身もまた明かすべきだとシーナは判断していた。

 

「今から五年前…当時14歳だった私は、とある理由をきっかけに一夜で五十人以上の命を奪いました」

 

二月十四日。

それは復讐者の物語。バレンタインデーが血に染まった悲しき物語。

たった一人で全てをやった訳ではなくとも、その中心にシーナ・ナギサが居た事は間違いないだろう。

 

「…殺しが必要でしたら私は赴きましょう。悪魔を狩るのが彼らであり、彼女ら。ならば私は悪魔へと成り下がった人間を狩るのが役目ですから」

 

「シーナ指揮官…」

 

「…それじゃあ私はここで。またお会いしましょう、リヴァイルさん」

 

制帽を深く被り、一礼するとナギサはその場から去っていく。

一人残されるギルヴァであったが、彼もこの場に長居するつもりなどなかった。

リヴァイルに伝える事はただ一つだけしかないのだから。

 

「…『彼女』は生きているぞ」

 

「どういう意味だ?」

 

「言葉通りと言いたいが、そうではない。どうやら精神のみの存在として俺の中で生きている」

 

「それがお前の言う彼女らしいが…その彼女とは一体…?」

 

その事を問われたタイミングでギルヴァはリヴァイルに背を向け、歩き去ろうとした。

咄嗟にリヴァイルが呼び止めようとする直前に、ギルヴァは足を止め振り向くことはしないまま、リヴァイルの問いに答えた。

 

「…貴様が救おうとしていたのは誰か。それを思い出せば答えは分かる」

 

それだけを言い残してギルヴァはその場から去っていた。

こうしてタリンで起きた大規模作戦は幕を閉じる事となる。

シーナらもこのまま基地へと戻っていった訳であるが、どういう訳かシーナの影に今回の作戦で密かに支援していた悪魔『セイレーン』が住み着いてしまうのだが、その話はまたの機会に話すとしよう。




という訳でこちらも幕引きです。
と言っても後日談もあるのでもうちょい続くかな。

ここでリヴァイルに渡したものと明かしたものを軽く紹介。

:青白い弾丸
時を操る力を持つ「ゲリュオン」の力が偶然にも封じ込められた40口径の弾丸。
敵に着弾さえすれば、敵の動きをまるで止まってる様に見えるレベルで一定時間制限できる。
ただし弾丸は6発しかないので、使いどころは見極める必要がある。

:破棄されたパラデウスの武装
シーナがアイソマーを助けた際に発見した破棄された武装。
S10地区前線基地によって回収され、後に解析、改造にされる予定。
解析は済んでないのでどのような武装があるかは不明だが、解析と改造が終了したらリヴァイルの所へ幾つか送られる事になっている。

:『彼女』は生きている
ギルヴァがリヴァイルに伝えた台詞。
彼曰く精神のみの存在となって何故か自身の中で生きているらしいが…果たして『彼女』とは一体?

まぁ色々ありましたが…。
主催様ならびに今回参加した皆様、お疲れ様でした!

では次回ノシ


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Act228 Remodeling&prayer&Oath

─問題を抱える事はこの基地にとっては最早日常茶飯事


タリンで起きた大規模作戦。

謎やら爆弾発言やらが飛び交いながらも作戦は終了し、シーナが率いるS10地区前線基地のメンバー及び特殊遊撃部隊『ブラウ・ローゼ』、便利屋「デビルメイクライ」の面々は基地に帰還。

それから事後処理や持ち帰って来たパラデウスが破棄した武装の搬入作業などに追われ、解析に取り掛かる事が出来たのは作戦参加から数日後の事であった。

 

「これはこれは…随分な数ですねぇ」

 

最早格納庫という括りから、武器庫へと化してしまった第一格納庫にてマギーはこの倉庫に収められた大量の武装を見つめながら、そう呟いた。

その言葉通り、この第一格納庫は最早溢れんと言わんばかりに武器や魔具らがこの格納庫に収められている。

火力だけで絞ると下手すれば正規軍ともやり合えるかも知れないであり、それを可能とするモノがこの格納庫にゴロゴロ転がっているとなればそれを想像するもの容易と言えよう。

とは言え、その話はこの格納庫の中を覗いたらそう考えてしまいそうになるだけで、実際にこの基地が正規軍に喧嘩を吹っ掛けようとはしないだろう。そんな事をしている暇などまず無いのだから。

 

「マギー、優先的に済ます様に頼まれた武装の解析が終わったよ」

 

「ご苦労様です、ソルシエール」

 

肩を回し疲れた表情を浮かべながらもソルシエールは解析データが収められた専用端末を大型ディスプレイへと繋ぎ、コンソールパネルを操作。

今回優先的に解析を済ませたいくつかの武装はリヴァイルへと送る為のもの。

それを優先するようにソルシエールへと指示したのはそれが理由であった。

 

「それじゃまず一つ目から行こうか。初っ端から派手なものだよ」

 

「ほう?それは楽しみですね」

 

「あはは…想像していた通りの反応ありがと」

 

子供の様に目を輝かせるマギーを見て苦笑いを浮かべながらソルシエールは一つ目の武装をディスプレイにへと移す。

映し出されたのは、携行火器としては大型の部類に入る重火器と背部ユニットに増設されたアームを介して装備されたバインダーの様なものが装備された武装。

当然の如く装甲は白色で染められているが所々内部がむき出しとなっており、未完成品であり破棄された装備の一つである事は言葉にせずとも分かる。

 

「正式名称は不明。光学兵器である事は間違いなく、携行火器のコレと両肩に配置されたバインダー内部に二門の砲がそれに該当する。残されていたデータから読み解くとパラデウスが生み出した兵器『ガンナー』に装備させる予定だったみたいだ。大型故に取り回しが悪いのもあるんだけど…破棄された理由はこいつを最大出力で放った後にやってくるパワーダウンが主な理由らしいね。どうやら偏向障壁すら消失させてしまい、しばらくの間展開できなくさせるほどに燃費が悪い。その分、最大出力で撃った際の威力は山一つ吹っ飛ばす事なんて難なくやってのけられる」

 

「ふむ…。手を加えるとするのであれば、最大出力で放った直後のパワーダウンですね。後は…」

 

「バインダー自体を取り外し可能にし、同時にバインダーを可動させ盾の様な役割を持たせるべきと思う。つまりは携行火器としても運用可能とし、シールドとしても使えるようにする。けど装備全体が重量があるから、専用の外骨格を新しく作り上げるべきか、或いは向こうにその問題をぶん投げるかのどちらかかな」

 

「となれば中々の作業になりますね。最もこれからお披露目になるものを加えると下手すれば一週間は寝れませんね」

 

むしろ一週間で終わらす気なのかと言いたくなる様な台詞が飛び出し思わずソルシエールは表情を引き攣らせるも、あえて問わず次のものを表示する。

次に出てきたものは大型と言えるが、先ほどの光学兵器とは違いそれは実弾が用いられる装備だった。

 

「パラデウス製の実弾兵器。開口型の砲身を用いている辺り、見てくれはレールガンを彷彿させるけどその実は全くの別物。こいつは装甲を溶かす事の出来る高温度の熱量系砲弾を撃ち出す事の出来る兵器みたい」

 

「それが二門同時に放たれる…人形はおろか、重装甲を持つ兵器にとっては厄介な装備ですね。しかし何故破棄に至ったのでしょうか?」

 

「データを見た限りでは理由は分からなかった。僕の考えだと内部機構の複雑さからと思っている。解析の際に内部機構を見たけど、向いていないとは言い切れないけど少々手間がかかる感じみたいだからね。それでお蔵入りになったんじゃないかな?」

 

ディスプレイに表示されている内部機構の画像を見ただけでマギーもその複雑さを分かっていた。

しかし量産に向いていないかと言われれば、ソルシエールの言う通りそうでもない気がしていた。

 

「難点としてはまず連射が効かない。おまけに大型となれば取り回しが悪い。重量もあるから一体の人形に持たせても重量過多でフレームが悲鳴上げるだろうね」

 

「となると先ほどのものと同じく専用の外骨格が必要、と…。どうせですしこの熱量弾以外にも撃ちだせる様な機能を加えた良さそうですね」

 

「例えば?」

 

「そうですね…。フォースシールドや偏向障壁に使用されるエネルギーを砲弾に纏わせ射出。偏向障壁を難なく貫く機能ですかね?」

 

「出来るのそれ…?」

 

「まぁやろうと思えばやれますが」

 

当たり前の様に答えるマギーを見てソルシエールは思い出す。

今自分と話している相手は誰かを。

この基地に属しては数々の武器、魔具を製作し、普通では出来ないことを平然とやってのけている。

その姿こそは人であるが、その実は悪魔であり魔界にて伝説の魔工職人として名を馳せた人物である事をソルシエールは思い出す。

故に彼女が口にした案は彼女だからこそ出来るのだ。そこに不可能はない。

 

「そういうなら任せるさ。僕は手伝いをするだけだからね。それじゃ次に行こうか」

 

三つ目となる兵器がディスプレイに映し出される。

先ほどの熱量弾を撃ち出す兵器と比べるそれなりに大型であり、長い砲身が目を引く。

 

「種類に分けるとするのであればこいつはグレネード砲に該当する。性能もごく単純で二つの砲身から榴弾を放つ。まぁこれも例に漏れず、取り回しが悪い。そして再装填に時間がかかる。それにこれだけデカくすればコストがかかり、整備の劣悪性にも繋がる。使い捨てにするにはちょいと勿体ないからねぇ、これ」

 

「ですが使わないのも勿体ないですよ。…デストロイヤーが持つ榴弾砲ユニットを模したユニットを設計、製造して行きましょうか。この程度ならばそう時間はかかりませんから」

 

「そ、そうなんだね…。てか毎度毎度思うけど、素材って何処から持ち出してきているのさ?まさかとは思うけど…この格納庫と君の部屋以外にも工房があるのかい?」

 

それはソルシエールだけが気になった話ではないだろう。

彼女どころか、この基地にいる殆どの面々が気になっていたりする。

だがそれを尋ねようとはしないのは、結局のところマギーだから、という結論に至るのだ。

 

「一応本命となる工房はこの基地内にありますし、この基地以外にもありますよ?」

 

「え?基地以外にって…どこさ?」

 

そう尋ねられた時、マギーは小さく微笑む。

手に持った専用端末を操作し外骨格の設計図を描きながら答える。

 

「…私の出身地と言えばわかりますか?」

 

「君の出身地って……まさか!?」

 

思わず立ち上がりそうになるソルシエールを見て、マギーは人差し指を唇に縦に立て当てた。

それ以上はいけない。

言葉にせずともマギーが言っていることを察したソルシエールはゆっくりと椅子に腰かけ、頷く。

 

「特に害がある訳はありませんからね。ただちょっとそっちと繋げて素材を持ち出しているだけに過ぎませんし。それにあそこは私しか知らない場所にありますから」

 

「それを聞いて安心していいのか良くないのか分からなくなってきた…」

 

「ふふっ…私から言わせれば心配する事は何一つないと言っておきましょうか」

 

さ、続きをと促すマギーにソルシエールは軽くため息を付きながら分かったと答え、コンソールパネルを操作していく。

これで四つ目となる兵器が画面に映し出されるがこれまでのとは違い、どうやら近接武器の様であった。

その形状は大太刀を彷彿とさせ、収める鞘は一言でいえば大太刀の大きさに反してやたら大型かつ頑丈に作られている。その見た目は鈍器としても利用できそうに見えるほどに分厚かった。

 

「分かりやすく言えば近接武器。大太刀に鞘という組み合わせはこの基地では知れたものだろうさ。ただ刀身を収めた状態の鞘は鈍器として扱える一方で面白い事に鞘内部に偏向障壁を発生させる装置が組み込まれているという代物。さらに偏向障壁と同等のエネルギーが刀身に纏わせれば、偏向障壁を切り裂く事が出来るという優れものさ」

 

「おや…となればこれをベースに先ほどの熱量弾を撃ち出す兵器に組み込むことが出来そうですね」

 

「だろうね。問題はどうやってとなるけど…まぁそこは君に任せるさ。で、これが破棄された理由は単純明快。遠距離攻撃が主体なのにわざわざ接近戦する必要はないから」

 

「でしょうね。一目見た辺りから予想はしていましたが」

 

そう答えながらもマギーは画面に映る大太刀を見つめる。

指を顎に当て考える素振りを見せるマギーにソルシエールはどうしたのだろうかと首を傾げる。

考え出して数分が経つと構えが解かれ、マギーはソルシエールにへと告げる。

 

「この武器はこちらで置いておきましょう。近接武器より遠距離武器を向こうに渡した方が良さそうですし」

 

「良いのかい?」

 

「苦情が飛んで来たら対応しますよ。…とりあえずこの大太刀を除きこの三つの武器を優先的に修理、改造を行います。ソルシエール、これらはいつもの様に工房に。手早くかつ丁寧に仕上げますよ」

 

「了解っと」

 

椅子から立ち上がり、腰に提げた工具ベルトから工具を取り出し歩き出すソルシエール。

工房へと歩き出すマギーの隣に並ぶとソルシエールは笑みを浮かべた。

口角を吊り上げ、工具をガンスピンの如く回転させながらソルシエールは嗤いながら呟いた。

 

「さーて、腕がなるねぇ…」

 

伝説の魔工職人と技士は笑いながら感謝した

面白いものを残してくれたパラデウスへと。

 

 

伝説の魔工職人と技士による魔改造が行われ始めた一方で基地にいくつかある内の一つの地形変動型訓練ルームに指揮官であるシーナとダレンは居た。

基地が稼働した当初から経年劣化により使用が不可となったこの地形変動型訓練ルーム。

長い時を経て、一人の魔術師によって生まれ変わろうとしていた。

 

「では始めようか」

 

部屋の中央で真剣な面持ちでダレンがそう口にするとシーナは静かに頷く。

今からダレンはちょっとした風景を作ろうとしていた。

しかし何故それをしようとしているのかはここに居るダレンとシーナだけにしか知らない。

 

「…全ては幻想。しかしてここは逝けぬ者の拠り所となり」

 

地面に手を当て、目を伏せると同時にダレンは静かに呟く。

同時に彼女の手を中心に光り輝く紋章の様なものが一つ、また一つとその大きさを変えていく。

 

「麗しき景色の下。此処に数多年の安らぎを」

 

紋章が地面全体に広がり、ダレンが言葉を言い終えた瞬間、部屋全体が光に包まれた。

部屋全体に広がった光。しかしそれは一瞬の出来事。

腕を上げ光を遮ったシーナは閉じていた目を開き、静かに腕を下ろすと同時に目を見開いた。

耳には聞こえるは川のせせらぎ。緩やかな風が肌を撫で、上を見上げれば青空が広がる。

周囲には幾つもの灯籠が規則正しく整列しており、鳥居を抜ければ部屋の中央に聳え立つしめ縄の装飾が施された桜の大木が来るものを迎える。

この世界において、それは今では決して見る事の出来ない光景。

決して本物ではないにしろ、それは来るもの全てに、眠る者すべてに安らぎを与える。

これがシーナがダレンに頼んだもの。

例の作戦と作戦以前に命を落としたアイソマーらの弔う墓であった。

 

「死んだアイソマーらの墓じゃ。せめて眠りの時だけは美しい景色の下が良かろうて」

 

「…うん」

 

桜の大木を見つめるシーナ。

すると彼女はそっと手を合わせ、静かに目を閉じる。

それに見習ってダレンも同く手を合わせると静かに目を閉じた。

込められるは祈り。そして安らかな眠りを。

誰にも阻害されることなく、只々この景色の下で眠ってほしい。

けれど言葉にしない。今この時だけは想いだけでいいのだから。

 

「…行こう」

 

「…うむ。これ以上は眠りを妨げる事になる」

 

桜の大木に背を向け二人はその場から静かに退出。

そのままエレベーターを用いて執務室へと戻る最中、シーナがそう言えばと口にし隣で立っていたダレンはん?と声を上げ首を傾げた。

 

「確かギルヴァさんは今日…S09P地区に行く予定だったよね?」

 

「だったらしいの」

 

「だった?という事は今日は行っていないの?」

 

「どうやら用事あるみたいらしい。その事から説教はまた後日になったみたいじゃ」

 

果たして説教を後回しにしてまでしなければならない用事とは何か。

当の本人ではないので、シーナはどうしたんだろうと首を傾げるのみだった。

 

 

そしてその本人であるギルヴァは店の屋上に居た。

近くの物置小屋に背を預け、腕を組みながら静かに沈黙を貫いていた。

そんなギルヴァに対し蒼が話しかける。

 

―全くあの万能者もやってくれるぜ。こっちであのお嬢ちゃんをどうやって安全な方法でリヴァイルの元に返すべきか必死こいて考えてたのによ。俺が考えていた時間を返してほしいぜ

 

「言うな。奴がお前と同じ状態となって侵入してきた時、俺とて何も感じなかった訳じゃない」

 

―だろうな。まぁ…あの嬢ちゃんを蘇らせたのはあの万能者だ。なら、そこから起きる事はあいつにぶん投げる。それぐらいの覚悟はしてるだろうさ

 

「ああ。…あとはお前の傍にいる"そいつ"か」

 

―ああ。こればかりは驚きを隠せねぇ。まさかお前の中に偶然にも飛び込んでしまったお嬢ちゃんが"一人"だけじゃねぇとはな…

 

伏せていた目を開き、ギルヴァは背を預けていた物置小屋から離れると何が起きていたのかを思い出す。

万能者によって『彼女』が蘇らせた。そればかりはギルヴァも蒼も察知していたのだが、更なる問題がギルヴァと蒼だけに降り注ぎ、リヴァイルや万能者の知らぬ所で発生していた。

ギルヴァはあの成長したアイソマーは一人だけだと認知していた。現に目にした蒼もその様に思っていた。

故にあの時感じた違和感とやらもあのアイソマーによるものだとギルヴァは考えていた。

だが違っていた。彼の中に潜り込んでしまったのは一人ではなかったのだ。

 

「…あの作戦起きる前に死んだアイソマー、か」

 

―それも成長したアイソマーというオマケ付きだがな

 

実は二人いたのだ。

一人はあの時蒼が出会った『彼女』であれば、もう一人は誰もがその存在を知り得なかった『彼女』だった。

 

「…そいつはなんて言っていた?」

 

―言うには体自体は成長していたらしい。ただある日突然体に異変が起きて気づけば肉体が滅び始め、成す術もなく命を落としてしまったみたいだ。ただ気付かない内に霊体みたいな存在になってしまったらしい。自分以外に成長した存在がいる事も知らず、むしろあの作戦で自分以外にも居た事に驚いていた。ギルヴァの中に身を潜ませたのは俺を見たからだとか

 

「それで今に至るか。…リヴァイルにどう伝えるべきか」

 

―実は二人目が居ましたでいいんじゃね?元々あいつはアイソマーらを救おうとしていたんだからな

 

「だと良いが。…今、そいつと話せるか?」

 

―大丈夫だ。寧ろお前と話したがってる

 

「そうか。代わってくれ」

 

―あいよ

 

彼女が出てくるまでの少しの間、ギルヴァはこれからどうしたものかと思案した。

一人目に関してはどうにかなったとは言え、二人目をどうやってリヴァイルの元へ戻すべきなのか。

そこで思い出すは一人目の彼女を蘇らせたあの人物を頼る事だった。

だがギルヴァのその考えを頭から追いやった。

 

(奴を頼る気にはなれん。ダレンからの忠告もある)

 

ギルヴァ自身があまり頼りたくないのもあるが、実の所、ダレンの忠告が頼りたくない理由の半数以上を占めていた。

こればかりはS10地区前線基地全員に対してダレンが告げたものであり、それを知るのは当然S10地区前線基地のメンバーのみ。

それもあって、ギルヴァは他の線を考えるも良い案は浮かばない一方であった。

 

(…そう簡単には浮かばないものか)

 

どちらにせよこの件に関してはギルヴァ一人でどうにかなる様なものではないのは明白。

マギーやダレンを頼ってみるべきだと判断した時に『彼女』が話しかける。

 

─えっと…その…

 

「…少しは落ち着いたか?」

 

―あ、はい。蒼さんが色々楽しい話してくれたおかげで

 

「そうか。…いずれリヴァイルの元に返す。不便かも知れんがその時までそこで大人しくしていてくれ」

 

―…はい。あ、でも話しかけてもいいですよね…?

 

「構わん。暇になったら話しかけたらいい。大した話は出来んがな」

 

―いえ…お話してくれるだけでも嬉しいので

 

「…そうか」

 

そこで会話が途切れる。

ギルヴァも彼女も何を話すべきなのかと思案するも良い話題が出てこない。

そんな時、彼女は尋ねた。ギルヴァにとっては二回目となるその問いを。

 

―名前…聞いていいですか?

 

「ギルヴァだ。…暫くの間、宜しく頼む」

 

―…はい!

 

別れはいつかやってくる。

その時はまだ分からずともギルヴァは密かに決意する。

彼女は必ず彼の元へ返す、と。




という訳で色々ぶちこんでおりますが…許してぇ。

また今回の話で今年最後の投稿となります!

では皆さん、よいお年を。
そして来年もよろしくお願いします。

では次回!


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Act229 Open connection

─開かれる繋がり─


あの作戦から数日が経ち、今もなおマギー及びソルシエールによる魔改造が行われている一方でギルヴァは珍しく外に出ており、町にある小さな図書館を訪れていた。

何千にも及ぶ書物に囲まれた静寂な空間はギルヴァにとっては実に好ましい空間と言えた。

とは言えこの図書館に訪れるのは今回が初ではない。

一時期通い詰めていた時期があり、店を開いた初めの事は彼はここで暇をつぶしていた事がある。

最近は大規模作戦などでそれどころではなかったので、この図書館に来るのは約数か月ぶりであった。

そんな数か月ぶりにこの図書館に訪れたギルヴァであったが、そもそもここに訪れたのは単に暇をつぶしに来たという訳ではない。

二人目のアイソマー…例の『彼女』よりも存在し、そして誰にも知られる事もなく命を落としてしまい、精神のみ存在となってしまった『彼女』の名前を付ける為にここに訪れていたのだ。

その事もあってギルヴァが手に取った本は植物図鑑やら花に関する図鑑やらが机の上に積まれていた。

 

「…」

 

ページをめくる音が微かに響く。

世界と隔絶された様な静寂の中でも捲る音は微かにしか響かない。

 

―沢山あるんですね…初めて見るのばっかりです

 

静かな空間、沈黙を貫くギルヴァに『彼女』が声を上げる。

それほど彼女にとっては図鑑に載ったそれは珍しいものだったのだろう。

だがギルヴァと彼女の傍で聞いていた蒼は思う。

自身の意思関係なくこの少女はあの隔絶された世界で生きる事を強いられてきたのだろうと。

 

―これを見て気に入ったモンはあったか、嬢ちゃん

 

―え!?あ、いや、その……実は…

 

―ん?どうしたよ

 

―その…初めて見るものばっかりだったので…つい、忘れていました…

 

彼女の反応にギルヴァも蒼も無理もないと思った。

あんな世界で生きていたのであれば、尚の事。

籠から出た世界であれ、この図鑑に映るものであれ、彼女にとってなにもが目新しく見えるに違いない。

ギルヴァは相変わらず無口の様子であったが、蒼は突然笑い出し彼女が咎める。

 

―も、もう!笑わないでくださいよ!

 

―悪い悪い。そう怒らないでくれ

 

謝罪しつつ蒼は言葉を続ける。

 

―でもまぁ…それでいいさ。俺もギルヴァも急かすつもりなんざ無いんでね

 

蒼が口にした台詞は蒼の本心でありつつもギルヴァの本心だったりもする。

それ程までに彼女の境遇には思う所があるのだ。

ならば今自分たちが出来る事をする。

二人してその思いはあの一人目の彼女と出会った時から変わらず残っているのだ。

 

―そういや、あの一人目…姿は本人だが中身が違ったな?

 

(…そうだな)

 

その台詞が何を意味しているか。

それは鋭いまでの気配察知能力を持つギルヴァと蒼だけに分かる事であった。

作戦が終わった後、リヴァイルの元に尋ねたギルヴァが一目見た、あの少女。

ダンドリーと呼ばれる少女の姿はあの時、蒼が見た『彼女』だった。

だがそこで二人は気づいた。否、薄々気づいてはいたが突き付けられた現実を目にした瞬間、理解した。

姿こそは『彼女』。

だが中身は別の誰かになっていることに。

あの『彼女』が精神のみ存在となって一時的とは言え何故ギルヴァの中に潜り込んでしまったのかを。

 

―まぁ万能者のおかげもあって、あの嬢ちゃんは再びリヴァイルに会う事が出来たって訳だが……さてさて、俺らの事は覚えていてくれてるかね?

 

(覚えていようがいまいが気にすることではない。俺もお前も大した事はしていないからな)

 

―確かにな。けどまぁ、折角だ。マギーが作ったもんを向こうに送る際にこっちも何か送ってやろうぜ

 

(…考えておこう)

 

そう答え、ギルヴァは再び図鑑へと視線を向ける。

そのまま日が暮れるまでずっと図書館に居続け、閉館時間まであと僅かな所で漸く二人目の『彼女』の仮名が決まる事となる。

彼の元に戻るまでの仮の名であるが、彼女には"エラブル"という名が与えられる。

それはフランス語で、とある落葉低木の名を示し、花言葉に「調和」「美しい変化」「大切な思い出」「遠慮」と言った意味を持つ。

エラブル…楓を示すその名は奇しくも血の繋がりがなくとも、ギルヴァという人物を兄の様に慕い、若くして命を落としてしまった一人の少女…『カエデ』と同じ名を有するのであった。

 

 

夜の帳が落ち、雲一つない星空が広がる。

そんな星空の下でS10地区前線基地内にある物資搬入出用ゲートは何人かの人形が行き交い、フォークリフトが行っては来てを繰り返すなど慌ただしい様子であった。

そんな慌ただしい情報の中には基地を統べる指揮官であるシーナの姿もあり、彼女は手に持った端末の画面に映し出された、とある人物の元へと送る物資の内容に不備がないかの確認をしていた。

 

(思った以上に大きいプレゼントになったね…)

 

画面をスクロールさせながらシーナは苦笑いを浮かべる。

それもその筈で、あのタリンから持ち帰り伝説の魔工職人によって改造が施された武装だけを送ると思えば、マギーが色々オマケを作り出し、そしてソルシエールが設計した銃を何丁か送る事とになり、それに乗っかる様にギルヴァもまた何か送ると言い出した結果、大型コンテナの中が満載になる程の規模になったのだ。

 

「なんかアレだね…。馬鹿げた銃やら兵器やら魔具など見てきたから驚かないというか…」

 

一部がトンデモ兵器であるのだが、そういった類のものを腐る程見てきた事もあって慣れてきたのかシーナは再び苦笑いを浮かべる。

寧ろそれだけで済むというのだから、彼女もまた色々と感覚が麻痺しているのかも知れない。

そんな彼女にグリフィンの輸送部隊の隊員が歩み寄る。

 

「準備整いました。中身の方に問題はありませんか?」

 

「はい。問題ありません。…運送よろしくお願いします」

 

「かしこまりました。ではこれにて失礼します」

 

シーナに敬礼してから、隊員はその場から去っていき、運送用の大型トラックへと乗り込んでいく。

走り去っていくトラック。その背を見つめながらシーナはその場に立ち尽くす。

今回の一件があったからこそ得られた繋がり。

とは言えこのS10地区前線基地は色んな意味で特殊だ。

向こうが自分達をどう思うかは分からない。

だがこの基地は半人半魔が居て、生粋の悪魔が居て、高い実力を持つ人形達が居て、かつては復讐者だった指揮官がいる。

その事実だけは変わらない。故にシーナは思う。

 

「これが向こうとの繋がり(Connexion)になると良いんだけど」

 

どう思われようが構わない。

ただこの繋がりだけは無くさないようにしていきたい。

冷たい風が吹く中、そう思いながらシーナは歩き出す。

 

「さて、後は隣の基地からの"答え"を待つのみだね」

 

忙しくなりそうだ、と口にしながら彼女は基地の中へと消えていくのであった。




あけましておめでとうございます!(超今更)

という訳で今年最初の投稿でございます。

さて、二人目の彼女の名前が決まりました。
名はエラブル。意味は本編を見て頂ければ…。
そして向こうへと送るものを送りました。
そぉら!悪魔からのお年玉、受け取りな!
滅茶苦茶長いので、ゆっくりかつ暇があるときに読んでくださいな。


・weapon package No.1『Connexion』
:S10地区前線基地に属する後方幕僚兼伝説の魔工職人であるマギー・ハリスンと特殊遊撃部隊『ブラウ・ローゼ』に所属しながら技士としても活躍するソルシエールの両名によって改造、製作された武器たち。
今回の一件で共闘し、繋がりを得たからことからコードネームとして繋がり(Connexion)と命名された。


:レパリーレン・コネクション
大型ケース状の白銀に染められた魔具であり、その姿はM4A1(mod3)が持つケースと似た姿を有する。
666にも及ぶ武器へと変形を可能とする魔具『パンドラ』と同じ原型を残さない驚異的な変形を可能とする。
本来であればタリンから持ち帰ってきたパラデウスの破棄された三つの武装を改造したものを内蔵していたのだが、使用場面が限定的に成りやすいを予想したマギーとソルシエールが新たに三つ追加、合計6つの兵器へと変形可能となっている。
余談であるがこの魔具を見たシーナは「まるで魔界製びっくり箱だね」とコメントしている。
『レパリーレン・コネクション』という名は造語であるが意味は『修繕』と『繋がり』を示す。
一度は断たれてしまった繋がり。しかしてそれは籠を開ける者らによって、再び繋がり始めた。
白銀の魔具は己の姿を変え、まだ見ぬ主に向かって銃声と共に誓う。
『三度目の別れは来ない。いや、来させない。彼女らの未来は失わせない』、と。


・シュレッダー
:レパリーレン・コネクションに内包されている武器の一つ。
銀色に染められたショットガンであり、その形状はブレイクが持つ水平二連装ショットガンと同じ。
本銃には『シュレッダーショット』という特殊な散弾が装填されており、悪魔の硬い外殻や重装甲、偏向障壁を難なく貫くほどの威力を誇るも短銃身である為、遠距離攻撃には不向きで本銃に使用されている散弾は特殊である事から反動が二倍ほど上がっているといった欠点を持つ。
至近距離かつ全弾命中すれば大型の悪魔をも容易く怯ませるほどの威力を発揮するが、人間に向かって放てばミンチより酷いものが出来上がってしまうので使用するのであれば対象は『人ならざるもの』だけに留めておくのが理想である。
また試射試験には似た武器を持つブレイクとシリエジオ(代理人)が担当。
反動が大きいにも関わらず片手で構えて発砲したり、ヌンチャクの様に振り回して散弾をばら撒くなどしていたのだが、これは半人半魔であるブレイクだからこそ、元鉄血所属のハイエンドモデルであるシリエジオだからこそ出来る事であり真似する事はお勧めしない。


・オールイン
:レパリーレン・コネクション第二武装。
コネクションの基本形態であるケースよりも一回り大きい十字架の形をしており、十字架の中心部分に銃把が存在し長辺部分と短辺部分に装備が施された複合火器。
長辺部分は大型レーザーライフルに加え、下部に大型ガトリングガンを装備。
短辺部分は四連装ミサイルランチャーを装備している。
大型レーザーライフルは鉄血のイェーガーが持つ狙撃銃を改造したものを組み込んだものであり、出力が向上している。それにより威力のある遠距離射撃が可能だが連射性は低め。
それを補う為に装備されたのが大型ガトリングガンであり、高い火力と高い連射力を生かして弾幕を形成する事が可能。
そして十字架を回転させ、肩に担ぎつつ短辺部分を前へ向ける事で四連ミサイルランチャーが使用可能。
小型誘導ミサイルを同時に四発発射する代物である。
その見た目からして個人が持つ装備にしてはかなりの重量をあるようにも思えるが、むしろ個人が運用する事を主眼に置かれている為、重量及び発射時の反動は見た目に反して控えめになっている。
オールインはカジノ用語であり、意味は自身の持つチップを全て賭けることを示す。
最もこれは一か八かの状態になっていることも多く危険な兆候らしい。


・ランナウェイ
:レパリーレン・コネクション第三武装。
ブレイクが持つバイク型魔具『ヴァーン・ズィニヒ』の系統を持つバイク型魔具。
分離し双剣へ変形したりバイク状態でも攻撃が可能な点はヴァーン・ズィニヒと変わらない。
敵を轢いて良し、跳ね飛ばして良し、切り刻んで良し、車体をぶん投げて敵に当てるも良し、後ろに彼女に乗せてデートコースを駆け抜けても良しの乗り物。使い方は本人次第である。


・ビトレイアルⅠ
レパリーレン・コネクション第四武装。
武装ユニットでありパラデウスが破棄した装備を改修及び改造が施された光学兵器系装備。
手には大砲の様な携行用重火器、肩部には大型バインダーという構成で成り立っており、バインダーには偏向障壁を発生させることが出来る機能が備わっている他、内部には二門のキャノン砲を装備。
バインダーを変形させ砲撃する事以外にもバインダーを外して手持ち武装として扱う事も可能。
携行用重火器は連射は出来ないが単発火力に優れる。また砲身をスライド及び開口させることで最大出力モードへ移行。その火力は地面にデカい溝を作る程の威力を誇る。
また最大出力モードの際にバインダーの武装も使用して発射すれば、山にデカい穴をあける程の威力を発揮する。
改造が施される前は最大出力で放った際のパワーダウンが問題視されていたが、マギーが人間界に来る際に魔界から密かに持ち出した神石『オリハルコン』の欠片を内部に組み込んだ事でその問題は解消されている。
ただし最大出力で放った後はクールタイムが必要でビトレイアルⅠは一定時間使用できなくなる。
因みに『ビトレイアル』は「背信」、「裏切り」といった意味を示す。
パラデウスで生み出されながらも破棄された武器たちは新たな姿となって嗤いながら敵を撃つ。
『さぁ!さぁ!さぁ!何か言ってみな!?俺達を捨てた連中さんよぉ!!』、と。
※(イメージとしてはデュナメスリペアⅢの武装だと思っていただけたら幸いです)


・ビトレイアルⅡ
:レパリーレン・コネクション第五武装。
ビトレイアルⅠと同じく武装ユニットの類に該当する。
二門の開口型大型砲を有した実弾装備であり、高温度の熱量弾を撃ち出す事が出来る。
熱に弱い相手ならオーバーヒートを起こす事も可能。たとえ熱に対する耐性があったとしても、放たれる熱量砲弾は装甲を溶かす事も出来る。
ビトレイアルⅠには無い機能が備わっており、発射切替モードというものが存在する。
一つが熱量弾を撃ち出すモード。
もう一つが特殊なバリアを貫通する高速貫通砲弾を撃ち出すモードであり、特殊なエネルギーを砲弾に纏わせ撃ち出すというもの。偏光障壁を持つ敵、重装甲の敵に対して高い威力を発揮する分、再装填に時間がかかるといった欠点を有する。


・ビトレイアルⅢ
:レパリーレン・コネクション第六武装。
ビトレイアルⅠ、Ⅱと同じく武装ユニット。
長く伸びた砲身と大型機関部に特徴的な装備で二門の砲身から大口径榴弾を発射する。
因みに改造にはソルシエールが担当した。
ビトレイアルⅠ、Ⅱと比べると比較的まともな装備。
とはいえ常人が見たらまともではないのかも知れないが、気にしてはいけないのがお約束である。


・weapon package №2『魔法使いの銃』
:特殊遊撃部隊『ブラウ・ローゼ』所属し戦闘員及び技師としても高い実力を持つ元鉄血所属のハイエンドモデル『ソルシエール』によって製作された三丁の銃。
一つはソルシエールによるものだが、残り二つはS10地区前線基地指揮官であるシーナ・ナギサと協議し製作されたものである。


・ノクターン
:ソルシエールによって製作された特殊大型リボルバー。使用弾薬は.357マグナム弾
上下二つに備えられた銃身、十二発装填可能な特殊回転弾倉を持つこの銃はギルヴァが愛用する13mm対化け物用大型リボルバー『レーゾンデートル』、ネロが愛用するリボルバー『アニマ』と同じ点を保有するも、本銃は二発同時発射ではなく、上下二つの銃身から交互に弾丸を発射する仕様となっている。
分かりやすく言えば一射目は上の銃身から弾丸が発射され、二射目は下の銃身から弾丸が発射されるというもの。
当然ながら内部機構は複雑化しており、何らかの故障が起きたら素直にソルシエールの元に修理に出すといい。
ベースとなった銃はコルトパイソンであるが、最早その原型は留めていないに等しい。
特殊回転弾倉が使われている事により弾数は増加したものの、再装填に時間がかかるという難点を残している。その事から専用のスピードローダーが幾つか、本銃と共に送られている。
因みにノクターンは『夜想曲』を意味する。


・M92F C型
:M92Fをベースに改造を施した銃。
レパリーレン・コネクションやノクターンといって常識外の武器や銃ばかりだと運用に困るかもしれないというシーナからの指摘を受け、彼女と共に協議し製作された銃。
銃口先端に箱形のマズルブレーキ、スライド底部には様々なアタッチメントを取り付けるためのアンダーレイルが備え、長期戦に対応できるようにロングマガジンを装備、グリップも持ちやすい形へ加工されていると徹底されている。
様々な状況に対応できる様に、そして安定した性能を持つという目的で改造を施したのだが、真の目的は飽くまでも護身用として持っていてほしいというシーナの願いが込められている。
またこの銃に付いている『C』はCalmを示し、意味は『凪』を意味する。
その名は本銃をカスタマイズするにあたって協力したシーナ・ナギサの『ナギ』の部分を変換し、ソルシエールがつけたもの。
これは余談であるが、シーナはこの様なカスタマイズを施したM92Fをかつて持っていたと発言している。
曰く15歳の時に、とある事情から必要になったと語るがそれを聞いたソルシエールが「14歳で復讐を行ったというのに、15歳の時に何をやったの?」と問うもシーナは答えようとはしなかったらしい。


・M92F CⅡ型
:基本はC型と同じカスタマイズが施されているが、銃口の先端に取り付けられているのが箱形のマズルブレーキから角形のサプレッサーへと変更され、ロングマガジンから通常のものへと変更されている。
それ以外の変更点はないが、このカスタマイズを提案された時はソルシエールは思わず「マジで15歳の時、何やったの!?」とシーナへ叫びながら尋ねたとか。


Extra package『差出人不明の気遣い』
:S10地区前線基地から送られてきた武器の中に紛れていた小さな小包。
差出人は不明であるが小包と一緒にあった小さな張り紙には「"彼女"(フラーム)に渡せ」と記されている。

・群青色のネックレス
:小包の中に収められていた群青色をした石を収めたネックレスで派手さはない。
一見すれば普通のネックレス。だがその実はこのネックレスを身に着けている者に致命傷になる攻撃が飛んできた際に、魔力で作り上げられた魔人が姿を現し、手にした刀を持って攻撃を弾きネックレスの持ち主を守るというもの。出現する魔人の姿はギルヴァがデビルトリガーを発動させた際の姿と酷く似ている。

・手紙
:差出人は不明。手紙は二枚収められており、一枚には「詫びだ」とたった一言のみしか記されていない。
もう一枚は別の誰かが書いたのか「良い人生を送りなよ。嬢ちゃんの物語はこっから始まったんだからな」、と相手を思いやる言葉が綴られている。
例え自分達だと分からなくても、あの男と精神のみ存在である元悪魔は気遣う。
知ってしまったからというのもあるが、気にかけるのは悪魔には無いものを有しているからであろう。


では次回ノシ!


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Act230 Inherited power

─与えらえる『力』─

─継承される『力』─


リヴァイルの所へに『お土産』と称した武器を送った数日後の事。

久しぶりにと言うべきか、S10地区前線基地はのんびりとした時間を過ごしていた。

ただのんびりというには哨戒任務に赴く人形が居れば、後方支援などに赴く人形も居る訳で、結局の所やるべき事が何時ものへと変わっただけに過ぎないのだ。

そんな通常業務へと戻り始めたS10地区前線基地内部にある、とある工房。

その主たるマギーは専用の収納棚に収められたある物を見つめていた。

それは全身黒い装甲で覆われた鎧。その姿はまるで特撮で出てくるヒーローのようだ。

 

「貴方がその姿へと変えてから、もうどれほどの時間が経ったでしょうか…」

 

棚に収められた鎧に語り掛けつつマギーは手を伸ばし、そっと鎧へと触れた。

浮かべた表情は何処か懐かしんでいるようにも見える。

 

「魔帝によって造られた悪魔…その一番目だった貴方。…最後にその姿を見たのは私に頼み事をしてきた時でしたね」

 

鎧に触れていた手を下ろし、彼女は着ている制服のポケットから一枚の折りたたまれた紙を取り出す。

それを広げると紙には、魔界の言葉が綴られていた。

当然ながら人間にはそれを読み解くことは出来ない。出来るのはこの紙を手にしているマギーのみ。

 

「…あの時の"約束"。今この時を以って果たしましょう」

 

真剣な面持ちで彼女は、有無言わぬ鎧へと誓う。

そして腰に提げている工具ベルトから工具を取り出すのと同時に彼女は机の傍に置いてあった通信端末を使い、とある人物へと連絡するのであった。

 

 

一方、精神のみ存在である二人目の『彼女』にエラブルという名前を与えたギルヴァは何時もの様に書斎に腰かけて読書に没頭していた。そんな時、蒼がギルヴァへと話しかける。

 

―で?あの作戦から数日経った訳であるが、いつになったらアナの嬢ちゃんへの説教に行くつもりだ?

 

(…説教は無しだ。気が変わったのでな)

 

―ほう?何で気が変わったのか理由を聞いてもいいか?

 

(言わなくても分かっていると思うが)

 

―そう思うなら大間違いだな。ほら、さっさと理由話してくれねぇか?

 

如何にも何も分かっていない素振りで尋ねてくる蒼にギルヴァが内心ため息にも近いものを付くと、説教に行くのを止めた理由を話し始めた。

 

(周りに説教に受けているに違いないのでな。なら、わざわざ俺が出向く必要はなかろう)

 

―ま、そんな所だと思ってた。説明ご苦労さん

 

(…貴様)

 

―そう怒るなよ。でもまぁお前がそう決めたなら暫くはエラブルの問題を当たれそうだな?

 

確かに蒼の言う通りかも知れない。

だがギルヴァは何となくであるが気づきつつあった。

それを後回しにしなくてはならない問題が迫ってきている事に。

 

(…そうでもないかも知れんぞ)

 

―そりゃどういう…

 

蒼が尋ねようとする前に店の裏口のドアが開かれる音が響いた。

それは誰かがやって来たという合図であり、読んでいた本を閉じ机の端に追いやった時には客人…白を基調としたケープコートを揺らめかす少女、ルージュはギルヴァがいる書斎の前に立っていた。

ただ遊びにやって来たとは思えないと分かっていたのかギルヴァの方からルージュへと尋ねた。

 

「何か用があるみたいだな」

 

「ええ。マギーさんが私とギルヴァさんをご指名でして。呼びに来た次第です」

 

「…内容は?」

 

「聞かされてはおりません。ただ工房に来てほしいとのこと」

 

内容を明かさず、ただ工房に来てほしいというマギーのやり方は今に始まった話ではない。

どの道、彼女の工房に向かわなくてはならないの事実。

立ち上がろうとするギルヴァにエラブルが喋り出した。

 

―な、内容を明かさないなんて…なんだか怪しい気が…

 

エラブルのその反応は無理もないと言えた。

だが彼女がここに来て日が浅い。

それを分かっていたからか、蒼が答える。

 

―大丈夫さ。この手の事は散々経験してるからな。それにマギーはこの基地の後方幕僚でありながら、俺と同じ人"に味方する悪魔でね。まぁ心配する気持ちは分からんでもねぇけどな

 

―そ、そうなんですか…

 

蒼の台詞もあって、若干不安げな声を感じさせつつもエラブルは納得する。

そんな二人がやり取りをしているのを無視し、ギルヴァは椅子から立ち上がりルージュと共に店を後にし、マギーが居るであろう工房へと歩き出した。

 

 

二人がマギーの工房にたどり着いた時には、既に二人よりも先に先客が訪れていた。

二人と同じくしてマギーに呼び出されたのか、制服の上からサーヴァントを肩にかけたシーナが部屋の主に代わって出迎える。

 

「いらっしゃい、二人とも。待ってたよ」

 

「シーナ指揮官?どうしてここに」

 

シーナがここに居る事が珍しかったのか、それに対する疑問を投げかけるルージュ。

対するシーナは普段から見せる笑みを浮かべたまま、それに答える。

 

「私もマギーさんに呼ばれてね」

 

そう言いつつもシーナは被っていた帽子のひさしを摘み下げると、柔和な笑みから真剣な面持ちへと一転させる。

 

「最もこの基地の指揮官として、呼ばれたというのが大きいかな」

 

「?」

 

首を傾げるルージュ。

そして隣に立っていたギルヴァの視線は収納棚に収められた全身装甲で覆われた鎧へと向けられていた。

それから感じられる気配に、その鎧がただの鎧ではなく魔具であると察した時、蒼が声を上げる。

 

―こいつはとんでもねぇモンだぞ。よりによって初代様かよ

 

(知っているみたいだな)

 

―ああ。あれは魔帝によって生み出された悪魔であり、記念すべきその一号さ。そして純粋な悪魔では無いにも関わらず己の姿を魔具へと変化させる事に成功した存在。同じく造られた悪魔であるフードゥルにとっちゃ大先輩にあたる存在だ。…成る程、R.ガードの初期考案である搭載させる鎧ってのは此奴の事だったのか。傍に置いてあるR.ガード用の追加パーツを置いているとなりゃ…呼ばれた理由も何となく分かってくるな?

 

(ランページゴーストのRFBの件だろう。しかし何故俺まで呼ばれたのかが分からんが)

 

―RFBだけじゃねぇってことだろうさ。まぁ大体想像は付くがな

 

(…あいつか)

 

ギルヴァの脳裏に浮かぶは、あの作戦が終了した後に話した"彼女"との会話。

求める力。それは決して堕ちる為に望んでいる訳ではない。

ただ守りたい。その為に彼女は力を望んでいるという事を。

それを静かに察したギルヴァは言った。

欲する『力』が決まった時、持つ技を教えてやると。

本来であれば向こうからの連絡を待つつもりであった彼だったが、向こうへ赴く事になるのであれば丁度いいと判断していた。

 

「わざわざ来ていただきありがとうございます」

 

そこに工房の奥から、三人を呼び出したマギーが姿を現す。

頬に付いた煤をタオルで拭いながらも、彼女は早速本題へと入った。

 

「以前にも似た依頼をさせていただきましたが、今回もその手の類だと判断してくれると幸いです。今回あルージュさんとギルヴァさんに依頼したいのは、以前と同じく装備の配達及びその『覚悟』を見極めてほしいのです」

 

「配達は分かりますが…覚悟を見極めるというのはどういう事なのでしょうか」

 

「今回配達していただく品であるR.ガードの追加パーツには魔具が内蔵されているのです。今までのとは違い、悪魔が姿を変え道具になったものがそのまま使用されており、当然ながらその力は絶大です。つまり本人の扱い次第では善にも悪にもなれるのです」

 

マギーが口にした最後の台詞にルージュは眉を顰めた。

 

「彼女がその力を悪用すると思っていて?」

 

「いいえ、全く思っておりません。R.ガードを正しく使ってくれていますから心配はしていませんよ。ですが、やはりそれだけでは物足りない。言葉だけではなく、実際に戦ってその『覚悟』を見極めてほしいのです」

 

「…実際に戦うって、向こうがそれを許可するとは思えないのですが」

 

ルージュの台詞も間違っていなかった。

そこに二人の会話を静かに聞いていたシーナが割って入る。

 

「それに関しては私が交渉する。流石にマギーさんだけに責任を押し付ける訳にはいかないからね」

 

それに、と彼女は言葉を続ける。

 

「私も偶然とは言え、この力を得た身。心強いと思う反面、恐ろしいとも思っている。扱い方を間違えてしまえば誰かを不幸にし、何より自分自身を滅ぼしてしまいかねないからね。そんな恐ろしさを分かっていながらも、私はこの力を扱う事を決めた。そう『覚悟』しているから」

 

その瞳に宿すは確かに『覚悟』だった。

それを見せられてはルージュも言い返せず、軽くため息を付くと口を開いた。

 

「…分かりました。向こうとの交渉は任せます」

 

「うん、任された。…それとギルヴァさんを呼んだ理由だけど」

 

話がギルヴァへと振られる。

当の本人は近くの壁に背を預けつつ腕を組むと口を開く。

 

「見極めればいいのだろう?RFBではなく…もう一人の方をな」

 

「そういう事。向こうの都合もあるから日程が決まり次第、連絡するから」

 

「分かった」

 

そう答え、ギルヴァは部屋から退出。

店へと戻る道中、彼は内心呟く。

まるで誰かへと言葉を投げかけるように。

 

(見せてもらおうか)

 

確かに教えてやるとは言った。

だがタダでとは言っていない。

依頼主からの指示もあるが、ギルヴァ自身そんな指示がなくても、そのつもりであった。

 

("覚悟"とやらをな)




遅くなって申し訳ありませんでしたあああぁ(土下座)

という訳でお隣の基地にいる、とある二人に新たな力を渡すべく行動起こします。

ではでは次回ノシ


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Act231 Siren

─影に潜むもの─

─それは歌を封じ、その力を曲へと変えた悪魔─


『成る程な。それらの類に対する理解はそちらと比べると浅い方だが、確かにその『力』とやらは容易く渡してもいい代物とは言えんな』

 

「はい。普段であればマギーさんがそちらに連絡する形となっていたのですが、今回はモノがモノという訳ですのでこの基地の指揮官として私が連絡させて頂いた次第です」

 

S10地区前線基地内部、作戦指揮を行う部屋にてシーナはS09P地区の早期警戒基地指揮官のキャロルへと連絡を取っていた。

その目的は、マギーがルージュとギルヴァに依頼した配達品に関しての情報及び対象であるアナとRFBの両名に模擬戦を依頼すること。

普段であれば依頼主であるマギーが対応するのだが、モノがモノである為に今回ばかりは基地の指揮官であるシーナがこうして連絡を取っている訳である。

 

『最初こそはマギーではなくシーナ指揮官だった事に何かあったのかと思ったが…取り敢えずその話に関しては了解した』

 

「という事は…」

 

『ああ、模擬戦の申し出を受けよう。二人にはこちらから伝えておくが直ぐにとは行かん。こちらもある作戦に出なくてはならないのでな』

 

「遅くなっても構いません。そちらの都合が良い時にご一報いただければ二人を向かわせます。もしかすれば多少人数が増えるかも知れませんが」

 

『分かった。予定の空き具合の確認が出来次第連絡を入れる。当日を楽しみにしているぞ』

 

「こちらこそ。お忙しいところ対応していただきありがとうございました。では失礼します」

 

それを最後に向こうとの通信が終了し画面が元の画面へと戻る。

完全に通信が終えたのを確認するとシーナは傍に置いてあった椅子に腰かけると同時に軽く息を吐いた。

何処か疲れを感じさせるようなそれ。

そこにサーヴァントに身を潜めていたグリフォンが飛び出し、シーナへと声をかける。

 

「随分とお疲れ気味じゃん、ネェちゃん。もうそういう歳ってヤツ?」

 

「次そんな事言ったら45に頼んで焼いてもらうらからね」

 

「おっと、45ネェちゃんのまな板で焼かれるのは勘弁」

 

くくっと笑みにも似た鳴き声を嘴から漏らすグリフォンを見てシーナは全くと呆れた様な表情を浮かべながら、先ほどグリフォンが言っていた事を思い出す。

彼が言ったように随分と疲れ気味なのは当たっていた。

タリンでの大規模作戦があったからと言えば疲弊するのも当然なのだが、他の基地と協力し作戦を行ったのは今回が初めてではなく、疲労感を覚える事は余りなかった。

だが今回に限ってどういう訳かシーナはかなりの疲労を感じ取っていた。

今まで感じてこなかった疲れが一気にやってきた様な感覚に襲われる。

言葉にするのであれば、それが一番正しかった。

 

「まぁ45ネェちゃんにはこの事を黙ってて貰うとして…ネェちゃん、一つ聞いていいか?」

 

「なに?」

 

「最近、俺やネコちゃん、ナイトメア、それとあの馬以外の悪魔を使役したりしたか?」

 

いきなり何を言い出すのか。

グリフォンの台詞を聞きシーナは一番にそれを思った。

タリンでの大規模作戦以降シーナはおろか、S10地区前線基地及び便利屋「デビルメイクライ」の面々は悪魔が関与している作戦に参加していない。

それどころかそんな事件すら発生していない。

そんな事はグリフォンも知っているというのに、何故そんな事を言い出すのか彼女は不思議でならなかった。

しかしあのグリフォンがふざけた様子を潜めて尋ねてくる辺り、何かあるのではと感じたシーナは聞き返したりはせず真面目に答える。

 

「していないよ。最近は外に出てないから。…もしかして何か取り憑いている感じ?」

 

それならば大問題なのだが、グリフォンはその問いに対して首を横に振った。

 

「取り憑いているって言うよりもよぉ…なんつうか、潜んでるってやつ?」

 

「潜んでいる?何で?」

 

「それが分かんねぇんだよ。何かやる気という訳じゃねぇし、それどころかやけに大人しい。引きこもりニート生活でもエンジョイしてんのかも知れねぇけど」

 

「それは違うような…」

 

苦笑交じりに答えるもその頭の中でシーナは思い返していた。

記憶が正しければ、あの作戦以降悪魔が絡む案件に赴いた事すら無ければ、悪魔が絡む案件が発生したという記憶もない。

にも拘わらずグリフォンは自身に潜む悪魔の気配を察知している。

 

(…作戦以降じゃなく、作戦終了以前まで遡って……)

 

幾度となく過去の記憶を辿り、そして名を思い出し、いつ出会ったか記憶の棚から引っ張り出していく。

それを繰り返すこと数分経った時、ハッとした様子でシーナは気づかぬ内に下げていた頭を起こした。

居た。確かに居た。

それは確かにシーナの記憶の中にしっかりと存在していた。

悪魔だと思い出せなかったのは、それが()()姿()をしていたからだ。

 

「そこに居るんだね」

 

座っていた椅子から立ち上がるとシーナは地面に映る自身の影に向かって話しかける。

すると彼女を映し出していた影はまるで生命を与えられたかのように姿を変え始め、そして影の中からゆっくりと姿を現した。

すらりと伸びた美しい黒髪に水色のメッシュ。

黒と水色で彩られたドレスをその身に纏い、手には一風変わったバイオリンを握った見目麗しき女性。

あの作戦…タリンでの大規模作戦にて突如姿を現しバイオリンを奏でながら裏で味方を支え、最終局面においては姿を見せ、戦ってくれた悪魔。

 

「久しぶりだね、セイレーン」

 

「ええ…。ご久しぶりでございます」

 

本当に悪魔なのかと思いたくなる程、セイレーンと呼ばれた悪魔はシーナに向かって美しい笑みを見せるのであった。

だがここに居るのはシーナとセイレーンだけではない。セイレーンが姿を現した辺りから、何故か無口になってしまっているグリフォンがいる。

それに気づいたシーナが肩に留まったまま微動だにしないグリフォンへと声をかけようとした矢先、グリフォンは声を漏らす。

 

「あー…やっぱりか。どおりで感じた事のある気配な訳だぜ」

 

「貴方は気づいていたのですね、グリフォン」

 

「何となくだけどな」

 

そんなやり取りを繰り広げる一羽と一人。

お互いにして魔界出身というだけあって顔見知りであるのだろう。

だが流石に久しぶりに会って、はい終わりという訳にはいかない。

それを分かっていたからこそ、シーナがセイレーンへと尋ねる。

 

「いつから私の影の中に?」

 

今のシーナにとっては一番に聞きたかった事だった。

あの作戦にて手助けしてもらったと言えど、力を貸してくれているグリフォンやシャドウ、ナイトメアにゲリュオン、ダンタリオン、マキャ・ハヴェリの様な善意があるとも言えない。

もしかすれば何らかの狙いがあるかもしれない。

それを危惧しているからこそか、シーナの手はホルスターに収めてある愛銃のリボルバー『Painekiller』のグリップに掛けられている。

正直な所、普通の銃弾でどうにかなるのか言われば否定すべきなのだが、現在彼女の愛銃に装填にされているのはあのゲリュオンの力が備わった弾丸が装填されていた。

一発でも当てさえすれば、この場から逃げ出す事は出来るだろうがシーナからすればあまり取りたくない策と言えた。

 

「…」

 

「…」

 

両者の間を沈黙が包む。

無音の空間にカチリと銃の撃鉄が起こされる音が静かに響き渡った時、セイレーンがそっと手を上げ警戒心を示すシーナを制する。

 

「あの戦い以降です。行く当てもないので、勝手に潜ませて頂きました」

 

「潜んだのは何らかの害をもたらす為?」

 

「まさか。そんな気など一ミリたりともありません。ただついていこうと思っただけに過ぎません。…必要とあらば、自らこの命を差し出しても構いません」

 

そう微笑むセイレーンだがシーナは警戒を緩めない。

ただじっとセイレーンの瞳を見つめるのみ。

だがそれも数分間で終わってしまい、シーナは静かに銃の持ち手から手を離した。

 

「うん…嘘は言っていない感じだね。ごめんなさい、疑ったりして」

 

「いえ、気にしてはいません。寧ろ疑うのも無理もないかと。この身は人の姿を模っていたとしても悪魔という事実には変わりなし。信用を得る事が簡単ではない事は分かっていました」

 

ですが、と前置きを口にするセイレーン。

そして手に持っていたバイオリンは消し、ドレスの裾をつまむと軽く一礼した。

 

「信頼していただけるのであれば、この力を貴女の為に使いましょう。我が名、セイレーンの名に誓って」

 

かくしてセイレーンがこのS10地区前線基地の指揮官であるシーナの力として、この基地に居座る事になる。

後にセイレーンがここに居座る事になったのを基地全員に説明しなくてはならなくなるのだが、今のシーナがそれに気づくのであればこの後の事であった。




お久しぶりです。
という訳であの作戦にて手助けしてくれたセイレーンがシーナの力として、今後姿を見せます。

あと最初の部分は前回の話を向こうの指揮官さんに伝えた場面を描かせて貰いました。
まぁ向こうはコラボ作戦に参加してますので…新しい力は云々は追々になるかな?

ではでは次回ノシ


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Act232 Proof of preparedness Ⅰ

─覚悟証明─


それはなんてことの無い普通の日の出来事であった。

季節の変わり目なのか、最近は暖かい日が続き404小隊のG11の睡眠回数が普段の三倍増えたこと以外は特に変わりなく、一日がゆっくりと流れていく。

そんな珍しく平穏ともいえる日において戦術人形が訓練の為に利用する訓練用のシュミレーションルームに、彼女はいた。

禍々しい魔力を帯び、弧を描いた大きな刀身。身の丈以上はあるであろうそれ『ヘル=バンガードの大鎌』が軽々と振るわれ、シュミレーターで再現させれた仮想の敵らが瞬く間に切り伏せられていく。

常人では振るう事すら出来ないであろう得物を扱うのはこの基地に身を置いて長い謎多き少女、ルージュだ。

 

「…ふぅ」

 

自身が設定した敵の残存数がゼロに達したブザーが鳴ると、ルージュは軽く息を吐き大鎌を静かに下ろす。

訓練を開始して軽く三十分は戦い続けたにも関わらず、今の彼女には呼吸が乱れている様子すらない。

しかしその表情はどこか納得がいかないといったものであった。

 

「…もう一回立ち回ってみますか」

 

再びシミュレーターを起動し敵を出現させるとルージュは下ろした大鎌を構え直し、敵へと突進。

相手との距離を一瞬にして詰め、大鎌を大きく薙ぎ払い敵を切り伏せると片足を軸にして振り向き後方にいた敵の頭部へ目掛けて突き刺し跳躍。大鎌の刀身を敵の頭に突き刺さったままにして飛び越えつつ、一回転し刀身を引き抜くと、宙に浮かんでいる状態で大鎌を下へと投擲。

大鎌に取り付けられた槍の穂先部分が地面に突き刺さるとルージュは柄に手を伸ばしながら体を捻り、突き刺さったそれを支点にしてポールダンスをするかのように勢いよく回転し周囲の敵を蹴り飛ばし落下。

そのまま大鎌を拾い上げ回転させると蹴り飛ばした周囲の敵に攻撃を浴びせ大鎌の振り下ろしによる止めの一撃を放って、残った最後の一体を仕留める。

 

「…」

 

訪れる僅かな静寂。その後に来るは終了を知らせるブザーの音。

模擬戦だったとしても室内を包んでいた緊張感が解かれ、ルージュは構えを解く。

見事なまでの大立ち回り。大鎌の扱いは流石と言えるだろうが、疑問は残る。

何故今になって大鎌を用いた訓練しているのかという事だ。

その理由はたった一つ。

 

「後は模擬戦が来るのを待つのみ。…さて、今の私であの二人にどれ程立ち回れるか」

 

全ては『覚悟』を知る為の模擬戦に備える為。

ただその一つに尽きていた。

 

「鴉刃、漆、朱、そしてこの大鎌…模擬戦に備える為とは言え、思いのほか勘を取り戻すのが大変でしたね…」

 

大鎌だけに限らず、三振りの刀『鴉刃』『漆』『朱』を用いた訓練もやっている。

それもその筈で直近で行われた大規模作戦では殆どコキュートス・プレリュードに頼っていた。

ルージュ自身もそれは自覚していた為、こうして勘を取り戻す為の訓練している。

 

「あの二人を相手に無様な姿を見せられない。何よりも…」

 

フッとルージュは笑みを零す。

無様な姿を見せない為に訓練している。

確かにそうなのだが、それは理由の一つに過ぎない。

 

「本気でぶつかり合う事が出来る…その事を何よりも嬉しく思う自分がいるとは」

 

何らかの理由がない限り、敵対する事のない者達が相手になるのだ。

そんな彼女らと本気でぶつかり合う事が出来るという事実。

確定事項と化しているそれを嬉しく思えるからこそ、こうして鍛錬している。

それこそがルージュの胸中の大半を占める最大の理由だったりする。

 

「さて、最後にもう一度─」

 

そう言いかけた所で誰が訓練ルームに入ってきた。

誰だろうかと思ったルージュが出入口へと振り向くと、そこには彼女と同じくこの訓練ルームで鍛錬を積んでいた愛用の黒いコートを羽織ったギルヴァがいた。

もし二人以外の誰かがここに居れば彼も訓練をするのだろうと思うだろう。

だがルージュだけは彼がここに来た理由を察していた。

 

「…時が来ましたか?」

 

「そうだ」

 

ギルヴァから何かに対する確認が取れるとルージュは軽く息を吐いた。

本気で渡り合う事が出来る嬉しさ。確かにそれはある。

しかし今はそんな感情を胸の内に収めなくてはならない。

何故ならばその為に模擬戦を行う訳ではないのだから。

託される力。それを扱うに値するかの『覚悟』を問わなくてはならないのだから。

私情を隅へと追いやり、本来の目的を再確認したルージュはギルヴァの目を見据えながら口を開く。

 

「行きましょうか。…『覚悟』を問いに」

 

「ああ」

 

ルージュの台詞にギルヴァは静かに頷くと、彼女と共に訓練ルームを後にするのであった。

 

 

訓練ルームを後にし一通り準備し終えると、二人はシーナの元へと訪れていた。

ギルヴァもルージュも向こうから模擬戦に関しての連絡が来ている事を知っている。

シーナをそれを踏まえた前提として話を進めていく。

 

「再度確認するけど、模擬戦の目的はランページゴーストのアナさんとRFB、両名に『覚悟』を問う為にある。恐らく激しい戦いになるとは思うけど、やりすぎない事。殺し合いをする訳じゃないからね」

 

「重々承知しています。今回はマギーさんも行くのでしたね?」

 

「うん。キャロル指揮官にもそう伝えてあるから。因みにマギーさんは先に外に出て、トレーラーに荷物の運搬作業してるから、話が終えたら合流して」

 

「分かりました」

 

目的の再度確認を済ませるとシーナはよし、と頷くと視線をルージュから扉近くで控えるギルヴァへと向けた。

 

「アナさんの事、お願いね。彼女に託す『力』は訳が…」

 

「言われずとも分かっている」

 

シーナの台詞に遮る様にギルヴァは静かに口を開いた。

組んでいた腕を下ろし、伏せていた目を開くと彼はシーナの目を見つめた。

 

「元はと言えば俺が行ったことだ。中途半端で終わらせるつもりなどない」

 

だからこそ、『力』を自力で扱えるに至るまで付き合う。

ギルヴァなりの責任の取り方なのだろう。

言葉の裏に隠された思いを密かに感じ取ったシーナはそれ以上の事は言わなかった。

 

「あ、それとこれを持って行って。時間がなかったから沢山は作れなかったけど」

 

そう言ってシーナがルージュへと渡したのはチョコチップマフィアが幾つか入った小さな箱。

 

「彼女達に渡してあげて。疲れた後は甘いものが一番だから」

 

「了解です。…では行ってきます」

 

「うん。行ってらっしゃい」

 

シーナに見送られながら二人は部屋を後にし、外に居るマギーの元へと向かう。

そのまま運搬用のトレーラーへと乗り込み、S09 P地区へと向かう始めた道中、ギルヴァは蒼へと話しかける。

 

(蒼)

 

―言わなくてもいいさ。何をしてほしいのかは分かってる

 

(なら良い。…頼むぞ)

 

―ああ。んじゃ行こうか?『覚悟』ってやつを見させてもらおうじゃねぇか

 

一体ギルヴァは蒼に何を頼んだのか?

それは本人でなければ分からぬ事であろう。

かくして『覚悟』を問う為の模擬戦が始まりを告げようとしていた。




ご久しぶりでございます。
色々あって投稿がえらく遅くなりまして申し訳ございません。

さてはて、次回からはお隣の基地へ向かい『覚悟』を問う為の模擬戦へ参ります。

では次回ノシ


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Act233 Proof of preparedness Ⅱ

─覚悟証明前のちょっとした戯れ─


ギルヴァらがS09P地区にある早期警戒基地に到着した時は既に昼時を過ぎた辺りであった。

模擬戦の為に訪れるという事は既にギルヴァらを知っている者らに知れ渡っていたのだろう。マギーが運転するR.ガードの追加パーツとその他諸々を積んだトレーラーが基地内に入ると手早く哨戒任務から帰還してきたランページゴーストの隊長を務めるノア、早期警戒基地の指揮官であるキャロルと副官である57、そして最近になって基地に来た少女『レイ』の計四人が訪れた三人を出迎えた。

三人がトレーラーから降りるとマギーが代表となって、指揮官であるキャロルと歩み寄る。

 

「此度は急な申し出に対し受け入れてくれた事に感謝いたします、キャロル指揮官」

 

「気にしないでくれ。事情はシーナ指揮官から聞いているからな。…それで例の『モノ』はトレーラーの荷台に?」

 

その問いと共にキャロルの視線はマギー達が乗って来たトレーラーの荷台へと向けられた。

例の『モノ』とはRFBに渡す事になるかもしれないR.ガード用の追加パーツを乗せている。

だが普通の追加パーツという訳ではなく、悪魔が姿を変え道具へと変えた魔具がそのまま使われているというのが一番目を引くだろう。

その件に関してはキャロルもシーナから聞かされていた。

 

「ええ。最もお渡しなるかどうかは分かりませんが…」

 

「分かっている。だが一つだけ言わせてもらおう」

 

彼女の視線がトレーラーの荷台からマギーの後ろで控えるギルヴァとルージュへと向けられる。

何処か凄味を感じさせるその視線に対しギルヴァとルージュは真向から受け止める。

そして二人は分かっていた。彼女の口から次に発せられる言葉を。

 

「あいつらを甘く見るなよ…?」

 

辺りが静まり返る。

彼女らしくないその台詞に57やノア、レイが目を丸くする中、ルージュは笑みを浮かべた。

想像していた通りの言葉が出たからもあるが、キャロルからのその言葉がちょっとした戯れの誘いである事を受け取ったからでもあった。

 

「何を言うかと思えば…。最初から私たちは二人を甘くなど見ていませんよ」

 

寧ろ…、と前置きを呟きつつ目を伏せ、マギーの前へと出るルージュ。

そして伏せていた目をゆっくりと開かれると同時に彼女は戯れのお誘いに対する礼を示した。

 

「手加減など不要。私たち二人をそう簡単に破れる相手だと思わないでいただきたい」

 

赤き瞳はどことなく輝きを見せ、誰であろうと反らす事の出来ない鋭い眼光へと化したそれをキャロルへとぶつけながらも微笑むその様相はある意味ルージュらしからぬと言えよう。

だがそれがちょっとした戯れである事は誘ってきた本人が一番理解していたのか、小さく笑みを浮かべたと同時にルージュも放っていた殺気を収め、キャロルへと問う。

 

「戯れにしては少しやり過ぎましたか?」

 

「どうだろうな。…最も作戦でオートスコアラーの面々を手助けしてくれているお前が乗って来たのは意外だったが」

 

「こうして話す機会などそうありませんからね。折角だったので乗らせていただきました」

 

「にしては、目が本気だったのは気にせいか?」

 

「さぁ?どう受け取ったかは貴女次第ですよ。キャロル指揮官」

 

軽く肩を竦めルージュはそれ以上の事は言わなかった。

対するキャロルも軽く笑みを浮かべるだけで、どうしたらいいのかと言った空気が周りを包む。

これでは無駄に時間が過ぎてしまうだけだと感じたギルヴァが軽く呆れた様なため息を付くと、話を変える為にノアへと話しかける。

 

「ノア、隣に居るそいつは新入りか?」

 

「え?あ、ああ、そうだ。名前はレイって言ってな。ランページゴースト所属する事になったから、今後も顔を合わせるだろうぜ」

 

ノアから紹介を受けてどうもどうも~と手を振るレイ。

軽い挨拶を終えると彼女の目は二人を興味深そうに見つめていた。

どうしたんだろうかと首を傾げるルージュであったが、隣で立っていたギルヴァが尋ねた。

 

「俺たちの事は聞いているみたいだな」

 

「えっと、ギルヴァであってるよね?うん、ノアから簡単にだけど聞いてる。しかしまぁ…悪魔、ね。E.L.I.Dと見間違えたんじゃないの?」

 

広域性低濃度感染症。

この世界に広がっている汚染 崩壊液コーラップスによって低濃度の被爆で起きる症状。

高濃度の被爆の場合は死に至り、低濃度の被爆の場合、被爆者の姿の変貌する。

正しく「化け物」と言っていい程であり本当の姿が何だったのか分からなくなる程までに変貌する。

そういった意味では見た目が『悪魔』の様だと思い、それを悪魔と見間違えたとしても誰も笑いはしない筈だ。

レイに至ってはこの早期警戒基地に来る以前までは汚染地域でE.L.I.Dを腐る程相手にしてきたのだから、彼女が言う事もあながち間違ってはいないと言えよう。

だがその台詞は間違っていると断言できる。

ギルヴァら、そしてS10地区前線基地と関わりを持った事のある者らはその目でしっかりと見ているのだ。

人知れず存在するソレ、『悪魔』という存在を。

 

「人の姿ですらなかったというのであればE.L.I.Dと見間違えてもおかしくないだろうな」

 

「でしょ?…って、待って。あれとやり合った事あるの?」

 

「ああ。グリフィンと協力関係なる前の話になるが、放浪している時に腕試しがてら危険視されている奴らを幾つか仕留めた。相手にもならなかったが」

 

「…マジで?てか、あの話本当だったんだ。刀一本でアレらとやり合った狂人がいるっていう話は」

 

「お前が言う話が何なのかは知らんが、あれらとやり合ったというのは事実と言っておこう」

 

何処か引き気味になっているレイを放置し、ギルヴァはルージュへと視線を飛ばす。

今のうちに行動しろというその意図を感じ取ったルージュはシーナが作ったチョコチップマフィアが入った箱をキャロルらへと差し出し、57がそれを受け取った。

 

「シーナ指揮官からのお土産です。個数に限りはありますけど良かったらどうぞ」

 

「ありがとう。シーナ指揮官が作るお菓子ってすごく美味しいって聞いてたから、お茶する時が楽しみになってきたわ」

 

「…取り合いにならないでくださいね?」

 

「大丈夫大丈夫。自分の分はちゃんと確保しておくから」

 

先ほどの雰囲気は何処へ消えたのか。和やかの雰囲気が辺りを包む。

ちょっとした挨拶も程々にした後にギルヴァらは早期警戒基地内へと足を踏み入れる。

普段通りであればランページゴーストの二人、アナとRFBにも挨拶するのだが今回は事が事である為かそれは断念し、ギルヴァとルージュは一足先に模擬戦の舞台となる演習場で待機する事に。

二人が来るまでの間、軽いウォーミングアップを済ませていく最中、ギルヴァの中にいる蒼が傍に居る同じく精神のみの存在であるエラブルへと話しかける。

 

―エラブル。いきなりで悪いが少しおつかいを頼まれてくれねぇか?

 

―おつかいですか?えっと…難しいのは無理ですよ?

 

―安心しな。大して難しくはねぇさ。ただアナって言う嬢ちゃんにイグナイトトリガー一回分の魔力を渡して欲しいだけさ

 

―魔力をですか?それだけならいいですけど…でもそれだけなら蒼さんが行った方がいいんじゃ?

 

―そうしたいのは山々なんだがね。俺が行くとどうも余計な手助けをしそうなんでね。そうなると平等とは言えねぇだろ?

 

蒼の言い分は最も言えた。

それどころか相手が顔見知りである為か必ずと言っていいほど余計な手助けとしてしまうのは蒼自身が一番理解していた。

だからこそ蒼はエラブルに自身の代わりに魔力を渡すように頼み込んだのだ。

 

―アナって言う嬢ちゃんが誰なのかはちゃんと教える。悪いが頼まれてくれねぇか?

 

―そういうでしたら…分かりました。

 

そう言われ軽く悩みエラブルであるが、それだけであるのであればと思い蒼の頼み事を了承。

ギルヴァの許可を得て、エラブルは外へと飛び出すとアナの元へ向かっていった。

彼女が外へと飛び出し、演習場に二人の姿が見受けられない中ギルヴァは無銘を杖の様にして立てながらその時が来るのを静かに待つことにした。

その時はまだ来ない事を理解しながら残り僅かな時間を楽しむ事にするのであった。




遅くなり申し訳ございません。

今回は模擬戦前の軽い戯れ編です。
次回からは模擬戦【覚悟証明】へと突入いたします。

では次回ノシ


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Act234 Proof of preparedness Ⅲ

―さぁ始めよう─

─最高に刺激的な戦いを!─


S09P地区早期警戒基地内にある演習場はイグナイトトリガーを発動させたアナから発せられる魔力が渦巻く場と化していた。

それであって言葉すら発するのを禁じられているのではないかとつい思ってしまいかねない程の緊迫感溢れる状況にも関わらずギルヴァはそれがどうした?と言わんばかりに平然としていた。

だがルージュはそうではなく何故か体が震えていた。

イグナイトトリガーを発動させ、更には己と向き合ったことで覚醒したアナを見て恐れているのか?

或いは勝つつもりで来ており、既に覚悟完了を決めているRFBを見て恐れているのか?

否、そのどちらでもない。

 

「全身全霊を以ってぶつかる、そして勝たせてもらうつもりでいる…それは大変結構。寧ろそう来てもらわなければ、今日という日に備えていた意味がないので」

 

高ぶる高揚感。止まらない震え。そこから結びつくはただ一つ。

武者震い。それこそがルージュを襲う体の震えの正体。

あのルージュが珍しくも武者震いを覚えていた。

それと、と前置きに口にしルージュは手の平から桜色の炎を発火させる。

 

「気を抜いていると─」

 

「っ!!」

 

ルージュが何かする気だといち早く感づくアナ。

咄嗟に動こうとしたがそれは間に合わず、揺らめく炎を宿したルージュの腕が勢いよく振り下ろされる。

その瞬間、大爆発ともいえる爆音と共に巨大な桜色の炎が炸裂。

演習場を包み込んでいたイグナイトトリガーを発動させたアナから放たれる魔力の渦が跡形もなく焼きつくされ、まるで舞い散る桜の花弁の様な火の粉が静かに降り注いだ。

 

「大怪我どころでは済まないので。死ぬ気でかかってきてください」

 

その言葉と同時にルージュから濃密な殺気が放たれる。

濃密な殺気は観戦室で戦いの様子を見ていたキャロルらとルージュが来ている事を何処かで知ったのか観戦室にきていたオートスコアラーの面々にまで届いており、つい得物を引き抜きそうになるも何とか抑え込みルージュを見つめていたキャロルが口を開く。

 

「凄まじい殺気だな…。あの大規模作戦やタリンでの救出作戦でオートスコアラーを援護してくれたルージュの強さはスユーフやトゥーマーンから聞いていたが…」

 

「今回ばかりは訳が違うってやつだろうな…。あんな雰囲気を纏うルージュは初めて見た」

 

キャロルの呟きが聞こえていたのだろう。隣で立っていたノアが答える。

オートスコアラー程とは言えずともノアもまたルージュの強さを知る一人。

だからか、今のルージュを見て軽く信じられないといった表情を浮かべている。

 

「甘く見るなとは言ったのが…ルージュがああだと、この戦いの結末が読めなくなった。それに─」

 

「…ギルヴァがどう出るか、でしょ?」

 

キャロルの台詞の先を読んでいたのか、副官の57が問う。

その問いにキャロルは小さく頷き、視線をギルヴァらがいる室内へと向ける。

魔力、殺気、沈黙にそれら三つに包まれる中、マギーは神妙な面持ちでイグナイトトリガーを発動させたアナとRFBへと視線を向けると内心であるが二人へと言葉を投げかける。

 

(本来であればすぐにもでもお渡ししたかった。しかし物がモノ…故にこの様な形を強いた事に悔いはありません。…さぁ、見せてください。貴女たち二人の覚悟とやらを)

 

一方、ルージュが好き勝手やっている隣でギルヴァはアナを見つめていた。

 

(この気配は…やはりか)

 

鋭い気配察知を持つギルヴァだからこそ分かるのだろうか。

彼は彼女から感じられるもう一つの変化に気付いていた。当然ながら蒼も気付いており、エラブルに至ってはそれが変化とは気付かずとも、どこか困惑している様子であった。

 

―アナさんって人形…なんですよね?でもこの感じ…

 

―エラブルにも分かる程ってことはこの変化は相当だな。嬢ちゃんがそれに気づいているかは分からんが

 

色々手助けしたり、勝手にやったりなどしてきた蒼であったがここまでの変化するとは彼ですら驚きを覚えずにはいられなかった。

 

(ギルヴァやブレイクが半人半魔。ネロは人形でありながら右腕の影響もあって純粋な戦術人形から半分悪魔の血を流す事になってしまった。明確な名こそが無いが名付けるとしたら半形半魔ってやつだ。今の嬢ちゃんはそれに近いんだろうよ)

 

エラブルに分からぬ様に蒼は笑みを浮かべた。

ギルヴァに頼まれたからでもあるし、強制ではない。

だがこのような形になってしまったのであれば──

 

(こりゃあ俺も参加しねぇとなぁ)

 

蒼は黙ってはいられないのである。

 

 

「さて会話も程々にして…では、やりましょうか」

 

「ええ。…先も言った通り──」

 

絶刀「天羽々斬」を構え直すアナ。

二人を見据えると同時に右目から放出される青き炎を一段と大きく燃え盛った。

 

「"私たち"の全身全霊の技、それらを以って覚悟の証明とさせていただきます」

 

「行くよ!ルージュ!ギルヴァさん!」

 

ガングニールを纏い、その手にR.ガードを構えるRFB。

対するルージュは桜色の炎を両手足に纏わせ、籠手と具足を形成し構える。

 

「私はRFBを、ギルヴァさんはアナさんを」

 

「ああ」

 

頷きギルヴァは無銘の鍔に親指を押し当てた。

微かに響き渡る鯉口を切る音。鞘から僅かにその姿を晒す刀身。

ギルヴァとアナが、ルージュとRFBが一歩踏み出す。

そしてギルヴァとアナが瞬間移動したかのようにその姿を消し、ルージュとRFBが地面を蹴り勢いよく突進した瞬間…

 

「!」

 

「っ!!」

 

宙で無銘と天羽々斬の刃が鋭い音を立てぶつかり、地では城塞並みの堅牢を誇る大盾と炎を纏った拳が真正面からぶつかった。

全力対全力。それら双方が同時にぶつかれば伝わる反動も凄まじい。

それを物語るかのように四人の態勢が僅かに崩れた。

だがその一瞬ですら命取りになる事が分からない四人ではない。

ギルヴァはエアトリックで、アナもまたエアトリックに似た技で地上へと降り立ち、両者は突進。

目に追うのですらやっととも言える速さで激しい剣戟を繰り広げていく。

対するルージュとRFBは違っていた。

 

「っ!」

 

拳による連撃から流れる様に繰り出される足技による数々。

炎を纏いながら放たれる一撃は下級の悪魔であれば間違いなく抵抗する間もなく焼き尽くされるだろう。

ルージュによるそんな驚異的な連撃をRFBはR.ガードを用いて見事に全て受け流していた。

己の身体能力をフルに生かして攻撃を繰り出しても全て受け流されるのみ。

隙を突くのも相手が相手である故にそう簡単に出来るものではない。

 

(…やりづらい!)

 

(受け流すのだけでも反動が伝わってくる…!)

 

だからかルージュは今のRFBに対してやりづらさを感じ取っており、対するRFBもまた中々反撃できずにいる事を感じ取っていた。

 

(しかし…!)

 

(でも…!)

 

両者ともに本気なのだ。苦戦することだって分かっている。

やりづらいから諦める?

受け流すだけで精一杯だから諦める?

 

((負けられない!!))

 

否、この程度で諦めるようであればこの戦いの意味がなくなる。

心の中で自身を鼓舞するかのように叫ぶ両者。その思いを上乗せした拳と盾が凄まじい音を立てぶつかる。

反動によって崩れる態勢も一瞬の出来事。素早く立て直し両者は反撃へと移行。

最速で放たれた右ストレートが勢いよくぶつかり、両者の間で小規模の衝撃波が周囲へと走った。

拮抗する力。お互いに動かない。だが次の攻撃へと素早く映れたのはRFBであった。

押して駄目なら引け。まるでそれを示すかのように後方へとステップを踏み、RFBはルージュの態勢を崩す事に成功。

 

「うおおぉりゃぁあああああああッ!!!!」

 

そしてR.ガードを前面に展開し、地面を削りかねない勢いでRFBはルージュへと突進。

反撃は間に合わない。回避も間に合わない。

姿勢が前のめり状態であるルージュが取るべき最良の手段は防御。

誰しもが態勢を崩している彼女を見てそう思った。

しかしその予想は容易く裏切られる形となる。

 

「ッ!?」

 

最初に気付いたのはRFBだった。

先ほどまで態勢を崩し隙を晒していたルージュがRFBに気付かせる事もなく攻撃の構えを取っていたのだ。

それどころか握りしめた拳にはあの炎が発火している。

 

(まずっ!!)

 

攻撃から即座に防御態勢へと移行し始めるRFB。

飛び出している為、攻撃を受ければ確実に後ろへと飛ばされる。だがそれは甘んじて受けるほかない。

問題はこのわずかな時間で完全な防御態勢へと移行できるのかにある。

 

「遅い」

 

だがそんな僅かな時間でさえ、ルージュからすれば遅すぎるの一言に尽きた。

冷たい一声とは打って変わり、拳を纏う炎が轟々と激しく燃え盛る。

次の瞬間ルージュの姿は消え、一筋の炎がまるで閃光の如く駆け抜けRFBを吹き飛ばした。

しかし寸での所で防御が間に合ったのか、後方へと大きく吹き飛ばされるも何とか受け身を取り、RFBは立ち上がると両手足の装着した籠手と具足から炎を放出するルージュを見つめる。

呼吸を少しも乱す事もなく、構える彼女がそこにいる。

そんな彼女を見て流石はルージュとRFBは内心そう呟き、ニヤリと笑みを浮かべた。

確かに先ほどの一撃は尋常じゃないと思えるほどのスピードと威力を誇っていた。

だがRFBからすれば──

 

「これで終わり?」

 

だからどうした?とその一言に尽きる。

この程度で終わったと思うな。さぁ来いよ。まだ覚悟を証明していないのだぞ?

そんな声なき言葉がRFBからルージュへと向けられる。

 

「いいえ…今のウォーミングアップとでも言っておきましょうか」

 

静かに構えの形を変えるとルージュはニヤリと笑った。

まだやれますね?と挑発的な笑みを向けるとRFBもまた額の汗をぬぐい構えた。

 

「行きますよ、ヒーロー(RFB)?」

 

「来いッ!!!」

 

再び両者を突進し、攻撃と防御の応酬を繰り広げていくルージュとRFB。

ついそちらに目が行きがちになる一方で観戦室にいるノアとレイはギルヴァと相対しているアナへと視線を向けた。

爆炎と破砕音を幾度も響かせるルージュとRFBらと違い、ギルヴァとアナの戦闘は最早目で追う事すら難しく人智を超えているのではないかと言いたくなる程、熾烈を極めていた。

 

「!」

 

「疾ッ!」

 

駆け抜ける黒い影。疾走と共に神速の居合から放たれるは無数の真空刃。

普通であれば回避。しかしアナは回避を取ろうとはせず、逆にギルヴァが得意とする『疾走居合』と似た技を繰り出し、無数の真空刃を生み出すとギルヴァの攻撃を全て弾く。

すれ違い、そして睨み合う両者。

完全に真似てはいないとはいえ、自身が繰り出す技をやってのけたアナを見てギルヴァは小さく笑みを浮かべ、アナは天羽々斬の切っ先をギルヴァへと突きつける。

 

「そう簡単に好き勝手はやらせませんよ?」

 

「面白い」

 

お互いに余裕をかましている様なそんなやり取り。

だがそれも束の間、二人は突進と同時に姿を消す。

そして刃をぶつけ火花を散らし、鍔迫り合いへと持ち込んだと思えば再び離れ技を繰り出していく。

あれは本当に二人がやっているのかと思わず引き攣った笑みを浮かべそうになる観戦室の面々。

だがノアだけが、ギルヴァとアナの戦闘を見てある事に気付いた。

 

「イグナイトトリガーを発動させたアナを相手にしてるってのにデビルトリガーすら発動せず素の状態でやり合うとはな…。ホント、ギルヴァが敵じゃなくて良かったとつくづく思うぜ」

 

「え…ギルヴァって人、あれでマジになってないの?」

 

信じられないといった表情でレイはノアへ問う。

その問いにノアは頷くと口を開いた。

 

「ああ。まだ序の口ってやつだ。使ってる得物もあの無銘っていう刀だけだし、それにあいつだけにしか出来ない技をまだ使ってない。となりゃまだマジになってねぇんだろうよ」

 

「…もしかして手を抜いている?」

 

「どうだろうな。まぁ…本気でやるって話だから手は抜いていないと思うがな…」

 

最早この戦いの結末がどうなってしまうのかとなど誰にも予想すら出来ない。

今彼女らに出来る事はこの戦いを見届ける事。

激闘を繰り広げる四人の戦いは模擬戦が開始して早々に熾烈さを極めていく。

しかしまだ始まったばかり。覚悟を示す戦いはここからが本番なのだから。




まだまだ模擬戦【覚悟証明】は続くよ!

てかRFBとアナさんの戦い方ってこんな感じでいいのかしら…(震え)
あ、ちなみにギルヴァもルージュも自身が愛用する武器を全て持ってきています。

ではでは次回ノシ


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Act235 Proof of preparedness Ⅳ

─彼女は恐怖を知り、悔しさを知った─

─けど守りたいものがあって、取り戻したいものがある─

─故に戦えるのだ。何故ならば彼女はヒーローだから─


模擬戦が開始して、どれほどの時間が経ったのかなど今や誰にも分からない

そんな事すら忘れてしまうほどに観戦室にいる者達の目の前で起きている戦いは激しさを増す一方だった。

火花が散り、炎が吹き荒れ、斬撃が飛び、衝撃波が奔る。

模擬戦ではなく戦争でもやっているのではと思いたくなるような状況。

それを作り上げているは愛用する得物を、また自身の身体能力を駆使して戦闘を繰り広げる四人によるものだ。

 

「うおおおおおッ!!!!」

 

「はあぁッ!」

 

気迫のある雄叫びを上げ突進するRFBとルージュ。

互いに構えた拳が放たれると鉄球でもぶつかったのかと思えるほどの衝撃波が周囲へと広がるもそれすら気に留める様子もなく二人は素早く後ろへと一歩下がってから再度突進。

R.ガードを構えるRFBよりもルージュがほんのわずか早く攻撃を仕掛ける事が出来た。

片足を軸にし一回転から大きく左へと薙ぎ払う様な蹴りを放つも受け流され、そのまま流れる様に素早く後ろ回し蹴りを仕掛けるもそれは防がれR.ガードを押し退けられる。

一瞬の攻防。しかしその一瞬でルージュはとある事に気付く。

 

(…防御、受け流し、そして防御力に物を言わせた攻撃といった感じでR.ガードを使っている訳ですか)

 

盾の扱いとして決して間違っているとは言えないだろう。

寧ろRFBの場合、R.ガードを主軸にして戦っている訳ではない。

だがあれだけの攻撃に反応し、そして波の戦術人形では到底無理であろう攻撃を仕掛ける事もこの早期警戒基地にいるRFBは出来るのだ。

 

(仕方ないですね。少しだけ"授業"しましょうか)

 

それ故かルージュはほんのわずかにR.ガードの扱いに物足りなさを感じずにはいられなかった。

 

「え?」

 

R.ガードを構えていたRFBは突如としてそんな声を上げた。

それもその筈だろう。先ほどまで構えを取っていたルージュが突然炎で構成された籠手と具足を解除し、構えを下ろしたのだから。

その行いは観戦室にいる面々にどよめきと困惑をもたらしマギーも困惑していた。

戦う事を放棄したのかと思いそうになるもそれを否定する。

でなければ三振りの刀で構成された武器、【鴉刃】【漆】【朱】、姿は見えないが持ち出している【ヘル=バンガードの大鎌】や【コキュートス・プレリュード】を持ってきた意味を問わなければならなくなる。

では一体どうしたというのか。誰しもが思う疑問の答えはその直後に明かされた。

 

「…」

 

ルージュの周囲に漂うは先ほどの炎ではなく冷気。

冷気の発生源は彼女の背に何時の間にか展開された魔具【コキュートス・プレリュード】によるもの。

目に見えるほどの冷気が漂うと、やがて凍てつき始め、まるで亀裂が入るような鈍い音を立てながら形を成していく。

そして数秒も経たぬ内にルージュの手元に現れたのは凍てついた大盾。

それもRFBが持つR.ガードと同じ外形をした大盾だった。

 

「どういうつもり?」

 

突然自身が持つ得物の一つを作り上げたのだ。その行いにRFBは問わずにはいられなかった。

だがルージュはRFBの問いに答える事はせず大盾を軽々と振るい構えると、左手で来いよと挑発した。

その真意は分からない。だがかかってこいと挑発された以上、RFBは動かざるを得なかった。

R.ガードを構え突撃するRFB。防御面を前面に展開し突進を仕掛けた時、彼女は目を見開いた。

 

(投げてきた!?)

 

攻撃に備える訳でもなく、あろうことルージュは凍てついた大盾を思い切り投げてきたのだ。

攻撃を中断しR.ガードを振るい飛んできた大盾をルージュへ向かって弾き飛ばすRFB。

弾き返され回転しながらルージュへ飛んでいく太盾。

それに臆する事もなく、突進と同時に難なく持ち手を掴むとルージュは身を翻しつつ大盾を持ちあげながら上部の短辺部分を前へと向け、打突を仕掛ける。

だがRFBからすればそれは単調な攻撃に過ぎず、R.ガードで打突を受け止めてルージュの姿勢を崩しそこから反撃へと移行しようとした時、RFBの体に横から衝撃が走った。

突然の出来事。一体何が起きたのかRFBはすぐには理解できず、気付けば吹き飛ばされていた。

素早く受け身を取り起き上がり、息を整えつつ対するルージュを見てRFBはそういう事かと納得する。

ルージュが持つ大盾をよく見れば、十字架の下部である長辺部分が前に向けられていた。先ほどの攻撃はその長辺部分を使った薙ぎ払いであると彼女は理解し思う。

 

(私に攻撃を弾かれた反動をそのまま利用してルージュじゃ振り向きざまと同時に盾を回転させ長辺部分で横から仕掛けてきた。それも私に近づかれる前に…)

 

そこまで理解した後、RFBは改めてルージュの恐ろしさを覚える。

盾の扱いにおいて、現状で言うとRFBの方に軍配が上がる。

だがルージュは初めて扱うにも関わらず、RFBに一撃を当てて見せた。本当に初めて使ったのかと問いたくなるほどにその技量は卓越していた。

 

(それにルージュは攻撃面に特化した扱いをして見せた。まるでこういう扱いもあるって教えられているみたいじゃん)

 

笑みを湛え、構えるRFB。

それを見てルージュは手にしていた大盾を砕くと彼女らしい笑みを浮かべながらRFBへと話しかけた。

 

「その顔からして…気付いたみたいですね?」

 

「まぁね。いきなりでびっくりしたけど勉強にはなったかな。流石に今やったら付け焼き刃になるけど」

 

「でしょうね。…では私からの授業はここまでとし、本来の目的へと戻りましょうか」

 

軽く息を吐き、ルージュは腰に提げている刀…【鴉刃】へとそっと手を伸ばす。

授業は終わった。それを指し示すかのように構えを取った。

片足を一歩後ろへと引き、体を横にする。そして右手は鴉刃の柄から少し離した位置で添える。

その構えを見てRFBは警戒心を一気に強めた。

我流であるのは事実。だがそれがルージュにとって最速の一手を繰り出す為の居合である事だと。

同時に後ろ腰に携えた打刀【漆】脇差【朱】の存在もRFBにとっては脅威と言えよう。

だがRFBを襲う脅威はそれだけでは終わらなかった。

 

「!」

 

その異変に気付いたのはRFBだけではない。

この場に居る者達が、その戦いを見ていた全員が気づいた。

言うなればルージュにしか出来ない現象が今そこで起きようとしていたのだ。

室内全体へと広がり始める冷気。

ルージュの体全体からゆっくりと浮かび上がる火の粉もまた室内全体にへと広がり始める。

そして次の瞬間、冷気と熱気の暴風が室内全体を駆け抜けた。

迫りくるそれに反応しRFBはR.ガードを前へと構え、二つの暴風から身を守る。

一瞬とも言える暴風。それが過ぎ去った後、RFBは静かに佇むルージュを見つめた。

 

「あの時とは違う…」

 

RFBの中で思い出すはタリンでの大規模作戦終盤時。

アブノーマルのリーダー格らと戦闘を繰り広げている際にギルヴァがアナを助け、ブレイクとネロ、そしてセイレーンと呼ばれる誰かがゲーガー、ノアの援護に入った際、RFBの元に駆け付けてくれたルージュ。

持ちうる力を発動させたルージュの姿は間近で見ていた為かRFBは鮮明に覚えていた。

 

(これがルージュの本気)

 

だが対面する今の彼女はかつて見せた姿と比べると確かな違いがあった。

コキュートス・プレリュードの特徴である大小異なる翼と腰部に展開された火器内蔵型の翼は全てをルージュの背後へと移動。まるで大輪の花を咲かせるが如く、凍てついた羽が優雅に動き出し大きく展開。

そして冷気が漂う中、ルージュの体の各所からはあの桜色の炎がゆらゆらと揺れながら燃え盛り始め、両手足には先ほど使用していた籠手と具足よりも小ぶりの物が炎によって形成。

左目は赤から青黒い瞳へ変色すると同時に瞳と同じ青黒い炎を放出し、同時にどこからともなく弧を描いた刀身に禍々しい魔力を帯びた『ヘル=バンガードの大鎌』が出現。

自我を有したかのようにルージュの傍に控えると、その静けさの中に死を覗かせながら刀身の切っ先をRFBへと向けた。

 

(…肌がピリピリするし、それどころか僅かに体が震えてる。やっぱ怖いものは怖い、か…)

 

肌を刺すような冷気、気力を削ごうとする熱気。

それに加えてルージュから発せられる殺気がRFBに向けられる訳だが、動じる様子はなかった。

 

(…)

 

すぐ近くでアナとギルヴァが持つ刀が激しくぶつかり合う音だけが響き渡る中RFBはR.ガードを持つ手を握り直し軽くを息を吐いた。

緑色に輝く瞳が、力を開放しているルージュを見つめる。

 

(ギルヴァさんやルージュみたいな並外れた力は私にはない。でも…!)

 

悔しい思いをし、悲しい思いをしてきた。

心が折れそうになった事もあったはずだ。

それでも尚、何故彼女は立ち向かえるのか。

そんなのは決まってる。

守りたいものがあるのだ。握りしめた指の隙間から抜け落ちそうになる大切なものを守りたいのだ。

取り戻したいものがあるのだ。かつてあった世界の姿を取り戻したいのだ。

 

(絶対諦めない!!諦めてたまるもんか!!)

 

だからこそ戦う。だからこそヒーロー(RFB)は戦えるのだ。

 

「いつまでそのままで居る気なの?ルージュ。それを見せつけられたって、私は逃げないよ」

 

「そうですか。…思っていた通り、私が力を開放した所で貴女は逃げない。いいえ、逃げる筈がない。そう信じて正解でした」

 

ルージュの右目。赤い瞳が鋭くなると鴉刃の鯉口を切る音が静かに響く。

それを合図にR.ガードを構えるRFBに対しルージュは静かに告げる。

 

「…行きます」

 

「!…ッ!!!?」

 

告げられた言葉の直後RFBは盾越しから感じた衝撃と受け流した際に発生した火花を視界の端に捉えながら、驚愕した。

お互いにそれなりに距離は離れていた。

にも関わらずルージュは瞬きをする間も与えることなく一瞬でRFBに間合いを詰め攻撃を仕掛けてきたのだ。

しかし今は原理や理屈など考えている暇などない。

次々と繰り出される高速の斬撃をR.ガードで受け流していくRFB。

 

「そこッ!!」

 

二連撃から体を翻しながら縦に振り下ろされる鴉刃の刀身を向かってRFBはR.ガードの振り上げてルージュの攻撃を弾き飛ばす。

態勢が崩れた所に今度はR.ガードを回転させ短辺部分を前方へと向け腹部目掛けて打突。

攻撃により体がめり込んだ所に構えたR.ガードで体当たりを仕掛けルージュを吹き飛ばし、確実なダメージを与えつつ反撃の隙を与えない為に透かさずR.ガードを勢いよく投擲し、追撃を仕掛けるRFB。

R.ガードの大きさを利用してルージュの視界から自身の姿を隠しつつ距離を詰める為に迫ろうとする。。

しかし中空であるにも関わらずルージュが素早く反応し迫りくるR.ガードをお返しと言わんばかりに蹴り返してきた為、接近を中断。蹴り返されたR.ガードを駆けだしながらも難なくキャッチし片足を軸にして体を翻しつつR.ガードによる攻撃を仕掛けようとした時、彼女の視界の端に飛来する鋭利なモノが映る。

刀身の長さからして一尺三寸程度の刀。…三振りの刀の一つ、脇差【朱】がRFBへと迫る。

R.ガードは間に合わない。

だが自身が纏うガングニールの装甲を用いれば間に合う。

そう判断したRFBは腕を振り上げ、飛来する【朱】を上へと弾き飛ばす。

だがその直後─

 

「がっ…!」

 

貫かれたような強烈な一撃がRFBの腹部に直撃した。

痛みに耐えながら視線を下へと向ければ、いつ接近したのか分からない程の速さで肘鉄砲による一撃を与えてきたルージュの姿。

赤い瞳と青黒い炎を放出する瞳がRFBに向けられることはなく、弾き飛ばされ落下してきた朱を見向きもせずキャッチするとルージュはそれを静かに鞘へと納めRFBから少し離れ問う。

 

「…全て防ぎきれますか?」

 

ルージュの手が鴉刃の柄に触れ、親指が鍔に押し当てられる。

そして鯉口が切られる音がルージュとRFBの間で響いた。

 

(不味い…来るっ…!)

 

痛覚を遮断。体を無理にでも動かし、RFBは攻撃に備える。

次の瞬間、音を置き去りにした無影の一撃が奔り、火花が散った。

居合抜刀による鋭く速い斬撃は防がれた。しかしルージュは止まらない。

流れるように二連続袈裟斬りから構えを変え刺突。そこから半歩下がりつつ体を回転させてから全身を使って刀身を振り下ろすと透かさず鴉刃の刀身を鞘へと納め無数の連撃を見舞う。

それでも攻撃は弾かれていく。そうだと分かっていながらもルージュは攻撃を止めない。

無数の連撃を見舞った後、刀身を鞘へと納めた鴉刃を宙へと放り投げ今度は両手足に装備した炎で形成された籠手と具足によるインファイトへと持ち込む。

鉄槌打ちから右足を大きく上へと蹴り上げ、そこから左足を軸にし身を翻しながら振り上げた右足を勢い良く振り下ろした踵落としで防御に徹するRFBの態勢を崩しにかかる。

 

「…!」

 

態勢を低くしながら突進するルージュ。

そのまま体を右左へと揺らしながら拳による連打をRFBが構えるR.ガードへとぶつける。

回数が重なるにつれてその速度は上昇していき、気付けば嵐と言っても良い程の乱打が放たれる。

そんな嵐を前にしてもRFBの態勢は崩れない。だがルージュは分かっていた。

あと一押しで堅牢なる城塞は崩れるという事を。

 

「はぁっ…!」

 

打ち上げられる渾身の一撃。

その一撃は今までルージュの怒涛の連撃を受け流してきたRFBの態勢を崩すには十分な一撃。

受け流す事は叶わず、R.ガードはRFBの手元を離れ宙を舞う。

態勢を崩れ、城塞は崩れた。ここからルージュは一気に畳みかけようと突撃する。

 

「まっだぁぁああッ!!!」

 

だがRFBは諦めない。

己の身体能力を駆使し、向かってくるルージュに対し拳を構え殴りにかかる。

拳はルージュの頬をかすり、対するルージュの攻撃はRFBの空いた手で受け止められる。

そこから起きるは拳と蹴りとカウンターの応酬。

掠ろうが、直撃しようが二人は決して止まらないし倒れない。

だがそんな応酬は一瞬で終わってしまう。

RFBから放たれる足払いに対し体を反転させながら跳躍して躱すルージュ。

宙へと舞い上がると同時に彼女は自身の傍に控えていたヘル=バンガードの大鎌の柄を掴み、構える。

コキュートス・プレリュードから放たれる冷気によって刀身が凍てつき、刀身自身から放たれる魔力も相まって何処か妖艶な色へと変える大鎌。

ルージュの姿と相まって、儚くて美しい。迫りくるものが死である事すら忘れるほどに。

 

「!」

 

落下と同時に振り下ろされる大鎌。

弧を描いた光の筋と共にありとあらゆるものを消し去る薙ぎ払いがRFBを襲った。

氷霧が周囲を駆け抜け、視界を遮る。

だがこの時、ルージュは自身が繰り出した一撃に妙な違和感を覚えた。

当たるのは当たった。だがこの違和感は一体…?

氷霧が晴れる。そして自身の前に表したそれにルージュは目を見開いた。

 

(R.ガード!?)

 

よく見ればR.ガードの長辺部分はコキュートス・プレリュードの氷結の能力により凍てついていた。

それにより倒れる気配はない。

これがルージュの一撃を受け止めたとして、本人は何処に行ったのか。

その答えはルージュは探すよりも早く明かされる事となる。

 

「どこ見てるのさ」

 

「!?」

 

視線を向ければそこには間合いを詰め、右腕を引き身を屈めるRFBの姿。

 

「運が良かったっていうのかな。あのタイミングでまさか弾き飛ばされたR.ガードは私の目の前に落ちてくるとは思わなかった。けどそのタイミングでルージュの攻撃を防ぐことが出来た。そして今、大鎌による攻撃は出来ない。それさえどうにか出来れば良かったんだ」

 

「…そして貴女はそれをどうにか出来たという訳ですか」

 

「うん。…悪いけど決めさせてもらうよ」

 

振り上げられる拳。

刹那ルージュの顎に拳が叩きこまれる。

強烈な一撃をまともに受けた以上、ルージュは動けない。

そして止めと言わんばかりにそのままRFBは飛び上がりながら膝で追撃。ルージュは大きく上へと打ち上げ、止めを刺した。

打ち上げられ地面に激突するルージュ。倒れたままであるが意識はしっかりとしており、僅かに微笑むと顎を触りながら上体を起こす。

 

「どんなに強い奴が相手だろうと、私は絶対に諦めない。…これが私の覚悟だよ」

 

「ええ。しっかりと貴女の覚悟、受け取らせて頂きました」

 

覚悟は身を以ってしっかりと受け取った。

解放していた力を解除し、ヘル=バンガードの大鎌を異空間へと納めるとルージュは微笑みながらRFBへと伝える。

覚悟を問う為の戦い。その覚悟は揺るぎないものかとどうか。

例のモノを扱うに値するかの、その合否を。

 

「合格です。よく頑張りましたね」

 

RFBの表情に笑みが浮かぶ。

一応自身の戦いは終わった訳なのだが、まだアナとギルヴァが戦闘を繰り広げている。

戦いの邪魔にならぬように二人は室内の端へと移動し、その場に座り込む。

 

「…しかし最後の一撃は効きましたよ。死ぬかと思いました」

 

「あ、あー…それはごめん。でもルージュの攻撃も結構ヤバかったんだけど?」

 

「さて、何のことでしょうか」

 

「ちょっと!?」

 

肩を竦めながらルージュはRFBと共に二人の戦いを見つめる。

恐らく自分達の戦闘以上に派手な戦闘になるであろうと予測しているのか、RFBにR.ガードを展開できるように準備するように伝えると静かに戦いの行く末を見つめるのであった。




遅くなり申し訳ございません。

模擬戦【覚悟証明】でルージュvsRFBの戦闘は終了しました。
次回はギルヴァvsアナさんの話へと突入します。
早めの投稿をがんばるぞい…


次回予告

─私は求める─

─守るための、取り戻す為の『力』─

―ならば見せよう。これが『力』であると─


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Act236 Proof of preparedness Ⅴ

──I need more Power(もっと力を)──


剣戟の音が鳴り響き、火花が散る。

剣を交える二人の間に会話はない。

その技が、その覚悟が答えとなって返ってきているのだから。

 

(RFB…どうやら勝てたようですね)

 

ルージュに勝利し室内の端で戦いを見つめているRFBを見てアナは安堵する。

特殊な力を持たないRFBがあのルージュに一本取ったのは彼女からすれば素直に喜ぶことだった。

だがいつまでも安堵している訳にはいかない。

戦いの最中に気を抜くなど相手をしてくれているギルヴァに失礼なのだから。

 

(あとは─)

 

イグナイトトリガーを発動させたにも関わらず、素の状態で渡り合ってくるギルヴァ。

容易に勝てる相手ではない。

加えてギルヴァの中には『蒼』が居る。

何らかのサポートをしているとはどうかは分からずとも居ると事実は変わりない。

ギルヴァだけではない。蒼も相手にしているという事をアナだけは気づいている。

 

(私が勝つだけッ!!)

 

それでも彼女には負けられない理由があるのだ。

だからこそ手にした刀…絶刀『天羽々斬』を振るい続ける。

 

「…ッ!」

 

突進。

まさしく『消えた』とも言えるほどの速さでギルヴァへと迫るアナ。

振るうは神速の一撃。ぶつかるは刃。散りうるは火花。

目にも留まらぬ速さで攻撃を繰り出し、最低限の動きのみで回避。

呼吸、太刀筋、動作…それら全てを予測し最大の一手をぶつける瞬間を見出す。

今、それが戦術人形という身でありながら、宿した『力』も相まって行えているアナという人形は最早戦術人形の枠組みに収まらない。

 

「「!」」

 

地を蹴り、得物を振るう両者。

二振りの刀がぶつかり火花を散らすと押し退けようと鍔迫り合いへ持ち込む。

拮抗する力。お互いに押し退けようとして動かない状態が続いたのも束の間、アナを押し退けたギルヴァが攻撃を仕掛けた。

無銘の持ち手を握り、素早く抜刀。横薙ぎを見舞うもアナは後ろへとバク転し回避から天羽々斬を構える。

その動作から何処に向かって攻撃を仕掛けてくるのかと瞬時に察したギルヴァは跳躍と同時に身をひるがえしながら無銘の刀身を振り下ろすも攻撃は弾かれ後ろへと吹き飛ばされるも軽やかな身のこなしで着地。

その着地した瞬間を逃さないと言わんばかりにアナは駆け出し地面を勢いよく蹴り飛び上がるとまるで流星の如く降下しながら蹴りを放つ。

向かってくる一撃をエアトリックで躱し、アナの背後へと回り込むギルヴァ。

 

(逃がさないッ…!)

 

ギルヴァに攻撃させる瞬間を与えない。

その考えからアナは素早く身体を反転させ、天羽々斬を突き立てる様にして構え突進した時だった。

 

「ッ…!?」

 

得体の知れないナニカがアナを襲った。

体の不調を知らせるものではない。

では一体何か?

 

(やられる…!?)

 

それは死の報せ。

このまま突撃すれば確実にやられてしまうという最早直感に等しいものがアナへと知らせる。

視線をギルヴァへと向ければ、居合の態勢へと移行しており右手が持ち手へ伸ばされている。

不味いと思い、知らせてきた直感に従い急制動をかけるアナ。

 

「終わりだ」

 

冷たく放たれた終わりを告げる一言が響く。

居合の態勢から繰り出される不可視の抜刀。

次の瞬間アナの眼前で歪みが生じたと同時に無数の斬撃が奔った。

寸での所でアナは斬撃に巻き込まれることなく後方へと跳躍し着地する。だがその表情は険しいままであり、理由はギルヴァが放った技にあった。

 

(ここに来て、あの技を使うとは。…ブレイクさんみたいな言い方をすればギアを一つ上げたという事でしょうか)

 

ギルヴァを相手にするにあたって、警戒すべき事は腐る程ある。

その中で、彼が先ほど放った技はアナの中では上位に入る程、脅威とも言えた。

その技こそ『次元斬』。

神速の居合で次元の狭間を切り裂き、離れた相手を無数の斬撃の渦へと巻きこむ技であり、ギルヴァが得意とする技であり、代表とも言える技。

これまで何度も大規模作戦にて共闘してきた訳であるが、使用した回数はそう多くない。

故にだろうか。険しい表情を浮かべるアナがいる一方で観戦室ではちょっとしたどよめきが起きていた。

特にレイとオートスコアラーの面々は驚きを隠せずにいる。

 

「え、ちょっ…は?なに今の…」

 

「斬撃を飛ばし、た…?いえ、あれではまるで──」

 

レイとスユーフは顔を見合わせる。

そしてその口から、二人が想像していた通りの言葉が飛び出る。

 

「「空間を切り裂いた…?」」

 

「そのまさかってやつだ。正直原理や理屈は俺にも分かんねぇが、ギルヴァだからこそ出来る技と思っていた方が良い。…イグナイトトリガーを有したアナでも、空間を切り裂く事は出来ねぇ」

 

レイとスユーフに答えを告げるのは静かに見守っていたノアだった。

答えを告げ、固まったままの二人を放置する事に決めると彼女は腕を組みアナを見つめた。

 

(こっからだ。ギルヴァがあの技を使ったという事は恐らく──)

 

──マジの悪夢(本気)が飛んでくるぞ

 

ノアが内心呟いたその台詞。それは数秒も経たぬ内に現実となった。

 

「少し本気を出すとしよう」

 

次元斬を放った後に紡がれた言葉。

それを指し示すかのようにギルヴァの姿が消え、アナはその直後に襲った衝撃に目を見開いた。

回し蹴りによる一撃。気付けば体は吹き飛ばされており、痛みが襲う。

地面に激突しながらも素早く立ち上がり、痛みに耐え歯を食いしばりながら、視線をギルヴァへと向けた時彼の両手足に何かが装着されている事に気付く。

 

(籠手に具足…そしてあの金色の雷は…!)

 

雷撃鋼『フードゥル』。

魔帝によって造られし白狼の姿をした悪魔『フードゥル』が魔具へと姿を変えたもの。

雷撃鋼の名の通り、雷の力を持つそれは如何なる敵であろうと砕く。

無銘と比較して絶大な破壊力を誇る魔具を装備したギルヴァがそこに立っていた。

 

「流石に気づくか」

 

振り上げた足を下ろし、ファイティングポーズを取るギルヴァは静かに呟く。

フードゥルの存在は既に知られている事。

分かり切った事だったにしても、そう言わずにはいられなかった。

 

『であろうな、我が主よ。…さて、娘の覚悟が如何なものか、我も見定めさせてもらおう』

 

「出力は最低限で頼むぞ」

 

『分かっておるとも。我とてあの娘を死なす事はしたくないのでな』

 

「それが分かっているならいい」

 

地を蹴り、突撃。

態勢を立て直したアナに向かってギルヴァは攻撃を仕掛ける。

最低出力とは言え、無傷では済まない雷を纏った拳を放ち、そこからボディブローを見舞う。

受け流される攻撃。しかしギルヴァは気にする事もなく二連回し蹴りを放ち、防御に徹するアナの態勢を崩しにかかる。

放たれるは回し蹴りの乱舞。次々と繰り出される回し蹴りの嵐に最初こそは受け流せていたが、次第に態勢を崩れ始めていた。

そしてその態勢を崩しにかからんと言わんばかりに強烈な蹴り上げがアナの態勢を完全に崩した。

手にした天羽々斬はその手から離れる事はなくとも、切っ先は後ろへと飛び体が仰け反る。

 

「オマケだ」

 

体を捻りつつ飛び上がり、アナを宙へと蹴り上げながら追撃にもう一撃見舞うギルヴァ。

両者共に宙へと舞い上がりながらも、ギルヴァの攻撃は止まらない。

ギルヴァが体全体を回転させたと同時にアナは素早く天羽々斬と魔力で錬成した刃を自身の前に展開。迫りくる攻撃をどうにかして防ぎ切ろうとし始める。

次の瞬間、体全体を高速回転させてながら突進してくるは『月輪脚』。

 

「ぐううぅぅぅッ!!!」

 

一撃、一撃が強烈でありそれを物語るかのように両者の間で火花が散りばめる。

散りばめる火花に視界を奪われそうになるのを耐えながらアナは攻撃に耐えるのも束の間、振り上げられた踵落としが叩きつけられ、アナは地面に激突。

叩きつけられた衝撃で一度バウンドするが、素早く起き上がり上を見上げる。

 

「寝ていろ!」

 

「ッ!!」

 

アナへと目掛けて降り注ぐは群青色の斬撃。

地面を蹴り、その場から飛び退くアナ。

そして天羽々斬を構え直し、ギルヴァが手にしているのを見つめる。

 

「ツムガリノタチ…」

 

魔力で錬成された大太刀。

アメノハバキリを参考しギルヴァが扱いやすいに調整した群青色の大太刀。

それを見て、成る程とアナは思う。

 

(本気なのですから、様々な武器を用いるのは当然と言うべきですね)

 

自分も何か用意しておくべきだったかと内心苦笑いを浮かべながらも、正眼の構えでギルヴァを見据えるアナ。

無銘、フードゥル、ツムガリノタチ…特性異なる三種の武器を持ち出してきたギルヴァに隙の一つない。

だが脅威は残っている。

それらの武器に加え、幻影刀、ドッペルゲンガー…そしてデビルトリガーがあるのだ。

全てを使い始めた時、生み出されるその力は最早相手にとって悪夢と言えよう。

だが分かっていた事だ。あのギルヴァを相手にするという事はそういう事なのだと。

 

(それでも私は─)

 

痛みを、悲しみを、別れをこれでもかと言うほど知った。

多くの者達の支えがあって、『力』を得た。

その『力』を以って大切なものを守り抜き、これから生まれてくる『命』の為にも、この世界を仲間達と共にかつてあった姿へと戻すと決めた。

己と向き合い、もう一人の『自身』を受け入れ、今に至った。

 

(『力』を欲しているんでしょうね。あの時、幻影に伝えたように…人形としての枠を超えようとしている。しかし…)

 

その結果、欲した『力』に飲まれるのではないかという不安も無い訳ではなかった。

だからこそほんの僅かに迷いがアナの中では存在していた。

だがこの迷いに答えを出してくれるものはいない。

考える事を止め、戦いに集中しようとした矢先──

 

―お困りごとかい?嬢ちゃん

 

突如として彼女の内で声が響いた。

 

(蒼!?)

 

その声の主がギルヴァの中で居る筈であろう蒼だった事にアナは驚きを覚えた。

一体どういうつもりなのか。それよりもいつの間に自身の中に潜り込んだのか。

疑問が尽きない中、蒼はいつもの調子でアナへと話しかける。

 

―よう、嬢ちゃん。見た感じ、調子良さそうな上に前にも増して力が増してんじゃねぇか。…もう一人の『自分』と仲直りしてきたのかい?

 

(仲直りって…強ち間違ってはいませんが。それよりも何故ここに?)

 

―そりゃあギルヴァに頼まれたんでね。まぁ俺の意思でもあるがな

 

(ではギルヴァさんに頼まれなくても、私の元に来るつもりだった、と?)

 

―正解。他にも色々あるが、今は横に置いておこう。…嬢ちゃん、一つ聞くが嬢ちゃん自身に起きている異変には気づいているか?

 

(異変?)

 

そう言われたに対しアナは蒼へと聞き返す。

異変と言われても何らかの不調がある訳でもない。

だが蒼は自身の中で異変が起きている事は分かっているのだから、疑問に思うのもおかしくない。

 

―その感じだと気づいていない感じか。ま、この戦いが終わった後、この基地の女医さんに確認してみな。完全な答えを出さなくても何らかは知ってるはずだからな。さて…前置きはいい加減にして、答えを明かそう。良いか、よく聞けよ?

 

(…)

 

蒼が言う異変。

アナは僅かに生まれている一周の静寂の中で、蒼が告げようとする異変の正体に耳を傾ける。

 

―半分とは言わねぇが…嬢ちゃんの体を流れる人工血液の一部が悪魔のモノにすり替わっちまってる。いわばネロの様に人形でありながら右腕の影響もあって、流れる血の半分が悪魔になっちまった存在…明確な名称はないが、名付けるとしたら『半形半魔』ってのになってるんだ、今の嬢ちゃんは

 

(え…?)

 

二度目の驚き。

蒼から告げられた異変の正体にアナは言葉を失う。

まさか自身が気づかない内に、そのような異変が起きていたとは思わなかったからだ。

 

―どういう理屈でそうなったのかは分からん。幻影か、或いはイグナイトトリガーに願ったか…それとも嬢ちゃん自身が『力』を求めたが故に、それが起きたのかも知れねぇが。兎も角だ、そうなってしまっている事は事実として受け止める事だ

 

(そう、ですね…)

 

―おいおい…声が沈んでるぜ?まぁ戸惑いを隠せないのは分からなくねぇが、いずれ知ってしまう事なんだ。早いうちに知っていた方が良い。…で、だ。そうなっちまった嬢ちゃんに一つ聞きたい。大事なコトだ、真面目に答えてくれ

 

人形という枠から出てしまった。

否、そうさせてしまったという事実に蒼は表に出さずとも内心では思うところがない訳ではない。

であれば、全力で支える。彼女の異変に気付いたギルヴァと自身で決めたのだから。

 

―今から嬢ちゃんに託すのは疑似的なものでもなく、科学的なもんでもない。正真正銘の異形の『力』だ。扱い方次第で闇に堕ちるってこともなくはない。正直そんなことになってほしくねぇ。だから問う…

 

 

 

──その『力』を得たとしても、その心は悪魔ではなく『ヒト』であり続けられるか?──

 

 

 

その問いを口にしながらも、蒼は思い出す。

初めてギルヴァと会った時もこんな問いかけをしたことを。

そしてその時も彼は…ギルヴァはこう答えた。

 

──流れる血が悪魔であろうと、心は『人間』のままであり続ける──

 

そう断言した。

だからこそ、蒼はアナの口からこの問いに対する答えを聞きたかった。

迷うことなく、ハッキリと。自身を納得させるほどの『覚悟』を見せてほしいのだ。

 

(私は…)

 

己の内から湧き上がる想い。

それを形に、言葉にしようとして中々出てこない。

けれども溢れんばかりの想いは、止まる事を知らない。

さぁ叫ぼう。

 

(私は…!)

 

想いを!

 

(私はッ!!!)

 

覚悟を!

 

己の内に居る蒼に向かってアナは叫ぶ。

 

(欲するのは闇に堕ちる為の力じゃない!欲するのは大事なものを守り抜く力!)

 

(だからこそ誓う!)

 

(その力が魔であろうと!)

 

(我が心は!)

 

(我が魂は!)

 

 

 

──人であり続ける!──

 

 

 

それは魂の叫び。

決して堕ちぬという揺るぎない覚悟を以って放たれた証明。

それだけの覚悟があるのであれば、最早心配する事は何一つない。

彼女の想い(覚悟)を聴き、蒼はニヤリと笑みを浮かべる。

ここまで言わせたのだ。ならば託すべきものは今託さなくてはならない。

 

―良い覚悟だ!なら託すぜ、俺とギルヴァから嬢ちゃんにこの『力』…悪魔の銃爪(Devil trigger)をな!!

 

今この時をもって力は託された。

その証拠にイグナイトトリガーを発動しているにも関わらず、アナの周囲には暴風が発生。

荒ぶる風に乗って向かってくるは『赤』ではなく、『蒼い霧』。

突如として発生した現象に誰しもが驚きを隠せない中、ギルヴァだけがそれを理解していた。

 

(漸くか。時間が掛け過ぎだ、蒼)

 

―でも託すことが出来たんですね。私でも分かります、この力は静かで、そして何よりも力強く感じる

 

エラブルの言葉にギルヴァはそうだなと答える。

『蒼い霧』から感じられるソレは決して禍々しいものではない。

アナ自身を体現しているとも言え、この様子なら堕ちる心配はないだろうとギルヴァは思った。

蒼い霧が突風と共に霧散し、託された新たなる力『デビルトリガー』を発動させたアナが姿を見せる。

 

「これが…」

 

その姿は悪魔らしさを有しながらも人の形を成していた。

髪は長く伸び、その色は透き通った白へに染まり、頭には一対の角が生えていた。

上半身を纏うソレは鱗で覆われながらもコートの様に揺れ、両手足は異形のモノへ変わり、足の爪先には魔力で具現化した鋭き爪を宿していた。

特に左腕はデビルトリガーを発動させた影響か、天羽々斬と一体化を果たす。

 

─悪魔の力さ。しっかし昔のあいつに似てると来たか。これも運命ってやつか?

 

(どういう意味です?)

 

―その姿はかつてギルヴァが初めて魔の力を発動させた際の姿に一部似てんのさ。託した訳だがここまで似る必要はあったのかねぇ?

 

(私にそう言われましても)

 

―そりゃそうだな、悪い悪い。んじゃ試運転と行こうぜ、嬢ちゃん。サポートとこの姿になった際に出来る事は教えてやるから

 

(ええ、頼みます)

 

驚きの連続がこれでもか起きていたためか、たった僅かにしか経っていない時間が一時間以上経ったのではないかという錯覚を覚えるアナ。

左腕と一体化した天羽々斬の柄へと手を伸ばし、引き抜くアナ。

鞘は左腕と一体化している為、提げる必要ない。腕を引きながら刃の切っ先をギルヴァへと向ける。

 

「続けましょうか」

 

「そうだな。…来い!」

 

直後、ギルヴァの体が光が発せられる。

その光は逆流するかのように彼の体へと集まり、暴風となって炸裂。

そして姿を現すは人から魔へと姿を変えたギルヴァ。

アナが得たモノとは違い、そこに立つのは完全な悪魔そのもの。

何度も見たその姿を相手にしたとしてもアナは決して刀を下ろさなかった。

寧ろ歓喜していた。ここからが本番であるという事実に。

 

「行きます!」

 

地を蹴る。

しかして残像は残さず、最早神速とも言える速さでアナは突進し、それと同じぐらいの速さでギルヴァも突進。刀はぶつかり、火花を散らすもそこに二人の姿はない。

影と影が踊っているのではないかと思えるほどの速さ。もはや目を追う事すらままならない。

 

(これが悪魔の力…!凄い…)

 

―これだけで満足すんなよ、嬢ちゃん!隙を見て左手を横に出しな!俺ともう『一人の嬢ちゃん』からプレゼントがあるんでな!なに、嬢ちゃんなら出来るさ!

 

(はい!)

 

蒼の指示通り、凄まじい剣劇を繰り広げる中、僅かな隙をついて左手を横に出すアナ。

左手に集う魔力。やがてソレは形を成していき、もう一つの武器へと変えていく。

そして現れたのは長大な大剣。それもタリンでの大規模作戦時に蒼がアナに記念にと称し渡した魔力で錬成された大剣。

基本は大剣、しかし用途次第で槍にも大鎌にも変形するという例の大剣。

渡された後、何処かへ消えてしまっていたソレが彼女の手に握られていた。

 

(これは…!)

 

―幻影に収納されているってどういう原理だ?って言いたいがそんな事はどうでも良い。これはあん時、嬢ちゃんにやった記念品さ。自身で振っても良いが、一番はぶん投げてみるだ!

 

(投げる!?しかしどうやって!?)

 

―難しく考える必要ねぇ!兎に角、投げてみな!あとはもう一人の『嬢ちゃん』の仕事さ!

 

(簡単に言ってくれる!)

 

蒼に対して文句を言いながらも、ギルヴァの攻撃を回避し後ろへと下がるアナ。

そして左手に携えた大剣を勢い良く下から放り投げる様にして投擲。

投げされた大剣は縦に高速回転しながらギルヴァへと切り刻もうと襲い掛かっていく。

飛ぶチェーンソーと化した大剣を身を逸らして躱すギルヴァ。そのまま壁に突き刺さるかと思えば、大剣をまるで意思を有したかのように、ギルヴァの背後に目掛けて襲い掛かった。

 

―ギルヴァさん!後ろ!

 

「分かっている」

 

エラブルが危険を知らせる声に対して冷静に対応し、ギルヴァは後ろから飛んできた大剣を容易く回避。

彼の横を通り過ぎた大剣を主たるアナの元へと戻っていく。

まるで自我でも有したかのように、ギルヴァへ二度襲い掛かり自身の手元に戻ってきた大剣にアナは目を見開く中、蒼が説明する。

 

─な?言ったろ。ぶん投げた後の操作はもう一人の『嬢ちゃん』に任せた。…この戦いで言っていた様に『我ら』なんだろう?なら、頼ったって何らか問題ない筈だ。寧ろ仕事くれてやんなきゃ、拗ねるぞ?

 

(いつの間にそんなことを…)

 

―ついさっきさ。ま、細かい事は置いておこうぜ。このまま詳細まで話してるともう一人の嬢ちゃんに色々言われそうなんでね

 

(これは後で貴方がどんなことを言ったのか聞かないといけませんね)

 

―人の話聞いてたか?頭の良い脳筋娘?

 

(…絶対に聞かないといけませんね)

 

―おっと…こりゃ、お説教間違い無しコースみてぇだ。どうにかして逃げ出さねぇとな。…いや、嬢ちゃんみたいな美人さんに追いかけられるのならアリかもな、ハハッ!

 

呑気に笑い声をあげる蒼にアナは呆れた様なため息をつく。

そんな状況にも関わらず、強烈な一撃を見舞う両者。

振り払いから斬り上げ。そして何度目かになる鍔迫り合いへと持ち込む。

お互いに譲り合う中、ギルヴァが口を開く。

 

「流石に付いてくるか」

 

「ええ、この通り。今の私なら貴方に勝てるかもですね?」

 

「なら勝って見せろ。言っておくが勝ちは譲らん」

 

「その台詞を言った事、あとで後悔しないで下さいよ!」

 

模擬戦は何処へ行ったのやか。

まるで戯れを演じているかのように、二人は刃をぶつけていた。

模擬戦が開始してからはというものの、時間は既に二時間は経過している。

長い様で短い様にも感じられる戦い。

このまま力の拮抗が続くのだろうかと思われた矢先、ギルヴァが動いた。

 

「ふッ…!」

 

居合の姿勢から神速の居合から連続して放たれる次元斬。

それら全ては容易く回避される。だがギルヴァの技はこれで終わる事はなかった。

 

「全て──」

 

空間が揺れ、色褪せる。

居合の態勢から静かに無銘の柄へと手を伸ばし始めるその様子にアナも、そしてアナの中に潜り込んでいる蒼もギルヴァがしようとしている事に気付く。

不味いと思い、すぐさまギルヴァとの距離を取ろうとするも、時既に遅く。

 

「断ち切る!」

 

抜刀、突進。

超高速から生み出される分身。

直後、色褪せる世界に次元の狭間を切り裂く無数の斬撃が奔った。

切り裂かれた世界。目に映る視界はずれ堕ち、目に映る全ての時が止まっている。

唯一動けるのは、片膝をつきながら刀を鞘へと納め始めるギルヴァのみ。

鯉口と鞘がかち合う音。その音が高らかに響いた時、色褪せる世界がガラスの破片となって砕け散り、辛うじて攻撃を防ぎ、斬撃を受けなかったものの砕け散った世界と共にアナは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられちてしまう。

だがすぐさま立ち上がり、刀を構えるもアナですら想像していなかったことが発生した。

 

「…合格だ」

 

「え?」

 

ギルヴァが呟いた言葉にオウム返しの様に口するアナ。

突然の事に困惑する中、デビルトリガーを解除するギルヴァ。

何が何なのか分からない状況。にも関わらずギルヴァはアナへと告げる。

 

「合格といった。休憩に入るぞ」

 

「え…あ、はい…」

 

もっと凄まじい戦いになると思われた矢先の出来事。

一体どこで合格を判断したのか、その理由すら明かされることもなく模擬戦は終了を告げる。

困惑が広がる中でアナの中に潜り込んだ蒼だけは理解していた。

 

―ま…これ以上やっちまったら大怪我じゃ済まねぇからな。この辺りが丁度いいだろ。後はマギーの予定に合わせて、特訓しねぇとな

 

模擬戦と言えど、殺し合いをしている訳ではない。

それを思い出しながらも蒼はこの後行うつもりである特訓メニューを考えるのであった。




遅れて申し訳ございませんんんッ!!!!!

プライベートや夜勤終わりの合間を縫って執筆はしていたのですが、ここまで遅くなってしまいました。本当に申し訳ございません。

次回ではRFBに与える力&アナさんに渡した新たな力『デビルトリガー』の説明+αを展開しようかと思います。
と言う訳で模擬戦【覚悟証明】は合格となりましたが…もう少しお付き合いくださいませ。

では次回ノシ


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Act237 Proof of preparedness Ⅵ


─継承─


激闘を繰り広げた模擬戦闘は終了し大立ち回りを繰り広げた四人が休憩を終えた後、一同はカフェテリアに。

本来であればお互いに称え合っても良いのだが、例の『アレ』が起きてしまったからにはそういう訳にはいかなかった。

気まずそうにするルージュ、RFB、アナ、レイ、ノア、five-sevenら六人が居て、目を伏せ腕を組むキャロルが居て、今の雰囲気を物ともせず手にした端末を操作し続けるマギーが居て、オートスコアラーの面々とカフェテリアの厨房で黙々と作業するスユーフとが居る中で、例の『アレ』を起こしたであろうと思われる人物、ギルヴァは一人カウンター席に腰かけて、紅茶を嗜んでいた。

 

「のうのうと紅茶を啜るのは構わないが…まずは訳を聞かせてもらおうか、ギルヴァ」

 

どこか重苦しい空気が漂う。

そんな状況を破ったのは、伏せていた目を開き、鋭い視線をギルヴァの背にぶつけるキャロルだった。

 

「何に対してだ」

 

「とぼけるな。アナに起きた『アレ』の事だ」

 

キャロルが言う『アレ』とはデビルトリガーの事であり、ギルヴァもそれに対する説明求められる事は既に予想していた。

最もギルヴァが説明するよりも、アナの元から戻ってきていた蒼が説明した方が良いのだが、ギルヴァとアナを除く面々がそれを知るはずもない。

 

―出た方がいいか?

 

(不要だ、俺が説明する)

 

蒼がそう提案するもギルヴァはそれを断り、カップをソーサーの上にゆっくりと置いた。

実のところ、蒼の存在を知られる訳にはいかないと言う訳ではない。

ただ蒼の事まで説明するのが面倒だと判断しただけの話なのはギルヴァだけにしか知らないだろう。

 

「話しても良いが、一つ答えてもらいたい」

 

「何だ」

 

「アナの体内を流れる人工血液…半分とは言わずとも別物にすり替わっていたのは知っていたか」

 

「…ああ、知っていた」

 

どよめきが生まれる。

アナは模擬戦の際に蒼が知らせているため、大して驚いてはいなかったのだが、意外な事にマギーとルージュも同じように大して驚いてはいなかった。

寧ろやはりと言った様な顔を浮かべたルージュが会話に入る。

 

「やはりでしたか。タリンでの戦い以降、アナさんにお会いした時、彼女から感じられた魔の気配はそういう…。因みに何時から異変は起きていたのです?」

 

「あの作戦が終わった後だ。まさかとは思ったがな」

 

キャロルから返された答えに成る程と呟きルージュは手を顎に当て考える素振りを見せ始めた。

どうしたのだろうかと首を傾げるキャロルだが、問いかけた相手からはすべき説明を成されていないので、ルージュからギルヴァへと視線を向ける。

 

「質問には答えた。今度はそちらが答える番だ」

 

「そうだな」

 

座っていたカウンターチェアから降り立つとギルヴァは近くの壁に背を預け、腕を組みつつキャロルから問われたものに対する答えを説明し始めた。

 

「知っての通り、アナの体内を流れる人工血液の半分は魔と同じものへと変わっている。俺やブレイクと同じとは言えん。だがイグナイトトリガーを得たのであれば、それ以上のモノを得られるのであれば」

 

「あれば?」

 

「託しても構わないと判断した。…それなりにアナを信用をしているのでな」

 

場が静寂に包まれる。

あのギルヴァにそう言わせる程という事実に誰しもが言葉を失ったからだ。

どう答えるべきかと言葉に悩み始めるキャロルを他所にギルヴァは背を向けたままであるが、アナへと伝える。

 

「お前に託す。己の意思で扱える様になってみせろ」

 

「はい。直ぐにとは行きませんが、必ず」

 

「…期待しているぞ」

 

そこからギルヴァは何も語らなかった。

ほんのわずかなやり取り。しかしそのやり取りを聞いていたマギーはフッと笑みを浮かべ思う。

これなら問題ない、と。

 

「さて、ここからの話をさせて頂いても?キャロル指揮官」

 

「あ、ああ。構わない」

 

「では。…まずは、アナさん、RFBさん。先の模擬戦、お疲れさまでした。貴女達二人が見せてくれた覚悟、その覚悟が私からお渡しするモノを扱うに十分に値すると判断致しました。本来であれば直ぐにでもお渡ししたいのですが…問題が一つ」

 

二人の健闘を称えるとマギーは指で頬を掻きつつ、申し訳なさそうな顔を浮かべた。

まだあるのかと思いたくなるのだが、それを表に出さずキャロルが問う。

 

「その問題とは?」

 

「最後の仕上げと調整と言った所です。RFBさんにお渡しするものがそれに該当するんです」

 

「どれ位かかる?」

 

「そうですねぇ…。普通にやれば十年以上はかかるでしょうねぇ」

 

「じゅ…十年だと!?そんなに待てる訳ないだろ!?」

 

それでは先ほどの戦いは何だったのかと思っても不思議ではない。

問い詰めるキャロルに対しマギーは手を上げ、彼女を制する。

 

「そんな事は分かっていますよ。ですので…キャロル指揮官、私にここで暫くの間、滞在する許可と最後の調整を済ませる時間をくれませんか」

 

「…どれくらい必要だ」

 

そう聞かれ、マギーは指を三本立てた。

それを見て最初キャロルは三年と思うも、それはないと判断し別の答えを口にする。

 

「三ヶ月か?」

 

「いいえ」

 

「では…三週間?」

 

「違いますね」

 

三ヶ月でも三週間でもない。

最後に残る答えはただ一つ。そこに行き着いたキャロルの表情は段々と驚きへと変貌していく。

 

「ま、まさか…三日で終わらせるつもりか!?」

 

「はい。三日あれば十分ですので」

 

ギルヴァを除く、その場にいた誰もが言葉を失った。

普通であれば十年以上はかかるであろう代物をたった三日で済ませようというのだから。

最早正気ではない。

だがマギーが決して冗談で言っている訳ではないのもまた事実。

どう言葉にすればいいのか、誰しもが悩む中マギーはゆっくりと立ち上がった。

 

「ご安心を。三日で終わらせると言えど、決して手抜きは致しませんから。魔工職人である私…二代目マキャ・ハヴェリの名に誓って」

 

そこまで言わせる程となれば、本当に彼女は三日で終わらせるつもりだとキャロルは思った。

だがそれでも本当にいいのかと思う気持ちが無い訳ではない。

しかし例の『モノ』を調整できるのは当然ながら自身の目の前に居るマギー・ハリスンもとい二代目マキャ・ハヴェリのみ。

 

「…分かった。三日間だけここでの滞在を許す。必要なものはあるか?」

 

「そうですね…。できれば使用していない部屋を一つ貸して頂けませんか。工具類はこちらが持ってきているので十分いけますから。それと食事は不要ですので、私の分は用意しなくて結構です」

 

「本気で言っているのか?」

 

「まぁ三日間飲まず食わず寝ずなんて私からすれば大した事ではありませんから。お気になさらず」

 

もう何も言うまい。

胸の内でそう呟き、現実から逃避するかのようにお土産として持ってきてくれたクッキーと紅茶を楽しむ事にしたキャロル。

それを見て苦笑いを浮かべるfive-sevenの隣で座っていたRFBが、とある事に気付く。

 

「マギーさんがここで三日間滞在する事になったけど…ルージュとギルヴァさんはどうするの?」

 

「流石にマギーさんを置いて帰る訳にはいきませんし私も三日間ほどお世話になろうかと思います。ですが私はトレーラーの方で寝泊まりしますので部屋の準備は必要ないですよ。一応最低限の物はありますからね。それにこれ以上ご迷惑をおかけする訳にはいきませんから」

 

「迷惑だなんて、そんな事を思う訳ないじゃん。遠慮しなくても良いんだよ?」

 

「ですが…」

 

お互いに引かない状況が生まれる。

そんな時、静かに話を聞いていたギルヴァがため息を付くと二人の会話に割って入る。

 

「トレーラーには俺が寝泊まりする。お前はこっちで寝泊まりすればいい」

 

「しかし…」

 

「二度は言わん。そうしろ」

 

ルージュから台詞を遮るように伝えるギルヴァ。

背を預けていた壁から離れ、そのままカフェテリアの出入口へと歩き出す。

その時、彼の背を申し訳なさそうに見つめるルージュを見たのか先ほどまでクッキーと紅茶を楽しんでいたキャロルがカフェテリアから出ていこうとするギルヴァを呼び止める。

 

「客人に気を遣わせる訳にはいかんのでな。お前も基地で寝泊まりするといい」

 

「…話を聞いていなかったみたいだな」

 

「聞いていたとも。だがアナの件にはお前の協力が必要不可欠なのでな。それにだ、こちらからすれば態々トレーラーに居るお前を呼びに行く時間が勿体無いのだが?」

 

「たかだが数分程度だろう」

 

「その"たかだが数分"でもだ。それに、言い方はアレだがお前が遠慮しているのは分かっているからな?」

 

その事を指摘されるとギルヴァは何も言わなかった。

あれで遠慮してるんだ…とその場に誰しもがそう思い始める中、ギルヴァは軽くため息を付くと口を開いた。

 

「…世話になるぞ」

 

ただそれだけを伝えるとギルヴァはカフェテリアから出ていく。

かくして託すための最後の仕事、その三日間が早期警戒基地で幕を開いた。

 

 

初日目。

借りた部屋でマギーは最終調整を黙々とこなし、ルージュがちょっとした手伝いをしている中、ギルヴァとアナは訓練室にいた。

当然ながら目的は、模擬戦で彼女に託した力『デビルトリガー』発動させた際に出来る事の説明。

その為、蒼はギルヴァから飛び出し、アナの方へ移動していた。

 

―さて…始めるか、嬢ちゃん。準備は良いか?

 

「はい。お願いします」

 

―あいよ。そんじゃ行くぜ!

 

蒼の掛け声とともにアナの周囲に蒼い霧が暴風と共に発生。

そして破裂するかのように暴風が訓練室を駆け抜けると、昨日の模擬戦で見せた、その身を人形から悪魔へと変えた彼女、アナが姿を現す。

力を発動させた際の姿も変わりないが、アナ本人は未だに信じられない気持ちでいた。

イグナイトトリガーを上回る力。その力は姿すら大きく変えてしまうほどなのだから無理もないと言える。

 

「気づけば左腕の義手までもその姿を変えているんですね…。これだと仕込んであるガトリングは使えない、か…」

 

―そう言うと思った。そんじゃ、まず一つ目はコレだな。嬢ちゃん、義手を付けている腕に意識を集中させてみな

 

「分かりました」

 

蒼に指示され、アナは左腕に意識を集中させる。

するとアナから放出されている魔力が左腕へと集まり出し、やがて形を成し始めた。

そして数秒も経たぬ内に形が形成され、その手に握られるは魔力で具現化した大型のガトリングガンだった。

 

「これは…」

 

―左腕の義手が使えない代わりにこいつをってな。名も(セカンド)カリギュラ。見ての通り、魔力で具現化したガトリングガンで、このデビルトリガーを発動させている時に限って扱う事が出来る。火力、連射性は言わなくて分かっていると思うが、その分、撃っている際は魔力の消費が早くなる。多用し過ぎるとあっという間に時間切れになるから気を付けねぇとな

 

「はい。…因みにですが、この状態はどれくらい維持出来るのですか?」

 

―ハッキリと断言できる訳ではないが、普通は三分だな。だが嬢ちゃんの状態次第でこれ以上長くなる事もあれば、逆に短くなる可能性がある

 

「はっきりしないですね…」

 

―言ったろ?ハッキリと断言はできないって

 

実際に耳にしている訳ではないが、訓練室の端で立っていたギルヴァは姿を変えたアナを見つめながら、奇しくもアナが持つデビルトリガーがどれだけ持続可能かを見極めていた。

そして三分が限界だろうと蒼と同じ答えに至るも、彼は思った。

 

(…三分でも上等か)

 

寧ろ三分維持できる方が驚きと言えた。

あのギルヴァですら初めてデビルトリガーを発動させた際は三分維持するどころか、三十秒も維持出来なかったのだから。

 

(だが…三分を維持させるには万全状態での話だ。ましてやタリンの時の様な状態では…最悪『力』に飲まれ、暴走する可能性にない訳ではない)

 

目を伏せ、腕を組みつつ壁に凭れるギルヴァ。

思った事を伝えるべきかと思うも、敢えてそれを伝えようするのを止めた。

何から何まで助言しては成長にならない。強力な力を得るという反面、その危険性もあるという事を本人もまた気付かないといけないのだ。

それにだ。己の意思で扱えるようになってみせろと言ったのだ。であれば後はアナがどうにかする。

 

(…後は蒼の役目か)

 

今後これ以上自身が何か伝える事はないだろうと思いながら、ギルヴァは伏せていた目を開きアナを見つめる。

蒼から何らかのアドバイスを受けているのだろう。行動を起こそうとするアナの姿がそこにある。

そんな時、ギルヴァの中であるが、彼からの視界を通してアナを見つめていたエラブルがギルヴァへと伝える。

 

―大丈夫ですよ。ギルヴァさんが教える事がきっと沢山ありますから

 

(…かもな)

 

―ええ…。きっとありますよ

 

アナや蒼には届かない二人だけのやり取り。

二人は静かに蒼の指導の元、訓練を続けるアナを静かに見守る事にした。

そんな事を知るはずもなく、デビルトリガーを発動させた際に出来る事を蒼から教わっていくアナ。

ふとその時、蒼はアナに対して、とある事を伝えた。

 

―言っておくが、デビルトリガーを発動させるにはイグナイトトリガーで使用する魔力をそっちへと移行させないといけねぇからな?

 

「と、言いますと?」

 

―入れ物が別々ってコトさ。譲り受けた、或いは何らかの形で得た魔力は基本イグナイトトリガーを発動させるための容器へと蓄積される。だがデビルトリガーを発動させる容器はすっからかん、使いたくても魔力が無いから使えない。…そういった場合はどうなる?

 

「移す他ないという訳ですか」

 

―そういう事。因みにやり方は簡単だ。水が入った容器から空の容器へと入れる動作をイメージすればいい。

 

「成る程。出来る様になるまで練習あるのみですね。…まだ二日ありますので、特訓に付き合って頂いても?

 

―寧ろそのつもりさ。俺ら無しでもやれるようになってもらわなきゃなんねぇからな

 

蒼からの了承を得られると、話は本来の話へと戻り始める。

変形する義手の代わりとなる武装『Ⅱカリギュラ』、デビルトリガーの持続可能時間、デビルトリガーとイグナイトトリガーで使用する魔力は共通であり、双方同時に発動は不可能である事を教えられると、蒼はある事を思い出す。

デビルトリガーは自身とギルヴァからアナへと託したものであるが、ギルヴァ本人からアナへと託したモノが一つだけある事を。

 

―嬢ちゃん、これは俺からじゃなく、ギルヴァから嬢ちゃんに託したモノだ。良ければ貰ってやってくれねぇか?

 

蒼の声が何処か神妙だと感じたアナはあえて声に出さず、己の内で言葉を発するように蒼の台詞に答える。

 

(それは一体…?)

 

―なに、変なモンじゃないさ。まぁ見てな

 

(?)

 

問いかけてもはぐらかされてしまい、首を傾げるアナ。

その時、彼女の周囲に魔力で錬成された複数の剣が出現した。

宙を滞空するソレ。それを見た時、アナは思った。

これはギルヴァが射撃武装として使用する『幻影刀』と同じものではないかと。

そしてその疑問は蒼の口から語られる。

 

―ギルヴァが使うのが『幻影刀』なら…あいつが嬢ちゃんに託したこいつの名は『幻影剣』と言った所か。…おまけにイグナイトトリガー、デビルトリガーを発動させてなくても使用できる様にしてるとか、アイツどんだけ器用なんだ?

 

(…ギルヴァさんが私にこれを?)

 

―らしいな。死なれちゃ困るってのもあるんだろうが……人形と言えど女性である事は変わりなし。要はこれを使って生き抜き、女性としての幸せを得て、末永く幸せに長く生きろって言いたいんだろうよ。やれやれ、ホント不愛想なヤツだな

 

(それがあの人なりの優しさなんでしょう。ですが蒼の言う通り、本当に素直じゃないですね…)

 

―それがアイツでもあるんだけどな。…兎も角だ、この幻影剣は威力は低い上に、ギルヴァの幻影刀みたく、マシンガンの様に連続して投擲は出来ない。あくまでも護身用ってところだが…嬢ちゃんの頑張り次第で性能は変わってくるかもな

 

(そうですか。…ではギルヴァさんや貴方を驚かす為に特訓に励まないといけませんね)

 

―よく言うぜ。ま、やってみな。嬢ちゃんなら出来る筈さ

 

いつかその成長した姿を見せる時を約束する二人。

そしてアナは軽く微笑みつつも決してその笑みをギルヴァに見せる事無く蒼の指示の元、特訓に励むのであった。

二日目はルージュがキャロル、five-sevenやオートスコアラーの面々と仲良くしていた以外、特に無く一日が過ぎ去り、三日目はギルヴァは夜空に月に浮かんだ基地の屋上にて、どうやらアナと関係のある、霊体にも関わらず何故か現れたとある人物と出会った以外は特に変わった事はなく、三日間が過ぎていった。

 

 

模擬戦でも使用した訓練室でRFBはいた。そしてRFBの前には三日間飲まず食わず寝ずで作業していたにも関わらず、変わった様子を見せないマギーがそこに立っており、RFBが手にする装備、追加パーツを取り付けたR.ガードの最後の調整を済ませていた。

 

「…これで良し、と」

 

調整を済ませ、ボルトを締める。

工具を工具箱へと放り込み、ゆっくりと立ち上がる。

 

「では始めましょうか。…手順は覚えてますね?」

 

「うん!」

 

与えられた『力』。

それを発動させる為の手順を事前にマギーから教えてもらったRFBは自信満々げに頷いた。

そしてルージュとマギーから少し離れるとRFBはR.ガードの持ち手を握りつつ、軽く息を吐くと同時に静かに目を伏せた。

意識を集中させ、本来であれば積まれる予定だった魔帝によって初めて生み出された悪魔、そして自我を有し自ら魔具へと変貌させることの出来る力を持った存在『パーガトリー』にへと己の内で問いかける。

『パーガトリー』が人界に訪れる前の二代目マキャ・ハヴェリに託した願いを思い出しながら。

 

―我が魂、我が鎧は勇気ある者に―

 

その事をマギー本人から伝えられた時、RFBは改めて思った。

これを託す意味。

それは正しく覚悟があって、何よりも勇気のある彼女だからこそ扱えると判断されたこそ、託してくれたのだと。

 

(私の覚悟、私の勇気を此処を指し示す…!これが貴方を扱うに等しいのであれば──!)

 

あの戦いを以って、覚悟は証明した。

これを託された意味を理解し、そして覚悟と勇気をこれでもか見せつけ、彼女は乞う。

 

(私に力を貸して!パーガトリー(煉獄)!!!)

 

─良かろう─

 

誰かの声が響く。

 

(ッ!)

 

ほんの僅かに驚くながらも彼女は意識を反らさない。

 

─汝の覚悟、勇気、我を扱うに値する。…汝の名を聞こう─

 

(RFB)

 

─ほう?我を扱うは魔でもなく、人でもなければ…人形とは。くくっ、よもやこの様な日が訪れるとはなぁ…─

 

(あ、えっと?)

 

笑い出したパーガトリーに困惑しながらも声をかけるRFB。

その声にパーガトリーはすまぬすまぬと詫びながら、言葉を続ける。

 

―しかしこれほどの覚悟、勇気を有した者が居るとはな。1000年は生きた我でも見た事がない。誇るが良いぞ、RFBとやら。いや…我が主と呼んだ方が良いか―

 

(!…うん、ありがとう)

 

―うむ。では始めようか、と言いたいが…一つ伝言を頼めるか、我が主よ―

 

(何かな?)

 

―…二代目マキャ・ハヴェリに礼を。我が願いを叶えてくれた事に最大の感謝を─

 

パーガトリーの声の感じからして、それは何処か寂し気であった。

しかしその意味が何を示すのかなどRFBに分かるはずもなく、彼女は軽く頷いた。

 

(うん、わかった。ちゃんと伝えるよ)

 

―頼むぞ。…汝が行く道に、我が魂、我が鎧の加護があらんこと!―

 

それを最後にパーガトリーの声は聞こえなくなるとR.ガードに取り付けられた追加パーツから微かに火の粉が浮かび上がり始めた。

やがて火の粉は炎へと姿を変え始めていった時、RFBは伏せていた目を開きR.ガードを振り上げる。

 

「はああああぁぁっ!!!」

 

気迫が籠った雄叫びと共にR.ガードの長辺部分が地面に叩きつけられる。

次の瞬間、彼女の周囲を包み込むような火柱が立ち上り、R.ガードの追加パーツが分離し自ら意思で変形開始。鎧へと姿を変えながら、RFBの体へと装着されていき、たった数秒も経たぬ内に火柱は消え、火の粉が舞う中で黒い鎧を身に着けたRFBが姿を現す。

 

「これがパーガトリー…」

 

自身に装着された鎧を見つめるRFB。

黒一色の鎧、腰にはマントを装備し、肘と膝から炎が浮かび上がり、後頭部からは炎が燃え盛る様に放出されていた。

これこそが魔帝によって初めて生み出された悪魔であり、自我を有し、その姿を魔具へと変える事の可能とした悪魔の姿。

炎を宿した拳を地面に叩きつければ、全てを炎の海へと変える力を有し、黒く染まった鎧はありとあらゆる攻撃を受け止める優れた防御力を誇る。

パーガトリー…和訳すれば『煉獄』を意味する鎧をまとうRFBがそこに立っていた。

 

「無事発動出来たそうですね」

 

「うん。それと彼から貴女に伝言があるんだけど」

 

「聞きましょう」

 

「二代目マキャ・ハヴェリに礼を。我が願いを叶えてくれた事に最大の感謝を、だって」

 

パーガトリーからの伝言を耳にした時、マギーの表情は一瞬だけ沈んだ。

その伝言の意味を彼女は察したのだ。

 

(逝ってしまわれたのですね…)

 

そうなる事は既に分かっていた。

悪魔がパーガトリーが扱うのであれば兎も角、人形がそれを扱うとなれば調整は必須。

そのままの状態で発動させてしまえば、必ずと言っていい程、事故が発生する。

それを防ぐため、パーガトリーの調整を三日間かけて行っていたマギーであるが、必ずやってくるであろう別れを最初から分かっていた。

パーガトリーが悪魔以外の誰かに託される場合、規格を使用者に合わせる為に自我を消失させる対価として規格を合わせるというパーガトリー本人が自ら決めた約束があった。

つまりこれをRFBに託すことになれば、パーガトリーの自我が確実に消失するという結果になる。

 

(ゆっくり休んで下さい、パーガトリー)

 

居なくなると言う事は分かっていた。

心に芽生えた寂しさを覚えながら、マギーは静かに安らかな眠りを祈りながらパーガトリーを装着したRFBにへと説明を始める。

 

「基本は近接戦闘を主軸にした戦いになりますね。瞬発力、破壊力などずば抜けた力を持つパーガトリーは炎を操る能力を有しており、イメージ次第で拳に炎を纏わせて攻撃したり、地面に叩き付ければ大きな火柱を発生させることも出来ます」

 

「ふむふむ。この状態はどれほど維持出来るの?」

 

「十分が限界です。十分が過ぎるとパーガトリーは自動的に解除され、元の姿へと戻ります。当然ながら再チャージしなくてはならないのですが…エネルギーを貯めるのは少々コツが必要でして」

 

「それは?」

 

「全ての攻撃をジャストタイミングで受け止める必要があるのです。普通に防いだとしても、パーガトリーを発動させる為のエネルギーには変換されません」

 

飛んでくる攻撃をジャストタイミングで受け止める必要がある。

それはパーガトリーを発動させる為に必要な事であり、決して容易なことではない事は考えずともRFBは理解していた。

 

「おおう…なら、特訓にしないとなぁ」

 

「そうですね。特訓して、使いこなしてください。それは、その力はもう貴女のモノですから」

 

「うん!使いこなしてみせるよ。マギーさんから託されたこの力…決して無駄にしないから」

 

パーガトリーを纏っているため、その表情を伺う事は出来ない。

だが恐らくであるが、その表情は揺るぎない覚悟、勇気を宿いているに違いない。

正しくヒーローの様な、そんな表情と言えるだろう。

 

 

かくして覚悟を証明する模擬戦、継承される力の為の三日間は終わりをつげ、別れの時が訪れる。

基地から街へと繋がる出入口付近で停車しているトレーラーにて、戻る準備済ませた三人をキャロル、ノア、アナ、RFB、レイが見送りに来ていた。

 

「今回は色々世話になったな」

 

「いえ、寧ろこちらが大変ご迷惑をおかけいたしました。突然の宿泊を許可して下さった御恩は忘れません」

 

「気にするな、マギー」

 

軽く会話を弾ませた時、キャロルの表情が神妙な表情へと切り替わる。

 

「あなた方から託された力…これからの為に使わせてもらう」

 

「はい。あなたたちの戦いの為に役立ててください」

 

そう告げるとマギーは軽く一礼しトレーラーを乗り込んでいく。

それに続く様にルージュは四人へと挨拶する。

 

「またお会いしましょう、皆さん。…RFB、また手合わせしましょう」

 

「次も負けないから」

 

「ふふっ、それはこちらの台詞ですよ。…では、お元気で」

 

後ろへと振り返り、ルージュはそのままトレーラーへと乗り込んでいく。

最後はギルヴァだけとなるのだが、ふと何かを思い出したのか彼はコートの懐からあるモノを取り出した。

 

「ノア」

 

「ん?」

 

「娘のネージュからお前にだ」

 

そう言ってノアへと投げ渡したのは小さな記憶媒体の様であった。

渡されたそれを不思議そうに見つめるノアに向かって、その記憶媒体に収められているモノについてギルヴァが説明する。

 

「あいつが言うには、パトローネを使う際に実際にやる動きを収めたものらしい。アレを使う時のあいつは随分とアクロバティックな動きをしながら撃ち合うのを得意としているんでな」

 

それ以外の事は知らん、と告げるとギルヴァはそのまま背を向けトレーラーへと乗り込んでいこうとするが、そんな彼をアナが呼び止めた。

 

「何故ここまで気にかけてくれるのですか?」

 

それはアナが初めてギルヴァから幻影を託されてから疑問に思っていたことであった。

アナにそう問われ、一旦は足を止めるギルヴァであったが彼は決して振り向かず、歩き出しながら静かに口を開いた。

 

「ただの気まぐれだ」

 

本当に気まぐれなのか、或いは本心を隠すための建前なのか。

その心を読み取る事はアナには出来ない。

しかしその答えに対して疑問をぶつける事無く、トレーラーへと消えていく彼の背を只々見つめる。

そうこうしている内にトレーラーのエンジン音が響き渡り、車両はそのまま基地の外へと走り出した。

ルージュが運転し、三日間不眠不休で調整作業をしていたマギーは簡易ソファーに寝転がる中、助手席に座るギルヴァは目を伏せて休んでいた。

そんな中、蒼は基地で過ごした三日間を振り返りながら、彼はあの模擬戦で出会った『もう一人のアナ』との会話を思い出していた。

 

 

赤い霧が周囲に漂う空間。しかして禍々しさを感じさせないその空間に、彼女はいて、蒼はいた。

 

―これは驚きね。まさかここに来るなんて

 

―この身になってからはこういうのが得意になってね。…初めましてだな、名は…言わずとも分かるか

 

―蒼でしょ?あの子を色々気にかけてくれているみたいね?

 

―まぁな。さて…このまま楽しく会話したいんだが、そんな時間はねぇか

 

軽くため息を付きながら蒼は、とあるものを取り出す。

それは一振りの大剣。槍にもなり大鎌にもなる魔力で錬成された大剣が握られていた。

突然それを出した蒼に対し、もう一人のアナは怪訝そうに見つめる。

しかしそんな視線を気にもせず、蒼は手にした大剣を地面に突き刺すと何故かそのまま背を向けて歩き出した。

 

―俺から、蒼…いや、■■■■からアンタにそれを託す。…あの嬢ちゃんを支える仕事、任せるぜ

 

―…

 

―今度会う時は、名前を教えてくれ。それじゃあな

 

言いたい事だけを伝えると蒼はその場から消え去っていく。

その場に残されたもう一人のアナと、地に突き刺さった大剣。

暫くそれを見つめた後、彼女は大剣へと歩み寄り柄に手をかけた。

 

―ええ。その仕事、任されたわ

 

既にいない蒼へと言葉を投げかけ、彼女は大剣を引き抜く。

もう一人の自身を支える為に、そしてもう一人の自身と共に戦う為に。

託された大剣と共に、赤い霧を纏いながら自身の役目が訪れるのを待つ。

後にアナがデビルトリガーを発動させ、その支える役目が訪れたのは言うまでもないだろう。




はい。これにて模擬戦『覚悟証明』は終了致しました。
今回コラボさせていただいた焔薙様、本当にありがとうございました!

ではここから、託した力の軽い説明をさせていただきます。


:デビルトリガー(アナver)
ギルヴァと蒼がアナに託した悪魔の銃爪。
発動させた際の姿は、人と悪魔が二つが合わさった姿となる。
持続可能時間は三分だが、その力はイグナイトトリガーを上回る。
(姿のイメージとしては『仁王2』の妖怪化『迅』の時の姿とDMC3、DMC4SEのバージルの魔人化した際の姿をイイ感じに合体させた感じ)

:Ⅱカリギュラ
デビルトリガーを発動させた際、義手を付けている左腕のガトリングが使えなくなるという問題を解消する為に蒼が作り上げた射撃武装。
魔力で錬成された重火器であり、威力、連射性は非常に高い。
しかし魔力の消費率が倍増する為、使うのは程々が一番。
(イメージとして、ガンダムヘビーアームズ(EW)が持つビームガトリング。それを魔力で錬成したものと思ってください)

:幻影剣
ギルヴァがアナへと託した技術。魔力で錬成された剣を投射する技術であり、イグナイトトリガーやデビルトリガーを発動させてなくても使用できるように細やかな調整が施されている。
蒼曰くあくまで護身用だが、アナの頑張り次第で性能が変わるとのこと

:魔力で錬成された大剣
タリンでの作戦時、蒼がアナへと記念にと称し渡した大剣。
基本形態の大剣から、槍、大鎌へと変形を可能とする。タリンの作戦以降、何処かへと消えていたそれは幻影の中に格納されていたらしい。
後に蒼から『もう一人のアナ』へと託された。

:R.ガード(追加パーツ装備状態)
追加パーツを装着したR.ガード。
追加パーツを装着した事により、重量は増えたが防御面積は広がった。
(追加パーツを装着時のR.ガードの姿は、FGO マシュ(オルテナウス装着時)に持っている大盾とイメージして頂けると幸いです)

:パーガトリー
RFBに託された力。魔界の鎧であり、炎を操る能力と優れた防御力を有する。
またパーガトリーは煉獄を意味する。
(イメージとしてはFGO アシュヴァッターマンの第二再臨時の姿に、そこに付け加えて膝と肘から炎が放出しているものと思ってください)

:とあるデータが収められた記憶媒体
ギルヴァの娘であるネージュからギルヴァを介してノアへと渡された記憶媒体。
どうやらパトローネを運用する際にネージュが実際にやっているアクロバティックな動きを収めたものらしい。
(分かりやすく言えば、ガンダムエクバシリーズに出てくるガンダムヘビーアームズ改(EW)がやっているあの回転を交えての射撃の数々を収めたもの。あんなに回転して大丈夫なのかね…)


長々お待たせする形となってしまい、本当に申し訳ございませんでした。
ですがとても楽しかったです。焔薙様、本当にありがとうございました!

では次回ノシ


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Act238 Summer invitation

とある日の事。
それは夏の誘い。


早期警戒基地での一時から早数日。

外の気温が以前と比べて嘘の様に上昇し、最早真夏日と言っても過言ではない日々の中で稼働しているS10地区前線基地。

気力を削ぐような暑さが続く毎日。一部の戦術人形がサウナの様な外に出たがらず、冷房がついた部屋でだらけ始めた時、それは突然という形で起きた。

 

「無人島の調査ですか?」

 

冷房のついた通信モニタールームにて、大型のディスプレイの前に立つシーナは、まるで尋ねる様な感じでその言葉をした。

対する相手、ヘリアンはその問いにそうだと頷き肯定を示し言葉を続けた。

 

『遠方に出ていた調査部隊からの報告で、偶然にも発見された無人島でな。事前に行った汚染状況を調べた所、汚染率は最早ゼロに等しく、周囲を囲む海も汚染されている状況が全く見受けらなかったらしい』

 

「…何というか、最早そこまで来ると奇跡としか言いようがありませんね」

 

『そうだな。今や世界はこの状況なのだ。お前の言う通り、その島は奇跡といって良かろう。しかし汚染を受けてない無人島と言えど、何があるか分からん。その為、S10地区前線基地にはこの無人島の調査を命じる。…と言うのが建前だ』

 

「と言いますと?」

 

無人島調査命令が実は建前である事にシーナは首を傾げる。

ではこの通信は何なのかと思う彼女にヘリアンは本命を明かす。

 

『これまでS10地区前線基地は多くの作戦に参加、他の基地との共同作戦にも参加し、同時に技術提供も行って来た。また鉄血とは異なる敵との対処にも当たっている。その事から一部から、ある意見が出てきてな』

 

「?」

 

良からぬ噂だろうかと予想し始めるシーナ。

もしそれなら、ダレン辺りに何とかしてもらおうと考えるもヘリアンの口から出たセリフはシーナが予想していたものとは違っていた。

 

『S10地区前線基地を統べるシーナ指揮官はまともな休暇を取っているのかと、そういう声が上がっている』

 

「え、えぇ…?」

 

悪い噂どころか、寧ろ心配されるような意見に苦笑いを浮かべるシーナ。

だが基地の指揮官となれば多忙の毎日を極める。

そう易々と休むわけにはいかないのだが、それでもシーナの休みの少なさは他の基地の指揮官と比べると異常とも言える。

まとまった休みを取った日は、大分前に展開された大規模作戦『operation:777』を無事終えた後に休むを取った時ぐらいであり、それ以降は全く取っていない。

下手をすれば今から倒れてもおかしくない程、休みを取っていない。それほどまでに異常なのだ。

仕事熱心なのは良い事なのだが、流石にこればかりはヘリアンからしても看過出来るものではなかった。

因みにシーナの教官を務めたという戦術人形のパイソンは、シーナがまた適度な休みを取っていないと聞いた時、「誰かあいつを気絶させてでも休ませろ」とコメントしたとか。

 

『無人島調査は簡易的に行ってもらうと同時にシーナ指揮官及びS10地区前線基地、そして便利屋『Devil May Cry』には数日間の休暇を命ずる。…無人島で一時の夏を楽しんでくるといい。それぐらいやった所で誰も文句は言わんだろう。どうせなら他の基地を呼び掛けてみると良い。S10地区前線基地以外にもまとまった休みを取っていない所もあるからな。大規模作戦の報酬代わりになるか分からんがたまには良いだろう』

 

「流石に他が乗ってくるとは思えないんですが…」

 

『そうだった時は、それでも構わん。それと、もう一つ報告しておくことがある」

 

その時、備え付けの通信端末に通知音が響く。

それがヘリアンからであると判断するとシーナは送られてきた情報に目を通す。

そこには今度S10地区前線基地に異動する事となる戦術人形のリストが表示されていた。

 

『そこに記載している通り、S10地区前線基地に異動してくる戦術人形らのリストになる。彼女らにも今回の無人島調査に参加してもらう予定だ』

 

「来て早々、バカンスってのもアレな気がしますけど…って、ん?」

 

画面をスライドさせていく中、一つだけ異動してくる戦術人形の詳細が伏せられている事に気付くシーナ。

その事を問おうとした時、聞かれる事が分かっていたのかヘリアンがそれに対する理由を明かした。

 

『その戦術人形に関しては本人の希望もあって合流当日まで伏せさせてもらう』

 

「それは何故と言っても答えてくれないのでしょうね」

 

『当然だ。だが心配する必要はない。その戦術人形は以前からそちらの基地への異動願いを出していたからな』

 

「以前から異動願いを…?」

 

この基地に異動願いを出すなど正直言えば余程の物好きとも言えるだろう。

或いはこの基地に何らかの関わりを持っていた人形か。

どちらにせよ今のシーナに、その答えは分からなかった。

 

『報告は以上だ。無人島への移動手段は、お前の事を良く知る人物が協力を申し出ている。詳しい話は本人から聞け』

 

「私を知る人物…?」

 

『詳しい事は話せん。これも本人から隠していてほしいと頼まれているからな。…これにて通信を終了する。一時の夏を楽しんできたまえ』

 

「え、あ!ヘリアンさん!?」

 

呼び止める声も虚しく、通信モニターからヘリアンの姿が消える。

しかしなってしまったものは仕方がない。やれやれと軽くため息をつくシーナの元に、昼食が出来た事を伝えにネロが通信モニター室に入って来る。

 

「飯の準備が出来たってよ。…って、どうした?シーナ」

 

「…ネロ」

 

「ど、どうした?」

 

先ほどまでの会話を聞いていない為、シーナから感じられる雰囲気につい身構えるネロ。

そんな彼女を他所にシーナはゆっくりと振り向き、苦笑いを浮かべながら伝える。

 

「バカンスに行こっか」

 

生まれる沈黙。

彼女の口から発せられた台詞を一つ一つ読み取り、その台詞を理解しようと努めるネロ。

そしてその台詞を数十秒かけて理解したネロは一言。

 

「…は?」

 

たったそれだけしか言えなかった。

 

 

昼食を食べ終えた後、シーナは基地に所属する人形らと独立遊撃部隊『ブラウ・ローゼ』のメンバー、そして便利屋『Devil May Cry』を経営するギルヴァら、及び『Devil May Cry 第一支店』の運営を任されているブレイクを呼び出し、会議室に集まっていた。

そして無人島調査というバカンスを行く事になったのをシーナの口から伝えられると、余りの突然の事に会議室はざわついていた。

 

「で、皆を呼んだのはバカンスに行きませんかという誘い。強制じゃないしから安心して」

 

ざわつく室内を静かにさせる為、少々声を大きくしながら伝えるシーナ。

ざわつきは収まったものの、困惑する人形達。

だがこの男は違った。

 

「参加しよう」

 

「分かった、って…えっ!?」

 

そのままスルーしそうになって、声の主を見た瞬間、シーナは驚きの声を上げた。

それどころか周囲にいた者達も驚きを隠せずにいる。

それもその筈だろう。バカンスに参加すると言ったのは、この中で九割の確率で参加しないであろうギルヴァであったのだから。

 

「何だ」

 

向けられる視線に動じる事もなく、伏せていた目を開き視線をシーナへと向ける。

 

「え、あ、いや…。ギルヴァさんが参加するとは思わなくて」

 

「だろうな」

 

そう答えるギルヴァ。

最初から参加する気などなかったのだが、彼の中にいるエラブルが発した台詞が彼の考えを変えさせる切っ掛けとなっていた。

 

―私…海を見てみたいです

 

普段から我儘を言わないエラブルが初めて言った我儘。

肉体はなく精神のみという存在である為か、外に出るなど滅多にない。

そんな彼女が言ったのもあるのだが、普段から窮屈な思いさせてしまっているのではないかというギルヴァとしても思う事があった為に参加という決断に至ったのだが、それを知るのは本人のみである。

 

「海を見たことないのではな。丁度いい機会と思ったまでに過ぎん」

 

海を見た事がない。

彼の台詞にそういえばと思う所があったのだろうか。参加しようかと思い始める面々。

 

「ギルヴァが参加するのでしたら、私も参加いたします。ネージュ、貴女はどうします?」

 

「折角の機会だからな。父とシリエジオ母さんが参加するのなら私も参加しよう」

 

ギルヴァに続く形でシリエジオとネージュが参加を表明する。

そして自分もと参加するを表明する人形達が現れ、それに乗じてブレイクも参加を示す。

 

「ストロベリーサンデー食いながら、美人美女の水着姿を拝めるのなら是非とも参加だ」

 

「そのストロベリーサンデーを作るのは誰なんでしょうね」

 

「そりゃお前しかいないだろ?ローザの水着姿も目に焼き付けておきたいからな」

 

「全く…」

 

参加を表明した訳ではないが、ブレイクによって参加が決定してしまったグローザはやれやれとため息を付くも、まぁ良いかと思う事にした。

こういう事は早々ない。ならば折角のバカンスを楽しもうと意気込むグローザ。

そういったやり取りをしている隣で独立遊撃部隊ブラウ・ローゼの一人であるヘルメスはネロと会話を広げていた。

 

「お前はどうする、ネロ」

 

「シーナも行くみてぇだしな。護衛も必要だし、俺は参加する。…そっちはどうすんだ、ヘルメス」

 

「ギルヴァが言っていた通り、この身で海を見た事がないからな。どうせなら見てみようと思う」

 

「そりゃ良いな。折角のバカンスを楽しもうぜ」

 

「ああ。そうだな」

 

戦場であればお互いに悪意を含めた軽口をたたき合うネロとヘルメス。

だがこういう場ではそう言う気にはなれなかったのだろう。

お互いに楽しもうと言う程に二人の間は和やかであった。

 

「ねぇ、指揮官一つ良いかしら?」

 

参加するメンバーが次々と決まっていく中、同じくバカンスに参加を表明していたUMP45は手を上げシーナへと話しかける。

 

「何かな?」

 

「今回のこれって他の基地にも誘いをかけるつもりなんでしょ?」

 

「そうだね。参加するしないは相手次第だけど」

 

「成る程。…だったらさ。何時もみたいに作戦名でも考えたらどうかしら。それがなかったら始まらないでしょ?」

 

何か派手な作戦を行う度にシーナが作戦名を考え、それが号令となっているのは事実。

思考を巡らせ、今回の作戦名を考えるシーナ。

そして数分も経たぬ内に作戦名が思いついたのか彼女はUMP45へと伝える。

 

Memories of a summer(ひと夏の思い出)。それで行こうかな」

 

その言葉の元、operation Memories of a summerが始まりを告げるのであった。




という訳で…。

今まで派手なドンパチがメインだった大規模作戦と打って変わり、今回は只々夏を楽しむだけのコラボ作戦「|Memories of a summer」の参加募集をしようかと思います。

活動報告にて『コラボバカンス Memories of a summer 参加募集』という題名で投稿いたしますので、ご興味ある方はぜひ見ていってください。

では次回ノシ


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Act239-Extra Memories of a summer prologue

―こんな世界でも―

―一時の夏の思い出ぐらいあってもいい―


満点の青空が広がる猛暑日。

全てを照らす日差しが降り注ぎ、熱気を交えて緩やかに吹いた風に雲が流れ、海がさざめく。

そんな気候に恵まれた、大海原が置くまで広がって見える大きさ異なる船が停泊する港が一つある。

そこはとある人物が、今の職に就く前から保有していたそこは今やグリフィンの一部の人間だけが知るとされる港と化しており、基本的には海洋調査を行う為の移動手段として機能している。

そんな港に無人島調査という名のバカンスを楽しむべく、今回のバカンスの参加者達に通達していた集合時間よりも一時間早く、シーナ・ナギサ率いるS10地区前線基地所属のメンバー及び便利屋『Devil May Cry』のメンバーが訪れていた。

 

「私を良く知る人かぁ」

 

そう呟くのはS10地区前線基地を統べる若き指揮官、シーナ・ナギサ。

バカンスという事もあってグリフィンの制服ではなく麦わら帽子をかぶり、白いワンピースという装いで基地所有の車から降り立つと、空を見上げながら今回のバカンスの為に移動手段を提供してくれる『自身』を良く知る人物の事を考えていた。

 

「思い当たる方でもいらっしゃるのですか?」

 

乗って来た車のトランクから手荷物を取り出しながら、MG4がそう問う。

 

「うーん…居ないと言えば嘘になるけど、船なんて所有してたかなぁって思って。だってグリフィンに就く前は武器商人にやってたわけだし」

 

その台詞にん?とMG4は疑問の声を上げた。

シーナが言う人物は今でこそグリフィンに就いているが以前までは武器商人だったというのだ。

その人物にMG4も心当たりがあった。

直に会った訳ではないが、かつてシーナが語った復讐劇の中で出てきた女性が一人いた。

 

「指揮官、もしかしてその人って─」

 

「私以外いないと思うけどねぇ」

 

MG4の言葉を遮るようにして、二人の会話に割り込んできた一人の女性。

制服こそはグリフィンの制服であるが、色が赤ではなく白。

白色の制服を身に纏い、透き通った銀髪を揺らしながら二人に歩み寄る人物。

かつては武器商人。しかして今はグリフィン本部所属資材調達部所長の座に身を置く女性。

二月十四日の夜。復讐鬼と化したシーナを裏で支えた元武器商人 シャーレイ・アナスターシャが笑みを浮かべながら二人の傍に歩み寄ってきた。

 

「久しぶり、シーナ。最後に会ったのは君が基地配属される前日だったかな?」

 

「多分その辺ぐらいかな。元気そうで何より、シャーレイ」

 

「私は変わらないさ。寧ろ君が元気そうで何よりかな。君は色々と無茶するからねぇ」

 

「今も無茶してるよ?」

 

「そうだろうと思った」

 

肩を竦めながらも笑みを浮かべるシーナにつられて、シャーレイも笑みを浮かべる。

お互いにひとしきり笑い合うとハグを交わす。

 

「今回はありがと。忙しいのに船を用意してもらって」

 

「いいさ。長らく休みを取っていないって聞いたからね。最高の休日を過ごすのに協力するのもやぶさかでじゃないさ」

 

「そっか。参加者のリストの方に目は通してる?」

 

ばっちりと答えるシャーレイであるが、その表情にはなぜか苦笑いが浮かんでいた。

その理由はシーナも察している。

 

「大人数にはなるとは思っていたけど…予想以上だったんだけど?」

 

「あはは…」

 

最早笑って返す事しか出来ないシーナに対してシャーレイはやれやれと手を額に当てた。

今回のバカンスの参加者はS10地区前線基地所属のメンバーとギルヴァらを除いたとしても、二桁は上る。

特にダレンが独自の情報網を用いて調べ上げ、タリンでのアイソマー救出作戦を立案したリヴァイル・ウィッカーマンにシーナが連絡を取った際には、それはもう大所帯での参加となったそうだ。

 

「忙しいのは分かるけどさ、何で自ら休みを取ろうとしないの?もう少し自分を労りなさいって」

 

「後で参加メンバーに伝えておくよ」

 

「そうして。…取り敢えず、船は用意しておいたよ。丁度君の後ろに停泊しているのがそうさ」

 

「というと…ん!?」

 

後ろへと振り返って、そこに停泊する船を見てシーナは言葉を失った。

大人数になる為、それなりの船が用意されているとは思っていた。

しかしそこに停泊していた船はシーナの予想を平然と上回るものであった。

 

「誰が豪華客船なんて用意して言ったかなぁ!?」

 

「サイズとしては普通さ。因みに内装は豪華客船並みに色んなものを用意してるよ。食べても良し!飲んでも良し!遊んでも良し!宿泊施設も完備!何なら寝泊まりしてもオーケー!」

 

「ああもう…」

 

何故かテンションが上がり気味のシャーレイに対しシーナは額に手を当て天を仰いだ。

用意してもらったからにはこれ以上の事は言いたくない。

この港にやってくるであろう参加メンバーにはこれしかなかったと伝えようと心の内で決めたシーナは、話を元へと戻していく。

 

「無人島までの航海時間は?」

 

「ざっと三時間ぐらい。操舵に関しては備え付けの自動航行システムが全てを行うから、そっちは船の旅を楽しむといいよ」

 

「ん、了解。…ホントありがとね、シャーレイ」

 

「いいよいいよ。友人の君の為ならこれくらい容易い。しっかりと休んでくるといい」

 

「うん」

 

「それじゃ私はここらで失礼するよ。仕事をほっぽり出してここに来てるからね」

 

仕事を放って来たのかぁ…と内心呟くシーナ。

胸の内に呟いた言葉がシャーレイに届くはずもなく、彼女は背を向けて歩き出しその場から去っていった。

去り行く彼女を見届けた後、シーナは既に荷物を下ろし待機している全員へと伝える。

 

「参加メンバーが来るまでに手荷物は船に載せるように。武器関連は目立たない所に置く様にして。それと何もないと思うけど手が空いた者から港周囲の警戒」

 

「では私たちもお手伝いしましょうか、シーナ」

 

「え?」

 

不意に後ろから声を掛けられて、声の方向へと振り向くシーナ。

そしてそこに立っていた人形を見てシーナは言葉を失った。

 

「大きくなりましたね。それにあの時と比べて、一段と綺麗になったようで。ふふっ、何だが自分の事の様に嬉しく思いますね」

 

プラチナブロンドの髪に金色の瞳が特徴の人形。

頭に着けたカチューシャには白い花の装飾が施されており、纏う衣服はまるでMGの戦術人形『ネゲヴ』やHGの戦術人形『ジェリコ』が着る衣服と似たモノを纏っていた。

前々からS10地区前線基地に異動願いを出していた人形であり、異動リストに記載されていた人形の中で唯一その情報が伏せられていた戦術人形。その名も──

 

「X…9、5さん…?」

 

「はい。X95、本日付けでS10地区前線基地に配属となりました。これからよろしくお願いしますね、指揮官様」

 

シーナのかつてを知る一人であり、いつまでも寄り添い続けた白き花。

X95が優しく包み込むような、心の奥底から安心させてくれるような笑みを浮かべて敬礼する。

 

「本当に…あの時の…?」

 

「ええ。あの時、あなたと一緒にいたX95です。「X95さん!」わっ」

 

X95が感じたのは他ならぬシーナの胸の鼓動であった。

壊れぬ様に抱きしめてくる彼女の背にX95はそっと腕を回した。

 

「私…私は…!」

 

「あの時の事を謝る必要はありませんよ、シーナ。こうして会う事が出来たのですから。それだけで十分です。ですから私に涙ではなく、笑顔を見せてください」

 

「笑顔…ですか?」

 

「はい。貴女の笑顔が私は一番大好きなんです」

 

X95の手がシーナの頬に添えられる。

瞳から流れる一筋の涙が指で拭われると同時にシーナは笑みを浮かべた。

X95が一番大好きという笑顔が出来ているかどうかは分からない。

今で出来る笑顔を浮かべるシーナにX95はうんと頷き、一言。

 

「良く出来ました」

 

いつの間にか出来上がった状況に誰しもが困惑する。

周囲からの視線に気づいたのか、X95から離れ赤面しながらシーナは咳払いを一つ。

 

「今の気にしないで?」

 

「「「「無理」」」」

 

「え~…」

 

 

二人の間で何があったのかはX95の助言もあっていつか話す事となり、シーナはS10地区前線基地に所属する事となった人形らとあいさつを交わしていた。

 

「やった~、S10地区前線基地の指揮官さんは良い人っぽい!あ、私はルイス、よろしくね!」

 

「よろしく。着任して早々バカンスな訳だけど、楽しんでいって」

 

「うん!」

 

まず初めに挨拶を交わしたのはMGの戦術人形『ルイス』。

元は別の基地に所属していた彼女であるが、外見や人となりで判断しがで中身が悪でも外見が良ければ善人だと判断する性格らしい。それ故か色々問題を引き起こしてしまったらしく、基地の指揮官の判断もあって強制的に異動させられた。

S10地区前線基地へ異動となったのは、シーナ指揮官なら何とかしてくれるという勝手な期待によるものだがシーナがそれを知るはずもない。

 

「そしてルイスの隣に立っているのが…」

 

「Thunderだよ。ほらほら、挨拶しよ」

 

ルイスに促され、シーナの前に立つのは赤い瞳に銀髪。

そして携えた銃は少女とも言っていい外見を有する人形が持つには余りあるものと言っても過言ではない。

 

「Thunderです。宜しくお願い致します」

 

「こちらこそ。にしても凄い銃だね」

 

シーナの目線がThunderが持つ銃へと向けられる。

一見すればライフルの様に見えなくないそれは、拳銃だと誰が思うであろうか。

 

「良く言われます。普通じゃないとか可笑しいとかそういう事はよく」

 

「そう?私は全然普通だと思うよ」

 

「…何とも思わないのですか?」

 

「思わない。というか、うちにはもう普通じゃないのがゴロゴロ転がってるからね。銃身が二つあるリボルバーとか29mmっていう砲弾みたいなのを撃つライフルとか、それはもうたくさん」

 

「…普通じゃないですね」

 

「でしょ?」

 

にっこりと微笑みながら、シーナはそっとThunderの頭に手を置いた。

 

「私は気にしないよ。貴女は貴女のままで良いからさ」

 

「…はい。ありがとうございます、指揮官」

 

表情は硬い様にも見えて、少し笑っているようにも見える表情を浮かべるThunder。

雰囲気が少しだけ柔らかくなったのを感じるとシーナは優しく微笑んだ。

和やかな雰囲気に二人を見ていたルイスもにっこりと笑みを浮かべる中、シーナはThunderの隣に立つ人形に視線を向けた。

彼女の視線が、その人形へと向けられたの気付くとThunderが紹介する。

 

「ショットガンの戦術人形でLTLX7000です。LTLX、挨拶を」

 

「ああ」

 

纏う雰囲気はどちらかと言うと冷たく感じさせるだろう。

だがその実は非常に甘えん坊という性格の人形であるのだが、今のシーナはそれを知らない。

 

「LTLX7000だ、宜しく頼む。貴官が信頼に値する人物だと良いが」

 

「なら信頼に値する人物になれる様に努力しないとね。それと甘えたくなったらいつでも言ってくれていいからね?」

 

「ッ!?」

 

だが侮るなかれ。

かつて誰にも告げずに姿を変えたソルシエールに気付いた事もあるのだ。

甘えん坊である事を誰にも知られることなくとも平然と気づいたシーナ。

その事を指摘されたLTLXは驚くが、それでも関係ないと言わんばかりにシーナは彼女に歩み寄り、頭に手を置いて優しく撫でた。

 

「今はこれしか出来ないから許してね」

 

「あ、いや…これはこれでその……嬉しい

 

「そっか」

 

LTLXの頭を撫でる手が離れる。

離れる手を名残惜しそうに見つめるLTLXにシーナの後ろからFALは声を掛けた。

 

「そろそろ参加メンバー来る頃よ。指揮官、出迎えはどうするのかしら?」

 

「私が行くよ。他の皆には先に船内に移動し待機するように伝えて。異動してきたこの子たちと一緒にね」

 

「了解よ。それじゃ先に船内で待機してるわ」

 

「うん」

 

FALがX95を含む異動してきた人形を連れてシャーレイが用意した船へと移動していく。

それを見届けるとシーナはこれからやってくるであろうバカンスの参加者を迎え入れる為、その場で待機。

 

「さてさて…どんなバカンスになるかなぁ」

 

空を見上げながら、どんな夏の思い出になるのかと思うシーナ。

参加メンバーが来るまでもう少しある。

夏空が広がる中、一時の夏の思い出(Memories of a summer)が始まりを告げた。




という訳で!
operation 『Memories of a summer』始動でございます!

今回はそのプロローグ編として描かせて頂きました!
集合地点となる港にはシーナ(麦わら帽子に白いワンピースを着ている)が出迎えてくれますので、参加メンバーは彼女を通して港へと通ってくださいませ。
(※バカンスの誘いには全てシーナはお声がけしています)

今回のoperation「Memories of a summer」の参加者と作品名をここに表記しておきます。

アーヴァレスト様作【チート指揮官の前線活動】

NTK様作【人形達を守るモノ】

焔薙様作【それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!】

ガンアーク弐式様作【MALE DOLLS外伝集】

試作強化型アサルト様作【危険指定存在徘徊中】


…もうアレですな、豪華過ぎませんかねぇ?
それは兎も角。参加する皆様、一時の夏の思い出作りを一緒に盛り上げて行こうでありませんか!
拙い文章しか描けない私でございますが何卒宜しくお願い致します!


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Act240-Extra Memories of a summer prologue Ⅱ

―バカンスは無人島に着いてからじゃない―

―船に乗った時から始まっているのだ―


シーナが集合場所となる港に集まるバカンスの参加者を出迎える為、船外で待機している中、ギルヴァは一人で船の船首側のデッキにいた。

流石にこの暑さの中では彼も参るのだろう。

愛用であり、宝物と言える青い刺繍が施された黒いコートは脱いだ状態でそこから映る海を眺めていた。

元より海を見てみたいという思いからこのバカンスに参加した訳であるが、だからといって初めて乗船する船でだらける気など更々なく、どうせならこの船から見える海を眺めてみようという思い今に至る。

 

―これが海…

 

―一番見てみたいのは砂浜から広がって見える海ってヤツだが…こいつはこいつで悪くはねぇな

 

そして突如として起きた不幸によりその命を落とし、海を見た事がない肉体無き少女(アイソマー) エラブルと魔族であり、魔界なんぞに綺麗もへったくれもない事からエラブルと同じく海を見た事のない蒼の二人にこの景色を見せる為にこうして立っていた。

 

―肉体がありゃ、この海を肴に酒でも飲みてぇモンだ

 

―お酒ですか?あまり詳しくはないのですが…ギルヴァさんが偶に飲まれるお酒(ウイスキー)は飲んでみたいです

 

―止めておきな。それにだ、そんなの飲んだら一発でダウンだ。お子ちゃまはジュースで我慢しな

 

―むぅ!私はお子ちゃまなんかじゃないですぅ!

 

―ハハッ!俺から言わせればお子ちゃま同然さ。

 

騒がしいと思いながらも決して咎める事無くギルヴァは静かに腕を組む。

 

(海、か…)

 

そこに広がる光景にギルヴァはふと昔を思い出す。

まだ自身に義母と義妹が存命だったあの時の事を。

まだ静かに暮らしていたあの時の事を。

 

(…)

 

ギルヴァが二人と暮らしていた場所は近くに海はなく、それどころか汚染が酷かった為立ち入る事すらできなかった。

だがそれでもだ。一度だけで良いから海を見てみたいと思うのは誰にだってある事であろう。

当然ながら当時のギルヴァも口にはしなかったものの、胸の内でそれを願っていた一人だ。

そしていずれかは二人と共に思っていた。

叶わない願い。そうだと分かっていながらも、それでもと諦める事が出来なかった自身が居た事を長い時を経てギルヴァはそれを思い出していた。

 

「もうバカンスを楽しんでいるのか、父よ」

 

「む」

 

叶わなかった願い。自身だけが叶えてしまった願い事に何らかの感情を抱くギルヴァの後ろからネージュが歩み寄り、声をかける。

ギルヴァと同様にこの暑さには敵わない様で、何時も羽織っている白いコートは脱いでおり、透き通った銀髪をそっと掻き分けながらギルヴァの隣へと並び立った。

並び立った娘の姿を一目見た後、ギルヴァは先ほどの問いに答える。

 

「向こうに着いてから楽しめなど言われていないのでな」

 

「ふふっ、確かにそれはそうだな。どう楽しむかは人それぞれだ。…それはそうと少しだけ時間をくれないか?」

 

「問題か?」

 

「問題と言えば問題だ。だが武器はいらない。それだけは断言できる」

 

では何かとギルヴァがそう思った矢先、それを見透かしていたかのようにネージュは告げた。

 

「先ほどシーナから頼み事をされた。S13基地から来たシャマール指揮官らを船内に案内した後、S07基地から来たサクラ指揮官らを船内に案内する為少し外れるらしい。それもあって今しがたこの港に来たリヴァイルらを船内への案内役をお願いしたい、と」

 

「あいつらか。…早期警戒基地の面子も来たと聞いたが誰が案内をしている?」

 

ネロ(処刑人)だ。暇そうにしていたから頼んだ。…さっきすれ違ったがセーラー服を着た人形、恐らく私と同じ鉄血のハイエンドモデルだと思うが、そいつに右腕のデビルブリンガーについてしつこく質問攻めされていたが…」

 

「なら問題ない」

 

「…良いのか?」

 

「今に始まった事ではないのでな」

 

組んでいた腕を解き、ギルヴァは己の内で盛り上がっている蒼とエラブルへと話しかける。

 

(ここを離れるぞ。構わないな?)

 

―あいよ。話は聞いていたからな。俺は構わねぇが、エラブルはどうだろうな…?

 

(……成る程)

 

考えずともギルヴァは察した。

今から会いに行くのはリヴァイルらであり、そして自身の中にいる肉体無き少女、エラブルに関わりがある人物なのだ。

それを理解していたからこそ、何か思う所はあるのだろうと蒼は言外にそう伝えたのだ。

落ち着かないのであれば、何らかの方法で待機させるべきかと考え始めるギルヴァにエラブルが話しかける。

 

―私は大丈夫です。あの時と比べて、幾分か落ち着きましたから

 

(そうか。…無理はしなくていい)

 

―はい…!

 

本人がそういうのであれば問題ない。

踵を返し、ネージュに行くぞと伝えるとギルヴァはその場から去っていた。

 

 

ネージュと共にリヴァイルらが居る場所へと向かうギルヴァ。

船と岸壁を繋ぐタラップを降りていく際、ネロの後に続くオートスコアラーとアナ、アーキテクトらとすれ違うも言葉を交わす事もなく、二人は船から降り立つ。

そして周囲を軽く見回した後、男女の集団を見つけ歩み寄った時、やってくる二人に気付いたのかリバイバーが挨拶する。

 

「よっ、久しぶりだな」

 

「ああ。お前も変わりないようだな」

 

「まぁな。いつも通りってやつさ。それと…隣に立っているのは誰だ?」

 

リバイバーの視線がギルヴァの隣に立つネージュへと向けられる。

タリンでの作戦では飛行部隊迎撃の為に共闘したリバイバーとネージュであるが、あの時はネージュが大型機動兵器『リヴァイアサン』に搭乗していた事と専用装備『ラヴィーネ』を装着していた事もあって、互いに顔を知らないままであった。

そういった背景があるが為、リバイバーがギルヴァの隣に立つネージュを知らないのも無理がないと言えた。

 

「ネージュだ。タリンでは貴方と共闘出来て嬉しく思う」

 

「てことは、あのリヴァイアサンってのに乗ってたやつか?」

 

「そうだ。こうして顔を合わすのは今回が初めてだな」

 

「だな。しっかしあんた…鉄血のハイエンドモデルか?反応はあるが、データにはないんだが…」

 

「…色々事情がある身なんだ。深掘りはしないでくれると嬉しい」

 

今回はバカンスを楽しむ為にある。

その事は二人とも理解している為か、会話はそこでストップする。

しかしそこから話題変える為にギルヴァがリバイバーの隣に立つリヴァイルへと尋ねる。

 

「聞いてはいたが大所帯だな」

 

「折角のバカンスだからな。それに奇跡とも言える形で残っている自然を今を生きる者達に見せてあげた方がいいと思っていたのでね」

 

「成る程。実にお前らしい」

 

「そういう君こそ自然と楽しもうと思って参加しているのだろう?」

 

「それもあるが…」

 

腕を組み、そっと目を伏せるギルヴァ。

何か触れてはいけない事を触れてしまったかと思い、話題を変えようとするリヴァイルであったがそれを行う前にギルヴァが口を開いた。

 

「汚染などされていない自然の海を見たかった。幼き頃からの夢の一つだったのでな」

 

「…」

 

あのギルヴァからの口から告げられた夢の一つ。

その台詞にリヴァイルの顔が僅かに曇る。

 

「お前を責めている訳ではない。やれることを成せばいい。俺からはこの程度の事しか言えん」

 

それに、と彼は前置きを口にし台詞を続ける。

 

「今は休暇を楽しめ。互いに気が滅入る話をしに来た訳ではあるまい」

 

「それもそうだな。案内を頼めるか?」

 

「ああ。ついてこい」

 

踵を返し、ギルヴァはネージュと互いに頷くと船を向かって歩き出す。

その時、何かを思い出したのかふとギルヴァは足を止めチラリと後ろを見た。

彼の視線の先。そこに居たのはタリンでの作戦で助けた二人のアイソマーと姿こそは違えど、白き花が辺り一面に広がるあの場所で通信でやり取りし、一時的とは言えど精神体のみとなってしまいギルヴァの中に潜り込んでしまったものの、『万能者』によって蘇ったフラーム。

二人のアイソマーに関しては恐らく自身の事は覚えているだろうと思うギルヴァであるが、フラームに関しては自身の姿を見せた訳ではないので覚えていない。良くて声ぐらいは覚えているだろうと判断している。

しかしそう判断していながらも、ギルヴァは二人のアイソマーとフラームへと伝えた。

 

「…元気そうで何よりだ」

 

「…えっ?」

 

不愛想な顔であり、冷静な性格をしているギルヴァから出た言葉。

その言葉にフラームは驚いたような声を上げるも、ギルヴァは聞いていない振りをしてリヴァイルらを連れて船へと歩き出すのであった。




段々と参加者の皆様コラボバカンス回を上げていっているみたいなのと、長らく更新出来ていない為、急遽ですがプロローグⅡを投稿させていただきました。

次回は楽しい楽しい船旅の話になるか、移動描写はすっ飛ばして無人島でのバカンスを楽しんでいる話のどちらかになるかと。

ともあれ皆さん、気長にお待ちくださいませ…!


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Act241-Extra Memories of a summer Front story Ⅰ

―それじゃ楽しもうか─

―船の旅もバカンスを楽しむ一つなんだから─


「どこにいるのでしょうか?」

 

参加者の全員が集い、船は無人島へと向けて出港。

辺り一帯に広がる海に揺られながら優雅に進む豪華客船に彼女は誰かを探す様に歩いていた。

水色の瞳、まるでエルフを彷彿させるような長い耳に、白に水色のグラデーションが掛かった特徴的な色を持つ長髪を揺ら、白のノースリーブシャツに黒のスカート、腰に飾りベルト、そして頭に着けたハイビスカスの飾りはこのバカンスの為に持ってきた装飾品。

いつもとはほんの少し違う夏の装いを纏い、あのヘルメス(錬金術士)の数倍は行くであろう立派な胸部装甲を揺すはブラウ・ローゼ隊の一人、シャリテである。

本来であれば仲のいいソルシエールら、基地の皆と船から見える海を眺めているはずなのだが、一人離れて船内を歩き回っているには理由があった。

 

「誰か探しているのですか、シャリテ」

 

「あ、ルージュさん」

 

そんな彼女に気付いていたのか、いつもの白のケープコートを纏ったルージュが後ろから話しかける。

彼女ならもしかしてと思い、シャリテは自身が探している人物について尋ねた。

 

「試験者さん達を見ていませんか?船に乗っている事は聞いているのですが」

 

「彼らがどうかされたのですか?」

 

「いえ、大した事ではありませんよ。ただ挨拶をしたくて」

 

「そうですか」

 

大して気にしてはいないといって様子で答えるルージュ。

だがそんな彼女は内心であるが、不安を覚えていた。

それもその筈で、送られてきた軍事ロボットの様な姿をした彼らは所謂予備戦力として、不測の事態に備える為に来たと言っていたのだ。

どうやら今向かっている無人島とは別の無人島の調査で不死の巨大アナコンダとか蝿男に遭遇し、最早調査どころではなくなる程の事態に陥ったとのこと。

今回の調査という名のバカンスも、もしかすればそれらと遭遇するかもしれないといった懸念材料があった為に彼らは送られてきたらしい。

 

(絶対とは限りませんが…私も警戒しておくべきですね。それに悪魔関連なら彼らよりも早く私やギルヴァさん、ネロやブレイクさんの方が気づきますし)

 

「ルージュさん、どうかしましたか?」

 

少し考え込んでしまっていた為、不安げに見つめてくるシャリテに何でもないと答えるルージュ。

 

「試験者らなら船の後方にいるのを見ましたよ。彼らなりに船の旅を楽しんでいるかと」

 

「そうですか!ありがとうございます!」

 

花が咲いたかのような笑みを浮かべ、ルージュに礼を述べるシャリテ。

そのままルージュの横を通り過ぎようとした時、ふとある事を思いつき再び彼女へと声をかけた。

 

「ルージュさん、一つお願いしたことがあるのですが」

 

シャリテから珍しく頼み事をされ、首を傾げるルージュ。

彼女の口から告げられた頼みの内容を知ると、それくらいならと快諾しルージュはコキュートス・プレリュードを展開。

冷気が放たれ、やがてそれは氷となる。そしてルージュの想像したイメージをコキュートス・プレリュードに送り込むと氷は、とある姿へと変えシャリテの手に渡る。

氷で作られた『あるモノ』を三つほど抱え、シャリテはそのまま試作者らが居る船の後方部分へと歩き出していった。

 

 

豪華客船、デッキ後部。

その姿は余りにも浮いているとしか言いようがない軍事ロボの姿をした者達『試験者』がいた。

自分たちが余り場違いだという事は自覚しているものの、だからといって船の旅を、ましてやバカンスを楽しんではいけないというルールなどある筈もなく、船の外で辺り一帯に広がる海を眺めていた。

 

『『『…』』』

 

だがそこに会話はなく、折角のバカンスだというのに彼らを包み込む空気は若干重々しい。

そこに重々しい空気感に包まれている状況に臆する事もなく、彼らを見つけたシャリテが声をかける。

 

「こんにちは、試験者さん」

 

『ム…確カ、ブラウ・ローゼ ノ シャリテ ダッタカ?』

 

声を掛けられ歩み寄るシャリテに対して対応したのは試験者の支援型。

自身の前に立つ人形がS10地区前線基地所属する独立遊撃部隊『ブラウ・ローゼ』のシャリテという事は彼も知っているらしい。

 

「どうですか、楽しんでいらっしゃいますか?」

 

『アア…ソレナリニナ』

 

そう答えるもシャリテにはどこかそう思えない何かを感じ取っていた。

そしてそれを分かっていたからこそ、彼女は彼らを探しており、ルージュにとある物を作ってもらい此処まで来たのだ。

 

「えっと…試験者さん、少しだけ屈んで貰ってもいいですか?」

 

『何故?』

 

「それはその……兎に角!屈んでください!」

 

この暑さに加え、自分たちが余りにも浮いてしまっている事が原因だろうか。

何故かまともな判断が出来なかった試験者支援型はシャリテに言われるがままにゆっくりと屈んだ。

試験者支援型が屈むとシャリテは彼に歩み寄り、手にしていたあるモノを彼の頭の横に来る形で添えた。

軍事ロボみたいな姿をした彼に似合っているかは兎も角、折角のバカンスなので楽しんでほしいという思いがそこに込められているのだろう。

 

「うん!とても似合っています!」

 

屈託の無い満面の笑みを浮かべるシャリテ。

その視線に映るは試験者支援型の頭部側面に氷で作られたハイビスカスの飾りが添えられているという光景が映っていた。

 

『…コレヲ渡シニ態々?』

 

「はい!折角のバカンスですし。それに私だけでは大した事は出来ませんが楽しんでほしいって思って。あ、そのハイビスカスの飾りは特別性なんですよ。氷で作られていますけど、決して融ける事がないんです!夏の思い出として持って帰って下さいね!」

 

例えそれが如何なる理由であろうと。

シャリテにとって、試験者の三人もバカンスにやって来た団体の一つに過ぎず。

折角の夏、折角のバカンスだというのに何も施さず、放置しておくなど彼女には出来る筈もなかった。

ひんやりとしているが、そこには確かな優しさが籠った氷のハイビスカスの飾り。

誰かに作ってもらったと言えど、そのハイビスカスの飾りはある意味、彼女の性格を表していると言えよう。

 

「あ、重装型の二人も屈んで貰えますか?」

 

『ウ、ウム…』

 

『ア、アア…』

 

戸惑いながらも片足をつく重装型の二人。

そんな二人にも頭に氷で出来たハイビスカスの飾りを添えるとシャリテは満足気に頷く。

 

「うん!皆さん、とても似合っています!」

 

一人満足するシャリテに試験者らは未だに困惑気味の様子。

しかし状況はシャリテの方に向いてしまっているのか、彼女を主軸として流れ始める。

 

「折角のバカンスですから、目一杯楽しんで下さいね!」

 

大輪の花が咲くが如く。

満面の笑みを浮かべた後、シャリテは試験者らに軽く一礼してその場から去っていく。

去り行くその背を見届ける試験者ら。その一方で頭に添えられた氷のハイビスカスの飾りにそっと手を伸ばし、この暑さを凌ぐ様な冷たさをその機械の指先で感じるのであった。

 

 

シャリテが試作者らに贈り物をして戻ってきている一方で船内はこれは見事に賑わっていた。

初めて乗る豪華客船、初めてのバカンス、久しぶりに与えられた休暇。

ここまで揃えば気分が盛り上がるのも無理もないと言え、誰しもが船の旅を満喫していた。

ブレイクもその一人と言え、シャーレイが事前に用意してくれていた食材を使ってグローザが作ってくれたストロベリーサンデーに舌鼓を打っていた。

そして珍しいと言うべきか、彼の隣にはシーナが座っており、冷房の効いた空間でノンアルコールカクテルが注がれたグラスを片手に船を楽しむ皆の様子を微笑ましい笑みを浮かべ眺めていた様子だった。

 

「いいのか?ゲスト達と話をしなくて」

 

「今じゃなくても沢山話せるから大丈夫。それに今は船の旅を楽しんでほしいからね。そういうブレイクさんは良いの?」

 

「俺はストロベリーサンデーを食べる事とここに居る美女達の水着姿を想像するのに忙しくてね」

 

「ふふっ、ブレイクさんらしい」

 

彼のこういった事は今に始まった事ではない。

軽く笑うとシーナはグラスのノンアルコールカクテルを一口含む。

港を出港して、かれこれ二時間半は経過している。バカンスの場所となる無人島もそろそろ見えてきてもおかしくない所まで来ているとシーナは思っていた。

そしてその予想が間違っていないと言わんばかりに、悪魔の右腕『デビルブリンガー』を露わままにした状態のネロがシーナの元へ歩み寄って来た。

 

「ブリッジにいるソルシエールから連絡だ。無事着いたみたいだぜ。後は停泊準備だけだとよ」

 

「ん、了解。そのまま自動航行システムに任せて、ブリッジから戻ってくるように伝えて」

 

「あいよ。…なんもねぇと思いたいが一応不測の事態に対応できるよう、武装だけはしておくぜ?」

 

「分かった。私のコート(サーヴァント)と銃も持って来てくれる?」

 

シーナからの頼みにネロはどうしたものかと迷った。

自身がこのバカンスが大して楽しめなくても構わない。何かあった時にすぐさま対応する気で居た為である。

だがシーナにはせめてこのバカンスを楽しんでほしいという思いがネロにはあった。

それ故か周囲の警戒に彼女を巻き込む事はしたくない。

だがどう説得すべきかと悩んだ時、二人の話を聞いていたブレイクは割り込む。

 

「折角のバカンス、折角の休暇。偶には仕事から離れたって誰も文句言わねぇと思うけどな」

 

「でも…」

 

「なに、周囲の警戒ぐらいなら俺もやってやるさ。食後の運動と浜辺で美女達と遊ぶための準備運動をしておきたいからな」

 

「それ、どっちが本音?」

 

「さあ?どっちだろうな」

 

肩を竦め、空になったパフェグラスにスプーンを放り込むと立ち上がるブレイク。

体をほぐす様に背伸びした後、傍に置いてあったリベリオンを収めたギターケースに手を伸ばす。

一応周囲の警戒に努める気はあるのだろうと判断し、歩き出していくブレイクの背を見つめながら無人島に就くまで寛ごうとした矢先だった。

 

「…何かが来ます」

 

「!」

 

シーナの影に潜んでいた筈の『セイレーン』が突如として姿を現し何らかの危機を告げ、その警告に耳にした瞬間彼女の体に緊張が走り表情が固く張り詰めた瞬間。

船の船首側のデッキが何かが降り立ち、僅かな破砕音と土埃が周囲に広がった。

 

「「「「!」」」」

 

余りにも突然の事に驚きを隠せない者達。

舞い上がる土埃の中で浮かび上がる影。人の姿をしているが、誰なのか分からない。

戦えぬ者達を自身の後ろへと退避させ、戦える者達が突如として落ちてきたソレに対して警戒を務める。

そんな緊迫した状況で海風が吹くと土埃が払われ、落ちてきたソレの正体が露わとなった。

 

「ヒサシイ ナ ツワモノ タチ ヨ ・・・・・ デハ シアオウ カ」

 

浮かべた表情は笑みなのだろうが、一般的な感性で言えば恐怖を覚えさえ、大剣の様に見えるソレは彼にとっては爪。

頂へ至る為、まだ見ぬ強者らと死合う為に生きていると言っても過言ではない存在。

かつてS10地区前線基地から発令した特殊作戦に参加した事の強者…『蛮族戦士』が構えを取った状態でそこに立っていた。

突如として現れた蛮族戦士。海の音だけに支配されたこの場に、微かにだがカチリと、まるで銃の撃鉄が起こされる音が響いた。それも蛮族戦士の傍でその音が響いていた。

 

「ム・・・・」

 

当然誰よりも早く気付いた蛮族戦士。その音の発生源…左へと視線を向ける。

 

「悪いな。こっちはバカンスで来てんだ。やんちゃしたいなら海にでもダイブしてお魚さんとデートしてきな」

 

赤いコートを纏い、片手をポケットに突っこんだまま、愛用する二丁の大型拳銃の内の一丁『アレグロ』の銃口を突きつけながら笑みを湛えるブレイクの姿。

そして右へと向けば─

 

「ドンパチなら他所でやんな。こっちは休暇でね」

 

同じく愛用する改造リボルバー『アニマ』を左手で構え、その銃口を突きつけるネロの姿。

しかしこの咄嗟の状況に動けたのは二人だけではない。

 

「動かないでください」

 

彼の後ろからは禍々しい色を宿した大鎌の刃を彼の首に触れるか触れないかのギリギリを維持した状態で蛮族戦士を冷たく睨むルージュが居て──

 

「前にも言った筈だ。貴様とやり合った所でこちらが得られるものなど無いとな」

 

そして蛮族戦士の正面には無銘の刃の切っ先を突きつけるギルヴァがいた。

この四人だけが突如として起きた状況に素早く反応し、行動を起こしていた。

しかしこれで状況が良くなったかと聞かればそうではないだろう。

このまま戦闘に発展してしまうのではないかと思われた矢先。

 

「「「何してるんだこの死合バカ!!」」」

 

何処から現れたのか、アイソマーらしき集団が蛮族戦士に拳骨を叩きこんだ事によって一触即発の雰囲気から困惑の雰囲気へと変わったのは言うまででもないだろう。

 

 

 

「成る程、そういった事情が」

 

騒動の後、無事無人島に降り立ったバカンス参加者達。

そして蛮族戦士に拳骨を叩きこんだアイソマーの一人から事情が聞き、納得げにシーナは頷いていた。

どうやら蛮族戦士についてきて、彼女達もまたこの無人島にて休暇を楽しんでいたらしい。

だが蛮族戦士が近寄ってくる豪華客船を見て飛んで行ってしまい、あまつさえは死合を仕掛けた為、折角ののバカンス、折角の休暇が台無しになるのを恐れて、即座に止めに入ったのだと。

 

「ほんっとに!!!ごめんなさい!!!あの死合バカが余計な事をして、あまつさえはそちらの休暇を無茶苦茶にしかねない事をしてしまって…!」

 

「アハハ…最初はビックリしたけど、もう大丈夫だよ。だから貴女も頭を上げて?」

 

「ですが…」

 

「折角のバカンスなんでしょ?なら気が滅入るような話はここまでしておこ?蛮族戦士の行動に関しては私は知らなかった事にするし、上層部に伝える気もない。この話はここだけの話って事にしておくから」

 

話が余計な方向へと持っていきたくないのはお互いにと言える。

それを分かっていたからこそシーナは頭を下げるアイソマーにそう伝えたのだ。

だがそのまま、これで終わりという訳には行かないのがシーナである。

 

「あ、でも一つだけ良いかな?出来れば蛮族戦士に伝えてほしいんだけど」

 

「な、何でしょうか?」

 

雰囲気が変わる。

二十歳にも満たない少女から放たれるその圧は最早普通ではない。

まるで死神に得物となる鎌を首に掛けられているのではと錯覚してしまうほどの『死』を再現した圧が一人の少女から放たれているのだ。

逆を言えば、それほどまでの蛮族戦士の行動は容認できるものではないと言えよう。

 

「彼女に謝らせておいて自分はなんの謝罪もないなんて……イイ度胸ダネ?って伝えておいて」

 

「イ、イエス・マム!」

 

まるで軍人の様に綺麗な敬礼をしてから、急ぎ足で去っていくアイソマー。

流石にやり過ぎたかと反省するシーナだが、これくらい言っておかないと思い反省するのを止める。

そして後ろへと振り向くと無人島へと降り立ち、今からでも海に飛び込みかねない彼女らを見て、にっこりと微笑むと口を開いた。

 

「それじゃ楽しもっか。…夏だ!海だ!──バカンスだってね!」

 

「「「「Yeah!!!!」」」」

 

ノリが良い面子が叫んだのが合図となったのか、無人島でのバカンスが幕を開いた。




という訳で…
Memories of a summer表の一話を投稿しました。
今回は船の旅、そして無人島に到着しバカンスの開幕を宣言した話を描かせていただきました!
裏編に関しては暫しお待ちを。

今回の話は色々ぶち込んでますが…許してくだせぇ…。

と、兎も角、夏のバカンス楽しんでいきましょうぜ!

ではでは次回ノシ

※参加者の中でこちらのキャラで容姿、性格など分からぬことがあればメッセージをくださいませ。返信は遅くなりますが必ず返事しますので!


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Act242-Extra Memories of a summer Front story Ⅱ

─Summer vacation!!─


遠く、遠くへと広がる青い空。

燦々と太陽の光が降り注ぎ、空に昇った雲が流れるその下で海がさざめく音が澄み渡る。

まるで過去へとタイムスリップしてしまったのではと、つい思ってしまいそうになる平和な一時。

お気に入り、或いはこの為だけに新調した水着へと着替え、海へと駆け出して、はしゃぐ彼女達の姿があった。

平穏なバカンスを過ごす彼女達を見守りつつ、ビーチパラソルが作り出した日陰の中でビーチチェアに腰かけていたシーナは傍に置いてあった氷と冷たい水で満たされたバケツからある物を手に取る。

一見すれば瓶。だが真ん中辺りがわざと狭められているといった特徴的な形をしている。

 

「昔はこれが当たり前だったんだろうなぁ…」

 

プラスチックで出来た突起の付いたキャップを取り出し、容器の口へと乗せる。

 

「ふっ!」

 

そして力を入れて勢いよく押し込んだ時。

海のさざめく音と共にプシュッと炭酸が抜ける音が鳴った。

数秒程度飲み口を抑えた後、シーナは容器に口を付け、一口飲んだ。

 

「くうぅ~…夏に飲むコレはいいねぇ」

 

年頃の少女が言う様な台詞だろうかとついつい言いたくなるも、それを口にするものはいない。

だが夏の海で飲むソレは確かに格別とも言えよう。

 

「ほう。良いモノを飲んでるな、シーナ指揮官」

 

「酒ではないのを知って、若干残念そうな声をするのはどうかと思いますが?」

 

そこにシャマールとLAFIが歩み寄る。

お互いに涼しげな服装に身を包んでおり、バカンスを楽しんでいることが伺える。

 

(誘いを無視してたってヘリアンさんから聞いてはいたけど……誘って正解だったね)

 

誘って正解だったと内心思いながら、シーナは水と氷で満たされたバケツから先程まで飲んでいた同じモノを二本取り出し差し出す。

 

「夏の海で飲むラムネ。それも昔ながらのですが…お一ついかがです?」

 

「まぁ昼間から酒というのもどうかというものだしな…一本貰おう」

 

「どうぞどうぞ。LAFIさんも一本どうぞ」

 

差し出されたラムネを受け取るシャマールとLIFE。

炭酸が抜ける音が二つほど鳴った時、シーナはある事を思い出し、ある物をバックから取り出した。

出てきたのは紙で包装された一升瓶と外観からして高級そうな木箱。

一体何の為にそれを取り出したのかというと…

 

「ある人から貴女へ、と言われております」

 

シャマールに渡す為だった。

突然それを渡され、一瞬茫然とするシャマールを見てシーナはそれを渡した理由を説明する。

 

「タリンでの一件。そちらは輸送列車制圧へと赴いたというのは聞いています。これはその報酬として…グリフォン本部直轄諜報部所長、ダレン・タリオンからシャマール指揮官へと渡すようにと言われています」

 

「…"悪魔"にしては律儀だな」

 

「確かに」

 

そう言って肩を竦めるシーナ。

ダレンに関しては悪魔らしくないと思う事は多々ある。

だがそれは普段の様子を見たからの感想である。

シーナ…いや、S10地区前線基地に所属する者らだけは知っている。

ダレン・タリオン…またの名を『ダンタリオン』がいかにとんでもない悪魔だという事を。

 

「それに今渡したソレ、今じゃお目にかかる事すらないかなり貴重な物らしいですよ?」

 

「と、言うと?」

 

「その一升瓶のは…日本酒です。しかも清酒。値段は分からないですけど…かなりするみたいで。理由としては生産数が100どころか、50ほどしか生産されなかったとかなんとか。そして、そっちの木箱にはダレンさんが趣味で集めている煙管の中で特に少数しか生産されなかった煙管を収めてあります」

 

「……マジ?」

 

「マジのマジです。ま、ともあれです。お酒は飲兵衛に、そして煙管は健康を管理してくれている相棒に奪われないように気を付けて下さいね?」

 

そう言って、チラリとシーナは笑みを崩さずシャマールを見るLAFIを見た。

普通であれば一対一で渡せばいいのだが、何故わざとLAFIが居る場でこのような事をしたのか。

それはごく単純。ダレンがそうしろと言ってきた為である。理由としては面白そうじゃったからとの事。

 

「あ、そうだ!LAFIさん、写真とかどうです?折角だし一緒に取りませんか?」

 

「ええ、構いませんよ。こっちの薄い方も一緒にしましょうか」

 

何に対しての薄いと言ったのか、何故か笑みを浮かべるLIFEの言う事に首を傾げるシーナ。

LAFIはその姿を見ての通り立派なモノを持っているがシーナも19歳にしては立派な胸部装甲をお持ちであるとだけ言っておこう。

 

「LAFI…貴様ぁ!!!」

 

そしてLAFIの発言の意味をしっかりと理解していたシャマールは叫びながら涙を流し、LAFIが愉悦の笑みを見せる中でシーナは暇そうにしている面々を呼び集めた後、記念すべき一枚目となる夏の思い出を撮るのであった。

この後にだが、シーナはLAFIとツーショット写真を撮ったりなどしていたのだが、それは彼女達だけの話と留めておくのが良いだろう。

 

 

一方、ギルヴァは他の者達らから距離を取って、一人静かに海を眺めていた。

これこそ見たかった幼き頃からの夢。

本来であれば自身の両隣に立っていてくれたであろう義母と義妹さえ居れば、その夢は叶ったと言っても良いかもしれない。

だが彼の隣には義母の姿も義妹の姿もない。彼だけがずっと奥まで続く海を前にしていた。

 

「悲しい顔してますよ、ギルヴァ」

 

「そう見えたのなら目を直してもらえ、シリエジオ(代理人)

 

いつもの服装ではなく、メイド服に水着を合体させた水着という何処でそんなものを得たのかと言いたくなる様な水着を着たシリエジオがギルヴァの隣に並び立つ。

 

「何か用か」

 

「大した用はございません。…ただ折角の水着を貴方に見てもらいたかったので」

 

軽やかなステップでギルヴァの前へ出るシリエジオ。

以前までは髪を後ろへと一つにまとめていた彼女だが、今回はまとめていた髪を解いており、それも相まって綺麗の言葉しか思いつかない。

だがそんなありきたりな感想では相手が満足する訳でもなく、世の男たちは他の感想も考えるだろう。

 

「どうですか?似合っています?」

 

「そうだな。よく似合っている」

 

だがこの男は普通の感想しか言わない。

寧ろこれが平常運転なので、あれこれ言っていたら熱でもあるのかとシリエジオは疑いかねないだろう。

 

「ふふっ、ありがとうございます」

 

彼がこういう性格のは初めてデビルメイクライへと訪れた時から知っていたのでシリエジオは大して気にせず、似合っていると褒めてくれたことに礼を述べる。

見てほしい相手に見てもらえた。それだけの為にここに来たシリエジオは軽く一礼し、踵を返す。

そのまま立ち去るのかと思えば、ふと何かを思い出し再びギルヴァの方へ振り向いた。

 

「お昼はバーベキューですので。逃げずに来て下さいね、ギルヴァ?」

 

「善処しよう」

 

「善処ではなく、必ずと言って下さい。でないと周りの方々の前で大泣きしてある事ない事を周りに言いふらしますので」

 

見知った顔が居る中、そんな事をされてしまえばバカンスどころでは無くなるであろう。

 

「…分かった。必ず向かうと約束しよう」

 

珍しくシリエジオの軽い脅しに負けたギルヴァは必ず向かう事を約束する。

言質が取れた事により、シリエジオは楽しみにしてますねと伝え、その場から去っていく。

去り行く彼女を見送った後、ギルヴァは視線を再び海へと向けた。

皆の元へと戻る気がない訳ではない。ただこのバカンスに参加する事になった切っ掛けを作った本人に海を見せてやる為である。

 

―青い空に大きな雲…砂浜から見る海はこんなにも綺麗なんですね

 

―世界がこんな風になってなきゃ、今頃この時期はバカンスにしゃれ込む団体様で溢れてるだろうな

 

―ええ…そうですね。妹達にも見せてあげたかったなぁ…

 

―妹……あぁ、成る程な

 

エラブルの口から出た『妹』という言葉に蒼は納得した様に頷いた。

どういう訳か崩壊液に対する耐性を持ってしまい、成長していったアイソマー『エラブル』。

崩壊液の耐性を持たず、変わらずの姿を維持し続けるアイソマー達からすれば、エラブルは姉の様な存在だったかもしれない。

そしてこんな自身を慕うアイソマーらの事をエラブルは妹と思っていたに違いない。

最もエラブルという少女を知るのはもういない。

エラブルを慕っていた妹達は衰弱により、その命を散らしてしまったのだから。

そしてエラブルもまた体に起きた異変により、苦しみながら命を落としてしまった。

そのまま天へと召されると思えば、どういう訳かこの世界で所謂『精神体』のみとなってしまい、そしてギルヴァの中へと潜り込み、今に至る。

 

―そう言えば私が初めてギルヴァさんの中に潜り込んだ時、もう一人、私に似た方が居た筈ですが…

 

そいつ(フラーム)の事なら心配いらん。リヴァイルの所で元気にしている。今回のバカンスにも参加している」

 

―そうなんですね。お話してみたいですけど、流石に無理ですよね…

 

「方法はある。だがそれは向こうがこちらに話しかけてきた時のみだ」

 

―はい。もしその時は来たらお願いしますね?

 

「ああ。分かった」

 

波のさざめく音が静かに響き渡る。

三人で見ようと思っていた夢を叶える事が出来なかったギルヴァをそっと慰める様に。

 

 

その頃、ネージュはある人物を探して歩いていた。

この時の為に購入した白のビキニに薄手のジャケットを羽織っており、彼女自身が有する美貌と体つきもあって海辺を歩くその姿は一種の絵にも成り得よう。

 

「あれ?もしかしてネージュさんですか?」

 

「確か貴女はS07基地のM14だったか」

 

海辺を歩く彼女に声をかけてきたのはS07基地のM14。

彼女と共に来た他のメンバーはどうしたのだろうかと思い、ネージュが辺りを見渡すとサクラ指揮官はシーナと談笑、AUGパラはS10地区前線基地所属の一人、AUGと会話していた。

03式、Mk48、ジン、トビー、ハクらは久々の休暇を最大限まで楽しむつもりなのか、海水浴を楽しんでいる様子であった。

 

「皆、楽しめているみたいだな」

 

「そうですね。滅多にない機会ですし。皆、思い思いに羽を伸ばしているんだと思います」

 

「それは良い事だ」

 

羽を伸ばす彼女らにネージュとM14を笑みを浮かべる。

そしてネージュは隣に立つM14をチラリと見やると口を開いた。

 

「貴女とM16A4には感謝している」

 

「それはどういう…?」

 

突然の事に戸惑うM14。

それに対してネージュは平然としていた。

それもその筈で、先ほどまでネージュが探していた人物とはS07基地のM14だったのだから。

 

「S11地区での作戦。貴女とM16A4が参加していたと聞いている」

 

「はい。義勇兵としてですけど…それが何か?」

 

「そのS11地区後方支援基地に私は居たんだ」

 

「!」

 

ネージュ…旧名ノーネイムはS11地区で展開された大規模作戦にて対象となったS11地区後方支援基地の隠された地下に眠っていた。

ギルヴァによって発見された後は、ギルヴァの娘兼便利屋『Devil May cry』所属兼S10地区前線基地にて発足された独立遊撃部隊『ブラウ・ローゼ』の予備隊員となった訳であるが、S11地区での作戦に関しては目覚めた後にシーナの口から作戦に関しての詳細を耳にしている。

礼を伝えたくても今の今まで会う事すらなかった。

だからこそ今回のバカンスに参加したM14にせめてと思い礼を伝えたかったのだ。

 

「二人が参加してくれたおかげで今の私がある。その事について礼をしたかったんだ」

 

「大した事はしていませんけどね」

 

「それでもだ。二人があの作戦に参加した事は変わりない」

 

微かに微笑んだ後、ネージュはM14に背を向けて歩き出した。

言いたい事をしっかりと伝え、それ以外を口にしないのは偶然にもギルヴァに似ているのかも知れないが、それを知る者はいる筈もない。

 

「M16A4に会う事があれば伝えてくれ。S11地区での作戦では世話になったと。…それと、またいつか会う事があれば一杯奢らせてほしいと伝えてくれ」

 

そしてお礼の代わりに一杯奢ろうとするのも、ある意味ギルヴァに似てきているかも知れない。




遅くなって申し訳ございません!
夏休み明けの仕事の疲れと暑さによってくたばっておりまして…本当に申し訳ない。

次回は Memories of a summer Front Ⅲ
この話の最後辺りに裏編に繋がる展開を盛り込もうかと考えております。
但し未定なので、あまり期待はしないでください。
またこちらから参加メンバーに接触してますが…表編の展開は基本的自由ですので、皆さんのお好きなように描いてくださいませ。

それと活動報告に、このバカンスに参加しているS10地区前線基地側のメンバーを表記しております。軽い参考程度にどうぞ。

ではでは次回ノシ


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Act243-Extra Memories of a summer Front story Ⅲ

―伝えるべきこと─


一人で海を見るという事にも流石に飽きたのか、ギルヴァは他のメンバーが居るであろう浜辺へと向かって静かに歩いていた。

波の音と海風に運ばれてくる潮の香り。逞しく育った木々が揺れるその様は、本当にこの島が誰にも手を付けられていない奇跡の島であると再認識させる。

 

「む…」

 

遠くに他のメンバーの姿が見える辺りまで来た時、ギルヴァは足を止めた。

頭から砂浜に突っ込み、下半身だけが出ているという状態で誰かが埋められていた。

よく見れば呼吸出来るように呼吸用のシュノーケルの管を地表から出ており、近くには立て看板が建てられていた。

 

―反省中。昼飯まで引き抜くべからず…?

 

そこに書かれた文を読み上げるエラブル。

そう書いているのであれば、埋められている誰か…S07基地のジンを助ける必要はない。

同時に彼が何かやらかした故にこうであるのであればギルヴァにも助ける理由はない。

薄っすら「助けて…」と聞こえてくるもギルヴァは聞かなかった振りをして、そのままジンの横を通り過ぎていく。

 

―だ、大丈夫なんですか…?

 

あのままでは…と思う所はあったのだろう。

心配げに尋ねてくるエラブルは心優しき少女と言えよう。

 

「ああ。あのままで良い」

 

―だな。俺たちは見なかった事にすりゃいいさ

 

ギルヴァと蒼がそう言われてしまえば、エラブルも納得するしかなかった。

しかし根は心優しき少女。

でも…、とついつい思ってしまったのだろう。その表情は僅かに浮かない感じであった。

それを見た蒼は軽く肩を竦めるとエラブルを諭す。

 

―その優しさは他に取っておきな。それにだ、何でもかんでも優しくしちゃ駄目だ。時には厳しく、時には優しくがイイ女の条件なんだぜ?

 

―そ、そうなんですか?

 

―ああ、そうさ。エラブルもイイ女になりたいなら、時には厳しい所を見せないとな

 

―は、はい!

 

何でそんなに緊張気味なんだ?と苦笑いを浮かべる蒼。

それを指摘され、確かにと首を傾げるエラブル。

そしてそれが何処か可笑しかったのか、二人の笑い声がギルヴァの中で響く。

五月蠅い訳ではないので、ギルヴァは咎める事はせず皆が居るところへと歩き出していく。

そのまま皆が居るところに到達。さてどうしようかと思った時、彼の背に僅かな衝撃が走った。

 

「…ほう」

 

が、決して驚く様子はなく、それどころか笑みを彼は浮かべていた。

この短期間で独自に動く事が出来る程までになったとは思わなかったのだ。

そして彼は後ろから自身の中へと潜り込んできた人物へと話しかける。

 

(こうして話すのは初めてだな)

 

【ええ、そうね。初めまして黒コートの悪魔さん…いいえ、ギルヴァと呼んだ方が良いか。私はあの子のもう一つの人格。前までは名無しだった訳だけど、今はティアと名乗っているわ】

 

ティア。

姿こそは分からないが、あの模擬戦で戦いが始まる前にエラブルが言っていた『もう一人の彼女』と言えば分かるであろう。

どうやらその彼女がアナから抜け出して、ギルヴァの所に飛んできた模様である。

 

(そうか。で、俺に何の用だ)

 

【あなたに用って言うより、蒼の方に用があるわ。前に会った時、去り際に今度会ったら名前教えてくれって言っていたから】

 

(律儀だな)

 

【理由はあれど、無償であの大剣を託された訳だしね。あの人が名乗っておいて、私が名乗らないままと言うのはどうかと思うのよ】

 

(成る程。好きにしていけ)

 

【ん、ありがと。それじゃ失礼するわね】

 

ギルヴァの許可を得て、ティアは蒼の元へ向かう。

気配は近い。迷うことなく真っ直ぐと暗闇を抜けていく。

そして暗闇を抜けた先に広がった光景にティアは目を見開いた。

 

【これはまた…】

 

そこに広がるは空高く上った満月が海面に映る大海原。

幻想的な光景と言えばそうであるが、この景色が何を示しているのかティアには分かっていた。

 

【ギルヴァが保有する魔力量を示した光景ってやつね。湖どころか大海原じゃない】

 

先も見えぬほどに広がった大海原。

辺りを照らし出すは雲一つない空に高く上った満月の月明かりのみ。

この光景が示す意味を理解しながら、満月が映し出された揺れる海面に降り立つティア。

ゆっくりと顔を上げれば、彼女が探していた人物がそこに立っており、隣にはあの模擬戦が始まる直前にイグナイトトリガーを発動させる為の魔力を渡しに来た少女が居る。

最もティアが探していた彼の姿は、あの時初めて出会った時に見せた仮の姿のままであったが。

 

―こいつは驚いた。態々姿を見せてくれるなんざ、律儀だな?

 

【今度会う事あれば名前を教えてくれって言ったのはアンタじゃない】

 

―確かにそうだったな。…じゃ、改めて聞こうか?もう一人のお嬢ちゃん?

 

【言っても良いけど…その名で呼ぶのもこれで最後になるけど良いのかしら?】

 

―ああ、構わねぇよ。いつまでもその名で呼び気なんてなかったし、そっちが名前を考える気がない様だったら、俺が名付けてやろうかと思ったぐらいさ

 

【あら、そうなの?】

 

その問いに蒼は軽く肩を竦めながら、必要だったらなと答える。

それを見て成る程と口にした後、ティアは蒼を見つめる。

 

【それじゃ改めまして…。私の名はティア。あの子のもう一人の人格と思ってくれれば良いわ】

 

―ティア、ね。良い名前じゃねぇか

 

【どうも致しまして。さて、ここらでさようならと言いたいけど…蒼、一つ聞いていい?】

 

―何だい?付き合っている女が居るかっていう話はナシで頼むぜ?

 

【何でそういう方向に持っていくのかしらね】

 

話が逸れていくのを感じたのか、わざとらしく咳払いをするティア。

そんな事より、と前置きを口にした後、彼女は自身の手にとあるモノを展開する。

数秒も経たぬ内にその手には現れたのは一振りの大剣。

それもあの模擬戦時に蒼がティアに託した大剣が握られていた。

 

【幻影が貴方の記憶を勝手に覗き込んで作り上げたってのは知っている。そしてこれが貴方の得物ではない事もね】

 

その情報に間違いはなかった。

それもその筈で、この情報はあのタリンの戦いで蒼から直接渡されたアナによるものなのだから。

最初こそは大して気に留める様な話ではなかった。

だが好奇心旺盛のティアは、とある疑問を抱く。

 

【じゃあこの大剣の元となったオリジナルの持ち主って誰なのかしら?】

 

オリジナルの持ち主が誰なのかという、そんな疑問を。

彼女からそんな疑問を投げ掛けられる蒼は首を振りながら、やれやれと呟く。

 

―態々そんな事を聞きに来たのか?もうちとバカンスらしい話をしようぜ?

 

【そうしたいのは山々なんだけど…先に疑問は片付けておきたいのよ。こう見えて好奇心旺盛なもので】

 

―やれやれ…面倒な性格だことで…

 

呆れながらも苦笑いを浮かべる蒼。

だが蒼もこの様な疑問が飛んでくることを予想はしていた。

ただそれが当分先になるだろうと思っていただけあって、ティアから聞かれるとは思ってもいなかった。

だが同時にどうしたものかと蒼は思っていた。

確かにティアに託した大剣は再現されたものと言えど、自身が愛用する得物ではない。

そうなるとオリジナルを持ち主の話をしなくてはならないのだが、蒼からすればその話は今の時代においては最早御伽噺レベルに該当するのだ。

 

―だがまぁ聞かれたからにはしょうがねぇな。どれ、ちとばかし話してやろうか

 

どう受け取るかは相手次第。

ならば話しても良いだろうと判断し蒼は語り出した。

 

―話は逸れるがその大剣に関する話になる。……今から二千年以上前にこの人界は悪魔どもがいる魔界の侵略受けた。当然ながら人間が悪魔と対等に戦える力を有している訳ではなく、只々悪魔どもに自分たちが住む世界を侵略される一方だった。だがな?その悪魔の軍勢にいた一人の悪魔が正義の心に目覚めたんだ

 

【それで?】

 

―その者はあろうことか、同じ同族であり味方でもある筈の悪魔の軍勢に()()()()()()()()()()()()()を手に立ち向かったんだ。無謀とも言えるその行い。だがその悪魔は戦った。そして激闘の末、彼は戦いに勝利し魔界を封じた。…その戦いの後、そいつがどうなったかは知らねぇ。しかも人間界じゃその悪魔の伝説を知るのはそうはいねぇ。まぁ頑張って調べたらその名は出てくるだろうが…特別にティアが知りたいというオリジナルの持ち主の名を教えてやるよ

 

【その悪魔の名は…?】

 

僅かにだが、ティアの声は震えていた。

無理もない。

オリジナルを持つ者が、あろうことか人間の為に悪魔全員を相手に回し、それどころか魔界を封印したとされる伝説的な存在なのだから。

その者が持つ大剣を本物では無いとは言え、自身が振るう事になればそれなりに思う所はあるだろう。

 

―■■■■。魔界において最強の魔剣士と言われる存在。そして悪魔でありながら正義の心に目覚め、人間の為に悪魔の軍勢に立ち向かった伝説の魔剣士(Legendary dark Knight)

 

蒼の口から告げられたその名を耳にしたのはティアと、蒼とティアの二人の会話を静かに聞いていたエラブルのみ。

誰しもが口を開かない一方で蒼はニヤリと笑った。

 

―ティアに託した大剣はさしずめ……■■■■・レプリカントって言った所か?

 

無音に包まれたその世界で、蒼は何時もの調子でティアへと告げる。

 

―まぁ好きなように名付けな。それはもう嬢ちゃんのモノなんだからな?

 

飄々とした態度ともに口にした台詞の裏には、これ以上語る気など無いという意味が含められていた。

直感であるが、それを察したティアはそれ以上の事は問わなかった。

蒼とエラブルの二人と適当に会話した後、ティアはアナの元へと戻っていく。

その最中でティアはもう一つ疑問を覚えた。

 

【何であいつの記憶の中にこの大剣が存在しているのかしら。オリジナルの持ち主の事は知っているし…】

 

彼が口にした伝説の魔剣士の存在。

ただ知っているだけにしては妙だとティアは思わずいられなかった。

 

【…伝説の魔剣士と蒼。一体どういった関係なのかしらね】

 

もう一度戻って聞きに行くべきかと考えるも、結局のところ彼女は聞きに行こうとはしなかった。

それよりも蒼が自身に託したとされる大剣の事について、アナへと報告しようと思うのであった。

 

 

ティアがギルヴァの元から去っていた後、昼時の時間となりシーナ、X95、スプリングフィールド、シリエジオにオートスコアラーのスユーフといった料理を得意とする面々が筆頭に真夏のバーベキューが始まった。

この時の為に用意した食材をふんだんに使い、皆の為に焼いていく。

焼きたての肉を頬張る者もいれば、野菜と肉の比率を均等にしてバランスよく食べる者。

折角バーベキューだ!飲まないと損だな!と豪語し、何処から持ち出してきたのか酒を煽る飲兵衛も居るなどバーベキューはとても騒がしい様子を見せていた。

そしてギルヴァはというと、皆からほんの僅かに離れた位置でビーチパラソルが建てられたテーブルに座り一人食事していた。

一応シリエジオに装って貰い、彼が持つ紙製の器には肉や野菜などが盛られている。

 

「…」

 

しっかりと焼かれた肉を口へと含みながらギルヴァは静かに今を過ごしていく。

そんな時、誰かが彼の元へと歩み寄ってきた。

 

「隣、座ってもいいですか?」

 

視線をそちらへと向けると、立っていたのはリヴァイルらと共にこのバカンスに参加したフラームであった。

先ほどまでリヴァイルの所に居た筈の彼女。何らかの理由で集団から抜け出してギルヴァの元へやってきたらしい。

理由は分からないが座っても良いかと問われた以上無視する訳にはいかないので、彼女に顔を向けずにギルヴァは答えた。

 

「ああ」

 

たったそれだけしか言わず、彼は食事を再開。

だがそれだけを了承と受け取ったフラームは彼と対面するような形で席についた。

 

―…

 

フラームからでは分からないが、ギルヴァの中にいるエラブルは何処か緊張した面持ちだった。

それもその筈で、自分は彼女と同じアイソマー。そしてお互いに耐性を持った存在。

エラブルに限っては突如として起きた体の異変が影響で肉体が崩壊。苦しみながら誰にも助けを乞う事すら出来ず、命を散らしている。最も肉体を持たない精神体になってしまったのはある意味奇跡かも知れない。

 

「何か用か」

 

お互いに沈黙に包まれて数分が経過しただろうか。

先に食事を済ませたギルヴァはこの沈黙を破る為に食事途中だったフラームにここに来た目的を尋ねた。

 

「えっと、その…」

 

どう説明したものかと言葉に困るフラーム。

それを見かねてギルヴァは一旦目的の件は後回しにすることにして、別の話題を切り出した。

 

「姿は違えど、あまり変わりないようだな」

 

チラリとフラームを見るギルヴァ。

その姿は蒼を介して知った姿とは違うが、今自身の隣に座る彼女は間違いなくあの通信でやり取りしたアイソマー。M4の姿をしているのは、ダミーを肉体の器として使用している為でありリヴァイルからその事はギルヴァも聞かされている。

 

「はい。姿は変わってしまいましたがこのように。…あの時は本当にありがとうございます」

 

「俺に言っても意味はなかろう。お前を生き返らせたのは万能者なのだからな。礼なら奴に言っておけ」

 

「ふふっ、素直に礼を受け取らないのは本当なんですね。シーナ指揮官やシリエジオさんから聞いて正解でした」

 

フラームはそう言うがギルヴァのあれこれを吹き込んだのはシーナとシリエジオ以外にも居る。

何度も共闘した経験があり、それなりにギルヴァの人となりを知るアナ。

鉄血との派手な戦闘になったあの大規模作戦で僅かながらであるが共に戦ったリバイバー。

その他にも彼を知っていそうな人物にフラームは声をかけて尋ね回ったのは彼女だけが知る秘密である。

 

「それとは別にギルヴァさんにお礼を言いたくて」

 

「…タリンでの一件か。大した事はしていないが」

 

「そんな事はありません。助けられた姉妹達の中にはあなた達に助けられたっていう妹達もいました」

 

目を伏せて妹達から聞かされた話を思い出すフラーム。

 

「赤いコートを羽織り大剣と二丁の銃を操る男性(ブレイク)、まるで凍てついた天使の羽を背に生やし大きな鎌で戦う少女(ルージュ)、右腕が異形の腕で機械の剣と銃で立ち向かう鉄血の人形(ネロ)、大きな銃を両手に携えて、瞬間移動しながらも自分たちに被害が及ばぬように戦ってくれた右目を眼帯で覆った鉄血の人形(ヘルメス)喋る鳥(グリフォン)と体の形を変えて戦う黒豹(シャドウ)、そして泥の様なモノで出来た巨人(ナイトメア)を使役し懸命に戦ってくれたシーナ指揮官……トゥーマーンさんの事になるとついついそっちに行きがちな妹達ですが、皆さんの事もしっかりと覚えています。何時しかお礼を伝えたいとも言っていました」

 

その表情は穏やかなものだった。

姉という立ち位置にいるフラームがあのタリンから抜け出した妹達から聞かされた話をどう思ったかは分からない。

だがその表情を見る限りは、言葉にせずとも分かる事であろう。

 

「…暇さえあれば勝手に遊びに来いと伝えておけ。余裕があれば相手になってやるともな」

 

「はい。伝えておきます」

 

バーベキューの喧騒、さざめく海の音が雰囲気を和やかなものへと変える。

緊張も解かれた頃であろうと判断したギルヴァは再びフラームが自身に接触してきた理由を尋ねる事にした。

 

「話が逸れた。…もう一度聞こう。俺に何の用だ」

 

「その…ある事を確かめたくて」

 

「ある事だと?」

 

「はい。私の間違いじゃなかったら良いんですが…何故かギルヴァさんから姉妹に似た気配が感じられるんです。最初は気のせいかと思っていたんですが…」

 

「それでも気になって仕方ないから、話しかけてきたと?」

 

「そうです」

 

「ふむ…」

 

向こうから話しかけてきたらとエラブルをフラームに会わせると考えていたギルヴァであるが、よりよってこのバカンスでなるとは思っていなかった。

しかし向こうは自身から感じられた気配…エラブルの気配を感じ取っている以上は知らぬ振りを決め込む訳にはいかない上にエラブルとの約束がある。

仕方ないと判断したギルヴァはフラームに少し待てと伝えると己の内にいるエラブルに話しかける。

 

(エラブル、行けるか?)

 

―はい。蒼さんにやり方を教わりました。後はギルヴァさんのタイミング次第です

 

(分かった。…始めるぞ)

 

―はい!

 

意識を集中し魔力を回す。

作り上げるは人の姿。あの時の姿になってしまうが、今ばかりは仕方ない。

蒼から得た情報の元に形を構築していく。そこに何かが飛び込んできた感覚が伝わる。

それはエラブルがその仮の器に飛び込んだ合図であり、何時でも外へ出れるという合図でもあった。

 

「…!」

 

現れるは群青色の魔力で作り出された分身。

しかしてその姿はデビルトリガーを発動させたギルヴァの姿ではなく、寧ろフラームからすれば余りにも見覚えがあり過ぎると言っても良い姿をしていた。

それを見て目を丸くするフラーム。

無理もない。彼女からすれば、かつての己の姿がそこにあるのだ。

だがギルヴァが冗談でこの様な事をする訳がない。

何かしらの理由があると思った時、かつての己の姿をしたソレはフラームを見ると静かに口を開く。

 

「は、初めまして。私はエラブルって言います」

 

「え…」

 

分身とも言えるソレから発せられた声は自身と同じ声だという事にフラームは言葉を失う。

ギルヴァが作り上げたコレは一体何なのか。そして何故自身と同じ声をしているのか。

立て続けに起きた出来事に混乱し始めるフラームを見て、エラブルは告げた。

 

「そして私は誰にも知られる事無く死んだアイソマー。崩壊液に対する耐性を持ちながらも死んだ身なんです」

 

「ま、待って。それはどういう意味ですか!?貴女は一体…!?」

 

信じられないと言わんばかりに酷く狼狽するフラーム。

困惑しつつも問いかけてくる彼女にエラブルは何処か悲しそうな表情を浮かべながら伝える。

 

「その言葉通りなんです、フラーム…。崩壊液に対する耐性を持ったのは貴女だけじゃなく、もう一人いたんです」

 

「そ、そのもう一人があなた…?」

 

その問いに沈黙を貫くエラブル。

そしてその態度が示す答えの意味にフラームは言葉が出せすにいた。

 

「ごめんなさい。折角のバカンスだというのに辛い事を知らせてしまって」

 

「…」

 

「…本当なら私に何があったのか、どうしてこうなったかを伝えたかったのですがこれ以上迷惑をかける訳にはいきませんから私は一旦失礼します」

 

フラームに軽く一礼し、ギルヴァを見るエラブル。

もう良いのか?という彼の視線に対し彼女は頷き、ギルヴァは分身を解こうとする。

が、その直前にエラブルはフラームへと伝える。

 

「どっちが姉なのかは分かりませんが…もし私の方が先に成長してしまったのであれば──」

 

どっちがそうなのかなんてものは分かるはずがない。

だがもし自身が先に耐性を身につけてしまう事になってしまったのであれば、謝らないといけない。

その思いを胸に、彼女は伝える。

 

「先に逝ってしまってごめんなさい」

 

大事な妹達を残して先に逝ってしまったという事実に対する謝罪を。

それだけを伝えてエラブルはギルヴァの元へと戻っていってしまう。

残されるはギルヴァと予期しなかった事実に言葉が出ないフラームの二人だけ。

 

「今すぐにとは言わん。もしエラブルの事を気にするのであれば、何時でも俺に声をかけろ。…エラブルもお前の事を気にかけていたのでな」

 

「…はい」

 

「それとこの事をリヴァイルに伝えても構わん。奴に何を言われようが殴られようが、それなりの覚悟をしている」

 

元よりそのつもりだったがな、という台詞を最後に残しギルヴァは立ち上がる。

そのまま集団の元へと向かうとギルヴァは食事を取っていたリヴァイルへと伝える。

 

「少し調子が悪いとフラームが言っていた。直ぐに見てやれ」

 

「え?あ、おい!ギルヴァ!?」

 

彼の制止に耳を貸さず、ギルヴァはその場から去っていく。

去り行く彼の背を見つめるリヴァイルはただただ首を傾げるだけであったが、先ほど言っていた事が事実なのであれば良くないと判断し、手早く食事を済ませてフラームの所へと向かっていった。

 

 

 

―おいおい、良いのかよ。

 

「何がだ」

 

―本来なら楽しい談笑になってた筈だったんだぜ?それに終わった事について色々やらかすのもアレだと思うんだが?

 

「…分かっている」

 

蒼が言っていることも分からないでもないし、ギルヴァとて思う所がない訳ではない。

だがもう一人いたという事実は伝えなくてはならない。それに関しては前々から決めていた事だったのだ。

それが既に時間が過ぎ去った後に伝える事になったとしてもだ。

 

―エラブル、大丈夫か?

 

―はい…。けど私、酷い事をしてしまったかも知れませんね

 

―どう受け取るかは向こう次第だと思うぜ?ただ事実だけは伝えられた。それだけで今はいいだろうさ

 

―そうですね…

 

落ち込んだ様子をその声から感じさせるエラブル。

気の利いたことでも言ってやるべきかとギルヴァが考え始めた時、突如として彼の背後から何かが襲った。

 

「ッ!」

 

背後の気配に咄嗟に反応し、回避と同時に後ろへと振り向くギルヴァ。

しかしそこに敵の姿はなく、鬱蒼と生い茂った木々だけが広がっていた。

 

「蒼」

 

―ああ、俺も感じた。明確な場所は分かんねぇが、恐らく島の裏側からだ。それにこの気配…悪魔の気配もあるが、なんだこれ?今まで感じた事のねぇ気配が混じってやがる。それに今の所、この気配は俺らにしか分かんねぇ。アナの嬢ちゃんやティアは恐らく気付いていねぇ筈だ

 

「よりによってこのタイミングでとはな」

 

―だが放置していたら向こうが何をしてくるか分んねぇ。シーナに話して、行動した方が良いぜ

 

「分かっている」

 

このバカンスで突如として現れた何故の気配。

正体は分からずとも、害になるのであれば騒がれる前に対処する必要がある。

今来た道を戻り、ギルヴァはシーナの元と向かう。

彼がシーナの元に到着した時は、彼女はS13基地から来たマテバ・グリフォーネと楽しく談笑していた。

どうやらマテバ2006Mを愛用するシーナからすれば、一度話してみたかった相手だったそうだ。

そこにギルヴァが来た為、談笑は一旦中断しシーナから声をかけた。

 

「ギルヴァさん、どうしたの?」

 

「島の裏側から気配を感じ取った。恐らく"奴ら(悪魔)"だ」

 

"奴ら"という言葉に首を傾げるグリフォーネに対し、シーナの表情は神妙な面持ちへと切り替わる。

麦わら帽子のひさしを摘みつつ、ギルヴァから情報を引き出す。

 

「数は?」

 

「分からん。だがそれなり大きいと見ていい」

 

「となると大型かな…。誰か付ける?」

 

「シリエジオとネージュは連れていく。それ以外はそちらで判断しろ。それとこの件は余り広めるな。このバカンスを無茶苦茶にするつもりはない」

 

「分かった。ギルヴァさんはシリエジオとネージュを連れて先行して。だけど先に飛び込まず、こっちからの援軍と合流してから行動にして」

 

「分かった」

 

シーナからの許可が下りるとギルヴァはその場を去り、妻のシリエジオと娘であるネージュに事情を伝えた後に行動開始。

水着から何時もの服装へと着替えた二人は愛用の装備を船から持ち出し、今回はコートを羽織らないのかギルヴァは無銘を携え、腰のホルスターにレーゾンデートルを差し込むとシリエジオとネージュの二人と共に島の裏側へと向かった。

そして島の裏側に到着した三人を迎えたのは―

 

「これはまた何というか…」

 

「…時代の産物か。或いは誰かの仕業か」

 

座礁した一隻の大きな船だった。

ただ、その船は一目見て分かるほどにボロボロであった。




遅れて本当に申し訳ない(これで何度目だろうか)
もう夏終わったのに、ここじゃ夏という……うん、仕方ないね!

色々絡みに向かってますが、前々から言っていた様に皆さんは好きなように描いていってください。

そして最後辺りに前回予告した裏編への展開を描きました。

裏編への突入方法は、「武装して島の奥へと消えていくギルヴァ、シリエジオ、ネージュを見た」或いは「シーナの様子が可笑しい事に気付き声をかけた」など何らかの理由を付けた後、ギルヴァら三人が居る島の裏側へと来て下さい

という訳で次回はMemories of a summer(略してM.O.S)の裏編…

Act244-Extra M.O.S back story Ghost ship in the sea(絶海の幽霊船)へと突入します。


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Act244-Extra M.O.S back story Ghost ship in the sea Ⅰ

―幽霊船への入り口―


悪魔の気配を感じ取り、秘密裏にその調査へと赴いたギルヴァ、シリエジオ、ネージュ。

各々が愛用する武器を携え島の裏側に来た三人を出迎えたのは砂浜に打ち上げられた一隻の大きな船。

長い間、潮風に晒され続けた影響もあって所々船体は錆びついていており、そしてその巨体も相まって不気味な様相を醸し出していた。

普通であれば、これが何らかの理由でこの島に流れ着いてしまった船だと思ってしまうだろう。

だがここに来た三人は分かっていた。

この船から発せられるそれ。負の感情の様なものが自身に纏わりついてくる感覚。

忘れる筈がなく、そして知っている。この船には悪魔が潜んでいると言う事を。

 

「今回は我々だけで?」

 

すると沈黙を破るかのようにシリエジオがギルヴァへと尋ねる。

彼女の隣に立っていたネージュも言葉にせずとも、ギルヴァへと視線をぶつける事で同じ事を尋ねていた。

二人からの問いに対し、ギルヴァは違うと答えると理由を告げる。

 

「シーナからは援軍を送ると聞いている。合流するまで飛び込むのは控えろともな」

 

「成る程。ではこのまま援軍が来るまで待機という事で?」

 

「ああ。暇なら装備に不備がないか確認してると良い」

 

このまま突っ立ったままで居るのは何とも落ち着かないものというもの。

ギルヴァの提案に、シリエジオはそうさせてもらいますと答え持ち出してきた装備の点検を開始し始める。

シルヴァ・バレトやニーゼル・レーゲン、Devi改めDⅡと改名された水平二連装の短銃身ショットガンに異常は見られない。

それらを背負い、また専用のホルスターへと差し込んだ後にシリエジオは腰の後ろに配置したホルスターに収められた二丁の銃を抜き取る。

その両手に握られるは本当に拳銃なのだろうかと思ってしまうほどの巨大な漆黒の双銃であり、銃身の側面にはそれぞれに「ペサンテ」「グランディオーソ」と刻まれている。

 

(マギーに了承を得て持ってきたのは良いですが……これはまた随分と)

 

随分とお色直ししたものだと思いながらシリエジオは呆れた表情を浮かべた。

この二丁の双銃…【ペサンテ&グランディオーソ】が一度完成に至ったにも関わらず再改修された事をシリエジオは知っている。

だが下手すればソウドオフショットガンかと間違えられても可笑しくない程までに大型化する必要はあったのかと思わずにはいられなかった。

 

(拡張弾倉を用いたとしても弾数は9発。それに加えて重量、取り回し、連射性は度外視。しかし威力だけは普通ではない。…よくもまぁここまでやってのけたというものですね)

 

ペサンテとグランディオーソが取り回しや連射性など度外視して威力だけに特化している事は改修される前から分かっていた事。

今更だと思いながら、シリエジオはペサンテとグランディオーソをホルスターへと納める。

調査対象となる船はそこにあると言うのに、動く事が出来ない。そんなじれったさを覚えた時、後ろから誰かが歩み寄ってくる気配に気づく。

その気配にはギルヴァも気付いていたらしく、後ろから歩み寄ってくる二人組…アナとアーキテクトへと話しかけた。

 

「お前たちも来たのか」

 

「ええ。たまたま三人が歩いているのをアーキテクトが見つけまして」

 

それで、と言葉を止めるアナ。

だがギルヴァにはその先に紡がれる台詞が何なのかは分かっていた為、追及はせず腕を組みながら目の前にある船へ見つめる。

 

「うーん、パッと見た感じだと相当古い感じがするってだけしか分かんないなこれ」

 

その隣で興味深そうに船を見つめていたアーキテクトがそう口にした。

確かに一目見ただけでは、座礁した相当古い船がそこにあるだけとしか思えないだろう。

 

「見た目だけに限ればな」

 

「という事は…中にはやっぱり?」

 

「ああ」

 

そこから先から出てくる言葉などない。

否、言わずとも二人には分かっていた。

奴等は居る。この中に、暗闇に紛れ鋭い牙を静かに研ぎながら得物が訪れるのを待っている。

 

「…それが分かってしまうと感じ方も変わってくるねぇ。船から殺意みたいなのを感じてきたかも?」

 

「ならば気を引き締める事だな。油断すれば一瞬で狩られると思え」

 

「アイサー」

 

悪魔がどんなのか興味があると言う理由でここに来たアーキテクト。

だが悪魔狩人たるギルヴァからそうアドバイスされれば素直に受け止めるほかないので敬礼しつつ頷く。

そんな二人の会話を少し離れた位置で聞いていたアナは持ち出してきた装備に手入れしていた。

持ってきているのは日本刀状の魔剣【幻影】、左腕の義手に内蔵したガトリング。固有能力になるが【イグナイトトリガー】。そして彼らから託され、受け継いだ力【デビルトリガー】がある。

戦えるには戦える。アナからすれば余り満足のいく状態とは言えなかった。

 

「アジダートとフォルツァンドがあれば良かったのですが…」

 

アジダートとフォルツァンド。

それはアナが愛用する白銀に染められた二丁の大型拳銃の事を指す。

念のために武装は持ってきたとは言え、流石に銃まで持ってきてはいない様であった。

だが無いものはない。仕方ないと踏ん切りと付ける。

そこにアナが装備の手入れをしている所を終始見ていた人物が声をかけた。

 

「必要であれば使ってくれ」

 

「え?」

 

幻影を腰に差し込みながら立ち上がり、顔を声の主へと向けるとそこに立っていたのは白銀に染められた長方形のガンケースを背負ったネージュだった。

 

「貴女になら使いこなせる筈だ」

 

そしてネージュがアナへと差し出されたのはとある二丁の銃が収められたレッグホルスターと予備の弾倉一式だった。

 

「しかしそれではそちらの装備が…」

 

「言いたい事は分かっている。だが気にしないでくれ。このケースには私の装備…パトローネを収めてあるからな」

 

パトローネというのが一体どういったものは分からずとも、折角銃を貸してくれるのであればそれを断る必要はアナにはなかった。

一言礼を伝えてネージュから差し出されたソレを受け取り装着した後、ホルスターに収められた銃を抜き取った時、アナはん?と言った声を上げた。

その手に握る黒と銀に染められた銃には既視感があったからだ。それも自身が愛用する銃にとても似ている気がしてならなかった。

 

「今手にしている銃がモデラート。そして左のホルスターに収められているのがラルゴ。両方ともベースになっているのはベレッタM96FSだ」

 

「成る程…。どおりでアジダートとフォルツァンドに似ている気がしたのですね」

 

「そうだな。とは言えあの二丁と比べると連射力は劣る。だがその分、威力や命中率はモデラートとラルゴの方が上だ」

 

「この銃を手がけたのは彼女(マギー)ですか?」

 

「ああ。彼女の作品を初めて扱う訳ではない筈だが……扱い方の説明は必要か?」

 

「いいえ、大丈夫です。それに彼女の作品…いえ、この楽器なら何ら心配はありません。作戦が終わったらお返ししますので」

 

「分かった」

 

その約束に頷いて了承したネージュは、さて…と前置きを口にして船の方を見た。

それに釣られて、アナも船の方へと視線を向けた。

 

「これ程大きな船であれば大型の悪魔も居るのでしょうね」

 

「恐らくな。…何かの縁か、或いは父が作ってくれた縁かは分からないが、共に戦う状況になってしまった時は貴女の腕を当てにさせてもらおう。その分、射撃援護は任せてもらう」

 

「はい。その時はよろしくお願いします」

 

その後、先に島の裏側へと来たギルヴァらはシーナからの援軍を待つ為にその場で待機。

しかし一向に来る気配がなく、流石に待つ気が失せたのかギルヴァが船へと向かって歩き出そうとした矢先だった。

 

「ちょっと待って下さいいいぃぃぃッ!!!」

 

遠くから大きな声でギルヴァを呼び止める誰かの声。

足を止めて、目だけを声の方向へと向ければあの蛮族戦士の所にいたアイソマーが島の警備に当たっていた試験者 支援型に乗ってギルヴァ達の所へと向かってきていた。

よく見れば蛮族戦士の姿もあり、何故来たのかなど言わずとも分かっていた。

船へと進めていた足を止めるギルヴァを見て、試験者はスピードを下ろしギルヴァの近くでストップ。

そしてアイソマーは試験者から降り立つと、ギルヴァの元へと駆け寄り一言。

 

「自分たちもお手伝いします!!」

 

「好きにしろ」

 

「ですから私たちも………えっ?今、なんて?」

 

「好きにしろと言った」

 

人手が増えるのであれば、それに越した事はない。

手伝いに来たのであればそれを止める理由もない。

あっさりと許可が下りた事に呆然とするアイソマーを無視し、ギルヴァは後ろへと振り向く。

蛮族戦士らがここに来たと同時に船が座礁している場所に来たのだろう。

S13基地所属のM4A1、M16A1、M1887、マテバグリフォーネの姿に、S07基地所属のM14とAUGパラ、アヤトルズ。そしてリヴァイルとリバイバーの姿があった。

 

「シーナから聞いて来たみたいです」

 

傍に寄って来たシリエジオからその事が告げられると、ギルヴァはそうかと告げ、声をかける事もなく船へと向かって歩き出した。

彼が動き出したのを合図に全員が船へと歩き出す。

座礁した古びた船には至る所に大きな穴が開いており、内部に侵入するのは容易。

内部へと侵入出来る穴の前に立つギルヴァら。

灯りが一つもない、只々暗闇が奥へ広がるだけの船内が彼ら、彼女らを迎える。

微かに奥から聞こえる船体が軋む音だけがまるで足を踏み入れようとするギルヴァらをまるで威嚇しているようだ。

しかし彼ら、彼女らからすればそんなのは知った事ではない。

言葉無き警告を無視して集団は足を踏み入れ、暗闇の奥へと消えていく。

その時だった。

暗闇の中へと消えていったギルヴァらの後ろを見つめる少女がいつの間にか、そこに立っていた。

 

「…来てくれた」

 

真っ白なドレスに華奢な体つき。

そして赤い瞳を宿した少女の右腕に巻き付いた鎖の先には少女の身の丈以上はありそうな棺桶が横たわっている。

 

「会いにいかなきゃ…」

 

そう言って少女は棺桶を軽々と背負い歩き出した。

それと同時にギルヴァ達が先ほど船内に侵入する為に使った大きな穴がまるで意思を宿したかのように自らその穴を閉じてしまった。

辺りは暗闇に包まれるが少女は至って平然としていた。

 

「邪魔しないで…」

 

信じられない光景に目の当たりにしたにも関わらず少女が驚く様子はなく、冷たい眼差しを船の廊下へと向けてながらそこに誰かが居るかのように呟いていた。

だが返事が返ってくる筈もないがその代わりに船体の軋む音が歩き去る少女の後ろで鳴った。

まるで少女を小馬鹿にするように。




遅くなって大変申し訳ございません!!!

前の投稿から、参加者の投稿の様子を伺っておりつつ自分も早めに投稿すべきか悩んでおりまして…。
どうしたものかと悩んでいたら、すげぇ日数が経っているという…。
コラボを主催しておきながら何たる体たらく…本当に申し訳ない。

ん?最後に出てきた少女は元凶だと?
さぁ?どうかねぇ…


あ、そうだ。
アナさんに貸した【モデラート&ラルゴ】とシリエジオが持ってきた【ペサンテ&グランディオーソ】の紹介をここに載せておきます。

【モデラート&ラルゴ】

:黒と銀色の二色で染められた二丁の銃。ベースとなった銃はベレッタM96FS。使用弾薬は.40S&W弾。
今回の調査を行う際に念の為に判断したネージュが予備の装備として持ち出してきた二丁の大型拳銃。
早期警戒基地所属ランページゴースト隊の副隊長であるアナが愛用する大型二丁拳銃【アジダート&フォルツァンド】が製作されるにあたって、作成された拡張パーツの試験運用を行う為に製作された銃でもある。
それ故か、本銃は【アジダート&フォルツァンド】と一部似た外見を有している。
最も【モデラート&ラルゴ】【アジダート&フォルツァンド】【ペサンテ&グランディオーソ】もそうであるが、基本的にはブレイクが愛用する大型二丁拳銃【アレグロ&フォルテ】に使用されているパーツをマギーが独自解釈、またそれを元に製造したパーツを使用している為、【アジダート&フォルツァンド】に似ていると言うより【アレグロ&フォルテ】に似た部分が多い方が正しかったりもする。
元々この二丁の銃は【アジダート&フォルツァンド】と名付けられる予定であったりもする。だが制作者であるマギーは一点の性能に特化した銃を製作するつもりであった為、本銃には別の名が与えられる事となりその際名付けた名が【モデラート&ラルゴ】である。
連射性に特化した白銀の双銃【アジダート&フォルツァンド】、取り回しなどを度外視し威力だけにその性能を置いた漆黒の双銃【ペサンテ&グランディオーソ】に対して、本銃は連射と威力、そして耐久性を両立したものとなっている。
また本銃の名も音楽用語が用いられている。モデラートは「中くらいの速さ」を意味し、ラルゴは「幅広く、ゆるやかに」を意味する。
因みに二丁ともに同じ色合いをしているが、モデラートが右手用で銃身の右側には【Moderate】と名前が刻まれており、ラルゴは左手用であり銃身の左側に【Largo】と刻まれている。
これの特徴は同じく二丁ともに同じく色をした【アジダート&フォルツァンド】【ペサンテ&グランディオーソ】にも引き継がれている。

 
【ペサンテ&グランディオーソ】

:漆黒で染められた二丁の大口径大型拳銃。使用弾薬は.50AE弾。
デザートイーグルをベースにマキャ・ハヴェリことマギー・ハリスンが手掛けた銃であり、今回の調査の為、念の為にとシリエジオが持ち出した銃。
一度完成に至ったのだが、マギーとしては満足が行かなかったのか再び改修される。
以前は専用のヘビーバレルを装着し、堅牢度を引き上げる為に専用のパーツを取り付けたものとなっていたのだが、改修後は姿は大きく変わり、元の姿すら分からないほど。
取り回しなどを度外視し威力のみに特化した銃であり、「アジダート&フォルツァンド」「モデラート&ラルゴ」には無い機能を有する。
それは弾丸に魔力を帯びさせて撃ち出す機能であり、その機能を内蔵した事が原因で元の姿すら分からなくなるほどになってしまってしまい、大きさも最早拳銃とは呼べないものとなってしまった。
しかし魔力を帯びて撃ちだされる弾丸は下級悪魔なら一発で葬り、大型悪魔でも当たり所さえ良ければ怯ませるほどの威力を有する。


次回更新は未定ですが…出そうと思っている悪魔やオリジナル悪魔など色々考えております。
色んなキャラ、色んな魔具も…多分出ますのでお楽しみに!
ではではノシ


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Act245-Extra M.O.S back story Ghost ship in the sea Ⅱ

─魔訶不思議、異常…そこはまるで異界のようだ…─


灯り一つない暗闇に支配されたそこは、まるで異界の様であった。

遠くから響いてくる船体が軋む音さえなければ恐らくそこは無音の世界と化していたに違いない。

だがそれを破るが如く、この異界に踏み入れた者達の歩く音によって長らく保たれた世界は静かに崩れ去った。

 

「…」

 

奥へ、更に奥へ。

まるで導かれる様に集団の先頭を歩くシリエジオの隣でギルヴァは船内に入ってからは言うものの沈黙を保っていた。

悪魔の気配はあるにはある。だがこの船から発せられる何か、何処からか感じられる悪魔とは異なる気配が混ざってしまい元凶が潜んでいる位置を掴みかねている状況にあった。

それはギルヴァと同等の探知能力を持つ蒼も同じであり、全員を連れて闇雲に動くのは得策ではないと判断した彼はギルヴァにこう提案していた。

 

―一旦落ち着ける場所を探して、そこから何グループに分けて各個で悪魔どもをぶちのめした方が良いかもな。全員を連れて動いているとフォローも出来かねるし、元凶はお前が何とかすりゃいいさ

 

(…ふむ)

 

蒼の提案に一理あると判断した為、今回の騒動を解決する為に来てくれた協力者らにそう提案した後道中見つけた船内の地図をシリエジオに記憶してもらい、彼女のナビゲーションの元、一先ず集団はこの船の中央にあるメインホールを目指していた。

只々そこへと目指していく中、ギルヴァの視界に扉を失った部屋の中が映った。

 

「…」

 

あのボロボロの船にしては、異常とすら思えるほどに整った部屋。

無機質であるが荒らされている様子すら無ければ、家具が破損している訳でもなく倒れてすらいない。

外と中の違いが余りにも顕著に出ているとも言っていい状態だった。

 

「何か気味が悪いですね…こんなにも整っていると。船は余りにもボロボロだというのに」

 

「ああ」

 

たまたまギルヴァの隣に立っていたマテバグリフォーネが部屋の状態を見てそんな感想を口にした。

確かに彼女の言う通り、船があの有様だというのに部屋は何故か整っている。

気味が悪いと思うのは何ら可笑しい事ではないと言えよう。

 

「ここだけ奇跡的に大丈夫だったという考えは?」

 

ギルヴァが歩き出した事により、その後に続く集団。

その時、二人の会話を聞いていたのか、周囲の警戒に当たっていたM1887がギルヴァへと尋ねる。

 

「ありえんな。あの有様で部屋だけ何事もなく無事だったとは到底思えん」

 

「まぁ…そうでしょうね。ということは悪魔の仕業という事で良いのかしら、デビルハンターさん?」

 

「いや、違うな」

 

ギルヴァから返って来た答えにM1887はん?と訝し気な声を漏らした。

シーナから聞いていた情報からは恐らく悪魔が今回の騒動を引き起こしていると聞いている。

ではこの違いが悪魔によるものでは無ければ一体誰の仕業なのかなど場にいる全員が思う事であろう。

 

「悪魔とは異なる気配がある。それによる仕業かも知れん」

 

悪魔とは異なる気配。

彼から告げられた言葉に、やはりと言った表情を浮かべた者が居た。

 

「やはりギルヴァさんもこの気配を感じていましたか」

 

「ワレ モ ソノ ケハイ ヲ カンジトッテイタ」

 

それがアナと蛮族戦士であった。

二人の証言が悪魔とは異なる存在を明らかなものへとなっていく。

だがそこで怖気づいてしまう訳にはいかないのも事実。

それにだ。第三勢力が現れるのはよくある事。今更増えたのを騒いだ所で体力の無駄遣いでしかないのだ。

 

「そろそろメインホールです」

 

ギルヴァの隣で歩いていたシリエジオが最初の目的地となるメインホールに近づいている事を告げる。

そしてその言葉通り、古びたドアを開いた先にはこの船の中央となるメインホールが集団を出迎えた。

 

「こっちはあの部屋と違って、荒れてるみたいッスね」

 

アヤトルズの一人、ハクの言う通りメインホールは分かりやすい程に荒れていた。

カウンターは破損し、渡り廊下は中ほどで崩れ落ちて渡る事も不可能となり、タイルは所々剥がれている状態だった。

傍から見れば寧ろこの状態が普通だと思って当然と言えよう。

魔訶不思議、或いは不気味とも言える船内のメインホールで訪れた一時の休息に何人かが肩の力を抜く。

その近くでネージュは周囲の警戒を当たっていた。

敵の姿が見えないとは言っても油断は出来ない。それに自身は大して疲れてはいないのと何もしていないのはどうも落ち着かないという理由もあっての行動だった。

 

「嫌な感覚だな…」

 

周囲を見渡しながら、ネージュは静かに呟いた。

彼女の内部骨格には魔界の素材が使用されており、ギルヴァ程では無いにしろ悪魔の気配を感じ取る事が出来、同時にギルヴァやアナ、蛮族戦士が言っていた第三勢力の気配も感じ取る事が出来ていた。

それ故か悪魔の気配と第三勢力の気配が嫌な感じに混ざってしまっているこの気配はネージュにとっては良いものとは言えなかった。

だがそれは仕方ないこと。慣れるほかないと気持ちを切り替えて後ろへと振り向いた時だった。

 

「!!」

 

視界に映るは、上から集団の傍にあるカウンターへと目掛けて降下してくる大きな影。

敵だ。それを理解するまで一秒もいらない。

あからさまに味方ではないと判断すると同時にネージュは全員に向かって叫んだ。

 

「全員、カウンターから離れろ!!!」

 

「「「「!!!」」」」

 

ネージュが警告を知らせた甲斐もあってカウンターの傍にいた者達は前に飛び込む形でカウンターから距離を取る。

刹那、大きな影がボロボロのカウンターに砲弾の如く着地。

破砕音と共に長い間蓄積された埃を周囲へとまき散らした。

それが集団の視界を奪うものへと変貌するも、邪魔だと言わんばかりに蛮族戦士が片腕の大剣の様な爪を埃目掛けて横へと払う。

鋭き一閃が舞っていた埃を一瞬にして霧散し、カウンターに降り注いだ影の正体が明らかになる。

 

「…」

 

人間の倍はあるであろう大きな体。

顔を髑髏の仮面で覆い隠し、その身に纏う外殻は鎧の様だ。

右手には髑髏の装飾が施された一振りの剣。そして背には合計六振りの長剣を浮かばせ扇状に並べて展開。

両肩の分厚く弾力性を感じさせるマントの様な存在も相まってまるで騎士を彷彿とさせるが、黒と赤と言う色合いから高潔さなど無く、寧ろ禍々しい印象を抱かせる。

何よりもこの敵から発せられる気配そのものが、言うまでもなく悪魔である事を指していた。

 

「…」

 

突然として現れた悪魔。

しかし妙な事にその悪魔は動く気配がなく只々ギルヴァらを見つめていた。

まるで品定めをするかのように。

一触即発寸前の沈黙に包まれる中、髑髏の騎士はギルヴァと何故かアナを見た瞬間、僅かに小さな声で呟いた。

 

ス……■―……ダ……

 

「「!」」

 

二人には髑髏の騎士が僅かに小さな声で言った誰かの名を決して聞き逃さなかった。

間違いない。この悪魔は2000年以上に起きたあの戦いを知っている。

一方で何故か髑髏の騎士が出てきてからはというものの蒼はずっと黙っていた。

いや、黙っていると言うよりかは信じられないと言った所だろうか。

ギルヴァの視界を通して、蒼へと伝わる髑髏の騎士の姿。

先ほどからずっと彼の視線はその騎士の背に展開された六振りの剣へと向けられていた。

否、六振りの内の一振りの剣へと向けられていた。

その剣は何故か他とは違い、柄の先端には髑髏の装飾が施されている以外、シンプルな形をしていた。

それが一体何なのか。

知るのは蒼だけであり、彼からすればここにある事自体可笑しいと言えるほどの剣だった。

 

―見間違える訳がねぇ……あれは、あの戦いで封印の為に使われた筈だ。なのに何故ここに…

 

蒼の視線が髑髏の騎士が右手に持つ長剣に向けられる。

次の瞬間彼の目を見開かれ、そして隣にいたエラブルがつい怯えた声を出す程の怒気が放たれた。

 

―テメェか…ああ、テメェしかいねぇよなぁッ!!!!その剣を持つのはテメェしかいねぇなぁ!!!

 

(叫ぶな、五月蠅いぞ)

 

―んな事は分かってんだよ!

 

ギルヴァに咎められても蒼の興奮は収まらない。

そして蒼が髑髏の騎士の名を…否、髑髏の騎士へと変わり果ててしまった、とある魔剣士の名を口にしようとした時、事態は動いた。

 

「オオオォォォッ!!!!!」

 

雄叫びをあげ、背に浮かんだ剣を集団へと目掛けて射出する髑髏の騎士。

槍の如く飛来するソレをまともに食らえば、一発でお陀仏であろう。

全員が攻撃を食らうまいとその場から飛び退き、回避する。

 

「手荒い歓迎だな、全く!!」

 

「愚痴るな、リバイバー。あれが何もしてこないと思っていたのか?」

 

「そんな事を俺が思うか、リヴァイル!」

 

そんな軽口を叩く両者。

とは言えその表情は険しかった。

いや、悪魔という非常識な存在を初めて敵対した者ら全員の表情は険しかった。

飛来する剣は地面に突き刺さるどころか、地面に大きな穴をあけるほど威力を誇っている。

撃ったとしても剣の動きが鈍る訳でもない。現状回避するのが精一杯にも関わらず、ソレを難なく回避し、時には愛用する得物で弾き返すギルヴァやアナ、蛮族戦士はマジでどうなっているんだとつい思ってしまっても不思議でないだろう。

 

「これじゃ埒が明かねぇな!」

 

「けど今は回避が精一杯だって!!」

 

M16の言葉に叫ぶようにして答えたアーキテクトの言う通り、メインホールは荒れ狂う剣の嵐が出来上がっている状態だ。

不用意に攻撃すればどうなるか分かったもんじゃない。

どうにかして攻撃の手を止めなくてはならない。誰しもがそう思った矢先だった。

 

「オオオオォォォ!!!」

 

またしても髑髏の騎士が雄叫びを上げ、飛ばしていた剣を自身の元へと引き寄せた。

再び射出するが、今度は剣を上空へ飛ばすと、剣の切っ先を下へと向け円状に展開。

そして集団へと目掛けて、剣を雨の如く勢い良く降下。

降り注いだ剣の雨。全員が回避に徹した時、試験者 支援型が叫ぶ。

 

『不味イ!地面 ガ 崩レルゾ!』

 

しかし時すでに遅し。

剣の攻撃に限界が訪れた地面が崩壊。

崩れ落ちていく地面に咄嗟に反応したネージュとアナ、アーキテクト、M16、M1887は後ろへ跳躍し、そのまま船のデッキへと飛び出す。

シリエジオは傍にいたリヴァイル、リバイバーが着ている衣服の掴むと近くにあった食堂らしき所へと二人を放り込み、後に続く様に中へと飛び込むことでその場から退避。

M14、AUGパラ、アヤトルズの三人は試験者 支援型に捕まり、蛮族戦士と共にその場から脱出し、船の船尾部分へと撤退。

だが蛮族戦士と一緒にいたアイソマー、M4、マテバグリフォーネ、そしてギルヴァは反応に遅れてしまいそのまま下へと落ちてしまう。

落差がどれ程あるのか分からない。だが、これだけ大きな船から下へと落ちてしまえば幾ら彼女達でもひとたまりもない。

 

―ギルヴァさん、三人を!

 

「言われなくても分かっている」

 

エラブルの声に答え、ギルヴァは己の内に眠る魔の引き金に指をかける。

体が集まり出す光。しかし次の瞬間、光は周囲にへと爆発するように弾け飛び、蒼い悪魔が翼を広げて姿を現した。

現在進行形で落下している三人を瞬く間に抱えると、ギルヴァはそのまま下へと降下していき、暗闇の中へと消えていった。

そして先ほどまで熾烈な攻撃を浴びせてきた髑髏の騎士は何故かメインホールから離脱していていった者達を追う事もしなかった。

 

ス……■―……ダ……

 

また誰かの名前を呟くと、髑髏の騎士は静かにその場から姿を消した。

幽霊船の調査は突如として現れた髑髏の騎士の攻撃によって分断されるという最悪な形で始まるのであった。




はい、という訳で突如として現れた髑髏の騎士によって各々が分断されました。
一応こちらの方で分けさせて頂いた訳ですが…出来ればこの人と組みたいとかあれば仰ってください。書き直しますので。

さてはて、突如として現れた髑髏の騎士。
どうやら蒼は何か知っている様で…?

ではでは次回ノシ


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Act246-Extra M.O.S back story Ghost ship in the sea Ⅲ

―蜃気楼は己と対峙する―

―血塗られた呪いの人形は二人を襲い―

―猛火の巨人に彼、彼女らは挑む―

―そして彼女は無数の手で来客を歓迎する―


あの髑髏の騎士による攻撃により崩壊する地面から逃れるため、リバイバーとリヴァイルを食堂だと思われる部屋へと放り込んだ後、部屋と逃げ込んだシリエジオはメインホールへと繋がる出入口の前でその先を見つめていた。

 

「戻る事は出来なさそうですね」

 

その言葉通り、メインホールに開いた穴はかなり大きさだ。

それに加え船体の大きさから鑑みて今いる地点と下の落差はかなりのものと見ていい。

一見すれば通れそうな部分もあるが、あの攻撃で脆くなっているという事は言わずとも分かる。

下手に渡ろうなら、間違いなく真下へと落ちてしまうだろう。

メインホールを通る事が出来なくなった今、どうにかしてここを出て他のメンバーと合流するのが当面の目的だと認識するシリエジオ。

 

「さて…お二人とも動けますか?」

 

「ぶん投げてくれた際に壁にぶち当たった痛みさえ除けばな」

 

「そうですか。では全然動けますね」

 

「心配の欠片すらねぇよ、こいつ…」

 

額に手を当て、呆れた様に呟くリバイバー。

彼の呟きを無視してシリエジオは周囲を見渡した。

 

「ふむ」

 

そこに映った光景を見つめながら、頷くシリエジオ。

つい先ほどまで大して気にしてはいなかったが、冷静になって考えればどう考えても異常とも言える。

 

「歓迎会でも開いてくれるのですかね?」

 

天井に吊り下げられた無数の人影。

よく見ればそれは木で出来たマリオネットであり、四肢の糸は天井と繋がったまま動く様子もなく静かに揺れている。

まるでこの食堂へとやって来たシリエジオらを獲物として見据えたかのように。

 

「歓迎会を開いてくれるような感情があればいいのだがね。ともあれ早めにここを抜け出す方が良いだろう。あれらが一斉に動かないとも言い切れないからな」

 

シリエジオの隣に立ったリヴァイルの言う通り、天井に吊り下げられたマリオネットが動かないという保証は何処にもない。

加えてこの閉所で一斉に動かれたら、こちらの動きが制限される事も含めて面倒なことになりかねないだろう。

 

「出口を探しましょう。私は食堂と繋がった左の部屋を調べてみます。リヴァイルはリバイバーと共には右の部屋…カフェテリアの方をお願いします。恐らくですがどちらかが外へと繋がる扉があると思いますので」

 

「おや?船内は記憶しているのではないのかね?」

 

「全てとは言えません。あの時見つけた船内図は断片的なものだったので」

 

「ふむ、それなら仕方ない。手分けして事に当たるとしよう」

 

「お願いします。何か分かれば何時でも言いに来てください」

 

「了解した」

 

出口を探す為、リヴァイルはリバイバーを連れてカフェテリアへと向かっていく。

二人がカフェテリアへと消えていくのを見届けるとシリエジオはホルスターに差し込んだDⅡを引き抜き、食堂と繋がった左の部屋へと足を踏み入れる。

そこは薄暗く荒れている為、一目見た所ではここがどういった場所なのかは分からない。

だが、どうやら外へと繋がる扉はあるらしく彼女はそこへと向かって歩き出した。

歩く度に履いているブーツの底が室内に反響する。この静けさも相まってその音は不気味に、かつ大きく感じれる程に響いていた。

 

「駄目ですか」

 

外へと繋がる扉の前に立ち、ドアノブに手をかけたシリエジオだったが扉に鍵がかかっていた為、先へと進む事は出来なかった。

と言え、他へと通ずる道はない。

離れ離れになってしまったメンバーと合流が急務になっている以上、のんびり探索などしている暇もある筈もないので、シリエジオは銃で撃ってドアの鍵を破壊しようとした時だった。

 

「!」

 

彼女のセンサーには反応がなくとも、首に下げたアミュレットハーツが何かに反応したのを彼女は決して逃さなかった。

そしてその反応が部屋の奥からだと気づくとシリエジオは素早く振り向きながら背に背負ったニーゼル・レーゲンを変形させる。

回転式弾倉の大砲と大槍が組み合わさった白銀の銃槍『カノーネ・ランツェ』を左手に携えると大砲の撃鉄を起こし、シリンダーを回転させる。

そして重量のあるカノーネ・ランツェを軽々と振るい槍の切っ先を正面へと突きつけながら見据える。

 

「影に潜むのがお好きの様ですが…顔ぐらいは見せたらどうです?」

 

姿を見せないソレに対して言葉を投げ掛けるシリエジオ。

対する相手は彼女の言葉に反応し、闇に包まれた部屋の奥から姿を現す。

 

「…」

 

言うなればそれはもう一つの姿と言うべきだろうか。

まるで蜃気楼の様に薄っすらと靄を放ちながら、その姿はれっきとした人の形をしていた。

彼女(シリエジオ)と対を成す様に相対するは白く染まったメイド服の女(エージェント)

怪しく輝いた瞳がシリエジオを見ると、白い彼女は嗤った。

待ちに待った食事の時間。その料理がよもや己になるとは誰が思うだろうか。

四肢をもぎ取り、命を乞う様を肴にしながら一つ残さず食してやろうではないか。

さぁさぁ、私ではない私よ。誠に申し訳ないが──死んでくれ。

 

「成る程…」

 

相手が浮かべた笑み。

その笑みから読み取った言葉を理解しシリエジオは頷く。

そしてその直後。

 

「――ではお前が死ね」

 

酷く冷めた声は構えたDⅡの銃声と共に放たれ、刹那シリエジオは地面を蹴りもう一人の自分…エージェント・ミラージュへと突撃を開始するのであった。

 

 

シリエジオが己との殺し合いを始める約十分前の事。

カフェテリアへの方へと来たリバイバーとリヴァイルもまた外へと繋がる扉を見つけていた。

だがここでもそうなのか鍵がかかっており外へと出る事は不可となっており、二人は扉を開ける為の鍵を探していた。

意外にも鍵はすんなり見つかったのだが、問題が一つ起きていた。

それは、鍵を持っていたのが赤い衣服をまとっていたマリオネットだったという事である。

おまけに手に乗った鍵を差し出すような状態を維持しているのだから怪しいほかない。

先へと行くためには鍵が必要。だがあからさまに罠が仕掛けられている。

さぁどうしたものかと悩んだリヴァイルにリバイバーが伝える。

 

「どの道行くしかねぇさ。ここは悪魔どもの巣窟で遅かれ早かれ奴等とはやり合うんだ。戦わず穏便に済ませるのは無理な話だろ」

 

それもそうだなと思いリヴァイルはマリオネットの差し出す手に乗せられた古びた鍵を手に取る。

鍵を取れば突如として動き出して襲ってくると多少なりとも身構えていた訳であるが、その予想とは裏腹にマリオネットが動き出す様子もなければカフェの椅子に腰かけているマリオネットらも動く気配はなかった。

 

「動かねぇな」

 

「だが油断は出来ん。シリエジオをここに呼んで早めに脱出するとしよう」

 

「了解。んじゃ、あいつを呼んで──」

 

そう言いかけた時リバイバーとリヴァイルの間を鋭い形を影が通り過ぎていき、壁に突き刺さった。

壁に突き刺さった影…それは短刀であり、リバイバーかリヴァイルのどちらかを狙って投げられたもの。

そんな物騒なモノを投げてきたのは、先ほどまで鍵を差し出して動かないままの赤い衣服をまとったマリオネット。

まるで意思を有したかのように動き出しており、何処からか短刀を取り出して構えていた。

 

「分かり切った襲撃だな」

 

「ああ。それにシリエジオが向かった部屋から銃声が聞こえる。どうやらあっちもやり合っているみたいだ」

 

リバイバーの耳に銃声が聞こえたのは約数秒前の事であった。

向こうにマリオネットが流れていったのかは分からずとも、向こうにも敵がいることは明白。

この状況下でお互いにフォローし合う事は難しいと認識せざる終えなかった。

 

「この程度で済めばいいんだが…」

 

カフェテリアにいたマリオネットの数は五体とそう多くない。

これならばすぐに駆け付ける事が出来ると思った矢先、リバイバーとリヴァイルは自身の運の悪さを呪った。

 

「毎度毎度ながらというか…運が悪いな、ホントに」

 

カフェテリアと食堂から繋がる出入口から響いてくる木の関節がこすれる音。

それは幾重になって重なれば不快な演奏へと変貌していく。

二人の視線がそちらへと向けば、食堂の天井に吊り下げられていた筈の無数のマリオネット達がゆったりと動きでまるでゾンビの如くカフェテリアへとなだれ込んできていた。

 

「やはり動き出したか。にしても本当にこいつらは悪魔なのか?」

 

悪魔という存在。

リヴァイルからすればこの世のものではない姿をしていると認識していた。

だが実際どうだ?目の前にいるこいつらはれっきとしたマリオネットではないか。

 

「聞いた話じゃ現世で身体を維持できない低級の悪魔が何かに憑依して、それを自身の身体の代わりにして動くって事もあるらしい」

 

「成る程。因みにそれは誰から教えてもらったんだ?」

 

「ルージュだ。悪魔にはどういったタイプがあるのか聞いたら詳しく教えてくれた」

 

リバイバーがルージュから得た情報の甲斐もあって、これも悪魔の一種だと認識するリヴァイル。

そうこうしている内に無数のマリオネット達が襲い掛かり始め、二人は持ってきた装備を手に無数のマリオネット達との戦闘を開始した。

 

 

船内で戦闘が行われているとは知らず、船の船首側のデッキへと退避していたネージュ、アナ、アーキテクト、M16、M1887もまた敵と遭遇していた。

数は計四体と少ないが、その見てくれからして決して油断できない敵だと判断するには数秒も要らない。

 

「マリオネット、か…?」

 

ネージュの言う通り、確かにそれはマリオネットだった。

だがそう判断したのは手足に使われている素材からして、元の姿はそうではないかと思ったに過ぎない。

それ程までに敵の姿は本来の形とはかけ離れていた。

体が大型化した影響か以前までは纏っていたであろう赤い衣服は所々破れ、両腕は肥大化しているも、その先は右手と左手で異なっていた。

まず右手は一本の大きな鉤爪と化しており、魔力が膨大に増えたためか先端からは魔力の刃が放出されていた。

対して左手は特に形は変わっていないものの、手には巨大な斧を装備。巨大な刃には乾いた血が付着しており、今までどれ程の命を奪ってきたのかが伺える。

また自身と同じ存在までも殺し、自己改造の為の部品として利用したのか大型化した木製の腕が背の左右に二本ずつ計四本取り付いており、右手と同じように先端には魔力の刃を放出する鉤爪の姿があった。

そこから見て分かる通り接近戦を得意とするのが容易に判断できよう。

 

【んで…あっちはどうなってる訳?見た感じ、ただの手じゃない】

 

【だとしても悪魔には変わらないですよ、ティア】

 

アナの中でティアが言ったようにもう一体の悪魔は何故か手を模った形をしていた。

二つ並んだ頭、歪な形状へと化した身体を上下反転させ、伸ばした首と巨大化した両手足を指に見立てて展開し宙を浮かんでいる。

接近戦を得意とする悪魔の様に同じくこちらも接近戦を得意とするのかと言われればそれは違っており、両手足の先端には巨大なライフルを二つ並べた火器を装備していた。

またそれだけでは留まらないのか、二つ並んだ頭の内、目はないが口を大きく開いた頭からは銃口ような物が飛び出している。

手を模っていながら遠距離攻撃を得意としている辺り、接近戦を得意するあの悪魔とコンビを組んでいる事が分かると言えるだろう。

コンビを組むことでお互いをフォローし合う二体の悪魔『マリオネット・インサニア&マリオネット・テネブラエ』。

それが二組存在し、一組はアナ、アーキテクト、ネージュを、もう一組はM16とM1887を狙っている様子だった。

 

「どうやら分断が目的みたいだな?」

 

「でしょうね。さて…初めての悪魔戦、どうしたものかしらね」

 

M16とM1887からすれば初めて戦う事となる存在。

装備している武装からして、どういった戦い方をしてくるのかはある程度の想像は出来る。

だが確信はしてはならない。悪魔という非常識な存在がその程度で終わる筈もないのだから。

 

「指揮官がくれたデバイスがあるだろ?」

 

「それ込みでどうしたものかと言ったのよ。けど、そうね…使う他ないわね」

 

寧ろその為に持ってきたのだ。

でなくては、これを持ってきた意味はない。

悪魔という非常識な敵を相手取る準備が出来たM16とM1887ら。

一方でアーキテクトは持ってきていた携帯火器を構え、アナは静かに幻影を抜刀する傍らでネージュはコートの懐から、片面しかないピエロのフェイスマスクを取り出す。

見てくれは普通のフェイスマスクであるが、その実態は高性能のセンサーマスクであり、それを顔の右半分に装着した時、ネージュは静かに呟く。

 

「始めよう」

 

その台詞に背負っていたガンケースが反応、弾けるかの様に中身が飛び出し、ネージュの体にへと装着されていく。

そしてそこに現れるは歩く弾薬庫とも言える装備【パトローネ】を纏ったネージュであった。

だが以前とは違い、どうやら改造が追加されている様であり、背部ユニットには一時的な飛行を可能とするバーニアノズルが取り付けられ、同じく背部ユニットに装備された円柱型の複合火器『ヘイトリッド』の下部側である八銃身のガトリング砲を内蔵した武装がもう一基追加。

また背部ユニットのアームを通して体の側面側へと配置されたミサイルコンテナには、発射口を塞ぐ部分である開閉カバーを武装として改造したのか、各カバーの内側にミサイル四発内蔵。

どう考えてもやり過ぎではないかと思えるも、それを口にする者は悲しい事に誰一人とていない。

 

「やり過ぎても文句言わない事だ」

 

その台詞が開戦を知らせる合図となったのだろう。

幻影を構えたアナは地を蹴って突進し、アーキテクトはアナの援護を開始。

そしてネージュは両手に携えた連装ガトリングガン『ジェラシー』を構えると引き金を引く。

M16とM1887も渡された戦闘用デバイスを起動させ、己の姿を変えると攻撃開始。

船の船首側のデッキが荒れ狂う踊場へと化したのはすぐそこの出来事であった。

 

 

「銃声…!」

 

船首側のデッキから銃声が聞こえたのだろうか。

試験者 支援型と蛮族戦士と共に船尾側へと撤退していたM14はその音を耳にして、その方向へと向いた。

AUGパラ、アヤトルズの三人にもその音は聞こえていたらしく、全員がその方向へと向いていた。

援護に向かわなくては。

そう決心するM14であったが、援護に向かう事が出来なくなるのはその直後であった。

 

「M14、そこから下がって!」

 

「え!?…ッ!!」

 

AUGパラが叫び、驚く様にして反応したM14は自身が気づかぬ内に足元に広がっていた禍々しい光を発した紋章の様なものに気づき、後ろへと跳躍し後退。

何かが出てこようとしている。そう思うのは決してM14だけではない。

だがこの感覚だけはM14は知っていた。

ここから出てくる敵が発する禍々しい感覚。

何よりもその存在がかつてS11地区後方支援基地にて悪魔へと成り果てたあの指揮官と比べるまでもなく強大な存在である事を。

そしてその通りと言わんばかりに紋章から飛び出すは巨大な腕。続く様にもう一本現れ、そしてそれは現世へと姿を現す。

湾曲した一対の角。体からは炎を発し手には巨大な大槌を有し、恐ろしい瞳がそこに居る者らを睨む。

元々それは悪魔などではなく、猛火で熱した炉であり罪人を焼き殺す刑具であったのだが悪魔へと成り果てた。その悪魔の名も『フュリアタウルス』である。

 

「な、なんだよこいつ…。こいつも悪魔ってやつなのか!?」

 

これで二回目となる悪魔の登場に狼狽えるトビー。

ジン、ハク、AUGパラも同じ反応を見せる中でM14はこの手の事はS11地区での戦いで経験済みなのか慌てる様子すらなく、トビーの台詞に答える。

 

「悪魔といっても全部同じ形をしているという訳じゃないの。小型もいれば大型のも居たって不思議じゃない」

 

だとしてもこの場での登場は余り望んではない。

胸の内でM14はそう呟く。

船尾側のデッキは人からすれば十分な広さだが、巨体を誇るフュリアタウルスからすれば狭い。

加えて炎の様に燃え盛る大槌の範囲を考えれば、この場での戦闘は余り好ましいとは言えない。寧ろ避けるべきなのだが、追い打ちをかけるかのように周囲が血のような壁に覆われ、退路を断たれてしまう。

 

『手早ク仕留メル。援護 ハ 任セテ貰オウ。…蛮族戦士、お前 モ 行ケルナ?』

 

「トウゼン ダ」

 

なってしまった以上は仕方ない。

それに悪魔とやり合うという事はこの調査に乗り出した辺りから覚悟していた事。

それが悪魔であろうと、何であろうと叩くまで。

己を鼓舞し、自身を同じ名を関した銃を構えるM14。

 

「全員構えて!アレを倒すよ!」

 

それが号令となり、彼女、彼らは装備する武器を強大な存在へと突きつける。

そして放たれた一発が熱を持って猛火の巨人へと立ち向かう。

空に舞うは空の薬莢。では地に崩れるはどちらだろうか?

知り得る方法はただ一つ。そこに残った者だけが誰かということであろう。

 

 

分断された先で敵との戦闘を開始した者達が居る中、魔人化したギルヴァはアイソマー、M4、グリフォーネを抱えたまま船の最下層部分に降り立った。

彼が着地した事により三人は彼の元から離れると助けてくれた蒼い悪魔へと視線を向ける。

 

「…」

 

つい先ほどまでれっきとした人だった筈だ。

だが今そこに立っている彼は誰だ?

そんな感情を抱きながらも理解が追いつかないグリフォーネ。対する魔人化を解いたギルヴァ…いや、彼の中に存在する蒼はグリフォーネを見た後に何かを思ったのか口を開いた。

 

―へぇ?こいつは面白れぇな。中身と外見がどういう訳か別々になってやがる、このグリフォーネっていうお嬢さんは

 

(そうなのか?)

 

―ああ。どうしてこうなったかは分からねぇが……アレか、輪廻転生を司る神様でもあってきたのか?

 

(…)

 

―おっと興味ねぇって感じだな。ならこの話題は終いにして、あのクソ野郎を探そうぜ

 

クソ野郎。

蒼がそう言う相手とは、先ほど姿を見せた髑髏の騎士の事を指していた。

それを分かった上でギルヴァは疑問に思った。

アレと蒼。どういった関係があるのかと。

そしてそれを察していたのか、蒼はギルヴァへと告げた。

 

―ちょっとした知り合いでな。あれの正体は伝説の魔剣士に剣技を教わった弟子の一人なのさ。

 

蒼の知り合い。

何も考えなしに聞けば、それだけで済むだろうがギルヴァは違った。

 

(では何故アレは俺とアナを見て伝説の魔剣士の名を口にした?)

 

―…

 

次々と浮かび上がってくる謎。

ギルヴァに問われたとしても蒼は語ろうとはしなかった。

何故ならばそれこそが自身に関わる話であるのだから。

故に語れない。いずれ語ると決めた上に、今語るべきことではないのだから。

しかしそのまま沈黙というのは蒼としても気まずかったのだろう。

己の事を話す代わりに、髑髏の騎士が背に展開していた内の一振りの剣について話す事にした。

 

―答えにならねぇが、その代わりにこの情報で手打ちにしてくれ。…ギルヴァ、あの騎士が背に展開していた剣の中で一本だけ違う形をしていたのは気づいていたか?

 

(気付いている。あれがどうかしたか)

 

―あの剣は伝説の魔剣士の力を宿したモンでね。魔界のどっかに置かれていたみたいなんだが…

 

(あれが見つけて持ち出したという訳か)

 

―ああ。今の所、力は解放されてねぇみたいだがな…

 

そこから先はギルヴァも蒼も言わずとも分かっていた。

その力とやらが解放されてしまえば、生きて帰る事は出来ないと言う事も

急いでアレを倒さなくてはならない。事態はよろしくない方面に進んでいると理解した矢先、ギルヴァは素早く後ろへと振り向いた。

彼が振り向いた事により、アイソマー、M4、グリフォーネも彼が振り向いた方向へと視線を向ける。

暗闇の奥で蠢くナニカ。今はその影しか認識できないでいた三人だが、つい先ほどまで落ちていた灯りが復帰し、蠢く影を照らす。

そこに居たのは女体部分に加えて無数の触手を有した悪魔であり、水を好む性質を有する。

極東にはこれと似た姿を持った女神が存在すると言われるもその関係性が謎に包まれた悪魔…それが『ジョカトグゥルム』という名の悪魔であった。

 

―面倒な時にやって来たもんだが……行けるな、ギルヴァ?

 

(問題ない)

 

無銘の鯉口に親指を押し当てた後、抜刀するギルヴァ。

それに続く様にアイソマー、M4、グリフォーネも武器を構える。

対するジョカトグゥルムは武器を構えた彼、彼女らを威嚇するように叫ぶ。

が、それに臆する訳がなくギルヴァが突撃したと同時に開幕の火蓋が切って落とされるのであった。




という訳で今回は敵との戦闘する直前を描かせて頂きました。
なので、敵の詳細をここで説明させて頂きます。

【マリオネット】
:DMC1に登場。
現世で身体の維持が出来ない低級の悪魔がマリオネットに憑依したもの。
赤、青、緑、水色、灰色と着ている衣服は分かれ、装備する武器も短刀、半月刀、或いはショットガンだったりもする。
また赤い衣服を纏ったマリオネットは別名『ブラッテイ・マリー】という名を持ち、殺した人間の返り血を浴びた事により、性能が強化。
耐久力は上昇し、相手の攻撃を防いだ後反撃したりするなど行った行動をする。

【マリオネット・インサニア&マリオネット・テネブラエ】
:二人一組のコンビを組む悪魔。
元々はマリオネットと言われる悪魔であったが、更なる力を求めた事により変異した個体。
ブラッティ・マリーよりも遥かに高い耐久力と防御力を有する。

【フュリアタウルス】
:
DMC2に登場。
大きな槌を振りまわしたリ、突進や火炎放射など繰り出す。
耐久力、防御力、攻撃力…いずれも油断できない相手。

【ジョカトグゥルム】
:DMC2に登場。
何度でも再生する触手を振り回したり、毒を吐いたりする悪魔。


エージェント・ミラージュ戦、またジョカトグゥルム戦はこちらの方で描きますが…他は申し訳ないですが、お願いいたします。
何か分からない事があればメッセージを下さい。
返信は遅れますが必ず返しますので。

またこちらからも分からない事があればメッセージを送信致しますので、何卒宜しくお願い致します。
ではではノシ


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Act247-Extra M.O.S back story Ghost ship in the sea Ⅳ

─己との対峙─


鈍色の一撃が闇を駆け抜ける。

白銀の穂先が四つのサブアームの銃身から放たれる光のカーテンを難なく弾き飛ばし、そんな芸当を難なくこなすシリエジオはその程度かと言わんばかりに己と同じ姿をした敵【エージェント・ミラージュ】へ挑発する。

 

「愚かですね。闇雲に撃てば勝てるとでも?」

 

「…裏切り者風情が良く吠える」

 

「人の真似しか出来ない悪魔にそんな事を言われても痛くも痒くもないですね」

 

かつて自身も取った事のある戦法。

だがここまでお粗末なものではないと自負するシリエジオ。

 

「やり方を教えてあげましょう…と、言いたい所ですが」

 

今やそのサブアームは初めてギルヴァと出会った時に破壊されているし、言葉ではそう言いつつも教えるつもりなんぞ最初からない。

愛用するショットガン【DⅡ】を回転と同時に銃身を折りつつ排莢、そして新たな散弾を装填。

二つの銃口をエージェント・ミラージュへと突きつけながら彼女は告げる。

 

「私とて急いでいますので。簡単にやられても文句は無しでお願いします」

 

足を一歩前へと出す。

軽く腰を落とし、彼女の目が相手を見据える。

そして次の瞬間、彼女の姿が消える。

逃げた訳ではない。

この暗闇に紛れただけだと判断したエージェント・ミラージュは武装したサブアームを乱射し、あぶり出そうとする。

 

「阿呆ですか、貴女は」

 

だがその直後、エージェント・ミラージュの真横で聞こえたのは、暗闇の中へと消えた筈のシリエジオの声。

目だけを声の方向へと向けた時、DⅡの銃口がその顔を捉えており引き金には既に指がかかっている。

 

「ッ!!」

 

一瞬の間。

DⅡから散弾が放たれると同時に寸での所で顔を逸らして銃撃を避けるエージェント・ミラージュ。

シリエジオが持つソレを奪おうとして手を伸ばすも、シリエジオはDⅡを持つ手を引っ込め、間髪入れず右足を軸にしつつ半回転と同時に相手の腹部に目掛けて蹴りを叩きつける。

勢いよく吹き飛ばされるエージェント・ミラージュだが、素早く態勢を立て直し身体を回転させて着地。そのままサブアームを構え、今度は連射から拡散へと変更し光の散弾を次々と放つ。

連射による『点』では接近戦へと持ち込まれる。対して拡散による『面』での制圧であれば接近されるリスクを減らす事が出来る。

悪魔にしては考えた戦法にシリエジオは内心で成る程と頷いた。

が、それだけの話。彼女にとっては大して脅威にはならない。

 

「接近されないと思いで?」

 

光の嵐が飛び交う中で彼女は慌てる様子もなく、只々冷静にカノーネ・ランツェ形態のニーゼル・レーゲンを通常形態へと変形させる。

DⅡをホルスターへと差し込み持ち手を握ると、ソレを思い切り振り上げるシリエジオ。

そして地面へと向かって振り下ろした時、底面の噴射口から炎が点火。

一気に加速したニーゼル・レーゲンの通常形態…またの名をトーテン・グロッケ(弔いの鐘)形態と名付けられた一撃が地面にへと叩きつけられ、隕石でも落ちてきたのではと思いたくなる強烈なインパクトがあろうことか部屋全体に散らばっていた瓦礫を浮かび上がらせる事となった。

そしてそれがエージェント・ミラージュのサブアームから放たれる光の散弾をシリエジオから守る一時的な盾として機能した。

 

「たかがそれぐらいの事で!!」

 

「確かにそれぐらいの事でしょう。しかし私からすればそれだけで十分なんです」

 

瓦礫が浮かんでいられるのは本当に僅かな時間と言えよう。

加えて瓦礫すらも砕く程の攻撃もあって盾の数は次々と減らされていく。

だがソレで良いのだ。

光の散弾を防ぐためだけに生まれた僅かな時間が、彼女がエージェント・ミラージュへと接近するまでにかかる所要時間なのだから。

 

「…!」

 

ニーゼル・レーゲンを背に背負い、相棒として君臨し続ける狙撃銃【対化け物用狙撃銃 シルヴァ・バレト】を手に握ると同時に駆け出すシリエジオ。

浮かび上がった瓦礫の群れの間を縫うように駆け抜け、そして飛び越える。

動きを読ませぬ様に己を模倣する存在へと迫っていく中、エージェント・ミラージュが叫ぶ。

 

「鉄血を捨てた存在…!お前が!お前という存在が全てを破滅へと導いた!!」

 

「悪魔如きが良く吠えますね。もう少しお行儀良く出来ないのですか?」

 

「そういう貴様こそ何を勘違いしている!私は悪魔の力を身に着けた存在だ!魔界の住人と一緒にしてもらっては困る!!」

 

「…これは驚きましたね。まさか悪魔が私を真似ているのではなく、貴女が悪魔に成り果てるとは」

 

どんな因果ですかね、これと内心呟きつつも相手から告げられた事実に多少の驚きを覚えるシリエジオ。

てっきり悪魔かと思われていたエージェント・ミラージュは悪魔では無かった。

寧ろ彼女は…シリエジオが鉄血を離反した後に目覚めた予備の素体。

どういう訳かこんな所に居る訳であり、どうやら鉄血を離反した事が鉄血を破滅へと導いたとされるシリエジオに対して相当な恨みを有しているらしい。

 

「しかしそれでは──」

 

シルヴァ・バレトの槓桿を操作し、徹甲弾を装填。

同時に自身を相手から隠すかのように瓦礫が前を塞いだ時、銀の弾丸の名の関した銃が瓦礫に向かって、静かに向けられる。

飛び交う光線の中、シリエジオに焦りはない。

僅かでしかない時の中で、彼女の体感は余りにもゆっくりとしていた。

だからこそであろうか。

瓦礫越しのその先で自らを悪魔へと変じた相手が居る位置がまるで手に取るように分かってしまうのだ。

息を軽く吐き、そして引き金を指をかけた時。

 

「そこら辺にいる悪魔と同じではありませんか」

 

銀の弾丸が咆哮した。

その威力を物語る様に土埃が舞い上がり、行く先を塞ぐ瓦礫の群れを貫いていく。

最早撃ちだされたソレを阻止する手立てはない。

 

「ッ!?」

 

瓦礫の群れから飛び出してきた砲弾。

その一瞬の事に反応が遅れたエージェント・ミラージュの片腕が木端微塵に吹き飛ぶ。

だがサブアームはまだ生きている。そして先ほどの射撃で位置は把握した。

二射目を受ける前にシリエジオを仕留めようとした瞬間、彼女の目が見開かれる。

 

「言ったでしょう。僅かな時間さえあれば、貴女に近づく事が出来ると」

 

目と鼻の先。

その先にシリエジオの姿があった。

両手には漆黒の双銃【ペサンテ&グランディオーソ】を携えており、サブアームが動かさんと銃身下部で上から押さえつけていた。

 

「ちっ!!」

 

サブアームを動かせない今、距離を取る為に後ろへと飛び退くエージェント・ミラージュ。

が、それを許さんとばかりにシリエジオは距離を詰め、ペサンテを放つ。

50口径の弾丸がエージェント・ミラージュの顔へと向かうも、彼女はそれを回避し突進。

左側のサブアームを振り上げ、シリエジオの持つペサンテを払い飛ばし狙いを外させる。そのまま右のサブアームで一撃を浴びせようとするも、見越していたのかシリエジオはグランディオーソをサブアームへと向かって撃ち、サブアームの狙いを反らす。

しかし狙いが僅かにずれていたのかサブアームは即座に動き出し勢い良く振るわれるも体を回転させシリエジオはグランディオーソで弾き飛ばし、続けざまにペサンテを構えるもエージェント・ミラージュは後ろへと回転すると同時に足を振り上げて、銃の狙いを反らし素早くサブアームを発射。

しかしシリエジオは体を後ろへと倒し攻撃を回避し素早く身体を一回転させ、サブアームを蹴り飛ばしエージェント・ミラージュを後方へと仰け反らせる。

そのまま態勢を立て直しながらグランディオーソを構えるも、エージェント・ミラージュはサブアームだけをシリエジオへと向け発射。

 

「ッ!?」

 

立て直そうとしていた体を強引に動かし攻撃を躱すシリエジオ。

身体のギリギリの所を光の散弾が通り過ぎると、再び態勢を立て直しペサンテとグランディオーソを構え、相手の戦力を削ぐべく連射。

次々と放たれる50口径の弾丸がサブアームの銃身へと向かって真っすぐと飛んでいき、直撃する。

寸分の狂いの無い正確な射撃がサブアームを破壊せんと襲い掛かっていく。

連射には不向きである銃であるが二丁携えていたらある一定のカバーできるだろう。

だが、ブレイクやアナの持つ【アジダート&フォルツァンド】程とは言えずともペサンテとグランディオーソを撃ち続けるシリエジオの連射速度は二丁を携えて連射をカバーしているという域を超えていた。

それもその筈で、彼女は連射によって跳ね上がる銃身を人形のパワーを用いて力づくで押さえつけながら、弾の収束がバラけない様に銃口の調整を撃ちながら調整している。

クレバーな戦い方と言われたらそうであるのだが、この戦い方はブレイクがやっていた戦法だ。

まだアレグロとフォルテを手にする前の彼は、この様な戦い方をしていた事もあって銃を何度も壊していた訳である。

普通の人間であれば出来ない戦い方。己の力を一番理解しているからこそ出来た戦い方。

安物の銃であれば数十秒足らずで壊れてしまうだろうが、マギーが手掛けた銃であるからこそ、ペサンテとグランディオーソは彼女の連射にも耐えられている様子であった。

だが弾は無限ではない。

弾がゼロになったのを告げるように二丁の銃の銃身が後退したまま動かなくなるもエージェント・ミラージュのサブアームに備えられた四つの銃身がダメージを受け過ぎた事によって火花をまき散らし黒煙を上げた後、小さく爆発。まるで花を咲かせるように銃身が拉げ、使い物にならなくなっていた。

 

「後で拾いますので!」

 

敵の戦力は削いだ。そして再装填している暇はない。

ペサンテとグランディオーソへとそう伝えると手から二挺の銃を手放すシリエジオ。

ニーゼル・レーゲンをカノーネ・ランツェ形態へと変形させ、大砲の撃鉄を起こしシリンダーを回転させ炸裂弾を装填。同時にカノーネ・ランツェに備えられたヒート・パイルをも起動させる。

そのまま最大出力モードへと移行させつつ、彼女は地面を蹴り突進。

 

「いい加減、倒れなさい!!」

 

カノーネ・ランツェの最大出力モードとの同調により右目から水色の光を放ちながら突進する彼女は闇を切り裂く流星そのもの。

光彩を放つ瞳が悪魔へと成り果てた己を逃がさないという意思を持って鋭く睨む。

正しく閃光の如く迫るシリエジオにエージェント・ミラージュは反応出来ず、勢いよく突き出された白銀の大槍に腹部を貫かれ凄まじい衝撃と共に壁へと叩きつけられた。

その光景は言うまでもない。今この時を以て己との決着が付いた瞬間であった。

 

「裏切り者が…!お前如きに…私が…!この私が…ッ!!」

 

「墓に刻む遺言はそれでいいのですか?」

 

「な、めるな…!!まだ勝負はついてなど…!!」

 

「いえ、もう勝負はついています。ですので、これにて──お別れです」

 

死を告げる台詞と共にカノーネ・ランツェのヒート・パイルが放たれ、撃鉄が動いた時大砲の砲口から最大出力での砲撃が青き光となって炸裂。

シリエジオの前方を凄まじいまでの爆発音と灼熱を伴う光が迸り、自らに魔の力を施した己自身を跡形もなく消し飛ばすと威力の凄まじさを物語る様にその一撃は船体を貫き、外へと繋がる新たな道を作り上げる。

魔に堕ちた己の姿は一欠けらも残っていない。その場に残る者はシリエジオ、ただ一人。

ニーゼル・レーゲンを通常形態へと戻し、手放したペサンテとグランディオーソを回収し衣服に付いた埃を叩いて払い落とすと、先ほどの一撃で開いてしまった外へと繋がる穴を見た。

 

「?」

 

大して気になる所などない。

だが何故か外を見なくてはならないという感情が生まれる。

その感情に従う様にシリエジオは船外へと繋がる穴を歩き始めた。

一歩、一歩と近づく度にシリエジオの中で違和感が芽生えていく。

そしてその違和感が、外を見なくてならないという感情が間違いではなかった事と思ったのは出口に先に広がった光景を目にした時であった。

 

「これは一体…」

 

そこに広がるはシリエジオが知っている世界ですらなかった。

青々とした空は黒く淀み、辺り一帯に広がるは灰色の海。

瘴気が海霧の様に広がり、動くはずのない幽霊船はゆったりとした速度で進んでいた。

世界そのものが変わってしまったような光景にシリエジオは言葉が出なかった。

 

「そこから先は行っちゃ駄目…!」

 

「ッ!!」

 

後ろから聞こえた声。

勢いよく振り返りつつDⅡを引き抜き、構えるシリエジオ。

そしてその銃口を突きつけた時、そこに居た人物を見てシリエジオは即座に銃を下ろした。

 

「う、撃たないで…!」

 

僅かであったが銃を突き付けられ、怯える白いドレスの少女。

右腕に巻き付けた鎖の先には少女の身長を軽く超す棺桶が横たわっている。

 

(悪魔…?いえ、彼女からその気配が感じられない…)

 

あの白いエージェントが現れた時は首に下げていたアミュレットハーツが反応していた。

しかしこの少女を前にして反応しないという事が悪魔ではないと思わせるだけの証拠となる。

だが気になるのは其処ではない。

 

「この先は行ってはいけないと言っていましたが…何か知っているのですか?」

 

そう問うも少女は怯えており、答えを返せるような状態ではなかった。

仕方なかったとは言え銃を向けたのが大きな原因と判断したシリエジオはDⅡをホルスターへと納め少女へと歩み寄り、丁度目線が同じ高さになるようにして片膝をつく。

 

「脅かせてしまって申し訳ありません。貴女の名をお聞きしても?」

 

「ゼ、ゼーレ…」

 

「ゼーレというのですね、良い名前です。私はシリエジオとお申します」

 

宜しくお願いしますねと優雅なカーテシを披露するシリエジオ。

武装はしているが場が場という事はゼーレと名乗った少女も理解しているのだろう。

少しだけ警戒心を解いた後、彼女はシリエジオの問いに答えた。

 

「あ、あれは貴女達が知る世界じゃない。あそこは現世と黄泉の間に出来た世界。生きた人間や悪魔が落ちてしまえばどうなるか私も分からない…」

 

「故に私を止めた訳ですね」

 

小さく頷くゼーレに礼を伝えながらシリエジオは思う。

 

(どうやらかなり厄介な事になってきましたね。敵の多さに加え、時間も余りないと見るべき…)

 

焦りが無いと言えば嘘になる。

それでいてまだ冷静に居られるのはこの手の事を経験してきた事とシリエジオが元々兼ね備えていた冷静さのおかげとも言えるだろう。

 

「ゼーレ。私たちが元の世界に戻る方法は知っていますか?」

 

「う、うん…。この船を操っている化け物を倒して、あの人が封印したら恐らく帰れる筈…」

 

(化け物…?)

 

この騒動の元凶を悪魔ではなく、化け物と称するゼーレ。

しかし彼女はこの海に落ちてしまえば悪魔でもどうなるかは分からないと発言している。

そこから察するにゼーレのいう化け物は悪魔という類ではないと判断するシリエジオ。

 

「あの人とは?」

 

「え、えっと、それは…」

 

ゼーレの視線が右腕に巻き付いた鎖と繋がった棺桶へと向けられる。

彼女の言うあの人、そして視線の先にある棺桶。

言いづらそうにするゼーレを見て、シリエジオは手を上げて制する。

 

「今でなくても構いません、話せる時が来たら教えて下さいませ。…取り敢えず私と共にここを離れましょう。傍を離れないよう、お願いしますね?」

 

「う、うん…!」

 

軽々と棺桶を背負い、シリエジオの後ろに続くゼーレ。

現世と黄泉、伝説の魔剣士、悪魔。

何もかもに繋がりが見出せない騒動は未だ終わりを見せない。

だが忘れてはいけない。この船は…まるで生きているかのように動く。

迷い込んできた者達を強引に、そして確実に黄泉へと送る為に動いているのだ。

それはまるで…そう、絶海の幽霊船(Ghost ship in the sea)の様に

 

 

一方、島の表側。

ギルヴァらが島の裏側へと向かってから一時間が経過していた。

今の所、騒動を知っている者を省けば、このバカンスに参加している者達には感づかれてはいない。

時々シーナが不安げな顔を見せたりしているのだが、それも気付いている様子ではなかった。

その時、シーナの影に潜む悪魔『セイレーン』が姿を現した。

 

「セイレーン?どうしたの」

 

「いえ…少し知っている気配がしましたので」

 

「知っている気配…?」

 

セイレーンもシーナから島の裏側で起きている騒動の事は聞いている。

一応シーナの護衛として影に潜んでいたのだが、どうやら知っている気配を感じ取って出てきたらしい。

ギルヴァ達が動いている為、増援を送る必要ない。

だが事態を早急に片付けるのであればセイレーンの力が必要になると言えよう。

 

「少し待ってて、セイレーン。行くなら二人連れていってくれないかな?」

 

「?」

 

セイレーンの力を完全に知っている訳ではないが疑っている訳ではない。

とは言え、一人で行かせるのもどうかと判断しシーナは、とある二人へと声をかけに向かった。

暫くして彼女はセイレーンの元に戻って来た。

事情を聞いて、いつもの衣服へと着替え専用の装備を纏ったソルシエールとシャリテを連れて。

 

「まさかこんな時に出てくるとはね。空気を読まさ過ぎじゃないかな」

 

「とは言え、放置はできませんよソルシエール。私たちが何処までお手伝いできるか分かりませんけど、早めに終わらせるに越した事はないんですから」

 

分かってるさと肩を竦めながら答えるソルシエール。

何時もの笑みは浮かべてはいるが事情が事情という事もあって、纏う雰囲気は違っていた。

 

「さて、行こうか。タリンでは大暴れできなかったし、その埋め合わせをしないとね」

 

裏側の悪夢を終わらせる為、彼女達は動き出した。




すまねぇ…ジョカトグゥルム戦(作者の気力&話の流れ的に)は次回に持ち越しです。

シリエジオがカノーネ・ランツェを最大出力でぶっ放した事により船体に大きな穴が空きました。そこから見える景色は現世と黄泉との間に出来上がった世界が広がっております。つまり今見ている外の光景は幻であり、本当はそういう世界が広がっている訳です。

そしてまた、シーナからの増援として、セイレーン、ソルシエール、シャリテが参戦致します。援護が必要なところがあれば言ってくださいまし。詳細等を説明いたしますので。

今回登場した少女、ゼーレちゃんについて軽く説明いたします。

:ゼーレ
白いドレスに帽子、赤い瞳を宿した銀髪の少女。
右腕に巻き付けた鎖と繋がった棺桶を何時も背負っている。
どうやら今回の騒動について良く知る少女らしいが…?

という訳で次回ジョカトグゥルム戦!!ではではノシ


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Act248-Extra M.O.S back story Ghost ship in the sea Ⅴ

―狩人と相対するは幾多の手、幾多の指を持つ彼女―


船の船倉部は見る影も無くなるほどに荒れ果てていた。

巨体を誇るソレは数多の手が、数多の指が嵐の如く暴れ、自身の縄張りに入った愚かな獲物を水底に引き込もうとする。

一見すれば無造作。

しかしあらゆる角度から、死角を狙い、逃げ道を絶つ様に触手が振るわれ、相手を貫かんとする槍の様な一撃が繰り出され、相手に近づかれぬように触手を自身を守る盾として、そして体から毒を放ちながら自身を覆うと言った戦法はジョカトグゥルムという悪魔が決して低級悪魔では無いと指し示していた。

だが、幾ら大型の悪魔と言えどこの四人を狙ったのは間違っていた。

白夜叉と言われる装備を纏ったアイソマーがジョカトグゥルムが有する触手を再生不可能なまでに至らせる程の強烈な一撃を浴びせ、女体部分が怯んだ所を見逃すことなくストライクEと呼ばれる戦闘用デバイスを纏うM4とブレイズレイブンと呼ばれる戦闘用デバイスを纏ったグリフォーネが強烈な銃撃と剣撃を与える。

この状況からして分かる通り、デビルハンターであるギルヴァが手出ししなくても、三人は大型悪魔相手に上手く立ち回れている様であった。

 

―おーおー…派手にやってんなぁ。こりゃ俺たちの仕事なくなるんじゃねぇかな

 

「アレがそう容易く狩れる相手だと思うか?」

 

―いんや、全く。確かにあの嬢ちゃんらの攻撃は凄まじい。触手は一本使えなくしたし、怯んだ所を目掛けて銃撃やら剣撃を与えている。傍から見れば優勢に見える…だがな──

 

 

 

―その程度でやられる様なら、悪魔なんてモンはとっくの昔に滅んでるだろうさ―

 

 

蒼の言葉通り、あれだけの攻撃を受けていたにも関わらずジョカトグゥルムは動き出した。

展開していた全ての触手を一気に動かし、何とジョカトグゥルムは自身さえも潰しかねないにも関わらず、傍にいた三人へと目掛けて全ての触手を振り上げ、圧殺しようとしていた。

迫りくるそれは触手と言うより壁そのもの。

その場から離脱しなければ、一撃で葬られ、ジョカトグゥルムの餌へと成り果ててしまうだろう。

それが分かっているからこそ、三人は後退しようとするもジョカトグゥルムは口から毒を吐いて三人が逃げ出すのを許さない。

その間にも壁はすぐそこまで迫り寄ってきていた。

 

「不味い…!」

 

外からでは分からないものの、M4の表情は険しかった。

両手に持つ二丁の銃ではこの触手を貫けない。だがストレージにある武装を取り出す暇もない。

両掌や両爪先、踵裏に内蔵に内蔵されたアンカーランチャーを使って場を離れようとしても、ほぼ逃げ道がなくなっている。

 

「こ、のっ…!」

 

「や、ろうっ!」

 

ブレイズレイブンを纏い、刀の形をした単分子カッターを構えたグリフォーネと薙刀を携えたアイソマーが逃げ道を作ろうと触手へと斬りかかる。

しかし刃がその触手を完全に斬り落とす事は叶わず触手の中ほどで止まってしまい、グリフォーネは苦悶の表情を浮かべ、対するアイソマーは驚愕の表情を浮かべた。

 

(さっきは行けた筈…!何故!?)

 

こればかりはアイソマーも分からない事であったが、悪魔にも魔力を保有する者も存在する。

それは今相対しているジョカトグゥルムもその例外ではない。

先ほどまでは通ったであろうアイソマーの斬撃も攻撃を受け続けた事により激怒したジョカトグゥルムの魔力量が増大し触手も魔力によって強化された事が一撃で斬り落とせなかった原因であった。

 

「一撃で駄目だったとしても!」

 

原理は分からずとも一撃では触手を完全に斬り落とせないと理解するとアイソマーは触手へと向かって次々と斬撃を叩きこんでいく。

一撃で無理だったとしても、何度か攻撃を与えれば斬り落とせると判断した為である。

だがそれでも触手は斬り落とせない。アイソマーの顔に焦りが浮かんだ時。

 

「落雷注意だ」

 

「え?」

 

驚きの声を上げるアイソマーの頭上を駆け抜けるは金色の一閃。

闇を切り裂き、触手の壁を裂き、轟音と共に雷光はまるで濁流の様にジョカトグゥルムの女体部分に向かって迸った。

周囲に眩い黄金の光が咲き誇り、巨体を誇る悪魔は落雷により身体が痺れ、まともに動かす事が出来なくなる。

突如として起きた光景に呆然とする三人。

そしてその視線が向く先にはいるのは、愛刀の無銘ではなく雷光を放ち続ける籠手と具足『フードゥル』を装備したギルヴァただ一人。

彼の視線は雷の一撃で動けずにいるジョカトグゥルへと向けられていた。

 

「い、一撃で…?」

 

「うっそぉ…」

 

たった一撃であの悪魔を黙らせた。

その事実にM4もグリフォーネも驚きを隠せない。

 

「おまけにあの触手を全部斬ってるし…。いや、斬ったというより裂いたというのが正しいのかな」

 

本体と別れた触手を興味深そうに見つめながらアイソマーはあの雷撃が斬ったのではなく裂いたのだとそう判断する。

そしてその答えは彼女の知らない所で当たっていると言えた。

雷撃鋼『フードゥル』の持つ雷は性質の異なる様々な雷を発生させる事が可能で八種類の雷を発生させることが出来る。

その特徴は日本の神話時代から伝わる雷神、八柱から連なる黄泉国の神から来ているらしく、それを参考に魔帝は八種類の雷を操る悪魔を考え、生み出したのがフードゥルである。

最も2000年以上経った今、それの特徴を知る者はフードゥルを生み出した魔帝と本人であるフードゥルと、その使用者であるギルヴァ以外いないのだが。

それはさておき。

雷撃をまともに受けたジョカトグゥルムであったがまだ戦意喪失はしていなかった。

目の前に立つギルヴァを食らおうとしてその口を大きく開き女体部分を勢いよく伸ばした。

 

「…」

 

だがギルヴァは焦る事無く、エアトリックでその場から離脱。

ジョカトグゥルムの攻撃は外れ、生まれた一瞬の隙を見逃さなかったM4がギルヴァと入れ替わる様にして、ジョカトグゥルムの前に飛び出す。

宙で側転しつつ両手に携えた二丁の銃『ビームライフルショーティー』をジョカトグゥルムへと向けた。

 

「この距離なら…!」

 

二丁の銃がまるで曲を奏でるが如く、次々とその銃口からビームを吐き出した。

射程こそは短いが連射性能は高い。ましてやそれが二丁となれば、銃口から吐き出される光線は最早光の嵐へと姿を変える。

襲い掛かる弾幕。寸分狂わずの射撃は的確にジョカトグゥルムのダメージを負わせる。

これだけでも十分と言えるが、M4は更なる攻撃を繰り出す。

スラスターを吹かし態勢を変え、そこから体が捻り回転しながら銃撃を浴びせる。

踊るように、そして華麗に銃撃を浴びせるその姿は本当にM4がやっているのかと思いたいが、本当に彼女がそれをやっているのだから疑う余地はないだろう。

 

「これだけやれば…!」

 

悪魔だって長々と攻撃を受ける様な相手ではない。

それが分かっていたからこそM4は攻撃を中断し、アンカーランチャーを射出。

先端が後方の壁へと突き刺さると、まるでサーカスのブランコの様に慣性に従い後退しつつ攻撃を与え、ジョカトグゥルムと距離を取る。

近くまで居た筈の得物が離れた事により、ジョカトグゥルムは叫んでその怒りを露わにしM4へ追撃を仕掛けようとした。

だがこの時、ジョカトグゥルムは気付かなかった。

悪魔を仕留めんと迫る二つの影に。

 

(狙うはただ一つ)

 

両肩、腰部に備えられたスラスターから噴き出すはプラズマ化した推進剤。

それまるで焔を宿した光の羽のようで、それを纏いながら渡鴉(レイヴン)の名を宿した青き侍は刀身を鞘に納めた刀の柄に手をかけ、只々真っ直ぐと高速で突進しながら相手を見据える。

そしてその隣で青き侍と共に駆け抜けるは白き存在。

 

(それ以外は要らない)

 

両腕を多関節機構の付いた爪付きの戦闘用義手、両脚を爪などの近接武器が付けられた獣脚型の戦闘義足にし、胴部などの各所に装甲を取り付けられた近接特化エース仕様装備というその姿は何処か鎌倉武士を彷彿とさせ、携えた薙刀は凄まじいまでの切れ味を有する。

顔を般若の面で隠し、白き装甲を纏いジョカトグゥルムへと迫るその姿は正しく『白夜叉』というのが正しいだろう。

 

((だから…ッ!))

 

青い侍と白夜叉がすぐそこまでに来ている事に気付くジョカトグゥルム。

だが気付くには遅すぎると言え、ジョカトグゥルムが迎撃態勢を取る前に二人は地面がめり込む程に勢いで飛び上がった。

侍の持つ刀の鯉口が切られると鍔と鞘の間からは淡い銀色の刃が僅かに姿を晒され、白夜叉が構えた薙刀の刃が悪魔を死を告げる為に静かに輝きを放つ。

狙う一点、ただ一つ。

それ以外はいらない。確実に仕留める為であれば、そこ以外狙う必要がない。

 

「…!?」

 

首を獲らんと得物を携え迫る二人の姿。

その姿に、ジョカトグゥルムは恐怖というのも覚えた。

否…無意識の内に覚えてしまっていた。

悪魔であるジョカトグゥルムには芽生えたその感情が何なのか分からない。

だがそれを"恐怖"と知るには時間が無さすぎた。

何故ならば──

 

「その…!」

 

「首を…!」

 

二人の鬼がジョカトグゥルムの眼前で、その首へと目掛けて既に得物を抜き放っていたのだから。

 

「「置いて逝けええええッッッ!!!!!」」

 

風を、音を、全てを置き去りにして放たれるは裂帛の一撃。

鋭き二振りの刃は魔力によって強化されたジョカトグゥルムの首に容易く喰らいつき、一閃。

身体を別れた頭が空を舞い、断たれた体からは鮮血が吹き上がり、雨となって降り注ぐ。

頭を失った巨体の悪魔は断末魔すら上げる事も許さないまま地面へと崩れ落ちていき、肉体が静かに塵となってこの世から消え去っていく。

そして消え去る悪魔の最期の姿を背に地に降り立つは二人の鬼。

刃に付いた血を払い落とし、静かに息を吐いて構えを解く。

見事悪魔を斬った二人の元へと戦闘用デバイスを解除したM4が駆け寄り、褒め称える。

あんな化け物を相手にして見事勝ったのだから、無理もない。

M4に褒め称えられ、何処か恥ずかしそうにする二人のその様子を遠くから見つめていたギルヴァはフードゥルを解除する。

だがその表情は、その雰囲気は警戒を解いておらず、彼はそっと後ろへと振り向いた。

そこに広がるは暗闇。その暗闇の中で歩み寄ってくる何かがあった。

その気配に気付いた三人は即座に身構え、ギルヴァはジッと歩み寄ってくるそれを見つめる。

 

「良くやるものだ。そこだけは誉めてやろう」

 

暗闇の奥から姿を現すは、二振りの大剣を携えた純白の彫像の様な悪魔であった。

ジョカトグゥルムとは違い、高い知能を有するのか、M4らにも分かる言葉で先ほどの戦闘を湛えた。

だがその雰囲気は決して仲間になりに来たと言い難く、四人に対して静かに殺気を放っていた。

 

「…」

 

無銘の鍔に親指を押し当てようとするギルヴァ。

その時、蒼が彼に待ったと声をかけ、彼の行動を制した。

 

―悪いが俺に任せてくれねぇか。アレとは知り合いでね

 

(…良いだろう)

 

蒼自ら出る。

であれば自身の出番はないと判断し、ギルヴァは蒼が憑依したドッペルゲンガーを展開。

純白の悪魔を見据えると蒼は軽く首を振った後ギルヴァの前に立った。

その手にはティアが持つ大剣『レプリカント』と同じ形をした魔力で錬成された大剣。

それはタリンでの作戦で幻影が蒼の記憶を勝手に覗き込み作った二振りの大剣。その内一つはティアへ、そしてもう一つは蒼が有しており、何処から引っ張り出してきたのか、それを軽々と肩に担ぐ。

 

「久しぶりだな、バアル。俺の事、覚えてんだろ?」

 

「その声…まさか!?」

 

「ああ。そのまさかさ」

 

担いでいた大剣を振り下ろし、構える蒼。

本来の姿ではないとは言え、その姿は彼が魔界の魔剣士であると頷ける程の説得力があった。

 

()()()に代わって相手してやる。死ぬ気でかかってこい」

 

魔剣士()魔剣士(バアル)

本来の世界から隔絶された世界の海を漂う幽霊船で、その戦いは静かに幕を開こうとしていた。




因みにこちらでは描いてはおりませんが、ジョカトグゥルムの持つ触手の一つをアイソマーちゃんがぶった切ってくれた模様です。
という訳でジョカトグゥルム戦はこれにて終了です。
M4、グリフォーネ、アイソマーの扱い、こんな感じで良かったんやろうか…。

次回は…蒼対バアル。
魔剣士対魔剣士の戦い。ついでに髑髏の騎士の正体についても判明します。

ではでは次回ノシノシ


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Act249-Extra M.O.S back story Ghost ship in the sea Ⅵ

─darknight vs darknight─


もし、その場所が船の船倉部ではなく何処かにある塔の頂上だとしたら、今ギルヴァら四人の前に繰り広げられる戦いはまさに頂上決戦と言うに相応しい光景が広がっていると言えたであろう。

そう思えてしまう程に、魔剣士同士の戦いは熾烈を極めていた。

 

「はあぁッ!!」

 

両手に持った二振りの大剣による連撃と共に純白の彫刻のような悪魔は蒼へと迫る。

力強く、そして素早く。

放たれる全ての攻撃が即死へと繋がる死の嵐へと変じていき、対する蒼は襲い掛かる攻撃を受け流し、最低限の動きのみで致命的と成り得る攻撃を躱していく。

 

「その肉体を無くしても尚、未練がましく生きているとはな!恥というのも知らんと見える!!」

 

「おいおい、テメェが吐く台詞はそれじゃあねぇだろう、よッ!!」

 

一瞬の隙をついて攻撃を弾き、地を蹴り蒼は突進。

先ほどとは打って変わり、蒼が攻勢にへと出る。

 

「寧ろこっちは、ああなっちまったテメェの弟について聞きたいんだがなぁ!!」

 

「ッ!」

 

二振りの大剣と魔力で錬成された大剣がぶつかる。

激しいまでの剣戟。火花が散り、剣風が飛び、鍔迫り合いへともつれ込む。

拮抗する力。お互いに一歩も引かず、にらみ合う両者。

 

「知らねぇとは言わせねぇぞ、バアル。知ってることは洗いざらい吐いてもらうぞ!」

 

「ッ…ならば!!」

 

蒼を押し飛ばすバアル。

蒼の態勢が崩れた所を目掛けて両手の大剣を突き立て突進。

 

「知りたくば俺に勝って見せろ!あの者から剣技を教わったという貴様がな!!」

 

「んなら、そうさせてもらう…さッ!!」

 

瞬足から放たれる突きを大剣で受け流した後、一歩後退する蒼。

そこから大剣を突き立てながら突進。一瞬にして間合いを詰め、強烈な突きを放つも防がれる。

が、そうなる事を見越していたのか蒼は手にしている大剣の特性である変形機構を利用する事にした。

剣幅で切っ先は受け止められていたとしてもお構いなし。蒼の意思に反応し、大剣は刀身を自ら勢いよく前進させ、その姿を大槍へと姿を変えると二撃目の突きを放って防御態勢にあったバアルを後ろへと吹き飛ばす。

だがバアルはすぐさま態勢を立て直し一回転。着地した後、すぐさま蒼へと突撃する。

両手の大剣が蒼へと振るわれ、躱され受け流されがらも攻撃をし続けるバアル。

一方的に攻めていくバアルに蒼は只々防戦に徹する。そんな姿にバアルが叫ぶ。

 

「やはり貴様は所詮この程度でしかない!!肉体の無い雑兵など敵ではない!!」

 

「…雑魚、ねぇ」

 

バアルが口にした台詞を繰り返す様に呟く蒼。

肉体が滅んだ今、この仮の姿では出来る事はそう多くない上に本来の姿、肉体すら失っているという点については己の行いによる代償である事は蒼が一番理解している。

だが…だがしかしだ。

己が持つ力がこの程度だと思われるのは流石に黙っている訳にはいかなかった。

バアルの攻撃を防ぎ、その場から離脱し後退する蒼。

逃がさんと言わんばかりにバアルは突進し蒼との距離を詰めようとする。

迫ってくるバアルを見据えると蒼は静かに大剣を構える。

そして大剣の柄を軽く握り直した直後、ソレは起きた。

 

(本当なら…)

 

赤黒い稲妻が奔る。

仮初の体から放出されたものではない。

寧ろ魔力で構成されたその体から魔力が放出される事すらありえない。

 

(最初に見せるのは相棒(ギルヴァ)か)

 

再び赤黒い稲妻が奔る。

まるで今起きていることが紛うことなき現実である事を示しているかのように。

 

(可愛い弟子たち(アナとティア)と決めてたんだが仕方ねぇ。ちょいと──)

 

嘘偽りのない思い。

故にこのタイミングで見せるのは蒼にとっては不本意なのだ。

何故ならばこの力を使う事を禁じた己との誓いを破る事になるのだから。

そうだと分かっていながらも、仮初の体から放たれる魔力は収まる気配を見せない。

 

(本気出すか)

 

三度目となる赤黒い稲妻が奔った。

先ほどよりも激しく迸り、蒼の周りに転がっていた残骸を切り裂き、そして空間が振動する。

何かが起きようとしている。その様子をギルヴァらが静かに見つめる一方で身構えていたバアルは、何かに気付いたのか蒼へと向かって叫んだ。

 

「ありえん…あり得る筈がない!!何故だ!?何故貴様からこの気配が感じられる!?貴様は…貴様は何者だ!?」

 

バアルの台詞の意味。

それを知るのは蒼のみ。

 

「おいおい、さっきテメェが言った台詞をもう忘れたのか」

 

だが彼は答えない。

 

「知りたくば俺に勝って見せろ…そう言ったのはお前だぜ?」

 

否、最初から答えるつもりなどなかった。

 

「んじゃ──」

 

腰を落とし、構える蒼。

鋭い双眸がバアルを捉えると蒼は静かに口を開く。

 

「行くぞ」

 

開幕の合図が告げると蒼は勢いよく地を蹴った。

刹那、地が爆ぜ瓦礫が吹き飛び、まるで流星の様な速度でバアルへと間合いを詰める蒼。

迎撃として放たれた斬撃を容易く躱すと蒼は大剣の切っ先を前へと向け、勢いよく突きを放った。

迫る突きに対して二振りの大剣で防御態勢へと移行しようするバアル。

だがこの時、バアルの体に異常ともいえる様な感覚が流れた。

 

(何だ…!?)

 

迫ってくる一撃。

防御すれば何ら問題にならない

しかしそれが間違っていると言われている様な感覚。

一瞬の迷い。

その間にも刃は迫ってくる。

そして自身の顔と刃との距離感がほぼ寸分まで来た時、バアルは己がすべき行動を選んだ。

バアルは防御態勢を取ると言う今までのやり方ではなく、その感覚が伝えてくるものを信じる事にし彼は無理やり体を反らす事で蒼の攻撃を躱した。

そして次の瞬間、不可視の刺突がバアルの顔の横間近を駆け抜けていき、彼の後方斜め上の壁に直撃、同時に土埃が舞い上がり強烈な破砕音が鳴り響くと、不可視の刺突はあろうことか船の船首側のデッキ…アナ、ネージュ、M16、M1887ら四人が居た場所まで貫通、巨大な一本のトンネルを作り出してしまった。

 

「な…!?」

 

「呆けている場合か?」

 

「!…ちいぃ!!」

 

突き出された大剣へ目掛けて右手に持った大剣を振り上げて弾き飛ばし、回し蹴りを叩きこむバアル。

後ろへと吹き飛ばされるも蒼は軽々と受け身を取り、大剣を逆手で持ち接近。

振るわれた横薙ぎを身をかがめる事で回避し、攻撃へと移行。

姿勢が低い状態を維持しつつ体を寝かしそのまま回転から斬撃を浴びせると態勢を立て直しながら姿勢を高くして横薙ぎから慣性を利用して後ろ回し蹴りを二回叩き込む。

そのまま流れる様な華麗な剣技を次々と見舞った後、回転からの一撃を浴びせバアルの持つ大剣を破壊。

連続してダメージを負った事により片膝をついてしまうバアル。

迫る刃。大剣が破壊された今、抵抗する間もなければ、その力もない。

だがせめて、せめてもの一撃を。

その思いがバアルを動かせ、彼は最後の力を振り絞って蒼へと飛び掛かった。

 

「ウオオォォォッ!!!!」

 

「最後まで諦めねぇってか…ホント、テメェらしいなぁ!!!」

 

だが伸ばされた手が蒼に届く事はなく。

振り下ろされた大剣の刃がバアルの体に歪みのない真っ直ぐな斬撃を刻んだ。

訪れる静寂。静かに崩れ往くバアル。大剣に付着した血を振り払い、背に収める蒼。

その光景は言わずもがな、蒼が勝利した事を指し示していた。

 

「くっ…ふふっ……流石だな」

 

だがバアルは完全にはやられた訳ではなかった。

致命傷を負ったにも関わらず体に鞭打って立ち上がろうとするも、それすらもままならない様子だった。

そんな姿を見かねてか蒼はバアルに歩み寄り彼の体を起こすと近くにあった瓦礫に凭れさせる。

二人の様子を見て戦闘は起きないと確信したのかギルヴァは蒼の傍へと歩み寄り、それにグリフォーネ、M4、アイソマーも続く。

全員が揃ったのを確認した蒼はバアルへと尋ね始める。

 

「手始めに聞くがあの髑髏の騎士の正体。アレ、お前の弟であるモデウスだろ」

 

「その通りだ…。まさか魔界からあんなもの…わが師を打ち倒す為に作られた魔剣士もどきと、あの剣を持ち出すとは思わなかったがな」

 

「何故そんな事をしたのという理由ってのが…魔剣士スパーダの力を求めて、か?」

 

その問いにバアルは静かに頷く。

対する蒼はやれやれと呆れた様な声を上げる。

 

「あの戦いから2000年…2000年待ったのだ。魔界にも人界にもつかないまま、スパーダを待ち続けた…」

 

「けどあいつは現れなかった。おまけにお前以上に剣の実力があったモデウスはスパーダの後継者とも言われたにも関わらず、剣を捨てたんだったな?」

 

「ああ…。あいつは俺の邪魔にならないように自ら剣を捨て、俺はあいつに新たな生き甲斐と目標を与える為に…スパーダの力を欲した。だがモデウスも剣を捨てたとしても剣士だった事には変わらぬ。故にその性までは捨てられずにいた…。いつしか俺以上にスパーダの力を欲するようになっていた。…そうすれば今度こそあの人からの期待に応えられるからな…」

 

「んで?魔帝とやらが作った訳の分からない廃棄物と一緒にあの剣まで持ち出したっと。まぁ後は大方想像がつく。廃棄物を取り込んだモデウスは暴走状態に陥ってしまい、それを何とかして止めようと思いお前は行動していたって訳だ」

 

「…ふっ……相変わらず、想像力は豊かだな…」

 

「こっちに来てからというものの頭も柔らかくなったんでね。お勉強万歳ってやつさ」

 

肩を竦める蒼につられて、バアルも僅かに笑みを零す。

雰囲気が少し和やかになった所でグリフォーネが手を挙げた。

髑髏の騎士の正体は分かったがそれ以外が分かっていないからこそ、今聞こうと判断した為である。

 

「それじゃあ、あの弟さんを倒せばこの騒動も収まる?」

 

「いいや、モデウスを討った所じゃこの騒動は収まらんだろうさ。何せモデウスもバアルもこの怪異と化した船に巻き込まれた方だからなぁ」

 

「え?」

 

ここで出てくる新たな言葉。

怪異と化した船。

どういう事なのか首を傾げるグリフォーネの傍でギルヴァが口を開いた。

 

「浜辺で見たあの船はただの入り口か」

 

「正解。ただの幽霊船と見せかけて、興味本位で入って来た奴を何らかの音か気配でこの怪異の船へ誘い込む。それがお前が言っていた悪魔とは異なる気配の正体ってやつで、ついでに言うなら俺たちが居るこの船が漂っている海は言うなればあの世とこの世に出来た世界に存在する海だ」

 

何故そこまで分かるのか。

肉体の持たない蒼があの世とこの世の狭間に行った事があるというのがあるのだが、他のもう一つあった。

それがかつてタリンでの戦闘でイグナイトトリガーを発動させる分だけの魔力を届ける為にアナへと潜り込み共闘した際に、ヘカトンケイルの腕を斬った時に起きた、加速だけであの次元の狭間に飛び込んでしまったあの時の事が大きい。

アナが飛び込んでしまったあの時、実は蒼はほんの僅かにだが存在そのものが消えかけそうになっていた。

後にどうにか復帰し、アナに心配をかけまいと己を維持できるように修復しながら彼女を支え続けていた訳であるのだが、どうやらあの時、あの世とこの世の世界に来てしまったらしく、そこで瘴気で覆われた海を漂い続ける船を目撃しており彼はその気配を覚え、その正体も見抜いていたのだ。

 

「そういやこの手のやり口は魔界にもやっている奴がいたな。確か…」

 

「セイレーンだろう…。やり口も似ている。だがこれはセイレーン単体によるものではない…」

 

「ハッ。流石は2000年の間、アイツを待ち続けたヤツだ。…確かにこれはセイレーン単体で出来るもんじゃない。寧ろこの船は…」

 

「既に死した…セイレーンの残留思念が形を成したものだろうな……」

 

「となりゃ、原初のセイレーン様も動き出している頃合いか。身内の事となりゃアイツも黙ってはいられんだろうしな」

 

魔界出身者である二人の会話が盛り上がる一方でM4、グリフォーネ、アイソマーは困惑したままであった。

話についていこうにしても、訳が違い過ぎてついていけない。

だと言うのに話は何度も別の物へと切り替わるのだから余計についていけない状態だった。

 

「さて……そろそろお別れか?」

 

「ああ…もう肉体を維持できん様だ」

 

その台詞に全員がバアルを見る。

よく見れば爪先から頭へと向かって体が塵とへと化し始めていた。

その状態が示すことなど一つしかない事をこの場にいる全員が理解していた。

 

「…最後に聞こうか、片割れの魔剣士」

 

「何だ?」

 

「……貴様はわが師であるスパーダ本人か?」

 

「…」

 

その問いを口にしながらもバアルとて確信がある訳ではなかった。

だがあの時、蒼が放った赤黒い稲妻から感じられた気配がそう思わせるだけの理由に至った。

だからこそ聞きたかった。もし彼が本人であるなら、己が知らない事を聞けるかも知れないのだから。

 

「…想像にお任せするさ。自分が見出した答えで納得しな」

 

「それも…そうだな……」

 

体の半分が塵と化していく。

バアルは静かに笑みを浮かべると最後に自身が成せなかった事を蒼に託すことにした。

 

「弟を…たの、む……」

 

それだけを伝えると彼の目が閉じられる。

力尽きた体は静かに横へと倒れ、そして塵へと化してバアルは消え去っていった。

残されるは四人。つい先ほどまで彼が居た筈の瓦礫には誰もいなかった。




という訳では、はい…。
まず謝罪を。
ホント遅くなり申し訳ございません!!!
いや、もう10月でっせ…どんだけ時間かかってんのよ…。
自分、マジでコラボ主催するのはやめたほうがいいかも思いつつある訳でございますが、今回のコラボはキチンと終わらせるよう頑張りますよ!!


さて話は変わって…。

今回でこの船の正体、髑髏の騎士の正体が明らかになりました。
次回はシーナからの増援として来たセイレーン、ソルシエール、シャリテらを当てた話を書こうと思います。
多分この三人と激突する敵が裏編のラスボスとなり、皆様をラスボスがいる舞台へと誘導する描写を描くつもりです。

そして髑髏の騎士…モデウスに関しては裏ボスという扱いとします。
ギルヴァ、ネージュ…そして蒼が裏ボスの相手しますが、こちらに関しては強制ではなく、参加したい方だけという形をとらせてもらいます。
事前に裏ボス編に参加したいと言ってくれるとありがたいので…何卒宜しくお願い致します。

では次回ノシ


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Act250-Extra M.O.S back story Ghost ship in the sea Ⅶ

―ラストダンスの準備は入念に─


世界と断たれた異界の海を漂う船での戦闘が各所で起き、そして無事勝利を収めていく中でシーナから増援として送られたセイレーン、ソルシエール、シャリテもこの船の中に侵入していた。

ギルヴァらが通った道を辿るように暗い廊下を歩いていく中、セイレーンはこの船に入った瞬間にこの船の正体を見抜いていた。

 

(この気配…やはり我が同胞の…)

 

何故このような事にと思う彼女だが、心当たりが無い訳ではなかった。

 

(…)

 

それは遠い遠い話。

悪魔としての生き方を、同胞を、全てを捨てて誰にも知られる事無く人界へと降り立ち、人として生きる事を選択した一人の悪魔がいた。

事あるごとに起きる戦争、変わりゆく時代、世界が今に至るまでの長い年月…何百年という間に起きたその日の些細な出来事を胸の内で感じながら悪魔は生き続けてきた。

そしてある日を境にその悪魔は知ってしまう。

同胞が自身を残して、全滅してしまった事を。その遺体のいくつかが人界に流れてしまった事を。

何故全滅してしまったのか?その理由は未だに分からない。

日常は分からないままの日々へ。

時間は分からないだけで流れていく。

胸の内は分からないという感情だけで埋め尽くされる。

知りたくても知る事が出来ず。

捨てた故郷へ戻りたくても魔界へと戻る道は、伝説の魔剣士によって閉ざされてしまった為に戻れない。

だがそれでも何かをしなくてならない。

悩みに悩んだ果てその悪魔が取った行動は荒れ果てた世界へと旅に出る事であった。

その目的はただ一つ。人界に流れ着いてしまったという同胞の遺体を回収して弔う。

たったそれだけの為に悪魔…魔界において最初期にセイレーンという存在を確立し、セイレーンという種族を誕生させた最初の悪魔は世界を旅してきたのだ。

己が得意とする歌を封じ、それらを楽器へと変異させ奏でる事によって攻撃手段とし、それを行使することで危機を切り抜け、この力だけでは生き残る事が出来ないと分かった時は我流でありながらも剣術を覚え、時には静かに曲を奏でる事で明日に怯える人々に一時期的な安らぎを与えてきた。

そんな旅を続けてまた一人、また一人と同胞の遺体を見つけ弔い、そして同胞の遺体が最後の一人となった時、セイレーンは身を寄せていた廃れた教会で遠くから聞こえた痛みに苦しむ非業の少女達の声を聴く。

そして向かったのはタリン。そこから彼女の運命は変わり始めた。

あの場にいたグリフィンの指揮官…数体の悪魔を使役し、時を司る魔具を手に戦場へと出る彼女の影に潜み協力関係を築き上げる事で最後の一人である同胞の遺体の行方を知れるかもしれないという思いはあった。

 

(…罰か、或いは呪いか。そのどちらだったとしても私が成すべき事は変わらない)

 

そして偶然にもこの島にして、この船から同胞らの気配を感じ取った。

それも何らかの理由で死したはずの同胞らの気配と死んだと思われ人界に流れ着いたとされる同胞の遺体の気配をだ。

 

(全てが明らかになった時、私の旅も終わる)

 

終わりは近い。その結末が迎える時も。

どれ程歩いたか、どれ程の時間が過ぎていったか。

何年、何十年と続いた長い長い旅路が終える。

それを感じ取りながらセイレーンは静かに足を止めた。

 

「セイレーン?」

 

「どうかしたのかい?」

 

廊下を抜けて誰も利用しなくなったカジノに来た時、セイレーンが足を止めた事に気づいたのか先を歩いていたシャリテとソルシエールが足を止め声をかける。

だがセイレーンは反応しようとはしない。

首を傾げる二人だが、目を伏せ立ち尽くすセイレーンは同胞らのいる場所を探知しようしていた。

この船の正体。それは既に死したセイレーンらの残留思念が形と成したもの。

その成したモノがあの世とこの世の狭間にある世界の海を漂っていた。

外の世界から来た得物を誘い込み、迷い込んだ獲物は彼岸に送り込まれ黄泉の住民へとなってしまうか、或いは送られる前にセイレーンらの残留思念が形を成した船によってその命を奪われるか。

悪魔にとって人間の血は力の源。

だからこそ何も疑わない。何故ならそれが当たり前なのだから。

だからこそ持つ感情もない。何故ならそれが普通なのだから。

だからこそ機械の様に繰り返す。何故ならそれが生前の習慣なのだから。

それ故かセイレーンの残留思念は無造作に自身の気配とこの船を操る主の気配を放っていた。

それを逆探知する事で主がいる場所を探ろうとしていた。

 

(…船の奥。いえ、もっと奥…)

 

船内は魔術によって空間そのものが捻じ曲げられている。

その船体から想像できない程に空間は大きく広げられており、まるで自身の元にたどり着くのを拒むように迷宮と化している。

しかし初代セイレーンの意識はまるで導かれているように迷うことなく駆け抜けていく。

前を立ちふさがるモノなど無い。答えを知っているように意識は奥へと向かう。

 

(……捉えた)

 

意識が迷宮から広い空間へと出た時、彼女は確信した。

そこにこの船を操る主がいる事に。

主がいる部屋を探知し、ゆっくりとその目を開くセイレーン。

その様子を見ていたソルシエールが心配そうに声をかける。

 

「大丈夫かい?」

 

「ええ、ご心配には及びません」

 

何処からともなく彼女が愛用する特徴的な形をしたバイオリンを取り出し、奏で始めるセイレーン。

響き渡るは音色。音の一つ一つが情景を表し、彼女は美しくも儚い幻想を彷彿とさせる曲で散り散りとなった者達が此処にへとたどり着く為の道を作り始める。

船内を支配していた闇が光に塗りつぶされ、迷宮と化した船内はセイレーンが奏でる音によって歪んだ空間は彼女の意思を体現するように姿を変えていく。

 

「これは…!?」

 

「空間を書き換えているんだ。どうやら彼女はこの船の正体を見抜いているらしい」

 

驚きを覚えるシャリテの隣でソルシエールは冷静に状況を説明しながら、しかしと呟く。

作り上げられていくこの空間をゆっくりと見渡す。そして気付く。

今広がりつつあるこの光景はセイレーンにとって大事な光景であると。

 

(その大事な光景が教会とはね…)

 

姿を露わにするその空間はソルシエールが言ったように確かに大きく広がった教会であった。

並んだ複数のステンドグラスから入り込む光によって教会全体が神聖な雰囲気に包まれる中でこの空間の中央で儚げにバイオリンを奏でるセイレーン。

その姿は美しいという言葉だけでは片付けられない何かを感じさせるものがあって、そしてその音楽は迷宮とした船にて散り散りとなった彼らをこの空間へと誘うものとソルシエールがそれに気付いたのはこの直後であった。

 

 

ゼーレと名乗った少女と共に行動していたシリエジオは離れ離れとなってしまった仲間たちを探して移動していた。

だが迷宮と化した船内は扉一つ超える度に別の空間へと飛ばされてしまう仕組みになっているらしく、シリエジオはそれに気づいていた。

にも関わらず移動しているのは止まっていた所で意味がないと判断した為である。

 

「ん…?」

 

闇に包まれた長い廊下を歩いてた時、ふとゼーレが足を止めた。

 

「ゼーレ?どうかしましたか?」

 

彼女が足を止めた事により、シリエジオも足を止め声をかける。

 

「どこからか音楽が…。気のせい…?」

 

「音楽、ですか?」

 

今この場で聞こえるのは船体が軋む音と廊下を駆け抜ける風の音のみ。

それ以外聞こえないのだが、ゼーレにはどこかで曲が流れている音が聞こえているらしい。

彼女だけにしか聞こえていないのだろうかと思いながらもシリエジオは目を伏せ耳を澄ませる。

意識を集中させ、耳に入ってくる雑音だけを電脳を用いて取り除く。

それがほんの僅か数秒経った時、彼女の耳に何処かでバイオリンの奏でる音が入って来た。

 

(セイレーン?)

 

バイオリンでシリエジオの頭に浮かんだのはシーナの影の中に棲み付いている悪魔『セイレーン』だった。

もしこれがセイレーンによるものでは自分たちを呼んでいるものであればそこへと向かわなくてはならない。

だが船内は扉一つ超える度に何処か別の空間へと飛ばされる状態にある。

上手く合流できるだろうかと思うも移動しない訳には行かない。

 

「この音が鳴っている発生源へと向かいます。ゼーレ、くれぐれも私と離れないように」

 

「うん…!」

 

必ずたどり着く。

そんな思いを胸にシリエジオは廊下の奥に存在していた扉へと歩み寄りドアノブを握る。

ゆっくりとドアノブを捻り扉を開く。

その先に広がるはまた別の空間か、或いは何度も見た暗闇に包まれた長い廊下か。

だがその予想を裏切るようにして二人を迎えたのは、暖かな光と神々しさに包まれた教会でバイオリンを弾くセイレーンの姿と──

 

「シリエジオ!?」

 

「無事だったんですね!」

 

ブラウ・ローゼ隊のメンバーでありシリエジオにとって後輩に当たるソルシエールとシャリテであった。

二人へと歩み寄ろうとするシリエジオ。

その時、隣に立っていたゼーレがセイレーンを見て、ふと呟いた。

 

「…()()()?」

 

微かに聞こえた声。

それを決して聞き逃さなかったシリエジオは足を止め、ゼーレへと顔を向ける。

 

「今、なんと…?」

 

「え、あ…その…」

 

顔をそむけるゼーレ。

どうやら言いにくい話である事はその様子からしても、シリエジオの目からしても明白であった。

その証拠に彼女の小さな体は何かに怯えているように震えていた。

 

(い、言わなきゃ…!この人はずっと待っていてくれたから…!)

 

自身が知る事を、自身の生い立ちを、自身という存在を明かさなくてはならない時が来る。

それはゼーレも分かっていたのだろう。

そして彼女は意を決した様に顔をシリエジオへと向けドレスの裾を強く握りしめながら震える口を開いた。

 

「皆が来たら…は、話をさせて…」

 

「…分かりました」

 

そういうのであれば今、問い詰める必要はない。

だが震える彼女に傍に立ってはいけない理由はない。

シリエジオはゼーレへと歩み寄り、身を屈めると彼女の頭にそっと手を置いた。

 

「大丈夫ですよ。貴女の話を聞いて私たちがゼーレの敵になる事はないと思いますから」

 

「…うん」

 

その言葉に小さく頷くゼーレであるが、不安げな表情は未だ浮かんだまま。

そこにソルシエールとシャリテが歩み寄り、ゼーレの事を尋ねてきた為、シリエジオは他のメンバーが集うまでの間に二人にゼーレの事を紹介するのであった。

 

 

セイレーンが一曲分を引き終えた時、作り上げられた教会には散り散りとなっていた全員が集結していた。

髑髏の騎士によって分断された後、遭遇した悪魔を撃退し他のメンバーと合流する為に船内を彷徨っていた事が告げられた後、この船の正体、騒動を引き起こしている存在などについての話が持ち上がり、ギルヴァが髑髏の騎士に正体について説明した後、船の正体と船が漂っているこの世界について、そして自身の事についてセイレーンが説明した。

自身が知る全てを語った後、訪れたのは静寂。

無理もない。ただの幽霊船ではないと分かってはいても、この船が居る場所自体が誰が異世界だと気付くだろうか。

 

「そしてこの船を操る存在についてですが…恐らくそれは私以外のもう一人のセイレーンでしょう」

 

彼女から告げられた台詞に何人かが驚きの表情を見せる。

 

「ち、ちょっと待って。君以外のセイレーンは全滅した筈じゃなかった?」

 

「ええ。その認識は間違ってはいませんよ、ソルシエール」

 

「じゃあ尚のこと理解できない。君以外の、そのセイレーンはどうやって蘇ったというのさ?」

 

「それに関しては私の口からではなく…」

 

セイレーンの視線が、シリエジオの隣に立つゼーレへと向けられる。

それに釣られるようにギルヴァ以外の全員の視線が彼女へと向けられた。

視線が集中した事により一瞬肩を跳ね上げるゼーレであったが、シリエジオがそっと背中に手を回し落ち着かせ、それを見たセイレーンは微笑みながらゼーレへと伝える。

 

「貴女の口から説明していただけますか?ゼーレ」

 

「う、うん」

 

訪れた説明の時。

震えそうになる体を何とか抑えて、目を伏せながら深く深呼吸するゼーレ。

その姿に誰も急かすような真似はしなかった。

寧ろそれがゼーレにとっては良い方向に働いたのだろう。

意を決した様に伏せていた目が開かれ、彼女は語り出した。

 

「わ、私はお母様によって生み出された存在…そしてお母様を蘇らせた一人…」

 

ぽつぽつと彼女は静かに語る。

ゼーレ…本来の名はゼーレン・レットゥング。

その名は後から名付けられた名前であり元々は肉体を持たない霊的な存在で、この世界『狭間』と呼ばれる世界にて自身と同じ存在…姉妹と呼ばれる存在と共に静かに過ごしていた。

ある日、静かに過ごしていた彼女達の所に『お母様』と呼ばれる人物が現れ、特殊な力で肉体を持たぬゼーレやその姉妹を肉体を持つ存在として誕生させたそうだ。

肉体を持つ存在として確立されたのは良かったのだが、対する『お母様』は力を全て使ってしまった事により、まるでやせ細った老婆の様な姿になってしまった。

どうしようと迷い焦った時、『お母様』は彼女達にこうお願いした。

 

『ここに流れてくる"力"を持った魂を集めてくれたら私は元の姿に戻れて、貴女達を愛してあげられる』

 

"力"を持った魂。

それがどういったものかは詳しく語らなかったが、ゼーレ達は自分たちの為に頑張ってくれたお母様の為に、何よりも愛してもらう為に疑いもせず、この狭間に流れてくる"力"を持った魂を集め始めた。

肉体を復活させるには相当の数が必要だったらしく、ゼーレ達が『お母様』を蘇らせるにはかなりの時間を要した。

時には中々集められない事を謝って、時には他愛のない話をして、時には優しく頭を撫でて貰って、時には名前を付けてもらって。

そうして時間をかけて集めた"力"を持った魂が『お母様』を復活させる為の数に達すると、ゼーレは姉妹ら全員でその事を報告しに行った。

その報告を受け『お母様』は大層喜び、そして最後のお願いをした。

 

 

『ありがとう。それじゃあ──』

 

 

 

 

 

 

──死んでくれる?──

 

 

 

 

 

 

放たれた言葉を聞き返す間もなく、それは惨劇となってゼーレの目の間で起きた。

響き渡ったのは姉妹の悲鳴。

助けを求める声はその大きな闇の中で響いた咀嚼音によってかき消され、何故だと問う声は鋭いナニカによって体を切り裂かれる音によって消えていく。

地面に付着する血糊が生々しく響き渡り、泣き叫ぶ声は反響する。

切り裂かれ、食われ、逃げ惑い、そして消えていく姉妹達。

切り裂き、食らい、追い詰め、姉妹達を消していく『お母様』。

目を反らしたくなる様な現実を直視しこの時になってゼーレは理解した。

 

─『お母様』は私達を愛する気もなく、最初から利用して殺すつもりだったんだ─

 

それを理解し最後の一人となってしまったゼーレはその場から逃げ出し、その時から存在していた幽霊船へと逃げ込んだ。

どうにかしなくてはならない。そう思った矢先でゼーレは船内にあった『とある棺桶』を発見。

後にそれが『お母様』を止める術になると確信し行動していたのだが、時間は過ぎていく度に『お母様』は力をつけていき、そして自分では立ち向かう事すら無謀と思える強力な悪魔が迷い込んでいた。

力を持たないゼーレからすれば、それは絶望でしかなかったのだが偶然にもこの船が餌を求めるように現世にこの船への入り口を開いたことにより状況は一転。

彷徨う悪魔達を倒してもらう為に、『お母様』を倒してもらう為に強烈な気配を放って呼び寄せたのがギルヴァ達であった。

後に増援としてやって来た初代セイレーンに対してお母様と口にしたのは、彼女が『お母様』と同じ気配を放っていたらしく、ついそう言ってしまったのだとか。

 

「わ、私が知っているのは、これだけ…」

 

ゼーレが説明し終えると再び沈黙が訪れる。

『お母様』と呼ばれる存在、伝説の魔剣士 スパーダの弟子であり姿を豹変させた魔剣士『モデウス』…倒さなくてはならない敵が二体といて、それも強力な敵となればその沈黙が訪れるのも無理もないと言える。

誰しもがどうすべきかと迷った時、この男は動き出す。

 

「親の方は任せる。こちらはアレを始末する」

 

そう言って出入口だと思われる扉へと歩き出すギルヴァ。

扉付近の壁に背を預け、腕を組みつつ彼は口を開く。

 

「シリエジオ、ネージュはこちらに来てもらうが、お前はそっちは任せるぞ」

 

「仰せのままに。…生きて帰ったら貴方とネージュの二人と一緒に今夜の一杯は付き合ってくださいね?」

 

「良いだろう」

 

シリエジオが『お母様』を、ギルヴァとネージュは『モデウス』を相手にする。

セイレーンとゼーレはシリエジオ側である事は確定しており、ソルシエールとシャリテもシリエジオの方に就く様子であった。

だがその他の面々は少々迷っている様子らしく、それを見てギルヴァが口を開いた。

 

「少しでも生き残れる方を選ぶと良い」

 

激しい戦いになるのは誰もが理解している。

だが生き残れる確率が高い方を選ぶように言ったのはギルヴァなりの気遣いだったりもする。

最もそれに気づいたのが何人いるかは分からないが。

ともあれどちらを相手にするかの時間及び試験者 支援型による治療及び補給と各々の準備の時間が訪れたのは言うまでもなかった。




仕事疲れで執筆が遅れる、PCの不調で執筆が遅れる……もう大変だわ

まぁ、それは兎も角。
今回の話で分かる通り、ラスボス『お母様』戦と裏ボス『モデウス』戦のどちらかを選ぶ分岐を描かせてもらいました。
どうするかは参加者側で決めてください。

次回はラスボス『お母様』戦を描きます。
その次に裏ボス『モデウス』戦を描きます。

投稿はかなり遅くなりますが、何卒お付き合いの程よろしくお願いいたします。

では次回


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Act251-Extra M.O.S back story Ghost ship in the sea Ⅷ/Ⅰ

―母を名乗る者―


作り出された神聖な空間で己の身を、己の命を守るために手にする武器を整備する者達はゼーレの話を聞き、どのような感情をその胸に抱いたであろうか。

それを知るためならば問う事は出来るだろうが、そんな余裕がある筈もなく静かな時間は終わる。

ギルヴァ、ネージュ、アナ、グリフォーネ、蛮族戦士、アイソマーの五人は『モデウス』を討つべく、セイレーンが作り出した教会から出ていきその場に残ったメンバーで『お母様』を討つという形となった。

 

「さて、我々もご挨拶に向かいましょうか」

 

榴弾を装填したシルヴァ・バレトを背負い、シリエジオは残ったメンバーへとそう告げた。

全員が静かに頷き、歩き出そうとした時セイレーンは待ったをかけた。

 

「向こうから出向いてもらいましょう。"親"の言い訳を聞かせてもらう為にも」

 

そう告げるとセイレーンはその場でバイオリンを弾き始めた。

先程とは違い、バイオリンの音色によって彩られる曲調はまるで相手を誘うかのような雰囲気を醸し出す。

どこか聴き入ってしまいそうになった時、亀裂が奔る音が小さく響いた。

それを合図に曲は止まり、入れ替わるようにして空間に亀裂が奔る音が大きくなっていく。

また一段と、また一段と空間に奔る亀裂が大きくなっていく光景を見つめる一行に驚きはない。

寧ろこうなる事は分かっていたと言わんばかりの様子だった。

そして次の瞬間、亀裂は破砕音へと変わり、血のような赤黒い空間から船の主が姿を現す。

巨体に白い肌の女体部分、背中は保有する魔力によって生成された禍々しい色をした光の翼が放出されていた。

だが両腕と両足はまるでこの世のモノとは思えない程に醜悪なものへと化しており、頭上にはまるで天使の輪を彷彿させるような紋章の様なモノが浮かんでいる。

神々しさと禍々しさを混ざり合ったかのような存在…それがゼーレが言う『お母様』の姿であった。

緊迫した状態が広がった時、『お母様』の視線がセイレーンへと向けられる。

 

「この不快な音を奏でる者を始末しに来てみれば……ああ、何ということ。まさか貴女だったとは」

 

「お久しぶりです、我が同胞よ。最後にお会いしたのは私が魔界を去る前でしたか」

 

「ええ。それを最後に貴女は私達を捨てた。何とも愚かで殺す価値もない。一族の長であり、一族の恥」

 

その台詞にセイレーンは何も言わなかった。

悪魔としての生き方を捨て、人として生きるという道を選んだ身。

 

「そうでしょうね」

 

静かに目を伏せて、お母様の台詞に対して肯定を示すセイレーン。

 

「ですが後悔はしていません。この生き方こそが──」

 

伏せられていた目をゆっくりと開かれ、透き通るような水色の瞳が異形と化した同胞を見据えた。

その瞳からの放たれる眼光は決して鋭くはないが相手に顔を反らす事を許さない。

 

私という悪魔(セイレーン)が叶えたかった生き方なのです」

 

愚かと言われても、魔族の恥と言われたとしてもそれは覚悟していた事。

故に彼女が叶えたかった生き方の中には決して後悔は存在していなかった。

 

「愚か。実に愚か。最早会話すら成り立たない」

 

会話は無意味だと分かるとお母様の視線はセイレーンからゼーレへと向けられる。

 

「ああ、探していたのよ?ゼーレ。今まで何処に行っていたのかしら」

 

先ほどまでの様子から一転。

ゼーレへと向けられる言葉は気味が悪いと感じられるほどに優しさに溢れていた。

まるで性格が変わったのではないかと思えるほどの変わりようにゼーレの傍にいたシャリテが前に飛び出し、ベルフェゴールの装備である両肩に配置された外套型多目的兵装『ローブ&アーモリー』の中から『対魔用折り畳み式25mmライフル砲』を二丁取り出し、両手に携え狙いをお母様へと向ける。

しかしお母様はシャリテに目もくれず、そのままゼーレへと話しかける。

 

「皆、心配していたのよ?私も姉妹も貴女に会いたくて、ずっと探していたんだから」

 

「う、嘘を言わないで。皆、貴女に殺された…貴女に利用され、食われて死んでいった…!」

 

「何を言っているの?みんな、生きているわ。此処でずっと待っているのよ」

 

この時、一体何人が気付いただろうか。

お母様が微かに浮かべた笑みに。

そしてその笑みと共に行われる行動の意味に。

 

「そう…ずうぅぅっと…待っていたのよ」

 

ゆっくりと動き出す両腕。

その二つは腹へと向かっていき、鋭い爪を有した指が立てられるとあろうことかお母様は自らの腹を裂いた。

そこに痛みに対する声はなく、それどころかその行いに快感を覚える様な声と共に余りにも鈍く、生々しい音が反響する。

やがて白き女体の腹が大きく広げられ、その中身が露わになった時、誰しもが絶句した。

あったのは無数の遺体。

それも全員身長が異なり、その体格からして女性、或いは少女らの遺体の様である。

だがそれら全ての遺体は全身の皮という皮が余すことなく剥ぎ落されており、一部の遺体は最早原型すら留めていない。

そして全ての遺体が浮かべた最期の表情が悲痛に染まっていた。

この時、一部が気づき理解してしまった。

『お母様』が口にした台詞。

姉妹はずっと"此処"で待っていた。

その台詞とあの腹の中にいる全ての遺体。

二つが繋がった時、気づいた者達はこれはゼーレには見せてはいけないと判断した。

 

「ゼーレ、見ちゃ駄目!!」

 

気付いた何人かの一人であるアーキテクトがゼーレへと叫んだが時すでに遅し。

彼女の目は既に腹の中にあったものへと向けられていた。

 

「そんな……皆……いや…!やめて…!」

 

呼吸が乱れ、ゼーレの体は小刻みに震え止まる様子がない。

一本、一歩へと後ろへと下がり、彼女はそこにある光景を否定しようとする。

だがその光景は否定しようのない現実。姉妹らの死体が詰め込まれた腹の中という目を反らしたくなる様な光景に尻餅をつくゼーレにストライクEを纏ったM4A1が駆け寄り、抱きかかえる。

 

「しっかり!」

 

「はぁっ…!はぁっ…!」

 

震える体。嫌なくらいに脂汗が流れ出し、過呼吸を起こし出すゼーレ。

ゼーレに対する余りの仕打ちにM4A1は『お母様』を睨みつけ、その怒りは最早爆発寸前にまで来ていた。

だがそれは彼女だけではない。この場にいる全身が怒りを覚え、爆発しかけそうになっていた。

 

「ほら…皆、待ってるわよ?おいで、ゼーレ。お母さんを困らせ―」

 

「黙れよ」

 

銃声。

放たれた弾丸は母と名乗る醜い化け物の顔に直撃するも大して効いていない。

だが相手を黙らせるには十分とも言える様な一発だった事に変わりなく娘の元へと向かうの邪魔した挙句自身へと向かって銃弾を叩きつけてきた者を睨みつける『お母様』。

そこに居たのは白銀に染められた大口径大型特殊リボルバー『ウィザードズ・ノクターン(魔法使いの夜想曲)』を構えていたソルシエールの姿。

二本の縦に連なる銃身の上部の銃身からは硝煙の煙が上がっており、発砲したのが彼女である事は間違いなかった。

 

「おま─」

 

「黙れと言ったんだ」

 

またしても台詞を遮るようにソルシエールは二射目を放った。

巨体を誇るお母様に拳銃の弾丸では大した効果は無い。だがそんなものは彼女からすればどうでも良かった。

その口を二度と開かせない。そして黙らせる。ただそれだけの為に撃ったのだ。

 

「喋らないでくれ。その耳障りで不快な声を出すな、その口を開くな、粗大ゴミ(お母様)

 

ソルシエールの全身を纏う古びた黒い外套がゆらりと動き出し広がっていく。

やがてそれは大きな蝙蝠の羽へと姿を変え、背中と後ろ越しに展開し彼女の手には全てを切り裂かんとする大鎌が現れ、弧を描いた刀身は禍々しい魔力で帯び始める。

専用装備『ワーロック・シャルフリヒター』を戦闘形態へと移行させたソルシエールはウィザードズ・ノクターンをホルスターと納め冷たい瞳でお母様へと睨み大鎌を向ける。

 

「何が母親だ。お前如きが母親を名乗るな」

 

「人間の真似事しか出来ない存在が!!!」

 

片腕を振り上げ、ソルシエールへと向かって振り下ろすとする『お母様』。

だがこの時、『お母様』は気づくべきだったかもしれない。

ソルシエール以外にもう一人、怒りを爆発させて母の皮を被った化け物の顔面に巨大な鈍器を叩きつけようと突進する悪魔の存在を。

 

(許せない…!)

 

怠惰と好色を司る悪魔(ベルフェゴール)の名を冠するその兵装を纏う『慈愛』の意味を有した名を持つ彼女は手にした巨大な鈍器『対魔用大型戦槌』を軽く握り直し構えながらお母様を睨みつける。

 

(許せない…!!)

 

彼女…シャリテにとって生きている同胞はソルシエールしかいない。

その他の同胞は、とある理由で兵器へと変えられ討たれた。

当事者でなかったとしても、失った痛みが無い訳ではない。

経験した事が重なったとは言え、それを抜きにしたとしてもシャリテにとって『お母様』の所業は許せるものではなかった。

 

(許せない…!!!)

 

痛みを知り、悲しみを知った。

そこに残る辛さは計り知れないもので、それを知っているからこそ一人の少女(ゼーレ)が背負うには余りにも重すぎるだという事も知っている。

 

(許せないッ!!!!)

 

だからこそ許せない。

そんな運命を背負わせる元凶となった存在が許せない。

 

「はああぁぁぁぁっ!!!!」

 

振り放たれる一撃。

質量の塊とも言える戦槌の一撃はお母様の横顔に直撃。

凄まじい音を立てながら、その衝撃を物語る様に衝撃波が奔り巨体の『お母様』はたった一撃で部屋の端へと吹き飛ばされていった。

破砕音と土埃が舞う中で、全員が戦闘を開始する。

今回の元凶である『お母様』、またの名を『母ヲ名乗ル者』との戦いが幕を開いた。




はい…遅くなって申し訳ありません…。

仕事や仕事疲れ、そのほかなど執筆の時間が中々とれず・・・・。
おまけの一話に済まなかったという事態…。


本来であればラスボス戦は一話で済ませたかったのですが、こんなド外道は皆さんもぶちのめしたいと思いますので、その描写を軽くで良いのでお願いします。
皆さんの投稿、展開に合わせてラスボス『お母様』戦決着編を描きたいと思います。

お母様、またの『母ヲ名乗ル者』に関しての詳しい説明は一応記載しておきます。

・母ヲ名乗ル者
:初代セイレーンと同じセイレーンであり、『セイレーン』という種族が初代を残して全滅した理由を知る悪魔。"力"を有した魂を吸収した事によりその外見は本来の姿とと比べて大きく変わっている。
(イメージとしてはGOD EATER2 レイジバーストにて出てきたアラガミ『世界を閉ざす者』に近い。
両腕で薙ぎ払う他、魔力の刃を生成して敵の足元目掛けて展開するなど攻撃方法は多岐に渡る。
ずば抜けた耐久力を持つ反面、両腕と両足、顔は比較的弱点に相当する。

母ヲ名乗ル者やシリエジオ、ソルシエール、シャリテ、ゼーレなどこちらのキャラで分からない事があればいつでも言ってください。
返信は遅れますが必ず返します。

(今回コラボ作戦の活動報告に、母ヲ名乗ル者、ソルシエール、シャリテ、ゼーレの詳しい説明を記載しておきます。参考程度にどうぞ)

では次回ノシ


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Act252-Extra M.O.S back story Ghost ship in the sea Ⅷ/Ⅱ

─悪魔も泣き出す─


諸悪の根源。全ての敵。

母と名乗るすら烏滸がましい畜生に劣る存在『母ヲ名乗ル者』。

我欲の為だけに利用され、姉妹を失いながらも事態の解決しようとしていた唯一の生き残りである少女『ゼーレ』へと行ったソレは全員が押さえ込んでいた怒りを爆発させた。

シャリテが強烈な一撃を叩きこみ、『母ヲ名乗ル者』空間の端へと吹き飛ばした事によりから開戦の火蓋は切られた。

だがその一撃に何ともないと言わんばかりに『母ヲ名乗ル者』は起き上がり、そして相手をまるで見下すかのような言動に対して動き出したのが戦闘前にゼーレに少しでも前を向いてもらおうとして話しかけていたアーキテクトが発動時に自身に大きな負担がかかるシステムを発動させ、見た目が大きく変わったガングニールを纏い、神槍を構えた直後『母ヲ名乗ル者』に見せた一撃に続く様にして、『母ヲ名乗ル者』の行いを決して許さんとばかりにリヴァイルとM4、M16、M1887らにより熾烈な攻撃に加え、試験者 支援型による攻撃により前足をボロボロに破壊されナパーム弾によって全身を焼かれた事により状況は大きく傾いていた。

飛び交う銃弾と光、舞い上がる肉片と鮮血。

それはまるでこの悪魔を討たんとすべく、銃撃を、剣劇を与える者達の怒りを表現しているようだ。

 

「下らん!下らん!下らん!下らんッ!!!」

 

最初に見せた姿は見る影も無く、全身がボロボロになった『母ヲ名乗ル者』は叫んだ。

それだけ大きな声を出せるほどにその姿に反して未だ動ける様な状態であった。

その図体だけにあって耐久力だけはギルヴァとブレイクが討伐した『魔界の覇王』に次ぐと言えよう。

 

「繋がりも何もない、所詮は赤の他人でしかない存在に!ましてや人ですらない奴らの為に戦う貴様らなぞ滑稽でしかないッ!!!」

 

「滑稽でも何でも結構。お前を倒す事が出来るのなら、ゼーレちゃんの姉妹らの魂が解放されるのであれば喜んで滑稽の称号を貰おうではないか」

 

レパリーレン・コネクションの第三武装『ランナウェイ』による打撃を喰らわせたリヴァイルは突進するシャリテと交代するように後ろへと飛び退きつつその台詞へと向かって答えつつ、ランナウェイから第二武装『オールイン』へと変形させる。

巨大な十字架の両端に備えられた重火器。自身が持つチップを全て賭けるという意味を有したソレの長辺部分を『母ヲ名乗ル者』へと向けて攻撃を開始するリヴァイル。

大型のレーザーライフルとその下部に備えられたガトリングガンの双方による光と銃弾の弾幕が『母ヲ名乗ル者』へと襲い掛かるも、それに対抗せんと言わんばかりに『母ヲ名乗ル者』の転輪部分から光弾が放たれ、向かってくる弾幕を相殺していく。

だがそこに追い打ちをかけるように後方からの銃撃が熾烈なものへと転じ、最早光弾ではさばききれない程の弾幕が『母ヲ名乗ル者』へと食らいついていく。

 

「図に乗るなぁぁぁッ!!!」

 

相殺が無理なのであれば"盾"を用いればいい。

幸いにして"盾"は腐るほどある。

その胸の内でほくそ笑んだ『母ヲ名乗ル者』はすぐさま行動開始。

次の瞬間、先ほどまで激しかった銃撃は突如としてピタリと止んだ。

まるで()()()()()()()()()()()()()()()が自分たちの前に出てきたように突然の事だった。

 

「このド腐れ外道が!!!!」

 

そこに広がった光景にソルシエールは『母ヲ名乗ル者』へと向かって叫んだ。

無理もない。『母ヲ名乗ル者』はあろう事か姉妹らの遺体を自身の身を守る肉盾として利用したのだ。

 

「ハハッ…アッハッハッハ!!!そら、撃てばいいではないか?私を倒すのだろう?!」

 

勝ち誇ったように、そして相手はこの肉盾を撃てないという確信があるのか『母ヲ名乗ル者』は内包する魔力を用いて傷ついた体を修復し始める。

 

「……てよ…」

 

この場に声が響く。

ほんの僅かな、弱弱しい声だと言うのに全員の耳には驚くほどにはっきりと聞こえた。

誰しもがその声の方へと向いた時、アーキテクトが声の主の名を呼ぶ。

 

「ゼーレちゃん…」

 

呼ばれても答える事無く、ゆらりゆらりと歩むゼーレ。

()()()()()()()()()()()を引きずりながら。

 

「…めてよ…」

 

顔は下へと俯いている為、その表情ははっきりと分からない。

だがその頬を伝う涙は彼女の悲しみを露わにしていた。

 

「もう…やめてよ…」

 

その言葉は果たして『母ヲ名乗ル者』か、或いはあの悪魔を討たんとすべく戦う全員のどちらへ向けられたものかは分からない。

だが涙交じりに懇願するその小さき声は聞く者の胸を抉るような痛みが存在していた。

誰にも分かる通り、ゼーレの心は今にも壊れてしまいそうなはもう限界に達しつつあった。

 

「苦しませないで…」

 

もう会えないと分かっていて、既に死していることも分かっている。

それなのに何故ここまでの仕打ちを受けなくてはならない。

もう見たくないのだ。絶望に染まったその表情で今も尚苦しみ続けるその姿を。

 

「もうッ!!!これ以上ッ!!!!姉妹達を苦しませないでッ!!!!!!」

 

幼い少女の悲痛な叫びが木霊する。

胸を手で押さえ、その場で蹲るゼーレ。

胸の中でぐちゃぐちゃにされている様な激痛、頬を伝い、地に落ちる大粒の涙。

 

「返してよ…!」

 

静かに過ごしていたあの日々を。

 

「返してよ…!!」

 

肉体を得て、触れ合ったあの温かさを。

 

「返してよ…!!!」

 

あの笑顔を。

 

「皆を!!」

 

自身を呼ぶ優しいあの声を。

 

「返してよッ!!!」

 

かけがえのない愛する者達(姉妹達)を返してほしかった。只々返してほしかった。

決して叶わぬ願い。そして理不尽に対する叫びの双方が入り混じった叫ぶが木霊した時、『母ヲ名乗ル者』は動き出した。

僅かに修復された腕が肉盾として前に展開されていた姉妹らの遺体の一人を掴むと、『母ヲ名乗ル者』はニヤリと笑みを浮かべた。

そして次の瞬間。

 

「そんなに返してほしいのなら受け取るがいい、ゼーレ!!」

 

遺体をゼーレへと向かって投げ飛ばした。

 

「ゼーレ!!」

 

「ゼーレちゃん!!!」

 

咄嗟の事に反応が遅れた面々が少女の名を叫ぶ。

だが巨体から投げ出された遺体はもうゼーレのすぐそこまで来ており、今から受け止めようにも、彼女を抱えてその場から離脱させるのも到底間に合わない。

しかしそうだと分かっていがらもゼーレを救おうと駆け出す者達。

 

(間に合わない…!!)

 

誰しもがそう思ってしまった時、黒き影がゼーレの前へと飛び出し向かってくる遺体を優しく抱き留めた。

その黒いドレスが、その手が血で染まろうとも決して気にすることなく。

初代セイレーンは遺体へと優しく微笑みかけた。

 

「…苦しかったですね。安心して、ゆっくりとお休みなさい」

 

物言わぬ遺体の頭を優しく撫で、床へと下ろす。

伏せていた目を静かに開き、青い瞳は『母ヲ名乗ル者』へと向けられる。

その視線に何かを感じ取ったのか、『母ヲ名乗ル者』は僅かにだが後退った。

まるで何かを恐れているかのような、そんな素振り。

では一体何を恐れたのか。それは誰しもが疑問に思った直後に起きた。

 

「貴女に謝罪を、ゼーレ。我が同胞が貴女と貴女の姉妹へと行った仕打ちを」

 

初代セイレーンの足元からゆらりと湧き上がる妖気。

それが魔力であると気付くには数秒もいらない。

そして放たれる魔力に呼応するように彼女の姿が変わり始める。

 

「そして──」

 

右手に身の丈はあるであろう細身の大剣。

そして黒い髪はまるで色素が抜かれた様に白く染まり、黒きドレスは古びた白き装束へと姿を変えた。

胸元は大きく開かれ、腰にはマントと背には羽衣を思わせる様な二つのマントらしきもの。

ただそれは普通のマントとは言い難いものである事は誰の目からしても分かる事でマントの中ほどから先端にかけて黒紫の魔力が放出されており、ゆらりと揺らめていた。

何よりもその魔力はまるで夜空に浮かぶ星を表現するように煌めいていた。

底が見えない暗闇の中で輝き続ける星々がまるで夢の景色のようで、只々ひたすらに美しい。

 

「貴女を、そして貴女の姉妹を苦しめる存在を──」

 

それは見る者を深淵へと誘う幻想。罪なき者を誘い、底へと引きずり込み、そして"生"を喰う。

故にその身に具現する姿はかつての所業とも言える姿。

何百年という年月を経てその力は今、哀しみに囚われ、絶望に沈む少女を救う為に解放される。

 

「身の欠片一つ残すことなく消失させましょう」

 

静けさに潜む決意に呼応するようにセイレーンが右手に携える大剣の刀身に魔力が纏う。

溢れんばかりの魔力を纏った大剣を素早く横へと振りぬき刺突の構えを取る。

対する『母ヲ名乗ル者』は展開していた遺体を前に展開し攻撃を防ごうとするも突如として姉妹らの遺体が光に包まれて何処かへと消え去っていってしまい、つい驚きの表情を浮かべた。

それが隙となり、セイレーンの接近を許す形となった。

 

「…!」

 

瞬間移動も言える接近から放たれるは強烈な刺突。

刀身を纏う魔力が刺突の威力を底上げし、巨体である『母ヲ名乗ル者』を仰け反らせる。

しかしこれはただの序曲(ouverture)

セイレーンが奏でる剣劇(演奏)は、ここから開演を告げる。

 

「どんな曲調がお好きですか?」

 

問いかけながら放った薙ぎ払いから斬り上げ。

そして流れるように彼女は大剣を振るいつつ斬撃を繰り出しながら、追撃として魔力を纏った斬撃を連続で放つ。

鮮やかながらも鋭さを宿した無数の斬撃に撃ち落とそうと『母ヲ名乗ル者』の体からまるで人間の腸を彷彿とさせるようなものが飛び出す。

それら全ての先端は槍の様に鋭利であり高い貫通能力を有しており、向かってくる攻撃へと突撃。

しかし触手程度では斬撃を止める事は叶わず、瞬く間に斬り落とされていき、斬撃は半分まで修復した『母ヲ名乗ル者』の体を次々とを切り裂いていき、態勢を崩す。

その瞬間を見逃さなかったセイレーンは地を蹴り、『母ヲ名乗ル者』との間合いを一気に詰め、手にした大剣を横へと薙ぎ払い前足を中ほどから両断。

断たれた部分が宙へと舞い、断面から鮮血が吹きあがる中、セイレーンは何かを感じ取りその場から離脱。すると先ほどまで居た地点の足元から魔力によって錬成された剣山が飛び出し、前足を犠牲にすると同時に『母ヲ名乗ル者』が反撃してきたのだと判断しつつし着地と同時に大剣を担ぐようにして構え、魔力を放出した。

濁流とも言えるほどの膨大な魔力が刀身へと流れ込み、何時しか魔力が刀身を形成していく。

その状態を攻撃の瞬間と判断した『母ヲ名乗ル者』は転輪から生み出した光弾による集中砲火と魔力によって生み出された化け物を複数召喚し、それら全てをセイレーンへと差し向ける。

だが光弾はセイレーンの周囲を守るようにして発せられる魔力の暴風によって防がれ、向かわせた化け物たちもセイレーン以外の面々によって排除されていく。

状態を維持し続けるセイレーンへと向かって辛うじて原型を保っている片腕を振り下ろし叩き潰そうとする『母ヲ名乗ル者』。

勢いよく振り下ろされた腕であったがセイレーンが発する魔力が凄まじいまでに増長し、迫りくる腕をあろう事か対象に触れる前に弾き飛ばされてしまった。

 

(何だ、この力は…!?)

 

下手をすれば魔界を支配する事も可能とも思えるほどに力を開放した彼女は強かった。

しかし幾ら種族の長と言えど、ここまでの力を有する事はない。

それを分かっていたからこそ『母ヲ名乗ル者』は疑問に思う。

ではこの力は一体何なのか。何を喰らえばこれ程までの力を有る事が出来るのかと疑問に思った時、魔力によって形成された巨大な刀身の切っ先が天井に届いた時、『母ヲ名乗ル者』が思う疑問をまるで知っていたかのようにセイレーンが告げた。

 

「…"同胞"です。貴女の裏切りによって死にかけたまま人界へと流れ着いてしまった同胞らを私は喰らったのです」

 

「は…?」

 

魔力で構成された刀身が天井に届くまでに至った時、セイレーンから出た台詞に『母ヲ名乗ル者』は間抜けな声を上げ、先ほどまで攻撃を繰り出していた面々も驚きの余り、その手を止めてしまった。

同胞を喰らった。それは"身内"を喰らったという事を。

つまり今自分達の敵である『母ヲ名乗ル者』と同じ所業をセイレーンもまた行ったという事になる。

 

「人界へと流れ着いてしまった同胞らを見つけた時、同胞らは生きていた。死にかけのまま、何十年ものその場で生き続けたのです。長たる私と出会うその時まで…」

 

─私を喰らってください、我が長よ…─

 

─この血肉が、この魂が…─

 

─貴女の生きる道の力となるのであれば本望です…─

 

脳裏に浮かぶ同胞とのやり取り。

見つけは手厚く弔ってきた全ての同胞らが残した最期の願いを叶え、与えられた力は恐らくこの時の為にあったのだろうと思いつつもセイレーンの頬に涙が伝う。

 

「これは痛みであり悲しみであり、愛する姉妹を守りたいと思い続ける希望。大切な者と共に歩みたいという願い。そしてこれが非業に飲まれ消えていった者達へと送る鎮魂歌──」

 

大剣が巨大な魔力の剣へと昇華。

先程とは段違いの暴風がセイレーンを中心に発生し、他の面々はおろか、巨体である『母ヲ名乗ル者』ですらその場で踏ん張るので精一杯とも言えるほどの暴風だった。

柄を握り直しながらセイレーンは敵を見据えた時、セイレーンは告げる。

 

安らかに眠り給え(rest in peace)

 

ゼーレの姉妹、自身を残して消えていった同胞、あまつさえは『母ヲ名乗ル者』にすら手向けられた巨大な一撃が振り下ろされ、地面を砕く音と共に光の濁流となって駆け抜けた。

留まる事を知らない攻撃は地を裂きながら『母ヲ名乗ル者』を体ごと飲み込むと眩い星の輝きを有した光の柱となって咲き誇った。

流石にあの一撃をまともに受ければいくらあの悪魔とて生きているはずはないだろうと誰しもが思った。

しかしそれが間違いだったと思ったのはこの後の事であった。

 

「ぉぉぉぉ…」

 

光が消え、辺りに広がる土埃から聞こえる不気味な声。

そして薄っすらと浮かび上がった特徴的な影にソルシエールが険しい表情を浮かべる。

 

「ったく…どこまでしつこいんだ、こいつは」

 

「あれほどの攻撃を浴びて、まだ生きているとは…」

 

ソルシエールの台詞に答えながらシリエジオはニーゼル・レーゲンをガトリングガン形態へと変形させ、構える中、土埃の中で蠢く敵を見つめた。

あの特徴的な姿は早々に忘れる事はない。

だが先ほどから鈍く響き渡る生々しい音によって『母ヲ名乗ル者』の姿が変わりつつあるという事は理解しており、そして肌で感じ取った嫌な感覚をシリエジオは知っていた。

 

(…デビルトリガー…)

 

かつて人形違法売買組織を壊滅する際に門番として現れた悪魔『タルタシアン』。

致命的な一撃を与えたにも関わらず起き上がり、デビルトリガーを発動させていた。

あの時は姿を変える事無く、その体から禍々しいオーラを放っていただけであったが『母ヲ名乗ル者』の身に起きている事が『デビルトリガー』であるのであれば納得がいく。

しかしだ。あれほど巨大な力を有していた存在がソレを発動させたのであれば、いよいよ厳しくなる。

 

(…仕方ありませんか)

 

『母ヲ名乗ル者』との戦闘ではダメージは与えられたものの消耗が激しい。

これ以上の戦闘となると確実に死者が出る。であれば、残された手段は一つ。

自身が此処に残り、全員を逃がす。その事を伝えようとした瞬間だった。

 

「その覚悟は立派だけど、それは別の機会に取っておくべきよ?メイドさん」

 

突然として聞こえた声。

シリエジオはその声に驚き、素早く後ろへと振り向く。

その傍でセイレーンは後ろへと振り向く事はなく笑みを浮かべながら呟いた。

 

「漸くお目覚めになられましたか」

 

シリエジオが後ろへと振り向いたのに釣られて周りも後ろへと振り向くと、いつの間にそこには一人の女性が立っていた。

和を取り入れた装束。濡羽色の様に艶のあるツーサイドアップを施した長い髪にアメジストの瞳。

誰しもが羨む体つきに加え、所作の一つ一つに色気すらを感じさせる。

そして妖艶な笑みを浮かべるその姿はまさしく絶世の美女と言っても過言ではないと言えよう。

だが敵であるかどうかすら分からない謎の女性である事は変わりなく、初代セイレーン以外の何人かが面々が警戒し始めた時、ある人物が放った言葉が敵味方の判別を付ける切っ掛けとなった。

 

「…お姉ちゃん?」

 

"お姉ちゃん"。

そう口にしたのは、ゼーレであった。

そして彼女に姉と言われた女性は笑みを浮かべたままゼーレへと歩み寄ると頭に手を乗せた。

 

「声は今まで聞いていたけど、こうして顔の見るのは初めてね、ゼーレ。起きるのが遅くなってごめんなさい」

 

「…本当にお姉ちゃんなの?いつ動いたの…?」

 

「正真正銘のお姉ちゃんよ。それと動いたのは貴女の泣く声が聞こえた時にこっそりと抜け出してたの」

 

ゼーレの頭をポンポンを撫でる女性。

 

「それじゃ私もお手伝いしましょうか。貴女達をいじめる悪い子をうんと懲らしめてあげないと」

 

ゼーレの頭をポンポンを撫でると女性はゆっくりと立ち上がり土埃の中にいる『母ヲ名乗ル者』を見た。

先ほどまで浮かべていた笑みは何処へ行ったのか『母ヲ名乗ル者』を見るその顔は最早『無』。

感情すら存在していないと錯覚させる程に酷く冷たいものであった。

 

「グオオオォォォッ!!!!」

 

獣のような雄叫びを上げ、土埃から姿を現す『母ヲ名乗ル者』。

デビルトリガーの発動によりその姿は大きく変わっており、ブレイクみたいな言い方をすれば「前の方が美人だった」と言っていい位にその姿は醜悪だった。

口は四つに裂け、胴体からは蟹の鋏の様なものを宿した第二の不気味な腕が姿を現し、半壊した転輪は禍々しい色へと変色。体は無数の蛆の様なものが伝いながらも女性らしさは辛うじて有していた。

最早その姿は『母ヲ名乗ル者』よりも『鬼子母神』と名付けた方が良いだろう。

 

「あんだけ攻撃したと言うのに、元気になり過ぎじゃないっすかね…」

 

「けど、ここで諦めるのは性に合ってないんじゃないかな、ハク」

 

「そりゃそうっすよ、ソルシエールさん。ゼーレちゃんの生い立ちを知っちまえば尚更じゃないっすか?」

 

「ハハッ!確かにそれもそうだね」

 

ハクの台詞に笑いながら答えながら、手にした大鎌を回転させ構えるソルシエール。

確かにゼーレという少女の生い立ちを知ってしまえば、敵が突然変異起こそうが引く訳には行かない。

ああいう存在は徹底的にぶちのめさなくてはならないのは此処にいる全員の共通目的とも言える。

二人の会話を端に僅かにながらも諦めかけていた面々の心に火が灯り始め、その姿を見ていた女性は静かに微笑んだ後、指をパチンと鳴らした。

まるで合図と言わんばかりに鳴らされたフィンガースナップに、突如として光が現れこの場にいる面々の傍まで近寄ると、光は人へと姿を変え地へと降り立った。

 

「この子たちは…?」

 

「どことなくゼーレちゃんに似てる…まさかこの子達はあの子の?」

 

M14が疑問の声を上げた後、リヴァイルは冷静に判断しつつゼーレの方を見た。

 

「皆…!」

 

肉体は持たない身だとしてもその姿は紛れもなくあの時の姿の姉妹達。

もう会えないと分かっていたゼーレからすれば、姉妹達に会えたのは喜び以外の他なかった。

そして姉妹達にとっても唯一の生き残りである妹が生きていた事は無上の喜びであった。

肉体は失った。だが霊体としても自分達はまだ生きている。

透き通った体で姉妹の一人が手を伸ばしゼーレの頬に触れる。

温かさは残念なことにない。だが姉妹達に触れられているという事実にゼーレの瞳から涙が流れ始める。

だが今は和んでいる場合ではないのも事実。それはゼーレも姉妹達も理解しており、何よりも姉妹らはこうして霊体として姿を現れた意味をゼーレは察していた。

 

―後は任せて、ゼーレー

 

「うん…!!」

 

それを分かっていたからこそ、姉妹の台詞に彼女は頷いた。

二度目となる別れが来るのは分かっている。それがとても辛い事だと分かっていたとしてもだ。

妹から得られた許可に姉妹達は全ての元凶を討つために尽力してくれている者達へと歩み寄る。

ある者は手にしている武器へと手を伸ばし、ある者はまるで祈るような姿勢を取った。

その直後姉妹達は再び光へと包まれ、姿を変えていきやがて姉妹らの魂を宿した武器がそこに顕現する。

 

「ペサンテとグランディオーソ、そしてニーゼル・レーゲンに宿りましたか…。特にこの二丁は随分と大きくなった模様ですが」

 

二度目の改造により辛うじてその原型が残っていた二挺の大口径大型拳銃『ペサンテとグランディオーソ』は二人の少女の魂が宿った事により、最早巨銃とも言える姿を得た事にシリエジオは苦笑した。

全長50㎝、口径13mmと常人はおろか、ハイエンドモデルですら持てないであろう巨大な銃へと変質しつつもどうやらシリエジオ専用として生まれ変わったのか、彼女は軽々とガンスピンをして見せていた。

ニーゼル・レーゲンの方はその見た目からは分からないが、シリエジオが言うのであれば何らかの変化があると見ていいだろう。

 

「向こうはあの二丁と複合火器か。で、こっちはメインの大鎌とワーロック全体、シャリテはベルフェゴールに宿ったか」

 

「ええ、そうみたいです」

 

姉妹らの魂が宿った事により、ワーロックの大鎌は実体刃から魔力で形成された刀身へと変質し、同時に刀身がもう一つ追加され二股と化していた。

そしてワーロック自体も変質しており、メインスラスターユニットと後ろ腰のサブスラスターユニットは横へと広がる様にスライド、翼の間から青白い妖気を放出。また腰に追加装備が施されているなど変化が見受けられる。

対するシャリテのベルフェゴールは大きな変化は見受けられない。だが彼女はその変化に気付いていた。

 

(そろそろ起きる時間ですよ、ベルフェゴール)

 

目を伏せつつ彼女は己の内で悪魔(ベルフェゴール)へと話しかける。

それと同調するかのようにベルフェゴールから何らかの起動音が響き渡り、両肩の『ローブ&アーモリー』が変形開始。

 

(獲物はすぐそこにあるんです…)

 

心臓の鼓動の様な音が微かに響き、伏せられていた目がゆっくりと開かれ、まるで稲妻の様な水色の眼光がその瞳が放出。

 

(喰らいたければ力を貸しなさいッ!!!)

 

次の瞬間、まるで悪魔の咆哮を思わせる様な起動音と共にローブ&アーモリーが変形し、巨大な爪を宿した妖気を放つガントレットへと姿を変えた。

そして背部のユニットのテールブレイドが自我を有した様に動き出し、生物を思わせる様な動き刀身の切っ先を『鬼子母神』へと向ける。

これこそベルフェゴールに宿った新たな力であり、新たな形態。

名を言うのであれば『ベルフェゴール・リベイク リミテッド・オーバー形態』。

抑え込んでいた力の解放。そして制限時間すら喰らい尽くした悪魔は主の指示が無ければ、誰にも止める事は出来ない。

 

「おーおー、こりゃまた本職のお三方が元気になったモンで…。いや、本気になった所か?」

 

戦闘用デバイス『デュエルアサルトシュラウド』を纏ったM16は肩を竦めながらそう口にした。

外見こそは変わっていないものの手にしている武装は先ほどのとは違う形をしていた。

身長とほとんど同じ長さがあるであろう大型ライフルを右手に携え、左手には二門の大口径砲が先端に備え付けられた巨大な盾を装備。

それがゼーレの姉妹の魂が宿った武器でありM16へと託された武器だという事は分かり切った事であった。

 

「そんな訳ないでしょ、M16。あの三人は戦いが始まった時から本気だったわよ」

 

呆れた様にM16にへと話しかけながら『F90Vタイプ』を纏うM1887の右手にはM16が携える大型ライフルの全長を軽く超えるであろう重火器を手にしていた。

巨大なコンデンサに移動補助機能らしきものを備えたソレはライフルにしては余りにも大きいと言っても過言ではない。

 

「そういやそうだったな、M1887。さて…姉妹ちゃんらからの贈り物、しっかり使わねぇとな!」

 

「ええ、そうね。M4、そっちは行けるわね?」

 

M1887の声にM4ははい!と答えながら、変質した特殊兵装を見た。

つい先程はランチャーとして運用していた訳だが、どういう訳かランチャー以外の装備を内蔵してしまった複合武器搭載型武装ケースと生まれ変わっていた。

本来であれば一つ一つ変形させて、何が内蔵されているかと確認をしなくてはならないのだが何故か確認しなくても何が内蔵しているのか、どういう風に扱うのかをM4は理解していた。

原理は分からない。だが戦いの支障にならない為に前もって情報をゼーレの姉妹達が伝えてくれているのだと思うとM4の胸の内はほんの僅かにだが暖かくなっていた。

 

(ありがとう。…貴女達がくれた力、決して無駄にしないから!)

 

その思いに呼応したのか特殊兵装が僅かに輝きを放つ。

まるで「うん!」と幼き少女が満面の笑みを浮かべながら答えているかのように。

 

『此方 ハ 大弓 カ』

 

試験者 支援型は手にした大弓を見つめる。

現代の技術では決して生み出す事は出来ないであろう技術で作り上げられた大弓。

『魔喰らいの一手』と名付けられたその大弓は扱いは難しく、矢を射るだけでも相当な力を有する一方で撃ちだされる矢は魔を喰らい貫くとも言われるほどの火力を誇る。

 

『感謝スル、ゼーレ ノ 姉妹達』

 

もう元には戻れない。

そうだと言うのに力を託してくれた姉妹達に感謝を伝える試験者 支援型の傍らでアーキテクトは驚きを隠せずにいた。

黒いガングニールを纏い槍を手にしていた訳であるが、姉妹達の魂を宿った事が影響したのか槍は双刃へと変形し、背には魔力で生み出された翼を放出するユニットを装着。

そして空いていた左手には手にしている槍と同じものとは大きさも、その姿も何もかも違う大槍が握られていた。

 

「アハハ…こりゃ大盤振る舞いってやつだね」

 

ここまで変質するとは思っていなかったのだろう。

苦笑いを浮かべながらもアーキテクトは先を見つめる。

その姿は大きく変わっているが何故か負ける気がしなかった。

寧ろ自分に力を貸してくれている彼女達の存在が背を押してくれていると感じていた。

 

「私にも力を貸してくれるとは。ゼーレの姉妹達には感謝してもしきれんな」

 

「うっわ…ビトレイアルⅠ、更に重装備になってねぇか?」

 

「そう言うそちらはどうなんだ?」

 

火器を内蔵したバインダーが二基追加され、空いた手には同じ形をした携行用重火器を装備。

四基のバインダー、二丁の携行用重火器というその姿は、ただでさえ高い火力を誇っているビトレイアルⅠに更に火力が増強させた状態であった。

最早地球に穴を開けるのだって難なくやってのけてしまいそうな雰囲気を醸し出しているのは気のせいだと思いたくなる一方でリバイバーのは違っていた。

両手には大型のハンドガン、そしてスリングベルトに吊るされたホルスターに通された二つの細長い鉄で出来た筒の様なそれは何処となく砲身を彷彿とさせる。

一見してよく分からないというイメージを抱くがM4と同様にリバイバーもその扱い方を理解していた。

 

こいつ(ハンドガン)をこの砲身に差し込めば違う武器へと変形するって訳か。上部が大口径の機関銃で、下部が大口径の対物ライフル。そしてどちらかの状態で、使っていない方の砲身へと差し込めば大型のレールガンに変形する…)

 

成る程と頷きつつリバイバーは弾倉をハンドガンへと差し込む。

 

「こういう手合いだと大概、ロクな目に合わないんだが今回はそうじゃないと来たか。出番はまだまだあるみたいだしな」

 

―おかげでこのクソ悪魔をぶちのめせるのなら有り難い―

 

胸の内でそう呟きながら浮かべる笑みは彼らしからぬと言えよう。

それを傍で見ていたリヴァイルは、こんな笑みを浮かべる奴だったかと思いながら『鬼子母神』を見つめる。

 

「酷い面だ。化粧でもしてやれば多少はマシになるか?」

 

「いらねぇだろ。ま、化粧した所で余計に酷くなると思うけどな」

 

「違いない」

 

お互いに手にした武器をコツンと当て合う二人。

その姿は只々涙を流す少女たちの為に戦う歴戦の戦士の姿。

故に今の二人には油断も隙も存在しない。

 

「私たちは大した変化ないけど…」

 

「その分、自分達向けとして扱えるように全ての弾丸に魔力?ってのが帯びてる。これならあの化け物を倒す事が出来そうだね」

 

「ええ。…やれるね、パラ?」

 

「当然。ここでやらなきゃ誰がアレを倒すの?」

 

「確かにね。さて…最後の一仕事しましょうか」

 

「そんな冗談を言う性格だった?M14」

 

とは言え、確かにこの騒動を終わらせる為の最後の一仕事である事は変わりない。

そう思いつつAUGパラは魔力が帯びた弾丸を装填した弾倉を己を同じ名を冠した銃へと差し込んだ。

覚悟はとうに出来ている上に死ぬつもりなど毛頭ない。

今自身が出来る最大の一手を繰り返すのみと己を鼓舞し、敵を鋭い眼差しで見つめる。

 

「おぉ!こりゃ良い!」

 

そこに現れたモノにアヤトルズのリーダーであるジンは興奮しながら声を上げた。

あの悪魔には自分たちが持つ武器では大した効果がない。

それを分かっていたからこそ、姉妹らの魂が具現したソレはジンの能力を発揮するのに最適と言える代物だった。

 

「見た目はアレだが運転に支障はねぇ。武装はこれだけだがこの際、遠慮はいらねぇだろ!」

 

そう。ジンの前に現れたのはなんと武装車両だった。

姿こそは現代の車両と言うよりも如何にも魔の素材が使用されているが運転はいつも扱う装甲車と変わらない。搭載された装備は大型弾倉を備えた重機関銃だけであるが問題ないと言えた。

 

「トビー!そっちは行けるな…って、なんだぁそりゃ!?」

 

「ギャパパパ!おう、何時でも行けるぞ!」

 

自身の目に映ったソレに驚きの声を上げるジンに対しトビーは特徴的な声を上げながら答える。

対戦車ライフルの銃身下部にパイルバンカーを装着されていると言う個人が携行するには笑いすら出てこないものを引っ提げながら。

外見こそはシモノフPTRS1941を思わせるも本銃は50口径ではなく65口径。

つまりラハティL-39と同等の口径を有していた。だがその一方で弾数は極端に少なく、たった三発しか装填出来ない。

そして銃身下部に装着されたパイルバンカーは炸薬式であり一回使用できないが、とある特徴を有していた。それが一度作動させたら二回杭が射出されるという機能である。

一回の攻撃ではパイルバンカーに内包された魔力を用いて杭を飛ばし、対象に致命的な傷を負わせた後に杭は一度後退。そして二回で本命の炸薬で杭を発射し、対象を確実に仕留める。

人間相手に使えば見たくないものが完成してしまうが悪魔を仕留める為であれば十分と言える代物である。

 

「武装車両にパイルバンカー付き対戦車ライフル…それでこっちはというと」

 

二人の元に現れた装備を見つつ、ハクは後ろ腰へと回した箱を見た。

まるで大量の矢を収めた矢筒を思わせる様なソレ。だがそれが矢筒ではない事はハクが一番理解している。

 

「剣の形をした設置型の爆弾という訳っスね…。となると相手の足元に近づかなきゃダメ、か」

 

しかしあの巨体の足元に近づくのは正直に言って自殺行為に等しい。

加え自身は前に出ての戦闘よりも後方支援に適している。それを理解しているからこそハクの中では何とも言えないナニカが渦巻いた。

だが彼は一つだけ忘れている。相手に気づかれる事もなく接近出来る能力と高速移動能力を有した兵装を纏う人物が居る事を。

そしてその人物はハクの持つソレの特徴を一発で見抜き、歩み寄って来ていた。

 

「なら僕と組もうか、ハク」

 

「ソルシエールさん?って、ちょっと!?」

 

相手の返答を待つことなくソルシエールはハクを片腕で抱え、持ち上げる。

元より鉄血のハイエンドモデルである為、男性一人持ち上げるなど容易い。

 

「あ、変な所触らないでね?」

 

「触りませんよ!?」

 

こんな状況だと言うのに、何故こうふざけていられるのか。

そう思いつつも緊張が僅かにほぐれる感覚を覚えるハク。

ソルシエールを見て、まさかわざとではないか思うも確証があるわけではない。

ましてやそれを聞いて答えてくれるような人ではないと思ったのだろう。敢えて彼は問わずにいた。

 

「良い顔になったね。それじゃ飛ぶよ」

 

「頼みます。無いとは思いますけど…落とさないでくださいよ?」

 

「安心して、そんな下手は打たないさ。…移動は僕に任せて、君は手当たり次第に剣を投げて。最適な場所とか気にしなくていい。数は少ないより多い方が良いからね」

 

「了解…!」

 

相手の了解は得た。

それと同時にソルシエールはワーロック・シャルフリヒターが有する機能を起動させた。

特殊な粒子が二人の周囲に散布されていき、瞬く間にハクを抱えたソルシエールは景色と同化するようにその場から消えるとシリエジオは生まれ変わったペサンテとグランディオーソを構えつつ成る程と頷く。

 

「ホント、やってくれますね」

 

─ですが、こういうノリも悪くありません─

 

二丁の巨銃を素早く回転させた後、腰を低くし飛び出す態勢を取るシリエジオ。

ここまで来てしまったら、もう楽しむ他ない。

悪魔が主催するパーティーはいつだって湿っぽくならないのがお約束なのだから。

 

「本当に…楽しすぎて狂ってしまいそうですね!!」

 

それを合図にシリエジオは駆け出し、それを追従するようにベルフェゴールのリミッターを解除したシャリテが突進。

だがその二人を追い越す様に先へと突撃したものがいた。

それがジンが運転する武装車両だった。銃座にはパイルバンカー付き対戦車ライフルを背負ったトビー、そして振り落とされないように荷台に捕まるM14とパラの姿があった。

 

「トビー!撃ちまくれ!M14とパラは出番が来るまで何とか踏ん張ってくれ!」

 

「分かった!!」

 

固定された重機関銃のコッキングハンドルと引き、咆哮する悪魔へと銃撃を開始するトビー。

すると『鬼子母神』の口から極太の光線が吐き出されると地を抉りながらゆっくりと薙ぎ払い始め、同時に体から触手が飛び出し突っ込んでくる武装車両へと差し向けた。

どれか一つにでも当たれば即死は当たり前。だが心配する必要なんてない。

この程度の攻撃など大した問題にはならないのだから。

 

「なめんじゃねぇ!!」

 

叫びながらジンはアクセルペダルを踏みぬき、車両が加速させた。

そして迫りくる触手の嵐を巧みなドライビングテクニックで躱していきつつ、猛スピードで突撃していく。

今の攻撃では無理だと判断した『鬼子母神』が更なる攻撃を繰り出そうとした瞬間、まるで隕石の様な勢いで『鬼子母神』の前に着地した者が一人。

舞い上がる土埃。揺らめく影。携えた巨大な二丁の銃は奏でる為の楽器。

二つの銃口が敵を捉え、それに気付いた『鬼子母神』は僅かながらに反応に遅れた刹那。

ペサンテとグランディオーソと名付けられ、少女らの魂を宿し生まれ変わった楽器(魔銃)は最早有り得ないと言っても過言ではない速さで悪魔を屠る為の演奏を開始した。

次々と放たれる弾丸。次々と響き渡る銃声。次々と舞い上がる薬莢。

硝煙の中から13mmという大口径の弾丸が無数に飛び出し巨大な悪魔へと食らいつき、その動きを封じる。

一瞬の様で長かった演奏は終わりを告げ、土埃の中にいた影がその場から飛び退き『鬼子母神』の頭が前へと崩れた時、悪魔の耳にタイヤがこすれる様な音が響き渡った。

 

「!?」

 

奔る衝撃と霧散する土埃。

そこに広がったのはジンの巧みな運転技術によって荷台によるフルスイングを悪魔の横っ面に叩きつけた武装車両の姿と荷台で出番を控えていたM14とパラ、そしてパイルバンカー付き対戦車ライフルを構えたトビーが醜悪な顔へとその銃口を突きつけている光景。

 

「全弾…持っていきなさい!!」

 

それを合図に開幕するは悪魔へと手向ける集中砲火。

舞い上がる血しぶき。例え衣服に血が付着しようがお構いなし。

今はそこに装填されている全ての弾丸を叩きこむ為だけに、その指は引き金を引き続ける。

携える銃は楽器、銃声は曲調、飛び出す薬莢が地に落ちる音は演奏に色を足す。

しかしそれは一瞬の出来事。あっという間に演奏は終わりを告げる。

だがまだ終わりではない。最後の彩る演奏があと二つ済んではいないのだから。

 

「こいつも持っていけぇ!!」

 

銃声、そして巨体をも仰け反らせる強烈な一撃。

対戦車ライフルの銃身下部に備え付けられたパイルバンカーが炸裂し『鬼子母神』の体を穿った。

大量の血飛沫が舞う中で武装車両はその場から離脱した時、『鬼子母神』が咆哮。

不気味な腕を振り上げた時、『鬼子母神』は気づく。

もう一人は何処へ行ったのか、と。そしてそれは耳元で響いた。

 

「気づくのが遅いんですよ」

 

「…ッ!!?」

 

すれ違いざまに響いた男の声。しかしその姿は何処にもない。

何処にいると言わんばかりに『鬼子母神』が周りを見た時、足元に地に突き刺さった大量の剣の様なものに気付く。

それら全てが爆弾であると気づいた時には時既に遅し。

『鬼子母神』がその場から飛び退こうとした直後、銃声が鳴った。

65口径の弾丸が向かう先は『鬼子母神』…ではなく足元に突き刺さった剣。

それが直撃した時、剣は爆ぜ、連鎖するように大量の剣が爆ぜ巨体が爆発へと包まれた。

しかしこれで倒れる程、アレは弱くはない。それを分かっていたからこそ、まるで突然現れた様にハクが武装車両の荷台へと降り立ち、悪魔の魂を刈り取りに向かう死神へと伝えた。

 

「後は頼みますよ」

 

「分かってるさ」

 

二股の大鎌を手に飛翔する死神。爆炎の中から、叫びながら飛び出す『鬼子母神』。

全身に負った傷がその恐ろしさを増長させるも彼女は平然としていた。

自我を失い、ただ暴れ狂うだけの存在に覚える恐怖などありもしないのだから。

愚直なまでに真っ直ぐと突撃するソルシエール。両者の距離が手が届くほどの距離まで近づいた瞬間、彼女はワーロックのスラスターを前面へと向け急制動をかけた。

強烈な負荷に歯を噛み締めながら、ウイングを閉じ防御形態へと移行した後一気に上へと飛び上がった。

それに釣られて『鬼子母神』はソルシエールを捕えようとした時、視界の端に眩い光が発生しているのを認識した。

 

『脚部固定、姿勢安定制御限界域二到達」

 

宿りし魂が形を成した豪弓。

決してこの世のモノとは言えぬ形をしたソレを人が矢を射るに重く、弦を引くことすら敵わない。

だがそれも叶った。一人の少女が流した涙に、その涙を流させる存在に静かに怒りを露わにした彼が手にしているのだから。

 

『アンカー射出、固定確認。対魔兵装出力安定、超長距離狙撃モード移行』

 

その怒りを表現するように矢は激しく迸る雷の如く、その魔力を発する。

これでもかと言わんばかりに弦を引き絞った豪弓が決して壊れる事無く、その姿は平然としていた。

 

『此レ ハ 魂ガ宿リシ豪弓。魔ヲ喰ライ、魔ヲ穿ツ一手。故二──』

 

魔力の巨大な矢へと変じたソレはより一層激しく魔力を放出。

まるで試験者に対してまだかと言っているかのように。

時は来た。今打てる最大の一手。少女らの魂を、嘘偽りない怒りを込めた時、試験者の瞳が光る。

 

『悪夢スラ モ 喰ライ穿ツ…!』

 

轟音と共に迸る閃光。

狙いに一寸狂い無し。魔喰らいの一手から放たれた魔の矢は悪魔を穿たんと真っ直ぐと突撃していく。

直撃コース。緻密に計算され尽くされ、最適なタイミングで放たれた矢を回避するにはもう遅い。

戦いに幕を引く一撃になると思われた時、『鬼子母神』は予想外の行動へと出た。

 

「aaaaaa!!!!」

 

女性の悲鳴にも似た咆哮が上がる。

その時半壊した転輪が動き出し、あろう事か『鬼子母神』の前を現れると攻撃を防ぐ盾として展開。

放たれた魔力の矢を真っ向から受け止めていた。

だが矢は貫かんと言わんばかりに勢いそのままに押し込もうとし、そんな矢を近づけさせまいと盾は『鬼子母神』の目の前で耐え続ける。

拮抗する力。火花と閃光が咲き誇り、周囲へとまき散らしていく。

その間に『鬼子母神』は矢の直撃を避ける為に傷ついた体を引きずりながら横へと逸れようとしていた。

 

「試験者!二射目を!」

 

『無理ダ!最大チャージ ニ 時間ガ掛カル!!』

 

リヴァイルが二射目を放つように試験者へと叫ぶも彼からチャージに時間がかかるという返答が返ってくる。

このままでは直撃を避けられてしまう。盾へと突進し続ける矢がいつまでも持つかも分からない。

突進する矢を後押しする一撃が必要であった。

 

「トビー!ライフルの弾は!!?」

 

「もう無い!さっきので撃ち尽くした!!」

 

「くっ…!」

 

大口径のライフルを持っていたトビーへと問うも先ほどの銃撃で撃ち尽くしたと返ってきて、AUGパラが苦悶の表情を浮かべた時、その隣にいた人物は動いていた。

己と同じ名を冠したライフルと構え、静かに息を吐いてRFの戦術人形『M14』は狙いを定める。

矢はその身を小刻みに揺らしながら盾へと突進し続けており、正確に真っ直ぐとブレなく後ろから当てるにはかなりの技量が必要になる。

まるで針に糸を通すような繊細さと集中力を要する場面。ライフルを構え狙いを定める今のM14に焦りはなく、意識を集中している影響か戦闘の音は全く耳に入らず、目にしている光景は流れる時間を遅くしたように緩やかになっていた。

 

「…!」

 

激しい戦闘音に紛れて響いた銃声。

銃口から放たれた魔力を帯びた弾丸は矢へと迷うことなく突き進んでいく。

今も尚、小刻みに揺れる矢が真っ直ぐになったほんの僅かな瞬間を見計らったかの様にM14が放った弾丸が矢の後ろから直撃。

押し込まれるようにして矢は勢いよく前進し、盾を貫くと退避行動中の『鬼子母神』の半身を貫いた。

 

「aaaaaaa!?!?」

 

抉るようにして体の半身を抉られた『鬼子母神』の悲鳴が木霊する。

とは言え完全に仕留めた訳ではない。今度こそ仕留めなくては意味がない。

それが分かっていたからこそ、重火器を構えた三人は既に発射態勢を整えていた。

 

「見せてやるさ…!」

 

両手に携えた武器。

片や大型のライフル、片や二門の大口径砲を備えたシールド。

初めて使う武器なれどM16に戸惑いはない。

何故ならこれは敵を討つ為だけに存在しているのだから。

 

「あの子達の──」

 

異なる兵装。扱いを知らぬ兵装。

巨大なコンデンサと移動補助機能を備えた長大な重火器が放つ一撃は桁違いである事を彼女は知っている。

故に心配は不要。M1887の今すべき事は眼前の敵を倒すだけにある。

 

「力をな…!」

 

渡されたあの時から備えていた力は強大であった。

三基の重火器による一斉射撃は大きな溝を作り上げる程の一撃を放つ点でも満足が行くと言うのに、姉妹らの魂が宿った事により、最早溝を作り上げるだけには飽き足らない程に至った。

三重奏から六重奏へ。

背信の名を宿し、少女らの魂が宿った兵装『ビトレイアルⅠ セクステット』を纏うリヴァイルは『鬼子母神』を見据えた。

唸るようにして集まり出す光。早く撃てと促す様に揺れる砲身。

それを何とか押さえつけながら、引き金に指をかけた三人は叫ぶ。

 

「「「落ちろぉぉぉぉぉッ!!!!」」」

 

砲身から吐き出される光。

それらすべては一つの束となって交わり、巨大な光へと変貌し突進。

地を抉り、突き進む姿は正しく光の濁流。

盾を失い、半身を貫かれた今の『鬼子母神』には到底回避など出来る訳がない。

だと言うのに諦めが悪いのか『鬼子母神』は残った腕の手を前へとかざし魔力による盾を展開。

しかし微々たる量で展開された盾ではそれを受け止めるどころか防ぎ切る事すら敵わない。巨体を包み込む程の濁流が『鬼子母神』を襲い、光の中へと飲み込んだ。

試験者が射た矢によって多大なダメージを与え、M16、M1887、リヴァイルら三人による一斉射撃によって今度こそあの悪魔を仕留めたと誰しもが思った。

 

「…」

 

その中でシリエジオとソルシエール、シャリテだけはその表情を険しくしていた。

確かに手ごたえはあった。あれほどの攻撃を浴びて生きていられる筈がない。

だが分かるのだ。悪魔という非常識な存在が如何に往生際の悪い存在であるかを。

高い知能に高い戦闘力を持つ上位種の足掻きがそう単純に終わらないという事を。

それを知っているからこそ、光の濁流から這い出るようにして現れた全身が焼け爛れた『鬼子母神』に対して何ら驚きすらなかった。

 

「aa…aaa…!aaaaaaaaa!!!!!!」

 

悲鳴に似た叫び。その中には怒りが交えており睨んでくる赤い瞳を常人が見れば実に恐ろしく感じる。

だがしかしそれがどうしたと言わんばかりに数発の銃弾が『鬼子母神』の顔面に叩きつけられた。

蓄積されたダメージによりたかが数発程度の銃弾で『鬼子母神』は仰け反りながら態勢を崩しよろけながらも攻撃を仕掛けてきた存在へとその瞳を向ける。

そこにいたのは黒と銀の巨大な拳銃を手にした一人の男。スリングベルトと繋がったホルスターには鉄で出来た二本の細長い筒を差し込んでいる。

 

「往生際の悪い奴だな。大人しく地獄に落ちるつもりはないのか?」

 

それが誰であるのかと言うまででもない。攻撃を仕掛けたのはリバイバーである。

睨んでくる『鬼子母神』に対して彼は呆れた様に話しかける。

 

「aaaa!!!」

 

「叫ぶのは一丁前ってか?文句ならあの世で言いやがれ!!」

 

右手に持った黒の拳銃をホルスター上部に収められた砲身へと差し込むリバイバー。

そして勢いよく砲身ごとホルスターから引き抜くと、現れたのは大型の重機関銃。

巨大なドラム型弾倉にバイポットの役目も担う大型の防盾(ぼうじゅん)

ずしんと音を立てながら展開された重機関銃。引き金を指をかけ、今度こそ仕留める為に『鬼子母神』へと射撃を開始するリバイバー。同時に彼は直ぐに傍にいた人物へと叫ぶ。

 

「こっちが撃っている間、ギリギリまで近づけ!M4!物騒なモンを大量に仕込んだ棺桶であいつをぶちのめせ!」

 

「了解!」

 

『鬼子母神』に反撃の時間を与えない為に集中砲火を浴びせるリバイバー。

飛んでいく弾丸の嵐の中をストライクEを纏ったM4が突撃。

拳銃の弾を数発貰っただけでもよろけていた『鬼子母神』。

それが重機関銃から放たれる大口径弾の嵐となれば成す術もなく痙攣した様にその体を跳ね上げていく。

そこにM4が『鬼子母神』の近くまで接近。スラスターを切り、地面を滑りつつ回転しながら彼女は変質した武装ケースを変形させる。

ケースの後端部分が姿を変えていき、そして現れたのは合計八つの発射口らしきものが並んだ武器だった。

一見すればそれが何なのかは分からないが、M4は知っていた。

実はこの形態はミサイルを垂直発射し、対象の真上から攻撃するという代物なのだ。本来であれば距離をとって扱う物なのだが、あろう事かM4は回転同時にその発射口部分で『鬼子母神』の顔面を殴り、そのまま零距離でミサイルを全弾発射。

至近距離で発生する爆発と爆炎、爆風。だがM4の攻撃はこの程度では留まらない。

 

「こいつも持っていきなさい!」

 

武装ケースが彼女の意思に呼応して変形。次に姿を現したのはガトリングガンであった。

ガトリングガンへと変形したケースを抱えるようにして構え、そのまま二度目の零距離射撃を展開。

そして流れるようにケースを変形させ、今度は大型のバズーカを展開し、同時にジャンプし『鬼子母神』の顔面へと飛び掛かると砲身を密着させ、三度目となる零距離射撃を行った。

着弾と同時に爆発が発生し、それによって宙へと吹き飛ばれながらもM4はケースを変形。本来の姿であるランチャーを出現させると空中で発射。

巨大な光の弾が『鬼子母神』へと吸い込まれるようにして突撃し着弾。

M4がリバイバーの背後に華麗に着地した瞬間、大きな爆発が発生し小規模のキノコ雲が浮かび上がる。

 

「aaaaaa!!!!!」

 

「「ッ!?」」

 

煙の中から聞こえた『鬼子母神』の咆哮。

あれだけの攻撃を受けておきながらもまだ起き上がる悪魔にリバイバーとM4は驚愕の表情を浮かべる。

桁外れの耐久力。しつこいにも程があると言っても過言ではない。だが心配は要らない。

長きにわたり続いた悪夢をこの四人が終わらせようとしているのだから。

 

「「はあああッ!!!」」

 

巨体の上から降ってくる黒き影。

片や大鎌を構え、片や形異なる大槍を構えていた。

死神(ソルシエール)黒騎士(アーキテクト)が手にした得物をその切っ先を巨体の脳天を突き刺し、一度引き抜いてから息を合わせたかのように同時に顎へ目掛けて振り上げ斬り上げた。

後ろへと仰け反る巨体。これで倒れるかと思った矢先、息を吹き返したかのように比較的損傷を負っていない第二の腕をソルシエールへと飛ばした。

咄嗟の事に反応が遅れるソルシエール。アーキテクトが救助に入るにもほんの僅かに遅い。

その時、それを許さんと言わんばかりにシャリテが空中から降り、体を回転させ落下と同時に巨大な戦槌を『鬼子母神』の頭へと振り下ろした。

重たい一撃を叩きつけられ地面へと沈む『鬼子母神』。それを好機と見たソルシエールが大鎌を『鬼子母神』の首へと向かって振るい、続く様にアーキテクトも大槍をその首へと振るう。

 

「後は─」

 

巨体であるが故にその頭は重たい。

下手すると大鎌の刀身が中ほどで止まってしまうのかと思いたくなる。

それでもソルシエールは自身が持つ力を総動員させ、振り上げようとする。

 

「頼んだよ…!」

 

それはアーキテクトも同じでこれでもかと力を総動員させ、槍を振り上げようとする。

しかしそれでも巨体の頭は中に上がらない。だけど二人は諦めない。

そこに二人へと加わる様にシャリテが間に降り立ち、全身を使って戦槌を下から上へと振り上げた。

強烈な一撃。そして二人が叫ぶ。

 

「「シリエジオ!!!!」」

 

全力の一撃をお見舞いし、この戦いを締めくくる人物へと全てを託す二人。

後ろへと再び仰け反る巨体。三人がその場から飛び退いたと同時にソレは大きな口を開いた『鬼子母神』へと落下してきていた。

霧雨の名を宿したソレが本来備えていた武装。右腕と同化させる事で使用可能とする一撃必殺の武器。

既にその状態へと移行させていた彼女はその大きな口へと目掛けてその砲身を突き刺した。

口内に突き刺さったレールガンの砲身。痛みに悶えながらシリエジオを振り落とそうとする『鬼子母神』。

だが彼女は決して離れない。この一撃を決めるまでは絶対に振り落とされる訳には行かないのだ。

 

「これで終幕です!覚悟なさい!」

 

砲身が三又へと変形し、こじ開けられる『鬼子母神』の口。

光が収束し、紫電が飛び交う。同調した影響によりシリエジオの右目から水色の光が放たれる。

左手でレールガンを支え、今から引き金を引こうとした時、後方からソルシエールが問いかける。

 

「決め台詞は?」

 

その問いにシリエジオは口角を吊り上げ、笑みを浮かべる。

決め台詞?そんなのはたった一つしかない。

あの戦いで愛する(ギルヴァ)赤コートの狩人(ブレイク)が発した台詞。

戦いを締めくくる最高の台詞。そう、その台詞は───

 

JACK POT!(大当たり!)

 

放たれた決め台詞と共に砲弾が『鬼子母神』の口の中へと放たれた。

一度放たれたソレを止める術はなく『鬼子母神』の体が膨れあがった瞬間、()()した。

その威力を物語るような大規模な爆発。周囲にぶちまけられる鮮血。

しかしそこに残る物など一つもない。それは『鬼子母神』は身の欠片一つ残す事もなく、ましてや辞世の句すら残す事もなく消失した事を意味しており、そしてそれは戦いに勝利した事を示していた。

勝利した事に歓喜の声が上がる者や余りの嬉しさに抱きしめ合う者達が居る中、セイレーンは静かに目を伏せつつ思考する。

元凶に対して行われた熾烈な攻撃の数々。その光景を目にして、楽曲の様であったと彼女は思う。

そう思った時、セイレーンはバイオリンを軽く奏でた。

 

「最終楽章…」

 

そして口にするのであった。

 

Devil may cry(悪魔も泣き出す)

 

この戦いを締めくくる楽曲の名を。




本当に遅くなって申し訳ありません!!!!
そしてお待たせしましたあああぁぁぁッ!!

描きたい描写が沢山あった為、全てぶち込んでたらまさか文字数が二万にも上る程の長さになってしまいました…。

という訳で『母ヲ名乗ル者』戦、これにして終幕でございます。
次回はモデウス戦ですが…来年になるかもなので何卒ご了承くださいませ。

また今回の戦いにて登場した『お姉ちゃん』と姉妹らの魂を宿した武器に関してはこのコラボが終了後の後日談の後書きに記載します。
そして姉妹らの魂を宿した武器の今後の取り扱いについてはどうするか決めかねていますが…それもまた追々

では次回ノシ


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Act253-Extra M.O.S back story Ghost ship in the sea Ⅸ/Ⅰ

─感動の再会(一発触発)


全ての元凶たる『母ヲ名乗ル者』との戦闘が始まる約十分前の事。

元凶ではないにしろ、倒すべき敵である悪魔であり、かの伝説の魔剣士の弟子であった魔剣士『モデウス』を討つべく、ギルヴァ、ネージュ、アナ、グリフォーネ、蛮族戦士、アイソマーの六人は暗闇に包まれた船内を歩いていた。

この無駄に広い船内。ただ闇雲に探し回るのは愚の骨頂であり時間の無駄。

鋭い気配察知能力を有するギルヴァが既にモデウスが居る場所を探知しており、他の五人は先を行く彼の背を追いながらモデウスがいる場所へと向かっていた。

誰一人とて口を開かず、歩く音だけが反響する。状況が状況だけあって和やかな雰囲気になる筈がない。

そう思われていただけあって、ギルヴァが歩いていた足を止め、口を開いたのは実に珍しい事であった。

 

「無理についてくる必要はない」

 

「?」

 

突然として出たギルヴァの台詞に隣を歩いていたアナは彼を見つめ、グリフォーネとアイソマーは首を傾げた。

蛮族戦士とネージュは足を止め、彼の背を見つめた。

 

「今なら向こうの戦いに参加する事も出来る。ゼーレの話を聞いて何も思わなかった訳ではあるまい」

 

あの場所を去る前にゼーレという少女から聞かされた過去は壮絶の一言に尽きた。

怒りを覚えない方がおかしいと言えるほどに元凶の行いは許されるものではなく、ギルヴァもあのタリンでの戦いで救出対象であったアイソマーらの事を思い出していたりする。

そうにも関わらず元凶との戦いを選ばず、モデウスとの戦いを選んだのはアレの相手は自身が適任であると思った同時に蒼に関する事だからでもあった。

そこに理屈や理由など無く、魂がそう叫んでいる。故にギルヴァはそちらとの戦闘を選んだ。

娘のネージュは豊富な武装による援護射撃を得意としている為、近接を得意とする自身との相性が良い。

蛮族戦士に関しては元より強者との戦いを望む性格である為、ついてくる事は分かり切った事でもあった。

その事からモデウスとの戦いに付いてくるのはこの二人だと思っていたギルヴァであったが、アナ、グリフォーネ、アイソマーの三人がついてきた事には僅かな驚きがあったのは言うまでもなく、その疑問を伏せた上で告げたのだ。

言外についてくるなと言っている様な気もしなくはないのだが、ネージュやアナはギルヴァの事をよく知っており、その台詞の裏に隠された本当の意味を既に理解していた。

 

「何も思わないと言ったら嘘になります」

 

それを察していたからこそ、アナはその問いに答えながら、ですがと言葉を続けた。

 

「この怒りは向こうにいる皆が代わりにぶつけてくれる。そう信じているからこそ私は此方側に。それに"アレ(モデウス)"が伝説の魔剣士(スパーダ)の弟子であるのでは尚の事。ギルヴァさんと同様に私もまた適任とも言えます」

 

「…」

 

「それ以外の理由が必要ですか?」

 

見つめてくる瞳に理由としては十分と判断したギルヴァは後ろに立つグリフォーネとアイソマーを見た。

青い瞳が二人を見つめるとグリフォーネは軽く肩を竦め、理由を明かした。

 

「残った所で近接寄りの自分じゃ出来る事も少ないですし…それに向こうには苛立ちを敵にぶつけて重火器で爆殺する爆殺魔が居ますから」

 

「その爆殺魔ってM4さんの事だよね?」

 

「…」

 

わざと伏せたつもりが、秒も経たない内にアイソマーに言い当てられ固まるグリフォーネ。

まるで錆びついた人形の様に首を動かしながらアイソマーを見るグリフォーネ。

引き攣った笑みを浮かべながら彼女はアイソマーへ一言。

 

「…隊長には内緒で」

 

「む・り♪」

 

満面の笑みで断るアイソマー。

どうかご慈悲をー!と腰にしがみつくグリフォーネを無視しながら、彼女はこの戦いについてきた理由を話し始める。

 

「あのクソ親父(ウィリアム)みたいな事をやってる訳だし、何も思わなかったと言えば嘘になりますよ。残る悪魔が元凶だけだったら、どうブチのめしてやろうかって考えてた所でしょうね」

 

手にした薙刀を肩に乗せながら彼女はちらりと後ろを見る。

その先にいるのは蛮族戦士。

平然としている彼にため息を付くアイソマーを見て他の面々は彼女がついてきた理由を察した。

 

「…そこにいる人が好き勝手やらかすでしょうから…その面倒も兼ねてます」

 

蛮族戦士と共に居る事で気苦労が絶えないのだろう。

アハハ…と乾いた笑みを浮かべるアイソマーへとアナ、ネージュの二人から同情の目が差し向けられる。

三人から告げられた理由。

引き返す様に言った所で引き返す事は無いだろうと判断し歩き出すギルヴァ。

そんな彼を先ほどまで懇願していた筈のグリフォーネが呼び止めた。

 

「あのー…あの時、ギルヴァさんから現れた分身みたいな人って…あの人は何者なんですか?」

 

「あいつか」

 

バアルでの戦いで仮初とは言えどその姿を現した蒼。

言われてみればグリフォーネとアイソマーには紹介してないという事を思い出し、ギルヴァは蒼へと話しかけた。

 

(指名だ。表に出てこい)

 

―あいよ。好印象を与えられる様にちゃんとした自己紹介をしねぇとな

 

正直言えばそんな事をしている暇はないがギルヴァが蒼を呼び出したのは理由があった。

蒼を知っているのはギルヴァを含めエラブル、アナとティアの四人。

その姿しか知らないグリフォーネが尋ねてくるのも無理もない事であり、いずれ話しておくべきとも思っていた為、行動に起こしたのだ。

グリフォーネに指名を受け、ギルヴァの魔力で構成されたドッペルゲンガーが姿を現す。

当然それには蒼が憑依しており、彼は軽く背伸びした後グリフォーネを一目見ると傍へと歩み寄った。

 

「初めましてだな。アイソマーと共にジョガトグルゥムへと決めた一撃は見事だったぜ」

 

「え、あ、どうも…。えっと、あなたが…?」

 

「おっと、自己紹介し忘れてたな。蒼って呼んでくれ、よろしくグリフォーネ」

 

「ど、どうも。その…蒼さんって悪魔なんですか?」

 

「肉体は無いけどな。れっきとした悪魔である事は変わんねぇよ」

 

手にした大剣を担ぎ肩を竦める蒼。

ギルヴァの中から出てきたとは思えない程に蒼の飄々とした性格にグリフォーネは戸惑いを覚えた。

それが顔に出ていたのか蒼はグリフォーネを見据えながら口を開く。

 

「流石にギルヴァには似ないさ。それともう一つ言ってやるとすりゃ俺自身色々訳アリでね。肉体を失い、残ったのは精神のみ。この姿も仮初の姿で、名前も肉体無き身じゃ不要になったんで今は蒼って名乗ってる。因みに名付けたのはギルヴァだけどな」

 

「…」

 

「まぁ、無理に全部理解しろとは言わんさ。この手を全部飲み込んで理解するには時間がいるからな」

 

ゆっくりでいいさとグリフォーネに念押しした後、蒼はアイソマーと蛮族戦士の二人に軽い挨拶を交わす。

これですべきことが終わった。後はモデウスが居る場所へと向かうのみとなった時、アナが口を開いた。

 

「丁度良いので私も彼女を紹介しないといけませんね」

 

「彼女?」

 

首を傾げるネージュであったが、この場にいるギルヴァと蒼、エラブルだけは知っている。

アナの中にいるもう一人の彼女の存在を。

ネージュ以外のメンバーも首を傾げた時、彼女はアナの隣に並び立った。

姿こそはアナと同じ、しかしその髪の色は深紅に染まっていた。

手にした大剣を軽々と振るい肩に担ぐ少女こそ、アナに存在するもう一人の人格()、ティアである。

 

「え?え?え?」

 

「アナさんが二人!?でも髪の色が違う…?」

 

蒼の登場でも十分困惑すると言うのに、追加と言わんばかりに登場したティアにグリフォーネとアイソマーの頭は更に困惑し始める。

そんな二人の傍で蛮族戦士は相変わらず平然としているが、ネージュは驚きながらも素早く立ち直り、ティアを見つめた。

その視線に気づいたのかティアは笑みを湛えながらネージュへと歩み寄る。

 

「おー…貴女がネージュね。人形だって分かってるけど凄い美人さんね」

 

「そう言われて悪い気はしない。それで、貴女の名前を聞いても?」

 

「おっと、忘れてた。私はティア。この戦いに参加するつもりだし宜しくね」

 

「そうか。であれば背中は任せてもらおう。援護射撃は得意な方なのでな」

 

「最高の弾幕と最高のアクロバティックを期待してるわ」

 

軽くウインクしてネージュの傍から離れるティア。

グリフォーネ、アイソマー、蛮族戦士にへと挨拶していく彼女の姿を見つめるアナ。

その隣に立ったギルヴァは同じようにティアの姿を見つめながらアナへと話しかける。

 

「姿を保って動けるようになるとはな」

 

「とは言っても、ドッペルゲンガーに憑依している蒼の様に長くは保つ事は出来ないみたいです。ですが体の主導権を彼女に渡す事で、私とはまた違う戦い方が出来るみたいです」

 

「人格の交代、か。成る程な」

 

長く保つ事は出来ないが人格を交代する事でそれぞれ異なる戦い方を展開する。

ギルヴァからすればあのように姿を保ちながら外へ出られるようになっただけでも十分とも言えた。

なにせそこまでの技術は教えてはいないのだから。

それはドッペルゲンガーに憑依した蒼も同じだった模様でギルヴァの隣に立ちつつ視線をティアへと向けた。

 

「ホント恐ろしいヤツだな。好奇心旺盛に加えて器用と来やがった」

 

「下手すれば貴方を超えるかもですよ?蒼」

 

「ハッ!言うねぇ。だが悪いな、俺はそう簡単に超えられないぜ?」

 

「分かってますよ。今のはちょっとした冗談です」

 

魔界出身であり、ギルヴァと同等か或いはそれ以上の実力を持つ蒼を超えるなど容易い事ではない。

それはアナも良く分かっている。

先ほどの発言は場を和ませる為の冗談でもあり、蒼もそれに気づきながらもわざと気付いていない振りをしており、ギルヴァも反応はしなかったもののアナの冗談の目的には気付いていた。

 

「今のうちに魔力を回してくれませんか、ギルヴァさん。今回の戦いでは恐らく…」

 

そこから先を口にしなかったアナではあったが、ギルヴァは分かっていた。

この戦いで確実と言っていい程に自身と蒼が託した力『デビルトリガー』を使う事になる、と。

 

「既に回してある」

 

だからこそギルヴァはそうなる事を見越して、自身の中にいるエラブルへと仕事を与えていた。

背に伝わる僅かな衝撃。それがエラブルが戻って来たという合図だと知るとギルヴァは彼女へと問いかける。

 

(上手く行けたか?)

 

―はい!デビルトリガー一回分とイグナイトトリガー二回分の魔力をアナさんへと送っておきました!

 

(よくやった。……面倒をかける)

 

―気にしないで下さい。私はギルヴァさんや蒼さん、他の皆さんみたく戦える訳ではありませんから。こうしてお役に立てるだけでも凄く嬉しいです

 

エラブルの口から出た言葉は紛れもなく純粋なものであった。

表立って戦えないからこそ、自身が出来る事をする。

その成長はアイソマーと言われながら身体が成長したことにより身に着けたのか、或いは肉体を失い精神のみとなってしまった時に身に着けたかは分からない。

だがエラブルがそう口にしてくれた事はギルヴァにとって少なからず喜ばしい事であった。

 

(そうか。…お前がそういうのであれば此方が何か言うつもりはない)

 

―はい!

 

明るく返事するエラブルにギルヴァは誰にも気づかれる事無く笑みを浮かべる。

だがそれも僅かな出来事。いつもの表情へと切り替える。そして軽く息を吐くと静かに歩き出した。

それに続く様に他の面子も彼の後ろを追う。

長く奥へと続く廊下。

やがて出口の近くまで来た時、外から聞こえてくる音にギルヴァの中にいたエラブルが呟く。

 

―雨の音…?

 

雨特有の匂いを感じる事は出来ないが、外では雨が降っているのは確かであった。

あの世とこの世の間にある世界『狭間』に雨など降るのかという疑問も覚えるエラブルであったが、決してそれを口に出さないまま外へ歩くギルヴァの視界を通してその行方を静かに見守る。

そして全員が船の外へ出た時、そこに広がったのは艦橋の上とも言える場所であった。

艦橋と明確に言わなかったのは、あまりにも艦橋とは言い切れない程に違う景観を保っていたからである。

まるで塔の頂上を彷彿とさせる円を描いた頂上。

周囲を囲むようにして並べられた複数の得体の知れない像。

そしてその場の中央で剣の切っ先を地に宛がい、静かに立ち尽くす騎士の姿。

静かに降る雨に打たれながらも微動だにしないその姿はどこか覚悟を決めている様な、そんな雰囲気を纏っていた。

その姿を後ろから見つめていた一行。そしていつの間にか体の主導権を手にしていたティアは軽く笑みを浮かべ、ホルスターに差し込んであったモデラートを引き抜いて戦いの舞台へと足を踏み入れる。

それを合図に全員が足を踏み入れた時、静寂を保っていたモデウスが反応した。

 

「来ましたか」

 

発せられた声に警戒を強める者がいる中でギルヴァと蒼、ティアと交代し意識の世界にいるアナ、表に出ているティアは違和感を覚える。

廃棄された素体と融合したモデウスは暴走状態にあると認識している。

実際、初めて邂逅した時もそうであった為だけに今の様子が異常とも言えた。

今そこに立っている敵は暴走している様子など無く、理性を保った魔界の騎士がそこに存在していた。

そうだと分かっていながらもティアは焦る様子もなく、何時もの様子で口を開いた。

 

「ホント、大したパーティーね」

 

モデラートを軽く一回転させ言葉を紡いでいくティア。

 

「食事もなければ、お酒もない。それで華やかな女性もいない。残ったのは悪さしか頭にない悪魔だけ」

 

「それは大変失礼しました、お嬢さん(レディ)。此方もパーティーを開くというのを聞かされなかったものでして。知らない内に突然パーティーを開いた事で準備すらままならなかったのです」

 

「へぇ?それじゃ仕方ないか。なら今から開いたパーティーを祝してグラスでもぶつける?それとも…」

 

モデラートを再び回転させた後、ティアはモデウスへとその銃口を突きつけた。

 

こっち(弾丸)をぶつけた方がいいかしら?」

 

それを合図に響き渡る雷の音。緊迫した状況が生まれる。

静かに降る雨が身に当たる中、ティアは静かにモデウスへと尋ねる。

 

「こう言うのって、感動の出会い(一発触発)って言うみたいよ?」

 

いつ、どのタイミングでこの戦いが始まるかなど誰しもが言わなくても分かっていた。

相手に悟られぬ様に身構える中、モデウスは空いた方の手を伸ばし背に滞空させてある大剣を握りつつ、ええ…と頷き静かに答える。

 

「そのようですね」

 

振り抜かれる剣。

鋭い切っ先に雨が降り、雫が滴る。

刀身の切っ先から落ちた雫が雨音に紛れて地にぶつかった瞬間、一番に動いたギルヴァと蒼が振るった得物の刀身が甲高い音を立てながらモデウスが振るった大剣をぶつかる。

火花が散りばめ、拮抗する力。雨が降りしきる中、最後の戦いが幕を開くのであった。




あけましておめでとうございます!

という訳でコラボの続きでございます。
前回と同様に分ける訳でございますが…
裏ボス戦の戦闘描写を無理に書く必要はございません。
そこは裏ボス戦に参加している方々に判断を委ねます。

もし…「ええで、折角の裏ボス戦の戦闘描写書かせてもらおうか」という方が居れば私の方にメッセージを送ってくださいませ。
モデウスの外見、攻撃パターン、ギルヴァ&ネージュの使用武器などの詳細を送りますので。

ではノシ


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Act254-Extra M.O.S back story Ghost ship in the sea Ⅸ/Ⅱ

─これが最後の戦い─


剣戟と銃撃、破砕音と爆発音、駆け抜ける剣風と爆風。

血は舞い、火花は散り、薬莢は飛び跳ね、硝煙が漂い、殺気は降り注ぐ雨と交わる。

自身を討つ為に挑みに来た者達から繰り出される熾烈な攻撃の数々。

それらを捌き、往なし、躱し、剣を交え、弾丸を斬り落とすモデウス。

肉体の主導権をティアから自身へと切り替えたアナの幻影と剣戟を繰り広げ、一瞬の隙を突く形で薙ぎ払う様な蹴りを放って吹き飛ばしながらモデウスは思う。

 

──強い、と。

 

スパーダにその剣術を学び、彼が人類の味方をし魔界を去った後も一時は剣を振るい続けたモデウス。

魔界において一度剣を振るえば悪魔の千や二千は斬り殺されると恐れられた彼が苦戦している。

モデウスの恐ろしさを知る悪魔が聞けば、さぞや驚く事であろう。

それ程までに狩人らの実力は高かった。

 

(決して侮ってはいなかった、と言うのは言い訳にしかならない。己の内の何処かでこの者達を侮っていたか…)

 

素体が持ち合わせていた予備の剣もグリフォーネによって全て破壊され、蛮族戦士とアイソマーによる猛攻によって体のあらゆるところから血が流れている。

残る武器は()()()と自身が愛用している大剣のみ。

倒れても可笑しくない程の傷を負いながらも剣を構える事が出来るのは、悪魔としての矜持、何よりスパーダの弟子として彼に最も近いとされた魔剣士である誇りが、そして何よりも──

 

(我が師、スパーダを超える為にも…!)

 

兄を手にかけてまで叶えたい野望がモデウスが倒れる事を許さない。

そしてその野望をモデウス自身から聞かなくても密かに見抜いていた人物が一人いた。

 

アイツ(スパーダ)の力を得て、アイツを超えるのが目的)

 

それが蒼であった。

 

(故にソレを持ち出した…)

 

魔力で構成された大剣を振るい、構える。

吹き飛ばされたアナと入れ替わるようにして前に飛び出る蒼。

地を蹴り突進しつつ蒼の目は一瞬だけモデウスの背に残った最後の剣へと向けられた。

戦いが始まり、背中に展開した四振りの大剣をグリフォーネに破壊されたにも関わらず、残った武器が愛用の大剣とソレだけにも関わらず、モデウスは最後に残った大剣を使わずにいる。

一方でただの飾りではないのは事実。では、あの大剣は何なのだと誰しもが思うであろう。

密かに抱えた疑問。それに対し蒼が答える。

 

「魔剣スパーダの力が秘められた"フォースエッジ"を持ち出すとはなぁ!!お師匠様(スパーダ)が聞いたら勘当もんだろうぜ!!」

 

「ちいッ!!」

 

甲高い音が響く。

両者の剣から飛び交う火花。決して退かないと言う意思を体現するように拮抗する力。

鍔ぜり合う中、蒼は叫ぶ。

 

「互いの志を貫き、生きていく!お前と兄のバアル、そしてスパーダはそう誓い合った筈だ!!そんな事すら忘れたのかよ!」

 

「忘れてなど…ッ!!」

 

「じゃあ、その有り様は何だ!?それがお前が掲げる志とか言うんじゃねぇよな!!?」

 

「ッ…!…黙れ…黙れッ!!!」

 

その台詞が癇に障ったのか、激昂するモデウス。

剣を勢いよく振るい蒼を押し飛ばすし、態勢を崩した所を見逃さず、一気に接近。

無防備な状態を晒す蒼へ向かって刃を振り下ろす。

そこにギルヴァが両者の間に割って入り無銘の刀身でモデウスの一撃を弾き飛ばし、素早く身体を回転。片足を軸にしつつ鋭い蹴りをモデウスの腹部へと放ち吹き飛ばすと流れるように居合の態勢へと移行、地を蹴ったと同時にエアトリックを用いて一瞬の内にモデウスの目の前まで詰め寄った。

鯉口が切られた同時に鞘からその姿を晒し出す刀身。神速の一撃となって放たれる刃がモデウスの迎撃が届く前に、その体を切り裂いた。

 

「ぐぅっ…!」

 

苦悶の声を上げるモデウスだったが、その体は決して倒れる事は無い。

新たに出来た傷から血を流しつつ大剣による横薙ぎを見舞う。

迫りくる刀身を体を反らして躱し、その状態で刀を持ち得る力を全開にして振り上げ大剣を上へ弾くギルヴァ。

後方へと飛んでいく大剣、仰け反るモデウスの体。

それが最大のチャンスと見たギルヴァはモデウスの首へ目掛けて刀を振るうも、モデウスは素早く復帰し無銘の刃を大剣の幅で受け流し突進。

同時に最速を誇る刺突を放つも躱され、両者はこれで何度目になるのか分からない鍔迫り合いを持ち込む。

一歩も動かない二人。刃と刃の間で散りばめる火花の音だけがその場を支配する。

その時、足に強烈な痛みを感じた瞬間、モデウスの体が後ろへ浮かび上がった。。

一瞬の事に驚きを覚えるモデウスだが、ギルヴァの左手に握られたソレを見て理解した。

 

(鞘で払ったのか…!)

 

内心でそう呟くの束の間、無銘の刀身が振り下ろされ、不安定な態勢にも関わらずモデウスは大剣で防御態勢を取った。

寸でのところで防御が間に合い、刀の一撃を防ぐ。

だが直撃の反動までは殺す事は出来ず地面へ叩きつけられた後、そのまま跳ね上がったと同時に体を回転させて後方へと飛び退き、素早く構えた時、モデウスの体を影が覆った。

次第に大きくなり、人の形を成していく影にそれが上から迫ってくる者によるものだと判断すると体をそちらへと向けた。

 

「ハロー♪」

 

緊迫した状況下にも関わらず、届く陽気な挨拶。

宙で揺れる真っ赤な髪。

浮かび上がった笑みが彼女(ティア)が居ると言う確固たる証拠。

 

「…」

 

そんな彼女を抱えつつ回転しながら降下してくるは半面のみの道化師の仮面を装着した白銀の人形(ネージュ)

宿した瞳と纏う雰囲気は氷の様に冷たく、重装備にも関わらずその動きは実に軽やかだ。

深紅と氷(Crimson&Ice)

そんな印象を抱かせる両者が持つ二丁の拳銃と重火器がモデウスへと向けられた時、二人は息を合わせたかのように誘いを掛ける。

 

「「Shall we dance?(踊りましょう?)」」

 

誘い文句と共に始まりを告げる銃が火を吹く。

回転する砲身、カスタムが施された二丁拳銃の銃口から嵐の様に吐き出される鉛玉。

モデウスへと向かっいく弾丸の中でネージュと共に急降下していくティアは笑い、思った。

元凶よりもこのモデウス(裏ボス)との戦闘が最高に盛り上がる。そしてその盛り上げる要因の一つとして自身が握っている二丁の銃がそうであると。

 

(ハハッ…たまんないわね、この銃。まるで私の為にあるって言わんばかりの銃じゃない!)

 

もう一人の自分(アナ)が愛用する白銀の大型二丁拳銃(アジダート&フォルツァンド)に装填されているのは9mmパラベラム弾。

対して黒と銀の大型二丁拳銃(モデラート&ラルゴ)が吐き出す弾丸は.40S&W弾。

弾頭のサイズで言えば1ミリの差であるが、重量では1.5~1.8倍の差があり、着弾時における敵へのダメージは雲泥の差がある。

その強烈な反動を抑える為に施された改造、弾頭の拡大による装弾数減少をカバーする為のロングマガジン、銃をホールドする為に加工されたグリップ。

自身が知っている銃とは比べ物にならない程に改造が施されたこの銃は戦いを盛り上げる一方で自身の気分さえも高揚させていた。

 

「ったく、伝説の魔剣士の弟子ってのも厄介ね!ご丁寧に全部弾いたり斬り落としてる!」

 

これだけ銃弾が放っているにも関わらずモデウスは降ってくる弾丸の全てを大剣で弾き、そして斬り落としていた。そんな光景を前に浮かべた笑みながら愚痴るティアに戦闘が始まってからというものの冷静を保っているネージュが口を開く。

 

「ならばそれが出来なくなるまで撃つ。要は相手が死ぬまで撃ち続けるまでだ」

 

「ハッ…殺される前に殺るって訳か。良いわ、その脳筋戦法。実に好みだわ」

 

「ありがとう」

 

一言礼を告げてから着地するネージュ。彼女が着地したと同時に傍から離れ、肉体の主導権へとアナへと渡し交代するティア。

重装備故かまるで破裂したかのような破砕音が響き渡り、地は割れ、地面に転がっていた空の薬莢が飛び上がり、雨とそれがモデウスと二人の姿を一時的に隠す壁と化す。

その瞬間にネージュは両手に持つダブルガトリングガン『ジェラシー』を構えるとパトローネが持つ全ての武装を起動させた。

飛行ユニットとして生まれ変わった背部ユニットのアームに接続された巨大なコンテナ。無数の存在する発射口が次々と展開されていき、内部に装填されていた無数のミサイルが前へと迫り出す。

一対多を想定した装備。搭載された全ての武装を用いた時、生まれる瞬間火力は戦艦級。

fullweapon fullburst(全弾発射形態)』と命名されたその状態はパトローネを纏う今のネージュにとって必殺と言っても過言ではない選択。

だがネージュはモデウスを仕留めるつもりはなかった。否、自身が仕留めるのは不可と判断している。

そうだと分かっていながら浮かべる表情に焦りや諦めが見られないのは何故か。

単に彼女が冷静な性格だから?ただ隠すのが上手いだけ?

──違う。そんな理由でこんな表情している訳がない。

勘違いをしていないか?そして忘れていないか?此処に居るメンバーは誰であるかを。

 

「そう…仕留めるのは私じゃない」

 

身体を打ち付ける雨。その背後から青き突風が奔り、彼女の傍で赤から青へその色を変えていく霧が駆け抜けた。

眩い光がその場を駆け抜けた時。現れたのは刀を携えた悪魔と人間と悪魔が融合したような悪魔。

その二人がネージュの傍に立ち刀身を鞘へと納めた愛刀の柄へと手を伸ばし腰を低くした時──

 

「仕留めるまでの過程を作るのが私の役目だ」

 

パトローネが持つ全ての武器が一斉に火を噴いた。

耳を塞ぎたくなる様な劈く銃声。

高速回転する砲身から吐き出される弾丸は真っ直ぐと、コンテナに設置された複数の発射口から飛び出していく無数のミサイルはそれぞれの軌道を描きながら突撃。

硝煙とミサイルの噴煙が広がり、弾丸とミサイルの台風とも形容すべき弾幕がモデウスへと襲い掛かる一方で飛び交う銃弾とミサイルの中を掻い潜る様にして魔人化を果たしたギルヴァとイグナイトトリガーの上位版であり継承された力『デビルトリガー』を引いたアナが駆け抜けていく。

 

「くっ…!」

 

苦悶の声を上げながらも嵐を前に致命傷となる攻撃だけを捌いていくモデウス。

しかしその量は幾ら伝説の魔剣士と言えども捌き切るのは難しく、体を貫く弾丸と対象の至近距離で起爆するように設定されたミサイルによる爆発が肉体を削っていく。

それでも尚、モデウスは倒れない。

熱と硝煙、そして鮮血に包まれた爆炎の中から飛び出す二体の悪魔の刃が迫った。

研ぎ澄まされた鋭い一撃。首を狙った高速の刃にモデウスは満身創痍にも関わらず素早く反応。

幻影の刃を受け流し、即座に無銘の刃を受け止め弾き返し二人同時に仕留めようと大剣を横へと薙ぎ払うが態勢を瞬時に立て直したギルヴァとアナは体を後ろへと反らして回避。

生まれた僅かな隙。この時、アナの視線は蒼が口にした大剣『フォースエッジ』へと向けられていた。

 

【ティア!】

 

【言われなくても分かってる!!】

 

己の内に居るもう一人の自身が答えた瞬間、左手に現れたのはレプリカント。

腕を引き刺突の態勢へと移行する。

 

【使わずに置いておくと言うのあれば…!】

 

狙うは一点。

 

【"そいつ"を扱うに相応しい奴に渡したって良いわよね!!】

 

生まれた隙を見逃す程──

 

【受け取ってください、蒼!】

 

彼女は…いや、彼女達は愚かではない。

 

【私達からのプレゼントよッ!】

 

神経を極限にまで尖らせる。爆炎と雨が視界を遮ろうとしたとしても狙いは決して外さない。

確実に"ソレ"を送り届ける。この戦いを終わらせるに相応しい人物の元へと。

 

【「はあぁッ!!!!」】

 

目で追う事は不可。放たれるは最速の刺突。まるで流星の様な一撃。

神速の一撃とレプリカントが保有する変形機構によって刀身は前へ飛び出し魔力を纏い突進。

この状態だからこそ行える一撃と増大した射程はモデウスに反撃させる間もなく、彼の背後で浮遊するフォースエッジに直撃。

響き渡る甲高い音。駆け抜ける剣風。モデウスの傍を離れ宙へと勢いよく舞うフォースエッジ。

 

「なっ…!!ええぇい、忌々しい!!」

 

フォースエッジを狙った攻撃に驚くのも束の間、苛立ちを露わにするモデウス。

攻めてくるギルヴァとアナの攻撃を受け止めた後、二人を吹き飛ばすと彼は追撃を仕掛けるのではなく、何故か飛んでいったフォースエッジの回収する為、駆け出していた。

だが、その先に行かせんと蛮族戦士とアイソマーがモデウスの前に立ちふさがる。

 

「イカセヌ…!」

 

「ここからは先は通行止めよ!!」

 

爪と薙刀による同時攻撃。

否応なしに防御を強いらせるモデウス。

しかしその目は二人ではなく、未だに宙を舞うフォースエッジへと向けられていた。

まるで自分たちを見ていない。それに怒りを覚えたのかアイソマーが叫ぶ。

 

「ふざっけんじゃないわよ!このデカブツが!!私を見やがれッ!!!」

 

纏う装備が持ち得る力を全開にしてモデウスを押し飛ばすアイソマー。

よろけた所を蛮族戦士と同時に猛烈な連撃をぶつける。

蛮族戦士が放つ強烈な一撃は巨体を持つモデウスに確実な傷を負わせ、一瞬の隙をついてアイソマーが蛮族戦士と交代する形で前へと出る。

手にした白銀の薙刀を握り直し、懐へ飛び込む。

大きく薙ぎ払いから八の字を描く様な斬撃を繰り出した後、体を捻り持ち手を変えながら薙刀を自身の背へと回しながら飛び上がり、そのまま高速回転しながら斬撃を叩きつける。

そして着地と同時に回転による勢い利用した振り下ろしによる一撃を叩きつけ、モデウスを後ろへと吹き飛ばした。

今まで受けてきたダメージ、そこに蛮族戦士とアイソマーの二人による猛攻によって限界が近づいたのか体の各所から血を吹き出しながら片足をつくモデウス。

だが彼の感情は二人にではなく、飛んでいくフォースエッジへと向けられたままだった。

 

「アレが無くては…アレが…!!」

 

「こいつがなきゃ伝説の魔剣士(スパーダ)が超えられないって思ってんだろ?」

 

「ッ!!?」

 

ふと聞こえた声に勢いよく顔を上げ、声の主の方へと向けるモデウス。

モデウスの視線の先。その先にいたのは肉体を魔力で構成した悪魔の存在、蒼であった。

彼の手にはアナの一撃によって吹き飛ばされたフォースエッジが握られておりそれを軽々と振るった後に肩に担いでその場に立っていた。

 

「確かにアイツは憧れだったろうよ。魔帝に仕えし最強の存在…そりゃ悪魔の誰しもが憧れるのも無理もない話さ」

 

まるで近くで見てきたような口ぶり。

誰しもがそんな違和感を覚えながらも敢えて口にせず、感慨深げにフォースエッジを見る蒼を見つめた。

 

「けどなアイツは選んだのさ。人という存在を…例えどんなにド畜生な奴が存在していたとしても、それがたった一握りしか居ない、この世を必死に生きる存在をさ」

 

「…だから我が師は我らを裏切ったと…?」

 

「さぁな。アイツの真意までは分からんさ。でも、言葉には表せない感情ってもんは分かる。なんせ俺は残り香みたいな存在だしな」

 

「…! まさか…貴方は!?」

 

肩に担いだフォースエッジを下ろし、柄を両手に握りながらその刀身の切っ先を天へと掲げる蒼。

フォースエッジ全体が僅かに輝きを放ち始めた時、辺りは真っ白な空間に包まれる。

そんな時、蒼は一瞬だけ驚いた様な表情を浮かべた。

つい先ほどまでその姿すらなかった筈だ。

しかし蒼の前にはいつの間にかに一体の漆黒の魔剣士が立っていた。

 

(良いのかよ。こいつがその姿を取り戻す条件…それは意思と力、二つの鍵に己の血族が揃わなかったら駄目なんじゃないのか?俺がやろうとしているのは、誰も知らない第二の方法なんだぜ?)

 

(──)

 

(…そうか。お前がそう望むなら、態々俺の前だけに現れたお前がそう望むのであれば吝かではないさ)

 

(──)

 

(伝言?ああ…ティアの持つレプリカントについてか。分かった、お前がそう言うなら伝えておくよ)

 

(──?)

 

(ああ、いつでも。…力を借りるぜ?)

 

その問いに漆黒の魔剣士は静かに頷き、蒼はフッと笑みを零す。

やがて真っ白に包まれた空間は収束していき、天に掲げたフォースエッジに赤黒い魔力が帯び始めた。

微かにだが、フォースエッジとは違う姿をした大剣が出現する。

肉体を失ったとしても、ほんの僅かに残った欠片程度の誇りは今も尚、彼の中に存在し続けていた。

かつての姿を一時的にとは言え、取り戻そうとする大剣。

その光景を近くで見守る漆黒の魔剣士は静かに開く。

 

「…往くがいい。己に宿る魂がそう叫び続ける限り」

 

そう言葉をかけると漆黒の魔剣士は何も言わずにその場から消え去っていく。

次の瞬間、何処から現れたのか黒雲から赤黒い雷がフォースエッジにへと直撃。

そしてそれが合図と言わんばかりに、現れるはフォースエッジとは全く形の異なる大剣とつい先ほどそこに立っていたであろう蒼とは違う姿を有した漆黒の魔剣士がいた。

 

「あれは…」

 

【…凄まじい気配ね。アイツが今、手にしているのレプリカントの元となった剣よ】

 

「ッ!?では、あれが…!?」

 

【ええ、あれが伝説の魔剣士スパーダが有していたものであり、己の名を冠した大剣…魔剣スパーダよ】

 

「あれが…レプリカントの元となったという…。では、あそこに立っているのは、まさか…?」

 

【ご本人様って感じがしないわね。でも、気配で分かるわ。紛れもなくあそこに立っているのは蒼本人よ】

 

「…!」

 

ティアの話を聞き、思わず息を呑むアナ。

魔剣スパーダを手に、漆黒の悪魔の姿をした蒼という存在、彼から感じられた気配に彼女はこう思わずにはいられなかった。

次元が違い過ぎる、と。

何より次元が違い過ぎる存在が何故肉体を失い、精神のみの存在になってしまった事に疑問を覚えすにはいられなかった。

 

「遅いぞ、蒼」

 

「悪いな、ギルヴァ。ちと本気を出すのに時間がかかった」

 

「そうか。…それがお前の本当の姿だな?」

 

「流石にお前なら分かるか。ああ…これがもう何百年も前に失った俺の姿さ。スパーダ本人と違うとするのであれば、左腕に鞘みたいのが生えているぐらいかもな」

 

訪れた静けさを破るようにギルヴァと蒼は普段通りの会話を繰り広げる。

だが、それも一瞬の事であり二人の視線はモデウスへと向けられた。

 

「何故…何故貴方なのだ…!?何故、貴方にそれが出来る!?」

 

「まぁ…そう言われてもおかしくはねぇだろうな。けど、悪いな。俺の存在を一番に知るのは相棒(ギルヴァ)可愛い愛弟子(アナ&ティア)に決めてるんでな」

 

消える。

それは字のごとくであり、彼が地を蹴った時、その姿を目で追う事すら不可と言える速さで、一秒足らずでモデウスの懐に飛び込んでおり、モデウスが気づいた時には蒼は既に剣を抜き払っていた。

 

「ッ!?」

 

余りの速さに驚きながらもモデウスは満身創痍の体に鞭を打ち、無理矢理にでも動かした。

初撃は回避できた。そのまま攻撃を仕掛けようとした時、それすらも許さない突風が奔った。

閉じそうになる目を辛うじて開きつつ、モデウスは突風の発生源を見た。

 

「終わりだ」

 

居合の姿勢からゆっくりと刀の柄へと伸ばす蒼き悪魔。

そして──

 

「決着をつけるぞ」

 

魔剣スパーダを逆手で持ち、ゆっくりと腰を下ろしながらモデウスを見据える漆黒の悪魔の姿があった。

確実に仕留めに来た。そんな事は言葉にせずともモデウスは分かっていた。

地面を抉るような脚力で地を蹴り、技を繰り出そうとする二人を阻止すべく突進。

だがそれを許さんと言わんばかりにモデウスの前に立ち塞がる者がいた。

 

「準備は良いですね、ティア?」

 

【いつでもオーケーよ。一発かましてやりましょ】

 

それがデビルトリガーを発動させたアナであった。

 

「邪魔をするなぁッ!!!」

 

「大変申し訳ないのですが、そういう訳には行かないのです。…伝説の魔剣士の弟子であるモデウス、どうかお覚悟を」

 

激昂しながら突進してくるモデウスに前にして決して怯む事無くアナは構える。

幻影を左腕と同化した鞘へと勢いよく収め、力を貯める。

蒼い霧が暴風となって彼女の元へと集まり、相手を見据えながら腰を低くし刀の柄へと手を伸ばしながらゆっくりと体を回転させていく。

今から彼女がやろうとしているのは、かつての作戦で放った技の進化版とも言える技。

あの時の一撃が刀身に膨大な魔力を纏わせて巨大な剣を作るのであれば、この技は極限にまで魔力を収束させ、抜刀と共に放つ絶技。

この姿だからこそ出来る技。受け継いだ力によって出来るようになった最大の一手。

 

「はああああッ!!!!!」

 

抜刀。

回転と同時に振り下ろされた一刀は地面すらも揺らし、研ぎ澄まされた一撃は空間すらも切り裂く真空刃へと昇華。

迫りくるモデウスに切り裂くと、抜き放たれた一撃に続く様に青い斬撃とも言うべき巨大な衝撃波が飛翔。

その衝撃波はあろう事か灰色に覆われていた雲を切り裂く様に真っ二つに両断した。

これこそがデビルトリガーを発動させたアナが出来るようになった絶技。

その名も──『蒼ノ一閃 絶』。

 

「後は任せます」

 

幻影の刀身を鞘へと納めつつ、この戦いの幕引きを二人へと託すアナ。

彼女がその場から飛び退いた瞬間、世界が静止し無数の斬撃の音が響き渡った。

白黒へと切り替わった空間、視界の全てがゆっくりとズレ落ちる。

何かもが止まった世界で、息遣いすら聞こえないこの場で動けるのは青い悪魔と漆黒の悪魔のみ。

青い悪魔が持つ刀の刀身が鞘へ納められ、漆黒の悪魔が持つ大剣がその背へと収められた時──

静止した空間に煌めていた無数の太刀筋がガラスを割るように破裂

大技をまともに受け、地面に倒れ伏せるモデウス。

そして勝者としてその場に立つのは狩人達。

その光景は言わずとも分かる。

ギルヴァらが最後の戦いに勝利したという光景だけがその場に残っていた。




遅くなり申し訳ございません。
何度も書いては内容が気に入らず書き直しを繰り返していて、こんなにも時間がかかってしまいました。
これにてモデウス戦は決着。次回は脱出&後日談と行きます。
去年の夏に始めたコラボバカンス。大変時間がかかってしまいましたが、何卒お付き合いくださいませ。

さて、今回の戦いで魔剣スパーダを開放した蒼ですが…原作基準で行くと意思と力、二つのアミュレット、そしてスパーダの血族でなくては解放できません(多分そうだった筈)。蒼がスパーダは復活させた方法は誰も知らない第二の方法…いわゆる此方が考えたオリジナルなので、どうかご理解の程よろしくお願いします。

またアナさんが最後に放った大技は『sekiro』の竜閃を意識したものです。
なんかやれそうだなって思いやってみました。

あ、それと最近AIイラストというの使う様になりました。
それを用いてルージュちゃんを生成してもらったので、良ければどうぞ


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では次回ノシ


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Act255-Extra M.O.S back story Ghost ship in the sea Ⅹ

Do you remember the final word?(決め台詞は覚えているか?)


そこに残る静けさを言葉にするのであれば、正しく全ての戦いに決着がついた直後に生まれた静けさと言うのが正しいだろう。

全てを切り裂く様な一太刀によって黒雲は切り裂かれ、その間から差し込む陽の光が戦いの幕を下ろした者達を温かく包み込む。

そして敗者の彼…モデウスはあれだけの攻撃を受けながらも辛うじて息をしており、抵抗する様子すら見せる事無くその空を只々眺めていた。

そこにこの最後の戦いの序盤にて、その突破口を開いたと言っても過言ではない活躍をし、一時戦場から撤退したグリフォーネが姿を現し、ネージュの隣に立った。

 

「終わりましたか…?」

 

「恐らくな」

 

そう言いつつもネージュが両手に持つ連装ガトリングガン『ジェラシー』をサイドコンテナのマウントラッチへと収納し、顔の右半分を覆っていたピエロの仮面を外している辺り、既にこの戦いは終わりを迎えているのを指し示していた。

もう警戒する必要がないと感じたかのか安堵した息を吐き、纏っていた装備を解除するグリフォーネ。

モデウスが有する武器の大半を破壊してすぐ離脱した彼女。

この戦いの決着がつくまでの間、果たしてこの戦いは彼女の目にどの様に映り、その胸にどの様な感情を抱いたであろうか。

最も何かを思うその表情が秘める意味と胸の内に宿る想いを知るのは本人だけの話だろうが、彼女はどうしても言いたい事が一つあった。それが──

 

「…雲をぶった切る程の一太刀とか…斬撃の範囲どうなってんだ…?」

 

「見事な一撃だったな。対する私は彼女の様な活躍は出来なかったが」

 

「そんな重量物を装備しておきながら踊るみたいにアクロバットを決めて弾やらミサイルをバラまくとか普通出来ないと思うんですけど…戦場の道化師か何かですか?ネージュさんは」

 

最後のアナが放った絶技へと対する感想であった。

最も次元を切り裂く男(ギルヴァ)が居る為、グリフォーネの驚きがそう大して大袈裟なものではなかったのは、ある意味偶然と言えよう。

そこに大した活躍が出来なかったと口にするネージュの台詞に思わず引き攣った笑みを浮かべるグリフォーネを見つめながら首を傾げるネージュを他所に元の姿へと戻ったギルヴァとアナ、構えを解く蛮族戦士とアイソマー、そして未だに漆黒の悪魔の状態を維持し続ける蒼は空を見上げたまま微動だにしないモデウスを見つめていた。

このまま静かに消失していくのだろうと思われた時、モデウスの体が僅かに動く。

 

「やはり勝てませんか…」

 

ふらつきながら起き上がるモデウス。

寄り添うようにして地に突き刺さった大剣の柄へと手を伸ばし引き抜くとギルヴァ達を見つめる。

その様子を見て、まだ戦い続けるつもりだと瞬時に見抜いたギルヴァが無銘の鍔に親指を押し当て鯉口を切ろうとすると、蒼が彼の前に出てそれを阻止した。

 

「…悪い、任せてもらえないか」

 

「…」

 

どうしたものかと逡巡するギルヴァであったが、何も告げずに鍔に押し当てていた親指をゆっくりと離し、見向きせずに彼が任せてくれたのを感じ取った蒼は一言礼を告げると魔剣スパーダを肩に担ぎ、モデウスへと対峙する。

その時、遠くから何かが崩れる様な音と地鳴りが響き渡ると最後の戦いの舞台となった塔が大きく揺れた。

突然の事に何事だと困惑した表情を浮かべる者達が居る中、この揺れの正体をモデウスが明かした。

 

「どうやら…元凶が討たれたようですね。じきにこの世界は崩れ去り、やがて人界の扉を閉ざすでしょう」

 

そうなる前に…と前置きを口にし、モデウスは大剣の切っ先を蒼へと向ける。

 

「最後に…一手、お付き合い頂いても…?」

 

その言葉に、一体どれほどの意味が秘められていたであろうか。

分かるのはモデウスと対峙する蒼のみ。

伏せていた目を開き、軽く息を吐く蒼。その何処かに悲しさを交えながら。

 

「全力で向かってこい、モデウス」

 

「はい…ありがとうございます」

 

礼を告げ、黒き大剣を振るい構えるモデウス

肩に担いだ魔剣スパーダを静かに下ろし、モデウスを見据える蒼。

次第に酷くなりつつある揺れの中、動かない二人。

そんな二人を誰も止めようとはしない。否、止める事が出来ずにいた。

脱出とか焦りとかそんなのは知ったことではない。己の命すら後回しにするほどまでの覚悟を決めているこの二人を止めるなど出来る訳がなかった。

 

―蒼さん…

 

ギルヴァの中でその様子を見つめていたエルブルが心配そうに蒼の名を口にする。

彼女の声はギルヴァにも届いているのだが、彼は決して答えず静かにその様子を見守っていた。

やがて時が訪れる。

空は硝子の様に亀裂が入り、皆が立つ舞台は地割れが走る。世界が全て崩れ始めた時…

 

「「ッ!!」」

 

二人が同時に動いた。

そこに阻むもの無し。全身全霊を込めた一太刀を放つその瞬間まで駆け出した足は、前へと踏み出すその足は止まらない。

雄叫びを上げ駆け出す。目に映る全てが何もかもが緩やかに見える中、モデウスは笑う。

 

(ああ…超えたいと願った壁はこんなにも高く、遠いものであったか)

 

超えたい壁があった。だが向かってくる壁は今の自分では到底超えられないものであった。

かつての自分であれば一目見て気付けるものを気付けなかった自身へと向かって笑う。

誇りを捨て、力のみを求めた今、その壁を超える事は叶わない。

だが、そうだとしても挑まずにいられないのはやはり剣士としての性であろうか。或いは僅かに残ったスパーダの弟子としての誇りが、その壁を超えろと囁くからそうさせているのか。

その答えが見出せずとも、駆け出した足は決して止まる事を知らない。

何より──

 

(だとしても…!)

 

最後の最後の一瞬が決まるその時まで止まらない事を自身が一番理解しているのだから。

 

(ああ、そうだな…。お前はホントにアイツ(スパーダ)に近いと言っていい奴だよ)

 

これが最後。故に名残惜しさがある。

本人では無いにしても、蒼には分かっていた。

立ち向かってくるモデウスのその姿は紛れもなく伝説の魔剣士の跡を継ぐに相応しい魔剣士である事を。

 

(…ほんの僅かに恨むぜ、スパーダ)

 

その誇り高き魂を、その姿を失わずにいてほしかった。

最早叶わぬ願いだと分かっていながらも願わずにはいらない。

それが残り香として、片割れとして生み出された者の役目なのだから。

 

「うおおおおおッ!!!!」

 

「はあああああッ!!!!」

 

二人の魔剣士の気迫が籠った咆哮が轟き、雨で濡れた地面へと一歩踏み出す度に水飛沫が上がる。

迫る。さらに迫る。

両者が前へと進む度に終わりを締めくくるその一瞬をやってくる。

どちらが最後に残るか、それは誰にも分からない。

ただ、崩壊しつつあるこの世界に映るその光景は言葉に表しがたい情景を映し出していた。

互いの距離が縮まる。駆け出す度に上がる水飛沫の音が大きく響き渡る。

 

「うおおおおおッ!!」

 

そして──

 

「はあああああッ!!」

 

──両者の剣が抜き放たれる。

 

交差する刃。ほぼ同時に放たれた全身全霊の一撃。

相打ち。そう思う者もいた。

だが振り抜かれた剣の切っ先から伝う様に弧を描いて舞う血飛沫が、この一合での勝者を誰であるかを明らかなものにしていた。

 

「…」

 

「…」

 

地鳴りすら聞こえなくなるほどの静寂。時が止まったかのように動かない両者。

 

「ぐっ…」

 

だがその静寂を破るようにしてモデウスの体が前へと崩れた。

脇腹から流れ出る大量の血。それでも尚、彼は愛用の大剣を手放す事はなく、片手で傷を抑えながらゆっくりと蒼の方へと振り返った。

そこに映るは背を向け、静かに魔剣スパーダを背に収める漆黒の悪魔。

かつて見た──師の姿に、そしてもう一度見たかった師の背中に、それは余りにも似過ぎていた。

 

「…私の負けですね」

 

その声は何処か嬉しげであり、そして何処か寂し気であった。

今にも倒れそうになる体を何とか支えながら、モデウスは一歩一歩と後方へと下がっていく。

その先にあるのは谷底。それも底が見えない程に辺り一面を覆う暗闇が広がっている。

 

「こんな体たらくではスパーダの弟子と名乗るのも烏滸がましい…。また一から出直しです…」

 

また一歩、更に一歩と崖を近寄っていくモデウス。

そして崖の淵にまで近づいた時、その体がふらついた。その一瞬の突くように蒼は駆け出す。

自らの身を奈落へと投じようとするモデウス。それを阻止すべく彼の体を掴もうとした瞬間、蒼の喉元にモデウスの大剣が突きつけられた。

 

「行ってください…。人界でも魔界でもないこの場所に取り残されたくはないでしょう…?」

 

「お前…」

 

「…騒動の一端を担った身なのです。であれば、ここで死を受け入れるのもまた必要な事なのでしょう」

 

モデウスの体が後ろへと倒れる。

咄嗟に手を伸ばす蒼。

 

「願わくば───」

 

だがその手が伸ばされたタイミングはほんの僅かに遅かった。

故に──

 

「再びその刃を交える時があらん事を」

 

彼の手が届く事は無かった。

そしてスパーダの弟子、魔剣士モデウスは愛剣と共に暗い谷底へと消えていった。

 

「…」

 

伸ばした手。その手の平を見つめつつ、静かに握りしめる蒼。

そしてその手を静かに下ろした後、消えていったモデウスに背を向ける形で彼はその場から離れる。

 

「…行こう。ここが崩れるのも時間の問題だ」

 

その声は何処か弱弱しく、いつもの様な雰囲気ではない。

だがその事を心配するよりも急いでこの世界から脱出しなくてはならない。

全身が頷き、脱出へと走り出す。それに続こうとする蒼であったが、ふと足を止めて後ろへと振り返る。

 

「……じゃあな、モデウス」

 

───また会おう

 

崩れ往く世界。

地鳴りが響き渡るその中で、彼がモデウスへと向けた最後の言葉は静かに反響するのであった。

 

 

元凶が討たれた事により、崩壊し始めた幽霊船。

突然の事に誰しもが驚く中、状況をいち早く察したゼーレが崩壊し始めているという事を告げたのが功を奏したのか、シリエジオらはギルヴァ達よりも早く行動しており後続の彼らが素早く脱出できる安全ルートを確保していた。

『母ヲ名乗ル者』との戦いに参加していたメンバーの大半は既に幽霊船の外へと脱出しており、シリエジオ、アーキテクトの二人はモデウスとの戦いへと赴いたギルヴァ達と合流出来るまで幽霊船の貨物室…唯一外へと繋がる出口の前で留まっていた。

 

「あれは…!」

 

奥から走ってくる一団。その先頭にいるのがギルヴァだと気づいたシリエジオが叫ぶ。

 

「急いで下さい!!時間がありません!!」

 

「皆、急いで!!」

 

シリエジオの隣でアーキテクトも叫ぶ。

だが船の崩壊速度は崩壊し始めた時よりも早くなっており、一歩でも足を止めてしまえば幽霊船と運命を共にすることになってしまうだろう。

飛来する鉄骨が出口へと駆け出すギルヴァらを阻もうとするも、縫うように彼らは降り注ぐ鉄骨と瓦礫の雨を駆け抜けていく。

グリフォーネが一番に外へと飛び出し、それに続くように蛮族戦士とアイソマー、蒼が外へと飛び出すとシリエジオとアーキテクトも外へと飛び出す。

残るはギルヴァとアナの二人。このまま行けば全員無事脱出できるだろう。

そう思った矢先、予想だにしていない事が起きた。

 

「ゼェェ…レェェ…」

 

それは余りにもおどろおどろしい声だった。

例えその姿を見ていないとしても、それが誰の声であるかなど言わずとも分かった。

 

【おいおい、冗談でしょ…!?流石に往生際が悪すぎんでしょうが!!!】

 

このおどろおどろしい声の主が誰であるかと察したティアが叫んだ時、崩壊を続ける幽霊船の奥から何かが突き破って現れた。

 

「ゼェェェェェレェェェェェ!!!!!」

 

その姿はあの時戦った姿と比べると最早原型すら残っていない。

無数の手と触手を生やし、無数の蛆がその体を這う。肥大化したその姿は余りにも醜悪で、そして只の肉塊でしかなかった。

だとしても、その肉塊が誰であるかを見抜いたギルヴァの中にいたエラブルが狼狽えながらも叫んだ。

 

―も、もしかしてゼーレちゃんが言っていたお母様…!?

 

そう。その肉塊の正体はシリエジオらによって討たれた筈の母ヲ名乗ル者であった。

何故復活したのかは分からない。否、それを理解している暇があるのであれば【アレ】を討つか、脱出するかの二つに絞られる。

しかしこのまま脱出したとしても、あの肉塊は外へと飛び出しゼーレを狙うだろう。

肉塊に成り果てながらも追ってくる姿にはそんな執念を感じられるのだから。

 

「…!」

 

ほんの僅かな時間で自身が取るべき行動を定めたアナ、

太股に配置したホルスターからモデラートとラルゴを引き抜き、狙いを肉塊へと化した母ヲ名乗ル者へと定めた。

 

「ティア、魔力を回してください!!ありったけをアレにぶつけます!!」

 

【無茶言わないで!!さっきの戦いでガス欠状態なのよ!!魔力を込めたとしてもせいぜい一発が限界よ!】

 

「くっ…!」

 

魔力を込めたとしても一発しか込める事が出来ない。

しかし場は不安定な上に崩壊している状況にある。状況が最悪な事に苦悶の表情を浮かべるアナ。

その時船体が大きく揺れ、飛来した瓦礫によって左手に持っていたラルゴがアナの手元から離れ、吹き飛んでしまった。

 

「しまった…!」

 

回収している暇はない。

そう思われた時吹き飛ばされたラルゴを難なくキャッチし、銃口を母ヲ名乗ル者へと向ける者がいた。

大して焦る事はなく、只々冷静な姿に、冷静さを取り戻したアナは彼…ギルヴァに続いてモデラートを同じ標的へと向けた。

そこに焦りはなく、狙いにもブレは無い。今すぐにも撃つべきだというのにアナはギルヴァへと問う。

 

「ノアからS11地区の事は聞いています。確か…"決め台詞"があるんですよね?」

 

「余計なことを…」

 

そう言いつつもギルヴァの口角は僅かながらに上がっていた。

 

「ゼェェェェェレェェェェェ!!」

 

肉塊が迫ってくる。

その姿に誰しもがすぐさまに逃げ出しくなるだろう。

だが二人は逃げない。この決め台詞と共にこの一発を叩きつけるまでは。

 

「!」

 

ギルヴァが動く。その直後にアナが動く。

互いに寄り、背中を合わせる。そしてその目で再度狙いを肉塊を定めながらアナがギルヴァよりも先にモデラートを構えた直後、ラルゴがモデラートの上に重なる。

狙い一つ。敵は一つ。そして(ギルヴァ)と弟子(アナ)が告げるは───

 

「Jack Pot!」

 

───決め台詞(JackPot)、ただ一つ。

 

決め台詞と共に響き渡る銃声、放たれる銃弾。

向かう先は一つ。それを阻むものなど存在しない。

たかが肉塊に止める術も存在しない。

魔力を込めた弾丸が駆け抜け、全ての元凶にへと食らいついた。

拳銃から放たれた弾丸。その巨体には幾分か物足りないと思われるだろう。

だが侮るなかれ。その弾丸は全ての戦いに幕を引く弾丸なのだ。

故にその威力は──

 

「!?!?!?」

 

悪魔も泣き出す程の威力を持つ。

着弾により吹き飛ばされる肉塊。何が起きたのか分からないまま、体が崩壊を起こし始める。

 

「AAAAAAAAAA!!!!!」

 

許さないと言わんばかりの断末魔が響き渡る。

だが体の崩壊は止まらない。

 

「AAAA…AAA…A…」

 

そして叫ぶ力すらなくなったのか、体はそのまま崩壊し母ヲ名乗ル者はこの世から消え去っていった。

元凶の消失。その最期を見届けたギルヴァとアナが脱出した直後、幽霊船は完全に崩壊。

こうして、裏の出来事…Ghost ship in the seaは幕を閉じたのであった。




これにて脱出完全でございます。

本来であれば後日談もいれたかったのですが、予想以上に長くなってしまったので一旦ここらで区切ります。

後日談にて長きにわたる(参加者様に苦行を与えてしまった)コラボも終わりを迎えます。
申し訳ありませんが、あと少しだけお付き合い頂けると幸いです。

以前のルージュに続き、S10地区前線基地の指揮官、シーナ・ナギサ(私服ver)をAIイラストで出力してみました。気になる方は見てみてください


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では次回ノシ


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Act257-Extra Memories of a summer epilogue

──最後の仕事──


あの一時の夏からどれ程の時間が流れたであろうか。

あの夏の浜辺で過ごした平和な時間は長かった様で実に一瞬でもあった。

それでも昨日の事の様に思い出せるのはそれほどまで楽しく、忘れる事の出来ない一日だったからであろう。

だが忘れてはいけないのが、そんな楽しい一時にも関わらず裏では壮絶な戦いがあったという事。

欲の為に、同胞を、力を持たぬ少女達を喰らった外道。

その外道に大事な姉妹を目の前で奪われ、生き残ってしまった一人の少女が求めた涙の助け。

ただ超える為。故に求めたのは師であり、伝説となった魔剣士の力。

その為なら、己の肉体も、己の兄を、そして誇りすらも捨てた弟子。

元凶たる外道は討たれ、弟子たる魔剣士は激闘の末、狭間の底へと身を投げ出し行方知れず。

繋がりがあった訳ではない。偶然にも同時にこの二つの事件が起きてしまった。

そしてそれら全ては調査へと向かった者達の手によって解決された。

───だが、まだやり残している事があった。それが終わるまでは事件は解決したとは言えないのだ。

 

 

大海原をゆったりとした速度で進んでいく一隻の船。

その大きさからして豪華客船であり、その船が向かう先は数か月前に向かったあの無人島。

そしてその無人島へと向かう豪華客船の船首側のデッキに彼女の姿があった。

赤を基調とした制服。その上から羽織るは装飾が施された黒のロングコート。銀色の懐中時計を首に下げ、腰のホルスターには【Painekiller』と名付けられたマテバ2006Mを差し込み、艶のある黒髪が潮風に揺れる中、彼女のその瞳は───シーナ・ナギサの瞳はずっと奥にある無人島へと向けられていた。

 

「シーナ」

 

名前を呼ばれ、後ろへ振り返るシーナ。

そこにいたのは、あの夏の日にS10地区前線基地に配属となった人形であり、基地に配属する前の彼女を知る戦術人形 X95が立っていた。

 

「少し暖かいとはいえ、まだまだ冷える時期。そろそろ船内にへと戻りませんか?」

 

「ありがとう、X95さん。…うん、そうさせてもらおうかな」

 

X95の提案に頷き、彼女と共に船内へと戻るシーナ。

煌びやかな内装。あの時見たものと変わりないが、メンバーだけは違っていた。

 

「あ、やっと戻って来た。真面目なのは良いけど、もう少し気を抜いたらどうかしら」

 

デッキから船内へと戻って来たシーナに気付き、声をかけたのはダミー個体でありながら自我を有した特殊な人形、本体と区別する為に『AK-12D』と名付けられた人形である。

服装はいつものだが、ソファーに寝転がりだらける姿は何とも言えないものを感じさせていた。

 

「今の貴女にそんな事言われても説得力を感じないんだけど?AK-12D」

 

「程々に休めって事を伝える為にこうしてるの。言葉で伝わらないなら体で表現ってね」

 

「要は自分だけがだらけているのは忍びないから共犯者が欲しいって訳ね」

 

「そうとも言う」

 

全くと呟きながらため息をつくシーナの隣で微笑むX95。

遊びに来ている訳ではないのはここに居る全員が分かっているのだが、生真面目過ぎるのもいかがなものかと言うもの。

ほんの少し小休止を挟むべきと判断したシーナはAK-12Dの隣に座り、机の上に散乱した書類を見た。

隣に座ったX95もその視線に釣られて、机へと目を向ける。

 

「あの戦いからたった数週間もしない内に送られてきた報告書。あのバカンスに参加し、あの裏での戦いに赴いた人数が人数なだけあって、それなりの量になってしまいましたね」

 

「仕方ないよ、頼んだのは私だし。それにあの場に居なかったからね、知る必要があった」

 

机の上に散乱した無数の報告書。

それらは全て裏での戦いに参加した者達にシーナが頼み込んで送って貰ったものである。

出会った敵の詳細、船内の状態、元凶の思惑、伝説の魔剣士の弟子、そしてゼーレン・レットゥングとの出会い…そこで起きた事を細かく記されており、シーナが裏での出来事を把握するには十分すぎる程であった。

 

「そしてこのプチ旅行を企画したの?…あの子の為に」

 

いつの間にか起き上がり、後ろへと回って来たのか、シーナの背にもたれ掛かりながらAK-12Dはそう問いながら、ある方向を見た。

そこにはいるのは真っ白なワンピースに真っ白な帽子を被った少女、ゼーレン・レットゥングと自らを『ペルフェクティオ』と名乗り、ゼーレに姉と呼ばれている彼女の姿があった。

ゼーレにとって大きく広がる海は初めてなのか年相応の反応を見せ、その隣でゼーレへと優しく微笑むペルフェクティオ。その後ろで和やかな雰囲気に当てられ、つい微笑んでしまうMG4と『AK-12D』と同じく本体と区別する為にAN-94Dと名付けられた人形の姿があった。

とても微笑ましい光景に癒されながらシーナはAK-12Dの問いに頷きつつ理由を告げた。

 

「…大事な家族、大事な人を失う痛みと辛さ、一人残される苦しさは知っているから。あの子の境遇を知っておきながら、そのまま放置とか出来る筈がない」

 

その過去を知っている為か、X95とAK-12Dの表情は僅かに曇る。

ゼーレと同じように理不尽によって家族を失ったシーナ。

だがゼーレとシーナ…その違いがあるとするのであれば一つ。

シーナ・ナギサという少女は、自ら銃を手に取り、復讐者と化した。

悪魔という存在に奪われた訳ではない。同じ人間に奪われ、そんな人間を殺して、また殺して、更に殺して…そして大量の屍を築き上げて復讐を成した時に残ったのは報われることの無い悲しみだけであった。

そこだけが違いが生まれていると言えよう。

 

「…せめてあの子の姉妹が安らかに眠れるように弔ってあげないとね」

 

「…ええ、そうね」

 

その手を血で染めてしまったから。故に両親が眠る墓の前に立つ権利すら失ったシーナ・ナギサ。

例えこの先、それが出来ないとなったとしても…同じ悲しみを背負う者が居るのであれば自ら手を差し伸べ、弔い時を与える事が出来る。

戦えない者の為ならば自らの手を更に血で染めようが、更に修羅になろうが構わない。

それが復讐者と化し多くの命を奪って来たシーナ・ナギサの償いであり、今の彼女に出来る事なのだから。

すると話題を切り替えようとしたのか思い出したかのようにAK-12Dがある事を尋ねた。

 

「そう言えばペルフェクティオの正体…参加メンバーに伝えなくて良かったのかしら?」

 

「それは私も思いました。ゼーレちゃんの姉というだけでは通すのは少々厳しいかと思います」

 

AK-12Dの問いにX95も思う所があったのか、シーナへと言及する。

ペルフェクティオ…またの名をペルフェクティオ・ドゥオ・ムンドゥス。

魔帝ムンドゥスによって造られ、第二のムンドゥスとして生み出された生体兵器であり、同じく生体兵器であり、高すぎる破壊衝動から魔界すらも滅ぼしかねないと封印された存在、今ではシーナの最強の従魔として君臨するナイトメア以上に危険と言われたのが彼女…ペルフェクティオである。

人界侵攻時に彼女を人界へと忍び込ませ、魔界側と人界に潜入したペルフェクティオ側で人界を侵略する予定だったらしい。

一度は目覚めたものの魔剣士スパーダに封印されたという過去を持つ。

ここまで分かるとするのであれば、ペルフェクティオはあの魔帝と同じくらいの存在であり、人界を治めようなら平然とやってのけてしまう程の力を有している事である。

一歩間違えれば、世界を滅ぼしかねない存在だが『母ヲ名乗ル者』の戦いでは協力してくれている。だが参加メンバーにはゼーレの姉という事だけしか伝えていない。

それでは情報が少なすぎて余計な疑念を抱かれるのではないかと問う二人に対するシーナもそうだねと頷くがペルフェクティオの正体を明かせないのは理由があった。

 

「…彼女の存在は今は伏せておく必要がある。参加メンバーの中の一部は伝説の魔剣士の話を知っている。その話の中には魔帝の話もあった」

 

「確か…ムンドゥスでしたか?魔剣士スパーダによって封印された魔帝の名は」

 

「うん。彼女がムンドゥスによって造られた存在とは言え、その正体をあの戦いの直後で公にすれば変に警戒される可能性もあった」

 

「しかし…」

 

「…分かっているよ、X95さん。この一件が落ち着いたら時期を見てあの時の参加メンバーには伝えるつもり。それにあのメンバーなら信じてくれると思うから」

 

なんせ、と言った所でシーナの視線ははしゃぐゼーレを抱き上げ、共に海を見つめるペルフェクティオへと向けられる。

 

「ゼーレちゃんにあんな風に笑いかけている彼女なら皆、信じてくれる筈だから」

 

「ああ…」

 

ゼーレへと微笑むペルフェクティオ。

浮かべた表情は決して作り笑いではなく、心からの笑み。

それを見てX95は納得したような声を上げると──

 

「そうですね。…きっと信じてくれますわ」

 

ペルフェクティオと同じように優しい笑みを浮かべるのであった。

 

 

自動操縦で無人島へと到着した豪華客船。

二度目となる無人島へと降り立つと、指揮官たるシーナと今回の為について来たMG4とX95、AK-12D、AN-94Dは素早く周囲の警戒に当たった。

その様子にペルフェクティオが苦笑しながらシーナへと話しかける。

 

「流石に大袈裟過ぎないかしら?そこまでしなくても悪魔の気配なら私が探知できるけど」

 

「念には念を入れよってやつだよ。それに悪魔以外の敵が潜んでいないとは言い切れないからね」

 

「成る程。確かにそれもそうね」

 

ここでは無いが別の無人島では不死の巨大アナコンダとか蝿男と遭遇し、調査どころではなくなった事例がある。

まさかとは思われるも決して無いとは言い切れる訳ではない。故に彼女達は警戒に当たるのは当然の事であり、ペルフェクティオも納得したように頷いていた。

 

「クリア。周囲に敵影無し。…問題ありません、指揮官」

 

「了解、MG4。そのまま周囲の警戒を継続。葬式が終わるまで警戒を緩めないで」

 

「了解」

 

指示を受けMG4らが周囲の警戒へと務める中、シーナはペルフェクティオの隣に立っていたゼーレへと向けられる。

彼女が大事そうに抱えている小さな箱。その中には一度武器へとその姿を変え、そして役目を終えたかのようにネックレスへと姿を変えたゼーレの姉妹達が眠っていた。

とは言え全員ではない。シリエジオが持つペサンテとグランディオーソ、ニーゼル・レーゲン、ソルシエールが装備するワーロック、シャリテのベルフェゴールに憑依した一部の姉妹達は離れる事をしなかった。

何故離れないのか、当初こそは誰しもが困惑したがゼーレだけは姉妹達が残った理由を分かったらしい。

彼女曰く、ゼーレを守りたいとの事らしく、その為に離れないとのこと。

その事が告げられると全員が納得し、今後の扱いについて当の本人らに任せる形が取られた。

 

「周りは私たちに任せて。…悔いの無いようにね、ゼーレちゃん」

 

「う、うん!」

 

緊張しながらも頷き、ペルフェクティオと共に海辺へと歩み寄るゼーレ。

さざめく海を前にして、ゼーレは腕に抱えていた箱をギュッと抱きしめる。

これが最後になるという事実、いつまでも愛していると言う思い、送り出す側としての責務、もう会う事が出来ない寂しさ。

胸の内に宿る全ての感情を込めるように、ゼーレは箱を強く抱きしめる。

それが一分か、或いは十分か、もしくはそれ以上か。短い様で長く感じられた別れの一時。

手が震えるゼーレの肩にペルフェクティオの手が乗る。

 

「…送り出してあげましょうか」

 

「…うん」

 

今にも泣き出したい感情を抑え、ゼーレは抱えていた箱を海の上へとそっと置いた。

箱は流れる海によって箱はあっという間に沖へと流され、やがて重力に従ってほんの僅かにだが静かに底へと沈んでいく。

段々と小さくなっていく箱の姿に堪えきれなくなったのか、その瞳から涙を流しながらゼーレが叫んだ。

 

「皆…!皆…ありがとう…!!私…私は元気でやっていくからッ!!!だから───」

 

果たしてその声が届いているのか。それは誰にも分かる訳がなく、何より分からなくても伝える言葉があった。

悔いの無いようにする。シーナから言われた言葉を思い出しながら、喉の奥に突っかかった言葉を口にした。

 

「天国でもどうか…どうか見守っていて!!」

 

言葉が届いたかどうかは分からない。

だがゼーレが別れの言葉を言い切るのを待つ様に浮かび続けた箱は、彼女が全てを言い切ると安心したように静かに海の底へと沈んでいった。

安らかに眠ってもらう為に。その為だけに訪れた小さな旅行。

そして最後にやり残していたゼーレの姉妹達の葬式は無事終え、今回の事件は本当の意味で終焉を迎えるのであった。




はい!これにてコラボバカンス終了でございます!!
参加してくださったアーヴァレスト様、NTK様、焔薙様、試作強化型アサルト様、ガンアーク二式様…本当にありがとうございました。
そしてこちらの投稿速度が遅いせいでここまで時間がかかってしまった事を謝罪を。
仕事で忙しいのに大規模コラボなんてやるもんじゃないですね…。でもたまにしたくなるんですよね…。

まぁそれは兎も角として、本当にありがとうございました。

今後はどのような展開にするかは未定であり、状況によって最近投稿した新作の方をやるかもしれません。


あ、それとですが…ルージュ、シーナ・ナギサに続いて、ソルシエール(私服ver)、シャリテ(私服ver)、シーナ・ナギサ(2月14日の復讐者)をAIイラストで描いてみました。イメージとして思っていただけたら幸いでございます。


【挿絵表示】
ソルシエール(私服ver)


【挿絵表示】
シャリテ(私服ver)


【挿絵表示】
シーナ・ナギサ(2月14日の復讐者)

では皆様、次回ノシ


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Act258 in the interim

─一時の合間に─


月日の流れと言うのは意外な程に早いものである。

ついさっきまで騒動ありきのバカンスを楽しんでいたと言うのに、気づけば年を超え何度目かになる暖かい時期が到来していると言う程に早い。

気づけばこの時期なのだ。時間の流れは抗いようの無い無慈悲なものであると思うほかない。

そんなあっという間に時間の流れていくこの世の中で、S10地区前線基地は普段通りに稼働していた。

あの夏の戦い以降、目立った戦いもなく行われるのは通常任務と哨戒任務、そして物資調達の為の遠征任務ぐらいのみ。

加えてここ最近は悪魔の出現もめっきりと減ってしまい、その影響で暇を持て余してしまう事も。

とは言え完全に活動を停止する訳にも行かないので、何かするしかない。

世界はパラデウスやら悪魔やらなどで未だ脅威に晒されている中、ここだけは束の間の平和を楽しんでいる状況にあり、ブラウ・ローゼ隊の一人であり悪魔狩人であるネロは、職員と人形で行き交う廊下を歩いていた。

普段であれば部屋で愛用の改造リボルバー『アニマ』のメンテナンスなりお気に入りの音楽などを聴いたりなどして一日を過ごしているのだが、今日に限っては違った。

 

「ったく…暇でしょうがねぇ」

 

暇を持て余していた。

それも結構暇を持て余していた。

 

(やるべき事はやっちまったし、部屋にいた所でヘルメス辺りが突っかかってくるに違いない。シーナの所に行ってもあいつはあいつで書類仕事で大変だろうから邪魔したくねぇしな…)

 

「はぁー…こりゃ一日過ごすのが苦労しそうだ…」

 

深いため息をつき、この一日をどう過ごそうかと考え込むネロ。

通行人の邪魔にならないように廊下の端に寄り、近場に置いてあったベンチに腰かけた時だった。

 

「ん?」

 

人やら人形やらが行き交う廊下の中、一人の少女が歩いているのをネロは目撃した。

小さなバックを背負い、一枚の紙を手に何処かへと向かっている様子にも見えるが、どことなく迷っているようにも見える。

 

「…しゃあねぇ」

 

その姿を見ておきながら放置など出来る筈もない。

加えて暇つぶしになるのであれば、丁度いいタイミングとも言える。

座っていたベンチから立ち上がり、ネロはその少女の元へと歩き出す。

人と人の合間を縫いながら進んでいき、デビルブリンガーが露わになっている右腕を少女の頭にポンと置いた。

 

「よっ、お出かけか?」

 

「あ、ネロさん」

 

声を掛けられ、振り返る少女。

彼女の名前はゼーレン・レットゥング。周りからゼーレと言う名で親しまれている。

白く透き通るような髪と赤い瞳が特徴の少女で、あの幽霊船の騒ぎに赴いたメンバーが出会った少女である。

元々は肉体無き霊体の様な存在で現世と幽世の間に存在する『狭間』という世界で姉妹らと静かに過ごしていた。後に『お母様』と呼ばれる悪魔によって肉体を有し、騒動を収束させる為にギルヴァ達を呼び寄せ、騒動を収束を依頼した経緯を持つ。

騒動が収束後は帰るべき場所を無くした彼女をシーナが保護。

現在ではS10地区前線基地に身を置いており、シーナの手伝いや後方幕僚のマギーの手伝いをしつつ過ごしている。

 

「えっと…私に何か用?」

 

「いや、大した用じゃないさ。たださっきから迷っている様に見えたんでな、どうしたのかと思ってな」

 

「あ、その…マギーさんがいる工房に行こうと思ってて教えてもらったんだけど、分からなくて」

 

ゼーレから差し出された地図を手に取り、眺めるネロ。

工房へと向かう道こそは丁寧に描かせている。この地図と周りをよく見れば迷うことなく辿り着くだろうが、身長の低いゼーレからすれば見える景色は違ってくると言える。

 

「成る程な。ま、ここまで来たら工房まではあと半分の距離だな。まぁ、この人の行き来がこう多いと…」

 

そりゃ迷うよな、と締めくくりネロは地図をゼーレへと返す。

 

「丁度、暇をしていた所だ。俺でよければマギーの工房まで案内するぜ?」

 

「良いの?」

 

「良いさ。さっきも言った様に、暇を持て余していた所だったしな」

 

笑みを浮かべ右腕を差し出すネロ。

悪魔の腕を化したソレを前に、意外な事に驚きはしなかったゼーレ。

ゆっくりと伸ばされた小さな手が悪魔の手を握る。

微かにデビルブリンガーが輝くとネロはゼーレを連れてマギーの工房へと歩き出した。

 

 

「マギー、居るかー?」

 

「こんにちは」

 

ネロがゼーレを連れて、マギーの工房へと入る。

自室兼個人的な工房である此処は彼女が手掛けた作品を扱う者達による出入りが比較的多い場所であり、訪れた時には必ずと言っていい程、マギーが何かしらの作業をしている事が多い。

二人が訪れた時も、マギーは作業台に腰かけ何かしらの作業をしている様であった。

 

「おや…。いらっしゃい、二人共。今日はどういった入り用で?」

 

「俺の方はなんもねぇけどな。こっちはお前に用があるみてぇだが」

 

「ほう?」

 

二人が入ってきた機に作業の手を止め、振り返りながら問いかけてきたマギーにネロが答えつつ、視線をゼーレへと向ける。

マギーの視線がゼーレへと向けられると、彼女は提げていたバックから一枚の紙を取り出しマギーへと差し出した。

差し出された一枚の紙を受け取り、内容へと一目向けるとマギーは成る程、と納得した声をあげた。

 

「例の件の報告でしたか。わざわざありがとうございます」

 

「だ、大丈夫です。けどまさかと思いました」

 

「でしょうね。…それで気配は今でも感じられますか?」

 

「はい。…遠いけどこの気配は"姉妹"達のものです。多分だけど…魂は離れてしまったけど、その思いだけが残っているんじゃないかって思います」

 

「ふむ…」

 

考え込む素振りをマギーが見せたタイミングで話の内容がよく分かっていないネロがゼーレへと問う。

 

「面倒ごとか?」

 

「面倒じゃないけど…その、姉妹達の気配を感じる様になってて」

 

「姉妹って言えば…確か、あの戦いで武器に変じたものの戦いが終わるとネックレスにへと変わったんだったな?」

 

報告で聞かされただけだがネロはゼーレの姉妹達の事は知っていた。

元凶を倒す為に姉妹達が自らを武器へと変じた事。

そして戦いが終わるとネックレスの姿へと変じ、その最期をゼーレに看取られた事を。

この目で見届けた筈の姉妹達の気配が感じられるようになった。

もしかすればあの『お母様』の様な存在が眠りについた筈の姉妹達を無理やり蘇らせたのではないか。

その事もあってゼーレは指揮官たるシーナや後方幕僚でありながら悪魔でもあるマギーに相談していた。

 

「うん。最初こそは気付かなかったけど、ふと感じるようになって。もしかして良からぬ事が起き始めようとしているんじゃないかって思って…」

 

「それで私と指揮官が相談を受けていたんです。騒動が起きる前に収める事が出来るに越した事はないのですが…状況が読めない事もあって一時的に様子見をお願いしていた形です」

 

マギーからの説明もあってネロは成る程と頷きつつ、ゼーレへと問う。

 

「で?結果的に俺らが出るほどのモンか?」

 

消火活動(悪魔狩り)にへと出向く必要があるか、どうかを。

その問いにゼーレへと首を横に振って、必要ない事を伝えながらその理由を告げた。

 

「多分…形を、自分達が生きていた事を残したかったんだと……虹の向こうに渡ってしまう前の、最後の我が儘を叶えたかったと思う。この暫くの間、感じられた気配はそんな想いだったから」

 

「…そっか。なら良いさ。マギーもそれで良いよな?」

 

世界はどれだけ時間が経ったとしてもこの有様で、ゼーレの姉妹達の過去は壮絶そのもの。

であれば、多少の我が儘を叶えた所で誰がそれを咎められようか。

 

「ええ、そうですね。何もないなら我々が出向く必要はないでしょう」

 

笑みを浮かべながら尋ねるネロに釣られて笑みを見せるマギー。

非業な運命を辿ったのだ。それくらいの我が儘など誰も咎めはしない。

マギーの胸の内はそんな想いに包まれていた。

 

「話は切り替わるがよ…マギー、その作業台に置いた銃を何でバラしてんだ?定期メンテナンスだって前にやったばかりじゃねぇか」

 

自分達が出向くほどのものではないと分かると同時にネロはこの部屋に訪れてから気になっていた事をマギーにへ尋ねる。

彼女の視線の先にある作業台。その上にはあの幽霊船の騒ぎで、とある人物に貸し出された二丁の大型拳銃『モデラート&ラルゴ』が分解された状態で置かれていた。

ベレッタM96FSをベースに改良された銃であり、返却されるにあたっては借りていた『とある人物』が盛大に駄々をこねると言う事態に発展している。

逆を言えばそれ程までに気に入っていたという事なるのだが。

それはさておき、定期メンテナンスを直近で行ったにも関わらず分解されている二丁の銃について問われたマギーはその事ですかと口にしつつ、作業台に置いてあった一枚の設計図を手に取りネロの前に広げた。

隣に立つゼーレにも見えるようにしているのだが、銃の設計図とまでしか分かっておらず細かい部分に関して首を傾げている様子であった。

 

「こりゃ新しい銃の設計図か。…随分と手を加えるみてぇだが、無茶し過ぎじゃねぇか?ブレイクの持つアレグロとフォルテと良い勝負出来るぜ?」

 

そう言い切れるほどに、マギーが設計する銃はかなり無茶な改造が施されていた。

これまでは一つの銃をベースに改良し仕上げてきたのだが、今回マギーが行おうとしているのは、二つの銃を合体させつつ機能面の改造を施すというもの。

当然ながらこの銃を製作するにあたっては全てのパーツを一から見直す必要がある。

気が遠くなる様な作業を行う必要がある。それなしではこの銃は到底完成しないだろう。

 

「おまけにベースにすんのは…モデラートとラルゴかよ。向こうの()()()が知ったら飛んでくるに違いないぞ」

 

「分かってますよ。ですが、こればかりは止めるつもりはありません」

 

「その理由を聞いても良いか?」

 

「構いませんよ。と言っても、大したものではありませんが」

 

広げていた設計図を傍にあった机の上に置き、愛用の椅子に腰かけるマギー。

浮かべる表情は普段と変わりないが、その目は職人の目をしていた。

 

「悪魔としての私ではなく、魔工職人の私でもなく、マギー・ハリスン(この世界で生きる一人の職人として)が作る最高傑作を作りたくなったんです」

 

「…!」

 

最高傑作を作る。

何が彼女をそうさせたのかは分からない。

だが、最高傑作を作ると言うのであれば止める理由はない。

何故なら──

 

「職人の性と言うのでしょうかね。貴女と同じように、私の最高傑作を託したくなった。それ以外の理由は必要ですか?」

 

「…ハッ」

 

職人が語る理由などそれぐらいしかないのだから。

 

「良いじゃねぇか。好きな様にやっちまえよ、マギー。最高傑作を送り届けて、驚かせてやろうぜ」

 

「言われなくてもそのつもりです」

 

盛り上がる二人。

そんな姿を見て、恐る恐るゼーレが手を上げた。

 

「あ、あの…私が配達してもですか…?」

 

何か楽しそうな事が起きようとしている。

自身では分からずとも楽しみたいという思いは密かに存在していたのだろう。

おずおずとその事を伝えてきたゼーレにマギーは笑みを浮かべる。

 

「ええ、構いませんよ。その時はお願い致しますね」

 

「!…はい!」

 

配達係は決まった。

であれば行う事はただ一つ。

 

「さてと…最高のforty-five(45口径)を手掛けようではありませんか」

 

最高傑作を作り上げる。

今、すべき事はそれだけなのだから。




こちらではお久しぶりです。

本内容で分かる通り、あの夏の騒ぎにて返却された(渋々であるが)モデラート&ラルゴを最高傑作へと作り上げる為、マギーが行動します。
因みに配達係はあの夏の騒ぎにて登場した少女、ゼーレン・レットゥング(ゼーレちゃん)が担当。

次回は…多分、ゼーレちゃんによる配達になるかも?(向こうさんの反応次第による)
確実とは限らないので、何卒良しなに。

ではではノシノシ


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Act259 best 45 caliber


─最高傑作を貴女に──


夜が明け始め、空がその色どりを少しずつ取り戻し始めた頃。

薄暗がりの自室で置かれた小さなライトだけに照らされた作業台の前にマギー・ハリスンはいた。

 

「…ふぅ」

 

頬に付着したオイルを拭う事もせず、その一言ともに"ソレ"がゆっくりと置かれる。

唯一の照明がウエスに置かれたソレを照らす。

黒に彩られた部品。よく見れば銃のスライドの様にも見える。

そしてその部品にはとある文字が刻まれていた。

 

──FOR TIA──

 

それは、とある人物に向けて刻まれた文字だった。

音楽用語の名を冠した双銃を酷く気に入った彼女へと送る言葉。

その人物が誰なのかなど、この基地にいる面々であれば分かる事であった。

 

「さて…最後の仕上げをして、あの子に配達をお願いしましょうか」

 

軽く背伸びして、マギーは再び作業を開始。

そして夜が明けた頃には、その作業台には一対の大型拳銃を横たわっていた。

 

 

ゼーレがマギーに頼まれ、早期警戒基地に、ある品物を配達する為にS10地区前線基地を出たのは昼辺りを過ぎた頃であった。

配達専用として整備された小型のバンを舗装されていない道を進ませ、運転席に座るゼーレはマギーとシーナは描いてくれた地図を見つめる。

道中の危険を考慮して描かれたルートは普段からS10地区からS09 P地区へと向かうのに良く利用される道。

今回初めての配達となるゼーレからすれば、安心できるルートとも言えた。

 

「えっと、品物のリストはこれで……後は受け取り票はこれと…」

 

他の基地への配達は今回が初めてだ。

だがその表情には緊張はない。

安全速度を維持しつつ、ゼーレはバンを走らせながらS10地区とS09 P地区との境界線を越える。

真っ直ぐと続く道を数十分かけて走り抜けると、彼女の視界にその町は映った。

そここそS09 P地区。

彼らと出会い、悪魔という存在を信じ、幾度もなくその戦いに協力してくれた基地が存在する地区。

初めての邂逅から長い時間が経った今でも、S10地区前線基地と相手の関係は良好なまま。

そしてあの島からS10地区に身を置く事になったゼーレにとって、隣の地区は初となる場所とも言えた。

 

(すごくきれいな街…。確かS09って激戦区って聞いていたけど…)

 

基地に居た際に聞かされた情報を思い出しつつ、周囲を見渡す。

激戦区と言われていながらも、街は整備され、人や車の行き来もある。

 

(この地区の指揮官さんはとてもすごい人なんだね…。ここまでに持っていくのに相当時間がかかったろうに)

 

他の地区に存在する町はここまでの復興を遂げてはいない。

そういった情報も耳にしていたからこそ、ゼーレは改めて配達先である基地の指揮官を感心しつつ、配達先である早期警戒基地へとバンを走らせる。

この時、彼女はこの地に訪れているのは自分だけだと認識していた。それ故にその気配に気付けずにいた。

そしてその気配の主は自身の近く、バンの荷台の上で腰かけていた事に。

 

「懐かしいねぇ…前に来たのは何時だったかね」

 

目に映る景色を懐かしみながら彼はバンが向かう方を見つめる。

 

「いつもならギルヴァやエラブルと一緒なんだが──」

 

揺れる車両の上でゆっくりと立ち上がる人物。

仮初の姿であり、異形の姿でありながらも通り過ぎるバンの上に立つ彼に誰も気付いていない。

 

「今日ばかしはお忍び訪問だ。お邪魔させてもらうぜ?早期警戒基地さん」

 

そんな中で彼──蒼はバンが向かう先、早期警戒基地にへと遠くから挨拶するのであった。

 

 

一台のバンが早期警戒基地にへと入る。

入門許可証を首に下げ、車両を適当な所に停車させるゼーレの目にはあの夏の事件にて手を貸してくれたアーキテクトとアナの姿が映る。

そしてS10地区前線基地からやってきたであろう一台のバンを見て、アナは不思議そうに首を傾げる。

 

「珍しいですね。いつもなら大型トレーラーでやってくる筈なのですが」

 

「配達する品によって分けているんじゃない?ちょっとした物を配達するのに大型車両はいらないでしょ」

 

「確かにそうかもしれませんね」

 

今回の配達品は、大掛かりな物ではないという事は事前に知らされている。

小型のバンでやって来たのはそういった背景があるのだろうと二人は判断する。

そして小型バンへと歩み寄った時、運転席から降り立った彼女にアーキテクトが驚きの声を上げた。

 

「ゼ、ゼーレちゃん!?」

 

纏う衣服は違えど、特徴的な髪と瞳の色は見間違える筈がない。

そこに立っていた人物は確かにあの幽霊船で出会った少女本人であった。

だが今回の配達ではゼーレが来るという知らせはされていない。

驚きの声を上げたアーキテクトとは対照的にアナは声は上げずともその目は見開いていた。

 

「お久しぶりです。え、えっと…配達に来ました」

 

恥ずかしそうな様子を見せつつ一礼しながら配達にやって来た事を伝えるゼーレ。

そんな姿にアーキテクトは感極まったのか駆け出し、ゼーレを思い切り抱きしめた。

突然の事に驚きながらも、次第にその表情は笑みへと変わり彼女はあの島以降、S10地区での事をアーキテクトにへと伝える。

姉妹を奪った母モドキと戦う前に、言ってくれたあの言葉を胸に抱きながら。

 

─君は幸せになれるよ─

 

彼女は難しい事は言えないといった。

だがその言葉はゼーレン・レットゥングにとって難しい言葉だった。

幸せになれるか、どうか。そんな先の事すら見通せない程の暗闇が目の前を支配していたのだから。

だけど、今は違う。

 

「ありがとう。あの時、勇気づけてくれて」

 

「!」

 

「大変な事は沢山あるけど…それでも──」

 

一人ぼっちじゃなく、そして今こうして生きているという事実。

大変な事もあって、時には笑い合って今という一日を過ごす。

それをなんて言うのか。

 

「とても幸せです」

 

幸福と言わずとして何て言うのだろうか。

 

「そっか…そっか、そっか。うん、私も嬉しいよ。幸せそうで本当に良かった」

 

「はい」

 

微笑ましい二人を少し離れた位置で見ていたアナ。

その様子にティアが声を上げる。

 

【これはサプライズね。元気そうで何よりってやつじゃない?】

 

【そうですね。あの島での騒動以降、S10地区前線基地に身を置いているという話は聞いていましたが】

 

【私は行ったことないけど、あのシーナが居る基地なら大丈夫でしょ。…にしても今回はただお礼を言いに来ただけなのかしらね?】

 

【そうとは限らないでしょう。配達と言っていた以上、恐らく私かノア、それともRFB…或いは意外な線をついてレイに対してと考えられます。レイは兎も角、私達三人はこれまでに幾度もなく施しを受けてきたので】

 

【…確かにね。貰いっぱなしってのもアレな気もするけど。でもまぁ、多分…死んでほしくないから色々してくれているんじゃないかしら。ギルヴァしかり蒼しかり、シーナしかり…ホント、あの基地に居る奴らはお人好しが過ぎるというか】

 

精神世界の中で苦笑しつつ肩を竦めるティア。

それに釣られてアナもつい苦笑いを浮かべる。

ギルヴァを筆頭に素直じゃないのが多い。今更な事かも知れないが、それを思うとついつい笑みが零れてしまうのはご愛嬌というやつだろう。

 

【さ、今日は誰宛てなのか聞いてみましょ。出来れば私宛で、品は愛する相棒達(モデラート&ラルゴ)だと嬉しいのだけど】

 

【まだ言っているんですか…。いい加減諦めて、私の銃で我慢してください】

 

【お断りよ。私はあの子達が良いの!】

 

【はぁ…】

 

あの夏の一件以来、ティアはモデラート&ラルゴを気に入っていた。

それはもうぞっこんレベルと言っていいぐらいにだ。

基地に戻り、試しにとアジダート&フォルツァンドを使うも満足のいく刺激が得られず、代わりの銃を探すもあのモデラート&ラルゴが余りにもティアに馴染み過ぎたのか、他の銃でも満足が行かないという結末を迎えている。

自身の体と同化したレベルまでに馴染むあの二丁を忘れられる筈もなく、ティアはふと思い出してはそんな事を呟き、またかと言わんばかりにアナがため息を付くのが今や日常茶飯事と化していた。

そして今日も同じようなやり取りを繰り返しつつ、アナはゼーレへと歩み寄り声をかける。

 

「お久しぶりです、ゼーレ。元気そうで何より」

 

「こんにちは、アナさん。はい、変わりなく元気です」

 

「それは良かった。それで今回の配達の品は誰宛てなのでしょうか」

 

「えっと…」

 

腰に提げたバックから配達先伝票を取り出し、宛先を確認するゼーレ。

その視線が伝票からアナへと向けられるとゼーレは今回の宛先人の名を口にした。

 

「ティアさんですね」

 

「ティアにですか?」【え、マジ?】

 

自身でもなければ、ノアでもRFBでもレイでもない。

もう一人の自身たるティアへの配達。

流石のティアも驚きを覚えるも、もしかしてと思ったのか段々と興奮が隠しきれなくなっていた。

 

【今すぐに品物を聞きなさい!!!ほら、早く!早く!】

 

【うるさいですよ。少しは落ち着いてください】

 

【こんなやり取りをしているだけでも時間の無駄!ほら、早く!私の可愛いあの子達が待ってる!】

 

マジでこいつ、本当にもう一人の私かと思いたくなる程の変わりようにアナは頭を抱える。

人形だと言うのに頭痛に似た痛みを覚えながらもゼーレへ品物の内容を問う。

出来ればそうであってほしくないと思いながら。

 

「ち、因みにですが…品物はどういったもので?」

 

「銃ですね。それもティアさん用に仕立て直したものですけど…」

 

【Fooooo!!!Yeahhhh!!!!】

 

宛先が自分で、その品が自分用に仕立て直した銃となれば、もう考える必要はない。

テンションのパラメーターが振り切れてしまい、叫び出すティナ。

更に頭痛の様な痛みが酷くなった様な感覚に襲われるアナを見て首を傾げるゼーレ。

そんな彼女に、何でもないと伝えつつ場所を移動をすべきと考えたのだろうか、移動を提案する。

 

「取り敢えず中へどうぞ。品物はその時に見せてください…」

 

「な、なんかやつれてない…?アナっち」

 

「気のせいですよ、アーキテクト。ええ、気のせいですとも…」

 

少々やつれている様な気もしなくもない彼女の案内の下、ゼーレはバンの荷台から下ろした品物を手に基地の内部へと入っていく。

 

【ん…?】

 

先ほどまでのハイテンションはどこへと消えたのか。

ふわりと感じた気配にティアは訝しげな声を上げた。

 

【…この気配、何処かで…】

 

何処かで感じた事のある気配。だがその気配は余りにも薄すぎて特定には至らない。

だけど知っている。はて、誰の気配だったか。

首を傾げるティアだが、結局のところ分からないままであり、思い出すのを止めた。

 

「おーおー…気配を極端に消しているとはいえ、ティア辺りは気づくかぁ」

 

一向が中へと入っていく様子を基地を囲む外壁の上で遠くから見ていた蒼。

そして気配を消しているにも関わらずティアが自身を感じ取りつつあった事に関心しつつ、蒼はその場から飛び降りる。

 

「さぁてと…こっちも移動するか」

 

仮初かつ異形の体が消える。

完全に姿を消した蒼は別の方向から早期警戒基地にへと入っていくのであった。

 

 

 

早期警戒基地内部、射撃訓練所。

その中にアナとゼーレの姿があった。

因みについ先ほどまでいたアーキテクトは単に迎えに来てくれただけであり、仕事があるのかゼーレに別れを告げるとそのまま立ち去っている為、その場にいない。

 

「さぁさぁ、品物を見せてちょうだい!」

 

一秒でも早く再会したいのか、肉体の主導権を強引に奪い、表に出てきたティアが興奮冷めやらぬ状態でゼーレへと詰め寄る。

流石の彼女にゼーレも少々恐怖を覚えてしまい、それを内側で見ていたアナが窘める。

 

【いい加減落ち着きなさい!!怖がらせてどうするんですか!】

 

「おっと……おほん」

 

自覚があったのか、アナに言われて軽く咳払いするティナ。

 

「あー、ごめんね。ちょっと怖がらせてしまったかしら」

 

「だ、大丈夫です。ちょっぴり怖かったけど…」

 

「あはは…ごめんごめん。さて、気を取り直して…品物を見せて貰えるかしら」

 

「あ、はい」

 

ティア用に仕立て直した銃を収めた専用のガンケースを作業台の上に置くとロックを解除し開くゼーレ。

そしてケースを反転させ、そこに収められた品物をティアへと見せた。

 

「ん?」

 

収められたソレにティアは眉を顰める。

彼女はてっきり銃が既に完成した状態で収められていると思っていた。

だが彼女の目の前にあるのは、完成していない…分解された状態で収められた二丁の銃だった。

どういう事だという視線をゼーレへと向けると、彼女は静かに告げた。

 

「最後はティアさんの手で仕上げてください。そうする事でこの子達は貴女の物となる」

 

「!…オーケー、分かった。きっちりと受け取り伝票にサインしてやらないとね」

 

ケースの中に収められたパーツを手に取るティア。

一つ、また一つと組み上げていく度に彼女は生まれ変わった双子の銃の魅力を感じ始める。

生まれ変わる前の双子も中々の物であったが、生まれ変わった姿はそれ以上の物を有していた。

何処がどうだとは言葉にはしない。組み上げていく度に銃の自身が語り掛けてくるのだ。

二つの銃を組み合わせるという大幅な改修。

全てパーツを見直し、丁寧過ぎると言っていい程の改修が施され、使用する材質までも見直し。

ミリ単位どころマイクロ単位レベルの超繊細な調整が施されたグリップは、一度握れば馴染むどころか同化しているのではないかというレベルまで仕上がっているも、右手用として製作された銃のグリップはウッド調、左手用として製作された銃は形は同じと言えど象牙調に仕上げていた。

カートリッジは一から製作された専用のもので、一挙動での抜き取りを可能にしつつ使用する弾丸の特性上、弾数も重視。

銃身はやや厚みがあり、先端に取り付けたマズルブレーキは二段式を採用し発射時のガスの飛び出しを更に細分化する事によって射撃時の狙いを安定させる役目を担っていた。

何より銃の耐久力を超えてしまう程の連射を行うであろうティアが使用する事を前提に大幅な大型化及び堅牢化を施し、無茶な連射では壊れない耐久性を実現していた。

やがて双子の銃【モデラート・レジェロ&ラルゴ・リゾルート】全貌が明らかになった時、ティアは銃のスライド部分に刻まれた文字を発見する。

 

──For Tia──

 

自分宛てに送られた言葉。

そしてその下にもう一文、文字が刻まれていた。

 

──By Maggie's workshop──

 

【どうやら最高傑作を託してくれたみたいですね】

 

「ホント…最高ね。ついつい愛したくなっちゃうわ」

 

【それは本人にどうぞ】

 

「この場にいない人に言ってどうするのよ。でもそうねぇ──」

 

生まれ変わった双子の銃をゆっくりと机の上に置くティア。

そして傍に立っていたゼーレを見つめると何を思ったのか、思い切り彼女を抱きしめた。

 

「ふえっ!?」

 

「大好き!!!愛してるわ!!!」

 

「ふ、ふえええっ!!!????」

 

最早何が何なのか分らず困惑するゼーレ。

それでもお構いなしに抱きしめながら軽々と踊り出すティア。

彼女の喜びがほとぼり冷めるまで時間がかかったのは言うまででもない。

やがてその興奮が収まった時、ある事に気付いたのかティアはゼーレに尋ねる。

 

「ちなみにだけど…口径はいくつかしら。生まれ変わる前は40口径だった筈だけど」

 

「確か…45口径って聞いています」

 

それを聞いたティアは双子の銃を軽々と回転させて収められていた専用のホルスターにへと一気に差し込みむと笑みを湛えゼーレへと一言。

 

「パーフェクトよ、ゼーレ」

 

「えっと…感謝の極み?」

 

【何ですか、そのやり取り】

 

何処か知ったのか分からないやり取りにアナは静かにツッコミを入れるのであった。




更新が遅れて大変申し訳ない。

はい、という訳で生まれ変わった双子の銃。
モデラート・レジェロ&ラルゴ・リゾルートをティアさんへ託します。

という訳でモデラート・レジェロ&ラルゴ・リゾルートの紹介を軽くておきます。

【モデラート・レジェロ&ラルゴ・リゾルート】
:モデラート&ラルゴをティア用にマギーが仕立て直した双子の銃。
ベレッタM96FSをベースにしつつも、ベレッタM8045を使用。それに伴い口径が40口径から45口径へと変更されている。
以前の姿から大幅に変更されている訳だが、最早それは一から作り直したと言っていい程で、全てのパーツを一から見直し、使用する材質までも吟味する程の大改修が施されている。
その完成度は非常に高く、体に馴染むどころか同化しているのではないかと錯覚してしまう程の完成度を誇る。
またこの双子の銃も音楽用語を使用しており、造語ではあるが【モデラート・レジェロ】は「中くらいの速さで、軽く優美に」を意味し、【ラルゴ・リゾルート】は「幅広く、緩やかに。決然と」を意味する。

次回はお忍び訪問している蒼さん編。
もうちょいお付き合いくださいませ


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Act260 message

言い忘れていた伝言を、今


生まれ変わった双子の銃との再会に喜んでいるティアがいる一方で、お忍びで来ていた蒼は基地内部を散歩するように歩いていた。

行き交う人形や職員が居る中で、誰一人とて蒼の存在に気付かない。

それもその筈で、今の蒼は極限にまで魔力を抑えており謂わば霊体の様な状態を維持している。

だから誰一人とて蒼の存在に気付かないのは当然と言えた。

 

(しっかし、まぁ…恐ろしい基地だことで。見えねぇ箇所の至る所に警戒装置やら物騒な装置がついてやがる。基地の皮を被った重要塞かい、ここは)

 

霊体の状態だからこそ、壁など何ら障害にはならない。

故に外部からの侵入を警戒する為に備えられた無数の装置を見て蒼は軽く戦慄していた。

 

(今更言うのアレだけどさ、うちの基地は此処との付き合い方を考えるべきじゃないかねぇ…。まぁ、今の今までイイ感じにやって来たんだ。喧嘩して、疎遠って事にはならねぇと思うが…さてはて、この基地の皆さんからしてS10地区前線基地はどう見られているのやらか)

 

そんな事を思いつつも蒼は一度足を止める。

そしてゆっくりと後ろへと振り返った時、そこに映った影を見つめた。

近場の物置を映し出す影。そこに立つ物の影を映し出すだけの至って普通のソレ。

だが蒼は見抜いていた。その陰に潜む"何か"に。

 

(よぉ、退くならさ…今しかねぇぜ…?

 

「…!?」

 

何ら変わりのない声。

最後に告げた警告でさえ、何ら気迫すら感じさせないものにも関わらず、まるで恐れたかのように影はその場からそそくさと退散していく。

誰にも気づかれる事無く、しかしてその去り際を見ていた蒼は軽く肩を竦める。

 

(こりゃ…あの歌姫様(M82A1)にも挨拶しねぇとな。おたくのペットがやんちゃしてたってな)

 

影が見えなくる程に遠ざかったのを確認すると再び歩き出す蒼。

周囲を見渡しながら、ふと彼は呟く。

 

「さぁてと…どこにいんのかねぇ、ユノのお嬢は」

 

お忍びで訪れ、現在進行形で探している人物の名を口にしつつ人をすり抜け、人形をすり抜け、壁をすり抜け早期警戒基地内部を歩き回る。

だが目的の人物は中々に見つからず、憩いの場らしき中庭と思われる場所に訪れた辺りで蒼は足を止める。

偶然にも足を止めた訳だが、まさか探していた人物がこの中庭にいたと思わなかったのだ。

 

「今日も平和だねぇ」

 

「そうですわね。今日はS10地区前線基地からの配達だけですし、特に問題はないかと思いますわ」

 

愛する娘と共にこの中庭で平穏な一時を味わうは蒼が探していた人物であるユノ・ヴァルターとクリミナ。

二人の関係性はギルヴァの中にいた時から察していた事もあり、和んでいる一時を邪魔する事に気が引けつつも、蒼は二人の元へと歩き出す。

当然ながら歩み寄ってくる蒼に二人は気づかない。だがこの子だけは違った。

 

「ん?どうしたの、ルキア」

 

「だっこ!」

 

「だっこ?でも、そこには誰も居ないよ?」

 

ユノの言う通り、ルキアが向く先には誰もいない。

娘の不思議な行動にユノもクリミナもお互いに顔を合わせ首を傾げる。

一方で蒼は自身を認識している子供に驚きを覚えつつも笑いを抑えていた。

 

(どういう訳かこの娘は俺をハッキリと見えてる。小さい頃は見えないものが見えたりするとも言うが、ここまでとなりゃ相当な気もするが…ま、今はそんな事はどうでもいいかね)

 

気づかれたからにはいつまでも姿を隠している訳にはいかない。

肩を竦めつつ蒼は声を上げる。

 

「ハハッ、こりゃ参ったね。おたくのお子さんにバレちまうとは俺もまだまだってやつかい?」

 

「っ!?」

 

突然響いた声と共に現れた異形の存在。

我が子を守るようにして抱え後ろへと下がるユノにクリミナが前に飛び出す。

あからさまに警戒している様子を見て蒼は両手を上げ、降参の意を示した。

 

「安心してくれよ…っつても信用ならないか。ならここで自己紹介させてもらう」

 

上げていた腕をゆっくりと下ろし、蒼は片足を引きつつ上半身を下ろしながら一礼する。

 

「俺の名は蒼。本名じゃねぇが訳合ってそう名乗らせてもらっている。幸せな時間を邪魔するような形で姿を晒した事、どうかお許し頂きたい」

 

下げていた体をゆっくりと起こすと蒼はユノを見つめつつ言葉を続ける。

 

「長らくの間、ギルヴァが世話になったな」

 

「ギルヴァさんの事を知っているの?」

 

自身が知る知人の名が出た事に反応し、蒼へとそう尋ねるユノ。

その問いに蒼は頷き、口を開いた。

 

「長い付き合いさ。嘘かどうかを知りたいならギルヴァ本人に尋ねてくれ。()()()()()()()()()()のはお嬢が一番知っているだろ?」

 

「!」

 

嘘を言う性格じゃない。

それは初めてギルヴァとブレイクと出会い、彼らの事を、悪魔の事を聞かされた後にユノが発した言葉。

その言葉を知っているとなれば、その時から蒼が存在していたという事になる。

だがまだ不安は残る。それが僅かに表情に出ており、それに感づいた蒼は仕方ないかと前置きを口にして言葉を続ける。

 

「怪しいと思われてもいい。だが三つほど伝えたい事があってね。それだけ聞いてくれたら俺は退散する。どうだい、聞いてくれるかい?」

 

手出しはするつもりはない。

蒼の態度にそれを感じ取ったユノ。少し逡巡しつつクリミナの顔を見つめた後に蒼の方を見て頷く。

それを了承と判断した蒼はありがとうと礼を口にしつつ三つの伝言を伝える。

 

「まず一つ目でティアに伝えてくれ。俺からの餞別…あの大剣に"スパーダ"の名を名乗る事を許すって事を伝えてくれ。まぁ俺からというとよりも、あのスパーダ本人からの伝言だと伝えてくれたらありがたい。それで二つ目はあの歌姫様(M82A1)にだ。何時ぞやの事に対して礼を伝えてほしいのと、ペットの躾はちゃんとやるように伝えてくれ」

 

「分かった。それで三つ目は?」

 

それを問われ、蒼は笑みを浮かべる。

そして何処からともなく一振りの大剣を出現させるとその切っ先を地面に宛がいながら告げた。

 

「俺たちの事、信じてくれてありがとよ」

 

「…!」

 

「上っ面だけでも良かった筈だ。でもお嬢達は信じて、そして何度も手助けしてくれた。礼一つ返せないままなのは俺の性分じゃないんだ」

 

地に突き立てた大剣の柄に手を添え、蒼はユノを見つめる。

 

「最大の感謝を、ユノ・ヴァルター。汝の行く道に悪夢無きこと。そしていずれまた会う時があれば──」

 

「のんびりとした平穏な日に会おう、かな?」

 

「…ああ、そんな時に会おう。今度はギルヴァと一緒に、な?」

 

「うん、楽しみに待ってるよ、蒼さん」

 

「それはこちらもさ」

 

お互いに笑みを浮かべ合い、そして蒼は地に突き立てた大剣を回収してその場から静かに去っていく。

本来の目的を果たした今、これ以上ここに居座る必要はない。

そそくさと基地の外へと出るとゼーレが乗って来たバンの荷台で待機。

そして蒼という存在が来ていた事を一部の者しか知らないまま、蒼は揺れるバンの荷台の上で静かにS09P地区を離れるのであった。




はい。これにて蒼さんのお忍び訪問は終わりです。

本来であれば早い段階で蒼によるお礼を伝えるべきだったのですが、思った以上に遅くなってしまい、そして今漸くという形で初めて出会った時のお礼を伝える事が出来ました。まぁ+αがついてますけどね。

さてはて生まれ変わった双子の銃を渡し、お礼を伝える事が出来ましたので次回投稿は遅くなっても良いよな!

では次回ノシ


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