転生先はアベンジャーズ!?生き残れる自信がありません!! (断空我)
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プロローグ(アベンジャーズ)

あるユーザーさんからアベンジャーズをリクエストされたので試しにやってみます。

続くかはガチで未定。

お試し投稿みたいな感じになります。

こんなのでいいのかな?

以下、簡単なオリ主説明


シンジ・ジャッカ―(25歳)

生前は冴えない大学生だったが神様の暇つぶしの為に殺されて、踏み台転生者として飛ばされそうになるも現れたインフィニティーストーンの一つによってアベンジャーズの世界へ転生される。
転生されるも五歳まで記憶が封印されていた。
記憶を取り戻すもどういうわけか少年兵として活動しており、様々なテロ活動に参加していた。ある日、戦場に現れたアイアンマンを目撃してこの世界が普通の世界ではないことを理解、アイアンマンと関わることを避けるためにテロ組織から逃走、各地を転々としている際にATフィールドを発動させたところを偶然、S.H.I.E.L.D.長官のニック・フューリーに目撃されてS.H.I.E.L.D.に強制的加入、エージェント・コールソンの下で様々な見聞を広める。
本人としては争いよりも平穏な生活を送ることを夢見ているが手にした力の為にそれはどんどん、遠のいていく。
エージェントとして活動していたが主だって暴れることはなく裏方活動が多かったことからコードネームの類はなし。
ATフィールドと体術、重火器を使ってヴィランと戦う。
実は隠し持っている光線剣があるとか、ないとか。
彼女いない歴=年齢、らしい。


 もう一度、神様に会えるならいいたいことがあります。

 

 

「あぁ、もうしつこい!」

 

 グロックのカートリッジを装填しながら俺は次々と現れる敵へ向けて発砲する。

 

 弾丸の威力が足りないから相手の頭部を狙って、視界を揺らした隙をついて接近、片方の手にあるナイフで喉元を掻き切る。

 

 うるさい悲鳴を上げながら昆虫のような爬虫類のような顔立ちをした兵士が崩れ落ちた。

 

 奇声をあげながら他のチタウリの兵士が光る刃がついた戦根を構えて近づいてくる。

 

 エネルギー光弾が迫った。

 

「無駄、だっての!」

 

 光弾が当たる直前、大きな音を立てて、俺の前に正八角形の波紋が発生して攻撃を防ぐ。

 

 

――ATフィールド。

 

 正式名称はAbsolute Terror Field(絶対恐怖領域)と呼ばれる力によって相手の攻撃を防ぐ。

 

 接近戦を仕掛けてくるチタウリの兵士に背中で抱えていたショットガンを取り出して近距離で放つ。

 

 轟音と共に吹き飛ぶチタウリの頭部。

 

 後ろから飛び掛かろうとするチタウリの兵士だが、背後から受けた矢によって地面へ落下した。

 

「フォロー、どうも」

 

 耳に装着しているインカムでフォローをしてくれた相手へ感謝する。

 

『もうバテたか?』

 

「冗談、年上の人達が頑張っているのに、年下がへばっていたら何を言われるかわかったもんじゃない」

 

 目の前のチタウリの兵士の顎を蹴り飛ばしながらショットガンに弾丸を装填する。

 

「そっちこそ、矢の無駄うちはしないでよ?」

 

『誰にものをいっている』

 

 チタウリの兵士の鎧の隙間に矢が刺さる。

 

 装着されていた爆弾が起動して兵士は吹き飛ぶ。

 

 

 

「お見事」

 

 離れたところで矢を射っているだろう渋いルックスの男性のいる方向をみる。

 

 地上最強の射手と知られる弓術の名人、ホークアイ。

 

 少しまで消息不明で再会と同時に襲い掛かってきたのだが、自力で仲間として戦線復帰してきたS.H.I.E.L.D.のエリートエージェント。

 

「ところでお姉さんは、今どこ?」

 

『セルヴィグ博士と接触したところよ。ボーイ。囮は順調?代わってほしいならすぐにキャプテンへ言ってね』

 

「冗談、まだまだ、やれるよ!」

 

 チタウリの兵士をATフィールドごと殴り飛ばす。

 

 ぐしょりと嫌な音を立てて気味の悪い液体をまき散らした。

 

「ウェッ」

 

 ニューヨークの真っただ中、もっというと天才&大企業の経営者だったトニー・スタークの所有するスターク・タワーの近くでどうして、俺は怪物たちに囲まれながら死闘をしているのかという疑問が出てくる。

 

 味方は自分たち以上にスーパーヒーローな人たち。

 

 自身で制作したスーツを纏って戦う天才、トニー・スターク/アイアンマン。

 

 氷の中で長い年月眠り続けた最強ソルジャースティーブ・ロジャース/キャプテン・アメリカ。

 

 怒ると緑色の巨人へ変身する能力を持つブルース・バナー/ハルク。

 

 神々の国アスガルドから今回の主犯であるロキを捕まえるためにやってきたソー。

 

 世界最強の女スパイでS.H.I.E.L.D.に属するナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウ。

 

 地上最強の射手、クリント・バートン/ホークアイ。

 

 こんなオールスターの中でATフィールドを持ち、重火器で戦う、シンジ・ジャッカー

 

……つまるところ、俺である。

 

 本来、アベンジャーズに俺という存在はありえない。

 

 なぜ、こうなったのか、話は二十五年ほど前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 といいつつも結果だけいえば、俺は転生者だ。

 

 よくあるネット小説、二次創作であるような神様転生だ。

 

 神様転生なのだが、神様が事故で死なせてしまったというものではない。

 

――神様の娯楽。

 

 暇つぶしの為に転生させられるということで、当初は踏み台転生者のような出で立ちにさせられるところだったのだが、目の前に“キラキラ輝く石”のようなものが現れた途端、神様が消えて、どういうわけか俺は五歳くらいに前世の記憶と神様と出会ったことを思い出す。

 

 それからがとても大変だった。

 

 転生ということでどこに飛ばされたのかと思ったら某国の少年兵として活動していた。

 

 親に捨てられたのか、売られたのか不明だが、気付けばテロリストの少年兵として活動。

 

 重火器の扱いと人を殺す術を徹底的に教え込まれていた。

 

 加えて、神様とやらが俺に与えた特殊能力があった。

 

 一つが健康的な体。

 

 これはどのような状態であっても体の健康を常に維持する。そのため、生まれてこのかた一度も風邪をひいたことがない。そのために兵士として徹底的に鍛えられた原因であり、俺の嫌いなものの一つ。

 

 もう一つがさっきから当たり前のように使っているATフィールドである。

 

 これは「新世紀エヴァンゲリオン」というアニメに出てきた設定ということは覚えていた。ただ、いつの間にか使えるようになっていたということで、周りへ悟られないようにすることで必死だった。

 

 これらのおかげで戦場において死ぬことなく、ひたすら相手を殺すという精神と心をすり減らすような毎日だったのだが、それも唐突に終わる。

 

 戦場にアイアンマンがやってきたのだ。

 

 アイアンマンは圧倒的な武力で戦場を無力化させると去っていた。

 

 この時点で朧気だった前世の記憶で刺激が起こる。

 

「ここって、アイアンマンの世界?」

 

 甘い考えを告げた自分を殴ってやりたい。

 

 その後、戦場に出れば、現れるアイアンマン。

 

 テロリストから抜け出して街を放浪して様々な情報を集めて気付いた。

 

 

――あ、ここ、アベンジャーズの世界だ。

 

 

 過去の資料を調べれば、出てくる出てくる、キャプテン・アメリカ、ハルクの事件。

 

 これだけの情報あれば、嫌でもこの世界がアベンジャーズの世界だとわかる。

 

 とても困った。

 

 アベンジャーズについてはウルトロンまでしかみていない。

 

 加えて、メンバー全員のことは映画程度の知識しかなかった。

 

 アイアンマンも1しかみていない。キャプテン・アメリカについては未視聴、ハルクは当時、人気の俳優が吹き替えをやるからという程度の認識。ソーについては正直、持っている武器を巡っての乱闘騒ぎではじめて遭遇した程度。

 

 とにかく、彼らと関わらず平穏に生きよう。

 

 そう考えていたのに、S.H.I.E.L.D.のニック・フューリーに何故か目をつけられて、エージェント・コールソンの下につけられて毎日、平和維持のために世界中を奔走、気付けば彼の右腕ポジションみたいなことになっていた。

 

 平和維持のためにアイアンマンへ会いに行ったり、発見したムジョルニアを取り返そうとするソーと乱闘になったり(冗談とか比喩なしに死ぬかと思った)、とにかく大変な毎日。

 

 そんなある日、保管されていた四次元キューブがロキというヴィランに盗まれたことからニック・フューリーの指示でコールソンとロマノフと協力して各ヒーローたちを勧誘して、アベンジャーズを結成することになった。

 

 俺はバックアップかと思っていたらATフィールドのことがフューリーにばれていたからメンバーにカウントされていた。

 

 話せば二時間以上かかるのだが、ロキの野望を止めるために団結したアベンジャーズはニューヨークでチタウリの兵士たちと戦っている。

 

 それが現在の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして、こうなった、のか!」

 

『ジャッカー!そっちに大量の敵がいった!気をつけろ』

 

「最悪の情報、ありがとう!キャプテン!」

 

 キャプテン・アメリカの連絡通り、目の前に大量のチタウリの兵士が現れる。

 

「最悪だ。あぁもう、でも、仕方ないよな」

 

 ショットガンの弾丸がなくなったので打撃武器代わりにして構える。

 

「来いよ、怪物たち。まとめて、相手してやるよ」

 

 多くの人達を救うことができるなんて思っていない。

 

 死にたくない。

 

 けれど、コールソンがロキにやられた。

 

 ロキに借りを返すべく、生き残る。

 

 全てはそこからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは神様転生に特殊な力を宿して、アベンジャーズのメンバーになり、インサイト計画、ソコヴィア事件、アベンジャーズ内乱、ホームカミング、ワカンダと様々な出来事に巻き込まれていく男の話に……なるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……多くない?」

 

 目の前のチタウリの大群から生き残ることができればの話だが。

 

 

 



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ウィンター・ソルジャー(前編)

ウソやろ?試しの投稿でここまで感想来るの?

しかも評価バーに色、ついているし。

どうせだし、この話含めて、二話ほど投稿します。

タイトルからわかるとおり、つまるところ、アベンジャーズの戦いから二年後。

喜べ、盾を持つ彼がでるぞ?



あ、おまけで、シンジ君の女がでるよ。


 

 少年兵だった俺はある組織に所属していた。

 

 その組織名はどうでもよかったから覚えていなかったがとにかく犯罪者ばっかりだった気がする。

 

 偶然、本当に偶然にも俺は一人の女の子を保護したことがあった。

 

 とにかく口が悪く、二言目には拳が飛んでくる。

 

 レディーとか、そういうのとは程遠い少女。

 

 俺以外のメンバーがみつけていたなら楽しんだ後にポイか、売り飛ばされるか、頭に鉛玉をプレゼントされていただろう。

 

 生き残るためということで戦場におけるノウハウを叩き込んでしまい、何度か戦場にも出ていた。

 

 だが、途中でアイアンマンと一緒にやってきた正規軍に保護してもらう様に仕向けて、バイバイ。

 

 それっきり俺と少女は会うことがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そう思っていたのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニューヨークの戦いから二年後、多くの被害を生んだチタウリとの戦いの爪痕はスタークが契約したダメージコントロール等や援助などによって無事に復興した。

 

 あれからアベンジャーズのメンバーは自身の生活へ戻っている。

 

 バナー博士はスタークとどこかへ行ったし、ソーはロキ(一発、殴った)を連れてアスガルドへ、ホークアイは療養という名前の休暇。

 

 かくいう俺もS.H.I.E.L.D.のエージェントとして日夜、活動をしていた。

 

「遅いぞ、ジャッカー」

 

「無茶、言わない、で」

 

 ウソである。

 

「左、失礼」

 

「え、あぁ、どうぞ」

 

「し、しつれい……」

 

「どうぞ~」

 

 エージェントとしての活動はほとんどしておらず、専らキャプテン・アメリカ/スティーブ・ロジャースが現代社会へ適応できるようにフォローする毎日だ。

 

 これは互いに現代生活に対する理解が低いから切磋琢磨させることで早くなじませようとするフューリーの企みである。

 

 もう一度、言おう、企みだ。

 

 ぜぇはぁ、と息を吐きながら数メートル先を平然と走っているスティーブを追いかけるのはとにかく大変だった。

 

 日課になっている早朝ランニングでなんとか、スティーブに食らいつくのがやっとだ。

 

「あぁ、おい、待て、言うな、言うな」

 

「左、失礼」

 

「あぁ、もう!」

 

「し、しふれい」

 

「アンタ、大丈夫か?」

 

 大丈夫ではない。

 

 キャプテン・アメリカと毎日のようにランニングをして追いつくのがやっとなのだ、これを追い越せるようになったらようやくスーパーヒーローの仲間入りができるだろう、まぁ、なりたくもないんだが。

 

 原っぱで大の字で倒れる俺の横で平然としているスティーブと最近、よく会うようになったサム・ウィルソンは楽しそうに話をしている。

 

 サムはスティーブがキャプテン・アメリカだとしると尊敬の念を向けていた。

 

「じゃあ、彼が噂になっていたディザスター?」

 

「今は――と呼んでやってほしい」

 

「ぜぇ、はぁ、何の話?」

 

 俺が問いかけると「なんでもない」とスティーブが答える。

 

 話をしていると車に乗ってナターシャ・ロマノフがやってきた。

 

 仕事らしい。

 

「ボーヤ、早く来なさい」

 

「はいはい……人使いの荒い」

 

「荒い?」

 

「何でもありません、御姉様」

 

「早く来て」

 

 笑顔を浮かべているがあのまま言っていたら眉間を撃たれていたかもしれない。

 

 幸いなことにATフィールドで即死しないがほいほいと撃たれてはたまらないものだ。

 

 過去にオバサンを口にしてしまって頭に弾丸を受けて、続けて手榴弾を投げられた。

 

 生きていたのが本当に奇跡だと思えたほど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、楽しい同棲生活は慣れたかしら?」

 

「誤解のある言い方はしないでくれ、俺とキャプテンの部屋は別だ」

 

「シンジの料理はおいしい、とても参考になったよ」

 

「あら、そうなの?」

 

 S.H.I.E.L.D.の輸送機内。

 

 スーツを着用したキャプテン・アメリカとブラックウィドウ/ナターシャ・ロマノフの談笑になぜか、俺は巻き込まれていた。

 

 横で話を聞きながら武装のチェックを簡単に行う。

 

「ボーヤ、説明の時間よ?」

 

 ナターシャに言われて渋々、空中投影されている画面をみる。

 

 ミッションはS.H.I.E.L.D.が保有する船舶、レムリア・スターが海賊ジョルジュ・バトロックによって占拠されてしまったという。船舶の中には多数のS.H.I.E.L.D.の技術者とエージェントのシットウェルが拉致されている。

 

 事態解決のため、テロ組織を無力化させることがキャプテン・アメリカと俺、そして対テロ作戦部隊S.T.R.I.K.E.である。

 

 S.T.R.I.K.E.を率いるのはエージェント・ラムロウ、はっきりいって、コイツは胡散臭くて好きになれない。陽気な性格でキャプテンをからかうことをするが能力は優秀。

 

 テロ組織にいた時に敵は味方の振りをするということを教わってきた影響か、どうもラムロウは信用できないイメージが強い。

 

「おい、小僧、キャプテンは行ったぞ」

 

「きっちり五秒、行きますよ」

 

 ラムロウに小突かれそうになったのを躱しながらパラシュートなしで飛び降りる。

 

「二人とも、パラシュートしていないぞ?」

 

「大丈夫だ」

 

 ラムロウの言葉通り、俺とキャプテンはパラシュート不要である。

 

 船舶には海賊の部下が武器を構えて見張りをしていた。

 

 音を立てずに着地してキャプテンが相手している場所とは別の敵を無力化させる。

 

「あら、早いわね」

 

 パラシュートで降下してきたナターシャが感心したように言う。

 

「じゃあ、キャプテンたちの方は頼むわね?」

 

「はいはい」

 

 なんで、こういう任務ばっかりくるかねぇ。

 

 俺はキャプテンと連絡を取りながら船の中の敵を無力化させていく。

 

 キャプテンとS.T.R.I.K.E.が要救助者とバトロックの捕縛に動いている間、俺はナターシャの護衛をしている。

 

 彼女自身に護衛は不要だと思うのだが、もう一つの任務を気付かれずに行うためだった。

 

「これさぁ、キャプテンに見つかると絶対に怒られるんだけど」

 

「任務よ、ボーヤ」

 

 長官ニック・フューリーから下された任務は二つ。

 

 一つは海賊の捕縛と救助、もう一つはレムリア・スターにあるデータの回収。

 

「あぁ、ナターシャさん?」

 

「何かしら?忙しいんだけど」

 

「こっちにキャプテンが」

 

――来るよ、という言葉を同時にドアが壊れてそこからバトロックとキャプテンが転がって来る。

 

 ドアから飛来した破片は自動的に機能しているATフィールドのおかげで俺とナターシャに被害はない。

 

 被害はないがキャプテンは怒っている。

 

「何をしているんだ!」

 

「任務よ」

 

「あぁ、キャプテン」

 

「キミの勝手な行動で周りに被害が出るかもしれない!」

 

「救助と捕縛が貴方の任務だけど、こっちが私の任務なのよ」

 

「フューリーの隠し事か!シンジ、お前も知っていたのか!」

 

「いや、俺はさっき……聞かさ」

 

「ボーヤは私の護衛も兼ねているから当然、知っているわよ」

 

 ウソだ。

 

 叫びたい気持ちに視界の片隅で起き上がったバロックの姿を捉える。

 

「二人とも!」

 

 叫びながらホルダーからグロックを抜いて発砲するも相手は通路の向こうへ消えてしまう。

 

 目の前に落ちているのは爆弾。

 

「キャプテン!!」

 

 俺の叫びにキャプテンはナターシャを抱きかかえるようにして爆弾の方に盾を構える。

少し遅れて爆発が起こった。

 

 二人の前に立って念のため、ATフィールドを発動する。

 

 キャプテンの盾はヴィヴラニウムという貴重かつ特殊な金属で作られていて、そうそう傷つけられることがない。

 

 しかし、万が一ということもあるのでATフィールドによる防御もつける。

 

 バトロックには逃げられてしまったが死者0、任務は成功といえるだろう。

 

 キャプテンの中の不満という塊については置いとこう。

 

 

――インサイト計画。

 

 

 S.H.I.E.L.D.が行おうとしているプロジェクトだが、

 

 嫌な予感がするなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ジャッカー、今、どこにいるかしら?』

 

 端末に連絡がきた、相手はマリア・ヒル。

 

 フューリーの補佐をしている女性。

 

 二年前の戦いにおいて、俺の数少ない話し相手の一人。そんな彼女からの連絡だから、お仕事だろう。

 

「休日で街へ出ているよ。久しぶりに一人でのんびり……ってわけにいかないんだろ?」

 

 先日、ニック・フューリーが死んだ。

 

 俺は立ち会えていないがスティーブの部屋にやってきて何者かに撃たれたという。

 

 あのニック・フューリーをやれる相手と考えると数は限られる。

 

『えぇ、今から指定するポイントへ』

 

「ごめん、それ、難しそう」

 

 通話をきる。

 

 振り返るとこちらへ笑顔を向けている素敵な女性がいた。

 

 綺麗な肢体を包み込む赤いドレスは男たちを魅了させるだろう。しかし、俺へ向けている激しい感情と獰猛な顔が台無しにしていた。

 

 はっきりいって、あんな女性に殺意を向けられる覚えはない。

 

 何より両手に持っている対物ライフルが全てを台無しにしている。

 

 広がる悲鳴。

 

 放たれた弾丸はオートで起動したATフィールドで防がれる。

 

 歪んだ弾丸が音を立てて地面へ落ちた。

 

「死になさい」

 

 二撃目。

 

 今度は直接俺を狙うのではなくてコンクリートの壁などを砕いて破片を飛ばしてくる。

 

 逃げ惑う人の方向ではなく、襲撃者の方向。

 

 相手は俺がくるとわかると対物ライフルを投げ捨ててドレススカートの中からナイフを取り出す。

 

 振るわれるサバイバルナイフを隠していたナイフで防ぐ。

 

「一応、確認、人違いじゃ?」

 

「そんなわけ、ない!」

 

 振るわれる蹴り、ATフィールドで振るおうとしたが顔に衝撃が広がる。

 

「な、にぃ?」

 

「あ、効いた」

 

 ATフィールドが発動しなかった?

 

 突然の事態に困惑しながら相手の刃を躱す。

 

 不思議なことに相手の動きがわかる。

 

 振るわれる斬撃を躱して距離をとった。

 

 この騒ぎだと警察だけでなく、S.H.I.E.L.D.の連中がやってくるかもしれない。

 

「てなわけで、逃げる!」

 

「な!待て!」

 

 追いかけてくるドレスの女性。

 

 落いてある対物ライフルを構えて狙撃してくるがATフィールドが起動して防いでくれる。

 

 走りながら距離をとる。

 

 このまま逃げ切れば、なんとか。

 

 

 

――ザキュ。

 

 

 

 脇腹に激しい熱が走る。

 

 何が起こったのかわからない。

 

 混乱する中で、ひたすらに走る。

 

 見つけた。

 

 少し離れたところでドレス女性とは別に銃を構えている奴。

 

 独特なデザインをした近未来兵器。

 

 太陽の光を受けて反射しているようにみえる金属の義手。

 

 顔は防弾仕様のゴーグルのようなもので素顔はみえない。

 

 だが、ある存在が頭をよぎる。

 

 

――ウィンター・ソルジャー。

 

 

 

 

 噂でしか聞いたことのなかった存在に攻撃を受けた俺は腹を抑えながら近くの橋から川の中に落ちた。

 

 




いったろ?シンジ君の(ことを殺そうとする)女がでたよ?

感想はみてます。

一応、ウィンター・ソルジャーでこの作品は終わりにします。

希望があれば、ウルトロンまではやるかも?

シビル・ウォーもみてはいるけれど、うろ覚えだからなぁ。


ちなみに作者はキャプテン・アメリカ、アイアンマン、ホークアイなど、色々大好きです。

あ、ガーディアンズオブギャラクシーも好きだよ?


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ウィンター・ソルジャー(後編)

短編のランキングにちょことっとのっていたことに驚きました。

皆、アベンジャーズが大好きなんだな。

これも読者のおかげです。

実はこの話、シンジのヒーローとしての名前、全く考えていなかったんだよなぁ。

なので、ヒーロー名は皆さんの想像にお任せします。



――インサイト計画。

 

 S.H.I.L.E.D.の長官、ニック・フューリーが二年前のニューヨークのアベンジャーズとチタウリの戦いを経て、世界安全保障委員会に防衛の強化を訴えたことからはじまったプロジェクトであり、新型ヘリキャリア三機と複数の偵察衛星とデータマイニング・アルゴリズムを用いて、検知される「将来的に“世界平和を乱す危険性”を持つ人物」を一斉に先制攻撃して排除するというもの。

 

 防衛のための先制攻撃とでもいうべき、この計画に対してキャプテン・アメリカ、スティーブ・ロジャースは反対していた。

 

 話を聞いた俺も正直、よく思っていない。

 

 世界平和、それは誰もが望むことだろう、リアリストはおとぎ話というものもいる。

 

 だが、実際にそれを実行しようとフューリーは考えた。

 

 そのためのインサイト計画。

 

 けれども、この計画がもし悪意ある者達によって手を加えられているとしたら?

 

 もし、この計画が世界平和ではなく、悪意を持つ集団にとって邪魔な者達の排除だとするならば?

 

 世界平和のための計画ではなく、悪魔のための最悪な計画だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生き残りたければ、銃をとれ」

 

 廃墟。

 

 多くの死体が転がっている中で俺は一人の少女へ銃を差し出していた。

 

 少女の傍には両親と思える死体がある。

 

 兵器会社から横流しして入手したミサイルの巻き添えを受けたのだろう。

 

 涙は枯れたのか、こちらを見上げる少女の瞳に光はない。

 

「生きて、意味があるの?」

 

 少女の言葉に俺は言った。

 

「意味が欲しいというのなら、自分でみつけるんだな。俺はそうしてきた」

 

「貴方にとって、生きる意味って?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っはぁ!」

 

「無理に動かないで何針か縫っているから」

 

 起き上がろうとしたところでナターシャにやんわりと抑えられた。

 

「こ、ここは?」

 

「秘密の隠れ家というものだよ。ジャッカー」

 

 隣をみると死んだはずのフューリーがいた。

 

「悪夢か、死んだはずの人間がいるぞ?」

 

「開口一番、悪態がつけるのは元気な証拠だ」

 

 にやりと笑みを浮かべるニック・フューリー。

 

「悪夢か?死んだ人間が隣のベッドにいるなんて」

 

「そうみせかけていたらしい」

 

 簡易的なベッドの横にスティーブが腰かけていた。

 

「タフな体だな。本来なら出血多量で死んでいたぞ?」

 

 サムが感心したようなことをいうけれど、貴方、なんでここにいるの?

 

「マジか……追撃から振り切るためにも川に飛び込んだのは失敗だったか」

 

 偶然にも、本当に偶然にもマリアが傍にいたことを知った俺は川に落ちて死んだことにみせかけた。

 

 意識を失っている俺をマリアは回収してここへ運んでくれたのだという。

 

 こんな時に神様の転生特典に救われるなんて、喜んでいいのか、悲しんでいいのかわからない。

 

「状況を、整理してもいい?」

 

「あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スティーブからの話をまとめると以下のことらしい。

 

・S.H.I.E.L.D.はヒドラに寄生されている。

 

・インサイト計画は連中の手によってヒドラの邪魔者を始末するためのものに書き換えられているらしい。

 

・S.T.R.I.K.E.や理事を務めているアレクサンダー・ピアースもヒドラのメンバー。

 

・ヒドラにはウィンター・ソルジャーという戦士がおり、キャプテン・アメリカ同様に超人血清が用いられているらしい。しかも、ウィンター・ソルジャーはキャプテンの親友だったバッキーだという。

 

・インサイト計画始動までに時間がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤバイじゃん」

 

「そうだ、だからスーツがいる」

 

「……新作は?」

 

「捨ててきた」

 

「じゃあ、博物館から借りてくる?」

 

「……仕方ないか」

 

 これから戦う相手はヒドラ、ならば、キャプテン・アメリカとして戦うという事になるだろう。

 

「えっと、さっきから気になってはいたんだけど、サムがどうしているの?」

 

「キャプテンと共に戦う為にいる。これからよろしく頼む」

 

「よろしく」

 

「ナターシャ、俺にも装備を」

 

「行くの?ボーヤは休んでいて」

 

「相手があのウィンター・ソルジャーだけじゃない、よくわからないスナイパーガールもいる」

 

「……シンジ無茶は」

 

「状況は一刻も争うんだろ?戦える仲間は多い方がキャプテンも心強いだろ?そりゃ、スーパーヒーローとはいわないけどさ」

 

「そんなことはない」

 

 真剣な表情で彼が俺を見る。

 

「シンジ、キミは卑屈なことをいうが、僕からすればもっと誇りに思うべきだ。誰よりも努力して、誰よりも正しくあろうとしている。そんなキミがいるから、我々も背中を任せられるんだ」

 

 スティーブの言葉はとても力強く、温かいものを感じた。

 

「素敵なことをいってくれるけれど、俺はそこまでできた人間じゃない。元は少年兵だし、逃げる様にしてきた、だから」

 

「だったら、まずは形からでもヒーローになってもらわないとね、ボーヤのヒーローとしての名前は既にできているんだから」

 

「え?」

 

 ナターシャの言葉に目を丸くする。

 

「俺もキャプテンから聞いた」

 

 え、知らないの、俺だけ?

 

「俺の名前って……」

 

 キャプテンから告げられたヒーローとしての名前に俺はため息を吐いた。

 

「いや、それって、重た過ぎるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、出てくるよな」

 

 インサイト計画始動の阻止のために動き出した俺達。

 

 当初はS.H.I.E.L.D.全員と戦わないといけないと思っていたのだが、キャプテンの演説によってS.H.I.E.L.D.VSヒドラという構図に変わった。

 

 変わったといっても既にヘリキャリアは空に舞い上がり、特殊飛行ユニットを装着したサムことファルコンとキャプテンがヘリキャリアのシステムを狂わせるためのパーツをもって空にいる。

 

 俺は地上から増援のヒドラ兵があがるのを抑え込む役目だ。

 

 特殊素材のスーツを身に纏いながら俺はグロックの安全装置を外す。

 

 目の前にはウィンター・ソルジャー。

 

 最強の殺し屋としてスパイやテロリストの間で語り継がれている。伝説の存在。

 

 そんな相手とこれからやりあわないといけない。

 

 しかも、ATフィールドを中和、もしくは無効化できる力があるかもしれないのだ。

 

 そんな相手と。

 

 考えただけで気が重い。

 

「だけど、アンタ、キャプテンの親友だったんだろ?」

 

 グロックを構えて発砲する。

 

「アンタを空へ行かせない。親友同士の殺し合いなんてみたくねぇからな」

 

「だったら、オレと殺し愛してもらおうか」

 

 轟音と共に背後から飛来する弾丸。

 

 ATフィールドが展開して防いでくれる。

 

「おいおい……お前もくんの?スナイパーガール」

 

 後ろに対物ライフルを構えた女性がいる。

 

 前のドレス姿ではなく兵士としての姿。

 

 金髪はウィッグだったのかショートカットの綺麗な髪で、首元にはマフラーのようなものを巻いている。

 

 マフラーの隙間から奇妙なデザインが施されたペンダントのようなものがあった。

 

 ん?

 

 何か、デジャブ?

 

 疑問に思っているとウィンター・ソルジャーが急接近してくる。

 

 振るわれる武器だが、ATフィールドに阻まれた。

 

 ちゃんと機能していた。

 

 ならば、どうしてあんなことになったのか?

 

 疑問を抱きながらも目の前の相手に集中しようとした。

 

「無視、すんな!」

 

 背後から受けた蹴りによって前に倒れてしまう。

 

 忘れていた、ウィンター・ソルジャーはともかく、後ろのスナイパーガールのキックはATフィールドを通過するんだった。

 

 ウィンター・ソルジャーはその間に待機していたクインジェットに乗り込んで空へあがってしまった。

 

「あぁ、くそっ、誰か知らないが邪魔をするなら本気だすぞ」

 

「知らないなんてつれないこというなよ。一緒のベッドで寝た仲だろ?」

 

「悪いが、アンタみたいな美女と寝たら絶対に忘れない自信が俺にある」

 

 返事は対物ライフルの狙撃だ。

 

「忘れている癖に偉そうにいうな!このヘラヘラして気持ち悪い!」

 

 

 

――ヘラヘラして気持ち悪い。

 

 

 

 その一言が脳に刺激を与える。

 

「シノ?」

 

 俺の言葉に相手は満足したような笑みを浮かべる。

 

「そうだ、シノよ」

 

「なんで、お前が、お前は」

 

 目の前にいる相手はかつて、俺が拾った少女。

 

 シノと呼んで俺が戦闘技術とか教え込み、そして、普通の世界に送り返した。

 

「アンタに理解できないよ。理解してもらわない……私の受けた苦しみとか、色々なものをぶつけて、同じ痛みを理解してもらう」

 

 ニタァと笑みを浮かべて対物ライフルを構える。

 

「受け取れよ」

 

 放たれる弾丸を回避する。

 

 グロックを構えようとしたが相手は先を読んでいたかのように次弾を放ってきた。

 

「動きが読まれている……って、当然か」

 

 相手は俺と少しの間、戦場を戦ってきたのだ、動きを読んでいても仕方はない。

 

 となると……。

 

 取れる手段は限られている。

 

 向こうの知らない術を使うということ。

 

「まだ、お試しなんだけどなぁ」

 

 隠れている機材が音を立てて歪み始めている。

 

 向こうでは女の子が口に出してはいけない単語をべらべらと吐きながら対物ライフルからアサルトライフルを撃っていた。

 

 防御したままではこちらに勝ち目がない。

 

 それにこの子にかかりっきりでは他に戦っているメンバーに申し訳が立たない。

 

 だからこそ、俺は。

 

 地面を蹴り、隠れていた機材から飛び出す。

 

「死ねぇ!」

 

 放たれる弾丸をギリギリのところで回避する。

 

 纏っているスーツは防弾仕様のコーティングが施されているから炸裂弾でも受けない限り大丈夫。

 

 

――イメージするのは切り裂くもの。

 

――望むのは阻むものを切り裂くこと。

 

「どうしたぁ!終わりかぁ!」

 

 こちらへ向けて対物ライフルを構えている。

 

 当たればただでは済まない。

 

 だが、同時に。

 

「ソイツを潰せば終わりだよなぁ」

 

 以前から考えていたことがある。

 

 ATフィールドは新世紀エヴァンゲリオンに出てくる使徒が有する能力で、主に防御で使用されていたが、中には攻撃に転じたり移動用の能力に用いたりという個体もいた。

 

 そこで思いついたのがATフィールドを攻撃手段へ転じるという事、

 

 最強の盾を最強の鉾へ切り替えるという事だ。

 

 勿論、思いついてから何度も試してはいるのだが、うまくはいっていない。

 

 最近になって辛うじて形になった程度のため、持続時間も十秒と短すぎた。

 

 だが。

 

「直撃すれば、どういうものも切り裂ける」

 

 イメージはこの世界でもやっていたスペースオペラの主人公が使っていた武器。

 

「名前にすれば、ATセイバーか?」

 

「ウソ、だろ」

 

 目の前で構えていた武器全てを切り裂いた。

 

「手上げな」

 

 グロックを相手に突きつける。

 

「今、投降すれば命はとらない。だが、これ以上暴れるなら」

 

「暴れたら?殺すか」

 

 首を振る。

 

「いいや、殴る」

 

「ハッ、女を殴る度胸がてめぇに」

 

 うるさいので顔を殴る。

 

「仕事とプライベートは別、仕事では容赦しない主義なの」

 

 殴って気絶した相手を放って通信回線を開く。

 

「マリア、状況は!?」

 

『ヘリキャリアが次々と墜落していくわ。サムのところへいって、彼と一緒に回収するから』

 

「了解、遅刻しないようにする」

 

 本当はキャプテンの援護にいきたいが、仕方ない。

 

 足もとにATフィールドを展開、浮遊能力に切り替える。

 

 その間、周囲からの防御ができなくなるが。

 

「短時間で目的地につくんだよな」

 

「シンジ!」

 

 目的のフロアに到着するとサム、ナイフを構えているラムロウの姿があった。

 

「これはこれは、ボーヤ、キャプテンの側についたのか?」

 

「そっちこそ、ヒドラ側なのか?」

 

 サムへ下がるように言いながらホルダーから電磁警棒を抜く。

 

「お前はこっち側に来ると思っていたんだがなぁ」

 

「見立てが外れたな」

 

「あぁ、お前、表はニコニコしていて、裏では冷酷、そうみていたんだが」

 

「残念、でも、俺の見立ては当たっていたよ」

 

 互いに身構える。

 

「一応、聞いておこうか?」

 

「表は陽気な人のふりをして、裏では醜い、悪党だってとこ!」

 

 同時に駆け出してナイフと警棒がぶつかりあう。

 

 現代の技術がふんだんに使われている装備なので互いの技術次第だ。

 

「裏世界じゃ有名な兵士なだけある!」

 

「悪いけど、噂に興味はない」

 

 近付いてきたラムロウを蹴りで牽制して距離をとる。

 

「そんな無頓着だから、女に狙われるんじゃないか?」

 

「余計な、お世話っていうんだよ!あと、前からアンタにいいたいことがあった」

 

 片方のナイフを手で叩き落して、自由な方の拳を握り締める。

 

「気安く、ボーヤっていうな」

 

 ラムロウの顔を殴り飛ばす。

 

 気の知れた仲間以外にそう呼ばれるのは好きじゃない。

 

「あと、前から殴りたいと思っていたからすっきりしたよ」

 

「シンジ!走れ!」

 

 ふぅ、と息を吐いたところでサムが後ろから叫ぶ。

 

 振り返ると煙を上げながらヘリキャリアがトリスケリオンへぶつかって、こちらへ近づいてきていた。

 

――マジか!

 

 起き上がったラムロウよりも先に走ってサムに追いつく。

 

「マリア達は!?」

 

「今、向かっている!フロアも伝えた!」

 

「じゃあ、後は……」

 

 ガリガリと倒壊していく建物、巻き込まれたラムロウをみて、俺とサムも走る速度を上げていく。

 

「どうする!?」

 

「こういう場合のお約束でしょ」

 

「おいおい、冗談、だろぉ!?」

 

「はい、ジャーンプ!」

 

 サムと一緒に目の前のガラスを割りながら外へ落ちていく。

 

 ウィングスーツもないサムはこのまま落ちていくだけ、俺もATフィールドを使用しすぎて疲労が限界を超えていた。

 

 その時に一台のヘリが近づいてくる。

 

 大きく傾けるようにしながらドアが開いていた。

 

 俺とサムは吸い込まれるようにその中に入っていく。

 

 左右からマリアとナターシャがキャッチする。

 

「ちゃんとフロアいっていたのに!」

 

「外に書いていなかった」

 

「真顔でいうなっての……」

 

 叫ぶサムへ真顔で回答するフューリーという光景に俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「頑張ったわね、ボーヤ」

 

 何だろう、この人にボーヤって言われること嫌いじゃなくなっているんだよなぁ。

 

 慣れっていうのは怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後のことを話そうと思う。

 

 S.H.I.E.L.D.は情報を世界に公開したことで混乱の極みを辿っている。

 

 ヒドラは自分達の目的を果たすためにより活性化していくだろう。

 

 ニック・フューリーは自らの死を偽装したままヒドラの残党を追いかけて東ヨーロッパへ、ナターシャは経歴において上院議会で尋問を受けていた。

 

「シンジ、キミはどうするつもりだ?」

 

「そうだなぁ、気ままに生きていくかな?まぁ、職探ししないといけないから、どっか探すよ」

 

 マリアはスターク・インダストリーズの面接を受けに行っている。

 

 エージェントもCIAや様々な施設や組織にわたっているものがいた。

 

「キャプテンはウィンター……あぁ、ごめん、親友を?」

 

「あぁ、サムと探してくる」

 

「そっか、寂しくなるな、サム、スティーブのこと、よろしく」

 

「任せてくれ」

 

 サムと握手を交わす。

 

「シンジ」

 

 スティーブが少し悩んだ様子を見せながらこちらをみる。

 

「その、キミのことは、親友だと思っている」

 

「とても嬉しいよ。俺もスティーブのことは大事な親友だ」

 

 互いに笑みを浮かべながら軽くハグをして別れる。

 

 互いの道が交わるとしたら少し先の話になるかもしれない。

 

 だが、何かあれば戦うために集まろう。

 

 友の為に。

 

 頭に浮かんだ言葉に笑みを浮かべながら俺は歩き出す。

 

 向かう先はスミソニアン博物館だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウィンター・ソルジャーといえばいいか?」

 

 スミソニアン博物館はワシントンD.C.にある博物館だ。今は英雄であり大戦で戦死したと思われていたキャプテン・アメリカが現代に蘇った記念のイベントが開かれている。

 

 レプリカのキャプテン・アメリカやハウリング・コマンドーズのスーツ、若き日のペギー・カーターのインタビュー、そして、キャプテン・アメリカの戦友にしてチームにおいて唯一の戦死者であるバッキーの資料など、大戦時代の様々な資料があった。

 

 インサイト計画阻止の為に盗んだスーツを返した俺は偶然にもみつけた人物へそっと声をかける。

 

「殺しあうつもりはない。武装もしていない。その状態で話をしたい、いいか?」

 

 コクンと頷いたことで俺は切り出す。

 

「取引がしたい」

 

「……取引だと?」

 

「あぁ、俺の求める情報をくれたらアンタに協力する」

 

「協力とは?」

 

「住居、武器とか……必要なものの支援だ」

 

「なぜ?」

 

「まぁ、アンタの親友が困っていたら、一応、親友として助けたいという程度の理由だよ。取引を飲むか、飲まないか?それだけ聞かせてくれ」

 

「……何を知りたい?」

 

「ヒドラがシノに何を吹き込んだか、知っていたら話してくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒドラの研究所。

 

 そこではS.H.I.E.L.D.が保管していたセプターが置かれている。

 

 危険物として保管されていたものだが、ヒドラの目的のためには必要であるとして持ち出されていたのだ。

 

 ヒドラの研究所の室内でバロン・ストラッカーがガラス張りの部屋の中にいる超高速で移動している男と念導力を使う女を眺めている。

 

「随分と速かったな」

 

「急かしたのはそっちでしょ」

 

 バロン・ストラッカーの後ろから現れたのはシノ。

 

 彼女はストラッカーへ問いかける。

 

「それで?私に何をやらせようというの?」

 

「指導だ」

 

 彼はガラス張りのケースの中にいる二人を指さす。

 

「キミには二人の指導をお願いしたい。ディザスターの下にいたキミなら優秀にできるだろう?」

 

「どうだろうね?まぁ、仕事だから引き受けるよ。それに」

 

――こうしていれば、アイツに会えるからね。

 

 ストラッカーにすら聞こえないほどの呟きを漏らして、シノはにやりとほほ笑んだ。

 




簡単なヴィラン紹介


シノ(18)

 オリジナルヴィラン、幼少期に紛争地域へ両親と共にボランティアに参加するもテロリストがスターク・インダストリーズから横流しして入手したミサイルの爆発に巻き込まれて自身だけが生き残るという結果になる。
偶然にもシンジに助けられて、兵士として生きる道を選ぶ。
裕福な家のお嬢様だったが、戦場で人格が歪み、男勝りな口調が多くなる。
シンジのことは異性としてみているも、歪んだテロリストたちの教えによりかなり歪んだ愛情表現を持っている。
シンジによって平和な世界へ送られた事を「捨てられた」と認識して、罰として彼を痛みつけて、彼から愛を囁かせるように仕向ける。
平和な世界に馴染めず、自身からヒドラに接触した。
インサイト計画における事件の後もヒドラに属して、シンジと相まみえる機会を狙っている模様。



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エイジ・オブ・ウルトロン(前編)

アベンジャーズの二次、増えない理由は設定が細かすぎてみんな、臆しているんだろうなぁ。

まぁ、もともと、ガーディアンオブギャラクシーは考えていたんだけどなぁ。

ここから原作と違う流れになるかも?




「あぁ、寒い、これだから雪は嫌いなんだよ」

 

 目の前の兵士を殴り飛ばしながら先を目指す。

 

『ボーヤ、遊んでいないですぐに来い』

 

「はいはい、いいよなぁ、そっちは空を飛べて」

 

 通信機から聞こえてきたスタークの言葉にため息を吐く。

 

 スターク製の特殊スーツを身に纏いながら走る。

 

 S.H.I.E.L.D.の生き残りからの情報でヒドラ残党、バロン・スタッカーがロキの杖“セプター”が東欧の小さな国、ソコヴィアにあることを知ったアベンジャーズは敵地へ攻め込んでいた。

 

 ジープを操作するナターシャ、後部で弓を射るホークアイ。

 

 バイクを車にぶつけて兵士を盾で叩き落すキャプテン・アメリカ。

 

 ムジョルニアで飛行ユニットをつけている兵士と戦うソー。

 

 大声で唸りながら戦車などを次々と破壊していくハルク。

 

 上空からヒドラの研究施設へ攻め込もうとするアイアンマン。

 

 その中で俺は背後から襲撃を受けないように蹴散らした残りを相手することが俺の任務である。

 

「わかっているけど、ここのヒドラの兵士さん、装備が最先端過ぎて、苦戦するんだよ」

 

『ボーヤはまだまだ未熟だな』

 

「いいじゃん!そっちは組んでいるメンバーがいるんだから!俺なんて一人で大勢と相手してんだからな!?」

 

 ホークアイに叫ぶ。

 

『ボーヤ、寂しいなら私が相手してあげようかしら?』

 

 皆のからかってくるような言葉から余裕があるのだろう。

 

 だったら屈するわけにいかない。

 

『むだ話していないで、作戦に集中しろ』

 

『キャプテンに怒られたな、ボーヤ、それにしても、私が怒られた事に関してはスルーか』

 

 わいわいと会話をしながらも皆がヒドラ兵士と相手をしている。

 

 ハルクが雄叫びを上げながら暴れていた。

 

 なるべくハルクと遭遇しないように注意する。

 

 どうも、ニューヨークの戦いから俺はハルクに嫌われているらしい。

 

 らしいというのがニューヨークでの戦いでハルクにATフィールドで激突(故意ではない、事故である)によって嫌われてしまっている。

 

 なので、あまり視界へ入らないように注意していた。

 

 視界にミサイルが飛来してくるのでATセイバーで切り裂く。

 

 その直後に弾丸が頬を掠めた。

 

「シノ……」

 

「会いたかったわ」

 

 ニヤリと笑みを浮かべて対物ライフルを放つ。

 

 飛来する弾丸をATフィールドで防ぐ。

 

「つぅ」

 

 しかし、完全に展開しきれずにスーツの端が少し焦げた。

 

『ジャッカー様、トニー様に連絡して応援を要請しましようか?』

 

「ありがとう、J.A.R.V.I.S.でもこれは俺の問題だから大丈夫」

 

 通信衛星でこちらの様子を把握しているJ.A.R.V.I.S.の問いかけに大丈夫と答えてグロックを取り出す。

 

『何かあればすぐに知らせてください』

 

「ありがとう」

 

 感謝して目の前の相手を睨む。

 

 対物ライフルを構えているシノ。

 

 ヒドラの研究施設ということでもしかしたらという可能性はあった。

 

 だが、こうも遭遇してしまうと運命めいたものを感じてしまうよ。本当に。

 

「ここで大人しく投降すれば」

 

 返事は弾丸だった。

 

 近くの木を消し飛ばした弾丸をみる。

 

「返事はそれか?」

 

「ったりまえだ!てめぇと殺し愛したいからなぁ!」

 

「あ、そう」

 

 ため息を吐きながら銃を発砲する。

 

 くるりと回転するように対物ライフルを構えながらこちらへ狙撃。

 

 本来なら距離をとって気付かれないように狙撃するべきなのだが、相手はどういうわけか平然と近くで狙撃してくる。

 

 どういう馬鹿力だよ。

 

 悪態をつきながらグロックにカートリッジを再装填する。

 

 弾丸を放つ。

 

「あん?」

 

 奇妙な違和感。

 

 弾丸が何かに直撃したような音もしない。

 

「どういうこと」

 

「余所見、厳禁!」

 

 近距離で対物ライフルを撃たれた。

 

 ATフィールドが自動展開されて弾丸が防がれる。

 

 しかし、

 

「パーンチ!」

 

 振るわれる拳。

 

 回避できず顔面に一撃を受けてしまう。

 

「ほら!まだ一回目だぞ」

 

 倒れそうになったところで肩をつかまれて無理やり起こされて一発をもらう。

 

「ほらほら!男の子なんだからまだ受けれるでしょ?続けて」

 

「グゥゥゥッァアアアアアアアアアアアアア!」

 

「あ?」

 

 背後から聞こえた声にシノの反応が遅れる。

 

 振り返ると同時に振るわれた一撃がシノの体を捉えた。咄嗟に対物ライフルで直撃は避けたようだが、ぐにゃりと歪んでしまっていた。

 

 ハルクはこちらを一瞥するとそのまま敵を追いかけるようにしていってしまう。

 

「えぇ~~~」

 

 ちらりと飛んでいったシノの方向をみると、気絶していた。

 

「まぁ、これでもいいか」

 

 起き上がって土などを払い落としながら用意していた拘束具でシノを拘束した。

 

 後は任せよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした?元気がなさそうだぞ」

 

「疲れているだけだよ。ソーは笑顔だな」

 

「当然だ、ようやく探していたものがみつかった」

 

 帰りの機内の中で俺はソーと話をしていた。

 

 ソーは長い期間、探していたロキの杖を回収できたことで喜びの表情だ。

 

 数日ほど、この世界に滞在して、盛大な宴会をした後にアスガルドへ帰るという。

 

 会えなくなるのは寂しいことだが、それも仕方のないことだ。

 

「可能ならもっとお前と手合わせをしたかった。次はこの力でお前の強靭な壁を壊す」

 

「あははは、お、お手柔らかにお願いします~」

 

 また、これだ。

 

 ソーはムジョルニアで破壊できないATフィールドに対抗心を持っている。

 

 勿論、敵意ではなく純粋な競い合い。

 

 脳筋じゃあるまいし、神様と真剣勝負なんて命がいくつあっても足りない。

 

 しかし、ATフィールドを中々破れないことから一度、スタークにも実験に付き合わされた。

 

「人気者だな、ボーイ」

 

「そういうなら代わって……あぁ、重傷中でしたな」

 

「お前も同じ傷を負わないように注意することだ」

 

「警告、痛み入ります」

 

 ホークアイは強化人間の乱入で負傷した。

 

 幸いにもアベンジャーズ本部で医療スタッフが待機しているから死ぬことはない。

 

 じわじわと脇腹に痛みを感じているかもしれないけれど。

 

「ボーヤ、良かったの?」

 

 ナターシャが俺に尋ねてくる。

 

「何のこと?」

 

「あの女の子、汚い言葉を吐いていたけれど、あれはしつこいわよ?」

 

「頭でも冷やせばいいさ」

 

 まさか、ナターシャが心配するとは思わなかった。

 

 話をしているとトニー・スタークがやってくる。

 

「驚きだな、女の子を追いかけるんじゃなくて、追いかけられる側なんて、とっても貴重だ」

 

「そうなの?相手が対物ライフル持っていても?」

 

「時と状況による。私ならうまく切り抜けられる」

 

「その時は手ほどきを受けるよ」

 

「よろしい、素直なことは良いことだ」

 

 実際、トニー・スタークのアドバイスは役に立つことが多い。

 

 普通の世界を知らない俺にとって遊びまくっているスタークの知識は役に立つ。

 

 ギャンブルだけは好きになれないけれど。

 

 なぜか、スタークは俺と一緒にしょっちゅうギャンブルへ行かせようとする。

 

 勝つことに意味があるのかわからないのだが。

 

 輸送機はスターク・タワーもとい、アベンジャーズ・タワーに到着する。

 

 ニューヨークの戦いで被害を受けた施設だが、既にアベンジャーズにとって最高の場所になっていた。

 

 俺は宛がわれている部屋で休む。

 

 最低限の道具しかない質素な部屋。

 

 ベッドで横になろうとしていた俺は部屋に入ってきた人物に気付いた。

 

「何か用事?」

 

「うーん、相談、良いかな?」

 

「いいよ」

 

 ナターシャに場所を用意して腰かける。

 

「相談っていうのは?バナー博士のこと」

 

「もしかして、気付いているの?」

 

「いや、なんというか、互いにそわそわしているような気がしたから」

 

「驚いた。ボーヤに気付かれるなんて」

 

「俺も成長しているってことで」

 

「そうね、ボーヤも成長している。出会った頃より感情、豊かだもの」

 

「どうだろう?もし、そうだったら嬉しいな。俺も変われるって思えるから」

 

 正直、俺は変わっているのかと思う時が何度もある。

 

 変われていない可能性もあった。

 

 だが、俺としては誰かにそう言ってもらえると嬉しい。

 

 認めてもらえているようで気持ちいいと思える。

 

「ナターシャでも悩む気持ちがあるんだな」

 

「そうね、自分でも少し戸惑っている。ふぅ、話してすっきりしたわ。ごめんなさい。休んでいるところの邪魔をして」

 

「別にいいよ」

 

「ボーヤ呼びも卒業かしら?」

 

「え?」

 

「なんでもないわ」

 

 出ていくナターシャを見送り、俺は横になった。

 

 

 

 そーいえば、この時期だっけ?ウルトロンが生まれたのって?

 

 

 むくりと体を起こす。

 

「あー、J.A.R.V.I.S.」

 

『はい、ジャッカー様』

 

「少し相談、というかできるか聞きたいことがある。その、スタークに知られずに」

 

『状況によります』

 

「じゃあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二日後、ソーの送迎会&勝利の祝い?みたいなことが開かれた。

 

 アベンジャーズ・タワーに多くの人達がやってきている。

 

 その中にはスタークの友人であるウォーマシンことジェームズ・ローズの姿もあった。

 

「シンジ!」

 

「サム!」

 

 スティーブと話をしていたのだろう、サムがこちらへやってくる。

 

 久しぶりの再会で互いにハグをした。

 

「聞いたぞ。スナイパーガールを捕まえたって?」

 

「まぁ、バナー博士のおかげなんだけどな?」

 

「残念だよ。俺も知っていれば戦闘に参加していた」

 

「まぁ、また機会があれば呼ぶかもよ?」

 

「その時はいの一番に駆けつけるさ!」

 

「約束!」

 

 バチンと拳をぶつけ合う。

 

 様々な人がいる中で俺はこっそりと部屋を抜け出す。

 

「まぁ、やっぱり、こうなるよな」

 

 スタークの研究施設。

 

 J.A.R.V.I.S.へ攻撃をしようとしている人工知能の前に立つ。

 

『ジャッカー様、すぐにスターク様へ』

 

「連絡はしてある。J.A.R.V.I.S.前に開発したNo1568を」

 

『わかりました』

 

『やめろ、何をする』

 

「生まれたてで暴走する可能性があるから、そのための策として用意していた。スタークには悪いけど、お前はここで」

 

『殺し愛』

 

「なぬ?」

 

 人工知能が漏らした言葉に反応が遅れた。

 

『そうか、そういうことか』

 

 よくわからないが何か納得した様子を見せている。

 

「マズイな、スタークはまだ――」

 

 バゴン。

 

 足元の床が音を立てて壊れた。

 

 そこから姿を出したのは民間人を防衛するなど、サポート目的で開発された“アイアン・レギオン”

 

 複数体がこちらへ顔を向ける。

 

 どうも、嫌な予感がした。

 

 直後、アイアン・レギオンがこちらへ攻撃をしてくる。

 

「くそっ!」

 

 舌打ちしつつ、ATフィールドで攻撃を防ぐ。

 

 別のアイアン・レギオンが側面からタックルをしてくる。

 

 地面に倒れた俺を、アイアン・レギオンがのぞき込んできた。

 

『そうだ、お前だ、お前こそが』

 

「何か、気持ち悪いから顔を」

 

 近づけるなと言おうとしたところでアイアン・レギオンの頭部に矢が突き刺さった。

 

「スナイパーガールになびかなかったのはそれが趣味だからか?」

 

「助けてくれたことには感謝するけど、生憎、鋼鉄と寝る趣味はない」

 

「それは残念」

 

 ホークアイに感謝して抜け出すとヴィブラニウムの盾を構えたスティーブとムジョルニアでアイアン・レギオンの頭部を叩き潰すソーの姿があった。

 

 腰のホルダーからグロックを抜いて杖を盗もうとするアイアン・レギオンを撃つ。

 

 アイアン・レギオンは杖を手に取ると外へ飛び出していく。

 

「待て、よ!」

 

 追いかけようとするも半壊したアイアン・レギオンは外へ飛び出していった。

 

「スターク、何が起きているんだ!?」

 

 スティーブがトニー・スタークへ問いかける。

 

「どういうことっていうのは?」

 

「アイアン・レギオンが杖を奪っていった!」

 

 ソーが無言でスタークを掴みあげる。

 

「また暴力で訴えるのか?」

 

「これまでの時間が無駄になったぞ!」

 

 杖を奪われたことでソーは怒っている。

 

「あー、まずは杖を取り戻すことが優先じゃない?」

 

「っ!」

 

 ソーはムジョルニアを振るって外へ飛び出す。

 

 窓を割って。

 

「……俺が言うのもなんだけど、まずは情報を整理しない?」

 

「ボーヤの言葉に賛成」

 

「あぁ、僕も、色々と話さないといけないし」

 

「整理?全く」

 

 俺の言葉にスタークは呆れている。

 

「簡単なことだ、ウルトロンはこの世界を狙おうとしている宇宙からの敵のための防衛目的で作った。だが、何かバグか不具合を起こしている。それだけのことだ」

 

「それだけのこと?シンジが異変に気付いてくれなければ、何か起こっていたのかもしれないんだぞ!いや、起こっている!奴はロキの杖を奪っていった!」

 

「何か不具合の理由があるかもしれない!それさえ取り除けばウルトロン計画は成功する――」

 

「ストップ!」

 

 ヒートアップしていく二人の間に割り込む。

 

 アベンジャーズ結成時のことを思い出してしまった。

 

「とにかく、ウルトロンが暴走しているなら止めないと」

 

「ジャッカーの言葉通りだ。ウルトロンはインターネットに侵入できる。最悪、核ミサイルの発射コードもアクセスされる危険がある」

 

「とにかく、報告しよう」

 

 この場はウルトロンの阻止ということで捜索が決まる。

 

 数時間後、ヒドラのストラッカーが死亡したという情報が舞い込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ストラッカーを殺して平和という文字を残すって……猟奇殺人、一種のホラーだな」

 

「驚きだ。ボーイ、そういう皮肉が言えるとは」

 

「ストラッカーに関係する資料を調べよう」

 

 スティーブの提案で保管されていた資料を取り出していく。

 

「こういう皮肉は言うべきかわからないけれど、ストラッカーというのは色々な人と交友があるんだな」

 

「交友があるにしても戦争に関係する人物ばかりだ」

 

「うぉーい、どっかで見覚えある顔ばかり」

 

 少年兵として活動している時にみたことある奴らばかりだ。

 

 確か、コイツはアフリカを中心で活動している武器商人だったか?

 

「待て、そいつは見覚えがある」

 

 スタークの言葉に無言でスティーブがみる。

 

「関りはないぞ?武器商人でどういう奴らがいるのか興味があっただけだ」

 

「ユリシーズ・クロウと?」

 

「シンジ、知っているのか?」

 

 スティーブに頷く。

 

「取引したことがあるわけじゃないけれど、話をしたことがある程度の武器商人だ、とにかく胡散臭くて油断すれば根こそぎ財産を奪われるってことで有名だ……ここに入れ墨みたいなものがあるだろ?」

 

 俺はユリシーズの首辺りに入れられているマークを指さす。

 

「ワカンダっていう国で盗みを働いて掘られたらしい。確か、盗人っていう意味らしいけど」

 

「ワカンダ?」

 

「奴もキミの親父さんと一緒でみつけたのか」

 

「あー、何をかな?」

 

 バナー博士の疑問にスタークとスティーブの二人はあるものをみる。

 

 ヴィブラニウムで出来た盾。

 

 

「あぁ、そういえば」

 

 

 ユリシーズ・クロウがぽつりと零していたことがある。

 

 特別品があると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「驚いたわ。お前達が私を助け出すなんて」

 

「貴方に感謝はしているわ。私達の目的を果たしてくれるために技術を教えてくれたのだから」

 

 シノは独房に閉じ込められていたのだが、ワンダとピエトロによって助け出される。

 

 二人は彼女をある人物へ会わせようとしていた。

 

「そういえば、二人にとって憎悪の対象だったスタ……何とかには会えたの?」

 

「仕込みは終えた。あとは潰れる時をみるだけ」

 

「その時をできれば、アンタにも見てほしいのさ」

 

「気に入られるような事した覚え、ないけど?」

 

 肩をすくめながら二人に連れられてやってきたのはソコヴィアの教会。

 

「待っていた」

 

 暗闇の中でランランと輝く赤い瞳。

 

 全身が機械の体。

 

「お前ら、機械の友達がいたわけ?」

 

 ゆらりと立ち上がったウルトロンは一礼する。

 

「はじめまして、シノ、いいや、ここではスナイパーガールと呼ぶべきか?」

 

「その名前、嫌い。次に呼んだらその頭、吹き飛ばすから」

 

「あぁ、それは困る」

 

 ウルトロンは立ち上がり彼女の前に立つ。

 

「用件は何?やることがあって忙しいのだけれど」

 

「それは、あれか?あぁ、キミの……あぁ、名前が出てこない、普段は別の呼び名でいたから……あぁ、そうだ!シンジ・ジャッカーのことだろうか?」

 

「だったらなに?」

 

「協力してくれれば、彼と殺し愛させるための場面を用意しよう」

 

「本当か?そんなことをしてアンタに何のメリットがある?」

 

 シノは基本的に人を信用しない。

 

 唯一、信じるのは自分にすべてを教えてくれたシンジのみ。

 

 裏切られたがそれは自分と同じ痛みを与えれば戻って来る。

 

 そう考えていた。

 

 故に彼女はシンジとの殺しあう場面を望んでいた。

 

 ウルトロンの提案は胡散臭い部分が多い。

 

 けれども。

 

「いいわよ」

 

 シノは頷くことにした。

 

 これもウルトロンの計画のうちだと知らず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「父さんは悲しいよ。心が引き裂かれそうだ」

 

「ならば、引き裂いてやろうか?」

 

 アフリカの廃船が無数に置かれているエリア。

 

 改造してユリシーズが密輸売買所として使用している。

 

 そこでユリシーズ・クロウが武器売買のために活動している場所だった。

 

 ウルトロンとマキシモフ兄妹、そしてシノはそこへやってきて、彼が保管している大量のヴィブラニウムを取引して買い取る。

 

 しかし、クロウが言った「スタークの製品」というセリフに激昂した彼は腕を切り落とした。

 

 そのタイミングで俺達、アベンジャーズがやってきたことで一触即発の空気になっている。

 

 ウルトロンメンバーと対峙しているのはアイアンマン、キャプテン・アメリカ、ソーのメンバー、離れたところでホークアイとブラック・ウィドウもいる。

 

 尚、バナー博士は待機である。

 

「あぁ、そこにいたのか、愛しい人」

 

 場の空気が凍った。

 

「……ごめん、耳が遠くなった」

 

「現実をみろ、ボーヤ」

 

「いやだ、聞きたくない」

 

 アイアンマンが諭すようにいってくるが耳をふさぎたい。

 

 横からキャプテンが同情の視線を向けてくる。

 

「何度でもいおう、愛しい人」

 

 いやだぁああああああああああああ!

 

 心の中で叫ぶ。

 

 何で、何で俺にはじめて告白してくる相手はロボットなんだ!

 

 できれば、ボンキュボンの素敵な女性がいいのに!

 

 ガキィィィン!とATフィールドが弾丸を防ぐ。

 

「よぉ、会いたかったぜぇ」

 

 俺は会いたくありませんでした。

 

「帰っていい?」

 

「諦めろ」

 

 ソーがムジョニルアを構える。

 

 シノも独特なデザインをした対物ライフルを、いや、あれはレーザーキャノンか?

 

「おいおい、そんな腰抜けか?悲しいな」

 

「挑発してこないでくれる?俺以外の人はそういう沸点低いから」

 

「心外だな、私の気は長い方だ」

 

 ごめん、一番、短そうな人なんだけど。

 

 ソーの言葉に不安しかない。

 

「お前はここで引き裂いてやる。スターク!そして、愛しい人をもらっていく」

 

「悪いがボーヤは私達の仲間だ。お前達に渡すことはしない」

 

「気にしなくていい。力づくで奪う」

 

 戦闘が開始される。俺の前にやって来るのはシノ。

 

「緑の怪物の手助けは期待しない方がいい。私の教え子たちが阻む」

 

「驚いたよ。お前に誰かを教えることができたなんて、スパルタだったんじゃないの?」

 

「まさか、いう事を聞かないなら鞭だっただけだ」

 

 それは十分、痛い。

 

 振るわれるレーザー。

 

 ギリギリのところで回避する。

 

 レーザーは分厚い船の壁に穴をあけていく。

 

「一回くらい、愛を受け取れ!」

 

「俺は、お前にこんなものが、愛だなんて、教えて、いない!ぞ!」

 

 グロックで狙撃するもレーザーで溶かされてしまう。

 

「そもそも、何で俺に付きまとう!他にも良い、男は、いるだろうが!」

 

「どいつもこいつも体目当て!そんな奴らに興味などない!」

 

 グロックの弾が切れたので投げ捨てた。

 

 電磁警棒を取り出して走る。

 

 正面からレーザー攻撃が来るがATフィールドで防ぎながら突き進む。

 

「どうして、どうして、私を拒む!」

 

「悪事に手を染めるからだよ!」

 

「私をみろぉぉぉっぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 エネルギーの負荷がかかったのだろう、レーザーが大爆発を起こす。

 

 咄嗟に手を伸ばしてシノを自身のATフィールド内へ招いていた。

 

 大爆発の衝撃が起こる。

 

 バチン!と体に電撃が走った。

 

「ガッ!」

 

「シンジ!」

 

「ATフィールドというデータの波形はみせてもらった、誰も通さない鉄壁。だが、例外はある。例えば似たような波形でぶつければ中和されると……普通の人なら不可能だろうが」

 

 

 

「鉄屑!」

 

 シノが見上げると半壊したウルトロンがシンジを掴んでいた。

 

「殺し愛というものが私には理解できないが、この愛しい人のATフィールドはとても興味深い。私の計画を実行に移すために絶対的に必要になる。だが、お前は要らない」

 

 ウルトロンの瞳がシノを捉える。

 

「不要な存在はここで消えてもらおう」

 

 ウルトロンが近くの残骸を手に取る。

 

「やめろ!」

 

 そこにキャプテン・アメリカがヴィブラニウムの盾を振るう。

 

 残骸は砕かれてウルトロンへ直撃する。

 

「まぁいい、愛しい人はもらっていく」

 

「シンジを返せ!!」

 

 叫ぶもウルトロンはそのまま空へ消えていく。

 

「スターク、最悪な知らせだ。シンジがウルトロンに拉致された」

 

 

 

 

 



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エイジ・オブ・ウルトロン(後編)

感想でシンジピーチ姫とウルトロンヤンデレが大人気過ぎて、笑い過ぎました。

いや、ピーチ姫は確かにあっている。この場合、助けに来る配管工はシノなのか、色合い的にアイアンマン、まさかのキャプテンだろうか、などなどと考えてしまいました。





 どうも、シンジです。

 

 ウルトロンに拉致されたと思ったら、敵だったはずの双子の強化人間に助けられました。

 

 怪しい機械に接続されるところだったのだが、何やら議論を交えていた二人に助けられてしまったのである。

 

 

 意識を失っている間に事態が動いていて戸惑ってしまいます。

 

「あ-、助けてくれてありがとう?」

 

「別に、貴方を助けることがウルトロンの計画遅延に繋がるからよ」

 

「その発言からするとウルトロンの計画について知っている?」

 

「少しだけ……」

 

「てか、ここどこ?」

 

「ソウル」

 

「えぇ、随分と遠くにきたなぁ」

 

 記憶を失っている間に何があったのか、本当に聞きたいけれど、双子をどこまで信用していいのかわからないなぁ。

 

「貴方の頭の中が読めない。読もうとすると見えない壁に阻まれる」

 

「あぁ」

 

 それはATフィールドだろうか?

 

 まさか、読心術にまで対抗できるとは思わなかった。

 

「それで、ウルトロンを裏切った理由を聞いても?」

 

「奴はウソをついていた」

 

 男、ピエトロの方が答える。

 

「ウソ?」

 

「この世界の人々そのものを滅ぼそうとしている。今のままでは死んでしまう」

 

「話はなんとなくわかったんだけど……なんで、この列車、線路を走っていないの?」

 

 俺の疑問は大きな揺れが広がる。

 

「シンジ!目覚めたばかりで申し訳ないがフィールドで列車の速度を緩めてくれ!」

 

 本当に急すぎてなんともいえない話だが、俺は列車の前に立つ。

 

 ソウルということらしいけれど、来たことないなぁ。

 

 思いながら足にATフィールドを包み込むように展開する。

 

 足をそのまま地面へ押し込む。

 

 ガリガリガリと地面を削りながらわずかだが列車の速度が落ちていく。

 

「もう、すこしぃぃ!」

 

 掴んでいた部分が歪んで崩れる。

 

「あ、ヤベ」

 

「シンジ!」

 

 バランスを崩しそうになったところでキャプテンが抑えてくれる。

 

 必死に足を押しこむとやがて列車が停車した。

 

「し、死ぬかと思った」

 

「目覚めてばかりで悪かったな」

 

「出来れば、状況の説明を求めるよ。ホント」

 

 あっちこっちで広がる戦火。

 

 疲弊した様子のキャプテン。いつの間にか味方みたいになっている双子。

 

 そして。

 

「シンジ!」

 

 素敵な笑顔で俺に抱き着いてきたシノ。

 

 気絶している間に何があったのか、本当に聞きたいことだらけだ。

 

 抱き着いてきたシノの体の肉付きの良さに興奮したことは黙っておこう。

 

 念のため、アベンジャーズ・タワーで検査チェックを受ける。

 

 マリアの話によると俺が気絶している間に事態がかなり進展を見せているらしい。

 

 アベンジャーズ批判という話で。

 

「今回のウルトロン騒動がかなり堪えているわけか」

 

「シンジ~、私の話を聞けよ~」

 

「ところで、この人、何があったの?」

 

「知りたい?」

 

「あまり、聞きたくないけれど」

 

「トニー・スタークとナターシャ・ロマノフが様々なアドバイスを行った結果」

 

「最悪だ」

 

 よりによってプレイボーイと男を手玉に取ってきた女スパイの教えって。

 

 てか、いつもの攻撃的じゃなくてこういうボディタッチに弱いっていつばれたのだろう?

 

 ニコニコと攻撃的な笑みを浮かべていないシノの姿に俺はなんともいえず、されるがまま。

 

 流石にズボンを脱がそうとしたのは全力で止めたけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「厄介ごとの匂いしかないんだけどなぁ」

 

 キャプテン達と話をするためにタワー内の施設へ向かおうとすると信じられない速度でムジョルニアを構えたソーが通過する。

 

 嫌な予感がしつつも走る。

 

 腕にひっついて離れないシノがいたからかなり苦労したけど。

 

 中をみるとあっちこっち壊れていつも通りな光景。

 

 これがいつも通りってどうなのだろうか?みんなが規格外過ぎるのだろうか。

 

「綺麗になっていないことが当たり前って、これいかに?」

 

「シンジィ、何か飲もうぜぇ~」

 

 ムジョルニアを持ち上げている新入り?がいた。

 

「誰だ、この人」

 

「お久しぶりです。ジャッカー様、私はヴィジョン、元はJ.A.R.V.I.S.だったものです」

 

「成程、これはよろしく」

 

 手を差し出す。

 

 少し驚いた表情をしながらヴィジョンは俺の手を握り返した。

 

「ボーイのこういうところは驚きだな」

 

 スタークが肩をすくめる。

 

「ところで、彼の腕にひっついている子は良いのかな?」

 

 バナー博士、そこは一番、気にしてほしいところです。

 

 スティーブはそういうところに疎いため、首を振るだけだ。

 

「シンジ、結婚するのか?」

 

 ソーさん、話が変な方向になっていますよ!?

 

「結婚!いいなぁ!あぁ、夢みたいだ」

 

 俺の腕にしがみついているシノが滅茶苦茶幸せそうな顔をしている。

 

 双子は呆然としていた。

 

 いや、誰か助けてくれないの?

 

「ところでボーイ、キミへプレゼントがある」

 

 この状況下で空気を読まずに話を切り出してくれるスタークさん、尊敬しますよ。

 

「プレゼント?」

 

「あぁ、スーツだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーソコヴィア。

 

 少し前にヒドラと戦ったこの地でウルトロンが世界を滅ぼそうと計画をしている。

 

 計画阻止と拉致されたナターシャ救出のためにアベンジャーズは動き出す。

 

 キャプテンが指示を出して周辺の人達を魔女こと、ワンダが精神を操って人々を避難させていく。

 

 教会周辺や遠くへ、なるべく慌てず、混乱しないように。

 

 そう考えていたのだが。

 

「ウルトロンは我慢できない性格なんだろうな」

 

「私とえらい違いだ」

 

 どの口が言うのだろうかと咎める視線を向けるも気づいていないだろう。

 

「ところで、新しいスーツはどうだ?」

 

「馴染むのに時間かかりそう……」

 

 今まで特殊なスーツなしで戦っていたのだが、今回の騒動では総力戦かつ長期的なものになりえるということからスタークが前々から計画していた俺のスーツをプレゼントしてくれた。

 

 アイアンマンスーツのような全体を覆うものではなく、腕、肩、足、胸部、そして頭という部分的なところで灰色をベースとしたアーマーで身を包み、腰にはグロックをベースにしたブラスター。背中にはバックパック。

 

 右腕は左と比べて妙にゴツイ。

 

 頭のパーツはアイアンマンを模したものになっている。

 

「ジャスティスハンターアーマー(仮)だ、大事にしろよ?」

 

「これさ、モデルあるよね?」

 

「お前の好みに合わせてやっただけだ。感謝しろ」

 

 スタークの言葉に明らかなモデルあり疑惑がでているがそこは言わないでおこう。

 

「おい、私にはないのかよ!」

 

「スナイパーガールには最新式の対物レーザーライフルを与えてあるだろ?それでシンジの後方支援をしてハート掴んでやれ」

 

「うん!頑張る!」

 

 ハートキャッチ(物理)ではないことを願おう。

 

 スタークの言うことは素直に聞くのね。

 

「頑張るからみててね、シンジ……みなかったら」

 

「こっちに銃口を向けるな」

 

 背中に気をつけなければならないって最悪なんだけど。

 

「モテモテだな、ボーイ」

 

「からかうな」

 

「素敵だわ」

 

「教官の思い人、大変だな……って、えぇ」

 

 双子、考えのすれ違い発見。

 

 てか、シノ予備軍いるんだけど。

 

「喋っている暇はないぞ。準備しろ」

 

「了解」

 

 アーマーを起動する。

 

『よろしくお願いします。シンジ様』

 

 搭載されている人工知能が挨拶をしてきた。

 

「よろしく、えっと……」

 

『貴方のサポートをします。エヴァです』

 

 男の声でエヴァ?しかも、何か渋い声。

 

 まぁ、女だったらシノの手でアーマーが壊されるじゃに。

 

「よろしく、サポートは任せるよ」

 

『了解です』

 

 目的の教会へ向かう。

 

 そこではウルトロンとヴィジョンが戦っていた。

 

 ヴィジョンのおかげでウルトロンはネットの海へ逃げられないようにされている。

 

「奴を叩き潰すぞ、エヴァ、シノは後方支援」

 

『了解です』

 

『任せろ』

 

 グロックタイプのレーザー銃を連射しながら現れるウルトロン・セントリーを狙い撃つ。

 

 後ろではシノが対物レーザーライフルでウルトロン・セントリーの頭部を吹き飛ばす。

 

「愛しい人ぉ!」

 

「気安く私のシンジに声をかけるなぁ!」

 

 俺に近づこうとしたウルトロン・セントリーの頭部を近距離で対物レーザーライフルを振るう。

 

 体の一部のように使いこなしているシノ。

 

「将来有望だな」

 

「あんまり、有望になってほしくないんだけど?」

 

 傍で矢を射るホークアイに俺は肩をすくめながらATセイバーでウルトロン・セントリーを両断する。

 

 バチバチと火花を散らしながらこっちへ近づこうとするウルトロン・セントリーをグロックで撃つ。

 

「弱音、吐いていい?」

 

『そんな余裕はないぞ!まだまだわいてくる!』

 

「でもさぁ!俺の方にワラワラとウルトロンが集まって来るんだけど!?」

 

『理由は簡単だ。お前をシステムの一部として組み込むために狙っているのさ』

 

 アイアンマン、トニー・スタークからの言葉に俺はぎょっとしながら目の前の相手にATセイバーを振るう。

 

「システムに組み込む!?」

 

『さっき、システムを調べてみたがお前を組み込めば、ヴィブラニウムとATフィールドという最強の組み合わせになる。つまり、どんな攻撃も受け付けない。そうなれば、我々は浮遊システムの破壊は不可能、お手上げになるのさ』

 

「冷静に説明している場合ではないと思うが?」

 

 ソーがムジョルニアでウルトロンを破壊する。

 

「てか、叩いても叩いても出てくる相手よりもこの浮遊に巻き込まれている人達の救助をしないといけないけど!スターク、代案とかは?」

 

「今、考えている」

 

 現れたウルトロン・セントリーによって背後のバックパックが破壊される。

 

「この、野郎!」

 

「シンジ!」

 

 シノが狙撃しようとしたが現れたウルトロン・セントリーに抑え込まれる。

 

 ウルトロン・セントリーへグロックを構えようとするも両手で掴まれた。

 

「すべて、無駄な抵抗だ!愛しい人よ。諦めて、システムの一部になるのだ」

 

「冗談!俺は人だ。機械じゃないし、なる予定もない」

 

「ならば、無理やりだ。愛しい人ぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

『お困りのようだな』

 

 通信に割り込んできた人物。

 

 名前をニック・フューリー。

 

『懐かしいものを持ってきたぞ!』

 

 フューリーの言葉通り、現れたのはヘリキャリア。

 

 ニューヨークの戦いで使われていたあのヘリキャリアだろう。

 

 俺を拘束しようとしていたウルトロン・セントリーが吹き飛ぶ。

 

「あ、やば」

 

 落ちるというタイミングで背後から誰かに助けられた。

 

「今度は間に合ったぞ!」

 

「サム!」

 

 助けてくれたのはサム・ウィルソン、ファルコンのウィング・パックで空を羽ばたいている。

 

「俺だけじゃない、他にもいるぞ?」

 

 サムの言葉通り、離れたところでアイアンマンと共に戦うウォーマシンの姿がある。

 

 他にもクインジェットの戦闘機がウルトロン・セントリーを牽制して、ヘリキャリアに搭載されている救助艇“ライフボート”というものが次々と現れてきた。

 

「サム、下ろしてくれ!」

 

「どうするつもりだ?」

 

「俺がウルトロン軍団を引き寄せるから人命救助をシノと優先してやってくれ!シノ!聞こえたな!」

 

「えー、シンジを狙う鉄屑はどうするのさぁ!」

 

「人手が圧倒的に足らないんだ。俺も奴らを潰しながら救助する!エヴァ、バックパックは!」

 

『メインエンジン停止、予備システムを稼働させます』

 

「サム、頼む」

 

「わかった!」

 

 ウィング・パックを操ってサムはシノと一緒に人命救助を行う。

 

『シンジ!救助はこっちに任せて、そっちはウルトロンへ向かってくれ!』

 

「あ、待ってくれ!ここにいる家族を連れていくから!」

 

 助けを求めている男と妻子を見つけてライフボートへ向かったタイミングでソコヴィアの大地が急降下していく。

 

「シノ!」

 

『シンジ様、落ち着いてください。彼女はウィルソン様が保護しております』

 

 エヴァに言われて俺は顔のマスクを脱ぐ。

 

「いやっほぅ!」

 

 歓声をあげながらシノがファルコンによってライフボートにやってくる。

 

「あぁ、楽しかった!もう一回くらい――」

 

 喜んでいるシノを俺は抱きしめる。

 

「ふぁっ!?シンジ!え、あ、あの」

 

「無事で、よかった」

 

 短く、けれど、気持ちをはっきりと伝えることができた。

 

 いつもはうるさいシノが腕の中で大人しくなっている。

 

「あ、うん……」

 

「後は任せた」

 

「へ?」

 

 ぽかんとするシノの前でマスクを装着してライフボートから飛び降りる。

 

 バックパックが起動してそのままソコヴィアの大地へ向かっていく。

 

「うぉい!何だよ!そのままハグ&キスとかじゃないのか!?お預けってひどくねぇ!この野郎!戻ってコーイ!カムバァァァァァック!」

 

『シンジ様、よろしかったのでしょうか?』

 

「あぁ、うん、後でおいしいもので奢るよ。エヴァ、気にしないで」

 

『わかりました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛しい人よ」

 

 

「悪いが、俺は立会人だ」

 

 

 ボロボロのウルトロン。

 

 最後の一体の前に俺が降り立つ。

 

 逃げないようにグロックを向ける。

 

「愛しい人よ、なぜだ、なぜ、私を受け入れてくれない」

 

「死ぬのが怖いですか?ウルトロン」

 

 ふわりと俺の傍に降り立つのはJ.A.R.V.I.S.ことヴィジョン。

 

 ウルトロンが覚醒の際に壊そうとした存在。

 

 今やインフィニティー・ストーンの一つマインド・ストーンを額に埋め込み、体はヴィブラニウムを核とした人工皮膚で構成されている。

 

 おそらく、パワーなどにおいてはアベンジャーズ一だろう。

 

「怖い?あぁ、怖いのだろう。最後の命、これがなくなると私は、死ぬ?」

 

「そうだ、ウルトロン。それが恐怖という」

 

「何故だ、なぜ……愛しい人は手に入らない!?私が死ななければならない?」

 

 激昂。

 

 ウルトロンはボロボロの体を引きずりながらこちらへ近づいてくる。

 

「愛しい人よ!私のものになれ!そうすれば、私は死なない!恐怖しない!何があろうと私は、私は、怖い?」

 

「そうだ、ウルトロン。お前は恐怖している。今までシンジ・ジャッカーを欲していたのは愛でない。お前は恐怖を隠すためにシンジ・ジャッカーという最強の盾を欲した。彼がいれば自分は死なない。何があろうと守られるということを理解していたのだ」

 

「あぁ、そうか、だが、私は死なない、愛しい人を手に入れる」

 

「ここでお前は倒されるのだ。ウルトロン」

 

 俺の目の前でヴィジョンとウルトロンが激突。

 

 最後のウルトロン消滅を俺は確認した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後にソコヴィアの事件といわれるようになる出来事から少しの時間が過ぎて。

 

 アベンジャーズ本部はアベンジャーズ・タワーからニューヨーク州北部の一角にあるスターク・インダストリーズの保管庫を改装した新たな基地へ移転する。

 

 今回の戦いで多くの犠牲者が出た。ピエトロが子供を庇って命を落とし、無関係の市民にも犠牲者が出てしまった。

 

 しばらく、アベンジャーズに厳しい風当たりになるだろう。

 

「寂しくなるよ。ボーイ」

 

「時間がある時に遊びに行くから」

 

「その時はうるさい嫁を連れてくるんじゃないぞ?」

 

 釘をさしてくるスタークに俺は苦笑いで答える。

 

 新アベンジャーズに関してはフューリー、ヒル、チョ博士、セルヴィグ博士が運営を補佐することになった。

 

 同時に脱退者もいた。

 

 ホークアイ/バートンは愛する家族の為にアベンジャーズを脱退。ソーは今回の騒動の鍵といえるインフィニティー・ストーンの謎を解明するためにアスガルドへ帰還。

 

 ブルース・バナー博士ことハルクもクインジェットに乗って消息をくらませてしまった。

 

 そして、アイアンマン/トニー・スタークはアベンジャーズから一時的に離脱する決心をした。

 

 離れるスタークと別れるまでの話し合いをする。

 

「その時はペッパーさんにシノを任せるよ。多分、着せ替人形みたいに可愛がってくれると思う」

 

「成程、女には女か」

 

「ま、俺は休める時に休むよ」

 

「そうか、では私が行くよ」

 

「元気で、また会おう」

 

「変な時に会わないことを願うよ」

 

 トニー・スタークと別れて俺は基地内へ戻る。

 

「おい、シンジ」

 

「やぁ、シノ」

 

 こっちへやってくるのは新調されたアベンジャーズの戦闘服を纏っている。

 

「そのアーマー、着るのかよ?」

 

「貰ったものだし、使えるものは使う主義だ」

 

「私らが正義の味方ね、笑っちゃうね」

 

「そうかな?シノは優しいからなるべくしてなったんじゃ?」

 

「やめろ、蕁麻疹が出てくる!」

 

 体をかきむしるような仕草をしながらシノは嫌な顔をした。

 

 その姿が面白くて笑みを浮かべる。

 

「これから新しい毎日になるわけだけど、頑張ろう」

 

「……オレはシンジといれれば、それでいい」

 

 出される拳を自身の拳をぶつけ合う。

 

「さ、頑張ろう」

 

 

 視線の先ではヴィブラニウムの盾を構えるスティーブ・ロジャース/キャプテン・アメリカ。

 

 副官の立場になったナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウ。

 

 今回、新たにアベンジャーズに加入することになるジェームズ・ローズ/ウォーマシン。

ワンダ・マキシモフ/スカーレオット・ウイッチ。ヴィジョン。そして、サム・ウィルソン/ファルコン。

シノと最新型アーマー、ジャスティス・ハンターを纏う俺。

 

 これから活動する新体制のアベンジャーズ。

 

「さぁ、行こう」

 




この流れになるとシビル・ウォーは完全オリジナルになる危険がでてきたので、次回で完結しようと思います。

次回は各キャラとのふれあい、時間軸総無視になるかなぁ。




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アベンジャーズの触れ合い(part1)

お知らせ、シビル・ウォー、やることにしました。

かなりオリジナル色が濃くなります。

あとがきで簡単な予告みたいなものをのせます。

今回は各キャラとのふれあい。

これでいいのか、疑問もあるけれど、よろしくお願いします。


番外編に関しては時系列を考えずに読んでください。


キャプテン・アメリカの場合

 

 

「シンジ、今の動きはよかったぞ」

 

「ハッハッ……十二時間も訓練したら、少しはマシになるよ……あぁ、ダメ、限界」

 

 アベンジャーズの訓練施設。

 

 そこでシンジはキャプテンと模擬戦を繰り返している。

 

「トニーのスーツも十分、使いこなしているじゃないか?」

 

「まだまだだよ。スーツのことはローディにみてもらっているけれど、この状態で補助輪ついているんだからさ」

 

「心配性なんだよ」

 

 コツコツとジャスティスハンターアーマーマーク2のパーツを叩きながらフェイスを装着しなおす。

 

「エヴァ、もう1ラウンド、行けるか?」

 

『問題ありません、私の底力をおみせましましょう』

 

「そこは、俺達だろう?」

 

『その通りですね』

 

 困った様な言葉のエヴァに俺は笑いながら武器を構える。

 

 マーク2になったことで両腕の左右からヒートエッジと称される高熱の刃を展開できるようになった。

 

 盾を構えるキャプテン。

 

「いつかキャプテンの盾を奪ってやる」

 

「その時がきたら私は引退だな」

 

「ハッハッ、今すぐ引退させてやる!」

 

 十分後、アーマーを纏いながらもキャプテン・アメリカには勝てませんでした。

 

「ATフィールドとやらは使わないのか?」

 

「ちょっと、使い慣れていないんだよ……武器の同時併用しようとすると、何かが阻害してうまく作動しない。だから、管制機能はエヴァに任せて、俺は攻撃に専念という感じかな」

 

『任せてください。シンジ様のサポートはこのエヴァがします』

 

 この一言を偶然、通りかかったシノが聞いてしまったがためにシノがブチ切れてAI操作しているジャスティスハンターアーマーとシノのレーザーガトリングで勝負が行われた結果、スタークにマーク2の修復をしてもらうことになるのは別の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その、シンジ」

 

「言わないで、キャプテン」

 

『申し訳ありませんでした。シンジ様、あの小娘に敗北してしまいました。エヴァは努力を続けます』

 

「あ、うん」

 

「シンジ、このAIはすぐにトニーの下へ運んで修正すべきだ」

 

 この後、キャプテンのアドバイスに従って修正をかけたものの、エヴァにバグは見つからず。それどころか、よりシンジへ尽くすようになったことはいうまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソーの場合。

 

 

「シンジ、一緒にアスガルドへ行かないか?」

 

「唐突だな」

 

 アベンジャーズ・タワーで寛いでいたところでソーが会いに来る。

 

 ムジョルニアを構えているソー。

 

「今すぐにでも行くの?」

 

「いいや、模擬戦だ!ひと汗流そう」

 

「俺、さっきまで――」

 

「行くぞ」

 

 無理矢理ソーに引きずられて模擬戦が行われる。

 

「中々、壊せないな!お前の盾は!」

 

「キャプテンの盾と比べると使い勝手が悪いけどね」

 

 使用を続けていれば、限界がきて倒れてしまう。

 

「本気を出せば核も防げるらしいけれど、流石にそんなことしたら俺の頭がパンクしてしまうよ」

 

「惜しいな、それだけの力を持っていれば、アスガルドでも立派な戦士として戦えるはずだ」

 

「ソーは俺をアスガルドへ連れていきたいの?」

 

「そうだな、お前がもっと戦士としての功績を上げていけばそれも叶うだろう!お前みたいな男をアスガルドの女たちは放っておかないぞ?」

 

 ぞくぞくぞくぅ!?

 

「どうした?」

 

「あぁ、いや、そういうのはあまり興味ないかなぁ」

 

「勿体ないな!」

 

 バンバンと肩を叩かれる。

 

 はっきりいって、ソーに対しては少し苦手意識があった。

 

 悪い人ではない、むしろ率直に良い奴だろう。

 

 出会いがそもそも最悪だ。地面に突き刺さっていたムジョルニアを監視していた俺は取り返そうとやってきたソーと乱闘したのだ。

 

 最終的にムジョルニアはソーの下へ帰ったからよかったものの、一歩間違えれば、殺し合いなんて笑えない事態に発展していただろう。

 

 その関係も今は改善されていて、近くの酒屋でビールを浴びるように飲みあう程度に親交はある。

 

「そうだ、今日も飲みに行かないか?」

 

「またっていうと思ったからオススメの店をリストアップしておいたよ」

 

「楽しみだな!シンジの見つける店はどれも最高だ」

 

「ソーの舌を満足させられているようで安心だよ」

 

 二人は笑いながらタブレットを覗き込む。

 

 これで、苦手意識があるのか疑問である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハルク/ブルース・バナーの場合。

 

「グォォォォオオオオオオオオオオ!」

 

「これ、いつまで続くの」

 

 目の前で大暴れするハルク。

 

 一撃でも当たればアイアンマンのアーマーであろうと歪ませることができる拳。

 

 しかし、その拳は今のところ、誰も傷つけていない。

 

「まぁ、俺も特訓になるから丁度いいんだけど」

 

 とあるミッションでハルクになってしまったバナー博士を元に戻すため、参加していたメンバーは距離を取り、シンジとハルクだけになっている。

 

 暴れているハルクを元に戻すための手段、ひたすら暴れて疲れたところで一発を叩き込む。

 

 それが今のところ、ハルクからバナー博士に戻すための手段なのだが。

 

「俺、いつかハルクに首をひねりつぶされるかもしれない」

 

 目の前で苛立った様子で体当たりを仕掛けてくるハルク。

 

 気を抜けば、シンジみたいな細い体は粉々にされてしまうだろう。

 

 ハルクは怒り心頭の様子だが、動きがふらふらし始めてきた。

 

 終わらせよう。

 

 これはハルクの為にもなる。

 

 自分に言い聞かせながらATフィールドを解除と同時に拳を覆う様に限定的なATフィールドを展開と同時に拳を振るった。

 

 拳がハルクにクリティカルヒット。

 

 意識を失っていくと同時にバナー博士へ戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アベンジャーズ・タワーの一室。

 

「僕自身がいうべきかどうかわからないけれど、戻してもらったお礼がこれでいいのかい?」

 

「まぁ、俺しかできないということなので、それに、このメンバーの中で勉強を丁寧に教えてくれる人って博士しかいないじゃないですか」

 

 バナー博士へ戻す度にアベンジャーズ・タワーで勉強を教えてもらっている。

 

 数学から物理、文字などなど。

 

 少年兵として活動してきたシンジは最低限の知識しかない。

 

 スーパーヒーローであり、天才もいるのだから、どうせだし、勉強を教えてもらおうと提案したのである。

 

 バナー博士は驚きつつも勉強を教えてくれていた。

 

「ところで……スタークに聞いてもらうという事は?」

 

「一言」

 

「え?」

 

「ばっさりと忙しいといって断られました。凡人の相手をしている暇もないとねぇ」

 

 教えてくれたらペッパーとの間もフォローするのにという余計な一言がいけなかったのだろうか?

 

 漏らした言葉にバナーは苦笑する。

 

「ま、まぁ、色々あるという事だね……じゃあ、続けようか」

 

「お願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トニー・スタークの場合。

 

「本当なんだろうな?」

 

「一応、メッセージでのやりとりで落ち着くように話はしていますけれど、全てはスタークさん次第です」

 

「わかっている。大丈夫だ。私なら可能だ。トニー・スタークに不可能はない」

 

 スーツ姿でぶつぶつと自分に言い聞かせるような姿のトニー・スターク。

 

 彼の様子を見て苦笑しつつも表情に出さないように堪えているシンジ。

 

 二人はあるパーティー会場へ向かっていた。

 

 会場には各業界の著名人、マスコミなどもいる。

 

 彼がこんなにも緊張?しているのは向かう先に彼女がいるからだろうか?

 

「ボーイ、わかっていると思うが」

 

「はいはい、お口チャックしています」

 

 中に入ったところでスタークがシンジへ釘をさす。

 

 何故、スタークにシンジが同行しているのか。それは今回のパーティーにおける護衛役である。

 

 本来ならハッピーと呼ばれている人物が運転手として来なければならなかったのが性質の悪い風邪をひいてしまった為にピンチヒッターとしてシンジが運悪く選ばれてしまった。

 

 こういうパーティーに無縁なシンジは苦しいタキシードの首元を触りながらスタークの傍で無言を貫く。

 

 マスコミが現れたトニー・スタークへ声をかけようとするのをやんわりとシンジが止めに入る。

 

「ハイ、トニー、それにシンジも」

 

「お久しぶりです、ミス・ポッツ」

 

 二人へ声をかけたのはスターク・インダストリーズの代表取締役のヴァージニア・ポッツ、愛称、ペッパー。

 

 トニーの恋人であり、いつ結婚するのだろかとシンジは思っている。

 

 口に出せば、即ユニ・ビームされる危険があった。

 

「待て待て、なぜ私よりもシンジに対して優しいんだ」

 

 笑顔を浮かべようとしたシンジだがスタークの言葉に真顔へ戻る。

 

「あら、貴方は一番、素敵だけれど、シンジは色々なところが可愛いのよ?」

 

「成程、可愛さで勝負という訳か、年下の特権だな。ボーイといわれるだけはある」

 

「(別にそんなつもりはないんだけど)」

 

「ヤキモチかしら?」

 

「ヤキモチ?誰が?この私が?そんなことあるわけがない。天才トニー・スタークが年下の平々凡々にヤキモチなど抱くわけがない。絶対に」

 

 ここまでいうことないだろうと心の中で思いながらシンジはため息を吐いた。

 

 ペッパーは苦笑しながらシンジの肩を叩く。

 

「トニーが迷惑をかけると思うけれど、よろしくね?これでも貴方のことは評価しているみたいよ」

 

「できれば、それをもう少し表に出してほしいです」

 

「こらそこ、近づきすぎない」

 

 楽しいパーティーは始まった。

 

 尚、シンジ目当てで大富豪の女性陣が輪を作り始めたことで軽く、人気者の座を奪われたため、本当にかるーく、トニー・スタークが不機嫌になり、ペッパーが苦笑いしていたという場面をローディが目撃したとか、なかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽しい食事(ヴィジョン&ワンダ)

 

「シンジ、私へ料理を教えてくれませんか?」

 

「ヴィジョン?」

 

 新たなアベンジャーズ基地。

 

 それぞれが自分の時間を満喫する中、新メンバーのヴィジョンからの提案に驚きながらもシンジは了承することにした。

 

「料理と言ってもまずはシンプルなものから、パスタとかどうだろう?」

 

「構いません、知識はあるのですが、実践したことがないので」

 

「誰だってはじめてはあるよ。ほら、行こう」

 

 ヴィジョンを連れてシンジは部屋にある簡易キッチンへ。

 

 キッチンで道具を用意してパスタをゆで始める。

 

 その間にカルボナーラの具材を準備していく。

 

「シンジィ~、腹減った~」

 

 順調に進んでいたところで部屋のドアが開いてシノがやってくる。

 

「……入る時はノックをしろ。後、なんて格好をしているんだ!?」

 

「いいじゃん、家なんだし」

 

 入ってきたシノはタンクトップにパンツという格好。

 

 美しい足や胸などがほとんど見えているため、刺激が強すぎる。

 

「家だろうと最低限の節度はもてよ」

 

「えぇ~~~、それより、お腹すいた!」

 

「わかった、今、パスタ用意している。出来たら呼ぶからズボンくらいはいてこい」

 

「はーい!愛している!」

 

 チュッと投げキッスをして出ていくシノ。

 

 その姿に頭を抱えそうになるシンジ。

 

「仲がよろしいですね?」

 

「そうみえる?だったらそうなんだろうね」

 

「どうして、彼女の想いへ応えてあげないのですか?」

 

「その資格は、俺にない」

 

 こちらをみるヴィジョンへシンジは視線を逸らす。

 

「アイツを戦場へ連れ出したのは俺だ。もしもの話をすれば、アイツはこういう場所とは無縁の生活があったはずなんだ。街へ買い物にいって、同世代の子達と仲よく勉強や遊びに興じて、平凡だけれど、幸せな生活。そんな選択肢を奪ったのは俺だ。そんな俺がアイツの気持ちに応えるというのは間違っていると思う」

 

「彼女は貴方と一緒にいることを望んでいてもですか?」

 

「わからない」

 

 問いかけにシンジは正直に吐き出す。

 

「わからないから答えを探している途中だよ」

 

 コンコンとドアがノックされる。

 

「シノじゃないな、どうぞ?」

 

「失礼するわ」

 

 中に入ってきたのはワンダだった。

 

「おいしそうな香りがしてきたから、あら、ヴィジョンが作っているの?」

 

「シンジに教えてもらっています」

 

「あー、ワンダもよかったら食べないか?シノも来るし、四人で」

 

「そうね、参加させてもらうわ」

 

 笑顔で用意してある席へ腰かけるワンダ。

 

 少ししてシノ(タンクトップ+スパッツ)という姿の女性陣とヴィジョン特製のパスタを和気藹々としながら食事を楽しんだ。

 

 

 




以下、シビル・ウォーウソ?予告

「何だ、これ?」

 ナイジェリアの都市ラゴスで起こった戦闘でシンジに異変が起こる。


ーー終わりは突然にやってくる。

「シンジ・ジャッカー!ワカンダ王国、国王殺害の容疑で逮捕する!」

 アベンジャーズを国連の監視下へ置こうとする「ソコヴィア協定」の話が広がり始めている中、シンジはテロリストとして指名手配をされてしまう。

 身に覚えのない罪に戸惑いながらも逃走するシンジを追いかけるのは共に戦ってきた仲間達。

「シンジ・ジャッカー!お前を捕まえる!」

「抵抗するなら容赦しないぞ、このテロリストめ!」

「お前みたいな奴を私は許さない」

「父の仇を取らせてもらう!」

 まるでシンジのことを知らないように攻撃してくるアベンジャーズ、そしてスーツを纏うワカンダ王国の王子たち。

 そして、謎の存在が輝く剣で襲い掛かって来る。

「やっぱり、俺は仲間なんて必要なかったんだな」

 共に戦った者達のことを信じられなくなったシンジは単独で、事態の解決を図ろうとする。

 そんな彼の前にかつて所属した組織が牙をむく。

 ヒーローとヴィランの両方に狙われるシンジ。

「お前に借りを返す」

 消耗していくシンジへ手を差し伸べたのはバッキー・バーンズ/ウィンター・ソルジャー。

 事態解決の鍵はヒドラのシベリア施設にあることを知り、空港を目指すシンジ達。

 そして、事態は最悪な方向へ向かっていく。

「お前の居場所などこの世界に存在しない」

「俺は、誰も信じない」

 のちにアベンジャーズ内乱と呼ばれる最悪な戦いの幕開けだった。

「所詮、踏み台はこの程度ということじゃ」

アベンジャーズ シビル・ウォー 近日投稿予定。



 二~三日ほどで前編を投稿する予定です。

 詰め込み過ぎ感はあるものの、内乱はしっかりしてもらうつもりです。


 次回も楽しみにしていてください。


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シビル・ウォー(前編)

やりました!

賛否両論でかいかもしれませんが、よろしくお願いします。



「はぁ、はぁ!」

 

 突然だが、俺は走っている。

 

 なぜか?

 

 答えは簡単。

 

 悪党を追いかけているからである。

 

 ソコヴィアにおけるウルトロンとの戦いから一年が過ぎた。

 

 新メンバーによるアベンジャーズはヒドラ残党にして元S.H.I.E.L.D.エージェントだったブロック・ラムロウのテロ計画を阻止するために動いていた。

 

 ナイジェリアの都市ラゴスで運搬されている危険物質を彼らが狙っているためである。

 

 少し離れたところで、キャプテン・アメリカ、ウォーマシンがテロリストの集団を追いかけていた。

 

『なぁ、シンジ~』

 

「こんなタイミングでなんだ!?」

 

『撃ち殺しちゃだめ?』

 

「時と場合による」

 

『シンジ様、そのような回答では小娘はすべて殺してしまいます。スタンモードの使用を推奨します』

 

『クソAI、まずはてめぇからぶっ飛ばされたいか!』

 

 耳元でエヴァとシノが喧嘩を始める。

 

 一年も経てばこのようなやりとりに、慣れるわけがないだろ!人が必死に走っている中でうるさいな!

 

 目の前に現れたテロリストが後方からの狙撃で音を立てて倒れる。

 

『うるさいぞ!目の前の任務に集中しろ!』

 

「キャプテンに叱られたな、シンジ」

 

「俺じゃないだろ!?サム、そっちはどう?」

 

「回収はした。あとはラムロウとシンジのルートだけだ」

 

「了解……ワンダ、ナターシャ、住民の避難は?」

 

『ごめんなさい、うまくいっていないわ』

 

『住民がパニックを起こしかけているの』

 

 こんな町中に悪評もあるアベンジャーズがきたらパニックを起こすのは当然だろうなぁ。

 

「ワンダ、可能な限りラムロウの方へ人が行かないようにしてくれ、最悪、俺がフィールドを展開して奴とキャプテンの二人だけにする。ヴィジョンは民間人がこっちにこないようにして……キャプテン、指示だしたけど、いいかな?」

 

『上出来だ!』

 

『あら、貴方が戦うと言い出すかと思ったのだけれど?』

 

「三年くらい前に殴っているから俺はそこらへんすっきりして――」

 

「会いたかったぞ!ボーイ!」

 

 こちらへ接近してくるラムロウこと、クロスボーンズがやってくる。

 

『すっきり、何かしら?』

 

 ナターシャの通信をきる。

 

 クロスボーンズは両手に装備したガントレットで殴りかかってきた。

 

 咄嗟に背中のバックパックを起動して空へ逃げる。

 

「連れないなぁ!戻ってこい!」

 

 鎖を掴んでこちらの足へ巻き付けてくるクロスボーンズ。

 

「カモーン、ボーイ!」

 

「だから――」

 

 右腕のヒートエッジで鎖を切断して急接近する。

 

 左手にATフィールドを集中させて拳を握り締めた。

 

「気安く、ボーイって呼ぶんじゃねぇよ!」

 

「ぐぅぅ!」

 

 クロスボーンのガントレットとATフィールドの拳、ATナックルが激突。

 

 相手の拳が音を立てて曲がってはいけない方向へ折れている。

 

「このぉ、ぉぉぉぉぉぉお、ガキィィィィィィ!」

 

 爆薬を起動したと同時に抱き着いてくる。

 

「男に抱き着かれる趣味は――」

 

「我々に汝は問われた」

 

 な、にぃ?

 

 聞こえた言葉に体の動きが止まってしまう。

 

 マスク越しに信じられないものを見るような目を俺はしているだろう。

 

「我々は――このまま一緒に死のうぜ、ボーイ!」

 

「シンジ!」

 

――死ぬ?

 

 キャプテンの声が遠くで聞こえた気がした。

 

 俺は目の前のクロスボーンをみる。

 

 仮面は歪んで中から火傷で歪んでいる顔のラムロウが笑っていた。

 

――なぜ、笑っている?

 

 どうして、俺の前で、コイツハ、笑っているんだ。

 

「嗤うな、お前は死ね」

 

 バキィィィィンと音を立ててクロスボーンが俺から“離れる”。

 

「な、何が」

 

「動くな」

 

 俺の言葉で見えない壁に囲まれたようにクロスボーンは“動かない”。

 

「そのまま、潰れろ」

 

 親指を回転させて下へ向けると同時に見えない壁に圧死されたようにクロスボーンの体がぐちゃりと潰れて、爆発を起こす。

 

 爆風や熱も広がることなく、焦げた肉の匂いが周囲へ広がっていく。

 

「くっせー、匂いだな」

 

 地面に転がっているクロスボーンの残骸を見ながら俺は静かに呟いた。

 

 同時に意識を失って倒れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シンジ!」

 

 キャプテン・アメリカ/スティーブ・ロジャースは目の前で起こった光景に息をのんだ。

 

 ラムロウとシンジが戦っていたと思うと彼が豹変した。

 

 仲間として関係を築いてきたスティーブが今までみたことのないシンジの表情。

 

 ぞっとするほどの冷酷な目、そして洗練された殺意。

 

 戦場を駆け抜けたスティーブですら一瞬、臆してしまいそうになった濃厚な殺気。

 

 シンジは一瞬で拘束から脱出するとATフィールドでラムロウを包み込んだと同時に彼が仕込んでいた爆薬が起動する。

 

 周囲へ被害が及ぶことなくラムロウだけが消滅した。

 

 ATフィールドを解除して、残っているのはクロスボーンの残骸。

 

 ドサリと音を立てて倒れるシンジの姿を見てスティーブは駆け寄る。

 

 脈などを確認して、気絶しただけだとわかると息を吐いた。

 

「しかし、今の……」

 

 スティーブは少し考えながらも後方で待機しているナターシャへ通信を繋ぐ。

 

 この時から既に“はじまっていた”などと、誰も想像できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そこはお前の居場所ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――お前は存在すべきではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

――お前がそこにいることは間違っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――全てが間違っているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――お前に居場所など存在しない。

 

 

 

 

――お前は、消えなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、何これ?」

 

 どこかの屋上。

 

 そこに俺は立っていた。

 

 全身を黒で統一した戦闘服を身に纏い、足元には組み立てられている狙撃銃と道具一式。

 

 狙撃銃からは煙硝が出ている。

 

 明らかに使用後だ。

 

「何で、俺はこんなところにいるんだ?」

 

 前後の記憶が消失している。

 

 覚えている限りではクロスボーンことラムロウと取っ組み合いをしていた。その後、ダメだ、思い出せない。

 

 頭を抱えるようにしているとぞろぞろと靴音が聞こえてきた。

 

「動くな!」

 

 こちらへ武装した警察の特殊部隊がやって来る。

 

 銃口がこちらへ向けられていた。

 

「あ、あれ?」

 

 気付けば、コンクリートの地面をけって屋上から飛び降りている。

 

 銃口を向けられたことで自然と逃走することを選択してしまった。

 

「どこか、どこかで情報を」

 

 慌てながら俺は怒声をあげている警察の部隊から逃げていく。

 

 この時から既に異変が起こっているなど、知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワカンダ王国、国王……暗殺、その主犯が俺?」

 

 変装をしながら人ごみの中を進む。

 

 あれからタブレットを失敬して情報を調べたところ、俺がいた場所はソコヴィア協定という国連委員会が提唱した協定書であり、アベンジャーズなどの超人、規格外の技術、物品を所持する者達を国連委員会の管理下に置き、活動を国連委員会が認めた時のみに使用できるという条約。

 

 これを破れば犯罪者という扱いになり、加担する者も同罪になる。

 

「いつのまに、こんな協定できたんだ?」

 

 気絶する直前までそんな話を聞いたこともない。俺が意識を失っている間に話が出たのだろうか?

 

 疑問を抱きながらも進もうとした時、目の前に立っていたものがいた。

 

「ん?」

 

 避けようとした視界の片隅で煌めいたものに気付いて後ろへ下がる。

 

 刃によってかぶっていたフードが切り裂かれた。

 

「見つけたぞ、犯罪者め!」

 

 誰、コイツ?

 

 俺の前に立っていたのはキラキラと光り輝いている剣を携えている少年。

 

 年齢は俺より下?だろうか。

 

 金髪にオッドアイという一度、みたら忘れられない整いすぎた顔立ちの少年。

 

 そんな彼はこちらに怒りで染まった視線を向けている。

 

「キャプテン、ディザスターを見つけた!」

 

「……キャプテン?」

 

 少年の呟いた言葉と共に飛来してくるヴィブラニウムの盾。

 

 回避して振り返るとキャプテン・アメリカの姿があった。

 

 ただし、俺に対して敵意を向けている。

 

「よくやった、ドール」

 

「大人しくしろ!ディザスター」

 

「あ、いや、どういうことだ?」

 

「ディザスター、いや、シンジ・ジャッカー!大人しく投降しろ!お前にはワカンダ王国国王殺害、多くの犠牲者を出した容疑がある」

 

「いや、キャプテン、誤解なんだよ。俺は何も」

 

「悪いが、“初対面”の相手の言葉を信じることは出来ない。それに、お前は既に多くの人を殺しているテロリストだ」

 

「は、え?」

 

 キャプテンの言葉に目を見開く。

 

 初対面?俺とキャプテンが。

 

「いや、何を言っているんだよ。俺は――」

 

「時間稼ぎのつもりかもしれないぞ。キャプテン」

 

 上空に現れたのはサム・ウィルソン、ファルコンだ。

 

 彼も俺を警戒している。

 

 いつでも撃てるように銃口を向けられている。

 

「どういう、ことだ」

 

「動くな!ディザスター!」

 

「ドール!待て!」

 

 キラキラと光っている剣をこちらに向かって振り下ろしてくるドールとかいう奴から距離をとるも相手は刃を振り回しながら追いかけてくる。

 

 話を聞く限り、コイツはキャプテンの知り合いのようなのだが、俺は面識がない。

 

 てか、動きに無駄が多すぎる。

 

 これじゃあ――。

 

「倒してくれと言っているようなものだよな?」

 

 足で転倒させる。

 

 頭からばたんと倒れた。

 

 あれはかなり痛いだろう。

 

 乱れた包囲網の隙間を抜け出そうとしたら顔面に衝撃が起こる。

 

 倒れないようにしながらたたらを踏んで襲撃者の相手をみた。

 

「ナターシャ……」

 

「あら、テロリストに私の名前が知られているなんて驚いたわ」

 

「有名ってことだ」

 

 ナターシャとウォーマシンの二人が道を阻む。

 

「いや、何を言って」

 

「ごめんなさい、私、貴方と初対面なの、あと犯罪者のナンパはお断りよ」

 

「諦めるんだな、犯罪者」

 

 おかしい、

 

 何だ、これ?

 

 頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだ。

 

 何で、みんな、俺のことを忘れているんだ?

 

 何で、俺のことを知らないみたいに話をしている?

 

 どうして、俺を……犯罪者をみるような目を向けているんだ?

 

「ディザスター、お前はここで」

 

 コイツは誰なんだ?

 

 頭が混乱する中、全員が俺へ攻撃してくる。

 

 ATフィールドが自動起動して攻撃から身を守ってくれる。

 

 だが、俺の頭はぐちゃぐちゃだ。

 

 ドールとかいう奴が周りへ叫んでいる。

 

 距離をとるアベンジャーズの皆。

 

 キラキラ輝いている剣が紫色の光を放つ。

 

 その攻撃はATフィールドを無力化してしまう。

 

 衝撃を受けた俺の体は宙を舞い、そのまま近くの川の中に落ちた。

 

 事態を理解できぬまま流れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一体、何が起きたんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気付けば、いつの間にか俺はそこにいた。

 

 目の前には杖をもち、立派な髭をたくわえたおじいさん。

 

「立派な髭をたくわえたおじいさんか、無礼な奴だ」

 

 考えを読んだ?

 

「神じゃからそれくらいは当たり前だ。これだから人間は、だが、役に立ってもらうとしよう」

 

 あれ、声がでない?

 

 てか、ここは何なんだ?

 

「お前にそれを答える義理はない。全く、本当に仕事の邪魔ばかりする」

 

 初対面なのだが、どうしてここまで嫌われているのだろうか?

 

 意味がわからない。

 

「本来なら意識などない方がいいのだが、どうせだから自覚させた方が面白いことになりそうじゃから。お前はこれから死んで、踏み台転生者として歩んでもらうことになる」

 

 踏み台転生者、だって?

 

「まぁ、能力は丈夫な体、世界観を壊し過ぎても困るから、膨大な――あ、何だ、これは?」

 

 目の前に光り輝く紫色の石が浮いていた。

 

「この力は、一体?」

 

 呆然としている神様?の前で石が光り輝くと同時に灰になる自称、神様。

 

 その光はこっちまでやってきて、俺の意識は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っはぁ!」

 

 激痛で目を覚ます。

 

 慌てて周囲を確認する。

 

 質素な、最低限の家具などが置かれている部屋。

 

 そのベッドの上に俺は寝ていた。

 

 体には包帯などの手当てがなされている。

 

「目が覚めたようだな」

 

「アンタは……」

 

「飲め」

 

 差し出されたマグカップを受け取る。

 

 中には珈琲。

 

「にがっ!」

 

「砂糖が必要だったか?」

 

「あぁ、すいません」

 

 机に砂糖の入った容器を置いてくれる。

 

「久しぶりです。バーンズさん」

 

「あぁ、シンジ・ジャッカー」

 

 ジェームズ・ブキャナン・バーンズ。

 

 インサイト事件の時に現れたウィンター・ソルジャーにしてスティーブ・ロジャースの親友だった人。

 

 大戦中の任務で命を落としていたと思われていたのだが、ヒドラで人体実験を受けて、過去の記憶を抹消されていた暗殺者。

 

「あれから、記憶は?」

 

「あまり、だが、徐々に思い出し始めている」

 

「そう、ですか」

 

「お前には感謝している。こうして隠れるための拠点や生活費などを用意してもらって」

 

「保険などは使えたから……それに、貴方から情報を貰うためにしたことです。ギブアンドテイクですから」

 

 博物館で彼と俺は取引した。

 

 彼の持っている情報を貰う代わりに、隠れ家や生活費などの支援。

 

 情報を貰った後も俺は定期的に仕送りをしていた。

 

「何が、あった?」

 

 静かに問われて俺は答えに詰まる。

 

「わかり、ません。気付けば俺が国王を暗殺したことになっていました」

 

「それだけじゃない。お前がアベンジャーズに存在しないことになっている」

 

「……もっと、わかりませんよ」

 

 マグカップを机に置いた。

 

「いきなりテロリストとして追いかけられて、仲間だと思っていたアベンジャーズの攻撃を受けて、そしたらアベンジャーズに知らない奴もいて、一体、何が起こっているのかまるでわからない」

 

 頭を抱えてしまいそうになる。

 

 衝撃が大きくて俺はかなり動揺してしまう。

 

 今までの関係が一瞬で白紙になった。

 

 普通なら誰もが戸惑うだろう。

 

 俺の頭も混乱寸前だ。

 

「落ち着け」

 

 力強く肩を叩かれる。

 

 顔を上げると心配そうにこちらを見ているバーンズさん。

 

「お前はどんな時でも冷静だった。俺と戦っている時も……何事においても冷静さが必要であるという事を理解しているからだ。常に冷静でいろ。そうすれば、事態の究明も」

 

 話の途中で俺達はある方向をみる。

 

 互いの顔を見て、彼の隠し持っている場所から銃器を取り出す。

 

 ハンドサインで俺が先に、後方支援を依頼する。

 

 バーンズさんが頷いたことを確認してドアを蹴り飛ばす。

 

 同時に突撃しようとしていた相手の顔を殴る。

 

 動揺した隙に近距離で銃を撃つ。

 

 悲鳴を上げて倒れる男から武器を奪いつつ、もう一人の仲間の股間を蹴る。

 

 苦しみの声を上げる男の顎を奪ったライフルで殴り飛ばす。

 

 後ろから襲い掛かろうとする襲撃者はバーンズさんが瞬時に無力化させる。

 

 流石、ウィンター・ソルジャー。

 

 動きに無駄がない。

 

「こいつら、何だ?ヒドラに思えない」

 

「そうですね。見た目的に雇われ傭兵か、何――」

 

 聞こえてくる飛来音。

 

「バーンズさん!」

 

 咄嗟にバーンズさんの腕を掴んで抱きかかえるようにしてその場から飛び降りる。

 

 爆風に煽られながら停車していた車の上に二人で落ちた。

 

「ダーッハッハッハッ!」

 

 聞こえてくるのは大きな笑い声。

 

 逃げ惑う人々。

 

 波の先。

 

 大きな声で笑うスキンヘッドの男がいた。

 

 鋼鉄の鎧のようなスーツを身に纏って。

 

「何だ、あれは?」

 

「見た目からすれば、サイ?」

 

「久しぶりだなぁ!ジャッカー!!」

 

 相手は俺の姿を見つけると大きな声で叫ぶ。

 

「知り合いか?」

 

 冷静に尋ねてくるバーンズさん。

 

 お願いだから少し動揺してほしい。

 

 こっちも冷静になるから助かるけれど。

 

「あー、どうでしょう?」

 

「俺はアレクセイ・シツェビッチ!いや、ライノだぁああああああああああああああああああ!」

 

「あ、思い出した」

 

 大きな声で名乗ってくれた相手に俺は思い出す。

 

「テロリストです。危険物質を盗もうとして失敗して刑務所で終身刑いいわたされていたはずなんだけどなぁ?」

 

 大きな声で喚いているシツェビッチこと、ライノと名乗る相手は顔を鋼鉄の角のようなパーツで覆われる。

 

「さぁ、行くぞぉぉぉぉぉ」

 

「どうする?」

 

「明らかに弾丸通りなさそうな装甲しているし、ここは逃げるという選択で」

 

「わかった」

 

 バーンズさんと一緒に車から飛び降りる。

 

 大型トラックが激突したような感じで俺達がいた車が大きくひしゃげた。

 

「直撃すれば、命がないな」

 

「そうです、ね!」

 

 ライノの肩からライフル銃のようなものが現れてこちらへ掃射してくる。

 

 左右に別れながら壁へ隠れた。

 

 ガリガリと削られていくマンションの壁。

 

「さて、この状態じゃ」

 

 咄嗟に上空へ銃口を向ける。

 

 しかし、銃を向けた先に何もいない。

 

「気のせい……か?」

 

 カツン。

 

 いや、違う!

 

 何かがいる。

 

 直感めいたものだが、戦場で救われることの方が多い。

 

 その直感に引っかかるものがあって。

 

「っぅうう!」

 

 咄嗟にかがむ。

 

 少し遅れて鋭い爪が壁を削り取った。

 

「何だ、お前!!」

 

「シンジ・ジャッカーだな?」

 

 目の前にいたのは黒いパンサーのような姿を模したスーツを纏った男。

 

 声や体つきから男だと判断したのだけど、間違っていないよね?

 

 疑問を抱きながら銃を向ける。

 

 構えたライフルの先端が振るわれた爪でバターみたいに切り落とされる。

 

「うそーん」

 

 振るわれる二撃目を回避して、マンションから飛び出す。

 

「見つけたぞぉォぉぉぉお!ジャッカー!!!!!」

 

 姿を見せたことで突撃してくるライノ。

 

 標識を掴んで回転して、突撃を躱しながらライノの側面へ移り、ハンドガンを撃つ。

 

 予想はしていたがライノの装甲に傷はつかなかった。

 

「無駄だ!ジャッカー!貴様を潰してやる!」

 

「邪魔だ」

 

 追いかけようとしたライノの上にパンサースーツが着地と同時に蹴り飛ばす。

 

 パンサースーツはこっちへ接近してくる。

 

「逃がさんぞ!シンジ・ジャッカー!」

 

「恨まれるようなこと、したっけ?」

 

 疑問を抱きながら接近してくるパンサーの爪が肩を掠める。

 

 着ていた衣服が破けた。

 

「シンジ!」

 

 後方からバーンズさんがアサルトライフルで援護してくれる。

 

 パンサースーツは弾丸を受けて横に倒れながらもすぐに起き上がった。

 

 ライノとパンサースーツ、そして、俺とバーンズさん。

 

 睨むあう状況の中、遠くからサイレンが聞こえてくる。

 

「チッ、命拾いしたな、ジャッカー!」

 

 装甲から顔を出したシツェビッチは怒りで顔を歪めながら去っていく。

 

 ブラックパンサースーツとにらみ合う俺とバーンズさん。

 

「一応、聞くけど、アンタは何者だ?」

 

「……シンジ・ジャッカー、罪を償ってもらう。我が父を殺した罪を!」

 

 パンサースーツの人物はマスクを外す。

 

「私はテイ・チャラ……貴様が殺したテイ・チャカの息子だ」

 

 マスクの中から現れたのはワカンダ王国の王子だった。

 




今回、絡んできたヴィラン。


アクセイ・シツェビッチ/ライノ

外見やイメージはアメイジング・スパイダーマン2で。

過去にある国から危険物質を盗むために輸送車を襲撃。

シンジも協力していたが、アクセイと部下だけが捕まったことで逆恨み。

無期懲役、終身刑を言い渡されていた筈だが、今回は脱獄している。


シビル・ウォーは前編、中編、後編の三部構成になりそう。


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シビル・ウォー(中編)

疲れた、次回の話でこの作品は完結します。

はい、決まり。




「はぁ」

 

 あの後、やってきた特殊警察に逮捕された。

 

 バーンズさんには逃げる様に伝えて、俺は大人しく拘束される。

 

 俺が国王を殺したわけじゃない。

 

 だが、殺した犯人と思われる俺が逃げ続けるという事はテイ・チャラがどこまでも追いかけてくる。

 

 あのブラックパンサースーツをきて、それはつまるところ、ソコヴィア協定可決をより加速させることになってしまうのではないかと考えてしまった。

 

 冤罪になるとしても、とにかく、あの王子が落ち着いてくれるのならそれでいいと。

 

「って、どこまで俺はお人好しなんだぁ?」

 

 自分が嫌になりながら机に突っ伏す。

 

「寝るな、起きろ」

 

 突っ伏したタイミングで誰かがやってくる。

 

 頭を小突かれて顔を上げた。

 

「私は対テロ共同対策本部のエヴァレット・ロスだ。私の質問に答えてもらう」

 

「答えられる範囲なら」

 

「真面目にしろ」

 

 無言で頷く。

 

「名前を確認する。シンジ・ジャッカー、テロ組織“レギオン”に所属している。間違いないな?」

 

「一つ訂正、その組織は十年くらい前に抜けている」

 

「ウソをつくな、お前がその組織に所属していることはわかっている。二年前に行ったオズコープ社襲撃テロに貴様が関与している。証拠写真もある」

 

 ロスという人が俺の前に資料を置く。

 

 オズコープ、という会社が確かニューヨークにあったことは記憶にある。

 

 だが、襲撃したことなどない。そもそも、俺はあの組織を壊滅させて抜けている。活動しているという事自体あり得ない。

 

 何もかも、俺の記憶と違う事ばかり。

 

「これは!」

 

 ロスが机の上に置いた写真の一枚。

 

 俺は食い入るように写真をみた。

 

 ウソだと言葉が漏れる。

 

「自分が殺した相手のことすら忘れていたのか?お前が襲撃した際にたまたまオズコープへ見学に来ていた少女だ。お前の放った銃弾が心臓を撃ちぬいて即死、可愛そうにまだ十代でありながら……この、シノ・レインズワースという少女は命を落としたんだ!」

 

 ドンと机をたたく音が聞こえたがそれは酷く、遠くなものに感じた。

 

 机に置かれている一枚の写真。

 

 物言わぬ死体になっているシノの姿が写されているソレをみて、俺の頭は真っ白になってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうするか」

 

 テロ共同対策本部の施設。

 

 それを離れたところでバーンズは眺めていた。

 

 自ら投降したシンジが心配だった。

 

 記憶のない自分へ手を差し伸べてくれた恩というものもあるが、バーンズは彼が放っておけなかった。

 

 大人しい性格でありながら、決めたことは曲げず、大事なところで諦めない人物。

 

 シンジを誰かと重ねてしまう。

 

 故にバッキーは何か起こればすぐに対処しようとしていた。

 

「っ!」

 

 気配に気づいてバーンズは振り返る。

 

「動くな」

 

 金縛りにあったように体が動かなくなった。

 

「なん……」

 

「喋るな」

 

 口に猿轡でも巻きつけられたように声を発することもできない。

 

 指一つ動かせないバーンズの前に立っているのはどこにでもいるような初老の男性。

 

 彼の手には赤いノートのようなものが開かれていた。

 

 誰だ、と言葉を発しようとしたが口は全く動かない。

 

 バーンズの表情から察したのか男はため息を吐く。

 

「この男の体のことは知らんよ。まったく、貴様のような奴さえ、完全な拘束ができんとは本当に最悪としかいいようがない。だが、これも全ては娯楽のためと思えば我慢できることだ」

 

 何を言っているのかバーンズはわからない。

 

 だが、このままではよくないことが起こるという事を察したバーンズは見えない拘束から逃れようとする。

 

 動けない彼に男はノートを開きながらある言葉を囁き。

 

 その結果、バーンズは非情な殺し屋、ウィンター・ソルジャーとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたら、いいんだろうか」

 

 ロスは悪態をつきながら出ていく。

 

 シノが死んでいる。

 

 その事実に俺が無反応になったことで尋問は中断となっていた。

 

 戦場で俺はシノを拾い、兵士として育ててしまった。俺が育てたことで思考が歪み、戦闘狂みたいなことはあったけれど、素直なところもある良い子。

 

 そんな子が俺の記憶にない出来事で命を落としている。

 

 わけがわからない。

 

 俺がアベンジャーズに所属していない。

 

 壊滅させたはずのテロ組織が当たり前のように動いている。

 

 俺がテロリストとしてシノを殺していた。

 

 頭がぐるぐると混乱という文字が支配している。

 

 このまま尋問を受け続けていても事態は変わらないだろう。

 

 いや、それどころか身に覚えのない罪をきせられたまま、投獄の可能性もある。

 

 ため息を零す。

 

「まぁ、罪が増えるけれど、こればっかりは」

 

 音を立てて、ドアが吹き飛んだ。

 

「……?」

 

 突然の事態に呆然としていると目の前に現れたのは武装をしているバーンズさん。

 

 しかし、その目は一切の感情を宿していない。

 

 目の前の標的を殺すための存在、ウィンター・ソルジャーになっている。

 

「っ!」

 

 自動で発動したATフィールドによって撃たれた弾丸を防ぐ。

 

 効かないことわかっているのか手榴弾を取り出した。

 

「バーンズさん!」

 

 俺の叫びに動じることなく手榴弾が投げられる。

 

 爆発と土ぼこりが舞う中で俺は駆け出す。

 

 追撃しようと駆け出してくるウィンター・ソルジャー。

 

 その眼前に俺は立つ。

 

 目の前に突然、現れたことで相手の反応が遅れた。

 

「ごめん、よ」

 

 謝罪しながら拳をATフィールドで包みながらアッパーを繰り出す。

 

 攻撃を受けたバーンズさんの体は数メートルほど宙に浮いて、大の字で倒れる。

 

 彼の意識が無くなったことを確認すると壊れた壁から外へ逃げ出す。

 

 これが最悪の事態になることは容易に想像できた。

 

 けれど、俺にはこれしか選択肢が用意されていない。

 

 最悪の道だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アベンジャーズ本部。

 

「先ほど、シンジ・ジャッカーが脱走したと連絡が入った」

 

 施設の中で投影されているスクリーンにはシンジ・ジャッカーのプロフィールが表示されている。

 

「世界各国で手配されている最悪のテロリストだ。CIAやFBIも要注意人物としてマークしている」

 

 ローディは表示されている犯罪歴を指さす。

 

「邪魔する者なら子供だろうと女だろうと殺す、非情な男だ」

 

「まぁ、今までに現れた空からの怪物やヒドラの兵士たちと比べるとさほど、脅威ではない。何よりソコヴィア協定の話があるため、アベンジャーズは動けない」

 

「いや、彼を捕まえるべきだ」

 

「まだ、そんなことをいっているのか?」

 

 立ち上がったスティーブへトニー・スタークが詰め寄る。

 

 アベンジャーズはソコヴィア協定のために表立って活動することができない。

 

 調印式がテロによって無茶苦茶になったとはいえ、世界が見ている中で不用意なことはできないのだ。

 

 大人しくしていようと提案するトニーだが、スティーブは首を振る。

 

「一度、我々は彼を捕えた。脱走してしまったのなら捕まえるべきだ……そうする責任が我々にはあるはずだ」

 

「いいや、ないね。何より相手はただのテロリストだ。光線を放つわけでも、特殊スーツを纏っているわけでもない。そんな相手は政府や普通の人間に任せておけばいい」

 

 スタークの言葉にほとんどが納得していた。

 

 だが、何かがスティーブの中で引っかかっている。

 

「後は私の目の前にいる頑固者が協定に署名してくれれば、全てが丸く収まる」

 

 パンと手を叩くスタークだが、スティーブは出口に向かう。

 

「どこへいくつもりだ?」

 

「少し休みたい。すまないが調停の話は後だ」

 

 出ていったスティーブにスタークはため息を零す。

 

「仕方ない、少し休憩だ……小僧、お前は話を聞いていたのか?」

 

「勿論ですよ~、だから僕だって署名に同意したんじゃないですか」

 

 カチカチとゲーム機を弄りながら答えるドール・セイマカヌ。

 

 アベンジャーズにおいてはヴィジョンを除くと最年少の参加者だ。

 

 しかし、ところどころ不真面目な人物だ。

 

 会議において、ゲームをしていて目を合わせないし、任務中も勝手に突っ走る。

 

「(これなら、まだボーイの方が……)」

 

 スタークは小さな頭痛がして頭を抑えた。

 

 何かノイズが走ったような感覚。

 

「どうしましたぁ?スタークさん」

 

「何でもない、机に足を乗せるんじゃない」

 

 注意しても足を戻さない彼にスタークだけでなく、ローディもため息を零す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(何かがおかしい)」

 

 アベンジャーズ本部の通路を歩きながらスティーブは考えていた。

 

 此処のところ、己の中でくすぶる疑問のようなものが日に日に大きくなっている。

 

 疑問が浮かぶようになった切欠は、シンジ・ジャッカーと対峙した時、アベンジャーズとして活動し始めた時から彼の悪評は耳にしていた。

 

「なのに、なぜ、疑問を抱くんだ?」

 

「キャプテン」

 

 呼ばれて振り返ると会議に参加していなかったワンダとヴィジョンがやってくる。

 

 ワンダは体調が悪いということで会議に参加せず、ヴィジョンは付き添いだった。

 

「体調は良いのか?」

 

「話があるの、来て」

 

 彼女に手を引かれてある部屋に足を踏み入れるスティーブ達。

 

「話というのは」

 

 振り返るスティーブへワンダが自身の能力を発動させた。

 

 同時にヴィジョンの額にあるマインド・ストーンも輝きを放つ。

 

 脳裏に流れていくのはスティーブの記憶、

 

 アベンジャーズとして戦ったニューヨークの出来事からインサイト計画、ウルトロン事件まで。

 

 自分と共に戦ってくれた仲間の記憶。

 

「っはぁ、はぁ!」

 

 荒い息を吐くスティーブ。

 

 しばらくして落ち着きをみせるとワンダをみる。

 

「何を、したんだ?」

 

「記憶を戻しました」

 

 ヴィジョンが答える。

 

「貴方には偽りの記憶が植え込まれていました。それを私と彼女の力で打ち消し、本来の記憶を呼び戻しました」

 

「……呼び戻した、じゃあ」

 

 自分の記憶が確かならシンジ・ジャッカーはテロリストではない。むしろ、彼は。

 

「シンジは私達の仲間よ。テロリストじゃない」

 

 ワンダの言葉にスティーブの中で生まれていたわだかまりが消えていく。

 

 最後のピースが嵌ったような感覚だ。

 

「だが、一体」

 

「疑問はもう一つあるぞ?キャプテン」

 

「サム?」

 

 室内には三人だけと思っていたらサムがいた。

 

「記憶を」

 

「キャプテンの少し前に、ね……話を戻すけれど、シンジのいた場所に別の奴がいる……あれはなんだと思う?」

 

「ドール・セイマカヌ……」

 

「アレは信用できない」

 

 ワンダは顔をしかめながら自分の体を抱きしめるようにしていた。

 

「キャプテン、どうする?あのドールとかいう奴も気になるが、記憶を取り戻した俺達のこれからについてだが……」

 

「シンジを探そう……それと、ヴィジョン」

 

「はい」

 

「キミはトニー達の傍にいてほしい」

 

「どうして!?」

 

「ドールが我々の記憶を消したかどうかはわからない。だが、不審な人物を仲間の傍に置いたままにはできない。ヴィジョンがいれば少なくともトニー達の心配をする必要はなくなる。我々はシンジの追跡に全力を注げるという事だ……」

 

「でも、ヴィジョンが抜けるとなると私達、三人だけということになる」

 

「キャプテン」

 

 悩むスティーブとワンダにサムはある提案をした。

 

「俺に提案がある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「駄目だ、どうすればいいのかわからない」

 

 抜け出した俺を待っていたかのようにライノが襲撃してきたが警察部隊へ押し付けてある町の路地裏まで逃げてきた。

 

 手の中にあるのはハンドガンが一つ。

 

「このまま、自殺すればって考えるのは阿呆だな」

 

 ハンドガンを懐に仕舞って立ち上がった時。

 

「どうやらまだ絶望はしていないようですね?」

 

 銃口を向ける。

 

「落ち着いてください。私は貴方の敵ではありません」

 

 目の前に現れたのは黄色いフードで顔を包んだ人物。

 

 作務衣のようなものを身に纏い、首から年季の入ったペンダントのようなものを下げている。

 

 落ち着いた声で性別の判断はつきにくいが、おそらく女性だろう。

 

「敵ではないという証拠は?」

 

「今のあなたの現状を私は知っています。そして、今のままでは貴方に待ち受けるのは破滅しかありません」

 

 女性の言葉は事実だ。

 

 今のままでは史上最大のテロリストとして各国の捜査機関に追いかけられる。そして、ブラックパンサースーツをきたワカンダ王国王子も追いかけてくる。もしかしたらアベンジャーズも出てくるるだろう。

 

 逃げ続ける毎日など疲弊しか生まない。いずれ限界がきて捕まるか死ぬだろう。

 

 それを回避できる術があるのなら藁にも縋る思いだが、目の前の相手が信用に足る人物がどうかがわからない。

 

「アンタなら俺を助けられると?」

 

「それは貴方次第です。動くのであれば、この最悪の状態を抜け出すことは出来るでしょう。ですが、最大の苦しみが貴方を待つでしょう。しかし、失われた温もりを取り戻すことは出来る」

 

――それでも行きますか?

 

 問われた言葉に俺は頷いた。

 

「どこへ行けばいい?」

 

「シベリア」

 

「……ごめん、俺の聞き間違いでなければ、シベリアと聞こえたんだけど?」

 

「えぇ、シベリアです。そこに解決の糸口があります。貴方ともう一人の」

 

「……もう一人?」

 

「それ以上は貴方の目で確認してください。私ができるのもここまでです」

 

「あぁ、待って」

 

 去ろうとした女性へ俺は声をかける。

 

「また、会えるかな?」

 

「どうでしょうね。貴方が私のみた未来を辿らなければ、可能性はあるかもしれません」

 

「頑張るよ」

 

「ええ、頑張ってください」

 

 瞬きしていると女性の姿が消えた。

 

「あー、俺、かなりヤバいのかな?」

 

 頭をコンコンと叩きながら首を振る。

 

「まぁ、でも、やることは決まったか……しかし」

 

 ここからシベリアに行くにしても車、いや、飛行機とかが必要だなぁ。

 

「はぁ、罪を重ねることに抵抗はあるけれど、仕方ないよね」

 

 目的地は決まった。

 

 空港だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは、まぁ、罠だよなぁ」

 

 空港へ向かうと驚くことに人の気配が全くない。

 

 おそらく警察組織が封鎖したのだろう。

 

 中に突入したら目的のものを即、奪取のちにシベリアへ向かうしかない。

 

 道中で武器商人らしき連中から強奪した武器を背負う。

 

 どこの組織かは知らないが“やたらハイテクな武器”をトラックをトラックに載せていたので失敬した。

 

 チタウリの兵士が持っていたようなものから、妙に覚えがあるような武器をみた気もしたが、とりあえず、使い方を確認して連中には静かにお帰りいただいている。

 

 これならアベンジャーズとまともにやりあえるだろう。

 

 こういう時にエヴァがいないのは悲しいかな。

 

 ようやく慣れてきたというタイミングだったからなぁ。

 

「誰だ」

 

 近未来的なデザインの銃を向ける。

 

 通路の角に誰かがいた。

 

 気配からして複数。

 

「出てこないなら撃つぞ」

 

「……キミは撃てない」

 

 角から出てきたのはスーツを纏ったスティーブ・ロジャース、いや、キャプテン・アメリカだ。

 

 俺を捕まえに来たのだろう。

 

「悪いけど、ここで捕まるつもりはない。邪魔をするなら攻撃する」

 

「シンジ、僕達はキミの敵ではない」

 

「……警告する。そこを、退け」

 

 両手を上げるキャプテン・アメリカ。

 

 それは敵意がないという意味だろう、だが、油断してはいけない。

 

 

「シンジ、キミはシベリアへ渡ろうとしている。ここにあるクインジェットを使って」

 

「だったら?」

 

「シベリアには俺以外のウィンター・ソルジャーが冷凍保存されている」

 

 角から姿を見せたのはバーンズ。

 

 もう片方の手にハンドガンを取り出して構える。

 

「それは驚きだ」

 

「シンジ、一緒に」

 

「悪いけれどさ、キャプテン・アメリカさん」

 

 銃口を突き付けたまま、俺は冷徹にふるまう。

 

 感情を悟られないようにしながら。

 

「俺はアンタ達を信じない。アンタ達は俺に攻撃してきた……味方だと思っていたアンタにも」

 

 バーンズへ銃口を向けて睨む。

 

「あれは、キミのことを忘れてしまっていて」

 

「理由はどうあれ、俺は武器を向けてきた相手に背中を預ける事なんてできない。それに、裏でこそこそしているような人たち、とはねぇ!」

 

 ある方向に隠し持っていた催涙弾を投げる。

 

 そして、キャプテンたちの前に照明弾を叩きつけた。

 

 視界が塞がれる彼らの横を通過して空港の外へ飛び出す。

 

 あとは、そのままクインジェットが保管されている場所へ向かえばよかったんだけど。

 

「最悪だよ」

 

 目の前にアイアンマンとウォーマシンがいた。

 

 神様は俺のことがとことん嫌いらしい。

 




バーンズをウィンター・ソルジャーへ洗脳しなおしたのは本来ならシビル・ウォーで黒幕であったジモです。

ただし、中身は別物。





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シビル・ウォー(後編)

完結です。

多くはいいません。




 

「驚いたな、散歩をしていたら指名手配されているテロリストと友達がいたぞ?」

 

「偶然だな」

 

 あくまで偶然を装っているような態度をとっているが確実に情報があってきたのだろう。

 

 すぐに攻撃してこないことに疑問を抱きながら警戒を高める。

 

 ただでさえ、後ろにはキャプテン・アメリカとウィンター・ソルジャーという攻撃にステータス全振りしているようなヤバイ人達がいる。さらに科学の結晶のような連中と正面からやりあうなんて正気の沙汰ではない。

 

「さて、テロリスト君。大人しく投降するつもりはないかな?キミの持っているその武器は非常に興味深い」

 

「それはそれは、ウィーンで売買しているから探して来たらどうかな?」

 

 アイアンマンへ軽口をたたきながら横へ移動しようとする。

 

「出番だ、新入り!」

 

「はい!」

 

 後ろから声が聞こえて振り返ると同時に体の自由が奪われる。

 

「なんだ、これ、糸!?」

 

 片手に持っていた近未来的なデザインのライフルが奪われた。

 

「うわぁ、これ、スターウォーズに出てきそうな武器だね!カッコよさそうだ!」

 

 スタンと近くの作業車両の前に降り立ったのは赤と青、蜘蛛を模したようなスーツを纏った人物がいる。

 

「誰?」

 

「あ、はじめまして、悪者さん、僕はスパイダーマン、ニューヨークで活動しているんだ!それにしても、この銃、スターウォーズのボ〇・フェッ〇が使っているようなデザインだね?もしかして、大好きなの?スター」

 

「新入り、ストップだ。お口チャックして大人しくしていろ」

 

「わかりました、スタークさん」

 

「本当はキャプテンを拘束するために連れてきたのだが、まぁいい、テロリスト君。キミを捕縛――」

 

 飛来したヴィブラニウムの盾が拘束していた糸を切り裂いた。

 

「トニー!やめるんだ!」

 

「キャプテン、ここで何をしている?」

 

「聞いてくれ、トニー!シンジはテロ活動に関与していないんだ!彼は我々と同じ、平和を望んでいる」

 

「潔癖だというのなら大人しく法廷で証明すればいい。潔白ならば逃走する理由はないはずだ」

 

「トニー、何かが起きているんだ。うまく言葉にできないがシンジを悪者にしようとしている存在がいる……私は彼を助け」

 

 咄嗟にキャプテン・アメリカへ発砲する。

 

「悪いけど」

 

 次弾を装填して肩をすくめる。

 

「仲間内での争いは他所にしてくんない?先を急いで」

 

「死ね!!」

 

「見えているよ」

 

 背後から不意打ちしようとするドールだが、わかりきっていたシンジは回避すると同時にATフィールドを纏った拳で殴り飛ばす。

 

 殴られたドールは置かれている飛行機の中に消える。

 

 エンジンが入っていたら爆発を起こしていたかもしれない。

 

「先を急ぐから、これにて」

 

 逃げようとした俺の前にブラックパンサーが降り立つ。

 

「シンジ・ジャッカー」

 

 最悪だ。

 

「王子がお前に話があるそうだよ?テロリスト君」

 

 アイアンマンの皮肉に笑ってしまった。

 

「父の仇」

 

「すいませんね、アンタと戦うつもりはない」

 

 肩をすくめながら背を向けて走る。

 

 パンサーに背を向けて走るというのは自殺行為に等しいのだが、ATフィールドを背面に展開することでパンサーの攻撃を防ぐことにした。

 

「逃がさん!」

 

 追いかけようとするブラックパンサー。

 

「今だ!スコット」

 

「え?うわぁあああああああ!?」

 

 俺の武器を奪っていたスパイダーマンの近くから飛び出ししてくる何か。

 

 ガスマスクのようなマスクとスーツ。

 

 一瞬で姿を見せていたことから、小さくなっていたか瞬間移動の類だろうか?

 

 驚くスパイダーマンは武器手を手放す。

 

 その際にトリガーが押されてブラックパンサーの方へ光弾が。

 

「シッ!」

 

 咄嗟にハンドガンをブラックパンサーの方へ撃つ。

 

 パンサーが後方へ下がったことで誤射された光弾は地面を抉るにとどまる。

 

「このままクインジェットの方へ」

 

「テロリストめ、逃がさないぞ!」

 

 ウォーマシンが突撃しようとしてくる。

 

 そこへ数本の矢が牽制のように放たれた。

 

「久しぶりだな、ボーイ」

 

「……ホークアイ」

 

 弓を携えていたのはソコヴィア事件以降、家族の為にということでアベンジャーズを脱退していたバートンだ。

 

 向こうはニヒルな笑みを浮かべて矢を構えるバートンだが、俺は距離をとる。

 

 すぐ横からナターシャがバトンを構えて襲撃してきた。

 

 ナターシャとバートンが戦ってくれている間にクインジェットまで走る。

 

「えぇ、何が起こったの!?」

 

 後ろでは巨大な存在とウォーマシン、アイアンマン、スパイダーマンなどが戦っていた。

 

 いつの間にか現れたファルコン、ヴィジョン、ワンダなども戦闘に参加している。

 

「まぁ、今がチャンス、と」

 

「逃がさんぞ!」

 

「アンタはそっちよろしく!」

 

 追いかけてきたブラックパンサーを蹴り飛ばして背後から剣で攻撃しようとしていたドールをぶつける。

 

 ドールは怒りで我を失っているのかパンサーを剣で斬ろうとしていた。

 

 パンサーは鋭い爪で防ぎながらにらみ合う。

 

 クインジェットまでたどり着いた俺はシステムを起動させる。

 

 自動操縦システムで目的地をシベリアに設置した。

 

「さて」

 

 偶然にもクインジェットに武器がいくつか保管されていた。

 

 一つを手に取って後部ハッチを開ける。

 

 滑走路を走り出すクインジェットを追いかけようとしているアベンジャーズ達。

 

 蜘蛛の糸でこちらを捕えようとしているスパイダーマンをスタンモードで狙撃。

 

 乗り込もうとしているウォーマシンにはATフィールドを壁のように展開して阻止。

 

 アイアンマンがレーザーを撃つも同じくATフィールドで妨害。

 

 そうしている間にクインジェットが空へ舞い上がる。

 

 飛行能力を持つウォーマシン、アイアンマンが追いかけようとしてくることはわかっていたので。

 

「ごめん、よ!」

 

「なに!?」

 

 クインジェットから跳んで勢いを利用したATナックルで飛ぼうとしたウォーマシンを殴る。

 

 衝撃を受けたウォーマシンは派手に地面を転がっていく。

 

 その際にスーツの一部がバチバチと火花を散らしていた。

 

 ウォーマシンへアイアンマンが向かう。

 

 彼らが友人であることは知っていた。だから、友人に何かあればトニー・スタークは放っておけない。

 

「我ながら卑怯な手段を用いたものだよ」

 

 背中につけていたワイヤーを戻しながらクインジェットの中に入り込む。

 

「無断搭乗は感心しないな」

 

 振り返ると同時にハンドガンを構える。

 

「シンジ、僕はキミの味方だ」

 

「俺のことを知らないと言ったのは貴方だ。キャプテン・アメリカ」

 

 いつの間に機内へ入り込んだのか、キャプテン・アメリカとウィンター・ソルジャーの二人が操縦席の傍にいた。

 

「シンジ・ジャッカー、独りで抱えていても解決はしない」

 

「……俺に銃口を向けた人のセリフじゃない」

 

「すまないと思っている。一度失った信頼を取り戻すのは難しいこともわかっている。だが、お前を助けたいという気持ちにウソ偽りはないんだ……」

 

「シンジ」

 

 銃口を向けるもキャプテンは身構えない。

 

 それどころかこちらへ歩み寄って来る。

 

「来るな」

 

「信じてほしい。僕はキミを助けたい」

 

「だから、来るなって!」

 

 震えながらも俺はトリガーを押せなかった。

 

 手を震わせながら銃を下す。

 

「俺は、今、誰も信じられない……」

 

「それでも、僕達はキミと共に戦おう」

 

「また、後ろから撃とうとしたら今度は容赦しない」

 

「……わかった」

 

「目的地はシベリアだ。おそらくライノも邪魔してくる……各自、休みを取っておいた方がいい」

 

「シンジ、大丈夫、か?」

 

「どうだろう、冷静のようにみえて激情かもしれない」

 

「シノのことは……」

 

「必ず取り戻す」

 

 短く俺は言う。

 

 彼女が死んだ事実など、俺は認めない。

 

 あんな形であったとしても彼女には生きてもらいたい。

 

 それが俺の本心だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒドラが保有していたシベリアの基地。

 

 アベンジャーズによってヒドラは虫の息。

 

 残りのメンバーはひっそりと、水面下に活動しているらしい。

 

「施設はまだ生きているみたいだな」

 

 電力をチェックした俺は二人に報告する。

 

「んで、何でアイアンマンが当たり前のようにいるの?」

 

「いたら悪いか?ボーイ」

 

 頭部のマスクをスライドさせて顔をのぞかせるのはトニー・スターク。

 

 スティーブが説明してくれたがヴィジョンが密かに彼の記憶を元に戻したという。

 

 そのことで事実を把握して彼がやってきたらしい。

 

 他のメンバーは混乱と負傷のためここに一人できたというスタークに疑いの目を向ける。

 

「操られていた」

 

「だろうね、仲間でためらいもなくレーザーを向けられると流石に辛いよ」

 

「悪かった。だから、これをもってきた」

 

 トニーが指を鳴らすと目の前にガチャンと降り立ったのはジャスティスハンターアーマーだ。

 

『またお会いできて光栄です。シンジ様』

 

「エヴァか」

 

 優雅に一礼するアーマーに俺は小さな笑みを浮かべる。

 

「私が開発したものなのに、倉庫で埃をかぶっていた。驚きだよ。最高傑作をあんなところに放置しておくなど」

 

『事情把握しています。貴方の為にもう一度、戦います』

 

 エヴァの言葉を嬉しく思い、俺はアーマーを纏う。

 

「さぁ、行こう」

 

 一歩、踏み出した直後、雪の一部が吹き飛んでそこからライノが姿を現す。

 

「ジャッカァァァァアアアアアアアア!」

 

「うるさいな」

 

 ATフィールドを展開して突撃してくるライノを防ぐ。

 

「ここは俺がやるから、中はよろしく」

 

「無茶はするなよ!」

 

「そっちに返すよ」

 

 突撃してくるライノをアーマーで迎え撃つ間に三人は施設の中に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で、お前がここにいる?」

 

 ライノをシンジに任せて中に入った三人を出迎えたのはドールだった。

 

 驚くスターク達の前でドールはため息を零す。

 

「どうしてこう、思い通りにいかないのやら、折角、神様が用意してくれたのにさぁ」

 

 面倒だというようにぶつぶつ呟く姿はスタークの知っているドールと大きく異なる。

おそらく、これが本来の姿なのだろう。

 

 濁った瞳でぶつぶつ悪態をついている彼の姿にスティーブとスタークは戸惑いの表情を浮かべてしまう。

 

「だからさぁ、神様に頼んでリセットしてもらうよ……」

 

 ドールの漏らした言葉に三人が身構えた直後、初老の男性が背後から現れるとともに杖を振るった。

 

「さ、本当のシビル・ウォーの始まり……ってきたのか」

 

「お前、何をした」

 

 ライノを撃退してやってきたシンジが見たものはアイアンマンがキャプテン・アメリカとウィンター・ソルジャーが戦っている。

 

 たった短い間に何が起こったのか理解ができず、アーマーの中で戸惑いの声を漏らす。

 

「フン、貴様が招いたことだ」

 

「アンタ……」

 

 シンジは初老の男性に見覚えがあった。

 

 あの時と比べるとみすぼらしい姿になっているがシンジを転生させた自称神様だ。

 

「これもすべて貴様のせいだ。あの時、余計な邪魔が入ったが為に力のほとんどを失い、こんな借りものの体を用意しなければならなかった……先ほどまではジモとか、ネモとかいう奴の体を借りていたのだがな」

 

 悪態をつく神様とやらの前にドールがコズミックソードを構える。

 

「お前さえけせば、俺がオリ主になれるんだよ。だから、邪魔者は消し去る。ほら、簡単だ」

 

「いいや、簡単じゃない」

 

 ドールの言葉をシンジは真っ向から否定する。

 

「お前がどう考えているかなんて興味はない。だけど、生きるってことはそんな簡単なことじゃない。お前らみたいな存在が、お前らがシノを消し去った。だから」

 

 ドールと自称神様は気づかない。

 

 シンジの瞳がうっすらと紫色に輝きを放ち、オーラのようなものがジャスティスハンターアーマーを通して纏っていた。

 

「消えろよ、踏み台!」

 

 振るわれるコズミックソード。

 

 今までATフィールドを貫いてきた刃なら確実にアーマーを傷つけると二人は考えていた。

 

 しかし、大きな音を立てて刃が弾かれる。

 

「はぁ!?」

 

「なんと!?」

 

 驚きの声を漏らす二人の前でアーマーの肩からミサイルを連射。

 

 ミサイルの衝撃で吹き飛ぶ自称神様。

 

 顔で瓦礫などが飛来しないように防ぎ、コズミックソードを振るおうとした。

 

 眼前にシンジが現れる。

 

「なっ」

 

 回避する暇もないまま、シンジの拳がドールを射抜く。

 

 吹き飛ぼうとしていたドールの腕を掴み、引き寄せてさらに殴る。

 

 アーマーの拳が顔に一発、二発、三発、四発と何度も振るわれていく。

 

「こぉのぉ、踏み台風情がぁああああ!」

 

 起き上がった自称神様が杖を振るおうとした。

 

 振り返らずにアーマーの腕からヒートエッジを射出。

 

 刃が自称神様の腕を切り落とす。

 

 うめき声を漏らす自称神様。

 

 隙をついてコズミックソードがアーマーを抉る。

 

『装甲にダメージ、システム70パーセントまでダウンです』

 

「問題ない」

 

 ATフィールドを拳に纏いながら殴る。

 

「この、なんで、おれがぁ、俺が、こんなめにぃ」

 

「現実をみないからだよ。クズ」

 

 いつものシンジとは思えない、ぞっとするほどの低い声と共に振るわれる拳がドールの頭を叩き潰した。

 

 びくびくと痙攣する体。

 

「灰にしてやるよ」

 

 アーマーから火炎を放射して体を灰に変える。

 

「さて、次はアンタだ」

 

 腕を抑えながら呻いている自称神様を睨む。

 

 睨まれたことで悲鳴を漏らしながら怯える自称神様。

 

 自分の用意したドールが無残な姿にされて、灰となった光景を見せられたことで傲慢な表情は失われて、恐怖に包まれている。

 

「た、助けてくれ!」

 

「命乞いか?」

 

「た、助けてくれたら!死んだ、死んだ女を生き返らせてやる」

 

「口ならなんとでもいえるよな?」

 

 ジャスティスハンターアーマーの武装を全て展開する。

 

 オールファイヤの手前だ。

 

「ほ、本当だ!」

 

「だったら、すぐにやってみせろよ」

 

「え?」

 

「どうした?できないのか、だったら」

 

「や、やる!やるから!」

 

 自称神様は震えながら何かを呟いた。

 

 理解できない言葉を終えるとシンジを見上げる。

 

「や、やったぞ」

 

「エヴァ」

 

『インターネットにアクセス、確認……シノは生きています』

 

「そうか」

 

 片方の無事なヒートエッジを展開する。

 

 熱を放つ刃をみて自称神様は悲鳴を上げた。

 

「た、助けてくれるんじゃないのか!?」

 

 震える声で叫ぶ自称神様にシンジは紫色に染まった瞳で笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

「誰が、助けるなんて、いった?」

 

 

 

 

 直後、施設の中に自称神様の悲鳴が響き渡った。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからのことを話せば、死んでいたシノは生き返り、俺の罪は……覚えのない罪はきれいさっぱり消えた。

 

 その代償はとても大きかった。

 

 アベンジャーズ内乱と後に呼ばれることになるこの事件によってキャプテン・アメリカ、スティーブ・ロジャースを含む数名は戦犯者とみなされて、世界で指名手配されることとなってしまう。

 

 スティーブはバーンズさんを連れて、ワカンダへ亡命した。

 

 どうやらウィンター・ソルジャーとしての洗脳は消えていなかったため、洗脳を打ち消す方法をワカンダで見つけるのだという。

  

 大きすぎる代償だ。

 

「……本当に行かれるのですか?」

 

 荷物をまとめたところで室内にヴィジョンがやってくる。

 

「ごめん、俺が引き起こしたことで……アベンジャーズを分断させてしまった」

 

「それは、違うと思います」

 

 ヴィジョンは首を振る。

 

「貴方がいたから、今までアベンジャーズは大きな争いもなくやってこられた……少なくとも私はそう感じています」

 

「ありがとう、ヴィジョン。また、戻って来る」

 

「えぇ、貴方にチェスの勝負は勝ち越されているので、次は勝たせてもらいます」

 

「それまで腕を磨いていてくれ」

 

「……そういえば、聞き忘れていましたが、どこへ向かうのですか?」

 

 荷物をまとめた俺にヴィジョンが問いかける。

 

 

 

「あぁ、ニューヨークだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで、これで、わしの恨みを晴らしてくれぇ」

 

 宇宙のとある空間。

 

 見るも無残な姿になっている自称神様の手の中にはザンダー星から盗み、ドールへ与えていたインフィニティー・ストーンの一つ、パワー・ストーンをある人物へ差し出していた。

 

「噂で聞いた、アンタはこれを欲しているのだろう?これを与える代わりに」

 

 口の端から泡を零しながら自称神様は目の前の巨漢の男へ石を差し出す。

 

「成程」

 

 男は石を受け取り、片腕に装着されている金色のガントレットのようなものへ装着する。

 

 磁石のように石は男のガントレットへ取り付けられた。

 

 その姿に自称神様は笑みを浮かべる。

 

「では――」

 

「お前は用済みだ」

 

 腕を振るうと自称神様は灰になって消滅する。

 

 まるで元からいなかったかのような光景にガントレットを撫でながら感嘆とした声を漏らす。

 

「さぁ、はじめよう」

 

 

 ”サノス”はそう呟いて歩き出す。

 

 

 

 



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